何のために進むのか (yudaya89)
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第01話「どうしてこうなった?」

 どうも以前「私はあの女が嫌いだ」を連載していました。

 主人公もほぼ同じ性格をしています。但し少し理不尽な運命を辿ります。

 

 前作同様色々ご指摘部分があると思いますが、よろしくお願いします。

 


 

 俺は転生者だ。こんな事を両親に言った瞬間に間違いなく精神病院もしくはそれに準じる施設へ送られるだろう。転生を認識したのは3歳だった。突然記憶が戻り、その反動で高熱が3日間続いた。俺は過去に交通事故により死んだ。その後その世界に関して調べるとガールズ&パンツァーの世界である事が判明した。TVで西住流師範が映っていたので直ぐに分かった。

 

 

 

 それから俺の状況だ。3歳の幼女、名前は霧島エリ、容姿は霧島マナに良く似ている(鋼鉄のガールフレンド参照)。家はそこそこの金持ちだった。

 

 霧島家:日本でも有数の名家。日本産業の殆どに関与しており、中でも鉄鋼に関してはトップクラスである。海外にも支店がある。

 

 

 なるほど、かなり恵まれているが・・・それは表だけだ。今の状況を聞いて喜ぶことは出来ない。

 

「エリ?次の問題を解いて?」

「エリさん?次の習い事に行きますよ」

「エリさん?」

「エリ?」

「さぁ、次に行きますよ?」

 

 

 

 

 金持ち=楽に生きる。俺の前世の考えだ。金が有れば何でも出来る。それこそ人間の命も自由に出来る。そう思っていた俺を殴ってやりたい。

 毎日毎日習い事、勉強をさせられる。勿論強制だ。断るという選択肢は生まれたときから除外されている。朝6時から夜の9時まで習い事、勉強、飯を食べるという行動以外ない。

 

 

 

 勿論俺がそれの生活スタイルに・・・簡単に慣れたぞ?

 

 

 いや~最初はストレスがMAXだったけど、慣れるとある程度は余裕だった。7歳までこのスタイルが続いたが、一度だけ反論しただけ後は大丈夫だった。

 

 反論?いや意見だな。

「子供の意見を尊重しない親は親じゃないよね?この家から脱走して児童相談所に駆け込んだら、株価大暴落だよね?証拠?勿論あるよ?ネットに流そうか?株券が紙切れになっても私には関係ないよ。私は世間に霧島グループの真実を教えただけだよ。それで潰れる様なら、さっさとなくなればいいよ」

 

 

 正論だろ?それを家庭教師が親に伝えたら、家族会議があったらしい。まぁそれでどうなったかは知らんけどな。

 

 

 

 それから7歳ごろで全てが終わったらしい。らしいというのは突然習い事が終わったんだ。理由は知らない。それから私立の小学校に通わされたよ。そこも窮屈な学校で正直つまらなかった。そんな学生生活に終止符を打ったのは「戦車」だった。校長が何処からか戦車を持ってきた。それでみんなで動かしてみようという話になった。しかし誰も興味を示さなかった・・・俺以外は

 

 

 最初俺一人で10mぐらいを前後しているだけだったが、そのうち数名集まり1台ではたりなくなった。それを両親に伝えたところ、戦車を2台寄付した。何でもうちのグループは戦車の修理、レストア、生産もしているとのこと。

 

 

 

 高学年になる頃には大会にも出れるようななった。まぁ小さな大会だったが2.3度優勝出来た。優勝した時は学校中が勝利を喜んでくれた。

 

 小学校付属の中学に進学後も同じような生活を送った。戦車の数も6台まで増え、中学3年間で優勝を3回体験した。そして中学部門の世界大会選手に俺と他のメンバーも選ばれた。

 

 

 そしてその成果を認められ、戦車道で有名な高校からスカウトが訪れた。

 

「あ~黒森峰か・・・でも堅苦しい高校はパス。BC学園?良く知らんパス。サンダース大付属?フランクな学校でいいかもしれんな。それに大学卒業後の就職先もOB、OGが斡旋してくれるらしいし・・・在学中に男漁れるな・・・よし!!サンダースで決定!!」

 

 

 

 

 

 俺は両親に将来のことを相談した。霧島グループに自分がどのように貢献する予定かなども伝えサンダースに入学する許可をもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が入学したのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あら、ごきげんよう。エリさん」

 

 「ごきげんよう。エリさん」

 

 「ごきげんよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜか挨拶がごきげんよう、さよならが、ごきげんようのお嬢様学校・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖グロリアーナ女学院だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 亀更新ですが、よろしくお願いします。


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第02話「聖グロリアーナ女学院」

「ごきげんよう、エリさん」

「ごきげんよう」

 

 認めない、何故こんなお嬢様学校に私が通わなければならない!!

 

 

 

 

---------------------------------

 

 

「何故でしょうか?私がサンダースに通う事で、霧島グループの基礎地盤を更に固める事が出来ます。またあそこの校長の娘が現在1年生で在学中です。2年生で隊長になる可能性があり、それに取り入れることでアメリカとのパイプを太くする事も可能です」

「可能か?」

「可能な限り善処するつもりです。もしも無理でも、それなりの結果は持ち帰る予定です」

「お前の考えは分かった。しかしエリ・・・お前には聖グロリアーナ女学院に入学してもらう」

「なっ!!意味が分かりません!!」

「エリ、お前には欠点がある。それを改善するための聖グロリアーナ女学院への入学だ」

「欠点・・・」

「そうだ。今後グループの拡大や政治戦略にはお前の欠点は大きな障害になる」

「それは?」

「それは・・・「言葉遣いだ」」

「・・・」

「言葉使い、礼儀作法が足りなさ過ぎる!!このままでは世界大会のように我がグループに損害が出る」

 

 世界大会

 その時俺は選手団の副隊長に選抜された。とある国とわが国とは昔から因縁の関係だった。相手は他の国の作戦や戦車を使用してきた。はっきり言うならコピー的な戦車道だった。しかしこちらはそんな作戦には一切ひるまず相手を叩き潰した。そして会見で

「コピーするのは結構。でもそれを有効に活用できるかはその人間の技量次第。過去に我が国が負けた時の対戦国の作戦をそのまま運用したみたいですけど・・・馬鹿ですねwあの時とは天候、使用車両、隊員の錬度が違う。あと自国の車両もあの時の対戦国と全然違うのに勝てるはず無いでしょwそれなのにそのまま運用するとか。普通少しはアレンジするでしょwもう少しお頭を整備して世界大会に望んでもらいたいですねw」

 

 確かにこの会見後グループの株価が下落したが、直ぐに上昇した。これは対戦国では私の会見が翻訳され連日報道された。その影響で一時的に下落した。上昇したのは他国が対戦国へ私が言ったことは正論である。ゆえに次回は改善して大会に望め。メソメソ言うな。と抗議したからだ。

 

 

 

「世界大会の件は反省しています。しかし過程が悪くても結果、グループの評価は上がったはずでは?戦車の受注量も増量したはずでは?」

「確かに」

「そして私は強豪高からのスカウトもあります。特にサンダースの条件は破格の条件です」

「しかし」

「再度御検討してたほうが良いと思いますが?」

 しかし

「ダメです」

「?」

「ダメです。エリ!あなたは聖グロリアーナ女学院に入学し、淑女を学びなさい」

 親父と話し、後一歩で考え方を変えることが出来そうだったが、母親の一声で今までの話が終わってしまった。

「淑女を学び、グループに貢献できるパイプを作れと?」

「そうよ。私達は彼方に礼儀作法をあなたはパイプ作り・・・それを両方実施できるのは聖グロリアーナ女学院よ」

「・・・」

 なるほど。そちらの意見は俺の礼儀作法か。しかし・・・ん~~~。仕方ない。

 

「分かりました」

「では、そのように手続きしておきます」

「エリ?」

「何?お父様」

「エリはグループに貢献するために高校に行くのか?」

「それ以外に何かありますか?」

「分かった。高校に入学するにあたり、「霧島」の名は伏せてもらう。名を伏せた状態でパイプ作りを行ってもらう」

「なっ!!それでは3年間で結果が出せません」

「霧島の名前がなければ何も出来ないのであればパイプなど不要だ!自力でパイプを作って来い!」

「・・・わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という理由で私は「霧島エリ」から「水樹エリ」となり聖グロリアーナ女学院に入学した。しかし俺にとって地獄なのは・・・

「水樹さん?」

「はい」

「少しリボンが・・・それにスカートが右に傾いて・・・」

「はい。気をつけます」

 

 

 ウザイ。兎に角服装に関してメッチャクチャうるさい。今は新入生の指導のため3年生が指導を行っている。確か名前がフレーバー。何でも聖グロの戦車道においての幹部クラスには紅茶の名前が与えられ、それを名乗るのが伝統らしい。まぁ俺はまだマシだ。

他の1年への指導は、時たま泣き声が聞こえる。良かった、事前に礼儀作法を習っておいて。

 

 寮でもフレーバーの指導がある。食事中には音を立てない。廊下は静かに早く歩く・・・常にフレーバーの目があるため、全然休めない。俺の楽園は何処にある??

 

 

 

 入学し2週間が経過した。数人が学園を去るという事があったが、俺には関係ない。最近はフレーバーさんの指導がなくなった。どうやら他の1年生の指導が遅れており、その応援に行ったみたいだ。という事で少しは休めるようになり、寮生活を満喫しています。

 

 

 

 そんなある日

「先生?」

「何?」

「先生はよく屋上に花を運んでいると思いますがどうしてでしょうか?」

「屋上に花を置く理由はわかりますか?」

「自殺防止?でしょうか」

「そうよ。少し屋上にいきましょうか」

 

 

 

 

 

「ここの指導って厳しいでしょ?」

「少し厳しいと思います」

「その指導が何年か前苛めになったときがあってね。それでここから3人ほど自殺した子がいたの」

「だから自殺防止に花を」

「そう」

「でもどうして先生が?」

「私の友達だったの。当時の私はそこそこ出来が良くてね。苛め対象から外れたけど、友達は・・・」

「友達への・・・償い?」

「あの時私が先生に報告しておけばあの子達は死ぬことはなかった・・・だから一番仲が良かった友達の夢「教師」になってここに帰ってきたの」

「そうですか」

「あなたは中々優秀みたいね。もしあの頃にあなたのように優秀であれば・・・」

「優秀と友を救うことは全然違います」

「そうね・・・」

「もしも、先生の許可があれば、私もここの花を取り変えてもいいですか?」

「どうして?」

「もしかすると、そういう考えの子とここで会えるかもしれません。1年生同士なら、自殺防止できるかもしれません」

「そうね。でもここは基本的に施錠されてるわよ?」

「知識があれば鍵を壊すことは可能です」

「わかりました。校長の許可が下りたら後日スペアを渡すわ」

「はい。これからも先生は友達ののために教師という道を進むのですか?」

「いいえ。これからは友のような人たちを減らすために、教師続けるつもりよ」

「わかりました」

「彼方は?」

「今探しているところです」

「彼方ならどんな道でも大丈夫だと思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったくこれだから新任教師は扱いやす。ちょっと同情してやれば簡単に過去を話す。それに対して同意してやればあとは見ての通りだ。

 

 これで俺のサボリ場所が出来、尚且つ校長までこの話が行くことで、校長ならびに教師、上級生の俺への評価が上がる。一石二鳥とはこのことだ。

 

 

 

 

 

 今後優等生という立場を思う存分使わせてもらうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第03話「引き寄せられて」

 

 聖グロリアーナに入学して早1ヶ月。その間は淑女としての教育が徹底して行われる。その教育課程が終了した者から部活動を選択していく。しかし困った事に選択したい部活動が無い。戦車道を選択したいが、あのフレーバが副隊長と思うと・・・あまり入りたいとは思わない。しかし戦車道を選択する事でアールグレイ、ダージリン、アッサムなどの将来大物になる予定の人間との交流が深めることが出来ない。これは大きな分かれ道だ。確かに上記の3人以外にも有権者になる人間は居る。しかしそれを見極める時間が勿体無い。ならばその時間を有効に使うにはどうすれば良い?だから戦車道を受講する事が一番の近道であり、一番の成果を生む。だから今凄く悩む。そのフレーバーの居る戦車道に入るか否かを・・・

 

 

 

 

 

 

 フレーバー

 

 今年の一年生は少し出来が悪い。それに1ヶ月経過しないで6人も辞めた。確かに厳しいと思うけど私達もそれを受けてきた。この程度に耐えられないようであればこの学園に相応しくない。そういう不適合者はそうそうに間引く必要がある。この学園のためにも、そしてあの人のためにも。

 

 

 

 それと最近1年生の水樹エリの様子がおかしいとの報告が上がってきた。彼女は入学試験で上位3位に入っており、教育課程も早々に修了した優等生だ。それに自殺防止の花を置く仕事も先生に頼み込んだとも聞く。その彼女に何があったのか?調べた見たが、特に苛めなどは無いようだ。

 

 考え事をしている間に会議の時間が迫ってきた。考えを切り上げて会議に向かう。朝から降っている雨が少し激しくなってきている。会議終了する頃は大雨になるかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水樹

 

 朝から降っている雨がウザイ。今現在運命の分かれ道の選択をしているときに、ウザイ雨・・・考えが纏まらないし、イライラが積もる。

 

 確か図書室はエアコンが設置されている。あそこなら時間のある限りゆっくり考え事が出来る。流石に手ぶらは怪しまれる。勉強道具を持参し、勉強しているフリでもしながら人生の選択をするかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水樹さん?」

「・・・」

「水樹さん?」

「・・・」

「水樹さん!?」

「・・えっ、あっはい」

「もう時間です」

「申し訳ありませんでした」

 

 

 ヤバイヤバイ、いつの間にか閉室時間になっていたか。残念ながら良い案は出なかった。いつ間にか朝から降っていた雨は大雨になっていた。そういえば屋上においておいた花を置く台を校舎に入れておくか。飛ばされてガラスでも割った日には何を言われるか。俺は屋上に傘と缶コーヒーを持って向かった。屋上への扉の前でコーヒーを堪能し、扉を開けた。外は大雨だが、風は無い。これなら余り濡れないだろう。それにしてもこの大雨でも戦車道の練習はするんだな。確かに戦車はどんな時、どんな状況でも前に進む。中学のときも天候など関係なしに練習したな。あの頃の俺は何のために戦車道をしていたんだろうか・・・・その時

 

 

「辞めないさい!!」

 その声のする方向へ顔を向ける間も無く俺は押し倒された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレーバー

 

 会議が終わり外を見ると大雨になっていた。まったく今日は嫌な日だ。その時だった。対面の校舎に水樹がいる。表情は分からないが雰囲気が何時もと違う。それに向かっている方向は屋上へ通じる階段がある。そして彼女は鍵を持っている。まさか!!

 

 

 

 水樹のいる対面校舎に到着した。階段上から扉の開く音がする。おかしい、ここに到着するのに4分程度掛かっている。なぜ4分程度も扉の前で・・・まさか最後に思いとどまった、けどやっぱり・・・急がないと!

 

 

 私は階段を駆け上がり扉を開けてた。彼女は傘を持ってフェンスの前に居た。今にも乗り越えそうだ。だから私は

「辞めないさい!!」

 そう言い彼女を押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛った!!・・・フレーバー様?」

「どうして!どうして!」

「え?フレーバー様?」

「どうして相談してくれないのですか!?」

「え?いえ、このぐらいの事は一人で出来るので」

(流石に花の台座ぐらい一人で持てるぞ?)

