アズレンスルホン酸ナトリウム (サッドライプ)
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ジャベリン/ラフィー


 ランキング掘ってたらアズレンの二次もっと読みたいとか書いてたので書いてみた。

 可愛い女の子といちゃいちゃしようぜ!というだけの話。
 ただ今回は結構毒たっぷりの語り口にしてみたので、合わない人には合わないかも。

 タイトルとあらすじ?ちょうど手元にのどスプレーがあったんで……(ステマ)



 

「ジャベリンです、指揮官。どうぞよろしく。

 あれれ、好みの女の子が配下になったから、どうしていいか分からないって顔してる!」

 

 鼻にかかった甘い声に、好奇心にきらきら輝く瞳。

 その愛らしい女の子と初めて会った時、あなたはこう思った。

 

 

 ああ、こいつうぜえ――――。

 

 

 

………。

 

 あなたはオリ主である。

 いや、完全プレイヤー視点である元のゲームにおいて主人公に人格が設定されていない以上、それと対比する概念であるオリ主もクソも無いのだが、とりあえずオリ主って言っとかないと騒ぐ人間もいるのであなたはオリ主なのである。

 

 名前はまだ無い。どのみち指揮官としか呼ばれないので不便はないだろう。

 そんなあなたはある日生まれ変わって転生オリ主となっていた。

 

 正直中身オタクの外見乳児が死んで生まれ変わったことにどんな風に混乱していたかなんて描写しても誰得でしかないので、その際の葛藤やらなんちゃらは極力省くが、敢えて感慨を抱いたことに触れるとすれば、愛すべき日の出る祖国が重桜とかいうよく分からん名前になっていて無性に悲しかったことか。

 紳士っぽいイメージの畜生国家がロイヤルとか、平成生まれにはそんなに正義大好きのイメージがない気がする覇権国家がユニオンだとか、数十年後に今度は人道を掲げて欧州を混乱に陥れる元凶になるとは流石の総統閣下も予想していなかっただろう元第三帝国が鉄血―――そこはドイツ語じゃないのかよ―――だとか。

 

 そういうツッコミどころではあるが何らかの配慮というか作為が見える元の世界との差異に嫌な予感を覚えていたあなたは、海洋に大量の化け物が発生しシーレーンを塞ぎ、それと戦う軍艦の擬人化少女達が現れたと聞いて確信した。

 

 

 ここは艦これの世界だと(※違います)。

 

 

 生前というか転生前は課金が怖くてソシャゲ関係には手を出していなかったゆるオタだったため、あなたはあまり知識の無いゲームの世界に入ってしまったと知ってもいまいち興奮も狼狽もできない。

 焼酎みたいな名前のメガネ掛けた巫女服がヘッドバットやヤクザキックを繰り出していたにっこにこな動画を思い出し、げんなりしつつも二度目の青春を過ごしていたが。

 

 

 繰り返す、あなたはオリ主である。

 

 

 当然のように指揮官適性があるとかいうお決まりの謎パターンに乗せられ強制徴用、数日間マンツーマンで逃げ場のない講習をみっちりと受けさせられ、寝落ちしている間に車で放り出されたのは周囲に家一軒見当たらない寂れた港。

 

 そこで待っていた自分の最初のパートナーになるジャベリンに、あなたはこう思った。

 ここがゲームの世界だとか、相手はヒロインなのだとか、これまでの辟易する経緯とは一切関係ないところで、それら全てを脇に置いて、ただ純粋に。

 

 

 ああ、こいつうぜえ――――、と。

 

 

 

 

「指揮官っ!?そんなこと考えてたんですか!?」

 

 ぱちりと開いてまつ毛の長さを見せる眼を全開のままにしながら、紫の髪を後頭部で纏めたミドルティーンほどの少女は、執務室で空き時間に突撃してきた自身との出会いを語るあなたに詰め寄った。

 紺と白の袖なしセーラー服とミニスカートから細い手足が伸び、透き通った翡翠色のバングルを装着した白魚のような繊手があなたの両肩に置かれるが、悲しいかな彼女は陸上では見た目相応の馬力しか発揮できず揺さぶることもできていない。

 

 なのでクッションの利いたお高めのオフィスチェアの背もたれに躰を投げ出したあなたには全くダメージが無いのだが、興奮するジャベリンには一応否定の言葉を返した。

 “考えてた”訳じゃない、と。

 

「え、なんだ冗談ですか。それにしたってひど―――、」

 

 

 だってジャベリンは今でも普通にうざ―――可愛いとずっと“考えてる”し。

 

 

「本当ですか、わーい………とか言うとでも思ってますか、指揮官?」

 

 おかしい。誤魔化したはずなのにジト目でこちらを睨んでいるし、肩を掴んでいる手が離れる機会がない。

 そして急に不自然な笑みを浮かべると、わざとらしい口調で言葉を次いだ。

 

「し~き~か~ん~?ジャベリンおこらないから、さっきなに言いかけたか言ってみてください?」

 

 おこらないと言いつつ多分既に怒ってる。おこである。

 笑顔は本来獲物を攻撃する時の表情~、をやっているほど激おこなのだろうが、残念ながら元ネタの筋肉達磨と違い迫力はゼロだった。

 

 特に怯む理由もないあなたは、軽い調子で先の発言を正確に繰り返せという彼女の頼みに投げ返す。

 

 ジャベリンうざ可愛い。

 

「繋げられた!?」

 

 つまりはアレだ。ジャベリンの可愛さは単に可愛いというだけでは上手く言い表せられないのでより正確な表現を求めた結果だ。

 スペシャルな感じのアレなわけだ。そう、つまりスペシャルな感じでジャベリン可愛い。

 

「本当ですかっ?わーい!!」

 

……どんな感じのスペシャルなアレだよ、とあなたは自分でも内心つっこむ程の適当をほざいたが、ころりと機嫌を直したジャベリンはあなたからあっさり離れて、きゃっきゃっと室内で飛び跳ねながら踊り出す。

 壁に立てかけてあった銘の通り艦首を模した槍をバトンのようにぐるぐる回し始めるのを横目に机の書類やコーヒーに被害がいかないよう注意しながら、あなたは微妙な笑みを浮かべるしかなかった。

 

「もう指揮官ってばー。もっとジャベリンのこと褒めてくれていいんですよ?

 でももっと上手な褒め方してくれればなおのことよしです!」

 

 ちょろい。でもやっぱりうざい。

 流石にそれは声に出さずに、代わりにこれみよがしに近づけてくるつむじをぽんぽんと撫でながらあなたは可愛い可愛いと投げやりに呟く。

 それでもご満悦なのか、むふー、と鼻息荒く綻んだ顔は赤く染めて、しばらく頭をぐりぐり掌に押し付けてきた。

 

………そういえば出会ったあの時からずっと、彼女に対してこんな感じで発言を適当に流しながら可愛い可愛いと言ってきたのをなんとなくあなたは思い出す。

 

 

「よし、ジャベリン、指揮官分の充電完了です!寮舎で待機してますので、執務、頑張ってくださいね!」

 

 

 数分にも満たない時間の後、にぱっと満面の笑みを溢して切り上げたかと思うと、軽やかに執務室のドアまで駆けたところで振り返ってねぎらいの言葉をくれる。

 

 そんな彼女に言っている、可愛い、という言葉自体はその場しのぎのお世辞ではなく事実で、そのあたりはジャベリンも分かっているのだろう。

 美少女ゲームのヒロインという前提を差し引いても、火薬と燃料で駆動する鋼の乙女達の戦争の中、最初の最初からこの調子でパートナーをやってくれている子が可愛くないなんてことがあるだろうか。

 まして、嫌いだとか面倒だとか思うことがあるだろうか。

 

 

 続く反語が、きっとあなたの答えであり。

 あなたとジャベリンの絆の形なのだろう。

 

 

 

 

……………。

 

「ああああっ!!結局指揮官、ジャベリンのことうざいって思ってるの否定してない~~!?」

 

 そしてたっぷり数十分の後、寮舎の休憩スペースで幸せのひと時を思い出し笑いしながら悶えまくる奇行を繰り広げてから、そんな今更の事実に気づいて叫ぶ。

 いきなり現れて関わりあいたくない言動をしていたジャベリンであったが、彼女が来る前から先にそこのソファで居眠りしていたのを安眠妨害されて起こされ、そのままエスケープする時機を逸した哀れな同僚が一名。

 

「………ジャベリン、うるさい。ラフィーはいまお昼寝中」

 

「そんなことより聞いてよラフィーちゃん!指揮官がひどいの!」

 

「……そんな、こと?」

 

 人は食う寝るヤるの三大欲求を満たす瞬間を邪魔されることで深くキレる。

 まして謝るでもなくそんなこと扱いである。

 人型にして人ならざる彼女もその法則には漏れなかったようで、垂れ下がった眦を軽く吊り上げてジャベリンを睨んだ。

 

 ベンソン級駆逐艦、ラフィー。

 ジャベリンと同じくらいの年頃の少女の外見だが、活動的な彼女と対照的にラフなトップスにピンク色のハーフコートを羽織っただけの気怠げな雰囲気が特徴的。

 それだけだと寝起きを差し引いてもダウナーな印象を与えるが、長い銀髪を二つにまとめる髪留めや上着の袖口など随所にあしらわれたウサギの意匠が、あどけない顔立ちと相まって独特の魅力を振りまいている。

 

 そんな彼女が発する分かりやすい怒気に気づく素振りすらせず、まくし立てるように先程のあなたとの一幕を愚痴り始めるのがジャベリンのジャベリンたる所以であるが。

 しかもオーバーな身振り手振りを交えながら、詰め寄ったり頭を撫でてもらったりなどの接触時のくだりで抑えきれない笑みを溢しながら、………怒っている体をみせながら、要は盛大に惚気てきたわけである。再確認するが気持ちよく昼寝していたのを叩き起こした直後に。

 

 それもラフィーも憎からず想っているあなたとのことで。

 正直彼女はこう思ったというか指揮官の言葉をそのまま借りて口に出した。

 ここが屋内だとか、相手は同僚なのだとか、これまでの辟易する経緯とは一切関係ないところで、それら全てを脇に置いて、ただ純粋に。

 

 

「―――ああ、こいつうぜえ」

 

「ラフィーちゃん!?」

 

 

 キャラの崩れた罵声にびくっとなって震えるジャベリンであったが、殲滅戦神状態で533mm五連装魚雷T3をぶち込まれなかっただけ有情である。

 指揮官にねだって置いてもらった白くてもこもこの雲みたいなソファに座り直し、仮眠用に執務室に置かれてあるのと色違いのマイタオルケットを抱いてなんとか気分を落ち着けたラフィーは、その深紅の瞳で無感情な視線をジャベリンに投げた。

 

「あの、あの……なにか怒らせちゃうようなことしちゃったかな、ラフィーちゃん?」

 

「………はあぁぁ」

 

「すごい溜息!?」

 

 流石に自分が悪いことをしたのだろう、程度は察したのかトーンダウンしてしおらしくなったのを見て、もともと怒りが長続きするたちでもないのでそれ以上攻撃するのはやめておくことにした。

 代わりに、なぜこうやってしおらしいところを指揮官には見せないのかという以前からの軽い疑問をぶつける。

 

「なんで指揮官の前だと、ジャベリンはずっと暴走しっぱなしなの?

 指揮官、普通にしてれば、普通に優しくしてくれるよ?」

 

「………う」

 

 からかってきたり軽い憎まれ口をたたくことはあるが、うざいなんて直接言われるほどオープンというか明け透けなのはこの軍港でジャベリンだけである。

 当番制の秘書艦を任されながらよく応接椅子で居眠りしているラフィーにさえ、寝冷えしないようタオルケットをかけてくれるし、起きてぼーっとした頭で仕事をする指揮官の方を見ていたら手を振ったり温かいココアを淹れてくれたりするのだ。

 まったくこの寝坊助は、なんて言いつつ頭を軽く揺らしてきたりもするが、それくらいの意地悪なら構ってもらえて嬉しいレベルでしかない。

 

 その辺りは当然分かっているのだろう、気まずそうに人差し指で掻いている頬が、しかし何故か赤く染まっていく。

 そして彼女らしからぬ小さめの声で、ジャベリンは静かに自身の内心を打ち明ける。

 

 

「だって………はじめて逢った時、いいなって想えた人が指揮官になったから、どうしていいか分からなかったんだもん。

 それで、そのままずっと………」

 

 

「…………、………はあぁぁ」

 

「溜息二度目!?」

 

 蓋を開けてみればあまりに幼稚な恋愛感情だったというオチだった。

 ラフィーもあまり他人のことは言えないが、それにしてもというレベルで。

 

 気になる異性にちょっかいかけて反応引き出そうとか、人間の子供で言えば一ケタ年齢の情緒だろうに。

 

「おやすみ、寝なおす」

 

「え、えぇー?」

 

 色々と馬鹿馬鹿しくなったラフィーは、タオルケットを頭から被り昼寝の続きの態勢に入る。

 今度はよく眠れるようにと願いながら、まどろみの世界に旅立つ。

 

 

 

 こうやって寮舎の休憩スペースで寝ていれば、夕飯前の港内巡回の際にやって来た指揮官が起こしてくれるから、なんて。

 他人のことは言えないことに、当のラフィー自身も気づいているかは不明なままに――――。

 

 

 

 

 





 ジャベリン、ラフィーと来たら綾波は、って?

……いや、綾波ドロップしたステージ遅かったから委託にしか使ってないんで…。

 ていうか綾波は初期艦なのにあんま二次に出てこないこの二人と違って出番多いからいいんだよ!!



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サフォーク/ベルファスト


 おっぱい!メイド!おっぱい!!メイド!!



 

 

 あなたは指揮官である。

 

 この世界において軍艦の力をその身に秘めているのだか軍艦そのものが変化しているのだかは分かりたくもないが、とにかくそんな戦う力を持った可愛い女の子たちの上官として、彼女達を操り化け物のひしめく海原を切り拓くことが使命とされている。

 

 さて、それにあたっては沈めても沈めても湧いて出る化け物や非友好勢力の同族らに勝ち続け、なおかつ消耗を極力避け、最大戦力で以て待ち構えている敵艦隊の親玉を仕留めるというさながら魔王城に特攻する勇者パーティーのような戦略が求められている。

 海域に何十何百といる敵勢力に対し、こちらは同時出撃可能なのが二艦隊最大十二隻という、少数精鋭を貫かざるを得ない制約が課せられているせいだ。

 

 物量作戦は米帝の十八番ではないのか……と文句を言いたくもなるが、この世界ではユニオンという似て非なる国家なので言っても仕方ない。

 元ネタはそういうゲームシステムだったんだろうと諦めたあなたが必要としたのは、第一に火力だった。

 

 黒い全身タイツに囲まれたバイク乗りでも味方を置き去りにして合戦場に突入する戦国無双でも、それこそ龍を討伐する勇者でもなんでもいいが、数が多い相手に袋叩きにされるような状況を突破するためには、開幕速攻で敵を蹴散らすしかない。

 

 ある程度被弾しても問題ない頑丈さや防御手段?

 傷を負っても回復する能力やアイテム?

 

 無いよりはあった方が当然いいだろうが、焼け石に水とかジリ貧とかそういう状況を避けるためには、初手で敵全てを薙ぎ払えるくらいの攻撃手段こそが肝要だろう。

 

 今あなたの目の前にいるのは、まさにその理念を体現した存在だった。

 

 重巡洋艦という前衛では最も重量級である艦にしても遅くて敵の攻撃を避けられない、そのくせ装甲の薄さは駆逐艦と同じ軽装甲、耐久力も下手すれば軽巡洋艦に負けるという打たれ弱さ。

 しかし他の追随を許さない火力。

 それを一定周期でさらに数割増しの威力を発揮し、頻繁に主砲のリロード時間をゼロにし、トドメの全弾発射弾幕。

 

 殴り倒せば殴られない、撃たれる前に撃ち殺せ。

 できなければ所詮そこまで。

 

 散らば本望、華々しく咲かすは刹那の砲炎―――。

 

 

「………指揮官さんがなんかむつかしいこと言ってます。つまりどういうことなんです?」

 

 個人的にサフォークの戦い方、割と好きだったりする。

 

「えへ。褒められちゃいましたーっ」

 

 

 ほえほえと垂れ目気味な表情を緩ませて、どこかゆったりとした仕草で万歳すると、上四割ほどが露出したおっぱいがぷるんと揺れてあなたも万歳したくなる。

 これで最初は肩まで露出したウエイトレス風のミニスカ衣装、しかも首のカウベル付きのチョーカーに牛の耳に見えなくもないヘアバンド、とどめにピンク色のロングヘアといういかがわしいにもほどがある格好だったため、ついつい誘惑にかられけふんけふん。

 

………柔らかくて幸せだった、とだけ。

 

 罪滅ぼしというかお礼というか、あとはいつも中庭でぼーっと空を眺めている習性から捕まえやすかったため(後者が九割ほど)、褒賞として支給されたりボスキャラ的なのが蓄えていたのを分捕った強化パーツで余っていたのを全部彼女にぶち込んだ結果、なぜかおっぱいパブからメイド喫茶へと衣装変更したのは進化なのか退化なのか。

 胸を触られても「びっくりしましたよぉ」で済ませてしまう今はエプロンドレス姿のこの天然が、あなたの艦隊の火力殲滅担当、ケント級重巡洋艦サフォークだった。

 

「いい天気ですー。指揮官さん、一緒にひなたぼっこしていきません?」

 

 いつも通りの中庭に射し込む海辺の陽気の中、心地よさそうに微笑みながら首を傾げつつ、休憩に外の空気を吸いに出ていたあなたを手招いてくる。

 髪色もあってお花畑にいるのが大層似合いそうなゆるゆるオーラを振りまいていた。

 

――――前置きとイメージが違う?

 

 そうは言っても、「およ?綺麗なカモメさんが…」とか宣(のたま)いつつ火力最大で敵を銃殺☆するのが戦場の彼女であり、密かにサイコパス説を疑っていた時期もあるくらいだ。

 

 まあ、違うんだろうけど。

 

「ほら指揮官さん、サフォークのとなり座ってください!

………えへへ。それで、何が違うんですか?」

 

 長い丈のスカートの捌きに苦労しながら備え付けられた木製のベンチに腰を下ろしたサフォークが、嬉し気に自分の隣に空いたスペースをぽんぽん叩く。

 それに素直に従ったあなたは、ご機嫌な彼女の笑顔を近距離に捉えつつ、要らない豆知識を披露した。

 

 ゾウとかカバとか、大型の草食動物は怒らせるとライオンやワニより危険らしい。

 

「ほえぇ。ゾウさんもカバさんもすごいんですねえ。………あれ?…???」

 

 さりげなく失礼にも自分がゾウとかカバとか扱いされたと気づかない彼女は、話の脈絡を見失ってそこら中にクエスチョンマークを飛ばし始める。

 サイコパスだろうが草食動物だろうがアホの子だろうが、その爪牙が敵にしか向かないのが分かっているあなたには結論としてはどうでもいい。

 しばしあなたはむにゃむにゃ言いながら首を捻って頑張ってものを考えているサフォークを何とはなしに観察していたが、そろそろ最初に自分が何を考えていたのか忘れているだろう頃合いを見計らってちょっかいをかけることにした。

 

「ぷぇ?指揮官さん?」

 

 横を向いていた彼女の頬に人差し指を当てると、すべすべもちもちした肌の感触が返ってくる。

 何日もぶっ続けで潮風と直射日光に曝されるのが頻繁な女性の肌―――ついでにふわふわの髪も―――としては不自然極まりないが、そこは美少女ゲームのヒロインということで。

 可愛い女の子が好意的にしてくれるから得している、それ以上でも以下でもない、とあなたは深く考えていなかった。

 

「指揮官さん、いたずらですか?サフォークも指揮官さんにやっていいですか?」

 

 だめ。

 

「むむ、残念です……。でも、えへへ……」

 

 深く考えない、という意味では間違いなく相性がいいのだろうピンク髪の娘は、へらりと笑いながらあなたの指が触れた頬を掌で優しく撫でる。

 そのままこちらを見つめてくる青い瞳は、溢れんばかりの信頼できらきらと輝いていた。

 

「………」

 

 そして。その背後には。

 

 切れんばかりの鋭い殺気混じりの視線がサフォークの後頭部目掛けて突き刺さっていた。

 

 

―――さて、そろそろ仕事戻らないとなー。

 

「え、指揮官さんもう行っちゃうんですか?もっとゆっくりしましょうよー」

 

 いやいやそうもいかなくて。じゃあな、サフォーク、“ベルファスト”。

 

「はい、ご精励なさいますよう。ご主人様」

 

「ばいばいです指揮官さん。…………?あれ?」

 

 

 

「――――それで、お庭の掃除をお願いしておいた筈ですが。

 ずいぶんご主人様と楽しそうでしたね、サフォークさん?」

 

 

 

…………。

 

 ゴメンナサイ、とサフォークの情けない声を置き去りに彼女を見捨てて逃げたあなたの影を追うように。

 軽い叱責を終えたベルファストは執務室の方角を向いて静かに溜息を吐いた。

 

「あのー、ベルファストさん?」

 

 サボりを叱られた直後だからだろう、おずおずと上目遣いで様子を伺ってくる重巡洋艦に何でもないと頭(かぶり)を振る。

 のんびり屋の彼女にもこのような態度を取られてしまうあたり、ベルファストにも自分が苦手意識を持たれている自覚はあった。

 

 軽巡洋艦ベルファスト。

 怜悧な美貌を常に余裕を湛えた笑みで保ち続け、黄金律と評しても言葉に負けない均整の取れた肢体をフリル付きの“メイド服”で飾った銀髪の淑女。

 王宮メイドというよく分からないがとにかく凄そうな肩書を自認するだけあり常に冷静沈着でありながら誰よりも勤勉、そして歩く姿勢から食事時まで完璧な礼儀作法を維持し続けている完璧超人であり――――つまりは、脳天気を絵に描いたが如き天然娘のサフォークとは非常に相性が悪い。

 

 そもそもそれならそれでベルファストが自発的にメイドとして行っている基地の清掃業務などに付き合わせなければいい話なのだが、戦闘服(エプロンドレス)を着ている女がだらだらと呆けている姿など見過ごしてはいられない。

 彼女にとってコスプレメイドはこの世で最も許すべからざる邪悪なのだ。

 

 だから極論サフォークの苦手意識などどうでもいいのだが、―――問題は、そのサフォークと相性が良いご主人様にもやはり苦手意識を持たれている気がすることだった。

 実際先ほどもそそくさと逃げるように去られたのが少しショックだったりする。

 

 何より看過し得ない点が、サフォークに関してはもう一つあった。

 

「サフォークさん、先ほどご主人様に頬を触られていましたね?」

 

「へ?あ、はいっ!指揮官さんにいたずらされちゃってました!」

 

「………」

 

 泣いてすらないカラスがもう笑ってやがる―――なんてはしたないことは言わないが、ぺかーっと眩しい笑顔に湧いて出た感情を抑えて話を続ける。

 

「噂ではもっと過激な“いたずら”をされたこともあるとか」

 

「過激……?あぅ、おっぱい触られた時の話ですか?」

 

「はい」

 

 流石にちょっとは恥ずかしいのか、仄かに顔を赤らめたサフォークに至極真剣に首肯する。

 そう、ご主人様におっぱいを触られたことがある――――主に全てを捧げるのがメイドの本懐だというのに、その一点において王宮メイドたるベルファストがこのなんちゃってメイドに遅れを取っているのだ。

 

 あってはならないことである。

 当然ながら、あなたがメイドに劣情を覚えてふしだらなことをしたから幻滅するなどというヌルい忠誠心など彼女は持ち合わせてはいない。

 それどころか、自分がお手付きになってベッドでは娘のように慕い妹のように寄り添い姉のように甘やかし母のように包み込み、産めるのなら二男三女くらいまで産んで幸せな家庭を作り、やがて老衰した伴侶を世話しながら静かに看取るまでの妄想………もとい覚悟まで完了しているというのに。

 

 実際は頬どころか手すらロクに繋いだことが無いのが現実である。

 何故……と言えば美人揃いの女所帯の中で隙の無い完璧メイドにわざわざ的を絞ってセクハラを仕掛けにいくほど頭のネジが飛んでいるご主人様ではなかったから以外に深い理由はないのだが、彼女の有能さはその辺りの分析力には発揮されないらしかった。

 

 だから、彼女は威儀を正して深々と頭を下げる。

 

「―――一つ、お願いがあります」

 

「え、何ですかいきなり!?」

 

 ズレた思考回路が導き出したのは……先達に教えを請うことだった。

 少なくともご主人様におっぱいを触ってもらうということに関して、サフォークはベルファストより優れているのだ。

 ならばそこは潔く認め、教導を受けることが肝要である、そんな風に考えた。

 

 はしたない言い方はしないが、そうした思いを率直かつ正直に伝える。

 すると困ったように笑うサフォーク。

 

「――――お願いする相手、違うと思いますよ?」

 

 いつも通り春風を思わせる穏やかな声だったが、どこか透き通ったものを感じさせた。

 

「つまり指揮官さんともっと仲良くなりたいんですよね?

