人と妖怪とetc. (那々氏さん)
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第1話 巫女と居候
この幻想郷には、妖怪退治を専門とする巫女さんがいるそうだ。名前は博麗霊夢《はくれい れいむ》。何か困った事があったらとりあえず行ってみるといいらしい。別段困ったことがあるわけではないが、行く当てもないので行ってみることにする。
「さて、この階段を上りきれば・・・」
鳥居の向こうには、少女がいた。
赤と白を基調とした巫女服に頭につけている大きなリボンが目を引く。そしてなにより美人だった。整った顔立ちに白い肌、少し眠たげに細められた目も、目の前の少女にとっては、美しさを引き立てる為の要因でしかなかった。
「さっきからジロジロ何かしら?」
箒をはく手を止めて、疑うような視線をこちらに向ける。
「いやなに、えらく美人な巫女さんもいるもんだな~ってね」
「あらありがと、お帰りは今来た道よ」
「生憎と帰る場所がないんでね」
「あらそう、私には関係ないわね」
意外とドライな反応に心が折れそうだが、めげずに話を続ける。
「八雲紫《やくも ゆかり》って知ってるか?」
「・・・・・・」
「肯定と受け取るぞ、そんじゃ説明させてもらう
一.俺は幻想郷の人間ではない
二.初めて来た場所だし、どこに何があるかも分からない
三.以上より博麗神社に居候させてほしい、OK?」
「お断りよ」
即答かよ。泣くぞ。
「自分で幻想郷の人間じゃないって言ってるし、そもそも得体の知れないやつを家に入れる気になる?」
なりませんね。ごめんなさい。
「分かったら今すぐ消えなさい。そもそも何でここに来たのよ」
「・・・が」
「え?」
「紫が、あんたにはもう言ってあるから、遠慮せず居候しなさいって言ってたんだけど、聞いてない?」
「はぁ?そんなこと私聞いてな・・・い・・・」
彼女は急に押し黙ると、
「ちょっと、ちょっと待ってなさい」
と言い、神社に入っていった。
5分ほどして
「あンのスキマ妖怪・・・」
こめかみをおさえながら、彼女は戻ってきた。
「はぁ・・・あんた、何ができる?」
「へ?」
「居候させるにあたって、こっちにメリットがないと屋根の下に入れる気は無いわ」
なるほど。確かにメリットがないのに居候させる気にはならないわな。
「そうだな~、掃除以外の家事は任せろ。マジ目玉焼きとか超一流料理人並だから」
「掃除はできないのね・・・」
「ま、しゃーないな。あぁそれと」
「何?」
「意外と腕っ節は強いぞ?」
上腕のあたりを手で触りアピールをしてみる。
「“前の”場所での話でしょう?」
やれやれと言わんばかりにため息をつきながら言う彼女に、若干イラッときてしまった。ゆえに、言ってしまった。
「なんなら、確かめてみるか?」
彼女の目が鋭くなる。
「博麗の巫女に勝てるとでも?」
「やってみなきゃ分かんないだろ?」
少しの沈黙ののち、さきに口を開いたのは霊夢だった。
「いいわ、居候させてあげる」
「あれ、今の流れ完全無視?」
「せっかく掃除したのを汚したくないし、移動するのも面倒くさいのよ。それに、もうすぐ昼寝しようとしてたところだし」
「そうか、まぁ居候させてくれんなら別にいいか」
少々もったいない気がしたが、まぁ仕方ない。居候させてもらう身分なので、これ以上は黙っておこう。
「ようこそ、幻想郷へ」
そう言って、彼女は微笑んだ。
いかがだったでしょうか。自分は、原作をやったことがないようないわゆるにわかですが、それでもよろしければ、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。
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第2話 常識と巫女
「まずはあんたの名前を教えてもらおうかしら」
目の前の少女、博麗霊夢は言った。
「そうだな、俺の名前は銀。見た目じゃ分かんないかもしれんが半妖だ。よろしくな」
「私は博麗神社の巫女、博麗霊夢よ。霊夢でいいわ」
「おう」
軽く自己紹介したあと、ひと息つくために部屋へ入った。
「で、紫はなんの説明もしていないと」
呆れたような声で、霊夢は言った。
「はぁ・・・とりあえず人里だけ案内するわね。ほかは・・・後で案内するわ」
「おう、その方が俺も探索しがいがあって楽しいしな」
実際俺は、一人で歩くほうが好きなタイプだ。男ならみんなそうだと思いたい。
「そうと決まればさっさと行くわよ」
立ち上がるや否や霊夢はそう言った。
「あれ、さっき昼寝するとか言ってなかったか」
「面倒ごとは先に片付けたいのよ」
面倒で悪かったな、面倒で。
「ほら、行くわよ」
「へいへい」
適当に返事をし、のろのろと立ち上がろうとしたときだった。
「れ・い・む・さ~~~~ん」
静かな神社に明るい声が響き渡った。
「今日も来たのね・・・でもま、今回ばかりはいいタイミングね、早苗」
「ほえ?」
早苗と呼ばれたその少女は、突然のことに、間抜けな声をあげることしかできなかった。
少女説明中…
「なるほど!そういうことならお任せください!私も霊夢さんと一緒に人里を案内しますよ~!」