「あなた!!何を言ってるの!」

(そこまで・・・そこまで思いつめていたなんて)

「え・・・あの、相談したほうがよろしかったでしょうか?」

(台座運ぶのに相談?え?何々?)

「当たり前です!!そんなに信用ありませんか!」

「あの、その前に・・・」

「何ですか!!」

「雨が強くなってきたので中に入りませんか?」

「・・・あなた・・・自殺するつもりだったはずでは?」

「え?自殺?」

「え?」

「え?

「「え?」」

 

 

 

 

 

 

 その後俺は事情を説明した。ここ最近悩んでいたのは、部活動について(嘘ではない)屋上には花の台を校舎に入れるために向かっていた。扉の前で数分居たのは、鍵を開けるのにもたついた&雨の勢いが収まるか少し待っていた(嘘ではない)。こんな時間まで学校に居たのは図書室で勉強していたから(嘘ではない)などと説明した。

 

「なら私の勘違い・・・という事ですね」

「私の行動がフレーバー様に勘違いさせたことは事実です。以後気をつけます」

「いえ、私も確認しないで押し倒してしまいました。・・・此方に着なさい」

「・・え、あ、はい」

 

 どこに連れて行かれるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 連れて来られた場所は大きな扉の前だった。その扉の向こうに何があるかは学園の生徒なら皆知っている。其処の名前は

 

 

「紅茶の園」

 

 

 

 

 

 

 紅茶の園は全校生徒の憧れの的であり、選ばれた人間以外は立ち入り禁止だ。ここに立ち入るには紅茶の名前を与えられた幹部もしくは幹部候補のみ。

 

 

「ここで待っていなさい」

「はい」

 

 フレーバー様は扉の中に入って行った。正直な話、あの人に押し倒されたお陰で、服は濡れ、髪の毛も濡れている。はっきり言って早く帰ってシャワーを浴びてコーヒーを飲みたい。3分程度でフレーバー様が戻って着て一言、

 

「入りなさい」

「・・・」

「早くしなさい」

 

 

 この全校生徒の憧れの場所に俺が入るのか?いやいや

「あ、あの、ここは確か私のような人間は立ち入りは・・」

「特例です。アールグレイ様の許可もあります」

「・・・はい」

 

 

 中は原作で見た光景だった。赤い絨毯、テーブル、豪華なシャンデリア等々・・・

 

 

「さぁ、入りますよ」

「ここは・・・」

「大浴場です」

「・・・」

 

 

 

 

 

 髪を洗い、体を洗い、そして湯船に入る。ヤバイ・・・最高!!これでフレーバー様が居なければ天国だ!! さてそろそろ話しをするかね。正直メンドクサイ。

 

「あの、フレーバー様?」

「何でしょうか?」

「何故ここに私を?」

「風邪でも引かれると、色々と困りますので」

「でも可笑しくないでしょうか?」

「どういうことです?」

「それ程度の理由なら、寮の大浴場もしくは個室のシャワー室で事足りるのでは?ワザワザアールグレイ様の許可を取るほどではナないと考えます」

「それは「私がフレーバーに頼んだのよ?」!!アールグレイ様!!」

「!!」

「初めまして水樹さん。私はアールグレイよ。よろしくね」

「・・・」

「水樹!!」

「・・あ、初めましてアールグレイ様。一年水樹エリです!突然の状況変化に対応できませんでした。申し訳ありません!」

「いいのよ。それよりあなたの疑問にフレーバーに変わって私がお答えしましょう。簡単です。彼方と色々話がしたかったからです。これで納得してくれます?」

「どういうことでしょか?」

「そのままの意味よ?彼方に個人的に興味が沸いた。だから一年生の教育係のフレーバーに頼んでいたの。そしたらさっき『自分の勘違いで水樹を屋上で押し倒してしまいました。そのせいで制服を汚してしまいました』って言われたの」

「・・・それは色々と誤解を生む発言と思います」

「そうでしょう。それも前々から気になっていた水樹だから事情を聞く目的でここの使用を許可したの」

「なるほど、承知しました」

「因みに押し倒されたの?」

「はい」

「大雨の屋上で?」

「はい」

「どっちが下?」

「私です」

「・・・」

「・・・」

「キスしました?」

「しません」

「は~~」

 

 

 あれお嬢様のはずじゃあないのか?最後の質問完全にユリを期待している質問だぞ?そもそも説明が端折りすぎだ。大事な・・・いやちゃんと説明しているが、もう少し詳細を加えて説明しろよ。

 

「じゃあ事情は分かったわ」

 ホントに?

「そろそろ上がってお茶にしましょう」

 

 

 

 

 予想をしていない状況となったが、しかしこれはチャンスといえる。あのアールグレイと話が出来る。

 

 

 

 

 腹の探りあいになるのは明確であるがな。

 

 

 



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第04話「貧乏くじ」


 お気に入り、感想ありがとうございます。

 感想への返信は遅れます。

 


 

 

 シャワーから上がり髪を乾かしテーブルに着く。そこには温かい紅茶が淹れてあった。有り難いが、やはり風呂上りは水が一番だろ?まぁしゃあない。俺はフレーバー様の「席に着きなさい」という言葉に従い席に着く。俺が席に付いき数分後にアールグレイ様が席に付く。

「お待たせしました」

「いえ」

「フレーバー、私にも下さいな」

「かしこまりました」

「ん~いい香りね。彼方の入れる紅茶が一番です」

「ありがとうございます」

「さて、水樹?色々話したい事、聞きたいことがあります」

「何でしょうか?」

「入学式の時、理事長が出した答え解かってた?」

「あの

『金貨の入った袋が10袋あります。ところが、その10袋のうちの1袋に入っている金貨はすべて偽物です。

 本物の金貨は1枚20gで、偽物の金貨は1枚10gです。量りを1度だけ使って、10袋のうち、どれが偽物の金貨なのか当ててください。量りは、天秤ではなく、上に乗せて量るタイプのものです。ちなみに、袋に入っている金貨の枚数は、一定ではない』と

『ジョーカーを抜いた状態でトランプの束からスペードのエースを抜く確率は?』と言う問いだったかと」

「そう。うちの理事長のお遊び。毎年恒例であれを今まで即答できた生徒は居ませんでした。しかし彼方は答えた。『測定は1回』『確率はほぼ100%』とね」

「前の二人が回答している時間で考察出来ましたので」

「でもね。普通は答えられない。意味解かる?彼方はかなり優秀なの」

 

 俺の前でアールグレイが微笑む。しかしその表情は獲物を狙う肉食獣のようだ。俺が質問に答える事ができたのは、答えを知っていたからだ。しかしそれをここで言うのは最も愚かな選択だ。俺の将来が閉ざされる。

 

 多分アールグレイは俺を引き込む気だ。そうじゃなければ今の状況を作り出したアールグレイの意図がわからなくなる。

 

「ありがとうございます。アールグレイ様に褒められるとは思ってませんでした」

「私も彼方のような下級生が居てうれしいわ」

 

 うわ!!あかん!!これ色々ヤバイ状況になってきた。

 

「それでね、もしも水樹さんがいいなら・・・私の派閥に入らない?」

 

 ハイ、派閥勧誘ですね。まぁ派閥っての社会ではよくある。特に女子高にはよくある話だと聞く。転生前は社会に入ってこういう派閥に勧誘されたことは何度かあった。

 

 アールグレイの派閥に入るのは、こうはこの学園の「紅茶の園」に入るのと並ぶぐらい憧れる人間は多い。噂では現在紅茶の園に入っている幹部ですら入れない場合があるらしい。勿論入ると色々特典はある。しかし

 

「お誘いありがとうございます。しかし私のような本当に入学して間もない生徒が入ってもよろしいのでしょうか?私の成績は上から3番目・・・上位の方は勧誘されないのでしょうか?」

「しません」

「ど、どうしてでしょうか?」

「私が求める人材は、優秀な人間ではありません。ただの優秀な人間は五万と居ます。

それだけではなく、物事の本質を見極めて情報を得ることにより行動指針や何事かの目標の設定後の過程をどの様に定めるかなど、多種多様に渡りこの考え方や情報や知識の必要性を重視して行動できる人間を求めているの。分かる?」

 

 

 なるほど、保持している情報をいかに上手に活用し、それを基に結果を出せということか?

 

 アールグレイの派閥に入るのは是非ともお願いしたい。ここは素直に誘いに乗っておこう。

 

 

「分かります。私がアールグレイ様のお役に立てるか分かりませんが、よろしくお願い致します」

「大丈夫よ。役に立つじゃなくて、役に立てるように指導する。適材適所に合わせて指導するのは私の義務よ」

 

 こいつ、最後の最後に「ブラック」な事言いやがった!!

 

「それじゃあ明日からよろしくね。別に朝早く着て何かするとか、私の従者になれとかはないわ。詳しくはフレーバーにきいてちょうだい」

「はい」

「それではごきげんよう」

 

 

 

 

 あの後フレーバーに聞いたが、アールグレイ派閥に入ったからといって、特に何もする必要はなかった。しかしそれはフラグにしか聞こえない。ここで何もしない場合・・・うわぁ絶対何かある。しかし今の俺は紅茶の園に入ることも出来ない、あの人に貢献できる情報も無い・・・集めるか?なにについて?

 

 

 俺は考える・・・あの人が今求めているものは?戦車道の情報?学園の情報?それとも・・・他の派閥の情報?

 

 

 

 アールグレイ派は少数だが影響力が強い。その他の派閥は強硬派は特に居ないと聞く。しかし一部の派閥は紅茶の園への憧れが強く、他の派閥と協力体制を取るとの噂もある。アールグレイ卒業後後を継ぐのはダージリンだ。しかしそれは派閥の問題。戦車道の隊長候補はダージリンともう一人居る。それは『リゼ』だ。少し情報を集めてみるか。

 

 

 

 

 

 

 1週間もするとリゼの情報は集まる。まずリゼ本人についてだ。

はっきり言って優等生、令嬢、成績優秀、人間性も問題ない。アールグレイとも友好的な関係だ。ダージリンとリゼ、どちらも次期隊長及び紅茶の園の長に相応しい。

 

 しかし黒い噂もある。過去に一人の生徒が彼女に何かをされたと・・・そして退学処分になった。と言うのが同級生の情報だ。聞いても無い情報を言ってくれるのはうれしいが、内容が不明確だ。

 

 

 今日は俺が屋上の花を変える日だ。考え事をするには持ってこいの場所であり、俺のサボリスポットだ。しかし今日は何時もと違い、屋上の鍵が開いていた。おかしいここの鍵は2本しか無い。俺は扉を開いた。其処にはいつも私に聞いてもいない情報を話してくれる同級生が居た。しかもアレだ、上級生4名付きで・・・うわっ!!アレだ、イジメ。

「あんた何適当な事話してるのよ!」

「あんたのせいで私達の派閥内で内輪揉めが発生しているのよ!!」

「責任取れるの?」

 

 適当な情報というか話をして、それが広まったか・・・自業自得という言葉がピッタリだ。まぁここは隠れて傍観する。もしも手が出たらそれはそれで報告すればいい。俺は音を立てないように扉を閉める。ゆっくり物陰に隠れスマホで盗撮する。

 

 4人のうち3人は同級生に詰め寄る。残りの1人はずっとポケットに手を入れている。そして一言も喋らない。あれ?この4人の言動、行動は演技?そう演技だ。しかしこの演技の意図はなんだ?その時

 

「彼方達何をしているんですか!!」

「「「「リゼ様」」」」

「何をしているのかを聞いているのです!!」

「彼女が根も葉もない噂をしているので、それへの指導です」

「指導?ではなぜ先生方の前でしないのですか?こんな誰も居ない屋上で、それも4対1で指導?これは指導ではなくイジメでは?この学園でのイジメ行為は退学処分だけで済む話ではなくてよ?」

「「「「・・・」」」」

「この件は私が預かります。いいですね?」

「はい」

 

 俺は思う。本当にこんな三文芝居を信じる人間がいるのか?あの子はそこまでバカじゃないから信じないと思うけど・・・あの4人とリゼはグルでOK。

 

簡単に整理

①リゼは地盤固めのため他の派閥と協力体制

②その過程で新入生を勧誘。

③勧誘方法は先ほどのような感じ

 

 ①~③から考えられる事は、アールグレイ卒業後に行われるダージリンとの派閥争いで勝つため。私としてはダージリンでもリゼでもどちらでもいい。が、上司にするのであれば断然ダージリンだろ。悪徳商法をする人間が上司ならば信用できない。ならばどちらがいい?俺はダージリンがいい。

 

 

 全員が屋上から出て行った事を確認し、私は屋上を後にした。これからアールグレイ様に事の経緯を話したいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?こんな処で何をしているのかしら?」

 

 

 

 俺が屋上に続く階段を下りきった直後、声を掛けられた。

 

 

「あなた・・・水樹エリね?」

「あ、はい」

「水樹さん?」

「は・・・はい」

「今まで何処にいました?」

 

 嘘はよくない。嘘は敵対していると相手に思わせてします。

 

「お・・・屋上です」

「そう

 

 

 あなた同級生が上級生に苛められているのに助けないの?」

 

 

「助けません」

「何故?」

「今回の騒動の原因は彼女の無責任な言動によるもの。つまり彼女自身が引き起こしたものです。それを何故私が止めなければ?もし止めて場合、彼女は反省することなく再度同じ過ちを犯します。ならば傍観し、彼女にお灸をすえ、反省してもらう事で再発防止になると考えるからです」

「でもエスカレートする場合の事は考えていないの?」

「その場合はこの動画を先生方に見せる事で防止可能です」

「なるほど」

 

 

 暫くすると

 

 リゼは俺のスマホを持ってトイレに行った。

「リ、リゼ様」

 

 おれの言葉をまるで聞いていないかのように彼女はゆっくりとトイレに向かう。ここで彼女に触れることは出来ない。触れた瞬間私が悪い事になる。

 

「あなた・・・この動画を見て色々感じましたわね?」

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!この人かなりヤバイ。その時

「いっ!!」

 俺の胸倉を掴み壁に押し当てた。

「リ、リゼ様!」

「悪いけど、全部知っちゃった子をこのまま帰す訳にはいかないわ。意味分かる?私の目的を邪魔する人間には退場してもらいたいの。今現在私の目的を知っているのは、私と彼方だけ・・・だから・・・死んでくれない?」

「い・・・息・・が」

「嘘嘘♪大丈夫♪安心して、死ぬなんてそんな大層な事はしないわ。ただ私の家族が経営する病院で一生寝たきりで居てもらうだけだから♪だから安心して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      では

 

 

 

 

      

 

 

    ごきげんよう」

 

 

 

 

 

 

 

 その時スマホに着信が入る。

「あら?あのフレーバーから?」

 俺の胸倉を掴んでいた力が弱まる。

「20分・・後に・・約束して・・・いますので」

「そう。なら出ないさい。ただし要らない話はしないでね。もしもそんな素振りを見せたら・・・私、何するかわからないわよ♪」

 平然と笑顔を絶やさす言ってのける、その性根・・・腐ってやがる!!

