罪の王がダンジョンに居るのは間違っているだろうか?-リメイク! (ユーリ・クラウディア)
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プロローグ

月と正義の魔法使いを進めたいのに全然手が進まずこっちに浮気している今日この頃、多忙極まる中ちょっとづつ書いてますw
プロローグはそんなに代わり映えしないですし短いですけどお付き合いください


「いのり、一緒に行こう…」

 

集は右手を頭上に掲げ全てのアポカリプスウイルスをその身に引き込んでいく

 

 

「集、取って…」

 

赤い糸

それは始まりと同じ

ただ違うのは集にこれを取るの躊躇が全く必要ない事くらいだろう。

 

 

集はそれを取って祈りに見せる…

 

しかし、そこで集はいのりが遠ざかって行っている事に居づいた。

 

 

「いのり!!」

 

集は必死に手を伸ばす。

しかし、時既に遅くその手は届かない

 

 

 

「行かせない…!行かせないぞ!!」

 

集はそれでも諦めない。

集は手を伸ばし続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く…これだからお前は目を離せられないんだ。」

 

聞覚えのある声が聞こえた

 

「いのりに譲渡されるはずだったアポカリプスウイルスは全てお前に戻した。これでいのりが死ぬ事は無い。」

 

「涯!?」

 

集は既に居ないはずの人間の登場にに驚愕する。

 

「勘違いするな、俺は既に死んでいる。今の俺は思念体とでも言うべきか…、それの僅かな残りかすだ。そんな事より俺はお前にいのりの事を頼んだはずなんだがな…」

 

「…」

 

集は涯の指摘に自分の不甲斐無さを思い知る

 

「フッ、冗談だ、お前はよくやった。だがまだ問題が解決した訳じゃ無い。集、済まないが今の俺ではいのりを完全にこちら側に引き留められなかった…。」

 

「どう言う事?」

 

「全世界のアポカリプスウイルス、及びヴォイドが一か所に集まったせいで予期せぬ現象が発生したようだ。俺にも理解し切れなかったがアレを言葉で表現すると…次元の狭間とでも言うのか…。取り敢えず便宜上向こう側としよう。その向こう側にいのりが行ってしまってな。集、お前はいのりを追うか?」

 

「…そんなの、当たり前だよ!」

 

「ならば行け、集、向こう側は文字通り異界、こちら側の常識は捨てろ。」

 

「ああ、有難う…涯。」

 

「それと忘れるな、今はお前自信が淘汰の終着点だ。アポカリプスウイルスがその身には集約されている。どういう訳か今は安定してるが一歩間違えれば自身だけではなく全てを巻き込んで破滅するぞ。」

 

「僕が…、そうか…でもそんな事はどうだっていい。」

 

集の目には覚悟の炎が立ち上って居た

 

「涯…僕は…涯みたいに強くなるよ…。涯が僕になったみたいに今度は僕が涯みたいに強くなる…。だからいのりは僕に任せてくれ。」

 

「フッ、最後の選別だ…持っていけ。」

 

涯は集の右手に触れる

 

「これは…!」

 

「お前から奪った王の権能だ。」

 

権能は集の右手に流れ込んでくる

 

右手、集自身のヴォイドによって構成されているそれに権能が宿る。それはつまり集の心そのものが王の権能を得ると言うことだ。

 

「さあ、行け!桜満集!!」

 

「僕は必ずいのりを助ける!…だから真名姉さんを頼む!トリトン!」

 

涯は目を見開く。まさか此処に来てその名で呼ばれた事に、そして真名を託された事に、涯同様真名も既にこの世にはいない。それでもやれと。そう言われたのだ。

 

「全く…、お前は昔から俺の斜め上を行く…。ああ、分かった。真名は俺に任せろ!」

 

集は涯に背を押されていのりの後を追う

 

 

 

 

 

 

 

「世話が焼ける弟ね」

 

「そう言ってやるな…アイツは何時だって最後には成し遂げて来たんだ。これくらいの手助けは有っても良いだろ?」

 

「フフ、そうね。それじゃあ私達も行きましょう。トリトン」

 

「ああ」

 

そこにあった二つの影は一つになって溶けて行った…。

 

 



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#1

「オウマさん!これはどう言う事ですか!」

 

ギルドのエントランスに怒声が響いた。

 

「良いですか!冒険者は冒険してはいけないんですよ!」

 

目の前に立ってプリプリと怒って居るのはハーフエルフの女性、名をエイナと言うそうだ。

 

「アハハ…、」

 

いのりを助ける為に向こう側に飛び込んでから早いもので既に半年が経過している。

如何やら向こう側は所謂異世界と言うやつだったらしく、最初僕は森の中で倒れていた。

そこから右手に格納されているヴォイドを使っていのりの位置を大まかに把握したところまでは良かった。

しかしヴォイドが指し示すその先はオラリオと言う街に存在するダンジョンの地下深くだという事が判明、即座にダンジョンアタックを仕掛けたが17階層で大量のミノタウロス+α集団に襲われて逃げ帰って来た次第だ。

ヴォイドで攻撃すれば倒す事は可能なのだが如何せん数が異常だった為逃げ帰って来た。そこで分かったのはいのりが居る階層まで数日かかるという事、そして階層を経るにつれてモンスターのポテンシャルが上がって居る事、そこから導き出された答えは現状では集単騎ではいのりの下まで辿り着けないという事である。

その後街で色々と調べた結果如何やら神とやらが人類に力を授けてダンジョンを攻略しているらしいことが判明、取り敢えずその力とやらを手に入れる為に大量のファミリアに赴いた訳だが、どうにも体形や顔立ちから弱々しく見えたらしく『弱者は家のファミリアにはいらん!』と言った感じで全て門前払いされた。

そんなこんなで苦労しまくって何とか5ヵ月程前にやっとファミリアに所属する事に成功した。

それからというものダンジョンに潜り続けているのだがその時間が問題になって今説教されて居るわけだ。

 

 

「大体ロクな装備もせずに日に14時間以上ダンジョンに潜り続けるってどう言う事ですか!普通に死にますよ!?時間が時間だけに討伐数も頭が可笑しいレベルなんですけどそこら辺分かってますか!?しかも最近10階層以降のモンスターのドロップがチラホラ混じってるんですけど!?どうやったらこんな事になるんですかね!?」

 

現在の僕の装備は服装そのままにギルドで支給されているロングソードとダガー、後は剥ぎ取り用のナイフとドロップアイテム回収用の大き目のバックだ。バックはポーターが使う物よりは遥かに小さいがそれでも普通の冒険者は此処まで大きい物は持たない。

 

まあ、そんな感じでどうやってエイナさんのお説教を潜り抜けるかを考えていたらそこに何やら真っ赤な何かが視界に入った。

 

 

「エイナさーーーーん!!」

 

「ああ、ベル君おか…え…り……?」

 

流石のエイナさんもこれには動揺しすぎて固まってしまった。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんについて教えてくださーーーい!!」

 

赤いトマト…もとい返り血で真っ赤になった少年が此方に駆け寄って来た。

 

「きゃああぁぁぁーーーーーーー!!」

 

それに再起動したチュール氏が悲鳴を上げるのは自明の理と言うものだろう。

 

 

 

「ベル君!!どういう事なの!!」

 

「いや~、5階層でミノタウロスに襲われちゃって…」

 

「5階層にミノタウロスぅ~!?…って、そんな事よりベル君5階層にまで降りたの!?あれ程冒険者は冒険しちゃダメって言ったのに…。も~、オウマさんと言いベル君と言い、如何してこうも危険な事をするかなぁ…。それに、同じファミリアなのになんで別行動なのよ!?」

 

「オウマさんですか?まあ、なんと言いますか…。なんか目的が違うとか効率が如何とかって言って一緒に来てくれないんですよ…。」

 

「全くなにをって、…オウマさん居ないし!?逃げやがったなぁ!!」

 

怒りのあまりエイナが叫びを上げて激昂するのもまた自明の理である。

 

 

 

***********

 

 

 

 

「ふう…、何とかなった…。」

 

集はギルドから聞こえる叫びをBGMに帰路について居る。

普段ならまだダンジョンに潜って居る時間だが、今日は新しく武器を新調する予定だったので早くに切り上げて来たのだ。

現在集は命の危険がある時、誰かを助ける時、この二つ以外の時のヴォイドの使用を制限している。

と言うのもこの街に居る神の殆どが暇を持て余しているらしく。不用意にヴォイドの事を知られると好奇心お化けな神達に弄り倒されて、いのり救出に大きく遅れが出てしまう恐れがある為だ。なのでこの力を知って居るものは主神を含め一人もいない。主神には何時かは言う事になるだろうが今はその時じゃないと判断した。

因みに右手には包帯を巻いて誤魔化している。

 

 

そんな事に思考を裂いて居たら目的地に着いたようだ。

ダンジョンの真上に立つ塔バベルだ。

此処にはかのヘファイストス・ファミリアが店を構えていてまだ未熟な鍛冶師達が中心に商品を並べる場所なので時々掘り出し物が格安で手に入るそうだ。

 

「さて、僕に合いそうな手ごろな武器はっと…」

 

集が見るのは全て武器だった。

防御を全く考えず攻撃にのみ意識を裂いて居る。

というのも今までの戦場では防御に意識を裂くような機会が無かったからだ。

相手の攻撃一つ一つが致命傷に成りかねない物ばかり、防御は本当の強者の前では全く意味を成さない事を集はその身をもって体験して来た。

つまり何が言いたいかというと、攻撃は防ぐのではなく避けろというのが集の戦闘に置いての認識だ。ミサイル何て防御ではなくぶった切るというある種攻撃とも言える方法で回避していたなとちょっと遠い目をしてしまうが、それは置いておこう。

しかし、ヴォイドが使えるなら防御特化のものもあるので、その限りでは無いのだが生憎今は制限を掛けている。

とは言え白兵戦の練度はそこまで高くないと分かって居るので両手に手の動きを阻害しない程度のグリーヴと小手を嵌めている。ヤバくなった時は此れを盾代わりにしてる訳だ。結構頑丈で壊れずらい掘り出し物である。

 

「…!」

 

「おっと」

 

 

集は武器選びに集中しすぎて誰かにぶつかってしまった。

しかし、幾ら武器選びに集中していたとはいえ周囲には気を付けていたはずだ。なのにまた食気付かないとはどういう了見か。

 

「すいません…此方の不注意でした…」

 

「大丈夫だ。此方こそすまんな。」

 

ぶつかった相手は長い黒髪を後ろでまとめポニーテイルにし、袴の様な物を着て上半身はさらしだけ、そして眼帯をしている女性だ。ぶっちゃけとてもユニークですねと言いたい。

 

集はその特徴に覚えがあった。

 

「え゛、まさか、つ…椿・コルブランド…さん?」

 

「おや、手前を知っているのかね?」

 

「え…ええ、少し聞きかじった程度ですが…」

 

「そうか、邪魔をして悪かったな…私は此れで失礼するよ。」

 

「…」

 

集は去って行くコルブランドの背を見えなくなるまで眺めていた。

 

「…、強い…この街にはあんなにも強い人たちが居るのか…」

 

集はコルブランドの隙の無い動きに言葉を漏らした。

 

「それにしても、あんな人が狭くて雑多な場所とは言え人にぶつかるか?」

 

「まあ、考えても仕方ないか、武器選びに戻ろ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、先程の少年…なかなか面白そうだ…」

 

集の違和感は事実厄介事の種であった事を未だ気付けないのは仕方のないものである。

 

 

***********

 

 

取り敢えず良さ気なロングソードとダガーを発見したので購入、ついでに包帯を更に頑丈なモンスター由来の物に変えた。

 

「ただいま」

 

「お帰り!ってそんな事より聞いてくれよシュウ君!」

 

「はいはい今度は何があったんですか?」

 

「ベル君が…、ベル君がどこぞのヴァレン某とか言うのに取られそうなんだ!!」

 

「ああー、アレですか…」

 

如何やら武器を選んでいる間にベルが帰ってきてミノタウロスに遭遇した時の事を言ったようだ。逃走した為途中までしか聞いてなかったがある程度は把握している。

 

「それにしても此処まで直球にベタ惚れしている女の子が居るのにベルは未だに気づいた気配が無いのはどうなんでしょうね?」

 

「え゛、や…やっぱりアレは気づいてないのかい?」

 

「まあ、異性として好かれている事には気づいてない…、と言うよりは敢て思考から外しているような感じかな?これは、どう解釈するべきなんだろう?」

 

「あ、敢て考えないようにしてるって…、それは、僕じゃ役不足だからって事かい?そ。そんな…バカな…」

 

崩れ落ちる神。

人間に恋して一喜一憂している神とはこれ如何に、と言うかこの世界に存在する神威厳が無い。

ベースになって居る神話はギリシャ神話。まあ、他の神話体系の神も其れなりに居るが、大手のファミリアは殆どギリシャだ。

だからか、神が皆俗物にしか見えないという問題が発生している為、素直に尊敬できない。

 

「まあ、それは無いと思うよ。どっちかと言うとベル自身が自分が役者不足だと思ってるんだと思うよ。」

 

まあ、自分なんかがってネガティブに考えて、女性に好かれるわけないって負のスパイラルに陥ってるパターンだ。何だか僕にとってもなじみ深い感じではあるな…。

 

「まあ、気長にやって行きましょう。恋愛は速攻で決められなかったなら。後はもう気長にやるしかないですよ」

 

大体集自身も恋愛経験が豊富と言う訳では無い、と言うか自身の恋愛はかなり特殊な部類に入ると思っている。だからアドバイスも何処か投げやりだ。

 

「そんな事よりステイタス更新をお願いしてもいいですか?」

 

「そんな事!?」

 

その後、また一悶着あったがそれは割愛、ステイタス更新は無事終わった。

 

******

 

シュウ・オウマ

Lv.1

 

力B784→A830

 

耐久C605→C623

 

器用S904→S965

 

敏捷C774→B803

 

魔力A854→A895

 

魔法

【浄化の灯火】

常時強制発動中

詠唱不要

淘汰の抑制、拘束

 

スキル

【淘汰の収束点】

罪の権化、王の権能、それは全てを受け入れ、拒絶し、束ね、至る。

Joajfoe7%#$4q3e1%$&%$jt’j%trw&#yrw!%!#$dffda%&%’&(‘%”%adf

 

