亜種特異点:EX 人害怪因地区 アマゾン (16:25教)
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プロローグ

そこは地獄だったーーー

 

それ以外に例えられないほど、そこは荒れ果て、朽ち果てていた。

かつてこの場所に多くの人が住み、笑い、人並みの幸せを謳歌していたなど、思わせられないほどに。

 

元々はそこは栄えた街だったのだろう。しかし今はもう見る影もなく姿を変えていた。

通りは血に汚れていない場所を見つける方が難しく、民家からは異臭が放たれ玄関に入ることすら躊躇われる。

人の姿などなく、見かけるのは人であったであろう残骸。

そして、それに群がる異形の怪物の姿のみであったーーー。

 

 

 

 

 

 

「先輩。おはようございます。朝は早いですが、今日もカルデア内はいつも通り、平和と英霊たちによる混沌で充ち溢れています。微力ですが、先輩の平穏と安静のため、不肖マシュ・キリエライトが本日もお供させていただきます!」

 

【おはよう、マシュ】

 

【うん、今日もよろしくね】

 

雪に被われた山の中にそびえ立つ施設、人理継続保障機関フィニス・カルデアの中で貴方は朝早く起きていつのまにかマイルームにいる、最も頼りになる相棒兼サーヴァント、マシュ・キリエライトに挨拶をした。

世界に陥った危機、人理焼却を阻止し、大きな犠牲を払いながらも世界の安寧を取り戻した貴方は、新たな特異点等を解決しながらも以前より落ち着いた生活を送っていた。

 

「今日の厨房当番はエミヤさんだそうです。とても健康的な食事が予想されますので、早く食堂へと向かいましょう」

 

【そうだね、急ごう】

 

 

ーーーーー

 

 

「おはようマスター。朝食は既に出来上がっている。他の大飯食らいのサーヴァントに根こそぎ持ってかれる前に早急にいただくことをお勧めするよ」

 

食堂に着いた貴方とマシュは、厨房が見えるカウンターから今日の当番であるエミヤに声をかけた。

 

「おはようございますエミヤさん。今日の朝食はなんでしょう?」

 

「ふむ。それは実際に見てからのお楽しみに、と言いたいところだが、あまり凝ってもいないのでな。隠していても仕方がないだろう。今日は鮭のムニエルとスープ、付け合わせのサラダにパンだ。ありふれていて申し訳ないがな」

 

【そんなことはない】

 

【エミヤが作ればなんでも美味しい】

 

「ふっ嬉しいことを言ってくれる。すぐに用意しよう。席で待っていたまえ」

 

エミヤと話終わると貴方とマシュは食堂の席へと向かう。食堂には貴方達の他にもカルデアの職員やサーヴァントもおり、簡単に挨拶をしながら貴方たちは席へとついた。

 

「エミヤさんのご飯楽しみですね、先輩! 私も料理などを作れればいいのですが...申し訳ございません先輩。知識としてあっても、私には厨房の経験がいかんせん少なく...」

 

【いつかマシュの作った味噌汁を飲んでみたいな】

 

【ブリタニア料理以外なら大体食べれる】

 

「お心遣いありがとうございます、先輩。いつか先輩に胸を張って提供できる料理が作れるよう、私頑張ります!」

 

マシュと話をしていると、ふと食堂にはいる人影を貴方は見かけた。よく見るとそれは赤い軍服を着た女性であることがわかり、貴方もよく知る人物、サーヴァントの一人だった。

 

「あっ、あそこにいるのはナイチンゲールさんですね。さすがに看護婦ということもあって朝は早いようです」

 

マシュもナイチンゲールを見つけ話題にすると、話が聞こえたのかナイチンゲールはこちらへと歩みを寄せてきた。

 

【おはよう、ナイチンゲール】

 

【朝早いんだね】

 

「おはようございます、マスターにマシュ。えぇ早起きは清潔な体の基です。清潔な体はよき健康習慣からといいます。貴方たちも心がけるよう、気を付けなさい」

 

「はい! ご忠告ありがとうございます。ナイチンゲールさん」

 

「...いえ、出すぎた失言でしたね。規則正しいマシュと、そんな彼女にお世話をされているマスターに心配する必要はないようです」

 

【お世話って...】

 

【マシュのおかげで元気を維持してます】

 

「私が先輩をお世話なんて...恐れ多いです...」

 

照れ顔になるマシュを見ながらあなたはホッコリしていると、エミヤが盆を両手に持ちながら現れた。

 

「待たせたな。今日の朝食だ。むっ、ナイチンゲールもいたか。少々待ってもらえるか。すぐにそちらの分も用意しよう」

 

「お構い無く、Mr.エミヤ。私はサーヴァントの身。食事は娯楽にすぎません」

 

「ほう。清潔な体は良き健康習慣からではなかったのかね?」

 

「盗み聞きとは、はしたないですよMr.」

 

エミヤの言葉に少し眉をひそめ咎めるナイチンゲール。基本的に真面目で秩序的な二人だが、エミヤの皮肉屋な部分とナイチンゲールの頑固な部分が時折ぶつかってしまうことがあることを貴方は知っていた。

もちろん、エミヤの方はからかっているだけだということも、貴方は気づいている。

 

【ナイチンゲールさんも一緒に食べましょう】

 

【エミヤの料理はすごく美味しいですよ】

 

「...そうですね、マスターからの頼みでしたら仕方ないですね。Mr.エミヤ。私にはレーションをお願いします」

 

「残念ながらここにそんなものはない。マスターたちと同じもので我慢しろ」

 

貴方が取り持つと、ナイチンゲールは怒気を潜め同じ席へと着く。

すぐにナイチンゲールの分の朝食が届くと、貴方たち三人は話をしながら楽しく朝の食事を楽しんだった。

 

 

ーーーーー

 

 

「マスター、連絡がある。至急管制室へと来いと、あの希代の天才画家からだ。私も共に向かおう。あの様子だとおそらく特異点関連だろう」

 

「ですがエミヤさん。それだとこれから来るであろうハラペコサーヴァントたちの料理は...」

 

「案ずるな、すでに猫のほうの玉藻に連絡してある。いざとなればブーティカも手伝ってくれるだろうさ」

 

「なら安心です。ダ・ヴィンチちゃんのところへ急ぎましょう」

 

マシュの言葉に頷き、あなたとマシュ、エミヤは食堂をあとにする。

 

「しかし人理を修復したというのにいまだに特異点が発生するとは。まったく世界と言うものは何度危機に立たされれば気が済むのやら分からないものだ」

 

「そうでした。エミヤさんはその在り方として何度も世界の危機に...」

 

エミヤの英霊としての在り方を思い出したマシュは物憂げな表情を浮かべる。

 

「そう大したものではない。私がしてきたことは言葉にするにも足りないただの掃除屋稼業。マスターたちが行ったことに比べればしがないものさ」

 

【そんなことはない】

 

→【後悔しているの?】

 

「後悔か。そのような思いも抱いた時期もあったが、今の私は答えを得ている。何、マスターが心配することもない」

 

そう言うとエミヤ我先にと歩き出した。堂々と歩く彼の背中こそ、彼の得た答えの一端なのかもしれないと貴方は感じた。

 

「答え、ですか。私はまだ、エミヤさんのいう自分の納得しうる答えに出会えていないのかもしれません」

 

貴方がエミヤの背中を眺めていると、隣にいるマシュが伏し目がちに話し出した。

 

「私は時間神殿の闘いでデミサーヴァントとしての力を失いました。私にはもう先輩を守る力はありません。そんな私が、これからどうやって先輩のお役にたてるのかわからないのです」

 

マシュの悩みに貴方はふと考えた。彼女はもともと争いの苦手な少女だ。そんな彼女が前線に出られないことをとても悔やんでいる。それは貴方を守りたいという思いから来ていることに貴方は嬉しく思うと同時に、マシュの苦悩を解決してあげたいとも思った。

 

【マシュは戦いたいの?】

 

「戦いたい...いえ、それは違います。うまく言葉にできないのですが、私はただ先輩を守りたいのだと思います」

 

貴方の問いにマシュは真っ直ぐな眼差しで答える。

 

【じゃあ守って】

 

【もう守られてるよ】

 

「えっ、でも私は先輩に何も...」

 

貴方の言葉にマシュは困惑した表情を見せる。

 

【帰ってきて笑顔で迎えてくれれば】

 

【それだけでもう守られてるよ】

 

「先輩...はい分かりました。今回の任務の帰還後も、しっかりとお迎えさせていただきます!」

 

マシュのしっかりとした返事に貴方は満足し、マシュの手を取り先に歩くエミヤを追うべく駆け出す。その間、マシュの面持ちは先ほどと違い笑顔であったことに貴方はとても幸せを覚えたのだった。

 

 

ーーーー

 

 

「ーーー来たぞ、ダ・ヴィンチ。さて、用件を伺おうか」

 

カルデアの要所である管制室のドアが開くと、開口一番にエミヤは現在のカルデア最高責任者代理であるかの天才芸術家の名を呼ぶ。そしてその声に答えるように管制室の奥より誰かが現れた。

 

「やあやあ諸君。よくぞ集まってくれた。エミヤくんまで付いてきてくれたのは嬉しい予想内の誤算だけどね」

 

澄んだ声で挨拶を返すこの美女だが、彼女こそ稀代の天才芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチ当人であることはこのカルデア内でまかり通っている常識のひとつである。彼女ないし彼は自身が出会ったなかで最高の美女を描くに止まらず、自身の姿にするという暴挙に至り、このような霊基になってしまったという。

 

【おはよう、ダ・ヴィンチちゃん】

 

「うん、おはようマスターくん。朝は早いが元気満々で何よりだ」

 

貴方の挨拶にダ・ヴィンチは満足そうに頷く。

 

「おはようございます、ダ・ヴィンチちゃん。単刀直入ですが御用とはいったいなんでしょうか?」

 

「そうだね。説明するよりまずは見てもらった方がいいだろう」

 

マシュの問いに対してダ・ヴィンチは答えるより早くコンソールを叩き、映像を出した。

 

「これは...」

 

貴方たちの眼前に出された映像(ホログラム)に貴方のとなりにいたマシュは思わず声を出す。その映像には立体化された地球が写っていたが、一部分に限り貴方の知る地球と違う部分があったのだ。

 

「これは、シバによるカルデアスの観測結果か?」

 

映像にたいしエミヤが疑問を投げる。

 

「実際には違う、と言うべきだろうね。確かにこれはシバが観測した座標だけど、位相の数値が正常のそれとまったくのデタラメだ。おそらく実際のこちらの世界とは異なる世界をシバが観測してしまった、すなわちエラーであると私は考えている」

 

エミヤの問いに淡々と答えるダ・ヴィンチだが、その表情はいつもと違いどこか曇りがちになっていることに貴方は気づいた。

 

【エラー?】

 

【そんなこと今までなかったのに...】

 

「その通り。シバ、及びカルデア全体の設備は世界全体がかかったとしても敵わない最高の演算能力と最高のエンジニアと、なによりこの私がついている。つまりエラーなんてものは起こりうるはずはあり得ないんだが。しかし実際ご覧の通り、シバはこの観測結果を生み出した。それはすなわちここに映る地球はいずれこの世界が至る未来の可能性そのものであるということさ」

 

「すなわちここに映る()()()()は、この世界の未来の日本であるということなのだな?」

 

エミヤの言葉にダ・ヴィンチちゃんはゆっくりと頷いた。

そう。エミヤが言った通り、貴方の眼前に浮かぶ地球の映像ではおよそ日本列島と思われる場所が赤く染まっているのだ。それはいつか見た、炎に包まれた眩い太陽のような赤ではなく、見たものを引き込むような、深淵のごとき朱色であった。

 

「本当に...赤いです。見てるだけで足がすくむほどに...」

 

【嫌な色だね...】

 

「詳細は追って確認中だが、おそらく君たちの想像通りこれは血の色と見て間違いないだろうよ。まったく悪趣味にもほどがあるね」

 

ダヴィンチは呆れたとばかりに嘆息をつき、首を横に降る。貴方はその姿だけでも絵になるものだと感心していると、またもエミヤがダ・ヴィンチに質問を投げた。

 

「これによるこの世界への影響はあるのか? 見る限りではただ事で収まりそうもないが」

 

「分からない、というのが今のところの答えさ。なにしろ観測した位相があり得ない数値なのだから、演算しようにも公式がない。本来ならこのような結果は捨て置くのが常識的な判断なのだろうが...」

 

ダ・ヴィンチはそこで一度言葉を切ると、貴方に顔を向ける。ダ・ヴィンチがなにを言いたいのかわかっている貴方は返答するように笑顔を見せた。

 

「...まったく、マスターくんもたくましくなったね。そうとも。私たちはこれまで()()()()()を数多く経験してきた。ならば今回のこの異変とも言えない異変も、何もないなんてことはありえない、つまりは修復すべき特異点であるということさ」

 

「...ダ・ヴィンチちゃん、それは...」

 

マシュもダ・ヴィンチが言いたいことを理解したようで、悲しげに目をうつむかせた。

 

「マスターくん。これは今までのグランド・オーダーやレムナント・オーダーとはまったく関係ない、もしくは杞憂で終わるかもしれない特異点調査になるが、行ってくれるかい?」

 

【もちろん!】

 

力強く貴方は返答すると、ダ・ヴィンチは困ったような笑みを浮かべた。

 

「うん、お願いしているこっちが申し訳なくなるような気持ちのいい返事だ...本当にごめんね」

 

【謝らなくていいよ】

 

【やりたいからやるだけだから】

 

本当に申し訳なく思っているのだろうダ・ヴィンチに貴方は気にしないようになんでもない素振りとともに言葉をかける。稀代の天才芸術家も、人並みの罪悪感を抱えることを貴方は知っているからだった。

 

「そうかい。なら私たちも、君が安心して調査し、無事にここへ帰られるようにサポートに尽力しよう。マシュ、君もね」

 

ダ・ヴィンチは貴方の思いに答えるように返事をすると、マシュの方へ視線を向けた。マシュもその視線の意味を理解し、目を伏せながら答えた。

 

「はい、今回も私は先輩とともに前線に出ることはできませんが、でもしっかりと先輩をサポートさせていただきます。それで...」

 

「それで?」

 

いつもと調子の違うマシュに怪しんだダ・ヴィンチは返答を促す。するとマシュは笑顔を浮かべ貴方の顔を見つめ言葉を放った。

 

「先輩に、おかえりなさい、と迎えさせていただきます」

 

【うん、よろしく!】

 

マシュの笑顔につられて貴方も笑顔でマシュに言葉を返す。そうだ、彼女の迎えてくれる姿があるから、自分は危険な亜種特異点でも戦い続ける意思を持てたのだと、貴方は決意を新たにするのだった。

 

「まったく、教え子というものはして私の知らないところで育っていくものだね」

 

「君は特にマスターたちの師匠というわけでもないだろう。ところでダ・ヴィンチ。私は今回、マスターの護衛ということで同行すればよいのだろうか?」

 

「そうとも。しかし今回の特異点調査はそのあり方から全てが未知数であると言える。だから君たちが来るまでに、もう一人サーヴァントを読んでおいたよ。もうそろそろ来るはずだけど」

 

ダ・ヴィンチの言葉に答えるように、貴方たちの後ろの官制室の扉が開く音が聞こえた。貴方が振り替えると、そこにいたのはさきほど食堂で出会ったサーヴァントの一人であった。

 

「ごきげんようダ・ヴィンチ。ナイチンゲール、召還命令に応じここに来ました。御用とはなんでしょうか?」

 

「やぁ来たねナイチンゲール。マスターくん、彼女には私から説明しておくから準備をして来るといい。なに、彼女の性格から断ることはないだろうし揉めることはないさ」

 

【そうだね】

 

【それじゃよろしくお願いします】

 

「あぁ、任せたまえ!」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「今回のレイシフトは未知数が多い点で今までのものと比べようもない危険が潜んでいる可能性がある。だからこれだけは覚えておけ。いざというときは世界なんてものは放っておいて逃げてもいいんだ、ってな」

 

【大丈夫だよ】

 

【皆がいるから安心できる】

 

レイシフト前の準備中、貴方はカルデア職員のなかでは貴方と交流のあるムニエルと話をしていた。

 

「ホントに分かってんのかねぇ? お前に何かあったとき、誇張なく俺らはマジで泣き叫ぶぞ。分かるか? 大の大人が外聞気にせず泣くところなんて想像したくもないだろ?」

 

【それは確かに...】

 

→【ムニエルって人の目とか気にしたことあるの?】

 

「失礼な!すこしぐらいは気にするさ! ...だからまぁ、必ず無事に帰ってこいよ」

 

【もちろん!】

 

【心配してくれてありがとう】

 

「まったく本当に分かってんのかねぇ...ほら、準備OKだ。お前の後輩に挨拶してこい」

 

身体調査を終えたムニエルは貴方の背中を押しマシュの方へと向かわせた。貴方はムニエルの気遣いに頭を下げてお礼しながら自信を慕う後輩の下へと足を運んだ。

 

「先輩、準備は終わりましたか?」

 

【オールオッケー】

 

【皆に任せっきりだった】

 

「それはよかったです。ナイチンゲールさんの方は今回の件を快く引き受けてくれました。エミヤさんが一緒にいることには少し眉をひそませていましたが」

 

【あの二人なら大丈夫だよ】

 

【きっとなんとかなるさ】

 

心配そうに言葉を紡ぐ後輩に貴方は安心できるように声をかける。

 

「そうですね。あの二人はなんだかんだと言っても波長が会いますのできっと大丈夫でしょう...それで先輩、お話があるのですが...」

 

マシュのただならぬ雰囲気に貴方は疑問に思った。そこ雰囲気はまさしく彼女がこれから一世一代の偉業を成し遂げようとしているそのようなものであったのだ。

 

「さきほどエミヤさんから伺ったのですが、日本には迎える際の挨拶の他に送るときの挨拶もあるようで、あの、差し支えなければ私にもその言葉を...」

 

【マシュ】

 

「はっ、はい先輩」

 

言い澱むマシュの言葉を切り、貴方はどこまでも愛しい後輩に一言、言葉をかけた。

 

【行ってきます】

 

「...! はい先輩! いってらっしゃい!」

 

マシュの眩しい笑顔を見ながら、貴方はムニエルの言葉を思い出した。逃げたければ逃げてもよいという助言は確かに心惹かれる提案だろう。しかし、貴方はこの後輩を残して自分だけ逃げることはできないと、改めて心に誓うのだった。

 

 

ーーーーー

 

 

「さぁマスターくん。準備はいいかな? ブリーフィングでも言ったように今回の特異点は未知数が多すぎる。危険と判断した場合はこちらで強制的に帰還できる準備も整えておこう。その上で君たちにはこの未知の特異点の探索をお願いしたい」

 

【了解!】

 

【任せて!】

 

ダ・ヴィンチからの最終確認を聞きながら貴方は大きく返答する。すでに貴方はコフィンにて準備を終えており、いつでもレイシフトに出られる状態であった。他のサーヴァントに関しても同じであろうと貴方は予想している。

 

「覚悟はいいね? さぁ行ってらっしゃい。願わくば君に幸あらんことを祈ろう」

 

ーーーアンサモンプログラム スタート。

霊子変換を 開始します。

 

聞きなれたアナウンス音声が貴方の耳に伝わる。そして次の瞬間には貴方の視界は白い光に包まれ、体に重さがなくなったかのようなレイシフト特有の感覚に陥った。

 

次に視界が開いたとき、自分はいったいどんな景色を見ているのだろうか。そんなことに思いを馳せながら、貴方はレイシフトに身を任せたのだった。

 

 

ーーーーー

 

 

腹が減った。

 

感じることはそれだけだった。悲しいとか、寂しいとか、怒りとかつまらないとか楽しいとかくだらないとか怖いとか。

 

そんな感情が表れることもなく。

 

ただ生理的に、動物の本能的に腹が減る感覚だけが体のなかに伝わっていくことが分かった。

 

じゃあ何か食べに行こうかと足をあげれば。

 

隣にいた二体の怪物が自分の後ろについてきた。

 

この二体がどんなやつなのか自分は知らない。

 

ただこいつらだけ他のやつと比べ自分によく付き従うことだけは知っていた。

 

特に不便はないし放っておいたがそろそろ名前ぐらいつけてもいいかもしれない。

 

ただやはりそんなことよりも。

 

この空腹を収めることが優先すべきことなのだろう。

 

あぁそれにしても...腹が。減ったなぁ...

 

 




次回、血とか内蔵とか出る


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第1節 ART IS CRUEL 1/3

レイシフト特有の白い光から徐々に解放されていく感覚を貴方は味わうと、次の瞬間に地上に足がつく感覚を貴方は覚えた。

どうやら今回は以前のように空中に飛ばされることなく地上に出てこられたことに貴方は安堵を覚えると次に視界から白い光が消えかかっていることを貴方は確認できた。

今回のレイシフト先はどのようなところか、貴方は真っ先に確認しようとしたその時、

 

「マスター! 目を開けるな!」

 

近くから共にレイシフトしたサーヴァント、エミヤのらしくない大きな声が聞こえた。

貴方はその忠告をしっかりと聴いていたが、時すでに遅く、視界が明瞭になったとき貴方はすでに目を見開いていた。そして眼前に広がるその光景を見てしまったのだ。

 

【っ!!!】

 

貴方の目にまず入ってきたのは、()であった。眼前に広がる赤。見るものを引き込むようなどす黒い赤。そうそれは血であった。芸術的観点から見ればそれは美しいと思われる色かもしれないそれは、現在の貴方の価値観からすれば、それは恐怖の対象でしかないものだ。そしてそれが今貴方の目の前に果てなく広がっていた。

 

「くっ! 遅かったか...!」

 

次に貴方が五感で感じたのは臭いであった。おそらく貴方の人生のなかで嗅いだこともない、おぞましいと表現できるような痛烈な悪臭が貴方の鼻を通り、嫌悪感を与えた。すぐさま貴方は鼻を摘まみ、臭いを防いだが、一度嗅いだ臭いは鼻の奥で記憶したかのように、貴方に継続的に悪臭を思い出させた。

 

「ナイチンゲール! マスターを診てくれ!」

 

「言われずともそのつもりです!」

 

あまりの臭いに目眩を起こした貴方は膝を折り、地面に手を付けてしまった。しかし手を置いた先には貴方が予想した固い地面の肌はなく、なにか柔らかい物体が存在した。ドロドロともヌルヌルともとれる不思議な感触の、しかし少し力をいれれば潰れてしまうようなか弱いその物体に疑問を持った貴方は、それを視界に入れた。しかしすぐにそれが悪手であったことを貴方は思い知ることになった。

 

貴方が手に取っていたそれは生き物の目であった。

 

【ーーーー!】

 

ついにパニックを起こした貴方は、手に持つ物体をすぐに放り投げ腰をつき手を暴れさせた。視覚、嗅覚、触覚を未知のモノに奪われた貴方はどうすることもなくただ現状からの逃避を求め体をばたつかせることしか出来なくなってしまったのだ。

そこに、貴方の手を掴むものがいた。

 

「大丈夫ですマスター。落ち着いてください。鼻と口をハンカチで覆いましょう。大分楽になります」

 

貴方が視線をあげ手をつかんだ人物をみると、そこにいたのは貴方のよく知る人物、ナイチンゲールだった。ナイチンゲールは貴方の手をつかむと、有無を言わせず貴方を抱き寄せ、その顔をハンカチで覆った。覆わせられたハンカチからはキツい消毒液の匂いが漂っていたが、さきほどの悪臭に比べると天国であるかのような匂いであると貴方は感じた。そして既知の人物の存在を認めた貴方は、すがるようにナイチンゲールの体に抱きつき、体温を感じるように体を任せた。貴方の手には大量の血が付いており、その手でナイチンゲールにしがみついたが、ナイチンゲールはそんなことを気にせず、ただ赤子をあやすように貴方の背中を一定のリズムで叩き続けた。

 

少し経ち、貴方が落ち着いた頃、ナイチンゲールが貴方に話しかけた。

 

「ーーーもうよろしいですか、マスター」

 

【ありがとう、ナイチンゲール】

 

【うん、もう大丈夫、だと思う】

 

ナイチンゲールの声に落ち着いた貴方は、正気を取り戻しナイチンゲールから離れた。

 

「無理はしないでください。正気を失ったあとに自我を取り戻すのは歴戦の兵士でも難しい所作です。少しでも気分が悪くなればすぐに報告してください」

 

【分かった。その時になったらすぐ言うね】

 

→【さすが看護婦だね】

 

「いえ、このような状況、慣れていない方が正常なのです。さて、Mr.エミヤ。周囲の状況はいかがでしょうか?」

 

貴方の賛辞を気にせず、ナイチンゲールはエミヤの方へ声をかけた。当然といったら当然だろう。このような場で気を抜くような彼女ではないことを貴方は知っていた。

 

「あぁ、我々の周りに生物の気配はない。あるのはこのおぞましい惨状だけだ」

 

エミヤの言葉に貴方は意を決して周囲の景色を眺めた。その口元はさきほどナイチンゲールからもらったハンカチで覆われている。

 

【これは...】

 

【ひどい...】

 

貴方たちが現在いる場所はどうやらどこかの公園らしく、周りには()()()()()()()()たちが建ち並んでいた。そこから見える周囲の状況は、さきほどみた惨状と変わりなく血に汚れた建造物やなにかの内蔵が引っ掛かった樹木などひどい有り様だった。

 

「この状況...人為的なものではない。実に信じがたいが、自然的に起こった現象によるものだろう」

 

【これが自然現象?】

 

エミヤの信じられない言葉に貴方はつい聞き返してしまう。エミヤは周囲の警戒を緩めず、貴方の問いに答えた。

 

「あぁそうだ。意図ある殺しならばここまで汚れきった現場になるはずがない。気にする必要がない限り、必ず殺しの現場というものは清浄される。しかしここではそれが為された形跡が全くない。つまりこの特異点においてこの惨状が自然であるということだ」

 

【この景色が自然な世界って...】

 

「この屍体の在り方からして、おそらく捕食だろう。この世界では人はどこもかしこで何者かに食われている、ということになる」

 

捕食と言う言葉を聞き、貴方は眉をひそませた。

数多くの特異点で時には酷い現場を体験した貴方だが、感性はやはり現代人のそれであり、このような非日常的な状況には慣れることはなかった。

 

「Mr、いたずらにマスターに恐怖を与えるのは感心しません」

 

「恐怖を与えているわけではない。現状を正確に認知し、報告することもサーヴァントの仕事だ」

 

顔色が悪くなった貴方を気遣い、ナイチンゲールはエミヤを非難するが、どこ吹く風とエミヤはナイチンゲールの言葉をかわしてしまう。

 

【大丈夫だよ、ナイチンゲール】

 

さらにエミヤへと追求しようとするナイチンゲールだったが、貴方に抑えられそれ以上の言葉を紡ぐことはなかった。

そしてエミヤはまた言葉を続けた。

 

「しかし、マスター。このような現場に慣れる必要などない。君のように魔術に関係のない者、いや魔術師であろうとこんなものを見て平然としているものなど、それこそ人でなしの謗りを受けても仕方がないものだ。これを見て悲嘆の感情を持つ君だから、我々は君をマスターとして慕っているのだからな」

 

エミヤの言ったことに貴方は少し逡巡したあと、その意味を理解し、堪えきれず笑いをこぼした。

 

「なるほど。Mr.エミヤは彼なりにマスターを励ましているのですね」

 

【エミヤらしいね】

 

【さすが皮肉屋だけある】

 

エミヤなりの励ましに貴方とナイチンゲールは頬笑むと、今の状況を理解しているのか、とエミヤは嘆息をついた。

 

そうして束の間の安息を得ていると、貴方達の目の前に青白い立体映像が写りこんだ。

 

『先輩! 大丈夫ですかっ...これはっ...』

 

立体映像から顔をだしたのは貴方がもっとも信頼するパートナー、マシュであった。彼女は写りこんですぐに貴方の安否を確認するが、それと同時に貴方の周囲の惨状を見てしまい、思わず息を飲んでしまったようだ。

 

『やはり、その特異点はろくでもないことになっていたようだね。まったく、予想というものは何でも当たればうれしいというものではないね』

 

続いて映像に写ったのはさきほどまで管制室で一緒にいたダ・ヴィンチだった。彼女(彼?)はこちらの状況を観測すると同時にため息をつき貴方たちに言葉を綴った。

 

「さきほど振りだなダ・ヴィンチ。みての通りこちらの現状は悲惨なものだよ。これからどう動く?」

 

『とりあえずは霊脈探しからだが、まずはそちらの方の安全圏を見つけるのが先だろう。いつどこでその惨状を作り上げた犯人と出くわすか分からない。こちらでも君たちの周囲を観測し続けるつもりだがーーーっ!』

 

『半径1キロ圏内に生命反応を確認! とんでもない速度でそちらに向かっています!』

 

ダ・ヴィンチの言葉を遮るように放たれたマシュの警告を貴方たちは聞き及び、すぐに警戒体制をとる。

 

「マシュ、こちらでは視認できない。どこからだ!」

 

『先輩たちの直下...下からです!』

 

【二人とも戦闘体制!】

 

【迎え撃つぞ!】

 

「まったく、落ち着く暇もないな。マスター! 私かナイチンゲールの側から離れるなよ!」




次回、アマゾンが暴れます


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第1節 ART IS CRUEL 2/3

「ふっ、はっ!」

 

エミヤの二刀が地面より現れた異形の怪物を切り裂く。腕を切り裂かれた怪物は呻き声をあげるが、それでも逃げる様子を見せず、それどころかなおも貴方たちに襲い掛かった。

怪物は前衛に立つエミヤや貴方を守るナイチンゲールでなく、確実に貴方に殺意、いや()()を向けて襲いかかってきていた。

しかし怪物の奮闘は虚しく終わる。

 

「戦っている相手の姿も見えていないとはなーーー。ふんっ!」

 

エミヤの渾身の斬撃が怪物の体を袈裟に切り裂くと、遂に怪物は倒れ、断末魔と共に体を錆びさせるように変色させた。

 

「まったく、なんて生命力だ。ただの魔獣やホムンクルスという訳ではなさそうだな」

 

【お疲れ様】

 

戦闘を終えたエミヤを労うため貴方は彼に声をかけた。しかしエミヤはそれに首肯で返答するものの、いまだ警戒を解くことはしなかった。

 

『気を抜くのは早いよマスターくん。さきほどの戦闘音からその怪物の仲間がその場所に集まってきているようだ。すぐにでも場所の移動をおすすめするよ』

 

「だろうな。こちらからも多くの気配を感じる。マシュ、包囲の甘い部分を教えてくれ。一点突破する!」

 

『はい! すぐに生命反応を検知します!』

 

新たな危機が迫っていることを知り、周囲の警戒体制がさらに引き締まる雰囲気を貴方は感じる。と、そこで貴方はさきほど襲ってきた怪物の方を見ると、ふと違和感を感じた。

 

「私は引き続きマスターの護衛を行います。しっかりとついてきてください...どうしました、マスター?」

 

ナイチンゲールが貴方に話しかけるが、貴方の様子に気づいた彼女は貴方へと質問を投げ掛けた。

 

【怪物がジーパン履いてるから】

 

【変だなって】

 

「何を馬鹿なことを言って...確かに履いてますね。いえ、それどころではありません。すぐに移動しますので、走る準備をお願いします。でなければ無理にでも担がせていただきますよ」

 

【ごめんなさい!】

 

【さぁ急ごう!】

 

ナイチンゲールに急かされた貴方はすぐに気持ちを切り替え逃げる準備を整えた。彼女を怒らせると怖いのは、第5特異点でのことで貴方は理解していた。

 

『東の方角で逃走ルートを作りました! エミヤさん、道中の敵をお願いします!』

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「なんとか逃げ切ったか。しかしどの怪物もマスターに向かって血眼で襲いかかってくるとは。マスターからしたら肝を冷やしたことだろう」

 

【少し怖かったけど】

 

【二人がいたから無問題】

 

公園から抜け出し、貴方たちは市街地の古い家屋の中に隠れた。エミヤの言ったとおり、道中では多くの怪物達がサーヴァントに構わず貴方にむかい襲いかかってきたので、護衛のナイチンゲールの負担は大きかっただろうと貴方は思う。

 

「それこそ問題ありません。むしろターゲットがマスターに絞られていたおかげで、怪物たちの動きも単調になり対処が楽であったと感じています」

 

「ふむ、では今後はマスターを囮にして戦闘を行ってみるか」

 

【それだけはやめて!】

 

【マスターとして戦うの当然(ガクブル)】

 

「冗談だとも。真に受けるな。さてダ・ヴィンチ、そろそろ聞かせてもらえるか。あの怪物の正体を」

 

危機から脱出した貴方たちは冗談を交えた会話ができる程度には心の余裕を取り戻していた。大分和らいだ雰囲気のなか、しかしエミヤは本題に移り、立体映像に映るダ・ヴィンチへと話しかける。

 

『うん、正体ね。分からないんだ』

 

「何、分からないだと...」

 

『あぁ、分からない。先ほど君も言ったとおりあんな形状の魔獣やホムンクルスは存在しない。合成獣や死徒の可能性もあるが、あんなに増殖してその世界の魔術協会や聖堂教会が見逃しているわけがない。そしてなによりも...』

 

【なによりも?】

 

ダ・ヴィンチの思わせぶりな言葉の引き方にあなたは聞き返すと、ダ・ヴィンチとは別の立体映像からマシュの姿が出てきた。

 

『それは実際にモニターしていた私から報告します。先輩たちが交戦したあの怪物たちですが、こちらからの反応では魔術による作用は一切なく、その存在は人間や動物と同じような熱源反応のみでした』

 

【あの怪物が...】

 

【ただの動物だっていうこと?】

 

『そういうことさ。不思議だろう? 普通の生物ならば敵うはずもないサーヴァント相手に、取っ組み合いすらできるようなあの怪物たちは、実は君と同じように自然界により生まれた生物なのだということさ』

 

貴方達を襲った異形の怪物が、まさか神秘の欠片も含まない存在であることに貴方は驚きつつも、貴方は新しい疑問を思い浮かんだ。

 

【今回の特異点の原因って】

 

【あの怪物たちのこと?】

 

『おそらくはそうだろうね。君たちを追っていたのは十数体程度だったが、その世界の日本にはさきほどの怪物がごまんと存在するだろうね』

 

【日本?】

 

【場所が限定されているの?】

 

貴方の問いに答えてくれたダ・ヴィンチだったが、その言葉のなかの一言に貴方は新たな疑問を抱いた。その言葉に答えてくれたのは貴方のとなりにいたエミヤであった。

 

「シバの観測結果を思い出してみろ。あれでは血まみれになった部分は日本地区だけだ。おそらくやつらに国外に出るまでの飛行、航行能力がないか、もしくは他国が日本の惨状を知り封鎖を行っているかのどちらかだろう」

 

エミヤの言葉を聞き貴方はあぁ、と納得する。あの怪物たちはこの日本に現在閉じ込められているということになるのだろう。

 

「この状況ならば、生存者の存在にはあまり期待は持てないようですね...」

 

ナイチンゲールは眉を少し下げながら、しかし淡々と状況を確認する。彼女の生前の立場を知っている貴方は彼女の心境を慮るが、きっとこれを本人に言えば叱られるため、貴方は口に出さずに心にしまった。

