ほのぼのバトスピ伝 (ヴァーチャル)
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第1話 覇者の目覚め

勢いで始めてしまいました。作者はアニメは見ていますが、カードは初心者です。更新は不定期です。こんな未熟者ですが、よろしくお願いします。


 

男は闇の中にいた。深い幻想的な気分に包まれながら、晴れ渡る空の下にいた。男は宙に舞い、人々の喧騒を眺める。男の眼には、好奇心からくる輝き、そして熱い炎があった。

──なんだ…あれは…?

紅く…熱くたぎる龍。白く…冷たく前を見据える機械の軍団。彼らを観察する骸骨の集団。天を優雅に舞う鳥たち。大地を揺るがして行進する巨人。空を覆い尽くす天使。

今、これらの勢力が、男の下でぶつかり合おうとしていた。

 

「一体これは…。」

「そう。あれこそが…この世界の運命を左右する力。」

 

突然の背後からの声。男は驚きを抱き、勢いよく振り向く。そこには、美しい少女がいた。

──誰だ…こいつ。

じっくり観察してみる。きれいに整えられた長い黒髪に、汚れひとつ無い白のワンピース。幼さを少し残した、可愛らしい顔。

──清純──

この言葉がとても似合う女性だった。しかし、その表情は笑みを表すことはなく、憂鬱そうな様子で言葉を発する。

 

「あなたに…頼みがあるのです。とても重要な…。」

「…なんだ?」

「これを…受け取ってくれますか?」

 

少女は懐からカードを取り出し、男に差し出す。

──これはなんなのか…?

普通ならば、こんな問いが口から出るのだろう。しかし男はそれを黙って受け取った。何かに突き動かされたかのように。

 

「…これであなたは…戦いの運命に身を投じることになりました。

…では、健闘を祈ります…。」

 

男の視界は霞み、意識が現実へ引き戻されていく。そして遠退いてゆく意識の彼方、ひとつの単語が頭に浮かんだ。

 

──バトルスピリッツ──

 

 

「ちょっと!邪魔だよお兄さん!」

 

重いまぶたをこすり、彼はイスから飛び起きる。『彼』は14歳ほどの少年。少し大きい、花柄の着物に身を包み、長い茶髪をかく。

──うるっせぇな…。

顔を声の主に向ける。そこには、白い髪の少女がいた。小学生高学年くらいだろう。雪を思わせる純白の白。汚れなき白だ。動きやすそうなライトな服装と、活気あふれる顔は、見ている方まで元気になるような力があった。

 

「…っと…!悪い悪い。」

 

どうやら店のイスで寝込んでいたようだ。急いで席を開ける。彼が寝ていた席に少女が座り、向かいの席にもうひとりの少女が座る。そして気付けば、周りにはたくさんの子どもたちがいた。

──なにやんだろ…?

子どもたちは皆、その大きな眼を輝かせている。一体どんな面白いことが始まるのか。ギャラリーの視線を受け、二人の少女は腰のホルダーから紙の束を取り出す。

──なんだありゃ。

二人は雄々しい表情で紙束をテーブルに置く。視線の交差。今から殺し合いでもするんじゃないかと思わせる程の迫力だ。

 

「さぁさぁ始まるぜぇぇっ!!今日の大会のぉ…注目の一戦!!この店のトップクラス戦魂者の二人の対戦だぁぁぁぁ!!実況はこの俺!!馬神トッパが…正面突破で務めるぜ!!」

 

馬神トッパと名乗る、赤髪の18歳ほどの若い男が凄まじいテンションでシャウトする。彼の叫びに呼応されるかのように、辺り一帯が熱気に包まれる。

──なんなんだろうか…。

少年が呆気にとられていると、赤髪の男が近付いてきた。

 

「なんだよなんだよぉ!?せっかくの戦魂なんだからさ、もっとテンション上げてこーぜ!!」

「…戦魂?」

「…お前…もしかしてバトスピ知らねぇのか!?」

 

少年はうなずく。 男は何やら叫びながらのけぞる。相当ショックだったのだろう。

 

「お前…。じゃあなんでここで寝てたんだよ?」

「居心地いいなぁ…って思って。昨日来たときは静かだったのに…。」

「あのなぁ…。ここは昼寝場所じゃねぇんだぞ?」

男はそれから少し説明を始めた。男の説明によると、今日この店では、カードゲーム『バトルスピリッツ』の大会が行われているらしい。そのゲームは子どもたちの間で大流行していて、この店には大勢の熱いバトスピ好きが集まってくるらしい。そのバトスピの戦いのことを戦魂、バトスピで勝負する者たちのことを戦魂者と呼ぶらしい。

 

「ふぅん…。バトスピねぇ…。」

「おう!!すっげぇ面白いんだぜ~!!」

 

カードゲームの類いを、少年はやったことが無かった。少し興味を抱き、テーブルを見てみる。そして次の瞬間、少年は戦慄する。

──なっ…すげぇ…ッ!!

並べられた、数枚のカードたち。そこに描かれた美麗なイラスト。カードたちの上でぶつかり合う二人の闘志。壮絶な、最高に熱い戦いがそこにあった。

 

「…へへっ。すごいだろバトスピ?」

「あぁ…ッ!!すげぇ…すっげぇ!!」

 

場に出ているカードたちが天と地を駆け回る。その姿が、リアルに目に浮かんでくる。白髪の少女が自分のターン(順番)を終え、相手の少女のターンになる。

 

「ふっふっふ…。白咲 由希(しろさき ゆき)!!今日こそは…この嫣極切 紫牙(えんごくせつ しが)様がお前を倒ーす!!」

「…今日も元気だね紫牙ちゃん。良いカードが来たのかな?」

 

紫牙(しが)と呼ばれた少女はにんまりと笑う。由希と呼ばれた少女と同じくらいの年頃のその少女は、紫の髪をなびかせ、革ジャンを着用している。頭には巨大なサングラス。いわゆるトンデモファッションの持ち主だ。だが少年にとっては、そんなことはどうでもいい。彼はすっかり戦魂に夢中になっていた。

 

「紫牙は前のターンの由希の攻撃で、ライフは残り1つになりスピリットも大量に破壊された…。ここからどう逆転するんだ!?」

「…すみません。専門用語多すぎて意味わからないです。えっと…馬神さん。」

「バシンでいいって!…おっ!鴉くんじゃん!」

 

白髪の小さな少年が、とてとてと歩いてくる。テーブルに座っている、白髪の少女にそっくりな、可愛らしい雰囲気だ。

 

「こんにちは店長~。この人は?」

「なんかバトスピ知らねぇんだって。だから説明してたんだ。あぁ、紹介するよ。こちらは白咲 鴉(しろさき からす)くん。由希の弟だ。」

「よろしくね~。…あなたはなんていうの?」

「…聖天 斬(せいてん ざん)だ。よろしく。」

 

鴉はにっこり微笑む。そして三人の視線は、再びテーブルへ向けられる。

 

「頑張れお姉ちゃん!ファイト~!」

「…鴉…。うん!お姉ちゃん頑張る。」

「頑張る?だがしかぁし!!まったく無駄ぁぁ!!ネクサス─結界─骸の斜塔を配置。そして…マジック『ネクロマンシー』を発動ぉ!!」

 

亡霊たちの叫び声と共に、大気は鳴動する。枯れた大地に紫の結晶が散りばめられ、やがてそれは拡がっていく。地獄の門は開き、今絶望の扉が開こうとしていた。

「ネクロマンシー!!あれはトラッシュ(捨て札)の、系統゛無魔゛を持つスピリット全てを手札に加えるカードだぁ!!…ということは…。」

「…来る!」

「咲き誇れ…紫─スイレン─の華よ!!」

 

骸たちの咆哮。体を底から震えさせる地響き。得体の知れない威圧感を引き連れ、咎人たちの大行進が始まる。紫牙の場に並べられた10体以上のスピリット。対する由希の場にはスピリットはたったの2体。ルールを理解していない斬でも、どちらが有利かは容易に分かる。

 

「ピジョンヘディレスが3体、ダーク・ソードールが3体、ボーン・トプスが3体、骨鹿が3体、か。この総攻撃を喰らったら…。」

「…お姉ちゃんは…負けない!!」

 

紫の亡霊たちが由希を囲む。 今にも襲いかかろうと、鋭い牙を剥いている。

 

「私様の最大のライバル…白咲由希!!私様の華に埋もれ消えなさい!!」

 

骨鹿が由希のスピリットを引き付け、残りのスピリットたちが駆ける。

──もらったぁぁ!!

亡霊たちの最後の咆哮。勝利へ向け、決死の突進が由希を襲う。

絶対絶命の状況の中、由希は…笑った。

 

「…!?何を笑って…まさか!?」

「フラッシュタイミング。マジック『サイレントウォール』を使用。残念だけど、紫牙ちゃんの攻撃はこれで終わってもらう!!」

 

亡霊たちの突進は見えざる壁に弾かれ、攻撃は沈黙に終わる。紫牙は歯ぎしりし、悔しそうにターン終了を告げる。

 

「…でも、この数のスピリットを突破するなんて…できるわけない!!」

「どうかな?私のターン!」

 

由希のターン、由希の前に炎をまとった槍が舞い降りる。由希はそれを掴み、紫牙の後ろにそびえる塔へと投げつける。

 

「はぁぁぁぁぁ…ッ!!っ…だぁぁ!!」

 

天へ向けそびえ立つ斜塔が、赤き槍の一撃で砕け散る。

 

「あれは…ネクサスを破壊する、マジック『バスタースピア』!?そしてその効果は…相手のネクサスを破壊した時ドローができる…はっ!!」

 

紫牙は眼を見開く。亡霊たちを吹き飛ばし、新たに巻き起こる白の嵐。その中で雪の結晶が美しく舞う。

──これは…!?

大地の彼方、紫の大地を白く染め、巨大な城が降臨する。

 

「そびえよ…美しき鋼の城。『鉄騎皇イグドラシル』召喚。」

 

黄金の装甲をまとう白い勇者。はためくマントに、煌めく透明な雪。その力強く差し出された右腕に、亡霊の反撃は打ち消される。そして亡霊たちは消え去る。

 

「…くっ!!私様のスピリットが…!?」

「イグドラシルの効果。BP(バトルポイント)3000以下のスピリット全てを手札に戻す。」

「これで紫牙を守るスピリットはいなくなったぁぁ!!」

「いっけーお姉ちゃん!」

 

由希と紫牙の視線が交差する。そして二人は、静かに笑った。

 

「行けイグドラシル!!ラストアタック!!」

「…この戦魂に一片の悔いなし!!ライフで受ける!!」

 

最後のライフが砕け散り、勝負が決する。その瞬間、店中が大歓声にのまれる。

 

「決まったぁぁ!!勝者は白咲由希!!当ショップのトップクラス戦魂者がその強さを見せたぁ!!おめでとう!!」

 

大きな拍手が起こる。由希は照れくさそうに笑い、紫牙に微笑みかける。しかし紫牙は不機嫌そうな顔をしていた。

 

「…また負けた…。特訓したのに~。」

「でも紫牙ちゃんはすごく強くなってた。…ねぇ、良かったら…」

「ぐやじぃぃぃ!!覚えてろ!!次会ったときがお前の最期だ!!ワハハハハー!!」

 

紫牙は風のような速さで走り去っていった。由希は少し残念そうな表情を浮かべ、弟の方へ眼を向ける。

 

「さすがお姉ちゃん!!良いバトルだったよ!!」

「ふふ。ありがと。…あ、さっきの人。」

由希が斬に目を留める。鴉とバシン が斬のことを紹介しようとした時、三人は斬の異変に気付いた。斬は放心状態になっていたのだ。

 

「お…おーい斬~。」

 

バシンが呼び掛けると、斬はハッと覚醒する。斬はしばらく目を瞬いていたが、やがて笑みを浮かべ、由希を見据える。

 

「…決めたぜ!!」

「?」

「俺は…バトスピをやる!!そしてお前に勝ぁぁッつ!!」

 

斬の叫びが響き、人が集まってくる。呆気にとられている由希をよそに、バシンと斬は意気投合している。

 

「そうかそうかぁ!!よし…お前は俺が鍛えてやる!!」

「はい!!お願いしますバシンさん!!」

「なんか話進んでるね…。」

「ふふっ…。面白そう。」

 

周りの人たちがざわつく。トップクラス戦魂者に初心者が挑むなど、無謀でしかない。しかし斬は楽しそうな笑みを崩さない。その眼には熱い獄炎が燃え上がっていた。

 

「お前の戦魂が…俺の魂に火をつけた!!だからこそ…俺はお前と戦魂したい!!」

「…わかった。受けてたつよ。でもどうしょうか…。デッキは無いでしょ?」

「デッキ…?よく分からんが、すぐに用意する!!すべからく待て!!待ってください!!」

 

バシンによると、デッキとはカードの束(山札)のことらしい。それがなければ戦魂はできず、デッキを作るには40枚以上のカードが必要である。

 

「そのカードはどこに!?」

「ここで売ってるぜ~。ほら!」

 

バシンの指差す方向には、積まれたパックがあった。値札に書かれた値段は…210円。

 

「そんな金は…ねぇぇぇぇ!!」

「えぇ…。」

「頼むバシンさん!!俺を…ここで使ってくれ!!そして金をくれ!!」

「バイトってわけか…。わかった!!正面突破でこき使ってやるぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

─翌日─

 

斬はバシンから賃金を受け取った。斬から歓喜の叫びがあがる。

 

「うぉぉぉ!!バシンさん!!早速カードを買うぜ!!」

「おう!!どれにする?」

「じゃあ…これとこれを箱で!!」

 

斬が指差したのは、バトルスピリッツ覇王編のパック。斬は『覇王』という単語になんとなく格好よさを感じ、それを選んだ。そして剣刃編と星座編のパックも数パック買った。

 

「ふぅん…。新しいやつを選ぶんだな。」

「…あぁ。なんか良いの…来い!!」

 

箱を開ける前に、剣刃編のパックを開けてみる。

──なんだろうな…。

引き寄せられるような、不思議な感覚。そこに昔からの大切な友が待っているかのような感覚。斬はパックを開き、出てきたカードに見入る。

 

「…」

「それは…。おぉっ!!Xレアじゃん!!バトスピで最高のレア度なんだぜ~。」

「…良い。これ凄くいい!これが…俺の切り札だぁ!!」

 

お気に入りになったカードを天にかざし、斬の笑顔が輝く。

斬が箱を開けていると、由希と鴉が店に入ってきた。

 

「おぉ由希に鴉。開店したばっかなのに…。早いねぇ。」

「はい。楽しみでしたから。あの人は…」

「…なんか派手に買ってるね。」

 

斬はパックのゴミをバケツに叩き込み、勢いよく立ち上がる。

その手には、40枚のデッキが握られていた。

 

「…準備オッケーってわけか…。じゃあ早速…。」

「はい待ったー。どうせなら…あれでやろうぜ。」

「「あれ?」」

 

バシンが微笑みながら手を振る。

その場にいた全員が店の奥へ顔を向ける。そこには小さなステージのようなものがあった。由希と鴉は驚きの表情を浮かべる。

 

「まさか…あれは!?」

「そう…。最新技術を導入して、正面突破で開発されたスーパーマシーン!!」

「おぉ!一体これで何が!?」

「それは使えばわかるさ…。行ってこーい!!」

 

由希と斬はうなずき、ステージに登る。

──俺の初戦魂…。

斬は胸に手をかざす。

──全力で…楽しんでやる!!

視界からバシンと鴉が消える。店の景色も消える。体が何処かに吸い込まれていくような感覚。その果てに、斬は渇いた大地へと羽ばたく。

 

「ゲートオープン…界放!!」

 

 



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第2話 由希の雪

 

「ぁぁああ……うっわぁぁぁ!!」

 

体が天を舞い、砂混じりの風を切る。近づいてくる渇いた大地。足の底に感じられる鉄の感触。聖天 斬(せいてん ざん)は未知の大地にいた。

 

「どこだよここは……」

 

辺りを見渡す。白く、ただ白く染まった木々。宙を儚げに舞う雪の結晶。幻想的な、美しい景色がそこにあった。

斬の前の雪が舞い上がる。新たに開けた視界の先、白咲由希はいた。

 

「……ふふっ。良かった~私好みな場所で」

「ここは?」

「バトルフィールドだぜ!!」

「バシンさん?」

 

どこからだろうか、バシンの声が聞こえてきた。声の方へ向くと、吹雪の中にバシンと鴉がいた。

 

「ここは思う存分に戦魂をするための戦場。いろいろ仕掛けがあるんだな~」

「仕掛け?」

「ま、これだけは保証できる。これが最高に楽しい戦魂になる、ってな」

「面白れぇ!!だったら、思いっきり楽しませてもらう!!」

 

バシンと鴉は、由希と斬のいる場所とは少し隔絶された所にいるらしい。

由希と斬の前にテーブルが出現する。二人はそれぞれのデッキをテーブルに置く。

バトルスピリッツのルールでは、最初にカードを4枚引く。そして先攻と後攻を決め、順番にターンを重ねていく。

 

「ターンは決められたステップに従って行われる。詳しいルールを知りたかったら、公式サイトをチェックだ!!」

「誰に話してるの?まぁいっか~頑張れお姉ちゃん!!お兄さんも頑張れ~」

 

弟の声援を受け、由希は拳を突きだしファイティングポーズをとる。

由希と斬の胸元に立体映像の、5つのライフが出現し、今戦魂が始まる。

 

「先攻は俺だ。行くぜスタートステップ!」

 

スタートステップは自分のターンが始まったことを示す。

コアステップは使えるコアを1つ増やす。ただし先攻1ターン目は行えない。

リフレッシュステップは前のターンで使った自分のカードたちを回復させる。

 

「そしてメインステップは、手札のカードを使うことができる。バトスピの展開の始まりのステップだ。

いっけー斬!」

「おう!!俺は、よし!『カメレオプス』を召喚!」

 

赤のスピリットをテーブルに置く。すると、目の前に赤色の結晶が現れた。

 

「な、なんだ!?」

 

結晶が大きな音をたてて砕け散る。そして砂煙の中から、赤い皮膚の生物が咆哮をあげる。

 

「じ、実体化したぁ!?」

「そう!これがこのバトルフィールドの凄さ。実体化したスピリットたちと共に、よりリアルな戦魂ができるんだ。気に入ったか?」

「あぁ!俺はこれはターン終了だ。」

「私のターン。『エメアントマン』を2体召喚」

 

由希がカードを引く。後攻1ターン目からはコアステップでコアを増やすことができる。由希の前に緑の結晶が出現し、2体の蟻の兵士が召喚される。さらに由希は、1枚のカードをかざす。

 

「それは?」

「ふっ。バースト、セット!!」

 

セットの呼び声と共に、由希はカードをテーブルに置く。それは裏向きのまま、その正体は明かされない。

バーストとは発動条件が満たされた時に発動できるカード。その見えざる罠の威圧感に斬は警戒を強める。

 

「ちなみに、バースト効果を持たないカードをバーストとしてセットすると、反則負けになっちゃうぞ。ちゃんと注意してバーストを使いこなそう!!」

「だから誰に話してるの?」

 

由希のターンは不気味な沈黙のまま終わる。そして斬のターンとなる。斬のリザーブ(使用可能なコアを置く所)のコアが燃え上がり、灼熱の龍が雄叫びをあげる。

 

「行くぜ!!『焔竜魔皇マ・グー』を召喚だぁぁ!!不足コストはカメレオプスから確保する」

 

地割れが起こり、地獄の炎が天へ昇ってゆく。

 

「くっ──!!」

 

由希に戦慄がはしる。赤の爆発から伸びる黒い腕。美しく舞う雪を引きちぎり、大地の命は枯れ果てる。絶望の扉は開かれた。

 

「おっ。良いカードだな」

「マ・グーの攻撃力は凄いもんね。でも不足コストをスピリットから確保するなんて、なんか初心者っぽくないね」

「ふっ。店のバイトがあいつを鍛えたってわけよ」

「バイトで鍛えたって、何したの?」

「ま、あとで話してやるよ」

 

斬のアタックステップになる。そしてその瞬間、トラッシュ(使用済みのコアを置く所)のコアがマ・グーに吸収される。これがマ・グーの能力。自分のアタックステップ開始時に、トラッシュのコア全てを自身に置くことができる。

そしてスピリットは、自身に置かれたコアの数によってレベルが変わる。マ・グーの最高レベルは3。マ・グーLV3のBPは10000。LV3に必要なコアは5つ。今マ・グーには5つのコアが置かれ、最高火力を叩き出す。

 

「マ・グーの更なる効果ぁ!!俺のアタックステップ中、系統に竜人か古竜を持つ俺のスピリット全てのBPを3000アップさせる!!」

「合計BP13000か。面白いね」

 

由希の余裕は崩れない。斬の顔が歪む。

 

「その余裕、イラっとくるぜぇっ!!行っけぇぇっマ・グー!!地獄の絶望を見せてやれぇっ!!」

 

爆音を響かせ、マ・グーが白く染まった天を駆ける。銀の光を放ち煌めく槍。BP13000の攻撃が由希の喉元へ突き立てられる。しかしマ・グーの槍は由希の体の寸前で止まる。槍の先には、エメアントマンが突き刺さっていた。

