血染めの少女のヒーローアカデミア (舞われ回れ)
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少女のユメ
評判がよければ、続くかも。
桜が見頃を迎えた春の季節。
時刻は深夜2時。
とある街の、とある裏道。
周囲に幾つかある街灯は壊れ、雲空から覗く月明りが照らすばかりの路地の隅。
善良な市民達は決して近付かず、善良でない市民達は真実を知るが故に近付かない。
そんな人気の全くない場所に
少女が身に纏う衣装は、薄手のワンピースだ。
春の肌寒い深夜にだというのに、白い肌を惜しげもなく晒している。
それを補うつもりか、スカートから覗く太ももを黒いニーソックスで隠しているが、かえってその薄布はしなやかな肢体の輪郭線を強調し、その姿に扇情的な印象を与えている。
「どうしました。それでもヴィラン?ヴィランならヴィランらしく戦いなさい。欲望のままに、罪なき市民の大切なモノを奪い殺し犯しなさい。目的の為なら手段を選ばない狡猾で極悪非道な戦いを演じろなさい。正義のヒーローに敗れても、最後まで醜くあがきなさい」
少女の親切な
顔を蹴り飛ばして見るが反応は鈍く、呼吸音が聞こえるばかりだ。
靴に血が付いた見返りが、コレだけとは、と少女は悲しくなった。人の話はしっかり聞きましょうと学ばなかったのか。
予行練習の為わざわざ来たというのに、こんなのしか見つからないとは、とんだ無駄足だった。
さっさと終わらせて家に帰ろう。
少女がそう思っていると、彼に意識がある事に気付いた。
唾液を呑み込んでいる。
この行為は意識が無いとできない。寝ているときに、ヨダレが垂れる事があるのはこの為だ。
逆転を狙って、気絶したフリをしていたのなら、彼の評価を改めなければならない。
そして、気を引き締めなければならないだろう。
敬意を評して少女は彼の手足を切断した。
「ねぇ、私はね。正義のヒーローになりたいのです。
勿論知ってますよね。ヒーロー、ヒーローです。
国家資格が必要な職業であなたの様な犯罪者、ヴィランと戦って、お金も地位も名声も手に入る職業です。
子供がなりたい職業、不動のNo.1。
けど私はお金とかには興味はないんです。全部お父様の跡を継げば、いえお父様の子供に生まれた時点で持ってますからね。
なら何故ヒーローになりたいか?、ですか。
そんなの決まってるじゃないですか、貴方が分からないなんて少し不思議ですね。
だって
合法的に、罪に問われることも無く。素晴らしいと思いませんか?日常的に直接人間を殺して、社会から称賛される職業なんて他にありません。
これは、目指すしかないでしょう!?
実は私、明日から雄英高校のヒーロー科に入学するんです。試験では失敗してしまったから、不合格だとばかり思っていたのだけど、合格してました。吃驚仰天、狂喜乱舞です。
けれど、恐らくはギリギリの補欠合格でしょうから、授業についていけるか不安も感じてます。
だから
あれ、ちゃんと聞いてますか?」
「………」
「返事が無い。ただの屍の様だ。てね。
これは出血死ですかね?手脚を切ったのは、失敗でしたね。反省しなければなりません。しかし、彼もだらし無いですね?ヴィランを名乗るのなら、もう少し強くなくては困るのですが…」
少女はいつも通り、彼の処分を始める。
最初に取り掛かるのは、身体を小分けにする事だ。
手脚をそれぞれ3等分程度に切り落とし、胴体に取り掛かる。
首を切断。胸を切断。腰を切断。太ももを切断。
上から順番に横切りにしていく。
これが終わるとに次は縦切りだ。
まずは身体の中心線を。さらにそこから左右に均等な感覚を保って切っていく。
ある程度の大きさになったら、最後の工程だ。
彼の身体を乱雑に切断する。食材を微塵切りにするのと似ているだろう。
それを数秒で、しかも一切手を触れる事なく行った。
「処分先はいつもの場所でいいでしょう」
