DOGDAYS ~ガレットの勇者の親友~ (夜神)
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第1話 「始まり」
今日は7月22日――場所は英国シティー・オブ・ロンドン。
時間帯は夜の11時を回っている。子供が出歩いていい時間帯とは決して呼べないが、俺は友人と共に駅に向かって歩いていた。
隣で電話を掛けている友人の名は高槻七海。俺の幼馴染であり、アイアンアスレチックという大会で昨年優勝した運動神経抜群の少女だ。
……正直に言ってしまえば、俺の意中の相手でもある。
このことを誰かに知られると、今七海が誰と電話しているのか気になるかと聞いてくるだろう。
確かに普通ならば気になる……が、今話している相手は彼女の従弟であるシンク・イズミという少年だ。俺にとっても弟のような人物である。
もっと具体的に説明するならば、七海に近しいほど運動神経の良い奴である。
去年のアイアンアスレチックで準優勝したことからそれは間違いない。そして、良い意味でアホだ。それで七海に負けないほど色恋に疎い。
「……何で分からないんだろうな」
シンクにはレベッカ・アンダーソンという幼馴染がいるのだが、彼女ははたから見ていてシンクに好意を持っているのが分かる。世話焼き気質でシンクのことを誰よりも理解しているのだから、付き合えばいいのにとこれまでに何度思ったことか。
まあ……あのシンクに好きだと告白したところで
『うん、僕もベッキーのこと好きだよ』
と返されるのがオチだろう。
告白したのにLikeで返されるのはきつい……きついんだよな。
「ん? 何が分からないって?」
隣を歩いている七海が首を傾げながら訪ねてきた。どうやら一部考えていることが漏れていたらしい。
――危なかった……ってこともないか。
こいつ、他人の色恋には割りと敏感。でも俺の色恋には超が付くほど鈍感だし。前に勇気を出して告白したときも……
『うん? あたしも好きだよ。1番の親友だし』
って笑顔で言ってきたんだよな。これはもう血が為せる業なのかね。
あぁ……思い出しただけで憂鬱になってきた。何で俺はこいつのことが好きなんだろ。望み薄なんだから新しい恋を探せばいいのに……恋したほうが負けって言うけど、確かにそのとおりだ。
「……何でもない」
「何でもないって……とりあえず言ってみなよ。解決するかもしれないじゃん」
「だから何でもないって」
そもそもお前に言えることじゃないし……言ったところで俺がダメージ受けるだけだし。
気づいてほしいときには気づいてくれないくせに、気づかなくていいときに限って敏感に気づく。お前は何なんだよ。俺のこといじめて楽しいのか。
「本当に?」
「本当に……しいて言えば、これからどこに行くのか分からないから不安なだけだ」
別に嘘は言っていない。
一緒に旅行に行こうと言われて今に至るわけだが、俺達を誘ったシンクは行き場所を秘密にし教えてはくれなかった。駅に迎えが来るそうだが、目的地が分からないというのは不安だ。
「あはは、あたしがいるじゃん。大丈夫だってアオバ」
心配して励ましてくれるのは嬉しいが、背中をバンバン叩くなよ。
それに笑顔を振りまくな……そんなんだから、いつまで経っても俺がお前のことを諦められないんだ。
ちなみに必要はないかもしれないが、アオバというのは俺の名前だ。
本名は上杉蒼羽……まあ住んでる場所が場所だけにアオバ・ウエスギと名乗ることのほうが多いんだが。
「痛いからやめろ」
「元気出したらやめる」
「叩かれて元気になってたら変態だろ」
「え? アオバはあたしに叩かれて元気になる変態じゃないの?」
……女相手にこう思うのはあれかもしれないが、時たま無性に殴りたくなる俺は間違っているだろうか。いや、間違ってはいないだろう。
適当に七海をあしらいながら歩いているうちに、待ち合わせ場所の駅に到着した。
俺と七海は誰が迎えに来るか分からないので、こちらに向かってきそうな人物を探して周囲を見渡す。
しかし、これといって俺達に意識を向けている人間はいない。
どうしたものか……、と考えていると、不意に近くから猫の声が聞こえた。意識を向けてみると、ネクタイをした黒猫がこちらを見ていた。
「おいでおいで」
暇つぶしにちょうどいいと思ったのか、七海はしゃがみこみながら手招きをした。
人に慣れているのか、黒猫は七海のほうに近づいてくる。背中に剣のようなものを背負っているが……おそらく玩具だろう。実物を持っていたら危険すぎる。
――ん……剣以外にも何か持ってるな。あれは……手紙か?