 

 

 

 

「そうそう、私の派閥に入りなさい。あなた優秀そうだから使えなくなるまで使ってあげるわ。アールグレイがあなたを勧誘するって話があるの、もしも勧誘されたらYESと答えなさい。分かる?スパイよスパイ。上手くやってダージリンやアールグレイに恥をかかせてやりなさい。いいわね!!」

 

「今日はホントいい日ね。鍵をかけ忘れたから戻ってみれば、アールグレイが勧誘する前に彼方を此方に勧誘できたもの」

 

 

 最後に俺に腹パンをしたのち彼女は去っていく。

 

 

 

 俺はアールグレイ派閥に属しているが関係ない。もしもスパイをしないと何をされるか分からない。あの目、過去に絶対何人か殺っている。間違いない!!

 

 

 

 

 ヤバイ女を敵にしてしまった。





 今回は孕みません。
 
 ちゃんと卒業します。

 ちょっと不幸な目に遭います。

 死にません。

 世界の抑止力はありません。

 


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第05話「ハズレクジは覆らない」

 アールグレイの勧誘に同意し派閥に入るも、自分の不注意からリゼに殺されそうになってしまい、それを回避するためリゼの傘下に非公式に入る状況になり、早2週間。俺は今マチルダの車長をしている。

 

 

 

 

リゼの命令で俺は戦車道を受講する事になった。(命令が無くても入るつもりだった)

勿論俺が唯単に受講したわけではない。俺の役目は

①ダージリンの指揮下に入る

②車長になる

③その後1年生では前例が無い小隊長に任命される。任命にはダージリン、アールグレイの2名の名前が連なる。

④小隊長任命後、重大な試合でミスをし、それが原因で敗北するように仕向ける

⑤アールグレイ派閥の発言力を低下させる

 

 ①②は早々にクリアしている。しかし③は難しいだろう。前代未聞だぞ?原作ではペコが1年生で紅茶名を貰い、ダージリン車の装填手だった・・・しかし原作でもそこまでだぞ?それ以上を俺に求めるか・・・

 

 

「あの?」

「何?」

「本当に大丈夫なのでしょうか?」

「小隊長の話?」

「はい」

「アールグレイの話聞いている?」

「どのような話でしょうか?」

「改革」

「改革・・・ですか」

「そう。今までの伝統はそのままで新しい伝統を取り込もうって話」

「でもOG会が黙っていないのでは?」

「当たり前よ。だからあなたよ」

「私ですか?」

「そうよ。入学早々紅茶の園でアールグレイと一緒に入浴、その後お茶を共にした・・・創立以来の大ニュースよ?間違ってないでしょ?答えなさい?虚偽は許さないわよ」

「その通りです」

(フレーバー様に押し倒された話は聞いていないみたいだな)

「素直ですわね。その改革の目玉が・・・あなたよ」

「しかし小隊長になるには、それなりの成果・・・結果が必要なはず。しかし私は未だ結果を出していません」

「黒森峰は知っている?」

「?はい・・・ある程度は」

「今年の黒森峰には西住流の後継者西住まほ、そして今年その妹のみほが在学しているわ。そして2週間後に親善試合が行われます」

「そこで私に結果を?」

「その通りですわ」

「なるほど、私をその親善試合に小隊長として臨時任命、結果を過去の試合結果と比較検討し、私が有能であると証明する・・・そして今後有能な1年生を発掘し育成する事で優勝する事も可能とOG会を説得する。なるほど理にかなっていますね」

「・・・」

「す、すみません。誤った考察でした」

「いえ、正解よ。まぁあなたに結果を求めてはいないわ。殆どがアールグレイの指示通り動けば問題ないようになっているわ」

「承知しました」

「くれぐれもヘマをしないでね。私も条件付で彼方の小隊長臨時就任に承認しているのですから」

「はい」

 

 

 

 俺の小隊長臨時就任はリゼと話した2日後に紅茶の園でアールグレイより発表された。皆驚いていたが、最も皆が驚いていたのが、リゼも臨時就任に条件付で承認していた事だ。アールグレイ派の人間に対してリゼが反対せず賛同した事で、何か裏が有るのではないかと皆疑った。

 

 

「ねえねえ?」

「何?」

「小隊長になってどう?」

「どうって・・・」

 過去の出来事からリゼ派に入った情報通の同級生・・・相変わらず喧しい。

「だってアールグレイ様、ダージリン様、それにリゼ様にも認められたじゃない。うれしくないの?」

「うれしいよ」

「そうなの?ちっともうれしそうに見えないよ?もしかしてリゼ様の条件が気に入らないの?」

「条件は私には関係ないよ」

「なら、何故?」

「就任早々にフレーバー様に指導されたくないからよ」

「・・・確かに」

「それより彼方またフレーバー様に呼び出されたって?」

「それは・・・あははは、じゃあね」

 

 

 メンドクサイ。リゼ派の人間から俺の心情を探れとでも命令されたか。まったく俺がそんなヘマするかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小隊長としての仕事にも慣れ、とうとう問題の黒森峰との試合が明日行われる。俺は所詮飾りに過ぎない。しかしアールグレイはそれを良しとしない。リゼは自分の保持のため飾りでいることを望む。しかし今後飾りではアールグレイのスパイを継続できない。リゼの役にも立たない。結果俺は役立たずの烙印を押される。そしてその役立たずを押したアールグレイ派は失墜、リゼ派が勢力を伸ばすだろ。

 

 

 だからリゼにボコられるのを覚悟で挑むしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合当日

 

 現在黒森峰はまほが隊長、みほは副隊長となっている。まぁ原作通りという事だ。俺が介入した事で色々変化があると思ったが、要らぬ心配だった。

 

 今日は15対15のフラッグ戦。私の指揮下には7両となっている。遠まわしに私のヘマで敗北が決定する。しかし逆に考えればこの7両で勝利する事で私の道筋通りになる。

 

 今回は親善試合という事で黒森峰にも1年生が要るみたいだ。まぁエリカ以外は覚えていない。あのタレ目の女の子は小梅?だったか?もう20年ぐらい経過しているから覚えていない。でもアレだ。カワイイ。

 

 

 

 

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 

 

 

 

 

 

 私はアールグレイの指示のもと岡上に待機、敵車両が通過後挟撃といった特に捻りも無い作戦を任された。偵察車両により敵は3小隊に別れ別々に進撃しているとのこと。しかしその偵察車両も相手の斥候に早々に撃破されてしまい情報が不足している。

 

 

 俺は考える。相手が3小隊に?別々に進撃?おかしい。何故??斥候のため部隊を分けるのは理解できる。しかしそれ以外に黒森峰が・・・西住流がそんな事をするか?いや、みほなら辻褄は合う。しかしガチガチの西住流に染まっているまほがそんな事しない。今日の試合でまっすぐ正面から攻める西住流を1年生に教えるはずだ・・・

 

 

だからもしもこのまま我々がここで待機するのは・・・

『アールグレイ様?』

『何?』

『偵察をしては如何でしょうか?』

『何故?』

『情報が曖昧です。現状のままではもし相手が3小隊で別々に進撃ではなく、全隊で進撃している場合、部隊を2つに分けているこちらは不利になります』

『確かに』

『こちらが先行している分偵察には適していると考えます』

『では2両偵察に』

『了解しました』

 

 まぁギリギリ大丈夫だろ。

 

 

「2両偵察に出てください」

「大変です!!」

「どうしました?」

「敵です!!」

 

 

 確かに情報は正しい。双眼鏡を覗き込み俺はそう思考した。3小隊に分かれて進撃している。但し別々ではない。

 

 先頭車両はは機動力、攻撃力を有した車両、その後方にフラッグ車を挟み込むように防御の硬い車両で覆う。後方には先頭と同じ車両を配置している。こちらの浸透強襲戦術への対策だろ。先頭の車両で相手の陣形に穴を空け、其処に入り込み、外側の車両は防御と攻撃を両立できる。穴を空けた車両は機動力があるため敵陣形の好きな所に移動できる。後方の車両と挟撃も可能だ。この陣形を重戦車で運用されると殆ど対応出来ない。

 

 

【無理ゲー】

 

 

 俺の頭にはその言葉以外出てこない。あの陣形を攻略はほぼ無理だ。

 

『アールグレイ様、敵部隊は『3小隊でこちらに向かっていますか?』何故それを!』

『過去の試合では、殆ど似たような陣形で攻めていますので』

 

 おい!知っているのか・・・あ、そういう事か!

 

『では一度本隊に合流したほうがよろしいですか?』

『合流後は?』

『は?』

『合流後のプランはありますか?』

『・・・』

 

 

 

 過去の試合から黒森峰の戦術は把握している。しかしそれへの対策を行ってもOG会が許可しない。勿論隊長であるアールグレイが、試合中に「勝手に」指示することは、例え勝利してもOG会が許可しない。

 

 ならばどうする?この試合の目的は新しい試みの結果を出すことだ。試合中に伝統に反する行動を取る。その行動が結果として勝利に結びついた場合、OG会を説得できる。もしも勝利出来なくても過去の結果と比較した結果問題なければ、同じく説得できる。

 

 これを隊長が実施し、失敗した場合のリスクは大きすぎるが、私ならリスクは少なく済む。でもそんなリスクがある事、事前に話して欲しかった。

 

 

『仕方ありません。全部隊は前進してください。分隊は後退し合流して下さい』

『・・・』

『水樹?』

『了解しました』

 

 

 

 

「では全車後退でよろしいですか?」

「いえ、後退は不要です」

「は?命令ですよ?」

「アールグレイ様は後退し合流せよと命令されました。しかし『いつ』『どこで』とは命じていません。なので我々はまずこの岡上から後退し、あそこの森に行きます」

「それでは命令違反では!?」

「後退し、待機するだけです。命令違反にはなりません。全車後退し森の両サイドに分かれて待機して下さい」

 

 

 

 

 荒野の両端にある森へ移動後、部隊を2つに分け待機させる。これで後は敵さんがこの道幅1.5kmに入ってきたら作戦開始だ。敵は後5分でここに到着する。此方の本隊はあと15分だ。たった10分間。600s俺は相手をこの地点で釘付けにする作戦を行えばいい。そうする事でアールグレイの部隊で行う浸透強襲戦術が有効に機能する・・・はずだ。本番一発勝負。そもそも打ち合わせなしのアドリブだ。

 

 

 

 なんだったけ?・・・思い出せ!!みほが黒森峰で行った作戦を!!なんだったけ?

あ!!パラリラだ。あれ、あれだ。

『煙幕はありますか?』

『え?いえ、煙幕などは搭載していません』

『解かりました』

 

 はい積んだ。相手の視界を奪い接近する作戦・・・終了

 

 ならどうする?・・・いやまて、まほやみほだけを相手にしてる訳じゃない、俺は黒森峰の戦車道受講者を相手にするんだ。だったら道はある。

 

 なんたってあいつらは俺と同じ女子高生・・・たった16年しか生きていない。まぁ俺は前世込みで40歳を超えている・・・いやもう歳のことは置いておこう。

 

 

 

 

 悪いな。前世からネチネチ諦めが悪い性格なんでね。

 

 

 リゼにボコボコにされたくないし、アールグレイに見捨てられてあくないしね。悪いが俺の野望のために利用させてもらうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第06話「釘を刺される」

リゼにボコボコにされたくないし、アールグレイに見捨てられたくないしね。悪いが俺の野望のために利用させてもらうぞ。

 

 

「敵本隊此方に向かってきています」

「全車森に待機して下さい」

「作戦ですか?」

「はい。簡単に説明します。部隊を2つに私の部隊をA、副小隊長の部隊をBに分けます。部隊間は300m程度を維持して下さい。私の指示で各車2発発砲後即時移動します。B部隊は300m移動3発発砲して下さい。その隙にAは森を利用し反対側に移動します」

「挟撃ですか?」

「いえ、挟撃はではないです。あくまでも敵部隊の攪乱です」

「上手くいきますか?」

「多分。あちらには西住まほがいますから」

「どういうことですか?」

「まぁ結果しだいですがね」

 

 

 俺は副小隊長と簡単に打ち合わせをする。彼女は2年生だ。しかし紅茶名を貰えていない。これが成功すれば彼女も評価されるだろう。

 

 

 

 

 

 敵本隊が俺達の前を通過する。そして

『各車発砲開始!!』

 

 俺の指示で発砲が開始され

 

『全車移動開始』

 

 敵本隊は我々の森に砲撃を行うが、既に森に紛れて移動している。向こうの側面を守っているヤークトティーガーは固定砲塔。対応が遅れ、尚且つその際彼女達の視線は砲撃方面に向く。砲撃を開始しても敵はそこには居らず、違う場所から砲撃跳んでくる。そしてその砲撃に紛れA部隊は森から森に移動する。

 

 

 そして

 

「代わってください」

 

 俺は砲手と交代する。昔から砲撃には少し自信がある。俺が狙うのはフラッグ車である西住まほの車両・・・の転輪を狙う。

 

 

 

『相手部隊の右側面、左側面を同時に砲撃して下さい。車両本隊ではなく転輪やキャタピラを狙ってください』

『了解』

 

『撃て!』

 

 

 俺の作戦は50%成功した。相手は先頭車両、左右車両、後方車両、全ての車両が統一されているわけではない。先頭は機動力、攻撃力優先、側面は防御、後方は先頭と同じ。これから考察できることは、側面を崩壊する事で相手部隊はその場から動く事が出来ない。おまけに側面を崩壊=防御力は大幅ダウンする。そうなると相手のフラッグ車は側面から丸見えになる。

 

 

『私はここに残ります。他の車両は引き続き作戦を継続して下さい』

『しかし其処に砲撃が』

『ここには砲撃は飛んできません』

 

 

 

 当たり前だ。側面の車両の転輪が破壊されている状態で砲撃が飛んでくるはずが無い。飛んできてもあたるはずが無い。自信はないが確証はある。あの西住まほがそんな愚考はしない。もしも砲撃が飛んできてもそれは、違う人間の独断だ。

 

 

 4~5発砲撃が飛んできたが直ぐに収まった。やはり部隊全体の錬度が低い。

『相手フラッグの転輪を狙います。少し右に移動して下さい・・・そこで大丈夫です』

 

 俺は狙いを定め引き金を引く。側面車両の合間を縫って、俺が放った砲弾は吸い込まれるように西住まほの乗るティーガーⅠの転輪を破壊した。これが原因で相手部隊の一部が森に進撃を開始した。しかしそれは幾らなんでも無謀な行動だ。なぜなら

 

 

『全部隊、アールグレイ様に合流して下さい』

 

 我が高の本隊が合流したからだ。素晴らしいジャスト600s!!俺の仕事は終わりだ。あとは本隊に任せます。

 

 

 

 

 

 

 今回の親善試合の結果は、こちらの敗北だった。

 

 相手の動きを封じたのが悪手だった。側面防御が低下させたのは良かったが、それを補うため部隊が密集してしまい全体の防御が上昇してしまった。おまけに敵フラッグ車であるティーガーⅠの転輪を破壊された事で部隊の士気が上がった。この状態をまほは利用し、攻撃部隊を短時間で構成した。これは西住まほだけではなくみほの能力もあると思う。でなければ早すぎる対応だ。そしてその攻撃部隊に我が高が対応できず、瞬く間に蹂躙された。その際みほと対峙したが、手も足も出なかった。俺の指示が遅いのと、指示内容に隊員がついてこれないのが原因だ。流石黒森峰・・・錬度が半端ない。

