魔法科らは逃げれない。 (アルピ交通事務局)
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パンがなければケーキを食べればいい

集中して書きたいから移した


異世界転生、それはある種の憧れを抱くものである。

見たことのない異世界もあり、知っている二次元の世界に転生するのもあり…の筈。

 

「ヒットせえへんな…」

 

 

大阪のとある釣り場で釣りをしている男、彼は世に言う転生者である。

笑い死にと言う過去に数回ぐらいしか無い死に方をしてしまって、気付けば何故か転生していた系の転生者なのだが、普通の転生とは違いかなり変な事になってしまっている。

 

今は魔法科高校の劣等生、通称さすおにの世界にいる主人公。

 

転生して分かったことがあると言うのならば、非日常なんてくそくらえもしくは転生する世界を選ばしてくれである。

 

「しっかし、人全然いーひんな…確か近くで古墳が見つかったんだっけ?」

 

魔法科高校の劣等生の世界観は20世紀の終盤から21世紀の始まりにかけて、男が知っている出来事と大きく異なることが起き、2095年に物語がはじまる。

20世紀中盤までは一部のそっち系の業種の人間以外は魔法を使えず、存在そのものを否定されたりしていたが、20世紀終盤に魔法の理論などが確立されはじめ、21世紀序盤から徐々に徐々に魔法が世界中に浸透、魔法が当たり前の21世紀終盤になった。

 

しかし誰もが使えるわけでもない。一部の人間しか使えず、よくある中世の世界観の異世界ファンタジー物の様に優秀な一族とか家系などの勢力が出来ており、差別も当然の如くある。

 

更には魔法を使える人こと魔法師と魔法を使えない人間との貧富の差が激しかったり、色々と大変な世界であり、一般の家の彼も夕飯がもやし炒めになるかならないかの瀬戸際を戦っている。

 

 

 

「古墳荒らして、大丈夫なんやろか…何時か仏さんに祟られるな」

 

 

 

近所に大きなデパートを作るべく工事をしていると、なんか出てきた古墳。

魔法の存在が当たり前になって以降、古墳や遺跡などは世界遺産や文明の跡地などと言った一部の人間にしか分からない価値から一気に急上昇。

20世紀終盤から表に出始めた魔法が作られる前からあった魔法などを世間では古式魔法と呼ばれ、古式魔法は現代の魔法と比べれば発動が遅いなどの欠点もあるが極めれば現代の魔法を遥かに凌駕するものもある…が、しかし殆ど滅んでるに近い。

 

現代の魔法の方が万能や21世紀までの間に魔法がお金にならないので廃業した、迫害されて滅んだなど様々な理由で古式魔法は無くなっている。

 

そして古墳や遺跡には昔の物などが当然の如く眠っており、中にはお伽噺などで魔法使いが魔法を発動する為に使う杖の様に魔法を補助する道具などが本当に極稀に出てくる。

猫ババしたり、暴走する恐れがあったりするので何処かの有名な家の人達が来ているとか。

 

 

 

「…ルアーに変えるか」

 

 

 

しかし、それは彼にとっては全くといって関係の無い話だった。

 

何故かって?それは至極単純に彼には魔法師としての才能が無いから。才能がないと、魔法は一切使えない。彼は転生者だが普通の家系に生まれているから別に驚くことでもなく、特に珍しくもない。

仮に才能を持っていたとしても、エリートを輩出している家系の人と比べればお粗末なもので劣等生になるだけ。普通の家の人で物凄いエリートなんて中々にいない。

しかし彼はそんな事は特には気にしない。むしろ無い方が良いと喜んでいるぐらいだ。

魔法科高校の劣等生は面白くて、好きな作品だがいざその世界で暮らしてみれば色々と変わるもの、一般の家系に生まれたのならば尚更だ。

テレビをつければ魔法を使った事件のニュース、タブレットPCを見れば魔法師を化け物や兵器扱いしている反魔法団体の講義の動画、原作では語られてない事などが様々。

そしてこれから起きるであろうお兄様をさすおにと言うべく出来事を考えれば、魔法師なんてロクなもんじゃないと考えている。

一部のアニメや漫画はあくまでも視聴者としては好きだが、その世界で生きてみたいかと主人公になってみたいとは話は別、住めば都ではなく住んだら地獄だったと言うのが多々ある。

生まれや立ち位置によって住めば都、住んだら地獄に変わる世界、そんなのは何処も当たり前かもしれないが、この魔法科高校の劣等生は特にそれが強い世界だった。 

 

「あかんな、全然釣れん…なんや、おかしいな」

 

ルアーに替え、獲物を狙うも相も変わらず釣れずボウズな彼。

今日は晴天で風も特になく、海が物凄く荒れているわけでもない。魚が居なくなる時期でもないのに全然釣れない、釣りをやっていればそんな日もあって当然なのだがそれで納得をしてはいけない。

 

二次元の世界を生きるためには、コンビニでタバコ一個を買ったことを妙だと感じるコナンくん並みの疑い深さを持っていなければならない。 

 

「家に帰るか」 

 

なにか起きると感じれば、現場から離れれば良いだけのことだ。

釣具を少し雑に片付け、事件現場にならないであろう家に逃げ帰ろうとするのだが

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ

 

 

 

 

 

 

地震が起きる。

震度1か2かの物凄く弱い地震が起きる。

五十年以上先の未来でも地震大国日本故に別に驚くことでもないだろう。

 

「うぉ!?」

 

しかし突如起きたことにより尻餅をつく彼。

予想通り変なことが起きてしまったと、騒ぎが大きくなる前に逃げるべく立とうとすると彼の身体に影が被う。

 

「…あれって…なんであれがここに…」

 

彼は空を見上げた、自身を被う影の正体を知るために。

あれはなんだと少しだけ見たものが理解できずに思考停止をしてしまうが直ぐに意識を取り戻し慌てる。

あれはなんだ、鳥だ、飛行機だ、スーパーマンだ、いや、豚だ!それも違う。

四足歩行のライオンの様な生物で左肩がファルコンの顔になっており、翼がはえている。右肩がイルカの顔になっており、尾ひれの様な翼がはえている。

胴体の胸部分は牛の顔になっている。背中の腰の部分から尻尾にかけてカメレオンになっている。

 

「ヤバい、完全に転生特典や!!」 

 

彼はその生物がなんなのかを知っている。

その生物がこの世界には居ない、別世界の存在だと言うことを理解している。

では何故ここにいるのか、それは恐らく自身の為に用意された世に言う転生特典だろうと考えて逃げに走る。

 

「誰かぁあああ!!

ポリは無理やから、魔法師を呼んできて!!」

 

なんの力を持たない彼は逃げる。

無論、ただ逃げるのではなく大声で叫び誰かに気付いてもらう為に。

だが不幸なことに周りには人がいない。何時もならば釣りをしている人達がいるのだが、今日が古墳の調査の日なので、なにかあったら困ると古墳付近の家の人達は避難をさせられ、それ以外の地域の人達も何かありそうと避難をしたり出歩かなかったりしており防波堤までの道のりに人はいない。

 

「あんな二次創作でも誰も選ばんハズレを使ってたまるか!」

 

魔法師ではないが体には恵まれているんだと必死になってテニスをやっている彼。

本人は知らないが日本代表候補に選ばれる実力を有しているものの、ただの人である彼が獣である奴から逃れる事など出来ない。

 

「見つけたぞ、上質な器を!」

 

「くそぉおおおお!!オレ、普通の人やったのにぃいい!!」

 

獣は彼に向かって突撃する。

 

必死になって作った距離をあっという間に縮めて、彼に突撃し彼を吹き飛ばす…と同時に金色の魔法陣が出現し、その魔法陣に飛び込んで消え

 

 

 

「あ、死んだな…」

 

 

 

彼は海へと落ち、落ちた衝撃で意識を落とした。

 



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大丈夫、ドーピングは何処もしてるから

「知らない天井…いや、服装もか」

 

目を覚ますと彼は全く知らない部屋で全く知らない服を着ており、携帯などの普段から持ち歩いている物全てを取り上げられていた。

 

「ここ、どっかの隔離病棟か?にしてはナースコール一つもあらへんし」

 

「ここは九島が所有する魔法を研究する機関の一つ、と言ったところだ」

 

「!?」

 

取り敢えず立ち上がって、何処かにドアが無いか調べようとすると、擬装されていた自動ドアが開き初老の男性が入ってきた。黄金のベルトを片手に持ってだ。

 

「ふふふ、やはりこれが気になるか?」

 

黄金のベルトがなんなのかを分かっており、視線がそちらに向いている事に気付いた老人。

ポーカーフェイスなんてする気はなく、笑みを浮かべている。

 

「ちょ、ちょ待ってください。

なんでオレはここにいるんすか?あれすか、なんかキメラみたいなんに襲われたから変な病気をうつされてないか調べようしてる…訳じゃないやんな?」

 

「それならば私は宇宙服の様な防護服を来てウイルスの感染を防ぐし、なによりも君を殺して完全に燃やして感染病になるのを防ぐさ」

 

サラッと殺す事を宣言する老人。

この老人が何者かを知っている彼は冗談でないことを即座に理解した。

 

「手塚光國くん、君の事は調べさせて貰った」 

 

「個人情報って言葉知ってるか、爺さん?」

 

「この御時世、個人情報なんて守られてないも同然だ。

とにかく、ついてきなさい。なにがあったか君は知らなければならないし、我々も知りたい」

 

擬装されていた自動ドアが開き、歩き出す老人。

彼は嫌々ついていくと射撃の訓練所の様な場所に到着した。

 

「彼が目覚めた、あれを」 

 

老人の一声で動き出す訓練所にいた白衣を着た職員達。

彼にタブレット端末に似た物を渡す

 

 

「君は一般の家系だからね、CADと言うものを知っているかい?」 

 

「現代魔法を使う時に使用する補助する道具でしたっけ?

って、オレは魔法力とか言うのを一切持ってへんで!!爺さん、オレの事を調べたんやったらその辺の検査結果も持っとる筈やろ!」

 

 

「ああ、知っている…だからこそだ。

なに、難しい魔法をするんじゃない、彼処に置いてある台車が回転して動くイメージをすれば良いだけだ」 

 

「…まぁ、無駄やと思うで」

 

 

結果がどうなるか分かっている彼はCADを起動し、台車が動くイメージをする。

するとどうだろうか、台車がひとりでに動きだした

 

 

「……」

 

 

分かっていた、分かっていた事だ。

魔法が発動すると言う事は、分かっていた。しかしいざ現実を目にすれば驚きを隠せない。

 

 

 

「フフフフ、ハハハハハ、ハーッハッハッハッハ!!

いや失礼。年甲斐もなく笑ってしまって、まさかこんな事があるとは思いもしなかった。恐らくこの説は正しい!!」 

 

しかしそれ以上に喜んだ、職員達が老人が。

彼に起きた異変と組み立てていたある仮説が正しいと。

 

「ちょ、待ってください。

なんでオレ、魔法使えるんすか!?改造手術受けた記憶は無いですよ!!」 

 

「これを見なさい」

 

魔法が使える理由を一応問うと職員がパソコンを見せてくれる。

そこには自分が逃亡している映像が映っており、獣に、キマイラに追いかけられて最終的には海に落ちる所まで映っている。 

 

「この魔獣、名付けるならばキマイラだが何処にいったと思う」

 

「まさか…オレの中に…」

 

「その通りだ。

どうやって、かと言うのを除き私達は一先ずは君の体を調べた。

キマイラが眠っていた古墳を調査していたのは私達だからね、何かあったらと色々と調べていく内に判明したんだ、魔法師に必要な魔法演算領域を持っていない君が魔法師に必要な魔法演算領域を宿していたことを。

驚いたよ、魔法師が魔法を使えなくなるのはよくある話だが、その逆なんて聞いたことはない急激なパワーアップはあれども、文字通りなにもない0からのスタートの例は無い。だから、色々と仮説をたててみて、古墳を調べた」

 

 

老人はこの時代では珍しい紙の本を、漫画を取り出す。

彼も知っている元いた世界にもあった漫画だ。

 

「この漫画は、二十世紀に流行った漫画でね。

霊能力者の小学校教師が霊能力を使って生徒を守る話なのだが、その霊能力者は鬼を自らの腕に封印して、鬼の手を武器にして戦っているんだ」

 

 

ぬ~べ~ですね、分かります。 

 

「精霊魔法と言うのを君は知っているかね?

簡単に言えば自分より火や雷を操るのが得意な存在に頼んで、火や雷を操って貰う魔法だ…君は賢い人間だ、分かる筈だろう」

 

「オレの中に宿ったキマイラが、魔法に必要な事を全てしている?」 

 

彼の中に入ったビーストキマイラ。

本来は仮面ライダーウィザードに登場する生物で、二号ライダーである仮面ライダービーストに変身するのに必要不可欠な存在だ。

仮面ライダーウィザードはその名の通り魔法使いの仮面ライダーで、次回作の仮面ライダー鎧武と違って道具さえあれば誰でも変身できる仮面ライダーではない、魔法使いになれる条件を満たした奴が色々と手順を踏んでやっと変身出来る仮面ライダーだ。

しかし、仮面ライダービーストだけは違う。仮面ライダービーストの変身者はその過程を飛ばしている。

ぬ~べ~の鬼の手の様に、NARUTOに出てくる尾獣の様に超強力な存在をその身に宿し、そいつから魔法を受け取って使っている。

 

 

「全てとは言わないが、その考えで間違いない。

精霊と呼ばれる存在を自らの肉体に封印をし、その精霊が魔法に必要な想子や演算を済ませて魔法を起動する…人工魔法師などと言うのは不可能と思ったが、遥か昔に完成させていたとは」

 

尚、お兄様は改造された人工魔法師である。 

 

「いや、魔法師と言うのは違うなこの場合は古の魔法使いだ」 

 

「その辺はどうでもエエんで、さっさと帰してくれませんか?」 

 

「おや、帰れるとでも?」 

 

「……」

 

人工魔法師、この世界においては不可能に等しい。

出来ないことはないがデメリットが大きかったりする…が、それでも大半は出来ないと匙を投げる。

しかし目の前に彼はデメリットはあれども魔法が使えるようになった一般人、魔法関係の研究をしている人達からすれば喉から手が出るほど欲しい研究材料だ。

 

「冗談さ」 

 

老人は笑う。

彼よりも格上だからか、余裕を見せる。慢心もしている。

今の彼は変身する事すら出来ない只当にただの人だったからだ。

 

「家には帰ってええだけやろ…」

 

「そんな怖い顔をしないでくれ。

考え方を少し変えよう、君は魔法師と一般人を繋ぐ存在になれた。

人工魔法師が普通に作れるようになれば、一般人が魔法師に怯える必要はない。魔法師が一般人を見下す必要がない。一般人と魔法師では魔法師が重宝され、給料にも影響している。しかし、一般人も魔法を使うことが出来れば」 

 

「少しは否定しろや。

エエ話にしとるけども、そんな時代で学生したり会社で働いたりするんはあんたの孫の孫のそのまた孫ぐらいの世代やろう。

それに根本的な解決にもならへんし、今偉そうに威張っとる魔法師達には邪魔でしかない。

オレは今の世代で楽しんで生きたいんや、ノブレスオブリージュの精神は端っから持ってへん…」

 

 

彼は既に分かっている、ここで勝つことが出来ないのを。

しかし足掻く、足掻き続ける。目の前にいるのがこの世界で上から数えて直ぐの実力者だとしても。

 

 

「今はともかく家に帰りなさいそれとこのベルトと指輪も」 

 

仮面ライダービーストに必要なセットをくれる老人。

彼は一先ずは家に帰して貰った、表向きには足を滑らせて海へ落ちて病院に運ばれたと、裏向きには魔法事故で九島の元へ運ばれたと言うことになっている。 

 

「ああ、そう言えばまだ名乗って居なかったね。私は九島烈だ、今後ともよろしく頼むよ」

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」 

 

彼の未来はお先真っ暗になってきたが、彼はまだ諦めていなかった。

 

「諦めてたまるか…」

 

とは言ったもののレ◎プ目にはなっている。



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古の魔法使い、ナンパをする。

「Really 13years old?」

 

「yes」 

 

「Why did you come to this country?」 

 

「…It is Japan representative of tennis?」

 

彼、光國の生活は少し変わった。

この世界ではなにも持たない彼は魔法師の貴族もしくは王族に部類されると言っても良い十師族の一つである九島家に拘束されたりはしないが研究所に向かう日々が増えた。 

 

「OK」 

 

彼の家族は事情を全て知った。

その結果、九島家の当主である九島真言と九島烈を殴った。

二人は避ける事も防ぐこともせず、彼の家族の拳を受けきってから、もう彼は魔法師しか道はないと教える。仮に何処かの研究機関にバレれば一生監禁されると教えて絶望させた。

光國の家族の拳の重さは重いが、九島家にも重く感じたが古の魔法使いと言うものが目の前にあるのだから、殺す気の無い拳など効かず、光國の方が重かった。 

 

「…これで最後か」

 

ただ単に魔法師の勉強をしなよと週に一度、塾の代わりに研究所に向かう。

何時もの生活にそれが加わっただけだが、それでも嫌なものは嫌である…逃げようにも逃げる場もないのが現実である。

日本代表に選ばれた彼はUSNAこと北アメリカ合衆国へやって来た。無論、大会に出るためだ。

 

「…はぁ」 

 

入国審査に年齢偽装扱いされてしまったものの、入国は出来た。

しかし彼は余り元気が出ない、あと数年でお兄様の天下が始まるのだ。

入学して早々にテロリストに襲われるんじゃなく、定期的にテロリストとかに日本が襲われるんだからたまったもんじゃない。 

 

「もうすぐか…色々と大暴れしてくれや」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「日本はかつて技術大国日本、変態国家日本などと言われていた頃があるが何故か分かるか?」

 

空港を出て、バスでホテルにたどり着いた日本代表一行。

監督からビーチへ来いと人工的に作られたビーチへと向かうと、強制的に水着に着替えさせられた。 

 

「それは腕に優れていたからじゃ!!

今も尚、日本の腕は素晴らしいが…調子に乗るんじゃねえぞボケえ」 

 

「監督、なにするつもりなん?」 

 

「体格だパワーだ根本的な部分で敵わなくなった途端に技術に走るんわ日本人の悪い癖だ!!

てめえら、今から正々堂々と女をナンパしてこい!オレの試合を見てくれと言ってこい!!奥手でチェリーな日本代表なんぞ、糞のやくにもたたん!!出れただけでも光栄ですと思ってる奴等は泳いで日本に帰れ!!」

 

 

「おっさん、テニス関係ないやろ!」

 

「因みにナンパ出来なかった奴の夕飯はイギリス料理だ」

 

 

 

監督のその言葉と共に一斉に走り出した日本代表。

22世紀に約十年後に突入する魔法科高校の劣等生の世界。

そんな世界でも相変わらずイギリス料理はくそ不味いのであった。

 

「はぁ…」

 

今日何度目のため息だろうか、光國は一向に笑顔を見せない。

着実に何処かの魔法科高校に入るようになっている事に気付いているからだ。

このままいけば、そして人工魔法師なんて物を知られればお兄様に目を向けられる。妹の方に哀れみの視線を向けられる。シスコンでドライなお兄様でも人工魔法師なんて事を知れば同類だと思われ近付かれる。同情はされないだろうが。そうなれば、原作と嫌でも関わってしまう。どうにかしようにも彼は全くといって力はない。

いや、九島烈を相討ち覚悟で殺せるぐらいの力は手に入ったが、問題はその先である。

どう考えても、クソである

 

「誰に渡せ言うねん」

 

 

イギリス料理は食いたくないので、取り敢えずは動き出す

どちらかと言うと人付き合いが苦手な彼。

自身と同じ転生者がいたら気が楽だったのだろうが、どうもこの世界の住人とは噛み合わなかったりする時が多い。ましては転生する前は一度もナンパなんてしてない、モテない事を知っているから。

モテるだけでも本当に感謝をしないといけない、美女と関われる事を、金持ちになれる可能性を手にいれた事を感謝しなければならない。

 

 

「I will not play with you!!」

 

「見事なまでにフラレって、違うか」

 

自分達が出る試合のチケットを片手にナンパをしようと試みようかなと思っていると、別のところでも全く知らないこの国の人がナンパをし、撃沈していた。

他の人達も撃沈をしたり、ヌーディストな女性に色々と大きくさせていたりしていた。

 

「こう言うのは、柄じゃないんだがな」

 

 

ナンパが撃沈されていた外人の男性。

口説いている女が物凄い上物でなにがなんでも連れていきたいのだが、嫌がる女。

彼はラケットを手に持ち、男の後頭部に向かってサーブを打った。 

 

「…やっぱ無いな」 

 

サーブをぶつけると、ついでだと言わんばかりに金的を攻撃するナンパされていた女。

これで終わりだなと彼は気配を消してその場から去ろうとしたのだが 

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

「!?」

 

ナンパされていた女が一瞬にして彼の目の前に現れた。

それなりに距離があると言うのに一瞬にして目の前に現れ、更には日本語で此方に語りかけた。ハキハキとした日本語でだ。 

 

「気にすんな…しておいてなんだが少し後悔をしている」 

 

「でも助かったことには変わりはないです。

ちょっとしつこかったから、あのままだったら手を出しそうだったので」

 

目線を一切合わせず、軽く会話をする彼と彼女。

光國は本能的なもので察してしまった。

目の前にいる金髪ツインの絶世の美女、しかも出るところは出ていて声も笑顔も可愛い美女はこれから先、お兄様に関わるであろう女だと。

魔法科高校の劣等生を映画を見ずアニメと魔法科高校の優等生でしか知らない俄の光國でも分かる。 

 

「あ、自己紹介がまだでした。

私はアンジェリーナ=クドウ=シールズ、リーナと呼んでください」

 

「…一つ、言っておく」 

 

「なんでしょうか?」 

 

「オレはこんな顔だがまだ中学生やで」

 

「うっそぉ!?え、なに、日本には若返りじゃなくて老ける魔法でもあるの?」

 

リーナの名前で一瞬で何者かを察したが、それよりも気になった彼女の敬語。

入国審査でも引っ掛かったように、歳上だと見られており、中学生だと思われていなかった。

 

「魔法か…」

 

「ええ、東洋には不老不死になる秘薬とかあるらしいじゃない…あ」 

 

魔法の事を口にすると気まずそうな顔をするリーナ。

魔法師は人間じゃないと人間に言われ、一部の権力者や馬鹿どもは魔法師は人間などではないと言っているこの世界、人間と魔法師の間には大きな溝が生まれている。

うっかり魔法と言ってしまった彼女は自分が魔法師だと教えたことに気付いたが、遅い。 

 

「オレは特に気にせーへんよ…魔法師だからと言った考えはよした方がエエで、結局のところはそれが一番の原因やねんから」 

 

魔法師と言う職業自体は苦手だったりするが、そこまでである。

九島は大嫌いだが、それでリーナを毛嫌いになる必要はない。

 

「お~い、光っちゃん…嘘だろ、光っちゃん…」

 

まぁ、それはおいておいてナンパである。

このままだとイギリス料理を食べなければならない同じく日本代表である彼の友人でもある清純は数を増やしてナンパをしようと光國を誘いに来たのだが固まる。 

 

「ナンパに成功したのかよ!

え、ちょっと待て…このままだと俺の夕飯がイギリス料理になっちゃうって!!」 

 

「…ナンパ?」

 

リーナを見て、ナンパに成功したと勘違いをする清川。

どういう事かとリーナは光國を見るが光國は無表情のままだ 

 

「別にオレはイギリス料理でもええわ…んじゃあな、リーナ」

 

「…どうしたんだよ、光っちゃん。

ここ最近、て言うか海に落ちてから元気無いぞ?人魚にでも心奪われたか?」 

 

「…」

 

清純の冗談を無言で無表情のまま返すと彼はその場から去ろうとする。

しかし 

 

「待って!貴方、このままだとイギリス料理を、鰻のゼリー寄せとか食べないといけないのよ!?」

 

リーナが光國の腕を掴み、動きを止めた。 

 

「う、鰻のゼリー寄せ?」

 

「前に兵糧が味気なく不味いって抗議した時に、数日間イギリス料理漬けにされて…ニシンのパイとか本当にキツかったわ。まだ、私が料理をした方がましなぐらいに」 

 

清純の問いにリーナはイギリス料理にを思い出して顔を青くする。

清純は食ってたまるかと光國に自分達が出る試合のチケットを託して走っていった。 

 

「だから、その、私を連れてっても良いわよ。

このままじゃ貴方、イギリス料理を食べないといけないし…そ、それにお礼ぐらいさせなさい」

 

「…」

 

一先ずはリーナを監督の元へと連れていき、ナンパを成功させた報告をする。

これにより彼はイギリス料理を食べずにすみ、尚且つナンパしたリーナと一緒にディナーを食べることになった。

 

「うぅ、まずい…やば、はきそ…」

 

清純はナンパに失敗し、イギリス料理を食べるはめになった。



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今日の希望、明日への絶望

「ゲームセット!ウォンバイ手塚!6-0、6-0、6-0!」

 

「はぁ…はぁ…」 

 

「スゴいわね、あいつ…」

 

光國にナンパをされたリーナは、ナンパをされた際に貰った試合のチケットを使って光國の試合を見に来ていた。

決勝戦まで駒を進めた彼は対戦相手であるUSNA代表の選手を圧倒、ここまで差があるのかと思わせるかのストレート勝ちをするのだが

 

 

 

「どうして、笑わないの…」

 

 

 

世界一の称号を手にしたと言うのに一切笑わない。

ナンパをされた時から彼女は違和感を感じていた、光國が無表情のままで目が死んでいたのを

 

 

 

テニスにかけた、青春!でも彼は目が死んでる!

 

 

 

状態である。

どうしてか彼を気にしてしまうリーナは彼をジッと見つめていた。

本当に分からない、けれども彼女は心配でしかたなかった。テニスをやっていて楽しそうで無いのを感じた。

 

 

 

「よし、聞いてみましょう」

 

 

 

気になったから行動をする、この時は特に難しい事を考えずにリーナは動き出す。

勝手に選手の控え室に入ったりするのは悪いけれども、犯罪行為とかじゃないしOKよと気楽に考えながら、気配を消して選手以外通行禁止の道を歩く。

彼女はこう見えて軍人だ、魔法を使う軍人で今はまだひよっこだが才能は確かで経験と実績は放っておいても勝手に積む事が出来るほど、九島の血は伊達じゃなかった。

日本の魔法師達にとって絶対の存在足る十師族の血を彼女はひいている。バレなきゃ良いわよと、魔法を補助する杖的なポジの道具こと端末型のCADもコッソリと使い自己加速させ、身体能力を上げたりする。

 

「えっと、控え室はこっちだったわ…誰!?」

 

後一歩で控え室に辿り着くその時だった、リーナは気付く。

自分以外の誰かが控え室付近に居ることに。

 

「出てきなさい、選手でもないのに控え室に居るだなんて…」

 

端末型のCADを握り、何時でも動けるように構える。

少しだけ待って、出てこないならば此方が動こうと考えていたのだが

 

「ふざけんな!!」 

 

「っつうう…お~痛たた…はぁ…なにしとるんや、リーナ?」

 

 

控え室から光國が殴られて出てきた。 

 

「優勝おめでとうって、言いたくて…まさかストレート勝ちをするだなんて、将来はプロかしら?」

 

「……」

 

一先ずは話題を変えて意識を剃らそうとする。

しかし、光國は無言でジッとリーナを見つめている。 

 

「…リーナ、沖縄が今どうなっとるか知っとるか?」

 

「え、どうしたのよ急に…もしかして、沖縄出身なの貴方?」

 

「アホな事を、何処をどうみたら沖縄県民に見えんねん…」

 

尚、数日前にお兄様がマテバっている。 

 

「………リーナ」

 

「ど、どうしたの?」

 

ガッシリと肩を掴んでくる光國。

自分の事をジッと見て来て顔が近いと真っ赤にするが、光國は気にせずに何かを考えている

 

「言うべきか…実はなリーナ」

 

「ちょ、近いからって…どうしたのその腕!?」 

 

「!?」

 

もしかして愛の告白かとテンパるリーナ。

出会って間もないが、魔法師だと分かっても特になにかを言ってくるわけでもないし、優しいしとカッコいいしとピュアな部分が露になっていくのだが、彼に起きた異変に気づき意識が戻る。

 

「…せやか…」 

 

腕に亀裂の様な紫色の線が現れる。

光國はそれを見て、とうとうこの日が来てしまったとリーナから手を放す。

 

「…夜中にビーチに来て…おもろいことを教えたるわ…何時かリーナにとってエエことになることを」 

 

光國はそう言うと立ち去った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ふぅ、海外のジュースはおかしな味や」

 

表彰やインタビューなどを受け終え、時刻は既に夜を過ぎていた。

満月がくっきりと見える晴れた夜、彼は自販機で売っていたコーラを買って飲むが口に合わず、優勝トロフィーとメダルにかけた。

 

 

 

「…どうなるんやろ」

 

 

 

リーナの肩を掴んで以降、彼の体に入った紫色の亀裂は増え続けている。

これがなんなのか分かっている…自分がもうすぐ死ぬと言うことが。

ソッと彼は目を閉じ、開くと夜の様に真っ暗だが自分の姿がハッキリと見える。

 

 

 

「光國よ、間もなくだな」

 

 

 

そして自分の中に入っているキマイラが目の前にいた。

ここは世に言う精神世界と言うやつで、キマイラと光國は最後の対話をする。 

 

「ああ、もうすぐオレは死んでしまうな…」 

 

「周りに最上級の魔力があると言うのに、断食とは…プロのテニスプレイヤーとやらを目指すのでは無かったのか?」

 

 

「無理や…魔法師は外国行くのにも一苦労なんや。

オレは今は魔法師になれるよ~と言うだけの人間やけども、このままいけば魔法師や。

しかもただの魔法師やのうて人工魔法師、もし堂々と人工魔法師が発表されれば世界は変わって、その原型のオレは軟禁に近い形で国外にはいけんくなる…まぁ、堂々と発表はせえへんけど九島の爺や国が絶対に出れんようにするやろ」 

 

彼は死ぬ、後少しで死んでしまう。このキマイラに食い殺される。

仮面ライダービーストに変身を出来る様になった者は常にあるものを食らい続けなければならない。それは魔力、魔法を使うのに必要な魔力を食べ続けなければならない。

仮面ライダービーストが登場する仮面ライダーウィザードではビーストは敵の怪人を倒して、魔力をくらっている。

仮面ライダービーストはこの世界仕様に改造されており、この世界で魔法を使うのに必要な魔力的なポジである想子サイオンと呼ばれるものを摂取し続けなければならない。

 

もし長い間、摂取しなければキマイラに食い殺される。彼はベルトを手にして以降一度も想子を喰らうことをせず、今日まで生きていた。

 

「つまらんな、我の力を使えば貴様は成り上がることなど可能だと言うのに。

貴様が憎いあの九島の老いぼれを、いや、貴様にとって障害になりうるであろう魔法使い達を魔法使いとして完全に殺すことが出来る、そう教えたと言うのに」

 

「アホぬかせ」

 

 

確実に勝てない勝負は勝負とは言わない。

彼はもう一度目を閉じ、開くと元いたビーチに戻っていた。

 

 

 

「光國?」

 

「やっと来たか」

 

 

待ち焦がれていたリーナがやっと現れた。

タイミングが良いなと思いながらも、リーナを隣に座らせて被っていたフードを外す。

 

「貴方、どうしたのその顔!?」

 

「ちょ、喧しい。

…もう時間が無いから、説明はせえへん」 

 

「時間が無いって、今すぐ病院に行くわよ!」 

 

『ドライバーオーン!』

 

「!?」

 

病気かなにかと思ったリーナは光國の腕を掴み、病院に連れていこうとするが光國はもう片方の手に指輪をはめて、ベルトを出現させる。 

 

「…貴方、魔法師だったの!?」

 

ベルトを出現させるのも魔法の一つだったようで、想子を感じたリーナは驚き光國を見る。

光國は優しく微笑み、掴んでいたリーナの腕を放す。

 

「魔法師だったじゃない、魔法師になってしまった…やな」 

 

「魔法師になって、しまった?」

 

 

「そう…難しい話をしても、意味無い。

オレに残された時間はどれだけあるかわからない、要点だけかい摘まんで言うわ。

ええか、耳の穴をかっぽじってよー聞いてくれや。きっとリーナにとって良いことになるから、幸せになりたいなら」

 

 

「待って、なに最後みたいに言ってるのよ…ちゃんと説明しなさい!!」 

 

何時まで話せるか分からないので、キーワードだけでも教えようとするのだが興奮しており話が耳に入っていないリーナ。

今なにを話したところで彼女は意味を理解するどころか、直ぐに忘れてしまう。

 

「後少しで光國の命は終わり我が喰らうことになる」

 

「え、こんな機能あったっけ?」 

 

リーナを一度落ち着かせようとすると、勝手にベルトが開きキマイラの声が流れる。

光國の知る限りはこの様な機能は持っていないが、この世界仕様に改造されている部分の一部だと納得する。

 

「先程から隠れて様子を見ている者よ、早く出てこい」

 

「おい、さっきからなにしてるんや」 

 

はじめてベルト経由で此方に語りかけてきたキマイラ。

隠れていた男性に声をかけ、姿を現すように言うと現れた。

 

「…九島の人間か?」

 

男性はコクりと頷くと携帯を取り出し、何処かに連絡をしようとするのだが

 

「無駄や、もう手遅れ。

ここにあるんどっかの九島の別荘だかなんだか連れていき調べるのにどう考えても一時間以上はかかる。オレの残された時間は一時間あるかないかで、それまでに原因がなにか分かるんか?」

 

連絡先が何処か大体わかるので忠告をした。 

 

「ねぇ、なにが起きてるか説明をしてくれない?

どうして九島の、それも本家の人が貴方を監視しているの?そのベルトはなに?」

 

「…しゃーない、時間が無いから手短に…おっさん、言うてええやろ」

 

リーナに自身の事を話してもいいか確認をすると特になにも言わない男。

男はあくまでも監視が仕事であり、その辺については特に言われておらずダメだとは言わないので光國は説明をする。 

 

「人工魔法師って、そんなの」

 

「ありえないなんてことはありえない。

魔法師はどうやって魔法を使ってるかの疑問を1から10まで答えられず1から7ぐらいまでしか答えられん。けど、昔の人はその足りない3を埋める方法を見つけた、ただそれだけ…リーナが知らんだけや」

 

人工魔法師なんて聞いたことの無いと否定するリーナ。

しかし、目の前にいる光國が嘘を言っているようには見えず、自分が知らないだけだと納得させられる。

 

「私が知らないだけね…それなら、その体のヒビはなに?」

 

「…リーナ、聞いてくれ。

これだけ覚えてたらきっと良いことが」 

 

「ただの魔力切れだ」 

 

「て、おい!!」

 

とにかく、リーナにとって良いことになることを教えようとするのだが邪魔するキマイラ。

 

「お前、なに勝手に教えとるんや?」

 

「このままお前が死ぬのはそれはそれで良いのだが、我が真の意味で解放されん」

 

「解放…そうか…」

 

「聞け、我が力を使いし者は魔力を常に捧げなければならん

生きとし生きる者全てに水が必要な様に、我を宿し者は常に魔力が必要になり喰わなければならん。それを怠れば最後、我が契約者をくらいつくす。」

 

解放の意味を理解するまでの少しの間に語るキマイラ。

リーナは一瞬だけどういう事かと考えるが、直ぐに意味を理解する。

 

「想子を常にベルトに注がないとダメってこと?」 

 

「今風に言えばそうなる。

光國は目の前に最上級の魔力があると言うのに、我と契約して以降一度も魔力を食わずにいる。故に、後、十分も満たぬ内に死ぬ」 

 

「え、後、十分なん?それならリーナ、後、数年したら」 

 

「どうすれば、良いの?」 

 

「これを使うがいい」

 

ポンっとライオンの口から指輪が飛び出すとリーナは掴む。

その指輪はビーストドライバーでも使える魔法の指輪だが、光國が見たことの無い指輪だった。

 

「それを使えば魔力を装填する事ができ」 

 

「させるか!!」

 

魔力供給の指輪だと分かると、即座にリーナから取り上げて遠くに投げ捨てる。 

 

「なにしてるのよ!?

私が光國に想子を注げば、それで解決するだけなのになんで捨てた」 

 

「そりゃあ今だけはな。

今日を生き抜くことが出来ても…明日には絶望しかないんや」

 

 

光國がここでリーナに想子を貰えば、最低でも一週間は生きれる。

その時間があれば、日本に帰ることが出来て九島の魔法師が光國の魔力タンクになってくれ、問題なく生き抜くことが出来るが、問題は更にその先だ。 

 

「魔法師として生きてても、オレには未来が無い、明日は無い」 

 

魔法科高校の劣等生の物語を光國は全て知っている訳ではない。むしろ知らないことが多い

しかし、確実にこれだけは言える。物語終盤辺りにお兄様及びメインキャラを除く名もなきモブ魔法師、それこそその他大勢と言っても良い奴に被害が来ると。

ただでさえ世間の目は魔法師に厳しいのに、お兄様がさすおにするための事件が起き続ければそれはもうメインキャラじゃない関係の無いモブ魔法師にすら被害が被る事件が起きるだろう。ましては九島と言うメインキャラに目をつけられてる彼は飼い殺しの状態だ。地獄しか待ち受けてない。

故に彼は腹を括った、死ぬことを、九島烈の思い通りにはさせないと、魔法師として地獄を見るぐらいならば、一か八か死んでみると覚悟を決めた 

 

「年齢制限があるとはいえテニスの世界一になれたんや、もう充分に」 

 

「何処、何処なの指輪は、ちょっと、探すのを手伝って!!」 

 

「は、はい!」 

 

リーナは光國が投げた指輪を探そうとする。

暗くてよく見えないビーチの何処にあるか分からないのに、泥だらけになりながらも必死になって探す。 

 

「リーナ…ええから」 

 

「ふざけるんじゃないわよ!

そんな目をした人間を、ここで、ここで見捨てろって言うの!?」 

 

リーナと光國は出会って数日しかたっていない。

光國は本当になんとなくの気まぐれでお兄様の事を何時か将来役立つ時があるぞと教えようとした。

リーナはなんとなくだが光國の事を見捨てることは出来ない、根が良い子だから?助けて貰った恩?その意味を彼女はまだ分からないが、一つだけ言える、死なないでほしいと、絶望しないでほしいと。 

 

「ダメ…指輪が、指輪が見つからない…」 

 

「体液だ、光國の体液と貴様の体液を混ぜ合わせた物を飲ませろ!」

 

「魔力供給(意味深)!?」

 

「分かったわ!」 

 

指輪が見つからず、時間切れまで間もなくと言うところまで迫った。

リーナと監視をしていた男は指輪を探すも見つからず、慌てるもキマイラが別の方法で救う方法を教える。

興奮しているリーナは躊躇などなく、光國に近づきこの世界でのファーストキスを奪い体液を混ぜ合わせて飲ませ…自分がなにをしたか気付き顔を真っ赤にさせるが 

 

「あれ、ちょっと…」 

 

「ふむ…なにもしなければ三週間と言ったところか…」

 

 

 

リーナはふらつきだし、地面に倒れた。

 

 

 

「あった!」

 

 

 

そして監視をしていた男が指輪を見つけた。



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他人の家の芝は青く見えるが、本当に青かった

「…ここは!?」 

 

意識を落としたリーナは、目を覚ます。

自分が知っているが住んではいない九島の別荘の部屋の一室で寝ている事に気付くと直ぐに体を起こす。

 

「…これちゃうな…」

 

「光國!!…よかった、生きてたのね…」 

 

もしかしたら夢だったのかもと思っていると、すぐ近くのソファーでなにかをしている光國を見て、ほっと一息つくリーナ。

あれは夢じゃないと思い出すのだが、ファーストキスを捧げた事まで思い出して、顔を真っ赤にさせるが

 

 

「ッチ」

 

 

光國はリーナに聞こえるレベルで舌打ちをしたので現実に引き戻される。

 

「なによ…」 

 

舌打ちをした事に苛立つリーナ。

自分のファーストキスを捧げたと言うのに、その態度と言うのは気にくわない。

 

「私、はじめてだったのよ?」 

 

ベッドから降りて光國に近づいたリーナ。 

 

「そないなもん知るか。

つーか、それを気にしとるんやったらするな」

 

「するなって、貴方が指輪を捨てるからじゃない!」

 

「…あのままやったら死ねたんやけどな」

 

「っ!ぐぉ!?」 

 

「オレは現実と空想は分けとるで?」 

 

死にたい発言を聞いた途端、リーナはキレて振りかぶる…まではよかった。

王道的な展開でいけばビンタをくらって「バカ、死にたいなんて軽々しく言わないで!私は、光國に生きてほしいの!」と言う感じの良い展開になるだろう。

 

 

「お前、ホンマに何様のつもりやねん」

 

 

しかし、この馬鹿は違う。

王道を躊躇いなく潰すイレギュラーである。

リーナのビンタを避けてお腹に拳を叩き込んだ。

 

「そら確かに死んだら終わりや、けどな、お前はオレの身になった事あんのか?

お前は生まれた時から魔法師の才能があって物心ついた頃には魔法使えて、それの訓練何度かしとるんやろ?魔法と深く関わってるやろ?」

 

「光國、ごめ」

 

「謝る謝らんの問題ちゃう。

オレ、ホンマに数ヵ月前まで魔法師のまの字も知らず、その勉強すらしてへんねんぞ?

夕飯を賭けた釣りの最中に事故って魔法師になって、海に落ちて風邪引きかけてきたの知っとる?

テニスのプロに君ならプロなれる言われて、ここまで来て色々な所から名刺を貰ったんやで?」

 

謝るリーナを許さず、追撃をする光國。 

 

「お前とオレやったら住む世界が全然ちゃうねんで」 

 

普通なら格上が格下に言う台詞。

しかし、どっちかと言うか格下である光國が格上であるリーナに言った。 

 

「今日まで必死になってやった努力全部無駄になって…死にたいと思ったらアカンのか?

確かに死んだら終わりやけど、オレの場合は苦しみから解放されて終わりや、本人が望んで選んだ死は一種の救いや…いっぺん、オレと同じ生き方をして同じ位置に立ってから言ってこい、ボンボンにはボンボンの苦しみがあるのは分かるけど、それと同時に貧乏人には貧乏人の苦しみがあるんやぞ、ど阿呆が…」

 

 

言いたいことを言い終えるとソファーに座る光國。

握り拳はプルプルと震えており、怒りではなく悔しさの握り拳だとリーナは気付きなにも言わなかった。

 

「…」 

 

「…」

 

「…ねぇ、光國」 

 

「なんや?」

 

暫しの間、沈黙状態が続いたがリーナが沈黙を破った。 

 

「テニスって楽しいの?」

 

「楽しいで…けど、あんのクソババア、はじめて間もない奴にグランドスラム達成した基準で接してきやがるからな…」 

 

「クソババア?」 

 

「オレにテニスをやれと言ってきた婆さんや。

使ってるラケットはその婆さんの形見で、とある爺さんが作った業物で中々にぶっ壊れへん…なにせ、こちとら貧しい家系、練習用と試合用にラケットを複数使い分けられへん。」

 

「よくそんなので、ここまでこれたわね」

 

なんとか話題を作ったが、少し呆れてしまう。

古い靴と貰い物のラケットだけで、ここまで進んできた。

光國には才能があるとしか言えないが、言わない。今、その辺を触れるのは逆鱗に触れるのと同じだから。 

 

「テニス、やってみるか?」

 

「え?」 

 

「ここで座ってボーッとしてるよりも、体を動かした方が気が楽になるだろう」

 

再び気まずい空気が流れるが、今度は光國が空気を壊す。

先程から誰も来ないこの場に居るのもあれなのと、本当にやることが無いのでリーナはOKを出す。

 

「安心しろ、接待テニスは得意だ」

 

「ちょ、手加減をしないでよね!」

 

外に出て気分を変えようと立ち上がる二人…だが 

 

「残念だが、テニスコートはこの別荘には無い」

 

「っ!?」

 

 

「か、閣下…な、なんで」

 

ドアを開けると九島烈がいた。 

 

「どうして、ここに」

 

つい最近、沖縄で大きな事件が起きた。

起こしたのは大亜細亜連合、今の中国とかが合併して出来た国でお兄様が解決をしたは良いものの、海外からの攻撃と言うことで色々と警戒体制に入っている。

魔法師は国外に出るだけでも一苦労、ましてはこの世界で上から数えて直ぐに位置する実力者である魔法師の九島烈が目の前に居るのは驚きを隠せないリーナ。 

 

「なに、大きな事件が起きたんだ。

親族を心配しに来ない者は何処にもいないさ…まぁ、今ここに居ると知っているかと聞けば別だが」 

 

口ではそう言っているがリーナを全くと言って見ない九島烈。

視線は光國に向いており、光國は九島烈の言葉を聞くと直ぐに土下座をした。 

 

「リーナは関係ありません…なので、そろそろ家に帰してください」 

 

「いやいや、家に帰すなんて…何時何処で魔法師を襲う輩がいるかわからないのだよ」

 

「…」

 

光國の下げた頭に足を乗せる九島烈。

表情を一切変えず、反抗することなく無言を貫く。 

 

「全く、困った子だ。

自殺をしようとするとは、相談をしてくれれば九島専属のカウンセラーを紹介したと言うのに」

 

「っ…」

 

「なんでそれを…」

 

自殺の事を口にすると少しだけ表情を変えた光國。

リーナがどうして知っているかと聞くと、光國を監視していた男性が現れ、全てを理解する。

この男性が電話をかけた際に、かけた相手は九島烈だと、九島烈は光國がこれ以上なにかをする前に止めるべくやって来た。

 

「とりあえず、君は医者に行くべきだ。

既に病むべきところまで病んでいる、なに治療費は此方が持つから安心したまえ。

それと世界一、おめでとう。豊かな人生経験は魔法師を大きく成長させる…この世で最もかかる物に金を惜しんではいけない」

 

光國のと言うか仮面ライダービーストのシステムを理解していなかった九島烈は光國がまだ色々と語っていないと確信しており、今回の様に遠くにいけない様に動きを封じに来た。

お抱えの医者に連れていき、適当な診断書を書かせて入院、軟禁に近い生活を送らせる、下手すりゃお兄様以上にキツい生活を送る可能性がある。

 

「なに、今よりいい生活にはなるさ」 

 

「…はい…」 

 

光國を相手に一切の油断も隙も見せることは許されない。

九島烈はそう判断しており、一歩ずつ一歩ずつ追い詰めて逃げ場を封じていく。

 

 

 

「…ダメ…」

 

 

 

逃げ場を封じていく最中、リーナは首を振って呟いた。

今ここで光國を九島烈に渡してしまえば最後、光國の人生は真っ暗だ。

人工魔法師として、様々な研究と実験が行われる。仮に他の人を光國と同じ感じの人工魔法師にするのを成功すれば最後、光國がどうなるかは不明だ。

 

 

 

「いっちゃ、ダメ…」

 

 

 

だが、確実に酷い目にあうのは分かる。

 

 

 

「リーナは帰してください…無関係です」

 

「ふむ…」 

 

人工魔法師だと言う事を知っているリーナ。

仮にこのまま喋るなよと釘を刺して放置すればどうなるかを考える。

遠縁とはいえ、あくまでもリーナはUSNAの人間。このまま成長したら自動的にUSNAの魔法師になる。

もしうっかりと人工魔法師の事やそれに近い理論を開発してしまえば、色々と被害が大きい。

 

「…その前に解放の意味を教えてくれないだろうか?」 

 

「…」

 

一先ずは疑似餌を投げてみる。

電話越しで光國達のやり取りを聞いた際に気になっていた、真の意味での解放。

これがなにかを聞かなければ、手痛い反逆をくらう事になるかもしれないと聞く。

遠回しに答えればリーナを解放すると言っているが、解放する気は一切無い。

 

 

「真の意味での解放は…」

 

 

質問に答えるべく指輪を装着する光國。装着した指輪がベルトを出現させる指輪だったので、戦うつもりかと考えるが自身に打ち勝ったとしても他の十師族達や国が黙ってはいないのを光國は知っているので別の事をすると思い見守ると 

 

「我の力を真に解放することだ」 

 

ベルトから別の声がした。

 

「その声、彼の中にいるキマイラかね?」

 

「気安く呼ぶでない、老いぼれが。」 

 

「真の意味での解放とはどういうことだ?」

 

「そのままの意味、我の力を真の意味で解放することだ。

我の力を扱う事が出来る者が身を流され、絶望で死ぬのは気にくわん」

 

「まだ、なにか隠し持っているのかね?」

 

「残念だが、隠し持ってはいない」

 

情報をスラスラと喋るキマイラ。

カマをかけなくとも、教えてくれるので疑いを持つのだがベルトからなにかが落ちる音が聞こえたので、光國を立たせるとベルトを出す指輪と同じ指輪が足元にあった。

 

「ニオール文明の跡地を探すといい

我の力を真の意味で解放するものが封印されている…」 

 

「ニオール文明…成る程、紀元前4、5世紀に人工魔法師は」

 

「伝えることは伝えた。

信じるも信じぬも貴様次第…我が真に解放されれば貴様など容易いものよ」 

 

キマイラが語るべき事を終えると消えるベルト。

九島烈は指輪を拾い、スーツの男に渡すとスーツの男は何処かに電話をし、ニオール文明の跡地を探す用意をさせる。

 

「さて、メンタルカウンセリングを受けなさい光國くん」 

 

「はい」

 

光國はスーツの男に連れられ、部屋を出ていった。

大して意味のないメンタルカウンセリングを受けさせられ、適当に書類をでっち上げられるだろう。

 

「あの…このまま、光國はどうなるのですか?」

 

残されたリーナは九島烈に光國の今後を聞く。

 

「一先ずは帰国。

その後に彼が魔法師になるべく生活環境を変える。

今いる学校をやめさせて、別の学校に転校、転校先は魔法科高校が近い中学に通わせ魔法師というものを馴れさせる。魔法科高校が近い中学は魔法師の才能を持つ生徒が多く、魔法科高校を志望する生徒が多いからね。」 

 

「……それなら」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「…」 

 

帰国した光國は家に帰らずホテルの一室に居た。

一度でも家に帰れば色々と我慢をしているものが溢れでてしまうから、今日までにやって来たこと全部が無駄になって悲しむから。

 

「……まぁ、どうにでもならんか…」

 

九島が今の学校をやめる手続き等をしている間、光國は何処の魔法科高校に入るか決めていた。

こうなればとやけくそに近い形でこれから先、事件が起こりまくる第一高校に入ることを決めた。

 

「…にしても、遅いな」

 

色々と手続きが終われば、九島の使いが来るはずなのだが一向に来ない。

流石にホテルに籠りきりはキツく、持っている電子書籍も読破して暗記までしているので暇で暇で仕方ない。 

 

「…!」 

 

外に出て良いかと連絡をしようとすると、ドアがノックされる。

やっと来たかと重い腰を上げ、ドアの前に立ち大きく息を吸う

 

「…誰やろうな…」 

 

人工魔法師なんて存在をポロポロと言ってはいけない、例え九島に仕えている家でもだ。

自分を迎えに来た人は自分が人工魔法師と言うものを知っている九島の血筋で家でもそこそこの地位を持ち、尚且つ九島烈を裏切らない存在だろう。 

 

「魔法師絶対主義とかイカれたの来んといてくれよ…」

 

モブなんとか君を頭に浮かべゆっくりとドアを開ける。

 

 

 

「光國、お待たせ」

 

 

 

そしてゆっくりとドアを閉めた。

 

 

 

「遅いな…」

 

「ちょ、ちょっと!!開けなさい!!」

 

「…なにしに来たん、自分?」

 

もう一度ドアを開けるとそこにはリーナがいたのでもう一度閉めて更に鍵も閉めて、モニター越しで会話をする。

 

「九島の爺さんが、解放した言うてたのになんでおるん?」 

 

「…私が自分で志願したの。

光國自身は魔法演算領域を持っていなくて、常に大量の想子が必要だから定期的に想子を与える役を、魔力タンクになるのを自分で志願したの」

 

「っ!」

 

 

ここにいる理由を知るとドアを開けた光國。

リーナを中に入れて、ソファーに座り両手で顔を覆う。 

 

「なに、やってんねんお前は…あの、クソジジイ…」 

 

解放はしたが自らの意思でついてきた。

無理矢理でなく故意なので、これ程までに便利な口実はない。 

 

「光國、私を心配してくれるのね!

でも…私はついていきたくないなんて言える立場じゃないの…」

 

「せやかて、クドウ!じゃなくてリーナ!

オレにわざわざそこまで義理立てする必要は無いやろ…別に、九島の御抱えでクソジジイを裏切らない奴なんて探せばいるんや…わざわざ自分で自分の首絞める行為をせんでも」

 

 

 

出会ってまだ二週間もたっていないリーナと光國。

ファーストキスこそ済ませているが、本当に互いをよくしらない。そこまでする義理はない。

リーナならば、九島烈に潰されずに済む地位を日本でも築けた筈だろう。なのに何故か自分の意思でここにやって来た

 

「見捨てろって言うの!

死んだ目をしている人を、どうせ手遅れだって見捨てるなんて私には無理よ!

それともなに、光國は私が魔力タンクになるのが嫌なの?」 

 

「正直、嫌やで…リーナの人生をこんなことで潰したら勿体無い」

 

「光國…大丈夫よ」 

 

光國の隣に座るリーナ。腕を掴んで耳元で小さく呟く。

 

 

 

「私が偉くなって光國を…光國を研究するなら、何時かその時が…だから、大丈夫よ…」

 

 



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日本不思議発見

光國に想子を与える役割を買って出たリーナはあの後、九島烈に第一高校に行きますと光國と共に報告、それらしい理由を適当にでっち上げて日本に住めるようになった。

住めるようになれば、次は家だと九島の持つ家を用意したのだが光國がそれを拒否、広すぎると逆に無理だと拒み、今時こんな部屋あるんかいと思える様なアパートが偶然に見つかって二人で暮らしをはじめてかれこれ数ヵ月がたった 

 

「……!?」

 

 

この数ヵ月でリーナは光國の貧乏人を舐めんじゃねえぞ、グォルァと言う台詞が身に染みた。

先ずはベッドで寝ない、旅館の様にモッフモフの布団ではなく、薄っぺらい布団の上で寝る。炊事等をするロボことHALがない、先進国だとメジャーだが金が掛かると家には無いらしく基本的に自炊。PC等の電子機器は旧型の据え置き型と言った本当にこんなの今時あるんだと思える様なも事ばかりなのだが、特に苦じゃなかった。尚、音声認識と言う便利な電子機器がこの時代にはあるのだが関西弁等に対応をしていないと言う事実に光國は軽く苛立ちを覚えたことはリーナは知らない。

 

人間、楽になりたいから楽になる物を作るのは当然だが楽しすぎるのも如何なことだと言うのをリーナは学んだ。割と旧世紀の生活でも問題ない。

 

「光國、どこ!?」 

 

本日は日曜日。

ゆっくりと起きれる日だと目覚めると何時も隣で寝ている光國がおらず、意識が一瞬にして覚醒して体を起こす。 

 

「百年たってもウォシュレット以降が無いのか…どしたん、リーナ?」 

 

光國が居ないと慌てているとトイレから出てきた光國。

寝起きに出すものを出していただけなのだが、リーナは慌てて光國の側に駆け寄る。

 

「…大丈夫、生きてる」

 

「毎日毎日、飽きひん?」

 

ちょっとトイレにいったりするだけで、慌てるリーナ。

一緒に暮らしていこう、ずっとこんな調子で光國は困っている。

 

「…じゃあ、首輪を…じゃないと光國が死んじゃうかも…」

 

「勘弁してくれ…」 

 

依存してるのか、過保護なのか分からない。中々に無いことで対処の仕方が分からない。 

 

「あ、今日はまだしてないわね…おはよう、光國」

 

「魔力供給…いや、なんでもない」

 

想子を与える事の出来る指輪があるが、一度も使っていない。

朝、目覚めるとキスをするのが日課になっているのが二人である。一度やめようと言ったら、じゃあ血液交換ねとなったので妥協した。 

 

「やっぱ時代劇は昔の方が良いわね、必殺仕事人のBGMは心が踊るわ」 

 

炊事等を終え、真っ昼間から時代劇を見て寛ぐリーナの姿は最早おばちゃんだ。

どうにかして光國を手に入れるべく、想子の補充役を担っているのを完全に忘れて時代劇を見る。

 

「光國も、勉強ばかりじゃ体に毒よ。たまには気分を変えないと」

 

「お前と違って、魔法に関する英才教育を一切受けとらん。

加えてCADを使った魔法は何にも特化してなくて、平凡なオレは今から追い込まんと受かるものも受からんわ、落ちたらオレ、隔離されんねんぞ」

 

「いや、でもまだ中1でしょ?」 

 

「アホぬかせ、小6で入る高校決めとるやつは当たり前の様におるんやぞ」 

 

「ブラック、ブラックよ!日本の受験戦争は!!」 

 

「なにを今更なことを、学歴社会になった時点で世界中ブラックや。

それに気晴らしに時代劇は見いひんつーか、見るよりもやってみたいわ、日光江戸⚫に行きたい」 

 

「あ、分かるわそれ。

私も一度で良いから、印籠を出してハハァ!ってやってみたい…九島って、家紋があったかしら?」 

 

「絶対クソジジイに怒られるからやめろ。

姿を偽装する魔法でも使って、普段は城下町で遊び人をやってて事件を起こした悪人の前で余の顔を見忘れたと言うのかと言って正体を現した方が良い」

 

お転婆(ポンコツ)のリーナにはそれがちょうど良いだろう。

と言うか九島の魔法にそんな感じのあった筈だから、ベストマッチだろうと考えるのだが 

 

「…なにそれ?」 

 

リーナがなにを言っているか理解していなかった。

 

「あ、でも遠山の金さんみたいに身分を隠すのも面白そうね。

奉行所でこう、桜吹雪の彫り物を見せるシーンって一度やってみたいわ」

 

「いや、彫ったら風呂屋いかれへんって…刺青になるから。

それやったら貧乏旗本の三男って言って、火消しのめ組にお世話になった方が」 

 

「光國、さっきからなんの話をしているの?」

 

「いや、だから暴れん坊将軍…?…」 

 

「そんな時代劇、聞いたこと無いわよ?」

 

「…?」

 

水戸黄門から子連れ狼まで色々な時代劇を見ているリーナだが、暴れん坊将軍などと言う時代劇を見たこと無いと言う。 

 

「ほら、持ってる時代劇にそんなの無いわよ」

 

ピッとリモコンを操作してテレビに入れている時代劇のリストを見せるリーナ。

桃太郎侍、必殺仕事人、遠山の金さん、水戸黄門、忠臣蔵、JIN、他にも色々な時代劇があった。しかし、そこには無かった、暴れん坊将軍が。そしてJINは時代劇なのかと一瞬考えてしまった。 

 

「…」

 

 

「きっとなにかと間違えたのよ。

それよりも次、なにを見ようかしら、全部見たことあるから…ちょっと変わったのが、あ、これ面白そう!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「光國、時には実戦経験も積まないとダメよ。

今日は複数の魔法を使って徳川のまいぞ…宝探しよ!」 

 

「今、徳川の埋蔵金言いかけたやろ…」

 

暴れん坊将軍が無いことを知った翌週のこと、リーナと一緒に群馬のとある山にやって来た。

現場で魔法をちゃんと使いこなす演習で来たのだが、それは建前である。徳川の埋蔵金を探しにやって来た。 

 

「なにを言っているのよ!

過去にこの近くを掘ってたけど、徳川の埋蔵金なんて全くと言って出てこなかったわ」

 

「…リーナ、あっち系を見たな…」 

 

掘ってたと言う言葉に徳川の埋蔵金を探す旧世紀の数世代前に流行った番組を見てしまったと分かった。

 

「…ええ、ええ、見たわよ!

でもそれがなにか問題でも?別にいいじゃない!

魔法を使って、徳川の埋蔵金を見つければ貴重な経験を得られて尚且つ大金が手に入るのよ!私達の将来の為のお金は国家予算でも足りないぐらいだわ!」

 

「いや、徳川の埋蔵金は国の物になるぞ…」

 

「え…嘘…」

 

「まぁ、でも…徳川の埋蔵金かどうか分からなければ埋蔵金の二分の一の額の金が貰えるらしいからな…」 

 

「あ、ならよかった」 

 

なにがだよとは言えない光國。

どういう意味か聞くほど、彼は馬鹿ではないし、賢くは無かった…そして欲望は大きかった。

 

 

「でも、どないすんねん。

当時ショベルカーとか使って徳川の埋蔵金探したんやで…まさかやと思うけど、キマイラ頼るのか?」

 

『ドライバーオーーン!』

 

どうやって徳川の埋蔵金を探すかどうかの話になり、魔法で探しても昔のやり方が少しグレードアップしただけだと言いながらもベルトを起動させるとパカッとベルトが開く。

 

 

「我にその様な事は出来ん」 

 

「なんだ、出来ないのね…見た目ライオンらしいから匂いを見つけれないかって思ったのだけれど」

 

「たわけ!我とて好き好んでこの様な獣ではない!我は本来は人であった!」

 

「っ!?それ、どういう意味!?」

 

 

キマイラの口から語られし驚愕の真実に珍しく食い下がるリーナ。

ベルトに顔を近づけてキマイラに問うがキマイラは答えなかった。

 

「全く、若い者は常に答えのみを知りたがる。

答えは自分の手で見つけるがよい…とは言うものの、この様な時代では見つけることは不可能に等しくはあるがな!!」

 

 

ヒントらしいヒントを残し、ベルトが閉じた。

 

 

「キマイラが人間だったって事はキマイラを作ることが可能…いえ、でもその理論でいくと一人の人工魔法師に対して一人の、いや、でもニオール文明があった時代では命は安かったりするし…ああ、もうわけわかんないわね!私、こう言うの専門外だから後で頼んでおこう」 

 

「…リーナ」

 

「え、あ…ああ、うん!

とにかく、徳川の埋蔵金を魔法で探すわよ!」

 

最早、隠す気は0なリーナは徳川の埋蔵金探しを再開する…が光國はジッとリーナを見つめたままだった。

 

「リーナ…」

 

「なにかしら?」

 

「…無茶はせんくてええで。

ここじゃなくてもリーナやったら、なにをやっても輝けるからさ、オレを見捨てても別にうらまんよ…」

 

 

「……」

 

 

リーナが裏でなにかとんでもない事をやっているのを知っている。

それが自分の為だと言うのも分かっているが、やはり無茶だけはしてほしく無いと言うもの。

 

 

「…光國は魔法師としては輝けないわよ」

 

「返し方、ひどない!?いやまぁ、せやけども…はぁ」

 

なにをしているかは教えてくれないリーナを見て諦め、埋蔵金探しを再開する。 

 

「ふぅううううう…」 

 

息を大きく吸い、五感を研ぎ澄ませる光國。

ただやみくもに探していてはいけない、魔法師らしく考えるのではなく感じて動こうと指輪を取り出す。

 

 

『ドルフィ!ゴーッ!ドッドッドッドッ、ドルフィー!』

 

 

 

指輪をベルトの左側の挿し込み部分に挿入すると魔法陣が出現し、光國の肉体を通過した。

するとどうだ、光國の体はゆっくりとゆっくりと地面の中へと沈んでいった。

 

 

「なんだろう、一種の罰ゲームを受けてる気分だ」 

 

頭だけを地面の上に出し、体を地面の中に入れている光國はリーナに見下ろされている。

リーナはとんでもない物を見る目で光國を見ており、なんだか自分が哀れだと思ってしまった。 

 

「それ、どうなってるの?」 

 

「魔法師としては無知に近いオレが知っていると思うか?」 

 

「なら、早いところ出なさい。

どういう理論か分からない魔法を使うのは危険よ…いいから、早く!」

 

 

「ちょ、そないキツく言わんくてもええやんか…ん?」

 

リーナがキツく言ったので、余程の事だなと体をゆっくりと浮上させるのだが足元に違和感を感じた。

 

 

 

「なんかここに埋まっとる」

 

 

「…え、それってもしかして…」

 

 

「と、取り敢えず掘り出して見た方が早い…」

 

 

「そ、そうね…」

 

 

出る際に箱らしき物に触れたので、もしかしたらと思い互いに汗を流しながら会話をする。

まさかまさかとスコップを手に掘り進む、魔法で探すなんて最早、どうでもいいと肉体を酷使させ

 

 

 

「…印籠と同じ紋章だわ!!」

 

 

 

おせちが入っている重箱ぐらいの大きさの徳川の家紋がついた箱が出てきた。

マジか!?と一緒に箱を持ち上げるリーナと光國、箱は物凄くずっしりとしていて重かった。

 

 

 

「…私、何度かおせちを食べたことあるけど重箱ってこんなに重くは無いわよね…」

 

 

「あの、アレだ。

山吹色のお菓子が入っているパターンや…」

 

 

「…ど、どうしましょう

まさかこうもあっさりと出てくるなんて、思いもしなかったわ!?

最後にこう、江戸時代に作られたなにかを発見レベルで終わるかなって…取り敢えず、開けてみましょう」

 

「そ、そうだな…」

 

 

 

結構な重さの重箱。

小判一枚でサラリーマンの初任給を越えることが出来るので、それがかなり入っていると心を踊らせて箱をゆっくりとゆっくりと開いた 

 

「!?」

 

「なにこれ?」 

 

箱を開いたリーナはキョトンとした。

中身が昔は貴重だった塩とか胡椒とか言うベタなオチはなく、かといって大量の山吹色のお菓子でもなかった。

 

 

 

「メダル…よね?」

 

 

 

中には三枚のオレンジ色に近い色のメダルがかなり古い和紙と共に入っていた。

リーナは馴れた手つきで真っ白なハンカチを取り出して、メダルを触る。

 

 

 

「なにかは分からないわね…取り敢えず、紙の方を…光國、パス」

 

 

「これ、オレ達が勝手に見てエエんかな…」

 

 

 

「このメダル、貴方のベルトと同じ聖遺物(レリック)だと思うわ…多分」

 

 

メダルを見て古代に作られた魔法を補助する道具と見抜いたリーナ。

普段がポンコツなだけに時折見せる鋭い洞察力等はこの世界の住人の中では郡を抜いていた。

しかし、紙に書いてある字は読めなかった。そこが読めればカッコよかったのに。

 

 

 

「えっと…この奇妙な銭、伴天連の国に伝わりし王家の宝の一つなり。

江戸幕府八代将軍徳川吉宗への献上品の一つではあるが、ただの宝では非ず。我が国の国宝と同様、力を秘めし宝なり」 

 

「やっぱり…これは聖遺物(レリック)の類なのね。」

 

「様々な陰陽師達に調べさせるも成果はなにもない。

これを書き記している今でこそ、平穏なる世だが奇妙な銭を貰った際には全国に妖魔が蔓延っており退治する術を探していた。

この時は平安より続く人と鬼との境界線を操る者達の手により納まったが、また何時魑魅魍魎蔓延る時代になるかは分かるまい。

人と鬼の境界線を操る者達は吉宗公の故郷である紀伊の国に伝わる愛重き乙女に近く、これを読んでいる頃には滅んでいる可能性がある…えっと…あ、はいはい…この銭の研究を未来に託す的なアレか…え、これどうすんねん……」

 

 

埋蔵金を掘り当てようとした結果、埋蔵金よりも価値がありそうな物を掘り当てた。

しかし、これはいったいどう扱っておくのが正しいのか分からない。埋蔵金ならば少しだけ貰ってから、掘り当てたと言うのだが相手は埋蔵金ではない。

 

「ちょっと閣下に連絡をしてみるわ…」

 

リーナはメダルを箱に戻し、携帯を取り出して会話を聞かれない為に少しだけ距離を取った。

その間、光國はジッと見つめる。メダルを、コアメダルを。

光國はこれがなんなのかを知っている、これも仮面ライダーが変身するのに必要な道具だ。

特定の条件を満たした人間だったらベルトを使えば変身出来る系で、錬金術師が作った物で徳川吉宗に献上されたメダルで映画で主人公が徳田新之助から託され、このコアメダルを使って変身している。

 

 

「…嫌なパターンだ」

 

 

 

言うまでもないが、仮面ライダーはフィクションである。

この世界もどちらかと言うとフィクションであるが、現実でコアメダルなんてものは最初から存在しない。この世界にそんなものは最初から存在しない。

彼の持つビーストドライバーも存在しない…筈なのに、何故か今ここに存在している。

 

「…今は考えない方が良いか」

 

 

既に自分は仮面ライダービーストだ。

仮面ライダーオーズではないし、オーズに変身するのに必要なオーズドライバーはここには無い。

 

「連絡をしてきたわ。

直ぐにその手の専門家を連れて向かうから、厳重にしておけって」 

 

「そうか…」 

 

「色々と小言を言われたけど、物凄く驚いていたわ」 

 

当然と言えば当然の答えを持ってきたリーナは光國と一緒に腰を下ろした。

 

「リーナ…」 

 

「なに?」 

 

「実はこの手紙には続きがあるんや」 

 

「え?」

 

さっき報告したばかりだと言うのに、また報告しないといけないのと頭が一瞬だけフリーズをするリーナだが光國は気にせずに箱に触れる。

 

「このメダルと紙を入れても、例え江戸時代の重箱だろうがこんな重さはありえん。

メダルと紙、そして徳川の家紋に圧倒されていたのと箱の色のせいで気付きにくいが、底上げがされている」

 

蓋の方にコアメダルと紙を置き、パカッと重箱の上げ底を取る

 

 

「…!?」 

 

「手紙の方にな、研究費用と共に託すって書かれとんねん…」

 

 

 

中には千両箱ほどとは言わないが、小判が乱雑にザクザクと入っていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

「……」

 

 

 

小判を見たリーナと光國は特に言葉を交わさず、小判を手にし…パクった。

1時間後にやって来た九島烈と専門家にバレるかバレないかの量をパクってしまった。

 

 

 

「お金の魔力は恐ろしいわ、きっと精神干渉魔法を常時発動しているのね」

 

 

 

リーナと光國は徳川の埋蔵金(仮)を見つけた人として世間を騒がせるのだった。



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入学編
冷静に考えれば、お盛んなことである。


リーナと暮らしはじめて早数年たった。

時折リーナと一緒にリーナの実家に帰って、確実に外堀を埋めに来る作戦をしてくるがもうどうでもいいと思い出している光國。一度想像妊娠をした事があるのでもういいやと諦めてる。

そんな事よりも競馬だぜと知り合いに馬券を買いにいって貰って競馬をやったり、競艇をやったり、闇サイトで九校戦の賭けをして、研究の手伝いを名目に九島から貰った金を着実と増やしている。

 

 

 

「…」

 

「私よりも上がいるなんて…いったい、誰かしら」 

 

やっと始まる魔法科高校の劣等生。

主人公が通う魔法科第一高校へと向かう道中、リーナは不満げな顔で自分が首席じゃ無いことに呟く。 

 

「別に首席じゃ無くてもいいだろう」

 

「ダメよ、遠縁とは言え私はクドウなのよ…あの時、間違えなければ…」

 

 

九島と言う日本の魔法師にとっては絶対的存在の名前を持つリーナ。

もし悪い成績や成果が上がらなければ、九島の顔に泥を塗るだけでなく光國の側に入れなくなる可能性があり焦る。尚、首席はさすおに言っている人こと司波深雪だ。

本当に初歩的なミスがあり、例年ならば首席だったのだが司波深雪の成績が断トツなせいで初歩的なミスすら許されない状況でリーナと深雪の成績はほぼ一緒なのをリーナは知らない。 

 

「て言うか、なんで貴方は二科生なのよ!」

 

「…なぜだろうな?」 

 

魔法科高校は成果主義の高校だ。

入試の成績でクラス分けをされ、成績の悪い二科の劣等生の制服には成績の良い一科の優等生の制服にされている花弁の刺繍が無い。

リーナの制服には花弁の刺繍が施されているが、光國の制服にはなにもない。

 

光國は魔法科高校の劣等生になった。

 

 

「…まさかとは思うけれど、手を抜いた?」

 

 

「馬鹿を言うな。

仮に落ちた場合、オレは施設送り…お前とも離れ離れになるぞ」

 

光國は一切、手は抜いていない。

現代魔法は本当に普通だが、それでも手を抜かず頑張ったが二科生だった。

 

「そう、よね…ええ、そうね。

光國、落ちたら私と離れ離れになっちゃうものね…頑張ったわね」

 

「ニヤつかないでくれ」

 

 

自分が意識されている事を嬉しいとニヤつき、距離を縮めるリーナ。

光國を逃さないと腕を掴もうとするのだが、避けられる。しかし距離は離されない。

 

「話を戻すが、首席じゃ無い方が良い。

後任を育てるべく、生徒会に入れる、なんて事が起きる…仮にリーナが何らかの組織のトップだったら後任の為に首席に声をかけるだろう?」

 

「え、ええ!そうね!!」 

 

「…もう少し誤魔化せ、オレの様に」 

 

「何度も言っているけど、普通に喋らないの?」 

 

「…今度、沖縄にいってみるか?」 

 

「…もう、水着が見たいなら素直に言ってよ…その、また胸が大きくなったみたいだし」

 

「なにを勘違いしてる」 

 

家や九島の人達の前では堂々と関西弁で喋る光國だが、それ以外では出来る限り標準語を喋っている。

この数年側にいたリーナはそれに馴れずにいる。

変な方言で恥をかくわけにもいかないし、リーナに移ると九島になに言われるか分からない。

 

「日本各地の方言を勉強してこい。

世界でもトップクラスに難しい日本語が更にややこしくなり、もう頭がクルクルパーになるぞ」

 

「クルクルパーの時点で分からないわ…」 

 

ニホンゴ、ムズカシイ。

 

数年住んでいるが、分からない時が結構ある。

水着はともかく、何時かは光國となにもかも忘れて旅行へ行きたいと思う。

 

 

「それにしても、早く来すぎたんじゃない?」

 

 

第一高校についたリーナは時間を確認し、入学式まで大分時間があった。

もう少し一緒に寝ていても入学式には充分間に合うのだが、光國に早くに叩き起こされた。

 

 

「お前を負かした相手を見たくないのか?」 

 

「…見てみたいわね」 

 

自分を負かした相手を気にするリーナ。

この第一高校には十師族の七草と十文字が通っている、そう通っている、つまりは在校生である。新入生ではない。

今年度魔法科高校に入学する十師族の新入生はリーナの知る限りは、一条家の一条将輝だけで、その一条将輝は魔法科第三高校に入学した。

だから、気になってしまう。自分よりも上の人物を。

 

「でも、そう易々と会えるものなの?」 

 

「入試のトップは新入生総代を勤めるから、早めに来ないといけない…ああ、噂をすればなんとやらだ」

 

 

光國が後ろを振り向いたので、リーナも振り向いた。

 

「!」 

 

後ろには自分達と同じ女子が一科生、男子が二科生のペアがいた。

男子の顔立ちはそれなりだったのだが、女子の方は美しかった。見るもの全てを魅了する、そんな美しさで同性であるリーナは驚き心を奪われかける。 

 

「納得できません。何故お兄様が新入生総代をお勤めになれないのですか?

入試の成績はトップだったじゃありませんか!私ではなく、お兄様が新入生総代を勤めるべきです!」 

 

しかし女の一言で戻った。

 

「お前も普段はああいう風に見られているんだぞ」

 

「なら、隣にいるのは貴方ね」 

 

「いや、それはない…アレが最上位とするならばオレは地を這うアメーバだ」 

 

「卑下しすぎよ…」

 

お兄様と比べられれば誰だってそうである。

光國達と同じ感じの二人組こそ、さすおにこと司波深雪とお兄様こと司波達也であった。 

 

「あ、こっち見た」 

 

リーナもリーナで色々と存在感を放っており、司波兄妹は気付いた。

尚、光國の存在も気付いてはいるがリーナのインパクトが強すぎるせいで特に気には留めていない。

 

「おはようございます」 

 

にっこりと微笑み挨拶をする深雪。

あ、これは自分に向けられている挨拶じゃねえやと光國は逃げようとするのだがリーナが足を踏んで、動けなくしており逃げれなかった。 

 

「ええ、おはよう。

驚いたわ、自己採点でも新入生総代は余裕でいけると思ったのに奪われるなんて」 

 

遠回しに嫌味を言うリーナだが 

 

「ええ、私も驚いています。

本来ならば私ではなく、お兄様が新入生総代を勤めるべきなのに…」 

 

深雪は別方向に返した。

それを聞いて何とも言えない表情のお兄様もお兄様でなにかと大変だった。 

 

「お兄様?」

 

 

「はい、本来ならば入試のテストも魔法もお兄様が」 

 

「深雪、それは仕方ないことだと何度も言っているだろう」

 

「ですが!」

 

「ふ~ん…貴方のお兄さん、実戦向きなのね」 

 

「「!?」」

 

 

二人だけの世界に入ろうとした矢先、お兄様を見抜くリーナ。 

 

「…何故、いきなりそんな事を?」 

 

「ここの入試って、筆記と実技に別れているけれども実技の方に問題があったわ。

対象物に対して魔法を発動して、その際の速度や干渉力を測るだけのテストと言うよりは貴方は魔法が使えますかと調べられてる気分だったわ。

動かないマトになら魔法を使うよりも殴った方が早いんだから、それなりの魔法師を連れてきて時間以内に隠し持っている鍵を奪って箱を開けるとかの方がより使える成績を出せるって光國が…光國も、似たような感じだから」

 

「オレに回さんといてくれや…」 

 

二科生の証とも言える刺繍をされてない部分に触れるリーナ。

二人の視線が光國に向けられてしまい、光國は余計な事をと頭を抱える。

 

「だから、実戦向けと言ったのか…」 

 

「敵を見るような目で見るな…」 

 

下手に目立ちたくない司波達也。

入学早々に実戦では動くがテスト形式だと逆にダメなタイプと知られてしまうのは面倒だなと光國を見る。

 

「ところで、こんなところにいて大丈夫なのか?

新入生総代は入学式に面倒な祝辞をしなければならないと聞いているが…」

 

「あ、そうでした!お兄様、私はこれで…えっと」

 

「手塚だ」

 

「アンジェリーナ=クドウ=シールズ、リーナで良いわよ」

 

「手塚さん、リーナ、失礼します」 

 

話題を変えると、入学式まで時間が迫っている事に気付く深雪。

三人に一礼をして校舎へと向かっていった。 

 

「…そう言えば、名前をまだ聞いてないわね。妹の方がミユキで」 

 

「俺は達也、司波達也だ」 

 

「双子なのに似ていないわね…」 

 

「よく双子と間違われるが、俺が四月、深雪が三月生まれで兄妹なんだ」

 

 

「随分とおさか…聞かなかった事にして」 

 

「?」

 

 

生んでから直ぐにヤることヤってんだなと浮かべて顔を真っ赤にさせるリーナ。

実際のところは色々とあるのだが、冷静に考えればお盛んな事である。お兄様は意味を気づかない。 

 

「そう言えば、手塚も同じと言っていたが手塚も実戦向けと言う事なのか?」

 

「………まぁ、百聞は一見にしかずだ」 

 

興味の対象を何故か此方に向けるお兄様。

どうしたものかと考えて、一先ずは試してみるかとお兄様の前に立つ。 

 

「待て、入学して早々にこんなことを、それにこんな場所で」 

 

「最初は、グー……最初はぐー…」 

 

腕試しをする為に襲ってくるかと身構えつつ止めるのだがバトルする展開にはならなかった。

光國はじゃんけんをするべく、手を出したがお兄様は反応できなかった。感情が薄いので、ノリが悪かった。

 

「…最初はぐー…」 

 

「タツヤ、やってみれば分かるわよ…結構本気でやってみて」

 

中々に乗らないお兄様を見て、もうやめようかなと考えているとリーナが乗せた。

これにはなにかの意味があるのだろうかとじゃんけんをするお兄様だがパーで負け 

 

「あっち向いて、ほい!」

 

 

あっち向いて、ほいにも負けた。 

 

「最初はぐー」

 

「待て、これは」 

 

「いいから、最後までつきあいなさい」 

 

「じゃんけんぽん!」

 

 

この一連の流れになんの意味があるか分からないお兄様。

答えるよりも見る方が早いと、最後まで付き合ってみるのだが

 

 

 

「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」「じゃんけんぽん!」「あっち向いて、ほい!」

 

 

 

「!?」

 

 

全てにおいてお兄様は負けた。

途中から本気になったのだが、それでも光國に勝つことは出来なかった。

 

「あら、面白そうな事をしているわね」

 

光國に勝つことが出来ない事に驚いていると、横から割って入ってきた女性の一科生。

彼女の名前は七草真由美、十師族の七草家の人間でこの第一高校の生徒会長でもある。

生徒会長で新入生への挨拶があり早目に登校してきたのだが、光國と達也の役割を見て面白いと割って入った。 

 

「貴女は?」 

 

「あら、ごめんなさい。

私は七草真由美、この一校の生徒会長をしているわ」 

 

「七草…十師族ね…」 

 

「貴女は、アンジェリーナ=クドウ=シールズさんね」 

 

「…よく知っているわね」

 

「知っているもなにも…三年前に徳川の埋蔵金を掘り当てたじゃない」

 

「やめて、それを言わないで…結構大変だったのよ…」

 

徳川の埋蔵金を手に入れたリーナは一躍時の人になった。

コブラ、カメ、ワニの爬虫類のコアメダルの存在を隠すべく九島が大々的に発表した。

徳川の埋蔵金だと判明したので報労金を貰ったのだが、猫ババしていた分を差し引いても尋常じゃない程の額で、金目当ての人が近付いたり、呪いの手紙が届いたりと大変だった。

元から深雪とは方向性は違うが容姿の良いリーナは、莫大な金を手に入れたので男に言い寄られたりするのが大変で苛めになりかけた事もあった。 

 

「第一、見つけたのは光國だし…」 

 

「あら、そうなの?」

 

「リーナの方が名前的にも顔的にも絵になりますので、そう言うことに…生徒会の準備をしなくていいんですか?」 

 

「もうこんな時間ね…それじゃあまた…」

 

七草会長は、深雪が向かった方向と同じ方向へと走り出す…のだが 

 

「最初はぐー!じゃんけん、ぽん!」

 

「あっち向いてほーい!」 

 

「…楽しんでね!」

 

「…ふ、オレに勝とうなんて百年早いんだよ」

 

 

 

途中振り向き、光國にあっち向いてほいを挑んだが不様に敗北をした。

ここで普通に勝って魔法科高校を楽しんでねと言い、上には上がいるんだと言うのを分からせる展開だが、光國は普通に勝ってしまった。

 

 

 

「まぁ、十師族と言えどもオレに(あっち向いてほいで)勝てるはずはないか…」

 

 



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腹を探ってるが、そこはホルモン

「どうしたもんかな…」

 

世の中には関わって良い主人公と関わってはいけない主人公がいる。

推理物の主人公とは関わってはいけないと思いがちだがむしろ関わらないと犯人に殺される可能性がある。

まぁ、なにが言いたいかと言えばお兄様なんていう地雷と関わってられるかと入学式では別の席に座り、音を消し、気配を完全に消していた。

 

「…」

 

司波達也二科生御一行と仲良くならず、学校内をぶらつく光國。

部活動紹介等は数日後にあるのだが、それでも活動している部活動はあった。

 

「やっぱりここにいたのね、光國」

 

「リーナ、か…」

 

部活の様子を眺めていると、リーナが司波兄妹+二科生女子を引き連れてやって来た。

何時の間にか仲良くなっている、コミュ力たっけーな、おい!出来れば仲良くして欲しくなかった…と光國は考える。

 

「帰るなら、先に帰っていてくれ。

オレはちょっと見てからいくから…どうせ早く帰っても銭湯開いてないし」

 

「銭湯…銭湯!?」

 

「家は家賃が安くて第一高校が近いが、風呂だけはついていないから銭湯通いだ。

と言うか、大家がその銭湯を経営しているから確実に狙って作っている…年間定期券と言う物があるから確実だろうな」

 

「それ引っ越した方が良いわよ!」

 

「いや…それは出来ない。

仮に風呂がある家に引っ越した場合はなにかの拍子で風呂あがりのリーナと鉢合わせする可能性がある。」

 

「「え!?」」

 

活発そうな二科生の女子とおしとやかなこの時代では珍しい眼鏡娘(巨乳)が固まった。

それを見てリーナはドヤ顔で胸をはって一緒に暮らしている事を言った。

 

「魔法師としての勉強も大事だけど、色々と楽しまないといけないわよ」

 

ワンランク上の女感を醸し出すリーナだが光國は別の方向を振り向いた。

 

「あ、自己紹介がまだだったわね!私は千葉エリカ、エリカって呼んで!」

 

「柴田美月です、美月と呼んでください」

 

「…手塚だ、お前達と同じ1-Eだ。

オレはちょっと見てから帰る…だから、リーナを連れ回してくれ。

高嶺の花過ぎるのか、オレに構ってるせいか、友人らしい友人を作ることが出来なくてな…」

 

活発そうな女子ことエリカと眼鏡娘(巨乳)と自己紹介を済ませるとリーナを任せようとする。

しかし、リーナは光國も同じでしょ!と腕を引っ張るのだが、微動だにしない。

 

「先程からなにを御覧になっているのですか?」

 

「…別に…」

 

なにを見物しているか気になった深雪。

光國に聞いたが、答えてはくれなかったが

 

「深雪、この辺はテニス部が使っている場所だ」

 

お兄様がフォローをした。

 

「そう言えば、エリカ達はなにか部活動をするつもり?」

 

そしてその上にリーナはフォローをした。

余り触れてはいけない部分に触れそうなので、話題を変える。

 

「私?私はテニス部に入るつもりよ!」

 

「…そ、そうなのテニス部にね…」

 

「リーナ、余計な気遣いは無用だ」

 

変えた先に待ち構えていた地雷を踏み抜いたが、特に怒りはしない光國。

 

「あ、手塚もテニス部に入るつもりなの?

男子の方、今年から東京のテニスの名門校にプロ顔負けの奴が入ったらしいから激戦になるわよ」

 

「清純だろう、知っている…行くか」

 

地雷を踏み抜いた末にテニス部の見物をやめる光國。

これ以上、ここにいても無駄だと司波御一行に加わる。

 

「オレが居ないと両手に花どころの騒ぎじゃないな。

同性の友人ではなくいきなり異性の友人を作るとは…お前の兄はプレイボーイなのか?」

 

「少し、黙ってください」

 

そして妹を煽った。

春風が涼しいどころか寒く若干だが霜が出来た。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

魔法科高校に入学して二日目。

二科生である光國は一科生であるリーナと登校してきたのだが、何故こんな奴と一緒にと言う視線を向けられている。

 

「スクールカーストは何処にでもあるけれど、ここまで堂々としているといっそ清々しいわね」

 

「…成果主義の学校だからな」

 

「光國がもっと堂々としてれば変わったかもしれないわよ?」

 

「…」

 

普段は青学の柱(眼鏡なし)で老け顔のおっさん扱いをされる彼は余り目立ちたくないので二重のマスクに伊達眼鏡をつけており、近付けにくい雰囲気を醸し出している。

隣にいるリーナとの組み合わせは二科生から見れば、八方美人が陰キャの面倒を見ている状態である。

 

「オレ、証明写真を取る際に年齢確認をされたんだが」

 

「ップ…お、大人びているって証拠よ!」

 

「お前、毎年オレが審査に引っ掛かってるのを忘れたとは言わせんぞ」

 

リーナの実家に向かう度に引っ掛かる入国審査。

必死になって笑いを抑えているリーナを見て、少しだけ怒るが直ぐにその怒りは消える。

校舎に入り、リーナと分かれて教室へと向かった光國は直ぐに寝たふりをする。寝たふりをした直後にエリカ達の声を聞いたのでセーフと安心して寝たふりをする。

 

「(…どーっすっかなぁ…)」

 

魔法科高校の劣等生、記念すべき第一話と言うか記念すべき第一編。

初の流石ですお兄様はなんと学校にテロリストがやって来ると言うクソみたいな展開。

魔法師全体が化物扱いされるのはどうだって良い、魔法師の顔とも言える連中が傲慢な奴等が多かったりするので自業自得な部分が結構多い。

入学して早々にテロリストに襲われる学校ってどうよ?と真剣に考える。

自分が嘗て魔法師じゃなくてよかったと思えるのは、入学して早々にテロリストがやって来るのが一番の要因だろう。

 

「起きろ、手塚」

 

「なんだ、達也…と、西城だったか?」

 

あれこれ考えていると達也に起こされる光國。

達也を見ると隣に、会話をしたことのない男子生徒が居たが名前を知っているので呼んだ。

 

「お、知ってるのか?」

 

「細かなのは無理でも顔と名前は調べれるからな…流石に覚えておかないと失礼だろう」

 

「いや、普通はそこまでしねえよ。

っと、自己紹介がまだだったな!俺は西城レオンハルト、レオで良いぜ!」

 

「手塚だ…飴ちゃんを舐めるか?」

 

「お、サンキュー!」

 

ポケットから取り出した飴を舐めるレオ。

原作キャラと特に歪な関係にはならず、普通に仲良くできるなと安心して寝たふりをしようとする光國だが達也が止めた。

 

「飴を持ち歩いているのか?」

 

「油断すると体重維持が出来なくなるからな…キャラメルもある、甘い物は大事だぞ」

 

「体重維持か…」

 

飴がポケットに入っている理由を聞き、キャラメルを貰う達也。

嘗て世界最強と言われていた魔法師、九島烈の遠縁だが九島と言う十師族の血を継いでいるアンジェリーナ=クドウ=シールズ。

魔法師としてのセンスは勿論のこと妹の深雪と同等とは言わないが群を抜いている美しさを持ち、一科生、二科生と言った差別的な考えをしない人格者と言える魔法師だ。

そんな彼女と共にいる手塚光國とは何者なのか?達也とは方向性は違えども、一部の生徒もそれが気になっていた。

自分と深雪の会話を少しだけ聞いて、自分が実戦向きだと言われ、自分と同じタイプだとリーナは言っていた。更にはより実力がわかる試験方法を考えていた。

マスクや眼鏡で顔を隠しているが、名前と素顔の写真は学校の端末を使えば簡単に手に入り、素顔はどう見ても高校生には見えない、25歳のサラリーマンと言っても違和感がない顔である。むしろ高校生の方がおかしい。

なにか裏があると思った達也はレオとの自己紹介を出しにして、聞き出そうとするといきなり引っ掛かった。

油断すると痩せる、体重維持、更には飴の事を飴ちゃんと言った。

本人は気付いているかどうかは不明だが、そんな事は普通の人は言わない。

油断すると痩せる程の動きをしている人だと、飴ちゃんなんて普通の人は言わない、潜入捜査でやって来た九島のスパイかと考察する。

初対面のレオの名字と顔を知っているのも、それだと違和感がない。

 

「!?」

 

「因みにそれはジンギスカンキャラメルだ」

 

「うげっ、それってアレだろ…北海道で一番クソ不味い食べ物って言われる」

 

レオも食べたので自分も食べておかないと怪しまれるなとキャラメルを口にする達也。

その瞬間、今までに食べたことのない味がして口の中が不愉快になってしまった。

 

「百味ビーンズを一人で全て食べきった後に食べれば…まぁ、不味いが、こう言うのも馴れておかないと…何時いかなる時にとんでもないものを食わされるか分かったもんじゃない…後、こう言うのってたまにチャレンジしたくなる…+クソジジイへの嫌がらせ」

 

三年前に見たイギリス料理は今でも鮮烈だった。

 

「クソジジイ?」

 

「九島のクソジジイ」

 

「!?」

 

光國の口からでたとんでも発言に驚く達也。

日本のそれなりの魔法師ならば絶対に敬意を払う存在である九島烈との関係は愚かクソジジイ呼ばわり。祖父と孫の関係でもそんな事を言う魔法師はいないだろう。

 

「オレみたいなのがリーナと一緒に居るのが謎で気になってるんだろ?

…仲のよさはともかく、お前と深雪は兄妹だから一緒に居ても極普通だか、オレとリーナは全く違うからな。オレとお前は似た感じの様に見えるが、全然違うからな」

 

「…ああ、悪いな。少しだけ気になっていたんだ」

 

九島烈をクソジジイ扱いした際に表情を変えてしまい調べに来ている事が見抜かれたが、方向性が違っていたと内心ホッとする達也だが、調べに来ている事を光國は気付いている。

 

「まぁ、色々とあった…オレは説明するのがはずか…面倒だからリーナに聞いてくれ。」

 

「…ああ…」

 

はぐらかされたと感じるが、寝たふりをした光國を起こしてしまうのもどうかと思った達也はそれ以上は聞かなかった。

詳しいことはリーナに聞けばもしかすると教えてくれるかもしれないと言う希望に託そうとする。

 

「あ、そろそろ時間だ」

 

「え、マジ?」

 

もう終わろうとしたその矢先飴を舐め終えたレオが、授業開始だと気付き席に戻ると光國は起きた。なんとも締まらないはじまりだった。



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ピンチの時は110番!

魔法科高校生としての初日は授業らしい授業はなくオリエンテーションで魔法科高校でどんな事を学ぶのかと二、三年の授業を達也達とは時々被る様に見て回った。

 

「もう昼か…」

 

朝は勉強系の見学で、昼以降は実技演習の見学となっており時刻は既にお昼時。

 

「お~い手塚、一緒に飯を食おうぜ!」

 

別の所を見学していた二科生御一行-1がやって来てレオが光國を食事へと誘った。

別の所にいたのにわざわざ誘って来てくれた事は嬉しい光國だが、それと同時に申し訳無い気持ちに溢れる。

 

「悪いな、オレは弁当だ。学食は食べない」

 

「弁当って…や~るぅ!」

 

弁当を持ってきている意味に気付くと囃し立てるエリカ。

一緒に暮らしていて、弁当を持っていると言うことは愛妻弁当だとニヤニヤと笑う。

 

「素敵ですね!」

 

美月も意味を理解したので微笑む。

リーナの事を知らないレオと、どういう意味か分からない達也は頭に?を浮かべる。

 

「いや、リーナが色々と煮物を要求するからそれなりに手間がかかる。

春だから春らしくしてねって結構な無茶ぶりを…混ぜご飯に筑前煮とか筍の煮物、それなりに手間がかかる…まぁ、美味いと笑ってくれるのが唯一の救いだ」

 

「え、手塚さんが作っているんですか?」

 

「ああ…別に驚くことでもないだろう。

と言うよりはお前達、ここで無駄話をしても良いのか?学食は確実に混んでいる、一科生がなにか面倒な事を言ってくる前に早く食べておいた方が良いぞ」

 

「それもそうだな…じゃ、また後でな!」

 

「ああ…達也!」

 

「なんだ?」

 

一科生と言う言葉はかなり効く言葉で、光國と会話をやめて食堂へと向かおうとするレオ達。

塩だろうが売れるものは売っておこうと光國は達也を足止めする。

 

「達也は明日から弁当の方が良いと思うぞ…」

 

「?」

 

この先に起きる事を知っているので、一応言っておいた。

どういう意味だと食堂へと向かった達也はその意味を直ぐに理解をした。

深雪が会いに来てくれたが、深雪に勝手について来た一科生の男子に席を譲れと言われた。

二科生は補欠、だから一科生に譲るのは当然と言う滅茶苦茶な理由をつけてだ。

幸いにも深雪と会い来た時には全員食事を終えており、大きな騒ぎにはならず達也達が引くことにより事が納まった。

 

「ミユキ達、大丈夫かしら…一応、明日から弁当にした方が良いって勧めておいたけど」

 

「心配するのはむしろ深雪達よりも、ついてきている奴等だ…」

 

「あんなのどうだっていいわよ…あ、シャキシャキしてる」

 

遅れてやって来たリーナと共に、教室で弁当を食べる。

殆どの生徒が昼は学食にするつもりだったので、弁当を作ってもらっているリーナには人は余り来ず、自然と深雪の方へと人が流れていった。

 

「いや、まだ始まったばかりだぞ。

深雪も弁当にしようとすれば、自然と他の奴等も弁当になる可能性が…」

 

「無いわよ…料理人(シェフ)やメイド以外で料理をしている人は中々に居ないわ」

 

「…そんなもんか?」

 

「そんなもんよ…光國って、その辺は鈍感よね」

 

「下には下が居るんだ、覚えておけ」

 

果たしてそれは威張って言うことなのか?

そんな疑問がリーナにはあったが、この美味い唐揚げは下だからこそ出来たものだと聞かないでおく。

 

「ああ、もうムカつくわね!」

 

「あ、お帰り」

 

一科生の自分を見てくる目に対する愚痴を聞きつつ、食事をしていると戻ってきた司波御一行。

一科生の態度を思い出したエリカが力を込めてドアを開いた。

 

「弁当にした方がよかっただろう?」

 

なんとも言えない顔の達也に声をかける光國。

 

「ああ、家に帰ってからその事を話してみる…」

 

どういう意味か理解できた達也は少しだけ感謝する。

 

「あ、大丈夫よ。

私がミユキに手作り弁当の方が良いって勧めておいたわ」

 

「助かる…こうなることが分かっていたのか?」

 

「…リーナは高嶺の花で、モテたからな」

 

「光國がそんな格好をしているのが悪いわ、罰として卵焼きを寄越しなさい!」

 

「はいはい、ついでに唐揚げもどうぞ」

 

「光國、愛してるぅ!」

 

割と現金なリーナ。

とりあえず、達也以外は目の前でイチャつくんじゃねえと額に怒りマークを浮かべていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

昼食を終えて、今度は実技演習を見物する一年生。

七草真由美と言うこの上ない面倒な存在とは関わりたくない光國は、彼女が居る射撃場にだけはいかない様にしており、自然と達也達と離れた。しかしそれはミスだったなと少しだけ後悔をしている。

リーナと深雪は直ぐに打ち解ける事が出来ており、一緒に授業を見て回っていてリーナを待っていると嫌でも司波御一行と関わってしまう。

現に、今も校門前で達也達は深雪を、自分はリーナが来るのを待っている。

 

「今日は見ていかないのね」

 

今日もテニス部の活動はあるのだがいかない光國。

 

「まぁ、何時までもしがみつくのもな…」

 

「?」

 

光國の言っていることが分からないエリカ。

どういう意味だろうと考えていると、リーナと深雪が先頭の一科生の集団が此方に向かってやって来る。

 

「あ、全員居るわ!」

 

「あの馬鹿…」

 

堂々と自分達に向かって手を振ったリーナ。

深雪も達也を見て、微笑むのだが後ろにいる一科生達は余り良い顔をしない

 

「達也…一度、走って深雪とリーナに追いかけて貰うと言うのは?」

 

「ダメだ」

 

「はぁ…一番の有効な手だと思うが」

 

「一度しか使えない一番有効な手だ、ここぞと言う時の手を二日目で使うわけにはいかない」

 

昼の事を考慮して、揉める前に逃げることを達也に提案。

しかしそんなことは出来ないと達也に却下されてしまい、深雪とリーナは近付いてくる。

 

「さ、帰りましょ」

 

「…ああ」

 

あ~これ揉めんなと諦める光國。

案の定、深雪とリーナは一科生である自分達と帰るんだとか言い始め

 

「いい加減にしてください、深雪さんはお兄さんと!リーナは手塚さんと帰ると言っているでしょう!!」

 

二科生の中で一番物静かな美月がキレた。

一番キレなさそうなのがキレた。

 

「なんで私だけ呼び捨てなのかしら?」

 

そしてリーナは自分だけ呼び捨てなことを気にする。

 

「なんの権利があって二人の仲を引き裂くんです!」

 

「引き裂くって、美月ったらそんな…」

 

「ねぇ、タツヤ」

 

「なんだ?」

 

美月の言葉で妄想に走った深雪を見て、こりゃダメだと思ったリーナは動いた。

 

「タツヤとミユキは兄妹なんでしょ?」

 

「…それがどうかしたか?」

 

「いや、兄妹なら住んでるところは一緒なんだから帰り道が一緒になったりするのは当たり前でしょ」

 

そう、本当に当たり前だ。

実際、深雪と達也はデカすぎる一つ屋根の下で暮らしている。

その事を確認するとそれもそうだなと言う顔をして一科生を見る達也。

それを理由に上手く言いくるめようと試みるが先手を打たれる。

 

「家でも会話を出来るなら、下校時ぐらいは譲れ。

補欠の二科生(ウィード)なんだから、どうせ家に帰っても特に会話をすることなんて無いだろう?それと、アンジェリーナさんはそいつと帰る方向は違うだろ、身のほどを弁えたまえ」

 

「…オレかて好きでこないなところおらんねんぞ…」

 

モブ顔の男の言葉に呟く光國。

達也はその呟きを一つ残らず聞き取っており、更に光國に対して疑心を持つ。

 

「っ、あんたが光國のなにを知っているって言うの!」

 

「リーナ、落ち着け…問題起こしたら主にオレが怒られる…もう無視するんが一番や」

 

「光國、口調、口調!」

 

何処かで似たような光景だなと深雪と達也は感じる。

 

「同じ新入生じゃないですか。

あなたたち一科生(ブルーム)が、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか!?」

 

怒りが納まらない美月は一科生に対してそう言うと手首に触れたり、懐に手を入れる一科生達。

 

一科生(ブルーム)二科生(ウィード)を同列に語るな!!力の違いを教えてやる!」

 

モブ顔の男は叫んで拳銃型のCADを取り出して、美月達に向ける。

美月の言葉が気にくわないようで、実力行使に出る。

魔法が発動する前に出てくる演出が起こり、美月はその魔法を自分に向けられる事に気付き身構えてしまうが

 

「この間合いなら二科生の私の方が早いわよ、一科生さん」

 

エリカが間合いを一瞬にして詰めて、警棒型のCADで拳銃型のCADを弾いて魔法を強制的に止めた。

 

「千葉、それ以上はやるな」

 

ニヤリと挑発的な笑みを浮かべるエリカだが、それ以上は本当にまずい。

と言うかエリカはギリギリセーフな所に今いる、まだ魔法を使わず体術で物理的に弾き落としただけだ。

 

「今のは犯罪だが、見逃してや」

 

「ブルームがウィードに劣るなどありえるかぁあああああ!」

 

「そっちがやるなら、こっちもやってやるぜ!!」

 

拳銃型のCADを向けた男に、退散しろと勧めようとしたのだがエリカとモブ男のやり取りを切っ掛けに魔法を発動しようとする一科生達。

 

「…無理だな」

 

レオやエリカは戦うならとことんやると構えたり腕を鳴らしたりするのを見て、色々とふっ切れた光國。

これ以上はやってられるかとこっそりと逃げようとするのだが

 

「光國、昔みたいにやっちゃって」

 

「なんで、お前が持ってんねん…」

 

リーナがラケットとテニスボールを見せる。

昔、リーナを助けたようにボールをぶつけて一科生を倒せと言う意味だろう。

だが、光國はそんな事をするつもりはない。テニスは人を傷付ける道具では無いのだ。あの時は仕方なくやっただけで、テニスは人を傷付ける道具では無い。大事なので二度言う

 

「えっと…魔法科高校の住所って…あぁ、まぁ、言えば分かるか、有名だし」

 

「?」

 

リーナから道具を受け取らず、携帯を取り出した光國。

 

「全員、そこを動かないで!」

 

「お前達、魔法による対人攻撃は、校則違反以前に犯罪だ!」

 

「んなもんはわかっとる!

だから、今こうしてポリに通報しようとしてるやろ!」

 

それより少し遅れて七草真由美が、一高の風紀委員長の渡辺摩利がやって来たがもう遅い。

光國は110を入れていた。

 

「待ちなさい、なに勝手なことを」

 

「いやいやいや、この状況やったら逃げるか通報が正しいやろ?なに言うとんの自分?

あ、ちょ、繋がったから、黙ってて…えっと、一高の住所って…言ったら一発で分かるか」

 

普通ならばここからバトルして勝つか、それなりの力を持った第三者が介入して中断するのがお約束だろう。

しかし、この馬鹿はそんなの関係無しだと普通に警察に通報をした。

言えることはこの場合、警察に通報をしようとすることは間違いではない。

魔法科高校ではなく普通科の高校に置き換えて見れば、さっきまでの状況は剣道部が使っている竹刀や野球部で使っている金属製のバットで殴打しようとしているのと同じことだ。

幸いにも目に見える明確な被害らしい被害は出ておらず、生徒会長と風紀委員長の登場により、全員が魔法を発動するのをやめたのだが、事件が起こった事実は変わりない。

 

「あ、ポリでお願いしま」

 

「っ、貸せ!」

 

「…はぁ」

 

 

世間は魔法師に厳しすぎる。

自業自得な部分もあるにはあるのだがもしここで警察に通報をされれば、どうなるか。

入学して早々に第一高校で事件が起きたと世間に知られ、他の魔法科高校を各メディアが冷たい目を向けるのは勿論のこと、魔法科高校を都心ではなく何処かの孤島に移せと、隔離しろと言われるかもしれない。

摩利は携帯を奪い取ろうとしたのだが、光國に巧みに避けられ、携帯をポケットにしまわれる。

 

 

「そのまま通報してくださいじゃなくて、貸せか…あ~もう嫌だ。

…ふぅ…今の状況を普通科の高校に変えれば、暴力問題が起きているのと同じことだ、通報することの何処に間違いがある?」

 

一度冷静になり気持ちを切り替え、摩利と真由美に通報してはいけない理由を聞くのだが答えれない。なにを答えても、問題を誤魔化そうとする教師や政治家と一緒なのだから。

 

「手塚、お前の言っていることは最もだ。

だが、結果的には魔法を発動したものは誰もおらず怪我人も0だ。問題をそこまで大きくする必要は無いはず、お前としても、問題を大きくはしたくないだろ?」

 

「結果的にはと言うが、あのモブ顔の男はCADを向けて魔法を発動しようとした。

オレは余りCADに詳しくはないが、拳銃(チャカ)のCADは色々な魔法が出来る万能性が売りじゃなくて、一つの魔法の威力を特化させるのが売りで高度な魔法を入れてるのが定番らしい。まぁ、その辺は調べたらわかるとして…達也、怪我人は0だが、その次に殺人未遂の罪もしくは容疑をつけろ。」

 

「っ!」

 

答えない二人に対して達也が代弁するも既に事件は起きている。罪も犯してしまっている。

 

「リーナと深雪とそこの小柄な女を除いた一科生が容疑者…いや、この場合は加害者…どっちだ?…とにかく現行犯は拳銃型のCADを使おうとして一番最初に抜いたお前と、そこにいる小柄の隣にいるお前だ。」

 

一科生の中にいる凹凸が激しい小さな二人組の凸体型の女の子を指差す。

彼女はモブ顔の男の次に魔法を使おうとした一科生だ。

 

「わ、私はそんな」

 

「ちょ、ちょっと待て!

そこにいる奴はどうなの、森崎に向かって攻撃をしたわ!」

 

「あれは正当防衛だ。

急に間合いを詰めたから魔法に思いがちだが、ああいう動きがあるんだ。

なんなら見せてやろうか?オレも似たような事は出来るし、この状況だ、千葉も見せられませんとは言わないというか、言えないだろう」

 

女の子が弁明しようとするが、それよりもエリカの方はどうなんだと聞き弁明出来なかった…が

 

「それと仮に騒動を納めようとして使った最初の一発で出来なかったら、もう一度って威力の高い魔法を使ってしまうかもしれない…魔法を使った時点でアウトだ」

 

弁明をするまえに無駄にする。

凸体型の女の子は閃光魔法を使って、皆を落ち着かせようとしたのだが使った時点でアウトだった。

 

「…と言うことで、一番の被害者である柴田、被害届を書いて出してくれ。

監視カメラはあるかもしれないが、やっぱこういうのは被害者の口と被害届が一番だしこのままだと誤魔化されるからな…お前の青春は終わりだ、森崎」

 

「…そん、な…」

 

足をガクガクと震わせて、汗を流すモブもとい森崎。

彼は魔法師としてはそれなりの名家の人間で、ボディーガードの仕事をしており、魔法師であることを誇りに思っている。特別だと思い上がっている。

今年入った男子の中では上から数えて直ぐに位置する成績で、その成績に見合う実力を持っているが、彼はもう終わりだ。

 

「…森崎くん…」

 

キランと眼鏡を光らせる美月。

森崎の呼吸は大きく乱れる、自分の感情に任せた行為で警察に捕まるのだけではなく、その事が大々的にメディアで取り上げられれば、自分の家はおしまいだと捕まった後の事を考えてしまい、呼吸が出来なくなっていく。

 

「…謝ってください」

 

「…え、あ…」

 

「もう一度言います、謝ってください。」

 

「…すま、ない…」

 

「私にだけじゃないです。

ここにいる二科生の皆に謝ってください、昼食とここでの件を…私はそれ以上はなにも言いません。」

 

「森崎にだけ、謝らせるん?」

 

「手塚さんも、皆もそれでいいかな?」

 

エリカ達の方を見る美月。

謝るのならば許すの意味合いを込めた頷きをしたので全員から了承が取れた。

 

「あ、土下座が絶対な。」

 

手塚は若干違っていたが、それでも取れた。

 

「七草会長、森崎の謝罪で終わりにして強制解散で良いですか?

今回の件をこれ以上掘り下げた場合、森崎網走刑務所生活記か森崎・プリズン・ブレイクが始まる道がうまれます。そして一高の公式サイトが炎上します。あ、そちらの女子は軽く説教してください、使ったこと自体は言い逃れの出来ない事実ですので」

 

「え、ちょ」

 

「待て、彼女が放とうとしたのは軽い閃光魔法だ。

目眩ましになるレベルで人体に影響を及ぼすレベルの威力ではない」

 

「タツヤ、なんの魔法を発動しようとしたのか分かるの!?」

 

「俺は観察が得意なんだ…俺は実戦向きだと見抜いたんじゃないのか?」

 

本当は違うのだが、取り敢えずは誤魔化し凸体型の女の子をフォローする達也。

ありがとうと涙目の彼女は言いたそうなのだが、森崎の方が先である。

 

「まぁ、とにかく謝れ…オレは土下座必須だから、土下座な」

 

「…もうしわけ…ありませんでした…」

 

土下座で謝る森崎だが、両手が握り拳だ。

 

「誠意がこもってないが…もう面倒だから帰るか。

七草会長、帰ってもよろしいですか?最後にオレ達に言うことなどはありませんか?」

 

「…CADを、魔法を人には向けてはいけません。」

 

「ありがとうございます…はい、かぃさん!!」

 

ここで止めれば、森崎を警察につきだすと脅されて止めることの出来ない真由美。

摩利も同様に止めずに帰る新入生達を見守る。

 

「真由美、あの男は…」

 

そして騒動の中心人物が帰ったあと、摩利は真由美に聞く。

手塚については聞いていることは言うまでもない

 

「手塚光國くん、入試二位のアンジェリーナさんと一緒に居る二科生の子で、アンジェリーナさんが言うには徳川の埋蔵金を発見したのは彼らしいわ」

 

「なに、アレは九島が見つけたものじゃないのか!?」

 

「アンジェリーナさんの方が見栄えするから、そうなったみたい」

 

「可哀想に…それで、他には?」

 

「他は…あっち向いてほいが物凄く強かったわ」

 

「…真由美?」

 

「だ、だってしょうがないじゃない!

達也くんや深雪さんの方が目立っていたし、手塚くん自体そこまでなのよ。

今年の新入生は森崎くんみたいにそれなりの家の子が多くて、手塚くんは魔法関係は全て平均、例年なら一科生だけど、今年は新入生に優秀な子が多くて更に筆記は一科生となんら変わらない二科生がそれなりにいるし…どうしてアンジェリーナさんと居るのかしら?」

 

光國が二科生の理由を語ると、彼女もリーナと一緒に居る理由が気になった。

 

「明日、聞いてみましょう!」



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絶対防御ラインと書いて女子トイレと読む

「…ふぁ~あ…寝てるわね…」

 

魔法科第一高校三日目の朝、リーナは目覚ましを止めて体を起こすと隣に光國が寝ていた。

一緒に寝ているから隣に居るのは当たり前のことなのだが、朝は朝食を作ったりランニングをしたりと居ないのが大抵だが、今日は珍しく寝ていた。

 

「流石に昨日は疲れたし、当然ね…どうなるのかしら…」

 

魔法科高校が成果主義だと言うのを知っており、一科生と二科生が差別されてると思う程の授業の差があったりするのも知っていた。

その中で差別的な態度をとったりする者も出てくるのは当然とは思っていたが、あそこまで堂々として、魔法をぶっぱなそうとするとは思っていなかった。

昨日の出来事を思い出して、因縁をつけられるんじゃないかと、更に大きな事件に発展するんじゃないかと心配をする。

 

「なにか、なにか無いかしら…決め手がかけるから、まだ…」

 

光國が日本に帰国した際に九島烈に頼んで追い掛けるようにやって来たリーナ。

実はUSNAの軍人をやめておらず、日本の魔法師の細かな調査とデメリットの無い人工魔法師製造法の入手、原型(アーキタイプ)である手塚光國へのハニートラップを名目に日本におり、光國を連れて実家に帰省した時には何時も軍に寄っており、私より強いと思う奴はかかってきなさい!と他の軍人を挑発して全戦全勝し、それなりどころか物凄い地位を持っている。

物凄い地位を持っているリーナの目標は一つ、九島からどうにかして光國を奪い幸せになることだ。

どうにかして大きな、九島どころか十師族も黙らせる事ができる手柄を上げなければならないが、特にこれといった事が無い。平和とは軍人にとって一番の迷惑なものだった。

 

「…あ、やば!」

 

目覚ましが止まってから数分がたち、自力で目覚めた光國。

時計を確認すると、寝過ぎてしまったと慌てて体を起こして、コンロのグリルに鮭とたらこを入れた後に洗面台に向かう

 

「すまん、寝過ごした。」

 

「学生にとっては普通だし、学校が近いから別に問題ないわよ」

 

なんならもっと寝ていても大丈夫である。

光國は洗顔を終えると、馴れた手付きで弁当と朝食を用意する。

その間にカーテンをして着替えるリーナは、眠そうな顔で大きなあくびをする。

 

「光國、髪」

 

「ええ加減自分で出来るようにならんとあかんってこの前、言ったばっかやないか」

 

「だって、光國の方が早いじゃない…ダメ?」

 

「……わーったわ」

 

凄い間があったが、ツインテールにしてくれる光國。

アレが食べたいと言えば食べたいものを作ってくれるし、髪の毛を整えてくれる。

本当は自分が光國を甘やかさないといけないのだが、光國は助けてとは滅多には言わない。

やる時はとことんやるが、やらないときは全くやらないのが彼の流儀らしく、諦める時はスパッと諦めるが、諦めないときは粘り強い。もっと甘えてほしいのが本音だ。後、女子力が欲しい。

 

「…ヤバいな、学校いきたくなくなってきた…」

 

制服を手に取った光國はジッと見た後に、目頭を抑える。

昨日の出来事を思い出しているのだが、それに加えて今後の事を考える。

 

「なんかやってっかな…」

 

やけくそで第一高校を選んだ事は後悔しないが、今後の事を考えると何れは胃潰瘍になるかもしれない、と言うか、原作云々の問題じゃない。

原作でも一科生、二科生問題は有耶無耶に近い形で終わっている。

お兄様Tueeeeすることにより問答無用で黙らせているが、それはお兄様が居る間のみ発揮する効果で、お兄様知らない世代には通用しない可能性がある。

一つだけどうにかする方法があるにはあるのだが、それは余りにも無謀であり人付き合いの苦手な光國には出来ないことだ。

学校に行くのが嫌になる光國は気分を変えるべく、テレビをつけるのだが

 

『「入学おめでとう、リーナ、光國くん」』

 

「キモいからチャンネル変えるか」

 

九島烈が映っていたので、適当にリモコンを操作する光國

 

『「17歳以下が集う世界大会、U-17が日本で」』

 

『「チャンネルを変えないでくれ」』

 

「朝っぱらから会いたないわ…なんの様やねん、クソジジイ」

 

適当に操作するも、クソジジイが画面から消えない。

最終的にはワイプに納まったのだが、余り見たくない。朝のニュースが一切入ってこない。

 

『「普通に君達への入学祝いだ」』

 

「よし、金寄越せ」

 

『「君はすぐにそれだね」』

 

「当たり前やろ、世の中は基本的に金やで?」

 

金にがめついのではなく、金の価値を知っているから言える一言である。

九島烈は自身に対する態度だけは一向に変わらない事を呆れるが、これはこれでありなのと真面目にすれば場の空気を読むことは出来るのでなにも言わない。

 

『「改めて、祝わせてもらおう。入学、おめでとう、リーナ」』

 

「ありがとうございます、閣下。」

 

『「それにしても…美人の家庭教師をつけても二科生か…二科生か…」』

 

魔法科高校の入試方法では、確かな成績を測れないのを知っている。

光國も成績を測れない魔法師に部類されるのだが、それでも二科生はと顔を渋る。

筆記をもう少し頑張っていれば一科生だったのだ。

 

「二科生の方がむしろエエわ。

と言うか一科生、二科生以前の問題があるんやけども、その辺の問題は耳にしとるん?」

 

『「シャカに説法と言うのを知っているかい?」』

 

知ってはいるが、無駄なこと。

九島烈は確かな観察眼を持っており、名前で贔屓目に見たりは早々に無い。正当な評価をくだしてくれる…が、あくまでもそれは九島烈の話だ。

正当な評価をくだしてくれる人格者はいるにはいるのだが、そう言うのに限って上の地位に居るために底辺と触れあう機会が無かったりする。

結局のところは選挙演説や国会で会議してる偉い人が言うように国民一人一人が頑張って意識改革しないとダメなやつである。

 

『「ある意味、一科生と二科生に分かれた事はよかったのかもしれない。

豊かな人生経験は、人を大きく成長させる…善か悪かはともかくだ。期待しているよ」』

 

『「日本代表の主将は、まだ開かせないとのことです」』

 

ワイプが無くなると、ニュースの音声が流れるが耳に入らないリーナ。

最後に九島烈が言っていた事が頭から離れない。

 

「どうしろって言うのよ…」

 

「リーナは九校戦で成績を叩き出せばええやろうに…はぁ…」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…」

 

「おはようございます、手塚さん、リーナ」

 

何事もなかったかの様にはじまる魔法科高校の朝。

光國はいい意味でも悪い意味でも目立ってしまい、近寄りがたいオーラを出していた。

リーナは特にそんなのを気にしておらず、一緒に歩いていると司波御一行と出会い深雪が挨拶をする。

 

「ああ、おはよう…」

 

「おはよう、ミユキ…」

 

挨拶を返した光國だが、凄くめんどそうだった。

昨日、あんな事が起きたのにフランクに話し掛けてくる深雪達。嬉しいが気まずい。

ペコリと一礼をしてから歩く速度を上げていく光國とリーナ、司波御一行は昨日あんなことあったしこのままじゃダメだとは思うが、今これ以上声をかけるのはどうかと思い声はかけない。

 

「光國く~ん、達也く~ん」

 

七草真由美を除いてだ。

爽やかな笑みで手を振り、光國と達也を呼んでおりエリカ達二科生が固まった…のだが

 

「え、ちょっと待って!」

 

光國は普通に無視をした、リーナも七草には関わりたくないと無視をする。

もうめんどくさいわ!と二手に分かれる、と言うか教室の方向が違うので分かれないといけない。

 

「話を、聞いて!

