大怪獣バトルレジェンド Gの伝説 (キューマル式)
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第1話 伝説との遭遇

 その日……世界は死んだ。

 『ソレ』はどこから来たのか……その問いに誰も答えることができない。

 ビルをも超える巨体に、戦車の砲弾すら弾く強靭な皮膚。そして生物としてあり得ないような超能力を秘めた巨大なる獣たち……『怪獣』の出現である。

 マンガや映画の中のフィクションに過ぎなかったそれらは、突如として絶望的な現実となって人々に襲いかかった。

 無論、人類も持てる力の限りを尽くし『怪獣』に立ち向かったが、そのどれもが『怪獣』たちの暴虐を止めることは出来ず、残ったものは蹂躙された世界という結果のみ。

 

 怪獣出現から13年……人類は地上の街を捨て、地下に街を作り以前とは比べ物にならない、細々とした生活を送っていた。

 地上を追われ、地下で怪獣たちに脅えながら暮らし続ける人類……この物語はそんな世界で、『怪獣』と戦う力を手に入れた少年少女たちの物語である……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 赤、紅、朱……少年の視界いっぱいにその色は広がっていた。

 それで少年は理解する、またあの時の夢を見ているのだと。

 炎の赤に飲み込まれていくのは自分の生まれ育った街。そして、その街を闊歩するのは赤い巨大な怪獣だった。

 炎の赤よりなお赤く、闇夜の空より黒いその体、そして禍々しいその羽根。まさに『悪魔』である。

 その『悪魔』は我が物顔で故郷の街を蹂躙する。

 逃げ惑う人々、それはまさに地獄絵図とも言える光景だった。

 だが、少年はその視線の先に鈍い鋼鉄を見ていた。

 90(キューマル)式戦車……自衛隊の保有するその戦車は、市民の避難のための時間を稼ぐため、勝ち目などまるでない戦いを『悪魔』へと仕掛ける。

 

(ダメだ!!)

 

 少年は思わず叫ぶがここは夢の中、声など届くはずが無い。

 90(キューマル)式戦車の120mm滑腔砲が連続して火を吹くが、『悪魔』はものともしない。だが、それでも『悪魔』の気を逃げ惑う市民からそらすことは出来たようである。

 『悪魔』は90(キューマル)式戦車に狙いをさだめた様だ。その口と角に奇妙な発光現象が起きる。そして、それは放たれた。

 『悪魔』の吐き出した光線はビルを次々と粉砕しながら90(キューマル)式戦車に迫る。その光線の薙ぎ払いに巻き込まれた人々が分解されるように溶ける。そして、その光線は何の抵抗もなく90(キューマル)式戦車を爆散させた。

 

(父さん!!)

 

 少年は思わず届かぬ声を上げ、燃え盛る90(キューマル)式戦車の残骸へと手を伸ばす。

 だが、その伸ばす手が掴むものは何もない。

 

(あ……ああ……!!?)

 

 そして少年の先には……あの赤い『悪魔』が……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「起きなさいよ!!」

 

「ッッッ!?」

 

 聞きなれた声に、跳ね起きる様にバッと少年は身を起こした。はぁはぁと呼吸を整えるために何度も息をする。汗で身体に張り付くシャツがなんとも不快だ。

 そんな少年を少女が呆れ顔で見下ろしていた。

 

「いいご身分ね、今何時だと思ってんの?

 時間になっても来ないから見に来たらこれだもん」

 

 少女は呆れたようにため息をつく。

 

「ちっ……悪かったよ」

 

 少年はバツ悪そうに言うと、ベッドから降りる。

 

「着替えたらすぐ行く。 ちょっと表で待ってろ」

 

「分かったわよ」

 

 部屋から出て行こうとする少女は、出て行く前に振り返った。

 

「また……あの時の夢を見たの?」

 

「ああ……あの『悪魔』の夢だ」

 

「そう……早く来なさいよ、『ゴミ拾い』は早い者勝ちなんだから!」

 

 少女は一瞬だけ悲しそうな顔をすると、それだけ言って少年の部屋から出て行った。

 少年は汗でべったりとしたシャツを脱ぎ捨てると服を着始める。ジャケットのポケットにある工具類を確認しそれを羽織ると、最後に少年はベッドサイドの帽子を被った。その傍には一枚の写真が飾られている。

 戦車の前で戦闘服を着込んだ精悍な男に、小さな子供が抱かれていた。男の被っている帽子は、今少年が被っているものと同じものだ。

 

「行ってくるよ、父さん……」

 

 少年は写真に向かってそれだけ呟くと、部屋から出て行った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 人類がその生活圏を地上から追われそのほとんどが地下へと身を潜めてから十数年、地下都市は地下へ地下へと資源を採掘しながら細々とした生活を余儀なくされていた。

 そんな地下都市には何もかもが足りない。

 そんな地下都市から怪獣たちのいる地上にでて、そこでかつての街の廃墟から様々なものを拾い、それを売り払うことで日々の糧を得ている者たち―――『トレイダー』と呼ばれる者たちが存在した。

 そして、この少年と少女―――芹沢翔(せりざわしょう)三枝絵美(さえぐさえみ)もそんな『トレイダー』の1人であった。

 

「今日は海の方に行ってみましょ」

 

「おう」

 

 絵美の運転するハンヴィーに先行するように翔の乗るオフロードオートバイが瓦礫の街を駆ける。こうして街を練り歩き金になりそうなものを拾う『トレイダー』の仕事、通称『ゴミ拾い』は2人の日課である。

 今日2人がやって来たのは沿岸部であった。そこで2人は二手に分かれてそれぞれに『ゴミ拾い』に向かう。

 

 

「見渡す限りの瓦礫の山……か」

 

 この辺り一帯にかつて国際展示場と呼ばれる建物があったらしいが、今は見る影もない。それでも瓦礫の中にある希少金属などは貴重だ。鉄も重要な資源である。

 翔が早速作業に取り掛かろうとしたその時だった。

 

「ん?」

 

 瓦礫の隙間に、何かが落ちている。

 拾ってみると、それは何かの電子機器のようだ。掌に乗るサイズだが、何の用途のものか分からない。

 

「まぁいい、金になる」

 

 集積回路などに使われている金などの希少金属はいい値で売れる。翔はその機械を右のポケットにねじ込むと、次の瓦礫へと手を伸ばす。

 ポケットの中でその機械が淡い光を放ったことを、翔は気付かなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「とりあえずこんなもんか」

 

 バイクに積めるだけの荷物を積んだ翔はそろそろ引き揚げ時だと通信機で絵美へと話しかける。

 

「おい絵美、そろそろ……」

 

 その時、翔は通信機の向こうから怪獣の咆哮を聞いた。

 

「絵美、どうした!!」

 

『ドジった!

怪獣の寝床の近くだったみたい! 今、追われて……きゃ!?』

 

ドウンという巨大な質量の音と共に、通信が乱れる。

 

「ちぃ!!」

 

 それを知った翔は荷物を切り離すと、彼方に見える怪獣へと向けてバイクをスタートさせた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ヤバイヤバイヤバイ!」

 

 ハンヴィーを必死に運転しながら、絵美はバックミラーに映るその怪獣を見ていた。

 茶色の身体にはさみになった両腕……『岩石怪獣サドラ』である。

 サドラはその愛嬌ある顔とは裏腹に人を捕食する怪獣だ。そのはさみに捕えられたら最後、丸呑みにされてしまうだろう。

 限界までアクセルを踏む絵美だが、その巨体と距離が離れない。むしろ近付いてきている。

 そして、ついにその巨大な足が絵美の乗るハンヴィーへと迫った。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

 至近に踏み下ろされた足の衝撃で、ハンヴィーがクルクルとスピンしながら瓦礫にぶつかり停車する。

 

「う、うぅぅ……」

 

 絵美はふら付きながらもハンヴィーを捨てて逃げようとするが、そのまま地面へと倒れ込んでしまう。

 そんな自分を覆うような影に絵美は振り向くと、そこにはその手のはさみを自分へと向けゆっくりと伸ばすサドラの姿があった。

 

(もう、ダメ……!!)

 

 迫る恐怖に思わず目を瞑る絵美。だが突然の爆発音に、絵美は目を開いた。

 

「こっちだ、怪物!!」

 

 そこにはパンツァーファウストを構えた翔の姿があった。見ればサドラの口から黒煙がたなびき、サドラが悶えている。

 どうやらサドラの口にパンツァーファウストを叩きこんだようだ。怒りに燃えるサドラが翔の方へと視線を向ける。

 それを確認すると、翔はバイクのアクセルを全開にしサドラから離れて行く。それを追ってサドラも移動を始めた。

 

「俺が引き付けるからお前は逃げろ!」

 

「翔!!」

 

 それだけ言い放ち、翔は絵美からサドラを引き離そうとバイクを疾駆させる。

 翔も怪獣を自分がどうこう出来るとは思っていない。小さいことの利点を生かし、適当に逃げ回るつもりだ。

 何度も踏みつけようとするが、小刻みにジグザグと逃げ続ける翔を捉えきれない。そして業を煮やしたのか、サドラは近くの巨大な瓦礫を翔に向かって蹴飛ばしてきた。

 

「!?」

 

 瓦礫の直撃こそ避けた翔だが、その衝撃にバランスを崩してバイクから投げ出され大地に転がる。

 

「ぐ、くぅ……」

 

 激痛に大の字の状態から身体が上手く動かない。

 そんな翔へとどめを刺そうというのか、サドラはその足を振り上げる。

 

「ちく……しょう……」

 

 もはやどうしようもない状況に、翔は毒づくとともに目を閉じる。だがその時、電子音声のような声が響いた。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「?」

 

 いつまでたっても、振り下ろされるはずの衝撃が無い。もしかして自分は気付かないうちにもう死んでいるのか、そんな考えが浮かぶ中、翔は目をゆっくりと開いた。

 そしてそこに……『あいつ』がいた。

 それは黒い龍だ。ごつごつした泡立つような皮膚、その背にあるとがった背びれ、長い尻尾の黒の龍。

 その龍が振り下ろされようとしていたサドラの足を掴んでいる。

 

 

ブン!

 

 

 黒い龍がサドラの足を掴んだその手を振り上げると、サドラの身体が宙を舞う。片腕だけでサドラを投げ飛ばす、桁違いのパワーだ。

 だが黒い龍は投げ飛ばされたサドラなど気にも留めていないかのように、大の字で倒れた翔のことをジッと見つめる。まるで何かを待っているかのように。

 その時、翔は自分のポケットが光っていることに気付いた。慌ててポケットをまさぐると、先ほど拾った機械が淡い輝きを放っている。

 翔がそれを手に取ると、頭の中に何かが流れ込んでくる。

 

「ぐっ!?」

 

 突然の鈍い頭痛に顔をしかめるが、その痛みはすぐに引いた。そして翔は目の前の黒い龍を見やる。

 

「……わかる。 お前の名前が……!

 今、何かが頭の中に流れ込んできて教えてくれた。

 お前も名前も、これが怪獣と戦うための道具だってことも……」

 

 そして、翔は手の中の機械、『バトルナイザー』を握りしめた。その時、倒れていたサドラが起き上がり黒い龍へと背後から襲いかかろうとする。

 それを見て、翔は『バトルナイザー』を掲げながら叫んだ。

 

「行け、『ゴジラ』!!」

 

 

ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 翔の声に答えるように黒い龍、『ゴジラ』は天高く咆哮する。そしてその太い尻尾を背後から迫るサドラへと叩きつけた。

 その凄まじい衝撃に再び宙を舞うサドラ。立ち上がろうともがくサドラに、ゴジラの蹴りが叩きこまれ、その巨体が三度宙を舞う。

 もはや満身創痍のサドラは白い泡を吹きながら必死で立ち上がりろうとしていた。

 

「トドメだ、ゴジラ!!」

 

 

ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 咆哮と共にゴジラの背びれが発光していく。そしてその口から青い熱線がほとばしった。

 熱線は動けないサドラに直撃、その強靭な皮膚を喰い破る。

 そしてサドラは大爆発とともに消えて行った。

 

 

ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 天に向かって勝ち鬨の咆哮を響かせるゴジラ。そのゴジラは光の粒子のように翔の手元の『バトルナイザー』へと戻っていった。

 

「すげぇ……」

 

 ただそれしか声が出ない。

 

「翔!!」

 

 そんな翔の元に、絵美の運転するハンヴィーがやって来た。

 

「無事なの、翔!?

 それに……今のは一体……?」

 

「俺もよくは分かんねぇ。

 ただ分かるのは……こいつは怪獣を倒せる力だってことだ」

 

 瓦礫の街で、少年は黒い龍と出会った。

 この出会いこそ、この世界を変える運命の出会いだということをまだ誰も知らなかった……。

 

 

 

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怪獣解説コーナー

 

 

怪獣王『ゴジラ』

出典:『ゴジラシリーズ』

 

解説:言わずと知れた怪獣王、キングオブモンスター、世界的にも有名な最強怪獣であり、本作主人公、芹沢翔のエース怪獣。

   黒い強靭な皮膚に背中の背びれ、長い尻尾を持つ水陸両生の怪獣。

   核エネルギーを吸収しそれを力に変え、無限に進化する『常識を超越した生物』。

   核の影響で生まれたため、その瞳には永遠に消えない人類への深い怒りが渦巻いている……はずなのだが、本作の個体は非常に人類に対して友好的。

   拾われた場所からも、分かる人には分かる『人類に友好的かつ最強』の個体である。

 

   放射熱線をはじめとする多彩で強力な技の数々は怪獣王と呼ぶにふさわしい。

   翔とともに、怪獣たちとの果てしない戦いへ身を投じることになる。

   

 

 

岩石怪獣『サドラ』

出典:帰ってきたウルトラマン他

 

解説:茶色の体色にハサミになった両腕をもつ怪獣。そのハサミの威力は強力で鋼鉄をも簡単に切り裂く。

   霧を発生させ、迷い込んできた人間を襲っていた。

   と、ここまでは結構まともに見えるが、後のシリーズに出れば出るほど扱いが悪くなっていった。

   『ウルトラマンメビウス』では複数体が次々に倒され、さらにはボガールに捕食される。

   怪獣同士の戦いが売りの『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』では第一話からレッドキングに絞め殺され、その後も『大量に出てきては瞬殺される』という完全なかませ犬状態。

   よくよく見ると結構愛嬌のある顔で作者的には好きなんだが……。

 

 

 

『悪魔』

出典:???

 

解説:その昔翔の暮らしていた街を破壊し、翔の父を殺した怪獣。

   赤い体躯に羽根を持つ、悪魔のような形をしている。

   その正体は現在不明……。

 

 




というわけで趣味丸出しの怪獣ものです。
『ゴジラVSサドラ』……集客効果なさそうな題名ですね(笑)

不定期更新で今後も気が向いたときに更新しようと思っています。

では次回第2話『暴竜と旅立ちと』でお会いしましょう。


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第2話 暴龍と旅立ち

 

 

 岩石怪獣『サドラ』を不思議な機械、『バトルナイザー』から現れた『ゴジラ』によって退けた翔は絵美と合流し、帰りの道を急いでいた。

 とはいってもサドラによって倒れた翔のオフロードバイクは不調、ハンヴィーにそれを無理矢理積み込んでの非常にゆっくりとした帰り道だ。

 

「……ってわけで、拾ったこいつから出てきたんだよ」

 

「ふぅん」

 

 翔の話を聞きながら絵美は興味深そうに『バトルナイザー』を見つめる。

 『バトルナイザー』には窓のような部分が3つ映し出されており、その中の1つには目を瞑り眠るように佇むゴジラの姿が映っている。

 

「でもさ、こんな道具なんて見たことも聞いたこともないよ」

 

「俺だってそうだよ。

 でも、使い方だけは分かるんだ」

 

「使い方?」

 

「怪獣をぶっ潰すって使い方」

 

 そう言って薄く嗤う翔に、絵美はゾクリと身を震わせた。

 翔と絵美は幼馴染同士、幼いころに怪獣によって両親を失い孤児になり、その後一緒にトレイダーの仕事を続けている身の上だ。

 だからこそ、絵美は翔の中にある『復讐心』を知っている。

 2人の暮らしていた街を襲ったあの『悪魔』……父を殺したその怪獣に対して、翔が深い憎しみを持っていることを絵美は知っているのだ。

 

 

『いつかあいつに……復讐してやる!!』

 

 

 今でも絵美は覚えている。

一緒に逃げていたその時、燃え盛る故郷とそれをやった張本人である『悪魔』に向けて幼い翔が投げかけた呪いの言葉。

 でも現実は非情だ。どんなに恨んだところで怪獣は死にはしないし、人類の持つ武器では怪獣相手にほとんど役には立たず、翔の言う『復讐』など出来る訳の無い絵空事だ。

 そう、怪獣を倒すなど所詮は絵空事である。

 だが、その絵空事を『現実』にしてしまえる力を翔は手にしてしまった。

 

 

(何もなきゃいいけど……)

 

 

 絵美はどうにも良くない予感を感じていたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 それは地下都市の入り口までもう少しと言うところまで来た時だ。

 

『……ザッ……ザザッ……』

 

 ハンビィーの通信機が雑音と共にその音を拾い上げる。

 

『……ザザザッ……だ、誰か……怪獣……!』

 

 何処からか救援を求める通信だ。そしてその声に翔と絵美は聞き覚えがある。

 

「ちょっと、今の……」

 

「ああ、阿東のやつじゃないのか?」

 

 阿東とは翔たちと同じくトレイダーを営む男である。とはいえ自称凄腕トレイダーというが、実際のところは他人の獲物を横取りすることが上手いという男であり、翔も絵美もこの男のことは好きではない。

 こんな世界だ、どんなことでも自己責任、獲物を横取りされる方が悪いのであるが、それでもそれを公然と言われれば腹も立つ。

 

「こんなこと言ってるけど?」

 

「知るかよ、勝手に死んでやがれ」

 

 通信機を指差しての絵美の言葉に、翔はアホらしいと肩を竦めてシートに深く身体を預ける。

 だが……。

 

「ちょっと、あのジープ阿東のやつじゃないの!?」

 

 バックミラーを見れば後ろからばく進してくるジープ、そしてその後ろからは四足獣型の怪獣が迫っていた。棘のついたような甲羅を持つ怪獣、暴龍『アンギラス』である。

 

「ヤバイぞ、おい! もっとスピード上げろ!!」

 

「無茶言わないで! これでもうアクセル全開よ!!」

 

 サドラの襲撃のときのショックで、絵美の操るハンヴィーは不調だった。スピードが出ず、その脇をジープが抜き去っていく。その時。

 

 

ドン!

 

 

「キャッ!?」

 

「野郎!!」

 

 通り過ぎる瞬間、阿東はジープをハンヴィーにぶつけて行く。そのせいでただでさえ不調のハンヴィーのスピードがさらに落ちてしまう。

 

「翔!?」

 

「あの野郎ぉ……俺たちを囮にしやがった!?」

 

 見ればアンギラスは今まで追っていた阿東のジープの方ではなく、遅れ始めたハンヴィーの方に狙いをさだめた様だ。怪獣からすればジープもハンヴィーも差など分からないのであろう。それを見越して翔たちを囮にして逃げようという目論見である。

 

「こうなったら仕方ない。

 絵美、広いところへ出てくれ!」

 

「どうするつもり!?」

 

「決まってるだろ」

 

 そう言って翔は『バトルナイザー』を取り出した。

 

「あいつを倒すんだよ!!」

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラが天高く響く咆哮と共に現出する。そして突進してくるアンギラスの正面へと降り立った。

 アンギラスはそのまま突進、その重量と加速そのままにゴジラへと体当たりをする。

 しかし……。

 

「な、何てパワー!?」

 

 その光景を見た絵美は目を見開いた。アンギラスの重量に加速の乗った体当たり、それを正面から受けたゴジラだがまるで物ともしないかのようにそれを受け止めていたのだ。

 

「吹き飛ばせ、ゴジラ!!」

 

 翔の声に答えるようにゴジラがアンギラスを投げ飛ばす。アンギラスはビルの廃墟をなぎ倒しながら地面へと叩きつけられた。

 アンギラスは頭を振りながら二本足で立ち上がると、ゴジラを威嚇するかのように咆哮を上げる。

 それに合わせるようにゴジラも咆哮し、2匹の怪獣の緊張が高まっていく。その時だ。

 

 

ドゥン!!

 

 

「!?」

 

 何処からともなく飛来した光線がゴジラを直撃し、爆発が巻き起こる。翔が視線を巡らせてみれば、そこにはもう一匹、怪獣が迫ってきていた。

 長い尾を持ち、二足歩行を行っている怪獣だ。その姿はゴジラにどこか似ているがその頭に生えた刃物のように尖った角が特徴的である。凶暴怪獣『アーストロン』だ。

 アーストロンがゴジラに向かって体当たりをするとゴジラもアーストロンを攻撃しようと向き直るが、その瞬間ゴジラの顔面にアンギラスの尾が直撃し、その身体が揺らぐ。

 

「2対1!? 翔、マズイよ、逃げよう!!」

 

 翔の隣でそれを見ていた絵美は不利を悟って逃げるように促すが、翔は不敵に笑う。翔には確信にも似た思いがあった。その思いのままに翔はゴジラへと言いはなつ。

 

「やってやれ、ゴジラ! お前の力を見せてやれ!!」

 

 ゴジラがその言葉に答えるように、アーストロンへと肩口から体当たりをする。その衝撃に、アーストロンが吹き飛ばされた。

 その背後からアンギラスが体当たりをしようとしたが、振り返ったゴジラが腕を振り下ろすと、アンギラスが大地に叩きつけられる。叩きつけられたアンギラスをゴジラが蹴り上げ、アンギラスが大地を転がる。

 

「す、すごい……」

 

 2対1という不利をものともしない、別次元の強さを見せつけるゴジラに絵美は戦慄を覚える。

 すると、立ち上がったアーストロンが光線を発射しようと身構え、アンギラスは身体を丸めるとまるでボールのように転がりながらゴジラへと突進していく。

 アーストロンからの光線が放たれ、それを狙っていたかのように身体を丸めたアンギラスが反対方向から突進してくる。

 だが……。

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 咆哮一発、アーストロンからの光線をゴジラは屈んで避けると、そのまま尻尾をボールのように飛び込んでくるアンギラスへとぶち当てる。

 尻尾によって軌道を無理矢理変えさせられたアンギラスは、そのままアーストロンへとぶち当った。

 折り重なるように倒れるアーストロンとアンギラス。

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 そこに再びゴジラの咆哮が響いた。ゴジラの背びれが青く発光していく。

そして、ゴジラから放たれた青い熱線は2体の怪獣を爆発の閃光に包んだのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「やったの?」

 

「……」

 

 爆発の閃光の跡地に、翔と絵美は目を凝らす。

すると……。

 

「!? こいつまだ!?」

 

 おそらくアーストロンが盾となったのだろう。なんと、あの爆発の中でもアンギラスは生きていた。しかし、その身は満身創痍、虫の息である。

 

「翔、早くトドメを!」

 

「……待て」

 

 トドメを刺すようにせかす絵美を手で制すると、翔は手の中の『バトルナイザー』を見た。見ると『バトルナイザー』はまるで鼓動のように点滅を繰り返している。

 

「……」

 

 そんな『バトルナイザー』に導かれたかのように、翔は『バトルナイザー』を掲げた。

すると……。

 

「!?」

 

 2人の目の前でアンギラスが光の粒子となりながら、翔の『バトルナイザー』に吸い込まれていく。しばらくするとアンギラスの姿はどこにもない。

 そして『バトルナイザー』を見れば、今まで何も無かった翔の『バトルナイザー』の2つめのウィンドウに眠るように佇むアンギラスの姿があった。

 

「怪獣を取り込んだの?」

 

「みたいだ。 この分だともう一匹、捕まえられるんだな」

 

 そう言って翔は未だ空の3つめのウィンドウを見やる。

 

「でも……なんであいつを捕まえたの?」

 

「わかんねぇ。 ただ……こいつが求めたんだ」

 

 バトルナイザーを見つめながら、翔はこの不思議な機械への謎を深めていく。

 

「とにかく、もう戻ろうよ」

 

「そうだな……戻れ、ゴジラ!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉に答えるようにゴジラが一声鳴くと、ゴジラも光の粒子となって『バトルナイザー』へと戻っていく。

 

「さて……そんじゃ、早く出発しようぜ」

 

「OK……って、あれ?」

 

 答えて絵美はハンヴィーのエンジンをかけようとするが中々かからない。どうやら不調だったハンヴィーは今ので完全に機嫌を損ねてしまったらしい。

 

「おいおい、最悪だな。 ったく」

 

「文句言わないで! ほら、早く修理!」

 

「はいはい」

 

 ぼやきながらもハンヴィーの修理を始めようとする翔と絵美。そんな2人を見ていた人間が居たことを、2人は知るよしもなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 修理でやっと機嫌を直したハンヴィーに乗って地下都市への入り口に帰って来た2人だが、そんな2人を迎えたのは銃で武装した住人だった。

 

「おい、どういうことだ!」

 

「そうよ、これは一体何の冗談よ!!」

 

 そう抗議する翔と絵美だが、住人たちは言い放つ。

 

「うるさい、化け物!」

 

「ば、化け物?」

 

 訳が分からぬ罵倒をされ困惑する翔。そんな中、住人の中で声を張り上げる男が居た。

 

「俺は見たぞ! あいつが変な機械で怪獣を操ってるところを!!」

 

 それは翔たちにアンギラスを押しつけて逃げた、あの阿東であった。

 

「阿東……てめぇ……何ボケたこと言ってやがる」

 

「しらばっくれるな! こっちには証拠だってある!」

 

 そう言って阿東の取り出したものはハンディカムのビデオカメラだ。そこには確かに、『バトルナイザー』を操りゴジラを戦わせる翔の姿が克明に映し出されている。

 

「怪獣を使うなんて人間に出来るわけねぇ!」

 

「化け物だ!」

 

「来るな、出て行け!」

 

 口々に翔を罵倒する住人たち。その目にあるのは怪獣への恐怖だ。

 怪獣に滅ぼされかけた街の人類は、怪獣に対して過敏なほどに脅えを持っているのである。そんな中に、『怪獣を操る化け物が居る』などというのは恐怖以外の何物でもなかったのだ。

 

「翔……」

 

「……」

 

 絵美が不安そうに隣の翔を見やると、翔は無言のままハンヴィーから降りた。

 

「……わかった、このまま出て行く。

 ただ、絵美は俺とは関係ねぇ。 街に入れてやってくれ」

 

 住民たちにそれだけ言うと、翔はハンヴィーの荷台のバイクを押しながら、地下都市の入り口から離れるように歩いていく。

 

「翔!!」

 

「じゃあな、絵美。 元気でな」

 

 それだけ言って、翔は瓦礫の街の方へとゆっくりと去っていく。

 

「翔……」

 

 そんな翔の背中に、絵美は茫然と呟いたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……」

 

 翔は半分朽ち果てたビルを今日の宿と決めた。固形燃料で火をおこし、その明りを頼りにもくもくとバイクの修理をすすめる。

 すると……。

 

「やっと見つけた……」

 

「絵美、お前!?」

 

 翔の元に現れたのはハンヴィーに乗った絵美だった。驚きで目を見開く翔に、絵美は何でもないように翔の隣の瓦礫へと腰掛ける。

 

「お前、こんな時間に……街に帰らねぇと危ないだろ」

 

「あーいいのいいの、私もあの街出てきたから」

 

 絵美の身を心配しての翔の言葉へ、絵美はヒラヒラと手を振りながら答える。

 

「あのあと阿東にさ、『俺の女にならないか』とかふざけたこと言われちゃって、ちょっと『アレ』を思いっきり蹴飛ばしてやったのよ。

 あの街にも居ずらくなっちゃったし、私も出てきたってワケ」

 

「……すまねぇ」

 

 その街に居ずらくなった理由が自分だと思いあたり翔は絵美に詫びるが、とうの絵美は気にするなと言わんばかりだ。

 

「いいじゃないの、どうせ私たちみたいなみなしごのトレイダーなんて所詮は根なし草。

 あの街にだって特別好きで居たってわけじゃないし……。

 それにさ……今までずっと一緒だったんだから、私だって着いてっていいでしょ?」

 

「絵美……」

 

「はい、これ」

 

 絵美が差し出してきたのはリュックが一つ、中身はちょっとした衣類や生活用品だ。

 

「翔の部屋さ、居なくなったやつの物だから早い者勝ち、って感じで散々荒らされててこのくらいしか残って無かったのよ。

 でも……これだけは守り通したわ。 おじさんと翔の思い出だけは……」

 

 そう言って絵美が懐から出したのは、一枚の写真だ。翔とその父が映った写真である。

 

「……ありがとう、絵美」

 

「いいのよ、長い付き合いなんだし」

 

 翔が感謝の言葉を述べると、絵美は若干顔を赤くしてプイッとそっぽを向く。

 その様子がおかしくて、翔はついつい吹き出してしまった。

 

「それで翔、これからどうするの?

 行く当てあるの?」

 

「そうだな……」

 

 絵美に問われ、翔は顎を擦るようにして少しだけ思案にふける。そして、翔は目的地を言った。

 

「故郷に……行ってみようと思う」

 

 それは翔と絵美の生まれ育った街。

 あの『悪魔』に破壊された街だった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次回の大怪獣バトルレジェンドは

 

「懐かしいな……」

 

「『悪魔』は……さすがに居ないわね」

 

「自衛隊駐屯地跡か……父さんの戦車を思い出すな」

 

「!? 翔、怪獣よ!!」

 

「速い!?」

 

「これって……バトルナイザー!?」

 

「やってやるわよ! 行けぇぇぇ!!」

 

 

次回、大怪獣バトルレジェンド第3話『機械龍、起動』

 

 

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第2話怪獣紹介

 

 

暴龍『アンギラス』

出典:『ゴジラの逆襲』ほかゴジラシリーズ

 

解説:アンキロサウルスという恐竜の生き残りが水爆実験により変異した、四足歩行型の怪獣。

   背中に鋭い棘を持ち、体内に複数の脳を分散して持っていることで俊敏な動きが出来る。

   その身体を丸めて敵に体当たりする暴龍怪球烈弾(アンギラスボール)が必殺技。

 

   ゴジラと始めて対決した怪獣であり、昭和ゴジラシリーズではゴジラの相方(舎弟?)としてよく登場していた。

   しかし『地味』! 大事なことなので二回言うが、とにかく『地味』!

   ゴジラと戦ったラドンやモスラ、キングギドラなどスター怪獣が時代に合わせどんどんパワーアップしてきたのに対し、アンギラスは常に噛みつき・体当たり・引っ掻きという置いていかれた有り様はなんだがドラゴ○ボールのヤ○チャのような印象を受ける。

   平成のゴジラシリーズでも何度か登場の案はあったらしいが、結局登場は無かった。

   最後の『ゴジラ FINAL WARS』にて30年ぶりに映画に帰ってきて上海を襲撃、地球防衛軍の空中戦艦『火龍』を沈める活躍をするも、何故かゴジラとの対決ではキングシーサーにサッカーボールにされ退場……訳が分からないよ!!

 

   とにもかくにも『地味』な怪獣だが、そこがいいのかファンは多い模様。

   作者もアンギラスは大好き。ダメな子可愛い。

   ある実況動画でも大プッシュされていたりで面白い。オペレーション・アンギラスは史上最強の作戦。作者は泣きながら見てました。

   アンギラスはそれほど強さに関する活躍はしていない。しかしながら、強さと活躍だけが怪獣の魅力ではないことを物語る怪獣だと言えるのではないだろうか?

 

 

凶暴怪獣『アーストロン』

出典:『帰ってきたウルトラマン』他

 

解説:長い尾に二足歩行、頭の一本角というすっきりとしたスマートな体型の怪獣。

   『帰ってきたウルトラマン』の第一話の怪獣で口からのマグマ光線を武器に戦う。

 

   その後も何度かアーストロンは登場するが、前回のサドラ同様、ろくな目にあっていない。

   『ウルトラマンメビウス』ではケルビムに洗脳されていいようにこき使われる。

   『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』では、そのケルビムにリベンジ、死んだふりでケルビムを倒すが、勝利の雄たけびを上げているところをエレキングに湖に引きずり込まれ感電死。

   『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル NEVER ENDING ODYSSEY』ではガルベロスの幻覚攻撃に為すすべなく翻弄され倒された。

   『帰ってきたウルトラマン』出身の怪獣は不運とか、そういう運命なんだろうか?

 

   ゴジラを細身にして角を付けたようなシンプルかつスマートなデザインで、正統派怪獣という印象を受ける。美しい。

 

 




2体目の相棒はアンギラスです。
ゴジラの相棒は、やっぱりアンギラスと思うのは作者だけだろうか?

次回はみんな大好き、世紀末覇王の登場です。
……そろそろガメラ怪獣出したいなぁ。


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第3話 機械龍、起動

 

「ここ、か……」

 

 翔は感慨深げに息を吐く。

 その目の前に広がるのは日本一の高さを誇るあの山、そして瓦礫の山だ。

 

「帰って……来たんだな」

 

「……」

 

 翔の呟きに、絵美は何も言わずに傍らで静かに佇む。

 こうして、2人は数年ぶりに故郷へと帰って来たのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翔と絵美の2人が街を追い出されてから数日、2人は生まれ故郷の街へと帰って来た。

 しかし迎えてくれるものは崩れ去った瓦礫の山と、そこに吹く風だけだ。

 分かり切ったことではあったが、物悲しい気分が2人の中を去来する。

 

「懐かしいな……恐らくここ、俺たちが子供のころに遊んだ公園だぞ」

 

 翔は瓦礫の中に記憶の隅にあった公園の遊具を見つけて、それを指差しながら言うと絵美も相槌を打つ。

 

「ホントね……懐かしいわ。

 でも……あの頃のものは何にも残って無いわ」

 

 2人の家族も故郷も思い出も、あの日あの『悪魔』によってすべてが炎の中に消えた。ここにあるのはその残骸だけだ。

 

「『悪魔』は……さすがにいないわね」

 

「……」

 

 窓の外を眺めながらの絵美の言葉に、翔の顔が強張る。その様子を見て、絵美は内心でため息をついた。

 

(やっぱり……『悪魔』がいたらゴジラで戦うつもりだったのね)

 

 あの『悪魔』……父を殺したその怪獣に対して、翔が深い憎しみを持っていることを絵美は知っている。だから『バトルナイザー』と『ゴジラ』という力を手に入れた翔が、あの『悪魔』への復讐を考えるだろうことは予想していたのだ。

 だからこそ未だ『悪魔』がいたらどうしようか、と絵美は考えていたのだが喜ばしいことに杞憂に終わったようである。

 

「それで、どうする?」

 

「そうだな……とりあえずこいつの燃料やらを稼がなきゃいけないし、トレイダーの仕事といこう」

 

「いいわね。 それじゃ……あそこ行ってみましょう」

 

 そう宣言すると、絵美はハンヴィーを目的地に向けて加速させた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「自衛隊駐屯地跡か……」

 

 絵美の向かったその先は自衛隊駐屯地跡だ。あの『悪魔』によって破壊しつくされてしまっているが、それでもその中には貴重なパーツ類が眠っていることだろう。

 

「父さんの戦車を思い出すな」

 

「サボってないで、さっさと仕事しなさいよ!」

 

 感慨深げに辺りをボケっと見渡す翔に、絵美の怒号が響く。

 

「へいへい、わかったよ……」

 

 そんな絵美にせかされる様に瓦礫を漁る作業に戻る翔。

 その時!

 

 

キシャァァァァァァァァ

 

 

「「!!?」」

 

 どこからともなく聞こえた怪獣の声に、翔と絵美は慌てて建物の外へと飛び出す。

 

「どこだ!?」

 

「翔、空!!」

 

 絵美の声に慌てて翔は空を見上げると、そこでは2体の怪獣が空中戦を繰り広げていた。

 双方とも、まるで古代の翼竜のような鋭角的なデザインをしている。

 その2体が片方は口から紅蓮の光線を、片方は細いレーザーのようなものを放ちながら激しくドッグファイトを行っていた。

 翼竜怪獣『ファイヤーラドン』と超音波怪鳥『ギャオス』である。

 2体は空を戦場に、激しく戦い続ける。

 その時、ファイヤーラドンの放った熱線がギャオスを外して、地面を抉りながら翔と絵美へ向けて突き進んでくる。

 それを見て、翔は咄嗟にバトルナイザーを掲げた。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声と共に召喚されたゴジラは、その身体を盾にして2人を熱線から守った。

 

「やれ、ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声に答え、ゴジラは天高く咆哮すると背びれを光らせ、その口から青白い放射熱線が放たれた。

 突然の地上からの攻撃に、ファイヤーラドンはそれをすんでのところでかわすが、ギャオスは避けきることができずに直撃する。

 

 

キシャァァァァァァァァ

 

 

 飛び続けることができず、ギャオスはそのままきりもみ回転をしながら地面へと激突、虫の息でその身体を起こそうとする。

 しかし、そのとき上空のファイヤーラドンからギャオスに向かってトドメのウラニウム熱線が放たれた。

 その赤い光線に焼かれ、ギャオスが爆発する。

 ファイヤーラドンはギャオスの死を確認すると、今度は新たな敵であるゴジラに狙いをさだめた。

 

 

キシャァァァァァァァァ

 

 

 上空から、ファイヤーラドンからのウラニウム熱線が連続して放たれる。

 

「チィ!? やれ、ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラは上空を飛びまわるファイヤーラドンに放射熱線を放つが、空を自由に動き回るファイヤーラドンがそれを華麗に避けていく。

 先ほどのギャオスのように不意打ち気味の攻撃で無ければ、ゴジラの攻撃がファイヤーラドンのスピードを捉えられていないのだ。

 

 

キシャァァァァァァァァ

 

 

 突如としてファイヤーラドンが降下、低空飛行でゴジラに接近するとそのスピードでゴジラへと強烈な体当たりを行う。

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 その強烈な体当たりに、さすがのゴジラももんどりうって倒れた。

 そして、その高速から発生した猛烈な突風が翔と絵美を襲う。

 

「くぅ!?」

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

「!? 絵美!!」

 

 その突風を翔は何とか踏ん張るが、絵美はその突風に吹き飛ばされるように建物内部へと吹き飛ばされた。

 慌てて絵美に駆け寄ろうとする翔。だが、その目の前で絵美の吹き飛ばされた床が嫌な音を立てて崩れる。

 

「絵美!?」

 

「翔!?」

 

 落ち行く絵美に翔が必死に手を伸ばすが、無情にもその手が空を切った。

 絵美の身体が、暗い地下の闇に消えていく。

 

「絵美、絵美ぃぃぃぃ!!!」

 

 翔の絶叫、同時に再び爆発音が響き渡った。

 立ち上がろうとするゴジラに、ファイヤーラドンが執拗にウラニウム熱線を放っている。

 

「よくも絵美を……!!