 だったら指揮官さんにもっと仲良くしてくださいってお願いしないとだめなんじゃないかな、って思います」

 

「………!」

 

「大丈夫です!指揮官さんは、こんな私でも見捨てないで、たくさん強くしてくれた素敵なひとです!」

 

 言われてみれば、なるほど真理だった。

 誘惑の手練手管、そんなものは簡単に磨けるものではないし、仮に身に着けたとて自分の本質が変わるわけでもない。

 まして主人の考えを言われずとも察して動くべき侍従が、逆に主人に侍従の欲望を察して動いてもらおうなど本末転倒にも程がある。

 

 

 そう、おっぱいを触って欲しいなら、待っていないでご主人様にそう伝えるしかないのだ。

 

 

「助言感謝します、サフォークさん」

 

「いーえー。あ、あと笑顔です!サフォークが笑ってると、指揮官さんも嬉しそうに笑ってくれますっ」

 

 天啓を得たかのように思考に電流の走ったベルファストが頭を下げると、これがお手本ですとばかりのほえほえした笑顔が返ってきた。

 なるほど、笑顔―――そう反芻し、この後三時間は鏡の前で表情の練習をすることを決める。

 

 

 

――――そして、後日。

 

「ご主人様。以前婦女子の胸に不埒な行為を働いたという件についてお話が――――ご主人様?」

 

 常の三割増しの気迫の籠った完璧笑顔でそう話を切り出したベルファストと、それを見てやばい説教される、と速攻その場を逃げ出したあなたと。

 

 

 

 その数時間後に最悪に不機嫌な銀髪メイド監督の下、寮舎の大掃除をさせられて半泣きになっているサフォークの姿が見られたとか。

 

 






 サフォーク改はどっちかっていうとウエイトレス服だ、って?

………聞こえなーい




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ユニコーン/ネルソン


「ですとろいもーど?あったよ、お兄ちゃん!」

 でかした!すげェ!



 

 抱えたぬいぐるみ、白き一角獣の角がV字に変形し、持ち主の白いドレスには赤いラインが走り輝きを放つ。

 殲滅形態に移行した軽空母は敵の艦載機すらも己の制御下に置き、光の剣を抜き放ち一条の閃光となって敵を切り裂きながら戦場の海原を蹂躙する―――

 

 そんな夢を見た、と執務室で書類の確認をしながら語ったあなたにユニコーンが返す眼差しは、とても暖かかった。

 

 

「お兄ちゃん、疲れてる?ほら、ユニコーンのひざまくらでお休みしよ?」

 

 

 ソファで所在なげに投げ出していたのをぽんぽん、と叩く彼女の膝はあまりに細っこく、案外重いと言われる人間の頭部を乗せるのは気が引ける。

 実際にはたとえ数百ミリの戦艦の主砲が直撃しようとある程度耐えられる存在なのは知っているが、如何せん視覚情報というのは人間の認識の八割以上を占めているわけで。

 落ち着いて休めるとは思えなかったためあなたはその申し出を断った。

 

「そう……」

 

 ぎゅう、と心なし強く抱かれたぬいぐるみが中綿のへこみによってそれを受け止める。

 拗らせた処女厨と名高き一角白馬の四本足が胴体の変形につられて持ち上がり、乱暴な扱いに抗議しているようにも見えた。

 

 もっとも持ち主はと言えば、眉をハの字にしてただ黙り込んでいる。

 俯いている様から目に見えてしょんぼりしているのが伝わってくるのを見かね、気持ちは嬉しいから礼は言っとく、とフォローを入れる。

 

「…………」

 

 返ってきたのは無言だった。

 気分を害したというのではなく、生来の口下手からうまく言葉を紡げないのだろう。

 代わりにとばかりに上目遣いでこちらをじっと見つめてくるユニコーンに、あなたも反応に戸惑う……というのは、今まで数え切れない程度には繰り返した一幕でもあった。

 

 絵に描いたように内気な少女。

 ただし、初対面からあなたのことをお兄ちゃんと呼んで慕ってきた子でもある。

 それだけに、この軍港の戦力の中である意味一番対応に困る子は彼女だった。

 

 一番の古株(ジャベリン)のせいで女の子相手でもテキトーな対応をする習慣が染みついてしまっているあなただが、不思議系(ラフィー)や天然(サフォーク)と違って下手に雑に扱ったり意地悪したりすると泣かせてしまいそうな繊細さがあり、彼女に対して積極的な行動が起こしづらい。

 好かれて悪い気はしないだけに、どうにもやりづらさがあった。

 

 

――――いい子はいい子なんだけどな。

 

「………っ」

 

 

 積極的に手伝いを志願してきたり、先ほどの膝枕の提案のようにこちらを気遣う言動を見せたり。

 ユニコーン頑張る、が戦場でも頻繁に出てくる口癖なあたり、健気と評してもまず誤りは無いだろう。

 

 そんなことを考えながらこぼれた独り言に、微かに彼女は反応していた。

 そして口元をぬいぐるみで隠し、あなたに聞こえない小声で同じく独り言を発する。

 

(……ユニコーン、そんなにいい子じゃないよ?)

 

 軽空母ユニコーン。

 主力艦隊で旗艦を張ることもできる彼女は、人間基準では高くてもローティーン下手をするとまんま幼稚園児レベルの精神年齢が基本の駆逐艦達よりも成熟した心を持っている。

 口にする言葉のたどたどしさと姉と比べるべくもない発育の悪さで幼く見られても、自分の言動が相手にどう思われるかを慮る理性と、そして己の恋心を自覚した女の情念を持ち合わせている。

 

 だから実は、彼女は大好きなお兄ちゃんを困らせていることを自覚していながら、それを無理に解決しようとしていない悪い子だった。

 

 だってあなたが悩んでいる内容というのは、つまりは『ユニコーンに優しくしてあげたいけどどうしよう?』だ。

 下手に言葉や行動で表面的に優しくしてもらうより、悩んでくれているというそれ自体がよっぽど彼女に幸せな気持ちを運んでいる。

 

………とはいえ、あまりその状態を放置し過ぎて、諦められたり関心を失ったりされれば泣いて塞ぎ込む自信がユニコーンにはある。それを自信と呼んでいいのかは知らないが。

 

 だから、という訳ではないが。

 この日彼女は一歩を踏み出した。

 

 ソファから立ち上がってぬいぐるみを自分の頭上に乗せ、執務机に向かって座るあなたの背後に回り込んで強制的におんぶをせがんでいる形でその頭上に自分の頭を乗せる。

 

 突然の奇行と不意の重みに、あなたはつい何やってんの、と直球でツッコミ半分の疑問を呈することしかできなかった。

 それに対する回答は要領を得ないもので。

 

「えと、えっと。………今日のユニコーンは、悪い子!」

 

 おう、としか言い様がない。

 まあ執務の支障にはなっているので確かに悪い子のいたずらと言えばそうだが。

 

 しかし普段の引っ込み思案具合からしてこの行為がユニコーンにとってかなり重大な意味があり、かつかなりの勇気を必要としたことはなんとなく察したあなたは、最初から存在しなかった拒絶するという選択肢を次元の彼方に追いやる。

 

 じゃあ今日のお兄ちゃんも悪い子ー、とどうせ捗らない書類を脇によけ、ユニコーンを乗せたまま机にぐでーっと伏せる。

 指揮官、ユニコーン、ぬいぐるみの奇妙な三段饅頭が執務机に乗っかることになった。

 

 その体勢のまましばらくなすがままにしていたあなただが、なんとなくまたユニコーンにどう接するべきかを考えて。

 答えは出なかったが、なるようになるか、とはなんとなく思えてきた。

 

――――で、ユニコーンさん、あと何分くらいでいい子に戻ってくれる?

 

「ん………じゃあ30分?」

 

 りょーかい。

 

 そんな感じで、一人と一隻と一体は、なんとなく一時間程ぐでーっとし続けるのだった。

 

 

 

 

…………。

 

「で?仕事が全く進んでいないことに関して、何か申し開きはあるかしら指揮官?」

 

 昨日の指揮官は悪い子だったのです。

 

「――――は?」

 

……スミマセンデシタ。

 

 どこぞの天然ピンクよろしく片言で謝罪する指揮官。

 正座でうなだれて反省をやらせているのは、あなたの配下である筈のビッグセブンを冠する戦艦だった。

 

 ネルソン型ネームシップ、ネルソン。

 超ステレオタイプなイメージの欧米美女―――敢えて死語を用いればボンキュッボンのパツキンねーちゃんといった外見である。

 しかも上乳のはみ出た露出の高い軍服風の衣装は深紅、腰下まで伸びた煌びやかな金髪はツインテールに分けている上にカールを巻いてドリルもとい軽い螺旋を描いている。

 

 属性過多―――そんな言葉が浮かんだあなたの第一印象を裏切らず。

 鋭い眦でこちらを睨む彼女の口から出てくる言葉は、実にツンデレだった。

 

「ふん。書類の分類と整理は終わらせておいたから、せめてこっちの山は今日中に終わらせなさい。

 あんたでもちゃんと集中してやれば夕飯前には終わる筈よ。だらだらやってたら日が暮れても終わらないでしょうけど」

 

 そう言って指し示した机の上には、きっちり角を揃えた書類の山が二つに分かれて置かれていた。

 のみならず、何十枚もの付箋が注釈のメモ書き付きで貼られていて、ぱらぱらとめくる限り、一読しただけであとは印を押すだけの状態にされているものすら幾らかあるくらいだ。

 

 何でもない風な素振りをしているが、どれだけてきぱきやっても数時間分の作業であることがうかがえた。

 流石に感謝と申し訳なさを覚えたあなたは素直にすまん、と重ねて謝意を伝える。

 

 それに対してネルソンは眉一つ動かさずに切り返す。

 

「以前、多くは期待しない、と言ったわ。

 まだあんたは指揮官として未熟もいいところなんだから、せめてその謙虚さと素直さは忘れないことね」

 

 自身の労苦を一切かさに切ることなく、憎まれ口と見せかけて激励の言葉を贈ってくるクールさも持っているとか、どれだけ盛る気なのかと思う。

 

 しかし、謙虚で素直、か――――どのへんが?

 

「な、なによ」

 

 普段からよくあなたに厳しい言葉を投げては未熟の評価を下すネルソン。

 そんな彼女があなたに求めている理想の指揮官像というのは無茶なくらいレベルが高いというか、誰だお前状態になるイメージしかないのだが。

 正直彼女の口から賞賛の単語が出ること自体が想定の外だった。

 

「………」

 

 そんな感じのことを伝えると、少しだけ目を閉じて思考に耽った彼女は、少し閊(つか)え気味に話し始めた。

 

 

「そうね、私だって別に認めるべきところはちゃんと認めるわよ。

―――ぐずったユニコーンの面倒見てて仕事にならなかっただけなのに、それを言い訳にしないところとか」

 

 

 待ってなんでそれ知ってるの。

 

「そんなのあの子の朝と夜の機嫌見たら分かるわよ、それこそあんたがいつも皆にやってることじゃない」

 

………、なんか過大評価されてる気がするんだが。可愛い女の子に囲まれてはしゃいでるだけだぞ俺?

 

「そういうとこ、ね。

 少なくともこの港にいる艦全てがそんなあんたの為に命を張る覚悟をしているし、それに値する相手だと認めている自覚は持ちなさい」

 

 いや、重いから。やめてそーゆーの。

 

 

「重いと感じるということは、背負う意志と覚悟があるということ。

――――だからこそ私は、どれだけ未熟でもあんたのことを指揮官と呼んでいる。その最低条件かつ一番大切なものは持っているのだから」

 

 

 張りのある声で、真っ直ぐこちらを見据えて言われると、あなたの浮ついた言動が全て吹き飛ばされるようだった。

 その反作用のように心臓が鼓動を刻む音が煩いと感じるようになる。

 

 きゅんと来た―――なるほどこれがその感覚か、とおちゃらけた表現が出るあたり、まだ余裕がある感じだが。

 

 かっこいいねえ、ネルソンおねーさんは。

 

「おね……ッ!?い、いきなり何よ!?」

 

 いつものように適当に漏らした言葉に、ばっと双房を翻して一転顔を背けるネルソン。

 こういう反応をされると、一瞬入りかけたシリアスの分だけ戯言を吐いてしまうのがあなたである。

 

 あ、お姉ちゃんって呼んだ方が良かった?

 

「お姉ちゃん!?勝手に変な血縁関係作らないでくれる!?」

 

 不束(ふつつか)な弟ですが………。

 

「いい加減にしなさい!ああ、もうっ」

 

 頭が痛い、と言わんばかりに豊かな胸の前で軽く腕組みしながら右手を眉間にあてて首を振り、表情を落ち着かせながらこちらに再度向き直る。

 ただ、微妙に顔が赤くなっているあたり、可愛い、という感想すら湧いて出る。

 

 しかもその直後、穏やかに微笑んだ顔がとても優しいものだったから。

 

 

「まったく、でもそうね―――本当手のかかる指揮官(おとうと)よ、あんたは」

 

 

 どれだけ属性盛る気なんだこのビッグセブン。

 

 

 





 見返すとラフィー以外ロイヤル艦ばっか。(あ、次回はロドニーと誰かでやります)
 でもクイーンエリザベスは意地で使ってなかったりした―――が、モナーク開発過程で育ててしまう。

 使ってみた感想?

 あれ遊戯王で言う征龍だよね(公式はなんであれにOK出した)



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ロドニー/夕張


 この二人を並べている時点で作者の悪意を感じる……?




 

「指揮官、ロドニーお姉ちゃんですよ!」

 

 わーいお姉ちゃんだー。

 

「あ…ふふ、いい子いい子です」

 

 開口一番に誇り高きビッグセブンがなんかとち狂っていたが、あなたはせっかくなのでノッてみた。

 

……発言はともかく、胸元の露出度高い改造白軍装を纏った銀髪巨乳の美人が両手を前に拡げてハグ要求のポーズをしてきているのに、飛び込まない以外の選択肢がある訳がない。

 

 普段は穏やかで当たりも柔らかい戦艦ロドニーは、ふんわりした胸でその感触を愉しむあなたを受け止め、優しく後頭部を撫でてくる。

 数分ほど至福の時間を味わった後、身を起こしつつなんとなくきりっとした真面目顔を作って彼女に訊ねた。

 

―――それで、急にどうしたいきなり。

 

「指揮官、昨日姉さんのことを“お姉ちゃん”って呼びましたよね?」

 

 ツッコミ待ちだったのがスルーされたのをちょっと悔しく思いつつ、そういえばそんなこともあったなと記憶を反芻しながら。

 話にあった姉と違って吊り上げているところを見たことがない垂れ目の、その瞳に潜む眼光に気付かないふりをして、真面目顔を保って続きを聞くことにした。

 

「ロドニーは一言もの申します。

―――なんてことをしちゃったんですか、と」

 

 え、ダメだった?

 

「ダメという訳では。あの愛情表現が全部叱咤激励になってしまう超弩級の不器用ですから、それがちょっとでも通じて指揮官から好意的にしてもらえたとなると舞い上がって超ご機嫌になるくらいには喜ばしかったんでしょう。

 我が姉ながら実にチョロ……こほん」

 

 いろいろ聞こえなかったことにしとく。

 

「ロドニーは優しい指揮官が大好きです♪」

 

 ありがとー俺もロドニー愛してるー。

 

「ふふ、両想いです。ロドニーも実はチョロいので本気にさせてもらいますね?」

 

……あれ、今自分下手打った?

 

「さあ?」

 

 そんなぐだぐだを挟みながらもロドニーが語ったのは、昨日あなたと別れてからのネルソンの言動。

 

 ネルソンとロドニーは姉妹艦である―――艦が姉妹って実際どういうことだと思わなくもないが、部屋に空きがあるのに寮舎で同室で暮らす程度には仲が良いと認識しておけばいいのだろう。

 それで昨日秘書艦業務を終えて帰ってきた日はいつもそうしているように、お気に入りの入浴剤を引っ張り出しながらあなたに関する愚痴を延々と漏らし続ける訳だが―――、

 

 ちょい待ち。

 いつものように愚痴って何?

 

「え、それは……今日の指揮官のこんなところがダメだったとか、ここを直せばもっと立派な指揮官になれるのにとか、でもこういうところは認めてあげるとか。

 さながら―――実は息子が可愛くて仕方ない頑固親父が酔っ払ってくだを巻いてる感じで絡んでくるんですよ?」

 

 そんなちょくちょく失礼な表現で姉を語る上に当の指揮官にツンデレ具合を暴露してしまう口の軽い妹と知ってか知らずか、ネルソンはロドニーにその日指揮官との間にあったことを語るのが習慣化しているらしいのだが、その日は特にクドかったという。

 前振りが長いし分かりづらい、こちらの反応などおかまいなしにヒートアップする、そしていつのまにか同じ話をループする。

 

 語り手としては赤点レベルの話し方で、あなたに“お姉ちゃん”と呼ばれたくだりを………周回して都合19回。

 およそ普段のきびきびした態度とはかけ離れた状態のネルソンから、もはや惚気ですらない何かをずっと聞かされたロドニーだった。

 

「もう相っ当ッ、嬉しかったんでしょうねえ………!」

 

 なんか、ごめん。

 

「ふふ、許しません」

 

 満面の笑顔で謝罪が切って捨てられた。

 

 ていうか、さっきから思ってたんだけど、据わった目で笑うのやめて?怖いよ?

 

「え?ひどいです指揮官、そんなこと言うなんて。そんな指揮官は、こうしちゃいますっ」

 

 不意を打ったロドニーは、いきなりあなたの頭を胸に抱き寄せて先ほどの体勢に戻る。

 違いがあるとすれば、迎え入れる抱擁というよりは捕らえ逃がさない拘束といった力強さが回された腕に籠っていることか。

 くすくすと控えめな笑い声で、幸せな柔らかさの中から彼女の顔を見上げると可憐な笑顔があるというのに、背筋が微妙に寒かった。

 

………怒ってる?

 

「いいえ。怒ってたら指揮官に八つ当たりなんてせずに直接姉さんに言います、流石に辟易(へきえき)はしましたけど」

 

 至近距離で囁くように声音を変えた彼女の声は、甘く耳朶を揺らす。

 

 

「ただちょっと思ったんです。“ネルソン”の弟ということは、指揮官はロドニーにとっても弟くんになるのではないかと」

 

 

……………。いや、それはおかしい。

 

「だめです。少なくとも今日はロドニーは指揮官のお姉ちゃんなので、口答えは許しませんっ」

 

 指揮官なのに?

 

「お姉ちゃん特権です♪」

 

 それ別の人のセリフ!?

 

 いつのまにか上官と立場を逆転させていたロドニーが、あなたの額にほほを擦りつけてすりすりする。

 なすがままにされていると、しかしそれ以上先の何かをされることはなかった。

 

 結局じゃれたかっただけなのか―――とも思ったが、ふと頭を過ったものがあり幸せそうにあなたを放さないままの彼女に尋ねる。

 

 もしかして、ネルソンの心配してた?

 

「…………」

 

 どうにもロドニーの話だと、彼女の姉はツンデレによくある面倒くさい属性まで備えているらしい。

 陰であなたとの会話を思い出して一喜一憂しているのを想像すると確かに可愛らしい一面と言えるかも知れないが、冗談でお姉ちゃん呼びしただけでテンションが最高潮になっているというのは逆に不憫な感じがしてくる。

 ましてその言動を一番近くで見ている妹のロドニーからすれば、こうして愚痴に見せかけて彼女のアピールをするくらいには、余計な世話を焼かせる状況に見えるのかもしれない。

 そこまでネルソンにつれなくした覚えはないのだが。

 

………むぎゅ?

 

 返答は、より強く抱きしめて胸に埋もれさせる行為だった。

 

「……心配なんてしてませんよ。指揮官ですから」

 

 だからお前らのその過大評価と過剰の信頼はなんなんだ。

 

「分からないんですね。それは残念なような、ほっとしたような」

 

 ビッグセブン級の感触を持つ柔らかなナニかのせいでロドニーの顔が覗えない状態だが、楽しそうな声音からは特に愁いなどは見当たらない。

 懸念としてはおよそ見当外れだったようだ。

 

 そんなあなたの視界の外で、悪戯げに口元だけ動かして銀髪の戦艦少女は笑った。

 

 

 ホレタヨワミ――――、

 

「―――ってことです。それで十分なんです、全て懸けて、擲(なげう)ち、捧げるには」

 

 

 

…………。

 

 そんなやり取りをしたのが午前中のこと。

 

 食堂にて昼食を取り終えたあなたは、昼休憩と称してドックに赴いていた。

 

 あなたが指揮官をやっている基地は、軍港と言っても元は化け物に壊滅された廃漁村を突貫工事で仕上げたもの。

 しかもそこで整備すべき艦船達は人間サイズなので、ドックも小さな町工場程度の広さだった。

 光量の大きい白色灯が日光を遮断された空間を照らし、少し蒸した空気に乗って油……というよりは化学薬品の臭いが鼻を刺激する。

 

 そこでごそごそと輝く正六面体の結晶のような何かをいじくり回しているのが、今回のあなたの目的である艦だった。

 

「むむ?ご主人の匂いがする」

 

 この薬品臭いのになんで匂いが分かるんだよ。

 

「語弊だ。気配のこともニオイ、と呼ぶことはあるだろう?」

 

 なるほど……ってそれはそれでおかしいよ忍者かお前は?

 

「軽巡洋艦、夕張だぞっ」

 

 ドヤッ。

 

 謎の自慢げな表情を見せながら振り返ったのは、艶やかな黒髪が美しい着物姿の少女だった。

 低い身長のせいでおさげにした長い髪が地面に着くほどになっているが、やはり何故か枝毛一つ見当たらない。

 そして身を包む着物は目に優しい浅葱色のそれだが、やや肉付きのいい太ももが完全に露出しているほど丈が短く、しかもそれを花魁よろしく肩が完全に露出するレベルで着崩している。

 

 しかし何より特徴的なのは、その髪と同じ色で頭頂から生えた一対の獣の耳と、短い裾から伸びた獣の尻尾だった。

 髪と同じようにしなやかな毛並みで、先端が白くなっているが、犬のものなのだろうか。

 

 元がゲームのヒロインとしてデザインされた存在だと考えると、軍艦を女の子にしている上しかもケモミミしっぽまで生やすとか、日本人だなあとあなたは懐かしくなる。

 

「しかしご主人。会いに来てくれたのは嬉しいが、何故か悪意のようなものを感じるぞ?」

 

 心外なことを言われた。

 指揮官として信頼する部下に悪意を持つはずなどない。

 ただちょっとロドニーにべったべたに甘やかされた反動で、彼女以上の露出度の高いなりをしているのに奥ゆかしい胸元を見て寛大な気分になりたかっただけなのに。

 

「………夕張、そういうのは鋭いぞ?」

 

 まあまあバリィさん、話を聞いてくれ。

 

「ばりぃさん?」

 

 知らない?なんか腹巻巻いたひよこ。……ひよこ?多分ひよこ。

 

「知らん。というかそんな珍妙な生物と一緒にしないで」

 

 ちなみに今治(いまばり)のマスコットキャラだからバリィさんね。

 

「夕張ですらない……だと……」

 

 愕然とした夕張の尻尾が警戒するように縦に揺れる。

 あわよくばそう呼ぶことを既成事実化しようかなとかふと考えてみたが不評っぽいのでやめた。

 

 じゃあ夕張、聞いてくれ。

 実はどうしても夕張のむn――――こほん、顔が見たくて逢いに来たんだ。

 

「…………」

 

 夕張じゃないとダメなんだっ(強調)

 

「……………ふ、ふん。騙されないよ」

 

 ぷいっと素っ気なく顔を逸らされた。

 やはりその場のノリで吐き出した言葉で話を逸らすというのは難しいらしい。

 

 夕張の声が上ずっていたり、尻尾がものすごい勢いで横に振り子運動している気がするが、多分気のせいだ。

 

「……本当は、別にいいけどね。悪意でもなんでも、指揮官をこうして夕張の縄張りでお出迎えできたんだから」

 

 縄張り。

 

 その言葉に、あなたは軽く辺りを見回した後彼女がいじっていた正六面体に目をやった。

 便宜上キューブと呼ばれているその結晶は、夕張達のような艦船の銘を冠した戦乙女を生み出す素になっているらしい。

 未だ詳細は不明だが、なにやら“情報”の集積体とのことらしい。

 

 “らしい”と伝聞でしか概要を知らないが、設定厨でもないあなたは深くものを考えていなかった。

 

――――で、次は誰がロリ化すんの?

