魔王美樹の大冒険(旧:来水美樹が異世界召喚された件) (魔王信者)
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序章 来水美樹が異世界召喚された件
01 異世界から帰ってきたのに、異世界に召喚された件


―― LP 0003年某月

 

やっとの思いで帰ってきた。

彼、そして彼女はようやく帰ってきたのだ。

 

 長い旅路の末ではあるし、問題を抱えての帰宅ではあるが、帰ってきたのだ。

 

「やっと帰ってこれたね。」

「うん、そうだね。」

 

 彼らはとりあえず武装を隠し、帰路につく。

 帰還する際に通った異界の門は山間の神社にある裏庭だった。おかげで、目撃者も居らず騒がれずに済んだ。

 

「あ、ここの駅からだと3っつかな、あんまり遠くなくて良かった。」

「でも電車に乗るお金ないね。」

「歩いて帰れるだけマシだよぉ、今まで、いったいどれだけ歩いて移動したことか。」

「ははは、そうだね。」

 

 歩いて移動することなんて、もう慣れっこだった。

 異世界にさらわれたのが4年前であるから、当時16歳だった彼は20歳だ。もういい年齢であり精悍になっていた。ヘタレだが。

 最も彼女は成長も無いので、当時のままだが。

 

 

 程なくして来水家まで到着する。

「……美樹!」

 家に居た母親に感極まって抱きつかれる。

「お、お母さん」

 やっと帰ってきた実感と共に涙が溢れた。

「ただいま」

「おかえり、おかえり」

 二人は涙を流し、しばらく抱き合っていた。

 

「うう、よかった美樹ちゃん」

 彼もその光景を見て良かった良かったと涙が出た。

 

 

「それで、一体今まで何処に居たの?」

「それが…」

 

 攫われた事。異世界に行ったこと(信じてもらえなかった)

 攫われた先から逃げ出したが、ずっと追われていた事。逃げながらずっとがんばって帰ってきた事を説明した。

「信じられないけど、とにかく帰ってきてくれて良かったよ。」

 

 彼が助けてくれたことも説明した。

「君も頑張ったね。助けてくれてありがとう。」

 

 彼、健太郎も来水家の人と一緒に小川家に帰宅する。

 同様に安堵されたが、仕事と学校から帰ってきた父親と弟に殴られてから抱きつかれた。

 

 一つの旅が終わったのだ。

 

 

 

 

 

 一段落して

 

「それで、これからどうする?」

 そう聞かれた。

 

「え?これから?」

「あんたら中卒だよ?美樹は卒業すらしてないね。」

 

「「あっ…」」

 

 そうなのだ、行方不明が解除されたとしてもその件が残っていた。

 中学校に関しても年齢が年齢(18歳)のため、再度通うのが躊躇われた。

 

「必死に勉強して高卒認定試験取って進学するか、就職するか…中卒は就職厳しいからねぇ」

 異世界からの帰還者には厳しい世の中だった。

 

「う、うーん。今までやってきたことと言えば…戦闘?」

 物騒な話である。

 

「一体何と戦うんだ?」

「こう…敵と?」

「何の敵だよ!」

 

 しばらくは休みたいと思った二人だったが、思った以上に元の社会に馴染めない予感がした。

 当面は様子見と社会復帰、進学か就職かは悩んでいたがとりあえず保留。一週間後に決めようとなった。

 

 

 

 

 旧友に会った。

 すっかりと変わっていた。

 

 旧友に会った。

 ずいぶんと大人びていた。

 

 『旧友』なのだなと理解した。

 

 そうこうして徘徊していたら町中で彼がチンピラに絡まれた。

 チンピラが全然怖くなかった。

 怖くないことに怖くなった。

 

 彼が飄々としていたのでチンピラに殴られた。

 全然痛くないようだ。

 殴り返すと、数メートル先に吹き飛んだ。

 元の世界の人間は随分と弱かった。

 

 彼女たちが強くなったのか、適応したのか。

 

 幸い人気もなかったのでそのまま立ち去った。

 吹き飛んだチンピラが生きているかどうか不安に思ったがどうしようもない。

 もしかしたら、ボクシングでチャンピオンになれるかもねと言って彼は笑った。

 彼女もそれで笑った。

 お互い乾いた笑いだった。

 

 

 なんだか生きていくのが辛くなりそうだった。

「私、とりあえず試験受けるよ。勉強する。」

「…うん。」

 

 大検なら一年頑張れば行けるだろうか。

 彼女は大検を受けるための学校を探したら、塾のカリュキュラムにあったので塾へ通うことにした。

 

 彼は就職する事にした。

 体力だけは人並み以上だからだ。力仕事も苦もなくできるだろうと。

 

 日常へ回帰し、日常生活を始める。

 復帰は難しいが、魔物に追われてた日々よりはマシだろうと笑いあった。

 

「がんばろう、美樹ちゃん」

「うん。頑張ろうね。健太郎くん」

 

 

 

 翌日

 

 彼女が塾の教室に行くと、結構な人数が居た。

 30人くらいだろうか。みんな自分より大人びている。

 当然だ。14歳のままの自分と18歳前後の皆ではまるで違う。

 

「おや?ここは大検クラスだよ?」

 親切な髪を茶に染めたお姉さん(同い年くらい)の方にそんな事を言われるくらいには違った。

 ところで彼女のピンク色の髪はみんなにどう見られているのだろうか。

 

「子供っぽく見えちゃうんです。」

 もう大人な年齢なのだと、しっかりしなければと気を引き締めた。

 服装は何時も通りだが。

 

「ふーーーーん?」

 珍しいものを見るようにジロジロ見回している。

 

 そもそも途中での入塾みたいなものなので、だいたいグループが固まっているようだった。

 みな一様に中卒か高校中退なのだろう。

 中学中退は自分だけかな―と彼女が思って授業らしきものが始まるのを待っていると、唐突に床が光る。

 

「え?」

 それは魔力の波動。彼女にはすっかり馴染み深い魔力だ。

 

 その床が唐突に真っ暗になるとストンと床が抜けた。

「キャーーーー」

「な、なんだ!?」

 

 落下する。

 

 教室内全員が落下し、どさどさっと石畳の床に落ちた。

 

 それはなにかの儀式の場で上に魔法陣らしき何かが光っている。

(異界の門?え?)

 周囲を見渡せば騎士らしきものが剣を手にし包囲している。

 

「な、一体何なんだ?」

「ちょ、いくらなんでもテンプレすぎるでしょ」

「あ?なんだこれ」

「ステータスオープン…ちっ開かねえ。」

「ここ何処よ?」 

 

(最悪だ、戻ってきちゃった。健太郎くんも居ないのに。)

 彼女は、またあの世界だろうと思った。

 

 それはそうだ、異世界と言えばあの世界だったのだから。

 

「静かになさってください。」

 使っている言葉は違った。だが理解出来た。

 その時点でおや?っと思ったが何も言わなかった。

 

 そんな事よりも体そして心に違和感があったからだ。

 おかしいと思っても、どうおかしいのか理解しきれない。

 

 それ故に慎重に周囲を警戒、情報収集しつつ今後の成り行きを見守る。

 

-------

調べる→上

 

 上に展開されていた異界の門は既に閉じ、退路はないと思われる。

 

 

調べる→周辺

 

 騎士たちが囲んでいる。神官ぽい人が一塊で居る。

 

 

調べる→神官

 

 何か見下したような、達成感を得たような顔をしていた。

 男の人で白系に金色の刺繍が入ったアリス教みたいな格好をしていた。

 ※彼女の主観であり、かなり違っている。

 

 

調べる→被害者

 

 静かにしろと言われてから、どよめきは減り、周囲を警戒しつつ神官を見ているようだ。

 

 

調べる→違和感

 

 わからない。

 

(わからないなら仕方ないなぁ)

 

 

考える→帰れるかどうか

 

(また、異界の門を探して帰ろう。)

 前回はそうやって帰ってこれたのだ。今度だってやれるはずだ。

 

----

 彼女なりにコマンド選択(?)していたが場が動いたようだ。

(イベントが始まったのかな?)

 

 

「ようこそおいで下さいました。勇者様方」

 

 神官がそう告げると、再びどよめきだした。

 

「どういう事だ、勇者?」

「一体何なの?」

 

(…ゆうしゃ?え、どういうこと。まさか私が?)

 彼女からすれば、ものすごく滑稽であった。

 

「まず、おいで下さいました勇者様方には、一つ選択をしていただきます。その選択如何によって待遇が変わると考えてください。」

 

「選択?」

「待遇ってなんだよ。」

 

「その選択とは、勇者として生きるか、それとも違う道を選ぶか。でございます。」

 

 その神官は大仰にお辞儀すると、まずはステータスを確認しましょうと言った。

 

(ええ!?ステータス!?やばい・・・私のステータス見られたらヤバイよ。勇者の中であんなもの見つかったら、殺されちゃうよ~)

 

 彼女はおおいに動揺した。動揺したがそれまでだ。

 いままでであれば、抑えつけていた魔力が表に溢れ出たはずだ。

 魔力は魔王の力。破壊衝動とセットになっているものだ。

 破壊衝動と同様に、それを全力で抑えつけているのだ。

 今までなら内側から出よう出ようとする力も強い。

 だから動揺したり思ったり悲しんだりと、心が大きく揺れると漏れ出てしまうのだ。

 

 だから、動揺したにも関わらず何も漏れ出ていないのが不思議でしょうがなかった。

 

(おかしい…いやそれよりステータスどうしよう。)

 

 困っていると、神官たちの配っているステータスプレートとやらを渡された。

 

 

「それでは、そのステータスプレートに血を一滴垂らしてください。」

 

(…あ、そうか、勇者にならないぞって言って、だからステータスも見ないって言えば良いんじゃないかな?)

 

「うお!ステータスだ!?」

「わーナニコレ」

「さすが異世界だぜ」

 

 ステータスを見て喜んでいる者も居れば、警戒して血を付けない者も居る。

(あれ?なんで・・・)

 

 血を付けない者は少数ではある。

 そんなこととは別に、何故躊躇なく血を垂らせるのか不思議だった。

 そこはまあ、テンプレ異世界召喚カルチャーが蔓延したからではあるが、その間本当に異世界に行っていた彼女には分からない。

 

「そちらの方は、なぜ血を付けないのですか?」

「いや怖くって。」

「この針でちくっとする程度でございますよ?」

 

 様子を見ていると、どうにも神官がステータスプレートに血を付けることを推奨しているようだ。

(何かおかしい、違和感があるなぁ)

 

 

----

考える→なぜ血を付けないのか

 

(健太郎くん、今頃何しているかなぁ~)

 

 

考える→なぜ血を付けないのか

 

(なんで血なのかなぁ)

 

 

考える→なぜ血を付けないのか

 

(他の人も何か危険な匂いを感じているんだね。

 ―何か悪い予感がする。)

 

 

見る→ステータスプレート

 

 何かしら魔法がかけられているようだ。

 

 

見る→ステータスプレートにかけられた魔法

 

 ステータスを表示するだろう魔法だろうか。

 

-----

「そちらの方も血は辛いですか?」

「え?あー勇者になる気は無いから、別に作らなくても良いかなーって」

 

 神官に話しかけられていた。

 

「なんと、もう決められましたか。しかし有用なスキルやジョブを得られているかもしれません。申し訳ございませんがステータスだけは作っていただきたいです。

 そして有用であれば勇者の道へ進んでいただきたいのです。」

「は、はぁ…」

 

(本当かなぁ~なんか嫌な気分だよ。健太郎くん!助けて!)

 

 助けを求めても健太郎は現れない。

 当然だ、異世界には一緒に来ていないのだから。

 

(うう、健太郎くん…どうしようどうしよう)

 

 

 ふと…血といえば魔血魂なんてものがあったなぁと思った。本当に脈絡もなく思った。

 

 思ったら手の中に魔血魂があった。

 

(あ、いいやコレ使っちゃえ。)

 

 初期化された魔血魂。これを傷つけて血を滴らせた。

 初期化済みでなければ中の人の心が壊れたことだろう。

 

-----

見る→ステータスプレート

 名前 ノス

 ジョブ なし Lv1 F級

 スキル -

 

----

 

(よし!)

 

 名前が違うが、ヤバイステータスも無くほくそ笑んだ。

  

(ノスって誰だろう、あ、この魔血魂のひとかなー?)

 

 

 初期化されても名前は残っていたようだった。

 

 

「それでは、ステータスの確認させてください!」

 

 

 神官や騎士達が順番になるよう誘導し、並んでいく。

 

1人目

 火魔法使いLv1 B級 スキル 火魔法Lv16

 

2人目

 戦士Lv1 C級 スキル 剣術Lv10

 

 

(B級とかC級とかなによ?スキルLvって3までじゃないの!?)

 彼女がそう思うのも無理はない。今まではLv0が普通、1でエリート 2で達人 3で英雄だったのだ。

 

(前の基準では考えないほうが良いみたい。)

 

10人目

 光戦士Lv1 A級 スキル 光剣術Lv25

 

「おお!まさにまさに勇者にあるべき素晴らしいジョブとスキルだ!」

 神官達がほめそやす。

 それに満更でもないような笑みを浮かべて受け入れているようだ。

 

(勇者だから、やっぱり敵になるのかなぁ。)

 

13人目

 聖女Lv1 A級 スキル 神聖魔法Lv20

 

 先程と同じ様に聖女に対しても、露骨に褒め称える。

 よほど稀なジョブなのだろう。

 

 

22人目

魔導士Lv1 A級 スキル 全魔法 Lv19

 

(だいたいA級からD級ジョブなのね。Eは一人もいないのかー

 そして全員Lv1ってことは、コレが普通のLvになるのかな?

 才能限界レベルはどこにあるんだろう。見えない?もしかして存在しない?)

 

23人目

白魔法使いLv1 B級 スキル 神聖魔法Lv14

 

(あ、教室に入った時に声をかけてくれた人だ。ユカタさんって言うんだ~)

 

 

26人目

雑魚Lv1 E級 スキル ネットショップ Lv1

 

「うはー雑魚だ!雑魚が居た!」

「待て待て、ネットショップは有用だろう!?」

「これは引っ張りだこ案件だな。」

 

 

 雑魚というジョブがあることに驚愕するも、ネットショップは有用なため特に見下されはしなかった。

 だが、力をつけなければ奪われるために囲われる運命にあるだろう。

 

(ネットショップってなんだろう?)

 そんなネットの力をあんまり理解する前に異世界に飛んだ彼女は、よくわからなかった。

 

「それにしてもE級がいるんだなぁ」

 

 蔑すんだ目でも見られている。若しくは獲物や道具を見る目であろう。

 

30人目

 なしLv1 F級 スキル -

 

(はい、はーい私です!F級だよぉ~)

 

「うっは、雑魚より雑魚が居たーーーー!」

「なにあれー」

 

 人は下を見て、不幸を見て悦ぶものなのだろう。人一倍騒いでいるのは、確かC級だったと思ったがすぐに忘れた。

 

(まあ、警戒されるよりはいいか。勇者からそっと抜け出せるだろうし。)

 

「まあまあ、勇者様方。ジョブなしLv1ですが、よく平民にありがちなジョブですので。とくに悪いというものでもありませんよ。」

 神官はそうフォローするも、心の中で赤子ならねと続けた。

 

 フォローはされたが先程のE級以上に蔑みの目で見られている。

 当然だ、有用なスキルも無いのだ。単なる無能。それが彼女への評価である。

 正直正体がバレたら土下座案件であろう。

 

 

(うーん。なんだかなぁ)

 

 そんな他者からの評価よりも重要なのが、心と身体の変化である。

 何故あんなにも平然としていられるのか。何故取り込んでいた魔血魂を表に出せたのか。

 答えの出ない問に悩まされていたが…

 

「ノスさん?ノスさん?」

 

 考えていると、神官に声をかけられていた。眼の前で話しかけられたので気がついた。

 

(あれ、ノスって誰だろう。)

 そう思ったが、そう言えばノスのステータスプレートだった事を思い出す。

 

(そういえば皆の前で自己紹介する前だから…名前を偽っても分からない!?)

 都合よく偽名が名乗れた。

 そう考えるとラッキーとしか思えなくなった。

 

「あ、はいなんでしょう?」

「皆さん移動されましたよ?」

 

 よく聞いていなかったが食堂の方に移動するようだった。

 

 食堂に移動すると、席順はA~Fとランク別となっていた。

 

(はは、解りやすいなぁ。)

 

 

「さて皆様、ステータスの方は把握されましたでしょうか。

 それではこれから勇者として生きるか、それともならないかを選んでいただきます。」

 

 神官はそう告げると、例のE級ネットショップの者が手を上げていた。

(確かアキ君だったかな)

 

「なんでしょうか?」

「家に帰りたいんだが、還してはくれないのか?」

 

 当然ながらの質問だった。

 むしろいままで無いのが問題だったが、一連の流れで動揺していたためか出ていたなかったのだろう。

 

「大変恐縮ですが、それはできません。」

「なぜ?」

「喚ぶことしかできないからです。」

 

 皆一様に帰れない事に動揺する。

 

「ふざけるな!!」

 他から当然の叫びが出る。不満は一々最もだろう。

「家に帰れない!?」

 

 ざわざわとざわめき静まらない。

 

「勇者か、勇者というがなんだ?魔王でも倒せというのか?」

「…いえ、そうではありません。魔王は居りませんので。

 召喚されし皆様には、世界を渡る際に恩恵が得られます。

 そのため、その力を以って世界に貢献していただきたいのです。」

「拉致した上に強制労働かよ!」

「無理やり戦わせるのかも…」

 

(ホントに勝手な人たちだなぁ。)

 

 ざわめきが更に広がる。

 だいたい把握してきたと言うべきだろうか。

 

「いえいえ、勿論勇者を選んで戴いた方は、それ相応の待遇で持て成させていただきますとも。

 衣食住はもとより、高度な教育、さまざまな特典がございます。」

 

 もう帰れない。

 その上で放逐?されるか勇者の道を選ぶかが強制的に選択肢と現れる。

 

(なんだろう、もやもやする。なんか――酷いなぁ。)

 彼女はぼんやりとそんな感想だった。例の世界から帰還するのも大変だったができた。

 だから今回もなんとかなる。そう思っては居た。

 

(今回も賢者さんとか居れば良いんだけど。)

 前は最果ての塔に居た賢者から教わっての帰還だ。今度は一人で探さなくてはならないかとため息を吐いた。

 

 理詰めだろうか、詐欺師の手管だろうか。それとも洗脳だろうか。

 あの手この手で勇者しか道がないように、その心理を狭めていく。

 放逐のデメリットを説き、勇者のメリットだけを突きつける。

 特典はかなり良いものだと説明される。

 

 そして終局…考える間を与えず結論を聞く。

「それでは、勇者にならない方はいらっしゃらないと思いますが、お尋ねします。

 勇者にならない方はいらっしゃいますか?」

 

 そんな解説をまったく聞いていなかった彼女は、(あ、質問された。)と思って返事を返した。

「あ、はいはーい、勇者になりませーん!」

 

 あっけらかんと。気軽に応えた。

 それに神官は一瞬理解できなかった。

 

「え?勇者にならないのですか?

 あなたのようなF級の方が、高度な訓練や教育の後、低級でも勇者であれば優遇されるのですが?」

 

「あ、元の世界の帰り方探すんでいりませーん」

 

 むしろこの世界との決別を考えていたようだった。

 

「僕も…勇者にはならない。まあ、所詮雑魚だからな。」

 自嘲気味に例の雑魚。アキは答えた。

 

「な、貴方のスキルは有用です。であれば勇者の道を目指すのが当然ではないでしょうか。」

「胡散臭い喋り口には慣れてる。僕は放っておいてくれ。」

 

「いえいえ。あーわかりました。」

 神官が思い悩んだフリをし妥協案と思われるものを提示する。

 

「わかりました。勇者にならない。それも選択です。

 しかし、この世界のことを少しも知りもせず放逐するのは気が引けます。

 これから2年程訓練と学習期間が設けられますので、是非学んでいってください。

 その頃にはまた、心変わりがあって勇者になると言うこともあるでしょう。

 如何でしょう。」

 

 この流れから、雑魚のアキは相手が放逐する気がない。そのように受け取った。

 むしろ強行する事でデメリットが生じそうだと感じた。

 

「確かに雑魚なのは仲間としてどうかとは思うが、ネットショップは有用だ…居てくれ。たのむ!」

 Aクラスの光戦士は頼んだ。むしろネットショップしか見てない宣言ではあるが、表面上は頼み込んだ。

 

「ふぅ…解りました。この世界のことを勉強する必要はありそうですし、勉強期間は了解しました。」

 雑魚の彼は説得の末、しぶしぶ了解した。

 

「そんなのいいから放逐して!外に出たい!」

 微妙な空気など読めない天然な彼女はそう宣った。

 

 みんな、一様に え、そこで拒否るのかよ? というような感想だった。

 

「あ、いえこの世界の常識をですね…」

「えーとハニーとかきゃんきゃんとかいるんですよね?リーザスとかヘルマンとか国があって」

「一体何の話を…」

 

「え?違うの?」

 彼女は根本的に、ルドラサウム大陸世界の話だと思っていたようだ。違う異世界だとは思っていなかった。

 

「違いますよ、なんですかハニーとかきゃんきゃんとは…リーザスなる国もありません。」

「えーそうなんだー」

 

(そういえば、魔王も居ないって言ってたっけ。)

 

「それではノスさんも2年間常識を学んでいただくという事で宜しいですね?」

「あーうーん。わかりました。」

 

 渋々了解した彼女は、違う異世界に到達した事を思い至った。

(そういえばステータスも違うもんね。)

 

「それでは、今日はここで食事と、これからの流れについて説明いたします。」

 

(とりあえず、ノスってことで頑張ろう。というか、社会復帰一日目から復帰活動が停止したよ。元の世界で暮らせないって事なのかなぁ)

 

 彼女は説明を聞いていなかった。

 

 

 流されるままに宛てがわれた部屋に到着する。そして明日から勉強に訓練が始まるのだった。

 

「あーあ、異世界から帰ってきたのに、また異世界に来ちゃった…健太郎くん。さみしいよぉ」

 

 

 

 

 

 

 




勢いのみで書きました。
てか二次創作は勢いのみで書かないと私はだめです。技工とかそんなもん無い。
コンセプト?蹂躙かな。

いちおうランス10に絡む予定はありますが今はこんな感じ。


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02 ネットショップが思った以上に使えない件

 魔王の破壊衝動について似ている衝動がない。

 比べようが無い。

 

 だがその衝動を抑えるのもヒラミレモンが無ければ、3日と持たないだろう。

 何時もは平然としているが、ヒラミレモンを使ってさえ、常人ならば発狂しているくらいの負荷がかかっていた。

 最早、生き物を殺す事への拒絶感は既に粉砕され、見る影もない。

 化物や悪人がどれだけ死んでも、悲しむ心は黒い心の沼へ消えた。

 

 最後に残った恋心。

 それだけを頑迷に守り続けている。それが基点となり、心の崩壊を防いでいた。

 もしも告白される前に拉致され継承されていたのならば、きっとここまで耐えられなかっただろう。

 

 そうして耐えた。

 耐えるのに慣れすぎたため、感情が負の方面に振られない限り漏れ出ることもない。

 

 また、あらゆる欲求の不満は大きすぎる破壊衝動が取って代わる。

 空腹を耐えるなんて、破壊衝動を耐える事に比べればとても容易い。

 サウナにいるのに、汗をかいてはならないから汗をかくな。という位には耐えなければならない。

 そんな無茶をし続けた。

 

 4年耐えた。

 夜寝て、朝起きたら荒野で起きるのではないかという不安すら捻じ伏せて寝る。そんな終わり無い日々。

 

 

 そんな耐えること事態に発狂しかねない衝動が。

 

 ―――無い。

 

 

 朝起きて、思った感想は

(あー…私覚醒しちゃったのかぁ)

 だった。

 

 4年間ずっと無かった快適な目覚めだった。

 衝動に耐えるという事をしているので、寝ると言う行為を完全にはしていなかったのだ。

 

 

 何故か無い破壊衝動。

 惰性で今も魔力を抑えつけているが、そんなもの熟睡していても完璧に抑圧できた。

 むしろ抑えつけているのが日常だ。

 

 

 違和感の正体が分かった。破壊衝動は無い。素晴らしい。

 久しく忘れていた開放感のある気持ちい朝。

 

(殺したいとか壊したいとか思わないなら、別に覚醒しててもいいかー)

 

 耐えて耐えて耐えていたものから開放されたため、人間を辞めていても良い心持ちになっていた。

 

 開放感は良いがまだ異世界だという事態を思い出し、すぐにげんなりした。

 

(うう、はやく帰りたいよぉ~。

 健太郎くん、…いや居ないんだから頑張らなきゃ!)

 

「えいえい、がんばるぞーー!」

 

 空元気を総動員して彼女なりに気合を入れた。

 

 そして同じ部屋で寝ていた子が、いきなりの声でびっくりして起きた。

 

 

 

 

 

 

 召喚翌日ではあるが早速勉強が開始された。

 

 なんでも今は日本語ではなく何故か大陸共用語なるものを話しているようで

異世界を渡る際に自動的に刷り込まれたものらしい。

 

 朝食を食べ勉強。そして昼食後に訓練し、夕食となる。

 

 そこからはフリータイムとなるのだが、そこで郷愁の念が出た。

 ホームシックのようなものだろう。

 すなわち、現代の危機や物品。食事に関してだ。

 

 

 異世界のメシがマズイ

 

 

 異世界で娯楽が無い。

 

 だから必然だ。

 ネットショップ目当てで皆、雑魚の彼へと集まった。

 

 ネットショップでさぞ、日本の品物を頼めるだろうと皆一様に期待していたのだ。

 期待していたのだが…

 

「つかえねー終了」

「がっかりね」

「雑魚が雑魚スキルしか持っていませんでしたよっと。」

 

 ああ、まさかこの世界のものしか買えないとは思わなかった。

 しかも現在いる場所(町)の相場に合わせた価格でだ。

 

 つまり遠隔のものを取り寄せて買うことが出来ない。

 Lvが上がれば別かもしれないが、この分だと期待できるかどうか怪しいものだった。

 

「い、いや待ってよLvがあがれば買えるかもしれないだろう!?」

 

 その理屈は概ね正しい。未知は希望だ。そうなるかもしれない。そんな希望に満ちた賭けだ。

「買えるようになったら教えてちょーだい。そんときはインセンティブも払うからサー」

 

 そんな感じでみな一様に去っていった。期待が大きかった分がっかりしたのだろう。

 

 それでも数人は残っている。

 有用なスキルであることには変わりないのだ。

 

「それで一体何が売っているんだ?いくらだろう、お金はどうやって投入するんだ?」

 現地の文化に興味津々な者が残っている。6名ほどだが、居ないよりはマシだった。

 

「あーうん。僕らの持っているお金でも有効みたいだ。勿論現地のお金も有効だよ。」

 全員いなくならなくてと胸をなでおろしている。

 

 そんなネットショップの有様で去らなかった中に彼女は居た。

 欲しいものもあったので居ただけだが。

 

 皆一様に調べ終わって満足したのか、またねーと言いながら去っていく。

 今はまだ買う気がないようだったが興味は残っている感じだろう。

 

「あのー」

「君はなにかある?」

「あのね、ステータスを見るスクロールとかあるかな?」

「ステータスを?一体なn…」

 

 そこで何かを察したらしい彼は口をつぐむ。

「うん、1000Gだって。」

 単位は不明だ。Gはなんの略なのだろうか。

「こっちのお金入れるといくらになるのかな?」

 そう言って、なぜかルドラサウム大陸通貨のGOLDを差し出した。

「え、一体これは?」

「いいからいいから」

 

 なんだかんだで色んな人(主にリーザス)から貰っていたお金を渡したのだ。

 全部で100万GOLDくらいあった。

 

 もちろん全部投入する。

「おお・・・なんでか200万Gになった」

「なんでだろう?」

「レートかな?円だといくらになるのやら」

 

 彼は、おおよそ金属の価値で値段が決まったような気がしたが、そこは押し黙った。

 なお1円は1000G、10円が100Gと、通貨の額面は無視している。

 1000円札は0Gだった。

 

「じゃあ買うね。」

「うん。」

 

「あ、買った後にレベルアップ…詳細ステータスっていうのが出たよ。」

「ん、じゃあそっちもお願い。」

「10000Gだね。」

「うん。」

 

 Lvアップできて彼は喜んだが故郷の品は出てきていないようだ。

 

「うん、うん。」

 彼女はスクロールを見て満足気だ。

 

「それで、残りはどうする?」

「現地の通貨にしてもらえるかな?」

「あーーできるかな?」

 

 問題なく残金が出てきたが…

「なんで1889,550Gなんだが…」

「手数料とられたのかな。ちょっとむっとくるね?」

「そうだねぇ」

 

 手数料に戸惑ったが、彼女は、とりあえずの活動資金が出来た。

 

「じゃ、またねー」

「あ、待っ…行っちゃった。」

 

 あわよくば彼女の真のステータスを確認しようとしたのだろう。

 雑魚の彼は何かしら察してステータスを誤魔化したと感づいたようだ。

 

 だが、そんな彼にでも教えるわけにはいかないのだ。

 スキルかジョブに魔王があるかもしれないから。

 

 

 宛てがわれた自室に戻ってきた。

 いちおう4人部屋で同室者が居るが、今は出払っているようだ。

 

(ふう…さて、どうなるんだろうな私のスキル。)

 

詳細の方を試してみた。

羊皮紙で作られた魔法が発動し、その羊皮紙に記載される。

 

名前 リトルプリンセス

職業 魔法使いLv1 / ∞ B級

スキル 精神耐性LvMAX

 

 

(なにこれー)

 

精神耐性…なぜか付いていた精神耐性。

詳細とつけてもLv1 / ∞となり限界レベルが見れるかのようだ。限界が無さそうだが…

 

(ステータスに魔王が無いのは良かった。多分魔王の破壊衝動はこの精神耐性でどうにかなったんだよね?)

 

(と、そんな事より…私の名前がおかしい。

 なんでリトルプリンセスなの!?私の名前はどこー!!)

 

 覚醒済み魔王という意味だろうかと思い悩む。悩んだ末にとりあえず羊皮紙を燃やした。

 

「うーん。コレどういうことかなぁ。」

 

 ジョブで魔法使いだから、魔法を使ってみたくなった。

 

 以前にも魔法は習った。(抑えながらなので制御できなかったが)

 この世界のも習って見る気分になった。

 

 本人は何故か気がついていないが、羊皮紙はそんなちり紙を裂くように破くことは出来ないし、燃やして灰にならないかなぁって見つめただけじゃ燃えない。また燃え尽きるまで持ってたら熱くて火傷してしまうだろう。

 

(ここには健太郎くんが居ないし、一人でどうにかしなきゃ。精神耐性で、壊したりしたくなる気分が無くなったからきっとどうにかなる!) 

 

 かなり気楽に考えた。

 

(最悪、ネットショプの彼を拉致って逃げよう。)

 

 そう、山に逃げ込んだ引きこもり生活も、きっとネットショップなら耐えられるだろうから。

 どこまでも逃走者な思考だが、常識を知るまでは耐えようと思った。

 

(逃げ隠れするのには慣れてるんだから!)

 

 全然誇れない事実に気づかず意気を燃やした。

 

 

 

 翌日、雑魚の彼と合流しネットショップについて検証を進めた。

 なお集まったのはこの二人だけだった。

 数日で成長するとは思っていないのだから仕方がない。

 

「というわけで、図書館の本が買えるか検証!」

「その視点は良い。だけど残念!…販売していないものは買えないみたいです」

「むう…Lvがあがればどうかなぁ」

 

「可能性はあるかも。というレベルだね。正直元の世界から買えないんじゃないかと思ってる。」

「え、そうなの?」

 

「だって、元の世界にはどうやってアクセスするの?」

「あっ!」

 

 例えばそう。ちゃんと接続しないとPCはインターネットにアクセスできないのだ。

 今はローカルエリアのみの接続と言った所だろうか。

 

「僕の方でも検証したんだけど、僕のものであれば物品の販売…換金ができるみたいだよ。」

「えっと、どういうこと?」

 

「えーと、つまり僕が持っているもの所有権のあるものは換金できる。

 譲渡されたものを含めてね。」

「ふむふむ」

「引きこもって狩りをしたり、農業した上がりでネットショップを経由して必需品を買う。

 つまり、完全に隔離された秘境でも生きていけるってことさ!」

 

「おお~」

 まさかの田舎引きこもりライフは否定されなかったようだ。

 

 

「でも総評すると、思いの外使え無い。」

 引きこもった先の相場を優先するため、割高になる傾向になるからだ。

 これなら町にお出た方が効率が良いというものだ。

 

「あ、そういえば詳細のステータススクロールどうでした?。」

「え、うん。詳細だと成長限界Lvが追加で表記されたよ。」

「それだけなのかぁ」

 

 安いほうだとLv表記の無いジョブと名前しか出てこないので十分詳細である。

 

「あと魔法使いLv1だったよ!」

「おお!おめでとうございます!」

 

 へへへーとにやけるが、お互い秘密にすることで同意する。

 

「それでノスさんは訓練はしないのですか?僕も…だけどさ。」

「魔法は憶えたいなぁ。でも訓練には混ざりたくないかも。」

 

「あーそうだね。ジョブで魔法使いあるからね。雑魚な僕でも憶えられるかなぁ」

「民間に流れてる魔法のスクロールとか無い?」

 

「ああ、あったね。高いのから安いのまで。」

「ほー」

 

 安いと言っても1000Gが最低ラインのようだ。おそらく羊皮紙自体の値段もあるのだろう。

 

「よし、全部買いだ!…と言いたいけど一個づついこう。」

「お、おぅ」

 

 全部買えるほどの金額は持っていたので仕方ない。

 まあ、全部買うと破産するが。

 

 

 こうして、簡単な魔法を習得していった。

 スクロールを持って『習得』と唱えれば、なんとなく使い方がわかるというへんてこな物だった。

 しかも使い回しができるので雑魚の彼も使用することができた。

 使用することは出来たが、ある一定以上の値段から覚えることができなくなった。

 恐らくは何かが足りないのだろう。

 彼女の方はすべて憶えられたというのに、これも雑魚の宿命なのだろうか。

 

 ―都合60個くらいの魔法を憶えて市場の魔法もネタ切れになる。

 最後の一個などは100万Gもした。

 『火炎IV』という火炎シリーズの4番目である。

 

「うーん。憶えたからには使いたいなぁ」

「こっそり練習したいけど、どうしよう。」

 

 結局深夜に練習するしかないのでは?という、おおざっぱな方針で終わる。

 また買い物途中でネットショップがLv3になったので、どう変わったか見てから解散となった。

 

 

 翌日、学習の後に図書館へでかけたら、憶えた魔法のスクロールが全部あって憤慨したのだった。

 

 尚、お金はスクロールを販売することで転用できたので、50万G程手元にあるような状況である。



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03 何故こいつらは、一ヶ月も経たずに増長できるのか

ひどい仕打ちを受けたら、怒るだろう。

 

殴られたり痛いことをされたら、怒るだろう。

 

武器で攻撃されれば身の危険を感じるだろう。

 

モノを盗まれれば取り返したいと思うだろう。

 

身近な人間が殺されたら殺意を覚えるだろう。

 

危害を加える相手が居れば、ソレに対して反撃したり、害意や殺意を抱いたことだろう。

 

 

それら全ては破壊の衝動のもと、一つのものとされた。

まるで区別がつかない。

 

 

それが正当な害意なのか、破壊衝動がもたらす害意なのか。

 

だからどんな仕打ちをうけようとも耐えて、耐えて、耐えきった。

 

 

もしも、

 

耐えるべき破壊衝動が無くなったら。

 

新たに生じる害意―

 

つまり怒ってもしょうがない事態が発生したら、その害意はどこへ向かうのだろうか。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

世の中には理不尽が多く蔓延っている。

 

自分自身の経緯も理不尽だし、現状も理不尽だ。

 

 

彼は誰だったか。

 

「だから、俺が守ってやるから俺の女になれよ~」

 

彼女の外見は14歳か、もう少し幼く見えるはずだから、

20歳近くの彼からすればロリコンかそれの類縁であろうか。

 

「え、あの。健太郎くんが居るので、いらないよ…」

 

「その彼は何処に居るっていうんだよ、今此処に居ないやつなんて頼りにならないだろう?」

 

声をかけている彼は確かC級の剣士。F級の彼女を保護…もとい級数が下の女性を良いように手篭めにしたいと考えているのだろう。

 

F級ならば万に一つも反逆されないし、力でどうにでも捻じ伏せられるだろうから。

 

E級な雑魚の彼も大いにマウンティングされ、手下のように顎で使われていた。

 

「あの、やめてくれますか?」

 

彼女の手を取り逃がすまいと力いっぱい握り、威圧する。

全く効果ないが、傍目では迫っているというより脅迫しているように見える。

 

「いいから、俺の女になれって言ってんだよ。」

 

近くの壁を叩き、壁ドンしつつ追い詰める。

まあ、このレベルであれば某鬼畜主人公のほうが酷いのかもしれない。

 

彼女はむっとした。

 

したが今まで破壊衝動を抑え込むのと同じ様にそれらの衝動を抑え込むと、困ったふうに苦笑いするのだった。

 

 

 

まだ、正当な怒りと、破壊衝動は別れていない。

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、派閥ができていた。

 

光戦士の下に

B級の騎士、風魔法使い、大槍士

C級僧侶、D級奇術師

僧侶以外男。

元のグループで集結しただけだがいいバランスだった。

 

聖女の下に

B級大弓士、火魔法使い、水魔法使い、白魔法使い

C級槍士、戦士

全員女。

対男性用に2グループくらいが寄り集まった形となる。

セクハラが酷いのだ。

 

魔導士の下に

C級錬金術師、薬師、祈祷師

魔導士以外が女だが、力で捻じ伏せた感じである。

 

B級連合中心の集まりで

B級大剣士、大戦士、土魔法使い、黒魔法使い

C級剣士、弓士、闘士

全員男となるが、他のA級に声をかけたり交流をしている。

抜ける可能性が高い者たちだが集まって活動している。

 

そしてその他だが全員D級以下。

自然とグループ化していったが寄り集まっただけであり、脅迫されればひとたまりもない。

生産職やその他ジョブが多い。

 

 

獣使い、シーフが男

レンジャー、召喚士が女

そして

雑魚になし

である。

 

 彼女と同室なのはこのレンジャーと召喚士そして、魔導士派閥の薬師となる。

 

 

 早くもクラスカーストが形成されており、A級と含むグループが上位。

 その他が最下層となるのだろう。

 

 そうなれば必然、イジメが発生する事となる。

 訓練を開始してからもジョブにより強さが異なるとは言え、一ヶ月も経てば目に見えて差が出てくる。

 

 それに、A級のもてなされ方は異様とも言える感じで、聖職者たちからちやほやされている。

 

 

 