 ゴジラァァァァ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の怒号に呼応するかのようにゴジラが立ち上がり、再び上空のファイヤーラドンへと放射熱線を放つが、再びファイヤーラドンはそれを華麗にかわす。

 

「クソッ! クソッ!!」

 

 毒づく翔とゴジラをあざけるかのように、ファイヤーラドンはその上空を旋回していた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「う、うぅん……」

 

 身体の鈍い痛みと共に絵美の意識が覚醒していく。

 

「あれ、ここは……」

 

 頭を振りながら、絵美は今の状況を思い出していく。そして、自分がどうやら施設の地下へと落ちてしまったことを悟った。

 

「生きてるなんて運がいいわ」

 

 幸い、身体に異常はなさそうだ。どうにかして地上へ戻らなければならないがどうやって戻ったものか……絵美は光の無い地下で、まずは脱出の術を探そうと、ライトをとりだすために上着をまさぐる。

その時だ。

 

「?」

 

 光一つないはずの地下に、淡い光があることに絵美は気付いた。ゆっくり慎重に絵美はその光へと近付く。すると……。

 

「これ……バトルナイザー!?

 なんでこんなところに!?」

 

 それは翔のものと同じ、『バトルナイザー』だ。それが淡い光を放っている。それはあたかも、誰かを待っているかのようだった。

 絵美はしばしの思案する。

これを手に取ればどうなるか……しかし絵美は頭を振って余計な考えを振り払うと、『バトルナイザー』を手に取った。

その瞬間、頭の中に何かが流れ込んでくる。

 

「うっ!?」

 

 軽い頭痛にめまいを覚えるが、絵美はすぐに頭を振ってそれを振り払う。

 そして、絵美は呟いた。

 

「……わかったわ。

 あんたたちと一緒に戦ってあげる!

 さぁ、来なさい!!」

 

 絵美が『バトルナイザー』を掲げると、『バトルナイザー』からの音声が響く。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

 現れるのは白銀の龍、生物ではない機械でできた龍。

 白銀の龍はゆっくりと、その巨体を立ち上がらせる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 連続する爆発が、ゴジラを襲う。

 

「しっかりしろ、ゴジラ」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の叱咤に答えるようにゴジラが咆哮するが、戦況は圧倒的に不利だ。

 ファイヤーラドンのそのスピードに、どうしてもゴジラが攻撃を当てることができない。ゴジラとてダメージが無いわけではない。じりじりと、ゆっくりとだがゴジラが追い詰められていく。

 その時だ。

 

 

ゴゴゴゴゴ……!!

 

 

「な、何だ!?」

 

 地中が揺れ、新たな怪獣かと翔が身構える。そして……地下から『ソレ』は飛びだした。

 白銀に輝く機械の身体、しかしそのフォルムは翔のよく知るもの……ゴジラにそっくりだ。

 そんな機械の龍がブースターを吹かせながらゆっくりと着陸する。

 そしてその機械の龍の足にあったハッチが開くと、そこから翔の見知った顔が飛び出してきた。

 

「翔!!」

 

「絵美、無事だったのか!」

 

 絵美の無事に翔の声に喜色が混じるが、すぐにその声は驚きに変わる。何故なら、絵美の手には『バトルナイザー』がしっかりと握られていたからだ。

 

「お前、それ……」

 

「話は後! 今はあの怪獣をやっつけてやるわ!」

 

 そして、絵美はバトルナイザーを掲げると自身の使役する白銀の龍の名を呼んだ。

 

「行け、メカゴジラ!!」

 

 

 キシャァァァァン!

 

 

 金切り声のような人工的な咆哮を上げると、メカゴジラの背中のブースターに火が入る。

 メカゴジラの巨体が、ファイヤーラドンを追って空へと昇る。

 突然、相手が自分に向けて飛び上がったのに驚いたファイヤーラドンに、メカゴジラの口から放たれた極彩色の光線が直撃し、爆発を起こす。

 

 

キシャァァァァァァァァ

 

 

 悲鳴を上げながらもファイヤーラドンは体勢を持ち直し、再び高速で逃げようとした。

 

「逃がすもんですか!

 メカゴジラ、ショックアンカー発射!!」

 

 その声に応え、メカゴジラの腕からワイヤーアンカーが放たれ、それがファイヤーラドンの絡みつく。同時に流された高圧電流により、ファイヤーラドンの身体が空から地上へと引きずり下ろされた。

 地上に墜落したファイヤーラドンの前に、メカゴジラがゆっくりと着陸する。

 すると、ファイヤーラドンは最後の力を振り絞ったかのようにメカゴジラへと飛びかかって来た。その鋭いくちばしでメカゴジラの頭を狙う。

 しかしその前にメカゴジラはその腕でファイヤーラドンの首を掴み、その突進を止める。

 もがくファイヤーラドンはほぼゼロ距離から、メカゴジラに闇雲にウラニウム熱線を放った。

 しかし、そのウラニウム熱線をメカゴジラは意にも介さないように受ける。それだけではない、受けたウラニウム熱線のエネルギーがメカゴジラの腰の砲口へと集中していく。

 

「トドメよ!

メカゴジラ、プラズマグレネイド発射!!」

 

 メカゴジラの腰の砲口から、破壊的なエネルギーがほとばしる。その一撃をほぼゼロ距離で受けたファイヤーラドンは泡を吹きながら倒れたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……よし!」

 

 ファイヤーラドンが光の粒子となりながら、翔の『バトルナイザー』に吸い込まれていく。絵美のメカゴジラによって虫の息となったファイヤーラドンを、翔はバトルナイザーの残っていた最後の一枠として求めたのだ。

 

「今回のことで空を飛べる敵っていうのが恐ろしいってのは思い知ったからな」

 

 そんな風に翔はひとりごちると、絵美を振り返る。

 

「よかったのか、絵美。 今のやつ俺が貰っちゃって」

 

 そんな翔の問いに、絵美はヒラヒラと手を振って答える。

 

「いいのよ。 それに……何だか私のバトルナイザー、もう満杯みたいだし」

 

 見れば、絵美のバトルナイザーの3つのウィンドウには、先ほどのメカゴジラの他にも2体の怪獣が浮かんでいる。空のウィンドウは無いようだ。

 

「とりあえず、もうここから離れましょう。

 取るもの取ったしね」

 

 そう言って絵美が掲げるのは、地下にあった電子部品の数々だ。近くの町で売れば、いい値がつくだろう。

 

「さすが、抜け目ねぇな」

 

 苦笑する翔を尻目に、絵美はハンヴィーの運転席へ滑り込む。翔もそれを追うように助手席のドアを開けるが一度だけ、翔は自衛隊駐屯地跡を見やる。

 

「父さん……」

 

 翔の呟きは風に消え、2人の乗ったハンヴィーは次の目的地に向けて走り出した……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次回の大怪獣バトルレジェンドは

 

「なんだこの青い液体は……」

 

「酷い……土壌がこんなに荒れ果ててる」

 

「怪獣!? それも2体だと!?」

 

「!? どうしたの、メカゴジラ!? どうして動かないの!?」

 

「あいつ、今度は飛びやがっただと!?」

 

「行きなさい、メカゴジラを助けるのよ!!」

 

 

次回、大怪獣バトルレジェンド第4話『海より来たる』

 

 

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第3話怪獣紹介

 

 

翼竜怪獣『ファイヤーラドン』

出典:『ゴジラVSメカゴジラ』

 

解説:アドノア島のプテラノドンが、島に投棄された使用済核燃料の放射性物質で変異した怪獣、ラドンがさらにパワーアップしウラニウム熱線を吐く能力を身に付けたもの。

   最高速度マッハ3を超える飛行速度で空を自在に飛び回り、そのスピードにより発生するソニックブーム、口からのウラニウム熱線を武器にする。

 

   ゴジラ、モスラとならび東宝三大怪獣に数えられる有名怪獣。その知名度は非常に高い。

   また地球代表怪獣としてキングギドラなど侵略怪獣たちと戦ったこともあり、ゴジラの仲間の一体として認識されているだろう。さすがスター怪獣、どこかの舎弟怪獣とはえらい待遇の違いである。

   

 

超音波怪鳥『ギャオス』

出典:ガメラシリーズ

 

解説:コウモリのような羽根を持つ飛行怪獣。その性質は獰猛で人間を好んで捕食する。

   高速で飛びまわることで発生するソニックブーム、口から発射される何でも切断する900万サイクルの超音波『超音波メス』を武器にする。

 

   ガメラの敵として幾度となく現れる、ガメラシリーズの良敵役。宇宙ギャオスや海棲性ギャオスなど亜種も多い。

   また、こいつは純粋に怖い。特に平成ガメラシリーズでは、ギャオスは超古代の生物兵器であり、増えすぎた人類を喰って人類総数を調整するのが役割という説がある。

   『増えすぎた人類をギャオスが喰う→人類の数が適正になる→ガメラがギャオスを倒す』というサイクルのための装置の一種なのだとか。

   なんともシビアな古代人の人口調整計画である。

 

   ラドンがゴジラの仲間となっていったのとは対照的に、人類に恐怖を振りまきガメラと戦うというポジションを貫き通してきた、一途な怪獣である。

 

 

世紀末覇王『メカゴジラ』(通称Gフォースメカゴジラ)

出典:『ゴジラVSメカゴジラ』

 

解説:『ゴジラVSキングギドラ』にて海底に没したメカキングギドラを引き揚げ、そこから得られた未来のテクノロジーを解析することで誕生した最強の対G兵器。本作ヒロイン、三枝絵美のエース怪獣。

   装甲には超耐熱合金NT-1を使用、全身に施されたダイヤモンドコーティングとの効果によりゴジラなどの熱エネルギーの光線技をほぼ無効化する。

   高い攻撃能力と強固な装甲を兼ね備える半面、機動性はお世辞にも高いとは言い難く、ブースターとスラスターによるホバー移動によって距離を保ちながらの砲撃戦を主戦法とする。

   全兵装を一斉発射するオールウェポンアタックが必殺技。

 

   ゴジラの熱線と同等の威力の『メガバスター』、目からの『レーザーキャノン』、高圧電流を流す『ショックアンカー』、毒や麻酔薬や精神安定剤を打ち込む対生物用の『パラライズミサイル・トランキライザーミサイル』ともう完全に移動要塞のようなありえない超火力を誇る。

   そんな中で特徴的な武装が最大の攻撃力を持つ『プラズマグレネイド』、これは全身のダイヤモンドコーティングにより怪獣の熱線を吸収、プラズマエネルギーに変換し増幅して撃ち出すという超兵装である。

   色々チートがあったとはいえこんな化け物に勝つあたり、やはりゴジラは強すぎる……。

 

   実はこの機体の設定は、平成VSシリーズの矛盾を数多く含んでいたりする。『ゴジラVSキングギドラ』での歴史改変がすべての元凶だが……。

   ゴジラ出てこなかった歴史に変わったら『ゴジラVSビオランテ』無かったことになるからスーパーXⅡが開発されない、そうするとその発展形であるダイヤモンドコーティングが開発されない、という流れ。

   まぁ、怪獣映画には設定の矛盾も御愛嬌ということで。

 

 

 




主人公の最後の怪獣はファイヤーラドン、そしてヒロインのエース怪獣はみんな大好きメカゴジラでした。
ラドンVSギャオスというドリームマッチも書けたし満足です。

次回はかなり新しい怪獣たちの登場、そしてその次は序盤のボス戦の予定。


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第4話 海より来たる

 

 クワァァァァァン!

 

 

 怪獣が歩く……と形容してよいものか?

 その怪獣は顔を下に、そして尾を天高く立てたような姿をしていた。顔面で這いずる様なユーモラスな姿だがその尾の先は2つに分かれ、しなやかなムチとなっている。

 古代怪獣『ツインテール』である。

ツインテールはその尾のムチを振り回していた。

 怪獣同士にも縄張りというものがあるのか、怪獣同士が出会った場合にはほとんどの場合、戦い合うのが普通だ。

 ツインテールは今、2体の怪獣と戦っている真っ最中だ。

 バシンバシンと、そのしなやかな尾が地面を叩く。そう、『地面』をだ。

 ツインテールの素早いムチの連続攻撃が、その2匹の怪獣には当たっていない。その攻撃は2体の怪獣をかすり、2体の怪獣の皮膚から蛍光ブルーと形容されるような色彩の血が地面へと落ちるがただそれだけ、決定的なダメージには至らない。

 そんな間に1体の怪獣がツインテールへと飛びかかった。ゴリラのような体躯を利用しとびかかると、そのままツインテールの顔面をその巨大で硬質な拳で2度3度と打ち付ける。

 何とか鞭を振り回し振り払おうともがくツインテールだが、その尾をもう1体の怪獣の尾が止めた。その怪獣の先が三つに分かれた尾はまるで生きているかのように開閉を繰り返し、ツインテールのムチの尾をがっちりと挟み込む。

 そして大地を震わすかのような剛腕を何十発と受けたツインテールは遂に力尽きて倒れ込んだ。

 

 

 グオォォォォォォォォン!!

 

 

 2体の怪獣の勝ち鬨の声が響く。そしてそのまま2体の怪獣は、ツインテールという獲物を引きづりながら海へ、自分たちの棲家へと運んで行くのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 怪獣によって人類の生存権は一気に縮小、そのほとんどは各地に建設された地下都市でひっそりとした生活を余儀なくされていた。

 しかし、けっして地下都市だけが人類の生存する場所というわけではない。

 海に面する港は地下には造れないから、港町というものは存在する。それに食糧を生産する農場も地下都市内だけでは足りないため、危険を承知で地上に造られることだってある。

 

「よっ、と!」

 

 翔が茎を引っ張ると、ボロボロと見事なジャガイモが土から顔を出した。

 

「お兄ちゃんすごーい!」

 

「へ、こんなの朝飯前だ」

 

 そんな翔を見た幼い少女……みどりが歓声を上げると、翔は得意そうにそのジャガイモを掲げる。

 それを見て、その農場の隅で絵美は呆れたように苦笑した。

 

「まったく……子供なんだから」

 

 そう言った直後、絵美はケホケホと咳をする。

 翔と絵美は今、地上の巧妙に隠された農場にいた。何故ここに居るのかというと、あの故郷を出てからすぐ、絵美が体調を崩してしまったからだ。

 なんとか休ませる場所を探す翔は偶然、この農場主の家を発見、藁にもすがる思いでその家を訪ねると、困っている2人を農場主の家族は家に上げ、休む場所を与えてくれたのである。

 こんな時代だ、騙し騙されしながら生きてきた2人にとって、純粋な人の優しさは本当にありがたい。

 2人は久しぶりに『人間』に会った気がしていた。

 無論翔もタダでとは言わない。トレイダーの仕事で見つけた金になりそうな貴金属類を宿代の代わりに受け取ってもらったが、それだけでは気が晴れなかった。

 そこで翔は絵美の体調が戻るまで、農作業の手伝いを買って出たのである。今は朝から晩まで身体を土で汚しながら、農作業に勤しんでいた。

 

「お疲れ様」

 

 収穫したものを作業用のトラックに積み込み終わると、絵美がタオルを差し出す。それを受け取り、翔は滴る汗を拭った。

 

「ふぅ……農作業ってのはトレイダーとは違う意味で疲れるな」

 

 コキコキと体中をほぐす翔に、絵美はフフッと笑う。そんな絵美に翔は尋ねた。

 

「絵美、体調はどうなんだ?」

 

「ばっちり、もう2~3日も休めば元通りよ。

 ここの食事のお陰ね」

 

 ここでは小規模ながら畜産もされており、貴重とも言える卵や乳製品も作られていた。

 

「ああ、昨日のシチューは美味かったな」

 

 滅多にお目にかかれない御馳走だ。そんな栄養ある食品のお陰で、絵美の体調は快方に向かっている。

 そんな絵美とみどりを連れて、翔はトラックに乗り込もうとしたその時、翔はその視界に奇妙なものを見た。

 

「なんだあの青い液体は……」

 

 翔の眺める視線の先には、何やら蛍光色の青い液体で穢された土地が映っている。まるで子供が悪戯で絵具でもぶちまけたような感じだ。

 そして、その青い液体のぶちまけられた土地は、草花の無い不毛の大地になっていた。

 

「酷い……土壌がこんなに荒れ果ててる」

 

 その悲惨な光景に、絵美は思わず口を抑える。

 

「あれね。 怖い怪獣の血なんだって」

 

「怪獣の?」

 

「うん、こわーい怪獣の血で、あれがかかると食べ物が育たない土地になっちゃう毒なんだって。

 だから絶対近付いちゃいけないっておとーさん言ってた」

 

「ふぅん……」

 

 みどりは父から聞いた話を胸を張って言い放ち、翔と絵美は若干目を鋭くしながらその話を聞いていた。

 その時だ。

 

 

 ゴゴゴゴゴゴ……

 

 

「なんだ!?」

 

「翔、あれ! 海!!」

 

 突然の轟音、絵美に言われるまま海を見た翔はそこに海からゆっくりとやってくる怪獣の姿を見た。しかも……。

 

「怪獣!? それも2体だと!?」

 

 そう、やってくる怪獣は1体ではなかった。2体の怪獣が連れだって陸へ向かっていく。

そして向かってくる進路上には、この農場が、そしてこの農場の主たちの暮らす家がある。

 

「お、お兄ちゃん。 お姉ちゃん……」

 

 不安そうに揺れるみどりの瞳、それを見た翔は絵美へと目配せをする。

 

「……行けるか?」

 

「ええ。 それぞれ1体ずつでいいわね?」

 

 すでに絵美はバトルナイザーをとり出していた。それにならう様に、翔もバトルナイザーをとり出すとそれを掲げた。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、アンギラス!!」

 

「来なさい、メカゴジラ!!」

 

 

 フォォォォォン!!

 

 キシャァァァァン!

 

 

 どこか抜けたような咆哮と金切り声のような咆哮の二つが響くと、そこには2体の怪獣が並んでいた。

 

「また新しい怪獣……?」

 

「大丈夫、あの子たちはここを守ってくれるいい怪獣だから……」

 

 絵美は怯えるみどりの頭を一撫ですると、キッと迫り来る怪獣を睨む。

 

「アンギラスはあのトカゲみたいなのをやる」

 

「OK、ならあのゴリラは任せて!」

 

 最後にお互い頷くと、翔と絵美は同時に互いの怪獣へと命じる。

 

「行け、アンギラス!」

 

「行きなさい、メカゴジラ!!」

 

 主の声に、アンギラスとメカゴジラが動き出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 キシャァァァァン!

 

 咆哮と共にメカゴジラの口から極彩色の光線、メガバスターが放たれる。だがその怪獣は俊敏な動きでその光線を避けた。

 このゴリラのような形をした怪獣は『レザーバック』。人型に近い形をしたその体躯で素早く横に跳んではメカゴジラからの攻撃を避け続ける。

 

「この、チョコマカと!」

 

 そうしている間にも隙をついてレザーバックはメカゴジラへと飛びかかってこようとするが、メカゴジラはスラスターとブースターを駆使したホバー機動でかわしながらさらなる砲撃を加える。

 しかし、そんな時レザーバックの足が突如として止まった。そして、レザーバックの後頭部が発光と帯電を繰り返す。

 

「光線!? でもメカゴジラのダイヤモンドコーティングなら!!」

 

 レザーバックの行動に警戒はするが、絵美はメカゴジラの力を疑ってはいなかった。むしろ必殺のプラズマグレネイドのエネルギーにしてやると息巻いていたのだ。

 だがしかし、レザーバックが咆哮と共に放ったそれは光線ではなかった。放たれたエネルギーがまるで波のようにレザーバックから周囲に拡散していく。そして、そのエネルギー波に巻き込まれたメカゴジラの目が不規則に点滅しブースターとスラスターが停止、メカゴジラが着地すると、ヨロヨロと不規則に揺らめく。

 

「どうしたの、メカゴジラ!?」

 

 絵美の困惑の声。レザーバックはその隙をつきメカゴジラを引き倒すと、メカゴジラに馬乗りになってその拳の連打をメカゴジラへと叩きつける。

 しかし、メカゴジラはほとんど動けず、為すがままにされていた。

 

「どうしたの、メカゴジラ!? どうして動かないの!?」

 

 目の前であのメカゴジラが為すがままにされる姿に、絵美が悲鳴のような声を上げる。

 レザーバックの放ったものの正体、それは強力な電磁波エネルギー攻撃、EMPウェーブである。

 この攻撃は生物には影響はほとんど無いが、電子機器に対して絶大な力をもつ。ロボット怪獣であるメカゴジラはその力で内部の電子機器をショートさせられ、ほとんど身動きが出来なくされたのである。

 そうしている間にも、レザーバックの剛腕がメカゴジラの分厚い装甲を叩く。このままでは遠からず動けないメカゴジラはレザーバックに破壊されてしまうだろう。

 

「くっ!? こうなったら……」

 

 メカゴジラの危機に、咄嗟に絵美はバトルナイザーの2つめのウィンドウを見た。そして、意を決して新しい怪獣を召喚する。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来なさい、MOGERA!!」

 

 その召喚の声に応えて現れたものは、メカゴジラと同じロボット怪獣だ。銀のボディに所々に青が混じる装甲、腕はメカゴジラのような指は無く、口にはまるでくちばしのようにドリルが輝いている。

 これが絵美の使役する第二の怪獣、『MOGERA』である。

 

「行きなさい、メカゴジラを助けるのよ!!」

 

 

 キュィィィィィン!!

 

 

 絵美の声に応える咆哮のかわりに、くちばしのドリルが高速回転する音が響くと、MOGERAの脚部のローラーが大地を噛み、MOGERAの巨体を滑るように動かす。

 脚部のローラーとブースターによって移動するMOGERAのローラーダッシュである。その速度でMOGERAはメカゴジラに攻撃を続けるレザーバックへと接近、そのまま体当たりをした。

 MOGERAの巨体を受け、レザーバックが派手に吹き飛ぶ。

 そこに追い打ちをかけるようにMOGERAの目が輝くと、光線が飛んだ。MOGERAのプラズマレーザーキャノンである。

 プラズマレーザーキャノンを受けたレザーバックは素早く立ち上がった。そしてMOGERAがメカゴジラと同じロボット怪獣だということに気付いたのか、レザーバックは再びEMPウェーブをチャージするとそれを放つ。

 電子機器に対して絶大な攻撃力を持つそれの直撃を受けたMOGERA。しかし、MOGERAはそれを意に介さぬように再び目からのプラズマレーザーキャノンを放ち、それに直撃したレザーバックがもんどりうって倒れた。

 

「MOGERAは対電磁波能力を持ってるのよ。

 そんな攻撃、効くもんですか!」

 

 そう、本来ロボット怪獣に対して絶大な威力を誇る電磁波エネルギー攻撃を受けてもMOGERAがその機能を失わないのはそのお陰だ。

 起き上がったレザーバックは破れかぶれのように正面からMOGERAへと突進を始める。しかし、その時すでにMOGERAは迎撃の準備を整えていた。

 MOGERAの右手がパカリと開くと、そこには巨大なミサイルが装填されている。

 

「スパイラルグレネードミサイル、発射!」

 

 その言葉と共にMOGERAの右腕からミサイルが発射された。

そのミサイルはドリルのように回転し、迫るレザーバックの左肩に突き刺さった。そして巻き起こる大爆発。

 絶叫のような雄たけびを上げるレザーバックの左腕が、肩からゴッソリともげ落ちている。

 このミサイルこそMOGERAの必殺兵装の一つ、ドリルによって相手の装甲を砕き、内部を確実に破壊するスパイラルグレネードミサイルである。

 そして、動きを完全に止めたレザーバックにトドメを刺すべく、絵美の声が飛んだ。

 

「トドメよ、プラズマメーサーキャノン!」

 

 その言葉に応えるようにMOGERAの腹から、パラボナアンテナのような形状の砲がせりあがる。

 

「最大出力、連続発射!!」

 

 そして、そこから極彩色の光線が連続して放たれた。その奔流に、傷ついたレザーバックは為すすべがない。

 

 

 グォォォォォォォォォン!!!??

 

 

 レザーバックはその光の奔流の中に、断末魔の雄たけびと共に倒れたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「やれ、アンギラス!!」

 

 

 フォォォォォン!!

 

 

 アンギラスはどこか抜けたような雄たけびを上げる。その目の前にはすでに相手の怪獣が接近中だった。

 手足を使い、まるでトカゲのように高速で大地を走り回るこの怪獣の名は『オオタチ』である。オオタチはその素早さを生かしてアンギラスと距離を詰めると、アンギラスの顔面をそのしなやかな手で叩きつける。

 だが、アンギラスも負けじと前足をオオタチへと叩きつけた。その素早さはオオタチにも劣らない。今回、翔がゴジラではなくアンギラスを召喚したもの、陸上での素早さに関してならゴジラよりもアンギラスが上であり、オオタチにも引けを取らないと判断したからだった。

 素早い動きでのアンギラスとオオタチの乱打戦、そのさなかオオタチの両手がアンギラスの顎を捕まえる。そのまま顎を引き裂こうとするオオタチだが、その横面をアンギラスの尾が直撃した。

 アンギラスの強靭な尾はその先端がスパイクボールのように堅く重く、そして鋭い棘に覆われている。その一撃をモロに受けたオオタチはたまらずもんどりうって倒れた。

 

 

 フォォォォォン!!

 

 

 好機とみたアンギラスはそのまま接近し喉笛を噛みちぎろうとしたがオオタチもさるもの、倒れたオオタチの尾が近付くアンギラスの頭を強打した。それだけではなく、オオタチの尾の先端がまるで口のように開くとアンギラスの頭を捕まえ、そのまま地面へと叩き付けた。

 突然の逆襲にたまらず距離をとるアンギラス、そしてその隙に起き上がるオオタチ。両者は相手を威嚇しながら、ゆっくりと距離を図る。

 しばらく様子を見ていた両怪獣だが、先に動いたのはオオタチだった。雄たけびを上げたオオタチはその喉についた袋を膨らませると身体を震わせる。

 その姿に何かを感じた翔は叫んでいた。

 

「避けろ、アンギラス!!」

 

 その言葉に従い咄嗟に横に跳んだアンギラス。そして一寸置いてオオタチが吐きだした青い液体が、先ほどまでアンギラスのいた大地を汚す。

 この青い液体は強力な酸だ。強力な強度を誇る金属の装甲ですら、この酸の前ではストーブの前のチョコレート同然である。もしも直撃すればアンギラスとて無事では済まない。

 オオタチはアンギラスに遠距離攻撃の類が無いことを悟ったのか、酸を執拗に吐きかけてくる。だが、そのすべてを俊敏にアンギラスは避けていく。その姿に焦ったのか、オオタチは再び自分のカードを切って来た。

 オオタチがその両手を広げると、その手と身体との間に皮膜が現れる。それは紛れもない翼だ。そしてその強力な羽ばたきで、オオタチの巨体が空へと浮かび上がる。

 

「あいつ、今度は飛びやがっただと!?」

 

 飛び道具を持たないアンギラスにとって、空中の敵は天敵だ。いくら俊敏だと言ってもアンギラスは陸の怪獣、空からの攻撃をいつまでも避けきれるものではない。

 アンギラスを助けるため、翔はバトルナイザーを掲げた。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、ラドン!!」

 

 

 キシャァァァァァァァァ

 

 

 咆哮と共に現れたファイヤーラドンは一目散に空へと飛び上がっていく。

 オオタチは空中で新たに現れたファイヤーラドンを見上げるが、その速度はオオタチとは比べ物にならない。

 陸海空と場所を選ばぬオールラウンダーであるオオタチだが、空での戦いでは空戦特化のファイヤーラドンには及ばないのだ。

 

 

 キシャァァァァァァァァ

 

 

 咆哮と共に加速したファイヤーラドンの体当たりがオオタチを襲う。空中でその攻撃をかわし切れなかったオオタチは大きくバランスを崩した。

 そこにすかさずファイヤーラドンがウラニウム熱線を放つ。ウラニウム熱線がオオタチの右の翼の皮膜を焼き尽くす。

 バランスを崩し、きりもみしながらオオタチが大地へと叩きつけられた。今の攻撃と墜落で右の腕が折れ曲がるが、無事な左手でオオタチは懸命に立ち上がろうとする。だが、それを待つほど翔はお人よしではなかった。

 

「トドメだ、アンギラス!!」

 

 

 フォォォォォン!!

 

 

 翔の声に応えアンギラスが咆哮すると加速、身体を丸めてボールのようになる。これこそアンギラスの必殺技、『暴龍怪球烈弾(アンギラスボール)』だ。

 自分の体重・加速、そしてその身体の常軌を逸した硬度をフルに活用した、必殺の体当たりである。それが動けずにもがくオオタチに直撃する。

 その一撃で身体中の骨を砕かれたオオタチは泡を吹きながら、ついに息絶えたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 怪獣を倒し終えた翔と絵美は、怪獣の様子を確認するために近くまで来ていた。1人にする訳にもいかないので付いてきているみどりが、怯えた様子で翔の影に隠れながら怪獣を見ている。

 

「しっかし、怪獣が徒党を組んで動いてるっていうのも珍しいな」

 

 翔はオオタチの死骸を見上げながらそう口にする。

 怪獣は基本的に同族でなければすべて敵として戦い合うのが常だ。翔たちもそんな光景は何度も見て来ている。それが別種の怪獣が徒党を組んでというのは珍しい。

 

「おとーさんがね、きっとボスがいるんだって言ってた」

 

「ボス? この怪獣どもを纏め上げてる親玉がいるってこと?」

 

 絵美の言葉に、みどりが頷く。

 なるほど、分からない話ではない。怪獣とは、結局は巨大で凶暴な獣だ。野生動物のように力の強い強力なボスが群れを纏めているというのは十分にありえる話だろう。

 そんな風に翔が頷いているその時だ。

 

 

ドドドドド……

 

 

「何だ、この音!?」

 

 近くのようで遠くからするようなおかしな音に、翔と絵美はバトルナイザーを手に辺りを警戒する。

 そして……。

 

 

 キシャァァァァ!

 

 

 咆哮と共にオオタチの死骸から、小さなオオタチが飛び出してきた。オオタチは妊娠しており、その子供が体内から出てきたのである。

 人であればそれは未熟児だろうがそこは怪獣、この状態で10m近い大きさだ。

 

「ちぃ!?」

 

 翔は咄嗟にバトルナイザーで怪獣を召喚しようとするが、思いとどまる。

 

(この距離でゴジラなんて召喚したら、全員ペシャンコだ!?)

 

 距離が近すぎる。この距離で巨大な怪獣を召喚したらオオタチの子供もろとも自分たちもペシャンコだ。

 翔はみどりを抱きかかえ逃げようとするが、そんな中絵美がバトルナイザーを掲げた。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「バカ、絵美やめろ!?」

 

 叫び、すぐに来るだろう衝撃に備えて翔はみどりをその身に庇う。

 

 

 ガキッ!?

 

 キシャァ……!?

 

 

 しかし衝撃は一向に訪れず、代わりに響いたのは何かを殴る様な重い音とオオタチの子供の悲鳴であった。

 翔はゆっくりと絵美の方へと振り返る。

 するとそこには10メートルほどの巨人が立っていた。完全な人型だが、その身体の金属の輝きが、この存在がロボットであると示している。その巨人が迫り来るオオタチの子供を殴り飛ばしたのだ。

 そんな巨人を前に、絵美は得意顔で翔に言った。

 

「誰が馬鹿よ、誰が。

 あんな距離で、でっかい怪獣呼んだら危険だって言うのは分かってるわ。

 だったら……大きくない怪獣を呼べばいいのよ」

 

 その絵美の言葉に応えるように巨人がみるみる縮んでいくと、2mほどの身長になって絵美の前に並んだ。

 

「どう? この子はサイズを自在に変えれるのよ。

 下はこのサイズから、そして上は……」

 

 そこまで言うと、絵美はバトルナイザーを掲げてその怪獣に命じた。

 

「行きなさい、ジェットジャガー!

 巨大化してあいつを蹴散らすのよ!!」

 

 その言葉に応えるようにジェットジャガーは駆けだすと、見る見るそのサイズを変化させていく。やがて、絵美の操る他の怪獣と遜色ないサイズまで巨大化したジェットジャガーは、オオタチの子供をその足で踏み潰した。

 その光景に安心した翔は、冷や汗を拭う。

 

「ふぅ……肝が冷えたぜ。 助かったよ」

 

「ふふっ、もっと褒めてもいいのよ」

 

「調子のんな、アホタレ」

 

 緊張がとけ、じゃれあいながら絵美の頭をコツンとチョップする翔。

 

「やれやれ、ただのイモの収穫作業がちょっとした重労働になっちまったな」

 

「ホントね。 それじゃ早く戻りましょう。

 きっとみどりちゃんのこと、心配してるわ」

 

 そう言って絵美はバトルナイザーを掲げてジェットジャガーを戻そうとしたその時だ。

 

 

 ドォォォォォン!!