じゃなくて、生徒会、室でのランチ、を!」

 

真由美はリーナの方にいかず光國を追い掛けるのだが全くといって追いつけない。

 

「ちょ、滅茶苦茶早いわよ!」

 

「魔法、じゃないな!昨日、あんな事を言ってたし、陸上選手かよ!?」

 

「…」

 

「マ、マッテクダサイ…うっ…」

 

教室を既に通りすぎているのだが、それでも逃げる光國と追い掛ける真由美。

司波御一行の中で唯一一科生の深雪は単独でリーナを追い掛ける、二科生一行は光國達を追い掛けるのだが、追いつけない。

運動神経抜群でもなく鍛えていない美月は教室前で止まったが、普段から体を鍛えているレオ、エリカ、達也は光國を追い掛ける真由美との距離を徐々に徐々に縮めるが光國との距離は開いていた。

 

「実戦向けと言っていたが、成る程、確かにそうだな…」

 

既に教室を通りすぎているのと、光國は最終的に教室に帰らないといけないことが分からない達也ではない。

しかしリーナが光國も実戦向けと言っており、全力で逃げたのを見てこれはちょうどいいと追い掛けるのだがリーナが言うだけの事はあった。

達也達は魔法は使わずに本気で走っているのだが追いつかない。勿論、真由美もだ。

 

「階段二段どころか三段飛ばしに降りはジャンプって、達也くん、レオ、ごめん!」

 

ただ走るだけでなく上の階や下の階に移動して逃げるのだが、エリカが最初に根を上げた。

ただ早いだけでなく、強靭な足腰も持っているのがよく分かる。

 

「山岳部志望でよかったっぜ…」

 

足の早さや瞬発力ではエリカの方が上だったが、登り降りを繰り返した場合はレオが上だった。

二科生の中には自身の様に判定しにくい実力者が居ると思ったがレオとエリカはそれに部類されていた。

 

「このコーナーを曲がれば行き止まりよ!」

 

何故か興奮気味の真由美。

光國を追い詰めることが出来たと荒い鼻息をして、曲がり角を曲がる。

 

「光國くん、捕まえたわよって、待って!?」

 

「うぉっ!!」

 

「レオ!」

 

曲がり角を曲がった先は行き止まりで追い詰めたと思った矢先、真由美の横を走り抜いた。

行き止まりだから速度が落ちてきたと思った矢先、180度のターンをして先程までと同じ速度で走る。

真由美と達也も同じようにターンをして、追い掛けるのだがレオが足を挫いてしまう。

 

「達也、オレに構わずいけ!!」

 

「…ああ!!」

 

確実に今言う台詞じゃないのだが、光國が気になり追い掛ける達也。

徐々に徐々に生徒が増える中、光國は特に迷惑もかけず人と人の隙間を通り抜けていく。

 

「甘いわよ、人混みに隠れたとしても私にはマルチスコープがあるわ!」

 

「あ、七草会長に達也さん!おはようございます!」

 

人混みを抜けていく最善のルートを選び、最高速度を保ちつつ誰にもぶつからずに走り抜ける光國。昨日、閃光魔法を放とうとした凸体型の女の子こと光井ほのかは光國の存在を気付かない。

 

「ここね!上手く隠れたようだけど、お見通しよ!」

 

「…ここは…」

 

三年生の教室付近のトイレに駆け込んだのを視ていた真由美は笑みを浮かべる。

仮に追いかけていたのが摩利ならば見抜けなかったが、彼女は見抜いていた。光國がトイレの個室に隠れたのを。

 

「ふっふふふ…よくも逃げたわね…」

 

「待ってください、七草会長!」

 

「待たない!あそこまで露骨に逃げたのなら、とことん追い詰めないと七草の名に恥じるわ!」

 

果たして七草の名を背負って言うことなのかは誰にも分からないが、一歩、また一歩と光國が入っている二番目のトイレに足を運んでいくのだが

 

「ぬぅああ!?」

 

真由美は顔をトマトの様に真っ赤にさせ

 

「なんだ、先程から騒々し…」

 

「ふ~スッキリした…」

 

一つ目のトイレに入っていた部活動会頭の十文字克人がドアを開け、デコをぶつけてしまう。

それと同時に二つ目のトイレの水が流れる音が聞こえ、光國が出てくる。

 

「七草…なぜ、ここにいる!?」

 

「…ひくわ~、めっちゃ、ひくわ~…いや、ホンマにひくわ」

 

ゴリもとい克人は七草がここにいる事に驚く。

そりゃそうだ、ここはトイレはトイレで男子トイレの中なのだから。

光國は七草がここにいる事に驚く克人に気付かれぬ様にゆっくりと男子トイレを出る。

 

「風紀委員だ!先程から、誰かが走り回っていると…真由美…」

 

そして騒動を聞きつけた風紀委員長こと摩利がやって来たのだが、色々とベストだった。

おでこを真っ赤にして、天を仰ぐかの様に見ている真由美を見てしまった。直ぐ側には克人がいる。

 

「生徒会長が男子トイレか。

やっぱアレか、漏らしそうやったから使えるところを走り回ったけど無くて、仕方無く男子トイレを…あ、チャイムだ、達也、戻んで…じゃなくて、戻るぞ」

 

「七草会長が顔を真っ赤にしたが、なにをしたんだ?」

 

摩利は真由美が男子トイレにいる事を驚きつつも、野次馬達に教室に戻るように言うのでそれに乗じて教室に戻るのだが、真由美が顔を真っ赤にして固まった理由が気になった達也。

魔法を使う素振りを見せていないし、なにをしたかが知りたかった。

 

「ズボンを脱いで、個室内で股間を強調するかの様にブリッジをしただけだ…目が良いのを逆手にとった」

 

「成る程…」

 

全力で走り回り逃げて体力と気力、そして精神的余裕を奪う。

何時もは冷静な真由美ならば男子トイレに逃げ込んだ時点で、出てこいと言うだけで終わるが精神的余裕を奪われ、興奮していた真由美は何の躊躇いも無しに男子トイレに足を踏み入れた。

その時点で真由美の敗けなのだが、そこに追い討ちをかけるかの様に下半身丸出し股間強調ブリッジをして大きな隙を作った。

男子トイレの、しかも個室なので卑猥なものを見せた罪に問われる事はない。

トイレを覗き、更には入ってきた真由美がむしろ罪に問われる立場にある。

 

「生徒会長のスキャンダルゲットだ…達也も誘われる心配は無い…筈だ…」



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お兄様とイチャつく為の百の方法

「申し訳ありません、今日からお弁当にしておりまして」

 

午前のカリキュラムを終えて、昼時。

例によって深雪目当ての一科生は深雪を食事に誘うのだが、深雪はお弁当を取り出す。

それにより あ、お弁当かぁ… と言う空気になって誘いを断っても特におかしくない雰囲気になり深雪はそれを感じてお弁当にして良かったと感じる。

 

「あら、ミユキもお弁当なの?一緒にどうかしら?」

 

「…ええ、天気が良いので外で一緒に食べましょう」

 

その深雪を利用して、極自然に教室の外に出る理由を作ったリーナ。

互いに食べる相手はちゃんといるので、誘ってくる一科生達をはね除けるのに互いを利用しあう。損はなく、得しかないのでどちらも不満は無い。

 

「アンジェリーナさんと司波さんもお弁当ですか、奇遇ですね!」

 

「アンジェリーナさん、学食は余り口に合わなかったから私もお弁当にしたの!」

 

食堂組を断ると今度はお弁当を持っている生徒が攻めてきた。

昨日、食堂へと向かおうとした生徒とは違う生徒達が深雪とリーナを誘い、昨日と違いリーナの方が多かった。

原因は昨日、リーナがお弁当だからと言ったことでリーナ狙いの生徒はお弁当を作ってきていた。尚、国立なだけあって金はちゃんとあるので学食はかなり旨い。

これだと昨日と大して変わらないと感じる深雪だが、リーナにはまだ次の手があった。

 

「ごめんなさい、私は弁当を持たせてる人がいるから…取りにいかないと」

 

リーナの鞄には弁当なんて入っていない、代わりに光國のラケットとボールが入っている。

お弁当は光國に持たせており、それを取りに行く名目で光國と合流する。弁当派の人間を撒くのにはちょうどいいし、持っているのが渦中の渦の中心とも言うべき光國なので下手な事を言えず、そのまま一緒に食べてもおかしくないベストな理由だ。

 

「…明日からタツヤにお弁当を持たせなさい」

 

「…はい…」

 

深雪は強く拳を握り締めて震わせる。

お弁当派が少数派で撒くのにも良いし愛しのお兄様に手作りのお弁当を食べてくれると浮かれていた。

少数派だが確かにお弁当を持っている生徒はいた、それならば誘ってくる可能性があり、自分を誘ってくる者がいたのは予想できたことだ。現に今、誘われている。

それについての対抗策を考える時間は沢山あったのに、疎かにしてしまいお兄様との至福の時を逃してしまう自分の未熟さを悔しんだ。

入試では自分の方が上だったが、テストは所詮テストで大事には大事なのだが、いざと言う時に現場でどう動けるかの方が重要でリーナは自分よりも現場で遥かに勝っていた。

精進しなければと悔しさをバネにする深雪

 

『「1-A、アンジェリーナ=クドウ=シールズさん、1-A、司波深雪さん、1-E、司波達也くん、1-E、手塚光國くん、至急生徒会室に来てください!」』

 

そんな時、天から蜘蛛の糸が舞い降りた。

掴み上がろうとすれば壊れる可能性のある一筋の希望たる校内放送がご丁寧に自分達を名指しで指名される。

 

「…はぁ、いくしか無いのね…」

 

生徒会などに余り関わりたくないリーナは大きなため息を堂々と吐いた。

深雪も正直なところ、行きたくはないのだが、この状況を打破するには行くしかなく、面倒な事にピンポイントで呼び出しているので逃げるに逃げれなかった。

生徒会室に向かう途中、光國とタツヤと出会うとどちらも呆れた顔をしていた。

 

「待っていたわ、ようこそ生徒会室へ」

 

「…あ、補導されてないんですね」

 

「手塚、いい加減にしておけ」

 

関わりたくないので、あの手この手を使う光國だがそろそろ抵抗は無駄だと達也に止められた。真由美はにっこりと微笑んだものの、明らかに怒っていた。

 

「あの後、大変だったのよ…お手洗いにいくと皆が譲ってくれて」

 

「レディファーストですよ」

 

「全員、女子よ!」

 

「では、十師族に早い内に媚を売っているんじゃありませんか?」

 

「むしろ失礼よ!」

 

「会長、一先ずは選んでいただくのが…」

 

煽られる真由美を見て、このままだと拉致が開かない事を察して割り込んだクールな女性。

生徒会の一人で、名前は市原鈴音。真由美と同じ三年の一科生だ。

光國達に軽く自己紹介をすると用意された席に座った。

 

「肉と魚と精進料理があるけれど」

 

「あ、大丈夫です。

今日からお弁当にすることにしていましたので」

 

生徒会室に備え付けられている自動配膳機に登録されている三つのメニューを聞いたが、弁当を出した深雪、達也。

 

「光國、お弁当は?」

 

「ちょっと待て」

 

リーナも弁当、光國も弁当だった。

 

「なんだ、四人とも弁当なのか」

 

摩利も弁当だった。

 

「ええ、昨日食堂でも一科生と少々揉めてしまいまして…」

 

「そ、そうか…」

 

思いがけない人物、深雪から小言が飛んで来るとは思っていなかった摩利は驚く。

深雪にとっても昨日の事はやはり色々と悪い印象を残しており、森崎のグループを好意的には思っていない。美月が許さなければ、今日は休校で校長と森崎家の記者会見がはじまっていたので許した美月さん、マジ天使である。あの濃いメンツの中で一番の天使である。

 

「あ、先に食べてて良いですよ」

 

大きな二段弁当と小さな二段弁当を取り出し、先に食べることを勧めた光國は席を立つ。

お手洗いに行くのかと思いきや、大きな二段弁当の蓋を開けた。

 

「他の準備をしておいてくれ、わさびはいれんなよ…フリじゃないからな!」

 

「蕎麦、だと…」

 

司波が蕎麦見て驚いた。

大きな二段弁当箱には蕎麦と薬味と木製のざるが入っており、光國は蕎麦をざるに入れて水筒を片手に手洗い場に向かった。

 

「お弁当に蕎麦って、中々ね…」

 

「そうかしら?普通にそう言う弁当箱が売ってあったわよ?」

 

そばつゆを水筒から入れて、小さな二段弁当を開けるリーナ。

二段弁当の中にはだし巻き玉子やつくねの照り焼き、野菜の和え物などが入っていた。

 

「先に食べてて良いと言ったのに…」

 

軽く水洗いをした後に水筒に入れていた水をかけて戻ってきたのだが、誰も食べておらず呆れている光國。

眼鏡とマスクを外したのだが、蕎麦を食う光景はどうみてもサラリーマンが食ってるようにしか見えなかった。

 

「お弁当でお蕎麦なんて、中々に無くて…つい」

 

小学生にも見える二年のマスコット的な存在であろう中条あずさがそう言うと箸を動かす。

しかし全員の視線は深雪の作ったどうみても美味そうな弁当でなく、光國達の、特に光國の食べている無駄に太い大きさも長さもバラバラの蕎麦を見てしまう。

 

「ちょっと、あんま見ないで…」

 

「蕎麦も、手作りなんですか?」

 

「オレが食べているのがリーナの蕎麦で、リーナが食べているのがオレの蕎麦だ」

 

「い、言わないでよ…そりゃあ光國みたいに上手じゃないけどそんなにジロジロとみるのは」

 

市販されている蕎麦でない事に気付いた深雪は手作りか聞くと面白い答えが帰って来て衝撃が走った。そしてなにかが閃こうとしていた。

 

「一緒に作った…成る程…」

 

「豊かな人生経験は人を大きく成長させてくれる。

特にHALのせいで家庭で料理をする所が激減したから、料理の苦労と言うものをしれるしこう言った凝った物を作れる…達也も、美味しい料理はダメでもパンやクッキーの様に簡単なものを作ったりするのは良いし…色々と喜ぶだろう」

 

なにがとは言わない光國。

達也は深雪が俺が作った料理を食べて喜ぶ姿を浮かべる、深雪は達也と手を重ねて、こうするんですよお兄様と一緒に料理する姿を妄想する。

摩利もそれは良いなと頷く。

 

「光國と私じゃ年季が違うわよ…」

 

「…」

 

一緒に作って出来たものを食べさせあうと言う行為を深雪は気付いた。

お兄様に自分の持てる力全てを使った最高のOMOTENASIをしているが、その先があった事を知る。

料理上手な彼女と素人でも特に問題なくできるお菓子作り的なイベントが残っていることに。

 

「レベルが、違いすぎます…」

 

「…早く来なさい、このレベルまで」

 

「お前達はいったい、なにと戦っとんねん…」

 

追い掛ける以前の問題じゃないことに気付く深雪だが、リーナは深雪ならばいけると応援する。

 

「蕎麦も、と言うことは他の料理も?」

 

「ああ、そうだ…実家にHALは無い環境だったからな」

 

「実家にHALが無い、と言うことは飲食店かなにかを?」

 

「いや、そうじゃない…砂糖水を沸騰させて飴を作って、それを週に一度しか食べれないおやつの環境だ」

 

市原はボトリと持っていた筍を机に落とした。

深雪達も動いていた手が止まった。リーナも物凄く気まずい顔をしていた。

 

 

 

あ、これ踏んじゃいけない地雷だった

 

 

 

飴なんてその辺で買えるのに、そんな事をしないといけない環境はかなりヤバいのがブルジョア連中にはわかった。

 

「そろそろオレ達を呼び出した理由を聞いて良いでしょうか?

昨日の行動について言及し、やり過ぎなどと言うのならばそれなりの事をしますが…あの時、誰が誰にCADを向けたか分かりませんので」

 

「それについてはこれ以上は言及は致しません」

 

意識を元に戻し、光國は蕎麦湯を片手に蕎麦饅頭を頂きつつ話を本題に入る。

昨日の一件がやりすぎだと攻める気ならば戦うぞと言うがもうこれ以上は掘り下げないとする真由美。取り締まる立場の摩利がなにも言わないので、本気だと分かる。

 

「後任の育成と言ったら分かりやすいのだけれど、深雪さん、それにアンジェリーナさん、生徒会に入ってほしいの。主席の入学者は毎年誘っていて、入っているの」

 

「…主席で顔が知られている深雪は分かるがどうしてリーナを?」

 

この辺の原作は覚えており、目をつけられたなと少しだけ焦る光國。

 

「まさかとは思いますが…リーナが九島だからと言う理由ですか…」

 

「それは…」

 

リーナが深雪と大して変わらない、どんぐりの背比べと言っても良い僅差の成績だ。次のテストではリーナが勝つかもしれない。

生徒会の業務がなにかと大変だったりするのもあるが、昨日の事もあり一科生、二科生の問題をどうにかしないと真由美は真剣に考えておりそう言った感覚の無いリーナを深雪の補佐的な立ち位置に立たせたかった。

手塚光國と言う二科生と深く関わっているのもあるが、やはりなんと言っても九島の名前が強力である。魔法師関係者で十師族を知らない者が居ないほどで、その名前を持つだけで力を発揮するほどだ。

 

「十師族の名前を持っている以上は、そう見られる事は仕方ない事だが…速答してくれませんでしたね」

 

リーナ自体がポンコツな部分があり、リーナにとってクドウ(九島)の名前は重い枷になっている時が多い。

自分といなければもっと気楽かもしれないと感じる光國は少しでも気楽になる様になってほしいと光國は思っている。

そんな目で見るなと言っても無駄なのはわかっているが一瞬で答えなかった真由美に呆れる。

少なくともそう言った目で見る人じゃないと思っていたが、勘違いをしていたと考える。

 

「あの、リーナではなく兄を補佐にしていただけませんか?」

 

少しだけ気まずい空気が流れる中、深雪は空気を壊すようにお兄様を推薦するのだが

 

「達也くんを?」

 

「はい、お兄様は私の事を熟知しています。

実技ではお兄様は残念な事に正当な評価はされませんでしたが」

 

「アカンで、生徒会は一科生限定で入ることは出来ひん…風紀委員は別やけどな」

 

光國がルートを修整した。

市原が二科生は入ることは出来ない事を言う前に言い、風紀委員を代わりに勧めると真由美はその手があったと手を叩く。

 

「話戻すけど、リーナはどないなん?」

 

「光國、喋りが…悪いですが、遠慮させていただきます。

私は部活動を一度見て回ってから…テニス部か軽音楽部を光國と一緒にやってみたいと思っています」

 

「オレを巻き込むなや…そんじゃ帰るか」

 

リーナは理由を、それも面倒臭いと言うのではない仕方ないと受け入れないといけない理由で断った。ならばもう、ここにはもう居る必要はないと、後は頑張れよお兄様と出ていこうとする。

 

「まぁ、待ちたまえ…」

 

しかし、摩利に止められる。

 

「なんす…なんですか?

深雪とリーナを誘ったがリーナは断り、深雪が生徒会役員になった。

達也が生徒会の推薦で風紀委員になった、ならばオレはもう必要は無いのでは?生徒会推薦の枠はもう無いはずですよ」

 

「ああ、だが他にも推薦枠があってな…一名の空きが出るだろうから、手塚を指名する」

 

「…?」

 

自身を指名するのは何となく予想できたので特に驚かない。

しかし、他の推薦枠が開いたことが気になり、他の推薦枠がなんだっけとなる。

 

「…森崎…」

 

達也と一緒に風紀委員に入った生徒はあの森崎だと思い出す。

教師推薦枠で入ったが昨日、あんな事になったら評価は一瞬にして底辺に落ちるだろう。

そこに品行方正で教師よりも色々と強いであろう摩利の一声があれば二科生の光國だろうと推薦される。

 

「オレは本当に二科生ですよ?」

 

取りあえずは成績を盾にしてみる。

 

「誰一人、追いつくことなく走りきったと聞いている。

男子トイレに入ると言う機転も聞く…なに、書類仕事も大事だが大抵は現場仕事が多いぞ!」

 

「そう言う問題じゃない。

二科生が一科生の集団に入ってみろ…浮くだろ…」

 

「それについては問題ない…達也くんも入るのだから」

 

もうお兄様が入るのは決定事項のようだ。

一言も良いですよと本人から了承を得ていないのだが、お兄様はNOとは言わない。

更になにかを言う前にと摩利は追撃をかける。

 

「昨日の一件で感じた様に一科生と二科生との間には大きな溝がある。

私も真由美も、ここにはいない会頭の十文字もそれをどうにかしないといけないと思っている。この大きな溝を埋めなければ、昨日の一件の様な事がまた起きてしまう…君と達也くんはその溝を埋めることが出来る可能性を持った」

 

「…なぁ」

 

摩利の追撃を普通の人が聞けば、仕方ないと受け入れるだろうが、このバカは普通ではない。

摩利の言葉を聞いても食い下がることはなかった

 

「2000年以降の学校にはどんな価値と意味があると思う?」

 

「…それはどういう意味だ?」

 

「その答えを自分で考えてください。

深雪達も一科生と二科生の溝に色々と思うことがあるなら、それを考えてください…悪いですが、オレは痛い思いはしたくありません。努力して頑張るときは頑張りますが、頑張らない時は頑張らないので…いくぞ」

 

「ええ…失礼しました」

 

光國とリーナは一緒に生徒会室を出ていった。

 

「で、2000年以降の学校にはどんな価値と意味があるの?」

 

出ていって少し歩くと最後の言葉の意味を聞くリーナ。

この学校に居るのは大抵は2080年代を生きてきたものばかりで、2000年以降の学校について聞かれても答えられない。

 

「…適当な事を言っただけやで。

あの場を切り抜けるにはそれっぽい事を言わんとアカンかったから…でも、色々と哲学的な事、考えさせられて、それなりに良い感じの答えを選るはずや…」

 

「なにそれ…」

 

「リーナも考えたらええで…2000年以降の学校にはなんの価値や意味があるのかを、義務教育とか言う理由を除いてだ。中々に答えを出すのが難しいから」

 

達也達が賢い人間なのを逆手に取って逃げた光國に呆れるが、リーナも色々と深い意味が詰まっている言葉だと感じていた。

 

「けどまぁ、魔法科高校の求める答えを正しく答えたのが一科生、上手く答えれなかったのが二科生で、一科生と二科生の問題をどうにかするには九校全ての校長の謝罪会見からはじまらないと話にもならん」

 

「いったい校長になんの責任があるのよ…」

 

「…当校にはいじめは無かった?」

 

「…聞かなかったことにしておくわ、九校全てを敵に回したくはないわ」



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オレの波動球は参拾漆式まである。

「五度目にしてやっとか…」

 

昼食を終えた達也は、午後の実技の授業をしながら光國に言われた事を考えていた。

達也自身も、一科生と二科生の間にある溝は大きな問題と捉えており、一部は仕方ないとはいえ昨日の一件がまたあるかもしれない。そうなれば深雪に迷惑をかけてしまい、悲しませてしまう。

 

「達也さん、三度目から集中が乱れてましたよ?」

 

「やっぱ、昼の呼び出しが頭に」

 

「達也くんは、あんたみたいに単純じゃないんだからそんなわけ無いでしょ」

 

実技の内容は至極単純に、魔法を発動して求められた数値を出すことだ。

三度目で成功しかけたのだが、光國の言っていた事が気になっており五度目にして成功した達也。

その事を指摘されると気付かれたかと思うと同時にちょうど良いと聞いてみようと思った。

 

「レオ、エリカ、美月…2000年以降の学校にはどんな価値と意味があると思う?」

 

「2000年以降の学校ですか?」

 

「戻ってきた時に話しただろう、深雪が生徒会に、俺が風紀委員に推薦されたと。

渡辺委員長も、七草会長も一科生と二科生の溝をどうにかしたいと考えていて手塚も推薦されたんだが、その際にその質問をした後に出ていってな」

 

「手塚くんが達也くん達を試してるってこと?」

 

「恐らく、そうだろう」

 

納得のいく答えを出せば、手塚は風紀委員に入ってくれる可能性がある。

二科生である自分が風紀委員に入れば仕事は問題なくこなせるが、確実に浮いてしまうのがわかる。結果を残すのは良いが悪目立ちしてしまうと、家の人間が色々と言ってきて深雪に迷惑をかけてしまう。手塚が入ってくれれば、視線が分かれて悪目立ちする可能性が下がる。

 

「2000年以降、てことは旧世紀関係だろ?

オレ達も手塚も生きてないし…分かんねえな…手塚に直接聞いてみるか?」

 

「今、達也くん達が試されてるんだから答えを聞いてどうするのよ」

 

「だよなぁ…」

 

レオも考えてくれるが、答えらしい答えは出てこない。

直ぐ近くにいる手塚に答えを聞こうとするが、エリカに止められる。

 

「どうやら、悩んでいるようだな」

 

「手塚…」

 

噂をすればなんとやら、光國が話を聞いてやって来た。

 

「この質問に対する答えは、あるようでないも同然だ」

 

「どういう意味ですか?」

 

「人によっては答えが違うと言うことだ」

 

「え、それってズルくない?」

 

答えが複数あるならば、解答者の答えとは違うもう一つの答えを出題者が正解とすれば良い。

この後、生徒会や風紀委員に捕まり質問に解答されたとしても不正解だと言って別の答えを出せば逃げることは出来る。

光國が出題者となり、試されてると思った時点で実は負けが確定していた。

 

「ズルくはない。

オレの質問は理数系の問題の様に法則性やパターンに基づいた答えを求めているのではなく、言葉の問題だ。答えは複数あれども、それら全て成る程と一言納得させる答えには行き着く筈だ、具体的な言葉で納得させてもらいたいんだ…オレや達也を一科生と二科生の溝を埋めるためにどうにかするには、それぐらいの覚悟は必要だ」

 

「…どういう意味だ?」

 

「下手すれば全ての魔法科高校が日本所有の未開発の島に移される…いや、マジで闇が深いぞ、一科生と二科生の溝を学校単位のいじめともとれるのだから」

 

「確かに、闇が深いな…」

 

手塚の勧誘は難しく、この後、達也は生徒会に連れていかれるが光國は連れていかれなかった。

摩利が質問に対する答えを出せず、手塚の勧誘を失敗したが達也は実技では測れない実力を発揮して、少しずつ認められていった。しかしそれは生の達也を見ている者達だけにだった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「なにあの行列…」

 

新入生に入学して一番最初に来る風紀委員の大きな仕事、それは部活動勧誘期間。

この期間中だけ、制限されているCADや魔法が緩くなっており、風紀委員はそれを取り締まらなければならないが、そんなレベルじゃないだろうとリーナは固まった。

 

「旧世紀はああ言うのが当たり前だって、光國は言っていたけれど…」

 

世界の総人口が減って30億人ぐらいの魔法科高校の劣等生。

科学技術の進歩により満員電車の地獄なんてものは無く、体験したことのないリーナは目の前の光景を驚いた。

校舎を出て校門までの間に飛び交う魔法、拉致される生徒、暴れる風紀委員。

全ては部活動に誘うべく、頑張っている生徒達だが下手したら怪我をするレベルが多い。

中には危険性が高い魔法があり、下手に校舎から出ることは出なかった。

 

「ど、どうしよう雫…」

 

「これは、抜けられない…」

 

「貴女達も、同じ考えをしているのね」

 

校舎の中には入ってこない部活動勧誘に勤しむ部員達。

校舎内部に入ると問答無用でしょっぴかれてしまう事になっており、校舎は絶対防衛ラインでどうするか悩んでいると同じクラスで深雪には声をかける凸凹体型の二人組の女子がどうやって帰るか真剣に考えていた。

 

「えっと、アンジェリーナさん?」

 

「リーナで良いわ…確か、シズクとほのかだったわね?」

 

「うん」「は、はい!」

 

「…どうやってアレを抜ける?」

 

二日目の出来事を水に流して、魔法師の軍団を指差すリーナ。

既に此方に気付いている部活動があり、獣の様に目を光らせギラつかせる。

アレを他人に攻撃しない系も含めた魔法を使わずにに切り抜けるのは達也でも至難の技で、リーナはそれに加えてテニス部に向かわなければならない。

 

「ほのかが軽い閃光魔法を使って」

 

「入学して二日目の事を忘れたの?今度は退学の可能性があるわ」

 

「…そうですよね、私ったらまた…」

 

一応、あのあと反省文を書かされてかなり説教されたほのか。

少しだけ雫の意見がありかなと思った自分を攻めてしまう。

 

「皆、伏せて、少しでも気付かれると面倒よ!こう言う風に、ほのか、胸がキツいかもしれないけど我慢して!私もかなりきついけど我慢するから!」

 

「なんで、私には言わないの?」

 

「…光國が居てくれれば…」

 

「あの人、ですか…」

 

「ねぇ、ほのか、どうして目線を合わせてくれないの?」

 

たわわなほのかと、原作よりも成長し美月レベルのたわわになっているリーナには苦しい姿勢を取っているが、雫はそんなに苦しくなく、二人の顔を見ようとするが視線を合わせない。

凹の幼児体型の雫には苦じゃなかった。

 

「…なにやってるの、貴女達?」

 

「あ、エリカ!

気をつけて、あの人混みに飲まれたら一貫の終わり…長期戦は免れないわ!」

 

隠れてやり過ごすか悩んでいると、エリカかがやって来て変な目で見てくる。

実際、変なことをやっているのでそう見られて当然だろう。

 

「なに言ってるのよ…あ、手塚くんを連れてきたわよ…手塚くん!」

 

「…」

 

渋い顔をして出てきた光國はほのかと雫を見る。

二日目の出来事はかなり大きく、苦手意識を互いに持っており、どうしようとなる。

 

「北山雫、雫って呼んで」

 

「み、光井ほのかです!ほのかで構いません!」

 

「手塚だ…」

 

「よし、じゃあ行きましょうか!」

 

自己紹介をしたものの、気まずい空気が流れるがエリカが壊す。

さばさばとした性格だがこういう時には役に立っており、校舎を出ようとする。

 

「待て、彼処を一人で切り抜けるつもりか?」

 

「一人じゃないわよ…私達の盾になってね、お・ね・が・い」

 

容姿の良いエリカは甘い声で光國に頼む。

二科生、一科生と言わない人達から見れば引き受けてしまうこと間違い無しだが

 

「お前がいけ」

 

リーナが冷たい目でエリカを蹴り飛ばして校舎の外に追い出した。

 

「え、ちょっとリーナ!」

 

「光國、あんな安いハニートラップに引っ掛かっちゃダメよ」

 

「むしろあんな安いトラップに引っ掛かる奴が居るのか?」

 

「やっぱり、手塚さんとリーナって…」

 

「そう言う関係だよね…」

 

「ちょっと、どさくさに紛れて鍵を閉めないでよ!」

 

校舎のドアを閉めて、被害を防ぐ四人。

エリカは軍団の波に飲まれるが負けてたまるかと踏ん張り、香港映画顔負けの窓のガラスにへばりつく技術を見せる。

 

「手塚さんとリーナって、どういう感じに出会ったの?」

 

「ストレートに馴れ初めを聞いてくるとは、遠慮が無いな…二人とも気になるのか?」

 

「えっと…はい、気になります」

 

「まぁ、タツヤ達は兄妹と言えば通じるけど私達は違うから当然ね。

光國も私も性格的な部分で違うし、身分的なのもあるからね…実はね、私が悪質なナンパをされたのを助けてくれたのが出会いで、助けたと思ったら光國もナンパをしてきてね」

 

「事実をねじ曲げるな…いや、合ってるけども」

 

「お願いだから、助けて!!私が悪かったから、このドアを開けてください!」

 

「ちっ、仕方ないわね」

 

馴れ初めの邪魔をしてきたエリカに舌打ちをしつつも開けたリーナ。

エリカは汗だくだくで校舎内に戻ることに成功し、死ぬかと思ったと一息つく。

 

「千葉、どうだった?」

 

「エリカで良いって言ってるでしょ…死ぬかと思ったわ」

 

「二科生女子で一番ゴリなエリカでもダメだったか」

 

「誰がゴリよ…」

 

最早ツッコミを入れる気力さえ失せているエリカ。

これは達也を呼び出して盾にしていく作戦が一番だろうかと携帯を手に取るのだが、リーナがラケットを渡す。

 

「お前、森崎の時にも同じ事を要求してこなかったか?」

 

「魔法を使わずに切り抜けるには一番よ。

今日だけなら別の方法があるけれど、勧誘期間中に一度しか使えない方法だから…それにデモンストレーションにもなるわ」

 

「……その場合はリーナがやらないとダメじゃないのか?」

 

「私、あんな事は出来ないわよ」

 

「…はぁ、仕方ないな」

 

渋々ラケットを受け取った光國は眼鏡とマスクを外す。

 

「光井、北山、千葉、下がっていろ…」

 

「え、あ、うん…」

 

何時もと雰囲気が変わって、戸惑うエリカ。

なにをするんだと見守ると光國は袖口を捲りあげた。

 

「その腕は?」

 

「安心しろ、怪我でもなんでもない」

 

光國の両腕に巻かれている包帯を気になった雫。

怪我をしているのならば、今からやるなにかは無茶ではないかとなるが光國が否定した。

 

「油断せずにいくぞ、リーナ!」

 

「OK、いくわよ!」

 

クラウチングスタートの様なポーズを取り準備が完了するとボールを壁に向かって投げてCADをボールに向けるリーナ。

移動系の魔法を使い、光國に向かうように反射させる。

 

「え、まさか…」

 

リーナと光國がなにをするか分かったほのかは顔を青くする。

いやいやいや、そんなのは無理だよと今すぐに言いたかったが、言えぬ雰囲気で全員が今か今かと待ち望んでいる。

 

 

 

 

「ダッシュ波動球!!」

 

 

 

 

ボールが手元まで来ると全体重を乗せるかの様に一歩を踏み出しつつ渾身のフラットショットを打ち出した光國。

ボールは校舎を出て、部活動勧誘に勤しむ生徒達をはね除け、モーゼがエジプトから出ていく際に割った海の様な大きな道を作り上げた。

 

「この波動球、威力を段階分け出来る事が出来る技だ。

真の波動球はレベル1から108まで存在し、表と裏を合わせれば216式まで存在する。

故に教えてやろう、このダッシュ波動球のレベルは…たった1だ」

 

「なん、だと…」

 

あの威力でまだレベル1だった事に固まるエリカ

 

「オレはアグレッシブ・ベースライナーではない故にパワーには特化していないが…オレの波動球は参拾漆式まである」

 

「違いすぎる…」

 

圧倒的な力を感じとる雫

 

「いや、違うでしょ!!二人とも、目を覚まして!」

 

どうみても魔法かなにかを使ったとしか思えない威力だが、素で叩き出している光國。

ほのかが一応はツッコミを入れたがなにを言っているんだかと呆れる。

 

「いい、ほのか。

テニスの世界、しかも世界レベルになるとこれが常識なのよ。貴女が知らないだけで、否定するのはよくないことだわ。一度、Jr.テニスでも良いから世界大会を見た方が良いわ」

 

え、これ私が悪いの?となるが実際のところほのかが悪い。

 

「全員、走り抜けろ!!

奴等が体勢を立て直す前に突破をするんだ!」

 

当初の目的である校舎から学校に出るための校門への道は切り開いた。

ほのか達以外にも校舎から出ようとしなかった生徒はそれなりに居たようで、この気を逃すかと全員が校門への目掛けて走り出すが

 

「あれは、SSボード・バイアスロン部!」

 

魔法関係の部活動は強かった。

直ぐに体勢を立て直す事に成功し、その中でも移動に道具(スケボー)を使っているSSボード・バイアスロン部は特に早く、道を切り開いたのが自分達だと見抜くと迫ってきた。

 

「リーナ、ボールは後いくつある?」

 

「後、十球!バイアスロン部員達もちょうど10人よ!」

 

「なら、簡単だ!全部貸せ!」

 

あれに拉致されると面倒だと判断し、リーナからボールを貰う光國。

 

「十球って、打ち落とす前に捕まるわよ!」

 

ボールをぶつけて打ち落とす事を見抜いたエリカはバイアスロン部との距離を言う。

互いに走ってきているので、極僅かの間しかなく、倒せるのは一人だけだ。

 

 

 

「一人倒せる時間だけあれば充分だ!」

 

 

 

だが、光國にとってそれだけあればどうにかなった。

リーナから貰った十球をほぼ同時に打ち、一つ残らず此方に向かってきているバイアスロン部にぶつけて撃退することに成功した。

 

「あ、雫、見て!」

 

「校門前に、待ってたみたいだね」

 

バイアスロン部を倒したまではよかったが、校舎前ではなく校門前でスタンバる部活動勧誘に勤しむ生徒達。

 

「こうなったら一時的に別の場所に避難するのを優先だ!

リーナ、この辺でテニス部を除いて安全そうな場所は無いのか!」

 

「ええ、いきなりそんな事を言われても…」

 

「第2体育館があるわ!

あそこは武術系の部活動がデモンストレーションをしてて、やり過ぎない様に風紀委員が見張っているからここみたいな事にはなってないはずよ!」

 

「よし、そこね!」

 

今は一刻も争う状況だ。

エリカの情報を信じて、体育館を目指し方向を変えたのだがそれがまずかった

 

「きゃあ!?」

 

「ほのかぁ!?」

 

「北山、光井!」

 

方向転換により、隠れていたSSボード・バイアスロン部が雫とほのかを捕まえる事に成功した。

 

「お前達の犠牲は無駄にはしないぞ!!いくぞ!」

 

「え!」

 

光國達はほのかと雫を犠牲にし、闘技場へ向かって走っていった。

 

「…その、どんまい」

 

拐ったSSボード・バイアスロン部の先輩は、そんなほのかと雫を見て哀れんだ。



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誰が真にダメなのか?

「あ、達也くんだ!」

 

体育館に逃げることに成功した光國達は体育館の入口前に立っている達也を見つけた。

お~いと手を振って近付くエリカ。達也は光國達に気づく。

 

「風紀委員の仕事でここに飛ばされたの?」

 

「いや、巡回で何処かに配置されたわけじゃない」

 

「なら、良かったわ。

タツヤに失敗させて二科生は駄目な奴って印象付けにしてくる風紀委員が居るかもしれないってミユキが色々とぼやいてたから」

 

「流石にそこまで露骨じゃないし、渡辺委員長が許さないさ」

 

「…」

 

何気ない会話をするリーナとエリカと達也。

光國はこの後起きる展開を知っているのでどうしたもんかと考える。森崎以上にヤバいことが起きる。

 

「ところで、テニス部には向かわなくて良いのか?」

 

エリカもテニス部志望、リーナもテニス部志望、光國は入らないと言っている割にはラケットを手にしている。

ここではなく、テニス部がある所に行った方が良いのではと勧める。

 

「あぁ、別に今日じゃなくても良いわよ。

部活動勧誘期間は今日からだし…あの人混みの中をどうにかするのは…既に二名の犠牲者が出てしまったわ…ほのか、シズク、貴女達の事は忘れないわ…どうか天の国で安らかに眠りなさい」

 

「日本人だから、まずは閻魔の裁判だと思うわよ」

 

 

 

※ 死んでいません

 

 

 

 

「よくあの人混みを通り抜けることが出来たな」

 

「手塚くんがラケットでこう、ドーンと…よく折れないわね、そのウッドラケット。て言うかこのご時世にウッドラケットって」

 

起きた出来事を達也に雑に説明をするエリカは光國のラケットを見る。

スポーツ用品店で買えるテニスラケットではなく、今時珍しい木製のラケットで何処かのメーカーのロゴが入っていなかった。

 

「ウッドラケットだが、職人の腕がよくて下手なラケットよりも丈夫なんだ」

 

「確かに、かなりの業物だな。」

 

ラケットの事は詳しく知らない達也だが、それでも一目で分かる。

このラケットは物凄いまでに腕がたつ、それこそ腕一本で食っている彫刻家が作ったかの様に綺麗に仕上がっており、使いこなせれば下手な大量生産品よりも使えるラケットだ。

 

「この爺さんが作っている」

 

鞄から写真を取り出す光國。

ウッドラケットを作っているとは珍しいが、この腕だから有名な方か名は無いが腕は確かな職人かと写真を受け取る達也。

 

「!?」

 

「白黒って…何時の時代よ」

 

「待って、エリカ!これ、隣にいるのペリーじゃない!?」

 

「え、嘘…あ、でもペリーっぽい!!」

 

受け取った写真の紙質はかなり悪く、この時代と言うか光國が光國になる前でも中々に無い白黒写真で、顎髭が特徴的なお爺さんがペリーと握手をしていた写真だった。

 

「…これは、合成写真なのか?」

 

「合成写真と言うか、そう言うところで…多分、日光●戸村で撮ったのよ、そう言うところがあった筈だし、時代に合わせて白黒にしてるのよ」

 

どうみても本物にしか見えないのだが、ペリーと握手をしているお爺さんなんて教科書では見たことない。魔法関係の知識は勿論のこと一般教養も満点な達也は日本の歴史もちゃんと学んでいるのだが、こんなお爺さんは見たことない。

日光●戸村で撮ったものかと納得し、光國に写真を返す。

 

「とりあえず、中に入ろう」

 

「ああ、そうだな」

 

体育館の中へと入る光國達。

風紀委員の達也がいることにより、自然と勧誘する部が無くなり体育館の闘技場が覗けるスペースを確保する。

 

「やっぱり、日本と言えば剣道ね」

 

最前線のスペースで見物を剣道のデモンストレーションを見物するリーナ。

剣道は日本独特のものであり、色々と学ぶべき事は多く、単純な剣術で強い日本の魔法師は多い。

 

「あの人、強いわね…」

 

一際美人の女子剣道部員を見て、他の部員とは桁違いだと気付くリーナ。

 

「あの人は確か…そう、壬生沙耶香、一昨年の女子中等部剣道の全国二位の実力者で、容姿も相まって剣道小町と言われてたわ」

 

「…全国二位か」

 

成る程、動きには無駄は無い筈だと納得する達也。

あれに魔法が加われば、かなり苦戦する相手になる、一学生でも一点を磨けば物凄い生徒が居るものだなと見物するのだが

 

「たかが全国二位ねぇ…」

 

リーナがバカをする。バカにはしていない、バカをする。

 

「たかがって、日本で女子剣道をしている中で二位なのよ?

そりゃ魔法を使った剣術部と比べると、少し劣るけれど、むしろ魔法が無い分、トップを目指すのは難しいわ」

 

リーナの発言にムッとしたエリカ。

壬生が如何にしてスゴいのかを説明をするのだが

 

「それでも日本で二位なのでしょ…やるからには一番じゃないと」

 

「確かにそうだけど…」

 

「それに、隣には世界一の男がいるのよ?」

 

「…あ~はいはい、ごちそうさまよ」

 

惚け話になったので、直ぐに話を切ったエリカ。

自身の男が一番だって誰でも言うわよと聞く耳を持たないが、本当に世界一な光國。

リーナの言い方だとただの自慢話にしか聞こえず、話を聞いていた見物人達が 「て、手塚ぁああああ!!」と殺意を放っていた。

 

「ところで、あの人が二位となると一位は…勝ったり負けたりの関係か?」

 

「その…一位の方はちょっとね…」

 

「…あぁ…そう言うことね」

 

「つまり、ブスだと言うことか」

 

「「やめなさい!」」

 

一位の人を知っているエリカと察したリーナはあえて言わなかった。

しかし、光國は堂々と言い達也は呆れていた。

 

「千葉、リーナ、そう言った考えは余りよくないことだ。

全国一位の方はまごうことなきブスかもしれない、だがしかし、評価すべきは顔ではない剣の腕だ。一位の方は手遅れなほどのブスかもしれないだが、だが全国一位の称号を手に入れた凄まじい人だ、たかがブスだからと言って評価をされないのは駄目だ。過去に高学歴なのにブスだからと言って会社を落とされ、学歴が低いが美人だから会社を合格となった奴はかなりいる…このままだと、可愛いは正義の言葉は本当にまんまになり、ブサイクは悪と言う対義語が生まれてしまうんだ…油断せずにいかなければ」

 

「あんた一回、一位の人にボコボコにされた方が良いわよ」

 

「千葉は美人だからブスの気持ちが分からないんだ!」

 

「だ、誰が美人よ…その、まぁ、ありがとう」

 

思いがけない不意討ちをされて顔を赤らめるエリカ。

なにをやっているんだと達也は思い、剣道部のデモンストレーションを見ていると別の部活動が、魔法を使った剣道こと剣術部が乱入をしてきた。

 

「ちょっと、剣術部はまだ先でしょ!」

 

「剣道部のデモを手伝ってやってるんだよ。安心しろ、魔法は使わないでやる」

 

「千葉、あっちは?」

 

壬生と言い争う杉田ボイスの男性。

一応は知っているが、知らないていでエリカに聞く。

 

「あっちは確か…桐原武明、関東剣術大会中等部の優勝者よ」

 

「へぇ、剣術部と剣道部の実力者の勝負…面白そうね。」

 

「いや、言うとる場合か。

達也、あれは完全にアクシデントや、早い内に止めんと揉めんで」

 

剣道部と剣術部の単純な剣技による試合が始まろうとしていた。

周りにいる見物者は壬生と桐原の事を知っているのか、それとも剣術部と剣道部の試合は面白いと感じているのか、誰一人として止めようとしない。教師はいないので止めない。

現にどちらかと言えば常識人のリーナやエリカですら面白いとワクワクしながら見ている。

この後、起きる展開を知っている。森崎以上にヤバいことが起きるので止めることのできる達也に頼む

 

「ああ…」

 

「お前もか…事件は起きて解決するもんじゃない、起きる前に解決してこい」

 

達也も少しだけ気になっていた剣術部と剣道部の試合。

危険な魔法の行使もされてないからと考えてしまっていたようで光國の言葉に反省しながらも前に出る。

 

「剣術部の皆さん、待ってください」

 

「なんだ?」

 

「なに?今から、桐原くんと勝負なのよ?」

 

「…勝負するのは構いません。

ですが、その一本だけでお願いします。今は剣道部のデモンストレーションの時間で剣術部が目立つような行為をすれば剣道部のデモンストレーションを邪魔したことになりますので、その場合は風紀委員として拘束します。」

 

いざ勝負と言うところで達也が割って入ったのでイラッと来た壬生と桐原。

ここで仲裁しても仕方ないと一度だけ勝負させると言う判断を取り、風紀委員が直ぐ側に居ることをアピールした。

 

「なんですって…」

 

「?」

 

剣術部が邪魔をしてこれ以上目立つのは迷惑行為だと達也は言った。

しかし、どうせ勝つのは剣術部だから剣術部が目立ってしまうと壬生は受け取ってしまう。

 

「…」

 

もう既に手遅れだと察した光國。

テニスボールはもう切れているし、お兄様の前で堂々とビーストの魔法を使うわけにもいかない。

回り始めた水車は水が無くなるまでは止まることは出来ない

壬生と桐原の戦いがはじまり、周りが盛り上がってしまう。

 

「ミブの剣技、鬼気迫るものを感じるわ…」

 

「一昨年見た時よりも遥かに進化してる…」

 

どうする、どうすると焦る。

壬生が桐原を圧倒して、逆ギレした桐原は魔法を使うがその魔法は余裕で人を殺せる魔法だ。

しかも使った理由が壬生の剣がおかしかったとか言うかなりひどい理由だ。

 

「これが真剣勝負なら、貴方は死んでいるわよ?」

 

桐原の首筋に竹刀を当てている壬生、対して竹刀は近いが壬生に触れていない桐原。

真剣ならばこのまま壬生が桐原を倒しており、勝負は決したと見守る見物人達だが桐原の目が変わった。

 

「真剣ならだと…そうか、壬生は真剣がお望みか…それならよ…真剣で勝負してやるよ!」

 

「っ!」

 

手首につけているCADを起動させる桐原。

高周波ブレードと言う、ざっくりと言えば高速で振動させて固体を液状化させて斬ると言うよりは溶かす感じの適当に振り回せる物ならば大抵の物にかけられる魔法を使おうとしており、殺傷性はBランク、一番最初にやらかした森崎が使おうとした魔法は不明だが、近距離戦闘に用いられる魔法を関東一位の桐原が使うとなれば鬼に金棒だろう。実際それを使って腕を斬り落としてるシーンがある。

果たしてそれは真剣での勝負なのだろうかと言う疑問はさておき、そんなものを堂々と使おうとする桐原。

達也は魔法を使い、壬生に襲いかかるであろう桐原を拘束する為に動くが

 

「許せ、達也、ぁああああああ!?嘘やん…」

 

その前に光國がラケットを飛ばし、桐原の手に当てて竹刀を弾いた…まではよかった。

光國のラケットと竹刀ば空中で交差し、光國のラケットが綺麗な断面が見えるほどに真っ二つになってしまった。

 

「た、たつや…仕事しといて」

 

「ああ…」

 

時折出る関西弁を隠す気は何処にもなく、真っ二つになってしまったラケットを手に取る光國に仕事をしろと言われたので通報をした達也。

 

「桐原先輩、魔法の不適正使用により同行をお願いします。

それと剣術部のデモでもないのに剣道部のデモに乱入したことについて、後で部活動会頭に説明を」

 

通報を終えると桐原を睨む達也。

やっべ、風紀委員だと空気が変わったのだが二科生だと分かれば別だ。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!

お前は一本だけならって許可しただろう!それに勝負を受けた壬生も連行しろよ!」

 

「俺はあくまで、剣での勝負を一度だけ許可しただけに過ぎません。

今、俺は桐原先輩が魔法を使用した事により、身柄を拘束しているだけで壬生先輩にも後で説明をする義務が、勿論俺にもあります」

 

「達也、話しても無駄や…」

 

色々と文句を言う剣術部員だが、達也はあくまでも取り締まっただけに過ぎない。

光國はゆっくり真っ二つのラケットを手に立ち上がって、壬生を見る。

 

「怪我、無いですか?」

 

「え、ええ…むしろ君の方が大丈夫?」

 

「気にしないでください、死んだ婆さんのラケットなだけです」

 

壬生の怪我が無いことを確認するが、今にでも泣きそうな光國。

結果的には壬生の剣胴着が切られて素肌を晒す瞬間が無くなったし、大事にはならなかったと我慢をする。しかし、光國の方が大事になっていた。

 

「リーナ、千葉、避難を誘導するんや。

壬生先輩も部員連れて出ていった方がエエで、来ないなゴミ集団を相手にしてたら身が持たんよ…達也も、さっさとしょっぴく奴だけしょっぴいとけ。」

 

「だ、誰がゴミ集団だ!!」

 

「何処をどーみてもお前らやろ!!

そこの魔法使ったDQNの取り巻きは何事もなくついてきとって、誰一人止めろって止めようとせんかったやろ!それともなにか、剣術部のデモの時間すら覚えられない程に自分等アホなんか?」

 

桐原と壬生の戦いは二次創作でも色々と書かれているだろうが、何気に一番最悪なのは桐原についてきた剣術部員である。全く、誰一人として桐原を止めようともしない中々のクソっぷりである。

 

「て、てめえ言わせておけば!」

 

事実を言われ、キレた剣術部員。

 

「リーナ、千葉、とっとと壬生先輩連れて出てけ!」

 

「え、っちょ、手塚くん!」

 

「光國ならどうにかするわ!」

 

押し出すかのように壬生をエリカとリーナに押し付け、他の生徒達と一緒に体育館から出る。

光國の素の運動能力を知っている、陸上選手並みの足は勿論のことベンチプレス140キロの力に、リンゴを余裕で握り潰す事の出来る握力を持っている。

 

「一般生徒への暴力行為は見逃すことは出来ません」

 

更には達也もいる。

主席の深雪が褒めるだけでなく、九重八雲と言う有名な忍者から体術の手解きを受けていると聞いているのでリーナは安心していた。

達也は光國に襲いかかってきた剣術部員の前に立ち、合気道や柔道の様に相手の力を利用して投げた。

 

「手塚、後で俺が…手塚!?」

 

一番最初に行った体育の授業は体力測定で、自分よりも上だった光國。

剣術部員の数がそれなりなので後で取り抑えるのを協力して貰おうと達也が振り向くと光國は殴られていた。

 

「所詮、口だけかよ!」「ウィードの分際で調子に乗るんじゃねえ!」

 

「…っ…」

 

「どういう、ことだ…」

 

リーナが押すだけあって、光國の運動能力はとても高かった。

単純な魔法だけは普通だが、近距離戦闘を磨けば物凄く光ると達也は見ていた。

しかしどうだろうか、今目の前では光國はなすすべもなく殴られている。

エリカが森崎のCADを弾いた時の動きと似たような動きを出来ると光國は言っていた、あれだけの運動能力があれば発揮出来るのに一向にその様な素振りを見せない。

余りにもわからない事をしてばかりで予測不能の光國に、困惑をしてしまう達也。直ぐに困惑する感情こそ消えて、手塚を助けて全員を叩き伏せたものの分からないことだらけだった。




勝負に挑んだ壬生か、勝負が始まる前に止めなかった達也か、邪魔をした桐原か、邪魔でしかなかった剣術部員だろうか


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革命への前奏曲

達也の活躍により、一騒動が一先ずは納まった。

あくまでも一先ずであり、本日第2体育館でデモンストレーションを行う部活は強制的に中止、一部の武術系の部活はとばっちりを受けたが、その事について誰も文句を言わなかった。

理由は言うまでもなく、ボコられた光國。他の魔法科高校よりも真っ白いのが特徴な魔法科高校の制服を真っ赤に染め上げてしまったのを見てしまったからだ。

 

「…以上です」

 

そしてその騒動の報告が今、終わった。

部活動会頭の十文字克人に、風紀委員長の渡辺摩利に、生徒会長の七草真由美に達也は起きた出来事を全て報告した。全員が全員、渋い顔をしている。

 

「これで終わりです」

 

「ありがとうございます」

 

事件が起きたのもそうだが、事件の被害者Bこと光國が直ぐ目の前に居るのだから。

制服が血塗れで深紅に染まっていたのだが、奇跡的と言うか打撲の傷しかなかった光國。念のためにと色々とスキャンしたのだが、骨には全く傷はなかった。

と言うよりは程よく血が制服に飛び散っているだけで、そんなに怪我をしておらず、壬生のカウンセリングを優先してくれと部活連本部に来てたまたま手が空いていた市原に傷を治して貰っていた。

 

「…で?」

 

救急箱を閉まって、七草の側によった市原を見て、口を開いて良いと判断し光國は一言だけ発した。

この言葉には色々な含まれており、答え方を間違えればこの魔法科第一高校はおしまいだ。

 

「…お前に暴行した剣術部の生徒は皆、退学だ…」

 

光國の問い掛けに答えたのは十文字だった。

光國に暴行をした生徒達は血が出る威力で無抵抗な相手を殴ったのだから、当然と言えば当然だ…が…

 

「…なに退学ですかって、ああ、すんませんね。

如何に魔法科高校でも、学生にその辺の詳細は教えてくれませんよね」

 

「自主退学だ…」

 

「言葉が足りないんじゃないですか?」

 

「…なにが望みだ?」

 

自主退学と言っているものの、今すぐにやめろと強く勧めており、退学に出来るのならば今すぐに退学にしないといけない剣術部員。

学校側が暴力問題を起こした生徒を退学させたとなれば、魔法科高校でなくても大問題だ。

自主退学ならば、ある程度は言い訳が出来るし関係無いとの言い逃れが出来る。

よくある手だと光國はなに退学か聞くと摩利が誤魔化すが、通用せず十文字が光國の望みを聞いた。それはつまり、自主退学を勧めているという事で、学校は関係無いと逃げようとしている事を認めたことだ。

 

「その前に桐原先輩はどうなるんですか?」

 

「っ、それは…」

 

「ああ、すみません。

たかが一学生にその辺の説明をすることは学校側はしませんよね」

 

本来の道筋ではなんとこれと言った罰を受けていない桐原。

大事になったことにより、それ相応の罰を受けたのか気になって聞いた光國だが、真由美が少しだけ言いづらい表情を取ったので、退学ではないと理解して聞くのをやめた。

 

「なにが望みですか…」

 

光國は襲ってきた剣術部員を殴り倒そうと思えば、殴り倒せた。

しかし、それはしなかった。

 

「とりあえず、告訴しますね…示談は受け付けますし、有能な弁護士をつけても良いですけど…証拠の提示は頼むぞ、達也」

 

「…」

 

達也の胸ポケットにはレコーダーが入っている。

風紀委員が取り締まる際に、相手の魔法使用の現場を録画する為につけられている。

それを提出すれば、どんな敏腕弁護士でもお手上げで、有罪判定をくだすことが出来る。

 

「告訴の事を伝えてくださいね…でないと、暴れますので。

あぁ、示談金の額はちゃんと相談しますよ…魔法師という事だけで儲けてるんで根刮ぎ搾り取ります…大丈夫です、金がないなら将来払って貰いますから」

 

「最初からそれが目的か…」

 

光國の目的の一つ、と言っても成功しようが失敗しようがどうだっていい目的、示談金。

蛙の子は蛙の様に、魔法師の子は魔法師で、この学校にいる大抵の生徒の保護者は魔法師か、魔法師関係のものが多い。一家で魔法師の才能持ってるの自分だけと言うのは一握りぐらい。

最初に親から老後の貯金を全額頂き、剣術部員がちゃんと職についてから実家暮らしの借金スタート、貧乏に苦しめと言う最低最悪の生き地獄を光國は企んでいた。

しかし、光國にとっては本当にその辺はどうでもよかった。出来たら良いなと言うレベルで本当の目的は、被害者になり学校側の逃げ道を封じることが目的だった。

 

「…餅は餅屋に任せるのが一番だし、弁護士挟むのでその辺はどうでも良い。

だから、話題を変えましょう…十文字会頭はあの時、場に居ませんでしたがオレは会長達に2000年以降の学校になんの価値や意味があるかと言う質問をしました…答えが出ましたか?」

 

自分で作った空気を自分で壊しにいく光國。

嘗て聞かれた質問の答えを答えることが出来ない七草達。はじめて聞いた十文字は考えるが、光國は時間を与えない。

 

「これは答えが複数以上ある問題ですが、正しい答えならば納得させる事の出来る答えです」

 

「ならば、お前には納得のいく答えがあるのか?」

 

「ええ…ですが、あくまでも自分で納得のいく答えですのでご注意を。

2000年以降の学校にはなんの価値や意味なんですが…オレは人間力を鍛える為にあると思う」

 

空気を変えるべく、一先ずは耳を傾ける達也達。

上手く乗ってくれたと安堵しつつも、光國は話をする。

 

「渡辺風紀委員長、七草会長…達也は二科生ですが実際に見てどうでしたか?」

 

「どう、と言われても…」

 

「あ、答えにくいならば深雪を呼んで良いですよ?

ブラコンと言っても特に問題ないぐらい達也を愛していますし、褒め称える所を教えてと言えば喜んで教えてくれますから」

 

「待て、お前はなにが言いたい?」

 

深雪を出された事により、口を挟んだ達也。

光國の言いたいことは分からないが、深雪を出されたのならば黙ってはいられない。

 

「分かった、そう怒るな。

お前が一番分かりやすいから選んだだけだ…」

 

一歩前に出ると素直におとなしくなる光國。

たまたま良い一例がいるので達也を選んだだけだが、深雪を話題に出して喧嘩や面倒なことになるのならば引くのを選ぶ。

 

「違う人で言い換えるから許せ…渡辺風紀委員長、十文字会頭、七草会長…貴方達の持つ力や知恵は学生レベルでしょうか?リーナも深雪も学生レベルか?あの森崎も多分、一芸では学生レベルじゃないだろう、いや、違う。他にもオレが知らないだけで学生レベルじゃない魔法科高校に通っている生徒がいるはずだ」

 

「手塚くん、なにが言いたいの?」

 

「義務教育を受けている生徒の中には、普通科の大学生顔負けの知識を持つ子もいる。

世に言う英才教育を受けていて、塾にいっている。普通の学習塾だけじゃなくインターネットを介した塾みたいなのがある。

昔は学校は勉強をするところだったかもしれないが、2000年以降は色々な環境が整備されて学校にいかなくても勉強は出来ることが証明された。

じゃあ、なんで今でも学校に通わないといけないのか、過去にインターネットを介して超有能な講師が教えた授業を録画したものを流せば良いんじゃないかとオレも昔は考えた。だって、学校に行くのが面倒だし、担任がハズレだったし、大体の勉強は分かってたから!朝はキツいんだ!」

 

徐々に徐々に興奮をしていく光國。

私情が混ざっているが、一理あった。

 

「今でも学校に通う意味は学習するよりも人間力を鍛える為にあるとオレは思っている。

学生の範疇を越えている生徒もそればかりはどんな英才教育を受けても鍛えることは出来ない、と思う…素で人間力が高い奴は多いけども…正直、達也や深雪、それにリーナも、こんなん言われんでも分かっとるわと思とる授業は多いやろ?てか、二科生は基本的に教師無しやから、学習させるというのを放棄してる。もっと言えば、全校生徒の人間力を高めることもだ。オレは魔法師が人間だ人間じゃないかと言う議論はどうでもいい、人間力が問題だ。」

 

深雪も達也も、かなりと言うか物凄く良い教育を受けている。

七草真由美も十文字克人も物凄く良い教育を受けている、市原鈴音と渡辺摩利もそれなりの教育を受けて尚且つ自力で勉強をしている。

光國の言っていることを成る程と頷くしかない。否定することは出来ない、彼女達の持つ能力の殆どが学校外で得たものばかりなのだから。

 

「っと、オレは帰らせて貰うわ…なんかスッキリした…」

 

言いたいことが言えて、心が少しだけ晴れた光國。

これ以上はここにいてもなにもないと席を立ち上がった。

 

「とりあえず言えることは、達也を風紀委員に選んで活躍させてもただのブームで終わるだけなのと…人間力を鍛える授業かなにかを取り組むことが先決…真の敵はいったい誰なんだろうな…」

 

最後に達也のイメージ対策の無意味さと真の敵について語り、部活連本部を出ようとドアを開ける光國。

 

「あ…」

 

そこには満面の笑みのリーナと、何故か自分に顔を向けない深雪がいた。

 

「光國?」

 

「…」

 

リーナは信じていた、光國ならどうにかすると。

今までも大体そんな感じでやって来たから絶対の信頼を得ていた。信じてしまった結果がこの様だ。

自らを犠牲にすることにより、魔法科高校を相手にすると言う馬鹿でしかない事をした…故に史上稀に見る、深雪でも中々に無いレベルの怒りを見せていた。

 

「…ちょ、はなしあ」

 

話し合いを求めるが既に手遅れだった。

深雪が前に出て、部活連本部に入りドアを無言でしめた。

 

「手塚さんのいう人間力を鍛えるなにかを取り組むことは私も賛成です。

特に今回の様な違反者を取り締まり、なんらかの罰を与える際にただの停学では反省もなにもしません。ここは大胆に寺に叩き込み、心を鍛える事を勧めます!」

 

「寺…深雪、まさか師匠のところに…」

 

「九重先生も、たまにはお坊さんらしい事をしないといけません…」

 

「ほぅ、忍術使いと名高いあの九重八雲か…確か達也くんの体術の師匠だったな」

 

「ええ…」

 

最早、手塚とリーナの存在は頭から抹消された。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

リーナの体力が50減った。

 

光國の体力が50減った。

 

リーナと光國の体力最大値が3上昇した。

 

光國のパワーが上がった。

 

光國のスタミナが上がった。

 

光國のテクニックが上がった。

 

光國のスピードが上がった。

 

光國のメンタルが上がった。

 

リーナが糸色輪を手に入れた。

 

リーナが回復○を手に入れた。

 

リーナは注射(ぶき)を装備

 

リーナは光國に攻撃。

 

光國はリーナの攻撃をくらった、光國の体力は30回復した。

 

リーナは光國に男か女かを聞いた。

 

光國はリーナが元気で良いなら一番だと答えた。

 

リーナの理性が崩壊した。

 

光國は黄泉比良坂の列に並んだ。

 

光國は黄泉比良坂から帰って来た。

 

光國の弾道は上がったけど、野球の弾道なので無駄だった!

 

光國は寝ているリーナの大きさを測った。

 

リーナは実は寝たふりをしていた。

 

リーナの病みが3000000000上がった。

 

リーナは寝た光國に髪の毛を食べさせた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なぁ、アレって」

 

「手塚くんがわざと殴られたのを分かった途端に買いにいったわ…専用のがどうあがいてもZ指定だからペットショップの物で妥協してたけど、電撃が走るのが欲しいって、どうにかして改造できないかって」

 

「そんな事をしたら手塚さんが死んじゃいます」

 

リーナを裏切ってしまったと言うか逆鱗に触れてしまった光國。

何時かやるんじゃないかと思っていたのだが、遂に首輪をつけられた。比喩とかじゃなく、正真正銘の首輪であり、エリカ達はこそこそと話をしていた。

本当は頭に巻いている包帯や打撲の痕に注目すべきだが、首輪の方がインパクトがデカかった。

登校中もリーナに首輪の紐を持たれており、全校生徒に見られていたが、昨日の事があるのでなにも言わなかった。

 

「どうしよう…このまま一年間あの状態だったら」

 

「つってもな…手塚、なんか近寄りにくいんだよな。

レオで良いって言ってるのに西城って呼ぶし…こう、なんと言うか距離感がある」

 

「あると言うよりは、手塚さんが自分で作っているんだと思います…」

 

こういう時に達也がいれば良いのだが残念ながらいない。

どうしたものかと真剣に話し合っていると、教室のドアが開いた。

 

「手塚くん、居るかしら?」

 

ドアを開いたのは昨日、騒動を起こした一人である壬生沙耶香だった。

彼女自身は魔法の使用はしておらず、危うく斬られそうになっただけで剣術部員と部活動のデモンストレーションそっちのけで勝負したことを怒られて終わっており、罰らしい罰は特にはなかった。

 

「なにか用でしょうか?」

 

席を立ち上がった光國。

教室にいた生徒達が見守っている最中、壬生と一緒に何処かにいった。

 

「お、おい…」

 

「これって、バレたらまずいんじゃ…」

 

「と、とにかく追いかけてみようよ!」

 

美人の誘いをホイホイと乗った光國。

これはリーナに通報しなければならないのだが、通報すれば最後世界が崩壊しそうな気がする三人は一先ずは後をつけると体育館裏と言うなんとも良い感じの場所にやって来た。

 

「あ、壬生先輩が頭を下げてる…」

 

「手塚は…相変わらずの無表情、てかマスクのせいで分からねえな」

 

「お礼、じゃないかな?」

 

本当に野暮な事をしている三人。

ある程度の会話が進むと光國はポケットから指輪を取りだして右手の人差し指につける。

 

「っ、想子(サイオン)!?手塚さん、まさか」

 

「お、おいまずいぞ!手塚、魔法を」

 

微弱ながら想子を感じ取った三人は慌てる。

魔法を人に向けた事を散々言っていたあの手塚がまさかの人に向けようとしている。

体が考えるよりも先に動く三人は直ぐに壬生を助けようとするのだが遅かった…

 

「壬生先輩、頭を冷やしてください…戦う相手を見誤るのは冤罪よりもダメですよ」

 

体育館裏にあった蛇口の水を壬生にぶつけた。

 

「手塚、なにしてるんだよ!!」

 

魔法で水を操り、ぶっかけたことが分かると光國の胸ぐらを掴むレオ。

こんな事をするやつじゃないと信じていたが、今まで起きた事と違い未遂で終わらなかった。

壬生に魔法で攻撃をしてしまった。

 

「手塚さん、どうしてそんなことを…」

 

「壬生先輩、怪我はありませんか?」

 

「…ええ…ううん、違うわ。」

 

「っ、手塚くん!!」

 

「待って!」

 

壬生の変わった様子を見て警棒型のCADを取り出したエリカ。

なにかしたと思い光國に向けるのだが、壬生が警棒型のCADを握った。

 

「…反省した、ううん、違うわ。

なんて言えば良いのかしら…今まで心にあったモヤが無くなってスッキリしたわ…手塚くん、ありがとう」

 

「いや、礼を言うにはまだ早い…オレ達は上の存在こと十文字会頭、渡辺風紀委員長、七草会長とは違い、二つと戦わないといけないんだ…」

 

心なしか、スッキリした表情の壬生だが代わりにマスク越しでも険しい顔をしているのが分かる光國。とりあえず、レオに掴まれている胸ぐらをはずす。

 

「なにをやっていたんですか?」

 

「非魔法部活で結託して別組織を作るから協力してくれと言ってきた。

だが、そんな事をしても無駄だと言い争ってしまってな…少々手荒だが、頭を冷やして貰った…日頃、一科生の二科生差別や魔法絶対優先は認めているがそれが原因で魔法以外の行為を評価されないのがかなりのストレスになっていたようだ…これは下手したら来年の西城達かもしれないな」

 

「「「っ!!」」」

 

「手塚くん、そんな事を言っちゃだめよ…私の心が弱いから…思えば、一年前のことも勘違いで」

 

光國がなにをしていたかを説明をすると納得をした三人だが、最後の言葉にビクッとした。

達也と関わる以上は深雪がついてくる。深雪がついてくると言うことは一科生達に見られる事が多く、二科生の分際でと言う視線を結構向けられていた。

もしこのままそんな日々が続けば、もしかすると壬生の様になってしまうのではと焦りを感じた三人。

 

「…正直に答えてくれ…森崎と友達になれるか?」

 

「無理だ」「無理ね」「無理です」

 

「速答だな…」

 

最早、レオ達の森崎への好感度はマイナス方面にカンストしている。

ならばと光國は口を開く。

 

「七草バ会長は、一科生と二科生の溝をどうにかしようと頑張っている。

その結果の一つが達也だが…ハッキリと言ってそれは無駄だと思う。あ、達也はなにも悪くないぞ…そもそもの話で無駄なんだ」

 

最早、敬意を持つ必要はない。

 

「成果主義で、しかも貴族みたいな存在がいるのが魔法師だ。

更にはここは学校で一学年にはかなりの数の生徒がいる…十人十色と言う諺があるように、人には個性が色々とある。

源氏と平氏、S極とN極、伊賀と甲賀、カブトムシとクワガタ、巨乳と貧乳からの乳と尻、そしてきのことたけのこの様に合わないのもいれば、ツナとマヨネーズ、ボケとツッコミと言う異なる存在が仲良くなる一例もある…仲良くしましょうと言うのが無駄なんじゃないのか?あの人達は完全に立ってるステージが違うからああいう事が言えるのだと思う。」

 

「まぁ、うん…そうよね…」

 

そこは言わないのがお約束だが、このバカには通用はしなかった。

それを今さら言うのかと若干引いてしまっている壬生、さっきまで出来ていた緊迫した空気がぶち壊れた。

 

「一つだけ、一つだけだが、一科生と二科生の意識改革なんかを一気に解決できる禁断の手が存在する……」

 

「え、そんな便利な方法があるんですか?」

 

「あるにはある…だが、後一人、後一人、足りない。」

 

「達也じゃダメなのか?」

 

「達也を含めて、後一人足りない…二科生の生徒で、西城達の様にある部分では一科生にを負けない奴がいる…実質数合わせの達也に頑張って貰うか…」

 

「…それなら、それなら私に心当たりがあるわ!」

 

その禁断の手の内容を聞く前に、禁断の手を取ろうとするエリカ達一年。

 

「…失敗すれば、大損どころか三年間負け犬の烙印をはられる事になるぞ」

 

光國は最初で最後の忠告をする。

 

「いったい、いったいなにをするって言うの?」

 

「……をする、オレ達が……だ。」

 

恐る恐る聞いた壬生に答えると、四人は顔を青くした。



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争いはまた争いの種を残す

「最後の一人、連れてきたわよ!」

 

「だから、離してくれ!」

 

一先ずはなにをするか話すと、話に乗った壬生達。

本日のカリキュラムを終えて体育館裏へと集まったのだが、エリカと光國が遅刻で先にエリカが男子の二科生を連れてきた、ほぼ無理矢理でだ。

 

「あれ、お前って確か…」

 

エリカが連れてきたぱっとしない中性的な顔の二科生に心当たりがあるレオ。

美月も何処かで見たようなと言う顔をするが、ハッキリと言えない。

 

「…吉田幹比古、君達と同じクラスだ」

 

「ミキったら、友達を作ろうとしてないから顔を覚えられてないのよ…」

 

「ミキじゃない、幹比古だ!

と言うか、僕にいったいなんの用なんだ?」

 

無理矢理連れてこられた事により不機嫌な幹比古。

エリカは一切の説明をせずに連れてきたようで、その辺は光國に押し付けようとしていた。

 

「って、あれ…手塚くんは?」

 

「彼なら遅刻よ…一番、無いと思ったのだけれど…」

 

「えっと、貴方は?」

 

「私は壬生、壬生沙耶香、貴方と同じ二科生よ」

 

一番、遅刻しなさそうな光國が遅刻してる間に軽く自己紹介を済ませる壬生達。

エリカが無理矢理連れてきたが、一先ずは仲良くなれそうな雰囲気を出しており、幹比古が連れてこられた理由は光國が説明をすると言い待つエリカ達

 

「あ、来まし…」

 

「おーい、てづ…」

 

「遅かったじゃ…」

 

美月、レオ、エリカの順で光國に気付いたのだが別のことにも気付いた。

光國の首輪の紐が浮いている。

 

「すまない、遅れてしまった。

…確かお前は吉田幹比古だったな、手塚光國だ…大方、千葉に無理矢理連れてこられたと言うところだろう、ちゃんと説明をしよう」

 

「確かに説明もして貰いたいが、その…」

 

「…あ、別に良いわよ」

 

「よくないよ!」

 

首輪の紐を握り、直ぐ側を歩いているリーナ。

油断すると光國がなにをするのかわからないので、首輪(物理)をしたのだが初日から使うとは思っていなかった。

自分に気にせずに話して良いと上の口は緩かったり固かったりするが、下の口はすごいリーナ。

 

「吉田くん、これはHなのじゃないです」

 

「どう見てもそう見えるだろう…じゃなくて!」

 

「ミキのむっつりすけべ!」

 

「ちょっと、距離を置きましょう」

 

「どんまい、幹比古!」

 

事情を大体知っている四人はエロい事を妄想したヨシヒコと一歩距離を置いた。

ヨシヒコは友情を3失った。

 

「いや、ある意味リーナもここから重要になってくる…が、その前にだ」

 

幹比古に説明をしようとするが、その前にやる事が出来た。

光國はダイスサーベルを取り出して軽く数回素振りをする。

 

「それは?」

 

「古式魔法の武装型CAD的なものだ。

オレは本当なら魔法科高校に通わない方が良いレベルなんだが、九島の持つこのCADはオレしか適合しない代物で、常に不安定で大抵の審査にも引っ掛かる、軍隊的には良いものだが、学校的には迷惑なものだ」

 

「手塚、君も古式魔法の使い手だったのかい!?」

 

全くといってそんな素振りを見せることは無かった光國。

ヨシヒコは古式魔法師だと知ると驚き、親近感を持ち、持っているダイスサーベルに目がいくのだが

 

「やめなさい、それ以上は…九島に関わることよ」

 

リーナが止めた。

光國か、ヨシヒコかどちらに言ったかは分からないが九島の名を出すのは相当なことだ。

しかしリーナにとっては九島はどうでも良い。古式魔法の事を言ったのもどうでも良い、ただただ光國に辛い思いをして欲しくなかった、ただそれだけだ。

尚人工魔法師だとは絶対に教えるなとは釘を刺されているが、古式魔法師と言う設定は九島的にはありで、実際にいにしえの魔法使いなので間違いない。

 

「さて、まぁ、とりあえずだ」

 

後ろを振り向く光國。

特に魔法らしい魔法を発動する素振りをせず、体育館裏の曲がり角に向かってダイスサーベルを投げて地面に突き刺す。

 

「あのCAD、武器の部分が中々の業物ね」

 

「それもあるけど、単純に手塚くんの力で地面に刺しているわね」

 

「…出てこい、もうリーナとオレは気づいている。」

 

そこちゃうやろと言いたいが、言葉を飲んだ光國は曲がり角を利用して隠れている人に言う。

 

「イチハラ、だったわね…」

 

光國の要求を飲んで出てきたのは生徒会の市原だった。

七草真由美と司波深雪のイメージが強すぎるが故に若干だがリーナは名前は忘れかけていた。

 

「オレがこれ以上なにかやらかさん為の監視か?」

 

市原が出てきたのでダイスサーベルを拾いにいくついでに距離を縮める光國は聞いた。

この後、本来の道筋で起きるイベントは二科生達が放送室を占拠して会長と討論からのテロリストに襲われるぐらい。しかしそれまでの間にそこそこのイベントがあるぐらいであり、特に気にする事件は起きない。いや、テロリストに襲われてる時点でダメだが。

しかし自分と言う異質な存在が本来の道筋を壊しており、既に色々と追い込まれている第一高校。ここで更なる一手は魔法科高校の劣等生お知らせの瞬間とも言える。

 

「はい」

 

市原はそれなりに忙しかったのだがバ会長に命じられて、光國がちゃんと自宅に帰宅するまで監視をしてほしいとの無茶ぶりが来た。

そう言うのは七草真由美の犬(パシリ)の副会長にでも頼んでもらいたいのだが、一科生と二科生関連で既にやらかしており、その辺を言及されればまずいのでカッとならない冷静な貴女にと言われて渋々引き受けたがバレた。

しかし特に驚く事はなく、冷静の彼女。バレるのは分かっていたのだから驚く必要はない。

 

「っ!」

 

「落ち着いてください、壬生先輩」

 

自分達がこれからなにかやろうとしている事を知られたと焦る壬生だが光國に心配をされる。

ただでさえ老け顔の光國が言うもんだから、どっちが先輩なのか分からない。

 

「オレ達は一科生と二科生の溝をオレ達なりに埋める、ただそれだけです。

七草バ会長達は勝ち組のエリート街道まっしぐらな住人、二科生からすれば、なにを言っても嫌味にしか聞こえず更には下の立場を味わった事のない人です…無理やと思うで」

 

「…彼についてどうお考えで?」

 

バ会長は無視し、バ会長が溝を埋めるためと個人的な趣味で入れた達也。

少しずつ認められており彼ならばと市原も感じている。光國はそんなのを無駄だと昨日否定した。

 

「達也自身はなにも悪くはない。

アイツは魔法力が低いのを認めて、別の部分を鍛えている…けど、生徒が認めてくれても、学校側がある程度の評価をしてくれないんじゃ、話にならんわ」

 

達也はとにもかくにも学校側が用意した実技の授業がダメだ。

ヨシヒコや光國は絡まないが、知っている。レオ達はそれを詳しく知っていて、お兄様本人も実技だけはダメだが実戦とかなら別だ的な事を言っている。さすおにの方もそんな感じの事をいっている。

しかしそれがどうしたと言うのが今のところの学校側で、本来の道筋では来年からお兄様の功績のお陰で技術系の科が出来る。

 

「魔法師としてのランクは魔法の力かそれとも戦闘力か、国が魔法求めてるんか兵器求めてるんか。

もし達也がこのまま功績を作り上げて、その辺を認めてくれるんやったら万々歳や。

けどまぁ、深雪やバ会長達は気付いているのか無意識なのかは知らんけども国の方針に逆らっとるわけで、今の今までやっていた測定は間違いでしたと達也で証明しようとしてる地味に面倒なことで、達也はどちらかと言うと」

 

「え、ちょっと待って!?」

 

普段通りの事をするだけで魔法師のランクの決め方を、国のやり方を変えるなんて流石ですお兄様。

 

「そんな、そんな危険な橋を彼は歩いているの?」

 

達也の立ち位置を知って驚愕する壬生。

危険な橋どころかゴールが見えない、下手したら誰かに斬られるかもしれない綱を使った綱渡りを達也はしている。その綱で達也は歩くのではなく、走っている。

 

「危険どころの話ちゃうわ。

達也が活躍するだけで、一校だけじゃなく、九校全てに影響がある。

もしかしたら、うちにも学校側が評価出来ないだけで、自分達の個人的な見解をすれば物凄く高評価を出来る生徒が居るんじゃって、それで出て来て優秀な奴等がそいつを押して成果をあげれば学校側は大迷惑…っと、これ以上はやめておくか。

達也に関しては認められればよかったなとしか言えない…なにせ活躍しているのが達也だけなんだから、他の二科生が活躍しないと」

 

「それならば、貴方が風紀委員に入れば良かったのでは?」

 

「それはパス。

面倒なんもあるけど、それで出来んは一科生と二科生の溝を埋める事だけや」

 

「…?

それならば、尚更の事、入れば良かったのでは?」

 

一科生と二科生の溝を埋めるべく、真由美も光國も動いている。

互いに利害が一致しているならば協力すれば良いだけで、光國が風紀委員に入れば良かっただけの話だ。

 

「一科生と二科生の溝を埋めるだけで…本当の敵とも言える学校側をどうにも出来ひん。

オレ達が入学する前から溝はあったのに、知らんぷり決め込んどる学校側をどないかせんと意味ないわ、オレ達二科生の敵は森崎の様に傲慢な一科生とそれを良しとする学校や」

 

「…」

 

市原は三年生だ。

故に去年と一昨年もこの第一高校におり、知っている。

一科生と二科生の露骨な差別や、部活動勧誘期間の間に魔法による問題や軽い乱闘事件があったのを。それら全てが今の今まで誤魔化されているのを。

 

「確かに手塚の言うとおりだが…それと僕の関係を、僕が呼ばれた理由を教えてくれないか?」

 

「………をしようと思っている。

成功すれば森崎の様に傲慢な一科生の鼻を叩き折れる。学校側も騙るしかない。自分は二科生だと諦めている二科生の…二科生の…二科生の…」

 

「光國?」

 

「希望に、なれ…と、とにかくそれには吉田、お前の力が必要だ」

 

これを言うのはもう一人の方じゃないかと、希望の魔法使いじゃない古の魔法使いの自分が言って良いのかと光國は一瞬だけ考えて言い切れなかった。

 

「確かにそれなら、解決できるし永続的に続けることが出来る。

だが…昔は神童と言われた、昔の僕なら力になれた、けど今の僕は二科生だ…」

 

落ちて二科生になってから色々と思うこともあり、光國のやろうとしている事には賛成だったヨシヒコだが、貸せるほどの力を持っていない。

 

「因みにだがその前に…をする。

火の無い所に煙はたたないのならば、火を起こすためにガソリンをぶちまけて世間の風で扇いで炎にする」

 

「なっ!」

 

「待って、光國!

それは流石にやり過ぎよ!そんな事をすれば…ただでさえうるさい反魔法師の団体が、いえ、それだけじゃない…魔法師も敵に」

 

「リーナ…ヨシヒコ、それに市原先輩も…ここにいるのはそれを覚悟の上で、それをするって分かって話に乗ったんだ」

 

開幕の火を起こす事を知ると止めに入ったリーナ。

光國達がやろうとしている事は、余りにも危険すぎる。世間どころか魔法師も敵にする。

 

「今すぐに考え直しなさい。

もし、失敗すれば最後、三年間負け犬の烙印押されて…」

 

「馬鹿を言ってもらったら困る。

活躍を出来る場を貰っている達也を除けば全員、三年間負け犬の烙印を押されているも同然だ…正当な評価なんてものはオレは求めない。不平等でも良い、だけど二科生が活躍を出来る場をオレは求める」

 

本当に本当に無謀なことで市原も止めるも、光國達は止まらない。

一度回り始めた水車は水が無くなるまでは止まらず、水はなくなることはない。

ならば、回る水車を利用するしかない。

 

「決行は明日だ…」



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魔法科高校の劣等生だけどなにか質問ある?

次の日の放課後、一番最初にしなければならない事を決行する為、全員が直ぐに家に帰って私服に着替えて集まった。

 

「吉田、感謝をする」

 

「頭を下げないでくれ…僕も、僕自身の気持ちで来たんだ。

エリカ達は全員覚悟を決めてその上で僕を頼ったんだ…僕もやるよ。それと、幹比古だ」

 

「間をとってヨシヒコだ」

 

「いや、むしろ間を取ってるよ!だとみときを取ってるよ!」

 

ヨシヒコの勧誘が曖昧なまま話が続き、集合場所を教えると来てくれたヨシヒコ。

一先ずは人数の問題を解決することが出来て一先ずはホッとするのだが、やっと人数の問題を解決することが出来ただけで、スタートラインにすら立てていない。

 

「…何故いる?」

 

ヨシヒコが来てくれた事を喜ぶ光國達。

しかし何故か市原も来ており、何故ここにいるのか聞いた。

 

「オレ達がなにかをしようとしてるのを、七草会長に報告したんじゃ…」

 

「いえ、手塚くんの監視です…バ会長にはまだ報告してません」

 

周りに生徒会や風紀委員が居ないか確認をするレオ。

ここには独断で来たと遠回しに教えてくれる市原。

 

「…なんの真似ですか?私達は、説得されませんし話し合いには応じませんよ」

 

「千葉さん、そんなに睨むのは…」

 

ここで市原がどう動くかで自分達の命運がわかれる光國達。

エリカは敵ならばと敵意を向けて睨むのだが、壬生が宥める。

 

「あれ、そう言えばリーナさんは?」

 

「…リーナも腹を括ったよ」

 

何故かここにはいないリーナ。

光國の隣に当たり前の如く立っているのに居ないことに気付いた美月は何処かと探す。

しかし、何処にもいない。光國もこの場にいないと言う。

 

「リーナと深雪は絶対に選ばれる。

七草バ会長とゴリラ会頭と脳筋風紀委員長は抑えれるから、選ばれるのは確実だ。

家を出る最後の最後までダメだって本気で泣いたけど、リーナが勝ったらなんでもするから行かせてくれと言ったんだが…なにをさせられるんだろう」

 

既にCまでいっている光國とリーナ。

これ以上はいったいなにを要求されるのか分からない。しかし、リーナなのでエロ関係かデートなので光國的には特に問題ない。

 

「達也の参加も深雪が勝ったら達也がなんでもすると言わせればよしとして…なんで来たんだ?」

 

本当に来た理由が分からない光國。

市原は今からなにをするか知っているので、さっさと会長に報告するか取り抑えないといけない。

しかし、止めようとしない。通報もしない。じゃあなにをしに来たんだと思う。

 

「…会長の思いは知っています。

一科生と二科生の溝を埋めるためと頑張り、その結果が達也くんです…が」

 

「それだけじゃアカンって感じてきたんか?」

 

コクりと頷いた市原。

達也だけじゃどうにもならないと薄々感じてしまった。彼は例外だと感じてしまった。

光國達がやろうとしていることもリスクを除けば、ありだなと思ってしまった。

 

「そう思うんやったら手を貸してくれ…さぁ、油断せずにいくぞ!」

 

「おう!」「ええ!」「はい!」「ああ!」「いくわよ!」

 

「…」

 

光國を先頭に、レオ、エリカ、美月、ヨシヒコ、壬生の順番で店に入っていく。

市原は「そう言えばここって」と集合場所の直ぐ前にある店を見る。

 

「すみません新規なんですけど。

会員登録を…えっと、禁煙の…あ、マッサージチェア空いてないんですか…」

 

情報端末を持って当たり前の御時世に、電子書籍が当たり前の御時世にも今尚生き残っている漫画喫茶、もしくはネットカフェと呼ぶべき場所だった。

 

「市原先輩、フルフラットとリクライニングしか空いてないんですけど、どっちが良いですか?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

0001 テニスの王子様

 

国立魔法大学付属高校の二科生だけど、なにか質問あるかい?

 

 

0002 ワンフラワー

 

劣等生乙

 

0003 サウザントリーフ

 

確かウィードと言われているやつね…え、こんな時間帯にこんなとこって、暇人なの?

 

0004 テニスの王子様

 

アーン、庶民と戯れるのも上に立つものの役目だろう。

 

  //⌒ヽ/⌒\ \

 / / /⌒Y⌒ヽ ヽ ヽ

/∠/|゙゙゙゙゙゙゙||| |

7/||    ||ヽ_>

幺ノ|/\  /|ノ\_>

∠彳人●ヽ /●フ レヘ从

 ヒ|・ ̄ |   ̄ |ノ/

  ∧  |_   /イ(

  )∧ ー―― ∧(

  /レ\  ̄ /ソ \

 <  ヽ)ー-′|  >

`/\ |   / /\

  |\ヽ  / // /

   |ヽ /イ / /

   | \ヽ/// |

   ヽ \/ /  |

 

 

0005 ビューティフルムーン

 

よろしくお願いします。

 

 

0006 イーストライオン

 

>>テニスの王子様

いや、庶民って何時の時代の話だよ!

 

 

0007 勇者ヨシヒコ

 

いや、案外間違いなくもないよ

 

0008 ★&G

 

>>勇者ヨシヒコ

確か魔法師と普通の人じゃ平均年収が全然違うのよね。

 

0009 新撰組ガール

 

 

【悲報】テニスの王子様に年収で敗北。

 

 

0010 テニスの王子様

 

今日は俺様が直々に魔法師がなんたるかを教えてやる!

 

0011 ワンフラワー

 

ウィードなのにどや顔とは…

 

0012 ビューティフルムーン

 

>>テニスの王子様

あの、私の周りには魔法師になれる人とか居ないので詳しく教えてください。

 

0013 ★&G

 

余り関わらない方が良いと思うわよ…魔法師って、なんかウザいの多いし。

 

0014 イーストライオン

 

魔法科高校って実際のところどうなんだ?

 

0015 サウザントリーフ

 

>>イーストライオン

 

去年、親戚で中学校の教師をしてるおじさんボヤいてたわ。

あんなところに行く奴は皆、狂ってるって…

 

0016 勇者ヨシヒコ

 

>>サウザントリーフ

反魔法師団体かなにかの人?

 

0017 サウザントリーフ

 

教育者目線でアウトだって…成果主義の学校で、普通の学校行事は無し。

卒業生は魔法大学にいったり、防衛大にいったりして将来の仕事は軍事関係の仕事とか怪しい人体実験とかで…おじさんの髪が心配だわ

 

 

0018 新撰組ガール

 

ハゲか…

 

0019 勇者ヨシヒコ

 

ハゲか…

 

0020 イーストライオン

 

ハゲか…

 

0021 ビューティフルムーン

 

ハゲか…

 

0023 ★&G

 

ハゲか…

 

0024 ワンフラワー

 

ハゲか…

 

0025 テニスの王子様

 

お前達、ハゲってのは不治の病の一つなんだ!

それこそ魔法が当たり前で薬学の神様が居た時代でも問題視されていて、不老不死の薬と毛生え薬は人類の夢なんだ!バカにするんじゃねえ!毛生え薬>不老不死だからな

 

 

 

     ζ

  / ̄ ̄ ̄ ̄\

  /      \

 ////  \ / |

 L川  (・) (・)|

(6-―――◯⌒◯-|

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  \ / \_/ /

   \____/

 

 

 

 

0026 ワンフラワー

 

>テニスの王子様

髪の毛っていったい…

 

0027 ビューティフルムーン

 

>ワンフラワー

 

女の命です。

 

0028 イーストライオン

 

>>テニスの王子様

 

質問でーす、魔法科高校ってどんな感じなんですか?

 

0029 テニスの王子様

 

>>イーストライオン

 

大雑把にも程があるだろう、もっと具体的な事を質問しろ

 

0030 ビューティフルムーン

 

>>テニスの王子様

 

じゃあ、具体的にどんな授業をしてるか教えてください。

 

0031 テニスの王子様

 

>>ビューティフルムーン

 

魔法の理論や、対象物に向けて魔法を使って如何に早い数値を出すかしている。

魔法に関する設備は勿論のこと、国立で日本に九つしかないだけに、学校自体がとんでもねえ広さで、レモン何個分かいずれは調べてみようと思う。

 

0032 勇者ヨシヒコ

 

>> テニスの王子様

レモンの個数はビタミンCとかに使うんじゃ

 

0033 サウザントリーフ

 

>> 勇者ヨシヒコ

細かい事を気にしてるんじゃない。

>> テニスの王子様

質問でーす、魔法科高校のテストってどんな感じなんですか?

 

0034 テニスの王子様

 

>>サウザントリーフ

 

実技と筆記に分かれているが…ハッキリと言って、実技に問題ありだ。

 

0035 新撰組ガール

 

どういう意味?

 

0036 テニスの王子様

 

今のところ、魔法は人殺しの道具でしかないってことだよ。

魔法師にとってはそれは頭を抱える問題で、今後どうにかしないといけない問題だがテストとそれは別で、如何にして優れた魔法が使えるかがテストで試されていて、実戦でのテストなんてのは存在しねえ。お陰でゴリラみたいな学生もいる。まぁ、それ以前の問題が多いがな

 

0037 ★&G

 

どういうこと?

 

0038 テニスの王子様

 

>>★&G

成果主義の学校で、成績優秀者が一科生、成績が悪い奴が二科生になって制服レベルで差別されるんだよ。学校単位のいじめだ。

 

0039 イーストライオン

 

うわ、マジかよ…

 

0040 ビューティフルムーン

 

>>テニスの王子様

制服レベルで差別って、学校側はどんな理由でそんな事を…

 

0041

 

>>ビューティフルムーン

知らねえよ、オレは教育者じゃなくて学生だぜ…てか、魔法科高校の教師自体、絶対的なまでに数が足りねえんだよ。補習を受けれるが、基本的に優秀な一科生に時間を割いてる。

 

0042 ワンフラワー

 

>> テニスの王子様

人数が足りないとはいえ、露骨ですね。授業の内容を生中継しないんですか?

 

0043 テニスの王子様

 

>> ワンフラワー

学校側が無能な奴等が多いんだ。それこそ、CADの検査をしてない。

驚いたぜ、教師とか何処かの軍人が見てるわけでもないのに殺傷ランクが高い魔法がCADに入っててよ…ガキみたいに振り回してやがった。エリート魔法師だから出来るってどやってた

 

0044 勇者ヨシヒコ

 

こわっ…エリート魔法師(笑)、こわっ

 

0045 新撰組ガール

 

でも、魔法師だって自覚があるから魔法師以外には注意してそうよね

逆に魔法師を化物扱いしている人達はそれを逆手にとって来そうだけれど。

 

0046 テニスの王子様

 

>>新撰組ガール

 

魔法師は脳筋が結構多くて、素のスペックもたけえよ。

確か、剣道の全国大会で二位だったやつも魔法師って話だ。後、なんかの世界一もだ。

 

0047 サウザントリーフ

 

>>テニスの王子様

 

あ、それ聞いたことある。「剣道小町」だ

 

0048 イーストライオン

 

>>サウザントリーフ

ばっ、お前、今どこでなにしてるか分かってんのか!?

 

0049 サウザントリーフ

 

あ…

 

0050 新撰組ガール

 

…今、剣道小町って検索したら普通に名前が出たわ。

でも、こういう人がいるんじゃ変な事をしてきそうに無いわね…

 

0051 テニスの王子様

 

>>新撰組ガール

 

いや、それも上手くはいかねえよ。

数日前から部活動勧誘期間になってるが、魔法の制限ゆるゆるで綺麗所にあの手この手と魔法を使って、しょっぴかれてやがる。相手も魔法師なら大変だ。

 

 

0052 勇者ヨシヒコ

 

ただでさえ精神的に問題がある魔法師の学校で教師が足りなすぎて学校としてなりたたないから…絶対、事件を隠蔽してるね。いじめもあるんじゃないかな?

 

0053 テニスの王子様

 

俺様が来て早々に、学校で禁止されている言葉があった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

司波深雪の朝は早い。

愛するお兄様の為に朝食を用意する、無論手作りだ。

 

「ふふ、リーナには良いことを聞きました…お兄様と私の愛の結晶…」

 

本日は洋食にしようとパンを手に取った深雪。

それはリーナと光國を真似て、一緒に作った食パンで、お兄様と深雪の共同製作であった。

それを愛の結晶と言い張るさすいも。

 

「は、いけません。

これは大事にしなければ…お昼のお弁当はサンドイッチ…あ、でも手塚さんは昨日、雑煮を…」

 

お昼のお弁当をどうするか考える深雪。

実は今、生徒会役員ではちょっとしたお弁当ブームで七草バ会長以外は手作りのお弁当を作っていた。しかし、手塚のインパクトを越える弁当は誰一人持ってこない。

蕎麦や雑煮は勿論のこと、やる夫のキャラ弁を作ったりと中々に勝てない。

 

「…あの人の場合は弁当箱から別次元ですね」

 

お兄様に美味しく食べていただくはずが、何時の間にか弁当勝負になってると冷静になった深雪は黙々と朝食を作りながら、弁当のメニューを考える。

 

「大変だ、深雪」

 

「お兄様、どうかしたのですか?」

 

「…急遽、休校になった…」

 

「そうですか…」

 

大きく慌てる素振りは見せないが、慌てている達也から知らせを受けた深雪。

遅かれ早かれ、何時かはこうなる運命だとは分かっていた。冷静になれない森なんとかくん、そして弁明の余地が無い桐原先輩、彼等は魔法師の信頼を落としてしまった。

しかし、思いの外、早かった。

 

「お兄様、私達が魔法科高校に在学している間に出来る限りの」

 

「それだけじゃない」

 

「!」

 

「…九校全てが休校になった…十二時から一高から九高全ての魔法科高校の偉いさんの会見がはじまる」

 

「待ってください、お兄様!

一高の記者会見ならまだしも、どうして他の高校も」

 

「これをみろ…」

 

「これは…」

 

「隠す気があるのか、アイツ等は…」

 

達也は深雪に見せた。

真の敵でもある学校の偉いさんを表に引きずり出すために光國達が書いたスレを。

若干の嘘が混じっていたりするものの、事実だらけであり、名前で達也は誰が誰だか見抜いた。

 

「いったいなにをするつもりだ、手塚…」

 

記者会見まで、残りわずか。



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戦わなければ生き残れない

「え~皆様、大変お待たせいたしました」

 

 

※フラッシュにご注意ください。

 

 

「ただいまより、緊急会見をはじめたいと思います」 

 

各TV局のカメラが、新聞社の記者が、週刊誌の記者が集まる中、遂にはじまる記者会見。

第一高校の百山東校長が何故この様な事にと汗をかきながら、頭を下げる。 

 

「え~まず、今回の一件のはじまりである、インターネットの●ちゃんねるでの書き込みですが」 

 

軽く自己紹介を画面の向こうに居る人達に済ませて、本題に入る。

魔法科高校関係の教育の偉いさんがマイクを手に取り 

 

「詳しく調査した結果、主に国立魔法大付属第一高校の事を書かれておりました」

 

早速、裏切った。と言うか売ったのである。

書き込みをした光國達は一高の生徒であり、一高の事しか詳しいことを知らない。

一科生と二科生の様なものを使っているのは一高、二高、三高、で三つであり花弁と雑草と呼んでいるのは一高だけで、三高は普通科と呼んでいるが、光國達にとってはどうでもよかった。ここまで騒いでくれるのが一番の目的だった。

 

「まず、国立魔法大付属第一、第二、第三のみ定員を200名としています。

この三つの魔法科高校のみ成績のよかったものと悪かったものに振り分けてクラス分けをおこなっております。

しかし、残りの第四から第九の高校は定員が100名であり、一科生と二科生の様な成績によってクラス分けをしておらず、教師の不足等もございません」

 

「不足 など とおっしゃりますが、危険な魔法を教師の居ない前でしていたと書き込みがあります!これは、無かったと仰るのですか!」 

 

「質問は後ほどとさせていただきます!」 

 

教師などが居ないところで勝手に危険な魔法の使用、例えそれが誰かに向けた物でなくても世間は騒ぐ、騒ぐ、とにかく騒ぐ。全力の質問は後ほど発言でそれはあったと認める。

光國達は基本的に第一高校の事を書き込んだ。それと同時に嘘も書き込んだ。ただし、その嘘が非常に厄介な嘘であり、他の魔法科高校でありえるかもしれない嘘だ。

教師の居ない場所で危険な魔法の使用は一高でもあったことだが、他の高校でも探せばありえる。

 

「第一高校の一科生と二科生の制服の違いがあり、学校側も差別をしているとありますが学校側はその様な事をしているわけではありません。生徒同士が競い合い高みを目指すべく競争心を煽るためで、その様な意図はございません。事実無根です。」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「百山校長を売る方向性か…」

 

「ジジイ、てめえ加重魔法をかけんな…重い」

 

一方その頃、光國達は記者会見を見ながら生の九島烈と会合をしていた。

なんでかとは言うまでもない、ここまで騒ぎを大きくしたのだから会わない方がおかしい。

と言うか、あのアカウントでバレない方がおかしい。

 

「てか、なんでオレはクソジジイと主従椅子をしなきゃならんねん」

 

主従椅子をしている光國は愚痴る。

主従椅子をしなければならないといけない程に、九島烈は今回の一件に怒っている。

 

「光國、ミユキ達への説明を言われた通りしたわよ」

 

「お、おぅ…」

 

「…閣下…その、流石にそう言った事をさせるのは」

 

「リーナ、なにも言うんやない…」

 

一先ず深雪達はリーナへ電話をすると予想した光國。

常にリーナの側に居るし、頭の良い達也ならば直ぐ様電話をするのだろうとリーナにカンペを渡したら、予想通り電話が来てなにが目的などを言った。

 

「何故、ここまで騒ぎを大きくした?」

 

「一科生と二科生の溝を埋めるため…後は、意識改革と言うなの先行投資や…おい、徐々に重さを上げんな!メシメシ言うてるぞ!」

 

リーナも来たので、本題に入る九島烈。

一科生と二科生に分かれて面白いと、なにかがある、なにかをするとは思ったが国中の魔法師にとって大迷惑な事をするとは思っていなかった。

加重魔法で重さを増やしながら、光國達の企みを聞いた。

 

「一科生と二科生の溝を埋めるためだけに、世間をここまで騒がせるのか…」

 

「当たり前やで…天下の第一高校をどうにかするのはこれしかないんや。

魔法科高校は学校じゃなくて国の主要機関とも言っても良い場所やねんぞ、分かっとるんか…あ、重さを増やすな200越えたぞ!」

 

「変えるとは言っているが、これで終わりかい?」

 

今、画面の向こうでは校長や関係者達の会見があり上手く言い逃れをしつつ百山校長に責任を押し付けている。

この会見である程度は第一高校の改善は出来るがそれまでであり、自分は魔法師だから偉いと勘違いをしている選民主義の魔法師達をどうにかすることは出来ていない。

この男がそれだけで終わるほど馬鹿じゃないのは、知っている。

 

「…かなり無謀な事をするんや。

第一高校の求めてるもの自体は余り間違っとらん…成績が良い=強いんは確かや…少し待ってたら、分かるからこれ以上は」

 

「ならば、何故余計な書き込みをした?」

 

●ちゃんねるを見ると、第一高校で起きた出来事に加えて起きてないが、限りなくありえそうで批難されていそうな事を書かれており、それで九校全てが休校になって会見をして居ると言うことはそう言うことが実際にあって誤魔化したと言うことだ。

第一高校で起きたことだけを書き込めば、第一高校だけを炎上させることは出来た筈だ。なのに余計な事を書き込んだ。

 

「意識改革の先行投資や…バカなガキみたいな事を言うたる…クソジジイ、あんたには友達がおるか?」

 

「友?」

 

「リーナに渡したカンペにも書いたけど、魔法師には一般人の友人がおらん。

これは、何気に魔法師達にとっては一番どうにかせんとアカン問題で、早い内にその辺の改革をどげんかせんといかん」

 

それは宮崎の方言ではと一瞬だけ思考停止するも、光國の言う一番どげんかせんといかん問題をなにか理解した九島烈は考える。

九島烈は魔法師は兵器としてしか利用されない事を問題だと考えており、それをどうにかしないと魔法師の才能を持っているだけで社会的地位が低かったり化物扱いされたりする。

 

「これから先、魔法師が一番真面目に考えないといけない問題は一般人との交流や。

ただでさえ世間は一般人は、魔法師に対して誤解を多く持っとるのに魔法師はなんもせえへん。知っとるか?遺伝子操作で生まれた人造人間やと思われとるねんぞ。あながち間違いちゃうけど…これから先、魔法師は社会に進出するならばコミュニケーションが、対話の心が必要なのはもう明確、新しい技術だなんだと作っても大衆が受け入れてくれんくなる。初の魔法師兼政治家を出すぐらいの頑張りせえへんと」

 

光國は魔法科高校の劣等生の序盤までしか知らない。

そこから先、かなりの巻数あるのを知っているが、内容を知らない。しかしこれだけは彼は言える。

この先、お兄様御一行は文字通りただの一般人と深く関わることは絶対にない。

軍人でもなんでもない、家族の誰かが魔法師でもなんでもないただの普通の人とは関わらない。

だからこそ、気にした。魔法師と一般人の交流を、エネルギー問題の解決を魔法でしようと考えているが一般人が、一般社会が受け入れるかどうかの問題を気にした。

光國は魔法師達のコミュニケーションをどげんかせんといかん問題だと考えていた。

 

「百家に十師族に師補十八家、古式魔法の家系。

どいつもこいつも秘術だからとか後ろめたい事をしてるから魔法師同士の交流を無くし、更には魔法師として一般人との交流も全くといって無い。神権政治の時代やないんやから嫌われて当然や。

他にもそれなりの家系も選民意識があったりするし、困ったら魔法とか考えとるし、とにもかくにも意識改革を、それに加えて一般人にも正しい魔法師を知って貰うのが大事や…ちょ、クソジジイ、ヤバい、ヤバいぞぉおおおお!!」

 

「あ、床が!」

 

遂に九島烈の加重魔法に耐えきれなくなった光國は主従椅子のポーズを保てず、地に伏せる。

それと同時に床がメシっと凹み、リーナが光國の側による。

 

「魔法師と一般人の交流か…」

 

そして九島烈は考える。

魔法師の今のところの利用方法が軍事関係のものばかりだ、それに危機感を覚える時が多々ある。

もし、この馬鹿が言うように魔法でエネルギー問題の解決が出来たのならば社会的地位の向上は出来る。

では、そうなったら次はなにが大事か、今現在、記者会見で指摘されている魔法師の人間力である。

魔法師が関わろうとしている社会は人間の社会であり、何れはその部分の解決をしないといけない。しかし、何処もそれはしようとしない。

魔法師が上で人間は下と見下しているから魔法師=偉いの選民主義のところがある。今こうした事を考えてしまっている自分も選民主義かもしれない。

 

「…光國、そろそろよ」

 

「お、おぉ…そうか…そろそろか…」

 

九島烈を無視してテレビに視線を向けるリーナと光國。

記者会見は進み、ボロボロと魔法師の問題が露になっていく。

この辺はお昼のワイドショーでどうにかしてもらうとして、遂にやって来た質問タイム。

 

『「質問、よろしいでしょうか?」』

 

『「どうぞ」』

 

先ずは一人目を当てる百山校長。

すると、一人目の記者が徐に上着を脱ぎはじめる。

 

「ホンマに、恐ろしいな…オレも見習わんと」

 

上着の下にはなんと第一高校の制服を着ていた。

 

「壬生先輩を」

 

当てられた記者は、記者ではなかった。

密かに潜り込んでいた、壬生沙耶香だった。

 

「…なにをするつもりだ?」

 

最後の王手を決めに来たのは分かるが、なにをするか分からない。

ここで壬生が桐原を訴えれば、事実無根と言って誤魔化していたのが無駄になる。

だが、訴えるのならば騒ぎを大きくする前に訴えても問題ない。それで会見を開ける。

だからこそ、最後の王手になにをするか分からない九島烈。

 

『「一科生と二科生の制服を違うようにしているのは競い合って高みを目指すと言いましたが、競い合う場はあるのでしょうか?

生徒の中には実戦向けの生徒も存在し、一科生と二科生をただ成績だけで評価していては、学歴社会と言われた時代にいた学歴だけ高くて現場では使えない生徒と学歴は低いですが、現場では使える生徒は評価をされません」』

 

壬生は一歩ずつ前進をし、百山校長の前に紙を置いた。

百山校長はその紙を読めと、読まないと訴えるぞと言われたと感じる。

 

「本来なら、あの役はオレがやる予定やねんけどな…」

 

記者会見にカメレオンの擬態魔法で紛れ込む算段だったが、壬生が自分でやるといった。

剣道小町と言われていた自分を、学校を炎上させるために売った。それだけで充分なのに、更に追い詰めるために自らで志願した。

 

『「後日…生徒会長、風紀委員長、部活連会頭には中立の立場に立っていただき一科生と二科生の対抗戦をしようと思います。つきましてはその結果のみを学校の公式HPに記載させていただきます」』

 

「これが狙いか…全ては、これの為に、これだけの為にここまで騒ぎを大きくしたのか!」

 

九島烈は理解をした、光國の狙いが一科生と二科生の対抗戦をすることだと。

そしてそれだけの為に騒ぎを大きくしたのを。

 

「さーて、ここからが本当に頑張らんとアカンとこや…成果主義の学校には成果でどうにかせんと」

 

一科生と二科生の対抗戦。

二科生が勝てば、天狗になってる一科生の鼻を叩き折れる。

二科生が勝てば、二科生だと自分は名家じゃないと諦めてる奴等に勇気を与える事が出来る。

二科生が勝てば、学校側も生徒側もあれこいつもしかして?と評価をされる。

 

「ただ学校側に訴えて勝負する場を作っても意味はない。

勝利しても学校側はうんともすんともしない、生徒の評価が変わるだけやからな…ここまでハードルを上げたんや、二科生が勝ったらなんもせえへんのはいけねえな、いけねえよ」

 

尚、主従椅子とはOrzの体制をしている人を椅子にする女王様と下僕でよくみるあれである。



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常勝無敗

引き返す事の出来ない、崖っぷちの所に進み追い詰めた光國達。

彼処まで堂々と公表して無しとは言えず、紙に書かれていた指示通りのルールで一科生と二科生の対抗戦が決まった。

 

「学校側の最後の嫌がらせか…」

 

他の八校は、会見の数日後に何時も通りに戻った。

しかし、第一高校だけはそうはいかず、未だに休校で来年に向けての準備と今すぐに変えれる部分を変えたりと大忙し。

それに加えて、対抗戦の準備もしなければならないのだが、そこで最後の嫌がらせを受けた光國達。

 

「あ、手塚!」

 

「一番の最後よ!」

 

「オレが一番の遅刻か…」

 

「遅刻じゃないです、まだ十分前ですよ」

 

「僕もだけど、皆、早くに来すぎたんだ…眠れなくて」

 

「そんなに緊張をしなくてもいい…少なくとも、寺で厄介になるだけで修行僧の仲間入りをする訳じゃない」

 

休校中の間、対抗戦の準備をする一科生と二科生。

そこで問題が発生と言うか、どっちが学校側の施設を使うかとなった。

別に時間制にすれば良いんじゃないのかとなるのだが、なにかと理由をつける学校側。

学校側の施設を使い色々と知られ、これ以上余計な書き込みをされれば物理的に首を括らないといけないかもしれないのと一科生に勝ってほしいので一科生が使うことになり、最終的に光國達は忍術使いとして名高く、達也の体術の師匠でもある九重八雲がいる寺、九重寺を借りて修行をすることに。

なにか欲しいと言えば、学校側は用意してくれるがやはり学校の設備を使えないのは痛いと光國と達也以外は感じている。

 

「今後魔法関係の問題を起こした生徒に対する罰として叩き込む寺としていけるかどうかの視察で来ているけれど…桐原くん達はこの対抗戦が終わり次第、一週間ほど入れられる予定らしいわ」

 

それと同時にこの寺に来た建前を語る壬生。

どう考えても自分達ではなく森崎や桐原達を今すぐにでも叩き込まないといけないのに、調べて来いとはどう言うことか、むしろ一科生が行くべきなんじゃと達也以外がイラッとする。

 

「…先に幾つか言っておきたいことがある」

 

「…どうしたの?」

 

寺の中に入る為の無駄に長い階段を上るべく最初の一歩を踏み出そうとするのだが、光國は全員を止めた。

 

「失敗したら、全てが終わりだ。

オレ達は正真正銘の負け犬で、学生生活をまともに送れない…覚悟は出来ているか?」

 

「なんだよ、今更改まって…出来てるに決まってるだろう」

 

達也と光國以外は最初の一歩を踏み出した。

 

「私達は風紀委員に選ばれなかったし…このままだと三年間見せ場は無い。

それに森崎みたいなのが今後、力と名のある魔法師になったら…もうそれこそ、魔法師はおしまいよ」

 

実際のところ、これから繁盛にテロが起きるので見せ場があるエリカ達。

まぁ、それは別としてこのままだと三年間、学校では見せ場は全くといって無いのが現実だ。

エリカ達は事件が起きて巻き込まれたりしたら活躍するがそこまでで、事件以外での活躍はこれと言って無い。

 

「…それと、達也は二科生が負けたら躊躇いなくオレを殴っていいぞ」

 

「待って、手塚くんは悪くはない、一科生と二科生の溝をどうにかしようと誘ったのは私…だから、私を殴って!」

 

「俺に人を痛ぶる趣味はないです。

まだ修行もなにもしていないのに、ここで弱気になってどうするんですか?」

 

ほぼ強制参加の達也は呆れる。

 

「…罪悪感が無い方がおかしい。

と言うか、よく引き受けてくれたな…」

 

「完全に俺の退路を防いでから誘ってどの口が言う…手塚、俺はお前が言った先行投資を支援するだけだ」

 

達也にとって、深雪の存在は絶対であり全てだ。

ハッキリと言って今回の一件は深雪と自分にこの上無く迷惑な事でリーナに電話をする前は何処かで叩きのめして余計な事をさせないようにしようかと考えていたほどだ。

しかし、光國の先行投資をリーナから聞いて少しだけ考え方を変えた。魔法師と一般人との今後の交流、深雪と達也には一生関わりの無い、考えもしない事を考えさせられた。

今後選民意識が強すぎ、名前で傲慢になったりする魔法師が増える可能性がある。

レオやエリカの様に良い人材なのに、評価をされず活躍できる場を与えられない者が増える可能性がある。

 

「…あれは大方、リーナにメモでも渡して言わせたんだろう?」

 

「…」

 

「そう露骨に嫌な顔をするな。

ニコラ・テスラと神様の話は色々と良い一例で、俺もそれは考えていなかった…優れた科学は魔法と変わらない、か…」

 

「…なんの事だ…」

 

適当で意味深な事を言えば賢い達也は考えると思っているので、リーナに渡したメモに適当な事を書いてたなと思い出して、知らんぷりを決め込む光國。

壬生達は、二人がなんの話をしているか気になり聞こうとしたその時だった。

 

「!」

 

順番で言えば、光國が若干先で、次に達也。遅れてエリカと壬生、更に遅れてヨシヒコとコンマ差でレオが後ろに誰かが居るのに気付く。

そして後ろに居る誰かが美月に向かって、手を伸ばした。

 

「おっと…いやぁ、早いね!」

 

が、しかし光國に手を弾かれた。

しかし、後ろに居た誰かこと怪しい雰囲気のお坊さんは諦める事なく今度はエリカと壬生に手を伸ばすのだが全て光國に弾かれる。

 

「え、え、え?」

 

なにが起きたか分かっていない美月。

決して能力は低くないのだが、やはりこの中では一番低く彼女を中心に囲むように陣形を取って身構える。

 

「…なにをやっているんですか…」

 

達也以外はだ。

達也は呆れた顔で怪しい坊主の男に声をかける。

 

「いやなに、今回の事を聞いてちょっと腕試しをと」

 

「ならば何故、一番に美月を狙ったのです?

確かにこの中では一番運動能力が低く、狙うのがセオリーなのは分かりますが…その後はエリカと壬生先輩を狙いましたね?レオと幹比古を無視して」

 

「嫌だな…そこを聞くのは野暮だよ」

 

「達也、このお坊さんは?」

 

「…あの有名な九重八雲だ…」

 

「どうも~九重八雲です。達也くんの師匠さ!」

 

幹比古の質問に答える達也だが、少し嫌な顔をする。

自身の師匠が登場すると早々に女子にセクハラをかまそうとしたのだから、仕方あるまい。

 

「この人が、あの九重八雲…」

 

「胡散臭さが半端ねえよ…」

 

エリカとレオはイメージしていた九重八雲と違うと感じる。

本物かと言いたくなるが、達也が否定しないので本物としか言いようがない。

 

「…九重八雲さん、これはいったいどういうおつもりで?」

 

「スゴくどうでも良いことだけど、手塚くんと声がそっくりだわ…」

 

光國と声質が似ていることに気にしている壬生。

「あー確かに」と光國以外は同じ気持ちになった。

 

「第三高校が求めるものは戦闘力寄りだったりするけど、第一高校の求めるものは国が求めるものと一緒だからね…流石に大恥をかくのはいけないから試させてもらったのさ」

 

「…僕達は視察を名目にやって来たのですが」

 

ここで修行するには修行するが、あくまでも場を借りるだけで名目上は視察だ。

あの九重八雲が一から指導してくれる訳じゃないのに、いきなり試して来たのでヨシヒコはその辺のことについて聞いてみた。

 

「一指導者として興味を持っただけだから、これ以上はしないよ。

けど、よかったよ…口だけじゃなくて。この実力を全く評価しないのは大問題だ」

 

「…ありがとうございます」

 

取り敢えず忍者に認められる基準の実力を持っている事に壬生は内心喜ぶ。

しかしそれと同時にお尻を触られかけたので、この坊主はお坊さんとして大丈夫なのかと気にする。

 

「さぁ、入りなさい…修行場としては問題ないよ、うちは」

 

寺の門まで来ると、改めて歓迎をしてくれる九重八雲。

門が開くと達也と光國以外は息を飲み込み一歩ずつ歩き出す。

 

「さぁ、油断せずに、へヴぁあ!?」

 

最後に入る光國が例の台詞を言おうとしたその時だった。

九重八雲が音を消し、殺気を消し、気配を消して光國を殴り飛ばした。

 

「て、手塚ぁあああああああ!?」

 

「手塚くん!?」

 

「階段から滑り落ちたよ!」

 

「大変、頭から血が出てるわ!」

 

「救急車を…あ、立ち上がった!」

 

レオ、エリカ、美月、壬生、ヨシヒコの順番で階段から滑り落ちた光國に叫ぶ。

 

「なにをしているんです!!」

 

達也はハゲに叫ぶ

 

「その…や、やっちゃったみたい……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

練習が始まる前に光國の人生が危うく終わりかけているその頃だった。

第一高校には対抗戦に出る一科生達が実習室に集まっていた。

 

「二人一組のペアでの戦いを二回、一人での戦いを二回、最後に六人での団体戦。

計五試合をおこない、勝利数を競い合うが三勝をして勝利が確定しても最後まで続けるルールで、団体戦を除き一人一試合で補欠に一人しか入れない」

 

「…で、一応聞くけれどどうしてこのメンバーなのかしら?」

 

十文字の説明を受けるリーナ。

彼女も今回の一科生と二科生の対抗戦に出るのだが他のメンバーに不満がある。

隣にいる深雪はまだわかる。一年生の顔だし主席だし、自分と勝負できる数少ない相手だと。

 

「私は、自分で志願したよ。」

 

しかし他はどうみても学校側が使い捨てても良い人材だった。

事件を起こした桐原、起こしかけた森崎、止めようとしたが法律に触れる行為をしたほのかとそれを手伝いたいと自ら志願した雫だった。

 

「上の学年には、名前と実力が確かなのはいたけど…大方、止められたのね」

 

十文字克人、渡辺摩利、七草真由美の三巨頭を封じたがまだまだ実力者は一科生に沢山いる。

桐原達も決して悪くはないのだが、精神面においても未熟でない上の生徒は普通にいる。がしかし、この面子である。

何故か?殆どが名家のボンボンであり、今回の一件の火消しに注いでいるから。負けたら今まで築き上げたものが崩壊する可能性があるから。

 

「…何故、何故この様な騒ぎを起こした?」

 

「ダメね…」

 

リーナが騒ぎを起こした一人であることを知っている十文字はリーナに騒ぎを起こした理由を聞くのだが、リーナは呆れる。

この十文字克人と言う男は巌のような男で、中を整えたりするのには向いている。

しかし外から新しく取り込んだり、下剋上をしたりするのには余りにも向いていない。

巌のような男故に滑らかではあるが柔軟性がなく、冒険したりしない。冒険が出来ない性格だ。

十文字は騒動を納めて、二度と起きないように厳重にすることは出来ても、次の一歩に踏み出そうと言う考えを持っていなかった。仮にあったとしても確実に自分が安全なラインにいるだろう。

 

「…失礼させてもらう」

 

リーナが質問に答えるつもりが無いので、出ていく十文字。

完全に出ていくとほのかがへなへなと座り込む。

 

「雫…怖かったよぉ…」

 

「ごめん、私も怖かった…」

 

生まれたての子馬の様に足を震わせる雫。

ゆっくりとほのかの隣に向かうと地面に腰を下ろす。

 

「なんでこんな事になったんだろう…」

 

夢と希望を持って入学した第一高校。

憧れの深雪と同じクラスになってほのかは良い感じだったが、その後は悲惨だった。

森崎達が起こした騒動を止めようとすれば加害者側になり、部活動勧誘の際には光國に見捨てられ、更には強制的に選手として登録されるなど踏んだり蹴ったりだった。

 

「どうしてこうなったか、と言われれば今までのツケが私達に来たのよ、ほのか」

 

「深雪…深雪はどう思っているの?」

 

泣きそうなほのかを励まそうとする深雪。

一科生の中では一番の被害者で、主席だから参加させられたと言う深雪は怒っても良い。

しかし、全くといってそう言う素振りを見せない。

 

「今回の件かしら?