 

『さて、あの怪物の正体は後々考えるとして、先ほどと状況は変わったがやることは変わらない。とりあえず霊脈を探し、召喚サークルを確立させよう。そんな場所ではおちおち作戦会議も出来ないだろう』

 

「そうだな。出来れば紅茶を落ち着いて飲める空間を持ちたいが、そちらの方では既に霊脈を見つけているか?」

 

『はい、そちらからさらに東の方角の採石場で霊脈の流れを感知しました。今マップを送ります』

 

マシュから送られたマップを貴方も覗き場所を確認する。そこは拓けた採石場であり、身を潜めにくそうなところであったが、同じくマップを見るエミヤとナイチンゲールは気にしていないようだった。

 

「拓いた場所だが、崖や凹凸地帯も多い。アーチャーである私にとっては独壇場になる良い場所だ」

 

「はい、周りに遮蔽物になる樹木や家屋もありません。高台をとれれば、こちらからは守りやすく監視もしやすい良い立地です」

 

【それじゃここを目指そう】

 

【レッツゴー!】

 

新たな目的を見つけ、貴方は気合いを入れるために音頭を取る。あいにくこの場にはノリのよいサーヴァントはおらず続く言葉はなかったが、知った上での行動だったため貴方は特に気にしなかった。

 

「さて霊脈に向かうにあたってだが、例の怪物たちはこの周辺ではどのように群がっている?」

 

『はい、所感ですが群がるというより所々に点在しているという感じです。いくつかで複数の生命反応を感知していますが、そのルートを避けて向かえば、安全性は確保できるかと』

 

「...こちらを探し回っているということか」

 

『彼らが人間を食う食欲の怪物であるのならば、協調性等はないと考えられるけどね。十分な警戒体制で臨んでくれ』

 

ダヴィンチのその言葉を区切りに、貴方たちは今いる家屋を撤収する準備を行った。エミヤが外の安全を確認すると、貴方とナイチンゲールはそれに続き家屋の出口に向かう。

 

だがその時、貴方は天井が軋む物音を耳にし、足を止めた。

 

【何だろう?】

 

【ネズミ?】

 

足を止めた貴方は音のする方へ顔をあげる。よく見ると軋む音と共に塵が天井より落ちてきた。貴方の前にいたナイチンゲールはマスターである貴方の様子に気づき、その視線を同じく見る。

 

「っ!! マスター!!」

 

「■■■■■■ーーーっ!!!」

 

異変に気づいたナイチンゲールが貴方に声をかけたその時、家屋の天井から貴方に向かい怪物が大口を開けて飛び出して来たのだったーーー。




次回、伝説のあの男登場


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第1節 ART IS CRUEL 3/3

撃鉄の落ちる音が、家屋のなかで響いた。

 

その直後、貴方に向かって襲いかかってきた怪物は事切れたかのごとく、いや実際に死んだのだろう、その大口で貴方に喰らいかかることなく、貴方の側に倒れ伏せた。

 

「無事ですか、マスター」

 

【大丈夫】

 

【ありがとう、ナイチンゲール】

 

貴方の安否を確認するナイチンゲールの手にはアンティーク調のピストルが握られており、さきほどの発砲音の正体はこれであろうと貴方はすぐに気づいた。見ると怪物の背後に、頭と心臓に向けて撃たれた弾痕があることが分かる。

発砲音は一発だけだったのになぜ2ヶ所に弾痕があるかということは、サーヴァントは基本なんでもできるということから貴方は突っ込まないでおいた。

 

『先輩! 大丈夫ですか!』

 

立体映像からマシュが顔をだし、声をあげる。貴方はマシュに対し頷いて返答しその怪物を見る。

 

『よかった...急にそちらで先輩たち以外の生命反応を感知したので心配しましたが、まさか家屋のなかに既に潜んでいたとは...』

 

『おそらくは気配遮断の真似事だろう。生命反応のみに感知する存在ならば、究極的に言えば生命反応をなくせば感知できなくなるからね』

 

【そんなこと、いったいどうやって】

 

同じく立体映像に映ったダ・ヴィンチの言葉に貴方は疑問を浮かべる。すると横でナイチンゲールがしゃがみこみ、怪物の屍体を覗きこんだ。

 

「発砲した際に感じましたが、着弾した時の血の飛沫量があまりにも少ないです。おそらく故意に血圧を低下させ、自身の発熱、呼吸量、心音を抑えて感知から逃れるようにしたのでしょう」

 

『まさか...! 自身の体を自らで適応させたということですか!』

 

『そういった芸当のできる自然生物は確かに存在するが。この怪物たちは確かな知能と巧妙な体構造を得ているようだね』

 

ナイチンゲールの考察にマシュは驚き、ダ・ヴィンチは補足を付け足す。この怪物は人間を越える適応能力を有しているようであった。

そこに、玄関を見張っていたエミヤが近づいてきた。

 

「まずいぞマスター、周囲のやつらがこちらに気づき始めた」

 

エミヤから貴方は報告を受ける。おそらくさきほどの発砲音に引き寄せられているのだろう。貴方は少し考えたあと、前を向き二人のサーヴァントに指示を出した。

 

【エミヤの魔術で】

 

【道路を爆発できる?】

 

貴方の問いにエミヤは合点がいったという風に顔を見せ、頷く。

 

「あぁ可能だ。爆煙に巻き込まれるなよ」

 

【よし!】

 

【このまま突っ切るぞ!】

 

貴方が号令をだし、先ほどと同じようにエミヤが先鋒で駆け抜ける。急な襲撃により貴方たちは驚いたが、伊達に世界を一度救ってはいない。すぐに体制を建て直し、貴方たちは家屋を出て怪物たちの群れに強襲した。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

町の真ん中にて、刃物の風切り音、銃の発砲音、そして怪物の金切り声が一斉に響く。

 

「くっ、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で先手は取ったが、先程より数が多いな」

 

「泣き言を言っている暇はありません。これらの狙いは変わらずマスターです。全力でこの場を突破しなければすべてが終わりです」

 

家屋から飛び出したエミヤが集まってきた怪物の群れの中心に投影魔術による攻撃をしたことにより、貴方たちは怪物たちに混乱を与えることに成功した。

その後、群れを突っ切りながら採石場を目指す貴方たちだったが、進む先に新たな怪物たちが現れ、倒しても切りのない状況へと陥っていた。

 

『この動き...その怪物たち、統率がとれているみたいだね』

 

「そうですね。歪ですが包囲の仕方が整っています。おそらく指揮を執っている存在がいるのでしょう」

 

【じゃあそいつさえ倒せれば!】

 

【どこにいるんだ...!】

 

ダ・ヴィンチとナイチンゲールの言葉に貴方は統率の中心である怪物の指揮官を探す。しかし、見渡しても同じ姿の怪物たちしかおらず、指揮官らしき怪物は存在しなかった。

 

「指揮を執っているやつは隠れているだろうさ。群れの長とはそういうものだ」

 

エミヤは鼻を鳴らしながら皮肉を言いつつ、同時に投影した弓から追尾する矢を放ち、一矢で複数の怪物たちを串刺しにした。

それにより一瞬道が開けるが、すぐに新たな怪物が行く手を塞いでしまう。

 

「ちっ、キリがない...マスター、偽螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)を使う! 離れていろ!」

 

エミヤの言葉を聞いた貴方は、すぐにエミヤの近くから離れナイチンゲールの側についた。ナイチンゲールも銃床で怪物の頭を殴りながら、エミヤの|偽螺旋剣Ⅱの余波から逃げるため、マスターを担ぎ、距離をとった。

 

「憐れな命よ、土へ還るがいい!」

 

手向けの言葉を残し、エミヤはその手に投影された矢を放った。螺旋状に変容したその矢は真一文字の軌道を描き、その軌道に存在するものだけでなく、周囲にいる怪物たちも風圧に巻き込みながらその威力を見せつけた。

 

「今のうちだ! 進むぞ!」

 

エミヤの声を待たず、貴方を担いだナイチンゲールは開いた道を一目散に駆け出した。エミヤもそれに続きながら後ろから追いかけてくる怪物たちを牽制していく。

しかし、ナイチンゲールは数分走った後、急に足を止めた。

 

「ダメですね。読まれていたようです」

 

貴方が前を向くと、そこには先程よりも明らかに多い、百を優に越すような怪物たちが犇めき合っていた。

 

『怪物の数、なおも増大中...っ!』

 

『どうやら、とんでもない蟻の巣に入ってしまったようだね』

 

見れば背後からの追手も先程より増えていると貴方は気づいた。

まさしく万事休すいう言葉が似合う展開であろう。

 

貴方は冷や汗を流しながら考え、同時に右手に彫られた令呪を見る。

貴方にはこの場を突破する方法は一つ存在した。しかしそれはこの場にいないこの群れの指揮者、あるいはこの特異点の原因に、貴方の手を曝してしまう行動でもあった。

貴方は迷いながら、しかしやるしかないと決意し、その右手をエミヤへと向けた。

エミヤは仕方ないという顔をしながらも、その体に魔力を纏わせる。

 

【令呪を以てーーー】

 

「■■■■■ーーー!!」

 

貴方が詠唱をしようとしたその瞬間、突然怪物の呻き声が後方の群れの中から聞こえてきた。

動揺した貴方は詠唱を途中でやめて、そちらの方向を見る。

後方の群れでは混乱が起こっているようであり、その奥では血飛沫が飛び交っているのが貴方からでも見えた。そしてその血飛沫がこちらに近づいていき、ついに貴方たちの前に、混乱の原因が姿を現した。

 

【あれは一体...】

 

貴方たちの目の前に現れたその存在は、一目で人外の存在ということがわかるものの、周りにいる怪物たちとは一線を画すような異物感を放っていた。

その体は鮮血を被ったかのように全身が赤く染め上げられ、また、触れてしまうだけで切れてしまうような刺々しいフォルムを目立たせている。

そしてそのなかでももっとも目立つのは腰に巻いてあるベルトであった。貴方はそのベルトからとんでもない力を感じたのだった。

 

「......」

 

言葉を発しない突然の乱入者に、エミヤとナイチンゲールも警戒を高める。

その瞬間、一体の怪物がその乱入者の背後に向かって襲いかかる。

しかし乱入者は背後からの襲撃に対し、まったくもって気にも留めず、ベルトのグリップに手をかけると、勢いよくそれを回した。

 

[VIOLENT SLASH]

 

乱調な機械音が流れたその瞬間、乱入者の腕に生えたヒレのようなアーマーが、長く切れ味を増して、成長した。

乱入者は襲いかかってきた怪物を最小限の動きで避けると、その首もとに成長したヒレを当て、そして

 

怪物の首を力強く切り裂いた。

 

胴体のなくなった首は収まる場所をなくし、貴方たちの足元へと転がってくる。

一連の流れを流れるようにやってみせたその乱入者は、貴方の方へにゆっくりと振り返り、そして言葉を放った。

 

 

 

「お前は誰だ?」

 

 

 




次回、特に考えてない。


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第2節 BACK GROUND 1/2

サポート編成制限

エミヤ

ナイチンゲール

???


「お前は誰だ?」

 

小さく、低く、しかし枯れるような声に出されたその一言は、まるで反響するかのごとくその場を制圧した。

声に出した当人は視線を貴方に向けて、少しでも変な動きを見せれば殺す、とでも言うかのごとき殺意と警戒を表していた。

 

周りの怪物たちは、さきほどの狂気を潜めるかのように突如現れた乱入者に恐れ、怯え腰になっている。

そんな膠着状態の中、貴方は横にいるエミヤが弓を構え、赤い乱入者に向けて矢尻を向けているのが視界に入った。

 

【エミヤ!待って!】

 

【だめだ!】

 

貴方はエミヤに制止の声を出すが、それよりも早くエミヤの構えた矢は放たれた。

 

赤い乱入者の背後の怪物を射抜いて。

 

【あれ?】

 

貴方が予想した事態とは違う結果が起こり、貴方は戸惑っていると、当事者であるエミヤは何でもないように赤い乱入者へと声をかけ始めた。

 

「さて、そちらの問いに答えるのは簡単だが、この場では少し収まらぬぐらいにはこちらも複雑な事情を持っていてな。お前が誰かは知らんが、少なくともこいつらの味方でないのならば、同じく異形の者に襲われているもの同士、手を組み窮地を脱することも可能であると思われるが。お前はどう見る?」

 

エミヤは顔に笑みを浮かべさせながら、有り体に言うと協力関係の申し出を謎の乱入者に言い渡した。

エミヤの突飛な行動に貴方は驚くが、しかし悪くない提案だとも考える。あの赤い乱入者は自らと同じ、異形の怪物を手に掛け、殺した。それは少なくとも、この場においてあの乱入者は自分たちの敵であるこの怪物たちの敵であるという証左であった。ならばこの場で共闘関係を結べる可能性があると貴方は考えた。

そして、問いかけられたその赤い乱入者は、エミヤの方に向けていた顔をもう一度貴方に向けると、小さくため息をつき、返答した。

 

「...いいだろう。少なくとも()()()()じゃなさそうだ。お前らに手を貸してやる」

 

→【ホントに!】

 

【(アマゾン...?)】

 

乱入者の答えに貴方は喜色満面の表情を浮かべる。近くではエミヤは変わらず笑みを顔に貼り付けたままの状態にあり、ナイチンゲールはそんなエミヤを見ながら呆れたようにため息をついた。

 

『いいぞ、事情の分かりそうな意思のある生物とコンタクトが取れた。マスターくん、できるだけ彼のサポートに徹してくれ。好印象が残るようにね!』

 

音声だけで流れてくるダ・ヴィンチの言葉に、貴方はそんな無茶なと思いながら、乱入者へのサポートもできるように気を配らせる心構えを持つ。

 

「そら、怯え上がってた()()()()たちもようやく正気に戻ったようだ...あん? この場合は狂気に戻ったか? まぁどっちでもいいか。結局みんな殺すんだからなぁ」

 

乱入者の言う通り、さきほどから彼の登場により二の足を踏んでいた貴方の周りの怪物たちが、また貴方を視界に捉え、喉から響く呻き声を上げていた。

乱入者の言葉のところどころに貴方は疑問を持ち始めたが、今はそれどころではないと気を改めて、貴方は2人のサーヴァントに指示を与えた。

 

【あの赤い人に合わせて!】

 

→【赤々同盟の結成だ!】

 

「こんな時ぐらい真面目にできんのか、マスター!」

 

 

 

―――――

 

 

 

「あらかた片付いたか...大半はヤツの殺気に当てられ逃げ出したが...」

 

残った最後の怪物を切り伏せ、エミヤがやっとまともに一息をつく姿を貴方は視認した。

 

先ほどの戦闘で貴方は強い衝撃を受けた。つい前の戦闘までは、たとえ何度斬られても、銃弾を叩き込まれても、あの怪物たちは死に至るまでは決して逃げ出していなかった。それに加え数も多かったため、だからこそ貴方たちはあの怪物に苦戦を強いられていたというのに、先の戦闘ではあの赤い乱入者の凄まじい殺気と目も当てられない殺戮により、明らかに怪物たちの能力や動きが鈍っていたと貴方は感じた。さらには群れの半数が乱入者に怯え、逃げ出しているというのだ。

貴方は驚きとともに、あの乱入者が味方に加わってくれなければ、この窮地は脱せられなかっただろうと、強い感謝の念を抱いた。

 

「確かに。彼の助太刀のおかげで最小限の力でこの窮地を抜け出せられました。しかしMr.エミヤ。ずいぶんと危ない橋を渡りましたね」

 

貴方が乱入者の方に目を向けていると、ふとナイチンゲールからエミヤに向かって掛かる声が聞こえた。

 

【危ない橋って?】

 

ナイチンゲールの言葉に疑問を感じた貴方はその言葉の意味を聞き返した。するとナイチンゲールは呆れたように腕を組みながら貴方に返答する。当のエミヤは、バツが悪そうに貴方から顔を背けていた。

 

「先ほどの問答です。いくらマスターから()()()()()()()()()とはいえ、あのような殺気に満ちたものに矢を向けるなど、危険にもほどがあります。協力関係が上手く結べたからいいものを、下手をすればMr.エミヤが真っ先に彼に狙われていましたよ」

 

【えっ? エミヤもしかして】

 

【庇ってくれてたの?】

 

ナイチンゲールからの意外な真相に、貴方はエミヤの顔を覗き込もうとする。しかしエミヤはそっぽを向き、なおも貴方から顔を背き続けた。

 

「さらにMr.エミヤは彼から協力関係の同意をもらった時、とても安堵していたようでした。まったく、怖がるようでしたら最初からしなければよろしいものを...」

 

「そこまでにしておけよナイチンゲール! あと私は怖がってなどいない! 同盟を結べて安心しただけだ!」

 

ナイチンゲールの追求によりついに顔をナイチンゲールの方に向けたエミヤは、その褐色の強い肌でも分かるぐらい赤い顔をして、彼女の言葉を否定した。

 

「えぇ分かっていますとも。だから貴方は、素直にマスターから感謝を受け取るべきなのです」

 

【エミヤ】

 

【ありがとうね】

 

ナイチンゲールの言葉に合わせ、貴方は顔を向けたエミヤへ心からの感謝の言葉を送った。

 

エミヤはぐっ、と言葉を詰まらせると、何も言わずまた貴方から顔を背ける。

その姿を見て、貴方とナイチンゲールは小さく笑みを浮かべるのだった。

 

『さてさて、窮地を抜けだしての談笑も分かるが、そろそろ本題に入ろう。マスターくん、赤い彼にコンタクトを取ってくれるかな?』

 

【そうだった!】

 

【忘れてた!】

 

ダ・ヴィンチに急かされて貴方は赤い乱入者に足を向かわせる。もちろん2人のサーヴァントは貴方に付き、もしもの際に備えるようにしていた。

 

【あのー】

 

【助けていただきありがとうございました】

 

貴方は恐る恐る、赤い存在へと話しかける。当の彼は怪物を殺し尽くした後から項垂れ、こちらの方に意識を向けていなかったが、貴方に声をかけられたことにより、ようやくその顔をあげた。

 

「あん? あぁ...そういやお前たちもいたな...」

 

どうやら赤い彼は戦闘に夢中になり、こちらの存在自体を忘れていたようだ。カルデアでもそのようなサーヴァントがいることを貴方は知っていたため、苦笑しながら貴方は手を差し出した。

 

「っ! マスター、それは...」

 

暗に危険であると言いたいのだろうエミヤを押さえ、貴方はなお赤い彼へと握手を求めた。

 

「.........」

 

貴方のその手をじっと眺めていた赤い彼だったが、少しすると金属のように輝き、凶器のごとく禍禍しいその手を、貴方の手に重ねることなく自らのベルトのグリップに添えてゆっくりと回した。

さきほどの状況を見ていたエミヤとナイチンゲールは、自身のヒレを成長させたその行動に咄嗟にマスターの前へと出る。しかし、貴方たちの目の前で起きたのは、先ほどの現象とは違い、赤い彼のアーマーがボロボロとこぼれ落ちる様子であった。

 

「礼はいらねぇ。利害が一致したから結果的に協力しただけだからな。それよりも、お前らは何者だ?」

 

アーマーの中から出てきたのは、人間の姿であった。

ボロボロに引き裂かれた服装、整えられていない髪の毛や無精髭など、その様相は普通の人間とは比べようにないほど悲惨なものであったが、しかし、先ほどまでの怪物に対して、彼の姿は確かに人そのものであった。

 

【変身した!?】

 

 

突然の変化に貴方は目を見開いていると、貴方のそばで立体映像が開き、かのダ・ヴィンチが映し出された。

 

『やぁ、初めまして、赤い異形の人。いや他に名前があることは理解しているつもりだが今はこの呼び方で勘弁してくれ。我々はカルデアという組織のものだ。この世界には来てまもなく、あまりにも持っている情報が少ない。出来ればもろもろ教えてくれると助かるのだが』

 

ダ・ヴィンチ貴方に代わり彼にこちらの事情を説明してくれた。貴方は気を落ち着かせると、ダ・ヴィンチの言うことに相づちをつき、彼の方に視線を向けた。

 

「立体映像...また不思議なもんを。現代の科学のそれじゃねぇな。なるほどこれが魔術ってやつか」

 

『えっと、魔術の存在を認知しているのですか?』

 

彼の口から出た魔術ということ単語に反応し、マシュが疑問を投げる。

 

「知らねぇよ。ただ頭のなかに、色んなもんを詰め込まれたっていう感覚はある。...まぁいいや、付いてきな。ここじゃ落ち着かねぇし拠点に案内してやる」

 

そう言うと彼は腰に巻いていたベルトを外し肩に掛けて歩き始めた。

貴方たちは色々と尋ねたい衝動に駆られたが、今は彼に付いていこうと決めて、その後を追った。

 

【あの】

 

それでも貴方は、後ろ姿の彼に一つだけ聞いておきたいことがあった。

 

【名前、何て言うんですか?】

 

「...そういや名乗ってなかったな。俺の名は鷹山仁。いやアマゾンアルファの方が正しいか。好きな方で呼べ。そんで、あんたらのお察しの通り、俺はあの怪物たちの、同類だ」

 

鷹山仁はそう名乗ったあと、貴方たちの方へ振り向き、綺麗な笑顔を見せたのだったーーー。




誤字報告ありがとうございます。
次回、ぐだたちへの説明回


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第2節 BACK GROUND 2/2

今回のシナリオでバトルはございません。


「面倒なことになったな」

 

ビルの一室。暗い室内でやせ細った男が虚空を眺めながらつぶやく。

 

()()()()とカルデアの連中はなるべく接触させたくなかったが、しかしまぁ計画の障害になるにはまだ勢力として弱い。構うだけ杞憂だろう」

 

男はそう言うと虚空から目を離し、同じ室内の隅に立っていた異形の怪物、()()()()へと声をかけた。

 

「彼らの扱いは君に任せる。煮るなり焼くなり食うなり好きにしたまえ。もとより、君たちはそういうことを好む存在だろう」

 

男が皮肉をこめて微笑を浮かべながら言うと、そのアマゾンは彼を殺気をこめて睨んだ。しかし男は何でもないように、また虚空へと視線を向けたのだった―――。

 

 

 

―――――

 

 

 

「よう、狭いところだがゆっくりしていってくれ」

 

【おじゃましまーす】

 

【古き懐かしき木造アパート!】

 

貴方たちを案内した鷹山仁と名乗ったその男は、古ぼけたアパートの一室の中に入ると貴方たちを部屋の奥へと誘導した。アパートの内装は外見から予想できる通りの狭さと古さがあり、家具やゴミが散乱していたが、しかし先ほどまでいた場所と違い、血や肉片がまったく存在しなかったため、貴方は少し心を落ち着かせることが出来た。

しかし鷹山を含め、4人が入るには狭すぎる間取りであったため、仕方なくエミヤが外で霊体化し見張り番をすることになった。

 

「そんで、まずお前らの事情から聞かせろ。俺の話はその後だ。」

 

鷹山はちゃぶ台の前の座布団を一つ掴み取ると乱暴に投げその上に座り込んだ。貴方もそれに倣い、座布団を取って座る。ナイチンゲールは座布団の風習を知らないからか、近くの椅子を引くと貴方のすぐ後ろに陣取り、何が起きてもすぐに対応できる状態を整えていた。

 

『それについては私から説明しよう。私達は人の歴史を守る魔術機関カルデアのものだ。簡単に言えば未来から来た未来人とか、平行世界からやってきた異世界人ということになるのかな。ちなみに私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。知らぬものはいない、稀代の天才芸術家本人さ。』

 

「へぇ。で、そのなんちゃらとかいうお前らが一体ここに何のようだ」

 

ダ・ヴィンチのかなり端折った説明に加え唐突な自己紹介に、しかし鷹山仁はツッコミを入れることなく、話の続きを促した。その際ダ・ヴィンチが自分の名に触れられなかったことに少し落ち込んだ表情を見せたことを貴方は見逃さなかった。

 

『何もどうも、この現状についての調査さ。私達は未来の人理を永続させるため、その歴史の中の異物、もしくは人為的な介入を阻止する活動をしている。今現在の日本の現状、これは明らかに正史の歴史とは離れた状況であると思われるが?』

 

ダ・ヴィンチが鷹山に問いかけると、彼は、ふっ、と鼻で笑い、ダ・ヴィンチの質問に答えた。

 

「そのとおりだ。この国は既にあの怪物たち、アマゾンたちが人を食いつくしたせいで、人っ子一人いない化け物たちのテーマーパークになっちまったのさ」

 

鷹山はちゃぶ台に拳を打ち付けると、ギリギリと音が聞こえるほどに拳を握りしめていた。

 

【アマゾン...】

 

【それがあの怪物たちの名前なのか】

 

貴方は鷹山の発した単語の一つを汲み取り質問した。それは貴方にも馴染みのある言葉であり、特にアマゾネスの女王に関してはカルデアの厄介サーヴァントの槍玉に上がるため、貴方はその関連性の確認もしておきたかったのだ。

 

「あぁ。その気性、食欲、身体能力から因んでアマゾンという名前がついた。今思えば皮肉なもんだ。誇り高いアマゾン民族の名の付いた生物が、こんな醜い化け物になっちまうなんてな」

 

鷹山は声に出して笑いながらアマゾンについて語る。もしここにかのアマゾネスの女王がいたらどうなっていたか、貴方は想像に易かった。

その時、ダ・ヴィンチが映っていた立体映像から、同じくマシュが顔を見せた。

 

『あの一つ聞きたいことがあるのですが、お話を聞く限り、鷹山さんとアマゾンにはかなり密接な関係があると思われるのですが。それにさきほどの戦闘で見せたあの姿...あれは人の姿というよりも...』

 

「さっきも言っただろうが。俺はアマゾンアルファ。あいつらと同じ、化け物で、そんであいつらの、産みの親だ」

 

マシュが歯切れを悪く言葉を切ると、鷹山はそれに続くように言葉を繋いだ。衝撃の事実とともに。

 

『アマゾンたちの産みの親...それはどういう意味だい?』

 

看過できない鷹山の発言に、ダ・ヴィンチが詰め掛かる。鷹山は睨むようなダ・ヴィンチの視線を真っ向から受け止めると、自嘲したような笑いをまた上げ、それに答えた。

 

「そのままの意味さ。俺はある製薬会社の研究者だった。その研究の中で俺は人間を超える新たな生物の細胞を発見した。それがアマゾン細胞。やつらはその細胞から生み出された実験動物、アマゾンだ。」

 

【実験動物...】

 

→【鷹山さん、研究者だったのか...】

 

貴方の呟きを気にせず、鷹山はさらに話を続けた。

 

「アマゾンには人間を超えた能力があった。高い成長能力、自己回復、運動神経。その構造はとんでもないもんだった。ただ一点、人間を食う衝動があることを除けば」

 

気づけば誰もが鷹山の話に聞き入っていた。貴方も後ろにいるナイチンゲールさえも鷹山仁が醸し出す迫力に押されていた。

 

「食人衝動のある生物なんてものはこの社会の中で生まれ落ちてはいけないもんだった。だからその研究は慎重に行われたが、しかし考えられない事態が起きた。研究していた実験用のアマゾン、4000体が脱走したって事態がな」

 

「食人動物が社会に出れば混乱は間違いない。実験用のアマゾンには食人抑制用の腕輪が付けられていたが、その効果は長くは保たない」

 

「だから俺はあいつらを生み出した責任を取るために、自分にもアマゾン細胞を入れ込んで、あいつらを殺すと決めた。そのための力がこれってことさ」

 

鷹山はそう言うとちゃぶ台の上にさきほど使っていたベルトを置いた。貴方はさきほどと同じようにそのベルトからとんでもない力を感じた。

 

『うん、やはりそうか。鷹山仁。君は、人間じゃないな』

 

「あ? だからさっきからそう言ってんじゃねぇか」

 

『違う。そういう意味ではない』

 

ダ・ヴィンチの問いかけに、鷹山は何度も言わせるなと言いたげに煩わしそうに答えるが、ダ・ヴィンチは食い気味に言葉の意味を訂正した。

 

『君はアマゾン細胞が注入された人間ならざるものである、それは理解した。だがそれとは違う疑問があったんだ。マスターくん、さっきも言ったが、今まで襲いかかってきたアマゾンには魔力反応は存在していなかった。だから同じアマゾンである鷹山仁も魔力反応がないはずだが、しかしそこの彼にはまぎれもなく魔力の残滓がある。そしてなによりも、今彼が出したそのベルト、それは高出力の魔力で出来た...宝具だ』

 

その言葉を聞き貴方はもう一度そのベルトを覗く。すると貴方は先ほどまで感じていたそのベルトの力が、これまで貴方が会ってきたサーヴァントたちの宝具の力と似ていることに気づいた。

かくいう鷹山の方は、やれやれと頭を掻きむしると観念したように口を開いた。

 

「まったく、魔術師っていうのは本当のようだな。まさかそんなことまで分かるとは。そのとおり、俺はこの世界の()()()じゃない」

 

そこで言葉を区切り鷹山は立ち上がると、キッチンの冷蔵庫から生卵を取り出した。鷹山は卵の殻を割り、なかの黄身と白身をそのまま口に放り込むと、存分に咀嚼し、飲み込み、ようやくこちらへと振り返り言葉を放った。

 

「俺はサーヴァントってやつだ。...いや違うな。言い換えよう。俺はこの地獄を掃除するために呼ばれた、世界の奴隷ってやつだよ」

 

鷹山の言葉に貴方は掛ける言葉を失ってしまった。

 




次回、共闘。

※前回投稿した内容の中で敵アマゾンが逃げ出したという描写に関しまして補足説明させていただきますと、鷹山仁の持つスキルの中にアマゾン特攻の精神干渉スキルがあったため、対抗できなかったアマゾンたちが逃げ出したという設定になっております。


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第3節 CURSE OF BIRTH 1/3

『鷹山さんが...守護者...!?』

 

鷹山仁が放った衝撃の事実に、立体映像の奥でマシュが驚く姿を見せているのを貴方は視界に入れた。

しかし、貴方自身も少なからず衝撃を受けていた。今回特異点に連れてきた2人のサーヴァントのうち一人も、彼と同じ守護者であったからだ。

 

『なるほど。しかし分からないな。守護者というのは君も言った通り、授かる力と引き換えに世界の奴隷となること。死後の安寧を捨て、ただひたすらに人の歴史の妨げとなる存在を始末する掃除屋を引き受けることだ。そんなデメリットを背負ってまで君は何を望んだんだい?』

 

ダ・ヴィンチが守護者について語り、それを以て鷹山に尋ねる。そこまでしてこの男が何をしたかったのかを。

 

「...この姿になってから俺はな、ろくなことしてこなかった。守りたいもん見捨てて、関係ないやつ巻き込んで、愛したやつらをこの手で殺していった。そんなことなんで続けたと思う? 全部俺のせいだからだよ。もとはといえばあいつら産み出しちまった俺が原因だからだよ。だからよ、何失おうが、命尽きるまでは精一杯やろうって決めてたんだよ」

 

鷹山は口を開くと自身の感情を吐露させながら、しかし幽鬼のようなうごきをしながら貴方に近づいてきた。貴方の後ろにいるナイチンゲールは咄嗟に貴方の前に出ようとするが、貴方は手でナイチンゲールの行動を制した。

鷹山はなおも話続ける。

 

「そんで、アマゾンたち殺してるうちにやっと俺も死ぬことができたさ。ただいまって言うことも出来た。嬉しかったさ!...だがすぐに未練が残った」

 

鷹山が座布団に座る貴方の前に立った。

 

「俺が死んだあとも、アマゾンたちは生き残っていた。そいつらが社会のなかで、また人間を食うかもしれない。そう思ったらおちおち死んでられもしねぇって考えちまった」

 

鷹山が座る貴方の視線に合うようにしゃがみこむ。

 

「だから世界と契約してやった。もともと死後の安寧なんて偉そうなもん俺が持てるわけがねぇからな。そんなもんに興味はなかったさ...おい、ダ・ヴィンチとかって奴。何を望んだとか聞いたな。教えてやる。アマゾンを殺させろ。俺が世界に言ってやったのはそれだけだ」

 

そして話をそこで区切らせた鷹山は、おもむろに貴方の胸ぐらを掴むと、無理矢理立たせ壁に打ち付けた。

 

『...っ! 先輩!』

 

「てめぇはどうだ? この有り様を見ただろう。人間として、どうしたい? どうするべきだと思う? アマゾンたちはどうならなければならないと思う? おい、なぁ!?」

 

【ぐっ!】

 

【そ、れは...】

 

鷹山は貴方に問いかけ、詰め寄り、大声をかける。その迫力に対して、貴方は言葉に詰まってしまう。

貴方はわからなかった。鷹山から話を聞き、先ほどまで自分たちを狙ってくる正体不明の化け物だと思っていたあれらは、確かに人間の敵である生命体であることを貴方は理解していた。しかしこの鷹山のこの迫力により、アマゾンという存在はそれだけではない()()があると、貴方は感じてしまい言葉を引き出せなかった。

その時、鷹山のこめかみに何かを当てられた音が聞こえた。

 

「そこまでです、鷹山仁。それ以上の暴挙は見逃せません。すぐにマスターから離れなければ、私はためらいなく引き金を引きますよ」

 

鷹山のこめかみに当てられていたのはナイチンゲールが所持するピストルの銃口であり、ナイチンゲールもまたいつでも銃弾を発射できるように引き金に指をかけていた。

鷹山は一瞬の沈黙のあと、貴方から手を離し貴方の側から離れた。

抑えこまれていた胸ぐらが解放され、貴方はへたりこんでしまう。そばにはすぐにナイチンゲールが来てくれて、貴方の脈拍などを測ってくれた。

 

『先輩! 大丈夫ですか!』

 

貴方を慕う後輩も、貴方の状態を見て心配したのか大きな声で呼び掛けた。

 

「悪いな、興奮するとすぐこうなっちまう性分でな。こっちでも抑え込めないから、次なんかあったら遠慮なく殴りかかってくれていいぞ」

 

「言われずとも、次はありません。同じようなことが起きれば今度は警告なしにその脳幹を抉ります」

 

鷹山は一応の謝辞を述べるが、ナイチンゲールはその怒気を潜めようともせず、鷹山に次はないと言い渡す。鷹山もその答えに満足したのか、笑顔でナイチンゲールに返答を示した。

 

『ふむ、鷹山仁。君、狂っているね。精神汚染の類のスキルを持っているようだ。なるべくこちらも言動に気を付けるとしよう』

 

「あぁ、それがいいだろうな」

 

鷹山は素っ気なく答えると自分のもとの位置に戻り座布団の上に腰を落とした。

 

『さて、君とアマゾンの関係、そしてアマゾンの誕生の経緯については理解した。だがまだこの特異点の謎については解決していない』

 

『はい。さきほどの話から、脱走したアマゾンによりこの事態が起きたとは思えません。もっと別の、何かの要因が存在すると考えられます』

 

話を整理し、ダ・ヴィンチとマシュが論点を絞り始めた。

 

「あぁ。たかが4000体のアマゾンごときで墜ちるほどこの国は甘くねぇ。何より、この世界の俺がそいつらに遅れをとるわけねぇからな。間違いなく裏を引いてる誰かはいるだろうよ」

 

鷹山も二人の意見を補強するように意見を言う。どうやらこの事態を引き起こした黒幕が存在していることを貴方は理解した。

 

『...鷹山仁。これは憶測だが、もしや外にいるアマゾンたちの多くは...』

 

【ダ・ヴィンチちゃん?】

 

【どうかしたの?】

 

ダ・ヴィンチがらしくなく真剣な面持ちで鷹山に話しかけたため、貴方は気になりダ・ヴィンチに声を掛ける。しかしダ・ヴィンチは貴方の顔を見ると、言葉を発しようとしていた口を紡ぎ、なんでもないかのようにいつもの笑顔に戻った。

 

『...いや、まだ憶測で判断するには早いかもしれない。もう少し確証を得てから話すよ』

 

【ダ・ヴィンチちゃんがホームズみたいなこと言い出した】

 

『失礼な! あんな人の感情を持たない冷血漢といっしょにしないでくれたまえ!』

 

貴方とダ・ヴィンチが話すその頃、その違う場所で稀代の名探偵がくしゃみをする姿が目撃されたらしい。

 

『では、鷹山さん。私達はこの異変を止めるためやってきたものであるということは信じてもらえたでしょうか』

 

話を戻し、マシュが鷹山へと伺う。

 

「あぁ。魔術師っていうもんっていうことは信じてやるよ、それ以外に関しては知らねぇけどな。仮にお前らに裏があったとしても、この状況で人間ごときが何ができるんだって話だ」

 

鷹山は貴方たちのことをすべて信用したということではないようだが、ここにいる上では敵対関係ではないということは認めてくれたらしい。

 

『では! いっしょにこの特異点を調査することも...!』

 

「あ? なんで俺がそんなことしなくちゃなんねぇんだ」

 

マシュの期待のこもった提案は、しかし虚しくも鷹山により一蹴された。

 

「お前らは特異点とやらを修復する、俺はアマゾンを皆殺しにする。これはお互いの目的同士がぶつかり合わないだけで、協力し合う理由にはなんねえよ。俺は俺の好きにアマゾンを殺させてもらう。お前らはお前らの好きにこの特異点とやらを調査するといいさ」

 

鷹山はそれだけ言うと、またベルトを肩に担ぎ、部屋の外へと向かった。

 

【鷹山さん!】

 

【待って!】

 

貴方は彼を追い、その後姿に声をかけた。貴方は別にその後に続く言葉も、彼を説得しようとする魂胆も持ち合わせていなかった。ただ、その後姿があまりにも切なく、煤けているように見えたため、貴方は放っておけなくなったのだ。

そして貴方が立ち上がったその時、すぐ近くの誰もいない場所から、人の姿が浮かび上がってきた。それはサーヴァントが霊体化を解くときに表れる現象であることを貴方は知っており、予想通り、そこから現れたのは外で霊体化していたはずのエミヤであった。

 

「お取り込み中失礼するマスター。周りの怪物たちがこちらに寄って来ている。おそらく君の存在がバレたのだろう。すぐにここを引き払うぞ」

 

【まずい!】

 

【鷹山さんが外に!】

 

エミヤの報告を聞き、貴方は鷹山の後を追い部屋の外に出る。そこには、アパートの階段から、地上に群がるアマゾンたちを見下ろす、鷹山仁の姿があった。

 

「まったくよ。俺がいくら待っても寄り付かねぇくせに、人間の臭いがすればこんな簡単に集まるなんて、相変わらず単純なやつらだよな、お前ら」

 

鷹山は慈しむような、しかしそれでいて哀しんでいるような声をだし、アマゾンたちへと話しかける。

 

「まぁそんなところも本当は可愛いんだけどな。だけど世界はお前らの存在を許さない」

 

鷹山は担いだベルトを腰に巻くと、そのグリップを掴む。

 

「だから、俺が送ってやる。それが、俺の責任だからな...」

 

そして鷹山は、おもむろにグリップを回し、言葉を一つ呟く。

 

 

 

変身(アマゾン)

 

 

 

[Alpha Blood and Wild! W-W-W-Wild!!]