 

 

「!? ジェットジャガー!?」

 

 何処からか飛来した破壊光線、それがジェットジャガーに直撃すると凄まじい勢いでジェットジャガーが吹き飛ばされる。

 

「くそっ! どこからだ!!」

 

 慌てて周囲を見渡した翔はすぐにその存在に気付いた。

 海からゆっくりとやってくる1体の怪獣……今の光線を放ったのは間違いなくあの怪獣だ。その姿は一目見て、先ほどのレザーバックとオオタチとは格が違うということが分かる。そして、こいつこそが先ほどのレザーバックやオオタチたちのボスなのだということを直感した。

 

「嘘……メカゴジラやMOGERAほどの防御力じゃないにしても、一撃でジェットジャガーをここまで……」

 

「絵美、回収だ! 急げ!!」

 

 吹き飛ばされたジェットジャガーは破壊光線の直撃した胸部の装甲が派手に吹き飛び、バチバチと内部機構をスパークさせていた。

 あまりのことに呆然とした絵美だが、翔の言葉に慌ててジェットジャガーをバトルナイザーへと戻す。

 そして続けて怪獣を呼び出そうとしていた絵美を、翔が手で制した。

 

「翔?」

 

「……あいつは普通じゃない、俺と……ゴジラがやる!」

 

 その言葉と同時に、翔はバトルナイザーを掲げた。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、ゴジラァァァァァ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声と共に召喚されたゴジラが咆哮を上げる。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 そして、そのゴジラの咆哮に応えるようにその怪獣も雄たけびを上げた。

向かい合うのは2体の怪獣。

 かくして怪獣王と大魔獣帝との激突が今、始まるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次回の大怪獣バトルレジェンドは

 

「くっ……強い!?」

 

「ゴジラを相手に……あの怪獣、何てパワーなの!?」

 

「ゴジラ、お前の本当の力を見せてやれ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

次回、大怪獣バトルレジェンド第5話『怪獣王VS大魔獣帝』

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

第4話怪獣紹介

 

 

古代怪獣『ツインテール』

出典:『帰ってきたウルトラマン』他

 

解説:頭が下、尾が上という独特な形状が特徴の古代怪獣。名前の由来でもある2本の尾を鞭のように使用して戦う。

   

   その独特な形状から知名度の高い怪獣。金のシャチホコのような天に伸びた尻尾は怪獣に詳しく無くても知っている人は多い。

   その肉はエビの味がするらしく、捕食ネタでよく使われる。だが実際に捕食したのは『ウルトラマンメビウス』の時にボガールに捕食されたぐらいでグドンには食べられていなかったり。

   非常に美味だがよく火を通さないと食中毒の可能性があるらしいのでこれからツインテールで一杯……と考えてる人は注意しよう。

 

   

 

電磁波暴獣『レザーバック』

出典:映画『パシフィック・リム』

 

解説:ゴリラのような体躯の怪獣。

   そのパワーは並大抵ではなく、その剛腕から繰り出される攻撃は強力。

   また背中の発光器から高出力のEMPを放つことで電子機器を麻痺させることができる。

 

   ポータルから地球へと送り込まれる侵略生物兵器『Kaiju』、その中でもとてつもなく強力な『カテゴリー4』に該当する怪獣。

   オオタチと共に香港を襲い、人類側の超巨大人型決戦兵器『イェーガー』の1体、オオタチの酸攻撃でダメージを受けたロシアの『チェルノ・アルファ』にトドメを刺した。

   その後、最強のイェーガーである『ストライカー・エウレカ』をEMP攻撃で行動不能にするが主人公たちの乗る『ジプシー・デンジャー』と交戦、凄まじい乱打戦を繰り広げた末、至近距離からプラズマキャノンの連射を叩き込まれて倒された。

   映画においてオオタチとともに一番暴れまわった怪獣で、ある意味では主役とも言える怪獣である。

 

   

 

凶悪翼獣『オオタチ』

出典:映画『パシフィック・リム』

 

解説:爬虫類型の怪獣。スピードの優れており、俊敏な動きをする。

   さらに腕の皮膜を展開し翼にすることで飛行も可能。陸海空と場所を選ばぬ活動ができる。

武器は噛みつくように開閉する尻尾と、超強力な酸攻撃。

 

   ポータルから地球へと送り込まれる侵略生物兵器『Kaiju』、その中でもとてつもなく強力な『カテゴリー4』に該当する怪獣。

   レザーバックと共に香港を襲い、人類側の超巨大人型決戦兵器『イェーガー』の1体、中国の『クリムゾン・タイフーン』を尻尾で瞬殺。ロシアの『チェルノ・アルファ』の分厚い装甲を酸で溶かし致命傷を与える。

   その後香港で暴れまわるがレザーバックを倒した『ジプシー・デンジャー』と対戦、翼を展開し上空から『ジプシー・デンジャー』を地面に叩きつけようと空中に持ち上げるが翼を斬られ地面に墜落して死亡した。

   作中では人類は超巨大人型決戦兵器『イェーガー』での怪獣迎撃を捨て、巨大な壁を造ってそこに籠るという政策をとろうとしていたか、そのすべてをあざ笑う(純粋なパワーで壁を破壊できる、酸で壁を溶かせる、そもそも飛べるから壁が無意味)超スペックな怪獣である。

 

 

 

究極対G兵器『MOGERA』(通称Gフォースモゲラ)

出典:『ゴジラVSスペースゴジラ』

 

解説:本作ヒロイン、三枝絵美の2体目の怪獣。対ゴジラ迎撃組織『Gフォース』にて造られた対G兵器。

   正式名称は『Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type』。

   日本語訳では『対ゴジラ作戦用高機動型ロボット』でその頭文字をとって『MOGERA』と呼ばれる。

   プラズマグレネイドが無くなった分メカゴジラに比較して瞬間火力と防御力に劣るが、機動ロボットの名にふさわしく運動性と機動性に優れている。

   脚部に装備されたローラーシステムで大地を滑るように移動しながら、遠距離・近距離と高速に動き回りながら攻撃する。

   メカゴジラと同じく、全兵装を一斉発射するオールウェポンアタックが必殺技。

 

   目からの『プラズマレーザーキャノン』、腕の『自動追尾レーザー砲』、口の格闘戦用『クラッシャードリル』、腹からの『プラズマメーサーキャノン』、腕のドリルミサイル『スパイラルグレネードミサイル』と、メカゴジラと同じく全身これ武器の塊。

   メカゴジラほどの瞬間火力は無いが、信頼性と安定性が高く、兵器としての総合評価はメカゴジラより高いという。

   またこの機体はスペースゴジラの電磁波対策として電磁波防御も施され、ますます安定性が高い。

   その癖、ドリル装備に変形合体機構搭載と、夢とロマンも盛りだくさん。

   胃もたれするほどの特盛り超兵器、それがこの『MOGERA』である。

 

 

 

電子ロボット『ジェットジャガー』

出典:『ゴジラ対メガロ』

 

解説:本作ヒロイン、三枝絵美の使役する第3の怪獣。

   本来は日常生活のアシスト用として開発された等身大の人型電子ロボット。

   等身大のサイズから怪獣サイズまで自在に大きさを変える能力(ゲーム準拠)を持つ。

   パワーや装甲といった戦闘能力はメカゴジラやMOGERAほどではないが、人型ゆえの運動性と自在に大きさを変えることができる能力によって、生身での護衛から対怪獣戦にまで使える抜群の器用さを持っており、様々な局面で絵美たちの窮地を救う。

 

   ゴジラシリーズ屈指の迷キャラクター。

   どう見ても光の国とかが似合う姿形をしており、『良心回路』というどこかで聞いたことがある回路を搭載し、自我に目覚めて巨大化できる能力を得た。

   ……自分で書いていて、何を言っているのかまるで分からない。

   元が生活アシスト用のため、武装は肉弾戦と電磁光線(ゲームにて使用)のみと至ってシンプルだが、そこが良い。

   色々黒歴史風味なキャラクターですが、作者としては好きなキャラです。

 

 

 




今回・次回は映画『パシフィック・リム』の怪獣たちとの日米対決です。
『パシフィック・リム』は特撮怪獣好きならオススメの映画、デルトロは本当に凄い映画を作ってくれました。

ヒロインの怪獣早くも判明。
MOGERAはまだしも、怪獣小説でジェットジャガーを出し、あまつ主役級のお供に持ってくるのはこの作品だけだろうなぁ……。

次回は序盤戦のボスキャラ戦。
『怪獣王VS大魔獣帝』の戦いをお楽しみに。


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第5話 怪獣王VS大魔獣帝

ついにゴジラ公開日です。
それに合わせ今回は一応序盤ボス戦、日本の怪獣王と米国の大魔獣帝との激突です。



 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 ゴジラが空に向かって咆哮する。それに応えるように海から上がってきた怪獣も咆哮する。

 その怪獣はゴジラよりも一回り以上大きい。X字型の特殊な顔、シュモクザメのようにその両端に4つの目が光る。2本の尾は三又となっており、都合6本に見える尾はゆらゆらと揺れていた。

 この怪獣こそこの周辺の怪獣たちのボス……『スラターン』である。

 ゴジラとスラターンは互いを敵と認識すると、威嚇するように睨み合う。そして、ついに2体の怪獣がぶつかり合った。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 互いに体当たりでぶつかり合うゴジラとスラターン。両者は一歩も譲らず、拮抗する。

 

「くっ……強いな!?」

 

「ゴジラを相手に……あの怪獣、なんてパワーなの!?」

 

 並の怪獣なら腕一本で吹き飛ばすような超パワーを誇るゴジラと正面からぶつかりながら、それと互角のスラターンに絵美は目を見張った。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 動いたのはゴジラだ。ゴジラのその太い腕が、スラターンの胸に叩きつけられる。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 その衝撃にさすがのスラターンも一歩二歩と後ずさるが、すぐに戦意を鼓舞するように吼え立てると、スラターンはその尻尾を振るった。

 長大な2本の三又の尾が、まるでヌンチャクのように振り回すとそれを連続してゴジラに叩きつける。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラの強靭な皮膚が、その衝撃に火花が散る。

 その隙にスラターンは再びゴジラに向き直ると、その口を開いた。途端に、蛍光ブルーの鮮やかな液体がゴジラに放たれる。

 それはオオタチも使っていた酸攻撃だ。それもオオタチ以上の威力を持つ超強力な酸である。その酸によってゴジラの皮膚から白煙が上がる。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 流石のゴジラも、この強烈な攻撃に後ずさる。

 そんなゴジラへと、スラターンはラッシュを仕掛けた。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 スラターンの全身の至るところがバチバチと発光し、その発光する腕をゴジラに叩きつける。その瞬間巻き起こるのは電気のショートしたような閃光だ。スラターンは自身の中で高圧電流を発生させ、それを纏わりつかせることでその打撃を強化したのである。

 2発・3発と連続したラッシュは確実にゴジラへと叩きつけられる。

 そして距離を離したゴジラに、スラターンはトドメのように口を開いた。

 スラターンの背中の突起が、発光と帯電を繰り返す。

 そして、スラターンの口から先ほどジェットジャガーを一撃で行動不能にした破壊光線が放たれた。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!?

 

 

 その威力に、ゴジラが吹き飛ばされ大地へと倒れ込む。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 そんな中、スラターンの勝ち鬨の声のような咆哮が辺りに響いた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「う、嘘でしょ……」

 

 絵美は茫然と呟く。

 絵美は今までの旅の中で、翔の操るゴジラの強さを見続けていた。

 圧倒的超パワーと超火力、そして決して倒れぬ防御力を持つ怪物、それが絵美の中でのゴジラである。そのゴジラが始めて、正面からパワーでもって地面へと転がされたのだ。

 あまりのことに一瞬茫然となるが、頭を2・3度振るとバトルナイザーを構える。

 メカゴジラやMOGERAでゴジラを援護しないと……そう思った絵美だが、それを止めたのは翔だった。

 

「翔……?」

 

「待ってくれ、絵美。

 あいつは……ゴジラはまだ戦える」

 

「な、何言ってるのよ!?

 あれだけ強力な怪獣なのよ! ゴジラだって手も足も……」

 

 そこまで絵美が言いかけた時だ。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!

 

 

 雄たけびと共にゴジラが立ち上がる。

 それもダメージを受けてふらふらとした様子ではない。まるで「お前の攻撃はこの程度か?」と挑発するかのように、悠然と、どこか余裕の様なものすら感じさせながらゴジラが立ち上がった。

 その様子にポカンとした絵美に、翔はどこか楽しそうに言う。

 

「手も足も……何だって?」

 

「……」

 

 そんな絵美の様子に翔は頷くと、バトルナイザーを掲げながら叫んだ。

 

「行けゴジラ、お前の本当の力を見せてやれ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉に応えゴジラが一鳴きすると、猛然とスラターンへと突進していく。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 負けじとスラターンもゴジラへと突進し、両者が再びぶつかり合った。

 その瞬間、ゴジラの全身がまるで放射熱線を吐く時のように青く光り輝くと、その衝撃がスラターンを吹き飛ばす。

 エネルギーを放射熱線として放つのではなく、全身から周囲全体に拡散放出するゴジラの格闘戦での必殺技、体内放射である。

 体内放射の直撃を受けたスラターンが吹き飛び大地へと倒れるが、スラターンはすぐに立ち上がると、再び電撃を帯びた腕をゴジラへと叩きつける。

 だがゴジラはそれを意にも介さず、同じように腕をスラターンへと叩きつける。同時に、スラターンに爆発が巻き起こった。スラターンと同じように、ゴジラはエネルギーを腕に集中、それをスラターンへと叩き込む。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 苦悶の悲鳴を上げるスラターンは距離を取ると、今度は尻尾を叩きつけようとしてくるが、同時にゴジラもその太い尾を振るった。

 空中でゴジラとスラターンの尾がぶつかり合うが、ゴジラの尾はスラターンの尾を正面からはじき返すと、そのままスラターンの胴体を直撃、スラターンはまるでバットで叩かれたボールのように吹き飛ぶとゴロゴロと大地を転がる。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 地面を転がるスラターンはしきりにその太い腕で大地を殴りつける。

 それは痛みに悶えていたのか、それとも怒りからか……恐らくその両方だろう。

 ゆっくりと立ち上がったスラターンの背中の突起が、発光と帯電を繰り返す。先ほどの破壊光線のための準備動作だ。

 スラターンは自身の最大の攻撃によって勝負を決しようというのである。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 それに応えるようにゴジラは咆哮すると、ゴジラの背びれが輝きだす。だがそれは、いつもの放射熱線の時のような青い光ではない。すべてを焼き尽くす様な荒々しい、赤い輝きだった。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 放たれるスラターンの破壊光線。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラも迎え撃つように熱線を放つ。その熱線の色は赤だ。これぞゴジラの必殺の一撃、『バーンスパイラル熱線』である。

 スラターンの破壊光線とゴジラのバーンスパイラル熱線が空中でぶつかり合う。

 衝撃と拮抗は一瞬だった。

 正面からぶつかり合ったゴジラのバーンスパイラル熱線は、スラターンの破壊光線を押しのけるように吹き散らすと、そのままスラターンの身体へと突き刺さる。

 スラターンの強靭な皮膚を、ゴジラのバーンスパイラル熱線が喰い破る。

 

 

 フオォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 スラターンが断末魔の咆哮を上げる。

 その身体に大きな風穴を開けたスラターンはそのまま大地に倒れ込むと同時に爆発した。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 その黒煙が天に昇っていく中、ゴジラの勝ち鬨の咆哮が空へと響いたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、バイバーイ!!」

 

 小さな身体でぶんぶん手を振り回すみどりに、その傍には同じく並ぶみどりの家族。翔と絵美はそんな彼らにハンヴィーから手を振って応える。

 翔と絵美の2人は再び、旅に戻ろうとしていた。

 

 

 スラターンを退けた翔たちは、そのまま収穫した食料を持って農場主の元へと戻っていた。農場主たちも心配していたのだろう、戻るなりみどりの無事を確認するとその身体を思い切り抱きしめる。

 翔たちは怪獣はどこかに行った旨を伝え、農場主はみどりの無事に翔たちに感謝の言葉を述べた。

 その間、みどりはしきりに翔たちが怪獣をやっつけたと言っていたのだが、さすがに農場主は冗談か何かだと取り合わず、みどりが頬を膨らませる。

 その光景をほほえましそうに見ながら、翔たちは内心ではホッとしていた。さすがにバトルナイザーのことを話せる訳もないからだ。

 そんなことで変わらず農作業を手伝いつつ、絵美の回復を待つ日々……そして絵美の体調も戻り、ついに翔たちは旅に戻ることになったのである。

 

「……いいとこだったな」

 

「うん」

 

 そう言ってハンヴィーの後部に視線を送ると、そこには農場で分けてもらった幾ばくかの食料がある。その中にはチーズやバターといった貴重な乳製品も混じっていた。

 

「今夜の飯も楽しみだ」

 

「ふふっ、そうね」

 

 そんな風に車内で言葉を交わしながら翔はハンドルを握るが、その顔がすぐに引き締まる。

 

「西か……」

 

「……」

 

 今の2人は一路、西に向かっていた。その理由はあの農場主との何気ない噂話が発端だ。

 スラターンとの戦いの後、その食事の席で怪獣のことが話題になった際に、農場主から気になる噂を聞いたのである。

 それは『西のほうで悪魔のような赤い怪獣が暴れまわっている』という噂であった。

 赤い悪魔のような怪獣……翔にとって父の仇である、あの怪獣かもしれない。そう思った翔はその怪獣の噂を追って一路西へと向かうことを決めたのだ。

 

「赤い、悪魔……!」

 

「……」

 

 ギリリと歯を噛みしめる翔を、絵美は何とも言えない顔で不安そうに眺めるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次回の大怪獣バトルレジェンドは

 

「……あいつらか」

 

「そのようですわね」

 

「何だあのカメ!? 並の怪獣じゃない!!

 ゴジラと互角だと!?」

 

「ちょこまかと……このでっかい蛾が! ウザイのよ!!」

 

 

次回、大怪獣バトルレジェンド第6話『遭遇』

 

 

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第5話怪獣紹介

 

 

大魔獣帝『スラターン』

出典:映画『パシフィック・リム』

 

解説:X字型のシュモクザメのような頭部が特徴的な怪獣。

   その巨躯から来る圧倒的パワーと様々な特殊能力を持つ。

   攻撃力・防御力・スピード・知能がどれもこれもバランス良く高く、『大魔獣帝』の呼び名に恥じない強さをもつ。

 

 

   ポータルから地球へと送り込まれる侵略生物兵器『Kaiju』、その中でも史上最大最強にして唯一の『カテゴリー5』に該当する怪獣。

   原作においては最終決戦時に登場した、映画『パシフィック・リム』におけるいわゆるラスボスに相当する。

   格闘戦に秀でた三又2本の尾、オオタチ以上の超強酸、レザーバックを超える超パワーに破壊光線(ゲーム版)とその攻撃力は桁違いで、劇中では最強のイェーガーである『ストライカー・エウレカ』に一撃で大ダメージを与えている。

   さらに防御力も桁違いであり『核弾頭+ストライカー・エウレカの自爆』を超至近距離で顔面に受けながらピンピンしていた。

   最後は主人公たちの乗る『ジプシー・デンジャー』に抱きつかれ、0距離から胸の核エネルギー照射によって身体を貫かれて倒された。

 

   『大魔獣帝』の呼び名に恥じない凶悪な強さを持っていたのだが、尺の関係上駆け足気味で倒されてしまうためそんなに強く感じないというどこか可哀そうな怪獣である。

   『パシフィック・リム』続編の制作も決定したので、次回作では頑張って欲しい。

 

 

 




というわけで『パシフィック・リム』のラスボス、スラターンとの戦いでした。

……せっかくゴジラ公開なんですし、このコラボ本当にやってくれませんかねぇ。

次回はライバル登場。無論、使用怪獣はあのカメです。
次回もよろしくお願いします。


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第6話 遭遇

お久ぶりです。
今回はライバル登場。
そして、特撮好きなら誰もが一度は考えた戦いです。


ドゥン!!

 

 

キシャァァァァァァァァ

 

 

 燃え盛る炎の中に翼竜のような怪獣、超音波怪鳥『ギャオス』が沈んで行く。その燃え盛る炎の前には、それを起こした1体の怪獣の姿があった。

 その怪獣は、まさしく巨大な直立したカメだ。醸し出す雰囲気が、この怪獣がそこらへんにいるただの怪獣ではないということを物語る。

 そしてその怪獣の傍らには1人の青年の姿があった。

歳は18~19くらいか?

 切れ長の鋭い視線からは、まるで研ぎ澄まされた刀のような鋭い印象を受ける。そしてその青年の手にはあの不思議な機械『バトルナイザー』が握られていた。

 

「片付きましたの?」

 

 鈴の鳴るような声に青年が振り向くと、そこには1人の少女の姿があった。歳は青年と同じほど、艶やかな長い黒髪を手で払うそのしぐさは、この荒廃してしまった世界には似つかわしくない上品な雰囲気を醸し出している。

 そして、その彼女の手にもあの『バトルナイザー』が握られていた。

 

「怪獣の発生が活発だというから来たが……とんだ無駄足だった。

 これはただの野生種だ」

 

 青年は肩を竦めバトルナイザーを掲げると、カメのようなその怪獣は光となってバトルナイザーの中に戻っていく。

 

「そうですか……今度こそ怪獣発生の原因だという、『あの怪獣』がいるのかと思ったのですが……」

 

「『あの怪獣』は『奴ら』にとっても重要らしいからな。

 そう簡単には見つからないだろう」

 

 残念そうに肩を落とす少女に、青年は何でもないかのように言い放つ。そして話題を変えるかのように言った。

 

「それで、次の目的地だが……」

 

「それなら……気になる話がありました。

 浜名湖周辺に出没していた怪獣の群れは覚えていますか?」

 

「ああ、『奴ら』の息のかかった怪獣じゃなかったが、野生種としては最大級の強さだったから監視対象になっていたやつだな。

 手の開いた時に討伐をする予定だったが……?」

 

「その群れが消滅したそうです」

 

「なにっ?」

 

 その話に彼は眉を潜める。あの場所を根城にしていた怪獣の群れ、特に群れのボスである『スラターン』は並の怪獣ではなかった。それが倒されたとなれば、それは相当な怪獣であるが……。

 

「ところが、あの地域に新たな怪獣が根付いた様子はありません。

 これはつまり……」

 

「怪獣使い……か」

 

 青年の言葉に、少女は頷く。

 

「分かった。 次の目的地はそこだな。

 行こう」

 

「はい……」

 

 答えて2人は連れだって歩き出した。そして青年はポツリと呟く。

 

「今度こそ『奴ら』に繋がればいいが……」

 

 その言葉は誰にも聞こえることなく、空に溶けていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あの『スラターン』との戦いの後、翔と絵美は西へと旅を続けていた。その目的は1つ、噂に聞いた『赤い悪魔のような怪獣』を確かめるためだ。

 

「……」

 

 野宿のたき火を前に、翔は無言で手の中のバトルナイザーを見つめる。

 そんな翔の前に、湯気の立つマグカップが差し出された。

 

「どうしたのよ、深刻な顔して。

 どうせまたバカなこと考えてたんでしょ?」

 

「……俺だってたまには真面目に考え事ぐらいはするんだよ」

 

「あー、うそうそ。

 翔がそういう顔してるときには決まってくだらないこと考えてるんだもの」

 

 そう言って大仰に肩を竦めると、絵美はたき火を前に翔の隣に座った。

 

「もっとこれからのことを考えましょうよ。

 せっかくこんな凄い力手に入ったんだし」

 

 そう言って、絵美は手の中のバトルナイザーを見せた。

 

「この子たちを使ってトレイダーの仕事とかどう? 儲かりそうよ」

 

「そりゃ、お前のジェットジャガーならできそうだろうが……」

 

 絵美のジェットジャガーはその大きさを変える能力と、完全な人型をしているということでここまでの旅の間も力仕事などで大いに役立っている。絵美曰く『器用で一番使いやすい怪獣』とのことだ。

 ジェットジャガーならそれもいいが、翔のゴジラやアンギラスではパワーがあり過ぎてそんな細かな仕事ができるとは思えない。ラドンは論外である。

 もっとも、今まで怪獣がいて人が入っておらず手付かずの場所を漁りに行けるということで、トレイダー稼業に怪獣は役立てようと思えばできそうではあるのだが……。

 

「じゃあ街の用心棒とかどう?」

 

「いや、怪獣の召喚を見せたらそれこそいつかの焼き直しだろ?」

 

 この旅だって怪獣召喚を恐れられて街を追い出されることで始まったのだ。用心棒と言うのは悪くないアイデアだが、難しいだろう。

 そんなあれもこれもすぐに否定する翔に、絵美は頬を膨らませる。

 

「もう、真面目に考えなよ!

 ……私たち、今を生きてるんだよ」

 

 そして、絵美は少しだけトーンを落とした。

 

「……おじさんの仇をとりたいのはわかるよ。

 私だってあの『赤い怪獣』はお父さんやお母さんの仇だし、その気持ちは分かる。

 でもこう言ったらなんだけど……仇を取ったって、誰も生き返るわけじゃないんだよ。

 ならさ、もっと今を生きることを考えなきゃ」

 

「……」

 

 その言葉に翔は沈黙した。

 翔とて、そんなことは分かっている。仇をとろうが、何が変わるというわけではない。

 だが……。

 

「……俺だって分かってるさ。

 でも……家族を殺した奴がいて、それが平然と闊歩しているなんて気分がいいわけ無いだろ」

 

 人は誰でも『仇』には罰を求める。

 犯罪と治安というものも個人に変わって犯罪を犯したものに法の元に罰を与える、言ってみれば被害にあった者のかわりに司法が恨みを晴らし『仇』を討つ行為なのである。

 だが……その『仇』が怪獣なら、その恨みと罰は誰が与えるのか?

 

「今までは怪獣が相手だ、どうしようもないと諦めるしかなかった。

 でも、今なら俺にはゴジラたちがいる。

 『仇』を討てるかも知れない力がここにあるんだ。

 だから俺はあの『赤い怪獣』を追う。父さんのことと自分の心に整理を付けて、何より俺が明日を生きるために、だ」

 

 そう言って、翔は視線を手の中のバトルナイザーに落とした。

 

「それに、さ……俺はこれ(バトルナイザー)を手に入れた。

 こいつは、何かを成し遂げるためのものなんだと思う。

 それが何なのか分からないけど、ジッとしていてもその答えは見つからないと思うんだ。

 だから……」

 

「今は仇を追う?」

 

「ああ……もっとも噂の『赤い怪獣』が本当にあいつなのか分からないし、あの『赤い怪獣』だってとっくの昔に他の怪獣に殺されてる可能性だってある。

 どうなるかは分からないけど……とりあえずは噂の真偽を確かめるまで旅を続けてみるつもりだ」

 

「……」

 

「……ここで別れてもいいんだぞ?」

 

 翔がそう促すと、絵美は大きなため息とともに肩を竦めた。

 

「ここまで来たら今さらよ。

 旅は道連れ、今さらおりる気はないわ。

 ただ……それが終わったら少しは考えなさいよ」

 

「ああ……」

 

 それっきり、絵美はその話題には触れてこない。その気遣いが翔には嬉しかった。

 その時……。

 

 

シュインシュインシュインシュイン!!

 

 

 奇妙な音に、翔はバッと顔を上げる。

 

「な、何だこの音は!?」

 

「翔、あれ!!」

 

 絵美の指さす方向には炎を上げながら回転する円盤のようなものが飛んでいた。それは地上まで降りてくると、炎を放っていた場所から手足と、そして頭が飛び出し、地上へと降り立つ。

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

 それは直立したカメのような怪獣だった。

 それを見た途端、翔の背中を何とも言えない悪寒が駆け巡る。

 この怪獣は並大抵ではない……それを翔はビリビリと本能的に肌で感じる。いつの間にか、翔は汗で絞める手でバトルナイザーを強く握りしめていた。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、ゴジラ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 あの敵を相手に、出し惜しみなどできない。半ば本能的にそう悟った翔は即座に切り札(エース)を切る。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

 並び立った2体は、ともに雄たけびを上げる。

 そして、それが戦闘開始の合図となった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

 先に仕掛けたのはカメのような怪獣だった。強固な甲羅を背負ったその身体で、肩口からゴジラに対して体当たりを喰らわせる。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 その衝撃にゴジラが2歩・3歩と後ずさるが、すぐに体勢を立て直す。

 

「ゴジラッ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉に応えるようにゴジラが大きく一つ雄たけびをあげると、その太い尾をしならせ、必殺のテールアタックを放つ。

 しかし、そのカメのような怪獣は素早くクルリと身をひるがえすと、その強固な背中の甲羅でゴジラの尾を受け止めた。

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

 そしてゴジラが尾の一撃を外したことでできた隙をついてカメのような怪獣は急接近、ゴジラに左右の腕を連打で叩きつける。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 その一撃が当たるたびに、ゴジラの強靭な皮膚に火花が散る。一撃一撃の威力はそれほどでもないが、激しい連続攻撃がゴジラを翻弄する。

 

「ゴジラ、体内放射だ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉に、ゴジラの背びれが激しく発光を始める。必殺の放射熱線を体内で開放することによって全身から放射熱線を拡散、周囲をくまなく攻撃するゴジラの接近戦での切り札だ。これが放たれれば、至近距離では防御のしようがない。それをカメのような怪獣に繰り出そうとするが……。

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

「何っ!?」

 

 そのカメのような怪獣は突如、足を引っこめると登場した時と同じようにそこから炎を吐きだした。

 その圧倒的な炎を推進力にしてロケットのように加速、一瞬にしてゴジラから距離をとり、ゴジラの体内放射の範囲から逃れていたのである。

 

「こいつ……強いっ!?」

 

 今まで戦った怪獣とはまさしく別次元の強さを誇るその怪獣に、翔の背を冷たいものが伝った。

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

 そのカメのような怪獣の雄たけび、その口の中にチロチロと赤い炎が浮かび上がる。そして、プラズマ化した超高温の火球がゴジラに向かって放たれた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翔のゴジラが激しく戦う中、絵美の方も苦戦を強いられていた。

 

「なんなのよ、この蛾は!?」

 

 ゴジラを援護するためにメカゴジラを召喚した絵美だが、そのとき空から極彩色の蛾のような怪獣が現れ、メカゴジラに攻撃を仕掛けてきたのだ。

 蛾の怪獣の触角から、その羽根と同じような極彩色の光線が放たれ、メカゴジラに襲い掛かる。

 

「甘いわ! 全部プラズマグレネイドのエネルギーにしてやる!!」

 

 その極彩色の光線はメカゴジラに当たると、メカゴジラの全身のダイヤモンドコーティングの効果によってそのエネルギーをプラズマエネルギーに変換、メカゴジラのプラズマグレネイドの砲口に凶暴な光が灯っていく。

 メカゴジラはお返しとばかりに目のレーザーキャノンを空にいる蛾の怪獣へと放った。レーザーキャノンで牽制し、メガバスターやミサイルを当てて地面に叩き落とし、その後に必殺のプラズマグレネイドで仕留めるつもりだ。

 しかし、蛾の怪獣からキラキラと光る粉状の何かが降り注ぐ。その光る粉を当てられたメカゴジラが全身から煙を上げた。

 

「め、メカゴジラ!?」

 

 光る粉の正体、それは毒の燐粉である。その攻撃によってメカゴジラ自慢のダイヤモンドコーティングが溶けていたのだ。

 蛾の怪獣から再びの光線、ダイヤモンドコーティングを失ったメカゴジラは光線を吸収できず、その銀の装甲に爆発の火花が散る。

 

「不味い!! 早く倒さないと!!

 メカゴジラ、メガバスターよ!!」

 

 

 キシャァァァァン!

 

 

 メカゴジラは金切り声の咆哮を上げると、その口からメガバスターを発射する。

しかし……。

 

 

 ドゥン!!

 

 

「な、何で!?」

 

 目の前の光景に、絵美が驚きの声を上げた。メカゴジラのメガバスターが放たれ、そしてメガバスターによって爆発が起きたのはあろうことかメカゴジラ自身だった。

 先程の燐粉、これがメガバスターを乱反射させるように拡散させ捻じ曲げ、メカゴジラ自身のすぐ近くで炸裂したのである。

 爆風であおられ体勢を崩すメカゴジラ、そこに蛾の怪獣が低空を飛行しながら突進してくる。

 

「っっ!?」

 

 重量と加速の乗った体当たりに、メカゴジラの重装甲ボディが宙を舞った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 カメのような怪獣から放たれたプラズマ火球、それが連続して2発・3発とゴジラに向かって飛んでくる。

 しかし、翔は今こそが勝機と読んだ。

 

「ゴジラァァァ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声に応えるようにゴジラは咆哮すると、ゴジラの背びれが輝きだす。それは荒々しい、赤い輝きだ。ゴジラの必殺の一撃『バーンスパイラル熱線』である。

 

「その体勢じゃ避けれないだろ!

 これで吹き飛べ!!」

 

 カメのような怪獣は火球を放った状態、それでは先程のような回避はできないはず。翔はスラターンをも一撃で貫いた『バーンスパイラル熱線』でプラズマ火球ごとカメのような怪獣を貫こうという魂胆だ。

 『バーンスパイラル熱線』が放たれる。その強大な破壊力の赤い光は、飛んできたプラズマ火球を消し飛ばすとそのままカメのような怪獣に襲い掛かった。

 

「やった!!」

 

 翔はその瞬間、勝利を確信していた。

『バーンスパイラル熱線』を受けて無事な怪獣などいはしない。目の前のカメのような怪獣はとて例外ではないはずだ。

 しかし……。

 

「ば、バカな!!?」

 

 放たれた『バーンスパイラル熱線』、しかしそれはカメのような怪獣の突き出した右腕に受け止められていた。

 いや、受け止められたのではない。本来なら対象を一瞬で焼き貫くはずの貫通力抜群の『バーンスパイラル熱線』が、その場で渦巻くように停滞している。

 そして……『バーンスパイラル熱線』の奔流が終わるとそこには『バーンスパイラル熱線』の赤を腕に纏わりつかせるようにしたカメのような怪獣が立っていた。

 そのカメのような怪獣が急接近、赤く輝く右腕をゴジラへと叩きつける。

 

 

 ドグォォォォォン!!!

 

 

「ゴ、ゴジラぁぁぁぁぁ!??」

 

 今までに見たことも無いような大爆発。そして……あのゴジラが白眼をむいていた。

 意識を失ったゴジラが、ゆっくりと体勢を崩し倒れていく……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 蛾の怪獣の強烈な体当たりによって、メカゴジラが倒れ込む。しかし、メカゴジラはまだ動ける。そして絵美の闘志にも陰りは無かった。

 

「光学兵器が使えなくてもメカゴジラは戦えるわ!

 メカゴジラ!!」

 

 

 キシャァァァァン!

 

 

 絵美の声に応えるようにメカゴジラが一声上げると、倒れた状態でメカゴジラはブースターを点火、地面との間に火花を散らせながら離陸し、蛾の怪獣からの追撃の光線を避けた。

 その戦いの舞台を空へと移したメカゴジラと蛾の怪獣だが、空での戦いではメカゴジラは圧倒的に不利だ。空に飛び上がったメカゴジラが、再びの蛾の怪獣の体当たりによってバランスを崩す。

 だが、そのくらいのことは絵美も承知の上だ。

 

「メカゴジラ、パラライズミサイル・トランキライズミサイル連続発射!!」

 

 メカゴジラから何発ものミサイルが放たれ、それが蛾の怪獣を追尾し始めた。それを蛾の怪獣は加速して振り切ろうとするが……。

 

「レーザーキャノン、牽制射撃! 逃げ道を塞ぐのよ!!」

 

 メカゴジラのレーザーキャノンが蛾の怪獣の動きを制限し、ミサイルが炸裂する。対生物用の毒薬と麻痺薬の効果によって、蛾の怪獣の動きが鈍った。

 

「今よ! ショックアンカー発射!!」

 

 メカゴジラの腕からショックアンカーが発射され、それが蛾の怪獣の胴体に巻き付いた。即座に流される高圧電流、蛾の怪獣は逃れようと羽根をはばたかせて激しくもがいた。

 

「やれ! メカゴジラ!!」

 

 

 キシャァァァァン!

 

 

 絵美の声に応えメカゴジラは咆哮を上げると、メカゴジラは全身のブースターとスラスターを点火、その推力によってゆっくりと蛾の怪獣を引きずってコマのように回転を始めるメカゴジラ。

 やがてその回転が速くなっていく。

 

「今よメカゴジラ! ショックアンカー、パージ!!」

 

 

 キシャァァァァン!

 

 

 メカゴジラと蛾の怪獣を繋げていたショックアンカーが火薬の爆発によって切り離された。そして、蛾の怪獣はそのまま地面へと叩きつけられる。その巻きあがる土埃の中を、メカゴジラが地面に降り立った。

 怪獣式のジャイアントスイング……今のは効いたはずだ。だが、メカゴジラも無傷ではない。銀の装甲は燐粉に溶かされ光線に焼かれ、所々が爆ぜていた。そして、その右腕もだらりと力なく垂れている。先ほどのジャイアントスイングでその腕の関節に大きな負荷がかかって損傷してしまったのだ。

 それでも地上に引きずり下ろした今の状態なら、倒せてなくてもプラズマグレネイドの追撃でトドメが刺せる。絵美は蛾の怪獣の様子を注意深く見守る。

 しかし……。

 

「えっ!?」

 

 絵美は素っ頓狂な声を上げた。土埃の中、光の粒子のようなものが昇っていく。そして、絵美はそれに見覚えがあった。

 

「これ、バトルナイザーの……?」

 

 そう、それはメカゴジラたちをバトルナイザーに戻す時と同じなのだ。

その光の粒子の飛ぶ先を見るとそこには黒い髪の、絵美と同じくらいの歳の少女の姿がある。そして、その手には絵美と同じくバトルナイザーが握られていた。

 

「……」

 

 その少女は絵美を一瞥すると何も言わずに身を翻し、土埃の向こう側へと消えていく。

 呆気にとられた絵美は、その場に立ち尽くすしかなかった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 カメのような怪獣の強力な一撃によって、いままで無敵を誇り幾体もの怪獣を倒してきたゴジラが意識を失い、倒れていく。

 その信じられない光景に、翔の意識が真っ白になった。

 

「ゴ、ゴジラァァァァァ!!?」

 

 翔のその声は、絶叫に近かった。

 だが、ここに来てまだ翔はゴジラという怪獣を理解しかねていたとしか言えない。ゴジラは……そう簡単に敗北するような怪獣ではないのだ。

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 白目をむいていたゴジラの目に光が戻り、大地を震わせる雄たけびを上げる。そして、その太い尾を地面に思い切り叩き付けた。その反動を利用し、倒れかかっていた身体を持ち直すゴジラ。その姿に翔は叫ぶ。

 

「今だ、ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声に応え、ゴジラが一歩踏み出すとカメのような怪獣の腕をがっちりとつかむ。

 

「これなら、さっきみたいに逃げられないだろ!

 ゴジラ、今度こそぶちこめぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 雄たけびとともにゴジラの背びれが発光し、光と衝撃が周囲に拡散する。ゴジラの体内放射だ。先程はロケット噴射の急機動で避けられてしまったが、腕をゴジラに掴まれてはそれもできない。

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

 その直撃にそのカメのような怪獣は大きく吹き飛ばされると、大地へと叩きつけられる。

 

「どうだ……?」

 

 翔はその土埃の中に目を凝らす。すると、そこから光の粒子が立ち昇っていく。それは翔の良く知る光景……バトルナイザーの光と同じだ。

 その光の粒子の先……その小高い丘には1人の青年が立っていた。

 

「……」

 

 鋭い視線で翔を見るその男は、そのまま身を翻すとどこかへと消えていく。

 

「あいつは一体……?」

 

 思わず翔は呟く。しかし、翔には物想いにふけるような時間は無かった。

 

 

 グォォォォォォ……

 

 

「!? ゴジラ!!?」

 

 今までの激闘のダメージに、ゆっくりとゴジラが倒れていく。

 

「戻れ、ゴジラ!!」

 

 慌ててゴジラをバトルナイザーに戻す翔。そしてゴジラの受けたダメージの大きさに、改めて翔は先程の怪獣の恐ろしさを知る。

 

「翔!!」

 

 そんな翔の元に絵美がやってきた。

 

「翔、無事!?」

 

「ああ、なんとかな。

 でも……ゴジラがこんなにダメージを受けた」

 

 翔のバトルナイザーを覗き込んだ絵美が、そのダメージに驚きに目を見開く。

 

「あのゴジラがこんなに……。

 私のメカゴジラも相当やられたわ……」

 

 絵美のバトルナイザーの中に戻ったメカゴジラも大きな傷を受けている。そして、絵美はさきほど自分の見た光景を伝えた。

 

「ねぇ、翔。

 私の戦った怪獣……バトルナイザーを持った女が操ってたわ」

 

「……奇遇だな。

 俺も今、あのカメ野郎を操ってる男を見たぞ」

 

「そっちもなの!?」

 

 翔の言葉に、絵美は驚きの声を上げた。

 確かに翔も絵美も、怪獣使いは自分たちだけではないだろうとは思っていた。だが唐突な出会いの上、いきなりの攻撃である。

 

「翔……」

 

「気を付けた方がいいな。

 それにしても……一体何が目的なんだ……?」

 

 翔はそれだけポツリと呟いた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 海を前にした崖に、2人の男女が揃って海を眺めていた。その2人とは先程の、翔と絵美と戦った2人である。

 

「……どうでしたか栄一さん、先ほどの2人は?」

 

「あの怪獣……強いな。

 俺の『ガメラ』がここまでやられるとは……」

 

 そう問われ青年……草薙栄一は自身のバトルナイザーを見せる。そのウィンドウには、あのカメのような怪獣……『ガメラ』の姿が映し出されていた。

 

「そっちこそどうなんだ、雅?

