ウルトラマンティガ 邪神の降臨 (晩舞龍)
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序章
ツァトゥグア


この怪獣はクトゥルフ神話モチーフじゃないとか、細かいことはなしでお願いします。


  ――――この世界には、触れてはいけないものがある…

 それは、闇より出でるもの。

 それは、邪神と呼ばれるもの。

 それは、這い寄る混沌――――

 

 

 

 十年前 日本 山中

 

 家の裏にある、鬱蒼とした森の中を少年は進んでいく。好奇心旺盛な少年は、案の定帰り道を見失ってしまった。

 

「あれ…おかしいな…」

 

 周りを見渡すが、木々にさえぎられて家は見つけられない。仕方なく、もときたと思われる方向へ歩いていく。

 

 

 

 どれくらい歩いただろうか。少年の顔に浮かぶ、焦りの表情。

 疲れて、ついに倒れこんでしまうというその時、

 

 そこに”彼”は、いた。

 少年は自分が何やら暗い洞窟の中にいること、自分の目の前に巨大な化け物がいることを認めた。

 その、正常ならざる光景に、彼の精神が悲鳴を上げる。

 ガクガクと震える足を叱咤し、怪物を観察する。

 

 大きさは3~4mはあるだろうか。二足歩行のように思われ、その二本の脚であぐらをかき、少年を見下ろす。

 身体は茶色で覆われており、体に比べると大きな顔はカエルとも、犬ともとれる不気味な顔。

 

 しかし少年は、不思議と恐怖を感じなかった。

 その様子に、かの怪物が興味をひかれたようで、なんと少年に語り掛けてきた。

 

≪我の安眠を邪魔するとは…む?少年よ…我の姿を見て怯えないとは大したものだな≫

 

 それは、本当に人間の言語を話していたのか、脳に直接語り掛けてきたのかはわからない。

 彼には、怪物が語り掛けてきたということで頭が混乱していたので、そんなことを気に留める余裕はなかった。

 

≪気に入った。おまえには、こいつをやろう≫

 

 そういうと、怪物は一冊の本を少年に差し出した。

 

「これはなに?」

 

 少年の問いに、怪物は答える。

 

≪これは、『象牙の書』と言って…といってもわからんか。まあ、大事にするのだ。いつか、お前を救うだろう≫

 

「ありがとう」

 

≪礼には及ばんよ。ところで、君の名前を聞いていなかったな…我に怯えぬ奇特な人間として、覚えておこう≫

 

「名前?ぼくの名前は、マドカ。ゴダイ・マドカだよ」

 

≪そうか…我も自分の名を明かすとしよう≫

 

 

≪我の名は――――≫

 

 

 

 少年は気付くと、自分の家の前にいた。

 その手には、革表紙の本がしっかりと残っており、先ほどの出来事が現実のものであると理解せざるを得なかった――――

 

 

 

 二年前 日本

 

 テレビが臨時ニュースを伝えている。

 《突如、地中から出現した巨大生物は、そのまま宇宙へ飛び立っていきました。人的被害はありませんでしたが、どうやって宇宙に飛んだのか、いったいどんな生き物なのかについては全く分かっていません。》

 

 《ただ、一部の宗教学者からは、これは神話で語り継がれるツァトゥグアという怪物という意見が出ており――――》

 

 

 怪物と遭遇したあの事件からもう八年になる。彼は事件のことなど、だれにも話していないまま、忘れかけていた。彼は、ふと思った。あの怪物は、この星を離れることにしたんだな、と。この星の生き物でないことは薄々気づいていた。

 そして、ニュースの話に違和感を感じる。

 

(ん?…あの怪物の、名前は――――)

 

≪我の名は――――≫

 

(そう、彼はツァトゥグアなんて名前じゃなくて…)

 

 

≪我の名は――――バオーン≫

 

 

 

 



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ミ=ゴ

 現在 日本

 

 不思議な怪物、バオーンとの邂逅から十年。あのころ少年だったゴダイ・マドカも今は19歳の大学生へと成長していた。

 そんな彼の周りにも、様々な変化が起こってきた。二年前にはバオーンが地上に出現。

 体長は彼が見た時には3~4mくらいだと感じたが、テレビの映像を見ると30mをしのぐ大きさなのは明らかだった。常識的に考えて、これは彼が洞窟でみたバオーンとは別の個体だろう。

 しかし、マドカはきっとあの時のバオーンだろうと感じた。かの怪物なら、巨大化くらい朝飯前だという根拠のない確信があったのだ。

 

 

 バオーンがくれた、『象牙の書』。

 それはラテン語で書かれてあり、とうてい読めないものと日本人のマドカは思っていた。しかし、ページをめくると、その情報が不思議と頭のなかに入ってくるのだ。

 内容は、この世のものとは思えない不思議な生き物の情報や、よくわからない呪文。

 その中には、バオーンについても書かれている。

 眠りと知識をつかさどる神、と。

 

 

 そのバオーンの出現に続き、近年世界各地で異常極まる事態が発生していた。

 

 

 中国の山奥では、頭部が大きな脳、体は甲殻類の空飛ぶ生物が出現し、世間を騒がせた。その見るもおぞましい姿に、精神を病んだ調査隊のメンバーもいた。

 バオーンと違いその大きさは成人男性くらいの大きさだったが、数十匹が森の中で確認され、軍隊による駆除に際し死傷者も数人出てしまったという。

 その生物を、地球外の生物と考える学者もいるという…

 

 また、ヨーロッパでは3度、不定形の謎の怪物が出現。長く曲がりくねった舌が特徴だが、容姿についてそれ以外の情報は得られていない。この怪物は、何もないところから突然出現。犬よりひとまわり大きな体躯で、刺激臭をまき散らしながらパリ、ロンドン、ウィーンに現れ、その後何かを探すようなそぶりをみせたかと思うと、消滅。防犯カメラのみがその姿をとらえていた。

 

 

 異常事態である、怪物や奇怪な生物の登場。

 マドカは、それに恐怖を隠せなかった。

 

「やっぱり…載ってる…」

 

 

『象牙の書』には、それらの怪物についても情報が記されていた。

 

 

 脳と甲殻類の合わさった中国で発見された怪物の名は、『ミ=ゴ』というらしい。冥王星の生物と書いてある。

 

 

 ヨーロッパの怪物は、『ティンダロスの猟犬』。時間遡行者を狙う恐ろしい怪物、と書かれている。

 

「たしか、こいつは何かを探してる様子だって、ニュースでいってたな」

 

 ティンダロスの猟犬についてさらに読み進める。

 

 

『ただし、高度な技術を持つ()()は、ティンダロスの猟犬に見つかることはない。詳しくは次の頁に記す』

 

 ページをめくる。きっとそいつが、ティンダロスの猟犬が探していたものだ。そして、おそらく時間を遡行してこの時代にやってきたのだ。

 

 

 

 

『イースの大いなる種族 キリエル人』

 

 

 




ミ=ゴ、ティンダロスの猟犬はどちらもクトゥルフ神話に登場する神話生物です。しかし、ウルトラマンシリーズにこれらをモチーフとした怪獣はいませんので、ニュースや本の中だけの登場にしました。


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ティンダロスの猟犬

 数ヶ月前 中国

 

 怪物駆除隊。

 

 軍の内部でも極秘の計画として、そのチームは編成された。

 頭部は大きな脳。体は甲殻類を思わせる鎧と、大きなハサミ。おまけに空を飛ぶ。そんな怪物が数十体も現れるのだ。鍛え抜かれた軍人たちも、見たことのないその異形に恐怖を隠せない。

 

 森の中を知りつくし、連携して襲いかかる怪物に、駆除隊のメンバーも歯が立たなかった。

 

 

 

 

 彼が現れなければ。

 

 黒いコートに身を包んだ東洋系の顔立ちの男。駆除隊の面々は、その男が腕から光を放つのを確かに見た。駆除隊が怪物を殲滅したとニュースで伝えられているが、彼らは一体だって倒せていない。その男がすべて倒したのだ。

 

 

 同時期 フランス 

 

 フランスの情報部隊には極秘の情報が入っていた。黒のコートの何者かによって、ティンダロスの猟犬らしきものが倒された、と。

 

 中国もフランスも、怪物の情報は公開したが、この謎の人物については厳しく情報を規制した。怪物ならまだ対抗できるかもしれない。しかし、怪物を苦もなく倒してしまうような者が実在するならば、いったいどうすればいいというのか。

 

 

 

 現在 日本

 

 マドカは、インターネット上でオカルトマニアに接触を試みた。もしかしたら、一連の怪物騒ぎについて何か情報が得られるかもしれない。不安な気持ちも晴れるかもしれない…そう考えたのだ。

 

 某日、雑居ビルの一室に4人の人物が集まった。

 

 大学生、ゴダイ・マドカ。男性、19歳。彼の持つ象牙の書には、怪物の情報が載っている。

 探偵、ナギ・レンジ。男性、25歳。

 警官、ミズオ・ユリカ。女性、22歳。

 宗教学者、ナイトウ。男性、30歳。

 

 年齢も性別もバラバラな四人の日本人。

 マドカは、挨拶を済ませた面々にさっそく本題を切り出す。

 

「これを見てください。いままでに報道された奇怪な怪物の情報が予言されていた本です」

 

 宗教学者のナイトウが興味深そうに観察する。そして、何かを確信したのか、マドカに質問する。

 

「君。これは、『エイボンの書』ではないかね?どこで手に入れたんだ?」

 

「『エイボンの書』?バオーンは、『象牙の書』といってましたが…僕は、バオーン…いや、ツァトゥグアからこれをもらったんです」

 

 この発言に、三人は動揺を隠せない。

 

「ツァトゥグアって、あの怪物!?いったいどうやって会ったっていうの!?」

「かの怪物はこのような本を記す知性があったのか…!?」

 

 マドカは三人に過去の出来事を説明した。

 

「なるほど…」

 ひとしきりうなずいたナイトウと、突飛すぎる内容に頭の整理が追い付かないレンジやユリカ。

 ナイトウは本を眺めながら言った。

 

「この本の言語…おそらくラテン語だが…私には読めないが、絵を見るだけでわかる。この本に書かれている怪物たちは私の研究しているおぞましい宗教の神々と酷似しているな。そして…」

 

 

 

 

「三種類も確認されたことだ。この本の怪物はおおかた実在していてもおかしくないだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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クトゥルーの呼び声

クトゥルフ神話って何?というウルトラマンファンの方へ。
ウルトラマンティガに登場した海底神殿ルルイエ、邪神ガタノゾーア。
あれらのおぞましい邪神やその眷属たちが、地球にやってきた古代の支配者である。
そんな世界観です。
もっと詳しく知りたい方は、クトゥルフ神話関連の書籍や、クトゥルフ神話TRPGの実況動画をお勧めします。


 ナイトウの言葉に、マドカは震えあがる。安心なんてできっこない、こんな怪物がまた現れるのだとしたら…

 

「この本ちょっと貸してくれ」

 

 レンジもパラパラと『象牙の書』をめくる。その様子をユリカが眺める。

 

「あっ」

 突然ユリカが叫ぶ。レンジが何だ?と聞くが、彼女の目はその本に向けられていた。

「この鍵…見たことあります」

「鍵?」

 本には、鍵の絵が描かれていた。文字はラテン語で書いてあり、レンジもユリカも読むことができない。

「どこで見たんだ、鍵を」

「確か、アメリカに旅行に行ったとき、先輩が骨董品屋で買って…」

 

 レンジはマドカを呼ぶ。

「おおい、この本読めるんだろう?ちょっとここ教えてくれ」

 

 マドカとナイトウがのぞき込む。

 

「ええと…『銀の鍵 使用法 呪文を唱え朝日か夕日に向かって9回捻ると、別の世界と繋がる』と書いてあります」

 

「別の世界と…!?」

 レンジが驚きの声を上げる。そして、マドカに言う。

「君の先輩が持ってると言ったな。これ、借りてきてもらえるか?」

 

「えっ…!?たぶん大丈夫だと思いますけど…どうするんですか?」

「決まってんだろ、調べるんだよ。おまえはオカルト好きじゃないのか?」

 

「あっ…そうですね…」

 

 マドカはハッとする。その様子に、探偵としての経験からレンジは、何かを隠している、という感じを覚えた。

「おいおい、ただでさえ怪物が現れて大変なんだ。人間どうし協力しようぜ。隠し事は無しだ」

 マドカはそう言われて、頭を下げる。

「すいません、わたし、オカルトマニアとかじゃなくて…仕事の手掛かりが欲しくて来たんです…」

 三人はあまり驚かず、むしろ警察の仕事でなぜこの集まりに参加したのかが気になった。

 

「警察は、いまヤバい怪物でも追ってるっていうのか?」

 レンジの問いにマドカは首を振る。

「違います、怪物ではありません」

 そして、警察が悩まされている事件について語った。

 

 ――――それは数か月前にミ=ゴやティンダロスの猟犬なる怪物が現れたときだった。

 老若男女問わず、不気味な”夢”を見たのだ。

 なんでも、異様な建物のある街の風景が見えたという。人はおらず、薄気味の悪いその場所にいる夢。

 その夢を見た数学者によると、非ユークリッド幾何学による建造物が目に入ったそうだ――――

 

 これまでの怪物の出現を知っている三人は、それを集団幻想だと笑うことはできなかった。

 この事件もまた、”何か”の影響なのではないか…

 

 

 

「とりあえず、鍵、借りてきますね。あと、お昼も食べてきます」

 

 

 彼らの長い一日は、やっと半分を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




悪夢は、「クトゥルーの呼び声」が元ネタです。


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門の創造

2018年7月28日誤字修正しました。


 同日 明朝 フランス

 

『太平洋上から無数の生体反応を検知。モニターに映像を映します。』

 軍の中でも、機密事項や事案を担当する部署に、そんな連絡が入ってきた。

「何事だ」

 上級士官が眉を細める。そして、士官たちが注目する中、映像が表示された。

 そこには、

 

 無数の翼の生えた怪物が飛翔していた…

 その数およそ千体、との報告が入る。その怪物は、なんと身長が55mほどもあるという。

「こんな怪物、一体でも人間の居住区に向かったらとんでもないことになる…」

 

 その情報は世界中の情報機関に、極秘案件として伝えられた。そして、ひそかに迎撃準備が進められた。

 しかし、怪物は早すぎた。昼頃に、200体ほどが人間の居住区へ向かって移動を始めたのだ。

 

 向かった場所は、日本…。

 

 

 

 

 同日 昼 日本 東京

 

 三人はコンビニ弁当を食べながら話しあった。

「君、ツァトゥグアにあったと言ったね」

 ナイトウはマドカに問いかける。

「はい、彼はバオーンと名乗っていましたけど」

 そう返答すると、ナイトウは何か考え込み、

「私の研究している宗教ではツァトゥグアと呼ばれているが、そうだな、彼らの方言やニックネームのようなものかもしれないな。あるいは…ツァトゥグアという種族の中のバオーンという個体なのかもしれない」

 と彼の見解を延べた。

 

 レンジは「失礼」と言って部屋を出ていき、だれかと電話している。

 マドカはぽつりとつぶやく。

「バオーンは友好的でした。我々を助けてくれる存在がいてもいいんじゃないですかね…」

 ナイトウは、今までの研究の中で分かったことをマドカに伝える。

「私の研究の限りでは、この宗教の神々たちは対立こそすれ、人間をかばって戦うような存在は確認できていない…もしこれが現実だとしたら、だがな」

 マドカは、その言葉でさらに落ち込む。

 だが、ふと一つのアイディアが頭に浮かぶ。

「ナイトウさん!この世界がだめなら、別の世界から呼ぶっていうのはどうでしょうか!」

「人間の味方をか?よく、そんなこと思いつくなあ。銀の鍵、だっけか?」

 ナイトウは銀の鍵なら別の場所とつながることを思い出す。

 しかし、マドカはそれを否定する。

「この本によると、銀の鍵もこの怪物たちが作ったそうです。そんなのあてにできません」

「じゃあどうするんだ。別の世界の助けを待つのか?」

 

「それも違います。呪文です!『門の創造』の呪文で、別の世界との扉を作るんです!」

 

 

「本気で言ってる?」

 

 

 

 レンジが慌てた様子で戻ってきた。

「どうしました?今、呪文を試そうとして…」

 レンジはそれを遮り、叫ぶ。

「スマホのニュースを見ろっ!!!!」

 マドカとナイトウは驚きながらもスマホをチェックする。

 

 

 

【避難指示:怪物が日本列島に接近中。該当地域の住民は直ちに避難してください

 該当地域 東京23区 千葉県 神奈川県 埼玉県………】

 

 

 

 

 

 



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第一章
ロイガー族


 昼 東京

 

 ニュースの映像をみて、ナイトウは

「これは!!伝承にあったロイガー族ではないか!!!」

 と叫ぶ。

 マドカは、『象牙の書』にその怪物が描かれているのを確認した。

 そこにはゾイガー、と記されている。

 

 レンジは、二人に

「さっきの電話で、彼女が大阪にいることを知った…俺は大阪に行く」

「危ないですよ!それに、間に合いませんって!」

 そうマドカは諭すが、

「さっき警官と連絡先を交換しておいた!やつの『銀の鍵』に賭ける!」

「今から『門の創造』を始めますから…」

 マドカは引き止めるが、レンジはもう走って行ってしまった。

 

 朝日か夕日に、呪文を唱えて。

 混乱したレンジにそのことを考える余裕はなかった。

 

 

 

 マドカは恐怖に襲われ、ナイトウの忠告も聞かずに『門の創造』の呪文を唱え始める。すると、少し力が抜けたような感覚の後、部屋に亀裂が走った。

「ナイトウさん!!やりましたよ!!!」

「どうなっても知らんぞ…」

 亀裂からは光が漏れ出し、一瞬、部屋を光が包んだ。

 

 

 目を開けると、そこに光も亀裂もなかった。

 代わりに、マドカの手に何やら不思議なものを手にしていた。

「なんだこれ…音叉?いや、トンカチかな?」

「それで戦えってことじゃないのか?」

 ナイトウが茶化すが、そんなことを言っている余裕はもうなかった。

 ゾイガーと呼ばれる怪物が、もう東京に飛来していたのだ。

 

 マドカの体が、ひとりでに動き出した。大いなる意思に従うように。ナイトウを置いて、建物の外に出る。そして、光より現れた不思議なもの――――スパークレンス――――を高く掲げた。

 

 身体が光に包まれる。そして、怪物が降り立つ街、東京に――――

 

 

 光の巨人、ウルトラマンティガが顕現した。

 

 

 

 

 レンジは彼女のもとへ向かおうと必死だった。そんな彼のもとに、ミズオ・ユリカがやってきた。二人は合流し、ユリカは「逃げましょう!」という。

 しかし、レンジは銀の鍵を要求する。

「頼む!彼女のもとへ行かせてくれっ!!」

 ユリカは、迫りくる怪物ゾイガーを目の前にして、早く逃げたいという気持ちに飲まれていた。

「ああもう!勝手にしてください!わ、わたしは逃げますっ!」

 二人はそれぞれ逆方向に走り出した。

 

 

 レンジは無我夢中で鍵を捻る。

 呪文もなく、使い方も間違えた銀の鍵は暴発し、時空を超えた彼方へとレンジを引きずり込んでしまう。

「うおおああああ!!!」

 しかし――――その強い思いが宇宙を超えたのか…

 

「諦めるな!」

 

 激しい光に飲み込まれるレンジ。大きな力が、彼をもとの世界に引き戻す。

 

 

 ――――それは受け継がれてゆく魂の絆――――

 

 

 東京を超え、同様に怪物の飛来する大阪に、銀色の巨人・ウルトラマンネクサスが出現した。

 

 

 

 

「うわああっ!」

 現職警察官のユリカでも、このような怪物の飛来する光景に、目をふさがずにはいられなかった。

 

「嫌あああっ!!!!」

 

 

 そこに、男が現れた。

 

 黒いコートを身にまとい、

 

「おい、暴れんなよ」

 

 そう言ってユリカをつかみ、跳躍した。一瞬で市街地から離れたところに到着し、ユリカは混乱する。

「いったい何が…あのっ」

 

 そう話しかけたときには、男の姿はもう見えなかった。

 

「あれ…?」

 

 

 

 男は、その様子を確認し、懐から短剣を取り出した。

 それを大きく振りかざす。

 

 

 光り輝く短剣。そして、三人目の巨人が降り立った。

 

 

「俺の名はオーブ!ウルトラマンオーブ!!銀河の光が我を呼ぶ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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星の戦士

『象牙の書』に記述がある。

 それは、宇宙の彼方よりやってくる。

 それは、光線を放ち怪物を倒す。

 それは、炎。

 それは、光。

 

 戦士。それは、星の戦士。

 

 彼ら三人の巨人は、運命によってこの宇宙に集められた。全員が、邪神と戦った戦士。それを、この宇宙は呼び寄せたのだ…。

 

 

 昼 日本

 

 ニュースは、空飛ぶ怪物と、巨人のニュース、避難情報などを伝えていた。

 主に、東京大都市圏と大阪周辺に、怪物は飛来。

 その数は、それぞれ、およそ100体にも及ぶ。

 

 東京

 

 怪物のうち、二体が東京の地に降り立つ。その後、破壊を始めた二体の前に、一人の巨人が立ちはだかる。

 

 光の巨人、ウルトラマンティガ マルチタイプ。

 

 銀を基調とし、赤と紫の意匠の体は、人々になぜか恐怖を与えなかった。

 光に包まれたマドカは、巨人となっていることを自覚する。普通の大学生である彼は、なぜか、戦い方が思い浮かんだ。

 その腕から光の刃――ハンドスラッシュ――が放たれ、一体の怪物がひるむ。。

 もう一体の怪物が襲い掛かる。ティガは敵にパンチを放ち、怪物をひるませる。そして、後ずさりした怪物に向けて、必殺光線・ゼペリオン光線を放った。

 大地が揺れ、光線は怪物の体を貫通して後方の怪物をも薙ぎ払った。

 地上にいる人々は喜んだ。怪物が、あっという間に倒されたのだから。しかし、ティガとなったマドカは、上空に無数の怪物がいることを知覚していた。そして、少し離れたところに、別の巨人が現れたのも。

 

 

 

 

 自分を助けてくれた男がいなくなったことに混乱するユリカは、街の向こうに、怪物を打ち倒す巨人を見た。次の瞬間、ユリカの前に、もう一人の巨人が現れる。

 彼は、宇宙を駆けるさすらいの太陽。

 