水溜りで遊ぶ子供の様に、少女は足元の血溜まりを弄ぶ。すると路地を真っ赤に染めた、彼の肉片は消え受せ、元凶たる少女も姿を消した。
「人間の武器は、戦いは、進化しました。サーベルからマスケット銃、マスケット銃からライフル、ライフルからマシンガン、そして現代では『個性』へと。そしてそのたびに人間は新しい武器を見て嘆きました。
「なんと醜く、無惨なものを」とね。そして、誰もが馴れましたとさ。めでたしめでたし」
少女は手すりに寄りかかり夜の街を見下す。深夜でも絶えず光輝く街から生汚れた大気が暖かい風となって吹き付け、長い髪を靡かせる。
(
「ヴィランは超人社会に必要なのです。敵がいなければかえって危ない。ヴィランが死滅すればヒーローも絶滅する。うまい具合にバランスが取れていなければならない。だからヴィランとヒーローの戦いは、バランスを、保ちながら永遠に続くのです」
少女は
匂いを早く落とさなければならない。今はまだ気付かれては駄目だ。
自身の小さな身体を隅々まで洗い、湯船に浸かる。
「『正義のヒーローは傷つく覚悟をしなければならない』とはいえ、身体に傷は作りたくないですね」
明日からの新生活に期待を膨らませて、少女はお風呂を楽しんだ。
『少女』
個性「????」
長い青髪に小さな身体の夢見る女の子。
人間を殺す事と正義の味方が大好き。
その小さな身体には、とてもつもないパワーが…秘められていない。
枝の様に細く、陶器の様に美しい手脚。
後ろ姿は度々小学生に間違われる身体。
身体能力は男子小学生に負けるほどだ。
しかし、内に秘めた意志では敵無しだ。
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雄英入学
こんにちは。
私、
桜舞い舞い散る本日は入学式。
新たな制服を身に纏い、期待に胸を膨らませてやって来ました雄英高校。
それにしても、大きな校門です。
城門と言ってもいいかもしれません。
見上げれば校舎が聳え立っていますが、私の家に匹敵する大きさです。
国内最高峰のヒーロー育成高校とはいえ、こんな大きさが必要なのでしょうか?
周りには同じく新入生と思われる生徒達が、同じ様に見上げています。
私と同じ疑問を持っているのでしょう。
雄英高校の本校舎は、ガラス張りの大きなビルが四棟をそれぞれの中層部分を渡り廊下として繋いでいます。真正面から見るとHの文字に見えます。
卑猥です。
日本でも屈指の敷地面積を誇る雄英高校は多種多様な演習施設も存在しているそうです。入試の際に使用した広い試験会場ですらその一つ。
公式HPと個人的に調べた情報を元に、事前に歩いて回りましたが、一夜掛けても全ては見て回れませんでした。
まさか学校の下見に三夜もかかるとは、中学校が自由登校で無ければ睡眠不足でお肌が荒れるところです。
手元の時計を見るとHRまで20分。
十二分に時間はありますが、クラスメイトと交流の時間を考えると余裕があるわけではありません。
下見はすんでいるので、真っ直ぐ教室に向かうとしましょう。
1-A組……ここですね。
校舎が大きければ、扉まで大きい。
全生徒から教員、施設管理者まで、雄英高校の関係者全ての身辺調査を行ったので、クラスメイト19人の顔と名前は勿論、個性、性格、家族構成から両親の職業、金銭事情、弱みまで、分かったことは全て頭に入っています。
私と違い、正々堂々驚異の倍率300倍の試験を突破したエリート達。
ゆくゆくは一流のプロヒーローになる事が約束されていると言っても過言ではないでしょう。
そんな彼らとは友好的な関係を築きたいものです。
そう思いながら超人社会のバリアフリーが施された巨大ドアを開けます。見た目に反して重さは普通のドア並みでした。一定の力が無いと教室に入れない、力なき者は退学などの試練では無くてよかったです。
中に入ると教室には生徒が数人。