 今彼女に声をかけているのはB級連合でC級の剣士。

 ちやほやもされず、上からは命令され訓練では良いところがない。

 

 所詮はC級。上位級の大剣士にどんどん差をつけられている。

 

 そうなればその捌け口は下へ向く。

 丁度目に入ったのが、F級の彼女だ。容姿も良いし手頃な弱さだった。

 

 

 彼女がどうしようかと迷っていると、その男は顔を近づけてくる。

 唇を奪うつもりらしい。

 

 咄嗟に下をすり抜け、握られていた手も振り切った。

 

「あ、てめえ!」

 

 なんとなく、荒事が嫌になって逃げ出す。

 逃げることは得意なのだ。

 

 逃げた先のエリアに聖女グループがたむろっていた。その部屋を抜けるため、たむろっているエリアを迂回して別の出口へ向かう。

 

「あら、無職の子じゃない?挨拶もなしに通り過ぎるの?」

 

 その人は確か水魔法使いだったか、わざわざ立ち塞がって来る。

 後ろからは例の剣士。

 

「えーと、こんにちは!」

 取り急ぎ挨拶をしてその水魔法使いの横を抜けようとした。

 だが通せんぼをされてしまい、また足が止まる。

 

「なんなの?そんな挨拶で済むわけ無いでしょう?」

 そうこうしているうちに後ろから剣士が到着。

 

「おう、俺の女に手を出すんじゃねえよ」

 なんだか所有宣言をしている。彼女は不快に思うも訂正すればいいかと口を開こうとして

 

「何かと思えば雑魚剣士じゃない。下は非戦闘職しかいないんじゃないかしら?」

「なんか臭いのよね」

「ざこーい」

「きもいわ」

 

 1言えば10は帰ってくるのではないかというほどに集中砲火を浴び、反論もできず逃げていった。

 彼女らはセクハラ等に関しては一致団結して立ち向かうのだ。

 

 彼女はほっと一息ついていると

 

「ほら、あいつを撃退してもらったんだから、何か言うことはあるんじゃないの?」

「え、あ。ありがとうございます。」

 素直に感謝の言葉を述べた。単純だしああ、そう言えばというレベルだったのでそう返した。

 

「ハァ?なに突っ立ったまま言ってんのよ。」

 地面を指差し

「土下座して感謝しなさいよ、この雑魚以下が」

 

 一瞬何を言われているのかわからなかったが、数人で取り囲み、早く土下座しろと強制してくる。

「え、え?なんでそんな事を」

「立場がわかってないんじゃない?無能さん?」

 もみくちゃにされる。

 

 実際の所、彼女は攻撃されていた。

 打撃の衝撃によりフラフラしているし、極小な魔法攻撃も食らっていた。

 

 痛くも痒くもないから、もみくちゃにされているとしか思っていないのだが…

 

 

 業を煮やした水魔法使いが彼女を突き倒すと、近くの花瓶にあった水をぶちまけた。

 そうして鼻を鳴らして去っていく。

 

 

 ―腹がたった。

 

 だが破壊衝動を抑圧していた頃によくある感情の一つだったので即座に堪えた。

 

「なんか、ひどいなぁ~」

 

 この場には助けの手を差し伸ばしてくる者は居ない。

 

 

 同じ様に最下位グループは適度に抑圧され、イジメられていた。

 

 それを神殿の神官達は見ていたがすべて黙認された。

 

 

 

 このグループだけではない。

 光戦士グループも魔導士グループもB級連合グループも全員、彼、彼女らを抑圧しときには攻撃した。

 

 召喚されて一ヶ月もしないうちにイジメが始まり、エスカレートが始まった。

 抑圧されたストレスがあったのだろうが、法律という後ろ盾が無い今、ストレスの捌け口として丁度いい相手なのだ。

 

 我慢して我慢して我慢する。

 彼女にとって破壊衝動を抑圧する以下の我慢だった。

 

 今はまだ、正当な怒りと破壊衝動が不可分だから起こり得ていること。

 他の被害者に関してもまだ水面下の出来事だった。

 

 

 これが、召喚されて一ヶ月も経たずに起こったのだった。

 

 



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04 魔導士ハーレム崩壊

 耐える必要が無いのに耐えていた。

 

 我慢する癖がついていたから我慢した。

 

 結局のところ、彼女の精神はまだ成長していない。

 

 破壊衝動を抑え込む。

 

 この抑圧事態が精神の成長を阻害していた。

 

 やって良いことと悪いことの判断がついていない子供と一緒だ。

 

 だが見よ。今や抑圧する必要のない精神は、新たなストレスを抑圧対象としているが、我慢すべきかどうかを悩み始めた。

 

 

 ああ、お前たちは一体何者に向かって、その負の感情をぶつけていると思っているのだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 実際の所、訓練無しではいられない。

 常識や言語を憶える傍ら、訓練を開始する。

 

 といっても基礎体力が中心だ。

 彼女は程よく手抜きをし、雑魚の彼と同じ様な進捗で回る。

 

 魔法の練習はできないが、書物やスクロールでの勉強は終えた。

 雑魚の彼は魔法の練習をしているが、周りと比べ、とても雑魚な強さだった。

 

 そうして学習・訓練、そしてイジメと生活は充実していたと言える。

 

 

 

 

 聖暦1792年(異世界の暦) LP0004年(異世界の暦)

 新年を迎える。

 

 召喚されて約2ヶ月後の事だ。

 

 その日、勇者の一人が自殺した。

 

 彼女と同室の薬師だった。

 

 

 1月1日ともなれば異世界でも新年の祝い事となる。

 宗教国家たるこの国では特に重要となる新年を迎えるための儀式がある。

 

 お祝いなので彼女も心持ち期待していたイベントではあった。

 もちろんご飯が豪勢になるからという以外には無い。

 

 そんな祝い事をしているとき、自分たちが住んでいる学び舎の上から一人の女性が飛び降りた。

 

 祝いの席は一転惨劇となり、急遽事態の掌握を始めた。

 

 

 のこりの同室の3人は呼び出され、取り調べが行われた。

「彼女が飛び降りた理由について心当たりはありませんか?」

 

 取り調べは老司祭であり、いつも常識を教えてくれる教師だ。

 

「どうして、こんなことに。」

 

 悲嘆する彼女だが、司祭は語り出すまで根気よく待った。

 

「心当たりは良く分かりません。でも、魔導士の彼と一緒に行動する事が多かったかなって。」

 

「なるほど。では飛び降りた日の朝はどうでしたか?」

 

「わからないです。なんで、あんな事になったのか。普段と変わり無かったのに。」

 

 普段と変わりなく、何時ものように暗い顔をしていた。

 

 常に暗かった。

 

 そんな事を司祭に聞き出された。

 

 それで彼女への尋問は終わり。

 

「はぁ…早く帰りたいよぉ。健太郎くん…心配してるだろうなぁ。」

 

 

 

 結局、彼女はよく分からなかったのだが住処が変わった。

 

 光戦士グループはそのまま。

 聖女グループは修道院の方へ。

 魔導士は単独で魔術師の学院へ。

 B級連合は学院へ。

 残りの私たちと、魔導士グループの残りは、廃校していた跡地へ移った。

 

 イジメとグループを把握し、隔離することで対処したのだ。

 

 彼女にしてみれば、ワケが分からなかった。

 

「ねえねえ、いったいなんでこんな風に分けられたの?」

 何時ものように雑魚の彼に聞いた。

 

「え、聞いてないのか?」

「聞いてない。」

 

 よくよく考えれば同室で、特に会話する様な仲でも無い。

 彼女はずっと悲嘆していたから説明もおざなりで、同室の連携も無いから情報が来ない。

 

「…自殺した理由はほぼ、イジメが原因だ。」

「いじめ?」

 

 そもそもだが、彼女はイジメをイジメと理解していなかった。

 困ったなぁ。

 程度の問題だったからだ。

 

 度し難いほどのイジメも彼女にすれば耐え易き事象にすぎない。

 セクハラも適度に回避できるように成長してしまった。

 

 きっとスカートをめくられてもいきなり吹き飛ばすとか、そういう事は無くなっただろうし、そもそも、めくられない様に動けるようになった。

 

「まあ、多分だが本命はあの魔導士の彼に強引にやられてたんだろう。だからこそ、彼から、彼女らが引き剥がされた。」

 彼はやりすぎたのだ。

 その下地も固まる前に手を出しまくり、最悪の事態を引き起こしてしまった。

 

「そんな、彼がイジメていたんだ。いじめって何かわからないけど、ひどいことだったんだね。」

「おまっ。なんでわからないのか分からん。」

 

 雑魚の彼は呆れたが、まあ、天然な彼女のこと。仕方ないと納得した。

 

 

 

 移動に結局一ヶ月もかかり、全員が顔合わせ出来たのが今日となる。

 全員に個室が与えられ、男女入り混じりなのでそれなりのルールが敷かれる。

 

「じゃあ、一人一人自己紹介する?」

「いや、今更自己紹介するまでも無いんじゃない?」

 彼女にとっては必要だった。

 

 同室の彼女らと雑魚の人は知っていたが。ソレ以外は分からなかった。

 

------------

考える→雑魚の人

 

(確かアキさんだったかな。細くて背の低い彼。勿論それでも私より背が高い。)

 

考える→男の人1

 

(名前が思い出せない。でも確か獣使い。

 アキさんがケモナーとか言ってた。だからきっと獣使い。)

 残念、そっちがシーフだ。

 

考える→男の人2

 

(同じく名前が思い出せない。シーフだったかな?)

 こちらが獣使いである。

 

考える→同室の子1

 

(レンジャーのユウさん。ちょっと背の高い茶髪だった女の子。3ヶ月も経ったので根元が黒い髪)

 

考える→同室の子2

 

(召喚士のソラさん。漢字で空って書くんだけど、実は違う読み方らしい。でも恥ずかしいのでソラでいいみたい。)

 アップルと読みます。

 

考える→他の子1

 

(魔導士グループだった、錬金術師の子。名前は分からない!)

 

聞いてみる→錬金術師

 

「あのぉ、名前なんでしたっけ。」

「え、今更聞くの?失礼な…。

 私はヒロ。そっちの彼女はシズカよ。ちゃんと憶えてね。」

「ありがとう!」

 

考える→シズカ

 

(さっき教えてもらった魔導士グループだった彼女はシズカさんだね。)

 

見る→ヒロ 錬金術師

 

 錬金術師の恰好なのだろうか、前身茶色いだぼだぼでポケットの多い服を着ている。

 

見る→シズカ 祈祷師

 

 白いフード付きの貫頭衣を着ている。真っ白いイメージだ。

 

-----

 

「男が3人で女が5人。やや女性が多いって感じか。無難に男女分けたほうが良いな。風呂場は無いから水浴びは日毎でいいか。」

「うえー毎日浴びたいんだけど。」

「周り雪降ってて凍えちゃうよ?お湯沸かして体拭くぐらいが限度じゃない?」

「じゃあ冬は各自って事で。」

「水浴びできるようになったらまた区画を分けましょう。」

「次に…」

 

 このようにそれぞれ生活を開始したが、それでも手伝いをする神官や小間使いはいる。

 全員の部屋について掃除する掃除婦、食事を提供する料理人、護衛/監視といった感じだ。

 

 新しい生活になり、イジメられることに起因するストレスが無くなった。

 異世界召喚によるストレスが残っているが、それはどうしようもない現実であり、目を背ければどうなるかわからない。

 皆そこまで子供ではない。

 次を見据えて頑張るしか無い。

 

 

 すなわち勇者を受け入れるということに。

 

 

 

 

 

 

 




美樹ちゃんの性格がなんかちがうな?と思うかと思いますが、気にしないでください。
いろいろ融合して変になった。
と、思っていただければ幸いです。


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05 異世界の常識

 イジメによるストレスから開放された。

 抑圧されたイライラは能天気さから消滅した。

 

 すべての行為が許され、忘れ去られるたのだろうか。

 

 否。

 彼女はそこまで忘れっぽい訳ではない。

 何をされたか、理解はしていなくとも憶えてはいるのだ。

 

 そして名前を憶えていなくても顔は覚えているのだ。

 

 

 また、同時にこの世界の人間が彼女に対して何をしたのかも、一つ残らず憶えている。

 名前は知らずとも、顔はすべて記憶した。

 

 あんなまぬk…あんな心清い彼女が恐るべき記憶力を有しているとは思いもしないだろう。

 酷いこと非道いこと、悲しいこと怒るべきこと。

 まだ知っているだけの段階。

 

 それが理解された時、きっと世界は変わる。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

考える→世界の情報について

 

 読み飛ばせばいいと思う。

 でもまあ、今何処に居て、周辺はどうなのかくらいは知っておくと良いのかな?

 

 

考える→世界について

 

 世界に名前はついていない。地球だったり、ルドラサウム大陸世界だったりのような名前はない。

 

 しかしアジアやヨーロッパのような地方名はついている。

 ここはユーディス地方。

 

 

考える→今いる国について

 

 今いる場所は神聖ユーディス神国。

 神が国家元首であり代表で、主教がその代理であるとする宗教国家だ。

 

 

考える→周辺国について

 

 国がいっぱいすぎる。

 大きな国としては3っつ。

 西ギニアス帝国、大帝国の末裔らしく、最後に残った一つ。

 バルロイン王国、なんか大きいらしい。

 ニドニア王国、海洋国家との事。

 

 

考える→通貨

 

 Gとコインの換算はわからない。とりあえずGの読み方はギーだった。

 ぜんぶGで考えればいいので金貨とか銅貨とか気にしない。

 

 

考える→魔物

 

 だいたいゴブリン。8割がゴブリン。

 1割でオーク。

 あと1割で他の種族。

 ゴブリン多すぎ。

 

 

考える→魔法

 

 火炎を例に取ると1から9まである。

 そんなかんじで強弱がつけられるが、だいたい単体攻撃で複数攻撃はできない。

 範囲攻撃は国家の秘奥とかなんとか。

 だいたい攻撃魔法だけ。または回復魔法と防御とか攻撃力アップ魔法とか。

 身体能力向上魔法はない模様。

 

 

 

考える→周辺の町

 

 分からない。

 

 

考える→他の教わったこと

 

 礼儀作法を少し教わった。

 特に貴族に対するものを教わった。

 

 

-------

 

冬の間、雪が多いので皆午前中は雪下ろし。

午後に座学と訓練。

 

文字の習得や礼法が主だろう。

訓練も皆一様に戦闘職ではないので軽く護身術程度だ。

 

皆同じくらいのレベルなので衝突はあるが、上下関係なく生活していける。

 

そうこうしているうちに雪が溶け、春になる。

 

召喚されて、半年が経とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 



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06 身勝手に召喚する奴らが、非道くないなんてことは無い

 負の感情を遠くに感じていた。

 

 追い詰められていたあの頃と違い、今心は平穏だ。

 

 元の世界に帰って平和に暮らしたい。

 

 そう願うも召喚した彼らは一体勇者に何を求めているのだろうか。

 

 

 

「今日は移動となります。」

 

 神官と複数人の護衛。2台の馬車。

 

 春の訪れと共に彼らは現れた。

 

 常識とやらの勉強はだいたい終わった。

 

 だからというわけでは無いだろうが、実地演習とかで移動となるらしい。

 

 特に聞かされていないのでなんとも言えないが、全員で移動となった。

 

 

 

 朝からでかけ昼頃、大きな建物の前にいる。

「こちらです。」

 

 促されるままに移動する。

 

 なにかしらの控室のような所へ入ると点呼が行われた。

 

「一体何が始まるんだろう?」

「なんだろうなぁ」

 

 上の方からは何やら大勢の人間が居る賑わいを感じる。

 

「順番にお願い致します。ノスさん」

「…あ、はい」

 

 いきなり呼ばれてかの神官の前へ移動する。

 

「こちらへどうぞ」

「なんだ?一体何が始まるんだ?」

 

「ええ、ちょっとしたお披露目ですよ。弱い子からご紹介させていただきます。」

「お披露目!?ちょっと待って、私は勇者にはならないって言ったじゃない。」

 慌てて彼女は反論する。

 

「いえいえ、召喚された全員を紹介させて頂くので、勇者とか関係なく紹介させて頂くイベントでございます。」

「それ、私は要らないって言ったよ。」

 

「いえ是非に出て頂かねばなりません。」

「だから嫌だって…」

 

「なりません」

 

 押し問答だったが、最後は面倒になって了承した。

「はぁ…まあいってきます。」

「あ、ああ」

 

 皆と別れ護衛と案内のものと一緒に進む。

 護衛多いなと、彼女は思ったが会場に出てお披露目とやらの場に姿を現した。

 

 促されるように中央に歩みを進める。

 コロシアムを120度だけ切り抜いたかのような会場だった。

 半円状の奥に行くほど高くなる段々の客席。舞台の中央に彼女は立った。

 

 

「さて!皆様お待ちかね!」

 

 司会が居た。道化姿だ。

 その道化姿の司会が彼女を高らかな声で紹介する。

 

「半年前に召喚された異世界の勇者だー!」

 

 わーっと、歓声が上がる。

 

 なんなんだと目を丸くしていると更に司会の言葉は進む。

 

「残念ながら弱い順でのご紹介だ、彼女は残念ながらF級のジョブなしスキルなしだ!」

 

 弱いなら紹介しないでよと、彼女は思った。

 

「とりあえず世界の常識は叩き込んだところだが、まあ何はなくとも容姿は良いだろう?

 自己申告ながら多分は処女!!運試しになるよ~では、10,000Gから開始です!」

 

―20,000!

 

(は?)

 

 彼女は一瞬何を言われたか分からなかった。

 

―30,000!

―100,000!

 

「え、どういうこと?」

 

―150,000!

 

 周りを見る。客席は緩めの真剣な表情。舞台裾ではニヤニヤとしている神官と護衛…いや監視達だ。

 

 彼女は思わず神官に駆け寄ろうとして、

 

―200,000!

 

「【動くな、ノス】」

 

 神官が手に持ったステータスプレートから魔法の波動がし、彼女のポケットにある魔血魂が震ええる。

 

―300,000!

 

(え、どういう…)

 

 思わず動きを止めた彼女に神官が言った。

 

―1,000,000!

 

「黙ってお聞きなさい。ここは勇者の即売会です。貴女は今から競りにかかり販売されるのです。」

 

「は、販売!」

 

―2,000,000!

 

「そうです。良かったですね、容姿が良いのでそれなりに高く売れるのではないですかね。」

 

(販売…え、人身売買?売られる?私が―)

 

―3,000,000!

 

 彼女はようやく理解した。勇者が何なのか。

 勇者はつまり…この世界では奴隷。であると。

 そんな事される謂れはない。召喚されるだけでも理不尽なのに、こんな理不尽は無い。非道いと思った。

 

―4,000,000!

 

 彼女は俯き、耐えるべき事象ではないと認識しつつも耐え、最後の一縷の望みを賭けて訊ねた。

 

「ね、ねえ。こんなことやめようよ。なんでこんな非道い事ができるの?」

 

―4,100,000!

 

「はっはっは、異世界猿を収穫して、販売しているだけだ。人の言葉をしゃべるなよ猿。」

 

―4,200,000!

 

 もう此処に至っては問答は意味が無いと理解した。

 

「他にいらっしゃいませんか!」

 

「ははは……そっかぁ~」

 

「ククク」

 神官は悲嘆する彼女。絶望するその表情を見て大いに昂ぶっていた。

 

「我慢する必要。全然なかったんだ。」

「はい、では731番様に420万で落札でg」

 

 その瞬間、司会が爆ぜた。

 全部消し去ろうかと思ったが、そうすると同じ被害者である召喚された仲間が死んでしまう。彼らは助けなければいけないとブレーキがかかった。

 

「な、え?」

「キャ―――――」

 

「…しんじゃえ」

 

 客席に向かって無造作に手を振る。

 

 次の瞬間には客席が爆ぜ、爪を引っ掻いたような跡ができた。客席はおびただしい血で溢れかえった。

 

 彼女は神官の方へゆっくりと歩を進める。

「ななな、【止まれ!ノス】【止まれ!】【止まれ!】なぜ止まらん!」

 

「ああ、ノスはね。コレ。」

 ポケットから魔血魂を取り出すと見せつけた。

 

「ハ?え?」

 

「私の名前は来水美樹。よろしくね?」

 首をこてんを傾げて名を告げた。

 その名で操ろうとしても真名は違うから何ら影響はない。

 

「な、今まで我々を謀っていたと云うのか!」

 

「悪いように言わないでよ。そっちだって勝手に呼び出して、勝手に隷属させて、勝手に販売しようとしたんでしょう?非道いなぁ」

 

「おおお、お前はなんなんだ!」

 

「あー。この世界のステータスには、魔法使いのジョブと、精神耐性がついてたわね」

 

「そ、それで!こんな大それた事ができるか!」

 

「あーでも、貴方が言ってた私が人間じゃないっていうのは、まあ正解かな。」

 

「なんだと?」

 

「おめでとう。神官様。」

 

 

 

 そしてついて神官の前に到達した。

 

「君たちの願いは叶なったよ。世界の敵。魔王は此処に居るよ。」

 微笑って自分の示すよう彼女は手のひらを自分の胸に置いた。

 

「あなた達はついに世界の敵。異世界の魔王を召喚したのでした。やったね。」

 

「なっ!」

 

 神官が後ずさり、その言葉を理解しようとする。その前に、後ろに居た護衛達。聖騎士達は動いた。

 

 全力で魔法を放ち、全力で切りつけた。

 

 無防備にソレを受ける彼女。衝撃があるので少し後ろへ流れたが、彼女は全くの無傷だった。

 彼らは知る由もないが、この世界に載らないステータス外ステータス。ジョブである魔王と魔王の特性である無敵結界。

 それにより攻撃を完全に無効化していた。

 

 

「うんうん。神官さんは殺さない。殺すより生きていたほうが辛いと思うから、生かしておいてあげるね。」

 

 楽しそうに語る彼女の床下背後から黒い影が立ち上る。

 それは黒い衣となり彼女の外套となった。

 

 画像検索で「魔王 リトルプリンセス」と打てば出てくるような姿だった。

 

「あーあ。本当に覚醒しちゃってたんだぁ…」

 

 覚醒はしていても、破壊衝動は無かった。彼女を敵に回したのは彼らで、この姿を顕にしたのも彼らのせいだ。

 

「な、まるで効いてない、だと!」

 

 護衛達はいつ使われたのか、火の魔法で焼き尽くされた。

 

「アハハハハ!魔王だからね、勇者の力でしか傷つかないんだよ!?」

 

 今まさに販売しようとしていた者たち。それが彼女を倒すために必要になった。

 彼女なりのフォローでもある。わざと攻撃を受け、彼らが必要であることを認識させ、売られないようにした。

 

 咄嗟に思いつきだったがうまくいくかなぁと気楽に考えている。

 

 そして、そのための生き証人だ。

 

「はい、じゃステータスプレート出して。」

「え、あ・・・何を?」

 

「だから、ノスと下の皆のステータスプレートよ。」

「え、あ…」

 

 理解が及ぶ前に彼女が彼の身ぐるみを剥ぎ、ステータスプレートを奪取した。

 8枚ちゃんとあった。

 

「んーーえい」

 ステータスプレートを割るとかかっていた魔法が霧散したようだった。

 

 ほうほうと感心していると、増援の聖騎士達が現れる。

 

「な、なんだこいつは」

 

 それがその騎士の最後の台詞となった。

 

「こっちは使えるかな、ファイヤーレーザー!」

 

 四条の熱線が騎士たちを貫く。

 本来はこんな貫通してその次の人間まで貫かない。

 だが来援した8名を尽く貫いた。

 

 彼は神官を残し彼らの部屋に向かった。

 

 

 一方、待合室では、周りの護衛たちが皆出払ってしまい、どうすればいいのか分からなかった。

 何か尋常ならざる事態となっているが、移動も退避場所もわからないのだから。

 

 だが感じる。なにか得体も知れないものが近づいている。正確には巨大な魔力を感じてビビっている。

 

 次に扉が開いた時闇が溢れ、それは―

 

 ゆらりと、音もなく現れた。

 

 

「がっ…」

 全身を貫く恐怖。

 コレには勝てない。逃げることも不可能。そう本能が告げる。

 

 バケモノ。

 

 眼の前のバケモノの前に生き残ることを断念させられた。

 心は折れた。

 

 もはや絶望だk

 

「やっほーい。助けに来たよ―」

 

 そんな恐怖の相手から、脳天気な良く聞いた声が聞こえた。

 

「え…」

 

 心を鎮めて、しっかりとした双眸でバケモノを見据えた。

 

「あれ?」

「え、あれって…」

 

 次第に落ち着きを取り戻すが、反対側の入口から聖騎士が入ってくると事態は変わった。

「あそこに居たぞ!」

「やれ!」

 

 震える声。おそらくは彼らも恐怖しているのだろうが、バケモノを倒すのは彼らの本懐。民を背にして逃げることは出来ない。

 

「ファイヤーレーザー!」

 

 が、駄目。

 

 軽く使った魔法。その炎の光線に貫かれ全滅した。

 

「の、ノスさん?!」

 

「あ、美樹です。」

 

「え?」

 

「いままで嘘ついてたの。ごめんなさい。とりあえず、ここは勇者即売会会場でした。だから暴れてきちゃった。」

 

「え、え?」

 

「とりあえず逃げよう!いくよー」

 

 魔王な姿で脳天気な声を出し、皆を外へ誘導した。

 

「ちょ、勇者即売会会場って、え!?」

 

「なんかね、奴隷にして売るみたい。召喚された人間は人間じゃなくて、お猿さんなんだって。だから人身売買じゃないんだってさ。」

 

 ぷんすか怒るが、その姿はぜんぜん怖くない。

 怖くはないが彼女はヤバイ。

 その魔力が恐ろしく強いから何処に居たって分かってしまうだろう。

 

「そんな、一体なんだって」

 

 理解する間もなく彼女についていき、外へ出ると…

 

「出てきました!」

「総員構え!!」

 

 数千の兵士が取り囲んでいた。

 

「邪魔ね、消えなさい!」

 

 消えたのは兵士ではない。

 

 町の一角が消えたのだ。

 

 横に展開していたので左右の兵士たちは無事であったが、それでも爆風で飛ばされ平気なものは誰も居ない。

 

「ちょ、ナニコレーーーー」

 

「ノス…いや美樹ちゃん。君は一体」

 

(あーあ。そうか。ここで拒否られるのは想定外)

 

 もしかしたら付いてこない可能性に関して思いを馳せる。

 

「うん。まあ不思議に思うのも仕方ないよね。」

 

「そうね、怒涛の展開でついていけないわ。」

 召喚士の彼女が答えた。

 

「私ね、あの塾へ来る前まで異世界に居たの。」

「え?」

「その異世界で魔王を継いじゃってね。」

「え?」

「つまり、異世界の魔王美樹ちゃんなのです。じゃーん」

 

 ちなみに、彼女もいっぱいいっぱいになっており、ヤケになって言っている。

 

「えーーーーーーーー」

 

 

 彼女をとりあえず放って置いて相談する。

「ちょっとまってて!整理するから!」

「おk」

 

 

「で、どうするよアレ」

「どうって、マジモンにしか見えない。」

―どーん。 兵数-120

「魔王いないっていってたのに、外から呼び出したんじゃ、自業自得としか。」

「デスヨネ―」

「この世界のことはともかく、俺らどうする?」

―どーん。 兵数-80

「勇者即売会ってマジなのかな?」

「マジっぽい。チラシとか読んでみたけど、アタシら販売予定だったらしいよ。」

「うへえ、マジかぁ。」

―どーん。 兵数-60

「てことはあれか、無能だと思ってたけど魔王な彼女が最初だったから助かったと。」

「そうっぽい。」

「じゃあ、とりあえず確認。1、彼女は魔王」

「うんうん。」

―どーん。 兵数-30

「2、ここは勇者即売会会場で売られるとこだった」

「うんうん。」

「3,只今絶賛交戦中ってか楽勝?」

「そうね、後ろでどーんどーん煩いけど迎撃しているのよね。」

「で、これからどうする?」

―どーん。 兵数-25

「逃げるべ」

「逃げましょう」

「逃げよう。」

「同意」

―どーん。 兵数-5

「ということで、次は物資だな。」

「だな。馬車、水食い物、寝具他になにかあるか?」

「武器」

「OK武器防具と。」

「待って、そんなに1台に乗る?」

「複数台ならいけるじゃ」

「3台くらいで行こう。水優先で2台、残りで1台だ」

「そんなに水要る?」

「水最重要。井戸とか川とか見つからなきゃ死ぬぞ」

「お、おうけい」

「じゃあ迎撃終わったら確保で。」

「終わったかな?」

 

 

 

「終わった?」

「終わったよぉ~、それでどうなった?」

「みんなで逃げることに決定しました。」

 

「え?」

「え?」

 

「なんで?逃げるの?」

「え?逃げないの?」

 

「いいんじゃん、滅ぼそうよ。国」

「ええええ!」

 

 

 

 

 

 



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07 とりあえず出発してみた

 彼女は一種の二重人格に陥っていた。

 

 破壊衝動という難敵を前に、破壊衝動に類する感情に何もかもすべて押し付けて蓋をした。

 意地悪な自分。悪戯好きな自分、嫉妬している自分、恨みに思う自分、怒っている自分。

 

 それらは壊したり、殺したりするのが好きな自分に押し付けて、蓋をした。

 壊したり、殺したりするのが好きな自分なんて居るはずも無い――などという事は無い。

 

 心の中で言う、一万分の一程の比率でそれはあった。

 それがあの日増大し、一緒ったくに閉じ込められた。

 

 一緒に在るのは魔王の血だ。

 

 蓋はヒラミレモン。

 

 あと二年もすればそれは魔王人格としての形ができただろうか。

 

 表の自分は中から外からボロボロになり、最期に爆ぜて消え失せるだろう。

 

 

 これが在りえた歴史。正史。

 

 だが今、その流れは途絶えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ~~ 選択肢 ~~

 

――――――――――――――――――

A[とりあえず、教国しばく]

B[とりあえず、街を占領する]

C[とりあえず、ケイブリスしばく]

――――――――――――――――――

 

 

「ねえねえ、どれにする?」

 

 彼女が、お気楽極楽能天気な声でみんなに聞いた。

 

「逃げる選択肢が、ない…だと…」

 

「ケイブリスって誰だよ。」

「敵だよ」

 彼女は目をシリアスにして答えた。

 

「お、おう…」

 シリアスヤバイ。彼女のシリアスが非常にヤバかった。

 

「や、やっぱ逃げない?」

「逃げてどうするの?」

 

「そりゃあ、潜伏して、機を伺いつつ帰る手段を探す?かな?」

「ん~機ってなに?」

 

「なんかのほら、潜入したり何かに便乗してアレコレするんだよ。」

「とりあえず、潜入しなくても正面突破可能!便乗しなくても正面突破可能!!で?機って何?」

「あ、あうあう、なんでそんなに強気になってるんだ。自信満々だな。」

 

「ん~街を全部吹き飛ばせば納得してもらえる?」

「「「いやいやいやいや」」」

 そこは必死に全員で否定した。

 

「潜伏したってどうせ私が単独行動して国を殴り飛ばすんだから、いつだって良いじゃない。」

「そう考えると、そうだな。」

 

「魔王とんでもないな。」

「えっへん。」

 

 今まで散々嫌がっていたのに、覚醒した天然魔王はこの有様である。

 

 

「で、どうするの?」

「どうって…どうしようなぁ」

 

「ん~。とりあえず、拠点が欲しい。町を占拠する方向で行こうか。」

「おっけー」

 

 この町はすでに半壊し、兵士もおらず住人も逃げてまばらだ。

 今は逃げ遅れた人たちが息をひそめている。

 

「拠点にするにしても、壁もそうだが、何もかもボロボロだな。」

「よーし隣町を攻め落とそう!」

 

「なんだとーー!」

 意気揚々と彼女は出発した。

 

「待って待って!」

「え?ここは壊れたから要らないと思うよ。」

「違うよ、物資補給が必要だ。」

「物資…」

「そうそう」

 

 そこで彼女は思い至る。

 特に飲食の必要が無い彼女と違って、彼らは飲食の必要があった。

 補給は大事だと。

 

「わかった、どうすればいい?」

「「そこで待ってて!」」

 

「う、うん。」

 全力で手伝いを拒否られた彼女は、今後の展開について考えている。

 

「所で聞きたいんだけど」

「何かな?」

 

 ネットショップの彼…雑魚の彼が近くにいた。

 落ちている硬貨をネットショップに入れ、課金しているのだ。

 

「魔王というのは分かったけど、どれくらい強いんだ?」

「……さあ?」

 

 とりあえず比べた事が無かった。

 今、全力全開を出すとどうなるのだろうか。

 

「まあ、ここの教国は勝てるよ。よゆう。」

 ぐっと手に力が入る。

 

「そ、そうか。」

「でね、思ったんだけど」

「うん?」

 

 

「物資全部課金にしちゃえば、物資はいつでも買えて幸せなんじゃないかな?」

「!!!」

 

 そうである。販売さえしていれば水でも買える。

 そのあたりは持ち運んでも良いかも知れないが、手ぶらで移動できて、物資はいつでも取り出し可能だ。

 勿論、街の機能が生きていることが条件となる。

 売買されていない場所だと、ネットショップでも売買できない。

 

「いいアイデアだ。とりあえずかさばって持っていけないモノを中心に換金しよう。そして課金しよう。」

「やったねアキ君、レベルが上がるよ!」

「うおーーーー」

 

 4時間後。昼を回り午後二時くらいだろうか。

 物資は集め終わり、馬車にある程度積んで出発準備ができた。

 

「じゃ、街を占領するって事でしゅっぱーつ!」

「ぉぉ~」

 テンションが高いのは彼女だけで、他はなんだかんだで不安だった。

 

「こっちかな?」

 首都とは別方向に移動を始めた。適当に決めたのでこんなものだ。

 

 この街道は、いくつかの村を経由し、城塞都市に到達するだろう。

 この移動時間を考えると、馬車で4日という所だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 神聖ユーディス神国は、出現した大きな魔力に騒然としていた。

 

 ここは会議室の一室である。教皇と他の枢機卿数名が、例の神官から報告を聞いていた。

「それで、ハミルトン卿。貴殿が言うには例の無能。それを装っていたノスではなくクスルミキとやらが魔王で、競売所を破壊したと。そう言っているわけだが、本当かね?」

「はい…間違いありません。」

 

 例の神官。ハミルトンは抑揚に答えた。

 

「俄かに信じがたい。今、確認の者をやっているが、何か騒動が起きたのではないのか?卿は何か重大な事実を隠蔽しようとしているのではないかね?」

「いえ、違います。」

 即座に否定するが、現場に居て唯一無傷の者だ。疑うに余りある。

 

「ふーむ。しかし聖騎士が10人がかりでも傷一つつかなかったというのは、それこそ誇張ではないか?」

「奴は…防御すらしていなかった。彼らの攻撃は風が当たった程度の…そんな感じに無視しておりました。」

「やはり信じられん。何か白昼夢でも見ていたのでは無いか?」

「どうあれ、私が見た通りのことをお伝えするほか御座いません。」

 

「しかし、街の半壊。警備隊の全滅。これらは一体なんなのかね。ドラゴンでも襲ってきたのではないか?」

「アレが暴れている場面は見ておりませんでしたが、確実にアレが暴れた証左でございます。」

 

「なるほどなるほど…まあ残りの証言と照らし合わせ、真実を導いていくとするよ。」

「ありがとうございます。」

 

 とはいえ、生き残りは運の良い観客十数名に逃げ出した町人。建物内のスタッフも町から逃げ出していた為良く解らない状態だった。

 兵士は全滅。逃げる所も執拗に攻撃された。

 

 今やあの町は穴だらけだ。

 

「それで、奴らはどちらへ逃走したのだ?」

「国境の方を向かって馬車が出たそうでございます。」

 

「ふむ、ではいったん城塞都市にたどり着くか。」

「メッセージ召喚獣に逃走者達の情報を報せよ。」

 

「ハッ!」

 

 こうして、真実はまだ闇の中。

 上層部は何か軍部の事件、またはドラゴンのような大型の魔物だと思っていたのだった。

 

 この世界はまだ、魔王の出現を確認していない。

 




基本的なコンセプトとして天然な魔王が欲しかったんです。
天然書ききれてないケド。


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08 城塞都市を占拠してみた

 この世界にも勿論神は在る。

 

 この世界の異界の門は、神が与えたもので、召喚により異世界の者の手助けを受け、この世界の難事を解決するための物だった。

 当時の人々では祝福を与え、道を示しても解決しなかった為、安易に外から人を招いたのだ。

 

 その為、あの門を通るときに祝福が与えられる。

 すなわち意思の疎通に不便の無い言語能力。

 平静に生きるのに不足ないスキル。

 問題を解決するためのジョブ。

 

 

 あの召喚は、ただ一度きり。

 そのハズだったが、現地の人間はソレを奴隷収穫装置として運用し始めた。

 鍛えれば高い戦闘能力に様々なスキル。

 奴隷として使えば便利であり、しかも現地の人間ではない。つまり後ろ盾の居ない異世界の人類近似種。

 人間との交配実験をしたが増える心配のないあれらは実に便利で、夥しい数の者が召喚されていた。

 

 神が気が付いた時には、既に社会基盤として成り立っており、新たな問題となっていた。

 どのように手を下そうか迷っているうちに、別の問題も発生した。

 

 召喚された中に、異世界から凶悪な魔物が居たのだ。

 

 

 さて、ここで神の与えたスキル。精神耐性がある。

 これは異世界の神が作り出した魔王システムと絡み合い、当初ありえないバグが発生していた。

 

 魔王の血にある破壊衝動とはつまり、メインプレイヤーへの敵対が主である。

 そしてここはメインプレイヤーは一人もいない。異世界人はメインプレイヤーではない。

 メインプレイヤーが居ない場合はどうなるのだろうか。

 魔王の血は完全に矛先を見失った。

 バグと相まって機能は完全にフリーズした。

 

 これが、最初の転移時に起こった事だった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 彼女らの目の前に、眼前に巨大な壁を備えた要塞都市が現れた。

 アレを攻め落とそうというのだ。

 普通に無理だろうと思った。

 

「で、どうする?」

 誰かがそう尋ねた。

 

 

 

 ~~ 選択肢 ~~

――――――――――――――――――

 

A[このまま突撃]

 

B[単身で突撃開始して暴れる]

 

C[雑魚の人の頭にみかんを置く]

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

「……なぜ……みかんを置く?」

 

 彼女はCを選んだようだ。

 彼は落とさないように馬車の上でバランスを取るが、揺れが激しいのですぐに落ちた。

 

「はっ!しまった。」

 彼女は無意識に行動してしまったようだ。

 

「とりあえずだ。単身突撃で良いよね?」

「あーうん。そうだね。うちら足手まといだからねぇ」

 誰かがそう答えた。

 

「じゃあ、行ってきまーす!」

「ああ、いってらっしゃい。」

 彼女は実に、にこやかに走り出した。

 残る彼らはどことなくぎこちない。

 

 3カ月一緒に過ごした仲ではある。

 それなりに気心も知れてきた。そんな同じ感覚で今も話ができている。

 何やら複雑な心境だった。

 

 

 さて、走り出した彼女だが、そのうちにふわりと宙を舞う。

 押さえていた魔力が展開され、The魔王な姿へと変貌を遂げる。

 

「町の門は閉めよう。逃がさない。」

 

 そう呟くと、かの門の下を破砕した。

 門の外がクレーターとなり容易に出られなくなる。

 

 門は全部で3っつあったのでそれぞれ回って潰した。

 

「いったい何が起きてる!」

「ヒィ!お助け!」

「敵襲!!」

「敵だと敵は何処だ?」

「あれだよ見えねえのか!」

 

 彼女は異様な存在感を醸し出していた。

 巨大な圧迫感が闇を伴い近づいてくる。そのまま街を飲み込むのではと錯覚する程だ。

 

「いったい、な、なんなんだよぉ!」

 

 この世界はずいぶんと平和だなと彼女は感じた。

 勿論ルドラサウム大陸と比べてだが。

 

 城壁まで来ると、どうやって登ろうか思案した。

 ジャンプしても良いし、飛んでも良い。破壊して突破してもいい。

 もうちょっとインパクトが欲しいなぁと思っていると、漫画のマネでもしてみようと唐突に思いついた。

 

「お、おい。アレ…なにしてるんだ。」

「上っている?いやあれは歩いているのか!城壁を!」

 

 彼女は漫画のマネをして、足を城壁に突っ込み、垂直に歩き出した。

 

「あー、こういうの一回やってみたかったんだよね。」

 今の身体能力になって初めてできる事だろう。

 飛び越えるなりなんなりすればいいので、はっきり言って無駄な行動であるが、威圧感は与えられたであろうか。

 

「ば、馬鹿な。」

 

「ふはははははー私は人間をやめるぞー」

 彼女はかなり棒読みで声上げた。

 

 

 ついに城壁の上にやってきた。

 彼女の周辺には槍を構えた兵士ばかりだ。

 

(次はどうやろう。恐れさせて降参させないといけないからね。がんばろう。)

 不敵に笑う顔の下ではこのような事を考えていた。

 

(そうだ、良し。ちょっとした強者ロールプレイをしよう!)