私もお兄様もリーナ、いえ、手塚さんに色々と釘を刺そうとしました。

ですが…ニコラ・テスラと神様の話等を聞いて色々と考えなければならない事がありました。

これから先、私達魔法師と一般人の付き合いをどうにかしなければならないのは明確ですし、その先も…だから、私は喜んで出るわ」

 

口ではそう言いつつも、周りをピキピキと凍らせる深雪。

一応の納得はしているのだが一応のもので、もっと良い方法があるだろうという怒りはあった。

 

「深雪…深雪がどの試合でも良いから勝利したら達也は何でもするって言っていたわよ」

 

「ん、今何でもするって言った?」

 

しかし、そんな深雪を上手く扱うリーナ。

正確には困ったらこうしろと光國に言われている事を言っているだけだが、それだけでも効果は絶大だった…が

 

「…完全に、負け覚悟ね…」

 

リーナは馬鹿ではなかった。

深雪が勝てば達也が深雪に何でもすると言う約束、別に約束しなくても達也はすんなりと受け入れるのがお兄様なのだが、こう言う約束をすれば深雪は躊躇なく全力を出すだろう。

そして全力の深雪には二科生では誰も勝てない。最初から深雪との試合は落とすつもりで来ている…

 

「いえ、違うわね…私も勝ったら、光國がなんでも言う事を聞いてくれるから…」

 

深雪との試合だけでなく自分との試合でも落とすつもりで来ている。

でなければ、そんなやる気が出てしまうことは言わない。と言うか光國ならなんでもするから負けてくれと土下座をするだろう。本気で戦ってもらわないと困ると言う考えなのだろう。

 

「あ、あのぉ…」

 

「あら、貴女は確か…」

 

残りの試合をどうするかと考えていると、何処かで見た顔のある生徒がやって来た。

誰だっけと必死になり思い出そうとするリーナ。しかし、思い出せない。

 

「生徒会役員の中条あずさ先輩よ、リーナ」

 

「…ああ、うん…覚えてるわよ、覚えてるわ…」

 

深雪に言われてやっと名前を思い出したが、そんなに深い関係でもないリーナとあずさ。

 

「なんのよう?」

 

選手でも無いのに、いる理由を取り敢えずは聞いた。

 

「い、一応の監視役です。

これ以上は騒動を大きくされれば、もうどうにもならないんです!手塚さん達の方には市原先輩が行くことになっています!」

 

「そう…大丈夫よ、これ以上はなにもしないわ」

 

ここまで来るためだけに騒ぎを大きくした。

故にこれ以上はなにも求めないし、これから先にある炎上等はどうでもいい。

その辺の火消しは、今まで無視してきた奴等にやらせる。

 

「それよりも、そこの二人?」

 

「「っ!?」」

 

あずさの監視は特に問題なく、リーナは来てから無言の一科生の選手二人を見つめる。

その二人と言うのは、諸悪の根元が学校とするならば事の始まりである森崎と桐原だった。

来てからずっと無言であり、ほのか達は一切声をかけようとしない。

 

「…貴方達、やる気あるの?」

 

幸いと言うべきか、光國達は壬生以外の名前を上げなかった。

学校側も事を大きくしたくないので、森崎達の名前をあげずに特にこれと言った罰をせずにいた。

しかし後日、寺に叩き込まれる事を知っている桐原と森崎は明るくない。

 

「俺達は石投げられるだけじゃねえか…」

 

ぼそりと小さく呟く桐原。

剣術部の事件を知らない一高生はいない。

森崎が危うく逮捕されかけたことを一年の一科生と二科生の大半が知っている。

一科生と二科生が集まる場で選手として出れば、それはもう批難の目を浴びる、浴びる。

一種の公開処刑と言っても良い。だが、騒動を起こした光國達の方がもっと目を向けられる。

 

「他にも、他にも…出れる選手はいた筈だろう…」

 

「はぁ…文句や言い訳の一つを考える暇があるなら勝ちなさいよ」

 

石をぶつけられる役の森崎と桐原の発言を聞いて呆れるリーナ。

 

「散々騒ぎを大きくした二科生を真っ向から叩き潰す。それ以外、道は無いわよ。」

 

森崎はここからどうにかするには勝ち続けなければならない。

勝ち続けることにより、森崎のあの発言は認められるし正当になる。CADを向けたことは別であるが、少なくとも勝てば-から抜け出せる。よくやったと一科生達に思われる。

常勝無敗を成し遂げなければならない。

 

「…光國じゃないけれど…油断せずにいくわよ」

 

なんとか一科生を纏まった。

六人が意気込み、ルールを確認して誰がなにに出るかやどうするかと話し合いをはじめる。

自然と盛り上がる。

 

「あの…私のことを忘れてない?」

 

尚、七人目の選手こと、アメリア=英美=明智=ゴールディことエイミィの存在を誰一人、気付いていなかった。



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下・克・上・等

「すみません、ここに第一高校の生徒が来ていますか?」

 

市原は九重寺に遅れてやってきた。

真由美にどうして止めなかったことや裏切ったことの説明に手間取った。

市原は単純に真由美のやり方ではどうにもならないと、達也だけではきっかけにはならないと言い、九重寺にやって来た。

 

「えっと…」

 

「あ、すみません。一高の生徒です」

 

箒ではなく雑巾で階段の掃除をしているお坊さんの一人に声をかける市原。

制服はなにかと目立つので私服を着ており、パパラッチと思われたのでお坊さんに一高生徒だと証明する。

 

「試合前に余計な書き込みや、薬を盛ったり盛られたりしないように来た監視役です」

 

「ああ…その…」

 

「こんの、ハゲぇええええええええええ!!」

 

来た理由を説明するのだが、他の事が顔面蒼白なお坊さん。

なにかを言いたいが、言うとまずいことだと見ていると心に響くほど大きな光國の叫び声が聞こえた。

 

「っ、まさか!」

 

光國の叫び声を聞いて、事件が未遂ではなくなった事に気付いた市原は走る。

石の階段を走ってのぼるのは、中々になくてそれなりの数だが走る。

 

「君だけまだ本気じゃなかったし」

 

「違うだろぉおおおお!!なんでそうなるんだ!!なんでそう自分から馬鹿な事をするんや!」

 

「手塚くん、落ち着いて!」

 

「傷口から血が出てるわよ!」

 

階段を上りきって、境内に入った市原は目にする。

壬生とエリカが全力で光國の動きを抑えているのを

 

「落ち着いて、落ち着いてください、手塚さん!」

 

「先ずは話し合いを、な、な?」

 

「示談交渉か?あぁあああん!!」

 

美月とレオが全力で光國を宥めているのを。

 

「なんで、来て早々に怪我せなアカンねん!

頭の毛やのうて下の毛も剃ったろか、この糞坊主が!!…あ、市原先輩、おはようございます」

 

「あ、おはようございます」

 

近寄りがたい雰囲気だったが、自分が居ることが気付くと素直に挨拶をしてくれた。

しかし直ぐに殺気を正座をしている九重八雲に向けたのでオンオフを切り替えただけだった。

 

「あの、なにがあったのですか?」

 

会話が通じると分かった市原はなにがあったかの説明を光國に求める。

すると、エリカ達の制止を振り切った光國はゆっくりと深呼吸をする。

 

「あのハゲが、なんの予告もなくオレ達をしばいてきた…結果がこの様だ」

 

「っ、早く治療を!」

 

頭からピュっと血を飛び出させる光國を見て、包帯かなにかないか鞄の中を探す市原。

ハンカチがあったので、光國の側に近寄り頭を抑える。

 

「…これはどういうおつもりですか?」

 

冷たい眼差しを九重八雲に向けて問いかける市原。

生徒同士が争って怪我をするのは一応の想定をしていたが、まさか第三者に襲われるとは思ってもみなかった。

 

「いや…ちょっと彼の実力を試したくて。

達也くんを除いた中じゃ、一番だけどまだ手を抜いてるみたいだったから…つい」

 

九重八雲が襲ったのは、ただ単に光國の実力が知りたかった。ただそれだけの為に襲った。

有名な奴に不意討ちをしたら防がれて「名に恥じない実力者だね」的な感じのよくある展開を起こそうとした。その結果、殴り飛ばしてしまった。

 

「は?」

 

その事を知ると、眼孔が開く勢いで目を開ける市原。

ただでさえ、色々と大変な時に面倒な事を増やしたと九重八雲を睨む。

 

「気になったから、つい…そうですか…手塚くん、示談交渉額の引き上げが上手い弁護士を探しておきます、マージンはいりません」

 

「ありがとうございます…マージン、とったのか…」

 

このハゲ、叩けば絶対に色々と出てくる。

市原は直ぐにそれを確信したので、睨むだけで特になにもせずむしりとれる物をむしりとる方向に切り替えた。

 

「べ、弁護士って…」

 

弁護士を口に出すと、顔を青くするヨシヒコ

 

「軽い…いえ、頭から血を出しているのでかなりの傷害事件ですよ…」

 

新入生の中で騒動の中心に居るのは紛れもない光國、しかしそれと同時に一番の被害者ではと市原は考えはじめる。

 

「市原先輩、もういいですよ」

 

「ですが」

 

「元々、出血は治まってます…ちょっと興奮してただけです」

 

果たしてそれはちょっとのレベルだろうかは別として、出血は止まっていた光國。

傷口を抑えてくれた市原の手を離して

 

「…最低でも7桁は覚悟しろよ…」

 

小さく呟いた。

最低でも7桁は九重八雲からぶんどるつもりだ。

どう考えても襲った九重八雲が悪く、言い逃れが出来ない。

 

「…それで、市原先輩は何故ここに?」

 

「私が居るとご迷惑ですか?」

 

「近いですよ、市原先輩」

 

「…すみません」

 

市原は何時の間にか、と言うか徐々に徐々に光國に近付いていっていた。

物理的にも心理的にもだ。

 

「ハゲは後日告訴するとして…お前達、ルールの確認はしたな?」

 

一息つくと、真剣な顔をする光國。

今から修行だと全員が気を引き締め直した。

 

「…前にも言ったが、達也は補欠だ。

オレ達が勝たないといけない…だから、出来ることは全てやる。先ずは誰がどの競技に出るか相談してくれ」

 

「相談してくれって言うけどよ、四試合目のS1(シングルスワン)はなにすんだ?」

 

一科生と二科生の対抗戦を堂々とするのを事前に聞いていたレオ達。

具体的にどんな勝負をするのか知っているのだが、第4試合のS1(シングルスワン)のみ光國から伝えられていない。

 

「第4試合ですが」

 

S1(シングルス)はオレが出る。

だから、お前達は残りのS2(シングルス)D1(ダブルス)D2(ダブルス)で決めてくれ」

 

内容を知っている市原が説明をしようとしたのだが、光國に止められる。

あくまでも第4試合は自分が出る、その為にわざわざ試合まで作って来た。

 

「決まったら自分が出る競技にだけ集中だ。

相手には今年主席の深雪と次席のリーナがいる、特にこれと言った見せ場が無く三連敗のストレート負け…それだけは避けなければならない」

 

「何処に行くんですか?」

 

美月達に背を向けた光國。

修行として貸してくれる場には行かず、寺の出入り口に足を運ぶ。

 

「達也、万が一と言うこともある。

悪いがレオ達を問答無用で叩きのめして経験を叩き込んでくれ」

 

「別にそれは構わないが手塚、何処に」

 

「診断書を貰いに病院だ。

あれがないと訴えられない、ついでに軽く千葉県まで走ってくる…」

 

光國はそれだけ言うと寺を出ていった。

 

「ごめん、保険証忘れた」

 

そして戻ってきた。

鞄に財布を入れていた事を普通に忘れており、それを取りに戻ってきた。

なんとも締まらない終わり方だった。

 

「レオ、少し席を外す。

誰がどの競技に出場するか決めたら呼んでくれ」

 

光國が完全に居なくなったのを確認すると達也がこの場から離れようとする。

 

「出来れば達也くんにも協力して欲しいのだけれど…」

 

「悪いな…師匠と少し話を、弁護士の話を…」

 

「あ、うん。それだったら存分にして良いわよ」

 

出来れば達也にも協力してほしかったが、弁護士を出されるとなにも言えないエリカ。

達也と九重八雲は声が聞こえない場所に移動し、その間レオ達は誰がどの試合に出るかを話し合う。

 

「…弁護士についてはどうにかしますが、紹介をするだけで示談金はどうにかしてください」

 

「今までの授業料って事でどうにかならないかい?」

 

「自業自得です…それで、どうでしたか?」

 

達也が九重八雲と弁護士の話をするのは建前だ。

本当はレオ達の実力、そして少し前に頼んでいた手塚の調査結果を聞くことだった。

 

「彼等はさっき言った通りさ。

彼等の長所は国が求めるものとは違うけれど評価されない、評価しないのは指導者として失格だ。もし長所を伸ばし、生かす場を見つけて活躍すれば大きく変わるよ」

 

「…手塚の方はどうでしたか?」

 

レオ達が認められた事はよかったが、それは置いといて手塚である。

魔法科高校の授業を受け、何度か観察してみたのだが普通としか言えない実力と知識だった。色々と工夫でカバーしているが、本当に魔法の技術と知識はその程度のものだった。

体育の体力測定では、満点の点数に到達するとピタリと走るのを止めたので明らかに手を抜いているのは分かっていた。

 

「…明らかにあの中じゃ彼が一番だったから、本気はどれぐらいかなって試したんだけどなぁ…避けれる筈なんだけどなぁ…示談金どうしよう…」

 

「…そう言うのはいいので、続けてください」

 

「手塚光國、15歳。

出身は大阪で、時折出る関西弁が彼の素の性格。

家族構成は父、母、兄、妹の五人家族で母親は紙の本屋のパートで、父親は教師をやっており、それなりに人気の教師だけど若い頃に騙されて、借金を背負っていて一年前に借金を返済。兄の方は将棋のプロで、妹は小学六年生だけど…どうみてもそうには見えないね、うん」

 

「…それで、手塚は?」

 

「出身中学は昔は女子校だったけど、今は共学の四天王寺中学。

推薦で入ってる生徒で高額な学費を免除されているんだけど、一年の二学期に何故か東京の中学に転校をしている。アンジェリーナ=クドウ=シールズと共にだ」

 

「…」

 

「後は週一度に九島の別荘とかに行き、その中学を卒業。卒業後は第一高校に進学をした…」

 

「手塚とリーナの…いや、九島の接点は?」

 

一通りの今に至るまでの流れを聞き、九島との接点を気にする達也。

聞く限りは光國は何処かの名家でもなんでもない、むしろ下の階級の人間だ。そんな奴がどうしたら九島との繋がりを作れるのか、そこが一番気になっていた。

 

「それだけど…三年前に大阪で古墳が見つかってね、その調査に九島が呼ばれている。

その古墳を調査していた日に彼は近くの防波堤で足を滑らせ海に溺れ、それ以降九島のところで魔法師として必要な知識や技術を学びに行っている…海に溺れは恐らく偽造だけど、達也くんはどう見る?」

 

「…」

 

光國と九島の接点が出来た日は、間違いなくその日だ。

次に考えるのは九島がどうして光國と交流を持とうとしたのかで、魔法師としては優れている部分はない。

 

聖遺物(レリック)…その古墳からはなにか出てきましたか?」

 

「なにも出なかったよ、表向きにはね…だけど、なにかが出た痕跡はあった」

 

「…そう言うことか」

 

達也は理解した。

光國がどうして九島と深い接点があるのか、リーナが側に居るのかを。

 

「手塚は聖遺物(レリック)を、先史遺産(オーパーツ)を十二分に使いこなせる魔法師…」

 

何故選ばれているかは不明だがリーナは光國の監視役。

そうなれば光國との同居もわかる。

 

「…リーナのあの様子からして…いや、これはいいか」

 

リーナは時折悲しげな表情を見せる。

そしてその際には必ず光國関係で、光國はあの九島烈の事をクソジジイ呼ばわりしている。

望んで九島と居るわけでもない、嫌々従っている、そんな関係なのに気付くがこれ以上深くは見てはいけないと考慮して達也は考えるのを止めた。

 

「恐らく、これ以上は出てこない」

 

残りは手探りで自分で探せ。

九重八雲は遠回し言い、達也は納得をした。

 

「…この寺で一高生を預かって頂き、ありがとうございます」

 

「なに、それはお坊さんとしての御仕事だよ…ホントは深雪くんに軽くおど…結構、話し合って説得されたんだ!」

 

「深雪…」

 

なにをやっているんだと達也は困った顔をした。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

それから少しだけ時が進み、対抗戦当日。

 

「一年間、通ったけれど私服で来るのは、はじめての体験だけど…心が軽いわ」

 

制服が差別の対象と言うか差別を助長するものだとして制服での登校を禁止にし、動きやすい服で登校してきた壬生。

制服があるかないかだけで心の重さが大分変わり、一年間通っていた学校に何時もより清々しい気分で登校できた。

 

「あ、おはようございます!」

 

「おはよう、みん…手塚くんが居ないわね」

 

講堂に向かって歩いていると、手塚を除く二科生組が壬生に気付き挨拶をする。

壬生は挨拶を返すのだが、手塚が居ないことに気付き何処かと探す。

 

「手塚は先に講堂にいますよ」

 

講堂への扉を開けながら説明をするヨシヒコ。

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…閉じていいかな」

 

「なに言ってんだよ、ここまで来たら…良いんじゃないか?」

 

講堂には一科生と二科生が私服姿で集まっており、一番奥には対抗戦に出る気まずい顔の一科生と何時もの様に眼鏡とマスクで顔を隠している手塚と側に居る市原、そしてその手塚を睨む十文字と七草がいたが、手塚と十文字&七草の睨みあいで重い空気が出来ており、試合どころの雰囲気ではなかった。

 

「お久し振りです、十文字会頭、七草会長」

 

「ええ、久しぶりね…騒動を起こして以来かしら?」

 

「起こしてではなく、起きたですよ。

少なくとも、オレは被害者で加害者じゃないですよ」

 

「その騒動じゃないわ…」

 

「では、なんの騒動ですか?」

 

白々しく真由美を相手に惚ける光國。

最初から相手にする気などはなく、おちょくることにだけ集中しており真由美は笑顔を消さないが怒っていた。

 

「手塚、お前は何時から読んでいた?」

 

「なにがですか?」

 

「…惚けるのはよせ。

少なくとも、ある程度の家はお前達が騒動を起こしたのを知っている…何時からだ、何時からここまで読んでいた」

 

十文字は分かっていた。

今回の一件は光國が前々から練っていた計画だと、直ぐに思い付いて実行できる作戦ではないと。

何時からここまで想定し、動いていたかを聞いたが光國は答えない。

 

「逆に聞こう。

何時までだ…何時まで放置して貴方は、いや貴方達は妥協し続ける?

己の身を犠牲にする覚悟もなにもなく、ただ単に恵まれた才能と高い位置から見下ろしてオレ達を哀れんで楽しいか?」

 

「…」

 

学校レベルの事をどうにかしないといけないと動いている、考えている三巨頭。

しかしそれは自らを犠牲にする覚悟もないもので、今の光國や壬生の様に自らを犠牲にしない方法で効力が薄く、達也任せなところもある。

 

「貴方達は一科生の差別も悪いが、二科生の諦めるのも悪いと言う考えをお持ちでしょうが二科生が見せる場なんてものは全く無いのを知っていますか?あっても評価されない項目なのは理解していますか?才能が無いなら無いで、諦めることは悪いことではないが一度下の環境を知ってみてください…上の人間がなにを言っても嫌味なのをご理解ください」

 

光國は二人に一礼をすると背を向けて距離をとって、市原と共に壬生達を待つ。

 

「リンちゃん…」

 

「少なくとも、これは二科生にとってのチャンスです。

バ会長のお考えは悪いわけではありませんが、あのままだと達也くんだけが目立つだけです…ここで希望を持って前に進むのも、諦めて別の道に行くのも正しい選択だと私は思います」

 

「え、今バ会長って」

 

「早くこっちに来い!

殆どの一科生と二科生が集まっているぞ!!」

 

光國のせいで奥に進みづらくなっているのだが、そんな事は全く言えない空気で奥に向かって走る壬生達。

 

「全員、揃いましたね」

 

人数確認をして頷く市原。

すぐ近くにいるあずさの顔を見るともう一度頷き、マイクを握るのだが光國が奪った。

 

「今更綺麗事なんて必要ない。

オレ達は勝ちに来たんだ…例えリーナであろうとも容赦なく倒す」

 

「大きく出たわね、光國!

私が試合で勝ったのならば、ちゃんと言うことを聞いてもらうわよ!」

 

「…高いものは勘弁してくれ…」

 

本当に試合前かと言う空気を醸し出す光國とリーナ。

 

「そう言えば、リーナは手塚さんになにをお願いするの?」

 

「マジで高級なバッグとか勘弁して…いや、余裕で買えんけども」

 

ふとリーナのお願いが気になった深雪は直接リーナに聞く。

もし高級な服を買ってくれとか言う願いの場合は、光國の財布に少しダメージがある。

 

「そんなの、いらないわよ…お金で買えないもの、光國と一緒に沢山作ったし…これからも欲しいし…」

 

何故かいとおしそうにお腹を撫でるリーナ。言うまでもないが、避妊はしている。

 

「じゃあ、なにを…丸一日デート?それとも二泊三日の軽い旅行?」

 

尚、その場合でも光國の財布はダメージを受けます。

モジモジと頬を赤くしながら言うか言わないか迷うリーナ。その姿は試合を見に来た一科生と二科生は美しいと魅了していく。

 

「別にそんな長時間のお願いじゃ無いわよ。

その…ちょっとこの複数の婚姻届にサインをしてもらうだけだから、十数分もあれば片がつくわ」

 

それは十数分で終わるけれども、結果的には一生続くものなのでは?

リーナが鞄から取り出したこの時代でも使われている紙の婚姻届にはリーナが書かなければならない項目全てが埋められており、光國が書かなければならないところは空白だった。

 

「っ…これは…」

 

お兄様とは兄妹、兄だからお兄様。

リーナと光國がパン作りをしたりして、イチャラブをしているのを真似ているが婚姻届だけは出来ない。

元から分かっていたことだが、ここに来てリーナとの間に越えられない壁があるのを実感させられてしまう。

 

「それで、ミユキはなにをお願いするの?」

 

「それは…」

 

お兄様とのデート、それを深雪はお願いするつもりだった。

しかし、それだとお兄様の貴重な時間と財布の中身を消費してしまうだけだ。

いや、自分を拒まないお兄様にとっては良いことだけど、果たしてそれで良いのだろうか?

この二人ならば自分の予想を遥かに上回るものを知っており、既に実戦済みではないだろうかと考え、言葉に出来ない。

 

「…ねぇ、光國」

 

「なんでオレに回すねん!」

 

答えるに答えれない深雪に送る良い言葉が浮かばないリーナ。

光國に頼ってしまうが、これは深雪が越えなければならない試練だ。因みにだが禁断の愛に目覚めても、光國とリーナは普通に応援をしてくれる。むしろ爆発物には爆発物だと安心する。

愛さえあれば大丈夫、この国の神様も似たような事をしているよ。

 

「…っと、失礼。

既にオーダーは出来ているので、市原先輩お願いします」

 

「此方もです、中条先輩、お願いします」

 

気を取り直して、口調を戻す光國は市原にオーダー表を渡す。

深雪も中条に渡して、冷静さを取り戻していく。

 

「一科生と二科生の対抗戦は二人一組の(ダブルス)を二試合、一対一の(シングルス)を二回、最後に六人全員参加の団体戦の合計五回の勝負となります」

 

光國からマイクを奪い返すと、試合を見に来た一科生と二科生に説明をする真由美。

それと同時にざわめき出す二科生。果たしてそれで勝てるのか、そのメンバーで勝てるのかとなる。

 

「文句があるのならば、出てこい。

まだオーダーの発表はしていないし、完全に決まっていない。まだ変える事は出来る」

 

光國の一声でざわめきが消える。

自分達では一科生に、しかも今年度の主席や森崎家の人間、剣術大会の優勝者には勝てないと諦めている。

実際のところ、勝てないのだがやってやろうと言うチャレンジ精神を二科生の生徒は失っている。

そんな様子を感じたのか、鼻で笑う傲慢な一科生達。

 

「一科生にも同じだ…名ばかりの」

 

「お、オーダーの発表をします!」

 

最後に余計な一言を言い、一科生を怒らせた光國。

このままだと魔法を向けてきそうだと、あずさが割って入ってオーダーの発表をする。

 

「第一試合、D2!司波深雪・アンジェリーナ=クドウ=シールズ!」

 

「第一試合、D2!西城レオンハルト・千葉エリカ!」

 

あずさが大声で発表すると、横でマイク片手に発表する市原。

 

「よしお前達、負けてこい!」

 

「任せて、負けて勢いをつけるわ!」「主席と次席…負けてやるぜ!」

 

「「っておい!!」」

 

これは敗けだなと確信した光國はエリカ達に負けと背中を押すとナイスなノリツッコミをした。

 

「第二試合、D1!光井ほのか・北山雫!」

 

「第二試合、D1!吉田幹比古・柴田美月!」

 

「…ど、どうしよう勝てるかな」「深雪達の次だから、安心してほのか」

 

第二試合が自分の番だと焦るほのか。

第一試合が絶対に勝てるであろう深雪とリーナで、自分達も勝たないといけないとプレッシャーが掛かるが、雫が落ち着かせる。

 

「第三試合、S2!桐原武明!」

 

「第三試合、S2!壬生沙耶香!!」

 

「壬生…」

 

「なにかしら?」

 

「…いや、なんでもねえよ」

 

なにかを言いたそうな桐原だったが、壬生は集中しており桐原を敵と見ていた。

倒さないといけない、越えなければならない敵と見ており桐原はなにも言えない。

まぁ、仮になにを言っても今の桐原の評価はカッとなって高周波ブレードを振り回して殺そうとしたキチガイと壬生には見られているので好感度はクソ低い。

日頃なにかとちょっかいをかけてくるのでクソ低い。

 

「第四試合、S1!森崎駿!」

 

「第四試合、S1!手塚光國!」

 

「…お前さえ倒せば…」

 

「オレを倒しても、無駄だ…」

 

ただひたすら光國を睨む森崎。

すべての原因は二科生、そしてその中心が光國で、光國さえ居なければこうなることは無かったと、ここで光國を倒せば問答無用で二科生達を黙らせることが出来ると怒りの眼差しを向ける。

 

「一科生補欠、アメリア=英美=明智=ゴールディ!」

 

「二科生補欠、司波達也」

 

「よろしくね」

 

「ああ…」

 

ペコリと普通に挨拶をする達也とエイミィ

 

「第一試合に出場の選手は、準備をお願いします!」

 

「…油断せずにいくぞ!

見ているお前達も、強く勇気を持て!勇気はこの世で最も強い魔法でどんなこんな…あ、ごめん、今の聞かんかった事にして。言うてて恥ずかしくなった」

 

最後まで光國は締まらなかった。




先に言っておく、キンクリするぞ!!


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全国最強とかと団体戦をすればよくあること。

一科生と二科生の対抗戦がはじまった。

第一試合、深雪、リーナのペアとレオ、エリカペアの試合。

ルールをざっくりと説明すれば障害物競争で互いに様々な障害物を越えていかなければならず、仕掛けの内容は無人のロボットなどの仮想の敵や敵を察知すると弾を撃ってくる警備システムや、ローションの階段などとかなりの難所が多く、それを見ていた摩利は成績だけが良い生徒では攻略が出来ないものだと認識した。

エリカとレオは猪突猛進を表すかの如く、物理、物理、物理での突破。

硬化魔法で物理をあげて殴る、剣を片手に物理で突破していくだけで序盤は大きくリードをしていた。

しかし、中盤からは深雪とリーナの追い上げがはじまった。

序盤は正攻法で罠や仕掛けを突破していった為に時間が掛かってしまっていたのだが、中盤以降からはレオとエリカの様に力業でのゴリ押し。

仕掛けを問答無用で破壊して一気に距離を縮めるのだが、負けじとくらいつくエリカとレオ。

試合の終盤には素のスペックがものを言いはじめ、徐々に徐々に勢いを落とした二人は勢いを落とすどころか上げていった深雪とリーナに敗北。

 

「ごめん、なさい…」

 

第二試合、ヨシヒコ達の試合。

試合は脱出ゲーム+宝探しを合わせた様なルールで、序盤は達也がCADの調整をしてくれたことにより一科生上位陣となんら変わりの無い実力になったヨシヒコが美月を引っ張らなければと焦りを出し、ほのかも勝たなければならない、勝って当然でないといけないと言うプレッシャーに飲み込まれかけてしまうが、美月がヨシヒコを、雫がほのかを冷静に戻した。

中盤、本来の実力を出して連携の取れたほのかと雫が一気に間を引き剥がそうとするのだが、勇気を振り絞り眼鏡を外した美月はヨシヒコの呼び出した精霊を見て宝や脱出のヒントを察知。

 

「いや、謝るのは僕の方だ。

僕がコードの入力をミスしなければ、脱出は出来たはずだ!いや、それだけじゃない。

試合の序盤で僕が焦らなければ、自分でどうにかしないといけないと考えてしまわなければっ!!」

 

ほのか達が追い付こうとしたら、一歩進むヨシヒコと美月

最後に待ち構えた脱出口で集めた宝を置いて、暗号化されていたコードを読み解き入力をしなければならないのだが、暗号の答えが二つあり、自分が正しいと思った答えのコードを入力してしまい、もう片方のコードを入力したほのか達が先に脱出して敗北をしてしまった。

 

「違います、私が、私が頼りなかったせいで」

 

「そんな事はない!」

 

互いに負けた原因は自分にあると攻めるヨシヒコと美月。

どちらも悪いようで悪くないのでなんとも言えない壬生達はどうすべきかと掛ける言葉がなかったのだが

 

「じゃあ、喧嘩両成敗だ」

 

「「ひゃぐ!?」」

 

光國が言葉をかけた。

美月とヨシヒコの頭を掴んで、互いの額をぶつけた。

 

「イチャつくならば余所でしろ…今後どうすんの?」

 

「それは…」

 

額を抑える美月は光國の質問に答えれなかった。

自分達は負けてしまった。成果主義の学校のエリートに挑んだが、負けてしまった。

自分達が誇ったり、武器として使えるかもしれない部分を武器として使ったが負けてしまったのならば魔法科高校に居る必要があるのだろうか?

魔法師の将来なんて軍事関係ばかりで、中途半端な才能や力しか持っていないのならば戦場や現場に立たない方がいいかもしれない。

ここで才能が無いと認めて諦めるかどうかを聞いた。

 

「…来年に生かすか?」

 

「…来年もやるんですか?」

 

「そりゃ魔法師の中には測定しにくい生徒がこんなにも居るんや。

ペーパーテストとかよりも、こう言った感じの事をやって目立つチャンスを与えへんとアカンし…選民意識の強い魔法師をどうにかせえへんと、ホンマに終わるぞ魔法師。

まぁ、一先ずは任せとけ。オレと壬生先輩が一気に巻き返してやるから…勝ちましょう、壬生先輩」

 

「え、あ、う、うん。

そうね、そうよね…私達が頑張らないといけないわよね…」

 

負けた美月達を落ち着かせる事は出来たが、今度は壬生がプレッシャーに押されていた。

顔色が真っ青で、冷や汗をかいておりバイブレーションの如く震えていた。

 

「レオと壬生先輩とヨシヒコとエリカと美月の五人だから…ヤバいな…」

 

そんな壬生を見て、敗北して自主退学した際の責任を取るための金を計算する光國だ。

この調子だとストレート敗けをしてしまうと達也が感じる一方

 

「か、勝ててよかったぁあああ」

 

ほのかは一科生の控え室に戻って、体中の力を抜いて五体倒置の体制に入る。

 

「ほのか、力を抜きすぎだよ」

 

「そう言う雫だって、同じじゃない」

 

互いに五体倒置の体制を取っており、体に上手く力が入らない。

すると、深雪がほのかを、リーナが雫を起こして椅子に座らせてジュースを渡す。

 

「お疲れ様、ほのか…」

 

「本当にギリギリのところで、勝てたわね、シズク」

 

「運が、私達を味方してくれたんだよ…殆ど敗けに近かったし」

 

最後の扉を開くコードは二つに一つ。

ここぞと言う時の運をほのか達は味方につけたと喜ぶが、リーナは余り良い顔をしない。

 

「…私達が勝ったらダメだった?」

 

「いえ、そんな事はないわ…」

 

その表情を察した雫は直接聞くが、リーナは強く否定する。

 

「入試の成績も悪くなくて、一科生の中でも成績優秀者が集まった1-Aに入って深雪やリーナには勝てないけれども他の人達には勝ってた、ほのかと競い合ってた…だから、正直なところ勝てると思った…」

 

「…リーナ、深雪、ごめんね。

今だから告白出来るけど…リーナと深雪が二科生と一緒に居るのを見て、達也さん達と帰ろうとしたあの時、二科生なんかと仲良くしてって思っちゃった。

もし、過去に戻ることが出来るんだったら私はその時の自分を思いっきり殴りたい…一科生とか二科生とか関係ない、強い人は強いんだって、今日本当の意味で分かった」

 

「ほのか…」

 

試合に勝って勝負に負けたに近い二人の意識は大きく変わった。

それを見て、深雪は手塚が巻き起こしたこの対抗戦をしてよかったと感じる。

ほのか達は気付いていないが試合を講堂で観戦している一科生と二科生の心も良くも悪くも変わり始めていた。

 

『「間もなく、第三試合が始まります!

選手の方は直ちに試合会場に向かってください!繰り返します!」』

 

場が和むのだが、摩利のアナウンスにより一瞬にして空気が元に戻った。

距離を置いていた桐原は竹刀を握り、肩に乗せた。

 

「…悪いがオレで決めさせてもらう。

勝たねえとやべえのはオレもなんだ…だけど、オレは二度と二科生とかそう言うので笑わない…お前達の試合を見て、二科生にもやれば出来る奴は居るじゃんって思ってしまった、すまない」

 

桐原は頭は下げなかったが、心はちゃんとこもった詫びを言うと控え室を出ていった。

 

「…ここでいけるかしら…」

 

リーナはそんな桐原が勝てるかどうか心配だった。

 

「アンジェリーナさんには悪いが、ここで決まりだよ。」

 

「でも、剣術部と剣道部が揉めた際に桐原先輩と壬生先輩は戦って、壬生先輩が勝ったわよ?」

 

心配しなくても良いと桐原を信頼する森崎だが、エイミィの言葉に深雪達は耳を貸す。

単純な剣の腕では壬生が上、しかし魔法の腕では桐原の方が上。

 

「そう言えば、第三試合ってどんなルールだっけ?」

 

「えっと…。虹色と同じ七色の皿を体の好きなところにくっつける。

互いに虹色の順番、赤→橙→黄→緑→青→藍→紫か紫→藍→青→緑→黄→橙→赤のどちらかの順序で相手の皿を破壊すれば勝ち。

もし違う色の皿を間違えて破壊したなら、破壊された選手は破壊された色の次の色から相手の皿を割っていいルールで赤の次に紫を割ったら、紫の次の色から、紫の次に赤を割った赤の次の色から割らないといけないわ」

 

自分の出る競技のルールを覚えるのに必死なほのかは知らなかったので、補欠の為、全てのルールを叩き込まれたエイミィが説明をする。

 

「更に言えば、七色のお皿を割る際には魔法だけの攻撃は禁止。

お皿に振動系の魔法をお皿にかけて割った場合は反則敗けで、移動系の魔法でなにかを移動させてぶつけるのはセーフ、魔法無しもセーフ」

 

「つまり、どっちも剣を使ってくるんだね」

 

エイミィの説明を聞き、二人の戦闘方法を理解した雫。

直接の魔法ではなく間接の魔法、互いに剣を片手に基本能力を上げたり剣の質を上げたりする。

 

「それならば尚更、桐原先輩の方が」

 

「馬鹿ね…それはテストでの話でしょ。

…本当に、本当に限界ギリギリまで調整をしてきたわね…光國…」

 

「どういう、意味ですか?」

 

「第一から第五全て学校側が用意した競技じゃない。

光國の考案した競技よ…オーダーのミスをした時点で立場が逆転をしていたわ」

 

最初はなんとなくだった。

深雪とペアを組んだ際に、なんとなく感じていた。深雪とペアが正しいと。

何度か試しにエイミィ、雫、ほのかと組んでみた。深雪も三人と組んでみた…だが、どうもしっくりと来なかった。

試合をして感じた。試合に勝って感じた。雫とほのかの試合を見て確信をした。既に嵌められていると。

 

「…確かにそうかもしれません。

こう言うのは本当によろしくないですが、ペアがリーナだったので二人三脚で走ることは出来たけど」

 

試合中、二人が協力しなければどうにか出来ない仕掛けがあった。

深雪の高いスペックがあれば余裕でどうにでもなるのだが、ペアが深雪についてこれない可能性があった。

 

「それなら私もだよ…渇を入れてくれたのが雫だったから持ち直したけど…」

 

「待ってくれ!じゃあ、ここまでの試合は全て手塚の想定内だと言うのか!?」

 

「まさか…本気で勝ちに来ているわよ、光國。

最後に色々と言う基本的な能力やここぞと言う時の運で一科生は勝った。

だけど、第三試合からはそれが通じなくなる…私かミユキが出れば話は変わるけれども、第三試合は一人だけで、第四試合には光國が待ち構えている。

第一試合をキリハラとどっちかが組んだところで、レオとエリカのペアに勝つ可能性は低い。ほのか達と組んだら負け確定よ」

 

オーダーが良くて勝てた。

その事を全く否定しない女性陣を見てなにも言えない森崎。

 

「例え桐原先輩が負けても、第四試合には」

 

「無理よ、勝てないわ」

 

自分がいるから負けない。

そう言おうとした森崎だったが、真っ向から否定される。

ほのかと雫もうんうんと頷いていて、最初から勝てると思っていなかった。森崎は所謂捨ての大将だった。

 

「どうしてそう言いきれるの?

手塚さんは…今回のこの対抗戦を大きくしたけども、自らで動いていないわ。

例え、ルールで手塚さんが有利だとしても…」

 

「それは……ごめんなさい…理由は言いたくないわ」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ど、ど、どうしよう…」

 

荒野の決闘ならぬ演習場(草原)の決闘がはじまる数分前。

壬生はまだ慌てていた。自分が負けてしまえば全てが、魔法師として完全に終わりだと頭の中で瞑想していた。

 

「この作戦で、この作戦で本当に大丈夫なの!?」

 

「…負けても良いですよ?」

 

「え?」

 

余りにも慌てている壬生に期待していないかの様に付き添いできた光國は言った。

 

「別に負けても、構いませんよ。

魔法師としては完全に壬生先輩の人生は終わりです、負け犬の道を歩みますよ。

けど…それのなにが問題だって言うんですか?魔法師として終わっても、壬生先輩の人生は終わっていませんし…逃げたり諦めたりする事は悪くない。問題は次にどうするか、逃げた先でなにをするか、諦めて別の道を見つけ出すかが重要ですよ」

 

トンっと壬生の額に人差し指と中指をつける光國。

壬生の顔をしっかりと見ており、壬生の体には力が入っていなかった。

 

「壬生先輩は美人だしエリカと美月を使って、アイドルって言うのもありですよ」

 

「ア、アイドル!?」

 

「……落ち着きましたか?」

 

「ええ…なにを言っているのよ、もう。

私がアイドルなんて…柄じゃないわよそんなの」

 

緊張が解れた壬生はゆっくりと深呼吸をしてリラックスをはじめる。

それを見て光國はもう問題ないと安心をする。

 

「それでは頑張ってください…勝てる方法は既に教えてますので」

 

「ねぇ、こんなので本当に大丈夫なの?」

 

「お前達、時間だ」

 

光國から聞いた桐原の攻略方法。

果たしてそれで勝つことが出来るのかと、心配するが摩利が間に入った。

時間が来たと光國は壬生とわかれる。

 

「頑張って勝利を…オレまで繋いでくれ…」

 

「…手塚、随分と色々な手を用意したようだな。

試合を観戦している一科生と二科生は色々と心を変えだしたが、これだと壬生達が…」

 

余りにも醜態を晒すだけだ。

自分達を抑えた事はよかったが、勝つまでには至らなかった。摩利はそう感じるが

 

「なにを言っている…オレ達は負けてはいない」

 

光國は最初から勝ちに来ていた。

壬生に負けても良いと言ったが、壬生を落ち着かせる為で勝てと言うのが本心だ

最初から光國は全員が勝てると信じていた。だから自らを第四試合に置いた。

 

「…不幸を感じるものは幸福者で、不幸と感じないものこそが真の不幸な者。

悪を悪だと感じるものは真っ当な人間で、悪を悪で罪だと自覚しないものが本当の悪…オレ達にとっては現実な世界だが、どうなってるんやろうなその辺は…」



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強き力を持つと人は使わずにいられない。それが人の常なり

『「悪いな、壬生!!」』

 

勝負は中盤に差し掛かっていた。

どちらも模造刀を構えて互いの皿を順番通り割っており、桐原は黄色まで割っており、壬生はまだ橙色まで割っていた。

 

『「…」』

 

桐原の攻めを体の重心を動かして、ギリギリのところで避ける壬生。

模造刀なのでビームを放ったりはしてこず壬生は避ける、避ける。

ただひたすらに試合が始まってから一度も声を発せず、まともな会話をせずに、避ける。

そして極稀に出来る大きな隙で攻撃をする。

 

『「…そんなものかしら?」』

 

「手塚くん…壬生先輩になにを教えたの?」

 

そんな光景を控え室のモニターで見るエリカ。

何度か壬生の戦い方を見ていて知っていたのだが、モニターに映っている壬生の戦闘スタイルが今までと違う事に驚きを隠せない。

寺での修行中、光國と時折マンツーマンでなにかをしており、それでああなったと考えて光國に聞いた。

 

「お前達の目にはどう見える?」

 

「…なにも読めないわ」

 

壬生の動きには一切の無駄が無い…とは言い切れない。

だが、なんの反応もなくただただ無を貫こうとしており、雰囲気からなにかを察したり、読心術を使ったりする事が出来ない。

 

「アレは完全に桐原先輩に対して…例えるなら、心を閉ざしている…」

 

達也は今の壬生の様子を見て、ふと思い出す。

それは入学した次の日の朝、体術の師匠である九重八雲の元で朝の鍛練をしていると九重八雲が深雪にセクハラ紛いの事をした時の事だ、嫌がっていた深雪を助けるために達也は九重八雲に挑んだ。殺すつもりは全くないがそれなりに殴っておこうと本気で挑んだが負けた。

九重八雲は体術だけならば、自分よりも上だと達也を誉めていた。

それなのに勝てないのは場の空気を読んだり相手の癖なんかを見抜く洞察力や戦いの運び方などの経験で得るものが九重八雲の方が遥かに上だった為だ。

ヘラヘラと笑っていた九重八雲とは対極ではあるものの、壬生はその時の九重八雲と似ている。

 

「読心術の反対の閉心術を教えた…とでも言っておこうか」

 

「読心術が効かなくなるのはスゴいですけど…どういう作用があるんですか?」

 

閉心術のスゴさがイマイチ分からない美月。

スゴいぞと言うだけで光國はその理由を答えなかったので、ヨシヒコが説明をはじめる。

 

「ある程度の実力を持った者同士が戦う場合は単純な身体能力勝負とかじゃなくなるんだ。

相手より有利に勝負を進めることが出来るかが重要で、有利に進めることが出来れば大物喰い、つまりジャイアントキリングが出来るんだ。

戦いを有利に進める時に誰もが相手を見て動いたりするんだけど、それも読心術の一種で壬生先輩は無駄を省いて心を閉ざして桐原先輩に動きを読めなくしている。」

 

「ましてはどっちも一度でも斬られれば敗けの剣よ…そう言う読み取る力は高いわ」

 

ヨシヒコの説明に補則をするエリカ。

美月は成る程と納得するのだが達也は余り良い顔をしない。

壬生が閉心術を出来るようになったのは、手塚のお陰だ。つまり、手塚も同じ事を出来る。

 

「けど、大丈夫なのか!?

壬生先輩は心を閉ざして、桐原先輩を上手くかわしてて互角だけどこのままじゃジリ貧だぞ!」

 

レオはこのままでは勝てないと感じていた。

レオだけでなくエリカやヨシヒコも同じ事を感じており、まだなにかあるのかと光國を見た。

 

「ただ心を穏やかに、無にして読まれなくする方法と軽い手品を教えただけだ」

 

「手品を教えるぐらいなら攻め方を教えなさいよ!」

 

「あの人は強いから攻める方法なんて教えなくても問題ない…まぁ、折れかけていた精神がなんとも言えないが…倒れて立ち上がった人は強い」

 

エリカのツッコミを気にせず、壬生の試合を見る光國。

 

『「くそ、こうなったら!!」』

 

「あの人…入れてたの!?」

 

「オレなら大丈夫、そう思ってるんじゃないのか?」

 

避け続ける壬生に攻め続ける桐原。

痺れを切らしたのは桐原でCADを操作して魔法を模造刀へと入れた。

エリカは桐原の十八番とも言える魔法を使ったのを見ていたので、直ぐに高周波ブレードだと気づいた。

 

「エリカ、落ち着け。

あの人は壬生先輩に高周波ブレードを向けない…模造刀を斬り落とし、リーチを半分にするつもりだ…それに会長、風紀委員長、会頭の三巨頭がいるから問題はない」

 

カッとなって壬生に向けたのに、大丈夫か心配するエリカを達也は落ち着かせる。

 

「…千葉、ヨシヒコ、西城、司波、柴田

武術家やスポーツ選手にとってなにが一番大事なのか、悪人のなにが一番最悪なのか知っているか?」

 

最後の峠がやって来たと口を開いた光國。

 

「…心ですか?」

 

「…オレは昔はそこそこテニスをやっていた。

テニスを諦めたオレが言える義理ではないが、決して折れることの無い心はスポーツ選手や武術家にとっては一番大事なものだ」

 

問いかけに美月が答えると頷いた光國。

 

「悪人の心はなにが最悪か分かるか?」

 

「悪いことをしようとする心か?」

 

「違う」

 

今度は達也が答えたが、首を横に振った光國。

ほんの些細なイタズラやジョークをしない人間なんて、達也の様に妹への愛以外の強い感情を持てない感じの人間ぐらいだろう。

誰にだって悪い心はある。美月やヨシヒコだって、悪い心はある。堅物の十文字にもだ。

それを抑制する強い心?いや、それも違う

 

「悪人の心の問題点は」

 

『「ぎゃあああああああああ!?」』

 

光國が質問の答えを教えようとしたその時だった。

モニター越しで叫び声が聞こえ、光國に集中をしていたエリカ達は直ぐにモニターに目を向ける

 

「そんな…」

 

顔を青くするエリカ

 

「うっ!」

 

嘔吐しそうになり口を抑える美月

 

「柴田さん!!」

 

そんな美月に駆け寄るヨシヒコ

 

「くそ!!」

 

控え室から出ていこうとするレオ

 

「待て、何処に行くつもりだ?

フィールドに入った時点で壬生先輩の負けになる、勝手な事はするな」

 

大きく心が動く四人に対して、光國は冷静だった。

まるでこうなることを予想していたかの様に冷静で、眉一つ動かさずにモニターを見る。

 

「もう負けとか勝ちとか、そんな話じゃないだろ!」

 

「皆、僕は柴田さんを保健室に連れていく。だから、急いで壬生先輩の元に」

 

「幹比古、美月を連れていくのは構わないがそれは引き受けられない」

 

「どうしてよ…壬生先輩の手が斬られてるのよ!!」

 

ヨシヒコの頼みを引き受けない達也に叫び、自分だけでもと控え室から出ようとするエリカ。

しかし、達也が扉の前に立っており通り抜ける事は出来なかった。

 

『「み、壬生」』

 

『「きり…はら、くん…」

 

壬生に近寄り模造刀を握っている手が小刻みに震える桐原。

壬生の手は切り落とされており、切断面から血を流す。

 

「…悪い心は誰にだってある。

誰だって悪いことをした事はある…悪いことをしたら、怒られる。そして怒られたら二度としない様にしようと反省する。もし怒ってくれる人がいなくても、そいつのした悪いことの被害にあった人の顔を見て、自分は悪いことをしたと感じる…だが、悪人はその辺に疎い、性格の悪い奴は説教してくれた人をウザイやクソジジイだと思うだけだ…桐原先輩はカッとなるが悪人ではない」

 

「…この試合は壬生先輩の勝ちだ」

 

達也は光國の言いたいことが分かった。

何故、心を閉ざして避ける方法と手品しか教えないのかが分かった。

 

『「試合は一旦、中止だ!」』

 

『「ま、待って!ジョーク、ジョークよ!!」』

 

モニターの映像に入り込み、試合を強制的に終わらせようとする摩利。

それはまずいと焦った壬生は切断面から、自分の手を出して大丈夫だと見せる。

 

「アレって…ド●キとかで売ってる、本物そっくりの手?」

 

落ちている手を拾う壬生はそれがなにかを摩利に説明をはじめる。

 

「三年前にリーナとマジックショーを見に行った。

そして切断マジックを見た…マジックは毎日進化していた。

20世紀終盤から今にかけてマジックの道具は簡単に手に入るようになり、有名なマジシャン達がタネを明かし、オレ達より何個か上の世代からマジックのタネは目の錯覚を利用していたりするとバレているから専門家じゃなくても見抜かれるケースが多い…が、マジシャンはそれを利用する。

偽の腕を用意して、偽の腕を切り落として布で包んで1、2、3の指パッチンで本物の腕が出てくるマジックの応用…引っ掛かったか?」

 

「引っ掛かったか、じゃないわよ!!

美月が気分を悪くするし、私達の心臓もヒヤヒヤして寿命が縮まるかと思ったわ!!」

 

「安心しろ、オレなんてリーナが居ないと1ヶ月で死ぬ命だ」

 

「どんだけ依存しているの!?」

 

「それよりも、これに意味があるのかい?」

 

切断マジックは達也以外が騙されるぐらいに高度なものだった。

いったいどこから偽の腕で、どこから本物の腕か分からないぐらいのものだが戦闘とは全く関係の無いものだった。

桐原が動揺している隙に攻撃をするのならばいいが、摩利が間に入った為に試合が一時中断されてしまったので出来ない。

ヨシヒコはこれだとなにも出来ないと思うが、それは全く違う。

 

「…桐原先輩はもうおしまいだ」

 

「人間力を鍛える授業は本当に重要だな…」

 

もう勝ちは決まったと見守る光國と達也。

義手などは事前に申請してくれと摩利はため息を吐いて、場を離れて数十秒がたって真由美の試合再開の掛け声と共に壬生と桐原は構える。

 

「桐原先輩、動きが悪くなってる…手塚くん、これって」

 

「狙ってやった」

 

ヨシヒコが柴田をトイレへと連れていく為に部屋を出ていくと桐原の異変に気付くエリカ。

先程までの攻めもなければ気迫も落ちており、高周波ブレードを使わなくなっていた。

 

「本当に手遅れなことになってから悪いことをしてしまったと気付けば人は罪悪感に苦しむ。

ランクBで、刃を相手に触れさせる事が出来れば確実に人を殺せる高周波ブレードをCADに入れてて、カッとなって壬生先輩にぶんまわす桐原先輩だ…そう言った意識は薄いが…壬生先輩を斬ってしまったら話は別だ」

 

「手塚、ここまでやらなくたって」

 

「アホぬかせ、スポーツ選手はともかく武術家全員がこの辺を考えて自分の答えを導きださんとアカンことやで…一番最後に待ち受けるものは色々とあるけど武術は人を傷つけるもんやからな」

 

「レオ…手塚の言うとおりだ」

 

「…あんまり、認めたくない事だし触れたらダメだけど…」

 

勝つための事とはいえ、やりすぎだと思うレオだがエリカと達也は強くは否定できなかった。

誰かを傷つける技術を、エリカと達也は覚えた。

誰かを傷つけたりする技術を手に入れるのは簡単だが、問題はそれを使えるかどうかだ。

活かすも殺すもその人の心次第で、桐原には活かす覚悟も殺す覚悟も全くなかった。

 

「人を殺す技術を教えているが、活かす機会もなければ練習もない。

いや、無い方がエエし使う機会があったら大問題やねんから当然っちゃ当然の反応。

西城、人を殴ったりする可能性のある職業につくならばそれ相応の覚悟を持たないといけない…お前なら問題無さそうだが」

 

『「くそ…」』

 

桐原は次第に追い詰められていき、藍色の皿まで割られており残りは紫色の皿だけだった。

 

『「桐原くん、終わらせるわ…」』

 

心臓がある部分に紫色の皿を置いている桐原。

壬生は突いて倒そうと距離を取ったあとに独特の構えをとった。

 

「アレは!?」

 

壬生の試合中、眉一つ動かさなかった光國ははじめて驚きをみせる。

あの構えを知っているには知っている。だがしかし、閉心と手品の練習中には一度も見せなかった。

 

『「手塚くんにだけ、頼っていたら意味はないから…皆には内緒だったのよ!」』

 

「あれは、自己加速魔法…」

 

『「桐原くん…私は魔法の腕は劣っているかもしれないわ。

だけど…剣士としては劣っていなかったみたい…努力して、覚える事が出来たわ」』

 

「いや、違う…あの動きは!」

 

壬生は桐原との間合いを一気に詰める。

走って間合いを詰めず、縮地法で一歩、また一歩と素早く間合いを詰めて

 

『「三段突き!!」』

 

高速の三段突きを決めた。

 

「…アレは確か、素のスペックだけだったな」

 

見事なまでの三段突きを見て、沖田さんの無明三段突きを思い出す光國。

アレには魔法的な要素はなく沖田さんがびょうじょてんさいけんしだったからこそ出来たもので、極限なまでの物理である。

 

『「桐原武明の虹が破壊された事により、勝者、壬生沙耶香!!」』

 

真由美の声と共にモニターには壬生の顔写真が写り、下にはwinnerの文字が書いてあった。

 

 

第三試合 ロストレインボーロード

 

二科生 壬生沙耶香 ○ 一科生 桐原武明 ●

 

「…あの人、最後の最後で魔法だけじゃないと証明したな…」

 

三段突きが出来たのは、壬生の魔法と剣の才能のお陰だった。

首の皮一枚繋がった事に安堵するエリカ達だが、まだ安心することは出来ない。

 

「お前達、まだ試合する余裕はあるか?」

 

まだ試合は残っている。

エリカとレオは第一試合で、プレッシャーに負けることなく真っ直ぐに走った。

第五試合の団体戦で動けるかどうかを光國は気にした。

 

「問題ねえよ。

幹比古に美月に壬生先輩があんなに頑張ってくれたんだ…これでオレ達が動けませんじゃ笑い話にもならねえよ。」

 

「それよりも、手塚くんの方がどうなの?」

 

団体戦は第五試合、次に行われるのは第四試合だ。

首の皮一枚で繋がった二科生はもう負けることなんて許されない状況で、光國はストレート負けにならない様にした壬生以上に責任が重大だ。

 

「失礼します」

 

第四試合が大丈夫なのかと言う心配の中、控え室に入ってきた市原。

 

「市原先輩、どうかしましたか?」

 

「…後の二人は?」

 

「ちょっとトイレに行っています…壬生先輩の手品が少し、強すぎて」

 

「…そうですか…」

 

達也がヨシヒコと美月が居ない理由を説明すると顔を少し悪くする市原。

見物していた人達にとってこの試合はとても重たいものであったのが、達也にはよくわかった。

 

「それでなにかありましたか?」

 

「はい…第四試合はモニター越しの観戦ではなく、直ぐ側での観戦になりました。

現在、服部副会長が一科生と二科生を連れて移動していますので皆さんも移動をしてくださいと」

 

 

「あの~」

 

「なんでしょうか?」

 

「第四試合って、なにをやるんですか?

手塚が出るって最初から決めてて、他の試合を選べって言われててオレ達、どんな試合か知らないんですよ」

 

市原が観戦の為に部屋にやって来たので第四試合がなんなのか益々分からなくなるレオ達。

他の試合と違い、観客が直ぐ近くに居ても問題無いとなれば考えられる試合は数少ない。

 

「やっぱり、単純なクイズですか?」

 

一番妥当なものと言えば、やはりクイズである。

魔法師としての知恵は重要で、それならば干渉力とか関係無く一科生と互角に渡り合う事が出来る。

 

「いえ、違います」

 

しかし市原はエリカの考えは違うと否定する。

 

「その手の勝負なら筆記がぶっちぎりトップの達也にここで交代する。

高校生クイズの様に体力とかも使う感じのやつでも、達也ならば一位を取ることは出来る。

ここに来てクイズするならば、筆記試験で真面目に頑張って一位を取った方が効率が良いだろう」

 

「だろうな」

 

最もらしい光國の意見に達也は頷いた。

そして市原を見て、試合のルールを教えてくださいと視線を送った。

 

「…テニ…です」

 

「クラウド・ボールに似た競技ですか?」

 

ボソッと呟いた市原の言葉を聞き取った達也。

九校全てが今みたいなルールありの試合で勝負して競いあう九校戦、その九校戦の競技の一つであるクラウド・ボールに似たものと考えたのだが市原は首を横に振る。

 

「クラウド・ボールではありません、テニヌです」

 

 

一科・二科対抗戦

 

第一試合 エリカ・レオ ● 深雪・リーナ ○

 

第二試合 幹比古・美月 ● ほのか・雫 ○

 

第三試合 壬生 ○ 桐原 ●

 

 

 

第四試合

 

 

 

一科生代表 1-A 森崎駿

 

 

二科生代表 1-E 手塚光國

 

第四試合競技名

 

 

 

 

 

テニヌ

 

 



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魔法科高校の王子様

「ほのか、大丈夫?」

 

「うん…」

 

控え室に森崎を残して、出たリーナ以外は顔色は優れない。

光國が勝つためならばと桐原の罪悪感を利用する戦法を見てしまい、ショックでほのかは気を失いかけた。

 

「…あそこまで、やるなんて…」

 

ほのかを心配する雫だが、雫も顔色は優れない。

この作戦を思い付いた光國に引いている。

 

「やる時はやる、やらない時はやらないのが光國よ。

今の光國は本気の光國で…勝利の為には冷徹になれるし徹底している…敵にも自分にも厳しいわよ…ああいった事への耐性をつけるために、わざわざ自分で鶏を殺して捌いて余すところなく食べたわよ…」

 

光國の事を教えながら歩くリーナ達。

すると、達也達を引き連れた市原がやってくる。

 

「…おや、中条さんは?」

 

「すみませ~ん!遅れました!」

 

本来ならば一科生を引き連れなければならないあずさが居ない事に疑問を持つ市原。

すると、後ろから手を振って何度かジャンプをしながらあずさが此方に向かってきた。

 

「なにかありましたか?」

 

「桐原くんが気を失いました。」

 

「大丈夫なのですか?」

 

「…大きな怪我で意識を失ったのではなく、精神的なショックで気を失いました…今は安らかに眠っています」

 

肉体的なダメージで意識を失ったのではなく、精神的なダメージで意識を失った。

そしてその精神的なダメージは精神干渉魔法などで出来たダメージではない、ただの罪悪感であり、桐原は今日はもう試合をすることが出来ない事を意味する。

 

「エイミィ、第五試合に出れる?」

 

「う、うん…いけるわ」

 

首がもげるかと思えるぐらいに縦に振って深雪に答えるエイミィ。

 

「では、入りましょう。

既に選手以外の一科生と二科生は入っていますので」

 

「広いとは思っていたけど、屋内のテニスコートもあるんですね…」

 

桐原の代わりにエイミィが入ったので、目的地こと屋内のテニスコートへと入る市原。

深雪達も後を追うようにテニスコートへと入ると

 

 

 

 

 

 

「お前達、もう一度だ!!」

 

 

「「「「勝つのは森崎!!負けるの手塚!!勝つのは森崎!!!!」」」」

 

 

 

 

 

二科生を下に見ている一科生達が協力をしてコールの練習をしていた。

 

「ざっと見て200人ぐらいだな…もしかしたら手塚は自分を踏み絵にしたのか?」

 

「どういう事ですか、お兄様?」

 

「服部副会長はブルームとウィードの事を言っているのは、全体の3分の2だと言っていた。

全員が私服を着ているから分かりづらいが、コールをしているのは一科生の中でも選民意識が強い者達で自然と観客席もそれに分かれている…これを狙って、第四試合は生での観戦をしたのか…」

 

「これでもまだ変わった方です。

千葉さん達が互角以上に試合を繰り広げ壬生さんが試合に勝った事により、少しずつ意識が変わっていきました…」

 

果たしてこの人数が多いのか、少ないのかは達也にも市原にも分からない。

しかし変わっていった事は確かで、コールをしようとしない生徒達は自然とコールをしている生徒達と距離を置いていた。

 

「この中で手塚さんが試合を…」

 

ゴクリと息を飲み込んだほのか。

先程まではカメラが向けられていただけだが、この試合は視線を向けられている。

それに加えて200人超の森崎コールで圧倒的なまでに手塚にアウェイな場だった。

 

「おい、手塚を応援しろよ!!」

 

同じ事を感じたレオは応援をしない二科生に活を入れにいった。

 

「応援って、言っても相手はあの森崎だろ?」

 

壬生の名や剣の腕はそれなりに有名だ。

エリカの千葉は有名だ。

吉田の名前もそれなりに有名だ。

同じぐらいとは言わないが森崎の名前もそれなりに有名だ。

では、手塚はどうだと?なにか新しい理論や魔法を作り上げたわけでもなく、リーナの側にいるだけでなにかこれといったのを見ていない。

 

「全員、席に座ってください。

間もなく、バ会長からのルール説明等が入ります」

 

「ねぇ、リンちゃん、やっぱりバ会長って」

 

「七草、説明をしろ」

 

バ会長については誰も触れようとしない。しちゃあいけない。

十文字にルールの説明をしろと言われたので、ルールの説明をする。

 

「基本的なルールはテニスと変わりません。

6ゲームの3セットマッチで、先に2セットを取った方が勝利です。

審判は私達三人に加えて、男子女子のテニス部の部長と副部長にお願いしています。

ボールはラケットを使って打ち返さなければならず、魔法だけで打ち返すと相手のポイントになります」

 

「ラケットを使って打ち返すとなると…自身を強化するか、ボールの重さを増やすか、ボールを見えなくするか、ボールか自分かに限定されるな…」

 

中々にシビアなルールに加えて、二科生でも大物喰いが出来そうなルールだと達也は考える。

クラウド・ボールは圧縮空気を用いたシューターから射出された直径6cmの低反発ボールを、ラケットか魔法を使って制限時間内に相手コートへ落した回数を競う。

透明な箱にすっぽり覆われたコート内へ20秒ごとにボールが追加射出され、最終的には2名の選手が10個のボールを追いかけるがテニヌは違う。

一球の球にだけ集中することが出来て、魔法で直接打ち返せないので身体能力がものを言う競技だ。これならば万が一の事が起きて自分が出ても問題無いと考える。

 

「これだったら、エリカが出ても良かったんじゃないのか?」

 

テニス部に入ると言っていたエリカ。

この競技ならば体の動くを上げる系の魔法で十二分に力を発揮する事が出来る。

 

「手塚くんの方が向いているわ…私にあんな器用な真似は出来ないから」

 

「?」

 

しかしエリカは10球打ちをした光國を思い出す。

CADを使ったかどうかは不明だが、それでも10個のボールをほぼ同時に打つことはエリカは出来ない。ダッシュ波動球を打つことも出来ない。

 

「一科生、1-A、森崎駿!二科生 1-E、手塚光國!」

 

会頭の声と共にテニスのネット越しで向かい合う森崎と光國。

 

「ここで終わらせてやる…アンジェリーナさんの金魚の糞め」

 

「口を謹め!」

 

「少し黙っとけ…森崎、今どんな状況か分かっとるんか?」

 

摩利に怒られた森崎はただただ光國だけを見ていた。

光國は周りの光景が見えていないと周りの光景を見た方が良いと勧める。

 

 

 

 

「「「勝つのは、森崎!!負けるの手塚!!勝つのは、森崎!!」」

 

 

 

 

「お前を倒すのに最高の場所だ」

 

森崎コールの中、相手が負ける。

そうすれば大抵の相手は心が砕けてしまうだろうが、光國はそこを見てほしかったんじゃない。少しずつ、少しずつ変わっていく生徒を見てほしかった。

 

「どうやら、お前はなにも見えていないようだ。

…分かっているのか?ハードルが極限まで上がっているのはお前の方だ」

 

光國に掛かる圧は森崎とは比較する事が出来ないものだ。

しかし、森崎が越えないといけないハードルは光國のハードルと天と地の差がある。

光國はギリギリのところで勝つだけで良いのだが、森崎は圧勝しなければならない。

 

「ウィードに負けるわけが無いだろう」

 

「森崎、いい加減に」

 

摩利が怒ろうとしたその時だった。

光國は手を出して摩利を制止して、森崎を見る。

 

 

「…試合中、それと試合に勝ったらオレをウィードと呼んでもいい」

 

「待て、なにを勝手な事を、ウィードとブルームは学校が禁止を」

 

「その辺は校長をゆすればどうにでもなる…どうだ?」

 

「負けた場合の条件があるんだろう?」

 

「もしお前が負けて、オレが勝ったらお前は来年のこの日までツルッツルッのピッカピカのテッカテカの…ハゲになってもらう」

 

「…その場合、お前が負けた時の方のペナルティが弱い」

 

「じゃあ、オレが負けた場合はお前と同じペナルティを受ける。引き分けだったら、バカ草会長の眉毛を永久脱毛で」

 

「いいだろう」

 

「よくないわよ、て言うか遂にストレートにバカって言ったわね!!今まで見逃したって言うのに、テニスの審判は悪口に厳しいのよ!!」

 

「落ち着いてください、ばか!」

 

「リンちゃん!?」

 

光國と森崎の間に真由美の意思を無視してペナルティが追加された。

 

「ところで、手塚くん…ラケットはどうしたんですか?」

 

「…」

 

明らかにサイズが合っていないAの横線の部分が赤い○になっているJAPANとかかれたジャージの中に上の胸の部分までが黄色、そこから下が緑色の竹を彷彿とさせるテニスウェアを着ている手塚だが、ラケットを持っていなかった。

 

「…」

 

「もしかして忘れたの?こんな!大事な!試合の!時に!」

 

ここぞとばかりに攻める真由美。

今までの恨みだと強調して叫んでいると

 

「手塚さ~ん!」

 

トイレに行き、出すものを全て出していた美月とそれを支えていたヨシヒコがやって来た。

二人は選手専用の観客席には向かわず、手塚を見つけると大きく手を上げる。

 

「ラケット、届きましたよ!!」

 

「っ、来たか!」

 

美月の朗報を聞いて喜ぶ光國。

すると、美月とヨシヒコの後ろからアロハシャツを着たお爺さんがとぼとぼと歩いてくる。

 

「あの人って確か…」

 

「手塚が持っていた写真に写っていた人だな」

 

「オジイ、遅いで」

 

「なんか、色々と外で揉めてたよぉ…ラケット、大事に使ってねぇ…」

 

オジイから木製のラケットを受け取った光國。

軽く数回素振りをして、何度かグリップを握るとちょうど良い感じだったのか頷く。

 

「間に合ってよかった。

あのおじいさん、手塚のラケットを届けに来たのは良いけど迷子になってたから」

 

ヨシヒコ達も席へと座り、ホッと一息つく。

すると、オジイは一科生と二科生が座っている席の間に座った。

 

「……ここ、大丈夫?」

 

「えっと…大丈夫ですよ、おじいさん」

 

「…この人、どうやって学校に入ってきたんだろう?」

 

今更一人、二人増えても問題無いので万が一とほのかは深雪達を見るがなにも言ってこないので承諾。

光國達が散々騒ぎを大きくして、日夜スタンバっている各メディアの記者達。

今日が対抗戦だと言うのを知られてはいないが、それでも隠れている記者は居るには居るのだが、魔法科高校の警備システムがそれを通さない…のに、オジイはあっさりと入っている。

雫はそれが疑問だったのだが、オジイが悪い人でもなんでもないので直ぐに頭から消した。

 

「…さぁ、油断せずに行くぞ…」

 

眼鏡とマスクをベンチに置き、森崎の元へと戻った光國。

何時もと風貌が違うと感じて少しだけざわつくが、天井が開いて日差しが差し込むと直ぐに静まり返った。

 

「エイミィ…いえ、ミユキ、ほのか、シズク…第五試合の準備は出来ているわよね?」

 

「3セットマッチ!森崎トゥサーブ!!」

 

そうこうしている内に試合がはじまるのだが、席を立ったリーナ。

エイミィ達がまだ戦えるかどうかを心配していた。

 

「リーナ、私は余裕で戦えます。

ですが森崎くんは今試合をはじめたばかりでいきなりの」

 

「ミユキ…そこ、危ないわよ?」

 

「え?」

 

ゆっくりとゆっくりと席を離れていくリーナ。

どういう意味かと深雪が真正面を向くと、森崎が此方へと飛んできた。

 

「危ない!」

 

飛んできた森崎に達也は一番先に反応し、深雪を抱き抱えてリーナが居る場所へと避難する。

 

「お、おい…なにがあったんだ!?」

 

オジイの事が気になっており、試合を見ていなかったレオ。

どうして森崎が飛んできたのかが分からず、コートに立っている光國を見る。

 

「…森崎の家はボディーガードをしていると聞く。

どれだけのものかと波動球で試してみたが、まさか壱式波動球と同等のダッシュ波動球で飛んでしまうとは……七草主審…」

 

「え、あ…ふぃ、15-0(フィフティーンラブ)!」

 

真由美の判定と共に、飛んできた森崎のお腹からポロっと落ちるテニスボール。

森崎はただ単にお腹にボールがぶつかっただけで、ここまで吹き飛んだ。そう、それだけである。

 

「ミブは日本で二番目かもしれない、キリハラは関東で一番かもしれない。

だけどね…光國は世界一のテニスプレーヤーになった男なの…森崎だと勝てないわ」

 

「世界一って、本当だったの…」

 

ノロケ話だと思っていたが、本当だったことに驚く一科生と二科生。

気付けば森崎コールも止まっており、光國はとどめとばかりに手を合わせる。

 

「先に言っておく…このダッシュ波動球はレベル1で、九重寺での修行によりオレはレベル54の波動球、即ち伍拾肆式波動球まで打つことが出来るようになった…オレの波動球は伍拾肆式まであるぞ…」

 

光國は一瞬にして森崎を応援していた一科生を絶望へと叩き落とした。



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テニヌの王子様

「はぁ…はぁ…急がないと!」

 

第三試合を勝利した壬生。

桐原の方がダメージは大きかったものの、壬生もそれなりのダメージをおっており体に幾つかの湿布を貼って治療をしており、ついさっき治療を終えて一度荷物を取りに控え室に戻るととんでもない事に気付き、全速力でテニスコートに向かって走っていた。

 

「まだ時間的にもそんなに経っていない…わよね?」

 

屋内テニスコートに辿り着くと、不気味なほどに物静かで少しだけ怖くなった壬生。

程よい風が心地良いはずがとても冷たく恐る恐る入るとそこにはちゃんと一科生と二科生が居て、光國と森崎が試合をしていた。

 

「なんでこんなに静かなの?」

 

「あ、壬生先輩…」

 

とりあえずは一番話しやすい空を見上げるエリカにこの状況を聞くと、見上げたまま空を指さすエリカ。

なにかあるのかと壬生も空を見上げると物凄い速さでテニスボールが森崎のコートのセンターマークへと落下して、弾んだ際に観客席に向かって飛んでいった。

 

第6の返し球(シックススカウンター)星花火…七草主審、コールは?」

 

「ゲ、ゲーム手塚…1-0、チェンジコート!」

 

真由美の判定のコールと共に、大きく騒ぐ二科生達。

 

「手塚くんが勝ってるのね…」

 

序盤とはいえ、光國が勝っている事に安堵する壬生。

光國はベンチに置いている、ドリンクを飲みに近付いてくる。

 

「手塚、さっきの星花火ってどんな技なんだ!」

 

「相手のコードボールを上空へ強烈に打ち上げ打球を相手の視界から消す。

建物の内側と外側に吹く風が、高速落下する球に不規則な回転を与えて相手のコートのセンターマークへと向かい、最終的にはコートで起きるバウンドが不規則になり、大きく弾んで観客席へと向かう技だ…お疲れ様です、壬生先輩」

 

目を輝かせるレオに虎視眈々と答える光國。

壬生の事に気付くとペコリと一礼をしてきた。

 

「手塚、内側と外側の風と言うが不規則に吹き荒れている。精霊魔法を使って、調整を?」

 

「そんなものは必要ない…ただ風を読んだだけだ」

 

「風を読むって、そんな事は出来ないわよ」

 

星花火を精霊魔法でしたと考えるヨシヒコだが光國は魔法を使っていない、と言うか使えない。

 

「千葉さん…手塚くんは魔法を使ってないわ。

だって、ブレスレット型のCADを控え室に置いていたのよ」

 

壬生はそれを証明する。

控え室に戻った時に、光國が置いていったCADに気付いた。

魔法が使えないんじゃいくら光國でもと慌てていたが、星花火を見てそんな心配はむしろ不要だったと考えを改める。

 

「って、事は手塚くんは本当に風を?」

 

「別に珍しい事でもなんでもない。

今の時代は天気予報で空から科学的に予測するが、科学技術が余り発展していない時代ではヨシヒコの様な今で言う古式魔法の使い手が予測するか雲や風の流れをなんとなくで読んでいたんだから…」

 

「確かに古式魔法の中には天気を予測したり見たりする魔法があって、そう言った使い方をしていたらしいけど…まさか、手塚が風を読めるだなんて」

 

呆れたと言うか天晴れと言うか、なにも言えないヨシヒコ。

光國は水分補給を終えるとコートへと戻って女子テニス部部長からボールを貰うのだが、女子テニス部部長が光國にペコペコと頭を下げている。

 

「アイツ、掌返しをして…光國の事をわかると!!」

 

その光景を見て、怒りを露にするリーナ

 

「落ち着きなさい、リーナ!」

 

「いや、深雪も達也さん関係だとあんな感じだよ…」

 

そんなリーナを宥める深雪だが、お兄様関係だと同じことをしている。

雫は深雪に呆れつつも、森崎ではなく光國に視線を向けて仮想ディスプレイ型の端末を起動させる。

 

「それにしても、まさか手塚さんがテニスの世界チャンピオンだったなんて」

 

「世界、チャンピオン?」

 

「三年前の話よ。

三年前までは15歳以下で最強だったけど、今は別の誰かが最強らしいわ…」

 

苦虫を噛み潰したかの様な顔をするリーナ。

それは明らかにイラついており、その視線の先には森崎ではなく光國がいた。

 

「って、サーブはやっ!!」

 

光國のサーブに驚くエリカ。

森崎は油断しており、全くと言って反応が出来なかった。

 

「…誰か、速度を測ってくれないか?」

 

「俺が測ろう」

 

油断しているのか、していないのか分からないが取り敢えずは志願する達也。

スピードガンを借りて構えると光國は超高速のサーブを打つ…が

 

「舐めるなぁああ!!」

 

森崎は打ち返した。

森崎はと言うか森崎家は、如何にして素早くCADを使い相手にやられる前にやるクイック・ドロウを得意としており、反射や反応速度は人よりも鍛えており、ただ単に素早いサーブだけなら反応がする事が出来た。

 

「お兄様、何キロでした?」

 

「208キロ…俺はテニスの事を詳しくは知らないが、これはぶっちぎりの一位なのか?」

 

光國と森崎がラリーを続ける中、測定を終えて戻ってきた達也。

光國のサーブがスゴいのかスゴくないのかイマイチ分かっておらず、どう反応して良いのか分かっていなかった。

 

「速いには速いけど…もっと上なら新幹線並みの速度のサーブらしいわ」

 

「本当にそれテニスなの?」

 

「テニスよ」

 

壬生はテニスを知らないだけで、これがテニスである。

 

「しかし、これはテニスではなくテニヌ。

魔法ありの勝負で、森崎くんは魔法を使い粘ってラリーをしています…ボールを打つと同時に魔法をかける感覚は掴めていませんが、このままだと掴みそうで」

 

「問題無いわ…光國、まだ本気じゃないもの」

 

森崎がやや劣性ながらもラリーを続ける光國。

明らかに余裕があり、市原の心配が薄れていく

 

「そろそろ前に出て良いか?」

 

「前に出て打ち返せるものなら、打ち返してみろ!!」

 

光國の発言を挑発と思った森崎は挑発で返した。

ボールをネットにぶつけて、コードボールを狙う森崎。空中に浮いている隙に加重魔法をかけて、重さを足して光國のコールへと倍速で落とそうとするのだが

 

「ああ、打ち返してやる」

 

「なっ!?」

 

ボールがバウンドする前に光國はネット際まで一瞬で近づき打ち返した。

 

「30-0!…今の動きは、達也くんの…」

 

コールをすると光國の動きが達也の動きに似ていると呟く真由美。

摩利からボールを受け取ると光國はサーブを打って、森崎が打ち返して再びラリーを始めるのだが

 

「疾きこと、風の如く」

 

光國が一瞬にしてネット際に現れ、超至近距離でボールをコートに叩き込んだ。

 

ふぉ、40-0(フォーティーラブ)!!」

 

「お兄様、あれは!」

 

「ああ…」

 

ボールでも森崎でもなく、光國の姿だけを見ていた深雪と達也。

センターマークがあるところから、ネット際までの距離を移動した際の動きをしっかりと見ていた。

 

「武術の歩法だ」

 

森崎と揉めたあの日、光國は言った。

森崎のCADを弾いたのは魔法でもなんでもない体術で、自分も似たような動きは出来ると。

出来るといっている割には素振りを見せなかったが、ここで使うとは思っていなかった。

 

「どうした、そんなものか?」

 

「これなら、どうだ!!」

 

再びネット際までやって来た光國だが、森崎は動きを読むことに成功し大きくロブを上げる。

 

「疾きこと風の如く」

 

打ち上げられたボールはセンターラインギリギリの所まで向かうのだが、ボールが落下するよりも先に光國がセンターラインに立ち、構える。

 

「そうか、縮地法か!!」

 

「そう言うことだ」

 

本当の意味で強い魔法師ではないもののそれなりの知識がある森崎。

一瞬にして移動する光國の動きをたった数回で見抜いたのは中々と言うところだ。

 

「縮地法…そうか、約10メートル内部なら1、2歩あれば良いから縮地法なら素早くいける!!」

 

「エリカちゃん、縮地法ってなに?」

 

原理が分かるとうんうんと頷くエリカだが、縮地法がなにか分からない美月。

美月だけじゃなく、エイミィやほのか達も分かっておらずどう説明をしようかと達也が考えていると真ん中に座っていたオジイが口を開く。

 

「縮地法…沖縄武術なんかでぇ、相手に気配を悟られず接近する方法でぇ、地面を蹴って走るのではなく地球の引力や倒れる力ぉ利用して早く歩く…歩くよりも、跨ぐ感じかなぁ…」

 

「爺さん、知ってたのか!?」

 

「レオ、落ち着け。

それよりも問題なのは見抜かれた事だ…武術の中には重心を移動させて早く動く歩法はそれなりにある。森崎家はボディーガードをしていて、体術の心得もあり…恐らく縮地法の弱点も知っている」

 

縮地法を使い、一瞬でボールの元へと向かい打ち返す光國。

森崎はなにかを狙っており、隙が無いかと探している。

 

「バカね…自分の弱点を理解していない奴が居ると思うの?」

 

「スゴいねぇ…」

 

「…!」

 

「縮地法を使うとは、やるようだがそれは前後の動きしか出来ない!!テニスじゃ、役立たずだ!!」

 

縮地法で相手の間合いを一瞬にして詰めて、体重を乗せて殴ったりするのが正しい使い方だ。

人を殴って動きを封じたりして、そこで終わりだがテニスは違う。森崎は詰め寄った光國の左斜め後ろにボールを打ったのだが

 

「お前のCADに入っているテニヌ用の魔法の方が役立たずだ」

 

「なっ!?」

 

「え、嘘!?」

 

光國は一瞬にして左斜め後ろに移動して、打ち返す。

打ち返したボールは打った位置から大きく横に移動せず、ジャイロ回転を起こしつつ真正面に飛んでいった。

 

「ゲーム手塚!2-0!」

 

「斜め後ろへの縮地って…魔法、は…使ってないわよね…」

 

光國のCADは壬生が持っている。

だから、魔法は使っていない。光國専用の武装型CADはあるにはあるが、このテニヌでは全くと言って使えない。

 

「光國は…常人の何倍も優れたバランスを持っているわ。

常人の何倍ものバランスを持っているから、筋肉を別々の方向に働かせる事が可能で横への縮地法…いえ、360度全ての方向に一瞬で間合いを詰めることが出来るわ。

そして一瞬で移動した後に、油断している相手に移動する隙を与えずにジャイロ回転を起こしたパッシングショットで抜く…」

 

「これがオレの相手を真っ向で叩き潰すテニス、風林火山の風だ…次は林で行かせて貰う」

 

「まだ、あるだと…」

 

そこからはもう、ただただ圧倒的だった。

 

「静かなること、林の如く…妙技綱渡り」

 

ボレーを使いコードボールを狙ったかと思えば、ネットの上にボールが乗って転がり森崎のコートに落とし

 

「鳳凰返し!」

 

「ボールが全く弾まねえ!?」

 

上回転をかけたボールに更に上回転をかけて、弾まない球を返し

 

「くたばれぇえええええ!!」

 

「麒麟落とし!」

 

遥か上空から加重魔法をかけて打ってきたダンクスマッシュを背を向けたままラケットを振り上げ遠心力を利用してセンターマークへと打ち返し

 

「っ、レーザービームか!」

 

「違うな」

 

ジャイロレーザーと同じモーションをとって森崎を動かしたあと、全く同じモーションから放たれるトルネードスネイクを決めた。

 

「レベルが…違いすぎるよ…」

 

森崎はボールに触れる事は出来ている。

森崎は攻めることも出来ている。

森崎は隙をつくことも出来ている。

森崎は守りも出来ている。

森崎は咄嗟の判断も正しく出来ている。

森崎は勝とうとする強い気持ちも持っている。

だが、それら全てが光國の足元にも届くことはなかった。

単純なテニスの技術と基本的なスペックが森崎と光國の間は絶望的な迄にあり、観戦しているほのかでも分かることだった。

 

「侵略すること火の如く」

 

光國は背を向け飛び、体を捻るように一回転をしてクランドスマッシュを決め

 

「ゲームアンドファーストセット、手塚!6-0!」

 

「あった!」

 

遂に森崎は1ポイントも取れることなく、1セットを光國に先取される。

それと同時になにかを調べていた雫が、目的のものを見つけ出した。

 

「…すごい……」

 

「雫、なにを見ているの?」

 

「手塚さんのデータ。

世界大会に出るぐらいだから、なにか記録が無いかなって探したんだけど…ぶっちぎりだよ。

手塚さんのテニス選手としてのパラメーターが載ってて…スピード 6 パワー 5 スタミナ 6,5 メンタル 7 テクニック 8…」

 

「それって低いんじゃないの?」

 

「ほのか、違うよ…これ、1から10段階の評価じゃなくて1から5段階の評価だよ」

 

「え…」

 

仮想ディスプレイを全員に見せる雫。

そこには今となんら変わりの無い光國の顔写真と五角形のレーダーチャートが写っており、パワーの部分以外が全て五角形の外に出ていた。

 

「そろそろテニヌらしい事をしてみる…いや、違うな…」

 

全員が様々な事に驚く中、光國は別の事を考えていた。



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モブ崎

「あ~重いしサイズが合わんわ…」

 

1セットを先取したので、少し休憩に入る為にベンチへと戻ってきた光國。

過去に着ていた日本代表のジャージを脱いでベンチへと置くとズシンと重い音がした。

 

「あ、鉛の板が…10キロぐらいあるわね|

 

「そんだけのハンデがあってもあんなに圧倒できるのか…」

 

光國の脱いだジャージに触れるエリカとレオ。

二科生代表の選手達とリーナが光國の周りに立って群がっている。

 

「ちょ、試合中やから退いてろ…油断してまう」

 

「そうは言っても、君が圧倒している。

確かに森崎も強いが、君の方が何十枚も上手で、本気すら出していないんだろう?」

 

「まだまだだね…」

 

それなら大丈夫だと安心するヨシヒコ。

この試合は勝ったと喜ぶのだが、リーナと光國は表情が優れない。

 

「く、そ……」

 

隣のベンチでは汗だくの森崎が息を整えていた。

光國の方がそれなりに動いたり、複雑な動きなどをしているが一向に体力は減っておらず森崎の体力は大きく減っていた。

 

「まだ、だ…」

 

「森崎くん…お疲れ様です」

 

試合が始まる前と今とでは状況がなにもかも変わってしまった。

だが、それでも諦めるかと闘志を燃やしている森崎を見て深雪は称賛した。

光國と森崎では格が違うので敗北はしてしまうが、諦める事なく挑み続けた事は見事だと、立派だと森崎を認めてドリンクを渡す。

 

「司波、さん…」

 

「ファイトです…負けたとしても私は、いえ、私達は貴方を責めません…それにまだ最後の団体戦が残っています」

 

深雪のこの言葉に少しだけ救われた気分になる森崎。

 

「…リーナ」

 

「なにかしら?」

 

地獄耳な光國にも深雪の声は聞こえており、色々と考えた末に作戦を実行に移すことを決意。

リーナになにかを告げると、コートへと戻った光國

 

「セカンドセットプレイ!」

 

「重りは外した…そこそこ本気でいかせて貰おう」

 

森崎のサーブからはじまるのだが、疲れている森崎。

呼吸を整えているのだが、視界に写る光國の雰囲気が一瞬で変わった事に気付く

 

「あれ…壊れた?」

 

観覧席に戻った美月は異変に気付いたのだが勘違いをしていた。

美月は巨乳眼鏡娘だが、この時代で眼鏡をかけている人の大体が眼が悪いからと言う理由ではなくオシャレだ。

富裕層でなくとも簡単に出来る格安の視力を良くする手術があり、眼が悪くなることは現代と同じくよくあることなのだが直ぐに回復は出来た。

美月が眼鏡をつけているのは、霊子放射光過敏症候群と言う先天性の病気の様なものを持っており、簡単に言えば人のオーラや霊的な存在が放つ光などが特殊な術なんかを使って感覚を研ぎ澄ます事をしなくても常人の何倍よりも見えてしまうというものだ。

上手く使えば相手の心理状態を読んだり、霊的な存在がどんな霊でなにか出来るか見抜くことが出来たりなど使う人にとっては便利なのだが美月にはなにかと不便なものだ。

しかし、そんな事は今関係ない。美月は霊子放射光などが見えなくなる眼鏡が壊れたと思い、眼鏡を確認したのだが眼鏡は指紋の汚れはあったが壊れてはいなかった。

 

「柴田さん、眼鏡は壊れてはいないよ…」

 

「なんだアレは…」

 

柴田の眼鏡は壊れてはいない。

ただただ、目の前で起きている事がとてつもない程の異様な光景だった。

 

「…どうした、さっさとサーブを打ってこい!」

 

雰囲気が一瞬で変わった光國。

雰囲気だけで終わるはずもなく霊子放射光過敏症候群でないヨシヒコと達也に試合を見ている全員が特殊な術や道具を使わず裸眼で捉える事ができる膨大な迄のオーラをラケットを持っていない左腕に集中させていた。

 

「幹比古、アレがなにかわかるか?」

 

「いや…僕よりアンジェリーナさんの方が知っているんじゃないかい?」

 

達也は本気で調べようとしたのだが、なにかが邪魔をして分からずCADを使っていないので古式魔法の一種だと考えてヨシヒコに聞いたのだが、ヨシヒコも知らず、最終的にはリーナに回ってきた

 

「百錬自得の極み…光國が魔法師になってから出来るようになって、光國はそう言ってるのだけど…色々と解析したりしたけど、中々と分からない事が多いのよ…」

 

どう答えれば良いのか悩むリーナ。

明らかに光國は手加減に加えて無駄な事をしており、言って良いことかと悩む。

 

「ほーぅ、ほーぅ…使えるのかぁ……」

 

すると今まで目を閉じていたオジイが目を開いて光國を見る。

 

「爺さん、アレも知ってるのか?」

 

「スポーツの中にはぁ、宗教的なものとかがぁ起源のものがあってぇ、テニスもその内の一つでぇ、それ用の魔法…百錬自得の極み…」

 

「テニス用の魔法って…聞いたこと無いわよ」

 

「いや、待ってくれエリカ…お爺さんの言うとおりかもしれない。

相撲の様に起源が神事だったりするスポーツはちゃんとあるし、テニスの様に一つの球を複数の人間が打ち返す競技を宗教的な理由で古代のエジプトで行われていた記録があり、紀元前15世紀の壁画にも書かれている…紀元前は古式魔法の存在が当たり前で神権政治の時代、それ用の魔法が存在していてもおかしくはない」

 

説明をしてくれたオジイの言っていることが嘘だと思ったエリカだが、ヨシヒコは本当だと推測する。

 

「…無我の境地…今で言う、ぞぉんとかふろぉの状態。

それを無意識とか偶然とかじゃなく、自分の意思でおん、おふが出来るようになったら出来る三つの奥義の一つでぇ、百練自得の極みは無我の境地の爆発的なぱわぁを一ヶ所に集める…けどぉ、その分他が疎かになっちゃうよ」

 

「無我の境地を自力で…いや、三年前とはいえ手塚は世界一

世界レベルのスポーツ選手ならば、自力でゾーンや無我の境地に入れるが…更に先…それで効果は?」

 

オジイの説明を聞いたが、まだ効果を教えてもらってはいない達也達。

森崎や審判をしている七草達も聞こえておりオジイの説明を待っているのだが

 

「サーブ、打たないの?」

 

「15-0だ…いくら相手が雑草の二科生とはいえ油断をしまくりだ!」

 

森崎が一向にサーブを打たないので、遅延行為扱いになり光國はポイントを取った。

 

「余り遅延行為が酷くやる気がないならば、強制的に敗北だ…はやく来い!」

 

「なにが来るかは分からないが…倒すまでだ!」

 

百練自得の極みに対する説明をオジイがしてくれないので、不安な森崎。

光國はサーブを打ち返すとセンターマークへと立ち、森崎とラリーを始める

 

「……なにも起きないわね」

 

第一セットは光國が多彩な技を使い、光國が森崎になにもさせず圧倒。

そんな第一セットとは真逆と言って良いほど普通にテニスをしているように見えるエリカ。

 

「なぁ、百錬自得の極み失敗したんじゃないのか?」

 

普通過ぎるのと光國の体を見て、百練自得の極みを失敗したとレオは感じる。

 

「手塚…ラケットを持ってない方にオーラが集まってるぜ」

 

光國はラケットを握っていない左腕一本に溢れんばかりのオーラを集中させている。

テニスで両手打ちはありにはありだが、片手で打つのが基本でラケットを握っている右手にオーラを集中させていない。

レオは、ラケットを握っている手にオーラを集中させるのが正しいと見抜いた。

 

「失敗じゃないわ…アレで良いのよ」

 

しかし、リーナはあれで正しいと否定した。

 

「百錬自得の極みは威力や回転を倍返しにして打ち返すことが出来るのだけれど…」

 

「じゃあ尚更、失敗じゃない!」

 

「アレって、直ぐに解除できないんですか?」

 

「出来るけど…しないわ」

 

「…森崎を挑発するためか?」

 

「ええ」

 

百練自得の極みの説明をすると美月とエリカは失敗したと考えるが、達也だけは違う答えを出した。

光國は勝負を決めるために百練自得の極みを発動したのではなく、ただただ森崎を挑発するためだけに百錬自得の極みを発動し、わざと左腕にオーラを集中させていた。

 

「動かざること、山の如し」

 

ただ嫌がらせの為、森崎を何時でも倒せるけど手加減をしていると見せつける為だけに発動した光國。

風林火山の最後である、山を使いはじめたのだが、森崎とのラリーが続くだけだった。

 

「風は縮地法の素早い動きやジャイロレーザー等の素早い球を打つスピードのテニス、林は星花火やトルネードスネイクなんかのテクニックのテニス、火は波動球やグランドスマッシュの様な重くて強い球を打ちまくる攻撃的なテニス…後はなんだと思う?」

 

「スピード、テクニック、パワーとなると…!」

 

「雫、ほのか、深雪…あれ!」

 

山のテニスがなんなのか考えていると、光國が実戦しており山がなにか気付く達也。

遅れてエイミィも光國の異変に気付いたようで、光國に指をさして見てくれとほのか達に言う。

 

「…え、嘘!」

 

「スピード、パワー、テクニックとなれば後は防御力、ディフェンスだけど…」

 

「手塚さん、センターマークから動いていない…」

 

光國だけを集中して見ることにより光國の山を理解したほのか、雫、深雪。

センターマークを軸にして、そこから一歩も動くことなく森崎のボールを左右に打ち返している。

 

「私も真似しようと思えば、前後の縮地法も麒麟落としの劣化版のヒグマ落としも両手打ちの波動球も出来る…けれど、アレだけは…手塚ゾーンだけは誰も真似する事は出来ないわ」

 

「拾参式波動球!!」

 

「ぐぉっぉおう!!!」

 

「森崎くん!?」

 

百練自得の極みをわざと使わない左腕に使い挑発する。

挑発だけで終わらせず、鉄壁の防御力と相手のスタミナを削る風林火山の山を発動し手塚ゾーンで全てのボールを回収し自身の体力を温存しつつスタミナが減って隙が出来た森崎に風か林か火の技を叩き込む。

 

「リーナ、山だけがオレしか使えない技じゃない」

 

「あ、そうだったわ…」

 

手塚ゾーンからのドロップショットを決める光國。

森崎は全速力でネット際まで走り、ボールが地面につく前に間に合いラケットを振るのだが

 

「伝家の宝刀、零式ドロップも光國しか出来ないわね」

 

ボールは弾むことなく、ネットに向かって転がっていった。

 

「…て、手塚ぁああああああああ!!」

 

「ゲーム手塚!5-0!!チェンジコート……圧倒的ね…」

 

「手塚のスペックが遥かに森崎を勝っているな…」

 

「ルールも手塚くんを味方している…」

 

椅子に座っている主審の真由美は、森崎側のコートでボールを拾う役と審判している十文字は、光國側でボールを拾う役と審判をしている摩利はもう光國が勝つことを確信した。

森崎の基本能力は一科生の中では優秀には優秀なのだがほのかや雫、それにこの対抗戦には出ていない一年の優秀な女子一科生と比べれば下だ。

クイック・ドロウと言う技術と家業であるボディーガードを手伝った事により得た経験などで溝をなんとか埋めている。

しかし、埋めれたのは学校の成績だけで深雪やリーナの様に圧倒的な存在には勝てず、達也の様に実戦向けの人間には届くことはなかった。

 

「リーナ」

 

「…相手が、相手が悪かったわね…森崎」

 

光國から指示が出されたので、言われた通りの事を言うリーナ。

ただ相手が悪かった。それだけを言ってほしいと光國はリーナに頼んだ。

 

「…そう、だよね。

私かほのかが出ても、手塚さんには勝てない…深雪は?」

 

「難しいわ…ルールで使える魔法が制限されていて手塚さんに有利で…」

 

リーナのその言葉に頷く雫と深雪。

二人はもう森崎が敗けだと決めつけていた。

 

「お兄様ならどうなさいますか?」

 

「そうだな…手塚がまだ二つの戦法を見せていないから、まだなんとも言えないな」

 

「達也くん、なんでまだ手塚くんが2つも隠し持ってるって言えるのかしら?」

 

「壬生先輩…手塚はオールラウンダーですが、風林火山のスタイルに分けて戦っています…風林火山ですよ」

 

「あ!」

 

風林火山がなんなのかを知っていた壬生は理解した。

光國はまだ本気になっていない事を、それを使っていないことを。

 

「少なくとも手塚の残り二つが分からない以上、手塚の風林火山に対して此方も風林火山となる魔法や技術を用意して相殺したり相性の良いスタイルをぶつけて突破するのが一番の攻略法だ」

 

そして達也は今の手加減をしまくっている光國の正しい攻略法を言った。

風林火山に対して同等の風林火山をぶつける。それが正しい攻略方法でそれ以外となれば、火をも越える炎の様な攻めや林をも越える森の様に静かで壮大な技巧など、どれでもいいので光國を上回っている一芸を武器にして戦うぐらいだ。

 

「NEO・ブラックジャックナイフ!!」

 

「15-0!!」

 

一歩、また一歩と着実に勝利へと歩む光國

 

「よっしゃあ!森崎のラケットを弾いたぜ!!」

 

「後、3ポイントよ!」

 

「吉田くん、団体戦を…勝ちましょう!絶対に!」

 

「ああ、勝とう柴田さん…壬生先輩、戦えますか?」

 

「勿論よ!」

 

レオ、エリカ、美月、ヨシヒコ、壬生は勝利したと最後の団体戦に頭を切り替えて勝つんだと意気込む。

壬生以外は負けてしまったが、光國が戻してくれたと最後まで持ってきてくれたと負けないと諦めないと勝つんだと強い気持ちを持つ。

その光景を見て、自分達は才能がないと、雑草だからと諦めていた二科生の希望へと変わる。

壬生が感じ、苦しんだ一科生の二科生を見下す視線が無くなっていく。

 

「30-0!」

 

「く…そ…」

 

「森崎、お前もよくやった!!」

 

そして戦った森崎を称賛する。

1ポイントも奪えず、光國とのレベルの違いが露になるが森崎自体は弱くはない。

ただ相手が悪かった、森崎は弱くはないんだと皆が森崎の実力を認めて、森崎を攻めることを一切しない。本当に相手が悪かったのだから。

 

「森崎くん…最後まで頑張ってください!」

 

どちらかと言うと森崎が苦手な深雪はエールを送る。

 

「まだ最後の試合が残っているから、大丈夫」

 

それに続き雫もエールを送る。

 

「これが狙いか、手塚…」

 

達也は気付いた。

光國が森崎を完膚なきまでに叩きのめすことは簡単に出来る。

百錬自得の極みをちゃんと使えば良いだけだが、それだけだと森崎は変わらない。

森崎を変えるには森崎に勝つだけでなく、心も折らなければならず、森崎自身が敗けを認めなければいけなかった。

一科生と二科生の意識を改革し、尚且つ典型的な駄目な一科生とも言える森崎の心を変える。

その為にリーナに負けて当然の相手だと言わせたと見抜いた。

 

「…ふぅ」

 

無駄でしかない百錬自得の極みを解いた光國。

普通のサーブを打ってラリーを始めるのだが、直ぐに手塚ゾーンを使う。

 

「うぉおおおおお!!」

 

最後の力を振り絞り光國に挑む森崎。

負けるのは分かっているが、せめて1ポイントだけでも奪ってやるとボールを追いかけるが

 

「よし、アウトだ!」

 

力が上手く入らず、ボールを天高く打ち上げてしまう。

明らかなアウトボールで、レオはガッツポーズを取ったのだが

 

「…気付いているか、森崎?」

 

「え、なんで!?」

 

光國は手塚ゾーンをやめて、アウトになるボールをゆっくりと打ち返した。

 

「なんのつもり、だ!」

 

森崎はそのボールを打ち返すも、変な所に飛んでいく。

しかし、光國は手塚ゾーンでボールを引き寄せて弱く打ち返す

 

「なにを…なにをやっているの光國!?」

 

リーナには分からなかった。

勝つことは簡単なのに、勝負を決めに来ない光國の行動が、これ以上なにをするか分からなかった。

 

「オレはCADをつけていない。

そして百錬自得の極みは使わないようにしている左腕に使い、才気煥発の極みを一切使わずにお前をここまで追い詰めた…」

 

「なにが、言いたい…」

 

「待て、手塚!!」

 

「悪いが待っている暇はない!!」

 

達也は気付いた。

森崎の心をプライドを、光國は完膚なきまでに叩きのめすと。

 

「伍拾四式波動球!!」

 

「ぐふぉおう!!」

 

光國の波動球を真正面から受けた森崎。

吹き飛ばされるが、十文字御得意の防壁魔法ことファランクス使い受け止める。

 

「お前は今、敗けを認めた。

百錬自得の極みは魔法師になってしまった後に覚えたものだ。

だが、波動球も星花火も縮地法も全て魔法師になる前にオレは会得した。

お前は魔法師としてこのテニヌに挑んだが、オレはテニスプレイヤーとしてこのテニヌに挑んだ…お前は認めたんだ。ただの人より特別だと思っている魔法師がただの人でも覚える事が出来る使える技術に負けるのを、仕方ないと…人間を舐めるな、見下すな…」

 

「………」

 

果たして普通の人間がなにかは別として、人でも覚えることが出来る技術に敗けを認めた魔法師・森崎。

 

「お前は自分が、魔法師が特別な存在だと思っているかもしれない。

この第一高校には三巨頭と呼ばれる学生の枠には納まらない三人がいる。

この第一高校には十師族の下に位置する百家の人間がいる。

この第一高校には光のエレメンツの末裔がいる。

この第一高校には財閥のお嬢様がいる。

この第一高校には霊子放射光過敏症候群を持ち、どうにかしようとする生徒がいる。

この第一高校には神童と呼ばれていた古式魔法の名家の次男がいる。

この第一高校には剣術の関東一位と剣道の全国二位がいる。

この第一高校には実技は苦手だが、エンジニアとしては大天才と言えるやつがいる。

この第一高校には名家でもなんでもないが、強い奴等がいる。

そして…この第一高校には魔法を一切使わなくても、森崎家の人間に勝てるやつがいる…魔法師と人間は変わらない…お前はこの第一高校でも特別でもなんでもないんだ」

 

「っ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モブ崎」

 

 

 

 

 

 

 

 

光國は折った、森崎の心を。

試合を見ている生徒の中にある、魔法師=特別だと言う考えを変えさせるために、少しでもなくすために極限まで叩き折った。

 

「七草主審…」

 

「40-0、マッチ、ポイント…」

 

そこまでやるかと言う空気の中、第四試合は最後を迎える…

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰が、モブ崎だ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった。

 

「手塚ぁ…言って良いことと悪いことがあるだろぉ…」

 

「!?」

 

「も、森崎くん!?」

 

森崎は最初から苛ついていた。

魔法科高校の中でも一番と言っても良い第一高校に主席ではなかったとは言え、一科生として入ることが出来て更には成績優秀者のみが入ることが出来る1-Aの生徒になった。

それだけで終わらず、心を奪われた絶世の美女たる深雪と同じクラスでアプローチをかけるのだがあえなく撃沈、同性には勝てないと、同性だからコミュニケーションが取りやすいからそこは仕方ないと一旦は諦めるが、直ぐにアプローチ。

深雪は森崎に対して興味を持っておらず、二科生を堂々と補欠扱いして見下した為に苦手な人だと思われていた。

深雪の兄である達也は二科生だからと見下し、次席で深雪と同等の存在とも言えるリーナが光國の側にいるとダメになるという考えを持ってしまった。

美月に一科生と二科生を同列に扱われた事に苛立ち、CADを向けて以降は大きく大きく転落していった。

肝心の光國が捕まらなかったから仕方なく風紀委員にしたと、カッとなって問題行動を起こす危ない奴と見られていた。

今回の一件で一番悪いのは今まで放置していた国だが騒ぎを起こしたのは二科生達で一番の原因は光國だと憎悪を抱いた。

そしてやって来た対抗戦、自分が出るまでもなく二科生に勝つと勝利し続けるが、考え方を徐々に徐々に改めていく一科生やほのか達。

遂には二科生は一科生に勝ってしまい、自分の番を迎えて遂に光國を堂々と倒せると思えば光國は自分を遥かに凌駕。

認めたくはないが、認めなければならない。

場の空気や雰囲気に流されて、自分でも薄々感じてきてしまった。

二科生は、手塚光國は強いと。

しかしそれは光國達の強さを認めるだけであり、魔法師=特別という考えは持ったままだった。魔法師=特別と言う考えを完膚なきまでに叩きのめされ、森崎の中に残っていたプライドが傲慢が誇りが粉々に砕かれた…そして森崎は…ハジけた。

 

「さっさと来い…殺してやるよ…」

 

「…悪魔(デビル)化しただと…」

 

モブ崎により、森崎の中のなにかがキレた。

激しい憎悪に身を焦がした森崎は目が充血するどころか、身体全体が真っ赤になり髪が真っ白になった。

光國は知っている、この状態を。見るのははじめてだが、知識では知っている。

 

悪魔(デビル)

 

冷静さを失う代わりに、物凄いまでにスペックを上げる諸刃の剣とも言える状態に森崎はなった。

 

「待て…いきなりそんな状態になって、試合を続行するだなんて」

 

「風紀委員長、会頭、主審…試合を止めないでくれ」

 

流石に今の森崎はヤバイと感じたのか、試合を中断しようとする摩利。

今この状態で試合を中断するのはむしろ危険だ。今の森崎は冷静さが失われているだけだと光國は試合を続けさせてもらう事を頼む

 

「試合を続けるだなんて、そんな」

 

「良いから続けさせてくださいよぉ…今は手塚を潰さないと気がすまないんだから…それとも会長が相手になってくれるんですかぁ…」

 

明らかに風貌も様子も違う森崎。

ドクターストップをかけても、強制的に試合を終了させても止まることはない。むしろ、止めてはいけない。

 

「七草…続けろ」

 

「でも」

 

「万が一の時には俺達がいる、それにここには全校生徒がいる…」

 

仮に森崎が暴れたとしても、あっという間に取り押さえる事が出来る。

そう判断した十文字は森崎と光國の試合を続行させた。

 

「…まずいな……一・球・入・魂!!」

 

光國のサーブから再開され、今日一番のサーブを打った。

速度や角度共に最高で、本日最高速度の218キロを叩き出すのだが

 

「おせええ!!!」

 

森崎は余裕で追い付き、目にも止まらぬ早さで打ち返し

 

「ぐぁっ!!!」

 

「森崎、あいつわざと光國に!」

 

光國の頭にわざと当てた。

 

「…マジかよ」

 

「七草会長、はやくコールをしてくださいよぉ!!」

 

「40-15!」

 

「ヒャーッヒャッヒャッヒャ!!

遂に…遂に手塚からポイントを奪ってやったぞ…今までの借りを全部返してやる!!」

 

「そんなものはいらん!!」

 

再びサーブを打つ光國だが、先程よりは遅く余裕で打ち返す森崎。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄、無駄ァアアアア!!」

 

悪魔(デビル)化していた森崎は光國を遥かに凌駕。

伍拾四式波動球をも簡単に打ち返し、全てのボールを光國にぶつけてポイントを奪い

 

「そうだ…花弁(ブルーム)の一科生は選ばれた生徒で、雑草(ウィード)の二科生は補欠なんだ…ましては魔法師でもなんでもないただの人間に負けるはずが無いだろう…」

 

「…ゲーム森崎、7-5…1-1(ワンオール)…」

 

「はぁはぁ…こりゃヤバイわ…」

 

大逆転をはたした。



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ファントム・オブ・ザ・テニヌ

「大丈夫、手塚くん!」

 

悪魔化した森崎にボールをぶつけられて血を流し、膝をつく光國。

二セット目が終わると同時に壬生がやって来て肩を貸した。

 

「七草主審…ちょっと応急処置をするから、3セット目入るまでちょっと待てくれませんか?」

 

「棄権、しないの?」

 

「まさか…しませんよ」

 

悪魔状態の森崎相手に光國に勝ち目はないと感じる七草。

光國は壬生に連れられて、ベンチに座るとリーナが駆け寄る。

 

「…的確に急所を狙っているところもあれば、血が出るけども絶対に殺したりKO勝ち出来ない場所を…」

 

※ KO勝ちに関してはツッコミは禁止事項です。

 

「…」

 

光國の怪我の具合を見て、わざとぶつけた森崎に無言で怒りつつも頭に包帯を巻くリーナ。

本当ならば、今すぐに棄権させたいのだが光國はやめないだろうとなにも言わない。

 

「まさか悪魔化するとはな…」

 

「あの状態を知っているのかい!?」

 

「…ヨシヒコはどう見えたんだ?

オレがボコボコにされている間に、あの状態の森崎を観察は出来た筈だろう」

 

流石に森崎の悪魔化は予想外の事だった。

最後のポイントをカッコ良く決める予定だったが、急遽変更しなければならない程だ。

 

「森崎はおそらく、パラサイトになった…」

 

「出来ればパラサイトじゃなくて、ファントムと言ってくれや…」

 

「呼び方なんてどうでも良いわ…ミキ、パラサイトってなに?」

 

「正式名称はパラノーマル・パラサイト。

呼ばれ方は他にも色々とあるんだけど、魔法が一般化するから存在するかもと言われていた妖魔の一種で、人に寄生して人を遥かに超越した力を持って暴れたりする…んだけど…」

 

チラリと美月を見るヨシヒコ。

後は任せたと言う合図で、美月は理解すると口を開く。

 

「この辺には、そう言った存在は居ないんです…」

 

「どういう、ことなの?」

 

「壬生先輩…森崎くんはパラサイトに寄生されていないんです。

手塚さんのボールを直撃して飛ばされ十文字会頭に受け止められている時、そう言った存在がこの辺には居なくて、近付いてくる気配も無くて…赤くなる寸前にもそう言うったものが感じられなかったんです」

 

「じゃあ、パラサイトって言えないじゃない」

 

寄生するからパラサイトで、寄生しなければパラサイトでもなんでもない。

エリカのツッコミに対して壬生達は同感だと頷く。

 

「手塚…お前はなにか知っているのか?森崎のあの状態を」

 

では、あの森崎はなんだと達也は光國に聞いた

 

「…森崎はパラサイトに寄生されたんじゃなく、森崎自身がパラサイトに、悪魔になった」

 

「森崎自身って、そんな事がありえるのか!?」

 

「ありえる…と言うか過去に似たような事が起きているんだ」

 

レオは知っていないが、光國は知っている。

自身の中にいるファントムが、どうやって生まれるかを。

 

「紀州の…和歌山辺りに存在する安珍・清姫伝説で似たような事が起きている」

 

「安珍・清姫伝説…聞いたことがないな…」

 

「どちらかと言えばマイナーだからな…あのハゲなら知っとるかもしれんけどな。

和歌山辺りに住んでいたとある貴族は修行僧に家を宿代わりとして提供していて1000年以上前はよくあることで、ある時、貴族は何時も通り修行僧に宿を貸したのだが、貴族の一人娘の清姫がその時に宿を借りた修行僧こと安珍に一目惚れをした。

そしてその日の夜に夜這いをかけたが、修行を終えた帰りには寄るからと言って、その場を凌いで次の日には清姫の家を出ていったのだが、安珍は帰ってくることはなかった。

帰ってくることはなかったのではなく、帰ってこない、つまり生きてるが家には来ない事にショックを受けた清姫は安珍を探しに家を出ていき野を越え、山越え、谷越えて、遂には安珍を見つけ出して、名前を呼んだが…人違いですと嘘をついた」

 

「最低ですね、その安珍と言うハゲ(坊主)は」

 

「深雪…問題はこの後だ」

 

胡散臭いハゲは胡散臭い坊主はダメな奴だと、知らぬ間に深雪の九重八雲への評価は下がっていった。

しかし、問題はそこではない。

 

「人違いですと嘘をつき、そこで清姫はハジけた。

怒りか、憎しみか、悲しみか、絶望か…どんな感情かはオレにも分からないし、多々異なる記録が多いんだが…清姫は邪悪な蛇になった…いや、炎を吐いているから龍の可能性があるな。

今の森崎は、ただの人から邪悪な蛇になった清姫と似たような状況にある…原因は言うまでもなく、オレだ」

 

光國は森崎を怒らせた、憎悪を抱かせた、絶望させた、負の感情は化け物を生む。

仮面ライダーウィザードに出てくる怪人ことファントムは魔力の高い人間が深い絶望に飲み込まれると自身の精神世界に生まれて、その絶望に諦めればファントムを生み出した人間が死に、そのファントムが現実に現れる。

違いはあれども、清姫やファントム、そして今の森崎は似ていた。

 

「終わったわ…光國…その…」

 

「ごめんな、リーナ…今度、デートしよう」

 

「手塚くん、死ににいくつもりですか!?」

 

森崎の状態を知ると試合に出ないでと言いたくて仕方なかったリーナ。

光國はなにを言いたいのかを理解したが、これは出なければいけないと前に進む。

そして着実に死亡フラグを建てにいく。市原は光國死すと感じてしまう。

 

「待ってください、手塚さんの推測通り森崎くんが妖魔になっているならもう対抗戦どころの話ではありません!!今の森崎くんは単純な足の早さやパワーは手塚さんやお兄様とは比較にならない程に上がっています!暴走する前に取り抑えなければ」

 

「深雪…手塚を止めるな」

 

「お兄様!?」

 

ファイナルセットへと向かおうとする光國を止める深雪だが、達也はやめるように言う。

悪魔化をしていた森崎を観察していた達也はあることに気付いていた。

 

「森崎は冷静を失っているだけで、理性は保っている。考える頭は残っている

悪魔化して以降も全くと言って反則行為をしていない、テニヌで手塚を叩きのめす殺意を抱いているだけで現に今こうして手塚の応急処置もすんなりと受け入れたのがその証拠だ」

 

今の森崎は、身体能力が大きく上がっているだけでなく魔法の力も大きく上がっている。

攻撃系の魔法を光國にぶつけることは容易い事だが、悪魔化以降そんな事を一切していない。

ボールをぶつけたりしているが、森崎は光國に対して魔法では一つの傷もつけていない。

 

「手塚…お前はそれを知るために、2セット目を落としたな?」

 

「なんのことだ?」

 

「お前なら知っているだろう風林火山の正体を」

 

「はぁ…森崎の観察をしていたんだ

途中から圧倒的なパワーやスピードに勝てなくなったが、それでも勝つことは出来た。

それでもしなかったのはあの状態の森崎がいったいなんなのかを知るため、もし何かの拍子で誰かに襲いかかったらおしまいだ」

 

行動力では勝てるかもしれないが、こういった細かな知恵や観察眼ではお兄様には勝てない。

光國はお手上げだとわざと落とした理由を語る。

 

「今の森崎は人と悪魔の境界線を立っている。オレがテニヌで勝てば、元に戻る…」

 

※ ツッコミは禁止です。

 

「森崎に試合で勝てば元に戻る。試合で負けても元に戻る…燃え尽きればいい」

 

人は恥ずかしくなったり怒ったりすれば顔を真っ赤にする。

怒りや羞恥心による激しいストレスでアドレナリン等の成分の分泌量が増えて血管内の血液の移動速度が上がったり、心拍数が上がったり、血圧が上がったり、血管自体が膨張したりするからだ。

今の森崎は怒りで堪忍袋の緒が切れるどころか堪忍袋自体が破裂し、怒りで色々なリミッターが解除されており、身体が真っ赤になるほど血液は素早く循環をしていた。

真っ赤になった森崎には、棄権せず補欠の達也に交代もせずに光國が最後まで勝負してスッキリさせるか【あやしいおくすり】のどちらかが特効薬だ。

 

「棄権や達也に交代をすれば、なにをするか分からない…」

 

尚、襲ってきた場合は仮面ライダービーストに変身をすれば終わる。

単純に変身する機会が無いだけで、彼は仮面ライダービーストだ。仮面ライダービーストならば怪人デビール・モブザーキを倒して魔力を食うことが出来るが、しない。

変身すれば、悪魔化した森崎よりも上になるのだがルール上反則なのでしない。

更に言えば緊急時以外は勝手に変身をするなと九島烈に釘を刺されており、変身するだけでも尋常じゃない程の想子を使う為、油断すればリーナから貰っている想子が直ぐに底をつく。

 

「話は聞こえていた…なにかあれば、直ぐに止めに入るから思う存分にいけ」

 

「言われなくても、分かっとるわ…」

 

コートへと向かい、摩利から右手でボールを貰う光國。

ラケットを左手で握ると、ボールを地面に叩きつけて弾ませる。

 

「左、だと…」

 

「オレは両利きだ…使えたらかっこいいなと一時のテンションに身を任せて覚えた」

 

「手を抜いていたのか…何処までもふざけて!」

 

両利きだと知った事により更に怒りが増す森崎。

光國がボールをトスするとラケットを構えて、動き出した。

 

「何時までも調子に乗るっ、なぁ!?」

 

「今のお前のスピードは短距離走の陸上選手以上だ、パワーはウェイトリフター以上だ、ボディバランスはサーカスのピエロ並みだ…ならば、打ち返す事の出来ないサーブを打てば良いだけだ!」

 

「15-0!」

 

構えもタイミングも全てベストだった森崎。

打ち返すべく、ラケットを振ろうとしたのだがテニスボールは弾むことなくネットに向かって転がっていった。

 

「これがオレの伝家の宝刀の真打…世界を制した最強の零式サーブだ!!」

 

「手塚ぁああああああああ!!」

 

「ゲーム手塚!1-0!!」

 

四連続の零式サーブの前に、なすすべがない森崎。

 

「よっしゃあ!これなら手塚の勝ちで」

 

「なに言ってるの、サーブは交互に打つのよ…サーブだけじゃシーソーゲームに」

 

「エリカ、心配は無用だ。

レオの言うとおりこの試合はオレの勝ちだ!」

 

森崎のサーブになり、新幹線の最高速度並みのサーブを打つ森崎。

光國は森崎の呼吸や、サーブの位置から何処にボールが飛んでくるかを予想し打ち返すとセンターマークへと立った。

 

「手塚、ダメだ!手塚ゾーンは引き寄せることが出来る技だ!そこから打ち返しても、森崎に返されるだけだ」

 

「ああ…確かにお前の言うとおりだレオ。

ボールを引き寄せるだけのこの技では、打ち返しても森崎に直ぐに打ち返されて抜かれて反応できない」

 

手塚ゾーンでは森崎を倒すことは出来ない。

防御の技で攻める技ではないとレオは言い、光國は認めた。この技では勝てないと。

 

「打ち返しても意味が無いならば、打ち返さなければ良いだけだ」

 

「アウト!!0-15!!」

 

センターマークに立った光國目掛けてボールを打ち返した森崎。

ボールは真正面を大きくそれて、シングルスのサイドラインとダブルスのサイドラインの間にボールが入った。

 

「ボールを引き寄せるんじゃなくて、ボールを追い出した…」

 

「手塚ゾーンを守る技とするならば、これは攻める技…手塚ファントムだ…」

 

「ゲーム手塚、2-0!!」

 

絶対に返せない零式サーブによりサービスゲームを奪い、手塚ファントムで打ち返して、森崎の球を無理矢理アウトにする。

 

「…リーナ」

 

「なに?」

 

「手塚は、あんな事をしていて大丈夫なのか…」

 

最強のテニスを見せつけるのだが達也はふと疑問を持った。

光國は手塚ファントムや零式サーブといった神業を披露する…魔法を一切使わずにだ。

 

「手塚ゾーンは引き寄せる回転を、手塚ファントムは追い出す回転をくわえている。

一見、対となる回転を全く同じようにかけているように見えるが実際のところは違う…手塚ファントムの手塚ゾーン以上の不自然なまでの回転をかけていて、腕にかなりの負担が…零式サーブはそれ以上に負担がかかるんじゃないのか…」

 

「ゲーム手塚!4-0!」

 

魔法を物理で再現しているならば、それ相応に身体に負荷がかかる。

そんなものを連発して問題ないのか気になった。

 

「ぐっ!!」

 

達也の疑問は直ぐに解決した。

4ゲームを奪ったところで、光國はラケットを手放してしまった。

 

「手が、滑って、もうたわ…」

 

「…やはり腕に、負担が…」

 

左腕の肘が真っ赤になっており、光國は息切れを起こしていた。

 

「リーナ、手塚の風林火山でまだ見せていない技はあるか?」

 

「葵吹雪とか白龍とか、色々とあるけど…それがどうかしたの?」

 

「今までで、一度でも手塚ファントムや零式サーブを連発した事はあったか?」

 

「……ないわ!