俺と同じように手紙に気が付いた七海は、黒猫が持っていた手紙を手に取った。
「……あたし宛?」
「は……マジか?」
「うん。ほら」
渡された手紙には確かに七海の名前が書いてある。ということは……つまり、俺達の迎えはこの黒猫ということになるのだろうか。
世の中には、道案内できる賢い動物がいるとは思う。
しかし、常識的に考えて普通は人をよこさないだろうか。動物を案内役にするにしても、一般的にこういうのは犬なんじゃないのか。そんなことを考えながら七海に手紙を返すと、彼女は封を切って手紙を読み始めた。
「えっと…………簡潔に言うと、この子に付いて行けって書いてあるよ」
「はぁ……何だか騙されてるような気分なんだが。でもシンクも何かと秘密にしてたし、今はそれに従うしかないか」
俺が言い終わるのと同時に、黒猫は付いて来いと言いたげに一度鳴いて歩き始める。
俺と七海は顔を見合わせた後、黙って黒猫の後を追い始めた。どこに案内されるのか、このまま付いて行って大丈夫なのだろうか……と思っているうちに到着したのは、とある建物の屋上。言うまでもなく人気は全くない。
「……なあ七海」
「うん?」
「帰っていいか?」
「はあ!?」
俺の問いに七海は盛大に驚き、少し怒った顔を浮かべながらこちらに近づいてくる。
「ここまで来て何言ってんの。というか、女の子ひとり残して帰る気?」
「いや、何ていうか怪しすぎるし。それに七海ならひとりでも大丈夫だろ」
「大丈夫って、アオバは男でしょ。男ならか弱い女の子を守るべきなんじゃないの」
確かに俺は男だが……七海はか弱い女子ではないと思う。大抵の男子より運動能力が優れているアスリートであり、また棒術も会得しているのだから。彼女をよく知る俺からすれば、絶対にナンパや痴漢は行いたくない人物だ。
「お前が一般的な女子ならそうするよ」
「どういう意味よ。それじゃあ、あたしがまるで普通の女の子じゃないみたいじゃない」
「お前のどこが普通の女の子だよ……」
「ア~オ~バ~!」
怒気混じりの文句を言われると思った瞬間、夜の闇を払うかのように緑色の光が発生した。
いったい何が……
と思い確認してみると、床に魔法陣のようなものが浮かび上がっていた。
超常現象に呆気にとられていると、剣を咥えた黒猫が魔法陣の中に入る。そして……俺と七海を手招きした。
「え、えぇ!?」
「……俺は帰る!」
「え、ちょっ!?」
「ぐ……何するんだよ!」
「それはこっちのセリフ! 何でひとりで逃げようと……」
言い争ってしまったのが運の尽きだった。
緑色の光が一層強く瞬いたかと思った直後、俺と七海は時空のトンネルのような場所を移動し始めていた。そこを抜けたかと思うと、大空から地面へと落下していることに気が付く。
待て待て待てぇぇぇい!
魔法陣みたいなのが出たときから予想したものの中にこういうのもあったけれど、この高さはやばいって。
このまま落ちたら確実に死ぬ。
まだ遣り残したことがたくさんあるのに……って、何で七海さんはそんなに落ち着いていらっしゃるの。もしかして落ち着いているよう見えて放心してる? なんて考えてる場合じゃない。
どうしたものか、と頭をフル回転させるが、俺と七海は何かに導かれるように豊かな自然と海に囲まれている都市へと落下していく。
自分達の周りを不思議な光が包んでいることにも気が付くが、だからといってクッション代わりになるのかは不明だ。今の速度のまま落下すれば、普通に考えて……考えたくもない。
「……広っ!? 海……ていうか空ぁぁッ!?」
反応遅っ!?
妙に黙ってるなとは思っていたが、やっぱり少しの間状況を理解できずに放心してやがったな。人のこと巻き込んでおいて……って、このままじゃ海に落ちる!?