 ロールプレイをしなくても強者ですが、彼女の素はそんな風ではないですね。

 

「どうしたの?敵が攻めてきたんだけど、何もしないの?」

 そう声をかけるが誰も動けなかった。

 当然だ。

 例えばそう、5%魔王で超弱体化していたジルですら、一般人なら委縮してしまうほどの魔力があるのだ。

 100%状態の魔王が目の前では普通に動けない。

 

「あれ?思いの外、威圧できているのかな?」

 そのように思い悩み、仕方ないので領主かこの町の主の居そうな所を城壁から探る。

 中央に大きな建物があり、やはり大きな壁と堀に囲まれていた。

 

「あそこかな?」

 動けなくなった兵士達を尻目に、城壁からぴょんと飛び降りその館へ歩みを進めた。

 

 目抜き通りを進むも、彼女の異様な魔力から、人々は遠目で見守るだけだった。

 障害となる障害が現れない為、意外に思いつつ進んでいると警邏隊のような者たちが現れた。

 

(こいつらは治安維持に必要。殺しちゃダメだね。)

 そんな風に思って彼らの出方を待つ。

 

「と、止まれ!!」

「た、隊長やばいっすよ、普通に無理じゃないですかね?」

「いいからお前らも構えろ。」

 

 混乱しつつ立ちふさがる彼ら。

 その滑稽ぶりからクスリと嗤う。

 

「ヒィ」

「と、止まれ!止まれ!!」

 

 そんな命令に従う謂れは無い為どんどん距離を詰める。

 そして道を塞ぐ隊長の前まで来ても止まる気配はない。

 

「邪魔」

 突きつけられた槍を手で払うと、槍を引き突き立ててきた。

 

 喉に突き立てられた槍は、何かに弾かれるように右下に流れた。

 攻撃を意に介さず、目の前にある邪魔な体も手でどける。

 彼女からすれば丁寧に。彼らからすれば乱暴に押しのけられた。

 

「う、うわあ!」

 

 確かに命中した。何かに当たった手ごたえはあった。

 だがそんな彼の渾身の一撃も、蚊に刺されたような感じで体も押し退けられた。

 

 何も通用しなかった。

 生きているのが不思議なくらいではあるが、逆を言えば命を取るまでもない存在でしかないと突きつけられたかのようだった。

 怖さよりも悔しさの方が先に出た。

 再度槍を握ろうかとしたが力が入らなかった。体はいつしか震えていた。

 体は恐怖に屈していたのだ。

 

 

 そんな一兵士などなんとも思っていない彼女はずんずんと、かの館へと歩く。

 だいぶ時間がかかったが、障害と言える障害は例の警邏隊だけだった。

 

 門の前に差し掛かった所で横合いから声がかかった。

 

「なんだ?随分と可愛らしい化け物じゃないか。」

 若い剣士と、後ろに女性の魔法使い。

 

 勿論そんな声掛けで足を止めるわけもなく、歩いていく。

 

「ち、歯牙にもかけないとは、見くびられたものだな。俺様が退治してくれる!そしてS〇Xだ!」

 

 あまりのセリフに、思わず足を止めてしまった。

 勿論ルドラサウム大陸ではいないので彼らは現地の戦士だ。

 随分と腕が良さそうではあるが。

 

「とりあえず、はったおす!」

 剣ではなく蹴りがきた。

 

 やはりS〇Xしたいのは本当なのだろう。致命傷を与えてからではできないだろうから。

 

「やかましい。」

 この世界の魔法、火炎Iを使って燃やす。

 

 燃えた。良く燃えた。

 火の発生源が敵の真ん中なので、射撃する必要が無いのがこの世界の魔法の良い所だ。

 

「ギャー――」

 

 下品な戦士は死んだ。

 

「ああ!アクス様!」

 

 やはり斧ではダメらしい。騎乗槍でなければダメなのだろう。

 

 そんなやり取りを無視して歩みを進め、館の前に着く。

 

 館の前には兵士が50人ほど整列して槍を構えていた。

 

「き、き、貴様は何者だ!一体此処に何の用だ!!」

 隊長らしき男が彼女に声をかけた。

 やっと誰何らしい誰何が来たものだとほっと胸をなでおろす。

 

「私は魔王。ちょっとこの町を貰いに来た。」

「な、何ー!」

 

 彼女の出している魔力が周囲を威圧している。彼らは本能的に勝てないと理解していた。

 理解していたが、立ち向かわない訳にはいかなかった。

 

「じゃ、そういう事だから、どいてくれる?」

 さらりとそう言うが、彼らは動けないし、声も出せない。

 

 近づいてくる化け物に隊長は攻撃命令を出した。

 

「か、かかれーー!」

「おおおおおお!」

 

 一人では押しつぶされそうな威圧。

 だが此処に立つ以上、戦わなければならない。

 彼らは勇気を振り絞り、槍を突き出した。

 

 勿論だが攻撃は効かない。槍は彼女に当たるも効果は無い。

 

「殺さないように吹き飛ばせるか不安だけど、死んじゃったらごめんね。」

 魔法ではない。ただの魔力塊をぶつけた。

 

 彼らは町の衛兵だ。ここでリストラ(死亡)させる訳にはいかないのだ。

 魔力塊に吹き飛ばされ、彼らは全員戦闘不能となった。

 

 門は別に直せばいいかと殴って開けた。

 彼女は、やればできるもんだと感心している。

 

「さーて、町長さんはどこかなー」

 

 ここを治めているのは、普通に領主で貴族である。そして多分に漏れず神官である。

 

 外門を突破し、玄関先に至る。

 玄関も固く閉じている。

 

 普通に開けようとしたが、硬く閉じていた。

 次にノックしたが、やはり反応が無かった。

 

 下の門と同じ様に殴って開ける。

 

「こんにちはー」

 

「ば、化け物が…何をしに来た。」

 

 この者が領主だろうか。他に人は居ない。

 

「この町ちょうだい?」

 

 彼女はおねだりする様にかの領主に答えた。

 

「誰がやるものか…!」

「じゃあ、勝手に貰うね?」

「どうするつもりだ?」

 

 勝手に貰うと言っても、ただ言うだけでは意味が無い。

 実効支配しなければならないのだから。

 

「領主様はすでに落ち延びられた。お前が叫んだ所でこの町はお前のモノにはならないぞ!」

 

 この目の前の男は領主ではなかった様だ。

 それに応えてふーんと、返す。

 

「大丈夫、ちゃんと占領するから任せて!」

 

 威圧感と恐怖感だけが支配するこの場で能天気に答える化け物。

 ラスボスが気狂いの様に見える様相だと、なんとも不気味に感じるものだ。

 

 狂瘴気ではないが、ただただ魔力にアテられるだけで気分が悪くなる。それが能天気に嗤うキチガイであればとても不気味に感じた。

 

 彼女は館に誰も居ない事を確認すると

「じゃあ、ここに住むから部屋を用意して。」

 

 と、当然の様に、目の前の彼に言うと表へ歩き出した。

「あーあ。この扉も修理しないとね。」

 

 自分でやった事なので、気恥ずかしそうに表へ歩いてく。

 

「ま、待て」

 部屋を用意するよう言いつけられた男はようやく言葉を口にした。

 

「なぜ、こ、この私が部屋を用意しなければならないのだ!」

 くるりと振り返った彼女は意外そうな顔をしていた。

 

「え、あなた…この屋敷の使用人じゃないの?」

「た、確かに使用人だ。だが私の主人はここの領主であるセオドラ卿だ。」

 

「じゃあ、今日から私の使用人で。」

「な、何を」

 ふざけた事を続けようとして、彼女と目が合う。

 

 拒否は死か。

 そう思うとその続きは答えらが出なかった。

 

 受けるフリをして逃げよう。と思った。

 ゴクリと唾を飲み込むと。小さく。頷いた。

 

 その動作に納得行ったのか、彼女は表へ出ていった。

 姿が見えなくなって彼はへたりこみ、その後慌てて逃げだした。

 

 

 彼女は自ら街中を歩き回る。

 

「この町は魔王が占領したー」

「今まで通りの生活は約束してやるが逆らえば命が無いぞー」

「兵士とかも引き続き雇ってやるぞ~。ただし辞職は自由だ、辞めたくなったら言うがいい~」

 

 と、特に緊張感のない声を張り上げながら練り歩いていた。

 ただ、声だけであれば子供の悪戯である。

 それが得体の知れぬ強大な魔力を伴っての行進であればどうだろう。

 本気にはするだろう。

 

 被害は無いが、こうしてこの城塞都市は魔王(笑)によって占領された。

 

 

 



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09 魔王降臨

全部混ざった。

 

平和な生活で平穏に暮らしている内に、蓋は外れた。

今まで抑えつけていたもう一つの感情は次第に融合し、

ああ(天然に)なった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「兵士が足らない」

 

 占領して3日。

 兵士は総辞職していた。

 

 何故彼女は大半が残ると思ったのだろうか。

 

「どこからか調達する必要があるね。」

「獣使いさんと召喚士でどうにかならない?」

 

 腕を組みうんうん唸りながら会議を続けている。

 

「ネットショップでそういうの売ってないの?」

「なぜ兵士がネットショップに売っていると?」

「ほら、ペットとかさ。」

 

 調べると馬は売っていた。

 豚も売っていた。鶏も売っていた。食用だが。

 

 そして、奴隷も売っていた。

 

「あ、奴隷なら買えるかな?買う?」

「奴隷かー」

 

 それも有りかなと皆思い始めていた。

 

「とりあえず屋敷を維持するための人員が足らない。」

「門を守る兵士も足らない。警邏の人間も足らない。」

「美樹ちゃんは凹んだ土地を修復しに行ってるけど、あのクレーターが直ったら兵士とか住人逃げるんじゃないか?」

 

「違いない。だけど住人の大半は残るんじゃないかな。逃げる先もないし今の所命の危険も無い。」

「とりあえず、奴隷一人買ってみて決めよう。」

 

 そうして、奴隷を買うことが決定された。

 

 

 ネットショップで奴隷を買うと、ぽんと軽い音がして奴隷がソコに現れた。

 奴隷の証である、ステータスプレートが、雑魚の人の手の内に現れる。

「…あれ?」

 

 いきなり檻から屋敷の中に現れたので、奴隷も驚いている。

 それよりも…

 

「ステータス…プレート。」

「どういう事だ?」

「元々奴隷用のアイテムだったって事か。」

 

「あの、貴方がたは?」

 

 買われた奴隷が訊ねた。

 

「ああ、私たちはなんというかね、この人の能力で君を購入したわけだ。つまり、これからは私たちが主人というわけだ。理解したかい?」

「能力で…はい。理解いたしました。」

 

 即座に跪く奴隷。

 

「なんか、こういう風に人を使うより、使役するって感覚が無いから、なんともむず痒いね。」

「だね」

「とりあえず、この屋敷の維持をお願いするよ。」

 

「…え?」

「え?」

 

「えーと、やることは分かるよね?」

「いえ、一体何をすれば?」

 

「ちょっと、屋敷の維持がわからないってどういう事だろう。」

「待って待って、屋敷の維持って行ったって一人じゃ無理だし、具体的に何をしろって云う話なんじゃ?」

「ああ、とりあえず…掃除とか?」

「そうそう。」

「なるほど。」

 

「ということで、まずは館内の掃除をお願いします。」

「は、はい。

 館内といいますと…どこからどこまでで、どう掃除したら良いでしょう。」

 

「…なるほど、これは使う方も慣れが必要そうだね。」

「だね。まあ適当にって丸投げできないのか。」

「複数人雇って監督する必要があるのか。」

 

 彼らが奴隷を使う事について難儀だなと思っている傍ら、雑魚の人はステータスプレーを見入っていた。

 

「お、おい…」

「どうした?」

 

「君の名前は『タナカユキヒコ』というのかい?」

「は、はい。」

 

「おい、それって。」

「異世界人…勇者!?、いや『日本人』か。」

「え?」

 

「教えてくれ、君は日本人なのか?」

「は、はい。もとはそのような場所に居た矮小な猿でございます。」

 

「ど、日本人は他にもいっぱいいるの?」

「居るも何も、日本人…異世界人は例外なく奴隷ですが。」

 

「なんだって!」

 

 思いもかけない状況に彼らは絶叫した。

 

「い、一体どれくらい奴隷がいるんだ!?」

「さ、さあ?」

 

「く、そうだ美樹ちゃんが戻ったら奴隷を強制徴収しよう。そして解放だ。」

 

 

 

 

 

 彼女が戻ったのはそれから2時間後の事だった。

「もどりましたよー」

「おかえりー」

 

 かの奴隷、タナカも例の魔力に威圧され恐怖していたクチだが、それが目の前の彼女から発せられていたとは想像もつかない。

 彼女は見知らぬ人間が居ることで誰なのだろうと首をかしげる。

 

「え?奴隷を買ったの!?

 え!日本人!拉致被害者!?奴隷にされて!」

 彼らから説明を受けると、ゴゴゴっと思わず魔力が怒りを伴って漏れる。

「ヒィ!」

 

 彼女を知らぬタナカは突然の魔力にアテられ恐怖した。

 

「あ、ご、ご、ごめんなさい。」

 

 慌てて魔力の流出を止める。

 

「許せないね。許せない。」

「そうだね、だから奴隷を全部徴収しようと思うんだけど…」

 

「賛成!?」

 即座にソレに賛同した。

 

 

 その日から奴隷が徴収され、開放されていった。

 

 

 

 

 

~一週間後~

 

 そこには日本人の志願者でできた警邏隊、領主館保全の使用人、門を守る兵士が揃って居た。

 

 此処に居た奴隷たちは、兵士側の戦闘奴隷もいたし生産職もいたし、同郷であるという感覚。奴隷から開放された感謝。そして今までこき使われて来た恨みと国民性も相まってすぐに意志の統一がなされた。

都市部の人口2万人のうち実に6000人が奴隷であり、一部平民や裕福層の生活が崩壊したが、だいたい元通りの生活に戻っていった。

 

 常駐していた兵士5000人程は撤退し、逃げ出した民と共に移動している。

 今、人口は15000人(元奴隷含む)となっていた。

 

 兵数は防衛用の3000人で、スキルや戦闘能力が高い異世界人で構成されていた。

 一ヶ月後には都市の機能も十分に回復し、平静さを取り戻すだろう。

 

 なお農村部にも奴隷は居ると思われるので順次回収していく事となる。

 

 

「何もしてないけど、なんかうまくいった。」

 彼女からすれば奴隷を開放したら、ソレが知識豊富な異世界人だった。本来型の奴隷であれば知識など欠片も無かったのだろうが、ソレが幸いし、即戦力として使用できた。

 

 

 

 

 同時期、教国側。そして他国もその動きを察知しており、『魔王』が人類の敵として現れた事を再認識したのだった。

 

 

「セオドア城塞都市が落ちただと!?奴らは他国へ逃げるつもりではなかったのか!?」

「どこに占拠する兵力があった。」

 

 陥落の報を受けた教皇と近くに居た高司祭は、そう叫んだ。

「ま、魔王が単身こう攻めてきまして、壁を垂直に登って侵入致しました。」

 まとまりのない報告だったが、驚異を知らせるのは事足りた。

 

「兵士たちは一体何をしていたんだ!」

「それが…まったく歯が立たず、こう軽く排除されておりました。」

 

「一体何なのだ。本当に魔王だとでも云うのか?」

「報告では、オークションのあった町は半壊。それはすべて魔王の仕業であったとか。」

「むう…俄には信じられぬ。とりあえず魔王というのが居る。それは理解した。」

「…」

「だが魔王とは呼ばぬぞ。異端者。奴らにはその呼称が相応しい。」

 

 教国ではそのように呼ばれたが実質、魔王の存在が認識された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 他方

 隣国にあたる、ギシリマ国。教国に恭順を示し生き延びている小国だった。

「なに?セオドア城塞が落ちた?何の冗談だ?」

 

 冗談なんて言っていない本当だった。

 

「この報告書にある魔王とは一体何だ?」

「ともかく、少数精鋭で落としたのは間違いないようで、町を守っていた兵士たちが四方に逃げております。」

「ふむ。どこの誰だか知らないが、逆襲戦は発生するか。とすれば参戦要請が来るか。」

「はい。」

「なら出陣の用意をしておけ、そんで魔王ってやつをもっと詳しく調べろ。」

「はっ!」

 

 

 他国でも距離があるため伝わりにくいが、次第にその情報が各国を駆け巡っていった。

 

 

 

 さて、この一週間、彼女が何もしてない訳がなく、いろいろ考えた末にあることを実施させた。

「異界の門が開けないなら、知っている人を喚べば良いんだよ!」

 

 そう考えたのは、召喚士たる彼女がいたからで、何が召喚できるかに想いを馳せていたからだ。

 

「ここの人たちみたいに迷惑はかけられないよね、『暇』をしていて『召喚にも快く応じて』くれて、『異界の門』に詳しい人を召喚!」

「ざんねん、魔力が足りません…」

 

「私の魔力でどうにかできないかな?」

 そのように一週間試行錯誤して、どうにか召喚が可能となった。

 

 

 現れた異界との裂け目。そこから現れたのは、一人の幼女?だった。

 

 彼女は全裸で、手足が黒く、髪は青白く、身長より長い長髪で、見開いた目は赤く怪しく光っている。左右の目の焦点は合っていないようだ。

 雰囲気が異様であり、瘴気のような魔力は、彼女以外を蝕むように苦しめた。

 

「……はぁ…血。ほしい」

 

 幼女はそう呟き、獲物を求めた。

 

 



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10 魔王教育開始される

 数千年をあの暗闇で過ごすつもりだった。

 絶望に打ち拉がれ、今は考えることを止めていた。

 

 そんな折、目の前に選択メニューが現れた。

 

------------------------------------------

 異界の門について、ご教示願います。

 召喚いたしますので、承認される場合は

 下の承認ボタンを押してください。

 

    [承認]   [却下]

------------------------------------------

 

 当然、承認だ。

 

 ああ、一年か二年か。そのくらいで外へ出れた。この運に感謝しよう。

 喚んだ者は運が悪い。糧となってもらおう。

 

 思いの外早く外へ出れた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 普通の人間が目の前に居た。

 召喚された幼女から発せられる魔力に耐えきれず、幾人も倒れる。

 しかし、その眼の前のピンク髪の少女。彼女は倒れない。

 

「キャーーー―――」

 

 倒れた者たちではなく、彼女が悲鳴を上げた。

 

「ななな、なんで裸なんですか!?」

 

 召喚された幼女は、裸で悲鳴をあげるなんて初心な事だと嘆息する。

 

「じゃあ、血貰う。」

 

 カオスも持っていないただの人間相手だから無造作に近づいても大丈夫。

 何時ものように血を収穫して命を頂く。

 

「ちょ、」

 

 はずだった。

 

 手を止められ、噛み付こうとした顔は止められる。

 手を焼くなぁと思いつつ彼女を気絶させるため腹を殴りつけた。

 

 だが何の冗談か、ピンク髪の少女から反撃を食らい相討った。

 

「痛い…?」

「ちょ、ちょっと、一体なんですか!?」

 

 彼女も同様に久方ぶりの痛みを感じる。

 それ以上に普通に殴って死なないことに驚いている。

 

「血が欲しい。」

 

 彼女もまた同様に、幼女の血を吸いたいと思っていた。

 いやそれは失礼だ。私は吸血鬼じゃないぞと思ってぐっと耐える。耐えた。

 

「血、血なんて吸わせない!」

 自分が吸わないからと言って、相手に吸わせて良いわけではない。

 

「……なかなか…しぶとい。…人間にしては………やる…か。」

 

 その幼女は、その辺に転がっている奴らに比べて強者であると認め、今ある全力を持って戦おうとした。

 

「変なの召喚しちゃった。これは本気でやらないと」

 魔王モードに移行した彼女から、幼女を上回る魔力が放出される。

 

 20~100倍程の魔力の奔流に、これは勝てない。と幼女は降参した。

「…っょぃ……勝てない。」

 

 今再び異界へ行き、LvMAXまで強化したとしても足らないと思わされた。

 まして今は魔力何もかも弱体化しているのである。

 

 異界へ行く事すらできない。あるいは1000年前の自分なら勝てたのにと、彼女は初めて挫折した。

 裏切られた時も、復活してから戦った時も、相手は自分以下か、せめて同等だった。

 自分より格上の相手など2000年前以来無かったことだ。

 

 だが賢い彼女のこと。

 喚んだのだから、して欲しい事があるのだろうと降参した。

 力を回復させ、逆襲する。そんなプランを考える。

 

「………やむを得ない。………降参……する。」

 そのセリフに美樹はほっと胸を撫で下ろした。

 

 さてと、ここで話すのも油断も出来ないとなればと場所を移動した。

 

「ついてきて。」

「わかった。」

 

 移動した先は旧領主の部屋。今は彼女が使っている部屋である。

 

「さて、先ずは召喚に応じてくれてありがとう。

 でも、いきなり襲ってくるなんてどういう了見?」

 

「………私は今………とても衰弱している……だから補給が必要」

「なるほど。」

「……だから…血が。……命が……欲しかった。(そして虐めて壊したかった)」

 

「もうしない?」

「……回復しないと……辛い……」

「とりあえず、私とその仲間に手を出すのは辞めて」

「………判った。」

 

 幼女は、勝てない相手だから仕方ないとして諦めた。

 彼女の方は、とりあえず攻撃を止めてもらえたのは助かった。

 

「それで、なんで裸なの?」

「?」

 

 何を聞いているの?と、言わんばかりの表情で首を傾げている。

 

「いや、裸なの恥ずかしくないの?」

「……恥ずかしがる要素が何処に?」

 

「えー」

「??」

 

 お互いに平行線であり、話が進まない事を認識した彼女は、裸のことは放っておくことにした。

 

「まずは自己紹介しましょう。私の名前は来水美樹。えーと、いちおう異世界の魔王やってます。えへへへ。」

 なんとなく、正直に言ってもいいだろうと思って言った。

 

「……………ぇ?」

 流石にかの幼女も固まった。

 

「……ああ、異世界にも。……魔王は……居るか。」

 ぼそぼそと小さく呟く。

 

「それで貴女は?」

「……うむ。私はジル。昔魔王をやってた。今も5%くらいは魔王。」

 まあ彼女も云うなら95%魔王。

 

「あなたも魔王なんだ!?へーー」

「…………」

 

 幼女は、なんでこんなに脳天気なのに魔王やってるんだ?的な感じでジロジロ見ている。

「なるほど……魔王…なら、……あの魔力も…………納得。

 それで…異世界?の魔王とは?」

 

「私ねチキューってトコにいて、こっちに召喚されちゃったから、この世界的には異世界でしょう?」

「ふむ……多分だけど、ここは私的にも異世界。ルドラサウム大陸から来た。」

 

「へぇ~そうなんだぁ。」

「それぞれ…異世界の魔王か。……それで?」

 

「それでチキューに戻りたいんだけど分からなくって。知ってる人を条件に召喚しちゃいました。」

「なる……ほど……」

 

「どう?できるかな?」

「余裕………と言いたいが、今はゲートコネクトを使う力もない。血が足らない」

 

 幼女は力なく俯く。

 果たして、血を吸った所でこの脳天気な少女に勝てるだろうかと算段している。

 

「えー。困ったなぁ。」

 

 血とは多分生贄のことだろうと予想していた。

 調達は難しいと思っている。

 

「お前ほどの魔力があれば……余裕でゲートコネクト出来る。教える対価に、血をくれ。」

 

「うーん。…とりあえず罪人の血でもいい?」

 とりあえず差し出せる血を考え思いついた。

 

「とりあえずは……それでいい。」

 

 彼女はそれで一段落ほっとした。

 それで自ら地下牢へ案内する。

 

 

 

 至る道中、彼女は幼女に愚痴っていた。

 

「それでね!勝手に承諾なく召喚したんだよ!この世界の人達って!」

「そう…か。」(興味ない)

 

「しかも、大人しくしてたのにいきなり私のこと奴隷として売ろうとしたんだよ!」

「そう…か。」(興味ない)

 

「其処に至って、ようやっと暴れたんだけど!!ソイツらが云うにはね、異世界人は異世界猿なんだって!失礼しちゃうよね!」

「そう…か。」(興味ない)

 

 話は続く。二転三転するセリフに、幼女はテキトーに相槌をうった。

 

「でねネットショップって云うスキルが神スキルすぎるので、現地の生活や売買を残したまま占領しなきゃいけなくて、がんばって手加減したんだよぉ!

 なのに皆わかってくれなくて…」

「そう…か。」(興味ない)

 

「そしたら、同じ様に召喚されて、奴隷にしてるって人がわんさか居てね!これはもうチキューが舐められてるって思ったので、この国滅ぼしちゃおうかなって思ったんだ。」

「……うん!?それはいい…」(興味あり)

 キラキラした目で彼女の方を向いた。

 

「うん?」

「良い。ぜひ滅ぼそう。」

 

「う、うん。」

「それで、どうやるんだ?頭からか?それとも軍からじわじわか?」

 

「え?え?いままで大人しめだったのがなんでそんな食いつき?」

「人を…虐めるのは。良い。」

 

「いじめっ子ちゃん?」

「こうして、負けて虐められるのも好き。」

「えーー」(ドン引き)

 

「そんな事より、国狩り国イジメしたい。私もやる。」

「う、うん。」

 

 暫く国刈りや人虐めについて、幼女は饒舌に話し出す。

 

 

 ~1時間後~

 

「新米な魔王か……やはり未熟

 その後は……人間牧場を作る。

 問題は、牧場の人間を…虐める魔物が居ない。」

 

――止めてくれー ←血を吸われてる被害者

 

「こ、ここの魔物はさっぱり見た事が無いからね。」

 

「私のトコの魔物なら、人を適度に蹂躙できる。ここには居ない。

 生かさず、殺さず虐めないと駄目」

「う、うん。」

 

――助けてーー ←血を吸われてる被害者

 

「そうだ…お前の世界の被害者。

 その中で元の世界に帰りたくないヤツ。

 ……奴隷にされていたヤツを使おう。」

「え?」

 

「きっと、現地の人間を虐めるのに、なんの呵責もないはず…いい案。」

「えー、やってくれるかなぁ」

 

 このように、深夜遅くまで魔王レクチャーが行われたのだった。

 先々代と当代という認識はないままに、魔王教育は行われた。

 

 

 

 

 

 

 




異界の門について詳しい奴が3人くらいしか思い当たらなくて、それぞれ考えてみたら、

ホ・ラガ
   暇
   応じてくれない

ミラクル・トー
   不明
   気分により

ジル様
   暇
   必ず応じる

こう考えると、ミラクルさんも無いなって思った。
そうなるとジル様一択だが、異世界が酷い目に…あ、なってもいいやえい。
って感じで出演でした。

そして魔王同士仲良くして欲しい(ぉ


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11 現地神のターン・現地人のターン

 異世界から化物が来た。

 

 それは魔王を名乗っており、現地の魔物は恐れて近付かない。

 

 魔王と現地の魔物の相性はすこぶる悪い。

 半径10km以内の魔物は体が解体され魔力塊となり、それも分解されて源素(げんそ)となった。

 これらは、かの魔王に引き寄せられ吸収される。

 

 源素(げんそ)は魔力の素材でもあるが、『この世界』を構成するすべての源である。

 神の力と言い換えても良い。

 

 魔王の近くでは源素(げんそ)が満ちている。

 世界から源素(げんそ)が魔王に向かって集まっている。

 

 このままでは、大気や地脈を流れる源素(げんそ)は枯渇するだろう。

 枯渇すれば世界からあらゆる魔法、加護、ステータスは失われる。

 

 早急に対処しなければならない。

 

 

 慌てているこの神は地方神。

 然程力はない。件の世界で見れば四級神相当。

 

 自らの力を超えたあの化物は、最早地方神の手に負えるものではなかった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

「なぜ、あのシステムを残しておいた。」

 

 元凶はつまり、かの化物を召喚してしまった『勇者召喚システム』である。

 

 人類がまだ未熟だった頃の導き手として有効だった。

 

 現地人に害を与えないようにするステータスプレートという鎖も有効に働いていた。

 

 

「一度限りの使い捨て設定だったのですけれども。」

「複製して使っているのか。賢いと言えば良いのか、狡いと言えば良いのか。」

 

 かの地方神が話しているのは、その父神である。

 大陸神であり、二級神相当だろうか。

 

 あの魔王と戦えば負けるとは思っていない。ただ大変そうだとは感じていた。

 

「それで、どう対処すべきでしょう。」

 

 地方神ではもはや打つ手がない。

 藁にもすがる思いで父に泣きついたのだ。

 

「ふん。人間の自業自得であるな。」

「そ、そんな」

 

「まあ、問題を対処し終わったら、改めて天罰を与えるとして…

 現地人を一人勇者にしてやろうじゃないか。

 魔王を倒すのは勇者の役割だからな。」

 

 召喚した方の勇者は、異世界人であり最早勇者足りえないとして切り捨てられた。

 

「なるほど…」

「神託を下せ。魔王を倒す勇者を誕生させたと!」

 

 

 その日13歳の男の子が勇者となり、その神託が下った。

 

『その者、魔王を倒す勇者なり。これを害する者は邪悪なるものとして裁かれるであろう』

 

 それは神殿の長、そして教皇に伝えられた。

 

 数百年もの間、一度も無かった神託が下る。それだけでも大事件であるが、それが勇者の誕生である。

 教国は困っていただけにその出現を喜んだ。

 

 真の勇者の誕生である。

 

 神も13歳の少年に、幾つもの加護を与えた。

 与えて与えて、最早人の範疇を超えるほどの化物となる。

 

 Lv1の段階でかなりの力を持っていた。

 レベルが上がれば如何ほど強くなることか。

 勿論、魔王を倒す事が望まれている。

 

 その少年は何も知らず、毎日礼拝を欠かさない親孝行な農民であった。

 突然、頭の中に神の声が響いたと思うと、勇者としての力を得たのだった。

 

「邪悪な魔王を討つため…それが僕の役割!?」

 

 そして、その使命をすんなり受け入れた。

 

 勇者となった少年は故郷に別れを告げ、教都へ向かい旅立った。

 

 

-------------------

 

「うーむ。これだけでは不安だ。」

「勇者の様子からすると、成長させる必要がありますね。」

 

 神はそれだけでは納得しなかった。

 

「適度に倒せるが苦戦するレベルの敵を道中に配置しよう。」

「あ、心の成長もさせたいので伴侶になりそうな娘をパーティーに加えさせましょう。」

 

 この世界でも神は神。自身の娯楽を優先させているようだった。

 

「そうなると魔王は今の城から動いてほしくないですね。」

魔王(ラスボス)が前線で暴れるとか、何を考えているのか。」

 

 ラスボスはラスボスらしく奥に引っ込んでいろという事だろうが、魔王リトルプリンセスに至っては、自身で攻めるのは当然の事だ。鬼畜王でも戦国でも前線に出張っていた。

 それにラスボスと言うよりはバッドエンドクリエーターであり、滅亡フラグそのものだ。

 勝つためにはルドラサウム大陸より外のMソフトの窓sからチートコードで書き換えを行わかねればならない。

 云わば、創造神を無視して人間を直接数値操作する必要があるということだ。

 

「先日人の軍が1万…でしたっけ、攻めてきましたけど普通に単騎突撃して蹴散らしてましたね。」

「裸の魔族も蹴散らしていたな。」

 

「あちらは全員血を吸われてて…ギリギリ致命傷になるあたりで吸うのをやめていて…。

 一日くらいで死ぬが、その間ずっと苦しみ続けるとか、どういう殺し方だ!」

「まさしく悪魔とでも言える。」

 

「Lv20前後の人間では1万集まっても、戦力評価すらできませんね。」

「いまだ全力で戦っていない。底知れぬが魔力の強さからして、勇者であればなんとかなるだろう。」

 

「とりあえず、魔王をあの城から出さないように持久戦をしかける必要がありますね。」

「うむ。ラスボスはラスボスらしく最後に倒されるべきだ。」

 

 この神の親子は、手持ちの戦力を思い出す。

 

「私の方で持っているのは上級天使3、中級天使500、下級天使1000です。」

「ふむ、我は上級20、中級2000、下級が15000程だ。下級はLv50程度であるから人の軍とは比較にはならぬが。」

 

「相手がどれくらいのレベル相当なのか知りたいですね。」

「上級1体を隊長として1000程派遣してみるか。」

「え、混成でもうちの戦力とほぼ同等じゃないですか。」

「まあ我の方から出しておこう。」

 

 なお配下の下級神も戦力と言えば戦力がだ、普段は文官のような仕事が多く荒事には慣れていない。

 

「倒せるなら倒しちゃっても良いんですよね?」

「無理だろう。せいぜい持久戦をするよう言い含めよう。」

 

 こうして天使軍の派遣も決まり、上級天使に率いられた中級100、下級1000の部隊が出撃した。

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■

 

 神託が下る前。

 

 

 城塞都市が陥落したのは奇襲であり、

 僅かな兵力でもなんとかなてしまった。

 

 と、その様に判断した上層部は流石に1万の軍勢であれば勝てるだろう。

 奪われたばかりで、かつ防衛する兵士が居ないなら勝てるだろう。

 

 そのように判断し、拙速を以って城塞都市に辿り着いた。

 

 これは通常であれば正しい判断であるが、相手が魔王(ジル)であれば――

 

「……いいぞ、補給物資。

 私のために…血を運んでくるとは……良い奴らだ。」

 

 只の栄養補給に過ぎなかった。

 

 

 勿論暴れたのは幼女だけでは無い。主に彼女の方が暴れたのだが、補給するのに適切な量を残して撤退した。

 むしろ彼女に殺されたものは感謝すべきだ。

 

 幼女に殺された方は、丸一日苦しんだ挙げ句、死に絶えるのだから。

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■

 

 

「全滅!?全滅だと?」

「は、はい。それも軍事上の言い方では殲滅と言いますが」

 

「言い方など、どうでも良い!

 つまりだ、補給部隊を残して戦闘集団は一人として帰ってこなかったという事だな!」

「は、はい。左様でございます。」

 

 激昂する枢機卿。傍らでは教皇が厳つい目で報告者である補給部隊の隊長を見据える。

 

「それで…敵は?どれくらいで、どのような戦法、戦術を使って我が軍を全滅させたというのだ?」

「それが……その」

 

 枢機卿は無言で先を促す。

 

「敵は、ふ、二人で…」

「二人ぃ!」

 

「ひっ!」

「ん、続けよ。」

 

 激昂した枢機卿を教皇が抑え、先を促す。

 

「その、先ず…一撃で中央部が壊滅。生き延びたのも爆風で転がっていった者だけで…」

「一撃だと…」

「馬鹿な。」

 

 

「それで、左右にも1500づつほど残っておりましたが、片方に一人づつ突撃していきまして」

「正に化物か。」

「化物が相手だとして、他のものは逃げられなかったのか?」

 

「それが、急に息苦しくなり、身動きが取りづらくなったのです。」

 魔力の影響であるが、比較的遠くに居た者であっても影響が強かった。

 

「それで、兵士たちは抵抗という抵抗もできずに殺されていきました。」

「信じられぬ。信じられぬが、同じ様な化物の出現は示唆されていたな。」

「ハミルトン卿の言は真であったか。」

 

「わ、我々はそれでもなんとか、動けたので…逃げ出した次第でございます。申し訳ございません。」

「う、うむ。」

「その状況で逃げるのは仕方ない。」

 

「状況は理解した。それで、相手はどのような姿であった?」

「一人はピンク髪で黒いマントのような、なんというかそんなモノを纏っており、魔法のようなもので我が方の者を殺しておりました。」

 

「ふむ。報告にあったものか」

「もう片方が、同じ様な雰囲気ではあったのですが、その裸で…」

「裸!?」

 

「え、あ、はい。」

「いや良い、続け給え。」

 

 

「はい。

 それで、手足が黒く、物凄く長い水色の髪でした。

 一人一人、甚振るように噛み付いて食らっているような殺し方をしておりまして、その姿が怖くなり…申し訳ございません。」

 

「ふーむ。」

「もう一人の方は情報が無いな。」

「異世界猿にそのような者は居なかったか。」

 

 

「よくわかった、また質問が出るかも知れぬが下がって宜しい。」

「はっ」

 

 補給体調はそれで部屋を出る。

 

「ハミルトン卿の言うことが正しかったか。」

「確か、魔王は勇者でなければ傷つけられない…とか」

「勇者だけで編成するか。ステータスプレートで命令すればいいだろう。」

 

「まあ、多少数が減っても勇者であれば問題ありませんな。」

「すぐに編成を開始せよ。」

「はい。承知致しました。」

 

 

――――

 

「なんだと?」

 

 一方、教国に臣従する近隣国の王は、その戦いの報告を聞いて声を荒げた。

 

「ですが、複数のルートから持ち帰りました情報でございます。」

「これが真実だと!ふざけるな!俺はサーガの話を聞きたいのでは無いんだぞ!」

 

「ひっ、でですが。」

「ああ、分かってる。すまん。

 真実だとしても酷い話だったのでな。」

 

「は、はい。」

「町中での行動は、間抜けとしか思えないのだが、なんだこの戦場の動きは。

 まさに化物の所業だな。」

 

「…」

「援軍を求められても、犬死するために派遣するだけじゃないかコレは」

「恐らくは…」

 

「そんなとこに大事な兵士を送り出したくないな。

 んーそうか、浮浪者とか男女老人関係なく集めろ。」

「どうされるので?」

「税金を払わ無い、町の害虫共を処分する良い機会だと思ってな。そうだ、罪人もソレに加えよう。で、どうにか5000人位編成できたら教国にも言い訳になるだろう。」

「なるほど。」

 

「ではすぐに編成して…適当な安い武器と防具を装備させろ。」

「はっ!」

 

「はーしかし、魔王か。やばい奴が出てきたな。勝てそうに無いし従属するか?」

 

 その後神託が下り勇者を担ぐ方向に切り出すが、この強制徴兵は実施されたのだった。

 

 

 




現地人も現地神も、無防備なサンドバックになるなんて事はありません。
出来る限りの抵抗はします。

(アリス神なら、ほっときそう。)


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12 嘘!私のレベル低すぎ!