【業の到達点】

獲得経験値に+補正(極)

罪を背負う程効果上昇

 

【罪の英雄王】

罪を背負った英雄であり、同時に王でもある。その偉業は在来人類の救済、そして黙示録への反逆

淘汰の収束点の効果緩和

 

 

******

 

 

正直な話し、やはりかなりバグっている気がしてならない。

 

「やっぱり、君のステータスは可笑しいと思うんだ!」

 

神様にもこう言われる始末である。しかも終始顔が引きつた状態でである。

 

「取り敢えず、スキルや魔法はロックを駆けて不可視にしてある。それこそ他の神に無理矢理こじ開けられでもしない限り見られる心配はないと思うよ。と言うかこれこじ開けたら、その時点で天界に強制送還だからまず大丈夫だよ。」

 

「ステイタスの上りはどうやって誤魔化しましょう?」

 

「そんなもん僕が知るもんか!そもそも、このスキルだけでもヤバいんだからな!何だよ最初っからスキルが三つあるって!?しかも殆ど意味わかんないし、ただの説明文と化してるし!!」

 

確かに淘汰の収束点なんて文字化けのせいで只の説明文だ。と言うか普通スキルは効果だけしか書いて居ないとか。最初にステイタス貰った時なんか神様が白目剥いて発狂してたっけな…。

まあ、淘汰の収束点は僕自身がその意味を知って居ればいい。こんなものは必要以上に理解する必要はない。

 

「取り敢えず何があってもレベルアップだけは最速記録より遅らせたいな…。」

 

「んー、それが出来れば大丈夫だよ。…多分」

 

「最速記録ってどのくらいでしたっけ?」

 

「半年くらいだと思ったけど…」

 

「じゃあそのくらいを目途に冒険するかな…。」

 

二人はこの記録が近いうちに大幅に塗り替えられる事を未だ知らない。

 

「というか君もう直ぐじゃないか。何だかんだでベル君よりダンジョン生活長いだろ。」

 

そう、実はベルよりも先にこのファミリやに所属していたファミリア第一号である。

団長は諸事情によりベルに任せている。

 

正史では初めてのファミリアである事が大きな要因で会うヘスティアの恋はまた別の理由で患ったものである。

因みに集に恋しなかったのは、集がいのりにぞっこんだった為である。

まあ、それはそれとして後一カ月もすれば半年と少し、現状レベルアップしてもギリギリ誤魔化せるが、万全を期す為には後一ヵ月は我慢である。と言う訳で後一ヵ月でステイタスをオールSにする為のプランを練らねば。レベル2からは一時自重を忘れて一気にステイタスをオールSにして再度全力でダンジョンアタックをしよう。ヴォイドも全力使用だ。

 

「僕にはそのもう直ぐって言うこの時間も惜しい。」

 

今直ぐにでもダンジョンを攻略していのりを助け出したいが、神に目を付けられてはタイムロスが半端ではないという事で敢て時間を置いて居る。

急がば回れとは良く行ったものである。

一度のダンジョンアタックに掛ける時間が長い分そのインターバルは少々長めだ。まあ、インターバルの間は休みではなく純粋な訓練になって居るのだが…。

 

「君は何を焦ってるのかは知らないけど、少し根を詰め過ぎじゃないかい?」

 

「休息は十分とってるよ。僕だって自殺願望者って訳では無いからね。」

 

「それはそれとして、もう一つヤバいニュースがあるんだよ…」

 

「今度は何ですか…」

 

「ベル君にスキルが出た。早熟するってさ。」

 

「……それはまた厄介そうな話しですね。」

 

集は自分が目立たなくても周りが目立ってしまっている事に遠い目をするのであった。

 




1話は一部変更で少しだけの違いですが、以前の物を知ってる人はどう設定が変わっているのが分かると思います。


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#2

そもそも早熟では無いが集自身も経験値取得に補正が掛かって居るので人事ではない。と言うか自分のを誤魔化すので精いっぱいでどうにもできない。なのでベルのスキルについてはもう完全に神様に丸投げして剣を振って居る。

ロングソードをチョイスして見たものの想像より大きくて苦労している。そもそも短剣とかショートソードってゲームとかでナイフとか見たいなサイズで使われているけど実際は通常剣といってイメージする丁度いい感じの長さの物なんだ。ナイフサイズはそのままナイフとかダガーだよ。それでロングソードって定義で剣を選んだらまあ、大きい大剣とまでは行かないけど騎士とかが持ってそうな重量とサイズの大きいものだ。

最初の1ヵ月は剣に振られていた。そこからまともに振れるようになってしっかりと型を覚えるのに2ヵ月、フェイントを交えれるようになるのに3カ月で、今の現状だ。

本当は誰かの師事を受ける事が出来ればステイタスの恩恵も相まって此処まで時間はかからない。そもそも筋力がステイタスで補われて最初の型稽古が殆ど最初っから出来るのだから。がしかし振り方も良く分からないものに型を作るなどそう簡単にできる者ではない。自分だって葬儀社に居た頃に教えてもらったナイフ裁きや体術と言うベースがあったから半年でここまで来れたのだ。手探りでこれなら早いものである。

ダガーの方はサブウエポンなのだが、これは先程のナイフ裁きと大して変わらない為そこそこの練度で振れる。一応徒手格闘の訓練として体術も型稽古は欠かさずやって居る。教えてくれた葬儀社の皆には感謝の念しかない。昔はいやいやの惰性でやって居たが今考えるとなんて勿体ない事をしていたのかと昔の自分をぶん殴りたい気分である。

 

「ふう、取り敢えずこんな物かな…」

 

一通り鍛錬を終え。一息つく。時間帯的には日が陰り始めているので18時くらいだろうか?今日は朝から永遠と鍛錬していたので相当の時間を費やしている事になる。

本来ならばオーバーワークだが、その辺の問題はステイタスが解決してくれた。

便利すぎて涙が出て来る。

 

「取り敢えず、ホームに帰ろ。」

 

 

******

 

 

 

隣に座って居たベルが店を飛び出して行った。

後ろにはさえずる駄犬が一匹とそのファミリアが騒いでいる。

近くにいた客は食い逃げかと囁いて居る。

これはよろしくない。

 

珍しく集は切れていた。そう、あの集が…だ。いつぞやの暗黒面に落ちた時の以来の冷徹な表情で静かに怒りの炎を燃やしていた。

 

 

事の発端は鍛錬を終えてホームへ戻った時にベルが食事に行こうと誘って来たのでそれに付いて行った事から始まる。

何やら美人な店員に来てくださいと言われたからホイホイ釣られてしまったらしい。

まあ、注文して出て来たものを食べた瞬間、偶には釣られるのも悪くないと思ったのだが、それは置いておこう。

そして、件の問題の元凶が現れる訳である。ロキ・ファミリアの登場だ。

例のベルを追いかけたミノタウロスを取り逃がしたファミリアだ。そして、普段から出会い出会いと言って、ヒロインを助ける妄想をしていたベルを逆にヒロインにしちゃったアイズ・ヴァレンシュタインが所属するファミリアである。

これだけならまあ、ベルが羨望の眼差しでヴァレンシュタインを眺めるだけで終わったであろう。

がしかし、そうは問屋が卸さなかった。そう、どこぞの駄犬がミノタウロスに追いかけられた挙句、それを助けた際にトマト…もとい血塗れになった事を、話に出したのだ。まあ、話に出しただけならまだよかった。だがこの駄犬、あろうことか駆け出しであるベルがミノタウロスから逃走した事を笑い摘まみにし、それを種にヴァレンシュタインしに自分強いですよどうですかアピールをしやがった。ミノタウロス逃亡が自分達のミスである事を棚上げにしてだ。

集のベルに対する評価は、普段出会いだ何だと言う妄想癖のある可愛い後輩である。が、やる時はしっかりやり、純粋且つ貪欲、そして不屈の精神を持った心優しい好青年である。普段一緒に行動する事の少ない集ではあるが、大切な仲間である事に変わりはなく。更に自身より団長に相応しいと思わせ。年功序列、ステイタス値、精神の成熟。その全てを度外視してでも、団長の座を明け渡す程度には認めている。そんな自身のファミリアの団長をコケにされる所か下世話な言い回しをすればS〇X交渉の出汁にされたのである。

流石の集もこれには来るものが有った。

 

「女将さん、水をジョッキでください。」

 

「――…ハァ、ちょっと待ってな」

 

暫し、集の目を見つめた女将が諦めたかの様に溜息をつき奥に入って行った。

そして、水が並々に入ったジョッキを集の目の前に置いた。

 

「有難うございます。それとこれは僕と今出ていった連れの分の料金です。こっちはちょっと騒がしてしまう迷惑料です。少ないですが4万バリス程入って居ます。」

 

「まあ、今回はあのワンコロが悪いわな。あっちに付けとくからそれはしまいな。勝とうが負けようがあっち持さね。」

 

「そうですか、では、失礼します。料理美味しかったです。ご馳走様でした。機会がありましたらまた来ます。」

 

「あいよ、またあの坊主も連れて来な。」

 

「はい」

 

このやり取りを隣で聞いて居たシルと言う店員はオロオロしながら女将と集を交互に見ていた。

まあ、気持ちは分かる。ぶっちゃけこんな物騒な会話を聞いたらこうなるだろう。

がしかし暗黒面に突入した集には関係ない話である。

近くに居たエルフの店員も聞こえていたのか鋭い眼光此方に向けている。動きからして只者ではないと分かるが、此の目線で格上なのが分かる。元冒険者なのだろう。レベルは2以上であるのは確定だ。続けていたなら、あそこの駄犬より遥かに強い冒険者になって居ただろう。まあ、それを言い始めるとこの店の定員の殆どが一般人じゃなくて逸般人なのだが…。

 

それは置いておいてだ、ジョッキを持って席を立つ。

歩みの先は駄犬の正面と行きたいが、他の人に掛かると面倒なので背後、と言うか丁度後ろを向いてくれた。あの駄犬以外はまあ、言葉だけでだが止めてるよう言ってくれる人も居るので標的から外す。ヴァレンシュタインさんも何やら不快そうな雰囲気を醸し出しているのでその点については胸を撫でおろす思いだ。

 

取り敢えず、俺の接近に気づいたのが4人、主神と思われる女性とエルフの女性、小人の男性とドワーフの男性だ。

主神以外の3人は恐らく噂に聞くロキファミリアが誇るレベル6、勇者、重傑、九魔姫の三人だろう。駄目だ、アレには現状勝てない。弱者が相手でも油断などしない胆力があるのが一目でわかる。ヴォイドを使ったら話は変わるがアレは素じゃ無理だ。それでもレベル5以下の冒険者の五感を誤魔化せているのだから自分の隠密行動も中々捨てたものじゃないと思う。

 

駄犬の真後ろに着き動きを一瞬止める。

そして手に持ったジョッキを駄犬の頭上に持っていく。

とここで、やっと他の団員もチラホラ集に気づき始めた。

そして、ジョッキをゆっくり傾け中身を駄犬に駆けてゆく。

そして、店の空気が一気に絶対零度にまで下がったかのように凍り付く。

驚いたのか身を硬直させる駄犬、反応が悪い。幾ら酔って居るとは言え掛けられた直後には飛び掛かって来るかもしれないと予想していたがまあ、此れも想定の範囲内だ。

 

ジョッキの中身全てを駄犬に駆け終え、からのジョッキを近くにあったテーブルに静かに置く。

此処で駄犬は思考が回復。此方に振り向き顔を真っ赤にして怒りを前面に出した表情を此方に向ける。

 

「テメェ、何のつもりだ?」

 

がしかし、意外と冷静なのか確認を問うて来る。

こちらも思考は意外とクリアだ。回りがちゃんと見えている。分析も上々。

目の前の駄犬は酔ってる上に発言からして弱者だと思った相手をきちんと侮ってくれるだろう。そこに勝機はある。勝負は一瞬一回ぽっきり、此れが駄目なら僕の負け。

だから、此処で全力の挑発を幾つか投下してやる事にした。それもとびっきりの笑顔で。

 

「いえ、発情期に入った駄犬がうるさかったので頭を冷やしてさし上げようと思いまして」

 

「ア゛?」

 

駄犬は一瞬頬けた後に更に顔を赤くする。

 

「駆け出しの冒険者捕まえて強者気取り?最初から強い人間など存在しないハズなのに?初心者が恥晒し?滑稽ですね。自身が通った道すら否定して。好きな女にアピール?冒険者の品格を落としているのは貴様だ駄犬!!」

 

ここで、『ブチ』と言う音が聞こえた気がした。

恐らく駄犬の堪忍袋が切れたのだろう。この程度の事実で切れるとかもう餓鬼かよと思う。

 

「見たとこ、低レベルの雑魚だろお前…、雑魚が粋がってんじゃねぇぞ!」

 

駄犬が初撃のモーションに入った。装備や出で立ちから足技がメインだと予想していたが当たりのようだ。若干姿勢を落として右足を引いて居る。腰や上半身もきちんと使った綺麗なフォームだ。

回りから声が聞こえる。恐らくこの駄犬を止めようとしたのだろう。がしかし遅い。もう此奴は止まらないし、止めに入る時間も無い。

 

集は王の権能で自身の動体視力を限界まで上げる。

 

「レベルの差が、戦力の決定的な差ではない事を学べ!!」

 

駄犬が足を振り抜いた

 

駄犬こと、ベート・ローガが狙ったは頭部、がしかしそこに蹴りが入る事は無く。蹴りはその少し上を通過した。

 

そして、集の手刀が横なぎにベートの顎に入っる。

がしかし、レベル差の関係でベートは全く痛みを感じなかった。

何故自身の攻撃が当たらなかったのかよく分からなかったがベートは所詮雑魚かと思い直し次の攻撃を繰り出そうとして、異変に気付く。

体に力が入らないのである。

足から崩れ落ち、蹴りの後で片足だったのもあり完全に床に倒れ込む。

 

「格上相手に左腕一本か、まあ所詮酔っ払いの駄犬という事か。」

 

集はだらんと垂れ下がる左腕を見ながら意外とあっけなかった事に落胆した。左手の他に右足とあばら何本か覚悟していたのに左腕だけで済んでしまったっという意外過ぎる展開に逆に動揺してしまった。

 