15分前にも関わらず着席しているのが数人とは、不真面目な生徒が多い様です。
もしくは、この無駄に広い校舎で道に迷ったのでしょうか。
「む、君は試験会場が同じだった消失女子!君も合格していたのだな!」
私が教室に足を踏み入れると、すぐに声をかけられました。眼鏡を掛けた身長の高い男子生徒です。
名前は飯田天哉。
個性は『エンジン』。兄がプロヒーロー。
記録で試験会場が一緒だったのは把握していますが、私の記憶にはありません。
しかし、ここは知っている事にしておきましょう。
「こんにちは。試験でお見かけして以来ですね。貴方が落ちるとは思っていませんでしたが、お互い合格出来て良かったです。転道侑理と申します。これから宜しくお願いしますね」
「よろしく頼む。僕、いや俺は、聡明中学出身の飯田天哉だ。俺も君が落ちるとは思っていなったが、同じクラスになれて嬉しいよ。席は出席番号順になっているぞ」
そんな事は知っていますが、妙にカクカクとした動きの彼にお礼をいい、自分の席を探します。
机には出席番号の書かれた紙が端に貼り付けられています。クラスに20人しかいないので自分の机はすぐに見つかりました。
周りを見渡しますが、事前の情報から気になっていた生徒は、誰もまだ来ていない様です。
視界に性欲に素直なチビが入りますが、無視しておきましょう。初対面の女性の胸を血走った目で見るなど、失礼でしかありません。
ヴィランであれば躊躇なく殺すのですが、俗的な理由であれ彼はヒーローを志しているのです。
一先ずは許しておきましょう。
本を読んでいると、次々にクラスメイトの生徒たちが教室に入って来ました。席も大分埋まっています。そんな中、教室の扉が荒々しく音を立てて開きました。私も含め、教室にいた生徒たちが一斉にそちらの方を見ます。
金髪で荒々しく立たせている、爆発したかのような髪型の少年です。ネクタイをはずし、シャツも首元のボタンを外しています。鋭い目付きで、視界に入るモノ全てを威圧しているようです。
歩き方もガラが悪い。いわゆる不良ですね。
名前は爆豪勝己。個性は『爆破』。ヘドロ事件でこの辺りでは有名人です。
彼はジロジロと教室中を睨んでいます。自分の席を探している様です。ズカズカと教室を進み、乱雑に椅子に座わりました。私の左前の机の椅子に。
彼はカバンを置くと、机に足をかけます。流石不良態度が悪いです。これら自分が使う机をいきなり汚すとは、勉強は出来ても頭は悪いのでしょう。
しかしこれは幸運でもあります
気になる生徒は同じクラスになる様、手を回しましたが席は出席番号順です。こればかりは同仕様もありませんでした。
偶然、彼と近くの席になれたのは喜ぶべき事でしょう。
「む、君!」
彼の態度を見かねたのか飯田天哉君が、ツカツカと歩いて来ます。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ、てめー!どこ中だよ端役が!」
やはり真面目と不良ではウマが合わないのでしょう。早速激しい口論が始まりました。
隣で騒がしいものです。
ここまでの爆豪勝己を見る限り、私の予想は当たっている様に思えて仕方ありません。
幼少期から見せる残虐性。強力な個性を背後に他者を虐げてきた。中学時代には特にソレが顕著になり、同級生をイジメている。
今、彼はヒーローを志しています。
私と同じヒーローに憧れ、夢見る者なのでしょう。
だからこそ、私は見極めねばなりません。
彼はヒーローなのか。ヴィランなのか。
ヒーローであるなら、共にヴィランを殺す仲間となれるでしょう。
ヴィランなら、私の望む理想のヴィランになってくれるもしれないのですから。
何方も譲らない意味のない口論は、新たに教室の扉が開いた事で終わりました。
扉を開けて現れたのは、緑髪のモサモサ頭の少年と茶髪のセミロングの少女です。
飯田君は2人に話しかけに行きます。
試験会場で交流アリと報告にあったので、それでしょう。