 何かを積極的に殺したいとか、壊したいとかは思わない。

 

 しかし殺しても壊しても、何の痛痒も生じない。

 

 愉しいかと問われれば、特に愉しいとは思わない。いや、やはり愉しい部分は否めない。

 

 この部分は、魔王になったのだなと実感するに余りある心の変化だった。

 

 

 

 まあ、強制されないだけ良いかなっ♪

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ルドラサウム的レベル表記ではLv25となっていた。

 この世界的にもLv20であり、最初はLv1だったのだ。

 

「お前……レベル低すぎ。」

「え?低いの?」

 

 それが始まりだった。

 かの幼女はルドラサウム世界的な表記でステータスを教えてくれた。

 ステータスの自己診断が出来るようだ。

 

「普通……魔王なら、最低200はある。話にならない。」

「そういうジルさんはどのくらいあるんですか!?」

 

「弱体化してたのが、だいぶ回復して…150くらいか。」

「嘘!150!?」

 

 先程やってきた現地軍の兵士を1500人ほど踊り食いならぬ、踊り吸いしたのでだいぶ回復していた。

 そもそも、彼女だって、オークションの町で1000人、先程の軍勢で7000人は倒したがLvはたいして上がっていない。

 曰く必要経験値が多く、Lvが上がりづらいそうだ。

 

「…400くらいは欲しい。」

(前に500くらいあったのに負けたけど。

 あと、目の前の奴はLv25現在でも勝てそうにない。魔王の力が100%あれば余裕で倒せるのに。)

 

「400かぁ~先は長いね。」

「ふむ……(才能限界までは調べられない片手落ち。こいつの才能限界が低ければ…なんとか奇襲で倒せる?)」

 

 協力するフリをして、倒す算段を建てていた。

 そして約束のゲートコネクトを教える傍ら、いいアイデアを思いついたのだった。

 

「ちょ、な、なんで噛み付こうとしたの!?」

 

 幼女が彼女を、そっと噛もうとしていた。

「気付かれたか……ちぇ…」

「ちょっと、そういうの止めて!!」

 

 油断も隙も無かった。

 

 

 

 ~~

 

 

「ゲートコネクトは………うまく…行った。」

 

 魔王技能の一つであるので、コツさえ掴めば容易である。

 ガイもソレを使ってやって来たのだし、帰郷した彼女が覚醒した場合は、自力でルドラサウム世界へ移動できるので、やれない訳がない。

 

「それで、ここですか?」

「そう…それが異界オルケスタ。」

 

「なんか、力がみなぎってきました!」

「……(便乗して512まで上がった。幸先がいい。というか何故才能限界レベルが上がっている?)」

 

 何故か上がった才能限界に疑問を感じつつ、彼女の方に目を向ける。

 さて、こいつの才能限界は如何ほどか――と

 

「あははははは!」

 急速にレベルアップしたため彼女はハイになってしまった。

 

「……えっ?……800…900、止まらない?……え?」

 

 そうこうしていると、突然爆音が鳴響き、天井が崩落した。

 

 上空から砲撃を受けたのだ。うっすらと遠くに天使(エンジェルナイトっぽい姿)の群れが見える。

 奴らが攻撃を仕掛けたのだろう。

 

 なお通常空間でオルケスタと接続した余波で、館内にいる全員が限界レベルまで成長していた。

 爆発の影響で接続が切れ、彼女のレベルアップは止まったがかなり高いLvまで来ていた。

 

「…Lv1023……4桁……倍。」

 

 幼女は天使たちの攻撃を無視し、だいぶ動揺していた。

 

「あはははははははははははは!」

 最高にハイになっていた彼女は天使たちを―――

 

 

 ~~ 選択肢 ~~

――――――――――――――――――

 

A[消えちゃえボムで消し飛ばす]

 

B[ファイヤーレーザーを乱射する]

 

C[時間を止める(止まらない)]

 

――――――――――――――――――

 

 マウスを連打していた関係でBを選択。

 イベントを埋めるためにはオートセーブを利用しなければならない。

 

 

 彼女は崩れた天井から飛び出すと、ファイヤーレーザーを乱射する。

 なお、○色破壊光線は教ってないので、これより上の攻撃は消えちゃえボムになる。

 

 乱射したファイヤーレーザーに貫かれ、天使たちは全員落ちていった。

 

 

 上級天使もまさか、直後の反撃で全滅するとは思っておらず、自身も館の上に落下した。

 

「あー。まだ生きてるんですね」

「ば、化物め。」

「えへへへへ」

 

 上級天使は他よりもかなり強い。それなりに体力があったのが幸いしたのか不幸だったのか。

 

 彼女はハイになった勢いで上級天使に噛み付くと、血を吸い尽くしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああーーーーーー恥ずかしい!」

 ハイになっていた時期の事は憶えていたが、明らかな異常行動に顔を隠して床をゴロゴロしている。

 

「…」

 

 比喩表現ではなく、床をゴロゴロしている。

「恥ずかし恥ずかし恥ずかしーーー」

 

 彼女は暫く悶絶していた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 神界

 

「なあ娘よ、アレ強すぎないか?」

「父上、滅茶苦茶強すぎですね。」

 

「勇者じゃ勝てなくないか?」

「…無理ですよねぇ」

 

「とりあえず全属性90%カット装備を用意して魔法防御を高めないと即死モノだな。」

「魔法無効とかじゃないと無理では?」

 

「100%は無理だ。一回だけならできるが。」

「システム制約ですか。ままならないですね。」

 

「というか娘よ…我々でも勝てないんじゃないか?」

「まさか、父上なら勝てるでしょう?」

 

「…」

「…」

 

 お互い顔を見合わせる。とてもじゃないが勝てる気がしなかった。

 

「他の神を招集しよう。神の総力が必要になるぞ…」

 

 父神は主神では無いが、それなりに強い神だ。

 その神が勝てないとなれば総力が必要になるだろう。

 

「倒せないならば封印するか。」

「そちらの準備も致しましょう」

 

 倒せないならば問題の先送りも致し方ない話だった。

 二柱は封印場所、封印方法について詰めていく。

 

「ん?なんだ?裸の方が…」

「え?」

 

 ふと見れば幼女が『遠見の魔法』で見ている画面の方を向いていた。

 そしてニヤリと嗤うのだ。

 

「!!!」

「!!!!!」

 

 慌てて遠見を解除する。

 

「み、見られた?」

「気づいてましたね、アレ。」

 

「魔王じゃないほうだぞ、部下もどうなっているんだ!」

「怖い、異世界の化物怖い!」

 

 神すらも恐怖させた。今更だが、この世界は人類だけでなく、神の方もピンチを迎えていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ネットショップは……良いな……」

 

 LvMAXになってやっと対面できるようになった雑魚の人。

 ネットショップでの販売についてアレコレ見ていた。

 

 雑魚Lv220/220

→進化しますか? yes/no

 

 雑魚は進化し、賢者Lv1になった。

 

「出世魚か!」

 

 不遇職が進化、または転職してレア職になるのは基本である。

 

 

 

 さて、かの幼女はネットショップの仕組みを理解した時、不敵に笑った。

 それは、この世界を崩壊させる一つになり得た。

 

「まず、魔王直営店を出せ。小麦を1000倍で……買い取ってやる……売値は2000倍だ。」

 

 システムを掻い潜るための仕組みではあるが、直営店は良く考えられたモノだ。

 

「生き物以外は……該当の……店舗から消費される訳ではない。」

 奴隷や馬、豚牛等は、生きているなら店舗から直に販売されることとなる。

 肉屋に並んだ状態であれば複製される。

「つまり……金さえあれば…なんでも複製できる…という事だ。」

 

 これらは大本の源素をスキル経由で完全コピーしている。

 当然、買えば源素が減る。逆に売れば源素に戻る。

 

「レアな……アイテムを……複製し放題。」

 

 だが例外はある。魔王の血をどうにかして販売したがコピーは出来なかった。

 世界は延命された。

 

「ま、まさかこんな方法があるなんて。」

 雑魚改め賢者君はネットショップの活用に恐れ慄いていた。

 

 

 一般の店舗の値段で小麦を買い、魔王直営店の価格で売る。買い取りする。

 それで999倍利益が出る。

 

 それを元手に一般店舗から小麦を買い、直営店で売る。

 

「無限増殖バグがあるな。パッチが当たる前に変換しまくろう。」

 彼は100兆Gまで増殖させた。アホである。

 

 今の所、複製したいレアモノがないためシステム内にGが貯まっている状態だが、これをすべて放出すれば世界経済も、源素システムも崩壊を免れないであろう。

 

「これで……補給は問題ない。」

 

 予定外に天使が襲撃があり、後始末が大変だったため動きにくかった。

 だが城内の物資枯渇に関しても、ある程度目処がたった。

 

 きっと、何時まででも籠城できるだろう。

 

 

「それで、肝心の私たちの世界に帰りたいのだけど。」

「…私が知っているのは………

 ルドラサウム世界関連。

 ……ほか………いくつかの……異界。

 …チキュー…………なる世界は知らない。」

 

「ええ!?じゃあ、どうやって帰れば…」

 

 

「来たときの…ゲート……ある?」

「教国の首都とかにあったはず。」

 

「なら……それで。」

「よーし、首都に攻め込むんだね。頑張ろう!」

 

 こうして結構軽いノリで首都直撃が決定される。

 

 

 幼女の懸念はこの世界の神である。

 神が許容する。または弱ければこの世界を蹂躙する方向でも良いかなと思っていた。

 

 元の世界には未練は無い。

 自分のモノなど、最早ありはしないのだから。

 

 あの世界は神の遊び場。離れられるならそれに越したことはない。

 あとは自由に蹂躙できる、丁度いいくらいの世界が欲しい。

 

 そうすると、目の前にいる、自分より強いが生ぬるい魔王は邪魔である。

 帰るというなら、帰らせればいい。それで終わり。

 早急にお帰り願いたい所である。

 

 その考えから比較的積極的に幼女は手助けしていた。

 

 

 




容赦のない追撃(オーバーキル)が異世界を襲う。

勢いで書いてるから誤字多い。
すいません。


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13 そうだ教都に行こう!

勇者Lv47

 

勇者は虹のマントを装備した。(魔法防御40%カット)

勇者は属性指輪を装備した。(土水火風光闇雷属性50%カット)

光の鎧を装備した。(防御力 激高 光防御力10%カット)

勇者の剣を装備した。(攻撃力 激高 残念エスクードソードではないよ)

星の腕輪を装備した(素早さ 激アップ)

勇者の盾を装備した。(完全防御 一回 完全防御は貼り直すごとに1ターンかかる)

 

故郷から教国の首都。所謂教都に到達した時には、かなりLvアップしていた。

 

教皇との謁見中に神が降臨。勇者の装備を与えられ、その場で装備した。

勇者のLvは人で言うなら高い。

素養も高いので、この世界基準でLv120相当にまで強化していたのだった。

 

「では勇者よ、魔王を倒すため協力して欲しい。」

 

 旅になど出している余裕はない。

 軍にて抱えて魔王の居る城まで出撃する必要があった。

 

「はい、お任せください。」

 元気よく答える、そのあどけない顔には強い意志が顕れていた。

 

「うむ、では皆のもの魔王を倒すため出撃である!」

「大変です!城門が魔王に破られました!!」

 

 攻めていく系魔王のリトルプリンセスは、そんなの関係ないとばかりに正面突破してきた。

 自分と露出狂の幼女二人である。

 

「なっなんだとぉ!」

 

 教皇もいきなり魔王が現れるとは思わず、動揺した。

 だが、それも神の思し召し。丁度勇者が居るじゃないかと思い直す。

 

「勇者よ…早速だが。頼む。」

「はい!わかりました!今すぐ魔王を倒してきます!」

 

 今まで丁度いい感じの魔物を苦戦しつつも倒してきたのが良かったのだろう。

 強く自信に満ち溢れた彼は、素直に首肯し魔王の方に向けて駆け出した。

 

 此れほどの武器防具、そして勇者としての規格外な能力。

 人類の希望は今、魔王に刃を突き立てる。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 鎧袖一触とはこの事だ。

 

 魔法攻撃を装備の力でレジストしたようで、撃ち出した『火の矢』はその9割の力を失った。

 

 例えば人間同士であれば100ダメージ与える攻撃が10になる。

 損害は微々たるものだが、10,000与えるようなオーバーキル気味の攻撃では1,000食らってしまう。

 まさにレベルが違う。

 

 勇者は一撃で瀕死の状態となった。

 

「…何が起こったんだ。」

 

 彼女は、その辺りの雑兵(聖騎士)との区別なく適当に魔法をばら撒いている。

 かなり適当ではあるが、当たれば死ぬ。

 

 レジストが高かったおかげで勇者は生き延びたと言っていい。

 

 そもそもだが『火の矢』は2発当たっていた。一発目は普通に絶対防御で防いだ。

 

 勝てない。もうダメだ。と、

 魔力での威圧感もあり、勇者は絶望仕掛けた。

 

(ふ、ふざけるな!皆に、神に強化され、強くなったこの僕が…ただの一撃で終わるだなんて!

 ふざけるな!

 勝てない程度で立ち上がれなくなるなんて、なんて無様。

 そんな無様な真似だけはできない…!)

 

 回復魔法をかけると、勢いよく立ち上がり叫ぶ。

 

「っ、待て!魔王!」

 

 ちら見をすると火の矢を勇者に向けて打ち出す。

 

 一発だけだったので、勇者の盾の力。絶対防御で打ち消した。

 

 だが魔王は倒れるのを確認すること無く、城へ向けて歩みを続ける。

 正面の敵には容赦なく火の矢を撃ち込んで黙らせた。

 

「(チャージ完全防御…そして真後ろは…隙だらけだぞ!!)」

 

 叫び声をあげず、魔王を後ろから斬りつけ。

 

 

 

 

 気がつけば建物の残骸の中で意識を取り戻した。

 背中と首が痛い。

 

 気を失っていたのは数秒か数分か。

 

(一体何が…

 斬りつけようとした時、黒い何か打ち付けられたような?)

 

 そう。無造作に放った裏拳で勇者は吹き飛ばされた。

 その攻撃は絶対防御でなんとかなったが、衝撃は殺しきれず建物に衝突。

 

 いくつもの建物を破壊する弾丸となり、此処まで吹き飛ばされたのだ。

 

「は、はは…アレが魔王か。

 神様が勇者を任命するわけだ。

 装備を与えてくださるわけだ。

 

 あれは最強の人間だって勝てるわけがない。束になったって勝てるものか……」

 ろくに相手にもされずに敗北。だが生きている。

 通常のRPGであれば負けイベント。悔しさをバネに更に強くなる事を心に誓うだろう。

 

 だがこの少年も挫折を知らぬ少年だった。今挫折を知り、完全に心は折れていた。

 正しい心の変化だ。

 

 そこへ…強制的に立ち直らせるのが勇者の加護。

 即座に立ち直る。

 勇者に挫折は要らない。ただ魔王を倒すべし…と。

 

 勇者は倒されたことで何故かレベルが上がった。

 その強さは神が与えた。

 

 もっともっと強くなれと、全力で支援していた。

 

 そんな事をしたら少年の心は完全に歪んでしまう。だが勇者の加護で矯正される。

 完全な勇者は、こんな事ではへこたれない。

 

 傷を治した勇者は再度魔王へ向けて突撃する。

 

 

 

 

 

 先程から殺しきれない雑魚がうろちょろと煩かった。

 魔王だからと堂々と門を突破。

 教国の主城…ではなく、召喚を行った召喚院へ向かっていた。

 

 幼女はどこかで栄養補給しているようで、後で合流すると言っていた。

 

 何度かうざい雑魚を吹き飛ばしていると、だんだん強くなってきている気がした。

 殴られるたびに強くなるとは、一体いかなる変態か。

 

 ついに、一撃では吹き飛ばなくなった時、正面から彼女を見据えこう言った。

 

「僕は勇者だ。魔王覚悟しろ!」

 

 そういえば、あちらの世界で勇者にも追いかけられていたなと思い出す。

(そっか、こっちの正しい意味での勇者か。)

 

 この世界を守るためにご苦労な事だと苦笑する。

 

 勇者はこの世界の正義を一身に受けるもの。そのハズなので少し余興を思いついた彼女は、斬りかかろうとする勇者に声をかけた。

 

「ふふっ。勇者君なんだね。さっきから煩さい雑魚かと思ってた。」

「だ、黙れ!」

 

「まあ、君が自己紹介してくれたからね、私も自己紹介しちゃうね。」

「何?」

 

「私の名前は来水美樹。異世界の魔王をやってます♪」

 

 実に楽しげに、これからお茶会をするかのように名乗った。ところでリトルプリンセスという名前は使わないのだろうか。

 

「ぼ、僕は勇者アーレス。お前を倒す者だ!」

「くすくす」

 その返事に彼女は可笑しそうに笑う。

 

「な、何がおかしい!」

「せっかく異世界のってつけたのに、全然反応してくれなくて。」

 

「そんな無意味な質問をして何になる!」

「え~異世界から来たなんて、何しに来たんだーってならない?」

 

「ならない!どうせこの世界を侵略しに来ただけなんだろ!」

「くすくすくす」

 

「何がおかしい!!」

「勘違いだよ、酷い勘違いだよ。早とちりだね勇者君。」

 

「な、何が勘違いだって言うんだ?」

「私はね…いえ、私たちはね?召喚されてこの世界に来たんだよ。

 別に来たくて来たわけじゃない。

 ね?違うでしょ?」

「なっ……!嘘を吐くな!!!」

 

「嘘じゃないよ。しかもね、召喚した理由が最悪。奴隷にしようとしたんだって。」

「奴隷!?」

 勇者の村にも奴隷は居た。

 村長の所に数人いて、いつも怒鳴られ、ノロノロと仕事をしていた。

 好奇心からアレはなにかと聞いたら、姿は似ているけれど、猿の一種で奴隷にして使ってやっているのだと言う。

 馬や牛を使うのと一緒だが言葉で命令しやすいので扱いやすいと聞いていた。

 その奴隷が?一体何事かと思った。

 

「ここでも、あちらでも奴隷がいっぱいだね。

 じゃあ、あの奴隷はどこから来たのかな?」

「何処…から?」

 

「正解はね、異世界。違う世界から来た人だから、ここの人とは違うの。だから猿と呼んで奴隷にしてもいいみたい。」

「だから、奴隷を解放しに来たとでも言うのか?」

 

「違うよー。

 私もね、奴隷にしようとしてたの。

 面白いよねー。魔王を奴隷にしようだなんて。」

「なんだって!」

 

「君はさ、明日から奴隷にします。勝手に売るから、売られた先でせいぜい頑張って働いてね?って言われたらさ、怒らないかな?」

「……」

 

「酷いよね。しかもステータスプレートとかいう奴で自由すら奪ってくるんだよ。

 あれで命令されると逆らえない見たい。」

「……」

 

「まーだから。私はね…ただ故郷に帰りたいだけなんだよね。」

「な、なら…なんでこんなに暴れるんだ。さっさと帰ればいいだろう?」

 

 先ほどとは打って変わってテンションダダ下がりで勇者は聞いてきた。

 声が若干震えていた。

 

「私と、故郷のみんなを奴隷にしている人に、なにを遠慮する必要があるの?

 私はソレをするこの国の人が大嫌いなので、滅ぼそうと思うの。

 私としては殴られたから殴り返しているだけだよ?駄目かな?」

「……」

 

「で、どうするの?

 奴隷たちを生み出す悪の国家に手を貸して、立ちふさがるのかな?」

「ひ、人を殺すな。殺すのは悪だろう?」

 

「人の意思を捻じ伏せて奴隷にするのは悪じゃないのかな?

 それとも、彼らは奴隷じゃない。異世界猿だとでも言うのかな?」

「…お、…お前の言っていることが正しいなら、奴隷を生み出すこの国は悪い。

 だけど、お前の言っていることが正しいとは限らないだろう!」

 

「うーん。証拠かぁ、今、手元に証拠はないね。」

「なら、」

「でも今向かっている所は城じゃないよ。

 私が向かっているのはこの国が奴隷を呼び出している召喚設備がある建物。

 召喚院に向かってるんだよ?」

 

「!!」

「私は家に帰りたいの。だから帰るための手がかりが欲しくてね。」

「……」

 

「それを見た後、そうだね、この国の人に奴隷見せてくれって言って、どこから収穫したのか聞いてみるといいよ?

 面白い答えが返ってくると思うよ?」

「…わ、分かった。

 その魔法陣を見るために同行しよう。

 そして、お前たちに手出しはさせない。

 だからお前たちも人を殺さないでくれ。」

 

「ん~嫌だよ。」

「なっ!なんでだ!」

 

「この国の人はそれだけの事をしたの。」

「だからって殺すことはないじゃないか!」

 

「死んで償えって言ってるんだよ、わからないかな?」

「!!!」

 

 勇者は苦しそうにうめいている。

 それを見て(うわー、精神攻撃に弱い子だ)と、楽しく見守っている。

 

「ふふ。まぁ、召喚院を見るまでだったら良いよ。手出しされない限り反撃しない。」

「!…分かった、頼む。」

 

 彼女は満足げに頷くと召喚院へ向けて歩き出す。

 散発的に出てくる兵士は、勇者が抑える。

「召喚院に行くから道を空けてくれ!」

 

 こう言いながら歩いていく。

 

 聞いたものはこう思った。

 

「ああ、召喚院で包囲して何かやるんだな」と…

 そして、それを聞いていたのは兵士だけではなかった。

 

 途中なんの障害もなく、召喚院へ到着した。

 

 召喚の異界の門前には既に、全裸の幼女がスタンバイしていた。

 

「…!な、全裸!?」

 初めて見たかのようにジロジロをあちらこちらを見る。

 

「…クク…」

 幼女は愉しげに嗤う。

 

 笑われて勇者はさっと目を背けた。

 

「…それは……弁当持参?」

「弁当じゃない。」

 あまり笑えない冗談に彼女も苦い顔をする。

 

「アレは……正真正銘……DT

 純粋な……良い子。」

 目を細めて嗤う。

 

「な、なんなんだ、そいつは」

「異界の門のスペシャリストかな。」

 

「この子の…血……吸っていい?」

「駄目よ。」

 速攻で拒否られて、幼女はふうんといった表情で彼女とDTの様子を見る。

 

(なるほど、言葉責めで遊んでいるのか)

 

 女の直感の方で理解した。理責めでもきっと理解できたが。

 

「それで、座標はわかった?」

「起動していない状態だと…‥分からない。

 …起動してみても?」

 

「被害者が出ないようにしたい。できる?」

「…とりあえず縦にすべき。この状態で起動すると落ちる。」

 

 確かに自分たちは落下して到着したなと思い出す。

 

「…なるほど。」

 

 勇者は勇者で彼女の言っていることが正しいと思い始めていた。

「本当に召喚する設備があったなんて。」

 

 彼女達が強引に立て掛けて起動すると周辺の空間が歪む。

 

「…これ…は。」

「え?何?」

 

 どうにも召喚するための異界ゲートが開いている雰囲気ではない。

「…罠か。」

「どういう事?」

「なんだって!?」

 

 勇者も一緒に幼女の言葉に食いついた。

「……何処かは知らないけど、

 ………強制転移……魔法陣。

 …もう……止められない。」

「なっ!」

 勇者は驚いた。

 それはそうだ、勇者ごと、まとめて何処かへ追放させるというのだから。

 

「もう……到着。

 …もう……別の……異世界。」

 

 彼女らはミラクル・トー命名で言うところの、ポリポリワンに到着していた。

(ああ、DTの慌てた表情がたまらない。)

 

 




異界に追放されてしまいました。

投稿してから読み返し。誤字訂正という流れが多く、ご迷惑おかけしております。


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14 元の世界に帰してください 

神界

 

 罠を仕掛け異界に追放できた事で父神は安堵した。

 

「ふう、これで大丈夫。最早戻って来る事もあるまい」

「異界追放できましたね。はぁ…大変でしたね。」

 

 人間たちに天罰を下さないとなぁ~やれやれと打ち上げをしていると…

 

 召喚院に異界の門が開き、彼女らが戻ってきた。

 

 追放したのに、すぐに戻ってきたのだった。

 

「…」

「…」

 

「娘よ、異界追放。しても無意味なのか?」

「そのようですね、父上」

 

 二柱は暫く固まっていた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ポリポリワン

 

「ここは一体…」

 異界が初めての勇者はこの世界の異様さに驚いていた。

 

「こんな世界あるんだーへーへー」

 彼女はいつもどおりの正常運転である。

 

「……(じー)」

 幼女は勇者を観察していた。

 

「うう、まさか異世界に追放されるなんて。」

 勇者はこの世界に来て絶望していた。

 流石の勇者も、魔王と戦う事ならばできるが、異世界から帰る方法は分からない。

 

「どお?」

 ニヤニヤと彼女が勇者を見ていた。

 

「自分の世界から異世界に来た感想は。」

 既に自分はゲートコネクトを習得済みである。慌てることはない。

 そも、あの世界への行き方はなんとなく理解していた。

 

「……」

「もう帰れない。こんな絶望的な状況でね。君たちの世界の国はこう言ったんだよ。『異世界猿め、奴隷にしてくれる』ってね。」

 

「…そ、そんな。」

 こんな絶望するような状況なのに、更に追い打ちをかけてくるのかと、あまりの理不尽さに頭が麻痺するようだった。

 

「そ、そんな嘘だ…こんな事って無い。ありえない。」

「残念。あったんだよ。」

 

「なんだそれ……どっちが悪魔で、どっちが被害者だ。」

 今までの価値観がすべてひっくり返った気がした。

 

(責めるなぁ~いいなぁ)

 幼女も、責めが甘いなぁと思いつつ愉しんで見守っている。

 

 もう、この魔王が異世界から理不尽を受けた聖者で、悪魔達を蹴散らしている。悪魔たちを根絶やしにしなければならないのだという認識に変わっていった。

 

「…うあ、うあああああああああああああ!」

 彼は勇者になって初めて号泣した。

 13歳である、まだ幼さが同居している頃だ。仕方ないことである。

 

(いいな、キュンキュン来る。)

 

 幼女は泣き声聞いてご満悦のようである。もちろん表情はいつもどおりだが。

 

 それを彼女はやさしく、よしよしと撫でる。

 このあたり天然であるから、洗脳している自覚はない。

 勇者の認識が書き換わったとしても、どうでもいいと思っており、やりすぎちゃったかなぁー程度の認識である。

 幼女ならばもう少し詰って自殺まで追い込みそうではあった。

 

 しばらくして、勇者が落ち着き立ち直った。

 加護の精神安定は優秀なのである。

 

「これから、どうしましょうか」

 同じ漂流者として、同道の魔王に聞いてみた。

 

「そりゃー帰るよ?」

「……(ニヤニヤ)」

「???」

 

「え、どうやって?」

「こうやって。」

 ゲートコネクトを使用し、元の世界と接続する。

 

「え…?」

「座標さえわかれば、なんとかなるんだよ。」

 

「ええ!?」

「私は帰りたいし、奴隷された人も帰りたい。

 私は座標を探りに来たんだよ。あと、教国はしばく。」

 

「ぽかーん」

「ね?あとは自分の世界の座標さえ分かれば…」

 

「え、此方に来た時には分からなかったのですか?」

「来た当初はゲートコネクト使えなかったからね。」

 

「…」

「さ、帰りましょ…帰るという表現はしたくないかな。」

 

「…まあ、罠としてはまあまあ…だった。」

 

 こうして彼女らはあっさり帰ってきた。

 異世界に移動できない勇者は、ついでに戻ってこれただけだが。

 

 

 

 ゲートコネクトが使える者に異界追放をやっても無意味である。

 自力で戻ってこれる故に。

 

 別の話として、彼女の故郷についての座標を探るのは大変なのである。

 召喚院で予定通り、異界の門、もとい勇者召喚魔法陣を確認していた。

「……やはり、異界の門は……変質化している。

 使っても、さっきの世界に戻るだけ。」

 

「じゃあ、探るしか無いですね。」

「そう…だな…」

 

「私、自分の故郷へ繋がる道を探します!!」

「がんばれ。(そして、私の前から消え去れ)」

 

「それで、お願いなんですけど、

 私の世界の人たち……保護して欲しいなって」

「……まあいい。丁度……手駒も欲しかった。」

 

 幼女は、とりあえず現地民を虐めて、それに飽きたら残っている異世界人を甚振ればいいと思っていた。

 

 この世界には手下となる魔物も居ないし、片方を仲間にすることで手駒を確保する事を考えている。

 

「お、おい…何処行くんだ?」

 勇者が彼女に答える。

 

「何って、帰るって言ったじゃない。」

「……」

 

「放っておけば帰るんだから放っておけばいいのに、無駄なことをするよね。」

「ぐ…」

 正直な話、さっさと帰還させればいいのだ。

 倒す必要など無い。

 

「まあ、この国には責任とって貰う感じで潰すけどね。」

「な、それは……やめてくれ」

 自分の世界の人々が悪魔に見える。

 だがそれでも無垢な人はいる。罪のない人々を救いたかった。

 

「奴隷にされた人の無念。自殺した人だっているんだよ?それの責任。誰が取るの?」

「……」

 

「君が取ってくれる?とてもじゃないけど、君が奴隷になったくらいじゃ釣り合わないからね?」

「…」

 

「(うーん。黙っちゃった。責めすぎたかな?)」

 なんだかんだイジメっ子な方面が出てきた。きっとリトルプリンセス方面の性格だろう。

 

 勇者が押し黙ったので、もういいかと幼女が声を掛けてきた。

「……国…狩ってもイイ?」

「あーうん。」

 

「じゃあ、帰る頃には愉快にしておく。」

「わかった。じゃ行ってくるね!バイバイ!」

 

 黙った勇者と5%魔王に見送られて、彼女は自分の世界探しの旅へと旅立った。

 

 幼女はとりあえず本拠地たる城塞都市へ戻り、奴隷解放で国力を増強すること始めた。

 手駒を先に揃える算段だった。

 

(邪魔者は異世界へ消えた。これからは自由にやる。)

 

 比較的マイルドな彼女が居なくなり、幼女を遮るものはない。

 

 幼女魔王ジルの建国(?)は、今始まった。

 

 

 

 

 勇者は魔王を取り逃がした。

 しかし責める者は居ない。

 

「教皇様、取り逃がしてしまい申し訳ございません。」

「いえ、何度も何度も立ち上がり、挑む姿は心打つものがございました。」

 

「神のお力による異界追放が不発に終わったのも痛い話ですが致し方ございません。」

「もっと力を付けてがんばります。」

 

「こちらこそお願いします。私も民も、そして神も貴方の活躍を願っておりますので。」

「はい、ありがとうございます。」

 

 

 

 勇者は教皇の前を辞すると、その足で奴隷商館へ赴いた。

「これはこれは勇者様、盾となる戦闘奴隷でもお求めでしょうか。」

 

「こいつらは、確か異世界猿と聞いたが戦いも出来るのか?」

「ええ、勿論ですとも。結構お強いのが揃っております。」

 

「……そうか。しかし強いなら反乱を起こされるんじゃないのか?」

「そんな事は起こりえません。この奴隷プレートのおかげで命令に逆らえませんから。」

 

「……そうか。こんな、すごい奴隷はどこから供給されるんだ?戦争があったとは聞いていないが。」

「異世界猿ですからね、異世界から呼び出して使役するのですよ。結構簡単に使役できますので、皆大好評でございます。」

 

「……なるほど。わかった。」

「それで、何かご覧になられますか?本日ですと、処女の娘も入荷しておりますよ?」

 

「いやっ……いい。ちょっと興味が湧いただけだ。盾とか戦力になるなら、買いに来るよ。」

「然様でございますか。ではまたのご来店お待ちしております。」

 

 勇者はすっと裏路地に入ると、地面を殴った。

 ドーンと大きな音がして、小さなクレーターができる。

 

「……本当……だったのか。」

 勇者はこの国を。人間を救う意味が無いのではないかと迷い始める。

 そしてふらっと、町の外へ出て行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 彼女は異世界に到着した。

 

「…うん、ヤンキーと、ハニワが居る。あの世界だね。」

 一気に落胆した。

 

 いや、元の世界へ行く異界の門があったはずだと思い直す。

 たしかゼスにあったはず…と。

 

「でも…なんだろう。

 いつもと空気が違う気がする。」

 

 不思議な気がしていたが、現在地を知るため、近くに町があったので寄ってみた。

 

「こんな町あったっけ??」

 看板を読む。

 

「えーと、ランスロット共和国 ランスロット…

 うーん。そんな国あったっけなぁ」

 

 彼女の異世界探訪は始まったばかりだ!

 

 

 

-----

 

 なお、今はLP4年5月…ゼスは崩壊し、首都は占拠されている。

 ゼスで旅するのは大変危険である。もちろん危険なのは魔軍だが。

 




ヤバイ。イブニクル結構忘れてる。
思い出さねば…あれ?前のPCに入れたんだっけな?どこだ…?


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15 美樹ちゃんの異世界探訪に変わりまして、ジル様の異世界征服をお送りします

イブニクルのお話をだいぶ忘れた関係でこの辺りの時間は飛ばさせてもらいます。
…その代わりジル様の方に焦点を合します。
イイですよね?
肝心の美樹ちゃんはイブニクル世界でゼスを探して彷徨います。
「あ、この世界違う」と思うその時まで……横道に逸れて観光してるだろうけど。




手駒が足りない。

 

前は一声かけるだけで500万の兵が動いたというのに。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

教皇はその日も魔王対策会議を行っていた。

 

「次に勇者の行方ですが、未だ分かっておりません。」

「魔王を単身、討ちに行ったのでは?」

 

「それは無いだろう。道中の村にも立ち寄った形跡が無い。」

「ふうむ。人類の希望だが、あれが居ないと戦いにすらならぬ。よくよく探すしかない。」

 

「はっ。

 次に、軍ですが予定より遅れております。予定しております出陣には一ヶ月ほど間に合わないかと。」

「それは何%なのだ?」

 

「15%程です。」

「ならいい、どうせ長期包囲を考えているのだ。後で合流する事にする。」

 

「はっ

 次に、遺跡からの対魔武器の出土は困難を極めております。現状進捗はありません。」

「情けない話だな。

 だが無理も言えぬ。倒すことは不可能でもせめて封印しなければ…」

 

 このように人としても対策を重ねていた。

 先日の襲撃は青天の霹靂であり、まさか魔王単体でここまで突破さえてしまうとは考えても居なかったのだ。

 

 然らば、人としてできることは軍を整え何とか対抗するだけだ。

 蹴散らされようとも、諦めるわけにはいかないのだから。

 

「人類の総力を結集してでも奴らを除かねば…」

「…うーむ。だが奴らは余りにも脅威。時が要る。

 誰ぞ和平をもちかけられぬか?」

 

「和平…で、ございますか。」

「あの化け物には軍では勝てない。だが神のお力であればなんとかなる。勇者の力があれば。

 であれば時間だ。時間が必要なのだ!」

 

「そうでございますね。承知いたしました。」

「適任者は…」

 

 そう言いかけ。息を飲む。

 ぞくぞくっと悪寒がし、異様な重圧がかかる。

 気持ちが悪くなり、吐いてしまいそうだ。

 

「こんにちは………」

 

 気が付けば会議室の真ん中に、かの全裸幼女が居た。

 

 教皇は報告にあった魔王の手下だと気づいた。

 手下であってもこの言いようもない雰囲気、魔力はとんでもない化け物だと認識させられた。

 

「…………死ね。」

 

 何を言ったのか、判断する前に衝撃派で全員息絶えた。

 

「…まずそうな血。」

 

 会議室は一転、地獄と化した。

 地獄にした本人は次の標的へ向けて移動していた。

 

 この日、教国の上層部及び官僚将軍はほぼ全滅した。

 

 

 

 

「…解放戦争だ………出撃せよ。」

 ただ、それだけを言うと配下の者たち…としている、彼女と同郷の人間に命令を下した。

 そして、それで立ち去った。

 

「え?何。え、何?」

「何を、どれだけの規模で、何処へ出撃すればいいの!?」

 

 最終的に僅かな守備兵を残して出撃するのだが、準備には数時間かかった。

 

 そもそも、決定から出撃まで数時間で終わるのが奇跡的である。

 ネットショップが無ければ実現しえなかったであろう。

 

 奴隷解放戦争である。

 隣町に到着すると、守備兵は居ても将は無く、あっさりと陥落する。

 奴隷を解放し戦力とした後、更に隣町へ。村へと解放の手は伸びる。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

隣国の執務室

 

「魔王が教都に現れた?

