Ewigkeit ——陽だまりの君に、感謝を。 (とある薔薇推しバンドリーマー)
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Ewigkeit ——陽だまりの君に、感謝を。

衝動に駆られるままに筆を進めました。
各所への配慮が足りないことがあるかもしれません。


ずっと、五人で一緒に走り続けてきた。

ずっと一緒だと、思い込んでいた。

永遠なんて、どこにもありはしないのに。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「Roseliaを、抜ける……?」

 

ある日のスタジオ練、その時間も終わりに近づいた頃。そこでリサの口から出た言葉に、四人は己の耳を疑った。

 

「……もう、冗談はやめてよリサ姉!ビックリしちゃったじゃん!」

 

凍りつく空気を振り払うように、あこが大声を出す。

 

「じょ、冗談、だったんですか……?」

「当たり前じゃんりんりん!リサ姉がRoseliaを脱退するわけないよ!」

 

そんなのは嘘だと。信じないと。

そう言わんばかりのあこの態度に、リサは目を伏せる。

 

「ごめんね、あこ。冗談じゃないんだ」

 

続いて立ち上がったのは紗夜だった。

 

「今井さん、急にどうしてですか!?……確かに私の言葉は厳しかったかもしれませんが、それもRoseliaの、この五人で頂点を取るため。傷ついていたのなら、もっと言い方を考えますから!」

「違うよ。そうじゃないの、紗夜」

「なら、どうして……ッ!」

「アタシさ、親の仕事の都合でブラジルに引っ越すことになっちゃったんだよね」

 

リサの言葉は、容赦なく四人に認めたくない現実を突きつける。

 

「ブラ、ジル……」

 

力無く、紗夜が呟く。

 

「もちろん向こうに行っちゃってもメールとかで連絡は取れるし、アタシもベースをやめる気はないよ。でも……」

 

ここまで気丈に振る舞ってきたリサも、流石に言葉に詰まる。

それでも、ゆっくりと、続く言葉を吐き出した。

 

「今までみたいに五人でステージに立つのは、もう出来なくなる、かな」

 

明確に見えた、五人での終わり。

それを感じて、だれもが黙り込んだ。

 

「と言っても、引っ越すのはまだ半年先だから!まだしばらくは、皆で演奏できるよ!」

 

沈む空気を嫌ったリサの言葉も、雰囲気を変えることはなく。結局そのまま、その日は解散した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「友希那は、何も言ってくれないの?」

 

二人での帰り道。スタジオからずっと黙り込んだままの友希那に、リサが話し掛ける。

 

「行かないで、って言ったら、行くのをやめてくれるのかしら」

「——っ、そ、それは……」

「ごめんなさい、意地悪なことを言ったわ。忘れて」

 

友希那の心は、外から見える静けさとはかけ離れて荒れ狂っていた。自分でも制御できないままに放たれた言葉がリサを傷つけてしまったことに後悔しつつ、帰路を歩く。

 

「……友希那」

 

躊躇いがちな声に友希那が顔を上げる。リサは目線を下に落としていた。

 

「アタシが抜けた後もさ。Roseliaは、続けてほしいな」

「……悪いけど、それは聞けない話だわ。Roseliaは、リサが居てこそよ。リサのいないRoseliaなんて、もうRoseliaではないわ」

「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でも、アタシはRoseliaの一員であると同時にRoseliaのファンでもあるんだ。Roseliaとして歌う友希那が、演奏する皆が、大好きなの。だから、アタシがいなくなってもRoseliaを続けてほしい。もちろん、これはただのわがままなんだけど……だめ、かな?」

「……考えておくわ」

 

友希那としては、抜けたリサの代わりを入れてRoseliaとして活動を続けるのは気が進まなかった。

もちろん他の三人と一緒にやりたいという気持ちは強くあるが、やはりリサがいないRoseliaは違うと思うのだ。

だから、やるにしても一度枠を壊してしまう必要があると思っていた。

 

しかし、他ならぬリサがRoseliaを残してほしいというなら。その願いを無碍にするわけにはいかなかった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

リサが脱退を発表した、その次のスタジオ練。

リサが用事で一時間遅れるというので、他の四人で先に練習を始めていたのだが……今までに考えられないほど、気分が乗っていかない。前回のことが響いているのは明らかだった。

 

「……少し休みましょう」

 

流石にこれでは続けられない。そう判断した友希那は休憩を宣言した。

誰の顔も暗い。その感情が演奏に乗ってしまうのだろう。かく言う友希那も声に伸びがない自覚があった。

 

「皆、ちょっと聞いてくれるかしら」

 

浮かない顔の三人の注目を集める。

 

「リサがいなくなるまで、あと半年。皆、こんな演奏でリサを送り出すつもりなの?」

「でも、友希那さん……」

「リサは。自分がいなくなった後も、Roseliaを続けてほしいと言っていたわ」

「今井さん、が?」

「ええ。リサはRoseliaのことを愛している。だったら、リサの大好きなRoseliaの演奏を、頂点を目指す私たちの音楽を、最後までリサに見せていく。それが、私たちに出来ることじゃないかしら」

 

徐々に力が戻っていくメンバーの表情を見て、友希那は頷く。自分を鼓舞する意味合いもあった今の言葉は、その意図通り友希那の熱も呼び覚ましていた。

 