 

「ブロックしていたわけか」

「そう。そしてエメアントマンの効果。破壊された時、リザーブにコアを1つ増やす!」

「チッ。ターン終りょ…」

「っと!!まだ終わってはいない。《相手による自分のスピリット破壊後》。これが…このバーストの発動条件!!発動せよ『双光気弾』」

 

バーストは発動条件が満ちた時、バースト効果をコストを払わずに発動できる。双光気弾の効果で、由希は2枚のカードをドローする。由希は可愛らしく、得意気な表情を浮かべる。

 

「今度こそターン終了!来い!」

「私のターン。エメアントマン、転召の贄となれ!」

 

エメアントマンが緑の風にのまれ、蟻の女王が地獄の炎を掻き分けて現れる。転召とは、条件を満たしているスピリット上のコアを指定の場所(例:ボイド、トラッシュ)に送ることで、より強力なスピリットを召喚する、というものである。

 

「出でよ『女王アントレーヌ』!そして効果により、コアを4つ増やす!!」

「一気に4つも!?おっ得ぅぅぅ!!」

「でしょ?そして、増えたコアでこれを使う。結界(ネクサス)『獣の氷窟』をLV2で配置ッ!!」

 

氷の棘が螺旋のように巡らされ、窟の奥の神秘を守護するに獣になる。

ネクサスもスピリットと同じようにLVがあり、LVが上がっていれば、新しい能力を発揮する。

 

「さ、て、バーストセット。うん、ターンエンド」

 

由希は少し悩んでターンを終える。今斬の場にブロックできるスピリットはいない。攻撃すれば斬のライフを減らせるが、攻撃して疲労すると、次の斬のターンでブロックに使えない。攻撃するべきか否か。思案の果てに由希はブロッカーを残した。

 

「慎重だな。だが、俺は攻めるぞ。ネクサス『英雄皇の神剣』を配置するッ!!」

 

斬の背後に神の剣が突き立てられる。

英雄皇の神剣があれば、斬はバーストをセットした時にドローができる。

 

「そして当然バーストセットォッ!!神剣の効果でドロォォウッ!!ーさらに『ライト・ブレイドラ』を召喚し、マジック『三札之術』を使用ぉぉっう!!」

 

三札之術の効果。斬はデッキから2枚ドローし、その後デッキの一番上のカードをめくる。それが赤のスピリットだった場合、斬はそれを手札に加えることができる。斬は願いをこめてデッキの上のカードを見る。出たカードはカグツチドラグーン。

 

「あれは赤のスピリット。ってことは……」

「In my hand、センキュウ!!」

「かかった!!」

「え?」

 

由希のデッキの上から3枚弾け飛び、そのまま由希の手札に加えられる。

 

「獣の氷窟LV2の効果。相手の手札が相手のスピリット、マジックの効果で増えた時、その枚数分、私はドローできる!」

「ぬぬ。負けるかよ、アタックステップだ!!マ・グーにコア追加ぁ!!そしてマ・グーのアタァァック!!」

「防げアントレーヌ。ブロックだ。」

 

マ・グーの前に蟻の女王が立ち塞がり、攻撃を阻む。怒り狂った獄龍は女王の首を掴み、頭から地面に叩きつける。緑の光が儚く輝き、女王は戦場から去る。

 

「ライト・ブレイドラはブロックに残す。ターン終了だ。」

「私の番ね。『機人フィアラル』と『水晶竜シリマナイト』をLV2で召喚。そして…」

 

黒い炎を消し去り、雪が華麗に舞う。

白く染まる大地の彼方、金色の装甲まといし勇者が降臨する。

 

「そびえよ、美しき鋼の城。『鉄騎皇イグドラシル』召喚」

 

ライト・ブレイドラを吹き飛ばし、マ・グーとイグドラシルが対峙する。強者と強者。緊迫感あふれる戦いの幕が開く。

 

「会いたかったぜイグドラシル!!」

「そんなに喜んでくれるとは嬉しいな~。でも容赦はしない。召喚時効果でライト・ブレイドラは手札に。フィアラルのコアを獣の氷窟に移し、再び氷窟はLV2へ。そして、イグドラシルのアタック!!」

 

マントをなびかせ、鉄騎皇が雪と共に嵐を起こす。沈黙の果て、雪の壁から数発の弾丸が放たれた。

斬はブロックを試みる。しかしマ・グーは疲労状態。ライト・ブレイドラは、イグドラシルの効果で手札に戻されている。防御不可能。斬に弾丸が直撃する。

 

「つっ!!ぐぅぅぅあぁぁ──ッ!!」

 

弾丸は立体映像。しかしその臨場感は痛みを感じさせる。こらえきれず、足が地面から離れる。

 

「ぐっはぁぁぁぁ!!な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!?」

「ダメージもリアルになるんだけど、ちょっと調整が必要かもな」

 

恨めしそうにバシンを睨みながら、斬はゆっくり立ち上がる。

スピリットの攻撃をライフで受けると、そのスピリットのシンボルの数だけライフを減らすことができる。今の攻撃で斬のライフは残り4。そしてバトルスピリッツは、先にライフが0になった者が敗北する。

 

「はぁ、はぁ……!!だが、破壊されたライフはリザーブに送られる。次の召喚の力になる……!!」

「いい気迫だね。楽しくなってきたっ!!私はこれでターンエンド」

「俺のターン!カグツチドラグーンをLV2で召喚。そしてアタックステップ。マ・グーにコアを追加。カグツチドラグーン、アタックを頼む」

 

カグツチドラグーンは系統゛古竜゛を持つ。よってマ・グーの効果を受け、BPは9000になる。そしてカグツチドラグーンが攻撃する時、自分は1枚ドローできる。

 

「獣の氷窟の効果。私もドローさせてもらうよ」

「だが、マ・グーの更なる効果が発揮される。LV2、3の時、系統゛古竜゛を持つ自分のスピリット全てに、赤のシンボルを1つ追加する。そしてカグツチドラグーンの能力[激突]!!」

 

激突。それは赤特有の能力であり、相手はそのアタックを可能ならばブロックしなければならない。

 

「いっけー!!」

「ふっ。シリマナイト、[装甲]シールド展開!!」

「なにッ!?」

 

イグドラシル、フィアラル、シリマナイトがバリアに包まれ、カグツチドラグーンの突進を弾き飛ばす。そして攻撃の軌道がずれ、由希へと向かう。

 

「これが白の能力、[装甲]。指定された色のあらゆる能力を受けない。シリマナイトによって、私のスピリット全てに赤の装甲が与えられていた、ってわけ。ま、シリマナイトのは[重装甲]だけどね。」

「だが、カグツチの攻撃はまだ残っている!!」

 

シンボルが2つになったことで、ブロックされなかった場合、カグツチドラグーンは一撃で由希のライフを2つ奪う。しかし由希は余裕の笑みを崩さない。

 

「フラッシュタイミング……」

「はい?」

「マジック、『デストラクションバリア』を使用する。アタックは、ライフで受けるよ」

 

由希のライフが砕け散る。しかし斬の表情はうかない。そして彼の胸の中の悪い予想は的中することになる。由希の砕けたライフの破片が、鋭利な刃のように空を裂く。そして、その攻撃はカグツチドラグーンを貫いた。

 

「か、カグツチィィッ!?」

「これがデストラクションバリアの効果。発動ターン、アタックで自分のライフを減らしたスピリットを破壊する」

「うぅ、カグツチィィ……。だが、お前のライフは2つ……あれ?」

「シリマナイトの効果。互いのライフは、シンボルを複数持つスピリット1体からの攻撃では、1つまでしか減らされない。さらにバースト発動!!妖怪吸血爪。デッキから2枚ドローする」

 

由希の胸に輝くライフは4つ。カグツチドラグーンの決死の攻撃も効き目が弱まってしまった。斬は意気消沈し、ターンを終えた。

鴉とバシンはうなり声をあげる。斬の勢いは、今のデストラクションバリアで弱まった。そしてこれこそが白の常套手段。圧倒的な防御で相手の攻撃をいなし、大型スピリットやマジックで相手を一気に倒す。長引けば長引くほど、白が有利になっていく。斬は由希の必勝パターンにはまったのだ。

 

「このまま、お姉ちゃんの勝ちになっちゃうのかなぁ」

「なんだ?残念そうだな」

「あの人は、なんか上手く言えないんだけど、頑張ってほしいんだ」

「まだ負けやしねぇよ。ほら……」

 

斬の眼。黒い炎が燃えている。その闘志は、揺らぐことなく燃え続けている。由希は少し驚く。

 

「すごいね……!!諦めてなんか全然ないみたい」

「諦める?なぜだ?俺のライフは、まだ生きている」

「……そうだね、その通り。私はミストウィゼルを召喚。アタックするよ」

「防げマグー!!」

 

紫の猫の攻撃は、マ・グーに阻まれる。しかしミストウィゼルの破壊時効果で、由希の手札は3枚増える。そしてイグドラシルが駆ける。

 

「これが白の力。さぁ、受けてもらおうかな。イグドラシルのアタック!!」

 

鉄騎皇が地中に手を突っ込む。地が一瞬揺れ、次の瞬間、その手に白銀の剣が握られる。そしてイグドラシルの剣戟が斬を斬り裂く。

 

「がっ──ッ!?」

 

斬に攻撃は直撃する。しかし、斬は笑った。

 

「俺を、なめるなぁぁぁ!!バースト発動!!絶甲氷盾!!」

「なに!?」

 

斬の失われたライフが回復し、由希の攻撃が白の壁に阻まれる。絶甲氷盾は《自分のライフ減少時》に発動でき、コアをライフに1つ置くことができる。そしてバーストは、コストを払えば追加の効果を発動できる。斬はコストを払い、絶甲氷盾の、アタックステップを終了させる効果を使った。

 

「まさか私に白のカードで対抗してくるとは……!!」

「俺に色はない。ありとあらゆる手段を使い勝つ。それが、俺の戦魂だ!!来い『蜂王フォン・ニード』!!」

 

緑の甲冑まとう蜂の王、フォン・ニードが白の勇者の背後に迫る。伸びる、イグドラシルの抹消の腕。しかし風の如き速度でフォン・ニードは攻撃から免れる。そしてフォン・ニードに、3つのコアの輝きが灯る。

 

「フォン・ニードは召喚時にコアを3つ増やせるんだよね」

「そうそう。セイリュービと一緒に無双してたのも、今やいい思い出に……」

「ならない」

「そっか……」

 

鴉とバシンのほのぼの会話をよそに、由希と斬の壮絶な戦魂は続く。

 

「相手の《召喚時効果発揮》により、バースト発動!!双翼乱舞。デッキから2枚ドロー」

 

バーストの効果で、由希は手札をさらに2枚増やす。斬はカグツチドラグーンを召喚し、バーストをセット。神剣の効果でドローし、由希もドローした。

 

「アタックステップ。マ・グーにコアをのせ、カグツチドラグーンのアタック」

 

カグツチの効果で斬はドロー。由希もドローする。そしてカグツチの前にシリマナイトが立ちはだかる。

 

「シリマナイトでブロック」

 

赤き竜の攻撃がシリマナイトにダメージを与える。カグツチの口が開かれ、トドメの一撃が放たれようとしていた時、シリマナイトの周りに緑の光が現れる。

 

「フラッシュタイミング、マジック『ライフチャージ』を使用。コスト3以上のスピリットを破壊することで、ボイドからコア3つを増やす。シリマナイトを破壊」

 

緑の爆発と共にシリマナイトは消滅。続けてフォン・ニードが攻撃する。

 

「ライフで受ける」

 

由希のライフが残り3となる。斬はターンを終了する。

 

「シリマナイトはダブルシンボルの攻撃を弱体化させる。このタイミングで、あえてそれを破壊したってことは……」

「来るね。お姉ちゃんの、あのカードが!!」

 

由希は冥機グングニルを2体と、ソードールを召喚する。風が吹き、グングニルが天の城へ昇っていく。

 

「グングニルを転召。天空をゆく、誇り高き純白の翼!!『翼神機グラン・ウォーデン』LV3で召喚!!」

 

白の騎士たちの頭上、これまでのスピリットを越える威光を放つ、純白の翼が降臨する。BPは10000。マ・グーと互角。しかし由希の顔に躊躇はない。

 

「フィアラルをLV3へ。そして、羽ばたけ、グラン・ウォーデンの攻撃!!」

「なに!?相打ちねらいか!?」

「違うよ。フィアラルの効果。フィアラルを疲労させ、そのBPを゛武装゛に与える。」

 

フィアラルのBPは5000。それがグラン・ウォーデンに加えられ、グラン・ウォーデンのBPは15000となる。そしてグラン・ウォーデンはダブルシンボル。この攻撃は、一撃で斬のライフを2つ奪う。そしてグラン・ウォーデンは羽を再び広げる。

 

「回復した!?」

「グラン・ウォーデンの効果。゛武装゛が疲労した時、回復する。」

 

つまり、この後グラン・ウォーデンはもう一度攻撃してくる。しかし斬は楽しそうに笑う。そして、その手から雷が放たれる。

 

「面白れぇ、俺の答えは……これだぁぁッ!!」

 

マ・グーの体を雷が包み、グラン・ウォーデンに突っ込んでいく。

 

「これが、俺たちの力だ」

 

グラン・ウォーデンとマ・グーが硬直する。そして、2体は大爆発と共に消え去る。

 

「な、これは!?」

「マジック、『ライトニングバリスタ』を使用した。シンボル2つ以上を持つスピリットのBPを5000上げる」

 

マ・グーのBPは上がり、グラン・ウォーデンと互角になっていたのだ。由希の表情が始めて歪む。

 

「くっ!!だが、まだ私の攻撃は……」

「残っている?とんだロマンチストだなぁぁっ!!バースト発動!!『風の覇王ドルクス・ウシワカ』をバースト召喚!!」

 

緑の風が起こる。イグドラシルとグングニルが膝をつき、風の覇王が雪を裂き駆ける。

バースト召喚。それはバーストによる、コストを払わない召喚。ドルクス・ウシワカは相手のスピリット2体を疲労させてバースト召喚されるのだ。

 

「ターンエンド……」

「お姉ちゃんのブロッカーはヴァルハランスだけ……!!」

「チャンスだぜ斬ッ!!正面突破だー!!」

「おう!!俺はライト・ブレイドラを再び召喚。そして、ウシワカ、フォン・ニード、カグツチをLV2へ。そしてバーストセット」

 

フォン・ニードが駆ける。

 

「っ、『ムシャツバメ』来い!!」

 

カグツチの前に、突然緑の鳥が現れる。カグツチの爪がムシャツバメへ伸びる。しかし、その一撃は空を裂く。

 

「その速さ…まさか!?ターンを無力化する[神速]かぁ!?」

「そう。[神速]はフラッシュタイミングで召喚することが可能。」

 

由希はムシャツバメでブロックしていた。そしてムシャツバメが消える寸前、斬の前に白いカーテンが出現する。

 

「フラッシュタイミング、マジック『サイレントウォール』を使用。このバトルの終わりが、このアタックステップの終わりとなる」

「やるな。ターン終了」

 

鴉とバシンがため息をつく。

 

「せっかくのチャンスだったんだけどなぁ……」

「うん。そして、そろそろお姉ちゃんの切り札が来る。もう終わりかな」

「……そうかな?」

 

バシンと鴉の眼は斬へ向けられる。斬はまだ、諦めてなどいない様子だった。バシンと鴉は笑う。

 

「私のターン、ネクサス『隠されたる賢者の木』をLV2で配置。獣の氷窟はLV1へ」

 

少女の微笑みが雪に映える。美しく、艶やかな輝き。雪の中、強く太い大樹が、空をめがけて生える。

 

「降り積もる雪の中に根を張る木か。趣があるな」

「ずいぶん余裕なんだね」

「俺はただ楽しんでいるだけだ。お前の切り札、そろそろ見せてもらおうか」

 

由希は苦笑いする。自分が今握っているカード。由希のデッキ最強のスピリット、いわゆる切り札というやつだ。どうやら力んでしまっていたらしい。保っていた余裕も、いつの間にかどこかに消えてしまっていた。実際、この状況は由希にとって有利ではない。由希は眼を見開く。

 

「私も、楽しむとしようかな」

「来い……!!」

 

大樹と白の城が交わっていく。大地が震え、新たな勇者の誕生が告げられる。

 

「イグドラシルよ、転召の糧となれ。緑の力!白の力!溶け合い雄々しく奮い立て!!『終焉の騎神ラグナ・ロック』召喚!!」

 

緑のコアと白のコアがひとつになり、蝶の羽が開く。イグドラシルの装甲が弾け飛び、蝶の羽と交わっていく。それらは完全な融合を果たし、金色の、最強の勇者となる。

 

「すげぇ……!!」

「これが私の切り札。その能力、見るがいい!!ボイドからコアを6つラグナ・ロックにのせ、相手スピリット全てを疲労させる!!」

 

斬の仲間たちが静寂に沈む。そしてラグナ・ロックが羽を広げ、その姿が露になる。イグドラシルの肉体を受け継いだ、騎士の姿。BPは15000。より強化された金色の装甲が輝き、誇りの眼光が斬を見据える。

 

「カッコいいじゃねぇか」

「ありがと。でも、まだ終わらない。グングニルよ、その身を捧げよ。転召の渦より来たれ、白銀の翼!その牙をむき、力を奮え!!『翼神機グラン・ウォーデン』LV2で召喚!!」

 

再び白銀の翼が降臨する。そして白の騎士たちの、最後の突撃が始まる。

 

「さぁ、決めさせてもらうよ」

「やってみるがいい」

 

斬の眼光は死なない。由希は嬉しそうに笑い、雪の上を駆け出した。息をきらして走る姿は必死そのもの。今にも殴りかかってきそうな勢いで由希が走る。

 

「はあぁぁぁぁ!!グラン・ウォーデン、ファイアァァァッ!!」

「熱くなってきたな……受けてたつぜェッ!!バースト発動。『刀の覇王ムサシード・アシュライガー』をバースト召喚!!」

「!?」

 

巻物が宙を舞い、日本刀が斬の腰から抜かれる。無数の刃がぶつかり合い、4足の獣が時空の狭間から召喚される。LV3BPは11000。

 

「BP5000以上のスピリットの攻撃がバーストのトリガーか……!!味な真似を──ッ!!」

「アシュライガーはバースト召喚された場合、BP3000アップ!グラン・ウォーデンをブロックするッ!!」

 

グラン・ウォーデンの剣とアシュライガーの刃がぶつかり合い、火花を放つ。アシュライガーの刃が白の剣を弾き、前足が騎士の腹部を蹴る。ひるんだ騎士にアシュライガーの刃が伸びる。最後の抵抗とばかりにグラン・ウォーデンの剣がアシュライガーへ伸びる。剣は交差し、2体は動きを止める。

 

「……」

 

倒れたのはグラン・ウォーデン。フィールドから消滅する。由希は歯ぎしりする。

 

「だが、まだ私の攻撃は終わらない!!ソードールの攻撃」

「フラッシュタイミング、マジック『スタークレイドル』を使用。ラグナ・ロックを疲労させ、ウシワカを手札に戻す。これでお前の切り札は……」

「フラッシュタイミング、マジック『ホワイトポーション』を使用!ラグナ・ロックは回復する」

「ガクッ」

 

ラグナ・ロックを封じようと試みたものの、由希のカウンターが見事に決まる。そしてソードールの攻撃が斬のライフを砕く。

 

「続けフィアラル!」

「ライフで受ける」

 

斬のライフは残り2つとなる。そして、騎士のダブルシンボルの攻撃が斬を襲う。

 

「フラッシュタイミング!アシュライガーのコアを使い、マジック『ライフチャージ』を使用。フォン・ニードを破壊し、コアを増やす。そしてウシワカを[神速]召喚。」

 

緑の風と共にウシワカが現れ、騎士の剣を受け止める。しかしBPはラグナ・ロックが遥かに上。ウシワカは破壊されてしまう。

 

「だが、攻撃はしのいだ」

「いや、終わらないよ」

「なに!?」

 

斬は眼を見張る。視線の先には、回復したフィアラルとソードールの姿があった。

 

「ラグナ・ロックの効果。バトル後、コスト8以下のスピリットを3体まで回復させる」

「なん……だとぉ……!!」

「フィアラルの攻撃!」

 

白の戦士の剣が斬を切り、斬のライフは残り1となる。あと一撃で斬の敗北が決まる。そして回復状態のソードールが駆ける。

 

「よく頑張ったね。でもこれで終わる、ソードールの攻撃!」

 

ソードールが斬の前に立ち、トドメの攻撃を放つ。勝利を確信した由希。しかしその眼に映ったのは、笑みを浮かべた斬の姿だった。

緑の風が吹き、ソードールの攻撃が止められる。

 

「まさか、神速のスピリット!?」

「そう。『クイック・モスキー』を神速召喚していた。」

「……賢者の木の効果で、私のスピリットたちは回復。ターンエンドだよ」

 

由希の残念そうな声が響く。そして斬のターン。

 

「そういや、さっきから召喚の時に言ってるやつ。なんなんだあれ?」

「召喚セリフのことかな?戦魂を盛り上げるための演出だよ」

「そうか。なら……」

 

斬は1枚のカードをかざす。

 

「……俺も言ってみるとしよう」

 

斬の手が燃え、光を放つ。光を越えた龍が、今現れる。

 

「神の頂きを越え、光と闇を束ねし龍よ!!その剣を以て、混沌を御する覇者となれ!!『龍輝神シャイニング・ドラゴン・オーバーレイ』、天駆ける聖天よりLV3で降臨!!」

 

赤い、熱い炎が渦を巻く。大地は新しい色を染め、舞い散る雪は全て消し飛ぶ。光を越えし神の龍、龍輝神が終焉の運命と対峙する。

「それ、自分で考えたの?」

「おう」

「……フフ、アハハハハ!!ダッサ~イ!!」

「なぁっ!?」

 

斬は大声を出して驚く。鴉とバシンの方を見ると、二人も由希と同じように笑っている。

 

「や、やめろぉぉ!!一生懸命考えたんだぞー!!」

「アハハ。あ、ごめん続けて」

「行くぞおらぁぁ!!『告死蛇ブームスネーク』をLV2、さらに『イグアバギー』を召喚」

 

ブームスネークは紫のスピリット。意外なスピリットの登場に、由希は目を疑う。

 

「な、それは……!!」

「ブームスネークの召喚時効果。フィアラルのコアをリザーブへ」

 

スピリットはLVを維持するために、コアが必要である。基本的にLV1を保つためには、コアは1つ必要。そしてスピリット上のコアが、LV1を保つのに必要な数より少なくなった時、そのスピリットは『消滅』してしまう。フィアラルはコアが無くなり消滅する。

 

「アタックステップ!!ブームスネークの能力。自身を疲労させ、オーバーレイをこのターン、無色のスピリットとする!!」

 

龍輝神を紫の霧が包み、その姿を覆い隠す。そしてオーバーレイの赤の波動が、斬のスピリットたちに浴びせられる。

 

「オーバーレイLV3の能力。自分の赤のスピリット全てに[強化]を与える」

 

強化は、カードの効果を強化する能力。赤の強化は、発動したスピリット破壊能力の、破壊できるBPの上限を1000上げる。

 

「お前の[装甲]は、特定の色の効果を受け付けない、というもの。だが、今のオーバーレイに色はない。防ぐことはできない!!」

「…くっ!!」

 

ライト・ブレイドラ、イグアバギー、カグツチ、アシュライガーの力がオーバーレイへ集う。ライト・ブレイドラは元々強化を持っているので、二重に強化ができる。

 

「オーバーレイの効果。シンボル1つにつき、BP5000以下のスピリットを破壊。さらに、BP10000以下のスピリットを破壊する。5チャージ完了!!BP10000以下のスピリット1体と、15000以下のスピリット1体を破壊するっ!!」

 

天から炎の輪が舞い降り、終焉の騎神と鎧神機に注ぐ。

──行けッ!!