 

 

 しかし我が高もただで蹂躙されたわけではない。相手の損害は撃破5、転輪破壊4とまぁまぁの結果は出した。転輪破壊の中にフラッグ車もある。これ以上の結果が何処にある?敗北は仕方ない。しかしその原因は我々にもある。しかしそれを言っても私の前にいる人たちには理解できない。

 

 

 

 

 試合終了後アールグレイ様はそこそこ機嫌はが良かった。ミーティングでも今回はいい成績だった、次につなげるための対策もわかったと発言した。勿論俺へのフォローもしたが・・・・中には「アールグレイ様に黒星をつけた1年」や「命令無視」「我が高のハジ」などと考える人間も要る。考えるだけならマシだ。それを実行し始めたら、性質が悪い。物が無くなる、無視、階段で付き飛ばされる・・・等は可愛いが、トイレで水を掛けられる、学食で飯を出されない(最後にされる)、用も無いのに立たされて小言を聞かされる(長時間)等、段々イラついてきましたよ。まぁそれでも効果がない事に痺れを切らした人間達が俺を屋上に連れだしたという訳です

 

「あなた何様?」

「どういう意味でしょうか?」(じゃあ上で)

「アールグレイ様の経歴に泥を塗っておいて、平然としている。普通ならそんな事はできませんわよ?」

「親善試合の件でしょうか?」(主語が無いぞ)

「当たり前ですわ」

「それなら本日のお茶会時に報告する予定です。それに基づいて練習メニューを組むとアールグレイ様が仰っていましたが?」()

「そうでは有りません!!なぜ未だにこの学園に在学しているのかと聞いているんです」

「辞めなければならないほど、今回の件は重大な事でしょうか?」(ならお前が辞めろよ)

「あなた・・・そこまで無知とは・・・アールグレイ様は卒業後イギリスに留学し、国際戦車道メンバーとして活躍されます。そこで誰よりもいい成績で入ることが重要なのです。それを彼方のせいで西住に負けた人間とレッテルが貼られたんです。わかりますか?」

「解かります。しかしその国際選手に入るために無敗を維持したいのであれば、なぜアールグレイ様は今回の親善試合に挑まれたのでしょうか?別にアールグレイ様が指揮を行う必要は無かったと思いますが?」

「そ、それは」

「それに先輩方も聞いていたと思いますが、なぜ私と合流するまでの間、なぜアールグレイ様は私に早急に合流する事を命令されなかったのでしょうか?如何ですか?」

「「「「「・・・・・・」」」」」

「アールグレイ様の狙いは、こちらが新しい戦術を行った場合、黒森峰の対応する時間、隊長、副隊長である西住姉妹の実力などのデータが欲しかったのです。現時点での黒森峰の実力を知りたかったのです。黒星を付けてでも欲しい情報がある。そしてそれを自分の目で見たい、だから敗北するのを承知で私に命令した」

(まぁしらんけどな)

「本当?出任せではないの?」

「確認はしていませんが、状況から私の言った事は証明出来ます」

(さぁ反論してみろや~)

 

 

「何話しているの?」

 そこに今一番合いたくない人間が現れた。

「さっき下級生から屋上に先輩達が上がっていたったと連絡がありましてね・・・困りますね」

「リゼ様!!申し訳ありません」

「あら?水樹じゃないの?何しているの?」

「リゼ様・・・先輩達に「色々ご指導」していただいたところです」

(ヤバイな・・・目が据わってる)

「そう。続きはお茶会でいいかな?ここは本来立ち入り禁止よ」

「「「「「はい。失礼します!!」」」」

 

 俺を呼びつけた先輩は素早く出て行った。残されたのは俺とリゼの2人だけ。

 

「ねぇ?」

「何でしょうか?」

「試合前に言ったこと覚えてる?」

「ヘマはするな。でしょうか?」

「ええ。その他に」

 

 そういうと行き成り俺の脚を蹴り飛ばし、地面に叩き付けた。その衝撃で息が一瞬出来なかった。

「ガッハ!!」

「どう?思い出した?少し衝撃を与えたら思い出すかなって思ったけど・・・息できない?なら仕方ないね。教えてあげる『まぁあなたに結果を求めてはいないわ。殆どがアールグレイの指示通り動けば問題ない』って言ったわよ?思い出した?思い出しなさい!!」

 

 リゼは俺を地面に叩き付けたあと、目立ちにくい背中を重点的に攻撃した。手馴れていると俺は感じた。

 リゼの理不尽な暴力の勢いが少し弱まったところで

「今回の件、何かリゼ様に不利益があったのでしょうか?」

 足で体を地面に押さえつけられている状態でリゼに質問した。

「不利益?無いわよ。あのアールグレイには大きな利益があったのよ。OG、OB会はアールグレイの改革に賛同したわ。解かる?あなたのミスでアールグレイを失墜させるはずが、彼方が余計な事をした事で、あの女の評価は鰻上り・・・まったく」

「しかしこれはチャンスなのでは?」

「はぁ?」

「アールグレイ様の評価が上がるという事は、この先もっと結果を出さなければいけません。その際に私がミスをする事で」

「なるほどね。いい意見ね」

「ありがとうございます」

「処で」

「何でしょうか?」

「約束違反や言い逃れができないように念を押す。って事をなんていうと思う?」

「『釘を刺す』ですか?」

「正解。で、今回私との約束・・・守らなかったでしょ?だから今から『釘を刺そう』と思うんだけど」

「はぁ・・・今まで行ったのは違うと」

「勿論。で、これなんだけど」

 

 彼女は懐から何か工具を出す。

 

「今から釘・・・刺すから」

「え?」

「言葉より実際に打ち込んだほうが、効果あるから♪」

 

 いやいやいや!!何々?意味不明なんだけど?釘をガチで刺すの?はぁ?サイコか?

 

「・・・ご冗談を」

「ん~じゃあ、ここに」

 

 

 ガッシャ

 

「え?」

「ここなら大丈夫」

 

 

 俺の上腕三頭筋の皮を伸ばし、そこにリゼは本物の釘を工具で打ち込んだ。その瞬間、

「あああああ!!!」

 激痛に俺は叫び声を上げた。しかしそれはリゼにとっては騒音でしかない。

「あ!!うるさい!!後4本打ち込むから!!一度でも叫び声出したら、追加で5本打ち込むから!!」

 

 

 

「・・・」

「すごいわね。以前に釘を刺した子は、始終泣き叫んでたけど」

「・・・」

「痛みで何も言えないのかな」

 

 リゼは俺の髪の毛を持ち、顔を上に上げ、目線を合わせる。

 

「いい?次は無いわよ。肝に銘じなさい」

 

 

 

 腕から頭に激痛が走り、意識が朦朧とする。おまけに腕には釘が刺さっている・・・

 

「ハハハ。これどうすんの?」

 

 

 

 もう・・・イヤ 






 会社が火事でなくなればいいのに・・・いや、


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第07話「クルセイダー小隊」

 

 

 腕から頭に激痛が走り、意識が朦朧とする。おまけに腕には釘が刺さっている・・・

 

 

 

「ハハハ。これどうすんの?」

 

 

 

 

 

 

 

 もう・・・イヤ 

 

 

 

 でも・・・もうすぐお茶会が始まる・・・その席で俺は今後についてプレゼンする手筈になっている。よってそこで不備があればアールグレイの顔にさらに泥を塗ることになる。流石にそれは避けたい。これ以上状況が悪化した場合、アールグレイの支持が下がる可能性が考えられる。

 

 俺は立ち上がって自分の腕を見る。新品の釘が5本刺さっていた。ある意味救われた。新品じゃなく錆がある釘だった場合、破傷風などに感染するリスクがある。そこは感謝する。さて問題は腕に刺さっている釘をどうするか・・・

 

 簡単だ。抜くしかない。その際出血が考えられるが、制服が青いため少しは誤魔化せる。俺は屋上からトレイに向かう。流石に5本全てを抜くには勇気が要る。俺はハンカチを口にくわえ、5本の釘を掴む。

 

 

 

 

 一瞬意識が飛んだが無事抜けた。出血も多くなくトイレの紙で対処できた。しかし腕から頭に響く鈍痛はどうする事も出来ない。こんな時に役に立つのは、女の子の日に飲む頭痛薬(痛み止め)だ。これならプレゼンは何とかなるだろう。薬を内服し、汗を拭き、トイレから出て鏡で自分を見る。酷い顔色だ。水で顔を洗い、軽くメイクを施す。これで何とかなるだろう。

 

 

 

 

 

「以上が今回の試合から推測された我が高の改善ポイントと思われます」

「ありがとう水樹。さて、皆様の意見をお願い致しますわ」

「水樹さん?」

「何でしょうか?ダージリン様」

「隊員の錬度向上はわかりますわ。確かに終盤の乱戦で我々は手も足も出なかったですわ。しかし後の新たな戦車の導入及び戦車の運用方法の再検討とはそういう意味です?」

「まず新戦車に関しては、現状のままであれば少し攻撃面の強化は必須かと」

「解かりますわ。それを補うのが戦術という事も」

「伝統があるのは解かっています。しかし」

「新戦車の案は反対ですわ」

「「異議なし」」

「では、戦車運用の再検討というのは?現状では格上の相手に対して、対応出来ない箇所が見受けられます」

「でも、再検討と言っても何か案は有るのかしら?」

「申し訳ありません」

「謝ることはありませんわ」

「・・・」

 

 なるほど、新戦車の導入、戦術の再検討はしないという事か。いや、「出来ない」だな。しかしそうなると難題になりそうだな。

「そこで提案がありますわ」

「何でしょうか?」

「事前にアールグレイ様にはお話を通していますが、後は水樹さん次第なのですが・・・クルセイダー小隊を彼方が指揮するのは如何でしょうか?」

「クルセイダー小隊?」

「と、言っても現状3台分の隊員しかいませんし、何より副小隊長が謹慎中ですわ」

「謹慎・・・ですか」

「ええ、少し難しい人ですわ。どう?」

 映画版で出ていた車両だな。機動力が高いぐらいしか覚えてない。しかし

「ダージリン様?少しその車両について勉強したいのですが、それからでもよろしいでしょうか?」

「まずは情報収集ですわね?いい心がけですわ。自分の与えられるものに対し関心を持つことは」

「ありがとうございます」

「他に何か意見はありますか?・・・・・では皆さん、お茶会を楽しんでください」

 

 

 アールグレイの言葉で先ほどの空気から一転、お茶会の空気に変わった。俺は素早く

出口に向かう。俺はまだ幹部候補ですらない。ここに入出する事事態特例中の特例だ。その時、俺は腕を掴まれた。この時幸運だったのが、掴まれた腕が怪我をしていない腕だった事だ。そうじゃなければ声を出していただろう。痛み止めがきいていないから。

「水樹さん?」

「アッサム様?どのような御用でしょうか?」

「少しいい?」

 

 そのまま一つのテーブルに連れて行かれた。そこは2人掛けのテーブルだった。アッサムが座った対面にはダージリンが座っていた。

 

「水樹さん?」

「はい」

「彼方に課した事は難しい事だと思いますわ。だから彼方にある言場を送りますわ。『未来は明日始まるんじゃないわ。今日始まるのよ』」

「ありがとうございます」

「ええ、頑張りなさい」

「では」

 

 

 そうそう、忘れてたな。俺は少し離れたところで

 

「ダージリン様?」

「何かしら?」

「ヨハネ・パウロ2世ですね。肝に銘じます」

 

 

 

 あの後クルセイダーに関して調べた。以前から運用こそされていたが、整備性の劣悪さや他の戦車との足並みが揃わないことから、試合への投入は殆ど無し。要は実戦経験なし、データなし、運用方法なし、3N状態だ。これは難題じゃない、不可能だ。俺は資料室から食堂に向かった。勿論ここでは何も食べない。嫌がらせをされるぐらいなら食べない方がいい。それよりもゆっくりとした音楽が流れているから脳みその休憩には持って来いだ。2階の自販機でコヒーを買い、近くの席に座る。2階はあまり人気がない。なぜなら移動距離が入り口から遠いのだ。まぁ元々人ごみ嫌いだし。それに俺が要ると色々視線がウザイしない。一人でゆっくり考え事をしたいときに限って厄介な人間は現れる。時と場所を選ばずに。

 

 

「ねぇねぇ聞いたよ。あのクルセイダー小隊を運用するんだって?」

「またあなた」

「え~そんなに邪険にしないでよ」

 例のリゼ派所属の情報通同級生が私の対面に座る。なんかストーカみたいな奴だな。

「で?何?」

「水樹に耳寄りな情報があるんだ。聞く?」

「見返りは?」

「今度のテスト勉強!!」

「OK」

「我が高の戦車道は数年前に準優勝、10数年前にベスト4に入っています。現在クルセイダーを主に支援しているのはベスト4に入った頃にクルセイダーを運用していたOB、OG。話を聞くと、偶然クルセイダーが活躍して勝利したそうです。まぁ過去に活躍したのだから、今後も活躍するはずという気持ちで今日まで支援をしています。しかしここ10年は殆ど運用されていません。

 それを見かねて去年からOBの娘である2年のクランベリー様が小隊長、同学年のバニラ様が副小隊長に就任しています。しかし両名へのニックネーム付与に関しては、かなり問題があったそうです。特にバニラ様です。この人は元々この学校の校風に馴染めてませんでしたし、半年前に暴力事件で謹慎処分になりました。クランベリー様のお陰で退学にはなっていませんが・・・水樹、噂をすれば、彼女達ですよ。右のおっとりした黒髪の女性がクランベリー様、そして赤髪のほうがバニラ様よ」

「それで暴力事件の真相は?粗方クランベリー様の悪口を聞いたバニラ様がその子を殴った?」

「正解」

「リゼ様派」

「違う派閥」

「なるほど」

 

 その時、下の階でカップの割れる音が響いた。

 

『も!!申し訳ありません!!』

『あなた!!』

 

 どうやら、1年生の給仕係が幹部の制服に紅茶を溢した様だ。それに激怒しているのは、どうやらリゼでもアールグレイ派閥でもない派閥の人間だ。アレぐらいのシミならサッサと拭けば問題ないだろうに。

 

『申し訳有りません。直ぐに!!』

『あなた!!私の制服を汚すという事は私への侮辱ですよ!!』

 

 激怒した幹部が一年生に手を上げた瞬間

 

『一年生を相手に喧嘩を売るとは、まったく情けないかぎりだな』

『誰ですか!!』

『私ですか?私はバニラ。彼方と同じ幹部ですよ。どうしますか?このまま彼女に手を上げるなら、彼方も半年の謹慎を経験しますか?私と言う前例が居ますからね~~流石に何も処分なしってのは無いと思いますよ』

 

 赤髪のバニラがその場の仲裁に入った。しかし何故か彼女の手にはコーヒーの入った容器が握られていた。

『彼方と違います!!私の場合は指導です!!そこを退きなさい!!私への侮辱は許しません』

『そうですか。彼方にとってそのシミは侮辱ですか。では』

 そういい容器に入ったコーヒーを激怒している幹部に向かったに対して、勢いよくをぶちまけた。

『あなた!!何をしますか!!これは幹部会議に報告します!!』

『あら?なら私は指導する立場の人間が、他愛のないミスで一年生の給仕係へ「暴力」を働こうとした幹部が居た事を報告するだけです。勿論一部始終は携帯で撮影済みです。どうしますか?』