東風谷早苗《こちやさなえ》。八坂神社という場所で霊夢と同じ巫女をしているらしい。実は彼女も異世界から来た人間らしい。俺とはまた違う世界なのだろうが。
「それにしても、霊夢さんが私を頼ってくれるなんて、早苗感激です!」
「はいはい」
若干興奮気味な早苗を霊夢は適当にあしらう。誰にでもあんな対応なんだな。俺だけだと思って悲しくなってたわ。
「それで、人里まではどれくらいなんだ?」
「そんな遠くもないわよ。ただ、面倒だから飛んでいくわ」
「飛ぶ?」
鳥のように飛べってーのか、いくら半妖でも無理だぞ。
「私の近くにいて。それで飛べるから」
ほう、便利な能力だ。
「はい!私もしっかりつかまってますね!」
「あんたは自分で飛べるでしょう。甘えない」
「えー霊夢さんのけちー」
口をとがらせている早苗を見て、霊夢は苦笑する。なんだかややこしいことになりそうだが、案内してくれるという親切心はありがたく受け取っておこう。
「ほら、ぼーっとしてないで、さっさと行くわよ」
そう言って、霊夢は俺の手をとり、人里へと飛びたった。
ちなみに、早苗は終始ぶーぶー言っていた。
いかがだったでしょうか。もうお気づきかも知れませんが、私はレイサナ派です。異論は認めます。苦手な方はお逃げください。それではまた次回、読んでいただけると嬉しいです。
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第3話 人里と妖怪
─人間の里───
「ここが人里か・・・」
まさにお手本とでも言うかのような、質素な木造の家が立ち並ぶ、どこか懐かしさを感じさせるような場所だった。
人里に来る途中に霊夢から少し話を聞いていた。ここが一体どういう場所なのかを。
この人里は驚くべきことに、妖怪に管理されることで成り立っているらしい。かといって、妖怪が人を虐げているのではなく、人間にとってはむしろ人里がある種の“安全地帯”になっているようだ。妖怪といっても人を喰う妖怪、驚かせるだけの妖怪、人と共生することを望む妖怪なんてのもいる。ここは、そういうヤツらの存在意義を途絶えさせないためにも必要なのだそうだ。
「意外と普通なんだな」
「あんた、一体どんな場所を想像してたのよ」
少し呆れたような口調で霊夢は言う。
「いやなに、妖怪が管理してるって言ってたからな。もっと妖怪が闊歩してるのかと」
もしくはその逆、妖怪が極端に迫害されているかのどちらかだ。事実、俺のいた村はそうだった。
「何のために私がいると思ってんのよ」
「霊夢さんのおかげで、里の人たちは安心して暮らせるんですよ!」
「へぇ」
人を襲い、襲ったことで生まれる恐怖や噂で存在を確立させているのが妖怪(例外も多いが)。だが、その発信源たる人を妖怪は簡単に消すことができてしまう。そうなれば、妖怪自身も存在できなくなってしまう。人を守ることで間接的に妖怪も存続させるのが博麗の巫女の役目だと霊夢は言った。
「ま、人を襲う系は死なない程度にボコしてるから、なんともいえないわね」
「それを自分で言うかフツー」
「妖怪退治をしているときの霊夢さんはとってもカッコいいんですよ!こう、バーンって!」
「はいはい、さっさと案内するわよ」
「えー、まだまだ語れるのにぃー」
そんなこんなで、3人の里歩きが始まった。
少女案内中…
「で、あそこが寺子屋。人間の子供だけじゃなくて、妖怪とかも通ってるのよ」
「今どきの妖怪は勉強もするんだな・・・」
「あっちへ行くと、おいしいお団子屋さんがあるんですよー!」
「あとは、村の外れに妙蓮寺《みょうれんじ》っていうお寺があるわ。興味があれば、行ってみるのもいいかもね」
この幻想郷にはほかにも、地底や妖怪の山、天界なんかもあるそうだ。広すぎだろ幻想郷。
「さて、案内はこれくらいでいいかしらね」
「ですねー」
「おう、ありがとな」
「はやく顔とか覚えてもらいなさいよ。じゃないと色々不便だから」
「了解」
しばらくは、人里に入り浸るか。少しでも顔見知りは多いほうがいいからな。
「やることもやったし、今日はもう帰りましょうか」
「えー霊夢さん帰っちゃうんですかー!?」
「当たり前よ、案内しに来ただけだし、お昼寝してないからせめてゆっくりしたいし」
心底疲れたように霊夢は言う。俺が案内させたせいだけではないと思うぞ。こっち見んじゃねぇ。
「それなら仕方ないですね。私も今日はこの辺で帰りますね。神奈子さまや諏訪子さまにも無断で来ちゃったので」
「あんたねぇ・・・」
霊夢は何か言いたそうだったがぐっとこらえたらしい。
「それじゃあ霊夢さん、銀さん、お先に失礼しますねー!」
そう言うと、早苗は(おそらく)八坂神社のほうへ帰っていった。
「じゃ、私たちも帰りましょうか」
「おう」
帰る場所があるっていうのは、やっぱりいいものだな。そんなことを思いながら、霊夢と一緒に、博麗神社に帰るのだった。
いかがだったでしょうか。今回は、自分の思う妖怪像のようなものを書かせていただきました。この人はこんな風に思ってるんだなー程度に読んでいただけると幸いです。それではまた次回、よろしくおねがいします。
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第4話 紅魔編 異変と紅魔