やり方だけ教えてくれた事があるけど…腕がもげるぐらい痛くて、ここぞと言う時しか使えないって…」

 

「…手塚ファントムと零式サーブは腕に負担がかかる。

高いスペックと豊富な技で攻めて、手塚ファントムと零式サーブはここぞと言う時に、勝負の分かれ目や流れを決める時に使う技で連発する技でもなんでもない…このままだと腕が」

 

「40-0!」

 

「はぁ…はぁはぁ…後、5球だ…」

 

後、1ポイントで5ゲーム目を奪えることが出来るところまで追い詰めた光國。

これが最後の零式サーブだと、ボールをトスして、サーブを打ったのだが

 

「ただのサーブだ…」

 

ボールは戻ることなく、普通のサーブで零式サーブだと思った森崎は反応すらしなかった。

 

「ゲーム手塚!5-0!チェンジコー、手塚くん!?」

 

「あか、んな…完全に腕が鈍っとるわ…」

 

真由美のコールが終わる寸前、光國は膝をついて左腕の肘をおさえる。

光國の左腕の肘は赤色を通り越して、紫色に進化してうっ血していた。

 

「ちょっち、休憩させて貰うわ…誰かに保冷剤かなんか持っとらんか?」

 

地面を這い、ベンチに寄ってくる光國。

立ち上がろうとはせず、ベンチに乗っている飲み物を右手で取って横向きにして飲む。

 

「ここまでか…七草!」

 

「十文字くん…ええ、そうね…摩利」

 

そんな光國を見て、決心をする十文字。

なにかを言わなくても真由美は察して、摩利も察して理解した。

 

「…第四試合!テニヌ、手塚光國くんの負傷により勝者」

 

真由美は立ち上がり、席から降りて試合終了の宣言をしようとした。

 

「勝手な真似をすんなや!!」

 

森崎の名前を言おうとした瞬間、光國は立ち上がりボールを真由美に向かって打つ。

しかし真由美は避けようとせず光國を見つめる。

 

「それ以上、腕に負担をかけてみなさい…日常で左腕を使うことも儘ならなくなるわ。」

 

「試合は手塚くんの負けかもしれない…だがここにいる一科生と二科生は手塚くん、君を見下さない。いや、手塚くんだけじゃない、試合に出た生徒全員をバカにはしないしこれから段々と二科生をそう言った目で見なくなる」

 

「お前はこんな所で終わるには惜しい男だ…」

 

下手すれば全国の魔法師全てを敵に回す事を行って、この対抗戦を巻き起こした。

三人が見なかった、知ろうとしなかっただけで魔法がそんなに凄くなくても一科生と戦える二科生が居ると証明をした。

第五試合まで持ち込めば、勝てる可能性があり、そうなるようにうまく調整をした。

真由美、摩利、十文字は光國がすさまじいと評価した。ここで、もう一科生と二科生の対抗戦どころの騒ぎじゃない第四試合で腕が使い物にならなくなるのは惜しいと止めに入るが

 

「こんな所で終わるやと……こんな所ちゃうわわオレはな、当の昔に終わっとるんや…」

 

光國は自身が今放てる最高の殺気を三人に向けて、数歩後退させて隙間を作り、その隙間を通ってコートに戻る。

 

「審判としての職務を放棄するんやったら、セルフや…こい、森崎」

 

肘をうっ血させ激痛が走り、立っているだけがやっとの筈の光國。

 

「うぉおおおおお!!」

 

「リーナ…どうして手塚さんは棄権をしないの?

確かに手塚さんが負けることは二科生の敗けで、二科生の敗けは心を入れ換えようとしている一科生や前を見て歩き出した二科生にとっては重要だけれど…それでもまだ次があるじゃない…」

 

もう充分に働いた。なのに、試合をやめない光國。

森崎を悪魔化させた責任感から試合をやめないのではないと深雪は思った。

いや、深雪だけではない。選手全員が、審判の三人がそう思った。

 

「森崎に対する悪魔化させた責任感はあるけど、そこまで大きくはない…光國は喜びと覚悟で戦っているのよ…」

 

「喜びと覚悟?」

 

「…光國は、ただの一般の家の人間よ。

経済的苦痛、貧乏って言う私には…いえ、私達には余りにも縁遠い世界の住人。

光國は貧しいからどうしたと、恵まれた肉体があるんだとテニスをはじめて油断をすれば痩せるほどに激しい練習を重ね、小学生の日本一になってプロに君なら確実にプロになれると誉められて…プロのテニスプレイヤーの道を閉ざされたのよ…」

 

魔法師は海外に簡単にはいけない。

あの手この手と色々な手段を用いてやっといける。こっそりと潜入している奴等もそれなりにいるが、正規の手段で海外に行くのは簡単ではない。

本当に遠慮の塊レベルの魔法力ならば、そこまで気にする必要はないが魔法科高校を卒業することが出来るレベルならば話は別である。

 

「欲しくもない力を手に入れて、魔法師にならないといけなくなった。

今まで必死になって努力をして世界一になったのに、欲しくもない力を手に入れてしまったから諦めて魔法科高校にいかないとダメになって…光國は死のうとしたわ…」

 

「手塚さんが自殺を!?」

 

「ええ…生きたくないって、生きることを嫌がっていたわ。

その時はなんとかどうにか出来たけど、魔法師になんてなりたくないって魔法師に対して偏見的な目を持っていて…って、昔は思っていたわ…けど、世間は魔法師達に厳しくて偏見的な目で見ていた。ある程度の力を持っている魔法師達はそんな偏見で厳しい世間と向き合おうとはしていないって思うことがあって…嫌がる光國の気持ちが分かったわ…」

 

「くっ、そ…」

 

「5-3だ!」

 

意地で打ち返すが、手塚ファントムが使えない光國。

自身と同じ見た目をしているあの男は、手塚国光は全国大会の決勝戦で何度も何度も手塚ファントムを連発していた。零式サーブを連発していた。

手塚国光の物真似をした男は何度も零式サーブを使った、何度も手塚ファントムを打ち続けた。

物真似をした男も手塚国光も零式サーブと手塚ファントムがちゃんと通じていたら6ゲームを奪い取れていた。しかし光國はそれが出来ない。

 

「三年間のプランクなんてのは言い訳か…」

 

東京の中学に転校して以降、テニスを遊んだりするだけで全国区や世界レベルの実力者と戦うことなかった為に出来たプランクが原因で埋められない差を言い訳にはしない。

自身の鍛練が甘かったと考える。

 

「光國は喜んでいるのよ。

テニスが出来ることを、自分の唯一の自慢を活かすことが出来るのを。

テニスを楽しむ心は忘れてしまったけれど、テニスが出来る喜びは世界中の誰よりも強い。

それと同時に背負っているのよ…レオにエリカにミズキにヨシヒコにミブを」

 

「私、達を…」

 

「対抗戦を言い出した自分が負けるのだけはダメだと思っている。

追い詰められて、自分が負ければ終わるこの状況でもし負ければ力を貸してくれた人達の魔法師としての人生はこれから先、石を投げられるだけになる。

だから、試合に負けるのも負傷を理由に棄権するのも絶対にあってはならないと勝たないといけないって勝利への執着心を出しているのよ…その為なら、二度と使えない可能性があっても覚悟を決めて光國は戦うわ」

 

「余計な、ことをいうな…」

 

ベンチに戻ってきた光國。

ドリンクを飲もうとするのだが、空になっており中身がなかった。

 

「手塚くん…」

 

「壬生先輩は自らを犠牲にしたんや…レオ達も、深雪やリーナと言う大きすぎる相手で無謀だと思われてる中で引かずに戦った…が負けたんや…もう、もう二度と使えない、使わない、日に当たることのないオレのテニスでお前達がどうにか出来るならば…いや、元より覚悟は出来ている…失敗すれば終わりなんやぞ…お前等の覚悟は、そんなもんやったか…」

 

ドリンクが無いと分かればコートに戻ろうとする光國。

 

「待って、手塚くん!」

 

「なんすか、壬生先輩…」

 

「…油断せずに、頑張ってね」

 

「…ええ」

 

壬生は最後まで見届ける事を決めた。

 

「……そのサーブ、消えるぞ」

 

コートに戻るとアンダーサーブを打つ光國。

打つ際にボールを回転させており、バウンドしてから森崎の手元で大きく外側にそれるが

 

「消えるサーブはない!!」

 

「ああ、消えることはない…」

 

森崎は難なく打ち返した。

この程度のサーブで抜けるほど、今の森崎は甘くはない。打ち返すと信じていた。

 

「まだ、右は終わっていない」

 

ラケットを左から右に持ち変えて、零式ドロップを使った。

 

「15-0だ…次だぁ!!」

 

再び左に持ちかえてアンダーサーブを打つ光國。

森崎は打ち返すと同時にネット際までやって来た。

 

「下がダメなら上だ!!」

 

「遅い!!」

 

ムーンボレーで打ち上げるが、最高到達点まで魔法を使わずに跳んでダンクスマッシュを決めるが

 

風の攻撃技(クリティカルウィンド) 葵吹雪!」

 

そのスマッシュをスマッシュで打ち返した。

 

「30-0!」

 

「高く飛んだり滞空時間を上げたりする魔法はあるが、直ぐに自分を落下させる術式は入れてなかったようだな…残り二回…ふん!」

 

森崎を倒すまで残り僅かなところまで追い詰める光國。

ここに来て、まだ衰えない200キロ越えのサーブを打つのだが

 

「ぐぅう!!」

 

森崎は打ち返すことをしてこなかった。

それどころか、痛みに苦しんでいるようで必死になって耐えている。

 

「まさか……」

 

森崎の精神よりも身体に限界が来た。

2セット目の悪魔化以降、常にトップギアの状態で試合をしていた森崎。

アドレナリンが切れ、血管が血流速度に耐えられなくなり、体中に激痛が走ると同時に皮膚の色が徐々に徐々に戻ってくる。

 

「…まだ、終わりじゃないぞモブ崎!」

 

ここで森崎の棄権負けは嫌だ。

零式サーブを打とうとするのだか、ただのサーブになってしまった。

 

「僕は森崎だぁあああ!!」

 

痛みを気力ではね除けた森崎。

ラケットを水平にして、ガットではなくグロメットの部分を使い打ち返し

 

「っ!?」

 

光國のラケットを弾いた。

 

「がぁっ!!」

 

それと同時に体中の力が抜けていく。

充血していた皮膚も目も元の色に戻り、激痛が更に増す…が

 

「手塚の、腕は…もう、おしまいだ」

 

左腕で持っているラケットを弾いた。

悪魔化しても弾くことの出来なかったラケットを弾くことが出来た。

ラケットを弾かれるだけでも腕にかなりの負荷がかかり、左腕がうっ血している光國には致命傷だった。

 

「やるやないか、森崎…暫くは左腕は使われへんわ…」

 

「く、そ…」

 

死にかけの左腕を使えなくなっても、ラケットを遠くに弾かれる威力を受けても尚、ボールに回転を加えており、打ち返した光國。

ゆっくりとゆっくりとボールは森崎のコートに向かい、ネットにぶつかるとネットの上に乗り、森崎のコートに落ちた。

 

「…会長、コールをお願いします」

 

「ええ…ゲームアンドマッチ!手塚、2-1! 6-0、5-7、6-3!」

 

市原の頼みを聞き入れ、試合終了の宣言をした。

 

 

 

第四試合 テニヌ

 

二科生 手塚光國 ○ 一科生 森崎駿 ●

 

 

 

「森崎…」

 

腕は痛むがなんとか体は動く光國は、森崎の側に立ち寄る。

森崎は意識が朦朧としており、暫くしたら気を失うと判断したので今しかないと言葉をかける。

 

悪魔(デビル)化を、使いこなせるようになってこい。

使いこなせないままならば諸刃の剣で、自らの身体を痛めるだけだ…だが、使いこなせるようになったら、お前はオレや達也…いや、クソハゲこと九重八雲も体術で圧倒出来るようになる…本当に使いこなせるようになったら今度はテニヌじゃない、殴りあう系統の競技で本気で戦ってやる…それまではお前と二度と勝負はせえへん」

 

「待ってろよ…次は絶対に、絶対に勝ってやる…」

 

森崎はゆっくりと目を閉じ、意識を失った。

それと同時に拍手が一科生と二科生から送られるのだが

 

「お前等、まだ試合は終わってへんねんから拍手喝采するなや!!」

 

これまだ第四試合であった。

終わりな感じの良い雰囲気になっているが、最後の団体戦が残っている。

 

「壬生先輩、たっぷりと休めましたよね?」

 

ベンチに戻った光國。

自分以外の出場選手の中で最も疲労している壬生を気にかける。

 

「私はもう、大丈夫だけど…」

 

「左腕は、暫くは使えません。

だけど右腕と足はまだ残っています…なによりも、壬生先輩やヨシヒコ達がいるんですよ…ちょっと休みますね」

 

もう無理だと選手の観覧席で寝る光國。

森崎が担架で運ばれていくのを見ていると、オジイが光國のラケットを持った。

 

「ガット、破れてる…もうちょい丁寧に扱いなさいよ…」

 

最後の森崎の一撃でラケットが弾かれた時にガットがきれいに破れている。

オジイに作って貰ったばかりだと言うのにと申し訳ない気持ちになる光國だが、ふと視界に入るオジイを見て疑問に思った

 

「オジイ、どうやって入ってきたん?」

 

美月とヨシヒコはトイレにいっていた。

その帰りに迷子のオジイに出会ったのだが、その時は既にオジイは中にいた。

厳重な様で全然厳重じゃないこの第一高校にどうやって入ってきたか気になった。

 

「…入れてぇもらったよ?」

 

「………あ、やべ、忘れてた……」



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人と言う字は、人と人が支えあって出来ているわけではありません

「オレの右腕と足は残っている…第五試合も出場する」

 

「出場するって、そんな」

 

「ダメです」

 

「っちょ、痛い!!市原先輩、痛い!!」

 

準備に手間取っているのか、第五試合は始まることなく未だにテニスコートにいる光國達。

最後まで戦うつもりで準備をし終えた光國だが、市原が光國の左腕の肘を握った。

 

「私の握力は同年代の平均以下です。

鍛えている人からは笑われるレベルで…今の手塚くんは、この程度で悲鳴をあげてしまいます…本当に、本当に腕が使い物にならなくなりますよ!」

 

「まだ、オレは」

 

「手塚…お前はもう出なくていい」

 

市原の手を離し、立ち上がろうとする光國。

すると、レオが目の前に現れて、立てないように押さえてくる。

 

「お前はここまで繋いでくれた、もうそれだけで充分だ…まだ、達也が残っている。交代しろ」

 

「アホぬかせ、最後は団体戦や。

達也の技能とかの問題は全くといって無いけど、相手には深雪がいる…手を抜かれる可能性がある」

 

達也VS深雪の兄妹対決

将棋やトランプといった簡単な勝負で今後に影響しないことならばまだしも、こう言った試合はこれから先ずっと起きない。

深雪は達也が相手だと手加減をしてしまう可能性がある。達也も深雪が相手だと手加減をしてしまう可能性がある。間接的ならばまだしも、直接対決となれば絶対に余計な感情が入り乱れる。

達也も深雪もそれを理解しており、そんなことはないと一切の否定をしてこず無言のままだ。

 

「これは皆で話し合ったことだ。

…正直、オレ達だけだったらここまで来るなんて出来なかった。

一科生と戦う場を作ることが出来なくて、ずっと偏見的な目で見られていた」

 

「だろうな」

 

「少しは否定しろよ…」

 

本来の道筋だとこの入学編ではレオもエリカも美月もヨシヒコもなにも出来ずにいた。

テロリストが襲ってきたことで活躍したが、事件を起こさずに活躍は一切していない。お兄様と妹様が活躍した程度だ。

光國が余計な事をして、本当ならば討論するのを魔法競技で戦う方向に変えたことによりレオ達に出番がやって来た。

 

「事実だ」

 

否定をする要素なんて何処にもない。

イベントが起きとお兄様の物語が始まるが、イベントを起こして物語が始まることはない。

 

「それにしても、遅いね…」

 

「まぁ第五試合の用意は、試合内容的に準備に手間取りそうだから仕方ないわよ」

 

美月とエリカは第五試合を待ちくたびれていた。

すると、この場を移動する指示すら出さず、なにやら大事な話をしていた三巨頭達が話し合いを終えた。

 

「…これより第五試合の団体戦を」

 

「待ってください…第五試合は屋内テニスコートでは出来ません!」

 

真由美がマイク片手に試合開始の宣言をしようとするのだが、第五試合はここでは出来ない。

広くて魔法を使っても問題無い場所でしなければならず、テニスコートでは出来ない。ルールをちゃんと覚えている壬生はその事について言った。

 

「ええ、そうよ…だから、しないのよ」

 

「おい、待て!!ここで喧嘩両成敗を出してくんなや!!

この試合の結果のみをインターネットに出すって言うてもうてるんやぞ!!

この最初の対抗戦はここまでよくやったとか、出れただけでも名誉ですとか言う戦いちゃう、勝つか負けるかや!そっちがその気なら、また炎上させんぞ!!」

 

一科生が負けた事実は日本の魔法師に大きな影響を与える。

成果主義の学校で、成績優秀者が成績の悪い者達に魔法競技で負けたとなれば大問題だと逃げに走ったと光國は疲労困憊の身体に鞭をうち抗議する。

レオ達、二科生もここでそんな事はしないでくれと真由美達の元に駆け寄った。

 

「落ち着け、お前達。確かにそれも出来ないわけじゃないが、そうじゃない」

 

真由美の前に庇うように立った十文字。

十文字も真由美は説明や言葉が足りなく、レオ達をイラつかせる。

 

「それなら、早く第五試合をする場所に移動させてください…手塚が何時までもつか」

 

「落ち着け、レオ」

 

「達也、でも」

 

「…手塚の事は気にしなくて良い…二科生の勝ちだ」

 

「気づいたか…この対抗戦は、お前達の勝利だ」

 

お兄様は気付いた。

真由美達がなにを話していたのを、そして光國が森崎を倒した時点で勝っていたのを。

 

「これも狙った…ことではなさそうだな、手塚」

 

全員が勝つと本気で信じていたからこそ、自らを第四試合に置いた。

だからこれは光國にとっても想定外の事だった。

 

「お兄様、まだ第五試合は始まってすらおりません…どうしてエリカ達の勝利で手塚さんの心配が無用なのですか?」

 

第五試合はそれこそ運要素も絡んでおり、下手をすれば負ける可能性がある。ただ強ければ良いだけじゃない。

深雪はそれを分かっていたが、試合終盤でも勝負の分かれ目を決める時でもなんでもないこの状況で敗北宣言意味がわからなった。

 

「第五試合は団体戦で、一科生代表の選手は準備が…!」

 

エイミィ、ほのか、雫、リーナは頼りになって実力がある新入生の一科生女子達。

疲労は完全に回復をしており、肉体的にも精神的にも問題なく戦う準備は万端だ。

そんな四人を見て、深雪は気付いた。二科生達の勝ちだと。

 

「…そう、でした…」

 

深雪はもう一度、団体戦のメンバーを確認する。

 

 

(ほのか)()(エイミィ)(リーナ)(そして私)

 

 

「団体戦をするには、6人必要だ。

代表選手は7名で、緊急時の補欠が一人入っているが桐原先輩が意識を失って出れなくなって空いた枠を埋めるために入った…そして元に戻った森崎は意識を落とした」

 

5人しかいない。

試合に出る条件を満たせなかったり、試合会場に居ない場合は一度審判達が話し合って、その試合を飛ばして他の試合を先にするか、来なかった奴の失格で敗北にする。

最後にする試合を最後にするために、別の試合に回せず、一科生は失格になった。

 

「負傷した手塚を抜いて5人同士の対決をと考えたが…二科生にはまだ司波が残っており、肝心の手塚も司波と交代をするつもりがなく、ルールの変更は絶対に出来ないことになっていた…」

 

「ミユキ…どうやら、私達が物凄く強くてもダメみたいよ」

 

リーナはお手上げだと今起きていることを認めた。

 

「魔法師は魔法を使えない人よりも遥かに強い…けれど、一人じゃなにも出来ないわ。

魔法を使えない人は使える人とか関係無く、助け合って生きていくの…人と言う字が人と人が支えあって出来ているように…私達だけが強すぎるのは、ダメみたい」

 

敗けを認めたリーナ。

最後に良いことが言えたと、スッキリとしてドヤ顔をする。

 

「リーナ…それはフィクションで、人と言う字は人間が両足でしっかりと立っているからあの形よ」

 

「えぇっ、そうなの!?」

 

そして、三枚目的要素を見せた。

金●先生の言っていたことを真に受けていたリーナのポンコツぶりを発揮した。

 

そして

 

「ふざけるなぁ!!」「5人で良いだろう!!」

 

一科生達からクレームがついた。

まぁ、ここまで来て試合が出来ないとなると当然と言えば当然だ。

 

「……黙れ!!」

 

しかし、光國はそれを一喝して黙らせた。

 

「出場者全員が騒動を起こした馬鹿や友人なんかの関係者で、それ以外の奴等は誰一人として、自らを出してくれと出てきた奴はいない。

どいつもこいつも参加するだけで家の名前が傷つくだ、二科生なんかと相手をしても結果が見えていると出ようとしなかった…これがこの国の将来を担う魔法師のエリートと言うのなら、大笑いだ!!

なにが十師族だ!なにが師補十八家だ!なにが百家だ!なにが魔法師だ!そう言った名前のある強い存在はどの業界にも必要なのは馬鹿で二科生なオレでも分かる。なんなら、魔法師でもないオレの妹でもだ!!」

 

「落ち着け手塚。その発言は」

 

全国の魔法師を敵にまわす事をサラッと言う光國を制止しようとする達也

 

「油断すれば死ぬ命だ、最後まで言い切ってやる!」

 

だが、今の光國には言葉は届かない。

色々と溜まっていたものを、ここで発散してやると叫ぶ。

 

「本当に上を目指すなら、前を進むならば血や家なんか関係ない、Adel sitzt im Gemüt,nicht im Geblütの精神を持たないとアカンねんぞ…勝てると思ってるなら凄いと思っているなら、血や家なんか気にすんなや…デカくしすぎやぞ…はい、会長パス!」

 

「え、ちょっと!!」

 

言いたいことを言い終えた光國はマイクを返した。

色々とハードルとかが上がっている最中で、マイクを返されて困る真由美。

 

「…Adel sitzt im Gemüt,nicht im Geblütって、どういう意味?」

 

「高貴さは血じゃなくて、心にあるって意味よ…血や家なんてものは関係ない、心が大事か…」

 

ほのかの疑問に答えたエイミィ。

確かにそうかもしれないと、今の状況を見て納得してした。

努力こそしているものの名前や血筋に甘んじていたり、それを持っていないものを無意識に見下していたりする魔法師は余りにも多かったのだから。

 

「これで来年までは、どうにかなるか…」

 

そしてこれ以上はなにも言ってこない一科生達にホッとする光國。

これで自分の役目は終わったと思うと、体から力が抜けていくが倒れるのはダメだと、立ち続ける。

 

「え、え~っと…オホン…第五試合は、一科生達が試合をする為の条件を満たさなかった為に失格とし、よって勝者は二科生になり試合が全ての終了しました…試合結果は、一科生の二勝三敗、二科生の三勝二敗により勝者は」

 

この空気どうしようと慌てる真由美だが、直ぐに冷静さを取り戻した。

先程までの危険な発言については言及せずに勝利宣言をしようとするのだが

 

「手をあげろ!!我々は反魔法団体の者だ」

 

武装した集団が入ってきた。

 

「反魔法団体…ブランシュか」

 

秘密裏にされてる癖に、情報が筒抜けで見分け方すらもある本当に勝ちに行く気があるのかと思える反魔法国際政治団体ブランシュ。

達也はと言うか、そこそこの情報通や魔法師の家系ならば知っていることレベルで武装して襲ってきた奴等のリーダーらしき男がヒントをくれた。

公安に目をつけられるレベルの怪しい事をこそこそとして作戦を練っていたのだが馬鹿(光國)が馬鹿騒ぎを起こし魔法科高校等は百山校長を生け贄にしたりしていてそれどころではなくなっていた。

この対抗戦の為に色々と警備などを厳重にしていたりするのだが…普通に襲ってきた。

本来の道筋でも、別のことで騒ぎになっており厳重な警備をされているのにあっさりと入ることが出来た。

それは何故かと言えば内通者が普通に学校内に居て、中から入れてもらった。

本来の道筋ならば、真由美と二科生が討論をしている時に襲撃してきてお兄様達がボコボコにして支部に乗り込んで、日本の支部長相手にボコりお兄様御一行の魔法科高校での最初の活躍となる。

光國が一科生と二科生の待遇や溝を見て原作なんか知るかと好き勝手をしていたが偶然にも今日がブランシュ襲撃の日で七草真由美との討論の代わりに一科生との対抗戦に差し代わっただけだった。

まぁ、それはともかくとして武装をしている奴等がブランシュだと分かれば各々が動き出す。

なにかロクでもない事をしに来たと動ける奴等全員が動き出し

 

『シックス!ファルコ!セイバー・ストライク!』

 

真っ先に光國が仕掛けた。

ダイスサーベルをコネクトで取り出し、変身せずにファルコウィザードリングを使って必殺技を出した。

 

「これが、手塚の魔法…」

 

風で出来ている6体の黄金の隼が、縦横無尽に飛び回りブランシュ達の武器や肉体を傷をつける。

武器は使い物にならないようにかまいたちの如く風で切り裂き、肉体は切り裂かずに血が出る程度の傷をつける。

決められた魔法しか使わない授業は当然として、制限はあっても制限内なら好き勝手に使って良いこの対抗戦でも、そう言った制限がなにもない修行中にも魔法を使わなかった光國。

鮮やかで尚且つ強烈な風の隼に、一瞬だけとはいえ達也は見とれるが、直ぐに意識が残っているブランシュ達の意識を奪っていく。

 

「手塚、何名かは意識が残っている…」

 

爪が甘いと言おうと振り向いた達也だったが、言うのを直ぐにやめた。

 

「光國…無茶しすぎ…いえ、違うわね…コイツらが居なければこんな事にはならなかったわ…ゆっくりと私の膝の上で眠れていたわ…」

 

リーナは、死体の山みたいな感じで積み上げられている武装集団の一人を無理矢理叩き起こす。

 

「我が生涯に一片の悔い無し!!」

 

右腕を大きく掲げる光國。

この言葉を最後に、なにも言わなくなった

 

「手塚…くん…嘘、でしょ…そんな…君が私をここまで連れてきてくれたのに、それなのに…」

 

「光國は限界だったわよ…でもそれでも、コイツらを倒すために最後の力を振り絞って、使いたくない魔法を!!」

 

光國は立ったまま気絶をしていた。

最後の台詞で完全に死んだと壬生達は思っているが、ただ単に立ったまま意識を失っているだけで、最後の魔法は意識を失っている状態で放った。

 

「気を失ってもまだ、戦い続けるのか手塚…後は俺に任せておけ」

 

そんな手塚を賞賛し、達也は外にも居るであろう武装集団と戦いにいった。

その後はもう言うまでもない。相手はテロリストだと制限なんか気にせずに魔法を使いまくる一科生や二科生達。

キャスト・ジャミングと言う魔法師に魔法を使いこなせなくする魔法を使ってきたりするのだが、物理で倒したりする。

人間ドラマらしい人間ドラマが起きず、魔法師無双が起きて日本支部の本拠地をリーナが倒した集団から自白させて、選りすぐりのメンバーで本拠地に乗り込んで、ブランシュの日本支部を倒した。

そして最後に壬生も内通者で洗脳していた筈なのに、何故か元に戻っていると言う事が判明をした。



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絶望と言うものは鮮度がございます。上げてから落とさないとなりません

「一週間って早いものね、あの一科生と二科生の対抗戦が昨日の様に思えるわ」

 

ブランシュの事件は一先ず終わった。

お兄様無双で終わり、とりあえずは終わったのだがテロられた事がバレて情報規制をするのにまたまた時間がかかり休校し、一週間後に再開された。

 

「テロリストに襲われたけど、またこの第一高校に通えてよかった…」

 

男塾の新章開幕みたいな感じで第一高校へと向かう達也と光國を除く一年二科生。

授業は明日からで、今日は全校生徒に事後報告等を済ませて今後の活動等を発表して終わる。

尚、まだ制服はダメである。

 

「久しぶりの学校の校門だ…おっ先!!」

 

「あ、待ちなさい!」

 

レオが一番乗りだと走り出し、エリカは追いかける。

なにやってるんだかと微笑ましく見守るヨシヒコと美月の心は清々しい。

一週間前にやって来たときは、いや、入学して以降は緊張と苛立ちなどが多かったがもう違う。

対抗戦をした事により、自信がついて更には周りの空気も変わっていた。

 

絶え間なくする努力、仲間や友と支えあって競い合う友情、そして見える成果の勝利。

 

これだけではなく、劣悪な環境から最高の環境に変化した事が一番の起因だろう。

如何に才能があれども、努力する時間や環境などが最悪ならば伸びなくなったりする。

 

「レオ、僕達以外にも先に登校している人がいるんだから一番乗りじゃないよ」

 

「エリカちゃん、他にも人がいるんだから走ったら危ない…どうしたの?」

 

校門に同時に入った二人をゆっくりと追いかけて、校門前に来たヨシヒコと美月。

二人はなにか言うわけでもなく、学校側の校門前にある近くの木にいる壬生を見ていた。

 

「あ、手塚くんは?」

 

レオ達に気付いた壬生は近くに来て、光國の事を聞いた。

壬生はブランシュの内通者だった…が、壬生以外にもそこそこの内通者がいた。

そしてその大半が洗脳されており、洗脳される際には第一高校への不満や周りから向けられる見下される視線からの劣等感の隙を付け込まれており、騒ぎを大きくは出来ないのと壬生が内通者だと言う物的証拠がなく、現行犯で取り抑えていないので特にこれといった罪はなかった。

しかし一応の為にと病院で検査なんかをしていく内に、洗脳されていたが誰かが解除するだけでなく精神を落ち着かせる魔法をかけた痕跡があった。

そんな魔法が使えそうなのは、この第一高校でも中条あずさぐらいだが当の中条あずさと壬生は接点らしい接点はない。顔を会わせる機会もない。

では、誰がとなって壬生は考え、ここ最近自分に向けられて使われた魔法や攻撃と言えば、桐原の高周波ブレードか光國がぶっかけてきた水ぐらいで、頭を冷やせとかけられて以降は酷く冷静になっていたので光國だと確信をしていた…

 

「手塚くんは居ないわよ。

と言うか、一緒に登校はしてないし…手塚くん、私達より早いし」

 

「いえ、かなり早目に来たけど一度も見てないわ」

 

じゃあ、遅刻?と考えるエリカ達。

 

「だったら、リーナに電話をして呼び出してみるか」

 

「それはいいわ…アンジェリーナさんにはちょっと…」

 

「え、でも手塚に会いたいんですよね?

あいつ、携帯番号もアドレスもIDも教えてくれなくて…連絡手段はリーナだけですよ?」

 

「そう、なの…アンジェリーナさんだけが…」

 

「…この、馬鹿!!」

 

「え、っちょ!!」

 

リーナだけしか連絡が出来ない事を知ると悲しい顔をする壬生。

余計なことを言ったレオを色々と察したエリカは服を掴んで引っ張り、ヨシヒコと美月と共に講堂を目指す。

 

「…叶わない、恋ね…」

 

「応援は、したくても出来ません…」

 

どうにも出来ない現実だと美月とエリカは思った。

その辺に疎いレオと、アメリカンチェリーよりもチェリーなヨシヒコは思わない。

 

「お前達、遅いぞ!」

 

そして噂の手塚が講堂前にいた。

 

「って、手塚!?」

 

「なにが手塚だ…割と遅いぞ」

 

「遅いって、まだまだ時間あるし…て言うか、今の今まで何処にいたんだ!?」

 

壬生が探したが、居ないと言っていたのに目の前にいる何時もの姿の光國。

逃げたのかと思ったが、違うようでマスク越しでも嫌な顔をしているのが分かる。

 

「学校側がギリッギリに、それもオレとリーナが登校した際に言うてきてな…ちょっと前に出て、勝利おめでとうとかそう言うのをしーひんとあかんくなってん」

 

「え、嘘!?」

 

「達也、エリカ達が来たぞ、連れてってくれ」

 

「ああ…」

 

「ちょっと待って…校門前で壬生先輩がいたから、手塚くん迎えに行ってきて!!」

 

講堂から出てくる達也に連れていかれるエリカ達。

しかし、最後にとエリカが壬生の事を伝えると了解と迎えに行く。

 

「壬生先輩…なに泣いているんですか?」

 

校門前に向かうと、涙を流している壬生がいた。

光國は何故泣いているのかがわからないので聞いてみると、光國に気付いた壬生は涙を拭いた。

 

「泣いて、いないわ…」

 

「目を腫らしていますよ…弱い自分に泣いていたんですか?」

 

洗脳されていた事とか、ここまで一人ではなにも出来なかったとかに悔しい思いをしていると勘違いをする光國

 

「違…う…」

 

「えと…えっと…」

 

どうすれば良いのか分からない光國。

あたふたしているもののなにか無いかと頭を回転させ

 

「飴ちゃん舐めるか?」

 

「…」

 

とりあえず、飴を取り出す。

壬生は無言で受け取り、舐めるのだが俯いたままで無言だった。

 

「壬生先輩、言葉に出来ないなら文字でお願いします。

言う、勇気が無くて書く勇気も出ないなら、画像かなにかで」

 

「なに、泣かしているのよ!!」

 

なんとか対話をしようと、色々としているとリーナが投げ縄の要領でリードを投げて光國の首輪にはめ、首を引っ張った。

 

「ミブ、大丈夫!?

光國、時折と言うか結構酷い事を言うから…でも、本当は良い人で貴女の事を」

 

「ま、待て、何故オレが泣かせた前提なんだ?」

 

壬生を泣かしたと思っているので、勘違いを正す光國。

間違いだと分かれば謝り、どうして泣いているのかを聞いて答えないので光國と同じ方法で解答を求める。

 

「っ……手塚くんは悪くないわ…」

 

摩利の言葉を勘違いしたりした一年の頃はかなり辛かった。

二科生だから見下される。剣道は剣術より下にみられる。努力する場や環境が最悪で甘い言葉に乗ってしまい、洗脳されるぐらいに追い詰められていた。

二年生になって以降は洗脳されていて、余り覚えていないが光國が洗脳を解除して以降の記憶はハッキリとしている。

 

本来の道筋だとお兄様は洗脳をされている状態の壬生に世の中は不平等だと渇を入れたりするぐらいだ。

 

だが、光國は違っていた。

なにはともあれ光國は壬生を無視したり、見捨てなかった。

一科生の態度などに不満を持つ二科生を集めて、真の敵とも言える学校を教えてくれた。

不平等で正当とは言えない、だがそれでも評価を得て考え方を変えさせる場を作った。

貴重な出場枠を、エリカでも戦えたのに三回戦に出るように進めてくれた。

桐原に勝つために魔法以外の技術を必死になって教えてくれた。

洗脳をされていて道を踏み外しかけたのを助けてくれるのだけでなく、別の道を教えてくれた。導いてくれた。

自身を犠牲にしてまで、勝利を手に入れて二科生を、自分に勝利をくれた。

登校した際に向けられた視線がとても心地よかった。

優越感に浸ってしまっているかもしれないが、それでも光國には感謝しきれない気持ち、いや、それを通り越していた。

ヒロインの絶望的な状況を適当な事を言って励まし、最終的には言葉よりも暴力で解決する系の主人公(王道的な主人公 笑)と同じつり橋効果なのかは分からない。

 

 

しかし壬生に恋心が生まれていた事は確かだった。

 

 

最も親しい男と言うには怪しいかもしれないが、腐れ縁な関係の桐原はと言うと

 

あの男は日頃からなにかとちょっかいをかけてきて迷惑で、更にはカッとなって自身に魔法を向けた出来れば今後関わりたくないし、後輩を関わらせたくない

 

と言う評価である。

改心していたり反省していたりするので、徐々に桐原の好感度が上がるが恋心にはならない。

もう壬生は光國に恋心を抱いてしまったのだから…そしてそれと同時に

 

「私が、悪い、だけなの」

 

「!?」

 

「これって、光國の!?」

 

光國の隣には常にリーナがいる、彼氏彼女の関係かは分からないが、常にいる。

それだけでなく同棲をしている、キスをしろと言われれば堂々とするし、入りこむ隙なんてものは何処にも無い。

 

はじめての本当の恋は、なにも始まらない。

 

なにも始めてはいけない、彼にはもう彼女がいるのだから。

 

だから、諦めないといけない………そんなのは無理だ、そんなのは嫌だ!…けど、なにも出来ない

 

壬生は恋心を自覚したと同時に、絶望をしてしまった。

希望を与えられ、それを奪われる瞬間こそ人間は一番美しい顔をする、それをするのがファンサァァアビスゥゥゥゥウ!!

何処ぞの青髭は恐怖と言うものには鮮度があり、死ぬのが分かっていれば恐怖の瑞々しさが無くなっていくと言っていた。

世に言う、上げてから落とすスタイルで、常人ならば絶対に味あうことはない深い深い絶望をした壬生の身体にヒビが入った。

そしてリーナは知っている。

 

「魔力不足…ああ、もう、仕方ない!!」

 

光國がかつて長期間魔力を食べずに、居た時にこの状態になったのを。

そしてそれをどうにかするには、キスしかなかったと…人命救助の為だと恥じらいを捨ててリーナは壬生にキスをするのだが

 

「嘘、なんで」

 

壬生は元には戻らなかった。

リーナも想子を奪われることはなかった。

 

「ちょっと、場所を変えるぞ!!」

 

リーナは想子が無くなったと勘違いをしたが、違う。

光國の身体にヒビが入ったのは光國に宿っているキマイラが原因で、壬生にはキマイラが宿っていない。

 

「くそ……」

 

『ドライバー・オーン!!』

 

「キマイラ!」

 

人気の無い所に二人を連れてやって来た光國は自身に宿るキマイラと会話をするべくビーストドライバーを起動させるとベルトが開いた。

 

「ハーッハッハッハ!!

これはまた、面白いことになっているではないか!!いや、久々の御馳走の時間か!

小娘の魔力も悪くないが、たまにはデリシャスな飯が食いたいものよ」

 

「笑い事じゃない!!」

 

「では、さっさと対処すれば良いだろう、対処に遅れば死ぬぞ…」

 

「っ…」

 

「キマイラ、これがなにか分かるの!?」

 

仮面ライダービーストに変身する指輪を手にするがなにかに躊躇う光國。

この状況の壬生を二人は理解しているとリーナはキマイラに説明を求める。

 

「怒りや憎しみは人を化け物に変える、貴様も見ていただろう」

 

「森崎のこと?」

 

「そうだ、それと同時に絶望も人を変える。

怒りや憎しみは人を前に進めることが出来るが、絶望だけは違う。

絶望だけは人を前に進めることが出来ない、人の心を大きく傷をつける。」

 

「た、確かにそうだけど…どうしてミブがこうなるの?」

 

今の壬生は、身体にヒビが入っている。

身体のヒビは徐々に徐々に広がっていき、壬生は苦しみだす。

 

「最後まで聞けぃ!

人の心に傷が生まれた際、絶望をした際に新たな人格が生まれる!

ある程度の魔力を持っているものがそうなった場合、その人格は我と同じファントムになる!!」

 

「っ、な!?」

 

光國は喋ろうとはしなかった為に知らなかったファントムの誕生方法(この世界仕様)

心に傷が出来た為に人格が崩壊したり、人格が変わったりするのをリーナは知っている。

憎しみや憎悪などの負の感情により化け物になったのをリーナはつい最近知った。

人としてポンコツな部分はあるが、高い実力と魔工師の人達より豊富な知識を備えて尚且つそれに近いのを何度か見ているため否定は出来なかった

 

「そしてそのもう一つの人格は、本来の人格を食い殺して表に出る。

その際に肉体がありえない変化を起こして、我の様な姿になる。」

 

「ど、どうすればいいの!?」

 

「その方法は光國が知っている、そして今この場ですることが可能だ。さぁ、我に魔力を捧げよ、光國!!」

 

「…」

 

光國は指輪を取り出す。

それは魔法の指輪で、リーナですらどんな効果を持っているか知らず、その指輪の魔法を九島の人間に知られれば最後、九島が十師族どころか世界にいる魔法師で最も恐れられる最悪な魔法を手に入れる事になる。

 

「これは…魔法師を魔法師として殺すことが出来る、魔法だ…」

 

「殺すって…そんな?」

 

「いや、壬生先輩は生き残る…ただ、二度と魔法師として生きれない…二度と魔法が使えなくなる」

 

折角、自信がついたのにここまで来たのに魔法師として殺してしまう。

それもそれで絶望するんじゃないかと思ったりしている。

 

「…壬生先輩は、なにに絶望をしているんですか?」

 

光國は口を動かしつつ、壬生の手を取る。

絶望をしている理由が、光國もリーナにもわからなかった。

 

「貴様といい小娘といい、馬鹿か…強き雄に惹かれるのは、雌の本能だろうが!!それは例え1000年、2000年の時を越えても同じよ!」

 

しかし、キマイラは分かっていた。

 

「…いやいやいや…え、え…」

 

オレなの?となる光國。

 

「まぁ、光國は魅力的だから仕方ないわね…」

 

ウンウンと頷くリーナ。

 

「あれ…あ、もしかして私が原因?」

 

そして絶望の原因を理解したリーナ。

叶わぬ恋に絶望をしているだと

 

「光國よ、貴様も強き(おとこ)として魔法師として殺すならば、責任を取れ。

貴様は百獣の王たる獅子である我の力を使うなら、女の一人や二人養い妾として取らねばならんぞ」

 

「シャラップ!なにくそな事を言っているんだ!」

 

「戯けが、そもそもの話で現代の一夫一妻のシステム自体が間違っている。

家を大きくするだ安定などと言い子供に望まぬ結婚をさせるならば、一夫多妻の制度を認めんか!!愛と家の二つの結婚をせぬか!!」

 

「お前、今すごい屑な事を言っているぞ!!」

 

「それにだ…人を超越せし神ですら浮気をするのだぞ!!

ゼウスをはじめとする様々な神々が、美しき人間から実の娘、はては同性に手を出すのだぞ!これはもう、そう言った社会ではないのが悪い!!」

 

「ゼウスは浮気だろう!」

 

「だが、アルジュナの妻は合法の多夫一妻のランサーの姫だ!!」

 

「ランサーじゃなくても、リアル姫や!」

 

状況を理解できていない第三者が聞けば、最悪なやり取りをするキマイラと光國。

そうこうしている内に壬生の身体のヒビは全身に広がっていく。

 

「我が知らぬとは思うな。

貴様、徳川の埋蔵金を元に貯金をして博打である程度貯まった際に新宿の一等地に」

 

「おい、ちょやめろ…ああ、もう……リーナ、ごめんなさい…」

 

壬生はもう手遅れだった。

魔法師として殺すことは出来ないと判断した光國は指輪を壬生の左手の薬指にはめて、壬生を抱き抱えて

 

「!?」

 

キスをした。

 

「!?」

 

甘い一時、本当に一瞬だった。

しかし壬生にとっては、沙耶香にとっては最高の一時で

 

「…え、へへへ…」

 

絶望を乗り越えるには最高だった。

壬生の身体に広がっていたヒビは消えていき、壬生は満面の笑みを浮かべて光國にしがみつく。壬生は絶望を乗り越えることが出来た。

 

「手塚くん、そろそろ時間です…」

 

そして講堂へと迎えに来た市原にキスシーンから見られていた。




次回、お兄様が…


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新生徒会長 流石です、お兄様

「では、改めましてこの一科生と二科生の対抗戦、二科生の勝利です!!」

 

一科・二科対抗戦

 

 

第一試合 エリカ・レオ ● 深雪・リーナ ○

 

 

第二試合 幹比古・美月 ● ほのか・雫 ○

 

 

第三試合 壬生 ○ 桐原 ●

 

 

第四試合 手塚 ○ 森崎 ●

 

第五試合 二科生 ○ 一科生 出場条件を満たせず失格

 

一科生 2-3 二科生

 

勝者、二科生

 

講堂へと立った、代表選手達。

真由美が途中までしか言い切れなかった、勝利宣言を言い終えると拍手が講堂に響く。

 

「…一学年、2クラス分減ったな」

 

講堂のステージから、一望する光國は生徒の数が少ない事に気付いた。

今日は病気じゃない限りは絶対に登校しないといけない日で、来ている生徒の少なさに疑問を持つ。

 

「それと悲しいお知らせをします。

各学年の一科生と二科生の生徒の多くが辞めて、一科生と二科生が一クラス分ずつ減りました。つきましては後日、減った分の補強を、クラス分けを行います」

 

これから先、お兄様達が中心に災厄の時代が始まる。

光國達の試合を見て、実力と才能が無い二科生は諦めて退学した。

今回の一件で魔法師の才能こそあるが魔法師じゃない家の人達は子供をやめさせられた。

第一高校自体に問題があると魔法師の家系の人達は別のところに向かうべくやめさせた。

ある意味、この第一高校を辞めて別のところに向かおうとするのは良いことかもしれない。

 

「七草会長、一つ質問をよろしいですか?」

 

「なにかしら?」

 

「…そう言うのって、校長が言うんじゃないのか?」

 

両手に花の光國。

右には壬生、左にはリーナがいて腕を組んでいるが気にせずに七草に何故七草が進行しているのかを聞いた。

 

「…魔法科高校は普通科の高校とは違い、生徒会長に大きな権限が」

 

「クラス変更等の説明が生徒会長がするのはおかしいですよ…それよりも肝心の校長先生は何処にいるんですか?」

 

ずっと疑問に思っていた、学校側の対応と言うか百山校長。

対抗戦の時にも学校にはおらず、今日もまだ一度も見かけていない。

と言うより、見掛ける方が稀なんじゃないだろうか。

 

「そう言えば、一度も見ていないわね…」

 

校長の事を話題に出すと全生徒が見ていない事に気づく。

記者会見の後、各関係者に色々と対応していたりするのは分かるのだがそれでもこんな日にすら来ないのは…となっていると

 

「すまない、遅れた」

 

百山校長が講堂に入ってきてステージにたった。

 

「やっと表に出たわね…」

 

「百山校長、今年で10年目らしいよ」

 

「今までなにもしなくて、今さらなにをしに来たんでしょう…」

 

紗耶香、ヨシヒコ、美月は校長を睨む。

今の今まで問題を放置していて、対抗戦を見に来ることもなく、今さらなにをしに来たんだと他の二科生も睨む。

 

「お前達、そう言う視線はやめろ」

 

リーナと紗耶香のホールドから抜け出し、マイクを手に取った光國。

百山校長に近づいていき、逃げれないようにする。

 

「百山校長、一科生と二科生の対抗戦は二科生が勝ちました…」

 

「…会見で言った通り、学校の公式HPで結果のみをあげる」

 

「ありがとうございます…で、どうするんですか?」

 

光國達が出来ることはもう全てやった。

騒ぎを起こし、試合をやって勝利をして、結果を作って成果を残した。

一科生と二科生の心は変わったが、光國達はここまでしか出来ない。教師を足したり、制服を変えたりなどは光國達には出来ない。

子供の時間は終わり、大人の時間に変わった。

 

「まさか、ここまでやって制服をそのままのするんですか?」

 

「…制服等は、全て一新する。

その為、来年までは私服での登校を…」

 

「制服代は?」

 

「私の退職金から出る…全員、花弁の制服だ」

 

「あざーす…で、他は?」

 

差別を助長させる一番の原因である制服は終わったが、まだまだである。

魔法科高校の問題点は他にも多くあり、代表的なのは人間力の低さとか道徳的なものだ。

 

「他にも色々と問題点はあります?

この第一高校でなくても、他の魔法科高校でもある問題点…例えば達也みたいに、実技がダメだが実戦が得意な生徒に対する救済措置とか、どうします?」

 

追撃は止めない。

今を逃せばこれから三年間、チャンスは来ない。

絶対に逃すわけにはいかないと質疑応答を繰り返す。

 

「…君ならば、どうする?」

 

「いやですねぇ…帰宅部のオレにはなんの権限も無いですよ」

 

「そうか…では、現生徒会長、七草真由美!!」

 

「はい!…あの、既に生徒会の枠は全て埋まっていますが…」

 

「今まで、ご苦労だったね」

 

「え…」

 

真由美に一枚の紙を渡した百山校長。

まさかと真由美は恐る恐る折り畳まれた紙をゆっくりと開いた。

 

【国立魔法大学付属第一高校 現生徒会長 七草真由美

貴殿を本日付けで国立魔法大学付属第一高校の生徒会長を解任とする。

つきましては、次の生徒会長を決める選挙まで百山東現校長が臨時の生徒会長を任命をお願いします。】

 

「校長、権力争いに負けたな…」

 

魔法師は好きでも嫌いでもないが、十師族が気にくわない。

そんな感じの奴等との口喧嘩と言う名のパワーゲームに百山校長は負けた。

十師族が嫌いな奴等は嫌がらせとして七草に大恥をかかせるべく、動いた。

 

「現生徒会長は解任し、次の生徒会選挙までは君が臨時の生徒会長だ…手塚光國くん」

 

「…え…え…え!?」

 

「…二科生は生徒会には入れないのでは?」

 

予想外の事なので、驚く光國。

しかし規約で二科生は生徒会に入れず、それでお兄様は仕方なく風紀委員に入っている。

光國はセーフなのかと深雪は額に青筋を浮かべて校長にその辺について言及する。

 

「一科生のみ可能で、二科生は出来ないと言ったものは廃止。

実技授業等の調整も今後していく方針とし、生徒会には調整の意見を求める事が多くなりますが」

 

「それって、光國に全部やらせるつもりじゃない!何処まで、逃げに走れば」

 

「ちょ、リーナ、黙れ。

校長の首は来年辺りに飛ぶし、退職金も減らされてる上でオレ達の制服代金に使われてて、天下りも出来ん状況や…その話を受けるけど、幾つか追加してええか?」

 

意識を現実に戻した光國は、冷静になりリーナを落ち着かせて、これはある意味チャンスじゃないかと、話を受け入れる。

 

「この際だ、言ってみなさい」

 

「生徒会役員に辞職権限とクビにする権限をください。

…まぁ、うん…生徒会にもね、一科生とか二科生とか…そう言った感じの事をね…本当にダメだからね…それと力不足だったケースが怖い」

 

「その程度の事ならば、構わないとも」

 

「ああ、そうですか。

じゃあ、辞職する際には後任の人を指名しないといけないシステムでも良いですか?

過去に一度も生徒会に入っていない生徒限定で指名できるシステムで…大丈夫ですか?」

 

「そんな事なら、幾らでも構わないと言ったはずだ。

それよりも早く生徒会役員をここで指名してくれたまえ」

 

「マジかー…」

 

ここまでスムーズに進むとは思わなかった光國。

校長がもうなにか言われたくないのか、適当にやっている。

 

「スゴいな、手塚!一年で生徒会長になるなんて!」

 

「深雪とか達也くんならともかく、まさか手塚くんが生徒会長になるなんて…おめでとう!」

 

「お前等、覚えとけよ…」

 

光國が生徒会長になったことにレオ達は喜ぶが、地味に酷いことを言う。

しかしカリスマ性では達也や深雪、リーナには勝つことが出来ない。カリスマAやBが達也や深雪達ならば光國のカリスマはDぐらいだ。

その辺の自覚をしているので、小言を呟くだけで光國は終わらせる。

 

「え~じゃあ、一応の任命をしますね。

自分では力不足だと言う人は後で生徒会室に来てください、もし来なかったら認めたと言う事になり、入った事になり、仕事をしなければ内申点が下がります…て言うか、オレ達はそこそこ休んどるけど、授業日数足りとるん…あ、今の無しな。休日返上は嫌や。」

 

「手塚会長、早く新しい役員のご指名を。

幸いにもここには全校生徒がいますので、余計な手間が省けます」

 

「あ、すみません市原先輩…え~…まず、深雪を副会長にします」

 

「リーナではなく、私、ですか?」

 

「あ、嫌なら後で断ってエエから…取り敢えず、進めさせてくれ。

えっと…中条先輩と市原先輩、引き続き今の役職をお願いしますね…で、深雪がいたポジは…あ~…もう、光井ほのか辺りでエエか。成績的にも人間力的にも問題ないし…嫌なら後で言ってきてくれ」

 

「…お兄様は今のままで?」

 

「深雪、話を最後まで聞いてくれ」

 

徐々に徐々に寒くなる講堂。

深雪が無意識に周りを冷却してしまい、半袖な生徒達は寒いと訴えだすが気にせず進行。

 

「で、生徒会の風紀委員への推薦枠ですが…たまには下働きをしてみろやぁ、ぐぉるぁ!!という事で、七草真由美元会長(笑)に…精々苦しめ」

 

「百山校長、新しい生徒会長の方が人格に問題があります!!」

 

「七草元会長、そんなことよりもお兄様が何処にもいません!!」

 

このままだと男女比率が面倒な事になったり、光國ウハウハの状態だったりとなにかと問題だと抗議が入る。

 

「…ああ、そう言うことね」

 

自分を選ばなかった理由を分かったリーナ。

光國の座右の銘はモットーは、やる時はやる。やらない時はやらないだ。

真面目の時は真面目だが、真面目じゃない時はだらしなかったりするのが光國だ。

 

「え~ここで大事なお知らせがございます…私こと現生徒会長、手塚光國は生徒会長を辞任します!!つきましては、新しい生徒会長を司波達也を指名します…はい、後は頼んだ…あ~疲れた、夕飯作るの面倒になったな…」

 

生徒会長なんてかったるくて面倒な事なんて絶対にやりたくない。

なので、逃げ場を封じてから達也に全てを押しつけた。

 

「お、おい待て!」

 

「喜べ、深雪。

愛しのお兄様がNo.1に、深雪がNo.2になった…1-2フィニッシュだ!」

 

嫌だと断ろうと光國を追いかけようとする達也。

しかし達也の唯一の弱点とも言える深雪を上手く利用する光國。

 

「お兄様が生徒会長で、私が副会長…ナイスです、手塚さん!!」

 

「褒めるぐらいなら、焼肉を奢ってくれ…食べ放題じゃない注文形式の焼肉を」

 

「その程度の事でしたら、この後に!!」

 

「お、マジで!?」

 

最早、断ることは出来ない空気が生まれた。

と言うか、深雪が物凄いノリノリになっているので達也は断ることが出来ない。

 

 

国立魔法大学付属第一高校 臨時生徒会長

 

 

 

手塚光國

 

 

 

 

 

司波達也

 

 

 

「一年生にして、生徒会長になるなんて…」

 

 

 

「はい、皆さん御一緒に」

 

 

 

 

 

「流石です、お兄様!」

 

 

 

 

 

一部を除く生徒が、達也に向かって言った。

完全に達也が逃げれない場所を作り上げられた。

 

「今後の活動や授業の増加につきましては追々とします。

…手塚くん、帰ろうとしてはなりません…まだ、最後のメインイベントが残っています!」

 

「メインイベント…あ、そうだった!」

 

普通に帰ろうとしていた光國は市原に止められた。

メインイベントが残っており、光國はそれをしなければならなかった。

 

「メインイベント…お兄様が生徒会長になるのがサブイベントと?」

 

「ああ、そうだ…」

 

達也の生徒会長(臨時)就任以上のメインイベントは無いと深雪は言いたいだろうがまだ残っている。

 

「市原先輩、壬生先輩、リーナ、GO!!」

 

光國の合図と共に動き出した三人。

ステージに立っている森崎を取り押さえる。

 

「!」

 

そして、深雪はメインイベントがなにか分かった。

達也の生徒会長就任よりもビックでメインなイベントだった。

 

「な、なにを!?」

 

「…え~ここで本日のメインイベントを行いたいと思います。

皆さん、テロられたり第五試合があやふやになったり森崎がデビルになったりして忘れてるかもしれませんが…オレとこいつ、負けた方が丸々一年間坊主です」

 

ウィイイインと音がなるバリカンを取り出す光國。

それを見たエリカや深雪は顔を青くして、引いてしまう。

 

「対抗戦は出れただけでも良い経験になったとかじゃありません。

勝ち以外はなにも求めておらず、今年負けてしまった生徒には来年絶対に勝ってほしいです。

と言うことでメインイベントを…

 

 

 

 

 

森崎駿の頭テッカテカ断髪式

 

 

 

 

 

を行おうと思います…せめてもの手向けだ、司波深雪をはじめとする美女達の前に…髪の毛を散れ!!」

 

 

こうして、一科生と二科生の溝を埋める対抗戦は幕を閉じた。

本来の道筋通りにはいかなかったものの、本来の道筋以上に魔法科高校の問題点は解決した。

 

「て、手塚ぁあああああああああ!!」

 

失ったものは多かったが、それでも人は前に進まないといけない…永久脱毛じゃないだけ感謝しろ森崎。



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テニスのお兄様

報告書

 

此度の一件は世間、主に魔法師とは深く関わりの無い一般社会では学校側がなにかと助長させていたいじめとミス、そして魔法師が調子に乗っていてやはり危険な存在だと思われている。

これについては魔法科高校及び魔法師全体が悪いと言う世間の考えが、間違っているとは言えない。

この国立魔法大学付属第一高校に入学して以降、自身が魔法師だから偉い。一科生に選ばれたから、二科生に対してなにをやっても良い。そんな考えや選民思考を持ち、精神面において未熟な者が後をたたず、何名かは見逃されているものの猶予無く刑務所に入れられるレベルの生徒がいます。

精神面において未熟な者は、やはり十師族や百家の様に何処か名のある者達と比べれば弱いが平均以上の実力を持っているために、今後精神面を高めたり人間力を高める授業が必要なのは確かです。

 

「はい…はい…ええ、わかりました」

 

俺は逃げるに逃げれない状況で生徒会長を押し付けられました。

余り目立つことはいけないのですが、考え方を少し変えて生徒会長の地位を利用することにしました。

魔法科高校及び魔法大学は、日本の魔法師にとって失ってはいけない国の重要施設であると同時に十師族が下手に手を出すことが出来たり出来なかったりする曖昧な場所です。

そこで生徒会長に立てばなにかと学校を動かしやすくなりますので、甘んじて受けます。

 

「お兄様、どちらからで?」

 

「師匠からだ…脱走者が出たようで、退学すると…」

 

「また、退学者が増えましたね…」

 

人間力を高める授業がどんなものかはまだ決まってはいません。

しかし、悪いことをしたら停学をさせるだけでは基本的に人は反省しません。

最初の内は反省しますが、徐々に休みだと遊び呆けてしまったりするので九重八雲の九重寺に叩き込み、弟子ではなく僧侶として精神面を鍛えなおして貰うことになりました。

第一高校と専属契約をしたので他の魔法科高校は真似できず、九重八雲はお金が手に入る事に喜びを感じていました。

手塚への賠償金の為にサラ金を借りるかどうか検討していたので、ある意味よかったのですが、そもそもの話で手塚を試して不意打ちをしたのが悪いのでなんとも言えません。

 

「森崎くんですか?」

 

「いや、剣術部員だ」

 

俺達が入学してから一番最初に事件を起こした、森崎家の森崎駿。

彼もまた九重寺に入れられて、坊主になり精神面を鍛えています。

事件を起こした森崎駿は学校側から退学が命じられたり、自主的に退学したりするかと思いましたが、普通に在学しています。

桐原武明と共に九重寺で精神を鍛えられており、続々と脱落していく退学者と違い一歩ずつ一歩ずつと成長をしている。

九重八雲氏が言うには、桐原武明は人を斬る力はあれども命を奪う覚悟や心などは持っておらず、その手の修行が必要だが立ち直ることは出来そうとのこと。

森崎駿に関してはかなり難しいとのことで、まだ二科生を見下していると言うよりは手塚との対戦で悪魔(デビル)化したのを気に、リミッターが少しはずれたようで魔法力等の技術が急激な向上しており、成長はしているにはしているのですが【モブ崎】と言われれば最後、また悪魔化し、九重八雲の弟子では手がつけられず、九重八雲と選りすぐりの弟子が正面から正々堂々と戦わずにあの手この手でやっと抑えられたらしく悪魔(デビル)化は危険極まりなく、自身の意思でオンオフして操れないと寿命を確実に縮める危険なものとのこと。

もし使いこなせれば、体術ではあの千葉を越えられるらしいが全くといって使いこなせる気配は無い。

退学者に関しては、弱かった。第一高校が悪かったとしか言えない

この世界は弱肉強食の世界、弱い相手にはなにも言えない。

 

「達也く~ん…疲れた」

 

「七草元会長、仕事中では?」

 

「元会長って言わないで…真由美でいいのよ、達也♥️会長」

 

「もしもし深雪です。

あ、はい。例によってサボりで…奉仕活動を名目にですね」

 

前々会長である七草真由美は、風紀委員の下っ端として馬車馬の如く働かせている。

事務系の仕事を与えられる事無く、現場仕事で二科生達の愚痴を聞いてサボっているのが多かったりして、渡辺風紀委員長に日々怒られています。

これについては特に気にせず、実技などの授業なのですが今のところは教師が補充されない、と言うよりは第一高校に就職をしたくないと言う意見が多く、一先ずは今いる教師が一科生と二科生をローテーションで授業を受け持ち、生徒の自主学習能力を試すためとしています。

来年には補充は絶対にすると言っていますが怪しいです。

 

「司波会長、第三高校の公式HPで試合結果が載っています…此方で言う一科生の全勝で、名前も載っています」

 

一科生と二科生の対抗戦、二科生の勝利は大きな影響が出たようで第三高校も真似をして圧勝しました。

御丁寧に一科生とも言える生徒達の名前を載せており、一条や一色などの魔法師として名のある生徒ばかりで、余計な事をさせないのと無名な者を調子に乗らせない為と思われます。

 

「流石に、千葉さん達の様な特殊な人達は中々に居ませんからね…」

 

「それもありますが今回、二科生は十師族に師補十八家、百家を相手にしていないのが勝利の要因…と思います」

 

「手塚さんなら、勝てるルールを作っていそう…」

 

今回、対抗戦に参加した二科生達。

千葉エリカ、西城レオンハルト、柴田美月の三人は普通の一科生の魔法師と同等どころか、それ以上の力を発揮した。

千葉エリカの剣術、西城レオンハルトの強靭な肉体、柴田美月の霊子放射光過敏症候群

三人はそれぞれの個性を生かして戦った。

それについては正当な評価を与えなければならず、もしその事についてまともな評価をしないと言うならばそれは評価をする人が悪い。

彼等三人の様な特殊なケースは少ないものの、他にも存在しており、その手の者をどう評価するかが今後重要となっていき、魔法科高校もそう言った生徒を鍛える専用の授業を用意するか検討中のことだ。

もし彼等のような存在を大きく無視したら、日本の魔法師業界は大きな損失をするだろう。

 

「深雪…生徒会の仕事は終わったか?」

 

そして騒動を起こした男、手塚光國。

俺に生徒会長を押し付けた先代の生徒会長は、対抗戦が終わった後はひっそりと身を潜めた。

と言うよりは、ここからは大人の時間で都合の良いときだけガキ扱い大人扱いをする青少年にはなにも出来ないと言いなにもしていない。

手塚の事だから、なにか出来る筈なのだがなにもしていないのを見る限りは本当になにも出来ない…と言うよりは、普通に面倒だからなにもしていないらしい。

アンジェリーナ=クドウ=シールズ曰く

 

光國はやる時はやるけど、やらない時はやらない男

 

とのことで、シンプルに面倒だからなにもしていない。

生徒会長を俺に押しつけたのも、事務仕事とか責任が面倒でそう言ったことに向いていない…と言っているのだが

 

「あ、はい…今終えた所ですよ…手塚部長」

 

「やめろ」

 

男子女子テニス部が合併した、男女テニス部の部長をやっている。

森崎の断髪式が終わった後、手塚は男子テニス部に入ってくれと頼まれたらしい。

テニスは二度としないと手塚は断ったのだが、せめてコーチでも良いのでと言い出すと女子テニス部がコーチだけならば此方にも来てよと言いだした。

アンジェリーナ=クドウ=シールズにテニスを教えてるならついでにとなって、一騒動起こりかけたのだが、手塚が男子女子テニス部全員を相手に6ゲーム1セットマッチの試合をして誰一人、1ポイントも奪えぬまま完全勝利。

テニスは重量制限もなければ男女差別も特に無い紳士的なスポーツな事もあり男女共に合併し、手塚が部長の男女テニス部になった。

幸いにも男女混合の大会も普通に存在しており、一種の出会い…テニサーと呼ばれるものに近くなった。

その際に手塚のラケットを作ったオジイがテニス部の監督となった…のだが、百山校長にオジイを紹介した際に「まだ生きていたのか!?」と驚いており、聞けば百山東が小学生の頃から今と同じオジイだったらしく、黒船が来たときからオジイとのこと。

 

「お兄様、今日こそパイルミラージュを完成させましょう!」

 

「ああ」

 

そして深雪と俺はテニス部員になりました。

男女混合のダブルスプレイヤーとして頑張っています。

 

「市原先輩と中条先輩はどうですか?

事務仕事ばかりだと運動不足になりますし…テニスは楽しいですよ」

 

「え、良いんですか?」

 

「構いませんよ…スポーツは楽しんで勝利をもぎ取らないと…それに基礎スペック低い奴等の良い薬になりますし」

 

「では、お言葉に甘えさせて貰いましょう」

 

手塚は部長になったものの個人戦や団体戦、男女混合の大会等には一切出ない。

それどころか大会には来ない。

 

「千葉、お前には逆手一文字を覚えてもらう」

 

「…え?」

 

「取り敢えず、逆手で実戦でも使える剣技を身に付けてこい

お前、練習に全然来ないつもりだろう…正直なところ幽霊部員として登録してるだけなら退部を進めるが…こう言った性格にあった練習ならば、良いだろう」

 

「ま、まぁ、それなら真面目にやるけど…なんで逆手一文字?」

 

「答えだけを、教えてやる」

 

手塚は指導者としての能力もそれなりに高かった。

高い実力に高い指導力、そして時折オジイがくれるアドバイスがテニス部員を大きく育てており全国を目指せるんじゃないかとなるのだが無理らしい。

 

「今のを出来るようになれば、地方クラスの実力になる」

 

「地方クラスって…全国じゃないの?」

 

「全国区舐めるな。

女子については余り知らないが、全国区どころか世界レベルの戦極清純、越智月光に全国区と世界レベルの間の大和雄大が東京にいて、他にも九州最強の立花に、一応全国区の兵庫の門脇、関西最強の四天王寺のスピードスターにマッスルスター……これが学校で、他にもテニスクラブ組がいるんだ…恐ろしいぞ、全国は」

 

「因みに手塚くんは何処に?」

 

「高校生以下の最強の10人、Genius10ぐらい…腕が落ちている」

 

一流には勝てない、だが二流には勝てる。

手塚光國の魔法力はそんな感じで、中途半端に才能を持っている。

そのせいで、テニスプレイヤーとしての道を阻まれたことは非常に残念だろう。

 

「オレのことはどうでも良い。

それよりも、逆手での剣技を覚えてこい…壬生先輩が相手をしてくれる…魔法を使うなよ」

 

「分かってるわよ」

 

今回の一件で大きく成長した人が誰かと言われれば壬生紗耶香だ。

剣道小町、全国二位と言う輝かしい功績や異名を売った彼女だがそれ以上の大きな成果を得た。

教師の正しい指導を受けて、徐々に徐々に頭角を現し壬生紗耶香の魔法力は大きく成長。二年生最強じゃないかと噂されているのだが、余りその事を喜んでいない。

手塚もその事について余り良い表情をしていない。

独学や自力ではどうにもならないと言うことがしっかりと分かり、しっかりした指導を受ければ成果が出たのなら当然と言えば当然だろう。

 

「お兄様、お願いします!」

 

「任せろ」

 

手塚が色々と手を抜いている事が判明した。

本人が専用のCADとか使っていると言っていたのだが、少々不可解な点が一つある。

リーナは手塚光國の事を語った際に欲しくもない力を手に入れてと言っていた。

魔法と言うのは生まれ持った才能が無ければ使えない。なので、この言い方はおかしい。

なにやら恐ろしい事を企んでいる…と思ったが、どうも違うようだ。

 

「手塚…お前は何時から考えていた…一科生との対抗戦を、この状況を」

 

「そうだな…壬生先輩を助けた時だ、ラケット壊れるのはマジで予想外だった」

 

手塚光國は俺達魔法師と住んでいた世界が違っていたので、俺達と感覚が違う。

その為に俺達にとっての普通は手塚光國の普通は違っていたようです。

 

「色々と辛かったが、壬生先輩みたいな綺麗で強い人達の笑顔を見れて守れてよかったよ」

 

手塚光國は笑わないし魔法を全然使わないけど、壬生紗耶香をはじめとする二科生達の笑顔を見たくて守りたかった。だから今回の騒動を起こして、大きな改革をしたんだと俺は思いました。 司波達也】

 

「…いや、作文んんんんんん!!」

 

今回の一連の騒動の報告書を読み終えた四葉家当主、四葉真夜はタブレット端末を叩きつけた。



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よく分かるようでよく分からない魔法科高校 手塚光國とファントム略して手塚ファントム

「ここ、みたいね…」

 

「そうですね…」

 

達也が生徒会長になり、やっと色々と処理を終えた。

そして若作りの魔女もとい四葉真夜に報告書を作成していた、ある日の日曜日。

市原鈴音と壬生沙耶香は国の中央とも言える東京ではじめてみる一世代も二世代も前のアパートにやって来た。

 

「手塚くん、本当にこんな所に住んでるの?」

 

「あんた達なにか用かい?」

 

ここには光國とリーナが住んでいるのだが、あのクドウ(九島)や一応真面目な光國が住んでいるイメージがつかず怪しむ二人。

すると、後ろから濃い化粧のブサイクなおばさんが声をかけてきた。

 

「あの、ここに手塚光國と言う人が」

 

「なんだい、光國達に用事…光國に用事かい…」

 

光國に用事だと分かれば少し黙るブサイクなおばさん。

おばさんは光國が魔法師だと知っているのかは知らないが自分達も魔法師だと思っていて、嫌な顔をしていると感じる。

この辺には上京してきた第一高校の生徒が一人暮らしをするには良い物件や場所はあるが、光國達が住んでいるアパートはそことはかけ離れていた。

 

「光國は二階の端に住んでいるよ…全く、声をかけて正解だったよ」

 

「えっと…」

 

「光國も隅に置けないねぇ。

あんな美女を侍らせておきながら増やすとは…ほら、さっさとおいき!」

 

なにか勘違いをしているブサイクおばさん。

ゆっくりと市原と壬生の背中を押していく。

 

「光國は諦めない方が良いわよ。

なんだかんだで金は持っているんだから…籍だなんだ気にせず、愛に生きな!

人生の先輩から…一人の女としてのアドバイスさ」

 

光國達が住んでいる端の部屋に連れられ、インターホンを鳴らしてウィンクをして何処かに行くおばさん。

男の魔法師がパッとしなかったり、ゴリラみたいなゴツい奴だったりするが女の魔法師は美女揃いで、ブサイクに馴れていない市原と壬生は背筋がゾッとして吐き気が襲う。

 

「あ、来たわね」

 

「アンジェリーナさん…早速で悪いのだけど、トイレ貸してくれない?」

 

「すみません、紙袋かなにかありませんか?」

 

「…大家のババアにあったのね…このアパートの住人全員が週に一度ずつ吐いてるから、用意しているわ…この前なんて、地上げ屋的なイケメンが来て私の中の女が目覚めた責任を取れって…」

 

家にやって来て早々にゲロをすると言う失礼きわまりない始まりをする市原と壬生。

夢に出てきそうと軽くトラウマになりかけたが、まだなにも始まっていないとリーナからお茶を貰い、生まれてはじめてみるちゃぶ台の前に座る。

 

「こんな所に住んでいるなんて…意外だわ」

 

「ここに来る人達、皆に言われるわ。

魔法師全体がそれなりにお金持ちだから、こう言った物件とは縁遠いけれど実際に住んでみれば凄く快適よ…お風呂は無いけど」

 

「それは一番の問題では?」

 

「仕方ないじゃない…過去にここで風呂場で足を滑らせて、気絶して頭を浴槽につけて溺死した人がいるから、そう言うのは…」

 

「え、待って、ここ事故物件なの!?」

 

「東京じゃ至って普通の事故物件よ…ほら、現に後ろに幽霊と化した当時の人が」

 

「ひぃ!?」

 

「…冗談よ」

 

後ろを振り向いて、後退する市原を見てやり過ぎたと感じたリーナ。

申し訳ないと謝り、頭を下げる。

 

「言って良い冗談と、悪い冗談があるわよ!」

 

「ごめんごめん…この部屋じゃないわ」

 

魔法師なら除去出来るんじゃないかと思われているので、受け入れられたりする。

溺死したと言うのは本当だったりするが、この部屋ではない。

 

「それで…用件は?」

 

笑顔を止めて、真面目な顔をするリーナ。

この二人はただ遊びに来たわけじゃないのは分かっているが、詳しい用件をしらない。

 

「手塚くんは、手塚くんは何処かしら?」

 

「この押入れで寝ているわ…昨日まで貰った示談金の税金対策とかどうとか、今までの疲れが溜まっていて、後、三十分は絶対に起きないわ」

 

押入れを開けるとドラえもんみたいに寝ている光國。

スヤスヤと眠っており、起こすのは申し訳無いなとリーナと市原と壬生は甘やかす。

 

「…寝ている間、光國について話をしておこうかしら」

 

偶然な市原はともかく、壬生には色々と知らないといけない権利や義務がある。

光國がその事について呼んでいるのならば、語れる事だけ語っておこうとすると聞きたい顔をする二人。

 

「手塚光國

国立魔法大学付属第一高校 二科生 1-E

 

誕生日 6月4日(双子座) 血液型 O型

 

趣味 競艇、食べ歩き、レトロゲームと紙媒体の漫画集め

 

家族構成 父、母、兄、妹 好きな色 まつざきしげる色

 

座右の銘 やる時はやるけど、やらない時はやらない

 

好きな食べ物 鰻重 たこ焼き 焼肉(ロース)

 

好きな本 人をおちょくる50の方法

 

好みのタイプ モテるだけでありがたいのでいない

 

行きたいデートスポット NGKかUSJ

 

今一番ほしいもの 明日も休日で今日もなにもしなくても良い日

 

苦手なもの(こと) 人付き合い 責任ある立場

 

身長 185㎝ 体重 65キロ 利き手 基本的に右だけど左も問題なく使える」

 

スラスラと光國のプロフィールを語るリーナ。

深雪がお兄様のプロフィールを一字一句間違わず息継ぎ無しで言える様に、リーナも光國のプロフィールを一字一句間違わず言える様に特訓をした(アホ)。

市原と壬生は引くことなく、熱心に聞いているがエリカ達が聞けば確実に引いていた。

 

「これが基本的なプロフィール。

そして次は魔法師としてのプロフィール…は、持っているんじゃないかしら?」

 

市原の事をチラリと見るリーナ。

 

「今回の一見で実技や評価の見直しもあり、ゲームの様なパラメーター形式のデータは作っています…ただ、出来ればオフレコでお願いします…なにせ七草元会長よりも前から生徒会が生徒の個人の成績はまだしも、正確な点数を見ることが出来たり、一部の名のある家に流出していたりしていたので…」

 

「魔法科高校って、本当に厳重な警備システムなの!?」

 

科学技術で、電子機器で情報を保存しているこのご時世。

紙媒体の方が盗まれなかったりするんだから、なんとも言えない。

ある程度の文明で止まっておくのが一番なのがよくわかる。

しかし、本当に魔法科高校が厳重な警備なのかはわからない。もしかすると魔法師が最後の希望と言う名の最終警備システムとか言うオチかもしれない。

 

「手塚光國

国立魔法大学付属第一高校 二科生 入試の成績は101位

今年度は主席の深雪さんをはじめとする学生レベルで納まらない新入生が多く、更には司波くんの様に実技は苦手ですが筆記は問題ない生徒が多くいた為に例年と違い、成績が大きく変動していて例年通りだと普通に一科生です」

 

今度は市原が光國を語り出す。

個人情報ってなんだっけとなるが、光國の事を知れるので壬生は考えるのをやめた。

 

「魔法力 3.5 一般教養 5.5 魔法知識 3.5 知恵 8 身体能力 8 メンタル 9

1から5までの5段階評価で、今のところは学校側は手塚くんをこう評価しています。

魔法力はここから更に各系統の魔法や干渉力を含まれていますが…手塚くんは各系統の評価がAからCと魔法を使う度にコロコロと変わり、高い時は高いのですが、一定水準を保ち安定した魔法を使えないみたいですね」

 

「…あ~…うん」

 

安定して使えない理由を知っているが、まだ言えないわと一先ずは頷くリーナ。

 

「一般教養は問題らしい問題はなく、雑学なども豊富です。

魔法に関する知識も学生レベルと言うならば問題はありません。

知恵は今回の騒動を起こしたので異常に高くされていますが、特に問題なし。

身体能力は体力テストを手を抜いて満点を取っていたのと、魔法無しで森崎くんを圧倒していたのでこの成績かと思われます。気絶しても尚、戦い続けたのでメンタルはぶっちぎりです。

魔法力 8 一般教養 7 魔法知識 6.5 知恵 7 身体能力 7 メンタル 6

魔法力 8 一般教養 7 魔法知識 7 知恵 6 身体能力 6.5 メンタル 5

魔法力 1.5 一般教養 8 魔法知識 9 知恵 7 身体能力 8 メンタル 6

魔法力 5 一般教養 4 魔法知識 5 知恵 3 身体能力 3 メンタル 2

と言うのが、手塚くん以外の他の生徒に対して今のところ学校側がだしている評価です。」

 

「待って、最後以外5段階評価が仕事をしていないわ!!」

 

市原の解説にツッコミを入れる壬生。

四人目は誰かはわからないが、最初の三人はなんとなく分かる。

そして学生の範囲を越えているのも分かるのだが、5段階評価が仕事をしていない。

 

「…そろそろ本題に入りましょう…実は、私達は手塚くんにある事を頼まれていました」

 

「ある事?」

 

「何時も通りと言えばいいのかしら…単純に対象物に魔法を向ける実技をしたの。

貴女も入試の時にやった発動速度を測るやつで、一科生達は基本的に1000msを切るけれど、私みたいな二科生は…その、発動速度が遅くて1000msを切らない事が多いのよ」

 

光國そっちのけで、本題が入り語る側から聞く側になるリーナ。

エリカや美月が魔法の実技関係で補講をしているのを知っているので、特におかしな点はなにもない。

 

「その…手塚くんに、キスをされた時から…なんでかは分からないけれど、発動速度どころか魔法力が上がっていて、想子も尋常ないほど増えていて…」

 

「えっと………上がっているなら、問題ないんじゃないの?

15から20までの間に、色々な経験をしたりしなかったりして大きく成長するし、自信がついたから成績が上がったって言う一例もあるし」

 

精神的な問題で、真の力を発揮できなかった。

何処の世界でもそう言ったことはあるものだから、そう言うやつじゃないのかと考えていると市原が写真を出す。

 

「アンジェリーナさん…御自身の入試の実技成績を覚えていますか?」

 

「…285msだけど…」

 

恐る恐る、市原から写真を受け取り自身の実技の成績を語るリーナ。

嫌な予感しかしないとゆっくりとゆっくりと写真を見る

 

「嘘!?」

 

「私は細かく計測してほしいと手塚くんに頼まれて、壬生さんにコツを教えてから測ると最初は0、753193315秒でした。これぐらいならば、精神面で成長したとなるのですが…次に測ったら0、555秒と縮み、測れば測るほど早くなっていきました」

 

リーナは写真を見て、驚くことしか出来なかった。

 

「最終的には0、19194545109秒になりました…記録は残らない様に消しましたが、これはどう考えても異常です」

 

写真には壬生がリーナや深雪をも越える記録を叩き出している証拠が、数字が写っていた。

その数字は深雪やリーナをも越える。

 

「…どういうことなの…」

 

リーナは、戦闘力と言う点に置いては世界一…とは言えないが世界トップクラスだ。

魔法力も世界トップクラスだが、壬生はそんなリーナや同等の深雪を越えていた。

 

「これは七草元会長も十文字会頭でも出せない数字。

いえ、そもそもの話でこの現代魔法が世に出てから有名になった現代魔法の名家の大半は、特に十師族を含む二十八の家の開祖とも言うべき人達は人体実験を、魔法研究所で体を弄くられています…」

 

光國が寝ている押入れを見つめる市原。

体よりも頭で動く魔法師の市原は分からない。リーナにも分からない。壬生にも分からない。

だが、光國なら知っている、ちゃんと自分の口で知っていると言わなかったが知っていると三人は確信していた。

 

「ファントムが、力を貸しています」

 

答えてくれと教えてくれと知りたいと言う疑問に答えるべく、押入れが開いた。

 

「ファントム…」

 

「ちょっと、待ってください」

 

『ドライバー・オーン!!』

 

鞄からベルトを起動させる指輪を取り出し、卓袱台の空いている場所に座ってお茶を飲んで一息をつく光國。

 

「ファントム、と言うと壬生さんが絶望をして生まれそうになった精霊の様な存在ですか?」

 

「そうですけど、その言い方は少し違います。

壬生先輩が絶望をして、生まれそうになったんじゃなくて、壬生先輩が絶望をして生まれた精霊的な存在です」

 

光國は鞄から紙とペンを取り出し、絵を書き始める。

 

「かの有名な暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬の七つの大罪。暴食と怠惰は怪しいですけど、どれもこれも人間の持つ負の感情とも言える感情ですが絶望が入っていません。

オレは難しい理論や業界用語は苦手ですので、分かりやすく尚且つ大雑把に説明にします。

まず、高い魔力を持った人が絶望のドン底に落ちた時点でファントムは生まれます。

なんで絶望かは分かりませんけど、絶望は七つの大罪の負の感情とは方向性が違っていると思いますが、この辺は専門外なのですっ飛ばします」

 

壬生と書かれたORZの棒人間とドラゴンを描く光國。

 

「深い絶望をした時点で、別の人格が生まれます。

その人格は邪悪で、世に言う精霊的な存在に近くて絶望をしている生み出した人間の意識を乗っ取り、人体に有り得ない変化を起こして化物になる…主にドラゴンやグレムリンと言った幻獣的な生物に」

 

「それは前回、聞いたけど…私はなんともないわよ?」

 

「壬生先輩は絶望を乗り越えて、肉体を乗っ取られませんでした…じゃあ、生まれたファントムは今どうしていますか?」

 

「!」

 

「生まれたファントムは…もしかして!」

 

「光國、それって…」

 

「リーナ、絶対にクソジジイとかに言うなや…壬生先輩、あんたの中にはファントムがまだおる。

そいつはこれから先、深い絶望をしなければ絶対に肉体を乗っ取ることはない…だから、安心してくれや…」

 

肉体は乗っ取られることは、絶望しない限りはない。

それだけは断言できるが壬生達の心配や聞きたいことはそれだけではないのは、光國は分かっている。

 

「壬生先輩の魔法力がアホみたいに高まったんは、そのファントムのお陰や。

自身よりも、炎を使ったり雷を起こしたりするのが上手い存在、精霊にここに雷を起こせ、ここに炎を起こせと頼むのが精霊魔法で、これに類似しとる。

壬生先輩が魔法を発動すると壬生先輩だけでなく壬生先輩から生まれたファントムも引っ張られるかの様に魔法を使う…だから、魔法力が高まった」

 

「滅茶苦茶な理論や考えにほどが…ありますが、そう言った可能性が無いわけでは、ありません…」

 

「私の中にいる私が生んだファントムが、私に力を貸している…」

 

理解したのか、納得したのか分からないが信じてくれた市原と壬生。

だが、リーナには納得も理解もしている暇はない。

 

「待って…ファントムが体内にいるってことは!」

 

壬生と光國は似たような感じになっている。

互いに己の内にファントムを飼っており、光國は定期的に魔力を、想子を食べなければならない。でなければ、死んでしまう。

それならば、ミブもとリーナは慌てるが

 

「自身で生み出したファントムに食い殺されることはない…」

 

あくまでも似たような感じであり、一緒ではない。

ビーストドライバーが開き、キマイラが壬生は殺されないことを教えてくれる。

それを聞いてホッとするリーナだが、壬生と市原は驚いておりドライバーを見つめている。

 

「さて…市原先輩も壬生先輩も知りたいことは知った…」

 

 

次はどうする?

 

 

光國は声に出さないが、壬生と市原はそう言っていると感じた。

それと同時に必死になって頭を回転させる。ファントムを聞いたことにより光國に対して色々と新たな疑問を幾つも持った。

 

「…手塚くんは、どうしてアンジェリーナさんと一緒にいるのですか?」

 

「ナンパをした…嘘ちゃうで」

 

「どうして、ファントムの知識を…九島の研究成果ですか?」

 

21世紀から徐々に徐々に表に出た魔法、世に言う現代魔法。

その現代魔法が表に出る前からあった魔法を古式魔法と言い、九島はそう言ったものを集めており、光國はそれの研究成果だと市原は考える。

 

「ちゃうよ…カエルの子はカエル、瓜の蔓に茄子はならぬや…オレは魔法師なんてなりたくない、欲しくもない力を手に入れた…最後におまけで、魔力が高い人間と魔法が使える人間は違う…魔力は、想子は魔法師じゃなくても持っている」

 

答えを導き出して欲しい光國は、答えを言わずに大きなヒントを与える。

おまけのヒントが無くてもお兄様辺りなら答えを出すが、お兄様じゃないので大きなヒントを与える。

 

「まさか…手塚くんは…」

 

市原の頭の中でゆっくりとゆっくりとパーツが集まっていく。

壬生とキスをした時と、今回の光國の話などを聞いて分かったことが色々と集まっていく。

 

絶望をして心に立ち直れないレベルの傷がつくと生まれるファントム

 

ファントムは生み出した人とは全く違う独立した人格であると同時に妖怪や悪魔の一種

 

ファントムを生み出す大まかな条件は2つ

 

一つは高い魔力を持っていること

 

一つは立ち直れないレベルの深い絶望をすること

 

絶望をして立ち直れないレベルに精神が崩壊するとファントムに肉体が乗っ取られて、化物に変化する

 

立ち直れないレベルの絶望をしても、それでもと諦めずに前を向いて歩き出せばファントムを制御下における。

 

ファントムを制御する事が出来たものは日本どころか世界基準でもトップレベルの十師族の魔法の力と同等かそれ以上の魔法の力を手に入れる

 

手塚光國はその事を詳しく知っている。

 

手塚光國は望んで魔法師になった訳じゃない。

 

アンジェリーナ=クドウ=シールズは手塚光國は欲しくもない力を手に入れてしまったと語る

 

手塚光國は何処かの名家の魔法師ではない。

 

手塚光國はただのテニスプレイヤーだった。

 

現代魔法の家系でも古式魔法の家系にも手塚なんて家は無い。

 

魔力を現代風に言い換えたりすれば想子がこれに当てはまるケースが多い

 

想子(魔力)自体は魔法師でもなんでもない人間も持っている。

 

これに加えて、事象や状態の改変を行う力を持っている人が魔法師だ。

 

「手塚くんは…ただの人から、魔法演算領域が無い、たたの普通の人から…既存する特殊な実験を一切受けずに魔法師になった人ですか…」

 

「正確にはオレはファントムを生み出さずに、後天的に宿して魔法師になった一般人。

せやけど、市原先輩の考えは間違っとらん…オレと壬生先輩を足したら、そんな感じの人間になるんやから」

 

市原はそれらしい答えに辿りついた。

流石に正確な答えは出せなかったものの、それでもその事を世に知られるだけで大事になるだけではすまない。

 

 

 

 

 

魔法師じゃない人間を、魔法師にすることができる。

 

 

 

 

 

市原、いや、魔法業界に存在する人達からすれば喉から手が出るほどほしい情報だ。

 

「数年前に、ファントムが封印されている古墳が偶然に出てきた。

そこを偶然にも九島達が調査をしているとファントムの、キマイラの封印が解けて、近場で釣りをしていたオレに宿り…九島に見つかって後天的に魔法の力を手に入れた世界でも珍しい人間だと飼い殺しにされて…まぁ、今に至るわけや…はぁ…」

 

頭が痛いと寝転ぶ光國。

壬生の宿すファントムとか魔法力が十師族並みだと知られれば最後、大変な事しかならない。

クソジジイこと九島烈をはじめとする九島の人間がもし、その事を知ればなにをするか分からない。

ビーストドライバーの解析などは出来ていて、使いこなせるかどうかは別としてビーストの魔法をCADに移植することが出来ているにはいるのだが、肝心のキマイラの製造方法が判明していない。

九島御抱えの魔法師はおろかクソジジイこと九島烈やリーナですら演算処理仕切れない、後遺症が残るかもしれないオーバーヒート覚悟で使わないといけない。

超常的な存在であるキマイラがその辺の演算処理をしており、人工精霊的なのは作れるもののキマイラは作れなかった。

と言うか、魔法の演算処理を補助どころか単独でする魂だけの存在をどうやって作れと言うのだ。

この世界仕様に仮面ライダーのシステムとかが色々と弄くられたりしているけど、そもそもの話で仮面ライダーはこの世界に居ねえぞと心の中で愚痴る、愚痴る。

 

「剣道の小娘よ!」

 

「えっと、私よね?」

 

「貴様以外に誰が居ると言うのだ。

先に言っておく、このままではそれ以上の成長は見込めんぞ!

CADで使える魔法はファントムにとっては役不足にも程がある!」

 

その間、キマイラは語る。

 

「貴様自身の要領が悪く、尚且つこの時代の魔法が余りにも拙い。

古式魔法でしか空を飛ぶ事すら出来ない体たらく、そのままだと宝の持ち腐れだ!」

 

「私は、今の状態で充分ですけど…」

 

「戯けが!

ファントムを制御した者の魔法は桁違い、それこそ神の血を持つ者や神に関連する者レベル。

飛行魔法は勿論のこと、ここから光國の故郷の大阪まで転移魔法(テレポート)、空間をねじ曲げて別次元に干渉し隙間を作り出したり次元を繋ぎあわせたりして物を取り出す収納魔法(コネクト)、服を収納しておけば瞬時に早着替え(ドレスアップ)が出来て、香水を着けずとも臭い(スメル)を変える事が可能だ!」

 

「おい、徐々に徐々に地味になっとるやん…」

 

珍しく喋るキマイラ。

 

「黙っていろ…かれこれ数年が経つが、未だにミラージュマグナムが見つからん。

九島の老害達も一向に成果らしい成果もあげることもできず、我も光國もこのままでは永遠に飼い殺しだ、此処等で大きな変化が必要だ」

 

「変化は、欲しいけども…」

 

最早、後戻りは出来ないところまで来ている光國。

リーナと徳川の埋蔵金を見つけて以降は平凡な日々で今さら劇的な変化はそこまで求めてはいない。と言うよりは、光國にはどうして良いのかが分からない。

本音を言えば、テニスプレイヤーとして世界一になってCMとか出て、何十億も稼いだ後に引退して、そこそこの家に暮らして何処かのテニスクラブでコーチしたり体育会系のテレビに出たりする日々を過ごしたい。しかしそれはもう無理だ。

魔法科高校の劣等生と言う作品は、分かりやすい悪と分かりやすい正義の味方が戦うお話じゃない。強いだけの光國には限界がある。

 

「それに貴様、剣道の小娘を放置して構わぬのか?

ファントムの力は子には遺伝することはないが、それでも剣道の小娘は貴重な存在。

娯楽に満ち溢れて、海外旅行以外は出来ない事はなく食べたくても食べれない物は無いこのご時世、ファントムを生み出すレベルの絶望はそう易々とない…絶望をさせて、それを乗り越えるべく希望となったのだ…責任はとれ」

 

「………今、それ言う?」

 

あえて気にしない方向で話をしていた壬生の恋心とファーストキス。

その事について掘り下げてきたキマイラ。壬生は顔を真っ赤にして少し黙った後に口を開く。

 

「…多分、捨てられたら絶望するわ…ええ、絶望してしまうわね」

 

「手塚くんは、その辺についてどういったお考えをお持ちで?」

 

グイグイと距離を縮めてくる壬生と市原。

リーナに助けを求めようとするのだが、リーナは答え次第によっては殴る準備をしていた。

 

「…オレは正直モテるだけでもありがたいんやけど…両手に花とか嬉しいには嬉しいけど、そもそもの話で法律的にアウトやん。彼女の一人や二人連れてこいとか言うやつおるけど、二人はアウトやん。こう言うのは愛さえあれば当人達が喧嘩しなければ問題ないとか言って、結婚するけど養うお金とか子供の相続権とかがどうなるのか…犬神家並みに泥沼化しそうで怖い…」

 

ハーレムもので、ハーレムで良いよとヒロインが醜い喧嘩しない作品の主人公。

お前は女と子供を養う金があるのか?戸籍的には誰の父親になっているんだ?死んだ後の遺産相続権とか配当とかどうなるんだ?

愛さえあればなんとでもなるとかふざけたことは言わない光國。

 

「…はぁ、光國がチェリーなのを忘れていたわ」

 

呆れるリーナを見て え、これオレが悪いの? となるのだが光國が悪い。

市原と壬生も冷たい視線ではなく呆れた視線を向けており、もうどうでもいいとなっていた。

 

「話を戻しましょう。

その転移魔法などを壬生さんが使えるようになるには、どうすればよろしいのでしょうか?」

 

「…無理だな!」

 

「…無理、ですか」

 

「発動する道具がない!

CADとやらは魔法を如何に素早く発動出来るかを売りにしている。

高度な魔法となればなるほど、凡庸のCADでは処理も補助も出来んだろう…剣道の小娘よ十二分に使いこなすには、専用の道具が必要だ」

 

サラッととんでもない事を語りまくるキマイラと光國。

これ軍事利用以外にも役立つ魔法じゃないですか?と思えるものが多くねと感じる市原はとにかく、聞き出そうとするがいきなり無理だと言われた。

 

「つまり、専用のCADが必要と?」

 

「しかしそれの製造は九島ですら不可能なこと。

指輪に宿っている魔法の解析は出来たものの、指輪その物を再現する事は出来ないのがその証拠だ」

 

「これです…」

 

バッファ、ドルフィ、ファルコ、カメレオのウィザードリングを卓袱台の上に置くとマジマジと観察する市原

 

「これは…宝石を加工し、細かな刻印を入れている刻印型のCAD…この刻印に想子を流すだけで魔法は発動しますが…ただ流すだけでは無いですね……」

 

「そんな物欲しそうな目で見ないでください。

一個でもパクられたと知られれば、オレの人生はお先真っ暗っす…て言うか、宝石か…」

 

物凄い値がすると考えるのが普通だが、光國はそこは気にしない。

光國は過去の記憶を探る。仮面ライダーウィザードを必死になって思い出す。

仮面ライダーウィザードは指輪を使って変身するのだが、魔法を使うのにも最強形態になるのも魔法の指輪が必要で最強形態になる為の指輪は自力で作り出したが、あれは参考になりそうにない。

最強形態ではなく強化形態になる魔法の指輪を作る際に宝石みたいな石を加工して指輪にしてくれるおじさんがいる。

ジャムおじさん程とは言わないが、このおじさんが戦線離脱しなかった事は本当によかったことで途中怪人に殺されていたらウィザードは死んでいた可能性があるぐらいに重要なおじさんだが、そのおじさんが独自のルートで魔法の指輪を作るのに使う宝石を手に入れていたわけじゃない。裏でこそこそと怪しいことをしていて結局ヤバイことをしていた怪人の親玉的なのが宝石を産み出していた。

 

「…カーバンクルやったっけ?

 

ワイズマンと言う名前はあるのだが、それは名前であり種族的なのはカーバンクルと呼ばれる存在だと思い出す。

探したりググったりすれば、カーバンクルがなんなのかは分かるだろうが、そう言った存在は身近にいない。

 

「材料が無いなら、どうしようもないわね…はぁ…」

 

説明をしただけで終わって、疲れたのかため息を吐いたリーナ。

タンスから着替えとタオルを取り出して鞄に入れる。

 

「光國、お風呂行くわよ…なんか疲れた…」

 

「オレが一番精神的に疲れたわ…はぁ、なんも進まへんな…市原先輩、壬生先輩、オレら今から銭湯に行きますけど、来ますか?出しますよ、風呂代と飲み物代」

 

「あ、じゃあ甘えさせてもらうわ」

 

「ありがとうございます」

 

光國とファントムに関する話はこれで終わり、光國達は銭湯に向かう。

 

「ところで、私は物凄く魔法力が向上しているのにてづ…光國くんはどうして中途半端なの?」

 

「壬生先輩の中にいるファントムは想子とかの波長が全部一緒で、ファントムの演算処理+壬生先輩の演算処理なんかをしているから早いんです。

けれど、キマイラはオレから生まれた存在ではないのでオレ自身の想子の波長とかが全くといって異なり、オレの知る限りCADは肉体を通さないと使えません。

キマイラが魔法に必要な全ての事をしているんですが、オレの想子とかが邪魔をしていたり、CADがキマイラの波長やスペックに合わなかったりとなにかと余計な要素が多いんです。

あのベルトは、オレを介さずにキマイラに直接アクセスして魔法を使う道具でもあるんですが…再現する技術が無いどころか素材の時点で足りないらしいです…壬生先輩、別に光國と呼んでも良いですよ」

 

「じゃあ、私も紗耶香でいいわ…光國くん」

 

因みにだが、キマイラが光國の精神に宿るのも一種の精神干渉魔法だ。

光國が常に誰かの想子を食べ続けないといけないのは、その魔法を持続させる為と貯蓄である。

もしその魔法が発動しなくなれば、キマイラは光國を食い殺して肉体を乗っ取られ…キマイラは新しい宿主を探さなければならない。

干渉力とか演算処理能力とかは特に関係なく、魔法師の想子さえあればその魔法を持続させる事が可能なものであり、お兄様に知られればやばい代物だが光國達はキマイラは知らない。

 

仕様が若干変わっている仮面ライダービーストになった者は例えるならば、加熱され続ける天井知らずの鍋だ。

なにもせずとも加熱されて想子と言う水はなくなってしまう。

変身したり、魔法を使ったりすれば加熱されている鍋の火力は急激に上がり、水(想子)は大きく沸騰され消えていく。

外部からの水の補充を怠れば最後、天井知らずの鍋の底は穴が出来てしまう。

そうなればビーストとなっている者は死んでしまう。




「まだ終わってないわ!光國の鞄チェックよ!!」

ある日の手塚光國の鞄の中身

お弁当×2

「これは一個、私のお弁当よ!
光國が対抗戦に勝ってくれたから、言い寄る奴も居なくなって…ゆっくりと食べれるわ」

レトロゲーム(PSVITA)

「これは…また随分と古いものを…あ、トロフィーをコンプリートしている」

ペンと紙のメモ帳

「今時珍しい紙とペン、料理のレシピやテニス部の練習メニューとか細かく書いてあって…光國くんの家にあるものは古いのが多いけれど、古いのが好きなのかしら?」

端末型CAD

「何処にでもある極々普通のCADで、基本的な魔法しか入っておらず使われた痕跡が全くありません。手塚くんは魔法が下手だと認めて物理で攻めることをしていますね」

財布

「光國って、ああ見えてギャンブル好きなのよね。
必死にデータを集めて計算したりして知り合いに頼んで券を買ってるらしいけど、遊ぶ程度で稀に負けるレベルでやたら滅多に強くて、ここぞと言う時の大一番で勝利しているから財布は何時も分厚くて一度だけ札束ビンタをさせてもらったわ…けど、使う機会が少なくて全然薄くならないわ」

魔法の指輪とホルダー

「光國くんの持つ貴重な魔法の指輪だけど、滅多に使わないわ。
単純に使用制限がかかっているみたいで世間に知られている高度な魔法よりも難しくて複雑なものが多くて想子の使用量も桁違い…らしいけど、どれぐらいなのかしら?」

音楽プレーヤー

「各国の神話や伝承の解説が入っていたのですが…それ以上にヤンデレものが入っていました…ある意味、今回の調査で一番の驚きです…手塚くん…」

テニスラケットとテニスボール

「今の今まで私がコッソリと持ち歩いてたの。
やっぱり、光國はテニスをしている時が一番輝いているわ。
ただ…テニスボール10個は多すぎない?10球打ちを出来るようになって、やっと世界レベルらしいけど…」

ミニ将棋盤と若干削れてる駒

「持ち運び出来る簡単で格安の将棋盤ですね。
九重寺で暇な時に使っていましたが…物凄く強かったです。
本人は弱い方と言っていますが、魔法師は軍事職につく人が多いので将棋やチェスみたいなのは強い人が多いんですが…上には上が居ると言うことですね」



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九校戦編
魔法からは九校戦からは夏休みからは逃れられない


一科生と二科生の対抗戦を暫くたち期末テストを今やっと終えて、勉強から解放された第一高校の生徒達。

 

「皆様、お疲れ様です。

臨時の生徒会長を勤めている司波達也です…テストで頭を使い疲れているところ申し訳ありません」

 

テストが終わったので家に帰れると思ったのだが、全校生徒が講堂に集められた。

ステージには達也、深雪、摩利、十文字と第一高校で重要な役職を持つ生徒が立っており、座っている生徒達はなんの説明かなんとなく理解していた。

 

「テストが終わり、このまま夏休みに入りたいところですが夏休みには九校戦があります。

男女テニス部の手塚光國部長が色々と騒動を起こしましたが、今年もちゃんと九校戦があります。例年より数日多いですが、それでもあります」

 

「おいこら、オレをピンポイントで名指しすんなや!!一応何処かの誰かがネットで書き込んだ事になっとるんやぞ!」

 

九校戦、またの名を炎のゴブレットパロディ。

ハリーポッターの炎のゴブレット宜しく一から九までの九つの魔法科高校のエリート達が富士演習場付近で魔法競技で競いあう炎のゴブレットのパロディ的なの。

出るだけで夏休みの宿題免除、好成績を残せば内申点がうなぎ登りで出ている選手達は将来の魔法師業界を担う者ばかり。

光國が馬鹿騒動を起こして今年は潰れたかと思ったが、九校戦はメディアに出ない魔法師達が表に出る数少ない場で、どうにかして魔法師達に向けられる世間の目を変えようと中止にせずに逆に九校戦をしようとなった。

 

「九校戦は魔法科高校の生徒全員が出れるものではなく、各校から選抜して生徒を出します…そして、この第一高校は期末テストを終えた後にテストの成績で代表選手を決めますが、対抗戦の結果、テストの成績だけで測れない実力者が居ることが判明しました。

なので、今回はテストの点数が低かったが実力はあるぞと言う生徒の為にランキング戦を行おうと思います。

アイス・ピラーズ・ブレイク、バトル・ボード、スピード・シューティング、クラウド・ボール、ミラージ・バット、何れかの競技に出たいと自信があると言う生徒は後で生徒会室来てください。モノリス・コードは三人のチームを自分達で作ってから御越しください。代表選手候補同士で戦い、代表を決めます」

 

成績=絶対ではないが、成績=大体あっているである。

こんなことをやってもテストの上位陣が代表選手になるだけなのだが、しないよりはましだ。

達也は一礼をすると、十文字にマイクを渡す。

 

「先に学校側から生徒を何名か推薦させてもらう。

無論、その生徒もランキング戦に出てもらう…負けることは先ず無いだろうが、もし敗けが続いた場合は代表からはずす。推薦された生徒は精進し、推薦されなかった者は残った枠や推薦された生徒から代表の座を奪う気持ちでいてほしい。

本戦のスピード・シューティングとクラウド・ボールには七草真由美、バトル・ボードとミラージ・バットには渡辺摩利、アイス・ピラーズ・ブレイクは俺だ。

新人戦は…スピード・シューティング、森崎駿と北山雫、バトル・ボードには光井ほのか、クラウド・ボール、手塚光國だ」

 

「おい、推薦の意味って知っとるんか?」

 

推薦が全くといって仕事をして無いぞとツッコミを入れる光國。

 

「…推薦は学校側の判断だ、生徒はなにも判断していない。

しかし、推薦された生徒は無名の魔法師に負ける可能性はほぼ皆無なのは全員分かっている」

 

十師族が十師族候補の十八家か同じ十師族以外に負けることはない。

いや、負けてはならない。負けることは均衡を崩すことになるのだから。

名のある家の人間も負けることは許されない。

 

「それと魔法師が魔法だけではない事や危険な存在ではないと九校戦中にパフォーマンスをする生徒を九校全てで募集中だ。内申点は上がらないが、周りからの評価が上がる。

最後に九校戦の点数自体には全く影響はないのだが6つの種目以外に、人間力を競う競技がある。競技内容は当日まで不明だが、人間力が高いか低いかは今後お前達の将来に関わることだ…以上だ」

 

「…」

 

光國は考える。

一科と二科の溝を埋めるために色々とやりすぎたと思ったが、そんなに影響はなかったと。

実力的に選ばれるのはテストの上位陣だから出場者もそんなに変わらないなと考え、そして

 

「オレはクラウド・ボールどころか、九校戦には出ません」

 

出場を辞退した。

講堂で細かな日程や競技内容の説明を終え、他の生徒達が代表権を獲得するランキング戦の登録を終えた頃にリーナと共に生徒会室に向かい辞退を申し出る。

 

「一科二科の差別は徐々に埋まってきている。

新人だろうが本戦だろうが、クラウド・ボールでお前に勝てる者はいない。

お前を倒せると言えば七草元会長だが元会長は女性で絶対に当たることはない。

更にはクリムゾン・プリンス(一条将輝)カーディナル・ジョージ(吉祥寺真紅郎)はクラウド・ボールに出てくることはない…能力的にはクリムゾン・プリンスはアイス・ピラーズ・ブレイク、カーディナル・ジョージはスピード・シューティングに出て、互いに最も点数が高くて稼げるモノリス・コードに出ると予想した。

女子の新人戦はエクレール・アイリ(一色愛梨)が出る可能性が極めて高いのでクラウド・ボールは怪しいが、男子のクラウド・ボールはお前が出れば新人だろうが本戦だろうが確実だ優勝できる…それなのに辞退をするのか?」

 

辞退をすることを想定はしていなかったが、直ぐに対処する達也。

クラウド・ボールで手塚光國に勝てる奴等は恐らく、魔法師として絶対的な強さを持つ七草真由美か、魔法が使えて尚且つ日本代表に選ばれるレベルのテニスプレイヤーだと判断しているので、出来れば出て欲しい。

なので一先ずはよいしょして危険な存在は居ないことを勧めてみる。

 

「それでも辞退する…と言うか深雪はなにに出るんだ?

今回のテストの総合成績はリーナと深雪の1-2フィニッシュで、三位以下との差が大きく開いているのに…なんで推薦に選ばれなかった?」

 

「深雪なら、本戦だろうが新人戦だろうがどの競技でも優勝出来る。

俺はそう思っていて、学校側も深雪の成績ならばどれに出ても問題ないと判断した為だ」

 

「そう言うことしてると、ポロっと落とすで…リーナもそんな感じか?」

 

「ああ…」

 

思いの外、手強いなと感じる達也。

自分は出ないと言う意思の表示をしつつも話題を変え、無表情を貫く。

この状態では絶対に嫌だと出ないだろう。

 

「…手塚くん」

 

「選ばれた義務とかを押し付けんなや。

そもそもの話で、成績優秀者に出ないかと誘うだけであり用事があれば断れる。

成績優秀者は出場する権利を手に入れるのであって、出場する義務なんてもんはあらへんで」

 

摩利が心に訴える系の言葉を言う前に先手を打った光國。

出たくないので、出ない。普通に通るのだが、今ここでなんとか食い止めようとする生徒会と会頭と風紀委員長。

 

「手塚くん…貴方はもうテニスを、いえ、テニスプレイヤーになることは出来ない。

君の持つ魔法力はそれなりだから、プロのテニスプレイヤーとして外国に行って大きな大会に出ることはもう、不可能よ…けど、魔法師として輝くチャンスはいっぱいあるわ。

君ならば、本戦のクラウド・ボールに出ても誰も文句は言わないどころか優勝することが出来て、一校の優勝に貢献した事になって魔法師としての功績を残すことが」

 

「…言いたいことはそれだけか、七草さん…」

 

光國がただの魔法師ならば魔法師として輝く事は出来るのだろうが、そうじゃない。

魔法師として輝く事すら出来ないのを分かっている。

 

「手塚、お前は何故そこまでして九校戦に出ない?」

 

「めんどくさいからや。

数回の試合をした後、一週間ぐらい試合観戦するだけなら有馬温泉にでも行きたい。

オレには第一高校の誇りとか伝統とかそう言う感じのもんは重くもなんとも思わん…日本代表として世界一になったとき、日本最強のNo.1の証を捨てて同じ代表からぶん殴られた男やぞ…そないなもんは捨てとる…」

 

めんどくさいから出ない。

光國はそれだけを理由にして出ようとしない。

 

「…それならば、クラウド・ボールが終われば箱根の温泉に行っても」

 

「それも面倒やからパスや、パス…あのな、オレは表立つのが嫌やゆうてんねん。

今更なにを言っているんだとか思っとるかもしれんけど、前回の一件でオレは魔法師には色々と知られただけで、そこで止まっとる」

 

あの手この手で光國を出そうとするが、嫌がる光國。

言うのは物凄く嫌なことだが仕方ないとめんどくさいの意味を語る。

 

「魔法師とは全く関係の無い人はオレを知らん。

一科生と二科生の時は一時のテンションに身を任せたりして、なんも考えてなかった事もあるけど…今なら言える…顔見られたないねん。

九校戦は魔法科高校の生徒達が表やメディアに出る行事で…その、オレは魔法師になる際に友達にはなにも告げずに家出に近い状態でここにおる。

もし、なんかの拍子で見られてみろや…一緒に隣を歩くのが嫌になるうちの親父や、(あに)さん、妹とかに今何処に居るとか知られるし、友人に知られたくないこと知られるし…ホンマに、ホンマに嫌やねん。

甘えた考えとかふざけんなとか思っとるかもしれんけど…オレには、会う覚悟は無い…オレはやる時はやるけど、やらないときはやらない…九校戦はやらないんや…」

 

「…こうなった手塚光國は、動きません。

無理矢理動かしたり、力で従えることも出来ません…失礼します」

 

嫌でも出ない。

その意思を貫き通すと黙っていたリーナは口を開けて、謝り光國と一緒に生徒会室を出ていった。

 

「…あの調子だと勝手に登録してもわざと負けそうですね…手塚は諦めましょう」

 

手塚光國を出場させることは出来ないと分かれば直ぐに諦める達也。

取り敢えず、代表権を勝ち取るランキング戦に出場する生徒と開催日を決めようとするのだが

 

「た、達也さん…」

 

「どうした、ほのか?」

 

「その…無いです…」

 

「…なにが無いんだ?」

 

「リーナの、参加登録が無いんです。

クラウド・ボールにもアイス・ピラーズ・ブレイクにもミラージ・バットにもバトル・ボードにもスピード・シューティングにも…どの代表決定戦にも登録していないんです!」

 

リーナも参加しない事が判明した。

次の日、出てくれと言うが光國が出ないのと悪目立ちしたくないからパスをする。

あの手この手と頑張ってみるが、首を縦に振らない光國とリーナ。

テストの成績が出ると、二年の実技一位になっていた壬生に出ないかと頼むが格闘技での戦闘が出来る競技は無いからと断られてしまう。

 

「…ねぇ、光國…出なくてよかったの?

…元会長の言うとおり、もうテニスプレイヤーとしては活躍できないわ。

同学年で凄い奴はクラウド・ボールに出ないし…その、家族とか友達とか…」

 

「…正直な話、調べようと思えばオレの現在地を調べれる。

九島が色々とやっとるけど、戸籍とかそう言うのはオカンが守っとるから調べれる筈や。

せやけど、クドウ…今の今までいっぺんも連絡くれへんのは自力で帰ってくるのを待っとるからや…けど、オレには帰る勇気はない。

謙夜も吟もエエ奴で理解してくれるし、月さん達も理解してくれるやろう…だからこそ、帰りたいって未練垂れ流す…断ち切らんと」

 

暴力的な戦う力は持っているけど、それだけではなにも出来ない。

光國はそれを分かっており、諦めている。普通の魔法師としても輝けない。

 

「まぁ、気にすんなや。

それよりも夏休み、大阪と奈良と京都以外の場所に遊びにいこう。

ファントムの事ばれたらヤバいからと沙耶香先輩も九校戦は出ないから、パーっと遊ぼう。

こういう時に貯め込んだ金を使わんと…予想以上に賠償金貰えたから使わんとさ…それに、国にテロリストがおって、魔法科高校狙ってて…九つの魔法科高校が集う九校戦って出たくない。普通にめんどくさいのもホンマやで。」

 

光國とリーナと壬生は九校戦には出場しない。

光國は後日行われた代表選手決定戦には顔を出さず、発足式の日は休んだ。

その事について生徒会はなにも言わず、生徒達は逃げたと噂をたてたが全く気にする事は無く時は進む。

九島烈が出ないのかと聞いてきたが出ないといった。

自分が十二分に戦えるルールも無いし、魔法技能関係で目立つのは九島的にも面倒だろうと出ないと言い続けた。

千葉エリカが女子のクラウド・ボールの新人戦の代表権を手に入れたりしたが、大きな影響や変化はなかった。

 

七草真由美が服選びとかで遅刻したので、達也が点呼を取った。

 

一科生と二科生の差別排除の結果、お兄様と深雪は一緒のバスに乗った。

 

九校戦編の敵とも言える奴等が一高出場を阻止すべく事故を起こそうとしてきたが普通に対処した。

 

吉田幹比古はモノリス・コードに出場したかったけど、代表決定戦に出るために必要な二名の選手が集めらなかった(達也達以外に友達いなかった)

 

吉田家の力とかで九校戦の裏方をすることになり、レオと美月を誘った。

 

人間力を測る九校戦とは関係の無い競技に魔法と人数制限無いのでと参加した達也が優勝した。

 

森崎が悪魔化して、新人戦のスピード・シューティングをぶっちぎり優勝した。

 

優勝後のインタビューでポプテピピック宜しく中指を突き立てて、全国に【モブ崎】が知れ渡った。

 

クラウド・ボール新人戦は一色愛梨を相手に逆手の右でエリカは戦ったが、後少しのところで負けて準優勝した。

 

モノリス・コードで悪魔化する前に森崎とチームメイトが建物崩壊に巻き込まれて負傷。

 

達也、レオ、ヨシヒコのチームが急遽結成される。

 

クリプリスとジョージの三校チーム撃破

 

一高は新人及び総合優勝。

 

お兄様、九校戦の裏で賭けをしていた奴等ぶっ倒す。

 

本来の道筋通りの事は起きなかった。

しかしそれっぽい事は起きて、なんやかんやで良い感じのエンディングを迎えた。

第一高校の総合優勝で九校戦は終わり夏休み編に突入したが光國達は誰とも会わなかった。

オジイのプライベートビーチで遊び、海の家のビーチバレー大会に出た結果、オジイと百山東ペアにボコボコにされてシルバーシートにされ屈辱を味あわされたりした。

紗耶香がキスをして来たり、リーナと料理を作ったり、温泉に三人で入ったり、市原を含めて遊んだりと楽しい楽しい夏休みを過ごした。丸1日記憶を失っていて、その事について誰も答えてくれなかったりした。三人とも満足してたので聞かなかった。

これにて、手塚光國の九校戦編は夏休み編は終わりを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『TIME VENT』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ~今日から新学期か。

気まずいな…達也達二科生だけでクリプリス倒したから、魔法業界騒いどるし…まぁ、達也の技師としての腕が披露されたし、そう言う特殊な科は出来るか…最先端だな第一高校は」

 

目覚ましがなる前に目を覚ました光國。

リーナを起こさない様にゆっくりと布団を出て目覚ましを止めようとするのだが

 

「…?」

 

なにか違和感を感じていた。

よく分からないが、なんか昨日と違っていた。

 

「…夏休みボケやな」

 

遊びすぎて、オンオフの切り替えがおかしくなった。

今日から新学期だと思えば少し足取りが重くなるが行かないとクソジジイが喧しい。

 

「何処もかしもこ今日から新学期って言うんだろうな…この日は百年たっても変わらないか」

 

今日からはじまる新学期

 

そんな朝のほのぼのとしたニュースを見るべくテレビをつける光國だが

 

「…?……!?」

 

どのチャンネルを見ても、その手のニュースは一切していなかった。

むしろ間もなく夏休みと言ったニュース等が報じられていた。

 

「暑いわね…」

 

「リーナ…携帯かパソコンを見てくれないか?」

 

「なに…もしかして寝ぼ…うそ…」

 

自分が居なくなった事により目覚めたリーナ。

まさかと携帯を見てもらうとそこにはとんでもないものが、いや、極普通だが二人にとってはとんでもないものが写っていた。

 

「嘘…今日って、新学期じゃないの?

これ盗聴もハッキングもされない最新モデルなのに…な、なんで発足式の日付になっているの!?」

 

 

手塚光國とアンジェリーナ=クドウ=シールズの九校戦編は夏休み編は終わらなかった。



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九校戦がはじまった。

「…ミユキにそれっぽい事を言ってみたわ。

…『お兄様はエンジニアとして、私は選手として頑張ります!画面の向こうでも良いので応援をしてください』って…」

 

リーナと光國は発足式の日に巻き戻っていた。

他にも誰かいるんじゃないか深雪に電話をしたのだが、深雪は時間が戻っていない。

 

「…オレもだ。

達也に電話をして、一条率いるモノリス・コード新人戦はレオとヨシヒコと組んだお前ぐらいしか勝てないんじゃないのかと言ったら、お前でも勝てるだろうと嫌味が飛んできただけだった」

 

達也も巻き戻っていない。

インターネットのニュースにはレジャーランドのプールのニュースや九校戦今年も開幕のニュースぐらいしかない。

リーナと光國は数秒間見つめあった後にキスをして頷いた。

 

「私と光國だけみたいね…」

 

「いや、オレ達だけじゃない」

 

『ドライバー・オーン!』

 

「キマイラもだ」

 

ベルトを起動させ、ちゃぶ台の上に置く光國。

パカッとベルトが開きなにが起こったのか語るのを二人は待つ

 

「我はなにも知らん!!

我等の意識だけが過去に飛んだのではなく、時間そのものが巻き戻っている。

そんな事が出来るのは神話に出てくる魔女か神霊、しかもオリンポス十二神やエジプトの九柱の神々と言った最上位に位置する神の仕業だ…なにも知らん!」

 

「あ~確かになにも知らないわね、それは」

 

神様的な凄い奴が時間を巻き戻した。

何故、なんの為に、そいつは何処にいるのか、どんな方法で、細かな事は一切分からない。

 

「それよりも…これって、どういう時間逆行なの?」

 

「それが謎だと頭を抱えているんだが」

 

「過去を改編した事で悲劇の未来を無くす、バック・トゥ・●・フューチャー

過去を改編したけど、実は過去を改編したからこそ起きた今、ハリー・●ッターとアズ●バンの囚人

過去を改編した事により、別の未来と改編しなかった未来が生まれる、ゼルダ●伝説

過去を改編したけれども、過程が変わっただけで最後には同じ未来に辿り着く タイム●シン…どのパターンかしら…」

 

どのパターンの時間逆行なのかが分からない。

 

「それに、なんで私達は未来の記憶を残しているのかしら…」

 

「それについてはよく分からないが……オレ達の夏休みはまだ終わるどころか始まってすらいない…今度は北海道に行かないか…九校戦、なんかヤバイ奴等がいたらしいし…時間逆行をした狙いが分かんないけど、九校戦に行くのだけは危険なのは確かだ」

 

「…そうね、今度はソフトクリームを食べに行きましょう!」

 

嫌な事からは逃げる光國と、余計な事をして死ぬのはダメだと賛成するリーナ。

遊びに行きたい場所の候補であったが選ばれなかった北海道に遊びに行くことにした。

 

そして九校戦は本来の道筋と違い千葉エリカが女子のクラウド・ボールの新人戦の代表権を手に入れたりしたが、大きな影響や変化はなかった。

 

 

七草真由美が服選びとかで遅刻したので、達也が点呼を取った。

 

 

一科生と二科生の差別排除の結果、お兄様と深雪は一緒のバスに乗った。

 

 

九校戦編の敵とも言える奴等が一高出場を阻止すべく事故を起こそうとしてきたが普通に対処した。

 

 

吉田幹比古はモノリス・コードに出場したかったけど、代表決定戦に出るために必要な二名の選手が集めらなかった(達也達以外に友達いなかった)

 

 

吉田家の力とかで九校戦の裏方をすることになり、レオと美月を誘った。

 

 

人間力を測る九校戦とは関係の無い競技に魔法と人数制限無いのでと参加した達也が優勝した。

 

 

森崎が悪魔化して、新人戦のスピード・シューティングをぶっちぎり優勝した。

 

 

優勝後のインタビューでポプテピピック宜しく中指を突き立てて、全国に【モブ崎】が知れ渡った。

 

 

クラウド・ボール新人戦は一色愛梨を相手に逆手の右でエリカは戦ったが、後少しのところで負けて準優勝した。

 

 

モノリス・コードで悪魔化する前に森崎とチームメイトが建物崩壊に巻き込まれて負傷。

 

 

達也、レオ、ヨシヒコのチームが急遽結成される。

 

 

クリプリスとジョージの三校チーム撃破

 

 

一高は新人及び総合優勝。

 

 

お兄様、九校戦の裏で賭けをしていた奴等ぶっ倒す。

 

 

 

 

 

『TIMEVENT』

 

 

 

「次は東北だ!」

 

五重の塔ハンバーグに挑戦し、リーナと光國が成功。二度と来ないでくださいと言われた。

動物園に行ったら、動物達がキマイラに気付いているのか怯えてしまった。

 

 

 

 

 

『TIMEVENT』

 

 

「次は…九州よ!!」

 

地獄巡りをし、光國と一緒にお風呂。

垢擦りを使わずに互いの肌で擦りあって汚れを落とした。沙耶香も同じ事をした。

博多名物のとんこつラーメンで替え玉20回すれば無料になるのに挑戦し、リーナと沙耶香が突破、出禁になった。

 

 

 

 

『TIMEVENT』

 

 

「四国!」

 

 

うどん県で達也達を含めて一緒にうどん作り。

作ったうどんも旨かったが、うどん県のうどんはヤバかった!