 

 

 

機械音とともに、鷹山の周りに凄まじい熱風が吹き荒れる。それをもろに食らった貴方は耐えきれず顔を手で守りながら、その隙間から鷹山の姿を見た。

その姿は貴方が最初に見たように赤く、禍々しく、触れるものすべてを殺し尽くすかのような雰囲気を流すフォルムであり、同時に貴方は深い業を背負った姿に思えた。

そしてその姿を見た瞬間、貴方は耐えきれなくなり、後ろに控えていた二人のサーヴァントに指示を投げた。

 

【エミヤ、ナイチンゲール!】

 

【鷹山さんの援護をして!】

 

「かしこまりました」

 

「まったく、何を聞いたか知らんが、やぶの蛇をつつきすぎだ!君は!」

 

ナイチンゲールとエミヤはすぐに戦闘準備をとり鷹山の背後からサポートに入った。

 

「今日は、何体だ...!」

 

鷹山の言葉を引き金に殺し合いは始まったーーー。

 




次回、グロ注意

※アマゾンズ劇場版の感想コメントなどを感想欄にて書き込むなどはご遠慮ください。活動報告の方にて筆者なりの劇場版の感想を投げ込んでいるので、そちらの方でお願いします。


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第3節 CURSE OF BIRTH 2/3

グロテスクな描写があります。


「■■■■■ーーー!」

 

貴方の前では怪物...アマゾンとサーヴァントの二人、そしてアマゾンの姿になった鷹山仁が死ぬか殺すかの戦闘を行っていた。

数の上では貴方たちの不利であったが、伊達に彼らもサーヴァントと呼ばれてなく、敵の行動パターンを理解すると前回までの苦戦が嘘だったかのようにエミヤとナイチンゲールはアマゾンたちに対応していた。

エミヤの双剣がアマゾンの両腕を裂き、ナイチンゲールの銃弾がアマゾンの頭を吹っ飛ばす。二人の鮮やかな戦いは、まさしく一騎当千の英霊のごとき手際であった。

しかし、ことアマゾンとの戦闘に限っては鷹山仁、アマゾンアルファはその上をいった。

 

彼の戦いは、もはや戦闘ではなく一方的な殺戮であった。

鷹山の後ろから迫るアマゾンを彼は振り返りもせずに腹に肘打ちを決めその胴体をえぐり取ると、次に横からその首を狙い飛びかかってきたアマゾンの攻撃を片足を軸に回り込むことで避け、着地際のがら空きの背後から抜き手を差し込み心臓を貫いた。そしてそのアマゾンの屍体を蹴ってどかすと、今度は二体のアマゾンが挟撃するように同時に鷹山へと襲いかかってくるが、鷹山は気にせずベルトのグリップを回す。

 

[VIOLENT SLASH]

 

乱調な機械音が鳴ると鷹山、アマゾンアルファの腕のヒレが肥大化し、途端に瞬間で生き物を殺す凶器と化す。彼はそのヒレを突き出し、挟撃してくるアマゾンに合わせて弧を描くように体を回すと、それだけでアマゾンたちの首が吹き飛んだ。

 

貴方はアマゾンアルファの圧倒的な戦いを見ながら、しかし心は落ち着かずにいた。

彼の戦いは正義感からや戦いの快感を求めてなどの、今までのサーヴァントが持つ信念というものがなかった。彼が持っているものは信念が変質したもっとおぞましい、執念に至っていた。貴方は、彼はアマゾンを皆殺しにするというその目的のため、それ以外のすべてをかなぐり捨てた存在なのだと、改めて認識したのだった。

 

「これで、終わりだな...」

 

戦闘は結局、貴方たちの優勢のままことを終えた。最後のアマゾンの首を跳ね、鷹山仁は小さく呟く。エミヤとナイチンゲールの方も戦闘体制を解き、武器を収めていた。

 

『このような事態のなかでも、君はまだその責任を背負い、一人で戦っていくつもりなのかい?』

 

ダ・ヴィンチが戦闘が終えた鷹山へと声をかける。

 

「俺はアマゾンを殺し続けるだけだ。特異点の調査なんてどうでもいい。お互い好きなことしてた方が楽だろ?」

 

鷹山はアマゾンの姿を解除しながら、ダヴィンチの質問に答える。なおもその決意は揺るがないようだった。

 

『分かった。ならばもう引き止めはしない。君は、君の道を行くとするがいい』

 

ダ・ヴィンチはそれだけ言い放ち、話を終わらせた。鷹山の方ももはや言うことはないようで、アマゾンたちの屍体を乗り越え、血に染まった町の方へ歩いていく。

 

【鷹山さん!】

 

貴方は歩き続ける鷹山の後ろ姿へと声をかけるが、その先の言葉が続かない。人間には重すぎる責任を背負う彼に、自分のような人間が何も言えるはずがない。でも何かを伝えたいと貴方は思った。だから貴方は脈絡もなく、ただ一つ、彼にお願いをしたのだ。

 

【死なないで、ください】

 

返答の言葉はない。さらには貴方の言葉が彼に届いたかすら定かでない。

鷹山仁はただ、ひたすらに歩き続けた。その先が地獄であるとも気づかずに。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「なるほど。鷹山仁という男は守護者であったか。どおりで人でなしの面構えをしていると思ったが、合点がいったよ」

 

場所は血に染まった住宅街の中。貴方たちは鷹山仁と別れたあと霊脈の地点を目指すため鷹山が歩いていった先と違う道を歩いていった。

道中に貴方は部屋のなかで話した内容をエミヤへと伝える。エミヤは貴方から話を聞くと顎に手を当て何度か頷くが、その表情はまったく変わっていなかった。

 

【気にならないの?】

 

【守護者同士って仲悪い?】

 

同じ守護者同士で何か通ずるものがあると考えていた貴方は、エミヤの塩対応に若干の疑問を感じた。だがエミヤは、貴方の問いに対して小さくため息をつく。

 

「どうもこうも、守護者なんてものは各々で抱えている業や考え方などまったく違うものだ。そもそもが自らの器に過ぎる力を求めて世界に顎で使われる愚者にしか過ぎないやつらに気にかけるなど、時間の無駄どころか時間をどぶに捨てているようなものだと思うがね」

 

『おやおや、自虐もそこまでいくと自己へと侮蔑だね。そんなに自分のことを悪く言えるなんて、私には到底理解できないよ』

 

エミヤの言葉に自己愛の激しすぎる天才芸術家のサーヴァントが茶々をいれる。

 

「芸術を極めて英霊にまで昇華した君たちには天地がひっくり返っても分からないことだろうさ。人生なんてものは自分の進む道を取捨選択しながら生きていくなかで、どこかしらの妥協点を見極めるものだ。しかし守護者になるような連中、は才を持たないうえで己が道を突き進むため、世界に力をねだった身の程知らずにすぎない。だからこそ、その罪深き業には地獄が相応しいのだろう...」

 

エミヤは一瞬、表情に小さい陰りを見せたが、しかしすぐにいつもの冷静な顔に戻ると話を戻した。

 

「しかしあの鷹山という男はその中でも異常だ。守護者という檻に閉じこめられながらも、なおもアマゾンという存在に執着するとは、それほどまでに深い宿命を奴は背負っているのだろう」

 

エミヤはそれだけ言うと口を閉じる。おそらくはそれ以上は深入りしないという意思表示なのだろうと貴方は思い、それ以上の会話の続行を諦めた。

しかしそれでも貴方は鷹山仁について考え続けた。すると次にナイチンゲールから貴方に声がかかる。

 

「部屋にいたときから疑問だったのですが、なぜマスターは鷹山仁という男をそこまで気にかけるのですか?」

 

ナイチンゲールのその質問にエミヤも気になるようで、話には入ってこないが、その視線は貴方に向けられていた。貴方は答えに少し考えこむが、すぐに顔をあげて返答する。

 

【なんだか放っておけない】

 

【鷹山さん、泣いていたから】

 

貴方の答えを聞くと、二人は呆れた表情を見せるが、しかしすぐに口元に笑みを浮かべた。

 

「まったく、マスターらしいな」

 

「えぇ。だからこそ私たちが見張っててなければならないのですが」

 

二人の会話を貴方は理解できずポカンとしていると、君はそのままでいい、と言われ話を強制的に終わらされたため、貴方はいじけ気味に道中を歩いていった。

 

 

 

しばらく歩いていると、風景が住宅街から郊外の僻地へと変わっていく。相変わらず血の風景はそのままだったが、臓物がそこら辺に転がっていることは少なくなった。すると突然、立体映像が浮かびマシュの姿が映る。

 

『先輩、そのまま進んだ先の建物に、微弱ですが生命反応があります』

 

【アマゾン?】

 

【待ち伏せてるのかな?】

 

その報告を聞き、貴方は真っ先にアマゾンの存在を思い浮かべるが、映像の奥のマシュは首を振った。

 

『いえ、アマゾンにしては生命反応が小さすぎます。偽装している可能性もありますが、この波長はおそらく人間のものです』

 

マシュの言葉を聞き、貴方は驚きの表情を見せる。

 

【人間...!?】

 

【生きていたの!?】

 

貴方の驚きは当然のものだった。

この阿鼻叫喚の地獄絵図という例えが適切すぎる街のなかで生きている人間が存在するというその事実はあまりにも衝撃なものなのだった。

しかし、そこでダ・ヴィンチがマシュに代わり貴方に提言した。

 

『だが罠の可能性もある。ここは慎重に...』

 

【すぐに向かおう!】

 

【助けに行かないと!】

 

『だろうね! 今建物の構図を調べてそちらに送るから無茶な突撃だけは避けてくれよ!』

 

ダ・ヴィンチの提案を知らぬ存ぜぬと言うかのごとく貴方は救出を優先すると、ダ・ヴィンチは分かってたかのごとく、というか貴方の取る行動が分かっていたので、すぐに建物の場所と入口の分かるマップを貴方に送ってくれた。

貴方たちはその建物を目指し、すぐに走り出した。

 

少し走ると、貴方たちの目にそれらしい平屋の建物が見えてきた。おそらく以前は市民会館などに使われていたのであろうその建物は、他の建物と同じようにその壁は赤く血塗られていた。

 

【早く中に向かおう!】

 

貴方は急くが、その肩をエミヤが抑える。

 

「待ちたまえマスター。焦っては助けられる命も失うぞ。さきほど送られてきたマップに裏口があっただろう。そこから入るぞ」

 

エミヤの提案に貴方は頷き建物の裏へと回り込む。

そこでダ・ヴィンチから音声が送られる。

 

『裏口にはアマゾンはいないようだから大丈夫だよ。あっ、さっきみたいに潜伏してるとかの心配はしないでいいよ。センサーを改良して感度よくしたから、どんなに心拍数下げてもこちらで観測できるから』

 

貴方はダ・ヴィンチに小さく礼を述べると、裏口のドアをそっと開けた。中の様子を見ようとするが、薄暗く奥までの様子は見えなかった。

中へはエミヤが先行して入り、そのあとで貴方とナイチンゲールが共に入る。貴方たちは周りを特に警戒しながら奥へと忍んで進んでいった。

すると、他と比べて血で汚れていない部屋を貴方は見つけ、ひとまずそこでカルデアと連絡を取ろうと貴方とナイチンゲールが中に入り、エミヤが外で見張りを行った。

 

中にはいるとそこは社長や議員が使うような豪華な部屋だった。部屋の奥には大きな机や椅子があり、その前には応接用のソファーと机がある。

貴方は少し気分を落ち着かせると、カルデアに連絡を取るべく端末を出す。するとその横でナイチンゲールが部屋の隅のショーケースを睨むように見つめているのに貴方は気づいた。

 

【ナイチンゲール?】

 

【どうしたの?】

 

貴方が話しかけるも、ナイチンゲールは視線をその位置から外さず貴方に忠告する。

 

「マスターは見ない方がよろしいかと。どうしてもというなら止めませんが、おそらくトラウマとして記憶に残るものですので」

 

ナイチンゲールは視線の先のものを貴方に見せないように貴方の顔をアイアンクローで押さえ込んだ。ギリギリと聞こえるほど強く押さえ込まれ貴方は顔にすごく痛みを感じるが、それよりもナイチンゲールが見たものについての好奇心が勝り、目の部分のナイチンゲールの指をなんとかどかし、その先のものを覗きこんだ。

しかしその後、その行為はあまりにも愚かなことだったと貴方は思い返すこととなる。

 

 

貴方の視線の先に写ったショーケースの中には、小さな人間の頭がいくつも並んでいたのだ。

 

 

【えっ?】

 

 

貴方は思わず言葉を漏らす。

ナイチンゲールの方は見てしまいましたかと、貴方の顔から手をどかすとショーケースの方へ近づく。貴方は放心しながらも、その足はナイチンゲールに付いていきショーケースへと歩いていった。

貴方はショーケースに近づいていくと、それが本当に人の頭であることを認知していった。

 

【なに、これ?】

 

貴方は誰にでもなく問うた。

貴方が胴体のない頭を見るのはこれが初めてではない。今までの特異点のなかでも、人体の胴体と頭が離れる瞬間を見ることはいくつかあり、ラフムのようなものによる人間の虐殺される現場も、遺憾ながら貴方は見たことを貴方は覚えていた。。だからこそ、この特異点の風景もなんとか耐えることはできていたのだ。

しかし、それでも貴方は目の間にある光景を受け入れられなかった。今貴方の目の前にある顔は、貴方が今まで見たものと比べて明らかに小さかった。だから貴方は目の前にある光景を事実として受け入れたくなかったのだ。

 

「...はい。まちがいなく人間の頭です。この未成熟な顔つきからして、赤ん坊でしょう」

 

ナイチンゲールは貴方の問いに淡々と答えた。貴方の前にある人間の頭が、赤ん坊のものであると。

 

 

 

「ダメじゃあないカ。そのヘヤにはいっちゃア」

 

 

 

部屋の外で声が聞こえた瞬間、ドアと共に赤い外套の人影、エミヤが部屋の中へと吹っ飛んできた。

空中のエミヤはあわや地面に激突するかと思われたが、その直前に体を翻してなんとか膝をつく形で着地し、部屋の外へと視線を向けた。

突然の出来事に貴方は驚き、その発生源のドアのあったところを見ると、そこには恰幅のよい、それでいて鼻と耳が大きく発達し、牙の生えた怪物、ゾウのアマゾンの姿があった。さらにその後ろには同じように大きな鼻のついたアマゾンがゾウのアマゾンの後ろに付いている。

ゾウのアマゾンは部屋のなかの様子を見渡すと、貴方の姿を見つけ、その口を笑みを浮かべるように歪めた。

 

「ヒサビサにイキのいいヒトがきたネ。とりあえずキミ、シンサツしようカ」

 

眼の前のアマゾンが人語を喋ったことに貴方はもはや幾度目か分からない衝撃を受けた。

 

【喋ってる!?】

 

【これは、もしかしてあいつが...!】

 

貴方が考える間もなく、ゾウアマゾンは貴方のもとへと襲いかかってきたのだった―――。




次回、人間牧場


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第3節 CURSE OF BIRTH 3/3

今回もグロテスクな描写があります。


血塗れの平屋、その一室にて貴方はアマゾンに襲われようとしていた。

 

「■■■■■ーーー!!」

 

言葉にもならない雄叫びをあげたゾウアマゾンは貴方に腕を伸ばし、その脳味噌を啜ろうと襲いかかる。しかしその手が貴方を掴むことはなかった。

貴方とゾウアマゾンの間にナイチンゲールが立ち塞がり、ゾウアマゾンの伸ばした腕を掴みとっていたからだ。

ナイチンゲールはそのまま腕を引くと、体を一回転させゾウアマゾンを壁へと叩きつける。壁にひびが入るほど強く打ち付けられたゾウアマゾンはたまらず低い呻き声を出した。

貴方は安堵しながらも、さすが筋力B、と心のなかでポツリと呟く。

しかし戦闘はまだ火蓋を切ったにすぎなかった。ゾウアマゾンの後ろに付いていたゾウムシアマゾンたちもまた貴方に迫ってきていたのだ。

狭い室内で多数の相手と乱戦すれば貴方を巻き込みかねないと考えたナイチンゲールは、貴方とともに一時撤退を決めた。

逃がさないと言うかのごとくゾウムシアマゾンたちは追い縋るが、その瞬間先頭にいた何体かの頭が吹き飛ぶ。

突然のことにアマゾンたちは驚くと、その背後から声が聞こえた。

 

「こっちだ」

 

声がした方にゾウムシアマゾンが振り向くと、またも何体かの首が吹き飛ぶ。

いったい何が起きたか分からぬまま頭が吹き飛んだアマゾンたちが最後に見たもの、それは白黒の双剣を持った赤い外套の褐色男であった。

 

部屋の外まで貴方を避難させるため、貴方とナイチンゲールはさっきまでドアがあった入口まで移動すると、ナイチンゲールがなにかに気づき貴方の襟元を掴み、貴方を後ろへと引っ張った。

急なことに貴方は潰れた蛙のような声を出す。いったい何事かと思ったその時、貴方が先程までいた場所にダンプカーのごとくゾウアマゾンが突進してきたのだった。

 

「せっかくキたんダ。ゆっくりしたまエ」

 

ゾウアマゾンは貴方に言葉を投げ、捕食者の目で貴方の体を舐め回すように見つめる。貴方は生理的嫌悪感から背筋に悪寒が走るが、その横では颯爽と行動を起こす赤い軍服の姿があった。ナイチンゲールだ。

ナイチンゲールはいまだに貴方を見つめるゾウアマゾンに向かうと、その頭に鋭い踵落としを差し込む。しかしゾウアマゾンは多少たたらを踏んだ程度でさしてのダメージを感じさせない上、ナイチンゲールの足を掴みとった。

 

「さっきのオカエしだヨ」

 

ゾウアマゾンは足を掴んだまま、先程ナイチンゲールがしたように彼女を壁に叩きつける。さらにそれにとどまらず、続いて地面へと打ち付けた。

 

【ナイチンゲール!!】

 

ナイチンゲールを襲う凶行に、貴方は堪えきれず彼女の名前を叫ぶ。ゾウアマゾンはその様子が愉快なようで声をあげて笑いだした。しかしその油断が彼女に付け入る隙を与えた。

 

「何を笑っているのですか」

 

自分の足元から聞こえる声にゾウアマゾンは驚き、そちらの方を見ると、頭から血を流したナイチンゲールがピストルを構えゾウアマゾンの方へ向けているのを見た。

そしてその瞬間、銃声とともに発射された2発の弾丸がゾウアマゾンの両目を貫く。

 

「■■■■■ーーー!!」

 

両目からの激痛と視界を奪われ、ゾウアマゾンは堪らず絶叫をあげ、目のあったところに手を当てる。だがそれはナイチンゲールの反撃の始まりに過ぎなかった。彼女はゾウアマゾンの手が自分の足から離れると、すぐに体制を立て直しゾウアマゾンに肉薄する。

まずナイチンゲールはゾウアマゾンの大きい片耳へと手を突っ込んだ。ぐじゅぐじゅと音をたてナイチンゲールは耳のなかをかき混ぜるように腕で探っていると、何かを掴みそのまま引っ張り出す。彼女が持つそれは人間でいうところの三半規管に似ており、ゾウアマゾンはまたも悲鳴をあげる。

ナイチンゲールは三半規管らしきそれを投げ捨てると、次にゾウアマゾンの鼻と頭を片方ずつの手で掴みとる。その時点で貴方は何をするか分かり、手で目を覆うが、そんなことお構いなしにナイチンゲールは鼻と頭を掴んでいる手に力をいれて引っ張り、雄々しいその鼻を引きちぎった。

 

彼女、ナイチンゲールには保有スキルとして「人体理解」が備わっていた。そのスキルにより彼女は人型である敵に対して的確な急所を狙った攻撃が可能であったのだ。

 

かくして人体の急所である目、耳、鼻を奪われたゾウアマゾンはもはや叫びとも取れない声をあげ、見えない視界で自分を痛め付ける存在を探し、虚空へと殴りかかるしか残された手はなかった。

ナイチンゲールはそんなゾウアマゾンの背後に立ち、手刀の構えを取り、憐れな怪物に声をかける。

 

「これで終わりです」

 

ナイチンゲールは背中から手刀を差し込み、ゾウアマゾンの心臓を潰し、胸すら貫いた。それにより、ゾウアマゾンはその体を変色させ完全に活動を停止した。

ナイチンゲールはゾウアマゾンが死んだことを確認すると、屍体から腕を引き抜き、服についた体液を拭き取り始めた。

貴方はホッと一息つきエミヤの方を覗くと、そちらはだいぶ前に片がついていたようで、腕を組みながらこちらに近づいてきていた。

 

【ふたりともお疲れ様】

 

→【ナイチンゲール、頭の怪我大丈夫?】

 

「問題ありません。包帯は常に常備しておりますので」

 

ナイチンゲールはそう言うと、バッグから消毒液と包帯を取り出し自分で手当を行う。エミヤが手伝いを申しでるが、彼女は突慳貪に突き返す。エミヤの方もそう返答されることが予想していたため気にせず、貴方のそばへと寄ってきた。

 

「すまないマスター。建物の奥から奇妙な人間の気配を感じ、そちらにつられて敵の存在に失念していた」

 

【気にしなくていいよ】

 

【人間の気配...?】

 

貴方は謝罪を軽く流し、エミヤの感じた人間の気配について尋ねた。

 

「あぁ。確かにマシュが言っていたように、あれは人間の気配であった。だが普通のそれとは違う、今にも崩れ落ちそうな脆い気配であったが」

 

エミヤの言葉に、貴方はショーケースの方を視界に入れて嫌な想像をしてしまった。

と、その時立体映像からダ・ヴィンチの姿が映りだした。

 

『やぁ、マスターくん。突入したらすぐに連絡するように伝えていたがどうしたんだい? おかげでマシュが私の隣でソワソワソワソワして、私はもう抱きつくのを我慢するのに必死だったよ』

 

『ダ、ダ・ヴィンチちゃん! 余計は言わないでください!』

 

どうやら心配してくれたマシュに気を利かせてダ・ヴィンチが連絡をとってくれたようだ。貴方はマシュの姿にホッコリしながら、ダ・ヴィンチに状況を報告する。

 

『なるほど、ショーケースに並べられた赤ン坊の頭に、建物の奥から感じる人間の気配、そして喋るアマゾン...ふむ、仮にそのアマゾンに理知的な考えがあったとして。マスターくん。君は現場に向かうな。ただの人間である君に、これ以上のものは見せられない。あとはすべてサーヴァントに任せるんだ』

 

状況を組み立てたダ・ヴィンチはこの先に待ち構える光景を予測し、貴方に現場への同行を禁止させた。

貴方は息を呑んだ。この先に待つ地獄を貴方は既に想像していたからだ。しかし貴方はここで足を止めてすべてをエミヤとナイチンゲールに任せる気はなかった。貴方は、震える足を叩き、ダ・ヴィンチに返答する。

 

【進むよ】

 

【生きてる人がいるなら助けなきゃ】

 

『...そうかい。なら、君のやりたいようにするといい』

 

貴方の答えを聞いたダ・ヴィンチはそれだけ伝え、マシュにモニターを譲った。マシュも俯いた目をしながら貴方に言葉を渡す。

 

『先輩...先輩の人を助けたいという思いはとても素晴らしく、私はとても尊敬しています。でもこれだけはお願いします。決して無理はしないでください』

 

マシュの言葉に、貴方は胸が刺さるような痛みを感じるも、無理なんかしてないよ、と返した。

その顔は、マシュに心配掛けないように、貴方が無理に作った笑顔であった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

ナイチンゲールが自らの手当を終えると、貴方たちは部屋から出てエミヤが気配を感じた方角へと、建物の中を進んでいった。

途中何体かのアマゾンに貴方たちは出くわしたが、仲間を呼ばれないように俊敏に片付けていったため、苦戦することなく進むことが出来た。

そして貴方たちは人間の気配が色濃く出ている場所、地下の倉庫へとたどり着く。

 

「覚悟はいいか。マスター」

 

エミヤから最終確認が示される。貴方は高鳴る心臓を手で抑え込み、力強く頷くことで返答した。

エミヤは貴方の答えをきくと、地下倉庫のドアを開けた。

 

ドアを開けた瞬間、貴方たちをまず襲ったのは悪臭だった。

 

【っ!】

 

貴方、そして貴方に限らず二人のサーヴァントもあまりの臭いに鼻と口を抑えて顔をしかめさせる。今まで多くの血と臓物が腐った臭いを感じていた貴方たちはしかし、その部屋に蔓延る臭いには耐性がなかったのだ。

 

 

その臭いは汚物の臭いであった。その臭いは体液の臭いであった。その臭いは排泄物の臭いであった。その臭いは人間の臭いであったのだ。

 

 

「やめてくれ...もうダメだ...もう動けない...」

 

 

「あぁ...子供が...私の子供たちが...」

 

 

「嫌だ...死にたくない...誰か助けてくれ...」

 

 

臭いが蔓延する倉庫の奥から人の声を貴方は聞いた。

貴方は助けに行くため倉庫の中へ踏み込む。貴方が倉庫の中を進むたび、貴方は足元で踏んではいけないものを感じたが、見てはいけないと心に決めて、前だけを見て奥へと進んだ。

そして倉庫の奥の光景を見た貴方は唖然とした。

 

そこには確かに人がいた。そう、生きて存在していただけだったのだ。

 

そこには貴方のように服で身を包んだ人間はどこにもいなかった。すべての人間が生まれたままの姿で存在していた。

そしてそこにいた人間たちは男女の数が同数であった。同数の男女が死人のような顔で()()()()()()()()

 

「...やはり、こうなっていたか」

 

貴方の後ろからエミヤが呟く。

さらにすぐ横からナイチンゲールがその人たちに駆け寄り声をかける。

 

「意識はありますね。では私の顔をご覧ください。声は出さなくてよろしいです。ゆっくり、ゆっくりと私の顔を見てください。大丈夫です。私たちは貴方たちに危害を加えません」

 

ナイチンゲールは一人一人に声をかけ、恐怖心と不安感を取り除いていく。看護婦の手際にエミヤは感嘆の意を示すが、貴方にその余裕はなかった。

そして貴方はその人たちの奥に、さらにスペースがあることに気づいた。

貴方はそのスペースに足を進める。恐る恐ると、本当は進みたくないのに、しかし確認しなければならないと己に枷を付けて一歩を歩ませた。

そこはまるで病院の手術室のような場所。明らかに地下倉庫には馴染まない金属の作りの部屋であった。

部屋の隅には腰の深い椅子があり、そしてその中央のテーブルのうえには何かが置いてある。

貴方は近づき、確認すると、それは首のない人間の死体だった。

 

「赤子の遺体か。一人だけではないな」

 

隣ではエミヤが状況を把握している。貴方は目の前の光景が認められなかった。

 

「この血の量、かなりの数がやられている...なるほど、ではあの椅子は分娩用の...」

 

【どうして...】

 

その時、エミヤの言葉にあわせて、ついに貴方は地下に入って初めて言葉を漏らした。

 

【どうしてそんな顔でいられるの?】

 

貴方は、まさしく地獄を見ている目でエミヤに振り替える。なぜこんな残酷なことが為されているのか、生まれてまもない赤ン坊がこんな風に変わり果てているのか。貴方は頭で理解してても、この現状を受け入れきれなかった。

そう、ここは人間の産んだ赤子をアマゾンたちが食べる、人間牧場だったのだ。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「気分は落ち着いたか」

 

地下倉庫から人を救出し、貴方たちは一旦平屋の外へと出た。

アマゾンたちが襲ってくる危険性はあったが、あの惨状の中よりはずっとマシであると考え、外に避難することになった。

地下にいた人たちはその疲弊と助かった脱力感から動けなくなったようで、ナイチンゲールとエミヤにより、一人ずつ外へと運び出され、現在は全員が毛布を被っていた。

しかしその顔は生き延びた幸福を噛みしめる表情などではなく、なおも死人のような顔つきであった。

そんな彼らの顔を貴方は遠巻きから見ながら、背後から声をかけてくる人物、エミヤに振り返った。

 

【大丈夫だよ】

 

【あの人たちのほうが心配だ】

 

「嘘だな」

 

貴方の言葉にエミヤはすぐに嘘と断定した。

貴方は言葉が詰まる。なぜならばそのとおりだったからだ。貴方はまったく大丈夫ではなかった。先ほどの惨状を今にもフラッシュバックし、吐き気を抑えることで手一杯だったのだ。

エミヤはそんな貴方を一瞥し、言葉を続ける。

 

「マスター、言ったはずだ。こんな状況、なんでもないほうがおかしいのだと。強がるな、とは言わない。マスターにとってその虚勢は力だろうからな。我々は君のそんな姿に惹かれ、君に手を貸し、そして君は世界を救ったのだ」

 

なおもエミヤは話し続ける。

 

「だが、自らの役目は見出しておけ。これは明らかに君の領分から外れすぎている。こんな光景は君には似合わない」

 

そう言うとエミヤは踵を返し、救出した人たちのもとへ歩き出す。

最後にエミヤは、貴方に一つ言い残した。

 

「どうしてそんな顔ができるか聞いたな? 簡単な話だとも。私が人でなしだからだ。こんな地獄を何度も眺め、何度も見捨て、何度も作り上げてきたからだ。マスター、君は私のようにはなるなよ」

 

エミヤはそれを最後に貴方のそばから離れた。

 

貴方はエミヤに言われたことを思い出しながら、頭を抱えて座り込む。

 

目に焼き付いた、命だったものが当たり一面に転がる光景を見ながら。




次回、暗躍者。
誤字報告ありがとうございます。たくさんの読者様にご覧になられていることを噛み締めながら、読者様を煩わせないように、校正を自分の手でできるようにこれから頑張る所存でございます。


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第4節 DEAREST DUSTS 1/3

就活が終わったので投稿です。


地下倉庫の人々を救出したその後、貴方たちは平屋の中で一夜を過ごすことになった。

平屋には運良く衣服や保存食料などが手付かずで残っており、貴方たちはそれを持ち出しながら比較的に血で汚れていない一室へと集まった。人々の顔はなおも優れないが、しかし話ができる程度には回復したらしく、貴方は缶詰を差し出しながら話しかけた。

 

【食料があるのでよかったら...】

 

貴方の言葉に人々はぎょっとした顔で貴方の持つ食料を見る。そして何人かがその食料を見た途端、吐き気を催したようで手で口を押さえた。

 

「だ、大丈夫です...それよりも少し寝ていたいので...」

 

一人の男が代表するようにその食料を断った。だが人々の顔はやつれており、もう何日もなにも食べていないことは明白である。

と、そこにエミヤが現れ貴方の側に寄り、小さく耳打ちする。

 

「彼らはおそらくアマゾンたちが人を食べているところを目撃している。一種のPTSDに陥っているのだろう。あまり勧めてやるな」

 

エミヤの言葉に貴方は苦い表情を浮かべながら、食料を引く。そして入れ替わりにエミヤが人々に話をかけた。

 

「さて、回復しきっていないところ申し訳ないが、君たちに何が起きたのか説明してもらえるだろうか。キツいものを思い出させてしまうだろうが、こちらも情報が不足している。なるべく詳細に教えてほしい」

 