 

「俺の名はオーブ!ウルトラマンオーブ!!銀河の光が我を呼ぶ!」

 

 その巨人は、基本形態であるオーブオリジンの姿をとっていた。その手には、大きな光の剣が握られていた。オーブはそれで頭上に円を描く。

 ティガが見つめる中、オーブは剣をかまえ、叫ぶ。

「オーブスプリームカリバー!!!!」

 剣を上空の怪物たちに向けて突き出す。

 仲間の二体を倒され、降下してきた怪物たちが一掃される。

 

 東京周辺の怪物はすべて倒された。

 オーブは空の彼方へと飛んでいく。

 初変身の負担なのか、ティガはすぐにマドカの姿へと戻った。

「今のは、いったい…。それより、みんなは無事だろうか」

 大阪に向かうといったレンジの無事を祈り、その場に倒れこんだ。

 

 

 

 大阪

 

 同じく二体の怪物が降りてくる。

 しかし、そこに巨人が現れた。

 

 ウルトラマンネクサス。

 適能者(デュナミスト)と呼ばれる人物に力を与え、共に戦う戦士。

 レンジを適能者として、銀の鍵でつながった別の宇宙から降臨したのだ。

 

 その姿は、適能者のほとんどが最初に為る銀色の基本形態。

 ウルトラマンネクサス アンファンス。

 

 

 腕を十字に構え、必殺光線のクロスレイ・シュトロームを放つ。しかし、その効果は薄く、怪物はネクサスに突進してくる。ネクサスは、それをかわし、腕を胸にあてる。腕を払い、次の瞬間、ネクサスの体の色が変化した。

 ネクサスは、適能者に応じたそれぞれの強化形態へと変身する。レンジもまた然り。

 

 ネクサスは、赤い強化形態へと変身した。

 鮮やかな赤色。

 

 

 ウルトラマンネクサス ジュネッスルージュ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足:三人のウルトラマンは、いずれも邪神またはその名を冠する怪獣と戦った巨人という事でこの話に登場させました。


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象牙の書

 お気づきの方も多いでしょうが、サブタイトルは「元ネタとなるクトゥルフ神話の用語」縛りです。そろそろネタが尽きそう。


 鮮やかな赤色の戦士が、そこに立っていた。

 

 ウルトラマンネクサス ジュネッスルージュ。

 ナギ・レンジを適能者として変身した強化形態。

 

 再度、怪物ロイガーのうちの一体に必殺光線、クロスレイ・シュトロームを放つ。

 怪物はうなり声をあげながら爆散した。

 もう一体に目を向ける。

 怪物が口から光弾を発射。それを足ではじき、ネクサスは両腕を交差させた。腕を上げ、そしてL字に組む。

 必殺光線、オーバーレイ・シュトローム。

 強大なエネルギー波が放たれ、怪獣は爆散。それとともに、力を使い果たしたネクサスは消滅する。

 

 人間体に戻ったレンジの手に、鞘に収まった短剣のような不思議なものが握られていた。これが光の巨人に関係する”何か”だとレンジは直感した。

 彼は、恋人を救うため、大阪の街を駆けだそうとする。しかし、力が入らずに倒れこむ。そして、上空に無数の怪獣がいるのを見た。

「はは…。この数は無理だ」

 そう彼は思った…

 その時。

 

 

「オーブスプリームカリバー!!!!」

 激しい光の衝撃が、上空を横切った。後には、怪物たちは跡形もなく消え去っている。空には、大剣を持った巨人、ウルトラマンオーブ オーブオリジン。

 

 この日、世界が巨人の存在を認知することになった。

 日本を救った、三人のウルトラマンを。

 

 

『東京に怪物と巨人出現 大阪にも』

『三人の巨人 人間の味方か?』

『怪物の群れ 目的は謎』

 

 

 翌日、大きな見出しで、各メディアにより怪物と巨人の交戦が報じられた。

 超古代戦士ウルトラマンティガと接触し、融合した大学生ゴダイ・マドカもまた、その記事を読んでいた。

「昨日の人たちも、みんな無事だといいけど」

 土曜日の事件から一夜明け、彼は昨日集まった全員にもう一度集まれるかメールで聞いていた。しかし、返答は来ていない。

 そこに、ガチャリ、とドアが開いた。

 宗教学者のナイトウが現れた。

「無事だったんですね!」

 マドカはホッと胸をなでおろす。

 ナイトウは、

「きみが巨人ってことは、だれにも言ってない。きみも気を付けたほうがいいよ」

 と、耳打ちしてきた。

 やはり、あの時ナイトウさんには見られていたのか、とマドカは頭を掻いた。

 

 すると、再びドアが開いた。

 警官の女性、ミズオ・ユリカ。彼女は無事にその姿を見せた。

「ミズオさん!あなたも無事だったんですね。よかった…」

 そんなマドカの言葉を聞いて、ユリカはドアの向こうを手招きした。

「?」

「彼が、私を怪物から守ってくれたの」

 そこには、精悍な顔つきの、黒いコートに身を包んだ男が立っていた。

「俺はクレナイ・ガイ。よろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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エイボンの書

怪獣紹介 

バオーン
この世界ではクトゥルフ神話の神『ツァトゥグア』と同一視されている。
相手を眠らせることから転じて、知性を司る神になっているとかなんとか。
争いを好まず、マドカとの遭遇の八年後、地球の異変を感じて宇宙へと飛び去った。


「彼が、私を怪物から守ってくれたの」

 そこには、精悍な顔つきの、黒いコートに身を包んだ男が立っていた。

「俺はクレナイ・ガイ。よろしくな」

 

 ミズオ・ユリカが彼を紹介する。

「この方、怪物の話について聞きたいんだって」

 クレナイ・ガイと名乗った男がうなずく。

「どうやら、あんたたちはこの件に詳しいみたいだな…何か情報があるなら教えてくれないか」

 マドカもナイトウも快諾する。

 そして、象牙の書…別名『エイボンの書』と呼ばれる本が、怪物を予言していたことを伝えた。

 すると、本をパラパラと読んでいたガイがつぶやく。

「なるほどな…この『ミ=ゴ』ってやつは見たことあるな」

「ええっ!?」

「それに、この『ティンダロスの猟犬』ってやつも」

 それが冗談ではないと察したマドカが聞く。

「それは、どこで…!?」

「あ、ああ…!別の国を旅していた時にな…」

 ガイは、何やら慌てたように話した。しかし、その表情やしぐさから、三人は『ガイが嘘をついていない』と確信した。

 突然現れた謎の男であるガイだが、悪い人物には感じられなかった。マドカたちはひとまず、彼の協力を得ることとなった。

 

 ガイが話を切り出す。

「それでだ。俺がいま追っている事件だが、なんでも奇妙な容貌の人間が何かを企てているというんだ」

 常識的に考えて、そんな話は到底信じられないものだが、怪物や巨人を見てしまった彼らはすぐにその話が真実であると理解した。

「理解が早いな。まあ、こっちとしては助かる」

 ガイはそう言って、地図を取り出した。あと、ラムネも。

 ラムネを一口飲んで、続ける。

「地図に赤い印をつけたところが、その怪人の目撃場所だ。数週間前から、深夜に目撃が相次いでいる。何か知らないか?」

「クレナイさんは何か知ってますか?怪物の外見とか」

「ああ、うまく言い表せないが…カエル、いや、魚か?体は鱗で覆われていたが」

 マドカが象牙の書を開く。

「この中に、似たような姿のやつはいますか」

 ナイトウとガイものぞき込む。すると、ガイがあるページで反応を示した。

「これだな。なに…『ディゴン』?」

 

「えっ!?クレナイさんもこの文字、読めるんですか!?」

 ガイはごまかしつつ、その本の続きを読む。

「『海の神とされる二柱の神を崇拝する下級種族』か。つまり、こいつらはその二体の神を蘇らせるのが目的のようだな」

 警官のユリカはあることに気づいた。

「そういえば、このあたりで怪しげな宗教団体が活動してると聞いたわ」

「そいつは怪しいな」

 ガイはうなずいた。そこで、宗教学者ナイトウも口を挟む。

「ふむ…名前は、神とされる『ダゴン』に似ているが、その性質はどちらかというと『ディープワン』だな…」

 聞きなれない単語にほかの三人は首をかしげる。

「ああ、なんでもない。ただ、私の調べている宗教と重なる部分があったからね。ユリカ君の言う宗教団体も、私の調べている宗教かもしれない。」

 

 そういうと、ナイトウはその次のページをめくる。

 ナイトウの予想と違い、その次は二柱の神が描かれていたものの、魚というよりも兵士や戦士のようないでたちだった。

「マドカ君かガイ君、これはなんと書いてあるかな。私の調べとおなじなら、おそらくダゴンとハイドラだと思うが」

 マドカが読み上げる。

 

「ええ、たぶん合ってますよ。『ダーラムとヒュドラ』って書いてあります」



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ディープワン

ウルトラマンネクサス ジュネッスルージュは、ナイトレイダーの凪副隊長が変身した姿としてデザインされたものだそうです。
本作のナギ・レンジは男性なので、似て非なるものだと思っていただければ。


「つまり、その『ディゴン』という魚人たちが、『ダーラムとヒュドラ』という神を召喚させようとしてるってわけか」

 ガイはいままでの話による荒唐無稽な事件の要点をまとめた。もちろん、四人とも嘘だとは全く思っていない。この世界には、現に異形の存在が現れているのだから。

 

 怪物ゾイガーの進行は三人のウルトラマンが食い止めたが、ライフラインの被害により東京、大阪の二都市では避難した人たちが行き場を求めていた。日曜日ではあるが、コンビニは品薄になり閑散としている。ユリカは非番だったが、この後応援に行くことになったといい、昼飯を持って出ていった。

 

 残ったガイ、マドカ、ナイトウ。レンジからの連絡はない。

「この怪物がいるとして、いったいどうすればいいんでしょうか」

 マドカがつぶやく。彼の脳裏には、怪物と戦ったときの光景が映し出されていた。自分が巨人となって戦う…そのことに対する、恐怖や不安が渦巻いていた。

 そんな気持ちを打ち消すように、ガイは強い口調で話しかける。

「あんたたちは、もうこの件から手を引いた方がいい。真相に知りすぎるのは危険だ」

 そう言って、ガイは部屋を出ていった。

 

 ぼーっとするマドカを横目に、ナイトウは部屋に置いてあるテレビをつけた。

「お、ついた」

 昨日から変わらず、怪物被害のニュースが放送されている。

 三体の巨人が、怪物を倒した、と。

 マドカは考える。三人もいるならば、自分は戦わなくてもよいのではないか?確かに、東京に現れた怪物を倒すことはできた。しかし、自分の前に現れたもう一人の巨人は、上空にいた無数の怪物を一撃で倒して見せたのだ。彼一人でも十分ではないのか…

 

 

 同日 大阪

 

 レンジは、病院のベッドに横たわっていた。

「ハハ、情けない。君を助けようと大阪まで来たのに、君に助けられてしまうなんてね…」

 彼女に助けられたレンジは、突然の体の不調によって病院で手当てを受けていた。

 その不調は、ウルトラマンネクサスとして過剰のエネルギーを使ってしまったことが原因だった。

 倒れた時にスマホを落としてしまい、壊れてしまった。マドカたちの連絡先がわからなくなり、連絡できないでいたのだ。

 

 

 

 

 翌日 月曜日 東京

 

 マドカは大学へ登校。ナイトウも自分の大学に出勤した。ユリカも警官として仕事にあたっている。

 一方、ガイは風来坊。今日もこの世界の異変について調査を続けていた。

 

 これまでにガイがこの世界で倒してきた怪物のミ=ゴやティンダロスの猟犬。彼らは、一個体や一種族として活動していた。しかし、今回のゾイガーとディゴンには、何か裏でつながっているような気がした。

 そんな疑念を抱きながらガイは、ユリカの言っていた怪しい宗教団体の建物を探した。

 やがて、その建物の前に到着するガイ。

 その建物を観察すると、団体の名称がわかった。

 

 その名は、『ダゴン秘密教団』

 



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ダゴン秘密教団

 ガイは考えていた。この世界で出会った二人のウルトラマンのことを。

(俺が力をお借りしているティガさん…そして、ゼロさんと同じ波動の力を感じるもう一人のウルトラマン…だが、お二人とも戦いなれていない様子だった…)

 ガイは、今までの経験から一つの結論を導きだした。

(俺の知っているティガさんと別人か…。それに、まだ戦いなれていない人間と一体化したのかもしれない。)

 俺がいざとなったら戦いをサポートしないとな、とガイは気を引き締め、目的のダゴン秘密教団を見やる。

 

 一見するとただのさびれたビルだが、よくその壁面に目星をつけて観察すると、上の階ほど窓が少ないと分かった。三階以上はあるのがわかるが、最上階が何回なのか検討がつかない。

「やれやれ…。入ってみるしかないか」

 そうつぶやくと、ガイは塀に向かって立ち、思い切り跳躍した。

 常人ではよじ登らなければならないようなその塀を、ガイは手を付けずにひらりと飛び越えた。

「さて、行くか」

 再び跳躍し、数少ない二回の窓の枠をつかむ。人通りが少なく、外からこの様子を見ているものはいない。ヒューマノイドである彼の強靭な腕力が身を持ち上げる。すると、運悪く窓の向こうに男がいた。

「あの手は何だ! 窓に! 窓に!」

 素早く窓をこじ開け、ガイは部屋に押し入る。叫ぶ男を殴って気絶させ、部屋を見回す。

 

 本棚には彼らの信仰する神々についての本が何冊かあり、机にはパソコンなども置いてある。ガイの目的は、彼らの野望を阻止することだ。しかし、どうすれば二柱の神の召喚を止められるのか、それがわからない。

 とりあえず、部屋の内側から鍵をかけ、教団の名簿や建物の内部構造がわかる資料を探す。

 持ち前の精神力で冷静に資料を探し、目当てのものを見つけ出した。

 

 だが。

 侵入者をかぎつけ、見るのもおぞましい魚のような容貌の人間が扉を壊し入ってきた。

 宇宙人や怪獣を見慣れているガイも、これには不気味さを感じた。

(こいつがディゴンか…。)

 ガイは怪人を近づけまいと、手のひらから光弾を放つ。それを怪人は、散弾銃のような凄まじい威力の蹴りで弾く。

「なにっ!?」

 本気を出さないとまずいと感じたガイは、コートの裏から短剣・オーブカリバーを取り出した。それが、長剣の形に変化する。通常形態よりもリングは小さくなっている。そして、刀身が刀のように細長い形態だ。

 ディゴンの攻撃の届かない範囲から剣戟を繰り出し、切り付ける。

 怪物はやがて、劣勢になったと判断し逃げだそうとした。背を向けた怪人にガイはすかさず飛び蹴りをお見舞いする。

 叫び声をあげて怪物は倒れる。ガイは高速で資料に目を通し、廊下へと繰り出した。

 

 

 

 大学の休み時間。マドカは、スマホのネットニュースで怪物の出現を知った。何やら近くの街らしい。聞き耳を立てると、あわただしい声や救急車の音も聞こえてくる。

「僕は、事件を調べて安心したかっただけなんだ…。正義の味方が助けてくれるって…。でも、まさか自分がなるなんて、話が違うじゃないか…」

 ニュースによると一昨日と同じ怪物ゾイガーだ。数は4体。

「無理だ…二体倒すのに精一杯だったんだぞ…そうだ、あの剣を持ったやつがくればいいんだ…それか、大阪に現れたやつでも…」

 巨人は現れない。無慈悲にも怪物に蹂躙される街。泣いている子供の声を聞き、マドカは駆けだした。

「くそっ!!!なんで来ないんだよ!!」

 今回は、勝手に体が動いたりはしなかった。自分の意志で、何一つ覚悟も決まらないまま、それでも何かを守るため。

 頭上に掲げたスパークレンスが輝く。

 

 ゴダイ・マドカの体が光に包まれる。

 

 怪物が蹴散らす街にウルトラマンティガが出現した。

 

 

 




オーブカリバー長剣形態は、ウルトラヒーローズEXPO 2017 ニューイヤーフェスティバルで登場したものと考えていただければ。


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深きものども

 東京にウルトラマンティガが再び出現した。

 怪獣ゾイガーと対峙するティガ。そのティガと一体化したマドカは、焦りと恐怖に押しつぶされそうになっていた。ゾイガーは4体。4対1の孤独な戦いを強いられている。

 ネクサス=レンジは大阪戦で負傷、オーブ=ガイはダゴン秘密教団でディゴンと戦闘中。ティガを助けるものはいない。政府や自衛隊も、怪獣に歯が立たないと判断したのか、出動していない。

(前回の戦いでは、腕から光線を撃ったあとに変身を維持できなくなった…あれは最後の手段、ということか)

 前回の反省を活かし、マドカは怪獣に立ちはだかる。

 

 一体のゾイガーが猛スピードで飛翔し、ティガにむけて急降下してくる。それをティガはとっさの判断で避けつつ、羽をつかむ。怪物を腕でしっかりとホールドし、身動きを封じる。

 別のゾイガーが口にエネルギーをため、光弾として放出する。一直線にティガのもとへ飛んだそれを、巨人は腕で捕らえていた怪物にあて、相殺した。怪物はうなり声をあげ、ティガが飛びのいたその瞬間に爆発四散した。一体目を撃破したティガは、残りの三体をハンドスラッシュで牽制し距離を取る。

 敵を分散させようと、近づいてきた一体をティガは尻尾をつかんで投げ飛ばし、もう一体は頭を地面に叩きつける。残った一体との格闘戦に持ち込んだティガは、大きな口にアッパーカットを繰り出す。そして、連続パンチで怪獣を追い詰めていく。すると、怪獣は他の二体を置いて飛翔し、逃げ去っていった。

 

 残された二体が立ち上がり、ティガも再び怪獣と相まみえる。すると、彼にむけてどこからともなく声がかけられた。足元に目を向けると、誰もが避難したはずのその場所に、人間が立っていた。壮年の男だ。そして、男はティガに話しかける。

「お前は何をやっている!人間の世界を守ろうという気はないのか!怪物を投げ飛ばしたら、建物が壊れるという事に気づかんのか!」

 無我夢中で戦っていたマドカは気付いていなかったが、怪物の下敷きになり建物がいくつも倒壊していた。マドカは未熟な自分を責めた。

(僕のせいで…)

 おかまいなしに男は叫ぶ。

「貴様なんぞに任せておけん!」

 そして、しぶしぶといった様子で怪物の前へ向かっていく。

(危ない!)

 巨人の声が聞こえたのかわからないが、男はなおも話を続ける。

「本当は力を使いたくはないのだが…わたしが救世主として、天使として、人間世界を救おう」

 

 次の瞬間、男の体が赤い炎のような光に包まれる。

 その炎はどんどんと大きくなり、やがてティガやゾイガーほどの大きさになった。

 そして炎の中から、戦士が現れる。

 泣き顔にも見える頭部の意匠。黒と白に包まれた奇妙な肉体。そして、体から溢れでる真っ赤な炎。

 二体の怪物ゾイガーに向かい叫ぶ、その名は。

 

「わたしは救世主にして天使。イースの大いなる種族、キリエロイド!見せてやろう、キリエル人の力を!」

 

 マドカは思い出す。ティンダロスの猟犬が現れたものの、何もせずに消えたという事を。

 そして、ティンダロスの猟犬が見つけることのできない高度な技術の持ち主、キリエル人のことを。

 

 ティガと二体のゾイガーの前に現れた人型の戦士、キリエロイド。マドカは、彼の話から彼もまたこの街を守ろうとしているのだと感じた。

(理由はどうあれ、一緒に戦ってくれるなんて、心強い)

 ティガとキリエロイドは怪獣に向かい戦闘態勢を取る。

 

 

 

 ガイは、怪獣が地面に投げ飛ばされた轟音を聞いた。

「チッ…こんな時に怪獣か」

 廊下に立ちふさがるディゴンや、人間大の大きさのゾイガー。ガイは腕からの光弾やミ=ゴから奪った光線銃で、手早く切り抜ける。

 表にでると、街には怪獣の鳴き声だけが響く。

 一体のゾイガーが他の二体を置いて飛翔し、逃げ去っていく。

「ティガさんは二体が相手で、手が離せないか…」

 素早く状況を飲み込んだガイは、コートから輪形のアイテムを取り出した。

 それを体の手前にかざすと、ガイの体が光に包まれ、逃げたゾイガーを高速で追いかける。ティガはキリエロイドの登場に驚いて、気付かなかったが。

 

 ガイはオーブリングにカードを読み込ませる。ウルトラ戦士の力が込められた、ウルトラフュージョンカードだ。

 

「ウルトラマンさん!」『ウルトラマン!』

「ティガさん!」『ウルトラマンティガ!』

「光の力、お借りします!」『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン!』

「俺の名はオーブ。闇を照らして悪を撃つ!」

 

 



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イースの大いなる種族

怪獣紹介

ゾイガー
突如、太平洋から登場した翼をもつ怪獣。大きさはウルトラマンたちと同程度。しかし、その数は数千体にもおよぶ。口からの光弾による攻撃を繰り出す。


 東京から離れ、太平洋上の空を、二つの物体が飛ぶ。

 逃走したゾイガーを追う、光に包まれたガイ。その光から、巨人が姿を現す。

 ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン。ウルトラマンとウルトラマンティガの力を身に宿した、オーブの基本形態。飛行したまま右手を上に曲げ、ゾイガーに狙いを定める。しかし、ゾイガーも追撃されまいと不安定な飛行を繰り返す。

「スペリオン光輪!」

 右腕から無数の紫のエネルギー・リングが放たれる。数を増やすことで命中の確実性を上げた。そのいくつかが、ゾイガーの体を切り付ける。攻撃され、身動きが取れなくなった敵に、オーブはとどめの必殺光線を叩き込む。

 腕でL字を描き、エネルギーの充填とともに十字に組んで発射した。

「スペリオン光線!」

 オーブの前面には光の輪が現れ、そして光のエネルギーが一直線に怪獣の体を貫く。ゾイガーは爆発し、海上には静寂が取り戻された。

 

 

 人々が避難し、風の音と怪獣の鳴き声だけが街にこだまする。

 大学からそう遠くないビル群。高いビルの窓ガラスには巨人と異形の戦士が映り込んでいるが、それを見る人間はいない。

 ウルトラマンティガと、キリエロイド。肩を並べ、海からの脅威に立ち向かう。

「ハッ!!」

 力強い掛け声で自信を奮い立たせ、ティガはゾイガーに向かっていく。キリエロイドもそれに続く。

 ティガは一体のゾイガーに、飛び上がってからのチョップをお見舞いする。キリエロイドはもう一体のゾイガーにつかみかかる。持ち前の力で羽を握り、なんと勢いよく引きちぎった。ゾイガーの激しい鳴き声がこだまする。

(チッ…)

 内心で舌打ちしながら、キリエロイドは早急に決着をつけようと腕に炎をまとわせる。羽をもがれ逃げられないゾイガーに狙いを定め、腕から火炎を放射する「獄炎弾」を繰り出した。

 炎に飲まれ絶命するゾイガー。

 しかし、その叫び声がさらに三体のゾイガーを呼び寄せてしまう。

 合計四体の怪獣に囲まれ、分が悪くなった二人の戦士。それでも、引くわけにいかず必死の抵抗を見せる。

 ティガが怪獣の足元にハンドスラッシュを放ち、転倒させる。後ろに居て転倒を免れた怪獣にキリエロイドは渾身のパンチを叩き込む。怪獣の追撃を、二人は並んでバク転し回避。そして、ゾイガーたちに向けて決めるファイティング・ポーズ。並び立つ二人の戦士の戦いに、遠くからの中継映像を見た人たちは希望を感じた。

 

 そこに、海上で一体を撃破したオーブも駆けつける。マドカはそれに安堵した。キリエロイドは気に食わないという感情が態度に現れているが、マドカはあえて反応しないでおいた。

 一方、ガイもティガ、そしてキリエロイドの存在を確認する。

(何やら別の宇宙人もいるな…この様子だと味方か)

 オーブはスペシウムゼペリオンの形態の特技・パワーアップを発揮した。体の紫のラインが一瞬光り、凄まじい瞬発力で怪獣の懐に飛び込む。そして、今度は体の赤のラインが光り、強力な打撃で敵をひるませる。

 

 その様子を見たマドカは、あることに気づいた。

(あの巨人の体の模様…僕の姿と似ている)

 マドカはビルに映し出された自分の巨人としての姿を何度か目にしていた。

 銀を基調とし、紫と赤のラインが体に流れている。

 それを、目の前の巨人は光らせ、紫ではスピード、赤ではパワーを強化させていた。もしや、と思い念じるマドカ。その腕は自然と胸の前で組まれ、振り下ろした瞬間その体が紫一色に変化した。

(できた!!?これなら…!!)