舟下りをやったり、醤油蔵を見に行ったりと楽しかった!

 

 

 

 

『TIMEVENT』

 

 

「愛知とか三重とか!!」

 

近畿地方の名所を飛ばすが、割とあったぞ楽しいところ。

鈴鹿●ーキットにリトル●ールドと楽しい施設が沢山あった。

 

 

 

 

『TIMEVENT』

 

 

 

 

 

「まだ、抜け出せないわね…いったい、いったい、なにが目的なの?」

 

殆どと言うかほぼ遊んでいただけの光國とリーナ。

全くといって変わったことは特になく、誰かがタイムリープに気付くこともなく日本を制覇しかけていた。

 

「まだ行っていないのは…兵庫と大阪と奈良と京都と静岡。

この八月で起きる一番大きな出来事は九校戦だけど…九校戦でなにかを期待しているのかしら?」

 

「……」

 

光國は最初から原作に関わるつもりはなかった。

逃げるに逃げれない状況になっており、殆どと言うか諦めていて色々とめんどくさいと出来ることを全然していない。

仮面ライダー響鬼系のライダーになる変身セットが何処かにある。

仮面ライダーオーズになるための変身セットが何処かにある。

この魔法科高校の劣等生の世界観に合わせて一部の仕様とか設定を変更しているだろうが、探そうと思えば他にも科学技術じゃない仮面ライダーに変身する為の道具がありそうだ。

しかし面倒だと光國は一切探していなかった。そう、諦めたり面倒だったりとなに一つ探していない。

 

『ピンポーン』

 

やっぱ九校戦に出ないといけないのかと、世界が出ないといけないのかと思っているとインターホンが鳴った。

 

「誰!?」

 

タイムリープを何度も何度も繰り返している光國とリーナ。

壮行会があるこの日は、お風呂に行く以外は丸1日引きこもっていた。

大家のババアが襲来することなんて無い。魔法師ゆえにご近所付き合いも悪い。町内会の事なんて全くない、本当になにもない1日だった。

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン!シャバドゥビタッチヘーンシーン!チェンジ、ナウ!』

 

「待て、リーナ!」

 

ドアを開けようとするリーナを止めに行くのだが遅かった。

電子ではない物理の鍵を開けてしまい、扉の向こうにいる者が開いた。

 

「っく!」

 

『ドライバー・オーン!!』

 

まずいとビーストドライバーを起動させる光國。

変身しなければならない可能性が高いのでビーストリングを指にはめながらリーナの元に向かう。

 

「ほぉ、おまんは獣かいな…」

 

「っ、白い魔法使い!?」

 

扉を開いた者は白い魔法使いだった。

 

「手塚光國…人が何度も何度もタイムベントしとるっちゅうのに何故にこんのや。

ワシはとっととおまんに会って、色々と交渉したかったちゅうのに…これで最後やけん、はよう九校戦の会場にけえや……佐島勤」

 

『コネクト、ナウ!』

 

白い魔法使いはリーナを気にせずに、光國に声をかける。

言いたいことを言い終えるとカードと杖をコネクトで取り出した白い魔法使い。

 

「今回は、お前だけや」

 

 

 

 

『TIMEVENT』

 

 

 

カードを杖に装填すると気付けば布団で寝ていた光國。

リーナも眠っており、スヤスヤと寝ていたが光國が身体を起こした事により目覚めた。

 

「まだ抜け出せないわね…いったい、いったい、なにが目的なの…」

 

目覚めたリーナは先程までの事は全く覚えていない。

いや、覚えていないんじゃない。無かったことになっている。

 

『ドライバー・オーン』

 

「おい、キマイラ!!」

 

『何度も同じ事を言わせるな!

何処かの神が時間を巻き戻している…ただそれだけだ!』

 

まさかとキマイラを確かめる為にベルトを起動させるがキマイラも覚えていない。

自分だけがさっき起きた出来事を知っている。

 

「リーナ…」

 

光國は今の今まで、色々な事を調べることが出来たが無視をしていた。

調べなかった。面倒だった。諦めていた…仮面ライダーの変身道具を探すのを、自身と同じ転生者を探すのを。

 

白い魔法使いも転生者だ。

 

白い魔法使い(転生者)も恐らく自分以外の転生者が居るとは思っていなかった。

 

世間を騒がす騒動を起こした事により、原作通りの事が起きなかったために転生者(自分)の存在に気付いた。そして見つけた。

 

選手でなくともいい、とにもかくにも九校戦の会場に来てくれと、オレを会場に来させるためにと夏休みを終わらせないようにした。

 

「…いくか…」

 

光國は白い魔法使いに会いたくなった、会わないといけないと感じて立ち上がった。



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こーれーぐーすの方がからいーさー

国立魔法大学付属第一高校の九校戦発足式。

誰がなんの競技に出るかの説明やエンジニア等の紹介を終えて、終盤を迎える。

 

「直接攻撃ありな競技があったら、オレも出れたんだけどな」

 

「レオはまだ良いじゃないか…僕なんて、モノリス・コードの誘いが誰からも来なかったんだよ」

 

レオ、ヨシヒコ、美月は講堂のステージではなく観覧席にいた。

 

「だ、大丈夫です!

吉田くんが強いのは私はちゃんと知っています。

吉田くんはただCADの方がおかしかっただけで、実力は最初から問題なくて…私なんて、この眼だけで」

 

「柴田さん…そんな事はないよ。

その目は凄いけど、本当に凄いのはどんな時にも変わらない君の優しさだよ。それは僕がこれから先、どんなに修行をしても絶対に手に入れれるかどうか…」

 

「吉田くん…」

 

「ヨシヒコ、美月…二人だけの空間を作るなよ」

 

レオや達也から見ても出来てるんじゃないかと思えるヨシヒコと美月。

九重寺での修行中、ヨシヒコが誤っておっぱいを揉んでしまったのを見ていたのでこれで出来ていないのはおかしいとレオは感じる。

 

「ぼ、僕は幹比古だ!!」

 

「そこの一年生の二科生三人、応援してくださいよ~」

 

大事な発足式で騒ぐので、若干怒るエリカ。

レオ達は笑い者になるのだが、あっちゃ~となるだけで直ぐに気持ちを切り替える。

 

「にしても、エリカがクラウド・ボールの新人戦に出るとは…」

 

「二科生ただ一人の代表だから、絶対に勝ってほしいね」

 

ニヤニヤと笑い、此方を見つめるエリカ。

偶然と言えば良いのか、光國から習ったラケットを逆手で持つと言う意表をついた技が思いの外、クラウド・ボールで通用して代表になった。

レオと美月は二科生の女子の希望だと考える。

 

「本当なら、選手として手塚があそこに居たんだろうな…」

 

代表決定戦に来なかった光國。

どうしてこなかったかとヨシヒコが問い質すと目立ちたくないからと答えた。

既に学校内で目立っただろうと言えば親や友達の前で目立ちたくないんだと教えた。

 

「幹比古、やめろ……手塚の事をなにか言うのは、いくらお前でも許さねえぞ…」

 

「吉田くん…手塚さんの事は言ってはダメですよ」

 

光國の事を呟くと怒りを見せるレオ。

レオの家族は、死んでしまった祖父とレオ以外は魔法師としての力を持っていない。

レオの姉は魔法師としての力を持っていない。母も父も持っていない、レオと祖父だけが持っていて、祖父は死んでいる…ただ一人魔法師な自分とそうじゃない家族と溝があるとレオは感じている。

光國の家も光國以外は普通の人。

クラウド・ボールで使うのは主に身体能力を上げたり打ち返したりする系の魔法で、誰かに直接攻撃する系の魔法は使わないが普通の人は化物と感じてしまう可能性がある。

同じ感じのレオと普通の家の娘の美月は光國の化物と思われるのが嫌なのがよく分かり、古式魔法の名家で魔法が当たり前の環境のヨシヒコにはイマイチ分からない事だった。

 

「代表メンバーの方へ、司波深雪から徽章の授与をつけてもらい」

 

「ちょーーっと、待ったぁああああ!!」

 

最後の徽章の授与が行われようとしたその時だった。

全校生徒だけでなく、教師陣も居る講堂のドアが開いて綺麗な声が響いた。

 

「すまない…その徽章を1つくれないか?」

 

青学のロゴが入っていないレギュラージャージ(特注品)を着た光國とリーナが現れた。

 

「て、手塚ぁああああ!!」

 

「…その台詞を言わないといけないのか?」

 

毎度毎度、自分が何かすると手塚ぁああああとなる誰か。

今回はクラウド・ボール本戦に出場するスポーツ刈りの桐原が叫んだ。

 

「…手塚さん…」

 

「…今さらなにをしに来たかと思っているだろう。

オレ自身、出ようとは思っていない…だが出なければならなくなった」

 

「上から圧をかけられたのですか?」

 

ステージに向かうと、すんなりと通して貰った光國とリーナ。

深雪と言うか、それなりの家の生徒達は九島が出ろと脅してきたと考える。

 

「出ないといけない状況になった…勝つための選択をお願いします、生徒会長」

 

ペコリと頭を下げた光國。

白い魔法使いの狙いは光國だ。

白い魔法使いは住んでいる所を知っているのに直接来訪せずに何度も何度もタイムベントを繰り返した。

それはただ九校戦の会場に向かうだけでなく、選手もしくはエンジニアとして出ろと、実力を自分に見せてくれという考えだと光國は思い、選手になるべく発足式に乗り込んだ。

でなければ、何度も何度もタイムベントを繰り返さない。痺れを切らして会いに来たが、白い魔法使いは最初から会いに来るつもりは無かった。

もしかしたら、第三高校辺りの生徒かもしれない。

 

「手塚さん…どういうおつもりで?」

 

「…出なければならなくなった…そうとしか言えないな…」

 

深くは語らず、相手に考えさせるスタイルの光國。

この場に居る奴等は九校戦で十師族相手にワガママを言っても勝てないと分かるので細かな事は言わないし詮索しない。

 

「手塚、代表選手は決まっている。

激しい代表決定戦をした…結果、テストの成績が低かったエリカがクラウド・ボールの新人戦に出ることになった」

 

「ああ…知っている」

 

殆どの生徒が光國が出てくれるならば出てほしいと思っている。

クラウド・ボールの女子の本戦は七草元会長がいるので絶対に負けない。女子の新人戦も里美スバルや千葉エリカが出るのでエクレール・アイリに勝つのは難しいが準優勝は狙える。

しかし、男子はかなり怪しい。本戦と新人戦で絶対に勝てそうな選手が浮かばない…今目の前にいる手塚光國を除いてだ。

選手に登録するのは簡単だろうし、九校戦では絶対に成果を出してくれる。

しかしその場合、出れなくなる選手は不満に思うだろう。

 

「お前の言いたいことは分かっている。メンツだろう。

男子のクラウド・ボールに出る選手を全員倒す…今度は百錬自得の極みをちゃんと使って、更には才気煥発の極みも使って絶対予告で完膚無きまでに」

 

オジイのラケットを取り出す光國。

 

「部長、自分の代表でよろしければ譲ります!!」

 

「そうか…感謝する。

それとそんな敬語じゃなくても良いんだぞ、オレはお前と同年代なんだから」

 

「い、いやぁ…老けて見えるからどうしても敬語使っちゃうんだよな

 

テニヌ擬きで手塚部長と戦っても絶対に勝てない。

偶然にも代表選手だった男子のクラウド・ボール新人戦に出る選手は、出場権を光國に渡した…が

 

「悪いが、それだけだと足りないな」

 

「…もう1つ競技に出ろと?

お前、今回のオレのテストの成績を知っているか?筆記13位、実技44位、総合53位のなんともまぁ、なんともまぁ…なんとも言えない成績だぞ」

 

「だが、お前はあの時、誰よりも早くブランシュを倒した…実技=絶対じゃないと証明をしたのはお前だ…」

 

対抗戦の際に第四競技をはぐらかした光國。

達也はレオ達に、特にCADと肉体が合っていなかったヨシヒコとの時間が多く光國の普段から使っている端末型のCADをちょこっと調整するぐらいだった。

本当にそれぐらいで、本来のCADをまともに見せてもらえずにいてブランシュに襲撃された時に見たぐらいだ。

襲撃されていて、ブランシュを撃退するのに忙しく調べれず、アレがなんなのかは結局わからず、リーナに探りをいれても光國の特殊なCADと言うだけで聞き出すことは出来ず、他のルートで調べても分からなかった。

クラウド・ボールの参加を餌に、達也は光國の隠している事を調べようとする。

 

「ミラージ・バットが女子専用じゃなければ…出れたんやけどな…」

 

棒を持った女性が魔法少女の格好(笑)をして空中に浮かぶホログラムの球を魔法で色々と出力を上げて高くジャンプして叩く競技、クラウド・ボールに続き、何気に光國に向いている競技だ。

三人一組のモノリス・コードは出れない。殴る蹴るがライダーの基本だから。

魔法使い系の仮面ライダーは大人の事情と言うなのよゐこは真似しちゃダメだよの為に殴るの基本NGで武器で攻撃するから。

 

 

魔法少女☆ビースト…それは無い。

 

 

一瞬だけそんな邪念が入り交じるが、直ぐに頭から消す。

 

「光國が他に出れそうな競技はないわ…足りない分の代価は、今回のテストの総合一位の私が補うでどうかしら?ミラージ・バットだろうがアイス・ピラーズ・ブレイクだろうが…新入生総代のミユキだろうが、勝つわよ」

 

万が一、億が一と、このお兄様相手に予想外な事は出来ても油断は出来ないと考えた。

そして予想通りなにか別の、肉体労働でも情報でも要求される可能性があるのを考量し、リーナが用意した。自分と言う代価を。

主席と殆ど点数が変わらず、今回は勝ったテストの総合一位の自分がなんでも出ると、深雪相手でも勝つと挑発をする。

お兄様唯一無二の弱点である深雪を使う。

 

「お前が深雪に勝てると言うのか?」

 

予想通りと言うべきか、食いついた達也。

 

うちの妹は最強で最高なんだ!と言っても違和感は無い。

と言うか、何時か言いそうだ。

 

「確かにミユキは学生のレベルを遥かに越えているわ。

タツヤも同じで学生のレベルじゃない…けれど、光國と私も同じことよ」

 

「ねぇ、やめてくんないオレのハードルもついでに上げんの。

実際問題、オレは魔法師としては有名な奴等より下、レベルで言うと新卒の社会人の【あ、こいつ有名な大学出てへんくてコレと言った成績は持ってないけど当たりやん】レベルやからな」

 

キマイラがなく、普通に魔法演算領域とかを持っていたら光國はその程度である。

よいしょするのはお前だけにしろよと冷たい視線を送った光國だが、リーナは気にせずにいる。

 

「と言うか…勝てるんか?」

 

ループ中に何度も何度も見た深雪の試合

相手は同じく一高の雫で、雫はアイス・ピラーズ・ブレイクと言う魔法競技においてはどちらも規格外の強さを発揮

しかし、深雪はそれをも上回る強さで魔法で勝利したのでどうやって勝つつもりか気にする。

戦略級魔法でないとはいえこの国どころか世界基準でトップレベルの魔法を難なく使いこなすのだから深雪以外ならば勝てるだろうが、深雪だけは別でありお兄様のサポートは受けられない。

正式に九島の名前は持っていないが、それでも負けるのはまずい。光國は別に負けても構わないのだが、クソジジイが喧しい。十師族、滅べマジで。

 

「…一個だけ、あるわ」

 

リーナはうっかり余計な事を言ってしまう。

戦闘力においては規格外で公になっているのはたった十三人の戦略級魔法師の一人だ。

しかし、今は光國を監視役兼魔力タンクで工作員となっており、戦略級魔法師として活躍は出来ない。

そんな状況でも、リーナはただ1つだけ勝てる希望があった。

光國を怪しむ達也の目を自分にも向けさせる事が出来る、そんな方法でもあった。

 

「達也さん、私、リーナと戦いたい」

 

「雫…どうした、急に」

 

今まで黙っていた雫が口を開いた。

 

「達也さん…ううん、達也生徒会長。

私はアンジェリーナさんと戦いたいです。後で構わないので、アイス・ピラーズ・ブレイクで戦わせてください」

 

「…理由を聞いてもいいか?」

 

「アイス・ピラーズ・ブレイクは、人じゃなくて氷の柱に魔法を向ける競技で殺傷性の高い魔法を使う事が許される競技。

リーナは、深雪と同じで学生の範囲内を越えていて、きっと学校でも使う事が出来ない危険で強力な魔法を使える。

…リーナは最初は出ようとしなかった。出ないって、堂々と公言をしていた。

殆どの人はラッキーと思ったけれども、私は違う。私は悔しかった。悔しくて悔しくて仕方なかったよ…」

 

ポロポロと涙を流していく雫。

それは悲みと怒りを6:4の割合で出来た涙だった。

 

「CADは達也さんに調整して貰った。

私だけじゃなく、深雪も…達也さんは深雪の代表を決定した時、喜んだと同時に深雪なら出れて当然だって思っていた…違う?」

 

「…正しいか間違いかで言えば、正しい」

 

「私の代表権が勝ち取った時はよくやったって、激しい代表戦を勝ち抜いたって思った?」

 

「…」

 

「代表になれたのは嬉しい。

けど、既に比較されている感覚はあった。

周りが深雪が出るなら女子の新人戦は優勝だって、リーナが出ればリーナが優勝かもって話を何度も聞いた…悔しくて悔しくて、それと同時に一位じゃないって心の何処かで認めてる自分が憎かった…手塚さんは、一科生と二科生の対抗戦は出れただけでも光栄なんて試合じゃないって、勝たないと意味が無い試合だって言った。

それならこの九校戦も出れるだけでも、二位でも喜べるものじゃないと私は思う…私は深雪にも勝ちたいし、リーナにも勝ちたいし、エイミィにも勝って、本当の一位になりたい…」

 

雫が嫌だと言い続ければ、リーナは雫からアイス・ピラーズ・ブレイクの代表権を奪い取れない可能性が出てくる。

しかし、雫は本当の意味で一番になりたいと言う気持ちを押し出した。

 

「…後で俺の立ち会いの元で、雫とリーナのアイス・ピラーズ・ブレイクをする。深雪、すまないが氷の柱を作ってくれないか?」

 

「かしこまりました、お兄様」

 

達也の承認を得た事によりホッと一息つく光國。

これで自分とリーナが出れるが、コレだけではダメだと講堂のステージに居ない生徒達に頭を下げる。

 

「出ないと言い続けて、急に出ると言ってしまい騒ぎを起こしてすまない。

出る限りはオレはクラウド・ボールで優勝をする……優勝を出来なければ、ペナル(ティー)を飲む気持ちでいる」

 

「ペナルティーって、別にそんな事をしなくても」

 

「待て、手塚!!」

 

そこまでの事をしなくても良いと言おうとした真由美だが、森崎が間に入った。

 

「…お前、こんな時にですら…」

 

「なにが言いたい?」

 

「あ、いえ、なんでもないです…はい、続けてください」

 

丸々一年間坊主頭の森崎に髪の毛があって、なんかふんわりしていて気になる。

しかし、そこは気にしてはいけない。全校生徒の誰もが触れていないのだから。

 

「後から入ってきた、お前だけが優勝出来なければペナルティーだと…お前だけが優勝が絶対で代表選手になった生徒達が負けてもなにもないのはお情けか?絶対に勝てると思っているからか?」

 

「…」

 

「僕はこの九校戦で二種目に出て、どちらも優勝を狙うつもりだ!

一高生徒だからとか森崎家だからとかじゃない、一人の魔法師として本気で優勝を目指す!

出れただけでも光栄なんて言葉は絶対に言わない…僕も負ければ、ペナルティを受けよう!!」

 

「…えぇ…」

 

何でそうなるんだと言う目を向けるが、ノリノリの森崎。

 

「私も、両方で優勝を目指すから…ペナルティを受けるよ」

 

それに感化された雫もペナルティを受けると言い出す。

 

「ふっ、それならば俺も負ければペナルティを受けよう!!」

 

「真由美…目指すは優勝だけだ!

どうせならば、史上初の新人戦と本戦全て第一高校の優勝をしようじゃないか!!」

 

十文字も摩利もノリノリになり、それに釣られて殆どが優勝出来ないとペナルティを受けると叫ぶ。

 

「し、雫…」

 

「ほのか、やるからには一番を目指さないと。

ほのかなら大丈夫だよ、なんだかんだ出来ないとか言いつつも、ここまでやって来たんだから」

 

数少ないペナルティを受けると口語しないほのかは場の空気に怯えるが、誰も助けてくれない。これはもう優勝しないといけない空気だ。

 

「…手塚くんとリーナさんが加わっただけで、ここまで変わるのね」

 

例年とは全く違う発足式。

全員がやる気を出しまくっており、清楚とか静謐とかとはかけ離れている。

しかしコレはこれでありだと真由美は特に文句は言わない。

 

「ところで、手塚。

ペナルティの内容はどんなことにするんだ?

九校戦を終えると暇じゃない生徒が出て来て学校へ来て奉仕作業なんて出来ない。

臨時の生徒会長の俺でも来れないと先に学校側に報告を」

 

「…お前らなんか勘違いしてへん?」

 

草むしりとかエアコンのフィルターの掃除とかそんなのをペナルティにしようとは光國は思っていない。

 

「オレはペナルティやのうて、ペナル(ティー)を飲むゆうたけど、受けるとは言ってへんで?」

 

「…一緒じゃないのか?」

 

「ちゃうで」

 

光國はラケットを入れている鞄から、水筒と紙コップを取り出す。

 

「ペナルティー…ペナル、ティー…ペナル(ティー)や」

 

紙コップに赤い液体を注ぐ光國。

 

「さむっ…」

 

まさかのダジャレなオチ、皆が皆、ハードルを上げていた中でのダジャレ。

完全に空気がぶち壊れてしまい、誰かが呟くと冷たい視線が光國に向けられる。

 

「み、光國…それって…」

 

リーナを除いてだ。

 

「はぁ、手塚さん…流石にここでそう言ったのは宜しくないですよ」

 

「そうか?」

 

空気が壊れたが、マイペースな光國。

深雪は呆れるしかなく、溜め息を大きく吐くと喉が焼けるように熱かった。

講堂の熱気や先程までのハイテンションのせいで体感温度も暑くて、喉が渇いてしまった。

 

「すみませんが、そのペナル(ティー)を頂けないでしょうか?」

 

なので、ペナル茶を分けて貰うことにした。

 

「え~…」

 

「ちょっと喉が渇いてしまいましたので…」

 

「手塚、別に減っても良いだろう」

 

光國に嫌そうな顔をしていると、やれと圧をかける達也。

一切口をつけていないペナル(ティー)を深雪に渡した。

 

「…真面目な時の手塚でも冗談を言う時があるとはな」

 

「時として冗談や嘘は人場を和ませる為に必要なものだ」

 

「それは分かるが、出来れば場所を選んで欲しかった」

 

「…いや、だから場所を選んだぞ…」

 

「ミユキ、安らかに眠りなさい」

 

光國の言っている意味が分からない達也

リーナの言葉を聞くと直ぐに深雪の方へと振り向いた

 

「お、兄…様…」

 

深雪は口から赤い液体を出しており、ゆっくりとゆっくりと倒れた。

 

「深雪!!」

 

「お兄様…なにも、なにもしなくてもよろしいのです」

 

自分のCADを取り出し、深雪に向けようとする達也だが深雪は手でCADを退ける。

 

「待っていろ、俺が直ぐに」

 

「良いのです…形あるものは何時かは崩れる。

それが万物の絶対であり、私はその絶対の法則から抜け出してお兄様の元にいます。

何時かは、何時かはこう言った日が来るのは覚悟しておりました…貴方の事をお慕いしたのはたったの三年ですが、私はとても幸せで」

 

「もういい、喋るんじゃ」

 

「1つだけ不満があるなら…貴方が兄だったこと。

兄として素晴らしく、不満はないのですが…兄妹ではなく…一人の女性として、お慕いしたかった…」

 

ガクっとなり、目を閉じる深雪。

達也はそんな深雪をゆっくりと床で寝させるとCADを光國に向ける。

 

「全員、手塚と司波を捕らえろ!魔法を使っても構わない、俺が全ての責任を持つ!!」

 

「オレは悪くねえ!!」

 

「手塚くん…」

 

あっさりと捕まえられる光國。

しかし、達也は捕まえることは出来ずにいた。と言うかCAD向けてる。

 

「達也、お前は深雪の為ならなんでもする男だと思っていたのだがな…」

 

「俺は深雪の意思を尊重した…そして今から俺は俺の意思を尊重し、お前を殺す…俺は深雪の為ならばどんな事でもする、世界を滅ぼす事も厭わない」

 

「だってお、深雪」

 

「え、今なんでもすると言いましたか!!」

 

「…え?」

 

完全に殺す気満々の達也は呆気に取られる。

死んだと思った深雪が普通に起きたのだから、情動出来ないお兄様でも予想外のことだった

 

「ゴホッゴホッ、なんでもずるどおっじゃいまじだが!」

 

「…どうなっているんだ?」

 

「だから、ペナル(ティー)ゆうとんやん…十文字会頭、飲んでみんしゃい」

 

「むっ…毒は入っていなさそうだな」

 

状況がイマイチ理解できない達也。

説明するかと水筒に残っているペナル茶を十文字に飲ませる。

 

「十文字くん…どう?」

 

飲んだ瞬間ピタリと動きを止めた十文字。

真由美が心配していると

 

「うぉおおおおおっ!!ふんんんん!!!」

 

十文字の上半身に力が入り、上着全てが破れた。

 

「中々の刺激だな、このペナル茶と言うのは!!」

 

「…えっと…十文字くん?」

 

「今すぐに手塚を解放しろ。

このペナル茶に毒は入っていない…俺が保証する!」

 

「いや、明らかに毒以外の危険な物が入っているわ!!」

 

汗をかきながらも、爽やかに光國の無実を証明するが逆にヤバい薬が入っていると疑われる。

 

「手塚くん、君はこれになにを入れた!?」

 

「…ドラゴンズ・ブレス・チリ…」

 

摩利に聞かれたので、渋々答える光國。

 

「旧世紀のテレビのバラエティの罰ゲームとかでよくある辛いジュース…まさにペナル茶に相応しい飲み物だな…しかし、喉が更に乾くな…ペナル茶だと喉は潤せない、他になにか無いのか?」

 

「あ、平仮名でいわしみずって書いてある水筒が鞄にあるのでどうぞ…」

 

「岩清水か…風流だな」

 

喉を潤す為に光國の鞄から いわしみず を取り出す十文字。

紙コップに入れると一気に飲み干し

 

「ぐふぉおおおう!!」

 

吹き出して、意識を失った。

 

「…違います、会頭。

それは岩清水ではありません鰯水…sardineつまり鰯の汁を飲み物にしたものです…光國は冗談なんかで、飲み物を出していません…」

 

怯えまくりのリーナは説明をする。

 

「はい、と言うことで代表選手皆さん…優勝しなかったら飲めよ。

十文字会頭、ペナル茶が効かへんの判明したから、他にも色々と作るから…決勝戦に全員が進んだし、同率優勝なんてすんなや…その場合は三人とも飲めや」

 

 

 

 

や、やらかしたぁあああ!!て言うか、嵌められたぁあああ!!

 

 

 

先程までの発言は、取り消すに取り消せない代表選手達。

白目を向いている十文字会頭を見て、優勝を逃せば死ぬことになると悟る。

 

「さぁ、油断せずにいこう」

 

負傷者二名が出たものの、発足式はなんとか終わりを迎えた。

雫とリーナのアイス・ピラーズ・ブレイクは、タイムベントで何度も見ていた事により雫の手の内を知り尽くしていたリーナが雫と同じ事をして真っ向から叩きのめす荒業を見せつけリーナがアイス・ピラーズ・ブレイクの出場権をゲットした。

 

「どうせなら、スピード・シューティングも出ない?」

 

「絶対に嫌よ!!」

 

こうして、光國とリーナは代表入りした。



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鏡の中の領域

「ふぁ~あ…リーナ、凄い残酷な事かもしれないが森崎は見捨てろ」

 

「えっと…どういう意味?」

 

九校戦の開催日は同じだが、会場入りする日はちょっと早かった。

原因は言うまでもなく光國で、人間力を競ったりするレクリエーションをやったりパフォーマンスをしたりと色々とあるからだ。

その辺は九校戦の点数とは全く関係なく、光國はリーナの髪の毛を整えながらそこそこの決断をリーナに迫る。

 

「結果的には第一高校の優勝に終わるが…地味に負傷者が多かったり、確立された飛行魔法が堂々と使われる。その辺について余計な事をしないでほしいんだ…相手の望みが分からないからな」

 

「…分かったけど」

 

「アイス・ピラーズ・ブレイクは優勝しても良い。

と言うよりは、優勝しないと強制的に飲まないといけないからな…はい、終わり…あ~眠い」

 

白い魔法使いの目的は光國は九校戦に行くことなのは確かだ。

そこで恐らくもう一度、会合する機会があり…下手すれば死闘を繰り広げる。

原型(アーキタイプ)が完成形の仮面ライダーに勝てるか不安だが表情には出さない。

 

「光國、徹夜どころかオールしてたけど…なにをしてたの?」

 

「北欧神話の勉強をちょっとしてた…時間逆転できるのが神様ぐらいで、それも最上級のものとくれば、神話に出て来てゲームや創作物に出てくる時間関係の神様やから調べてた」

 

「時間の神…クロノスとかかしら?」

 

「それはギリシャや。

少なくとも、魔法が実在したと完全に証明された現代だ…神様は実在しているし、地獄や天国だってあるはず…とにかく、知らぬ存ぜぬ体でいかんと…余計な地雷を踏みたくない。

なにせ、タイムリープをしている起こしている奴も姿も原因も分からん…下手すりゃ外国で起こしとる可能性があるんや…オレ達だけ時間干渉が効かんとか恐ろしいしな」

 

「確かに…日本にはそういう感じの神様が居るって耳にはしないわね」

 

上手いことを言ったなと服に着替えて、外に出る光國とリーナ。

 

「コネクトって何気に最強の魔法よね…地味に一番、疲れる魔法だし」

 

「オレの魔法は四次元ポケットじゃない」

 

手ぶらで出る光國とリーナ。

早いところ、九校戦の会場に向かうバスに行きたいのだが、一週間以上家を開けるので大家のババアに言っておかなければとアパート前で掃除をしている大家に声をかける。

 

「大家さん」

 

「ああ、あんた達かい、ちょうどよかったよ」

 

「どうかしたんですか?」

 

「光國、あんたに手紙だよ。

このご時世に珍しい、紙の手紙で差出人が全日本テニス協会だと来た…あんた、アダルトサイトにでも引っ掛かったのかい?」

 

小さい茶色の封筒を見せてくる大家のババア。

このご時世に紙の手紙で送ってきただけでも珍しいのに、差出人が全日本テニス協会ときた。

完全に偽の手紙だと怪しむ。

 

「いやいやいや、オレがアダルトサイトだなんてそんな…リーナが居るだろうが、クソババアが!!舐めんじゃねえぞ!!」

 

「うるせえ、クソガキが!!

あんたなんだかんだでモテてるんだろ、年上の女を三人も連れてきてるの知らないと言わせないわよ!!」

 

「両手に花どころか、東西南北真っ暗だけどな!!

ちょっと九校戦に出てくるから、二週ぐらい部屋を開ける…」

 

「あら、九校戦なんて…イケメンが間近で見れて羨ましいわ、私も後もう少し若ければ口説きにいったんだけどね…大人な熟した女って、良いかしら?」

 

「「オボロロロロロロロ!!」」

 

「吐くんじゃないわよ!」

 

大家の気持ち悪さに苦しみながらも出かける事を教えた光國とリーナ。

九校戦の会場に向かう為のバスがある集合場所に向かう。

 

「あれ、タツヤが点呼を取ってるの?」

 

集合場所に着くと点呼を取っていたお兄様。

臨時とは言え、生徒会長な彼はしなくても良い仕事なのに何故かしている。

こう言う割とどうでも良い感じの仕事は下に任せるんじゃないかと下の立場の人を探す。

 

「七草元会長は遅れているみたいでな」

 

一番下は遅刻をしていたが、特に不満らしい不満を言わない。

十師族の七草家の娘、生徒会長解雇と言う前代未聞な目に遭ったのだからこの九校戦では的な事を言われているのだろうと皆が察する。

 

「…暑くないのか?」

 

「暑いかどうかと言えば暑いが、騒ぐほどじゃない」

 

「…リーナ、先にバスに乗っててくれないか?」

 

「光國は?」

 

「オレはまだバスに乗っていないから、遅刻だな…バスに乗った時点で笑ったらアウトやで」

 

「…はいはい」

 

なんだかんだで優しい部分はある光國。

緊張して眠れなかったと遅刻したものを煽ったりフォローしたりする為に残る。

 

「私の席は…早いわね、皆」

 

バスに乗って自身の座席に向かおうとすると、隈を作っているほのかと雫と何時も通りなエリカと深雪がいた。

 

「ごめん、一睡もしてない…ほのかが寝かせてくれなかった」

 

「だ、だって…負けたらペナルティーがあるんだよ!!」

 

「だからこそ勝てば良いじゃない、勝てば。

実際のところ、出れるだけでも嬉しいって思っているだけじゃダメだわ…手塚くんみたいに勝利に執着しないと」

 

「光國は参考に出来ないわよ」

 

全員を恐怖のドン底に突き落としたあの汁がやってくる。

そう思っただけでほのかは怯えるも、なんだかんだ言いながらも代表の座を渡さずにいる。

芯はちゃんとあるんだとリーナと深雪はちゃんと見ている。

 

「…それにしても、遅いわね」

 

「ちょっ、リーナ!」

 

「なに?」

 

「ええ、確かに遅いですわね。

日本人は五分前集合どころか、三十分前には来ているのが当たり前なのに来ていません。

バス内部は冷房が効いていますが、点呼を取っているお兄様は炎天下の中晒されていると言うのに謝らずにいて…手塚さんはお兄様の側にいますが、出来れば私と交代してほしいわ」

 

「寒い、寒いよ深雪!!」

 

炎天下の中で晒されているお兄様を下にみていたり、遅刻している生徒達が許せない。

一応のためだが、遅刻していない。全員真面目でくそ早く来ているだけで今の時間帯に来ている人は普通に来た人達だ。

素で地雷を踏み抜いたリーナと言うか深雪を中心に真冬並みの寒さになる。

 

「あら、ごめんなさい…でも、この涼しさをお兄様に届けれないのが残念ね」

 

「達也くん、バスの内部でも良いのに…」

 

「エリカ、達也さんは物凄く真面目にやっているんだよ。

バスの内部でやると入ってくる生徒に迷惑になるし、達也さん自身が一人一人を几帳面に確認している…基本的な事をここまで普通に真面目にこなすのは、中々に出来ないよ」

 

自分なら誘惑に負けそうだと褒める雫。

深雪もほのかも流石ですとなるので、呆れるエリカとリーナ。

 

「流石ねとか褒めるよりも、動いた方が良いわよ。と言うことでほのか、この水を貰って良いかしら?」

 

「え、良いけど…なにをするの?」

 

「深雪、ちょっと協力して」

 

バスに備え付けの透明のエチケット袋にほのかが買った水を入れるリーナ。

二つ入れて深雪に渡した。

 

「えっと…」

 

「凍らせて」

 

「!」

 

リーナがしたい事を理解した深雪。

中に入っている水を凍らせて氷にするとリーナはもう一度水を入れて氷水にして袋を縛った。

 

「冷た!?」

 

「少しは頭を冷やしなさい…まだ始まってすらいないのよ?」

 

そして一個を深雪に渡して、バスを降りたリーナは達也の横にいる光國の頬に氷水の袋を当てる。

このくそ暑い中で魔法師だから作れる簡易的な氷枕、と言うかかちわり擬きをリーナは作り出して、光國に届けた。

 

「家に帰るまでが遠足と同じで家から出た時点で九校戦開始だ」

 

「開会の挨拶をしてからが九校戦よ。

とにかく、熱中症で倒れたら迷惑だから…その、頭に置いておきなさい…じゃ」

 

ポンと光國の頭の上にかち割り擬きを乗せたリーナ。

やることは済ませたとバスの内部に戻り、深雪に向かってサムズアップする。

 

「…っく!」

 

「恥じることはないわ」

 

深雪はお兄様が点呼を取るぐらいならと自分が出ようとした。

しかし、達也が熱中症になるし妹を炎天下の中で長時間晒すのはいけないと自分がやると頑固として拒否。

渋々深雪はバスに乗り、リーナが来るまではお兄様が戻ったら汗を拭いたりとかそう言うのを考えていたが、甘かった。

水の差し入れをするレベルじゃないので、差し入れなんてしなくても良いと思っていたがリーナがかちわり擬きを作り出した。しかも自分の力を使ってだ。

 

「お兄様、御暑い中の御仕事御苦労様です。

ですが、油断は出来ません…お兄様は余り暑さや寒さを感じにくいのですが油断大敵です」

 

先程のリーナと同じ行動を達也に対してとる深雪。

達也はありがとうと深雪の対して言い、深雪はバスの内部に戻っていった。

 

「…まだまだ、見習うべき点や改善すべき点が多いわ…」

 

「大丈夫よ、深雪なら直ぐにいけるわ…この領域(レベル)まで…頑張りなさい」

 

「ええ」

 

「凄い…これが真の乙女同士の友情…」

 

「清楚や女性らしさは深雪が上だけど…リーナの方が何枚も上手だね」

 

「いやいやいや、意味わかんないわよ」

 

ほのかと雫が言っている意味が分からないエリカ。

全くこれだから女子力が脳筋な女はと呆れた視線が四方八方から来る。

 

「…達也、普通に遅刻したのは誰だ?」

 

「まだ来ていない人だ」

 

炎天下とは言え、深雪が作ったかちわりが溶けるまで外にいる達也と光國。

まだかと来ていない遅刻者について聞くとお前は分かっているだろうと返される。

 

「遅れてごめんなさ~い」

 

質問から数分してやっとやって来た真由美。

 

「…達也会長、TPOって知ってる?」

 

「…俺個人としてはよくお似合いだと思いますが、流石にダメだと思いますよ?」

 

大会当日とかでもなく、現地入りをするだけで特にこれといった服の制限はないもののサマードレスを着ている真由美を見て、如何なものかと考える。

 

「酷い!!折角、一時間もかけてコーディネートしたのに!!」

 

「ちょっと皆、聞いたか!!

元生徒会長の遅刻理由、服の選びに手間取ったからやってぇ!!」

 

言質取ったぞとバス内部にいる生徒達に言うと、急激に温度が下がるバス車内。

 

「七草…女性が服選びに手間取るのは分かる。

だが、それを理由に遅刻して良いと言う訳ではない」

 

「で、でも先に行ってて良いって連絡を」

 

「真由美、そんな事をしてみろ…私達が怒られるんだぞ」

 

「と言うかや、オレ達に遅刻の電話をして先に行ってて言うてる割には車で行くとか言う事を一切言わずに最終的にここに来たやん、自分」

 

遅刻した理由を聞いて出てきた十文字と摩利。

実際のところ、見捨てると遅刻した側も見捨てた側も物凄く怒られる。

 

「…う…うぇえええええええん!!!」

 

「泣いてどうにかなる問題やと思ったら大間違いやぞ!

これは移動中、面白い話をしてもらんとアカンな…七草は色々と深い経験をしてるやろな~」

 

「…え?」

 

遂に泣き出したが手を緩めない光國。

追撃をかけるとバスの車内に戻った。

 

「皆、聞いてくれ!

七草元会長が御詫びに面白い話とか暴露話をしてくれて、道中盛り上げてくれるらしい!」

 

「ちょっと!」

 

「元会長、期待しています」

 

「リンちゃん!?

待って、確かに面白い話はあるにはあるけど、その」

 

「それじゃ、出発するか」

 

真由美は物凄いまでにハードルを上げられたが、とりあえず全員揃ったので出発する一高。

 

「…眠い…ごめん寝る」

 

北欧神話の勉強をするべく夜通しで起きていたので、物凄く眠い光國。

もう無理だとゆっくり眠るのだが

 

「……やっぱ椅子じゃ眠れない…」

 

座ったまま眠ることは出来なかった。

後、単純にスベっている元会長の話が五月蝿かった。

なんだ、鰹節に硬化魔法をかけて石斧代わりに使ったって、面白くもなんともない

 

「…膝を貸しましょうか?」

 

眠気でイラついていると隣に座っていた市原が膝を叩く。

眠たかった光國は返事をせずにそのまま市原の膝を借りて眠った。

 

「…あれ、良いの?」

 

そんな光景を見ていた雫はリーナに聞いた。

彼女としてあんな光景を見せられて殺意が沸かないのか気になった。

 

「別に構わないわ…イチハラなら別に」

 

本当にこれは正しいのか?と言う素朴な疑問から裏切り、光國についた市原。

彼女は光國に好意的で光國も彼女を嫌っている素振りを一切見せていない。

本当に光國は疲れているし、真実を知ってもなお裏切りない市原をリーナは信用していた。

 

「モテモテぐらいでちょうど釣り合いが取れるのよ…本当なら、九校戦じゃなくてテニスの世界大会に出れてたんだから…」

 

「…ごめん」

 

「気にしなくて良いわよ…どうすることも出来ないのだから…それになんだかんだで最終的にには私の手元に来るしね」

 

汚くて黒い笑みを浮かべたリーナ。

なんか謝った際の罪悪感が消えたが何とも言えない雫だった。

 

「…リーナ、余計なことはしなくていい」

 

この九校戦編だが裏社会の住人が深く関わっている。

具体的に言えば、九校戦の何処が勝つか賭けていて第一高校が優勝されると大負けする。

なので第一高校を潰したり、勝利する高校を変えたりとあの手この手と妨害工作をしてくる。

第一の妨害は第一高校のバスに衝突事故を起こすと言うものだが、そんな事故が起きたら九校戦は強制的に中止な可能性が出てくる。割と高確率でだ。

九校戦は膨大なお金が掛かっていて中止にしにくいとは言え、事故が起きて死人が出れば絶対に中止になる。

 

「…これ、中止にならない…のよね?」

 

衝突事故を防いだ深雪達。

バスは一時停止し、警察に通報したり事故が起きたと通行止めの準備をしたりとテキパキ動く。

 

「ならないよ…魔法師は此処に有りと証明した方が威嚇になるんやから」

 

裏社会の住人が深く関わっているのが分かっているのに中止にならない。

生徒達が強いとは言え大丈夫なのかとリーナは疑うが、魔法師の扱いなんてそんなものである。

 

「…?…」

 

「どうかしました?」

 

「…手塚くん…中止にならないのよね?」

 

「…リーナ…」

 

「…あ!」

 

全員が事故やばかったとか誰がなんの為にとか話していたり集中している中、膝を借している市原はただ一人気付いた。

リーナがおかしなことを言っており、人工魔法師の一件もあり言い間違いではないと感じて光國に聞けばビンゴした。

 

「…後で説明をしてください、仲間外れは嫌です」

 

「出来れば、聞かないで欲しいんだけどな…こりゃ大変だ」

 

「ま、まぁ、良いじゃない…頼れる人は多い方が良いわ」

 

完全にリーナのミスだが、特に攻めない光國。

と言うよりは攻めるよりも、とんでもない事に気付いた。

 

 

 

 

仮面ライダーオーディンが、バスのバックミラーに写っていた

 

 

 

 

そして七草真由美の小話はスベった。



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やり過ぎなドッキリは時として警察沙汰になる。

「大分予定より遅れているわね」

 

九校戦が開催される富士演習場南東エリアにやって来た第一高校の面々。

リーナは時計を確認すると、当初の到着予定時間よりも大きく違うことをぼやく。

 

「オレとお前が居なくても、同じ事になっていた…市原先輩、怒らないでください、殺気を向けないでください」

 

「では、早く教えてください…」

 

「その前にチェックインよ」

 

仲間外れで怒っている市原に怯えながらもホテルに入る光國達。

 

「…ま、そんなもんか…」

 

既に他の魔法科高校の生徒達はチェックインを済ませていて、その辺をフラフラと遊んでいたり、自身が出る魔法競技に向けて調整をしていたりする。

そんな中で騒動を起こした第一高校が遅れてやってくると何様か、もしくは偉そうにと色々と不満を持ち視線を向ける。

と言っても、それは家が凄い大きい家の魔法師ではなく桐原みたいな家の生徒達だけで、遅刻した理由ことバスの事故を名字に数字がある生徒達は知っていた。

 

「あ、光國くん!」

 

「…ヨシヒコ達と…紗耶香先輩?」

 

「だから、幹比古だって言っているだろう!」

 

自身の部屋を探していると、何故かいる紗耶香。

ヨシヒコ達は色々とコネを使って来ているのは知っているが、紗耶香が居ることは知らなかった。と言うか、万が一として出るなと忠告をしている

 

「光國くんが出ているなら、試合を見に行かないとってちょっとコネを…それに、ただ試合に出るだけじゃないみたいだし」

 

「…とりあえず、チェックインをして良いですか?」

 

余計なことをし過ぎたのだろうかと光國はチェックインを済ませ、自身の部屋に入る。

 

『コネクト、GO!』

 

「…それ、便利ね…」

 

コネクトで服等の必要な物一式を取り出す光國。

紗耶香は羨ましそうな顔で見る。

 

「悪いが、オレ専用や…部屋まで来てもらって悪いけど、外で歩きながら話すで」

 

『グリフォン、GO!』

 

今度はプラ・モンスターグリフォンを起動させる光國。

探してこいと言うとグリフォンは部屋の窓から飛んでいった。

 

「あの、今のは?」

 

「ざっくりと分かりやすく言えば、使い魔…魔法で動かすロボット…的なの…」

 

「…さっきから、サラッと凄いことばかりし過ぎです!!」

 

初めて見たコネクトだけでも充分凄いのに、魔法で動くロボット。

しかも難しい事をせずに出来ている優れものと、光國がちょっとでも本来の魔法を使う度に驚かされてばかりの市原は限界が来た。

 

「だから、使用制限されとんねんぞ…ホンマに市原先輩みたいな人に捕まっとったらまだまし…あ、無理やな…とにかく、外でなんか摘まみながら…何処に誰が居るのかが分からん」

 

グリフォンが見えなくなると部屋を出て、九校戦開幕までまだまだあるから軽くぶらつくと言い、ホテルを出た光國達。

ぶらついている雫達と遭遇しない様に意識しながら歩き、光國は説明をする。

 

「タイム、リープですか…」

 

「ええ…信じなくても良いわよ…タイムリープの原因が分からないと、している奴をどうにかしないとまた時間を巻き戻されるかもしれない、そうなったら光國と私しか覚えていないから…」

 

九校戦に参加せずに夏休みを遊び続けていたら、発足式の日に戻った。

その事を教えるのだが、やはり信じて貰えないと落ち込むリーナ。

 

「いえ、信じます…信じさせてください」

 

嘘だと疑う気持ちはあるが、世間に見られると言う大きなリスクがあって出ないと言い続けた光國。

そんな光國がわざわざ九校戦に出ると言ったのだから、信じないわけにはいかない。

 

「どうしてタイムリープをしているかは分からないけど…九校戦に出ることで正しいの?

光國くんとリーナだけがタイムリープをしているとは限らないし、こう言うのって相手が分からないとなにも始まらないわよね?」

 

九校戦に出ることが正解とは限らないと言う疑問をぶつけてくる紗耶香。

 

「いえ、これで合ってると思うわ。

何度も何度もタイムリープをしていく際に何度かニュースを見たけれど…この九校戦以上に凄い出来事は夏休みには無かったし…」

 

「とにかく、相手側がアクションを仕掛けてくれないとなにも始まらない。

ここから2、3回ほどループする覚悟は出来ている…また説明をしないといけないのか…まぁ、とにかく相手側がなにもしないならしないで普通に第一高校の代表として勝つ…とその前に遊ぶ」

 

頭の切り替えは大事だと光國は財布を取り出し、ご当地名物の料理の屋台が並んでいたり大手のチェーン店のアンテナショップ等がある通りを歩く。

 

「オレが全部出すので、頼んでください。

すみませ~ん…えっと、グランデバニラノンファットアドリストレットショットノンソースアドチョコレートチップエクストラパウダーエクストラホイップ抹茶クリームフラペチーノ…リーナは?」

 

「チョコレートクリームチップショットヘーゼルナッツシロップバニラシロップキャラメルソースチョコレートソースエクストラホイップエクストラチップを一つ」

 

「じゃあ、私は…ベンティバニラアドショットチョコレートソースアドチョコレートチップアドホイップマンゴーパッションフラペチーノで」

 

「……市原先輩?」

 

リーナと紗耶香は注文したが、まだ注文していない市原を気にする光國

 

「あの…その…アイスココアで…」

 

 

注文の仕方がイマイチ分かっていなかった市原はモジモジしながらアイスココアを注文した。

 

「「「(可愛い…)」」」

 

三人の気持ちは同調した。

それぐらいまでに市原は可愛かった。

そして、市原以外が一日に必要な摂取カロリーを一杯で摂取したことに気付かない。

 

「…ところで、大丈夫なの?

光國くんは親とか友達とかに見られたくないから出たくなかったんでしょ?

仮にタイムリープから抜け出す事は出来たとしても…その、御家族と」

 

魔法師の才能を持っている人や、魔法師を受け入れる普通の人、魔法大学の生徒に魔法科高校のOB、汚い大人…そして保護者である。

他の魔法科高校の生徒と大人が仲良くしているのを見て紗耶香は光國が恐れている事を聞いた。

 

「手塚くんの御家族は…魔法師が嫌いなんですか?」

 

「…少なくとも、魔法師は周りに居ないのが当たり前の環境やった。

オレや周りの奴等は魔法師がどうのこうの言う奴等じゃ無いけど…世間が避ける様に魔法師も避けている…ホンマに何処かで向き合わんと…ここに来ている魔法師じゃない人達は魔法師を受け入れる人達や…魔法師がどうのこうのよりも数年間家に帰らずの息子が危険な場所で危険なことをしている、そっちの方が問題や」

 

曖昧な答えで返す光國は何処か寂しく悲しそうな顔をしていた。

これ以上は掘り下げないでおこうと紗耶香は聞くのを止めた。

 

「正直な話で言えば、仮に来たとしても一緒に歩きたくない…父親と一緒に歩くのは恥ずかしいし」

 

思春期らしい恥ずかしさがあるんだと良いものを見れた紗耶香達。

この後は普通に飲食通りを回ったりして、楽しみ夕方になるとホテルに戻り代表選手一同はまだ変わっていない制服に着替える。

 

「第一高校…アレって二科生?」

 

一高から九高までの親睦を深める懇親会。

やはりと言うべきか、達也と光國とエリカは浮いてしまっていた。

 

「っふ…」

 

「何故、お前はドヤ顔で居られる?」

 

浮いてしまっている光國は疎外感を感じないが何故かドヤ顔のリーナ。

 

「もしかして、一科生に勝った二科生って」

 

「これをドヤれずにはいられないわ…」

 

「ところで、彼処にいるのって徳川の埋蔵金を引き当てたクドウ?」

 

「…」

 

光國が凄い奴と見られていることが嬉しいリーナだが、徳川の埋蔵金の事を言われると顔を真っ赤にする。

有名の度合いと顔と言う意味ではお前の方が遥かに上だと光國は笑う。

 

「やれやれ、そんなに私達が珍しいのかしら?」

 

ノンアルコールシャンパンが入ったグラスを片手にやってくるエリカ。

二科生が代表選手として出席していると言う視線が気になっている…だが、そこには嫌だと言う負の感情は無い。

 

「一高では達也やエリカが良いカンフル剤になっている。

全ての道はローマに通ずる宜しく、この道は魔法師に通ずると何らかの道を探しだした者もいれば諦めた奴もいて、全員が全員何処かスッキリしている」

 

「そうね…段々と評価されるようになってきたし、此処で良い成績を出せば他の人の希望になれるわ…私が最後の希望よ…なんちゃって」

 

希望好きだなと思いつつも、ウェイターから飲み物を貰う光國。

 

「希望なのは良いが、来年は勝て」

 

結局のところはまともに勝てたのは一人もいない。

光國は勝てたけど、色々とやっていたので勝てなかった。

壬生が使った策はもう二度と使えないし、余り使うのはよろしくない。

 

「お前も西城もヨシヒコも柴田も全員負けたんだ」

 

「っぐ…」

 

「森崎と剣術一位の男から勝ち星を奪えて、一年で上から数えて直ぐの成績の奴等と互角に渡り合えただけでもよしとする…訳にはいかんぞ」

 

浮かれるなと釘をさし、人気の無い壁際に立って静かにする光國。

リーナも側に寄る。自分と光國は一緒だと示すかの様に胸の谷間で腕を挟む。

 

「少しよろしいでしょうか?」

 

さっさと出てこいクソジジイと考えていると、第三高校の女子生徒が声をかけてきた。

 

「なにか用かしら?」

 

「貴女ではなく、そちらの方に」

 

「オレか?」

 

他の学校の生徒達はエリカや達也には一切声をかけていないので意外だと驚く光國。

女子生徒はリーナを見ずに、じっと光國を見てくる。

 

「貴方は一科生に勝った生徒でしょうか?」

 

「…え、聞いちゃうの?」

 

第三高校は名前を出したが、第一高校は試合結果のみを発表した。

成績の悪い二科生が奇跡の逆転勝ちと言う結果を彼女というか第一高校以外のこの懇親会に参加している生徒全員が気になっていた。

今まで居なかった二科生の代表選手と言うだけでも驚きで、我慢できなかった彼女は対抗戦に出たと見る光國に聞いた。

第三高校は二科生に位置する生徒達が調子に乗らない様に、対抗戦をした。

結果は大勝利、一切の慈悲無く全勝した。だが、第一高校は圧勝とかではなく互角以上だったと知れば、気になって気になって仕方ない。

 

「勝ったけど、なにか問題でもあるのか…えっと」

 

「一色愛梨よ、ほら、エクレール」

 

「あ~はいはい…クリプリスとかと同じクソダサ中二病的な二つ名がある一色愛梨か…どーも、テニスの王子様です…」

 

リーナから説明を受けるとほくそ笑みを浮かべる光國。

実際問題、ダサいと、二つ名がついているのはクソダサい(偏見)

 

「誰が…中二病と?」

 

静まる懇親会の会場。

愛梨は明らかに怒っており、光國を睨んで圧迫する。

 

「…そう呼び出した奴だ…っと、そろそろか」

 

「っ!」

 

全くといって自分を気にしない事で更に怒りが増していく愛梨。

一言ぐらいなんか言ってやろうとするのだが来賓者をはじめとする偉い人達からの割とどうでも良い祝辞が始まり、なにも言えなかった。

そして大体の偉い人達からの挨拶を終えると一番偉い人こと九島烈からの挨拶

 

「お前達、ちょっと身構えておけ」

 

「分かったわ」

 

「なんですか、急に」

 

「ええから、やれ」

 

となる筈。

ほくそ笑んでいた光國は真面目な顔をして臨戦態勢に入った。

するとどうだろうか、会場の電気は消えて九島烈が居る所にスポットライトがついた。

 

「誰!?」

 

スポットライトがついた所には九島烈は居なかった。

その場にはドレス姿の女性しか立っておらず、どういうことかと愛梨は驚く。

達也と真由美、そして精神干渉が効きにくかったり、視力強化とか見えないものが見えるようになる魔法とかが使える数名の生徒は気付いた。

九島烈はそこに居るのだが、居ないように誘導する魔法を使用している事に。

女性に集中している為に意識が九島烈には向かなかったりするのだが

 

「テロリスト、くたばれやぁああああ!!」

 

「ぐふぉあ!!」

 

光國は九島烈目掛けてライダーキックをした。

変身も魔法も一切使わずに渾身のライダーキックをくらわせた。

ライダーパンチ?…魔法使いはライダーパンチ使用禁止だ!!

 

「閣下!?」

 

「なんだクソジジイか…」

 

九島烈はちょっとしたお茶目な事をしようとした。

本当に悪意なんてなく、見抜ける奴がいたら面白いなと言う感覚でやった。

このバカとリーナが居ると言うのに油断をしていた。そして光國はクソジジイがサプライズをやるのを知っていた。

日頃の恨みを憎しみをぶつける唯一のチャンスだと全力で九島烈を蹴り飛ばした。

 

「おいこら、クソジジイ!!

こんな大事な場でアホなことしてんじゃねえぞ、近年危険なの増えてるんだぞ!!

どうせアレやろ、自分がテロリストなら固まってるお前達何時でも殺せた的な事を言うつもりかもしれんけど、テロ擬きはアカンやろ…予告なしの避難訓練は心臓に悪いんやぞ!!」

 

そして胸ぐらを掴み叫ぶ光國。

あの九島烈に対して、蹴りをくらわせただけでなくクソジジイ呼び叫ぶ。

その光景を見た魔法科高校生達は衝撃し、固まった。

 

「ふ、ふふ…確かにちょっとしたサプライズをしようとした。

しかし、残念だ…君以外はまともに動こうとすらしなかったのだから」

 

「クソジジイ、そう言う問題ちゃうで」

 

掴んでいる手を放すと壇上に戻る九島烈。

マイクを手に取り、ペコリと頭を下げた。

 

「他にもなにかして来ると思ったが、一人だけだったとは…戦場では命取りだ」

 

「戦場ではやろうが…TPOを忘れたのか、認知症クソジジイ」

 

「さて、知っての通り近年魔法師と一般人には溝が出来ている」

 

日頃の恨みを憎しみをぶつけてきたことが予想外だが、慌てない九島烈。

直ぐに脳を回転させて、光國への反撃手段を思い付く。

 

「これから先、魔法師はか弱い一般人に手を差し伸べなければならない…故に人間力が高くなければならない。

高貴な者は高貴な者同士で、下等な者は下等な者同士で交流をと言う考えをしているがそれは違う。

高い位置に立っていれば、分からなくなることが多い、その逆もだ…だからこそ、下の者との交流は必要だ。下の気持ちと言うものを知って上に立たなければ、本当の意味で一人前にはなれない。下の者も上を知り、上の苦労や努力を学んでほしい」

 

良いことを言っている様に見えるが実際のところはただの人を下に見ているクソジジイ。

しかし、此処にいる大半がエリートで、ただのエリートではない。名家のエリートばかりでお上の存在。世に言う勝ち組だ。

他の人のおめでたいなどと言う祝辞の挨拶とは違うのと、第一高校の一科生と二科生の対抗戦で二科生が勝利したと言う事実もあって、心に響く。

 

「そして、明日のレクリエーションだが…詳しいことは明日、彼が説明をする」

 

「え、ちょ」

 

言うまでもないが、そんなのを光國は考えていない。

自身の手元に置いているが、予想外の事をする馬鹿(手塚光國)

九島と言う存在が余りにも大きく、勝てないと見抜いているから首輪で繋ぐことは出来ているが、油断すると手を噛まれる。とにかく暴れる。

世界中の魔法師が畏怖し尊敬する自分を裏ではなく堂々とクソジジイと呼んで、研究に協力してるんだから金寄越せと堂々と言うのはあのバカだけである。

インターネットと言う誰にも止めることの出来ない諸刃の剣を使って、魔法科高校及び魔法師の意識改革をさせるなど、自身とは異なる視点で見ているためにちゃんと言うことを聞いてくれれば良いのだが、あのバカは言うことを聞かない。

同情をして監視役になったリーナも今ではあの状態、九島の名を持つ自慢の孫と関わらせなくて良かったと今日ほど思う日はない。確実に悪影響だ。

そして当人は知らないが、孫娘の方は完全に影響を受けていた。

 

「君達が将来考えなければならない事を深く考えさせ、乗り越えさせる事が出来る面白いレクリエーションだ」

 

口も悪く性格も悪く、学力も悪くはないけどなんとも言えず魔法力も悪くはないが何とも言えない光國。偏見的な目で社会を見ており、独自の価値観や思想を持っている。

物凄い天才は常に必要だが、物凄い馬鹿も時々必要だ。物凄い馬鹿は枠をはみ出したり壊したりして天才が出来ない事をする。

ああいうのは時折必要で、どうにかして動かせないかと1つ試す。

 

「このクソジジ…!」

 

全員が全員、九島烈と自分を見ているそんな中、真由美も達也も、九島烈の魔法を見抜いていた他の生徒は気付いていなかった。

光國もそんなに意識をしていなかったし、成果らしい成果は出ておらずまだかと思っていたが

 

ギャオウ

 

プラ・モンスター ブラックケルベロスが偶然目に入って、頭が一瞬だけ真っ白になった。

 

『…』

 

ブラックケルベロスと一瞬だけ目が合うと此方に来いと首を後ろに二回向けて、懇親会の会場を出ていった。

 

「…覚えとけよ、全力で嫌がらせしてやる」

 

「ちょっと、光國何処に行くの!」

 

「レクリエーションの仕込みだ…後で何名か手伝って貰うぞ!」

 

特になにも考えていないが、この場で懇親会の会場を抜け出すにはうってつけの理由だった。

全員が全員、光國が出ていくのを見ていたのだが誰一人追いかけようとしなかった。

 

「さて…どんな答えを見せてくれる?」

 

九島烈は光國に期待をしていた。



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一度起きた病みと闇はドミノ倒しの倒れていくドミノの如く増えていく

光國が懇親会の会場を抜け出した後、他の来賓者や偉い方の挨拶を終えた。

九島烈にライダーキックを叩き込んだ事はなかったかの様になっているが、光國の事を気にしている人は気にしている。

 

「確実にアドリブだけど、大丈夫なのかしら?」

 

愛梨も光國の事が気になっており、何事も無かったかの様にいるリーナに聞いた。

 

「まぁ、何だかんだでどうにか出来ると思うわよ」

 

リーナは光國を心配する素振りは見せない。

魔法関係の知識量では上回っているが、頭の回転や視点が違う光國ならどうにか出来ると信頼していた。

実際のところは、なんにも考えていなかったりするのだが割と即興で浮かべることは出来る。

 

「随分と信頼してるようですが…何故、彼と一緒に居るの?」

 

「…なんでそんな質問をするの?」

 

「…彼は、ハッキリと言えば下の人よ。

世界最巧の魔法師たる御方をあろうことかクソジジイ呼ばわりで、態度も悪い。

こう言った場でも改めず…貴女の品位を疑われて下げることに」

 

「なるでしょうね」

 

「!」

 

光國と一緒にいてはいけない。一緒にいれば、周りの評価も下がる。

愛梨は光國を見てそう思ってしまった。そしてそれは事実だったりするので、リーナは一切の否定をしない。

 

「光國は下の人間よ。

生まれも何処か凄い家でもないし、魔法師としては中途半端。

金魚の糞って言われたらある意味そうかもしれないわよ…言っておくけど、だからこそ高貴な存在が手を差し伸べなければならないなんて義務感は無いわよ」

 

「なら、どうして」

 

「罪悪感とか同情だったわ…昔はね」

 

リーナは思い出す。

魔法科高校に通うまでの光國との三年間を。

とても楽しかった…魔法師として鍛えている時以外は、とても楽しかった。

魔法師として鍛えている時の事は思い出したくない。ただの人だった光國はただの人をやめる為に必死になって、何度も何度も吐いていた。

そんな事はしなくても良いと否定して、止めることを自分は出来なかった。いや、止める素振りを見せることすら出来なかった。

 

「でも、今は普通に好きなの。

上には上がいて、上の人だった私は下の人だった光國と色々とやったわよ。

大豪邸とかプライベートビーチとか山海の珍味とかそんなのどうでも良いわ…普通のアパートで、ちっぽけかもしれないけど幸せな時間…貴女は過ごした事があるのかしら?」

 

「…」

 

「この懇親会から、つまんない顔をしているわよ貴女」

 

男どころか女も魅了する深雪を見て上とか下とか、これだから男は的な事になっていた愛梨。

リーナはそんな愛梨を見て面白くないと思った。つまらないとしか感じなかった。

 

「一色なの?愛梨なの?一色愛梨なの?」

 

「…どういう意味?」

 

リーナが聞いたことが分からない愛梨だが、リーナは意味は答えない。

自分で考えるも答えが分からず気になる愛梨

 

「…答えが知りたいなら、光國の方がよく分かっているわ」

 

説明しずらいので光國にパスをするリーナ。

これ以上は特に難しい会話なんてせずに懇親会は幕を引いた。

 

「何処だ…何処にいやがる!」

 

一方その頃、光國はブラックケルベロスを追いかけ駐車場までやって来た。

道案内をするかの様にブラックケルベロスが駐車場まで導いてくれたが、駐車場に着くと姿を消した。

それはつまり、この駐車場に白い魔法使いこと仮面ライダーワイズマンがいると言うことなのだが辺りを探すも誰もいない。

 

「グリフォンを呼び戻すか」

 

一人では見えないものが見えるかもしれないとベルトを起動させグリフォンの指輪をはめて呼び戻すのだが

 

「光國君…」

 

九島烈の孫娘こと藤林響子が来た…グリフォンを掴んでだ。

 

「げ…」

 

「スパイ行為は戦術として立派だけど、九校戦では禁止されているわ…と、普通の生徒ならちょっと説教をしたけど…なんで九校戦に出ているの!!ダメじゃない!!!」

 

「ちょ、藤林さん」

 

「響子さんでしょう!

スパイ行為するにしても、グリフォンを使っているし…なんで、なんでそんな危険な事をするの!君は此処にいちゃダメなのよ!!」

 

グリフォンを手放し、光國の肩を掴み叫ぶ響子。

彼女の事を知っている達也ことお兄様がこの光景を見れば、きっと驚くだろう。

それほどまでに普段の落ち着きのある彼女とはかけ離れていたのだから。

 

「説明、説明しますから…て言うか、こんな所におってエエんすか、もう若くないんですよ…合コンのひとつでも」

 

光國が古の魔法使い・ビーストになった後、魔法師としての基本を学んだ。

CADとはなにか?魔法は情報を改変しているとか、古式魔法とはなんだとか、それこそ魔法師の家に生まれた子供なら10歳になるまでに全部覚えている事を光國は教えられた。

なんとなくとはいえ光國はその辺は分かっていたのだが、文字通り0からのスタートなので九島もどうしたら良いのか分からず取り敢えず文字通り一から教えた。

そしてリーナとの出会いがあり、魔力を常に食べ続けなければならない事が知られた。

その後は東京に暮らしだした光國は響子に魔法師関係の勉強を教えて貰っていた。

 

「君を見捨てて私だけ幸せになる…そんな事、そんな事出来るわけないじゃない!」

 

「あ、自分は何時でも結婚できる勝ち組発言」

 

数少ない事情を知っている響子は最初は可哀想だと思い、熱心に教えた。

そして、魔法師も悪いものじゃないと励まして魔法師の道を勧めており、逃げるに逃げれない光國は魔法師になる為に色々と勉強をしたが響子は分かってしまった。

 

手塚光國には魔法師としての才能が無い

 

と言うことに。

決して光國は成績は悪くはない、悪くはないが凄くもない。

死ぬ気で勉強して100点取るぞ!ではなく死ぬ気で勉強して80点以下の点数を叩き出さないぞ!と言う人間の光國、頭は悪くはないのだが達也と言う天才を知り、周りが名ばかりじゃない本当のエリート集団で彼女自身がエリートだったので才能が無いんじゃと感じてしまった。光國自身も勉強でエリートに勝てないのを認めていた。

 

「それで、こんな所でなにを…まさか、死のうとしていたんじゃ」

 

「いやいやいや、しませんって」

 

勉強以外も色々と教えていた響子。

魔法師だからと言って、なんでも魔法で解決したりしたらダメよと心に学ばせることを教えていた…が、光國(馬鹿)は弾けた。

いくら前世の記憶があっても、人を流血させたり殺すレベルの暴力を振るうことには躊躇いがある。響子には余りそう言うのが無かった、そう、無かった。光國にはあった。

中身おっさんの転生者といえども、普通だった光國は普通をやめる為に色々とやった。

それは気持ち悪くて仕方なかった。自身やリーナが嘔吐してしまう程だった。光國も嘔吐していたが、止めなかった。一緒にいたリーナは、響子はやめてほしかったけど、何時大きな戦争になるか分からないこの時代で魔法師になれば当たり前になると、避けては通れない道だった為に止めれなかった

 

「自分の幸せ、考えた方が良いですよ?」

 

「…別に、いいわよ…見捨てて幸せにはなりたくないわ」

 

光國は優れた環境での努力で補っているが、魔法師としての才能は無い。

しかし、他の事には才能があった。響子は思った。

 

こんな事って、良いの?

 

と言う疑問を、素朴な疑問だ。

人工的に魔法師を作れるようになれば、魔法師全体に影響を及ぼす。

だが、確立された人工魔法師製造法が出来たら九島は独占する。

そもそもの話で人工的に作れてもなにも変わらない。意識改善が大事だったり、軍事利用以外の科学等で置き換え出来ない魔法だからこそ出来る技術の開発が必要だったりする。

 

「君は、こんな所にいちゃダメなのよ…」

 

そっと耳元で呟く響子は少し精神が壊れている。

自らで狂おうとしていた手塚光國をどうにかしないといけないと本気で考えている。光國を救いたいと思っている。

九島烈の事が大嫌いになっていた。何処かの名家のエリートと結婚なんて出来ないと悪影響を受けていた…でも、なんにも出来ないのが現実である…今の時点では

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン!シャバドゥビタッチヘーンシーン!』

 

「っ、何処だ!!」

 

過保護な響子に困っていると、白い魔法使いドライバーの音声が駐車場内部に広がる。

音が響く構造なのか、発生源が分からず手当たり次第探すのだが見つからない。

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン!シャバドゥビタッチヘーンシーン!』

 

「なに、なんなのこの音は!」

 

光國は光國、仕事は仕事(それはそれ、これはこれ)と気持ちを切り替えた響子。

驚きながらも臨戦態勢になり、何時でも誰かを呼べるようにする。

 

『チェンジ、ナウ!」

 

「…何処にいるんや…」

 

探しても探しても見当たらない。

響子から解放されたグリフォンが飛び回るが何処にもいない。

 

「光國、これはまさか!」

 

「ああ、そのまさかや!」

 

「光國君、どういうこと?」

 

「ざっくりと言えば、オレと同じ指輪の魔法使いがいる…」

 

「なんですって!?」

 

古式魔法師とはなにかと関係深い九島。

指輪を使った魔法があるのは知っているが、光國が使っているタイプは光國しか居なかった。

 

「何処、何処なの!?」

 

「落ち着いてください!」

 

「落ち着けるわけが無いじゃない…光國君以外にも、同じことが出来る人がいるのよ!!」

 

九島の手に渡れば、どうなるかは分からない。

だが、今ここで保護することに成功すれば、停滞している今の状態からなにかが変わる。

興奮を隠しきれなかった響子を落ち着かせようとするが

 

『チェーン、ナウ』

 

「そこって、マジか!」

 

姿を見せない白い魔法使いは攻撃をして来た…二人の直ぐ近くにあった車の鏡から一本の鎖が出てきた。

 

「異界から来やがったか」

 

ダイスサーベルをベルトから出して、鎖を切り裂いた光國。

今まで見向きもしなかった鏡を見るとそこには白い魔法使いがいた。

 

「この魔法はいったい…」

 

「多分、加重系とかで空間ねじ曲げて此処とは違う世界を剪定して、干渉して移動したんじゃないんすか?んでもって、その移動した世界は鏡が写し出せる世界…昔から、鏡は異世界とか真実を写し出したり出来るらしいんで…」

 

「そんな魔法、聞いたこと無いわよ!」

 

「オレ、基本的にこう言うのって専門外ですよ!テニスしか取り柄が無いんすよ!!

ただまぁ、魔法があると証明できたなら精霊も神様も地獄とか天国も隣の世界とか平行世界理論とか間違ってなかったり、実在する話ですよ!」

 

白い魔法使いが写る鏡を見つめる光國と響子。

あくまでも鏡が別世界を写し出しているだけで、鏡を攻撃したところで白い魔法使いには一切のダメージはない。

 

『クリアー、ナウ!』

 

「っ…」

 

鏡から飛び出してきた白い魔法使い。

その手には笛でもあり槍でもあるハーメルケインが握られていた。

 

「…君は、彼と同じなの?」

 

「シャファレジャロアミョムションショミムボリャエファンーグレンーデュジャフォファカデェジュジエブリョファショ?(この人はお前が仮面ライダービーストなのを知っているのか?)」

 

「おいこら、日本語喋れるだろう」

 

「シャウエウジャシュデェグフォシンムシャンファショエコロレジュガウファンバリャウ(こう言う特殊な言語の会話は必要だろう)」

 

「…ちょっと待て、もう一回頼む」

 

「てにゃわんな…シャファレジャロアミョムションショミムボリャエファンーグレンーデュジャフォファカデェジュジエブリョファショ、シャウエウジャシュデェグフォシンムシャンファショエコロレジュガウファンバリャウ!(この人はお前が仮面ライダービーストなのを知っているのか?こう言う特殊な言語の会話は必要だろう)」

 

「…えっと……ああ、そうだ」

 

「なにを言っているか、分かるの?」

 

「知識で知ってるレベルの言語で、使ってるやつははじめてみましたけど…て言うか、普通に日本語喋れるだろう!」

 

知っている人は知っている言語を使う白い魔法使い。

これは彼なりの優しさだった。

 

「|アミョイジャアビリェデェショフェンシェフォエショエコションレジュガウファン…アミョイロジムディエデェゴフェンオジュジエブリョフォ?(お前と俺しか出来ない会話が必要だ…お前は転生者であっているな?)」

 

「…ああ、そうだ。

オレはお前と同じ、ファントムを宿す指輪の魔法使いだ…まさか、他にも居るなんてな…」

 

「なんて言ったの?」

 

「そのベルト、原型(アーキタイプ)だが…貴様も同じ魔法使いなのか?って…法則性とかどういう翻訳とか教えれませんよ…オレ自身もイマイチ分かってませんし」

 

「じゃあ、キマイラが」

 

「知らんな、この様な言語…」

 

「…|アミョイロデョデュアフェカベリャショエデェジエブリョショ?(お前はさすおにを理解しているか?)」

 

「これがどういう魔法か理解しているのか?だと?

オレはそう言った事を考えるのは苦手で知らん…と言うよりは、こんな魔法はカーディナル・ジョージだろうが、トーラス・シルバーだろうが解析するの無理だろう…嫌でも日本語は使う気は無いか…」

 

「…光國君」

 

「…なんですか?」

 

本当は違うことを会話しているのに気付かれたかとビクッとなる光國だが、怯えていると感じる響子。

 

「あのザ・魔法使いみたいなのには日本語が通じるのよね?」

 

「ええ…て言うか、応援とかを呼ばないでくださいよ…誰を呼んでも死にますよ」

 

「呼べないわ…呼べば最後、君の事が知られてしまうから…それに誰を呼んでも死ぬと思うし」

 

仮面ライダービースト。

 

パンチ力 推測値5,3t

キック力 7,5t

ジャンプ力 ひと跳び31m

走力 100mを4,6秒

 

と言うスペックだ。

滅多な事では変身しなかったり、殺す意味での殴る蹴るが嫌な光國だが変身すれば尋常じゃない程に強い。これに加えて四つのマントに、今はなれないが強化形態もある。

魔法を使うのに数秒以上掛かったり、無駄な所が多かったりするのだが変身する前に殺す以外の攻略方法が無いぐらいに強い。

60キロを越える速度で走れたりする奴を魔法ありとは言え、倒すのは無理でありビーストに変身している光國は本来の使い手であるマヨネーズ使いよりも強い。

唯一勝てそうな跳躍力も勝ったところでビーストは空を飛べるので無駄である。

 

「…はじめまして、私は藤林響子です…貴方の名前は?」

 

「…」

 

日本語が通じるならばと対話を試みる響子。

 

「…答えたくないなら、答えなくて良いです。

君も、キマイラみたいなのを宿しているのでしょう…私と来てくれませんか?」

 

「…」

 

全て同じかどうかは不明だが、同じタイプが存在していた。

この事について喜ぶ響子だが、喜ぶ暇なんて何処にもない。他の誰かに見つかる前に保護をしなければならない。

 

「…アミョムロ、シャファデョシェフォフェションアシャブリョショデェジュジエブリョファショ?(お前はこの先なにが起こるか知っているのか?)」

 

「なんて言ってるの?」

 

「お前はこの力を知っているようだが、どうするつもりだ?って」

 

「どうもしな…いえ、保護します。

殆どの人が知らないだけで君やこの子の力を狙っているのは星の数ほどいます、どうか」

 

「エゴ、ミュベリャデェンゴバリャウ。フェンシェブリョロムエカシャイジャブリョシュイム(いや、無理じゃろう。出来る範囲を越えとるけん)」

 

「それは…まぁ、せやけども……いや、無理だろう。この人の出来ることじゃないって言ってます…意外に詳しいな、こいつ」

 

響子が光國や白い魔法使いを心配をしてくれるのはありがたいし、味方になろうとしてくれるのはありがたいが今のままでは、だから?となってしまうだけである。

彼女には絶対に近い力が無い

 

「…私じゃどうにか出来ないかもしれませんが!」

 

「|アミョイロジョジョショコフォエファショ?デェジュジエブリョフォボリャ、ダファジェショボリャフォボリャフェンシェブリョファンバリャウ?(お前は戦わないのか?知っているなら、その力なら出来るだろう)」

 

「…それは…えっと…|ジョジョショウジュジ、フォフェフェジョエデェジファン?グランウベリャガシュフェンショエシュイジュフェンシェブリョディショエデェンゴフォエムファンダン…デェングジュデェダンシュカウジェゴグルンジュジ、シャンジフェミョコブリョアフェエデョミョフェショジュフェロシャムジエカシュジュションイデュシュンボリャエファグリンジュファフォフェショションレジュガウフォムファン…シュグレンコフェンジュフォションビリェジョショジェシュファアビリェフェロフォフェミャフェンシェフォエ(戦うってなにに対してだ?暴力で解決出来る世界じゃないんだぞ…十師族を打ち破って、後手に回るお兄様に勝つには根底を覆すぐらいの別のなにかが必用なんだ…首輪で繋がれている家畜のオレにはなにもできない)」

 

「…てげな、やーや…」

 

知っている人は知っている言語で返事をすると驚いた白い魔法使い。

何処かの方言でしゃべると赤い指輪をつけて白い魔法使いドライバーに触れる

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン、シャバドゥビタッチヘーンシーン!』

 

「光國君、なにを言ったの!?」

 

「おい、ちょっ待てよ」

 

鳴っているベルトの音声と赤い指輪。

前者はともかく後者は光國が知っている白い魔法使いが使わないものだ。

無論、光國が知っている白い魔法使いと目の前にいる白い魔法使いは違うのはわかっているのだがそれでも驚きは隠せなかった。

 

『ヴォルケーノ、ドラゴン!ボゥー!ボゥー!ボゥーボゥーボォー!!』

 

「…マジかぁ…」

 

「彼は、ドラゴンを、宿しているの…」

 

白い魔法使いは仮面ライダーウィザード・フレイムドラゴンスタイル(SICver)に変身した。

 

「さらばじゃ、原型(アーキタイプ)、電子の魔女…また会おう」

 

『テレポート、ナウ!』

 

白い魔法使いは転移魔法で消えていった

 

「…いったい、なんだったの…」

 

「…」

 

命拾いをして落ち着くが、考える光國。

少なくとも、敵意や悪意は此方に向けてきてはいない…白い魔法使いは交流を取ろうとしてきた。

 

「まさか、他にも居るなんて…でも、よかったわ」

 

白い魔法使いが居なくなって一息をついた響子は嬉しそうだった。

さっきまで叫んでいたのが嘘のようにスッキリとしていた。

 

「光國君は一人じゃなカったわ…やっと、停滞から抜け出せたワ…」

 

しかし、光國を掴んでいて離そうとしなかった。



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特別競技 あの子のハートキャッチ・自分の心臓鷲掴み

白い魔法使いが現れた次の日

 

「仕込みをしてくると言っていたが…ホテルにそれらしいものは無かったな」

 

お兄様はハーレム状態(深雪、エリカ、雫、ほのか)と共に優雅に朝食を食べながら、今日やる予定のレクリエーションについて考える。

 

「手塚さんの事だから、深夜でレクリエーションをしてくるとは思わないけど」

 

「雫、労働基準法とかそっち系に引っ掛かるよ」

 

まだどんな内容か伝わっていない魔法科高校生達。

どんな内容かは手塚が伝えてくれる(考えさせられている)らしいが大丈夫かと心配しており、第一高校の生徒達も少しだけ恐怖感がある。

 

「大丈夫よ、ほのか…手塚さんは真面目にやれば凄い人なのを貴女も知っているでしょ…多分、どうにか出来るわ…多分」

 

「深雪、説得力にかけるわよ」

 

本当になにをするか分からない光國。

自分達の遥か上を常に行き続ける男、確実になにかをしてくると言える。

 

「あ、リーナと…ミキ」

 

「…ぼくのなまえはみきひこだ…」

 

大丈夫かなとなっているとリーナとヨシヒコと言う珍しい組み合わせに気付いたエリカ。

声をかけると死んだような顔で死んだような声でヨシヒコは何時もの訂正をした…

 

「え、え…どうしたの!?」

 

「…ちょっと手塚にレクリエーションの裏方を頼まれてね…うん…」

 

「…だ、大丈夫よ、ヨシヒコ…エリカやミユキなら絶対に越えられるわ」

 

余りにも昨日とかけ離れているヨシヒコに驚くと何とか元に戻ったヨシヒコ。

リーナとヨシヒコは裏方になりレクリエーションの内容を伝えられ、恐怖に支配されていた。

 

『「ピンポンパンポーン、魔法科高校の生徒の皆様にお知らせします。

レクリエーションは魔法を使わない、人間力を競う競技ですので裏方の方も是非参加ください。応援に来てくださっている生徒も参加して構いません。

11時から昨夜懇親会があった場所で詳しい説明を致しますので皆様、制服ではなく私服を着てください。制限の方は参加できません」』

 

なにがあったのと固まっていると、ホテル内に市原の放送が流れる。

彼女も光國に裏方を頼まれていたのだが

 

『「必ず…必ず、生きて帰ってきてください…七草元会長!第一高校の皆さん…いえ、魔法科高校の皆さん!」』

 

「いったい俺達はなにをさせられるんだ…」

 

普段の市原とは雰囲気が違うので謎のプレッシャーがかかる達也。

せめてとリーナとヨシヒコにレクリエーションの内容を聞こうとするのだが、逃げた。

 

「…達也くん、参加して…手塚くんが敵に回り、ミキ達が使い物にならない以上は達也くんが…最後の、希望なのよ」

 

殆どの魔法科高校生達が謎の恐怖心が煽られる中、時は進み昨日懇親会が起きたホールに向かった第一高校御一行。

 

「えっと…第一高校でラストだな…」

 

裏方をしているレオがチェックをいれた。

 

「レオも、裏方か…レクリエーションはなにをするんだ?」

 

「達也…絶対に生き残れよ…」

 

達也の質問を答えず、何十もの鍵を入口にするレオ。

お前なら多分大丈夫、なんだかんだでどうにか出来ると信じているのだが教えてくれない。

 

「皆様、お静かにお願いします……はい、皆が静かにするまで45秒もかかりましたね」

 

壇上に立ったスーツ姿が無駄に似合う光國。

何処の校長だお前はと軽くボケるのだが、スベってしまいなんとも言えない空気になるのだが光國は自らで壊していく。

 

「全員、なにをするか分からないと怯えさせて申し訳ない。

大丈夫だ、ホテルの屋上と屋上に鉄骨で繋げて、その上を歩かせるようなレクリエーションをするつもりは一切無い…あのクソジジイの言った通りの事をする」

 

将来考えなければならない事を深く考えさせ、乗り越えさせる事が出来る面白いレクリエーション。

自らでハードルを上げた光國だが、態度は相変わらずのままだった。

 

「…人間力とはなにかと言われれば、色々とある。

その中でなにが大事かって言われれば、コミュニケーション能力だとオレは思う。

自分は高貴な存在とか、家に相応しい友人とかそう言った考えを持っている奴がいるかもしれない。

オレはその事については特にああだこうだ言わない、変な奴と付き合って悪影響を受けたら、問題だ…が、見下したりするのはまた話が違う。

ここにいるのは、選ばれた存在、勝ち取った猛者達、エリート…かもしれないが、忘れてはいけない。お前達がその立場に立てたのは、支えてくれた人が居たから、持ち上げてくれた人が居たからだ。踏み台がいたからだ。

高貴だ下品だ気にしていているのならば、まだまだ甘い。周りが自分より上でも自分より下でも、自分と言うものを保ち続けたり、正面から接することが大事…やと思うんやけどなぁ、オレは。

でも結局、そう言う立派な奴は遥か上に立ってしまって、現場とか遥か下と関わったりしない嫌味な奴に見えてくるしなぁ…けど、上の人が威張れるのは現場の人が真面目でそつなくこなしていたりするから…あぁ、もう本末転倒やなぁ…」

 

「……何時かはどうにかしないとならないな…」

 

普通に良い事を言えるのに、何時も何時も肝心なところで変なことになる光國。

全員の心に響いたりするのだが、締まらない。達也はアレが今後光國が鍛えなければならない人間力だと考える。

 

「え~…では、レクリエーションの内容を説明します。

まず、このレクリエーションは魔法ではなく人間力、コミュニケーション能力を競います。

魔法師とか魔法師じゃない奴とかそう言うのを気にしている奴、魔法師=兵器とか言う考えをされて当然だ。魔法師=絶対とか思ってるなら、そう言う考えを受け入れろ。

世の中は戦争が起きないけど犯罪が起きる程度の平和がなんだかんだで回る…魔法を兵器以外の魔法でしか出来ない、置き換え出来ない平和利用方法を考えて次の一歩を踏み出した奴が魔法師業界の開拓者だ…はい、と言うことで、レクリエーションは学校対抗ナンパ対決だ!!」

 

「ちょっと待てぇえええい!!」

 

良い感じの事を言っていたのに、言っていたのになんでそうなるかと森崎は叫んだ。

それに続くかの様に全員がざわめきだす。

 

「手塚、なんでよりによってナンパ対決なんだ!」

 

「考え方を少し変えろ森崎、この九校戦を見に来てくれている魔法師の才能を持たない人達も来ているんだ…そう言うのを大事にしないといけないんだとオレは思う、ここ最近、世間は魔法師に厳しいんだ」

 

「そうなるようにしたのは手塚、お前じゃ」

 

「お前がオレ達にCADを向けてきたのが全ての始まりだからな!」

 

森崎を問答無用で黙らせる光國。

森崎が黙ると説明に入ろうとするのだが、ふざけんなと言う顔をしている奴が多かった。

 

「手塚くん、幾らなんでもナンパ対決って」

 

「はいはい、そう言うと思っていました。

けどまぁ、話を最後まで聞いてください七草真由美さん…貴女はお見合いをした事はありますか?いや、貴女だけじゃない。

この場にいる皆さん、お見合いをした事は御座いますでしょうか?心の中で手を挙げてください、目を閉じて心の中で思い浮かべてください、当時の事を!」

 

学生らしくないとか学生としてどうかと言おうとしたが、これぐらいは予想をしていた。

 

「お前は、なにを言いたいんだ?」

 

「クリプリス…お前は一条か?一条将輝か?将輝か?」

 

「ク、クリプリス!?」

 

今までプリンスとか言われていたが、クリプリスと言われたこと無いので驚く一条。

愛梨は光國の言葉にピクリと反応し、光國を見た。

 

「七草先輩…貴女はお見合いをして受け入れましたか?」

 

「…受け入れていないわ」

 

「他の人達も受け入れたり、受け入れなかったりしているだろう。

仕方ないと受け入れず、お見合いをしたりして幸せをゲットした人は本当におめでとうございます。

受け入れなかった人達は…どうして、どうして受け入れようとしなかったのですか?代表として七草先輩、答えてください」

 

「…結婚とか、まだそんな歳じゃないわ」

 

「許嫁と言う手がありますよね…そうですら無いのは、何故でしょうか?」

 

「……その人と、結婚したくはなかったからよ…」

 

「ですよね」

 

真由美の答えを聞いて満面の笑みを浮かべる光國

 

「まさか…」

 

達也は光國がナンパ対決をしようとする理由に気付いた。

 

「…きっと七草先輩は七草じゃなく、真由美として見て欲しいとか思っているんでしょう。

他にもお見合いを断った人達もそんな感じだろう…大半のお見合いは、その子の為を名目に家を安定させたりするために結婚させようとするんだろう」

 

このご時世のと言うか魔法師の許嫁やお見合いなんてのはそんなものだ。

上の階級の魔法師ほど望んだ結婚なんてものは出来ない…仕方ないと受け入れたりする。

中には相思相愛になって成功している人達も居るが、そんなのは一握りだ。

 

「お見合いが嫌だって、反発するのは勝手だ。

だが、一度でも反発したのならば、最後まで反発し続けろ。

自分を自分として、名前で見ない人と結婚したいとか思っているのなら思う存分して良いと思う。お前達は名前なんかなくても生きていける実力がある…お見合いが嫌だと言うなら名前捨てる覚悟を持たないといけない。都合の良い時だけ●●家とかそう言うのはダメだと思う…その内、言われるぞ●●家の名前を名乗るならばどうとか…大人になった後に親になった後に子供にそんなものを押し付けない大人になって欲しいと思う…このナンパ対決って言うのは、一種の反抗だ。

自分を保つことができて親や家の名前を使わずに自分の足で歩くことが出来ると言う証明を、覚悟を見せつける機会でもある。何時かはその覚悟を持つか持たないかの場所に立たないといけない…じゃあ、その反抗、何時やるの?今でしょ!」

 

時代的に尋常じゃない程に古い流行語を使う光國。

それが流行語だと言うのに気付かずに考えさせられる魔法科高校生達。

お見合いが嫌ならば全てを捨てる覚悟を持たないといけない、もし捨てられないならばそれは嫌なお見合いを受け入れなければならない。

 

「と言うことで、一般の異性を口説いてきてください。

魔法師はダメで異性でお願いしますよ…と、言いたいんですけど…人数多いので取り敢えず減らしますが…市原先輩、柴田、西城、ヨシヒコ、リーナ、紗耶香先輩、キャモン!」

 

ナンパをするだけで良いこのレクリエーション。

参加する気は無かった人達は参加しないといけないと考えはじめているので、やっとすすめるとバーテンダーの格好をした市原先輩達が出てくる…

 

「お兄様、アレは!?」

 

「て、手塚ぁあああああああ!!」

 

遂に叫んでしまった、本来ならば叫ばないのに何故か叫んでしまった達也。

バーテンダーの格好をした市原達は出てきた…ペナル茶やイワシ水などの特性ドリンクや、カラフルなおにぎりが乗ったお盆を持って。

 

「な、なんなのよ、あのカラフルなおにぎりは!!」

 

「あくと飯だ…さて、ナンパは一発勝負だ。

もし失敗したのならば、このおにぎりとドリンクを食べてもらう…参加しない奴等はドリンクだけを飲んでもらう」

 

「ごめんなさい…エリカちゃん…」

 

「許してくれ、皆…」

 

止めたんだけど、止めることは出来なかった美月とヨシヒコ。

この場にいる奴等全員に対して謝った…本当に、本当にごめんなさいと。

 

「あ~人数が多いので減らしますね。

許嫁とちゃんと結婚するとか普通に彼氏彼女とか居る奴は挙手してくださいね…こう言うのはフリーな奴がやらないといけないから」

 

「真由美、さらばだ!!」

 

「いくわよ、啓!!」

 

「うん!!」

 

ドリンクの恐ろしさを知る第一高校は走り出す。

今日はレクリエーションしか無いとは言え、アレを飲んでしまえば今日一日はなにもできないと、飲んでたまるかと死ぬ気で走る。

 

「あ、嘘をつくと困るのでキスとかしてください。

この場に彼氏とかが居ないならば、電話をして愛してると叫び愛してると返答させてくださいね…因みにここで告白をするのも大いに結構。

だけど、この九校戦で優勝できたら付き合ってください系の告白はNGだ…ヨシヒコ」

 

「なんで僕を名指しするんだ!僕は代表選手じゃ」

 

「そう言うな、柴田の胸を揉んでから良い感じだろう。

柴田もヨシヒコにだけ女の顔を見せてるし…良いんだぞ、皆が程よい温度の目でお前達を見ている」

 

「もう、殺してください!!」

 

参加しなくて良い条件が出ると走り出す生徒と途中で止まる生徒。

もし、この場で参加しないと意思を示せば最後、お見合いとかを断ったりすることは出来ない。仕方ないではなく、絶対に受け入れないといけないと気付く。

 

「悪いな、手塚」

 

「クリプリス…」

 

「一条だ…そう、俺は一条だ。

お前の言いたいことは分かるし、将来そうやって重荷を背負わせるのはダメだ。

だが、俺は一条将輝、十師族の一家、一条の跡取りだ…他の奴は好きな道を選んでくれ、俺は一条を選ぶ」

 

「クリプリ…じゃ、飲んでくれ」

 

このレクリエーションを辞退する意思を、自分は一条だと決めたクリプリス。

光國は市原が持っている炭酸飲料を渡す。

 

「甲羅だ…」

 

「やれやれ、コーラか。

炭酸飲料は余り好きじゃないんだが、こう言ったのも一つのコミュニケーションでレクリエーションなら喜んで飲もう」

 

コップを手に取った一条はストローを使わずにコップに口をつけて飲んだ

 

「きょええええええええ!?」

 

「将輝!?」

 

甲羅を口に入れると奇声をあげるクリプリスもとい一条。

普段はしないであろう顔をして、暴れまくるどころか魔法を発動してしまう。

 

「こっちよ、クリプリスくん!」

 

どうなっているんだとなるなか、窓を開けた紗耶香。

クリプリスは飛び回りながら窓の外に出ると、自身の周りを爆発させていき、爆風で上昇していき

 

「た~まや~!」

 

「…汚い花火ね、イチジョウ…」

 

美しく散っていった。

 

「将輝は炭酸飲料を飲まないけど、飲めない訳じゃない。

コーラであんな事になるはずはない…まさか、お前は毒を!」

 

「誰が何時、コーラだって言った!カーディナル・ジョージ!

コーラじゃない、甲羅…鼈の生き血を炭酸飲料と混ぜたジュースだ。多分、十文字先輩ならば飲み干せる…で、他は?」

 

甲羅の説明を終えるとドリンクの凶悪さを理解した第一高校以外の面々。

飲んで逃げようと考えはなくなり、ナンパを成功させない限りは死んでしまうと本能が叫んでいた。

 

「男性で一番成功しそうな一条が開始する前に脱落とは…あ、因みに優勝した学校にはオジイのウッドラケットと豪華焼肉セットが送られます。焼肉食べて、テニスで遊んでください」

 

こうして生きるか死ぬかのナンパ対決は幕を開けた



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知り合いをナンパしたり接客するのは一番辛い

「え~流石に全員纏めてナンパしに行くのはダメなので、各校一人ずつお願いします。

因みに音声を拾えるタイプの監視カメラで観ていますので、イカサマとかは出来ません」

 

渡辺摩利による彼氏への盛大なる愛の告白(公開処刑)を終えると、着替えてきた光國。

無地の黒い服で【他人の不幸で飯がうまい】と白い字で書かれていた。それは全員を煽るためだけに着ているのが分かる。

 

「さぁ、トップバッターは誰が行く!」

 

他人事なので笑うしかない光國。

各高校は集まって、会議をはじめる。

 

「確実に勝てるのは深雪…だけど、深雪が出れば最後、後に続く人が確実に失敗をする…」

 

「雫、なにを真面目に」

 

「達也くんは黙っていて!美しさと言う点では、対抗出来るのはリーナぐらいよ!

だけど、肝心のリーナは裏方で手塚くんが居るから、逃れる事が出来る…出る順番を間違えたりすれば、その時点で敗北確定よ」

 

「…申し訳ありません、私が邪魔になってしまって」

 

「深雪さんが気にすることじゃないわ」

 

 

なんだこれ?

 

 

達也は疎外感を強く感じてしまった。

逃げずに真面目にナンパ対決をするだけでもおかしいと言うのに、謎のテンションになっている雫、エリカ、深雪、真由美…と言うか自分以外。

本気で勝ちに行く姿勢は良いのだが、完全になにかちがう。九校戦で見せなければいけないのだが、何故かここで見せてしまう。

 

「頼むぞ、皆…」

 

全くといって被害が来ない立場のレオは第一高校の勝利を願っていた。

そこを俺と変われと達也は言いたいが、言えない。絶対に逃がしてくれない。

 

「トップバッターはオレだ!」

 

「じゅ、十文字会頭!?」

 

確実にとは言えないが、ほぼ高確率で成功しそうなエリカが前に出ようとしたのだが十文字が名乗り出た。

ここで十文字が来るのかと、いきなりで良いのかと服部元副会長は驚く。

 

「オレ達は声を掛けられる事はあっても、かける事は中々に無い。

事前の情報もなくどうすれば良いのか分からない…ならば攻めて口説くよりも守って口説く方が大事だ」

 

「そうか、十文字くんにはファランクスがあるわ!!」

 

「七草元会長、正気に戻ってください。

十文字会頭のお得意のファランクスは4種8系統の魔法をランダムで出して防壁を貼る魔法です」

 

「司波…ファランクスは防御魔法。

その気になれば、4種8系統の魔法を防ぐことが可能な魔法…つまり、4種8系統、肉食系、ガテン系、草食系、文科系、理系、様々な女性の攻めを防ぐことが、受けきる事が出来る。

男尊女卑など当に滅びた時代だが、オレにも男としてのプライドと言う物がある。女性の我が儘を受け入れつつも、己を通していく…任せろ」

 

達也のツッコミは一切効かず、トップバッターとして出た十文字克人。

まぁ、巌の様な方だし、心は大きくて入学した際には沢山いた名ばかりの魔法師とは比べ物にならないと少しだけ安心感を持った達也。

 

 

『「ごめんなさい、おじさんはちょっと…」』

 

大人な彼は学生の範囲内に納まる男ではなかった…そう、大人な、おっさんな彼はだ。

一般の女性を見つけ出した十文字は口説きに走ったのだが、おっさんだと思われた。

 

「すま、ない…」

 

「十文字会頭!!」

 

ナンパが失敗したので戻ってきた十文字は膝をついた。

何故か口から血を流しており、桐原がかけよって、肩を貸した。

 

「…どうやら知らず知らずの内にオレは慢心をしていたようだ。

今までの相手はファランクスを破ろうと無茶をしたり、ファランクスを無視して直接攻撃をしようとしてきた…ファランクスは4種8系統…それ以外は、どの種類でもない無系統の精神干渉系の攻撃には対応できない…ATフィールドが使えんオレは、まだまだか」

 

フフフと笑みを浮かべつつ、何処か満足げな十文字。

ATフィールドってなんだとなることはなく、市原が近づいてくる。

 

「まだまだ青二才な十文字会頭にはこの青酢がお似合いです」

 

「ぐぉぁあああああああああ!!」

 

「十文字くぅうううううん!!」

 

 

 

 

 

 

 

十文字克人 ナンパ失敗!!

青二才な貴方には青酢ジョッキイッキ!

 

 

 

 

「…死亡確認!」

 

「死んでいません、市原先輩…」

 

「まさか、十文字くんが失敗するだなんて…」

 

「第三高校の四十九院沓子、ナンパ成功だ!取り敢えず、最高級パフェでも食ってこい。代金はクソジジイのマジの個人資産から出るから気にせず食え!」

 

「天才的じゃろう…っと、それは本当かの!」

 

「っく、出鼻を挫かれたわ…」

 

「…」

 

諸事情と言うか人工魔法演算領域のせいで感情が薄い達也。

激しい感情を持てなかったりするのだが、今日はその事に珍しく感謝した。

一線引いて見守れる立ち位置から見て、とてもおかしかった…が、怪しい魔法をくらった形跡は無かった。

 

「任せてください、七草元会長…巻き返します」

 

いきなりの失敗で焦る真由美に良いところを見せようと二番手として出る服部元副会長。

十文字と違って親父顔じゃない。顔はそれなりで、モブかと言われればちょっとモブっぽいけども、それでも老け顔じゃない。

 

「将輝、君の分も僕がやるよ」

 

「お兄様…彼は、カーディナル・ジョージ」

 

「…そうだな…基本コードを発見したあのカーディナル・ジョージだ…」

 

「…女性が男性に求める基本的な部分を見せ、喜ばせるのね…」

 

エリカ、それはひょっとしてギャグで言っているのか?

何故か、彼等の輝かしい経歴なんかがナンパに変わってしまう。そして誰も指摘しない。

 

『「…あれ、あの人ってもしかしてカーディナル・ジョージ!?」』

 

「手塚、逆ナンの場合はどうなるんだ?」

 

「ナンパしたカウントに入らない…そのままナンパしにいけるルールだが…」

 

『「僕がどうかしたのかい?」』

 

吉祥寺はこの機を逃さないよと女性陣に近付く。

おおっと!生の吉祥寺に会えた事を喜び、二番手の吉祥寺もナンパ成功かと思ったら

 

『「って、事はクリムゾン・プリンスの一条様も近くに!」』

 

『「え、ああ…将輝は近くには居ないよ…」』

 

『「そう、ですか…頑張ってくださいね、優勝できると信じてます!」』

 

「…酷いな…」

 

クリプリスが居ないと分かれば離れていった女性陣。

まだナンパはしていないのだが、吉祥寺はホテルに戻ってきた

 

「…逆ナンだから、もう一度いけるんやけど…」

 

「手塚さん、やめてください…心、折れていますよ…」

 

「…っ…」

 

カーディナル・ジョージは凄いが、クリムゾン・プリンスの方が凄かった。

情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ?否、カーディナル・ジョージには美貌が足りなかった!!クリムゾン・プリンスに匹敵するほどの美貌が足りなかった。

 

 

 

 

 

吉祥寺、ナンパ失敗!未知の苦一人旅

 

 

 

 

後、皆が見てなかったけども服部元副会長がナンパ成功!

 

 

 

 

「これでイーブン…だけど、まだまだ始まったばかり!次は私が行くよ!」

 

 

 

三番手、北山雫!!

 

 

 

「はぁはぁ…雫たん、デュフフ…」

 

「どう見ても、ただの変態じゃない!!

一般人を口説くのがルールで、変態は失格よシズク!粉悪胃悪(コーヒー)でも飲んで、美的感覚を戻しなさい!|

 

「ぎゃあああああああ!!」

 

 

 

 

北山雫、変態をナンパしたことにより失格!

粉悪胃悪(コーヒー)で目を覚ませ!

 

 

 

 

 

「壬生…オレは、本当は」

 

「私、貴方の事は大嫌いよ」

 

「ぐっふぉあ!!!」

 

 

 

 

四番手、桐原武明!

ナンパする前に負傷し、不戦敗!

 

 

 

 

『「ど、ど…どうしよう…」』

 

五番手の光井ほのかは怯えながらも足を進める。

一番の友は死んでしまった。頼れるお兄様も、こればかりは力になれない。自分一人の力でどうにかしないといけないのだ。

 

「…ん?」

 

誰かにぶつかってしまったほのかをモニター越しで見ている光國

 

『「す、すみません!!」』

 

『「いや、此方こそすまない。

少々、人を探していて前を向いていなかった…」』

 

「あの人、デケえな!」

 

ほのかがぶつかった人の身体を見て、叫ぶレオ。

二メートルを余裕で越える背丈で、落ち着きのある男性だった…

 

「……この人、どっかで見たような…」

 

『「あ…」』

 

のだが、何処かで見たことあるリーナ。

何処だったかは思い出せず、男性が尻餅をついたほのかに手を差しのべて立ち上がらせたのだが

 

『「…」』

 

「え、ほのか!?」

 

「どうやら彼女は睨まれて、プレッシャーが掛かりこの人に従わないといけないと本能が働いたみたいだね」

 

 

光井ほのか、ナンパするどころか逆に連れていかれてしまい、失格!

シンジャエールとあくと飯とセスナの刑予定!

 

 

「ふぅ…皆、ダメすぎるわよ」

 

他の高校は着々とナンパを成功しているのに、イマイチな第一高校。

このままでは本当に魔法だけの集団になってしまうと危機を感じた真由美は真面目な顔で残った面々に言う。

 

「は、はじめてのことで焦ったりするのは仕方ないですよぉ!!」

 

「あーちゃん…そうね、巻き返しをするためにも私が出るわ!任せてね、達也くん」

 

「元会長、俺を口説いても意味はありませんよ」

 

「もう、冗談よ冗談」

 

六番手、七草真由美はホテルを出てナンパをしに行く。

 

「七草元会長なら、ナンパを成功しそうだな…あの人は落ち着きがあり、人を弄ぶ事が出来る…」

 

「司波くん…果たしてそれはどうでしょうか?」

 

モニター越しで元会長のナンパを見る達也。

真由美ならば十中八九の確率で成功すると言う安心感があったのだが、市原には心配する所があった。

そして何処か嬉しそうで、あくと飯とエクスタ(ティー)を用意していた。

 

「ふっ、完全勝利よ」

 

「待ってください、七草元会長…」

 

「なにかしら、西城くん?

と言うか、他の人達もそうだけど元会長じゃなくて先輩呼びにしれくれないかしら?」

 

「それは嫌です…あ!」

 

ナンパをしてきた子を調べるとなにかに気付いたレオ。

市原に耳元で気付いた事を伝えるとエクスタ茶とあくと飯を差し出した

 

「リンちゃん?」

 

「残念です元会長…その方は女性です」

 

「え?」

 

「お姉さまと呼ばせてください!!」

 

「残念無念、また来週です」

 

「きゃああああああああ!!」

 

 

七草真由美、異性をナンパしなかった事により失格!

あくと飯とエクスタ(ティー)

 

「貴方の栄光の道は、夢で見てくださいよ…|

 

「そ、んな…ガクッ…」

 

意識を失った真由美を見て、お坊さんが鳴らすおりんを何処かから取り出して鳴らすヨシヒコ。

摩利が参加していないので、これで第一高校の三巨頭は全滅をしてしまった。

 

「七草元会長…貴方の死は無駄にはしません!」

 

「普通に生きているぞ、深雪」

 

「此処からは私が指揮を取ります!さぁ、巻き返しましょう!!」

 

「…どうしてこうなったんだ」

 

ついていけない達也が悪いのだが、謎のテンションのまま進むナンパ対決。

 

 

「ヒャーヒャヒャヒャ、デビルズインフォレストランドだぁ!!」

 

 

 

森崎駿、悪魔化してハイテンションのままナンパ成功!!

 

 

 

 

「つ、連れてきましたよ!!」

 

「…もう可愛いわね!!」

 

 

 

中条あずさ、小動物扱いされつつもおネエのナンパ成功!

 

 

 

「いやぁ、危なかった!」

 

 

千葉エリカ、逆ナンされている草食系男子を助けた事により逆ナンパ成功!!

 

 

「…残り、二人で一高が一番リードしていますが…三高が直ぐ後ろに居ますね…」

 

とかなんとか巻き返している内に、他の高校は失敗を続けて気付けば一位の第一高校。

しかし、直ぐ後ろには第三高校の影があり、次に失敗をすれば第三高校が優勝をする可能性がある。

 

「…優勝をとるために、私が行きます。お兄様」

 

「…お前なら勝てるぞ、深雪…」

 

「待って、深雪。

ここで深雪が出れば最後の達也くんが影になってしまうわよ!

一高が勝つには深雪、貴方が最後じゃないと」

 

「エリカ、大丈夫よ…私だけが勝利すれば、お兄様に繋げることなく勝てるのよ。ナンパなんて破廉恥なもの、お兄様にはさせられません!」

 

それは俺がお前に対して言うことなんだよ深雪。

とは言えない達也は深雪を応援するが

 

「あら、随分と意気込んでいるじゃない」

 

「さ、三高はエクレールだって!?どちらも本気で勝ちを取りに来たぞ!!」

 

確実に勝ちを取れるであろう、三高の美女こと一色愛梨が参戦。

ここでナンパを成功しなければ三高は負けてしまうと本気で勝ちを取りに来て、走り出した。

 

「…甘いな…」

 

それとなく相手を探している愛梨だが、この時点で敗けだと達也は確信した。

 

「遂にお前も毒されたか」

 

そして光國は達也もボケる側の住人に来たと確信をした。

 

「深雪はお人形でもなんでもない、ありのままの深雪が一番なんだ」

 

観察したりとか走ったりとか慌てたりとか変な素振りを一切見せない深雪。

ただ普通に歩き、ただ普通にフルーツジュースを購入し、ただ普通に美味しいと微笑む。

それだけで深雪の美しさは輝き、歩く人々は魅了されていく。

 

『「そんな…」』

 

一色愛梨は胸は…まぁ、あれだけども美女だ。

絶世の美女だがしかし、今の深雪には勝てない。例えリーナでもだ。

 

 

 

 

 

『「私の美技に酔いなさい!」』

 

 

 

 

 

『「「「「「「「酔わせてください女王様!!」」」」」」」』

 

 

指パッチンをして決めると、周りにいた男性女性全てが膝をついてひれ伏した。

 

『「そん…な…」』

 

愛梨は敗北を認めてしまい、ORZのポーズを取ってしまった。

司波深雪には女としての美貌で勝てないと、劣っている、負けていると心の底から思い知らされた。

 

「よし、これで一高の優勝が決まった!」

 

「待って、ハゲ崎…アレを!」

 

ハゲ(森崎)が優勝に喜ぶが、まだ勝負は終わっていなかった。

深雪を中心にある程度の所までの人達が深雪の美技に酔って平伏しているのだが、深雪を見ていない人には通じておらず何事かとなっている。

 

『「どうしたの、君?

もしかして、財布でもなくした?俺が奢るよ?」』

 

「愛梨、そいつを連れて帰るのよ!!」

 

深雪に目もくれない一人の男性が落ち込んでいる愛梨に声をかけた。

第三高校最後の選手である十七夜は引き分けに持ち込むために叫ぶが、その声は届かない。

 

『「さっきから可愛い子がいっぱいナンパしてたけど…もしかしてナンパ対決でもしてるの?」』

 

『「何故、それを…」』

 

『「うわぁ…本当だったんだ…じゃ、オレと一緒に行こうよ。

そうすれば罰ゲームとか無さそうだし、オレも可愛い子となんか出来る一石二鳥でラッキー、ラッキーってね…負けたらイギリス料理かな?」』

 

「…あれ?」

 

愛梨を助けようとする男を見て記憶の奥深くに眠っているなにかが呼び覚まされるリーナ。

さっきほのかがついていった奴もそうだけど、コイツも何処かで見たことあるような無いようなと必死になって思い出そうとする。

 

「そんな…」

 

自分一人だけ勝つ筈が、偶然を取ってしまった愛梨。

このままだとお兄様に回ってしまうと焦り出すのだが、愛梨は止めれない。

 

「連れてきましたよ…」

 

一色愛梨、ナンパ成功……

 

「おぉ、美男美女がいっぱいだ!

あ、もしかして魔法科高校の生徒?…いやぁ、遺伝子操作されてるとか言うけど、美人とかイケメンになるなら俺も遺伝子操作されたいなぁ…」

 

ニッヒッヒと汚い笑みを浮かべる愛梨が連れてきた男性。

美女が多いし、御近づきになれないかなと沢山の生徒を見ていると

 

「…君は!?」

 

リーナを見て、表情を変えた。

それと同時にリーナも誰か思い出して、後ろを振り向いた。

 

「確かあの時の…」

 

「…ええ、そうよ…」

 

「って、事はやっぱり此処に…いたぁ!!」

 

「…すまん、西城、後はお前に全てを任せた!!」

 

男は光國を見ると叫び、光國は今まで見せたことの無い速度で走り出した。

 

「皆、光っちゃんがいたよ!!

やっぱり、魔法師になったって言う噂は本当みたいだ!!!!」

 

光國を追いかけてホテルを出ると叫ぶ男。

背負っていた大きな肩掛け鞄からラケットとテニスボールを取り出した。

 

「ね、ねぇ、アレってもしかして?」

 

第八高校の名もなきモブ崎以上のモブで男子クラウド・ボール新人戦に出る予定のモブは愛梨が連れてきた男性の正体に気付いた。

 

『「光國が居たと言うのは本当か?」』

 

『「月さん、本当だよ…ほら、あそこ、あそこ…て言うか、ナンパしてたの!?」』

 

『「…あれ、手塚さん?」』

 

男の叫びにより、ほのかがついていってしまった長身の男性もやって来る。

ついでにほのかも帰って来たのだが、そこは気にせずに長身の男性はラケットとテニスボールを借りる。

 

『「オレのボールでもラケットでもなく、テニスコートでもないこの場所だが…さしあたって、オレのサーブには影響は無い!!」』

 

光國にボールを当てようとサーブを決める長身の男性。

そのサーブは誰にも捉えきれない速度で、光國の後頭部に向かうのだが光國は念のためと持ってきた優勝景品のオジイのウッドラケットで難なく打ち返した。

 

『「ほぉ、これを打ち返すとは流石は光國はん…ほなら、これはどうや!!佰八式波動球!!」』

 

「え、っちょ、佰八式!?」

 

打ち返したボールが長身の男性の元に返ってくると、現れた坊主頭の男性。

打ち返したボールを更に威力を上げて打ち返して、光國を狙うのだが

 

『「波動球よりも俺の足の方が上やっちゅう話や!!」』

 

それよりも速く走る男が光國に追い付きそうだった

 

『「甘いな、お前は縦には強いがジグザグには弱い」』

 

『「え、っちょ、待てや光國!!そっち行ったら、アカン!!」』

 

『「次はコシマエか?それとも立花か?

例え誰が来ようとも、お前達はオレを捉えることは…うげっ!!」』

 

追いかけてくる男からも逃げた光國。

完全に身を消そうとしたのだが、ジャージを着た中年親父にお腹をドロップキックされる。

 

『「…お前んとこの親父さんが仕事で来てるっちゅー話や…」』

 

『「マジで…」』

 

「…誰なんだ、アイツ等は?」

 

モニター越しで光國が破れるのを見ていた生き残った生徒達。

第八高校のモッブに正体を訪ねる。

 

「No.4、越智月光、No.7、戦極清純、No.5 石田吟 No.8 忍足謙夜

…どれもこれも、高校生以下で一桁代に入る日本最強のテニスプレイヤーです…世界大会のU-17が近いのに、どうしてこんなところに…」

 

「ん~…光っちゃんは手紙を読んでないね…はぁ」

 

ホテルに戻ってきた戦極は大きくため息を吐いて、ポケットから1と書かれたピンバッジを取り出す。

 

「取り敢えず、居場所が分かっただけでも良しとするか。

あ、リーナちゃん、伝えてくれないかな…今回日本で開催する事になった、テニスの国対抗の世界大会ことU-17の日本代表主将に任命するって」

 

「…え!?」

 

恐怖のナンパ対決は、波乱の巻く引きをした。

 

 

そして九島烈のマジで好き勝手出来る個人資産が若干減り、全員がナンパだからって浮かれていて変なテンションになっていることに気づき目を覚ました。



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王子様とイリュージョン

「…」

 

愛梨が敗けを認めて第一高校の勝利と言う事で終わったナンパ対決。

謎のテンションになっていた魔法科高校生達は元のテンションに戻りつつも、異性と言うのは怖いものだと言うのがよく分かった。

明日からはじまる九校戦に向けて、全員調整…なんてことはならず大半はあくと飯と特性ドリンクによって意識を失ったままだった。

 

「アレが手塚の親父さんか…凄いな」

 

「あんた、何処見ているのよ!」

 

突如現れたGenius10と光國の父親に連れていかれた光國。

レオ達裏方と生き残った生徒達はなにかを話しているのを覗き、光國の父親の頭を見る。

 

「いや、だってよ…」

 

「一本だけ、綺麗に残っているな」

 

「お兄様、触れてはなりません!」

 

光國の父親の頭には一本の毛しか生えていなかった。

世に言うハゲなのだが、その一本は無駄に濃くてかなり長い髪の毛だった。

他の毛根は絶滅しているが、あの髪の毛だけは残っていた。

 

「光國…」

 

「リーナさん、大丈夫ですか?」

 

心配そうな顔で光國を見ているリーナを心配する美月。

彼が今、会話をしているのは魔法師達とは余りにも縁遠い存在で更には光國は家出に近い感じで家を出ていっていると聞く。

九校戦が始まってから会いに来るのではなく、はじまる前から会いに来るとは予想外だった。

 

「…いかないと」

 

レオ達もまぁ友人だが、光國の親や友人と出会うのははじめてだ。

リーナは勇気を出して前に進む。嫌われたり、変な目で見られたりするだろうがそれを覚悟して前に歩み光國の元に来た。

 

「光國…」

 

「リーナ、今は」

 

「良いから、隣に座らせて」

 

リーナは光國の隣に座った。

肩に寄りかかり、絶対に離れないと言う意思を見せつける。

 

「…話は聞いていたが彼女が居るとは…全く、報告の一つでもしてこい馬鹿が!」

 

リーナの事を見ると光國にチョップをした光國の父親。

額に血管を浮かび上がらせて苛立つがリーナを見るとゆっくりとゆっくりと落ち着く。

 

「ごめんね…えっと…」

 

「アンジェリーナです…リーナで構いません」

 

「そうか、おじさんは手塚神晃…おじ様で良いよ?」

 

「おい、おっさん。おかんに言うぞ」

 

「言えるものなら言ってみろ、クソガキ!