張り巡らされる白の結界。破壊の炎とぶつかり合う。炎の勢いが弱まっていく。

──まだだ……!!

斬の赤の仲間たちの想いが、一筋の火になって、炎と混ざり合う。炎の力は蘇り、結界はひび割れていく。

──届け……。

結界が砕け散り、白の騎士の姿が露になる。そして騎士たちの頭上へ、剣を掲げた龍輝神が飛ぶ。

 

「届けぇぇぇッ!!」

 

剣がヴァルハランスを切る。そして龍輝神と終焉の騎神が対峙する。交わされる剣と剣。そして…龍輝神の剣が届いた。爆発をあげ、終焉の力は終わりを告げる。

 

「私の……ラグナ・ロックが……!!」

 

ラグナ・ロックは破壊された。そして、龍輝神の剣が由希のライフを砕く。

 

「くっ!!」

 

由希のライフは残り2。由希は、自分の敗北を悟った。

そして、斬が口を開く。

 

「お前に言いたいことがある」

「……なにかな?」

 

斬は歯をむき出しにし、満面の笑みを浮かべる。そして、その笑みを由希へ向ける。

 

「ありがとうございました。いいバトルでした」

 

由希は一瞬、ポカンとする。そして、フィールドは優しい笑い声に包まれた。

 

「うん。またやろうね」

「あぁ。……さぁ、終わらせるとするぜ!!イグアバギー、ライト・ブレイドラ、アタックだ!!」

 

イグアバギーとライト・ブレイドラが地を駆ける。由希は微笑み、手を広げる。

 

「ライフで……受ける」

 

由希のライフは全て砕け、斬の勝利が決まる。斬が龍輝神を背に、拳を握りガッツポーズをとる。

 

「いい夢を……Good-Bye!!」

 

 




初バトル、なんとか書ききりました。正直疲れました。作者は遅筆ですので、1週間に1回更新できればいい方だと思ってください。
間違いがあったので修正しました。


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第3話 紫の闇

「えぇー!?あの大会って、優勝したの由希じゃねぇの!?」

「うん。私は3位だったんだよ~」

 

由希はにっこりと笑い、斬にスリーピースして見せる。

 

「古ぃ……。いや、そんなことはどうでもいい。じゃああの戦魂は?」

「3位決定戦だったんだよ~」

「じゃあ、お前に匹敵するのが2人もいたのか!?」

 

愕然とした様子で、斬は叫ぶ。

しかし由希には、この斬の反応の意味が分からなかった。

 

「……どうしたの?」

「だって、だってよぉ……」

 

斬は体を反らせ、マトリックス体勢で天井を仰ぐ。

 

「それって、とっても素敵やぁぁん!!バトスピって……奥が深いのね!!」

「そう!!強いやつが沢山いる。そんなやつらと戦うのが、最高にファンタスティックなんだよなぁ!!」

「ノリノリだね、バシン店長」

 

鴉と由希は柔らかい笑みで、盛り上がるバシンと斬を見守る。そんな和やかな雰囲気の中、店の外から凄まじいスピードで、その人物はやって来た。

 

「うぅぅぅうるぅっ、だぁぁぁぁ!!」

 

絶叫と共に、ひとりの少女が飛び蹴りのポーズで店に入ってきた。騒然とする店内の様子をよそに、ボーイッシュなレザージャケットをはためかせ、少女は優雅に髪を掻き分ける。

 

「……ふん。相変わらずボロい店だな」

「はは……。言わないでくれよ紫牙。今日も元気だなァ……」

「フッフーン!!私様はいつでも元気!!さぁ白咲由希、今日こそ私様の生け贄になるがいい~!!」

 

腰を落とし、どすこい、と紫色の髪の少女は、その可憐さに似合わぬ体勢をとる。口紅を薄く塗った唇から、由希への叫びが放たれる。

 

「私様が……そのすかした面を食べてやる!!さぁ、この店のNo3の座をかけて戦魂……」

「あ、ごめん紫牙ちゃん。私、No3じゃなくなったんだ~」

「……ほぇ?」

 

すっとんきょうな声。呆気にとられている紫牙に、由希はこれまでの経緯を話す。突然現れた初心者に自分が負けてしまったことを。

 

「……」

 

話が終わるまで、紫牙は一言も言葉を発しなかった。その胸中にどんな感情が渦巻いているのか、それは誰にも分からない。

話が終わり、紫牙は無表情のまま口を開く。

 

「……戦魂だ」

「うん?」

「私様と戦魂しろ……聖天斬ぁぁぁっん!!私が勝ったら、由希にNo3の座を返してもらうっ!!」

 

ビシッと音が聞こえてきそうな程の鋭さで、紫牙は斬を指差す。そして腰に巻き付けたホルダーから、骸骨のマークがついた紫のデッキケースを取り出す。

 

「さぁ、受けるか!?」

「受けるのはいいけど、なんでだ?」

「え?なんでって、なんだ!?」

「俺に勝ったら、お前がNo3になる。これが自然な流れじゃないの?」

「え、あ、いやそれは……」

 

紫牙はあわてふためき、手で顔を覆う。しかし隠せていない部分から、顔が赤くなっていることは簡単に分かる。彼女は指の隙間から由希をチラチラ見る。

 

「……どうしたの紫牙ちゃん?」

「あ、あぅ……。そ、そんな可愛い顔で私を見るなぁ!!」

 

紫牙は由希から顔をそむけ、斬へ顔を向ける。

 

「わ、私は由希を倒したいんだ!!お前なんかを倒しても意味は無い!!お前は、由希を食べちゃう前の前菜だ!!」

「……前菜ねぇ。言うじゃねぇか」

 

斬はデッキを取り出す。二人は同時に叫び、戦魂の世界へと羽ばたく。あの呼び声と共に。

 

「「ゲートオープン、界放!!!!」」

 

紫牙と斬は消える。残されたバシンたちは、店のモニターの前に集まる。

 

「いっけー二人ともォォォッ!!正面突破だぜ!!」

「ふふっ、面白くなってきちゃった~」

「楽しそうだねお姉ちゃん……」

 

 

 

 

紫牙と斬は戦魂フィールドに立っていた。辺り一帯に立ち込める紫色の霧。二人の足元には骸骨のマークを付けたキャンドルがあり、その真紅の炎で二人の視界を照らしている。

落ち着きを取り戻した様子の紫牙は、楽しげに笑う。

 

「ふっ、私様好みの場所だ」

「だろうな。てか前回といい、俺の好みは全く反映されないのね」

「神も私様の勝利を願ってるってことだな!!

私様の先攻、『ボーン・トプス』を召喚。召喚時効果により1枚ドロー。お前の番だぞ」

 

「俺のターン。俺はネクサス、『英雄皇の神剣』を配置。さらにバーストセットォォッ!!ターン終了だ」

 

紫牙の場には、大きな牙を持った牛のような生物が現れる。紫の特徴のひとつである、手札補充を増強するカードだ。対して斬の場には、緑のオーラを放つ神の剣が突き刺さる。このネクサスがある限り、1ターンに1度だけ、斬はバーストをセットした時に1枚ドローできる。斬はカードを引き、ターンを終える。

 

「……ふっ。私様のターン!!『ボーン・トプス』おかわり!!さらにネクサス、『旅団の摩天楼』を配置ッ!!」

 

2体目のボーン・トプスと、紫のネクサスが出現する。ボーン・トプスの召喚時により紫牙は1枚ドローし、旅団の摩天楼の配置時効果でも1枚ドローする。手札を整え、彼女は愉快げに笑う。

 

「クックック~。さぁ、どうしてくれようか~」

「……来るか……!!」

「よしっ。私様はターンエンド!!」

「なんだと!?」

 

紫牙 状況

 

[手札]6

[リザーブ]0

[場]ボーン・トプスLV1×2(コア1)旅団の摩天楼LV1(0)

 

「紫牙さんは、いつも通りの戦術みたいだね」

「そうだなッ!ただ手札を増やして攻めるだけじゃない。相手を翻弄しながら、決定的な攻撃を叩き込むッ!!

紫牙はツエーからな~。こいつは面白くなってきた……ッ!!」

「斬さんが私の時みたいに対応しきれるか……。お手並み拝見、だね」

 

斬は戸惑いながらもカードを引く。斬が伏せていたバーストは、彼のライフが減少した時に発動するもの。しかし紫牙が攻撃しなかったことにより、今は沈黙している。

 

「……ま、いつかは発動できんだろ。俺は『カグツチドラグーン』を召喚。あと、『ゴラドン』召喚。そしてカグツチでアタックだ!!」

「……うん?」

 

BP3000の赤の竜が現れ、うすい紫の霧の中、渇いた大地を疾走する。

 

「カグツチドラグーンのアタック時により、1枚ドローするぜ」

「ライフで受けるっ!!」

 

紫牙のライフが砕ける。ライフは残り4。紫牙は無表情のまま胸をさする。

 

「……斬さんミスったね」

 

鴉は呟き、バシンは渋い顔でうなずく。

 

「あぁ。ゴラドンはコスト0。あいつを先に出してれば、カグツチの召喚コストは軽くなってた」

「……響くかなぁ」

「さぁ、どうかな」

 

紫牙は目を上げ、斬を見る。

 

「全然こたえないなぁ。こんな攻撃ばっかで、ホントに由希に勝ったの?」

「……ぬぬ。お、俺はターンエンドだ!!」

 

斬 状況

 

[手札]5

[リザーブ]2

[場]カグツチドラグーンLV1(1)

ゴラドンLV1(1)

英雄皇の神剣LV1(0)

 

「私様のターン。黒き残光、天空に浮かびし亡者の魂に届き、禍々しき裁きの死神となる!!『死神剣聖ダークネス・メア』、LV2で今、地獄に絶望の刃を下せ!!」

「イタタタタ!!」

「正面突破してやがるなぁ……」

「いつ考えてるんだろう……」

「さすが紫牙ちゃん。……可愛い」

 

斬、バシン、鴉、由希の様々な反応を無視し、紫牙はボーン・トプスをトラッシュ(捨て札)に置く。ダークネス・メアの召喚の不足コスト確保のため、消滅したのだ。

 

「私様は、ダークネス・メアの効果、[抜刀]発動!!」

「[抜刀]?」

「手札から、系統[剣刃]を持つブレイヴを1体、コストを払わずに出せる効果。これにより、紺碧の大地より浮上する!!その忠義の魂、地上に導き、その誇りを私様の眼前にて示せ!!『深淵の巨剣アビス・アポカリプス』よ、青き怒濤の彼方より出でよ!!」

 

海が割れ、紫の霧を突き破り、青い大剣がこの大地に浮上する。死神はその柄を掴み、自らの身に青の光を宿す。

 

「……イテぇ……!!」

「バーストをセットし、ダークネス・メアとアビスを合体(ブレイヴ)!!アタックステップ!!行け、ダークネス・メア!!輪廻閃闢……」

「ちょっ、タンマタンマ!!ブレイヴってなんやねん!?」

「はぁ!?」

 

紫牙は目を丸くし、直球で驚きを表現する。バシンの弱った笑い声が響き、斬はバシンの声の方を向く。

 

「悪りぃ悪りぃ、そういや教えてなかったな。っとブレイヴはあれだ、スピリットと合体して、そのスピリットを強化するカードだ」

「……強化?」

「そうッ!!合体すると2枚のカードは1体のスピリットとして扱われ、シンボルが増えたりBPが上がったり効果が発動したり、とにかくスゴいんだぜェェ!!何が起こるかはブレイヴによるけどなッ!!」

「それって……俺がスゲェヤバイってことじゃ……」

「アビスの効果。これがスピリットと合体している限り、相手は自らの場に存在する色のシンボル以外の色の、マジック及びバーストを発動できないっ!!」

「……ちょっと待ってね」

 

斬は紫牙に見えないように、自分が伏せていたバーストを見る。それは白のマジック、絶甲氷盾。強力だが、斬の場には赤のシンボルしか無い。したがってこのバーストは発動できない。

 

「……ガッデム」

「じゃあ気を取り直し、アタックステップ!!ダークネス・メアの攻撃、輪廻閃闢桜無嘔の舞!!アタック時効果により、トラッシュよりボーン・トプス復活!!」

 

紫牙はボーン・トプスの効果でドローする。ボーン・トプスに乗せるコアは、ダークネス・メアから1つ確保した。死神が霧を切り裂き駆ける。

 

「アビスと合体したことで、ダークネス・メアはダブルシンボルになっている。よってこれは2ダメージだっ!!」

「ぐぅっ……がっはァァッッ!?痛てええええ!!」

 

斬がブッ飛び、転がり回る。しかし紫牙の攻撃は終わらない。

 

「ボーン・トプスでアタック!!」

「がッ!?ちぃぃぃッ!!」

 

斬は再び吹っ飛び、地べたから起き上がりながら空を睨む。

 

「はァ……はァ……ッ!!」

「まだまだぁ!!ボーン・トプス、アタック!!」

「ガァァァッ!!っらくせェェェッ!!」

 

斬は顔面をぶん殴られ、再び地に這う。しかし瞳の光は消えない。光輝く。

 

「……ターンエンド」

 

紫牙 状況

 

[手札]6

[リザーブ]0

[場]ダークネス・メアLV2(2)

ボーン・トプスLV1×2(1)

旅団の摩天楼LV1(0)

「なら、今度は俺の番だ!!俺は、バーストをセット!」

「なに!?」

 

紫牙は驚いた。バーストは同時に複数枚セットすることはできず、すでに自分のバーストが存在している時に新しいバーストをセットすれば、元からあった方のバーストは破棄される。要するに損するのだ。

 

「ま、神剣の効果で斬さんはドローできるけどね~」

「……リスク覚悟で新しいバーストにかけるってことか!?でも私がバーストのトリガーを踏まなければ、そのバーストは機能しない!!」

「それはどうかな?行くぜ、俺は『爆炎の覇王ロード・ドラゴン・バゼル』を」

 

その瞬間、斬は感じた。紫牙と由希からの期待の眼差し。抗いの意思を形成する猶予も与えず、少女たちの眼は彼を圧迫する。そして彼は、恥ずかしさに顔を赤くしながら叫ぶ。

 

「……轟け、真紅の爆風!!弱きを拒まぬ英雄の灯が、天へ続く螺旋を駆ける!!『爆炎の覇王ロード・ドラゴン・バゼル』ここに見参ッ!!」

「あいつも結構だな」

「人のこと言えないね」

「うるせぇぇぇッ!!!見てろ、いや見せてやる!俺のバゼルの力を!カグツチをLV2にし、アタックステップ!行け、ロード・ドラゴン・バゼル!!アタックだぁぁ!!」

 

炎の突進。そして斬の眼は、勝機を見た。彼の場のバーストが弾け、宙へ高く舞う。

 

「バゼルが攻撃するとき、俺は……自分の場に伏せられた、発動条件が[相手のスピリットまたはブレイヴの召喚時効果」のバーストを発動できるッ!!」

「発動条件を無視して……バーストをっ!?」

「そうだ!!全てをぶっちぎり、発動するのは、これだァァ!!『爆烈十紋刃』ッ!!」

 

バゼルの剣に灼熱が宿り、十紋の刃が紫の闇に投げ入れられる。

 

「行けぇぇッ!!」

 

ボーン・トプスが裂かれ、更なる衝撃にアビス・アポカリプスが砕かれ、深海に沈んでいく。紫牙は振り返る。その目に、崩れていく結界、旅団の摩天楼が映る。

 

「これが爆烈十紋刃の力……っ!?」

「そう。相手のBP6000以下のスピリット1体とネクサス1つと、合体スピリットのブレイヴを破壊するッ!!」

「しかもまだ効果は残っている……」

「あぁバシンさん!!バゼル上からコストを払い、フラッシュ効果を発動!!トラッシュのこいつを手札に戻すぜ」

 

斬が誇らしげに提示したカードは、さっき破棄された白のマジックカードの絶甲氷盾。相手のバトルを終わらせるという、強力な防御カード。

 

「……っ、ライフで受ける!!」

 

紫牙のライフが砕け、ライフ残り3になった。

 

「ターンエンドだ」

「あれ?もう攻撃終わり?」

「絶甲氷盾も完全防御ってわけじゃねぇからな。ライフ残り1だし、慎重にもなるだろ」

 

斬 状況

 

[手札]5

[リザーブ]0

[場]ロード・ドラゴン・バゼルLV1(1)

カグツチドラグーンLV2(3)

ゴラドンLV1(1)

 

「……紫牙ちゃんのコアシュートを警戒して、ブロッカーのカグツチのコアを多くした、か」

「少しは戦術ってもんを覚えてきたかな。だけど……」

 

バシンは言葉を切り、紫牙の顔を見る。彼女の顔は喜びに満ちていた。

 

「私様のターン!!手札の『冥猫蛇アイニ』の効果。このカードを手札から捨てることで、このドローステップでドローする枚数を1枚増やす。よって2枚ドロー」

 

ドローカードを見て、紫牙は微笑む。獲物をとらえた獣の視線が今、斬を貫く。

 

「その程度の防御……私様の前では無力だ!!紫の恐怖、私様が教えてやる!!」

「なに~!?」

「私様はソウルホースを召喚。そしてここで、新たなブレイヴ!!『騎士王蛇ペンドラゴン』を召喚っ!!召喚時効果で、相手スピリット1体のコアを2つリザーブへ送る」

 

バゼルからコアが奪われ、コアが0になったため消滅する。そして紫牙はペンドラゴンの効果でドローする。

 

「バーストが無くなった今、紫牙は警戒せずに召喚時効果を使える、ってわけだ」

「だ、だが!!俺にはまだカグツチとゴラドンがいる。こいつらのどっちかでブロックして絶甲氷盾を使えば、このターンは防げる。俺の勝機は消えてはいねぇッ!!」

「今は、な。だがそれを消すのが、私様の……切り札ぁ!!地上にはびこる愚者たちよ、見るがいい!!地獄の深淵より鳴動する戦慄の雄叫び、輪廻の理を砕き、今ここに悪魔の姿を成す!!『冥府三巨頭ザンデ・ミリオン』よ、紫の大地へ来たれ!!不足コストは、ソウルホースとボーン・トプスから確保」

 

大地が裂け、その狭間から、巨大な灰色の指が、手が、腕が這い上がる。紫の光が天から差し込み、それを仰ぎ、嬉々とした様子で、その悪魔は鳴き声のような音をたてながら現れた。耳をつんざく絶叫。悪夢が、斬にとっての悪夢が、今彼の前に誕生した。