 その瞬発力でティガの体は高速でゾイガーに向かっていく。素早さはオーブ以上だ。

 

 ウルトラマンティガ スカイタイプの見参である。

 

 



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銀の鍵

 銀の鍵は、異世界をつなぐカギだ。

 今回、その使い方を誤ったために、別世界からウルトラマンネクサスが召喚された。しかし、物事はそううまくはいかない。あのとき、銀の鍵が開いたものはもう一つあった。

 その扉は、だれにも気づかれずに、ゆっくりとこの世界に開き始めていた。

 そして、唯一その存在を感知していた「地球」という大いなる存在。それもまた、開く扉に対抗する存在を呼び寄せていた。その時は、ゆっくりと近づいている。

 

 

 東京

 

 ウルトラマンティガが、スカイタイプにタイプ・チェンジした。腕を突き出し空気の抵抗を減らした状態で、高速で突っ込んでいくウルトラダッシュアタック。ゾイガーの腹部に大きな衝撃を与え、負傷させた。そして、ひるんだ相手に、手から光の礫・ランバルト光弾を放った。それを喰らった怪物は雄たけびを上げて倒れる。

 別の二体がティガに襲い掛かって、腕を振りかざす、その刹那、彼の体が赤一色に染め上げられる。

 ウルトラマンティガ パワータイプ。

 強力な打撃で怪物を一体沈黙させた。その勢いで、もう一体に高熱エネルギー粒子の塊・デラシウム光流を撃ち放った。喰らった怪獣は間もなく爆発に飲まれた。

 一気に二体のゾイガーを撃破したティガ。その様子を、オーブは戦いながら観察していた。

(戦いの中ですさまじい成長を見せている…ティガさん本来の力が発揮できるようになったか)

 オーブは負けじと、目の前の相手に攻撃を繰り返す。キリエロイドも残ったゾイガーに火炎の連撃で応戦している。ティガはマルチタイプに戻った。そして残る二体の弱ったゾイガーを見据え、三人は目で合図し、息を合わせた。キリエロイドが二体の怪物を引き付け、キックの連撃でひるませる。

「スペリオン光線!」

 オーブのスペリオン光線が一体を、もう一体をティガのゼペリオン光線が貫く。

 ゾイガーたちは頭から尻尾の先まで粉々になって弾けていく。

 

 

 

 数刻後

 

「まさかあんたが、ティガさんと一体化したやつだったとはな」

「あなたがあの巨人だったんですか!!?」

 ガイとマドカの二人は、この日二度目の邂逅を果たした。キリエロイドの人間体の姿はもうなかったが。

「あんたが一体化したその巨人は、ウルトラマンティガさん。超古代のウルトラ戦士…らしい」

「へえ…ウルトラマンティガ…そういうんですね、それであなたが」

「クレナイ・ガイ。ウルトラマンオーブだ」

 よろしく、と手を差し出したガイ。二人は固く握手を交わす。

「そういえば、大阪のあのウルトラマンは何者なんですか?」

 ガイは、その質問に頭を掻いた。

「実は、あの方は俺も知らないんだ…だが、ゼロさんが持っていた力と同じ波長を感じる。場所なら突き止められそうだ」

 ゼロさん、という知らない単語は置いておいて、マドカはそのウルトラマンにも会いに行くことを提案した。

「きっと仲間になってくれますよ!」

 

 

 

 翌日 大阪

 

 月曜日。だが、相次ぐゾイガーたちの襲来で交通機関が麻痺したのをいいことに、マドカは大学を自主休講し、ガイとともに飛んで大阪にやってきた。

 とあるアパートをガイは指し示す。

「ここだな、力の反応は」

「ええと、星雲荘…春木さん、伊刈さん、名栗さん、凪さん…」

 101号室から順に表札を見ていくマドカ。

「ん?凪さんって…」

 ガイは「ここだ」と、104号室を示した。

 マドカがインターホンを鳴らすと、中から見知った顔の男が出てきた。

「ん?お前は…?」

「ナギさん!…てことは、ナギさんがウルトラマン!?」

 そこには、マドカのもとに集まったうちの一人、探偵のナギ・レンジがいた。

 




ウルトラマンが登場するまでの序章。
そして、三人のウルトラマンが出会う第一章。
次回から第二章が始まります!

アパートの住人の名前は、元ネタは「われら星雲!」です(笑)


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第二章
探索者たち


怪獣紹介

シビトゾイガー
人間大のゾイガー。ダゴン秘密教団の建物内に潜伏し、ディゴンとともに侵入者を迎撃する。


 ナギ・レンジの住むアパートにやってきたマドカとガイ。

「俺は大阪に住んでるって、よくわかったな…マドカ、その人は?」

 どかどかと部屋に上がり込み、先日の東京・大阪ゾイガー襲撃について話を聞く。

「お前たちが東京に現れた二人の巨人なのか…!?」

「そうです!」

「そうだ」

「そうか…俺も巨人と一体化した、ようだ」

 レンジは、その日起こったことについて話し出した。

「彼女が大阪にいることを知った俺は、マドカと別れたあと大阪に向かおうとしたんだ、無謀にも新幹線か何かでな。その時、『銀の鍵』を持ったミズオと会ったんだ。そして、俺は鍵を使った。これで大阪にひとっとびだってな」

「つまり、彼女さんは東京に来たレンジさんと入れ違いになっていたんですね」

「そのようだ。そして、鍵の使い方を間違えたのか、はたまた成功だったのか…いまでも信じられないよ。自分が巨人になるなんてな」

 レンジは二人にお茶と菓子をふるまう。

「彼女は無事だった。俺は、巨人として戦った後、気絶してしまって、彼女に病院に運ばれたようだよ。これも巨人の力なのかわからないが、一日で退院できた」

 レンジの経緯を聞いたマドカとガイ。レンジは、ガイに素朴な疑問を投げかける。

「それにしても、ガイさん、あの怪物はなんだ?なぜ人間を襲う?」

 ガイは答える。

「おそらく、彼らは『マガタノゾーア』という怪獣の先兵だ。」

「マガタノゾーア?」

 聞きなれない単語にレンジとマドカは首をかしげる。

 マドカが持っている『エイボンの書』をガイが取り上げ、ページを開く。

『ガタノゾーア』そう記してあった。

「俺の戦った奴と、少し違うな…まあいい、こいつを倒さない限り、奴らはいくらでも出てくる」

「じゃあ、早くこいつを倒しましょうよ!」

 マドカが声を上げるが、ガイは首を振る。

「こいつは海底に潜んでいる…こいつに会う前に、無数のゾイガーを倒さなくちゃならない」

 テレビ映像でもたびたび取り上げられる、太平洋上のゾイガーの群れ。確かに、何かを守るように飛んでいるようにも見える。

「まあ、場所がわかるのはありがたいがな」

「そうだ、初日にガイさんが放ったすごいビーム!あれで倒せばいいじゃないですか!」

「あのなあ、親玉を倒さない限りいくらでも出てくるんだぞ。ガタノゾーアのところにつくまでに余計な力は使えない」

 なかなか有効な解決策が浮かばない中、時間は無為に過ぎていく。そして、大きな音とサイレンが鳴り響く。

 ゾイガーの襲来だ。

「行きましょう!レンジさん、体は大丈夫ですか?」

「やるしかねえだろ…ガイさん、こっちはひよっこ二人なんで、フォロー頼むぜ」

 

 三人が変身アイテムをそれぞれ頭上に掲げ、光とともに巨人が顕現する。

 ウルトラマンティガ マルチタイプ。

 ウルトラマンネクサス ジュネッスルージュ。

 ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン。

 

「俺の名はオーブ。闇を照らして悪を撃つ!」

 その掛け声を合図に、三人は怪獣たちに向かっていく。敵は五体。

 オーブが剣で敵を切り付けていく。ティガとネクサスはそれぞれ一体ずつを引き受け、戦闘を行う。

 必然的にオーブに集中する三体のゾイガー。

「チッ…先輩ってのも楽じゃないな!」

 剣で三体を振り払い、オーブは体制を立て直す。

 

「タロウさん!」『ウルトラマンタロウ!』

「メビウスさん!」『ウルトラマンメビウス!』

「熱いやつ、頼みます!」『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ バーンマイト!』

「紅に燃えるぜ!」

 

 

 

 

 




第二章が始まりました。
それと、サブタイトルのクトゥルフ神話用語縛りはやめました(笑)


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ゾイガー戦線

 ガイは、今までの戦いで多くの戦いを経験してきた。時には、力を失うこともあった。時には、仲間と共に戦うことも。そして今、ウルトラマンとしては全くの初心者二人を抱えて戦っている。対する敵は、一体でもオーブと互角の実力をもつ怪獣・ゾイガー。

 今は、まだこの星を守り切れている。しかし、ゾイガー以外の敵が現れた時、彼らを守りながら戦うことは不可能だ。彼らには、強くなってもらわなければならない…そう考えていた。

 しかし、ピンチはすぐに訪れた。

 

 

「ストビューム、バースト!!!」

 腕から繰り出される火球。それがゾイガーたちを爆散させていく。

 危険を感じ取ったほかのゾイガーたちは、ティガやネクサスを無視し、オーブに向かい一直線で突っ込んでいく。

(まずいっ)

 そう思った時には、オーブはゾイガーの突撃で弾き飛ばされていた。バーンマイトのフュージョンアップが解除され、オーブオリジンの形態に戻ってしまうオーブ。ゾイガーはすかさず口からの光弾でオーブを追い詰める。

(なんだ?この強さは…)

 オーブカリバーを構え、カリバーシールドを展開して光弾を防ぐ。光のエネルギーによって光弾は弾かれていく。しかし、後ろから襲い掛かってきたもう一体のゾイガーがオーブの体をつかむ。腕で切り付け弱ったところで、体をしっかりとつかみ上昇していく。もう一体の光弾攻撃でオーブカリバーが弾き飛ばされ、身動きも取れないオーブ。

 ティガがゾイガーの攻撃を妨害しようとつかみかかるが、すぐに振り払われてしまう。パワータイプになり、応戦を開始する。

 一方、ネクサスはオーブを追いかける。オーブをしっかりとホールドしたまま高速で飛翔するゾイガー。しばらくすると、雲に紛れてゾイガーの姿を見失ってしまった。

 ゾイガーによって連れ去られてしまったオーブ。絶体絶命の状況の中、ネクサスはティガのいる場所に舞い戻った。

 大阪の市街地には、なおも一体のゾイガーがおり、ティガと戦闘を繰り広げている。ネクサスは、地面に降り立つと、ティガに目配せをし、エネルギーをためた。そして、腕を高く掲げ、それを見たティガがゾイガーから離れた瞬間にエネルギーを投げつけた。

 そのエネルギー塊は細長く伸び、鋭利な槍となって怪獣の体を貫いた。

 ジュネッスルージュの必殺技、オーバーランスレイ・シュトローム。

 ゾイガーは腹部を貫かれて爆発した。

 ネクサスはエネルギーの不足によりコアゲージが赤く点滅、すぐさま変身が解除されてしまう。

 ティガはスカイタイプになって、オーブを捕らえたゾイガーを追跡する。

 

 

 やがて、太平洋に近い海沿いにゾイガーは降り立った。

 オーブは、カラータイマーが点滅しピンチに陥っている。ティガが駆けつけ、ランバルト光弾を放つ。

 しかし、ゾイガーはすこしひるんだのちに、再び向かってくる。

(どういうことだ…明らかに以前よりも強くなっている…)

 ゾイガーの攻撃をかわし、二人は海が見える方向に体を向けた。

 その時、オーブとティガは海が怪しく光るのが見えた。そして、海からなにやら大きな存在が現れる。

(まさか、あの光は…)

 

 

 



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絶体絶命

ウルトラマンオーブは本来、宇宙警備隊にスカウトされるほどの実力の持ち主です。しかし、この話ではティガやネクサスのフォローをしながらクトゥルフ神話の恐怖に立ち向かわなければならないという過酷な状況なのです、よって苦戦を強いられることに…。


 そして、海から大きな水しぶきをたてて浮かび上がる巨大な生物。

 全身が青一色に染め上げられた、その巨体。大きなハサミを腕に持つ、新たな怪獣が姿を現した。

 

 オーブもティガも見たこともないその怪獣は、青い体に、わずかに禍々しく狂気的なオーラをまとっていた。

 オーブが目を向けると、今まで気づかなかったが、ゾイガーも似たようなオーラを身にまとっている。

(そうか…こいつら、()()()()()()()()()()()()()…!!)

 ゾイガーも、いま現れた別種の怪物も、太平洋上から出現した。そして、彼らを使役しているであろうガタノゾーアは海底に潜んでいる…そこから導き出される解は、彼らは海からの力で強くなるというものだ。

 しかし、それが分かったところでどうすればいいのか。陸のほうに行けばその力が弱まるのかもしれないが、そうすると市街地に被害が出てしまう…

 そんなことを考えているうちにも、青い怪獣がオーブに迫ってくる。オーブは、弱った体を叱咤し、体勢を立て直す。

「ジャックさん!」『ウルトラマンジャック!』

「ゼロさん!」『ウルトラマンゼロ!』

「キレの良いやつ、頼みます!」『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ ハリケーンスラッシュ!』

「光を超えて、闇を斬る!」

 オーブはフュージョンアップし、怪獣に向けて戦闘態勢を取る。赤と青のラインが映え、素早さを活かして戦うオーブの形態だ。怪獣のハサミを危険視したオーブは、敵の攻撃範囲外から攻撃を仕掛けようと、距離を取る。

 頭部に手をあて、エネルギーを集める。そして、光の刃を作り、投げつけるオーブスラッガーショット。

 怪獣に向けて飛んでいくエネルギー刃。それが、怪獣の首と、大きなハサミの着いた腕を切り落とす。

 ティガがパワータイプになり、その力でゾイガーを押しとどめ、オーブの攻撃を邪魔させまいとしていた。そのわずかなうちに、青い怪獣はあっさりと絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 かに思えたが。

 

(なんだ!?)

 その怪獣には首があった。腕もあった。今しがた切り落とされたばかりの部位が、()()()()()()

(どうなってる…!?)

 先ほどまでの出来事がまるでなかったかのように、怪獣はその歩みを進める。

 オーブは、オーブスラッガーショットを結合させた専用武器である三叉槍・オーブスラッガーランスを構える。

 体力的に限界が近く、油断をしていられないと感じ、ランスのレバーを最大である三回まで引く。

 槍の連撃、トライデントスラッシュが繰り出された。怪獣は八つ裂きにされる。

 

 次の瞬間、ハサミによる斬撃がオーブを捉えた。

(いったい…この怪獣は…)

 そこでガイの意識は途切れ、変身が解除された。消滅したオーブ。ガイの体は海に投げ出され、波に飲まれて消えた。

 残されたティガは、ゾイガーと不死身の怪獣に取り囲まれ、絶体絶命の状況に陥った…

 

 

 海辺に一人の男が立っている。じっと、二人のウルトラマンと二体の怪獣の戦いの様子を観察していた。再生する怪獣によって、一人の巨人が倒される。それを見て、その男が歩き出した。

 

 

 

 

 




今回の話を書いていてグローザムをちょっと思い出しました。


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炎対水

 海辺から、一人の男が歩いてくる。その目が巨人と怪獣を見据える。

 一人でゾイガーと青い怪獣を相手にし、苦戦するティガ。ティガがハンドスラッシュで青い怪物の腕を切り落とす。しかし、その腕はすぐに再生する。マドカの内心に焦りが広がる。

(いったいどうすれば…ガイさんも負けてしまったし…)

 ティガは目の前が恐怖に埋め尽くされた。自分に迫る怪獣の狂気に飲み込まれていく…。デラシウム交流を放ち、ゾイガーが爆発した。狂気で精神が崩壊する寸前の、やみくもに放った一撃だった。爆発による煙が収まった後、ティガの姿はもう見えなくなっていた。

 

 海辺を黙々と歩く男がつぶやく。

「最後に怪物を倒したか…だが、まだ一体残っている。やはり、人類を守るのは私なのだ!!!」

 男の体が炎に包まれる。そして、巨人が姿を現した。

 

 イースの大いなる種族、キリエロイドの降臨である。

 

 その巨人は青い怪獣を前に、街を守るように立ちふさがる。足に炎を纏わせ、怪獣に向かって走り出す。迎え撃つ不死身の怪獣!その大きなハサミは、今か今かと敵を待ち構えている。

 

 

 同時刻 とある場所

 

 銀の鍵。その不思議な道具は、異世界から青い怪獣を呼び出した。そのことに気づいた男が、この世界を監視していた。その瞳は、この世界の絶望的な状況を捉えている。

「あの怪獣は…『夢の国』に住む大海魔・ボクラグ!」

 

 

 

 同時刻 海辺

 

 スライディング・キックが決まり、青い怪獣・ボクラグの脚に炎がまとわりつく。が、すぐに掻き消える。

(どういうことだ!?俺の炎が…)

 そこでキリエロイドは気付く。この怪獣の体が、蒸発している。つまり、この怪獣の体は、水…

(そういうことか、不死身のからくりは!)