俺が幻想郷に転移してきてから2週間ほど経った、ある日のことだった。
「すいませーん」
庭のほうから男の声がする。
「博麗霊夢さーん。いらっしゃいませんかー」
どうやら霊夢に用があるらしい。だが、生憎と霊夢は今、妖怪退治に出かけていて神社にはいない。俺が用件だけでも聞いておこう。
「今ちょうど霊夢はいないんですよ。何かあったんですか?」
「何かあったもなにも、あれを見てくださいよ」
男性の指差す方向を見ると、何やら空が赤い。まだ時間的には昼過ぎのはずで、夕焼けというのもおかしい。
「昼前ぐらいから突然空が紅く染まったもんで、みんな気味悪がってしょうがないんですよ」
「あっちの方角は確か・・・」
「えぇ、霧の湖のほうです。あの湖は最近、吸血鬼がいるという噂で・・・」
話を聞くところによると、その噂が広まったのは、ここ1週間ほどのことで、その矢先に空が紅く染まったものだから、吸血鬼のせいじゃないか、という人もいたらしい。吸血鬼か、なかなか面白そうだ。
「なら、俺が原因を突き止めてきましょうか?」
「え、あなたが?」
ほんの一瞬だが、明らかに疑うような視線を向けてくる。まぁ当たり前のことだろう。この人は、信頼できる霊夢に依頼しにきたのであって、素性の知れないような男に会いに来たわけではない。
「えぇ、こう見えて霊夢と同じくらい強いんですよ」
「霊夢さんと同じくらい!?それは本当ですか!?」
そんなに驚くようなことなのだろうか。だがこの反応を見るに、霊夢は本当に実力、実績ともに確固たるものがあるのだろう。まだ確かめてはいないが、おそらくきっとたぶん同じくらいの実力だと信じたい。もしかしたら勝てるかもしれないからな、嘘はついてない。
「それじゃあよろしくお願いします。どうかお気をつけて」
男性は一礼すると、里のほうへ帰っていった。
「ちょーっと後ろめたい気もするが、とりあえず行ってみるか」
霊夢に内緒で行く訳だから、さっさと行くにこしたことはない。俺はすぐに霧の湖へと歩きだした。
──霧の湖──
「ここが紅い雲の発信源か。」
湖に浮かぶ島の畔には、ここ幻想郷の雰囲気から明らかに浮いている“洋館”が建っていた。だが、そう判断した理由はそれだけではない。“紅い”のだ。外装から塀、門から屋敷へと続く道も何から何まで紅で統一されていた。ふと、門の前に誰か立っていることに気づく。この館の人間だろうか。
「あのー、すいません」
「・・・・・・」
返事はない。
「聞こえてますか?」
「・・・・・・・・・」
再度、聞いてみる。返事はない。
「あの・・・」
「・・・・・・zzz…」
「・・・」
寝てやがった。少々イラッときたので無理やり起こすことに決めた。
「あの!起きてください!聞きたいことがあるんですけど!」
「は、はいぃっ!なんでしょう!あれ?どちら様ですか?」
「はぁ・・・ようやく起きた」
立ったまま寝るとか聞いたことないわ。プロかよ。
「あの、この紅い雲をだしているのって、ここですよね?」
「あぁはい。その通りですよ」
意外にも、あっさりと認めた。
「里の人たちが気味悪がっているんで、止めてもらえませんかね」
「申し訳ないんですが、私ではそれは了承できません」
私では、ということは少なくともこの人より立場が上、おそらくはこの館の主がやっていることなのだろう。
「じゃあ俺が直接ここの主に話をさせてもらいます」
「それも了承できません」
やっぱりダメか、なら
「・・・・・・」
なら、無理やり押し通るまでだ。
拳を構え、戦闘態勢を整える。
「今引き返せば、このことはお嬢様にはお伝えしません。やめたほうがいいと思いますよ?」
目の前の少女はそう言いつつも構えをとっている。
いいね、そうこなくっちゃ。
「私は
少し困ったような笑顔を崩さずに、彼女は言った。
「俺の名前は銀。普通の人間だと思ってると、痛い目見るぜ?」
少しでも昂ぶる気持ちを抑えつけるため、より一層、拳に力を入れる。
まるで血のような真紅に染まった雲の下、戦いの火蓋は切って落とされた。
いかがだったでしょうか。今回は主人公が依頼を受け、紅魔館に行くところです。門番である美鈴の力は一体どれほどなのか。次回もまたよろしくおねがいします。
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第5話 紅魔編 門番とお願い
──紅魔館 門前──
先に動いたのは、美鈴だ。
瞬時に距離を詰め、踏み込み、拳を放つ。
だが、その動きは明らかに、
(手加減されてるな、こりゃ)
それもそのはずだ。彼女はまだ、俺が半妖であることをしらない。だが俺も、このまま黙っている気はない。
放たれた拳を正面から受け止め、蹴りを放つ。予想もしていなかったのだろう。分かりやすいくらいに美鈴の表情が変わる。
咄嗟に左腕で防ごうとしたらしいが、関係ない。全力で蹴りぬく。美鈴の体が吹き飛ぶ。
「ありゃ、あんた結構頑丈だな」
美鈴は驚愕の表情でこちらを見ている。
「半妖・・・ですか・・・」
「ご名答。半分人間半分鬼だ。だけどあんたも十分頑丈だな」
「それだけが取り柄なんでね・・・!」
そう言うと、彼女の目つきが鋭くなり、動きが変わる、やる気になってくれたのだろう。そしてあの動きはおそらく、
(太極拳・・・か?)