 

 

「なんだ……この化け物は……!?」

「ペンドラゴンをザンデ・ミリオンにブレイヴ。さて、行こうか。ザンデ・ミリオンのアタック!!そしてペンドラゴンの合体アタック時効果により、ゴラドンのコアを1つ外す。よって消滅ッ!!」

 

悪魔の疾走。斬はカグツチドラグーンのカードに手をかけ、ブロックをこころみる。しかしできない。

 

「……あ!?」

「ザンデ・ミリオンの効果。相手は系統[無魔]の攻撃をブロックする時、自分のスピリットを1体破壊しなければ、ブロックできない。そしてザンデ・ミリオン自身も無魔」

「じゃあカグツチを破壊すれば……」

 

斬は、即座に気づき、結果を悟った。カグツチを破壊すれば、肝心のブロッカーが無くなる。つまりブロックできない。神速などがあれば話は違うかもしれないが、彼の手札にそんなものはできない。そして、彼が理解した結果が訪れた。

 

「……俺の負け、か」

 

最初に伏せたバーストが絶甲氷盾ではなく爆烈十紋刃だったら、バゼルかゴラドンにより多くのコアを乗せられていただろう。結果はもしかしたら変わっていたかもしれない。しかし彼の胸に後悔はなく、迫り来る攻撃の凄まじさと迫力に、これ以上ないほどの高揚感を感じていた。

 

「次は……負けねぇ」

「……次も私様が勝つ」

「ククッ……。俺は……ライフで受けるッ!!」

 

ザンデ・ミリオンの一撃が、斬の最後のライフを砕く。今、紫牙の勝利が決まった。

紫牙は拳を振り上げ、昨日徹夜で考えた決め台詞を叫ぶ。

 

「煌めけ、紫の闇!!勝利の鬨は、美しき勝利の奏で!!」

 

 

 

バトルフィールドから、紫牙と斬は店内に戻ってきた。

 

「紫っ牙ちゃーん!!」

「あっ……」

 

勝利の余韻に浸っている紫牙に、由希が勢いよく抱きつく。紫牙は頬を赤く染め、手足をバタバタさせる。

 

「ちょっ、ちょっと由希!?わ、私恥ずかしい……」

「ん~?私とくっつくの恥ずかしい?」

「え、あ、いや、そんなことは全然……。むしろ良い……かも」

「ふふっ。かっこよかったよ、紫~牙ちゃん」

 

二人の微笑ましいやり取りを一瞥し、斬は笑う。そして差し出されたバシンの手をとり、勢いよく立ち上がる。

 

「いや~惜しかったな」

「へへっ!!サンキュー、バシンさん。次はもっと頑張って、いつかあいつに勝ってやる!!」

「……おう!!」

 

バシンは笑い、拳を突き出す。斬も笑い、自分の拳をバシンのそれにぶつける。

 

「頑張れよ、少年!!」

「頑張るぜ俺ッ!!よし、鴉!!カードのこと教えてくれ!!」

「うん、もちろん!!」

 

 

 

 

楽しげにバトスピをするバシンたちを、店の外から見ている男がいた。真っ黒なスーツに身を包んだそのオトナは、自らの指にはめられた指輪を指で撫でる。指輪から放たれる光を目に映し、彼は呟く。

 

「……馬神トッパ……」

 

 




ペンドラゴンの効果でミスがあったので修正しました。(2014年3月17日)


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第4話 正面突破

少年はオトナになる。馬神トッパも、その例外ではない。彼はバトルスピリッツのチャンピオンになったことがある。高校生の頃だ。数々のライバルを倒し、勝利の栄光を手に入れた。彼は勝利に酔い、はしゃぎ回った。仲間たちからの称賛の言葉を、自らの成長の証として噛み締めていた。

 

しかし喜びは長く続かなかった。彼はいわゆる燃えつき症候群になった。バトスピをはじめてからずっと目指していた目標が、突然目の前から消えた喪失感。それは達成感と混ざりあい、今のバシンの中に虚しさとして残った。やがて大会に出なくなり、バトスピをすることも減った。

 

バシンはカードショップ『トアルカード』の店長になった。店ではバトスピをはじめとしたカードゲームを扱っており、バトスピと接することがまた増えた。それからは彼のバトスピに対する姿勢は変わった。自分が戦魂(バトル)することよりも、バトスピの楽しさを子供たちに伝えることに力を注いだ。結果としてかたちは変わったが、バトスピへの情熱は取り戻した。

 

しかし彼は分からなかった。自分は仕事の一環としてバトスピをしているのか。それとも……。

 

 

 

「よしっ、今日の仕事終わりっ!!」

 

斬は店内の掃除を終え、意気揚々とデッキを取り出す。そしてカードをテーブルに並べ、顎に手をあてる。

レジのお金の整理を終えたバシンも、テーブルの横の椅子に腰かける。

 

「なるほど、デッキ調整か」

「はいっ!!俺も強くなって、いつか大会とかで勝ちたいんですよね~。うへへへ~」

「気持ち悪ぃ笑い方すンなよ斬。でもまぁ、楽しそうでなによりだ」

「バシンさんは大会とか出ないんですか?」

「俺店員だし、お前らの戦魂を見てなきゃだからな~。ここの大会には出ねぇよ」

「じゃあ、大会に出ることになったら教えてくださいよ。俺も出ますから」

「あぁ、分かった。じゃ、そろそろ帰ろうぜ?」

 

バシンと斬は店から出て、しばらく歩いてから別れた。今は午後7時。外は真っ暗。バシンにとってのいつも風景が、彼の目の中で流れる。そして異変に気づいた。

 

「……なんで家に着かねぇンだ?」

 

足を止め、辺りを見渡す。空の色は黒。しかしよく見ると赤混じりの黒。

バシンは拳を振りかざし、走り出す。彼の視線の先には灰色のコンクリートの壁。

 

「ツウッ、ダァァァァッ!!!」

 

走った勢いそのまま、壁を全力で殴る。拳に痛みはなく、その変わりに手応えがあった。その事実がバシンに確信を与えたのだ。この空間は、今殴った()の持つなんらかの力によって作られた擬似空間であること、その()が自分に対して抱いているものが敵意であることを、バシンは即座に理解した。

 

「グワァァッ!?痛いィィッ!!酷いじゃないかァァァッ!!おじさん泣いちゃうよぉォォォッ!!?」

 

全身黒タイツの男が、叫びながらバシンの前に現れる。バシンが殴った壁の中から出てきたのだ。この登場と変態的な姿から、この男が普通でないことは明確であり、バシンは状況に相応しい警戒を持って、男をにらみつけていた。

 

「お前、なんなンだ?」

「私は終焉の王『全』の僕であり、君を抹消する者だ」

「意味分かンねぇな」

 

言葉のとおり、意味が分からなかった。しかし男から発せられている殺気が、男の言葉が真実だと告げていた。バシンは足に巻き付けているデッキケースから、自らのデッキを取り出す。

 

「ンッフッフ。ものわかりが良くて助かる。君は以前、輝石を所持していたのだろう?」

「あぁ」

 

一連の出来事に対してのバシンの理解の早さには理由があった。輝石(きせき)という、不思議な力を持つ石がある。彼は子供のとき、ひょんなことから輝石を手に入れた。それから彼は、数々の不思議な出来事に遭遇することになった。その経験が彼に素早い理解をもたらしたのだ。

 

「輝石の力が何なのかは知らないが、不確定要素は消しておかなければならない。

では、ゲートオープン界放」

 

男の手の指にはめられた指輪が、まばゆい輝きを放つ。次の瞬間、バシンと男は荒野に立っていた。空は昼のように明るく、地面は先程までのコンクリートとはうって変わり渇いた茶色い土。頬を叩く熱い風。広がる殺風景。

 

「ここは?」

「イセカイ界さ。そして君の墓場でもある。さぁ、行っくよォォッ!?」

「チィッ!!!」

 

バシンと男は同時にカードを引く。今、二人の戦魂が幕を開く。

先攻はバシン。

 

「俺のターン、『ゴラドン』と『ロクケラトプス』を召喚ッ!!!ターンエンドだ」

 

 

バシン 状況

 

[手札]3[ライフ]5[リザーブ]0

[場]《回復》

ゴラドンLV2(3)

ロクケラトプスLV1(1)

 

「私のターン。マジック、『エクストラドロー』を使用。デッキから2枚引き、デッキの一番上のカードを公開する。それが赤のスピリットなら手札に加える」

 

男はデッキの一番上のカードをバシンに見せる。それは白のマジックカード『ブリザードウォール』なので、手札に加えずデッキの一番上に置く。男はターンエンドする。

 

男 状況

 

[手札]6[ライフ]5[リザーブ]0

[場]なし

 

「俺のターン、『タウロスナイト』を召喚。そして、ゴラドンとロクケラトプスでアタックッ!!!」

 

2体の恐竜が突進し、男を大きな角で突く。男の前に現れたバリアによって攻撃は男自身には届かないが、バシンは自分の攻撃に、異様な破壊力を感じていた。

 

「……ターンエンドだ」

 

バシン 状況

 

[手札]3[ライフ]5[リザーブ]0

[場]《回復》

タウロスナイトLV1(1)

《疲労》

ゴラドンLV1(1)

ロクケラトプスLV1(1)

 

「私のターン、『イグアバギー』2体と、『翼刃竜スティラノドン』を召喚。そして、スティラノドンのアタック」

「ライフで受けるッ!!!」

 

鋭利な形の翼をはためかせ、灰色の巨大な竜が空を舞う。回転をはじめたその巨体はドリルのような見た目になり、バシンへ突進する。

 

「この、迫力は──ッ!!?」

 

衝突。ギリギリで発生したバリアによって直撃は防げたが、バシンは吹っ飛ばされ、しりもちをつく。過剰な臨場感。男だけではなく、男のスピリットたちからも発せられている生きた殺気。バシンは、この戦魂がただの戦魂ではないと確信した。

 

「ンッフッフ。どうやら理解したようだねぇ。そう、私のこの指輪の力によって、スピリットを実体化に近い状態で召喚できるッ!!」

「なん……だとッ!!?」

「スピリットは便利なアイテムやプラグラムだと思っていたかい?違うねぇ。奴らは正真正銘の生命体だ

……くくっ、怖じ気づいたかぁ!?」

「……誰が?お前をブッ倒すことに、変わりはねぇッ!!」

「ターンエンドだ」

 

男 状況

 

[手札]4[ライフ]3[リザーブ]0

[場]《回復》

イグアバギーLV1×2(1)

《疲労》

翼刃竜スティラノドンLV1(1)

 

「俺のターン!たたみかけるッ!!!猛ろォッ!!!「龍皇ジークフリード」召喚ンンァッ!!!」

 

空から大地に落ちる雷。電気と土の摩擦で生まれた衝撃が、バシンと男の体を震わせる。そして裂けた雲の間から、赤いうろこに覆われた龍が舞い降りる。

 

「行けぇッ、ジークフリードォォォッ!!!」

「ライフだ」

 

炎の吐息が男を包み、ライフを削る。男のライフは残り2となる。バシンはターンを終了する。

 

バシン 状況

 

[手札]3[ライフ]4[リザーブ]0

[場]《回復》

ゴラドンLV1(1)

ロクケラトプスLV1(1)

《疲労》

タウロスナイトLV1(1)

龍皇ジークフリードLV1(1)

 

「私の、ターンッ!!スティラノドンよ[転召」の糧となれ。地を叩く黒き怒号、封印されし禁断の力ァァッ!!今、汚れた世界へ!!『魔龍帝ジークフリード』召喚ッ!!」

 

スティラノドンのコアは全てボイドに置かれ、スティラノドンは消滅する。そして翼刃竜の消えた跡から、黒い炎が舞い踊る。炸裂した炎の中から這い出る影。次の瞬間、空で2体のジークフリードが対峙する。

 

「それは──ッ!!?」

「くくっ。私はこれでターンエンドだ」

「アタックしないだとっ!!?」

 

男 状況

 

[手札]4[ライフ]2[リザーブ]0

[場]《回復》

イグアバギーLV1×2(1)

魔龍帝ジークフリードLV1(1)

 

「……俺のターンッ!俺は『ダブルドロー』を使用。2枚ドローする。さらに結界(ネクサス)『燃えさかる戦場』を2枚配置。ジークフリードをLV2にし、バーストセット。ターンエンドだ」

 

バシン 状況

 

[手札]3[ライフ]4[リザーブ]0

[場]《回復》

龍皇ジークフリードLV2(2)

タウロスナイトLV1(1)

ゴラドンLV1(1)

ロクケラトプスLV1(1)

結界(ネクサス)

燃え盛る戦場LV1×2(0)

 

「……ふん、それで警戒しているつもりか?私のターン、マジック『ドリームリボン』を使用。ジークフリードよ、手札に還れ!!』

 

男の手から急に白いリボンが現れ、ジークフリードを包み込む。ジークフリードは苦しそうに喘ぐ。やがて、その巨体は消えた。

 

「魔龍帝をLV3にし、アタックステップ!!

魔龍帝の攻撃!!そして、フラッシュタイミング!!マジック『ホワイトポーション』を使用。魔龍帝は回復する」

「──ッ!!?」

「そしてぇ……『フレイムテンペスト』だ」

 

巻き起こる赤い竜巻。魔龍帝以外の全てのスピリットを飲み込んでいく。魔龍帝はダブルシンボル。よって、このアタックでバシンが受けるダメージは2。

 

「だが、これで私に残ったコアは魔龍帝に乗っている5つだけ。そこでこれを使う。マジック『ネイチャーフォース』により、トラッシュのコアを全て魔龍帝へ」

 

魔龍帝の体が緑の光を纏い、力がみなぎる。その腕が地面を削り取り、バシンに迫る。

 

「魔龍帝は回復している。よってこの攻撃の後も、もう一度攻撃できる。これで、君は終わりだッ!!」

「……あぁ、終わりだ。だがオッサン、お前の終わりだ」

「なにッ!?」

 

バシンの胸からコアが弾け、彼の頭上で白い輝きを放つ。バシンはそれを掴みとり、その手から、白い透明な壁が現れる。

 

「マジック『サイレントウォール』ッ!!!お前のアタックステップは、ここで終わりだッ!!!」

 

バシンのライフは砕ける。しかしサイレントウォールの効果によって、男の次の攻撃はない。男は歯軋りし、バシンをにらむ。

 

「貴様……ッ!!だ、だが、私の魔龍帝のBPは12000!!貴様のジークフリードなど、足元にも及ばん!!私はこれでターンエンド」

 

男 状況

 

[手札]1

[ライフ]2

[リザーブ]0

[場]

《回復》

魔龍帝ジークフリード

 

「俺のターン」

 

バシンはデッキに手をかける。目を閉じて、心を研ぎ澄ます。何かが起こることを、魂が理解(わか)っていた。

 

─究極を求めよ─

 

究極。それが何なのか、バシンは知らない。ただ、自らの胸の高揚を感じていた。今、彼の力の全てが、彼の魂の炎が、その手に宿る。

 

「ドローッ!!!……俺はジークフリードを再び召喚。そして……」

 

ドローカードを天にかざす。カードは炎になり、弾けて消えた。バシンは炎を握り潰し、その拳で大地を殴る。

──来いッ!!!

大地は裂け、空から雷が降り注ぐ。裂け目の上を炎の輪が舞い躍る。喜びの笑みを浮かべるバシンの頭に、再び声が響く。

 

─呼べ、我が名を。我が名は─

 

理解(わか)る、理解(わか)るぜ……魂で理解(わか)るッ!!!

お前の名はッ!!!」

 

炎がバシンの元に集う。バシンの叫びと共に、全ての闇が消え去る。今、彼の前に究極(アルティメット)が現れる。

 

「受け継がれし灼熱の魂!!!その熱い雄叫びでッ、閉ざされた(ゲート)を正面突破でブチ開けェェェッ!!!

『アルティメット・ジークフリード』LV4で召喚ッ!!!」

 

ちぎれた大地の隙間から、天へと差し込む炎の道しるべ。炎は形を変え、地の底から、炎を翼に持った赤い龍が舞い上がる。体にふちどられた金色のうろこ。他のジークフリードを凌ぐ神々しさ。その全てに、バシンは心を震わせる。

 

「……そうだ、そうだよ」

 

バシンの目が輝く。この興奮が、この喜びこそが、バシンの全ての迷いの答え。この喜びがある限り、彼は戦魂者(カードバトラー)として死んでいない。生きている喜びを胸に、今、バシンの指が男を指す。

 

「さぁ、行くぜ!!!アルティメット・ジークフリードのアタック。そして、究極の力呼び覚ます運命の結び目(アルティメットトリガー)……目標殲滅準備完了(ロックオン)!!!」

 

男のデッキの一番上のカードが弾けとび、男の目の前に浮かび上がる。男は明らかに狼狽した様子で、声を震わせる。

 

「こ、ここ、これは──ッ!?」

宣言(コール)しろ。コストはいくつだ?」

「ご、ゴラドン。コストは0……」

殲滅完了(ヒット)!!!」

 

男の手に握られたカードは弾けとび、トラッシュへ送られ、男のライフが砕ける。

 

「な、なんなンだァァッ!?」

「これが究極の力呼び覚ます運命の結び目(アルティメットトリガー)。お前のデッキの一番上のカードを確認し、それが究極(アルティメット)のコストより小さいコストだった場合、殲滅完了(ヒット)するッ!!!」

 

男は自らの手札を見て、舌打ちする。男の最後の切り札はマジック『ブリザードウォール』。発動ターン、相手のブロックされなかったスピリットのアタックでは自分のライフは1つまでしか減らされない、という効果を持つカード。しかし究極(アルティメット)の効果は防げない。

 

「さらに、究極の力呼び覚ます運命の結び目(アルティメットトリガー)殲滅完了(ヒット)したので、お前のスピリットは強制的に究極をブロックするッ!!!」

 

魔龍帝の体が赤い炎に包まれ、究極の元に吸い寄せられていく。究極が火を吹き、魔龍帝とぶつかり合う。鋭く突き出された魔龍帝の黒い腕が、炎の輪に突き刺さる。

──負けるな……ッ!!!