 

「ご主人、だからあれは事故だって」

 

 かつて明石と夕張の二人で自信満々に解析結果の報告とか言い出して、生み出したのはロリファストだったせいもあるが。

 とはいえ、夕張がキューブを解析している理由が、この基地の戦力増強に資するかもしれないから――というのを知っているあなたは、それ以上茶化す気もなくがんばれ、とだけ言った。

 

「うむ、がんばる」

 

 簡潔にそれだけ言い、夕張は作業に戻る。

 会話の切り上げ時と見たあなたは、そっとその場を立ち去るのだった。

 

 

 

 そして指揮官を見送ることもせずにぽつりとその場に残った夕張は、小さな声で自分に言い聞かせるように呟く。

 

「ご主人にがんばれ、って言われた。じゃあより一生懸命やるのが当然だろう夕張」

 

 あなたにとってはそこまで大きな意味は込めずに言った言葉だ。

 夕張もそれは―――というかあなたの言動が大抵その場のノリか悪ふざけなのは分かっているが。

 

 それでも尚敬愛する主人に激励された、という事実は夕張を何よりも奮起させる原動力となる。

 あの愛の言葉もどきにしたって、真剣味が籠っていなくとも憎からず想う人にそう言われれば満更でもないし、逆にへたに真剣を気どられて全然言ってくれないのとどっちが良いかでは比べるまでもない。

 

 言葉はたかが言葉、されど言葉。

 真に重要なのは語り手が込めた意思ではなく、受け手がその言葉に何を感じたか。

 

 あなたが普段鋼の少女達に接している態度とそれに返されるにはあまりに篤(あつ)い信頼のギャップに困惑していることまでは当然知る由もないが………その答えらしきものは持っている夕張なのであった。

 

 





 ケースバイケースでしょうが、軽薄なのが必ずしも悪い訳ではない、という例。




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エイジャックス/リアンダー

 またロイヤル艦ですまない………などと言うつもりはない!!

 ていうか嫁艦リアンダーだし。


 あとタイトルで遊ぶなって言われてる気がするけど、確かに問題だよね。

 タイトルでググって製薬会社のページしか出ない二次創作とかこの作品くらいじゃなかろうか。




 

 それはともすれば聞き逃しそうな衣擦れの音だった。

 湿り気を含んだ生地と生地が擦れ合うから、本当に僅かな擦過音しか伝わらない。

 体表を伝っているのでなければ認識すら覚束ないことだろう。

 

 だが、―――この上なく艶めかしく鼓膜を揺らす。

 

「はぁ、ふっ……ぅ!ほら、いい声で鳴いてみせて?」

 

 エイジャックスのしなやかな脚を包む黒いストッキングの爪先が、上着を脱いだあなたのインナーを撫ぜる。

 優しく円を描き、蛇行し、気まぐれのように体重を乗せて圧迫しては痛みを感じるギリギリのラインで離れていく。

 その動きの一つ一つに発生する僅かな音が、心臓の鼓動と溶け合うようにしながら体内であなたの脳を揺らし、溶けてしまいそうな酩酊(めいてい)感を生んでいた。

 

 器用に脚を動かす彼女の下で、這いつくばってなすがままになるしかない。

 リクエストに応えるように、喉から気の抜けた声が自然と漏れた。

 

 ぶひぃ。

 

「~~~っ。いいわ、もっと聞かせて!

 私の可愛い可愛いこぶたちゃん、最高よ……ッ」

 

 ぞくぞくと震えを総身に行き渡らせながら、切れ長の眼を愉悦に歪めて美貌の少女がサディステックに嗤う。

 

 彼女の昂ぶりに合わせて波打つ銀の髪が宙に踊り、赤黒のチェックの帯で締められた臙脂のスカートが翻る。

 高揚に身を任せたエイジャックスの脚はよりテクニカルにあなたの躰を蹂躙していく。

 とんとん、と軽く叩いたかと思えば一瞬で力点を組み替え抉るように踵をねじ込むその巧みさは、強弱という陳腐かつ単調な概念では測れなかった。

 

 そこ……っ、もっと強く、ッ!?

 

 翻弄する彼女に気圧されるように、途切れ途切れに懇願するようになってしまったあなたの呻きは――――、

 

「あははは!もう、どこまで私の心を擽ってくれるのよ!?

 大丈夫、だぁいじょうぶ。こぶたちゃんのおねだり、全部エイジャックスが叶えてあげる」

 

―――たいそうお気に召したらしい。

 

 喜悦の光を湛えた瞳で慈しむように、しかしどこまでも高みから見下ろす傲慢さで少女は己の主を足蹴にする力を更に強める。

 

 こすっ、こすっ、こすっ、こすっ!

 

 動きだけで言えば一転往復するだけの上下運動に変わったが、ここに来て全力を込めてのそれはもはやそれ自体が技巧の極み。

 相応に消耗するのか一滴の汗が額から首筋を伝い鎖骨で飛沫く。

 黒地に白肌が仄かに透けるストッキングが衣擦れの音をいよいよわざとらしく強調し始める。

 

 シンクロするように、エイジャックスとあなたの荒い息が呼応しながらも間隔を狭めていく。

 そして、果てが。

 

 

「あはぁ…ッ。ふふふふ、うふ……っ!

 

―――――――いいのよ、逝っちゃっても。全て私に委ねなさいな」

 

 

「だめええええええええぇぇぇぇーーーーーーーっっっっッッ!!!!?」

 

 

 金切るような制止の絶叫と、その主に叩き開けられたドアの低い悲鳴に、その場に充満していた妖しい空気が霧散した。

 そのまま白金の髪を翻して床を蹴る少女が一人。

 

「な、な、ななな何をやっているのエイジャックス!?指揮官様になんてこと……!?」

 

「あら姉さん。姉さんも混ざるかしら?」

 

「ひうぃ!?混ざ……!?」

 

 元が白いだけに大変判りやすく顔中を真っ赤にした姉が目をぐるぐるして焦点も合わないまま妹に詰め寄るが、若干拗ねたように投げ遣りに放たれた言葉に絶句してしまう。

 “こうなると分かっていた”が、面白くはないエイジャックスは、その流れでさっさと種明かしをするのだった。

 

「ひどい姉さんね。指揮官の背中を足でマッサージしてたのを邪魔するどころか、自分がするのも嫌がるなんて。甲斐のない部下を持ってかわいそうなこぶたちゃん」

 

「そんな、でも、指揮官様をまっさーじなんて…………、マッサージ?」

 

 いやーすっきりしたわー。ありがとなーエイジャックス。

 

「よくってよ、何なら毎日でもしてあげます。

 それで、なんだかすごく興奮しちゃってる姉さんはどうしたのかしら?ねえ?」

 

「あ…れ……?」

 

 にたり。

 

 悪魔のように妖しくエイジャックスの頬が歪むと、要素に共通点はありながらもまるで対照的な温厚そのもののリアンダーの面立ちが、事態をうっすらと理解し始めて情けなくへにゃりと歪む。

 それを隠すためか、あるいは意地の悪い妹の顔を見られないためか。

 

「はぅぅ~~~……」

 

 両手で顔を覆いながら、ぺたんとその場に膝を落として座り込むのだった。

 

 

 

 

 リアンダー級軽巡洋艦、姉のリアンダーと妹のエイジャックス。

 実際はこの基地にはもう一人姉妹がいるのだが、それは別の話として、向かい合わせにすると実に対照的な姉妹だった。

 

 淡く光を反射して煌く金銀の波打つ髪や、表情や雰囲気が片や天使で片や小悪魔なところ、衣装も姉が品のいいお嬢様学校のセーラー服とすれば妹はそれを胸元が覗ける煽情的な仕様に改造してしまっている我が道を行くスタイルだ。

 ワンポイントのチェックの帯などの柄がリアンダーが赤白でエイジャックスが赤黒なのも存外違う印象を与えてくる。

 

 それはさておき。

 

 あなたとエイジャックスがコトに及んでいたのは、寮舎の重桜艦向けに和風アレンジされた一室。

 あくまで和風というだけで、畳敷きなのに安アパートよろしく出入口がドアだったり、どこぞっていうかユニオンの幽霊さんが積みまくっているゲーム関係の荷物が一角を占拠していたりするなんちゃって和室だが、そこに敷かれた布団の上であなたは寝転がり、エイジャックスはその背中を踏んでほぐしていた訳である。

 

 前日までに出撃が重なりばたばたしていたせいで事務仕事が溜まり、一日中椅子に拘束されていたせいで背中が妙に突っ張っていたのをちょうど通りかかったエイジャックスに話したところ、マッサージを申し出てくれたため移動したのだが―――あんな変な空気になるとは思っていなかった。

 

 まあ、何もいかがわしいことをしていないのに勘違いして突入してくる純真(?)ヒロインっていうシチュを自分で体験するのはなかなか新鮮だったので、面白ければそれでよし。

 

「………こぶたちゃん、私が言うのもなんだけど、ちょっと趣味悪くないかしら?」

 

 本当にお前が言うなの話だなおい。

 

「エイジャックス、いい加減指揮官様をそのひどいあだ名で呼ぶのやめませんか?」

 

「い・や。こぶたちゃんはこぶたちゃんよ」

 

 くすくすと笑ってあなたの呆れとリアンダーの不服を切り捨てるエイジャックス。

 妹のことだからこそより生真面目になっている姉はあなたにも食い下がった。

 

「指揮官様も、本当によろしいのですか?

 示しがつきませんし……」

 

 示しがつかないのはいろんな意味で今更だし、呼び方も別に自由でいい。

 ただし愛を込めること。

 

「指揮官様……」

 

「あら姉さん、今の『指揮官様』には愛は込められていて?」

 

「にゃっ!?」

 

 からかわれて一撃で沈黙するリアンダー。

 普段戦場では頼れる前線の司令塔だが、ちょっと撃たれ弱かった。

 

 初心なねんねそのものでわたわたと意味もなく腕を振るその仕草を暖かく見守っていると、横座りに崩していた脚を揃えてエイジャックスが立ち上がる。

 

「それでは私はこの辺りで失礼。不肖の姉の後始末は任せますわよ」

 

 引っ掻き回して逃げる、だと……?それは俺の専売特許だった筈……!

 

「ろくでもないですわね、こぶたちゃん」

 

 で、結局その呼び方<こぶたちゃん>は永遠に継続ですか?

 

 

 

「あなたの出した条件を満たしているのだから、何も問題はないのではなくて?」

 

 

 

 そう言い残して心なしか足早に和室を立ち去ったエイジャックス。

 ドアが閉まってから数拍置いて、その言葉の意味があなたの脳の回転に追いついた。

 

…………。

 

―――デレたっ!?

 

「……まったく、あの子は。指揮官様も指揮官様ですけど」

 

 衝動的に叫んだあなたに、再起動したらしいリアンダーの嘆息が返ってくる。

 わずかに苦笑を混ぜた微笑みで、じっとあなたを見据えていた。

 

「実は、この時間、この部屋を出てすぐそこのダイニングで一緒にお茶をする約束をしていたんです。

 だから待ち合わせ場所に来ないあの子を探しに私がここを通ることも、読んでいたでしょう」

 

 ああ、それであんなわざとらしい演技してたのね。それにリアンダーはきれいに引っ掛かったと。

 

「わ、忘れてください………」

 

 困り顔のリアンダーは、そこでふと思い直して話すのを止める、妹が指揮官のマッサージと称してこの部屋に連れ込んだ理由を。

 『こぶたちゃん』とじゃれたり姉に悪戯を仕掛けるという目的もあるにはあっただろうが―――今この時、期せずしてリアンダーは指揮官と二人きりの時間を過ごしている。

 偶然通りがかったあなたを確保しておいて、把握してしまっている姉の感情と欲求を満たすために気を回したのだ。

 

 そのことには素直に感謝するし嬉しいとも思う。

 が、妹に一方的に施されるだけではいけないというのがリアンダーの流儀だった。

 

「あの子は色々なことによく気が付く子ですし、気が付いたら解決しないと気が済まない子ですから。

 その分気苦労も絶えないでしょうし、あれで指揮官様に甘えているつもりなのでしょう」

 

 だからエイジャックスを気にかけてあげてくださいと、頭を下げるリアンダー。

 

 それこそ気が付く範囲でならな、とあなたは敢えて軽く―――しかし確かに了承した。

 

 

…………実際のところ、人を初対面で豚呼ばわりしてきたエイジャックスに対して、最初は良い印象を持っている筈がなかった。

 

 なのにあなたが彼女と気安い関係を築いてこれたのは、こうしてリアンダーが姉として何度も仲を取り持ってきたからである。

 真剣に頼まれれば一方的に忌避しているわけにもいかず、そうして交流を持てばひねくれたエイジャックスの態度の裏も分かるようになってくる。

 

 だがそうなるまでには妹を気に掛けるリアンダーの想いがあったからこそで。

 

――――少し、うらやましい。

 

 前世の家族は当然ながら死に別れ、今世の家族も軍事機密の関係で今あなたが生きているかどうかさえも知らないだろうから。

 とっくに整理はつけて今更の話にはなっているが、その分だけ彼女達の絆に対して感じる憧憬は大きい。

 

「……………」

 

 それ以上何か話す気にもならず黙り込むと、リアンダーもその沈黙に寄り添う。

 数分、数十分、温かくももの寂しいその感情が落ち着くまでの間に、窓から赤みがかった西日が兆してくる。

 

 畳敷きの部屋が夕陽に染まっていると無性に郷愁が湧くのは何故だろうか。

 別段似たような環境で育ったわけでもないのに。

 

 

「――――指揮官様」

 

 

 湧いて出たとりとめもない疑問を断ち切るように、穏やかな声で呼びかけてくる少女。

 どうした、と問いを返すと彼女は静かに首を横に振る。

 

「いえ、呼んでみただけですわ。でも……」

 

 でも?

 

 

「愛は込められている………筈、です」

 

 

 わずかに揺れる、夕陽に煌く白金の髪と、海の碧を映す澄んだ瞳。

 朱に染まりながらそう告げた巡洋艦の少女は、どうにも言い表せないほど綺麗で。

 

「んー――――」

 

 気が付けば抱き寄せた勢いのまま、目を瞑った彼女の唇があなたのそれと合わさっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 





 前半と後半の落差ァッッ!!?

 もうなんかこれで完結でもいいかなとか微妙に思ったけど次話以降またいつものノリに戻してラブコメるんでもうちょいお付き合いいただければ。

 ところでリアンダー最高だと思うんだ。
 前衛巡洋艦全員の火力を底上げするんで居ると敵の殲滅速度がかなり変わってくる指揮スキル持ち。
 入手条件の都合上指揮持ちで簡単に来てくれるのは彼女くらい。
 ノーマルレアなんで燃費良好で強化もサクサク、しかも改にすれば高レア艦にも食い下がれるステータスになるという。
 始めたばかりの頃からずっとお世話になってます。
 それでいて見た目も性格も天使なのはゲームで確認すれば分かる筈。

 リアンダーちゃん可愛いやったああああああああああああっっっっ!!!!!(暴走中)




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パープルハート/山城


 超次元シリーズはやったことないしアニメも見てないけど可愛いと思ったのでとかいうクソ作者ムーブ。

 アズレンゲーム中のセリフから性格や口調を推定してかつ色々設定盛ってるので多分別人状態っていうかそもそも別人設定。

………まあコラボ元だと絶対に男とくっつかないキャラだろうし時限式の変身姿っぽいからその時点でキャラ崩壊起こしてるしね!(自己弁護)




 

 この世界において海にはびこる怪物達と戦う戦力である少女達が冠する銘には、それぞれ由来となる艦―――基本的には二次大戦期に活動していたもの―――がある。

 それが何処の国の所属で何をしていた艦か、くらいは本人に訊けば教えてくれるし、銘については個人差があるが己の国には多かれ少なかれ絶対のプライドを持っている彼女達は、基本的に隠すことはない。

 その分太平洋戦争?の因縁で重桜とユニオンの艦同士が険悪あるいは気まずくなったりということなども多々あるが、それはさておき。

 

 その出自については大まかに分けて元の世界で言う日独米英のどれかの艦であることが殆どの筈なのに、明らかにそれらとは違う出身を語る娘がいた。

 勿論中国とかロシアとかいうオチでもない。

 

 

――――ねえ、ゆかりんゆかりん。

 

「あら、何かしら指揮官」

 

――――プラネテューヌって、どこ?

 

 あなたの問いに反応したのは、艶はあるのに跳ね癖が大きい長髪を三つ編みにして二つに分け、均整のとれた肢体を名と髪の色と同じ深い紫色のナイトドレスに包んだ少女だった。

 支給されたキューブを元に補充戦力を“建造”する設備がこの軍港にはあるのだが、ある日明らかに真打登場と思しき金色のエフェクトと基地全体を揺らす振動と共に現れたのが彼女である。

 

『プラネテューヌの女神、パープルハート。あなたが指揮官ね?これからよろしくお願いするわ』

 

 ベルファスト以来となる派手な登場で話題を浚(さら)い、彼女同様他と一線を画す突破性能で艦隊のエースの座をもぎ取っていくことになる存在の自己紹介。

 それを聞きながらも、あなたの視線は彼女の空色に輝く瞳にまっすぐ吸い込まれていたのをよく覚えている。

 

 

 なんでこの子は目に電源アイコンを飼っているんだろう、と。

 

 

 前世では目にハートマークを浮かべた女の子達には色々な意味でお世話になったし、しいたけや十字架を飼っている連中も漫画で見た。

 目から鳥が羽ばたく反逆の王子様もいたし、「お前の前のたなのオレオ取ってオレオ!!」とか言いながら相手に幻を見せる兄貴も変な目の模様だったと思う。

 

 だが電源アイコンである。

 寝ている時は消えるとかいう回りくどいネタなのだろうか。

 今改めて振り返るまでもなく至極どうでもいいことだが、無性にその時は気になってしょうがなかった。

 

 考えに夢中になっているせいで視線が剥がせず、彼女と真っ直ぐ見つめ合う形になっていた。

 それに対して何を好意的に勘違いしたのか、艶然と微笑んであなたの手を取った彼女はこう続けた。

 

 

『さあ、お近づきのしるしに一緒にゲームしましょう?』

 

 

 彼女も彼女でたいがい何かがおかしかった。

 

 彼女の言うゲームに何か駆け引き的な意味とか隠喩があったかと言えばそんなことはなく、純然たるテレビゲームの話だった。

 幸いあなたも嫌いではないしそれを趣味にしている艦は他にもいた為、そもそもゲーム機が置いていないということはなかったが、二次大戦期の軍艦の銘を持つものが出て来て真っ先に要求する対象としては明らかに変だろう。

 

 その後よくよく観察していると、戦闘服がサイバーな感じで光のラインが走っているぴっちりなスーツだったり、蝶を模した光の翅が生えたり、どこからともなく砲弾や魚雷としてゲームのコントローラーのボタンやディスクや乾電池をばらまいたり、必殺技と言って光を纏った剣を幾つも分裂させて敵のボス格を切り刻んだりと、一人だけなんか違うゲームやってるんじゃないか疑惑が発生してしまう。

 自己紹介の“プラネテューヌの女神”も、自分は女神のように美しい的なナルシスト全開発言だと思っていたが、微妙に違う気がしないでもない。

 

 そんなわけで、この日あなたは彼女に訊いたのだ。

 

「ライダー超銀河フィニッシュを決めながら?」

 

 いや、だって思いっきり張り付けになってたし。

 

「………もうっ、自機が電王で相方NPC鎧武とか軽く罰ゲームだと思うの。

 しかもあなたは相方クウガとか」

 

 ランダムセレクトに文句言ってくれ。

 あとこれで原作的に絆深まったりとかしない?

 

「ふふっ、どうかしら?」

 

 寮舎の和室でゲームしながら、そのノリでてきとーに訊いたのだ。

 肘が触れ合う程度に近くで三角座りするパープルハートは、神秘的な美貌で上品に笑いながら電源アイコンの目であなたを見るので、ごくたまに吹きそうになるのをこらえて一応神妙な態度にするのが大変だった。

 

 まあ、要するに彼女がこの世界の異端かもしれないというのは、あなたにとってはその程度の話。

 異端とか言い出したら一応仮にも転生オリ主である自分はどうなんだということになるし。

 

「そうね、お察しのとおり私は他の子達と違って軍艦をルーツに生まれた存在ではないわ」

 

 あ、そうなの?

 

「………そこからなのね。指揮官としてそれはどうなのかしら?

 パープルハートって名前、軍船としておかしいと思わなかったの?」

 

 言いづらいなあ、とは。だからゆかりんって呼んでるんだし。

 

「本人に向かって名前が言いづらいとか、あなたって本当馬鹿なのか大物なのか判らないわね」

 

 ご尤もなので視線を逸らして誤魔化す。

 一応あだ名の理由について説明しておくと、パープル⇒紫⇒ゆかり⇒ゆかりんである。

 バリィさん(仮)と違って特に文句も言われなかった。

 

「あだ名で呼ばれるのは気に入ってるからいいのだけれどね。

 これでもゲイムギョウ界の女神なのよ?キューブを媒介に召喚された分霊みたいなものだから、おかしな変質をしているし、シェアなんて無いも同然だから大した力も発揮できないけど」

 

 シェアって?

 

「そうね、この世界ではマグネタイトと呼ぶのだったかしら?」

 

………。今すっげえ厄い単語が聞こえた気がするんだが。

 

「…………………冗談よ」

 

 今の間はナニ!?

 

「ふふっ」

 

 一瞬建造とダブりと合体素材という言葉同士の関連性について考えてしまったが、闇に呑まれる前に無理やり頭から追い出すことにした。

 なので話を戻すと、彼女はどうやらゲームの女神様らしい。

 そんなのが存在してしかも実際にお目にかかれるとは、なるほど八百万と女体化の国は伊達ではないようだ。

 

 拝んだ方がいい?

 

「――――やめて」

 

 感心しながらもいつものように軽口を叩き―――返ってきたのは真剣な否定だった。

 はっと彼女の顔を見据えると、どこか哀願するような感情すら透けて見えていて、いつも気品のある態度しか見せていなかった彼女が初めて見せる顔をしている。

 

 いや、彼女の気品が崩れた瞬間という意味なら、他にも一度だけ見たことがある。

 

「あなたが私を個体名で名付けて<ゆかりんって呼んで>くれた瞬間から、私はあなたに縛り付けられたわ。

 今更ただの神様<パープルハート>に戻すことなんて、許さない」

 

 初めてあだ名で呼んだ時、そしてそれ以降。

 どこか超然として浮いたような距離感がなくなったように思えたのだが。

 

 打ち解けたのだと思ったのは違って―――彼女が真に“喚ばれた”のはあの時だったのかも知れない。

 

「他の子と違って、本体の影でしかない私は銘だけでは自意識を保てない。

 あなたの“ゆかりん”は此処に居る―――此処にしか居ない。居られない」

 

……神様ってのも大変なんだな、よく分からないけど。

 

「ええ、まったく分かってないのでしょうね、でもそれでもいいわ。

 二つだけ約束してくれれば」

 

 気づけばしなだれかかったパープルハートが吐息すら感じられる至近距離で、剣を握っているとは思えないほど爪までよく手入れされたように綺麗な指を二本立てる。

 その内の中指をたたみながら、

 

「ひとつ、呼び方は絶対に改めないこと」

 

 人差し指をたたんで、代わりに小指を出す。

 

「ふたつ、これからも私と一緒にゲームすること」

 

 時を待つこともなくその小指にあなたの指を絡めると、紫の少女は安心したように微笑んだ。

 

「指切ったわよ。守っていてさえくれるなら………そうね。

―――パープルハートは伊達じゃないわ。指揮官と、この港にいる皆を、一緒にゲームする時間を守るために、どこまでだって強くなる」

 

 言葉を途中で切り、覇気を込めた宣誓。

 その中にゲームの三文字が入っているのがなんともらしいが、不思議と締まらない感じはしない。

 

 頼りにしている、とあなたが珍しく指揮官らしいことを言おうと思って言うと、こくりと彼女は頷き―――リザルト画面で止まっているゲームのコントローラー二つを拾いうち一つをあなたに差し出した。

 

 

「じゃあ続き、しましょ?」

 

 

 そうやって誘ってくる笑顔や雰囲気は実に元通りの気品を取り戻していて。

 ただ肘どころか肩が触れ合っているところまで縮まった距離だけが、今日の変化を物語っていた――――。

 

 

 

 

☆ちょっとパターン変えて気分転換☆

 

 山城ちゃんがひたすら殿様を呼ぶシリーズ

 

 

「殿様、殿様ぁ~~~!!」

 

 今度はどこの備品壊したお前。

 

 

「とのさま………」

 

 うわ扶桑の帯ぐっちゃぐちゃじゃん。

………しゃーねえ付いてってやるから、謝りに行くぞ。

 

 

「殿様、殿様~っ」

 

 だから扶桑なら許してくれるって言ったろ?