『この!!』

 その言場で更に激怒した幹部は、バニラに平手打ちをしようとしたが、バニラに受け止められた。

『あなたがお望みなら、いつでもお相手になりますよ。ですが、その前にもう少し鍛える事をお勧めします』

 

 

 この一連のやり取りは問題にはならなかった。しかしこの学園であんな立ち回りをしていたら、目立ってしかたないだとうに。

 

 

 

 でも気に入った。

 

 

「で?」

「何?」

「大丈夫そう?」

「テスト勉強のほかに、出題箇所を予想して作った模擬テスト・・・する」

「!!是非!!」

「ならクランベリー様とバニラ様の関係を」

「二人は幼馴染。見ての通り、作戦をクランベリー様が、実行をバニラ様って感じの役割です。クランベリー様は日本でも有数の名家。でもバニラ様は普通のご家庭よ」

「なるほどね」

「で、2人の夢はクルセイダーで優勝を掴む事」

「了解」

 俺はその場から立ち上がり出口に向かった。

「模擬テストの件忘れないでね!!」

「了解」

 何故か私の予想した問題が高確率で試験に出るそうだ。

 

 

 

 

 

 

 私は花を持って屋上に向かう。この仕事を始めてまだそんなに経過していないけど、屋上でのイベント発生率が高いような・・・まぁ気のせいだろう。いつものように鍵を取り出して錠前をあけようとした時だった。

「あれ?破壊されてる?」

 簡単な鍵なので壊すのは簡単だ。しかしこの学園でこんな事をする人間は居ない。俺は警戒しながら屋上の扉を開ける。柵の近くに赤い髪をした女性が要るのを確認した。バニラ様だ。仕方ない。

 

 

 

 

「バニラ様?」

「ここは立ち入り禁止だぞ?」

「それは此方のセリフです。私はここへの立ち入りを許可されています」

「それは悪かった」

「それに鍵まで壊して・・・」

「誰かに報告するのか?」

「返事次第かと」

「返事?」

「はい。クルセイダー小隊を私に預けてみませんか?」

「はぁ?お前のような小娘に?」

「はい。因みにバニラ様と1歳しか違いませんが」

「はっ、冗談は辞めてくれ。そもそもお前に預けたら何のメリットがあるんだ?優勝するなんて夢物語は辞めてくれよ?」

「勿論」

「アホらしい」

 彼女が私の横を通過した時、

「いいんですか?バニラ様?」

「何が?」

「クランベリー様ですよ」

「あいつがどうした?」

「かなり危うい立場だそうですね?何でもクルセイダーを支援しているOB、OGからのクレームが日に日に増しているとか?その中に実の母親が含まれているとか・・・」

「てめぇ!!」

 バニラは俺の肩を掴み正面に向け、胸倉をつかむ。

「みんな知っている事ですよ?クルセイダーを運用できない無能、おまけに暴力沙汰を起こす部下が要るもんだから、関係ない指導不足まで取りざたされる・・・そういえば来年からクルセイダー自体の採用をやめるらしいですよ?まぁ小娘の戯言ですけどね」

「!!!」

 俺に手を上げようとする。そうそう怒れ怒れ。

「私はアールグレイ派ですよ」

「お、お前みたいな奴が!!なんで・・・クランベリーは誘われもしなかったのに!!」

「入りたくないですか?もうすぐ始まる全国大会である程度結果を出せばアールグレイ様もお認めになるのでは?」

 俺の胸倉を離す。

「一つ条件だ」

「何でしょうか?」

「クランベリーをアールグレイ派に入れろ」

「無理です。今後クルセイダー小隊の活躍次第となります。それに部下への教育が不十分です」

「私は関係ないだろ!!」

「有るんですよ。あなたはバニラ、この学園の幹部、そしてクルセイダー小隊副小隊長・・・これだけでも十分大有りです。まず彼方が問題を起こさないようにする」

「・・・解かった。今後在学中は問題を起こさないようにする。ただしお前が約束を破るような事があれば話は別だ」

「問題ないです」

「じゃあクランベリーに話をしてくる」

 

 

 

 

 

 話が終わったと思ったら後ろから

「その条件ではダメよ。バニラ」

「クランベリー」

「水樹さん・・・ね?色々話は聞いています。昨日ダージリン様からお話をお聞きしました。しかしその条件では了承できませんわ」

「では、どのような条件なら?」

「私だけではなく、バニラ、ジャスミンをアールグレイ派に入れるへ変更していただけますか?」

「ジャスミン?様」

「ええ、もう一人のクルセイダー車長よ」

「先ほども申しましたが、それは確約できません」

「いいの、アールグレイ様の派閥に入れる可能性がまだあるなら・・・」

「わかりました。では交渉成立という事ですね?」

「「ええ」」

「では、交渉成立という事で、皆様に紅茶の1杯でも入れたいと思います」

「お前・・・大丈夫なのか?」

「さぁ?」

「さぁ・・・て」

「まぁ私が初めて入れる紅茶の試飲という事で。もしもダメならコーヒーでも飲みに行きましょう。勿論私の驕りです」

「ここのコーヒー庶民のお前には高いと思うぞ?いいのか?」

「はい。それにバニラ様は飲めなかったでしょう?今日の昼過ぎに私はバニラ様が他の幹部の生徒と衝突する場に居合わせてまして。そこでバニラ様に紅茶を奢りたくなりました。それが理由です」

「お前見ていたのか?何故助けなかった?

「私もあなた方と同じくかなり危うい立場です。今以上に自分の立場が危うくなれば・・・わかります?」

「まぁ解かるけどな」

「私が幹部になればあのような行為はさせませんけど。この学園で何かをするならば、力が必要です。無ければ今日の給仕係みたいになります」

「解かった。でも次からは誰かに報告しろよ?」

「バニラ様に報告でよろしいですか?」

「ああ」

「暴力は禁止ですよ?」

「解かってる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 このやり取り後、紅茶の園でクランベリー、バニラ、ジャスミン、俺の4人でお茶会を開いた。翌日にはこの話は学園中に広まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「お前・・・本当に紅茶入れるの初めてか?」

「はい」

「・・・」

「どうかしましたか?」

「今後私ら以外に紅茶を入れるなよ?」

「はぁ・・・わかりました」

「・・・(メチャクチャ上手い!!)」

 

 

 

 

 

 

 






 この話の展開に持っていきたかった。


 銀伝は旧作しか見ていません。

 シェーンコップのような中年親父になりたい(トマホークは振り回しません)


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第08話「策略には策略で」

 

紅茶の園でクランベリー、バニラ、ジャスミン、俺の4人でお茶会を開いた翌日、俺はクルセイダー小隊の錬度を確認した。今まで3両のみで練習していたと聞いていたが、中々の錬度だった。しかしそれは今までの聖グロの話だ。今の聖グロからすると錬度は低い。だが、今から全国大会の準々決勝までには何とかなる。なぜなら今までと違い明確な運用方法がある。今日の練習後に皆にその運用方法を伝えるつもりだ。

 

 

「本当にそれがクルセイダーの正しい運用方法なのか?」

「バニラ様訂正いたします。正確には「現時点」となります」

「今後は変わる可能性があると?」

「勿論です。大元の運用方法に合わせて、クルセイダーの運用も変化します」

「なるほど」

「ただし勿論実力があればの話ですが・・・」

「今は実力が無いという事でか?」

「その通りです。クランベリー様」

「じゃあ明日から、この運用方法をマスターするための訓練を行うのですね?」

「いえジャスミン様、明日からではなく、今からです」

「「はぁ?」」

「この運用方法は基本的に薄暗い森を突っ切ります。よって太陽の光が届かない場合も想定し、最小限の光量で森を突っ切れるように訓練しましょう」

「それって危険なのでは?」

「いえいえ、木にあたらなければ問題ありません。では開始しましょう♪」

 

 

 

 

その結果は良くも悪くも無かった。原因は練習不足だ。何せ副小隊長が謹慎中により人数が不足したため車両自体を動かすことが出来なかった。仕方ない・・・だから俺はこの問題を早期に、尚且つ早急に解決しなければいけない。そのための夜間訓練だ。最低限の光量で森を突っ切るのは至難の技だが、それが出来れば昼間の薄暗い程度の森であれば可能だ。しかしこれにも問題はある。それは

 

「水樹!!!」

 ほら来た

 

 

 

「何なのよ!!どうしてここまでクルセイダーが壊れるのよ!!」

「・・・本当に申し訳ありません・・・」

「直す身にもなってよね!!」

 

 

 整備課の人からのクレームだ。そうこの訓練では車両へのダメージが大きい。全速力で樹にぶつかると基本的に前面にダメージが集中する。勿論事前にそのことも考え部品発注は行っている。部品はある、しかし整備するのは人間だ。短期間で修理回数が2ケタを超えれば普通に怒る。最初は普通の整備生、次はそれをまとめる整備主任、そして整備課のボス、整備部長だ。そして今俺を怒っているのは部長様だ。おまけとして整備課の部室で2人という状況・・・死にたい

 

「まぁアールグレイ様から『ご迷惑をかけます』って事前に話はあったよ?私もアールグレイ様直々の話だから・・・最初は皆に我慢するように説得したよ?全力で・・・でもね?そろそろ無理かな・・・わかるよね?」

「はい。最初の3日で最初に発注した部品を使い切りました。そして3両で5日で39回の修理回数・・・それもクルセイダーだけでこの回数です。そして他車両の修理を後回しにしているので、その辺りからもクレームが出ていますね。この辺はアールグレイ様がなんとかしてくれています。しかしそろそろ限界だと思います」

「うん。噂道理の子だね。私としてはあなたを応援したいよ。クルセイダーの運用をここまで頑張ってくれたんだし」

「部長がクルセイダーに興味があるとは思ってもいませんでした」

「私としてはクランベリー様は個人的に好意が持てる人だからね」

「なるほど。では後6回の修理をお願いしてもいいですか?」

「6回の理由は?」

「2日後の試合で勝利した場合は、わが校は準決勝へと駒を進めます。そして準決勝では黒森峰との試合となります。直前まで練習を行いたいですが、修理不能なダメージを負ってしまえば勝率が大幅にダウンします。よって後2日間の練習となります」

「その練習で車両にダメージが入らないようにすることは?」

「理論的に不可能です。諦めてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?」

「はい。我がクルセイダー小隊の練度は以前より75%上昇しています。そしてこの作戦通りなら互角以上に渡り合えると」

「あの黒森峰に?」

「はい、アールグレイ様」

「しかしですね・・・これは難しいです」

「難しい・・ということは可能性は有るということですか?」

「でも、『リゼ小隊とクルセイダー小隊及び予備戦力を入れ替える』これに関して、かなり荒れるわね。リゼ派が黙っていないわ。それに最低ダージリンの支援は必須ね」

「わかりました。ダージリン様の協力を私から要請したいと思います」

「必要ないわ」

「なぜでしょうか?」

「私から彼女に協力を要請する事で問題は解決します」

「ダメです」

「なぜかしら?」

「この作戦はダージリン様の協力が必ず必要となります。私から要請させていただけませんか?もしもダメである場合それは私の力不足です」

「わかりました」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が自ら私を支援する体制を整えない限り、この作戦は成立しない。そもそもこの作戦はダージリンを時期隊長にするのが目的だ。現状はどう足掻いてもリゼの方が優勢だ。

 

 

 

 リゼは俺の作戦を知っている。勿論失敗するように俺に指示している。彼女の中では俺の無謀な作戦に賛同したダージリンは、敗戦の責任を追及される。これによりダージリンの次期隊長への道を完全に閉ざし、うまくいけばダージリンの派閥を取り込む。俺はどうなるかは知らない。知りたくもない。

 しかし俺はそのリゼの策略を利用させてもらう。俺の作戦は失敗せずに、成功してしまう。それもダージリン自身が敵フラッグ車を撃破してしまう。結果ダージリンの評価を底上げする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダージリン様」

「あら?水樹さん、ごきげんよう。何か私に御用?」

「はい。少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「ええ、アッサムも同席しても?」

「勿論です」

 

 

 

 

「結論から申し上げます。黒森峰との試合での作戦内容を決める場で、私の作戦を全面的に支援して頂けませんか?」

「どうして?」

「まず黒森峰に対して我が校の浸透強襲戦術は相性が悪い。そこでこの浸透強襲戦術を強化する必要があります。それはクルセイダー小隊による敵本隊の撹乱及び戦力の分散です。先の親善試合で私が考えた作戦を発展させたものです」

「親善試合の件は、アッサム」

「はい。確かに有効です。あの作戦は黒森峰の進撃を一時的に停止させています。しかし彼女達がその弱点をそのままにするはずがありません。それに親善試合に出場していたのは大半が1年生でした」

「これに対して返答は?水樹」

「はい。確かにアッサム様がおっしゃる通りです。しかしあの時とはこちらの練度も機動力もまったく違います。それに黒森峰の弱点はそれだけではありません。そもそもあの時の弱点・・・本隊が不意に攻撃された時の対処、仮に「命令系統」と略しましょう。この命令系統は簡単に改善できるものではありません。これを改善するには命令系統を3程度に分ける必要があります。しかしこれは黒森峰には不適用です。なぜなら「伝統」だからです」

「なるほど。しかしもう一度この作戦が通用するという理由にはなりませんわよ」

「そもそも同じ作戦を行うとは一度も申していません」

「でもクルセイダーによる敵本隊の撹乱、戦力の分散と先ほど申し上げませんでした?」

「確かに申しました。しかし仕掛けるタイミングなどが違いますし、何より」

「何より?」

「3段階構成となっています。まずクルセイダー小隊で撹乱、ダージリン様の小隊で大幅に戦力を削り、本隊でフラッグ車を撃破します。すべてはタイミングが重要です」

「なるほど。アッサムの意見は?」

「現状では作戦成功率は60%です。もう少し作戦の修正が必要です」

「では、リゼ小隊を他の小隊と入れ替えた場合の作成成功率はいくつでしょうか?」

「・・・」

「アッサム」

「作戦成功率は75%」

「水樹さん、あなたの言いたいことはわかりましたが、リゼの小隊を外す事は出来ないでしょう。それこそ不祥事を起こさない限り」

「わかりました。もしもダージリン様、リゼ様自身が作戦から抜けると言い出した場合は、その場で私に賛同して頂けますか?」

「あなたも思い切った事を言い出しますわね」

「どうでしょうか?」

「いいですわ。もしもリゼが自身で今回の作戦に不参加を表明した時点であなたを全面的に支援いたしますわ」

「ありがとうございます。それでは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第09話「対黒森峰」

 

 

「この作戦内容について如何でしょうか?」

「確かに悪くないとは思います。しかしクルセイダーを使用するのは我が校の浸透強襲戦術に相応しくないかと。あなたはどう思います?ダージリン」

「リゼの言う通りですわ。しかし新戦術には興味がありますわ」

「あら?この作戦に同意するんです?」

「もう少し内容を修正する必要はありますけど。リゼはこの作戦には反対という事ですよろしいのですか?」

「ええ、私はこの作戦の起用には反対です。なぜなら我が校の伝統に反しますし、何よりほぼ実戦で使用していないクルセイダーの起用です。今からクルセイダーを使用した戦術への対応が出来るとは思えません。アールグレイ様はどう思われますか?」