「まあいい、でだ駄犬、貴様のその伸び切った鼻っ柱が格下に叩き折られた訳だが?どうだい気分は?最高に恥ずかしいだろ?なあ?」

 

最早ブチ切れてて完全に口調まで変わている集に煽られるベート。

崩れ落ちたベートを見て唖然とするロキファミリアの面々。

 

「少し頭を冷やして、精神修業でもする事をお勧めするよ。貴様の精神はそこいらのクソガキにも劣る。母親の腹の中からやり直してこい!」

 

そう言うと集は背を向けて店の出口へと歩みを進める。

 

「少し待ってもらえるかな?」

 

がしかし、一人の男に呼び止められる。

 

「何でしょう?」

 

それに歩みを止めて、対応する集

 

「先ほどのミノタウロスに追われていた冒険者は君の仲間かい?」

 

「同じファミリアの団員です。」

 

「そうか、それはすまなかった。今回はベートに非があった。止め切れなかった事も含め謝罪させてもらうよ、本当にすまなかった。」

 

回りは団長であるフィンが頭を下げた事に三度驚愕した。

 

「最後にもう一つだけいいかな?」

 

「何でしょう?」

 

「君のレベルは?」

 

「…1です。」

 

そう言うと、今度こそ振り返らずに集は店を出て行った。

 

 

 

******

 

 

 

恐ろしい男だ。

最初に存在に気づいた時から親指が酷く疼いた。

一件、義憤に身を任せた低レベル冒険者だと思ったが、それにしては動きが洗礼されていて、無駄がない。

がしかし、ベートの攻撃を先読みし完全に見切ってあろうことか打倒した。

 

戦慄した。

 

「レベル1…か」

 

「あのー…どうしてベートさんは倒されたんですか?」

 

とここで、レフィーヤがおずおずと質問して来た。

まあ、彼女はレベル3ではあるが白兵戦は大の苦手、胆力も低い為冷静さを欠いて居た。理解できなかったのも仕方ないだろう。

 

「ふむ、まあ、あまり難しい事じゃ無い。彼は最初に攻撃を誘った。タイミングも攻撃手段も全て予測済みで、完全に見切って居たよ。酔って居たというのと低レベルが相手であったが為の完全に侮って大振りで放った蹴りを彼は左手で受け流した後、攻撃後の硬直を狙ってベートの顎目掛けて横なぎに拳を放つ事で脳を揺さぶって戦闘不能にしたのさ。レベル差故に外傷を全く与えられないその壁を身体的弱点を突き突破して見せた。しかも只弱点を突くのではなく、砂漠から一粒の石を見つけ出すかのような真に神業と言える絶技もって突き抜けて行った。」

 

口で言うのは簡単だが、やって居る事は超絶技巧である。まずベートのレベルは5、彼のレベルが1、この時点でレベルギャップによるパワー差で難度が跳ね上がりこのオラリオでも出来る人間は居ないだろう。恐らく左手は骨折、それに肩も脱臼していた。その状態で痛みに悶えず一切の淀みなくカウンターを入れる。脳を揺さぶるのも、此れだけのレベル差の相手に狙ってやるには達人級の技量でも怪しい。

更に最初にベートに近づいた時には視線誘導に気配遮断まで恐ろしい程の技量で行って居た。気づけたのは僕とリヴェリアとガレス、そしてロキだけだ。

これだけの事をやってのける人物がレベル1?有り得ないとしか言いようがない。

ロキに視線を向けて彼が嘘をついて居たかどうかを確認する。ロキは彼の言葉に嘘はなかったとアイコンタクトで知らせて来る。

 

「どこのファミリアか聞かなかったのは失敗だったかな?」

 

 

こうして集の異常性を浮き彫りにして夜は更けて行った。

 




おや?集の様子が…。


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#3

正直な話し、自身が異常である事は分かって居た。

逃避していたそれを先日の酒場での一件で認めざるを得なくなっていた。

 

自身の身体能力は大丈夫だ。確かに尋常ではない身体能力だが王の権能がある分常人よりは身体能力が高いというだけだ。

がしかし、自身の技量が普通ではない。半年でかなり上がったと言った事があったが、その程度の話しではない。日を追うごとに上書きされるかの如く技量が上がっていく。まるで最初から出来たかのように…。

 

何となく原因に心当たりはあった。しかし、それは認めたくない事象。

自身が他の何かに置き換えられていくかのような錯覚を覚える。

今では、恐らく純粋な技の技量だけで言えばオラリオでもトップを争うレベルだろう。その証拠にレベル5の一戦級冒険者の【凶狼】を下してしまった。

勿論、色々なハンデを意図的に負わせてかなり有利な状況での勝負だったからこそだが。

以前から異常になれて居る自身すら驚愕する事実だ。

あの一瞬の攻防はそれ程までの神業だった。

 

「…ハァ」

 

あの騒動から既に数日が経過してた。

今日は怪物祭りという事でかなり街がにぎわっている。

祭りの日くらい休もうかとも思ったが、どうしても気が急いて居るようで、足は自然とダンジョンの方へ向いて居た。まあ、ホームを出た時点でフル装備だったから最初っから休む気など全くない事は自覚していた。

それでも、悪あがきにと街を歩いて出店を冷かしている。

 

「ダメだな…、諦めてダンジョン行こ」

 

もう、自身の焦りを抑えきれないと悟った集は足を完全にダンジョンに向けた。

 

 

と、その時である。道の向こうからモンスターが数体集の居る広場に押し寄せて来た。

 

「街中にモンスター、まさか檻から逃げ出してきたのか!?」

 

怪物祭りと言うだけあって、この祭りはダンジョンで捕獲したモンスターを闘技場で調教師テイムする見世物がメインイベントとなる祭りだ。ダンジョンから出て来るという事は殆ど有り得ないので考えられるのは折からの脱走。

そして、モンスターの扱いに関しては随一であるガネーシャファミリアが管理している事を考慮すると人為的に逃がされた可能性が高い。

街の雰囲気がかなりピリついて居る事に今更ながら気づいた集は此れだけの情報で此処まで推理できることに再び自身の異常を認識し苦笑いが零れる。

かなり被害が出ているようで、モンスターと一緒に負傷した冒険者が後退して来た。

 

取り敢えず剣を抜いて構える。

見た所全てレベル1相当のモンスターしかいない。ソロでも何とかんなる程度だ。これがレベル2~3相当以上になればヴォイド無しでの勝利は不可能に近くなる。武器次第ではレベル2も相手にできない事は無いが、レベル1に合わせた通常兵装では武器の刃が通らないのでジリ貧になって最後はスタミナ切れで敗北する事になる。

先日【凶狼】を下した技も人型限定な上に非殺傷技なので、現状殆ど意味を成さない。

 

現状の装備は第三戦級武装。残念ながら駆け出しを抜けた冒険者が使うようなド三流の安物だ。まあ、半年でこれならかなり優秀な部類である。普通なら未だにギルドの支給品を使っていても不思議ではない時期だ。

 

 

―――スゥゥ…、っと深く息を吸う。

 

剣を抜き放ち思考をクリアにする。

 

擦って居た息を止め身体の力を入れ一歩踏み出す。

 

そして、一気に駆けモンスターの首に剣を押し当てようと剣を振った。

 

 

 

がしかし、モンスターはその剣が当たる前に霧散した。

 

 

 

「―――アイズ・ヴァレンシュタインか。」

 

そう、剣を当てる直前に彼女が周囲のモンスターを一気に切り伏せたのだ。

頭上の死角からの強襲、更には魔法なのか風を纏って高レベル帯の俊敏にかなりのブーストを掛けた高速戦闘。

 

「それにしても僕が斬りかかって居るのに気づかずに攻撃を放った?あのアイズ・ヴァレンシュタインが?」

 

強烈な違和感を感じる集

 

「何かを焦って居る…?いや、考えても答えは出ないか。」

 

しかし、他者の思考を読む事などできるはずもなく直ぐに考えるのを止めた。

 

 

思考を切り替えた集は周囲の音を頼りに他に被害が出ていないかを確かめながら街を歩き始めた。

 

すると二か所程戦闘音が止まない場所がある。

一か所はダイダロス通りと言う迷路のような一種のスラム街、もう一か所は此処からさほど遠くない街の広場

 

「…アイズ・ヴァレンシュタインが仕留めきれないモンスター?」

 

ある種有り得ない事象だ。事モンスター戦に関しては現状自身が及ぶべくもない程の強者であるはずのアイズ・ヴァレンシュタイン、先程介入してきたことから考えて広場で戦っているのはアイズ・ヴァレンシュタインで間違いない。それも音からして複数で戦っている様子さえあるのに倒せる気配がない。詰まりはレベルで相当すると高くて6クラス、装備が十分ではない事と双方拮抗している事から低くても4クラスだと推測できる。それも斬撃特有の切り裂く音が余まり聞こえてこない事を考えるとアイズ・ヴァレンシュタイン以外は素手の可能性がある。と言うか先程から生身の殴り合い特有の生々しい打撃音が聞こえてくるあたり戦闘に参加している殆どが素手での戦闘になって居る可能性が高い。

話しが逸れたがその無いが有り得ないかと言われれば、そんな高レベル帯のモンスターは地上に出てこないし捕獲もしないからだ。

今回の祭りでも使われて居るのは精々がレベル1最上位まで、それも祭りの締めを飾る為に1体居ればいい位である。

にもかかわらずレベル4以上のモンスターが居る?どう考えても異常なのは明白である。

 

 

一方のダイダロス通りは恐らく通常のレベル1相当のモンスターだろう。アイズ・ヴァレンシュタインが狩りきる前に入り込んだのだろう。詳しい事は流石に分からずそこに居るという事しか分からない。しかし不幸中の幸いとでも言おうかあそこは逃げるのにはもってこい、現地民も事逃げる事と隠れる事に長け、怪我人が出たり建物が多少壊れるくらいの被害で済むと考えられる。

 

増援に行くならば広場だろう。

 

まあ、レベル1の自身が行った所で足手まといなのは明白であるが。

 

「それでもまあ、ただのレベル1じゃないし、行かない理由にはならないかな?」

 

 

 

******

 

 

 

「ああッ、もう!何なのよこいつ等!?」

 

「新種な上に強い…こっちは武器すらない。レフィーヤ、起きなさい!」

 

モンスター討伐をしていたロキ・ファミリアのティオナ、ティオネ、レフィーヤの三人だったが突然現れたレベル4相当のモンスターによりレフィーヤが負傷し戦線離脱、残り二人も純粋に祭りを楽しんでいた為、武器を所持しておらず素手での対応を余儀なくされた。

 

モンスターの外皮は堅く素手ではあまりにも分が悪い、頼りはレフィーヤの魔法だが胆力の無いレフィーヤには荷が重かった。

 

「アイズ!」

 

そこへアイズ・ヴァレンシュタインが参戦し一刀両断する。

 

「レフィーヤ、大丈夫?」

 

「―――ァ、アイズ…さん」

 

 

がしかし、此れでは終わらなかった。

 

 

「っな!?まだ出て来るの?」

 

更に同じモンスターが3体出現

アイズの剣は整備中で今持っている剣は代替品、代2線級程の安物である。つまりは…

 

「っあ」

 

アイズが魔法を付与し突きを放つ

しかし硬い外皮との衝突に加え魔法付与での威力上昇分の衝撃に耐えきれるわけがなく砕け散る。

 

この時点でロキ・ファミリアの面々はレフィーヤを除いてモンスターを討伐し切るだけの火力を失った。

 

そして更に事態は悪化してく。

一般人の少女が屋台の裏側に隠れていたのだ。

 

ティオネ、ティオナの二人は触手に捕まり身動きが取れず、アイズも魔法で牽制しヘイトを集中させていた為早々に捕捉され身動きが取れなくなった。

 

そうなると、次に狙われるのはおのずと決まって来る。

レフィーヤだ。更にはレフィーヤの近くには負傷した彼女を助けようとしているギルド職位が二人。

状況は正に最悪に近い。一つ希望を上げるとするならば、レフィーヤの意識が戻り覚悟が決まりかけている事である。しかし時間が足りていない。そして、詠唱中に彼女を守る前衛も居ない。

 

 

 

最早ダメかと思われた時である。

 

 

「――3戦級のガラクタでこの状況は少し厳しいかな?」

 

レフィーヤの前に一人の少年が割って入った。

 

「オ…オウマ君!?」

 

「ああ、エイナさんこんにちは」

 

「え、ええこんにちは…って違う違う!どうしてこんな所にオウマ君が!?早く逃げなさい!レベル1の君じゃ危険すぎるわ!」

 

ギルド職員の片割れ、エイナ・チュールの担当冒険者、シュウ・オウマであった。

 

「非戦闘員のエイナさんに言われたくないですよ。それよりそこのエルフさん、魔法は詠唱できそうですか?」

 

「え…ええ、出来るけど」

 

レフィーヤは行き成り声を掛けられたことに若干の戸惑いを覚えながらも返事を返す。

 

「じゃあちょっとお願いします。僕が時間を稼ぐので」

 

「は、はい…ってちょっと!?」

 

意味が分からなかった。ギルド職員曰く彼はレベル1、その癖に遥かにレベルが高い憧れのアイズ・ヴァレンシュタイン達でも対処し切れなかった相手に時間を稼ぐ?