ほんの少しだが殺気を感じる。俺も能力のほうはフルで使ったほうがいいだろう。意識を美鈴に集中させる。その一挙一動を見逃さないために。
美鈴の動きが止まる。準備が整ったのだろう。さらに意識を集中させる。
「いきます!」
かけ声とともに、美鈴が動いた。先ほどまでとは段違いの速さで距離を詰めてきた。足からも踏み込むたびに気を放出し、加速しているのだろう。
掌底、正拳突き、上段回し蹴り、そのひとつひとつが達人と言えるだけの動きだ。だが、俺の能力はその全てを見切る。不安要素は、彼女がまだほとんど「気」を使ってこないことだ。
「くっ・・・!」
ほんの僅かな攻防だが、武術を極めようとしている美鈴には分かった。
この半妖は・・・強い!攻めてこられたら恐らく・・・
──負ける。
だけど、まだ相手は私の能力を把握しきっていない・・・やるなら今しかない!
「ハッ!!」
美鈴が気合いとともに、右足で思い切り踏み込んだ。
何だ?突きか?左での蹴り?そんな考えが頭をよぎった、刹那。
バチィッ!
「んな・・・ッ!!」
予想もしていなかった地面からの衝撃。体勢が崩れる。すかさず美鈴が距離を詰める。
今のはおそらく震脚。それを応用して、気を放ち、自分の周囲に衝撃波を起こしたのだろう。
「しま・・・」
「遅い!」
美鈴が構え、踏み込む。
「三華・崩山彩極砲!!」
左での掌底。完全に体勢が崩れる。もう防げない。
反転し、右腕を頭の横に、腰を落とし左手を右もものほうへ突き出す。
そして
「ハァァッ!!!」
全身全霊をもって相手の躰を肘で打ち抜く。
彼女の技は虹色のオーラを放ちながら、鳩尾を的確に打ち抜き、景気のいい音とともに、俺の体を思い切り吹っ飛ばす。
だが、それでも俺は空中で体勢を立て直し、着地する。
「ははっ・・・!結構全力だったんですけどね・・・!」
思わず渇いた笑いが出てしまうほどに、デタラメだった。半分とはいえ、鬼という種族はここまでの力を持っているのか。
表情だけで、美鈴の言いたいことが手に取るように分かる。彼女の技は確かに強力だった。だがそれだけでは足りない。クソ痛かったけど。
「あんた、やっぱり強いじゃん!ホントに闘えてよか・・・おっといけね、角が」
また角が出てしまった。今では多少の制御はできるようになったのだが、子どものころから、極度の興奮状態になったりすると、自身の半分である、【鬼】に力も姿も近くなる。本物の鬼よりかは、幾分か劣るが。今は理性を保てているからいいものの、たまに理性が吹き飛ぶから質が悪い。
「しばらくは戻せねぇな。まぁいいか。次は、こっちから行くぜぇ!!」
「させない・・・ッ!光符・華光玉!!」
美鈴は両手を前に突き出し、鮮やかな色のエネルギー弾を連続で撃ち出してくる。それを全速力で左右に躱しながら、美鈴との距離を詰める。
「くっ・・・極光・華厳明星!!」
先ほどよりも強く、エネルギーが集約されているのが分かる。おそらくアレを受けたらひとたまりもないだろう。
距離にして約10歩。間に合うか。
残り9歩。
まだ彼女は技を放てる状態じゃない。
残り8歩。
さらに全力で加速する。
残り5歩。
「ハァァァァ!!!!」
美鈴が発動準備を終え、技を放つ。先ほどとは比べものにならない大きさの虹弾が放たれる。もう避けられない。
残り4歩。
一か八か賭けに出る。腕で顔を守りながら、虹弾の下を滑りぬける。
残り3歩。
美鈴は技の反動で動けない。驚愕と呆れの混じった表情でこちらを見ている。
残り1歩。
全力で踏み込む。左腕は使いものにならないので右でブン殴る。
「オラァッ!!」
美鈴の体が吹っ飛ぶ。
(浅い!)