エミヤの言葉に貴方と、部屋の隅で未だ震えて怯えている人を看病していたナイチンゲールは眉をひそめる。

この人たちはさきほど救出されたばかりでまだ精神的に回復しきっていない。しかもただの監禁や拉致とは違い彼らは子供を無理矢理作らされて、その子供をアマゾンに食わせていたのだ。その状況下での精神的負担など想像しようにもなかった。

エミヤの心ない言葉に貴方は一言言おうとするが、その時音声のみでダ・ヴィンチが貴方に通信をかけた。

 

『マスターくん、エミヤくんの言うことは非情だが理にかなっている。今の私たちは常に情報が不足している。ここは心を鬼にしてでも情報を引き出すべきだ』

 

ダ・ヴィンチの言葉に貴方は言葉を紡ぐ。確かに今この世界の生存者たちから得られる情報はとても有益だった。なぜアマゾンたちがここまでこの国を侵食したのか、その経緯の一端を得られるかもしれないからだ。貴方は歯痒さを堪えながら、先ほど食料を断った男性に説明を求めた。

 

「あぁ。貴方たちは俺らの命の恩人だ。なんでも答えるよ」

 

貴方の要求に男性は快く応じる。

 

「では聞こう。あの怪物たちはいつから現れた?」

 

エミヤはアマゾンの名前を隠しながら男性に問う。男性は疲弊した体でありながら必死に思いだし答えてくれた。

 

「...日付の感覚が薄れてきているが、俺があの怪物を実際に見たのは一年前ぐらいだ。本当に急だった。いつも通り仕事に行くために外に出たら、人が怪物になったんだからな」

 

【人が怪物に!?】

 

男性が言ったことに貴方は驚く。貴方たちは鷹山以外のアマゾンが人間になっているところを見たことがなかったのだ。

 

「あぁやつらは人に擬態して町に潜んでいたんだ。なのに突然潜むのをやめて人間に牙を向け始めた...俺たちは奇跡的に喰われずに済んだが、その代わりここに連れ込まれてやつらの食べる人間を生む家畜にされちまったんだ...」

 

男性は悔しそうに口を強く噛み締めながら打ち明ける。

貴方は男性の背中を撫で心を落ち着かせながら、その側でエミヤは質問を続ける。

 

「そうか。ではここに来てからはどうだ。喋る怪物がいただろう。奴は何か言っていたか」

 

「そう言われても...俺たちはここで子供を作るように脅されて、なにも知らされないまま言う通りにしただけだったから...子供を孕んだ女は奥に連れていかれて産んだ子供を無理矢理取り上げられていた。食料も休みもまったく与えられず、力尽きた人たちから化け物たちの食料にされて、自分はそうならないために必死だったんだ...」

 

その事態の末路であるあの光景を貴方は思い出し、顔をしかめる。しかしこの人たちを誰が責められようか。誰だって命は惜しい。そのためにどのような手段だろうと選ばざる終えなかったのだ。例えそれが、自分の産んだ子供の命を差し出すことであろうと。

その時、人々の中の女性の一人が突然蹲った。貴方とナイチンゲールがすかさず駆け寄るとその女性がひたすらに何かを呟いていることに気づいた。

 

「私が子供を殺したあの化け物たちに差し出した自分のために未来ある子供を犠牲にした私は私は私は私はわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはワタシハワタシハワタシハ」

 

それは呪怨。一度犯してしまった自分の罪に対して、自覚してしまった彼女が自分にかけた呪いだった。

彼女の呟きにその場の人々は顔を青ざめさせながら女性から目を背ける。しかしそれは狂気に陥った彼女が見苦しかったからではない。彼女と同じように、自分たちも子供を生け贄に捧げてしまったのだという罪悪感を認識してしまったからだった。

ナイチンゲールは蹲りなおも呟き続ける彼女へと無言で寄り添う。

貴方はそんな状況を、血が出てきそうなほど奥歯を噛み締めながら直視する。そして貴方は同時に、こんな悲劇を産み出したアマゾンとその黒幕を必ず倒すと心に決めたのだった。

 

「マスター、少しいいか」

 

貴方が決心を固めると、後ろからエミヤが声をかけてくる。振り返ると親指で部屋の外を指し示していた。何かここの人たちに聞かれたくないことなのだろうと貴方は予測し、素直にエミヤの指示に従い部屋の外へとでた。

 

【どうしたの?】

 

「大したことではない。情報を整理していこうと思っただけだ」

 

エミヤが言うと、直後に貴方の持つ通信端末から立体映像が現れる。そこに映っていたのはダ・ヴィンチだった。

 

『あぁ、ありがとうエミヤくん。あそこの人々の前で映像を流すわけにはいかないからね。マスターくんを部屋の外に誘導するように私から頼んだんだよ』

 

立体映像からダ・ヴィンチの話を聞き、貴方は納得して了承の意味を込めて頷く。するとダ・ヴィンチの横から新たに人の姿が現れる。マシュだ。

 

『先輩、大丈夫ですか? 私は直接見てはいませんが、そちらの方では酷い惨状が広がっていたと聞き入れましたが...』

 

マシュが貴方のやつれた顔を心配そうに覗きこむ。貴方はマシュを安心させようと元気な声をかけようとするが、その瞬間、あの地下室での惨劇、いやそれ以外のこの世界に来てからのすべての光景を思いだし、言葉が詰まってしまったのだ。

 

『先輩?』

 

言葉をつぐんでしまった貴方に、マシュはさらに心配そうに声をかける。貴方は頭を振り、精一杯の笑顔を見せてマシュに答えた。

 

【心配ないよ】

 

【マシュの声を聞いたら元気が出た!】

 

『...そうですか。ですがどうか無理をなさらないようにしてください』

 

貴方は首肯で返答し、マシュとの会話で気を無理矢理紛らわせた。そんな貴方をエミヤとダ・ヴィンチはとても悲しそうな表情で見つめるのだったーーー。

 

 

ーーーーー

 

 

『さて、彼らの情報からアマゾンのことについてかなり得るものがあったね』

 

マシュとの談笑もそこそこに、貴方たちは手にいれた情報の整理に勤めた。

 

『地下室に連れ込まれた人々たちの話からは、アマゾンは人に擬態する、そして一年前に急にアマゾンは擬態することをやめて人々たちを襲い始めたということが分かりました』

 

「付け加えるならば、やつらは一部の人間を連れ去り人間牧場を作っている。この事からやつらの中に家畜のシステムを考えるほどに理知的なものが含まれているということが予測できる」

 

マシュとエミヤが先程の人々の情報から現状を組み立てていく。さらにダ・ヴィンチが話を続ける。

 

『さらに鷹山仁の話からの情報を加えると、実験用のアマゾン4000体の話もあるが...エミヤくん。今まで倒したアマゾンのなかに腕輪を着けていたものはいたかい?』

 

急な質問がダ・ヴィンチからエミヤに飛ばされる。エミヤは考え込むしぐさを数秒とったあと、おもむろに首を横に振った。

 

「いやいなかった。少なくとも私たちを襲ったアマゾンの中に脱走したアマゾンはいない」

 

『ふむ、やはりそうか。ではそうなると君たちを襲ったそのすべてが実験用のアマゾンとは違う存在だ。そしてそうなるともうひとつ疑問が生まれてくる』

 

『それは...』

 

話を聞いていき貴方とマシュもダ・ヴィンチと同じ疑問にたどり着く。

 

【アマゾンはどうやって増えている?】

 

『そう、それだ』

 

貴方の言葉にダ・ヴィンチが正解というかのように同意を示す。だがそこでマシュが別の視点から意見を加える。

 

『し、しかしアマゾンにも生殖能力があるのでは...』

 

マシュの意見に次はエミヤが答えた。

 

「人々の話からアマゾンが現れるようになったのは一年前からだ。鷹山はアマゾンの成長能力は人間のそれとは違うと言っていたが、それでも一年という期間でこれほど爆発的に増殖することは考えられない」

 

『あと魔術による増殖もありえない。前から言っていたけど、君たちを襲ってきたアマゾンたちには一切の魔力はおろか、その残滓も残っていなかったからね』

 

エミヤとダ・ヴィンチが一つずつアマゾン増殖の要素を削っていく。そして残られた可能性について、貴方とマシュは顔を青ざめていった。

 

「そして何よりも...これはマスターがよく分かっていることなのではないか」

 

エミヤの問いかけに貴方は背筋を凍らせる。そう、始めにアマゾンに襲われた時から疑問に思っていたことがあったのだ。しかし幾度かの襲撃から貴方は考えるのをやめていた。それは分からない事象からの逃走ではなかった。むしろ逆で、分かってしまったから目を背けていたのだ。しかし仮説は建てられた。これは貴方自身がこの事実を認識するために答えなければならない問いだったのだ。

 

【襲ってきたアマゾンたちは服を着ていた】

 

貴方は声が震えないように、気丈に振る舞いつつ言葉をひねり出す。

マシュはそんな貴方をただただ心配そうに見ている。

貴方はそんな優しい後輩の姿に心を支えられ、そして次の言葉を口にすることができた。

 

 

【襲ってきたアマゾンたちは、おそらく元人間だ】

 

 

ーーーーー

 

 

「郊外の牧場がひとつやられたらしい」

 

人の気配のないビルの中。一人、いや一体の異形の生物がもう一方の人の姿をした男に声をかける。

 

「あそこは正直実入りの少ない牧場だったけど、それでも仲間がまた人間にやられたんだ。許せないよね」

 

男が答えないうちに異形の生物は話を続ける。男はそれを不満に思わず、ただ異形の生物の話を聞いていた。

 

「情報源があの人間っていうのは腹が立つけど、でもあの万能な力は役に立つから仕方がないか」

 

言葉を切り、異形の生物は男の方に体を向けた。

 

「それじゃあ仲間の仇を討ってきてくれる? 前原くん。いや、アマゾンシグマ」

 

男はなにも言わず、ただ頷くだけだった。




次回、激突

更新遅れてしまい申し訳ございません。


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第4節 DEAREST DUSTS 2/3

エネミーアイコン:?

サポート制限:エミヤ


自分達を襲ってきたアマゾンは元は人間の可能性がある。

 

貴方がそう言うとエミヤとダヴィンチはそうだろうと頷き、マシュの顔は苦い表情に取り付かれた。

 

『人があんな怪物に...そんなのまるでバビロニアのよう...』

 

マシュは以前、7つの特異点を解決する旅のなかで、貴方と共に人が異形の怪物に変化するところを見たことがある。そして同時に、それによりもたらされた悲劇や惨状も目撃していたため、人間が怪物になる悲惨さを理解することができてしまったのだ。

 

『マシュの気持ちの分かるけど、しかし事実マスターくんの仮説がほとんど有力なんだ。元々アマゾンの生態反応は人間のそれととても似ていたからね。しかしアレを人間と呼ぶなんてできないだろう? だから明言は伏せていたけど、しかしあの質量の生物を魔術も使わずに生命を短時間で誕生、成長させるなんて方法は到底考えられない。ならば、人間そのものを触媒としてアマゾンを増やしていったと考えれば辻褄も合う』

 

「実に醜い手法だがな。おおよそ人間が考えて実行できるものでもない。しかしその仮説を建てたとしても、疑問は残る。それならばアマゾンたちはどうやって人間をアマゾンに変えているのかということだ」

 

エミヤの言葉に貴方も首をかしげる。たしかに人間を減らし、アマゾンを増やす。アマゾンの首謀者の目的は貴方は理解できた。しかし要となるその手段に関して貴方たちはなにも思い付くことはなかった。

 

「バビロニアのように、アマゾンたちが自ら人間たちを同族に変化させているのではないでしょうか?」

 

『できなくはないね。ラフムたちのように人間たちの体から新たに生物を増殖することは可能だ。ぶっちゃけた話、人間の素体というものは結構応用が効くからね。やろうと思えば何にでもなれる。ただしそれも魔術や魔力を媒介としていることを前提とすれば、だ』

 

マシュの意見にダ・ヴィンチが丁寧に答えていくが、最終的にはその意見を否定した。詰まるところ、魔力の有無というところがこの問題のネックになっているのかと貴方は理解した。

そこでさらにエミヤが言葉を投げる。

 

「もうひとつ要点になっているのは、アマゾンたちが()()()()()したことだ。この場合1人ずつアマゾンに変えていったというのは考えにくい。なにか要因となるものがあるはずだが...」

 

エミヤはそこで話を区切り、ダ・ヴィンチへと顔を向ける。エミヤと目のあったダ・ヴィンチだが、残念そうに眼を瞑り頭を横に振った。どうやら原因について思い浮かばないらしい。

 

【とにかく】

 

【アマゾンの暴走を止めないと】

 

重くなった雰囲気を払拭させるため、貴方は手を叩き目の前の課題を指し示した。自分を奮起させることも兼ねた貴方のその行動に、その場にいた全員が目を丸くさせるが、少しした後小さな笑みを浮かべたのだった。

 

「ふむ、先ほどの件で気落ちしていると思っていたが、なるほど。それでこそカルデアのマスターか」

 

『はい! いつでも前向きなのが先輩の良いところですから!』

 

エミヤの皮肉にマシュが貴方の代わりに誇らしげに答える。エミヤはその姿にやれやれと首を振り、貴方もそんなマシュの姿に癒されて自然と笑顔になるのだった。

 

『まぁともかく。アマゾンの生態に関してはこちらで引き続き調査しておこう。君たちも慎重に特異点の調査をお願いしたい』

 

話を戻したダ・ヴィンチの言葉に貴方は無言で頷く。人の生存を確認した今、一人でも多くの人を救出するために、早期の特異点解決が必要だと貴方もか考えていたからだ。

 

「さて、そうなればマスター。君も人々と一緒に休め。食事も摂っておくように。いざというときにマスターが指示を出せないようでは不甲斐ないからな。なに心配するな。見張りは私とナイチンゲールが行う。君は明日のための鋭気を高めておくんだ」

 

エミヤの説教じみたお節介に貴方は苦笑いをしながら、忠言どおりに軽く保存食を食したあと人々と一緒に毛布を被り、眠りについた。

 

 

ーーーーー

 

 

時刻は丑三つ時。

 

文明の明かりが消えたこの血みどろの世界では、月明かりのない深夜は闇が深く、また肉の腐敗臭も混じったせいでより恐ろしい雰囲気を作り上げていた。

そのような環境が普通である世界の、ある平屋の一室にて、カルデアのマスターである貴方は眠りについていた意識を覚醒させた。

貴方は自分が眠りから醒めた原因を理解していた。昼間に見ていたあの光景が自身にとって大きいストレスになっており、睡眠を妨げているからだ。今までも多くの残忍な光景を見てきた貴方だったが、人が食べられ、赤子すらも犠牲になり、さらにその頭部がコレクションのように並べられた光景は、あまりにも酷く、惨く貴方の脳裏に刻まれていた。

貴方は手を強く握りしめながら、その光景を自身の戒めとした。もうこんな思いをさせない。黒幕を突き止めこの特異点を解決してみせると、自身に強く言い聞かせた。

 

と、その時、通信用の端末から小さく映像が映る。そこにいたのは貴方の大事な後輩、マシュであった。

 

『先輩、大丈夫ですか? 急に先輩のバイタル値が高まったので失礼ながら通信させていただきましたが...』

 

どうやらマシュは自分を心配して連絡をしてきたようだと貴方は気づく。貴方は小さくお礼を言い、全く問題ないよ、とマシュを安心させるために優しく答えた。

 

『そうですか...先輩はとても強い人ですね』

 

【そんなことない】

 

【強がってるだけかも】

 

貴方はマシュに答えつつ、昼間のエミヤの言葉を思い出す。

 

〖「マスター、言ったはずだ。こんな状況、なんでもないほうがおかしいのだと。強がるな、とは言わない。マスターにとってその虚勢は力だろうからな。我々は君のそんな姿に惹かれ、君に手を貸し、そして君は世界を救ったのだ」

 

「だが、自らの役目は見出しておけ。これは明らかに君の領分から外れすぎている。こんな光景は君には似合わない」

 

「マスター、君は私のようにはなるなよ」〗

 

エミヤが言った自分の役目とは何か、貴方は思い返す。こんな光景は似合わない、と彼は言った。ならば自分がここで為すべきことは何か、貴方は考える。

特異点を修復すること。これは絶対的なことだ。役目というより義務である、と貴方は認識し、除外する。

サーヴァントを使役すること。これもまた違うと貴方は考える。魔力供給だけなら自分がする必要はない。むしろ自分よりも適任の魔術師がほかに存在するだろうと、これも除外する。

 

そこで貴方は気づいた。自分は今まで特異点を解決するために何を為してこれたのか。いつも必死に動いていたためか、自分が特異点を修復するなかで何をしてきたか、貴方は振り返ることをしてこなかったということを。

 

『あの、先輩...いきなりどうしたんですか...?』

 

貴方が唸りながら頭をひねっていると、目の前の映像ではマシュが貴方のいきなりの珍妙な行動に驚く姿が映っていた。そして貴方はピンと閃く。今までの旅の中で最も長く共に行動してきたマシュに尋ねるのがよいのではないかと。考え付いた貴方はすぐにマシュへと質問を投げ込んだ。

 

【俺の役目って何だろう?】

 

【今まで私は何をしてこれたんだろう?】

 

貴方が放った言葉にマシュはしばし驚いた顔を見せると、そのすぐ後に表情を崩し小さく笑い声を出した。

笑うようなことを聞いてしまったか、と貴方は少し恥ずかしさを感じていると、マシュはそんな貴方の感情を機敏に察してフォローを入れる。

 

『す、すみません先輩。いえ決して笑うことではないんでしょうが、おそらくカルデアにいらっしゃる皆さんが同じ質問をされれば、皆さん同じような反応をされると思います』

 

そんな笑うようなことを自分はしてきたのかと貴方はまた羞恥を感じていると、いいえ、とマシュがきっぱりと答える。

 

『先輩はきっと気づかれていないでしょうが、先輩がこれまで行ってきたことはどれも恥ずべきことではなく、多くの人や、サーヴァントの皆さんをも勇気づけることでした。もちろん私も、先輩の姿に勇気をもらって戦い抜くことができたんですよ』

 

マシュの優しい言葉遣いに、貴方は照れくさくなり、そんなことない、と返す。しかしマシュはゆっくりと首を振り貴方の謙遜を否定した。

 

『たしかに先輩は強くないかもしれません。魔術の才能も一介の魔術師よりも劣っているのかもしれません。しかしそれでも、先輩の優しさや勇気はその何百倍も価値があることなんです。私たちはそれを知っているので先輩に力を託せられるんです。

知ってますか先輩? 普通の人は瓦礫に埋もれた人と炎の中お喋りできないんですよ?』

 

優しさや勇気。

 

自分を慕う後輩は、貴方にそれがあると言った。なんてことはない。それ以外出来ることがなかっただけだ。

それを必死に続けていって、途中で挫けそうなこともあったけどへこたれずに、足掻き続けていたらいつか自分が求める光景を掴めるんだと意地を張り続けていただけだ。

 

 

けど、けどもしもその意地が、誰かの光になっていたのだとすれば。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

【...うん】

 

【ありがとう、マシュ】

 

 

貴方は小さく映像に映る、自慢の後輩へと感謝を述べる。

 

『先輩の力になれたのでしたらなによりです!』

 

貴方の謝辞にマシュは本当にうれしそうな笑顔を浮かべる。

そんな可愛い後輩の姿に見惚れていると、貴方はいつの間にか眠気を感じウトウトとしてきた。このまま睡眠に落ちるのは申し訳ないと、貴方はマシュに声をかける。そして意識が落ちる直前、貴方はなんとかマシュの返事を聞くことができたのだった。

 

『おやすみなさい先輩。きっといい夢が見られますように』

 

 

―――――

 

 

時刻は変わり明け方。

 

カルデアのマスターたちが眠る平屋の屋上では、赤い外套を羽織った男、エミヤが見張りとして辺りの警戒を行っていた。さらに屋内の方ではナイチンゲールも周囲に注意を払いつつ、いまだ体調の優れない人の看護にあたっていた。

 

その折、屋上にいたエミヤが先にその状況に気付いた。

 

「アマゾンか...」

 

エミヤが射貫くように見つめる視線の先には大量のアマゾンがこの平屋へと進んでくる光景があった。しかしそのアマゾンの群れの光景は、今までの食料を求めてやってきた散発的なものではなく、明らかにこちらを戦力としてみなし、壊滅させるための群れであることに赤い弓兵はいち早く感づいた。

エミヤはすぐに自身のマスターを念話で叩き起こし、状況を報告する。マスターのほうは最初は寝ぼけて驚いていたが、すぐに事態を把握し、エミヤにそこからの狙撃の指示を出した。

 

「ほう。ようやく弓兵らしい仕事が回ってきたか」

 

エミヤがニヒルに笑う中、平屋の中ではカルデアのマスターが人々を地下へと避難させる。いまだ地下倉庫はあの惨状を片付けられておらず、ナイチンゲールが衛生面から渋ったが、無暗に地上に出すよりも生存率が高いとマスターが妥協させたのだった。

 

弓兵は弓を投影し、直後にまた剣を投影してそれをまた弓の形へと変容させる。

狙うは先頭に立つアマゾン。弓を構えいざ狙いを定めたその時。

 

 

「あんたがカルデアってやつらの仲間か?」

 

 

背後から聞こえた問いに、エミヤは目を見開き、そちらのほうへと目を向ける。

エミヤが屋上から声の聞こえた地上へと見下ろした先にいたのは、スーツを着た年若き青年の姿であった。

 

「貴様、何者だ?」

 

「質問をしているのはこっちだが?」

 

エミヤの額から冷汗が零れ落ちる。彼は驚愕を隠せずにはいられなかった。

この男がまだ、ただの人間やアマゾンであったのならば、なぜこんな場所にいるのかというただの疑問ですんだのかもしれない。

しかしこの男はどちらでもない。なぜならば...

 

「貴様からは()()の気配しかしないぞ」

 

「こっちの話は無視かよ...」

 

眼前にいるこの男からは何も感じられないのだ。人としてあるべき所作や動作、息遣いなど、人があるべき気配がすべて()()()()()()のように存在しない。その異様さにエミヤの警戒は全開を振り切っていた。

 

「まぁいい。俺にはあんたたちを殺せって命令が出ているだけだ。だから俺はそれをこなすだけだ」

 

眼前の男から目を離せないエミヤは、さらに男が取り出したものにまたも驚愕を示す。

そう、それはつい最近同じものを、別の人間が持っていたのを目にしていたからだ。そしてそれは、あの天才画家からの報告にて宝具と見なされたもの。

 

「貴様...何故鷹山と同じベルトを持っている!」

 

エミヤの問いに男は答えず、ただ笑みを浮かべてそのベルトを腰に装着させ、一言呟く。

 

「アマゾン」

 

[SIGMA]

 

直後、男を中心に熱波が辺りに放たれる。しかしエミヤは眼前の男の注意を全く衰えさせない。

やがて晴れた熱波の先には、先ほどの好青年の姿などなく、一匹の怪物のみが存在していた。

 

鷹山仁と同じような顔つきにして、全身が凶器で出来ているかのような刺々しいフォルム。ただ違っていたのは、その体色が、灰色に染まっていることだけだった。

 

エミヤは考えた。この男は間違いなくこの特異点における原因の情報を持ち得ていると。しかしそれより早く、この男はここで始末すべきであると、本能が彼へと語りかけてくる。死人の気配、鷹山が持つベルトと同じ宝具。その要素が目の前の怪物を排除すべきであると断定させるのだった。

 

葛藤するエミヤを前に、怪物は言葉を発する。

 

「俺は、アマゾンシグマ」

 

自らをシグマと名乗るそいつは、さらに右手を上げるとエミヤに見えるように、右手で四本指をたてる。

 

「あんたは4手で詰む」

 

 

その言葉が引き金となった。

 

 

エミヤは平屋の屋上から瞬間移動するかのごとく、シグマへと向かって一気に飛び出していく。そして瞬時に干将莫邪を投影させ、二刀にてシグマの胴体を突き殺した...はずだった。

 

「...終わりか?」

 

「何っ!?」

 

エミヤは確かな手応えを感じていた。人間ならば即死の、サーヴァントならば霊基を崩したはずの一撃だった。しかし目の前のこの怪物は、致命傷の攻撃を受けてなおもこちらに話しかけるだけの余裕を持っていたのだ。

エミヤは危険を察知しすぐに二刀を怪物の胴体から引き抜こうとする。しかしその直前、シグマの左手がエミヤの右手を掴んだのだった。

シグマの反撃が、始まる。

 

「一っ!」

 

まず一撃。エミヤの腕を掴んでいないシグマの右手の正拳が相手の顔を捉える。

 

「ぐっ!?」

 

しかしエミヤも伊達に英霊として召喚されるわけではない。シグマの正拳を見切り、左腕で防御を行う。しかしそれでさえもシグマの勁力が上回りエミヤの左腕から鈍い音が鳴り、エミヤは小さく呻く。

 

「二っ!」

 

二撃目。シグマはエミヤの隙を作り出すと、次に彼の腹に膝蹴りを決める。

両腕を抑えられたエミヤは逃れるすべもなく、その腹でシグマの鋭い膝蹴りをまともに受け、堪えきれず口より血を吹き出す。

 

「三っ!」

 

三撃目。膝蹴りをまともに受け、エミヤの体が一瞬地面より離れる。シグマはその一瞬を見逃さず、浮いたと同時に左手を大きく回しエミヤの体を一回転させ、その勢いのまま地面へと叩きつける。肺から空気が押し出され、エミヤは乾いた声を出す。

 

そして最後の一撃。

 

[VIOLENT SLASH]

 

エミヤを地面に叩きつけたと同時に、シグマがベルトのグリップを回す。乱調な機械音とともに、鷹山の時と同じくシグマの腕のヒレが肥大化する。

そして...

 

「これで詰みだ」

 

シグマの宣言と共に、アームカッターがエミヤの胴体を切り裂いたのだったーーー。




次回、邂逅

シグマのVIOLENT SLASHに関しまして、作中はおろか設定的にも使用できると明言されていませんが、この度はご容赦を…


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第4節 DEAREST DUSTS 3/3

エネミーアイコン:アルターエゴ

サポートサーヴァント

ナイチンゲール

???


多数のアマゾンたちが押し寄せてきている。

 

エミヤからそんな念話を受けた貴方は眠気眼を一気に覚醒させて、いまだ回復しきっていない人々たちを避難させるために動いた。

エミヤへは弓による狙撃で時間を稼ぐように頼み、貴方は人々をどこに避難させるか考える。平屋では戦闘に巻き込まれる恐れもあり、外ではアマゾンたちの格好の餌になる。ならばと貴方は人々を地下室へと誘導した。もちろんあの惨状の元に戻ることを人々、さらにナイチンゲールさえも渋ったが、命に変えられるものはないと貴方は諭し、彼らを納得させてなんとか連れていくことができたのだった。

 

そして現在。屋上からアマゾンたちを迎え撃っているはずのエミヤを援護するために、貴方とナイチンゲールは屋外へと走った。その時貴方ははじめて、エミヤと念話で連絡がとれないことに気づいた。

 

「交戦中の可能性もあります。ひとまず状況を確認しましょう」

 

ナイチンゲールの言葉に貴方は頷く。しかし、貴方はとても大きな焦りを感じていた。急いでエミヤのもとへと向かわなくてはいけない、そのような焦燥感があったのだ。

そして貴方たちが平屋の外へと出た時、その懸念は当たっていたことに気づいたのだった。

 

外に出た貴方たちの目に、一匹の怪物、アマゾンに胴体を切り裂かれているエミヤの姿が映っていたのだ。

 

【エミヤっ!!】

 

信じられない光景を前に、貴方は叫ぶことを抑えられなかった。皮肉屋な部分もあるが、いつも人の心配をしている根の優しい彼がうちひしがれた姿に貴方は、感情を抑えることが出来なかったのだ。

しかしその叫びに答えたのは赤い外套を着た彼ではなかった。

 

「ーーーあんたか。カルデアのマスターって奴は」

 

エミヤの体を切り裂いた下手人、鷹山が変身したアマゾンアルファの姿に酷似しているそのアマゾンは、エミヤの胴体から腕の刃を引き抜くと、静かに貴方に尋ねた。

 

【エミヤから離れろ!】

 

【そこをどけ!】

 

しかし貴方はアマゾンの問いに構わずに怒声を放つ。アマゾンは貴方の様子に呆れたように首を振り、小さくため息をはいた。

 

「無駄だ。こいつは既に詰んだ。もう助からなーーー」

 

「ほう、誰が詰んだと?」

 

何っ、とアマゾンーーーシグマが言い終える前にその腹に鋭い蹴りが放たれる。完全に不意を突かれたシグマはその蹴りをまともに受け、後方へと吹っ飛ばされた。

しかしシグマはすぐに空中で体制を立て直し、片膝で着地し、自分を蹴り飛ばした赤い弓兵を見やる。

 

「何故だ。お前は完全に詰んだはず」

 

「英霊を甘く見るなよ下郎。なまじ地獄を見てきたわけではない」

 

シグマが見つめる先には自らが切り裂いた腹の傷を負い、全身がボロボロになりながらも立ち上がる弓兵の姿があった。しかしその腹の傷は、シグマが想定した手応えよりも幾分か小さいものであったのだ。

 

【エミヤ!!】

 

【無事でよかった!】

 

貴方もまた、エミヤの立ち上がる姿を見て涙目になりながら喜びを示す。

そんな貴方の姿を横目に見て、エミヤは腹の傷を押さえながら自嘲ぎみに小さく笑いをこぼす。

 

「ふっ、なんだそれは嫌みか。どう見ても無事ではなかろう。辛うじて致命傷を避けられただけなのだからな」

 

エミヤがあの窮地から生き延びることが出来た理由。それは彼の持つスキル、心眼(真)のおかげであった。修行、鍛練により培ったその洞察力により、彼はシグマの猛攻の最中、瞬時に生存するための最適解の行動をとり、ダメージを最小限に抑えたのだ。そのため、シグマの最後の攻撃を浅く抑えることができたのだった。

しかしそれでも受けた傷は深く、エミヤが押さえる腹からは今もなお血が流れ続けていた。

 

「患部を見せてください。すぐに処置します」

 

あなたとナイチンゲールはエミヤの近くへと寄る。その際、腹から血をながし続けるエミヤの姿を見てナイチンゲールが応急処置を促した。しかしエミヤはナイチンゲールの行動を手で遮った。

 

「そんなことは後でいい。それよりも今は自分をシグマと呼んだ、あのアマゾンの対処が先だ」

 

【シグマ...?】

 

【あの姿、鷹山さんのようだ...】

 

エミヤの言葉に、貴方は今度こそシグマの姿を冷静に眺める。体色は違えどその姿や形、なによりも腰に巻いているベルトから、貴方は真っ先に鷹山仁の存在を思い出した。

同じベルトをした人物が二人いるという事実に、貴方はこれが大きな手がかりになると踏み、警戒を高めた。

しかしそんな深刻な雰囲気のなか、その空気を壊すものがいた。ナイチンゲールだ。

 

「患部を見せなさいと言っているのです! 処置を後回しにすれば傷口から雑菌が混ざり化膿する恐れもあります! すぐに洗浄、殺菌を!」

 

「ええい、サーヴァントが化膿などするものか! こんなときまで狂化属性を持ち出すのはやめろと言っているだろうに!」

 

エミヤの傷をどうしても見逃せないナイチンゲールは、手に持つ水と消毒液をかぶせようと無理矢理エミヤの腹にしがみつこうとしていた。そんな彼女を、エミヤは頭を掴むことで止めさせようと力を入れる。

筋力ステータスの差からどっちが優勢かは丸わかりであったが、貴方はそんな二人を見てあーもうめちゃくちゃだよと頭をかくしかなかった。

 

『三人とも、コントなんかしている場合じゃないぞ! あのアマゾンは魔力を含んでいる! 紛れもないサーヴァントだ!』

 

崩れた空気の中カルデアから通信が入り、珍しくかなり真剣な顔のダ・ヴィンチの姿が映る。さらにその口から驚くべき事実も告げられたのだった。

 

【アマゾンのサーヴァント!?】

 

【サーヴァントのアマゾン!?】

 

ダ・ヴィンチの発言に貴方は驚きを隠せなかった。なぜならば貴方は、鷹山仁という存在を除いて、これまで魔力のないアマゾンとしか相対してこなかったからだ。

 

「それだけではない。奴はサーヴァントにもあるはずの生者の気配が存在していない。死んでいるはずだが生きている矛盾を持った存在だ」

 

知っているのかエミヤ!、と貴方は振り返ると、そこにいたのはいつものクールな彼ではなく、ナイチンゲールにより消毒液をふんだんにぶっかけられ、腹を包帯でぐるぐる巻きにされた少し残念なエミヤの姿があった。

その横ではナイチンゲールがやり遂げた雰囲気を醸し出しながら救急用具を片付けていた。カオスだった。

 

 

『え、エミヤさんの言う通りです! 今までのアマゾンとはまるで逆で、魔力反応は検知されていますが、生体反応がまったく反応されないです!』

 

マシュがエミヤをフォローするようにシグマの生体反応について貴方に報告する。さらに続いてダ・ヴィンチ回線を挟んできた。

 

『例えるなら魔力で作られたゾンビというところだ。ともかく今まで戦ってきたアマゾンとは一線を画す存在というのは確かだ。気を付けて相手をーーー』

 

と、ダ・ヴィンチが言い終える瞬間。

警告も、前動作も、風切り音もなく、シグマが貴方たちへと腕の刃を向けて切り込んできたのだった。

人間では決して出せないスピードで跳んでくるシグマに貴方は対応できずにいると、襟をナイチンゲールに捕まれて、シグマの攻撃を避けるように横へと引っ張られ貴方は何とかシグマの脅威を脱した。

 

「唐突に仕掛けてくるとは、まったく卑劣なのか合理的なのか」

 

「狩りの場で呑気に喋ってるお前らが悪い」

 

エミヤの煽りにシグマは感情がないような雰囲気を持ちながら答える。貴方が見た喋るアマゾン、ゾウアマゾンを思い出す。下卑た物言いだったがあのアマゾンにも確かに感情は存在していた。しかしそれと比べてシグマからはなにも感じなかった。本当に死人のようだったのだ。

 

貴方は次にエミヤの方を見る。

ナイチンゲールと同じ方向に跳んだエミヤは、シグマに話しかける余裕を見せながらも、しかしその片手は切り裂かれた腹に当てられており、先ほどナイチンゲールが巻いた包帯からは血が滲み出ていた。まだ戦闘に参加できるほど回復しきれていないのは明白だ。

 

「Mr.エミヤ。マスターの護衛をお願いします。その怪我では足手まといです」

 

「辛辣だなナイチンゲール。しかしまことに遺憾ながら事実だ。こいつは任せるぞ」

 

エミヤはそう言うと、ナイチンゲールから貴方を譲り受け後方へと下がる。

その様子を見ながらシグマはなおも感情がない口調で言葉を放った。

 

「いいのか? 俺にかまけていれば大量のアマゾンたちが生き残った人々を食らいに行くぞ」

 

その言葉に貴方はハッと今の状況を思い出し、そして平屋の近くから人間のものではない唸り声が聞こえてくるのに気付いた。

 

『大量のアマゾンたちが建物へと押しかけようとしています! バリケードをしていても何分持つか...!』

 

【まずい!】

 

【あの人たちを助けに行かないと!】

 

マシュの報告から貴方は思わず叫ぶ。シグマの言う通り、アマゾンたちはおそらく真っ先に地下室に逃げ込んだ人たちを食らいに行くだろう。昨日救出されたばかりでまだ回復しきっていないあの人たちでは逃げることなどまず不可能だ。

あなたは人々を助けるために平屋の中へ戻ろうとするが、そこをエミヤに止められる。

 

「ダメだマスター! 今君がここを離れればナイチンゲールへの魔力供給が薄くなる。そうなれば勝ち目はない! 私がアマゾンたちを抑えに行く!」

 

エミヤがそう確信づけるのも理由があった。生物の急所を突き戦うナイチンゲールにとって、本来ならば急所である部分に攻撃を受けようとも動じなかったあのシグマというアマゾンは、おそらく天敵であるからなのだ。ゆえにもしもの時に対応できるようにするためにも、貴方にここから離れないようにさせねばならないとエミヤは考えているのだった。

 

『しかし、エミヤさんもシグマの攻撃によって負傷しています! 大量のアマゾンたちに一人で行っては勝ち目が...』

 

マシュの言う通り、エミヤもまた先ほどの傷により、十全なパフォーマンスができない状態になっている。彼を一人で行かして無事である保証もなかった。

 

「いえ、行ってくださいマスター。ここは私がいかようにでも食い止めます。その間に人々の救出を!」

 

二人の言葉に貴方は悩む。人々を救出するか、シグマを抑えるか。貴方は決められ切れず歯軋りするほど歯を食いしばる中、シグマは興味がなさそうに戦闘体制にはいった。

 

「どっちでも同じことだ。ここで俺に殺されるか、他のアマゾンたちに食われるか。どっちも嫌だったら尻尾を巻いて逃げることだな」

 

その言葉に貴方はシグマを強く睨み付ける。しかし貴方はまだ諦めない。どちらも成し遂げるために貴方が方法を考えようとした、その時。マシュから唐突に連絡が入ったのだ。

 

『先輩っ! そちらの付近にて、新たな霊基反応が現れました!』

 

【次から次へ!】

 

【いったい何者!?】

 

新たな問題に貴方はまた声をあげる。シグマは今にでも攻撃できる体制にある他、アマゾンたちの呻き声が近くなってきている。そのような中での新たな乱入者など、貴方では手も付けられない存在だったのだ。

 

 

『1つはカルデアで確認されている霊基です! もうひとつの方が今そちらに向かっています!』

 

 

マシュの報告と共に、貴方とシグマが対峙している近くの茂みから大きな音を立てて、何かが間に割り込んでくる。

 

唐突の乱入にエミヤが前に出て貴方の盾になり、ナイチンゲールとシグマはその乱入者に向けて警戒を表した。

貴方も同様にその乱入者へと視線を向けた。そこにいたのはーーー。

 

「君が、カルデアのマスターかい?」

 

赤いバイクに跨がった好青年。

 

それがその人物に対する第一印象だった。

モデルでもやってそうなほどに整った顔立ち。汚れた服を着ているが、それでも人に悪印象を与えない物腰で、それでいて幼さを感じる佇まい。普通の道端であっていたならば見入ってしまいそうになるほどにその人物は落ち着いた雰囲気をまとっていた。

ただ、その腰に巻いたベルトを除いては。

 

【そのベルト...鷹山さんと同じ宝具】

 

【あなたはいったい誰だ】

 

貴方は、乱入してきた青年の問いに答えず、そのベルトを見て反対に彼へと問いを投げつけた。しかし青年はそんな貴方の対応に嫌な顔をせず、さらにその問いですべてを察したかのように胸を撫で下ろす。

 

「どうやら合っているようだね...なら間に合って良かった。話したいこともたくさんあるけど、その前に彼をどうにかしよう。あぁ、アマゾンの集団の方なら心配いらないよ。僕の同行者がそちらの方を対応している。いや、やっぱり心配だ。彼女、やり過ぎてしまうきらいがあるみたいだし」

 

貴方の問いに答えず、青年はひとしきり貴方に語りかけると、バイクを降りた。貴方は彼のあまりにも自然とした口調に唖然としているが、青年はそんな貴方を無視しシグマの方へと体を向けた。

かくいうシグマは突然の乱入者に指を顎にあて、頭を傾ける。

 

「おまえ...まさか生きていたとはな」

 

「貴方も、また甦させられるなんて、悲しくはないんですか」

 

「どうだろうな。死んでいなければそう思っていたかもな」

 

二人の会話に、貴方やサーヴァントたちは割り込めずにいる。どうやら二人は顔見知りのようであった。

 

「だったら、ここで決着を付けよう。もうこれ以上悲劇を産み出さないために」

 

青年はそう言うと、ベルトに据えられたグリップを握り、先ほどからの落ち着いた雰囲気から一変した強い口調でその言葉を叫んだ。

 

「おおおぉぉぉ...アマゾンっ!!」

 

[Omega!! Evolu-E-Evolution!!]