 勇者は戦ったけど敗北。軍は何もできず…召喚院に到達。そこで何かされて帰ったと…」

 

 隣国の王は唸った。

 勇者へ協力は約束したが、これは幸先が悪い。

 生き残るためにはどうすればいいか。恭順しようかと考えていると…

 

 ぎぃっと扉が開いた。

 隙間から流れ来る魔力が恐怖を伴ってかの王を襲う。

 

「こんにちは……」

 

 そこから入ってきたのは、報告にあった残忍な方の化け物。

 

 これはヤバイ。下手な事を言ったら死ぬ…。そう予感させられた。

 

「あ、ああ。こんにちは」

 絞り出せたのはそれだけ。

 

「………………死ね。」

「!!!降伏します。!!!」

 

 死ねと聞いた瞬間、殺意が爆ぜた。

 それに合わせる様に手を挙げて降伏を宣言した。

 

 黒く伸びた手が、その首を刎ねる直前だった。

 

「……ふむ。」

 

 まさか降伏してくるとは思わなかった。

 考えるに、手駒は足らない。

 

 なら、この手の臆病者は現地人の裏切り者として使うのも良いかと思い始めた。

 

「………良かろう。」

 

 すっと手を引いた。

 

「お、おおお…」

 あと数瞬、反応が遅れれば死んでいた。

 

 この申し出は贔屓される現地人が居るという事。

 手駒にもなるし、虐められる対象からすれば憎悪の対象にもなる。

 

 これらが反乱し、贔屓された者たちが襲われて壊される様がとても楽しみな為、降伏を許した。

 

 

「……本拠地は知っているな?」

「は、はいもちろんです!」

 

「……こちらの城の方が良いもの使っているな。」

「ど、どうぞどうぞ!すぐに明け渡します!!!」

 

「………………まあ、後で引っ越す。

 部屋を……空けておけ……」

「はは!畏まりました。」

 

「うむ…」

 幼女はもう次の国に移動する事を考えている。

 取り急ぎ上層部と官僚を殲滅する予定だった。

 

「わ、私はアーノルド・ヴェ・ギシリマ申します。

 貴女様は、なんとお呼びすれば?」

「…………好きに呼べ。」

 

「い、いえ。大変失礼なのですが…お名前をお聞きしても?」

「…………ジル。」

 

「ははっ!ジル様!お名前ありがとうございます!」

「…………」

 

 何か言おうとしたが、諦めて去った。

 

「………怖かった。」

 少し≪だいぶ≫ちびっていた。

 

 

 

 

 3か月後

 周辺国含め大陸にある国の6割は上層部を刈取った。

 動きがマヒするレベルでなく大混乱となっている。

 

 なぜ6割かと言うと、ルドラサウム大陸に比べ大変大きかったからだ。

 全部狩り切れず帰ってきた。

 

 三か月間奴隷解放軍もその数を雪だるま式に増やしており、内ゲバで忙しかった教国を占拠していた。

 そんな折に幼女がそこへ帰ってきたのだ。

 

「……ご苦労。」

「は、はい!」

 自分らは頑張った!という達成感があった。

 それはそうだ。軍の将軍などが居ないと言っても貴族は居るし、兵士は残っているのだから。

 それなりに大変だった。

 

「……次は…間引きだ。」

 

 

 LP4年10月。既にゼスは解放されているが、その間ゼスを苦しめた占領政策。

 人を虐め殺す趣向はカミーラが主導していた。

 だが、アレはカミーラ風にアレンジしただけで、もともとはジルの治政で行っていた事だ。

 ゆえに数か月前起こっていたゼスでの惨劇が、異世界の此処でも起こっていた。

 

 今も…ジル様を楽しませ、楽しませる事ができなかったら処分する。という事を実施していた。

 具体的に説明すると18禁に抵触する内容であるため説明できない。残念だなぁー

 

 愉しんでは居たが、満足はしていない。

 ただの暇つぶしだ。

 

 最近は働きすぎだった。力は大分取り戻した。魔王の血が足らないので全盛期には程遠いが、今はこの程度で我慢しよう。

 そんな状態だった。

 力が平常になったので少しずつ体も成長を始めている。

 子供が大人になるように、普通の速度でゆっくりとだが、大きくなっている。

 

 いずれ、また忙しくなる。反発で反乱軍ができ、それを叩き潰す。それまで暇だ。

 

 気に入った男は適当に侍らせた。

 侍っている男の容姿がガイやランスに似ているような気がするが、きっと気のせいだ。

 

 教国は地獄と化したのだった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

神界

 

「帰って行った!」

「帰りましたよ!!」

 

 地方神と大陸神である親子神は手を取り合って喜び、安堵した。

 手下が残ってはいるが、魔王はこの世界から去ったのだ。

 

 源素の流出は停まった。ある程度減ったが誤差の範囲…では済まないが誤差に収めるのが神の手腕の見せ所である。

 

 幼女魔王が残っており実は吸収されているが、生成量と比較すれば枯渇するに至らないと、今のところ思われている。

 故に彼女の暴虐は無視された。

 

 それどころではない事態が発生したのだ。

 

 海洋神―母神―が、旦那(父神)と娘神が不倫していると勘違いして襲撃して来たので戦争になっていた。

 神界で神が争っており、下界の事は忘れ去られた。

 

 



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16 勇者がジル様に、ジルジルされる話

見渡せばそこは地獄だった。呻きと怨嗟の声が溢れている。

 

いったい僕は今まで何を見ていたのか。

 

もう、躊躇わない。僕は魔王を殺す…!

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 勇者は何が悪くて、何が正しいのか分からなくなっていた。

 その迷いを断ち切るために、我武者羅になって暴れていた。気が付けばダンジョンを攻略し終えていた。

 

 そのダンジョンをクリアし、教都へ戻ってきたのだが、彼が見たものは見るも無残な廃墟だった。

 まるで地獄だった。

 

 人は居る。

 ボロボロで崩れかけた壁の裏側に息をひそめる様にして生きている。屋根の落ちた焦げた家で夜露を凌ぐ。

 これがあの威容を誇った教都かと思うと物悲しくもあり、これを成した者について怒りを禁じえない。

 

 ――誰がこんな事を!!

 

 遠くに見る教城を見据える。魔力を感じる。

 魔王が居るならばここからでも分かるだろう。居ない…だが、あの魔王の手下は居る。

 

 あいつか―

 

 激情に身を任せ、城を目指す。

 城門は切り捨てた。

 

 それほどまでに人間を辞めていた。

 

 異世界人の兵士が居たがこれらも斬り飛ばす。

 彼を遮るものは何もいない。

 

「あっちか…!」

 

 魔力から居場所は分かった。

 まっすぐまっすぐ、ひたすらまっすぐ進むと謁見の間があり…

 

「待て!」

「止まれ!」

 

 その扉を守る兵士が居たが、怒りに任せ、これも扉ごと切り捨てる。

 

「!!!」

 

 中は地獄だった。

 

 女性が複数人倒れている。裸で色々汚れていた。

 男も複数人倒れている。これも裸で色々汚れているが、血で汚れている方が多かった。

 恐らくは、死んでいる。

 

 謁見の間では、玉座に座る幼女を愉しませる為に芸などを披露するための行列があった。

 

 今まさに芸をしている最中の様だ。

 

「……」

 

 入ってきた彼に集中すると、幼女はほぅっという顔になる。

 その後に、

 例の勇者だ。さて、どうやって虐めてやろうか。

 そんな顔をした。

 

「お、お前が!」

 そう言って一歩踏み出す。

 

「お前がやったのかーーーーー!」

 答えは聞く必要が無い。ただ、この怒りをぶつけるのみ。

 

 あの魔王と違い弱い方だ。

 そんな認識で斬りかかる。

 

 馬鹿な。そんな訳あるわけないのに。

 

 

 列を避け、倒れた者たちを避け、一息に幼女へ向けて斬り付ける。

 

 殺った(とった)

 

 

 今迄、触れてきたものは何者をも切り裂いてきた、神の鍛えし聖剣。

 邪を祓い、魔を滅す究極の聖剣。

 

 その刃が、平手にて止められていた。

 

「……やはり……な。」

 

 何事か呟くと勇者を蹴り飛ばす。

 

「ぐあ!」

 

 殺すつもりで蹴り飛ばしたが、完全防御の結界でダメージにはなっていない様だ。

 仮にダメージがあっても問題ないくらいにはレベルが上がっている。

 

「馬鹿な、斬れなかっただと…」

「クク……そのていたらくで勇者とは。」

 

 幼女はゆっくりと立ち上がる。

 芸をする者が委縮しないようにと配慮していやっていた魔力を解放すると、並んでいた者たちが苦し気にうずくまる。

 

 

「くっ斬れなかったのは、何か仕掛けがあるに違いない。」

「……良い所に来た………暇つぶしに良い」

 

「暇…つぶし…だと!」

 再度激高し剣を振るう。

 

 ちょっとした思惑があって再度手で受ける。

 今度も左手だ。

 

「うおおおおおお!」

 

 何度も振るうが、幼女は黒い左手のみでそれを迎撃する。

 

(そうか!左手だけなら!)

 

 彼は魔法を使い左手に迎撃させると、逆側から剣を振るう。

 

「貰った!!」

 

 幼女は右手でそれを防いでいた。

 

「ふふっ………残・念……」

「くっ。ぬおおお!」

 

 それでも、反撃が来ないので、防ぐだけで精いっぱいと見ていた。

 幼女は次はどうしようかと舐めプに徹している。

 

「……どうした?……そろそろ……反撃……するか?」

「このこのこの!」

 

 傍から見るに、人外の戦いだ。

 その速度に力についていける者はいない。

 

(黒い部分。手足に攻撃は効かないと見るべきか。)

 勇者は落ち着きを取り戻し、冷静に分析する。

 

「……飽きてきた……な。」

 仕上げをするために、更に手を抜く。

 

「これで、どうだ!!」

 勇者特有の必殺技を放つ。

 

 怒涛の8連斬が放たれる。

 

 さしもの幼女も両手では抑えきれず、6連撃を食らってしまった。

 

「どうだ!」

 

「……」

 

 だが、斬り付けた場所は斬れるわけでもなく。赤く蚯蚓腫れになるでもなくただ前のままだった。

 斬った、そして当たったという手ごたえはあった。だが斬れた手ごたえは無い。

 

 様子を見るに蚊ほども効いていない。

 

 効いていない幼女に、勇者は焦りだす。

(まるで…効いていないだと!)

 

「………すまない。」

 愉悦を含んだ顔で、勇者に近づく。

 

 彼は先程と同じように剣を振るい幼女へ攻撃するが、今度は防御すらせずその斬撃を受け入れた。

 

「!!」

 

 首に当たったその剣は振り抜けず、そこで止まっていた。

 

「……実は……効かぬのだ。」

 クスクスとその言葉に顔色を悪くしていく勇者。

 

「嘘だ!…効かないなんて!」

 

 今度は光の魔法で、幼女を撃つ。属性選択は間違っていない。

 幼女は闇属性に強い耐性がある一方、光属性には弱い。

 

 だが無防備にその魔法を受けるが効いた様子はない。

 

「この……無敵結界……それがある限り…傷は……負わぬ。」

 ニヤニヤと幼女は語る。

 

 弱点属性があろうと、無敵結界がある以上それ以前の問題だ。

 

「無敵…結界…」

 

 幼女は攻撃が止まった勇者を無造作に叩き付ける。

 一度目はチャージした完全防御で。二度目は剣で、三度目は鎧に受けて吹き飛んだ。

 

 壁際まで転がると、次は衝撃波が襲う。

 

「ぐああああああ!」

 

 壁を貫き、隣の部屋まで転がった。

 控室のようで…色々な死体が転がっている。

 

「!!!」

 

「……どうだ?………絶対に敵わない相手に斬り付ける気分は。」

 愉悦中の幼女は饒舌に語りだす。

 

「どうだ?………どうだ?」

 

 攻守は逆転する。

 連打によって完全防御をチャージするための盾は取り落とした。

 鎧はベコベコに凹んでいる。

 

 勇者は控室の隅まで、またもや追いつめられる。

 

 剣を握る腕も、幼女の拳で折れたようで自由に動かない。魔法で治療しようにも発動に重ねて甚振ってくる。

 神に認められた勇者が、何故ここまで追い詰められるのか…

 

「こ、こんなの嘘だ…Lvだって200はあるのに…」

 

 殴り続けていたら、勇者はすっかり戦意を喪失していた。

 当然だ。体のあちこちが折れ、魔力はあっても使うだけの暇もない。

 

「Lvか…そちらは…512あるぞ。」

 

 倍以上のレベル差に更に絶望感が増した。

 もう勝てない。勝てっこない。そんな思いが心中に渦巻く。

 

「無様だな………お前は……何しに…来たのだ?」

「こんな非道を重ねた…奴を…倒しに来た。だけだ。」

 

「非道………非道を働いていた連中に……罪を償わせていた………だけだ。」

 ピンク髪の異世界魔王の大儀名分を使わせてもらった。

 

「それでも!こんなのはやり過ぎだ!!」

「……それだけの事を………したのだ。」

(まあ、私は関係ないが)

 

「どれだけ……どれだけ恨まれているんだ!!」

「共存は……出来ない……なら滅ぼすほか無い。

 ………滅びよ。ニンゲン。」

 

 もう滅びるしか道は無い。勇者である自分も、こんな魔王の手下(誤解)にすら敵わない。

 そう絶望し絶望して、ついに諦めた。

 

「くっ………」

「どうだ?………悔しいか?」

 

 その言葉に声も無く、ただ涙だけが溢れ出た。

 

 最早動くこともままならない体。どう足掻いても助から無い。

 死はもう避けられないようだと、諦めた心で判断した。

(この上は辱めを受けるよりかは、潔く死を選ぼう。)

 

「…………殺せ。」

 

 こうして、勇者は生きることを諦めた。

 

 それを聞いて、幼女はこの上ない笑みを浮かべるのだった。

 

(良い。良いな。キュンキュンきた。

 この勇者頂こう。

 

 …性的に。)

 

 




サブタイトルはコメントにあったのを使ってしまった。
というか、もうそれしか考えられなくなってたんだ。


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17 美樹の異世界探訪

二度目の告白は…お嫁さんが多い男の子でした。

 

ドキドキしたけど健太郎くんと付き合っているのでお断りしました。

 

ばいばい

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

LP5年3月

 

 この世界が、あの世界でない事は途中から分かっていたが、彼女は途中から、この世界の『魔王』に興味を持った。

 興味を持ったのは、旅先で良く遭って仲良くなった男の子に告白され、更に何度か遭遇したからだけども。

 世界において『魔王』の役割は一体何なのか。とても興味が湧いたのだ。

 

 

 アスタ君(しゅじんこう)一行が行く先にはラスボスが居るらしい。ピンチはいっぱいあったけど、彼女が手を出さずにどうにか解決できていた。

 そこで知ったのは魔王というのは、この世界の欲望の塊みたいなものらしい。

 

(私の力も、欲望からなのかな。あの…殺したく壊してくなる衝動は。)

 

 彼女は途中から、良く解らなくなった。

 今も魔王フォ…なんちゃらと戦っているケド。すごく弱く感じている。

 

(アレが魔王?

 うーん。

 なんか…瞬殺できそうなんだけど。)

 

 戦いは欲望の権化みたいな、何か気持ち悪い化け物になっていた。

 様子を見ているだけなのだが、もどかしい気分。

 

 そして、普通の人間に魔王?が倒された。

 魔王も同じ世界の法則に囚われる限りは倒されると考えると、とてもやるせなくなる。

 

(そういえば日光さんは、魔人や魔王を倒せる武器…だったっけ。)

 

 無敵結界を破壊できる武器。それは無敵結界を認識し、対処できる故の事。

 認識されなければ、対処される事もない。

 もしかしたら、別の世界では結界を破壊する。中和する等の方法で対応が可能になる場合もあるかもしれないが、まず初見は無理だろうと思った。

 だが、『倒す事は可能』だ。つまり、無敵結界があっても死なない訳ではない。

 ジルが他の世界の事だからと、懇切丁寧に、ある事をして不滅の魔王になったのだが血を抜かれて5%しか残らなかったと、教えてくれた時、不滅の魔王になっても、危険な事があると学習した。

 つまり、無敵結界に頼りすぎるのは危険。もっと戦い方を研究し、弱点を減らすべきだと認識した。

 

 そして、この世界の魔王?が倒され、やはり無敵結界に頼り過ぎないように心に誓った。

 

 とりあえずLvが1000もあるのだから、元の世界で無敵結界が無くとも、倒せるものなど神くらいだが、それでも何かしら奇跡的にひっくり返される事を懸念した。

 

 

 魔王を倒し、ボロボロになっている彼らに声をかける。

 

 

「お疲れさま!大変だったね!!」

 そう言って、水入りのグラスをお盆に乗せ彼らに近づいた。

 

「「「な、なんでこんな所に居るんだよ!!」」」

 

 こうして、みんなに一斉に突っ込まれた。

 

 とりあえず後ろから見守ってましたと説明した。

 

 

 

「いや、なんか頑張ってるから、声かけづらくて。えへへ」

「手伝ってくれても良かったのに。」

 

「いやあ…それはねぇ(私一人で終わっちゃうし)」

「そうだな、無理は言えないか。(危険だし)」

 

 微妙に食い違いながら、彼らはキャメロットに帰るとか言ってどっかにワープしていった。

 

「あれ?おいてかれた?」

 彼女は放置された。ぽつーんと暫く呆然としていたが、気を取り直して今後の事を考える。

 

 この世界で見るべきもの(観光地)は、もう無いとして次の世界へゲートコネクトを開始した。

 

(あー、あのサンマ…でかかったなぁ)

 

 

 

 雑念が悪かったのか、別のチャンネルが見つかり入ってみると…

 

 

 この世界は異様に小さかった。

 一つの島に海が少し広がっているだけの異界とも言えぬ異界。

 

 小異界とでも言うべき世界。

 

 近くに大きな戦艦があり、遠くにピラミッドと御殿が見える。

 

「え!なんで戦艦!?そしてピラミッド!?」

 

 このごちゃ混ぜ感に驚き、しばし呆然としていると…女の子モンスターが2匹、男の子を引き摺ってやってきた。

 

「貴女は?」

 

 相手の方から声をかけてきたので、やっと気を取り直した。

 

「あ、はい。こんにちは。私は来水美樹…貴女方は女の子モンスターというのは分かるんだけど、名前が出てこない。」

「あははは、僕はキャプテンバニラだよ、あっちはクスシ。」

「こんにちは。」

「へー」

 

「それで貴女はどこから来たの?」

「あーうん。ちょっと自分の世界探しで色々な世界を巡っていてね。」

「あーなるほど。まああのイカ男爵に連れてこられた訳じゃないんだね。」

 

「イカ男爵?」

「ここはイカマンの変異種、イカ男爵の領地?というか子孫繁栄の為の異界だからさ。」

「すごい…異界を作るほどの力があるイカマンなんだ!」

「そう考えるとすごいやつに聞こえる。」

「でも酷いやつなのさ!女の子モンスターを捕まえて強制的に子作りしようとしているんだ!」

 

「それは…酷い!文句いってやります!」

「そ、それはダメだよ。美樹ちゃんも酷い事されちゃうよ?」

 

「酷い事?」

「それはな…なんというか」

「Hなことというか」

 

「…うん。文句言ってくる。」

「あああ!レオ君がソレさっきやったばかりなのに!」

 

 そうこう言っているうちに、彼女はイカ男爵の住む宮殿へとやってきた。

 

 

「たのもーー」

 大声を出せば出てくるものでもないが、先ほど侵入者があったので、すぐに出てきた。

 

「何者だ…」

「お座り!」

 

 イカ男爵は座った。

「な、何故だ!このすべての生命の頂点にいるようなこの俺が、こんな小娘の言う事を!?」

 

 魔王の魔物に対する絶対命令権は健在である。あの世界と同じシステムであれば、自由自在といった所だろうか。

 イブニクル世界でもきっと同じことが出来ただろう。

 

「いい?女の子に無理やり手を出しちゃダメ!ちゃんと口説かないとダメだからね!」

「…は……ハイ。」

 

 このイカ男爵は終わったかもしれない。

 

「ふう、いい仕事した。

 じゃ、命令だからね!」

 

 それだけ言って帰って行った。

 

 だが考えてほしい。コレが別の魔王だった場合、イカ男爵はだいたいの確率で死んでいる気がするのだが…いや、生存率高いか。

 

 そもそも魔王が来ないので、栓なき予想だが。

 ①無視 ②無視 ③お説教 ④無視 ⑤虐める ⑥死もある

 

 なんだ、魔王ガイ以外生存率高いじゃないか。

 

 こうして、主人公気絶中のまま事態は終ったかもしれない。

 この世界には用は無いとして別の世界に飛ぶ。

 

 

 次の世界こそは、自分の世界でありますように。と、願いをかけ、付いた先が…

 

 

 

 恐竜が居た。

 いっぱい恐竜が居り、即座に襲い掛かってくる。

 

「キャー――――」

 

 突然の攻撃にビックリして大きなクレーターを作り出した。

 

 そんな事しなくても無敵結界でダメージは無いのだが、いきなり大きな口で噛みに来たら、そりゃあ驚くというものだ。

 

 だから、この大きなクレーターはしょうがなかったのだ。

 

「絶対に違う。違うとこ!」

 

 

 

 次の世界は、暗かった。

 闇が多いと最初は思った。

 

「ん~」

 

 目を凝らせば、夜で、夜空が見えた。地面は黒いのは月が出ていないからかと思ったが…

 地面が波打つ。

 

 黒い何かが蠢いている。

 

 黒い波が襲い掛かって来た。

 

 とっさに飛び上がると、いったい何事かと冷静に観察する。

 

「何か小さいものが?集まって?」

 

 手を伸ばして黒い本流の一部を掴んだ。

 

 そしてソレをまじまじと見て…見てしまった。

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 またクレーターが出来る。

 さっきよりデカい穴が空いた。

 

 

 ついでに手に持った奴も消えちゃえボムで吹き飛ばした。

 

「き、き、き…」

「きゃーーーーーーーーーーーーー、きゃーーーーーーーーーーーーー、きゃーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

「ご、ゴキブリ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

 地面を埋め尽くすほどのゴキブリの群れだったのだ。

 

 彼女は服についていないかを、かなり上空で入念にチェックした後、ゲートコネクトを使用。

 この世界から逃げ出した。

 

 転移先は適当に選んだ。

 

 

 

「はあはあ、酷い目にあった…気がする。」

 

 少し休みたい気分だった。

 気を取り直して、今到着した世界を見る。

 

 見回すと街中で…普通の世界だ。ほっとした。

(あれ?もしかして、故郷の世界に着いた!?)

 

 そう勘違いする程に、その世界は発展していた。

 

 

「……いや、この世界も違うかぁ。」

 

 発展していたが…発展しすぎていた。

 

 空にかかる大きな橋。宇宙船のような飛行船のようなものが空をいくつも駆っている。

 

 そして民主主義な国らしく、選挙ポスター?アイドルの選挙?なのかどうなのかというポスターが一面に貼られていた。

 

「読みにくい。

 あ、この子可愛いな。えーと、レーティア・アドルフ候補?ふうん。」

 

 興味を惹くものはあったが、感想は一つ。

 

「ここも違う。

 とりあえず、疲れた。

 どっかで休もう…」

 

 主にゴキブリの世界で気疲れした模様。

 

 

 

 場所を移して、公園で休んでいると…

「清き一票おねがいします!

 是非レーティア・アドルフに、清き一票を!」

 

 選挙活動をしている人が多く、公園でも休めなかった。

 

(うるさくて、うつらうつらもできない。)

 

 

 そうこうしていると、暴走車が公園に入ってくる。

 

 公園で活動している人や一般人が被害にあっている中…小さな赤ん坊の入ったベビーカーを轢きそうになる。

 

 彼女は咄嗟にベビーカーを庇うと暴走車を跳ね飛ばした。

 

「ほっ」

 ほっとしたのもつかの間

 

「すごい!」

「なんて子だ!」

「赤ちゃんの為に身を挺して庇うなんて!」

 

「え?えっ?」

 肝心の、暴走車を跳ね飛ばすところは見ていなかった模様。

 

 

 その後、すぐさま警察がやってきて暴走車は検挙。

 新聞社がやってきてニュースにしていった。

 

「もう休めるなら、牢屋の中でも良いです。」

「それはいけない、任せてくれ」

 

 休みたくてそう告げたのに、その警官は伝手を使っていつのまにかホテルの一室で休むことに。

 結構お高いスイートルームのようで、その日彼女はぐっすりと休んだ。

 

 

 次の日もヒーローインタビューのようにマスコミに揉まれた。

 

 次の日も…次の日も…

 

 ・・・

 

 一週間後、なぜか立候補している事になった。

 

「なぜ……」

 

 ファンシズムなるものが隆盛し、見た目で国家元首を決めるというアホらしい選挙戦を開始。

 

 

 

 

 

 そして一か月後、なぜか国家元首に祭り上げられている彼女が居た。

 

「どうして…こうなった…」

 

 

===============================================

LP5年3月 ランスJAPAN到着

LP5年3月 ランス毒殺(だんご)されかける。

LP5年4月 原家滅亡

 




異世界探訪はアリスソフト内で完結したい。
間違っても冬木とか天文台とかに行ったら収拾つかなくなると思われ。


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18 美樹の異世界探訪2








 こんにちは。

 気が付いたら、なぜかドクツ第三帝国の総統になっていました。

 

 アイドル感覚なので、実務は別の人でしょう。

 とりあえず、次点の人気だった人を副総統にして、あっちに行ったり、こっちに行ったりと、ご挨拶して回っています。

 

「この件を実施したいのだが」

「はーい。許可するよぉ」

 

 副総統のレーティアさんが出す案は、全部良さげなので全部許可して通しています。

 

 よーし頑張るぞー。

 

 

 それで、こないだ宇宙戦艦に乗ったんですよ。

 宇宙すごい。

 

 宇宙ヤバイ。

 

 

 なんか、軌道上で反乱軍?テロリストに遭って、巡洋艦のレーザーが当たったんですけど、この世界でも魔王最強だね!

 効かなかったよ!!

 

 でもレーティアさんとか他の方々はドン引きしてました。

 

「いや、生身で巡洋艦の主砲が効かないとか…ありえんだろ。生物なのか?」

 

 こんな風に言われちゃいました。

 

 それで売り言葉に買い言葉、戦艦の主砲を受けてみたんです。

 

 そしてらやっぱ宇宙ヤバイ。

 無敵結界破れた。

 

 張りなおしたんだけど、無敵結界が破れるなんて聞いてない。怖かった。

 HPが半分くらい吹き飛んだ

 

(※Lv1023の美樹なのでHPは25億想定)

 

 Lv上げてなかったら即死だったかもしれない。

 

「怖かった。死ぬかと思った。」

「いや、直撃受けたら普通死ぬし。死ぬし。」

 

 これではいかんと、戦艦主砲と打ち合いしたり訓練を開始。

 

 打ち負けても大丈夫な様に魔法バリアを展開。シャシャシャシャキーン。

 4枚あれば大丈夫だろう!

 

 

 あ、ダメでした。HPが2割飛んでった。(※HP5億相当)

 

 もっともっと制御して、絞り込んで収束しないと!

 

 

 6カ月後

 

 ついに戦艦に打ち勝つことができるようになりました。

 主砲を受けても、魔法バリア128枚あれば十分に余裕ができて、

 新必殺技「収束消えちゃえボム砲」で主砲に勝てるようになった。

 

 がんばった!

 

「やったよ!私、戦艦に勝てるようになった!」

「……お前は、何と戦っているんだ?」

 

 そうやって頑張っていたら、なんか宇宙大怪獣というのが出現して、私の星達を攻撃し始めたの!

 

 思わず出撃して攻撃したんだけど、大怪獣らしくダメージが…いや効いてるけどHPが多すぎて減らない。

 

 反撃を食らった時、魔法バリア128枚吹き飛んだ。

 衝撃で吹き飛んだおかげで、なんとか無敵結界までは壊れなかったけど恐ろしかった。

 

 こうなったら!

 

 

 

 

 

 

 大怪獣が崩れる。

 自重を支えきれなくなって死んでいったのだ。

 

 長かった。チクチク殴って撃って頑張った。

 

 一番効果のあった攻撃は、「美樹ちゃんアタック」だったね!

 

 なんか手に魔王エネルギーを収束させて、一本の剣にするの。

 

 そして突撃して相手の体内で消えちゃえボムを連発するというのが一番効果ある攻撃だったな。

 

 勿論、宇宙艦隊も戦ってくれたんだけどね!

 

「私、勝ったよ!」

「なぜ、生身で戦おうとするのか。」

 

 

 なんか、私が戦ってるシーンを撮影して…アトレコで声をあてて、今日も頑張って戦ったとか、

 大打撃を与えたとかと編集。

 

 「美樹総統 VS 宇宙大怪獣」 という映画ができたよ!

 

 結構長い期間戦ってたので、すごい時間が経っちゃった。

 一年半くらいは戦ってたらしい。

 

 

 

 あー健太郎くん成分が足らない。恋しい。

 健太郎くーーーん

 

 

 ……あれ?

 

 あーーーーーーーーー

 

 私達の世界探してたんだった。忘れてた。

 

 

「私、普通の女の子になります!」

 よし、引退表明っと。

 

「…大怪獣を倒せるのに、普通の…ぷっ…」

 笑われた。

 

 結構時間たっちゃったなぁ。

 大丈夫かな。あの世界もどうなったかなぁ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

LP7年10月

 

 その後29回のゲートコネクト使用後に、異世界3E2…彼女の異世界へ到着した。

 

 一瞬だけ喜んだが、彼女は、まず健太郎くんの所へ赴いた。

 

 あれからまた4年は経ってしまった。忘れられていなければいいのだけど。と心配しつつ、でも4年は長い。

 愛想を尽かされていても文句は言えないだろう。

 

(そんなことない!)

 慌てて自分で否定した。

 覚悟を決めて小川家を訪問した。

 

 訪れると

「貴女を追って、何処かに行ったよ。」

 

 小川家の人には冷たくそう言われた。

 そうなのだ。健太郎が美樹を探しに行かない等という選択肢は無い。

 だから彼女が失踪したと言うのなら、その時から彼もまた同時期に失踪したのだ。

 

 トータルで8年。

 もう社会復帰も難しいし、もう居ないものとして見ているようだ。

 この世界も居場所は無いようだ。

 帰ってきたら、居場所を作る所から始めるのだろうなと落胆し、帰って行った。

 

 正直自宅に立ち寄れない。

 遠くから眺めたが、やはり行く勇気が湧かなかった。

 

 彼、健太郎くんは何処へ向かったのだろうか。

 

 自然と足が向いたのは壊れた異界の門。

 前に使った異界の門は壊れていた。

 

 強引に動かすと粉々になってしまった。

 だが、座標は分かった。

 

 

 いきなり探しには行くまい。

 用事がある。

 召喚されたあの世界へ、再び舞い戻った。

 

 

 

 

 

「なにこれ」

 

 例の城塞都市に着いたが、思いっきり廃墟となっていた。

 魔力を探ると、例の5%魔王幼女は別の処に居るらしい。

 

 

 走って幼女の住処へと移動した。

 

 そこは大きな城だった。

 小国の首都。その居城である。

 

 迷わず入っていくと、門番に止められる。

 

「えーとジルさんに会いに来たんだけど?」

「魔王様を呼び捨てとは不敬な!」

 

 彼女は、なんか捕まった。

 抵抗しても良かったが、大人しく捕まりつつ魔力を全開にしてみる。

 

 捕らえている方が気分悪くしつつ連行していると、例の幼女が歩いてきた。

 相変わらず全裸だが、前に見た時より少し育っていた。胸も少し…

 

 だいたいJCくらいの身長と恰好だろうか。 

 

「……趣味?…」

 

 いきなり失礼な事を言われたので拗ねた様に答えた。

 

「別に、ここの人たちを傷つけたくなかったから大人しく捕まっただけだけど?」

「……ふうん。」

 

「あ、とえりあえず故郷見つけたよ!」

「そう………よかったな。」

 

「それより育った!?魔王って育つの?」

「不老………というだけ……成長しないとは………言ってない。」

 

「そ、そうかぁ。いいなぁ」

「??」

 

「じゃあ、帰国事業を開始しよう!」

「あの、魔王様……。こやつは?」

 

「ふっ……お前らの…世界の………魔王だ。

 ……帰り方を探していたのに………

 捕らえるとは……酷い奴らだ。」

「な、なんと!!失礼いたしました。」

 

 ずさーという効果音が幻視するようなほど鮮やかに土下座した。

 

「あ、あはは大丈夫だよ。」

「帰国事業か…折角大陸半分……手中に入れたのに。

 …………また手駒が…減るか。」

 

「うあー、征服してる。

 そういえば、教国ってどうなったの?」

「滅んだ」

 

「あ、うん。そっかぁ~」

 このJC魔王なら簡単だった事だろう。

 

 

「という事で、元の世界に帰すよー」

「………わかった。」

 

 

 こうして帰国事業が開始されたが…

 

「え、今更社会復帰できないよ。領主になってるのに地位が下がるとかありえない。」

「折角奴隷ハーレム作ったんだ。俺は帰らないぞ。」

「商売が軌道に乗ったんだが。」

「帰ったら、人を斬り殺せないだろう?戦争が俺を待ってるんだ。」

「ジル様ばんざーい!」

 

 

 帰るのはかなり少数であった。

「もう何年も…溶け込み過ぎちゃったんだね。」

「……残念だったな。」

 残念そうでない顔でJC魔王は答えた。

 

「所で、その椅子は?」

「…良い所に目を付けた。

 こいつは………勇者だ……」

 

「ええっ!」

「……いろいろあった………」

 

「ふわあ………」

「やはり…純粋な……子なら……裏切らない……だろう。」

 

 ややあって、ジルはこの世界を征服する事を目標にし、美樹は健太郎くんを追う事を目的とした意見を取り交わす。

 

「また、遊びに来るからね!」

「……魔王と、対等な者……は、少ない。

 いいだろう………また、来い。」

 

「うん、またね!!」

 なんとなく丸くなったジル様であった。

 

 こうして、美樹はあの世界へと飛んだ訳だが、JC魔王ジルの現地人牧場は見ていなかった。

 見ていたら、別の意見もあっただろうが。

 

 

(あの魔王。また強くなっていたな。天然は怖いな。)

 

 

 こうしてこの世界は、JC魔王に征服されていく事となる。

 残念この世界はBAD ENDだ。

 

 

 

LP8年1月

 

 美樹は、あの世界。ルドラサウム大陸へ到着した。

 

「さて、健太郎くんは何処かな?」

 

 

 花が一輪咲いていた。

「ん?」

 

 花が喋りだす。

『世界の変革をお知らせします。』

 

「わあ、お花がしゃべった!!」

 

『新しい魔王が誕生しました』

『まだ正月早々ですが、

 LP歴は8年で終了となります』

『来年からKL1年となります。

 お間違えなきように』

 

 そうして、その花はつぼみへと戻っていった。

 

「???魔王?ここに居るのに?

 どういうこと?」

 

 

 

 

 

 




実は、ここまでが序章だったつもり。想定より長くなってしまった。

あと題名変える予定ですが題名決まってないデス。


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一章 魔王美樹が世界を徘徊する件
19 魔王ケイブリスとのげきとう


戦闘のBGMは決戦で!


◇人類死滅率36%

 

 見渡せば、どこもかしこも魔物だらけ。

 健太郎くんを求めてあっち行き、こっち行き。

 

 魔物はもう、リトルプリンセスを追て居ないようで、魔物が現れても普通に襲ってくるだけだった。

 

 魔物をしばいて命令し、着いた先がケイブリスの本拠地だった。

 とりあえずケイブリスをしばいて倒せばいいやと思って中に入る。

 

 何時もより格段に警備が薄い中、ずんずん進むと…倒れている人間がいた。

 健太郎くん?と、思ったが違うようだ。

 

「おや?」

 従者のコーラが訝し気にこちらを見ている。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 アリオスは燃え盛る呪いの火に炙られ、それでも死なずにいた。

 この炎は魔王の炎。魔王以外には解ける者はいない。

「まあ、勇者ですからね。死にはしませんが、助かりもしません。それに…」

 

「…」

 

 なんとかしようとして、美樹は呪いを止めた。

 火は止まった。

「ふう、これでいいかな?」

「……」

 

 残念ながら、神魔法は使えないので回復はできない。

 そして、動けない体を無理やり動かし、アリオスは起き上がる。

 

「わあ、動いたら辛いよ!?」

「なぜ、生きているかは知らない。

 だが、魔王は…

 斬る―!」

 

 エスクードソードを構えそして斬り付ける。

「わわっ!」

 

 動きが鈍いおかげか、剣を避けるのはできた。

 

「助けてもらったのに、助けた相手を斬り付けるとか流石ですね。」

 従者コーラは冷静に告げる。

 

「魔王は倒す…!」

「もう!」

 

 美樹からすれば、「せっかく助けたのにぷんすか!」レベルの怒り具合である。

 

 首筋がお留守になっていると見たアリオスは必殺の斬撃を美樹の首に叩き込む。

 

「何故だ…」

 

 無敵結界は突破した。だがなぜ止まるのかが理解できなかった。

 

「ただの、魔法シールドだよ。」

 

 魔法シールドが無くても手傷は負わせられないが、そこは美樹が慎重(謎)になっているからである。

 美樹の手刀が馬鹿でかい出力を伴ってアリオスを貫く。

 大振りの一撃を待っていたのだ。なお、此れはただの貫手である。

 勇者特性で急所には当たっていない。

 

「飛んでっちゃえ!」

 

 ただの衝撃波でもって、アリオスを吹き飛ばした。

 残ったのは、衝撃を受ける際に手放したエスクードソード。

 

「あーあ。飛んで行っちゃいましたね。やれやれ。」

「…」

 

 美樹が勇者の従者を睨め付けるでもなく、観察していた。

 

「なんですか?」

「貴方は何者?」

 

「それはこちらが聞きたいですね。死んだはずのリトルプリンセス。」

「……」

 

(え、どういうこと?)

 顔色は変えていないが、心の中でパニクっていた。

 

「……じゃあ、地獄から舞い戻ってきたのでしょう?」

「…はあ、まあそうですか。良かったですね、仇討てそうで。」

 

「…」

 そういって踵を返すが、頭の中ではクエスチョンマークで埋め尽くされていた。

 

 そうして城内を探していると、折れた日本刀が転がっていた。

 美樹には見覚えがあった。日光だ。

 

「日光さん!?じゃあ、健太郎くんは!?」

 

 戦闘というか攻撃の跡に、健太郎らしき残骸があった。

 魔血魂は抜き取られたのか、魔人ではない状態だったのだろう。

 

「け…けけ……けんた、たろ…ろうくん……」

 震える声でかの残骸を見下ろしている。

「けんたろうくん!けんたろうくん!けんたろうくん!けんたろうくん!けんたろうくん!」

 残骸にしがみ付き、絶叫ともいえる鳴き声を響かせた。

「う、うわーーーーーーーん、げん゛だろ゛う゛く゛ん゛。うわーーーん。」

 

――――――――――――

――――――――――

――――――――

―――――

―――

 

 

 どれくらい泣いたのか。

 泣き止み、呆然としていると日光が目の前に落ちている。

 

 ゆっくりと歩き出し、日光を手に持った。

 

「…日光さん。教えて。何があったの?」

「美樹さん。死んだと思ったのですが、生きていたのですね?」

 

「死んだって、何。」

「だって、ケイブリスに捕まって…」

 

「ケイブリス…」

「…」

 

「私、健太郎くんを探して、昨日やっと自分の世界からこっちに来たんだよ。」

「昨日?それはおかしい。

 ずっと一緒に居たじゃないですか。」

「???どういう事?」

「どういう?」

 

 状況のすり合わせをすると、一旦自分たちの世界に帰ったが、ヒラミレモンが無くなったので慌ててこちらの世界に来た。

 という事で、魔王化を止める方法を求めて旅をしていたらしい。

 

 それで、色々旅していたがケイブリスに捕まってここに来て…健太郎は殺されてしまったとの事だった。

 

 こちらの事は、帰る為に色々な世界を巡ってやっと帰って来たら、居なかったから探しに来た。

 という事を説明した。

 

「…そうなんだ。」

「そちらの美樹さんも大変だったのですね。」

 

「…とすると、私も居るのかな?」

「……」

 

「私の死体…になるのかな。」

「…」

 

 重い足取りで城内を巡る。

 すっかり誰も居ない城内では楽に探せた。

 その部屋は、酸っぱい匂いに混じって血と色々なものが混じった匂いがした。

 

「あぁ…私か。」

 

 きっと、健太郎くんを救いたくて。殺されてでも救いたくて、耐えて耐えて、そして息絶えたのだろう。

「……」

 

――よく頑張った。

 そう思ったが、それ以上に無残であり、惨めな死体だった。

 

 美樹は別の自分である死体を炎で燃やすと部屋を出る。

 

「ケーーーーーーイーーーーブーーーーーリーーーーーースーーーーー!!!!!」

 

 そう、未魔王ではない。既に覚醒済みの魔王なのだ。

 何を躊躇うものがあるものか。

 

 

 ケイブリスを探しに、城を飛び出した。

 

 

 ケイブリス探しの旅は、特に難航しなかった。

 魔物に命令すれば楽だった。

 

「ケイブリス何処にいるの?教えなさい。」

「は、はい!あっちです!」

 

 魔王の絶対命令権があれば楽だった。

 

 

 

 そして、奴。ケイブリスの居るであろう場所までやって来た。

 数千の魔物を引き連れて村を包囲している。

 

 

「さあさあさ! どしたオラァ!?