緑谷出久と麗日お茶子。
彼女の方はさして興味を惹かれる存在ではありません。
麗日お茶子。
個性は『無重力』。平均的な家庭でごく平凡な人生を歩んできた少女です。
しかし彼の方は違います。
緑谷出久。
個性は『無個性』
通常、幼少期に発現する個性が、ごく最近奇跡的に発現し、雄英高校ヒーロー科を受験した。
ヴィランポイント0、レスキューポイントのみで合格した生徒。
これが彼に関する雄英の資料の全てでした。
しかし、私はそれが真実でないと知っています。
彼は間違いなく無個性なのです。
個性の発現しない息子を心配した母親が、訪れた病院。
そこの資料と診断した医師を調べたので間違いありません。
にも関わらず、彼は今ここに居る。
それは何故か。
鍵となるのはオールマイトでしょう。
入試試験までの数ヶ月、彼とオールマイトが一緒にいる姿が何度も目撃されています。
場所は不法投棄で溢れた海浜公園。2人で何か特別なトレーニングをした結果、彼は個性を得た。
そう考えれば、一様の納得はできます。
しかし、個性と言っても身体機能。
医学的根拠に基づき無いと判断されたにも関わらず、数ヶ月トレーニングをしただけで、発現するとは考えにくいです。幾ら必死にトレーニングを積んだとしても、背中から翼が生えたりはしません。
なので私は、オールマイトが個性を与えたのでは無いかと考えています。
増強系の個性なのは間違いないオールマイトですが、具体的な個性名は謎に包まれています。
個性を与える個性。
信じがたい事ですが、トレーニングをしただけで、個性が発現したと言うよりは信憑性があります。
彼を調べていれば、No.1ヒーローの秘密にも辿り着けるかもしれません。
そう考えると興奮してきます。
緑谷出久。
非常に興味を惹かれる存在です。
そうしていると気付けばもう8時25分。
朝のHRの時間です。
早めに来てにも関わらず、結局クラスメイトと話をすることは出来ませんでした。
「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」
扉から寝袋に入ったままの無精髭の人間が現れ、そう言い切りました。モゾモゾとうごめきながら寝袋ごと立ち上がり、教室に入ってきます。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね……担任の相澤消太だ。よろしくね」
最低限の身嗜みも整えず、寝袋に入ったままの人間にそんな事を言われたはありません。
何事も最初が肝心。
このヒーローモドキに、一言言ってやりましょう。
「先生だと言うのなら、いえ仮にも社会人だと言うのなら最低限の身嗜み程度整えたらどうですか?
生やし放しの髭、切りっぱなしの髪、見るに入浴もされていないようですね。臭いも特有のモノがあります。
そんな貴方にごっこ遊びと、言われたくはありません。貴方こそ先生ごっこがされたいのでしたら、他所に行ったらどうですか?」
言い返した私に教室中の視線が集まります。
おかしな教師の登場で、呆気に取られていた教室に緊張が走ります。
残念なことにコレがA組の担任、相澤消太です。
担任を変えれなかった事が非常に悔やまれます。
個性は『抹消』。
視た者の個性を一時的に消し去る、使用不可の状態する事が出来るという、ヒーローを否定する個性を持ったのヒーローです。
「個性」を使って暴れるヴィランと、「個性」を使って戦うのがヒーローだというのに、超人社会以前の前時代的な戦いをしてどうなると思うのは、私だけでしょうか。
断じてこの男がヒーローとは認めません。
「それで、生徒に返事をする事も出来ないのですか。先生?」
「あっ、いや。その…スマン」
「何に対して謝っているのやら。
そもそも貴方は本当に雄英の教師なのですか?
その様な身なりの教師がいるとは思えません。
ヴィランと言うことは流石にないでしょうが、不審者でしょうか?