そんなことできる訳がない、それが常識であり普通と言う物だからである。だがしかし、此処で一つの事柄が脳裏を走り抜けた。先日の遠征の宴での出来事である。ロキ・ファミリアの団長フィンをして戦慄せしめた出来事。その当事者が目の前の少年である事を思い出したのだ。

 

レフィーヤには本当に彼がレベル1なのか、それとも実はもっと高いのか。全く見当もつかない。がしかし彼が只者でない事だけは理解した。

だからこそ先程までしていた思考、つまり覚悟を決める為の思考を再開、既に9割方終わって居たのもあり。直ぐに立ち上がった。

 

「訳が分からない…でも、私だってロキ・ファミリアの一員。オラリオで最も強く、誇り高い眷属(ファミリア)の一員なんだから。こんな所で二の足を踏んでいる暇はないの!」

 

 

 

******

 

 

 

「…」

 

集の目の前に居る植物型のモンスター。しかしそんな事はどうでもよかった。

そのモンスターのとある特徴、それが集の冷静さを少しずつすり潰していく。

 

「――その身体の結晶、何処でくっつけて来たんだ?」

 

そう、その身体の1/4程が見覚えのある結晶で出来ていた。

集にとって関り深く、切り離せぬ半身のようなそれが、モンスターにみられる。これが何を意味するか。今解る事は少ない。しかし、幾つか確信できることはある。

確実にいのりがダンジョンに居て、更にそれを薄汚いモンスターが利用している…。いや、此の人為的に起こされたであろう騒動にこの手のモンスターが引っ張り出されて来たという事はまず間違いなくこの事件の黒幕にも利用されている事が分かる。

その事実が集の心をどうしようもなく凍てつかせ憎悪の炎がくすぶり始める。

 

「―――モンスター風情に意思疎通が出来る訳もないか。」

 

口調が乱れ、普段の温厚さは見る影もなくなっている。

 

「ならお前に用はない、だから早く退場してくれ。」

 

集は一歩ずつ歩み始める。するとどうだろうか、モンスター達は怯えるような素振りを見せ始める。

 

「――灯火よ」

 

胸元にかざした右手から蒼い炎が灯る。集が唯一保有する魔法、浄化の灯火。その応用である。本来常時発動型であり自身に宿るそれを抑え込む魔法である。その常時発動しているそれを意図的に自身から切り離し体外に顕現させる。本来柔軟な使用が出来ないハズの魔法であるが、説明欄にも効果以外全く何も書かれて居なかった為縛りが無いと推測し、試したところ出来てしまったと言う何とも言えない技であった。それに自身以外に使い道ができるとは全く考えていなかったので、その心境は少しだけ複雑でもあった。

 

その灯により一層の恐怖を感じたのかモンスター達は捕獲していた三人を投げ捨て無差別に暴れ始める。幸い逃げ遅れていた少女もギルド職員によりレフィーヤの後方まで避難できていた。投げ飛ばされた三人も代1線級の高位冒険者。問題はない。

後はレフィーヤが居る方へ攻撃を届かないようにすればそれで勝利である。

 

左手で器用にベルトについて居る鞘を外して剣を抜き逆手で持つ。

 

権能で自身の身体能力を限界まで上げる。五感が研ぎ澄まされ少しずつ時間を置き去りにしていく。

それもそのはず、エンドレイブ搭載の小型マイクロミサイルの最大速度は500m/s、それを生身で切り落とす事も度々あれば、エンドレイブ標準装備のマシンガンの弾丸もライフル弾より遥かに早かったが一発だって当たったことは無かったのだから。

つまりはそう言う事である。

事動体視力や思考スピード、と言った部類については集はオラリオ史上最高位である。

まあ、高位冒険者であれば可能であろう。しかし集がそれをやって居たのは恩恵を貰う以前の話しである。

更に恩恵の付与に伴い更にそれに拍車がかかって居る今、レベル4程度のモンスターなら攻撃を見切るのは造作もない事である。既に集の視界は全て止まったかのようにゆっくり動いている。

 

規則性も無い只乱雑に攻撃してくる触手を剣を側面に割り込ませ押しいなす。ガリガリと剣身が削れ一度で刃がすべて持っいかれる。恐らくこの戦闘が終わる前に砕け散るだろう。だがそれも構わない、もとより攻撃するための武器としてではなく耐える為の防具として手に取ったのだからそれでもいい。

左手の剣を攻撃に合わせて正眼、袈裟、突き、逆手、右左と構や持ち手を変えていなし続ける。

やがて剣は砕け付けていた籠手でいなし始める。

しかし攻撃を完全に流しきれずに少しづつ身体が傷ついていく。皮膚は割け、骨は軋み、目が霞んでいく。

だが一歩としてその場を引かない、モンスターは何時まで経っても恐怖が抜けない様で何時までも狂乱状態でいる。

 

「やっぱりこの灯が怖いのか?その力の源の一つが淘汰だと言うならそれは僕の罪、僕の業なのだから。返してもらうよ。」

 

集は向かってくる触手の一つを右手で捕まえる。

 

「―――灯火よ」

 

 

 

大量の触手をいなし続ける集を見ての反応は様々だ。

エイナ・チュールの場合は有り得ない物を見る目で混乱する。

ティオネ・ヒリュテの場合は集と集が灯す火に怯えるモンスターを訝しむように睨みつける。

ティオナ・ヒリュテの場合はその戦闘を興奮するように目を輝かせる。

レフィーヤ・ウィリディスの場合は悔しさを感じさせる目線を、しかしどこか安心するその後ろ姿に思考は落ち着きを見せている。

アイズ・ヴァレンシュタインの場合は彼の力が何処から来ているのかが気になるのかチラチラと視線を向かわせる。

 

 

そして視線を向けていると集が触手を右手で捉えた。

それと同時にモンスターの本体が更に暴れ始めた。体の結晶が徐々に引いて行く。

それがどういう事なのか思考する前にレフィーヤの詠唱が完了する。

 

 

「【ウィン・フィンブルヴェルド】!!」

 

集はそれに合わせて回避行動に移る。

と言っても敢て横なぎの攻撃を受けて吹っ飛ばされる事で回避する荒業だが…。

幾ら思考スピードや動体視力が高かろうが身体能力的に考えて詠唱が完了した後から、あの大規模魔法を回避するのは流石に無理だからである。

 

何はともあれ、モンスターは全て魔法の餌食となり、凍り付き霧散した。

 




マイクロミサイルの速度云々はオリジナルで考えました。集の思考速度は本当に化け物レベルのチートです。でも体が付いて行かないので周りと一緒に自分の動きも置き去りにしてしまうので集の動きが早くなるわけではありません。
集がマシンガンの弾道を目で追って躱していた訳じゃねぇってのは置いておいてください。ミサイルはマジで目で追って切ってたでしょ!


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#4

ホームである廃教会の礼拝堂。その最前列の壊れた椅子に集は座って居た。

怪獣祭(モンスターフィリア)の一件から既に2週間が経過している。

あの後集はそっとその場を立ち去り、事情聴取その他諸々を回避していた。なので担当であるエイナにも一度も会って居ないし魔石の換金にも言っていない。ケガについてはかなり高いポーションをミアハ・ファミリアから数本購入し何とかした。

次の日からは普通にダンジョンに潜ったし魔石も回収した。魔石はギルドに生きたくないが為にベルに全て押し付けている。正直申し訳ないと思っている。

 

「――何時も始まりはこんな感じから何だな…。」

 

ひび割れているステンドグラスから差し込む月明り。静寂に包まれ神秘をその身に感じる空間。

集にとって人生の大きな転換期、即ち何かが終わり、何かが始まるその瞬間は決まって静寂と神秘が内包されている。ロストクリスマスが起きたあの日も静寂と神秘溢れる教会であった。そして、いのりと出会ったあの時も静寂と木洩れ日、そして歌が人間に内包する心の神秘を体現していた。次は世界線移動と言う人類が未だ到達し得なかった最上の神秘と狭間の静寂の中であった。そして集の人生に置いてその静寂と神秘の向こう側に一歩足を踏み入れるとそこには最上級の喧騒が待ち受けている。

そして今、集は静寂と神秘をその身に感じ取りこの先に喧騒が待ち受けているのを本能が感じ取っていた。

視線をステイタスの書かれた紙から外し天を仰ぎながら目を閉じる。

 

「――ベル」

 

同じファミリアに所属する少年の名を呟く。

すると恐る恐ると言った感じで兎を彷彿とさせる少年が物陰から出て来た。

 

「ォ…オウマさん」

 

「声位普通に掛けてくれればいいのに」

 

ベル・クラネル我がヘスティア・ファミリアの団長であり良き友達である少年だ。

 

「そ…その」

 

「好きにやってみると良いよ。サポーターの子、気になるんでしょ?」

 

「ッ…やっぱりわかっちゃいますか?」

 

「そりゃ僕だって馬鹿じゃない自分が預けた魔石がどれくらいで換金されるか位わかるさ。それがちょろまかされている事だってね。」

 

ベル預けて換金してもらっていたが、その金額が少し少ない事には気づいて居た。

更にそれがベルが最近雇ったサポーターがちょろまかしている事だって予想は早い段階で、必然確信するのも早かった。

 

「で、でも…」

 

「良いんだ…ベル、僕もその事が分かって居て君に預けたんだ。文句は無いよ。君も逃避こそしているけど、ちゃんと自覚はあるみたいだし。向こうのファミリアとは僕が話しを付けておくから思いっきりやると良い。君が望むように、後悔が無いように。」

 

「…はい」

 

「それじゃあ僕は少し用事があるからちょっと出かけて来るよ。明日の夜には帰って来るから」

 

そう言って集は教会を出て行った。

残されたベルは悔しそうな表情で歯を食いしばって居た。

 

集の耳には徐々に崩れ落ちて行く日常の音が聞こえていた。

 

 

******

 

シュウ・オウマ

Lv.1→2

 

力A830→S999→I0

 

耐久C623→S999→I0

 

器用S965→S999→I0

 

敏捷B803→B999→I0

 

魔力A895→S999→I0

 

発展アビリティ

【死神】I

自身が殺すと定めた相手と相対した時にステータス極大補正

隠形にも中補正

 

魔法

【浄化の灯火】

常時強制発動中

詠唱不要

淘汰の抑制、拘束

 

スキル

【淘汰の収束点】

罪の権化、王の権能、それは全てを受け入れ、拒絶し、束ね、至る。

Joajfoe7%#$4q3e1%$&%$jt’j%trw&#yrw!%!#$dffda%&%’&(‘%”%adf

 

【業の到達点】

獲得経験値に+補正(極)

罪を背負う程効果上昇

 

【罪の英雄王】

罪を背負った英雄であり、同時に王でもある。その偉業は在来人類の救済、そして黙示録への反逆

淘汰の収束点の効果緩和

 

******

 

 

 

ベル・クラネルにとってシュウ・オウマと言う人物は神様と一緒に自分をすくい上げてくれた恩人であった。

彼は少し不思議な所があるが優しくて強くて、時々寂しそうな眼をするそんな年上の青年と言う認識だ。ともすれば兄のが居たのならこんな感じだろうかと考えた事もしばしばである。

必然そんなベルの目に映る彼の背中は一つの憧れであり、羨望のそれである。死んでしまった祖父には寝物語を聞いて育ったベルだが、その背中は見ていなかった。彼にとってシュウは兄のような存在であると同時に、父としての側面を持っていた。彼の優しさや強さ、行いに振る舞い。それらをなぞる様にシュウの背中を追いかける。入団初期にダンジョンにソロで潜って居たのはシュウにパーティーを断られていたのも大きいが、シュウがソロで潜っているのを真似したと言ったように強く影響を与えていたからである。

その思いは、何か切っ掛けがあれば憧憬一途が形を変えてシュウへの羨望が対象になっていた可能性があるほどである。

彼に団長の席を渡された時は混乱した物である。自身の憧れに自分の上司になってくれと言われたようなものである。度肝を抜かれたのは想像に難くないだろう。その驚愕と同時に認めて貰えた事に対する強烈な歓喜が沸き上がった。

『君の精神、在り方、将来性、君の方が団長に向いている。僕は向いてないどころかそう言うのはトラウマ物だからね。そもそも誰かの上に立つ資格はないし』

と言うのがベルが団長を任命された時に言われたセリフだ。

色々言いたい事はあったけど、いつの間にか言いくるめられていたのは今でも不思議に思う。

 

そんなシュウに迷惑を掛けてまでやりたかった事、それが目の前で自分の手から滑り落ちて行く。

 

大量のオークに囲まれ、今だ数が増え続けている状態で、自身のサポーターを任せていた少女が背を向けて遠ざかっていく。

もう少し、もう少しで手が届きそうなのに届かない。

 

「あああああああぁあああああああああああアああああぁああああああアあああああああああァああああアああああァあああアああああぁああああああああぁあああああアぁああああああああぁああああああアアあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

獣の様な雄叫びを上げながらオーク達を薙ぎ払っていく。

自身の非力を、兄貴分の信頼に答えられない自身を、未熟を理由に一瞬諦めかけて情けない声でサポーターの名を叫ぶ事しかしなかった初動に、ベルは自身を叱咤するかのように叫ぶ。腹の底から、魂を揺さぶる叫びを、羞恥心を振り払い、絶望を置き去りにし、自身の望む一切合切掴み取る為に剣を振るう。

 

「そこを・・・、どけええぇぇぇェェッ!!」

 

 

 

******

 

 

 

 

事は意外とすんなり収束した。リリのソーマ・ファミリア脱退もかなりスムーズでとんとん拍子で終わった。リリを利用していた冒険者達も自滅したのかダンジョンから戻って来ていない。只後日金庫として使っていた部屋の鍵だけ戻って来たのは不思議だと首を傾げた。ヘスティアはジト目で集を見ていたがきっとからかわれたのだろうと思っておく。

そしてソーマ・ファミリアは一時解体、再編成されることになったそうだ。何でも素行の悪さが目立ち始めたから、構成させるんだって。

 

こうして僕達の一瞬の喧騒が終わり日常が帰って来た。…と、僕は勝手に思っていた。

これが本当の喧騒は未だ始まったばかりだと言うのに。

 

 

 

 

******

 

 

辺りには倒れ伏す冒険者達、その中でその主神たるソーマと集だけが立っていた。

 

「君は何者だい?」

 

それは興味だった。本来酒にしか興味を示さないはずのソーマが僅かながらに興味を示していた。

いや、酒にしか興味が無いと言うのは少々語弊があるか…。

 

「只の、冒険者だよ。そう、本当にどうしようもない我欲に捕らわれた愚かな人間の一人だよ。」

 

「只の冒険者が僕のファミリアの団員を悉く蹴落とすか…。」

 

何故ならその目には絶望と諦めが彩っているのだから。

 

「人間に失望するのは勝手だけど、後始末位の責任はきちんと取って欲しいな。」

 

「…」

 

「勝手に失望して勝手に見捨てて、勝手にしろと…。貴方は何様のつもりだ?神?それが如何した。此処は人間の世界だ。天界じゃない。貴方達が我が物顔をしているこの場所は人間の…いや、人間だけの物と言うのは放漫だな。だけど、やっぱり神の物でもない。確かにこの街は貴方達神の恩恵で潤っている。がしかしそれが生み出す歪みがあるはずだ。それを上から押さえつけて隠している。そこが問題だ。この街は可笑しい。それを表面を覆い隠して誤魔化してる。今回の件とは大本の本質は別の所にある。だがそこから派生して沢山の不幸も生まれている。」