などと内心慌てていると、海の中から小島のようなものが浮かび上がってきた。海に落下する心配はなくなったが、だからといって今の速度で落下した場合、海だろうと地面だろうと大差がない気がする。
「アオバぁぁ!」
普段とは違って弱々しい感じに助けを求めてくる七海。正直この状況で助けを求められても困るのが現実なのだが、俺は反射的に七海を強く抱きしめていた。
このまま何の力も働かずに背中から落ちれば、間違いなく命を落とすだろう。
でもせめて七海だけは……、などと考えている自分がいる一方で、いったい何をやっているのだろうかと思っている自分もいた。
「んッ――!?」
地面に落ちるの同時に息が詰まり、一瞬遅れで七海の体重も加わりさらに息が詰まった。息苦しさと痛みを感じるあたり、どうやら魔法のようなものが働いてくれたらしい。
生きているということはなんて素晴らしいことなんだろうか……シンク、今度会ったときは覚えてろよ。
「ごほっ、ごほっ……」
「いつつ……アオバ、大丈夫?」
「ごほっ……お前……ごほ、見た目以上に重いな」
「――っ、人が心配してやって……」
不意に感じた気配に視線を向けてみると、長い銀髪の女性が立っていた。
青を基調とした騎士のような衣服にマントを身に着けており、発せられる雰囲気には凛々しさと気品を感じた。だがそれ以上に目を行くのは、彼女の耳だ。まるで彼女の耳は、猫科の動物のような……
「……頭痛くなってきた」
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第2話 「参戦?」
お帰り勇者様、歓迎戦興行。
現在進行形で行われている国民参加型運動イベントを、俺は七海とレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ――周囲からレオ様、閣下と呼ばれている人物と共に見ていた。
戦なんて物騒な名前が付いているとおり、犬っぽい人や猫っぽい人は武器を持っている。ただどういう原理かは分からないが、強い衝撃を受けた人は玉っぽい何かに変化していた。そのへんのことを詳しく聞いてみると、フロニャ力という不思議な力による加護があるので怪我はしないとのこと。
レオ様、閣下……まあ内心では何でもいいか。彼女は足りない知識をすぐに補足説明してくれているのだが、正直な話あまり耳には入ってきていない。
「え……シンクが勇者?」
「そう。ビスコッティの勇者としてビスコッティを救ってみせた」
「へぇ……でも確かにこういう競技ならシンクは活躍できそうですね」
あのアホが……などと思いもするが、映し出されている戦の映像を見る限り、アスレチックにチャンバラが加わったようなものにも見える。アスリートであり、棒術を扱えるシンクならば七海の言うように活躍できてもおかしくはない。
「うむ、あやつはなかなかに良き勇者であった」
「でもいいなぁ……楽しそうだなぁ」
えぇ……いや、確かに参加者はみんな楽しそうだけどさ。
でも訳の分からん方法で呼ばれて、部分的な説明だけされてこんなもの見せられてるのに何でそんなワクワクした顔ができるの。俺、軽くパニックを起こしたままなんだけど。
「ならば、おぬしも参加するか?」
「いいんですか!」
「ああ……実はそのつもりでおぬしを我が国に呼んだのじゃ」
なるほど……確かに七海ならシンクに当てるにはちょうどいい。実力も現段階では七海のほうが勝っているし……
「タカツキ・ナナミよ、ガレットの勇者……やってみるか?」
マントを翻したレオ様は、笑みを浮かべながら七海に手を差し出した。それを見た七海は、同じような笑みを浮かべて彼女の手を握り締める。
この瞬間、ガレットの勇者が誕生したのだ!