「確かにその部分は大きな問題の一つと思います。しかしその部分に対してどう対応するかも私達上級生の役目と思います」

「アールグレイ様はこの作戦の起用に賛成と?」

「はい」

「・・・では私は反対です。ダージリンあなたは?」

「もしも私が賛成した場合、あなたはどうされます?」

「私はこの作戦に反対していますので、部隊から外して頂きます」

「それは困った事になるわね。でも私はこの作戦なら、あの黒森峰に勝利出来ると思ってますの。だから私はこの作戦に賛同致しますわ」

「ではもしも作戦が失敗した場合、あなたとアールグレイ様はどのように責任を?」

「そうですわね。その時は仕方ありませんわね、アールグレイ様」

「そうねダージリン、負けた時は2人揃って責任を取る必要はありますね」

「その言葉お忘れなくよう」

 

 

 

 怖い怖い作戦会議は無事?終了した。今のところ当初のシナリオ通りに進んでいる。俺の計画に沿ってダージリンもリゼもアールグレイも動いている。おそらく3人共気づいているかもしれない。でも今のところ優勝するには俺の流れに乗るしかない。でもその船は俺を含み3人乗りだ。誰を途中で下すかはもう決めている。勿論これからも邪魔な人間は川に放り込んでいく。だから最初に放り込まれるのはリゼだ。もうその材料も揃っている。証拠も揃えた。後は作戦を修正すると見せかけて、リゼを蹴落とす準備をする。試合3日前に作戦内容の修正を完了させ、全部隊には2日前に周知させる。そうすることでリゼの息が掛かった人間は対応する事は出来ない。

 

 今回リゼ小隊が抜けた穴を埋めるため補欠から数名補充した。その中には今だ派閥に所属していない人間もいる。そういう人間を恐怖で派閥に所属させ、試合でミスをするように指示する。そうすることで、今回補充員に補欠を使用した事、その原因を作った作戦を起用したダージリン、アールグレイを蹴落とす。それがリゼの計画だ。

 

 

 

 

そして黒森峰との試合当日を迎えた。当日は生憎の雨となってしまった。ここ最近は雨も降らず晴天が続いていた。まぁ原作のように川が氾濫する心配がないだけマシだ。

 

 

 

「「「「「よろしくお願いします」」」」

 

 そして俺の、いや、これからの聖グロの運命を賭けた試合が始まった。

 

 

 

『クルセイダー小隊全速前進。横の森を突っ切ります』

『了解!』

『今日の夜から降り続いている雨で地面は抜かるんでいます。その事を考慮して全速力でついてきてください』

『敵車両を発見した際は?』

『車両6両以下なら交戦します。それ以上であれば逃げます』

『逃げるんですか?』

『はい。負けるよりマシです』

 

 そう負けるよりマシ。

 

 

『敵車両捕捉。6両です!』

『交戦します』

 

 昨日この森を下見した。その時この地面は水分を大量に含んだとき、かなり沈む。今まで幾つかの試合会場の森などを下見したが、この試合会場の地質は他のと比べ物にならないぐらい沈む。

 

 軽量化を行い、通常より200kg軽くなったクルセイダーと何もしていない重戦車。この森の中で起動戦を行えばまず、こちらが2倍程度有利になる。勿論あまり時間をかけすぎると勝機が薄れる。

 

 

 作戦は簡単だ。下見によりこの森に関してはある程度戦車が通過できるポイントは把握している。そして今までの練習の成果により、クルセイダー3台は全速の80%の速度でこの森を通過できる。

 戦術は簡単だ。まずこちらが相手の走行を抜く力は無い。勝るのは機動力のみ。無いなら利用する。戦車の構造で最も弱い部分それは上か下だ。下からの撃破は物理上難しい。ならば上だ。この森の樹木は高く太い。何よりこれまでの試合で何本か折れたり倒れたりしている。間引きも出来ており、倒す角度さえ間違えなければ、戦車の頭上に倒す事が出来る。勿論相手も止まっているわけではない。止まらないなら、止めればいい。もしくは動けなくする事でこの作戦は成功する。勿論この作戦は誰にも話していない。この作戦はあくまでも「たまま外した砲弾が樹木を倒した。その倒れる場所に敵戦車が居た」ということにする。これでOB、OGは黙る。

 

 

 

 

 

『このまま全速で前に向かってください。私の合図で全車右に向きを変更してください』

 俺は相手の動きを見る。雨は森の木々が傘の代わりになり小雨になった。お陰で状況がよくわかる。

『2号車!3時の方向に砲撃!!撃て!!』

『このまま前進してください。100m前進したら4時の方向に車体をい向けて砲撃!!』

 

 何て・・・何て面白いんだろう。私が指示し、明後日の方向に飛んだ砲撃が樹木を倒す。そしてその下には敵車両がぬかるみで逃げ切れず下敷きとなる。数百kgが数mの高さから落ちてくる力は計り知れない。そしてその樹木に下敷きにならずとも、倒れた樹木に逃げ場を潰される車両もいる。砲塔は木々で邪魔されて我々に照準を合わす事も出来ない。そうなればただの的になる。

 

 

『黒森峰女学院パンターG3両走行不能』

 

 3両撃破、もう3両は足周りに重大なダメージを与えた。流石に試合中に修理は無理だろう。この6両には30分も時間を喰われた。さて敵さんは残り9両。こちらは15両。

 

 

 

 

 

 

 ダージリン

 

 水樹の作戦通り私は所定の位置で待機し、彼女の指示を待っていた。雨のせいで視界が悪く、作戦の都合上エンジンを停止にし、エンジン音が響かないようにしている。そのため常に外の様子を見続けなければならない。

 

「外の様子はどう?」

「異常ありません」

 

 外の様子をみている子にアッサムが紅茶を渡す。

「ありがとうございます」

「引き続きお願いね」

 

 その時

 

『黒森峰女学院パンターG3両走行不能』

 

 この放送を聞いた時「まさか」と思い、アッサムに確認した。

「クルセイダー小隊にも確認しましたが、3両無事です。現在作戦ポイントへ移動中とのことです」

 彼女の作戦には「森での戦闘は避ける」と記載されていた。しかし彼女は何故交戦したのか。そういえば

「アッサム?」

「はい」

「彼女の作戦書には『森での交戦は避ける』とだけ記載されていますか?」

「記載されています。『避ける」と」

「わかりましたわ」

 

 なるほど、避けるという事は避ける事が出来ない場合は交戦すると捉える事ができますわね。彼女の作戦書のいたるところに意味を理解しておかなければ勘違いしてしまう文面が幾つかある。なるほど、ある程度逃げ道を確保しているという事ですわね。OG、OBもこの作戦書は事前に閲覧している。先ほどの交戦に関しても「避ける」と明記されているが、「避けられない場合」に関しては記載されていない。避けられなければ、状況的に交戦するしかない。そうすることで負けても勝っても、自分のミスを追及されにくい。 

 

 彼女はアールグレイ派に属しているはずなのに、噂ではリゼ派に寝返ってアールグレイ様を陥れる算段をしていると聞く。最初リゼならあり得ると思いましたわ。だから彼女に接触する際はある程度警戒しましたわ。でも彼女から提示されたのは、リゼを落とす事。最初は?っと思いましたが、あの話し合いで分かりましたわ。だから私は彼女に乗った。そしてその結果が3両のクルセイダーで黒森峰の重戦車を3両撃破・・・

 

「アッサム?」

「はい」

「クルセイダー小隊に連絡、残りの敵車両は?と」

 

「ダージリン」

「何かしら?」

「クルセイダー小隊は6両の敵車両と交戦。3両撃破、3両の足周りに重大なダメージを与え追撃不可能に。以上が返信です」

「・・・」

「・・・」

「すごいですわね」

「はい。ここまでの彼女達が結果を出すとは・・・私のデータにもありませんでした」

「あなたに予想出来なければ私にも無理ですわね」

 

 

 その時

「ダージリン様?」

「どうしたの?」

「水樹より通信『計画通りのポイントへ移動し待機せよ』とのことです」

「わかりましたわ。全車ポイントαへ移動しますわよ」

『『了解』』

 

 

 彼女の作戦書にもありましたわね。

 【高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する】

 

 

 その言葉に従って敵を対処するだけですわ。




 基本的に曖昧な言葉は社会に出たら使用してはいけません。

 でも私は自分の首を締めないように、ある程度使用しています。


 最近カンパン見てないない。原作忘れかけてます。


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第10話「不確定要素」

 

 

 ダージリンはポイントαに移動し、待機しているとの連絡があった。ならばそろそろ我々も移動するとしよう。

『全車は作戦にある通りポイントδに向かいます。その後ダージリン様の合図があるまで待機』

『了解』

 我々3両はポイントδで待機する事にした。次の作戦までにしばらく時間があるため、先の戦闘による車両へのダメージを確認する作業を開始した。

 

 しかし

「車両点検お願いします」

「・・・」

「どうしました?」

「・・・この車両は足周りに重大なダメージを受けたので、ここでリタイアします」

「何を言っているんですか?」

「水樹さん・・・ごめんなさい」

「ごめんなさい」

 

 

 

 

「「ごめんなさい!!」」

 

 

 なるほど・・・補充員だけではなく、私の車両の搭乗員にも脅しをかけたか・・・

外を見ると、他の車両は皆で車両ダメージを確認している。という事は私の車両のみということか。それならまだ打開策はある。

 

 

「経緯は聞きません。首謀者も聞きません。ただ今あなた達の置かれている状況は分かりました。しかし今あなた達は自分達が救われる可能性があるにも関わらず、それを踏み潰そうとしている。このままリタイアした場合、首謀者は途轍もない権力を握るでしょう。その時自分達はどうなるか想像できますか?もし私が首謀者であれば、いつまでもあなた達のように自分の不正を知っている人間を生かしておきませんよ?」

「でも!!」

「別にいいですよ?ここでワザとリタイアしても。私には関係ありません。私はリゼ派ですから。リゼ様には私もこの試合で負けるように命令されています」

「「え?」」

「あ、今私が言った事聞きましたよね?残念ですが・・・ごめんなさい」

「「そんな!!」」

「では白旗を上げてください」

「「・・・」」

「どうしたんですか?」

「お願いします!!助けてください!!」

「私も助けてください!!」

 

 

 結局自分達の状況は変わらない事をいまさら理解したか。だからリゼに利用さされるんだよ。

 

 

「白旗あげてください。それともリゼ様の命令に背くんですか?それならこの事はリゼ様に報告する義務があります。あなた方が『リゼ様の命令に背いた』・・・と」

「「ああ」」

「分かりましたか?あなた達は現状のままでは、試合終了後消されます。まぁ殺されることはないと思いますが・・・リゼ様ですからね。薬物依存症にして金持ちに売り飛ばす・・・とかは有るかもしれませんがね」

 

 

 

 

 

 

「助かりたいですか?」

「「え?」」

「助かりたいですか?」

「・・・方法があるんですか?」

「私の言う事を聞くなら」

「「はい!!」」

「では私の指示通りに動いてください。それと脅されているネタは何ですか?」

「わかりました。私は親の会社の裏帳簿についてです」

「私は・・・学園への裏口入学の件です」

「分かりました」

 

 別にばらされても大丈夫な内容なんじゃ?まぁいい。

 

 

 

「どうしたの?」

「クランベリー様、いえ、通信機の調子が悪いとい言う事なので、そちらの調整を優先していただけです。今から確認作業に移ります。」

「そうだったの。所で作戦と少し違っているけど大丈夫?」

「先の戦闘は回避できませんでしたから。次の作戦は大丈夫でしょう。ダージリン様次第ですが」

「わかったわ」

 

 そしてダージリンから通信が入った。

 

 

 

 

『こちらダージリンですわ。ポイントαにて敵捕捉。作戦開始でよろしいでしょうか?』

『こちら水樹です。了解しました。作戦を開始してください」

 

 

 私が立てた作戦はシンプルだ。

 

 クルセイダー3両で敵本陣に突入、ある程度撹乱し離脱する。そして相手部隊が再構成される前にダージリン小隊が突入。その際敵フラッグ車は離脱するはず。それをアールグレイ小隊が狙撃もしくは追撃し撃破する。現状相手は9両、こちらは15両。数は優勢している。しかしここで問題が生じる。装甲の厚さと攻撃力だ。相手のフラッグ車は簡単には撃破出来ない。勿論そこも対策済みだ。最初にも述べたが、現在雨が降っている。この雨はエンジン音をかき消すとともに車両移動時の土煙りが舞いあがるのを抑制する。そして私の作戦は無いなら持ってくる作戦だ。どこの試合会場にも必ずあるものを利用して相手を撃破すればいい。勿論作戦内容には一切書いていない。実戦には想定外の事も発生するのは当たり前だ。

 

 

 正々堂々と戦ったたんだから

 

 

 

 恨みっこなしだよね。

 

 

 そう・・・正々堂々とね

 

 

 

 

 

 

 

「クルセイダー小隊突撃」

 俺の命令で3両のクルセイダーが9両の黒森峰の戦車隊に突っ込んだ。相手は一瞬慌てたが、すぐに持ち直した。勿論その事は織り込み済みだ。相手は密集しフラッグ車を防御する形になった。前回の練習試合では有効であった。しかしそれが今日の試合にも有効かどうかは・・・・

 

 

『ダージリン様?』

『どうしたの?』

『作戦開始でお願いします』

『分かりましたわ』

 

 

 

 

 前回は密集状態から攻撃態勢に迅速に移行された。しかし今日は雨の影響で戦闘地域の地盤が緩い。車両が重く防御態勢に移行しそのまま停止していた事で、予想以上に地面に車両が嵌った。また砲撃も行った事でその反動でより深く沈む事になる。

 

 以上の事から導き出せる答えは、以前と違い攻撃態勢への移行が遅れるという事だ。俺の予想通りダージリン小隊が到着したときには、攻撃態勢に移れず防御態勢のまま、フラッグ車を守っていた。フラッグ車を360°囲っているため、ダージリン小隊へ満足に攻撃できない。その態勢を解いた瞬間、次はクルセイダーがやってくる。

 

 

 今日この試合必ずこの事態になる事が俺には予想できた。最近では1カ月以上前の天気がある程度の確率で予想出来る。そして次の試合会場になると思われる場所で、雨の時、晴れの時などの地盤の状態を確認し、作戦を立案する。後は試合会場が決定したら作戦を多少修正するだけだ。

 

 

 

 そしてダージリンは防御箇所への一点集中攻撃を実施した。

 

 

『黒森峰女学院 3両 走行不能!!』

 

 これで相手は6両。この放送でアールグレイ小隊が動き出す。相手の撃破された車両は移動できないためそのままになる。正面の車両を撃破したため後ろにしか逃げ場がなくなった相手フラッグ車は撃破覚悟でその場からの離脱を図る。

 

 

 このままダージリンの手柄にしたい。しかしリゼの命令でこのままダージリンに撃破させるわけにはいかない。あくまでも不測の事態が発生したように見せないといけない。

 

 

 

 

 だからさぁ・・・動けよ・・・西住みほ・・・

 

 

 私の作戦では、お前はこの窮地をどう脱する?西住みほ。

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 『聖グロリアーナ女学院 2両 戦闘不能』

 