或いは入試の時と同じ様に、既にテストは始まっていると言うことですか。不自然な状況に対して、私達がどう動くかテストされている。
そう考えれば貴方の姿も納得できなくはありません」
私の言葉に対してクラスメイト達の反応は様々でした。
「入試と時と同じ」という言葉が効いたのか、即座に戦闘態勢に入る者。
状況について行けず、右往左往する者。
一先ず落ち着こうと呼びかける者。
各人の性格が現れる反応です。
その後、八百万百の提案で教員証の提示、及びB組の教師への確認を経て事態は収束しました。
「…1時間後、体操服着てグラウンドに集合しろ。…体力テストを行う」
相澤センセイはそう言うと、言葉少なげに教室から出ていきます。
何故1時間後?、という疑問には準備があるとしか返してくれません。
そもそもそれまで自習ってどうなのでしょう。
今頃、他のクラスは入学式をしている様なのですが、A組だけ自習ですか。
担任がハズレ過ぎて辛いです。
「スゲー気迫だったな。驚いたぜ」
項垂れていると隣の席から声がかかります。
切島鋭児郎。個性は『硬化』。
全身をただ硬化するだけの面白みのない個性の少年です。
「あぁ修羅のオーラを感じた。その
同意を表す様に、後ろからも声をかけられました。
常闇踏陰。個性は『黒影』。
鳥の形状をした伸縮自在の影っぽいモンスターを操る個性の少年です。
常闇君は気になる生徒の一人です。
黒影。ダークシャドウは強力で不安定な個性ですから、ヒーローにもヴィランにもなり得ます。
「私としては、見たままの当然の事を言っただけなのですが、変だったでしょうか?」
「いや、変って訳じゃないけどよ、なんつうか意外だった。ちっこいのにガッツあるって感心したぜ!度胸座ってるから、いい任侠ヒーローになれるぜ」
「…切島。女性に対してその言葉はどうと思うぞ」
ちっこいだの何だの言ってくれます。
任侠ヒーローってなんですか。そんなヒーローが存在していたとは驚きを隠せません。
それに引き換え、常闇君は紳士的です。
プロヒーローになったら、見た目どのギャップで女性ファンが沢山できるでしょう。
「先程は見事でしたわ、転道さん!」
切島君を嗜めていると、後ろから八百万百がやって来ました。周りを見れば席を離れている生徒も多く、皆自由に過ごしています。
自習と言われても、今日は入学初日ですからね。
新品の教科書を開くくらいなら、クラスメイトとの交流を優先するでしょう。
「自分の判断を信じて即座に行動に移る。
同じ女性として尊敬しますわ!
私も相澤先生を見て不審に思いましたが、何か行動するは出来ませんでした。ただ流されるまま、見守ることしか出来なかった。今回は勘違いで済みましたが、そうでなければ大事になっていたかもしれません。心構えの違いを見せ付けられました。勉強させてもらいましたわ!」
なんとも熱い少女だ。
八百万百。
個性は『創造』。生物以外なら何でも生み出せるというトンデモ個性の持ち主です。
直接戦闘にはそれ程向いてはいないが、有用性は計り知れません。
それにしても大きい胸をしています。
私より一回りは大きい。
机に身を乗り出しているので、丁度視界の真ん中に入ってきます。
ぷるんぷるんです。
「しかし、相澤先生には酷いことをしてしまいましたわ。これから上手くやっていけるでしょうか」
「事実だったのだから仕方ないでしょう。
あの格好で授業をされるのは困りますからね。特に臭いはどうにかしてもらわないと近付く事もできませんよ」
その後、相澤センセイについての話で盛り上がり、そこから仲良く話をしました。
授業への期待。新生活への不安定。好きなヒーロー。
そして話はヒーローを目指す理由へと変わりました。
そこで、私は嘘を付きました。
本当の理由を言っても理解されない事は分かっているからです。
私がヒーローを目指す理由。
それは
ブラドキング「…イレイザー。風呂には入れ。正直匂うぞ」
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正義か悪か
「……20、揃ったな。これから体力テストもとい、個性把握テストを行う」
妙に
まさか自習の1時間の間に、お風呂に入っていたのでしょうか。
生徒を入学式にも出席させず、自分は呑気にお風呂に入っていたのだとしたら、到底許せることではありません。
「……相澤センセイ。まさかとは思いますが、私達を放ったらかしにして、入学式にも出さず教室に軟禁している間に、自分はお風呂に入っていたなんて事はありませんよね?記念すべき入学初日の人生に一度しかない時間を、そんな私用で奪うなんて事を雄英の教師がするはず無いですものね?」
「……風呂には入っていない。シャワーを浴びていた。俺の身なりが今後の授業に支障をきたすのであれば、直ぐに改善するのが合理的だ」
合理的と来ましたか。
全く呆れてものも言えないとは、この事です。
「それは、私達20人の時間を奪ってやることではないでしょう。ええ勿論、あなたの身なりは授業に支障をきたします。不潔で生理的に受け付けられません。匂いも酷いので近づく事も出来ませんから、困る場面は沢山あったでしょう。しかしそれは貴方個人の責任です。仕事中にすることではありません。貴方は裸で職場に来て、裸では仕事に影響が出るからと言って、勤務時間中に服を作るのですか?仮にもヒーロー。仮にも大人でしょう。
貴方なんかに社会常識を弁えろとは言いませんが、他人に迷惑をかけないで欲しいです」
私の言葉を発すると、グランドに静寂が訪れます。
体育館から聞こえる入学式の音が、やけにハッキリと聞こえます。周りのクラスメイト達は、互いの顔を伺っています。
ため息が思わず出ます。
もうここに様はありません。
さっさと、行くとしましょう。
「まて、転道。どこへ行く」
「勿論校長室ですよ。相澤センセイ。
担任の変更を校長先生に要請して来ます。受け入れられなければ、職務怠慢で法的に対処させて頂きます。貴方のヒーロー資格の剥奪。教員免許の剥奪。雄英職員から解雇。最低でもどれかは1つは受けて貰います」
何度、呼び止めても歩みを止めない私に、相澤センセイは背後から攻撃を仕掛けてきました。動きを止めて説得を試みるつもりでしょうか?