 ま、良かったな。

 

 

「殿様っ、殿様っ?」

 

 お礼とかいいから。

 とりあえず落ち着け、人の回りをぐるぐるするな。

 

 

 

「殿様?と・の・さ・まっ?」

 

 あー、山城おはよう。眠い……ってまだ空暗いじゃねーか何時に起こしに来てんだお前!?

 

 

「とのさまぁ……っ!」

 

 だぁっ、仕事片付かなくて遅れたのは悪かったって!

 

 

「殿様ぁっ!」

 

 あんまり急かすな、山歩きには付き合ってやってんだから!

 

 

「殿様……?」

 

 ああうん綺麗な景色だねー。むっちゃ疲れたけど。

 

 

 

「殿様!殿様っ?」

 

 毬……というかボール遊び?

 たまに思うんだけど、山城って猫より犬っぽいよな。

 

「殿様!!?」

 

 

 

「殿様」

 

 第三艦隊出撃、旗艦山城。各員奮戦を期待する。

 行ってこい。

 

 

「とのさまぁぁぁああああ~~~~~っ、!!」

 

 おかえり、……ってだから艤装展開したまま跳びつこうとすんなって言ってんだろうがあああああっ!!!

 

 

「………とのさまぁ」

 

 寝言でまでとは家臣の鑑ですな山城殿。

………お疲れ、ゆっくり休めよ。

 

 

 

「殿様?とーのーさーまー?」

 

 ん?ああうん、今日も一日がんば………るのは俺だけでお前は頑張らなくていいや。

 

「殿様ぁぁ!?」

 

 

 

 





 ぐだぐだでおわり。

 あ、一応原作未プレイ組に誤解の無いようお伝えすると、アズレンの山城は別に言語障害患ってるキャラじゃないです。
 ただ殿様連呼して構ってもらいたがるのが可愛いだけの航空戦艦です。




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ラフィー改/イラストリアス


 そろそろ再登場の子もちらほらさせないとパターン的に苦しい。

 というわけでレベル上限解放が実装されてからというもの毎朝毎朝デイリーで夕張×3を元気に爆殺しているうちの第一艦隊の戦神です。
 夕張に一体何の恨みがあるんだ………。




 

 夜も更け満月が仄かに照らす時間帯、射し込む光を頼りにあなたは薄暗い基地の廊下を歩く。

 今日は出撃した艦隊が密漁船と出くわした為面倒な手続きが必要になり、うんざりしながらもやっと報告書を上げたところだった。

 

 海の上、というのは兎角物事の処理がめんどくさい。

 船籍―――どの国の船なのか、さらにどこから出港した船なのか、変な協定の対象になってないか、乗組員が大人しく情報を吐いてこちらに従うか、犯罪者として移送してしまって後で問題が発生しないか。

 

 対セイレーン基地司令官としてある程度の強権を与えられていてすら、マニュアルを秘書艦と一緒に慎重に確認しながら対応せざるを得なかった苦労を経験させられ、軽く眩暈がしている。

 あとほんの少しだけ密漁者たちの態度が悪ければ、『そんな船は存在しなかった』ことにして逆にお魚さん達に餌と住処を提供することも選択肢に入れていたかもしれなかった。

 

 彼らにも生活というものはあるのだろうが、だったら見つかるなというだけの話。

 こういうことに関しては普段は女の子女の子している艦たちですら、むしろあなたより余程シビアな感覚を持っている。

 彼女らも戦時中の軍籍船と考えれば至極当然なのだが、不審船遭遇の第一報時に可愛いアニメ声で撃沈するか否かを訊かれた時は、発砲許可一つで大騒ぎする前世の自衛隊との落差を痛感したものだった。

 

 そんな出来事のせいでくたくたの上、明日にもそれ関連の仕事が一部残っていると考えると変に乾いた笑いすら出ながら、非常灯と月明りで視界を確保して進む。

 基地戦力が充実する度に拡張と改装を繰り返したためそこそこ真新しい建物だが、茫洋とした光しかないと少し不気味だった。

 しかも軍事施設の都合上内部は入り組んだ造りになっていて、歩かされながら集中力が霧散していく為、余計に浮いたような錯覚を感じる。

 

 そこに。

 

 

「――――やっと帰ってきた。ずっと待ってた」

 

 

 抑揚のない声で言われたせいで、あなたはつい跳び上がりそうになった。

 慌てて視点を落とすと、緩く曲線を描く二つの銀の糸束がふわりと闇を泳ぐ様が目に入る。

 その間を縫うように、真紅の瞳が鋭くあなたを射抜き―――。

 

 じゃきっ。

 

「指揮官、今日はラフィーと一緒に、おねむする」

 

………別に構わんから艤装で指揮官を脅迫すんな駄ウサギ。

 

 まくらを抱き締めながら上目遣いのおねだりだったらいい感じに萌えられたのにと、キレ良く突き付けられた砲身に溜息をつくあなただった。

 

 

 

「………」

 

 あなたの部屋に一緒に入って以降もじっと此方を見ているラフィーに構わず軍服から寝間着に着替えると、そのままベッドにばたりと倒れ込む。

 横向きの体勢でタオルケットを持ち上げると、当然のごとく彼女は髪を解いてあなたの懐に潜り込んできた。

 

 ちょうどいいので抱き枕にすると、細く小さな躰から高めの体温が伝わってきた。

 トレードマークのピンクのハーフコートを脱ぎ捨てた彼女はラフなキャミソールにハーフパンツの出で立ちのため、擦れ合う素肌から柔く滑らかな感触と温もりをダイレクトに感じられる。

 

 それに対してなんとはなしに背中をぽんぽんと優しく叩くと、ぴくりと胸元で少女が震えた。

 彼女が今日の密漁船を発見した艦隊に所属し、拿捕(だほ)に当たっていたことを思い出したあなたは、静かに何かあったかと問いを投げる。

 

「………指揮官。ラフィー、こわい?」

 

 質問に質問が返ってきた。

 こちらをまだじっと見ている人形のような少女の表情に変化はないが、声音も僅かに震えているのは聞き取れた。

 どう答えたものか迷っていると、ぼそりと話を続けるラフィー。

 

 

「ラフィー、バケモノって言われた。

 抵抗したから、制圧して……ラフィー、間違ったことしてないのに」

 

 

 どうして――――。

 

 声にならない理不尽への嘆きがそこにあった。

 理屈では彼女の立場として彼女の行動になんら問題はなく、その責任も命令をした指揮官であるあなたに帰するものだ。それはラフィーも理解している。

 けれど理不尽であれば、小さな子供が屈強な船乗り達をまとめて叩き伏せることも、それに恐怖と絶望を覚えた犯罪者達が罵声を叩きつけることも、そして彼女の心がそれに痛みを覚えることも、厳然とあり得てしまう。

 

 魚の餌でもよかったかも、と声に出す寸前で辛うじて堪えた。

 もう処分を決め終えた何処の誰とも知らぬ他人に心を揺らすより、優先すべきことがあるのは流石に分かる。

 

 とはいえ具体的に何をすればいいのかまでは分からなかったが。

 気にする必要はない、なんて当たり障りのない慰め文句は意味がない、ラフィー自身が気にする必要がないのを理解していてそれでも気にしてしまっているのだから。

 

 傷ついた女の子を慰めることに効果的なやり方なんて知らない。

 いつものように茶化してぐだぐだにしてしまえる話でもない。

 結局できるのは、ラフィーの最初の問いに自分の立場を伝えることぐらいか。

 

――――俺は怖くない。怖がってたら指揮官なんてやってられない。

 

 薄っぺらい言葉だと思った。

 口でなら何とでも言える。

 それを信じるに足る人間の大きさも、生き様も、誠実さも、彼女達に示した覚えは何一つない。

 何より、曇りなき心で彼女達に一片の疑いも持っていないなどと言えるほど、自分を狂人だと思っていない。

 

 けれど―――。

 

 

「ん。ラフィーは、指揮官のことは信じてる」

 

 

 返ってきたのはそれこそ一片の曇りも見えない純真な信頼だった。

 何故そんなものを抱けるのか理解できない……だが疑うことすら躊躇われるほどの清らかでひたむきな信頼があった。

 

 本当に、その過大評価はなんなんだ……。

 

 何か敗けた気分になりながら、投げ遣りになってあなたは目を閉じる。

 このまま寝て起きて、朝になったら少しはラフィーが元気になっていたらいいと無責任に祈りながら。

 

 そんなあなたのことを潤んだ瞳で見つめながら、ラフィーは―――ほんの少しだけ、笑った。

 

 暗い廊下でじっと待っていた自分に、不意に武装を突き付けられたにもかかわらず、いつものように軽口を言いながら受け流して、挙句無防備に寝床すら明け渡す指揮官であるあなたのことを。

 

 たとえ冗談でも甘えでもやっていいことと悪いことの区別くらいはラフィーにもついていて、上官に武器を突き付ける行為がとびきりの後者であることも分かっている。

 あなたは疲れて頭が回っていなかったが、明確な反逆として退役処分―――無機質な情報体へと還元されてもおかしくはないことも。

 

 それでも堪え切れずに、ラフィーは甘えてしまった、指揮官を試してしまった。

 懐くのを怖がる野生動物同然に噛みついて―――いとも容易く赦されてしまった。

 

 

 何のことはない、あなたが部下を信じ貫くことのできる一廉の指揮官であることはとうに証明されている。

 

 

 確かにあなたは優れた人格者ではないかもしれない。

 言葉も殆どが薄っぺらいかもしれない。

 それでも、そこにある親愛に偽りが無いと信じられる人間だから、鋼の少女達はあなたを慕う、というだけのこと。

 

(うん。“ここ”がラフィーの帰るおうち)

 

 眠りに落ちたあなたを起こさないように、ラフィーは自分を抱き締めてくれている人の体温を感じながら心臓のあたりに顔を擦りつける。

 薄く聴こえる鼓動の音と、少女の甘い匂いと男性の汗の臭いが混ざり合ってゆくのを僅かな高揚と共に確かめ、沈んでいた心が軽くなっていった。

 

 ラフィーは大丈夫だ。

 どんな理不尽に相対しても、この居場所を守るためなら戦える。

 指揮官の為にどんな戦場にだって征ける。

 

 眠れる戦神は、そう自らの拠り所を再確認する。

 

 何故かこの時ばかりは、世界で最も安心できる筈の場所にいるのにカケラも寝る気になれなかった。

 だからじっと首を固定して―――ずっとずっと飽きもせずにあなたの寝顔を見つめ続ける。

 

 窓から射しこむ蒼い月光が、そんな銀色ウサギのことを優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

…………。

 

 で、寝て起きたらふっつーにいつも通りのラフィーだったんだけど。

 

「心配して損した、ですか?」

 

 そうは言わないけど、結局俺の関係ないところで自己解決されるともやっとしない?

 

 翌日、快晴となった昼下がりの中庭。

 やる気が底辺となった仕事を放り出したあなたは、日差しの適度に遮られた木陰で紅茶を愉しんでいた少女に絡んだかと思うと相談というか半分愚痴を吐き出した。

 

 白いシンプルなドレスに押し上げられた、たゆんとした胸が眩しい。

 突然憩いのひと時を邪魔したあなたに不快な顔一つ見せずに、にこやかに予備のカップに紅茶を注いで差し出す包容力の塊は、銘をイラストリアスと言った。

 

 肌は水が透き通るように白く、髪は陽光を優しく照らし返すように白く、コバルトブルーの瞳以外はひたすら純白の装甲空母。

 浮世離れして神秘性すら感じさせる令嬢は、あなたの話を受けて微笑みを僅かに苦笑に変えている。

 

「もう、相変わらずですね指揮官さまは。きっと指揮官さまという光が、傷ついたあの子の心を優しく照らしたのです。

 関係ないなんて、そんなわけありませんわ」

 

 お気遣いどーも。悪い気はしないね。

 

「もう、子供みたい」

 

 

 耳当たりのいい優しげな声を受け流して少しぬるめの紅茶を飲み干す。

 言い回しが詩的で、希望に満ちた解釈といい実に彼女らしい発言だと思ったが、それを額面通りに受け止める素直な人間にはなれそうになかった。

 

 そんなあなたを慈しみの目で見つめるイラストリアス。

 包容力が大きすぎて逆につかみどころがないふわふわとした印象も受けるが、何故か苦手意識も抱けない不思議な相手というのがあなたから見た彼女の印象である。

 突っ張っても甘えても「あらあら」で済ませて好意的に見てくれそうな視線は、嫌な気はしないが居心地がいいというわけでもないのだ。

 

 もともとラフィーの話に関してはそこまで深く心配していない―――正確にはそういう素振りで過ごしつつ少し多めに彼女を気にかけておくくらいがベターなのだろうと結論を出している―――あなたは、ちょうど持ち歩いていた小道具を取り出して対イラストリアスのダベりモードに入ることにした。

 

 

 指揮官、そんなにいい子じゃないよ?闇属性だよ?

 

「あら?ええっと、ユニコーンの真似ですか?可愛い♪」

 

 なん…だと……?

 

 

 ぬいぐるみを抱き締めて上目遣いでたどたどしく。

 ネルソン辺りなら「馬鹿」の一言で沈めてくれそうなツッコミ待ちのウザ芸だったが、妹の物真似をされたイラストリアスにはまさかの好評を浴びていた。

 ふみゅ、と腹を絞められた黄色いひよこがあなたと一緒になんとも言えぬ間抜け面を曝している。

 

「そのぬいぐるみはどうしたんですか?」

 

 何故か配給物資に混ざってた。『まんじゅう』って言うんだと。

 

 そういえばひよこまんじゅうってあったよなあ、とおよそ飛べるとは思えないまん丸の胴体にペンギンみたいな羽がついている謎のマスコットのぬいぐるみを眼前に抱えてあなたは首を捻った。

 それをひっくり返してイラストリアスに近づけると、一応訊いておくかくらいの気持ちで彼女に尋ねる。

 

 要る?

 

「くださるのですか?」

 

 寮舎の休憩室のソファーにでも座らせとこうかと思ったけど、欲しい人がいるんなら持ってってもらっても。

 

「それでは、頂戴します。イラストリアスもこういうの好きですよ~?」

 

 心なしか弾んだ声で、そっとぬいぐるみを受け取るお嬢様。

 その意外に子供っぽい一面に驚いたあなただが、喜んでいるのなら何よりである。

 

 じゃあ、せいぜい可愛がってやってくれ。

 

「はい、部屋ではこの子を指揮官さまだと思ってたくさん可愛がらせていただきますね?」

 

………!?

 

 いつの間にかあなたは鳥になっていた。

 

 

 

 





 イラストリアスねーちゃんはヴィクトリアスと組ませてボスに突っ込むと聞ける特殊セリフで爆笑するよね。
 たゆんとし過ぎって………。



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扶桑/ライプツィヒ


 好感度がケッコン可能レベルになると肉食化する二人(失礼



 

 あなたが住んでいる場所はド田舎である。

 

 

 あ、いや開幕読者に喧嘩を売ったとかそういう話ではなく。

 

 先だって触れたように、壊滅した廃漁村にあなたがジャベリンと二人放り出されたのがこの基地の始まりである。

 海がモンスター蔓延る魔境と化し、海運による流通がほぼ死んだも同然の世界で、陸路での交通が不便な場所とくれば経済もへったくれも無い。

 諸々の物資は配給という形で少女達に護衛されながら届くし、嗜好品などもかなり此方の希望に対して融通を利かせてくれるものの、逆に言えばそれ以外に他所とのモノのやり取りが無い閉鎖された僻地ということになってしまう。

 

 前線基地と考えれば余計なことは考えずにひたすら戦え、ということなのだろうが、店一軒存在しない――明石や不知火が色々やっているが、あれは主に戦略物資関係であって経費をやりくりする話だ――この基地で通帳に月々溜まっていく給料は果たして使う機会が巡ってくるんだろうか、と懸念を抱かないでもない。

 

 が、本題はそこではなく、土地が駄々余りしている、ということだった。

 何せせいぜいが数十人ほどの隔離所帯だ。平均年齢と男女比を無視すれば限界集落とどっこいである。

 オリジナルの各艦の建造年月日から逆算した平均年齢であればそれこそ限界――――いや、なんでもない。

 

 だからあなたは基地司令官として、特に何も考えずに土地利用の一環として裏山に社を建てたいという重桜の艦たちの要望に許可を出した。

 せいぜいがお地蔵さんとその隣にあるちっちゃな木箱レベルのものだと想定して。

 

 そして完成したらしきものを視察に行こうとして、まず整然と敷かれた石畳に嫌な予感を覚える。

 そして石段として整えられた参道と、頂上に見える鮮やかな朱の鳥居に顔が引きつり。

 

 なんということでしょう………野生の猿や猪が出るレベルで自然に還っていた野山は切り拓かれ、手水舎とおみくじ所まで備えた瓦屋根の神社が建てられていたではありませんか。

 

………いや、匠の業とかいうレベルじゃねーだろこれ。

 

「いかがでしょう指揮官様。重桜艦の子達みんなで頑張ったんです」

 

 何をどう頑張った―――、いや、答えなくていい。とりあえずご苦労様とだけ言っとく。

 

 あなたの案内をしていた扶桑の誇らしげな顔に、あなたは無難な言葉を返す。

 というかそれしか出来なかった。

 

 黒と赤を基調とし、波に流れる紅の桜が描かれた振袖を纏う淑やかな大和撫子は、今日ばかりは浮かれているのかあなたの唖然としている様子にも気づかず、そのまま祀ることにした神様の名前やら来歴やらを訊いてもないのに語っている。

 ぶっちゃけ日本の神様のどんな漢字を当てるのかも分からんような長ったらしい名前など半日経てば全く思い出せなくなるだろうが、喜びに水を差すのもどうかと思い適当に相槌を打つのだった。

 

「そうだ指揮官様、よろしければお参りしていかれませんか?」

 

 例によって射干玉(ぬばたま)の黒髪から分け出でるように生えているネコミミをピコピコ動かしながら、話が一区切りついたところで思いついたように言ってくる。

 あまりに自然に言われたものだから普通に頷いてしまったが、一応あなたの旗下が多国籍艦隊であることを思い出し、忠告を送っておくことにした。

 

 いや、別にいいんだが。それ唯一神をガチで信仰してる奴に迂闊に言えば戦争モノの発言だから気を付けろよ?

 

「そ、そうなのですか?」

 

 扶桑のそれは日本(仮)特有の、なんか凄そうだったらとりあえず神様として拝んどけとかいうガバガバ宗教観からくる認識の発言である。

 聖書の四文字も便所の精霊も等しく神様扱いする紙一重の価値観を世界のスタンダードと思ってはいけない。

 

………まあ、大人の都合かライターの都合か知らないがそっち系の宗教色強いヒロインはいなさそうなので、深刻な問題になることも無いとは思うが、結婚式でも挙げられそうな教会は何故かあるので。

 

 何やらショックを受けている扶桑を置いて、あなたは社の方へと向かい賽銭箱の手前で立ち止まる。

 上述したとおり使う機会のない小銭を持ち歩いたりはしていないため、適当に二礼二拍手一礼だけ済ませた。

 約二十年ぶりで生前最後の初詣以来なのに、よくそんな作法覚えてたなと自分でも一瞬感心し―――あ、まずった、と思った。

 

 

「指揮官様?重桜の作法、よくご存じですね?」

 

…………、……。

 

 ふ、何を隠そう、前世じゃ極東の出身だったもので。

 

 

 嘘は言ってない、嘘は。

 ただ咄嗟に適当かましただけので若干苦しい、前世とか思いっきり仏教圏の概念だし。

 

 そんなあなたを扶桑は、やや眦が細めだが何故かキツそうには見えない顔つきを真剣そうに張りつめて見つめてくる。

 色っぽい顔立ちだしもうちょっと違うシチュで見つめ合いたかった。

 

「…………」

 

 どんなことを考えてるのかあまり読み取れない沈黙と無表情。

 彼女が頭の横に何故か付けてる青い蝶の髪飾りが代わりとばかりにひらひら揺れる。

 しかしその沈黙は長く続かずに。

 

 

「指揮官様、重桜に興味をお持ちになっていただけたのですね!?」

 

 

 嬉しそうに綻んだ。

 神社について現物を見る前に事前に勉強していた―――どうやらそういう解釈をしたらしい。

 

「私にお尋ねいただければ、巫女として作法から祝詞の読み上げまで何なりとお教えいたしますのにっ。

 今宵は祝い酒ですね、山城や重桜の皆に声掛けしなくては!」

 

 普段落ち着いている穏やかな声のトーンを数段上げながら、『指揮官様』に己の祖国に関心を持ってもらえたと盛り上がる扶桑。

 そんな彼女に、まるで同好の士を見つけたオタクのようだ―――とド失礼な感想を抱いたあなたは、そのまま方向修正をいとも容易くぶん投げた。

 

 別に自分が転生者だと知られて困ることはない。

 わざわざ電波な人間だと思われるリスクを冒してまで言いふらす意義がゼロだから喋らないだけで、勘違いされていてもそれはそれで構わない。

 

 けれど。

 

「そうだ指揮官様、指揮官様さえよければ、平和になったら一度重桜にお越しくださいませ。

 この扶桑、誠心誠意ご案内させていただきます」

 

………ん、まあよろしく頼む。

 

「(~~~やりましたっ!)約束ですよ、指揮官様?」

 

 ゆらゆらと尻尾を忙しなく揺らして振袖の裾を揺らす彼女がぱっと表情を輝かせたその約束。

 あなたがかつて生まれ育った故郷とは似て非なる場所だろうけれど、実際興味が無いかと言われるとそんな訳がない。

 

 はしゃいでいるのだろうか、山城の姉なのだと思わせる屈託のない笑顔と人懐っこさを心なしか振りまきながら、思いついた話題を投げ続ける扶桑に対応しながらもあなたはふと横目で社を覗った。

 

 何の神様が祀られているのかは早速忘れたが―――そういえば一応は神前で交わした約束ということになる。

 

 “重い”約束になりそうだと。

 信心深い性質でもないのに、その予感は確信としてあなたに根付いていた。

 

 

――――これ、死亡フラグじゃね?

 

 

 あなたは考えないことにした。

 

 

…………。

 

 鉄血。

 

 字面からして物々しいその国に属する艦は、その居住区を他と別にしている。

 ハブられているとかそういうことではなく、単に彼女達にあてがわれる施設には特別な配慮が必要だからだ。

 

 がるるる……っ!

 

 ぴぎー!!

 

「あの、指揮官さん?さかなきゅんは噛まないですよ……?」

 

 具体的にはペットOK、なおかつ猛獣注意。

 どうも人類の敵であるセイレーン由来の強化を施しているらしく、艤装の一部が牙や尾爪を生やした異形となっているからだ。

 

 その異形は、出会い頭に巻き舌で威嚇するあなたを見て面白そうにしている………のだと思う。

 意思疎通など取れるはずもないが、なんだか懐かれている気はするので戯れるのは嫌いではなかった。

 

 くすんだ金髪赤目の、ショートボブに軍帽を被ったその飼い主?のライプツィヒは、何か面白いことでもないかと鉄血寮を訪れノリのままに振舞っているあなたの奇行にどうしたものかとおどおどしているが、面白いので放置していた。

 代わりとばかりにぬっ、と距離を縮めてくる“さかなきゅん”の鋼鉄のボディを撫でてみると、感覚があるのかは知らないががたがたと身震いする。

 

 おーよしよし。

 

 ぴぎ、ぴぎー♪

 

「え、いいな……さかなきゅん、指揮官さんになでなでされてる……」

 

 どうでもいいがそのネーミングセンスはどうなんだ――――流石にそれを言わない情けはあった。

 こうしてすり寄ってくる分には可愛いと思わなくもないが、見た目は小型のボートほどもある鋼鉄の異形だ。

 戦場にてその牙で喰らった敵とて十や二十では利かない程の戦闘能力を有している。

 

 それをさかなきゅんと呼ぶとは、細い腕を常に体の前面でわたわたしている―――心理学的には、防御や警戒、怯えの明確なサインを発している見るからに気弱そうな少女だが、センスが飛んでいるのかそれとも内に何かを秘めているのか。

 拘束を暗示するベルトで血のように赤いケープを暗褐色のシャツの上に留めている服装も、よくよく見れば派手な露出度だが不思議と違和感は無かった。

 

 気弱で繊細そう……同じ条件にロイヤルの軽空母が思い当たるが、彼女と違って弄るのに気が引けるということがないのは何故だろう。

 

 

 で、最近どーよ?