 お前の『モスラ』も随分やられてたみたいだが……」

 

「ええ、こちらもそれなりにやられました。

 あれはその辺りの怪獣とは格が違いますわね」

 

 そう言って少女……手塚雅は答えて、その髪を払う。

 そして、続けた。

 

「ただ……『モスラ』は反応しませんでしたわ。

 『奴ら』の息のかかった者たちなら、モスラが反応しないわけはないんですが……」

 

「こっちも同じだ。

 『ガメラ』も邪悪には敏感、『奴ら』の息のかかった怪獣使いなら反応しないはずがないんだが……」

 

「それなら……あの2人は『こちら側』の?」

 

「……ああ。

 俺たちと同じ、『巨人たちから光を託された怪獣使い』なのかもしれない」

 

「まぁ!」

 

 栄一のその言葉に、雅は嬉しそうに手を叩いた。

 

「それならすぐに戻って事情を話してみましょう。

 あれだけの怪獣使いが仲間になってくれるなら心強いですわ」

 

「……そうもいかないだろう。

 本当に『こちら側』なのか、まだ判断できない。

 これからも監視の必要はあるだろうな。

 それに……まずは補給に戻らないと」

 

 その瞬間、沖合に何かが浮かび上がった。

 それは明らかな人工物……戦艦だ。その艦首には巨大なドリルがつけられている。そして、そのドリル戦艦から小型のヘリコプターが2人の元へと飛んできた。

 

「一端戻って情報の見直しだ。 行くぞ」

 

「はい」

 

 2人は連れだって小型ヘリ『ZATドラゴン』に乗りこむと、巨大な戦艦の方へと去っていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次回の大怪獣バトルレジェンドは

 

「ねぇ、翔……この村、歓迎してくれてる感じだけど……何かおかしくない?」

 

「……ああ、おかしいな。

 絵美、気を付けろ」

 

「お兄ちゃんたち、早くこの村から逃げて!」

 

「ふふふっ……まさか僕と同じだったなんてね」

 

「まさか!? お前も怪獣使いか!!?」

 

「さぁ、レイオニクスバトルを始めよう!

 僕は勝って宇宙を統べる王になるんだ!!」

 

 

次回、大怪獣バトルレジェンド第7話『湖に潜む』

 

 

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第6話怪獣紹介

 

 

守護神『ガメラ』

出典:ガメラシリーズ

 

解説:甲羅を背負った、巨大なカメのような怪獣。

   カメと同じように手足や尻尾を甲羅に収納することが可能で、そこからロケット噴射によって空中を飛行することができる。

   口からのプラズマ火球が主な武器。また、他にも多彩な技を持つ。

 

   ゴジラと並ぶ、日本最大の怪獣の1体にして怪獣使い『草薙栄一』のエース怪獣。

   熱をエネルギーに変え、絶え間なく成長・進化を繰り返す生命の極致の一つ。

地球の守護神とも言われ、その環境を害する者に対して攻撃し、地球を守っているのだとか。

   とくに子供を守ることにかけては心を砕いているようで、『ガメラは子供の味方』というイメージは強い。

   

   またガメラはゴジラのように相手怪獣を圧倒することは少なく、戦いの中で多く傷ついた。その後に勝利を掴むところから、ガメラの戦いにはテクニカルな部分も多い。

   本話においてもゴジラのバーンスパイラル熱線を腕で受け、バニシングフィストとして叩き返すという荒業をやってみせた。

   

   ゴジラが圧倒的なパワーファイターなら、ガメラはテクニックで相手を翻弄するという怪獣である。

 

 

 

守護聖獣『モスラ』

出典:モスラ他

 

解説:巨大な蛾のような怪獣。

   極彩色の羽を使った突風、様々な効果を持つ燐粉攻撃、そして頭の触角からのプリズム光線を武器にする。

   軽快に空を舞い相手怪獣を圧倒する、まさしく『蝶のように舞い蜂のように刺す』という戦い方を得意とする。

   この姿は成体のもので、幼体の姿もあるらしい……。

 

   東宝三大怪獣に数えられる怪獣の1体にして、怪獣使い『手塚雅』の使役する怪獣の1体。エース怪獣ではない。

   ガメラと同じように地球の守護神とも言われ、地球を守っている。そのため人類に対しては非常に友好的。

   その人気から単体映画も何本も作られ、強化形態が多いのも特徴。

 

   『ゴジラキラー』の異名を持つほどにゴジラとの対戦成績が凄い。

   ゴジラにまともに勝った怪獣はモスラ程度しか思いつかないほどである。

 

 

 




そんなわけでカメと蛾を使うライバルサイドの登場。
そしてこの世界の根幹に関わりそうな話題が出てきました。

次回は再び怪獣使い戦の予定。
次回もよろしくお願いします。


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第7話 湖に潜む(前編)

お久しぶりです。
今回は少し、怪奇色の強めの内容に挑戦したら……何か凄い量になったので前後編に分けることにしました。

今回はその前編になります。


 水は様々な生命にとって、無くてはならないものだ。人であれ獣であれ、そして怪獣でさえそれは変わらない。この湖には様々な怪獣がやってきては、その水を飲んでいく。

 頭頂部に1本角、2本の牙を持ち、翼のような腕をもつこの怪獣……有翼怪獣『チャンドラー』もこの湖へと水を飲みにやってきていた。

 その巨大な顔を突っ込み、がぶがぶと水分を補給していくチャンドラー。

 だがそのとき、チャンドラーはその異変に気付いた。先程まで晴れていたはずだというのに、いつのまにか周囲には濃い霧が立ち込め辺りが見えないような状態だ。

 

 

キシュゥゥゥゥ……

 

 

 低く唸りながら、チャンドラーは辺りを警戒する。その時、何かがチャンドラーの背中にぶつかった。そして、鋭い爪のようなものをチャンドラーに突き立てる。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!

 

 

 慌てて身体をやたらに振るうとその背中についた『何か』はたまらず飛び出し、霧の中へと消えていく。

 その先を警戒するチャンドラーだが、その時再び背後からの衝撃が走った。

 今度は翼のようになったその両腕に『何か』……随分小ぶりな怪獣が、それも左右に2匹がへばり付き、同じように鋭い何かを突き立てている。

 同時にチャンドラーの正面から電撃がほとばしり、チャンドラーの皮膚を焼いた。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!

 

 

 たまらず先ほどと同じように振り払い、再びその2匹の小ぶりな怪獣は霧の中に消えた。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!

 

 

 腕を出血させ、怒りの声を上げたチャンドラーはその翼のような腕をやたらに動かしだす。

 チャンドラーは陸に適応し翼が退化したことで飛行こそできない陸上怪獣だが、その翼を激しくはばたかせることで実に風速60メートルを超える猛烈な突風を巻き起こすことができるのだ。

 チャンドラーはその突風で霧を吹き飛ばし、先程の忌々しい小型怪獣と電撃を放った主をいぶり出そうと言うのである。

 だが、ここでチャンドラーは異変に気付く。

 猛烈な突風だというのに、霧が晴れないのだ。まるで『後から後から湧き出るかのように』、霧は依然として色濃くその視界を奪っている。

 そんなチャンドラーに三度、死角から小さな怪獣の影が襲い掛かった。しかもその数は1匹や2匹ではない。それが一斉に襲い掛かったのだ。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!!?

 

 

 やたら暴れまわるチャンドラーによって、その小さな怪獣も叩き落とされ、潰される個体も出てくる。だが、それでも減らないほどに数が多すぎた。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!!?

 

 

 チャンドラーの怒りの咆哮が痛みの嘆きに変わり、そして断末魔の悲鳴へと変化していく。

 残ったものは視界のすべてを埋める白い霧と、何かを吸い込むような不気味な音だけだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「まるで前が見えないわ」

 

「ホントに酷い霧だな……」

 

 ハンヴィーを走らせながら愚痴る絵美に、翔が同意する。

 ライトをつけても10メートル先すらまともに見えない。それほどに凄い霧だ。

 

「頼むから気をつけてくれよ」

 

「分かってる……ってぇ!?」

 

 

 キキィィィィ!!

 

 

 その瞬間、先が崖になっていることに気付いた絵美が急ブレーキをかけた。

 

「痛っ!? あぶねぇなぁ……」

 

「ご、ごめん」

 

 したたかに打った身体を擦りながらの翔の抗議に、絵美は素直に謝る。

 

「しっかし……この霧でのこれ以上の移動は危険だな」

 

「確かに霧が晴れるまでどこかでジッとしていた方がよさそうよ」

 

「でも車内で待つってのもな……」

 

 どうしたものかと翔が呟いたその時だ。

 

「ん?」

 

「どうしたの、翔?」

 

「あれ、見てみろよ」

 

 そう言って翔の指さす方向には、霧の中にボウッとぼんやり浮かび上がるようにして集落が見えた。

 

「村、か?」

 

「そうみたいね。

 あそこでしばらく霧が晴れるのを待つってのはどう?」

 

「それで行くか……。

 あそこまで行けるか?」

 

「気をつけてゆっくり行くわよ。

 村を目の前に崖から落ちて死にました、じゃ幾らなんでも格好悪すぎだしね」

 

「まったくだ」

 

 軽口を叩きながらも、絵美は慎重にゆっくりと濃い霧の中、その村へと向かっていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ようこそおいで下さいました、旅の方。

 ワシらはあなた方を歓迎いたします」

 

「あ、ああ……」

 

 差し出された手に、戸惑い気味に握手を返す翔。隣では絵美も困惑気味だ。

 こんな荒廃した時代、町や村といったコミュニティは基本的に閉鎖性が強い。よそ者への警戒心は強く、あまり歓迎されないものだ。

 それでも貴重な物資を売り歩くような行商人ならともかく、翔たちなど根なし草の流れのトレイダーである。トレイダーには性格にも問題あるものは多く、客観的に見ても胡散臭さ満点だ。どう考えても歓迎されることはない。

 翔も絵美もそれを理解していたのでいきなり車両で村に乗り入れるようなことなどせず、近くの森にハンヴィーを隠して出来る限り軽装で、警戒心を抱かれないように配慮して村に入った。

 しかし、そんな2人が村に入るとすぐに村長を名乗る者がやって来て2人を歓迎する、ぜひ自分の家に泊っていってほしいと言いだしてきたのである。

 身構えていただけに、調子が狂うというものだ。

 

「歓迎してくれるのはいいんだけど……」

 

「何だか調子が狂うな」

 

 村長に村を案内すると言われ、そのあとに着いていきながら小声で絵美と翔は言い合う。

 

「歓迎されるのは予想外ですかな?」

 

「えっ……ええ、まぁ……どうもすみません」

 

 2人の声が聞こえていたらしい。かなり失礼な話をしていた自覚があっただけにさすがに翔も恐縮するが、村長は特に気にした様子もなく朗らかに返す。

 

「いえいえ、こんな世の中ですからな。 警戒は分からなくもありませんよ。

 しかし、ここでは違います。

 時に、あなた方の警戒されるようなことは、何が原因で起こると思いますかの?」

 

「? 不勉強なもので、特に思いつきませんが……」

 

「世の中の悲劇のほとんどは、『余裕のなさ』が原因なのです。

 明日を生きる糧がない、だから奪う……そういった感じで物理的に、精神的に余裕がないからこそ悲劇は生まれるのです。

 しかし、その『余裕』さえあればその限りではありませんよ。

 あれをご覧ください」

 

 そして村長が指差したもの、それは山の斜面に建設された、何かの施設の入り口だ。

 

「これは?」

 

「これは……食糧プラントの入り口なのですよ」

 

「「なっ!?」」

 

 その言葉に、翔と絵美は揃って驚きの声を上げる。

 怪獣出現と同時に、人類は各地に地下都市の建設を始めたが、それと並行して不足するだろう食糧問題の解決を目的とした食糧プラントの建設を行っていた。人工的に管理された環境と肥料によって、効率的かつ大量の食糧をつくるための施設である。

 しかし、そんな食糧プラントも多くが怪獣に破壊されたりなどの理由で今も稼働しているものは少ない。その数少ない稼働しているプラントも基本的に地下都市のもので、それでもその生産量だけでは足りず、危険を承知で地上で農作業を行う者だっている。

 それがこんな小さな村に存在しているというのは驚きである。

 

「この食糧プラントはごく小規模のものですが、この村を支える程度なら十分です」

 

「よく生きてますね、このプラント」

 

 絵美は感心したように言う。

 こういった食糧プラント、稼働しているものが少ない理由は怪獣に破壊されたからというだけではない。食糧プラントは人工的に環境を整えるため、施設を稼働するのにかなりの電力を必要するのだ。

 そのため、施設そのものではなく発電所を破壊されたことで電力を確保できず、稼働できない状態になって放棄された食糧プラントは多いのである。翔も絵美も、トレイダーとしてならそんなプラントには何度か入っているのでよく知っていた。

 そんな絵美の言葉に、村長は頷く。

 

「この食糧プラントは小規模のものですからね、家畜の排泄物を利用したメタンガス発電、または生産された穀物からのバイオ燃料による発電でも動きます。

 それに……実はこの一帯に電力を供給していた無人発電所はまだ生きているのですよ。

 おかげで食糧の心配はなく、身体的にも精神的にもワシらは『余裕』を持てるというわけですよ」

 

「なるほど……」

 

 話を聞きながら、絵美は頷く。

 確かに誰からも奪うことなく生きていけるのなら、人は優しくなれるというのは分からなくもない。

 事実、翔と絵美もつい最近、絵美が体調を崩したときに助けを求めた農場主の家族には本当によくしてもらった。いくらこんな荒れ果てた世界でも、人の親切心というものを否定することはできない。

 しかし……翔はトレイダーとしての危機察知の嗅覚で、この村全体から違和感を感じている。どうしても、この村が自分たちに親切心から友好的なのだとは思えないのだ。

 そして、その違和感の理由の一つに、翔はすでに気が付いていた。

 

「……」

 

 翔は幾分か鋭い、冷めたような視線で絵美と話す村長を眺める。

 そして、そんな翔と絵美を遠くから、小さな瞳が見つめていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「美味しかったね、翔」

 

「ああ……」

 

 結局、村長の家に泊まることになった2人。村長宅は長くこの村の地主であったのか、かなり広めの屋敷だった。

 宿代がわりにトレイダーの仕事で手に入れた物品を渡し、出されたこの村でとれたものでの料理は美味かった。

 それに舌鼓を打ち、翔たちは外の話をするといった感じで食事は無事終了、翔と絵美は宛がわれた村長宅の2階の部屋へと引き上げている。

 ベッドにグデンと大の字になって寝転がり、その感触を堪能する絵美。

 だが、しばらくして絵美はムクリと身体を起こした。

 

「もういいのか?」

 

「うん、柔らかいベッドも今、久々に堪能したわ。

 もう十分」

 

「そうか。 それじゃ……」

 

「そろそろ……」

 

「「ズラかろうか」」

 

 翔と絵美は顔を合わせ、異口同音に言った。2人は今までの観察で、この村がおかしいことに気付いていたのだ。

 

「……私を見る視線。

 あんな気持ち悪い視線を全員揃ってやってて、疑われないとでも思ってんのかしら?」

 

 絵美は纏わりつくような不愉快な視線を思い出し、顔をしかめる。

 トレイダーという荒事の世界でしたたかに生き抜く絵美は、そういった視線にはある意味慣れっこであり、村長以下村人からの視線で異常を感じ取っていた。

 

「おまけにこの村……俺たちくらいの歳の若い女が全然いないぞ。

 この村の規模でそれはおかしい」

 

 翔は村を観察し、どこにも妙齢の女性がいないことで異常を感じ取った。いる女は年寄りや子供ばかり……これは村の規模を考えればおかしすぎる。

 

「……やっぱ村ぐるみでの人身売買かしら?」

 

 絵美はため息交じりに呟いた。

 そうでなければ村中の若い女だけがいないことの説明が付かない、と絵美は言うのだが、翔はそこに首を捻った。

 

「それにしちゃ『理由』がないがな。

 人を売る理由の多くは『口減らし』が目的だよ。単純に食糧がないからその食い扶持を減らして物を手に入れるために人を売るんだ。

 でも、この村は稼働する食糧プラントのおかげで食糧の心配はない、ときた。

 これじゃ『口減らし』は必要ないだろうし、女を村ぐるみで売る理由がわからん」

 

「……そもそもそれなんだけど、稼働する食糧プラントを持ってる村なんて普通もっと知られていてもいいと思うんだけど、聞いたことないわ。

 盗賊対策で秘密にするっていうなら分かるけど……」

 

「俺たちに教えてくれる必要がまったくないからな」

 

 この村への疑問は尽きないが、この村が『真っ黒』なのは疑いようもないだろう。だとすれば長居は無用、今までは村長などの監視の目があったため行動に移せなかったが、今なら動くことも出来る。

 2人は持ち前のフットワークで手早く荷物をまとめると、この村を出ようと決意した。

 その時。

 

 

ゴトッ

 

 

 何かを動かす音が、ベッドの下あたりからした。

 

「翔……」

 

「ああ……」

 

 2人は警戒しながら、そこを覗き込む。

 すると、そこの床板の一部がずれて穴が開いていた。そしてそこからこちらを見つめる、少年と目が合う。

 

「君は……?」

 

 翔の質問には答えず、少年は泣きそうな瞳で言う。

 

「お兄ちゃんたち、早くこの村から逃げて!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 夜半も過ぎた頃……村長宅を松明を持った男たちが取り囲んだ。

 

「連中は?」

 

「二階の部屋だ」

 

「逃げたりはしてないだろうな?」

 

「二階への道は階段だけ、誰も通っておりゃせんよ。

 窓の方もずっと監視してたんだろう」

 

 その村長の言葉に、村人は頷く。

 そして村の若者たちは荒々しく階段を上るとドアを開け放った。

 しかし……。

 

「居ないぞ!? もぬけの殻だ!!」

 

「な、なんだと!?」

 

 2人がいないことに、にわかに騒がしくなる。

 

「くそっ!

 やっぱり最初から捕まえればよかったんだよ!」

 

「抵抗される危険もあるんだ。

 信用させて、油断させてから捕まえると決めたじゃないか!!」

 

 喧々諤々、騒ぎ出す村人たちに村長の一喝がとぶ。

 

「そんなことを言ってる場合か!

 探せ、草の根分けても探し出して捕まえろ!

 『神への贄』を絶対逃がすな!!」

 

 怒号が村中へと響く。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 森の中を、翔と絵美は少年……淳という村長の孫の先導で歩いていた。淳が村長宅にあった隠し通路を使って翔と絵美を誰にも気づかれず脱出させ、村人の目がつかない場所から2人を脱出させるために森を歩いている。

 

「『神への贄』……ねぇ」

 

 歩きながら、翔は聞かされた話を思い出し、ポツリと呟く。

 淳のつたない話を繋げ、どうにかこの村の状況は掴めた。

 この村の食糧プラント、これはずっと前から全力運転ができていたわけではないらしい。それはやはり電力の問題だった。

 食糧プラントに電力を供給する無人発電所、ここは怪獣によって破壊されてはいなかったが、電気を常食する怪獣が根城にしておりその電力が食糧プラントに廻ってこなかったのである。

 そのため、村では家畜の排泄物を利用したメタンガス発電、または生産された穀物からのバイオ燃料による発電で食糧プラントを稼働させていたが、それでは電力が足りずに食糧プラントの稼働率は低い状態、少ない食糧のなか苦しい生活をしていたようだ。

 そんな中、1人の若い男がやって来て『無人発電所の怪獣を何とかしてやる』といいだしたのである。

 最初、村人は男をただの詐欺師の類だと相手にしていなかった。そのため、軽い気持ちで『できたら何でも報酬を出す』と約束したのだが……。

 

「その男……怪獣をなんとかしたのね?」

 

「うん」

 

 絵美の言葉に、淳はコクンと頷く。

 どういう手段を使ったのか……その男の言葉通り、いつの間にか無人発電所を根城にしていた怪獣はいなくなり、電力が復旧したことで食糧プラントは全力運転が可能になって村は食糧危機から救われ、男は『神』のように感謝されることになった。

 だが、それも男が報酬を要求するまでだ。

 男が要求したもの……それは『若い女』であった。

 

「ずいぶん俗っぽくて好き者の神さまだな、おい」

 

「薄っぺらいんでしょ、『かみ』だけに」

 

「うまいな、それ」

 

 翔と絵美は冗談の掛け合いで笑い飛ばすが、とうの村人たちはたまったものではない。最初は村を救った英雄であったので自発的に手を上げる女もたくさんいたが……これが不思議なことに誰一人帰ってこない。それでも定期的に男は女を要求してくる。

 そんな状況ではさすがに村人も黙っていられない。

 

「父ちゃん……前の村長が村の若い人を何人も連れて討伐に行ったんだけど……」

 

「誰一人帰ってこなかった、と……」

 

「うん……」

 

 それだけではなく、その報復からか再び発電所からの電力の供給がストップした。

 この状況に村を捨てて出ていこうとした者もいたが……何故か全員、霧で迷い他の村や町に行けず、村に戻ってきてしまうのだ。

 村から逃げることができず、さらに食糧を握られ、遂に今の村長……淳の祖父と村人たちは『神』への服従を決めたのである。

 以来、村人たちは定期的に村の若い女やたまに迷い込んでくる旅人を『生贄』として『神』に捧げているというわけだ。

 

「そして栄えある次の生贄は絵美、ってことか」

 

「冗談でもよしてよ」

 

 翔の言葉に、うんざりしたように絵美は言う。そんな絵美にもっともだと肩をすくめ、翔は思ったことを口にした。

 

「この村の事情は分かったよ。

 でも、それなら何で君は俺たちを逃がそうとしてくれるんだ?

 そっちだって村の一員、せっかくの生贄に逃げられちゃ困るだろ?」

 

「……あんなやつに好き勝手にされるの、もういやなんだ」

 

 翔の言葉に、淳は吐き捨てるように呟いた。

 

「僕には姉ちゃんがいたんだ。

 でもその姉ちゃんも……この間生贄に……」

 

「「……」」

 

「みんなは必要な犠牲だっていうけど……絶対違う!

 村にはすごい力を持ってるあいつを本当に『神様』だっていう人もいるけど、僕は絶対認めない。

 あんなの神様じゃない。

 神様が……神様が父ちゃんや姉ちゃんを奪っていくわけがない。

 だから……あいつへの生贄なんて、1人でも少なくしてやるんだ」

 

 その目にその幼さとは不釣り合いの黒い炎が宿っていることに気付き、絵美はゾクリと身を震わせる。

 

「……なるほど。

 つまり、俺らは君の神様への個人的な嫌がらせで助けてもらったってわけか」

 

 一方の翔は、淳の様子からあるものを思い出す。

 

(この子……昔の俺みたいだ)

 

 歳の割に賢い淳は、『神』を名乗る男が自分ではどうしようもない相手だと知っている。復讐したいのに復讐するだけの力がない……それを理解しているから、せめてもの復讐としてこんな嫌がらせじみたことをしているのである。その姿はどこか父を失ったばかりの頃の自分を見ているようだと翔は思う。

 

「……まぁ、事情はどうあれ、逃がしてもらえるのに文句はないよ。

 でも……」

 

 3人は森を抜ける。そこには……。

 

「何で……何で湖に!?

 逆の方にきたはずなのに!?」

 

「本当に逃げれるかは、別の話だな」

 

 驚愕している淳の様子に、翔と絵美は冷静だ。というのも、淳の話には『霧のせいで村から出られない』というものがあった。それが事実なら、少し走ったくらいで安全なところには出られないだろうとは思っていたのだ。

 しかも……。

 

「よりによってあいつのいる湖に!?」

 

 淳のうろたえ様から、どうやら噂の『神』の住処らしい。翔と絵美はソッ、とポケットの中に手を伸ばした。

 その時だ。

 

「クククッ……その子が新しい『生贄』かな?」

 

 声にバッと顔を向けると、一段高い崖のようなところの上に1人の若い男が立っていた。かけたメガネが神経質そうな印象を受ける細身の男だ。だが、そのメガネでは隠しきれないような狂気がその目には見え隠れする。

『狡猾な虫』……それが翔の第一印象だった。

 

「なかなか好みの子だよ」

 

 好色そうな舐めるような視線に晒され、絵美は思わずブルリと身を震わせる。そんな絵美を守るように、翔は一歩前に出た。

 

「今回は男もいるんだね。 気が利くなぁ」

 

「おいおい、噂の神サマとやらは両刀使いかい?

 あいにく俺はそういう趣味はないぜ」

 

 おどけたように翔が言うと、男は不機嫌そうに返す。

 

「何を言ってるんだい?

 男は……ただのエサに決まってるじゃないか」

 

 

 ザバッ!!

 

 

 すると水しぶきを上げながら、湖から飛び出してくる影が。

 それは巨大なトンボのような生き物だ。体長はゆうに2メートル、羽を含めた全長は5メートル近い。

 それは明らかに普通の生物ではなく、怪獣の類だ。そのトンボ怪獣は羽音を響かせ、男の背後を滞空し続ける。

 

「ひっ!?」

 

 怪獣の姿に、淳が怯えた悲鳴を上げる。

 

「怪獣を操ってるのか……」

 

「そうさ。 僕は怪獣を操る力を持つ者。

 すなわち……『神』だ!」

 

 バッ、と大仰に手を広げ、何の憂いもなく『神』を自称する男……その力に酔った様子に、翔も絵美も嫌悪感を露わにする。

 

「『神』を自称するのは勝手だが……神さまだったら、もう少し村人たちに優しくしてもいいんじゃないか?」

 

「そうよ。 

 『女』を要求するとか、神さま気取ってるくせに俗っぽすぎ。

 しかもとっかえひっかえ要求とか普通じゃないわ。

 第一……今まで要求してきた女の子たちは一体どうしたのよ?

 1人も帰ってこないとかおかしいでしょ」

 

「そうだ! 姉ちゃんはどうしたんだよ!!」

 

 翔は呆れ、絵美は女として嫌悪感を露わにし、淳は姉の安否を問う。

 そんな3人に男はさも当然と言い放った。

 

「『女』は十分楽しませてもらった後に、僕の力の一部になってもらったよ」

 

 そう言って背後のトンボ怪獣を指す。

 それの意味することは……。

 

「怪獣に……喰わせたのか?」

 

「彼女たちは僕の『神』の力の一部になったんだ。 きっと本望さ」

 

「姉ちゃん……姉ちゃん!!」

 

 その言葉に、淳は姉の末路を知って泣き崩れる。

 

「なに、泣くことはないよ。

 すぐにお姉さんとは再会できる。

 僕は『神』だから慈悲深いんだ」

 

 するとトンボ怪獣はゆっくりと男の前に出てきた。明らかに攻撃態勢だ。

 

「おい、待てよ。 この子は村の子だろ?

 『生贄』ってことになってる俺たちならまだしも、この子まで怪獣のエサにしようってのか?」

 

「その『生贄』を逃がそうとする悪い子には、『神』の裁きが必要だよ」

 

「……どうやってか、こっちの会話は筒抜けかよ。

 ストーカー神とでも名乗りやがれ、クソ野郎」

 

 翔の言葉を無視して、男は怪獣へと指示を出す。

 

「いけ、メガニューラ!

 女は生け捕り、男と子供は……喰え!」

 

 その指示に、待っていたとばかりに古代昆虫『メガニューラ』が飛びかかってくる。

 迫り来る怪獣に叫びすら上げられず、淳は茫然とメガニューラを見つめていた。

 しかし、その凶悪な顎が喰らい付くことはなかった。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「えっ?」

 

 機械音声とともに、何かが迫り来るメガニューラを殴り飛ばした。それは10メートルほどの巨大な人型だ。その一撃を横合いから受け、メガニューラは大地に転がる。

 そこに、間髪いれずに絵美の鋭い声が響いた。

 

「ジェットジャガー、そのまま踏み潰しなさい!!」

 

 その言葉に従って巨人……ジェットジャガーは倒れたメガニューラを踏み潰す。グチャリと嫌な音を響かせ、毒々しい色の体液を吐きながらメガニューラは絶命した。

 

「おねえちゃん……?」

 

 淳の前にはバトルナイザーを構える絵美の姿がある。

 

「バトルナイザー!? お前も怪獣使いなのか!?」

 

 その姿に男は驚きの声を上げるがそれも一瞬のこと、すぐに調子を取り戻す。

 

「丁度いい、それなら『レイオニクスバトル』を始めよう。

 僕は勝って、宇宙の支配者になるんだ!」

 

「絵美……その子と護衛を頼む」

 

 明らかに危険な様子の男に、翔は絵美を手で制すと一歩前に出てバトルナイザーを取り出した。

 

「お前も怪獣使いなのか!?

 まぁいい、やることは同じ、『レイオニクスバトル』だ。

 どんな相手だろうと、『宇宙の支配者』になる僕が負けるはずがない」

 

 そして男は、尊大な態度で言い放つ。

 

「『早坂(はやさか) (まさる)』……君を『レイオニクスバトル』で倒し、宇宙の支配者になる男の名さ」

 

「……ご丁寧にどうも。 俺は芹澤翔、あっちは三枝絵美だ。

 ……俺たちは自分たち以外の怪獣使いにまともに会うのは初めてでな、お前の言ってることはまったくわかんねぇ。

 『レイオニクスバトル』やら『宇宙の支配者』やら……お前の妄言なのか何なのか知らないが、怪獣使いについて知ってることを教えてもらおうか」

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 咆哮とともに、召喚されたゴジラが降り立つ。そんなゴジラを見て男……早坂勝は鼻で笑う。

 

「そんな怪獣ごときで、僕の怪獣に敵うものか。

 いけ、メガニューラ!!」

 

 その言葉とともに、再び先ほどと同じメガニューラが湖から飛び出す。その数は3匹。

 1匹がゴジラの顔面を、ほかの2匹はそれぞれ背後から後頭部と背中を狙って飛んでくる。集団である強みを生かした見事な連携だと言えるだろう。

 だが、それはあくまで『普通の範疇』ならの話である。普通でないゴジラには……。

 

「ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉に答えるようにゴジラが咆哮すると、ゴジラはその体格からは考えられないほどの機敏な動きで、まず左手で顔面に迫った1匹を掴む。そして尻尾を振り背中に迫っていた1匹を叩き潰すと、そのままクルリと振り返り後頭部に迫った1匹を噛み潰した。

 

「これで終わりか?」

 

 グチャリとゴジラの左手で、メガニューラが握り潰される。

 一瞬にして3匹がゴジラによって潰されてしまったが、勝は余裕を崩さない。

 

「思ったよりも素早いみたいだけど……これならどうかな!」

 

 

 ザバッッッ!!!

 

 

 その言葉とともに現れたのは、視界を覆い尽くさんばかりのメガニューラの群れだ。その数は少なく見積もっても100や200は下るまい。

 

「どんなに素早く動けても、これだけの数には敵わないだろう!

 さぁ、行け!!」

 

 勝の号令の元、メガニューラの群れが一斉にゴジラに襲い掛かる。瞬く間に纏わりついたメガニューラによって、ゴジラの姿が見えなくなった。

 

「翔!?」

 

「あはは、無駄さ無駄!

 そのままエネルギーと体液をすべて吸い取ってしまえ!」

 

 絵美の切羽詰まった声と、勝の勝ち誇った声。そんな中、翔は不敵に笑った。

 

「ゴジラ!!」

 

 翔の声とともに、メガニューラに覆われたゴジラから光が漏れだす。

 その光は次第に強くなり、やがてその光によってゴジラに纏わりついていたメガニューラがすべて焼けながら吹き飛ぶ。

 ゴジラの至近距離での切り札『体内放射』である。その熱量と衝撃によってメガニューラの群れは一匹残らず吹き飛ばされていた。

 

「そんな虫の群れで、このゴジラがやられるかよ。

 それで、俺の勝ちか?

 勝ちならそれで、色々知ってることを吐いてもらうぞ」

 

 しかし、メガニューラの群れを焼き尽くされたというのに勝の強気な態度は崩れなかった。

 

「なるほど、なかなか強い怪獣じゃないか。

 でもね……そういうタイプの怪獣が今までいなかったとでも思ってるのかい?

 見せてあげよう、僕のエースを!!」

 

 

 ゴゴゴゴゴ……!

 

 

 勝の言葉に、再び湖面が揺れた。しかしその揺れは、先程のメガニューラの群れの比ではない。そして……それは現れた。

 

 

 キシュァァァァァァァ!!

 

 

 それは巨大なトンボ型の怪獣だった。その羽根をはばたかせ、湖上にその巨体が滞空する。その姿は先程のメガニューラと似通っており、その関係性を臭わせる。それもそのはず、これはメガニューラの最終進化系とも言える個体なのだ。

 その名も……。

 

「『超翔竜メガギラス』、これが僕の切り札だ!!」

 

 

 キシュァァァァァァァ!!

 

 

 勝の声に、メガギラスが答えるように嘶く。

 

「またデカイ虫かよ。 やれ、ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 咆哮一発、ゴジラが必殺の放射熱線を放つ。青白い閃光が、メガギラスを焼き尽くそうと迫るが……。

 

「メガギラス!!」

 

 

 キシュァァァァァァァ!!

 

 

 メガギラスは瞬間的な高速飛行で、ゴジラの熱線を避ける。その姿はまさにトンボのそれだ。そのままメガギラスは、濃い霧の中へと消えていく。

 

「くっ……どこだ!?」

 

 濃い霧の中をゴジラはメガギラスの姿を探るが、そのとき背後からの衝撃にゴジラは前のめりに倒れ込んだ。霧の中を背後から接近したメガギラスの強烈な体当たりを受けたのだ。すぐさま立ち上がったゴジラは熱線を放つが、その時にはメガギラスは霧の中へと消えていくところだ。ゴジラの熱線が何もない場所を通り過ぎる。

 そして、今度は横合いから飛び出したメガギラスは、そのハサミ状の前足でゴジラを切りつける。強烈な斬撃にゴジラの強靭な皮膚が火花を散らし再びゴジラが倒れる中、メガギラスはまた霧の中に消えた。

 

「くそっ!?」

 

「はははっ!

 そんなことでメガギラスが捉えられるものか!!」

 

 翻弄される翔とゴジラ、そんな中を勝の勝ち誇った笑いが響く……。

 

 

 




戦いは後編に続きます。
後編は3月28日には投稿する予定。

次回もよろしくお願いします。


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第8話 湖に潜む(後編)

レイオニクスバトルの続きです。
原作であまり活躍できない、あの2体が頑張ってます。
怪獣の力は使い様です。


 

「しょ、翔!?」

 

 絵美の目の前で、メガギラスのスピードに翻弄される翔のゴジラ。

 

「この霧さえなければ……」

 

 この濃い霧のヴェールに隠れ、メガギラスがスピードを生かした奇襲攻撃を続けている。霧が無く、どこから来るのか見えていればいくら速くても対処のしようはあるというのに……。

 

「えっ? 霧?」

 

 そういえば……と、絵美は気付いた。

 よく考えれば、この霧は明らかにおかしい。

 『霧で覆われて村から出られない』や『霧の中で向かっていた方向とは別の場所に来てしまう』など十分すぎるほどにおかしいが、もっと根本的な部分で霧としておかしな部分がある。

 

「あれだけの速度で飛び回って、なんで霧が薄くならないの?」

 

 メガギラスほどの巨大な怪獣が羽をはためかせ、あれだけ高機動で飛び回っているにもかかわらず、霧は晴れるどころか薄くすらならないのだ。

 これはすなわち。

 

「この霧……怪獣の仕業!?」

 

 怪獣使いである絵美には分かる怪獣使いのルール、『怪獣使いの使役する怪獣は最大で3体』なのだ。ならば、この霧を作り出している怪獣が、どこかに居る。

 それに気付いた絵美の行動は早かった。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来なさい、MOGERA!!」

 

 

キュィィィィィン!!

 

 

 絵美の声に答えて召喚されたMOGERAが、咆哮がわりにドリルを高速回転させた。

 

「MOGERA、この霧を調べるのよ!

 セパレーションモード、スタンバイ!!」

 

 

キュィィィィィン!!

 

 

 絵美の声に答えてMOGERAは空中へ飛び上がると、MOGERAに動きがあった。

 MOGERAが腰のあたりで上下に分離すると、上半身はドリル戦車に、下半身は大型航空機に変形したのだ。

 MOGERAは合体・分離機能を持っており上半身がドリル戦車『ランドモゲラー』に、下半身が高速爆撃機『スターファルコン』へと変形するのである。

 スターファルコンはそのまま上昇、霧を突き抜けて上空へと達する。そして、スターファルコンのセンサーは、この霧の異常を捉えていた。

 

「この霧……やっぱりただの霧じゃない。

 センサー類が阻害されてる!?」

 

 この霧は強力なジャミング効果を持つものでセンサー類の阻害効果を持っている。それだけではなく、この霧は人間を始めとする生物の感覚すら狂わせる効果があるようだ。これでは完全に方向感覚が狂い、『村から出られない』という現象も頷ける。だが、種の分かった手品ほど容易いものはない。

 

「中にいたらセンサーが働かないけど……外からなら!!」

 

 スターファルコンは上空から、霧の『ジャミングの一番強い場所』を割り出した。

 

「そこね!!」

 

 スターファルコンは急降下で霧に突入、その場所にメーサーバルカンを撃ち込む。それを追うようにランドモゲラーもその場に急行し自動追尾式レーザー砲を撃ち込む。

 

 

 キュァァァァ!?