 逃げずに俺様と戦いやがれ!

 正々堂々とよぉぉぉお! くぁはぁはぁ!」

「にゃーはっはっはっは!

 さっすがケイブリス様はいいこと言うにゃん!」

「とても凛々しく格好いいお姿に

 ワンもうっとりですわん」

 

「ぐぁはぁはぁはぁはぁ!

 そうだろう!? オオ! そうだろ!?」

 

 何とも言えない巨体に人の上半身が生えている生物。

 魔王ケイブリスがそこに居た。

 

(なに、あいつは。)

 魔力を非展開モード。いつもの美樹状態で、何をしているのか物陰から見ている。

 

「くくくく……

 よーし、たまには魔王っぽいこともするかあ」

「おらっ!アホのサテラ!

 『俺の前に出てきやがれ!』

 今! すぐ! これは魔王様の命令だ!」

 

「絶対命令権……」

 

「くっうう……!」

 美樹も見覚えのある魔人、サテラが隠れ家から出てくる。

 魔王の絶対命令権に逆らえず出てきてしまったのだろう。

 

「おーおーおー、出て来たなぁぁ。

 くそたれホーネットに与する、

 負け犬のアホたれサテラちゃんよぉ」

「ま……魔王……ケイブリス……」

 

「げへへへへへへぇぇぇぇ……

 魔人ってのも惨めなもんだよなぁぁぁぁ?

 魔王の気まぐれな命令一つ逆らえねえ

 だぁがぁなぁぁぁぁぁ!

 俺様は自害しろなんて命じる気はねぇぜぇ!

 抵抗するなとも命じねえ!」

 

 それから、ケイブリスは聞くに堪えない罵詈雑言を飛ばし、カオスを持った人間を炙りだした。

 

「だーっ! いい加減にしろーーー!

 サテラも! そして世界中の女も!

 ぜーーーんぶ俺様のもの!

 貴様なんぞには!指一本触れさせんわーーーー!」

 

(なるほど、あの人間…緑のおじさんは…どっかで見た覚えが)

 JAPANで会っていないので、顔見知り度が低下していた。

 

「死ねやァァァァアアアアーーー!」

「テメェが死ねやぁぁぁああぁあああああ!!!」

 

 まるでヤクザの衝突だなぁと思っていた。

 観察していたら、今にも激突しそうだったのでランスの前に躍り出る。

 

「あ?」

「うん。ケイブリス?殺しに来たよ。」

 

「あああ?なんだ!?

 てめえは殺したはず…どういう事だオラァァァァアアア!」

 

「地獄から舞い戻って来たよ。」

 

「うお、美樹ちゃん?え…え?生きてて、生きてた?え?」

 

 ランスは混乱している。ケイブリスも混乱している。

 

 美樹は力を開放し…魔王リトルプリンセス状態になる。

「……私と…健太郎くんの仇だ。死ね。」

 

「死にぞこないってかぁ!いいぜぇ

 何度でも殺してやらぁあああアアア!!!!

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------------

            戦闘準備

-----------------------------------------------------------------------------

 

魔王ケイブリス               魔王美樹

HP12000000           HP3100000000

■■■■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□□□□

 

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「あ、あれ?なんか桁ちがくないですか?」

 ケイブリスが大人しいモードで聞いてくる。

 

「がんばって鍛えた。」

「え、それにしては…え?」

 

「じゃ戦闘開始。」

「ちょ!」

 

シャシャシャシャシャシャシャシャシャキーン

 

「え?魔法シールド何枚あるの?」

「128枚」

 

 この為に鍛えたとでも言うべき防御である。

 宇宙戦艦の主砲を耐えようとした賜物であるが、ケイブリス相手は些か過剰である。

 

「…え?」

「魔王同士っぽいし、無敵結界が無いから仕方ない。」

 

「……え?」

 

 美樹は構えるとケイブリスに向かって魔法?を発射した。

 どんな魔法か!白いから白色破壊光線か!?などと考えているが…

 

「消えちゃえボム砲!」

 黒色破壊光線なんてメじゃない強力な光線がケイブリスを襲う。

 上部の右肩…もとい右手が消滅した

 当然だ。戦艦の主砲と同等以上なのだから。

 

「ぐがああああああ!」

 

「ほらほらほらほら!」

 追撃でスノーレーザー的なものをばらまく。

 

 今、この時ばかりは弾幕シューティングゲームになっているが、勿論制圧射撃な上に避ける隙間など与えていない。

 

「くそがぁああああ!」

 

「なんだ、この美樹ちゃんは!!」

「魔王覚醒状態だな!」

 ランスとカオスが見学しながら話していた。

 

「(ぐ…旗色が悪い…どうしたら…

 そうだ!)」

「おい!サテラ、協力してこいつと戦え!!」

「!!!」

 

「なっ!!私にリトルプリンセス様と戦えと言うのか…!!ああああああ!」

 体が勝手に戦闘態勢に移行していく。

「止まれ!命令解除!」

 

 美樹がそう叫ぶとサテラの戦闘態勢は解除される。

「な!絶対命令権もか!!」

「ほらほら、私は止まれと叫ぶだけで終わるぞ、どーすんの?」

 

 ケイブリスが滅多打ちにされていく。

「ぐおおおおお、なんで、なんで同じ魔王なのにこんだけ違う!」

 

 アフターに出たか出ないかの違いかもしれないが、要するに適正者ではないという事もあるのだろう。

 

「種族的に…魔王に向いていないんじゃ?」

「ぐ、ぐおおおおおお!!!

 そんな事あるかああァァァァアアア!!!

 俺は!誰よりも!誰よりも努力して、最強になったぁあああああ!

 それが!ひょろひょろでなえなえのガキに負けるかぁあァアアアアアア!!」

 

「残念、負けるんだよ!!

 じゃあね!しねええええええええええええええええええ!」

 

 美樹ちゃんアタック…宇宙大怪獣相手に放つ、魔力を手刀に固めての突撃。

 魔法シールドも無いケイブリスの胸を易々と切り裂く。

 

「ぐはぁああああああ」

 

 美樹はケイブリスの心臓を貫いた。

 そして…

 

「消えちゃえええええええええええええええええええ!!!」

 

 体の中から放たれる消えちゃえボムでケイブリスを粉々に吹き飛ばした。

 

 余波でランスやサテラ達も吹き飛んでいく。

 

「にゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!ケイブリスさまがしんだにゃん!」

「あああ、ケイブリス様が吹き飛んだワン!」

 

 

 

 彼女。美樹の仇討ちは完了した。

 

「………」

 しばらく立ち尽くしていた。

 

 

「お、おぃ…魔王と魔王が戦って、強い方が残ったぞ?」

「馬鹿剣が気付かれてしまうではないか!」

 

「呆然としている今がチャンスだろう!やれ!

 そして俺を突き立てろ!そして俺を魔王の血で満足させろ!」

「やかましい!とりあえず、あの美樹ちゃんは危険だ。

 どうしようもないから逃げる!

 戦略的撤退だ!」

「ら、ランス様!」

 

 ランス一行は逃げていった。

 だが、その場にはサテラが残った。

 

「リトルプリンセス様…」

「…その名前は嫌い。」

「あ、はい。美樹様」

 

 訂正すると、ちゃんと訂正された。

 サテラにとっては念願通りのリトルプリンセスではある。

 だが、どうにも違和感を感じずにはいられなかった。

 

「そうか…ここは、私の健太郎くんが居る所じゃなかったんだ。

 たぶんきっとそうだ、探さなきゃ。」

「あ、美樹様!」

 

 ふらふらと、移動を始める。

 宛など無いだろう。

 

 魔王ケイブリスは倒れた。

 だが魔王は残っている。

 

 これがどうなるか、誰にも分らなかった。

 

------------------------------

ランス城

 

アコンカの花が咲いていた。

 

『世界の変革をお知らせします。

 

 新しい魔王が誕生しました

 

 KL歴は開始早々ですが終了となります。

 

 来年からLP9年となります。

 

 お間違えなきように』

 

 

 

 

===============================

美樹の魔王血量190%

 

 




ゲージはふざけすぎでしょうか。


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20 健太郎くんを探して

◇人類死滅率54%

 

 

 

 ふらふらと特に魔物に指示を出すでも無く、前であり新しい魔王は徘徊していた。

 

 現状、第7代と第9代目の魔王兼任という良く解らない状態の魔王だった。

 LP歴は継続された。

 

 先程新しい勇者が現れ、刹那モードがどうとか騒いでいたが瞬殺…いや勇者なので生き延びたが、楽勝だった。

 

「魔法シールドが77枚破られたのは想定外だったかな。もっと枚数増やそう。」

 

 それでも魔王ケイブリスよりか、確実に強かったようだ。

 おそらく、人類死滅率80%を越えなければ倒せないのではと思わされた。

 

 魔軍放置。各地で暴虐と殺戮が吹き荒れている。

 統率するものの居ないソレらを辛うじて人類の少数精鋭が支えている様な状況だ。

 

 滑稽にも、ここ1年健太郎くんを求めて探し回っているが、見つからない。

 当然だ。ケイブリスの居城で死んだのだし、魔血魂も無かったのだから。

 

 この世界にも、元の世界にも何処にも居はしないのだ。

 

 LP9年1月。

 美樹は賢者であり、前に戻り方を教えてもらったホ・ラガの事を思い出し、その住居まで来ていた。

 

「ほう、覚醒した魔王がやってくるとは、どうやらここまでか。」

 自分の生死すら興味が無いのか、生に枯れた老人は美樹を家に招き入れた。

 

「健太郎くんは何処?」

「死んだ。」

 

 美樹の問いに対し、簡潔にホ・ラガは答えた。

 

「嘘…健太郎くんは何処にいるの?」

「すでに魂も回収され、原型も無い。どこかに転生しているかは魂管理局でしか分からぬよ。」

 

「……『私の』、健太郎くんは何処にいるの?」

「……君のは居ない。」

 

「嘘!!!!嘘よ!!何処なの!!!」

「……」

 

 ホ・ラガに縋りつく。顔は既に泣き顔で、顔はくしゃくしゃである。

 

「お願い…教えてよ……健太郎くん…どこ…」

「…」

 

 暫くそのまま、泣いていた。呻いていた。

 

 

 

 一日もした頃、泣き止んでいた彼女はそっとホ・ラガから離れた。

「気は済んだかね。」

「……どうにか、しなさい。」

 

 気など晴れる事は無い。

 悲しみが去れば、その次は怒りだ。

 

 今、彼女にとって人類も何もかもどうでもいい話なのだ。

 健太郎以外の全てがどうでも良い事という感じだった。

 

「…ふむ…」

 殺意を含んだ気配を感じ取った老人は、このまま殺されても良いかと思い始めては居たが、どうにかできる方法は二つあった。

「一つだけ…」

 

 そう言いかけた途端、胸ぐらを掴まれていた。

「……一つだけ方法がある。」

「何、どうすればいいの!?」

 

 物凄い食いつきだ。

(なるほど、此れが藁にも縋る想いという奴か。)

 と、ホ・ラガは納得した。

 

「聖女の子モンスターに、時間を操るものが居る。」

「うんうん」

 

「ゲートコネクトした異界の門。その行先について時間操作してもらうといい。」

「時間操作して…」

 

「過去の異界へまずジャンプする。そして、そこから過去の、この世界に戻ってくる。」

「…健太郎くんが、死ぬ前に、ジャンプしろって事ね。」

 

「その通りだ…」

「…分かったわ。それで、その聖女の子モンスターの名前は?」

「セラクロラス」

 

「せ、セクロス?」

「…セラクロラスだ。」

 ラを抜くと、そうなる。意図的だろうか?(ちょ

 

「セラクロラスね。分かった…」

「せいぜい機嫌を損ねないようにな。」

 

「今どこに?」

「さあ。それは分からない。」

 

「…わかったわ。ありがとう。」

「うむ。」

 

 美樹はそう言うと、ホ・ラガと別れセラクロラス探しに向かう事となった。

 セラクロラスは二次で大人気である。

 

 

 一人で探し回る事一ヶ月。見つからないのに業を煮やす。

「…そうだ!魔物を使いましょう!」

 

 絶対命令権をここぞとばかりに発動する。

 本拠地はリーザス城跡地とした。

 

「聖女の子モンスターのセラクロラスを探しなさい!

 いい、絶対に捕らえたり、攻撃したり無茶しちゃだめだからね!

 したら殺すわよ!」

 

 非常に神経質になって命令を下していた。

 世界は暴虐よりも、セラクロラス探しに傾倒する事となる。

 

 人類への攻撃が止み、こころなしか持ち直す。

 魔物もセラクロラスを探すが、早々見つかるわけもない。

 当然だ、ランスのパーティに居るのだから。

 

 やっとの思いで魔物が見つけても、その端から狩られるのだから仕方ない。

 

 

 美樹に報告が行ったのは、それから半年後の事だった。

「ランス…?誰?カオスの持ち主?ふうん。」

 

 彼女の記憶ではリーザス城でスカートめくりした人というだけなので、記憶には一切残っていない。

 

「よし、その辺の奴ら全員来なさい。逃がさないように包囲するのよ!」

 

 一声かけて本拠地となる村を包囲した。

 美樹の感覚では魔物1000匹くらいでの包囲を考えていたが、

 何をとち狂ったのか、50万の軍勢で包囲していた。

 

 

「ランス!…もの凄い魔物の軍勢で、わんわんの抜け出る隙間も無いわ」

 生き残っていた忍者、見当かなみが偵察から帰って来た。

 

「ら、ランス様…どうしましょう」

「くっ…」

 ヤバいなぁ~と、どうにか逃げる算段を考えている。

 流石にコミケ総動員数並みの包囲では隙があっても抜けれるモノではない。

 

「こりゃあ、敵もなんか知らんが本気って奴だなぁ」

「暴れすぎたって事か?」

 

 話していると魔軍に変化が現れる。

 

 圧倒的な魔力。

 圧倒的な威圧感が近づいてくる。

 魔軍が左右に割れ、ゆっくりと奥から黒い闇のような球体が現れた。

 

 ランス達の前に現れたのは、魔王ケイブリスを軽く蹴散らした魔王リトルプリンセスだ。

 その本気モードの彼女だ。

 

 ずんずんと、目的の村に入る。

 魔物は村を囲うだけで、入ってきていない。単身だ。

 

「美樹様。」

 

 サテラはランスの所に何故か…いや普通に居た。

 魔軍がいきなり集まったので、なし崩しに隠れているが、別に敵対しているわけではない。

 無いはずだった。

 

「美樹ちゃんか。」

「思いっきり覚醒しとるのぉ」

 

 カオスが様子をみるなり断言する。前にケイブリスとの戦いを見るに覚醒している様にしか見えないだろう。

 

 アジトに隠れ、様子を見ていると

 

「……こんにちはーー!

 えーとランスさんいらっしゃいますかー?」

 

 威圧感と魔力はそのままで、少し天然の入った声を張り上げた。

 完全に楽天的な声にはならない。健太郎が居ない状況で彼女自身も追い込まれているのだから。

 とはいえセラクロラスに頼みごとをする関係上、敵対の意思のないような声掛けをしている。

 勿論、大軍勢で包囲しているのが物凄い圧迫感になっているとか、自分の魔力が相手に威圧感を与えているなど、想像もしていない。

 

「……名指しで呼んできているな。」

「どうする?心の友よ。」

 

「(どうするかなぁー)」

 最早やり過ごす事は不可能。ならば単騎で出張っている魔王を倒し、魔軍を撤退させれば…と、不可能事を可能であると信じて考えていた。

 

「またケイブリスの時みたいに命令されると、出ざるを得ないけど。」

 サテラは何のために魔軍が動いているか不明だったため、ランスと一緒に行動していた。

 

 しばらく、じーーーと待っていると…ふとランスと目が合う。

 

「う…」

「どうした?心の友。」

 

「目が合った。…見つかった。」

「そりゃあ…お前さん。やるしかないって事か。」

 

「くっ仕方ない。いくぞ!!!」

「ら、ランス様!」

 

 ランスが表に出ると、ゾロゾロと生き残りの討伐軍が現れる。

 

「あ、やっときた。おーい。」

「…ああ?なんだ、気安いぞ?」

「何だろうのぅ」

 

 ランスが魔剣カオスを肩に、美樹の前までやってきた。

「それで、魔王さんがどういう用件だ?」

 みな、一様に『どう見ても殲滅しに来てるんだろ』と、思っている。

 

「あ、貴方がランスさんですね?」

「ああ?美樹ちゃんそりゃ何の冗談だ?」

 

「???ああ!!」

(そっかー、”私”が会ってるんだ。困ったなぁ。)

 

「御免なさい、別の私が会っていたみたいだけど、この私は会っていないので。」

「……魔王になったら別人って事か。」

 

「いえ、そういう意味ではないんだけど。」

「んーーー

 (さっぱり殺意も敵意も感じ無い。なんだ?

  はっ!そうか、俺に惚れてS〇Xしに来たのか!?)」

 

「えーとその節は私がご迷惑おかけしました。」

 ぺこりとお辞儀する。

 

「(いや、確かに…迷惑はかかったな。シィルも氷漬けになったし。)」

「なんか、魔王っぽくないですよ?ランス様」

 

「あーそうだな。

 それで、一体なんの用なんだ?こんな魔軍で包囲して。」

 

「包囲…あ、みんなにお願いして探してたので…それでみんなで来ちゃった。」

「なんというはた迷惑な…!」

 

「それでですね、セラクロラスさんってそちらにいらっしゃいますか?」

「あーおー?いるぞ。」

 

「会わせてください。お願いします。」

 美樹はぺこりと90度なお辞儀をする。

 

 

 COMPLEAT 実績解除 ★★★★★★『覚醒魔王にお辞儀をされる』 CP+1

 ぱーぱらららーん♪

 

 

「ん……いいぞ。おいガキンチョ!

 おい!」

「ぐー」

 

 寝ているセラクロラスを引き摺ってくる。

「…寝てる…」

「起きんか!」

 ランスはセラクロラスを引っぱたいて起こした。

 

「うわっ!」

 機嫌を損ねたくない美樹はハラハラした目で彼女を見ていた。

 そう思うなら、とりあえず魔力全開を辞めるべきではあるが。

 

「んーなんだよぉ」

 むくっと起きたセラクロラスはキョロキョロと周囲を見る。

「あー魔王美樹かー、またゲート操作?」

 

「???また?」

「こいつ、突然変なことを言う癖があってな。」

 

「はぁ…」

「それでーどうするのー?ここでやるのー?」

 

「出来るんですね!異界の門を操作する事が!!」

「出来るよー」

 

「ま!…待て!

 お前ら何をするつもりだ?」

 

「…」

 じっとランスを見据え、話すべきか考える。

 

「私に会っていたという事で、信じてお話ししますけど。

 私がここに来た時には、私と健太郎くんが死んでいたんです。」

「お、おう…(私と?てことは人間の心の美樹ちゃんが死んだって事か。)」

 

「それで、異界の門を操作して…過去に戻って、

 健太郎くんが死んでない時まで戻って、そして生き延びる未来にするんです。」

「…過去を変える!?」

「そんな事が…」

 

「だから、そこのセラクロラスさんにはゲート操作をしてもらうんです。」

「お友達だからいいよー」

 

「!!!

 ええ、お友達になりましょう!」

 美樹はお友達が一人増えた。

 

「過去に戻ってもよろしくね」

「はい!」

 

「ダメだ!」

「!?」

 

 ランスが突然拒否った。

「俺様の許可なく過去を変えるなど許さん。」

「…えっ?」

 

「ちょ、ランス様!?」

「何を考えてるんだよもう!相手は魔王なんだよ?」

 ランスパーティの面々が叫ぶようにランスに食って掛かる。

 

「俺も連れていけ!」

「はあああああああ!?」

 ランスの周りは混乱した。

 

「…え?」

 美樹は突然の申し出に驚きを隠せない。

 

「俺の女達がいっぱい死んだ。許せん。こんなのはやり直しだ。

 無効だ。ありえない。

 最初から無かったことにしてやる。」

 

「おいおい心の友よ、分からなくはないが大丈夫なのか?」

「がーーはっはっは!大丈夫だ。問題ない。」

 

「じゃあ、操作してもらっていいのよね?」

「いいぞ。」

「やるよー?」

 

 ランスとセラクロラスはそう答えた。

 

「残った奴らも、やり直しだ。行くぞ!」

「え、ええええええ!」

 

 と言っても、10数人しかいない。

 生き延びたのはこれだけなのだ。

 

「そう…行くのね。じゃあゲートコネクト!!」

 美樹はそう言って、影響のなさそうなポリポリワンに繋げる。

 

「じゃー過去に着くようにするよー」

 セラクロラスはそう言って、通過先の日時を変更する。

 

「行ってきます…またね!!」

 

 こうして彼らは過去へ飛んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

行くのは

・ランス(+カオス)

・シィル

・かなみ

・サテラ

・千(+深根、乱義、スシヌ、ザンス・置いてっても死ぬだけなので)

・ビスケッタ

・ナギ

・ピグ

 

 

居残りは

・ベゼルアイ

・セラクロラス

・ウェンリーナー

・ロッキー(暑苦しいから来るなと言われて)

 

 




これで過去改変突入。設定がかぶる?
そこは、申し訳ないとしかかかか…


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21 希望を求めて

ポリポリワン

 

 美樹達は過去のポリポリワンに来ていた。

 と言っても、何が変わるような世界ではない。

 

「そう言えば美樹ちゃんは、魔王に覚醒しているんだよな?」

「そだよー」

 移動した先でなんだが、魔王と言えば破壊衝動。いつも苦しんでいたしリトルプリンセス化しているのを一度見ているのだ。

 それが軽い感じで肯定されても、なにかお町さん(きつね)に化かされた感じがした。

 

「普通、こう…暴れたいとかそういうのは無いのか?」

「あーあの破壊衝動ね…なんかどうにかなった。」

 

「どうにかって。」

 とりあえず破壊衝動が無い事は喜ばしかった。

 なのでその件は解決したと見る事とした。

 

「それじゃあ、いつも通りの美樹ちゃんと考えていいわけだな。」

「実は、私は初対面みたいなものなので、いつも通りがわからないけど、だいたい同じかな?」

 

「ふうむ…じゃあ、取りあえず俺様といつもS〇Xしていたという事は憶えていないのか?」

「え?」

 いきなりなセリフで美樹は固まった。

「わわわ、ランス様!なんて事を言って!」

 

 いつも通りなランス。記憶喪失と見立てて適当な事を言ってみた。

「あっちの”私”って、健太郎くんを置いてそそそそそそ、そんな破廉恥な真似を!?」

「お?(やはり健太郎かーくそー面倒だな)

 おお、そうだぞ!滅茶苦茶やりまくってた」

 とりあえずテキトーな事を重ねて、美樹を騙していく。

 

「はーまあ、あっちの私がどうあれ、私は健太郎くんのほうが好きなので、そういう事は無いけど、そっかーそんな事があったのかー。」

 なお、美樹は信じた。

 信じた上拒否表明だった。

 

「(くっ、もうちょっとだったのにな。もう少し材料が無いとダメか。)」

 何処までも諦めないランスであった。

 

 当面の行動を考えると、お子様が多い事に気付く。

「とりあえず、非戦闘員は別の場所に退避してもらいましょうか。」

「別の場所?」

 美樹が、当面の移動先を考えているとシィルが移動先について尋ねる。

 

「良い感じに征服した世界があるんですよ。」

「ほう…」

 

 流石魔王、征服するんだな。とか、俺様よりも先に征服するなんてみたいな感想を思い浮かべる。

 

 さしあたって、2~3歳くらいのランスの子供たちは退避させなければならない。

 

 他の面子は戦闘員だ。お子様だがナギも戦える。

 前と違って復讐に燃えるというよりも、姉から云われた「生きて幸せを見つけろ」という遺言に従っている節がある。

 幸福は分からない。だがまずは生きることを先決と考えたのだ。

 

「じゃあ、まずはその異世界へゲートコネクト!」

 

 たどり着くと其処はジルの住む居城前。

「ぬおおお!魔王がいるぞ!」

「ああ、隣にいるな。」

 

 カオスがいきなり叫んだので、テキトーにランスが相槌を打つ。

 

「違う!別の魔王だ!」

「おお、凄い!分かっちゃうんだ~」

 美樹がそれにのっかっり、肯定した。

 

「ほう、この世界でも魔王か。なるほど」

「私の方が強いというのもあるけど、あっちこっち飛び回るので、お友達として寄らせてもらってるの。」

 

「魔王友…なんという交友関係だ。」

 ランスがあきれる様に云った。

 

「こんにちはー」

「お前は誰だ!」

「・・・あれえ?」

 何故か、面識が無い事になっていて、また大人しく捕まった。

 

「ぬあーー何故大人しく捕まらねばならんのだーーーー!」

 

 捕まった際に、同様に魔王パワー全開…にはせず半開にしていると、前回同様にジルが歩いてやってきた。

 

 JC魔王ジルさんである。

 

 

「……趣味?…」

 

 前と同じように訪ねてきた。

 どうも年月のズレが今一把握できていない美樹ではあり、まだ帰国事業はしていないようだが…

 

「あーーーーーーー魔王ジル!!!!!」

「………ラン…ス……!!」

 

「な、魔王ジルがこんな処に!?」とかなみ。

「え?えーーー!?」とシィル。

 

「なんじゃとーーーー!ジルだってぇええええええ!」

 カオスが布に包まれた中で叫ぶ。

 

「えっと、この人たちを傷つけたく無かったから捕まっただけだけど…あれ?知り合い?」

 

「美樹………こいつら、どういう事だ?」

「え?え?」

 

 さっぱり分からない美樹はとりあえず、落ち着くようにお願いした。

「とりあえず、お茶にしよう!」

 

「そんな事やってる場合か!魔王がここにおるんだぞ!」

 カオスがわめくが、

「いや、私も魔王なんだけど?」

 

「い、いやどちらかと言えば、お嬢ちゃんも斬りたいんだけどもね、儂。」

「カオスはいつも通り煩いのでとりあえず放っておこう。封印だ。」

 

「ちょ、おま!儂が居なかったら魔王に何もできんのだぞ!?」

「煩い!話しにならん。とりあえず話しだ話。」

 

「ほぅ…ランス……おまえは、あの空間で…蹴り飛ばした事を

 何とも思っていないと?」

 

 いつもより早口なジルに、美樹はわずかに驚きながら様子を見守る。

 

「あーうん。すまん。」

 いや、それじゃあ許されないだろうと、みんな心の中で思った。

 

「…うむ……いい………許す………」

 そしてこのセリフでランスと美樹以外は思った。

(なんだこのチョロさ。)

 

「お?え?許された?」

 同様にランスもソレだけじゃ許されないとは思っていたが、存外簡単に許されたので驚いた様だ。

「許す………変わりに……一つ、いう事を聞いてもらう………いいな?」

「お?モノによるがいいぞ。なんだったら抱いてやろうか!?

 がっはっはっはっはっは!」

 

「……うむ………話しが早いな……行くぞ……」

 そう言って、ランスを捕まえて引きずるように去っていった。

「え?えー?ら、ランス様!?」

 

 一体全体何がどうなったのか分からないが、みな突然な成り行きで固まっていた。

 

「あー…これどうしたらいいんですか?」

 捕まえていた兵士が呟いた。

 

「いや、ほんと如何したらいいんだろうね?」

 

 

 良く解らないが、ジルがランスと仲良くやっている様子から、

 今日の所は客人として泊める事となった。

 

 

 

 

 翌日

 

「がっはっはっはっはっは!」

「ふぅ…やはり推論どおり………ランスとヤレバ才能限界が上がる。」

 早くも検証が終わった様子のジルであった。

 

「それでね、ジルさん。

 ちょっと行くところがあるんだけど、その間ランスさんのお子さんを預かってほしいなって。」

 

「…………ランスの……………子供…………」

 そこで満足気だった表情がいきなりピシッと固まり。

 どういう事?というような目でランスを見た。

「うむ。まあ…なんというか、その……な?」

 思いっきり目が泳いでいるが、言い訳はしていないようだ。

 

「子供か……魔王だと……子供が作れない………事は無いが………

 とても希少…………。

 うむ、孕むまでやるぞ。」

 そう言って、またランスを引き摺って行きそうになる。

 

「ちょ、待て待て!

 ジルとやるのは良いが俺様にも、やる事があるのだ!」

「……よその女?………」

「う………ぐ………」

 えらいぞランス。否定しなかったな。

 

「と、ともかくだ!

 〇〇している最中に言った通り、過去に戻って俺様の女達を救うのだ!」

「……………」←別にどうだって良いと思っている

 

「あーなんだったらランスさん置いていきましょうか?」

「だーっ!俺様を置いていくなんてありえんぞ!」

 

「どうしても?…………私よりも………他の………女を

 ………また……………選ぶ?」

 

「う、ぐ………」

 一度蹴り飛ばしていたが、その時はイイ女だが別段どうでも良いと思っていたがいざ余裕があるときに、このような事を言われると少し揺れてしまった。

 

 とはいえ、自分が行くとは言えなかった。

 また、あの箱庭に戻るのは嫌だったのだ。

 

「………ふん。……すべて終わったら来るといい………」

 そう言ってそっぽを向いた。

 

 どうやら、お子様を置いていくのは大丈夫の様だった。

 

 

 

「よし、では行くぞ!」

 当然の様に仕切るが、この一行のリーダーは美樹なのである。

 その筈なのであるが。

 

「なんか私空気だった。」

 唖然としつつ、ゲートコネクトを使用する。

 

 そして、あの世界へ移動する。

 

 メンバーは

 美樹、ランス、シィル、かなみ、サテラ、ナギだった。

 千姫とピグはお子様たちとお留守番となった。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

◇人類死滅率26%

 

 

「ここは何年何月になるんだ?」

「えーと、LP7年12月18日ね。」

 周辺の聞き込みから帰って来た、かなみが答えた。

 

「!!!あっちから…健太郎くんの気配がする!」

 全然違う方向へ移動する。

「本当かー?」

 

 がさがさ…っと其処から飛び出て来たのは魔物だった。

「な、なんだ?」

 

 勿論、魔王の絶対命令権で質問を開始。普通に口を割る。

 

 

「ハァ!?ケイブリスが出張ってきているだって!?」

「どっち!?」

「あっちです。」

 

 美樹はみんなを置き去りにするスピードで飛んで移動した。

 

「あ、美樹ちゃん!!」

 

 

 

 

 飛んで行った先には魔人ケイブリスが、健太郎を握りしめ、未魔王な美樹を脅しつけて居たところだった。

 

「けんたろ、う、くん……おねが……ころさな、いで……おねがい……

 な、んでも、する……します……

 わたし、なら……なんでも言うこときく、

 から……おねが、い……おねがい、します……

 わたし……殺してもいいから……」

 

(ああ、私だ。健太郎くんが大好きな私だよ。うん。)

 

「くぁはぁはぁはぁ!

 良い子だぜぇ、リトルプリンセス!

 おい、うし車の中にぶちこめ!

 殺すのは城にもどってからだ!

 見張りもつけておけよ!」

 

「全員。お座り…」

 

 ケイブリスはお座りした。

 

「は?え?なんだ?」

 ケイブリス以外も。あのストロガノフもわん、にゃんも全員お座りした。

 

「健太郎くんから手を放して。ね?命令。」

「あ、はい…」

 

 ケイブリスが手を放すと、健太郎もお座り状態になった。

 色々ヤバい傷なので、お座りも大変な苦痛ではあるが。

 

 目が笑っていないが口の笑っている美樹が現れた。

「えっ?え?」

 顔がくしゃくしゃになって泣き顔状態の美樹が新しく現れた者…自分?に対して目をむいた。

 

「ケイブリース。良い子のリトルプリンセスちゃんだよ~」

 さっき、ケイブリスが良い子と言っていたので、アドリブで付け加える。

 

「え、…あ、はい。」

(ななな、なんだこの圧迫感。というか逆らえない命令感といいあれ?

 あっち偽物?え?もしかして俺様ピンチ!?)

 

「あ、健太郎くんもお座りしちゃってる。健太郎くんだけ命令解除ね。」

 そう言うと、崩れ落ちる健太郎。

「み、美樹ちゃん。」

 

(あー健太郎くんだ…傷いっぱい負ってるけど、健太郎くんだ。

 助かってよかった。) 

 

 美樹は安堵してケイブリスに向き直る。

 

「うん。自害しろとも、抵抗するなとも言わないよ。

 健太郎くんに手を出さなきゃどう抵抗しても良いよ。」

 

 改めて命令を下す。

 

「え、えーと。あの…ご、御免なさい!

 命狙って申し訳ありませんでした!!!!!」

 必死になって謝る。

 ダメだ魔王になんて敵うわけない。最悪な展開だーと焦りまくっていた。

 

「あーそういうの良いから。とりあえずししばくね。」

「たたたた、助けてください!許してください!!!!!!」

 

 美樹のファイヤーレーザーがケイブリスの腕を消し飛ばした。

 

「ぐがあああああああぁぁぁぁぁぁあああああ!」

「ほーら抵抗しなさいって。」

 

「け、ケイブリス様ぁあああ!」

 周りの魔物が叫びたてるが、前に来て盾になろうとする者は居なかった。

 

 当然だ。今の美樹は魔王190%+Lv1602の全開状態なのだから。

 

 魔王ケイブリスの時と違い、HPで言うなら50万~90万程度だ。

 

「ほらほらほらほら」

 ファイヤーレーザーだと消し飛ばすと思い、炎の矢…いや火の矢で攻撃を加ええていく。

 火の矢は炎の矢より弱く手加減するために美樹が適当に作ったものだった。

 勿論美樹が放てば、普通の魔法使いが放つファイヤーレーザーよりの威力がある。

 

 ズタボロのケイブリス。

 全く抵抗らしい抵抗すらできずに転がっていた。

 

「ふん。」

 衝撃派でトドメを刺すと、魔血魂を回収。初期化して取り込んだ。

 

「にゃーん、ケイブリス様が死んだにゃーーん!」

「わーん、ケイブリス様が死んだわーーん!」

 

 わんとにゃんは泣きながら逃げていった。

 

 他の魔物も逃げる中、ストロガノフだけがそこに呆然として立っている。

 

「どうしたの?逃げないの?」

「…………」

 すっと礼をするとそのまま歩いて立ち去って行った。

 

「(なんだったんだろう?)」

 ストロガノフは目標を見失ってしまったのだ。

 だが自殺する訳にもいかず、かといって復讐戦も意味が無い。

 ふと、頭の片隅に学者の顔がチラついたので、まずは話をしよう。と立ち去ったのだった。

 

 

「さて…」

 美樹は、未魔王な自分と傷だらけの健太郎くんへと向かった。

 

(あれ?…あれ?

 健太郎くんは無事だけど…『あの健太郎くんは、あっちの私の健太郎くんだ』

 あれ?)

 

 

 助けて気が付いた。

「『私の』健太郎くんは何処?」

 

 その呟きに誰も答える者はいなかった。

 

 



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22 魔王ぱわーでハッピーエンド。大団円!

 難しい事を考えるのは辞めた。

 目の前に元気な健太郎くんが居るのだから、生きている事を感謝しよう。

 

 そのようにして目を向けるが、明らかに致命傷な健太郎くん。

 

「(あれ?そういえば、なんで健太郎くんにも絶対命令権が効いてたんだろう。)」

 よくよく見れば健太郎くんは魔人になっていた。

 そんな気配がした。

 

 じーーーと、もう一人の美樹とボロボロの健太郎を見ていると、視線に気が付いた彼女が話しかけて来た。 

「あ、あの…えっと…

 た、助けてくれてありがとう?」

 

「こんにちは、覚醒していない私。」

「え、えっと、覚醒しちゃってる魔王な私ーなのかな?あはは。」

 

 魔力で編んだ黒マント着用をしているし、一度半覚醒しているのでなんとなく覚醒しているのは分かっていた。

 

「こっちの健太郎くんは、なんで魔人になっているの?」

「あーえっと…死にかけて、死んじゃいやだったから、えいって…こうなっちゃった」

 

 なんとなくのニュアンスだけで通じるのは本人同士だからだろうか。

 

「ふうん…」

「えーと、覚醒した私は何処から来たのかな?」

 

「うん。まず異世界に召喚されてね・・・」

 

 覚醒美樹は今までの経緯をかいつまんでっ説明した。

 

「そう…」

「うん。それで『私の』健太郎くんを探しているんだけど……」

「そ、そうなんだ。」

 

「……貰っちゃダメ?」

「ダメ!!!」

 

「だよねぇ~あはは。」

 

 力で持っていこうとすればやれただろう。今覚醒されたとしても勝つ自信はあったが流石に自分相手にソレは無かった。

 

「私、……魔王覚醒しちゃったから、貴女のソレ回収しようか?」

「えっ!?

 だ、大丈夫なの?」

 

「異世界でね、なんか破壊衝動が消えちゃったので、別にいいかなーって」

「なるほど…確かにそれなら別に良いかも。」

 

「でも、今貰うと…空腹と衰弱で死んじゃいそうだね。」

「う…」

 

 

「一旦、どっかで休もう。健太郎くんもボロボロだし、今人間に戻されても困るでしょう?」

「え?それって…」

 

「魔王をやめて、元の世界に戻る。

 それが私たちの望みだったよね?」

 

「あ……うん。」

「私はまだ健太郎くんが見つかってないから、また旅を続けるね?」

 

「……わかった。がんばって!」

「うんがんばる!」

 

 そう言って握手すると、自分同士の握手というのはなんか複雑だなと感じた。

 

 

 しばらく、どうにか健太郎を移動させるために、平べったい岩の上に乗せ、それを抱えて持ち運ぶことにした。

 

 移動していると…

 

「こらーーーーーーー!

