頭脳と筋肉と魔女と色々 (せきな)
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むかしむかし

仕事の息抜きと前の作品の書き溜めが消えた腹いせに書きました。
行き当たりばったりで書いていきます。




『昔々、あるところに___ 』

 

こんな風に始まる物語は一体いくつあるのでしょうか

 

きっと国の数よりあるのでしょうから、

それはそれはとてつもない量になるのでしょう

 

まあそんなことはどうでも良いのでした

 

何故って?それは

 

これから始まるのは

 

昔々のお話なんかじゃなく

 

随分と新しいお話なのですから

 

ですから語り始めはこういたしましょう

 

『つい最近、この辺りに_____ 』

 

 

 

 

 

................................

 

 

 

 

『魔女が住み始めたらしいぞ。』

 

ある春の日の放課後。漸く新しくなったクラスにも慣れ始め、新しくできた友人達を部活に送ったあと帰り支度をしている時の出来事だった。

 

 

机をバンと叩きながら、別に珍しくはない真面目な顔で友人が言う。彼との付き合いももう随分と長いものになったから、最近では鼻で笑って流してしまいがちだった。しかし、こう真剣な表情で言われると私も本気で返さなくてはならない。

 

 

『ウケる。』

 

心を、親愛を山盛り、それとスパイスにちょっとの嘲笑を込めて彼に言い放つ。完璧だ。これで彼に私の思いが届かないはずがなかった。

 

 

『笑い事じゃねえ。』

 

 

駄目だったみたいだ。脳が筋肉で出来ているどころか、脳が存在せず筋肉が独立して行動しているような彼には【言葉】を理解するのは大変難しい事であったようだ。

 

 

『本気で笑うことができたらなんて幸いなことか。今時では子供にも言わないようなセリフだけど、さて。僕ちゃんは一体何歳になったのかな?』

 

 

『つい先日、ムキムキの17歳になった。』

 

 

決して浅くはない溜息をついて尋ねると、彼は自慢気に右腕を曲げキメ顔で言い放った。

 

 

『おめでとう、本当にめでたいよ。君の頭は。』

 

軽く三度、ぺちぺちと手を打ち鳴らして言う。

 

 

『あぁ、ありがとう。やはりお前からの祝いの言葉は何度聞いても嬉しいもんだな。』

 

 

『君は聴覚に深刻な問題を抱えているようだね。いや、深刻なのは脳の方か? いい加減頭を使うことをした方がいいぞ。いつも君のテストは壊滅的じゃないか。』

 

 

『テストなんぞで何が測れる?人生で必要なのは実際に働くこの体だ。』

 

 

『いくら動けても考えなければ意味ないだろ。頭を使え、頭を。』

 

 

『そんな屁理屈ばかり言ってるからお前は大きくなれないんだ。体を使え、美姫。』

 

 

『し、身長は関係ないだろう。知恵はいつだって人を助けるものだ。それに体を動かすのだって脳で考えてからだぞ。いや、君の場合は違ったか? 陽太。』

 

こんなやりとりを一体何度しただろう。彼が花のような笑顔を浮かべる小さな天使だったのは遠い昔のお話。そんな彼もいつのまにか人かゴリラか遠目ではわからない程にまで成長した。いや、してしまった。あの頃の陽太は本当に可愛らしかったと、思わず遠くを死んだ目で眺めてしまうのも仕方のないことだった。

 

『話がズレているぞ、魔女だ魔女。』

 

ゴリラに指摘されるのは腹立たしく感じるものがあったが、躾をするのも飼育員の務め。仕方がない、乗ってやろう。

 

『そんなものはいないよ。』

 

乗らなかった。駆け込み乗車は危険だから仕方ない。

 

『いるんだ。』

 

私が話をぶった切ったにも関わらず彼は淡々とそう口にする。彼は非常に残念なことにシンプルに頭が悪い。しかし頑固というわけではなかった。ここまで曲げないのは何かあるのかと思い言葉を吐く。

 

『何故そう言い切れる?』

 

私の声に彼はゆっくりと瞼を閉じて深く息を吸い込んだ。意外と睫毛が長く、天使だった頃の名残があるんだな等とどうでもいいことを思っていると彼が不敵に笑って言った。

 

 

 

 

『教えてくれんだよ、俺の短母指外転筋が。』

 

 

 

 