 

 

 爆発の閃光と共に、霧の中を怪獣の悲鳴が響く。その痛みに悶えているのは、『岩石怪獣サドラ』であった。

 サドラは自身の体表から揮発性の分泌液を出して強力なジャミング効果のある霧『電磁セクリションフォッグ』を発生させ、相手を撹乱することができる。村を覆い村人たちを閉じ込めた霧の正体こそ、この『電磁セクリションフォッグ』だったのだ。

 サドラは霧の中を逃げだそうと身を翻す。

 

「逃がすもんですか!!」

 

 絵美はスターファルコンとランドモゲラーに追撃を命じるが、その瞬間横合いから電撃が飛来してスターファルコンとランドモゲラーに突き刺さり、火花が散る。

 

「今のは!?」

 

 今のはサドラからの攻撃ではない。メガギラスの攻撃でもない。

 それの意味するところは……。

 

「霧の中に、もう1体いる!?」

 

 そう、『怪獣使いの使役する怪獣は最大で3体』なのだ。あのメガギラスはメガニューラの進化系であり、あの群れもひっくるめて1つの怪獣なのだろう。そうなれば勝の使役する怪獣は『メガギラス』と『サドラ』、そしてもう1体がいてもおかしくはない。

 電撃を受けたスターファルコンとランドモゲラーはすぐに旋回して機首をそちらに向ける。しかしそこには何もいない、濃い霧があるだけだ。

 

「一体どこに……?」

 

 今の電撃はかなりの近距離からの攻撃だった。それなのに霧が濃いとはいえ、巨大な怪獣の影すら見当たらないというのはいくらなんでもおかしな話だ。

 そして再びの電撃がスターファルコンとランドモゲラーに襲い掛かる。

 だが、普通の怪獣と違いロボット怪獣であるため痛覚などのないスターファルコンとランドモゲラーは攻撃を受けながらも、素早く旋回してその方向へと向く。

 すると……。

 

「景色が、揺らいでる!?」

 

 電光を纏ったようにスパークしながら、景色が揺らいだ。

 すぐに揺らいだ景色は元に戻っていくが、小山のように巨大な『何か』がそこにいたことは間違いない。

 それは……。

 

「怪獣!? 透明怪獣!?」

 

 もう1体の怪獣は、不可視の透明怪獣だと絵美はあたりをつけた。

 どうやらこの透明怪獣、攻撃の瞬間だけ景色の揺らぎのように姿を現すらしい。ただでさえサドラの霧で視界が劣悪な状況では、この上ない脅威だ。

 

「おそらくサドラの霧を絶やさないように、サドラを守るのが役目なのね」

 

 怪獣使いという頭脳の指示のもと動いているだけあって、非常に厄介な戦術を駆使してくる。この『電磁セクリションフォッグ』のせいでMOGERAやメカゴジラの優秀なセンサー類でも透明怪獣の補足は不可能だ。

 しかし……。

 

「手はあるわ!

 ランドモゲラー、地中潜航モード!

 スターファルコンは霧から出て、もう一度サドラを補足するのよ!!」

 

 ランドモゲラーがドリルを高速回転させて、地面を掘りながら地中へと消えた。スターファルコンは再び霧から飛び出すと、ジャミングの一番強い場所を割り出す。

 

「来なさい、メカゴジラ!!」

 

 

 キシャァァァァン!

 

 

 続けて、金切り声のような咆哮とともにメカゴジラが召喚された。

 

「メカゴジラ、サドラを追いなさい!!」

 

 

 キシャァァァァン!

 

 

 絵美の指示通り、上空からのスターファルコンの攻撃によって見える着弾の爆発を目標に、メカゴジラはホバー移動で進み始める。

 そうはさせじと、メカゴジラに霧の中から電撃が放たれた。

 背中から電撃が直撃したメカゴジラは火花と内部機構がスパークした小爆発を起こすが、それでも意に介さずメカゴジラはサドラを追う。

 その時だ。

 

 

 ズンッ!

 

 

グォォォォン!!

 

 

 何か巨大なものが落ちたような音、そして間をおかず怪獣の叫び声が聞こえた。それを聞き、絵美はニヤリと笑う。

 

「かかったわね!」

 

 見ればそこには巨大な穴が開いており、その穴の中では何かがもがいている。そこにかかった土と風景のゆらぎ……そこでは透明怪獣が穴にはまってもがいていた。

 そして、ドリルの音を響かせながら地中からランドモゲラーが顔を出す。

 

 センサーの利かない『電磁セクリションフォッグ』の中に隠れた透明怪獣……それを見つけ出すのは容易なことではない。そこで絵美は罠を張ることにした。

 仕掛けた罠は単純な落とし穴だ。

 音や振動から、絵美は透明怪獣が歩行型の怪獣であることに気付いていた。

 怪獣のその巨大な身体は、超重量を誇る。そんな巨体が空洞化した地面に足を突っ込めば、そこにはまるのは当然のことだ。そこでランドモゲラーが周辺の地中を掘り進み、地中に巨大な空洞の道を造り上げたのである。そしてホバー機動で地面を踏まないメカゴジラを囮に、その即席落とし穴に透明怪獣を落としたのだ。

 穴にはまった透明怪獣……『ネロンガ』は土で汚れ、もはや透明怪獣とは呼べないほどに視認できた。

 

「今よ! MOGERA、ドッキング!!」

 

 ランドモゲラーとスターファルコンが空中で合体し、MOGERAの姿になって降り立った。

 

「決めなさい、MOGERA!

 オールウェポン、フルオープンアタック!!」

 

 その瞬間、MOGERAのすべての武装が火を噴いた。

 目からのレーザーキャノンが、腹部のプラズマメーサーキャノンが、両手のスパイラルグレネードミサイルが一斉に身動きのできないネロンガに襲い掛かる。

 

 

グォォォォン!!

 

 

 その猛攻を受け、ネロンガは断末魔の悲鳴とともに爆発四散した。

 一方、逃げるサドラをメカゴジラが捉える。

 

「逃がさないわよ! ショックアンカー、発射!!」

 

 発射されたショックアンカーが、サドラの肩口に突き刺さった。

 

 

フォォォン!

 

 

 流された高圧電流の痛みに悲鳴を上げながら、サドラは両手のハサミでそのワイヤーを断ち切ろうともがく。

 だが、その前にスラスターを全開にしたホバー移動で接近したメカゴジラが体当たりをした。メカゴジラの重装甲ボディ、その重量すべてをのせた強烈な体当たりはサドラをはね飛ばす。

 ショックアンカーのワイヤーが絡まった状態で地面に転がったサドラ。ここにサドラの命運は決した。

 

「メカゴジラ! フルオープンアタック!!

 全武装、最大出力!!」

 

 目からのレーザーキャノン、口からのメガバスター、肩と腰からのミサイル群、そして腹から最大出力のプラズマグレネイド……これらがすべてサドラに突き刺さった。その凶悪な破壊力を防ぐだけの防御力は、サドラにはない。

 

 

フォォォン!

 

 

 断末魔の声とともに、サドラが爆発する。それと同時に、あれだけ濃かった霧が晴れだしていた。

 

「こっちはやったわよ、翔!!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「サドラが! ネロンガまでやられたのか!?

 せっかく僕が拾ってやったのにあの雑魚怪獣どもめ!!」

 

 晴れていく霧に、勝は憎々しげに言う。

 一方の翔は、霧が消えたことで姿が見えるようになったメガギラスに、ニヤリと笑った。

 

「助かったぜ、絵美。

 霧さえ無けりゃこっちのもんだ!

 おい、覚悟はいいか!

 ここからは俺とゴジラの反撃の時間だ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉に同意するように、ゴジラが咆哮する。

 

「ふん、霧が無くてもそんなドンガメに僕のメガギラスが負けるか。

 いけ、メガギラス!!」

 

 

 キシュァァァァァァァ!!

 

 

 勝の言葉に答えて高速機動でメガギラスが両手のハサミを構えながらゴジラに迫る。

 

「ゴジラ!!」

 

 翔の掛け声とともに、ゴジラは迫り来るメガギラスに向かって迎え撃つようにテールアタックを放った。だが、メガギラスは容易くそれをかわすとテールアタックのせいで隙だらけなゴジラを、横合いから斬りつけようとする。

 

「丸見えだ!

 ゴジラ、右!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声、同時にクルリと首を向けるとゴジラは放射熱線を放った。最初からゴジラはテールアタックがかわされることを承知の上で、放射熱線の発射準備を整えていたのである。そして周囲を視認できる翔の指示のもと、メガギラスの動きに対応したのだ。

 接近する中にカウンター気味に放たれた放射熱線がメガギラスを掠り、爆発の火花とともにメガギラスが苦悶の悲鳴を上げる。スピードを最重視した怪獣であるメガギラスは、そこまで強固な防御力は持ち合わせてはいないのだ。

 この事態にうろたえたのは勝である。

 

「バカな、嘘だ!

 そんなノロマな怪獣が、メガギラスのスピードに対応するなんて!?」

 

「生憎うちのゴジラは、そんじょそこらの怪獣とは違うんだよ!

 ゴジラ、一気に行け!!」

 

 再度のゴジラの放射熱線、それは舐めるように広域に放たれるが、メガギラスはほうほうの体でその射線から逃げた。

 そして、長期戦で戦うことの不利を悟った勝は、短期決戦を選ぶ。

 

「メガギラス! やつの体液を、エネルギーを吸ってしまえ!!」

 

 メガギラスは再度高速で動きながらゴジラに接近した。メガギラスの尻尾についた鋭い針……メガニューラにもあったその器官はさらに巨大に、凶悪な武器となっている。これをゴジラに突き刺し、その体液とエネルギーを吸収して勝負を決しようというのだ。

 

「ゴジラ!!」

 

 ゴジラが放射熱線を発射するが、メガギラスはそれを避ける。そしてその鋭い針をゴジラの顔面へと突き立てた!

 

「しょ、翔!?」

 

 その光景に絵美は悲鳴のような声を上げ、勝は勝利を確信して狂気の笑みを浮かべた。

しかし……そんな状況の中で翔は笑っていた。何故なら……。

 

「な、何ぃぃぃ!!?」

 

 勝の勝利を確信した笑みが、驚愕に塗り替わる。

 鋭い針を顔面に突き立てたはずのメガギラス、しかしその必殺の針はゴジラには刺さっていなかった。ゴジラがその針を噛みつき、口で止めていたのだ。

 

「こ、この!?

 離れろ! 離れろぉぉ!!」

 

 勝の声にメガギラスは激しく羽根をはばたかせ離脱しようとするが、ゴジラはその口で噛みついた針を決して離さない。メガギラスのパワーを、ゴジラはその顎の力で抑え込んでいた。そしてそこを、翔が鋭い声で命じる。

 

「やれ、ゴジラ!!」

 

 ゴジラの内側から光が溢れだす。ゴジラの体内放射だ。がっちりと抑え込まれたメガギラスに、逃げ場はない。

 

「め、メガギラスぅぅ!?」

 

 

 キシュァァァァァァァ!??

 

 

 メガギラスの苦悶の声。

 ゴジラに突き立てようとしていた針は根元から折れ、毒々しい体液を溢れださせる。熱と衝撃により片方のハサミが吹き飛んだ。その自慢のスピードを生む羽根も、所々に穴が空き見る影もない。メガギラスはその一撃で満身創痍になっていた。

 ここに来て、ついに勝の尊大な、強気の態度が砕け散る。

 

「め、メガギラス!

 逃げろ! 空に逃げろ!!」

 

 勝が指示を出した。そこにあったのは純粋な怯えだった。

 メガギラスにもその怯えは伝播したのだろうか、まだ動ける目一杯の速度で一目散に空へと逃げようとする。だが、そうはさせじと翔は追撃した。

 

「逃がすか!!

 来い、ラドン!!」

 

 

キシャァァァァァァァァ!!

 

 

 咆哮と共に現れたファイヤーラドンは一目散に空へと飛び上がっていく。そして、その速度でノロノロと逃げていたメガギラスに体当たりをした。

 空中でバランスを崩したメガギラスに、反転したファイヤーラドンのウラニウム熱線が突き刺さった。羽根が焼け落ち、地面へと真っ逆さまに落ちていくメガギラス。

 そして……地上ではゴジラが紅い光で背びれを発光させていた。

 

「決めろ、ゴジラァァァァァ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラの必殺の一撃、『バーンスパイラル熱線』が炎を上げて落ちていくメガギラスを直撃した。バーンスパイラル熱線はメガギラスを貫き、メガギラスが爆散する。

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラの勝利の雄たけびの中、メガギラスは炎を上げ、その破片は湖に降り注いだのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「さて……」

 

 メガギラスを倒したことを確認した翔は、ゆっくりと勝の方へと向き直る。

 

「俺の勝ちだ。

 さて、怪獣使いについて知ってることを教えてもらおうか?」

 

 だがその時、翔は勝の様子がおかしいことに気付いた。

 

「ん?」

 

 何やら光の粒子のようなものが勝の身体から立ち昇り、勝の身体が消えていっている。

 

「お、おい!?」

 

 そして、勝の恐怖でひきつった悲鳴が響いた。

 

「ひ、ヒィィィィ!!? 僕が、僕が消える!?

 い、嫌だァァァ!!

 僕は『神』だ! レイオニクスバトルに勝って、宇宙の支配者になる男なんだ!!

 『彼』だって! 『彼』だってそう言ってくれたんだ!!

 そんな僕が! この僕が!

 嫌だ! 嫌だ!! 嫌だァァァ!!

 死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?」

 

 その断末魔とともに、勝の姿が完全に消え去った。そしてその後には、壊れて砕けたバトルナイザーだけが転がっている。

 

「しょ、翔……今の……」

 

「……」

 

 あまりのことに絵美も翔も呆然として言葉が出なかった。だがその時、ドタドタと何人もの人間の足音が響く。

 

「こ、これは!?」

 

 それは翔たちを追ってきた村人たちだった。辺りのメガニューラの死体に、驚きで目を見開いている。

 

「か、『神』は!?

 『神』はどこにいったんじゃ!?」

 

 そんな村長の問いに、翔は冷たく言い放った。

 

「『神』? そんなもん最初っからいねぇよ。

 ここにいたのは、『神』を称する詐欺師だけだ」

 

「『神』を……殺したのか……」

 

 そのことに思い至った村人たちは全員が松明を取り落とし、ガクリと座りこむ。だが、すぐに村長は顔を上げると、縋るように翔たちに言ってきた。

 

「な、なら!

 これからはあなた様方が新しい『神』じゃ!

 『神』よ、女でも何でも差し出します!

 だから、だからこの村に……!」

 

「ふざけるなっっ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ドンッ!!

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!!?」

 

 新しい『神』に翔と絵美をそえようとする勝手な物言いに、翔は思わず怒鳴り、それに反応するようにゴジラが雄たけびを上げながら、地面を踏み鳴らす。それによって腰を抜かした村長たちは後ずさった。

 

「『神』だの何だの……勝手にやってろ! 俺と絵美の知ったことじゃねぇ!!

 ……行こう、絵美」

 

「ええ……」

 

 翔は絵美を促す。ゴジラはバトルナイザーに戻したが、ジェットジャガーは用心のためそのままだ。翔と絵美は3メートルほどにまで小さくしたジェットジャガーを護衛に、村人たちの囲いを出てくる。

 

「待ってくだされ。

 ワシらは、ワシらはこれからどうすれば!?」

 

「勝手に生きろ」

 

 そんな2人に、村長の縋るような声が響いた。だがそんな村長を、翔はにべもなく切って捨てる。そして、最後に放心したままだった淳へと声をかけた。

 

「君の家族の仇……とったぞ。

 仇を憎むのは終わりだ。 これからの人生を精一杯、一生懸命に生きろ。

 死んだ家族も、きっとそう思ってる」

 

 それだけ言って翔と絵美は村人たちの囲いを抜けだし、隠していたハンヴィーへと向かっていく。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん……。

 ありがとう……」

 

 淳からのその言葉を背中で聞きながら、翔と絵美は振り返ることなく歩き出した……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 すっかり霧の晴れた道を、ハンヴィーが西へと向けて走る。そんな車内では翔と絵美が難しい顔をしながら、今回の事件を振り返っていた。

 

「『神』……かぁ……」

 

 絵美がポツリと呟いた。

 

「ねぇ、翔。

 あの怪獣使い、もしかしたらあの村人たちにとっては本当に『神』だったのかもね」

 

「……ああ」

 

 その言葉に、翔は頷く。

 この周辺には野生の怪獣がいる気配はなく、無人発電所は稼働状態で残っていた。これらは恐らくあの怪獣使い……早坂勝が周辺の怪獣を狩っていたのだろう。確かに勝の『女』を要求するのは思うところもあるが村人はその対価に、この世界では決して手に入らないだろうものを手にしていた。

 それは『安全』である。

 この荒れ果てた世界で食糧も豊富で、怪獣に怯えなくてもいいという『安全』……これはまさしく理想であり天国だ。それを提供する早坂勝は、確かに村人にとっての『神』で相違ないのかもしれない……。

 

「あの村、どうなるかな……?」

 

「さぁな」

 

 絵美の言葉に、翔は肩を竦める。

 当然用心棒役だった怪獣使いがいなくなった以上、怪獣がやってくる可能性もある。無人発電所が破壊される可能性もあるしそうなれば食糧プラントの生産量は減少、食糧的にも生活は苦しくなるだろう。

 少なくとも、今までと同じということはありえない。

 

「俺たちを閉じ込めて、先に怪獣で殺そうとしてきたのはあっちだ。

 殺らなきゃこっちが殺られる……俺たちの命とむこうの命……天秤に載せれば、取るのは当然俺たちの命だ。

 そのせいで何が起ころうが、俺たちの知ったことじゃないよ」

 

 あの村が今まで通りというのは、翔と絵美の死を意味していた。死に抗うのは当然の権利、その結果で村がどうなっても恨み事など聞く気はない……と、翔は言い切る。

 

「まぁ、その通りよね。

 でも……あの私たちを助けようとした淳くんだっけ?

 あの子には感謝してるから……」

 

「それは俺も同じだ。 でも……大丈夫だろう。

 むしろ、大丈夫であってほしい。俺はそう願う。

 だってあの子は……未来の俺かもしれないからな」

 

「……そうね」

 

 絵美は翔の言葉に頷く。

 翔は淳という少年に、自分を重ねていた。

 強大な者を家族の仇とする者……決して自分では敵わないと思った仇を、淳は翔によって討ってもらうことになった。彼の復讐は終わったのだ。

 仇が消え復讐の終わった後を考える翔には、同じように復讐の終わった淳には人並みに幸せになってもらいたい。

 淳ができるなら自分も……そんな風に思えるからだ。

 

「でも今回は、本当に色々あったな……」

 

 そう言って翔は手の中のバトルナイザーを見る。

 早坂勝の口走った言葉……『レイオニクスバトル』、『宇宙の支配者』、そして『彼』……どれもこれもが謎だ。

 いっそただの妄言か何かだと思いたいが……そうではないという確信がある。

 

「結局何にもわからねぇ。

 でも……何かデカイことの渦中にいるってのは……間違いないだろうな」

 

「……」

 

 天井を仰ぎ見ながらポツリと呟く翔に、絵美は何も言わなかった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次回の大怪獣バトルレジェンドは

 

「四国? そこに『悪魔』が?」

 

「行こう、絵美……四国へ!」

 

「栄一さん、四国に『奴ら』がという情報が!」

 

「行くぞ雅。 『奴ら』を……倒す!!」

 

「あ、あははは……アハハハハハ!!

 見つけた……見つけたぞ、『悪魔』ァァァ!!!」

 

 

次回、大怪獣バトルレジェンド第8話『集結 四国の死闘』

 

 

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第7話怪獣紹介

 

 

有翼怪獣『チャンドラー』

出典:ウルトラマン他

 

解説:頭頂部に1本角、2本の牙を持ち、翼のような腕をもつ怪獣。

   飛行はできないが、その翼からの突風、そして鋭い牙を武器とする。

   特に牙は強力な武器で、『ウルトラマン』では多々良島に生息していた、かの有名な怪獣『レッドキング』に噛みついて痛手を負わせていた。

 

   本作においては水を飲みに来たところを、サドラの霧、ネロンガの透明攻撃、メガニューラの集団攻撃に晒され、メガニューラに体液とエネルギーを根こそぎ吸い取られ絶命する。

 

   長年ファンの間では冷凍怪獣ペギラの亜種とも言われていたが、『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』で正式に亜種、または近い種として認定された。

   こういった怪獣の生物的な側面をクローズアップさせた考え方も、怪獣特撮の楽しみであり、チャンドラーはその先駆け、とも言えるのでないだろうか?

 

 

 

岩石怪獣『サドラ』

出典:帰ってきたウルトラマン他

 

解説:本作第1話にも登場した怪獣。

   原作では噛ませ犬状態の怪獣ではあるものの、体表から揮発性の分泌液を出して強力なジャミング効果のある霧『電磁セクリションフォッグ』を発生させるという能力は中々に強力。

   本作においては、怪獣使い『早坂勝』の怪獣の1体として登場。

   本作第7話は人の感覚を狂わせ村から脱出不能にしたり、対怪獣戦を有利に進める支援をしたりと、『舞台を整える』ことに活躍した。

   その活躍は本作第7話の真の主役と言っても過言ではない。

 

   怪獣の能力は使い様だと作者の考える、例の一つである。

 

 

 

透明怪獣『ネロンガ』

出典:ウルトラマン他

 

解説:電気を常食し、身体に含まれる電子イオンの効果によって透明化する能力をもつ怪獣。

   頭についた角と触角を束ねることで電撃を放つことができる。

 

   元祖透明怪獣とも言うべき存在で、透明であることを生かした奇襲戦術で戦う……はずなのだが、『ウルトラマン』では姿をあらわしたまま、一方的にウルトラマンにやられるという可哀そうな状態に。透明怪獣の名はどこに行った?

   もっとも、ウルトラマンには電撃が直撃したのにまったく通じていなかったのだが……。

   『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』ではその透明化能力で主役怪獣であるゴモラを苦戦させるという活躍を見せる。

 

   本作においては、怪獣使い『早坂勝』の怪獣の1体として登場。

   電気を常食するという特性で無人発電所の電気を喰い、村への電気供給をストップした。

   早坂勝が村に取り入った発端であるが、実は完全な自作自演である。

   その後もその透明化能力で湖にやってくる怪獣をサドラやメガニューラとともに奇襲していた。

   サドラの護衛として霧に潜んで戦っていたが、ランドモゲラーの掘った落とし穴にはまって身動きとれないところをMOGERAのオールウェポンアタックで倒される。

 

   ネロンガの面白いところは、ネロンガは江戸時代に侍によって退治されているという記録を持つ魑魅魍魎の類だということだろう。

   当時は牛ほどの大きさだったらしく、現代に入って大量に電気を喰ったせいで巨大化したが、こういう歴史的な背景があるのも怪獣たちの面白みでもある。

 

 

 

古代昆虫『メガニューラ』

出典:ゴジラ×メガギラス G消滅作戦

 

解説:古代ヤゴ怪獣『メガヌロン』の羽化した姿。

   巨大なトンボ型の怪獣で、常に群れで行動し尻尾の針を突き刺して対象の生物からエネルギーを吸い取る。

 

   原作では対G兵器ディメンションタイド(ブラックホール砲)の試射によって空いた時空の亀裂からやってきた1匹が産んだ卵が渋谷の下水道で繁殖、人間を捕食し渋谷を水没させながら増えたメガヌロンが一斉にメガニューラに羽化した。

   ゴジラのエネルギーを目当てに襲い掛かるが返り討ちにあい、生き残ったものが残った巨大メガヌロンにエネルギーを分けることで、『メガギラス』の誕生を助ける。

 

   本作では早坂勝のエースである『メガギラス』の支援メカ的な存在として登場。

   サドラの霧に隠れながらやってくる怪獣を集団戦術で倒し、そのエネルギーをメガギラスに与えることでメガギラスの成長を助けていた。

 

   人を捕食し、虫らしい集団戦術は見事であると同時にトラウマもの。あの時ほどゴジラにVSシリーズの必殺技『体内放射』が欲しいと思った時はなかった。

   ゴジラがやられていたら人類はかなりヤバかったのではないだろうか……?

 

 

 

超翔竜『メガギラス』

出典:ゴジラ×メガギラス G消滅作戦

 

解説: メガニューラの最終進化形態とも言うべき怪獣。

   巨大なハサミ状の腕、尻尾の先についた針、そして高速飛行を武器にする。

   特に高速飛行は瞬間移動とも見紛うほどで、トンボのように滞空からの急加速といった抜群の機動性を持つ。

   反面、防御力に関してはいわゆる『紙』レベルであり打たれ弱さが目立つ。

 

   原作においては一匹だけメガニューラに羽化しなかった巨大メガヌロンが、ゴジラを襲ったメガニューラたちから受け取ったエネルギーを受け怪獣化したメガニューラの最終進化形態。

   お台場にてゴジラと対決し、その機動性を生かして戦っていたが尻尾の針を砕かれたことで形勢逆転、放射熱線の直撃を受けて爆死する。

 

   本作においては湖に来た怪獣を片っ端からメガニューラで襲い、そのエネルギーを蓄えさせることで非常に強力な個体となった、怪獣使い早坂勝のエース。サドラの霧に隠れながらのヒット&アウェイは見事だったが、相手が悪かった。

 

   メガギラスの羽化前の形態であるメガヌロンはラドンのエサとして有名で、ラドンとは中々に因縁を持つ。

   本作ではそのラドンによって致命傷を負うが、万全な状態の両者ならどうなっていたか……興味深い話である。

 

 

 

 




レイオニクスバトルの決着でした。
『閉ざされた村』『生贄の風習』『神を自称する者』と怪奇色の強い内容になりました。
怪獣ものはプロレスだけじゃなく、こういうのもいいんじゃないかなぁと思ったり。

次回はゴジラを書いて必ずやりたかった一発ネタ、ゴジラの四国上陸です。
そして遂に大ボスとも言える仇、『悪魔』が登場します。
まぁ、勘のいい人は1話の段階で『悪魔』の正体はバレバレでしょうが(笑)

次回もよろしくお願いします。


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第9話 集結 四国の死闘(前編)

久しぶりの投稿となりました、キューマル式です。

今回は仮面ライダーRXに守られ、一度もゴジラが降り立つことができなかった四国の地にゴジラが降り立ちました。

そしてこの物語のラスボスの登場。
そのエースは当然ながら……。



 グォォォォォォ!!

 

 

 轟く雄たけびと、バシャリと大きな水音を響かせながら、それは夜の海から上陸した。

 それは巨大な人型……まさしく巨人だ。巨大な体躯に、その体表をびっしりと覆うウロコのようなものが、それが怪獣の類であると物語る。

 この巨人の名前は『ガイラ』、この周辺に出没する海棲の怪獣である。

 ガイラはその血走った目を陸地へと向けた。その視線の先には、ポツポツとした明かりがある。

 そこには好物……『人間』がいるということをガイラは知っていた。

 その人間そのものの顔が、愉快そうに歪む。だが、その顔はすぐに驚愕に染まった。

 

 

 ズドン!

 

 

 地響きを響かせ、空から影が降り立った。

 それはガイラと同じく完全な人型のシルエットをした怪獣である。しかしその体表はガイラのウロコとは違って生物としての臭いのしない、鋼鉄の鈍い輝きを放っていた。

 赤や黄色というカラフルな色、そして口のような部分が威嚇するかのように点滅する様は、間違いなくロボット怪獣である。

 そしてそこに鋭い声が響いた。

 

「行きなさい、ジェットジャガー!!」

 

 

 マ゛!!

 

 

 響く女の声……絵美の声に答えるように電子音を響かせてロボット怪獣……絵美の使役する電子ロボット『ジェットジャガー』は動き出した。

 ガイラに素早く接近すると、その両のパンチのラッシュを浴びせかける。

 その攻撃に一瞬怯んだガイラだったが、すぐに怒りの雄たけびを上げるとジェットジャガーに飛び掛かった。

 そのまま2体はガッチリと組み合い、力比べのような体勢になる。その力はほぼ互角だ。

 

 

 グォォォォォォ!!

 

 

 先に動いたのはガイラだった。ガイラはそのまま口を開けると、組み合ったままジェットジャガーの肩口へと噛みつく。

 

 

 マ゛!?

 

 

 その鋭い牙はさして厚くないジェットジャガーの装甲を貫き、内部機構にダメージを負わせた。そのことで組み合いの力が緩むジェットジャガー。

 

 

 グォォォォォォ!!

 

 

 それを好機と見たガイラはジェットジャガーを持ち上げると、その怪力でジェットジャガーを投げつけた。それと同時にガイラは追撃のために走り出す。

 ガイラは投げつけ倒れたところで馬乗りになり、その拳の連打を浴びせようというのだ。

 だが……。

 

「ジェットジャガー!!」

 

 

 マ゛!!

 

 

 絵美の声に答え、ジェットジャガーはクルリと空中で反転すると見事に地面に着地する。

 ジェットジャガーの持つ反重力を利用した『飛行能力』と、そして人間特有の知識とその完全な人型形状をしているところからくる『受け身』……絵美に使役されることによって、この2つを効果的に使用できるジェットジャガーにとって、地面に叩きつけるような投げ技ならまだしも、ただ力任せに遠方へ放り投げるだけの投げ技は効果を為さないのだ。

 これに面喰ったのはガイラである。

 ジェットジャガーと同じ完全な人型形状をしていてもそこは怪獣、そこまで賢くなどないのだ。

 ガイラにとって受け身をとって着地など考えも及ばぬことである。

 追撃のために全力疾走だったガイラは急には止まれない。そして、そんな加速のついたガイラに、素早く体勢を立て直したジェットジャガーの渾身の回し蹴りがその喉を捉えた。怪獣版レッグラリアートである。

 ジェットジャガーのレッグラリアートをモロにうけたガイラは、その衝撃でもんどりうって倒れた。

 

「ここよ、ジェットジャガー!!」

 

 

 マ゛!!

 

 

 ふらふらと立ち上がるガイラに、ジェットジャガーが手刀の連打を浴びせ、強烈なキックによってガイラが吹き飛ばされる。

 

「とどめよ、ジェットジャガー!!」

 

 

 マ゛!!

 

 

 絵美の声に答え、ジェットジャガーがダメージによって棒立ちのガイラに向かってその両腕を突き出した。その両手にバチバチというスパークが発生すると、そのまま光線となって飛んでいく。

 ジェットジャガーの電磁光線である。

 電磁光線の直撃を受けたガイラはバチバチとまるで電撃にでも撃たれたように二度三度と痙攣し、ドゥッと倒れ込むと爆発四散した。

 

「よくやったわ、ジェットジャガー!!」

 

 

 マ゛!!

 

 

 絵美の言葉にどこか嬉しそうに頷くと、ジェットジャガーは光の粒子に姿を変えて絵美のバトルナイザーへと戻っていくのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「こ、これは……」

 

 初老に差し掛かった海の男といった風貌の彼……沢村は目の前の光景が信じられなかった。それは彼の他の町の人々も同じだろう。

 彼らの目の前には、元は怪獣だっただろう破片が転がっている。そして、それは憎き怪獣である『ガイラ』のものであることは間違いないなかった。

 彼らはこの海辺にある、港町の者だ。

 この世界は多くの人々がその生活圏を地下都市へと移したが、様々な理由から地上に残り続けている人々もいる。港町というのも地下に置けるものではなく、どうしても必要にかられて地上で暮らし続ける人々の筆頭だ。

 彼らは海での漁業や貴重な輸送手段である海運で生きていたのだが、そんな港町にある怪獣が襲い掛かった。それがこのガイラである。

 餌である人間が近くにいることを知ったガイラは漁に出た人間を襲い、夜には町にやってきては人を喰らった。

 ガイラの狡猾なところは、決して人間を狩り過ぎなかったことだろう。人間は狩り過ぎるとすぐには増えないということが分かるぐらいの知恵はあったようだ。または人間など主食ではなく嗜好品の類、人間で言うところの『お菓子』感覚なのかもしれない。

 1人また1人と喰われていく町の人々。しかし町以外のどこにも行くことができず、震えながら夜を過ごす日々だった。

 しかしその元凶は今、目の前で物言わぬ肉塊になっている。

 突然のことに感情がついて行かず、喜ぶということもできずに呆然とした彼ら。そんな彼らの後ろから、明らかにこの場には場違いな声が聞こえた。

 

「へぇ……こいつが町を襲ってた怪獣かぁ」

 

 沢村が振り返れば、そこには若い男女が立っていた。つい数日前にやってきた流れのトレイダーの2人組である。

 

「どういうわけかは知らないが、いなくなって良かったな」

 

「あ、ああ……」

 

 男の方の、肩を叩きながらの言葉に沢村は頷くのみだ。

 すると、今度は反対の肩を叩きながら女の方が言ってくる。

 

「そ・れ・でぇ……『約束』は覚えているかしら?」

 

「……」

 

 その言葉に、沢村は苦虫をかみ殺したかのような顔をする。

 ガイラによってほとんど漁に出れない状態が続いたため、酒場で管を巻いていたときに酒の勢いで言ってしまったのだ。

 

 

『俺は一流の海の男だ。 ガイラさえいなきゃ、どこへだって何だって運んでやらぁ!!』

 

『……その言葉、本当だな?』

 

 

 この2人を前に、そう言ってしまったのである。

 

「さて……それじゃ約束守ってもらおうか。 なに、報酬は払うぜ」

 

「そうそう。 ただちょっとあんたの自慢の船……LCACだっけ?

 あのホバークラフトみたいな奴で、私らを車ごと四国に運んでくれればいいのよ」

 

「で、でも四国は噂の……」

 

 四国の噂を知る沢村はブルリと身体を震わせるが、再び2人は抜群のタイミングで肩を叩く。

 

「まさか怖気づいたとかないよなぁ、海の男さんよ」

 

「まさかぁ。 あれだけ言ってたんだし、そんな訳ないじゃない。

 ねぇ、海の男さん?」

 

「わ、わかったよ……」

 

 ニヤニヤと笑いながら2人に退路を塞がれた沢村には、もう頷くしか選択は残っていなかった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……やっとだな」

 

「ええ、これで四国に行けるわね」

 

 漁師の男を頷かせ、翔と絵美は移動の準備に入っていた。

 『四国』……怪獣によって橋が落ち、孤島と化したそこが2人の目的地である。

 何故なら……。

 

「四国……そこにあの『悪魔』がいる!」

 

 翔の父の仇であるあの赤い『悪魔』のような怪獣が四国にいるという噂を聞いたからだ。

 そのため是が非でも2人は四国に渡らなければならないが、港町に辿り着いてみれば『ガイラ』によって海上は完全に閉鎖されている状態だった。

 別段、海を超えるだけならジェットジャガーなりにハンヴィーを抱えさせて飛行していけばいいのだが、極力目立つような真似はしたくはない。そのため、ガイラを倒して船で海上から上陸という廻りくどいことをすることにしたのだ。絵美がジェットジャガーでの対怪獣戦をしたいというのもある。

 とにかく、これで準備は整った。

 

「行こう、絵美……四国へ!」

 

「ええ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ここは日本のどこか。

 炎に焼かれ崩れ落ちていく怪獣。その前でそれを為したカメのような怪獣……ガメラが勝利の雄たけびを上げる。

 

「戻れ、ガメラ」

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

 彼……草薙栄一の声に答え、ガメラは光の粒子となってバトルナイザーの中に戻っていった。

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様です、栄一さん」

 

 一息をつく栄一に彼女……手塚雅は労いの声をかける。

 

「……これでこの辺りの怪獣は一掃できたな」

 

「ええ、そのようです。

 でも……」

 

 そう言って雅はその形のいい眉を潜めた。

 この荒らされた土地が以前のように戻るのには一体どれだけの時間がかかるのだろうか……?

 改めて、怪獣による被害を目の当たりにすると雅の胸中には何とも言えない思いが渦巻いた。

 そんな雅の胸中を知ってか知らずか、栄一は努めて明るく雅に言った。

 

「とにかく、これでやることは終わった。

 合流して『島』に戻ろう」

 

「ええ……」

 

 そんな風に頷き合う2人。しかし、その時、2人の持つ通信端末が着信を知らせる。

 すぐにそれを取り出し、その内容を確認した2人は揃って顔を見合わせた。

 

「これは……『奴ら』が!?」

 

「栄一さん!!」

 

「……ああ、行こう。

 場所は……四国だ!」

 

「ええ!!」

 

 雅は頷くと、バトルナイザーからモスラを召喚し、栄一と供にその背に乗った。モスラがゆっくりと、それでも確実に目的地へと向かっていく。

 その先にあるのは……四国。

 

 

 今、ここに怪獣使いたちが集結することになった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翔と絵美が四国に上陸して早4日、未だ目的の『悪魔』は見つかっていなかった。

 しかし、運命の邂逅の時は刻一刻と迫る。

 そして……遂にその時が訪れた。

 

「何だあいつは?」

 

 それを見つけたのは、山中の採石所だった。

 そこではまるでテトラポットのような岩石が鎮座している。しかし、その岩石はまるで心臓のように脈打ち、どう考えても普通では無かった。

 そう、その岩石に見えるそれは怪獣なのだ。

そして……。

 

「!? もう一体の怪獣!?」

 

 絵美が思わず声を上げる。

その岩石のような怪獣を守るように、1体の怪獣が徘徊していた。その怪獣はまるでフランケンシュタインの怪物のようなチグハグな造形だ。顔・腕・胴・足とどう見ても『別々の怪獣のパーツを継ぎ合わせた』ような印象を受ける。

 そして、そのチグハグ怪獣と2人は目が合ったのを感じた。

 

 

 キシュォォォォォン!!

 

 

「やべぇ! 気付かれた!!」

 

 ドシンドシンと振動を響かせながら迫る怪獣を前に、翔はバトルナイザーを構える。

 そんな翔の額から汗が一筋流れた。

 この怪獣は並大抵ではない……それが分かる。

 だから翔は、最初から切り札をきった

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、ゴジラ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 雄たけびと供にゴジラが降り立った。

 

 

 キシュォォォォォン!!