 炎の相殺された足で、もう一度足を払い、そして蹴り飛ばす。

 右手を高く掲げ、その手に集まる炎をまとめる。球状の火炎を空高く投げ上げ、それが落下する。

 地面一帯が、炎で包まれる。しかし怪獣はその程度ではひるまない。足元の炎はすぐに水と相殺されてしまう。

 

 突如、火炎の柱が地面から空へと昇る!何本も空へと伸びる柱がボクラグを覆いつくす。その炎はまさに、炎魔地獄。キリエロイドが燃え盛る炎を払うと、怪獣は完全に蒸発し、跡形もなくなっていた。

 二体のウルトラマンを倒した強敵を、見事に打ち払ったキリエロイドは、また何処かへと姿を消した。

 

 

 数刻後 大阪 レンジの部屋

 

 エネルギー切れで変身が解除され、気絶したはずのレンジ。

 ボクラグに敗れ、海に落下したガイ。

 ゾイガーに光線を放ち倒れたマドカ。

 三人は、なぜかもといた部屋に戻っていた。

「どうなってる…?俺たちは確かに怪獣に…」

 いぶかしむガイたち三人に、一人の男が声をかける。

「やあ。」

「うわっあ!!!!誰だあんた!」

 スーツを着た、壮年の男性がそこにいた!いつからそこにいたのか、宇宙人のガイでも気配に気づかなかった。

「私はランドルフ・カーター。君たちが持っているはずの『銀の鍵』、それと縁深いものだ」

 

 




キリエロイドの技は、ウルトラマンFighting Evolution Rebirthのものです。


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未知の世界の門を超えて

「私はランドルフ・カーター。君たちが持っているはずの『銀の鍵』、それと縁深いものだ」

 カーターと名乗る壮年の男性。彼は、レンジの持つ『銀の鍵』の所在さえも言い当てた。ガイが二人をかばい戦闘態勢をとる。

「あんた、ヤディス星人か?いったい何が目的だ」

 カーターは語る。

「まあ待ちたまえ。私は君たちに敵対するものではないよ」

 ガイを落ち着かせ、座らせる。そして、彼は語りだした。

 この世界に起きる異変を…

 

 

「長い話になるが聞いてくれ。まずは、私のことから。

 私はカーター。もとは地球人だ。『銀の鍵』は知っているね?」

「はい、別の世界とつながるという…」

「そうだ。しかし、それ以外にも様々な力を持っていてね。私のいた世界にもあったんだが、その鍵のおかげで、私はパラレルワールドの存在を知った。ガイ君なら知っているんじゃないかな?マルチバースのことだ」

「ええ、俺も別の世界から…って、なんで俺の名前を!?」

「そりゃあ知っているさ。君、邪神を倒したことあるだろう。小耳にはさんだよ」

「ああ、闇ノ魔王獣・マガタノゾーアですか」

「そうそう…おっと、話を戻そう。そのあと私は、ヨグ=ソトースと会ったり、ヤディス星人になってしまったり、いろいろあったが、今はどうでもいい。問題は、私が過去に訪れたある世界だ。」

「ある世界?」

「おぞましい世界だ。ドリームランド…青い太陽に、桃色の空…巨大な昆虫、竜、そしてボクラグ…」

「ボクラグ?」

「その世界に、『サルナス』という大都市があった。それを、一夜で滅ぼしたのが、君たちがさっき戦った青い怪獣、ボクラグだ」

 その話を聞いて、三人はハッとする。

「しまった!怪獣がまだ暴れている!!」

 飛び出そうとする面々をカーターは止める。

「落ち着きたまえ。ボクラグは、イス人に倒されたよ。ロイガーももう来ていない」

「イス人…キリエロイドか!助かった…」

「話を再開しよう。この世界にボクラグが来た。それだけでなく、ガイ君や、ノアも。」

「ノア?」

「様々な宇宙に言い伝えられる、伝説の神。それがノアだ」

「そんな存在までこの世界に…!?」

 ガイは驚きの声を上げるが、カーターは気付いていないのかね、と問いかける。

「レンジ君に宿っている存在は、ノアの弱体化した姿、ウルトラマンネクサスだ」

「ウルトラマン、ネクサスさん…」

 

「さて、今までの話をまとめよう。まず、この世界に元からいた邪神・ガタノゾーアと光の巨人・ティガ。ガタノゾーアが復活しようとし、この地球は防衛機構を発動させた。それが、ガイ君、君を呼ぶことだ。」

「確かに、地球の助けを求める声を聞いて、俺はやってきました。」

「そして、銀の鍵でやってきたネクサス。これは、完全な偶然だね」

「はい、使い方を間違えて…運がよかったとしか」

「しかし、運がよかったかというと、微妙なところだ。確かに、ノアの力が加わるのは大きい。しかし、銀の鍵はドリームランドともつながってしまったようなんだ。その影響が、先のボクラグだ」

「つまり、俺たちはガタノゾーア率いる邪神と、ドリームランドの怪物、その両方と戦わなければならないという事ですか!?」

「そうだ。このままではこの世界が終わってしまう。それを防ぐ手助けがしたいと思って、時空を旅する私がやってきた、というわけだ。」

 

(しかし、困ったな…ウルトラマン三人と、イス人の介入をもってしても覆せないこの状況…裏で良くないものが動いていなければいいが)

 




ランドルフ・カーターについて。
原作では、クトゥルフ神話の生みの親、H.P.ラブクラフトの分身として描かれているキャラクターです。銀の鍵の力で、時空を超える人物です。


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舞い戻り東京

「さて…ウルトラマンネクサスの件は偶然の出来事と言ったね」

 カーターはレンジに話しかける。

「君は夢の中で、不思議な青い石に触れたか?」

 心当たりのないレンジは否定する。すると、カーターは一拍おいて話し出す。

「本来、ウルトラマンネクサスに選ばれた人間―デュナミスト―は、まず夢の中で遺跡、ストーンフリューゲルに触れる。しかし、今回の出来事はイレギュラーだ。デュナミストも本来、自分の道に悩むものがなるとされている」

 さまざまな世界を旅するカーターの知識量に驚くばかりのレンジたち。だがその話の意味するところは理解した。

「つまり、レンジは正規の適能者ではない…」

「そうだ。そのままではウルトラマンネクサスとしての真価を発揮できない恐れがある。私は、新たな適能者に光を受け継ぐことを提案する」

 

 戦いの疲れもあり、その場で解散となった。カーターはいつの間にか姿を消し、ガイとマドカは近くの避難所に足を運んだ。

「ふう…」

 レンジは自分のアパートでひとり夜空を見上げる。自分には守りたい人がいる。この力で…しかし、それと同時に、恐怖や責任ものしかかる。

(適能者、か…ウルトラマンは、守りたい人のためじゃなく、みんなのためにその力を使うべきなのかもな)

 ふいに、体から光の粒子が飛散する。やがて、静かな夜空に紛れて消えた。

 変身アイテムであるエボルトラスターもいつの間にかなくなっている。彼の意志と、ネクサスの光が、自然とそうさせたのかもしれない。そう、レンジは感じ取った。

――――それは受け継がれてゆく魂の絆――――

 そう、初めて変身したときに浮かんだあの言葉。この魂を、ほかのだれかに受け継ぐ…

「頼んだ、次のウルトラマンネクサス…!」

 

 

 

 

 翌日 大阪

 

「もう自分にはネクサスの力はありません。きのう、どこかへと消えていきました」

「ずいぶん早い決断だな、いいのか?」

「ええ、俺には覚悟も勇気もなかったし、もっと適任の人がいるならその人がなった方がいい」

「レンジさん、今まで協力ありがとうございました。また怪獣が現れるかもしれない。恋人の方と避難してください」

「お前もがんばれよ、マドカ。俺も一応探偵のはしくれだ。何か情報があったら連絡するよ」

 

 レンジを見送り、ガイが今後の方針をマドカに話す。

「さて、怪獣だが、太平洋からやってきているんだったか。海沿いで構えた方が市街地への影響も少ないが、教団ももう一度調べたいしな…」

 カーターが歩いてくる。

「おそらくネクサスの次の適能者は、見つかるまでしばらくかかるだろう。それまで、君たち二人でしのげるか?」

「俺たちがやらなきゃいけないんですよ!」

 気負うマドカに、ガイが声をかける。

「まあ落ち着け。大丈夫だ、二人で協力すれば」

「それにしても、これからどうすればいいんでしょう…」

「俺が前に潜入したダゴン秘密教団。あそこは二体の神を召喚しようとしている。それを阻止しつつ、事件解決の手掛かりを探すのはどうだ」

 ガイの提案に、カーターも同意する。

「では、いったん東京に戻るという事でいいかな?私は一足先に向かっているよ」

 門の力で異次元へと消えるカーター。

「俺たちはゆっくり行くか。まずは銭湯に入ってゆっくりしてからだな…マドカ!風呂上がりのラムネは最高だぞ」

 ガイに連れられ、マドカは銭湯にやってくる。

「被害が出て大変なのに、銭湯はやってるんですね…お湯はちゃんと来ているんでしょうか」

「臭いのは勘弁だな」

「?」

 

 銭湯には、避難している人々が疲れを癒しにやってきていた。避難所から比較的近いことが幸いして、よいストレス解消の場になっているようだ。

 しかし、突然、置いてあるテレビの画面が切り替わる。

「緊急速報です!東京にまた怪獣が現れました!」

 中継映像には、市街地に降り立つ一体のゾイガーが映し出されている。辺りでくつろいでいた風呂上がりの人々にも緊張と不安の表情が浮かぶ。

「ガイさん」

「ああ」

 建物の外に出て、走り出す。

「ティガー!!」

「ウルトラマンさん!ティガさん!光の力、お借りしまあああす!!!」

 走りながら、二人は変身の構えを取り、すぐさま空へ飛び立つ。

 

 

 直後 東京

 

 

 大阪から東京へ、一瞬のうちに舞い戻った二人の巨人。しかし、そこに怪獣はいない。

(あれ…ガイさん、これは…?)

 建物の被害はあまりなく、閑散としている。まるで、だれかが怪獣を撃退したのではないかと思わせた。

 

 ひとまず変身を解除する二人。マドカが疑問をぶつける。

「新しいネクサスがやってくれたんでしょうか?」

「さあな…この世界の自衛隊は、怪獣を倒せる力はないし…それに、見ろ」

 ガイが家電量販店のショーウィンドウに並ぶ液晶テレビを示す。どこもニュースをやっている。

 その番組をみると、怪獣が突然苦しみ、そして海に逃げ帰ったと伝えている。

「ネクサスさんのおかげではないとすると…また新たな謎が出てきたな、頭が痛い」

 

 

 

 

 

 



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イースの悪魔

 突然苦しんで消えたゾイガーの謎を追うため、マドカは怪獣の出現地・新宿に残り調査を開始した。

 一方、ガイは神の召喚を防ぐため、カーターと合流してダゴン秘密教団へと向かった。

 

 

 東京 新宿

 

 マドカは、近くで避難を始める人々や、警察官に聞き取りをしたが、恐ろしい怪獣を前に逃げるのがごく普通の反応であり、怪獣の様子や逃げた原因を知る者はいなかった。

「テレビなら、中継の再放送がやっているかもしれない」

 家電量販店に戻り、テレビを眺める。目当てのチャンネルが見つかり、じっと目を凝らす。

 

 ゾイガーが街にすでに降り立っているところから映像は始まっていた。新宿の街を蹂躙しようとするゾイガー。しかし、その歩みが止まる。何かが空を切っている。

(かまいたち?)

 刹那、怪獣の腕や腹から鮮血が噴き出す。怪獣は少しためらい、海の方向へ向けて飛び去った。

 

 マドカはすぐに「象牙の書」を開き、怪獣を探した。「ボクルグ」と記載されたページに青い蜥蜴が描かれているが、今探したいのはそれではない。

(かまいたちや、空気を操れる姿の見えない怪物…そんなの、弱点がわからないと戦いようがないぞ)

 マドカは焦りながらも、謎の存在の手掛かりを探す。

 

『風の神性 ハスター』

『鳥の神性 グロス=ゴルカ』

『形を持たぬ影 アザトース』

 

「…うーん」

 どれも、似てはいるがはっきりした確信が持てない。なにせ、その存在の姿は見えず、かまいたちに似た斬撃しか見えなかったのだから。

 ゾイガーを攻撃したという事は、味方なのか。それとも…

 

 そうこう考え込んでいると、いつの間にか昼になっていた。空には厚い雲がかかり、陰鬱とした気分にさせる。

 マドカは、いったん調査を切り上げ、食事をとろうと避難所へ向かった。

 

 

 東京 築地

 

 ガイはカーターと共に、ダゴン秘密教団のある築地にやってきた。大きな卸売市場からは、魚のにおいが立ち込める。天気も悪く、辺りは薄暗い。

「彼らの目的は、やはり神の召喚ですかね」

「ああ。まず二体の神、ダゴン(=ダーラム)とハイドラ(=ヒュドラ)を召喚する。そして、この世界に闇の力…マイナスエネルギーや狂気といった類のものを蔓延させることで、邪神ガタノゾーアの復活を容易にする、といった筋書きだろうな」

 

 まるで未来を見通すかのようなその話にガイは驚きに飲まれてしまう。

「別の世界で見てきたことだ。さ、行こう、ガイ君」

 以前ガイが侵入したときには、あまり情報が得られなかったが、ガイは資料に目を通して、建物の構造をつかんでいた。

 ガイの侵入で警備が強化されていたが、抜け道を把握していたので難なく侵入することができた。

「カーターさん、資料には地下室がありました。ここが怪しいかと」

「そうだな…そうしよう」

 職員やディゴン、シビトゾイガーの監視をかいくぐり、隠し扉のある倉庫にたどり着いた。

 扉をあけると、地下へとつながる階段がある。それを二人は降りていく。

 たとえ怪獣が現れても気づかないほど深く、下へ下へ…

 

 

 

 東京 新宿

 

 ”彼ら”は”口論していた。一方は、美しい地球を守る天使たらんと。もう一方は、邪神に使える悪魔たらんと。

「この世界の美しい自然、そして人々を守る。それが俺の選んだ道だ」

「邪神に歯向かっても勝ち目がない。ストルム星人にも及ばぬ弱い生命体は、邪神ガタノゾーアに滅ぼされるのみ。ならば我々は彼らに味方し、新たな世界の一員となるべきだ」

 二人の体は炎に包まれ、変化する。

 

 東京の街に、二体の巨人が姿を現した。

 マドカは、それを目撃する。片方は、彼と幾度か協力し敵を倒した戦士、キリエロイド。もう片方は、キリエロイドに似た、しかしどこか違う姿。その姿は、マドカに一種のおぞましさを感じさせた。

(あれもキリエロイドとおなじキリエル人…?でも、様子が変だ)

 二人の戦士は、いつ戦ってもおかしくない、緊迫した雰囲気を醸し出していた。

 雨が降り始める。

 闇の私闘が幕を開けた。

 



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二体の巨人

怪獣紹介

キリエロイド
この世界では、イースの大いなる種族=キリエル人の戦闘形態。炎を操り強敵ボクラグを破るなど、戦闘能力は極めて高い。地球の美しさに感化され、人間やウルトラマンに味方する。


 東京 新宿

 

 東京に出現した二体の巨人。似ているようで異なる炎の戦士たち。

 彼らは、人類の敵なのか、味方なのか。マドカはその様子を見定めようとする。

 どちらを助ければ、人々を守れるか。

 大地が揺れ、雨が降り注ぎ、キリエロイドが走り出す。ビルの合間を縫って近づいていくその先には、もう一人のキリエロイド――――キリエロイドⅡ。

 

 走り出したキリエロイドが自分の前方に体を投げ出す。瞬時に空中で回転し、そのまま敵にドロップキックを放つ。刹那、周辺一帯に走る衝撃波。

 その両足は、しっかりとつかまれていた。

 マドカの目にもはっきりと見えた。

 キックを受け止めた巨人の腕。それが、先ほどまでよりも強靭なものに変化している。よく見れば、その全身が筋肉質になっており、体色にも赤みがさしている。それはさながらティガのタイプチェンジのようで。

 キリエロイドⅡはつかんだ足を捻り上げ、地面に叩き付ける。そして、その強化された腕で殴りつけ、足で蹴り飛ばす。

 負傷で立ち上がれない相手を見下ろす形になった戦士は、その動きを止め、腕を大きく広げた。

 雨が降り続く中、その光景にマドカは目を見張った。

 キリエロイドⅡの広げた腕部の筋肉は収縮し、その代わりに大きな翼が出現した!

 ティガと同様に三種の姿を見せ、キリエロイドを圧倒していく。

 大きな翼を利用して高く上昇した後、急降下し、一撃を見舞おうと接近する。

 ふらふらと立ち上がったキリエロイドの背後には、人々の住む街並み。かわせば彼は傷を負わずに済む。しかし、それを彼の信念が許さなかった。

 彼は攻撃を受け止めた。高所からの直撃。街を破壊しないように倒れこむ彼の体は、強大な運動エネルギーによってその姿を維持できなくなっていた。

 溢れだす光の粒子、それが彼の消滅の合図。

 

 そして、マドカはやっと倒すべき敵がどちらなのか見定めた。

 スパークレンスを高く掲げる。キリエロイド――――街を守って消えた勇敢な戦士に、そして彼の戦いに敬意を表して。

「ティガ――――ッ!!!!」

 赤と紫に身を包む白銀の巨人、ウルトラマンティガが参上した。

 

 地面から足を持ち上げ、そのままドロップキックを繰り出す。

 キリエロイドⅡは、再びパワータイプにチェンジして受け止めようと立ちふさがる。

 だが、瞬時にティガはスカイタイプにチェンジ!

 猛スピードで敵のもとへと進んでいく。そして、高速でキックが放たれるその瞬間、先ほどの戦いよりも激しく大きな衝撃波、飛び散る火花!

 ティガのキックを受け止めきれず、敵は遠く離れた山の方向へ吹き飛ばされていく。

 その時敵は理解する。キックの直撃するまさにその瞬間、ティガの体色は赤く変化し、高速キックの爆発的な威力を更に高めたのだと。

 

 敵にキックを放った赤きティガはそのまま飛行し、山中に着地する。

 雨が一段と強くなる中、大きな翼を広げ山を飛び立つ敵。

 すぐにスカイタイプに変化し、後を追いかける。

 上空は薄暗い雲に包まれ、視界が悪い。放ったハンドスラッシュが空を切った。

 




怪獣紹介

キリエロイドⅡ
高度な知的生命体キリエル人の生き残りの一人。ティガと同様、三種の姿を使う。一人目のキリエロイドと異なり、邪神側に加担する。


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黒い男

  急に、マドカの視界に赤いものが見える。炎だ。自分の方に近づいてくるそれを間一髪で躱したが、大きくバランスを崩してしまう。なんとか体勢を立て直すティガの背中に、衝撃が走る。

 痛みだと気づいた時には、視界が目まぐるしく変わり降下していた。

 炎を囮に、攻撃を与えたキリエロイドⅡが落ちるティガを追っていく。

 山中に落下したティガに、敵の容赦ない追撃が襲い掛かる。急降下から、パワータイプに変化しての踏み付け。

 先ほどの攻撃の意趣返しとでも言うかのように嘲笑う。その様子はまさに悪魔。

 だが、マドカにも意地がある。ガイがダゴン秘密教団へ調査に向かった今、街を守るのは自分だけだと体を奮い立たせる。

(今ここで立ち上がらなければ、光の戦士に選ばれた意味が無い!!)

 パワータイプにチェンジし、敵の脚を払いのけて立ち上がる。

 敵もすかさず応戦する。力と力、速さと速さのぶつかり合い。

 両者の腕が、足が、激しく交差する。

 隙を見てティガがスカイタイプにチェンジ。高速で敵の脚をはじき、ハンドスラッシュで攻め立てる。敵が立ち上がる前に放たれるゼロ距離でのランバルト光弾!しかし、敵はまだ倒れない。

(今までに戦ってきた敵とは桁違いだ…強い!)

 

 あれだけの連撃を受けてもまだ立ち上がる敵。構え、そしてティガにつかみかかる。

 その瞬間!その手は離された。

(なんだ!?)

 キリエロイドⅡの姿は、最初の状態、マルチタイプに戻っていた。さらにその体は変化していく。やがて、ティガが見つめるなかで、一人目のキリエロイドのような姿になった。

 キリエロイドⅡは叫ぶ。

「貴様ァ!何をした!?俺に何が起こっているッ!!」

 ティガが何かしたわけではない。突然の異変に二人は戸惑う。

「闇の力が失われていく…どういう事だァ…」

 彼の戦う力の源である闇のエネルギー。地下で眠り、復活を待つガタノゾーアにより増幅されているはずのその力が、()()()()()()()()()()()()

 それは、ティガにとっては強敵を倒す絶好のチャンスだった。

 マルチタイプにチェンジし、必殺のゼペリオン光線を放つ。弱体化していた敵は間も無く、爆発四散した。

 

 雨の中の死闘は、突如起こった異変により終わりを迎えたのだった。彼らが戦った、その足元にひとりの黒い男がいたことに気づかないまま…

 

 

 ゾイガーを退けた謎のかまいたち、そしてキリエロイドⅡの弱体化…

 マドカの、いや怪獣たちのもとに起こる様々な異変。マドカは、それが自分たちの見方なのか計りかねていた。

 そもそも、怪獣を倒すほどのかまいたちなどが自然に発生することはないはずで、…

 マドカは、戦いを終えてガイとカーターの帰りを待ちながら、そんなことを考えていた。破壊を免れた街並みに、今は怪獣の姿はない。

 ふと、マドカはひとりの男を見つけた。先ほどまで巨人同士の戦いが行われており、人通りの少ない街並みにおいて、全身を黒で包んだその姿はよく映えた。

 マドカは男に声をかけようと思い立った。またいつ怪獣が出現するかわからない。ここにいては危険だから、避難所へ向かわせようと話しかける。

 すると男は、マドカを見定めるように見つめる。

(そうか、こんなところで一人でいたら僕も怪しまれて当然か…)

 しかし男は何か納得したようにうなずき、マドカの示す行き先に向けて歩き出した。

 

 マドカは知らない。彼が地球人でないことを。先ほどの戦いの際、近くに潜んでいたことを…




次回から、第三章ドリームランド編が始まります。予告編が活動報告にのっているのでそちらもどうぞ。


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第三章
闇の儀式 蘇る巨人


 ダゴン秘密教団の地下に潜入したガイとカーター。

 地下の最奥部へと降りていく。明かりもなく暗い視界の先に…

 

 ドアを開ける。様子をうかがおうとする二人の前に開ける視界。

 二人は、大きな広間に出た。二人のいる場所から少し先の方には、大きなクレーターのようなくぼみがあり、何か物音がする。

 くぼみの上から底を覗くと、見るもおぞましい光景が二人を出迎えた。ディゴンの集団。それが、円を作り魔法陣のようなものを囲んでいる。何かの儀式だろうか。

「何なんだ、これは…」

 幾多の世界を旅したガイでも困惑する、醜悪な光景。

 魔法陣の中央には、二つの人形が置いてある。おそらく召喚しようとしている二体の神の像であろうとガイは推測した。それをよく観察しようとしたガイは、瞬時に身をかわした。

 何者かが高速で接近してきたのである!