究極を纏う炎は金色の輝きを放ち、魔龍帝を弾き飛ばす。空中に投げ出された巨体に、今隙が生じた。

 

「薙ぎ払えェェェッ!!!」

 

撃たれる金色の吐息(ブレス)。魔龍帝は地に叩きつけられ、爆発と共に消える。

 

「ば、バカなァァッ!?」

「行け……ジークフリードォォォッ!!!」

「こいつはヤバいッ!!危険すぎ……」

 

炎の弾丸が、男のライフを吹き飛ばす。

 

「ギィヤァァァァッ!!」

 

 

 

戦魂(バトル)が終わった途端、バシンと男は白いカードの波に飲まれ、路地のど真ん中に投げ出された。

 

「……いつもの風景……」

 

帰ってきた。しかしバシンの心に喜びは素直に響かない。狼狽した様子で壁にもたれて荒い息を吐いていた男の体が薄くなっていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁッ!!まさか、こんなことに……ッ!!覚悟したまえっ、オトナはしつこいぞ!!」

 

男は消えた。バシンは究極(アルティメット)を握る手に力を入れる。

 

─バシン─

 

空耳だろうか。バシンの耳に、さっきの声とは違う声が響く。辺りを見渡すと、足元に白いネズミがいた。

 

「まさか、いや、そんなことは……」

 

軽く笑う。しかし自嘲ぎみな笑みはすぐに消え、喜びの笑みに姿を変える。足元のネズミはただのネズミではない。自分にとってかけがえのないものであることに気づいた。いや、思い出した(・・・・・)のだ。

 

「……アイボウ?」

「へへっ、久しぶりだなバシン」

 

喋っている。ネズミが自分を見上げて、はっきりと喋っている。頭をかきむしり、また笑う。笑顔のまま、ネズミ、いやアイボウに手を差し出す。

 

「アイボウ……アイボウ!!!ははっ、アイボウ~!!!」

 

手に乗ってきたアイボウに頬を擦り付け、アイボウの表情を容赦なく不快に染める。もちろんバシンに自覚はない。

 

「ば、バシン、気持ち悪……」

「ははっ、なんだかよく分かんねぇけど、アイボウ、アイボウじゃねぇかぁ~ッ!!!」

「バシン、説明したいことが……」

「家で聞くよ!それよりアイボウ、家まで競争しようぜッ!!!おりゃ、抜け駆けスタートォ!!!」

「あ、ずるッ!!ていうか、ホントに今大変なことに……」

 

バシンは走る。脳のキャパ越えるほどの出来事がいっぺんに、あまりにも多く起きっても、迷うことなく突き進む。最高の輝きを取り戻した少年が、夜の闇を突き抜ける。

 

「どんな相手にも、どんな戦いにも、正面突破!!!馬神トッパだァァ───ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 



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第5話 開戦直前

黒タイツが黒タイツを押さえ込みそれを黒タイツが眺めているという、子供が見たらトラウマになりそうな光景が、トアル町のかたすみで広がっていた。

 

「ぜ、全さま~!!お許しください~!!」

「許すわけがないだろう。無様に負けて、おめおめと逃げ帰って来たとは情けない」

「申し訳ありませんっ!!あ、あ、でも!有力な情報は手に入れて来ました!!」

「ほう」

 

全と呼ばれた黒タイツは興味を持った様子で、膝をついている黒タイツの前にしゃがみこむ。

 

「で?」

「れ、例のショップで聞き込んだのですが、あそこの大会にどうやら彼女が参加しているようです」

「それは面白い」

 

愉快そうにクックッ、と小さく笑う。倒れている黒タイツから目を離し、彼を押さえつけている黒タイツに離すよう命じる。

 

「もういい。我らトロピカルドレッシング団に仲間割れしている余裕などない。さぁ、究極との戦いの始まりだッ!!」

 

 

 

 

「要するに、この世界がヤバいかもってことだろ?」

「ま、まぁ、かなり大雑把に言うとそうかな……」

 

バシンは戦魂(バトル)の後、アイボウと一緒に家に帰った。帰った後はアイボウとたくさん話をした。話をするにつれて、バシンの頭にはアイボウと過ごした子供の頃の記憶が蘇ってきた。アイボウによると、アイボウがバシンのもとからいなくなったのはバシンが高校生になった頃で、バシンのもとから去る時に自分に関する記憶を消したらしい。アイボウは本来、バシンたちのいる世界とは別の世界の住人であり、そっちの世界が危機に陥ったので、一時的にバシンの記憶を消した。自分が帰らない時にバシンを落ち込ませないようにという、アイボウなりの気遣いである。

 

アイボウの世界に訪れた危機というのは、2つの大きな勢力の争いによるものであり、それを鎮めるためにアイボウは2つの内の片方の勢力に属し、戦いを終わらせるための力を求めて、この世界に戻ってきた。アイボウが属する勢力が誇る力。それこそが究極(アルティメット)であり、アイボウはそれを覚醒させるため、この世界の戦魂者(カードバトラー)に協力を求めるために来たのだ。戦いの影響はこの世界にも及ぶ可能性があるらしい。

 

「つまり、俺みたいな究極使いを何人か見つければいいわけだ」

「あぁ。けど敵の勢力の刺客も、バシンの前に現れるだろう」

「『新ナゾオトナ』ってわけだな」

「ん、ま、まぁ。あ、バシン」

「ん?」

 

アイボウはまじまじと、デッキケースから究極を取り出して眺めているバシンの手元を覗きこむ。アイボウの視線の先にはゴラドンやロクケラトプスなど、さっきの戦魂で使ったカードたちがあった。

 

「……そいつら、ずっと使ってるのか?こんなこと言うのもなんだけど、ずいぶん古いカードだよな」

「これとは別に新しいデッキもあるよ。けど、やっぱこいつらが大好きなんだよなッ!!!」

 

満面の笑み。アイボウは帰ってきた、と実感した。胸に暖かい波が押し寄せてくる。バシンに何か言おうと口をモゴモゴさせていると、バシンはしまった、という顔になり、慌てて支度を始めた。

 

「ど、どうしたバシン!?」

「やや、やッべェ!!!話してたら朝になっちまったぁ!!!仕事に行かねぇとッ!!!」

「え、いくらなんでも早く……」

「今日はやることあってさッ!!!悪いアイボウ、お前今日留守番なッ!!!」

 

靴を何足か吹き飛ばし、バシンは玄関から飛び出した。アイボウは吹き飛んだ靴を元の場所に戻しながら、刑事ドラマか何かで見たハードボイルドな中年男性の真似をして、変わらねぇな、と呟いてみた。言ってみた後、しばらく一人で照れ笑いしていた。

 

 

 

「つーわけで、おっはよォございまァァす!」

 

誰もいない店内にバシンの高らかな挨拶が響き渡る。まだ暗い外の様子に反してバシンの顔は明るく、楽しげに何やら準備している。しばらくガチャガチャやっていると、最初の客が訪れてきた。

 

「バシンさん、おはようございます」

「おぉ、斬じゃねぇか!よし、お前も手伝えッ!!!」

「よく分かんないけど、分っかりましたァッ!!」

 

開店時間が訪れた。仕事を終わらせてバシンと斬が休んでいると、最初の客がやって来た。

 

「おはよーございます。あ、斬さん早~い」

「よぉ鴉に由希。俺、一応バイトつーか手伝いだから、早く来るように言われてるんだよ」

 

鴉に続いて姉の由希も入ってくる。彼女の目が素早く店内に貼られたポスターをとらえる。

 

「……大会ですか?」

「そうッ!!!いやぁ~今回は斬も出るし、いつも以上に盛り上がるぜッ!!!」

「おぉ!!そういえば俺No1にもNo2にも会ったことないし、楽しみだぜ~!!」

 

斬の言葉に、由希はクスクス笑う。鴉とバシンも同調し笑いだす。斬は頬をふくらませて眉をひそめる。

 

「なんだよ!?俺なんも変なこと言ってないぞ!?」

「そうだけど……ふふっ」

「なんだよ~?」

 

今、店内に客は由希と鴉しかいない。なので二人を斬に任せ、バシンは外の空気を吸いに行こうとした。店の入り口から足を踏み出すと、誰かの足に軽く当たった。

 

「あ、すいません」

 

足を引っ込め、頭を少し下げる。少ししてから顔を上げると、そこには地味な緑の帽子をかぶった中年の男性がいた。ひげを生やし、丸い眼鏡をかけているその男性は、バシンの向こうの、店内の様子を観察しているようだ。

 

「あ、もしかして頼んでた業者さん?」

「はい。掃除しに来ました」

「そうでしたか!どうぞ、入ってください!」

 

町の清掃キャンペーンで、今日だけ業者さんが無料で掃除してくれるのだ。バシンも自分が店の掃除を怠っているとは思ってはいないが、なにしろ無料だ。どうせなら、というわけで頼むことにしたのだ。

 

「あ、バトスピのお店でしたか」

「はい。バトスピ知ってんですか?」

「うちの子供がやってまして。それに付き合う感じで、あっ!?」

「どうしました?」

 

驚いて飛び上がった男性の視線を追ってみると、その先には鴉がいた。バシンが言葉をかける間もなく、男性は鴉につめよる。戸惑っている鴉の手を握る男性の顔は輝いていた。

 

「きみ、白咲鴉くんだろ!?』

「あ、はい」

「いやぁ、息子が君の大ファンなんですよ~!!僕もあんな白使いになるんだー、っていつも言っていて」

「え、え?あ、あはは」

 

照れ笑いし顔を赤くして鴉はうつむく。状況を理解できていない斬に、クスクス笑いながら由希が説明する。

 

「え?じゃあこの店のNo2って……」

「そう鴉。『漆黒に染まりし氷結の翼(ブリザード・ダークウィング)』とは、鴉のことなのだ。えっへん」

「えぇーッ!?っていうかそんなイタいあだ名初耳なんだけどー」

 

男性は鴉から手を離し、デッキを取り出す。

 

「実は私もファンなんです。お願いします、一回でいいから戦魂してください!!」

「僕はオッケーですけど、バシンさんは大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、掃除がちょっと遅れるくらい気にしねぇから、存分にやれよ」

「じゃ、決まりですね」

 

鴉の目に獣のような力強い光がはしり、その手にデッキという名の剣が握られる。両雄揃い、今、戦魂の扉が開く。

 

「「ゲートオープン界放っ!!!!」」

 

 




どうも。アルティメットノヴァが欲しくてたまらないヴァーチャルです。前書きとか後書きの使い方がイマイチ分からなかったのですが、これからはボチボチ使っていきます。


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第6話 漆黒に染まりし氷結の翼

渇いた大地。ここはバトルフィールド。この大地に2つの光、緑と白の流星が舞い降りる。光が弾けた跡に、二人の戦魂者が立ち、鋭く互いの目を見合う。

緑の光から現れた方は、緑の作業服を着ているおとなしそうな中年の男性。対して白の光から現れた方は、黒い翼を生やした白い戦魂スーツを着た少年。その眼はギラギラと輝いている。

 

「この夜空に、ボクの戦魂を捧げてやる!!さぁ、白のダンスといこう!!」

「……って、お前誰だよ!?」

 

斬は驚いて叫んでしまう。当然だろう。さっきまで自分と一緒にいた、そこそこ知っているはずの人物が、全く違うキャラで目の前にいるのだ。どう違うかと言うと、引っ込み思案っぽかった気弱そうな少年が、ドヤ顔で腕組んで堂々としていて、なんか眼がオッドアイになっているといえば、もう大体分かるだろう。オッドアイというのは目の色が左右で違うってことである。鴉は白と黒。

 

「ひどいな斬さん。ボクだよ、鴉だよ」

「いやだってお前、そんなにテンション高くねぇし、そんなイタい格好しなさそうだったし」

「さらっと酷いな斬さん。まぁボクには今から戦魂があるんで、説明は姉貴に任せとく」

「あ、姉貴……?」

 

これまでは可愛らしくお姉ちゃん、なんて呼んでいたのに、今は可愛いというより格好いい感じだ。斬は少し悲しい気持ちになった。

 

「あぁ、斬さんには言ってなかったね。鴉は戦魂するときはイケメンになるんだよ」

「さらっとわけわかんねぇこと言うね」

「なんか、テンションが高くなると性格もハイになっちゃうみたい。あ、眼はカラーコンタクトだよ」

 

いつまでも驚いてるわけにもいかないので、とりあえず無理矢理でも納得しておくことにした。

 

「会いたかったですよ、鴉さん」

「どうも。じゃあついでに、ボクの仲間にもこれから会わせますよ」

「それは楽しみですね……」

 

オジサンと鴉が最初の手札を引き、二人の戦魂が始まる。先攻はオッサン。

 

「私のターン、『一番槍のシベルザ』を召喚。さらにバーストをセットし、ターン終了」

「ボクのターン、『ボーン・ダイル』、『ジャコウ・キャット』、召喚。召喚時効果で、シベルザには退場してもらうよ」

 

ボーン・ダイルは紫のスピリットだが、自分のメインステップ中、自身に白のシンボルを2つ追加する。これによって軽減シンボルを稼ぎ、コスト4のジャコウ・キャットを早く召喚できたのだ。

 

「ジャコウ・キャットの[連鎖(ラッシュ)]発動。デッキから1枚引く」

「連鎖?」

「効果を発動したあと、特定の色のシンボルが自分の場にあれば発動する効果のことだな。ちなみにジャコウ・キャットの連鎖の条件は紫シンボルだ」

「解説ご苦労さんバシン巡査」

「ですが、私もただではやられない。バースト発動、『双翼乱舞』。2枚ドローする」

「ボーン・ダイル、攻撃だ」

「ライフで受けましょう」

 

紫色のワニのような生き物が、飛んでオジサンに突進し、ライフを砕く。

 

「オジサンにブロッカーはない。攻めるか……?」

「ボクはこれで、ターンエンドだ」

「私のターン、『ダンデラビット』見参。効果でコアを増やし、シベルザを再び召喚」

 

人参を口にくわえたウサギと、槍を背負った獣が召喚される。

 

「あれ、ダンデラビットを後に出せばコアがもう1個増えたんじゃ?」

「コアが足りねぇよ。鴉がもう1回攻撃してたら、それは可能だった。逆に言えば、鴉がコアブをさせないように計算して攻撃したってことだな」

「おぉー。考えてるなぁー」

 

オジサンは自らの場と手札を見て、目を閉じる。

 

「私はターンエンド」

「慎重なんですね。緑だから、速攻してくると思ってました」

「いえ、ゆっくり楽しませてもらいます」

 

オジサン 状況

[手札]5[ライフ]4

[場]《回復》

ダンデラビットLV1(1)

シベルザLV1(1)

 

「ボクのターン、『ソードール』召喚。そっちが来ないなら、こっちから行く!ブレイヴ、『サグナ・オックス』を召喚し、ジャコウ・キャットに合体(ブレイヴ)!!」

 

馬のような形をした骸骨が現れ、バラバラに分解された自らの身体の破片を、ジャコウ・キャットに鎧のように装備する。白銀の猫が純白の光を放つ。

 

「おぉ、ブレイヴ!!」

「行け合体スピリット、合体アタックだ!!」

「ライフで」

 

合体した猫が駆ける。ダブルシンボルの凄まじい攻撃力。これを受ければひとたまりもないだろう、という俺の予想に反して、猫の突進は緑色のバリアーに阻まれる。

 

「シベルザの効果。シンボルを2つ持った合体スピリットのアタックでは、互いのライフは減りません」

「おぉ~。じゃあ、鴉の攻撃は意味ないってこと?」

「それはどうかな?」

 

猫の上でコアが1個輝き、猫の中に取り込まれる。

 

「サグナ・オリックスは合体アタックのとき、ボイドからコアをひとつ機獣におくことができるんだよ」

「なるほど。コアブーストのために、あえて攻撃したわけか」

「そういうこと。ボクはターンエンド」

 

鴉 状況

[手札]3[ライフ]5

[場]《回復》

ボーン・ダイルLV1(1)

ソードールLV1(1)

《疲労》

ジャコウ・キャット&サグナ・オリックスLV2(2)

 

「私のターン、結界(ネクサス)『賢者の樹の実』を配置。さらにマジック『ギャザーフォース』」

「そろそろ来ますか」

 

オジサンの気の流れが変わったことを、鴉は戦魂者の勘で理解する。彼の期待に応えるかのように、オジサンは1枚のカードを振りかざした。

 

「闇に蠢く沈黙の鎌よ。蘇った心の輝き、未来を想う魂の光を、その刃に映せ!!『黒蟲魔王 ディアボリカ・マンティス』、見参!!」

 

緑に輝く甲冑、禍々しく光る鎌。これぞカマキリだ、という感じのカマキリが現れる。

 

「おぉー。あのオジサン、カッコいいカード使うな~」

「虫は男のロマンだよなー」

「さらにバーストセット。私はこれでターンエンド」

「あれ、動かないんだ?」

「だがボクは止まらない!!王が見る世界。漆黒の未来を拓く決意の力が、集いし刃で神を斬る『黒皇機獣ダークネス・グリフォン』、召喚!!」

 

黒い氷の塊が出現し、華々しく砕け散る。天から注ぐ闇と氷の柱が交わり、ぶつかり合う波動の結び目から、神々しい鷹が生まれる。

 

「め、メ、メカッコイイー!!」

「同じ白でも、私のデッキとは違うキースピリットを選んでるわけだよ~」

「召喚時効果で、ディアボリちゃんとシベルザを手札に戻す。さらに連鎖紫で、2枚ドロー」

 

鷹が放つ氷の吐息がカマキリたちを吹き飛ばす。

 

「よしっ。これで合体すれば……」

「させません!!バースト発動、『甲竜封絶破』っ!!」

「なっ!?」

 

オジサンの場のバーストが弾けとび、同時に白い竜巻が巻き起こり鷹を捕らえる。そしてそのまま鷹は吹き飛ばされ、空の彼方へ消えた。

 

「甲竜封絶破は相手の召喚時効果に対して発動し、相手のフィールドのカードをデッキの下に戻しちまう」

「バースト1枚で鴉のキースピリットを即座に消した……!!すげぇぜオジサン!!」

「だが召喚時効果はしっかり喰らった。ブロッカーはダンデしかいないが、鴉はどうする?」

 

鴉は少し悔しそうな顔をしながらも、前を見据えてカードに手をかける。

 

「このチャンスを逃すかっ!!『イグア・バギー』を召喚。そしてアタックステップ、合体スピリットで攻撃」

「ダンデさん、ブロック頼みます!!」

 

ダンデラビットが防御のために破壊される。さらにボーン・ダイルが続き、オジサンはその攻撃をライフで受けた。

 

「賢者の樹の実の効果により、ボイドからコアを1つリザーブへ。さぁ、まだ来ますか?」

「……いえ、ターンエンドです」

 

鴉 状況

[手札]4[ライフ]5

[場]《回復》

イグア・バギーLV1(1)

ソードールLV1(1)

《疲労》

ボーン・ダイルLV1(1)

ジャコウ・キャット&サグナ・オリックスLV2(2)

 

「あの人、動かねぇな」

「鴉の攻撃でも微動だにしない。たぶん、カウンター型の戦魂者」

「キーカードが揃うまで待ってるわけだな」

 

オジサンのターン、オジサンはシベルザとディアボリカ・マンティスを再び召喚する。

 

「そして、私の相棒を紹介しましょう」

「へえ」

「星を纏う緑の風、誇りと自由の騎士と共に降臨!!『星騎士ハーキュリーΩ』召喚っ!!これで、ターンエンド」

 

オジサン 状況

 

[手札]2[ライフ]3

[場]《回復》

シベルザLV1(1)

ディアボリカ・マンティスLV1(1)

ハーキュリーΩLV1(1)

賢者の樹の実LV1

 

「キースピリットの召喚、だけど」

「攻撃はないな」

「サグナ・オリックスは合体アタックのとき、疲労状態のスピリットに指定アタックできる。迂闊に攻撃はできねぇな」

「……ボクのターン」

 

鴉はカードを引き、そして笑う。

 

「ボクと同じく、キーカードが揃ったら一気に攻めて決めるタイプですか」

「えぇ」

「つまりコンボ重視。緑でその戦術は珍しいですね」

「緑だから、燃えるのですよ」

「……なるほど。でも、ボクも負けません!!天空より注ぐ月の光を受け、眠れる獅子は誇りに吠える。『獅機龍神ストライクヴルム・レオ』、LV2で召喚!!」

 

空に獅子座が浮かび上がり、次の瞬間、銀色に煌めく獅子が地上めがけて駆け出す。幻想と現実の狭間が砕け、この大地に獅子が降り立った。

 

「カッコいいー!!これが鴉のキースピリット!?」

「12宮Xレアの1体だな」

「私のラグナちゃんとかよりちょっと後に出たやつだね」

 

獅子が吠える。しかしまだ動くべきときではない。鴉はジャコウ・キャットに手をかける。

 

「合体アタック」

「ライフで」

 

シベルザの効果でライフにダメージは無いが、鴉のコアは増える。

 

「ボクはこれで、ターンエンド」

 

鴉 状況

[手札]4[ライフ]5

[場]《回復》

ストライクヴルム・レオLV2(2)

ボーン・ダイルLV1(1)

イグア・バギーLV1(1)

ソードールLV1(1)

《疲労》

ジャコウ・キャット&サグナ・オリックスLV2(2)

 

「私のターン。では、こちらもブレイヴ投入!!『突機竜アーケランサー』を召喚し、ハーキュリーΩと合体!!」

 

ガチョガチョガチョーンと音が鳴り響き、赤の機械の竜と星騎士が合体する。合体スピリットが全身から真紅の光を放つ。

 

「ディアボリカ・マンティスをLV2へ。では、行かせていただく。合体アタック!!」

「ライフです!!」

 

シベルザはシンボル2つを持った合体スピリットのアタックによるライフの減少を封じるが、この合体スピリットはシンボル1つ。よってシベルザの効果は受けない。赤い竜巻が、鴉のライフを1つ吹き飛ばす。

 

「さらにディアボリカ・マンティスLV2の効果。神速が相手のライフを破壊したとき、さらにもう1個ライフを破壊する。ハーキュリーは神速を持つので、ライフをいただく!!」

「……っ!!」

「私はこれで、ターンエンド」

 

オジサン 状況

[手札]3[ライフ]3

[場]《回復》

ディアボリカ・マンティスLV1(1)

シベルザLV1(1)

賢者の樹の実LV1

《疲労》

ハーキュリーΩ&アーケランサーLV2(3)

 

「ボクのターン。出でよ背徳の闇。13番目の絶望より生まれし邪神の魂が、忌まわしき暗黒の業を為す。『蛇皇神帝アスクレピオーズ』召喚」

 

空に蛇遣い座が浮かび、注ぐ紫の光とと共に巨大な蛇が降臨する。これも12宮Xレアの1枚。

 

「召喚時効果で、イグア・バギーを破壊して3枚ドロー。イグア・バギーを召喚し、アタックステップ」

 

鴉はジャコウ・キャットに手をかける。ハーキュリーΩのBPは12000。合体したジャコウ・キャットの8000では及ばない。疲労状態のスピリットは通常ブロックには参加できないが、ハーキュリーΩは神速が召喚されたとき、自らを回復させる効果がある。それらを全て理解しながらも、鴉は攻撃を仕掛ける。

 

「合体アタック!!」

「揺さぶりをかけてきましたか……。ならば応えましょう。『マー・バチョウ』を神速召喚。ハーキュリーΩは回復、そしてブロック」

 

星騎士がジャコウ・キャットを叩き伏せ、こっぱみじんに破壊する。鴉は苦笑いを浮かべる。

 

「サグナ・オリックスはスピリット状態で残します。ボクはこれで、ターンエンド」

 

鴉 状況

[手札]6[ライフ]3

[場]《回復》

ストライクヴルム・レオLV2(2)

アスクレピオーズLV1(1)

ソードールLV1(1)

イグア・バギーLV1(1)

ボーン・ダイルLV1(1)

《疲労》

サグナ・オリックスLV1(1)

 

「では、攻めさせていただきます」

「待ってましたよ」

「これが私の、最後の切り札。絶望を塗りつぶす緑の(かいな)よ、星の光と交わり闇を砕け!!神の力、『巨蟹武神キャンサード』召喚!!」

「蟹座の12宮Xレア──っ!!」

 