恐らく殴られる直前に、気を放出したのだろう。かろうじて防いだようだが美鈴はもう動けないらしい。
美鈴の前に立ち塞がる。諦めたのか、彼女はもう闘う気はないようだ。
俺は・・・
俺は、そんな彼女に手を差し出す。
「立てるか?」
「・・・殺さないんですか?」
「質問に質問で返すなよ」
「茶化さないでください」
どうやら彼女は本気で分からないらしい。真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
「そりゃぁ単純だよ。あんたと闘ってるとき、滅茶苦茶楽しかった。そんな相手を殺すとか、もったいないにもほどがあんだろ?」
「な・・・ふふっ」
「なんで笑う」
「いや、久しぶりにおかしい人に会ったものだな、と」
「大きなお世話だ」
軽口を叩きながら美鈴は俺の手を取り、立ち上がる。
「左腕・・・大丈夫ですか?」
心配してくれているらしい。だが、そんなことより
「そんなことより、門を開けてほしい」
「その腕では、お嬢様に勝つことは不可能ですよ」
「やってみなきゃ分かんないだろ?」
「いえ、負けておいてなんですが、断言できます。五体満足ならともかく、それではお嬢様の足下にも及ばない」
へぇ・・・そこまで言うか。俄然やる気が出てしまう。
「でも、腕を治す方法がないしな」
半妖ということもあってか、傷の治りははやいほうだが、ここまでいくとさすがに2,3日はかかる。
「なら、パチュリー様にお願いしてみてはどうでしょう」
「パチュリー?」
知らない名前だ。
「パチュリー様は、お嬢様のご友人で大魔法使いでもあるんです。なので、おそらくその腕も」
「治せるって訳か」
「はい」
「だけど、素直に治してくれるのか?美鈴だって俺を止めた訳だし」
「私は門番なので・・・。ですがパチュリー様は温和な方です。戦闘にはならないと思いますよ。条件次第では、手助けをしてくれるかも」
戦闘には・・・か。部屋に入った瞬間落とし穴ズドンとか、顔見た瞬間「お断りよ」とか言われたら泣いて帰るそ。
「条件って?」
「そこは銀さんの腕の見せ所です」
要するに俺のほうでうまくやれってことか。
「で、そのパチュリーってのはどこにいるんだ?」
「パチュリー様はいつも大図書館におられます。今日もそこにいるかと」
「分かった」
「あぁそれと・・・」
「なんだ?」
「不躾ですが、門を開けるかわりに、ひとつお願いをしてもいいでしょうか」
「・・・あぁ」
「妹様を・・・フランドール・スカーレット様を、連れ出してあげてほしいんです」
呼び方と美鈴の態度から察するに、おそらくはこの館の主の妹なんだろう。
「俺はかまわないけど、美鈴はそれでいいのか?主に刃向かったことにならないか?」
「侵入者に門を突破されちゃったんです。この際、もう大丈夫じゃないですかね」
「案外適当なんだな・・・」
館の雰囲気に似合わず、意外とゆるいのかもしれない。
「それじゃあ門を開けますね。私は門番なので、ここを離れることはできませんが、どうかお気をつけて」
「おう、妹の件、任されたぞ」
最後にそう言って、俺は館へと足を進めた。
美鈴は思う。
私を倒した彼なら、妹様をあの暗闇から連れ出してくれるのではないかと。もし、妹様を救い出すような人がいるとしたら、それは自分たちではなく、彼のような侵入者《イレギュラー》なのかもしれない。そんな、突拍子もないことを考えてしまうのは、自分がまだまだだという証明なんだろう。
「もっと修行しなくちゃなぁ・・・」
そんなことを口にしながら、彼女は真っ赤に染まった空を見上げるのだった。
いかがだったでしょうか。紅魔館の門番、美鈴との戦いでした。彼女は太極拳や中国武術を使うというので、ネットを使って調べまくりましたが、よく分かりませんでした!難しいですね。次からはもっと事前に調べてから書き始めることにします。それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
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第6話 紅魔編 ナイフと従者
──紅魔館 中庭──
門の先には、色とりどりの花が咲き乱れる庭園があった。あまりにも鮮やかな色の花たちに、恐怖心すら湧いてくる。
「綺麗な桜の下には、死体が埋まってるって話、もしかして花もそうなのか?」
晴れていたのなら、おそらくこの花たちも、それぞれの個性を遺憾なく発揮し、見る人々を魅了できるほどの美しさはあるのだろう。
だが、重苦しい、血のような色をした雲の下では、どれも不気味に思えてしまう。
「入り口は・・・あそこか」
ギィィ・・・と軋みながら、扉を開く。
──紅魔館 エントランスホール──
館の中に入ると、そこには異常に開けた空間があった。何かの能力が働いているのだろうか。外観よりも明らかに広い内装に少し驚く。
(さて、どこへ行ったもんかね)
美鈴から、パチュリーの居場所は図書館だと聞いてはいたものの、肝心の行き方が分からない。
悩んでいても仕方ないので、部屋の奥にある大階段の方へ行こうとしたときだった。
「止まりなさい」
声とともに、目の前の床に銀色のナイフが突き刺さる。
見上げるとそこには銀髪の女性がいた。