……うん、俺って別にいらないよな。
この世界に七海ほどすんなりと馴染めてもいないし……すっげぇ場違いの気分。今すぐ帰れないかなぁ。
なんて思いながら、ふと画面に視線を戻すとガウルとかいうレオ様の弟にシンクが一撃繰り出したところだった。
勇者の名にふさわしいほど登場が実に派手である。
近くに居た親衛隊の猫っぽい少女3人組が声をかけようとした瞬間、彼女達の武器や防具が壊れる。
おぉ……会わない間にずいぶんと鍛えたんだな。それに……凄いなあいつ。あんなに気軽に女の子に触れられるなんて。俺はスポーツでもあんなに簡単に異性には触れられないぞ。
『え……一瞬で』
『うーん、お見事』
『せやけど、これくらいのダメージやったら……』
身構えながら話す3人組に降り注ぐ集中砲火。
直後、画面に映る3人はすっぽんぽんになっていた。怪我をしていないことに安堵する一方で、このまま見てはいけないと思った俺は視線を逸らす。
……スポーツだから……安全面は考慮されてるからといってもこれはやりすぎだろう。サービス精神としては素晴らしいけどさ。俺も年頃だから興味はあるし。
今やったの……小さな女の子と忍者っぽい格好の女の子みたいだば。それにしても……あの忍者の子、実に胸でかい。
「時にウエスギ・アオバ」
「は、はい!?」
「ん、どうしたのだ。そんなに慌てて?」
「え、あっ、その……七海ほど状況についていけてないというか」
嘘は言っていない。嘘は言っていないぞ。
いやらしい視線を向けてしまったことがバレたのかと思って慌てたわけだけど、決して嘘は言ってない。言ってないことがあるだけだ。誰に向かっての言い訳なのか分からんが。
「まあ無理もないと言えばないが……おぬしも戦に参加してみぬか?」
まさかの誘いである。思わずフリーズしちゃったね。
だってさ一応七海の影響でアスレチックの経験はあるものの、彼女やシンクに比べれば劣るもの。それに……そもそも楽しむ余裕なんて今の俺にはない。だってまだ受け入れられてないことばかりだから。
「え……いや俺はちょっと」
「え、アオバも一緒にやろうよ。何ならアオバが勇者になってもいいからさ」
「いやいや、別に勇者とかに拘ってないから。というか、そのへんの決定権は俺達にないだろ。俺はここで見てるから、七海は楽しんでこいよ」
「えぇ、アオバもやろうよ。あれ、絶対楽しいって。やろう、やろう!」
駄々こねるみたいに誘う……何で引っ付いて来るんだよ。
もう俺達ガキじゃないんだぞ。お前、本当は俺の気持ち知ってて弄んでるんじゃないだろうな……それはないよなぁ。
だって七海だもん。あのシンクの従姉だもん。
「やろうってば!」
「あぁもう、分かったよ。やるよ、やればいいんだろ」
「さっすがアオバ。なんだかんだで言いながらも付き合ってくれる。大好き!」
などと言って抱きついてくる七海さん。
大好きという言葉に込められているのは友人としての意味しかないと分かってはいる。が、それでも嬉しいと思ってしまうのが惚れてる者の宿命。きっと身体的距離も相まって俺の顔は赤くなっていることだろう。
もうこいつは……うわぁ、レオ様凄くにやけてる。
絶対俺が七海のこと好きなのバレたよ。いや、まあ普通はバレると思うけどね。七海やシンクが鈍感すぎるだけで。
「離れろ、離れろって!」
「む……それってあたしなんかに抱きつかれても嬉しくないってこと」
バカ、アホ、鈍感。嬉しいから逆に困るんだろうが!
「まあ確かに、あたしはスポーツバカって感じの女の子で魅力ないかもしれないけどさ。それでも女の子なんだけどなぁ」
チラチラ見るな。
お前は俺にとって現状では誰よりも魅力的な奴なんだよ。人の好意には全く気づいてないくせに、こういうときだけそんな態度取るな。
「……女の子扱いしてほしいならシンクのところに行けよ」
「シンクは従弟じゃん。もう、そんなんだからアオバは女の子にモテないんだよ」
モテないってそんなの当たり前だろうが。
身近な友人達には、俺がお前のことが好きだってバレてるんだから。俺から他の女子にアタックすることはないし、好きな奴がいる男子に声を掛ける女子なんてそうそういないだろ。
「ほっとけ」
「だから、そういうところがダメなんだってば」
「別に俺の色恋とかお前には関係ないだろ」
「関係あるよ、アオバは親友だもん」
親友……親友……親友ね。
うん、これまでに何度も言われてきた。そんなに気にしてない。
だって相手はこちらがLoveで告白してもLikeの返事を返してくる鈍感な七海さんだよ。七海さんが1番悪いとは思うけどさ、そんな彼女をいつまでも好きでいる俺も悪いのさ。ハッハッハ……。
「……はぁ~」
「…………」
レオ様、ここで何も言わずに優しく肩を叩いてくれるあなたは良い人だよ。良い女だよ。俺もこういう物分かりが良い人を好きになってたら今みたいに苦労しなかったのかな。
そんなことを考えている間にも参加すると意思表明したので準備は進んでいく。
俺は勇者である七海とは用意するものが違うということで別の場所に案内された。その間にどういう得物や色が好みか聞かれ、侍女達は要望にあったものを瞬く間に準備してみせた。さすがは王家に使える侍女さんである。
「……お~」
思わず声が漏れたが、これは感嘆の声ではない。
用意してもらった衣類に着替えているわけだが、何ていうか……コスプレしているようで恥ずかしい。そう自分を見ている客観的な自分が声を漏らしたのだ。こっちではこういう騎士っぽい服が当たり前なんだろうけど。
用意された衣類は黒のぴったりとしたレザーパンツに同色のロングコート。ブーツに至るまで黒一色である。
俺は黒髪黒目であるため、これでは全身黒ずくめ。あちらの世界ならコスプレや厨ニ扱いされてもおかしくない。
だが戦に出ると言ったのは俺であり、シンク達も似たような格好をしているのだ。恥ずかしさを我慢すれば、切れないことはない。でも……
恥ずかしいものは恥ずかしい! だって俺、あの従姉弟とは感性違うもの!