金色の刃を手に輝かせ、緑の甲冑を纏った蟹が猛く吠える。

 

「念には念をいれて、賢者の樹の実をLV2にします。さぁこの攻撃をどう凌ぐか、見せていただく。合体アタック!!そしてキャンサードの効果。あなたはこのアタック、スピリット2体でなければブロックできない!!」

「そんな効果があるのか……!!」

「さぁ、どう受けますか!?」

「フラッシュタイミング、マジック『幻影氷結晶』を使用。ハーキュリーΩを選択」

「な──っ!?」

「アタックはライフで受ける」

 

ハーキュリーΩの体が透け、その突進から力がなくなる。鴉は微動だにせず攻撃を受けるが、ノーダメージ。

 

「幻影氷結晶は選んだスピリットのアタックによるライフの減少を封じる」

「ハーキュリーΩは連続攻撃が得意なスピリットだけど、これじゃ無意味だね」

「ぬぅ……。ならば、ディアボリカ・マンティスでアタック!!アタック時効果でアスクレピオーズを疲労。そしてフラッシュタイミング、マジック『スタークレイドル』を使用。ハーキュリーΩを手札に戻し、ソードールを疲労させる。アーケランサーには申し訳ないが消えていただく」

「そのアタック、ボーン・ダイルでブロックします」

 

音速ではしる鎌に切り裂かれ、ボーン・ダイルは破壊される。

 

「だけどダブルシンボル相当の攻撃

は防いだ。いい仕事したぜ」

「まだ終わりません。キャンサードの攻撃。そしてフラッシュタイミング、ハーキュリーΩを神速召喚」

「ライフです」

 

鴉のライフは破壊され2になる。

 

「続け、ハーキュリーΩ!!このアタックはスピリット2体でなければブロックできず、通ればライフを2ついただく!!そしてまだマー・バチョウが控えている。これで、終わりです!!」

「……それはどうでしょう?フラッシュタイミング、マジック『幻影氷結晶』を使用!!」

「なん……だと……!?」

 

ハーキュリーΩが再び力を失う。鴉は攻撃をライフで受けるが、幻影氷結晶の効果でライフは減らない。

 

「……2枚目を持っていたとは……!!」

「さぁ、どうしますか?」

 

オジサンは自分の手札を見る。コスト1のマッハジー。白のバウンスマジックを警戒してキャンサードやシベルザのLVをあえて上げず、ハーキュリーΩの連続攻撃で波状攻撃を仕掛ける戦術だったが、幻影氷結晶という意外なカウンターに阻まれた。

 

「……ふっ、やりますね。ですがターン終了時、賢者の樹の実の効果で、私のスピリットは全て回復します。これでターンエンドです」

 

オジサン 状況

[手札]1[ライフ]3

[場]《回復》

ディアボリカ・マンティスLV2(3)

ハーキュリーΩLV1(1)

キャンサードLV1(1)

シベルザLV1(1)

マー・バチョウLV1(1)

賢者の樹の実LV2(2)

 

「ボクのターン!!では、ボクのとっておきも見せましょう。獅子と並び立つ星の使者よ、戦いの大地を緑に染める豪腕で、神の力をここに示せ!!『巨蟹武神キャンサード』召喚!!」

 

蟹座が出現し、鴉の元のスピリットたちが叫ぶ。仲間が駆けつけたことへの喜び、勝利への咆哮が、戦いの場に轟き大地を揺らす。オジサンの場のそれと同じ姿の蟹座の12宮Xレアが、鴉の場に降臨した。

 

「まさか、あなたの切り札もキャンサードとは!!」

「ふふ。驚いたでしょ?」

 

鴉はお茶目にウィンクし、得意気に微笑む。オジサンも嬉しそうに笑う。同じ切り札を使っているというだけで、二人の間には謎の絆のようなものが生まれていた。

 

「さぁ、ここから本番だ!!サグナ・オリックスよ、我が友と合体せよ!!これが、ボクの最強の合体スピリットだ!!」

 

ストライクヴルム・レオとサグナ・オリックスが合体し、LVは3になる。BPは15000。破格のパワーを持った怪物が誕生した。

 

「でも合体したらダブルシンボルになる。シベルザの効果で……」

「いえ、斬さん。ストライクヴルム・レオの合体時効果により、ボクの光導と星魂に白のシンボル2つを追加する。よって合体スピリットはトリプルシンボル!!」

「そっか!!シベルザが防げるのはダブルシンボルの合体スピリットだけ。やるぜ鴉!!」

 

今の鴉の場には、シベルザの効果を受けるカードはない。よって鴉は何も出し惜しみすることなく、渾身のアタックが可能なのだ。

 

「行け合体スピリット!!月明かりに吠え、我が地を駆け巡れ!!」

「……ぐぅ!!」

 

このアタックを受ければオジサンの負けは確定。思わず顔が歪む。しかし最後まで諦めることはしない。

 

「シベルザ、マー・バチョウ、ブロックを頼みます!!」

 

ブロックに駆り出された小さな戦士が緑の疾風に吹かれ翻弄される。キャンサードの効果が発動している攻撃の時は、ブロックしている2体のうち1体を攻撃側が選び、選ばれたスピリットとアタックしているスピリットがBPを比べてバトルする。鴉はシベルザを選び、獅子の巨大な足がシベルザを叩き潰す。

 

「ぬぅ……!!」

「続けアスクレピオーズ!!そしてストライクヴルム・レオは、このスピリット以外の自分の光導か星魂が疲労した時、回復する!!」

「ライフで受けるっ!!」

 

トリプルシンボルが起ち、ダブルシンボルのアスクレピオーズの攻撃がオジサンを襲う。蛇の尾がオジサンの周りに出現したバリアに巻きつき、どす黒いレーザーを容赦なく叩き込む。

 

「ぐっ!!」

「続け、我が友よ!!」

「ハーキュリーとディアボリカ・マンティスでブロック!!」

「ディアボリカ・マンティス、ダンスの相手はお前だ!!」

 

ディアボリカ・マンティスの鎌から放たれた衝撃波をかわし、獅子の咆哮が大地を砕く。ディアボリカ・マンティスが正面から飛んでくる巨大な岩石を鎌で切り裂き、その視界を正常な状態に戻した時、月明かりに照らされた獅子はその眼前に迫っていた。それを認識した瞬間、獅子の刃は鎌を切り裂き、そのままディアボリカ・マンティスを切り裂き破壊した。

 

「イグア・バギー、アタック!!このアタックが、我が友を再び呼び覚ます!!」

「フラッシュタイミング、『マッハジー』を神速召喚。キャンサードとマッハジーでブロック」

 

イグア・バギーは破壊される。しかしオジサンの場にブロッカーは無く、鴉の場には回復状態のスピリットが2体。勝負は決まった。

 

「さすがです、鴉さん」

「あなたもね」

「ふふ。さぁ、スカッと決めてもらいましょうか!!」

「えぇ。行くぞ、ラストアタックだ我が友よ!!合体アタックだぁぁっ!!」

 

告げられたラストコール。獅子が駆ける。

 

「ライフで受けるっ!!」

 

オジサンの最後のライフが砕ける。鴉の勝利が決まった。

 

 

 

「……素晴らしい戦魂でした」

「はい。また、よろしくお願いします。今度は息子さんともやりたいですね」

「ありがとうございます」

 

二人は微笑みながら握手した。

 

 

 




由希「はい、始まりました~!!斬さんの~雑談ステップー」
斬「わっ、なんだぁ!?」
由希「今回から、ここで雑談していきま~す。あ、私は白咲(しろさき) 由希(ゆき)です」
斬「お、おー」
由希「今回は鴉の初戦魂だったね」
斬「そうだな。ところで、なんであのオジサンって鴉のカードでびっくりしてんだ?ファンなら知ってそうなもんだけど」
由希「あの人はダークネス・グリフォンで無双してる鴉しか知らなかったみたい」
斬「強いもんなグリフォン」
由希 「うん。じゃあ、そろそろしめてください」
斬「え、いきなり!?っと、戦魂者諸君、いい夢を……Good-Bye」
由希「キザだねー」
斬「うるせーなー。じゃあお前しめろよ」
由希「みんな、これからもよろしくね~」


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第7話 太陽の合体ドラゴン

「渦を巻け、地獄の炎!『焔竜魔皇マ・グー』、召喚!」

「それがお前のキースピリットか」

「そうだ。でも、これだけじゃないぜ」

「……そうか」

 

 アタックステップ。マ・グーの効果でトラッシュのコアは全てマ・グーに置かれLV3になる。LV3のBPは10000。さらにアタックステップ中の効果でBPが3000上がり、そして常に発動するLV2・LV3の効果で、系統に古竜を持つスピリット、つまりカグツチドラグーンと自身に、赤シンボルをひとつ追加する。

 

「行くぜ、カグツチのアタック!アタック時効果でドロー」

「ライフで受ける!」

 

 カグツチが放った息吹きが、彼のライフを2つ破壊する。大ダメージと言うに値するダメージだったはずである。しかし、彼は笑っていた。

 

「俺は、ライフを撃たせてコアをためるタイプでね」

 

 リスキーでございますね。そう言おうとした矢先、僕は気づいた。何に気づいたかと言えば、無論、描写が完全に抜けていたことである。ここに至るまでの描写がエンプティ、空っぽなのである。だからここは、うん、一から説明するというのが僕のするべきことだろう。では読者の紳士淑女諸君には、少しだけ、回想という名の時間旅行にお付き合いいただくとしましょう。ホワンホワンホワーン。

 

 

 

「バトルしないか?」

「バトルって、バトスピですか?」

「あぁ」

 

 僕は、聖天(せいてん)(ざん)は、家に帰る途中で若い男性に声をかけられた。真っ赤なとんがりヘアーの、高校生ぐらいの少年だ。僕より年上ということになる。

 彼はなにやら人を探してるとかで、僕も暇だったので、少し話を聞くことにした。すると、なんてこった、彼が探しているのは我が雇い主の、馬神(バシン)トッパその人だったのだ。そんなわけで、彼の探し物は案外簡単に見つかった。

 それから僕は彼を連れてバシンさんの店に向かった。道中、特に会話はなかった。どうやら彼はそんなにやかましいタイプじゃないらしい。実に結構だ。沈黙は金、なんたらは銀ともよく言う。しかしバシンさんの店に着く直前、彼は立ち止まり僕に話しかけることで沈黙を破った。その話しかけてきた内容というのが、僕へのバトルの誘いだ。

 

「僕はいいですけど、店までもうちょっとですよ?」

「あぁ。だけど俺も久々にバトルするからさ。ウズウズしてしょうがないんだよ」

 

 彼はデッキを取り出し強く握りしめ、僕を見つめた。なにやら力強いものを感じた。それに、バトルしたいという気持ちは分かる。説明は難しいのだが、カードバトラーというものは、そういう気持ちになることがしばしば起こるのだ。

 

「……分かりました。やりましょう」

「ありがとう。じゃあ、行こうか」

「行く?どこに?」

「当然、あの世界へさ」

「あぁ……。え、でも」

「行くぞ」

「お、おぉ」

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 そんなわけで、我々はあの場所、イセカイ界へ降り立った。ん、ちょっと待っただ。なぜ降り立っているのだろうか。

 

「なぜ降り立っているのだろうかー!?」

「それは、俺が界放したから」

「え?」

「なんてな。さぁバトルしよう」

「なんだ、なんなんだお前はァッ!?」

「お前が勝ったら全部答えるよ」

 

 彼は不敵に笑った。正直僕は彼に対して不信感というか、まぁそういう類いのものを感じはじめた。だが感じたからどうなるというものでもない。バトルは始まった。なら、バトルする他ないという結論になるのが摂理だろう。僕はデッキからカードを4枚引く。

 

「なら勝たせてもらう!俺の先攻、ドロー!『ゴラドン』と『英雄皇の神剣』を場に出し、ターンエンド」

「今度はこっちだ。スタートステップ。コアステップ。ドローステップ。そしてメインステップ!『ブレイドラ』、『イグアバギー』、『モルゲザウルス』を召喚。さらにバーストをセット。アタックステップ!」

 

 えー、状況を整理しよう。とりあえずBPだ。僕のゴラドンが1000で、向こうのイグアバギーも1000、ブレイドラはLV2で2000で、モルゲザウルスも2000だ。そしてモルゲザウルスはアタック時にBPが2000上がる。つまりBPは全体的に向こうが上ということになるので、躊躇なく攻撃ができるというわけだ。

 

「モルゲザウルスでアタック」

「ライフだッ!」

「ブレイドラ、行けっ!」

「ライフで受ける!」

 

 2体の攻撃を受け、僕のライフは2つ減って残り3になる。

 

「イグアバギーは残してターンエンドだ」

「俺のターン」

 

 カードを引く。そして僕は笑った。神剣の効果で、僕はバーストをセットしたらドローができる。それなのに前のターンでバーストを伏せなかったことから察してもらえるように、僕の手札にバーストはなかった。僕はバーストが自分の戦術だと思っているので、これはまことに遺憾であった。しかし今は違う。

 

「来た、来たぜ俺の切り札ァ!バースト、セットォッ!」

「バーストか」

「神剣の効果でドロー。さらに『カグツチドラグーン』をLV2で召喚。アタックだ。行けカグツチ、激突ッ!」

「……激突か」

 

 激突。その攻撃を相手は可能ならばスピリットでブロックしなければならないという能力だ。

 

「カグツチのアタック時の効果で1枚ドロー。さぁ、どう受ける?」

「イグアバギーでブロック!」

「そっちのBPは1000。LV2のカグツチは6000。もらったァ!」

 

 カグツチの口から撃たれた炎がエルギニアスを焼きつくし破壊する。

 

「よし!」

「……俺のスピリットの破壊により、バースト発動。『双光気弾』!2枚ドローし、コストを払い、フラッシュ効果を発動。神剣を破壊!」

「なに!?くっ、ゴラドンでアタック!」

「ライフで受ける」

 

 ゴラドンが彼のライフを砕き、彼のライフは4になる。もう向こうの場にブロッカーはいない。たたみかけたいところだが、こちらの場にもアタッカーがない。僕はおとなしくターンを終えた。

 

「やるな。鮮やかなバーストさばきだぜ」

「お前も、いい激突だ」

「激突に良いとか悪いとかある?」

「さぁな。でも分かるんだよ」

「……はっはーん」

「?」

「分かっちまったぜ。ズバリ、あんたの切り札は激突だ!ははは、うかつだったな~。俺はターン終了」

「……ふっ、どうかな。俺のターン」

 

 少しバトルから脱線してしまったが、収穫はあった。彼の切り札はおそらく激突を持つカード。激突は装甲で防げるはずだから、赤の装甲を持っているヤツを出せばいいのだ。僕のデッキで装甲を持っているカード、持っているカード、えー、あー、ない。なかった。やはり脱線は脱線ということだったらしい。それに装甲持ちがいたとしても、そいつが激突を受けないだけで他のカードは受けてしまう。

 おっと失礼、描写を忘れていた。えー、僕がいろいろ言っていた時、彼は1枚のカードを振りかざしていた。

 

「太陽よ、炎をまといて龍となれ!『太陽龍ジーク・アポロドラゴン』、召喚!」

 

 そして、そのドラゴンが場に現れる。彼のセリフ通りの、炎をまとった赤いドラゴンだ。たぶん、これが彼のキースピリット。

 

「バーストセット。ジーク・アポロドラゴンのLV1のBPは4000」

「来るか?」

「いや、ターンエンドだ」

「あ、あぁそう。そいつの効果は?」

「ジーク・アポロドラゴンか?こいつは、回復状態の相手スピリットに指定アタックができる」

「し、指定アタック!?」

「指定アタックはブロックを強制する激突とは違い、相手のスピリットを指定し、攻撃宣言直後のフラッシュタイミングを飛ばして、指定したスピリットのブロック宣言を強制し、バトルを行う」

「……よ、よく分からねぇが、つまりブロックは無理やりさせられるってことか?」

「あぁ。その後は普通のバトルと同じだ」

 

 つまりバトルは不可避だが、BPを比べる直前のフラッシュタイミングはあるというわけだ。つまりカウンターは普通にできる。

 

「なるほど、これが指定アタック。そういや、あいつのテキストにもそんなこと書いてたな。でもまぁ、疲労させれば問題ないってわけだ。よし、俺のターン!」

 

 指定アタック、なるほど厄介だ。BPがジーク・アポロに劣るカードならレベルを上げる前に倒されてしまう。だが指定アタックできるのは回復状態のスピリットだけだ。それにBPもどうしようもないというほど高くはない。BPさえ勝っていれば倒されることはない。

 

「なら、そいつを越えるパワーで攻める!」

「ジーク・アポロのLV3のBPは9000。いきなりそれを越えるパワーのスピリットを出せるのか?」

「コアがトラッシュに行きっぱなしなら無理だね。だが、こいつは使ったコアを自分の力にできる!」

「……なるほど」

「渦を巻け、地獄の炎!『焔竜魔皇マ・グー』、召喚!」

「それがお前のキースピリットか」

「そうだ。でも、これだけじゃないぜ」

「……そうか」

 

 アタックステップ。マ・グーの効果でトラッシュのコアは全てマ・グーに置かれLV3になる。LV3のBPは10000。さらにアタックステップ中の効果でBPが3000上がり、そして常に発動するLV2・LV3の効果で、系統に古竜を持つスピリット、つまりカグツチドラグーンと自身に、赤シンボルをひとつ追加する。

 

「行くぜ、カグツチのアタック!アタック時効果でドロー」

「ライフで受ける!」

 

 カグツチが放った息吹きが、彼のライフを2つ破壊する。大ダメージと言うに値するダメージだったはずである。しかし、彼は笑っていた。

 

「俺は、ライフを撃たせてコアをためるタイプでね」

「リスキーだな」

「リスクだけでもないさ。ライフ減少により、バースト発動。『救世神撃覇』!ゴラドンを破壊。さらにコストを払い、1枚ドロー」

「ぬぬ」

「自らライフを削ること。スピリットの破壊を選ぶこと。全ての痛みが、勝つための力になる。これが俺のバトルだ」

「……かっこいいじゃねぇか。俺は、これでターンエンドだ」

 

 斬 状況

 [手札]5[ライフ]3

 [場]《回復》

 マ・グーLV3(7)

 《疲労》

 カグツチLV1(1)

 

「俺のターン。マジック、『エクストラドロー』を使用」

 

 エクストラドローの効果は、デッキから2枚引いた後、デッキの一番上のカードをオープンし、それが赤のスピリットだった場合、手札に加えることができる、というものだ。オープンされたのは赤のマジック『リバイヴドロー』。よって手札には加えられない。

 

「ちょっと残念だったな」

「そうでもないさ。欲しいカードは引けたからな。行くぞ、『戦竜エルギニアス』、そして、『牙皇ケルベロード』召喚!」

「そいつは、まさか!?」

「ケルベロード、ジーク・アポロドラゴンと合体(ブレイヴ)!」

 

 青い狼が現れ、太陽龍と合体して1体の合体(ブレイヴ)スピリットになる。獣の鎧が龍を包み込み、その全身から青い光が発せられる。スピリットと合体し、その能力やBPを強化し戦闘力を上げる。それがブレイヴの力だ。

 

「ケルベロードは合体したスピリットのBPを5000上げる。さらにジーク・アポロをLV2にし、さらにBPアップ!」

「BP14000、マ・グーを遥かに越えるだと!?」

「そしてマ・グーは回復状態。行け合体スピリット、合体アタックっ!」

 

 合体しても指定アタックは健在。マ・グーが指定アタックされる。さっきも言った通りBPの差は大きい。

 

「マ・グーをこうも簡単に越えてくるのか……!」

「しかもこれだけじゃない。ケルベロードの合体アタック時の効果。ターンに1度、デッキの上のカードを5枚破棄することで、このスピリットは回復する!」

「ダブルシンボルの連続攻撃だと!?」

「行け、合体スピリット!」

 

 合体スピリットから放たれ炎がマ・グーを包む。合体スピリット自身の体も炎に包み込まれ、そして、マ・グーへの突進。マ・グーは破壊される。

 

「……くそっ!」

「続け、合体スピリット!これはライフへのアタック!」

「ライフで受ける!」

 

 僕のライフは2つ削られ、残り1になる。これで僕のライフは残り1。彼の場の攻撃可能なスピリットは3体。まさに絶体絶命だが、まだ打つ手はある。

 

「行くぜ、バースト発動!俺のライフが減った時、俺のライフが3以下なら、相手のBP15000以下のスピリットを破壊する。合体スピリットを破壊だ!」

「なに!」

「そしてこのスピリットを、コストを払わずに召喚する!『龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード』、LV2で召喚!」

 

 大地が割れ、その間から炎が溢れだし、向こうの場の合体スピリットをのみ込み、そして僕の場に赤い龍が召喚される。ヤマト・フリードのLV2のBPは10000。ちなみに、ケルベロードはスピリット状態で残った。

 

「それが、お前があの時に引き当てたカードか」

「そう。さぁ、この後のアタックはどうする?」

「……ブレイドラでアタック」

「ヤマト・フリードでブロック。そしてフラッシュタイミング!マジック、『ヴィクトリーファイア』だ!」

 