服は、青と白の2色で頭や肩には、白いひらひら、前掛けもつけている。短めの、確かスカートといったか、それもはいているようだ。腰には、懐中時計のようなものも見える。
「ここの従者は客に向かってナイフを投げるよう教育されてんのか?」
かがんでナイフを拾い、女性に投げ返す。
「門番を倒して無理矢理入ってくるような輩を、はたして客と言うのかしらね」
女性は、事もなげに投げ返したナイフをキャッチする。
「大図書館ってとこに行きたいんだけど、この館広すぎてさ。案内してもらえませんかね」
「それよりも先に、地獄へ案内してあげるわ」
その直後、彼女の姿が消える。
「え」
「動かないで。」
考えるひまもなく、首元にナイフを突きつけられる。
おいおい、今のはなんだ。高速移動ってレベルじゃねぇぞ。
今の彼女の動きは、まさに瞬間移動と呼ぶべきものだった。どんだけだよ幻想郷。
「目的と、誰の差し金かだけ吐きなさい。そうすれば、八つ裂きはやめてあげる」
どうやら殺すのは確定らしい。さて、どうするか。
「囚われのお姫様を助けにきた王子ってとこかな」
「そう、残念ね。今からその物語は悲劇に変わる。貴方が死ぬことでね」
彼女の手に力がこもる。一瞬でもタイミングは間違えられない。
「それじゃ、さよなら。悲劇の王子様」
今だ。
油断している彼女の手首から、ナイフを弾き飛ばす。
「なっ、このっ!」
すかさず追い打ちをかけようと拳を放つが、瞬間移動で距離をとられる。
「・・・・・・」
彼女は無言でこちらを睨みつける。
「悪いけど、ここで死ぬ予定はないんでね」
喋りつつも、彼女の動きに全神経を集中させる。
「俺の名前は銀だ」
「は?」
「だから、名前だよ名前。こっちが名乗ったんだからそっちも名乗れよ」
「馬鹿らしい。なんでそんなこと・・・」
「これから倒す相手の名前くらい、覚えときたいだろ?」
その言葉に彼女はピクリと反応する。
「よほど私を怒らせたいようね・・・」
彼女の声は、怒りで震えている。
「いいわ、教えてあげる。私は十六夜咲夜《いざよいさくや》。覚えなくていいわ。なぜなら」
彼女は両手にナイフを構える。
「私か今!貴方をここで殺すと決めたからよ!」
言い終わると同時に、咲夜がナイフを投擲する。
俺は、約束は絶対に守るタイプなんだ。だから
「妹様を・・・フランドール・スカーレット様を、連れ出してあげてほしいんです」
美鈴の声が、頭の中をよぎる。
だから、ここで死ぬ気は毛頭ない。約束を果たせなくなるからな。なんとかして切り抜けて、囚われの妹さんを助け出し、この紅い雲も止めさせる。我ながら強欲だと思うが、全部やってやる。
向かってくる銀色のナイフを見つめながら、彼はそう、心に決めた。
いかがだったでしょうか。今回は紅魔館内部にて、咲夜さんとの遭遇回です。咲夜さんめっちゃ好きなキャラなので、次回から書けるのが楽しみです。それではまた次回、よろしくおねがいします。
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第7話 紅魔編 主と従者
──紅魔館 エントランスホール──
首を少し傾け、向かってくる数本のナイフを避ける。
恐ろしいほどのナイフ投げの腕前だ。彼女との距離は約20間ほどあるにも関わらず、投げてきたナイフはどれも俺の頭を狙っていた。
「美鈴を倒したくらいだもの、最初から全力でいくわよ」
「どうかお手柔らかに・・・!」
彼女はまたナイフを投げる。
今度は6本。
のはずだった。
真っ直ぐに飛んできたナイフは、中間ほどの距離で、突如数十本に増える。
「なっ・・・!クソッ!」
間一髪で跳躍、ナイフを避けきるが、彼女の攻撃は終わらない。
「いくわよ、幻符・殺人ドール」
二階の手すりに捕まり、咲夜のほうを見ると、何かを口走り、周囲にナイフをばらまいていた。
(何だ・・・?とち狂ったのか?)
そんなくだらないことを考えてしまった次の瞬間、ばらまかれたナイフが、すべてこちらを向き、文字通り高速で向かってくる。
「おいおいおい笑えねぇぞ!」
すぐさま手すりから手を離し、初めの数本を躱す。着地と同時に前転、起き上がり残りのナイフを躱しつつ、ひとつだけナイフを手にし、咲夜に向かって投げつける。
だが、そのナイフは咲夜に届く前に跡形もなく消え去った。
(クソがッ!
一瞬だけ後方を確認したが、投げたナイフ同様、刺さっていた跡だけ残し、全て消えていた。
「意外とやるじゃない。」
「お褒めにあずかり光栄ですってか?」
おそらくは本心なのだろう。表情を隠す気もないようだ。だが、この状況ではそれはただの皮肉でしかない。
「さぁ、次よ。幻世・ザ・ワールド」
言葉とともに、咲夜はまたナイフをばらまく。
ただ、さっきとは軌道が明らかに違う。ほとんどのナイフはおそらく適当に投げたのだろう。だが、その中にこちらを狙ってくるナイフがあるだけで、全てを躱すのは非常に困難になる。
(クソッ!数が多すぎる!)
いくら見極めることができても、対象物がありすぎて、死角ができてしまう。致命傷にならないように避けたが、体に浅い傷が増えていく。
「そこッ!!」
ナイフの弾幕に紛れて背後に来ていた咲夜に回し蹴りをかます。
だが、彼女はそれを余裕でかわす。
「同じ手が通じるほどバカではないようね」
何か言っているが、聞いている余裕はない。次々と向かってくるナイフを避けつつ、思う。
やっぱり人のままじゃ勝てねぇか・・・!