教室に斜陽が差し込む。ついこの前までは身を切るような寒さに震えていたとは思えないほどに、柔らかく暖かい光が私の目を眩ませた。

決してこの馬鹿と話していたから目眩がしたとかではないと思いたい。

 

永遠にも感じられた沈黙の後、私は出来るだけ早口で彼に告げた。

 

『本当に申し訳ないが急に随分と頭が痛くなってきたから私は帰らせてもらうよ。すまないね。』

 

そそくさとカバンに教科書やペンケースを投げ込んで肩にかけ、目の前の敬虔な筋肉教信者と目を合わせず出来るだけ迂回するように出口へと向かう。

 

『そうは問屋がなんとやら。』

 

しかし回り込まれてしまった。

いや、回り込まれただけだったならどれだけ良かったか。

 

視点がぐんと上がり、ふわりと体が浮かぶ。

わぁ、私飛んでる!いや違うそうじゃない、担がれてる。

【お米様抱っこ】というやつだ。

 

 

『見えなかった。』

 

私が知覚できたのは、私の髪を揺らす風だけだった。

気がつけば私はゴリラの肩の上。スカートなんだぞやめろ、降ろせ。

 

『無駄無駄。体を鍛えていないから抜けられないだろ。逃れたくば今からでも筋トレをするんだな。』

 

ニヤニヤとしながら馬鹿が言う。まさかこのまま移動するつもりなのだろうか。現代に残る辱めの中でも上位にランクインするぞこれは。

 

 

 

『筋肉至上主義者め、今に見てろ。』

 

私の吐いた精一杯の捨てセリフはやはり彼には届かなかった。じたばたと動くのは体力を使うのでとうにやめていた。

 

 

 

『さて、魔女に会いに行くとしようぜ。』

 

 

そう言った彼の顔は無邪気で、少しだけ幼く見えた。

 

 




読んでいただきありがとうございます。
更新はまちまちになるかと思いますがよろしくおねがいします。


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あるところってどこだ


第2話です。
よろしくお願いします。




魔女がいるという話を聞きつけた二人の子供がおりました。

 

一人は考えることに長けた女の子

一人は動くことに長けた男の子

 

 

なんて事はない、ただの怖いもの見たさだったのかもしれません。

 

彼と彼女は魔女を探しに行くことにしました。

 

二人はいつも一緒でしたから、共に行動することも珍しくはありません。

 

 

このお話が動き出したのは、きっとこの時点になるのでしょうね。

 

 

 

..........

 

 

 

『降ろせ、私を降ろしてくれ。運んでくれてありがとう、でも私の心の安寧から最寄りの降車駅はここなんだ。』

 

 

『そうは問屋が』

 

 

『降ろせ。卸さないのではなく、降ろせ。』

 

 

『降ろすのに降ろさないとは、美姫は難しいことを言うな。』

 

『こういう時に話が伝わらないのは心から腹立たしいよ。考えることをやめた人間は獣だぞ。お前のことだ、陽太。』

 

 

『獣か…かっこいいな。』

 

 

『待ってろ、すぐに駆逐してやる。』

 

校内の皆様、ご機嫌よう。白雪美姫でございます。今私はゴリラに担がれて移動しておりますの。レディの間では当然のことですわ。

あらあら、そんなにじろじろと見つめられては恥ずかしくってよ?おい何見とんねんお前ら、見せ物ちゃうぞこらぁ。

 

取り乱しました、白雪美姫です。

只今の時間は放課後、帰路に着こうとする学生で溢れかえる廊下を大柄な男に担がれながら進んでいます。

 

私とこの男が一緒にいる事は決して珍しくはないが、流石にこの状態を見たのは初めてだろうから目を丸くしている。明日から休日だし暫しのお別れをしておこうと小さく手を振る。バイバイみんな、また会える日まで。

 

 

『楽しみだな、美姫。魔女だぞ魔女。』

 

『あぁ、愉しみで仕方がないよ。君が現実を目の当たりにすることがね。』

 

『今のうちに挨拶を考えておかなくちゃいかんな。』

 

そう言って私の皮肉を無視し、本当に楽しそうに笑う彼の姿にまた溜息をつく。彼の突発的思いつきでの行動は私にとっては慣れたものだ。そしてこの長い付き合いの中で、私がどんなに抵抗をしても全く意味を成さないという事も私は理解していた。

 