 

乱調な機械音とともに青年の体から熱波が放たれる。その様子は、以前に見た鷹山仁の変身する様子とまったく同じだった。

そして熱波が収まり、その中より現れたのは先ほどの青年の姿ではなかった。

 

それは全身を、緑を基調にして彩られた怪物だった。

胸のアーマー部分は黄色く塗られ、腕には生物を傷つけることだけを目的としたような刃が生えている。その顔つきは鷹山仁が変身したアマゾンアルファとは違うものであったが、しかし醸し出すその雰囲気は鷹山のそれと遜色のない迫力であった。

 

「ウゥゥ...」

 

緑色のアマゾンへと変身した青年はシグマへと威嚇するように唸り声をあげて、獣のような体制を取る。対するシグマもそれを向かい打つべく、先ほどと同じように戦闘体制に入った。

貴方はその二体の姿を見て状況を整理し、ナイチンゲールへと指示を出した。

 

【なんかよくわかんないけど...】

 

【敵の敵は味方だからたぶん大丈夫!】

 

「大分適当ですが、この際仕方ありません。緑のアマゾンの方を援護します。マスター、巻き込まれないように気を付けてください!」

 

 




次回、アマゾンvsアマゾン

誤字報告、話として不自然な点などご報告ありがとうございます。
ご覧の通り筆者は未熟なアマチュアでありますので、また不自然な点などありましたらどうぞご指摘ください。


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第5節 EAT KILL ALL 1/6

エネミーアイコン:いろいろ

サポートサーヴァント

ナイチンゲール

???

???


平屋の近くの空き地にて、3人の人影がすさまじい早さで交差し火花を散らす。灰色の怪物、緑色の怪物、赤い軍服の女性は、それぞれが己が技を出し惜しむことなく、その全力で相対する相手を制圧しようとしていたのだ。

 

「オ"オ"オ"オ"オ"ッッッ!!!」

 

緑色のアマゾンが雄叫びをあげながらシグマに向けて拳の連撃を放つ。その戦闘スタイルは、同じベルトで変身するアマゾンであるアルファやシグマと違い、とても荒々しくしかし力強いものであると貴方は認識していた。しかしその戦い方は相対するシグマとは相性の悪いものであるとも感じられたのだ。

緑色のアマゾンの連撃に対して、シグマはその拳を最小限の動きで軽々と避けていく。さらには連撃の合間にあった僅かな隙をシグマは見抜くと、その隙に合わせてカウンターの前蹴りを緑色のアマゾンの腹部へと浴びせこんだ。

 

「ガァァッッ!? アアアアッッッ!!!」

 

腹部に強烈な一撃を食らった緑色のアマゾンは一瞬苦悶の悲鳴をあげるが、続けて奮起の雄叫びを挙げて腹部に刺さっているシグマの脚を両手で掴む。

 

「......」

 

シグマは緑色のアマゾンのその行動に動じず、掴まれた脚とは逆の軸となっている足を地面から跳び立たせ、人間ではありえない体幹による空中姿勢から、相対する緑色のアマゾンの頭部へと強烈なハイキックを繰り出した。

シグマが放ったハイキックは緑色のアマゾンの頭部へとまともに入り、言葉にしにくい鈍い音が周囲に響く。

しかし、それでも緑色のアマゾンは止まらなかった。

 

「...ガァァァァァ!!!」

 

緑色のアマゾンはまたも雄叫びを挙げると、次に頭部に当たるシグマの脚を地面に落とす前に片手で掴みとったのだ。

 

「...っ!!」

 

これにはシグマも想像し得なかったようで、彼の動きに一瞬の隙ができる。

緑色のアマゾンはその隙を見逃さない。掴んだシグマの両足をさらに強く捕まえ、そのまま自身の体を基点に振り回し、遠心力と腕力を合わせてシグマの体を平屋の壁へと投げ飛ばしたのだった。

 

勢いのまま投げ飛ばされたシグマはそのまま壁に激突するーーーことはなかった。

投げ出された瞬間、シグマはその身を翻すことで緑色のアマゾンから与えられた勢いをすべて殺し、壁に激突する直前で地面へと着地をしたのだ。

 

シグマのあまりにも華麗な身のこなしに貴方は息をのむ。

貴方は今までの旅のなかで敵味方問わず多くの戦士を見てきた。一対多数に対して、怯まず勇んで立ち向かう英雄。自分より大きな怪物に対して笑いながら得物の切っ先を向ける勇者。免れない死が近づこうとも、その勇姿を決して崩さない英霊。そのすべてが貴方にとって尊敬と畏怖を持つにふさわしい素晴らしい人物たちであった。

だが、今目の前で戦うこのシグマは違った。

彼は戦士ではなく、まるで機械のような存在なのだ。戦い方はまるで無駄がなく、相手をどうすれば効率良く殺せるか、どうすれば戦闘を続行できるかのみを考えているかのような、まったく感情のない存在感を放っていたのだ。

 

シグマは着地から姿勢をただすと、そのまま緑色のアマゾンに向かって走りだし追撃を行おうとする。緑色のアマゾンは先ほどのシグマのカウンターによりダメージを受け、シグマの行動に反応しきれていない。貴方がまずいと思った瞬間、貴方の視界の端に緑色のアマゾンとシグマの間に入り込む赤い影の姿が映った。貴方の頼りになるサーヴァント、ナイチンゲールだ。

 

「消毒!」

 

ナイチンゲールは緑色のアマゾンに迫るシグマの首に向けて手刀を放つ。シグマは危なげなくその手刀を避けるが、緑色のアマゾンに向かうその足を一旦止める。その一瞬を突き、ナイチンゲールはさらにシグマとの距離を詰めるとその胸部、さらに具体的に言うならば心臓がある部分、胸郭へと掌低を打ち込んだ。

 

「殺菌!!」

 

ナイチンゲールの胸部への急所攻撃をまともに受けたシグマは、衝撃から体を後方へと吹き飛ぶ。しかし、()()()()()()()

人体でなくサーヴァントであろうと霊核への直接的なダメージから、喀血は免れないであろうその攻撃を、シグマはただ、強く小突かれただけのように胸元を軽くはたくのみで済ましていたのだった。

 

「やはり人体への急所に対するダメージは小さいか...」

 

隣で貴方のもう一人のサーヴァント、エミヤが小さくつぶやく。彼は自分たちが到着するまでの間、あのシグマとすでに一戦交じり合っていた。その内容を貴方はまだ詳しく聞いていなかったが、エミヤの腹部の傷と今の反応から、彼はシグマの急所に対し攻撃したところ、油断して反撃を受けたということを貴方は理解したのだった。

 

「弱いな」

 

突如、シグマが看過しがたい言葉を小さくつぶやく。

 

「カルデアのサーヴァントというのはこれほどまでに弱いものか。これではデータにもならない」

 

シグマはさらに続けて言う。貴方の、貴方にとって人理を救うために身を尽くしてくれた仲間たちに対し、シグマは侮辱の言葉を吐いたのだ。

貴方はシグマのその言葉に当然怒り、言い返そうとするが、言葉が出る直前、エミヤが貴方の手を引き、その行動をやめさせる。

 

「やめろマスター。君が怒るべきことではない。それに、よく見てみろ」

 

エミヤの宥めるような言葉に、貴方は冷静になって戦況を観察すると、あっ、と小さく言葉を漏らす。

 

シグマは戦闘態勢をとりつつも、ナイチンゲールの反応を待つ。言葉を投げられたナイチンゲールは、小さくため息を吐きつつ、シグマの言葉に返答する。

 

「あなたに何を言われようと構いません。実際、そこのMr.は貴方に手痛い攻撃を受け、私自身もあなたに対する決定的な攻撃手段を持ち合わせていません。しかし...だからなんだというのです?」

 

ナイチンゲールは語気を強くしてシグマに尋ねるが、返答を待たずに言葉をつづける。

 

「私たちはそれを踏まえたうえで、マスターを守り、人々を守り、世界を守るだけです。あなたの戯言に付き合っている暇はないのです。それにあなたは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

そのナイチンゲールの言葉にシグマが気づく。彼女は自分ともう一体のアマゾンの間に入り戦闘に乱入してきた。それにより彼女が壁となっているせいで、今自分は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

[Violent Break]

 

シグマが戦況に気づくと同時に、乱調な機械音を流しながら緑色の影がナイチンゲールの上空から飛び出した。その手には小さくも、生物の命を壊すために出来ている雰囲気を持つ禍々しい鎌が握られていた。

 

「オ"オ"オ"ッ!!!」

 

雄叫びを挙げながらシグマに肉薄するのは、ナイチンゲールを陰にして必殺の機会を窺っていた緑色のアマゾン。その手に握る鎌の矛先は確実にシグマを捉えていた。

即座にシグマは反撃の態勢をとるが、時すでに遅し。緑色のアマゾンが手にした鎌は、突き出されたシグマの右腕の肘より先を刈り取ったのだった。

 

「―――ちっ」

 

刈り取られたシグマの腕は緑色のアマゾンの下へと転がり、実体を保たずにやがて溶けてなくなっていく。

完全なる不意打ち。しかしそれによりシグマへの初めて効果的なダメージに貴方たちは成功したのだった。

 

「急造チームでここまで連携してみせるとはな...」

 

シグマが吐き捨てるようにつぶやく。ナイチンゲールはそんなシグマに対して警戒を怠らず、言葉を出す。

 

「油断をした貴方の不手際でしょう。感情もなく死人のような気配をしているのに、気を抜くなんてこともあるのですね」

 

「あなたはここで仕留める。決して逃がさない!」

 

ナイチンゲールの皮肉と緑色のアマゾンの決意がシグマへと突き刺さる。

シグマは二人の言葉に初めてシグマはその感情の一端を見せた。

 

「油断...逃げる...? ふざけたことを言う。お前たちは俺がここで殺―――」

 

若干の怒気が込められて捻り出されたシグマの言葉はしかし、途中でシグマ自身が耳に手を当てる行動によって止められた。

貴方たちはシグマの突然の行動に不審に感じ取り、警戒をさらに強めると、やがてシグマが口を開いた。

 

「予定変更だ。お前たちとの戦闘は中断、撤退する。殺し合いはまたの機会だ。それまでに他のアマゾンたちに食われないように気を付けているんだな」

 

シグマは何気ない口調でそう言い、踵を返し戦線を離脱しようとする。それに対して誰よりも先に待ったをかけたのは緑色のアマゾンであった。

 

「待て! まだ聞かないといけないことが!」

 

「■■■■■■ーーー!!」

 

シグマの後姿を追う緑色のアマゾンであったが、向かう途中に平屋の天井から他のアマゾンが降り立ってくる。

間違いなく平屋へと群れでやってきたアマゾンの集団だと貴方は認識する。

 

【もうこんなところまで!】

 

緑色のアマゾンの話から、他の同行者と呼ばれる存在が群れを食い止めていると貴方は聞いている。しかしここまで進行してきたとなれば、こちらのほうでも加勢しなければならないだろうと貴方は考え、いまだなおシグマの後姿を追う緑色のアマゾンの姿を見る。

 

「くそ! 邪魔だ!」

 

緑色のアマゾンは立ち塞がってくるアマゾンを蹴散らしていくが、それらを駆逐した先にシグマを捉えることはついぞできなかった。

 

「はぁ、はぁ、逃げられたか...」

 

最後の一匹であるアマゾンを退けた先にシグマの姿を見つけられなかった彼は、腰のベルトを外し、アマゾン体の姿から最初に見かけた青年の姿へと戻っていった。

その姿は、先ほどまでの荒々しいアマゾンとしての面影もなく、頭や腹部に血を流しながらも、ただの人であるような印象だけがあった。

そんな感想を持ちつつ、貴方は先ほどまでアマゾンであったその青年のもとへと近づいた。無論、エミヤやナイチンゲールも共についていく。

 

【貴方は一体なにもの?】

 

【助けてくれてありがとう】

 

貴方は突然現れた彼に対し、多くの疑問や、助太刀してくれたことへの感謝など、様々な思いを持ちながら話しかける。しかし彼から返ってきたのは貴方の言葉に対する返事ではなかった。

 

「ごめん。色々と話さなきゃならないことがたくさんあるのは分かっているけど、今は一人で大群のアマゾンたちを抑え込んでいる彼女を応援しに行かないといけない。事情はそのあと話すということでいいかな?」

 

謝罪から始まり、青年は貴方が先ほど思ったことと同じことを言葉に出す。

貴方は青年のその言葉を聞き、少なくとも彼は人間の敵ではないことを感じ始めた。

 

【もちろん!】

 

【自分たちも手伝うよ!】

 

青年の提案に貴方が力強く答えると、彼は安心したように表情をほころばせる。

 

「よかった、じゃあ急ごう。彼女だったら負けることはないけど下手をすると周りまで破壊しかねない。ここらへんに君たち以外に誰かいるかい?」

 

青年が尋ねた質問に、貴方より先にナイチンゲールが答える。

 

「建物の中に生存者が残っています。だいぶ弱っているうえに現在衛生環境が整えられていない場所にやむなく避難してもらっています。貴方が人の味方であるのでしたら速やかに状況に対処しましょう」

 

ナイチンゲールは現在の状況を適確に伝え、最後には言外に、人に害するのならばお前も殺菌する、と含めて青年に話す。

しかし青年はそんなナイチンゲールの真意が伝わらなかったのか、彼女の話を聞き、さらに顔を苦くさせた。

 

「だったらなおさら急がないと! 彼女だけだと建物も破壊してしまうかもしれない!」

 

青年はそう言うと、すぐに踵を返し、バイクへと向かっていく。どうやらバイクでそのままアマゾンたちの群れへと突っ込みに行くらしい。

しかし貴方は急ぐ彼に対して最後に一つ質問をした。

 

【待って】

 

【あなたの名前は?】

 

貴方の言葉が耳に届いた青年はヘルメットを被りながら、振り返ってその質問に答えた。

 

 

 

「そういえばまだ言ってなかったね。僕は水澤悠、いやアマゾンオメガと名乗ったほうがいいのか。...聞いての通り、そしてさっきまで見ていたように、正真正銘のアマゾンだよ」

 

 

 

水澤悠、そしてアマゾンオメガと名乗ったその青年は、自らをそう称した後、ヘルメットの奥で寂しそうな表情を見せたのを、貴方は見逃さなかった―――。

 

 

―――――

 

 

【見つけた!】

 

【あそこでアマゾンたちが吹き飛んでる!】

 

互いに紹介しあった貴方たちと水澤悠は、アマゾンたちが群れを成している現場へと急行した。

バイクにより先行した水澤悠を追いかけるように貴方たちは走って平屋の表に向かうと、そこでは多くのアマゾンたちが宙を飛び交い、地面に叩き付けられたりしている戦況が見られた。

 

「なんという...このような野蛮な戦い方をするものにかなり覚えはあるのだが...」

 

貴方の隣で腹部を抑えながら走るエミヤは、それと同時に空いている片方の手で頭を押さえる。なんとも珍妙な走り方をするものだと貴方は思いながら、アマゾンたちが吹っ飛んでいるその中心地点へと急ぐ。

 

貴方が向かった先にいたのは貴方もよく知るサーヴァントの一人であった。

 

「ーーーようやく来たか」

 

彼女は襲いくるアマゾンたちを片手間に手にもつ鉄球で潰しながら、向かってきた貴方に対して呆れながらにそう言った。

そう彼女はーーー。

 

 

【エルバサちゃん!!】

 

 

「軽々しくその名で呼ぶな。まったく」

 

エルドラドのバーサーカー。

アマゾネスの女王にして、あるギリシャの英雄を深く憎む英霊。カルデアのサーヴァントの中でも屈指の暴れん坊に含まれ、最近はなんだか権利的な問題で危うい商売を始めた、貴方の信頼する仲間の一人の姿がそこにあった。

 

「ん? なんで真名を隠しているのか、だと? いや、タグの方で終局特異点クリア推奨とは書いていたが、作者がプロットを練り直している途中で1.5部をクリアしてしまってアマゾンならアマゾネスも出さなあかんだろと無謀な思い付きをしてしまったからか、今更タグ変更など詐欺に近いからこうして1.5部未クリアのマスターでもネタバレにならないように真名は隠すようにしているのだ。察しろ」

 

【メタすぎだよエルバサちゃん!!】

 

【察しろって言って全部言っちゃってるよエルバサちゃん!】

 

そんな下らないやり取りをよそに、先行していた水澤悠がアマゾンの群れのなかから飛び出してくる。

 

「遅れてごめん、バーサーカーさん。何も壊してないよね?」

 

「手近の怪物どもならもう数えきれないほど潰してやったがな」

 

ヘルメット越しから心配そうな顔を見せる水澤悠に対して、エルドラドのバーサーカーは突っ慳貪な態度で返す。が、その様子を見て貴方はこの二人が既にそれなりのコミュニケーションを取れていることに気づいた。

なぜならば貴方は、エルドラドのバーサーカーは信頼を置いていない相手に対しては、返答どころかその手にもつ鉄球をぶつけてくることを知っていたからだ。

 

「何をマジマジと覗いている。援軍に来たのでないのならばそこらに隠れていろ。残りのやつらも私一人で充分だ」

 

貴方の視線に気づいたエルドラドのバーサーカーはつれない態度を貴方に見せる。その後ろ姿は本当にこの大群を一人で制圧しそうなほど、雄々しいものであった。

しかしだからといって本当にこの群れすべてを彼女に任してしまう貴方ではない。

 

【援護するよ】

 

【一緒に戦おう!】

 

貴方がエルドラドのバーサーカーの隣に立ち宣言すると、彼女は嬉しそうに少しだけ口元をほころばせながら、しかしすぐに元の勇ましい表情に戻した。

 

「そうか。ならば好きにしろ。せいぜい足を引っ張るなよ!」

 

「僕も君の指示に従う! 一緒にこの場を乗り切ろう!」

 

水澤悠の提案に貴方は頷きつつ、エルドラドのバーサーカーの掛け声とともに、本日、貴方にとっての第2ラウンドが切って落とされた。




次回、事情説明


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第5節 EAT KILL ALL 2/6

スカディを育てていたら遅れてしまいました。だが私は謝らない。


「あらかた仕留めたか...」

 

地みどろの風景のなか、エルドラドのバーサーカーが警戒を緩めずにしかし、状況確認としてふと呟く。

貴方たちは新たに現れた二人のサーヴァントの力を借り、平屋を襲いに来たアマゾンたちを撃退することに成功した。現在の平屋のまわりでは、消滅せずに数多くのアマゾンの屍体が積み重なっている様子だけがあった。

 

「.........」

 

アマゾンたちの屍体を、緑色のアマゾン、アマゾンオメガこと水澤悠は、アマゾン体から人間の姿に戻ると、悲しそうな表情を浮かべて見つめていることに貴方は気づいた。

 

【あの...】

 

【貴方は一体...】

 

水澤悠の醸し出す雰囲気から話をかけづらい貴方であったが、意を決し彼へと言葉をかける。すると水澤悠も貴方の存在に気づき、悲哀を浮かべていた表情を隠すと、貴方に体をむけた。

 

「あぁ。ごめん。気が抜けていたよ。僕たちのことについてのことだよね。さて、どこから説明しようか...」

 

貴方に声をかけられ、水澤悠は顎に手を当て俯きながら考え込む。その様子が、先ほどの荒々しい戦闘スタイルからはとても遠いものであったため、貴方は少し戸惑った。

そんなとき、貴方の通信端末から映像が飛び出る。そこには現在のカルデア責任者代理、ダ・ヴィンチが写りこんでいた。

 

『こんにちは、水澤悠くん。でいいのかな? あぁそっちではおはようございますの時間帯であることは理解しているが、そっちの挨拶に関してではなく、呼び名についてもうひとつの異名で呼ぶべきなのかという意味の疑問系だ。ややこしくてごめんね?』

 

【絶対わざとだ...】

 

【話が長い】

 

ダ・ヴィンチは映像に映り込むと早々に貴方の目の前にいる水澤悠に対してコンタクトをとる。その際天才特有の意味のない話術が発揮されたが、貴方がツッコんだだけにとどまり、水澤悠についてはその通信端末のテクノロジーに目を見開いていた。

 

「この技術、現代の科学ではまだ出来上がっていないものだ...やっぱり聞いていた通りカルデアってところはスゴいんだね」

 

水澤悠の感嘆の言葉に今度は貴方が目を見開き、ダ・ヴィンチは目を鋭くして彼を見る。

 

【カルデアを知っているの?】

 

【エルバサちゃんから聞いた?】

 

貴方が尋ねると、水澤悠は頷く。

 

「うん、少しね。ただ、僕たちの事情を話すと長くなるからとりあえず場を整えたほうがいいと思う。あっ、呼び方についてはどのように呼んでもらっても大丈夫ですよ、お姉さん」

 

『お姉さっ...!?』

 

水澤悠の唐突なダ・ヴィンチへのお姉さん呼称にモニターの向こう側が大騒ぎしていると、ナイチンゲールが貴方の近くに寄ってきた。

 

「失礼しますマスター。状況が終了しましたので地下にいる人々を迎えに行って貰えないでしょうか? 私の方ではMr.エミヤの本格治療をしなければなりませんので...」

 

【うん、分かった】

 

【そっちも気を付けてね】

 

ナイチンゲールは地下に避難してもらった人々のことを心配していたようで、貴方に迎えを頼んだ。貴方は快く頷きつつ、水澤悠に断りを入れて平屋の中へと入ろうとすると、水澤悠と、そしてアマゾンの生き残りを確認していたエルドラドのバーサーカーから言葉がかかった。

 

「よければ僕も手伝うよ。人が多い方がいいと思うし」

 

「私も手を貸そう。話さねばならないことも多くある。些事はさっさと終わらせるべきだ」

 

水澤悠とエルドラドのバーサーカーの提案に貴方は礼を言いつつ、二人とともに平屋の地下室へと向かった。

 

 

―――――

 

 

『さて。人々を地下室から移し、エミヤくんの治療もナイチンゲールのおかげで無事終わった。そろそろ君たちのことについて教えてもらえるだろうか?』

 

為すべき事を終えた現在。アマゾンたちが襲ってきたのが日が顔を出して間もない頃だったが、今はすでに太陽は貴方たちの頂点まで昇っていた。貴方は人々を別室に移し終え、ゾウアマゾンを倒した部屋の中に集まっていた。貴方の横にはナイチンゲールと治療の終えたエミヤが控えており、目の前には先ほどの混乱の中で合流したエルドラドのバーサーカー、そして謎の多い人物、水澤悠が立っていた。通信越しから質問するダ・ヴィンチに対し、最初に口を開いたのはエルドラドのバーサーカーであった。

 

「私から話そう。と言っても、話せることなどあまり多くもないが...その前にマスターよ、ひとまず仮契約を結んではもらえないだろうか?」

 

【いいけど...】

 

【急にどうしたの?】

 

エルドラドのバーサーカーの急な申し込みに貴方は疑問を呈す。

 

「すまない。ここに召喚されてから霊基の調子がとても不安定でな。おそらくマスターたちに会わなければ一日持つかどうかほどだったのだ」

 

貴方はその話を聞き慌てて了承すると、右手に灯る令呪をエルドラドのバーサーカーの前へと出す。

彼女もまた貴方の出した令呪の前に立つと、目を瞑る。そして貴方が契約に必要な呪文を唱えたのち、あなたの中にエルドラドのバーサーカーとつながった感覚が入り込んだ。

 

「―――感謝する。おかげで霊基も安定してきた」

 

【よかった】

 

【どういたしまして】

 

感謝を述べる彼女へ貴方が返事をすると、貴方のあとに続いてダ・ヴィンチがエルドラドのバーサーカーに質問を投げた。

 

『ときにアマゾネスの女王よ。召喚と言ったが、それは魔術師によるものかい? それとも世界から?』

 

ダ・ヴィンチからの問いに貴方たちも気になり、一同がエルドラドのバーサーカーに目を向けるが、彼女は素知らぬ面持ちで首を横に振った。

 

「分からん。が、少なくとも魔術師によるものではないだろうな。私がここに呼ばれた時、目の前に魔術師なるものはいなかった。いたのは私を見てよだれを垂らす、醜い化け物の姿だけだったからな」

 

エルドラドのバーサーカーは苦々しくその時のことを語る。どうやら彼女はあまりこの世界の状況について伝えられずに召喚されたようだった。

その時、通信からダ・ヴィンチ以外の姿が映る。オペレーターのマシュの姿だ。

 

『___確認がとれました。カルデアの方で在ったエルドラドのバーサーカーさんの霊基の反応が消えています。おそらく何らかの介入を受けて召喚の割り込みをされたのだと考えられます』

 

『ふむ。それが世界からの強制力か、はたまた第三者による魔術的な介入か。興味深い案件だが、まぁそれについては後々調査していこう。それで? 隣にいる彼は何者なんだい?』

 

状況を確認しつつ、ダ・ヴィンチはエルドラドのバーサーカーに彼女の隣に立つ青年、水澤悠について尋ねる。それこそ、貴方たちがとても気になっていたことでもあった。

またも視線を集まるエルドラドのバーサーカーだが、しかしその答えはとても呆気ないものだった。

 

「知らん。歩いていたらこいつと出会って着いてきた。それだけだ」

 

彼女の答えに貴方は思わずガクッと肩が下がる。エルドラドのバーサーカーと水澤悠は、先ほどの戦闘中では仲が良さげに話し合っていたのに、エルドラドのバーサーカーは彼に対してまったく興味を持っていなかったのだ。

なんとも彼女らしい答えにダ・ヴィンチすら苦笑いを浮かべて、話の先をエルドラドのバーサーカーから件の青年、水澤悠へと切り替えた。

 

『そうかそうか。では改めて直接聞こう。水澤悠くんと言ったね。君は何者だい?』

 

ダ・ヴィンチの問いに水澤悠は顔を引き締めて答える。

 

「そうだね、色々と複雑だけど...一言で言うのなら僕という存在は、アマゾンのサーヴァント、ということになるんだと思う」

 

『アマゾンのサーヴァント...?』

 

水澤から発せられた単語をマシュが繰り返す。それを聞いて貴方が思い浮かべたのは、昨日出会ったアマゾンであり守護者であった鷹山仁と、その鷹山仁と同じベルトを巻き魔力反応を出していた謎の存在、シグマの二人であった。

 

「アマゾンの来歴についてはもう知っているかい?」

 

【少し程度なら】

 

【鷹山さんから教えてもらった】

 

水澤の問いに貴方は正直に答える。その際、鷹山の名前を出すと水澤悠の顔が見るからに曇っていった。

 

「...そうか。仁さんから...」

 

「鷹山仁についてご存知なのですか?」

 

言葉を詰まらせる水澤に対してナイチンゲールが尋ねた。

 

「あぁ、大分ね...いや、それよりも僕についてのことを話さないといけない」

 

水澤は頭を振ると話を戻し、言葉を続けた。

 

「もう一度話すと、アマゾンはある製薬会社によって創られた実験生物なんだ。だけど実験により産み出されたアマゾンは、事故により社会のなかに解き放たれた」

 

『うん。鷹山仁からもそう聞いている、違いないね。そして鷹山仁はその実験体のアマゾンたちを駆逐するために自らにアマゾン細胞を移植させた、そこまでの話なら彼の口から聞き及んだよ』

 

水澤の談に、ダ・ヴィンチが今知り得ている情報を加味させて繋げる。水澤はそれを理解し、ダ・ヴィンチに続いて口を開いた。

 

「僕はその実験体のアマゾンとも、そして人間の体にアマゾン細胞を移植させた仁さんとも違うアマゾン。アマゾン細胞に人間の遺伝子を移植させたアマゾンなんだ。...そして、正史のなかで最後まで生き残ったアマゾンということになっているらしい」

 

【人間の遺伝子を持つアマゾン...?】

 

【どう違うの?】

 

水澤の話に、貴方は言葉を繰り返す。しかし貴方は水澤悠の話した内容をあまり理解できず、その顔をダ・ヴィンチへと向け、解説を促した。

 

『んー、人以外の存在を取り込んだ人間と、人の遺伝子を得た別存在というものは大分違うものだよ。前者が邪竜を倒し、その心臓を得たジークフリードだとすれば、後者は半神に近い事象だろう。本来合わさらない存在が結び付いた希少な例と言える、ということかな? 水澤くん?』

 

ダ・ヴィンチは一通り喋り終えると水澤悠に回答を求めた。それに対し水澤悠は小さく頷く。

 

「だいたいそのとおりなんだと思います。...僕は母といえる人からその遺伝子を細胞に移植されて生まれた、新種のアマゾンということになります」

 

水澤悠はそう言い切ると顔を少し俯かせる。貴方が隙間から見た彼の表情からは悔しそうな表情が表れていたのが見えた。

そんな彼の様子を見ながらもさらにダ・ヴィンチは水澤悠に質問を投げかけた。

 

『なるほど、君のことについてはよく理解できたよ。でもなぜサーヴァントに?』

 

水澤悠はその問いに俯かせていた顔をあげて答える。

 

「...それは、僕が最後まで生き残ったアマゾンということにより、アマゾン全体の総体としての霊基で現界していいます。人理を覆しかねない反英霊の存在。それがアマゾンであり、僕というカタチとして召喚されるんです。」

 

【それって】

 

【エジソンと同じ感じかな?】

 

貴方の疑問に、通信越しからダ・ヴィンチが返す。

 

『いや、根本としては全く別だね。エジソンは一人では現界できない霊基を大統領たちの知名度も組み合わせることで成り立っているサーヴァントだ。水澤くんの場合は、アマゾンという、人を食べる怪物の霊基を召喚する際に自動的に彼が現れるのだろう。言うならアマゾンの代表的存在は水澤悠である、と座に登録されたのだろうさ』

 

「僕も気づいたときには驚いたよ。と、言ってもアマゾンという存在自体が確立が不安定で召喚されることなんてないはずだったんだけど、今回はとても安定した状態で現界している。多分この惨状が原因だと思うけど...」

 

ダ・ヴィンチの説明に水澤悠が補足して話す。どうやら水澤悠は特殊な霊基によるサーヴァントであるのだと貴方は理解した。

 

『さて、水澤悠くん、君についてはよく理解できたよ。教えてくれてありがとう。しかしここからが本題だ。この世界の惨状、アマゾンによる殺戮について、君が知ることはあるかい?』

 

ダ・ヴィンチの問いに水澤悠は顔を強張らせて返答した。

 