 

 

 そしてその相対するチグハグな怪獣も、迎え撃つように雄たけびを上げる。

 

「行け、ゴジラ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声に答えたゴジラが突進し、チグハグ怪獣とぶつかり合う。

 しかし……。

 

「ッ!?」

 

「あのゴジラと、まともに拮抗した!?」

 

 あの超パワーを誇るゴジラに一歩も引かぬチグハグ怪獣。そしてチグハグ怪獣は鉄球のような形状をした左手をゴジラに叩きつけようと振りかぶった。しかし、それをゴジラは右手で受け止める。

 だが、それがチグハグ怪獣の狙いだった。間髪いれずに、鎌状になった右手がゴジラに振り下ろされ、ゴジラに火花が散る。

 その衝撃に一歩退いたゴジラは、怒りの雄たけびを上げると背ビレを青く光らせながら放射熱線を放つ。

 しかし……。

 

「何ぃ!?」

 

「ゴジラの熱線を……吸収した!?」

 

 ゴジラの放射熱線が直撃した……そう思ったが、直撃したはずの腹の部分が開閉し、ゴジラの熱線を吸収していく。

 

 

 キシュォォォォォン!!

 

 

 チグハグ怪獣は得意げに雄たけびを上げると、お返しとばかりにその腹の部分から白いガスが勢いよく吐きかけられる。それを浴びたゴジラが動きを鈍らせた。

 

「これは……冷凍ガス!?」

 

 ゴジラは寒さは苦手としているらしく、その動きが見る見る鈍っていく。そしてそこに口からの火炎放射が加わった。

 勢いよく放たれる冷凍ガスと火炎は互いに渦を巻き、強力な攻撃力をともなってゴジラに襲い掛かる。

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!?

 

 

 その威力にゴジラが吹き飛ばされ、もんどりうって倒れた。

 

 

 キシュォォォォォン!!

 

 

 チグハグ怪獣は勝機と見たのか、倒れたゴジラに接近してくる。しかし、それはゴジラを甘く見過ぎている。

 

「ゴジラァァァ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声に応えるようにゴジラは咆哮すると接近してくるそのチグハグ怪獣の顔面に、その太い尻尾を叩きつける。鞭のしなやかさとハンマーの強靭さを兼ね備えるそれにしたたかに顔を殴られたチグハグ怪獣はたまらず体勢を崩した。

 

「ここだ! ゴジラァァ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 その隙に立ち上がったゴジラは、そのままチグハグ怪獣へと突進。その巨体でぶつかり、がっぷりと組み合う。

 その瞬間、ゴジラの背びれが青白く発光し始めた。

 

「この距離で全体になら、さっきの腹からの吸収はできないだろ!

 やれ、ゴジラ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラの接近戦での必殺技、体内放射が発動した。放射熱線のエネルギーがゴジラを中心に拡散し、周囲くまなくその破壊エネルギーをまき散らす。その奔流を全身でモロに浴びてしまったチグハグ怪獣が派手に吹き飛び、倒れた。

 

「やったか……?」

 

 チグハグ怪獣が倒れたことによってもうもうと舞い上がる土煙、そのせいで視界が悪くなってしまいその向こうに目を凝らす。そしてその土煙の向こうではチグハグ怪獣がゆっくりと立ち上がっていた。

 その辺りの怪獣なら勝負がつくほどの威力を今の一撃は持っている。それで倒れないのだから、やはりこのチグハグ怪獣は強い。

 翔は再び、意識を集中させながら手にしたバトルナイザーを一層強く握りしめた。

 その時だ。

 

 

 パチパチパチッ!!

 

 

 この場に似つかわしくない、拍手が響いた。

 

「素晴らしい力ですね、君は」

 

 見れば、1人の男が手を叩きながらこちらに近づいてくる。

 歳は40から50といったところか、髪には白いものが混ざっている。こんな荒廃した世界には似つかわしくないくらい、綺麗な身なりだ。細身の身体に神経質そうな顔、そして眼鏡。着込んだドブネズミ色の外套らしきものも見方によっては白衣のようにも見え、そのせいでどうしてもインテリな印象を受ける男である。

 

「まさか私の『タイラント』とここまで戦えるとは……。

 いやはや、君の力は素晴らしいですよ!」

 

「ッ!? お前……!?」

 

 その言葉と、そして男の手にするバトルナイザーを見て翔は今戦っているチグハグ怪獣……『タイラント』はこの男の使役する怪獣なのだと悟る。

 翔は注意深く、男の表情を探る。その男の顔には敵意のようなものは無く、純粋に翔のことを称賛しているのがわかる。だが……翔も絵美も、男から背筋の凍るような感覚を味わっていた。

 威圧感や覇気といった、それに類するようなものではない。しかし、この男の危険な『何か』を2人は長年の経験からの危険に対する嗅覚で見抜いていた。

 翔はそれを努めて表に出さないようにしながら、男へと話をする。

 

「……どういうつもりだ?

 いきなり襲って来たかと思えば、今度は顔を見せるなんて……」

 

「いえいえ、あなたとお話したいことができましてね」

 

 すると、男は優雅に礼をとる。

 

「私は……そうですね、仲間からは『教授(プロフェッサー)』と呼ばれております。

 そちらのお名前は?」

 

「……芹澤翔だ」

 

 翔はしばしの逡巡の後、『教授(プロフェッサー)』へと名を名乗った。するとそんな翔に『教授(プロフェッサー)』は満面の笑みを見せる。

 

「翔くん、まずは突然襲い掛かった無礼をお詫びしましょう。

 今はデリケートな時期でしてね……」

 

 そう言って『教授(プロフェッサー)』は視線を、あの岩石のような怪獣へと向ける。

 

「『ブルトン』の成長は我々の悲願にも繋がるものですから、少々過剰に反応してしまったのですよ」

 

「『ブルトン』? あの岩みたいな怪獣のことか?」

 

「ええ、私の『同志』の怪獣でしてね。

 今の私は言わば護衛ということですよ」

 

 『同志』……その言葉から察すると、どうやらもう1人怪獣使いがいるらしい。

 翔は慎重に言葉を繋ぐ。

 

「それで、俺に一体何の話なんだ?」

 

「そうですね、単刀直入に言いましょう。

 私たちの『同志』になってくれませんか?」

 

 『教授(プロフェッサー)』の言葉、それは仲間にならないかという勧誘の言葉だった。その言葉に、翔は胡散臭げに眉をひそめる。

 

「『同志』ねぇ……。

 俺はアンタの目的を知らない。それすら知らずに『はい、わかりました』と頷くわけないだろ」

 

「私の目的ですか?

 それはもちろん……『宇宙の支配者』となってこの宇宙に平和をもたらすことですよ」

 

「……笑えねぇ冗談だな。

 おまけに……その『宇宙の支配者』ってフレーズ、聞き覚えがあるぞ。

 アンタ……『早坂(はやさか) (まさる)』って名前に心当たりはないか?」

 

 翔が思い出すのは、少し前に戦った怪獣使いだ。

 翔との戦いに敗れ消えていったが、彼はいくつも不可解な言葉を残している。そのうちの一つがこの『宇宙の支配者』というフレーズだ。

 そして案の定である。

 

「ああ、彼なら知っていますよ。

 なかなかに見込みがあり私が『同志』として誘っていたのですがね、どうも力を付けたいと言ってどこかに行ってしまいまして……。

 行方をご存知で?」

 

「……この間、戦ったよ。

 野郎の言ってた、『彼』ってのはアンタか?

 『宇宙の支配者になれる』みたいなことを言われたってほざいてたぞ」

 

「その可能性があることはお教えしましたね。

 しかしそうですか……。

 レイオニクスバトルで彼に勝ったということですか……」

 

 それは同時に早坂勝が死んだという話に他ならない。これで交渉決裂かと、翔も絵美も最悪の場合を考えて、逃げの体勢に入る。

 しかし……。

 

「まぁ、彼のことはどうでもいいでしょう。

 それでどうでしょう、『同志』になってはくれませんか?」

 

 それまでと全く変わらぬ微笑みで『教授(プロフェッサー)』は翔を誘った。『教授(プロフェッサー)』の表情、それは無理をして作っているような類の顔ではないことが分かる。

 

「アンタ……早坂勝の仲間なんだろ?

 それを殺した俺を仲間に誘うっていうのは、どういうことだ?

 仲間が死んで、悲しくはないのか?」

 

「彼の想いはこの胸に残っている。

 私の胸に残り続けている限り、彼の想いは死なない……つまり私の中で生き続け、彼は死んでいないのです。だから、何の問題もありません。

 それよりも彼を下すほどの優秀な方が『同志』となってくれるほうがとても喜ばしいことです」

 

 そんなことを迷い無く言ってくる。この『教授(プロフェッサー)』、心の底からこれを言っているのである。それも一片の迷いも無ければ曇りもなく、だ。

 その時、翔と絵美はずっと感じていた背筋の凍るおぞけの正体に気付いた。

 この『教授(プロフェッサー)』という男……思考が普通とは完全に狂っている。そしてそのことに何の疑問も抱いていない。正真正銘、混じりっ気なしの本物の『狂人』なのだ。

 それがわかりながら、誘いに乗るという気はどうしても起きない。

 

「悪いが断る。

 アンタの言う『宇宙の支配者』とかいう妄言には付き合いきれないからな。

 それに……俺たちは目的があってここに来たんだ」

 

「ほう、目的ですか?

 一体どんな目的ですか? 差し支えなければ教えてほしいのですが……」

 

「……怪獣を探している。

 赤い色で羽の生えた悪魔のような形状のやつだ。

 この四国でそいつを見たっていう話を聞いて、俺たちはここに来た」

 

「赤い色で、羽の生えた怪獣ですか……ふぅむ……」

 

 何事かを『教授(プロフェッサー)』は考え込むと、『教授(プロフェッサー)』はおもむろに自身のバトルナイザーを掲げた。

 すると、タイラントのそばに光とともに2体の怪獣が降り立った。

 一体はスラリとしたシャープな体躯の怪獣だ。色は赤く、昆虫の羽根のような透き通る羽を持っている。その身体から何本もの触手が伸びているのが特徴的だった。そこから感じる震えあがりそうになる威圧感もタイラントと同格かそれ以上、途方もなく強力な怪獣であることを嫌でも分からせる。

 しかし、翔と絵美はその怪獣に意識が行っていなかった。

 

 何故なら……『教授(プロフェッサー)』の呼び出したもう一体の怪獣に視線が釘付けだったからだ。

 それは赤い色をしていた。コウモリのような羽を背負うその姿はまさしく『悪魔』そのもの。その面構えも凶悪で、まるで目に見えるすべての生命体に生存を許さないかのような、殺戮者の相貌だ。

 その禍々しいまでの姿、そして他の2体を凌駕するほどの圧倒的な強者の風格……すべてがこの怪獣こそが『教授(プロフェッサー)』のエース怪獣なのだろうということを示していた。

 

「……一つ聞くがアンタ、そいつはいつから使役してるんだ?」

 

「彼ですか?

 私の最初の怪獣ですからね、怪獣出現と同時に私と供にいましたよ」

 

 あごでその赤い怪獣を指して問う翔に、『教授(プロフェッサー)』が答える。俯き加減の翔の握りしめた拳が震えた。

 そして顔を上げた翔の目には、怒りの炎が宿っていた。

 

「あ、あははは……アハハハハハ!!

 見つけた……見つけたぞ、『悪魔』ァァァ!!!」

 

 そう、『教授(プロフェッサー)』の使役するその怪獣こそ、翔と絵美の故郷を焼き払い、翔の父を目の前で殺したあの『赤い悪魔』だったのである。

 だが、そんな激情を露わにする翔を前にして『教授(プロフェッサー)』はにこやかに笑った。

 

「その様子ですと……お探しだった怪獣は私の『デストロイア』だったんですね」

 

「ああ、そうだよ。 父さんの仇が!!」

 

「? それはどういう……?」

 

「俺は……俺たちはその『悪魔』に故郷を焼かれ、家族を目の前で殺された!

 富士山の麓のあの街を焼いたこと……忘れたとは言わせないぞ!!」

 

 翔の言葉にしばし考え込む『教授(プロフェッサー)』。

 

「ジャパニウムのエネルギーを『ブルトン』に吸収させた時でしょうか……?

 すみませんがよく覚えていません」

 

「てめぇ……俺たちのすべてを奪っておいて、覚えてないだと……?」

 

「それは認識の違いですよ、翔くん。

 その日は君にとっては人生でもっとも印象深い日かもしれませんが、私にとっては何でも無い、いつもの一日に過ぎません。

 君は一年前の今日の夕食を覚えていますか?

 同じことですよ」

 

 怒り狂う翔に対して、『教授(プロフェッサー)』はにこやかに語る。それは別に翔を怒らそうというのではなくまるで物分かりの悪い子供にやさしく諭すように、だ。

 その様子は、翔の怒りに油を注いだ。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、アンギラス!! ラドン!!」

 

 

 フォォォォォン!!

 

 

 キシャァァァァァァァァ!!

 

 

 翔の呼び声に答え、翔のすべての怪獣が召喚される。

 

「父さんの仇……てめぇは殺す!!」

 

「やれやれ……私の仲間にはなってもらえないのですか、翔くん」

 

 だが、その翔からの殺気を向けられても『教授(プロフェッサー)』は顔色を変えない。

 

「当たり前だ! 父さんの仇の仲間になんぞ、何でなるんだよ!!」

 

「私は自分の殺してしまった人たちには、本当に申し訳ないことをしたと思っているのですよ。

 だからこそ、私は私の目的を達しなければならない。私はそれが自分の殺してしまった人たちに報いることだと信じていますから。いわば私の目的は、今まで自分の殺してしまった人たちを糧に成長した果実のようなものです。

 それを考えれば、翔くんはそのお父さんのためにも私に協力すべきではないですか?」

 

「……もう喋るんじゃねぇよ、イカレ野郎!」

 

 翔と絵美にとっては全く理解できないほどに狂った理論を叩き斬るように叫ぶと、翔は宣言するように言った。

 

「今、この場でブチ殺す!!

 絵美!!」

 

「私ももう、我慢の限界よ!」

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来なさい、メカゴジラ! MOGERA! ジェットジャガー!」

 

 

 キシャァァァァン!!

 キュィィィィィン!!

 マ゛!!

 

 

 絵美の求めに応じて、すべての怪獣たちが召喚された。

 

「おや、お嬢さん。 あなたも怪獣使いでしたか。

 どうですか、お嬢さん。 あなたも私の同志になってくれませんか?」

 

「冗談!  私にとってもアンタは親の仇よ!!

 アンタみたいなイカレ野郎の仲間なんか、誰がなるもんですか!!」

 

「やれやれ……お嬢さんもですか……」

 

 『教授(プロフェッサー)』はまるで駄々をこねる子供を前にしたような顔をし、それがさらに翔と絵美の怒りを煽る。

 

「行くぞ!!」

 

「行くわよ!!」

 

 翔と絵美の声に反応して、ゴジラたちが動き始めたのだった……。

 

 




四国にゴジラ降臨はこの小説を書き始めた時からやろうとしていたネタでした。

遂にラスボスがお目見えとなりました。
主人公の宿敵は第一話でもうバレバレだったと思いますが『デストロイア』です。
まぁ、この物語のゴジラは『メルトダウンした親のエネルギーで復活したゴジラジュニア』ですからね、その怨敵はやはり『デストロイア』以外は考えられません。

しかし……『デストロイア』に『タイラント』に『イリス』……私がレイオニクスなら即座にまわれ右して逃げますね。

次回もよろしくお願いします。


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第10話 集結 四国の死闘(後編)

対『教授』後編です。

やっと……やっとデストロイアが出せました。



「行け、メカゴジラ! MOGERA! ジェットジャガー!」

 

 

 キシャァァァァン!!

 キュィィィィィン!!

 マ゛!!

 

 

 絵美の声に、絵美の使役するメカゴジラたちが一斉に動き出した。その狙いは『タイラント』だ。

 

 

 キシャァァァァン!!

 

 

 金切り声のような機械の咆哮と供に、メカゴジラの口から極彩色の光線、メガバスターが放たれる。同時に、内部エネルギーによってプラズマグレネイドも放った。

 しかし、その強力な光線をタイラントは腹の口を開閉させて吸収していく。ゴジラの熱線と同じく、そのエネルギーを腹から吸収されていた。

 だが、それこそが絵美の狙いだ。

 

「今よ、MOGERA! 後ろに回り込みなさい!!」

 

 

 キュィィィィィン!!

 

 

 絵美の鋭い声が飛び、MOGERAが地面を滑るような滑らかなローラーダッシュによってタイラントの背後に回り込んだ。

 そしてその背中目がけてMOGERAのすべての武装が火を噴く。プラズマレーザーキャノンにプラズマメーサーキャノン、そしてスパイラルグレネードミサイルの一斉発射によってタイラントの背中で爆炎の華が咲いた。

 絵美は先程のゴジラとの戦いをしっかりと見ていた。このタイラント、腹部分でゴジラの熱線すら吸収してしまうという恐るべき能力を持っている。しかし、その吸収可能部分はあくまで腹だけなのだ。だから絵美は2体の前後からの同時攻撃によってダメージを与えることにしたのである。

 背中からの攻撃にたまらずタイラントはMOGERAに振り向こうとするが、そこに今度はジェットジャガーが割り込んだ。

 

 

 マ゛!!

 

 

 その身軽さを利用した見事な飛び蹴りがタイラントの顔面を打つ。たまらず後ずさるタイラント、その背後に今度はホバリング機動で回り込んだメカゴジラのメガバスターが直撃する。

 その間にジェットジャガーは離脱し、MOGERAも背後からの攻撃に加わる。メカゴジラとMOGERAのどちらかが必ず背後をとるようにし、もしメカゴジラとMOGERAに攻撃をしようとすれば残ったジェットジャガーが素早くカットに入って隙を作る……数の差を最大限に生かした見事な戦術だ。

 

「どんなに強くても慎重にダメージを与え続ければ必ず勝機はあるはずよ!」

 

 絵美はこのタイラントが恐るべき怪獣だということを理解していた。そして、残念ながら自分の怪獣たちがそれを一撃で倒すようなパワーがないことも自覚している。

 だからこそ絵美は、戦術を駆使して持続的に慎重にダメージを与え続ける手段に出た。

 しかし……残念ながら絵美はまだ、このタイラントという怪獣の脅威の認識が甘い。

 

 

 キシュォォォォォン!!

 

 

 タイラントの咆哮、そして自身に巻き起こるダメージを無視してその鉄球状になった左手を突き出すように構える。

 その先にいるのは……MOGERAだ!

 そして、その左手の鉄球が飛び出した。本体と繋がった鎖が尾を引きながら、鉄球がまるでロケットのような勢いで飛ぶ。

 

「な、なんですって!?」

 

 予想外の攻撃に驚いたのは絵美である。そして、そのことで指示を出すのが遅れてしまった。

 

 

 ズガァァン!!

 

 

「モ、MOGERA!!?」

 

 タイラントからの鉄球がMOGERAに直撃した。しかも運が悪いことにMOGERAのウィークポイントである腹のプラズマメーサーキャノン部にである。

 全身を強力な装甲で覆ったロボット怪獣のMOGERAだが、その腹にパラボナアンテナのような形で収納されるMOGERAの主力兵装『プラズマメーサーキャノン』を展開して攻撃する時には、そこが装甲がもっとも脆弱な部分になってしまうのだ。

 プラズマメーサーキャノンが粉々に砕かれ、そればかりか鉄球がMOGERA内部にまで深く突き刺さる。

 

「メカゴジラ! MOGERAの援護を!!」

 

 メカゴジラがタイラントの背後に回り込み、再び攻撃を開始しようとする。しかしその時、タイラントは渾身の力で身体ごと左手を振るった。

 鎖によって繋がれた鉄球、そしてそれをめり込ませたMOGERAがそれに引きずられ宙を舞った。ロボット怪獣であるMOGERAは途方もない重量を誇るはずなのに、タイラントはそれを放り投げたのである。

 そしてそのMOGERAの先には……。

 

「メカゴジラ!?」

 

 投げつけられたMOGERAを叩きつけられ、メカゴジラが吹き飛んだ。

 衝撃ともうもうと立ち込める土煙、その向こうには折り重なるように倒れたメカゴジラとMOGERAの姿があった。

 MOGERAは鉄球の直撃によって内部機構に深刻なダメージを負っていた。メカゴジラの方も、MOGERAという超重量による衝撃によって装甲がところどころ吹き飛んでいる。2体とも体中から不規則なスパークの火花を散らせ、黒煙を上げていた。

 タイラントはそのまま狙いをジェットジャガーに変える。耳のような器官が発光したかと思うと、そこからアロー光線が連続して放たれていた。

 まさしく斉射とも表現できそうな勢いの攻撃が連続して地面に着弾し、派手な爆発が巻き起こる。そして、さして装甲の厚くないジェットジャガーはその衝撃によって吹き飛ばされ、地面に転がった。

 

「つ、強い……!?」

 

 数の差をものともしないタイラントの強さに、絵美の背に冷たいものが伝った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 透明の羽根を持ち、多くの触手を携えた赤い怪獣『イリス』……その力は圧倒的だった。

 イリスに向かっていったのは、翔のアンギラスとラドンである。

 

 

 フォォォォォン!!

 

 

 猛然と突進したアンギラスは、そのまま身体を丸めると必殺の『暴龍怪球烈弾(アンギラスボール)』となってイリスに向かって飛び掛かる。

 しかし、イリスはそれを素早い動きでヒラリとかわした。

 

 

キシャァァァァァァァァ!!

 

 

 だが、その瞬間に空からラドンの援護のウラニウム熱線がイリスに突き刺さった。その衝撃に、イリスは空のラドンを見上げる。そして、その大量の触手を空のラドンへと向けた。次の瞬間、文字通りその大量の触手が火を噴く。触手1つ1つが砲門となり、濃密な対空砲火となってラドンに襲い掛かったのだ。

 予想外の攻撃に、ラドンは対応が追い付かなかった。イリスから放たれた火球が2発3発と直撃していく。

 ラドンの防御力は決して高い方ではない。その攻撃にラドンは耐えきれず、地面に向かって真っ逆さまに墜落した。血の混じった泡をブクブクと口から吐くラドン。そんなラドンにトドメとばかりにイリスは触手を向けた。

 放たれる濃密な火球の弾幕。しかし仲間の危機に飛び込んだアンギラスが、ラドンに覆いかぶさるようにしてそれを受け止めた。ゴジラすら超えるアンギラス自慢の背中の甲羅は、その火球の弾幕にも微塵も揺るがない。

 それを見て、イリスは火球では威力不足だと感じたようだ。今度は触手に、火球とは違う光が灯る。そして、それは放たれた。

 まるでレーザーのようにも見えるそれは、アンギラスの強靭な装甲を傷つけ、鮮血が流れる。それはギャオスの必殺技ともいえる『超音波メス』だ。それが大量の触手から、弾幕のごとき密度で放たれたのだ。

 その鋭利な切れ味が、アンギラスの分厚い装甲を少しずつ削っていく。

 

 

 フォォォォォン!!?

 

 

 血を流し、苦悶の咆哮を上げるアンギラス。しかしラドンを守るために動くわけにはいかない。

 アンギラスは血塗れになりながらも、その攻撃にジッと耐えていた。

 アンギラス単体での逆転はもはや不可能、せめてラドンの回収さえされれば幾分やれることもあるのだが……その時、アンギラスの主である翔は手一杯の状態だったのである。

 それは……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「やれ、ゴジラァァァ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の怒りが乗り移ったかのように、ゴジラもまた今までに聞いたことのないほどの鋭い咆哮を上げて目の前の敵……デストロイアに突進していく。

 ゴジラの体重の乗った体当たり、しかしデストロイアはそれに真正面からぶつかると受け止めるどころか跳ね返すような勢いで押し流す。まさしく化け物じみたパワーだ。

 だが、そのくらいなら翔も予測済みだ。

 

「今だ! 体内放射をブチかませ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラの至近距離での必殺技、『体内放射』が炸裂した。

 並の怪獣なら一撃で致命傷、タイラントクラスの強力怪獣ですら派手に吹き飛ぶだけの威力を有しているそれの直撃を受けたデストロイアは……。

 

「何……だと……!?」

 

 2、3歩後ずさった。ただそれだけである。

 ダメージなど微塵も感じられない。それどころか……どこか活発さを増しているようだ。

 翔は知る由もないことだが、『デストロイア』は熱エネルギーに反応し、身体機能を活性化させるという特性を持っている。つまり熱エネルギーを受ければ受けるほど活発になっていくのだ。それはつまり、熱エネルギー攻撃を中心とした相手には一方的な戦いができるということに他ならない。タイラントの『吸収』やメカゴジラの『反射』を足したような、『吸収・強化』という厄介すぎる特性を持っているのだ。

 

 

 グォォォォォ!!

 

 

 活性化したデストロイアが咆哮を上げると、その角が怪しく輝き出す。

 そしてその角が振り下ろされると、鋼鉄の刃すら傷一つ付けることの叶わないゴジラの強靭な皮膚が切り裂かれ、火花が散った。

 そのあまりの衝撃に、たたらを踏むゴジラ。

 ただの格闘戦は不利だとゴジラはその尻尾をデストロイアに叩きつけようと振るう。しかしその尻尾は同じくデストロイアの尻尾と空中でかち合い、弾き返された。

 そのままデストロイアの尻尾はまるで蛇のようなしなやかさをもってゴジラに襲い掛かる。デストロイアの尻尾の先端は、まるでクワガタのように左右に開閉する。それによってゴジラの首を掴んだのだ。

 

 

 グォォォォォ!!

 

 

 デストロイアが背中の悪魔のような羽をはためかせる。ゴジラの超重量がゆっくりと宙に浮き始めた。

 ゴジラはデストロイアの尻尾を外そうともがくが外れない。そして完全にゴジラの身体が地面から離れたところでデストロイアは尻尾を振り、ゴジラを投げ飛ばした。

 大きく吹き飛ばされ体勢を崩すゴジラは、何とか立ち上がるもののそのダメージは決して小さいものではない。

 そんなゴジラの正面に降り立ったデストロイア。そしてその口の周辺に青白い発光現象が起こり始める。その光景に、翔にはうっすらと覚えがあった。

 目の前で父を殺し、街の人々を塵も残さず消し去った、あの光線だ。

 

「やばい!!?」

 

 しかし、もう遅い。

 デストロイアから光線が放たれ、それがゴジラに直撃した。

 オキシジェン・デストロイヤー・レイ……対象の分子間に入り込み、物質を完全に破壊し尽くすという『オキシジェン・デストロイヤー』を光線化して放つという最大級の必殺光線である。

 

 

ガァァァァァァ……

 

 

 そのあまりの威力にゴジラが揺らぎ、そして……。

 

「ご、ゴジラぁぁぁぁぁ!!?」

 

 ゴジラの巨体がドウっと倒れ込む。

 

 

 グォォォォォォォォォォ!!

 

 

 デストロイアの勝ち鬨の雄たけびが響き渡った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「バカな……あのゴジラが手も足も出ないなんて……」

 

 父の仇であるデストロイアの圧倒的な力の前に、ゴジラは倒れ伏した。

 ラドンとアンギラスも、もうやられる寸前だ。絵美の方もメカゴジラたちは3体とも、タイラントによって大破寸前の状態である。

 勝ち目を見出すことがまったくできない状況だ。

 

「しょ、翔……これ以上はもう……」

 

 不安そうな絵美の声に、翔は我に返る。

 このままでは本当に負ける。そして、怪獣使いが使役するすべての怪獣を失った時にはどうなるのか、それは早坂勝の一件ですでに知っていた。

 死んでは父の仇はとれない。どうあってもここで死ぬわけにはいかない。翔も絵美も、逃げの手段を考える。

 そのとき、再び『教授(プロフェッサー)』が2人へと話しかけてきた。

 

「やはり君はつよいですね、翔くん。

 私のデストロイアとここまで戦えるとは……並の怪獣なら最初の角の一撃……『ヴァリアブル・スライサー』だけで勝負は決していたはずですよ。

 そちらのお嬢さんも私のタイラントを相手に、お見事な連携攻撃でした。

 やはり惜しい。

 お二人とも、やはり私の同志になってくれませんか?」

 

 そう言って大仰に手を広げる『教授(プロフェッサー)』。

 この圧倒的な力の差を見せつけられては、もはや屈するほかない。

 しかし……。

 

「……ふざけんな」

 

 翔のポツリと呟く言葉に反応するように、倒れたゴジラが立ち上がった。ボロボロになりながら、しかし闘志はいまだ萎えていない。

 翔と同じく、まるで『親の仇』でも見るかのようにゴジラはデストロイアを見る。

 

「俺たちのすべてを炎の中で塵に変えて訳わかんねぇ理屈並べ立てて……それで仲間になれだと?

 お前は! お前だけは!! お前だけは!!!

 絶対にブチ殺す!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の燃え滾るような怒りに呼応するように、ゴジラが雄たけびを上げた。

 そして、そんなゴジラに変化が現れる。

 ゴジラの内側から連続して光がほとばしる。そして徐々にその光が青から、燃え滾るような灼熱の赤に変わっていく。

 そして、それに合わせるようにゴジラの体色が変わっていった。

 その黒い身体のところどころに、まるで煮えたぎるマグマを思わせる真っ赤な色が浮かび上がる。

 そしてゴジラはその真っ赤な、血走った視線をデストロイアへと向けた。

 

「やれ、ゴジラァァァァァ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ゴジラの咆哮、そして放たれるのはマグマの如き灼熱の光線だ。今まで幾多の怪獣たちを葬ってきた必殺光線、バーンスパイラル熱線を遥かに超える熱量と貫通力。それがデストロイアに迫る。

 しかし、その光線の狙いは微妙に外れていた。

 その光線は、デストロイアの顔の右を通り過ぎる。そのときに、デストロイアの顔面横の強靭な皮膚を吹き飛ばしていた。

 

 

 グォォォォォ!!?

 

 

 蛍光色の血を滴らせ、苦悶の悲鳴をデストロイアが上げた。

 熱を受ければ受けるだけ活性化するはずのデストロイアが、処理できないほどの光線熱量によって焼かれたのだ。

 

「……ぐぅ」

 

「翔!?」

 

 何かを吸い取られるような疲労に立っていられなくなった翔が倒れかかり、それを絵美が慌てて支えた。

 その後ろでは同じく、力をすべて出し切ったように元の黒の身体に戻ったゴジラが膝をついている。

 

 

 グォォォォォ!!?

 

 

 よほどの痛みなのか、デストロイアはいまだに苦悶の悲鳴を上げていた。

 しかし、自身のエース怪獣に大きなダメージを負わされたというのに『教授(プロフェッサー)』の顔に怒りは無かった。

 そこにあったのは……『歓喜』だ。

 

「まさか、まさかまさか!

 瞬間的にとはいえ『レイオニックバースト』にまで辿り着くとは!

 翔くん、やはり君は素晴らしい!!

 やはり、やはり君は私の同志になるべきだ!!」

 

「勝手……ぬかしてんじゃ……ねぇ……」

 

 怒鳴りつけてその耳障りな歓喜の声をかき消してやりたいが、息も絶え絶えでそれも出来ない翔。

 そこに新たな声が響いた。

 

「『教授(プロフェッサー)』……」

 

「おお、千晶くん!」

 

 そこにいたのは女だ。歳は翔や絵美と同じくらい、肩までの銀髪が特徴的な美人である。しかしその目はどこか虚ろで、その感情の底が見えない不気味さがその美貌の中には漂っていた。

 その手の中には怪獣使いであることを示す、バトルナイザーが握られている。

 

「こちらは終わりました。

 それに……皆さんも到着です」

 

 そして千晶と呼ばれた女がその背後を指すと、そこには4つの人影あった。

 それは全員男。

 1人は20代前半から後半と思われる、黒づくめの鋭い目つきの男だ。

 もう1人は明らかに10に届くかどうかという男の子。そして残り2人は翔たちと同じくらいの歳の同じ顔……双子である。

 全員が、怪獣使いである証のバトルナイザーをその手にしていた。

 

「千晶くん、そちらはどうだったかな?」

 

「予定通り、私のブルトンに『サタニウム』のエネルギーを吸収させるのは終わりました。

 ただ……残念ながら『EX化』には至りません」

 

「そうですか……。

 何、時間はいくらでもあります。焦らず行きましょう。

 次は『ルビークリスタル』か『テキスメキシウム』にでもしましょう」

 

 にこやかに『教授(プロフェッサー)』は言うと、「それよりも」と翔たちを指した。

 

「彼らを同志として迎え入れたいのですが、なかなか「うん」と言ってくれずに困っています。

 何かいい手はないでしょうか?」

 

「私たちの仲間に、ですか……?」

 

 そして、その場のすべての視線が翔と絵美に集中した。

 

「そんな……新手が5人も……」

 

「くっ……」

 

 状況はあきらかに最悪だ。

 『教授(プロフェッサー)』だけでも手に余るというのに、新手の怪獣使いが5人である。傷ついた2人の怪獣たちでは、勝つことはおろか逃げることも難しい。

 だが、その場の混沌はそれだけでは済まなかった。

 

「悪いがスカウトの交渉権はこちらが先だ、『教授(プロフェッサー)』!!」

 

 その言葉とともに、翔と絵美の頭上を影が覆う。何事かと見ると、そこにはいつぞやの極彩色の羽根を持つ、蛾の怪獣の姿があった。

 

「来い、ガメラ!!」

 

 

 キュォォォォォォォン!!!

 

 

 掛け声とともに現れたのは、これまた以前ゴジラと互角の戦いを演じた、あのカメのような怪獣だ。

 そして、蛾の怪獣から2つの影が翔と絵美の前に降り立つ。

 

「お前らは……」

 

 それは以前に戦った、あの怪獣使いの男女だったのである。

 その2人とも旧知なのか、『教授(プロフェッサー)』はにこやかに対応した。

 

「おや、栄一くんに雅さんではありませんか?

 あなた方も気が変わって、私の同志になってくれるのですか?」

 

「相変わらずだな……。

 あいにくと気は変わってもいなければ、気が違ってもいない。

 お前のようなやつの同志などなる気は無い」

 

「ではどんなご用事で?」

 

「貴様を倒しに……といいたいところだが、無理だろうな。

 本当なら『ブルトン』だけでも倒したかったが……今日はこいつらのスカウトだ」

 

そう言って翔と絵美を顎で指す栄一。

 

「横取りですか? 関心しませんね……」

 

「目を付けたのはこっちが先だ。

 それに……『宇宙の支配者』うんぬんの話を知らない以上、こいつらは最初から『こっち側』の人間だ」

 

 『教授(プロフェッサー)』と栄一の話の内容に、翔と絵美はついていけずに困惑するばかりだ。

 そんな2人のもとに女……手塚雅が近付いてくる。

 

「大丈夫ですの?」

 

「……あんたは?」

 

「わたくしは手塚雅。

 あそこにいる栄一さんと同じく、『教授(プロフェッサー)』たちに敵対する者ですわ」

 

 そう言って差し出された手を、絵美は胡散臭げに見返す。

 

「あんたたちも微妙に信じられないわね。

 なんたって、いつだかいきなり私たちに襲い掛かってきたんだから」

 

「すみません。

 あの時はお2人が『教授(プロフェッサー)』の仲間だと疑っていたもので……」

 

 絵美の言葉に、どうも自覚はあるらしく雅もすまなそうな顔をした。

 そんな時、倒れかかっていた翔が言う。

 

「……行くぞ、絵美」

 

「いいの、こいつら信じて?」

 

「このままじゃどちらにしろ、俺たちだけじゃ逃げられない。

 だったら、こいつらに着いて行ったほうがマシだ。

 あの野郎に……『教授(プロフェッサー)』の野郎のところだけは死んでもごめんだね」

 

「……話はまとまったな」

 

 その様子を窺っていた栄一が、ちらりと2人を見る。

 

「そういうわけで、こちらのほうで連れて行く。

 今回は運が無かったな、『教授(プロフェッサー)』」

 

「うーん、さすがにそれは紳士的ではないのではないですか?」

 

「知るか。 雅!!」

 

「はい、栄一さん!!」

 

 栄一の言葉に答えるように、雅の使役するモスラが大きく羽ばたき、金色の燐粉がまき散らされる。

 

「来い、バトラ!!」

 

 そして間髪いれずに栄一が2体目の怪獣を呼び出した。それはモスラと近い形をした、巨大な蛾のような姿だ。モスラと同じく、羽は良く目立つ派手な色彩をしている。モスラと比べると全体的に黒くゴツゴツと角ばっており、顔も非常にいかつく攻撃的だ。

 これがモスラの亜種ともいえる戦闘特化型バトルモスラ、『バトラ』であった。

 

「バトラ、プリズム光線だ!!」

 

 

 ギュォォォォン!!