やりたくはないが、本当にやりたくはないが、背に腹はかえられない。
鬼としての能力もフルで発動させる。角が生え、さっきまであった浅い切り傷がすべてふさがっていく。
「なっ・・・貴方、何者・・・?美鈴を倒したっていうから、人間ではないと思っていたけれど・・・」
まさか本物のバケモノだったとは。
「色々と事情があるんでね」
飛んでくる最後の一本の刃を、素手で握りつぶしながら言う。
「こっからが本番だ。覚悟しろよ」
階段の上の咲夜のいるところまで跳躍、かかとを下ろすが、転移させられてしまう。
鬼が相手ならば、出し惜しみしている余裕はない。一気に片をつける!
「幻葬・夜霧の幻影殺人鬼!!」
咲夜の周囲に紅いオーラを放つナイフが設置され、(おそらくランダムで)こちらに放たれる。さっきの技より、ナイフの速度は段違いだ。
向かってくるそれを弾き、躱しながら数歩で彼女のもとへ到達する。
再び全力の右で殴りつける。だがそれは彼女の居た場所に、大きな亀裂を作っただけだった。
(今度は上か・・・!!)
見上げると、彼女はすでにナイフを放ち、自身もナイフを手にし、斬りかかってきていた。
「チィッ!」
後ろに飛び退き、なんとか軽傷ですます。
「もう一丁!!」
再び殴りかかる。だが、彼女はそれを、
「くっ・・・力任せな・・・!!」
その後に彼女はまた転移する。
彼女はなぜ今、転移せずにかわした?もしかして、連続して転移することはできないのか?だとしたら・・・
確かめる余裕はない、それに賭けるしかないだろう。
「ふっ!!」
距離をとらせないようたたみかける。
「まだまだァ!!」
右腕と両足で、怒濤のラッシュを繰り広げる。
躱しきれなくなったのか、彼女はとうとう転移した。
よし、今が攻めどき・・・!!
「あまり使いたくなかったのだけれど・・・!」
そう言うと彼女はまた、自身の周囲にナイフをばらまいた。
だが、先ほどと明らかに違う点がある。
速度、だ。
投げたナイフに高速で飛んでくるもの、遅延が発生しているもの、途中でいったん減速、再加速してくるものなど、同じ速度のナイフがなかったのだ。
俺は、大きな思い違いをしていたのだ。彼女の能力は瞬間移動ではなく、
それならば、全てに説明がつく。
そしておそらく、咲夜は俺が彼女の能力に気づいていないことを分かっていた。だから、今の今まで、加速や減速をしなかった。
「クソがッ!避けづれぇったらありゃしねぇ!」
「時符・プライベートスクウェア!!」
彼女がそう唱えると、世界が加速した。飛び交うナイフ、瓦礫の落ちる速度、その全てが加速した。
いや、違う。これは・・・
「貴方が、減速したのよ」
かなり疲弊した様子で、彼女はこちらに語りかける。
「さぁ、仕上げといくわよ」
咲夜は、さらに多くのナイフを投擲してくる。
全身に切り傷ができていく。何本かは、腕や足に刺さっている。
致命傷がないのは、彼女がそれだけ疲弊している証拠だろう。
(くっ・・・まずい!はやくとどめを・・・)
「あっ・・・」
咲夜の技の効果が切れる。世界が減速する。
「もらったぁぁぁぁ!!」
勝った。彼女が次に能力を使うまでまだ時間がある。
その状況で、彼女は
笑みを浮かべていた。
「咲夜の時間」
全てが、停止した。
「はぁ・・・まさかここまで追い詰められるとは思わなかったわ・・・」
息を切らしながら、静寂の中で彼女は言う。
「咲夜の時間」今までにたった一度しか使ったことがない、彼女の切り札とも言える技だ。
「お嬢様以来かしらね・・・これを使ったのは・・・」
反動で、体が重い。視界がぼやける。
ぼろぼろの体に鞭打ち、ナイフを設置していく。
「はぁ・・・どうあれ、これで終わりよ・・・」
時間停止、解除。
「俺の勝ッ・・・」
刹那、予備動作などは一切なく、自分を中心に球状にナイフが配置されていた。
一体何が起こった?彼女は能力を使えないはずでは?考えることもできないまま、ナイフは動き出す。
(あっこれ死・・・)
「んで・・・たまるかぁぁぁ!!」
迷っている暇はない、走り出す。
前方のナイフを数本取り、さらに数本弾く。左腕を盾にし、突っ込む。肩や胸、足にナイフが刺さっても走り続ける。
「アアアァァァァァァ!!!」
「ホント・・・つくづくバケモノね」
呆れたように彼女は、向かってくる“鬼”にそう呟いた。
動けない彼女の首に手刀を入れ、気絶させる。
「あの程度の攻撃避けらんないようじゃ、俺は紫との修行でとっくに死んでるよ」
おそらくもう意識のない彼女に向かって、そう囁いた。
「ハァ・・・痛って・・・」
倒れた彼女を支え、大きな声で言う。
「おい!その辺に誰かいんだろ!この人頼んだぞ!」
柱の裏で何かが動く気配がしたが、おそらくほかの従者たちだろう。
「さっさと腕治してもらわねぇと・・・」
体に刺さったナイフを引き抜き、彼は今度こそ、図書館へ向かって歩き出した。