「...いえ、詳しくはなんとも。でも一つ思い当たる節はあります」

 

水澤悠の一言に貴方たちは目を見開く。ここに来てようやくこの世界の謎を解く手がかりを見つけたからだ。

 

「でもこれは、この特異点の()()が分かるだけで、()()にまでは迫れない。ここまでの感染の拡大はあまりにも規模が大きすぎて彼だけでは出来ないはずだから...」

 

しかし水澤悠は意味深な言葉をその後も呟き続ける。貴方はそんな水澤悠へ声を掛ける。

 

【どんな情報でもいい】

 

【今は多くのことを知りたい】

 

「...そうだね。ただ、今から言うことは聞くにしてもとてもつらいものだ。カルデアのマスター。バーサーカーさんから君のことはよく聞いているよ。多くの特異点を回り、この世界を守ったことを。そのうえで君は、アマゾンを殺すことをどう思っている?」

 

『あの、水澤さん。それは一体どういった意図の質問なのでしょうか?』

 

水澤悠の質問にマシュが貴方の代わりに問い返す。しかし水澤悠はマシュの問いには答えず、貴方をジッと見つめ、先程の問答の答えを促していた。貴方はそんな彼の目を見つめながら答えを口に出す。

 

【人を救うために、アマゾンは生かしておけない】

 

【何も知らないままで殺したくはない】

 

貴方の答えに、水澤悠は小さく笑う。

 

 

「―――そうか。君は優しいんだね―――」

 

 

水澤悠は貴方をそう評すると、表情を変えて続いて口を開いた。

 

「アマゾンの増殖。それは僕が生きていた頃にも起きたことがあったんだ。それはある一つの過ちから成り立ってしまった、ある意味で奇跡の存在。僕や仁さんのアマゾン細胞とも異なる、()()()()()()()()()()()()()()第4のアマゾン細胞、溶原性アマゾン細胞が、この事態を起こしていると考えられる」

 

水澤悠が発した話は、奇しくも貴方たちが予想した仮説を裏付けるものであった。




次回、一同移動中


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第5節 EAT KILL ALL 3/6

エネミーアイコン:色々

サポートサーヴァント

エルドラドのバーサーカー

アマゾンΩ



更新が大分遅れて申し訳ございませんでした。


『溶原性アマゾン細胞...人間をアマゾンへと変質させる細胞、とね。また恐ろしい単語があらわれてきたものだ』

 

溶原性アマゾン細胞。アマゾンの増殖について、その原因の一端かもしれない情報について水澤悠から聞き入れた貴方たちは、悪い予想が当たってしまったばかりに落胆の情報を隠せずにいた。

 

『人間を怪物に変異させる...以前にも経験したこととはいえ、やはりやりきれませんね...』

 

モニターの奥でもダ・ヴィンチが息をつき、マシュは明らかな落ち込んだ表情を見せていた。

するとその様子を見た水澤悠は疑問にを感じたのか貴方たちへと質問を投げる。

 

「君たちはもしかして、この事態に似た状況に会ったことがあるのかい?」

 

【ちょっと前に少し】

 

【色んな所を回ってきたからね】

 

水澤悠の問いに貴方が答え、それに続いてマシュが補足を入れる。

 

「エルドラドのバーサーカーさんからお聞きでしょうが、先輩と私は特異点を直す旅の中で、多くの英霊の方々に出会い、また多くの出来事の渦中に入り込んできました。その内のひとつに、人間を人間以外の存在に変質させる特異点もあったのです」

 

マシュの説明を聞き、水澤悠はそうか、と小さく呟くと、その表情に陰を落とし込んだ。

貴方は水澤悠のその表情に少し気がかりを覚えたが、それを尋ねる前にダ・ヴィンチが彼に質問を投げかけた。

 

『水澤くん、溶原性アマゾン細胞についてもっと詳細を聞かせてもらえないかな。最悪マスターくんの身に大きな危害が出てくる可能性がある対策を講ずるためにも隠し事はなしでお願いね』

 

ダ・ヴィンチの頼みに水澤悠は大きく首を縦に降る。

 

「はい、もちろんです。溶原性アマゾン細胞...さっきも言った通りそれは人間をアマゾンへと変質させる悪魔のような細胞です。そしてその発生源はオリジナルと呼ばれる素体...人間の遺伝子が組み合わさって変異したアマゾンなんだ」

 

『人間の遺伝子が組み合わさったアマゾン...しかしその場合水澤さんも該当されるのでは?』

 

マシュの質問に水澤は首を横に振り否定を示す。

 

「いや、詳しくは分からないけど僕の体では溶原性アマゾン細胞の生成はされていないみたいなんだ。たぶんこの体は人間の遺伝子に適応されたアマゾン細胞を基に作られたんだろうね」

 

水澤悠は自嘲気味に笑いながらマシュの言葉に答える。それに続き貴方の傍にいたナイチンゲールも質問を投げる。

 

「オリジナルと呼ばれる素体からの感染と言いましたが、感染した個体からの二次感染はあるのでしょうか? そうなるとマスターの保護はより一層の対策が必要になりますが」

 

ナイチンゲールの言葉に貴方は思わず息を呑む。自分ももしかすればあの食人生物のように変化してしまうのかと嫌な想像が頭を巡ってしまったからだ。

 

「それに関しては問題ないです。感染はオリジナルの細胞のみで二次感染はありません。でもここまで大きく感染が広がっているとなると、おそらくオリジナルの体組織を何かで広げているとみるのがいいと思います」

 

水澤悠の答えに貴方はホッとするが、同時に紡がれた言葉に再び緊張が走る。

 

『なるほど。そうなると感染を広げている原因は、水、とみるべきだね』

 

「そう考えるのが懸命でしょう。生前、軍の衛生問題において不衛生な水による感染症、病原菌の拡大は大きな問題になっていました。また故意に井戸に水銀を放ち一個中隊を内部から壊滅させる作戦もありましたので、それほど水の拡散能力は高いです。充分に可能性はあるでしょう」

 

『専門家にそう言われればもはや確実だ。マスターくん、これからはその世界の水分、いや十全を期して食料も取らないでほしい。かなりきついお願いだと思うけど、君の体のためだ。どうかわかってほしい』

 

【分かった】

 

【サバイバルは慣れてるから】

 

ダ・ヴィンチからの頼みに貴方はすぐに返事をする。なにより貴方自身も先ほどの話を聞き、喉が何も受け付けようとしていなかったからだ。

貴方の返事を聞きダ・ヴィンチも満足そうに首を縦に降る。その時、体を壁に預け包帯の巻かれたわき腹を手で押さえていたエミヤが、沈黙を破り口を開いた。

 

「水澤、と言ったか。溶原性アマゾン細胞についてはよく分かった。だが我々は貴様から肝心のことを聞けていない。オリジナルの存在について、そしてその存在と貴様の関係について、なぜそのことを知っているのかについて、そろそろ白状したらどうだ」

 

エミヤの鋭い眼光が水澤悠を貫く。水澤悠もまた、エミヤのその眼光をまっすぐに受け止める。

まるで一触即発な雰囲気にモニター越しからマシュが慌てて場を取り持とうとする。

 

『待ってくださいエミヤさん! そんな言い方では水澤さんを疑っているようです! 彼は私たちを先ほどの窮地から助け出してくれたんですよ!』

 

「甘いな。それもこいつらの自作自演だと見る事はできる。事情を知りすぎているのも疑わしいな。なによりこいつは我々を襲ってきたアマゾンと同じ存在だ。信用しきるほうが難しいだろう」

 

マシュの言葉にエミヤは努めて冷静に言葉を返す。貴方はエミヤの言うことは辛辣だが、しかし正論であると感じている。ゆえに貴方は水澤悠のほうへと向き、彼にまっすぐに話しかけた。

 

【できるなら話してほしい】

 

【貴方を信用したい】

 

貴方の言葉に、水澤悠は貴方の顔をしばし見つめてから視線をそらし、口を開いた。

 

「...確かに僕はオリジナルの存在と面識はある。でもそれについてまだ教えることはできない」

 

「なんだと?」

 

水澤悠の答えにエミヤが眉を顰める。他のサーヴァントたちも同じく水澤の言葉の真意を問うように空気を張り詰めた。

しかし水澤は周りのサーヴァントたちの空気に気圧されることなく、続いて言葉を繋げる。

 

「さっきも言った通り僕はこの事件の原因、つまりは人間をアマゾンにする溶原性アマゾン細胞の保持者、オリジナルの存在についてよく知っている。でも僕の知っているオリジナルはこんなことを率先してするような者ではなかった。この状況から、オリジナルの他に溶原性アマゾン細胞を拡散した元凶がいるはずなんだ。僕はその元凶について先に調べなくてはならないと思っている。それを突き止めるまでは僕は君たちにオリジナルについて喋ることはできない」

 

「話がつながらんな。確かに貴様の言うことが正しければその元凶とやらも特異点を作り上げた当事者として我々も警戒しなくてはならないだろう。だがそれが貴様が我々にオリジナルのことを語らないことと何の関係があるというのだ」

 

水澤悠の言にすかさずエミヤが疑問をぶつける。水澤は言葉に一拍置いた後、エミヤの質問に答えた。

 

「...彼の、彼らの来歴について僕からは話したくないんだ。僕の存在について疑ってもらったり警戒してもらうのは構わない。でも彼のことを、僕の話す言葉だけで判断はしてもらいたくない。僕がオリジナルのことを話せない真意は、ただそれだけだ」

 

水澤悠はそう言い終え、エミヤの鋭い眼光になおも物怖じせず見つめ返した。

一触即発の雰囲気が辺りを包み、貴方は場を取り持とうと発言しようとするが、その前にエミヤの口からため息がこぼれたのだった。

 

「...あまりにも人間的な感傷だな。聞けば聞く程に、貴様は甘い考えのもとでその人生を生きてきたのだとつくづく思い知らされる」

 

「...生前、同じことをいろんな人から言われました」

 

エミヤのこぼす言葉に、自嘲するように水澤悠が答える。しかしエミヤはそれに構わず言葉をつづけた。

 

「そんな甘い戯言をほざく阿呆を俺は知っている。あまりにも愚かで、馬鹿らしく、見ているだけでイライラする奴だった」

 

『あ、あのエミヤさん?』

 

【私怨入ってない?】

 

【いったん落ち着こう】

 

話すにつれてだんだんと言葉に怒気を含まれ顔に青筋が立っていくエミヤの様子に、堪らずマシュと貴方が声をかける。

少し落ち着いたエミヤは最後に水澤悠に言をこぼす。

 

「つまりだな。そのような感傷的な言を吐けるような者が人を騙すなどという巧妙なことは出来んということだ。いいだろう、貴様からオリジナルのことを問いただすのは保留にしておく。マスターもそれでいいか?」

 

【もちろん!】

 

【誰にも言いたくないことはあるから】

 

「ということだ。ダ・ヴィンチもそれで納得してもらえるか?」

 

エミヤは貴方から了解を取ると、加えてダ・ヴィンチの方にも確認をとる。モニターの奥では複雑そうな表情の天才画家の姿が映っていた。

 

『うーん、出来れば持ちうる情報はすべてこちらと共有してほしいのだが、でも憎まれ役を買って出てくれたエミヤ君の頑張りを無碍には出来ないからね。こちらもそれで納得しよう』

 

ダ・ヴィンチの言葉にエミヤはお前はいつも一言多い、とぼやきながら再び壁へともたれ掛かった。貴方はダ・ヴィンチの話からエミヤは聞きづらいであろうことを自分から聞き出してくれたのだと気付いたのだった。

貴方は一言エミヤに礼を言うと、エミヤは少し鼻を鳴らすだけで、はやく次の話に進めろと態度で表したのだった。

 

『で現状の話せる情報に関しては以上かな? では次はこれからの話をしよう』

 

「はい、まずはマスターの安全の確保が優先かと考えます。先程の水澤悠の話から食料事情に大きな弊害が出来ました。即刻サークルを確立して安全な物資の補充をすべきだと思われます」

 

改めて進行するダ・ヴィンチに、早速ナイチンゲールが意見を出す。

彼女の意見はある意味正しく、この世界の飲料が危険な以上、貴方にとって最も危惧すべきことは餓えである。マスターである自分がサーヴァントの足を引っ張るわけにはいかないため、貴方もナイチンゲールの意見に賛成の意を示した。

 

『その通りだ。幸いサークルである採石場は当初向かっていた目的地だったため位置はそこから遠くない。歩いて半日といったところかな?』

 

『はい、先輩の安全を確保するためにもすぐにでも向かうべきかと!』

 

カルデアのマシュとダ・ヴィンチもナイチンゲールの意見に賛成するが、しかしナイチンゲールがさらに言葉を続ける。

 

「しかしサークルに向かう場合に問題があります。私とMr.エミヤは付いていくことができません」

 

【えっ!?】

 

【なんで!?】

 

ナイチンゲールのいきなりの爆弾発言に貴方は驚いた声を出して彼女に尋ねる。

 

「まずMr.エミヤは言わずもがなです。この怪我では敵性存在との戦闘は出来ませんいえ私が許しません。傷が完治するまでは安静にしてもらいます。いいですねMr.?」

 

ナイチンゲールの迫力にエミヤは唸りながら小さく首を縦に降る。彼は押しの強い女性には弱いのだ。

 

「そして私ですが、マスターもご存じのはずです。ここには多くはないですが戦えない衰弱しきった患者がいます。皮肉な話ですが、牧場のなかで家畜として生かされていた彼等は、その牧場主がいなくなったことで他のアマゾンにとっての餌となります。今はまだ来ていませんが、数刻もすれば外のアマゾンたちが彼らを襲ってくることは必然でしょう。私は彼らの保護をしなくてはいけません。そのため、付いていくことはできないのです」

 

ナイチンゲールは意思の強い口調で話し、そう締め括った。

貴方はナイチンゲールの話を聞き、とても納得した。それはとてもナイチンゲールらしい理由であり、自分もまたナイチンゲールにそうしてほしいと思ったからだ。最初は二人がついてこないことに驚いた貴方だったが、話を聞き終えた時には彼等はここに残るべきだと考えを改めた。

 

『ではその場合、先輩と共にサークルを作りに行くサーヴァントは...』

 

『エルドラドのバーサーカーと水澤くん、ということになるね』

 

「......」

 

「バーサーカーさんはともかく、僕も?」

 

ダ・ヴィンチの言葉に、エルドラドのバーサーカーは興味なさげに腕を組んでいるだけであり、水澤悠は見るからに驚いた表情を見せた。そうするのも無理はなかった。先程まで、彼は貴方たちに疑われていたのだから。

 

「ほう、いきなり仲間としての信頼が試されることになったな。先に言っておくが、貴様がマスターに何かしでかした場合、座に戻れなくなるほど貴様を追い詰めるかもしれん。覚悟をしておけ」

 

エミヤはというとそんな水澤に対して、笑いながら脅しを利かせる。あまりにもあからさまな態度に水澤は苦笑いで答える他なかった。

 

『驚くことでもない。我々の今までの旅のなかで現地のサーヴァントと交渉して力を貸してもらうことも少なくなかった。そこの皮肉屋は分かりやすく警戒を見せてくれたが、万年人員不足である我々は力を貸してくれるものに対しては基本ウェルカムだよ』

 

『はい、ダ・ヴィンチちゃんの言うとおりです。エミヤさんもあんな態度をとっていますが、その実水澤さんが先輩の力になってくれることを期待しているんですよ』

 

ダ・ヴィンチとマシュの余計な一言に遂にエミヤがモニターの二人を睨み付けた。貴方はそんなエミヤの姿に朗らかになりながら、水澤悠へと言を放つ。

 

【採石場までお願いできるかな?】

 

【是非、力になってほしい】

 

ダ・ヴィンチとマシュ、そして貴方から期待を寄せられた水澤は、再び驚いた表情を見せるが、すぐに笑顔になり貴方へと手を差し出した。

 

「こちらこそ、よろしく。改めて、僕は水澤悠。アマゾンオメガに変身する、人類史の反英雄だ。でも、この場においては僕は命を懸けて君を守ることを誓うよ」

 

【よろしく!】

 

貴方は差し出された水澤悠の手を力強く握り返したのだった。

 

 

ーーーーー

 

 

「では、出発としようか」

 

エルドラドのバーサーカーの号令に貴方と水澤が頷く。

 

貴方が水澤と握手をしたあと、貴方たちはすぐに準備を始めた。ダ・ヴィンチとマシュは安全なルートの検索。エミヤとナイチンゲールは人々への状況の説明。そして貴方たちは採石場への出発の準備を行った。

そして数十分後、貴方たちはすぐに平屋から採石場はへと歩みを始めたのだった。

 

「ずいぶんと旅に慣れた様子だね。採石場へはけっこう距離もあるから飲み食いが出来ないとなると生身だときついと思うけど」

 

【アメリカ大陸を横断したこともあるからね】

 

【実は結構しんどいです】

 

道中水澤が貴方へと声がかかる。貴方は[胸を張りながら・どんよりとしながら]水澤の問いに答えた。

 

「なかなか大変な経験をしてるんだね...まぁいざとなったら僕が担いでいくから安心して」

 

「おい、あんまりそいつを甘やかすな。意外と図太い奴なのだから放置しててもいい。何、殺さねば死なんだろうさ」

 

【アマゾネスなのにスパルタだ...】

 

【誉められてるのか貶されてるのか...】

 

そんな会話を挟みながら歩いていれば、貴方たちの視界に人型の影が写る。アマゾンだ。

 

「言っているそばからお出ましだ。あまりにも醜い...このような奴等が誇り高きアマゾンの名を騙るなど、堪えきれない侮辱だ...っ! 殺す、殺すコロスコロスコロスーーー!!!」

 

アマゾンの姿を見たエルドラドのバーサーカーは何かが切れたように理性をなくし、アマゾンのもとへと走り出していく。それを見た水澤はまたか、と呟きながら貴方へと説明した。

 

「彼女は僕がアマゾンのことを説明してからアマゾンを見るとずっとあんな調子なんだ。なんというか既視感がすさまじくて...放っておけなかったから僕が勝手に彼女に付いていったんだよ」

 

【まぁそれはね?】

 

【一応アマゾネスの女王だから...】

 

貴方は暴走するエルドラドのバーサーカーを見ながらしかし遠くを観るような目をした。

 

「マスター、指示を頼むよ。僕は君のサーヴァントとなった。少しは信頼してもらえるように頑張るよ」

 

【エルバサちゃんの援護をお願い!】

 

【頼りにしています!】

 

水澤の言葉に、貴方は指示を出す。すると水澤もベルトを手に持ちそれに答えた。

 

「それじゃあ、行こう...アマゾンッ!」

 

熱波を纏い、緑色の影が異形の群れへと駆り出していったーーー。




次回、過去話


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第5節 EAT KILL ALL 4/6

エネミーアイコン:様々

サポートサーヴァント

エルドラドのバーサーカー

アマゾンΩ




ーーーー久しぶりに外に出た。

 

あの人からはなるべくここにいろと部屋を渡されたが、あいにく室内での娯楽はまったく心得ていなかったから何をすればいいか分からなかった。

できたのは昔の思い出を思い起こすことだけ。

それも大分薄れてきて、自分がどんな生き方をしてきたのかすら忘れてきている。

そんな中で思い起こせたのは古くて朽ちかけた牧場。

そこで自分がどんな思い出を作っていたのか、少し気になったから食事を取りに行くついでに外に出てみた。

 

後ろには懲りずに連いてくる2体の怪物。

監視が目的なのか、それとも他にやることがないのか。

そういえば名前を決めるんだった。

なるべく覚えやすいものがいいかな。

そうだな、だったらーーー。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「ふぅ、スッキリした」

 

 

【エルバサちゃんヤりすぎ!!】

 

【辺り一面に命だったものが...】

 

 

道中、アマゾンを見かけるとすぐに突っ込んでいき戦闘をおこなってしまうエルドラドのバーサーカーの呑気な一言に、遂に貴方は大声で突っ込んでしまう。

さらにその横では頭を抱えた水澤悠もため息をはいていた。

 

「無駄だよマスターくん。霊基がバーサーカーだし、言って素直に聞いてくれる人じゃないのは経験でよく分かる...」

 

まるで以前にも同じような人種を相手にしていたかの言い方をする悠は、カルデアが送ってくれたマップを頼りにそのまま先へと進む。

エルドラドのバーサーカーはいうとそんな悠をジと目で睨みながら一言ぼやいた。

 

「なんだ、まるで私が癇癪を起こした子供のような言いぐさだな。貴様だっていざ戦闘を始めれば狂戦士にも負けぬ派手な戦いを始めるではないか。うむ、似たようなものだ」

 

【すごいこじつけを見た...】

 

【断じて同じではない】

 

貴方は極論を放つエルドラドのバーサーカーにツッコミをいれながら悠の後ろをついていく。エルドラドのバーサーカーもまた貴方たちに色々と言われながらも渋々と殿につく。

 

【そういえば水澤さん】

 

【鷹山さんとはどんな関係?】

 

歩くなかで話のネタとして貴方が話題を振ると、悠は歩く先を見ながら答える。

 

「悠でいいよ。君はマスターなんだから...そうだな、仁さんとの話をするなら僕の出生から話すことになるし、ちょっと長くなるけど、それでも聞くかい?」

 

【もちろん!】

 

【あっ、でも話したくないことならいいですよ?】

 

貴方が多少気を遣うと悠はふっ、と少し笑いを溢した。

 

「構わないよ。なんだかずっとバーサーカーさんと一緒に歩いてたから気を遣われるのが新鮮だね」

 

「遠回しに私をディスるな」

 

エルドラドのバーサーカーが悠の発言に少しムッとすると、同時に何もない虚空に映像が写りだす。カルデアからの通信だ。

 

『面白い話をしているね。悠くんの出生、それは私としても実に興味深い。よかったら共に聞かせてくれることを許してくれるかい?』

 

モニターから出てきたのは言わずもがなダ・ヴィンチだった。ダ・ヴィンチは悠に傍聴の許可を求めると、悠もそれに答える。

 

「もちろんいいですよ。どこから話そうかな...そうだね。実は僕は最初、自分がアマゾンだと知らされずに生かされていたんだ」

 

悠はダ・ヴィンチに返答すると、静かに、そしてまるで自分にも言い聞かせるかのように語り始めた.........

 

 

 

 

僕が母さんの遺伝子から生まれたアマゾンだということはさっき話したよね?

僕は母さんのもとで生まれて、ずっと家のなかに閉じ込められていたんだ。自分のことをなにも知らされずにね。

僕が置かれた部屋は家具が最小限に置かれた殺風景な部屋だったよ。

着る服も白色の無地のものばかりで、食事もサプリメントだけだった。外に出ることも許されていなくてね。当時の僕はまるで家で飼われているペットのような存在、いや水槽の中の魚かな? ともかく普通の青少年のような生活はしていなかったよ。

でも別に寂しいとか嫌だなって感情は起きなかったな。僕自身、生まれたときからその生活が普通だったから。不自由もなかったし不満もなかった。

趣味として水槽作りもさせてもらっていたからね。

それに妹と呼べる人も...いやこれはいいか。ともかくアマゾンである僕の出生は、意外と静かなものだったんだ。

 

 

 

水澤悠はそこまで述べると貴方の方を向く。そのとき貴方が見た悠の顔は、過去を懐かしむような穏和な表情ではなく、まるで今言ったことが他人事であるかのような感情のない表情であった。

 

【そこからどうしてアマゾンに?】

 

貴方が尋ねると、悠はまた前を向き語りを始める。

 

「...僕が自分をアマゾンだと気づいたきっかけは、僕のある我が儘からだったんだ」

 

 

 

さっき不満はなかったって言ったよね?でも本当はひとつだけ嫌なことがあったんだ。

それは母親から絶対に毎日続けるように言い渡されていた、投薬だった。

なんのための薬か、自分は病気なのか、それすら伝えられずただ続けるように言われていたんだ。

...察する通り、それは僕の中のアマゾン細胞を抑えつける抗生剤だった。僕はそれを打ち続けることが日に日に嫌になってきていた。つまり僕の中にあるアマゾン細胞が、次第に覚醒しようとしていたんだ。今思えば、よくもそれまで耐えきれていたと思うよ。

そしてある日、僕はついにその投薬を自分の意思でやめた。それによって僕の中のアマゾン細胞が活性化して、そして僕は遂にアマゾンとして覚醒したんだ。

 

 

 

 

「仁さんとはその時に知り合ったんだ」

 

水澤悠はそう言うと顔を天に向ける。今度は他人事のような顔ではなく、しかし知人を思う優しい顔でもない、何かを哀れむ表情を張り付けて。

 

「仁さんは、その時からアマゾンを殺し尽くすことに執着していた」

 

それを聞き、貴方が思い出したのはアパートの外で殺戮を繰り広げていたアマゾンアルファの姿。

アマゾンを殺すことだけに特化した彼は、その当時からの戦闘により今でも研ぎ澄まされているのだろうと貴方は予測した。

 

「当時の僕は混乱していた。今まで自分は人間だと思っていたからね。でも仁さんはそんな僕に、お前は人を食うアマゾンだと突き付けたんだ。

怒りもした。知っててそれを教えなかった母親にも、同じアマゾンである僕にアマゾンを殺せと命じる人たちにも、そしてアマゾンの命を弄んだ奴らにも。その中で僕は、自分なりの答えを出した。そして、とても大切な人から、優しい願いも受けた。これが正解だったかどうかなんて分からないけど、精一杯の力を尽くして生きていった。仁さんとはその途中で何度もぶつかり合って、時々手を貸したりもしたけど、結局は...」

 

そこで話を切り、また悠は貴方の方を向く。今度は優しい、小さな笑みを浮かべながら。

 

「これが僕の出生。仁さんとのことはあんまり話せなかったけど、あんまり言うと本人が嫌がるからね。ごめん」

 

【謝らなくていいよ】

 

【話してくれてありがとう】

 

小さく頭を下げた悠に、貴方はお礼を言う。それを聞き悠もまた小さな声で貴方に謝辞を述べた。

 

「聞けば聞くほどに虫唾の走る話だ。人自らが生み出した異形の怪物のせいで、人理の危機が訪れる...まさしく人間の愚かさの象徴というものだな。こいつらは」

 

傍で聞いていたエルドラドのバーサーカーも、悠が話終えたのを期に感想を述べる。その言葉には、頑なに怪物らを自分達の聖地の名で呼ばないようにしている意思が存在しているようだった。

 

『ふむ、エルドラドのバーサーカーの言うことは、こちらとしても耳が痛いね。生命を弄ぶというのは、カルデアのなかでも他人事ではないからね』

 

『.........』

 

ダ・ヴィンチがそう言うと、彼女の隣でモニターに入り込んでいたマシュが目を俯かせるのを貴方は気付いた。

ダ・ヴィンチの言ったカルデアが命を弄んだという事実、それはそのままマシュの存在へと繋がることであったからだ。

 

『元来、生物が優等種を求める事例は数多くある。人間以外でも獅子だって我が子を谷から落として育てていたのだし、スパルタなんてその語源の通り厳しいという言葉では通らないほどの英才教育を若人に積ませていたみたいだからね。その欲求を否定することは出来ない』

 

ダ・ヴィンチは生物の進化への欲求について語る。貴方や悠はもちろん、エルドラドのバーサーカーも、ダ・ヴィンチの語る言葉に耳を傾ける。彼女もまた、女戦士を育ててきた女王だからこそ、ダ・ヴィンチの語る話には共感を持てるのだろう。

そしてまた、ダ・ヴィンチもエルドラドのバーサーカーもその欲求に理解を持てているからこそ、アマゾンという存在を許容できないのだ。

 

 

『生物の進化への欲求は否定できない。だがしかし、だからといって進化のために他の生命を勝手に産み出して、要らないものだからと手前勝手に排除しようとするのは、あまりにも業が深すぎる。それが、生まれたばかりの何も知らない弱い生物ならなおさらね』

 

ダ・ヴィンチは影を含んだ声色でそこまでを話すが、すぐに強い眼差しを帯びた表情に戻り、今度は貴方に強い口調で話しかけた。

 

『アマゾンはその誕生の経緯こそ悲劇だが、しかし何分彼らは強すぎた。マスターくんも察する通り、このままアマゾンの繁殖を放置すれば、この世界の人理は文字通り食い荒らされるだろう。優しい君には酷な話だろうけど、あまりアマゾンに同情しすぎないでくれよ?』

 

いいね?、とダ・ヴィンチは強く貴方へ問いかける。

貴方はその問いに対し、

 

 

【強く頷く】

 

【悠の表情を覗く】

 

 

貴方の行動に、悠は何も言わず、ただ見守るだけであった。

 

「ちょうど話が落ち着いたところで報告だ。物陰から奴らがこちらをうかがっている。先手をとるぞ」

 

エルドラドのバーサーカーの一言で貴方たちの周りに緊張と警戒が走る。

悠もまた、ベルトを取り出していつでも戦闘体制に入れるようにしていた。

すると、エルドラドのバーサーカーの言う通り、道の物陰から複数のアマゾンが虚ろな目でこちらを捉えながら唸り声とともに現れ始めた。

 

「.........」

 

悠はそんなアマゾンたちを物憂げな表情を浮かべながら見つめる。

貴方は悠のその表情に気づきながらも、今はただ自分のやるべきことを見つめ直し、血の臭いが漂う空気を気にせず深呼吸をする。そして二人に対して強い口調で号令をかけた。

 

【行くよ、二人とも!】

 

「無論だ。奴らはすべて殺す。皆殺す。殺す殺す殺す殺すころすころすころすコロスコロスコロスコロスコロスコロスーーーーー!!」

 

エルドラドのバーサーカーの叫びとアマゾンたちの雄叫びが重なりあい、戦闘の火蓋は切られた。




次回、再会



配布星4はニトちゃんにします。周回に便利すぎる...


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第5節 EAT KILL ALL 5/6

エネミーアイコン:? 凶 殺 槍


サポートサーヴァント制限

アマゾンΩ


道中、疎らに襲ってくるアマゾンたちを危なげなく退けながら貴方たちは遂に目的地である採石場にたどり着いた。

 

「やっと着いた。飲まず食わずだったからマスターも大変だったよね。もう少しだから」

 

集団で前を歩く悠はその後ろで額に汗を流しながら息をつく貴方へと気遣いの言葉をかける。

それに対して貴方は、両腕を挙げてまだまだ元気であることをアピールしながら笑みを浮かべて返答した。

 

【ヘーキヘーキ!】

 

【気遣ってくれてありがとう】

 

悠は貴方の動きに小さく笑みを浮かべ返すと、また前へと向き直った。

そんな折、貴方の持つ端末から立体映像と音声が流れ出る。そこに映るのはマシュだった。

 

『採石場の中心地がちょうど霊脈の真上となっています。道中大変でしたが、もう少しの辛抱です。先輩、ファイトです!』

 

マシュもまた貴方に向けて力強いエールを送ってくれる。貴方は健気にもこちらを気遣ってくれる後輩の言葉に自然と笑みを溢しながら、先程よりも足が軽くなったような感覚を得た。これならばもう少し前に進むことも余裕だろうと感じつつ、貴方は映像のマシュに感謝の言葉を送った。

 

しかし束の間、同じくモニターの奥に映るダ・ヴィンチが深刻な声でこちらに呼びかけた。

 

『いやちょっと待ってくれ。その先に霊脈があるのは確かだ。でもその奥から多大な生命反応が検出されている。明らかにアマゾンの群れだ』

 

「何だと?」

 

ダ・ヴィンチの報告にエルドラドのバーサーカーが思わず聞き返す。悠もまた表情を強張らせ、貴方のこめかみには疲れ以外の汗が流れていった。

 

『これは...罠とみたほうがよいのでしょうか?』

 

マシュが緊張を含んだ声で誰に言うでもなく言葉を投げる。

それに答えたのは意外な人物、悠であった。

 

「それは...考えにくいな。この現状の黒幕が誰かはまだ不明だけど、少なくともアマゾンたちは魔術なんてものを知らない。そんな彼らが霊脈なんて存在は知る由もないはずだ。なのに待ち伏せなんて...」

 

悠は顎に手を当てて考え込む。確かに道中で聞いた悠の話から、アマゾンやアマゾンを産み出した研究者たちが魔術に通じていたなどの話はなかった。しかし現にアマゾンたちは貴方たちを待ち受けるかのように採石場に集っている。これを偶然と見るか、あるいは...