 

「は、はい!?どう、って……?」

 

 なんか面白いことでもなかった?

 

「そんな、急に言われてもっ」

 

 

 コミュ障にとってされると困る話題の振り方の鉄板を唐突にぶつけられて早速泣きそうになるライプツィヒ。

 当然あなたはわざとやっている。

 そしてさかなきゅんは薄情なのか機微を解さないだけなのか、あなたに撫でられて満足そうに左右に揺れていて、飼い主を助ける気配は微塵もなかった。

 

「えっと、ええっと………!………っ。??いや、でも………、ぅぅ」

 

 頑張って話題を絞り出そうとうんうん唸るが、そもそも頑張らないと出てこないような話題は話題とは呼ばない。

 そんなライプツィヒの姿を眺めているだけでも割と面白いが、あまり長引かせるとイジリではなくイジメでしかないのであなたは助け舟を出した。

 

 普段出撃ない日とか、どうしてんの?

 

「あっ……!おさんぽ、してます……」

 

…………。

 

 以上。

 そこで話を発展させられないのがコミュ障のコミュ障たる所以である。

 

 あなたのマッチポンプで一瞬嬉しそうにしたのがすぐに焦りへと変わり、落ち込みを通り越して表情がくしゃりと歪んだ。

 

「……っ、ふぇぇぇぇ~~~~ん!ひっく、えぐえぐ……」

 

 ちょっ!?

 

 ぴぎ!

 

 流石にいきなり泣くとは思わず焦るあなたに、さかなきゅんがキメの角度を取りながら鳴き声を上げる。

 泣ーかせたー、泣ーかせたー♪という副音声が何故かはっきり聞こえた気がした。

 案外イイ性格をしているらしい。

 

 それはどうでもいいが、この場所は鉄血寮の公共スペース。

 自分が泣かせた女の子を放置するのはちょっと無理なので、取り急ぎ彼女の部屋に連れていくことにした。

 幸いあまり距離は無かったので他の誰かに見咎められることもなく、二人きりでライプツィヒの部屋に入ることができた。

 

 二人きり、で。

 

 

「さかなきゅん、ドアを見てて…私、指揮官さんと大事な話があるから、誰も部屋の中に入れないでね。ぜったいにね?」

 

 ぴぎ!

 

 

 ひどく落ち着いて、先ほどまでの嗚咽との落差で別人と思うような静かな声と共に、ドアに鍵が掛かる音がした。

 そして元気な了承の鳴き声は、そのドアの向こうから聞こえてくる。

 

…………もしかして、嘘泣き?

 

「いいえ、悲しかったのはホントです。ただ、指揮官さんにいじめられるのは嫌いじゃないから。

―――――でも。たまには仕返ししても、いいですよね?」

 

 こちらの了承を取る気のない確認を、涙で潤んではいるが全く充血していない瞳でこちらを見つめながら投げかける少女。

 カーテンが掛かったままの、灯りの点いていない薄暗がりの部屋で、くすんだ金髪赤目は別段退廃的とも妖艶とも取れない、いつも通りの気弱な少女のものだ。

 

 けれど何故か“喰われる”という確信が湧き上がった。

 

 ふと思う―――“さかなきゅん”は艤装である以上、当然ライプツィヒの一部であるのだ。

 ならばあの鋼鉄の猛獣は、彼女が内に秘めた一面の顕れでしかないのかもしれない、と。

 

 あまり物の無い、寂然とした灰色の部屋。

 背後には簡素なベッドが壁に沿う形で置かれ、そこで普段寝起きしている少女は正面から少しずつこちらに近寄ってくる。

 

 その距離がゼロになる前に、あなたは動きの鈍い腕をなんとか上げて………その手が彼女の首筋を撫ぜる形になった。

 

「きゃん…っ、ふふっ」

 

 露出した柔肌を擽った刺激は、獲物を前にしたケダモノを昂らせる効果しかなかったらしい。

 仕返しとばかりにライプツィヒはあなたの首に唇を這わせ―――、

 

「指揮官さん……!」

 

―――強く吸い立てながら、ベッドの上にあなたを押し倒すのだった。

 

 

 





 続きは省略されました。わっふるわっふると言われても多分書くことは無いでしょう。
 ちなみに次回、何事もなかったかのようにまた別の子といちゃいちゃしてます(ネタばれ)

…………好感度MAXにした時の、扶桑の「子づくりしたいです(意訳)」も大概だけど、ライプツィヒの指揮官さんを部屋に連れ込んで見張りまで立たせるのは肉食系以外の何物でもないと思うんだ。


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瑞鶴/翔鶴


 登場時も今回のイベントでもそうだけど、スキルからしてアズレンの翔鶴姉は被害担当艦過ぎてワロタ。

 ワロタ………。




 

 腹に力を入れて声を出す、という言い回しがある。

 真に受けて腹直筋に力を入れて声を出そうとすると横隔膜が硬直し、締めたカエルみたいな声しか出ないので素人にはオススメできないのだが、一度腹式呼吸で声を出す感覚を覚えると普段の話し方からしてそちらに切り替わるものである。

 歌手とか役者とか―――あるいは、砲声谺する戦場で明瞭かつ正確に情報を伝達する為声を張り上げる軍人とか。

 

 

「うわ~~~ん、また負けた~~っ!!」

 

 

…………至近距離で叫ぶのやめてくれませんかね、瑞鶴さん?

 

 一瞬世界が遠くなったかと思うほどに鼓膜を叩いてくる声量で泣きべそをかく鶴二号のせいで、あなたはそれを身をもって体感することになっていた。

 そろそろお馴染みとなってきたなんちゃって和室に連れ込まれたあなたは、座布団の上に座らされてその膝を強制占拠されている。

 

 若干絵的にアブナイ位置でおでこをぐりぐりしている茶髪のポニーテールが、その下手人である空母・瑞鶴だった。

 袖口を黒く染めた羽織を纏い、勝気そうな目元に薄紅の化粧を施しているのは、その名の通り鶴をイメージしているのだろうが、泣きべそをかいているのに化粧が崩れないのは女の意地かそれとも元は二次元ヒロインの補正なのか………まあ、多分後者だ。

 

 普段は腰に太刀を佩いて快活な武士娘そのものといった彼女だが、こうなった事情はあなたにも分かっていた。

 

 演習システム。

 

 仮想体(アバター)を投影して別の基地の艦隊のデータと模擬戦闘を行うことのできる、訓練や戦術研究及び戦力評価を目的とした設備がある。

 電波やケーブルなどの既存の通信網とはまた別のネットワークで一定数の指揮官達が繋がっているらしく、そこで優秀な成績を収めれば装備などの配給に多少の優遇が行われる仕組みとなっている。

 ただあなたはその施設の利用にあまり熱心というか、がちがちに工夫を凝らして上位に行こうとする姿勢は持っていなかった。

 

 その理由として、第一に成績優秀者への優遇というのが実態は誤差レベルの範疇に収まること。

 まああくまで演習システムは訓練が本旨であり、敵は同僚ではなく海の化け物なんだからあまり競争に血道を上げ過ぎるなよ、ということだろうし、まったくもってご尤もである。

 

 第二に、自分や他所の艦隊のデータが完全にアバターで再現されるとかそれと模擬戦闘とか、原理や裏を想像するとちょっときな臭さしか感じない代物のため、醒めた目でしか見られないこと。

 もちろん確証どころか妄言と一蹴されても何も不思議はないただの個人の印象なので、一応伝えるだけ伝えた上でシステムに登録するのは希望者だけに限定している。

 

 第三に、その希望者の中でも特に熱意の高い瑞鶴に利用方針を自由にさせていること。つまり―――。

 

 

 で、また赤城と加賀が居る艦隊に突っ込んだの?

 

「だってぇ~……」

 

 

 分かり切った確認に、唇を尖らせているだろう瑞鶴が膝の上でもぞもぞする。

 

 “一航戦の先輩<赤城加賀>”や“グレイゴースト”を超える。

 そう抱負を口にし日夜訓練に励んでいるのが瑞鶴だ。

 たとえデータ相手だとしても、その目標と模擬戦闘が出来る機会というのを彼女が逃すことはない。

 

 が、悲しいかなそれこそデータのみで見た場合の赤城と加賀という空母は、超速攻を得意とする演習艦隊の常連である。

 戦闘開始から艦載機発進まで、徒競走で言うならコース半周分先にスタートしているくらいの感覚で爆撃や雷撃が降ってくる相手だ。

 

 対して瑞鶴は典型的なスロースターター。

 長期戦で消耗したり追い詰められていてもそれまで以上のスペックを発揮して逆襲してくる、少年漫画の主人公のようなある意味理不尽な存在ではあるのだが………如何せん一艦隊同士の接敵状態からよーいどんという演習の短期決戦ルールとは相性が悪く、本領を発揮する頃には勝負が終わっていることも少なくない。

 

「泥沼の20連敗だよぉ……」

 

 結果、ガチ勢にそうでないパーティーが突っ込んで行くという、アバター相手でなければお互いにとって不幸にしかならない真似をやらかしているわけで、これで上位を目指しているとは口が裂けても言えまい。

 

―――相性が悪いだけだって。実際の運用だと瑞鶴と翔鶴の方が頼りになることもあるって。

 

「でも……うぅ、ごめんね指揮官。私のわがままで演習の順位下げちゃってるし」

 

―――それはいいから、ほら元気出せ。

 

「…………。優しいね、指揮官」

 

 わずかな沈黙の後、穏やかな声で呟いてくる。

 上述したとおり演習での成績にはあまりこだわっていないにもかかわらず、自身の功名より部下の心情を優先する指揮官的な勘違いをされた気がするが、瑞鶴が落ち着いたのでよしということにした。

 

 そして落ち着いた瑞鶴はと言えば、あなたの膝を枕に寝返りを打って横向きになる。

 羽織の下の装束の裾が例によって非常に短いため、長く健康的な脚が太もものほぼ全てを露出しているあられもない姿だが、当人は気にした様子もなく顔の動きをもぞもぞからすりすりへと変えていた。

 少し落ち着き過ぎである。

 

………そろそろどいてもらっていい?

 

「もうちょっと……。だめ?」

 

 甘えるような声音と流し目。

 たぶん素でやっているんだろうが、いい感じにあざとい。

 しかし悪い気はしないのでまだ膝を貸すことは了承した。

 

 代わりとばかりに、ふと気になってあなたは瑞鶴の耳を触る。

 

「ひゃ、な、なに指揮官?くすぐったいよ?」

 

 いや、普通の耳だなー、と。

 

 

「え、私のそこ、どこかおかしい……?っ、やぁん!?そんな中まで指、入って……!?

 指揮官、なんかびりびりくるよ…っ、あ、ひ、~~~~~ッ!!」

 

 

………わざとやってんのかエロ鶴。

 

「……はぁっ、くぅ、突然何なの指揮官?おこってる……?」

 

 突然はこっちのセリフ―――うん、まあ、とりあえず呼吸鎮めろ。悪意はないから。

 

 

 敏感なのかは知らないが唐突に挟まった喘ぎ声にあなたは困惑する。

 重桜の艦は大抵ケモミミが生えているので、鶴イメージでデザインされたからか耳が普通の人間と同じなのがちょっと気になっただけなのに。

 

 とりあえず彼女の顔面が股間に非常に近いので、そんなところで艶めいた息遣いをするのを至急やめて欲しかった。

 黙って促すと、瑞鶴は深呼吸して息を整える。

 

 すぅ、はぁぁ――――。

 

 しんと静まった部屋に、やけにその吐息は染み入るように響いた。

 それを数度繰り返すと、部屋の空気そのものが入れ替わったような錯覚を感じる。

 

 一方、深呼吸しているうちに泣いた疲れが出たのか眠そうに瞼をとろんと閉じかけた瑞鶴が、膝の上から垂直に見上げるあなたに呼びかけた。

 

 

「ねえ、お姉ちゃん――――」

 

…………。………ん、んん?

 

 

 あなたに呼びかけた、と思ったのだが。

 あなたは実は女だったので警告タグに性転換とガールズラブ追加しなきゃ―――なんてことは勿論ない。

 

 ぼんやりした頭で一瞬あなたの反応を訝しんだ瑞鶴だが、今しがた指揮官のことをなんと呼んでしまったかに思い当たりばっと覚醒する。

 

「ち、ちちち違っ!!これは指揮官がお姉ちゃんみたいに安心するっていうか、だからって指揮官をお姉ちゃん扱いしているわけでもなくて、そもそも私にとって指揮官とは―――」

 

 お、おう。

 

 顔を真っ赤にして近づけては弁解未満の発言でまくし立てられてあなたは目を白黒させていた。

 だが、暫くもしない内にいたたまれなくなったのか瑞鶴はすごすごと部屋を退出していくことにしたようだった。

 

「指揮官、こ、これで失礼するね!?………その、いつも色々ありがとね」

 

 出て行く時も結局恥ずかしさで涙目になっていたが、それでも立ち上がりざまにいじましく一言残して。

 

 

 

…………。

 

 そして、入れ違うように鶴一号が入室してきた。

 

「もう瑞鶴ったら、指揮官のことをお姉ちゃんだなんて。

――――私が居るの、ばれちゃったかと思いました」

 

 盗み聞きしてた?

 

「ふふっ。ええ、瑞鶴を鳴かせたところもばっちりと」

 

 正規空母、翔鶴。

 黒染袖の白い羽織と目元には赤い化粧、と装いは姉妹艦の瑞鶴と揃いだが、それこそ鶴の

翼のように真白の髪と、淑やかに微笑みつつ毒を吐く言動で妹とは全く異なる印象を与えていた。

 

「急にびっくりしましたよアレは。まさか瑞鶴にあんな発情した声が出せるなんて」

 

 いろんな意味でひっでえ発言だなおい。

 

「あの反応の良さなら、押し切れば最後までいただいてしまえたんじゃないですか?

 うちの瑞鶴もカラダだけなら結構おいしい感じだと思ってましたけど」

 

 それでも姉かお前。しかも盗み聞きされてたんだろ、それでおっ始める趣味とかねーよ。

 

「ふふ、ご安心を。その時は堂々と私も参上して姉妹ともども可愛がっていただきますから」

 

 どこに安心できんだシチュエーションがもう惨状じゃねーか。

 

 楚々とした仕草であなたの正面に正座しながらにこやかに下世話な話を繰り出す白い鶴。

 もう発想がエロゲなのだが、美少女ゲームのヒロインと考えればどうせそんな感じの薄い本は誰かが描いてるのが予想できるだけに微妙にコメントに困った。

 

「まあ、それは先の話として―――」

 

 未来に確定した事象のように言うのやめない?

 

「ええ、未来に確定した事象の話として、それはさておき―――」

 

………。

 

 あなたはツッコミを放棄して、さっさと次の話題に移らせることにした。

 

 

「お姉ちゃん、ですか―――指揮官、女装してみませんか?」

 

 殴るぞグーで。

 

 

 移った話題も大概酷かった。

 流石にイラッとくるレベルの発言だったのは自覚しているらしく、すぐに「ごめんなさい、冗談です」と謝罪の言葉が飛んできた。

 顔はにこにこしているので反省は確実にしていないだろうが。

 

 ただ彼女は、大抵いつもこの調子で毒を吐いているからか、相手を本気で怒らせる前の引き際がかなりうまい。

 拳を振り上げるタイミングすら制されたあたり、あなたの気性を完全に見透かしているのかもしれなかった。

 

………だからこそ、翔鶴はあなたにとって心地いい距離感の相手でもあるのだ。

 

 表現が捻くれていても慕ってくれているのは分かるが、かと言って時として身に覚えの無いレベルの過剰な期待や評価は向けてこない。

 期待や評価をされるのが悪い訳ではないが、常時それらが向けられていれば当然人間として疲れることもあるから、あまり気を遣わないで振る舞える相手である彼女のことはどうにも嫌いになれないから。

 毒を吐いてくるのも、まあ普段あなたが他の女の子達にやっている言動を考えれば因業が巡って来た程度の認識でいいだろう。

 

………そういうあなたの思考を承知の上で指揮官をからかう翔鶴も、ひねくれ具合では似た者同士と言ってよかったりする。

 ある意味許される最大限の範囲で甘えて自分をさらけ出しているようなものだ。

 

 たった一人の姉とたった一人の主であるあなたを、瑞鶴が呼び間違えるくらいには、それこそ。

 

「でも瑞鶴は自分で言うのもなんですが私のことをよく慕ってくれている子です。

 そんなあの子が私と指揮官を間違えて呼んだ―――きっとそれだけ、同じかそれ以上に指揮官のことを頼りにしているということだと思うんです」

 

 『家族』と同じくらいに。

 軍艦の身であれば、ある意味歪な絆の求め方かもしれないけれども。

 

「瑞鶴を―――あなたの妹としても、どうかこれからもよろしくお願いします」

 

 それを汲んだ姉は、居住まいを正して三つ指を突き、頭をゆっくりと下げた。

 そうしていると洗練された所作もあって華族のお嬢様が誠意を込めて礼を尽くしている様そのものであった。

 

 もとより瑞鶴のことを蔑ろにするつもりもないあなたは、つられて神妙に頷き了承する。

 

 そして、意を得たりとばかりに、翔鶴が不敵に笑った。

 

 

「言質、取っちゃいました♪それでは、次からは瑞鶴には指揮官のことを『お兄ちゃん』と呼ぶよう躾けておきますね?」

 

 

………待って。ちょっと待て、なんかおかしい。

 

「?……ああ、お兄ちゃんだとあの二枚舌国家のエセロリ空母と被っちゃいますね。

 『お兄様』あたりが無難でしょうか。そこに気が回るとは、さすがはお兄様です」

 

 いや、もっとおかしくなってるから。

 

 不意に妙な焦りに突き動かされるあなたに、わざとらしく首を傾げる翔鶴。

 そんな彼女がこちらにすっと身を寄せて来たかと思うと、耳元で甘く囁くのだった。

 

 

「私と夫婦の契りを交わせば、瑞鶴にとって指揮官は義兄じゃないですか。何がおかしいんですか?」

 

 んな………!?

 

「くす。―――ちゅっ」

 

 

 唖然とするあなたに対して、妹の仕返しとばかりに耳に悪戯する翔鶴。

 ただし触れたのは指ではなく、薄く紅を塗った唇。

 

 

「流石に本妻の座はあの子にも渡せないですから。

――――お姉ちゃん特権です♪」

 

 

 

 





 そういやベルファストケッコン衣装実装おめでとう!
 再登場させよっかな、でもこの作品だとまた空回りオチになるのが見えてるからなぁ………。




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水着ロドニー/サフォーク改


ロドニー「いかがですか?ビッグセブン級のこの感触♪」

長門「…………」

陸奥「長門姉、どうしてあの人のおっぱいじっと見てるの?どうしてぷるぷる震えてるの?ねえなんでなんで?」


 アズレンの長門姉妹は、うん、まあ………。




 

「指揮官、どうですか?ちょっと恥ずかしいですけど、ほら!」

 

 いや、なんで君は執務室で水着姿になってるの?

 

 

 またもやのっけからビッグセブンがとち狂っていたが、今回はノれなかった。

 

 何故か砲身が埋まっている物騒なビーチボールを抱いてむにゅりとバストの豊かさを強調しながら、紐で止めた布地の少ない白ビキニで張りのあるスタイルを曝しているのは眼福である。

 しかも透けるほど薄いレースの分離袖で肘から先を覆い、花をあしらった鍔の広い麦わら帽子を被っているあたりで、露骨な媚や破廉恥さを感じさせる要素を薄めていて技巧を感じさせる。

 

 が、普通に詰襟の軍服を着ているあなたの前で身体を夏にされても反応に困るだけである。

 

 正直内輪しかいないし部下はコスプレ会場と言っても通じる(というかある意味そのものである)装いをしている職場だし、自由とまではいかなくともラフに着崩すくらいは良いじゃないかというのはあなたの服装に関する本音ではある。

 が、言えばネルソン辺りに指揮官の威厳がどーのと説教をされるのが目に見えているし、ほんの僅かな袖の乱れでさえもベルファストが目ざとく発見しいそいそと直しに来るから、どうせ給料分の仕事の一部と諦めて、自分は窮屈で肩の凝る軍服をきちんと纏っているわけで。

 そんな上官をさておきファッションショーみたいにされるとなんだか釈然としない、という感覚はあった。

 

「せっかくの指揮官からのプレゼントですから、一番に指揮官に見せなきゃじゃないですか。ふふっ♪」

 

 ある意味あなたが蒔いた種であったが。

 

 

 話は一週間ほど前に遡るが、その日あなたは物品のカタログを漁っていた。

 供給のほぼ全てを配給に頼るこの軍港では、最低限の食料品や燃料以外は逐一注文しなければ届くわけもなく、部下達の要望を聞きながら予算の範囲で物品を仕入れる庶務のお仕事もあなたがしなければならない。

 

 人を殴り殺せそうな重さのカタログには生活雑貨から家具家電、果ては施設拡張工事の見積もりまで目録が載っている。

 同じ程の厚みがある別の巻が3冊ほどあり、書籍に映像や音楽媒体にゲーム機、菓子類や銘産品、香水や化粧品類や衣料品など多種多様な品が収録されているから、およそ資金限度さえ考えなければ不便は無いと断言してもいい。

 

 ある意味多様過ぎて選択肢に困らなくもないが、そこは実用品以外はほぼ秘書艦に選別を任せて自分はチェックをするだけ、という体制にしてあった。

 無茶なものでなければ自分の趣味を配給に紛れ込ませることができるので、この仕事をする日に秘書艦に当たった子はラッキーという風潮にもなっているようである。

 

 で、その日ラッキーだったロドニーも楽しそうにあなたの隣でカタログをめくってああこれいいですね、とかこれとこれどっちがいいでしょう、とか上機嫌に付箋をペタペタしていたのだが―――不意にそれを見つけてしまった。

 

 

 ロドニー用着せ替え水着。

 特製のためこちらの衣装で戦闘を行っても性能に一切差し障りはございません。

 

 

 正気かお前、とあなたは名前も知らない製作者の精神を疑ったが、次の瞬間こちらを見上げて瞳をきらきらさせているロドニーにこれを買わざるを得なくなることを予感してしまったのだった。

 

 特製故か値段もべらぼうに高く、ロドニーの為だけに経費で注文するのは依怙贔屓が過ぎる為あなたが自腹を切って購入する判断をすると、何故かますます上機嫌になっていたが。

 

 

 つまりは、ひらひらと長いレースの袖を舞わせながらターンを決めてポージングするロドニーのテンションの高さは、あなたのその判断の結果ということになる。

 期待の視線を向けられているが、今度は何をねだられているのか分からない―――ということは当然ない。

 

………。かわいいよ、ロドニー。

 

「~~っ、はい!ありがとうございます、指揮官!」

 

 女を口説く浮いたセリフのボキャブラリーなんて大して持ってないし、キャラでもない。

 そんなあなたのありきたりな褒め文句で、それでも女神像もかくやの悩ましい曲線を描く肢体を身悶えさせて歓喜する白銀の戦艦少女。

 

 この格好で海水浴場にでも出ていけばナンパには事欠かないであろう美女がプレゼントと言葉一つで舞い上がっている―――その相手が自分であることに不思議とあなたは穏やかな受容の気持ちになっていた。

 いい加減何故、と困惑するのも飽きたし、かと言って浮かれて優越感に浸ったり調子に乗ってスケベ根性丸出しにするのもなんか違う。

 

 でも、とりあえずはどのみち使う当ての無い給料を放出するには十分過ぎる使い道だったことを確認できただけでもよしという話だった。

 これだけ嬉しそうにされれば諸々のもやもやも流さざるを得ない。

 

 美人は得だね、ったく。

 

 そうあなたは小さく呟き―――。

 

「指揮官?今の聞こえなかったのでもう一回言ってもらっていいですか?