いかがだったでしょうか。今回は咲夜さんとの戦闘回でした。自分で書いてて、時止めとかチートやん勝てるわけねぇとか思ってましたが、なんとか無理くり勝ってもらいました。次は、パチュリーに会いに行くところから始まります。また次回も、読んでいただけると嬉しいです。
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第8話 紅魔編 魔女と予感
──紅魔館 2F廊下──
「ハァ・・・っとに広すぎねぇか?この館・・・」
咲夜と戦った時の疲れが抜けきっているはずもなく、少し弱気になっているようだ。自覚できているだけマシではあるか。
左腕の感覚がほとんどない。傷はふさがったようだが、骨がどうも逝っているようだ。
「・・・誰だ」
ようやく見えてた廊下の角から、何者かの気配を感じる。
「あ、あなたが侵入者さんですか・・・?」
角から顔を見せたのは、頭に小さな黒い羽をつけた女性だった。
「残念、今は恐ろしい吸血鬼を倒しにきた勇者だ」
「よかったぁ、その受け答えの仕方は侵入者さんですね」
今の会話のどこにそれが分かる要素があったのだろうか。そもそも見た目から侵入者だと分かるはずなんだが。
ただ、向こうは戦う気はないようなので、警戒だけはしつつ、話を進める。
「で、俺に何か用?」
「パチュリー様に、案内してくるよう命じられたんです」
・・・向こうから来てくれるとは。だが、罠の可能性もある。
「それを証明できるものはある?」
「えっえっ証明できるもの!?え、えと、えーっと・・・」
大丈夫かこの娘・・・。もはや罠の有無より、この娘がやっていけてるのか心配してしまう。
「そうだ!私こう見えてパチュリー様の部下なんですよ!小悪魔といいます!」
「え、あ、うん」
・・・うん、この娘は罠とか無理だ!
思わず素がでてしまうほどに、彼女が明るく笑う。
「あー、とりあえず案内してくれる?」
「はい!こっちですよ!」
考えるのも馬鹿らしくなってきたので、もうついていくことにした。
歩きながら彼女、小悪魔に問う。
「なあ、咲夜さん置いてきちゃったけど大丈夫か?」
「たぶん、妖精メイドたちが運んでくれてるので大丈夫ですよ」
妖精メイド・・・おそらく隠れて見ていた気配の正体がそれなんだろう。
「咲夜さんは多くの妖精メイドたちをまとめるメイド長なんです。この紅魔館は咲夜さんのおかげで成り立っているようなものなんですよ」
ここでは従者のことをメイドと呼ぶらしい。一気に愛らしくなった気がする。
今のところ罠はないようだ。この娘が罠を仕掛けられなくても、知らされていないだけ、という可能性もある。
だが、それは杞憂だったようで、何事もなくパチュリーのいるという図書館まで案内される。
「ここが大図書館です。どうぞ」
小悪魔は扉を開け、中に入るよう促す。客としての扱いなら当然なのだろうが、少し疑ってしまう。
警戒を緩めないように、俺は図書館へと足を踏み入れた。
──そのころ 人里付近──
「霊符・夢想妙珠」
カラフルな弾幕とともに、霊夢と相対していた妖怪が吹っ飛ぶ。
「まだやる気?」
起き上がり、こちらを見ている妖怪を睨みつけながら言う。
「ヒ・・・」
「?」
「ヒィィおたすけぇぇぇ」
いきなり飛び起きた妖怪は、叫びながら全速力で去っていった。
「・・・まったく、ああいう中途半端に力があるから人間を食ってみたいなんて思うのよ」
強い妖怪ばかり出てこられても、仕事が増えて面倒なだけだが。
「あの様子ならしばらくは大丈夫そうね。さっさと報告して・・・」
「おーい、霊夢ぅー」
「・・・魔理沙、何か用?」
霧雨魔理沙、人間の魔法使いで、よく一緒に異変解決をする仲だ。
「そんな嫌そうな顔するなよ」
「元々そんな顔よ。それより何なの?」
「あぁそうだった、あれ見てみろよ!」
「あれ?」
魔理沙の指差す方を見ると、空が紅く染まっているのが分かる。少し嫌な予感がする。
「霧の湖のほうなんだけどさ、一緒に行ってみようぜ!」
「・・・そうね、いいわよ」
私がそう答えると、魔理沙は心底驚いたように言う。
「一発OKだとは思わなかったぜ・・・」
「どうせ断っても連れて行く気でしょうが。それに・・・」
私が少し口を濁したのに、魔理沙が首をかしげる。
「それに、嫌な予感がするのよ」
「おぉ~こいつはいよいよ楽しみになってきたぜ!」
楽しみじゃないわよ面倒くさい。
「ほら霊夢!さっさと行くんだぜ!」
魔理沙はそういって、箒の向きを変え、先に向かっていく。
この異変起こしたやつ、絶対ボコボコにしてやる・・・
私は魔理沙の後を追いつつ、そう、心に決めた。
いかがだったでしょうか。小悪魔は個人的に天然な娘だと嬉しいですね。次回のパチュリーとのお話まで、気長に待っていただけると嬉しいです。
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