 

【黒幕に魔術に長けたものがいる?】

 

【黒幕は魔術師?】

 

貴方が呟くとダ・ヴィンチが食いつくように答える。

 

『その可能性は十分に考えておく必要があるね。この地の霊脈はそこまで強くない。カルデアのセンサーでようやく見つけたぐらいの場所だ。なのにそれを先回りで探られていたとなると、中々の魔術師が向こうに潜んでいると考えた方がいいだろうね』

 

ダ・ヴィンチの言葉に貴方は息を飲む。生存能力の高いアマゾンに魔術師というパーツが組合わされば、より大きい脅威になるだろう。貴方たちは不安を募らせるが、傍にいたエルドラドのバーサーカーがそんな貴方たちを一喝する。

 

「だからなんだというのだ、くだらん。そもそも向こうにサーヴァントがいた時点で魔術師の存在など予見できていたはずだ。今さら魔術師の存在の有無など無駄な思考に囚われるな」

 

『いやまぁ、それもそうなんだけどね...』

 

エルドラドのバーサーカーの言葉に返す言葉をなくすダ・ヴィンチに、さらにエルバサは言葉を投げる。

 

「やるべきことは変わらん。奴らが霊脈を占拠しているのならば強襲して奪うだけだ。罠かどうかなどそれから考えればいい」

 

【すごくバーサーカーだなぁ】

 

【でもそれしかないね】

 

貴方はエルドラドのバーサーカーの案に凶戦士らしさを感じるとともに、現状を考えこむよりそれが一番であると思い至り、彼女の意見に乗った。

 

「魔術師の存在...溶原性アマゾン細胞...もしかして何か関わりが...」

 

一方、悠は魔術師という単語を聞いてからブツブツと呟く仕草を続けている。貴方、そしてダ・ヴィンチはそんな彼が気がかりになり話しかけた。

 

『どうしたんだい水澤くん? 魔術師の存在がそんなに気になる?』

 

ダ・ヴィンチに声をかけられた悠はようやく顔を上げて貴方たちの方へと向いた。

 

「いや、きっと僕の考えすぎだから...バーサーカーさんの強襲の案には賛成かな。ここで考え込んでも埒が明かないし、そろそろマスターにきちんとした物資が必要だと思うから」

 

『水澤さんの言う通りです。先輩のバイタル値は今はまだ正常値ですがこれ以上低くなると警戒値になりますので...』

 

悠とマシュの意見も加わり、貴方たちの方針はあらかた決定する。

 

『では強襲は決定だね。次は作戦内容だ。幸いここにはライダーのサーヴァントが存在する。なら、やることはひとつだけだね』

 

ダ・ヴィンチはニヤリと笑いながら楽しそうに作戦内容を話す。

これは随分荒っぽくなりそうだと、貴方は彼女の表情から予見した。

 

 

 

―――――

 

 

 

熱い空気が流れ込んでくる。

採石場に集ったアマゾンのうち、一番外側にいたアマゾンたちがそれに気づいた。

続いて感じたのは遠くから聞こえる音。

それは空気が弾けるような、地面を散らすような、不快感を感じさせる爆音だった。

その音が徐々に大きくなってきている。こちらに近づいてきているのだ。音に気づいて多くのアマゾンたちが音の聞こえてくる方向を向く。音はなおも大きくなってきている。

採石場の中心地はくぼみのような立地になっていた。そのためアマゾンたちは遠くからの音や匂いに気づけてもその正体を視認できない。アマゾンたちはこちらに迫ってきている爆音の正体が分からなかったのだ。

アマゾンたちは緊張などしない。ただその音に反応しているだけだ。そして遂に音がすぐ近くまでやってきた。その時。

 

 

アマゾンたちの目の前に金属の馬、バイクがくぼみの上から飛び出してきたのだ。

 

「ーーーーーーーッッッ!!!!!!」

 

その直後、バイクからまるで人間らしからぬ雄叫びが炸裂し、アマゾンたちの耳をつんざくと、その雄たけびの主、エルドラドのバーサーカーが飛翔しているバイクから、群れているアマゾンたちの中心へと鉄球を抱え、榴弾のごとく飛び落ちていった。

突然の出来事に食欲しか持たないアマゾンですら混乱が生じる。しかしそれこそ貴方たちの狙い。混乱しているアマゾンたちに対しエルドラドのバーサーカーは容赦なくその手の鉄球を振り回し、周りにいるアマゾンたちの尽くを殺戮していった。

 

同じ頃、飛翔しているバイクの上では既に変身を終えている悠、アマゾンオメガとその後ろにピッタリとしがみついている貴方の姿が合った。

 

【なんと無茶な作戦!!】

 

【耳がキーンとする...】

 

貴方は大声を挙げながらバイクの上で感じる浮遊感の恐怖と戦っていた。

ダ・ヴィンチが語った作戦、それはあまりにも単純で、あまりにも乱暴で、そして現メンバーで出せる最善の策であった。

その名も『アマゾネス爆弾作戦』。採石場の立地がくぼみになっていることに気づいたダ・ヴィンチの作戦は、まず、アマゾンオメガの宝具の一つであるバイク(正式な名はジャングレイダーと言うらしい)で飛び出たあと、エルドラドのバーサーカーをアマゾンたちの中心点に投下。アマゾンたちに混乱を与えた後、その機に乗じてエルドラドのバーサーカーの制圧力とアマゾンオメガのバイクによる撹乱で、向こうの数を減らしていく作戦であった。

となるとマスターである貴方はどうなるかと言えば、アマゾンオメガが操るバイクに共に搭乗し、その背中に必死にしがみつくほかなかったのである。

その際、突如作戦にないエルドラドのバーサーカーの雄叫びを受け、貴方の鼓膜は大変なことになったが、誤差の範疇であろうと、モニターで見守るダ・ヴィンチはゆっくりと目を逸らしたのであった。

 

 

「ーーーーーーーッッッ!!」

 

[violent break]

 

 

しかし作戦自体は開幕として上々の仕上がりであった。

ようやく反撃の体制を整えたアマゾンたちに、なおも雄叫びを上げながら狂気の剛力を見せつけるエルドラドのバーサーカーに、飛翔を終え地面に勢いよく着地した(その際着地点にいたアマゾンを容赦なく踏み潰した)アマゾンオメガは同時にベルトのグリップの片方を引き抜きどのような原理は分からないが槍を生成すると、片手でバイクを運転しながら次々とアマゾンを轢き殺し、槍で突き殺していった。

 

制圧と撹乱。

見事に噛み合った二人のサーヴァントの活躍により、アマゾンたちの群れはドンドンと数を減らしていく。

これはなんとかなりそうだ。貴方が周囲を見ながらアマゾンオメガの背中でそう考えていると、突如、アマゾンオメガがバイクの進みを止めたことに貴方は気づいた。

 

【悠さん?】

 

【どうしたの?】

 

貴方はアマゾンオメガの背中に問いかけるが、返事はない。様子を見ると、どうやら彼は顔を進行方向に向けてまるで時が止まったかのように固まっていた。

気になった貴方はアマゾンオメガの背中から顔を出して前方を覗いた。そこにいたのは...

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、水澤くん」

 

 

 

 

 

「マ.........モ...ル、くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは、少年と呼べるほど幼い顔をした青年の姿だった。

服は鷹山や悠と同じぐらい薄汚れ、髪も全く整えられていなく、靴も履いておらず、裸足でそこに立っていた。

一番に目を引いたのはその顔であった。さきほど幼い顔と評したが、それはなにもない綺麗な顔のままであったならばそうであろうという仮定の話だ。実際に、貴方の目に映る彼の顔は、()()()()()()()。特に、口の周りが。まるで絞めたばかりの生き物の肉を喰らったばかりかのように、いや、喰らい続けたかのように。その顔は、真っ赤に染まり、そして笑っていた。

 

アマゾンオメガ、水澤悠は先程のかすむような声をひねり出してから固まり、動かない。

貴方は彼の異変に気づきながらしかし、目の前で佇むマモルと呼ばれた青年のあまりの異様さに動くことができなかった。

そのまま時が止まったかのように動けない貴方たちに、いや、悠に対し青年は話しだした。

 

「君もこっちに来てたんだね。もっと早く会えればよかったんだけど、こっちもなにかと忙しくて。でもこうして会えて嬉しいよ、水澤くん」

 

まるで成人式で久しぶりに合う友人に声を掛けるかのように、青年は笑顔のまま気さくに悠へと声をかける。

それを受けてようやく悠も硬直から解かれ、青年へと言葉を返した。

 

「どうしてここに!? このアマゾンたちはマモルくんが操ってるの!? それにその顔...もしかして...!!」

 

「うん。食べたよ。人間」

 

素っ気なく言うマモルと呼ばれる青年の答えに、悠は絶句する。仮面で覆われたその姿だが、貴方はその裏で彼の絶望に暮れた表情が写るのが見えた。悠の感情が伝播するように、貴方もまたマモルの答えに眉を顰めさせる。

すると、ようやく貴方の存在に気づいたマモルはさきほどまで貼り付けていた笑顔を瞬時に無くし、無表情で貴方を見つめた。

 

「その子が、カルデアのマスター?」

 

「!?」

 

咄嗟に、悠は片腕で貴方を守る仕草をとる。貴方もまた気づいていた。今、マモルと呼ばれる青年が貴方に対し強い殺気を放っていることに。

 

「そっか...水澤くんはまた、僕たちを守らないんだね」

 

「違うマモルくん。こんなの、間違ってる」

 

「でもね、いいんだ。もう」

 

噛み合っていない。悠と、マモルと呼ばれる彼の会話が、全く成り立っていないことに貴方も、悠も気づいている。

気づいていないのはマモルだけだ。

マモルの周囲に多くのアマゾンが集う。

 

「見てよ、このアマゾンたち。こんなに増えたんだよ。いやもっと。これ以上にもっといる。彼らみんなが僕たちのために人間と戦ってくれる。守ってくれるんだよ!」

 

「ダメだ、マモルくん...こんなの絶対ダメなんだ...」

 

震えた声で紡がれる悠の願いは、届かない。

 

「きっと彼らの力を見たら水澤くんも考えが変わるはずだから。だから...カルデアのマスター、渡してくれる?」

 

「マモルくん!」

 

枯れた声で吐き出される悠の叫びも、通じない。

 

「大丈夫、水澤くんは殺さないよ。でも邪魔をするんだったら、ただですむと思わないでね」

 

「どうして!!」

 

【悠さん!!】

 

【やるしかない!】

 

貴方の声に押されながら、なおも悠の動きは鈍い。

 

「僕はっ...! 僕はっ...!!!」

 

アマゾンたちの凶刃が、貴方たちに迫る。




次回、奴が来る


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第5節 EAT KILL ALL 6/6

エネミーアイコン:讐・凶

サポートサーヴァント

騎 アマゾンオメガ

凶 エルドラドのバーサーカー


戦闘は、混沌に支配された。

 

「ぐっ!!」

 

「どうしたの水澤くん? 戦い方に切れがなくなってるよ。さっきまでの威勢はどこにいったのかな?」

 

襲い来るアマゾンたちをいなしていく悠...アマゾンオメガに対し、マモルと呼ばれる青年は顔に笑みを浮かべながら尋ねてくる。

アマゾンオメガはその質問を耳にいれながら、しかし答えることなく食欲を向けて襲いかかってくるアマゾンたちに意識を集中させようとしていた。

しかし、今のアマゾンオメガは、直接戦闘に携わっていない貴方から見ても本調子ではないことはすぐに見てとれた。その原因はただひとつ、あのマモルという青年の存在のせいに違いなかった。

 

「ほらほら、アマゾンたちはまだまだいるよ。そんな調子じゃカルデアのマスターを守りきることなんて出来ないね。こんな風に」

 

「■■■■■ーーーー!」

 

「しまった―――ッ」

 

死力を尽くしアマゾンを駆逐し続けるアマゾンオメガを尻目にマモルが貴方を見据えて手を挙げる。するとマモルの後ろからコウモリ型のアマゾンが飛び出し、アマゾンオメガの上空を越えて直接貴方を狙いにいったのだ。

反応が遅れたアマゾンオメガはすぐ貴方のもとへ駆け寄ろうとするが、周りのアマゾンたちが即座に囲みアマゾンオメガの動きを封じた。なおも速度を落とさずに貴方に迫ってくるコウモリアマゾンに、貴方たちは万事休すかと思われた、その時。

 

 

――――――ッッッ

 

 

貴方の頭上すぐ近くまで迫ったコウモリアマゾンは、その動きを完全に静止させた。そしてその頭部には鎖に繋がれた鉄球が頭蓋深くまで叩き込まれており、貴方はひと目見てコウモリアマゾンが絶命していることに気づいた。

 

「何?」

 

貴方という大将首を討ち取った気でいたマモルは突然のその光景にたまらず目を顰めさせた。それとは反対に貴方とアマゾンオメガはホッと息をつく。

コウモリアマゾンは悲鳴を挙げることなく貴方の目の前に落下すると、貴方はその鉄球に繋がれた鎖の先にいる人物に視線を投げて声を挙げた。

 

【エルバサちゃん!】

 

【ありがとう!】

 

そして貴方の声に反響するように返事はすぐ返ってくる。女性にも関わらず獣のごとく猛々しい叫声が。

 

「気を抜くな貴様ら!! 戦の場において真っ先に死ぬのは死に怯えたものからだ! 誇りのために死ぬ覚悟もないのに死にに来たのか!」

 

鎖の先にいた人物、エルドラドのバーサーカーは貴方たちに怒りをも込めた若干意味不明な叫び声を上げながら鉄球と鉤爪を駆使し周りのアマゾンたちを次々に駆逐していった。それはもはや悪鬼の如き殺戮ぶりである。

貴方は冷や汗を流しながら、感謝の言葉をエルドラドのバーサーカーへと小さく掛けて、再び視線をアマゾンオメガとマモルの方へと向ける。見るとアマゾンオメガは貴方が視線を外した一瞬のうちに周りを囲んでいたアマゾンたちを一掃したようで、現在はマモルと向かい合う形で挑んでいた。

 

「マモルくん...もうやめよう。こんなことをしても何も変わらない。意味はないんだ」

 

アマゾンオメガ...悠はマモルへと必死に説得の声を掛ける。彼らの関係を知らない貴方にとっては悠の話す内容は要領を得なかったが、しかしその様から彼らは以前仲間だったのではないかと予想を立てることはできた。

一方、マモルと呼ばれる青年は悠の説得の声をどこか上の空のように聞き流していた。目線はしっかりと悠の方へと向いているのに、まるで悠の背後にあるものを見つめているかのような表情であったのだ。

悠もマモルのその雰囲気に違和感を持ち、説得を中断して心配そうに彼の名前を小さく呼んだ。その時だった。

 

「ハハハ、ハハハハハ、アハハハハハハ!!!」

 

「!」

 

【!】

 

マモルは上の空だった表情を一変させ笑顔になり突如として奇声とも取りかねない笑い声を挙げ始めたのだ。

あまりにも不自然な挙動に貴方と悠、アマゾンの軍勢やエルドラドのバーサーカーすらも動きを止める。

そしてマモルはしばらく笑い続けた後、今度はしっかりと悠を視線に据えた上で言葉を放った。

 

「意味はね、あったよ、水澤くん。その証拠にここにいるアマゾンたちはこうして、()()()()

 

「っ! それ、は」

 

マモルの言葉に衝撃を受けた様子を見せる悠。貴方は彼らの問答の意味が分からず険しい顔つきでいると、端末から映像が映りだした。ダ・ヴィンチだ。

 

『なるほど、そういうことか...』

 

【ダ・ヴィンチちゃん?】

 

【彼の言いたいことが分かるの?】

 

ダ・ヴィンチの意味深なつぶやきに貴方が突っ込むと、ダ・ヴィンチは小さく頷き貴方に向けて解説した。

 

『彼はそう難しい事を言ったわけじゃない。前提として彼らアマゾンは本来の人類史では存在しない、あるいは存在しても人の記憶に残らず絶滅する...いや、人間によって絶滅させられる運命の生物だった。だがしかし、この特異点では彼らは絶滅を逃れ存在が立証された確立した生物となっている。そのことを彼は言っているんだろう』

 

ダ・ヴィンチの話に、貴方は以前に悠が言った言葉を思い出す。

 

 

[と、言ってもアマゾンという存在自体が確立が不安定で召喚されることなんてないはずだったんだけど、今回はとても安定した状態で現界している。多分この惨状が原因だと思うけど...]

 

 

【アマゾンの存在が確立してるから】

 

【悠さんも現界可能になってるのか】

 

貴方の考察にダ・ヴィンチはその通りと笑顔で頷いた。

 

『おそらく彼らの目的の一つはそれだったんだろう。アマゾンという存在の固定化。それによりアマゾンのサーヴァントを呼び出すことを可能とさせているのだろう。かくいうマモルとかいう青年、彼もまたアマゾンであり()()()()()()だ』

 

【あの人が】

 

【サーヴァント!?】

 

ダ・ヴィンチの言葉に貴方は驚くが、その反応を他所にダ・ヴィンチは話を続ける。

 

『マモルと呼ばれる彼はアマゾンを更に群体化させて人類史を乗っ取るのが目的かもね。しかしそんな最中、彼の目の前に同朋である知り合いが現れてこう言った』

 

『その行為に、意味はない。同じアマゾンである、友人に...』

 

ダ・ヴィンチの言葉に被せるようにモニター越しでマシュが悲しそうに呟く。貴方はようやくマモルの言った言葉の意味を知り、衝撃を受けた。

そしてその会話が聞こえていたのだろう、マモルはまたも吹き出すように笑いだした。

 

「そうだよ水澤くん。意味はあるんだ。存在しない僕たちアマゾンがこうして世界に存在できている。これだけで、この行いには意義があったんだよ。それに、君がそうやって現界してアマゾンたちを殺せてるのは、今君たちが殺してるアマゾン達がいるからなんだよ。それをさ、偉そうに意味がないって、君のやってることこそ無駄なんじゃないの?」

 

マモルは煽るように悠に向けて言葉を放つ。それに対し悠は拳を力強く握りしめると、喉から絞り出すかのような声でマモルの言葉に答えた。

 

「僕も、来たくてここに来たわけじゃ、ない...っ!」

 

「そうなの? だったらさっさと死んじゃえばいいのにさ。というかアマゾンのくせになんで人間に肩入れしてるの? こんなの間違ってるって、それ完全に人間の価値観じゃん」

 

悠が一言出せば、マモルはそれを上回る言葉を悠へとぶつける。対話での解決はもはや不可能であった。しかし、悠はなおも諦めなかった。

 

「駆除班の人たちはこんなこと、マモル君に望んでいなかった! あの人達はマモル君のことをずっと忘れなかった! それでも、人間を食べることが―――」

 

 

 

「あぁ、あの人達。()()()()()()()

 

 

 

「えっ―――――?」

 

マモルの口から発せられた衝撃的な言葉に、悠の動きが止まる。マモルはそんな悠を、まるで無垢な少年のようななんでもない顔で見つめていた。

 

『それって、そんな―――』

 

貴方と悠の代わりにモニターからマシュが口を開く。しかし、その言葉が全部出る前にマモルは割って入った。

 

「だから、食べたんだって。でもやっぱり好きな人のほうが美味しいんだね」

 

そう言い終えると、マモルは飛び切りの笑みをその顔に作った。人の血によって、赤く染め上げられたその顔に。

 

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

叫声と共に悠...アマゾンオメガがマモルへと腕に付けられた凶刃を向け、殺意のこもった突進を繰り出した。しかしマモルはその突進を読み取っていたかのように、アマゾンオメガの体を片腕一本で止めたのだった。

 

「やっぱり! これで怒るんだね、水澤くん!!」

 

「君は! 取り返しの付かないことをしたんだぞ!!!」

 

「それでいいんだよ! だって僕らはアマゾンなんだから!!」

 

「それでも君は! 優しい心を持ってたはずだ!!」

 

「違う! 僕たちがいつも心に秘めてたもの! それは!!」

 

その瞬間、マモルの体から煙が吹き出し、アマゾンオメガと共に二人を包んだ。そしてそれが晴れたとき、その場にいたのはアマゾンオメガと、ドリルのような顔が印象的なモグラをモチーフにしたアマゾン、モグラアマゾンだった。

 

 

「食欲だ!!!!!」

 

 

 

怪物同士の戦いが今、始まった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

アマゾンオメガとモグラアマゾンの戦闘が始まり、一体どれぐらいの時間が立っただろうか。その間他のアマゾンたちは貴方を食すために貴方に迫り来ていたが、そのすべてが貴方に辿り着く前にアマゾンオメガとモールアマゾンの戦闘に巻き込まれるか、エルドラドのバーサーカーの蹂躙によって息を途絶えていった。

 

『凄い...でもこんなの、人間の戦いとは...』

 

『そりゃそうさ。彼らはアマゾンなんだから』

 

アマゾンオメガとモグラアマゾンの戦いは凄惨を極めていた。

モグラアマゾンがその鋭い爪でアマゾンオメガの胸を深く切り裂くが、アマゾンオメガは吹き出す胸の血に構わずアームカッターでモグラアマゾンの脇腹を抉る。しかしモグラアマゾンもまたその傷には目もくれず、姿勢の低くなったアマゾンオメガの肩へと噛み付き、そしてそれと同時に顔のドリルも回転させることでアマゾンオメガの首の肉を巻き込ませその首に噴水のような血しぶきを作り上げた。だがアマゾンオメガは痛みなど感じていないかのごとく、組み付いたモグラアマゾンの腹へとベルトから取り出したブレードを差し込み、抉りこんだ。

 

あまりにも無防備にすぎる戦いだった。もはや二体とも戦闘における守り方など忘れているのではないかと思わせるような、感情に身を任せた殺し合いとなっていたのだ。

二体の足元には赤い雨でも降ったのかと思わせるほどに大きな水たまりができていた。あれだけの血が流れれば人間ならばたとえ英霊であろうと死んでいる。だがしかし、彼らはなおも立ち続け、殺し合いを続けている。

貴方は怖かった。それはオメガが死ぬかもしれないからではない。人知を超えた存在が目の前にいるからでもない。ただ、信念もなく、誇りもなく、感情だけで生物と生物とが殺し合っている様子を見ること、それが貴方にとってあまりにも耐え難いことだったのだ。

エルドラドのバーサーカーは二体の殺し合いに介入する気はないようだった。彼女はただ貴方と彼女の周りに群がろうとするアマゾンたちを無慈悲に潰していくだけで、二体のアマゾンの殺し合いへは時折視線を投げるだけで、いつもの彼女らしくない行動に貴方は少し困惑も覚えた。

令呪を切り、オメガの傷を治すことも考えた。今使えば間違いなくオメガがモグラアマゾン...マモルを殺し切ることができることも見えていた。しかしそれをしてしまえば、取り返しの付かないことになる。貴方はそう思えて仕方なかったのだ。

故に、貴方は見守るしかなかったのだ。この殺し合いの末を。

 

 

 

「「■■■■■■ーーーーー!!!」」

 

 

二体のアマゾンが距離を取り、そして同時に雄叫びを上げる。

それを肌で感じながら貴方は感じ取った。次の一撃ですべてが決まると。

二体のアマゾンたちはその凶刃を互いの急所に向けて狙いを定め、そして走り出す。

もはや死は免れない。その殺し合いを覗く全ての者がそう思った瞬間だった。

 

 

 

「また面白そうなことしてんじゃねぇか」

 

 

 

[Alpha Blood and Wild! W-W-W-Wild!!]

 

 

 

 

突如起きた熱波が彼らを含め、貴方たちを吹き飛ばしたのだ。

 

 

 

 

【今の声!】

 

【もしかして!】

 

貴方はすぐさま起き上がり、先程聞こえた音に反応した。

端末からは突然のことに貴方を心配するマシュの声が聞こえる。しかし、申し訳ないことに貴方はその声に返事をすることができない。

なぜならば貴方の視線の先にはこの現状を色んな意味でぶち壊してくれる男が立っていたからだ。

 

「今のは、まさか本当にっ!」

 

「なんで、どうしてお前まで!!」

 

同じく熱波に巻き込まれ倒れ伏すアマゾンオメガとモグラアマゾンもまた、その男へと視線を向け、声を上げる。

その視線の先にいるその男とは―――。

 

「そうだよ。鷹山さんだ」

 

鮮血を浴びたかのように赤いフォルムが印象的な、貴方たちがこの特異点で一番最初にコミュニケーションを取ったアマゾン。

 

アマゾンアルファ。鷹山仁であった。




次回、合流



平ジェネFOREVER最高でした。皆さんも是非見に行きましょう。

活動報告にて感想あり(ネタバレ注意)



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第6節 FOR LIFE 1/3

歩き始めてどれくらい時間が経っただろう。

腹は減るし、食料もないし、景色も変わらない血深泥の赤い建物ばかりだ。

外に出掛けたことを少々と悔いるが、まぁあの変哲もない部屋でだらだらするよりはマシだなと、見方を変えて道を進んでいく。

後ろには変わらず2体の怪物が着いてくる。

先程つけた名前で呼んでみるが返事どころか反応すらない。

一体何がしたいのか、自分になぜ着いてくるのか、興味はないがその行為の意味ぐらいは知っておきたい。そう思い、もう一度尋ねてみた。

すると2体の怪物は返事はしないものの、自分の問いに合わせてその体から蒸気を噴き出し、怪物の姿から人間の姿へと変化を始めた。

初めて反応を示した2体の怪物に少し感動を覚えていると、突然、人間へと化けたそいつらは自分に向けて言葉を発した。

 

 

ーーー■■■

 

 

何か、思い出せそうな気がする。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

「そうだよ、鷹山さんだ」

 

採掘場での決戦。その終局とも言えよう状況の中、見栄を切るかのようにアマゾン体へと変身した鷹山仁は、倒れ伏すその場のすべてのものに聞こえるように飄々と言葉を言い放った。

その異質たる存在に、あるものは驚愕を、またあるものは憎悪を、そして貴方は安堵の表情を彼へと示したのだった。

 

【生きていたんですか!】

 

【良かった!】

 

貴方は叫びながら、目の前に現れた鷹山へと声をあげた。

貴方は鷹山仁と離れたあと、彼について心残りが大きくあったのだ。目的の違いから彼とは行動を別にしたが、貴方は鷹山仁という男が悪人だとずっと思ってはいなかった。故に今、こうして彼と再会できたことに貴方は素直に嬉しかったのだ。

 

「仁さん...どうしてここに...!」

 

「こんなわんさかアマゾンたちが集まってんだ。俺が見逃すはずないだろ?」

 

熱波に巻き込まれ変身解除をさせられた悠は、突如現れた鷹山へと驚愕に満ちた声で疑問をぶつけると、鷹山はまた飄々と答える。まるでここに自分がいることが当然かのように。

そしてその鷹山を憎悪に満ちた目で見るものがいた。モグラアマゾン、マモルだ。

 

「鷹山仁...っ! まさかお前もここに来るとはね!」

 

マモルもまた、人間体へと戻ったその体をふらつかせながらも立ち上がり、鷹山を真っ正面から睨み付ける。

それに対し、鷹山は態度を変えず顔だけをマモルへと向けた。

 

「お前も変わったなぁ...いや、アマゾンの本性をついにさらけ出したってところか...まぁ、そんなもんだろうよ」

 

「黙れ...!お前だけは絶対に逃がさない! ここで殺してやる!」

 

マモルの叫びに鷹山はというと、まるで子供の癇癪を受け流す親のように小さく笑い声を漏らし首だけでなく体の向きをマモルへと向ける。

 

「なんだぁ? 性格もまるっきりアマゾンになってんじゃねぇか、まぁいいが。逃がす気がないのは俺も同じだからよ」

 

鷹山はそう言い放ち人差し指をマモルへと向けると、クイッと小さく動かす。その行為は明らかな挑発、やるならかかってこいと表したものだと、その場の誰の目から見ても明らかであった。

 

「仁さん!やめてくれ! 彼は僕のっ…!」

 

「僕の、何だ? 殺し合うほど仲の良い友だちだから見逃してくれってか?」

 

 

「っ! それはっ―――」

 

鷹山の行動に悠は制止の声を挙げる。しかし、その後鷹山から発せられた一言により悠はそれ以上言葉を紡ぐ事ができなかった。

それもそのはずである。悠は先程まで守ろうとしている青年…マモルと、殺し合っていたのだから。

 

「死ぬのはお前だ...見てみなよこの数のアマゾンを。こいつら全員がお前に一斉に襲いかかる。これならお前でも―――!」

 

鷹山の挑発に当てられ、体から蒸気を吹き出しながらも意気揚々と言葉を投げるマモル。

しかし、彼の足元に投げられた何かにより、マモルがその先の言葉を話すことはなかった。

 

「お前の言うアマゾ...やはり駄目だな、怪物たちならばもういないぞ」

 

そう言い放ったのはこれまで沈黙を保ち、状況を俯瞰していたエルドラドのバーサーカーであった。彼女は貴方の背後からマモルの足元へ何かを投げるとそれを指差しながら呆れたようにマモルへと話を始める。

 

「貴様とそこの緑のがじゃれている間に大半は私が片付けてやった。残ったやつもその赤いのが現れて逃げ出している。その首は貴様を除いた最後の一体のものだ。欲しければくれてやる」

 

エルドラドのバーサーカーの言葉通り、貴方は周りを見てみると無数に囲んでいたアマゾンたちが遺体以外一切いなくなっていることに気づく。マモルもまたその事実に気付いたようで、目を大きく広げながら自らの足元に転がってきたアマゾンの生首を見つめていた。貴方はいつの間にと思うと同時に、形勢逆転したこの事実から、マモルへと提案を持ちかけたのだった。

 

【降伏してください】

 

【貴方を倒したくない】

 

貴方の言葉に、マモルは一瞬その体を反応させる。そして体から噴き出す蒸気を止めると、見つめていた首をその手で持ち上げたのだった。

 

「倒したくない、か」

 

マモルが持ったその首は、形状を数瞬まで持ちこたえさせたが、胸まで持ち上げたその時、ドロドロの液体へと変わり支えていた指の間を通り抜けていった。

それを胡乱げに見つめていたマモルは、その感触を覚え込むように手を強く握ると、貴方へと向き直り、言葉を放った。

 

「これだけ殺しておいて、倒したくない、か。やっぱり人間は傲慢だ」

 

マモルは睨み付けながら貴方へと話しかける。先ほどの悠の添え物に対してへの言葉ではない、貴方を憎悪の対象として見なし話しかけていたのだ。

マモルの殺気に気付いた悠は、咄嗟に貴方とマモルの間へと入り込んだ。

 

「駄目だマモルくん。彼を殺すなら、僕はもう君に容赦できない」

 

「また随分と人間に入れ込んでるね。水澤くんだってアマゾンでしょ? そいつらに同士を殺されて何も感じないの?」

 

「彼らだってアマゾンによって同種の人間を大勢食われている。その惨状だって見ている。この場所で、僕たちは被害者にはなれない」

 

「そんなこと関係ないよ。問題なのは水澤くんがアマゾンか人間か、どちらの味方なのかってことだよ。まさか、本気で人間たちに協力するつもり? そんなことしたって意味なんかないのにさぁ!!」

 

突然怒鳴り声をあげるマモルに貴方は体を一瞬震えさせる。その姿をマモルも視界に入れていたようで、小さく笑いながら悠へとまた話しかけた。

 

「ほら、人間の姿をしていたってこうやって僕たちに怯えている。人間なんてこんなもんさ。水澤くん、君はこいつらに騙されているんだよ。いいように使われて、騙されて、最後には殺される。今までだってそうだったでしょ?」

 

「違う...この人たちは僕たちをアマゾンというだけで敵視なんかしていない。僕たちを僕たちとしてちゃんと見てくれている。決め付けているのはマモルくん...君の方だ」

 

マモルの問いかけに悠は冷静に答えていく。

そこには先程までの激昂した面持ちはない。鷹山仁の登場により昇っていた頭の血が失せたのだろう。静かな口調でマモルを説き伏せようとしていた。

 

「駆除班の皆だってそうだったじゃないか。あの人たちは僕たちをアマゾンというだけで決め付けずに、僕たちとして受け入れていたんだ。あそこでは、僕もマモルくんも、アマゾンってだけで何かされたなんてことはない。皆を殺してしまった事実はもう変わらないけど...でもまだやり直せるーーー」

 

「ーーーんなもん無理に決まってんだろ?」

 

突如、悠の言葉を遮り鷹山が言葉を放つ。

鷹山は静かに歩み始め、マモルのもとへと近づいていく。

 

「コイツはもう人間食ってんだ。それだけじゃねぇ。他のアマゾンたちに人間食うように唆してもいる。立派な人類の敵じゃねぇか。それをまだやり直せるだと? 一回死んで甘い考えも変わったかと思ってたが、馬鹿は死んでも治らねぇってのはまさにこのことだな」

 

鷹山の言葉に悠は異議を唱えようと口を開くが、そこから言葉が紡がれることはなかった。悠自身、分かっていたのだ。マモルは既に越えてはならない一線を越えてしまっていることに。

 

「結果の分かりきった問答はもうたくさんだ。アマゾンは人間の敵で、殺さなきゃならない存在だ。前も今も、これからも、俺の中じゃそれが変わらない真実だ。だから...もういいだろ」

 

鷹山…アマゾンアルファはそう言うや否やマモルへと歩みを進める。腕に生えた鋭利なヒレを見せつけるように上げ、狙いをマモルへと定める。その姿はまさしく死神のようであり、また、彷徨える幽鬼のようにも、貴方は見えたのだった。

 

悠はアマゾンアルファの行動に一瞬体を動かすが、しかしそれ以上の行動を起こすことは終ぞなかった。その表情は悲痛に歪み、かつての仲間を守ることのできない自分を責めているようにも感じ取れたが、しかしその奥にある彼の心中を、貴方は最後まで読み取ることはできなかった。

 

「…そっか。水澤くんはやっぱりそっちに付くんだね」

 

体を止めた悠を見ながら、マモルはため息を吐くようにそう呟いた。諦めや悲嘆が篭ったマモルの言葉に、悠はさらに顔を歪ませるが、なおもマモルは言葉を続ける。

 

「わかってたよ。こんなやり方、水澤くんが納得するわけがないって。でも、もうこうするしかなかったんだ。僕たちが、アマゾンが生存するためには、大切な時間や思い出なんか捨てるしかないから。水澤くんはずっとそれに囚われ続けてたから、ここで解放できないかなって思ってたんだけど、でもそれも無理そうだ。だからやっぱり僕は僕のやり方で…()()()()()()()()()()()()()()()、水澤くん」

 

突然告げられたマモルの言葉に、悠は顔を上げる。

 

「復、讐…? マモルくん、君は一体何をーーー。」

 

悠が問い質した、その瞬間であった。

 

「っ! お前、何を…!」

 

「もう遅い!」

 

マモルの不穏な気配に気づいたアマゾンアルファが一気に距離を詰め、腕の凶器を彼へと向ける。確実に首を刈る挙動のそれはしかし、マモルを目前にして()()()()()()に遮られたのであった。

 

「ちっ…! なんだこりゃあ…」

 

【光の、壁…?】

 

アマゾンアルファの呟きに応えるように、貴方は視界に映るソレを見て言葉を漏らす。

そこには先ほどまでありはしなかった白い滝の如き光の奔流が突如としてマモルの足元から現れ、彼を守るように包みこんでいたのだった。

それはさながら光の壁のようであり、なおも光の威力を増しているのを貴方は直感で感じ取れた。

 

『この魔力反応…! 転移魔術か!』

 

通信機よりダ・ヴィンチが声を荒げながら状況を告げる。

光の壁はさらに成長していく。

 

「このまま逃がすかよ!」

 

光が形成されていく中、アマゾンアルファ、およびエルドラドのバーサーカーは吶喊を狙うが、先ほどと同じように壁に阻まれ、両者ともマモルの元へとたどり着くことはできない。

そのような状況の中をマモルは気にも留めず、貴方と悠に笑顔を向け、声を上げたのだった。

 

「じゃあね、水澤くん!ついでにカルデアのマスター!次会った時はそうだね。美味しく、食べてあげるから!」

 

まるで、友人と街で別れるかのように気さくな挨拶。そんな彼の姿を貴方と悠は、悲痛な面持ちで見送るしかなかった。

 

光の奔流はマモルを包み込みながら、そして、その中心となる彼へと収束してゆき、最後にはマモルとともに消え去っていく。

 

最後に残ったのはアマゾンの血の染み込んだ採掘場に、貴方たちだけであった。



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第6節 FOR LIFE 2/3

伝説のあの男地上波復活(人違い)記念更新(本当に申し訳ございません)


マモルは光と共に消えていった。

 

あの光はいったい何だったのか。マモルは一体どこに消えたのか。彼の目的はいったい何なのか。謎が増え、理解が状況に追いつかないまま、貴方達はマモルが消えた後のその場所を眺めることしかできなかった。

陰鬱とした雰囲気の中、一番最初に声を出したのは貴方の端末から映像を投影させて姿を現したダ・ヴィンチであった。

 

『…さて。謎が増えてしまい心の整理が必要な心境は理解するが、とりあえずは目的だった霊脈の奪取には成功はしている。これからのことを安全に、落ち着いて話し合うためにも、まずはマスターくんのためにも霊脈の接続をお願い出来るかい?』

 

「...そうですね。ひとまず目の前の脅威は無くなった。目的の霊脈も手に入れたんだ。悲観する点は現状無い。接続の準備を始めようか、マスター」

 

ダ・ヴィンチの言葉に悠が答え、貴方に霊脈の準備を促した。そんな悠を見ていた鷹山は、アマゾン体を解き人間の姿に戻ると、失笑を込めて悠へと言葉を投げる。

 

「何だよ、まるで自分に言い聞かせてるみたいだな。今一番気が狂いそうになってるのはお前だろ? すぐにでもアイツの後追っかけて止めたいだろうにな」

 

「仁さん...少し黙ってもらえますか」

 

鷹山の言葉に、悠は静かな怒気を込めて返した。対する鷹山はそれに構わず、言葉を続ける。

 