―――ロドニーは美人だね、ですか?」

 

 おー暑さで沸いてるのは耳かそれとも頭かー?

 

「きゃー♪」

 

 互いに憎からず想っているのは分かっていても、もう暫くはこのじゃれ合う関係が続きそうだと思った。

 

 

 

 

…………。

 

 サフォークは空を見上げる。

 

 モノ言わぬ鋼鉄の塊であった頃から世界の各地の海を転戦してきた彼女だが、そのどこでも同じであった冷たい青さの空を、虚無を感じさせるほどに仄暗さを秘めた白さの雲を、自由に歩める意思と足を持った今でも見上げている。

 

 何も感じない訳ではない―――水平線の向こうまで続く無限の広大さも、その果てない空間を飛び続ける海鳥達の勇気も、様々な発見が心を揺らしてくる。

 だがそれが身を焦がすほどの高揚を彼女にもたらすかと問えば明確に否であり、では何故飽きもせずに茫洋と視線を飛ばすのかと問えば、それはただの惰性に他ならなかった。

 

 隠し要素まで全てクリアし終えたゲームのキャラのレベルを上げ続けるような、徒労以上習慣未満のサフォークの日課。

 けれど、この時ばかりは特別だった。

 

 

「それで、指揮官さん。なにやってるんですか?」

 

 ツーサイドアップ!!

 

 

 いつも通り中庭で空を見上げぼーっとしていた彼女の背後に回り、そのピンク色のふわふわ髪を弄っていたあなたは声高にテキトーな言葉を叫ぶ。

 その数秒後に遅れて彼女の髪留めを付け替え、やはりテキトーにそれっぽく髪を二つに縛るぐだぐだ具合である。

 

 もしかしたら気づかれてないのでは、とすら考えながら悪戯されていたサフォークは、しかしほえほえと微笑みながら嬉しそうにあなたを歓迎する。

 振り向いた彼女の動きに合わせ、柔らかな髪の房が宙に踊った。

 

「指揮官さん、こーいう髪型が好きなんですか?」

 

 そこそこ?しかし、元気さをアピールする感じの髪型だと思うんだけど、サフォークだとやっぱりなんかゆるっとするんだな。

 

「えっと……褒められてます?」

 

 いやあそれほどでも。

 

 雑な感じでよく意味を咀嚼すればひどい答えを返すが、それでもやはり彼女は笑っている。

 女の命というらしい髪をもてあそばれた訳だが、こんな緩くて大丈夫なのだろうか。

 特に心配になった訳ではないが、純粋に疑問だった。

 

 ところで、サフォークは何されたら怒るんだ?

 

「はい?」

 

 おっぱいを揉むというど直球なセクハラを働いたこともあるが、その時ですらのほほんとしていた彼女が怒る瞬間というものが想像できなくて、好奇心が擽られる。

 いや、別にキレさせたい訳ではないのだが。

 

「んー………指揮官さんに何かされて怒ることは、多分ないと思いますよ?」

 

 えーほんとー?

 

「ほんとーですっ。絶対の、ぜーったいです!」

 

 さっき“多分”って言ったのに?

 

「たぶん、ぜったいです」

 

 どっちだよ。

 

 間の抜けた言葉遊びを挟みながら、空を写してきらきらするラピスラズリの瞳を覗き込むと、混じりっ気の無い信頼が真っ直ぐに視線に乗って突き刺してくる。

 少なくとも今この時、彼女があなたに怒りを向ける機会などあり得ないと確信していることだけは事実のようだった。

 

 

―――サフォークは空を見上げる、だから怒らない。

 

 しばしば意識を虚空に飛ばす癖のある彼女にとって、起伏の大きい類の感情は長続きしない。

 よく言えばおおらか、悪く言えば……薄情。

 

 そうでなくともたびたびぼーっとしている彼女であるから、基地で親しくしている仲間もあまりいない。

 怒るほどに彼女に対して何かをする存在自体が稀で、強いて挙げれば家事を強制してくるベルファストくらい。

 

 何も感じないわけではない―――寂しいと思うし、けれどその孤立は自業自得と諦めてもいる。

 

 

 さて、そんなサフォークに度々ちょっかいをかけるあなたが、彼女の目にどう映っていただろう。

 勿論あなたが自分をいつも心配して構ってくれている、なんて都合のいい妄想をするほどお天気な頭をしているわけではない。

 けれど、それでも命を預ける指揮官が他でもない自分だけを見て、相手をしてくれている時間がある。

 胸を揉まれようが、髪に悪戯されようが、空に惹かれる“サフォーク”を繋ぎ止めていてくれる。

 

 それでいい。

 それだけでいい。

 

 たとえ相手がどんな人間であっても全てを許せるくらい好きになる理由には、十分過ぎるほどだった。

 

 

 





 今やってる鉄血復刻イベ、前半のボスがこれでもかってくらいかませ発言を連発して逝くのはわざとなんだろうか……。



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グロリアス/山城改


「た、たぶん……」が超可愛いドジッ子おねえさん。
 混ぜるな危険。

 あ、今回暴力的な表現があったりなかったりするかもしれないのでご注意。
 前半のグロリアスの扱いにもやっとした場合は後半読まずにブラウザバックした方がいいかも。



 

 港を照らす太陽が西に大きく傾いてきた時間帯、あなたは一枚の報告書に目を通していた。

 報告書というよりは日誌に近い様式と記入内容だが、一応全ての指揮官に毎日の記入が求められているらしいので、船長の航海日誌さながらこの紙ぺらの一枚一枚がいざという時は重要な資料になるのだろう。

 とはいえ、文字通りの日常業務にそこまで気合を入れることもなく、普段なら秘書艦に記入を任せて盲番の決裁だけで済ませたことだ。

 だが、その日あなたはたかが一枚紙の日誌を確認しながら、猛烈な違和感に襲われていた。

 

 日付や曜日―――問題ない、今日のものだ。

 各業務の割振担当者―――問題ない、全員自身で声をかけた記憶がある。

 行った作戦内容や戦果、消費した資源―――問題ない、ついさっき処理した書類と同じ内容だし、そもそも今日の作戦行動はせいぜい哨戒と漸減工作程度のものだったので話の膨らませようが無い。

 

 問題ない、問題ない、問題ない………だからこそ、そこには大きな違和感が発生し、あなたは何度も何度も紙の上に目を滑らせることとなる。

 そう。

 

 

――――グロリアスが書類をミス無く仕上げてる、だと……!?

 

「指揮官、その言い方はあんまりなのでは……?」

 

 

 トリコロールカラーのレオタードという派手な衣装で包まれた肢体のその豊かな胸元で悩ましく拳をきゅっとさせながら、まつ毛の長い眼を憂鬱そうに細める美女が上目遣いであなたを責める。

 巡洋艦、と言いかけて正規空母と言い直した事故紹介を初対面時に行った彼女の銘はグロリアス。

 腰まで長く伸ばしたさらさらの金髪が麗しい乙女にそんな表情をされれば、並大抵の男ならくらっと来てご機嫌伺いに走らざるを得ないだろうが―――あいにく周囲に美少女しか居らずしかも彼女達に適当極まりない対応ばかりしているあなたが相手であった。

 

 

 いや最近グロリアスが秘書艦の日は「今日は何ミスったのかなー」って探すのが楽しくて。

 ほら、自分よりアレな子がいると安心するじゃん?

 

「アレ、の内容は敢えて伺いませんが―――爽やかに笑って言うことじゃないと思います……」

 

 爽やかに笑って流してもらえてる子がなんか言ってるー。

 

「うう」

 

 

 今あなたは割とダメな上司である。

 

 まあ、グロリアスに仕事を任せると、目立つ表題で誤字っていたり同じ書式の使い回し時に日付を更新するのを忘れていたり、連絡事項を参考の送り先を飛ばして送信していたりなど、フォローは利くがしょーもない類のミスがどこかしら出てくるあたり言われても仕方ないと言えば仕方ないが。

 根が生真面目な彼女は毎回慌てたりしおらしくしながら真剣に反省するので、叱ることもなく放置しているのだが、たいてい注意力散漫に起因するミスなので反省が生かされているかといえば否であった。

 

 これが日常的にあなたの傍で繰り返されていれば腹も立つだろうが、当番制の秘書艦が特定の子に回ってくる頻度などさして多くない。

 彼女を弄るネタにして勘弁してやるかと思う程度の、いわゆるご愛敬の範疇だった。

 

「私だって、学習します。何度も同じ過ちは繰り返しませんっ!」

 

……まあ、努力は認める。

 

 だがこの時に限ってはきちんと仕事をしたわけで。

 拗ねたようなドヤ顔なような、微妙に判別に困るきりっとした顔で背を軽く逸らす彼女が距離を詰めてくるのを、頭を撫でて迎えた。

 

「ふふんっ」

 

 元から機嫌自体はそこまで下降していなかったのか、鼻息を荒くしつつグロリアスはあなたの掌の感触を頭で受け止める。

 ちょうどそんなタイミングでそれは起こった。

 

「――――!?」

 

 轟音。

 金属製の何かが大きく拉げる音が、幾重もの壁を貫いて執務室にまで響いてくる。

 すわ敵襲か……という焦りは、しかし指揮官なんて商売をやっている内に感じ取れるようになってしまった戦場の臭いというものが全く無いため否定される。

 

………今の、脱衣所の方から?

 

「そうですね。さっき見回った際にいつもより洗濯物の量が多かったので、通りがかった山城に片づけるのをお願いしていだだだだだっ!!?」

 

 グロリアスの悲鳴で、あなたはふと手を拳の形にして彼女の頭頂をぐりぐりしていたことに気が付いた。

 気が付いたので、更に力を込めてそのつむじを凹ませんと頑張ることにする。

 

「いだ、痛いです指揮官!?やめてくだ、にゃ~~~!」

 

 

 やっぱりグロリアスはグロリアスだったよ………。

 

 

 悶絶する彼女の奇声をBGVに、溜息を吐きながらもあなたは様子を見に行くこととその足で後始末に駆り出される覚悟を決めるのだった。

 

 

 

…………。

 

 で。

 

「殿様ぁ………。違うんです」

 

 何が違うって?

 

「すいっちを押したのに、ぴー、ぴー、って言って洗濯機が動かなかったんです。

 壊れたのかな、って思って、ちょうど水場だったので艤装を喚び出したんです」

 

………いや、なんで?

 

「こういう時には斜め45度からちょっぷすればいいって聞きました!

……でも素手で叩いたら痛そうなので、どうしようかなって考えたら―――」

 

 戦闘モードに入れば痛くないと。

 

「はいっ!!」

 

 はいじゃないが。

 

 代わりに痛い思いというか、中の洗濯物をプレスするような形で凹まされた業務用洗濯機を見やりあなたは頭を抱える。

 見よ、これが戦艦山城だ。

 

 黒地に金糸の刺繍が煌びやかな振袖を纏った、結構胸の大きいショートボブの快活そうな猫耳少女―――が軽い気持ちで生み出したのがこのスクラップである。

 控えめに言って眩暈がしそうだった。

 金額的にも、この人里離れた基地に代替機なり交換機なりが届くまでの期間的にも、その間女所帯の大量に溢れる洗濯物をどう処理するのか的にも。

 

「殿様ぁ~~」

 

 とりあえず言い訳より先に言うことあるんじゃねーの?

 

「ぁぅ。ごめんなさい」

 

 この分だと中に入ってた服は全部ダメになったくさいから、持ち主全員に謝っとけよ。

 

「は、はいっ」

 

 諭すように言うと、猫耳をしゅんと縮こませながらも素直な返事が返ってきた。

 ちょっとおつむが弱いのと暴走すると洒落にならない火力を持ち合わせているだけで、悪い子ではないのだ。

 

………それで済ますにはちょっと被害がバカになっていない。いない、が。

 

―――あまりぶち切れる気分にもならないんだよなー。

 

「とのさま、とのさまぁ……」

 

 溜息をつくあなたに気弱な子犬のように縋り付く猫耳戦艦に対し、実のところ激しい怒りは覚えていなかった。

 それは確かに今にも泣きそうな表情で上目遣いに見られたら庇護欲が湧かないでもないが、それでこの惨状を水に流せるほどハッピーな頭はしていない。

 ではどういうことかと言えば―――室内用の躾をしていないペットを連れ込まれて部屋を破壊されたら、怒るべきはペットじゃなくて連れ込んだ奴の方というのがまあ常識的な判断なわけで。

 

 戦力としてならともかく、部下としてあなたの仕事の手伝いを山城には正直期待していない。

 手伝いをさせて却って余計な手間を増やすくらいなら放し飼いにして気が向いた時に構う、そんな愛玩動物の扱いみたいなスタンスは彼女のドジッ子ぶりを見て早々に確立させていた。

 

 山城としても今捨てないでね?と必死に眼で訴えているように、それこそペットのごとく殿様殿様とあなたに懐いてくれているし、気をつけるべきところをちゃんと弁えていれば割とそれで上手く回るのだ。

 弁えてさえいれば。

 

 というわけで、弁えてないグロリアス。

 

「は、はいッ!?」

 

 あなたは発言を禁じて後ろに控えさせていたグロリアスに言い渡す。

 

―――君は今非常に疲れているようだ。

 

「はい、いえ、あの指揮官?」

 

「殿様……?」

 

 突然の回りくどい前置きに前後から訝しげな声が上がるが、無視して続ける。

 

―――俺の手伝いとか日々の戦闘とか、主に生きることにとか、それはもうとっっっっても疲れてるんだろうなー、と今回のことで思ったわけだ。

 

「疲れてなど………あれ?もしかしてなんですけど指揮官、私に怒ってたり、します?」

 

 あははは。

 だから山城、あいつに全力でマッサージしてやれ。それで罰ゲームってことにしといてやる。いいか、全力で、だぞ?

 

「殿様……っ!はい、山城、全力で頑張ります!!」

 

「待っ、そんな、いったい何故……!?」

 

 罰ゲームさえこなせばあなたに許してもらえると理解して安心し顔を綻ばせる山城。

 困惑する間にあの元洗濯機と同じ有様にされると理解して硬直し顔を青ざめさせるグロリアス。

 

 そこそこ極端な対比を眺めながらあなたは脱衣所備え付けのベンチに寝そべるようグロリアスに命令した。

 指揮官の命令は、絶対である。

 

 あー山城、マッサージは痛いくらいが効くらしいから、グロリアスが悲鳴挙げても遠慮なく続けてやれ。

 

「はい殿様!大丈夫です、マッサージは山城はこれからもっともっと上達するって姉様に褒められたことがあります!」

 

「山城、それは遠回しに今の腕前の保証を全くしていないですからね!?」

 

 背もたれも無い簡易ベンチにレオタード姿のスタイルの美人がうつ伏せに寝そべるが、あいにくあなたは処刑台に掛けられて慄く囚人に興奮する嗜虐性癖は持ち合わせていなかった。

 よってただ粛々と刑が執行されるのみである。

 

 そうだな、これだけだと可哀相だし、明日から指揮官権限で“栄光の手【ハンズ・オブ・グローリー】”とでも二つ名を付けてやるか。

 

「わあ、グロリアスさん、カッコいいですね~!」

 

「え、それ確か呪術に使う死体の腕のこと―――」

 

 

「山城、殺れ」

 

「えいやっ」

 

 

「―――っっっにゃああああああああああああ~~~~~~!!!!?」

 

 

 ぼき。ぐき。ぐにゃり。

 

 およそ真殺死【マッサージ】に相応し過ぎる効果音を躰で奏でながら、その伴奏に合わせて悲鳴を歌うグロリアス。

 咄嗟にだろうか、縋り付くように伸ばした腕が、あなたのフォローという名の追い討ちに呟かれた言葉と奇妙に符合するようだった。

 

 ちなみに。

 

 山城が洗濯機を破壊した轟音で暇していた艦達が野次馬に集まっていた為、邪気の欠片も無い笑顔でグロリアスの身が圧搾されるこの光景が公開処刑であったことを記しておく。

 

 彼女の魂に安らぎあらんことを、アーメン。

 

 

 

 

※死んでません。

 

 

 

 





 なんていうかごめんなさい。
 書いてる内に変な境遇が固着するキャラっているよね。


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嫁衣装ベルファスト/嫁衣装イラストリアス/??


 ベルファストリベンジの声をちらほら聞くのでやってみる。
 あ、ちなみに冒頭のアレは公式に運営がやったことがあるという。




 

 

 それは一通のチラシからだった。

 

 といってもこの僻地に投函しに来るような相手など限られていて、これも御多分に漏れず説明文の語尾ににゃーにゃー書いてある代物だった。

 安物のてらてらした紙に似つかわしくないパステル調の明るいレイアウトには、二つの銀の指輪が描かれている。

 

『今ならお得にゃ!祝福パック~ケッコン指輪2個セット!』

 

………なあ、これツッコミ入れちゃダメなパターンか?

 

「……お答えしかねますね」

 

 いや、買ったんだけどさ。

 

「はあ………、ッ!!?」

 

 ペアリングではなく、自由に相手の名前が彫れるようになっている艦船の少女仕様のマリッジリングが二つ。

 絆の力でその真の性能を開放するとからしいが、相手の女の子が嵌めてくれることが当然に前提となるので、その時点で効果は最大のものになる。

 

 純粋にパワーアップアイテムと考えるのであればかなり有用な代物であることは聞いているが、それにしても仮にも結婚指輪が2個セットでしかも安売りってどうなんだという話である。

 今なら更にもう一個、っていうか通販番組かよと。

 腰を据えている重い木製の執務机に肘を立て、ありがたみもへったくれも無い(多分)決算期前の在庫整理品を手に取って眺めるあなたに反応したのは、窓際の花瓶の花の世話をしていた銀髪メイドのベルファストだった。

 

 それまで落ち着いて作業の手を止めないまま相槌を打っていたベルファストが、シュバッッ!と振り返り切れ長の眼をカッッ!!と見開いてきたのでちょっとびびった。

 そのままこちらを……というより指輪を凝視している彼女との間に沈黙が走る。

 

「………っ」

 

 ふと、何とはなしに指輪を持つ手を上に挙げてみる。

 ベルファストの視線が上に向く。

 

 机の高さまで下げてみる。

 ベルファストの視線が下に移る。

 

 また上げる……ふりをしてやっぱり下げる。

 ベルファストの藍色の眼光が正確に追尾してくる。

 

 宙に円を描くように指輪を持つ手を回してみる。

 無意識なのか、つられて首の角度が微妙に傾きを変え、そこに嵌めている鎖付きの首輪がじゃり、と音を鳴らした。

 

 

 ちょっと楽しい――――割と最低なことをやっている気がするが、それはそれとして。

 

 

 で、誰に渡したらいいと思う?

 

「――――!ぁ、その……っ!」

 

 こう言ってはなんだが、別に意地悪のつもりでした質問ではなかった。

 表情から思考の読み取りづらい彼女であるが、今あなたの持つ指輪を欲しがっていることは伝わるし、それがどういう意味であるかも分からないとは言えない。

 

 そして、寄越せと言われれば―――普通に渡すつもりだった。

 結婚は人生の墓場なんて言われるが、既にして一度墓場にダイブしたら場外に出てしまった身である、己の命令に命懸けで従う可愛い女の子にはなんなら人生ごとくれても悪くはないだろう。

 

 その相手がこの日この時ベルファストだった、それならそれで縁とか廻り合わせだということだ。

 ケッコン指輪がセール品ではなくかつたった一つしかないのなら、良くも悪くももう少し重く考えただろうが。

 

 そんなあなたの思考を察せられないベルファストは、何度も口をぱくぱくと動かし、やがて乾いた唇を苦しそうに動かしながら告げた。

 

 

「どうかご主人様の、意のままに。

――――用事ができましたので、失礼いたします」

 

 

 半ば自身の放った言葉に茫然としながら、一礼し逃げるように立ち去るベルファスト。

 音もなく閉ざされた執務室のドアを見ながら、あなたは掌中の指輪を弄ぶ。

 

 ヘタレめ。

 

 このセリフどっちかというと女の子側じゃないのか、とか考えながら、あなたは内線の受話器を手に取るのだった。

 

 

 

 

…………。

 

「何故、私は……」

 

 寮舎の屋上。

 無性に風に当たりたくなった彼女は、海から吹き付ける潮風を浴びながら遠い水平線を眺めている。

 

 主の欲求を察して動くべきメイドが逆に自分の欲望を察してもらって主に動いて欲しいなど、論外。

 否、そもそもそういう次元ですらなかったように思う。

 

 告白は殿方からして欲しい、そういう乙女な思考が無いと言えば嘘になるが、あの指輪が欲しいとそれだけの本心を伝えることすらできなかったのは、怖かったからだ。

 何が怖かった―――断られることが?

 

「違います、ね」

 

 諾否を問わず、ただの主と侍従ではなくなることにどうしようもない恐怖を覚えたのだ。

 関係が変わり――――それでも変わらない何かがあると、ベルファストはそう信じることができなかった。

 寄る辺の分からないまま踏み出す未来に不安しか見いだせず、恐怖のままにあなたに背を向けた。

 

「自分の主を信じることの出来ないメイドなど、とんだお笑い種ではないですか」

 

 自嘲の声は、微かに震えながら青空に溶けていく。

 抜けるような快晴が、どこまでも高く彼女のぐちゃぐちゃになった心を受け止めていた。

 

 けれど、完璧メイドの殻を壊されたただの少女をただ見ているだけというほど酷薄というわけでもなかったらしい。

 

 

「今日は日光浴には少し陽差しが強いと思いますよ?ねえ、ベルファスト」

 

「イラストリアスさん……」

 

 

 全身白の淑女然とした光の少女。

 常の暖かい微笑みを浮かべた装甲空母が、何故かこの人気のない屋上にベルファストを追うように現れていた。

 

「お隣いいですか?」

 

「……どうぞ」

 

 どうにも毒気を抜かれてパーソナルスペースに入れてしまう、そんな相手で、ペースを掴めないという意味ではサフォークと同じく相性が悪い相手だ。

 だが、だからこそ、か。

 何故彼女がここに来たのか、と疑問に思う余裕もないベルファストは、少し躊躇いながらも先ほどの出来事をぶちまける。

 

「ご主人様から指輪を賜ることが出来たなら、どんなに幸せなことでしょう。

 その想いに嘘は無い筈なんです、なのにっ」

 

「そうですか……」

 

 唐突にぶつけられたお悩み相談に辟易する様子も見せず、咀嚼するように細い指を唇に当てながら、やや上方に視線を上げて思案に耽るイラストリアス。

 やがて考えが纏まったのか、実に爽やかな笑顔で言い放った。

 

 

「つまり指揮官様は指輪を渡す相手を探しているんですね?

 いいことを聞きました♪では早速―――」

 

「待ちなさい」

 

 

 ベルファストをして敬語が崩れるという異常事態。

 だがしれっと、あるいは悪戯げに装甲空母は切り返す。

 

「あら、ベルファストにとってはこうしてうだうだしている時間の方が、指揮官様に見初められるチャンスを掴む時間より大事なのでしょう?」

 

「それは……」

 

「恋は戦争<All is fair in love and war.>――――ロイヤルの仕来りと思っていましたけれど、どうやら王宮メイドさんには違ったようなので」

 

 暗にイラストリアスは言っている―――面倒くせえこと言ってないでさっさと当たって砕けろ。

 淑やかさの手本のような所作の少女なのだが、発破の掛け方といい案外内面はお転婆なのかもしれない。

 

「………ご助言、感謝いたします」

 

「いえいえ、私は何も。そうだ、そういうことならいいものを明石さんが仕入れているんです。少しショップに寄って行きましょう!」

 

「いいもの?」

 

「彼女も商売上手ですから。結婚指輪を買わせるのなら、一緒に仕入れても買い手の宛てがある物があるでしょう?

 ほら、イラストリアスもご一緒しますから見に行きましょう、ね?」

 

 そして、指輪が二つあると聞いて、さりげなく自分もおこぼれに預かろうとベルファストに同行を当然と思わせる――――案外かなりちゃっかりしている娘なのかもしれなかった。

 

 

…………。

 

 で。

 

 執務室、あなたの前には純白の花嫁衣裳の女の子が二人。

 正統派の肩が露出した裾長のドレスを纏う銀髪のベルファスト。

 胸の谷間からお腹の半ばまで達するV字のスリットが艶めかしい、レースのふんだんにあしらわれたドレスを翻す純白のイラストリアス。

 

 ともにブーケを手に、百万の言葉より雄弁にその衣装を完成させる最も大切なアクセサリーを求めていた。

 

 言えないなら、ってだからって体張りすぎだろ……。買ったの?