「泣いている、悲しんでいる暇はないわ。最後まで、全力で突っ走るわよ」

「「「はい!!」」」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

今までにない四人の情熱にあてられるように、リサも練習に励んだ。

 

時が過ぎるのは、それが楽しくて永遠に続いてほしいと思う時ほど、早いものだ。

この五人で演奏する、最後のライブを迎えた。

 

ライブハウスは、超満員だった。

磨き上げられた技術とそのビジュアルから高い人気を誇るRoselia、その一員の最後のライブだ。熾烈な争いの末にチケットを勝ち取った者たちは、目を輝かせてステージを見つめていた。

 

登場した時から、五人は笑顔だった。

普段から笑うことの多いリサやあこだけでなく、友希那や紗夜、燐子も笑顔で演奏していた。

 

幾らかの曲を演奏して、MCが入る。

 

「次は、今回のライブのために書いた曲です。これまで私たちRoseliaが辿ってきた道のり、そして想い。そういうものを表現したつもりです。では、聞いてください——“軌跡”」

 

鍵盤の音から始まる、静かな曲調。

激しく強い曲が多いRoseliaには珍しい、バラードだ。

そして友希那は、その美しい声に想いを乗せて唄を紡ぐ。

 

それはここまでの道のりを共に歩んでくれた仲間への感謝、そして別れてもほどけない、永遠の絆を歌っていた。

 

——ありがとう

 

何度も、何度も歌う。共にステージに立つのが最後になる彼女へ、精一杯の感謝を込めて。

ここで離れ離れになったとしても、私たちの絆は永遠に続くのだと。

歩む場所が違っても、心は重なっているのだと。

 

演奏が終わる。

続く曲は、Roseliaの初期からある曲だった。

バンドを結成してからさまざまな行き違いや衝突を経て、この五人で音楽をやりたいと、全員で頂点を取りたいと、彼女たちが一つになった時に書かれた曲。

 

ライブは続く。

 

終盤に入り、新しい仲間の紹介もあった。

6人目の、Roseliaのメンバー。

 

同じ舞台にこそ立てなくなるが、リサはRoseliaからいなくなるわけではない。いつまでも仲間だし、遠くから応援してくれている。

この紹介は、皆で決めたことだった。

 

——そして。

 

「次で、本当に最後の曲になります」

 

この時を迎えた。

 

「まだバンドを結成してそんなに時間が経っていない頃のことです。急に用事が入って、リサがスタジオ練に来れないことがありました。その時に、リサがいなくて初めて、普段から何気ないところで私たちに気を遣ってくれて、支えてくれているリサのありがたみを、大切さを知りました。この曲は、そんなリサへの感謝の気持ちを書いた曲です」

 

友希那は、最後の曲に向けて準備万端に整ったメンバーを見回し、最後にリサを見た。

 

「リサ。タイトルコール、一緒にしてもらえる?」

「オッケー!」

 

とびきりの笑顔で、リサは頷いた。

友希那も微笑みを返し、二人で息を合わせる。

 

「「——“陽だまりロードナイト”」」

 

そして、演奏が始まる。

 

全員笑顔で始まった演奏だったが、最初に崩れたのはあこだった。

常にカッコイイを追求するあこのことをいつも優しく受け止めてくれる、二人目の姉のような存在。尊敬する姉の巴と同じぐらいリサのことを慕っていた彼女は、想いを堰き止められなかったのだろう。

溢れる涙を止めることができず、顔をくしゃくしゃにしながらドラムを叩く。

 

次いで陥落したのは、意外にも紗夜だった。

元々妹から逃げるようにして始めたギター。ただひたすらに技術の極みを目指し、研鑽を積む日々。そのストイックさに離れる者が多かった中初めて出来た、本当の仲間だ。

人一倍生真面目な彼女は仲間にも真摯に向き合い、そして愛した。その想いは、己を律することに長けた彼女を以って御しきれぬほどに強かったのだろう。

唇を噛み締め、嗚咽をこらえながらギターを弾く。

 

燐子はそんな二人を後ろから、横から見つめ、今この瞬間を大切に鍵盤を奏でる。

友希那は目を潤ませながらも、芯の通った声を会場に響き渡らせる。

リサは変わらず、笑顔でベースを鳴らしていた。

 

曲は二番に入り、ベースソロに移る。

全員の注目がベースに集まり、プレッシャーのかかる場所。

リサはこれまでの積み重ねを証明するかのように、Roseliaでの時間の正しさを証明するように、全フレーズを完璧に弾いてみせた。

客のコールが彼女を讃え、それに答えるようにリサは手を振る。

 

そんなリサの背中を押し、友希那は二人でステージの真ん中に立った。リサの肩を抱き、コーラスの時には彼女にマイクを向けながら、二人で歌う。この曲ではお決まりの演出だ。

これも最後なのだと、そう考えると友希那の目にも涙が溢れる。それでも、隣のリサの笑顔を見ると泣いているわけにはいかなかった。こぼれ落ちる雫を拭い、声が震えそうになるのを必死に堪える。

 

そして、最後のサビも終わる。

離れていくリサに手を伸ばし、精一杯の想いを込める。

 

——感謝を…




最後の挨拶も書こうとしたのですが、蛇足になりそうだったのでここまでで。
燐子の描写が少ないですが、彼女の想いは書かなかったこの先に詰まっていました。

お疲れ様でした。
あの光景を見届けた一人として、これからも11人となったRoseliaを応援します。


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