…母さん、一日だけ気絶して以降は普通に生活している…お前の住所は知っている。

だが、お前が帰ってくるまで絶対に会いに来ない……それて、秀吉は…お前の事だから情報は持っているから、いいか。蛍は元気にしてるよ…お兄ちゃんが居ないって、三日ぐらい泣いたけど…」

 

「…」

 

「じゃあな、オレは仕事がある…」

 

神晃は席を離れ、ホテルを出ていった。

言いたいことが言えたのか何処か満足しており、スキップで出ていこうとする。

 

「あ、そうだお前が第一高校だって母さんに伝えておくぞ。

きっと500円玉貯金とお前のお年玉貯金の封印を解放し、秀吉の賞金を闇サイトで第一高校の優勝に全賭けをすると思う」

 

最後の最後で置き土産を置いていった神晃。

リーナは少しだけ一息つくのだが、まだ彼の友人Genius10が残っている。

 

「相変わらずブレへんな、オカンは……まぁ、殴られなかっただけましか」

 

「貴方、ドロップキックをくらっていたわよ…でも、よかった…認めてくれたのね」

 

家に帰ってこいなんて言わなかった。

無理矢理連れ戻そうとしなかった。それは光國とリーナにとってとてもよかったことだった。

お前は化物とかそう言うことを言ってこなかった。

 

「おいおい、喜ぶのはまだ早いぜ」

 

「コシマエ…」

 

「越前だっつってんだろ」

 

爽やか系のイケメンこと越前龍我は神晃が座っていた席に座る。

そしてJAPANと書かれたジャージと1と書かれたバッジを光國に向かって投げた。

 

「お前のジャージだ。

幸いにも、九校戦が終わった次の日から大会が開幕する。

お前がなんの競技に出ても問題ないぜ…日本代表の主将として出てくれ、手塚」

 

「断る…オレはもう、魔法師だ」

 

ジャージを投げ返した光國。

日本代表の試合に絶対に出るつもりはない。ここで出ると言う事は未練が断ち切れない。

 

「魔法師か…三年前、オレがお前をぶん殴った時にお前はテニスに飽きたからと言っていたが、今度は魔法師か…最初から魔法師だからって言えよ。馬鹿が」

 

「…」

 

「光國、なんで、なんで真実を教えてくれんかってん…オレはお前が魔法師とかどうでもいいっちゅう話やぞ…」

 

「お前が魔法師だと言うが…全く、興味は無い」

 

魔法師だと言う事を知っても全く気にしない謙夜と月さん。

それを聞く人が聞けばとても嬉しいことだ。魔法師と人の境界線なんてものは無いと喜ぶだろうが、光國は黙る。

 

「待って…光國は!」

 

「…オレがでなくてもコシマエいやリョーガ、お前がいるだろう。

お前も世界トップの実力者…現プロのスイスの主将と戦って勝利した実績を持っている、No.2、いや、No.1だ…行くぞ、リーナ」

 

「待てよ…今の俺はNo.3だ」

 

「…そうか」

 

光國はリーナの腕を引っ張って、レオ達の元へと戻っていく。

無表情のまま戻っていった。

 

「お前達、なにをしているんだ。

レクリエーションは終わったんだ…九校戦は明日から開幕する、レクリエーションの優勝に続いて、九校戦全ての競技で優勝を目指すぞ」

 

「手塚さん…よろしいのですか?」

 

「なにがだ?」

 

「…泣いてますよ?」

 

光國は無表情のままで泣いていた。

本人が気付かぬまま泣いており、深雪に言われてはじめて気付いた。

 

「光國くん、本当は出たいんじゃ」

 

「出たところで、これ以上に惨めにはなりたくないですよ…未練は断ちきらないと…」

 

泣いているが止まるに止まれない光國は気持ちを切り替えるべくホテルを出ていこうとするのだが

 

「よぉ、おまんが手塚光國か…」

 

「…人にものを訪ねる時は、自分から名乗るのが礼儀だ」

 

ホテルの直ぐ横にある死体の山(特性ドリンクやあくと飯を食って気絶した奴等)の上にいた男に声をかけられる。

 

「…そのバッジは…」

 

男は首元に2と書かれたバッジをつけている。

そのバッジを見て驚いたが余り興味は起きない。

 

「ふぅ、やれやれじゃのう…まぁ、こうして真正面から会ったのははじめてじゃから、しゃーないと言えばしゃーないのぉう…eid5kj-4ztev@ーrs9…ルパッチマジックかな?」

 

「……!!」

 

「まさか、同業者が居るとは思いもせんかったわい…仁王、仁王治雅(におうはるまさ)じゃ。」

 

光國は理解した。この男が白い魔法使いだと。

 

「まさかまるっきしおんなじことをしいやおるとは…予想外じゃに…」

 

「どないなっとんねん、お前の口調は…」

 

「まぁ、詳しい話は暇なときにでもしようや…」

 

巡り巡って光國は白い魔法使いと出会った。

 



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過去と未来と現在へのメッセージ

九校戦が遂に開幕をした。

スピード・シューティングの会場にリーナはいた。

 

「…これがトップクラスなんですね…」

 

第一高校の面々と一緒に真由美の試合を観戦していた。

もし負けてしまったらかまいた血を飲ませなければならず、心配をしていた美月は心配が一瞬で消し飛んだ。

なにかと不祥事が多かったりする七草真由美だが、実力は間違いなくトップクラスで敗けを想像するのが難しかった。

 

「…!…」

 

何度もタイムリープを繰り返した事により、試合結果を覚えているリーナは試合に興味を示さない。

視線の先には観客席があり、一番会いたい人物がそこにいるのが分かると席を立ち上がった。

 

「リーナ?」

 

「はぁ、開幕からあんなのを見せられたら新人戦出場者にプレッシャーしか無いじゃない…」

 

立ち上がった事に疑問を持った深雪。

 

「相手は、ミユキなんだから…出来る限りの事をしないと。

…これもう、どう考えても元会長さんの優勝だから、先に帰らせて貰うわ…私も負けたら野菜汁飲まないといけないから…」

 

七草真由美の試合を見て、本気でやらないといけないとやる気を出したと言う設定で席を離れるリーナ。

タツヤにはバレるのは当然だけど、ミユキ達にはバレないでと言う願いは通じたのか誰もなにも言ってこない。

 

「…コネクト、GO…って、ところかしら…っつぅ…痛いわね…」

 

何時も使っているCADとは違うCADを取り出したリーナは移植された光國の魔法ことコネクトを使い、こことは違う別の場所に入れている暗視やサーチ機能が充実な双眼鏡を取り出した。

 

「…あの一本、本当にスゴいわね」

 

双眼鏡の先には光國の父親こと手塚神晃がいた。

教師をしていて仕事で来ていると言うことは九校戦を見ていると、探し続けてそれらしいハゲがいたので覗くとハゲがいた。

神晃の唯一生き残っている髪の毛は凄かった。

 

「……光國も将来ああなるのかしら…」

 

ハゲは遺伝する事を思い出し、ハゲた光國を想像するリーナ。

それだけは絶対に起きないでと首を横に振った。

 

「大丈夫ですよ。

医学的には、母型の方にハゲがいればハゲる可能性がありますが、父親の方の場合はハゲません」

 

「よかった…ん?」

 

「甘いわよ、一人だけなにかしようだなんて」

 

心配が無くなるとホッと小さく息を吐いたリーナ。

ハゲの遺伝に関して教えれくれた声が聞いたことのある声だと後ろを振り向くと市原と紗耶香がいた。

 

「それを貸してください」

 

「…分かったわよ」

 

市原に双眼鏡を貸すリーナ。

リーナが見ていた方向を見ると、神晃がいた。

 

「…まさか、挨拶に行こうとしていたのですか?」

 

「そんなわけ無いじゃない…そう言うのは母親も居る時にしないと」

 

「居たら挨拶にいくのね…」

 

「光國が一緒じゃないから行かないわよ…お願いだから、ついてこないで…」

 

弱々しい声を出しながらも、神晃を見るリーナ。

神晃の周りは光國を誘いに来た光國の友人達が居て、なにか話し合っている。

 

「そんな声しか出せない子を、私は見過ごせないわ」

 

「…違うのよ、貴女達まで大変な目に逢うから言ってるのよ…何処なの?」

 

「先程から何をお探しで?」

 

「…監視をしている人よ。

光國の事を知っているのは…一部の人と光國の家族だから…」

 

光國の事は九島では最上級機密事項となっており、九島の一部の人間しか知らない。

紗耶香と市原は偶然に知ってしまったが、それを知られれば市原は消されて紗耶香は中にいるファントムをどうにか利用できないか実験材料にされる可能性がある。

光國の家族ならば、光國の事情を大体知っており口が滑る可能性がある。頭はツルツルで滑っているが。

 

「監視している人達を見つけてどうするつもりですか?」

 

「それは…」

 

「倒すだけだと、ダメなのよ」

 

リーナは強い。

目の前にいる市原と紗耶香を殺そうと思えば、あっという間に殺せるほどの強さを持っているが、戦闘力的な意味の強さでは最強(さいつよ)だが、他は劣っている部分が多く頭の回転と言う意味では光國には勝てない。オセロ(レオ)囲碁(ヨシヒコ)将棋(市原)チェス(タツヤ)の四面同時対決をしても余裕で勝つぐらいに賢い。

 

「…とにかく、行ってみましょう…でないと、なにも始まりませんよ?」

 

「待って、貴女は一番」

 

「関係ありますよ…私は彼と一緒にいると、落ち着いて…楽しくて、す、好きなんです!!だから、その…助けたいんです、手塚くんを」

 

「あ、うん。それは分かっていたわ」

 

「え?」

 

「まぁ、もう戻るに戻れないところだし、行くわよ」

 

市原のはじめてのカミングアウトを皆まで言うな、分かっていると流したリーナ。

特になにもないのに、一緒にいたりする機会が多かったりするのを見ればポンコツでも察する。

 

「いや~今まで夏は死ぬ気で頑張とったから九校戦は見んのはじめてやけど…スゴいな~」

 

「いやいや、それもスゴいけど、あの格好…良いねぇ。

魔法科高校もなんか普通の制服と違うし、美人も合間って色気がスゴいよ」

 

「戦極、煩悩に身を委ねすぎや。

しかし…光國はんもこないなもんに出るとは…四天王寺テニス部初の一年生部長から一気に出世したもんや」

 

ドレスアップで服を着替えたリーナ達は気付かれぬ様に神晃達の後ろに座り、耳を立てる。

 

「にしてもよ…アイツ、魔法師だったんだな」

 

「手塚光國が魔法師だが…さしあたって、興味は無い…が、しかし…よく入国出来たものだ」

 

「優秀な魔法師を取られたくないのとテロされたくないから、魔法師海外に行かれへんっちゅー話やな…そう言えば、ホンマになんでやろ?」

 

「光國はん、魔法師の検査とか受けても0やったのにな…」

 

「案外、人工的に作られた魔法師かもしれないぞ…四天王寺テニス部部長・手塚光國は改造人間である!彼は魔法を使えないただの人だったが、世界征服を企む悪の組織・ショッカーに改造されてしまい、魔法の力をその身に宿した…的な?」

 

「おお、ありえそうやな!

普通の人には魔法を使うのに必要なもんがあらへんらしいけど、妖精的な物を自分に封印したりして代わりにやってもらうとかやったら出来そうやん!」

 

「謙夜、ゲームのしすぎや。

魔法師の魔法は物に宿ってる情報を改善するもんで、無から有を生み出すもんちゃうで。

それに改造人間やったら目の前におるやろう」

 

「そうそう、おじさんのこの頭は改造されているんだ…って、オレのハゲは失敗だ!!て言うか、ハゲじゃねーし、一本だけ残ってるし!不老不死の薬を作る過程で出来た毛生え薬で出来たんだぞ!不老不死なんだぞ、この最後の一本は!」

 

「いや、それもう改造やのうて改悪やん…つーか、改造されてんのかい!!自前ちゃうのか、そのハゲは!」

 

「…やばい…」

 

コイツら、察しが良すぎる。

と言うよりは、一瞬にして答えに辿り着いている。

魔法の知識が0だからこそ、変な先入観を持っておらず答えを簡単に見つけ出す事が出来ている。

光國が難しい理論とか業界用語とかそう言うのを使わずにシンプルに考えた方が時として理解しやすいと言っていたが、これは正にそれである。

 

「…?」

 

ヤバいなと焦っているとなにかに気付いた紗耶香。

 

「っと、ジュースが切れた。

後、尿の途切れも悪くなってきたからトイレに行ってくる…お前達、余所様に迷惑をかけるんじゃないぞ!」

 

「おっちゃんも泌尿器科に迷惑掛けたアカンで」

 

「……」

 

ジュースを買いにいくついでにトイレに行くと席を立った神晃。

一番近いトイレや売店には向かおうとせず、少し距離が離れた所に向かった。

 

「…来いってことね…」

 

席を立った際に偶然にも目線があったリーナ達。

その時だけ目が血走っており、わざわざ別のところに向かったのはそう言うことだろう。

リーナ達は席を立ち上がり、神晃を追いかけていった。

 

「にしても仁王、暑いの苦手だからホテルで見てるって…」

 

「心頭滅却すれば火もまた涼しいと言うのに…なんや、仁王は北欧の神様を祈っとったな」

 

テニヌプレイヤー達は気付かぬまま、試合を楽しんでいた。

後ろにリーナ達が居ることには気付いていたが、声をかけてくるまでは知らん振りを決め込むつもりだった。

 

「ふぅ、やれやれ…おじさんは追われるより、追う側の人間なんだけどね」

 

神晃を追いかけていったリーナ達。

堂々と前に出ようとするのだが、神晃が喋り出したので出るのを止めた。

 

「折角息子の晴れ舞台だと言うのに、何処もかしこも怪しい奴や魔法師を見下したりだ…おじさんはね、御仕事でここに来ているんだ。

この前の一件で、国立魔法大学付属第二高校に入学するかどうか悩んでいる、魔法師としての才能がある子供達が悩んだんだ…魔法師になって良いのかって…魔法師と言うものはおじさんには分からないが…お前達みたいなのに、大事な宝はやれん!!出てこい!!」

 

「…あの、なにか勘違いしていませんか?」

 

戦うぞと構えて振り向いた神晃だが、後ろに居るのはリーナ達だけだった。

 

「…ごめん、無し、今の無し!」

 

最初に出た市原を見て、顔を真っ赤にして忘れてと恥ずかしがる神晃。

ああ、この人は光國の父親なんだなと強く感じた。

 

「なんだ、魔法科高校の御嬢様方じゃないのか…おじさんの事を狙いに来たシティーハンターだと思った。おじさん、髪の毛は少ないけど秘密は多いからね…」

 

「は、ははは…」

 

「そこは秘密と髪の毛を守れるんですかだよ」

 

自虐ネタに笑うに笑えないリーナ。

こんなものかと神晃は見たあと、三人を観察する。

 

「…ところで他には居ないのかい?」

 

「私たち三人ですよ」

 

「そうか…女だけか…あの馬鹿は、男の友達を作れよ……」

 

「あの、光國の事をちゃんと知っています…一番最初に知りました!二人も、光國が語ってくれて…その」

 

意を決して語るリーナ。

何時もの難しい報告を語るよりも簡単な事の筈なのに上手く言葉が出ない。

 

「落ち着きなさい…そうか…自分で語ってしまったのか、あの馬鹿は…」

 

「待ってください!

光國くんはなにも悪くありません。私が…私が語らないといけない様に」

 

「だが、君達は知ってしまったんだろう…余計な同情は、光國を傷つけてしまう…恋心と勘違いしてしまう…」

 

「待ってください、私は…いえ、アンジェリーナさんも紗耶香さんも、そんな思いは一切ありません!!手塚くんの事を…好き、です」

 

「そうか…あの子は何だかんだで、優しいからね…でも、結婚できるのは一人だよ」

 

話が徐々に徐々に脱線をしていくが、三人とも光國が大好きだと知ると喜ぶ下世話な神晃。

結婚の事を話題に出すとリーナはドヤ顔をして一歩前に出る。

 

「私は光國と一緒に暮らしているわ…愛してるって叫べと言うなら叫べるし、叫んでもらえるわ…」

 

「ほうほう…」

 

「私は手塚くんに頼りになる大人な方と思われています。

それだけでなく、もしかしたら辛いかもしれないと言う優しさを見せてくれて」

 

リーナが自慢をすると謎のPRタイムが始まり、先手必勝と出た市原。

紗耶香もなにかを言わないとと考えるが無駄である。

 

「おじさん、そう言うのを聞くのは好きなんだけど…最終的なものは母さんが握ってるから」

 

かかあ天下の家故にPRし続けても無駄だ。

神晃は精々、誰が押しなのかを教えたりサポートしたり出来るぐらいだった。

 

「こんな美女達にモテるだけでもありがたく思わないといけないなうちの馬鹿は…けど、踏ん切りは大事だ。彼女を選んだならば、君達は身を引いた方が…なんて堅物じゃないよおじさんは。愛には色々と形があるからね…本人達が了承したなら、金さえあれば大丈夫さ…馬鹿息子が子供を育てる膨大なお金がないと、認めんぞおじさんは」

 

「…ありがとうございます」

 

なんでかは分からないけど、市原は頭を下げた。

なにかを認められた気がして嬉しくて少しだけクスリと微笑んでしまった。

 

「でもまぁ、三人か…億単位を稼ぐ男じゃないと…億単位…億単位…テニスプレイヤー、スポンサー契約……あの子は、勉強はそこそこ出来るが一番に成れないと分かっていたからな…」

 

「…っ…」

 

「謙夜くん達、何時でも許すつもりだが…許したところで世間は認めてくれない…いったい、どうしてこんな社会になったんだろう、十師族も国も腹を割って話し合わないといけないのに」

 

光國の事を思い出し、落ち込む神晃。

 

「…君達の誰かと光國が結ばれたとして、幸せになれるのだろうか…あの老いぼれさえいなければっ…!危ない!」

 

九島烈への憎悪を増やしているとなにかに気付いた神晃。

何事かとリーナ達は臨戦態勢に入ると黒いグラサンに黒いスーツに黒いネクタイを着た集団が現れた。

 

「あんたは!!」

 

リーナは量産型黒服の中にいる一人の黒服に見覚えがあった。

数年前、光國と出会った際に光國を監視していた黒服だ。

 

「…今回は、おじさまの監視って事ね…」

 

何処から何処まで聞かれていたかは分からない。

しかし、ここで堂々と出てくると言うことは紗耶香と市原が知っている事を知ってしまい何かをしに来たと言うことだ。

 

「そちらの二人、来てもらおうか」

 

「そう言った事を言う人に素直についていく人はいませんよ」

 

何時でも魔法が使えるようにCADに触れる市原。

一触即発で何時戦いになるか分からないこの空気の中

 

「?」

 

紗耶香はまたまた変なのを感じた。

神晃達の会話を聞いている時にも感じた謎の感覚で、既に仕掛けて来ているのかと隙を見せてしまった。

 

「!」

 

「ちょっと、余所見は禁物よ!」

 

その隙を逃すことなく攻める黒服だが、リーナが間合いを詰めて魔法を使う前に殴る。

発動させれば効果を発揮するまで一秒掛からない魔法だが、発動までの動作は数秒がかかりその隙があるならば、縮地法で間合いを詰めて殴ることが出来る。

 

「私が前衛で戦闘、イチハラは真ん中で相手の邪魔と援護、サヤカはおじさまの護衛をしつつ撤退…おじさま…」

 

「ぐぉるぁああああ!!やんのか、このくそがき!」

 

咄嗟に思い付いた陣形で戦おうとするリーナ達なのだが、神晃が黒服を殴り倒していた。

 

「え…えっと…」

 

「いやぁ、ナイスな縮地法だったよリーナちゃん。

あの馬鹿は一年生部長とかやってて人に何かを教えるのが上手かったりするから、そのお陰かな?お父さんの教師としての血が確かに流れているみたいだ!」

 

黒服の後頭部を掴んで頭に叩き付ける神晃。

普通の人の筈なのに、九島御抱えの魔法師の護衛を余裕でボコボコにしている事にリーナ達は言葉が出ない。

 

「ふっ、アイツにテニスを教えたのはおすぎ婆さんとオジイだが…テニスコートに連れていったのは他でもないオレだぁああああ!!」

 

見事なまでのドロップキックを黒服に叩き込むが、全く自慢になっていない神晃。

ああ、やっぱり光國の父親だと納得しながらも全員を倒すのだが

 

「…倒しても、意味がない…っ…」

 

倒しただけで、殺しはしていなかった。

この黒服達は九島烈に忠誠を誓っており、ある程度の信頼を勝ち取っている。

黒服の一声で市原と壬生の事が知られてしまう…故にリーナは特化型のCADを抜いた。

死人に口無し。特定の記憶を消去する精神干渉系統の高度な魔法をリーナには使うことが出来ず、科学の技術で消すことも出来ない。仮に出来たとしても機材をリーナが使うことは出来ない。

 

『ルパッチマジック、タッチゴー!ルパッチマジック、タッチゴー!』

 

「!」

 

「また、まただわ!!」

 

死人に口無しと消そうとしたその時だった、聞いたことはない音楽が流れる。

聞いたことはないのだが、似た音楽は聞いたことがあり

 

『ギィー』

 

少しだけ起動に遅れ、その隙にプラ・モンスターブラックケルベロスに腕を弾かれ、特化型のCADを落とす。

 

「これって!!」

 

『テレポート、ナウ!』

 

ブラックケルベロスを見るのははじめてだがリーナは知っている。

これによく似たグリーングリフォンを光國が使役しているのを。

 

「その指輪は!」

 

「全く…困ったら殺そうとする考えは魔法使いとして如何なものか…いや、強い力を持つからこそ、周りにちゃんとした大人が必要でちゃんとした大人が…原型が導いてやらなければならんのか」

 

「嘘…光國くんと同じ…指輪の魔法使い…」

 

そして何処からともなく現れた白い魔法使いが光國と同じ指輪の魔法使いだと言うのを、知っている。

 

「さて…」

 

『テレポート、ナウ!』

 

右手の中指につけている指輪をベルトに翳すと魔法が発動する。

無数の巨大な魔方陣が出現し、黒服達を消した。

 

「これは…」

 

「転移魔法だ。

重力を操り時空間をねじ曲げて、異なる世界に干渉し異なる世界を経由して、此方の世界の此処とは別の場所に飛ばす…移動魔法だ」

 

「転移魔法…何処に飛ばしたのですか?」

 

「適当な海外へと飛ばした…これである程度の時間は稼げる…密入国の罪をどう対応するかが見物だ」

 

攻撃魔法でも何でもない魔法でエグいことをする白い魔法使い。

一歩、一歩と此方に近寄って来たので神晃を囲むようにリーナ達は守りに入る。

 

「そう身構えるな、私はお前達の恩人だぞ」

 

「いきなり現れてそんな事を言って来た奴を信じれると思う?

素顔を見せなさい…その姿は一種のパワードスーツで簡単に着脱可能の筈よ」

 

「やれやれ…君は私に敵意ではなく感謝の念を送らなければならないと言うのに…」

 

「…私と光國に魔法を掛けたのは貴方?」

 

「それについては申し訳ないことをした…と言うと思ったら大間違いだぞ!!

貴様、いや、貴様達は散々新婚旅行擬きを楽しんでいたことを私が知らないと思うなよ!」

 

タイムリープの犯人を認めるが、キレる白い魔法使い。

 

「おい、新婚旅行ってどう言うことだ。おじさんにちょっと教えなさい」

 

「星海坊主は黙っていろ」

 

「誰が坊主だ!!このキューティクルサラサラヘアーをよく見ろ!!」

 

「はぁ…」

 

「っ!」

 

腰部分にあるウィザードリングのホルダーにつけている指輪に触れる白い魔法使い。

此方に向かって魔法を使うと感じたリーナだが

 

「コレを原型(アーキタイプ)に渡せ」

 

「コレって!?」

 

白い魔法使いは指輪をつけずに、投げたのでキャッチをするリーナ。

その指輪はライオンの様な顔をしており、リーナはコレを知っている。

キマイラが探してこいと言ったが、見つかっていないハイパーリングだ。

 

原型(アーキタイプ)…手塚くんの事ですか?」

 

「さて、その指輪を真に使いこなせる古の魔法使いが原型(アーキタイプ)だ…」

 

「うちの子供の事を、原型と呼ぶな!!」

 

「そう怒るな…それよりも怒られるのは、アンジェリーナ=クドウ=シールズ、貴様だ。

困ったからと言って殺そうとするな…この業界にいる以上はその一線は越えなければならないが、越えた先に居続ける事は何人たりとも許されない」

 

「それは…仕方ない、じゃない…私は…それしか、出来ないのだから…」

 

リーナは戦う事にだけ特化している。戦いに関する事にのみ特化している。

シリウスなんて大層な名前を持っているが、それ以外はただの学生だ。コレしかないと諦めていた。

 

「…アンジェリーナ=クドウ…いや、アンジェリーナ!」

 

「な、なによ!」

 

「貴様は原型と…手塚光國と幸せになりたいか?」

 

「なりたいに決まっているじゃない!」

 

「そうか…それならば、さっさと動け…」

 

白い魔法使いは分かっていた。

このままだと光國に幸せなんてものはないと、魔法師との間に子供が出来たらその時点で終わりだと。ファントムは遺伝しない。

光國はただの人で、もしかしたら魔法演算領域が遺伝しないかもしれない。

無論、結婚して子供が出来るのが全てじゃないのを知っているが、それでもだ。

 

星海坊主(ハゲ)、貴様は息子が大事か?」

 

「当たり前だ…あの子はオレや母さんの誇りだ」

 

「ふっ…誇りか…ほぉ…」

 

聞くべき事は聞いたと帰ろうとする白い魔法使い。

ふと紗耶香が目に入り、紗耶香の中にファントムが居ることに気付く。

 

「お前も私と同じ絶望を乗り越えた者か…成る程、スキュラか…」

 

「絶望を乗り越えたって、じゃあ、貴方もファントムを?」

 

「ああ、そうだ…自らでファントムを生み出し、制御した。

コレはビーストドライバーを更に進化させた物とでも言っておこう…成る程、貴様は私の存在を察していたな」

 

「あなた、だったのね…」

 

何度か感じた不思議な感覚、それは白い魔法使いだと言うことに気付く。

 

「…もう使わなくなった物だ、持っておけ」

 

「これは…!?」

 

「では、いずれまた会おう…指輪の魔法使いになる資格を得た、剣道小町よ」

 

『テレポート、ナウ!』

 

白い魔法使いは姿を完全に消した。

ウォータースタイルに変身する青い指輪と水を放つスプラッシュの指輪を紗耶香に託して消えた。

 

「…彼も、うちの子と同じ魔法を…はは、参ったな…」

 

「おじさま……この事は」

 

「秘密にするよ…悔しいが、おじさんはなんにも出来ない。

精々、あのバカを殴って無理矢理表に引っ張り出すことが出来るぐらい…だから、だから、頼む!」

 

神晃はリーナの、紗耶香の、市原の手を取った。

自身には力はない。精々、瓦を20枚ぐらいしか割れない。魔法を使えない。

だからこそ託す。

 

 

「あの子の希望になってくれ!!」

 

 

手塚光國が流されるままではなく、自らで立ち上がって生きる希望になることを。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【昔々…いや、それは昔と言うか魔法を思い出した時代。

一人の少年は絶望をしてしまいました。大事なものを無くしてしまった彼は絶望して泣いてしまいましたが、彼の気持ちを理解し、彼を慰める味方は居ませんでした。

大事なものを無くして望して死にそうになった彼は、誰かの力も借りず、大事なものの為にと絶望を乗り越えました。

試練を、絶望を乗り越えた人は大きくなり強くなる…一人の少年は絶望を乗り越えたその時、一つの魔法を手に入れて魔法使いになりました。

魔法使いになった少年は魔法を使って人々を助け、最後の希望に…なるわけでもなく、取り敢えず運動しようと自分に合ってる筈だと思ったテニスクラブでテニスをはじめました。

才能が開花した少年は日本一になりますが、日本の柱に成ることは出来ませんでしたが、その程度の事では諦めずに日夜テニスの特訓に明け暮れた。

明け暮れて将来を見据えた彼にある日、神様が舞い降りました…それはテニスの神様…ではなく、遥か北にある地の戦争と死の神様でした。

嘗て人は神様を捨てた。神様の教えをしなくなった、祈りを捧げなくなった。

神様は怒り、人を見放しました。しかしそのお陰で人が人の足で歩けるようになったりしました…人の力で生まれた物が増えました…ですが、人と言うのは神をも越える強欲な存在だったのです。

今でも充分に豊かだと言うのに、更なる独占や支配欲に犯されてしまった賢者や王達は世界が忘れ去ろうとした魔法を取り戻し、新たに進化させました。

そして忘れ去られた、人々の心にはあれども祈られない神々の存在は露になっていったのですが神々は思いました…果たして、このままで良いのか?、人間は油断できません。

戦争と死の神は知識に関してはとてつもなく豊富で尚且つ貪欲、更に言えば魔法にも深く精通をしていて過去になにかと人間と関わっており、じゃあちょっと今の世の中を見てくると自身に適合した魔法使いを探し、偶然にもそれは彼だったのです。

彼に宿ろうとした戦争と死の神でしたが、絶望を乗り越えた彼の心は思いの外に強く、彼が絶望した際に心の中に生み出したドラゴンに襲われてしまい、神様は死にかけました。

死んでたまるかと思った神様は最後の最後で彼と融合する魔法を発動しましたが、上手くいかず、意識を融合する事なんてなく、彼に様々な知識と変な方言だけを与えて神様は消えてしまいました。

知識を得た彼ですが、特にコレといった変なことはありません。強いて言うならば、夏休みデビューに失敗したと思われるぐらいでした。

その後は平穏に過ごしていたのですが、時折テレビで琉球王国が他国に襲われて二年と言うニュースを見て、危機感を感じました。

科学が進歩して、万人に等しく光が与えられる御時世に魔法使いは戦うことしかできずにいて世間は厳しいこの世の中は何時戦争になるか分かりません。

なので、彼は何時か出来るかもしれない大事な人やものと自分の為だけに強くなろうと魔法使いとして世界中を渡り歩き、伝説の秘宝を探しました。

その際に、火、水、風、土の四大元素の力を手に入れた彼は己の内に宿るドラゴンの力を使いこなし、火を炎に、風を嵐に、土を大地にと進化させました…が、それだけです。

自ら争いを起こす必要なんて何処にもないので、のほほんと過ごしいる彼でしたがそれでも胸の内には色々と思うことはありました。

ちょっと未来を視てしまい、激動の時を知っている彼は今後を気にしていました…しかし、彼にはどうすることも出来ません。と言うか、どうすれば良いのかが分かりません。

魔法使いは肝心な時に役に立たず、いざと言う時には戦える、大事なものだけは絶対に守れるので良いかと妥協をしていたそんなある日のこと…彼が見た未来が消えてしまいました。

彼が未来を見た時点で、その未来に対策したりするので消えて当然ですが、余りにもありえないその未来に驚きを隠せない彼は知りました…テニスの王子様の存在に…テニスの王子様は彼が見た未来には居ませんでした…彼は思った、このテニスの王子様もまた自分と同じ変わった存在だと…そして偶然にも出会えるチャンスが生まれたのですが、彼はその場には現れませんでした…だから、魔法使いは時を戻し、彼と会える日を待ちました…が、何度戻しても来ませんでしたので痺れを切らしてテニスの王子様の家に乗り込みました…おしまい】」

 

「長い、そして何故、お伽噺風なんだ?」

 

本戦のスピードシューティングに優勝するのは元会長だと、見に行かず白い魔法使いこと仁王治雅が宿泊しているホテルの一室で改めて光國は話し合う。

互いに敵意や悪意は剥き出さずにおり、なにか悪いことをしようと言う考えを持っていない。

 

「別んかいゆたさんやんやー。

それじーりも、こんげやって真正面から向かい合う事が出来てじーかったばい」

 

「標準語で喋れんのか、お前は…」

 

「喋れるぜよ…けどまぁ、疲れるね」

 

いったいどうなっているか謎の仁王の口調に困惑するが、気にしている暇は無かった。

こうして会うのが第一の目的で、まだ第二、第三の目的が残っている。会ってからが本番だった。

 

「お前はオレに会いたくてタイムリープをしてきた様だが、次はどうするつもりだ?」

 

ここでまたタイムベントをされてはかなわんと仁王と向き合う光國。

すると仁王はタイムベントのベントカードをポケットから取り出して、光國に差し出す。

 

「なんの真似だ?」

 

「あんたと敵対はしたくないと言う証だよ」

 

「よー言うわ、その気になればオレを消せるやろう。

自分が殺したくないとか敵対したくないとか言うのはわかるよ。けども、それなら互いに不干渉が一番ちゃうんか?」

 

「…ミョラウショシャウシャウ(魔法科高校)ファビリェジュジャウディエ(の劣等生)

 

「…デェジュジエブリョファショ?(知っているのか?)

 

「…さて、わしの見た未来とは既に大きく掛け離れているがな」

 

仁王治雅は自分がオタクだと言う事を自覚している。

仕事とか勉強とかはちゃんと真面目にやるけど、娯楽もちゃんとやる的な人生を送っていた。

結構なオタクで、二次創作系統も見ており、魔法科高校の劣等生の原作も当然知っている。

しかしこの世界はそんな世界とは少し掛け離れたりしており、目の前にいる男が本気を出した事により大きく道をズラす事に成功をした。

 

「わしは、あんたの事を尊敬しているんだよ、いや、割とマジで」

 

のほほんと日々を過ごしていた仁王はその事に衝撃を受けるしかなかった。

魔法科高校の劣等生の二次創作も過去に何度か見たことがあったが、こんな事をする奴は仁王の記憶には無かった。

例え自分がそこに居たとしても、絶対にそんな事をすることは無いだろう。

 

「で?」

 

自分に憧れを抱いたのとか尊敬の念を抱いたのとか、どうでもいい光國。

敵対する気が無いのならば、もうこれ以上は干渉しないでほしい。

 

「そんな顔をしなさんでおくれや。

わしはの…このままで良いのかと思っとるったい…三年間、地獄がはじまるんじゃ」

 

「…四葉のクローバーを持っていれば、不幸は訪れない」

 

もう語ることはないと席を立ち、タイムベントのカードを投げ返す光國。

三人集まれば文殊の知恵と言うが同業者が二人集まってなにになると言うのだ。

 

「お前はオレより強く、知識があるのだろう。

それならば充分に使えば富も名声も手に入る、四葉のクローバーは幸運の証だ」

 

「それじゃあダメぜよ。

…お前、いい加減に現実見んとアカンぞい…四葉のクローバーは幸運を呼ぶが、幸福は誰かの不幸により成り立つ…ワシは、確信したんじゃ。クローバーでは救えないと。

もっとこう…根本的に違うことをせな、アカン気がするんじゃ…結局のところ、クローバーが生い茂る大地は普通じゃなかぁ!せやから力を貸してくんしゃい!」

 

「…結局はそれか。

笑わせるなと言うか、馬鹿にしてんのか自分?」

 

力を貸して貰うのが協力するのが主従関係なのかは分からない。

しかし、仁王を大体理解した光國は自身と仁王のスペックの差を大きく感じた。

協力なんてしなくても、本気で暴れるだけでどうにかなる。

 

「…ワシは未来を見ただけで、未来は終わっとらんぞ…どうすんじゃい…」

 

部屋を出ていった光國を心配する仁王。

きっと彼も分かっていると信じている。そして光國は分かっていた。この世界は現実だと。

 

 

 

 

 

 

物語(みらい)が終わっても未来(人生)は続くと

 

 

 

 

 

「…立ち上がって貰わんと、困るのぅ…けどまぁ、希望は捨てたなかったの…三年先の稽古をしてもらいたいものだ」

 

 



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その頃の雑草達

「ぐふぉおぁああああ!?」

 

「哀れね、桐原くん」

 

九校戦二日目、男子のクラウド・ボール本戦で無様に負けた桐原。

ベスト3にすら入っていない醜態に豚を見るような目で紗耶香は見ていた。

 

「やれやれ、赤酢程度で根をあげるとは情けない」

 

「いや、誰だってぶっ倒れるわよ!!」

 

沸騰している訳でもないのにコポコポと気泡を出しているジョッキに入っている赤酢。

こんなものを飲めるやつなんてGぐらいだとエリカは叫ぶのだが

 

「エリカ…西城は普通に飲めている」

 

「力がギンギンだぜ!」「ぼく、は…みきひ…」

 

何故か上半身裸のレオはフロントダブルバイセップスのポーズを取っており、適合しなかったヨシヒコは倒れていた。

心なしか筋肉がテカって見えており、色々と酷い絵面だった。

 

「そうだよ、エリカちゃん。

手塚さんのジュースは不味いけど、決して飲めない物じゃないよ…粉悪胃悪、飲む?」

 

「美月…貴女もなのね」

 

自分がなんとか飲める特性ジュースを見つけ出した美月はもうダメだと思う。

エリカはクラウド・ボールで負ければ飲まなければならない恐怖で胸がいっぱいだった…言うほど胸は無いけど。

 

「その気になれば前世の記憶すら甦らせる汁だ…にしても、事前のオッズ通りの結果とはどいつもこいつも情けない…」

 

「オッズ?」

 

「闇サイトで九校戦の試合結果が賭けられている。

倍率が低いものほど優勝候補と言われており、名のある家の者は特に倍率が低い…なんだ、その目は」

 

「手塚くん、そう言うのするんだ…こう、趣味が登山とかレジャー施設に行くとかそういう感じの見た目っぽいのに」

 

「先入観でオレを語るな…オレは普通にゲームが好きだし、博打は大好きだ…特にポーカーと競艇はな」

 

こいつ、本当はパチンカスじゃ無いかと疑うエリカ

 

「安心しろ…母さんはオレのお年玉貯金と自身の500円玉貯金の封印を解放し、第一高校に全賭けをしている」

 

「あんたの親っていったい…」

 

「知らん」

 

そんな事は光國本人が聞きたいぐらいだ。

とりあえず、無様に負けた本戦男子と優勝できなかった七草真由美以外の女子を全員ドリンクで意識を奪う光國達。

 

「……」

 

そんな中、リーナは上の空だった。

ハイパーリングを貰ったのは良いが、リーナはまだ渡していない。

このリングとミラージュマグナムと言う武器があるらしく、それを使えばキマイラの力を真に解放する事が出来るらしい…のだが、コレを渡せば最後、どうなるかリーナは分からない。

 

「…幸せってなんだろう…」

 

リーナは真面目に将来について考えてみた。

このハイパーリングを仮にUSNAに渡した場合、大きな手柄になるだろう。

そうすれば光國を拉致して渡米して色々と偽装してもらえて一緒に暮らせる可能性がある。

しかしそれだとあの人の良い神晃や兄や妹と二度と会えなくなる。母親に関しては向こうが自分の足で来いと堂々と言っている。

じゃあ、九島烈に渡して最終的に光國の手元に置くことにする?

それは正解じゃない。まだキマイラの、ファントムの作り方を知らないが、何れは知られる可能性があり更にはこのハイパーリングの魔法を兵器に利用するかもしれない。

どちらに渡しても地獄しか待ち受けておらず、直接光國に渡すことすら出来なかった。

 

「…光國?」

 

「どうした?」

 

「…光國は私のこと、好き?」

 

「…好きだし、もっと好きになろうと頑張ってる。

リーナの良いところを見て、悪いところも見て全部好きになって受け入れて一緒に乗り越えたい」

 

「っ!!」

 

素でこう言う事を言うんだから、本当に困る。

だがしかし、こんな綺麗な人と一緒になれるだけで幸せ者なのだから頑張らないといけない。

それがアンジェリーナと言う絶世の美女と一緒になるためにしないといけない努力だ。

 

「じゃあ、サヤカは?イチハラは?キョウコは?」

 

「……藤林さんはマジで苦手。いや、嫌いじゃないんだ。普通にイイ人なんだよ、数少ない味方なんだよ?…なんか怖い。

残りの二人は…まぁ、ライクでは好きだ…love的な意味では分からん…互いの事をよく知らないし、そう言う場とか時とか無いし…やっぱ、互いに知るとか大事だと思う」

 

やはり響子は苦手な光國。

やっぱりそうよねと何処か納得している自分がいるとリーナは感じる。

 

「…あんまりスゴくなかったな、クラウド・ボール」

 

「せやな…たかが9球を打って走りまくるだけの競技であない汗だくになるとか魔法師どんだけ貧弱やっちゅー話や」

 

「放ち当てる魔法が多い…無駄が多すぎて、全く興味は無い」

 

「…ふっ、あの程度ならばわしらの方が上や」

 

感じるが、直ぐに壊れてしまう。

クラウド・ボールを観戦していた光國の友人達が出て来て、鉢合わせしてしまった。

 

「戦極はどうした?」

 

「あいつはバトルボードに向かったよ…女子のな」

 

「ホンマに、光國はんを誘いに来たことを忘れおって…」

 

仁王はともかく戦極が居ないことを気にするが直ぐに呆れた。

奴らしいと言えば奴らしい。自身を誘うと言うことに全く集中していない。

 

「それよりも、光國!

お前、クラウド・ボールに出るんちゃうんか!?何時出るか、何時出るか待っとったんやぞ!」

 

「アホぬかせ、今日やったんは本戦やぞ。

オレが出るんは、一年生限定の新人戦、明々後日や」

 

「謙夜、アナウンス聞いてへんのか?」

 

「お前は早さだけが取り柄だが…聞き耳も早さだけしか無いのか?」

 

「っ!!」

 

自分だけ光國が出てくると思っていた事に気付くと顔を真っ赤にする謙夜。

ちょっと距離を置いているエリカ達も口を押さえて笑っており、どうにかしようと頭を回転させる。

 

「せ、せや!光國、クラウド・ボールに出るんやろ?優勝を目指すんやったら、手伝ったるわ!」

 

「断る…これはテニスじゃない、魔法競技だ」

 

「似たようなもんやろ、そこの奴等もどうや?

なんやったら、他にも新人戦に出る奴を連れてきてもエエで!!」

 

「お前な…いや、お前達…」

 

それは面白そうだとラケットを取り出す謙夜達。

これ以上は付き合ってられるかと帰ろうとするのだが

 

「はいはいはーい!私、やりたい!!」

 

エリカが挙手をした。

 

「おい、エリカ!」

 

「魔法師と一般人の交流は必要って手塚くんが何時も言っているじゃない!」

 

急に手を上げたので空気を読めと言うレオだが、エリカはこう言うのは大事と主張する。

 

「それに…他の人達がやっているのを見て、動きたくなったのよ。

クラウド・ボールは動く競技だから、下手なことをして足を挫いたりしたらダメだって色々と我慢させられてたけど、もう限界よ!」

 

どちらかと言うとそっちの方が本音のエリカ。

こうなったら止められないと感じたレオ達はなにも言わなくなり、ジャージに着替えてくると走っていった。

 

「お前等、テニスボールちゃうねんぞ…」

 

クラウド・ボールのボールはテニスボールではない。

低反発ボールで打ち合ったり、移動魔法で移動させたりする競技なのだが全く気にしていない謙夜達。

 

「手塚、アイツ等って強いのか?」

 

クラウド・ボール新人戦の練習とか場の空気になれると色々と言い機材一式とコートを借りた光國達。

 

「誰になにを言っているんだ西城…アイツ等はGenius10だぞ…」

 

「天才の10人…」

 

「先に言っておくが、百錬自得の極みとかは使えんぞ」

 

「あんなの全員が使えたらダメだろう…」

 

「何時でも良いわよ!!」

 

第一高校のジャージに着替えたエリカは機械関連を操作するヨシヒコに手を振る。

 

「エリカ、本当に良いのかい?」

 

「構わないわよ…こう言うのをやってみたかったし!」

 

オジイのウッドラケットを片手に意気込むエリカ。

女子のクラウド・ボールは3セットで、男子のクラウド・ボールは5セットでエリカは勝とうが負けようが問答無用で5セットフルに試合をする。

これだけならまだ男子と変わらないのだが、更にエリカは1セット毎に違う選手を相手にしなければならない。

 

「オレは基本的にダブルスが専門だが…さしあたって、シングルスでも問題はない…」

 

「…あの人、見るからに強そうですね…」

 

最初にコートに入ってきたのは越智月光。

そこそこの距離で見ている美月は越智の大きさに驚く。

 

「大きいのはどんなスポーツでも便利だけど…デケえ…二メートル越えてるぞ」

 

レオは今までの記憶を辿るが越智以上の背を持った人はいない。

どんな試合になるのか楽しみのレオ。試合開始のブザーが鳴ると低反発ボールが越智の元へと飛んでいき、越智は打ち返さずにボールを掴んだ。

 

「ふむ…」

 

ボールを持って感触を確かめる越智。

背中を向けて限界ギリギリまで下がっていく。

 

「え、ちょっと」

 

「千葉、試合に集中しろ!!

月さんを相手に一瞬の油断も慢心もすることは許されない!!」

 

「落ち着けって、手塚…」

 

「落ち着いていられるか…本気だぞ、月さんは」

 

全くと言ってボールを打たない越智。

ゆっくりと時間が過ぎていき、ポイントがエリカに増えていき二個目のボールが射出されると今度はエリカの方にボールが向かい

 

「よっと!」

 

エリカは打ち返した。

 

「遅い!」

 

しかし、越智が何時の間にか前に出ており地面につくことなく打ち返された。

 

「まだまだぁ!」

 

打ち返すことは出来なかったエリカは直ぐにボールを拾い、打ち返す。

テニスと違いクラウド・ボールはバウンドをしなくても打ち返して良いルールだが、ネット際に立って打ち返さない越智。律儀にワンバウンドしてから打ち返してラリーを始めるのだが

 

「な、なんでポイントが入っているんだ!?」

 

越智の方に何時の間にか多くのポイントが入っていた。

 

「エリカちゃん、端にボールが!」

 

「嘘、何時の間に!?」

 

「だから油断をするなといっただろう…」

 

何時の間にかエリカ側のコートの隅にあった低反発ボール。

直ぐにボールを取りに行き、越智側のコートに打つのだが越智は打ち返さずにそのボールを掴み取った。

 

「また、ボールを掴んで…」

 

「西城、よく見ておけ…アレが日本最強のサーブだ」

 

ラリーを続けながらもボールの射出口を見守る越智。

三個目のボールが射出されるその瞬間、越智はボールを高くに上げると

 

「え?」

 

気付けばエリカの真後ろに三個目のボールと掴み取ったボールがあった。

 

「え、え?」

 

なにが起きたか理解できない美月。

 

「魔法…は使えないんだよな…」

 

魔法で何かしたかとレオは考えるが、それは違う。

今エリカと戦っているのは紛れもないただの人であり、魔法師としての力なんて一切持っていない。

 

「アレはただのサーブだ…オレの零式サーブと違いテニスをしたことがないお前達でも出来る普通のサーブだ」

 

「普通のサーブって、何処がだ」

 

「まぁ、見ていろ…多分、そろそろすると思う」

 

ボールがまだ増え続け、ラリーは激しさをます。

 

「あの人、ウィングスパンが滅茶苦茶…こうなったら」

 

「あ~あ~ダメだ、それは」

 

ウィングスパンがとんでもない越智に左右に走らせても無駄だと気付くとボールを打ち上げるエリカ。

魔法を使えば筋肉では不可能な遥か上空に打ち上げれるので、クラウド・ボールのコートは四角い樹脂の箱で囲まれており、天井にぶつかっても自分のポイントになると喜ぶが

 

「残念だが、オレのマッハはスマッシュでもいける」

 

「!」

 

気付くとまたボールが自分のコートに転がっていた。

 

「まーた、早くなっとるわあの人」

 

「手塚、なにがあったんだ…オレにはなにがなんだか」

 

「No.4 越智月光、右利きのカウンターパンチャーでダブルスの名手

スピード 6 パワー 4 スタミナ 5 メンタル 7  テクニック4.5

何事にも動じないメンタルは凄まじく、月さんとダブルスを組む者は全員月さんが居るだけで心強いと安心感を抱く。

しかし、真に凄まじいのはあの体格。背丈が大きいか小さいかは大半のスポーツでは重要で月さんは日本人では有り得ないほどの身長で2メートルを余裕で越える。最早、一種の才能だ。

ウィングスパンがとてつもなく広く、ダブルスでも常人ならば届かない距離でボールを打ち返す事が出来て鉄壁の防御力を誇る…そして大抵の人は横で抜くのを諦め、上下の立体的な方法で攻めにいくが、一度ボールを打ち上げれば、常人が持っていない体格と鍛え上げられた筋肉をフルに活用するスマッシュで叩き込まれる…気付けばボールがあるのは全てスマッシュで打ち込まれたからだ。

余りの速さに反応することはほぼ不可能で、なにがたち悪いかって、アレは本来サーブの技や。

スマッシュで打てるようになったのは後々で、シングルスで使えば交互にサーブを打つルール故に自分の番でゲームを奪われた時点で負け確定と言われるほどに恐ろしいんや」

 

「スゴい…で、でもその人がNo.1じゃないって事は手塚くんが勝ったって事ですよね?」

 

マッハだけでも充分にスゴいが、それでもNo.1じゃない越智。

隣にいる光國の方が上で、まだエリカが勝てる希望はあると美月は信じているのだは光國は渋い顔をする。

 

「あの人の立っている位置や構え方で予測して、打ち返す。

テニスはサーブを入れる所が決まっていて入れる為にパワーが少し落ちる打ち方をしているが…クラウド・ボールにはそれはない…」

 

「っ…じゃあ、エリカちゃんは」

 

「…最後まで見るんだ」

 

どうなるかを答えず、試合に集中する光國。

何時の間にか点数差は大きく開いており、越智が大きく差を広げていた。

 

「おい、エリカ!

まだチャンスはあるんだから、ちゃんと相手のコートにボールを入れろ!」

 

「分かってる…分かってるわよ!…けど…」

 

「…どうした?」

 

なんとか巻き返そうとボールを打つのだが、ネットを越えるボールを打てないエリカ。

コート内を走り回ったには走り回ったのだが、かいている汗が尋常ではなく真夏だからと言う理由でも納得できない量だった。

 

「はぁはぁ、はぁはぁ」

 

「エリカ…違う!?」

 

「どうしたんだよ、リーナ?」

 

「エリカがかいている汗が、運動したから出る汗じゃない!!

緊張してプレッシャーに飲み込まれた時とかに出る冷や汗よ!!」

 

エリカの異変に真っ先に気付いたのはリーナだった。

頑張っているので気付きにくいが顔色は悪くなっており、もしかしてと思った美月は眼鏡を外すとエリカから発するオーラが不安定になり大きく縮んでいた。

 

「魔法…じゃないよね…」

 

エリカに対して魔法をかけたかと考えるがそれだけは違う。

今エリカと戦っているのは紛れもないただの人だ。

 

「心を閉ざせなければ、あの人に睨まれた時点でおしまいだ。

本人はどちらかと言えばコンプレックスで、前髪で隠しているがあの人の目は鋭く厳つい。

睨まれたら威圧感は尋常ではなく、プレッシャーなんかを増大させる…精神の暗殺者(メンタルのアサシン)と呼ばれており、目を合わせてはいけない…終わりだ」

 

「ふむ、ボールが9個になった時、選手は物凄く動かなければならないと聞くが…10球を同時に打つことが出来るオレ達には問題はない」

 

残り二十秒となり、9個目のボールが出てきたので一気に勝負にかける越智。

全てのボールを拾い集め、9つ同時に打ち、全てエリカの真横を通った。

 

「…大会前だが、久々に良い汗をかかせてもらった…感謝する」

 

73-34

 

試合は予想通りと言えば予想通りで予想外と言えば予想外の結果で、エリカの敗北で終わった。

 

 

 

第一セット

 

 

千葉エリカ ● 越智月光 ○

 

 

 

「スゲえ…」

 

レオはエリカとは犬猿の仲と言うか喧嘩仲間みたいな感じだが、認めていた。

クラウド・ボールの激しい代表決定戦を勝ち抜き唯一の二科生で九校戦に出ており、優勝も狙える…そう思っており、周りもそう言っていた。

そんなエリカを圧倒した越智にはスゴいの一言しかなかった。

 

「エリカ、どうすんの?まだやんの?」

 

完膚なきまでに叩きのめされてはいないものの、精神的なショックはあるエリカ。

他の三人と戦えば、大事ななにかが壊れてしまう可能性があるので止める事を勧めるが

 

「まだよ…まだまだよ!!」

 

エリカは立ち上がった。

とても良い笑顔で、嬉しそうな顔で立ち上がった。

 

「…手塚くんは一般人との交流が必要とか言ってたけど、本当ね!!

ただのクラウド・ボールでもこんなにも楽しくて、ドキドキして…次は誰!」

 

自身が負けているのに楽しそうなエリカ。

ラケットをもう一度構え、次の相手を待つ。

 

「ほんなら、次は俺や!!光國、はよコートから出ろ!」

 

「…はぁ」

 

準備万端の謙夜を見て、もういいやとコートを出た光國。

 

「加速魔法かなんか知らんけど、浪速のスピードスターの方が上やっちゅう話や!!」

 

「嘘、五人に分身をした!!」

 

持続力はないが、10メートル間ならば加速魔法で自身の速度を上げるよりも早く走れる謙夜。

特殊なステップで五人に分身をして、何処に打っても確実に打ち返され、敗北。

 

「エリカはん、これが女性のクラウド・ボールやったらもう敗けです…それは承知で?」

 

そして三人目の石田吟が出て来て、エリカの敗北を先ずは伝える。

 

「分かっているわよ…けど、今は試合形式であって試合でもなんでもない。

本気で勝ちに行くのも良いけど、楽しんだりするのはもっと大事なのよ…さぁ、勝負よ!」

 

「っふ、若いのに立派なもんや」

 

中々に肝が座っているだけでなく、本質を見抜いていたりするエリカを称賛する吟。

大人になれば大事なものを失う事が多いが、彼女は守れていた…のだが

 

「いや、若いって…ここにおんの、月さん以外は高校一年生やろうが!!」

 

「謙夜、細かい事を気にしていたらアカンで。

肉体などは関係ない、ホンマに大事なんは魂や…見よ、全員キラキラと輝いておる」

 

「嘘だろ…アレでオレ達と同年代って…」

 

吟を一番歳上だと勘違いをしていたレオは開いた口が塞がらない。

いや、吟だけでない。リーナと光國以外は開いた口が塞がらない。

 

「テニスプレイヤーには老け顔が多いのかしら?」

 

「やめろ、オレは老け顔じゃない…頼むから言わないでくれ」

 

どうも友人と呼べるやつらが老け顔の割合が多い光國。

リーナに聞かれたことがショックなのか顔を伏せる。

 

「はぁああああ!!」

 

第3セットがはじまり、ボールはエリカに向かって飛んでいく。

 

「アレって、手塚のダッシュ波動球!?」

 

エリカはクラウチングスタートと似たようなポーズを取り、ボールを迎える。

それは光國が森崎との試合で開始早々に森崎を吹き飛ばしたダッシュ波動球の構えで、荒削りながらも真似は出来ており

 

「ダッシュ波動球!!」

 

そこに魔法をかけて威力を上げ、光國のダッシュ波動球を遥かに上回る威力のボールを打った。

 

「よし、アレならって、あんなものを打って大丈夫なのか!?」

 

「大丈夫だ…超一流のテニスプレイヤーは、ラケットではなく自らが弾かれる経験は一度や二度している…ましては相手はあの吟だ」

 

魔法師相手でも倒せる威力を出していたダッシュ波動球、あんなものを打ち返したりするのは不可能で、避けれなかった時の事を想像するとレオは顔を青くするが光國は一切気にしていない。

 

「ほぉ…この威力、素早さ、回転…全てにおいて光國はんの波動球を越えている」

 

何故ならば

 

「あの石田吟こそ、波動球の開祖やねんぞ…」

 

石田吟には波動球は通じないのだから。

 

「しかし残念や、コレがエリカはんの本気と言うのは…陸式波動球と同等と言ったところ!」

 

エリカの渾身のダッシュ波動球を難なく打ち返すだけでなく、十数倍の威力にして打ち返した吟。

ダッシュ波動球(魔法)を打ったばかりのエリカは反応することは出来ず、低反発ボールはコートを被っている樹脂の箱を貫き、地面につくと破裂をした

 

「そんな…」

 

「光國はんが右腕でありとあらゆる回転や威力を打ち消せるように、ワシもありとあらゆる波動球を打ち消す事が可能や」

 

 

渾身の一撃が破れた事により力が抜けて膝をついたエリカ。

全力を持って答えるのが礼儀の吟は手を合わせて目を見開き語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワシの波動球は216式まであるぞ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この一言でエリカを絶望の淵に叩きつけた。

と言っても立ち直れない絶望ではないので、ファントムは生み出さないがエリカは心で敗けを認めてしまった。

 

「コートが壊れたから中止だ」

 

そして二個目のボールが射出されることなくクラウド・ボールは終わった。

エリカの惨敗と言う結果で終わった。

 

「筋は良いが、まだまだだな…って、オレの出番は無しか…手塚」

 

「やらん」

 

「んだよ、つまんねえな…」

 

出番の無かった龍我(リョーガ)は暇なので光國に相手をしてほしいと頼んだが断られた。

コートを壊した事が大会運営委員に知られ、エリカ達は盛大なまでに怒られ、生徒会長が責任者として扱われているので達也まで怒られた。

 

「なんか、掴んだ気がする」

 

そしてエリカはテニ()プレイヤーとしてなにかを掴んだ気がした。



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それぞれの夜

「さて、ちゃーさびたがものか…」

 

九校戦四日目の夜、ホテルの一室にいる仁王は考えていた。

 

「なんしゅればよかと?」

 

電気スタンドを乗せるのにちょうど良い机にチェスのボードを起き、その上にチェスの駒、将棋の駒、オセロに囲碁の碁石とメジャーな対戦型ボードゲームのピース様々置いている。

 

「未来を明るく迎えるには、三年先の稽古をしなアキャン…未来は掴み取っとかないと」

 

仁王治雅と言う男は知っている。

この世界が魔法科高校の劣等生に似た感じの世界だと、司波達也が主人公と言う事を知っている。だから、仁王には安心感があった。

司波達也が魔法科高校の劣等生になってからの三年間は激動の三年間だが、死人が出たりするが何だかんだで終わる。

原作はまだ終わってはいないが、何だかんだで良い方向で終わるだろうと分かる…のだが、その三年間を乗り越える事が出来るだけであって、三年より後の平和な未来は見えない。

何だかんだで取りこぼしていたり、一般人との関わりがなかったりと色々と語られて無い部分が多かったりと三年後より先の未来に不安しかなかった。

 

「重力制御でエネルギー開発は無駄けん…」

 

本当の意味での幸せを掴み取るには今のままではどうにもならない。

暴力以外で十師族を打ち破るナニかが必要で、それは自分だけでは出来ないと…もう一人しかいない転生者である手塚光國の力が必要だ。

 

「自力で動いてもらわんと、困る…なにが必要かのぉ」

 

戦車の黒い駒を仁王は握り潰す。

手塚光國も本当はその辺について気付いている。

このままいってもリーナと幸せにはなれない、結婚しても真に幸せにはなれない。

戦って平穏と生活費と職と一等地の良い家を手に入れなければならない。

 

「長期間、九島に飼われているせいで野獣の牙は抜かれている…野獣は進化せねばならない」

 

まだ渡していないビーストの武器、鏡面獣銃ミラージュマグナム…と思われる石を持つ仁王。

手塚光國が本気を出す切っ掛けを作らないといけない、立ち上がらないとならない。勇気を出し、前に進まないといけない。

 

「…鍵は誰になるのやら…」

 

仁王は自分の言葉では手塚光國を動かせないし、切っ掛けにもならない。

リーナや九校戦を見に来たGenius10が鍵となるそう思っているが仁王は、いや、誰も気付かない…鍵は他にもあると。

そしてその鍵は光國を縛っている鎖を解く錠前にゆっくりとゆっくりと近づいていっている。

 

 

 

 

 

 

 

「調査の結果ですが、コレは聖遺物(レリック)です」

 

特になにもせずに過ごしたもう一つの四日目の夜

リーナは紗耶香と共に市原の部屋で白い魔法使い(ワイズマン)から貰ったウォーターウィザードリングとスプラッシュウィザードリングの解析をして貰っていた。

 

「そんなの言われなくても分かってるわよ」

 

不充分な設備でそれなりの解析が出来ているだけでも充分にスゴいのだが焦るリーナ。

彼女は白い魔法使いに出会い、紗耶香が指輪を貰った際に何となくだが感じ始めた。残された時間が後僅かしかない事に。

 

「他は、他はないの?

大量生産できそうとか、魔法科高校に入学できるレベルなら誰でも使いこなせるとか」

 

聖遺物(レリック)と呼ばれる物は現代の技術に置き換え出来ない、遥か昔の魔法に使う遺物で世に言う先史遺産(オーパーツ)と呼ばれているものですよ…少なくとも、私の技術ではコレをCADに移す技術も、コレと同じ物を作り出すこともできません…九島の方ではどうなのですか?」

 

「それは…一部だけ、CADに移植したけど私でも5秒ぐらい掛かって、少しだけ頭痛がするレベルよ…」

 

「…そうですか…」

 

指の上で軽くウォーターウィザードリングを転がす市原。

彼女はこの指輪に秘められている魔法の価値を最も理解している。しかしそれと同時に最も使いこなせない。

 

「コレって、そんなにスゴいのね…」

 

「使っていないの?」

 

「どんな魔法か説明を受けていないんだもの、使えるわけないわ」

 

「……ねぇ、この指輪を破壊したらダメ?」

 

「!」

 

「なにを言っているの!?」

 

紗耶香はスプラッシュウィザードリングを強く握り、二人に指輪の破壊を提案した。

自分でもなにを言っているのかイマイチ分かっていないが、破壊をしなければならないと心が訴えかけていた。

 

「…コレ、兵器として使われるしか道が無いわ。

私、思うのよ…こう言うのを今の内に破壊しておかないといけないって…じゃないと、光國くんが…リーナ、答えて。今のままで、大丈夫なの?…」

 

紗耶香は不安を持っていた。

魔法師達は今のままで大丈夫なのか?と、素朴な疑問かもしれないがそれは大事だ。

人工的に魔法師を作り出すことが出来れば大きく進歩するが、その方法がかなりエグい。第二の人格を作るレベルの行為をしなければならず、失敗するリスクが大きい。

壬生は本当に運良く助かったものだ。

 

「人工的に魔法師を作り出すことに成功しても、十師族より強かったら確実に手綱を、それこそ今の光國くんみたいに様々な方法で押さえつけられるわ…」

 

「「…」」

 

薄々感じていたが、見なかった現実を見始める三人。

ゆっくりとゆっくりと覚悟が決まっていく。

 

「……閣下を、いえ、九島烈の手のひらの上から抜け出さないといけません。

人工的に魔法師を作り出す事に成功して、次になにをするかは分かりません…ですが、確実に兵器として利用するのは確かだと思われます」

 

「…どうにかして、一泡吹かせないといけないのよね…あるわよ」

 

「え?」

 

「だから、あるのよ。

あのクソジジイをどうにかして一泡吹かせる、予想外の事が…アイス・ピラーズ・ブレイクで深雪と当たった時を楽しみにして」

 

白い魔法使いに出会ったことを互いに話すに話せないリーナと光國。

運命は交差しあう…かの様に思いきやゆっくりと一つになっていき5日目の朝を迎え

 

「光國…ビーストドライバーを貸して!」

 

朝になると真っ先に光國の部屋に忍び込んだリーナ。

寝ている光國に馬乗りをして、無理矢理叩き起こすと言うギャルゲーとか甘酸っぱい青春ラブコメでよく見る光景を繰り広げる。

 

「…お前はなにをゆうとるんや」

 

「だから、ビーストドライバーを貸してって言ってるのよ」

 

寝起きの光國は不機嫌そうな顔でゆっくりと体を起こしてリーナの顔をジッと見る。

そしてゆっくりと要求をして来た物について考える。起きたばかりで意識がハッキリしていないが、ビーストドライバーを要求をして来た事はちゃんと理解をしている。

 

「……アレはお前が使ってもそんなに意味無いやろ」

 

意識をゆっくりと起こしつつ、ビーストドライバーを貸さないと意志を見せる。

ビーストドライバーは別に光國専用の物ではない。魔法師ならば仮面ライダーイクサの様に誰でも使えるものだが、ビーストドライバーでの魔法は発動が遅い。

1秒を切る現代魔法に対し、早くても数秒かかるのが昔の魔法であり、最高難易度の現代魔法を操る深雪を相手にアイス・ピラーズ・ブレイクでの対決は無理がある。

 

「コレは完全にキマイラを宿した人間用に出来ているから、例え紗耶香先輩でも80~60%の出力しか出せない…リーナなら半分以下のスペックだ」

 

「半分以下でも閣下を倒したりすることは出来るんでしょ?」

 

「あのクソジジイはいけるんやけど、相手は深雪やぞ。

ただただ老いていって弱くなるクソジジイに対して、コレからまだ伸びる深雪やで…てか、待てよ。お前、とっておきがあるって言うてたけど…」

 

「ええ…だから、ビーストドライバーを貸してくれないかしら?」

 

光國は深雪に勝つための秘策がなんなのかを理解した。

訓練は積んでいるが全くといって実戦経験が無い光國はそれでいけるのかと考えるが、直ぐにそう言った話じゃないとなる。

 

「お前、深雪と戦うときは満員やねんぞ…そないなところで、ビーストドライバーを使ってみろや」

 

「驚かす事が出来るわ…あのクソジジイを、九校戦を見ている十師族を!」

 

「お前、それは!!」

 

ハイパーリングを胸から取り出したリーナ。

長い間、探していたものをどうしてリーナが持っているかと考え、直ぐに白い魔法使いが渡したと答えを導きだし、奪い取ろうとするのだがリーナは胸にしまった。

 

「光國、ベルトを貸して」

 

「ダメだそんな事をしたら、あのクソジジイが確実になにかを」

 

「言ってくるし、目立つわ…けど、それで良いのよ…光國は私の事を好きよね?私も光國の事が好きよ…だからね、決めたの」

 

光國の上から降りて、ベッドに腰掛けるリーナ。

後ろに振り向き満面の笑みを浮かべる。

 

「私ね、色々と裏でやっていたの。

USNAに人工魔法師の情報を流していたんだけど、何時までたっても光國を拉致する許可が貰えないの…光國をUSNAに閉じ込めさえすればって、管理すれば良いんだって思っていたけれど、それはその場しのぎに過ぎないみたい…今まで見たくなかったのよね、辛い現実と未来が…私は戦うわ、十師族、いえ、兵器と思われる魔法師と兵器と思っている汚い大人達と」

 

「…」

 

『ドライバー、オーン!!』

 

光國は無言でベルトを起動させた。

机に置くとリーナが頬にキスをしてくれて、目指せW優勝と言うとビーストドライバーとウィザードリングを持って出ていった。

 

「…あいつ、ハイパーリングも持っていったな…」

 

光國はゆっくりと目を閉じた。

眠るのではなく、精神を安定させるべく目を閉じてゆっくりと意識の奥深くに潜りキマイラと会合する。

 

「小娘め、あの白い魔法使いから受け取ったな…この分だと、確実にミラージュマグナムも所持しているな」

 

「それ以外も持っている…多分、昔見つけた徳川に献上されたメダルも持ってる…はぁ」

 

最終的にはビーストドライバーを渡してしまった事に溜め息を吐いた光國。

ダメな事だと分かっているのに、渡さないといけないと、乗り越えないといけないと、戦わないといけないと感じている。

しかし動く切っ掛けが無く、立ち止まっている光國をキマイラは笑う。

 

「人は一度でも甘い汁を吸って妥協すれば、二度と立ち直れん…しかし貴様はその類ではない。

現に貴様は敵は己の内にありと、一度もラケットを手放すことはなかった。絶え間無く鍛練を積んでいた。他にも勝てる競技があると言うのに、勝てる競技を作れたのに対抗戦で貴様は自らでテニスを選んだ」

 

「…」

 

「時は満ちた、今こそあの老いぼれをくらう時だ。

散々、甘い汁を吸って楽しんでいたのだ…奴をくらって、我が血肉とする!貴様もそれを望んでいる!」

 

「…けどなぁ…」

 

「まだ逃げると言うのか…いや、違うな。

貴様は忘れている、無くしている…生きる意味を、自分にとっての希望を!!」

 

キマイラは光國から生まれたファントムではない。

だから知らない、光國にとっての希望を、生きる意味を、明日への力を。

それさえあれば手塚光國は、羽ばたくことができる。仁王の待ち望んでいるものが現れる。

三年後よりも先の未来を笑顔に過ごせる未来に出来るかもしれない。

 

「…生きる希望か…」

 

光國は意識の奥底から現実に戻り、頭をかいた。

笑い死にした自分にとっての希望ってなんだっけと記憶を探ろうとするが、時間は無く、5日目が始まった



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クラウド・ボールの処刑人

「ムカつくわね」

 

5日目の朝を迎え、クラウド・ボール新人戦を迎える光國達。

午後にはアイス・ピラーズ・ブレイクの新人戦予選があり、準備に忙しく場所取りをしていたりと観客がこの九校戦で最も少ない。エリカはその事に苛立つ。

その事に関してエリカは苛立つが、光國は観客席に座っている仁王を見て苛立つ。

自身に直接ハイパーウィザードリングを渡さずに、リーナにどうして渡したかと今すぐに問い詰めたかったが、そんな暇はなかった。

 

「そう怒るな、エリカ。

このクラウド・ボールは九校戦で一番地味で午後の競技は九校戦で一番目立つアイス・ピラーズ・ブレイク…やっぱ、絵になるのって大事だと思う。ほら、テレビ的な意味で」

 

「テレビじゃなくて生で見に来てる人たちに不満なのよ!!

満員とか普通にあったのに、全然人が来てないじゃないのよ!!」

 

「よく見てみろ…クソジジイは来ている。ほんま、餅を喉に詰まらせて死なねえかな…」

 

九島烈を中指で指差す光國。

エリカはマジでと驚き光國の行動に慌てるが、九島烈には日常茶飯事な事で今更な事と怒らず憎たらしい顔をする。

 

「ホンマに、さっさと寿命で老衰しろ」

 

「なんでそんなに嫌っているのよ…」

 

「あのクソジジイがオレに目をつけて、なんやかんやで魔法師になれと言ってきた…お陰で転落人生だよ、全く…」

 

「…」

 

エリカは観客席にいるGenius10を見る。

一人だけ知らない奴が居るが、クラウド・ボールとは言え戦ったエリカには分かる。

Genius(天才)の名に相応しい奴等だと。才能を生かして努力している…そしてそんな奴等の頂点が光國なんだが、魔法師だから制限がと考えてしまう。

 

「くだらない事は考えるな…今は勝つことだけを考えろ…見てみろ、ヨシヒコ達はちゃんと来ている…達也やリーナは流石に来ていないが」

 

アイス・ピラーズ・ブレイク組は最後の調整とかに忙しいので来ていない。

しかし、ヨシヒコ達二科生は来ていた…主にエリカの応援のために。市原や紗耶香も主にエリカの応援のために来ており、光國の名前を呼んでいない。

 

「良かったな、一部とは言え、第一高校の面々がお前の優勝を信じているのを…一応、女子はもう一人いるんだがな…」

 

準備体操をしている里美スバルは友人には応援されているが、エリカの応援の方が多い。

 

「代表決定戦で優勝してよかったって、今感じるわ」

 

「油断をするな、千葉…本命が出てきたぞ」

 

ニッヒッヒと笑みを浮かべるエリカだが、試合ははじまってすらいない。

女子大本命の愛梨が出てきたので渇を入れ直すと真面目な顔をするエリカ。

愛梨は此方に気付くと歩み寄ってきた。

 

「…貴方は、クラウド・ボールに出場ですか…アイス・ピラーズ・ブレイクかモノリス・コードと思っていたのですが」

 

「こう見えて殴ったり破壊したりするのは不得意でな。

因みにラケットで行くつもりだ…一つぐらい文字通り男女混合の競技は必要だとオレは思うが、お前はどう考えている?」

 

「…それは宣戦布告と捉えてよろしいのですか?」

 

もし当たったのならば絶対に勝てると愛梨は捉えるが

 

「…いや、オレは普通にそう言うのが必要だと思ってるだけだぞ?

結局のところは、男女別だったり男子限定だったりとか女子限定だったりとかそう言ったのは男女差別のアレが…当校はと言うか、この九校戦で成績叩き出せたの今のところモブ崎と十文字会頭と服部元副会長…後は女性陣のみと言う割とアレな成績…ミラージ・バットに出れたらオレは優勝できた」

 

そう言った意味で光國は言っていない。

男女混合の競技は普通に面白そうで、普通に楽しそうとしか考えていない。

 

「…」

 

「手塚くんは、そう言うのを余り考えていないわよ…それよりも、相手は私なんだから…足元を掬うわよ」

 

エリカは今までに無いタイプの人でどうしたものかと考えている愛梨を見て、イラッとした。

自身を全く見ていないので絶対に勝つと強く誓う…のだが

 

「勝てるのか?」

 

光國は未来を知っている。

クラウド・ボールではエリカは準優勝だったことを、エリカでは勝てないことを。

去っていった面白くない愛梨の背を見て、勝つ算段があるのかが気になる。

 

「う~ん…なんて言えば良いのかしら?

どうも一昨日から調子が…良いには良いんだけど、それ以上に行けそうで行けない的な感じの…」

 

「…成る程…」

 

自身が九校戦に関わったことにより起きた影響でエリカに起きた変化に少し気付く光國。

それがなんなのかを敢えて教えず、互いに試合に向けての準備運動等をしていき、クラウド・ボールの新人戦が開幕し、先に男子の一回戦が行われる。

 

「申し訳ありません、思いの外、準備に手間取りました…」

 

それとほぼ同時に準備を終えてやって来た深雪と達也。

 

「お、間に合ったみたいだな。今からちょうど手塚の試合だぜ!」

 

「そうか、それは良かった…対手塚光國用のドリンクを作ってきた意味が無い」

 

「…た、達也さん?」

 

「アイツには散々辛酸を舐めさせられたからな…仮にアイツが負けても、クソマズドリンクを普通に飲める手塚には罰ゲームにならない…」

 

此処ぞとばかりに復讐の機会は来たと中身が虹色でコポコポと言っている飲み物を見せる達也。さしもの光國もこれならば倒れると、日頃の恨みだと作っていた。

因みに遅れた原因がアイス・ピラーズ・ブレイクの準備と対手塚光國用のドリンク製造だが、割合で言うと2:8だったりする。

 

「お兄様、確かに手塚さんは性格も悪く、口も悪く、魔法師としての成績も悪く、態度も悪い人です。ですが、手塚さんはお兄様の事を正しく評価し、お兄様を一番、私を二番にしてくれた素晴らしい人です」

 

「深雪、騙されるな…アイツは漁夫の利を得ていて、自分が汚れない位置に常に立っている」

 

「ですが、その分私達にプラスになりました…まぁ、何処かで一度敗北を知った方が良いとは考えていますが…ペナル茶とナンパ対決は行きすぎです」

 

罰は必要だけど、敵じゃないと一応の弁護をしてくれる深雪だがあっさりと達也の味方になり、七色の煙が出る特性ドリンクを持って笑顔になる。

 

「…エリカ、どんまい」

 

「いや、手塚くんが飲まないといけないのよ!?」

 

「…やれやれ」

 

オレが負けるなんて有り得ない。

と言うかこれといってスゴい奴が居ないのにどうやって負けろと言うんだと思う光國。

 

「……」

 

クラウド・ボールの予選は同時に行われる。

他の競技は違うのに、これだけは同時だと言うのは仕方ないがやはり不満に思ってしまう。

 

「「ドンドンドドドン、手塚光國!ドドン!!」」

 

応援に来てくれている謙夜達が居なければ。

自身にとってはとても懐かしいエールを受けると心地良く、不安や緊張なんて一瞬になくなる…筈だったが

 

「…嫌な予感しかしないな」

 

九島烈の隣に神晃が座っているので安心なんて出来なかった。

 

「はぁ…仁王のせいだ…」

 

楽しいことしか数日前の夏休みがかなり昔の事に思えてしまう光國。

それもこれも仁王が何度もタイムベントをしたからだと、つい責任転嫁をしてしまい苛立ちは増していき

 

「処刑法其ノ一 切腹」

 

クラウド・ボールで発散をする事にした。

 

「っが、ぁ…」

 

対戦相手の第四高校の生徒はラケット型でクラウド・ボールに挑んだ。

拳銃型CADの移動系魔法で無理矢理ボールを動かすのと違いラケット(それ)を使って光國と戦うのは余りにも、いや、最も最悪な事だった。

ラケットの加速と加重の複合魔法で身体能力を上げて、球に重みと威力を増した球を簡単に打ち返し、グロメットの真上部分にぶつけて、グリップの先端部分がお腹を強く突いてしまい膝をつく。

 

「どうした…早くしろ…いや、他にもボールがあるか」

 

中々に立ち上がらない第四高校の選手。

ポイントは段々と増えていき、20秒がたった後、二個目のボールが射出口から光國のコート目掛けて発射され

 

「処刑法其ノ二 銃殺」

 

対戦相手に脳天目掛けて撃ち、ぶつけられた際の衝撃で一回転させる。

 

「…おいおい、この程度で終わりとか笑わせるなよ」

 

「ま、だ、だ…」

 

クラクラと痛む頭と激痛が走るお腹の痛みに耐えながら立ち上がった対戦相手。

第四高校は本戦では良いところなしで、優勝は第一高校と第三高校の争いとなっていることに不満を持っており、自分が優勝して巻き返すと気力で立ち上がり、ボールを打ち返したが

 

「処刑法其ノ八 ウィッカーマン!」

 

光國は心臓にボールをぶつけた。

 

「…おぉ、マジかいの…」

 

その技も使えるのかと称賛する仁王。

三年もの間、テニスをしていない光國は全くといって実力が劣っていないと、自分より上のNo.1のバッジを渡されるだけの事があると笑みを浮かべるが

 

「アカン…アカンで光國!!

戦極、第一高校生は何処や!あの、一番別嬪な子のグループを探せ!」

 

「ええ…あ、あそこだ!」

 

「よっしゃ、ちょっと行ってくるわ!」

 

風林火山で挑むのかと思った謙夜は光國の怒りに気付いたので走り出す。

 

「浪速のスピードスターのスピードは、7や!」

 

深雪達の元に。

 

「処刑法其ノ六 セメント靴!」

 

「あ、足が!!」

 

「て…手塚、どうしたんだよ!?」

 

何時もと違うプレイに困惑をするレオ。

いや、レオだけでなく応援をしている他の面々も困惑をしている。

 

「お前等、なんかしたんか!?光國、ごっつーキレとるやないか!!」

 

どう言うことかとレオ達の前に現れた謙夜。

光國をビシッと指差して、光國が怒っている原因を問いただす。

 

「手塚さん、怒っているんですか!?」

 

しかしそんな事には全く気づかなかった柴田。

 

「当たり前や、十三の処刑は主にキレとる時やないと使わへんねん!!」

 

「十三の処刑って、そんな大袈裟な…大袈裟な…大袈裟…だよね?」

 

ヨシヒコはコートを破壊するプレイを見たばかりなので強くは否定できない。

 

「…球技をやる以上はボールが当たったりするのは仕方ないことで、怯えたり避けれないのが悪いんじゃないの?勇気を出して前に出ないと試合以前の問題だし、あの球技の中でも比較的に安全な卓球ですら死人が出ているわよ?」

 

紗耶香は避けれないのが悪いと考えているが、だからと言って当てに行って良いわけではない。

 

「…あの技はそんなに危険なのか?」

 

一個、一個くらっているが立ち上がっている対戦相手の第四高校。

どちらかと言うとフィジカル面ではレオと遥かに劣っており、当てるのはアレだが、耐えようと思えば耐えれる攻撃だ。

 

「そら、一個一個は足の小指をタンスの角にぶつけた時の痛みの3,.倍ぐらいの痛みや」

 

「それは…ギリギリ、ギリギリ耐えれる痛みですね…」

 

分かりやすい例えなので理解しやすく真面目な顔で頷く深雪。

レオ達も理解したのか顔を青くして股間ではなく足の小指を曲げる。

 

「待て、深雪。足の小指の3.7倍はそこまでは痛く無いはずだ」

 

「お兄様…アレは本当に痛いんですよ。

九重八雲先生のお弟子さんの拳よりも痛いんですよ!でも、なんとか耐える、お兄様にみっともない姿を見せない為に声をあげないギリギリのラインなんですよ!」

 

「…深雪、痛いなら痛いって言ってくれ。何時でも俺が」

 

「話が脱線しとるわ!

あの処刑法はマッサージを応用しとるんや!」

 

「マッサージの応用…?」

 

「処刑法其ノ四 苦痛の梨」

 

「あぐぉ!?」

 

低反発ボールを器用に口に叩き込む光國。

全力で相手にボールをぶつけにいくフェアどころかアンフェアなプレイングの何処にマッサージとの繋がりがあるのかと市原は考えるも答えはでない。

 

「処刑法其ノ十三 ギロチン…これでお前に対する介錯は済んだ。そしてオレの鬱憤も晴らすことは出来た…」

 

首目掛けてボールをぶつけると満足をした光國。

苛立ちは無くなっており、スッキリとした表情を取っており

 

「あ、あああ、あ…」

 

第四高校の選手は一歩も動くことが出来なかった。

光國はラケットを腰に当てており、もう動こうとする素振りを全く見せておらず、5つの低反発ボールは全て第四高校の選手のコートにあった。

 

「お前はもう、動けない…この第一セットが終わる時点で終わりだ」

 

光國は飛んできた6つ目の低反発ボールを力を入れずに相手サイドのコートに入れた。

 

「十三の処刑法をくらえば、筋肉が暫く使いもんにならんくなる。

マッサージが筋肉を解したり刺激したりして血行を促進させたりするのに対してあの十三の処刑法は真逆っちゅー話や…もうアイツは今日はまともに歩けん…」

 

ただただ光國を見つめる謙夜。

スッキリとしているので、処刑は暫くしないと分かると一息つくが

 

「これ、歴代最高得点ちゃうんか…」

 

 

237-0と言うクラウド・ボール史上初の大差に呆気を取られた。

三桁の100や80ぐらいがやっとだと言うのに、光國は意図も容易く200オーバーをし、第四高校の選手が完全に動けなくなった事により棄権。

 

【WINNER 第一高校 手塚光國 】

 

「さて、次からは真面目にやるか…」

 

他がやっと第一セットを終えた中、光國だけは勝利をしていた。

 

「…後、数手で王手じゃのぅ」

 

仁王は、光國が今迷っていることに気付く。

後、何個か光國に変化をもたらす事があれば光國は共に戦ってくれる。

 

「鍵は…クラウド・ボール…いけるか?いや、いけるな」



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クラウド・ボールのお姫様 ~そして無我の境地へ~

「疾きこと風の如く」

 

最初の処刑で派手にヒャッハーしたものの、それ以降は冷静な光國。

二回戦以降はちゃんと真面目に戦うようにしており、移動と加速魔法で物凄く早くしたボールの前に縮地法で近付き、居合いの要領でラケットをスイングし、魔法よりも素早く打ち返す。

 

「徐かなること、林の如く」

 

大きくカーブするボールをドロップショットで打ち返す。

ボールは弾むことなく転がった…後ろへと。移動魔法の技巧に対して、光國は零式ドロップの技巧で破り

 

「侵略すること火の如く」

 

加重系の魔法でボールの重さや衝撃を上げた球をNEO・ブラックジャックナイフで難なく打ち返す。

打ち返されたボールは相手コートの樹脂の壁にぶつかるとヒビが入り、少しだけめり込んだ。

 

「やれやれ、最初はどうなるかと思ったが…変わりはしないな」

 

速さで来れば速さで対抗し、技巧で来れば技巧で対抗し、攻めで来れば攻めで対抗する。

相手の戦法に合わせて真っ向から叩きのめす。自身の得意な戦法を破られた事により、心は打ち砕かれてしまい心で敗けを認めさせる。

テニスと同じ事をしていると神晃は光國を見て、微笑むのだが直ぐに笑みは消える。

 

「あんたはどうするつもりなんだ?」

 

「なにがだね?」

 

そろそろ決着をつけなければならないと神晃は九島烈に話しかける。

 

「おれぁ、今回此処に仕事で来ている。

三年前の沖縄や前回の魔法師同士の差別、他にも色々とあって悩み多いガキどもが増えている。魔法師になって大丈夫なのか、魔法師がいて大丈夫なのかってな。

先生ってのは、その問いかけに対する答えを持ってないといけねえんだよ。だから、自ら志願してこの九校戦にまでやって来たんだが…改めて理解するぜ、全く…そう言う問題じゃねえって」

 

「なにが言いたい?」

 

「テメエみたいな年寄りは古臭いってことだよ。

魔法師ってのは兵器だなんだと言われて不満に思いつつもそれで良いと、それで自身が特別だと別の種族だと思ってやがる。そして国や大人が助長させている。

最近のガキなんてのは気付けば勝手に成長しやがる…それがダメだって、気付いている奴等もいる。うちの馬鹿なんて気付いている癖になにもしていない。

オレ達大人は、ガキの善悪の物差しになりながらも、くだらねえ伝統や固い考えを押し付けるんじゃなく、柔軟な考えや新しく進化させた伝統を生み出したり受け入れたりしねえといけねえ…だから言っておく」

 

くわっ!と目を血走らせる神晃。

殺気が若干漏れており、深雪や達也の様に本当に強い奴等はその殺気を感じ取っており身構えて何時でも動けるようにする。

 

「テメエにはうちのガキを苦しめた報いを受けてもらう…テメエのカビくせえ全てを否定してやる」

 

「彼を苦しめたか…それは大きな思い違いをしているのではないのか?

彼は十師族レベルの魔法師が側に居なければあっという間に死んでしまう程に脆い」

 

「アイツならば、そんなのはどうにでもなる。

覚えておけ、そろそろ時代や世代が大きく変わる時が来たんだ。テメエが作った十師族だなんだ、全てを否定してやるよ…光國がな」

 

「お前ではないのか」

 

「おじさんは所詮、おじさんさ…さっさとクタバレ、クソジジイ」

 

「最後の毛を失え、クソハゲ」

 

親と子は似ると言うべきなのか、態度が同じな神晃。

何れは光國は九島の全てを否定すると言っているが、そんな事は出来ない。

そう言った力を彼は持っていない。知恵も知識も足りない、一人ではどうにもならない…そう、一人ではだ。

神晃はあの白い魔法使いは信頼も信用もしていない。が、リーナ達を、光國を信じていた。だから、九島烈に喧嘩を売れた。十師族を無駄にすると言う喧嘩を。

本人が全く知らないところでしていた!

 

「よし、どっちも決勝戦だ!!」

 

神晃達が話をしている間にもクラウド・ボールは続き、決勝戦までやって来た。

エリカと光國は決勝戦まで駒を着実と進めており、エリカはヨシヒコ達に向けてピースをする。

 

「決勝は三回戦の勝者三名の総当たり戦だが…一色愛梨(エクレールアイリ)に勝てるかどうかの勝負になっているな」

 

先に女子のクラウド・ボールの決勝戦が行われ、なんと言っても一色愛梨が恐ろしいと語るお兄様。

三人目の決勝進出者こと里美スバルは愛梨とエリカと比べると劣るところが多く、どっちと戦っても負けると感じており、普通に負けた。

 

「互いに一勝…達也、なにか秘策はあるのかい?」

 

「幹比古…このクラウド・ボールの新人戦は全くといって調整をしていないし作戦も考えていない…エリカは身体能力を上げているが、殆どはテニスの技術で勝っている。」

 

「手塚さんに至っては素のスペックだよね…」

 

ハハハと苦笑いをする美月。

仮に光國が愛梨と戦ったのならば、なんやかんやで勝てそうだと思うのは言えない。

 

「反応速度が半端じゃないわね…」

 

知覚した情報を脳なんかで認識せずに、精神で認識し、動きを精神で命じる魔法を使って里美スバルに愛梨は勝利した為に勝てるかどうか心配になるエリカ。

 

「一つだけ面白いことを教えておく」

 

そんなエリカを見て光國は簡単なアドバイスをした。

今のエリカならばもしかすれば勝てる可能性があると簡単なアドバイスをする。

 

「そっちが本気で行くなら、此方も本気で行かせて貰うわよ」

 

ラケットを逆手に持つエリカ。

 

「随分と変わった持ち方…いえ、違うわ…逆手一文字!?」

 

ラケットを持っているエリカを見て、変わっていると感じたのだが少しだけ違和感を感じる愛梨。

エリカの逆手の持ち方が独特で、別のものを、刀を持っているイメージをすれば凄くしっくりと来た。

 

「気付いたかしら?

手塚くん…いえ、手塚部長が私に逆手一文字を覚えろって言ってきて、覚えたのよ」

 

逆手持ちと言う変わった持ち方に驚くが直ぐに冷静になり、試合に挑む愛梨。

 

「手塚部長程じゃないけど、前後の縮地法は出来るのよ!」

 

愛梨と激しいラリーを繰り広げるエリカ。

 

「見せてあげるわ…海賊の角笛(バイキングホーン)!!」

 

「っ!」

 

逆手持ちから放たれる不規則な攻撃。

通常のラケットの撃ち方とは違うために何処にボールが行くのかが分からない愛梨は抜かれてしまう。

 

「残念ね、私と一番最初に当たっていればそれは通用していたわ」

 

愛梨はエリカの動きから予想をするのを止めた。

考えるのではなく感じる、知覚した情報を脳や神経ネットワークを通さない魔法、稲妻(エクレール)を発動し、ボールを拾って打ち返してボールのみを認識し、エリカが打ち返したボールを直ぐに打ち返すが

 

「まだまだぁ!!手塚部長の方が早いわ!!」

 

エリカもくらいつく。

ボールが複数に増えてもくらいつく。

 

「エリカ…ダメだ」

 

ラリーを繰り広げているのだがポイントを多く取っているのは愛梨で焦るレオ。

逆手持ちと言う取っておきは通用せず、自己加速や加重と技術でなんとか追い付こうとしているが差は縮まない。幸いと言うべきか開かないが、それでも届かない。

 

「やはり、ダメか…」

 

ギリギリになって教えた事だから出来ないかと諦める光國。

エリカには悪いが、達也がオレ用にと作ったドリンクを飲んで貰おうと考えていると

 

「っ!?」

 

「あ、出来た…流石だな」

 

愛梨のラケットがすっぽ抜けた。

 

「ラケット、貰い!!」

 

エリカ目掛けて飛んでいくラケット。

エリカはすかさずキャッチすると片方は普通に持ち、もう片方は逆手に持って八個目のボールを愛梨のコートに目掛けて打つのだがブー!とブザー音が鳴った。

 

「え、なに?」

 

何事かとボールを打ち返してから辺りを見るエリカ。

運営の人達がコートの内部に入ってきて、愛梨の方に向かっていった。

 

「今、千葉選手に向かってラケットを飛ばしたのは故意ですか?」

 

「いえ、違います…手に力が入らなくなって…」

 

ラケットが相手のコートに飛んでいった事が問題だと急遽中断になった。

愛梨は本当に手に力が入らなくなって、すっぽ抜けたのだが怪しむ運営。もしかしたらと、今度はエリカを怪しむ。

 

「私はなにもやってないわよ!?」

 

心当たりは全くといって無いエリカ。

本当に偶然手が抜けたのか?と運営の人達は審議をはじめようとすると

 

「一色愛梨がラケットを飛ばした原因はエリカです」

 

光國がコート内部に入ってきた。

 

「…どういう意味ですか?私は、魔法を向けられた感覚は」

 

「困ったらおかしな事があったら魔法と考えるな…魔法ではなく身体技術だ。

上と下の似た感じの回転を打ち返し続けていると、少しだけ筋肉がおかしくなる…稲妻(エクレール)は知覚した情報を精神で命じて、精神で肉体を動かす魔法…精神で動かしているから、体のおかしさに気付く前に動いてしまった…NOスピードNOライフだけじゃダメだって事だ」

 

「おいこらぁ!!光國、喧嘩売っとるんか!!」

 

「じゃかっしいわ!!お前、オレの氷の世界で負けたやろう!!…ったく、素早いだけが稲妻ちゃうんやぞ…動くこと雷霆の如しだ…技術であり、魔法じゃない…時計戻したりは、出来ひんで…」

 

運営委員にニヤニヤ顔で言うと、コートから出ていった光國。

すると、運営委員も出ていき電工掲示板が第1セットから第2セットに変わる。

 

「文字通り命のやり取りをする死合ならばエリカの方が有利だ。

だが、クラウド・ボールの様な魔法競技では圧倒的に一色愛梨の方が有利でエリカは百回やって数回勝てるレベル…なら、その数回を掴む努力はした」

 

 

 

クラウド・ボール 新人戦 女子決勝戦

 

第1セット

 

千葉エリカ ○ 一色愛梨 ●

 

 

「ここからは実力で勝てよ…」

 

スポットの原理を教えてしまった以上はもう攻略をされる。

テニスと違い、相手のコートに叩き込みさえすればポイントになる。

 

「あれ、テニスコートの意味あるんやろうか…」

 

クラウドボールは1バウンド=1ポイント。

ぶつける地面は何処でもいいのに、何故かテニスコートっぽくしているクラウド・ボールのコート。やっぱそう言うのじゃないとテンションが上がらないのだろうかと考えていると第2セットが開幕をする。

 

「…」

 

第2セットが始まったのだが顔色が優れないエリカ。

第1セットの白星は気に食わないかと聞かれれば気に食わないが、貰える物は貰おうと受け入れている。

 

「どうすれば、いいの…」

 

なんとか戦えているだけで、次が無い。

スポット対策か、ラケットを持っている手を変えれる機会があれば直ぐに変えている。

エリカには決めてとなる物がなく、どうすればいいのかと必死になって頭を回転させる。

 

「魔法…いえ、それはダメね…」

 

ラケットではなくCADでボールを動かせばいい。

そう考えたが、魔法が不得意なエリカはそれは出来ない。

いや、簡単なのは出来るが、愛梨を相手に付け焼き刃の魔法では勝てない。

 

 

自分は魔法がダメだったから、二科生になった。

 

 

エリカにレオに美月のこの事実だけは変わりはしない。

だが、変わりに色々とやって来た。エリートにも勝てるんだと下剋上を挑んだ。

 

「…」

 

エリカの中にあった様々なものがゆっくりと一つになっていく。

気付けばエリカは大きな扉の前に立っており、エリカはその扉に触れると数ヶ月前の事が走馬灯の様に頭に流れてエリカは無意識の内にラケットを両手で握っており、居合いの構えを取り

 

「!」

 

愛梨が気付くことが出来ない速度でボールを打った。

 

「疾きこと、風の如くと言ったところか…」

 

魔法の才能にこそ恵まれていないエリカ。高度な魔法を使うことは彼女には出来ない。

しかしその代わりに彼女には剣などの才能があり胸は残念だが元気な体は持っていた…そして越智や吟と言った天才と戦い、覚醒をした。

 

 

 

 

 

 

 

無我の境地に辿り着いた

 

 

 

 

 

 

 



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才気煥発なるテニスの王子様

「今のって、手塚の風林火山じゃないのか!?」

 

エリカが光國の技を使い驚くレオ。

光國の技は難しいものが多く、エリカが見せたそれは最早、真似と呼べるレベルでは無かった。

どういうことか驚いていると、エリカから湯気と言うか目に見えるレベルのオーラが溢れ出る。

 

「柴田さん!」

 

「この状態でも見えます!」

 

その光景を見て、ザワつくが第一高校の面々はこれと似たものを知っている。

ヨシヒコは柴田に確認を取ると、眼鏡をつけた状態でも見えると言う柴田。

 

「エリカ…君も使える様になったのか…百錬自得の極みを…」

 

エリカから溢れ出るオーラは百錬自得の極みとそっくりだった。

百錬自得の極みはCADを介さずに使える古式魔法の一種で、発動条件がかなり難しい…魔法師ではなくスポーツ選手としての才能が大きく関わる魔法なのだが

 

「待て、幹比古…様子がおかしくないか?」

 

達也はただ一人、気付いた。

光國の百錬自得の極みと似てはいるものの、一ヶ所にオーラは集まっておらずただただ放出されており、なにも言わないまま、ひたすらに試合をプレイしていた。

 

「エリカちゃんが五人!?」

 

「アレって、アイツ等の技じゃねえか!?」

 

謙夜や光國の技を使ってだ。

 

「ど、どうなっているの?」

 

「…」

 

急にプレイスタイルが変わり、困惑をする愛梨。

常人ならばなにも出来ないがその状態でも打ち返すのは流石と言うべきだが、徐々に徐々に押されていく。

 

「…そうか、無我の境地か!」

 

「レオ、なにか知っているのか?」

 

「前にオジイから聞いたんだよ。

テニスにも魔法があるなら、登山にも魔法が無いかって…流石に登山は無いって言われたから直ぐに諦めて、テニスの魔法を聞いたんだが、それをするには無我の境地に入っていないとダメなんだ。

無我の境地に入った人は、頭で考えて動くのではなく身体が実際に体験した記憶などを含め無意識に反応して最善の手を打つ…だから、様々なプレイスタイルを再現する事が出来るって」

 

「オジイ…いったい、なんなんだオジイは」

 

オジイの謎はさておき、不規則なプレイスタイルに精神での反応が追いつかない愛梨。

詰める事の出来なかったエリカとの差が徐々に徐々に縮まっていき、遂には抜かれてしまう。

 

「いける、これならエリカちゃんが!」

 

「クラウド・ボールの新人戦は男子女子両方とも第一高校のもんだ!!」

 

これならば勝てると喜ぶ美月とレオ。

しかし、達也やヨシヒコは余り良い顔をしない。

普段のエリカとはかけ離れており、体には物凄く負荷が掛かってしまっており、ボロが出ないか心配をしている。

 

「…え、ちょ、待て!?」

 

体を激しく回転させるエリカ。

 

「あ、アカン…アカンぞぉおおおお!!それはワシの佰八色よりも危険や!!光國はん、なんちゅうもんを教えとるんや!!」

 

「うそだろ!?」

 

エリカの動きがなにか分かるのか大きく叫ぶ吟。

吟の真の力を知っている達也を除く二科生達は大きく慌てるがもう遅い。

射出された七個目のボール目掛けてエリカは大きく飛んだ。

 

 

 

 

 

(スーパー)ウルトラグレートデリシャス 大車輪山嵐!!」

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

これでもかと言うぐらいに遠心力などを加えてスマッシュを決めたエリカ。

技名がダサいとかそんなのは関係無い。これはまずい、これは危険だと愛梨の本能は言っており、愛梨の精神は迎え撃つではなく、避けることを選択しボールを避けた。

するとボールは壁に激突して樹脂の箱を貫き地面にぶつかって破裂すると同時に樹脂の箱、全体に亀裂が入った。

 

「なんて、威力なの…!」

 

七個目のボールが木っ端微塵になった事に驚きを隠せない愛梨。

もしアレを真正面から受けてしまったのならば返せなかったと心で敗けを認めてしまうのだが

 

「愛梨、まだ終わっていないわ!!」

 

「逆転出来るぞぉ!!」

 

愛梨の友人である四十九院と十七夜が励ます。

まだ逆転のチャンスはあると、点差は開いたが戻せると。

愛梨はその言葉を聞いて諦めるかと立ち直ってボールを打ったのだが

 

「しまいや…」

 

コートの内部に光國が入ってきて、愛梨の打った球をキャッチした。

 

「なにをしているんですか!?」

 

「だから、おしまいや…千葉」

 

コートに急に入ってきた事に驚く愛梨だが、光國は気にせずにエリカの方に振り向く。

すると、担架を持った二人の運営委員がやって来てエリカの側に近寄るとエリカはラケットを落とす。

 

「………っ、いったぁああああ!?」

 

ラケットを拾おうとするエリカだったが、上手く拾えず、力強く無理矢理ラケットを握ると叫び声をあげた。

それを聞いた運営委員と光國は顔を合わせて頷いた。

 

「…千葉…いや、エリカ…腕の骨が折れとる…全く、派手な技ばっか使うからや。この分やと、足の筋繊維もズタズタちゃうんか?」

 

謙夜(最もスピードに優れた男)(最もパワーに優れた漢)の技を真似するだけでなく、自分の技も真似したエリカは見事だが、無茶し過ぎだった。

魔法である程度の誤魔化しは効くものの、エリカの身体能力や技術じゃ再現できないものを無理矢理再現しており、体にはかなりの負荷があり、最後の超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐が折れる決め手となってしまった。

 

「第一高校の千葉エリカ選手、負傷により試合続行不可能と見なします!

第三高校の一色愛梨選手は既に第一高校の里美スバル選手に勝利をしております!よって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

クラウド・ボール 新人戦 女子の部 優勝者

 

第三高校 一色愛梨

 

 

 

 

 

 

「後、もうちょいやったのになぁ…」

 

「っ!!!」

 

試合はエリカの優勢だった。

第一セットに関しても、上手くやっていた。スポットと言う盲点をついてきた。

しかし、腕が折れてしまっているのならば仕方ない…と愛梨は受け入れる事は出来なかった。

 

「こんな、優勝…」

 

どう考えても、エリカが優勝だと憤怒する愛梨。

しかし、どうすることも出来ない。優勝を譲ることは出来ない。

 

「…さっきまでは良い表情だったのに、また面白く無い顔をしているぞ?」

 

「っ…貴方がそれを言いますか?」

 

「…まぁ、言えた義理じゃないな。

取り敢えず、コートを変えたりするからさっさと出るんだ…勝ったもんが勝ちやぞ」

 

友人に励まされて挑んだ時の顔とは全く異なる愛梨の表情。

試合を見ている側の光國からすれば面白く無いとしか感じれなかった。

 

「エリカが腕一本を折ったんだ…此方もそれ相応の事をしないと」

 

樹脂の箱の入れ換えとコートの整備が終わると、次は男子の新人戦決勝。

第一試合、第二試合ぶっ続けで光國はしなければならないのだが特に気にしない光國。

愛梨でも見えるレベルのオーラを体から放出する。

 

「貴方も、それを…」

 

「一緒くたにされては困る…千葉のは序ノ口、まだ最初の段階だ」

 

「…百錬自得の極み…じゃないわね…」

 

百錬自得の極みを見たことがある紗耶香。

今の光國が使っている魔法が百錬自得の極みとは異なっており、一ヶ所に燃える様なオーラが集まっておらず、全身にオーラを纏い頭の所にキラキラと眩い光があるだけだった。

 

「無我の境地の三つの奥義の一つ…才気煥発の極みだ…」

 

名前だけを教えるとコートの中に入る光國。

対戦相手と向かい合い、ラケットを持っているのを確認すると目を閉じて

 

「89-18…と言ったところか」

 

なにかを宣言すると、第一セットがはじまった。

 

「いや、違うな108-13だな」

 

ラリーをはじめている最中、また別の数字を言う光國。

何時も通りのプレイで先程の女子の試合と比べれば派手さに大きく掛けるのだが

 

「それ以上は、ボールが入らんぞ」

 

対戦相手が13ポイントに達して以降、次のポイントが入らない。

光國のポイントだけ増えていき、13ポイント以降、1ポイントも増えず

 

「クラウド・ボールでも問題無いようだ」

 

 

第1セット

 

108-13

 

WINNER 手塚光國

 

 

 

 

「さて次は…88-23か」

 

インターバルを一旦挟み、始まる第2セット。

光國は先程と同じく、試合がはじまると同時に数字を言う。

そして勝つ、その数字と同じスコアで、88-23で光國は勝利をした。

 

「まさか、未来が見えているのか…」

 

言った通りの点差で勝利をする光國。

まるで未来でも見えているかのように動いており、未来予知をしているのかと達也は考察をしていると

 

「そんなもんじゃないわよ」

 

「リーナ!?今の今まで何処に居たのですか!」

 

今まで姿を現さなかったリーナが現れた。

 

「アイス・ピラーズ・ブレイクの最終調整をしていたのよ。

ギリギリになって戦法とか色々と変えていたのよ…光國の才気煥発の極みは未来予知じゃないわよ…ふっ!」

 

「!」

 

リーナは達也に拳を振るった。

達也はそれを受け流し、拳をリーナの顔に当たらないギリギリのところで止める。

 

「リーナ、なにをしているの!?」

 

「大丈夫よ…私もタツヤも全く当てるつもりが無いのだから、でしょ?」

 

「ああ…」

 

リーナが達也を体術のみで、一撃で倒すのは不可能だ。

それと同時に達也もリーナを一撃で倒すのは不可能で、絶対に何回か殴っておかなければならない。次の手に続く一撃を入れて次の手に続く動きをしなければならないのだが、二人とも一切していない。

 

「私が右に動いたら、タツヤは左?右?

もし右動いたら、次は私が少し後退してタツヤは前進?距離を取って攻撃?」

 

「…なにが言いたい?」

 

「相手がこう動けば、自分はこう動く。

そしてどうすれば勝利できるか、戦略パターンを瞬時に読み取り、最短で最高の一手を生み出す究極の奥義…それが才気煥発の極みよ…因みに将棋だと240手先までが限界らしいわ」

 

「240手先だと…」

 

相手の動きを瞬時に読み取り理解をする魔法、才気煥発の極み

絶対予告からは逃れられるには光國と同等かもしくはそれ以上の力を持っていなければならない。しかし、対戦相手…いや、男子のクラウド・ボール出場者で光國よりも強い存在はいない。

 

「最後だ…122-0」

 

光國の絶対予告の運命から抜け出す事は誰も出来ず、光國は勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

クラウド・ボール新人戦 男子の部

 

優勝者 第一高校 手塚光國

 

 

 

 

 

「さぁ、油断せずにいくぞお前達」

 

 

 



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wんんwこの業界は16で熟女、18でBBAですぞ!

「優勝おめでとう、光國」

 

「…」

 

クラウド・ボールで優勝をした光國。

レオ達は空気を読んだのか、それともエリカの最後を見届ける為なのか第一高校用の医務室に向かっており、選手控え室にいる光國の前にはリーナしかいない。

 

「…光國?」

 

「…それは、使えるのか?」

 

自分が優勝したが、今度はリーナの番だ。

待機状態のビーストドライバーを見る限りは、余り成果は出ていない。

その事を聞くとアハハと苦笑いをしており、光國はため息を吐いた。

 

「…なんとか出来ないのか?」

 

「え?」

 

「残念ながらそれは無理だ」

 

鞄から古くさい感じの手鏡を取り出して語りかける光國。

それは本来、グリーングリフォンが見ているものを写し出す鏡なのだがそこには白い魔法使いが写っていた。

 

「!?」

 

「それはキマイラを宿した者用のドライバーだ。

いや、違うな。そもそもの話でベルトはファントムの力のみを扱う物で、普通の魔法使いが使うならばCADの方が効率が良い」

 

「…と、こいつは言っているが?」

 

「知り合い…だったの?」

 

手鏡を見せたリーナは少しだけ怯えている。

光國と白い魔法使いと知り合いだったとは思っておらず、光國は明らかに怒っていた。

 

「私に怒っても無駄だ。

少なくとも、君は魔法科からは…いや、魔法科らは逃げられないのだから」

 

「誰が上手いことをいえと言った…」

 

「しかし、逃げられないのは事実だ。

私と君はそう言った星の元と言うか、そう言う立場だ…」

 

無言で数秒間にらみ合いを繰り広げる光國と白い魔法使い。

一触即発な空気だが、リーナは勇気を出して口を開いた。

 

「私がビーストになれば、九島は色々と大迷惑よ。

敵を更に増やすかもしれないけれど、それでも抜け道が出来る可能性があるわ」

 

「…」

 

「抜け道が出来る…それは少し違うな…」

 

「え?」

 

「抜け道は最初から存在している。

だが、十師族をはじめとする魔法師=絶対と思っており、自身を魔法師と言う上位的種族と捉えている人間に阻まれている」

 

リーナが必死にもがき作ろうとしている抜け道。

そんな物は最初からあった。光國は知っている、最初からどうにかする方法があるのを。

しかし選ばなかった。いや、選ぼうとしなかった…

 

「抜け道って、そんなのあるの!?」

 

「それは……無いわけは無いんやけど…出来ひんよ、そんな事は…色々と迷惑を掛けてまうし…リーナがどうなるか分からんし、本当にその場凌ぎに近い」

 

「私がどうなるかって、私は別にどうなっても」

 

「おっと、それ以上は言うな…皆が無事ならば、自分は犠牲になっても良い。

所詮、そんな言葉は弱者の自己満足に過ぎない…強く生き延びるならば、自分と救いたい存在、両方を選ばなければ…愛したものを愛してくれたものを戦い守り抜いてこその、指輪の魔法使いだ…」

 

自己犠牲の自己満足は許されないし、許さない。

白い魔法使いは鏡から消えたので、この話は此処までにしてアイス・ピラーズ・ブレイクに向けて気持ちを切り替えようとするのだが互いにそんな事は出来ない。

 

「…白い魔法使い(仁王)が、味方となる同業者がいる…か…」

 

自身よりも強いであろう仁王がいれば、どうにかなるかもしれないが見えない。

今のこの状況から抜け出すことが出来るのかが、具体的なビジョンが光國には見えない。

勝利のイマジネーションが今の彼にはなかった。

 

「…っと、くよくよしていてもダメだ…」

 

『ドライバー、オーン!!プリーズ、GO!!』

 

光國はリーナからベルトを外し、装着すると起動させリーナの左手の薬指にプリーズのウィザードリングを装着させて魔法を発動。

 

「!」

 

指輪を経由して魔力が注がれ、体から力が沸き上がるリーナ。

これは光國が常日頃から貯蔵している生きる為の力でそれを察したリーナは指輪をベルトから離そうとするのだが、光國はリーナの体に異常が起きない限界ギリギリまで注いだ。

 

「これだけあれば、一先ずはどうにかなるな」

 

「待って、コレって光國が生きるのに必要なものじゃ」

 

「問題無い…オレの役割はもう終えた。

白い魔法使いと会合を果たし、クラウド・ボール新人戦で優勝した。

後はリーナがアイス・ピラーズ・ブレイクの新人戦で優勝すれば、終わらない夏休みは終わりを迎える…」

 

「…ええ、そうね…」

 

あの白い魔法使いが光國の力になろうとしているのが分かったが、光國は白い魔法使いを求めない。

今、光國を助ける方法が無いリーナは返事をするだけだったが、光國がリーナから貰い生きるために貯蓄していた想子をリーナへと戻した為に体がとても軽い。

 

「優勝してくるわ」

 

カッコよくリーナは出るのだが、本日は予選しかしない。

決勝戦は明日することになっており、リーナは本来雫が出場する枠を使い出場した。

その為か雫と同じ対戦相手と戦い、決勝戦までは深雪とエイミィと戦うことはなく

 

「ぐふぉおああおおあ!?」

 

決勝戦。

リーグ形式で戦うことになっており、エイミィは深雪に負けた。

優勝以外は敗け同然としており、負けた時点で優勝出来なくなるので、その時点で特性ドリンクを飲まされる。

エイミィは赤酢と青酢を混ぜ合わせた様に見えて、実は全く混ざっていない赤い激辛、痛覚、青い酸味、酸っぱい、赤と青の交差していない謎のドリンクを飲まされて意識を失った。

ちなみにだが、出ない場合でもこういう運命にある。

 

「…この九校戦で、いったい何人が気絶すれば良いんだ…」

 

「別にええやん…お陰で一回戦敗けの選手は誰もおらんねんから…」

 

担架で運ばれていくエイミィを見て、合掌する達也

棄権とは言え負けてしまったエリカと摩利、普通に負けた桐原、普通に負けた里美スバル、実は飲むのが二度目のエイミィ、他にも色々な生徒が光國のドリンクの餌食になっている。

しかし、負けてしまった彼女達が悪い。アクシデントをものともしない強さを持っていない彼女達が悪い。

しかし、これ以上の犠牲者が出て大丈夫なのかと、次の試合で深雪が負ければ深雪が訳のわからない飲み物をもう一度飲まなければならない。

 

「流石に、お前が代わりに飲むことは認められないぞ」

 

「そんな事は全く考えていない…勝つのは深雪だ」

 

裏方担当の達也だが、今回はと言うか今回も全くといって光國とリーナのCADの調整をしていない。

リーナの実力は確かなものであり、深雪と対等に渡り合える数少ない魔法師だ。

もしかしたら負ける可能性があるが、深雪のCADは自分が調整をしており勝てると思っている…リーナには最高のCAD(武器)が無い。

 

「そう言うのは、試合を見てからよ…」

 

「その服装で行くのか、リーナ?」

 

戦わない二人が不毛な会話をしていると現れたリーナ。

何時も通りの第一高校の制服を着ており、服装が自由なアイス・ピラーズ・ブレイクでは最も浮いている選手で、深雪の巫女の衣装もあってか影が薄かったりした。

 

「いえ、この格好ではいかないわよ…わざわざ、第一高校の制服で戦ったのは深雪対策よ」

 

リーナはドヤ顔でビーストドライバーを取り出した。

 

「…それ、審査通ったのか?」

 

「通ったわよ…CADよりもスペックが低いと言うか無駄しかないから、どの競技でも使えるわ…」

 

魔法の制限もあればCADの制限もある九校戦。

ビーストドライバーが使えないかもと思っていたが、あっさりと通った。

と言うよりはビーストドライバーが未知の物過ぎるので、どうすれば良いのか分からずリーナから簡単な説明を聞いた後、取り敢えずは通してみたと言ったところだ。

 

「そのCADが、とっておきか?」

 

「達也、悪いがそれは教えれんよ…行くぞ、リーナ」

 

達也の視線が、ビーストドライバーに向いていたのでこれ以上はまずいと引いた光國とリーナ。

 

「手塚が持っている手塚にしか使えない聖遺物…ではなく、リーナが使う聖遺物、逆だったのか?」

 

お兄様の考えは変な方向に傾いてしまったが、誰もなにも教えない。

選手である深雪とリーナは選手控え室に入ると、光國は私服に着替えてから観客席に…第一高校の面々が座っている席ではなく、仁王が座っている席の隣に座った。

 

「はぁ…」

 

「人の顔を見た途端、いきなりのため息か」

 

「わし、色々と用意しとったんじゃがなぁ…来いよ、いい加減によぉ」

 

「なにをするつもりだったんだ?」

 

「ビーストじゃ、体に負荷が掛かる…他の変身グッズ、持っとるけん」

 

「…おい」

 

仮面ライダー響鬼に変身する音叉や笛、音錠を見せる仁王。

光國は一瞬だけ思考停止をしたが、直ぐに意識を現実に戻すと強く睨み、威圧する。

 

「お前、完全に狙っとるやろ…」

 

仮面ライダー響鬼は他の仮面ライダーとは大きく異なる。

と言うか、製作段階の時点で仮面ライダーじゃなく、急遽仮面ライダーになった、ライダーらしくない仮面ライダーの一つだ。

その中でもなにが変わっているかと言えば、変身をしたら服が破れること。

一昔前の美少女アニメと違って、変身を解除したら服装が元に戻るなんて事はない、本当に服が破けており、仮面ライダー恒例の敵から物凄い攻撃を受けて大ダメージを受けると変身が解けるシーンでは全裸になっているシーンがあるぐらい。

 

 

 

朝のゴールデンタイムで、スーパーヒーロータイムで尻を晒した事のあるシリーズだ。

 

 

 

 

「そろそろ、ポロリも必要やっさー」

 

リーナが勝とうが負けようが、変身を解除したら最後、ポロリどころか世界まる見えになってしまう。それを狙ってか、響鬼系を渡す気満々だった仁王。

右か左、どちらかの腕を折ってやろうかと考えるのだが、試合を前に問題を起こしたくはない。

 

「…やっぱ、あるんやな…」

 

「ああ、あったぞい…他にも色々な奴があったぞ…戦士のベルトとか…」

 

「もう、お前一人で良いんじゃないのか?」

 

魔法だけでなく戦士の力すら持っている仁王。

コレだけで充分だと言うのに更に望むのかと、光國は呆れ果てる。

 

「それだけじゃ、ダメなんよ…手塚、お前は三年先の稽古をするつもりはねえけ?」

 

「…九島からどうやって逃れろって言うんだ…」

 

ここでも勧誘をしてくる仁王だが、光國は逃げられないことを語る。

 

「…まぁ、そっちは止めておいてU-17に出てくれんか?

流石にテニス界の柱なんて大層なものはワシには向い取らんくてな…ぶっちゃけたところ、お前がおらんと一回戦敗けじゃ…タイムベントをした理由の2割ぐらいがそこにある」

 

「…あのクソジジイがな…」

 

光國の視線の先にはアイス・ピラーズ・ブレイクのステージは無い。

九島烈だけが写っており、その眼は怯えながらも反抗的な目をしていた。

 

「…ま、覚悟があればの…そろそろ、はじまるぞい」

 

「…ミラージュマグナム、今からじゃ間に合わないよな」

 

「タイムベントはせんぞ」

 

リーナが勝てるかどうか分からない光國は、少しでも勝率を上げるべく仁王を見るが断られる。

 

「…閣下は…いた…」

 

試合がはじまる本当に少し前に出てきたリーナと深雪。

リーナは第一高校の制服のままだったので、観客達は落ち込み、深雪は変わらぬ美しさだと興奮をする。

 

「リーナ、どうして何時もの制服なの?」

 

「別に良いじゃない…コレが着たいって言うのが無いのよ」

 

「メイド服なんて、手塚さんが喜びそうよ?」

 

試合がまだ始まってはいないが、別の試合がはじまっていた。

ファッションショーと言う名のバトルで、圧倒的なまでに深雪が優勢だった。

 

「ああ、メイドね…昔、光國の前でやったら怒られたわ。

自分より絶対なまでに下とか従者扱いとかは嫌だって…慕うのと従者は違うから、二度とするなって…好きな人とは隣を歩きたいってね!」

 

「まぁ!」

 

常に先を行きつつも、後ろを振り向いて手を差し伸べてくれるお兄様とは異なる考え。

しかし、側にいて一緒に歩いていきたいと言う願いは美しく手塚さんらしいと言えば手塚さんらしいと微笑む。

 

「じゃあ、尚更負けられないわね…」

 

「違うわよ、ミユキ…負けるつもりは無いのよ…因みにミユキが負けた場合はいわし水よ」

 

「っ!?」

 

今までで一番の動揺を見せてくれた深雪。

リーナの中のなにかがコレは勝てると訴え、本気になると試合開始のブザーがなり

 

『ドライバー、オーン!』

 

すかさず、ベルトを起動させる。

それと同時に、氷柱が砕けぬ様に情報強化をしてダイスサーベルを取り出して

 

『3!ファルコ、セイバー・ストライク!!』

 

三体の風の隼を深雪の氷柱目掛けて飛ばすと、2つ破壊することに成功した。

 

「っ…っつう…でも…いける」

 

ビーストの魔法を使うのには力不足のリーナ。

演算処理がうまく出来ず頭痛に悩まされるが、それでもまだまだ戦える。

光國に限界ギリギリまで注いで貰った想子、いや、魔力が彼女の力となっている。

 

「それは手塚さんの…」

 

「違うわよ、深雪…コレは私の物よ!