「誰だ!」

 ミ=ゴから奪取した銃を構え、向けるガイ。近づいてきた何者か。それにガイは見覚えがあった。

「お前は…マドカのところにいた、ナイトウ!」

 宗教学者として、マドカに助言などの手助けをしていたナイトウが、そこにいた。その手には、ガイから先ほどの接近で奪った一枚のウルトラフュージョンカード。

「このカードを使えば二神の復活ができる…配達ご苦労様」

 ガイを煽り、その直後姿を消した。

 かと思うと、魔法陣の中央に移っていた。

 

 カーターがガイに声を潜めて問う。

「いま奪われたカードはなんだ?」

「あれは…スパークドールズという人形を使う戦士、ウルトラマンギンガさんのカード…」

 

 ナイトウの姿をした何者かは、魔法陣の中央でカードをかざす。

『ウルトラマンギンガ…!!』

 オーブオリジンのカードがオーブカリバーになるように、ギンガのカードが形を変えていく。それも、闇の粒子となって。

『ダークスパーク…!!』

 命あるものの時を止め、闇の力を開放するそのアイテム。ディゴンたちが称えるなか、ナイトウはそれを二体の人形の足裏にあてる。

「深淵より出でるときだ…」

『ダークライブ!ダーラム!』

『ダークライブ!ヒュドラ!』

 

 

 

 崩壊する地下空洞から、間一髪で脱出したガイとカーターの二人。二体の闇の巨人の降臨を目の当たりにする。その特徴は『象牙の書』の情報と合致する。

「止められなかったか…」

「ともかく、私はマドカ君と合流する。いや、彼も変身するだろうか…」

「ああ、カーターさんは安全な場所に逃げてくれ」

 そう言ってガイはオーブリングを構えた。

「光の力、お借りします!」

『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン!』

 オーブが街に降り立つ。

「闇を照らして悪を撃つ!スペリオン光輪!」

 出現と同時に、多数の分身する光輪を放ち、相手を牽制。

 巨人の一体、ヒュドラが腕からかぎ爪を出現させ、それを打ち払った。

 

 

 



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再来

 建物の崩壊とともに現れた二体の巨人、ダーラムとヒュドラ。

 それを、黒いスーツの男と移動していたマドカも目撃した。

 男がつぶやく。

「あれは…」

 マドカは男に、先に逃げるように指示し、スパークレンスを構える。

 しかし、スパークレンスは反応しない。

「どうして…」

 みると、それは先端部分から黒ずんでしまっている。光の粒子のようなものが、わずかに二体の巨人のほうに向かっているのを見ながら、マドカは意識を失った。

 

 

 地上から流れる光の粒子。スパークレンスからそれが放たれきったのを確認したダーラムとヒュドラは、交戦中のオーブを横目に、地面を叩き付けた。土埃が舞い上がり、次の瞬間に姿は見えなくなっていた。

「逃げられたか…」

 ガイは冷静に人間体に戻り、マドカとカーターを探し始めた。

 

 

 ガイがマドカのもとへたどり着く。カーターが肩をゆすって、起こそうとしているところだった。

「大丈夫か、マドカ」

 目を覚ましたマドカに、ガイは問う。

「どうしてこんなところで倒れたんだ?」

「それが…スパークレンスが黒くなって…」

 そう言ってマドカは黒いスパークレンスを二人に見せる。

「さっきの巨人たちの動きも怪しかった…何かつながりがあるかもしれない。それと…」

 

 ガイはマドカに、ダゴン秘密教団地下で起こったこと、ナイトウと思われる人物の不審な行動について伝えた。

「とりあえず、ナイトウさんに電話してみましょうか」

「いや、宇宙人がのっとっていたり、化けたりしている可能性もある。もう少し様子を見よう」

 

 

 翌日

 

 午前八時

 

 一体のゾイガーが東京湾に出現した。

 ガイとマドカはさっそく現場に向かう。

 海の近くに飛来したゾイガーは、街へと歩みを進める。

 その翼から巻き起こる風は船を吹き飛ばし、口からの光弾は工場地帯を破壊していく。逃げ惑う人々をかいくぐり、二人は構える。しかし、やはりマドカは変身できない。

 仕方なく、ガイだけが戦いに赴く。

「キレの良いやつ、頼みます!」『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ ハリケーンスラッシュ!』

「光を超えて、闇を斬る!オーブスラッガーランス!」

 三叉槍を手に、怪獣と交戦するオーブ。

 マドカはそれを、ただ見ていることしかできない。

 

「どうして…」

 やりきれない思いを募らせるマドカ。そんななか、オーブはゾイガーを順調に追い詰め、とどめの一撃を繰り出そうとする。

「オーブランサーシュート!」

 槍の先端から発射された光線が怪獣を貫く。

 ゾイガーは、その頭が綺麗に切断され、倒れた。

 

 おかしい。

 ガイはとっさに違和感を感じ、一歩下がる。ガイが放った光線は、ゾイガーの腹部を貫いた。しかし、ゾイガーの首が落ちた。

 倒れたゾイガーの後ろに、()()()()()

 

 もう一体の怪獣がそこにいた。それは、そのハサミは見覚えがある。青い体、大きなハサミ。

 大海魔ボクラグ、その二体目が現れたのだ。

 後ろには、ドリームランドとつながるであろう異次元の穴がぽっかりと開いている。中を覗くだけで狂気に飲まれそうになるそれは、しかしだんだんと狭まっている。そしてボクラグ――――ボクラグⅡはそこへ戻る気配がない。

 

 この場にはもう、ボクラグを一度倒したキリエロイドはいない。そして、彼が倒したところを誰も見ていない。つまり…

「ボクラグ…困ったな、倒し方がわからないぞ」




ボクラグⅡは、ガイア40話に登場予定だった怪獣です。


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番外編 並行世界と神話生物

 話は、ボクラグⅡの出現の前日に遡る。

 

 その日は、キリエロイドとキリエロイドⅡが市街地で戦闘を繰り広げた。そして、キリエロイドは戦いの末消えてしまった…その後、ティガはキリエロイドⅡと交戦。かろうじて敵を倒すことに成功した。敵がその直前に弱体化するという異変はあったものの。

 

 その日の日中、三人の前に現れた二体の巨人…ダーラムとヒュドラ。特になにをするでもなく、ただ出現して、そして消えた。目的は何なのか。マドカのスパークレンスが黒く染まってしまったことと関係があるのか。

 ガイはその巨人たちについて考えを巡らせていた。人々が寝静まった避難所で、暗闇の中物音がする。目を向けると、二人の物陰が見えた。マドカとカーターが、ガイのいるテーブルに近づいてきたのだ。

 マドカが小声で話しかける。

「どうしたんですかガイさん、そんな難しい顔して」

 ガイが答える。

「ああ…今日の巨人について考えていた」

 ガイは、小さな明かりを照らし、紙に図を描いていく。

 

「パラレルワールドは無数にある。こんなふうにな」

 ガイが紙に描いたのは、5個の丸だった。以前、カーターが話したマルチバースを表している。

 一つ目の丸に、マドカの世界。二つ目の丸に、ガイの世界。同様にして、ネクサスの世界、ドリームランド、ギンガの世界、と書いた。

「マドカのいるこの世界とは別の世界から来た俺。銀の鍵で時空を超えてきたネクサスにも、元の世界があっただろう。」

 マドカはうなずく。

「ほかにもいろんな世界があってな、俺もいろいろ旅してきたもんだ。」

 

「ティガはこの世界の存在だろうな。門の創造は次元の移動はできないからな…また、邪神や怪物、イス人も」

 と、カーターが補足し、さらに続ける。

「ボクラグは異世界である、ドリームランドの存在だな」

 

 

 それを聞き終え、ガイが指さす。

「ギンガさんの世界。今日の二体の巨人はそこに存在していたものだと思う」

 ナイトウらしきものは、ギンガの世界に存在するスパークドールズを使用し、ダーラムとヒュドラを召喚した。

 その場を見ていないマドカには、日中に情報共有していたが、そのときガイには何かが引っ掛かったのだ。

「例えば、俺が訪れた世界の邪神と、この世界の邪神は違う存在なんだ…つまり…」

 ガイはマドカに問う。

「おかしくないか?二体の巨人は別世界の存在…なのに」

「あっ…象牙の書に載ってた」

 マドカは、象牙の書を取り出し、該当ページを探しだした。もう一度よく見てみるが、やはり今日見た巨人とそっくりだった。

 という事は…

「この世界にも、二体の巨人がいる…そいつらも倒さなきゃまずいってことだ」

 恐ろしい気づきに、三人は大きなため息をついた。

 

 

 




怪獣紹介

ダーラム(SD)
この世界でダゴンとして伝わる巨人と同じ姿をした、ギンガ世界の存在。SDはスパークドールズの略称。ギンガスパークやダークスパーク等で、人形から「もとの姿にもどす」ことができる。


ヒュドラ(SD)
この世界でハイドラとして伝わる巨人と同じ姿をした、ギンガ世界の存在。同上。


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四人目の巨人

 その腕のハサミでゾイガーの首を切り落とし、ボクラグⅡが現れた。ドリームランドに帰る様子もなく、じっとオーブを見ている。

 以前、オーブの技を受けても再生し、歯が立たなかった怪獣。

 ガイも、マドカも、そしてカーターも、キリエロイドがボクラグを倒した瞬間を目撃していないのだ。

 ガイは冷静に戦略を立てる。前の戦いでみたとおり、斬撃攻撃は効果がない。今はハリケーンスラッシュの状態であり、分が悪いと考え、変身する。

「ウルトラマンオーブ バーンマイト!」

「紅に燃えるぜ!」

 敵に接近し、炎をまとわせた手で、頭部に打撃を与えた。

「おりゃああ!!」

 炎で蒸発する頭は、しかし次の瞬間には元通りには再生してしまう。

 

 キリエロイドは既に倒れ、マドカは戦闘不能。そして、ネクサスは新たな適能者を探している…

 さらに、ガイ自身もカードを奪われており、すべての力が出せるわけではない。

 一方のボクラグⅡは、この前の個体と同じように、海からの邪悪なオーラを身にまとい、強化されている。

 

「ストビュームッ…ダイナマイトォ!!」

 炎を全身で燃え上がらせ、突撃するオーブ。しかし、邪悪なオーラがそれを阻む。わずかに届いた炎がボクラグを蒸発に至らしめるも、すぐに再生。

「どうすりゃいいんだ…」

 ガイは有効打を見つけられない状態で、二枚のカードに望みを託した。

「これしかないか…」

 光と闇。本来相容れない力同士。その力は絶大な効果をもたらす。

 

「ゾフィーさん!」!」『ゾフィー!』

「…ベリアルさん」『ウルトラマンベリアル!』

「光と闇の力…お借りします!」『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ サンダーブレスター!』

 

 つりあがった目。禍々しいオーラ。そして強大な威圧感を放ち、巨人がそこに降り立った。

「闇を抱いて…光となる!!」

 マドカとカーターがその様子を見つめる。

「ガイ君に言っておくべきだったな…この世界は闇の力が濃い…彼も闇に呑まれてしまう!」

「えっ!それって…」

 突如、オーブの体にも邪悪なオーラがまとわりつく。

「ウオオッ…グッ!!」

 苦しみ出してしまうオーブ。もがくように、近くのビルを腕で叩く。

 

 ガタノゾーアの力によって、闇に侵食されているこの星。ダーラム(SD)とヒュドラ(SD)の召喚によって、その力はさらに強まっている。そんな状態でオーブが闇の力を使うことは、自殺行為にも等しかった。

「いったいどうすれば…このままではガイさんが!」

 暴走するオーブ。ビルが破壊され、地面が揺れる。

 ボクラグは、別の街に向かって進行し始めてしまっている。

 絶体絶命のピンチ――――

 

 

 そんなとき。

 マドカとカーターの後ろから、声がかかった。

「おい…」

 そこにいたのは、マドカが昨日出会った男だった。全身を黒いスーツで包み、不気味な雰囲気を醸し出している。

「お前、変身できなくなったのか?」

 何故か。その男は、マドカの正体を看破していた。

「どうしてそのことを…あなたはいったい…」

 怪しげな笑みを浮かべる男に、マドカは驚きながらも問う。

「もしかして、あなたが…!?」

「違えよ、お前が変身できなくなったのは、あの二体の巨人のせいだ」

 男は、暴れているオーブに目をやる。

 

「だが、今はそれどころじゃない…ガイの野郎とあのバケモンを止めなきゃならねえ」

「でも、どうやって…」

 黒い男は、どこからともなく剣を取り出した。日本刀に似たその剣を、男は地面に向ける。

「この世界は闇の力が多いからな…特別に俺が手伝ってやるよ」

 地面に剣を突き刺したとたん、男に闇のエネルギーが流れ込む。

「あなたはいったい…何者なんですか」

 

 

「俺はジャグラス ジャグラー…正義の味方ってやつさ、クク」

 

 

 そう名乗った男、ジャグラーが異形の姿に変化する。

「ガタノゾーア!キリエロイド!闇の力…頂くぞ!」

 そして、膨大なエネルギーがその体に巨大化する力をもたらす。

 ウルトラマンオーブと同程度の大きさになったジャグラー。

 右手に蛇心剣を構え、暴走するオーブに向かっていく。

「ガアアアアアアアアイ!!」

 

 

 

 




時系列:ウルトラマンオーブ第9章「冥府魔道の使者」(ウルトラファイトオーブ)とウルトラマンオーブ第10章「渡り鳥、宇宙を行く」(劇場版ウルトラマンジード)の間と考えていただければ。


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英雄

 二年前。その日から、世界は緩やかに滅亡への道をたどり始めていた。地中から出現した巨大生物、ツァトゥグア。あれは、危険を知らせるサインに過ぎなかったのだ。

 

 わたしは、その頃にはもう、警察として働いていた。厳しい訓練や試験を乗り越え、一人前になったと思い込んでいた。まさか、この国が怪獣に襲われることになるなんて、そんなこと考えてもいなかった。しかし、怪奇な事件が次々と発生し、そして…

 

 現れた怪獣。それを前に、わたしは何もできやしなかった。

 絶望。恐怖。そして、無力感。

 

 市民を、街の平和を、守りたいって。そう思って、これまで頑張ってきた。つらいことも、苦しいことも、たくさんの経験があった。そのすべてが、この世界の常識とともに、壊された。

 

 わたしは、もう立ち直れないかもしれない…そう思った。怪獣のもとへ向かうレンジを引き止めることもせず、自分は怪獣から逃げることに必死で。

 何が「市民を守りたい」だ。何が「街の平和を守りたい」だ…

 彼は無事だろうか…それを確かめるのが怖い。

 

 警察官として、人として…

 そんなわたしの脳裏に、ひとりの姿がちらつく。

 こんな情けないわたしを救ってくれた、クレナイ ガイさん。怪獣の襲来の翌日も、無心になって働くことができたのは、彼に希望をもらったからだ。

 警察官ではない、そんな彼でも、人を救う。だったら、わたしにも、わたしにだってできることがあるはず…そう思うことができた。

 

 

 

 ――――最近、夢を見た。不思議な夢だった――――

 

 

 午前八時。東京湾に怪獣が出現した。

 わたしの心はガイさんに救われたけど、こっちはそうはいかない。警官としてのミズオ・ユリカは、相変わらず自分への不満を抱えているのだ。

 巨大な怪獣を前に、何もできない警察や自衛隊。わたしが何もできないのは変わらないのであった。

 

 大きな地響き。

 あの日わたしの前に現れた巨人が、大地を揺らして顕現し、怪獣と相対する。

 

 巨人と怪獣が戦っている間、ニュースや警察の無線がそろって伝えるのは、別のニュースだった。大阪…そこに、別の怪獣が現れているというもの。

 でも、以前ニュースで見た別の巨人は現れない。このままじゃ…

 

 わたしも、大切なものを、そしてみんなを守りたい――――

 あの巨人のように!

 その強い思いが届いたのかもしれない。哀れで無力なわたしに情けをくれたのかもしれない。それでいい。

 光がわたしを包む。

 

 見えたのは、夢の風景。

 そして、浮かぶ言葉。

 ――――それは受け継がれてゆく魂の絆――――

「頼んだ、次のウルトラマンネクサス…!」

 

 この声は、レンジさん…!?

 その考えは、光の衝動と共に霧散した。手には何かが握られている。それを、無意識に振り上げる。体が、変わる。

 巨人へと、変身――――

 

 一瞬。そこは大阪。大阪城が見える。

 そして、街を襲う怪獣。4、5匹がいるのが見える。大きさはそれほどでもない…いや、わたしが大きくなっているからそう感じるのだろう。

 飛び魚のようなその体の長さは、車よりもはるかに大きい。

 しかし、それを小さく感じるほどに、わたしは大きくなっているみたいだ。

 銀色の腕。銀色の体。ビルに映し出される銀色の巨人。

 

 ウルトラマンネクサス アンファンス。

 

 ――――わたしも、ガイさんみたいに、誰かを救えるかな――――

 

 

 



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激戦

 市街地にその姿を現したジャグラー魔人態。日本刀に似た彼の武器・蛇心剣を構え、異形の鎧に身を包む彼は、暴走するウルトラマンオーブに戦いを挑む。

「ガアアアアアアアアイ!!」

 

「ウオオオオ!」

 対するはウルトラマンオーブ サンダーブレスター。その呻きにも似た咆哮が街を揺らす。

 ジャグラーの剣による一閃を、オーブは正面から受け、火花が散る。しかし、オーブはひるむ様子もなく、ジャグラーにつかみかかる。

「なめんじゃぁ…ねえ!!」

 強靭な二本の腕を振り払い、ジャグラーが後退する。

 向かってくるオーブに狙いを定め、そして闇を纏う剣先から放つ連続切り、蛇心剣抜刀斬!

 高速の斬撃に、暴走するオーブも思わず後ずさりする。ビルをへし折り、投げつけていくが、ジャグラーはそれを一刀にして切り捨てる。

 業を煮やしたオーブ、が腕を動かし構える。その周りに光の青と闇の赤のオーラがほとばしる。

 放たれる衝撃、ゼットシウム光線!

 ジャグラーはそれをとっさにかわし、剣を薙ぎ払った。その先から、闇のエネルギーが三日月型となって射出される。

「蛇心剣・新月斬波!!」

 オーブに直撃し、火花が散るとともに爆発を起こした。遠くの街まで届いた三日月の波動は、遠く離れたボクラグの体をも両断した。

 

 その巻き上がる煙の後には、オーブの姿はない。

 エネルギーが尽き、ガイの姿へと戻ったのだ。

 そして、ジャグラーもその大きさが縮小していく。

「やれやれ…」

 人間態に戻ったジャグラー。マドカとカーターが、ガイを抱えて迎える。

 ジャグラーはすかさずガイの黒いジャケットを暴く。

「ちょっ…ジャグラーさん、何を…」

 マドカの静止を無視し、ジャグラーはオーブリングを奪い取る。

「貸せ!あいつを足止めする」

 ウルトラマンのカードをリードする。すると、カードに秘められた力がボクラグに向けて放たれる。

 両断された状態から再生するボクラグに、光の輪が巻き付く。ウルトラマンの技、キャッチリングだ。

 腕をも抑え、腕のハサミを使わせない。

「よし、いったん引くぞ」

 ジャグラーに促され、マドカとカーターはガイを連れてその場を後にした。

 

 

 

 大阪に出現したウルトラマンネクサス アンファンス。

 複数体確認できる小さな怪獣に向け、光弾を放ち殲滅していく。瞬く間に怪獣は全滅した。

 そして、安堵の声や感謝の声を上げる人々。その光景に、ユリカの心は不思議な達成感や高揚感に包まれた。

 ―――わたし、救えたんだ…たくさんの人たちを―――

 

 ふ、と我に返ったユリカ。突然巨人に変身し、大阪に来ていたのですっかり失念していたが、東京にも怪獣が出現していたのだった。すかさず跳躍し、東京までマッハ3の速度で飛行する。

 たどり着いた先には、先ほどの巨人の姿はない。そして、怪獣は光の輪のようなもので身動きを封じられている。

 

 街を壊さぬように着地。銀色の巨人は、東京に舞い戻った。

 



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共闘

「また光の巨人か!」

 ジャグラーの空しい叫びが響く。マドカたちはその銀色の巨人に見覚えがある。

「ネクサスだ!」

 一方、ネクサスとなったユリカは、彼らの事情など知らない。

「待て、そいつを攻撃するな!」

 ボクラグに攻撃を仕掛けようとするネクサスに、ジャグラーが制止の声を上げる。

 キャッチリングが攻撃を加えることで破壊してしまう恐れがある。

「そこで待ってろ」

 そう吐き捨て、ジャグラーはマドカの持つスパークレンスを奪い取った。

「何するんですか」

「やっぱりな、見ろ」

 先ほどまで真っ黒に染まっていたスパークレンスに、わずかだが銀色の光が戻っている。

「不完全な状態だが、変身できないよりマシだろ」

「はい…でもどうして」

「俺が巨大化するときに、周りの闇の力を拝借した。おそらくその影響だ」

 そう言いながら、ジャグラーはマドカにスパークレンスを投げ返す。そして、今度はガイのオーブリングを奪い取る。

 ジャグラーは怪獣に向かい立った。

「行くぞ、三人ならまだあのバケモノを倒す勝機はある」

「は、はい!」

 慌ててマドカも構える。そして、二人が闇に包まれる。

 

 そして、闇をまとった巨人・ティガダークが顕現した。

(変身できた…あれ?ジャグラーさんは、いったい…)

 

 ジャグラーはオーブリングを自分の前にかざし、ニヤリと笑う。

「これは奥の手だったんだがな」

 ジャグラーの手には二枚のカード。

「ゼットンさん!」『ゼットン!』

「パンドンさん!」『パンドン!』

「闇の力…お借りします!」『超合体!ゼッパンドン!』

 

 赤と黒の肉体をもつ、凶悪な容貌の怪獣がその姿を現す。

 その様子に、二人のウルトラマンも困惑している。

「何やってんだお前ら。行くぞ!」

 そう言って合体魔王獣ゼッパンドンへと変貌をとげたジャグラーがボクラグに向かっていく。

 俺たちも行こう、とアイコンタクトをとり、ティガダークとネクサス アンファンスも大海魔に向かっていく。

 

 ゼッパンドンの鋭い鍵爪が、キャッチリングごとボクラグの体を引き裂く。上半身と下半身が切り離された様子を見て、ジャグラーが合図を出す。

「全力で吹き飛ばせ!!」

 ゼッパンドンの火球が敵の体を焼き尽くす。それを援護するように、ティガダークも光線を放つ。ネクサスは必殺のクロスレイ・シュトロームで追撃を加えた。

 その攻撃をしばらく続けた後、ようやくボクラグは沈黙した。

 

 ゼッパンドンはその場で消滅、ジャグラーの姿へと戻った。

「やれやれ…やっぱ正義の味方なんてやるもんじゃあないな」

 そこに、ティガダークから人間体に戻ったマドカが駆け寄る。

「お疲れ様です!」

 ジャグラーはマドカの尊敬の眼差しを手で振り払う。

 そして、ネクサスも人間の姿に。それを見たマドカが驚きの声を上げた。一方ユリカも、知っている人物が巨人になっていたと分かり驚愕の表情を隠せないでいる。

 

「うっ…」

 そこに、暴走から解放されたガイが意識を取り戻した。

「…ジャグラー。なんでお前がここに」

 

 ここに、四人の戦士が集結した。倒すべきは、邪神とその配下の怪獣たち。彼らは立ち上がる。この世界を、宇宙を守るため。

 

 

 

 

 



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魔宴

怪獣紹介

ボクラグ
ドリームランドに生息する危険な怪獣。トカゲのような姿で、体はほとんど水分で構成されている。そのため、体の一部がなくなってもすぐに再生。鋭いハサミ状の腕が武器。キリエロイドに倒された。


 巨人の力を持つ三人…ゴダイ・マドカとクレナイ ガイ、ミズオ・ユリカ。

 魔人の力を持つジャグラス・ジャグラー。

 怪物についての知識の深いランドルフ・カーター。

 

 この日の夜、五人によって情報の共有が行われた。

「じゃあ、あの時助けてくれた巨人もガイさんだったんですか!?」

 驚きの声を上げるユリカ。興奮が収まらないようで、ガイの手をつかんでまくし立てる。

「ガイさんと一緒に戦えるなんて、光栄です!!!よろしくお願いします!!!」

「あ、ああ…」

 ガイは呆れ顔でそれに応じている。

 

 そして、ユリカが戦った怪物についての情報が話された。

「飛び魚のような体で、大きさは車よりも大きい感じでした」

 マドカの持つ象牙の書と照らし合わせる。

 該当する項目が見つかった。

「おそらくこれですね、『バイアクヘー』」

「数が多いのが難点だな…何匹も押し寄せたら被害が大きくなる」

「たしかに、これは厄介だな」

 ガイとジャグラーが怪物についての所感を話す。

 

 マドカが、ふと疑問に思い発言した。

「そういえば、ジャグラーさんはガイさんのお知り合いなんですよね?ガイさんのリングを使ってましたけど…こんど怪獣が出た時はどちらが戦われるんですか」

「俺は闇のエネルギーがあれば巨大化できる。それに、俺はこのリングには嫌われているしな…奥の手ってやつだ」

 ジャグラーが返答する。

「それよりガイ、お前は奪われたカードを取り戻すのが最優先じゃないか」

「そうだな…ナイトウという男を探るしかないか」

「それが、マドカ君の力を取り戻す手掛かりになるかもしれない」

 と、カーターも同意している。

 

 話し合いの結果、マドカとジャグラーが怪獣出現時の対応に当たり、ガイ、ユリカ、カーターがナイトウの調査にあたることになった。

「ユリカ、お前は仕事の方はいいのか」

「はい、ガイさん。警官の代わりはいますが、巨人は三人しかいないので」

「そうか、無理すんなよ」

「はいっ!!」

 ユリカはすっかりガイになついたようだ。

 

 

 翌日 午前九時

 

 ガイたち三人が調査に向かい、静かな避難所の一角。

「出たぞ、ゾイガーだ!場所はアメリカ、サンフランシスコ!」

 ニュースを見たジャグラーが叫ぶ。

 マドカが走って外に出る。ジャグラーは日本を守るため、ここに待機している。

「外国なんてはじめてだよ…変身!」

 スパークレンスが光り、黒い巨人、ティガダークが飛び立つ。

 海を越え、雄大な大陸が視界に入る。飛来する怪鳥。それと空中で交戦しながら、地上に向かっていく。静かな森に降り立った巨人と怪獣が大地を震動させる。

 必殺のゼペリオン光線を放とうとするが、体が反応しない。やはり、力を十全に発揮することができなくなっているようだ。パワータイプやスカイタイプへの変化もできない。仕方なく、ゾイガーをいなし、弱体化した光線や光弾で攻め立てる。

 しかし、そこに再び怪魚、バイアクヘーが出現!その群れが、小さな体でティガダークに纏わりつく。

(ぐっ…身動きがとれないしゾイガーを攻撃できない…)

 みると、ゾイガーもバイアクヘーに攻撃されている。

(仲間割れ…?そういえば、ボクラグもゾイガーの首を…)

 しかし、そんなことを考えている場合ではない。このままでは、バイアクヘーによって徐々に噛み殺されてしまう。光線を縦横に放ち振り払うが、なおも追いかけてくる。

(まずい、このままじゃ…!)