 そして試合は動きださす。

 

 

 

 





 最近仕事が事務仕事ばかりなので
 
 PCに向かう気分ではないです。なので亀更新が続きますが

 よろしくお願いします。

 


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第11話「狩る側と狩られる側」

 

『聖グロリアーナ女学院 2両 戦闘不能』

 

 

 ようやく動きだしたか、心配したぞ?君達が動かないと俺の作戦は成立しない。

 

 そもそも何故俺が同じ作戦を実施するか君達はわかるか?通常の高校生なら別に3つの部隊に分ける必要はなかった。俺の小隊で防御陣形に移行させ、ダージリンとアールグレイが取り囲んで一点集中攻撃で地味に削っていく、またはクルセイダーで側面か攻撃し、相手の陣形を崩したところで本体で叩く、などので十分だ。

 しかし相手は黒森峰。普通にしては勝てない。彼女達は練習試合で尚且つ一年生が混じっていたとはいえ、俺達相手に苦戦した。それを踏まえ相手は同じ戦術への対策を講じるのが普通と考える。それも一年生が居た時より迅速に対応出来るように。そして今回同じ戦術を仕掛けてきた事で彼女達は思うだろ「バカめ!」「以前と同じようにいけると思うなよ」っと。しかしそれはこちらのセリフだ。確かに黒森峰の対応は前回より迅速であった事は認める。ただ誤算があった。それが天候による地盤の影響だ。優等生ほどその罠に嵌る。いつも同じ気候、条件で有るはずがない。現場の人間と背広組と言えば分かりやすい。現在の黒森峰においてこの状況を打破できるのは、副隊長である西住みほのみだ。正統派西住流の西住まほでは無理だ。

 

 

 

 『聖グロリアーナ女学院 2両 戦闘不能』

 

 

 『状況報告してください』

 撃破されたのは、マチルダ、クルセイダーの2両だ。マチルダは兎も角、クルセイダーを失ったのは痛い。俺はマチルダに無線を入れた。

『相手から死角になる箇所から攻撃を行っていましたが・・・気づいたら撃破されていました』

 なるほど。それが状況報告と思っているなら、もう一度最初から指導だな。

『バニラ様?状況を』

 バニラとジャスミンの搭乗するクルセイダーならもう少しマシな報告をするだろう。

『マチルダと同じだ。有り得ないところから攻撃された。それとやつらの戦車の位置が変わっている。それも撃破された車両の』

『それなら大会本部に報告してください。撃破された車両を動かす事は禁止ですから』

『いや違う。動かしているのは後ろの車両だ』

 待て、押せるはずがない、地盤に埋もれ停止している車両を後ろから押す事は可能だ。しかし押す車両が地面に埋もれているはず・・・それをどう解決した?

 

『撃破された車両自身が動いているのではなく、動かされているということですね』

『どうやっているかはわからない。でも相手の攻撃後に動いているのは間違いない』

『どのくらい動いていますか?』

『ここから見る限り1m?ってところだ』

 

 1m?この状況で?どうやった?

 

『どんな時に動いているか分かりますか?』

『攻撃後に、少しずつ動いている』

『それはおかしいです。後ろの車両は・・・』

『どうした?」

 

 

 撃破された車両が動いている・・・それが砲撃後・・・後ろ車両は側面以外に攻撃箇所はない・・・おいおいおい!!!もしかして!!

 

『バニラ様!!』

『どうした?』

『動いている車両の状態を詳細に!!足周り、装甲はどうなっていますか?』

『装甲は外れて地面に落ちている。履帯も同じく外れている』

 

 それなら!!!

 

『ダージリン様!!』

『どうしたの?もっと『即離脱してください!!』っな!!何故?』

『敵が今の状況から脱出します。脱出の際に攻撃が来ます!!』

『なっ!!』

 

 あいつら!!動けない車両に対し空砲を撃ってやがった。劇場版の空砲ブーストの応用だ。いきなりするとこちらに作戦がバレる。そのため空砲を撃つ箇所をずらして、撃たれた車両の動きを僅かに抑えていたんだ。ならそのあとはどうする?撃破された車両を空砲で撃って逃げ道を作っても、車両が埋もれているせいで脱出は困難だ。それを解決したのが、撃破車両の装甲、履帯だ。それを足場に脱出するつもりか!!

 

『ダージリン様早く!!!』

『くっ!!全車両撤退!!』

 

 

 

 撤退が遅れ、我が高の車両2両が追加で撃破された。勿論我々も反撃し、1両を撃破した。これで敵は5両、こちらは11両。

 

 

 

 

 

 

 本当にありがとう。これで言い訳が出来る。

 

 

 

 

『ダージリン様、大丈夫ですか?』

『ええ、貴方のおかげで助かったわ』

『いえ、相手の動きが怪しかったので』

『相手は何処へ?』

『ポイントPへ』

『其処にはアールグレイ様が・・・』

『もしもの事を考え、相手が脱出する際、ポイントPにしか向かえないようにしていました。これで挟撃が可能です』

『ではポイントPへ急行しましょう』

『分かりました』

 

 

 まぁ結局のところ、この作戦は失敗する。そもそも戦力差を考えれば、挟撃など出来ない。例え5両であっても相手は黒森峰であり、西住まほ、みほがいる。

 

 それ以前に、挟撃は相手の動きを止める必要がある。相手の動きを止めるには、相手と同等もしくはそれ以上の攻撃力が必要になる。相手もバカではない。状況から挟撃される事は分かっている。ならば答えは一つだ。

 

 

 

 

 

『水樹です。アールグレイ様、状況を』

『こちらアールグレイ小隊!!すみません。フラッグ車を守るのが精一で・・・』

『アールグレイ様は?』

『相手の砲撃を受けた際、頭を強打して、現在意識がありません』

『状況は?』

『相手が一点突破を行い、フラッグ車と護衛の2両を残り全滅しました。こちらもなんとか相手のフラッグ車の履帯にダメージを与え、しばらく動けないと思います』

『了解しました。こちらと合流してください』

 

 

 

 ふむふむ、アールグレイが負傷したのは予定外だが、これで実質ダージリンが隊長代理だな。

 

 

『ダージリン様』

『どうかしました』

『相手の向かった場所はある程度わかります。なので地形を利用し待ち伏せといきましょう。多少時間は掛かりますが、問題ないと思います。内容は我々クルセイダー小隊が後方から相手をダージリン様が待機している場所に追い込みます』

『でも今から相手に私たちはおいつけないわよ?』

『追いつく必要はありません。相手が戻ってきたらいいんです』

 

 

 

 試合会場は戦車道を行うため広大である必要がある。しかしある程度フィールドを限定する必要がある。当たり前だ、逃げ続ければいつかは逃げ切れる。それでは試合が成立しない。だから限定している。よって黒森峰はいつかはフィールドの端に辿り着き、端を沿って行動するか、もしくは違う作戦を実施する必要がある。

 

 そういった事を利用し、『きつね狩り』を行う。キツネが犬に追い回されて、猟師の居る所まで追い立てられる。あとは猟師が撃ち殺せば試合終了だ。

 

 

 

 

 しかし原作では増水する崖から落ちた車両の乗員を助けたため、黒森峰は敗北した。

 

 じゃあ準決勝で敗北したら、みほやまほはどうなるんだろうか?

 

 その時が楽しみでしかたない。

 

 

 

 



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第12話「不測の事態」

 

しかし原作では崖から落ちた車両の乗員を助けたため、黒森峰は敗北した.じゃあ準決勝で普通に敗北したら、みほやまほはどうなるんだろうか?その時が楽しみでしかたない。今回はどちらが責められ、苛められて壊れるんだろうか。まぁその時はその時だ。

 

 

 

『ダージリン様。相手を責め立てるのは機動力に勝るクルセイダーが適任かと思います。それに相手に油断させる事が出来ます』

『わかりましたわ。しっかり誘導してくださいね』

『了解です。それと砲撃と交戦の許可をお願いします』

『どうして?』

『砲撃により相手を誘導します。その際こちらの挑発により相手が攻めてくる場合があります。その場合は作戦を変更し、我々は交戦します。その間にダージリン様が戦闘箇所に急行し、機を見て攻撃を行う。もしくはクルセイダーを撃破する部隊とフラッグ車が分かれた場合です。その場合は申し訳ありませんが、フラッグの捜索をお願いします。こちらは出来る限り奮闘します。如何でしょうか?』

『悪くありませんわ。隊長代理として採用します。各車両は情報を密にしてください』

『『『了解』』』

 

 

『クルセイダー小隊、相手車両を追撃します。あくまでも戦闘意欲があるようにしてください。作戦を悟られないように。相手は追い詰められていますが、西住流であり、黒森峰です』

『了解しました』

 

 

 これでこの作戦が失敗した場合、全てダージリンの責任になる。保険としては十分だ。

 

 何故?と思うかもしれないが、俺の立場がこれ以上悪くならないためだ。なにせ俺の作戦でアールグレイが負傷している。これだけでも100%やばい状態だ。これで敗北するようであれば、学校での俺への対応がマッハでヤバくなる事はバカでもわかる。だから敗北する作戦を承認したのはダージリンとする事で、敗北責任は俺に掛からないようにする。

 敗北ではなく勝利したら全て解決と思うだろ?勝利する事で上記の戦犯は無くなる可能性はある。しかし勝利の結果リゼの報復が恐ろしい。一度目は「釘を刺す」といいながら、本当に刺された。次は「お灸を据える」等を言いながら、根性焼きされる可能性がある。

 

 

 まぁ全ては俺の立場保持のためであり、学園の事など今はどうでもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵戦車捕捉しました。現在フィールドの範囲ギリギリを走行しています』

『了解しました』

『どうしますか?』

『相手はフィールドギリギリを走行しています。そのうちダージリン様と遭遇します。しかし進行速度がやや速いですね。このままではダージリン様、アールグレイ様が合流した直後になる可能性があります。それでは陣形の構築が間に合わず突破される確率が高いです。ここで少し足止めといきましょう』

『了解しました』

『では進行間射撃開始』

 

 

 

 行進間射撃により相手の進行速度は低下し、我々の攻撃により周りに何もない草原エリアから待ち伏せに適している岩石エリアに誘導した。障害物の影響で更に相手の速度が低下した。通信でダージリンがアールグレイと合流し、こちらに向かっていると連絡が入った。これは好都合。そろそろ俺達クルセイダー小隊が撃破される事で情報が途絶える。これで相手の位置が掴めず挟撃作戦が破たんする。

 

 

 さて岩石エリアで撃破されますか。

 

 

 

  

 

 

『ダージリン様の小隊が挟撃位置にくるまで我々が相手の注意を惹きつけます。それでは相手に対し砲撃を開始してください。勿論撹乱も行いますので、衝撃に注意していください』

『了解しました』

 

 俺達2両で相手へ砲撃を開始した。相手もクルセイダー如きの砲撃では撃破出来ないと分かっている。そのため砲撃を正面で受けつつ進撃してくる。それに対しこちらは向かってくる車両の横をすり抜けフラッグ車に接近する。撃破は出来ないが、威嚇射撃は行う。これだけで相手に考える時間、逃げる時間を与えない。我ながら姑息な作戦だが、この作戦実行出来ているだけでも奇跡だ。少し前までまったく実戦経験がなかったクルセイダー小隊をここまで戦わせる事が出来ている。それも1両減って2両のクルセイダーで5両の黒森峰の車両を翻弄している。これだけも奇跡だ。勿論評価に値すると思う。個人的に。

 さてそろそろ計画通りといきますか。

 

『各車両、相手がこちらの動きに気づいたようです。ここで逃がすわけにはいきません。先ほど連絡を行ったところ、残り5分程度で合流できるとのことです。我々2両で5分は無謀かも知れませんが、頑張りましょう!!』

『了解しました。こちら攻撃を続行し、相手の懐に潜り込み動きを止めます』

『援護射撃後、こちらも同様に動きます。その時援護射撃お願いします』

『勿論です!』

 

 俺の車両が威嚇射撃を実施した。その際何かの拍子に砲弾が明後日の方角に飛んで行った。先ほど相手車両に接触した際に標準が狂ったか?仕方ない。

『こちらの車両の標準が狂いました。こちらが先に相手の動きを』 

 その時だった。

 

 

「黒森峰女学院 フラッグ車戦闘不能。よって聖グロリアーナ女学院の勝利!!」

 

 

 

『・・・』

『あの』

『・・・え、あ、はい』

『先ほどの射撃が相手の進行方向にあった崖に命中し、その岩が相手車両に直撃し、撃破しました』

『了解しました。ダージリン様に報告してください』

『了解しました』

 

 

 

「うれしくないのですか?」

「勝利した感覚がないので、なんとも」

「確かに。それより」

「?」

「リゼ様になんと?」

「不測の事態による勝利です。訳を話せばわかってくれます」

「本当に助かるのでしょうか?」

「祈りましょう。お互い」

 

 

 

 

 本当は合流前に撃破される予定だった。それならリゼも許してくれると考えていた。しかしこれは不測すぎる。市誰も予測も、予想も出来ない。

 

 

 

 

 通信から聞こえる隊員達の歓喜は、私にとってはただの雑音にしか聞こえない。

 

 試合が終われば、必ずリゼは鬼の形相で俺のところにくる。それまでに対策を考えなくてはいけない。殺されないように。

 

 

 

 




 お気に入りが90といつの間にか増えていました。 
 
 登録して頂いた皆様ありがとうございます。
 それと評価ありがとうございます。これからも精進いたします。

 亀更新ですが、よろしくお願いいたします。


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第13話「油断大敵」

 

 勝利に酔いしれている先輩隊員達をしり目に、俺は同級生及び整備班と一緒に撤収作業を行う。皆勝利した事に喜びたいところだが、撤収作業時に油断していると大けがを起こす可能性があるため、皆真剣に作業している。そんな中整備部長から声をかけられた。

 

 

「本当に黒森峰に勝つなんて、今でも信じられないわ」

「アールグレイ様、ダージリン様の活躍があったからこそ、勝利出来たんですよ」

「そう?私にはあなたの作戦が有効だったと思うけど?」

「例え作戦が良くても、実行する人材が無能であれば意味はありません。今回は人材が有能すぎたんですよ。作戦内容の不備を能力でカバー出来たんです」

「なるほどね。ところで」

「はい」

「アールグレイ様には?」

「・・・」

「まだなの?」

「フレーバー様が・・・近寄るな、と」

「確かに貴方の作戦でアールグレイ様が負傷したわ。でも戦車道において、負傷する事は決して珍しい事じゃないわ。少しフレーバー様に意見してくる」

「あの・・・大丈夫です。撤収作業終了報告を行う際に謝罪します」

「ダメよ。遅くなれば貴方の立場はさらに悪くなる。今すぐ行くべきよ。大丈夫、私がフレーバーに話を付けるから」

 

 

 撤収作業を他の部員へ引き継ぎ、俺はアールグレイのもとへ向かった。幸い部長のおかげでアールグレイに謝罪することが出来るようになった。いや、近づく事ができるようになった。勿論試合終了後すぐにアールグレイのもとに駆け寄ったが、フレーバーの目線が「近づくな」と・・・怖かった!!