 ヴィクトリーファイアはBP3000以下のスピリットを2体破壊できる。V字の炎が、エルギニアスとモルゲザウルスを焼き払う。そして、ヤマト・フリードの剣がブレイドラを切り裂く。

 

「これでそっちのアタッカーは全滅!どうだァ!」

「……ターンエンド」

 

 僕のターン。彼の場にブロッカーはなく、ライフは3つ。これは千載一遇のチャンス。

 

「そして俺の手札には、こいつがもう1枚ある!焔竜魔皇マ・グー、召喚!そしてアタックステップ。トラッシュのコアを全てマ・グーへ」

 

 今僕の場にいるスピリットは全て系統に古竜を持っている。よって全員にシンボルが追加され、ダブルシンボルになる。

 

「攻撃がひとつでも通れば、俺の勝ちだ!」

「なら撃ってこいよ」

「……行くぞ。カグツチでアタック!アタック時効果でドロー。そして、これで終わりだ!」

 

 決死の突進。僕は勝利を確信した。しかし同時に僕は見た。彼は、笑った

 

「っ!?」

「フラッシュタイミング。マジック、『デルタバリア』を使用!このターン、コスト4以上のスピリットのアタックでは俺のライフは0にはならない」

「なっ、なに!?」

「アタックはライフで受ける。だが、俺のライフはひとつ残る!」

「ちぃ……!ヤマト・フリード、ケルベロードへ指定アタック!そしてマジック、『ピュアエリクサー』を使用。俺のスピリットは全て回復する」

 

 ヤマト・フリードも、LV2から指定アタックができるスピリット。絵のカッコよさでデッキに入れたカードで能力を把握してなかったが、指定アタックを知ることができたから、ちゃんと使うことができた。

 

「デルタバリアを使われてもケルベロードを破壊できるように、ヤマト・フリードのレベルを上げておいたわけか。やるな」

「へへっ!ピュアエリクサーの効果で回復したスピリットは、このターン攻撃できない。俺はこれで、ターン終了」

 

 斬 状況

 [手札]4[ライフ]1

 [場]《回復》

 マ・グーLV2(3)

 ヤマト・フリードLV2(3)

 カグツチLV1(1)

 

 勝ちきれなかったが、僕の場にはブロッカーが3体。この防御は簡単には突破できないはずだ。

 

「俺のターン。ブレイドラを召喚し、マジック、リバイヴドローを使用し、2枚引く。『森林のセッコーキジ』を召喚」

 

 彼の手札はこれで2枚。さして多くはない。しかしそれでも、なぜか自分でも分からないのだが、彼ならここから凄まじいものを見せてくれるような、そんな感じがした。

 

「あんたのカードもいいツラ構えしてるよな。かかってこいよ」

「良い自信だ。じゃあ、行くぞ」

「来い!」

「駆け上がれ、神の名を持つ赤き龍!『太陽神龍ライジング・アポロドラゴン』、召喚!」

 

 再び大地は裂け、彼の元にジーク・アポロに似たドラゴンが舞い降りる。違うところをあげると、全身が細くなって、攻撃性というか、そういうものが増したような印象を受けた。しかしアタッカー3体なら止められる。

 

「そして、『武槍鳥スピニード・ハヤト』を召喚し、スピニード・ハヤトを、ライジング・アポロドラゴンに合体!不足コストは、ブレイドラから確保!」

 

 やはりブレイヴ。鳥の翼と太陽神龍の翼が交り、巨大な翼になって緑色の強烈な光が発せられた。背中に槍が何本も生えている、かついでいる、どちらかは僕には断言しかねるが、とりあえず分かるのは、これから凄まじい攻撃が始まるということだ。

 

「アタックステップ!スピニード・ハヤトの効果で色をひとつ選ぶ。このターン、指定された色のスピリットにブロックされたら、この合体スピリットは回復する。俺が選択するのは、赤だ!」

「俺のスピリットは全て赤……!」

「そしてライジング・アポロドラゴンの効果で、系統に星竜を持つ俺のスピリットは全て、指定アタックができる。そしてライジング・アポロ自身も星竜!行け合体スピリット、カグツチドラグーンに指定アタック!」

 

 カグツチドラグーンはあえなく破壊され、さらに合体スピリットは回復する。つまり攻撃は続く。

 

「行け、合体スピリット!マ・グーに指定アタック!そして回復」

「くっ、フラッシュタイミング、ヴィクトリーファイアを使用。セッコーキジを破壊!」

 

 セッコーキジは炎にのまれて破壊される。しかし合体スピリットの攻撃を防ぐ手段はない。マ・グーは破壊される。

 

「行け、合体スピリット!ジーク・ヤマト・フリードへ指定アタック!そして回復」

「くっ、行け!ヤマト・フリードォ!」

 

 合体スピリットから放たれた炎とヤマト・フリードの炎がぶつかり合い、共に消える。しかし合体スピリットが投げた槍がヤマト・フリードに突き刺さり、その動きを封じる。そして、合体スピリットの決死の突進が、ヤマト・フリードを粉砕し、破壊する。

 

「……俺の負けか」

「俺は嫌いじゃないぞ。お前のバトル」

「だけど、デッキに答えることができなかった」

「なら強くなればいい」

「……その通りだ」

 

 デッキを見る。俺は悔しい。俺の好きなカードたちを使いこなせすことも、勝つこともできない。知らないことが多すぎる。俺は、弱すぎる。

 

「でも、次は負けない。明日の俺は、今日の俺より、もっと強くなるから」

「……そうか」

「さぁ、来い!」

「行くぞ。合体スピリット、合体アタック!」

「ライフで受ける!」

 

 最後のライフが砕け、僕の負けが決まった。

 

 

 

「じゃあ、行こうか」

「はい。また、バトルしてくれますか?」

「あぁ。またやろう」

 

 僕は差し出された彼の手を掴んで立ち上がり、そして、歩き出した。

 

 

 



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第8話 新たな力

バトル内容にミスがあったので修正しました。『巨顔石の森』の存在に起因するミスだったので巨顔石の存在自体を削除(12/3)


 半年後。

 アルティメット、ソウルコア、煌臨など、様々な新要素がバトスピに導入され、バトスピ界は混沌を極めていた。

 

「新要素に慣れてない今こそ、馬神トッパを倒すとき!」

「しかしヤツは強い」

「うむー。何度襲撃しても失敗しているからなぁ」

 

 トロピカルドレッシング団アジトでは、新ナゾオゾナたちが会議をしていた。

 

「やはり、強いバトラーが必要だなぁ」

「あ、そういえば、半年間山にこもって修行しているナゾオトナがいるという噂を聞いたことが」

「な、なんだと!?」

「それはすごい! その人は今どこに?」

「ここだ!」

 

 みんなが目を向けたその先には、なかなかの体臭を放つ男がいた。その場にいた誰もが感じざるを得なかった──頼むから風呂に入ってくれ──、と。しかし匂いを抜きにして語れば、その男は強者のオーラを放った、頼もしい男なのではあったのだ。

 

 

「いやー、バトスピって難しいなー」

 

 斬はバトスピの奥深さとか戦略性的なあれにつまづいていた。デッキの方向性に悩んでいたのである。

 

「斬さんのデッキコンセプトは前聞いたけど、なんというか……」

「なんだとー!? へっ、見てろよ、来週の大会までにはデッキ仕上げて」

「たのもー!!」

 

 斬が由希や鴉からデッキ構成の指南を受けていたところに、全身タイツの男、ナゾオトナがやってきた。

 

「いらっしゃいませー!」

「そういう正しい挨拶は要らぬ。私はナゾオトナだ」

「ナゾオトナ?なんでしたっけそれ?」

「馬神トッパはどこだ! 私がバトスピで叩き潰す!!」

 

 ここで斬は思い出した。以前バシンから、怪しいバトラーに気をつけろ、と言われていたこと、そしてもうひとつ。

 

「そんなやつに会ったら、思いっきりブッ飛ばせってなァッ!!」

「っ!?」

「バシン店長は留守だ。今はバイトのこの俺、聖天斬が、この店を預かっている!」

「ヤツの代理というわけか」

「そうだ。話があるならまず俺を倒してからだ!」

「いいだろう。半年の修行で編み出した新戦法、とくと見るがいい! ホアタァー!!」

 

 由希は思った。ここまでの展開の早さとかこのご時世でホアタァーとかキャラ付け雑すぎないかとか、いろいろである。しかしそんな彼女の胸中をよそに、闘いの火ぶたは切って落とされる。

 

「「ゲートオープン界放!!」」

 

 ふたりがバトルフィールドに降り立ち、その間に火花がバチバチとなる。先攻は斬。

 

「ドロー、メインステップ! 煌炎の神剣を配置。そしてバーストをセットし、1枚ドロー。ターン終了」

「煌炎の神剣の効果で、斬さんはバーストをセットする度にカードを1枚引ける。効果はターンに一回しか使えないけど、バトルが長引けば手札を大きく増やせるね」

「ならば、速攻で片付けるまでだ! コア、ドロー、メインステップ。緑鳥童子を召喚、さらに転召の祭壇を配置。そしてマントラドローを使用。カードを3枚引き、2枚捨てる」

 

 2枚捨てると言っておきながら、男はカードを1枚しか捨てない。

 

「おい、あと1枚捨てろよ」

「ククク、これがぁっ、目に入らぬかぁーっ!!!」

「な、なにぃ!?」

 

 緑鳥童子の胸元で輝く、燦然たる輝き。真紅の輝きを放つそれは。

 

「……ソウルコアか……!」

「左様。山での修行は辛く厳しいものだった……。しかし拙者が命の危機を感じたその時、ソウルコアのあたたかい永遠の輝き、その力の凄まじさを感じ、修行を乗り越えることができたのだ」

「なるほど……ソウルコアは普通のコアと違ってボイドにも送られないからな……」

「それだけではない。ソウルコアを参照することで発動したり強化される効果も多数あるのだ。このマントラドローもそのひとつ。このカードは童子の名を持つスピリットの上にソウルコアが置かれていれば、捨てる手札の枚数がマイナス1される」

「くっ、ソウルコアを使いこなしているだと……!!」

「これが修行の成果でござる。さらにもう1度マントラドローを使用」

「手札が整っていく……!」

「ターンエンドでござる」

 

 斬は戦慄する。目の前の男の気迫の凄まじさが、今になって全身を締め付ける。

 

「クソっ、負けるか! 俺のスタートコアドロー、そしてメインステップ! バーストをセットし、神剣の効果でドロー。ゴウジンをレベル2で召喚しターン終了」

「何かと思えばそれだけでござるか。緑鳥童子を活かしたマジックコンボをまた決めてやる!」

「それは無理だな。ゴウジンの効果、『一騎打』、発揮ッ!!」

 

 ゴウジンと緑鳥童子が向かい合う。風が吹きすさび、いつしかふたり以外の全てが世界から消え去り、一対一の真剣勝負の火ぶたが切って落とされる。そして刹那、決着の一刀が緑鳥童子を切り裂いた。

──ゴァッ──

 緑鳥が破壊され、爆風がナゾオトナを襲う。ゴウジンのBPは5000、緑鳥は1000なのでこの結果は妥当ではあったが、そもそもこの2体のバトルがなぜ発生したのかがナゾオトナにはナゾであった。ナゾオトナだけに。

 

「ぬぅぅ! な、なんだその効果は!?」

「相手のスタートステップに相手に自身のスピリットを1体選ばせ、それとバトルする。それが一騎打だ。そしてゴウジンがいれば、一騎打する相手スピリットを、俺が選ぶことができる」

「なるほど。毎ターン発動するとは厄介な効果だ」

「さらに、ゴウジンが相手スピリットだけを一騎打で破壊した時、カードを2枚ドローできる」

「……つくづく厄介でござるなぁ」

 

 由希と鴉も実感を込めてゴウジンを評する。

 

「低いBPのカードを出せばゴウジンの餌食になるだけ。これであの人の動きはかなり牽制される」

「あのカードは……厄介だね。あれを超えるカードを出しても、ブレイヴとかでBPが上がることもある。異魔神ブレイヴなんかはコスト4以上が合体条件のが多いから、ゴウジンにはピッタリだし」

「ま、斬さんが異魔神ブレイヴ使ってるのは見たことないけど」

「裁定とか分かってなさそうだしね」

 

 カードを褒められたり自身のオツムをディスられたりしていることに気づかないまま、斬はナゾオトナに威勢良く切り込む。

 

「どーよ! これで俺が一気に有利になったぜ!」

「……ネクサス、『芙蓉の五重塔』をレベル1で配置。そしてストロングドローを使用。3枚引き、2枚捨てる」

「だったら、ここでバースト発動、『巨神獣ファーゾルト』! このスピリットをノーコストで召喚する。そしてこのカードが場にいれば、俺はコアステップを2回続けて行う」

「……転召の祭壇をもう1枚配置し、ターンエンド」

 

 バトルの流れは斬に向きつつあるが、斬は油断してはいない。この程度の流れなど簡単に覆る、強者は無理やりにでも覆してくる、それがバトスピというゲームだと、この半年間で身をもって理解してきたからだ。だからこそ。

 

「俺の、最大最強の力を見せる! 行くぜ、召喚ッ!!」

 

 バトルフィールドを駆ける、真紅の情熱、炎をまといし翼。ナゾオトナの周りを包む大海の青を焼き尽くす、灼熱の嵐が巻き起こる。

 

「こ、これはっ!?」

「原初にして最強の力が、立ちはだかる全てを!正面突破でぶち破るッ!! さぁ来い!!」

 

 嵐が晴れ、そこには。

 

「龍皇ジークフリードッ!!!」

 

 雄々しきドラゴンが、戦場を睨み、敵を認め、荒々しく咆哮していた。

 

「……馬神トッパのキースピリット……貴様がなぜそのカードを!?」

「普通にパックで当てた」

「しかもあのカードはリバイバルバージョン。前のジークフリードと同じカードとして扱いながらも、効果は強化されている」

「その通り。その一つがこれだッ!」

 

 龍皇の胸で赤い宝石が光を放つ。

 

「ソウルコアの力か!」

「その通り。このジークフリードはソウルコアが置かれていれば、最高レベルとして扱われる」

「そしてジークフリードはレベル3で破壊された時、自分のライフが5以下ならボイドからコア2個をライフに置いて場に回復状態で残る。つまり無敵!」

「なんというカードだ……!」

 

これで戦況は大きく斬に傾いたと言えた。

 

「……アタックはせずターン終了だ」

「えっ?」

「……ほう」

 

今は攻めるには好機だったはず。しかし斬の動物的勘は、攻めるべきではないと告げていた。

 

「良い勘をしている、と言っておくか」

「へっ。お前の番だぜ」

 

 ナゾオトナのターン。その手から、白い閃光がはしる。

 

「行くぞ、ここで、異魔神ブレイヴを召喚するっ!」

「異魔神ブレイブだと!?」

「来い、『霊銀魔神』!!」

 

 白銀の精霊が現れた。

 

「異魔神ブレイヴ、聞いたことがある」

「知っているのか鴉!?」

「うん。その昔、職人が1枚1枚磨き上げ、丹誠込めて生み出されたという伝説のカード。1枚のブレイヴでありながら2体のスピリットと合体でき、右合体と左合体で異なる効果を持っているという噂だよ」

「な、なんてすげぇカードなんだ!」

「でも、拙者はもうターンエンドだけどね。コア無いし」

「マジで!? なら、ここで一気に勝ちに行く! ネクサス、英雄皇の神剣を配置。このカードは煌炎の神剣と同じ効果を持っている。そしてバーストをセット! 2種の神剣の効果により、2枚ドロー!」

「神剣が2種揃ったことによって、斬さんはバーストを伏せる度に2ドローできる。これは強い」

「んでもって、もういっちょ行くぜぇっ!!」

 

 炎がまた燃え上がり、そして現れる、古の世界より生まれしドラゴン。

 

「渦を巻け、地獄の炎! 永久不滅の魂よ、今こそ勝利をつかみとれ! 『焔竜魔皇マ・グー』、召喚!!」

「出た、斬さんのデッキの要!」

「今こそ勝機! アタックステップ、マグーの効果でトラッシュのコアを全てマグーへ置き、レベル3にアップ! そして、マグーのアタック!!」

 

 マグーの突進。その足が進むたび、その全身に、更なる赤い力が宿る。

 

「マグー、レベル2、3の効果。系統『古竜』を持つ自分のスピリットのシンボルを1つ増やす!」

「なに!?」

「古竜なのはマグーとジークフリードの2体。この2体がダブルシンボルになり、さらにアタッカーとしてゴウジン、ファーゾルトがいる。このフルアタックが通れば!」

「斬さんの勝ち……だけど」

「では、フラッシュタイミング。五重塔の効果で、手札の青カードを破棄して2枚引き、そして1枚捨てる。拙者はグリズラッシュを捨てるが、グリズラッシュは自身の効果により、捨てられる代わりに場に召喚される」

「だが、BPは7000だ。マグーは13000だから、まだ勝てる!

「左様。ゆえに、マグーのアタックはライフで受ける」

 

 魔皇のダブルシンボルの一撃をまともに受けるナゾオトナ。その足下にあるバーストは、開かない。

──ライフ減少時バーストじゃない?──

 ナゾオトナのバーストを、ライフ減少時に発動する攻撃防止系のバーストだと読んでいた由希は、読みが外れたかと感じた。しかし。

 

「続けて、ファーゾルトのアタック! こいつはBP8000、グリズより上だ!」

「そのアタックはライフで受けよう。だが!」

 

 ゴウジンの一撃がライフを砕いた瞬間、バーストカードが弾け飛ぶ。

 

「バースト発動! 『絶甲氷盾』!!」

 

 最強の盾が、男の前で張り巡らされ、斬の追撃を阻む。絶甲氷盾はライフ減少をトリガーに発動するバーストであり、そのバースト効果は、ボイドからコア1個を自分のライフに置けるというもの。そしてバースト効果発揮後コストを払うことで発動するフラッシュ効果は、今行っているバトルが終わった時、アタックステップを終わらせるというもの。この2つの効果によって、斬の攻撃を難なく退けたのである。

 

「くぅ〜! やっぱ絶甲氷盾つえーぜ」

「左様。拙者が海賊に襲われた時、このカードにはいつも助けられた。まさに最高の盾よな」

「へっ。俺はこれでターン終了。さて、そろそろそっちの手のうちも見せてもらおーか」

「何の話だ?」

「とぼけんなよ。今のターン、マグーの攻撃の時に絶甲を使ってれば、ファーゾルトの攻撃は受けずに済んだ。なのにファーゾルトの攻撃をあえて受けたってことは、コアを増やしてやりたいことがあるってことだろ」

 

 ライフを削られれば、そのライフのコアはリザーブに送られる。そしてそのコアは、次に使うカードの力になる。ライフを守るばかりが戦術ではなく、時にはライフをあえて削らせる勇気も必要。それこそがバトスピの醍醐味である。

 

「海での修行はスリルと危険の連続であった。そしてそんなピンチの時には、常にチャンスも見え隠れしていた。バトスピと同じだ。針のあれをあれするような、チャンスを掴む! 拙者のスタートコアドロー、そしてメインステップ!」

 

 それまでは静かだった海が、荒ぶる波を立てる。何かの到来を祝うかのような光景であった。そしてその何かが、天の頂から産声を上げる。

 

「深海より天に投げられし光に導かれ、最強の超越者がここに君臨する! 『蓮華王センジュ』よ、レベル2で、蒼き無限の力を解き放て!!」

 

 天より光り差し、荒波が砕ける。大きく開けた視界の先に現れたのは、その名の通りの蓮華を身につけた、数多の腕持つ、青の最強クラスのスピリットであった。

 

「こ、これがあのタイツの狙い……!」

「すごい!」

「……くっ!」

「霊銀をセンジュに右合体。さらに、バーストセット! そしてこれで仕上げだ、アビスアポカリプス召喚! グリズラッシュに、合体(ブレイヴ)!!」

 

 アビスの召喚時効果でこのターン、ナゾオトナの場のスピリット全てのレベルは最高レベルになる。これで、センジュのフルパワーの攻撃が斬を襲うことが確定した。斬は地獄の大地の到来を実感しながらも、あがく。

 

「アビスの召喚時効果発揮により、バースト発動、双翼乱舞! カードを2枚ドローだ」

「だからどうした。行くでござる、アタックステップ!! センジュでアタック。そしてセンジュ上のソウルコアをトラッシュに送り、『起導』!!」

「起導!?」

「自分の場にセットされた特定のバーストカードを、発動条件を無視して発動させる効果だ。これにより発動、『S(ソウル)バースト』っ!! 鉄拳明王のバースト効果を発揮!!」

 

 起導はソウルバーストと書かれたバーストカードを発動させる効果。バーストなら何でも良いというものではなく、加えて、自分ターンのアタックステップでバーストを使ってしまうことにより、次の相手ターンでの防御が脆くなってしまう点など、いくつかの弱点もある。それを承知でこの起導を使うということは。

 

「あのナゾオトナは、このターンの攻撃に全てを懸けている……?」

「鉄拳明王の効果により、トラッシュのオステアと旅団の摩天楼2枚を配置。さらに鉄拳を召喚。摩天楼の配置時効果はカードを1枚引くこと、2枚出たので2ドロー。そしてセンジュの効果。このカードが起導した時、コスト合計10まで相手スピリットアルティメットを破壊する。コスト8のファーゾルトを破壊!」