 

そう、この街は本当に可笑しい。そもそもダンジョンとは何だ?神の力で永続的にモンスターを排出し続ける魔窟?違うだろ。僕の知る限り力を行使している神は居ない。そんな状況で何十何百年間もモンスターを出し続ける事が出きる?そんな訳ないだろ。中にはレベル7でも倒せないモンスターもいるんだぞ?エネルギーが圧倒的に足りていない。ならモンスターとは何処から来ている?答えは■■■■■■■させているのだ。

この街は本当に狂気(可笑)しい。

 

「リリルカ・アーデと言う名前、貴方はちゃんと覚えていますか?」

 

「…」

 

「貴方のファミリアの団員ですよ?もう、そんな事も分からくなって来てるんですね…。」

 

この神は、在ろうことか自身の団員を把握できてすらいない。超越者である神がだ。それはつまり最初っから意識していなかったという事。只作業として機械の様に処理しただけ。その手に裁量があるにもかかわらず。全てを放棄して与えるだけ与える。

 

「酒を作るだけしかしない貴方はもう、天界に帰っても良いじゃないですか?」

 

「…それは」

 

だがそれでも彼は此処に残って居る。何故だ?そんな物は決まっている。

 

「もう分かって居るはずです。それでもそれをしないのは――――」

 

 

 

それはソーマ・ファミリアのホーム、ベル・クラネルがダンジョンでリリルカ・アーデを救い上げる少し前にあった会話だった。

 




【死神】
解放条件:低レベル帯の時に単騎で一定以上の格上モンスターを倒し続ける。
{設定的にはレベル1の時に中層レベルの相手と単騎で戦い続ける事で発現、ただし狩人の完全上位版みたいなものなので、狩人が3時間以内にいかなる手段を用意ても100対討伐出来れば無条件で発現と仮定するなら。死神は1時間以内に格上を単騎で300対倒さなければならない。因みに双方取得できるのはレベル1の時のみである。因みに隠形に補正が入るのはアビリティ【暗殺】の上位互換でもあるからである。}
だって死神って暗殺者っぽくない?と言う理由から暗殺者としての側面を持たせることにした。本当はもっと罪の王から関連した何かにしようと思ったけど、くどいかな?って言うのと普通に思いつかない。と言う理由でこんな感じに…。

因みにベル君は原作同様アイズに助けられています。これまた同様アイズだと気づきませんでしたが…。


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#5

 

シュウ・オウマ

Lv.2

 

力I0→B796

 

耐久I0→C659

 

器用I0→A832

 

敏捷I0→A893

 

魔力I0→A802

 

アビリティ

【死神】I

自身が殺すと定めた相手と相対した時にステータス極大補正

隠形にも中補正

 

 

魔法

【浄化の灯火】

常時強制発動中

詠唱不要

淘汰の抑制、拘束

 

スキル

【淘汰の収束点】

罪の権化、王の権能、それは全てを受け入れ、拒絶し、束ね、至る。

Joajfoe7%#$4q3e1%$&%$jt’j%trw&#yrw!%!#$dffda%&%’&(‘%”%adf

 

【業の到達点】

獲得経験値に+補正(極)

罪を背負う程効果上昇

 

【罪の英雄王】

罪を背負った英雄であり、同時に王でもある。その偉業は在来人類の救済、そして黙示録への反逆

淘汰の収束点の効果緩和

 

*******

 

 

「本当に行くのかい?」

 

「はい、多分一月は帰らないと思うのでその間は心配しなくても大丈夫です。ですが三ヵ月で戻らなければ死んだものとして扱ってください。」

 

リリルカ・アーデの件から数える事二週間、集はこの間30層から35層でのレベリングを敢行し短期間で常識外の速度でステータスを上げた。恐らく更に一月程時間を掛ければレベルアップも可能な速度である。しかし集はダンジョン最下層を本格的に目指す事にした。

 

そもそも既に半年も経過している事に焦りを感じていた集は、現状の行かないと恐らく何処かで致命的なミスを犯して死んでも可笑しくないと判断した。

 

「ベルも良い感じに育ってますし、多分大丈夫ですよ。俺もみすみす死ぬ気はありませんから、と言うか目的を果たす前には死ねませんよ。今回は限界に挑戦するだけなのでそこまでの無茶をする気はありませんから。」

 

「むぅ~、本当に気を付けてくれよ。」

 

「はい」

 

 

 

******

 

 

 

ダンジョン第16階層

 

集は此処まで殆ど労せずに辿り着いた。

再三に渡って言うが彼は権能の力で通常の冒険者より圧倒的に高いポテンシャルを持っている。剣技と言った技術も既に第一戦級にまで磨き上げられており、恐らくレベル2になった今ならあのロキ・ファミリアのレベル5達とも正面戦闘で勝ちを見込めない物の拮抗出来る程のポテンシャルを手に入れている。ヴォイドを使えば恐らくあのオッタルさえ下し兼ねない。神相手ならば力を解放されると無理だが封じている状態なら武神や軍神であろうと弑逆できるだろう。命を絶つハサミならば天界への強制送還ではなく本物の死を与える事も可能だと思われる。

ヴォイドとは心の刃であり概念兵器である。【ハサミで切る】と言う制約の下、実行する事で【死】と言う概念を押し付ける。例え神であろうとそれは例外ではないだろう。そしてそれは肉体への干渉では無く魂への干渉。下界へ現界する為の肉体を殺しても魂は天界に戻りその本来の形に戻るだけ。しかし魂事殺したのであれば、魂は消滅し冥界へと誘われるだろう。まあ、魂の在り方は人間である集には分からないから定かではないが…。

兎も角集はこの程度の階層ならば苦にならない。

 

がしかしそれは17層の階段近くにまで足を運んだ時に起きた。ミノタウロスの悲鳴が響き渡ったのだ。何事かと思い様子を見に行くと、そこには徹底的に虐め抜かれているミノタウロスとそれを行って居るオッタルが居た。

傍から見ても異常な光景、集は即座に撤退を選択した。がしかし、焦ってしまったせいか、足音を立ててしまった。その音を獣人であるオッタルが聞き逃すわけがなかった。

オッタルは丁度終わった所なのかミノタウロスを開放し自身が持っていた刃毀れした大剣をミノタウロスに渡した。

そして背負っていたもう一つの大剣を抜き集に向き直る。

 

「…シュウ・オウマだな。」

 

「…」

 

「貴様は我が主神が邪魔だと言った存在。醜いと言った存在。」

 

「―――ッ!?」

 

集は行き成り放たれた殺気に対し咄嗟に剣を抜きながらサイドステップで回避行動を取る。

さっきまで集が居た場所にはオッタルが剣を振り下ろし剣圧で地面がひび割れていた。

 

「だから貴様には此処で果ててもらう!」

 

唐突にオラリオ最強対罪の王の戦いが幕を開けた。

 

 

******

 

 

ダンジョンの開けた広場のド真ん中で最強の剣戟を凌ぐ罪の王。

ミノタウロスは既に何処かへ消え、此処にはオラリオ最強の冒険者【猛者】オッタルと人類の罪を一手に担う【罪の王】桜満集の二人しかいない。

 

 

パワー、スピート、経験、ポテンシャルの全てにおいて劣っている集は徐々に劣勢になるであろう事実に若干の焦りを見せ始めていた。

既に権能は全開で思考速度も飛躍的に上げていた。自身を含め全てを置き去りにした世界でシュミレートを繰り返し、オッタルの攻撃を先読みし、シュミレートが終了すると少しだけ思考速度を緩めスローで見える動きを視界で確認しながら回避、そしてスローなのを利用してイレギュラーな攻撃おも見てから見切ると言うゴリ押しで攻撃をかわし続ける。受けると言う選択肢はパワー差が歴然な為悪手と判断し放棄、防御を回避に極振りし。残ったリソースは剣での攻撃に割り当てている。しかし此方もスピードとパワーが足りずに全て防がれてしまう。

ジリ貧、恐らく体力もオッタルに軍配が上がるだろう。自身が疲れ果て体が反応できなくなった時が敗北の時だろう。

 

一方のオッタルも自身の全力の攻撃が下級冒険者相手に全く当たらない事に焦りを感じていた。攻撃の全てが見透かされたように読まれ、時折イレギュラーな剣筋を入れても見てから反応されひらりと落ち葉の様に回避されてしまう。終いには此方に攻撃してくる余裕まである始末。彼がレベルアップしたと言う報告は受けているが、それでもレベル2のはずの目の前の青年はとても下級冒険者とは思えなかった。純粋な身体能力は最低でもレベル5下位はあると思うくらいに高い。剣技は自身と同等かそれ以上。回避に至ってはオラリオ史上最上位に入るだろうと思わせられる。

幸い自身より遅く弱い攻撃しか出来ていないので此方が戦いに敗北する事は無いだろうが、言い知れない敗北感が自身の中で芽生えている。オラリオ最強、レベル7、【猛者】と言われるフレイヤ・ファミリア最強の矛たる自身の技が格下相手に一切通用しない。それはオッタルの戦士としての本質が技の敗北を認めるに十分な素材だった。

 

 

二人の剣戟はダンジョンを破壊しながら3時間が経った今もまだ続いてた。

依然回避しながら時折攻撃する集に、ポテンシャルの有利を利用し猛攻を続けるオッタル。二人の戦いは終わりが見えなかった。最小限の動きで体力を温存できている集に元々レベルによる体力の底上げによる圧倒的持久力を持つオッタル、双方に明確な疲れの色が見えず只ダンジョンが悲鳴を上げるのみにとどまっている。

しかし此処でオッタルの猛攻にダンジョンの地盤が耐えきれず広場のいたる所に入って居た細かい亀裂がついに大きく広がり16階層の地面をぶち抜いた。厚さ数メートルはある地盤が砕け散った事に一瞬の動揺を見せる二人。

先に立ち直り反応したのは集だった。圧倒的思考能力で周囲の自身の足が崩れ切る前に周囲の崩れ落ちる地面の破片がどういった動きで落ちていくかを即座にシュミレートし、自身の足場がまだ残って居る間に別の足場になる瓦礫へ跳躍する。

一方のオッタルは。反応が遅れた事で完全に体が宙に投げ出されてしまっていた。集は此れを好機と捕え落下する瓦礫を縦横無尽に飛び回り、剣の届きずらい背後を回って斬撃を当てに行く。オッタルも必死に抵抗するが如何せん身動きが上手くとれない為、防ぐのが精一杯で反撃できない。次第に瓦礫を跳躍するコツをつかみ始めた集の移動速度が上がり始めた事で防ぎきれず細かな切り傷が増え始めた。本来であれば普段集の使っている第三戦級のガラクタではオッタルの耐久力を突破できずにかすり傷一つ付ける事は出来ない。だがしかし、今回持って来た武器は普段のガラクタでは無く第一戦級の高級品だった。そもそも30層クラスのモンスターにガラクタで対抗できる訳がない。だから貯めていた金を放出して優秀な武器に変えたのだ。不壊属性こそ付与されていないが切れ味、耐久共に今までの物の比では無い程の逸品だ。と言っても如何に一戦級の武器とは言えピンからキリまである。これは不壊属性が付与されていない事からも分かるように比較的下位の物だ。

そんな高級品を持っているからこそ集の斬撃はオッタルに届いて居るのだ。

集は下に落ちきる前に勝負を付けようと温存していた体力の全てをつぎ込む勢いで攻撃していった。しかし状況は芳しくなく着地までに倒しきれない事を悟り苦虫を噛み潰したような顔で攻撃を続けていった。

 

 

*******

 

 

オッタルは優秀な戦士であった。そして優秀な戦士であると同時に主神に忠誠を誓う駒でもあった。主神の喜びは自身の喜びと感じ、主神の為に自身を磨き続けた。何時からかオラリア最強と呼ばれ、事実レベルはオラリオ唯一の7となっていた。オッタルはそれを誇りに思っていたし、自身の主神の役に立てると歓喜していた。しかし、気づくとオッタルは渇きを感じるようになっていた。最強、それは並び立つ者がいない孤高の一の事である。レベル7になってから本格的なダンジョン攻略もせずちまちまとステータスを上げながらずっと主神の下僕として主神の願いを叶えてきた。もう一度言おう。彼は優秀な戦士である。優秀な戦士とはつまり戦いの中に生き、それをアイデンティティとする存在の事だ。今のオッタルには決定的に闘争が掛けていたのだ。自身に届き得る存在。追いつく可能性があるのはロキ・ファミリアの【勇者】(ブレイバー)だけだと思っていた。しかし彼はパウルム。レベル6に至った事は偉業であるがそこが限界だったようでもう何年もそれで停滞している。若い芽が育ち始め【剣姫】なども自身が抱えるその焦燥を打ち払う事が出来なら。自身に届くのではと思わせるが、ずっと先の事になるだろう。

渇く、どうしようもない程空虚に感じか始めた。日常、我らが主の喜ぶ顔だけでは満足できなくなっていた自分。渇く渇く渇く。

 

 

 

―――渇望していた

 

 

――――――――――――闘争を

 

 

 

 

―――――渇望していた

 

 

 

―――――――――自身に並び立つ強敵を

 

――――――――――――――――渇望していた

 

 

 

―――自身の全てをぶつけてなお喰らいついて来る英雄をッ…!!

 

 

 

彼は彼を睨みつける。

未だ若い年の頃の青年を睨みつける。

自身より圧倒的弱者であるはずの存在を睨みつける。

ステイタスの差を圧倒的技量で埋める冒険者を睨みつける。

全力の最強に今なお喰らい付き剣を届かせた英雄を睨みつける。

自身の無聊を慰める程の技量を誇る男を睨みつける。

 

 

 

そして、最強と言う名の孤独に捕らわれた自身と並び立った敵を彼は獰猛な笑みで睨みつける。

 

 

オッタルは今この時、目の前のシュウ・オウマと言う青年を明確な敵と認識し、強敵(ライバル)足り得る強者とし、己の存在を掛けて淘汰すべき指標と定めた。

この瞬間、燻っていたオッタルの魂は強い輝きを取り戻し、己の存在を示した。

 

―――俺は此処だ!