 

 

 バトラの目から、極彩色の光線が放たれた。

 それが先ほどのモスラの燐粉によって広範囲にわたって拡散し爆発する。

 

「『教授(プロフェッサー)』!!」

 

「大丈夫、見た目が派手なだけのただの目くらましですよ」

 

 その爆発に慌てて『教授(プロフェッサー)』を庇いに行こうとする千晶だが、それをやんわりと『教授(プロフェッサー)』は制する。

 その言葉通り、その爆発の土煙が消えた後には誰も残っていない。

 翔のゴジラたちも、絵美のメカゴジラたちもすべて消えている。そして、空の彼方にはずいぶんと距離の離れたモスラの姿があった。

 

「……追いますか?」

 

「別に追う必要はありません」

 

 バトルナイザーを構える千晶の問いに、『教授(プロフェッサー)』は首を振る。

 

「次に会う時には同志になってくれるかもしれない、明日の友人たちです。

 それより、私たちは次の目的地に行きましょう」

 

「わかりました……」

 

 曇り一つない、微笑みすら浮かべた『教授(プロフェッサー)』の言葉に、千晶は素直に従ってバトルナイザーを下ろす。

 すでにモスラの姿は、視界の空どこにもなかった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 モスラはしばらく飛び続けると、海岸沿いにゆっくりと降下した。

 モスラが光の粒子とともに消え去ると、そこに残ったのは4人の男女だ。

 

「……一応、初めましてというところか。

 俺は草薙栄一、お前たちと同じく怪獣使いだ」

 

「改めまして。

 わたくしは手塚雅、同じく怪獣使いですわ」

 

「……俺は芹澤翔だ」

 

「三枝絵美よ」

 

 未だ急激な疲労が抜けず絵美に身体を支えられたまま、翔は目の前の2人と話す。

 

「……ありがとよ、助かった。

 正直、あの時の俺たちじゃ、あのクソ野郎はどうしようもなかった……」

 

 父の仇である『教授(プロフェッサー)』に完敗した悔しさから、憎々しげに翔が言う。

 

「もっとも、本当に助かったのかは疑問だがな」

 

「以前襲い掛かったことは悪かった。

 あの時は『教授(プロフェッサー)』の仲間じゃないかと疑っていたのでな」

 

「あの時はごめんなさいね」

 

 2人に向かって皮肉を言うと栄一は肩を竦め、雅の方はすまなそうに言ってくる。

 

「あの戦いの一件や今日の『教授(プロフェッサー)』との戦いで、お前らは奴らの仲間ではないとわかった。

 それどころか……反応からして、どうやら『こっち側』だということもわかった」

 

「『こっち側』? それはどういう……?」

 

 そうして疑問を口にするが、栄一は手でその言葉を制する。

 

「疲れているのだろう? 話の続きは『中』でしよう」

 

「『中』?」

 

 奇妙な言い回しに翔と絵美が小首を傾げる。

 そのとき、視線の先の海が盛り上がっていく。すわ怪獣かと身構える翔と絵美。

 そこに現れたものは……それは巨大なドリルを装備した巨大戦艦だった。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「あんな巨大兵器、見たことも聞いたこともないわ!?」

 

 トレイダー稼業で色々なものを見る機会の多い2人、しかも物の価値を判断するためにも必要なため、実は武器・兵器など幅広い分野にかけてかなり博識だったりする。

 しかし、目の前のドリル戦艦はそれらの知識を持ってしても見たこともなければ聞いたこともない。

 

「ようこそ。

 俺たちの艦、『轟天号』へ」

 

「お2人とも歓迎いたしますわ」

 

 そんな驚きを露わにする翔と絵美に、栄一と雅は幾分芝居がかったように言うのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次回の大怪獣バトルレジェンドは

 

「初めまして、私はこの『轟天号』の艦長、神宮寺だ」

 

「どこへ向かってるんだ?」

 

「我々の拠点、緯度0島……『ヴィンセント島』だ」

 

「すげぇ!」

 

「まさかこんな都市がこの世界にまだ残ってたなんて……!?」

 

「これから2人にはある人と会ってもらう……」

 

「何だこれは……。 これは……巨人か?」

 

『私の名は……ウルトラマン』

 

 

次回、大怪獣バトルレジェンド第10話『緯度0の島 ヴィンセント島へ』

 

 

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第9話怪獣紹介

 

 

フランケンシュタインの怪獣『ガイラ』

出典:フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ

 

解説:緑色の体毛とウロコに覆われた、完全に人型の怪獣。怪獣というよりは巨人。海をその住処としており、船や港町を襲い人間を捕食していた。

   四国へ行くための船を出させるために討伐が必要となり、絵美のジェットジャガーにより倒される。

   その怪力を最大の武器とする。

 

   『原作』では人肉食の獰猛な怪獣として、捕食シーンがしっかりと映像化されているためにトラウマになっている人も多いのではなかろうか?

   実は作者も、子供のころに見てトラウマになりかけた怪獣である。

   またガイラを語るうえで外せないのは、東宝の定番超兵器シリーズである『メーサー』が初めて登場したことだろう。

   様々な意味で印象を残す怪獣である。

 

 

 

暴君怪獣『タイラント』

出典:ウルトラマンタロウ他

 

解説:とてつもなく強力な怪獣。

   全身が様々な怪獣の特徴的なパーツで構成されており、それを継ぎ合わせたまるでフランケンシュタインの怪物のような造形をしており、一度見たら忘れられない。

   本作のラスボスである『教授(プロフェッサー)』の使役怪獣の1体。

 

   まさに『ぼくのかんがえたさいきょうのかいじゅう』を地で行く合成怪獣。ウルトラ怪獣において最強の一角としても名高い。

   ウルトラ兄弟たちを普通に圧倒する戦闘能力のためその後もいわゆる『ボスキャラ』として登場することが多い、人気怪獣である。

 

 

 

邪神『イリス』

出典:ガメラ3 邪神覚醒

 

解説:スラリとシャープな体型をした、人型に近い形状をした怪獣。両腕が槍状の手甲であり、多数の伸縮自在の触手を携えている。

   その触手は相手の遺伝子を吸収し成長するための『口』であると同時に、『超音波メス』などを放つための『砲口』でもある。

   ギャオスの必殺技である『超音波メス』を放つことからも分かる通り、実はギャオスの亜種にあたる。

   本作のラスボスである『教授(プロフェッサー)』の使役怪獣の1体。

 

   平成ガメラにおけるラスボスといっても過言ではない怪獣。

   とても美しい形状をしているのだが……触手での人間の捕食描写など、トラウマシーンを大量に量産してくれた。

   怪獣に少々打たれ弱さの目立つガメラシリーズのご多望に漏れず、『原作』ではガメラの『バニシングフィスト』の1発直撃で沈んでいるものの、その戦闘力は完全にガメラを上回っており、まさにガメラ最大の敵である。

 

 

 

完全生命体『デストロイア』

出典:ゴジラVSデストロイア

 

解説:『悪魔』のような形状をした赤い怪獣。本作の主人公、芹澤翔の父を殺した犯人であり、本作のラスボスである『教授(プロフェッサー)』の使役怪獣の1体にしてエース怪獣。

   その戦闘能力は圧倒的で、すべての攻撃が並の怪獣であれば一撃で致命傷になるほどに重い。

   特に最大の必殺技である『オキシジェン・デストロイヤー・レイ』は如何なる物体も分子結合のレベルから破壊する、まさしく必殺技である。

 

   ゴジラの『VSシリーズ』におけるラスボスであり、ゴジラ怪獣最強の一角として必ず名前の上がる怪獣。

   初代ゴジラに使用され、歴代で唯一ゴジラを殺した兵器『オキシジェン・デストロイヤー』を使いこなすという、ゴジラにとっては天敵ともいえる怪獣である。

   『原作』では、ゴジラも最強の形態である『バーニングゴジラ』となっていたためゴジラに敗れ去ったが、ゴジラが普通のままならゴジラに勝ち目は無かっただろう。

   それほどに強大かつ、人気の怪獣である。

 

 

 

戦闘破壊神『バトラ』

出典:ゴジラVSモスラ

 

解説:巨大な蛾の怪獣。その形状からも分かるが、モスラの亜種ともいえる存在であり、より戦闘に特化した『バトルモスラ』。

   極彩色の羽根と黒く厳つい体つきをしており、モスラとは逆に刺々しい印象を受ける。

   必殺技は目から放たれるプリズム光線。怪獣使い『草薙栄一』の第2の怪獣である。

 

   モスラと同じく地球の守護神的な立場の怪獣ではあるが、モスラが『守護』なのに対し、バトラは『破壊』を司る『荒ぶる神』という立ち位置。

   そのため、地球にとって害悪と判断したものを容赦なく破壊し尽くす。

   『原作』では過去にモスラとの戦いに敗れ封印されていたが、復活後にゴジラとの戦いのためにモスラと和解するなど、『ゴジラVSモスラ』の見どころの一部だったりする。

   極度のツンデレという説も……。

 

   ゲームなどで登場することも多いが、結構な確率でプレイヤーにトラウマを植え付けるトラウマメーカー。

   SFCの『超ゴジラ』では2体と戦わなければならない上、ハイパー放射熱線以外の攻撃があたらないという仕様。

   同じくSFCの『ゴジラ大怪獣決戦』ではモスラのガード不可超必殺技に登場。

   そしてセガサターンの『ゴジラ列島震撼』ではラストステージを超える、最強のトラウマステージの番人として登場し、多くのプレイヤーをクリア不可に追い込んだ。(Gフォースのみの戦力で、怪獣同士の同志討ちが基本的になし。頼みのスーパーメカゴジラはNPCのため役に立たず。おまけに2体のバトラの幼虫+成虫の『都合四体の怪獣を人類戦力だけで撃破せよ』という無茶仕様)

   良くも悪くも印象に残る怪獣である。

 

 

 

四次元怪獣『ブルトン』

出典:ウルトラマン他

 

解説:手足が無く、形状が完全に『テトラポッド』や『岩でできた心臓』という姿の特異な怪獣。

   体から『四次元繊毛』という器官を出し、それによって時空間に干渉し様々な『四次元現象』を巻き起こして攻撃をする。

   『教授(プロフェッサー)』の同志である女怪獣使い『寺沢千晶』の使役怪獣の1体。どうやら『教授(プロフェッサー)』の企みの無くてはならない存在らしいが……?

 

   あまりに特徴的で一度見たら決して忘れられない怪獣。

   怪獣が動物型でも人型でもなく、岩のような無機物でもいいという『怪獣』の幅を広げた第一人者。

   また『空間を操る』という特殊能力のため、その後の作品でも何度も登場し物語の設定の重要なカギであることが多く、重要な存在である。

   当然、この作品においてもその存在は重要な意味を持つことになる。

 

 

 

超エネルギー物質『ジャパニウム』

出典:マジンガーZ

 

解説:富士山麓でのみ採掘可能という物質で、超エネルギーを生み出すものらしいが……?

   翔たちの故郷を襲ったのはこれが原因だったらしい。

 

   『マジンガーZ』シリーズの光子力エネルギーのために必須の物体。その研究と採掘のための施設が光子力研究所らしい。

 

 

 

超エネルギー物質『サタニウム』

出典:仮面ライダーV3

 

解説:四国において採掘されるという物質で、超エネルギーを生み出すものらしいが……?

   今回四国に『教授(プロフェッサー)』たちが来ていたのはこれが原因だったらしい。

 

   『仮面ライダーV3』において悪の秘密結社『デストロン』が手に入れようとしていた物質。

   マンガの『仮面ライダーSPIRITS』でも四国を月にまで吹っ飛ばしても採掘しようとしていたあたり、物凄い物質だったらしい。

 

 

 

超エネルギー物質『ルビークリスタル』

出典:トランスフォーマーG1

 

解説:ミャンマーにおいて採掘されるという物質で、超エネルギーを生み出すものらしいが……?

 

   トランスフォーマーシリーズの第一期において登場した超エネルギー物質。赤い水晶のような形状をしており、これだけでセイバートロン星のエネルギーを賄えるらしい。

   同話は有名な『コンボイ司令官の崖落ち』の話のため、知っている人も多いのではないだろうか?

 

 

 

超エネルギー物質『テキスメキシウム』

出典:ガンヘッド

 

解説:超エネルギーを生み出す物質らしいが……?

 

   特撮ロボット映画『ガンヘッド』に登場した超エネルギー物質。『原作』の舞台となったカイロン5の全力稼働に必須らしい。

   小説版では『テキスメキシウム』を手に入れたカイロン5は地球を破壊可能だと説明されており、とんでもないエネルギーを生み出す物質だったようだ。

 

 

 




RPGで言うところの負けイベントでした。
書いてて思ったけど……この3体はもう別次元でつえぇ……。

次回はまるまる説明回の予定。

次回もよろしくお願いします。


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第11話 緯度0度の島 ヴィンセント島へ(前編)

リアルが忙しく、久方ぶりの更新です。



 輸送用のへリから甲板に降り立った翔と絵美は辺りを見渡す。

 

「こいつあすげえ……」

 

「こんなの見たことないわ……」

 

 翔と絵美は改めて、このドリル戦艦『轟天号』の威容に感嘆の声を上げた。

 

「お気に召してくれたかな?」

 

 そんな2人は声のした方を振り向くと、そこには軍服のようなものを着た40~50ほどの男が立っていた。

 柔和そうな笑顔を見せているが、その内に秘めた精惇さが溢れ出ている。まさに『戦う海の漢』といったところか。

 

「あんたは?」

 

「この艦、海底軍艦『轟天号』の艦長の神宮寺という。

 本艦への乗艦を歓迎しよう」

 

「ああ、ご丁寧にどうも」

 

 翔は少々ぎこちない動きで、神宮寺から差し出された手を握ったのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 絵美に支えられた翔は、神宮寺艦長の案内で『轟天号』内部を歩いていた。

 軍艦だというのに思った以上に広く明るい内部に、2人は物珍しそうにあたりを見渡す。その様子に神宮寺に言った。

 

「こういう艦に乗るのは初めてかね?」

 

「ああ……というか普通は初めてだろ?

 水中に潜れるような戦艦なんて……」

 

 翔はさきほど水中から浮上してきた『轟天号』を思い出しながら言うと、神宮寺は苦笑交じりに言った。

 

「水中程度なんて序の口だよ。

 この『轟天号』は空中飛行に地中潜航が可能な、陸・海・空のすべてをゆく万能戦艦だよ」

 

 その言葉に絵美が驚きの声を上げる。

 

「そんな馬鹿な! そんなことができるエネルギーなんて一体どこから……」

 

「この『轟天号』には『重力炉』という、高出力の永久機関が搭載されていて、その超エネルギーがそれを可能にしているんだよ」

 

 そんな信じがたい話に、翔はヒュゥと口を鳴らす。

 

「……とんでもねぇな。

 おまけにさっきから全然人とすれ違わないところを見ると、かなり高度な自動化がされてるんだろ?」

 

「……鋭いね。

 この艦の乗員は153名、ほとんどの部分は自動化がされているよ」

 

 神宮寺が示した人数はこの規模の巨大戦艦にしては少なすぎる人数だ。それはよほど高度なコンピューターに支えられているという証拠である。

 

「聞いたことのない技術ばっかり……。

 こんな高度な兵器が、怪獣どもに荒らされた地球にまだ残っていたなんて……」

 

 そんな絵美の感嘆の声に、神宮寺は少し肩を疎めた。

 

「もっとも、この本艦の力を持ってしても怪獣相手は1体2体の相手が精々だがね。

 怪獣は色々と規格外だよ」

 

「だからこそ、そのときには俺たちのような『怪獣使い』の出番だ」

 

 神宮寺の言葉に、翔たちの後ろを歩いていた栄一が言った。

 やがて、一行は一つの部屋の前に辿り着く。

 スライド式の自動ドアを開くと、そこには2つのベッドの並んだ個室だ。奥にはユニットバスが備え付けられており、居住環境はかなりいい。

 

「目的地に着くまではこの部屋を好きに使ってくれていい。

 食事は後で運ばせよう」

 

「ああ、ありがとうよ」

 

 そう言って部屋に入る翔と絵美、その途中肩越しに翔は振り返ると聞いてみた。

 

「この艦はどこに向かってるんだ?」

 

 それには神宮寺のかわりに栄一が答える。

 

「目的地は緯度0度の島……俺たちの拠点、『ヴィンセント島』だ」

 

 それだけ言うとスライドドアが閉まる。

 室内には翔と絵美の2人だけだ。

 

「さて……と……」

 

 絵美に支えられながらベッドに腰掛けた翔、絵美も対面にあたるベッドのふちに腰掛ける。

 

「翔、どう思う?」

 

「どうも何もなぁ……」

 

 この連中が信用できるのかと言外に問う絵美に、翔は仰ぐように天井を見る。

 

「今のところ選択肢なんてないだろ?

 俺たちの荷物はこれだけ、あとはすっからかんだ」

 

 そう言って2人はいつも背負っているバックパックを降ろす。当然ながらハンヴィーは捨ててきたため、そこに残っていた荷物はすべて無い。

 翔はバックパックの中に一番大切な、父との写真が入っていることにホッとしながらバックパックを床に下ろす。

 

「それに……この状態じゃなぁ……」

 

「……そうよねぇ」

 

 翔が取り出したバトルナイザーを見つめながら言うと、同じく絵美もバトルナイザーを見つめながら領く。バトルナイザーにはお互いの相棒たる怪獣たちがいるが、『教授(プロフェッサー)』との戦闘を経た怪獣たちの怪我はひどい。

 

 まず翔のアンギラスとラドンは、瀕死といってもいい重傷を負っていた。

 そして翔のエースであるゴジラも酷い深手を負い、昏々と死んだように眠り続けている。

 絵美の方も、内部機構をズタズタにされたMOGERAは大破、MOGERAを叩きつけられたメカゴジラも、装甲やメインフレームにまでのダメージを受け中破以上の状態だ。

 2人とも見事なまでにボロボロである。

 唯一、絵美のジェットジャガーが比較的損傷が軽く戦闘も可能な状態だが、ジェットジャガーだけでは戦力として心もとないのが本音だ。

 

「どっちにしろ、俺たちもゴジラたちも少し休まないと動けもしない。

 もう今は休めるだけ休んで 、なるようになることを祈るしかないな」

 

「そうね……」

 

 2人は揃ってため息をついた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あの2人の様子は?」

 

「シャワーで簡単に汗を流した後、すぐに横になりましたよ」

 

「ほぅ……」

 

 ブリッジに入った神宮寺がクルーに問うと、返ってきた答えに感心といった感じで神宮寺が言う。

 

「あの状態では休養は必要だろうが、それを敵地かもしれん場所でできるのは凄い。

 あの若さでそれができる胆力はなかなかのものだ」

 

「あるいは何も考えていないだけかもな」

 

「栄一さん、さすがにそれは無いのでは?」

 

 神宮寺の感心の言葉に対する栄一の言葉を冗談の類と受け取り、雅が品よくコロコロと笑う。

 一しきり聞を置いて、艦長席に座った神宮寺は栄一と雅に問う。

 

「彼らは我々の味方かな?」

 

「『光の巨人』と引き合わせなければ、まだ断言はできないが……」

 

「『宇宙の支配者』や『レイオニクス』についての知識の無さ、そして『教授(プロフェッサー)』たちと敵対していますし十中八九、かなり高い確率で『こちら側』だと思いますわ」

 

「もっとも『教授(プロフェッサー)』との敵対に関しては、個人的な怨みみたいだった

がな」

 

「どちらにしろ島に着かなければ何とも言えんか……。

 507! 状況はどうだ!」

 

 その言葉に、どこからともなく機械音声が答えた。

『OKボス。

 機関・ 船体ともに問題なし』

 

 『轟天号』のメインコンピューターである『GH507』の答えに神宮寺は領くと、艦長席から立ち上がってブリッジに指示を響かせる。

 

「これより本艦はヴィンセント島に帰還する! 出航!!」

 

「「了解!」」

 

 ブリッジクルーがあわただしくコンソールを操作しだし、『轟天号』はゆっくりとその巨体を進ませ始める。

 『轟天号』は順調にゆっくりとした航海で2日後、ある島へと辿り着いた。岩山や手付かずの密林の残る、パッと見では未開の島である。

 『轟天号』はその外周に辿り着くと、潜航を開始した。すると、どう見ても海底としか見えなかったそこが割れると、明らかな人工物が現れた。それは偽装された艦艇用のドックだったのである。

 そのドックの中に『轟天号』は入り込むと、ゆっくりとハッチが閉まっていく。後には変わらぬ海底がそこにあるだけだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「すげぇな、これ」

 

「ホントよね……」

 

 翔と絵美は辺りを見渡しながら、もう数えるのも馬鹿らしくなるくらいの感嘆の声を上げる。

『轟天号』の入ったドックでは、『轟天号』が固定されると人が忙しなく動き回り、『轟天号』の整備に取りかかっている。その光景は翔の父がまだ健在だったころ……怪獣たちが現れる前の自衛隊の様子のように見え、何とも言えない懐かしい思いが去来した。

そんな2人の後ろから、神宮寺と栄一、そして雅の3人が声をかけた。

 

「『轟天号』の旅はどうだったかね?」

 

「ええ、とっても快適だったわ」

 

「風呂に入れてベッドに寝れて、おまけに飯まで出てくる。

 ここは天国かと思っちまったぜ」

 

 『轟天号』の艦内での環境は、この怪獣によって荒廃した世界のものとは思えないほどのものだった。

 その言葉に幾分誇らしげに神宮寺は胸を張ると、2人に言う。

 

「すまないが、君たち2人にはどうしても会ってほしい人物がいてね。

 そこまで行ってもらおう」

 

「案内は俺と雅がする。 ついてこい」

 

「どうぞ、こちらに」

 

 すると、神宮寺の部下らしき人物が車を持ってきた。

 栄一と雅は車の運転席と助手席に、そして後部座席に翔と絵美が乗り込むと車は滑らかに動き出した。

 

「……翔、私たちをどうする気なんだと思う?」

 

「さぁな。 もう、なるようにしかならんだろう。

 たぶんイキナリお偉い誰かさんのケツにキスして忠誠を誓え、とかいう展開にはならんだろうさ。

 だからもう、俺は今は深く考えないことにした」

 

 後部座席で小声で絵美は翔に耳打ちするが、翔はもう完全に開き直り、グデンと後部座席でくつろいでいる。

 そんな2人に栄一と雅は苦笑した。

 

「お前ら、どうでもいいが丸聞こえだぞ。

 警戒も分かるがせめて聞こえないように話してくれ」

 

「わたくしたちも、あなたたちは『こちら側』なのではないかと思っていますので、そんな失礼なことはいたしませんわ」

 

 やがて車は暗いトンネルのようになった通路を抜けた。

 そこには……。

 

「うわぁ……!」

 

「なにこれ! なにこれ!」

 

 そこには光溢れる、整った街並みがあった。高層建築と道路、街には多くの人々の姿がある。その姿に、翔と絵美は興奮を隠せない。

 2人はトレイダーという仕事もあり、しかも旅をしていたことで多くの地下都市を見てきた。しかし、この地下都市はそのどれとも、文字通り『格が違う』ということを一目で見抜く。

 

 まず、この地下都市は明るい。

 普通の地下都市は薄暗い感じなのだが、ここは地上だと言われても納得できてしまえるような明るさだ。光を取り入れるための採光システムの性能が段違いなのだろうことは確実である。

 

 次に快適な空気。

 地下都市は空調・温度調整などの不備のために、寒かったり暑かったりジメジメしていたりとお世辞にも快適な環境であるとは言い難い。しかし、この地下都市はまるで初夏のようなカラリとした心地いい空気で満たされていた。

 

 そして道路や建物。

 普通の地下都市の建物や道路などは整備もおざなりでボロボロのものをだましだまし使っているが、ここは建物にも道路にもヒビの一つもない。

 

 何もかもがあり得ない次元の地下都市であった。そんな翔と絵美の驚きに、栄一と雅はどこかしてやったりといった感じだ。

 

「ここが俺たち組織『ノア』の拠点、『緯度0度の島 ヴィンセント島』だ。

 気に入ってもらえたか?」

 

「ああ、ここはすげぇ都市だ。

 他の地下都市がまるでただのおもちゃに見えるぜ」

 

「でもここ……エネルギーは大丈夫なの?」

 

 素直に褒め称える翔、絵美の方はこれらの快適な環境を生み出す設備を動かすだけの膨大なエネルギーに少し疑問を覚える。

 

「大丈夫ですわ。

 ここでは『アークリアクター』によってエネルギーを賄っています」

 

「『アークリアクター』? 聞いたことのない機関なんだけど?」

 

「『アークリアクター』は水素を無限に発生させ続ける、半永久機関ですわ。

 それによって電力を生み出し、この都市の維持や食糧生産に充てています。

 さらにその水素を加工した水素燃料は、この車を始めとしたものの燃料にもなっています」

 

「ああ、なるほど……さっきからやけに静かな車だと思ったら、水素燃料の自動車だったのねコレ」

 

「地下で空気を汚すわけにもいきませんので」

 

 雅が都市を支える『アークリアクター』の説明をし、感心する絵美。

 

「ここの人口は?」

 

「もう少しで5万人、といったところだ」

 

 一般的な地下都市など1万いれば十分、2万で結構な大都市である。そこからもこの都市の凄さがうかがえる。

 いや、それ以上に……あまりに不自然に『凄すぎる』。

 怪獣出現によって、人類の文明はかなり衰退した。今ではすでに失われてしまった技術もいくつもある。それなのにこんな、怪獣出現前よりも明らかに高度な技術の都市など普通には築くことは不可能なはずだ。

 あの『轟天号』しかり、ここの技術は不可解すぎる。

 

「……不気味に思うのも分かる。 ここは、あまりにも外とは違うからな」

 

 翔の疑問は顔に出ていたようだ。運転しながらバックミラーを覗き込んでいた栄一が言ってくる。

 

「だが、それにも理由がある。

 その辺りの話もこれからされるだろう」

 

「で、そのありがたいお話をしてくれる相手はどこにいるんだい?」

 

「もう到着だ」

 

 目的地に到着らしい。巨大なドーム状の建物……そこが目的地のようだ。

 車を降りると、ドームに足を踏み入れて行く。

 どうやら栄一と雅はここではかなり有名人のようだ。ドームの前にも当然のように衛兵のような立ち番がいたが、顔一つで通過である。

 翔たちも栄一たちが何かを説明すると、真面目な顔で敬礼してから通してくれた。

 

「……何言ったんだ、お前ら?」

 

「何、ちょっと『怪獣使い』だと教えてやっただけだ」

 

 何ともなしに栄一は言う。どうやらこの街では『怪獣使い』という存在は広く知れ渡っているようだ。それも不快ではない方向で。

 やがて、栄一たちによって翔と絵美はそこに来た。

 ドームだと思ったがこの建物は、構造としてはミサイルのサイロに近い施設だ。中は空洞になっており、外周部をぐるりとテラスのように手すり付きのタラップが囲んでいる。

 ドーム内側は薄暗く、ライトのついたタラップ部分だけが闇の中に浮き上がっていた。

 そして翔と絵美は指示されるまま、タラップがまるで広場のように突き出た場所へとやってくる。

 

「で、ここで何しろってんだ?」

 

「今、明かりをつける」

 

 言われて待つことしばし、ドーム内がまばゆい光で照らしだされる。

 そして……そこには『彼』がいた。

 

 身長は怪獣並み、胸に当たる部分にランプのようなものがついた、『巨人』である。

 そして翔と絵美の立つ場所は丁度、その『巨人』の顔の前の場所だった。

 

「こいつはっ!?」

 

「まさか怪獣!?」

 

 驚き、咄嗟にバトルナイザーを手にしながら飛び退く翔と絵美。しかし、『巨人』はピクリとも動かない。

 その時になって2人はその『巨人』が石像なのだということに気付いた。

 

「何だよ、驚かせやがって……」

 

 翔は額の汗を拭いながら、バトルイナイザーをポケットにしまおうとした。

 その時だ。

 

『驚かせてすまなかったね』

 

「「っ!?」」

 

 どこからともなく、声がした。

 それは年老いた老人のようでもあり、精悍な大人のようでもある不思議な声だ。

 それが翔と絵美の2人の、『頭の中に直接』響いたのである。

 

「翔、今のは!?」

 

「脳みそに直接響く声……テレパシーか何かか?

 一体何が……」

 

 そして、翔の視線が目の前の『巨人』へと注がれる。

 

「まさか……あんたなのか?」

 

『その通り、私は君たちの目の前の石像だよ』

 

 翔の疑問に答えるように再び頭の中に声が響き、翔と絵美は目の前の『巨人』を呆けた顔で見上げる。

 

『自己紹介をさせてもらおう。

 私の名は……ウルトラマンだ……』

 

 石像となった光の巨人『ウルトラマン』は、ゆっくりと2人に名乗ったのだった……。

 

 

 




……おかしい、怪獣が出ていない。

来週あたりには後編を投稿します。
リアルが忙しいので、10月の更新はこの作品だけになりそう。

次回もよろしくお願いします。


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第12話 緯度0度の島 ヴィンセント島へ(後編)

今回はマン兄さんから、この『世界』について語られます。


『驚かせてすまない』

 

 翔と絵美の前の巨人の石像……『ウルトラマン』は頭の中に直接響く声、テレパシーでまずは翔と絵美に驚かせてしまったことを詫びた。その柔らかい声色は、その巨大な姿とは裏腹になかなかにフレンドリーな印象を受ける。

 

「まぁ、驚いたには驚いたが……十分にあり得る話か」

 

「よくよく考えれば、人型怪獣が話しかけてきた程度の話だものね」

 

『そう言って慣れてもらえるのは、私も話しやすくて助かるよ』

 

 すぐに順応したように頷く2人に、栄一と雅は少々あきれた顔だ。『ウルトラマン』すら、その口調には苦笑の色が見て取れる。

 

「それでウルトラマンさんよ、俺たちに何か話があるのかい?」

 

『ああ、君たちにどうしても話したいことがある……』

 

「何を話してくれるんだ?」

 

 その翔の問いに、『ウルトラマン』は一呼吸おいてからはっきりと言った。

 

『どうしてこの世界に『怪獣』たちが現れたのか……この世界に起こった真実を』

 

 そして、『ウルトラマン』はその途方もない話を語り出したのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ここではない、極めて近く限りなく遠い世界の宇宙には宇宙の征服を企む邪悪な宇宙人が存在した。

 その名は『レイブラッド星人』。怪獣たちを操る能力を持ち、その絶大な力で宇宙の征服に乗り出したのである。

 その野望は一度は潰えることになるが、レイブラッド星人は用意周到であった。自分の因子を全宇宙にばら撒き、自らの後継者となるものが現れるのを待ったのである。

 そして再びレイブラッド星人の野望は動き出した。

 その因子を受け継ぎ、レイブラッド星人に支配された『怪獣使い』たちによって四次元怪獣『ブルトン』を使い、さまざまな世界から呼び出された怪獣たちが暴れまわる大事件……『ギャラクシークライシス』と呼ばれる戦いが起こったのである。

 

 

『レイブラッド星人が復活と宇宙の征服を画策したその戦いは私を含めたウルトラの兄弟たち、そして正しい心を持った正義の怪獣使いである『レイ』の活躍によって防がれた。

 しかし……私たちはレイブラッド星人の用意周到さをまたも甘く見ていたのだ……』

 

 

 その『ウルトラマン』の声色に、翔と絵美は後悔を感じ取る。

 追い詰められたレイブラッド星人は最後の瞬間、全ての力を使って四次元怪獣『ブルトン』を『EXブルトン』へと進化させた。そして自爆同然にそのすべての力を解放させたのだ。

 次元を操る怪獣である『ブルトン』、それがさらに進化した『EXブルトン』の暴走とも言える次元操作……それは本来ならばあり得ない、『並行世界』の壁を突き破ったのである。

 

 その行為を『ウルトラマン』は分かりやすく建物に例えた。

 同じ階にある隣の部屋から物を持ってくる行為が通常の『ブルトン』の次元操作だ。

 対して『EXブルトン』の行った次元操作は、本来行き来ができないようになっている他の階をコンクリートの天井を突き破って無理矢理行き来をした行為だという。

 本来あり得ない、とんでもない無茶な行為であることは間違いないだろう。

 

 

『結果、その先にあった『並行世界』には私のいた世界だけではない、多種多様なさまざまな『並行世界』からの怪獣たちが溢れかえることになってしまった。

 そしてその『並行世界』こそ……』

 

「俺たちの……この『世界』だってことだな?」

 

『……その通りだ』

 

 

 怪獣など存在しない平和だったこの『世界』に突如として怪獣だたちが溢れだした原因がついに明らかになった。

 しかしその真実というのが『並行世界の悪い宇宙人のせい』という、あまりにもあまりにもな内容のため、翔と絵美は何とも言えないというのが本音だ。

 

 

『そして最悪なことに……追い詰められたレイブラッド星人はこの『並行世界』にも自分のバックアップともいうべき因子をばら撒いたのだ』

 

「その因子を受けたのが、私たち『怪獣使い』のことね」

 

『そうだ。

 自分の後継者として、いつか復活し宇宙の支配者となるという野望の種……それが君たち『怪獣使い』だ。

 だが、正しき心を持つ『怪獣使い』は大いなる希望になる。

 私はそれをあの正義の怪獣使い『レイ』を見て知ったのだ……』

 

 

 追い詰められたレイブラッド星人の行動にいち早く反応した『ウルトラマン』はレイブラッド星人のばら撒く因子の何割か……それほど多くはないだろう数にレイブラッド星人の邪悪な意思ではなく、『レイ』のような正しき意思が宿るように干渉したのである。

 

 

「そうやってレイブラッド星人の悪しき意思の干渉を免れた因子を継いだのが、『こちら側』の怪獣使いだ」

 

「わたくしや栄一さんはもちろん、あなたたちもそうですわ」

 

「それはどこで分かるんだ?」

 

「簡単だ。

 レイブラッド星人の邪悪な意思は復活のために戦いと混乱を求める。

 そして囁くんだよ、怪獣使い同士の戦い……『レイオニクスバトルを行って勝ち続ければ宇宙の支配者になれる』とな」

 

「お2人は『レイオニクスバトル』のことも『宇宙の支配者』という話も知りませんでした。

 レイブラッド星人の邪悪な意思のこもるバトルナイザーなら、拾った瞬間に使い方以上にその情報が頭に入ってきます。

 それがない以上、お2人は間違いなく『こちら側』の怪獣使いですわ」

 

「なるほどね……」

 

 

 翔と絵美は今まで出会った『怪獣使い』たちの言っていた単語の数々の意味に納得がいったと頷く。

 それらの理解を待ってから、『ウルトラマン』は話を続けた。

 

 レイブラッド星人の行動に割り込んだ『ウルトラマン』だが、それによって力を使い果たした『ウルトラマン』は『EXブルトン』の引き起こした次元暴走に巻き込まれ、この『世界』へと吐き出されてしまったのである。

 

 

『ほとんどの力を使い果たした私は、見ての通り石像のようになって休眠するしかなかった……。

 人々が怪獣によって次々に命を落としているというのに、戦うことができなったのだ……。

 すまない……』

 

「……この世界の現状はあんたのせいじゃないだろ」

 

 自らが戦って人々を守れなかったことに自罰的な『ウルトラマン』に、翔はどこか慰めとも言える言葉を返す。

 するとそれに同意するように栄一と雅が口々に言った。

 

「そうです。 あなたのおかげで『正しき怪獣使い』はこの世界に生まれた。

 そしてあなたはその知識でこの島に使われている技術を授けてくれ、さらにはこの島に怪獣たちが近付かないように結界まで張ってくれている」

 

「あなたが私たち人類を救うためになさってくれたことの数々はよく分かっています。

 だからそのようにおっしゃらないで下さい……」

 

 聞けば、この島で見た外界とは隔絶したような科学技術の数々は『EXブルトン』によってさまざまな『並行世界』から怪獣たちと同じようにこの世界に流れ着いたものらしい。それらの並行世界技術を『ウルトラマン』はその卓越した頭脳で解析に手を貸し、技術を与えてくれたのだ。

 さらに特殊な結界をこの島に張ることで、野良の怪獣たちがこの島に来るのを防いでくれているのだ。

 そのために、この島は例外的な平和な時を過ごせているのである。

 

「いつか怪獣たちを退け、ここの技術を使って生き残った人類に黄金の時代を……」

 

「それが私たち『ノア』の……この島に住む者の願いですわ」

 

 この怪獣によって荒れ果ててしまった世界を再び蘇らせるというこの島の、そして栄一や雅たちの所属する組織である『ノア』の目的に翔と絵美は変な意味や皮肉ではなく、素直に立派だと感心する。

 

「だが……あいつらを野放しにしていたら、そんなことは夢のまた夢だ」

 

「あいつら……『教授(プロフェッサー)』たちのことだな?」

 

 翔の言葉に、栄一は頷く。

 

「今までの流れからすると、やっぱり『教授(プロフェッサー)』はレイブラッド星人の意思に従った怪獣使いってこと?」

 

「まぁ、『こちら側』の怪獣使いでないことは間違いありませんが……」

 

「……完全にレイブラッド星人の邪悪な意思と融合していて、もはや『教授(プロフェッサー)』は純粋な人間と言っていいのかあやしいところだ。

 少なくとも、他のレイブラッド星人の意思に触れた怪獣使いを率いて、あんなことをしようとしているのはもう、マトモじゃない……」

 

「ただのイカレ野郎じゃなくて、超宇宙級のクソッたれイカレ野郎だってことかい……」

 

 吐き捨てる翔の言葉を継ぐように、『ウルトラマン』が言葉を繋げる。

 

『『教授(プロフェッサー)』……彼の目的は超エネルギー物質のパワーを吸収させることで、ブルトンを進化させてもう一度『EXブルトン』を作り出し、並行世界の壁を破壊することだ。

 もう一度並行世界の壁が破壊されたら、その時に引き起こされる災禍はギャラクシークライシスの比ではないだろう。

 そしてその被害の範囲はこの世界、そしてそこから連なるだろうすべての並行世界の危機になる。

 そうなる前に、何としても彼を倒してほしい』

 

 そんな『ウルトラマン』に、翔は答える。

 

「ああ、言われなくてもやってやるよ。

 父さんの仇……『教授(プロフェッサー)』のクソ野郎は、必ずこの手でブチ殺す!」

 

 そう宣言する翔の視線には、復讐の黒い炎が渦巻いていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 『ウルトラマン』の前には栄一と雅だけが残っていた。翔と絵美はいろいろ見て回りたいと言ってすでにドームから出ている。

 そして、雅はため息交じりに言った。

 

「翔さんですが……栄一さんに匹敵するほどの怪獣使いとしての力は認めますが、今の『教授(プロフェッサー)』への憎しみは危険ですわ。

 いつ、どこで悪い方に暴発するかわかりませんもの」

 

「それは俺も分かっている。

 だが……こっちの戦力を考えれば、あいつらの協力が得られなければ『教授(プロフェッサー)』たちを倒すなど、夢のまた夢だ。

 同じ怪獣使いでも、『あの3人』を戦わせることは……できないだろ?」

 

「……ええ」

 

「なら、今の『ノア』の怪獣使いは俺とお前の2人だけだ。

 あの2人の助けがなければ、『教授(プロフェッサー)』たちに勝ち目がない」

 

「……」

 

 栄一の言葉に、雅は押し黙る。その2人にあるのはわずかな焦りだ。

 『教授(プロフェッサー)』を止めるまでには、あまり時間の猶予はない。そしてそのためにはどうしても必要な戦力である翔が憎しみで不安定なのである。その焦りは分からないでもない。

 しかし、『ウルトラマン』はそんな2人に焦りを感じさせない口調で言った。

 

『……彼は大丈夫だ。彼の心は、操る怪獣たちと同じく、強い。

 彼を見ていると、まるであの『レイ』を見ているような気分になってくる。

 それに……彼ら2人は今、地上にいる』

 

「地上? たしか今だと……」

 

「『あの3人』が地上には出ているはずですわ。

 では……鉢合わせるということですの?」

 

『その通り』

 

 驚く栄一と雅に、『ウルトラマン』は確信を持って答える。

 

『あの3人との出会いがきっと、彼を成長させてくれる……』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「眩しいな」

 

「地下にいたせいかしらね、余計に眩しく感じるわ」

 

 偽装された地上出口から出た2人は、太陽の光に眩しそうに目を細めた。

 潮の香りに緑の匂い、そして日の光すら日本とは違い、遠くまできたものだと改めて2人は痛感する。

 『ウルトラマン』との話を終えた2人は街の見学もそこそこに地上部に出てきたのには理由がある。それは怪獣たちのコンディションを確認するためだ。

 一応、バトルナイザーで大まかな傷の修復具合は分かるが、詳細はやはり見てみた方がいい。『教授(プロフェッサー)』との正面から対決を決意したことで、怪獣たちは文字通り2人にとっては命を預ける存在である。その重要度は今まで以上に高い。そこで2人は何よりも優先して怪獣たちの様子を見るために地上に来たのだ。

 

「この辺でいいか」

 

 辺りは切り立った岩場のような場所だ。ここなら少々騒いだところで迷惑はかからないだろう。そう思って2人はさっそくバトルナイザーを掲げようとした、その時だった。

 

 

 ズシンッ! ズシンッ!!