炭素繊維に特殊合金を混ぜ込んだ捕縛武器が、素早い動きで迫ってきます。
個性『抹消』と合わせれば近接戦闘に置いては、強力な力を発揮するでしょう。
しかし、タネが割れていれば対処するのは容易いです。
私は、一度無抵抗で捕縛されました。
ちらりと見ると、相澤センセイの髪が逆立ち個性が発動しているのが分かります。
なるほど。コレが『抹消』ですか。
確かに私の個性が発動しません。身体を縛られ見動きもききません。
公衆の面前の中、女子高生を常に持ち歩いている自前の縄で縛り付けるとは大した変態教師です。
性的体罰も罪状に加えましょう。
私は手首に仕込んだ武器を発動させます。
特定の筋肉の動きに反応する腕輪型の特注武器です。手首を反らせ中指だけを折り曲げます。この動きで腕輪が発動させるのは閃光弾です。
ビー玉サイズの玉が腕輪から射出されます。
射出された玉は重力に従い、手から地面に転げ落ちました。間近で見れば、人間の目を失明させる程の閃光が生まれます。
直前で顔を背け、目を閉じた私でも唯では済みませんが、私を直視していた相澤センセイ程ではありません。
閃光の中、私はグランドから姿を消しました。
全く話になりませんでした。
校長室に突撃し、ネズミの校長先生に訴えのですが、「雄英は自由な校風。先生の指導も自由なのさ」などとほざくばかりで、話になりません。
挙げ句、不満があるなら転校してはどうか、と言われました。
ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。ユルシマセン。
雄英高校と言えど、一皮剥けばこんなモノですか。
『正義』の『ヒーロー』ではない、「職業ヒーロー」が未来の『正義のヒーローの卵』を指導している。
コレではダメです。
何も「職業ヒーロー」を否定するわけではありません。志が無かろうと、お金の為、名声の為、自己的な理由の為であろうと、ヒーロー足り得る力を持ち、結果を出しているならそれは市民にとっては『正義のヒーロー』です。
ですが相澤センセイはダメです。
彼が街で事務所を構えたヒーローであれば、構いはしません。
どうぞ適当に職務に励んでください。
しかし、雄英の教師をしているとなると話は変わります。あんなから指導受けた生徒から『正義のヒーロー』が生まれることはないでしょう。
汚染されていまいます。
早急に学校から消さなければなりません。
校長先生のあの様子では、雄英高校は相澤センセイを庇うでしょう。
お父様にお願いしたとしても、そう簡単に事は済みません。相応の時間がかかります。
そうなると私の学校生活にも支障がでます。
教師を訴えた生徒ですから、他の教師の覚えも悪いでしょうし、学校を完全に敵に回します。
恐れはありませんが、
ならば暗殺はどうでしょうか。
最早、相澤センセイは私にとっても、クラスメイト達にっても害悪の存在。ヴィランと言っていいでしょう。
ヴィランならば、殺すことに躊躇いはありません。
《シルシ》は事前に付けているので、殺す事は容易いです。しかし、真っ先に私が疑われます。
犯人は馬鹿でも分かりますからね。
そうなると第三の手段。
『先生』を利用するのはどうでしょうか。
『ホンモノの悪のヴィラン』『ヴィランの黒幕』
この世界がアニメの世界だとしたら、最終回で派手に盛大に死力をつくして戦い、『正義のヒーロー』に殺され、物語がめでたしめでたし。と終わるほどの存在です。私が見つけた、私だけのこの世界のラスボス。
いずれ、私が殺すべき
彼を殺せば、私のヒーロー人生は終わりを告げるでしょう。後はめでたしめでたし。となった世界を旅するのも悪くありません。
しかし今回は、辞めておくのが吉でしょうか。
先生ならば、上手く事を済ませてくれるでしょうが、『正義のヒーロー』が『魔王』を利用するのはここぞという場面であるべきです。