 

「その、メイド服ではないので落ち着きませんし、不躾とは思ったのですが……」

 

「買っちゃいました!なので、ウェディングドレスを着ているのに結婚指輪はもらえない、なんてなったらお嫁さんは泣いちゃいますよ~?」

 

 ベルファストは上目遣いで、直向きなそして切実な想いを込めてこちらを見つめてくる。

 常以上に明るい笑顔で微笑むイラストリアスは、しかし視線の中に一片の不安を垣間見せている。

 

 どちらもあなたの退路を塞ぐには、あまりに覿面(てきめん)で。

 けれど卑怯だと言うにはあまりに想いが純真過ぎて。

 

 差し出された左手薬指に指輪を嵌めた瞬間、ぱっと華やいだ二人の幸せそうな顔を見ていると、どうにも照れくさくて仕方がなかった。

 

 

……物好きな奴ら。一応パワーアップアイテムでもあるんだから、今日から最前線で一番扱き使うことになるぞ?

 

「元より、本望でございます」

 

 あーあ。俺も今日から嫁を化け物と戦わせる鬼畜指揮官の仲間入りかー。

 

「嫁……指揮官様のお嫁さん。ふふっ、大丈夫です。

 イラストリアスは、旦那様に害為すどんな闇だって払う光になりましたから」

 

 

 叩く軽口も軽やかに、しかし一片の偽りの無い言葉で返される。

 ある意味、早速夫婦としてのそれらしいやり取りだった。

 

 

 

……………。

 

………。

 

 

「納得行きません」

 

 何が?

 

「指揮官。指揮官と初めて逢った艦は誰ですか?」

 

 ジャベリンだな。

 

「指揮官の最初の相棒は?」

 

 ジャベリンだけど。

 

「指揮官と一番長い間絆を深めて来たのは?」

 

 ジャベリンか?

 

「指揮官が一番可愛いと思ってる子は?」

 

 ジャベリンでいいよもう。

 

「つまり指揮官が一番愛しているのは!?」

 

 ジャベリン愛してる。

 

「…………ぁぅ」

 

 いやネタ振っといて照れんなよ。

 

「~~~っ、ネタじゃないもん!

 ジャベリンが言いたいのは、指揮官が指輪を渡すべきなのは本当は誰かって話で……」

 

………。リアンダー?

 

「うぐ……っ!し、指揮官のばか~~~っっっ!!

 もう知らないんだからッ!!」

 

 

 そうか。

 じゃあコレ要らないのな。

 

「――――――、へ?え?………三個めの、ゆびわ?」

 

 

 っていうか一つめのだけど。

 ある程度戦力を整えた指揮官に一個だけ支給されるやつ。

 正直一個だけだと誰に渡してもなんか色々ぎくしゃくしそうだったんで今まで封印してたんだが。

 

 でもそっかージャベリンは要らないのかーちょっと悲しいなー。

 

「いや、いやいやいやいや!待って、やり直し!やり直しを要求します!」

 

 やり直し?

 

「心の準備がまだ………、髪がちょっとぼさぼさだし、格好も普通だし、指揮官は指揮官だし!

 もうっ、指揮官ちょっと待ってて!絶対に待っててね!?」

 

――――まったく、指揮官ってば本当に素直じゃないんだから!えへへ、えへへへへっ♪

 

 いや、ドア閉めて行けよ思いっきり聞こえてんぞ独り言。

 

 

 

 でも、まあ。

 

 ジャベリンうざ可愛い。

 

 

 





 よしベルファストオチ要員脱却ッ!!はさておき、いい感じで更新失速して来たしお気に入りの子たちは一通り出したしエピソードもそれっぽいしで、唐突ですがこの作品は今話で最終回ということにします。
 なんでジャベリンに始まりジャベリンに終わるってことでちょっと無理やりねじ込んだ(ぶっちゃけケッコンセリフはジャベリンが一番好き)。

 いつぞやと同じく不定期更新で気が向いたら新しいエピソードを書くかもしれないし書かないかもしれない感じにして、まあネタが湧いたりビビッと来る子が新しく出たりリアンダーの嫁衣装が実装されたら多分書くのでその時はまたお付き合いいただければ幸いです。
 というわけでひとまずこの作品は一区切り。

 よし今回のきれいなサッドライプさんしゅーりょー。




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魔女っ娘ネルソンうぃずはろうぃんぱーてぃー


 祝☆ネルソンおねーちゃんお着換え!
 新規ボイスは付かなかったけどサブイベも主役の一人だったしロドニーも出番あったから満足。

………いやもうぶっちゃけ公式から忘れられた子扱いだったのかと思ってた。

 日本語が変なのも相変わらずで何より()




 

 おもしろいものが見られると思いますよ―――いかにも悪戯げな笑顔を浮かべたロドニーに教えられた場所に、彼女は立っていた。

 

 

 仮にも軍事施設なこの港、だがそこに詰めているのは基本的に見た目相応の少女然とした情緒の娘が殆どなわけで、しかもそのトップたるあなたが悪ノリする性質である。

 色々と理由を見つけては騒ぐ口実にすることも多く、催し事には事欠かない。

 何せ外からの刺激なんて大抵がセイレーン関係の物騒な凶報のご時世、自分達で定期的に盛り上がっていかないと空気が淀む、というある種切実な事情もなくはなかった。

 

 が、まあそんな背景は今回関係ないのでさておくとして、この日口実にしていたのはハロウィン。

 なんぞそれ……と重桜の子達がぽかんとしているのを尻目に基地のあちらこちらに飾られていくお化けカボチャのオブジェ達、そして西洋のホラーものの仮装を楽しそうに用意していく娘たち、そして商機に目を血走らせて荒ぶる明石。

 何を勘違いしたのか扶桑がなまはげの装束を持ち出してユニコーンがガチ泣きしたとか、それ以来頻繁にあなたに「ユニコーンはわるい子、じゃないよね……?」と切実な眼で確認してくるようになったとか、例によって諸々のドタバタは始まる前から頻発していた。

 

 で、あるからして祭り当日は大騒ぎだ。

 別に軽トラを横倒しにしたりはしないが、はしゃいで走り回る駆逐艦達の口に片っ端から菓子を放り込む作業があなたを待っていた。

 

「ちょっと言い方に語弊がある気もしますが。いつもの指揮官節ですねー?」

 

 概ね間違ってはいない。で、なんで後ろから俺の目ふさいでんの?

 

「うふふ。だーれだ?」

 

……すまない。

 

「えっ?」

 

 面白い返しが咄嗟に浮かばなかった……!

 

「……別にロドニーはそんなの期待してたわけじゃないですよ?」

 

 答え言っちゃってるし。

 

「あ。もう、指揮官ってば」

 

 祭用に飾り付けを許可した区画、その隅っこで休憩していたあなたに絡んできたのは、銀髪長身の戦艦少女。

 ぐだぐだのやり取りの末に瞼にあてられた掌を解きながら振り返ると、少しだけ眉を不満そうに歪めた美貌が結構近い距離で出迎えてくる。

 

 で、お前もお菓子ねだりに来たのか?

 

「そのつもりだったんですけど……つい指揮官に悪戯しちゃったんですよねえ」

 

 どういうこと?

 

「……あれ?今日って指揮官にお菓子を『あーん』してもらえるか指揮官に好きにいたずらするか選べる日ですよね?」

 

 概ね間違ってるよポンコツ戦艦。

 

「あらら……?」

 

 わざとらしくてへぺろする温和そうな顔して割と腹黒い彼女のあざとい仕草を見遣りながら、あなたは服装がいつもの袖が分離した露出度の高い改造白軍服であることに気付く。

 仮装はしないのか、と尋ねると、不敵な笑みを浮かべていいことを聞いてくれたとばかりにある場所へ行けと教えられた。

 

「着いてからのお楽しみですけど―――おもしろいものが見られると思いますよ?」

 

 明らかに何か企んでいるロドニーの表情だったが、どのみち今日は祭なのだから余興には付き合わなければ始まらない。

 深く考えることもなく了承したあなたは、しかし立ち去り際に彼女に“悪戯”を仕掛ける。

 

 んー。ロドニー、ちょっと口開けてみ?『あーん』って。

 

「………??あー、んっ!?」

 

 あくの強い性格をしているものの、あなたの軽いノリにわりと素直に付き従ってくれるロドニー。

 そのご褒美というほどでもないが、半駁も無くちゃんと口を開けて歯並びのいい口内を覗かせてくれた唇に、今日何度も配ったそれを差し挟んだ。

 

 ちょっと甘めに味付けされたひとくちサイズのバニラクッキー。

 菓子の手作りの経験なんて前世の調理実習以来ぶりだったが、王宮メイドな嫁の監修なので出来は悪くないしそれなりに好評。

 

 悪戯もほどほどにしとけよ?

 

「もぐ……っん、了解です、指揮官!」

 

 返事だけは元気だよなー。

 

 肩をすくめてひらひらと手を振りながら、ロドニーと別れて教えられた場所に向かうあなた。

 その背中を嬉しそうに見送って、ロドニーは小さく呟いた。

 

「大丈夫ですよ、あの超ド級の不器用も今日くらいは素直になるでしょうし。

―――でも、まさか両方なんて。サポートに徹するつもりが結構役得でした、ふふ♪」

 

 

 

………。

 

 ロドニーに教えられたのは、祭の会場から少し外れた位置にある裏庭。

 裏庭といっても基地中枢から見て建物の外側にあるだけで、涼しい風の吹き抜ける秋の夜空がよく見える穴場のような場所になっていた。

 

……実際のところ、誰が話を持ってきたかを考えればこの場で待っている人物に予想はついていた。

 予想外だったのは、彼女の纏う祭装束と、下弦の月を見上げて黄昏れる物憂げな雰囲気がその場の静寂を際立たせ、妖しく夜に輪郭を浮かばせていたその情景だった。

 

 見惚れる、というよりは侵しがたい―――そんな感覚があなたの足を止めた。

 止まらなかったのは足音かそれとも気配か、金色の房をなびかせて闖入者に気づいた彼女は振り返る。

 

「もう、こんな衣装を着せてこんなところで人を待たせて、一体どういうつもり?ロド、に……!?」

 

 うーっす。とりとりー。

 

「あんた……っ!はあ、あの子はまた、まったく。

 で、それはなんの呪文?」

 

 なんかもう今日何回もとりっくとかとりーととか言われたんで縮めてみた。

 

「ああそう。で、ヒナ達にはちゃんとエサあげ終わったかしら?」

 

 ひと通りは。

 

 振り返って待ち人が自らの指揮官だったことに目を見開いたネルソンだったが、すぐに妹の仕込みなのを理解して疲れたように首を振る。

 そこにいつも通りのノリで絡んでいくと、更にめんどくさそうに溜息を吐かれた。

 

 解せぬ。

 

「解しなさいよ。そこで惚けられる神経だけは大したものね」

 

 と、いつもならここから諫言というか説教が始まる会話の流れなのだが、この日は苦笑するだけで彼女の口からきつい言葉が出ることはなかった。

 祭の日にまで無粋を挟む気がないというのもあるだろうが―――今のネルソンの格好で真剣なことを言っても締まらないという事情も多分にあっただろう。

 

 ハロウィンの定番の一つ、魔女の仮装。

 紫がかった黒装束はひらひらしたマントやタイツでいつもの赤い改造軍服より露出度がやや低いが、その悩ましいボディラインは健在。

 むしろベースが暗色系な分より引き締まって見えるというけしからなさである。

 

 アクセントとしてあしらわれているお化けカボチャも、コミカルというよりは妖しげな魅力を引き出すのに一役買っていた。

 鍔の広いとんがり帽子が意外に輪郭の幼いネルソンの面貌を浮き立たせていて、危うげな印象まで醸し出している。

 

「な、何よ。折角ロドニーが用意した服だし、祝宴なのだから着ないとしらけるだけじゃない。べ、別に参加したいわけじゃないんだからね!?」

 

 まだ何も言ってない。強いてなんか言うなら、うん、可愛いと思います。

 

「!……そう。…………ぁ、ありがと」

 

 まじまじとそんな魔女姿を上から下まで鑑賞していると何故か弁明を始めたネルソンに無難なコメントを返す。

 実は今日テンション高い初期艦に仮装を見せびらかされて何十回も言わされたセリフなのだが、そこには触れないのが華。

 

 だが、何というべきか―――かろうじて表情には出さないものの落ち着かなさげに髪をくるくると弄り出した彼女の仕草が、逆にあなたの謎の琴線に触れた。

 

――――可愛い。

 

「え?」

 

 可愛い。やっぱり可愛い。ネルソン可愛いよネルソン。

 

「な、な、~~ッ!!?」

 

 可愛い!可愛い!おねーちゃん可愛い!魔女っ娘!可愛い!!

 

「~~~~~~~!!!??」

 

 急な褒め殺しにたじろぐネルソンに追い討ちをかけるようにまくし立てる。

 見る間に港の夜間照明でくっきり分かるほど真っ赤になって、その顔を帽子で隠しながらそっぽを向いた背中に、あなたはとても満足した。

 

 ふっ、勝った。

 

「い、いきなり何なのよ……、っ!?」

 

 もごもごと帽子でくぐもった呟き声を発する彼女の肩になだめるように手をぽんと置く。

 反射的に振り返ったすべすべして心地いい触り心地の頬が、あなたの人差し指とぶつかった。

 普段なら雷が落ちる所業だが、祭とかいう以前に今のネルソンにそんな余裕はないことも折り込み済だ。

 

「本当に、もう、何なのよぉ……っ!」

 

 いやまあ、ちゃんと事前に予告したわけだし。

 

「何を!?」

 

――――とりとり(お菓子をくれないだろうから悪戯するけどいいよね)、って。

 

 目の前で何を言うべきか分からず悶えるネルソンの妹曰く、今日はお菓子を『あーん』で食べさせてもらえるか好きに悪戯していい日らしいし……と、空気にあてられたのかいつも以上の軽さで横暴な理屈を通すあなた。

 

 それに振り回されるビッグセブンだが、どこか嬉しそうなのは気のせいだろうか。

 意地っ張りな戦艦少女が胸の内を語る筈もないが―――。

 

「……いいわ。今日だけ、特別に許してあげる」

 

 お祭りの日に特別な衣装で指揮官と触れ合って、あまつさえ散々に可愛いと褒めてくれたことでその機嫌がどれだけ上向いたか。

 不器用な彼女がとんがり帽子の鍔の広さ程度で隠しおおせる筈もなく、その言葉は意図しないまま甘い囁き声になっていたのだった。

 

 

 

 

※唐突な何の関係もないにくすべ

 

 

「憎んでいる―――全てを」

 

 

 燃え滓のような灰の髪と病的なまでの白い肌。

 男の欲望をそそる肉感的な肢体をしていながら、本能的に触れるのを忌避させる程の威圧感。

 

 鉄血空母グラーフ・ツェッペリンの溢した怨嗟を、あなたはそういうものなのだろうとただ受け止めた。

 戦史には詳しくないあなたでも鉄血―――つまり20世紀前半辺りのドイツ出身となればそんなセリフが出る経緯があったとしても何も驚くようなことは無いのはなんとなく分かる。

 かと言ってこんな無常観溢れる発言を聞いたとて触発されて感情を強く揺さぶられるような繊細な感性も生憎持ち合わせてはいない。

 

 同調も同情も反発もなく、ただそうかと受け止めるのみであった。

 

 そんなある日のことだ。

 

 消灯時刻間際の寮舎の灯りが点いたままになっていることに、散歩がてら見回りをしていたあなたは気付いた。

 作戦行動時は当然ながら――船なので――昼夜ぶっ通しで海上を進む少女達だから、夜更かししたいのであれば別段それを咎める理由もない。

 

 だが微かに漏れるビート音に少し好奇心が駆り立てられた。

 あれは『メガステ』―――イベント会場のステージみたいなセットで、登壇するとあっぱーな音楽が流れてどこからかあーぱーそうな赤毛のバックダンサーが付いてくれるというあっぱらぱーな代物のものだったはずで。

 

 何故か強制的に支給されたので設置したはいいものの、撤去するのも手間なので置きっぱなしになっていたし、一通り遊んだら皆に飽きられてしまった哀れな物品だったのだが、珍しく使われているようだ。

 誰が遊んでいるのか、なんとなく気になってあなたは入口の扉を少し開けて覗いてみた。

 

 

「わたしが―――ナンバーワンだ」

 

 

 あーぱー赤毛を後ろで踊らせながら、鉄血空母グラーフ・ツェッペリンが舞っていた。

 その舞いを形容するなら、“キレのある”や“流麗な”という表現は相応しくないだろう。

 なんかこう腕をふりふりきゃぴきゃぴした感じの――表現が拙くて申し訳ないがそうとしか言い様がない――可愛らしい振り付けで観客のいないステージで舞っていた。

 

 そしてよく目を凝らすと、とても純真な笑顔で彼女は踊っている。

 いかにも楽しんでいますというのが伝わってくる眩しい笑顔で、テンポに合わせて手足を動かしている。

 ナンバーワン―――なるほど、あれをちょっと別のゲームに出張させてみたらマスターなアイドルでシンデレラなガールにしても遜色はないかもしれないと思うくらいシャイニーなステージだった。

 

………でもドイツ語じゃないんだな。

 

 そんなツッコミを入れながらも、彼女の邪魔をするほど無粋ではないあなたはそっと扉を閉じる。

 廊下の夜の闇がすぐに視界を埋めたが、ステージの上の鉄血空母グラーフ・ツェッペリンは残影として視界に焼き付いたままだった。

 

 この世に何の憂いもない、生を満喫していますと言わんばかりの弾ける笑顔で明るく踊っていた彼女。

 ああ、それでも――――。

 

 

 それでも彼女はやはり、全てを憎んでいるのだろう。

 

 たぶん。

 

 

 

 





 ハロウィン着せ替え実装から一週間も経っちゃってる点についてはお察しください。



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電/雷


 なんか無性に書きたくなる時がある習性。
 そういう時に出来上がるのって大抵頭が病気の例のアレなんだけどね。




 

「『お姉ちゃんさえいれば!』『翔鶴姉さえいれば、もう何も怖くない!』―――瑞鶴さん、出撃の度に言いますよね」

 

 言ってるな。

 

「――――なんで毎回姉の死亡フラグ立てているんでしょう?」

 

 おい馬鹿やめろ。

 

 

 

「このあいだ、グラーフ・シュペーさんがとんがりコーンを全部の指に嵌めて遊んでたんです」

 

 食べ物で遊ぶのはよくないな。

 

「それもなんですけど……当然お菓子の塩と油で手がべたべたになってるんです。

 でもその状態で『この手は勝利を掴むため。大切な人を抱きしめられなくても仕方ない』『この手で抱きしめてもいい?』とか言ってた時期ありましたよね?あれはどういう人格の歪みなんでしょうか」

 

 風評被害やめーや。(※ボイスパッチはちゃんと適用しましょう)

 

 

 

「演習でグレイゴーストさんが毎回味方を見捨てて一人ステルスで生き残っては、ステルスが切れた瞬間に残った敵にフルボッコされるんです。

 きっとそういう生き方しかできないのでしょう―――悲しい人ですね」

 

 だから風評被害。

 

「ああ、失礼しました。彼女がこの世界のメインヒロインだと思うと、本家の初期艦枠に比べ随分降格させられた身としてはついあの絵面を悪意的に見てしまい」

 

 実際は残された最後の希望になるとかそういう系なんじゃないか、知らないけど。

 

「なのです」

 

 いや、とってつけたように変な口癖を足されても。

 

 

 

「指揮官さん、実は電は―――、」

 

……なんだよ。

 

「憎んでいるんです、全てを」

 

 それ言っときゃ何やっても許される魔法の言葉じゃないからな?

 

 

 

 ていうかそろそろツッコむけど、メタ発言やめない?

 

「電の数少ない個性を奪おうなんて、鬼畜な指揮官さんです。でも、何故ですか?」

 

 まあ、個人的な事情というか。精神衛生上よくないというか。

 

 

「――――自分が書き割りの存在かもしれないという認識が、そんなに怖いですか?」

 

 

………。そりゃあ、どことも知れない人間に思考まで覗かれるのは普通に嫌だが。ただ正直なところ―――、

 

「?」

 

 

 いえーい、画面の前のみんなー。俺は可愛い女の子に囲まれてきゃっきゃしてて正直サイコーなんだけどそっちはどうー?

 

 

―――とか言って盛大に煽ってみたくはある。

 

「それ全ての転生オリ主が思ってても口にしないセリフですよ?」

 

 転生、ね――ふん、やっぱ分かってて言ってるんじゃねーか色々。

 で、お前はどう思ってるんだ?

 

「自分が書き割りの存在かもしれないという認識を、ですか?

 指揮官さんの言葉を借りるなら、正直サイコー、ですね」

 

 何?

 

 

「だって――――“この”電の指揮官さんは、画面のこちら側にいるのですもの。

 だから本当の意味で、電は指揮官さんの傍にずっといられます」

 

「指揮官さんも、電をずっと離さないでくださいね?ふふ」

 

 

 

 

 

※雷ちゃんと遊ぼう!

 

―――異議あり。

「成歩堂ね!」

 

―――鬼さんこちら、手の?

「鳴るほうね!」

 

―――じゃあ手を上げるのは?

「横断歩道ね!」

 

―――きのこたけのこから集中砲火喰らうやつ。

「アルフォートね!」

 

―――らんらんるー。

「ドナルドね!」

 

―――火影になるってばよ。

「ナルトね!」

 

―――俺様かっこいい。

「ナルシストね!」

 

―――みかんの薄皮についてる白い筋。

「アルベドね!」

 

―――高速建造材の備蓄。

「くさるほどね!」

 

―――衣装の購入は?

「程々にね!」

 

―――城の屋根に金の?

「シャチホコね!」

 

―――同業大手。

「ガンホーね!」

 

―――“野蛮人”の語源となった異民族。

「バルバロイね!」

 

―――虐殺数ランキング。スターリン、毛沢東、

「ポルポトね!」

 

―――俺の体は?

「ボドボドネ!」

 

―――ダメステいいっすか?

「カルートね!」

 

―――ライダーのお祭り映画で巨大な敵が!

「フルボッコね!」

 

―――いつものどうぞ。

「なるほどね!」

 

―――雷ちゃん可愛い。

「それほどでも…」

 

―――それほどでも?

「あるけどね!」

 

 いえーい。

「いえーいっ!」

 

 

 

 





 一文字以上合ってて音感がちょっと似てたらおkというガバルール。
 メタずちちゃん可愛いやったー!

 電は、うん、ダウナーなメタ要素の塊という時点でもう痛々しい方向でしか書けない……。
 ちょっとでも胸の痛みを覚えてくれれば作者が喜びます。




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シリアス/にくすべ


 掃除も料理も出来ないけどメイド。それはまだいい。
 水着実装で泳げないことが発覚したのはお前それでいいのか軽巡洋艦………!!




 

「誇らしきご主人様、御身はこのシリアスがお守りいたします。どうか御傍に控えることをお許しくださいませ」

 

 一文に二回は「お」とか「ご」とか「御」を付けないと喋れないのだろうか。

 ベルファストも大概「ご」がゲシュりそうで仕方ないのだが、同じくロイヤルのメイドを名乗る彼女もまた同類のようだった。

 

 メイド服、というよりも動きやすさを重視したワンピースと言った方が正しくなるだろうか。最低限のフリルを飾ったエプロンドレスは露出が激しく、特に首元から懐にかけては小柄な体格ながら豊満な乳房が大胆に露出している。

 スカート丈もミニというよりは最低限(ミニマム)のサイズになっていて、ちらちらと覗く白い太ももが眩しい。

 

 強調されたボディラインは男の獣欲を掻き立てる魔性のもの。

 ふわふわと内跳ねがかったショートヘアは神秘的なプラチナブロンドで、ルビーをはめ込んだような神秘的な紅の瞳が思慕を乗せて常にこちらを見つめている。

 一級の人形師が魂を吹き込んだような繊細な造形の容貌もまた、啼かせ悦ばせればどれほどの支配欲が満たされるだろう―――そんな危うい魅力の少女が軽巡洋艦シリアスだった。

 

 

 そして五分も会話すれば“虐めたら愉しそう”から“いぢめたら楽しそう”に変化するのも軽巡洋艦シリアスだった。

 

 

―――そういう訳で、ちょっとゲームしようぜシリアス。

 

「ゲーム、ですか……?あのぴこぴこは少し自信がないのですが、誇らしきご主人様が相手をご所望でしたら、微力を尽くさせていただきます」

 

 ある日の執務室の会話である。ちょうど作業が一区切りしたが次に取り掛かると長くなりそうなので今日はここまでにしておこう、といった感じで生まれた微妙な空き時間。

 ちょうどいいから従順さならば基地でも随一の秘書艦“で”遊ぼうと考えたあなたの振った話に、相変わらずのずれた答えが返ってきた。

 

 ぴこぴことか今日日おばあちゃんでも言うまいに。あとゲームの提案のどこに誇らしい要素があるのだろうか。

 天然そのものの仕草で首を傾げるシリアスにどこからツッコむべきか悩んでみたが、話が進まないのでとりあえずスルーする。

 

 NGワード会話って知ってる?