 

 

「!? これは!?」

 

「怪獣の足音!?」

 

 大重量を示すその音を、もっとも警戒する職であるトレイダーの2人が聞き間違えるはずはない。

 そして、それは岩場の小山の向こうから現れた。

 

 片方は茶色の体色で頭に角を生やした、スマートなフォルムの怪獣だ。その身体は力強さだけでなく、しなやかさと鋭さをそなえ持っている。そのくせ、瞳は優しげで親しみやすい印象を持てる。

 もう片方はクリーム色の体色の怪獣だ。その体躯は全体的にボリュームがありマッシヴな印象を受け、その強力なパワーをいやでも連想させる。しかしその顔には愛嬌があり、なんとも憎めない。

 

 古代怪獣『ゴモラ』と、どくろ怪獣『レッドキング』である。

 

「怪獣だと!?」

 

「この島には怪獣は近寄らないんじゃなかったの!?」

 

 慌てて2人はバトルナイザーを構えようとするが、そこで様子がおかしいことに気付いた。

 やってきたゴモラとレッドキングはお互いにがっぷりと組み合い、戦い始めた。しかしそれは命のやりとりといった感じではない。良く例えるならボクシングのスパーリング、悪く例えるなら子供のケンカのような雰囲気なのだ。

 そして、その表現はまったく的確だった。

 

「翔、あれ!」

 

「あれは……」

 

 見れば岩場の小高い丘の上に小さな人影が3つ。それは子供だ。

 男の子が2人に、女の子が1人。全員が10歳にすら届いていないだろうことは容易に見て取れる。

 どうやら男の子2人はケンカの真っ最中のようだ。ただそれだけなら可愛いものなのだが……その手にしたバトルナイザーが嫌な予感を煽る。そして、嫌な予感というものは往々にしてよく当たるようになっているのだ。

 

「このぉ! やっちゃえ、ゴモラ!!」

 

「何ぉ! いけ、レッドキング!!」

 

 2人の掛け声に反応して、ゴモラとレッドキングはドカンドカンと殴り合う。そんな男の子2人を止めようとしているらしい女の子は、一向に話を聞こうとしない2人にベソをかきながら、こちらも懐からバトルナイザーを取り出した。

 

「もう、2人ともケンカはやめようよぉ!!」

 

 そしてその言葉とともにバトルナイザーから光とともに怪獣が現れる。それは金属製のゴリラともいうべきロボット怪獣だった。

 

「ウーちゃん、2人をとめて!!」

 

 女の子の言葉に、その金属の拳をガシガシと合わせて大きな音を立てるとそのロボットゴリラは、ゴモラとレッドキングに飛び掛かっていく。そして展開されるのは三つ巴のグダグダな戦いだ。

 

「……なんだあれ?」

 

「さぁ……?」

 

 そんなスケールの異常に大きな子供のケンカを、翔と絵美は呆れたように見つめるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次回の大怪獣バトルレジェンドは

 

「やめろガキども!! やれ、ゴジラ!!」

 

「僕のゴモラが!?」

 

「おいらのレッドキングが!?」

 

「おねえさんもウーちゃんみたいなロボット怪獣さんを使ってるの?」

 

「あいつらはまだ子供、怪獣だって1体しか使役できない……」

 

「怪獣をすべて失った怪獣使いがどうなるか……ご存知でしょう?

 そんな子供を戦いになんて出せませんわ……」

 

「僕のお父さんは……ゴモラを遺して『教授(プロフェッサー)』たちに殺されたんだ……」

 

「……なぁ、親父さんの復讐がしたい、とは思わないのか?」

 

「翔、あれ!?」

 

「『教授(プロフェッサー)』のところにいた、双子の怪獣使いか!」

 

「ふん、怪獣が超獣に敵うものか!」

 

「起動ぉぉぉぉ!!」

 

 

次回、大怪獣バトルレジェンド第13話『襲撃 怪獣×超獣×機械獣』

 

 

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第11~12話用語紹介

 

 

海底軍艦『轟天号』

出典:『海底軍艦』他

 

解説:艦首にドリルを装備した巨大戦艦。

   重力炉と呼ばれる超機関を動力としており、船としての海上移動はもちろん、空を飛び地中に潜るという、場所を選ばぬ万能戦艦。

   本作では主人公たちの拠点であり、移動手段でもある。

   間違いなく人類最強の兵器の一つなのだが、いかな轟天号でも複数の怪獣を相手にするのは難しいようだ。

 

   東宝の超兵器群、その元祖とも呼べるドリル戦艦がこの『轟天号』である。

   その絶大なインパクトから、後世に様々なドリル付き超兵器が生まれることになった。

   大口径主砲に対空機銃、ミサイル、熱線砲に冷凍砲と超兵器の塊ともいえるものであり、同時に地中すら潜航可能なその船体剛性は非常に高い。

   男の子たちのロマンの元祖、ドリルの始祖こそがこの『轟天号』である。

 

 

管制コンピューター『GH507』

出典:映画『ガンヘッド』

 

解説:『轟天号』に搭載された管制コンピューター。

   元々は大破した状態で並行世界から投げ出された大型機動兵器のメインコンピューターだったものを『轟天号』に移植した。

   正確なナビゲートと管理をしており、実はその気になれば『轟天号』は無人での行動も可能。

   非常に人間味溢れる受け答えをしてくれ、人間の感情や不確定性を肯定してくれる。

 

   ロボット特撮映画『ガンヘッド』、その主人公機である『ガンヘッド507』のメインコンピューター。

   彼の「確率なんてクソくらえ」、「決意した人間の勝負は予測できない」、「死ぬ時はスタンディングモードでお願いします」などの名言はどれも人間味を感じさせる。

   作者としては『トランスフォーマーG1』の『テレトランワン』、『翠星のガルガンティア』の『チェインバー』に並ぶ、ナイスな人工知能キャラの1人。

   特撮人工知能キャラでは一番のお気に入りである。

 

 

『緯度0度の島』

出典:映画『緯度0大作戦』

 

解説:並行世界からの科学技術を『ウルトラマン』の協力によって実用化させた超科学都市。

   栄一と雅の所属する組織『ノア』の本拠地であり、その科学技術によって荒れ果てた世界とは隔絶した快適な環境を造り出している。

 

   東宝の特撮『緯度0大作戦』の舞台となる場所。

   超科学によるユートピアとして描かれており、『本作』においても人類最後の楽園のごとき場所となっている。

 

 

『ヴィンセント島』

出典:『ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル』

 

解説:『緯度0度の島』とも呼ばれる『ノア』の本拠地の島名。

   その地下中央には石像化した『ウルトラマン』が今でもその力で結界を張り続け、野良怪獣が寄りつかない島になっている。

 

   『ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル』で、力を使い果たし石像化した『ウルトラマン』がいた島。

   『ウルトラマン』の結界のおかげで怪獣惑星となってしまったボリスで唯一、怪獣の寄りつかない場所となっており、惑星ボリスの最後に生き残った人々が避難していた。

 

   ……マンの兄さんはいつも石像になったり忙しいなぁ。

 

 

超エネルギー機関『アークリアクター』

出典:『アイアンマン』シリーズ他

 

解説:『ヴィンセント島』の地下都市を支える、超エネルギー機関。

   半永久的に水素を発生させ続ける、非常にクリーンな半永久機関。

   小型化したものは機動兵器の動力源に、大型のものは都市へのエネルギー供給用にと応用範囲が非常に広い。

   発生水素によって莫大な電力を生み出したり、化学反応で水を生成したり、水素燃料の原料としたりと、地下都市を支える中心的な存在である。

 

   『金持ちが道楽でやってるアメリカンヒーロー』、アイアンマンの主動力源。

   これを量産化して配備しているアイアンマン軍団は凄すぎると思う。

 

 

光の巨人『ウルトラマン』

出典:『ウルトラマン』他

 

解説:別の並行世界からやってきた『光の巨人』。レイブラッド星人の悪しき野望をくじくために干渉し、『EXブルトン』の次元暴走に巻き込まれてこの世界にやってきた。

   人類に対し非常に友好的で、怪獣の出現によって破壊され尽くしてしまった世界を憂いでいる。

   卓越した頭脳の持ち主でもあり、並行世界からの技術の解析に手を貸し、ヴィンセント島の技術を支える。

   またヴィンセント島に結界を張ることで、怪獣たちが寄りつかないようにしてくれている。

   しかしその代償として、石像のような休眠状態になってしまっている。会話はテレパシーによってなされる。

 

   みんなご存知『光の巨人 ウルトラマン』。

   幾度となく地球と宇宙の危機を救ってきた彼だが、今回は並行世界に飛ばされ力を使い果たし、直接戦闘は今のところできないようだ。

 




説明回のため、再び戦闘はなし。
色々と矛盾もありそうですが、本作品の『世界』と『設定』の説明回でした。

しかし……どマイナー好きの作者の、『ウーちゃん』のことが分かる人は、一体どれだけいるのやら。
間違っても『ウーさん』ではない、『元ウーさん』ともいえるこいつ……。
一応、『ウーちゃん』は地球文明を滅ぼし尽くした凶悪な3体の怪獣の1体です。ちなみに日本製。
あと作品で設定変わり過ぎ。まぁ、その作品の設定のミックスなんですが……。

次回もよろしくお願いします。


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第13話 怪獣×超獣×機械獣 その1

久方ぶりの更新になりましたキューマル式です。
しかし……今回も何やら話が進んでいない気が……。

そういえば、前回ちょっと顔見せした怪獣である『ウーちゃん』の正体が分かった人はいるのだろうか……?


 とある場所にて、2人の少年が顔を突き合わせていた。

 その顔は全く同じ、わずかに髪型に差異がある程度でそれ以外に2人には差がない。彼らは双子なのである。

 そんな2人が何事かを話し合っている。

 

「兄さん、連中の基地を見つけたよ」

 

「こっちもだ」

 

 弟の言葉に、兄と呼ばれた方が頷く。

 

「どうする?

 教授(プロフェッサー)は仲間に引き入れたいから何もしなくていいって言っていたけど……」

 

「今は大事な時期。

 奴らは教授(プロフェッサー)の邪魔になる」

 

「なら、僕たちがその邪魔を取り除かないと」

 

「そうだな、教授(プロフェッサー)のために」

 

「そうだね、教授(プロフェッサー)のために」

 

 そして彼らの手にするバトルナイザーが光を放った。

 

 

『『バトルナイザー、モンスロード』』

 

 

 バリィィィィン!!

 

 

 モンスロードとともにガラスが割れるように、『空が割れた』。

 怪獣のいななきと閃光、それが済んだときにその場所には2人の姿はなかった。

 彼らの向かう先は『ヴィンセント島』、島に嵐が迫っていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 目の前で3人の子供がケンカをしている。

 2人の男の子がケンカを始めたのを1人の女の子が止めようとし、いつの間にか3人そろっての大乱闘になってしまっている。

 それがただの子供のケンカならば可愛いものだ。翔も絵美もいい大人、ただそれだけなら何も言わない。

 しかしこの3人のお子様、よりにもよって子供のケンカにバトルナイザーで召喚した怪獣を使っているのである。

 互いに殴り合う3体の怪獣はそのお子様の延長のように、まるで力の入らないグダグダな戦いを繰り広げている。

 

「なんだ、あれ……?」

 

「さぁ……? バトルナイザーを持ってたし、怪獣使いなんだろうけど……」

 

 翔と絵美は半分あきれ顔で首を捻る。

その時だ。

 

「!? あぶねぇ!!」

 

 とっさに翔が絵美の手を引いて下がらせると、今までいた場所に人の頭くらいの岩がめり込んだ。どうやら3体の怪獣たちのケンカの余波らしい。怪獣からすれば砂利みたいなものだろうが、こんなもの人間が直撃すれば致命傷だ。

 

「あんのクソガキども……!」

 

 一気に頭に血が上った翔が、バトルナイザーを取り出して叫ぶ。

 

「ゴジラァァァァァ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声に答えて、バトルナイザーから召喚されたゴジラが咆哮を上げる。

 その身体は未だに教授(プロフェッサー)のデストロイアとの戦いの傷が生々しい。特に『ヴァルアブル・スライサー』や『オキシジェンデストロイヤー・レイ』の直撃を受けた胸板は、癒えきらない傷に血が滲んでいた。

 しかしそんな状態であってもゴジラはそれがどうしたとでも言わんばかりに、ゴジラは目の前の3体にまるで格の違いを見せつけるように咆哮した。

 その咆哮にケンカをしていた3体の怪獣はもとより、それを操っていたお子様3人も竦み上がる。

 

「な、なんで怪獣が島に!?」

 

「怜くんも蘭くんも驚いてないで逃げようよぉ」

 

 男の子の1人が驚いたように声を上げ、女の子は半泣きで男の子たちを揺さぶって逃げようと促す。

 しかし男の子の1人、いかにも悪ガキといった坊主頭の子供は精一杯の虚勢を張る。

 

「へ、へん! おいらはあんなの怖くないぞ!

 やっちゃえ、レッドキング!」

 

 

 ギュオォォォォォン!!

 

 

 その命令にクリーム色の怪獣、『レッドキング』はその剛腕を振り上げゴジラに殴りかかる。

 しかし……。

 

「う、嘘だぁ!?

 あんなに怪我してるのに、レッドキングのパンチを受け止めるなんて!!」

 

 唸りを上げるレッドキングのパンチは、ゴジラによってしっかりと受け止められていた。

 何とかゴジラに掴まれた腕を振りほどこうとするが、力自慢のレッドキングがもがこうと、傷だらけのゴジラの手は離れない。

 

「……悪ガキども、お仕置きの時間だ。

 ゴジラァァァ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉にゴジラが雄たけびを上げると、眩い閃光とともに衝撃が駆け巡る。ゴジラの体内放射だ。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

 それなりに威力は抑えた体内放射だったが、その衝撃は怪獣3体をもろともに吹き飛ばし、お子様たちは悲鳴を上げるのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「まったく……子供のケンカなんかに怪獣使うんじゃねぇ! 危なっかしいにもほどがある!!

 百歩譲って使うにしても、もう少し周りに気を配ってから使え!

 危うくこっちは死にかけたぞ!!」

 

 怒り狂う翔の前には男の子2人が地面に座らされていた。

 その姿は借りてきた猫のようだ。坊主の子に至ってはもはや泣く一歩前といった感じである。

 

「わ、わかったよ……」

 

「『わかりました』、だろ!!

 あと『ごめんなさい』はどうした!!

 悪いことしたと思ったんなら、まずは『ごめんなさい』だろうがぁ!!」

 

「「わ、わかりました! ごめんなさい!!」」

 

 再びの翔の怒鳴り声に、まるで尻でも叩かれたかのように条件反射的に平謝りの2人。もう半泣きである。

 そんな様子を見ながら、絵美は少々呆れ気味に言った。

 

「そんなに頭ごなしに怒らなくてもいいじゃないの。

 ほら、こんなに怖がっちゃって」

 

 絵美の腕の中には女の子がいた。完全に泣いてしまっており、絵美は女の子をあやすように抱きしめてその背中を優しく擦っている。

 

「……バカやる子供を叱るのは大人の役目だ。

 叱ってやらんと、自分がどんだけバカやってるのか自覚できなくて、いつか痛い目見るぞ」

 

 そんな翔の言葉に絵美はクスクスと笑う。

 

「それって経験談?

 翔って案外、教育パパ気質なのね」

 

「茶化すなよ」

 

 どこか照れたように翔は視線を外してため息をつくと、男の子2人に向き直った。

 

「反省したなら、いい。

 こっちも怒鳴って悪かったな」

 

 そう言って2人の頭を撫でてやると、2人は泣きだしそうだった表情を崩す。

 

「……ナデポとか、そういう特殊技能?」

 

「アホか。 ただ単に許されたと思って安心したんだろ」

 

 絵美の言葉に、翔は再びため息をついた。

 

 

 

「僕は三浦 怜(みうら れい)です」

 

「おいらは御堂 蘭(みどう らん)!!」

 

「わ、私、鈴村すずです」

 

 改めて翔たちに向き直って子供たちが名前を名乗った。

 『ゴモラ』を操っていたのが『怜』、『レッドキング』を操っていたのが坊主頭の『蘭』、そしてあのロボットゴリラを操っていた女の子が『すず』というらしい。

 

「にいちゃん、にいちゃん!

 さっきのにいちゃんの怪獣、あのすっごい怪獣なんていうの?」

 

「ああ、『ゴジラ』っていうんだ」

 

「他にも怪獣いるの?」

 

「おう、あと『アンギラス』と『ラドン』って怪獣を使ってる」

 

「すっげー! しょうにいちゃん、すっげー!」

 

「そ、そうかそうか!」

 

 翔は子供のおだてにはめっぽう弱いらしい、何やらおだてられてまんざらでもない感じである。

 長年一緒にやってきた絵美も気付いていなかった翔の一面ではあるが、いつだかの農場の子といいあの生贄の村の子といい、翔は何のかんのと言いながら子供には甘かったことを思い出しながら、絵美はすずの相手をしていた。

 どうやら先ほどあやしていたことで絵美に懐いてくれたようだ。単純に怖かった上に異性である翔には近付きたくないだけかもしれないが、すずは先程までの泣き顔はどこへやら、花咲くような笑顔で絵美に話しかけていた。それを見ているとなんだかこっちまで嬉しくなってくるから、子供とは不思議なものだと絵美は思う。

 

「えみおねえちゃんもウーちゃんみたいなロボット怪獣使いなの?」

 

「ウーちゃん? さっきのロボットゴリラのこと?」

 

「うん! 『サイバー・ウー』っていうの!」

 

 そういって見せるすずのバトルナイザーでは、先ほど見たロボットゴリラこと『サイバー・ウー』が佇んでいる。

 そのとき、絵美はそのバトルナイザーに違和感を覚えた。

 バトルナイザーのウィンドウは3つ、怪獣使いは3体までバトルナイザーで契約して怪獣を使役することが出来る。未契約の場合、ウィンドウは空の状態になっているのだ。これはしっかりと翔という前例で知っている。

 ところがすずの見せてくれたバトルナイザーは、『サイバー・ウー』がいるウィンドウ以外が、まるでシャッターでも落ちたかのように閉じているのだ。

 

「……ねぇ、すずちゃんの怪獣は『サイバー・ウー』1体だけなの?」

 

「うん、怜くんも蘭くんもそうだよ。

 えいいちおにいちゃんやみやびおねえちゃんが、まだすずたちは小さいから1体しか怪獣は使えないんだって教えてくれたよ」

 

「ふぅん、そうなの」

 

 絵美はその話を聞いて相槌をうつ。

 

「それで、どうしてケンカなんかしてたの?」

 

「うん。

 怜くんが一緒に怪獣使いの訓練しようって誘ってくれたの。

 それで一緒に地上に来たら蘭くんがやってきて、怜くんと言い合いになってケンカになって……」

 

 子供特有の舌足らずな口調で起きたことを一生懸命に説明してくれるすず。

 絵美は何となくだが、ケンカの原因がわかった気がした。

 

「……蘭くん、怜くんとじゃなくて自分と一緒に訓練しようとか言ってなかった?」

 

「うん、ケンカするまえに言ってたよ!

 えみおねえちゃんすごーい、なんでわかるの!」

 

「『女の勘』よ」

 

「おんなのかん?」

 

「そうよ、すずちゃんもそのうち使えるようになるわ」

 

 言いながら絵美は、不思議そうな顔のすずの頭を撫でてあげる。

 何のことはない、ケンカの原因は犬も食わない色恋沙汰、女の子の取り合いだ。

 子供ながら、恐らく怜も蘭もすずのことが好きなのだろう。お互いに出し抜こうとしてケンカになったということだ。子供なら誰にでもある微笑ましいエピソードである。

 ……もっとも、そのケンカで怪獣を繰り出すのはまったくもって笑えないのだが。

 

 結局、翔も絵美もそのまま子供に付き合ってその日は過ごすことになった。

 

「「しょうにいちゃん、またなー!」」

 

「えみおねえちゃん、またねー!」

 

 日も暮れ始め、地下都市部に戻ると3人は連れだって居住区と思われる方に帰っていく。その姿を見ると何のかんの言いながら、3人の仲はやはりいいようだ。

 

「お子様相手で何だか気疲れしたぜ」

 

 何やら肩をわざとらしく廻しながら疲れた風のことを言う翔に、絵美は呆れたように言った。

 

「なに言ってるの、途中からそのお子様相手に本気で遊んでたくせに。

 それでどの口が疲れたとか言うのかしら、このでっかいお子様は」

 

「うるせぇ」

 

 どこか自覚があったのかそっぽを向く翔に、絵美は「やっぱり子供なんだから」と微笑みながら呟く。

 その時、そっぽを向いていた翔は視線の先に見知った2人組の姿を認めた。

 

「地上から戻ったか」

 

 やってきたのは栄一と雅の2人組である。

 

「お食事でもどうかと思って、誘いに来ましたわ」

 

「お、いいねぇ。 タダ飯は大好きだぜ」

 

「これからせいぜい働いてもらうからな、先払いだ」

 

「ああ、そりゃそんなオイシイ話はねぇわな」

 

 あははと笑いながらも翔と絵美は2人に連れられ、食事を共にする。

 鶏肉のソテーをメインディッシュにした、荒廃したこの世界の基準からすれば普通にはお目にかかれない高級品である。しかしこの街ではごくありふれた食事だと聞き、本当にここは外とは別世界なのだなぁと感心する。

 腹も膨れたところで、栄一の方が話を振ってきた。

 

「ところで……『ノア』の、俺たち以外の怪獣使いには会ったらしいな」

 

「……それはあのちびっ子どものことを言っているのか?」

 

「そうだ。

 ……対教授(プロフェッサー)を抜きにしても、俺たちがお前ら2人をスカウトした理由はわかるだろう?」

 

 栄一の問いに翔は苦笑で肯定した。絵美は少し眉をひそめながら言う。

 

「他には『こっち側』の怪獣使いは見つかっていないの?」

 

「『ウルトラマン』の介入できたレイブラッドの因子は、そんなには数は多くないようで……」

 

 そう言って目を伏せた雅に変わり、栄一が言葉を継ぐ。

 

「あの子たちは素質はあるがまだ幼く、怪獣を1体しか使役できない」

 

「使役する怪獣すべてを失った怪獣使いがどうなるかはご存じでしょう?

 命綱とも言える怪獣が1体しかいない状態での戦いはあまりに無謀、それ以前の問題として子供を戦いに駆り出すのは大人としてあまりにも無責任が過ぎますから……」

 

「そりゃ、どう考えても戦力には考えられんわなぁ」

 

 翔はそんな風に頷く。

 

「今は3人とも正しい怪獣使いとしての才能を伸ばしている段階だ。

 もっとも、まだ子供だから遊びがてら学んでいる最中だがな」

 

「……俺はその遊びで今日死にかけたんだが。

 教育が悪いんじゃないか?」

 

 ジト目で翔が睨むと栄一は苦笑しながら、その話を綺麗に流す。

 

「特に怜に関しては……少し懸念していることがあってな、慎重に育てている最中だ」

 

「怜って……あの『ゴモラ』使ってる子よね。

 3人の中では一番、落ち着いてていい子に見えたけど?」

 

「だな。 あの坊主頭の蘭ってガキの方が、向こう見ずで危なっかしそうだが……」

 

「……そういった表面上の話ではないのですよ」

 

 今日の印象からかけ離れた話に頭を捻る翔と絵美に、雅はそう言って首を振った。

 

「……実はあの子のバトルナイザーと『ゴモラ』は、元からあの子のものではなかったのです。

 その持ち主はあの子の父親で『こちら側』の怪獣使いだったのですが……教授(プロフェッサー)と戦い、命を落としました。

 あの子のバトルナイザーと『ゴモラ』はそのお父様の形見なんですよ。

 だからあの子が復讐心で染まってしまわないか心配で……」

 

「……」

 

 教授(プロフェッサー)が父の仇……思い切りどこかで聞いたことのある話に、絵美はゆっくりと翔の顔をうかがう。

 翔は何も言わずに、水のグラスを傾けた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翌日、翔と絵美は再び地上部へとやってきていた。

 

「あっ、しょうにいちゃんだ!」

 

「えみおねえちゃーん!」

 

 昨日と同じく、目ざとくこちらを見つけたお子様3人は元気よく駆け寄ってくる。

 

「はいはい、今日も元気ね」

 

 絵美は微笑みながらその頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。まるで人懐こい子猫のようだと絵美は苦笑した。

 

「? しょうにいちゃんはどうしたの?」

 

 しかし翔は昨日と違いどこか硬い表情だ。それを指摘されると翔は「なんでもない」と首を振ると、昨日と同じように子供の相手をし始める。

 そうやってしばらく遊んだ後、絵美は蘭とすずだけを連れて少しだけ離れたところに移動した。翔の心中を察した絵美が気を利かせてくれたのである。翔は心の中で絵美に感謝すると、怜に話しかけた。

 

「なぁ、少しいいか」

 

 翔が促すように腰をかけると、怜は翔の隣に腰掛ける。

 

「ちょっと聞いてみたいことがあってな……」

 

「なに? しょうにいちゃん?」

 

「そのバトルナイザーと『ゴモラ』……教授(プロフェッサー)に殺された親父さんの形見なんだって?」

 

 その言葉で悲しそうな顔をした怜を見て、翔はもう少し気を使った言い方はなかったものかと後悔するがもはや後の祭りである。

 

「……悪かった」

 

「大丈夫だよ。

 ……しょうにいちゃんの言った通り、僕の父さんは教授(プロフェッサー)と戦って、このバトルナイザーと『ゴモラ』を残して死んじゃったんだ……」

 

 しばしの後、はっきりとした口調で答える怜に、翔は心の強い子だと感心する。

 自分がこの子と同じくらいのころはどうだったか……少なくともこの子よりよほど愚かで向こう見ずだったのは間違いない。

 

「なぁ……そのゴモラで、教授(プロフェッサー)に復讐して親父さんの仇をとろうとか、思ったことはないか?」

 

 翔と怜……2人は『父を教授(プロフェッサー)に殺された』ということで共通している。

 自分だったらもしあの時にゴジラが手元にいて復讐相手がいるとわかっていたのなら、即座に教授(プロフェッサー)を殺そうとしている。勝てるかどうかは別にして、だ。

 だから教授(プロフェッサー)を倒し父の仇をとることを目指す翔は、同じような境遇の怜がどう思っているのか気になったのだ。

 

 そこまで考えて翔はふと我に返る。自分は子供相手になにを小難しいことを聞いているんだと苦笑したその時だ。

 

「僕は……父さんの復讐をしたいなんて思ってないよ」

 

 あまりにも明確であまりにもはっきりとした答えに、翔はしばし目を瞬かせる。

 

「……教授(プロフェッサー)は親父さんを奪った相手だ、許せないとは思わないのか?」

 

「それは父さんがいないのは悲しいし、それをやった教授(プロフェッサー)は許せないよ。

 でも……それでも復讐しようとか思わない」

 

 頑なな言葉に、翔は怜の心の中に確固たる『何か』があると気付く。

 

「どうしてそこまで……」

 

「だって……父さんとの最後の約束だから」

 

 そう言って怜は手の中のバトルナイザーに視線を落とす。

 

「これを貰ったとき、もう息も絶え絶えだった父さんは

「この力は何かを護るためにしか使っちゃいけない、それ以外では使わないって約束しろ」

 って言ったんだ。

 そんな父さんに僕は約束して、それを聞いた父さんは安心したような顔で死んじゃったんだ。

 そんな父さんは絶対に怪獣使いの力で復讐なんて、許してくれない。

 だから僕は怪獣使いの力で復讐なんてしようとは思わないよ」

 

「……」

 

 その答えを聞いて翔は分かった。翔と怜は境遇が似ているようでその実はまったく違う。

 翔は目の前で最後の言葉を聞くこともできず父は死んだ。それこそ木っ端微塵で、翔はその骨すら弔えなかった。

 だから翔はそれを為した悪魔のような怪獣『デストロイア』を憎み、そしてそれを操っていた教授(プロフェッサー)にだけは必ず復讐を果たすと決めている。そしてそれを為して初めて、気持ちに整理をつけて先に進めるのだと思っていた。

 

 対する怜は父の最後の約束によって、自分の進むべき道を明確に示され、先に進んでいる。

 怜はもう父から『答え』を貰っているのだ。

 

 五里霧中の中、前に進むために復讐を心に決めている翔。

 父との約束で、示された進むべき道を進んでいる怜。

 その在り様はまさに真逆と言っていいだろう。

 

「そうか……いい親父さんだったんだな」

 

「うん!

 ……しょうにいちゃんのお父さんはどんな人なの?」

 

 問われて、翔はバックパックから一枚の写真を取り出す。それは翔とその父が映った写真だ。

 

「自衛隊で戦車に乗っていてな……。

 大きくて優しくて……よく「やれることを精一杯やれる人間になれ」って言っててな、子供心に『父さんのようになりたい』と思えるくらいに凄い人だった……。

 それに……最後まで父さんは立派だった。

 父さんは街を襲った教授(プロフェッサー)の怪獣に戦いを挑んだんだ。

 戦車たった1両じゃ怪獣には絶対に敵わない。それを分かっていながら、俺や街の人たちが逃げるための一分一秒を稼ぐために戦ったんだ。

 そして……俺の目の前で父さんの戦車は粉々になったよ……」

 

 目を閉じれば今でも鮮明に思い出せるあの光景……燃え盛る故郷と逃げまどう人々、『デストロイア』と吹き飛ぶ90(キューマル)式戦車……。

 

「……俺の父さんは、最後の言葉も残せず吹っ飛んだからな。

 父さんが俺にどう生きて欲しかったのかなんて永遠に分からないのさ」

 

「だから……復讐したいの?」

 

「ああ……それが出来て初めて、俺は前に進めると思うからな。

 ……今の俺を見たら、父さんは泣くかな? それとも怒るかな?

 まぁ、不出来な息子ってことで大目に見てもらうさ」

 

 そう言って翔は苦笑をもらす。

 翔は怜と会話しながらも、これは自分自身に確認をしているに等しく感じていた。だから、この答えなど小さな子供である怜には期待はしていない。

 しかし……。

 

「……きっとしょうにいちゃんのお父さんは怒らないと思うよ」

 

 答えるはずはないと思っていた怜が、答えた。

 

「……どうしてそう思う?」

 

「だってしょうにいちゃんのお父さんは「やれることを精一杯やれる人間になれ」って言ってたんでしょ?

 だったら、しょうにいちゃんがやると決めて精一杯にやろうとしていることを怒ったりはしないと思う」

 

 その言葉に一瞬きょとんとする翔だが、しばしの後笑いがこみ上げてきた。

 

「しょ、しょうにいちゃん?」

 

「いやぁ悪い悪い。

 誰も彼も『復讐なんて虚しい、やめろ』みたいなことしか言わないからな、そんな風に肯定されたのは、よく考えれば初めてかもな」

 

 そう言ってポンポンと怜の頭を撫でながら、翔は空を仰ぐ。

 

「『やれることを精一杯に』……か……」

 

 そんな風に呟いたその時だった。

 

「……ん?」

 

 見上げた空に、翔は奇妙な発光のようなものを見た気がした。

 何事かと目を凝らす翔は、その奇妙な発光現象がだんだんと強くなっていくのを見る。

 そして……。

 

 

 バリィィィィン!!

 

 

 空が……割れた。

 まるでガラスでも叩き割るように、空の一部が砕け散る。

 

「な、なんだ!?」

 

 翔は怜を庇いながらサッと立ち上がる。

 そしてその砕けた空の空間から、2体の怪獣が降ってきた。

 

 

 グルルルルル!

 

 グォォォォン!

 

 

1体は手や身体の一部が大きく広がっており、体色も相まってまるで羽を広げた毒蛾のようである。

 もう1体は全身にサンゴのような突起物を無数につけた怪獣だ。その口の奥にはミサイルが見え隠れしており、生物としてまっとうな怪獣でないことが一目瞭然である。

 

 

「怪獣だと!? この島には怪獣は寄りつかないんじゃなかったのか!?」

 

「翔!?」

 

 少し離れていた絵美もこの事態に蘭とすずを連れて翔のそばにやってくる。

 

「絵美、あの怪獣普通じゃないぞ!」

 

「ええ、どっちかというとメカゴジラたちに近いわ!」

 

 バトルナイザーを構える翔と絵美の元に、声が響いた。

 

「違うな、こいつらは怪獣じゃない」

 

「そう、怪獣を超える、『超獣』だよ」

 

 見れば、いつの間にか崖上の岩場に、2人の人影があった。そしてその手の中にはバトルナイザーがある。

 

「お前ら……教授(プロフェッサー)の所にいた双子か!?」

 

「俺は藤澤 スバル」

 

「僕は藤澤 ツバサ」

 

 ほとんど差異のない2人は淀みなく自らの名を名乗る。

 

教授(プロフェッサー)の邪魔になる者……」

 

「僕たちで排除する!」

 

 そして互いにバトルナイザーで怪獣へと指示を出した。

 

「行け、ドラゴリー!」

 

「ベロクロン、行け!」

 

 

 グルルルルル!

 

 グォォォォン!

 

 

 指示に従い動き出す超獣、『ドラゴリー』と『ベロクロン』。

 翔と絵美は3人の子供を庇うようにしながらバトルナイザーを構えるのだった。

 

 

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怪獣紹介

 

 

機械分類ロボット型モンスター『サイバー・ウー』

出典:ゲーム『キング・オブ・ザ・モンスターズ2』『ネオジオバトルコロシアム』

 

解説:少女怪獣使い『鈴村すず』の操る、黄色ともオレンジともとれる塗装のゴリラ型ロボット怪獣。

   高い次元でバランスがとれており、相手を投げ飛ばすパワー、ローラーダッシュによる高速機動を駆使して戦う。

   武装も充実しており、背中にはブースター兼ミサイルポッド、首を伸ばしての頭突き攻撃『スプリングヘッド』、ロケットパンチ、自走砲形態に変形してのガドリングレーザーなど多種多様な武器を備えている。

   必殺技は上半身と下半身を分離させ下半身を自走砲に変形、上半身でのホバリングからの格闘攻撃と下半身のレーザーキャノン自走砲攻撃を同時に繰り出す『スプリットアタック』。

 

   本来は非常に凶暴な怪獣なのだが、心からすずには従っており、彼女を守るために戦う。

   幼いために複数の怪獣を使役できないすずにとっては唯一の使役怪獣である。

 

 

   ゲーム『キング・オブ・ザ・モンスターズ2』でプレイヤーが操作できる3体の怪獣の1体。

   日本が世界を征服するために造った最強のスーパーロボットだが、頭脳部分をどうしても作成できなかった。そこで前作『キング・オブ・ザ・モンスターズ』のキャラの1体、モンスター同士の戦いで瀕死の重傷を負ったゴリラ型モンスター『ウー』の脳を回収、これを移植する。

   当初の計画では完全に制御できるはずだったが当然のように怪獣としての意識を取り戻し暴走、凶悪な怪獣をさらにパワーアップさせて復活させてしまうという最悪の事態に。

   地球に襲来したエイリアン怪獣たちと死闘を繰り広げこれを撃破、その後ほかの2体の怪獣とともに地球文明を破壊し尽くし、人類の文明が800年衰退するという事態を引き起こした。

 

   『ネオジオバトルコロシアム』では設定が大幅に変わり、下町の工場がその技術力を証明するために造られた2mほどの類人猿型ロボット。

   工場の娘『ゆず』の操縦で並いるネオジオ系トンデモ格闘家たちと戦った。

   いわゆるパワー系投げキャラ。

 

   

   本作品中、ぶっちぎりのマイナー怪獣であり作者の子供の頃の思い出のキャラ。

   学校帰りに近くのスーパーで稼働していた筐体で遊んだのはいい思い出である。

 

 




ヴィンセント島に攻めてくる超獣2体といえばやっぱりこいつらです。
本格的な戦闘は次回からになります。

そしてウーちゃんこと『サイバー・ウー』……自分で言うのも何ですが、こいつの出てくる小説なんてみたことないです。
どうして私はこんな超ドマイナー怪獣を出そうとしたんだろうか……?
まぁ一応理由はあるんですが……それも条件合致する怪獣はいくらでもいるし……うーん、謎だ(笑)

次回もよろしくお願いします。


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