―――――――此処にいる!

―ここで戦っている!

―――俺を見ろ!

――――俺と戦え!

―――――――――俺がお前を倒す!!

 

 

 

「シュウ・オウマあああ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァ…ッ!!!!」

 

 

 

猛者オッタルは今此処に自身の半身たる闘争と言う存在意義を取り戻した。

 

 

 




唐突なオッタル戦、本来こんな展開は想定されて居なかったのですが、此処から先の事を考えて、もう少し強敵と戦わせておきたいと思った時に思いついてしまった話し。
書き手としては胸熱展開で気分が良かったですが、読み手としてはパワーバランスの崩壊かと思ってしまう暴挙、しかし後悔はしていない。


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#6

「シュウ・オウマあああぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァ…ッ!!!!」

 

 

着地と同時にオッタルが雄叫びを上げる。

集は分かって居た事とは言え仕留めきれなかった事に歯噛みする。そしてオッタルの顔つきが先程までの寡黙な雰囲気から戦士のそれに代わった事に、自身が完全に敵として認識された事を悟り。冷や汗を流す。

最早長期戦は無理、短期決戦以外に道は無いと判断し。オッタル目掛けて全力で疾走する。しかも縮地法や瞬動と言った人類最高峰の高速移動歩法を使用した絶技でだ。

対するオッタルもレベル6最上位に匹敵する移動速度で突進してくる集目掛けて吶喊した。

二人の剣戟がお互いの身体目掛けて振り降ろされた。

そしてそれと同時にモンスターがポップした。ポップしたのはゴライアス…そう、二人が落ちたのはボス部屋だったのだ。

二人が放った剣戟は双方交わる事無くお互い素早く距離をとった。

そして戦いは【猛者】【罪の王】【迷宮の孤王(モンスターレックス)】の三つ巴へと縺れ込んで行った。

 

 

****

 

 

本来オッタルであればゴライアスを屠る事は単騎でもそう難しい事ではない。しかし今回はゴライアス以外にも集がいた。オッタルは邪魔なゴライアスを始末すべく攻撃を仕掛けようとするが、オッタルがライアスを攻撃する一瞬を狙い集が攻撃を仕掛けている。獲物を狩った瞬間が最も危険なタイミングだと言わんばかりに抜群のタイミングで攻撃を仕掛けて来るせいでゴライアスはいまだ健在していた。

集はゴライアスが倒されると自身が圧倒的に不利になる事が分かって居るからゴライアスは放置、寧ろゴライアスを援護する形でオッタルを狙い撃ちにする。

ゴライアスは本能でオッタルを最優先で攻撃すべき驚異だと認識し、ヘイトをオッタルに集中している。勿論集にも攻撃を加えるが割合は圧倒的にオッタルの方が多い。

実質の1対2と言う構図が描かれているこの戦い。若干集に軍配が上がっているが、オッタルを倒した所で、集一人でゴライアスを相手にするのは些か厳しいものが有る。ヴォイドを使えば恐らく瞬殺だが、此処にはオッタルが居る。彼女が遠見の術で色々覗き見しているのはベルの証言と状況から見てほぼ間違いない。この時点で最も厄介な神と目されるフレイヤにヴォイドを見せる事になる。

それは出来れば避けたい。集の勝利条件は出来るだけオッタルを負傷させた状態でゴライアスを倒させ。瀕死のオッタルに止めを刺す。又はどさくさに紛れて逃亡だが、出口まで遠いしダンジョンを脱出する前にオッタルに捕捉されるのは自明の理な為破棄せざるを得ない。獣人であるオッタルなら臭いで俺の通った道が分かるだろうからダンジョン内でかくれんぼも無理だと分かる。正直な話し結構詰んでいるのが分かる。

 

「――っ!」

 

集は此処に来て疲労が出始めて来た。如何に思考速度を上げようと身体が着いて来なければ無用の長物。更に一つ問題が浮上してきていた。それは脳疲労である。身体疲労は勿論なのだが、此方がかなり致命的だった。集は異常なまでに思考速度を上げている弊害で戦闘開始から今でおよそ4時間弱が経過し居ているが、集の体感時間は既に2日を越えた。つまり単純に考えても二日間徹夜しているのと何も変わらない。更にはかなり思考速度を権能で無理矢理引き上げているせいで、疲労が通常より早い。脳の疲労度合いは徹夜4日目以上の状態とそう変わらない。

人間が意識、脳波共に起きている事の出るのは世界記録でもおよそ5日弱が限界だ。日本人の場合は4日、集は権能と恩恵でその辺も強化されていると考えても6~7日が限界だと思われる。その事から考えて戦えるのは恐らくあと1時間前後だろう。それまでにオッタルを屠りきれるか?ゴライアスの始末は?

ダメだ、思考がドツボに嵌り始めている。

確かにゴライアスの乱入のお陰で集の剣は何とかオッタルに届いている。しかし、どれも浅く決定打足り得ない。

 

「はあぁぁっぁ!」

 

「もっとだ!もっと喰らい付いて来い!貴様の限界を、その先を俺に見せて見ろ!!」

 

「■■■■■■■■■■…ッ!!」

 

集、オッタル、ゴライアスの三竦みは未だ拮抗し続けているが徐々にその終わりが近づいてきていた。

 

最初にミスを犯したのは集だった。戦闘開始からおよそ5時間と40分、ついに集の脳が一瞬のマイクロスリープ状態に陥りコンマ数秒思考が止まった。

その隙をオッタルが見逃すわけもなく、集に向けて斬撃を放つ。マイクロスリープから復帰した集は目の前にオッタルの剣が迫っている事を認識すると同時に剣を割り込ませて今まで避けて来た受けで防御した。衝撃を流しきれず全身を駆け巡り骨が軋み筋肉が悲鳴を上げ、後方へ吹き飛ばされた。

ピシッ、と言う音で剣を離すまいと意地で柄を握っていたヴォイドである右手の小指と薬指に若干の亀裂が入った事が分かった。

剣を右持ちから左持ちに切り替えて構え直し、悲鳴を上げる身体に鞭を打って戦線に復帰する。

この間およそ7秒、この7秒間でゴライアスは瀕死にまで追い込まれていた。これを見て集はゴライアスを利用する事を止める事を決断、勝負を付けに行く事にした。

ゴライアスの陰に隠れながらタイミング計る。そしてオッタルがゴライアスに止めの一撃を加えた瞬間また縮地と瞬動の合わせ技で霧散するゴライアスを超スピードで突っ切りオッタルの正面から懐に潜り込んだ。霧散したゴライアスの霧から出て来た集に驚きながらもコンマ2秒遅れで迎撃を開始、しかしこの遅れが致命的となり懐に潜り込まれ剣を振れない位置にまで制空権を犯されてしまっていた。そうと分かった時には既にオッタルは剣を手から離し格闘戦の体制を取った。ゴライアスへの最後の攻撃が首の両断であった関係上二人は空中に身を投げ出しており回避は極めて困難。集は此処で初めてオッタルを殺すと言う明確な意思を出した。これによりアビリティ【死神】が発動しステイタスを底上げした。そして左手に持ち限界まで引き絞った剣弾を全身を鞭のようにしならせ打ち出す。この刺突に対して、オッタルは驚異的な反射神経で体を捻り回避するしかし急に上がった速度に回避し切れず急所を避ける形で刺突を喰らう事となった。集が狙ったのは心臓、しかし当たったのはオッタルの右肩、次の攻撃の為に集は剣を引き抜こうとするが剣が動かなかった。オッタルが筋肉で固定したのだ。これにより集の動きが再び一瞬止まる。

此処でオッタルは集を逃がすまいと左手を掴みステゴロで決着を付けに行った。

 

「――ッ灯よ!」

 

しかしそれをさせると敗北が確定してしまう集は自身が持つ唯一の魔法を体外に顕現させた。

この魔法についてもオッタルには報告聞いていた。怪物祭に出現した未確認の魔物にこの魔法が振れた瞬間の弱体化したと。その為オッタルは即座に手を離し高速の正拳で一撃で済める事にした。しかしこれは集が入れたフェイク、実際の所只の人間が触っても全く害のない炎なのだがオッタルが警戒して手を離したのは行幸だった。空かさず突き刺した剣を利用して更にオッタルに密着し隠し持っていた小ぶりのナイフを両手に一本ずつ持ち肩の腱を狙て突き刺した。勿論このナイフも第一戦級の代物である。腱が切れた為オッタルの両腕は肩から先がだらんと垂れ下がり力が入らなくなっていた。

腱を着られると言うのはオッタルをして初めての経験だった。しかし彼は長年の経験でもって即座に両腕が使い物にならないと理解し、体を捻り上げ残った足で集を蹴り飛ばした。集にそれを回避する手段は無く左腕を割り込ませるのが精一杯だった。再び吹き飛んだが今度は防御に使った左腕の骨と左腕を越えて来た衝撃で肋骨が三本程折れた。左腕は折れたと言うより砕けたと言う方が正しいだろうが…。更に運の悪い事に瓦礫時の山に激突した為に衝突の衝撃で飛び散った破片が身体を更に傷つけ崩れて来た瓦礫が集に追い打ちをかけた。此処でオッタルも倒れ込む形で地面に着地、よく見るとオッタルの右足の膝の皿に左肩に刺さっていたはずのナイフが刺さっていた。

 

倒れ伏す二人、数秒の静寂の後、二人は同時に起き上がった。

殆ど立ち上がる事が出来ないような重症なのにもかかわらず意地と瘦せ我慢だけで立ち上がって見せた。集は予備で持っていた第二戦級のナイフを取り出し右手で構える。オッタルは床に転がっていた自身が一度破棄した剣を這いずって口で噛み掴んで立ち上がり重心を前に倒して迎撃態勢を取る。

 

 

静寂、全く動かない二人。どれ程時間が経っただろうか?いや、恐らくほんの数分だけだろう。二人は微動だにしない。

しかし見開いた眼は渇きなど知らいかの様に瞬き一つせずにお互いを捕えて離さない。

 

 

****

 

 

 

ロキ・ファミリアの幹部であるガレス・ランドロックは後方でフィン達がトラブルで送れると言う報告を聞いて溜息をついて居た。遠征初日だと言うのに幸先が悪い…と。しかし、道中16階層での事だ、17階層への階段への最短ルート上にある広間が大穴を開けて通行不能になっていた為どの道迂回する必要が有ると後方に伝令を出し。つっかえる事にならなくて良かったと安堵する事となった。一つ気になった事と言えば下から大きな戦闘音が聞こえて来る事だった。かなり激しく戦っているようで、その規模を察するとドワーフの戦士としての血が疼いた。

だからだろうか、彼は遠征隊の進行を催促して見ものしようと思ったのだ。早く降りて冒険をして居る勇士の姿が見て見たくなった。記憶が正しければ広間の下はゴライアスが居るボス部屋。滾って仕方なかった。

そしてボス部屋におよそ30分と言う驚異的スピードで進軍したガレス達ロキ・ファミリアが見たのは、想像を遥かに超えるハイレベルな戦闘だった。しかもその中にオラリオ最強の冒険者と名高いオッタルが混じっていると言うのだから驚愕以外の何ものでもない。

何処か見覚えのある青年とオッタル、そしてゴライアスの三つ巴、恐らく元々あの青年とオッタルが何らかのトラブルで16層で戦っていた所で地盤が崩れ落ちたのだろう…。

何処まであっているかは分からんが上から降って来たと言うのはボス部屋に大量に積みあがった瓦礫の山を見れば一目瞭然、青年とオッタルが争っているのを見れば間違ってるとは思えない。

しかし、真に驚愕すべきはあの青年がオッタルに喰らい付いて離れないという事だ。見ていて思い出したがあの青年はベートを沈めた自称レベル1の規格外だ。ロキ曰く嘘では無いという事だから実際あの時点ではレベル1だったのだろう。よしんばどう頑張った所でレベルは2と言うのが妥当だろう。それがレベル5相当の動きを見せてオッタルと渡り合っている。有り得ないとしか言いようがない。二人と一体が雄叫びを上げながら死闘を繰り広げて切る。ガレスはこの光景にある種の感動を覚えた。

 

そして戦闘もクライマックス、隙が出来てしまった青年がオッタルに吹っ飛ばされ。その間にオッタルがゴライアスを始末、そしてその始末したタイミングを狙って青年が一気に肉薄して10以上駆け引きと攻防の末お互いに瀕死の状態、オッタルは口で掴んだ剣で迎撃の意を見せ。青年は少し貧弱なナイフを片手に構え微動だにしなくなった。暫くしても全く反応がない。そして彼は気づいてしまった。青年が立って目を見開いたまま気を失っている事に、そしてオッタルが意識こそ保っているが負傷に次ぐ負傷で身動きが取れない程消耗していた事に…。

心が…魂が震えた。圧倒的歓喜。この人生史上上位に喰い込むであろう激戦の行く末を見る事の出来た事への喜びと、意識を失っても決して膝を屈さず眼光が消えない程の闘志を見る事が出来た事への尊敬と畏怖。

 

周りの団員はあまりの光景に唖然とする者、ワシ同様歓喜し涙する者、触発され闘志を燃やす者。

最初に幸先が悪いなどと思ったが前言撤回じゃ。今日は最高について居る。滅茶苦茶幸先が良い!