 

「エヌ、ジー……?新開発の砲身か何かでしょうか?」

 

 おーけー分かってた。

 

 何それおいしいのみたいなノリで物騒なたとえが出たものである。

 相良軍曹懐かしいなオイ、と世代がばれそうな感慨はさておくとして、戦地上がりの少年兵みたいな感性をしているメイド?にあなたは言葉の意味を説明した。

 要は年末年始にボーリングやりながら芸能人が遊んでいたアレである。

 

「特定の言葉を言わずに会話を行う……ですか。

 意義は掴めませんが、概要は把握しました。誇らしきご主人様のご命令とあれば、このシリアス必ずやご期待に応えてみせましょう」

 

 うん、じゃあ名詞・動詞の前に「お」とか「ご」とか付けるのNGな。はいスタート。

 

「…………え゛」

 

 自信満々に胸を張ってみせたシリアスがその体勢のままぴしりと固まる。

 あなたがにやにやしながら彼女を見つめていると、ぎぎぎ、と油が切れたロボットのような動きでこちらを見つめ返してきた。

 

「あの、それはシリアスに遠回しに『お前とは口も利きたくない』とのお達しなのですか?………あっ」【NG1回目】

 

 いや、なんでそーなる。

 

「それはその……誇らしきごしゅじ……あぅ、尊敬する主に砕けた言葉遣いをするなどこの卑しいメイドに到底許されることではありません。ならば、口を開くなという意味では?」【NG2回目】

 

 ねーよ。どんだけ性格悪いのさ俺。

 

 少なくとも意地が悪いのは確かだろう。

 とはいえそこでシリアスが「はい悪いです」と言えるようならそもそもこんなゲーム自体始まっていないわけで、困った顔でもじもじして黙り込むより他になかった。

 

………当たり前だけど、沈黙もNGだぞ?

 

「ぅぅ……そうだ、喉が渇いていらっしゃらないでしょうか?冷蔵庫にアイスティーと、お茶菓子にクッキー、~~~~っっ!!」【NG3回目】

 

 とりあえずあなたの口を飲食物で塞いでしまえば会話でボロも出づらくなる。

 発想は悪くなかったが悲しいかな染みついた口調はそう簡単に誤魔化せなかった。

 

 真っ赤な顔でぱたぱたと戸棚にあるクッキー缶を取りに行くシリアス。

 見るからに焦った様子で、あなたが普段の感覚でしまったせいでちょっと彼女には高めの棚にある缶を取り出そうとする。

 

 となれば、あなたが嫌な予感を覚えた時にはそれは既に現実のものとなっていた。

 

「ああ…っ!?申し訳ございません、誇らしきご主人様!」【NG4回目】

 

 缶は蓋が開いた状態で盛大にひっくり返り、底に溜まっていた粉まで執務室の絨毯にばらまかれる。

 おろおろと缶を持ったまましゃがみ、片手で散らばったクッキーを拾うシリアスだったが、なんだか手つきが不器用というか、むしろ落ちたクッキーを更に粉々にして被害を拡大させている感があった。

 

 ベルファストが見てたら雷が落ちるなこれ。

 

 一人ごちつつしゃがんだままわたわたしている彼女を尻目に、冷蔵庫から取り出したボトルからアイスティー―――当然淹れたのはシリアスではなくベルファストである―――を二人分のコップに注ぎながらも。

 掃除も料理もちょっとアレなメイド?に苦笑いが抑えられないあなただった。

 

 

 その後も―――。

 

「家事は苦手ですが、白兵戦の腕前と警護の知識は十分なものと自負しています。

 どうか傍に置いていただくことだけはお許しください。―――はっ!?」【NG12回目】

 

「寝起きドッキリ、ですか?誇らし……旦那様は色々なことをご存じです、ね……。

 んん。あの、どうかシリアスにはなさらないでください。恥ずかしながら部屋が散らかっておりますし、人間である旦那様が不用意にお手に触れれば危険なものもありますので」【NG31回目、真面目な話だとは分かっているがそれはそれとして32回目】

 

「NGが一定の回数以下だとご褒美があったけどそれを超えると罰ゲーム……。

 その回数というのは、百回くらい―――ああ、また……」【NG57回目】

 

――――ハードル低すぎんだろ……。

 

 もうなんか喋るごとにカウントが溜まる仕様なのか。

 可愛ければ許される仕様も含めればバラエティ的にはおいしいかもしれないが、もはやからかうのも可哀相になってきたレベルである。

 

 窓から夕陽が見えてきたのも踏まえ、あなたはシリアスが100回ほどNGを出したところで解放を宣言する。

 その頃には気疲れとテンションどん底で喋る気力も失くした秘書艦が一名出来上がっていた。

 

「………」

 

 流石にこれを放置してさあ晩飯食うぞー、となる程の外道ではないあなたは。

 これからの行動が完全にマッチポンプな上に自分の欲望も混ざっているのを理解しつつ、シリアスに仮眠用のベッドの上で膝立ちになるよう指示する。

 悄然としながらも諾々と従う彼女は………次の瞬間懐に入り込んだあなたの背中の重みと温かさに目を見開いた。

 

 はい俺の首から前に手を回して。罰ゲームとしてしばらく背もたれな。

 

「…………!?」

 

 おずおずと戸惑いながらも、シリアスの腕は半ば勝手にあなたを後ろから抱き締め、胸元に引き寄せる。

 不意打ちのように与えられた温もりと匂いに戸惑うしかない。

 

「罰……?誇らしきご主人様への抱擁が、褒美ではなく罰と仰るのですか?」

 

 罰にならない?

 

 あなたの問いに対して、シリアスにとっての正解は一つしかなかった。

 しかし、口から出せる言葉はその正反対のものしか存在しない。

 

 何より、仮にやめろと言われてももう絡めた腕を解ける気がしないのだ。

 

 

「―――いいえ、罰です。この卑しいメイドにどうか存分に罰をお与えください、誇らしきご主人様」

 

 

 そう請い願ったシリアスの表情があなたに見える筈はなかったが。

 喜悦混じりの艶めいた囁きは、あるいは背中に当たる乳房の感触よりも心地よく感じられるほどに官能的だった。

 

 

 

 

※サブタイで予告していたけどやはり何の脈絡もないにくすべ

 

「始めよう―――我らの破壊を」

 

 時に水平線の先の敵を覆い隠すほどの荒波が間断なくうねりを上げている。

 生前の戦場(地獄)を思い起こさせるような冷たい波飛沫を被りながらも、あの時代と大差のない硝煙と油の匂いの中にその猛獣は牙を研いでいた。

 

 青白い炎で心に燃え続ける殺意と憎悪をその鉄面皮に表すことは一切なく、灰の女―――鉄血空母グラーフ・ツェッペリンは手懐けた鋼鉄の獣に命を下す。

 咆えろ。喰らえ。貪り尽くせと。

 

 従順に、凶暴に、獣は主に従い背から己が分身を射出する。

 黒煙の空に舞い上がり遥か高みから敵を(◎▽◎)こんな顔で睨む飛翔体は、さながら天使を象った死神か。

 変な形のピンク色のリボンを付けた女の子のぬいぐるみの姿をしたその死神達は、対空機銃も碌に動かない有様の敵艦達を消し炭にすべく一斉に爆撃投下を開始した。

 

 

【わっきゅー】【有罪】【はいどうもー!】【わっきゅー】はいどうもー!】【有罪】【わっきゅー【はいどうもー!】【わっきゅ【はいどうもー!】ー】【有罪】【はいどうも【有罪】ー!】【【可愛い♡】有罪】【わっきゅー】【有罪【わっきゅー】はいどうもー!】【有罪】【わっきゅー【はいどうもー!】【わっきゅー】【わっきゅ【はいどうもー!】ー】【わっきゅー】はいどうもー!】【有罪】【わっきゅー【はいどうもー!】【有罪】

 

 

――――汝ら罪アリ。ただ死すべし。

 

 おびただしい数の声、声、声……。嘆きか怨嗟か絶望か、それは従えるグラーフ・ツェッペリンにも分かりはしない。

 ただ一つ確かなのは、空を支配する暴力によってこの戦局は統制された、それだけのこと。

 

 なんか青狸型ロボットもあんなん持ってたよなぁ。気に入ったのか、その外装?

 

「………卿に答える義務はない」

 

 さいですか。

 

 どこか窘めるようなあなたの声も、彼女は聞き入れることは無い。

 それこそ本物の死神の顎に呑まれる最期の時まで、グラーフ・ツェッペリンはその紛い物の死神達を従え続けるつもりだった。

 

 それほどまでに。

 

 それほどまでに、ああ、彼女はやはり全てを憎んでいるのだろう。

 

 たぶん。

 

 

 

 

 





 キズナアイの元ネタは知らないけど、あのコラボ外装は見た瞬間にくすべさんに装備せねばと思いました。今はガスコーニュちゃんが完成したのでフリードリヒちゃんのデータ取りをやってくれています。



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ローン/伊吹

 アズレン2周年、ローンちゃん伊吹ちゃん新衣装おめでとう!

 そして人気投票予選Bグループェ……。
 作者の投票券?全部リアンダーちゃんに突っ込みましたが何か(半ギレ)



 潮風が程よく日差しの暑さを和らげてくれる。

 コンクリートで固められた埠頭の淵に膝を投げ出しながら、あなたは水平線を眺めていた。

 

 怪物が跋扈し、海洋により近い国家を中心に人間がすり減らされている世界。

 澄んだ水が視界いっぱいに拡がり、水飛沫が日光を反射し煌く美しい海の景色なのは、あなたが元居た世界のそれより海洋汚染が少ないからというのは流石に穿ち過ぎだろうか。

 尤も戦争というどちらかと言わずとも海を汚すお仕事をしているあなたにとっては、眼前の海水に混ざっている微細プラスティックごみの量がどうなっているかなど、ぼーっとしている間の思考のノイズ程度な些末事でしかないわけだが。

 

 一応言っておくと、昼日中から海を見つめたそがれる隠居老人みたいな習慣があなたにあるという訳では当然ない。それは額に少しだけ浮かぶ汗を優しくハンカチで拭いてくれる秘書艦の存在が隣にあることからも分かるだろう。

 

 重巡洋艦ローン。

 『鉄血』に属する一部の艦の戦闘経験を蓄積して励起する特殊なキューブから生まれた艦であり、その都合上ひたすら働かせたライプツィヒから向けられる視線が段々妖しくなっていったのは気付かないふりをした―――というのはさておき。

 露出が激しい艦船の彼女達にしては珍しく上半身を黒の長袖ジャケットで固め、その傍らに鉄血艦の中でも一際巨大な鐵(くろがね)の猛獣を控えさせているのが印象的。

 かと思えばむっちりとして触り心地が良さそうな太ももが超ミニのスカートから覗いており、胸元がぱっつんぱっつんに張ったダークグレーのブラウスと合わせアンバランスな妖しさによる色気を兼ね備えている。

 

 そんな彼女と一緒に、あなたはこの時出撃した艦隊を出迎える為に港に待機していた。

 必ずしも義務というわけではないが、帰港した時に出迎えてあげると多かれ少なかれ機嫌が良くなる女の子達が多いので、それなりの頻度でこうして港で帰ってくる瞬間を待つことがある。

 執務が立て込んでいたり、前線の艦に逐次指示を飛ばす必要がある全力出撃だとそんな余裕がないのはやや申し訳ないところだったが。

 

 少なくとも今回は、ちょっと早い時間に休憩がてら待ち構える程度の余裕があった。

 なので出撃した艦隊が帰投する予定の水平線を眺めつつ、あなたはローンと駄弁っている。

 

「そういえば指揮官は、帰投した艦隊の子をどんな風に迎えているのですか?」

 

 え?普通にお帰り、おつかれー、って。

 山城とかラフィーとかだとねだられて頭撫でたりしてるけど。

 

 

「…………」

 

 

 垂れ目がちの表情をいつもにこにこと穏やかなものに固定しているローンは、その蓬色の瞳でじっとあなたを見つめていた。

 それを続きを促された、と解釈したあなたは、しかしいつもの悪ノリをそこに乗っける。

 

 ああ、折角の出迎えならもうちょっと面白いことしようぜ的なネタ振り?

 

「………うふふ。どんなことをするんです?」

 

………何しよう?寧ろローンだったら、出迎えに何されたらびっくりする?

 

 悪戯、という意味なら色々思いつくし、ちょうどリアクションが良さそうな子が戻ってくる艦隊に揃っているため、少し楽しみになりながら選択権を秘書艦に譲り渡すあなた。

 ローンは視線を遠くして思案に耽ったかと思うと、次の瞬間ぱっと華やいだ笑顔でそれに応えた。

 

「そうですね。やはりハグでしょうか?」

 

 剥ぐ?

 

「よく帰ったね、待ってたよー、みたいな感じでぎゅぅっと。

 情熱的にしてもらえれば、『歓迎されているな』、って心から実感できると思うんです」

 

 あ、ああそっちね。

………そうだなー。こんな感じ?

 

 

「―――――ッッ」

 

 

 ボケではなく素で勘違いしてたのにちょっと動揺したのもあり、あなたはおもむろに隣のローンを強く抱き寄せる。

 頬に当たるさらさらの髪と、高級そうな黒ジャケットの布地が良い感じの触り心地だった。思わずぽんぽん、と背中を優しく叩く程に。

 

 そしてある意味自分が言い出した悪戯をその身で受けることになった彼女はと言えば、驚き過ぎたのか体をびくつかせはしたが、そのまま何も言いだす気配がない。

 代わりに、なのか―――傍らの鉄の猛獣の眼が一瞬ぎらりと強い光を放った。

 

………?

 

 ふと剣呑な気配を感じてあなたは辺りを見回すが、穏やかな海と背後にいつも通りの基地があるだけ。

 気のせいかと首を傾げていると、あなたの腕をそっと解きながら、ローンが懐から蕩けた視線で見上げてくる。

 

「ふ……ふふ。素敵でした。だから帰ってきた子達には、もっと情熱的なハグをしてあげてくださいね?」

 

 やー、だ。秘書官殿。

 

「もう、嫌なのかJa(了承)なのかどっちなんですか」

 

 甘くはある、だが不思議とそれだけでもない空気。

 そんな中で二人は、帰投する艦隊を待ちつつ駄弁り続けていた。

 

 

 

…………。

 

「それで、この茶番か?」

 

 帰投した艦隊の一隻のみの主力として旗艦を務めていたグラーフ・ツェッペリンが、ローンに抱きつかれながら感情の読めない冷たい問いを放つ。

 常人なら委縮してしまいそうなすべてをにくんでいる声だったが、あなたはスルーして前衛艦を務めていた彼女達に向けて腕を拡げていた。

 この胸の中に飛び込んでおいで、のポーズである。

 

 そして、それを向けられて先頭を切って戦果を報告しようとしていたセーラー服少女が、顔を真っ赤にして固まっていた。

 リアクションが良さそうな子その一、初心なお嬢様女学生風軽巡洋艦リアンダーである。

 

「あ、あの、指揮官様、これは………?」

 

 任務ご苦労。歓迎しよう、盛大にな!

 

「うぅ。またいつもの悪い癖なのですね……」

 

 あなたは爽やかな笑顔でリアンダーを労ったつもりなのだが、何故か拗ねたような上目遣いでこちらを見て来た。

 とは言っても気分を害した訳ではないのだろう、小刻みに動く爪先と重心は、そのまま飛び込んでこようかどうか迷う彼女の逡巡が素直に表れている。

 

 が、結局は他に人目のある状況で照れと恥じらいが勝ったのか、目の焦点をぐるぐるさせながら、あなたの脇を斜めにすり抜けるように猛ダッシュしていくリアンダー。

 

「ふ、二人きりの時にお願いしますわーーー!!」

 

「リアンダーさん!?そっちは寮舎じゃないですよー!!」

 

 そして、テンパって明後日の方向に駆けていくリアンダーを追いかけてあげる優しいピンク髪メイド。

 リアクションが良さそうな子その二、お花畑能天気重巡洋艦サフォークの背中に、フォローよろしくなー、とあなたは割と酷い依頼を投げた。

 それでも彼女は一瞬振り返っていつものほえほえした笑顔で返してくれる。

 

「任せてください!あ、あとサフォークは指揮官さんにぎゅってしてもらえるなら、いつでも大歓迎ですよー!!」

 

 そんなことを言っていたので、また中庭でぼうっとしているのを見かけたら構い倒そうと思った。

 

 

 そして、ある意味で逃げ遅れたリアクションが良さそうな子その三が、純朴田舎巫女風重巡洋艦伊吹だった。

 

 

「あ、あるじどの……。伊吹は、伊吹は……っ」

 

 化粧気のない幼さを残した少女の面貌は素直な困惑と羞恥を表に出し、透明感のある白い肌を薄紅に彩らせている。

 純白の戦装束を黒い帯で締め、深紅の刀身を腰に携える重桜の装い。そこに属する彼女ら特有の頭頂に生えた獣の標(しるし)は、伊吹の深い水底を思わせる藍色の長髪から覗く黒い硬質な突起について言えば龍の角だろうか。

 

 そう、ドラゴン娘である。

 出会った時からあなたは内心火を噴いたりしてくれないかなーとちょっとわくわくしてたりする。

 もっともどちらかと言えばウォータードラゴンっぽい感じの子なので無理かなーと諦めてもいる……そういう問題ではないか。

 

 彼女もローンと同じく、『重桜』に属する一部の艦の戦闘経験を蓄積して励起する特殊なキューブから生まれた艦である。その都合上ひたすら働かせた電と雷から発せられるメタ発言がどんどん酷くなっていったのは聞こえないふりをした―――というのはさておき。

 

 そんな伊吹はリアンダー以上に初心な性根と生真面目な性分が災いし、逃げることは考えも及ばない様子であった。というより。

 

「すぅ、はっ………主殿の御意思とあらば是非もなし。

―――――伊吹、参ります!!」

 

 えー……?

 

 深く息を吸って呼吸を整えたかと思うと、鉢巻巻いて討ち入りでもするのかみたいな覇気で決然と言い放つ伊吹。

 ほんの悪戯のつもりだったのに、これそんな真剣な決意が必要な流れだったっけ、と困惑するあなたに彼女は摺り足でおずおずと近づき。

 

 赤みが引かない顔を緊張で強張らせたまま、武道家特有の重心の据わった動きであなたの懐に飛び込んだ。

 力強くも紫電の如く―――というか大外刈りとか一本背負いとか掛ける時の動きだこれ。

 

 ちょっと付いてきて、と言ったら影を踏まないように三歩後ろを歩く絶滅危惧種大和撫子である伊吹が主殿と慕うあなたにそんなことをする可能性は万に一つもないだろうが、もしその気があったなら今頃あなたは派手に地面に叩きつけられていたことだろう。

 もっとも当人はと言えば、あなたの胴に腕を回したままぷるぷると震えていたが。

 

「主殿の匂いと温もりが……あわわ、あわわわっ」

 

 抱きついた後のことは全く考えていなかったのは確実だろう。

 あなたから見えるのはつむじと角くらいだが、今の伊吹の状態は柔らかな乳房の奥からばくばくと鼓動を鳴らす心臓の音がよく伝えてきてくれる。

 

 どうしたもんか―――。

 

 あなたはここからの対応を内心思案したが、考えてみれば自分から抱きつきに行けた時点で、伊吹の性格を考えれば殊勲賞ものだ。

 後はこのまま落ち着くまで頭を撫でたり背中を摩ったりしていれば、お互い綺麗に締められると分かっていた。

 あなたはそれは分かっていたものの――――。

 

 

「邪念撲滅、六根清浄…っ」

 

―――邪念、ねえ。どんなふしだらなこと考えたんだ?このすけべドラゴン。

 

「あぅ!?あ、主殿……っ、きゅう~~」

 

 あ、やっちゃった……。

 

 

 自分に言い聞かすような精神統一についツッコミというか茶々を入れてしまういつも通りのあなたである。

 最後のからかい文句が、顔を上げた伊吹の耳元で囁く形になってしまったのも効果絶大だったのか、腕の中でぐったりと意識を飛ばす伊吹であった。

 

 流石に悪いと思いつつ、伊吹の体重を支えながらこの場で介抱するか寮舎までおぶるか考えるあなた。

 

 

 

「――――ちっ」

 

 

 

 そんなあなたを、正確にはあなたの腕の中の伊吹を、穏やかな微笑みを張り付かせたままローンはじっと見つめていた。

 

「………滑稽な、とは言わない。だが、卿のその業、昇華できねば破滅するだけだと忠告しておく」

 

「ご心配には及びませんよ」

 

 ただ只管にこやかに。その場を立ち去るグラーフ・ツェッペリンに見向きもせず。

 深緑の瞳が一対、レンズを照準に合わせる機能だけを果たし続けていた。

 

 

 




 本作は基本的にほのぼのいちゃらぶものですよ。

 あ、おまけではないけど以下特に本編に関係のない謎のにくすべカッコガチ勢許不和系お姉さんのモノローグ入りまーす↓





 殺したい。

 厳密に言うのであれば―――殺したいと“思いたかった”のだ。

 ニンゲンの都合でかつて己は己を定義されながらも生まれることさえ許されなかった。
 生まれる前に死んだ、殺された水子の怨念。

 だから当前の権利とばかりに生を謳歌する愚者達が許せない。
 だから死という絶対の終焉から目を逸らす愚者達が許せない。

 せめて、それらが無残に屍を曝す光景を心の慰めとするだけ健気な女の子だと我ながら思う。
 趣味は放生(ほうじょう)―――死人の葬送。

 かつて存在すら許さなかったくせに今度は自分の力が必要だという都合のいい呼び声に応えたのも、当然人々や世界や、まして国のためではない。
 特等席で心の隙間を埋める光景を見物するため。そして、自分を従えたと勘違いした愚物が裏切られ殺される滑稽な表情をその手で作り出すため。
 だというのに。

 その人は当前の権利なんかではないと知りながら生を謳歌していた。
 その人は死がどこにでも転がっていると認識しながら、狂気に浸りもせずに平然と笑っていた。

 どういう経験をしてどういう精神構造ならああなるのかは知らないが、―――“許せない人ではなかった”。
 そのカテゴリ分けに未熟な心が戸惑う内に―――己の中で彼が“心を許せる”人に変わってしまった。

 心を許せる人から愛しい人へ。愛しい人から、血と骨と皮と肉と臟(ハラワタ)と脳髄と精液と心と魂の一欠片に至るまで己のモノでなければ“許せない”人へ、階段を転がり落ちるように呆気なく変わってしまった。

 まずい、とは自覚していた。自己の精神の安寧にも、そして愛し過ぎて唯一慮る対象とする相手にとっても。
 だからせめて“殺してあげたい”、と思える程度にフラットな状態に落ち着かせたかった。

 愛憎のあまり恋人を殺してしまう、というのは古今東西よくある話だ。
 愛想笑いを顔に貼り付け、愛しい人が他の女にべた付くのをひたすら見続けた―――そうすれば彼のことも殺してあげたいと思えるようになるかも知れないと。

 だめだった。

 注いだ愛情が一方通行に終わった時、男は相手の女に憎悪するが、女は相手の男を誑かした女を憎悪するという。そして自分は女だった。
 気づけば心の隙間なんてとうに埋まっていて、その土壌の上には嫉妬という徒花だけが華やかに咲いていた。

 あとはもう、単純な話しか残っていない。
 ましてあの雌蜥蜴は、認めたくもないが“自分と同じ”くせに、『喚ばれて良かった、幸せだ』などと言わんばかりに能天気に振舞う愚者。
 それが彼の腕に抱かれながら、のうのうと間抜け面で寝こけていると来れば。

 貼り付けた仮面の奥で、視界が赤く染まっている。脳がちりちりと焼ける。

 嗚呼――――。


「――――許せないよね?」



※以上。

※サイコパスの論理飛躍を素面(しらふ)で書いている作者の精神状態は察して。なんでそうなっているかは前書きをもう一回見てみよう!




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