 

 

 

 




怪獣紹介 ボクラグⅡ
ドリームランドから襲来した、二体目のボクラグ。ゼッパンドン、ティガダーク、ネクサスの同時攻撃で倒された。


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元ネタ解説(ウルトラシリーズ)

第一話

ゴダイ・マドカ

「ウルトラマンティガ」の主人公マドカ・ダイゴのもじり。

 

バオーン

「ウルトラマンダイナ」に登場する怪獣。

 

第二話

キリエル人

「ウルトラマンティガ」に登場。キリエロイドに変身する、精神生命体。

 

第三話

謎の人物

「ウルトラマンオーブ」の主人公、クレナイ・ガイ。ヒューマノイド型の宇宙人で、世界を旅する風来坊。

 

ナギ・レンジ

名前は「ウルトラマンネクサス」の西条凪副隊長から。

 

ミズオ・ユリカ

名前は「ウルトラマンネクサス」の野々宮瑞生から。

 

第六話

ゾイガー

「ウルトラマンティガ」に登場した怪獣。ガタノゾーア(後述)の尖兵。

 

スパークレンス

「ウルトラマンティガ」の変身アイテム。

 

ウルトラマンティガ

「ウルトラマンティガ」などに登場。今作では、この世界に存在していたティガ。

 

ウルトラマンネクサス

「ウルトラマンネクサス」などに登場。ウルトラマンノアが弱体化した姿。

 

ウルトラマンオーブ

「ウルトラマンオーブ」などに登場。今作の時系列はオーブ第九章「冥府魔道の使者」の次。

 

第七話

ジュネッスルージュ

凪副隊長が変身した姿として構想されていたスタイル。

 

第九話

ディゴン

「ウルトラマンダイナ」に登場した怪獣。クトゥルフ神話的にはダゴンというより、ディープワン。

 

ダーラムとヒュドラ

「ウルトラマンティガ」に登場した闇の巨人。

 

第十一話

ゼロさん

ウルトラマンゼロ。ノアから、力の一端であるウルティメイトイージスをもらった。オーブの師匠にあたる。

 

第十二話

キリエロイド

「ウルトラマンティガ」に登場。キリエル人の変身した戦闘形態。

 

人間大の大きさのゾイガー

シビトゾイガー。「ウルトラマンティガ」に登場。

 

フュージョンアップ

二人以上のウルトラマンの力をお借りして、別形態に変身するオーブの能力。先輩方への敬意も忘れない。

 

第十四話

星雲荘

「ウルトラマンX」に登場したアパート。

 

第十五話

マガタノゾーア

「ウルトラマンオーブ」に登場。第四章「激闘!イシュタール文明」でオーブに倒された。

 

ガタノゾーア

「ウルトラマンティガ」などに登場。クトゥルフ神話的にはガタノトアというより、クトゥルフ。

 

第十八話

ボクラグ

「ウルトラマンガイア」に登場した怪獣。

 

炎魔地獄

ウルトラマンFighting Evolution Rebirthにおける、キリエロイドの最強技。

 

第二十一話

ストルム星人

「ウルトラマンジード」に登場した宇宙人。

 

キリエロイドⅡ

キリエロイドと同種族。ティガと同様、3タイプに変身可能。

 

第二十四話

ウルトラマンギンガ

未来からやってきた戦士。スパークドールズという人形で別のウルトラマンや怪獣にも変身可能。

 

ダークスパーク

ギンガ世界に存在する、命あるものの時を止め、闇の力を開放するアイテム。

 

第二十五話

ボクラグⅡ

「ウルトラマンガイア」に登場予定だった怪獣。

 

第二十七話

ジャグラス ジャグラー

クレナイ ガイの宿敵。魔人体に変化し、愛刀・邪心剣で戦う。

 

第二十九話

キャッチリング

光の輪によって相手の身動きを封じるウルトラマンの技。

 

第三十話

ティガダーク

闇のティガ。変身者が闇に染まっていない場合、その力を完全には引き出せない。

 

ゼッパンドン

ジャグラーが超合体した姿。実際、オーブリングでもゼッパンドンの音声は鳴る。

 

第三十一話

バイアクヘー

「ウルトラマンガイア」に登場した怪獣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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無貌の神

怪獣紹介

バイアクヘー
ボクラグと同じくドリームランドから出現。ウルトラマンや他の怪獣より小さいが、群れで襲撃し苦しめる。


 ガイ、カーター、ユリカの三人はナイトウを訪ねて彼が研究をしている都内の大学へとやってきた。

「ナイトウから貰った名刺によると、ここだな」

『円谷学園』という石碑がある。それをみて

「えんや学園?」

 と首をかしげるユリカ。彼女を引っ張って大学の窓口へ。ナイトウ教授の知り合いだと自称し、研究室の場所を教えてもらう。

 

「よし…」

 部屋の前までやってきた三人。部屋に踏み込もうとノックする。しかし、反応はない。

 ガイが強引に部屋を開け、三人は中へ進む。するとそこには、膨大な本の山が築かれていた。

「すげえな、学者ってのは…しかし、ナイトウがいないのは困ったな」

 ガイがそう言いながら本をあさっていると、カーターが何かを見つけたと声を上げる。

「これは…こんなものがなぜここに!ガールン断章、エルトダウン・シャーズ、黄衣の王、水神クタアト、エメラルド陶片、怪物とその眷属、グラーキの黙示録…」

 ガイとユリカにはちんぷんかんぷんだ。

「なに言ってるんだ…?」

「これらは、全部魔導書だよ!この世界の宗教学者は、こんなに多くの魔導書を集めているものなのか!?ああ、ザンツゥー陶片、屍食教典儀、サンの七秘聖典まで!」

 ガイが探していた書斎付近には、つい最近まで読まれていたであろう本が一冊確認できた。

「ルルイエ異本…」

 カーターがやはり、といった表情でその本の表紙を見る。

「ルルイエとそこに眠る邪神ガタノゾーア…そしてその眷属について書かれている本だ」

「ガタノゾーア…」

「この魔導書の量…この星には無いはずのものまで揃っている。このような事ができる者を、私は知っている」

「それは誰です、カーターさん」

 カーターはじっと目をつぶり、そして答える。

「その名は――――」

 

 

 

 

 

「――――ニャルラトホテプ」

 

 

 

 

 

 ナイトウという偽りの仮面をかぶり、無貌の神・ニャルラトホテプは地下祭壇に立った。

 目の前には、ガタノゾーアの配下・ダーラムとヒュドラの模造品であるスパークドールズ。前回の現界でウルトラマンティガの力と素早さを奪い、準備は整った。

 

 この世界は闇が足りなかったのだ。ゾイガーやディゴンを駆使して闇を増やしていき、そしてティガからエネルギーを吸い取り、いまようやくダーラムとヒュドラの復活を実行に移すことができる。

 イス人の犯行は想定済みだったが、ティンダロスの猟犬やミ=ゴでなくドリームランドから横やりが入るとは思わなかった。今もビヤーキーが好き勝手暴れているが、それもこの二体、そしてガタノゾーアの復活の前には些細な事。

 そうして、ニャルラトホテプは、ディゴンたちに命じる。ディゴンたちが何匹も、ダーラムとヒュドラのSDに集まっていく。その体は吸い取られ、邪神の現界のための血肉へと化す。この世の理を逸した醜悪な惨状の末、そこに闇のエネルギーが充填されていき、そして――――

 

 

 二体は完全復活を果たした。

 

 

 大きな音とともに地震のような揺れを感じたガイたち三人は、避難する人々と一緒に建物の外に出た。すると、以前彼らが見た二体の巨人、ダーラムとヒュドラが目視で確認できた。

「いくぞ、ユリカ」

「はい!」

 二人は巨人の出現場所のより近くへと向かっていく。

 

 しばらく走る。そのうちに、二人の巨人が動く気配は無かった。

「いったい何が目的だ…?」

 すると、ガイは見覚えのある人影を発見した。

「あれは…ナイトウ!いや、ニャルラトホテプ!」

 人影が振り返り、くっくっと嗤う。

「その名前を軽々しく口にするとは、面白いじゃないか」

 そういって手をすっと上げたかと思うと、二体の巨人が動き出した。

 巨人が街に向かって攻撃を仕掛けようとする!

「おおおおっ!!!」

 ユリカが叫び、巨人へと――――ウルトラマンネクサスへと変身した。その混乱に乗じ、ガイはニャルラトホテプに向かって突っ込む。ニャルラトホテプはそれを見越し、瞬間移動で躱した。しかし、

「そこだ!」

 ガイはとっさに後ろを向き、ミ=ゴの銃で敵を打ち抜いた。

「ぐっ!!さすがはO-50の戦士といったところか…」

 ガイはニャルラトホテプが落としたカードを見逃さなかった。以前奪われたウルトラマンギンガのウルトラフュージョンカードだ。

 

 オーブリングを構え、三枚のカードを宙に投げる!ガイの周りを回遊するカード。それを一枚ずつ手に取っていき、力を開放する。

「ギンガさん!」『ウルトラマンギンガ!』

「ビクトリーさん!」『ウルトラマンビクトリー!』

「エックスさん!」『ウルトラマンエックス!』

『トリニティフュージョン!』

「三つの光の力、お借りします!オーブトリニティ!!」

 三人のウルトラマンの力を借りて変身するガイ。

「俺はオーブトリニティ。三つの光と絆を結び、今、立ち上がる!」

 右腕に専用武器・オーブスラッシャーを構え、巨人・ダーラムに立ちふさがる。

 

 ヒュドラと戦うネクサスも、右腕を振り払い、エネルギーを開放する。体に流れる紫の光!

 ウルトラマンネクサス ジュネッスビオレへと変化を遂げた。

 

 一方でカーターが、もう一方でニャルラトホテプが見据える中、決戦が始まった。

 




怪獣紹介

ディゴン
ダーラムとヒュドラを崇拝する魚人属。ダゴン秘密教団として、秘密裏に活動を行っていた。ニャルラトホテプの指示に従い、この世界のダーラムとヒュドラの復活の贄となった。


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夢の国の破滅、大地の巨人

 アメリカ サンフランシスコ

 

 無数のバイアクヘーに囲まれ、身動きが取れなくなってしまっているティガダーク。本来の力が発揮できず、小さな敵をまとめて吹き飛ばすには至らない。その体はバイアクヘーの攻撃によりじわじわと摩耗し、傷が蓄積されていく。それは、近くで同様に攻撃を受けるゾイガーも同じである。

 そうこうしている間に、彼の周りを不思議な感覚が覆う。

(この不気味な感じは、いったい…!?)

 

 

 そして、その違和感から解放されると同時に、全く別の異様さに気づく。

(なんだ…ここは!!)

 

 みると、バイアクヘーたちは上空で漂っており、周りを見渡すことも体を動かすこともできた。近くには、先ほどまで交戦していたゾイガーもいる。

 そして、周りの風景は…まるで、地獄だった。

 目が痛くなるようなビビットなピンク色をした不気味な空。足元をはい回る無数の虫。朽ち果てた街。

 マドカは一瞬で察した――――

 ここは、自分たちが暮らしている世界とは全く別の世界だと。

 

 バイアクヘーは飛翔し、攻撃を受けて既に瀕死のゾイガーには見向きもせず、近くの水場へと飛び込んでいった。ティガダークもそれを追いかけ、水の中へ。

 深い海が広がる。その底にも、朽ちた街の残骸が見えた。『セレファイス』と書かれた看板を横目に、彼はバイアクヘーの群れを追っていく。その先には…

 

 バイアクヘーを体に吸収する、禍々しい怪獣の影が揺らめいていた…

 

 

 

 

 日本 東京

 

 ヒュドラの腕から三本の鋭利な爪が出現し、ネクサスを狙って一閃が繰り出される。彼女はそれをかわして敵の足元に潜り込み、強烈な打撃を与える。

「グッ…」

 思わずのけぞるヒュドラを見逃さず、その腕にエネルギーを収縮させる。溢れんばかりの紫の光が、一筋の軌跡を描き、敵の体を貫く――――オーバーソードレイ・シュトローム――――

 体内からディゴンの肉片や残骸をまき散らし、ヒュドラは爆散した。その体から、紫色の光の粒子が舞い上がり、やがて見えなくなった。

 

 

 

 

 ドリームランド セレファイス海溝

 

 バイアクヘーを取り込んだ怪獣はティガダークよりも一回り大きく、また魚のような鱗やひれを持っていた。二本の足で深海の地に足を付けている。ひれが開き、腕が鎌に変形。ティガダークに敵意を向け、襲い掛かってくる。ティガダークも応戦するが、怪獣と融合していないバイアクヘーの攻撃を受け、思うように立ちまわれない。怪獣の鎌の一撃を受け、都市の残骸に激突してしまう。

 

 そこに、一筋の光が差した。

 紫の光。先ほどネクサスがヒュドラを倒した際に現れたものだという事を、彼は知る由もない。

 その光がティガダークを包む。変化する体色。腕から足先まで、黒く染まった表面が一部のみ紫の輝きを取り戻した。ヒュドラによって奪われた力を取り戻したのだ。

 水中にもかかわらず、瞬時に怪獣の背後に回り込み痛烈なチョップや光弾を浴びせる。

 

 それは、さながら戦う嵐・ティガストーム。黒と紫の戦士。

 

 手のひらを頭上で合わせ、そこにエネルギーを集中させる。そして敵に逃げる隙を与えずに放つ一撃。ランバルト光弾!その威力はスカイタイプには及ばないが、怪獣をひるませることに成功する。さらに、向かってくるバイアクヘーの群れを冷凍光線・ティガフリーザーで薙ぎ払った。

 

 

 

 

 日本 東京

 

 ダーラムの右腕が地面に突き立てられる。地面を炎が流れ、オーブトリニティを狙う。オーブはXの力でベムスターアーマーを起動させ、その攻撃を反射する。そしてビクトリーの力でキングジョーランチャーを腕に装備。銃による遠距離攻撃でダーラムを追い詰める。

「グウウ…」

 うなり声をあげ、一歩下がるダーラム。オーブは装備を解除し、腕でV字を描く。そこから繰り出される必殺光線・トリニティウムシュート!弱ったダーラムに命中し、爆発を起こして絶命した。その中から、赤い光が輝き、そして見えなくなった。

 

 

 

 

 ドリームランド セレファイス海溝

 

 ティガストームのもとに、赤き光がやってきた。体色に赤いラインがよみがえる。それはティガブラスト。ダーラムの奪った力が戻り、さらに元の姿へと近づいた。しかし、体色はわずかに黒ずんでおり、まだ本来の力を取り戻せていない。腕から放つデラシウム光流!怪獣を弱らせることには成功するが、倒すまでには至らない。

 

(どうやって帰ればいいかもわからないが…その前に、この怪獣を何とかしないと!)

 焦る彼は、怪獣に更なる攻撃を仕掛けようとする。しかし、またしても湧いてきたバイアクヘーの群れに阻まれてしまう。

(くっ…)

 

 その時。

 光の一閃が、バイアクヘーたちを跡形もなく消し飛ばした。

 

 その光の先には――――赤き巨人の姿。大地の力湧きたつ、地球の化身。その頭部から放たれた光が、先ほどティガブラストを救ったのだ。

(彼も…ウルトラマン?)

 

 すると、怪獣の後ろからも光が差す。海と親和する青い光。そこに、もう一人の巨人が姿を現した。海のごとき青い巨人。その巨人がゆっくりと顔を上げる。怪獣が振り向き、鎌のような腕を振りかざすが、青い巨人は目では追えない高速移動でかわし、腕から伸びた青く光る剣で体を切り刻む。そして、二人の巨人はティガブラストのもとに駆け付けた。

 

 時空を超え、三人の巨人が集まった。

 ティガブラストの腕から放たれる、デラシウム光流。

 赤き巨人の頭部から放たれる光の刃。

 青き巨人が腕にエネルギーを込めて放つ、水の光弾。

 三つの力が合わさり、邪悪な怪獣を打ち倒す。爆散する怪獣。バイアクヘーの群れも、その姿は見えない。

 

 

 

 気付くと、マドカはアメリカのサンフランシスコに戻ってきていた。

「あれ…さっきまで、確か二人の巨人と一緒に戦っていて…」

 夢かと疑い、スパークレンスを見やる。すると、そこにはたしかに紫と赤の力が戻ってきている。

 名前も名乗らずに消えた赤と青の巨人。その存在を心に留めながら、ティガブラストは日本へと戻るのであった。

 




怪獣紹介 

ガクゾム
ドリームランドのセレファイス海溝(元・都市セレファイス)に出現した怪獣。バイアクヘーを取り込み自らを強化したことから、神話には語られなかった神と考えられるが、真相は闇の中。
この世界のドリームランドは、ガグゾムやボクラグらによって滅ぼされ、サルナスは滅亡、都市セレファイスは海に沈み海溝としての姿を残すのみである。
この怪獣の誕生には、神話生物バイアクヘーの上位種としての要素のほかに、(この世界の)根源的破滅将来体としての要素も併せ持っていた。それを滅するため別世界から駆けつけたのが、ティガブラストと共に戦った赤と青の巨人である。


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最終章
カオスの悪魔


 ダーラムとヒュドラの顕現によって、闇がこの星に満ちた。ここまでは予定通り。そして、同時にドリームランドからの妨害もなくなった。これはニャルラトホテプにとって好都合だった。

 そして、新たな刺客も用意できた。やはり邪神を召喚する前に、邪魔な光の巨人を排除しておきたい。しかし、ただの怪獣では三人の巨人を倒すことは難しい。ゾイガーによる足止めも時間の問題だ。そこで、とっておきの切り札を投入する。ウルトラマン三人を相手にしてもなお勝る戦士を…

 

 日本 東京

 

 サンフランシスコでの戦闘から帰還すると、すでにオーブ=ガイとネクサス=ユリカが二体の闇の巨人を倒した後だった。避難所の一角に集まり、皆で(ジャグラーは不満そうだが)健闘を称えあう。

 カーターが言うには、

「これで敵の手札も尽きたはずだ。残るは邪神ただ一柱のみだろう」

 とのことだ。

 これまで非常に切迫した中での戦いだったが、彼らの中にも安堵した雰囲気が流れる。あと少しで、戦いも終わる…しかし、懸念材料も残っていた。ティガの力が完全に戻っていないことだ。

 ダーラムとヒュドラが出現したときから、ティガの体は黒に染まり、二体を倒したことで紫と赤の輝きが戻った。しかし、その体色はいまだ灰がかっている。

 いったいどうやればもとに戻るのかわからない。邪神に立ち向かう前に、全力を取り戻したいところだが…

 

 

 

 翌日。カーターとマドカ、ガイは象牙の書を調べ、この本に書かれた怪獣はガタノゾーアのみだと突き止めた。あと少しでこの事件が解決するとわかり、マドカは安心した。

「じゃあ、やっぱりこいつを倒せばすべて解決するんですね…」

「ああ、だといいがな…」

 不安げにガイがつぶやく。

 一方、ジャグラーは怪獣の出現情報をチェックし、ユリカもそれに協力したが、今日は変わったこともなく、一日を終えた。

 