 

 

 

「この度は私の作戦でアールグレイ様を負傷させてしまいました。本当に申し訳ありません」

「エリ?」

「はい」

「今回の作戦内容を承認したのは私です。よって責任は全て私にあります。分かりますか?」

「・・・はい」

「貴方が責任を感じる事はありません。だからフレーバーが貴方に対して行った行為が正しい行為ではない事はすでに彼女に指導済みです」

「・・・」

「だから貴方は胸を張って学園に帰りなさい」

「・・・ありがとうございます」

「それと、次の決勝戦での作戦内容に関してもお願いするわ」

「はい」

 

 

 

 そりゃそうだろ。作戦で生じた責任は全て責任者にある。この作戦を承認する際、アールグレイ、ダージリンは、責任は全て自分達にあると言った。よって俺が責め立てられる事はない。もしも俺に責任があるという人間が居たら、それは無知である。

 

 

 

 アールグレイのおかげで俺の立場に関しての心配は不要になった。撤収作業が終了後、我々は自分達の学園艦へ戻った。途中でリゼの「お仕置き」が行われると思ったが、何事も無く学園艦に帰還できた。今回の試合は、新しい改革を進めるアールグレイの勢力を弱体化するため負ける予定だった。そこでリゼは反アールグレイ派のOB,OGの人間を会場に招いた。しかし結果は・・・・リゼの顔を潰す事になった。しかし移動中リゼを見たが怒っている様子はなかった。怒っているというよりも、むしろ喜んでいる・・・と感じられるほど機嫌がよかった。そこが不気味で仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  まぁ何もないならないでOK。どうせ今頃、OG,OBから文句を言われている最中だろう。お偉いさん達を招き、アールグレイの失態を見せるはずが、逆にアールグイレの改革は有効であると、証明してしまった。我々学生の時間と、企業のお偉いさんの時間の価値は、まったくと言っていいほど違う。その時間を無駄にしてしまったのだ。リゼの立場はかなり悪くなったはずだ。今頃自分の立場回復のために、せっせと走り回っているころだ。

 

 

 

 

 

          ザマw

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう

 

 

 

 

 

 そんな戯言を

 

 

 

 

 

 考えていた頃もあった

 

 

 

 

 

 今の状況を容易に

 

 

 

 

 

 想像出来たのに・・・

 

 

 

 

 

 何故、俺は

 

 

 

 

 

 対策を講じなかったのだろうか

 

 

 

 

 

 まったく・・・・

 

 

 

 

 

 情けない

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇエリ?この状況に関して、理解できている?出来てるわよね?そこまでおバカじゃないものね?まぁ時間も無いから要件だけ伝えるわね」

 

 

 俺は今、椅子に座らされている。

 

 

「貴方のせいで、今回の私の苦労が、全て水の泡」

 

 

 そして、椅子の背もたれに上半身を固定され、椅子の脚に、足を固定されている。両手は自由に動かせるが、見動きは完全に出来ない。

 

「漸くOB,OGへの謝罪が済んだら、次は私の立場の回復に走りまわったわ」

 

 

 そうだろうな。学園でも噂になっていたしな。

 

「まったく、「水の泡に消えたり」、「無駄骨を折ったり」、「駆けずりまわった」わ。どれがいい?」

「え?」

「水の泡か、無駄骨か、駆けずりまわるか。選んで」

「内容とか教えて頂けたりするのでしょうか?」

 

 その時

 

 私の腹部に激痛が走った。

 

「あああああ」

「いつ質問を許した?私は「選べ」としか命令していない。さぁ・・・選べ」

 リゼのひざ蹴りが俺の腹部へダイレクトに入った。流石にこれ以上刺激するのはヤバい!

「・・・無駄骨で」

「あら~、それでいいのね?」

 

 

「ところで無駄骨の刑って言うのは、貴方の手から肩にかけての骨を折っていく刑の事よ。勿論減刑する事も出来るわよ。その方法は、一切声を上げない事。5本折るわね。一度でも声をあげると2本追加・・・最初は、指、爪(剥ぎ)、手の甲、手首、腕、肩・・・頑張ってね♪」

 

 

 

 

 まったく・・・今日は厄日だ。

 



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第14話「誰のために?」

 

 

「私はね、生まれてから特に苦労も、努力もすることなく生きてきたわ。勿論そんな私を嫌う人間も居たわ。「アヴァ!!」最初はそんな人間に対し無視することを決め込んでいたわ。「アヴァ!!」でもね、私が何もしない事、反抗しない事で、その人間達の行動をエスカレートさせてしまった。そして私は中学の時にレイプされかけた「!!」それを教師や警察に言っても証拠がない事で咎められなかった・・・何それ?って思うのが普通よね。証拠がない、未成年、受験前だから・・・そんな理由で!!「!!!」私の人生が滅茶苦茶になりかけた。その時からよ、私の性格と言うか、考え方に変化があったのは「!!」証拠がなければ、バレ無ければ、何もしていい世の中である。ならば、私もその世の中の考えに染まってもいいという事。そして、私に害した人間を制裁?人誅?したわ。「!!」エリ?今貴方がされている無駄骨の刑だって、その時思いついたの。「!!」」

 

 俺はリゼの過去の話を聞かされながら、骨を折られている。正直話なんてほとんど聞いていない。いや違う、聞こえない。

 

「爪は後回しにしてあげる、あれは最後にした方が面白いのよ。左手の指の関節14箇所のうち7本折って、2本声をあげたから追加4本ね。それでさっきの話の続きなんだけど、まぁ男は私の会社関係に任せたんだけど、面白いのよ。足は焼かれて機能していないかったわ。腕は指から順に血流を止めて腐らせて徐々に短く切断されていたわ。勿論「あそこ」はおもちゃにされて、さぞ苦しんだと思うわ「あっ!!」女は・・・分かるわよね?特別に喋る権利を与えるわ。さぁ、答えなさい」

 

 知るか!!ボケ!!

 

「・・・病院関係に入院させて、薬で睡眠状態で保管する。夜、睡眠中にどこかの社長とSEX。薬が切れ起きた時にその事実を知らせ、絶望感を与える。そしてまた同じ目にあわせる」

「・・・どうして知ってる!!「!!!」

「もし・・も、私なら・・そうします」

「なるほど・・・ところで」

「??」

「誰が答える権利を与えたのかしら!!」

 

 その時、指の関節を2本同時に折られた。

 

「アヴァ!!!!!」

「まったく、躾が出来ていないメスね。4本折って3回声を上げた。追加6本ね。指の関節は終わるから、後2本は手首と肘関節ね。そろそろ気合い入れなさいよ?じゃないと、両腕機能しなくなるわよ」

 

 

 

 もう耐えるしかない!!ラスト6本!!

 

「話の続きだけど、その女達は貴方が言った通りの刑を執行したわ。今頃はどうなっているか知らないけど「!!」それから高校に進学してからは、私に害をもたらす人間は悉く消したわ。勿論証拠なんて残していないわ。まぁ多少ウワサ程度は流れたけど「!!」でも最近私に害する人間が多くなってきたの。私の命令を聞かない人間!!「!!!」私の計画を潰そうとする人間!!「!!」私の立場を脅かす人間!!「!!!」そして、その全ての中心にいるのが!!!お前だ!!「!!!!」」

 

 最後の肘関節を折られた瞬間、意識が飛んだ。そして次に目を覚ました時、目の前にリゼは居なかった。意識を失った時間は約30分程度のようだ。

 

 

 

 

 

 ゆっくり立ち上がり体の状況を確認する。手首から下は機能しない。肘から下も同じく使い物にならない。意識を失ったときに失禁していないか心配したが、大丈夫だった。本の少し漏れただけだった。

 

 リゼも最初は純粋無垢な少女だったが、世の中、いや周りの人間が原因であんな恐ろしい女になってしまった。リゼの考え方を否定するつもりはない。逆に今後の参考になる。何せ、証拠が無ければ、何をしてもいい・・・本当にいい言葉だ。

 

 

 さてさて、ある程度気持が落ち着いたところで、この左腕をどうしようかと考える。誰を頼ればいいのか・・・アールグレイ?ダージリン?アッサム?クランベリー?バニラ?

 

 

 

 

 考えても仕方ない。とりあえず自分の部屋に帰る事にする。そして扉を開けた瞬間、私の目の前にはアッサムが立っていた。

 

 

「ごきげんようアッサム様」

「ごきげんよう水樹」

 

 

「これでよかったのですか?」

「はい」

「しかし、ここまでする必要はないと思いますが」

 アッサムに連れられて校門に向かう。

「確実な証拠を、言い逃れのできない証拠を突きつける。そのために必要な事です。流石に左手一本犠牲にした成果はありました。過去に遡り調査する事も出来る証拠も集まりましたし」

「貴方の目的が分かりません。リゼ派の人間なのに、我々ダージリン、アールグレイ派と手を組みリゼを失墜させようとする・・・何故ですか?」

 アッサムが用意した車に乗り込み病院へ移動する。

 

 もうお気づきかと思うが、全て仕組みである。準決勝終了後にアッサムに連絡し、このような事態が発生する可能性があるため、各教室、空き教室にカメラを設置するように依頼した。そしてリゼの所業を撮影し、最もリゼにダメージを与える事が出来るタイミングでこの映像を流す。

 

 アッサムと移動している姿はリゼの耳に入るだろう。その対策は出来ている。階段で負傷したところをアッサムに助けられ、病院に連れて行ってもらった。何故救急車を呼ばないと聞かれ場合、大げさにするつもりはなかった。と答えればいい。

 

「その理由は教えなくてはいけませんか?」

「無理にとはいいません」

「では、機会があればお話しします。しかし今はその機会ではありません」

「そう。でもダージリンを裏切るような事があれば、許しませんよ」

「そもそも裏切るつもりなら、とっくに裏切ってます」

「そうですか」

 

 

 アールグレイは未だに俺がアールグレイ派に属している事を教えていない。唯一知っているのは、クルセイダー小隊のみだ。勿論口止めはしている。そろそろ教えてもいいころ合いだと思う。

 

 

 

「ところで」

「はい」

「決勝戦は5日後ですが、作戦は有るのですか?」

「・・・」

「ありませんか?」

「作戦はあります。そのためにはダージリン派、アールグレイ派に根回しが必要になります。アッサム様?頼んでもよろしいでしょうか?」

「わかりました」

「では、治療後に打ち合わせを致しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はリゼを次期トップする使命があります。

 

 私はアールグレイを守る使命があります。

 

 私はダージリンを次期トップにする使命があります。

 

 私は、誰のために進むのか

 





 お気に入りが100以上となりました。

 皆さまありがとうございます。

 評価も高評価を頂きました。

 今後ともよろしくお願いします。


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第15話「諦めたらそこで試合終了です。諦めます」

 私はリゼを次期トップする使命があります。

 

 私はアールグレイを守る使命があります。

 

 私はダージリンを次期トップにする使命があります。

 

 私は、誰のために進むのか

 

 

 

 

 

決勝4日前

 

「残念ですが、先の黒森峰戦にて我々は切り札を使い切りました。よって我々が得意とする浸透強襲戦術を小細工なしで実施するのが、ベストと考えます」

「正面から戦うと?」

「そうです。我々は対黒森峰として、様々な対策を施し、そして勝利しました。しかしその対策はもう使えません。何故なら決勝戦の相手であるプラウダに、黒森峰戦を研究されているからです」

「確かにプラウダは黒森峰と同じ重戦車をメインにしています。先の試合から対策を講じる可能性は高いですね。では4日後の決勝戦は、正々堂々正面からプラウダを打ち負かせばいいのですね?」

「その通りです。アールグレイ様」

「じゃあいつものようにダージリン小隊、リゼ小隊が前衛とし、私の小隊が後方という陣形にしたいと思うのだけど・・・アッサム」

「はい。当日は大雨の予報となっています。また過去プラウダとの練習試合及び公式試合の結果では勝率は4割となっています」

「「「・・・」」」

 

 

「水樹?」

「何でしょうか?リゼ様」

「あるのでしょう?」

「何がでしょうか?」

「必勝の作戦が」

「・・・」

「先ほどの話では貴方は「切り札を使いきった」といいましたね」

「はい」

「しかし、先の黒森峰戦のように、「隠した作戦」があるのでは?」

「そ・・それは」

「我々は今現在負けても準優勝という偉業を達成します。しかしそれでは納得できませんわ。「優勝」へ手が届く位置に居ながら、それを諦める訳にはいきません。わかりますね?」

「はい」

「さぁ、話しなさい。どのような作戦でも、それをフォローするのが上級生の役目・・・そうですわよね、アールグレイ様?」

「そうね。水樹、もしも他に作戦があるなら、ここで報告しなさい」

 

 

 

「過去のプラウダの戦術は、知っての通り、囮を使います。そして釣られてやってきた車両を両側から集中砲火・・・勿論フラッグ車は安置で待機しています。おそらく護衛は2~3両となります。それへの対策としては、囮にワザと釣られます。釣られた部隊は、両側からの集中砲火から逃れず、反撃します。そしてのその隙に、安置にいるフラッグ車を撃破します」

「なるほど」

「しかし、問題があります」

「攻撃力?」

「はい。この作戦を成功させるには、速さが重要になります」

「相手のフラッグ車を探し出し、撃破する・・・探し出す役目はクルセイダー、でも攻撃力不足、他の車両なら大丈夫でしょうけど、機動力が不足・・・という訳ね」

「これを解決出来る手段が一つだけあります」

「それは?」

「・・・ダージリン様?」

「何かしら?」

「最近整備課の新入生にある車両の整備、いえレストアを依頼しませんでした?」

「ええ、クロムウェル巡航戦車の事ね。最近錆が酷くなってきましたので、まさか!!」

「クルセイダーと同等の機動力、そして、それ以上の攻撃力をもっているクロムウェル巡航戦車は、この作戦に相応しいと考えます。しかし・・・」

 

 

 

 

 

 

 しばし、沈黙があり、俺は発言する。

「しかし、OG,OBの方々がそれを良しとしません」

 

 

 

 

 聖グロは強い。車両、隊員の練度、どれも強豪校と言ってもいいぐらいのレベルだ。それにイギリスとの提携や卒業生の経済支援により、財政的には問題ない。しかしこの卒業生によるOG会の存在がヤバイ。 在学時代に乗っていた戦車に合わせて、OG会が組織されているのだが、主力戦車であるマチルダ会・チャーチル会・クルセイダー会の3つは、資金を出す代わりに学園艦の運営方針にも口出ししている。結果、強力な戦車の新規導入が、他校より遅れる。原作でクロムウェルをダージリンが導入、運用したのは、ヤバイ成果と俺は現状から思う。

 

 

「ダージリン?」

「何でしょうか?アールグレイ様?」

「レストアの進行状況は?」

「装甲面は完了していますわ。しかしエンジン関連が手つかずですわ」

「そう。それとカヴェナンター巡航戦車は、今どうなっていますか?」

「カヴェナンターですか?それなら懲罰用の車両して現在保管されていますわ」

 

 

 

 

 それを聞いたアールグレイは紅茶を飲む。そしてカップをソーサーに置き

「水樹、アッサム?」

「「何でしょうか?」」

「今の状況では、我々の優勝は無い?」

「現状では難しいかと。大雨の影響で相手車両の機動力は大きく低下します。しかしプラウダの戦術からして、殆ど関係ないと考えられます」

「水樹と同意見です」

「そうですか。ならば仕方ありませんね。

 

 

 

 

           諦めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 



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