「いつまでも叶いもしない理想を持ち続けるからこうなるんだ。あの時、手なんか抜かずしっかりとアイツを殺しておけば取り逃すことなんかなかっただろうによ」

 

【手を抜いた?】

 

鷹山の言葉に疑問を持った貴方は悠の方へと顔を向ける。当の悠は鷹山の指摘に眉を顰め、自分を見つめる貴方から顔を背けた。

そんな悠に構わず、鷹山は貴方の疑問に答える。

 

「さっきの殺し合いの話だ。殺そうと思えば、ソイツはいつでもアイツを殺せた。なのにそれをしなかったのは結局、お友達を助けたかったからだ。その挙句に逃げられてるんだから、救いようもねぇ。自分でもそう思ってるんだろ?」

 

鷹山に声をかけられるも、悠は言葉を返せず、ただ俯くだけであった。

 

「その甘さがある限り、お前は何も救えねぇ。お前はずっと迷い続けるだけなん...」

 

「黙れ」

 

唐突に、ズシン、と悠に対して厳しい言葉を放っていた鷹山の頭が地面へと埋まった。

ポカンとする周囲に対して、それを行った下手人、エルドラドのバーサーカーは真顔のまま鷹山を片手で地面に押さえつけながら、その状態のまま鷹山へと言葉を投げた。

 

「先ほどのダ・ヴィンチの話を忘れたのか馬鹿が。今優先すべきは陣地の確保だ。いつ周りのアイツらが戻ってくるかわからん状況で言い争いなどしている場合か。そして貴様。いきなり現れて何者か知らんがアイツらについて何か知っているな。全て話してもらうまで拘束させてもらおう。何安心しろ。アマゾネス式縛縄術は決して解けないが体に跡を残さん。もちろん、痛いのが好みならそちらで縛らせてもらうがな」

 

頭を押さえつけられて頭上から好き勝手言われる鷹山。必死の抵抗として唸り声をあげてエルドラドのバーサーカーを睨みつけるが、彼女は気にも止めず続いて貴方へと顔を向けた。

 

「マスター、貴様もだ。疑心暗鬼になどなっている場合か。頭で理解しきれない状況にこそ、悩むのは後にしろ。今出来ることを一つずつこなせ。私のマスターならば、そのぐらいやれるだろう?」

 

【...もちろん‼︎】

 

【ありがとう、エルバサちゃん】

 

エルドラドのバーサーカーの言葉に、貴方は現状の頭の靄を振り払うように返事をした。それを聞いたエルドラドのバーサーカーは一瞬破顔した後、すぐに顔を引き締め、端末に顔を出しながら一連の流れを見ていたダ・ヴィンチに声をかけた。

 

「ということだダ・ヴィンチ。霊脈の接続に指示を頼むぞ...何を呆然としている?」

 

「...いや、何でもないよ。すぐに取り掛かろう」

 

一瞬呆然としていたダ・ヴィンチだが、エルドラドのバーサーカーに声をかけられてすぐに調子を取り戻すと、貴方、及び悠とエルドラドのバーサーカーへと指示を出し始めた。しかしその心中はいまだ平静には及ばず、驚きに満ちていた。

 

(まさかバーサーカークラス、しかも彼女に場を鎮められるとは思わなかった。なんて言ったらボコボコにされるから絶対に言わないでおこう)

 

(って思っているんだろうなぁ)

 

ダ・ヴィンチの心中はしかし、その思惑とは裏腹にカルデア管制室の職員全てにバレていたことはもはや言葉にする必要はないだろう。

 

 

ーーーーー

 

 

『さて、霊脈の接続も完了。カルデアから物資をそちらへ転送もできた。これからのマスターくんの食糧事情についてはひとまず解決したと言ってもいいだろう。食事を取りながらでもいいから、いったん現在の状況を整理しようと思う』

 

霊脈をつなぎ、夜が更けた頃。採掘場に簡単なキャンプを広げた貴方たちは、周囲を警戒しつつ、簡単な食料を取りながら焚き火を囲むようにしてブリーフィングを始めた。その際、まず話の槍玉に上がったのは戦闘の途中から参戦してきた鷹山のことからだった。

その鷹山は今、エルドラドのバーサーカーにより手足を縛られた状態で貴方たちの前に放られている状態であった。

 

「仁さん、いつからここに...ずっと一人でアマゾンを狩り続けていたんですか」

 

「何当たり前の聞いてんだ。こんだけアマゾンが蔓延ってるんなら俺がやることぐらい、おまえならすぐ分かるだろ? ...あっ、おい、なんか食い物俺にもくれよ。一口でいいからよ」

 

悠が鷹山に尋ねるが当の本人はそれを軽く流し、貴方の持つ食料を見ながら無心し始めた。

手足を縛られている状態であるため、口を大きく開けてそれをねだる鷹山の様子に貴方は困惑しつつも、望み通り手に持ったハンバーガーを彼の口まで運んであげた。

 

「...拘束されながらあさましく他人から物をねだるなど、どうしようもないやつだ。自分の立場を分かっているのか」

 

「仕方ねぇだろ。食わなきゃ現界の維持もままならないんだからよ。いつからここにって話にもなるが、ここに召喚されたのは3ヶ月前。それからはずっとこうやってなんだって食って生き続けてきたんだ。こうもなんだろ」

 

エルドラドのバーサーカーに睨まれながら、しかし鷹山は貴方からもらった食料を咀嚼しながら飄々と彼女へ言い返した。その態度に彼女はさらに額に青筋を立てる。

 

「アマゾンの名をもつ以上そのような誇りを汚すような行為は、アマゾネスの女王たるこの私が許さん。今後改めることがないなら、その根性を叩き直してやるから覚悟するのだな」

 

「...へぇ。そうか、あんたアマゾネスの女王か。そうだな、あんたの前ではちょっとぐらい言葉に気をつけるよ。だからこの拘束解いてくれない?」

 

「貴様から情報を取れるだけ絞り尽くした後にな」

 

エルドラドのバーサーカーの返答にちぇっと悪態をつく鷹山だが、すぐに表情を変えて、立体映像に映るダ・ヴィンチへと声をかけた。

 

「んで、あのマモルを連れ去った白い光だがよ。ありゃなんだ? 魔術的なもんだろアレ。俺はそっち方面には疎いもんでな。是非天才サーヴァント様の見解ってモンを聞きたいとこなんだが」

 

鷹山の問いに貴方もダ・ヴィンチへと顔を向ける。アマゾンたちの動向とともに現れてきたサーヴァントの存在や魔術師の陰。その一端を今回ようやく見せてきた相手に対して、貴方もダ・ヴィンチの見解を聞きたかったのだ。

 

『…鷹山仁の言うとおり、あの白い光の奔流は魔術だ。それも大規模な転移魔術。おそらく霊脈の流れを利用したものだろう。あれだけのものとなると、アマゾン側に付いている魔術師はかなりの手練れだと窺えるね』

 

【転移魔術…】

 

【転移した先とかは分からない?】

 

ダ・ヴィンチの言葉を貴方は復唱し、疑問を投げかけた。

ダ・ヴィンチはというと申し訳なさそうな笑みのまま貴方に答える。

 

『試みてはみたが…ダメだったね。中々相手の腕がいいものだった。転移箇所を複数にしてジャンプさせているようだ。途中で魔力の流れが途切れて追跡不可能だったよ」

 

「ハッキングの手口に似てるな。随分と近代的な魔術師だことだ」

 

ダ・ヴィンチの報告に鷹山は茶々をいれ、貴方は腕を組み唸った。

マモルへの足掛かりがなくなってしまったからだ。

 

アマゾンが跋扈するこの特異点の謎。その鍵を間違いなくマモルは握っているだろう。故にもう一度マモルと再会し、彼からその情報を得なければならない。

 

唸る貴方と同じく、悠も眉をひそめさせていた。おそらくマモルの動向を案じてのことだろう。

復讐を持って人間と対する。彼はその言葉を持って、今後どのように動くのか。その動きを解するためにも彼との再会は絶対であった。

 

この特異点に入り込みようやく明確な目的を得た貴方たちであったが、しかし、その手段をどうするかそれを思いつかない状態だった。

 

いまだに唸る貴方だがその様子にダ・ヴィンチが声をかける。

 

『悩んでいるところ悪いけど、まだ話は途中でね。最終的な転移地点までの追跡は出来なかったが、ジャンプ地点の足跡は捕捉できている。敵の本拠地とまではいかないが、重要地点の可能性は高いだろう』

 

「っ! それはつまり、そこを探れば!」

 

『あぁ。マモルくんの居場所、とまではいかないだろうが、その動向の情報程度は手に入るかもしれない。希望はまだ残っているよ』

 

ダ・ヴィンチがそう言うと悠は安堵したように破顔し貴方の方へ顔を向けた。貴方も悠と同じく相手の糸口を掴み損なっていたところへの、希望のある情報に顔を喜色に染めていた。

そんな貴方たちに対してダ・ヴィンチが言葉を続ける。

 

『場所は追って伝えよう。今伝えてしまうとそこの縛られている男が縄をちぎって一人で向かいそうだからね。明朝、支度が整い次第出発だ。そして、鷹山仁。以前の別れ際ではカルデアとは別行動ということで話をしていたが、こちらとしても状況が変わりつつある。相手との戦力差を少しでも少なくするため、君にも是非我々に協力してもらいたいのだが、どうかな?』

 

ダ・ヴィンチはそう言い、立体映像の奥で腕を組むと鷹山の返事を待った。

 

協力関係を申し込んだダ・ヴィンチであったが、彼女(彼?)としてはこの鷹山仁という男について、いまだ信用しきれていない部分があった。

それは同じく、カルデアの味方をしながらも情報を秘匿する悠に対しても同様であったが、しかしそれ以上に鷹山に対しては人間性に対する不信感をダ・ヴィンチは抱いていたのだ。

 

以前のアパートでの一件、精神を犯した彼がマスターに行った凶行について。

あれ自体はダ・ヴィンチは別に気にしていない。ナイチンゲールがすぐに場を取り持ったおかげで貴方には大事に至らなかったのだから。

気になるのは彼がそれほどまでに精神を侵された経緯の方だった。

アマゾンを生み、アマゾンとなり、アマゾンを殺し続けることになった鷹山仁の人生。その異常性を考えれば、彼を貴方の近くに置くのは、物理的な不安とは別に、貴方の精神面での不安をダ・ヴィンチは抱えていたのだ。

貴方は相手が誰であろうと深く関わろうとすることに躊躇いがない人間だ。それが反英雄であろうと、自分を殺しにかかった敵対者であろうと、壁を作ることはせず、歩み寄る努めを決して怠らない者なのだとダ・ヴィンチは理解していた。そんな貴方が、自分で自分の運命に枷をかけている鷹山のような男を放って置くわけがなかったのだ。

 

ゆえに危険だった。鷹山はそんな自分の異常性を認知している。その上でその異常性にその身を委ねているのだ。深く関われば、関わった人間をどん底に落としていく。そういうタイプの人間だとダ・ヴィンチは直感で感じ取っており、貴方と鷹山の接触を案じていたのだ。

既に貴方はアマゾンという存在を通して鷹山へと踏み込もうとしていた。それを危ぶんだからこそ、ダ・ヴィンチはアパートで離別する際には彼を止めず、そのまま行かせたのだった。

 

だがしかし、状況は変わり、貴方たちは正体を掴みきれない敵に対して、大量のアマゾンたちへの対応が急務となった。それに連なり、鷹山のアマゾンを退かせる力はカルデアにとって今一番必要なものとなったのだ。

 

鷹山を信用できない心境と鷹山に頼らざるおえない状況が対立する中、悩んだ末にダ・ヴィンチは結局、協力関係を申し込むことにした。

しかし、ダ・ヴィンチの気持ちの半分はこいつはどうせ断るんだろうなという諦めの気持ちも入っていたのだ。何か好条件をつけたところでこの男が靡くとも思えないし、なにより鷹山仁という男はこうやって打算的に自分に値打ちをつけられるのを嫌がるタイプに見えたからだ。

しかしこうして彼に頼るというのはつまり、自分自身もこの鷹山仁という男に対して、何か思うところがあったのだろうなと、ダ・ヴィンチは心中にて失笑しながら、鷹山の返事を待った。

 

ダ・ヴィンチの申し出に鷹山は一瞬間を置くが、それからすぐに口を開き返答した。

 

「………いいぞ。おまえらに協力してやる。」

 

『あれ? いいの?』

 

【なんで聞いた方が疑問系なの?】

 

鷹山の答えに思わず聞き返してしまったダ・ヴィンチに対して貴方はすかさずツッコむ。

しかしダ・ヴィンチはというと、鷹山のあまりのあっさりとした答えに拍子抜けしてしまい、貴方のツッコミを無視して鷹山に言葉を投げ続けた。

 

『えっと、縛られてるから仕方なく、とかだったら大丈夫だよ? 協力しないってことでも解放するようにそこの女王様には後で伝えておくから。それに今後についても君の邪魔にはならないように動くつもりだし…無理して仲間になるってことだったら別に気にしなくても全然』

 

【なんでダヴィンチちゃんが断る方に誘導してるの?】

 

ダ・ヴィンチのあまりの支離滅裂な言動にさらに貴方はツッコミを入れる。

流石に自分がおかしな発言をしていることに気づいたのか、ダ・ヴィンチは軽く咳払いをすると、いつもの調子で話を戻した。

 

『すまない。断られると思っていたからつい変な調子になってしまった。まぁでも、鷹山仁。君の力を得られるのはとてもありがたい。ぜひ頼りにさせてもらうよ』

 

「そうか? まぁあまり期待せずに使ってくれや」

 

鷹山はそう言うとケラケラと笑う。そんな彼の様子に貴方はふと尋ねた。

 

【でも、どうして急に】

 

【前は嫌がっていたのに】

 

貴方の質問に鷹山は笑顔を隠すと、誰にともなく呟いた。

 

「…あの後アマゾンたち殺しながら、ちょっと考えたんだよ。この世界で蔓延ってるアマゾンたち殺し尽くす方法を。そんで、結局俺だけじゃどうしようもないなこれってことが分かった。だからまぁお前たちと協力すればなんとかなるかもしれないなと思っただけだ。………まぁいつの間にか知らないうちにどっかの甘ちゃんが合流してたみたいだがな」

 

「…本当に変わらないですね、仁さんは」

 

鷹山の言葉に悠が反応する。まるでお互い様だと言い合うように冷たい視線が両者の間を行き交った。

 

「ホント、死んでも変わらないのはお互い様だったな。まぁいつかはまた殺し合うだろうが…そうそう、もう一つ理由があったんだよ」

 

鷹山はそう言葉を区切ると、視線を悠の方からダ・ヴィンチ、エルドラドのバーサーカー、そして貴方へと向ける。そして貴方たちに向けて言い放った。

 

「アマゾンを全部殺し尽くした後、俺かコイツ、どっちか最後まで生き残ったら、お前たちが殺してくれ。それが力を貸す条件だ」

 

あまりにも残酷な要求とは裏腹に、鷹山は清々しいまでの笑顔を貴方たちに向けたのだった。

 




しれっと再開。さらっと更新。
次回、夜風の会話。

申し訳ございませんでした。


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第6節 FOR LIFE 3/3

デッカーに鷹山仁がゲスト出演したので初投稿です。


「やぁ、随分と手ひどくやられたようじゃないか」

 

明かりの無い建物の一部屋。

怪しげな薬や機器が部屋中に敷き詰められたそこで、一人の男が作業をしながら虚空に向けて言葉をかける。

そうすれば、何もなかった場所より突如空間の歪みが生じ、そこから一人の青年が姿を現した。

 

「黙れ。余計なことをしてなんのつもりなんだ」

 

「余計なこととは心外だな。あのままでは君は確実に殺されていただろうと思い、善意で手助けしてあげたというのに」

 

「よくそんな事が言えるね。お前にとって僕たちはただの研究材料にすぎないくせに」

 

歪みから現れた青年、先ほどまで悠と殺し合いをしていたマモルは、作業をする男に暴言を放ちつつ、部屋の隅に置かれている包装された何かに近づくと、その包装を破り捨てながら中のものを口の中に粗雑に放り込む。

それを横目で見ながら、男はマモルに声をかける。

 

「そんなものでいいのかい? 近くに牧場があるのだからそこで補給すればもっと効率がいいだろうに」

 

「黙れ。知ったような口でアマゾンを語るな」

 

男の言葉に苛立ちを隠さずにマモルは答えながらしかし何かを口に入れる動作は止めない。

そうして少しした後、マモルはようやく手と口を止めて男の方へと振り返った。

 

「…カルデアのマスターを殺す。力を貸して」

 

「それは構わないがね。我らがマスターに許可を取らないでいいのかい?」

 

「いらない。あの子からは全部託されている」

 

「ほう、信用されているのだね」

 

マモルの要望に男は作業をする手を止めて、今度は目を瞑りながら天を仰ぐ動作をとる。

そうして少し待てば、男は目を開けてマモルの方へと向いた。

 

「どうやら彼らは私の残した足跡を辿るようだ。どうする? また待ち伏せでもするかい?」

 

「…場所だけ教えろ…後は僕たちでなんとかする」

 

「はいはい」

 

マモルの言葉に仕方ないように頷いた男はマモルにカルデアが向かうであろう行き先を伝えると、それを機にマモルは部屋から出ていった。

マモルが出ていき男がまた一人となった部屋の中で、誰に対してでもなく言葉をこぼした。

 

「さてしかし、研究材料ときたか。それはまた…自惚れたものだねぇ」

 

男はそう呟くと、ひどく気味の悪い笑顔を作り出し再び作業を再開したのであった。

 

 

*****

 

 

カルデア、サーヴァントたちとミーティングを終え、世も更けてきた頃。

文明の光が近くになく、月あかりもない採石場で、貴方はひとり空を見上げながら考え事をしていた。

カルデアのマシュやダ・ヴィンチからは早く休むように言われているが、いくら目を閉じても貴方は脳裏から離れない懸念のせいで眠ることは叶わずこうして一人でいたのだった。

その懸念とは、鷹山が言ったあの言葉。

 

『アマゾンを全部殺し尽くした後、俺かコイツ、どっちか最後まで生き残ったら、お前たちが殺してくれ。それが力を貸す条件だ』

 

自分達が最後に残ったアマゾンを殺す。それが鷹山仁が示した条件だった。

鷹山の目は本気だった。彼の狂気、信念、執着は、まだ短い付き合いではあれど、苦しいほどに貴方には伝わっていた。

だがしかし、貴方はもし鷹山の言うとおりそんな最後になった時、鷹山か悠を殺せる自信が無かった。

それを行うにはあまりにも、貴方は彼らと関わり過ぎてしまっていたのだ。

だから、鷹山が条件を提案したあの時、貴方は答えを示さず、無理矢理ミーティングを終わらせたのだった。

そして今、その答えについて、貴方はずっと考えているのだが…

 

【殺せるわけ、ない】

 

どれほど考えようと自分達が彼らを殺せることなど出来はしないことを、貴方は思い悩む。

きっとそれを鷹山に伝えれば、彼は呆れて貴方たちに協力することを拒むだろう。

それは困る。鷹山のアマゾンに対しての特効と呼んでもいいほどの力は、この特異点では二つとない見逃せない力だ。

その力をみすみす逃すなど出来はしなかった。

それに貴方自身、鷹山仁という男を見過ごす事ができなかった。

打算とは関係なく、貴方自身の思いとして、鷹山には近くにいて欲しかったのだ。

自身の思いと鷹山の要求に板挟みとなった貴方は夜空を見上げながらもその眉間に皺を寄せたのだった。

そうしていると、不意に背後から足音が聞こえて貴方は後ろを振り返った。

 

「やぁマスター、まだ起きていたのかい」

 

振り返ったその先にいたのは穏やかな表情の悠だった。

 

「仁さんに言われたことをまだ気にしているのかい?」

 

【うん】

 

【分かる?】

 

悠から尋ねられた言葉に貴方は困ったような顔を浮かべながら返答する。

 

「分かるさ。突然あんなことを言われれば誰だって困惑するもの。まぁ僕は相変わらずだなってぐらいにしか思わなかったけど」

 

どうやら悠は貴方の悩みに気づいて、気にかけてくれてこうして自分のところに訪ねてきたらしいことを貴方は気づいた。

要らぬ心配をかけさせてしまったと貴方は思い、一言謝罪を述べると、しかし悠は静かに首を振る。

 

「悩んで当たり前さ。命なんてものは人の手で抱えるには重すぎる。自分1人のものでも精一杯なのに、ましてや誰かから与えられたら誰だって困惑するものだよ」

 

悠はそう言って小さく笑い、貴方を励ましてくれた。しかしその笑顔には薄く、自らの実感を含んでいたことに貴方は気づいた。

しかしそれに気づきながらも貴方はそれ以上踏み込まず、今度はお礼を述べる。

すると悠はまた小さい笑みを浮かべて返し、先ほどの貴方のように夜空を見上げ、ポツリと呟くように声を出した。

 

「仁さんとは何度もぶつかり合ったって言ったよね。あの時に実は伝えていなかった事があるんだ」

 

【伝えていないこと?】

 

悠の急な話に貴方は疑問を浮かべながら言葉を復唱し、次を促す。

悠は一瞬顔に翳りを滲ませながら、しかし決心したように貴方に話をした。

 

「うん。実は、生前の仁さんを殺したのは僕なんだ」

 

【えっ…】

 

悠の告白に貴方は一瞬、その事実を受け入れられず、理解を拒む。

しかし先ほどの悠の表情と、彼らの言動を思い浮かべ、悠の言っていることが事実であるのだと、理解していった。

 

【そんな、なんで】

 

貴方は尋ねた。何でそんなことになってしまったのか。

そんな貴方の問いに悠は哀しげな表情を浮かばせながら、ポツリポツリと語っていく。

 

「生前の僕たちの世界には、アマゾンを養殖して人間用の食肉にする実験が行われていたんだ。そのために仁さんは利用され、多くのアマゾンたちが生み出されて、食われていった」

 

【そんな】

 

【酷すぎる………】

 

悠の打ち明けた事実に、貴方は悲嘆に顔を歪ませながら小さく言葉を呟く。

貴方のその表情を見た悠は貴方に見えないように小さく笑みを浮かべながら、しかしすぐに表情を戻し、話を続けた。

 

「そうだね。僕もそんな非道な行いが許せなくて、食べられるアマゾンの子たちを助けようと頑張った。でもそこで、仁さんと考えがぶつかったんだ」

 

悠は上げていた顔を下ろし今度は情念に耽るように自分の掌を見つめ始める。

まるでその時の記憶を思い出すように。

 

「僕はアマゾンの子たちを助けたかった。でも仁さんは、同じ悲劇を繰り返さないために、そのアマゾンたちも丸ごと全て殺そうとしたんだ」

 

【………】

 

「僕も仁さんもその時には信念を貫くために、別の信念を破り捨てて、もうボロボロだった。それでも僕たちは最後に残った捨てられないもののために、お互いの命を喰らい合い、殺し合った。そしてその末に、僕が仁さんを殺した」

 

そう言うと、悠は見つめていた掌をぐっと握り目を閉じる。

果たしてその行為が何を表していたのか。もしかしたらその時の感触を思い起こしていたのかもしれない。

しかしその答えは結局貴方はわからず、尋ねることもついぞできなかった。

そうして貴方が悠を何も声をかけられず見つめているうちに、悠は目を開いてこちらに顔を向けてくれた。

その顔は誰かを殺したとは思えないほどに優しく、貴方を慮ってくれる暖かい表情をしていた。

 

「仁さんはそういう人なんだ。一度決めたことを途中で変えられず、止められず、でもそのせいで大切なものも巻き込んで、また重い荷物を背負い込んでいく。そういう、不器用な人なんだ。………死んでからもそれは変わらなくて、少しびっくりしたけど。まさか世界とまで契約するなんて」

 

あははと笑う悠の仕草はまるで、親戚のおじさんを語るような、そんな親しみがあった。ともすれば、殺し合った相手などと言うことは感じさせないほどに。

だからこそ、不意に見せる悠の翳りは、貴方の記憶に大いに残った。

 

「………だから、そんなあの人だから、僕もいろんなものを捨てざるをえなかった」

 

何気ないその言葉。一瞬貴方から目を逸らして呟いたその言葉は、悠の深い深い深淵をのぞかせる一言だった。

貴方は悠のその一言にたじろぐも、悠はすぐに先ほどの表情に戻る。そうして貴方に、本当に伝えたかったことについてようやく話したのだった。

 

「君が、深く背追い込む必要なんて全くないんだ。仁さんの言った条件は彼が勝手に君たちに重荷を背負わせようとしている行為だから。君たちはそれを受ける必要は全くない。だからあの人が言ったことは気にしないでほしい」

 

悠は柔和な態度を崩さずも、しかし芯のある声で貴方に想いを伝えた。

貴方はそんな悠の顔を真正面から見つめ返す。

悠はきっと、純粋な思いで貴方に進言を与えてくれているのだろう。

しかし話の端々で見せた悠の含みのある表情を、貴方見逃せなかった。

そうして貴方は考える。

悠は言葉では鷹山のことを気にかけずいようとしているが、その実、鷹山を見捨てられずいるではないだろうか、と。

それがあっているのがどうかなど、分からない。貴方は心を読める超能力者でもなければ、読心に長けたスペシャリストでもなかったから。

それでも、悠にそうした思いがあり、また貴方自身も鷹山を思う心があるのならば、貴方の進むべき道は既に決まっていた。

 

【大丈夫だよ】

 

「………えっ?」

 

貴方の返事に、悠は疑問の声をあげる。

それに貴方は笑みを浮かべながら答えた。

 

【背追い込む気もないけど】

 

それは鷹山仁のように気楽でもなく、

 

【気にしないでいるつもりもない】

 

水澤悠のように翳りを見せるものでもない、

 

【ちゃんと、向かい合ってみる】

 

貴方の決意を込めた笑みで悠にそう答えたのだった。

 

 

***

 

 

翌日。

悠との話を切り上げた貴方は、夜間の警戒をカルデアとサーヴァントに託して身を休めると、思いの外早くに就寝することができた。

思えば昨日は歩きっぱなしに加え、その後は即戦闘だったため緊張の連続が続いていた。否、この特異点に来てからずっとそんな状況が続いていたのだ。そんな中ようやくきちんとした食糧と物資にありつけた貴方は昨夜は安心して睡眠できるようになったのだろうと言う見解だ。マシュも通信でそう言っていた為間違いないだろうと貴方はうなづいた。

そうして撤収準備をしつつ貴方はひとりの人物の元へと向かう。

その相手は昨夜からずっと荒縄によって縛り付けられながらも、その状態のままいびきをしながら就寝していた人物、鷹山仁だった。

鷹山はというと先ほど起きたばかりなのだろうか、しきりにあくびをしながら大人しくしていたが、貴方が近づいてきたことに気づくとすぐに顔を向けてきた。

 

「よう、おはようさん。よく眠れたか?」

 

【はい、ばっちりと】

 

【鷹山さんは?】

 

「ああいいね、こんな状況でも寝られるんなら大したもんだ。俺もこんな縄さえなけりゃもっといい夢見ながら寝れたんだろうけどなぁ」

 

『残念ながらサーヴァントは夢を見ないよ、鷹山くん』

 

ふと、貴方と鷹山の会話に入り込んできたのは、カルデアから通信したダ・ヴィンチだった。

鷹山は突如として立体映像で浮かぶダヴィンチの姿に驚くこともなく挨拶を交わすと、ダ・ヴィンチはそんな彼の姿に呆れつつ、話題を変えたのだった。

 

『それで、鷹山仁。昨夜話した通り、君はカルデアが行うこの特異点の調査、及び修復に協力してくれるとのことだが、二言はないだろうね?』

 

「あぁねぇよ。だが、俺の方からも一つ条件を出したはずだ。それについての回答をまだ、お前から聞いてないはずだが?」

 

そうして鷹山は視線をダ・ヴィンチから貴方へと移した。

その目は何かを試すような、探るような目であった。

人によっては不快感を催すその目線を受けながら、しかし貴方は気丈に振る舞うように努める。

 

「この戦いの最後、アマゾンを殺し尽くした後に俺かソイツ、どちらかが生き残ったその時、お前は殺せるか?」

 

鷹山は笑顔でそれを尋ねた。

あまりにも気楽に、その選択を貴方に課してきたのだった。

 

『どうして、そこまで………』

 

状況に耐えきれず、ダ・ヴィンチとともに立体映像に映っていたマシュが呟く。

カルデア職員の誰もが同じ感想を抱いた。

鷹山仁の経歴は既に聞いた。

アマゾンにこだわる理由も少なからず理解できる。

しかし、それでも自分や近しい者の命さえも厭わないその言動は、いまだに理解が及ばない。

だからこそ、彼らはもはや鷹山に対して、一種の恐怖すら抱いていたのだった。

英霊であるダ・ヴィンチこそ、鷹山の執着とも言える執念に恐れることはなかったが、しかしそれを解ろうとする気はさらさらなかった。彼(彼女)にとって人間とは、とどのつまりそういうものだと言う諦観があったからだった。

だからこそ、ダ・ヴィンチは立体映像の奥から貴方を薄く見つめた。

貴方が鷹山仁の言葉に何を答えるのかを託したのだった。

貴方はそんなダ・ヴィンチの視線に気づきながら、しかし臆することなく前に出る。

 

【答えは___】

 

既に答えは昨日、悠を前にして出している。

だからこそその言葉は簡単に貴方の口から飛び出てくれたのだった。

 

【わからないです】

 

「___は?」

 

貴方の答えに、高山が目を丸くする。

同じく立体映像に映るカルデアのマシュや職員たちも貴方の言葉に驚いた顔をしていた。

ただ数人、ダ・ヴィンチやエルドラドのバーサーカー、悠のみが表情を変えず、貴方の言葉を聞いていた。

そんな中、貴方は構わず、言葉を続ける。

 

【なんで鷹山さんがそこまでアマゾンにこだわるのかとか】

 

【何が鷹山さんにそこまでさせているのかとか】

 

貴方は結局分からないのだ。目の前にしている相手の根源や原理など。

 

【分からないのに、殺すだけするなんて】

 

【そんなの出来ない】

 

しかしだからこそ。

 

【だから___知っていきます。鷹山さんのこと。もっともっと】

 

貴方は知っていく努力を怠らなかった。

わかった気でいるつもりなんかできっこないから。

 

【知っていっていつか、貴方の言葉に納得できたその時に】

 

【ちゃんと、殺します】

 

そうして貴方は、鷹山に言い切った。

ただ殺すのではない。

鷹山という男の言葉に、それだけの意味が感じられた時、貴方はそれを実行するという、いわば監査のもとでの条件の受け入れ。

それが貴方の下した結論だった。

強引かつ貴方のわがままがふんだんに取り入れられたその提案に、鷹山は少しの間口を開いた状態で放心していると、ともなく口角を引き上げて呆れた目で貴方を見つめ始めたのだった。

 

「………なんというかなぁ。頑固というか健気というか。お前も大概苦労を背負い込むタイプだな」

 

『ハハハ、確かに私たちのマスターはそう言うタイプだが、世界で一番君には言われたくないと思うよ、鷹山仁くん』

 

鷹山の漏れ出た感想に笑いながら素早く突っ込むダ・ヴィンチ。

そんなダ・ヴィンチの言葉に確かにな、と同じく鷹山が笑い声を上げた。

そうしてどれぐらいか、鷹山はダ・ヴィンチと一緒に笑っていれば、ようやく笑いを収めて貴方に声をかけたのだった。

 

「あーそうだな。求めていた答えとはちょっと違ってはいたが、まぁいいだろう。お前もそこの奴みたいに甘ちゃんらしいが、嫌いじゃない甘さだ」

 

『と、しますと?』

 

鷹山の言葉に真っ先にマシュが通信越しに反応する。

その声に鷹山は鼻を鳴らしながら答えたのだった。

 

「あぁ。一時的にだが、協力してやる。結局は俺1人じゃどうしようもなくなってたところだしな」

 

『それは、先輩………!』

 

【交渉成立だ!】

 

鷹山からの返事に貴方とマシュは喜び、立体映像越しで顔を向き合わせお互いに声を上げたのだった。

周りの者たちはそれに温かい視線を送りながら見守っていれば、その間に鷹山の近くに寄る者がいた。悠だ。

 

「仁さん、僕は………」

 

「あー、何も言わんでいい」

 

鷹山に何かを話そうとする悠だが、それを鷹山が無理やり割り込んで抑える。

 

「昨日のことで既に分かりきってる。お前と俺は死んだところで分かり合えないってことはな。今のところは、カルデアってやつのところで一緒に仕事している。それだけの関係で十分だ」

 

「………」

 

鷹山の言葉に悠は何も答えず、しかし目線はずっと鷹山に向けたままだった。

そんな悠の反応に、鷹山は愉快そうに笑みを浮かべながら、そこで話を終わらせたのだった。

 

『えー、おほん。マシュ、マスター。もうそろそろいいかな?』

 

アマゾンの2人のそんなやりとりをしている間もなお喜び続けていたマシュと貴方だったが、いい加減本題を進めるため、ダ・ヴィンチが横から割って入ってくる。

マシュと貴方はそれでようやく自分達の醜態を自覚し、落ち着きを取り戻していそいそと解散すれば、ダ・ヴィンチはよしよしと話を進めたのだった。

 

『それじゃあ新しい仲間として鷹山くんが加わったところで、次の行動の指針を決めよう。昨日も話した通り、相手の残した足取りは掴めている。これを辿るのが最も進展する行動だと思うが、意見のあるものはいるかい?』

 

「その足取り自体が罠という可能性は?」

 

ダ・ヴィンチの言葉に真っ先に声を上げたのは特異点現地にいる貴方のサーヴァント、エルドラドのバーサーカーだった。

彼女の意見にダ・ヴィンチは頷きつつ、すぐに返答する。

 

『無論その可能性は捨てきれない。いやむしろその可能性の方が高いと思った方がいいだろうね。これだけの大魔術を行う魔術師だ。痕跡を残さず行使できたかもしれないだろうが、あえて残したのかもしれない』

 

「それはつまり、こちらを誘い込もうとしているということですか?」

 

ダ・ヴィンチの懸念に悠が声を出せば、ダ・ヴィンチは静かに首を縦に振った。

 

『先輩、どうされますか?』

 

立体映像から、心配そうに貴方を見つめるマシュの姿が映る。

貴方はそんな後輩を見ながら、しかし心の内ではすでに答えは決まっていた。

貴方は周りを見る。

エルドラドのバーサーカーはこちらの指示を待つように腕を組み、悠はじっと貴方を見つめてくる。縛られている鷹山はというと、貴方の動きを伺うように視線を鋭くしたまま目を向けていた。

逃げる選択肢を期待している者は誰もいなかった。無論貴方自身も。だから貴方の答えは自ずと口から出ていた。

 

【行こう!】

 

【この特異点を修復するために!】

 

そうして貴方自身の意思を大きく宣言する。

その宣言を聞いたダ・ヴィンチは一言、了解、とだけ言えば、立体映像から別の画面をすぐに映し出したのだった。

 

『転移魔術でジャンプした場所の一箇所。それはここから北西の方角にあるダムだった。この時代では………野座間ダムと呼ばれているらしい』



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