 夜遅く。避難所の消灯に合わせて睡眠をとる4人。ジャグラーは交代での見張りとして一人起きている。

 そこに、一つの人影が現れた。

「誰だ」

 ジャグラーが剣を構えるが、その怪しい人影は躊躇う事なく進んでくる。

「止まれ!」

 歩みを進めないそれにジャグラーが叫ぶと、影は猛スピードで突っ込んできた。とっさにかわすジャグラー。しかし、その服が発火していた。

「うおおっ!!」

 魔人体に変身し、炎を振り払うジャグラー。そして剣に月の光を反射させ、相手の姿をうかがう。

 すると、そこに立っていたのは一体目のキリエロイド、その人間体であった。ジャグラーは以前、巨大化するために必要な敵の闇のエネルギーを集めていた。その際、一度見かけたことがあったのだ。

「なぜだ…?お前は死んだはずじゃなかったのか」

 キリエロイドは、もう一体のキリエロイドに敗北した。だが…

「死んだ、という証拠はどこにもない」

 戦いのあと、姿を現さなかったことで、マドカたちはキリエロイドが死んだと誤解していた。

「私は気付いたのだよ…貴様ら人類を守ることより、這い寄る混沌…ニャルラトホテプについた方がいいとなァ!!」

 狂気に染まるキリエロイドの顔が、そして体が青い炎に包まれる。

 闇夜に映る影。そこには、以前よりも力を増したキリエロイドの姿があった。

「私はニャルラトホテプより混沌(カオス)の力を授かった…カオスキリエロイド」



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闇夜の決闘

今更ですが、ティガストームは勝手に私が考えたオリジナル形態です。ティガトルネードの逆があったらこんな感じかな~と考えて登場させました。
カオスキリエロイドはFERの登場キャラクターです。キリエロイドを出したのでこちらも出さずにはいられない、と思ってカオス云々の設定をこねくり回しました。もともとはカオスヘッダーのカオスなんですけどね。


 日本 東京

 

「私はニャルラトホテプより混沌(カオス)の力を授かった…カオスキリエロイド」

 互いに向き合う二体の魔人、ジャグラーとカオスキリエロイド。その大きさは人間と同じながら、激しい圧力が周囲を包む。

「お前はそちら側につくか。だが、俺は正義の味方をしてやるって言っちまったからなあ」

 ジャグラーが不敵そうに言い放つ。その手に握られた剣の切っ先がカオスキリエロイドを捉える。

「愚かな」

 腕に、足に、青い炎を纏わせてカオスキリエロイドは接近する。ジャグラーも剣を構え、臨戦態勢になる。闇夜の決闘が始まった。

 炎の連撃を剣先で薙ぎ、ジャグラーは打撃の間合いを取らせない。一方、カオスキリエロイドも足を大きく振り上げ、多彩なキックでジャグラーを惑わす。すぐさま反撃に出ようとするが、すると逆足の蹴りが入り、それを防ぐので手一杯となる。こうして、両者ともに譲らないまま、時間が過ぎていく。

 その攻防がしばらく続いたが、先に折れたのはジャグラーだった。ジャグラーは間合いを一気に取り、蛇心剣・新月斬波を放とうとする。しかし、その隙を見逃さなかったカオスキリエロイドは、右手を高く掲げ、その手に集まる炎をまとめた。素早く球状の火炎を高く投げ上げ、落下させる。

 それはボクラグを倒したキリエロイド必殺の炎、炎魔地獄。それも、青い炎へと強化されている。火炎の柱が地面から空へと昇り、何本も空へと伸びてジャグラーを囲む。

「ぐっ…」

 苦しむジャグラー。嗤うカオスキリエロイド。

 そこに、騒ぎを聞いて飛び起きたガイが駆けつける。

「ジャグラー!」

 ミ=ゴの銃でカオスキリエロイドを牽制し、飛び蹴りを放つ。しかし相手はキックの達人。強靭な蹴りで吹き飛ばされる。

「ぐおっ…」

 壁に叩きつけられるが、懐からオーブカリバーを取り出しながら起き上がる。それを振り上げ、オーブオリジンに変身。長剣形態に変化させたオーブカリバーでカオスキリエロイドに向かっていく。

 得意のキックで応戦しようとするその後ろには、炎から解放されたジャグラー。最強のコンビが追い詰める。

 

 

 

 

 マドカの世界からはるか遠く…

 

 ひとりの男が、機械をいじっている。それは、とても大きく、トラックをゆうに超えるほどだ。

 男は慣れた手つきで、その大きな機械の内部機構を組み立てていく。

「よーし」

 手で汗をぬぐい、起き上がる。そして、腕に巻いた時計のようなデバイスで、ミスがないか念入りにチェックしていく。しばらくして、異常は見つからなかったのか、安堵の声を漏らす。

「よかった、これで…」

 そう言いかけたところで、後ろで作業していたもう一人の男が話しかけてくる。

「行けそうか」

「ああ、すぐ出発しよう」

 そういって、目の前の大きな物体を二人の男は見やる。

 男たちの前にあるその機械、それは乗り物だった。大きな車輪を両脇につけた異質な形。人を別の世界へと連れていく、科学の英知を詰めた乗り物。

 その名前は。

 

「アドベンチャーEX、完成だ」

 

「行こう、藤宮」

「ああ、我夢」

 

 

 

 



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叫び

「はっ!!!!」

 マドカは不意に目覚めた。なぜかとても気分が悪い。頭がガンガンと痛む。寝不足かと思い、時計を見ようとする。すると、辺りの風景がおかしいことに気づく。暗いのでよくわからないが、ここは避難所ではない。別の建物のようだ。

 マドカの近くには、マドカと同じように寝袋にくるまったカーターとユリカがいる。しかし、ガイやジャグラーの姿はない。

 そして、カーターとユリカはひどくうなされている。まるでひどい夢を見ているようだ。

「起きてください、二人とも」

 ゆさゆさと揺すり、二人を起こす。

「ん…?なに…」

「なんだね、マドカ君…」

 二人は目を覚ました。そして同様に、この状況に驚く。

「なんだ、ここは…敵の罠か!?」

「かもしれませんね…」

 三人で相談し、一緒に辺りを探索することにした。

 しばらく進むと、その建物はどうやら洋館らしいことが分かってきた。暗いため懐中電灯をつけながら部屋を回っていく。三人は、暗いこともあってか何やら言葉では言い表せない不気味さを感じた。

「怖いなあ…ガイさんたちはどこにいるんだろう…」

 

 そんな調子で進んでいく彼らは、突然一枚の絵画が飾ってあるのを発見した。それを見て、彼らはいままでの不気味さが気のせいではないと確信した…

「ヒイッ!!!」

「これ…」

 ユリカが驚いて声を上げ、マドカが冷や汗とともに声を漏らした。その絵は、大きな白い顔が描かれていたのだ。

 不気味なほどに白い顔。髪はなく、そして眉毛もない。さらに、()()()ない…

「ああ、気持ち悪い…」

 ユリカは思わず体を震わせる。マドカも今すぐ逃げ出したい気分だった。そんなとき。

 

 

 ガシャン

 

 

「わっ!!」

「今度は何…?」

 何かが落ちて割れた音がした。

「私たちのほかにも誰かいる…?」

「きっとガイさんたちだ、そうに違いない」

 慎重に音の出た方の部屋に向かう。そして恐る恐るドアノブに手をかける。

 

 ギぃ

 

 きしんだ音とともにドアが開く。そこに、人影があった。黒いジャケットを着た男と、黒いスーツの男の二人組だ。

「よかった、ガイさんにジャグラーさん、無事だったんで…?」

 

「うわあああっ!!わっ!!」

 明かりをむけ、顔に光が照らされた。その二人の顔は、先ほどの絵画と同じ白い顔だった。

 叫び声をあげたマドカに驚いたユリカとカーター。二人を引っ張り、マドカは急いでその部屋から離れる。

 

「今のはいったい…」

 落ち着いて先ほどのことを振り返る三人。どうやら、敵の罠は想像以上の恐怖を伴っているようだ。

「変身しても、怖いものは怖いからな…困ったな」

「とにかく、この屋敷から脱出しよう」

「ガイさんたちはきっと大丈夫だ、俺たちは俺たちで何とかしよう」

 三人は脱出を目標に定め、もう一度探索を始めた。

「それにしても…さっきの二人は何だったんだ?」

「まさか、ガイさんとジャグラーさんがあれになっちゃったとかじゃないよね…」

「いや、あれは私たちを恐怖に落とすための罠だ。ガイ君たちをあんなふうにできるなら、我々もとっくにそうされているさ」

 冷静にカーターが分析する。

 

 ゴトっ

 

 白い色の人形が何もないところから落ちてくる。

 

 

 バたバた

 

 無風のはずの室内でカーテンがなびく。

 

 ぞワっ

 

 後ろから何者かが追いかけてくるような悪寒。

 

 その館は、あらゆる恐怖を以て三人を追い詰めた。

「いったい何なんだ…これも、怪獣の仕業だってのか!?」

 心身ともに疲弊した三人。やがて、廊下を通り抜けたその前に、ついに外への扉が現れた。

「やった…やった」

 心底安心し、マドカはふっと無意識にその外の月光が漏れる扉に明かりをむけた。

「ふう…」

 そこには何もなかった。普通のドアだった。早くここから逃げ出したいという気持ちを抑え、慎重にドアノブに手をかける。

 

 

 

 ガちャ

 

 

「え…あかない」

 

 マドカの顔が青ざめる。この恐怖の館から、まだ出られないのか…いや、いっそ蹴り飛ばして、そう思い後ろの二人を見る。

「えっ…」

 

 同じように青ざめる二人。しかし、マドカが声を発したのは彼らに対してではない。その後ろに続いていたはずの廊下。

 それが、ない。

 

 壁だった。

 

 まるで、狭い部屋に閉じ込められてしまったような状態。そして、廊下だった場所に現れた壁に、またも絵画が飾られていた。

 マドカは恐る恐るそれに明かりを照らしてみる。

 

 そこには、不気味な歪んだ顔が描かれていた。

 

 ――――ムンクの『叫び』――――

 

 

 



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アドベンチャー

怪獣紹介

キリエル人
この世界では、イースの大いなる種族と同義である。高度な知的生命体であり、同時に戦闘形態としてキリエロイドという姿をもつ。


 別時空の地球

 

「僕はいままで、並行世界で様々なウルトラマンに会ってきた。ティガやダイナ、コスモスにオーブ、ゼロやギンガ、ビクトリー…」

 巨大なマシン・アドベンチャーⅡに乗り込みながら、高山我夢は語る。それを聞きながら、藤宮博也は我夢の後ろに用意されたスペースに乗り込む。

「その時のデータを分析した結果、彼らから、似たような性質の微弱な電波が出ていることが分かったんだ」

 そう言いながら、我夢はコクピットのハッチを閉めて発進の準備に取り掛かる。

「この前別世界のガグゾムと戦った場所は本来の彼…ウルトラマンティガに似た巨人の本来の世界ではないと思うんだ。だから、彼の電波を通して元の世界を追跡する」

「だから、今回はこいつに乗っていくわけか」

 後ろで藤宮が納得したようにうなずく。

 

 二人は光の巨人である。

 高山我夢――――大地の巨人、ウルトラマンガイア。

 藤宮博也――――海の巨人、ウルトラマンアグル。

 地球の意志によって生まれた二人の戦士は、時に対立もしたが、根源的破滅将来体を打ち倒し平和を取り戻した。そんな彼らは、数日前、別宇宙にある地球の助けを聞きつけて時空を超えた。

 そこで見たのは、既に文明が崩壊し、死に絶えた星だった…

 そして、その星で戦う戦士、ティガブラストと協力し、バイアクヘーとガグゾムを殲滅した。しかし、その巨人ティガブラストから、深い闇の力を感じ取った二人は彼の世界に向かうべく調査と準備を進めていた。

 

「準備はいいかい?」

「ああ」

 

 アドベンチャーⅡが起動し、その躯体が時空の狭間へと向かっていく。

 

 

 

 日本 東京

 

 オーブとジャグラーが、カオスキリエロイドと戦闘を繰り広げているちょうどそのころ、我夢と藤宮はその世界に到達した。アドベンチャーⅡ飛行モードで微弱な電波のもとに迫っていく。

「どうやらあの建物のようだ」

「俺が様子を見て来よう」

「お、おい藤宮!」

 藤宮は上空を飛行するアドベンチャーⅡから飛び降り、その建物に向かって降下していく。青い光が夜の空に走る。

「やれやれ…」

 我夢は近くに安全な場所がないか探す。やがて、森のはずれの空き地にアドベンチャーⅡを着陸させ、藤宮のもとに急ぐ。すると、反応が二つずつ、二か所から発せられている。

「この波形は…データによると片方は藤宮と、ガイ君か!」

 以前出会ったガイの波形も記録してあり、彼だとわかる。

「もう片方は…やはり、一つはティガと似ているがわずかに違う反応だ。そしてもう一つが、記録によるとウルトラマンネクサスか…」

 ガイは藤宮に任せ、我夢はティガに似た反応の方へと向かった。

 

 

 建物は避難所として機能しているようだ、と我夢は感じた。怪獣災害が起きているものと推察し、歩みを進める。避難者たちが眠る大きなスペースに入る。しばらくすると、反応が止まる。

「この二人が…」

 若い男性と女性。その近くには壮年の男性の姿もある。三人は、他の避難者たちと違い、ひどくうなされていた。

 我夢はデバイスで素早く脳波を調べる。

「これは…まずいぞ!」

 エスプレンダーを構え、赤い光に包まれた我夢。ウルトラマンガイア V2へと変身を遂げる。そして、超空間侵入能力で、彼らの脳内に広がる世界へと入っていった…




怪獣紹介

ゼッパンドン
ジャグラス・ジャグラーがゼットンとパンドンの力をお借りして変身する合体魔王獣。光線、火炎、防御すべてに優れた強力な形態。


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Cthylla・Cutura・Camilla

怪獣紹介

ダーラム
この世界でダゴンとして伝わる巨人。


 ムンクの『叫び』。その絵画から流れ出るおびただしい量の闇のエネルギーと呪いを三人は感じていた。

「これがガタノゾーアですか、カーターさん!?」

「いや、これはもっとおぞましいものだ、しかしなぜだ!?」

 カーターが疑問に思ったのは、怪獣の出現である。今までの経験から、別宇宙で出会った時のガタノゾーアはこのような呪いとは違う姿をしていた。しかし、この世界の『象牙の書』には今までに出現した怪獣以外は、ガタノゾーアしか残っていなかったはずなのだ。

 では、これはいったい何なのか。

 そう思索しているうちにも、その呪いは溢れ、開かなかったドアをもこじ開ける。

 

 意図せず外へ出ることができた彼らの前に、その呪いは実体を持って具現化した。

 まさにムンクの『叫び』のような、歪んだ顔が複数体に浮き出ている。腕のような触手、無数の脚。そして形容しがたい色彩を放ち、50mを超える巨体を持って災禍を振りまく悪魔がそこにはいた。

 周りを見渡した三人は、ここが異質な世界であると再確認する。

「なんだ、この世界…どこもかしこもあの怪獣のように薄暗い紫色だ」

「とにかく、今は怪獣を倒しましょ」

 構える二人。

 

 光とともに、二人の巨人が出現する。

 ティガブラスト。

 ウルトラマンネクサス ジュネッスビオレ。

 奇怪な怪獣を前に怯まず立ち向かっていく。怪獣の触手をかわし、ネクサスは紫のエネルギーを腕から放つ。光の軌跡、ソードレイ・シュトローム。それは剣となって敵の触手を引きちぎる。

 続けて、ティガブラストのランバルト光弾。素早い攻撃をかわすことができずに、怪獣は直撃を受ける。

「いいぞ!」

 カーターも声を上げる。二人の攻撃を受け、怪獣は動きを止めた。

 それを見て、安心した二人。

 

 しかしそこに、激しい攻撃が加えられた。光の鞭のようなものが怪獣から現れている。気を引き締めなおし、改めて戦闘態勢をとる二人。

 すると、みるみるうちに怪獣はぐにゃぐにゃとその体を変形させていく。

「まさか…!!」

 カーターが驚きの表情で見守る中、怪獣の体は巨人へと姿を変えた。

 灰色の巨人。まるで、以前戦ったダーラムやヒュドラのような、闇の巨人。体つきは女性のようだ。

 妖艶なその外見に、カーターは確信する。

 

 この怪獣、もとい巨人がこの世界の『象牙の書』に載っていなかった理由。それは、今まで一度も姿を現したことが無かったからである。

『叫び』の時のような呪いの状態では、それが神話生物かどうかの判断はできない。

 では、怪獣や巨人の状態では?

 

 別の世界では、ダゴンとハイドラ、すなわちダーラムとヒュドラはあるものを守る役割を与えられていた。

 そのあるものとは、彼らの仕える上位種クトゥルフの愛娘にして秘蔵っ子、クティーラだ。

 

 いまこの世界では、ダゴンとハイドラにあたるダーラムとヒュドラを倒したことで、クティーラは怪獣・巨人の姿を初めて見せた。だから、かの書には記述が無かったのだ。

 

 クティーラの呪いがおぞましい怪獣となった、クトゥーラ。

 それが美しい闇の巨人へと姿を変えた、カミーラ。

 その謎をカーターは膨大な知識によって突き止めた。しかし、彼にはマドカとユリカの二人が勝つよう祈ることしかできないのだった…

 

 

 

 




怪獣紹介

ヒュドラ
この世界でハイドラとして伝わる巨人。ダーラムと共にクトゥルフの娘クティーラを守っていた。


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挟撃

怪獣紹介

クトゥーラ
クトゥルフの娘、クティーラが実態を持って姿を現した姿。ムンクの『叫び』のようなおぞましい顔が体中に浮かび上がった奇怪な怪獣。


(何だ…!?怪獣から巨人に姿を変えた?)

 困惑するマドカ=ティガブラストとユリカ=ウルトラマンネクサスの二人。しかし、その動揺を見逃さず、敵は光の鞭で襲撃してくる。

 とっさの判断でかわす二人。左右に分かれ、相手を挟み撃ちにする作戦だ。二人の同時光線が放たれ、辺りが光に包まれる。

 

 光がはれ、煙の向こうが視認できる。そこには、無傷のカミーラの姿があった。彼女は、瞬時に二つの光線をかわし、互いにぶつけさせることで相殺したのだ。煙でまだ視界の良くないそのチャンスを逃さず、再び鞭で攻撃するカミーラ。ティガブラストが足をとられ、地面にたたきつけられる。ネクサスはエネルギーで剣を作り、鞭に応戦する。

 すると、空から何かが裂けたような音がした。驚いたその場の全員が空を見上げる。

 

 マドカたちの夢の中に広がる超空間。そこに、ウルトラマンガイアが飛び込んできた。ティガブラストやネクサスより遥か上空から落下してくる彼は、闇の巨人・カミーラを確認するとその体を巨大化させた。

 

 地面に大きな土煙を上げながら着地するガイア。そこに、三人のウルトラマンが並び立った。

 

 マドカには突然現れた巨人に見覚えがあった。記憶を掘り起こし、以前バイアクヘーによって別空間に飛ばされた時に青い巨人とともに助けてくれた戦士だと気づく。

 隣に立つネクサスに、彼が自分たちの味方であると伝えるティガブラスト。その様子を見たガイアは、ティガブラストにわずかに闇の気配を感じるものの、光の勢力に属する戦士であると考え、共闘することを決めた。

 

 戦闘態勢に入る三人の巨人。三方向に散開し、カミーラを取り囲む。

 鞭で周囲を払うカミーラ。それをかわし、ガイアは飛び蹴りを決める。その衝撃に、蹴りが光と音を放った。

 ティガブラストとネクサスも攻撃を加える。三対一で不利と感じたのか、カミーラは時空の穴をこじ開け、そこに逃げようとする。

(させるか!)

 ガイアが両腕を交差させると、そこに光量子のエネルギーが円状に収縮される。それを彼は右腕に集め、交戦として背をむけるカミーラに放った!ガイアの必殺光線・クァンタムストリームだ。

「グオオッ!!!」

 うめき声をあげるカミーラ。だが、倒れずにそのまま異空間へと逃げていってしまう。

(待て!)