 




オッタル相手に事実上の引き分けを捥ぎ取ってしまった集さんマジチート。正直此処までやるつもりは本当に無かった。だがやってしまった。反省はしているが後悔はない。

原作ではフィン達の後にダンジョンに潜っていたはずのガレス達を先に先行させている設定です。


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#7

「知らない天井だ。」

 

目を覚ますとそこには知らない天井、別に混乱や記憶障害も無く。オッタルとの戦闘で気を失ってしまったという事に直ぐ気が付いた。

 

「此処は何処だ?」

 

記憶にない部屋、ダンジョンで意識を失うと言う致命的ミスを犯しながら自身が五体満足なのに違和感を覚える。

全身の傷も綺麗さっぱり消えており、頭もスッキリしている。不可解な事に思考を巡らせていると、部屋に来客が訪れた。眼帯を付けた隻眼の男だ。

 

「お、やっと目ぇ覚めたか。」

 

「…此処は?」

 

取り敢えず直近で最も重要な事を問いかける。現在地が分からないとどうしても不安を覚えてしまうのは心理的にも正常な感情だろう。

 

「ああ、此処は18層のセーフティエリアだよ。全くガレスの野郎に言われてなけりゃテメェなんぞさっさと叩き出してるんだがな。」

 

「取り敢えず僕が気を失ってから何があったかご存知でしたら教えてもらえませんか?」

 

「まあ、ガレスから幾つか頼まれたし今説明してやるから取り敢えず落ち着きな。」

 

彼曰く、僕が気を失った後、戦いの途中から見ものしていたロキ・ファミリアの一団によりオッタル共々保護されお互いが所持していたエリクサーで身体の傷を回復、18層のセーフティエリアで知り合いだった彼の所に僕を預けロキ・ファミリアは遠征に旅立ったという事だ。何やらそのガレスと言うロキ・ファミリア幹部のドワーフが僕達の戦いで大層感動したそうで見物の礼として此処の場所代と同行していたヘファイストス・ファミリアの腕の立つ鍛冶師に僕の武器のメンテナンスを頼んでくれたらしくかなり至れり尽くせりな状態になっているそうだ。

まあ、そんなこんなで意識を失った既に3日の時間が過ぎているそうだ。

 

虎の子だったエリクサーを思わぬところで消費してしまったのは誤算だった。そもそもオッタルと遭遇してしまったのが運の尽きと言う所である。

 

「―――そうでしたか、場所を貸していただき有難うございます。」

 

「金は貰っている。後は起きたならさっさと出てってくれればそれでいい。ああ、最後にガレスから手紙を預かてる。何でもお前とやりあってた奴からの伝言なんだとよ。」

 

「はい、お世話になりました。」

 

挨拶した後に手短に準備を済ませ。建物を出る。

右手に持った手紙に目線を向ける。

 

――次会った時こそは、決着をつける。――

 

その一行だけ、の簡素な文章だったが、気持ちが痛い程伝わってくる気がする。何やらオラリオ最強に完全にロックオンされてしまったようだ。困った。神に目を付けられるよりましだと思うが、フレイヤに嫌われているような事をオッタルが言っていたからもう殆どアウトな気もする。これは色々ヤバいな、早くいのりを見つけないと…。

 

一度ダンジョンを出て態勢を立て直そうかとも思ったが、エリクサーを失った以外では殆ど被害は無い。武具も防具もガレスさんと言う人が何とかしてくれたらしいし。

集は、少し考えてからダンジョンアタックを続行する事を決めて、進むことにした。

 

「待ってていのり…もう少しできっと、君に届くから。」

 

 

 

*****

 

 

ロキ・ファミリアの遠征隊は一部のヘファイストス・ファミリア団員も含め圧倒的な士気の高さから順調に階層を下へ下へと進んでいた。

その理由が、ロキが目の仇にしている犬猿の仲であるヘスティア・ファミリアの団員である事は、皮肉と言えるだろう。団長のフィンを筆頭にリヴェリアですらその闘志に当てられている程の士気、ベートやアイズ、アマゾネス姉妹は完全に自身の漲る闘志を抑える事が出来ずモンスターに吶喊していく。ガレスも今にも突っ込みそうな雰囲気を放っているが流石は古参の幹部と言うべきか、自身の役回りと後続の育成と言う観点から自粛し出来ていた。

 

「ガレス、何かあったのかい?」

 

「それはこっちのセリフでもあるぞ?」

 

二人はニヤニヤしながらお互いの高ぶった気を当て合っていた。

 

「フフ、ちょっと面白子が冒険をしててね。若いって言うのはああいう事を言うんだね。」

 

「ハッハッハ!こっちも面白い小僧が冒険をしててな!アレは見ただけで気が高ぶるのも当たり前だな!」

 

フィンは一応ガレス達が何を見たのか知っていた。それを見た団員達がこぞってその話をしていれば耳に入らない訳がない。

 

「…オッタルが追い込まれていたと言うのは本当なのかい?」

 

真剣な表情でそうガレスに問う。

 

「ああ、勝負はほぼ引き分けに近い。最後の最後まで意識があったのはオッタルだったが、そのオッタルもボロボロで身動きが取れる状態じゃ無かった。最後にお互い立ったまま動きが取れなくなるほどに消耗しておったわ。アイツ等がお互いにエリクサーを持っておらんかったら直らないような重症が至る所にあったわい。」

 

「それがあの酒場の一件の青年だと言うのだから世の中と言う物は分からいね。」

 

「椿の奴も興奮していたよ。ともすれば自ら売り込みにこうと考える程に。」

 

「それはまた入れ込んでるね。」

 

「最強の名を欲しいままにする完全な格上のオッタル相手にあと一歩まで追いすがる強者だ。ワシが鍛冶師だったとしても是非武器を打たせてくれと言うな。あの目は本物だったわい。」

 

「そう言えば、怪物祭でも家の団員が助けられたって報告が上がっていたね。確かレフィーヤの詠唱時間を稼ぐために体を張って稼いでいたってティオネが言っていたね。」

 

「本当に読めん奴じゃな。」

 

彼らは集の実力を計り兼ねていた、そもそも低レベルにも関わらず上位冒険者に喰らい付く異様なフィジカル、オッタルと拮抗出来るだけの技量、そのどれもが異質だった。

 

「さて、取り敢えず此処のモンスターの処理も終わった。セーフティエリアまでもう少し、取り敢えず今はその事は置いておこう。此処から先は僕らも死力を尽くす必要が出て来る。」

 

「おうとも」

 

 

******

 

 

レフィーヤ・ヴィリディスは考えていた。敬愛する憧れの先輩であるアイズ・ヴァレンシュタインが気にする二人の冒険者の事について。

片やアイズとの交流は殆ど無いものの時折自分達の目の前に現れ、レベルに見合わない圧倒的に実力を持って周囲を騒然とさせる。アイズの会って手合わせしたいランキング№1の青年。片やレベル以上の事は余り仕出かさないもののアイズがその圧倒的成長速度で最も気に掛けている少年。

 

青年を最初に見たのは遠征後の打ち上げをやっている時だった。ベート先輩が酔って醜態をさらしている時で、急にその背後に現れベート先輩に水を浴びせたのです。驚愕したと同時に何だかスカッとしたのを覚えている。でも怒ったベート先輩を見て彼がヤバいのではないかと直ぐに顔の血が引いて行きました。でも結果はどうでしょう?全く見えませんでしたが彼はベート先輩に勝ってしまいました。見た所左手が折れているようでしたがそれも気にしない様子で去って行きました。団長と少し話して行きましたが、レベルが1だと言うのは嘘だと思いました。

次に会ったのは見たのは怪物祭、自身がピンチだった時に颯爽と現れて時間を稼いでくれました。最後の方はボロボロだったのが目に移って居ましたが魔物を倒した後は気が抜けてしまって意識を外してしまい、気づけば何処かに行ってしまっていました。お礼ぐらいは言いたかったです。

そして次に見たのは数日前、ダンジョン17階層のボス部屋だった。彼とゴライアス、そしてオラリオ最強の冒険者、オッタルの三つ巴の地獄。誰一人として全く譲らない一進一退の攻防、最後の僅か十数秒の交差、自分との圧倒的なまでの差を見せつけられた。

 

少年については今は少し落ち着いている。憧れの先輩を横取りされたようで確かに嫉妬したし今もしている。でも彼は努力しているのが分かる。憧憬を燃やし、アイズ・ヴァレンシュタインと言う高見を必死に追い求めていると言うのが少しだけ分かったから。だから少しだけ認めてやらないことは無い。

いや、やっぱなし、先輩は私の物だ。アイツにはやらんし認めない。

 

何より重要なのはどちらも私が出来損ないであると言うかのように此方を圧倒してくることだ。力で、技量で、成長速度で、そして尊敬する先輩方の関心の全てを持っていくその在り方に、私は、レフィーヤ・ヴィリディスは今まで以上に劣等感に苛まれていた。

 

 

****

 

 

「上手く行かない物だね…」

 

「全くじゃ。次から次へと飛んだ予想外もあったもんじゃな。」

 

「仕方あるまい、だがそれでこそ冒険であろう?」

 

ロキ・ファミリアは未踏破エリア59階層へと足を運んでいた。過去此処まで辿り着けたのは今は無きゼウス・ファミリアのみであり、その記録からこの階層は氷雪エリアだという事が分かって居た。

しかし、彼らの目には雪一つ映らず気温も常温程度、見渡す限り青紫色の結晶体に埋め尽くされていた。モンスターの影も殆ど見えず、唯一地平線の彼方に一体だけ明らかに階層主レベルのモンスターが居るだけであった。そしてその背後には天井にまで届く太く高い結晶の柱が一本。

勿論そこまで消耗していなかった面々が取ったのはそのモンスターの討伐であり、駄目でも威力偵察くらいはしたかったのもあり、戦闘に移った。

それがおよそ10分前の事である。モンスターの強さは圧倒的の一言に尽き。攻撃の殆どが効かず。限界が来ていた。勿論かなり早い段階で相手が規格外なのが分かった為撤退しようとした。しかし其れを許してくれる程優しい相手ではなかった。結晶に包まれた身体、人の形を模したような上半身、周囲の結晶を操り変幻自在に攻撃してくる手数の多さ、そして高位の呪文を高速で詠唱し圧倒的な火力を叩き込んで来る。

防戦一方、既にラウルが戦闘不能一歩手前、椿も若干の余裕があるようだが時間の問題なのは目に見えていた。他の面々もかなり限界に近い。

 

最初に倒れたのは意外や意外、アイズであった。敵を前にして焦りを見せる癖がある彼女の精神性が仇となり、最初に狙い撃ちされたのだ。

そして次がアマゾネス姉妹、アイズを助けようとした所を返り討ちにあう形で戦闘不能に成っていた。幸い全員意識はあるが身動きが上手くとれていなかった。

絶望的な状況下にて誰一人として諦めの顔を見せないのは流石と言えるだろう。だがしかし諦めなければ何とかなる、と言う規模を完全に超えていた。そして、地力で最も劣るレフィーヤの体力がついに限界を迎えた。反応が遅れ吹き飛ばされるレフィーヤ、しかし彼女の目は死んでいなかった。最後のせめて一矢報いようと血反吐を吐きながらも魔法を詠唱する。

だが矢張り相手はそれを許さない。結晶を操りレフィーヤ目掛けて振りかざす。

 

 

 

 

しかし、それはレフィーヤに当たる直前で何の前触れもなく止まる。

困惑するファミリアの面々、レフィーヤも驚愕に詠唱を止めてしまう。それもそのはずだ、何せあそこまで苛烈だった攻撃がピタリと止まり、静けさが階層を支配しているのだから。そんな中やけに響く足音、そして彼らロキ・ファミリアの面々の遥か後方に目線を釘付けにしているモンスター、そしてその目線に釣られ目を向ける。そこに居たのは――

 

 

 

 

 

 

――淘汰の終息点、その縮図を見せられている気分だ。

 

 

 

 

例外中の例外、罪の王にして救世の英雄。シュウ・オウマである。

 




ストックが…切れた!?
はいと言う事で最近投稿する暇もない位忙殺されておりましたがやっと投稿出来ました。そして此れにてストックが無くなり更新速度が一気に落ちます。余談ですがたった此れだけですが、此処まで書くのに半年以上の時間を消費していますので更新速度はお察しw

因みにオッタル戦で集の右腕のヴォイドにヒビが入ったって書いたけど、実は裏技でそれも修復できています。方法等はその内記述しますのでお待ちください。

誤字報告や感想、評価待ってます。どしどしどうぞ。(誤字報告が実は一番切実だったりするw


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#8

日間ランキング4位!?正気かよオイ…。
だが矢張り嬉しいものは嬉しい、感謝です。


18層のセーフティエリアを抜け下層に向けて進む事早数日。集は次のセーフティエリアである56層にまで到達していた。

 

武器や防具はかなり消耗して居るがまだ暫く持つだろう。

 

「…そうか彼らはロキ・ファミリアの」

 

集の目の前にあるテント、こんな階層にまで来れるファミリアと言えばロキ・ファミリアかフレイヤ・ファミリア位なものである。そして今遠征をしているファミリアは自身を助けてくれた彼らだけである。

集は助けてくれた人達にお礼の挨拶くらいはしなければと思いその天幕に近づいた。

 

「――何者だ!?」

 

まあ、こうなる事は自明の理である。何せダンジョンの未踏破エリア手前の最前線、そんな場所に一人でいるなんて怪しさ満点だろう。

 

「すいません、ガレスと言う人はいるでしょうか。先日中層で助けて頂いたそうで、近くまで来たのでお礼の挨拶をと思いまして。」

 

「……ガレスさんは既に先に向かった。此処にはいない。」

 

「そうですか…ではまたの機会にする事にします。入れ違いになったらアレですし、一応よろしく言っておいてください。」

 

「そうか…。」

 

「では僕は先に進みますので通してください。」

 

集は取り敢えず此処から離れることにした。セーフティエリアとは言え遠征中の為か空気がピリピリしている。これ以上刺激するのは双方の特にはならないだろと言う判断だ。だが彼らのキャンプは先に向かう為の階段の正面に陣取っているのでどの道彼らのキャンプの中を通らなければならない。

集はキャンプを突っ切ろうとする。しかしはいそうですかとキャンプの中を突っ切らせる程見張りの彼も能天気ではなかった。

警戒し槍を突きつけて来る。

 

集はそれを無視して直進する。彼の行動は見張りとしてある意味では正しい。だが上司に確認を取らなかったのは彼のミスである。そして此処まで到達できる者が殆どいないからと言ってこんな位置にベースキャンプを設営するのはどうかと思う。それでも止まらなかったのは、矢張り何処かに焦りが燻って居るからなのだろう…。集は何処か冷静では無かった。

 

槍に全く警戒を見せずに近づく集に怯み一歩後ずさる見張りの男。

そして集は槍の間合いに入った瞬間剣を抜刀し居合の要領で一振りし鞘に納める。

これに見張りは全く反応できず。分かったのは一瞬だけ彼の視界から集が消えたと言う現象だけだった。

槍は二つに切断された。彼は戦慄した。そして次の瞬間には意識が暗転していた。

 