『魔王』は強大で、狡猾で、計算高く、間抜けな存在です。
初期のヒーローを利用するからと殺さず、時に利用し、時には利用され、最後には殺されるのですから。
もっとも『先生』もこの世界も、アニメ程簡単ではないですがね。
「脅しと権力で誤魔化そうとは、流石はヒーロー。流石は相澤センセイです」
グランドに顔を出してみると、除籍を告げられました。
校長先生から連絡を受けていてのでしょう、何事も無かったかのように、個性把握テストが行われています。
曰く、教員への侮辱、授業妨害、協調性のなさ。
私はヒーローに向いていないんだそうです。
テストを中断して多くのクラスメイトが近付いてきます。話を把握した大半は戸惑っている様です。
コレは使えますね。
生徒に身なりの不潔さを指摘され、クビにしてやると宣言までされたのです。
さぞかし目障りな生徒でしょう。
自身の失態や性的暴行を誤魔化すためにも、私を学校から追い出したいといったところでしょうか。
そう言い返すと、風向きが変わりました。
クラスメイト達が私を庇ってくれたのです。
除籍はやり過ぎだ。そんな卑怯な手は男らしくない。本当に教師なら別の指導がある。ヒーローらしく無い。最低。
多くの言葉が私を、守ってくれます。
さてコレでどうでしょうか。
流石は『正義のヒーローの卵達』です。
目の前の
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訓練は本気でやりましょう
こんにちは。
侑理ちゃんです。
本日は雄英生活2日目。
もうすぐ、待ちに待ったヒーロー基礎学が始まります。なんと教師はあのオールマイト。『正義のヒーロー』の代名詞と言っても過言ではありません。
今は更衣室でコスチュームに着替えています。
目線を上にやると、クラスメイト達がとても楽しそうにしているのが目に入ります。
私は女子の中では最も身長が低いので、必然的に見上げる事になります。
もっと大きくなりたいものです。
昨日の一件以来、彼女達との親交が深まりました。
女子だけでなく、多くの男子ともです。
多少誘導したとはいえ『正義のヒーローの卵』だけあって皆さん良い方ばかりです。
力を合わせて
そう。
昨日は皆で力を合わせることでヴィランを撃退する事に成功したのです。
私の除籍は保留となり、職員会議に持ち帰ると捨て台詞を残して去って行きました。
その後、皆さんに慰めや励まし言葉を沢山貰いました。
「ゆうりん。着替えないの?時間なくなっちゃくよ」
そんな事を考えていると、芦戸さんに声かけられました。見ればもう着替えて終わっている方もいます。
少し急いで着換えた方がいいでしょう。
女子更衣室では各々のコスチュームについて意見が飛び交っています。
「な、なんかパツパツスーツになってる…」
「ね!考えた奴絶対エロ親父だよー…って!や、八百万それ!恥ずかしくないの!?さすがにそれ返品可のレベルだよ!」
「いえ、注文通りですわ。むしろ注文より隠されているくらいですわ」
麗日、芦戸、八百万さんがコスチュームについて話し合っています。八百万さん曰く、『創造』でモノを生み出すと服を破ってしまうので、露出が多い方が良いそうですが、恥じらいはないのでしょうか。
「転道さんはスカートに…軍服?それに日本刀?どういう事なの。それも注文通り?!」
「ええ。流石は1流メーカーです。細かいデザインはお任せしたのですが、とてもいい出来です」
長袖シャツに赤いラインの入ったスカート。足は濃い黒のストッキングで覆います。白を基調にした軍服を肩に羽織るようにして身に着ければ、コスチュームは完成です。
パツパツのヒーロースーツも魅力的ですが、多くの武器を隠し持てる洋服タイプの方が私の『個性』には合っています。
勿論。私の趣味でもありますが。
身の丈程のある刀は、持ち運ぶのには酷く不便ですが、私でも片手で振るえるので問題ないでしょう。