 そして、すぐにその穴は閉じられ、跡形もなくなってしまった。

 

 人間体に戻ったマドカとユリカ、そして駆けつけたカーターの前に、ひとりの男性が現れる。

「僕は高山我夢。説明は後にして、早くここを脱出しよう」

 三人にそう話し、彼はウルトラマンガイア V2に変身する。そして、元の世界へと三人を連れ帰った。

 

 

 現実世界

 

 マドカたち三人は避難所の就寝スペースで目を覚ます。

「うっ…これは」

 激しい頭痛が三人を襲う。

「それは、先ほどの怪物の精神干渉だ。ちょっと、脳波を見せてくれるかな」

 そこには、つい数刻前に見た高山我夢の姿があった。

 腕に着けているデバイスがマドカの脳をスキャンしていく、

「うん、やはり脳に刺激が与えられている。でも、これはじきにおさまるよ」

「ありがとうございます…あなたも、ウルトラマンなんですか…?」

 ああ、と我夢は返事をすると、突然立ち上がった。

「しまった、藤宮はどうしただろう」

「俺がどうかしたか」

 そこに、ガイとジャグラス・ジャグラー、そして藤宮が顔を見せた。

 




怪獣紹介

カミーラ
クトゥーラの真の姿。腕から光の鞭を出現させて戦う。ダーラムとヒュドラによって守護されていたが、その封印が解かれたことで実体化に至った。


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三つの剣

怪獣紹介

ジャグラス ジャグラー
クレナイ ガイの宿敵であり、蛇心剣を使って戦う宇宙人。ウルトラ戦士と協力することもしばしば。魔人体への変身やエネルギーを使っての巨大化、ゼッパンドンへの変身など多彩な能力を持つ。


 時は少し遡る。カオスキリエロイドとの戦闘を繰り広げていたガイ=ウルトラマンオーブとジャグラス ジャグラー。

 彼らの立つ暗い地面に、青き光が差す。そして、ひとりの戦士が降り立った。その姿にガイとジャグラーは見覚えがある。海の光の巨人、ウルトラマンアグル V2だ。

 

「アグルさん!」

「久しぶりだな、ガイにジャグラー。行くぞ」

 そう言って、アグルは腕から青い剣を発生させる。それは光でできた剣、アグルセイバー。

 ここに、剣を構えた三人の戦士が並び立った。青い炎を纏わせ、蹴りを繰り出すカオスキリエロイド。しかし、剣の間合いには届かない。三人の冷静な戦いによって、攻撃を与える隙が作れなくなっていく。

 

「チィッ!」

 不愉快そうに舌打ちし、カオスキリエロイドは火柱を上げる。続けざまに火球を放ち、三人を近づけさせない。遠距離戦に切り替えることで、逆に剣の間合いを取らせない戦法だ。剣での戦いは不利だと判断したアグルは、アグルセイバーで火球をはじき、ウルトラバリアーで攻撃を防ぐ。

 

 その隙に、ガイがウルトラフュージョンカードを取り出す。

「ギンガさん!」『ウルトラマンギンガ!』

「エックスさん!」『ウルトラマンエックス!』

「シビれる奴、頼みます!」『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ ライトニングアタッカー!』

「電光雷轟、闇を討つ!」

 夜の闇に激しい光が射す。

 

 青と黄色の稲妻を纏い、高速でカオスキリエロイドとの間を詰めていく。カオスキリエロイドが反射的に蹴りを放つが、それを頑強な腕で受け止め地面に叩きつける。そして、電撃を放ち追撃する。炎を至近距離で爆裂させ、何とか脱出するカオスキリエロイド。そこに、ジャグラーの攻撃が叩き込まれる。

「これで終わりだ」

 ジャグラーの連閃で切り刻まれ、その場に再び倒れこむ。剣に闇のエネルギーをため、とどめを刺そうとするジャグラー。だが。

 

「な、何だ!?」

 カオスキリエロイドの腕が、ひとりでに外れたのだ。片腕だけでなく、二つの腕が外れ、宙に浮かび上がる。さらに足や頭までも。

 そして、胴体が腰の部分でねじ切れ、ついに体のすべてのパーツが宙に浮いた。

「どうなっているんだ?こいつは…もう生きているという様子じゃないが」

 ガイはうろたえながらも、散らばって浮遊するカオスキリエロイドの体を仕留めるべく、フュージョンアップする。

「セブンさん!」『ウルトラセブン!』

「ゼロさん!」『ウルトラマンゼロ!』

「親子の力、お借りします!」『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ エメリウムスラッガー!』

「智勇双全、光となりて!」

 

 三つのスラッガーを放ち、ハイパーウルトラノック戦法で空中の体を次々に粉砕していく。アグルも光球リキデイターを放ち、それを援護する。

 すべての体のパーツが爆散し、奇妙な敵は最後を迎えた。

「何だったんだ、いったい…」

 とりあえず、三人は一路避難所に戻ることにした。

 そして、異空間から帰還した我夢や意識が戻ったマドカたちと合流するのであった。




怪獣紹介

カオスキリエロイド
キリエロイドが、ニャルラトホテプの力を分け与えられ強化された姿。青い炎を操り戦う。人間や地球に敵対したかと思われたが、最後に体が分断するなど不可解な点を残して絶命した。


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復活のティガ

 目を覚ましたマドカ、ユリカ、カーター。そして、三人を助けた高山我夢。そこに、カオスキリエロイドを倒したガイ、ジャグラー、藤宮博也が合流し、全員が集合した。

 

 朝まで休息をとったあと、全員で情報を共有する。

 カミーラを取り逃がしたこと、カオスキリエロイドの体の奇怪な現象が不安の種だ。すると、ジャグラーが立ち上がり、出口へと歩いていく。

「どうした、ジャグラー」

 ガイの問いにも、ジャグラーは振り向かずに返事をする。

「俺は降りる。あとはせいぜいがんばれよ、正義のヒーローさん」

「そんな、これまで一緒に戦ってきたじゃないですか」

「俺は飽きた」

 引き止めようとするマドカとユリカだが、藤宮や我夢は何も言わない。そうしているうちにジャグラーは闇の中に姿を消した。

「まあ、アイツにはアイツの生き方があるってことか」

 藤宮の言葉に我夢も同意する。

「以前会ったときとはだいぶ変わったようだね…大丈夫。ここには光の巨人が五人もいるのだから」

 

 

『海上に巨大不明生物が出現しました!巨人のようですが、一体何ものなのでしょう!』

 テレビやラジオでそのような報道が飛び交ったのは二日後のことだった。

 調査で忙しい我夢と藤宮をのこし、三人が向かう。海上の大きな影は、マドカたちの方をにらみつけ、こちらに近づいてくる。

「カミーラ…!」

 こちらに歩いてくるにつれ、その姿があらわになる。それは先日姿を消した女の巨人だった。

 それを見てマドカは変身する。ティガブラストが港町に姿を現した。

 ランバルト光弾とデラシウム光流の連撃が放たれる。しかし、カミーラは光の鞭でそれを無に帰す。

(やはり、強い…!)

 ガイとユリカも変身。ウルトラマンオーブ オーブオリジンとウルトラマンネクサス ジュネッスビオレがそれぞれの剣でカミーラの鞭と打ち合う。しかし、なかなか決定打を決められない。大振りの剣では、鞭のスピードにかなわずに受け流されてしまうのだ。

 

(マドカ!俺の合図があったら、全力をあいつに叩き込め!)

(は、はい!)

 ガイは指示を飛ばしつつ、フュージョンカードを構える。

「メビウスさん!」『ウルトラマンメビウス!』

「ギンガさん!」『ウルトラマンギンガ!』

「未来の力、お借りします!」『フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ メビュームエスペシャリー!』

「眩い光で未来を示す!」

 

 ウルトラマンメビウスの如き赤いラインが体に走り、上半身はギンガと同等の水色に輝くクリスタルに覆われた姿。虹色の光を発しながら、オーブは新しい形態となって出現した。

 その眩さに動揺している敵。しかしその時すでに、オーブは無数の光剣を発射していた。いくら素早くとも、その数をしのぎ切ることはできなかった。剣戟をくらって体勢を崩すカミーラ。

(今だ、マドカ!)

 ガイの掛け声とともに、マドカは飛び立つ。ティガブラストの腕に赤き高熱の光が集まる。右腕からデラシウム光流が放たれる。カミーラに直撃!しかし、カミーラはまだ倒れない。

 その時、ティガブラストの左腕には紫色のエネルギーが充填されていた!それを右腕に組み、赤と紫の混ざり合う合体光線が放たれる!

 

 そしてついに、カミーラは光とともに消滅した。

(やったな、マドカ)

(お疲れ様!)

 マドカに、ガイとユリカが声をかける。すると、カミーラが消滅した場所から、光がティガブラストの体に流れ込んでくる。体の表面の灰がかった部分が、銀色の輝きを取り戻す。

 ウルトラマンティガ マルチタイプの完全復活である。

 

 

 




怪獣紹介

ニャルラトホテプ
無貌の神。ナイトウという男になりすまし、暗躍する。その正体とは…?


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邪神降臨

 マドカ、ガイ、ユリカの三人がカミーラとの交戦中。

 調査で残った我夢と藤宮は、マドカの脳をスキャンした結果を解析していく。すると、意外な事実が発覚した。

「これは…!藤宮、見てくれ」

「この電波は、異空間にいた怪物から出ているが…」

「ああ、だがさらに別の発信源があったんだ。ここから怪物を介してマドカ君たちの脳へ干渉してきたんだ」

 どうやら、謎の電波の発信源は太平洋の深海のようだ。ゾイガーがいつも出現する場所と一致しており、さらに細かい座標が絞り込めた。

「この場所を叩けば、邪神ガタノゾーアを封印できるかもしれない」

 そう言った我夢だったが、そこに気味の悪い声が響いてきた。何を言っているのかはわからない。わかるのは、自分たちに向けられた怨嗟の感情。そして、這い寄る闇の力。

 

 足元に、暗い影が走った。

「まずいっ!!」

 我夢と藤宮が間一髪でかわし、その場所に黒い柱が出現する。

「これは…」

 そこに立った柱がだんだんと人型に変化していく。黒い人影となり、二人と対峙した。人影が二人にむかって腕をむける。すると、相手の思考が二人の中に向かってきた。二人は瞬時に、敵がニャルラトホテプであること、二人の考えは見透かされている事、そしてこの場所にガタノゾーアを召喚しようとしている事を知る。

「やめろっ!!」

 

 止める間もなく、邪神はその場所に姿を現す。全長は100mを超える巨体。鋭い腕や足、無数の触手。巻貝のような体部。下あごについた不気味な目。異形の怪物が街を襲う。邪神の周囲には、黒い霧が発生し、周囲の木々が生命力を失って枯れていくのが見えた。避難所に避難している人たちが逃げ惑う。それを背に、我夢と藤宮がそれぞれの道具を手に構える。

「ガイアーーッ!!!」

 エスプレンダーの光を受け、我夢はガイア V2に変身。

「アグルーーッ!!!」

 アグレイターの光で藤宮はアグル V2に変身した。

 二人の巨人が同時に地面に着地。巻き上がる土砂をかき分け、二人はガタノゾーアの巨体をおさえにかかる。しかし、強烈な力でなすすべなく吹き飛ばされてしまう。

 闇に覆われかけているこの地球では、ガイアやアグルは全力を出せない。ガイア最強の姿スプリーム・ヴァージョンへのカット・チェンジも行うことができなくなっている。

 二人はそれぞれアグルブレード、アグルセイバーを構えて触手に応戦。しかし、黒い霧に攻撃を阻まれてしまう。

 

 ガイアとアグルは息を合わせ、必殺光線クァンタムストリーム、アグルストリームの同時発射を繰り出す!

 しかし、これも黒い霧を打ち払うには至らない。ガタノゾーアの大きな腕で二人は首をつかまれ、地面に落とされてしまう。

「がはっ!!」

 ついに二人は変身解除に追い込まれてしまった。黒い霧から逃げる二人。そこに、カーターが助けに入る。転移魔術で安全な場所に二人を連れていった。

 

 そして、カミーラを撃破したティガ、ネクサス、オーブが駆けつける。空を飛ぶ三人の巨人の雄姿に、逃げ惑う人々の目にも光がともる。

 




怪獣紹介

ガタノゾーア
この世界において、ダーラムやヒュドラの上位に位置する邪神。黒い霧は攻撃を無効化し、生命力を吸収する。なお、この世界では観測されていないさらに高位の邪神・クトゥルフの息子であり、クトゥルフの娘であるカミーラとは兄妹関係にある。


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光の巨人

 駆けつけたティガ、ネクサス、オーブが邪神ガタノゾーアと交戦する。しかし、黒い霧にさえぎられ攻撃は届かない。

 ネクサスが光の剣で霧を打ち払おうとするが、すぐさま新たな霧が大気を覆う。

 オーブのオーブカリバーも効果がない。

 それどころか、霧に包まれてネクサスとオーブも大きなダメージを受けてしまう。二人は変身解除に追い込まれてしまった。ティガは霧に呑まれないように遠距離から光線を放ち、何とかガタノゾーアの進行を食い止める。その後ろには、避難する人々の姿。

 つい数か月前までは、普通の生活を送っていた人々の顔は、今は恐怖によって塗り固められている。それを解きほぐすことができるのは--

(ウルトラマンの力をもつ…自分たちだけなんだ!!)

 迫りくる触手を打ち払い、光線で焼き払うティガ。だが、ついに霧によって生命力を吸い上げられ、地面に倒れてしまう。

 すると、どこからか声援や掛け声が集まってきた。逃げ惑う人々だ。恐怖におびえながら、それでもなおウルトラマンに希望を託している。その目は、まだ諦めてなんかいない。

 ウルトラマンティガの雄姿は、TV中継やネットを通して急速に拡散。その戦いを日本中、世界中の人々が固唾をのんで見守る。子供たちも、大人も。そして、徐々にそうした人々からも声援が届く。その声はもちろん届かない。

 

 --しかし、その意思は届いている。ティガを、人類を、地球を信じる意思が--

 

 その意思は力となり、光となり、ティガのもとに集まっていく。闇の雲が、闇の霧が晴れる。街を、ビルを、木々をなぎ倒す邪神の姿があらわになる。しかし、人々は恐れない。

 

 その邪神の前に相対する巨人は、黄金に光り、人々を照らし、世界を照らしていたのだから。

「あれは…」

「なんて、神々しい--」

 

 光の巨人、グリッターティガ。

 黒い霧の無くなったガタノゾーアが、触手を伸ばし攻撃してくる。それは超高速の手刀によって霧散する。スカイタイプを凌駕する速さ、グリッターティガ スカイタイプ。

 急接近するガタノゾーア。両の腕部の鋏でティガを断ち切ろうと襲い掛かる。しかし、ティガはそれを真正面から拳で粉砕する。パワータイプを超える強さ、グリッターティガ パワータイプ。

 

 人々の、生き物の、そして地球すべての光がティガに結集する。それが腕に集中し、放たれて邪神を溶かしていく。グリッターティガの最強光線、グリッターゼペリオン光線。

 光に呑まれ、体を保つことができない邪神は―

 

 

 

「終わったのか…!?」

 見上げるユリカ、ガイ、我夢、藤宮、そしてカーター。通常のマルチタイプの姿に戻ったティガが振り返る。後ろには、光線によって打ち倒されたガタノゾーアの残骸。

 その雄姿に、周りの人々が、そして世界中の人々が喜び合う。もちろん、最初にネクサスに変身し戦ったレンジも。

 

 空には青色が広がり、そして黒い霧が…

 

「ティガーーーーッ!!!!後ろだーーーーッ!!!!!」

 誰が言ったか、大きな叫び声。その警告も空しく、ティガは後ろから触手によって叩き付けられる。

 

 ガタノゾーアの残骸が動き出し、ティガは変身を解除させられた。

 ガタノゾーアの体が再生、いやどんどん大きくなっていく。空は再び霧に包まれ、そして女の笑い声が鳴り響く…カミーラだ!

 

 

 



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THE OTHER SAGA

 それは、すべてを飲み込む邪悪。

 それは、すべてを包む黒霧。

 それは、すべてを--

 

 ニャルラトホテプが張り巡らせた意図の糸は、彼の思うとおりに絡み合い、巨人たちを翻弄して見せた。そして、彼の計画はついに最終段階に入った。

 計画を悟られないよう、カオスキリエロイドの死体を操り、彼らを惑わせた無貌の神。復活させたカミーラとガタノゾーアを一度ウルトラマンたちにわざと倒させ、その残留エネルギーを集約させることで最強最悪の暗黒魔超獣を召喚してみせたのだ。

 その名はデモンゾーア。悪魔の如き異形は、四つに裂けた醜悪な口と四つの目で見るものを震え上がらせる。さらに額に当たる部分にはカミーラの姿も見える。二体の神が融合し、その体躯は空をも闇で覆いつくしていく。どこまでが体で、どこまでが黒霧なのかわからないほどの巨躯。

 

 人々の目から希望の色は失せ、先ほどまでティガに力を与えていた金色の光はもう届かない。

 

 しかし。

 次は自分たちが希望を見せる時だ。

 五人は立ち上がる。

「ここまできて負けられない」

 マドカは四人と目を見合わせる。

 ただ闇雲に、それでも前だけをみて戦ってきたマドカ。

 自分にできることがあると信じ、人を救うことに命を懸けてきたユリカ。

 この星の人々を守り、マドカやユリカを見守ってきたガイ。

 遠い宇宙から助けにやってきた我夢と藤宮。

 

 全員、やるべきことは決まっていた。守り抜く、すべて。

 

 

「皆さんの力、お借りします!オーブ!!!!」

 オーブカリバーを高く掲げ、光が放たれる。ウルトラマンオーブ オーブオリジン。

 

「ガイアーーーーッ!」

 エスプレンダーから放たれる赤と青の光。ウルトラマンガイア V2。

 

「アグルーーーーッ!」

 アグレイターの放つ青き海の光とともに顕現。ウルトラマンアグル V2。

 

「うおーーーーッ!!!!」

 受け継がれてきた光が、エボルトラスターから紫の輝きを放つ。ウルトラマンネクサス ジュネッスビオレ。

 

 そして、マドカがスパークレンスを頭上に。

 再びこの地に、ウルトラマンティガ マルチタイプが降り立つ。

 

 

 飛び来る触手と鋏をかわし、五人の巨人は空へ飛び立つ。空中でも縦横無尽に迫りくる触手を、得意の光線や剣戟で振り払う戦士たち。しかし、本体は全く影響を受けていない。

 その巨大な怪物の本体に乗り、攻撃を加えようとするも、本体に近づけば近づくほど濃くなる霧と増える触手、待ち構える鋏に阻まれて失敗。戦士たちは体力を消耗し、それを示す胸のランプが警告音を示し始めた。

 遠くから攻撃するしかない。なにか、逆転の一手が必要だ--

 

 そう思われたその時、地球から、厳密には地球の内部から目には見えないエネルギーが放出され始めた。

 巨人たちはデモンゾーアに攻撃を加えようとし、阻まれていたが、それが霧を割いていた。そして、霧を必要としたデモンゾーアは地球の内部にニャルラトホテプが侵食させていた闇のエネルギーを使い始めたのだ。闇のエネルギーを抜かれ本来の働きを取り戻したその惑星は、正常の働きを再開したのだ。それが、デモンゾーアへの抵抗力として、そして地球の巨人であるティガやガイア、アグルの活力として影響している!

 

 ティガ、ガイア、アグルの体力が回復し、ガイアはカットチェンジ。スプリーム・ヴァージョンへと変化を遂げた!ガイアとアグルの最強合体光線・ストリーム・エクスプロージョンが怪物の大きな鋏を霧や触手ごと薙ぎ払う。

 

 この一撃で多くの力を失った邪神は、怒り狂って巨人たちに体当たりしようと迫る。

 それは戦士たちに大きな隙を見せているのと同義だった。

 

 五人の戦士の究極合体光線が大地を照らし、闇を切り割きながら邪神の体を崩していく。

 

 長い静寂。その後、その街に…地球に、青空が戻った。

 



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それぞれの未来

怪獣紹介

デモンゾーア
カミーラとガタノゾーアの残留エネルギーが融合して誕生した暗黒魔超獣。巨体と黒霧で世界を覆い、闇で染めつくす最強の邪神。


 邪神が消滅し、一か月が経った。

 マドカの周りには様々な変化が起き、それもようやく落ち着いてきたところだ。

 

 ミズオ・ユリカは警察官の仕事を今も続けている。邪神との決戦のあと、ウルトラマンネクサスの力はいつの間にか失われていたようだ。しかし、彼女の心は以前より輝きを増していた。マドカは時々連絡を取っているが、活躍の機会が増え、昇進も近いということだ。

 クレナイ ガイはあの後、再び放浪の旅に出た。別の宇宙に向かうといっていたが、また逢う日は来るだろうか。

 高山我夢と藤宮博也は、巨大な時空移動マシン・アドベンチャーで元の世界へと戻っていった。彼らがいなければ世界を救うことはできなかったとマドカは思う。

 そして、ランドルフ・カーター。彼もまた、別の星へと向かっていった。今回のような異形による事件は別の星でも起きているという。それを解決するため、今も奔走しているのだろう。

 

 当のマドカはというと、普段通りの生活に戻っていた。というのも、ウルトラマンであることは誰にも言っていないのである。メディアは世界を救った巨人の正体を追い続けているが、未だ真相には至れていないようだ。このまま、元通りの日常へと戻っていくのだろう…

 

 

 結局、邪神を裏で操り、今回の事件を主導した黒幕・ニャルラトホテプを捉えることはできなかった。デモンゾーアを倒した後、敵の動きは全く無かった。諦めて別の世界へ行ったのだろうか。それとも、まだこの世界にいるのだろうか。だが、この星にはウルトラマンティガがいる。多くの戦いを経て、彼も一人前の戦士になった。たとえ強大な敵が来たとしても、彼と人々によってこの世界は守られていくことだろう…

 

 

『緊急ニュースをお伝えします。先ほどモンゴル平原に巨大な生物が出現しました。巨大生物は地中を移動しているとみられ、モンゴル政府は怪獣の呼称をゴ…』

 

 ニュースを聞き、マドカは駆けだした。無貌の神がいなくなっても、この世界にはまだ巨人の力が必要なようだ。スパークレンスを掲げ、彼の体は巨大な戦士へと変化する。

 銀色の巨人が、今日も大空を翔ける。

 

 

 The end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙空間。小惑星のうえで、彼は遠く光る地球をにらんでいた。その姿は、影のようになっており正体を捉えられない。無貌の神、ニャルラトホテプだ。邪神による地球の制圧を阻止され、彼は憤慨していた。無言の怒りが彼の周囲を影で染める。

 そんな彼のもとに、ひとりの巨人がやってきた。

 銀色の全身。神々しい銀色の翼。伝説の巨人、ウルトラマンノアだ。

 

 彼はウルトラマンネクサスが力を取り戻した真の姿である。レンジやユリカとの一体化を通してノアの姿へと戻ることができたのだ。

 数々の宇宙で語り継がれる伝説の存在、ノア。そんな彼でも目の前の影に対して今までに感じたことのない危険を感じとった。

 影が実体としての姿を現そうとするが、その前にノアは先手を打つ。

 ノア・ザ・ファイナル。

 敵を次元の狭間へと封印する最強技だ。しかし、それを受けた影は揺らぐだけで、変化がない。一方、ノアの姿はどんどんと力が失われて小さくなっていく。羽が消滅し、その肉体も痩せこけていってしまう。大技を使った反動を受けてしまったのだ。

 

 ノアの技を受けても倒れないその奇怪極まる影。それが実体化し、その正体を現す。

 その姿は、かつてノアが死闘を繰り広げた敵・ダークザギによく似ていた。

 一瞬の思考で彼は察知する。

 その敵はダークルシフェル。原初の悪魔。

 この悪魔がどこから来たのか、それは並行世界である。ノアがもし闇の存在に敗北した世界があったとしたら。ダークザギ以上の邪悪な存在があったとしたら。

 それは、クトゥルフ神話に語られるニャルラトホテプ。地獄におけるルシファー。

 それは、別の世界をも破壊しうる、この世すべてを闇に染める悪魔に間違いないだろう…

 

 しかし、その事実が分かったところで彼には成すすべはない。

 異形の姿を現したダークルシフェルは、先ほどまでノアであった、ネクサスと呼ばれた存在、ザ・ネクストを宇宙の彼方へと吹き飛ばした。

 

 抵抗することもかなわず、彼の意識も、記憶も、力とともに抜け落ちていった…

 

 to be continued

 




ウルトラマンティガ、そしてマドカのお話はこれにて完結です。一年間ありがとうございました。
初めての小説作品でしたが、それなりのものはできたかと思います。
さて、次は力を失ったノアの話へと移るのですが、クトゥルフ神話要素が無くなり、主人公も変わるので別作品として投稿します。そちらもよろしくお願いします!


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