だからといってこの状況はよろしくない。先程担任の先生とすれ違ったが、『…白雪が酔わないように配慮するんだぞ。』という一言を残し去っていった。お前の配慮が間違っていると指摘したかった。

 

『とりあえず降ろしてくれ、もう諦めた。君についていくから、頼む。…流石に恥ずかしいんだ。』

 

『おぉ、ついに美姫もその気になったか!やはり自分の力で成し遂げるのが一番だからな!』

 

『少し黙ってくれ、君の声はこの距離だと私の鼓膜を破りかねない。』

 

『照れるな照れるな。』

 

『本心だよ。本当に、心から思ってる。』

 

私もこの担がれている状況に慣れてしまいたくはなかったが、順応してきたのかいつも通りのやりとりを始めてしまう。

彼がゆっくり優しく肩から私を降ろす。なぜここで紳士的なのか。いや、違う。紳士的な人間は人を肩に担いだりはしなかった。私もずいぶん毒されている。

あぁ地面に足が着くことがこれほど喜ばしいことだったとは。一息ついて彼に問う。

 

 

『そもそもお前は魔女がどこにいるかわかっているのか?』

 

『問題ない。』

 

『何故そう言い切れる?』

 

自信ありげに不敵な、いや不適切な笑みを浮かべた筋肉に疑問を投げかける。

 

『簡単だ。腹横筋の話に耳を傾けて進めば望みの場所へと繋がっている。』

 

 

『そいつぁすげえ。凄すぎて涙が出るぜ。』

 

視界が滲んで来た気がした。大きく息を吸ってー、吐いてー。この世に絶望した人間はきっとこんな溜息を日常的に吐いているに違いない。私もこの馬鹿とのやりとりに大きな絶望を見ているから仲間だな、よろしく頼む。

 

すたすたと早足で歩く馬鹿に追いつこうともせず、私はのろのろと彼の背を追いかけた。

 

 

.

.

.

 

 

 

『全ては筋肉の導きのままに、だろう?』

 

 

学校から歩くこと凡そ20分程度だろうか。こいつは筋肉馬鹿なのに加え体力も化け物級であるから私の息が切れているのは当然のことだった。

 

『…それで、ここが魔女の家だと?』

 

『間違いない…俺の前鋸筋がそう告げている。』

 

『腹横筋の話に耳を傾けていたお前はどこへ行ったんだ?迷子か?』

 

私たちはちょうど、ある家の前までたどり着いたところだった。

高校の在する市街地を抜け、途中にある人通りの少ない長い田舎道をひたすら歩くと小川が流れているところに出る。

今度はその小川に沿って道を下って行くと広い草原が見えてくる。

色とりどりの花が無秩序に咲き乱れるその草原の奥、少し小高くなったところにぽつんと家が一軒建っていた。

 

この辺りでは珍しい素焼きのレンガの壁に天然スレートの屋根で、凝った装飾のある白い小さめの両開き窓が映えている。

家の前の庭には、これまた家の周りを取り囲む草原のように様々な植物が見えた。

 

 

 

どこからどう見ても隠れ家的カフェ或いは雑貨屋の相貌をしている。今時の女子高生なら押さえておいて、放課後に集うのにうってつけのお店となること間違いなしだろう。

 

『絶対こんなところに魔女はいないぞ。きっといるのは若くてゆるふわなお姉さん店長か、時たま愛嬌のある笑みやユーモアを見せる渋めのマスターのオジサマだ。私の灰色の脳細胞がそう告げている。』

 

 

『本当にお前は筋肉への信仰が足りんな。それでどうやって今まで生きてこられたんだ?』

 

『お前は筋肉への信仰でどうやって生きて来たんだ。ブーメランって知ってるか?本来狩猟用の武器だったそれはお前を簡単にやってしまうぞ?』

 

『鍛えている俺には効かんよ。さて行こう。』

 

『違う、そうじゃない。物理じゃないんだ。そして待て、犬でも待てぐらいできるぞ。』

 

『頼もう!』

 

『待てと言うのに!いや本当に知らんぞ私は!』

 

威勢の良い声とは反対にちゃんとノッカーを鳴らす彼の姿は非常に滑稽だ。

しかし思い切りが良すぎるこいつに非難の声を上げているとすぐにガチャリと音がしてゆっくりとドアが開いた。

 

 

 

 






読んでいただきありがとうございます。
どれだけ書けるかはわかりませんがのんびり進めていきたいと思います。



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