「くっ! ここでファーゾルトを狙ってきた理由は……」

「そいつがお主の場で唯一の白属性カードだったからだ。アビスの合体時効果。相手は自身の場にある色のシンボル以外の色のマジック、バーストを使えない!」

「これで、斬さんの赤以外のカウンターが封じられた!」

「さらに霊銀魔神の右合体時効果! この攻撃は、合体スピリット以外ではブロックできない! そしてセンジュは、自分のネクサスの数だけ、自身に青のシンボルを追加する!!」

 

 センジュの元に青い光が集い、その力を増幅させる。ナゾオトナの場のネクサスは祭壇2枚、五重塔、摩天楼2枚、アステアで、合計6枚。

 

「霊銀と合体したことにシンボルは2つになり、効果で6個追加される。よって、センジュのシンボルは8!」

「まさに一撃必殺! しかもブロックもできない!」

「斬さんのマジックも赤以外封じられている。赤のマジックじゃ、この攻撃は止められない!」

 

 センジュの拳が、斬に迫る。

 

「ネクサスの力で敵を止め、自らの攻撃力を増大させる。これが青の戦術だ! この流れは、もう止めることはできない!」

「たしかに、止めることはできない」

「ならば、これでトドメだ!!」

 

 勝負あった、誰もがそう思ったその瞬間、ナゾオトナはセンジュの体をまとう力の減退に気付く。

 

「センジュのシンボルが……減っていく!?なぜだ!?」

「たしかに青の戦術はすげぇ。だが赤の戦術だって負けちゃいない。全ての破壊、それが赤の力! 俺はマジック、『エグゼフレイム』を使用するッ!!」

 

 斬の背後から雄々しい馬が現れ、角から炎の嵐を起こす。

 

「このマジックの効果により、相手のスピリットをBP合計15000まで、好きなだけ破壊できる!」

「眠たいのか!? センジュのBPは21000、グリズラッシュは20000! 拙者のスピリットは一体たりとも破壊できんでござる!」

「エグゼフレイムのさらなる効果! 相手のネクサスカードを、全て破壊する!!」

「なに!?」

 

 センジュを護っていた結界が、ひび割れ、やがて、爆発する。センジュのシンボルは2つになる。

 

「……この手があったか……!」

「アタックはライフで受けるぜ!」

 

 センジュの攻撃が斬のライフを2削る。ライフは減ったが、被害は極力抑えた格好だ。

 

「ぬぅ。ターンエンドでござる」

 

 ネクサスを活かすのが青の基本戦術。そのネクサスがまとめて破壊されてしまったダメージは大きい。

 

「俺のターン、バーストをセットし、2枚の神剣の効果でドロー。そして!」

 

 その隙をつかんと、斬は勢いよくカードを引き、その手に熱い炎がまた燃え上がる。それはこれまでのような赤色ではなく、金色の光を放っていた。

 

「光と闇を導く龍よ! 新たな剣携え、究極を御する覇者となれ!!『究極輝神アルティメット・オーバーレイ』、天駆ける聖天より、レベル4で降臨ッッ!!!」

 

 黄金の装甲、頑強な盾、スピリットのオーバーレイとはまた異なる武装をまとった新たなオーバーレイが、天から差し込む陽光を背に降臨する。その胸に輝くは、黄金のシンボル。そう、このカードは。

 

「アルティメット……だと……!?」

「スピリットに匹敵する、スピリッツワールドに現れた新たな力。それがアルティメット! その超パワーを見せてやる、『超抜刀』発揮ッ!!」

 

 斬の手札から、ジュピターセイバー、エルナトがノーコストで現れ、それら二本の剣がオーバーレイの手に握られる。エルナトは斧だけど。

 

「超抜刀は、オーバーレイと合体可能な系統『剣刃』のブレイヴを2体までノーコスト召喚できる効果。ジュピターの召喚時効果でコアブースト。そしてそのままオーバーレイと、ダブル合体(ブレイヴ)!!」

「ダブルブレイヴだとぉ!?」

「さらに『煌星第十使徒デズデモーナ』を召喚。そして、アタックステップ!」

「来るか……!」

「オーバーレイ、攻撃だ! そして……アルティメットトリガー・ロックオンッ!!」

 

 ナゾオトナのデッキの一番上のカードが弾け飛ぶ、このアルティメットトリガーこそがアルティメットの最大の特徴と言おうと思ったが別にそんなこともなかった。トリガーでめくれたカードのコストよりオーバーレイのコストの方が高ければ、トリガー効果が発動する。めくれたそのカードは。

 

「七海大名シロナガス! コストは12、オーバーレイは9だから、効果は不発でござる!」

「たしかに、オーバーレイひとりなら不発だ! だが!!」

 

 オーバーレイの前に立ちはだかるシロナガス。オーバーレイよりも巨大なその姿の威圧感は凄まじい。しかしオーバーレイはひるまない。

 

「力を貸せ、エルナトォッ!!」

 

 その手に握られた斧から炎が溢れ出し、それは全てを噛み砕く龍の姿になる。龍が海の中に潜り、そして、辺り一帯の海が爆発する。

 

「な、何が起こっている!?」

「エルナトはコスト4。ブレイヴは合体したスピリットに自身のコストを追加する。ジュピターは合体時コスト2になる効果があるので、オーバーレイのコストは15になり、シロナガスを超える! よってトリガーはヒットだ!」

「くっ! トリガーカウンターがあれば防げるが、そんなものは無い……!」

「なら、オーバーレイのトリガー効果! このアルティメットと合体しているブレイヴの数だけ、相手のスピリットを破壊する!」

「なんだとぉっ!!?」

 

 爆発は止まらない。海は焼け、炎の龍がところかまわず、何もかもを焼き尽くす。

 

「海を焼くだとぉ……非常識なっ!!」

「何もかもが規格外! これがアルティメットの力だァッ!!」

 

 センジュとグリズラッシュは龍を押し止めようとするが、世界は灰に溢れ、大気は黒く染まりゆく。黒く染まった空に究極輝神が浮かび上がり、その目が光る。次の瞬間、二本の刃がセンジュとグリズラッシュを切り裂いていた。

 

「ば、バカなっ!?」

「ジュピターはシンボルを持つブレイヴなので、この攻撃はダブルシンボルだ! さぁ、どう受ける!?」

「ならば、フラッシュタイミング! マジック、絶甲氷盾っ!! この攻撃の終了とともにアタックステップは終わる。そして攻撃は鉄拳でブロック!!」

 

 純白の盾が、攻撃を阻む。

 

「ちっ、2枚目を引いてたか。ターンエンドだ」

「この引きの良さも修行の成果。さて、拙者のターンでござるなぁ」

 

 ナゾオトナのターン、彼はまずマントラドローを使い、捨てるカードにグリズラッシュを指定し、そのまま召喚する。

 

「アビスをグリズと合体! そしてアタックステップ。グリズラッシュでアタック。そして、アタックステップ、ソウルコアをトラッシュに送ることで、発揮!」

「なに!?」

「とっておきの新効果だ。とくと見ろっ、『煌臨』っ!!」

 

 ソウルコアが浮かび上がり、そこから時空が歪み、世界の向こう側から、新たな力、白い龍の腕が飛び出る。

 

「ソウルコアをコストに、特定の条件のスピリットの上に重ねて場に出す。それが煌臨。このカードの煌臨条件はコスト6以上のスピリット。グリズラッシュはコスト12なのでクリアしている。よって!」

「来る!」

「『秩序龍機νジークフリード』、レベル3で煌臨っっ!!!」

 

 その正体は、煌臨に対応してパワーアップした、新しいジークフリード。白のスピリットになっている。炎の暴威によって破壊されていた秩序が、この世界に蘇ったような感じがした。

 

「νジークの煌臨時効果。系統をひとつ指定する。武装を選択。山札の上から指定した系統のブレイヴが出るまでめくり、最初に出たブレイヴを場に出す。それまでにめくったカードは全て破棄する」

「出たのは……?」

「こいつだ。ガンズ・バルムンク! そして山札から破棄されたソルダーアズール3体とグロリアスフリューゲル1体を、ノーコスト召喚!」

 

 BP3000のソルダーアズール3体とBP3000のフリューゲルが、ナゾオトナを守る盾のように、立ちはだかる。

 

「こ、このタイミングで4体ものスピリットを並べるなんて……」

「ソルダーアズールとフリューゲルは山札から破棄されたとき、ノーコストで召喚できる。そしてバルムンクをそのままνジークに合体!」

「そ、そいつもダブルブレイブできるのか!?」

「νジークにそういった効果はないでござるが、ガンズバルムンクには『ジーク』スピリットに合体する時に合体可能なブレイヴに数えないという効果がある。理論上はダブルと言わずもっと合体することも可能でござるが、お主を倒すにはこれで十分」

「なに!?」

 

 νジークが、斬のスピリットたちが届かないほどの高さまで駆け上がり、遥か天空の彼方から、その銃口を斬に向ける。

 

「νジークは合体アタック時相手の効果を受けず、ターンに1度回復する。そしてバルムンクの効果により、この攻撃はブロックされない!」

「またか!」

「だがその前に、ソルダーアズールの召喚時効果。相手のスピリット1体を手札に戻す。3体出たので3回発動するというわけで、そちらの場のスピリットは全て手札に」

「デズデモーナの効果。召喚時効果を発揮する場合、ライフのコア4個をボイドに送らなければその効果を使えない。ライフ3のお前には、効果を発揮させることはできない!」

「だからどうした。喰らえ、νジークの合体アタックをっ!!」

 

 容赦なく放たれる、必殺の一撃。さらに青い呪縛が、斬の足を絡めとる。

 

「アビスの効果により、お主は赤以外のマジックとバーストを使えない。今度こそ、終わりだ!」

 

 しかし斬の目の光は消えない。その手に煌めくのは白い光。

 

「この白のカードなら、ここを守り抜けることができる! 」

「何度言えば分かる! 白のマジックを使うことは……」

 

 しかし斬の手から放たれたそのカードは、アビスの力に掻き消されることのない、強く、大きな輝きを放つ。驚きに見開かれたナゾオトナの眼前に現れたのは。

 

「スピリットカード、『己機人シェパードール』の、『アクセル』、発揮っ!!」

 

 マジックでもバーストでもない、スピリットカード。その手から結晶のバリアが広がっていき、それは、斬の四方を完全に覆い、大いなる青の進行を完全に阻んでしまう。

 

「あ、アクセル……だと……!?」

「マジックと同じように、フラッシュタイミングやメインステップでコストを払って発動する効果だ。これはスピリットの効果として扱われるため、アビスの効果の妨害を受けない! そしてシェパードールのアクセル効果によってこのターン、コスト4以上のスピリットアルティメットの攻撃では俺のライフは減らない!」

「……くっ! そんなカードがあるとは……ターンエンド」

「修行してたのはお前だけじゃねぇ。俺たちバトラーはみんな、ジタバタやってずっと腕を磨いてきたんだ。まだまだ負けてはやらねーぜ!」

 

 斬の目の輝き。それは強く、たくましかった。ナゾオトナはそれを見て、修行のさなかで出会った動物たちのたくましい生き様を思い出す。草原を駆ける獅子の猛々しさ、空を舞う鷹の自由さ、そして、自然という厳しい環境の中で仲間と友に生き抜く絆の強さ。目の前のバトラーにその強さに通づるものを感じ、感嘆の声を上げる。

 

「良いスピリッツを持っているな、ボーイ。強くなりたいという、熱い魂がある」

「あぁ。あんたみたいな強い人が相手だと、いっそう熱く燃え上がって、楽しくてしょうがなくなる。礼を言うぜ」

「それはお互い様だ。半年間、人間とバトルすることは無かったが、やはりバトルは面白い。心がたぎる」

 

 視線が交わる。ナゾオトナ、斬ともに、不敵な笑みをたたえる。相手を讃える気持ちも強く持ってはいたが、その目は激しくギラついてもいる。

 

「勝つのは俺だ!って顔だね、ふたりとも。まぁ片方はタイツだけど」

「意外と気が合いそうだね、あのふたり」

 

 剥き出しの勝利への執念がぶつかり、弾ける。全ては次の一瞬で決まる。斬は、山札の頂点、その一枚に手をかけ。

──おまえに、俺の魂をかける!──

 燃える炎一閃、そのカードは。

 

「……来たぜ、召喚、『ダークナイト・ドラゴン』! 不足コストはデズデモーナから確保。その召喚時効果で、俺のライフを1つボイドへ送り、BP6000以下のスピリットを破壊。フリューゲルを破壊!」

「デズデモーナを消し、自分のライフをわざわざ削ってその程度か?まだまだ、この白のブロッカー軍団を突破することは……」

「俺がダークナイトを出した目的が、お前のスピリット一体を倒すためだけだと思うか?」

「な……?」

 

 地獄の大地が、鳴動する。秩序が戻りつつあった世界で、再び炎が燃え上がる。天から降り注ぐ剣の雨が、ソルダーアズールを貫いてゆく。ここでナゾオトナは気付く。斬のライフがダークナイトの効果によって減少していること、つまり。

 

「ライフ減少時バーストの発動条件が満たされた……! これが狙いか!!」

「その通り。バースト効果により、俺の赤のスピリットの数だけ相手のBP6000以下のスピリットを破壊! よってソルダーアズール3体を破壊し、そして、このスピリットをノーコスト召喚!!」

「なにが来る!?」

「この半年の修行の果て、なんやかんやあって手に入れた、俺の新しい切り札だ!」

 

 それは覇王。マグーが喜ばしげに咆哮している。かのジークヤマトフリードに匹敵するとされる伝説のスピリット。

 

「地の底より猛り立つ、熱き炎の龍よ!天より注ぎし剣を以て、戦場を赤く染め上げろ!! 『天剣の覇王ジーク・スサノ・フリード』、レベル3で召喚ッ!!!」

 

 最強の覇王の一角が、地殻を突き破り、戦場に見参する。そのレベル3BPは15000。

 

「これが……」

「斬さんの新しい切り札か……!」

 

 鴉と由希は戦慄する。ライバルの新たな切り札、それは黒く巨大で威風堂々、覇皇の名に恥じぬ威圧感と迫力を持っていた。そして戦慄していたのは当然ナゾオトナも同じ。νジークと天剣の覇王が、今ここに対峙する。

 

「バーストをセットし、英雄皇の神剣をレベル2へ。このコアの移動により、オーバーレイのレベルは3にダウン」

「えっ?」

「ほう」

 

 オーバーレイのUトリガーはレベル4から発動する。つまり今、斬はオーバーレイのトリガー効果を捨てたことになる。由希は怪訝な顔をする。

 

「νジークが相手の効果を受けないのは自身の攻撃中だけ。オーバーレイのトリガーがヒットすればνジークは簡単に破壊できるはず。それに今のオーバーレイは合体でコストが上がってるから、トリガーが外れるとも思えない。ミスかな?」

「さて。でもこれもひとつの選択。この斬さんのプレイでバトルがどうなるか、興味あるね」

 

 当の斬は、自信満々といった顔であった。ナゾオトナも、受けて立つという感じの顔であった。

 

「行くぜ、アタックステップ! ジークスサノフリードで、アタックッ!!」

 

 数多の黒い剣が舞い、ナゾオトナを襲う。

 

「ジークスサノのアタック時効果。バーストをセットしている間、このスピリットに赤のシンボルを1つ追加する。そしてこのカードは『古竜』なので、マグーの効果でさらにシンボル1つ追加! BPプラス3000!」

「つまり、トリプルシンボル!?」

「ならば、νジークでブロック! そしてマジック、『光翼之太刀』っ!!」

 

 νジークの背で眩い輝き放つ翼がはためき、黒剣の届かぬ天空へ舞い上がる。

 

「光翼之太刀は場の1体のBPを3000上げ、疲労状態でもブロックできるようにするカード」

「νジークレベル3のBPは18000。アビスは5000、バルムンクは6000だから、つまり」

「νジークのBP、32000っ!!」

 

 青い飛沫、白い光線、ナゾオトナが振りかざす全ての力が集約し、νジークを奮い立たせる。その咆哮は大地を揺るがし、そして、全てを滅ぼす弾丸が、速く、静かに放たれた。

 

「これで、終わりだぁっ!!」

 

 終局の一撃。しかし。

 

「あぁ、終わりだ。だがナゾオトナ、お前の終わりだッ!!」

「っ!?」

「燃え上がれ、英雄皇の神剣ッ!!」

 

 空から顔を見せるのみだった神剣が、弾丸に突き刺さり、その勢いを削ぐ。

 

「神剣の効果。合体していない系統『覇皇』を持つ自分のスピリットのBPをプラス3000。さらに!」

 

 斬の足下に伏せられたバーストが、その正体を隠しながらも、爆発し、それに呼応して神剣も炎に燃える。

 

「自分のバーストがあれば、さらにBPプラス5000!」

「だが、それでもBPは26000! 全然届かんでござる!」

 

 しかし、バーストの爆発に呼応して燃え上がるものは他にもあった。それは、スサノの魂。

 

「スサノのアタック時効果! バーストがあれば、自身のBPをプラス10000する!」

「なっ!?ということは、BP36000!?」

 

 光の弾丸を掻き消し、天剣の覇皇が鋼の龍の前に立ち、その剣を振りかざす。

 

「薙ぎ払えぇッ!!!」

 

 圧倒的な刃が、νジークを切り裂く。決着は一瞬であった。迅雷のごとく、スサノの友である古竜たちが戦陣をきる。

 

「待たせたな、ジークフリード! アタック頼んだぜ!」

「ライフで受ける!」

 

 ジークがライフを2つ削る。そして、これが真の終局。

 

「これがラストコールだ。行け、マグーで アタック!!」

 

 竜が行く。その竜はこのバトル1度も場を退かず、斬を支え続けた。

──思えば、拙者の攻撃がことごとく防がれたのは、お前のコア回収能力があってこそだった、か──

 ナゾオトナは笑い、そして、その結果を受け入れる。

 

「ライフで受けよう」

 

 バトルは、斬の勝利に終わった。

 

 

 ナゾオトナはデッキの一番上のカードを確認する。それは『ホソアカクワガー』。Uトリガーによってトラッシュに送られた時、そのトリガーをガードするというカード。つまり、オーバーレイで攻撃していればトリガーは不発になってνジークは倒せず、光翼之太刀によってナゾオトナは斬の攻撃を凌げていたということになる。そして。

 

「……ふん」

 

 ナゾオトナは自らの手札に残った最後のカードを一瞥し、それを静かにデッキに戻した。そして、無邪気に喜んでいる斬たちの元へ歩み寄る。

 

「よっしゃぁぁぁつ!! イエェェェイッッ!!」

「でも、最後のプレイングってあれでよかったのかな?」

「オーバーレイのレベル下げたことか?ま、勘だよ勘。相手次第だけどさ」

「あれが最善でござるよ。拙者の完敗でござるな」

 

 νジークのカードが、斬に差し出される。それを受け取りながら怪訝な顔をする斬に、ナゾオトナはマスクを脱いで微笑みかける。

 

「ナゾオトナは負けたとき勝者にXレアカードを渡す決まりがある。バシンに渡す予定のものだったが、ヤツの代理に渡すのならば同じことだろう。バトルの礼として受け取れ」

「ま、マジで?いいの?」

「我が名は(かがやき)青嵐(せいらん)。次の大会、拙者も参加する。その時こそ、青の力がお主の破壊の力を上回る時だ」

「いいや、次も俺が勝つぜ青嵐!」

「……また会おう、斬」

 

 青嵐は笑い、去っていった。

 

「変な人だったね」

「あぁ。正直全然勝った気がしねぇ。底が知れねぇ」

「うん。あの手札に残った最後のカード、たぶん」

「くぅ〜! 燃えてきたぜェッ!! 鴉、由希、バトルしようぜぇっ!!」

 

 

 一方、その頃。

 

「よぉ」

「……」

 

 バシンはひとりの男と対峙していた。

 

「店はいいのか?」

「弟子に任せてる。急に店空けるのは気が引けたけど、激突王とバトルするチャンスだしな」

「あんただってバトスピ王だろ。バトルできるなんて嬉しいぜ」

「へっ」

 

 静かに、闘いの門が開く。

 

「「ゲートオープン界放!!」」

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。多くの読者の方には久しぶりというべきだと思います。更新が大幅に遅れた、というかもう更新なんかしないだろこれって感じになってしまい、期待してくださっていた読者の方々には申し訳ないです。
更新が遅れたの理由はリアルが忙しくなったとかそういうよくあるヤツです。この小説をちゃんと完結させたいという気持ちが完全に消えてはいなかったからか、今回はなんとか書けました。この調子が続くよう努力します。
アルティメットが覚醒すると云々とかいう誰も覚えてなさそうな謎設定は正直なかったことにしたいですが、一応本編の中で補完したいとは思います。
最後に、お読みいただいて本当にありがとうございました。感謝します。そして、更新が遅れたこと、本当に申し訳ありませんでした。次に皆様に会える日を楽しみに執筆に努めますので、お見守りいただけたら幸いです。


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