 勝手に行動するんじゃなーーーーい!」

 ランス達がやってきた。

 

「あ、ごめんなさい。」

「あ、ランスさんたちだ?」

 

 お互いに見合わせる。

「顔見知りなの?」

「なんで一緒に行動しているの?」

 

 お互いの質問がぶつかるが、

「おお!美樹ちゃんが増えとる!」

「過去の、美樹ちゃん?」

 

 これで、人類社会の損耗は激しくとも致命的ではない状況であると判断できた。

 

「よーし凱旋だ!ランス城に帰るぞ!」

 自分も二人いる事には気づいていないランスが意気揚々と引き上げていく。

 

「あー、じゃあランス城にお世話になるのかな?」

「そうみたい」

 

 そんなコンナでランスが城に引き上げると。

 

 

「コラーーー!俺様の偽物め!成敗してくれる!!」

「なんだと上等だ!お前こそ成敗してやる。」

 

「「死ねぇえええええええ!」」

 

 お互いカオスで斬り合う。

 

「おお!」「おおおお!儂か!?」「おお儂だ儂だ!」

 斬り合った瞬間分かり合ったカオスであった。

 

「ランス様!違います本物ですよ本物!」

「なんだと!?」

 

「ぐ、シィルまで偽物とは…手が込んでいる上に趣味が悪いぞ!」

「馬鹿を言うな!本物に決まっとろうが偽物が!」

 

 本人なので同じ実力であるが、1年程年季が違うために転移ランスが押していた。

 

「とりあえずどーん!」

 

 覚醒美樹が軽く衝撃波で二人とも吹き飛ばす。

「「ぐああああーーー」」

 ごろごろっと転がって城壁で止まる。

 

「美樹ちゃん…」

「おい!心の友。この感じ、魔王に覚醒してやがる!」

 

「なんだと!?」

「いやいや、覚醒してるけどね。」

 

「くっ、ヒラミレモンの在庫はあるか?」

「はい、こちらに。」

 すっとビスケッタさんが現れて過去ランスに渡す。

 

「おお、何時にも増して準備が良い。」

「いや、未覚醒に戻るつもりはないからね?」

 

「やかましい!大人しい美樹ちゃんにもどすぞ!」

「えー斬り付けた方が良くないか?魔王だぞ?殺そう!」

 過去カオスが斬ることをランスに進める。

 

「うーん、その件には完全に同意なのだが、現状を鑑みるに止めといたほうが良いなぁ」

 未来カオスがそのように言い、カオス同士で意見交換を始めた。

 

「そもそもどっちも、本物だよ?ちょっと未来から来たんだよ。」

「はあ?未来から来ただぁ!」

 

「だから、今のところ魔王が二人居る。」

 そして魔王の血は3人分だ。

 

「あ、ちょっと休ませてください。お願いします。」

 未魔王の美樹も現れた。

「な!美樹ちゃんも二人だと!?」

「おとーさん、どういうこと?」

 ぴょんと現れたリセットが過去ランスと未来ランスを見ながら、面白がっていた。

 

「…

 …

 …」

 

 未来ランスが爆発したようにリセットを抱きしめる。

「う、うおおおおおおリセットぉおお!!!!!」

「え?ええっ!?」

 

「うおおぉおお!生きているリセットだ!生きてるぞぉ!!!」

「な、こらーーーーーー!

 俺様のむs…えっと…なんだ、女もでもないし…

 ええい!俺様のモノを勝手に取るな!偽物め!!」

 

「ええい、貴様のモノでは無いわ!俺様のモノだ!俺様の娘だ!やるか馬鹿たれ!」

 一度手から零れ落ちたせいで。かなり素直になっていた。

 

 

 

「コレ、誰がどうやって収拾つけるの?」

 

 

 

 

 

 

総統司令部

 

「これが現在の戦況です。」

 

 ウルザが指し示す戦況は良いものではなかった。

 まず自由都市が関ケ原の戦いで敗北。そのまま陥落していた。

 

 残り3か国でも同様に厳しい状況が続いており、カミーラも永久牢から解放されている。

 

「うーむ。

 ケイブリスは倒したんだがなぁ」

 未来ランスは唸り声を上げる。

 

「なっ!ケイブリスを!?いつの間に」

「倒したのは、私だよ…」

 覚醒美樹が肩を落としランスに突っ込みを入れる。

 

「え…えっと?」

「うん。じゃあーそうか。私が各地を巡って停戦させてくればいいよね。」

 

「あれ?未覚醒の魔王だったはずじゃ?」

「あ、覚醒中なので大丈夫。魔物たちは命令は聞くから。」

 

「…え!?」

 魔王=敵=破壊の権化である。

 穏当な魔王など存在しない。しなかったのだ。

 

 そんな空気をきにせず、スタスタと外へ向かう覚醒美樹。

 

「じゃあ、行ってくるね。」

 

 一週間かけて飛び回り、魔物たちは全軍魔物界へ引き上げていった。

 不満もあろうが、魔王の言う事は絶対なのである。

 

 

 帰り着くと、未魔王な美樹と健太郎が出迎えてくれる。

 

「あ、健太郎くん。元気になったんだね。」

「あーえっと。うん。元気になったよ。

 えーとえっと、美樹ちゃん?魔王になっちゃったみたいだけど大丈夫?」

「大丈夫だよ!」

 

 ちらりと未魔王な美樹を見て

「ちょっと借りるね。」

 そう言って健太郎に抱きつく。

「ちょ、美樹ちゃん?」

「暫く…しばらくこのままでいさせて……」

 

 かなりの間、声もなくそのまま抱き着いていた。

 そのうち、なんか一緒に帰っちゃおうかなぁ、両手に花で健太郎くんも文句ないよね。自分同士だし大丈夫だよね?などと、欲望がもたげて来た。

 

「……ありがとう。」

 結構な時間が経った後、魔王な美樹は離れる。

 結局欲求は封印した。

「健太郎くん成分も補充したし!これで10年は戦えるよ!」

「う、うん。」

 

「じゃあ、その魔王成分頂戴。」

「あ、うん。大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。」

 

 そうして、未魔王美樹はただの人間美樹となり、健太郎も魔人から人になった。

「じゃあ、後は帰る方法だね。」

「あ、それは大丈夫。ゲートコネクト!」

 

「うわあ…なんというか、なんでもできる様になったんだね…」

「そりゃあ…覚醒するとね。」

 

 こうして、城のみんな、サテラx2やらランスx2やらに挨拶し、二人は囲まれて元の世界へ帰っていった。

 

「あとは『私の』健太郎くんを探し出せばいいだけ…」

 

 この世界で争いは極小化された。

 大戦争も終り、人類は総統が統一した。

 反乱の目がありそうな自由都市は壊滅している。

 

「世はなべて事もなし」

 

 ハッピーエンドである。

 

「うん、うん。良かった。

 さーて、がんばるぞ!」

 

 そう言って気合を入れる美樹の後ろに、光が差す。

 

 

 

 認められるのだろうか?

 魔王の脅威も魔物の脅威も無い大団円を。

 

 

===============================

 

美樹の魔王血量285%

 




魔王血量はご指摘頂いた通りですね。
また、過去改変回りでは動きが無い感じですが、難しい話にはしないつもりです。


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23 神がそれを望まれる

 世界は平和になった。

 

 許容されるべき事態ではない。

 混乱をさせるべき魔王システムが完全にバグっている。

 

 このままでは、永久に現状が継続する可能性もある。

 それは創造神(ルドラサウム)が許容しない。

 

 バグは修正されなければならない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 人間になった美樹と健太郎が帰って行く。

 

 ゲートは閉じ。

 世界は平和に。美樹は新たな旅を決意しつつ先へ進もうとした。

 

 その後ろから光が差す。

 

 圧倒的な存在感。

 圧倒的な光量。

 

 そこに在るべきではない存在。

 

 ―神― 

 

 尋常ならざる存在。魔力というより、もっと別の力。

 言うならば、此れが神の力か。

 

 光で良く見えないが、神力を読み取ることで大凡の輪郭を把握することが出来る。

 ヒトデ型の大きな奴だった。

 

「うおおお!なんだ!!この光は!!!」

 

 ランス旧が叫ぶ。

 

「まぶしくて何も見えん。なんだこれは?

 だが、俺様の直感が危険だと訴えているぞ!」

 

 ランス新が同じく叫ぶ。

 

『魔王システムにバグが生じた。一級神では対処不能な程のバグ。

 お前がバグか。排除する。』

 

 名も告げぬ神は美樹に光線を当てる。

 

 現れてから当然無敵結界など宛にしていない。魔法バリアを256枚重ねて防御するも、易々と貫通していった。

 

「くっ!」

 

 だが結界の偏重で軌道は変えられたため、直撃は無い。

 

 二発目は動いて回避した。

 

『ほう…』

 

 美樹はすかさず、消えちゃえボム砲を放つ。宇宙戦艦の主砲並みの破壊力だ。

 だがその砲撃はヒトデ神に届かずに消え失せる。

 

「なんだ!美樹ちゃんを攻撃し始めたぞ!?」

「なんか知らんが俺様の女に手を出すとは許せん!」

 何時、お前の女になったのだと、ツッコミを入れる余裕も無く、攻撃が降り注ぐ。

 

 

『なるほど、一級神では敵わぬ力であるか。どうしたらそこまで強くなれるのか。』

 

 返答する余裕もなく、大量に魔法バリアを貼り直しては砲撃を続ける。

 特攻するような美樹ちゃんアタックでは致命的になりそうだとして、遠距離で攻撃を続けるもどうにも旗色が悪い。

 

「ぬおおお!あれは!」

「なんだカオス知っているのか?」

 カオスがその姿をやっと確認できたようで、いきなり吠えた。

 

「プランナー!プランナーじゃ。三超神の一柱で儂らがあった神。そして儂を剣にした張本人…神じゃ。」

「な!あれが神!?

 って事は俺が天使ちゃん達のウハウハハーレムが欲しいと言えばくれるっていうのか?」

 

「いや、あれは神の試練を通過してこそ。今顕現しているのは…今の魔王を排除するためじゃな」

「なんだと?今の美樹ちゃんに悪い所なんてあるのかよ?」

 

「知らん…だが、あの魔王が一級神の力を超えたから、消しに来たという事かの。」

「ぬう…アレ勝てるのか?」

 

「どうにも旗色が悪そうだのぉ」

「なんかドンドン撃ちまくってるが、正直何がどうなっているのか分からん。」

「果てしない頂上決戦のようなものじゃな。」

 

 新旧カオス入り乱れての会話であったが、大凡皆観戦してる。

 

 

『なるほど、だいたい力は把握した。ご苦労だったな。』

 

 そうプランナーが呟くと、美樹の手足が光の環に捕まる。

 

「なっ!」

 

『障壁での防御もこの通り…』

 

 障壁の内部。自分の体から爆発が起こる。

 

「くは…」

 

『ふむ…高いLvに高いHPで生き延びたか。』

 

「美樹様!!!」

 

 旗色が悪い所でなく、捕まって一方的に嬲られる状況になり、観戦していたサテラ新が叫んだ。

 

『Lvは1に戻しておこう。これで耐えきれまい。』

 

 急速に失う力。Lvが1に巻き戻る。

 理不尽なまでの権能。これが神か。

 

『さて、魔王の血を回収させてもらおう。』

 

 光のキリのようなものが美樹の上空に現れる。

 それで貫くつもりだろう。

 

 プランナーは容赦なくソレを撃ち出す。

 

(もうだめ、終わった…)

 

 そう諦めた瞬間目の前が暗くなり、突き飛ばされていた。

 

 光のキリはサテラを貫き、そしてサテラは何を言う暇もなく消滅した。

 

「な!サテラ!!!」

 ランス新が、サテラ消えた場所まで駆け寄るが、何も残ってはいなかった。

 

「あ、あぁぁ…」

 美樹はサテラが消滅したのを見て呆然とした。なぜ死ななければ、消滅しなければならないのかと。

 

『ふむ、そういえば…お前も時間変革。バグだな。』

「な!」

 

 光に貫かれ、ランス新はあっさり消滅した。

 

「ら、ランス様ぁああああああああ!」

 

「くっ、どうなってやがる、未来の俺様が一瞬で消し飛んだぞ!」

「あちらの儂も一緒に消し飛んだのぉ…まずい!」

 

「み、緑のおじさん…」

 

『…』

 

 プランナーは再度キリを出現させると美樹を貫かんとしていた。

 

「いかん、美樹ちゃんを助けろ!

 なんだか知らんが美樹ちゃんが死ねば終わるぞ!」

 ランスが直感なのかそう叫ぶ。

 

「助けろってったって、神相手!?」

「ちょっとコレ無理があるんじゃ。」

「いい悪いじゃない、やるんだ!」

 

 光のキリが再び降り注ぐが、もう一人のサテラが鞭で美樹を引き寄せていた。

「さあ、これで…」

 

 邪魔をしたサテラは光線に貫かれて消滅する。

 

『邪魔をするな。』

 

 プランナーがそう告げると、ほとんどの人間が動けなくなる。

 

 

 そんな中、異界のゲートが開いた。

 

「ほれ、魔王を異界の門で逃がせ!まずは逃げるのが先決であろう!?」

 ミラクル・トーが開いた異界の門だ。何処へつながっているかは彼女しか分からない。

 

「わかった!」

 動けるものが数人で、動けない美樹を引き摺っては消滅しを繰り返す。

 

『そうか、皆死を望みか。』

 キリで美樹を攻撃するのは魔王の血を回収する為だ。よって力加減ある攻撃に留めていた。

 

「や、みんな!やめてーーーー!」

 力の限り魔法シールドを貼るが、駄目。

 

 ランス城も消滅した。

 美樹の後ろに居る、ミラクルと未来ナギ、ランス旧にかなみだけだった。

 

「…未来から来たんだよな?こんな結末変えろよ、行け!!」

 ランスが美樹を蹴り出す。

 

「あ!」

 

 とっさにナギを抱えて異界の門をくぐると、そこはいつか見たポリポリワンだった。

 振り向くと、異界の門は閉じている。

 

 手と足についた輪っかはプランナーの力。このままでは不味いと思い、吹き飛ばすと新しい異界の門を作る。

 そうだ。魔王ができるのだ。神に、プランナーにできない筈が無い。

 

 だが異界は神にとっても異界。

 

 とりあえず別のへ移動する。

 正直来たくは無いが恐竜たちの世界だ。

 

「と、とりあえず過去のあの世界(ポリポリワンだが名称を決めて居ない)へ……」

 他人がやったことは覚えている。

 

 セラクロラスがやったのと前と同じ出口ならすぐに作れた。

 すぐに移動する。

 

「あ、あああ、みんな皆が」

 

 美樹の腕の中でナギは震えていた。

 或いはあのまま死んだほうが楽だったのか。

 

「……」

 

 ポリポリワンの移動すると、すぐに物陰に隠れる。

 

 

 暫くすると、自分達が現れた。

 

 

「そう言えば美樹ちゃんは、魔王に覚醒しているんだよな?」

「そだよー」

 

 そういえばそんな会話もしたなぁと思い出す。

 会話が終わって、未来から来た過去の自分達が異世界へ移動する。

 

 

「かち合うと、どうなるんだろう。」

 

 何かヤバい気がして隠れたが別にかち合っても良い気がして来た。

 いいや、ゲートコネクト。

 

(口は足らないけど、意外と賢いジルさんに相談しよう。そうしよう。)

 

 美樹は今後の方針を完全に失った。

 

(誰か助けて…!)

 

 

 

 

 

 

 

 プランナーはポリポリワンまで追ってきたが、そこで見失ってしまった。

 異界は管理外なので仕方ない話だった。

 

『……まあ、これはこれで楽しみができるという事か。』

 

 悪魔の存在を許容しているのも、世界に混乱が起こるからである。

 多少は大目に見る。

 そういう事だろう。

 

 或いは世界に平和が訪れず、そのキーとなる者が魔王システムでなければ、わざわざ自ら出向く事も無かったのだ。

 また、一級神で対処可能であれば、それもまた自ら動く事ではない。

 Lvを1にしても、なんらかのバグのせいで倒しきれなかっただろう事が予想された。

 

 なんにせよ、混乱が起こるなら可。という事だ。

 

 

 




みんなポンポコ殺してすいません。


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24 要するに、健太郎君は居ないって事だよね?

いわゆる説明回


 超神プランナーにボコボコにされつつも、なんとか逃げ延びた。

 

 美樹も、偶然逃げ延びたナギも憔悴しきっている。

 相談するため。そして助けを求めるため異界の門を開き、ジルが居る異世界へと渡った。

 

 ジルの城門前。

 いつも通りに、通してくれない門番。

(さっき通った私たちは何処にいるのか。)

 

「ということで来ました。連行してもいいからジルさんとこ連れてって。」

「お前は何を言っているんだ?」

 

 ……

 

 端折るが、牢屋に投獄された。

 

「あれー?」

「どういう事?魔王のお姉ちゃん。」

 

 どういう事だろうかとあれこれ悩む。

 とりあえず脱獄だ。

 

 檻を、「あ、ちょっとごめんよ」と、のれんをかき分ける様にして表に出ると、ジルの部屋へと歩き出した。

 

 

「脱走だーーー!」

「牢破りだー!」

 

「第三班から六班は正門を固めろ!」

「ここを通すなー!」

 

 なぜかてんやわんやになっている。

 傷つけないように手加減攻撃もいい加減辛くなってきた美樹であるが、同郷の人間なため、極力痛めつけずに無力化している。

 

「…なんで、こんな面倒な事に」

「なんでだろうね?」

 

「うーん。この時間だとジルさん、緑のおじさんとなんか……しているし…」

「ランス?」

「そうそう、その人」

 

 面倒だなー、一時撤退しようかなと思っていたら、威圧感を伴った魔力が漂い始めていた。

「う…」

 ナギがその圧迫感に委縮する。

 美樹の場合は空気が変わったかな?程度の認識ではあるから大概ではあるのだが。

 

「この先、何がいるの?」

「こないだ会ったジルさんだよ。」

 

「え、でも…こんなに敵意とか感じなかったけど。」

「そりゃあ…なんでだろ?」

 

 扉を開くと、そこは玉座の間だった。

 待ち受ける系魔王のジルは玉座で、侵入者を待ち受けていた。ジル様は待ち受ける系魔王。

 勿論みんな大好き裸JCジル様である。

 

「……侵入者……と…いうから………誰かと……思えば。

 おまえか……………」

 

 気だるそう美樹を見る。

 それでいて、覇者の気迫ともいえる雰囲気が醸し出されていた。

 

「あーえっと?」

「それで………どうした?……私に………宣戦布告でも……しに来たか?」

 

 ジルの中で、魔王同士は分かり合えない。

 最終的にぶつかるものだ―との考えがあったため、遂に来るものが来たかと思っていたのだ。

 勝ち目は薄い。だが、タダではやらせない。そんな気迫である。

 

「えー。ちょっと相談に来たんだけど。なんか知らないけどいきなり投獄されたんですけど?」

「…………………は?」

 

「いや、だから投獄された。」

「…………は?」

 

「門で、ジルさんに取り次いでってお話したら」

 してない。

「なんか、投獄された。」

「……………」

 

 頭をかかえるジル。

 戦闘態勢がとりあえず和らいでいく。

 

「それで………2年ぶり?……に帰って来たかと思えば………子供でも作ったか?」

「いや、私の子なわけないじゃない。」

「冗談………だ。」

 

「えーと?なんだこれ。」

 ナギが呟いた。

 

 

 

「というよりも、2年ぶりってどういう事?2か月前とか、さっきとか!」

「……………?」

 

「そうだよ、さっきゲートを開いた別の私のすぐ後に、この世界に来たんだよ!?」

「ふむ……。詳しく…………話せ。」

 

 美樹は詳しく説明した。

 

 

---------------------------------------------------------

◆ジル様の会話から […]を取り除く装置を使用されました。

 これにより会話中の…が省略されます。

『』はジル様の会話から…を除去した翻訳後のものです。

---------------------------------------------------------

 

 

 

『並行世界と、異界移動によって、ぐちゃぐちゃになったな。』

 

「う、そうですね。」

 

『まず、お前が私の二代後の魔王である事に驚いた。

 だがまぁ、それは良い。』

 

「だったら吸おうとしないでください。」

 

『推論でしかないが、「異界」によって、並行世界の処理が違うのだろう。』

 

「処理?」

 

『この世界。そうだな、あれこれこのというのも混乱する。

 世界に仮に名を付けよう。

 今いる異界。ここをジルワールドとする。』

 

「うわー自分の名前つけちゃんだ。」

 

『当然だ。私こそ、この世界の支配者なのだ。』

 この時点で大陸の半分ほどしか制圧できていない。

 まああと数年あれば統一可能であろう。

 

「すごい自身だ…」

 

『あの、ポリゴンの住んでいる世界。ポリポリワンとしよう。』

 勿論大人の事情だ。

 

『私とそしてお前が魔王となった世界。ルドラサウム大陸世界は、R世界としよう。』

「なんか18とか付けば、アダルトな世界に聞こえるよ」

 

『お前のもと居た世界はチキュー世界で良いな。』

「いいよ。」

 

『さて、まずジルワールドだが、恐らく、【同一の存在を許容できない】世界なのであろう。』

 

「そうなの?」

 

『そう。

 お前が帰って来たと主張する時を1とすれば、

 再度、ランス等らを連れて来た時を1.1、

 更に今帰って来たのを1.2と、似ているが別の並行世界となる。

 

 理由は分からないが、こういった場合、世界を管理する神が独自に設定している可能性がある。

 ともかく、今のジルワールドは並行世界1.2だ。』

 

「…え?」

 良く解らなかったようだ。

「1.1には戻れない?」

 美樹の頭から煙の出ている為、ナギが代理して訊ねた。

『そうだ。』

 

「もう、残していったランスの子。乱義やザンスに会えない?」

「ええ!そうなの!?」

『残念ながら、そうなる。』

 

「嘘…」

 美樹は早くもギブアップ状態で、別のショックもあって放心状態である。

 

『まったく。これからだというのに。続きは明日か。』

「待って…続けよう。」

 ナギがジルを留め、美樹をひっぱ・・・雷撃を放って意識を向けさせた。

 

「あ、ごめんね。」

「うん。大丈夫。続けよう。」

 

 ナギが美樹を立ち直らせる。

 

『次にポリポリワンだが…あれは管理されていない世界だな。

 いや通常の管理はされているが時空に関しては放置だ。

 管理されているとは言えない。

 だから、存在の重複も許されている。

 

 これはR世界もか。こちらは管理はされているが、

 管理しているのはシステム神だ。

 一級神だが、かなり緩い。特に並行世界は作ってなんぼというくらい

 大量に作って(セーブして)は消される(ロードされる)。』

 

 

「並行世界に…無頓着?」

「ふんふん」

『そして、だいぶ謎が解けて来た。

 お前の健太郎とやらが居ない件だ』

 

「え!?健太郎くんの事!?」

『世界ごとに並行世界が管理されている。

 そうなれば勿論チキューにも並行世界線がある。

 

 そもそも、異世界が過去現在未来に関して、時間軸が同時並行しているのも

 不思議。いや奇跡なのだ。』

「う…」

 美樹は並行世界怖いと思いながら聞いている。

 

『お前は今回、人間にした自分と、健太郎くんとやらを、チキュー世界に送った。』

「うん、そうだよ。それが私達の悲願だからね。」

 そのために今の自分が犠牲になってもいいのかと問われると、どう答えただろうか。

 

『その時点で、お前という存在と健太郎がチキュー世界に帰還したという事が記録される。

 並行世界のお前はLP3年に健太郎と共にR世界へ渡り、LP8年を前に帰宅する。

 これが世界に確定事項とされると、チキュー世界からLP3年にジルワールドに召喚されたという並行世界とは別の並行世界となる。』

 

「???え?だから…

 私を帰したんだから、それで良かったね。じゃダメなの?」

 

『ダメというか、設定がゆるゆるのR世界の並行世界管理によって、

 お前がジルワールドに召喚された時点までのチキュー世界の並行世界が

 別の並行世界に移り、召喚された事実が無かった世界になった。』

 

「えーと。言ってることがわからない。

 結局良かったね?って事だよね?」

 

『お前が、別お前と健太郎を帰したせいで、

 お前の健太郎が消えた。』

 

 推論だが彼女にとって重要な事だけ突きつけてやろうと遠回しに言わず、直接示した。

 

 

「え!?嘘……」

 

 ショックを受ける美樹。

 その前に、ぞくぞくと加虐心を満たしてるジルがいた。

 

『あくまで推論』

 というセリフを飲み込んで、ジルは美樹の様子を愉しんでいる。

 

「わたし、わたしそんな。

 そんな事になるなんて。」

 

「魔王のおねえちゃん、大丈夫だよ。なんとかなる。なんとかしよう?」

 

「…なんとか。

 なんとかなるの?」

 

「なるよね?」

 ナギが絶望に沈む直前助け舟を出し、崩れる前に立ち直らせた。

 

『ふん。つまらん。

 

 別に、法則が分からないから、どうすれば良いかは不明だ。

 並行世界の移動はどうすれば良いのか全くわからない。

 難儀な事だ。

 

 もし移動できるとすれば、2つ。

 

 最早並行世界すらも支配下に置く、上位の神になるか、

 

 またはR世界の杜撰な並行世界管理に賭け、何度も操作し、望む結末を得るまで繰り返す。

 

 という事だ。』

 

「…なんか、つまり。普通は不可能って事。なんだよね?」

『一応お前が、仮にも神に迫ったという実力を加味し、ギリギリ選択肢に加えた。』

 

「魔王のおねーちゃん!どうするの?」

「R世界に私が戻ると…神に攻撃される。それなら……」

 

 

---------------------------------------------------------

◇ジル様の会話から […]を取り除く装置が停止しました。

---------------------------------------------------------

 

 

     選択肢

――――――――――――――――――

 

A[新世界の神に私はなる!]

B[R世界で操作して、望む未来を引き寄せる!]

C[ジルの頭の上に、みかんを置く]

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………待て、………

 なぜ……………みかんを…………置く。」

 

 畏れ多くもジル様の頭の上に、美樹はみかんを置いた。

 

「全部、ジルの推論じゃない。

 神になったら…健太郎くんがどう言うか。」

 

空想上の健太郎『すごいよ美樹ちゃん!神になったんだね!?』

 

「……………あ、それもいいかな。えへへへ」

 

 




あ、特に選択肢について募集はしておりません。
あの選択肢の回答はCです。みかんを置くなのです。


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25 魔人少女ナギ爆誕

「美樹ちゃん」

 

 あ、健太郎くんだー!おーい

 

「美樹ちゃん…」

 

 やっと会えたよ。

 

「ああ、会いたかった。」

 

 私もだよ…ってあれ?なんで首筋に…かみつくの?え?

 変だよ。いきなりなんなの?何時もの奇行なの?

 

 あれ?え?…

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 寝ている美樹の首筋に噛みつく、ジルが居た。

 魔王の血を奪おうとしているのだろう。

 

「ちょ、ジルさん?」

 

 ぺっ

 

 ジルは慌てて離れる。

 

「えーと……あれ?」

 寝ぼけている彼女は首元の噛まれていたあたりをさするが、唾液しかない。

 

「……………あぶなかった。

 …まさか………吸っている……私の方……の、魔王の血が……

 逆流……しそうに……なる………とは。」

 

「えーーー」

 

 正に一歩間違えればピンチだったようだ。

 それでジルは謝る事もせず、帰って行った。

 

 

 心臓のあたりの布が破け、腕や手も何やら攻撃された跡がある。

 どうやら夜討ちしていたようだ。

 

 だが、魔王の血285%で理外の力を得ている彼女は5%のジルが思いっきり攻撃してもダメージが大きくなく―彼女のHP比率で言えば―恐らく一晩中全力攻撃した所で1%も減っていなかったのではないだろうか。

 

「あれ?これ私怒っていいよね?」

 

 それに答える者は誰も居なかった。

 

 

 

 質問のあと、美樹の脳みそがオーバーヒートしてしまったのでお開きになり、客室を宛がわれた訳だが、このような奇襲を食らう事となる。

 これでLv1なのだから、シャレにならない。

 

 

 

 

 翌日

 

 また集まって今後の事を話す。

 

 整理しよう。

 彼女。来水美樹にとって小川健太郎の安否は重要である。

 ただし、召喚される事で置いてけぼりになった彼を探している。

 

 ゆえに、彼女の健太郎くんこそが求める者である。

 

 だがそれは

『並行世界を支配する者でなければ見つけることは不可能。』

 

 という事。

 並行世界を過去改変でどうにかしたくても、魔王の血が285%ある時点で3っつの並行世界を束ねてしまった。

 一方で健太郎は死に、もう一方で元の世界に帰した。

 

「…並行世界が緩い……R世界で………

 ………健太郎が…お前を探しにくる。

 ただ……それだけの………並行世界を

 ……探せ。

 以上」

 

 締めくくられてしまったが、R世界への転移時間は不明だがLP3年の元の世界に戻ってから、R世界へ来る瞬間までの話になる。

 そして美樹には別のオプションもあった。

 

 この世界に召喚されるときに、入れ替わりで異界ゲートを逆流する。

 という事。

 

 召喚されるのと入れ替わりなので、並行世界事態は維持される。筈。

 

 入れ替わりなので、美樹は元の世界に召喚されずに居続ける、ような感じで居続ける事ができる。

 これで元の世界の健太郎と共に、チキュー世界に居続ける事も、それからR世界を旅しても良い。

 

 そんな風な事は出来ないかとジルに聞くと…

 

「でも、魔王のおねーちゃん。それじゃあ、私の世界の皆は誰が救うの?」

「あ・・・」

 

 ナギにツッコまれる。それでは確かにみんなは救えない。

 

「なんだ……そっちの娘……も……助けるのか?」

「えーと、どっちも救うプランは無いかな?」

 なおプランは丸投げの模様。

 

「……お前が…居る時点で……お前は…召喚されない……

 故に……、入れ違いが起こらない。

 …過去のチキュー世界が…どうなるか…分からないが………

 R世界から戻ってない………という並行世界に……なるのでは………ないか」

 

「そっかーいいプランだと思ってたんだけど。」

 

「もう、…健太郎とやらを……別の自分が共有したり…

 自分自身と……融合しろ。

 ……融合…魔法あっただろう?」

 

 ナギが分裂魔法で分裂したので融合魔法もあるはずである。

 勿論ナギがそれで分裂したというのは知らない二人だが。

 

「……その手があった!」

「…………」

 

「それで上手く行くの?」

「……とりあえず………あと、

 お前自身は…プランナー………に……目をつけられ………ている。

 ……R世界に……行けば…戦い……に…なるぞ?………たぶん」

 

「並行世界や過去改変でどうにか。」

「それを…超越……して…いるから…神…なのだ。」

 

「どーすればいいの?」

「並行世界の……お前たちが…自力でチキュー…世界に……帰れるように……なれ。

 その時に……捕まえて…融合する……」

 

「なるほど………え?無理?」

「手を加え……られても…幻影を……送り付ける…くらいが…関の山。

 ……魔人…程度の強さ……なら…プランナー………も…手を…出す…まい……」

 

「私も手伝う!」

「ん?」

「それでね、お姉様とランスとか、いろいろ救いたい!」

 

「……」

「その中で、魔王のお姉ちゃんたちも助ける。よ?」

 

「手伝う事で、二人いる事になっちゃうけど、それはいいの?」

 

「…………お姉様は私に幸せになれって言ったんだ。

 私のそれは、お姉様も自分も居た上の幸せだと思うんだ。」

 

「うん。」

「それで幸せになる私が居るならそれでいいの。」

 

「でも、それじゃあ今いるナギちゃんの幸せは?」

 

「だから、それを見守るのも幸せ。

 その上で、ランスにでも囲ってもらおうかな!」

 

 ナギはランスの事を父親の様に想っている。そして極度のファザコンである。

 以上証明終わり。

 

「んーんー

 えーとね?

 つまり、ナギちゃんとお姉様が仲良しで、ランスさんも助かってて、色々幸せなのが幸せと。」

「そう!だから変装して名前変えて潜り込むよ。

 お姉さまも私も、ランスも全員助けるんだ!」

 

「…そっか。わかった。うん頑張ろう。」

 ナギと美樹はがしっと手を握り、とりあえずの目標が定まった。

 

 

「……………ランスか。一度連れて来い。」

「え?あ、はい。」

 

「……変装か………私に……いい…アイデアが…………ある。」

 

 

 

 

「じゃあ、決まった設定を繰り返すよ?」

「は、はい」

 

「ナギちゃんはこれから、名前をルラ。

 ジルさんのルにランスさんのラ。

 で、ジルさんと、ランスさんの子供という設定。」

「うん。」

 

「髪はストレートにして、ネットショップの通販で買った魔法少女服で―」

「防御力も魔法防御もないすごい…代物です。」

 

「ジルさんに言われてランスさんの様子を見るついでにからかうために来たと。」

「まあその辺は好奇心とかにします」

「うん。」

 

「それで私の影というか、髪の毛を使った投影体が何故か、ピンクのにゃんにゃんになったので、それを…そう。マスコット?として連れて行って一緒にどうにか手伝う。

 …と。」

 

「うん。」

「並行世界運営の為に、この世界の一角をそのための集積場所に使う。

 拠点だね。」

 

 

「じゃあ、覚悟は良い?ナギちゃん。ううん、ルラちゃん。」

「いい…よ。なる。がんばる。

 魔人に……なる。」

 

 

「うん。何百週しても何千週しても、くじけず頑張ろうね。」

「うん。魔王のおねえちゃ…いや美樹さん。」

 

 それを聞いて美樹が血を与える。

 

 ナギはその姿を変え…JKくらいなナギの姿になる。

 髪を下ろし、ストレートにした上で白系の(魔法少女)服を着る。

 胸をでかくしたシーラっぽくも見える。

 

 背も中々でかかった。

 

「だいぶ変わったね。」

「お姉さまのようなストレートな髪が、うらやましかったからかな?」

 

 

 こうして魔人ナギ・ス・ラガールが誕生した。

 ぴょんとにゃんにゃんな美樹の幻影(HP80万くらい)が付き、R世界へ行くこととなる。

 

 

 まず二人で過去へ移動する。

 過去へ移動するコツらしきものは掴めたようだ。

 

 一旦ポリポリワンへ移動。

 その後、過去に開いたことのあるゲートへコネクトする。

 つまりLP7年10月に、ジルワールドへ移動した際のゲートである。

 

 LP7年10月のジルワールドに拠点を設置。

 周回歴史庫とする。美樹の本体置き場でもある。

 

 筆記用具や紙を大量に持ち込み準備。

 

 R世界から戻ってきたらそれを記載し、ポリポリワン経由でLP7年10月後半に戻る事で

 周回を記録。次週に役立てることとする。

 

 準備を整えた後へゲートを開けるようにする。

 ナギも魔人になる際に魔法使いLv3になっていたので、ゲートコネクトを習得。

 ここからポリポリワン経由でR世界へと侵入する。

 

 こうして

 

 プロジェクト『ランス X(エックス)』と、ナギが呼称した、世界を救い、美樹も健太郎を手に入れるための戦い(周回)が始まった…

 

 なぜ周回前提かって?

 ケイブリスに良いようにされた過去があるから、試行錯誤になるだろうと、二人とも思っているからだ。

 




ここ三日忙しかったのでご無沙汰です。

今の美樹ちゃんにみんなを。特にランスを救うという概念がありません。
とすると、それがある子が必要です。という事で選定していた感じではあります。

その中で魔人になってくれそうな子供だとナギしかいない件。魔想さんだと見殺すし魔人にはならないしね!二人一緒だと諦めそうだし。

あとリセットだと成長版がないから廃案。
おや選択肢が無いね?

なおナギの区別として
超獣版と、再生版と再大人版と自分の中でつけています。
超獣版では特に好きではなかったのですが再生以降は好きですね!贔屓じゃないよ!たぶん


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二章 プロジェクト Xで頑張る
26 T2-LP7年10月後半 開始~準備


◆人類死滅率8%

 

〇〇〇〇〇LP7年10月後半 開始〇〇〇〇〇

 

 白い魔法少女服のの女性がピンクのにゃんにゃんを肩に乗せCITYに到着した。

 

「先に(美樹)のところに行かないの?」

「戦力があるのは、魔人討伐隊だからね。それに、あっちは動きが鈍い」

 

 魔法少女な彼女は並行世界の美樹に対し辛辣である。

 

 CITYに入るとまっすぐランス城を目指すが、街中はこころなしカラーが多く見受けられた。

 人外な容姿のホルス達も見受けられるがカラーよりは少ない。

 

「結構賑やかなのね?」

 ピンクにゃんにゃん…ミキと呼ぶこととしている。

 どうせ被ったって、にゃんにゃんだし関係ないだとう。まさか魔王の幻影とは思われまい。

 

「人類が仮にも統合しているからね。いっぱいいるよ。人徳?」

 人徳はどうだろうと首をかしげているが、にゃんにゃんだからかわいい。

 

 そうこうしているうちにランス城の城門前に着いた。

 

「はいっす、何か御用ですか?」

「はいっす!ランスに会いに来た!」

 

「はいはーい。で、どなた様?」

「えーとね、ナ…じゃなかった。ルラと言います。うーん、とりあえず会いに来たよって取り次いでください。」

 

 じろじろと下から上まで見られ、その後ため息をつかれる。

「はいっす多分呼ばれると思うっすが、少々おまちをー」

 だらっとしていた門番は中へ入ると、入れ替わりで別の門番が表に立つ。

 

 

 

 

「さーて、総統として、まずは何処を救ってやるかな。」

「あーん、まずはリアのとこからお願い!ダーリン!」

「だから、誘導するんじゃない!こっちだって大変なのよ!」

「あの…おちついて…おちついて…」

 

 玉座の間でわいわいと話していると、門番が入ってくる。

「閣下~、なんかルラって娘が閣下に会いたいって来てますよー」

「ほう?聞かない名前だな。美人か?」

「そーですね。美人かとー」

「良し通せ!」

 思った通り早かったので、すぐに門へと戻っていった。

 

「ちょ、ランス!今良く知らない人間を出入りさせるなんて何を考えているの!?」

 マジックが的確なツッコミを入れたが、他の者は、ああランスだしなぁという感想で終わっている。

「美人が俺様に会いたがっているのだ。会わない訳にはいかんだろう。」

「はぁ~これだから…」

 それでも離れないのは愛故か、なんなのか。

「ふん、いくら人間が増えようとどうでもいい。そんな事より、次は何処へ行くんだ?」

 

 

 

 

謁見の間

 

 暫く待つと、魔人ナギもといルラが入る。

「おお!美人だぞよくやったグッドだ。」

 入って来たルラを見て喜びの感情を顕わにするランス。他の人間はまた犠牲者か、はたまた敵か、味方か。と思いを巡らせている。

「ぬおおお!おい!心の友!」

「ん?なんだいきなり叫んで、やらんぞ。」

 いきなりヤル前提なのが正常なランスであったが、そんな非常識な姿を見ても驚かずにナギもといルラは眺めていた。

 

「違う!そうじゃない!そいつ魔人じゃぞ!?」

「なぬ!?」

「え?あ、ほんとだ!…でもお前みたいな魔人、サテラは知らないぞ!お前誰だ!」

 いきなり魔人バレしても落ち着いた雰囲気でランス達を見るが、半数が臨戦態勢となっていた。

 

「えーと初めまして、お父様?」

 内心にやにやと、それでいて表情は微笑みを忘れずに。

 

「…はっ?