そしてキャンプを突っ切り次の層の通路に辿り着いた時には更に10人程気絶させ、ロキ・ファミリアの団員に背後を包囲されていた。勿論通路を通りたいから通してもらうだけと言った。しか最初の見張りを気絶させた事がいけなかった。完全に敵意を向けて来る団員。その内集とオッタルの戦いを見ていた団員だけが他の団員達を抑え込もうとしていた。

 

集は少しだけ後ろを振り返りロキ・ファミリアの面々を一瞥する。

誰も彼もが一流に届いている強者達だという事が見て取れる。しかし集には不思議と驚異足り得るとは思えなかった。集はオッタルの件も含め自身に起こる変化に少しの寂しさを覚え失笑しながら通路を歩いて行く。

 

 

****

 

 

私、アリシア・フォレストライトは故郷をクロッゾの魔剣に焼かれたエルフです。憎くてしょうがないクロッゾに復讐する為に力を求めてオラリオに来ましたが、いつの間にか情に絆されて今は、仲間と冒険するのがとても楽しく思っています。勿論クロッゾは今でも憎いです。出会えばきっと正気では居られない程に、でも今は少しだけそれを忘れて皆と一緒に冒険がしたいと思います。

そんな私ですが最近、理想の戦い方と言う物を見ました。相手の攻撃を完全に先読みし舞い散る花弁のように躱す極限の回避術、隙が無いとしか思えない相手の構えに対し隙とも言えない針の穴よりさらに小さい空白を意図も容易く事も無し気に突く剣戟。そして相手の認識を謀り、意表をついて致命傷を与える暗殺者の如きナイフ裁き。そして圧倒的強者相手に決して屈しない精神と眼光。目に焼き付いて離れない。

そんな理想の戦い方を魅せてくれた青年が目の前を歩いている。深層に分類されるこの階層をたった一人で、次の階層に行く為には通路の前に陣取った為にこのベースキャンプを通らざるを得ない。だから彼はここを歩いて居るのだろう。だが最初に槍を向けてしまった見張りを気絶させたのが原因で遠征でピリピリしていた何人かの団員が彼に攻撃した。彼はその圧倒的技量でそれを無力化していく。倒れ伏す10人の団員。そしてそれを見て手を出さず離れて警戒する事を選んだ団員、私や彼の戦いを見た他の団員が必死に止めたが10人も彼に危害を加えようとしてしまった。彼がもっと気性の荒い人だったらきっと頭と胴体が泣き別れしていただろう。

彼は通路の前で立ち止まり此方を一瞥した。そして失笑し奥へと歩いて行った。

彼の失笑に団員達の殆どが激怒したが、私を含むほんの少しの団員達は悲しみに駆られた。それは彼の目が、表情が何処か迷子の子供の様に泣き叫んでいるように見えたからだ。失笑は迷子の自分に対してのものであると思った。その背中に漂う哀愁に涙が出そうになったのはどうしてだろうか…。故郷を失い迷子になった自身の心と彼の背中が一瞬被って見えた。

 

 

****

 

 

深層の情報は文献を読み漁り大体分かって居た。しかし何時まで経っても下層からの狙撃がない事を不思議に思い当てもなく道を進む。すると穴が開いた通路を発見する。下層からの狙撃の痕だろう。各層を隔てている厚い地盤の装甲をこうも容易くぶち抜いて来るモンスター、喰らえば通常のヴォイドでは防御特化の物を使っても防ぎきれない可能性がある。

集は早々にこの階層を突破しなければならないと判断し開いて居た穴から下層に侵入する事を決めた。流石にこの高さから飛び降りるにはレベルが足りないと判断した集は着地の瞬間だけ右手に巻きつけていた包帯を緩め綾瀬のヴォイドを顕現させクッションにした。

 

周囲を見渡すと幾つもの魔石やドロップアイテムが散乱していた。恐らく先に通ったロキ・ファミリアの面々が殲滅したのだろう。そういう意味で言えば集はかなり楽をさせて貰えたのだろう。

次の階層への通路の手前で腰を下ろす。流石に疲れた。集は回復系のヴォイドで高速で体力の回復を始める。そしてヴォイドを右手に格納し目を開けるまでの時間はおよそ1分、この間におよそ2時間分の休息と同じだけの体力回復を行う驚異、いや、最早狂気的なまでの行動に集は苦笑いし立ち上がる。この1分の睡眠で夢を見た。やけに長い夢、集が居て、いのりが居て、涯が居てマナが居る。それに皆が居て…。きっと自分が求める平和な世界の光景、戦いなんて無い平和を享受できる理想の世界。そして2度と得る事の出来ない只の幻想。

緩めていた包帯を巻き直し、次の階層に向けて歩き出した。

奥から聞こえて来る爆発音、先行しているロキ・ファミリアの幹部達だろう。

やがて出口の光が見える。未だ爆発音は聞こえる。そして集の目に映った階層の景色。

何時か見た淘汰の終息点。全ての生命が結晶となり疑似的な永遠を手にした姿。ダートによって次のステージへと昇華した人類種の姿だ。自身の手で葬ったifの世界、この世界を作れる存在は最早集一人しかいないはずだった。考えられる可能性は一つ。

 

「…いのり。」

 

集が求める唯一の存在。自身を庇って一人で行こうとした優しい子。集が愛した女の子。

 

 

「ああ、淘汰の終息点、その縮図を見せられた気分だ。」

 

集はやっとたどり着いた。そう直感した。彼女と会う、そして今度こそ彼女と一緒に歩もう。

 

 

 

「いのりを、返してもらうぞ!」

 

 

 




チョイ短いですけどキリが良かったので切る事にしました。

ヤバい明日も早いから早く寝ないと遅刻(ry


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#9

最早集が右腕を隠す理由は無く、いのりを取りもどす為なら躊躇する事など有り得なかった。勢いよく解かれる包帯の下から現れる紫の結晶で出来た腕、その甲には王たる証が記されヴォイドの輝きが吹き荒れる。

初手は集のヴォイド結合によって生み出された弓での絨毯爆撃、恙神涯がGHQに使用した物とは若干異なり、アポカリプスによる浸食攻撃では無く純粋な破壊力に重点が置かれている。

それに対してモンスターは結晶で射線を塞ぎ防御する。

 

集はヴォイドを即座に切り替え綾瀬のエアスケーターで一気に加速しながら距離を詰める。視界がふさがったモンスターは急激な接近に気付くのが遅れ焦りを見せる。だが、流石にこの程度で突破できる程弱い訳では無い。モンスターは周囲の結晶を操り集を迎撃する。

大量の結晶が集に目掛けて飛来する。四方から来る攻撃に集は足を止める事無く四楓院のヴォイドである花弁の盾で正面の攻撃のみを防ぎそこから強行突破、自身を追尾してくる攻撃を八尋の命を切るハサミで切り落とす。

攻防は一進一退、戦力は互角、に見えて若干集が出力的に上回っている。

 

アポカリプスとヴォイドの激突は兎に角派手な戦闘である。基本を技によって処理する冒険者とモンスターとの戦いと違い、謂わば化け物と化け物の戦いである。速攻性が高いにもかからわらず長文詠唱に匹敵、場合によっては上回るエネルギーのぶつかり合いによって展開される戦闘が地味であるはずもない。

 

颯太の全てを開くカメラによって抉じ開けられる射線、そして、そこから無理やり捻じ込まれる高出力の弾道、何時か衛星を撃ち抜いたあの結合ヴォイドには劣るが、それでも重力操作のヴォイドと銃身となる強固なヴォイド、その他複数の名も無きヴォイド達によって構築されたそれらによって繰り出される必殺の一撃。それはモンスターを容易に撃ち抜く。

 

「――!?」

 

しかし、魔石を撃ち抜く事に失敗した為か半身が消し飛んだはずのモンスターは即座に再生を開始し、僅か15秒で全快された。その間集も止めを刺す積りで居たがアポカリプスの結晶によって阻まれ、刺し損ねた。

高エネルギー同士のぶつかり合いは一種の天災と変わりなく景色を、地形を瞬く間に変えていく。特に集の攻撃は一撃毎の質量が桁違いであり余波だけで低レベル帯のモンスターや冒険者は容易く屠られるだろう。対するモンスターの攻撃は兎に角範囲が広い。絨毯爆撃も格やといった勢いである。更にはそれを行いながら高速詠唱で超高火力魔法を繰り出してくる。規格外の一言に尽きる。この光景を見せられた面々が無事なのは偏に集の立ち回りが上手いからと言う他ない。全ての攻撃は彼らがいない方向に向かって繰り出されている。モンスターに彼らを気にする保有がない為にこそ発生し得る事である。モンスターは集を異常なまでに警戒し、過剰な攻撃を繰り出し続ける。

しかし、それですら集に届いていないのだからどちらが異常なのか分からなくなる。

 

「やっぱり、このままじゃダメか…。」

 

一瞬の空白、集はそう呟やいた。

そして彼は自身ステータスを思い出す。

 

 

*****

シュウ・オウマ

Lv.2

力B796

耐久659

器用A832

敏捷A893

魔力A802

アビリティ

【死神】I

 

自身が殺すと定めた相手と相対した時にステータス極大補正

隠形にも中補正

 

魔法

【浄化の灯火】

常時強制発動中

詠唱不要

淘汰の抑制、拘束

 

スキル

【淘汰の収束点】

罪の権化、王の権能、それは全てを受け入れ、拒絶し、束ね、至る。

Joajfoe7%#$4q3e1%$&%$jt’j%trw&#yrw!%!#$dffda%&%’&(‘%”%adf

 

【業の到達点】

獲得経験値に+補正(極)

罪を背負う程効果上昇

 

【罪の英雄王】

罪を背負った英雄であり、同時に王でもある。その偉業は在来人類の救済、そして黙示録への反逆

淘汰の収束点の効果緩和

 

*******

 

文字化けしている【淘汰の収束点】。実の所文字化け、集には読めていた。

何故ならこの部分が日本語で書かれていたからである。この世界は不思議な事に言葉が日本語である。しかし文字が日本語とは全くの別物なのである。それによって最初は四苦八苦させられたものである。

そして、日本語は神ですら言語として全く分からず、傍から見ればよく分からない模様にしか見えないと言う寸法である。

 

スキル

【淘汰の収束点】

罪の権化、王の権能、それは全てを受け入れ、拒絶し、束ね、至る

一時的に超越種へと存在を押し上げる

罪を数えろ

 

人を次のステージへと押し上げる淘汰、その先に待つものは何なのか。集は知っている。だからこれまで使わなかったし、誰にも教えてこなかった。超越種、この世界ではつまり神の事を指す。人が神へと至る大罪。罪の王、その偉業への報酬であり戒め。それがこのスキルである。自身はもう既に人とは言えないナニカであると、そう訴えかけてくる。

 

この身を汚し切った僕が超越種なんて、皮肉なモノだな…。

ヴォイドを振るいながら言葉を紡ぐ。

 

この身既に王へと至り、その姿は血と怨嗟に汚れた

罪とは僕で、僕とは罪

明日を願って友を振るい、愛する者すら剣とする

終末の世界に意味などなく、求める事も無い

世界は正により形どられ、負により彩られる

我が身は負、罪を数えし大罪の王

友を殺し、最愛を殺し、自分を殺した

悲しみを、世界が悪意に変える

故に…我が身は今、全てを曝け出す

悪意がこの身に溶けてしまうまで

【淘汰の収束点】起動

世界は今、罪を知る

 

一面に広がる結晶の大地が脈動する。花咲くかのように結晶は天に向けて突きあがり世界を構築していく。

 

「僕は王、血濡れの王、罪を清算せんが為に今ここに全てを…。」

 

集が犯した罪とは即ち、友達の、愛おしい人の心を武器として戦った事。そして、全ての心を受け取り、全てを引き受けるその在り方は人類全ての負債をその身に集め大罪へと至らしめる。

[Guilty Crown]

The atonement and conviction world(セイサンノセカイ)

 

 

モンスターが纏っていた結晶すらも奪い取り、逆に蝕ませていく。

結晶に包まれ逃れようと暴れるモンスターしかし、さながら氷に閉ざされようとする異形のモノの様に蝕み包まれていく。そして最後には結晶の世界と共に砕け散る。

 

静かで音も無い世界、ただ一人佇む集の後ろ姿が神秘的で、神格を感じさせる異質な様に、世界は一人の神の誕生を認識した。

 

::::

 

舞い降りる光、何処から()でたのかは定かではないが、その光が人の型を取っており、少女の姿をしているのは遠めに見ても分かった。

それが、自身の探し求めていた少女である事は考えるまでも無く脊髄反射で解った。

ゆっくり自分の元へ降りて来る光、そっとガラス細工を扱うかのように丁寧に優しく抱える。徐々に収まる光に思い出したかのように重みが現れる。目を瞑る彼女の顔は最後に見た時と寸分変わらず、綺麗なままであった。

 

 

薄っすらと開かれたその瞳は昔から変わらずにそのままの世界を感受している

 

 

少しだけ周りを見た後、僕の顔を覗く

 

 

逡巡ガ読み取れる

 

 

ソレ以外にモ怪訝、ギ念

 

 

「アナタハ…ダレ?」

 




おや?風向きが怪しいぞ?


The atonement and conviction world(セイサンノセカイ)
まあ色々考えてたらいつの間にかエミヤ見たいになってたけど仕方ないと思う。
セイサンノセカイ、つまりは清算と凄惨のダブルミーニング的なヤツ。見るに堪えない凄惨な情景、罪を償う清算の為の情景って感じで…。直訳すると贖罪と断罪(信念)の世界とかそんな感じになる。
スキルなのに詠唱が必要なのは効果が頭可笑しいから。超越させる。逆説的に其れって神になるってことだよね?って具合にハッチャケたから常時発動駄目だよね?って感じでこれは暗証番号を声紋で解除している感覚に近いです。一応欄に罪を数えろって書いてあるでしょ?つまりは集が自分で罪だと思う事を言えばいいのですよ。

前のオッタル戦で戦闘描写は燃え尽きていたらしい事に気付きました。だから全く戦闘描写が上手く書けない事に悶々としながら仕上げました。
正直超短けぇ。
そしてついに明かされた文字化けの中身、当初は正直なんも考えて無かった。其の内思いつくだろって感じで乗りで文字化けさせたからアホみたいな方法で中身暴露させてもうたなって感じで複雑な気分、それに中身も全く考えたなかったら完全にそっちも思いつき。


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