どうして光國と私が一緒なのかを色々と考えているだろうけど、貴女達の考えは、そもそもの間違い!光國自体には、なにも無いのよ…」

 

ダイスサーベルに風の隼、どちらも光國のものだ。

一度だけとはいえ、光國が使ったのを見た深雪はどうしてと困惑しているがリーナは気にせず、ビーストウィザードリングを装着する。

 

「へん……しん、ん!!」

 

『セット、オープン!!』

 

会場は困惑をする。

此処までのリーナの戦法とは大きく異なっている。使ってCADが全く違う事に。

それは深雪も同じことで、攻撃する手がCADを動かす指が止まっていてリーナにはその隙はチャンスだった。

ビーストウィザードリングを何時も魔法を使うときに嵌めこんでいる右のスロットではなく左のスロットに嵌め込み、捻るとビーストドライバーが開いて真ん中の獅子の部分の赤い目が光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『L・I・O・N、ライオーン!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして獅子の口から魔方陣が飛び出てゆっくりとリーナの元に向かうとリーナの衣装が変わった。

 

「なんだ、アレは…」

 

この場にいるのは、試合を観戦しているのは魔法に関わりがあるものや興味のあるものだ。

故に最低限の魔法に関する知識は持っており、達也は知識と言う点では群を抜いている…しかし、分からなかった。リーナがなにをしたのかを。

 

 

 

 

「私は…私こそが…魔法少女★ビーストよ!!!」

 

 

どうやって仮面ライダービーストに変身したかを。

 

「少女?」

 

リーナの年齢は既に少女じゃないようなと紗耶香は考えるのだが、そこを気にしてはいけない。

ともかく、人々を自然体で、ただありのままで魅了していた深雪だがリーナが全てをかっさらった。

ただありのままの美しさとは対となる、全く別の姿への変身を行い、観客の視線をカメラを全て集めた…

 

 

「ミユキ、貴女をパクっと食べてあげるわ!!」

 

 




今年は大きい方のアルトリアの水着来い、来い


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永遠に続いていく未来など無い

「はぁはぁ…」

 

「なんとかと言ったところか」

 

光國は魔法少女★ビースト発言を一切気にせずに、ビーストに変身したリーナを観察する。

変身しただけなのだが、息は荒れていた。リーナが変身するのにはかなりの負荷が掛かった様だ。

 

「大丈夫や…後遺症は無い…それよりも、老いぼれを見てみんしゃい」

 

心配する光國を落ち着かせ、九島烈が座る席を指差す仁王。

九島烈は立ち上がっており、第一高校の集団を探しているが光國はそこにはいない。

 

「そこはおまんの仕事、勝つためにも行ってこい」

 

「…ああ」

 

光國は席を立ち上がり、九島烈の元へと向かう。

 

「アレが…」

 

一方、市原達第一高校の集団はと言うか観客全員は驚いていた。

先程まで深雪の美しさに心を奪われていた面々ですら、リーナの仮面ライダービーストには驚かされており

 

「誰があのCADの調整をしたんですか!?」

 

あずさは目を輝かせていた。

だが、あずさの質問には誰も答えない。誰もビーストドライバーの調整をしていないのだから。

 

「達也くん、アレがなにか分かる?」

 

この中で一番の知識を持っている達也にエリカは聞くが首を横にふる達也。

 

「似たような物ですら見たことの無い物だ。

だが、ソフトとハードをわざわざ分けているのを見ると…大分、無駄が多いな…何処だ?」

 

「何をしているんですか?」

 

「手塚を探している。

対抗戦の時、第一高校に奴等が侵入した際に手塚はアレを使って倒した」

 

「リーナが持っているサーベル…手塚が使ってた…いや、待てよ…確か、壬生先輩の時も」

 

「なら、尚更だ…手塚がなにかを知っている……」

 

光國がなにかを隠し持っているのは分かっていた。

聖遺物の類だと睨んでいたが、リーナが使うことまでは予想することが出来なかった。

 

「見せてもらおうか…九島の古式魔法と言うものを」

 

どんな魔法が飛び出るか達也は少しだけ気になっていた。

 

「さてと…小手調べなんてしている暇は無いわ。

最初から最後までクライマックスに行かせて貰うわ!」

 

『エラー!!』

 

「え!?」

 

効果は知らないが、キマイラが探せと命じたハイパーウィザードリング。

形からして右の嵌め込み部分に嵌めるのだが、魔法は発動することなくベルトからエラー音が流れる。

 

『エラー!エラー!エラー!エラー!』

 

何度も何度も嵌め混むのだが、エラー音しか流れない。

リーナはハズレを掴まされたのかと考えたが、エラー音が流れると言うことはこの指輪自体は本物だ。直ぐになにかが原因でエラーになっていると考えるが、そんな暇は無いと直ぐに別の指輪に変えようとするが

 

「遅いわよ」

 

深雪が攻撃をして来た。

自陣を冷やし、相手の陣地を燃やす氷炎地獄(インフェルノ)を発動する。

 

「まだよ!」

 

ハイパーウィザードリングが使えないと分かれば直ぐに別の魔法を使うだけだ。

 

『ドルフィ!GO!ドッドッドッドルフィ!』

 

ドルフィウィザードリングを使い、ドルフィマントを羽織った。

 

「マントを羽織った!?」

 

「確かコレは…」

 

滅多な事では使わないビースト。

能力を思い出しながら、ドルフィマントに想子を流し込むリーナ。

すると、リーナ側の氷柱が一つだけ砕けて溶けて、水になりイルカの形になり空高く飛んでいった

 

「っ!」

 

リーナは制御が全くといって出来ない。

深雪を倒すには確かなものがあると感じるのだが、それと同時に自分の身の丈と合った魔法でないことを。

 

「コレなら、どうにか出来る!!」

 

マントでの魔法を諦めたリーナ。

ダイスサーベルのスロットを回して、リングの嵌め込み口に嵌める。

 

『5!』

 

「よし!」

 

『ドルフィ、セイバーストライク!!』

 

出目5を喜び、ダイスサーベルを持つ右腕で大きく円を描くと同時に魔方陣を展開する。

それと同時に上空からイルカの形を保たなくなった水が落ちてきて、リーナが振るうと同時に五つに分かれて深雪の氷柱をマッハを越える速度で貫いた。

 

「まだよ!」

 

『カメレオ!GO!カ、カ、カ、カメレオ!!』

 

直ぐに指輪を変え、今度はカメレオマントを装備するリーナ。

カメレオマントのカメレオンから舌を伸ばし、自陣の氷を舐めさせると氷が消えた。

 

「氷が消えた…カメレオン、光学迷彩での透明化も出来るのね…」

 

変わる変わる、リーナのマント。

なにをしてくるかが分からないのと、干渉力が高いのもあって深雪は上手く魔法が発動できなかった。

 

「この力じゃ、上手く、出来ない…っぐ…」

 

カメレオマントは攻撃には向いていない。

バッファウィザードリングで纏えるバッファマントを纏えば、自己加速や自己加重が自動で発動して物凄い身体能力を手に入れれるが、肉弾戦が出来ない立っている場所から降りることが出来ないので使い物にならない。

 

「…」

 

光國から貰った体に異常が起きない限界ギリギリまで貰った力だが、もう限界が来たと感じる。もうすぐ、想子が底をついて変身が解けてしまうと感じる。

九島烈への反抗の為に、手塚光國と共に人として生きる本当の幸せを掴みとるべく仮面ライダービーストになった。必死になって隠していたものを晒せば、九島も手を変えると信じて変身をしたが、このままでは負けてしまう。負けてしまえば、光國は超一流の魔法師とやりあえない出来損ないと思われる。

 

「…私が光國の希望、なのよ!!」

 

カメレオマントから舌を伸ばし、深雪の氷柱に巻き付けたリーナ。

遠隔から攻撃する系の魔法で氷柱を破壊するのが基本のアイス・ピラーズ・ブレイク。

物を伸ばしたりして攻撃するのはルール上は反則ではないのだが、効率が悪すぎる。

 

「この姿は、ただ格好だけじゃないのよ!!」

 

カメレオから伸びる舌を素手で掴んだリーナ。

持てる力を振り絞り、背負い投げの要領で氷柱を引っ張り投げた

 

「な!?」

 

余りにも前代未聞の行為、と言うよりは氷柱を投げ飛ばす事に驚く深雪。

スゴいと騒ぐことを観客達は忘れ、リーナは新しいウィザードリングをはめる。

 

『バッファ、GO!バッバッバッバッファ!』

 

空中を舞う氷柱。

リーナ目掛けて落ちてくるのだが、自動的に発動された減重魔法でゆっくりと落ちていきその間にバッファマントに変えるリーナ。

 

「流石に、この位置なら外さないわよね!」

 

バッファマントをひらりと靡かせた後、力の入った拳を氷柱に入れるリーナ。

氷柱砕けて大きな氷塊へ変わり、その氷塊は深雪の氷柱に向かって飛んでいき、氷柱と共に砕けちった…のだが

 

「そん、なっ!?」

 

そこで変身が解除してしまった。

身体中から力が抜け落ちるリーナ。たった、数回の攻撃でコレだけの想子や力の消費をするとは思ってもいなかった。

 

「どれだけ、効率が悪いのよ…」

 

ビーストドライバーの高燃費ぶりを愚痴り膝をついたリーナ。

ファルコも、ドルフィも、バッファも、カメレオも使ってしまった。後は攻撃には向いていない魔法と効果が全くといって分からない、自分には使うことが出来ないハイパーウィザードリングだけだ。

 

「中々だったわよ、リーナ」

 

「なにを、言ってるのよ…終始私の優勢じゃ、ない…」

 

「けど、形勢逆転をしたわ…貴女はもう魔法を使えないでしょう」

 

「勘違いをしないで、変身が解除されただけであって魔法はまだ使えるわよ…」

 

終始優勢だったリーナだったが、ガス欠になった事により大きく逆転をする。

後は広域冷却魔法ニブルヘイムを使うだけ、それを使えば液体窒素発生し、暑くなっているリーナの陣地の熱と合わさり熱膨張を起こして氷は解ける。

もうこれ以上はなにも出来ないリーナ。最後だとCADに触れようとするのだが、リーナは諦めなかった。絶望だけは絶対にしないと最後の力を振り絞り、ウィザードリングを変えてダイスサーベルのダイスを回し

 

『1!』

 

「よりによって、1って…あれ?」

 

最悪の出目を出してしまった。

終わったと諦めたのだが、リーナは気付いた。

自身がダイスサーベルに嵌め込んでいるウィザードリングが、ファルコの筈なのに間違えてハイパーのリングな事に。

今の今まで、エラーばかりしていた使えない筈のハイパーウィザードリングだが、ダイスサーベルではちゃんと使えていた。

 

「なんでも良いから、出なさい!!」

 

コレで最後だと大きくダイスサーベルを振るリーナ。

今までのセイバーストライクと同じく魔方陣が出現し、カメレオン、バッファロー、ドルフィン、ファルコの四体が一体ずつ…でわなく、一体のキマイラが出現し

 

 

『GYAOOOOOOOO!!』

 

 

叫び声を上げ、その際の衝撃で深雪とリーナの氷が砕け散った。

 

「……」

 

どちらかが勝ったかは分からないが、少なくとも敗けはしなかったリーナ。

ゆっくりと意識が眠りに落ちていくのだが、大きく前に倒れてしまい立っている場所から落ちていった。

 

「よくやった、リーナ…お前の勝ちだ…」

 

そして光國が落ちてきたリーナをキャッチして、微笑んだ。

リーナは意識を失ってはいるものの、とても綺麗な笑顔で眠っていた。

 

 

 

 

アイス・ピラーズ・ブレイク 新人戦 女子の部

 

 

優勝者 アンジェリーナ=クドウ=シールズ

 

 

 

 

「ベルトは返してもらうぞ」

 

もう必要の無くなったベルトをリーナから外し、自分につけて待機状態にする。

リーナは想子切れで意識を失っているが万が一を想定し、光國は医務室に向かおうとするのだが

 

「ベルトは此方に返して貰おうか」

 

「光國君、どうしてベルトをリーナに渡したのかしら?」

 

明らかに怒っている九島烈と、怒っているには怒っているが心配して怒っている藤林響子が医務室に向かわせてくれなかった。

 

「…いったい、なんのつもりだ?

ビーストに変身をするだけでも、次元が異なる魔法で、他の魔法も己の意思一つで使える。

そんな物を堂々と公表をして…自分で自分の首を絞めるつもりか?」

 

「建前とかオレの事を気にせずに言えよ…クソジジイ」

 

「そうか、それならば言わせてもらおう。

これ以上は好き勝手するな…お前は確かに強いが、それは虚構に過ぎない。本当に強い者達にとっては余りにも脆すぎる」

 

「ビーストドライバーは力を求める魔法師には喉から手が出るほど…いえ、誰かを殺してまで、大きな犠牲を払ってまで手に入れたい代物…君の事を知られれば、日本中の魔法師が動き出してしまうわ。光國君、これ以上は好き勝手していると君の身が」

 

自分の事を心配している響子と自身に利益しか考えていない九島烈。

いったい何処で考え方が変わったのか、ダメになったのだと光國は呆れつつもこの場を切り抜ける方法を考える。

 

「オレが死んだとしても、ビーストドライバーの秘密を知られたとしても、もう遅い…そうですよね、響子さん…」

 

「…」

 

「…クソジジイ、覚えているか?

このビーストドライバーは古墳から出てきたものを…ちゃんと居たぞ、他にもベルトを持っている奴が」

 

「ほぅ…」

 

今ここでビーストドライバーを取り上げられない為に、黙っていた事を語る光國。

九島烈は響子の顔を見るが響子は俯いたまま黙っていた。

 

「他にもベルトを持っている者がいたか…いや、居て当然か。

古墳に有ったと言うことは古代の物…今の時代まで、誰かが伝えている可能性がある」

 

「…それと異なる系列の物があるなら、どうする?」

 

「なに?」

 

「魔法師が今後どうにかこうにか生き残る方法は大きく分けて三つしかない。

一つは魔法の民間利用、エネルギー資源開発とかじゃない漫画やゲーム等の娯楽レベルに身近に利用する。

二つ目は魔法を使わない、魔法師の需要を完全になくす新技術かなにかを開発して魔法視の価値を下げた世の中にする」

 

「…三つ目は?」

 

「決まっている…世界征服だ。

この世の誰もが成し遂げたことのない、人類史上最高の偉業を成し遂げることだ。

世界レベルで魔法師が差別されているなら、世界を一度壊して、別の世界に作り直せば良い」

 

 

仮面ライダーは改造人間である。

彼を仮面ライダーに改造したショッカーは世界征服を企む悪の秘密結社である。

仮面ライダーは人間の自由のためにショッカーと戦うのだ

 

 

 

つまりは、仮面ライダーが善に目覚めずに悪に加担していたなら世界征服が出来る。

と言うか戦争の道具にすれば圧倒的だ。この世界に現存する仮面ライダーはそれだけの力を秘めている。

 

「オレが使っているビーストの鎧よりも上のスペックは幾つも存在している…対抗できるのか?」

 

そんな仮面ライダーに対抗できるのは、怪人か同じ仮面ライダーだ。

 

「少なくとも、そいつ等は十師族を滅ぼすつもりだぞ…まぁ、テロリストみたいな奴等だから、話は断ったがな…通るぞ」

 

光國は九島烈の直ぐ横を通り、医務室へと向かった…

 

「君は知っていたのかね?他のベルトを持っている者がいるのを」

 

「……知っていたと言うよりは、知りました…」

 

今すぐにリーナと光國の元に向かいたい響子だが、行くに行けない。

九島烈の御機嫌をどうにかして取らなければならない。

 

「そうか…君は彼を大事に思っているが…程々にしたまえ」

 

「っ!」

 

教育係にした癖にどの口がほざくと怒りたいが怒れない。

その様を見て響子は完全に言う通りに動いてくれる存在でないと九島烈は考える。

光國と関わったものは確実に悪影響を受けている。手塚光國を此処等でどうにかしておかないといけない。

力で押さえるのではなく、力で押さえつけて従順にしなければならない。

誰か個人の力で、魔法師には絶対には勝てないと手塚光國に思わせなければならない。

 

「奴が最も得意とするものを…クラウド・ボールか…」

 

九島烈は密かに、手塚光國を叩きのめす方法を考えていた。

 

「…」

 

響子はこの事を伝えるべきなのかと迷いながらも、医務室へと向かった。

なにも出来ない、力が全くといって無い自分の弱さに悔やんでおり、悔しさで出来た握り拳は赤く滲んでいた。



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巻いてくよりも、尺を埋める方が難しい

リーナを医務室に残し、人気の無いところにやって来た光國と響子。

幸いと言えば良いのか、お兄様は負けた深雪を励ましており絶対には現れず、他の面々もリーナの元へ向かったり、男子の決勝戦を見たりと大忙し。

 

「どういうつもりなの…ビーストドライバーをリーナに貸して」

 

「借りたいって言ったから貸した」

 

「そんな理由で…どうしたの、光國君?

今までの君なら、そんな事は絶対に許さないのに…白い魔法使いに出会ってからおかしくなっていない?」

 

「おかしいか…」

 

自分と同じ転生者がいたことにより、少しだけ救われた気分になっている。

それと同時に今まで抑えていたものが、我慢していた物が光國はゆっくりと解放されていた。

だから、色々と分からなくなって来ていた。

 

「オレは、見つかってない」

 

「…なにがなの?」

 

「魔法師になりたくないけど、なったけど何も見つかってないんや。

仕方無いって受け入れて、今まではリーナと一緒に歩んでいたけども…なんも見つからん。

…響子、さんはなにをすれば良いと思いますか?オレ、これからどうすれば良いかなにも見えない…見えてた筈なのに…」

 

どうすれば良いのかが分からない。

ポケットから1と書かれているバッジを取り出して、無言で見つめてから強く握った。

 

「それは?」

 

「昔取った杵柄…U-17の代表召集を受けているんですよ…今年は、日本で開催です」

 

「なら、行かないと…それぐらいなら、閣下も」

 

「それだとダメなんだ!」

 

日本で開催するならば、九島烈はそれぐらいならと許してくれる。

しかし、光國にとってはそれぐらいならと言う問題ではない。今後を大きく変える問題だ。

 

「やれやれ、何時まで踞っているつもりだ?」

 

「っ、白い魔法使い!?」

 

「ワイズマンと呼んでくれ」

 

そんな彼を見限る事無く白い魔法使いとして仁王は現れた。

日本語を喋っている事に驚きながらも、身構える響子だが白い魔法使いの目には写っていない。

 

『シャラップ、ナウ!』

 

「少し黙っておけ…」

 

「!…!?」

 

喋っているのに声が出ない響子。

因みにだが、未使用音声ながらも白い魔法使いドライバーにはシャラップと言う音声は入っている。

 

「なんの様だ?」

 

「会うのはコレで最後だ…だから、一つだけ聞いておきたい事がある」

 

懐からミラージュマグナムを取り出した白い魔法使い。

武器としてはそこそこ使えるが、それでもあることをどうしても聞いておかなければならない。

その為ならば失っても良いと覚悟の上で疑問をぶつける。

 

「何故お前は絶望をしていない?」

 

仁王はかつて絶望をした。

自分を失った事により絶望をし、それを一人で乗り越えた。

誰かの笑顔とか希望になるとかそう言ったありがたい感じのものは無い。生きるしかないと自力で乗り越えた。そして魔法を手に入れた。

同じとは言わないが似たような立ち位置にいる光國。自身よりも知恵のある彼はどうして絶望をしないかを、ファントムを産み出していないのが気になった。気持ちの切り替えが上手かったのか、それともそんな事を考えていないのか、気になっていた。

 

「絶望しているに決まっているだろう。

今頃オレはお前より…お前の様な胡散臭い魔法使いよりも上の人間だったんだぞ?」

 

危うく白い魔法使いの正体を言いかけるが誤魔化した光國。

絶望に関しては既にしている。魔法師じゃないと落ち込んだが、直ぐに立ち直り二度目の人生を謳歌しようとして、明確に見える優秀な結果を残したのに無駄になり輝かしい三年間が無くなってしまった。楽しい日々があったが、それでも自分の大事な物が奪われた事には変わり無い

 

「…はぁ、そう言うことか」

 

光國が絶望をしていない理由に気付いた仁王は呆れた。

自分に呆れた。光國が動くのに必要な物がなんなのか気付いた、そしてもう動くのに必要な準備は済んでいる、九校戦に手塚光國を連れて来た時点で既に仕込みは出来ていた。

 

「…次に会う時は、どうなんかな…」

 

仁王はミラージュマグナムを光國に託すと背を向けるとテレポートで消えた。

 

「光國君…彼の正体を知っているの?」

 

そして仁王が居なくなった事により、喋れるようになった響子は仁王との関係性を聞いた。

互いが互いを知っているかの様な会話をしており、既に仁王と繋がっていると感じる。

もし、繋がっているのならば正体を教えて欲しい。誰かの手に渡る前に保護をしなければならない。

 

「知っているが、保護なんてしない方が良い……戦略級魔法師や特殊部隊を引き連れても、いや、多分、魔法師である限りは勝てない…コレから先を生き抜く為には保護なんてされない方がしない方が互いに得になりますよ」

 

全くと言って戦っていないが、光國は分かっている。

変身をする前に殺す以外は仁王を倒す術はない事が。様々な魔法を巧みに扱い、最悪の場合は時間を巻き戻す事もできて、戦士のベルトすらも持っているチートっぷり。

勝つためには何処かにいるかもしれないコウモリ擬きが持つ闇の鎧辺りを使わなければならない。魔法使いでは神には届かない。

 

「さて、オレの仕事は終わりだな」

 

白い魔法使いは暫くは会わない。

数分後、トイレで仁王と遭遇して気まずくなるがなにも言わずに時が過ぎる。

原作通りモノリス・コードで森崎が悪魔化をする前にやられてしまい

 

「俺達になにか御用で?」

 

達也と一緒に三巨頭に呼び出された。

そうなる予感はしていたのだが、呼び出されてしまった。

 

「森崎くん達が」

 

「だが、断る!」

 

集まったのを確認をすると口を開いた真由美。

なにを言うのかが分かっている、予想通りだと光國は先手を打った。

 

「…まだ、なにも話していないでしょう」

 

「舐めるなよ、元会長、会頭、風紀委員長。

森崎とモノリス・コードと聞けば大体は予想出来る…代理で出場しろと言うんやろう?パスや、パス」

 

森崎達本来のモノリス・コード出場者が相手の不正により出れなくなった。

出れなくなった事は仕方無いのだが、全種目優勝を狙う第一高校はそうは行かない。

代理を光國と達也ともう一人と考えているのだが、光國も出る気は最初から無い。達也も呼び出された理由が分かれば、出るつもりは無いと断るつもりだ。

 

「待て、手塚」

 

「選ばれた義務とかそんなのは知らん…でなければ、オレはさっさと謙夜達とU-17の会場に向かっている…と言うよりは、モノリス・コードのルールが悪すぎる。放つ魔法は不得意だ…」

 

言葉による説得をしようとしてくる十文字にも先手を打つ。

仮に心に訴えかける説得をしても、心を閉ざす事が出来る光國には通用はしない。

光國の説得は無理かと達也に視線が向くのだが、達也も出るつもりは無い。その事を伝えようとするのだが

 

『第一高校、七草真由美、第一高校、七草真由美、第一高校、手塚光國、第一高校、手塚光國、第三高校、一色愛梨、第三高校、一色愛梨、至急九校戦運営本部まで御越しください。

繰り返します、第一高校、七草真由美、第一高校、手塚光國、第三高校、一色愛梨、至急九校戦運営本部まで御越しください』

 

「…オレはこれで」

 

突然の呼び出しをくらった。

こんな呼び出しは原作にはなかったが、使える物は使わせて頂く。

呼び出しを理由に出ていった光國と真由美。達也も便乗して出ようとするが、出れず、出場しろと迫られていた。

 

「本当に、出るつもりは無いの?」

 

「…逆に聞くが、オレがマトモに戦っている光景を見たことありますか?」

 

「…無いわね…」

 

何だかんだと目立っているには目立っている光國。

しかし、まともに殴りあう感じの事はやっていない。

テニヌやクラウド・ボールと言った常に自分の得意な物と関連するもので戦っており、戦闘らしい戦闘は見た覚えはない。と言うか、剣術部にボコボコにされていただけだ。

 

「オレは最初から魔法業界は向いていないんです…善良なる一般人なんで」

 

「魔法師は一般人じゃないわ」

 

意見や考え方は異なっているが、大きな騒ぎにはならず本部までやって来た光國と真由美。

そこには既に愛梨と他の高校の生徒がいて、その生徒は男子のクラウド・ボールの本戦の優勝者だった。

 

「全員、来たか」

 

全員が揃った事により、沈黙を解いたのは何故かいる九島烈。

 

「閣下、この面々はいったい…」

 

「第一高校の負傷者が出た為にモノリス・コードの試合が続行不可能になった…」

 

集められた意味が分かっていない真由美。

九島烈は立体映像型の端末を使い、テレビでの九校戦の放送時間を見せる。

 

「知っての通りこの九校戦は国が動き、企業が動き、個人も動く、大きな行事だ。

故に莫大な迄の金が掛かっており、何処かの予定が崩れると大きな損害になってしまう…」

 

「もう、そう言うの面倒やから早く答えだけ言えよ…」

 

説明なんてしなくても大体は分かっている。

回りくどい事なんてせずに、ド直球の答えを言って欲しい光國。

イマイチ、なにをするのか分かっていない三人はなんの事か分かってはいない。

 

「モノリス・コードで第一高校が負傷し、出れなくなった。

第一高校はまだ他の高校と戦う予定があったが、負傷により出来なくなった。

代理で別の選手を出場させるにしても、今日中にはどうあがいても出れない…その為に余ってしまう…九校戦の尺が、生放送の為にどうやっても放送時間が余ってしまう」

 

大分汚い話をしているが、尺は余っているのは確かだった。

九校戦を生放送していて森崎達の負傷により尺は余ってしまっており、その辺をどうするかは原作では一切語られていなかった。

 

「そこで、クラウド・ボールの新人戦と本戦の優勝者が戦うのを急遽、企画した」

 

語られていない盲点をついてきた九島烈。

クラウド・ボールの優勝者同士の激突をするのにちょうど使えると考えた。

 

「何故、クラウド・ボールなのですか?」

 

「アイス・ピラーズ・ブレイクの優勝者である一条はモノリス・コードに出る為に出来ない、バトル・ボードとスピード・シューティングは設備の用意に時間がかかってしまう…それに、男女分けず共に参加出来る競技にはクラウド・ボールが一番だ」

 

愛梨の疑問を最もらしい答えで答えるが、光國は分かっていた。

魂胆が余りにも見えすぎていた。

 

「時間が余り無いのでリーグ形式ではなくトーナメント形式で行い、一位のみを決める。

第一試合が、男子女子の本戦優勝者同士の対決。第二試合が男子女子新人戦優勝者同士の対決、そして第三試合が勝ち進んだ新人王と本戦の王者との対決だ」

 

九島烈は調子に乗っている光國をどうにかする方法を考えた。

自身がどうこうしたところで、この男は従順にはならないし、余計な事をしないようにもならない。自身が大きすぎるから、ダメだと考えた。

手塚光國をどうにかするには手塚光國が最も得意とするもので、同世代の誰かが完膚なきまでに叩きのめすのが一番だとクラウド・ボールのエキシビションマッチを行う事にした。

十師族の七草真由美、師族候補十八家の一色愛梨、この二人を連続で相手しなければならず、確実に手塚光國の反抗心の息の根を止める事を確信していた。

 

「男子女子の新人戦王者同士の対決…」

 

そんな意図を知らない愛梨は対戦相手の光國をチラリと見る。

クラウド・ボールの女子の新人戦で優勝はしたものの、実力で勝ち取った優勝ではなかった。

本当の意味で優勝をするには、手塚光國を倒さなければいけない。七草を越えなければならない。

ミラージ・バットの本戦を控えている彼女はこれを好機と捉えた。不燃焼だった気持ちが再び燃え上がった。

 

「…相手にとって不足は無いな」

 

断る理由は無いし、逃げる様にここにやって来た。

エキシビションマッチがあるから出れないと言う理由にもなるので、光國は試合を受けた。

自身を全力で潰す配置になっているが、逆に此方が全力で潰してやろうと考えていた。



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稲妻には避雷針

「え、エキシビションマッチ!?」

 

大会運営本部から帰って来た光國からとんでもない事が語られ驚くリーナ。

テレビの放送時間の尺を埋めるべく、優勝者同士のクラウド・ボールを行うと。

 

「…手塚くんを潰しに来ていますね?」

 

九校戦で一番地味な競技と言っても良いクラウド・ボール。

優勝者同士の対決ならば他にも出来る競技があるのに、わざわざそれを選んだ。

女子の優勝者同士の対決とかがやろうと思えば出来るのに、わざわざ選んだのは光國を潰すためだと考える市原。

 

「だろうな…だが、それがどうしたんですか?」

 

光國は特に気にせずに靴紐を整えていく。

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍ですよ…」

 

どの業界でも勝たなければ意味はない。負ければそこで終わりだ。

その事を語る光國だが、心なしか楽しそうに見える。

 

「…光國、楽しそうね?」

 

「まぁ、ただ見物しているよりはましだからな…自分の試合以降はなにも無かったりするのは、案外キツい」

 

柔軟運動をする光國から、楽しいと言う感情を読み取ったリーナ。

今の光國は体を動かすことが楽しいから、楽しいと思っているのではない。

光國はクラウド・ボールが出来ることを喜んでいる…本当にしたい事の代わりで妥協して喜んでいる。

 

「…結局、行かないのですか?」

 

「なにがですか?」

 

控え室で準備を終え、光國と共に会場へと向かいながら市原は聞いた。

ずっと、光國を待っている友達の事を。

 

「U-17ですよ」

 

「ああ…出たいかどうかと言われれば出たいですよ。

ですが、出れば余計な未練が出来てしまいます…さっき、元会長が言ってましたよ、魔法師は一般人じゃないって。あの馬鹿元会長の事ですから、自分達は選ばれた存在ではなく、強い力を持った人の義務とかそんな感じで言ったんだと思いますが…オレも市原先輩も一般人じゃないんすよ」

 

「っ!」

 

真由美はノブレスオブリージュの精神で、強い力を持つ者は力を持つ代わりに果たさないといけない義務があると、強い力を持つ魔法師は一般人じゃないと考えているのだろう。

それならば、必要の無い強い力を持っている者は、中途半端な力を持っている者はどうなるのか?少なくとも、彼女のまわりにはそう言った者はいない。彼女のまわりにはいるものは全員が全員、望んでこの業界にいるかもしくはそれが当たり前の者だ

真由美自身には特に悪意は無いのだろう。ただ、そういう風に教育されて、そう言う風に思う環境があったから、そんな考えを持ってしまっただけだが…

 

「そう、ですか…」

 

目の前に真由美が出会ったことの無い異なるタイプの人が居るので、市原は強く拳を握る。

上に立っている存在は十師族は余りにも力を持ちすぎた。政府に使い捨てにされない為とは言え、力を求めるあまり変な方向に進んでいる。

 

「どうにかしないと…」

 

些細な疑問から光國についた市原。

真由美の様に選民主義でもなんでもない人格者ですらこの様な事に危機感を感じた。

今はなにもすることは出来ないが、何時かはと強く誓って会場へと出る。

 

「完全に消化試合扱いだな…」

 

第一試合と第二試合を同時進行をすれば尺埋めの意味はない。

本戦の優勝者同士で戦っているのだが、真由美が圧倒していた。十師族と一般の魔法師は違うと教えるかの様に圧倒している。

今までの対戦相手と違い、ポイントを奪うことが出来ているがそれでも格が違うのが分かり、見ている観客達も消化試合を見ている感覚だった。

 

「お見事です、元会長。司波くんが居なくても、大して変わりませんでしたね」

 

「それはどういう意味かしら?」

 

「そのままです…」

 

「リンちゃん…変わったわね」

 

「はい、変わりました…お陰で色々と見ることが出来ました。それでは」

 

ペコリと一礼をして光國の後を追いかける市原。

背にも目にも迷いはない。今の彼女は十師族に反逆しようと手を伸ばされると、簡単に彼の手を握る。

 

「ミラージ・バットの本戦があるようだが、問題ないのか?」

 

「ミラージ・バットは明後日です…敵同士、お喋りはしません」

 

準備をしている間、愛梨を心配する光國だが敵意を向けている愛梨。

光國が試合に全くと言って集中をしていない事に苛立っており、塩を送るような真似をしているので少々気が荒くなっている。

 

「…はぁ、つまらない顔…いや、それはオレも同じなのか?」

 

「…何度も何度もそれを言いますが、つまらないとはどういう意味ですか?」

 

「ナンパ対決の際にクリプリスに言っただろう…オレ達は都合の良いときだけ大人扱いとガキ扱いされる最悪な年頃だが、大人の勝手な理由に巻き込まれていてどうする?負けてるぞ、お前は」

 

「私が、負けている…」

 

いったいなにに対して自分は負けているのか分からない愛梨。

光國はそんな愛梨を見て、観客席に居る筈のリーナを探す。

 

「あ…リーナ!!」

 

「なに、光國!!」

 

「ちょっと、渡しておきたいものがある!」

 

「え…え…え!?」

 

コレから試合が始まると言うのに、直前になって渡しておきたいものがある。

それはつまり、古来から男と女の契りを結ぶアレを渡したいと言う事なのだろうと考える

 

「ま、待って、光國。

確かに婚姻届にサインはしてもらっているけど、そっちはまだ早いわ!

それに、私はそう言うのよりも貴方と過ごす時間の方が大事だから…まぁ、色々と堪能したし、そう言うのもありっちゃありだけど…」

 

顔を真っ赤にしてモジモジとするリーナ。

今まさに死亡フラグを光國と一緒に築き上げている自覚は一切無い。

そして、光國はそんな物を用意はしていない。

 

「お前はなにを言っているんだ、そう言うのはもっと場を読んで渡す」

 

普段から変な事ばかりしている奴が言う台詞ではないが、誰もツッコミを入れない。

結構マジな空気を出しており、何時も腕に巻いている包帯に触れる。

 

「リーナ、アレってなんなの?」

 

魔法科高校の制服は長袖で、ノースリーブなんてありえない。

それ故に部活動の活動ぐらいでしか見せない光國の薄着なのだが、エリカが知る限りは光國は常に腕に包帯を巻いていた。

怪我をしているのかと思いきや、零式サーブや手塚ファントムと言った、常日頃から鍛えているリーナやエリカが腕もげそうなぐらいに高度な技術を使いこなしている。

魔法式を刺青の様に入れているのかと思いきや、帰りには銭湯に向かっている。

 

「さぁ…気付けば、包帯を巻いていたから」

 

リーナも包帯を巻いている理由を知らない。

包帯を巻き出したのは、徳川の埋蔵金を堀り当てた後で中身を見せてと言っても見せてくれない。無理矢理包帯を取っても、カメレオウィザードリングの魔法で常時透明化している。

 

「オレが渡すのは、ヘソクリだ」

 

包帯を外す光國…包帯を巻いていた腕には黄金のガントレットが装備されていた。

 

「徳川の埋蔵金をベースに、競艇で現金を増やして作り上げた…ここぞと言う時のヘソクリだ!大穴が当たったら凄かった!」

 

ガントレットを外した光國はリーナに向かってガントレットを投げる。

鉄の以上の重さを持つ純金のガントレットはかなり重い物だが、軽々しく投げる。

 

「重っ!?」

 

ガントレットを受け取ったリーナだか、余りにも重かった。

投げられた事により重さが加わったのもあるのだが、ただ単純に重かった。

 

「あ、結構重いわね!?」

 

近くにいたエリカは純金のガントレットを手に持ち、重さに驚く。

光國の腕に巻かれていたのはガントレットはかなりの大きさで、そこそこ分厚くて一つで数キロの重さがあった。

 

「ふぅ、軽いな…いや、違うな。違和感しか感じないな…三年間もつけてたんだからな、当然か」

 

「あの、手塚くん…森崎くんの時もそれを?」

 

「はい…つけていましたよ。

悪魔化した森崎をどうにかするを第一に、第二に勝利だったので…お陰で滅多うちにされたが」

 

「…問題ないですね」

 

光國を全力で潰すべく、クラウド・ボールのエキシビションマッチが行われる。

流石の光國も真由美と愛梨が相手ならばと思っていたが、純金のガントレットを見て、光國が負けると言うのが想像できなくなった。

 

『これより、クラウド・ボール王者特別試合第二試合を行います!』

 

クラウド・ボール新人戦王者同士の対決が…はじまるのだが

 

「っ!」

 

光國は才気煥発の極みを発動していなかった。

五試合フルに使っても問題の無い、息一つ乱さなかった才気煥発の極みを発動せずに普通にボールを打った。

自分に対して、魔法を使わないとはどう言うことかと愛梨を苛立たせる。

 

「そっちが、その気ならば此方も最初から飛ばしていくわ!」

 

怒った愛梨は最初から本気で行く。

精神で認識した物を、神経ネットワーク等を介さずに肉体を動かす稲妻(エクレール)を発動するのだが

 

「動かざること、山の如し」

 

「!」

 

打ち返したボールが地面につく前に光國の手元に引き寄せられていく。

風林火山の山、手塚ゾーンを発動して稲妻が落ちる場所を限定して打ち返す。

 

「鉄壁のディフェンスを誇る風林火山の山をお前に破ることが出来るか?」

 

「破ること…これはテニスじゃなくて、クラウド・ボールよ!」

 

最もな事を愛梨は言うと、天井にボールをぶつける。

これにより、ポイントが愛梨に入るのだが一瞬だけ気が緩んでしまい

 

「え…」

 

気付けばボールは愛梨の横を通りぬけていた。

 

「…手塚ゾーンを破らない方向で来たか」

 

手塚ゾーンのタネは本家の手塚ゾーンと一緒だ。

そして破る方法は本当に簡単な事で、手塚ファントムが出来ないクラウド・ボールでは最も効果的な物なのだが、愛梨はそれに気づかずに真っ向から抜くのを止めた。

 

「そちらがそのつもりなら、此方も行かせて貰う」

 

愛梨は直ぐにボールを拾い、打った。

それと同時に二個目のボールが射出され、愛梨はボールを打ち返しに行くと光國もそのボールを打ち返し、所定位置につく。

 

「どうした、オレがなにをしているか気になるのか?」

 

自分の横を普通に抜き去った光國のボール。

認識阻害系の魔法を使っているのかが気になるのだが、考えている暇はない。

手塚ゾーンを破る方法を考える愛梨。あの位置からは動けない、いや、動けないならと精神で動きを命じる。

 

「これなら!」

 

「ボールの速度を変えてきたか」

 

愛梨は打ち返したボールの速度を変えた。

手塚ゾーンで光國の手元にボールは引き寄せられてしまうのならば、それを利用する。

打ち返したボールの速度を変えることにより、最終的に光國の手元に同時に来るようにするのだが

 

「悪いな、オレは十球同時に打てる」

 

光國には意味が無かった。

ボールを同時に二球別方向に打ち返したが、愛梨は直ぐに打ち返す。

 

「そろそろ行くぞ」

 

白熱するが、光國の有利に進む試合。

愛梨は天井にボールをぶつける事を考えるのだが、それをやればまた真横を抜かれるかもしれないとラリーを続けるのだがポイントが中々に動かない。

 

「!」

 

そして三個目のボールが射出され、光國が動いた。

いや、違う。光國は動いていない。仕掛けはしたが動いておらず、愛梨は一個目と二個目のボールは打ち返すことが出来たが三つ目のボールに関しては無反応だった。

 

「稲妻の正体は、精神で肉体を動かすこと。

感じたものを考えて肉体を動かすのではなく、感じたものをそのままに体を動かしている…なら、感じさせなければ良い…大きすぎる弱点がある魔法だ」

 

考えるんじゃない、感じるんだ。

それを文字通り成し遂げるのがこの稲妻なのだが、弱点は普通にあった。

使うには知覚した情報が必要であり、それがなければ動くことが出来ない…感じることが出来なければ良い。

 

「透け透けだぞ、お前の弱点は」

 

「なんで…」

 

稲妻は知覚した情報を脳や神経ネットワークを介さず直接精神で認識する魔法と、動きを精神から直接肉体に命じる魔法の二つで成り立っている。

何処からでも知覚する事の出来る魔法は組み込まれておらず、ちゃんと死角は存在していた。

 

「ただただ、お前が気付かない死角を見つけただけだ」

 

「!?」

 

死角は分からないから、死角だ。

本人ですら分からない死角を見抜き、的確に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「氷の世界」

 

 

 

 

 

 

 

クラウド・ボール新人戦女子の部、愛梨は対戦相手を圧倒していた。

実際に戦ったものは、あんなの反則だと言った。まともに勝負が出来たのはエリカだったが、稲妻を破ることは出来ず無我の境地等の技術で戦っていた

 

「そこで諦めていて良いのか?」

 

「!」

 

敗北を頭に浮かべた愛梨だったが、光國の言葉により直ぐに頭から消した。

自分のコート内にあるボールを全て集めて打ち出すのだが、光國の縮地により全て拾われる。

 

「スゴい…スゴすぎるわよ…」

 

これもまた消化試合だと思っていた観客達は、盛り上がる。

稲妻の異名を持つ愛梨を圧倒する光國にエリカは驚くしかないのだが

 

「甘いわね、まだ光國は本気を出していないわよ」

 

まだまだ光國は手を抜いていた。

重りを外したことにより、スピードやパワーが全て上がっている。

 

「今の光國は佰八式波動球すら扱うことが出来るわ。

それを打つだけで、アイリはボールを打ち返すことが出来ず…当たりどころが悪ければ、腕は折れるわ」

 

貴女の様にねとリーナはエリカの折れている方の腕を見る。

威力はあるが腕に負担がかかる波動球、最後の最後まで取っておくつもりなのかと見守る。

 

「あの、手塚さんってどれだけ強いんですか?」

 

あの状態でもまだまだ手を抜いている光國。

森崎の時と言い、光國と言う男の実力に底がほのかには全く見えない。

 

「決まってるじゃない…世界一よ…」

 

光國の強さを聞かれれば、これしか答えはない。

優しさも強さも兼ね備えている、自分にとってはなによりも一番で世界一の男だ。

 

「…でも、それでもプロのテニスプレイヤーには…」

 

「…」

 

しかしそれでも、無理なことはある。

海外が主流のテニスのプロは、今の世の中だと魔法師はなれない。海外で働く系の魔法師は御国勤めの国家公務員ぐらい。

雫がその事を呟くと空気が物凄く重くなった。

 

「流石に、この数だと死角はつけないみたいね!」

 

そして第1セットは終盤を迎える。

八個目のボールが出てくるのだが、七個目のボールから死角をついた攻撃をしてこない光國。

愛梨は360度あらゆる方向への移動とボールが増えた事により、死角がつけないと感じるのだが

 

「そんなわけないだろう」

 

死角は普通にあった。

だが、わざと狙っていない。愛梨が天井を狙ったりするので、ポイントに大きな差は出来ないので勝負を決めるときまで停滞をさせていただけだ。

 

「氷の世界は死角をつく技だが、目を閉じれば、視覚系の魔法を使えば破ることは出来るし、死角自体が無い人間はいる。

オレの風林火山の山を作り上げている手塚ゾーンで無理矢理ボールの動きを変えるのも一つの手だ…だから、その先を見せてやる」

 

光國の元に引き寄せられていく八つのボール。

所定位置から光國は八方向へと打ち分けていくのだが

 

「跪け」

 

「誰が、跪きぃ!?」

 

一球目のボールはちゃんと打ち返したのだが、二球目に向かおうとした愛梨は転けた。

炎天下の中で行われるラリーで汗をかいて足を滑らせたのではない。愛梨が無理矢理な動きをした為に転けてしまった。

 

「お前は精神で肉体を動かしている。

本来必要な脳や神経ネットワークを通さずにやっている…だから、気付かない。

お前が打ち返すことが出来る一球は、わざと打った、打ち返せることが出来た一球で、残りはお前が打ち返すことが出来ない、頭では、いや、精神では理解することが出来ても関節や骨格が反応は対応することが出来ない絶対死角に打った…無理矢理肉体を動かしたお前は転けたんだ」

 

「……」

 

死角をつくだけでなく稲妻だからこそ気付かないものがあると完全に真正面から愛梨を打ち破った光國。

今まで僅差だったポイントが徐々に徐々に開き、光國は愛梨の死角と絶対死角を捉えて差をつけた。

 

「手塚…いや、アカンな。流石にこれは黒歴史やな…うん。

気付くことなく全てを凍てつかせる氷の世界…を抜けたその先には待ち構えし、絶対死角の氷の王国…」

 

九個目のボールが射出されるが、勝負はもう決まってしまった。

愛梨は必死になってボールを打ち返すが、一球だけしか打ち返せずに残り全ては絶対死角のボールで打ち返すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「氷帝王国(キングダム)、皇の前にひれ伏せ」

 

 

 

 

 

「そこは手塚王国(てづかおうこく)じゃないんかい…」

 

試合を楽しく見ている仁王は、一人だけツッコミを入れたが誰も意味は理解していない。

 

 

クラウド・ボール 特別試合 第二試合

 

 

第1セット

 

 

手塚光國 ○ 一色愛梨 ●

 

 

88-54

 

 

「さぁ、油断せずに掛かってこい」

 



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世の中、結局LOVE&PEACE

「…」

 

第1セットを終えたので数分間のインターバルを挟む愛梨。

顔色は優れず、一気にスポーツドリンクを飲むのだが気分は優れない。

それもその筈、先天性で手に入れた魔法ではなく後天的につまり実力で覚え、手に入れた自身の二つ名でもある稲妻を光國はあっさりと攻略をしたのだ。彼女の中にあったプライドは大きくヒビが入った。

しかもただ単に相手より物理が強かったから攻略した等ではない。誰もが見つけられなかった弱点をあっさりと見つけて、攻略をした。力業ではなく正攻法で攻略をした。

 

「どうすれば…」

 

技術で抜き去るかもと想定はしていたが、完全攻略をされるとは思いもしなかった。

例え十師族が相手でもこの稲妻をどうにかすることは出来ないと思っていた愛梨には次の手が無い。稲妻でこの競技を進んでいるので、稲妻以外にコレと言った戦法は無い。

 

「…いえ、ダメよ」

 

諦めてはいけない、一色の名を持つ者として普通の魔法師に負けてはいけない。

愛梨は折れそうになる心をプライドで保ち、目を閉じた

 

「!」

 

目を閉じ、意識を集中させた愛梨は気付けば三つの扉の前に立っていた。

此処が何処だかよく分からないが、今の感覚を例えるならば深い海の底にいるのだが、海水が無くなりはじめている。お風呂の浴槽の底に居るのだが、お風呂のお湯が抜け出した感じだった。

お風呂に入っている時と似たような感覚もするので、今の状態で試合をしたら千葉エリカならば圧倒できると感じる。

それと同時にこの状態ではまだ光國には勝てないのが分かり、なにか無いかを探し、三つの扉を見つめる。

 

「違う…」

 

三つの扉の内、一つは開いていた。

どの扉の向こう側に物凄い力があると感じた愛梨は、その扉に向かうがそれではないと感じた。その扉の向こう側には足跡があり、誰の足跡か分かってしまった。

それでは勝つことが出来ないと別の扉を見る。

 

「?」

 

今度は三つの扉の内、最も大きい扉に向かった。

そこは二つの扉と違って大きかった。神々しかった。コレならば、手塚光國に勝てると愛梨の本能が訴えかけていた…しかし、そこには門番がいた。

顔は見えないが、シルエットは見える。とっても小さな女の子なのだが、愛梨はその女の子の事を知っている…のだが、思い出せない。

勝つためには此処しかないと通して貰おうとしたのだが、門番は通してくれず扉は全くと言って開かなかった。

 

「…」

 

仕方無いので三つ目の扉、開いていない一番最初の扉と同じぐらいの扉の前にやって来た。

愛梨はその扉に触れるとあっさりと扉は開いていき、その先へと踏み込むと閉じていた目を開いた。

 

「…」

 

そしてインターバルが終わり、コートへと戻った愛梨。

先程とは雰囲気が変わっており、その事に光國は気付いたのだが何とも言えない顔をしている。

 

「それじゃ、無いんやけどな…」

 

「なにがですか?」

 

愛梨は体から膨大なまでの目に見える量のオーラを出した。

 

「ね、ねえ、アレって」

 

「嘘でしょ…光國くん以外も出来たの!?」

 

そしてそのオーラは愛梨のラケットを持っている右腕へと凝縮される。

紗耶香はエリカは知っている。結局のところ、その力を全くと言って見なかったがそれがなんなのかを

 

「百練自得の極み…まさか、この土壇場で覚えたの!?」

 

無我の境地のその先にある三つの奥義とも言うべき魔法。

森崎を相手に手加減をしていた光國が森崎の心を極限までに叩き折るべく発動させた、才気煥発の極みと同じ無我の境地のその先にあるもの。百練自得の極み。

特殊な道具ではなく、鍛えぬかれた肉体と強い精神力を持って限界を越えた先の先にある境地へと愛梨は足を踏み込んだのだ。

 

「リーナ、別に驚くことでもない…そして焦ることでもない…NEO・ブラックジャックナイフ!」

 

射出口から射出された一球目。

光國は最初から全力とNEO・ブラックジャックナイフを決めた。

 

「ジャックナイフ程度なら!」

 

愛梨もジャックナイフに対して、ジャックナイフで返す。

すると、どうだろうか愛梨が打ち返したボールは光國のNEO・ブラックジャックナイフの倍の威力と回転をしていた。

 

「これは、ダブル・バウンド…に近い?」

 

ボールを打ち返した愛梨は百練自得の極みの効果を感じ取った。

真由美がクラウド・ボール用のCADに入れている唯一の魔法、ダブル・バウンド。

対象物の運動ベクトルを倍速反転させる魔法で、要は倍返しにして返す魔法なのだが百練自得の極みと効果は似ていた。

 

「倍にしても、まだまだだ!オレの波動球は佰八式まであるんだぞ!」

 

NEO・ブラックジャックナイフの倍以上の威力を秘めるボールをあっさりと打ち返す光國。

愛梨も負けじとボール目掛けて走り出すのだが

 

「あれ?」

 

何時も通り問題なく動いているのに、何故か遅かった。

物凄い遅かったとかではなく、何時もより少し遅く、体調とか調子が悪いときの速度だった。

ボールはなんとか拾えたものの、打ち上げてしまった愛梨。見上げるとそこには、手塚が跳んでおり

 

「先ずは一発目!」

 

自身目掛けて、スマッシュを打った。

顔に当たるのかと一瞬だけ反応してしまった愛梨だが、ボールは大きく反れてしまいラケットのグリップに当たり、もう一度、宙を舞う。

 

「しまっ」

 

「遅い、失意への遁走曲(フーゴ)!」

 

宙を舞ったボールの前に跳んで現れた光國。

ラケットを握っていない愛梨はボールを打ち返すことが出来ず、ボールは真横に激突して弾むことなく転がっていった。

 

「っ、まだよ!!」

 

直ぐにラケットを拾ってボールの元に向かい、光國のコートへと打ち返す愛梨。

 

「百練自得の極みには大きな弱点がある…」

 

「また、手塚ゾーン…そうだ!」

 

手塚ゾーンを発動し、二個目のボールと一個目のボールを打ち返した光國。

これを破れなければ勝てないと感じた愛梨は直感的に閃き、ボールを打ち返すとバックステップで距離を取り、その間に光國は引き寄せたボールを打ち返すと愛梨の手元にボールが引き寄せられていく。

 

「成る程…」

 

手塚ゾーンには特殊な回転がかけてある。

威力回転を倍返しで返球することが出来る百練自得の極みで打ち返せば、その威力回転は倍になる。自力ではなく、魔法的要素が加わっているので腕には負担は余り掛からない。

そして何処から打ったとしても最終的には手元に引き寄せられていくので、氷の世界や氷帝王国は使えない。

 

「考え方は柔軟で、合理的だ。

だが知っているか?手塚ゾーンには幾つかの破り方が存在しているのを」

 

光國はラケットを持っている手を左から右腕に変えた。

 

「已・滅・無」

 

そして普通にボールを打ち返した…打ち返したボールは手塚ゾーンで愛梨の手元に引き寄せられる事はなく、ネットの手前でボールが落ちた。

 

「あ、アレは已滅無!」

 

「遂に出してきたか、光國はん…」

 

「あんた達、まだいたの!?」

 

ポップコーンを片手の謙夜と吟。

エリカはまだ観戦していた事に驚くのだが、それよりも説明を求める。

 

「今度はなに?」

 

最早、黒色のオーラで無理矢理ボールの軌道をねじ曲げても驚きはしない雫。

またとんでもない馬鹿げた技術かなとワクワクをしているのだがそこまで難しいものではない。

 

「アレは手塚光國最強の技で、鉄壁のディフェンスを…いや、ちゃうな。

アレは全てを無にする手塚光國の究極の防御、已・滅・無…ま、早い話がボールの威力を上手く無くす返球をしてるっちゅー話や」

 

「アレの前には、ワシの波動球ですら無力…直接破る方法は無い。

せやから、光國はんの届かない所にボールを返すのがセオリー…しかしながら、手塚ゾーンで全てを集められてしまう…哀れな」

 

この試合は完全に決まった。

 

「えっと、アレはどういう技なわけ?」

 

「だから、威力回転を無にして辺球にしとるんや!」

 

「…どうやって?」

 

全く理解できないエリカと雫。

謙夜はどうやって説明をしようか考えていると、第2セットが終わった。

百練自得の極みを全く使いこなすことが出来ず、ただただ威力が強い球を打っただけの愛梨。

光國の全てを無にする已滅無の前に、敗けを認めてしまったのだが試合を棄権することは出来ない。

 

「人間が放つオーラは一定を保ってはいないが、均衡は保つことが出来る。

百練自得の極みは、一ヶ所にオーラを集中させる事によりその部分を使いこなせなければ宝の持ち腐れ…加えて、オーラが集中していない部分は力が抜けてしまう…」

 

「…勝て、ない」

 

土壇場での覚醒を真正面から叩きのめす。

愛梨は膝をついて、どう頑張っても勝てないと無意識の内に才気煥発の極みを発動させて戦略パターンをシミュレートして勝てる方法を探すが見つからない。

 

「まだ、やるのか?」

 

「…私は、やらないと…」

 

まだ面白く無い顔をしている愛梨。

立ち上がったものの目は死んでいる。敗けを認めてしまっている。

 

「別に負けたところで、問題があるのか?」

 

「っ!」

 

一応このクラウド・ボールはテレビの放送時間を埋める為のエキシビションマッチ。

目的は全力で手塚光國の鼻っ柱を叩きのめす為であり、別に試合がどうのこうのと言うのは一切無い。なので、愛梨はここで負けても問題はない…愛梨はだ。

 

「貴方に…貴方になにが分かるの…」

 

「はい、さいしょはグー!!ジャンケン、ポン!!」

 

私の苦しみを知っているの!!と言う、よくある展開が起きようとしたのだが、それを許さないのが、この馬鹿である。

入学式の日と同じくあっち向いて、ホイで愛梨に挑む。

 

「あっち向いて、ホイ!」

 

「…な、なんの真似!?」

 

思わずノってしまった愛梨。

結果は、敗北。ジャンケンにも敗北し、あっち向いて、ホイにも敗北をした。

 

「いやいや、自分が手を出して動かしたやんか…ほんじゃ、もっかい、最初はグー、じゃんけん、ほい!!あっち向いて、ほい!」

 

「またっ!」

 

嫌とかなんでこんな事をと思いながらも、体を動かす愛梨。

しかし、光國には敵わずにまた負けてしまう。

 

「じゃんけん、ポン」「あっち向いて、ほい」

「じゃんけん、ポン」「あっち向いて、ほい」

「じゃんけん、ポン」「あっち向いて、ほい」

「じゃんけん、ポン」「あっち向いて、ほい」

「じゃんけん、ポン」「あっち向いて、ほい」

「じゃんけん、ポン」「あっち向いて、ほい」

「じゃんけん、ポン」「あっち向いて、ほい」

 

「あ、あの時と同じだわ…」

 

「あの時?」

 

インターバルを無視して遊んでいるだけにしか見えない光國と愛梨。

しかし、真由美は覚えている。入学式で光國は達也をフルボッコにしたのを。

 

「手塚くん、物凄くじゃんけんが強いのよ…私、結構どころか本気の本気で挑んだのに負けたのよ」

 

「ああ…彼は常人の三倍の反応速度を持っているらしいですよ。

視覚の情報を瞬時に手首に伝える事が出来るので、ジャンケンでは無敗で…なので平等に戦うためにカードジャンケンをします」

 

「え、そんなのあるの!?」

 

光國のジャンケンの強さのタネを知っている市原は何故か隣にいる真由美を気にせずに、愛梨と光國を見る。

シンプルに楽しそうと言う思いがあるのだが、それ以外に意図があると感じられる。

森崎を心の底から完膚なきまでに叩きのめすため、魔法師=特別と言う考えを捨てさせる為に一切魔法を使わなかったあの時の様に。愛梨になにかを気付かせたいのかあんな事をしている

 

「こうなったら!」

 

負け続けの愛梨は禁断の手を使う決心をした。

禁断の手、それは稲妻をあっち向いて、ホイで使うことだ。

 

「「じゃんけん、ポォオオオオ」」

 

「な、なんて後出しなの!?」

 

クラウド・ボールそっちのけでやるジャンケン。

禁断の手を使って本気を出した愛梨と拮抗している光國。

史上最強の弟子ケンイチの様に互いに超高速の後出しをするのだが、愛梨の優勢で進むのだが

 

「遊びが無いな」

 

「…まだ、まだよ!」

 

光國がグー、チョキ、パーのどれでもない指鉄砲のフェイントを入れた。

フェイントに引っ掛かった愛梨は光國の手に対して勝てる手ではなく、負ける手を出してしまい、後出しも光國に勝てる手を後に出してしまい、光國を追いかける形で後出しをしてしまい負けたが、まだ終わってはいない。

 

「あっち向いて…」

 

あっち向いて、ホイがまだ残っている。

愛梨は全神経を光國の指に集中し、光國の動きとは異なる事をしろと精神で肉体に命じた。

 

「ホ…」

 

右に指を動かそうとした光國。

愛梨はそれを見抜いて、下に顔を動かそうとするのだが追いかける光國。

それでも負けないと愛梨は左に首を動かして勝ったと確信をするのだが

 

「イ!まだまだだね」

 

「なっ!?」

 

光國は使っていた手を引いて、もう片方の手の指で愛梨と同じ向きを差した。

 

「反則、反則よ、そんなの!!」

 

「反則ちゃいます~、もう片方の手を出してはいけないルールはありません~。

つーか、アホやな。もう片方の手を使っていればオレに勝てたゆうのに、ボロ負けって」

 

「…もう一回、もう一回よ!!」

 

市原は本当に光國はなにかをしようとしているのだろうかと疑ってしまった。

光國も愛梨も素になっている。さっきまでのクラウド・ボールが嘘の様に…和気藹々としており、とても楽しんでいた。

 

「っと、もうすぐ第3セットの開幕だが…どうする?」

 

「この借りはクラウド・ボールで返します」

 

「そうか…おもろい顔になってんで、自分」

 

「え?」

 

ずっとずっと、言われ続けていた面白く無い顔。

それがなんなのかは愛梨は全く分かっていなかったが、今度は面白い顔をしていると言われた。急にどうしたことなのかと考える愛梨。

もしかしてと目を閉じれば三つの奥義の扉の前にいた…百練自得の極みと才気煥発の極みの扉は開いているが、最後の扉が開いていなかった。

最も神々しい光國に勝つことが出来る扉の前には門番が居るのだが、百練自得の極みを発動した時とは違いハッキリと姿が見えた。

 

「…そう言うことなのね…」

 

光國が、リーナが、自分の事をつまらない顔をしていると言っていた意味をやっと理解した。

最後の扉に立っていたのは、幼い頃の愛梨。一色と言う名前に負けない才能を持っていたが、心は名前に負けていた。幼い頃は友達らしい友達と出会うことが出来なかった。

今の自分になって出来た友人も家に見合う、名前負けしない人物ばかりで、そう言った人としか深く関わらない様にしていた。

そう言った事をするのは間違いかどうかと言われれば間違いでは無いのだが、愛梨は段々と知らず知らずの内に忘れていた。いや、覚えることが出来なかったのが正しい。

名家故に出来て当然や出来なければ駄目だと言う周りからの期待に押し潰されて忘れていた。

この九校戦でも一色家の愛梨としてクラウド・ボールに出場をしており、最初から心の中に無かった。楽しいと言う感情が無かった。自分だけの為に戦わなかった。

 

「楽しむか…良いわね、それ」

 

愛梨は微笑んだ。

今は絶望に近い状態だと言うのに、なんだか心が軽かった。体が軽かった

一色愛梨として参戦していたクラウド・ボールだったが、今は違う。

ただの愛梨として戦っていると心の鎖を断ち切った。

 

「天衣無縫の極み……塩を送って正解だったか…」

 

気付けば愛梨は最後の扉を通っていた。

扉の門番だった小さな愛梨は微笑んでいた。

光國はそれを見てよかったと、苦しんでいる人を助けれたけど、どうやって勝とうかと悩んだ。塩を送りすぎた。

 

「負ける気がしないわ!」

 

愛梨はとても楽しそうにラケットを構えた。



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失ってからでしか気付けない、明日へと続くはじまりの希望

「…!」

 

第3セットのブザーが鳴ると同時に射出口から射出されたボールは愛梨の元に向かう。

射出口から射出されたボールにはなにも出来ない、一度触れるのが前提のプレイをしている光國は意識を集中させていたのだが

 

「早く、打ち返してください」

 

気付けばボールが後ろにあった。

愛梨にその事を指摘される前に光國は気付くのだが、反応をすることが出来なかった。

 

「じゃないと、楽しめないです」

 

とても美しい笑みを浮かべる愛梨。

その笑みは心の底からの笑みだったのだが、何故か体の周りがキラキラと光っている。

 

「…」

 

アレはなんの魔法かと各魔法科高校生達が話し合っているが、違う。

愛梨は一切の魔法を発動していない。愛梨は魔法師だったから、キラキラと光るものを出してしまっているだけで、魔法師で無くてもそれは使えた。

 

「愛梨、楽しんどるのぅ」

 

それに近いことを四十九院沓子は気付いていた。

下手すれば自分と一緒に居るときよりも楽しそうな愛梨、どんな魔法を使ったかなんてどうでもいい。楽しめと応援をする。

 

「…」

 

そして第3セットは終わる。

先程までの2セットが嘘の様に光國が敗北し、愛梨がトリプルスコアで勝利をした。

 

「なにをしているんですか、貴方は」

 

ベンチに戻り、一息つくと呆れた顔で飲み物をくれる市原。

愛梨になにかを教えようとしていて、伝わったのは良いが逆に今度は勝てなくなってしまった。市原は呆れるしかなかった。

 

「一色さんになにを教えたんですか?」

 

「なんも教えてないです…」

 

「正直に答えてください」

 

愛梨には明らかな変化が起きていた。

体からなんかキラキラしたものが放出されているので例によってなにかを知っている光國に聞くが答えないので、顔を近づけて真剣な表情で求める市原。

 

「だから、なにも教えてないですし…魔法自体は使ってないですよ…いや、稲妻は使っているのか、アレは?」

 

しかし、それでも答えない。

と言うよりは、本当になにもしていないのが正しい。

 

「アレはいったいなんですか?」

 

「天衣無縫の極み、百練自得の極み、才気煥発の極みと同じ様で全く異なる無我の境地の三大奥義の内の一つで最も強く、最も難しい…技術だ」

 

「技術…魔法ではないのですか?」

 

「一色を見てみろ」

 

光國が説明をしてくれる様なので愛梨を見る市原。

第三高校の愛梨のCADを調整している技師が居るのだが、その技師と仲良く会話をしていた。今の今までそんなのが無かったのか、技師の子は戸惑っている。

愛梨の雰囲気が本当に変わっており、目線があってしまいどうしようとビクッとなるのだが愛梨は微笑んで手を振った。

 

「天真爛漫ですね…」

 

率直な感想を述べる市原。

今の愛梨はまさに天真爛漫そのものであり、憑き物が落ちたかの様に笑うことが出来ている。

 

「大人になれば、勝つことしか拘れない。いや、それしか出来なくなる。

勝つことは大事だけど、一番大事なのは楽しむ事…一色なんて家柄でそれは絶対に許されないだろうな…」

 

魔法師の名家の子供は同じ魔法師の名家ならまだしも普通の魔法師に負けてはならない。

ましては十師族候補の二十八家の一つである一色だ。そう言った感情は持ってはならない、排除しなければならないと言う洗脳教育並みに質の悪い教育をしている所もあり、負けたら負けた奴を攻めるし、勝った無名の魔法師も攻められる面倒な事だらけだ。

 

「ただただ、楽しんでいるだけ。

喜怒哀楽を抑えつけている心の鎖を断ち切って、勝ち負けの概念から抜け出す…キラキラと光っているのは、無意識で魔法を発動しているだけで魔法師じゃなくても…使える…そう、使えた筈なんだ」

 

まるで過去に自分も使えたかの様に語る光國。

百練自得の極みも才気煥発の極みも使える光國だが、アレだけは、天衣無縫の極みだけは使えない。

 

「どうやって勝つか…」

 

今の愛梨に対抗するには天衣無縫の極みも此方も使うしか無いが、使えない、いや使えなくなった光國。

真由美戦までに取っている技を使うかと考えるのだが、果たして勝てるのかと悩む。

 

「手塚くんも天衣無縫の極みを使えば良いのでは?」

 

そんな中、市原は同じ様にすればいいと言う。

 

「オレは…天衣無縫の極みは使えないですよ」

 

「テニスではなく、クラウド・ボールだから?」

 

「いや、天衣無縫の極みは百練自得の極みと才気煥発の極みと違って他の競技でも」

 

「では、使える筈じゃないですか…楽しくないんですか?」

 

「それは…」

 

楽しいかどうか聞かれれば楽しいはずだ。

それなのに、天衣無縫の極みは使うことが出来ない。テニスじゃないから、学生同士の試合だから発動できないのかと考える光國。

 

「…面白く無い顔をしていますよ」

 

「…そう、ですか…」

 

楽しめと言っていた光國だが、楽しむことは出来ずにいる。

楽しもうとする事をしなかった愛梨は楽しむことを知り、笑顔になっている。

今の光國をつまらないと市原は感じた。

 

「私や司波さん達にテニスを教えている時は、とっても楽しそうに面白い顔をしていましたよ」

 

一番良い時の光國の表情を市原は知っていた。

しかしその時の顔を光國は九校戦が始まってから一度もしていない、一度もだ。

 

「手塚くん…貴方は分かっている筈です…」

 

今の光國に足りないものが、必要なものがなにか分かる市原はそれ以上は語らない。

そして第4セットがはじめる為にコート内に入るのだが、ふと仁王が目に入った。仁王はなにかを期待しているかの様な眼差しで見て居るのだが、それが分からない。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、だと思う」

 

「顔が死んでますよ?」

 

「…前々からだ」

 

「何時からですか?」

 

前々からとは言え、眼が死んでいる光國を心配する愛梨。

そう言えば、何時から眼が死んでいたのか光國は考える。

リーナと出会った時には眼が死んでいた。絶望をしていて虚になっていた…リーナと過ごしてマシになったとは言え、それでも虚になっており…絶望をしていた…筈だ。

絶望をしていたのならば、ファントムを生み出す筈だ。しかし、生み出していない。想子の量が少ないから、生み出さなかったのか?いや、違う。キマイラが先に食い尽くしたのか?いや、それでもない。

仁王は言っていた、絶望をしていないと。

 

「ふん!!」

 

「アレって、スマッシュでの零式!?手塚さん、それは」

 

「駄目よ、手塚くん!!それ、使いすぎると腕に負担が掛かるんでしょ!!」

 

「光國、まだ試合が残ってるでしょ!!」

 

愛梨に勝つべく、スマッシュでの零式サーブを使う。

成功するが、効果は薄い。愛梨は直ぐにボールを拾って、サーブを打ち返し、光國はなんとか反応をして打ち返すが

 

「さっきの、お返しよ!」

 

既に愛梨が跳んでおり、光國のラケットのグリップ目掛けてスマッシュを打つとボールは愛梨の元へと返り

 

「失意への遁走曲(フーゴ)!!」

 

もう一度スマッシュを打つのだが、イレギュラーバウンドが起きずに地面を弾んだ。

 

「そら、破滅への輪舞曲(ロンド)ったい…」

 

仁王はただ一人、ツッコミを入れた。

そしてもう決まったなと確信をした…光國がボールを拾った後、ラケットを取りに行くのを見てだ。

 

そいのにしゃん希望ちゃろう(それがお前の希望だろう)

 

「…!」

 

光國はラケットを拾いに行こうとしたら固まった。

このラケットを見て、なにかを思い出そうとしていた。

このラケットはペリー来航の時からオジイのオジイから作ってもらった、このご時世では珍しいウッドラケットだ。作って貰ったのは極々最近の事であり、このラケットに深い思い出は無い。森崎を倒したのは通過点なので、深くはない。

 

「そうか…」

 

仁王が絶望をした理由をなんとなくだが、分かった。

いや、分かっていたが触れない様にしていた。それは光國も笑い死にをして転生した際に気付いていた事だったから。

仁王は絶望のドン底に落ちて、自力で立ち上がった…光國も絶望のドン底に落ちかけたが、這いつくばり、希望を掴み取ることが出来た。

 

「そうだったな…」

 

魔法科高校の劣等生の世界でテンションを上げたが、魔法師じゃなかった。

一般人として実際に生活をしてみて、漫画やゲームの世界は読者を楽しませる為に主人公を活躍させる為に色々と糞みたいな事が起きているので実際に暮らせば地獄だと感じた。魔法師の才能が全くなくて良かったと感じていたが胸の中でドロドロとしたものがあった。なんの為に転生したんだとなった。前と対して変わらないと感じた。

内申点を稼ぐ為にボランティアを、自身の容姿が手塚国光だったのでもしかしたらと、テニスをやってみた…そして自分には才能があった。

 

「テニスがオレの希望だったな…」

 

死んでしまった光國の生きる意味は、明日への希望はテニスだった。

魔法師になってからも、大きな大会に出てはいないけれどもテニスをずっとしていた。

未練が出てしまうだなんだと言いながらも、最後の最後までラケットを、テニスボールを捨てようとしなかった。強者との対戦が無かったので、勝負の感覚が薄くなり弱くなったが、それでも世界レベルだった。油断すれば痩せるレベルで鍛えていた。

一科生との対抗試合でも、テニスを選んだ。森崎を倒して心を折る方法は、他にもあったのに、テニスを選んだ。このクラウド・ボールでも、ラケットを選んだ。市販のラケットではなく、オジイが作ってくれたラケットを選んでくれた。

 

「…そうだ…」

 

手塚光國は、自分が居るべき場所は魔法師の世界ではない。

此処も悪くはないが、此処では無い。もっと別の場所があるのを知っている。

自分はそれをずっとずっと目指していた。例え、どんな状況下でも立場でもずっとだ。

 

「オレのやるべき事は、やっていた事は…全て、通じていた!」

 

足りないナニかが見つかった、いや、思い出した。

自らを抑制する鎖ではなく、見ようとしなかったものを見ることにより思い出した。

魔法師なんて最初からどうでもよかった。魔法師にならなくても、原作と関わらないと幸せになれないなんて誰も言っていない。

 

「オレは魔法師じゃなくて、テニスが大好きなテニヌプレイヤーだ…」

 

「…て、手塚さん!?」

 

光國は口にすることにより、思い出して死んだ眼に生気が宿る。

それと同時に変化が訪れ、眼鏡越しの美月は感じた。そして光國は愛梨と同じ光を愛梨以上に放った。光國は天衣無縫の極みに入った。

 

「貴方も、出来たんですね…」

 

「ああ、悪いが勝ちは譲らんぞ」

 

「それは私の台詞ですよ」

 

天衣無縫の愛梨と光國。

超高速のラリーをはじめるが、険しい顔は何処にも無く笑顔に溢れている。

 

「なんや、憑きもんが取れたみたいやな」

 

その光景を見て、もういいやと席を立ち上がった謙夜。

会場を後にしようとする。

 

「見ていかないの?」

 

「結果は分かっとるちゅー話や。

今の光國に、これ以上なにかを言ってもなんも意味無い…自分で作った壁を自分で壊して乗り越えよったで」

 

帰ろうとする謙夜を見る雫だが謙夜は気にせずに会場を後にする。

 

「光國はんに、よろしくと…今の光國はんはNo.1やったあの頃よりも更に進化しとるわ」

 

吟も一礼をした後に会場を後にする。

今の光國には迷いは何処にもない。勇気を振り絞り、己の為にと一歩前に出た。

 

「…楽しそうね、光國くん…」

 

「ええ…あんな顔は滅多にはみないわ。

九校戦なんて大人の勝手な事情が乱れる場所で、見られるなんて思ってもみなかったわ」

 

ボールの数なんて関係無いとラリーを続ける愛梨と光國を見て、嫉妬するリーナと紗耶香。

自分達がどうにかしたいと思っていた、希望になろうとしていたが光國は自力で乗り越えた。強いことは良いことだが、少しは自分達を頼ってほしかった。

 

「…あら、終わってしまったわ」

 

「なんや、もう終わったんか…」

 

永遠とラリーを続けるつもりだった愛梨と光國。

時間制限があるクラウド・ボールは気付けば試合が終わっていた。

第4セット、愛梨の敗けで光國が勝利した。

 

 

 

クラウド・ボール 特別試合 第二試合

 

 

手塚光國 ○ 一色愛梨 ●

 

88-54

 

93-44

 

32-101

 

71-51

 

 

3-1

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、お陰で大事な事を取り戻すことが出来た…今思えば、貴方は分かっていたのね、何もかもを」

 

「なんの事だ?」

 

握手をして光國と仲良く会話をする愛梨。

今ならばわかる。散々、ふざけてばっかだと思った光國は大事な事を教えようとしていたのを。本当に一歩だけ踏み出せばとてもとても肩が軽い。物理的な意味ではほのかや美月には絶対に勝てないが、胸が軽い。世界が変わって見えた。

 

「とぼけなくても…」

 

「とぼけとるんやのうて、素で分からん。

けどまぁ…このままで良いって思ったりしても無駄やって事や…オレらが酒飲める様になる頃には二十二世紀、そろそろ本気で変わらんとアカンわ…本当に大事なものは失ってからでしか気付けないオレやお前の様に」

 

「けど、取り戻すことは出来るわ」

 

「…ああ、そうだな!」

 

光國は笑う。

愛梨は今まで関わった事の無いタイプの人間だったが、今の光國は面白いと感じる。

もっとこの人の知っていることを教えてほしいと、見ている景色を一緒になって見てみたいと言う小さな気持ちが芽生えた。

 

「やれやれ、結局はテニスか…」

 

人が散々どうすれば良いかと考えて動いていたが、最後には自力で立ち上がった光國。

仁王は呆れ声を出すのだが、笑みを浮かべている。

 

「わしが仁王雅治、アイツが手塚国光なのは一種の縁なのかのぅ、ま、わしも最終的にはテニヌプレイヤーが将来の進路じゃからの…後はどう来るかじゃな…」

 

仁王はコートにいる光國と愛梨を見ていない。

向かい側の観客席にいる勝つとは思っていなくて、表には出さないが明らかに怒っている九島烈を見た。手塚光國の心を折ろうと言う考えは無駄である。

インターバルを挟まずに、勝者同士の試合を行うアナウンスが鳴るが、今の手塚光國を止めるには同じテニヌプレイヤーでないといけない。

 

「と言うか、アイツは何時か刺されるじゃないかのぅ…」

 

特化型CADを持っているリーナを必死になって抑えているエリカ達を見て、仁王は思う。

あんだけ美女に愛されるって、生前どんだけ徳を積んだのだろうかと。仁王もモテるだけありがたいと感じる転生者だった。



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転生者恒例行事 モノホンノエリートバスター

「とうとう決着をつける時が来たようね」

 

「とうとうって、そもそもでぶつかり合う機会は無かったですよ」

 

少ししか休憩をしていない光國と向かい合う真由美。

三巨頭を上手い具合に出さないようにあの手この手を使っており、まともな対決は今回が初である。

 

「まぁ、互いにくだらない大人の勝手な都合や事情関係無しにやりましょう」

 

「私としても、そうしたいけど…無理よ…」

 

「…オレに負けろと?」

 

「大丈夫よ…私が勝つから」

 

一触即発の空気を醸し出す光國と真由美。

自身の絶対を疑っていないのもあるが、真由美は若干だが仕方無いと諦めている節がある。

ある意味、天狗なのは真由美だったりする。

 

「そうか…それを聞いて安心した」

 

心置無く、本気で戦える。

天衣無縫の極みは使えない事はないのだが、それとは別にしたかった事があった。

互いに距離を取り、試合開始のブザーが鳴り響くと同時に光國は百練自得の極みを発動した。

森崎の時と違いラケットを持っている光國の左腕にオーラは集中していた。

 

「手塚くん、それには大きな弱点があるわ」

 

人間が持つオーラを特殊な目を使わずに見えるレベルに一ヶ所に凝縮するのと先程の愛梨との試合で百練自得の極みの弱点を完全に見抜く真由美。

射出口から射出された一個目のボールは真由美の元へと向かい、ダブル・バウンドを使う。

百練自得の極みはオーラを凝縮しているので、凝縮していない部分が疎かになる。

手塚光國には手塚ゾーンがあるが、それは一度ボールに触れなければ使うことの出来ない技で最初のボールは自らの足で取りに行かなければならないのだが、腕にオーラが集まっているので足が追い付かない。いや、常人ですら追い付けない。

 

「弱点があるとするならば、オーラが見えて目がチカチカすることですよ」

 

しかし、光國は常人の域を遥かに越えているテニヌプレイヤーだ。

百練自得の極みの膨大なまでに圧縮された普通の人にも見えるオーラを左腕から足に動かすと、倍速で返球されたボールに一瞬で追い付きラケットを構えた瞬間にオーラが左腕に戻して倍の倍、四倍の威力と速度で打ち返す。

 

「あんな方法があったの…」

 

無我夢中で使っていたので、全くと言ってコントロールが出来ていなかった愛梨は驚く。

もし試合中にアレを使うことが出来たのならば、また試合の結果は変わっていたかもしれないと想像するが、直ぐに頭の中から消す。そして市原に近寄って、ボールを指差す。

 

「大丈夫ですか、あのままだと倍々ゲームですよ」

 

光國が打ち返した球を更に倍速にして返球する真由美。

そしてそれを倍にして光國は返すと言うループを繰り返していくのだが、ラケットを使っている光國が圧倒的なまでに不利だ。

 

「もうすぐ二個目のボールが射出されるけど、どうするつもりかしら?」

 

倍々ゲームは油断をすれば均衡が崩れてしまう。

ラケットを使っている光國は、ボールを打つためには自らの足で移動をしなければならないのだが、移動をすれば最後倍々ゲームは終わってしまう。

 

「ああ、大丈夫です…そもそもの話で、元会長は既に大きなミスを犯しています」

 

「大きなミス?」

 

「手塚くんを相手に、特化型CADだけで挑んだ事です。

仮にこの倍々ゲームの均衡が崩れてしまい、手塚くんが破れた場合は次があります。

ただただ、ボールを拾って新たに打ち返せば良いだけで手塚くんの使っている技は全て身体技術であり魔法は百練自得の極みのみ。

対して元会長ですが、ボールを拾いに行かなければならない場合ですが…手で投げると言う行為は出来ない事では無いのですが、手塚くんを相手に、いえ、魔法師を相手にするクラウド・ボールではそれは余りにも悪手。CADに入れられている魔法を使って、手塚くんのコートに飛ばさないと入りませんが…」

 

その場合はダブル・バウンドを使うことは出来ない。

ベクトルを逆転させて、倍速するダブル・バウンドは一種の返し技だ。

この魔法は自らが攻めるのではなく攻めてきた相手の力を利用するものであり、自らが攻める魔法ではない。完全に後手の者が使う魔法でボールを拾って相手コートにボールを飛ばすときには使えない。

 

「二個目のボール…」

 

そうこうしている内に、二十秒がたち射出される二個目のボール。

今度は光國の元へと落ちてくるのだが、光國はそのボールを拾わずに一個目のボールを二個目のボールにぶつけた。

 

「奇策で来ても、全てお見通しよ!」

 

マルチ・スコープで全てを知覚している真由美。

二方向から来るボールを返すのはお手の物で倍返しで返球する。

 

「…どうした、攻めないのか?」

 

手塚ゾーンになっていないボールを縮地で取りに行く光國。

真由美を撃ち破る決定打を与えない光國に対し、真由美は光國に対しての有効打が無かった。

ベクトルを逆転して、倍速で返球をするのならば手塚ファントムと同じ引き寄せる回転ではなく、真逆の追い出す回転を掛ければ勝手に引き寄せられる。

手塚ゾーンと同じ回転量の手塚ファントムを掛けるだけで、光國の手元にボールが来る。

決まり手に欠けている事を指摘するのだが、反応をしない真由美。

 

「…言い忘れた事があった。122-21だ」

 

「え!?」

 

此方から攻めるしかないなと倍々ゲームを止めるべく、ラケットを右手に持ち変える。

そして、已滅無で威力をかき消しつつも、小さくドロップボレーをする。

 

「静かなること、林の如く…」

 

「山を解いた!?いえ、それよりも」

 

手塚ゾーンを解除して、攻めに入る光國。

勝負を決めに来たことに驚く人は驚くのだが、大半の人はそれには全く驚いていない。

 

「魔法の同時発動!?」

 

光國の左腕には膨大なまでの燃えるオーラが宿っていた。

左腕に宿っていただけで他にはなにも宿ていなかったのだが、急に変わった。

光國の周りにはキラキラと光の粒の様なものがあり、光國は才気煥発の極みと百練自得の極みの同時発動をしていた。

 

「アレって、同時発動出来るんですか!?」

 

一瞬だけ消して、才気煥発の極みを発動しているわけでもなく才気煥発の極みと百練自得の極みを同時に発動している光國。

あんな事は不可能だと愛梨は言うのだが、市原は気にしない。コレぐらいならば、光國にとっては朝飯前だと試合に集中する。

 

「妙技」

 

ドロップボレーをしたボールは、真由美のコートには向かうことが無かった。

光國側のコートのネットにぶつかって、ボールは空中を浮いた。

 

「そこで、使ったらルール違反だぞ…」

 

遂に動いた真由美のポイント。

たった1ポイントだけだが、それは大きな1ポイントだった…のだが、それよりも大きな物を失った。

ネットの真上を浮いているボールは、まだ光國のコートにある扱いだ。

この状態でダブル・バウンドを使えば、真由美は相手のボールが相手のコートにまだあったのに魔法を使ったことになり反則となる。

 

「妙技、綱渡り」

 

ボールはゆっくりとゆっくりと…ネットの上に落ちる。

この状態でポイントは真由美に入るのだが、問題はそこではない。物体の移動する力が0になりかけている。

コロコロと転がっている低反発ボールは、ゆっくりとゆっくりと落ちていった真由美のコートに落ちていく。

 

「それ以外は、無いんやろ?」

 

ゆっくりと落ちていくダブル・バウンドで返そうとするのだが、無駄だった。

既に重力に引っ張られるだけのボールのベクトルを逆転させて倍速にしても無駄だった。

 

「悪いが此処からはオレのターンだ…絶対予告、122-21だ!」

 

再び左手でラケットを握る光國。

この時点で真由美の勝機は無い。一度でも、自陣にボールを落として残した時点で光國には勝つことは出来ない。

 

「マルチ・スコープを使いこなせていないみたいですね。

多方面で見ることが出来るだけで、多方面で見て処理するだけで、その先を見ていない。1000手とは言わないが、100手先までのすべての戦略パターンをシミュレーションしなければならない」

 

三個目のボールが射出され、試合は続くが光國は圧倒する。

ボールが増えたことにより、多方面に意識を集中しなければならないのだが追い付かない。

倍々ゲームで強くなる低反発ボールの一個や二個ならばまだなんとか対処できたのだが、三個目からは追い付かなくなる。五個目でなにも出来なくなる。

 

「ダブル・バウンドは百練自得の極みで破られ、マルチ・スコープも才気煥発の極みを越えられない…無様だな、七草真由美」

 

「…手塚くん?」

 

光國の絶対予告通りのスコアで、第1セットが終わった。

有り得ない事態が起きたと困惑する少数の者とスゴいと称賛する大多数の者とわかれ、歓声が鳴り響く。光國は真由美を嘲笑っており、なにかおかしいと市原は感じる。

 

「って、なんやおったんか」

 

戻って来た光國は愛梨が居ることに驚く。

普通に帰ったのか、裏で見ているのかと思ったのだが愛梨は普通に市原の横にいた。

 

「ちょ、飲みもんとって」

 

「あ、はい…本気ですか?」

 

「ああ、本気だ…こう言う言い方は、誰にとっても大変失礼だが言う。

十師族の七草家の天才と、師補十八家のエクレール・アイリを倒すことにより、オレの覚悟は本物へと成就する…」

 

散々、家がどうとかお前を見せろ的な事を言っていたのに急に変わった光國。

なにか怪しいものを食べたのか?それとも天衣無縫の極みでおかしくなったのかと市原は困惑をするのだが、そんな市原に大丈夫だと言って安心をさせる。

 

「一色…いや、愛梨…それと市原先輩…見せてやるよ、最強と言われたテニスの王子様のテニスを」

 

※ テニスでもテニヌでもなく、クラウド・ボールです。

 

「百練自得の極みでも才気煥発の極みでもない。

この試合まで取っといた、対七草真由美対策を…まだ使っとらん風林火山の真の姿を見せてやるわ」

 

「風林火山の真の姿?」

 

縮地法による高速移動、風の攻撃技、ジャイロレーザーの風

六種類の返し技、零式ドロップ、時間差地獄、綱渡り、鉄柱当ての林

十三の処刑法、佰八の波動球、ブラックジャックナイフの火

あらゆる攻めを無に変える已滅無、全ての球を集める手塚ゾーンの山。

まだ見せていない技はあるのは分かっているが、それは全て風林火山に部類される技ではないのかと愛梨は考えるが

 

「やはり、ちゃんとあったのですね」

 

「当たり前やろ…孫子の方が正しいんやぞ」

 

市原はやっぱりと言う顔をしていた。

森崎との試合の時から、ずっとずっとあるんじゃと考えていた。

 

「どういう意味?」

 

「風林火山って言ったら、武田信玄だが元々は孫子からの引用とされていて…まぁ、コピペで二つ抜けとるんや…風林火山自体がフィクションとかいう説もあるが、その辺はどうでもいい…すうぅぅぅぅぅ…」

 

小さく長く息を吐いていく光國。

8000mlの肺活量は伊達ではなく、かなり長い間息を吐いて精神を集中させる。

息を吐き終えると今度は空気を吸い、深呼吸をするのだが直ぐに止めてベンチから立ち上がった。

 

「!」

 

「…んじゃ、行くか

市原先輩…アイシングの用意をしといてくださいね」

 

第2セットが始まるので、光國はコートへと向かうのだが愛梨は驚く。

今の光國には無駄がある様で無かったり、無いようで大きな無駄があり、実際のところはどうなのかが分からない雰囲気になっているのを市原は気付く。

 

「本気で、勝つつもりなのね…」

 

たかがクラウド・ボールと言えども、相手はあの十師族。

クドウと関わり深い人とはいえ、勝ってしまうのはとんでもない事で互いに面倒な事だ。

なにかを決意した光國の覚悟を見届けようと愛梨はじっと試合を眺める。

 

「疾きこと風の如く」

 

第2セットがはじまり、射出口から光國にボールが射出される。

居合い斬りの要領で光國はラケットを振り、超高速のボールを打つのだが

 

「百練自得の極みを使っていない!?」

 

百練自得の極みを発動させていなかった。

一瞬で発動できるものだが、発動はさせておらず圧倒的な素早さが売りの風を使った。

無論、真由美はダブル・バウンドで打ち返すのだが、ほぼと言うか真正面から打ったので真正面にボールは返るのだが

 

「徐かなること、林の如く」

 

バックステップを取りながら、ボールを打ち上げる。

風の威力を完全にかき消す、風林火山に対抗する風林火山をぶつけた。

 

「!」

 

それと同時に尻餅をついた光國。

今が攻める時だと、ネットの手前ギリギリでボールを返して天井にボールをぶつけるのだが

 

「一瞬で後方に!?」

 

気付けば光國は一瞬でボールが落下する後方へとやって来た。

縮地法の様に動作を上手く隠しているのではなく、本当に一瞬で現れた。

 

「動くこと、雷霆の如し!!」

 

そしてラケットを刀に見立てたかの様に両手で握り、ガットではなくグロメットの部分をボールの正面に向けて、素振りの要領でボールを打ち返す。

 

「え…嘘…」

 

この世界の魔法は、物の情報や状態を一時的に書き換えて事象に作用させるものだ。

ダブル・バウンドの場合はベクトルの情報を換えたりしているのだが、魔法は今起きている状態が強すぎれば時には書き換えることが出来ない。

マルチ・スコープでコート内部を見渡すことが出来る真由美は、後ろを振り向いてしまった。

 

「どうした、顔色が青いぞ」

 

光國が打ち返したボールに対して、ダブル・バウンドが使えなかった。

いや、使ったには使ったのだがボールの状態の定義を改変することが出来なかった。七草真由美の魔法よりも強いボールを打った。

 

「やっぱり…やっぱり、隠し持っていたのね!」

 

「エリカちゃん、アレを知ってるの?」

 

観客席で見ているエリカは遂に来たかと興奮をする。

美月はこの事を知っていたのかと聞くが、首を横に振る。

あくまでも、存在するかもと言うものであり、もしかしたら存在しないもの。それが今見せた技だ。

 

「美月、風林火山を言えるかしら?」

 

「えっと、疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如しで武田信玄で有名です」

 

「そうなんだけど、少しだけ間違いがあるのよ。

風林火山って言うのは孫子の兵法に関する本に書かれているのだけれど…風林火山だけじゃないのよ。後、二つあるのよ…それが今見せた技…雷、動くこと雷霆の如し」

 

チラリとリーナを見るエリカ。

風林火山の雷の存在は知っているが、どう言った技かは知らない。

一番長く一緒にいるリーナならば知っているんじゃないかと見つめる。

 

「アレは素早さとパワーに全振りをしているのよ。

100メートルを全力で疾走するのと50メートルを全力で疾走するのは同じ短距離走でも全く異なるもの。ましては10メートルとなれば更に違う。

光國はスタートダッシュをそれこそ雷が落ちたんじゃないかと思える様な速度で動きだし、次の手に繋げない、使えば当たれば即死の一撃必殺の如くラケットを素振りしてボールを打った…ただそれだけよ…それだけを使う技術を光國は持っているのよ」

 

「まだ、まだよ!」

 

ボールを拾いに行った真由美は持ってきた普通のラケットを握る。

ここで敗けてしまったらとボールをラケットで打ち返して、雷に備える。

如何に雷が強力と言えども何処かに弱点があると真由美はマルチ・スコープでコート全体とボールを見るのだが

 

「手の内を探ろうとしているけれど…光國くんには無駄よ、元会長」

 

「…っ…」

 

光國の動きから予想して、光國の弱点や雷を見抜こうとするが出来ない。

無駄な動作が無くなった様に見えて、複数の行動パターンを何重にも見せる様な雰囲気を醸し出し、心を閉ざしていた。

それは、対抗戦で紗耶香に教えた閉心術…のその先にあるもので、少しでも光國の情報を取ろうとしている者達は情報が取れず、ある程度の目利きが出来る者達は急に目利きが出来なくなった。

 

「知り難きこと、陰の如く…七草真由美!ただでは返さん、敗北の淵へと案内してやる!!

マルチ・スコープで感じるんじゃない、お前の肉眼で見ろ!最強と言われた、オレの真の姿を…雷、動くこと、雷霆の如し!!」

 

ダブル・バウンドで倍返しした球を更に倍にして返す百練自得の極み。

フィールド中を多方面で近くすることが出来るマルチ・スコープに対して、知覚した後に何百と言う戦略パターンをシミュレーションして最高の手段を見つける才気煥発の極み。

光國はそれを使わずして圧倒的に優位な立ち位置で戦う。

 

「常に優位な立ち位置にいたのは、御互いとも同じだが…今ここで息の根を止めてやる!挫折と言う意味を教えてやろう…動くこと、雷霆の如し!!」

 

「きゃあ!」

 

「温いな、お前の細腕では一生返すことは出来ん。

…ダブル・バウンドは百練自得の極みと雷で返され、マルチ・スコープは才気煥発の極みと陰に封じられる…」

 

「コレが、コレが、手塚くんの真の姿…」

 

「風林火陰山雷…オレには一部の隙も無い!!」

 

最早、打つ手は真由美は持っていない。

魔法を封じられ、ラケットもガットを貫き、使い物にはならない。

本気になり、本気のテニスをする光國には勝てなかった。魔法を使わない光國には勝てなかった。

 

「はぁはぁ…久々にやったから、ちょっと調子に乗りすぎたな…」

 

第2セットも光國の勝利で終わるのだが、汗だくの光國。

足が生まれたての子馬の如くプルプルと震えており、市原が待つベンチへ戻ろうとするのだが

 

「手塚くん!?」

 

「あ~くそ…結果的には二十回ぐらい雷をしてたな…」

 

転けてしまう。

市原は直ぐに駆け寄って、プルプルと震える足に触れる。

そして真っ赤に腫れ上がっている事に気付く。

 

「これは…」

 

「雷は初速に、スタートダッシュに全てを注ぐ…諸刃の剣だ…」

 

「これ以上は、ダメです。

森崎くんとの試合の時は仕方ありませんでしたが、今回はダメです」

 

アイシングを押し付けながら、雷の使用をやめろと忠告する。

この時点で既に激痛が走っており、常人には耐えられないだろうが、コレから更に雷を発動しようとする。手塚光國と言う男はそんな男だ。

 

「悪いけど、オレは勝ちに行くんで…勝って、成就させないと…」

 

「まだ、試合が残っています…U-17の日本代表としての試合が…」

 

「…まぁ、うん」

 

「手塚くんは、九校戦が終われば行きますよね?」

 

「ああ…」

 

愛梨との試合を終えた後に光國の雰囲気が変わった。

迷いを断ち切った事で変わったと気付き、納まるべき場所に納まろうとしている。

なにがなんでも元会長を倒すのは、納まろうと戻ろうとする強い意思を証明する為だが、身体が使い物にならなくなったら話にはならない。

 

「…ふぅ……あ、そうだ……」

 

「どうかしました?」

 

「風林火陰山雷は、昔から使えていた。

百練自得の極みと才気煥発の極みは魔法だ…だから、テニスじゃない…たった今、思い付いた…新しい技…を……Zzzz…」

 

「手塚くん…手塚くん?

新しい技って…ま、まさか!?」

 

眠りに落ちた光國。

市原は起こそうとするのだが、途中で止める。光國の新しい技の正体に気付いた。



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大正時代から続く店をとある地域では老舗とは言いません。

「…ん…あ、終わった…あ~終わったか」

 

第3セットがはじまったのだが、全く覚えていない光國。

電工掲示板を確認すると31-8で光國が圧勝しており、周りは余りにも静かだった。

 

「…アカンな…ダブルス専用の技やな」

 

なにをしたのか覚えていない光國。

身体は疲れなどの異常は特にはないのだが、余りにも覚えていないのでコレは一人で使えないとコートを出て、リーナがいる方を向いてリーナを見つめる。

 

「…戦って、勝った…オレは戦った、戦うことを決めた…」

 

「そう……光國は、そっちの方がカッコいいわ…」

 

リーナは自身に向けて、光國が言ったと理解して言葉の意味も理解した。

光國は手を伸ばせば届くのに伸ばさず、いや、伸ばせずに死ぬほど苦しんでいたが解放された。いや、自らで解放した。

やっぱり、光國の居場所はここじゃないとそれ以上はなにも言わずに歩いていく。

 

「…」

 

「終わりですよ、元会長」

 

女座りをして、こんな筈では無かったと言いたげな顔をしている真由美。

最後の最後で見せた技は数分前に思い付いた技で、今まで名に恥じぬ努力をしてきたのを一瞬で無駄にされた感じがした。

 

「リンちゃん…」

 

「鈴音です、七草さん。

終わりですよ、会長…もうとっくの前から終わりです…それでは、失礼します」

 

市原は真由美に特に深い言葉をかけない。

真由美には特に興味なく、一礼をした後、真由美の元を完全に離れていく。

 

「随分と、犬猿な様ですが…」

 

「犬猿ではありませんよ。

私はただ単に、私自身の目利きが間違ってた事に気付いてしまっただけですよ…今思えば、司波くんを生徒会に引き入れて改善しようとしていましたが、どちらかと言うと司波くん個人を評価しているというのが正確であり、他の二科生を助けようとしていませんでしたね…諦めさせたり、力を見せる場を作るのはある意味、有効な手です」

 

「?」

 

愛梨は市原と真由美に出来た溝が分からないが、それは埋めなくても良い溝だと深くは聞かない。

エキシビションマッチは急遽行われたものなので、トロフィーやメダルの様な物は無いので二人は会場を後にして、愛梨は着替える為に選手控え室に向かうのだが

 

「あれは…」

 

手塚光國が九島烈と居るところを目撃してしまう。

リーナ(九島)と関わり深い人とは言えども、光國は普通の家系、手塚などと言う家は無い。

光國の父親は色々と凄い頭で、光國に対しては躊躇いなくドロップキックをするのだが、それでも普通の人々に部類される人である。

やっぱり、一色(自分)七草(バカ)を倒した事は大きな問題だったと痛感する。

 

「下馬評を覆したぞ…まだまだだな」

 

「分かっているのか、十師族でもなんでもない者が競技とは言え十師族に勝ってしまうのがどんな事なのかを…あの様な勝ち方、余りにも十師族を馬鹿にしている、自らで敵を作るつもりか?」

 

「ああ、そうや…敵が多いのは自分やろう。

一部の古式魔法師から技パクって私物化した上に、懇親会のアレはなんやねん。

この魔法を見抜け無かったお前等は自分がテロリストなら死んでるとか言うて、どんな魔法も工夫次第とか言うつもりかは知らんが、アレは先天的な視覚系のスキルか動物並みの勘でしか見抜けねーよ、あれ、元会長を含む視覚系のスキルとか魔法を持ってる奴しか見抜いてなかったぞ」

 

「…」

 

今まで通り、口が悪い光國。

相変わらず言うことは真面目だったり、批判だったりするのだがなにかが違う。

自身に対して向けてくる憎悪や諦めの雰囲気が無くなっており、少しだけ嫌な予感がする。

 

「オレはオレなりに頑張ってみることにしたんだよ。

あんたはオレの様に後天的に魔法師になる方法を見つけて、それをベースに安心安全の誰でも魔法を使える様になれる方法を考えているが、それじゃなにも変わらんよ」

 

「!?」

 

二人しか居ないと思っているからこそ、話せる事実に驚く愛梨。

魔法師の才能は先天性の物であり、努力でどうのこうの出来る筈がない。しかし、後天的に宿したと光國は言っている。

 

「…どうやら、大分天狗になっているようだ」

 

「天狗はあんただぞ、クソジジイ。

自分達魔法師は無知な大衆に嫉妬されているとか考えているなら、テメエも馬鹿になれ。

つーか、この際だから言ってやるが十師族の誇りとか最強でなくてはならないってなんやねん。もう歪みだよ。

非人道的な実験で生まれて、数字は研究所の認識番号がなんかで最早、一種の恥だぞ。モルモットだったことが誇りって、イミワカンナイ。しかも四年に一度のローテーションの交代制で最早、誇りとかそんなんじゃない次元やん。

裏で統制とかしている割には全員が全員、腹の中が汚いし馬鹿な事しかしてないし百年の歴史すらない。しかも大半の古式魔法師に嫌われてて、選挙制度でもなんでもない身内人事って、アホか!!」

 

「言いたいことはそれだけか、クソガキ!!

魔法師が生まれだして、世間を騒がせて差別が始まったあの時の苦しみも一切知らない世代は呑気で良いものだ!!」

 

「その時の苦しみに囚われて、固執的な考えしかとれんクソジジイが!

EDと対して変わらんその金玉を取り外してやろうか!遺伝子改造受け入れたモルモットが!!」

 

遂に切れた、九島烈の堪忍袋の緒。

自身の全てを否定した光國の顔面を掴むのだが、光國は金玉を掴み、小学生の喧嘩をする。

魔法を使えばその時点で終わる。それ故にこんな喧嘩になっているのだがどちらも殺気を放っている。

 

「オレの進路はテニスプレイヤーだ、自力でスポンサーなりなんなり掴みとってやる!!覚えとけ!」

 

「おぐぅお!?」

 

魔法師として優れているとは言え、既にお爺ちゃんの九島烈。

魔法を使った時点で負けなこの喧嘩で、若く鍛え上げている光國には勝てず光國の鼻フックを受ける。

 

「はぁはぁ…これ以上は、好きにはさせん」

 

「やれるもんやったら、やってみろ…人工魔法師なんてもんをばらせば、何処もかしこも動くぞ」

 

小学生レベルの喧嘩は終わると、その場を去った九島烈。

光國は最後までファッキューと中指を突き立てて、全力で喧嘩を売った。

 

「…行ったか…もう、行った…出てこい」

 

完全に九島烈が居なくなり、監視カメラが無いか探して確認を終えた光國

 

「何時からきづ…」「やれやれ、全力じゃ…」

 

姿を現す様に言ったのだが愛梨と仁王、どちらも同時に出てしまう。

愛梨は仁王の存在に気付いておらず、誰と固まり、仁王は気付いていたけども同時に出ちゃったよと気まずくなってしまう。

 

「オレが呼んだのは仁王だが…聞いちゃった?」

 

「…はい…」

 

「まぁ、聞かれても問題無い事だ…さっき、色々と酷い事を言ったが忘れろとは言わない。

胸の内にしまってそのまま過ごすのも良いし、普通に人工魔法師だって言い触らして構わん…」

 

愛梨の存在に気付いていなかったが、彼女ならば大丈夫。

そう言った安心感が心の何処かにあり、特に気にしない。仁王がタイムベントのカードをチラつかせているが、それに頼るつもりは無い。

 

「…アレだけ喧嘩を売って、十師族の恐ろしさを御存知無いのですか?」

 

「知ってる」

 

「…まさか、十師族を否定する力をお持ちで!?」

 

何時までも余裕を崩さない光國。

あの九島烈を相手に、引かぬ媚びぬとするスタイルには裏があると考える。

魔法を使って戦うには戦うのだが、それは暴力と言う意味で戦うのではない。暴力以外で十師族を倒し、尚且つ魔法師と魔法が深く関わる技術を既に持っていると結論付けるのだが

 

「…あ、うん……」

 

光國はなんにも考えていなかった。

 

「まぁ、その辺はオフレコで頼んますわい…ちょっち、行くぜよ」

 

此処にいてはダメだなと仁王は場所を変える。

 

「…」

 

「え?」

 

去り際に愛梨に仕込みをして、光國と一緒に男子トイレに入る。

ここならば監視カメラは無い。更に今から行う競技はミラージ・バット、女子のみの競技で男子が入ることは絶対に無い。

 

「ほらよ」

 

No.1のバッジを光國に見せる。

覚悟を決めた今ならばと、No.1のバッジを出すと受け取り首元につける。

 

「…いや、ホンマどうしよう…先ずは九島の手から逃げないと」

 

そして本題に入る。

コレから先、光國が動くにはとにもかくにも九島の手から逃げないとならない。

しかし、思い付かない。いや、あるにはあるのだがそれは九島が別の物に興味を持たせるだけであり、解決にならない。

 

「やーっぱ、考えとらんかったか。まぁ、そんな事やろうと思った」

 

「…なにか良い案があるのか?」

 

なにも考えていないのが分かっていた仁王。

コレぐらいならば想定の範囲内で、九島から一度完全に縁を切る方法はある。

その為にはまずはとコネクトでワイズマンの武器であるハーメルケインを取り出す。

 

「商品価値を無くせば良い。

無くすことが出来なければ、商品その物が無ければ意味は無い…仮面ライダービーストは絶版だ」

 

「…お前、オーディンだろ?」

 

「そうだけど…まぁ、運命は既に動き出しちょるから、チャンスは来る…とりあえず、キマイラと対話をしておけ」

 

「ああ…コレでよかったのかな…」

 

「良いじゃなかぁ?

わし達は物語じゃなく、現実を生きとるんや…好き勝手、しにゃいと」



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羽ばたく野獣

「…行くの?」

 

ミラージ・バット新人戦も終えて、七日目の競技は全て終わった。

光國は衣服等の荷物を整理しており、部屋へとやって来たリーナは光國の服にNo.1のバッジを見て気付く。U-17の日本代表として、出場するべく此処から出ていくのを。

光國は九島の手によって魔法科高校に入学させられ、大学の進路も決められていたが、もう思い通りには、言いなりにはならないと覚悟を決めた。

 

「オレはオレなりに頑張ってみることにした…ただまぁ、今までなにもしてなかったからな、三年先の稽古になるよ」

 

「三年先の稽古って…それ相撲じゃない。そこまでしないといけないの?」

 

「そろそろ、未来は分岐点に差し掛かるからな…遊んでられないよ」

 

「分岐点って、どういうこと?」

 

「歴史の転換点。

百年戦争とかローマ帝国とか産業革命と同じ、世界が大きく変わる時が間もなくやって来る。

22世紀に入るべく、今の世の中が大きく変わる出来事が…ブランシュもこの大会を利用して裏でコソコソとしている連中も、その序章に過ぎない」

 

「ちょっと待って!」

 

大きく変わる出来事が起きると語る光國。

確かにここ数年で大きな事件が多くて世の中は荒れ放題で、荒れるに荒れている。

この時代を制した者こそ、コレから先の22世紀を勝ち組として生きることが出来る。

そう言われれば分かるのだが

 

「まだ、コレから先も事件が起きるの?」

 

テロリスト、違法賭博に続く第三の事件が起こると言うことだ。

学校がテロリストに襲われるよりも大きな事件が起きると言う事実に顔を青くするリーナ。

どうにかする方法は無いのか聞いてみるが、そんなものは何処にもないと光國は言う。

今のリーナは光國と物件を探した際に、紹介された物件の大半が事故物件だと言われた時と同じぐらいの心境だった。

 

「だから、大きな分岐点になる。

リーナ、覚えているか?オレが、死のうとした日の事を」

 

「覚えているけど…」

 

昔を思い出すリーナ。

自分のはじめてのキスを捧げた時の事を。あの時と比べて、光國も自分も大きく成長した。

あの時の出会いは自信にとって大きな転換点だったと言える。ただの人と関わることにより、見えない世界が見えるようになり、自身の価値観等が大きく変わった。

常識とは18最までに身に付けた偏見だが、その中でも魔法師の常識は大きく偏見的であり、あのままだったら変な使命感やプライドが出来ていたかもしれない。

まぁ、今も絶賛変な使命感はあるし、光國の助けにならなかった事は悔しいのだが。

 

「あの日、あの時…お前は話を一切聞こうとしなかった。

今後、リーナが生きてく上で役立つ情報を教えようとしたんだが…覚えていないか?」

 

「…覚えているけど…光國が居るから、聞かないわよ」

 

あの日、あの時、置き土産を残そうとしたがリーナは聞かなかった。

重要な事を伝えようとしていたのを覚えているが、リーナにとっては印象が薄かった。

 

「だって、そんな事を知らなくても私は幸せだもの」

 

満面の笑みを見せるリーナ。

これからすることを考えると、光國の心は痛くて仕方なかった。

 

「あの時、オレは分岐点の鍵を教えようとした」

 

「鍵?」

 

「ニコラ・テスラとかフランシス・ドレイクみたいな、キーマンだ。

世の中を動かすためにはそう言った存在が必要で、オレはそれが誰なのかを知っている…が、もう教える必要は無くなった」

 

鍵の正体は言うまでもない、司波達也だ。

リーナは形はなんであれ達也の味方であり続ければ、裏切らなければリーナは幸福になれる…筈だと思っていたのだが、少しだけ考え方が変わった。

このままじゃダメなんじゃないかと光國は考えている。

 

「…リーナ」

 

「なにかしら?」

 

「リーナは魔法師じゃなくても、問題無く生きれるか?」

 

「…どうしたのよ、急に?」

 

「これ以上、魔法師と深く関わって良いのかなってな…魔法師と結婚して、魔法師の力を持たない子供が生まれたら大変だなと」

 

キマイラが居るので、魔法が使える光國。

もしキマイラが居なければ、普通の人である彼はもし誰かと一緒になって、力を持たなかったらと考えるが、リーナは呆れる。

むしろ持っていない方がリーナからしたら、嬉しい事だ。今のこんな世の中じゃ、魔法師は戦う以外はなにも出来ないのだから。

 

「ああ、そうだ…ビーストは絶版だ」

 

「え?」

 

リーナと語ることはもうないと、光國はその言葉を最後に部屋を追い出す。

そして何時でも出ていける荷造りを終えて、7日目の夜を終えて8日目に入る。

 

「…で、なんでまだ行かないの?」

 

8日目になったのだが、まだ普通にいた光國。

関西方面に行くことが出来るバスは普通にあるのに、光國は呑気に朝食を取っていた。

 

「最後の仕上げと言うか、一個だけ気になる事がある…バタフライエフェクト」

 

「…まぁ、確かに私と光國が居たから…大分変わったわね」

 

一つの小さな異変や亀裂がやがて大きく変化を起こす。

森崎の優勝と言う本来無いことが起きても、準優勝と優勝は大差変わらない。

リーナと言う存在は雫が本来入る枠を使っているので、特に問題はないのだが光國は別である。本来存在しない存在であり尚且つ、その存在が既に無かったエキシビションを産み出した。

 

「…なんかもう一個あるはずだ…この九校戦、裏でコソコソとしている連中がいる。

そいつらがなんらかのアクションを仕掛けてくる…いや、既に仕掛けているんだが……」

 

光國は今すぐにでも向かいたいのだが、向かうに向かえない。

仮面ライダービーストを絶版にする為には、九島に絶版したと見せ付けなければならない。

その方法は時が来ればやって来るらしいが、何時かを教えてくれない。仁王も代表なので、チンタラしていられない。

どうしたものかと考えるのだが、特になにも浮かばずにただただ時は流れていく。

本来の道筋通りに勝ち進んでいくお兄様達。クリプリスも見せつけるかの様に勝利をして、決勝戦は第一高校と第三高校がすることになった。

 

「西城…レオ、ナイスファイトだ」

 

「おう…って、今レオって」

 

「悪いな、今の今まで下の名前で呼ばなくて…オレにも色々と事情があったんだ」

 

第一高校と第三高校が戦う前に三位決定戦等をしている間、アップやイメトレをしているレオの元にやって来た光國。

スポドリを渡すのだが、その最に名字ではなく名前呼びをしたのでレオは驚く。

前に一度だけ、森崎との試合の時に名前を呼んだのだがアレ以降、なにもなく普通に名字呼びで何度言っても、名前で呼ばず諦めた。

 

「そうか…なんだか、改めてはじめましてだな」

 

「お前とオレやと、色々とタイプちゃうからな」

 

光國の雰囲気が変わったと言うよりは抑えていたものを解放した状態で、改めてはじめましてな関係のレオと光國。

光國は最初から仲良くなるつもりが無かったので、特に絡みは無いのだが二人は犬猿の関係などではなく良好だ。

 

「…一つ聞きたいんやけど…お前、勝つつもりか?」

 

「おいおい、なに言ってるんだよ?

お前、散々出れただけでも光栄とか無しで一位以外は意味は無いとか言ってただろう。

全部に納得はしていないけど、出れただけでも光栄とか言う考えはなし…本気で勝つに決まってんだろ」

 

「相手が十師族でもか?

クリプリス、色々と上からゆわれとるから…オレが元会長を倒したせいで…いや、ホンマにその辺についてはマジごめん」

 

まだギリギリ、九島だからと九島が確保しているからと許している光國。

本当は四葉で偽名ばっかり使っているお兄様。吉田家の神童(笑)の幹比古。

レオ自体のスペックは評価されるべき所で正しく評価されれば、とても良いものなのだがどうしてか名前負けをしてしまう。

 

「気にすんなって。

むしろ、物凄い名前を持ってる奴じゃなくても頑張れば勝てることが証明されたんだからさ。

お前が七草元会長を倒したなら、今度はオレが一条を、いや、三高を倒して一種目につき新人か、本戦のどれかに第一高校が優勝してるって記録を作ってやるよ」

 

地獄兄弟になりかけている光國には余りにも眩しすぎる笑顔を見せるレオ。

穢れた心が洗い流されていくのだが、直ぐに表情を変えていく。少しだけ浮かない顔だ。

レオは思い出している。光國が優勝した時の事を、魔法師じゃない友人に家族に褒められていたのを。レオの家族はレオ以外は非魔法師で、友人と呼べる友人は魔法師。

羨ましいとしか言えない。怯えない家族に、普通の友人と、今の周りに居る奴等が嫌どころか好きなのだが、それでも羨ましい。

 

「つまらん顔をすんな。

今の現状に不満あるんやったら、ぶち壊せば良い。躓いていたら、ずっと同じやで」

 

「…ああ、そうだな」

 

とりあえずは良いことを言って、気を晴らすと気持ちを切り替えたレオ。

本当ならば出れなかった彼が出れたのは、ある意味光國のお陰だと感謝しつつ少しだけ準備を手伝って貰うのだが

 

「くたばれぇ!!!」

 

乱入者がやって来た。

この九校戦には裏で無頭龍と言う犯罪シンジケートが賭けており、絶賛崖っぷちだった。負ければ死ぬ覚悟が出来てるの?的な感じだ。

モブ崎の優勝はまだよしとして、光國の優勝で凄い切羽詰まっており、更には一番点数が稼げるモノリス・コードに代理出場と来た。

本来の道筋ならば、別のところで騒ぎを起こそうとするのだがそうはしなかった。

クリプリスならば優勝できるだろうと思い、なにもしなかったのだが光國の優勝に加えて、光國がエキシビションで愛梨と真由美を倒した。

更にはモノリス・コードで代理出場の三人が圧倒してしまったので、これはもしかしたらと思い、出場できない様に足腰をガタガタにしに来た。

光國が参加したことにより、ちょっとだけ変わってしまった。

 

「手塚、下がってろ!」

 

敵だと判断をすると、即座に身構えて臨戦態勢に入るレオ。

光國は身体能力や頭の回転は早いのだが、戦いと言うものは向いていない。今まで、そう言った機会になれば蛸殴りになっていると前に出る。

 

「待て、レオ!お前、自身に向いているCADを持ってないだろう!相手は完全にフリーな状態で、お前は試合用のCAD!」

 

今のレオは道具が足りない。

相手は自己加速や自己加重を使い、身体能力を上げる無頭龍の工作員。

一瞬で間合いを詰め、蹴りをレオにくらわせる。

 

「捕まえたぜ!!」

 

蹴りをくらったものの、微動だにしないレオ。

足をガッチリと掴んでおり、動けないようにしている。

 

「オレに下がれとかカッコつけてる割にはオレ頼りやないか!!」

 

「なに言ってんだよ!美味しいところをお前は、何時も持ってくだろ!」

 

「教養の差が物をいう」

 

躊躇い無く金的に蹴りを入れる光國。

男は激痛に苦しみ、悶絶しようとするがレオは絶対に離そうとはしない。

 

「CAD何処だ?」

 

現代の魔法はとにもかくにもCADだ。

CADさえなければ、一般人となんら変わらない。光國は懐に手を入れて、探す。

 

拳銃(チャカ)出てきた…お~い、誰か来てくれ」

 

「それ使い方違う!!いや、ピストルの方でそう言うのをしてみたいって思ったことあるにあるんだけど!!」

 

男の懐にあった拳銃を取り出すと、空に向かって片手で撃つ光國。

完全に運動会のピストルのノリで撃っており、銃声が鳴り響く。

 

「やっべ、指紋ついた。

火薬の後とかもついたな…傘と手袋があったらな…」

 

コナンくんで見た犯行トリックを思い出しながらも拳銃を地面に置いた光國。

これってなんかの罪に問われるんじゃと考えていると、美月と紗耶香がやって来る。

 

「発砲音が聞こえたけど、なにかあったの!?」

 

「また、絶妙に微妙な二人が…誰か大人を呼んできてくれ!これはオレ達の専門外だ!」

 

「拳銃っ、柴田さん!」

 

「は、はい!」

 

拳銃を見ると直ぐに動き出した美月と紗耶香。

紗耶香が工作員の体を抑えるのを手伝い、CADを取り外して待ち、美月は大人を呼びにいった。流石にこれは自分達の管轄外だ。

エリカや達也がいれば、そこから勝手なことをしてしまうのだが、この面々なので馬鹿な事はせずに、軍事関係の人を呼び出して確保して連行。

それにて一件落着…に思えたのだが

 

「…コレが結果です」

 

レオの肋骨にヒビが入っていた。

蹴りを受け止めたのは良いのだが、痛みが続くとのことで念のためにとレントゲンを撮ったら、見事なまでにヒビが入っていた。

 

「魔法を使えば数日で治るレベルですが…」

 

今から試合に出るのは無理だと首を横に振る市原。

この状態ならば、まだ大丈夫だが今からするのはとても危険な魔法競技。

本来の道筋ならばレオはクリプリスに攻撃をくらう。そのダメージは二輪車に跳ねられた時ぐらいのもので、どうあがいてもレオの体に入ったヒビが悪化する。

 

「ま、待ってくれ、じゃなくて待ってください!オレは」

 

これ以上は出れないとドクターストップが掛かったレオ。

自分にチャンスがあるなら、ここしかないと。ここで活躍するんだと決めていたのに、こんな事があってたまるかと叫ぶ。

 

「…て言うか、大会中止にならんの?」

 

犯罪シンジケートが裏でコソコソしている、違法賭博をしているのはまだギリギリセーフだ。

気付かなければ大丈夫と言う意味でのセーフだったのだが、今回は違う。遂に尻尾を現しただけでなく、被害者も出てしまった。

そもそもの話で、大会自体を無かったことにするべくこんなことをしているのだから、大会が無くなるんじゃないのかと考えるのだが

 

「なりません…ここで中止にすれば、日本の魔法師は屈した事になると考えます」

 

何に対してと市原に聞きたいのだが、聞くほど馬鹿じゃない光國。

実際のところ、大会運営本部とか偉いさん達は気付いているのだが秘匿にしている。

バラせば魔法師達が犯罪者を引き込んだんだと騒ぐし、日本の魔法師は犯罪者に怯える奴等だと思われる可能性がある。騒ぎを大きくしたくはない。

 

「けどまぁ、出るに出れんぞ…」

 

「大丈夫だって、肋が折れてるんじゃなくてヒビだから、さ…」

 

まだ戦えると言うが、無理なものは無理だ。

レオ自身、肋骨にヒビが入っているのを知ると感じてしまう。今の状態では足手まといにしかならないと。

 

「…」

 

「ど、どうだった?」

 

第一高校のミーティングルームに向かうと、既に着替えていたヨシヒコ。

光國は無理だと首を横に振る。ダメかとヨシヒコは諦めるのだが光國は舌打ちをする。

 

「…軽く事件があったんやぞ…試合どうのこうのじゃないやろ」

 

「…すまない…」

 

「レオは出れないか……これは仕方あるまい。

とにかく、大会運営本部に俺達が出向いて、レオの出場が出来ない事を報告に行こう」

 

内心だが、ホッとしている達也。

レオには本当に悪いのだが、よくやったと思っている。

工作員の確保にも成功して、クリプリスと戦う場を無くしたのだから。

別の意味で悪目立ちをしてしまうが、一番目立つのはレオで、戦う機会を無くしただけになる。事情を知ればきっと誰も攻めないだろうし、準優勝の時点で充分すぎる功績だ。

流石に今回ばかりはあのくそ不味いドリンクを光國も用意していないし、と大会運営本部に向かい、レオが怪我をしてしまい出れなくなったと報告する。

 

「待ってくれ!!」

 

そして第三高校の優勝が決まり、その事を第三高校のモノリス・コード出場者を呼び出して報告するとクリプリスが抗議をした。

 

「俺はこんな優勝は望んでいない!!」

 

「クリプリス、その言い方だとお前が裏でレオを倒してこいって命令したことになるぞ」

 

「…俺はこんな勝ち方は嫌だ!

十師族の一条の跡取りとして、一条将輝として圧倒的な力で勝利しなければならない!」

 

上から絶対に勝ちやがれと釘を刺されているクリプリス。

勝ってやると意気込んでいたのだが、蓋を開ければこの様であり納得はいかない。

十師族達も、この結果を見ればなんとも言えないだろう。偶然に起きた事故で仕方無いとはいえ、受け入れれるほどクリプリスは大人ではなかった。

 

「将輝、落ち着くんだ」

 

「ジョージ、落ち着けるか!

さっきのさっきまで、俺達は勝つつもりでいたのに…そうだ、他に代理を!

この試合だけで構わない、もう一度、西城レオンハルトに代わる代理の選手を!!俺は構わない!!このモノリス・コードで新人戦は最後だから、二回でた奴でも構わない!」

 

勝って最終日に深雪とダンスを踊るんだと下心を交えた死亡フラグを建てているクリプリス。

このままでは終わらない、終わりたくはないと他の代理の参加を承認する。誰でも勝てる、勝つつもりでいる。

 

「…そういうことか…」

 

光國は運命は既に動き出している意味が分かった。

 

「一条、悪いがレオの代理になれる選手はいない。

今年度の第一高校一年の成績優秀者の上位は深雪を始めとする女子で、男子のトップクラスとなれば怪我をして出れなくなった森崎で、森崎とレオでは強さの方向が大きく異なっている」

 

だから、出来ないんだと断る達也。

 

「達也、森崎は工夫で成績上位に食い込んでいるだけだ…総合五位の十三束って奴は確か…近接専門で、時間が無いから別の戦法は無理だ……と言うか、今年の一年の男子の一科生、パッとしないな…」

 

「手塚?」

 

「一つだけ、一つだけ、モノリス・コードを続行する方法がある…CADの審査が通るかどうかは分からないが…オレならばレオの代理とは言わないが、それと同じぐらいの働きはする…」

 

モノリス・コード決勝戦だけに出場する。

そうすることが、仮面ライダービーストの絶版への第一歩だった。



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解き放たれし野獣戦杯

「達也、大丈夫かな?」

 

「…」

 

光國の参戦を許した一条。

急遽、メンバー変更をすることになったので少しだけ準備をしなければならず、元から準備をしていた達也とヨシヒコは暇になったのだが、心配していた。

どういう風の吹き回しか、出ないと言っていた光國が出てくれる。この後の本戦の競技で深雪や十文字が勝てば普通に優勝なのだが、優勝を狙っている第一高校としてはありがたいのだが、ありがたくない。

 

「幹比古、それはなにに対してだ?」

 

心配をする幹比古。

他のところが大ブーイングを起こして試合が出来なくなるのか、それとも運営がダメだと拒むのか、試合に勝てないかもしれないと悩んではいない

 

「…手塚が戦えるかが心配だ」

 

手塚光國が戦えるかどうかが心配だった。

光國自身を見下してはいないのだが、レオと光國は余りにも異なる。

 

「何だかんだで、僕達は手塚を全く見ていない…」

 

「確かに、まともに戦っているのを見たことはない。

攻める時は常に自身が優位な時、優位な立場、自身が絶対的な時にしか攻めず、そう言った場所を作るのを得意とする…ある意味、一番戦いたくないタイプだ」

 

敵対していると分かり、気付いた頃にはもう相手の土俵の上。

しかも質が悪いことに、大体が自分達が撒いた種を使って反逆しており、自身が切っ掛けとなる火種を撒いて、周りが炎上させると言う自身の手を汚さないスタイル。

 

「だが、それと同時に真っ向からの戦闘も可能の筈だ」

 

「どうして言い切れるんだ?」

 

「…対抗戦最後の時、手塚は意識を失ったまま魔法を使ったのを覚えているか?