 ま、待て!魔人とヤッた事はあるが、娘は人間になるはず。ど、どういう事だ?」

 混乱するランス。疑いのまなざしでランスを見守るが…

「待って、それじゃあ時間が合わないんじゃない?」

「どう見ても…10代半ば以降だけど?」

 

「あー実年齢は4歳くらいかな?」

 LP3年正月あたりに出産という想定だ。とすればダークランスよりも早く生まれている。

 としても、育ちが早すぎるのだが。

 

「はっ!嘘つき女め!俺の子などという嘘をついても騙されんぞ!

 一体誰との子だと言うんだ!」

 ビシッとナギもといルラを指さして言った。

 

「では、親子鑑定魔法を使いましょう」

 クルックーがさっと出てきて、ランスに提案する。

「お、おう。」

 勢いに気圧され了解する。

 

「(わ、そんな魔法あったんだ、どうしよう…

 ど、どうにか回避…)」

 内心慌てるナギ。表には出さずにこにこしているが…

 

「ではマジックやるのだ。」

「わ、わかったわ。」

 

「(展開が早い!)」

 逃げる間もなく親子鑑定魔法がかけられた。

 

―――――

――――

―――

 

「親子ね。」

「(え!??)」

「ぐぬぬぬぬ。」

 彼女が知る由もない事だが、魔想志津香が分裂魔法で分裂する際、ランスの子を妊娠していたのでその子とナギと一旦融合し、二人に再分配された。

 つまり、ランスの子成分が入っているため、親子認定されてしまうのだ。

 

「(…おー)」

「ば、馬鹿な。こんなに大きな…大きな食べ頃の女が娘…だと…

 ありえん。おかしすぎる。ダメだ。いかん。

 こんなに大きいのに。娘…だめだ。対象外だ。

 これでは抱けんではないかーーーー!」

 リセットの時にそのあたりはやったことなので、皆だいたいハイハイと言って流している。

「また…ダーリンの子が増えた。」

「ぬぐぐぐ…」

「あ、あはははは。」

 

「しかし!俺様の身に覚えが無いぞ!誰の子だ!」

「あと魔人になってるのも気になるわね、4歳だと…美樹様しかありえないんだけど、新しく作った?」

 魔人は魔王が作るもの。今はLP7年だ。4歳であればLP年間でしかない。つまり魔人にしたのはリトルプリンセスをおいて他にはいない事となる。

 

「母上の名前はジル。私はなんか、生まれた時から魔人?だったみたい。」

「!!!!」

 

「な、なんだとーーーー!?」

「え?どういうこと?」

 

「それで、お母様の名前とお父様の名前から一文字ずつとって名前に下の。

 ジルのルにランスのラでルラ。」

 名前の由来も説明する。そうやってみんなを騙す…ごかまして行く。

 

「ちょっと待って、ダーリン、何時の間にジルと子作りしてたの!?」

「いや、確かにヤリはしたが、避妊魔法はしっかりかかっていたぞ。確か」

 

「ちょっと、そもそも前々魔王のジル様と…え?どういう事!?」

「え、リーザス城に封印されてた前々魔王?え?

 復活して亜空間に漂流…?…え?なんで復活?」

 

「やればできる。普通の事だよね?

 そもそも、避妊魔法なんてお母様に効果があるというの?」

 と、ナギもといルラは燃料を投下していく。

 

「あの時に仕込むとはさすが心の友。ちょっと斬っていいか?」

「流石ランスですね。魔王を孕ませる。人類初かも知れません。」

 

 魔王の子自体はホーネットが居るが、女性の魔王が子供を産んだ例は無い。

 

「ま、待て!それならジルは!?ジルは何処にいるというの?」

「お母様ですか?」

 マジックが常識的に質問する。

 

「そ、そう。貴女を送り出したという事は何処かに…居るの?」

「お母様は異界に居ます。

 異界では仲間となる魔物が居ないから、召喚された人を部下に。

 現地の人間を、かちくにして、世界制覇していますよ」

 なお現在進行形。

 

「なんだと、異界で世界征服だと…。それも数年で」

 ランスが世界征服しきった所に反応している。

 

「異界の運営などあるので、こちらの世界には戻らないって。

 私はお父様に興味があったから会いに来たの!!」

「お、おう…おう?」

 

「異界に行ってもやる事が同じとは。流石ですね。」

 クルックーが半ば褒める。

 

「神の干渉は嫌だかららしいよ?」

「なるほど…………」

 クルックーは深く納得した。

 

「お母様がお父様に来てほしいって言ってたよ?」

「な、なんだと…」

「蹴り飛ばされた事とか、未だに根に持ってはいるけどね?」

「???蹴り飛ばし?何のことだ?」

 

 なおランスの記憶にはなく忘却の彼方の模様。

 

「で、お父様が総統閣下になったーって噂も聞いたし」

「お、おう!」

「人類軍がピンチだって聞いたよ。だから手伝いに来たの。」

「なんだと!

 ジルの娘が…俺様を助けに?

 ううむ。そんな事があるというのか?」

 

「本当に手伝いに来たのか?疑わしい。」

 当然だ。人類破壊したい筆頭の娘が人類を助けに来たのだから。

 

「お父様を助けに来たんだよ?」

 まあ、設定上の問題だ。=それで人類が救われる。

 

 混乱が多数ありジルの子という事もあったが、助けに入ると言う事で、概ね好意的に受け入れられる。。

 何よりも魔人だ。味方の魔人が増えるのは好ましかった。

 

 

 

 

〇〇〇〇〇LP7年10月後半 作戦準備中 〇〇〇〇〇

 

「負けに負けたのは自由都市とヘルマンだな。情けない奴らだ。」

「すいません。」

 反射的にシーラが謝る。

「ランス様そんな事おっしゃらずに助けてあげましょうよ。」

 宥めようとしたシィルの頭をぽかっと叩く。

 

「奴隷の分際で俺様に意見するな!

 とはいえ、そうだな。先ずは負けている奴らからフォローするか。

 ヘルマンに行くぞ!」

 

 ランス達は、まずはヘルマンの魔軍と戦うようだ。

 

「お父様~」

 そこへニヤニヤ顔のナギ(ルラ)が声をかける。

 

「なんだ?行きたくないと言っても連れて行くからな?」

「違うよー、なんなら別の地域回ってこようか?って」

 

「ハァ?なんでだ?」

「魔軍なんて所詮無敵結界を破れないでしょう?ならテキトーに間引いてこようかな?って」

 

「ああ、まあ…だが敵の魔人にはやられる。狙ってこられるぞ?」

「大丈夫だよーヤバかったら逃げるよー」

 

「うむむむむ…いやダメだ、一緒に来い。」

 何かしらが決め手となったのか、別行動は許されなかった。

 

「あちゃあ、仕方ないね。」

 渋々ついていく事にした。

 

 

 

 

「すっかりセリフが無いよ、どうしようナ…ルラちゃん。」

「そりゃあ、にゃんにゃんだからねぇ」

 

「あれ?そのにゃんにゃん話すんですか?」

「そうだよー」

 

「すごいにゃんにゃんですね。」

「すごいにゃんにゃんなんだ。」

 シィルに撫でられるミキ。

 目を細めてされるがままになる。

 

(あれ?意外と気持ちいい。)

 にゃんにゃんな姿の意外な利点であった。

 

「ん?どうした?にゃんにゃんか。

 お前のペットか?」

「ペットじゃないよー」

 即座に反論するミキ。

 

「うお!喋った!?」

「喋っちゃダメなの?」

 

「いや…珍しいもの見た。」

「そんなんで済むんだ?」

 

「まあ、珍しいものはいっぱい見ているからな。喋る剣とか。」

「なんだ?儂をディスっておるのか?」

 

「がっはっはっはっはっは!同じようなものだ、馬鹿剣め。」

「ほーーんと調子いいよな。」

 

「ふふふ」

 

 ナギはその様子を見て微笑んだ。ああ、懐かしのランス城とそしてランスだと。

 

 

 

 

 魔人討伐隊はヘルマンにやってきた。

 

「うぅおおおおおお! 寒っ!

 誰だ、こんなくそ寒くしてやがるのは!」

「え、えぇと……誰なんでしょうね。」

 ランスの呻きにシィルが相槌だか、ツッコミだかを入れる。

 

「よし、帰るか。」

「ちょっと!何しに来たのよ!?」

 サテラにも突っ込まれる。

 

「ちっ、そういえばそうだな。

 長居は無用。とっとと倒してとっとと帰るぞ!」

 

 

 魔人討伐隊はヘルマン方面の支援を開始した。

 

 

 

「うぉおおおおおおおお、飛行部隊だ。いきなり卑怯だぞ!」

「人間だ、蹴散らせー」

 

 魔法部隊(?)が魔法で蹴散らしていく。

「あ、こらー俺様のぶんもとっておけよ!?」

 

 30匹くらいの部隊は軽く蹴散らされた。

 と言っても、魔人討伐隊は現在48名である。敵より多いので討伐は楽であった。

 

「寒い寒い、さっさと回ろう。」

 相変わらずランスは寒さが堪えていた。

 

 

「おい、ランス。お、お前がサテラの使徒になっとこと忘れてないだろうな?」

「ええ!?アニキ、人間やめたの!?」

 …

 …

『ランス。サテラの使徒になる?』

 の件をナギ(ルラ)は聞き流した。

 

 

「さて、出来る男の各個撃破。これでいくぞ。」

 そうして敵の厚い方に出撃していった。

 

 

 魔物将軍を軽く撃破すると、周辺を蹴散らして撤退した。

 寒かったようだ。

 

 



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27 T2-LP7年10月後半 作戦 とは別に魔人を襲撃する

 魔人討伐隊は自由都市の魔人を攻略に出かけた。

 大作戦であるとガハハ総統は言っていたが、ともあれ出撃した。

 

 それとは別に動くものがあった。

 ピンク色のにゃんにゃんである。

 

 ランスに付いていっては時間の無駄とばかりに、別件で移動を開始。

 まずはこの時点での自分を確認しにいった。

 ちがう。健太郎を見に行った。

 それも違う。健太郎をモフりに…モフられに行ったのだ。

 会えないのは(心の中で)限界だった。

 

「多分、前にケイブリスを倒した所だろう。」

 

 そう思って、件の山中に分け入る。

 見当たらないうちに山を抜けていた。

 下山していた。

 

どーん

 

どーん

 

 大きな足音である。

 

 目を凝らさなくても分かる。馬鹿でかい巨人の魔人が遠くに見えた。

 ミキはその魔人を良く知らないが、魔人であることは理解した。

 

 現在の自分の所に寄れないのは仕方ない。健太郎に会えないのも仕方ない。

 こうなったら、やることは一つ。

 

 叩きのめすのみ。である。

 

 

 走る―走る―

                走る―走る―

       走る―走る―

 

 

「一向に着かない。どんだけ大きいの!?」

 

 水色と赤が入り混じり、中心が紫色になった特殊な瞳で件の魔人―バボラ―に向かうが、一向に肉薄すらできなかった。

 

―――

――

 

 

 足元に着いたが余りの大きさに唖然とする。

 

「とりあえずやろう。」

 

 ファイヤーレーザーで、その馬鹿でかい足を打ち抜く。

 

……………

 

 無傷。

 

「…え?

 あれ?

 無敵結界やぶれないの?」

 

 予定外の出来事であった。

 幻影は幻影であるため、無敵結界は無い。

 勿論だが魔人同士で争う場合の無敵結界の中和もできない。

 

 まったくの計算外であった。

「…ナギちゃん連れてこなきゃ。」

 

 だが、魔人討伐隊につきっきりである。

 こうなれば、とにかくこのデカブツを止めるのを優先しようという事で、火爆破を連打する。

 無敵結界は攻撃こそ無力化するが、衝撃は止まらないのだ。

 ダメージは無いがノックバックはする。

 

 それはダメージを色々と食らい続けたおかげで理解していた。

 

「火爆破火爆破火爆破火爆破火爆破火爆破火爆破火爆破かばか…火爆破火爆破」

 

 いきなり足元、口元ひざ裏などが爆破される。

 痛くは無いが度重なる衝撃にヒザカックン状態となり、大きな音を立ててバボラは倒れた。

 

「あ~~?なに~が~~」

 

 起き上がろうと左手を地面に付こうとするが、その地面が抉れる。

 

 10回ほど手の下が爆発した影響で、再度沈み込むバボラ。

 地面をスカスカっと空振りさせたあたりで今度は右手を地面に着く。

 

 同様に右手の下も爆破させる。

 

「お~~なん~~だ~~?」

 

 左手の下にある溝を何度も何度も爆砕。

 

「おい、一体何が起きてるんだ?」

 バボラに付いている魔物将軍は、突然の転倒と爆発に周囲を見回す。

 だが人類軍は何処にも見当たらない。

 

 木の上から火爆破連打で地面を掘り、そしてついにバボラの背中も爆破していく。

 

「敵を探せーー!」

「どうなってるんだ?」

 

 魔物たちは俄かに騒がしくなっているが分かるわけもない。

 

 

「お~~お~~~お~~お~~~~?」

 

 遂にバボラは逆さまに地面に突っ込んだ状態となる。

 逆さまなので足が宙に突き出ており、上半身が埋まったままとなる。

 

「う……う~~ご~~け~~な~~い…あ~~」

 

「ふう、いい仕事した。」

「本当ね、すごいわ。」

 

 汗を掻くしぐさをしたピンクのにゃんにゃんの後ろから、ヘルマンがアサシン集団の頭領が何時ものポーカーフェイスで立っていた。

 

「!!?」

 いきなりの出現に驚いて飛び上がった。

 びっくりだった。アサシン怖い。

 幻影とは言え心臓バクバクものである。幻影なので心臓は無いが。

 

「そう警戒しないで。バボラが可笑しなことになったから見に来ただけ。そしたら火爆破を使い続けているにゃんにゃんがいたんだもの。

 そりゃあ、見届けない訳にはいかないわ。」

 

「じーーー」

 口にも出しつつフレイヤを観察するミキ。

 

「それで、あなたは何者なのかしら?」

「何者って…かわいいにゃんにゃん?」

 

「……天然と。それで、あなたは何者なのかしら?」

「え?あれ?話がループした!?」

 

 お互いにジーと見つめ合う。

 ふとミキがノリマキに目をやると、ふいっとノリマキが目をそらした。

 

「あ、勝った!」

 既に何の質問があったのか忘却しているようだ。

 

「とりあえず、魔物や魔人の敵という事で良いのかしら?」

 フレイヤは魔法が強力そうなので、強引に確保して敵対するより会話を選んではいるが、思い切って確保したい気分だった。

 

「あ、ケイブリスの敵ね、ケイブリスしばくよ!」

「そ、そう……それでバボラをこれからどうするの?」

 

「あーうん。無敵結界通らないし、仕方ないからこれでいったん終わり。

 足止めは出来たでしょう?」

「そうね、二週間くらいは大丈夫ね。」

 

「じゃ、そういう事で。」

「ええ。」

 ミキはにゃんにゃんの体という事で、しゅばっとジャンプし、その場を離れる。

 

 例の山に向かいたい。場所は分からない。

 とりあえずCITYに向かおうとした。

 

 

 

 

番裏の砦

 

「こんばんは。ミキです。…なんかいっぱい歩いたけど、ここは何処?」

 

 大量の魔軍に攻められ、大変な状況下であった。

 まだまだ人類軍の数は多いが、今にも落ちそうな勢いである。

 

「とりあえず、援護しよう。」

 

 ミキは炎の矢を雨の様に降らせはじめる。

 魔物の軍がその損害によって一部崩壊したあたりで、ピンクの魔法使いにゃんにゃんの存在に気付く。

 

「あのにゃんにゃんをヤレ!突撃開始!」

 魔物将軍が号令を出すと、魔軍5000がミキに向かって突撃を開始する。

 

「ファイヤーレーザー!」

 迎え撃つかの様にファイヤーレーザーを叩き込み、何匹も貫通させて倒していく。

 火力がヤバかった。

 

「なんという火力だ、魔法防御の高い奴を盾にして攻めよ!」

 魔法防御効果50~90%の特殊装甲を盾に突撃してくる魔軍。

 

 その軍の間をひょひょいと潜り抜け、魔物将軍へと到着する。

「火爆破!」

 

 なお業火炎破は使えない。習っていないから。

 

「ぬあーーー!」

 そんな火爆破でも、ミキの魔法攻撃力であればかなりの打撃になる。

 

 燃えカスの魔物将軍が動く。まだ死んでいないらしい。

「ぬおおお!」

 

 魔物将軍の槍がミキを狙うが小さいにゃんにゃんという事もあり攻撃は当たらない。

 

 躱した後に火爆破を放ち、遂に魔物将軍は倒れた。

 

「ば、馬鹿な!将軍がにゃんにゃんに倒された!

 ぐあーーー」

 

 にゃんにゃんに触発された訳ではないのだろうが、魔軍が崩れたのを好機とし、ヘルマン軍が反撃を開始する。

 ミキ(にゃんにゃん)の魔法もあってか、魔軍は撤退していった。

 

 ミキは総崩れした魔軍を確認すると、山を目指して走っていった。

 

「今のにゃんにゃんは一体……」

 

 ヘルマンの将軍は立ち去っていくピンクのにゃんにゃんを姿が見えなくなるまで眺めていた。

 

 

 

 

 

「おはようございます。ミキです。どうにも人類圏じゃないようです。

 どうすれば…」

 

 だが、それでも山に到着する。

 

「…どうみても活火山。どうしよう。」

 

 周囲はどうみても魔物界。着いたのは、なぜか活火山。

 

「認めよう……認めます。

 迷子になったと!」

 

 今更のように言うが、ヘルマンに着た辺りで気づこう。

 

 火山に入ると、酒飲んでやさぐれている魔物将軍が居た。

 

「ちょっとすいません。」

「なんだ?……にゃんにゃんか。ケイブニャン様の…眷属かな?」

 

「L・C・M山脈はどっちですか?」

「……あ?」

 

「L・C・M山脈はどっちですか?」

「あー…あーあーあー。ケイブニャンの眷属だもんな、そりゃあ迷子になる。

 とりあえずあっちの方に自由都市とか言う土地がある。そこで…誰かに聞いた方が良い。」

 

「おお!これはご丁寧に。」

 魔軍だがいい人(?)も居るもんだと思って指さした方に歩き出す。

 

「あーいったん外に出なきゃ意味が…あーあ、行っちゃった。まあいいか。」

 

 

 

 骸骨の横を通り抜け、すっぱい匂いの部屋があったのでそこを回避し…

 

 なんかデカい奴がいた。

 だが見忘れもしない。憎い奴だ。

 

「ケイブリス…!?」

 

「ん?あーなんだ?

 ケイブニャンの使いかなにかか?狂瘴気とか平気な奴が居たのか?」

「違うよ、殺しに来たんだよ!?」

 

「なんだとぉ!?

 ぐぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁあ!

 お前みたいなちっこい奴が、一匹で俺様を倒そうってか?

 面白しれえ冗談だな、おお、遊んでやるぜ!」

 

「よし!倒してやる!!」

 

 

 

 ケイブリス(超慢心)が現れた。

 

「ファイヤーレーザー!」

 熱線がケイブリスを襲う。が無敵結界に阻まれダメージを受けない。

 

「お?いっちょ前に魔法なんて使いやがるのか?」

 軽口を叩くケイブリスの顔面ににゃんにゃんパンチが襲う。

 勿論連打である。

 

「おお、おおおお!?」

 ダメージは無い。無いが衝撃がケイブリスを襲い壁に叩き付けられる。

 

「何だこいつ!?」

 幾筋ものファイヤーレーザーが襲い掛かる。

 

「な、なんだこいつ!?」

 合わせて反撃するが、にゃんにゃんには届かない。

 

「ぬおおおお!」

 ひょいひょいとケイブリスのパンチを掻い潜り、魔法攻撃を回避する。

 

「おのれえええ!ちょこまかと!」

 段々と頭に血が上ってくるケイブリス。

 

「うーん。無敵結界ヤバいなぁ。

 とりあえず魔法バリア!」

 

 全体攻撃がヤバくなってきたので、魔法バリアを現在の最大数張る。

 x8枚であるがケイブリスに相手には十分すぎる防御だった。

 

「こ、このやろう!」

 ケイブリスからいつの間にか慢心が取れていた。

 

「くっ、」

 張り忘れた魔法バリアの隙間から攻撃が降るようになる。

 

「こざかしい!」

 

 

―――――――――

――――――――

―――――――

―――――

―――

 

~それから二週間経過した。~

 

「ぜえぜえ……ぶったおしたけど、やっかいな奴だったぜ。

 無敵結界も無えのに硬い奴だった。

 一体何だったんだ?こいつ。

 ……

 ケイブニャンの代わりに使徒にした方が強かったんじゃないかコレ。」

 

 幻影は倒された。

 当然だ無敵結界があるのだ。ダメージは入らず、こちらも当たらない。

 1000日手のような戦いだった。

 

 だが蓄積したダメージに耐え切れず、幻影は倒された。

 

 とはいえ、これでケイブリス派の動きは鈍っただろうとして、幻影としてはここで消滅しておいたのだ。

 ケイブリスがコレを幻影と思わなかったのは、まさかこんな強さの幻影が居るとは思わなかったからに他ならない。

 

「人間共ではないだろうが、世の中には変なのも居るもんだな。」

 ケイブリスはしみじみと思った。

 

 

CITY ランス城

 

 幻影を復帰させ、ゲートコネクトでルラ(ナギ)の部屋に到着すると、既にルラ(ナギ)は帰っていた。

「お疲れさん。大作戦はどうだった?」

「あーあれね。なんかリターンデーモンで戻されて、ふてくされて寝ちゃった。」

 

「はああああああ!?」

「言いたいことは分かるけど、なっちゃったものは仕方ないんだよー。」

 

「だからって、え、作戦失敗ってどういう事よ。」

「ごめんてばー」

 

 

 人類軍は大作戦をの中身に取り掛かる前に失敗していたのだった。

 

 

 

-----------------------------------------------

〇勇者が各地で暗躍しています。

〇ランスがヘルマンで活躍中

〇ピンクのにゃんにゃんがヘルマンで活躍中

〇バボラが地中に埋まっています

〇ケイブリスが何者かに襲撃され命令系統がマヒ(特に効果なし)

 

人類死滅率 8%→17%

 

 



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28 T3-LP7年11月前半 徘徊するにゃんにゃん

◆人類死滅率17%

 

 

「はあ?でっかい魔人が逆さまに埋まってる?」

 

 総司令部に、魔人バボラの異変が届けられた。今なら無抵抗でやりたい放題である。

 つまり近くの魔軍を蹴散らせば魔人は倒せる。

 

 魔人討伐隊はそんな情報を元にバボラ討伐に出発する。

 

 

 

 それとは別に動く者が居た。

 

「じゃあ、案内宜しく。」

 ピンクのにゃんにゃんが、地図上で指し示すポイントへ連れていくように要請。受理した。

 

「こちらです。」

 闇烏。ヘルマンのアサシンである。首領に何かを言い含められているのか、迷子のにゃんにゃんにならないよう先導していた。

 

 アサシンの先導に従って移動する事2時間…例の洞窟に到着する。

「くんくん

 …健太郎くんのにおいがする!?」

 ※しない。気分でそう感じるだけ。

 

 そっと洞窟に近寄り、そっと洞窟の中を見る。

 暗くて良く見えない…

 

 ブン!

 風切り音がする。

 

 日本刀での切り落とし。刀はミキの首にクリティカルヒットするも、切断には至らなかった。

 膨大なHPのおかげだが、HPの1/4が飛んだ。

 

「…え?!」

「くっ…なんだこの化物にゃんにゃんは!」

 

 健太郎くんに攻撃されて、一瞬呆然とする。

 だが第二撃目が繰り出されるのは咄嗟に避けた。

 

「ま、まって!」

「はぁ!!!」

 

 健太郎は日光で再度斬りかかる。

 仕方なく魔法シールドで防ぐ。

 無敵結界は無効化できても、魔法シールドはなかなか突破できない。

 不思議な装備である。

 

「話せばわかるよ!待ってってば!」

「にゃんにゃんだろうと、美樹ちゃんには近づけさせない!」

 

 攻撃する訳にもいかず防戦一方となるミキだが。

(あれ?無敵結界あるから攻撃しても特に意味ない?)

 

 ミキは、とりあえず火爆破で視界を奪うと一目散に逃げ出した。

 

(これじゃあ近寄ることもできないよ)

 距離を一定以上とり、木の上で唸っていると闇烏がすっと背後に現れる。

 勿論ミキは気づいていない。

 

「ううう、近寄りたい。でも近寄ると攻撃される。

 なんだって、あんなに攻撃的なの?」

 

 なお、空腹のせいである。

 いや本当に。

 

「どうしようもないから、各国の魔人と戦おう。妨害戦だ!

 さて、闇烏さんはどk…」

 キョロキョロ見ようとして、真後ろに居ることに気がついて言葉が止まる。

 

「えーと、リーザスだったかな?そこの前線で戦ってる魔人さんまで案内してもらえます?」

「はい。…こちらです。」

 

 

 

 白くでかい塊、鎧が戦場を駆け抜ける。

 大きな弾丸と化した鎧で、敵を跳ね飛ばしていく。

 

 今日も黒の軍を散々蹴散らし、その後襲ってくる魔軍に追い詰められる。

 戦場の一角のみなので、上手く調整し、ローテーションで遅滞戦闘を行っている。

 それとは別の箇所で、数敵優位を作り出して魔軍を蹴散らしている。

 

 無茶に無茶を重ねている戦場であるが、量質ともに勝っている相手に対して、リーザス軍は良く戦っている方である。

 そんな戦場の一角で人類の陣をまた蹴散らす。

 陣でけちらされた者は後方に逃げ延び、再度陣を形成する。

 

 白くでかい鎧が突破した陣は今日で26。果てなき戦陣は無限に生成されるかのようだ。

 もちろん、黒の軍。その人間達の体力が持つ限り繰り返される。

 そして体力は無限ではないのだ。

 

 そんな白い鎧が次の陣に挑もうとするその横合いからファイヤーレーザー8本が突き抜けた。

 それでも動きは止まらない。

 

 陣に迫る白い鎧。

 そこへ追撃のファイヤーレーザー32本。

 地面や当たらなかったものが幾つか出たが、白い鎧はそこで動きを止める。

 攻撃してきた方を見据えると、ピンクのにゃんにゃんがいた。

 

「…」

 解せなかった。白い鎧は魔術師は何処かと見渡すと、火爆破が直撃する。

 だが装甲のおかげで無傷である。

 

 ピンクのにゃんにゃんが、白い鎧に迫る。

 まさかアレが魔術師とも思えず、周辺を見ていると、ピンクのにゃんにゃんから収束されたファイヤーレーザーが放たれた。

 その一撃。それがあろうことか装甲を破損させる。

「…」

 

 それこそありえない。

 こんな可愛いにゃんにゃんが、この(魔道具)―リトル―を傷つける事ができるなど信じられなかった。

 

 収束したファイヤーレーザーが再び放たれる。

 先ほどの1本と違い8本の熱線がリトルへと注がれる。

 あまりのスピードで回避は出来なかった。

 

 恐るべき攻撃に対し、攻撃する手が止まる。

(こ、こんな可愛いにゃんにゃんに攻撃する…なんて、出来る訳が。ううん、反撃はしないと。)

 

 十数発食らって地面を転げながらようやく反撃を行うも、有効な攻撃ではなかった。

 

「くっ」

 

 装甲は損壊し、リトルが解かれる。

 空いた穴からファイヤーレーザーが入り込む。が、無傷。

 

 そこから先は無敵結界の領域である。

 リトルは基本形態に移行。中からシルキィが漏れ出るように出てきた。

 

「やるね、もう…にゃんにゃんだからって容赦しないよ。」

「にゃーん」

 

「う…私の戦意を挫こうというのか。」

「残念」

 

 火爆破で煙幕代わりとする。どうせ無敵結界で無効なのだ。

 そんな使い方でも問題ないだろう。

 

「覚悟!」

 煙幕から飛び出たシルキィは即座に魔法シールド…いや魔法障壁にぶつかった。

 

「一体何が?」

 気がつけば四方を壁で覆われていた。

 四角錐のようで、上空に隙間はない。

 

 にゃんにゃんは更に外側に魔法障壁を形成していく。

 シルキィが1枚目を破壊する頃には、4枚目を作り終えていた。

 

「なんだあれは、シルキィが捕まってるぞ?」

「あのにゃんにゃんがやったのか?」

「救い出すというのもアレだが、助けるか。」

「あんなんでも魔人様だからな~ニヤニヤ」

 

 魔軍がにゃんにゃんに攻撃をしかけ、外からも魔法障壁を攻撃する。

 とてもじゃないが外からの攻撃は効果なかった。

 

「邪魔」

 ファイヤーレーザーと火爆破を駆使し、気がつけば魔軍は全滅していた。

 

 

 

 

 シルキィが魔法障壁を15枚破った辺りで音を上げた。

 段々固くなる障壁で、外にはすでに20枚程の障壁が組まれていた。

 地面を掘るも、下にも魔法障壁がある始末で、イタチごっこより質が悪かった。

「もう、どうしよっていうのよ!」

「降参してくれるかな?」

 

「………それはできないわ」

「ならここでにらみ合いね。」

 もう壁を壊そうという意志はないのか、どかっと座ってにゃんにゃんを見据える。

 

「そういう君はにゃんにゃんなのに、どうして人間の味方をするの?」

「この姿は仮の姿で、元々人間だよ。」

 まあ今は魔王だが。

 

「うーん、無敵結界が厄介ですね。」

「無敵結界が無ければ倒されているよね、助かってるよ。」

 

 敵に回すと厄介だなぁと思っていた。

 そこでふとひらめく。

 

 宇宙戦艦の主砲なら打ち破れるじゃないか。と。

 

 しかし、宇宙戦艦をここに持ってくることはできないし、携帯用にすることもできない。

 だが、だがもし…ゲートを通しての攻撃なら通るのではないか?

 そのように思いついてしまった。

 

「良い事を思いついた。アレなら無敵結界もこれまでです。

 それで、降参しませんか?」

 

「…しないよ。」

「残念です。」

 

 ゲートコネクト。

 異界との扉が開く、そして本体に意識を戻すと目の前にゲートが開かれていた。

 ゲートの向こう側は見えないが…撃てば当たる。

 

 宇宙戦艦主砲よりやや弱い程度に調整する。

 そう、無敵結界を打ち破って余りあったあの宇宙戦艦主砲の出力。

 それを鍛錬中にレーティアが改良しまくって、倍以上に出力が上がったソレ。

 コレを相殺できるようになった美樹は、その倍以上になった主砲出力のやや弱めに調整した火力で撃ちだした。

 

 魔法障壁20枚程が、まずは立ちふさがった。だがそれで勢いが半減するでもなく貫通。

 砲撃が当たる直前、シルキィの無敵結界は魔王特性によって中和され無意味と化し、戦艦主砲の暴虐たる火力に晒された。

 

 美樹はゲートを消し、意識をにゃんにゃんにもどすと、そこには抉られた大地と、魔血魂が一つ。

 他には何もなかった。

 

「……あれー?」

 

★★★シルキィメダルGET!★★★

 

「あれえ?」

 ミキは暫くそこで呆然としていた。

 

 シルキィの魔血魂を咥えると、ミキは移動を開始する。

 

「闇烏さん、ナビゲートお願いします。」

 変な方向に行くだろうと予測したミキは、大人しくナビゲートされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

黒の軍本陣

 

「ふうむ、魔人シルキィがピンクのにゃんにゃんと交戦中か」

「バボラの時や、裏番で目撃されていますが、人類軍側でかなり戦果を上げていますね。

 あのにゃんにゃん。」

「敵でなければいい、実際魔人への対応は助かっておる。」

 

 黒の将バレスと白の将エクスは、にゃんにゃんがシルキィと交戦していると聞き、先日魔物達を攻撃して暴れているにゃんにゃんが居るとの報告を思い出した。

 

「流石に無敵結界は壊せませんが、いい時間稼ぎにはなっていますね。」

「シルキィを援護する魔軍を一方的に叩く事が出来るかも知れん。増援しておくか。」

 と、そのように話を纏めていると…

 

「バレス将軍!」

「どうした?」

 入って来た黒の軍兵。伝令だろうが、その者から報告があった。

 

「現在魔人シルキィと交戦中のにゃんにゃんですが、

 多重の魔法障壁でシルキィを閉じ込めたそうです。」

 

「ほう、しかし、魔法障壁は削れるし壊れる。黙っているシルキィではあるまい。

 足止めにしかならんのではないか?」

「いえ、それが…

 壊す前に新しい魔法障壁を張り、壊すころには新たに2枚の魔法障壁が出来ておりました。」

 

「なんじゃと!?」

「私が確認したのは、6枚の魔法障壁が破られ、新たに12枚の魔法障壁が作られた状態です。」

 

「これはこれは…その状態を維持出来たら魔人を封殺していると変わりませんね。

 封殺している間に魔人討伐隊を呼んで始末してもらうのが宜しいでしょうか。」

「そうじゃな、さっそく伝令を出そう。あとシルキィ救出軍が来る。撃退の兵を用意せよ。

 儂も現地を見に行くぞ。」

「はっ!」

 話はまとまり動き出そうとしたその時、新たな黒の軍兵が入ってくる。

 

「将軍!」

「どうした!?何か動いたか!!」

 

「は、はい。えっとその。

 例のにゃんにゃんが来ました。」

「は?」

「え?」

 

 下をすり抜ける様に、ピンクのにゃんにゃん。ミキが本陣を訪れた。

 

 え、なんでお前来ているの?

 シルキィほっといて帰って来たの?なんで?

 

 みたいな目がミキに降り注いだ。

 勿論そんな空気も視線も無視してずんずんとバレスの前に来る。

 

 ぺっ、と、魔血魂をバレスの方に転がす。

「シルキィ。大切に保管して。」

 

 それだけ言うと、ささっと間を抜け、ぴょんと飛び跳ねて去っていった。

 

「えっと、にゃんにゃんが魔人シルキィを撃破。その魔血魂を咥えてここにやってきました。」

「それを早く言え!全軍出撃、追撃じゃ!!!!」

 追撃は出来る時にできるだけする。

 黒の軍、白の軍は魔人が破れて総崩れした魔軍を追い立てていった。

 

 

 

 

 

 

「闇烏さん」

 ミキが呼ぶとしゅたっと、横に現れる。

「自由都市の魔人の処へ。」

「こちらです。」

 

 今度は自由都市の方へ移動した。

 

 夜を過ぎ、昼になって自由都市の前線の一つに辿り着く。

 魔人レイ。

 

 雷の魔人がその暴虐を振るっていた。圧していた前線が、魔人一人の為に押し返された。

「おらあああああ!」

 

 ミキは反省した。

 主砲クラスの砲撃なんてしたから悪いのだと。

 あそこまで吹き飛ばすつもりは無かった。

 

 魔王の攻撃=無敵結界は剥げる。そう考えた方が良いと思った。

 なので、ほんのちょっと、炎…いや火の矢でいいからぶち当てて無敵結界を剥いでしまおうと考えていた。

 

 目の前で暴れる魔人レイに魔法シールド8枚で逃げ場を奪う。

 

「あっ?なんだ!?」

 

 ゲートコネクト。

 火の矢…

 

 本体の美樹が放った無敵結界を壊すだけの火の矢。炎の矢を下回る手加減攻撃のための一撃がレイに放たれた。

 魔法シールドのおかげで退路は無い。

 その一撃は普通の魔法使いの撃つファイヤーレーザーの速度を上回り、残像からファイヤーレーザーを思わせるも、白い火のためにライトの様にも見えた。

 無警戒だったレイが嫌な予感がして飛びのく…が、魔法シールドが邪魔をして回避できず脇腹に直撃した。

 脇腹は抉れたが、血が飛び散らなかった。

 火の熱により焼け、そのおかげで血が出なかったのだ。

 もしも飛びのかねば、腹に大穴が空いていただろうか。

 

 無敵結界は語るに及ばず、直撃直前で無に帰した。

 

「馬鹿な…」

 

 ゲートは閉じ、にゃんにゃんが歩いてくる。

(ゲート経由なら攻撃OKと…)

 

 なんだかダメダメな攻撃方法を思いついてしまった美樹であった。

「これで勝てる…

 魔人さん魔人さん。降参しませんか?」

 

「っざけんな!にゃんにゃんが!」

 降参しなかったようなので、にゃんにゃんVerファイヤーレーザー8本をお見舞いした。

 

「ぐぬぉおおお!」

 数本外したがものの、直撃したファイヤーレーザーが彼を痛めつける。

 

 ミキを睨み付けると、レイは戦略的撤退を開始。

「うわっ!?レイ様?」

 レイは魔軍の中を逃げていく。

 追いかけるミキ。

 

 立ちふさがる魔軍を蹴散らし、レイを追う。

 蹴散らされた中に魔物将軍が居たが、勿論気にせず蹴散らした。

 

「しつこいな、おらあああああ!!!」

 雷で進路をふさぎつつ、ミキを攻撃。

 特に防いでいなかったので直撃を食らうも、HPに余裕があるため追撃は継続された。

「くそっ!」

 

 そうしているうちに町に入られ、レイを見失っていた。

 

 

「仕損じたか。」

 ミキは今回はこれまでとしてCITYに帰還した。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 バボラを倒したランス一行は、シルキィが弱っているという事でリーザスへ移動するも、

 シルキィ討伐済みに落胆し、ついでとばかりにハウゼルを襲撃、戦場で撃破した。

 

「出番がなかったから、がんばってみました。」

 と、ルラ(ナギ)がそれなりに頑張っていたが、だいたいはランスが倒した。

 

 

-----------------------------------------------

 

〇勇者が各地で暗躍しています。

 

〇魔人バボラが何もできず討ち取られました。

 

〇ピンクのにゃんにゃんが魔人シルキィ撃破

 

〇ピンクのにゃんにゃんが魔人レイを撃退

 

〇ランスが魔人ハウゼルを撃破

 

 

人類死滅率 17.8%→24.6%

 

 

 




シルキィは好きなんですけどね、なんでこうなってしまったのか。


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