内心でこの状況を誤魔化すように叫びながらも着替え終わった俺は、用意してもらった得物を左腰に着ける。
「これでどれくらいやれるか……」
今身に着けているのは、反りのある片刃の刀剣。まあぶっちゃけ太刀である。
扱う武術の関係上、日本刀のような形状が好ましかったからだ。まあここは異世界なので日本刀とは厳密には違うだろうが。
それでもこの刀は、刀身を見る限りなかなかの逸品だ。
王家が用意してたものなのだから当たり前かもしれないが、まずは刀剣を打つ者がいなければ存在しえない。この世界にも優れた刀匠が居るということなのだろう。
もっと自分好みのものが欲しければ、ビスコッティ側のダルキアン卿と呼ばれる人物に相談してみると良いと言われた。
とはいえ、今後も戦に参加するかは分からない。何より今すぐ相談するのは無理な話。まあ手に馴染んでないものとはいえ、多少違和感があるだけで
「戦えないわけじゃない」
紅色の鞘から太刀を抜き放ち、軽く体に馴染んだ型通りに振ってみる。
よし、と小さく声を漏らした直後に侍女達に見られていることに気づいた。視線が合うと「お見事です」や「ご武運を」などと声をかけられる。
恥ずかしさを感じながらも返事をした俺は、少し急ぎ足で戻る。
元居た場所に戻ると、ちょうどレオ様が演説を行っていたところだった。どうやら七海の準備も整っていたようだ。
「これがガレットの勇者だ!」
直後、砦の塀の近くに高台が現れる。だがそこに七海の姿はなかった。
まさか段取りに狂いが、と思った矢先――花火が塀沿いに上がっていき、その先に七海の姿があった。
塀の上をバック転などで移動しながら盛大に飛び上がると、空白だった高台の上に見事に着地してみせる。
「レオ様のお呼びに預かりガレットの勇者、高槻七海。華麗に見参!」
うん……ノリノリだなぁ。
七海の登場の仕方に俺は感心しつつもどこか呆れた。七海らしいといえば七海らしいのだが、だがそれでも何であそこまで楽しめるのだろう。
このように思う俺のほうがおかしいのか、と思っていると、画面に桃色の髪の犬っぽい少女の姿が映る。アナウンスによると、どうやらガレットと現在敵対中の国のお姫様らしい。
へぇ、あれがあっちのお姫様ね。
ってことは、シンクを呼んだ人物ってことになるのか……どうせあいつのことだから誑し込んでるんだろうな。
もっとベッキーだけを見てやれ、と内心で呟いていると、画面にベッキーの姿が映る。あちらの姫様の目的は、戦に参加していないベッキーの紹介のようだ。
『現場はすごい盛り上がりですね。ですが、こちらにも両勇者の幼馴染レベッカ・アンダーソンさんが来てくれています』
『あ……えっと、あの……こんにちわ』
ベッキー……やっぱりお前は俺の仲間だよ。
いきなりこんなところに連れて来られて、戦なんて名のスポーツ見せられて、紹介とかされたら恥ずかしいよな。
俺とは少し立場が違うけど、お前だけだよ俺と似た感性で居てくれるの。お前の存在に超感謝だね!
「……いや待てよ。この流れからして次は俺か?」
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