あの時は、ゴタゴタを解決するのに忙しくて手塚は保健室で眠らせてなにもしていなかったが…あの時の手塚の魔法を覚えているか?」

 

「いや…意識を失っている事に集中しすぎて覚えてないよ。その後のゴタゴタもあったしね」

 

ブランシュの事を堂々と言わずに、ゴタゴタと隠語として誤魔化す二人。

魔法を発動した際に光國はリーナが深雪を打ち倒した際に使っていたベルトとサーベルを持っていた事を伝えるべきかと考える。

 

「幹比古、古式魔法の中には特定の人間しか使えない物はあるか?」

 

「特定の人間しか使えない物…その特定の人間は、手塚なのかい?」

 

「ああ…少なくとも、俺はそう思っている。

手塚の身体能力は凄い、レオ以上で頭の回転もかなりのものだが、それだけじゃない…常に自身が優位な立ち位置にいる男が、万が一を持っていないとは思えない…九島は古式魔法を取り入れて、現代魔法に利用できないかとしており…手塚の家族はあの通りだった」

 

上手くそれらしい理由を出して、誤魔化す。

深雪と戦った際にリーナの魔法は余りにも異質だったので古式魔法だった。

あの手この手で古式魔法を集めているとは言え、あんなものを聞いたことはない。

 

「特定の人間しか使えない古式魔法はあるにはある…ただ、どれもこれも条件が不明だ。

単純にCADの代わりとなる調整が出来ない媒体との波長が合うか、その血筋の者だから使えるとか、とにもかくにも曖昧なんだ…」

 

少なくとも、光國がなんの条件を満たしているか分からないヨシヒコ。

あのベルトを使いこなせるただ一人の存在が光國…と考えるが、少なくともリーナは使えていた。誰でも使えるのだが、誰もが完璧に使いこなせるものじゃないと言うのを分かっているのに、頭の隅に置いて別の方向を浮かべる達也。

天才ならではの盲点が出来ている。

 

「聞きたいことがあるならば、本人に聞けや…」

 

そんな中、現れる光國。

話を聞いていたのか、少しだけ呆れている。

 

「随分と遅かったな」

 

「予想以上に審査に手間取った、仕方無いとはと言えば仕方無いんやけど…うん」

 

「…何をするつもりなんだ?いや、違う。何を使うつもりなんだ?」

 

レオが使っていた電王のソードフォームの必殺技よろしく飛んでいく刃がある武器型CAD小通連。

レオからオレの代理を頼んだぜと託されたのだが、使わないからと普通にレオに返却していた。

今の今まで、光國が居なかったのは戦うための準備であり、まともに魔法を使っていないので何をするのか気になる達也

 

「…これ?」

 

「…なんだこれは?」

 

光國は達也の質問に答えるべく、矢尻の様な形状をした石を取り出した。

 

「最初で最後のメインディッシュをいただくか」

 

 

アッーーーー!!!

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時は少し遡る。具体的に言えば、光國がホテルで仁王を探していた頃。

急遽、レオから光國にメンバー変更をした事により、それって大丈夫なの?となるのだが、クリプリスが自ら望んだと、第一高校と戦いたいと言った。

完全に堂々と処刑する発言なのだが、その辺の事情を知らぬ馬鹿は流石はクリプリスと言っていたりしていたのだが

 

「手塚は強いのか?」

 

リーナはそこそこのピンチだった。

いや、別に殴られるとかそんな感じのピンチでなく圧迫面接を受けている感じでピンチだった。

右には十文字克人(ゴリラ)、左には七草真由美(妖精(笑))と言う状態で前にいるほのか達は、リーナが挟まれている事に気付いているが目線を合わせない。

新型インフルエンザが流行った際の病棟の待合室みたくなっている。

 

「強さ…それは光國の成績を見ればわかるんじゃないでしょうか?」

 

「テストの結果では分からない生徒が、さっきまで出ていたんだ」

 

「ああ、そうでした…光國は強いですよ…ですが、会頭が求めている強さは」

 

「モノリス・コードでの強さはどうだ?」

 

リーナは心で舌打ちをしてファックと叫ぶ。

強さとはなにかと言う哲学的なものに話題を変えようとするが、ゴリラには通じない。

ただ強いか弱いかのシンプルな答えを求めており、出来ればポロっとどんな戦法なのかバラせと思っている。

 

「正直なところ…分からないわ、光國の強さなんて」

 

上手く誤魔化す方法を考えるが、冷静に考えれば分からない。

手塚光國の強さはなにかと聞かれれば、性格の悪さと見ている方向が通常の魔法師や頭の良い奴とは違い、偏ってるところだが、価値観なんて人それぞれなのでそれも違う。

ゴリラが求めているのは、戦闘面での強さでありその戦闘面はハッキリと言えば不明だ。

 

「それはどういう意味だ?」

 

「そもそもの話で、光國は戦うなんてことしないのよ。

て言うか、それが普通でしょ?英才教育とかそう言う場はあるけれど、まだ学生なのよ?」

 

本職が軍人の自分が言うのもなんだが、酒を飲める年齢ですらない、そう言う立場でない自分達が戦いをする時点でおかしい。国から使い捨てされないためとは言えだ。

魔法師だからとか、そんなのは関係ない。まだ自分達は子供だと言うのを十文字は忘れている。いや、これは十文字が悪いのではない。大人になる前にそうやるのが当たり前だと押しつけた奴等が悪い。

 

「じゃあ、もし戦ったらどうなるの?」

 

「知らないわよ、そんな事は…て言うか、さっきから心配してないわよね?

今から、タツヤ達が頑張るんだから、戦えるのかどうか強いかどうか心配をするかよりも、勝つことを神様にでも祈らないと、ね、ミユキ」

 

「……ええ、そうね」

 

いい加減にしろと爆弾を深雪に投げるリーナ。

達也を出せば割とどうにでもなる。

 

「て言うか、失礼だと思わない?

さっきから光國、光國って、光國は私の物じゃなて…タツヤやヨシヒコが立役者になるかもしれないじゃない。ミユキも、タツヤがイチジョウを倒して金星を上げたら、喜ぶでしょ?」

 

「それはリーナも同じじゃない」

 

しかし残念、爆弾は返された。

リーナと似ているから自身が喜ぶことを光國とリーナに置き換えて、返された。

 

「でも、お兄様ならきっと勝利へと導きますわ」

 

導火線を消してだ。

レオがいれば、そのお兄様が金星を上げてくれる。しかし、肝心のレオは現在、病室でテレビ越しで応援をしている。光國がビーストを絶版にすると言っていたが、その意味が、そのために何をするのかイマイチ分からない。

 

「あ、出てきた…って、ええええええ!?」

 

選手入場し、出てきた第一高校と第三高校の選手。

今から試合が始まるのかと待たされていた観客達はワクワクするのだが、一瞬にしてワクワクが驚きに変わった。真由美は驚き叫んだ。

 

「て、手塚ぁああああああああ!!!!」

 

十文字は席を立ち上がり、叫ぶ。

あの十文字が叫んだと言うことはなにも知らない事だと、他もざわめく。

 

「じゃかましいわ!!」

 

何故ならば、光國は制服姿のままだったからだ。

このモノリス・コードは危険極まりない競技故に戦闘用の衣装を着なければならない。

しかし、光國はそれを着ていなかった。確かにルール上は絶対に着なければならないというルールは無いのだが、何時も通りの服装だと魔法を食らった時点で終わりだ。

 

「…」

 

叫ぶ十文字が目立っている隙に、観客席を見回すリーナ。

九島烈を発見するが、特になにも言わない。藤林響子発見、隣には見たことない人がいて物凄く慌てている。

 

「どういう、どういうつもりだ?」

 

光國がレオの代理を勤めるには申し分ないのは分かっているが、この展開は予想していなかったクリプリス。

 

「未知なる敵を相手にして、動揺はアカンな。

ここぞと言う時の火事場の馬鹿力よりも、安定した強さを求められとるやろ?」

 

ヘラヘラと光國は笑う。

これも作戦の一部なのかと、困惑をする。もしかすると、制服の中に仕込んでいるんじゃと考える。

 

「将輝!」

 

「…すまない」

 

「クリプリ、ビビってる!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」

 

「手塚、煽るな」

 

ジョージに引っ張られて、冷静さを取り戻すクリプリス。

達也に引っ張られながらもポプ子の様に全力で喧嘩を売りに行く光國。

いったいどんな試合が始まるのかと全員が息を飲む。

 

「で、どうするんだ?」

 

「まぁ、見ていろ」

 

草原のフィールドで最後の作戦会議をする三人。

ヨシヒコと達也は光國の奇抜すぎる作戦を受け入れた。とそれしかしないと堂々と公言をした。

急遽、レオから光國に変わった為に作戦が変わるどころか無くなり、光國は好き勝手にしろとなったのだが、何をするのか教えない光國。

 

「達也…と、レオと、ヨシヒコと、美月と、深雪と…エリカは…う~ん、まぁ、ええか」

 

「なにが良いんだ?」

 

「…リーナへの質問をする権利と解答を聞く権利だ。

達也、レオ、ヨシヒコ、美月、深雪、エリカ…は質問をして良い…ただし、質問の内容も、答えも絶対に漏らさない…これで最後だから…」

 

最後の仕込みを済ませる光國。

 

『ドライバー・オーン』

 

「え!?」

 

試合開始の合図が鳴ると、ベルトを起動させるのだが驚くリーナ。

 

「いきなりベルトが出現した!?」

 

「アレって、リーナが使ったやつじゃない!!」

 

深雪もエリカも驚く。一度見たことがあるとは言え、もう一度見ても驚くしかない。

しかし、驚くところはそこじゃない。リーナはそんな事には驚かない。殴ることが出来ないモノリス・コードでクリプリスに勝つには指輪の魔法が必要だ。

 

「それは…やはり、お前の物だったのか」

 

「いんや、これはオレの物じゃない」

 

ベルトを起動させたので、確証を得た達也。

九島が数年前に手に入れた、聖遺物の正体はベルトと指輪だと。それを使いこなす何らかの条件を光國は満たしているのを。

しかし、一つだけ見落としていた。

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン、シャバドゥビタッチヘンシーン、シャバドゥビタッチヘンシーン!』

 

「アレって…」

 

光國はビーストドライバーを持っているが、つけてはいなかった。

代わりに白い魔法使いドライバーをつけていた。

 

「変身」

 

『ビースト、ナウ!!』

 

そしてビーストウィザードリングを翳し、仮面ライダービーストに変身した。

 

「さぁ、最初で最後のメインディッシュの時間だ!」

 

リーナただ一人が、ベルトの音声の違いに気付いた。



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荒ぶる野獣乱舞

急遽、レオから光國に変更し始まったモノリス・コード決勝戦。

やはりと言うべきか、光國は仮面ライダービーストに変身をして騒がせた。

 

「…迷惑ばかりしかかけないな…」

 

九島烈は、ビーストに変身をすることを予想はしていた。

殴れない以上は、一条に勝つには四葉の家系の達也が頑張るかビーストに変身をするかのどちらしかない。

制服姿で登場した際に、ビーストで戦うつもりだと確信をしていたのだが、ここからどうするかを考える。

自身の持てる権限を使えば、今すぐにこの試合を中止にすることは可能だがそれをすれば色々と面倒な事になる。既にビーストに変身をして、見せてはいけないものを見せているのだから。リーナが変身したのと、光國が変身をしたのでは訳が大分違う。

九島の秘匿を教えたと言うことで、誤魔化せるには誤魔化せるのだが、そもそもの話でビーストは光國が使う事により120%の力を発揮できる。

 

「…奴にしては珍しく、やる気を出している…見せて貰おうか」

 

光國は強いには強い。

日本人にしては恵まれた体格を持ち、筋肉も強靭だが柔らかく持久力と瞬発力を持っている。

頭の回転も早く、いざという時にリーダーシップを見せるのだが、全くといってその力を発揮しない。単に面倒だと、やる気が無いんだと戦おうとしない。

仮に戦闘訓練でリーナと対峙した場合は、殴られる前に降参。それが出来なければ、蛸殴りされるほどに戦おうとしない。

仮面ライダービーストの基本スペックに、備え付けられている魔法、そして変身者である手塚光國のセンスを合わせれば、呂布の如く一騎当千の武将になると言うのにだ。

やる気を出さない手塚光國が少しでも真面目にやった時の恐ろしさを知っている九島烈は、一条を倒して見せろと、戦略級魔法師同等かそれ以上でありながら戦略級魔法師とは異なる方向性の存在だと証明して見せろとモニターを見つめる。

 

「な、な、なんだそれは!?」

 

「アイス・ピラーズ・ブレイクの新人戦を見ていなかったのか?」

 

「直接は見ていないけど、見ていたよ…でも、間近で見たら…どうなっているんだ?」

 

仮面ライダービーストに変身する行程が分からないヨシヒコ。

アイアンマンのスーツの様に用意していた物を着るのではなく、出現させた魔方陣を通過するだけで自動的に装着をしている。いったい、幾つの工程を経ているのかが分からない。

 

「オレに質問をするな!」

 

尚、光國もイマイチどうなっているのかが分からない。

ドラえもんの宇宙開拓史のワープと似た感じの理論で、なんとなくで使っている。なにせ、光國は一切演算処理をしていないのだから。しかしまぁ、世の中そんなもんである。

賢い奴はどういうものか分かるが、賢くない人間はどういう原理かは知らないけれども使っている。

 

「幹比古、手塚…一条達が動き出した」

 

光國の変身と言う余りにも異質すぎる行動をとった為に互いに硬直状態が続いた。

しかし、なんとか持ち直した第三高校の面々は動き出した。

 

「一条が攻めるのをメイン、吉祥寺が遊撃…そして彼が防衛か」

 

本当に可哀想なクリプリスとジョージと一緒に参加している三人目のモッブ。

彼が防衛ならば倒すのは簡単だが、問題はクリプリスとジョージだと考えるヨシヒコ。

本来なら、レオが防衛なのだが今居るのは光國で、その光國の戦法がリーナと同じならば防衛は出来るのかと言う疑問が浮かぶ。

しかし、クリプリスもジョージも待ってはくれない。

達也は圧縮空気弾を撃ってくるクリプリスに、2丁拳銃で術式破壊と攻撃を繰り返して一歩ずつ近づく。クリプリスも一歩ずつ近づいていく。

 

「手塚、俺が」

 

「みなまで言うな…オレはどれでもいける、と言うよりはどれもやるつもりだ」

 

クリプリスの相手を自分がするから他を頼もうとするのだが、勘違いをして前に出る光國。

腰につけている指輪のホルダーから、一つだけ指輪を手にとって白い魔法使いドライバーをスライドさせて魔法モードにする。

 

『ルパッチマジック、タッチゴー!ルパッチマジック、タッチゴー!』

 

「とにもかくにも、不可能を可能にすんのが魔法使いだ」

 

『デュープ、ナウ!』

 

ホルダーから取った指輪を翳す光國。

ベルトは指輪に反応をし、音声が流れる。

 

「ソフトとハードを別々か…なに!」

 

間近で見る事により、ベルトと指輪の関係性に気付く達也。

魔法が発動すると少し距離を取ろうとするのだが、ぶつかった…草原のフィールドなのに、障害物は一切無いのに、なにかにぶつかった。そしてそのなにかかなんなのか直ぐ気付いた。

 

「んじゃ、行ってくる」

 

ぶつかったのは光國だった。

目の前に居るはずなのに、何故か後ろにも居る筈の光國だった。

仮に光國Bと名付けるとして、この光國Bはヨシヒコの応援へと向かった。

 

「根本的な頭数を増やす。

いや、ヨシヒコは精霊を使ってるから既に3対3ちゃうな」

 

『デュープ』

 

再びベルトをスライドさせ、ベルトに指輪を翳す光國。

魔方陣が出現し、三人目の光國が現れて逆走して、モノリスがあるところに戻る。

 

「デュープ、複製か…」

 

「今は試合で、そう言った事は後だ…さっき、そう言う時間があるって言ったばっかだ…」

 

見たことの無い魔法で驚くまでは良いが、解析は許さない。

その時間は後程に、さっき言ったする権利と聞く権利はそう言う意味かと試合に意識を戻して手を動かす。

 

「ブンシン=ジツだ!!!!」

 

そして横で光國は忍者の印みたいな事をして、大きく叫んだ。

 

「成る程、確かに実体があるかの様に思える自分そっくりの化成体を戦わせたら忍者の分身の術と言える…しかし、自身そっくりにした化成体を複数同時に出して命令を出すとは…そう言えば、君は彼に色々と教えていたそうじゃないか…」

 

達也と響子の上司であり、今現在響子の隣に座っている偉い人こと国防陸軍第101旅団所属、独立魔装大隊の隊長の風間は驚く。

達也とクリプリスがどう戦うのかと見ていたのに、蓋を開けてみれば全員が全員、光國に翻弄をされている。

 

「…」

 

「藤林くん?」

 

「え、あ、はい…」

 

響子からの意見を求める風間だが、答えない響子。

仮面ライダービーストに変身をするのに必要なビーストドライバーではなく、自身の知らないベルトを付けていることに気付いた。

九島が遂にベルトの複製に、ベルトをベースにしたCADの開発に成功したのかと考え話を聞いていなかった響子。

 

「彼についてなにを知っているんだ?」

 

「…」

 

知らない魔法を使っている、知らないベルトを使っている。

借りていることに気付かない響子は、どうにかしなければ焦る。

 

「さて、メインディッシュの前に前菜(オードブル)を頂くか」

 

ヨシヒコの元へと駆けつけた光國B。

 

「手塚、忍術使いだったのか!?」

 

「忍者じゃない。オレは…古の魔法使い・ビーストだ」

 

そこだけは変えるつもりはないと誇示する光國。

ジョージを見つめて、ホルダーから新しい指輪を取り出す。

 

『ルパッチマジックタッチゴー!ルパッチマジックタッチゴー!』

 

「なんて、無駄な…」

 

ベルトから流れる音声を聞き、無駄にも程があると呆れるジョージ。

自身がなにをするのか分かれば、此方からある程度の対処は可能だ。なんでそんな機能が付いている、もしかするとその音声がフェイクで別の魔法を連想させて隙を作るんじゃないのかと考えてしまう。

実際のところは、ヒーローものの御約束を守っているだけであり、軍事的な意味で言えば物凄く無駄どころか手の内を晒してしまうダメな機能なのだが

 

『ファントム、ナウ!!』

 

そんなダメな機能なんて気にしない程に凄まじい力を、ビーストは持っている。

魔法の発動を許してしまったジョージ。直ぐに、光國の周りの圧力を加重魔法で書き換えて、光國にかける圧力を増加しようとするのだが

 

「来い、キマイラ!!」

 

「来ると言うよりは、出るのが正しいぞ小僧!!」

 

光國の右肩から原寸大のキマイラが出現した。

それと同時にジョージの対象に掛かっている圧力ではなく、圧力そのものを改変する不可視の弾丸の発動が失敗に終わる。

 

「久々のシャバの空気はどうだ、キマイラ!!」

 

「戯けた事を、貴様を食い殺したい気分だ!!」

 

「コレは…精霊なのか?」

 

古式魔法は家によって大きく異なる。

キマイラと言う異質な存在にヨシヒコは戸惑うしかない。それほどまでにキマイラは異質で、威圧感を感じた。

 

「よし、じゃあ先ずはっておい!!」

 

「此方よりも、彼方の方が旨そうだ!!」

 

キマイラと共に戦闘をしようと背に乗ろうとするのだが、振り落とすキマイラ。

クリプリスと達也が砲撃戦を繰り返す場所へと飛んでいく。

 

『デュープ、デュープ』

 

「「「とっとと、倒すぞヨシヒコ!!」」」

 

キマイラが向かっていった先にも自分が居るので、頭数を増やして三人になり、ダイスサーベルを構える。

 

「…アレが……」

 

ジョージを相手に集団リンチを仕掛ける光國。

先程から発動している魔法はルール違反じゃないのかと観客席では騒ぎになるのだが、ルール違反にはならない。と言うよりは運営が把握しきれていなく、出現したキマイラは出現しただけである。

 

「リーナ、アレは」

 

「…分からないわよ、まともに戦うのなんてはじめて見るのだから」

 

存在は知っていたが、はじめて見るキマイラ。

ビーストドライバーに描かれている動物を象徴するかの様なパーツがあり、キメラ(キマイラ)の名に恥じぬ姿。

光國の言うことを一切聞かずに、達也とクリプリスの砲撃が飛び交う中へと飛んでいき

 

「っちぃ、やはり味が薄いな!」

 

クリプリスと達也の攻撃を食った。

正確に言えば、空気を圧縮して放つための空中に浮いている魔法式、そしてその魔法式を破壊するべく魔法式にしていない想子の塊を放つ術式解体を食った。

 

「どうした、もっと撃たんのか?薄味とは言え、悪くはないぞ」

 

「っく!!」

 

威圧感を醸し出すキマイラに睨まれるクリプリス。

臆することなく、魔法を使おうとするのだが魔法式をキマイラに食われる。

 

「手塚、どうなっている!」

 

クリプリスを倒すには、狙うなら今しかないのだが隙があってもキマイラが邪魔で攻撃できない達也。術式解体をぶつけようとしても、食われてしまう。

魔法がどうとか以前に好き勝手に戦っているキマイラ。なにをしているのかと呼び出した光國に顔を見る。

 

「使役できない精霊を召喚した…達也、クリプリスを倒す役を頼む」

 

『コネクト、ナウ』

 

矢尻の様な形状をした石とビーストドライバーを取り出す光國。

チラリとカーディナル・ジョージと乱戦状態の分身している自分を見つめる。

 

「「「ヨシヒコ、後は頼んだ!!」」」

 

「この魔法を決着でつけてやる…それと僕の名前は幹比古だ!!」

 

既に第三高校の三人目の男は倒されており、カーディナル・ジョージと光國×3とヨシヒコと対峙している。

直接攻撃が出来ないので、ダイスサーベルのセイバー・ストライクだけで攻撃するのだが、威力も制限されるので1か2で抑えているのだが、それだけで充分だった。

光國は最初から当てる気は無く、ジョージの動きを抑制して誘導するのが目的で、バックステップを取った先には雷が仕掛けられていた。

 

「問題ないか…」

 

雷をくらえば、カーディナル・ジョージだろうが終わりだ。

残りはクリプリスだけになった事が分かると変身を解除する。

 

「キマイラ、口を開けて待ってろ!」

 

「来たか、我を真に解放する時が!!」

 

ビーストドライバーをつける光國。

右手の人差し指にはハイパーウィザードリング、左手の中指にはビーストウィザードリングをつけており、仮面ライダービーストに変身するポーズを取る。

 

「へん~しぃん!!」

 

『L・I・O・N、ライオーン!!』

 

そして、もう一度ビーストへと変身をする光國。

キマイラは来たかと後ろを振り向き、クリプリスに背を向けた。

 

「リーナ、クソジジイ…見ておけ!!」

 

ハイパーウィザードリングをドライバーに嵌める光國。

リーナが使用した際はエラー音が鳴り響き、使えない指輪だったのだが

 

『ハイパー!!』

 

エラー音がなることはなく、魔法は発動する。

キマイラが吠えると、赤い粒子の塊の様なものに変化をし光國の周りを飛び回り

 

『ハィハィ、ハィ、ハイパー!!』

 

青い粒子の塊に変化を起こして、光國に突撃し仮面ライダービーストを、仮面ライダービーストハイパーへと進化させた。

 

「コレが進化する野獣、ビーストハイパーだ!」

 

光國の叫びと同時に、仁王が封印をしたミラージュマグナムが光りを放つ。

周りの石が砕けちり、本来の形へと、鏡面獣銃ミラージュマグナムになった。

 

「…」

 

それと同時に、ビーストハイパーの両脇にヒビが入った。

リーナから貰い、日常を送る以外で使わないようにと貯めに貯めた魔力が底を尽き出した。

だが、そんな事は今の光國には関係無い。今日の絶望を乗り越え、明日への希望を手に入れた光國は止められない。

 

「命…燃やすぜ!!」

 

 



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さらば、手塚光國

「っ!」

 

「何処に行くつもりだ?」

 

「運営の方です」

 

響子は真っ先に、異変に光國の脇から紫色のヒビに気付く。

話には聞いていたが、生で見るのははじめてだったがそんな事は関係無い。

 

「少なくとも、まだルール違反はしていないが…」

 

分身とキマイラには驚かされるものの、全く攻撃をしていない光國。

魔法を使えなくしているだけであり、全くと言って攻撃はない。ルール違反と言うよりは、コレはルール的にはどうなるの?と言う規定には無いものの、ルール違反や反則じゃないかと思える行為をしているだけだった。

 

「…アレだけの魔法をなんのリスクも無しで出来ると思いますか?彼は立っているだけでも奇跡です」

 

全てを語ることは許されず、語れば余計にややこしくなる。

8割の真実に2割の嘘を混ぜ、光國のビーストには大きなリスクやデメリットがある事をほのめかす。

 

「わざわざソフト(魔法式)ハード(CAD)を別々に分ける必要があると思いますか?」

 

響子は風間に大会運営本部に向かう理由を語りつつも、祖父である九島烈を見る。

今の今まで手を抜いていた光國がこんな大衆の前で一条をも圧倒する力を見せつけている事に喜びを見せていた。

人工的に作られた古の魔法使い・ビースト、光國本人のスペックもあるとはいえ、一条を圧倒。100人の健康優良な孤児を人工的に魔法師にすることが出来れば、戦争の抑止力になる。

魔法演算領域の代わりとなるキマイラの様な存在を作り出し、安定して供給をすることが出来れば世界中の人間を魔法師に出来る。

魔法師がより身近になる世の中になり、反魔法団体の馬鹿どもは黙る。魔法を兵器以外での運用方法を考える時間が増えていく。分身する魔法で人材不足をどうにかするとか出来るなと考えていた。

 

「…」

 

世の中は食うか食われるかの弱肉強食、自身の幸せは他人の不幸で出来ている。

光國が黙っていることを洗いざらい全て吐いた場合、九島は十師属のアンタッチャブルと呼ばれる四葉を上回るどころか、戦略級魔法師よりも恐ろしい家になる。

九島烈は戦争をよく知っており、それが如何に愚かな事だと知っているので自ら戦争を仕掛けようとしないので、戦争にはならず、平和の維持の為の抑止力になる。

その為の平和のための犠牲第一号が手塚光國、それに続く死んでも大丈夫な稀少な血筋じゃない、人体実験をしてもいいどうでもいいやつらが犠牲第二、第三になる。

 

「行かないと…」

 

光國の犠牲を受け入れて、真実さえ知らず平和ボケ出来ればよかった。

そんな事を考えるつもりは一切無い響子は観客席を出て、大会運営本部に向かうべく走り出すのだが

 

「悪いが、今ここで止められるわけにはいかない」

 

「貴方は…白い魔法使い?」

 

仮面ライダーオーディンに変身をした仁王に阻まれる。

声は同じだが、姿は大きく異なるので質問をする響子。その通りだと頷くと、この時代では珍しい紙のメモ帳を取り出した。

 

「戦士、運命、黄金、闇、野獣、欲望、響く鬼、轟く鬼、威吹く鬼、時を喰らう牙、本屋の龍城、鬼ヶ島の戦艦、三太郎、空飛ぶパーカー、黄金の果実…奴め、ここまで分かっているのに、一つも集めに行かなかったのか…戦争と死を司る者も書いておくか」

 

メモ帳を開き、中身を見る仁王。

光國がわかっていたが、面倒だからと無視していたものが書かれており、ここまで分かっていたのなら動けよと呆れてしまう。

 

「出来れば、貴方との対話をしていたい。

けれど、今はそれよりも光國君を止めないと…早くしないと、彼が死んでしまうわ!」

 

仁王と戦うとことの話し合って通してもらうこともせず、無視して走り出す。

 

「あんアホ、どんだけ死亡フラグを建てるつもりね…」

 

恋心とはまた、異なるものの切っ掛けさえあれば恋心に変化する響子の胸の内。

いずれ光國は後ろを愛しきものに刺されるかなにかがあるなと響子の背を見る。

 

「汚い大人だらけかと思えば本当に大事にしてくれる味方は存在したか…若干どころかかなり狂っちゃってるけど…ラノベによくある若い連中を戦わせる弱いだけで威張るカスな大人ではなく頼れる大人を味方につけた、良いことだ、感動的だ」

 

「!」

 

「だが、無意味だ」

 

「なん…で…」

 

ありえないものを見るかの様にオーディンを見つめる響子。

自分はちゃんと横を走り抜けた筈なのに、会場の外へと向かった筈なのに同じところに戻ってきた。

 

「感覚が狂わされている…」

 

左右前後の感覚の何処かが狂わされていると考える響子。

チッチッチと仁王は人差し指横に振って、そうではないと言う。

 

「世界を読み取りA、B、C地点を決める。

A→B→Cと順番通りに走らせ、CからDに続く道にAの情報を挟み、世界の状態を書き換えてDへと続く道を外して再びA→B→Cを走らせているだけだ…分かりやすく言えば、輪を作り出した」

 

「…」

 

「聞いたことの無い魔法だと言いたげな目だ。

時間と空間関係の特殊な魔法…などとカッコつけるのはダメだな。アカシックレコードやこの世界そのものに干渉する魔法だ…まぁ、その辺は自力で考えろ。でなければ、今を生きる魔法師に明日は無い。因みにだが、ブラックホールレベルの次元や空間を歪ませる事をすれば強制的に解除されてしまう」

 

よっこらせと座るオーディン。

戦うつもりは最初から無く、立体映像を手のひらから出してモノリス・コードの決勝戦を観戦する。

 

「お願いします…ここから、ここから出してください!」

 

仁王に挑めば、確実に死ぬことが分かった響子は頭を下げる。

素早さや万能さとかそう言った次元ではない魔法を意図も容易く行った奴には勝てないと、向こうは此方の足止めだけで一切襲うつもりはないと土下座をした。

プライドなんて関係無い。

 

「今を生きる魔法師に明日はありませんが、少なくとも今戦っている彼には今日すらありません!」

 

「ああ、原型(アーキタイプ)に未来など何処にもない…故に、おしまいだ」

 

手のひらから出したテレビの立体映像を大きくする仁王。

そこにはハイパーウィザードリングをスライドさせて、口を開けているかの様にしている光國と、落とし穴に落とされているクリプリスが写し出されていた。

 

「何時の間に…」

 

「オレは最初、分身の術で分身をした。

手っ取り早く頭数を増やして効率よく戦うために…一番最初の分身は何処にいった?」

 

達也と光國が交代し、相手はお前じゃないとクリプリスは達也の元へと向かおうとするのだが三メートルはありそうな落とし穴に落ちてしまった。

こんな穴が何故あるのか分からない顔をしているので、ランドドラゴンウィザードリングを見せる。

 

「最初の分身はモノリスを守りにいった。

そしてそこでなにをしたのか、落とし穴を掘った。カメラはクリプリスを撮したい、カーディナル・ジョージを撮したい、いや、撮さなければならなかった…身体能力とか上げて物理的にお前達が砲撃戦を繰り返す真下で地中深くを掘り進んでいた」

 

『ハイパー!!』

 

なんとしてでも勝たなければならないクリプリス。

テレビ局側もクリプリスやジョージを相手にどこまで善戦するのかを撮したがっていた。

複数の光國がいるんだから、一個ぐらいは見落としても仕方なかった。

 

「終わりだ、クリプリス」

 

『マグナムストライク!!』

 

ミラージュマグナムを両手で持ち構えると、ミラージュマグナムの鏡面から飛び出る赤い粒子の塊のキマイラ。

光國の周りをグルリと一周すると、光國へと戻り、光國を伝ってミラージュマグナムへと送信されるのだが

 

「待て、手塚!!」

 

何処からどう見ても、人を殺せそうな感じだった。

威力違反かどうか上手く見抜けないのだが、威圧感はとてつもなくヨシヒコの本能がまずいと叫ぶ。

 

「いや、待たない…さぁ、最後の晩餐だ!!」

 

 

ヨシヒコの制止を聞かず、ミラージュマグナムの銃口に術式を浮かばせる光國

 

「…さらばだ、原型(アーキタイプ)

 

「まさか…そんな、それはダメよ!!」

 

クリプリスこと一条将輝を殺す。

そうすれば九島はおしまいで、光國も九島と言う存在からは抜け出すことが出来る。

一条に殺されるのか、九島に殺されるのか、社会に殺されるのかは分からないが現状を脱出して大きく変わることは出来る…が、そんな事はしない。

 

「達也、とどめはお前にくれてやる!!」

 

ミラージュシューティングは完全なるフェイク。

化物を殺すべく作られたものであり、人に本気の一撃を向ける事はしない。

光國はただただ、待っていた。クリプリスが最後に残り、ここで終わりかと諦めてしまう絶体絶命の瞬間を。

 

「見ておけ、クソジジイ!!コレが本当の意味で、キマイラを真に解放することだ!!」

 

ミラージュマグナムを持てる力全てを振り絞り上空へと投げ捨てる。

観客達はここからまだあるのかとなるのだが、既に光國の手札は切れている。ここから先には光國のステージではない。

 

『コネクト、GO!』

 

「…そう…それが本当の意味での解放なのね…」

 

「リーナ、どうして泣きながら笑っているの?」

 

コネクトで取り出した自身の知らない槍を見てなにをするのか分かったリーナ。

不思議か涙が溢れており、深雪はその事に気付く。

 

「後で、全てを話して貰うぞ」

 

そして達也は自ら落とし穴に飛び降りる。

クリプリスの耳元に手を伸ばして、指パッチンをすると同時に音を増幅させる魔法で意識を奪う。達也の頭にはクリプリスの事はない。質問タイムの際に、どの様な質問をするかと考えていた。

 

「うぉおらあ!!」

 

クリプリスを倒した事により、この時点で第三高校は敗北し第一高校のモノリス・コード新人戦優勝に終わる…が、その為のブザーが、アナウンスがまだ響かない。

使った事の無い槍を、ハーメルケインを光國は握りしめてミラージュマグナムを真っ二つに切り裂いた。

 

「ピンチはチャンス…まさか、こんな時が来るなんてな!!」

 

光國は槍の刃の部分を自分に向けた。

 

「…切腹!?」

 

光國は切腹をした。

いや、正確にはベルトにハーメルケインの刃を突き刺した。

 

「一条の首を頂いた落とし前、確かにつけさせて頂やした…って、言えばカッコいいんだがな」

 

今までどんな魔法をぶつけても、どんな攻撃を加えても傷つかなかったビーストドライバー。

ビーストドライバーを抉る様にほじくると苦しむ声をあげ

 

「ぬぅおぁあああああ!!」

 

ベルトからキマイラが出現をし、光國の変身は解除された。

 

「…どうした、さっさと勝利宣言をせんか!!」

 

倒れる光國の側に寄るキマイラ。

一条達、第三高校の面々は戦闘不能となっており、光國も動けなくなっていた。

 

『第三高校の選手、全てリタイアをしました!よって、モノリス・コード新人戦は第一高校の優勝です!!』

 

「…コレって…コレって…」

 

ベルトを破壊したことにより、現れたキマイラを撮す立体映像。

魔法師じゃない光國の力の源とも言うべきキマイラがベルトから光國の体内から出ていった。

それがどういった意味かを知らないほど、響子は馬鹿じゃない。しかし念のためだと隣にいるオーディンに聞こうとするのだが、そこには居なかった。

 

「…っ」

 

「そう怯えるな…今の我は気分が良い。

普段なら貴様達を餌としか見なさんが、特別に見逃してやる」

 

試合が終わったには終わったのだが、喜ぶに喜べないヨシヒコ。

それほどまでにキマイラの威圧感や存在感は大きく、襲ってきそうと言う恐怖感があった。

しかしキマイラはそんなつもりはなく、ただただ光國を見つめて光國を口で掴む。

 

「手塚!!」

 

「我の下僕ならば、下僕らしくしっかりとしろ」

 

食うつもりなのかとヨシヒコは動くが、背中に乗せただけだった。

ついでだと言わんばかりに、乱雑に達也とヨシヒコも乗せるキマイラ。

 

「コレがお前の秘密か?」

 

「…」

 

キマイラを解析するが、分からない事だらけで光國に聞くが答えない。

レオやエリカ達も知る事が出来る質問タイムのその時まではお預けだと、リーナ達がいる場所へと戻ってきた。

 

「達也、幹比古、ごめん…」

 

「僕の名前は…手塚?」

 

「もしかしたら、反則負けかもしれん…私利私欲に走った…」

 

優勝したのに、静かすぎる会場。

キマイラの存在が全てを黙らせてしまい、反則敗けになったのかと考える。

すると、心地好い風が靡いてゆっくりとゆっくりとジャージが光國の元へと落ちていく。

 

「よっこらせと…」

 

「…来たか」

 

体を起こした光國。

それと同時にやって来た九島烈。

 

「優勝、おめでとう…とでも言うべきか?」

 

「御祝いの言葉なんて、いらない…じゃあな」

 

光國はジャージを腰に巻くと走り出した。

何処に行くかは決まっている。九島烈もそれを知っており、見逃した。

 

「先に言っておくが、我の存在を反則とするならば精霊魔法全てが反則になる!我も精霊の一種だ!」

 

バッサバッサと羽ばたくキマイラ。

乗っているヨシヒコと達也を落とし、ひたすらに九島烈を睨んだ。

 

「何時の日か、貴様を食い殺す日がやってこよう。

光國の愚か者はメインディッシュだと言っていたが、あの程度では精進料理となんら変わらん!迸る味を我は好む…さらばだ!!」

 

キマイラは壊れて落ちているミラージュマグナムと光國が付けたままのビーストドライバーを消した。別次元に隠した。

 

「匂う、匂うぞ!ヘルヘイムの果実の匂いが!!」

 

キマイラは飛んでいき、姿を消し去った。

 

「…」

 

今すぐにキマイラを追いかける…なんてことはしない。

どれだけいてどんな種類があるのか世界中の魔法師が協力しても数や実体が分からない精霊をピンポイントで見つけ出すのは不可能な事だ。

九島烈は分かっている。手塚光國がまだまだ様々な事を隠しているのを。様々な知識を授かったことを。キマイラが去り際に叫んだ、ヘルヘイムの果実がなんなのかも知っていることを。

人工魔法師が不可能になっても、第二第三のプランはちゃんと練っている。ブラカワニコンボのコアメダルがその為の第一歩だ。

 

「…何処に行くつもりなの?」

 

全てが終わった。

手塚光國の魔法師としての人生は終わり、普通の人へと戻ったのを見てリーナは席を立った。

 

「試合が終わったのよ…部屋に帰るわ。

タツヤ達だって、試合をして疲れてるし汚れてるんだから、突撃して誉めに行くよりも休ませないと…」

 

真由美に聞かれたので答えるリーナ。

光國の元へと向かうつもりはなく、確かめたい事があると自身の部屋へと戻る。

真由美達は達也とヨシヒコを誉めにいった…

 

「…あった」

 

そして、部屋に戻ったリーナは見つけた。

見つけたと言うよりは、部屋に入ってすぐに目に止まった。

 

「全く、あの時よりもヘタクソじゃない…試合を見に来てって、誘えばよかったのに…」

 

机の上にある手帳に挟まれているチケットを手に取るリーナ。

それは光國が向かったU-17の大会関係者の特別観戦チケットだった。

 

「…あれ、コレって…」

 

チケットを手に取ったリーナ。

手帳の方にも仕掛けはあることに気付き、市原先輩に渡してくれと書かれており少しだけ中身を見てしまうリーナ。

 

「【日本の地獄は自慢の地獄、全部合わせて272もある】【未来を予告、邪馬台国】…なにこれ?」

 

その手帳には大事な部分が欠けている大きなキーワードのみが載っていた。



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【請求書 四葉真夜様 ホテル代 ¥878,000円】

緊急報告

 

モノリス・コードの新人戦・決勝戦前に西城レオンハルトが無頭龍の刺客と戦闘し、負傷した。幸いにも生死の怪我は無く、骨にヒビが入っているだけで数日すれば治るレベルで、次の日には本人はピンピンしており、問題ありません。

しかし、モノリス・コードは危険であり棄権をしなければならない状態で、既に新人戦の優勝は決まっていたのだが一条は何がなんでも勝たなければならず、他の選手の出場を要求。

下克上を成し遂げた、手塚光國が偶然にその場に居合わせており、自らが代理の代理として出場をすると発言。

元々は、自分と手塚光國が代理として出場する予定だったのだが本人は拒絶。

面倒だと逃げており、西城レオンハルトを負傷させた罪悪感で出場をしたが結果は映像の通り、手塚光國は西城レオンハルトどころか一条以上の力を発揮。

常に自身に優位なフィールドを作り、その場へと相手を引きずりこんで絶対に勝てる時しか勝負しないかと思われたが、そうでなく真っ向からの勝負も強い。

更には見た事の無い未知の魔法を使っており、なにもない筈の場所から槍や明らかにサイズが合わないサーベルを取り出すと言った様々な法則を無視した魔法を使用できると判明。

手塚光國は此方がなにかと疑っている事に気付かれており、西城レオンハルト、吉田幹比古、千葉エリカ、深雪、柴田美月、そして自分にのみ試合で見せた魔法等はなんだったのかを聞く権利と知る権利を、謂わば質問タイムを少しの間だけ作られた。

 

【悪いけれど、喋るつもりは無いわ】

 

しかし、肝心の手塚光國は既にこの場にはいない。

手塚光國はリーナが答えると言い、この場を去っていった。

残されたリーナの前に自分達が集まると、リーナはお面をつけて紙とペンで筆談をする。

 

「喋るつもりは無い、か…ミキ?」

 

「僕の名前は幹比古だ…大丈夫だよ、盗聴や盗撮、監視の目はない」

 

【それでもよ】

 

余程の重要事項だと空気を読んでくれるエリカと幹比古。

リーナはとにもかくにも周りには監視の目を気にしており、音の振動から声を調べられない様にベートーベンの運命を流した。

紙での筆談にお面をつけると言う厳重な迄にしているところを見ると、知っているが隠すことがあるのは確かで全てを語るつもりは無いのが分かる。

知識も実力も確かだが、ポンコツな部分が多い、リーナには最も良い方法と思われ、これも手塚光國の入れ知恵なんだと思う。

 

【魔法師と魔法師じゃない人の一番の違いは分かるかしら?】

 

「魔法が使えるか使えないかでしょ?」

 

魔法師と魔法師じゃない人の一番の違いは魔法を使えるか使えないかだ。

それはこの場に居る全員が、いや、小学生でも分かることなのだがエリカの答えは余りにも大雑把だ。

 

「エリカ、魔法師と魔法師じゃない人の一番の違いは魔法演算領域があるかないかよ」

 

エリカの大雑把な答えを訂正し正確に答える深雪。

御存知の通り、魔法演算領域は魔法師の精神の無意識の領域に存在している。

コレが無ければ状態の改変をすることが出来ない。魔法師と一般人の一番の違いはそれだ。

 

【…光國は人工的に作られた魔法師よ】

 

その事の確認と認識をした後に、リーナは衝撃の事実を告白する。

手塚光國は人工魔法師だと。その事を知ると椅子に座っていた深雪は立ち上がり

 

「それは、手塚さんが誰かの細胞から培養されたクローンかなにかと言う意味ですか?」

 

血走った目でリーナを見つめていた。

息が荒くなっており、今にでもリーナに飛び込みそうだった。

しかし、それだけの事がある。人工的に作ったと言うことはそれだけの事。

科学技術等を全面的に利用して遺伝子操作をし、凄まじい魔法師として生まれた存在の子孫かなにか…それが手塚光國だとあってくれと深雪は祈る。

しかし、リーナは首を横に振った。

 

【後天的に魔法演算領域を手に入れた魔法師】

 

「嘘をつかないで!!」

 

魔法演算領域は俺と言う例外を除けば、全員が先天的につまり生まれた時に宿すものだ。

四葉の精神干渉の技術の全てを持って後天的に宿すことがやっと出来るものの筈だが、九島は既に後天的に魔法演算領域を宿した人工魔法師を手に入れていた。

 

【幹比古、精霊を封印する魔法は存在しているかしら?

使えるとかそう言うのは関係無い。存在しているか、していないかを答えて】

 

「リーナ、嘘をつかないで!!

後天的に魔法演算領域を宿すなんて事をしたら、人の無意識の領域は圧迫されるわ!!正直に、手塚さんは調整体かなにかなのでしょ!!」

 

「落ち着くんだ、深雪!!」

 

ありえない。

そんな事はありえないと深雪は強く否定した。

魔法演算領域とはなにか、この魔法師大国でもある日本ですら完全に分かっていない。

魔法の軍事利用色が大きいUSNAですら、分かっていない。無論、四葉もだ。

 

「な、なぁ…どういう事なんだ?」

 

【魔法師の才能を持っていないのに魔法師になった】

 

「無理だろう、そんなの…」

 

【幹比古、精霊を封印する事が出来る魔法は存在しているの?】

 

「精霊の様な独立情報体を封印する魔法か…存在しているかどうかと聞かれれば、確かに存在はしているが…」

 

話題をそらす、と言うよりは真相に辿り着く様に導くリーナ。

最後に出ていった獣は精霊の一種と考えさせられ、そして精霊魔法の使い手の吉田幹比古に精霊の封印が可能かどうかと聞いた。

そこから考えられることは、ただ一つだった。

 

「…手塚に精霊を封印したのか?」

 

コクりと縦に頷いたリーナ。

手塚光國は俺とは異なる方法で、魔法師へとなった。

その事が分かると、深雪はやっと落ち着き倒れた椅子を戻して座る。

 

「え、でも…精霊魔法は自分じゃなく精霊が事象改変する魔法で…その場合は一つの魔法しか出来なくて、実技授業でCADを使えないんじゃ…」

 

精霊魔法と原理が同じならば、一部の現代魔法は使えないはず。

美月はその事に気付くが手塚光國は発動速度こそが不安定なものの、ちゃんと魔法は使えていた。その事について指摘されたリーナは

 

【ゾロアスターのアジ・ダハーカ】

 

とだけ答えた。

 

「アジ・ダハーカ…アレがアジ・ダハーカと言うのか?」

 

「達也、そのアジ・ダハーカってなんだ?」

 

「アジ・ダハーカ、ペルシアの神話やゾロアスター教に出てくる邪悪な怪物だ。

その容姿は蛇とドラゴンを掛け合わせたもので、三頭三口六目の怪物で…火の神と戦ったとされるが…」

 

アジ・ダハーカがなんなのか、それを知っているのは俺だけで分からないレオに答えるか一瞬だけ迷った。しかし、インターネットで調べようと思えば調べれるので黙る必要は無いかと教えた。

 

「千の魔法を使うことが出来ると言う…千種類もの魔法を使うとなれば、魔法演算領域があると考えられる…」

 

手塚光國の秘密。

それは魔法演算領域を宿した精霊の様な存在を肉体に封印。

精神に直接埋め込むのではなく、肉体に封印する事により精神を圧迫されず、封印する際に肉体を乗っ取られない様に様々な術を施しており、ベルトがその術をはじめ色々と施しているCAD、いや、聖遺物(レリック)だった。

手塚光國は魔法を発動する過程の何処かでキマイラと交代し、キマイラに魔法を使うのに必要な事を全てしてもらっていた。

 

「ベルトが封印の鍵で、それを壊してキマイラが何処かに行ったって…手塚はもう…」

 

【ただの人に戻った…そう、本当にただの人に戻った…】

 

レオの質問に答えるとお面から涙を流すリーナ。

大きな力にはそれ相応の代価があり、キマイラを宿した物は常に命を喰らわなければならない。想子を食べなければならず、油断をすれば死ぬ。その危険から解放されただけでなく、魔法師ですら無くなったことに心の底から喜んだ。

 

「…九島は何処まで知っている?」

 

ベルトの細かな事は後に別の報告書をお送り致します。

手塚光國と言う男が、人工的魔法演算領域を宿し、そして捨てたことが判明し、それを九島が何処まで知っているのかを確認。

 

【…知らないわ。

ただ、ベルトは科学の電気による文明が築き上げられるよりも前の魔法が当たり前で魔法を使えるだけで高位の立場にいる神権政治とかが当たり前の紀元前に何処かの誰かが作った物。

戦争を仕掛けるか、それとも魔法師の地位向上か、十師族を越えた何になるかは私も知らないけれども、九島は人工的にキマイラを作り上げようとしたけど…成果は一つも無いし、表立ってなにもしてない…もう良いでしょ?】

 

これにて質問タイムを終えた。

リーナは紙をシュレッダーで切り刻み、会話の痕跡を無くすと俺達に部屋を出るように言った。

これ以上は語ることも聞くこともないと、俺達は出た。

 

「人工的に魔法師を作る、か…達也、世界中の人間が魔法師になったら今の世の中は変わると思うか?」

 

「…レオ?」

 

「オレ、両親も姉も魔法師じゃなくてさ…いや、ダメだって言うのは分かってんだ。

家族全員が魔法師なら、そう言った目を家族から向けられることはないし、周り全員が、世界中の人が魔法師なら魔法師冷遇の今の社会は変わるだろ?」

 

世界中の人間が魔法師になる、魔法師としての力を得る。

そうなれば、世界中の人間が魔法兵器になり今以上に危険なテロリストが増えるかもしれないのを分かっているが、その代わりに起きる変化をレオは想像してしまう。

しかしエリカに怒られて、直ぐに気を引き締め直し、今日の事は絶対に語らないと誓った。

 

「…ええ、本当よ…」

 

万が一と、藤林響子と面会し確認を取ったところリーナの話や人工魔法師は本当だと判明。

しかし、しかしどうにも腑に落ちない点が多い。気になることがあったので、モノリス・コードの試合を再確認するとそれが判明。

手塚光國は自らで破壊したベルトとは異なるベルトで変身をしていた。

藤林響子及びアンジェリーナ=クドウ=シールズは全てを語ってはいない。

まだ隠さなければならない多くの機密事項があるのだが、恐らく二人も理解出来ていない事だろう。

手塚光國が隠していることを詳しく調べる必要があり、それを調べるべく九校戦が終わり次第、手塚光國の元へと向かいます…ので、手塚光國が向かった先に向かいますので、余計な手は不要です……】

 

「人工魔法師…九島は別方向から着手していたなんて…七草よりも狸なこと」

 

前回と違い、真面目な報告書を見て四葉真夜は考える。

あの九島は別の方向から人工魔法師を着手していたが、素体を失った。

試合を見ていた真夜はベルトの変化に気付いていた。九島烈もそれには気付いているだろうと考える。

 

「遥か昔に作られた物ならば、それを継承している誰かが居る…」

 

仁王の影に気付く真夜。

手塚光國を捕まえるか、キマイラを探すか、光國に協力する第三者を割り出すか考える。

最も効率が良いのは手塚光國を捕まえる事だが、なにも知らないと言う可能性がある。

 

「まだ隠していることを吐かせるべく、九島は動く…一先ずは、泳がせましょう」

 

手塚光國が馬鹿な男ではない。

九島が動く事を想定しているのならば、ベルトを作った第三者に何らかの手を打って貰っている。

達也が向かうのならば、第三者と出会う可能性があると読み、そいつの情報が一番手に入れなければならないものだとなにもしない。

 

「…あら?」

 

優雅に紅茶を飲む真夜。

もうすぐ深雪のミラージ・バットが始まるなと頭に浮かべていると気付く。

 

【領収書 司波達也様 ホテル代 ¥878,000円】

 

「…」

 

【Ps 経費で落としてください。手は不要ですが金は必要です】

 

「…ホテル代を経費でって、何時の時代の議員よ!」

 

やっぱり最後は締まらなかった。



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よく分かるようでよく分からない魔法科高校 仮面ライダー編

リーナが達也に真実を語り終えた後、大浴場に入りその際に市原と遭遇。

市原が持つべき物だと光國が残した手帳をリーナから渡されたのだが…

 

「…」

 

なにを書いてあるかが分からなかった。

字は読めなかったとかそうではなく、根本的になにかが足りない。

 

【竜城は講談に住まう】

 

【空飛ぶパーカー、偉大な先人。剣豪、発見、巨匠に王様、色んな変人】

 

【ドキドキ!カミツキ!キバットバット!ガブッと変身、バンパイア】

 

【マイティ・ドラゴン・ペガサス・タイタン・ライジング・アルティメット】

 

【規律できれば乱れる宿命、逆らう者は殺される運命】

 

【異なる存在嫌悪する。異なる存在、邪魔になる。異なる存在、闇に葬る。絶滅させる】

 

【戦争と死を司りし者の国の下層に眠る。でざいあふぉびとぅふるーつ】

 

【桃太郎、参上!】

 

【お前、浦島太郎に釣られてみる?】

 

【金太郎の強さに、お前が泣いた】

 

【勝利した祖となりし始まりの人間】

 

「…なにを伝えたいの?」

 

よく分からないキーワード。

それとコミカルな二等親の絵だけが、書かれているのだがピースは埋まらない。

 

【いざと言う時は、自身の身の保証を得るべく信頼できる名家の人に手帳を売ってください…Ps CADになんか精霊的なのが宿っていて電子部分を邪魔していますので運営を叩くか精霊を探すかして内申点を稼いでください…それとごめんなさい】

 

パラパラとメモ帳を捲るが、ピースを埋める鍵はなかった。

なにに対して謝っているかは分からない、謝罪の一文が入っていたがなにに対してかは今は分からない市原だった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく分かるようで、よく分からない魔法科高校

 

 

仮面ライダー編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「アローラ、ワシは仁王治雅じゃけん」

 

「はいどうも~、手塚光國です!」

 

よく分かる魔法科高校でお馴染みの教室にいる二等親の光國と仁王。

魔法科高校の制服は着ておらず、テニプリのU-17の日本代表ジャージを着ていた。

ここは何処かと言われれば、メタ時空。銀魂でよくある自身が漫画の住人とか知っているあのなんだかよく分からない感じの時空だ。

 

「おま、素の状態で喋るのきぃ?」

 

「当たり前やろ、変な方言とかなまりとか付かん様に頑張っとんねんぞ…てか、今回は仮面ライダー?他にも説明せんとアカンのあるやろが…主にお前の事とか」

 

「いやいや、ワシの場合はネタバレと言うか面倒なのがちょっとありんす…」

 

相変わらず方言が謎だが、一先ずは進行をする仁王と光國。

尚、メインは光國であり補助役が仁王である。

 

「よー分からんが、この世界は魔法科高校の劣等生に似て異なる世界。

凄い分かりやすく言えば、こう言う二次元の世界にはあるマクドナルドのパロディのワクドナルド的なもんはなく、マクドナルドが普通に存在してる。著作権が喧しいから、その辺はパロディにしておかないといけないが…まぁ、オレ達からすれば現実なのでどうでもいい。

一番の大きな違いと言えば、やはり仮面ライダーに関連する事がなく、あの御方が存在しておらず円谷一強の時代になっとる…まぁ、この辺はどうでもエエことやけど」

 

「ええことないし。

もしワシ達がウルトラだった場合、巨大化するだけで世間に迷惑をかけるぜよ!」

 

「それを言ったら、オレ達は居るだけでアウトな存在やろ。

つーか、どうせ行けるんやったらもうちょっとましな世界がよかったわ!!」

 

「FGOとか?」

 

「いやいやいや、誰があんな糞みたいな世界に転生するん?

ゲームとして読者としては面白かったりするけど、世界の命運を掛けて中間管理職(マスター)やるんだぞ!生前の因縁の相手と人類史の為なので仲良くしてくださいって苦痛を与えるって…無理やろ。ソシャゲの主人公は誰とでも仲良くなれる様に運営に操られてるけど、オレ達じゃ無理だろう」

 

尚、転生した場合は全力でコミュニケーションを取らない体勢でいく光國。

例えガチ泣きされようが周りから非難を受けようが、極限までコミュニケーションを拒む。

それで滅びるなら滅びろ人類だ。

 

「そもそもソシャゲって、誰か一人とくっついた時点で崩壊だからな…話がそれた。

若干異なる魔法科高校の劣等生の世界には科学技術で作られた物ではない仮面ライダー変身セットが幾つも存在している。

何故存在しているのかとなれば、そもそもの話でオレ達がどうして転生したかと言う話から始まるので、その辺は完全に気にしない方向だ」

 

「じゃないと話進まないぞい」

 

「で、その仮面ライダーセットはこの世界仕様に変わっとる。

例えば仮面ライダーオーディンはこの世界の北欧神話に出てくるオーディンを宿した者のみが使える不死鳥(フェニックス)を閉じ込めた武器生物一体型のCAD的なもの。

仮面ライダービーストは、科学文明が発達していない古式魔法が当たり前で尚且つ魔法を使える者が神官などの高貴な立場にいた時代、人を魔獣、つまりファントムにして普通の人間に封印をし誰でも魔法が使える遥か昔のお宝…まぁ、この辺はぶっちゃけた話、この世界仕様じゃ無くてもエエような気がする…Fateの世界だとアウトだけど」

 

この世界はまだ大丈夫だが、Fateの世界だと一部の仮面ライダーはアウトだ。

例えば仮面ライダーイクサや仮面ライダードライブに変身をしてFateのサーヴァントと戦ったとしよう、全くと言ってダメージは無いだろう。

サーヴァントは基本的に神秘が宿っていないもの、主に科学技術で生まれた兵器は効かず、仮面ライダーイクサや仮面ライダードライブは科学技術により作られたものであり効かない。

逆に仮面ライダーキバや仮面ライダー響鬼の様なファンタジー要素が多かったりする奴ならば攻撃は効く。

 

「仮面ライダーもそうだが他にも色々と変わっているでげす」

 

「おい、でげすってなんやでげすって」

 

「仮面ライダーがこの世界の仕様になった為に一部の物事がけえっとる

こん世界ん講談○にあんが住んどったり、ゴーストの英雄が一部型月になってたり、他所様の作品の御方になってたりする。試しにカメハメハ大王の眼魂(アイコン)、屁の突っ張りはいらないカメハメだった。

吸血鬼の逸話の中に、吸血鬼がゴブリンや狼男、魚人を滅ぼした逸話や吸血鬼が下等なる人を愛して禁断の愛を貫いた場合は吸血鬼の王に殺される逸話や伝承があり、そんようの特殊な鎧が存在し、それを管理する生きたCADがまだこの世に存在している」

 

これで終わりだなと説明するべき事を説明し終えた光國。

しかしまだ終わりじゃないとピンポーンとチャイムが鳴り響く。

 

 

【他の人は仮面ライダーになれるの?】

 

そしてモニターに質問がうつった。

 

「なれるにはなれんねんけど、そもそもの話で効率が悪い。

変身する前に、魔法で攻撃すると言う御約束を破る展開をすれば勝てる。宇宙刑事並みの速度では変身してない。仮面ライダーの弱点は変身をさせないこと。

だが、一度変身すれば最後、他者から受ける事象改変が、例えば、自分の血液を沸騰させるとか移動魔法で押し飛ばしたりとか周りの酸素を薄くするとか効かなくなるが、雷を設置とかファランクスみたいな障壁とかは通用する…けどまぁ、その辺は全くと言って効かない。

仮面ライダーは悪の組織や人を越えた化物や科学兵器を相手にして倒すことが出来る代物で、対抗できるのは同じ仮面ライダーかベルトを破壊するぐらい。

インフレのしすぎじゃないかと思うが、パンチの威力が100㌧の奴もいるし、核兵器に耐えることが出来るやつとか、それの三倍強いやつとかあるから…ぶっちゃけ戦略級魔法をくらっても大丈夫だ」

 

「なお、出来るけど体に掛かる負荷が大きい。

変身しゅるんに必要な条件しゃえ整っちいれば負荷はなかの、そいば無視してこまめちゃん矢理変身しゅれば体に負荷の大きくかかり、本来んスペックば発揮しきらん」

 

 

【二人はバイクに乗れるの?】

 

 

 

「「乗れない」」

 

免許を取りに行く暇もなければ、免許を取るつもりはない。

自動運転が出来るこのご時世、持っていなくても一切不便が無いし、テレポートが出来るのでそっちの方が良い。

 

 

【仮面ライダーはこの世界ではどんな扱いなの?】

 

 

「仮面ライダーの呼び名は総称だと思えば良い。

パワードスーツみたいな感じの聖遺物(レリック)の一種で、人ならざる物が作ったりと色々とあり、持っているだけで天下が取れるほどにヤバい代物だ。

仮面ライダービーストはこの世界にある仮面ライダー中でも下から数えて直ぐにある、弱い仮面ライダーだ。

メロンニキと同じ様に、ベルトとかスペックが低くても本人のスペックが高いからある程度は誤魔化しが利くけれども、仮面ライダーを相手にするとなれば結構キツい。けど、達人級の実力者との百人同時の戦闘とかお兄様との戦闘では勝つことは容易い…もうこれで最後でええか?」

 

【仁王と手塚ってどっちがテニス強い?】

 

「…何れ下克上を決め込んじゃる!!」

 

「そういうこった、1と2じゃ大分違う」

 

 

と言うことで、よく分かるようでよく分からない魔法科高校 仮面ライダー編、これにて授業終了。

 



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夏休み+横浜騒乱編
本当にさらば、手塚光國


九校戦の幕が引き、第一高校の優勝で終わった。

しかし、大半の人の激闘の夏が続く。部活動に所属している者は大会に。

今回情けない成績をだした者は修行を、学生らしく夏休みで遊ぶ者もいれば

 

「すまない、深雪…こんな席しか取れなかった…」

 

「いえ、気にしておりませんわ」

 

御仕事に勤しむ者も居る。

達也と深雪は四葉の金を使い、兵庫で行われるU-17にやって来た。

やって来たにはやって来たのだが、ギリギリだった為にホテルの予約が大変で、あの手この手のコネを使っても、最前線の席を買うことは出来なかった。

 

「それにしても、スゴい熱気で…観客席に居るのは全員、日本人ですね」

 

「開催国で、直ぐに完売だそうだ。

日本代表の主将が手塚だった事も話題となり、急遽地上波での全国放送も決まったらしい」

 

スタジアムで観戦している人達全員が日本人。

兵庫には神戸港があり、外人が比較的に多いのだが観戦している人達全員が日本人。

最前線の招待客の席に座っているリーナが浮いて見える。

 

『国別対抗のエキシビションマッチ!!

開催国、日本の試合は満員御礼!日本人で埋め尽くされており、今か今かと待ちわびています!!』

 

「このエキシビションはダブルスの1セットマッチ…あの越智月光と言う人は出てくる可能性が高いです。ダブルス専門のプレイヤーで昨年のダブルスの新人戦の新人王らしいです、お兄様」

 

「…深雪?」

 

日本人向けの日本語のパンフレットを開き、見る深雪。

ここに来たのは光國と会うのが目的であり、遊びに来たわけじゃない。しかし、深雪は楽しそうだ。

 

「申し訳ありません、お兄様。私達は友達と言う存在を作るに作れません。現に中学生からの友人と言うものはません。

お兄様と色々と過ごす事はあれども、こうしてお兄様と共に誰かを応援するのは…今年が最初で、同じ高校の選手ではなく一人の人としてなんて…この先あるかどうか…だから、とても楽しいんです」

 

ただの深雪として試合を見る。ただの深雪として応援する。

形はともあれ、こんなのははじめてだと今まで知らなかった世界を楽しむ深雪。

 

「そうだな…」

 

深雪が楽しいなら、それで良い。

今回は手荒な事をしに来たわけではないんだと、一先ずは試合を眺める。

ここまで来て、深雪が楽しみにしているんだから絶対に勝てと思い、日本代表のベンチを眺める。

 

「お~可愛い子がいっぱいだねぇ…あ、パンツ見えた。後、月さんの親父さんだ」

 

「清純、お前はまだ女遊びが止められないのか…あ、パンツ見えた」

 

「世界中の女性が俺の愛人(ラマン)だよ…あ、パンツ見えた」

 

日本代表のベンチにいる日本代表の面々。

清純は観客席に居る綺麗な女を探していると、越智の父親を発見するが興味は無さげ…

 

「ふむ、全てのリミッターをはずすか…あ、パンツ見えた」

 

と思いきや意外とノリノリの越智。

パワーリストとパワーアンクルを外そうとするのだが、清純に止められる。

 

「なんの真似だ?」

 

「俺たちは今回は出番無しみたい」

 

清純は監督を指差した。

 

「開催国の試合だけあって満員御礼じゃ!

何事も出だしは肝心、ここで良い感じにスタートを切るべく…罪滅ぼしして、日の丸背負って白丸をとって帰ってこい、クソガキども!!」

 

ちょっと(うひぐゎー)、ワシや関係ないやっさー…けどまぁ、おもろい組み合わせぜよ」

 

「全く、相変わらずの無茶しか言わんな、この髭は…さぁ、油断せずに行くぞ、仁王!!」

 

「へーへー……さぁ、油断せずに行くぞ手塚…あ、パンツ見えた」

 

一部を除く馬鹿どもが観客のパンツを見て興奮を抑えてる中、コートに入る仁王と光國。

光國はラケットを右手に、仁王はラケットを左手に持ってそっくりな動きをする。

 

『日本代表はNo.1とNo.2の最強コンビだぁあああああ!!』

 

「手塚がダブルスか…」

 

ネット前に立つ光國を見て意外そうだと思う達也。

兄妹協力出来る競技だと深雪を勧誘し、芋づる式でやって来た達也。

身体能力は優れているものの、テニスに関しては素人であり、光國が一から十まで教えており、シングルスプレイヤーだと思わせるようなプレイをよくしており、リーナとダブルスをするときもリーナの顔を立てるべく、自らが攻めるテニスをしていなかった。

 

「どうも個性的な選手が多く、ダブルスに不向きな選手が多いようです。

日本のウィークポイントがあるとするならば、それはダブルスで誰が埋めるかが鍵になると書いています」

 

「成る程、オールラウンダーな手塚ならばどんな相手でもペアを組めるな…ペアの仁王はどんな選手だ?」

 

「それが…イマイチ分からないんです」

 

パンフレットを見て首を傾げる深雪。

いったいどういう事だと達也は、パンフレットの日本代表のプロフィールとパラメーターを見る。

 

【Genius10 No.1。テニス界の至宝(カリスマ) 手塚光國

スピード 6 パワー 6 スタミナ 7 メンタル 8 テクニック 9】

 

プロフィールが更新されている光國。

クリムゾン・プリンスをクリプリスとか馬鹿にしていた割には、光國も大概である。

しかし、雫が前に見たときと同じ様に1から5までの5段階評価の筈なのに5すらないと言うのはどうなのだろうか?と考えていると、次のページを開く。

 

【Genius10 No.2 詐欺(ペテン)師 仁王治雅

スピード ? パワー ? スタミナ ? メンタル ? テクニック 9,5】

 

次のページには仁王の事が載っているのだが、パラメーターの部分が圧倒的なまでに謎だ。

昨年の全日本のシングルスの王者なのは分かるのだが、プレイスタイルについて細かく記載されていない。

どういう事だと困惑をする二人、そうこうしている内に試合がはじまり仁王のサーブから始まる。

 

「仁王、今日はこの試合だけだ…出し惜しみをするな!」

 

「手塚、お前こそ腕が落ちてないだろうな…ぷりっ!」

 

ボールをトスし、仁王が振りかぶったその時だった。

深雪、達也…そしてリーナは魔法を掛けられたわけでもないのに見ているものが変わった。

偽物はどんなに優れていても

何処までいっても偽物であり、本物に成り代わる事はない。打ち勝つ事は出来ても、本物の代わりにはならない。

 

「…嘘…」

 

仁王がサーブを打ったのに、光國がサーブを打った様に見えた。

そしてそのサーブは弾むことなく手前へと転がる…零式サーブだった。

過去にリーナがやり方を教えて、やってみたのは良いが余りにも肘に負担をかける技で、技術的にも難しい技を仁王は成し遂げた。

 

「ふぅ…87%と言ったところか…全く、ギリギリになって新しい技を生み出しおってからに」

 

「流石のお前も、アレは真似できないようだな…さぁ、油断せずに行くぞ!!」

 

エキシビションマッチ、仁王と光國の転生者コンビは凄まじいテニスをした。

返すことの出来ない零式サーブと入れることの出来ない手塚ファントムのみを使って、15分以内で試合を終わらせた。

 

「完全復活、って感じね」

 

「ああ…この調子でスポンサーを掴みとってみせる。後、レートも上げんと」

 

試合が終わり、リーナと二人きりになる光國。

数日前が嘘の様に思えるほど楽しんでいるのだが、リーナは少しだけどうしたものかと考えている。

光國がこうして日の目を浴びる舞台で活躍することは喜ばしく、それでも自分の事を忘れずに接してくれるのは良いことなのだが光國は魔法師では無い。

キマイラが出ていき、完全に普通の人に戻っている光國。解剖(バラ)そうが、培養(作ろうと)しようが、ただの人でしかない光國は良い筋肉の持ち主と判断されるぐらい。

魔法を使わずに、素の状態で十八家はおろか十師族に勝ってしまった事はかなり重要な事なのだが、それとは別に問題がある。光國の知識だ。

結局なんだったのかが分からない九島烈を殺す魔法やファントムの生み出し方をはじめとして、様々な知識をキマイラから授かっており、独自でなにかを調べている。

 

「…ねぇ、光國…」

 

「あるで」

 

その事について聞こうとするのだが、待ってましたと言わんばかりに即答する光國。

まだまだ隠している事が多かった様でどうしたものかと考える。その知識を何処かに提供して保護を受ける…なんて事は出来ない。

十師族の異常さをリーナは理解している。真由美や十文字の様に人格が優れてはいても、何処かでズレている。そのズレている部分が厄介すぎる。

洗脳教育で尚且つ周りがそれをよしとしている部分で、何処かでナニか奴等を追い詰める事をしないとこれから先がヤバい。

 

「リーナはなにがしたい?」

 

「?」

 

そんな事を考えているのをお見通しな光國。

優しく微笑み、リーナの今後を聞いた。

 

「なにも、魔法師だけが全てじゃない。

リーナは美少女で…うん、オレみたいなのと居なくても、ちょ、足を踏まんといて、マジでお願い」

 

「私、光國のそこは嫌いよ?

光國が男と女の関係だけは、自信無いのは分かっているけれども、一対一の時は言わないでよ?」

 

「一対一じゃないから、言っているんだ」

 

「!」

 

光國が言ったことをどういった意味か理解出来ないほどリーナは馬鹿ではない。

リーナは直ぐ様、後ろを振り向くとそこには達也と深雪がいた。何故かいた。

永遠と繰り返すループの中、此処に来たと言う情報は一切なく、どう考えても光國を追ってやってきた事が分かる。

 

「…何時から気付いていた?」

 

「直感だ…知っちゃったか?」

 

コクりと頷く達也と深雪。

そうかそうかとなにかを考える

 

「…達也は知りたいだろうが、知ってどうするつもりなんだ?

少なくとも、あんなものは無くても良いとオレは思っている。オレがビーストじゃなければリーナやお前達と出会えなかったが…それでも、失った物の方が大きい」

 

「つまりお前は、まだなにか知っているんだな?」

 

僅かな会話だけではなにも出なかったので、カマをかける達也。

光國は首を縦にふった。達也の予想通り、光國はまだなにかを隠し持っていた。

 

「深雪、お前も事情を知ったのならば、アレをどうするつもりなんだ?

少なくとも、欲しくもない力を得る代わりに明日を知れない体になり、歩むべき道を崩されて別の道に無理矢理引き摺り回されるんだ…」

 

達也を攻めたところで、無意味な事を知っている。

達也を絶対としているとはいえ、深雪の情を攻めればある程度はどうにかなると攻めてみるが

 

「私はお兄様と同じ意見です」

 

この場では通用しなかった。

達也の意思を尊重すると意見を言わない深雪。仕方ないと光國は達也を見た。

 

「知ってどうするんだ?」

 

「…」

 

「黙りか…なにを差し出す?」

 

今の光國になにを言っても無駄であり、達也はなにも言わない。

代わりに光國は情報を得るための代価がなにかを聞いた。それを聞いた達也は光國もそれなりにピンチだと分かり、それを使って情報を聞き出す。

 

「リーナの身の安全を保証する」

 

「私の安全…相手が誰だか分かっていっているの?」

 

光國が居ないとなれば、リーナがどうなるか。

USNAに人工魔法師の情報を横流ししており、人工魔法師の情報はここ最近停滞している。

人工魔法師の光國が魔法師でなくなったので、USNAから近い内に帰還命令が来る可能性がある。

九島がリーナを日本に住ませる際に完全に日本に帰化させずしており、USNAに戻ろうと思えば戻れる面倒な立場で、九島からしても手放すには惜しい人材だ。

このまま普通に生きるだなんて、出来たもんじゃない。

 

「はい、ストップ」

 

その辺や保証内容について細かく話そうとしたが、光國が止める。

 

「これ以上は、駄目だ…数日、待ってくれないか?

少なくとも、今はそういう難しいことを考えたくない…だから、待ってくれ」

 

今ここで決めるわけにはいかないのと、大会に集中したい。

その本心を伝えると、二人は理解したと優勝目指して頑張れと激励の言葉を贈り、分かれた。

 

「…タツヤとミユキがどうにか出来ると思ってるの?」

 

「…魔法師の世界では名字とか名前偽装とか当たり前でコロコロと変えることは常識って知っているか?」

 

「え、まぁ…政府とかに何百人も魔法師のスパイとか居て、国も国で見逃してるから、出来るのは知っているけど…タツヤやミユキもそうなの?」

 

「クローバー」

 

「…うそ…」

 

「考えられるのはそれぐらいだ。

じゃないとクローバーの血筋が完全に途絶えてしまう。

血筋がどうのこうのと言うゴミみたいな業界で、一国を滅ぼす馬鹿野郎どもだぞ、偽名の一つや二つ、出来て当然…形だけの結婚かもしれんな」

 

達也と深雪が四葉だと言うことを教えつつも、時は過ぎる。

その間に達也は七草や一条、九島の人間が居ないかを探すが何処にも見当たらない。

上の方でてんやわんやなっているのは分かっている。だが、だがそれでも居ないのはおかしい。

 

「お兄様…優勝しましたね」

 

そして約束の時が、やって来た。

手塚光國が主将を勤める日本代表が、一度も負けることなく全試合をストレート勝ちと言うリングにかけろの日本Jr.の様な事を成し遂げた。

その事もあり、光國は時の人になろうとするのだがインタビューを全て断った。

まだまだ未熟で、プロ相手だと確実に負けるので三年先の稽古をしてもっと強くなりたいの一言だけだった。

 

「CMか、CMか~」

 

「清涼飲料水のCMとか面白そうじゃない?」

 

「手塚さん、なにをしているんです?」

 

ここで会おうとリーナを経由し、待ち合わせ場所を決め向かった達也と深雪。

光國とリーナが先にいたのだが緊張感なんて全く無かった。

 

「そこそこの名刺を貰ってな…何れはスポンサー契約をと」

 

「…それ、全部魔法師が、それもそれなりの名家が経営している会社だぞ?」

 

笑顔で名刺を見せてくる光國。

どれもこれも有名で大きな会社だが、どれもこれも魔法師が経営している会社だ。

他の勢力が顔を見せないと思ったら、こんな形で顔を表していたのかと、自分達も次に繋がる手を打つべきだったかと少しだけ達也は考える。

 

「それにしても、ミユキ、タツヤ、仕事が早いわね」

 

「なんのことですか?」

 

「なにって、他の家の事よ。

この会場に来ていたけど、早急に追い返したんでしょ?

早い内に恩を売っておけば、断るに断れないからかもしれないけど…それでも助かったわ」

 

身に覚えの無いことに礼を言われる深雪。

彼女はこの数日間は夏休みの宿題の処理と試合観戦だけであり、他はなにもしていない。

お兄様が勝手にしたのかと達也を見るのだが、達也も反応はしない。

 

「先にリーナの保証内容についてお教え致します」

 

「いや、先に仮面ライダーについて話しておく…」

 

リーナの保証内容を説明しようとするが、手を出して先に語ろうとする光國。

語るだけ語ったのならば、殺す可能性があるかもしれないのに先に話すと言う事はそれだけ信じてくれている事だと二人は先に聞く。

 

「仮面ライダー?」

 

「よく映画とか漫画である着るだけで、物凄く強くなれるスーツ。

それと軍人が使っている特殊なスーツを掛け合わせた感じで、世に言うパワードスーツの一種だ…この時代は空想と思われていた魔法が当たり前になって半世紀ぐらい過ぎた時代…なんて思っているならば、今すぐにその考えは捨てておけ…その考えは大きく間違っているんだ」

 

今の時代を大きく否定する光國。

空想と思われていた魔法が当たり前の時代、それがこの時代だがそれは大きな間違いだ。

 

「空想と思われていた魔法が当たり前の時代だと吉田幹比古の存在を完全に否定する。

魔法自体は確かに存在していたが、人々は忘れていた…神権政治を捨てて、科学と言う努力すればどうにかなる技術の発展が一番の原因だ。魔法師の地位向上はこれから先、大事な事だがそもそもの話で科学と言う技術で代用できているんだから、そこに魔法を使うのはどうかと思う。兵器としてしか使われないがそれはそれで良いんじゃないかってっと、話がズレてしまったな」

 

稀にタメになったり良いことを言う光國。

実際問題、魔法兵器に成り代わる科学技術が作られれば魔法師は完全におしまいだ。

唯一無二の兵器として利用と言う価値すら失われる。本当にこう言った事を言おうと思えば言える男なのに、真面目にやらないのは残念な事だと達也は頭を一度リセットする。

 

「仮面ライダーは遥か昔に作られたパワードスーツだと思えば良い。

製造理由は様々あり、絶滅に使ったものもあれば妖怪を退治するために使ったのもある。

それを使いこなせるだけで、戦略級魔法師をも上回る力を手に入れる事が出来る。なにせ、戦略級魔法は現代魔法の極致とも言える場所で、仮面ライダーはある意味、古式魔法の極致だ。

賢い達也と深雪なら知っていると思うが、古式魔法は万能じゃないが威力や一芸だけならば現代魔法を遥かに凌駕する…仮面ライダーの中には戦略級魔法をくらっても無傷なものもあり、着るだけで一条の爆裂を無効化に出来てたりととんでもない代物…っと、この辺は知っているし、考察しているか」

 

頭を一度リセットし、改めて光國から教えられる仮面ライダー。

戦略級魔法をも無駄にし、一条の爆裂を無効化にするとんでもないものだと分かり、多少のリスクを犯してまでも手に入れなければならないと考える。

 

「…何処にあるのか知っているのか?」

 

「やはり、言わなければならないか…危険だぞ?」

 

使っていたからこそ分かる仮面ライダーの凶悪さ。

達也が強いのは知っているが、仮面ライダーの中には問答無用のものも存在しており、強いどうこうの話じゃないものもある。

しかしそれでも、四葉真夜をはじめとする自身と深雪にとって障害となりうる存在を倒すためには力が必要だ。圧倒的なまでの力を簡単に手に入るのならば、手に入れなければならない。

達也は恐れることなく教えてくれと要求する。

 

「とは言ってもな、オレはあくまで存在を知っているだけで所在を知らない」

 

「それならば知っている人を紹介…と言っても無駄だろうな」

 

「…」

 

遠回しにベルトについて気付いている事を伝える達也。

もう無理かと諦めるかのようなため息を光國は大きく吐いた。

 

「ギブアップ、ギブアップだ…絶対に約束守れよ」

 

これ以上は隠すことが出来ないと観念した光國。

 

「リーナの事を頼んだぞ…深雪」

 

「私、ですか?」

 

「達也は強いが、強いだけだし…異性だと分からない気持ちもあるだろう…それに達也はなにかと深雪に対しても隠し事をしているだろ?」

 

達也ではなく、深雪へ託す。

隠し事をしているのは御互い様だが、それならばと深雪にリーナを託す。

 

「…分かりました、リーナの事はお任せください」

 

「ああ…じゃあ、教えるがオレに協力をしてい…危ない!!」

 

リーナを託すと白い魔法使いについて教えようとするのだが、光國は気付く。

自身の背後に魔方陣が出現していることに。直ぐにリーナの手を握り、そこから吹雪が吹き荒れて周りを凍らせる。

 

「光國、アレって!!」

 

「なんのつもりだ…ワイズマン!!」

 

魔方陣を見たことがある二人は、魔方陣がなにか気付く。

この魔方陣は白い魔法使いのものだと叫ぶとなにもないところから急に出現する白い魔法使い。

 

「いきなり現れただと…」

 

超高速で動いて、出現するのではなく本当になにもないところからいきなり現れた事に驚く達也。しかし、直ぐに戦闘体勢に入る。

 

相手は未知の敵で、特殊な鎧を纏っているが俺には無駄だ。

 

そんな慢心が達也の中にはあった。

達也はいや、主人公と言う存在は常に後手に回るものだ。

事件が起きる前に解決するのでなく、事件が起きてから解決し、悪人が悪いことをしてから退治している。だから、逆はない。

頭の良い熱血主人公じゃない達也は、事前の情報をしっかりと頭に叩き込んで対策する。敵対すれば相手は死に、味方はずっと味方で裏切らない。だから、無かった。司波達也対策をされたことを。

 

『スパーク、ナウ!』

 

「っ、ぐぅうぁあ!?」

 

達也は情報体次元と呼ばれる物の情報が記録されていたりする場所を読み取る精霊の眼を持っている。

ありとあらゆる情報を読み取る事が出来る先天性のもので、弱点があるならばただ一つ。物凄く眩しい光を、情報体次元に干渉するレベルの光を放てば良い。

未知なる相手に、しかも素顔が見えず、尚且つリスクが無いんだから使ってしまう。

 

「お兄様!?」

 

「やれやれ、割とあっさりと倒せるものだ。

自身の情報が知られるのはマイナスだが、知られていても尚勝利しなければならない」

 

ムスカ大佐程とは言わないが、膝をついて眼を閉じる達也。

深雪は直ぐにCADを取り出して、魔法を発動しようとするのだが手を蹴り上げられて落としてしまう。

 

「甘いな」

 

すかさずハーメルケインをCADに突き刺した。

これでもう司波深雪は魔法を使えない。

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

「なんの用…いや、違うな。

お前達は知らなくても良いことを知ろうとした…面倒な芽早めに詰まなければ…安心しろ、二時間あれば元に戻る」

 

「?」

 

ハーメルケインを構える白い魔法使い。

刃を向けるのはリーナでも深雪でも、膝をついて動けない達也でもない。

 

「さらばだ、原型(アーキタイプ)

 

「誰が、死ぬか!!」

 

刺して来ようと攻める白い魔法使いを寸でのところで避ける光國。

 

「貴方、なんのつもり!?」

 

「ふん、知れたことを。

古の魔法使いは私の計画には不要な存在、原型(アーキタイプ)には存在価値は無い!!」

 

「原型って、オレはもう魔法師じゃない!!

つーか、話が違うぞ!ビーストのウィザードリングを提供する代わりに、九島烈を魔法師として殺す約束の筈だ!!」

 

「その約束は今もこうして守っている…お前を殺すなと言う話は何処にもない!!」

 

『チェイン、ナウ!!』

 

「っ!」

 

攻撃する手立てがなく避ける光國。

痺れを切らしたのか、指輪を変えて魔法を発動すると鎖が空中から出現し

 

「リーナ!!」

 

リーナが縛られた。

白い魔法使いは避ける光國から縛られたリーナへと切り替えて、胸を貫こうとするのだが

 

「させるか!!」

 

光國が盾になり、腹を貫かせて槍を握った。

 

「シャビリェデェショフォエファションデュオンムフィムファン、デェグロンボリャシュロミョショディバリャ…」

 

「…ラモールエスポワール…」

 

「ミツ、ク、ニ…」

 

よく分からない言語で会話をしているが、そんな事はどうだってよかった。

光國はどうあがいても致命傷であり、例え生還できたとしてもテニスが出来ない可能性がある大怪我だった。

 

「っ、お兄様!!」

 

その怪我をどうにかすることが出来る人物は、直ぐ側にいる。

眼を閉じて苦しい顔をしているものの、立ち上がる達也だが動きはぎこちない。

 

「眼が万能過ぎて、知らず知らずの内に眼を主体にした戦闘スタイルになっている…第二の刃は用意しておくものだ」

 

「リーナ……」

 

達也に呆れている白い魔法使いはなにもしない。

まるで遺言を残す時を与えるかの様になにもせず、その隙を逃さず光國は最後の力を振り絞り、小さな声で遺言を残した。

 

「さらばだ、原型(アーキタイプ)…」

 

終わったと槍を引き抜いた白い魔法使いは光國の首を切断する。

 

「…あ…あ…」

 

目の前で光國が殺されたことにより、頭の中で走馬灯の様なものが流れるリーナ。

走馬灯の様なものの内容は光國との思い出。辛かったこと、楽しかったこと、悲しかったこと、怒ったこと…喧嘩らしい喧嘩はしなかったけどとにもかくにも光國との思い出が走馬灯の様に浮かび、ゆっくりと壊れる…筈だった

 

「絶望にはまだ早い」

 

『スリープ、ナウ!』

 

ゆっくりと壊れる前に、意識を眠らされた。

完全に眠ってしまい、絶望の感情を失いファントムを生み出す事は無かった。

 

「そんな…」

 

「手塚…手塚!!」

 

光國の頭と胴体が分かれるのを目にし、気配と声が聞こえなくなったのを感じる司波兄妹。

 

「深雪、なにがあった?」

 

「手塚さんが…」

 

『エクスプロージョン、ナウ!!』

 

「手塚光國は、此処で死んだ…さらばだ」

 

光國の胴体に巨大な魔方陣が出現すると、爆発した。

光國の胴体は塵となってしまい、頭の部分はコロコロと転がっていき、達也の足元に向かった。

 

『テレポート、ナウ!』

 

それを見ると消えた白い魔法使い。

完全に消えるとリーナを縛っていた鎖は消えた。

 

「…!」

 

足元に落ちているものを拾う達也。

直ぐに光國の頭部だと分かると、深雪が居る方向を見る。

 

「もう、無理です…」

 

首と胴体を切り分けられた時点で光國は死んでしまった。

死ぬ寸前のものならば、どうにか出来たが完全に死んでしまえばなにも出来ない。

 

「…」

 

視力が回復し、死亡確認をしたのだが色々と腑に落ちない点が多い達也。

精霊の眼が危険だと感じているのならば、眼を潰せば良いのに暫くすれば視力が回復する程度のダメージしか与えなかった。

知りすぎたから光國を殺そうとするならば、自分達も同罪の筈なのに殺そうとしなかった。

最初から光國だけを殺すべく、動いていた。恐らく、九島等の追手は全て奴が消したのだが、何故そんな手間を掛けた?

その答えを達也は持っていなかった。少なくとも、手塚光國は完全に死んだ。

頭の部分は紛れもない本物であり、手塚光國は死んでいる。脳の部分を解析しても、ただの良い筋肉の持ち主だったとしか出ない。

 

「…お兄様、リーナの事ですが」

 

「…分かっている。

少しとは言え、俺達は手塚から情報を貰ったんだ…リーナの身の安全を、必ずや守り通す…手塚が最後まで守ろうとした者を…」

 

腑に落ちない点があれども、光國は死んでしまった。

これだけは変わりの無い事実であり、光國を追ってきた一条、一色、七草、九島、そして四葉にのみその事を伝えた。



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一年にたった1日、会えると言う世にも奇妙な物語

「…」

 

目を覚ますとリーナは知っているけど、知らない天井を見た。

 

「ここは…」

 

九島の本家の一室の天井だっけ?とゆっくりと体を起こしたリーナ。

体が痛いとかそう言うのは一切無く、むしろ快調で今すぐにテニスが出来るほど。

 

「確か…そうだわ…」

 

「目を覚ましたか」

 

眠る前になにをしていたか思い出したリーナ。

すると、九島烈と藤林響子が部屋に入ってきたのだがどうも空気が重苦しい。

九島烈は読み取りにくいが、響子は今にでも泣きそうな顔で伝えるべきか否かで悩んでいる。

 

「…なんで光國と一緒に寝かせてくれなかったの?」

 

九島に呼び出しをくらったとしても、普通に光國と一緒に寝るリーナ。

もうその辺については九島では諦めており、寝かせるのならば光國と一緒の筈なのに光國は居ない。

 

「リーナを此処に運んだのは司波深雪と司波達也だ、既に東京に帰ってしまったが後日ちゃんとした礼を言いなさい」

 

その質問に答えない九島烈。

連れてきたのは深雪と達也だと分かると顔に出さずやっぱりか…と遺言を思い出す。

 

「…一度しか聞かないわよ…光國は、光國は…何処なの?」

 

「…手塚光國は死んだ…」

 

「っ!!」

 

九島烈の一言を聞くと枕を九島烈に投げつけるリーナ。

魔法もなにも掛かっていない枕をあえて避けず、顔で受ける九島烈は無言でリーナを見つめる。

 

「そんな…そんな筈が」

 

「自分が見たものを疑うのか?

…早すぎる別れだ…少し、席を外す。頼んだ」

 

「はい…」

 

九島烈は席を外す。

今此処でなにを言ってもリーナは信じないし、乗り越える事は出来ない。

事情はあれども、同情から始まったかもしれないが手塚光國と育んだ愛は本物だ。

そんな手塚光國が死亡し、絶望したのだ。本当の意味で立ち直るには誰かの手を借りる事無く、自力で立ち上がらなければならない。

 

「…お前は敵を作りすぎだ…」

 

唇を噛み締める九島烈。

魔法師の世界とはいえ、もっと輝ける場所を用意する事だって出来た。

一向に尻尾を振らず、友好的になろうとしなかった光國を哀れむ。これが、今の世界に世の中に歯向かった者の末路だと考える。

 

「せめてもの手向けだ…白い魔法使いを捕まえて、お前の様な存在を増やさない世の中にしよう。犠牲はお前だけで良い。」

 

光國が最も喜ばない事を、弔いの花として添える九島烈。

涙は流さないが、怒りを露にしてリーナと響子が居る部屋の前から離れていった

 

「…機械類は無いわね?」

 

そしてそれを確認するリーナ。

さっきまでの泣きそうな顔はなんだったんだと言いたくなるぐらいスタイリッシュと言える顔で部屋に盗聴機などの機械類が無いかを探す。

 

「リーナ?」

 

「ふぅ…なにがお前の様な存在を増やさないよ!

確かに犠牲は付き物よ…けどね、それで良いって納得した時点でおしまいなのよ!

努力ってのが如何に少ない犠牲にするかってなら、その幻想をぶち壊すわ!ファ●キュー!!」

 

盗聴などがされてないことを確認し終えると、中指を突き立てるリーナ。

光國が死んだのに、悲しむ素振りすら見せない。無理矢理笑顔になっているわけでもなく、悲しむ理由が無いかの様に平然としている。

 

「全く、光國もあの白いのも…私を混ぜなさいよ…」

 

しょぼんと落ち込むリーナ。

悲しむとかでなく、仲間はずれの疎外感が嫌だなと落ち込んでいる。

 

「あ、あの、リーナ?光國君は死んだのよ?」

 

「あ…」

 

響子の反応を見て、やっべ私も知らないなら他の人だってと自身の失態に気付くリーナ。

この期に及んでまだなにかを隠していることを自供してしまい、渋々語ることにした。

 

「えっとね…遺言を貰ったのよ」

 

「遺言?」

 

「そう…自分の嘘に乗れって。

光國がまだなにか隠し事をしているのを、九島は見抜いていた。他の人も見抜いていた。

ベルトの変化にも気付いていて、全ての真実を知り情報を握っているのは手塚光國だって、手塚光國は邪魔な存在だってわかっていた…偽造死よ…」

 

リーナに残した光國の遺言。

 

 

「自分の嘘に乗れ」

 

 

自身の存在が邪魔ならば、消してしまえば良い。

自身の存在が無ければ、情報は手に入らず目障りだと思っている連中はなにもしない。目的を失ってしまう。

光國は魔法師の世界では戸籍や名前を改竄とか当たり前だと話していた。

きっとそれを伝えるべく、そんな事を話したんだと理解するリーナだが

 

「目を、目を覚ましなさい!!」

 

バシンと、とても良い音が鳴り響くビンタを響子にされた。

響子は怒っており、懐から写真と鑑定書を取り出す。

 

「過去に採取した唾液のDNAと頭部に残っている血液のDNAが一致。

更には脳解剖の結果、手塚光國が魔法師でない事を証明した証明書よ…光國君は、死んでいるのよ!!魔法的面でも科学的面でも調べ尽くしたのよ…」

 

ポロポロと涙を流す響子。

結局自分はなにもすることが出来なかった。

もう少し、もう少し頑張って手を伸ばせば救えたかもしれないのに、全てを捨てる覚悟なんかができていなかった響子はそのもう少しが出来ずに後悔し、弱い自分を憎んだ。

 

「な、なにを言ってるのよ?

ほら分身したじゃない、それを使って」

 

「光國君がもう魔法師じゃないのは知っているでしょ!!」

 

それすらも嘘だと言うが、直ぐに否定される。

頭部の写真と鑑識の診断書は紛れもなく本物、人格や性格はともかく腕は本物の連中が作り上げた代物である。

 

「嘘よ…嘘に決まっているわ!!」

 

光國は最後に嘘に乗れと言ってきた。

それは自身の死を偽装しろと言う意味だ、そうに決まっている。そうじゃないと、そうじゃないとおかしい。

リーナは声を出そうとするが出ない。目に見える証拠をつき出されてしまい、心の何処かで光國は本当に死んでしまったと認めてしまった。

 

「ちが…ちが…」

 

再び走馬灯の様に頭を駆け巡る光國との思い出。

出会いから別れまでが流れ終えると、リーナは深い絶望をしてしまい、自身の中のなにかが壊れてしまった。

 

「リーナ!?」

 

深い絶望をしたリーナの体にヒビが入る。

ファントムを知らない響子はどう言うことと慌てるが、直ぐに医者を呼ぶべく外に出ようとするが、ドアが開かない。

 

「なんで、ドアが!!」

 

「…ふふ、そうだ…」

 

絶望をし、自身がファントムを生み出すと、なにかが変わると分かったリーナ。

気持ち悪いが、それでも力が体中から溢れでる。今までとは比べ物にならないぐらいに、快調だ。これならばと一つ、あることを浮かべる。

 

「光國が居ないなら、もう好き勝手やっても良いわよね?」

 

手塚光國といたことにより、別の視点から色々な事を見ることが出来たリーナ。

魔法なんかなくても別にどうってこと無いと、普通って意外にも難しいとかそんな事を学ぶが、それと同時に魔法師の異常さをより知ることが出来た。

だからよく分かった。世界はもう、本当に手遅れなところまでやって来ているのを。

民間と国のパワーバランスがおかしくなっている。十師族>国とも考えている馬鹿達が多いのを、国に使い捨てされないとはいえ、余りにもやり過ぎている。

腐った世の中を変える革新的なナニかがその内起きるだろうが、もう遅い。もう待てない。

リーナはこの絶望を受け入れようとする。自身の中にいるファントムにこの腐りきった世界を壊してもらおうとする。

 

「…光國がいないなら、死ねば良いのよ…」

 

「リーナ、意識を保って!!」

 

絶望に飲み込まれ、ゆっくりとゆっくりと眠りに落ちていくリーナ。

完全に意識が絶望に飲み込まれていこうと言うその時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファミチキ、ください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

なんでよりによってそれなのかは分からない。

しかし、少なくともリーナの頭の中には光國の声でそれが過った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、Lチキください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつ、直接脳内に…ああ、そうか…」

 

頭に響く光國の声。

Lチキかファミチキのどちらかを用意すれば良いのかと考えるのだが、そうじゃない。

この声がなんなのかをリーナは理解した。

 

「一緒に生きてるのね…えへへ…」

 

光國は今も自分と一緒に居てくれるんだと笑うリーナ。

絶望を乗り越える事に成功した彼女はファントムを出現させることなく、制御下に置くことに成功した。

 

「今のは…」

 

「…光國…うん、うん…そうなの。

皆ね、勘違いしているの。そうそう…うん、うん…ええ、成功よ」

 

なにもいないところに語りかけるリーナ。

響子は体のヒビが消えたことよりもそっちの方を気にしてしまう。

 

「リーナ、なにを言っているの?」

 

「あら…そう、聞こえないのね。

折角光國がいるのに…キョウコは信頼できるでしょ、貴方は何だかんだで信頼も信用も出来る唯一頼れる大人だって…恥ずかしがらないの」

 

誰かと会話をしているようだが、誰もそこにはいない。

響子はリーナの顔を、リーナの目をみて気付く。リーナの目は死んでいた。

出会った頃の手塚光國と同じく、完全に死んでおり、リーナの精神がどうなっているのか気付いた。

リーナは精神を病んでいる。リーナは幻聴が聞こえてしまっているんだと、そう判断した。

 

「リーナ!!」

 

「っきゃ…なに?」

 

「大丈夫…大丈夫よ、最後に残った貴女だけは絶対に!」

 

光國に対してなにも出来なかった。

せめてリーナだけでも守らなければならないとリーナを抱き締める。

だが、リーナは暑苦しいと響子から離れる。

 

「貴女に守ってもらわなくても、大丈夫…私には光國がいるのだから…あ、そう言えばまだ挨拶をしてナイわ」

 

幻聴で正気を保てなくないリーナ。

響子はゾクッと身震いをするのだが、挨拶の発言で思い出す。

光國の戸籍なんかは光國の母親が持っている。九島が色々と用意したが、絶対に首を縦に降らなかった。

死亡したら死亡届とかそう言うのを用意しなければならず、そう言うのは母親が出さなければならない。契約している物とかを解約した場合、母親が相続しないといけない。

 

「…お祖父様が行っても、殴られるだけね」

 

光國の母親は九島烈が大嫌い。

塩を撒くどころか、焼き固めた岩塩を投げつけるレベルで魔法師は嫌いじゃない。

要は性格の悪い魔法師は大嫌いで、その辺を見抜く目を持っており、光國自身も母親の事をすごい人と言っている。

 

「ねぇ、こんなんじゃ失礼でしょ?」

 

黒いスーツと黒いネクタイと言う葬儀の格好で大阪にやって来た。

光國の死亡報告を志願し、リーナも連れていかなければならないと来たのだがリーナは服装に不満を持つ。

 

「私、ちょっとゴシックな黒いウェディングドレスが良いって光國と話していてね…あ、でも結婚式とか恥ずかしいって嫌がっていたわ…二人だけの結婚式…神父役が欲しいわね…」

 

「リーナ、早く歩きなさい」

 

もうどうにも止まらないリーナ。

言葉で正気に戻すのは無理だと判断し、引っ張って歩かせる。

 

「場所的には、此方の筈だけど」

 

四天王寺中学からちょっと距離があり、レトロ感満載の所を歩く二人。

ここに住んでいるなら東京でも珍しい古くさいアパートに住みたいと思うだろうと辺りを見渡す。

上の地位の人間の響子は仕事以外でこんな所には絶対に来ないだろう。しかし、悪くはない。心地良い。

 

「あ、あった…アパートね」

 

光國が住んでいるアパートと同じ雰囲気を醸し出すアパートに到着した響子とリーナ。

何処の部屋だっけと確認をしようとするのだが、リーナが先に歩き出してチャイムを押した。

 

「ちょっと…」

 

「大丈夫よ…ここから光國の匂いがする」

 

勝手にチャイムを押したリーナだが、その目には迷いはない。

間違ってたらと確認するが、そこが光國の家の部屋で間違ってなかった。

 

「あら、ちょうど良いタイミングに来たわね…浅漬けが出来たところよ」

 

ガチャリとドアが開くと、綺麗な女性(容姿が三雲香澄)が切った胡瓜をパリパリと食べながら二人を出迎えた。

 

「あ、あの!!」

 

「良いから、とっとと入れ。

謙ちゃんとかが、あの馬鹿は一回ぐらいは私に顔を見せに来るってその辺を走り回ってるわ」

 

リーナと響子を見て全く驚かずに、部屋に入れる綺麗な女性もとい光國の母。

ちゃぶ台を取り出し、冷たい麦茶を置くとキッチンに立った。

 

「ごめんなさいね、茄子の方はちょっと行っちゃって」

 

胡瓜の浅漬けを切ったものを出してくる光國の母。

茶菓子の代わりに出したのか?生活が厳しいと言っていたからかと口にするのだが

 

「あ、美味しい」

 

結構、旨かった。

パリパリとリーナは食べる。

 

「貴方がアンジェリーナ、いえ、リーナね…そう…」

 

美味しいと黙々と食べるリーナを見て、茶を啜る光國の母。

 

「自己紹介がまだだったわね、手塚閖よ…うちの子がなにかと迷惑をかけたり掛けられたりしたわ。ごめんなさい、それとお前達も反省しなさい」

 

肝っ玉と言うか虎視眈々な手塚閖。

空気を読んで御世辞を言うようなタイプでないのが、なんとなく分かるが此処までストレートに言う人ははじめてだと茶を啜る響子。

 

「此処に来たのって、アレでしょ?光國が遂にくたばったのよね?」

 

「ぶぅ!?」

 

用件を言う前に言われて、言い方がアレだったので吹き出す響子。

悲しむ素振りすら見せない手塚閖は汚いわねとちゃぶ台をテーブル拭きで拭いた。

 

「な、なんで知ってるんですか?」

 

「そりゃあ、光國と会ったからよ。

にしても、あのクソジジイ…家で傷付けることはあっても、外部からは守り抜くって言ったのに、殺されてるじゃない。ナツメグしか入れてないスープを飲ませるか、ドリアンと酒で殺してやろうかしら…いえ、殺すんじゃなくてガチンコ対決の場所が欲しいわね…良い年した老害を殴り倒す機会なんて早々に無いし」

 

表情一つ声色一つ変えずに恐ろしい事を語る閖。

ああ、これは親なんだなと納得しているのだが直ぐに飛んでもない事に気付く。

 

「光國君に会った!?」

 

手塚光國に出会った事に驚く。

それをみてあれ?っと、閖は首をかしげる。

 

「…リーナ、で良いのかしら?

私の事は閖さんでお願いね…リーナは聞いていないの?」

 

「えっと、光國の声は聞いたけど…詳しい事は。

聞こうとして語りかけているのですが、一向に返事が無くて」

 

「馬鹿ね、返事しようにもその場には居ないのだから当然じゃない」

 

「あ、あの!!

すみませんがなんの話をしているかの、説明を…私にはなにが何やら」

 

「あら、さっきから光國の話をしているじゃない…胡瓜食べる?」

 

話の意図が理解できない響子。

閖はリーナが幻聴を聞こえてしまっている事を知っている。

そしてさっきからグイグイと胡瓜を進めてくる。何故か胡瓜を進めてくる。

 

「あの…光國君は、死んだんですよ!!もっと、もっと悲しむとかそんなのを」

 

「そうは言ってもね…流石に三年も顔を合わせてないし、この前顔を見れてちゃんと元気にしてるってホッと一息つけたし…一年に一度、顔を出してくれるみたいだし…一番上の秀吉が既に成人して、一人暮らしをはじめてるけど年に数回は家に帰るって言ってくれて、実際に来るから…子が自身の元から巣だったけど、ちゃんと顔を出すときは出してくれる孝行息子だから寂しいっちゃ寂しいけど、泣くほどじゃないわ。これから自分の余生を楽しもうと言うオバンな心が…まぁ、まだ一番下の娘が居るからまだまだ頑張るけど」

 

「…」

 

狂ってるのか、それとも現実を受け入れられないのか分からない響子。

この時点で響子は間違っていた。閖は狂ってるわけでもない。現実を受け入れられないわけでもない。

 

「て言うか、さっきから露骨にヒントを出してるのに気付かないの?」

 

最後の胡瓜を食べる閖。

どういう意味だと考えていると、閖はサングラスを掛けて手帳を取り出す。

 

「ここ最近が、なんの日だったか思い出しなさい」

 

閖がそう言うとここ最近がなんの日かを思い出そうとする響子。

ここ最近あったことと言えば九校戦とU-17、今起きている事と言えば各種のインターハイぐらいで特に目ぼしいものは…無い…のだが、あるぞと皿を流し台に入れてアピールする閖。

 

「トゥルルルルン、トゥルルルン」

 

更には何かのBGMを口ずさむ。

何かあったかと必死になって思い出そうとし、鍵となるキーワードはないかと探る。

そして見つける。胡瓜の浅漬けを出した際に、茄子の方も出したかったが出せなかったと申し訳ないと軽く謝ったのを。

胡瓜と茄子の季節は夏、夏真っ盛りの今が食べ頃だが、何故よりによってその二つなのかとなる。ここ数日で、その二つが関わりのある事が何かあったかを思い出す。

社会人の、しかも国の人間である彼女にとっては休みなんてものは無い。右向けば左向けばテロリストなこんな世の中、当然と言えば当然だ。だから、忘れていた。

 

「…あ、ぁぁ…ああ」

 

お盆の存在を。

響子はリーナが聞いた声が幻聴でないと確信した。

リーナの容態が変化した際に部屋を出ようとしたのに出れなかった、叫んだのに誰も反応しなかった理由が分かった。

どうして光國の母が自分達が来るのが分かっていたのか、悲しむ素振りを全く見せないのか、胡瓜の浅漬けは出せたのに、茄子の浅漬けが出せないかが分かった。

 

「出るものが出るってことで、家賃が下がらないかしら?」

 

「いいいぃいいいい、やぁあああああああああ!!」

 

閖の言葉がどういう意味かまだ分からないほど、馬鹿じゃない響子は気絶した。

 

「…気絶したわね…やれやれだわ…」

 

「あの…光國はなにを」

 

「死んだら救われるって言うけど、日本人って死んでからが本番なのよね…ま、あの子を信じておきなさい。リーナ、光國はうちの子で一番面倒だけれど、やる気を出して誰かの為にってなった時は誰にも手をつけられないわ…ちょっと、一服させて貰うわね」

 

閖はコンロの火を使い、煙草に火をつけた。



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ルールを根底から覆せば、調整が入り禁止かクソゲーになる。

夏休みは一番重要な行事。

部活動にバイトにとにもかくにも魔法科高校生は大忙しだが、なにも魔法科高校生だけが忙しいのではない。

例えば中学三年生、今年魔法科高校を受験する受験生は大忙し。

特に馬鹿(光國)が騒動を起こしまくった、受験率No.1で魔法大学合格者率No.1の第一高校

は国の重要機関ではあるものの、学校であり光國が騒ぎを大きくしたので今一度良く見てから受験してほしいと場を、ざっくりと言えばオープンハイスクールを設けた…が

 

「吸血鬼はメジャーなものばかり…」

 

市原には、と言うか生徒には特に関係なかった。

九校戦が終わり、部活動に勤しみやっと終わったのにいきなりオープンハイスクールの手伝いを押し付けるほど、学校も鬼ではない。

と言うよりは、むしろなにかやらかしたら困るのでしないでほしいと止められている。

 

「地方のマイナーな伝説が関連している…」

 

学校の端末を使い、吸血鬼について調べている。

市原は光國が託した手帳に書かれていた【ドキドキ!カミツキ!キバットバット!ガブッと変身、バンパイア】の意味を少しだけ理解した。

バンパイアは吸血鬼、そして変身は光國やリーナが仮面ライダービーストになる際に言っていた変身だと気付いた。

つまり、吸血鬼に関連するなにかに変身する方法だと言うことなのだが、全くといって出てこない。過去に聖職者と吸血鬼が戦ったとか、吸血鬼はゴブリン等を絶滅させたとかそれぐらいだ。

 

「少し息抜きをしますか」

 

色々と探すも、正しい答えには辿り着かずに停滞する市原。

少し疲れたので一休みするべく校舎を出て、外の空気を吸いに出ると紗耶香と会う。

 

「あ、市原先輩」

 

「壬生さん、休憩ですか?」

 

「はい…皆、必死になってます…光國くんのお陰で」

 

光國本人がやったことはネットで悪口を言いまくって炎上させたのと、森崎をテニヌでボコった事であり、一次被害よりも二次被害の方がすごかった。

非魔法系の部活動はやる気を出したりして、傲慢な魔法系の部活動の鼻を明かしたりした。

 

「…今頃は、何処かの会社の人にスカウトされてるんですかね?」

 

「…」

 

光國のベルトの事と出ていったキマイラがなにか知っている二人は、何となくだが気付いていた。光國はもう魔法師じゃないって。

魔法なんて最初から必要ないと言い切る、それ以外で努力してそれで生きてきた彼にはそっちが良い…のだが、心のモヤモヤが二人にはあった。

もっと一緒に居たいと言う強い愛なのだが、無理矢理引きとめては光國の幸せを壊すことになる。

 

「せめて、最後に顔を…」

 

「それなら夏休み中に会う筈ですよ。

どちらにせよ、自主退学の手続きを取らなければならないので……?」

 

会いたいと言う思いが強い紗耶香。

学校をやめて、自分達の前から消えるには取り敢えずは学校をやめる手続きをしなければならない…のだが

 

「…じゃあ、なんでこれを…」

 

それならば手帳を九校戦で渡す必要は無かったんじゃないかと考える。

下手すれば周りは敵だらけと言う、なんか怪しい奴等が裏でコソコソとしている時にこんな重要な物を渡すのはかなり危険な事だ。

 

「まさかもう誰かに監視を…いえ、それはない…」

 

「どうしたんです?」

 

「…ちょっと、テニス部に行ってきます」

 

もしかしたら、なにか痕跡を残しているかもしれない。

光國が一番関わっていたテニス部へと市原は足を運びだし、壬生もついていくのだが

 

「あれ、誰も居ない?」

 

コートには誰も居なかった。

壬生は何処かのクラブに行ってるのかと考えるが、そう言う日じゃなかったし肝心の部長と副部長が居ないので試合は出来ない。

 

「お前達、テニス部員は今、演習場にいるぞ」

 

「十文字会頭!?」

 

何処だと探していると十文字が現れ、居場所を教えてくれた。

突然の登場にビクッと固まってしまう紗耶香だが、そう固まるなと言われ肩の力を抜いたのだが

 

「…演習場?」

 

直ぐにおかしな点に気付いた。

 

「演習場、ですか?」

 

「ああ…演習場だ…それも森や渓谷と言った場所全てを使用している」

 

念のために聞き返すと、頷きながら何とも言えない顔で答える十文字。

市原はもしかしてと貰ったメモ帳を取り出し、テニス部員の特別練習(死)の項目に目を通した。

 

「戦っているのですか、他の部活の部員と?」

 

「ああ…SSボード・バイアスロン部と戦っている。

テニス部員は風船を一つくくりつけ、演習場のそこかしこに隠されたテニスボールを拾ってSSボード・バイアスロン部員にぶつけ、SSボード・バイアスロン部はテニス部員が持つ風船を空気弾で割ると言う特殊な勝負をしている」

 

なんだろう、私の知っているテニス部じゃない。

 

一時期洗脳されてはいたものの、他の非魔法系の部活と手を取り合っていた紗耶香。

テニス部の事情は知っていたんだけど、たった数ヵ月でここまで変化していたと言う。

 

「当初の予定では風船に肉かなにかを縛り付けて鷲や鷹に襲わせる予定だったが…動物愛護法の点で問題になってな」

 

それ以外の問題があるが、それが一番の問題でやれやれと言った顔をする十文字。

 

「因みにだが、7:3の割合でテニス部が勝っている。

だが、勝利の時は大抵手塚や千葉と言った猛者が参加しており、猛者抜きでは4:6の割合で負けている…そう言った時は高確率で北山と光井が参戦しているが。

しかしまぁ、よくこんなものを考えたものだ。山岳地帯や森での特訓は普通の特訓よりも効率が良く、本当に必要な部分を鍛える事が出来る」

 

一見、馬鹿に見える特訓だが効率はそこそこ良い。

基礎練習に練習試合だけでは得られない特殊な訓練をしており、成果はそれなりに出ていた。

 

「ところで、どちらか手塚の電話番号を知らないか?」

 

「え、光國くんのですか…どうして急に」

 

「…これは内密に願いたいが、奴を次の部活連会頭に指名する」

 

「!?」

 

九月になれば世代交代、各役職次の代に託さなければならない。

生徒会長を押し付けられた達也はやっと止めることが出来て選挙に、風紀委員長は次の誰かが指名され、部活連会頭も次の代に移るのだが

 

「何故、手塚くんを?」

 

クビになった元副会長の服部ではなく、手塚を指名したことは意外だった。

元副会長の服部は達也に一度ボコられており一科、二科と言う考えを改めたには改めたのだが、それでも持っていた生徒だった…が、少なくとも能力においてはこの学校でも上位に入る。改心しているので、人間的な問題は無い。

もし光國が調子に乗っているので縛る鎖を作るために部活連会頭を指名すると言うのならば、ビンタの一発でもくれてやろうかと物騒なことを考える市原。

 

「そう睨むな。

俺は次の部活連会頭が服部よりも、手塚が相応しいと思っているだけだ。

そこに余計な感情はない。確かに手塚の行動は目に余るが、ああいう奴は司波兄妹とは別の方向性で天才で、これから先、必要な人材だ」

 

「…」

 

光國は部長職を一学期の間は仕方なくやっていたものの、部誌をはじめとする様々な事は真面目にやっていた。

オジイと言う優秀な顧問を用意したり、変わった練習メニューを用意したりと色々とやっており、十文字はそこを評価している。

 

「逃げる可能性が出てくるからな…事前に頼んでおきたい」

 

しかし、光國はあくまでもその気になったらちゃんとどころか物凄くやるだけである。

テニスは何だかんだで好きで、部員も楽しいから好きだからやっているので真面目に部長職をしているだけであり、部活連会頭となれば話は別である。

やる時はやるがやらない時はやらないのが彼のもっとーであり、部活連会頭なんて面倒なものはごめんだと断るのを予想している十文字は交渉に移ろうとするが、肝心の光國が居ない。

連絡しようにも、学校側に登録している連絡先は住んでいる所の固定電話で携帯に直接繋がる番号ではなかった。

 

「…」

 

光國はこの夏休み中に学校を止めに来ると読んでおり、どうしたものかと考える市原。

一条に七草に一色を倒して勝ち逃げするのは許されない、魔法師じゃないと言うちゃんとした理由を言えば良いのだが、そうなれば人工魔法師がバレる。

紗耶香も同じ事を考えており、どう誤魔化そうかと考えていると

 

「ここがテニス部か!!」

 

魔法科高校じゃない、何処かの中学校の制服を着た男子がテニスのコートに現れた。

 

「…あいつは確か…」

 

オープンハイスクールをやっており、自由時間があり開放されてる部活動を部分限定で好きに見て回れと言うことでやって来た一人の男子。

十文字は見覚えがあり、やって来た男子が生徒が全然居ないのに気付き十文字達の事に気付く。

 

「あんたは確か…」

 

「お前は、七宝…」

 

十師族候補であり十師族に選ばれなかった十八の家の一つ、七宝家。

来年高校生になる、七宝琢磨社交界かなんかで顔を見たことあるなと思い出していると、此方に歩み寄ってきた。

 

「え~っと…」

 

「…どうも、七宝琢磨です」

 

いったい誰なのと状況が読めない紗耶香。

七宝は紗耶香の方を向いてペコリと一礼をした。

大きな声で叫んだと思えば、礼儀はちゃんとできてる。あ、育ちが良いんだとなる。

 

「いきなり現れたと思えば、大声で叫んで…幸い今この場にはテニス部員達は居ないが、仮に試合中だったら迷惑行為にしかならないぞ」

 

「うぐっ…」

 

しかし、叫んで現れたことはダメだと普通に怒られる。

 

「テニス部なら、今は演習場に居ますが…手塚くんは居ませんよ?」

 

悪いことをしたと反省した七宝を見て、話を進める市原。

此処に来た理由は大方、光國に用事があったか傘下にくだれとか言うどうでも良い事を言いに来たのだろうと予測。

十師族と言うか、名字に十以下の数字を持つ師族候補二十八家は根本的に仲が悪い。

特に同じ数字を持っている家同士はもう本当に仲が悪い、と言っても親同士、親戚同士で仲が悪く、特に気にしてない人物(一色愛梨)とかもいるのだが本当に仲が悪い。

人間、相性が悪く犬猿の仲になりどうあがいでも仲良く出来ない奴が居るには居るのだが、そう言うカテゴリーじゃない、しょうもない腹の読みあいをしたり、充分なのに更に力求める馬鹿が多く、世間から嫌われたり反感を持たれたりして当然じゃないかと市原は最近思い始めた。

 

「そうか、じゃなくてそうですか…」

 

光國が居ない事をしょんぼりとする七宝。

 

「光國くんになんの用だったの?」

 

「…それは」

 

「此処がテニス部ね!!」「ちょっと、大声で叫んだら迷惑ってあれ?」

 

七宝の目的を聞こうとすると、なんかさっきと同じ展開が起きた。

今度は双子の女であり十文字は、市原はその双子が誰なのか知っている。

七草真由美の妹で、七草香澄と七草泉美。七草の双子とか言う双子なだけで異名をつけられた二人であり、その手にはラケットを握られていた。

 

「…七草ぁ…」

 

「あれは…なんだ七宝か」

 

「え~っと、一応聞くけどなんの用なの?」

 

七草の双子を見ると強く睨む七宝。

七草香澄はどうでもよさげな顔をしており、一触即発な空気を読み取った紗耶香は直ぐに間に入った。何となくだが、予想できるのだが用件を聞いた。

 

「決まってるじゃありませんか…」

 

「お姉ちゃんの敵討ちだ!!」

 

着ていた服を脱ぎ捨てると、漫画の様にテニスウェアに着替えていた七草の双子。

敵討ちでテニスウェアとなると考えられることは一つ。

 

「クラウド・ボールを挑みに来たの?」

 

光國が真由美をストレートのフルボッコにしてから一週間ぐらいしかたっていない。

ここ最近、真由美を見ていないし結構ヤバい感じで怒られたり、泣いたりしていて敵討ちに来たと考えるのだが

 

「クラウド・ボールじゃなくて、テニスもしくはテニヌです。

相手の最も得意としている事で打ち負かす、それが最も最高の勝利で、お姉さまを励ますものになります…」

 

目に憎しみが宿っている泉美。

ネットの炎上で魔法師が冷たく見られ、姉は生徒会長の座を奪われ、七草は無能と思われ、個人技を発揮する九校戦ではストレートに負け、十年に一人の天才と言われた真由美は色々と哀れ。

ただまぁ、十年に一度とか一人とか言うのは二、三年に一回は出てくるので信用できないが。

とにもかくにも、こんな事になったのは全て手塚光國が悪いのだとなった。実際のところは今まで貯まった魔法師の負の遺産が解き放たれただけなので、光國も国も七草も全部が全部悪い。

 

「テニスだがテニヌだか知らないが向こうは一人でそっちは二人か?ルール知ってるのか?

いや、悪かった。七草の双子は二人で一人前でどうあがいても姉には一人じゃ勝てないんだったな」

 

「…それは七草に」

 

「そこまでだ」

 

このままだと魔法を使う喧嘩になると判断した十文字は止めた。

これ以上は本当に、特にオープンハイスクールで色々と来ている中でやったらおしまいだ。

 

「お前達は手塚に用事があるのだろう?それならば、先ずは本人が現れてからだ…市原」

 

「…分かりました」

 

こうなった以上は連絡するしか無いなとテレビ電話をかける市原なのだが…

 

『お掛けになった番号は現在使われておりません』

 

「え?」

 

電話は繋がらなかった。

現在電波の届かない所に居るのではなく、番号が使われていないと来た。

どう言うことかと、もしかして自分達と完全に縁を切るつもりなのかとショックを受ける。

 

「た、大変よって貴女達!?」

 

「お、お姉さま…」「お、姉ちゃん…」

 

「なんでこんな所にって、今はそんな暇はないわ…大変なのよ」

 

「どうした、七草?

…やはり、司波兄妹の飛行術式は問題だったのか?」

 

どう言うことだとショックで固まっていると、慌ててやって来た真由美。

泉美と香澄は無断でテニス部に来ており、ヤバいと言う顔をするのだが怒らずに苦虫を噛みしめた表情になる。

十文字は手塚が去った後に行われたミラージ・バット本選で達也が発表されたばかりの飛行魔法を深雪用に調整して使わせた事が問題だったのかと考える。

飛行魔法は凄いのだが、ミラージ・バットのルールを根底から覆すものであり、運営もその辺の調整が出来ていない。

来年辺りから禁止になるかミラージ・バットそのものが無くなるんじゃないかと危惧しており、苦情が入ってミラージ・バット優勝取り消しになったんじゃとなるのだが真由美は首を横に振る。そんなものよりも、とんでもない事

 

「まだ確かな証拠とかは無いんだけど……手塚くんが、死んだって……」

 

手塚光國の死を教えた。



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