別にコレで切り合いをする訳でもありません。
各々がコスチュームに着替え終わると、戦闘訓練が行われるグラウンドβへと向かいます。オールマイトの言葉が脳裏を過りました。
『格好から入るってのも大切な事だぜ少年少女。自覚するのだ!今日から自分は…ヒーローなんだと!!』
「よしっ!じゃあ今回の戦闘訓練について説明するぞ!!今回は模擬市街地にある建物を使った対人戦闘訓練だ!!」
メモを見ながら説明し始めるオールマイト。偉大なヒーローも教師としては未熟な様です。皆、顔を見回しますが、誰も何も言いません。
二人一組になりヒーロー側とヴィラン側に分かれてヴィランが隠し持っている核兵器をヒーロー側が回収する、といった演習です。
制限時間に核兵器がどちらのものになっているかが基本的に勝敗を分けます。敵側を全員捕まえても勝利。核兵器の処理か、敵の捕縛か、或いは敵の殺害か。
実践での状況判断を想定した演習です。
クジ引きでチーム分けをするそうなので、早速引きに行きましょう。
「おっと!転道少女はこっちだ」
クジに手を掛ける直前に、オールマイトに止められました。懐から取り出した紙を手渡されます。
私だけ特別扱いですか。
「なんですか。これは?」
「個性把握テストの記入用紙さ!君は昨日、テストを受けてないからね。コレからグランドαでテストだよ」
「なんですと?!演習はどうするんのですか?」
「うーん。残念ながら君は受けられないね。相澤君も言っていただろう。まずは自身の力を把握しなければ成長はする事は出来無いのさ!」
オールマイトがこう言うのなら、従うしかありません。
テストを受けていないのは事実。
非常に残念ですが、仕方ありません。
「分かりました。コスチュームに着替える前に、教えて頂きたかったのですが。それでは行ってきます」
「君だけ参加出来ないのは申し訳ないのでね。コスチュームに着替えて気分だけでも味わって貰えればと思ってね」
頭を掻きながら笑顔でオールマイトは言います。
その心遣いは嬉しいですね。
クラスメイトに見送られ、私は演習場を後にしました。
「それで何故貴方がここにいるのですか?相澤センセイ。まさか私一人の監督に来たのですか」
「…そんな不合理な事はしない。器具の説明をするだけだ。後は自分で測定しろ」
不機嫌そうな顔で、測定の方法を説明する相澤センセイ。
最後に監視カメラがあるので、不正をすれば直ぐに分かると釘を刺されました。
『正義のヒーロー』はそんな卑怯な事はしませんよ。
「分かりました。説明ありがとうございます。それでは始めますね」
踵を返し、最初の測定に向かおうとすると、背後から鋭い声をかけられました。
「転道。昨日も言った通り、俺はお前はヒーローに相応しく無いと考えている。
俺自身の事を侮辱されたから、そう思っているのでは無い。
お前の個性は強力だ。頭も悪くない。ヒーローに必要な素質は概ね持っているだろう。
たがな、それでもお前はヒーローには向いていない。
叶わない夢を追うことほど、残酷なものはないんだぞ」
ヴィランが面白い事を言ってくれます。
どんな顔で言っているのか、少しだけ気になりますね。
「私の処分は、職員会議で決められるのでは無かったのですか?もう処分が下りましたか。早いですね」
「いや…会議は今日の放課後に行われる」
「
そうですか。ならそれまで口を閉じてなさい。
雄英高校は私を退学には出来ませんよ。絶対に。
そして、私はヒーローになります。
どんなに大変だろうと。どんなに手段を使おうとも。
なにせ、私の夢ですから」
『個性』を一度発動してから、馬鹿みたい私を見詰める相澤センセイを尻目に、最初のテストへと歩いて向いました。
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