転生したらボク、勇者になったよ!! (冬空星屑)
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プロローグ
死亡――そして転生――


 これは、短編小説『転生したらボク、勇者になったよ!』の連載版です。

※短編同様、号泣シーンにシュールになってます。ご注意下さい。


 ユウキは、もはや遥かな昔のように思えるあの日、二人が剣を交えたまさにその場所に立っていた。

 

 

 あっ、アスナ……。来てくれてありがとう。泣かないでね。

「――ありがとう、アスナ。ボク、大事なことをひとつ忘れてたよ。アスナに、渡すものがあったんだ。だから、どうしてももう一度ここで会いたかった」

 これだけは渡さなくっちゃね。向こうでは渡せない、私が生きたこの世界で、唯一残せるモノだから。受け取ってほしいな。

「なに? わたしに渡すものって」

「えーとね……いま作るから、ちょっと待って」

 ウインドウを操作して……よし。

 ふぅ。全力でいくよ!

 

「やあっ!!」

 

 お母さん、アスナを守ってね。

 

 ボクが大樹をへし折る勢いで放った渾身の十一連撃は、青紫色の眩い光を四方に迸らせる。ボクは生じた突風に倒されないように必死だ。

 少しするとボクの剣の剣尖を中心にして、小さな紋章が展開していく。

 四角い羊皮紙が大樹の表面から湧き出すようにジェネレートして、青く光る紋章を写し取ると、端から細く巻き上げられていく。

 剣を戻し、完成したスクロールを左手で掴ん……あれ……?

 

 ……かしゃん。

 

「へんだな……。痛くも、苦しくもないのに、力が入らないや……」

 

 

≪確認しました。『痛覚無効』獲得……成功しました。続けて『精神攻撃耐性』獲得……成功しました。さらにエクストラスキル『剛力』獲得……成功しました≫

 

 

「だいじょぶ、ちょっと疲れただけだよ。休めば、すぐによくなるよ」

「うん……。アスナ……これ、受け取って……。ボクの……OSS……」

 ボクはスクロールを握った左手をアスナに向かって、ゆっくりと伸ばしていく。

 

 

≪確認しました。OSS……オリジナル・ソード・スキル……情報不足により一部実行不能。失敗しました。代行措置として、エクストラスキル『剣技習熟』を獲得……成功しました≫

 

 

「わたしに、くれるの……?」

「アスナに……受け取って……ほしいんだ……。さ……ウインドウを……」

 

 

≪確認しました。ユニークスキル『情報一覧(システムウインドウ)』獲得……成功しました≫

 

 

「……うん」

 アスナはウインドウをだして、OSSの設定画面を開いてくれた。ボクはそのウインドウの表面にスクロールを置く。ボクは必死に笑いながら、それでも消え入りそうな声で囁く。

「技の……名前は……≪マザーズ・ロザリオ≫……。きっと……アスナを……守って、くれる……」

 

 

≪確認しました。ユニークスキル『祈祷者』獲得……成功しました≫

 

 

 アスナはついに堪えきれなくなった涙を幾粒か、ボクの胸元に落とした。でも微笑みは消さないまま、はっきりとした声で言ってくれた。

「ありがとう、ユウキ。――約束するよ。もしわたしがいつか、この世界から立ち去る時が来ても、その前に必ずこの技は誰かに伝える。あなたの剣は……永遠に絶えることはない」

「うん……ありがと……」

 ボクの剣は絶えない、か……。嬉しいよ、アスナ。

 

 

≪確認しました。エクストラスキル『剣技習熟』をユニークスキル『絶剣(タエナキケン)』に進化させます……成功しました≫

 

 

 羽音……。

 だれか、きたのかな?

 ……あれ、みんな? なんで?

 

「なんだよ……みんな、お別れ会は……こないだ、したじゃん。最後の見送りは……しないって、約束……なのに……」

「見送りじゃねぇ、カツ入れに来たんだよ。次の世界で、リーダーが俺たち抜きでしょぼくれてちゃ困るからな」

 

 ジュン……。

 

「次に行ってもあんまウロウロしねえで待ってろよ。俺たちもすぐに行くからさ」

「何……言ってるの……。あんますぐ……来たら、怒る……からね」

「だめだめ、リーダーはあたしらがいなきゃなんもできないんだから。ちゃんと、おとなしく待っ……待って……」

 

 ノリ……。

 

「だめですよ、ノリさん……泣かないって、約束ですよ……」

 

 シウネー……。

 タルケン……、テッチ……。

 

「しょうがないなあ……みんな……。ちゃんと、待ってる……から、なるべくゆっくり……来るんだ、よ……」

 

 元気でいてね……。

 

 

≪確認しました。ユニークスキル『祈念者』獲得……成功しました。続けてユニークスキル『祈念者』をユニークスキル『祈祷者』に、『情報一覧(システムウインドウ)』により統合。同系統の能力を得たことにより、ユニークスキル『祈祷者』はユニークスキル『祈願者』に進化しました≫

 

 

 そのあと、キリトにユイ、リズベット、リーファ、シリカが飛んできた。

 みんな……。

 そのあともまだ飛翔音は続いている。幾つも、幾つも重なって、荘厳なパイプオルガンみたいだ……な……。

 

 

 それは世界中に反響していく。妖精たちが、愛した(・・・)妖精の門出を寂しがりながらも、祝う(・・)が如く……。

 

 

 あぁ……。

 

「うわあ……すごい……。妖精たちが……あんなに、たくさん……」

 

 

≪確認しました。ユニークスキル『妖精之寵子(アイサレルモノ)』獲得……成功しました≫

 

 

「ごめんね、ユウキは嫌がるかもって思ったんだけど……わたしが、リズたちにお願いして呼んでもらったの」

「嫌なんて……そんなこと、ないよ……。でも、なんで……こんなに、たくさん……夢……見てるのかな……」

「だって……だって……」

 アスナはまた、ポタポタと涙をこぼす。泣かないで、アスナ……。

「ユウキ……あなたは、かつてこの世界に降り立った、最強の剣士……。あなたほどの剣士は、もう二度と現われない。そんな人を、寂しく見送るなんて……できないよ。みんな、みんなが、祈ってるんだよ(・・・・・・・)……ユウキの、新しい旅が、ここと同じくらい素敵なものに、なりますように、って」

「…………嬉しい……ボク、嬉しいよ……」

 すぅ……、ふぅ――。

「ずっと……ずっと、考えてた。死ぬために生まれてきたボクが……この世界に存在する意味は、なんだろう……って」

 

 

≪確認しました。ユニークスキル『求道者(モトメルモノ)』獲得……成功しました≫

 

 

「何を生み出す(・・・・)ことも、与える(・・・)こともせず……たくさんの薬や、機械を無駄遣いして……周りの人たちを困らせて……自分も悩み(・・)苦しんで(・・・・)……その果てに、ただ消えるだけなら……今この瞬間にいなくなったほうがいい……何度も何度もそう思った……。なんで……ボクは……生きてるんだろう……って……ずっと……」

 

 

≪確認しました。ユニークスキル『死逝者(シニイクモノ)』獲得……成功しました≫

 

 

「でも……でもね……ようやく、答えが……見つかった、気がするよ……。意味、なんて……なくても……いきてて、いいんだ……って……。だって……最後の、瞬間が、こんなにも……満たされて……いるんだから……。こんなに……たくさんの人に……囲まれて……大好きな人の、腕のなかで……旅を、終えられるんだから…………」

 アスナ、大好きだよ。ありがとう……。

「わたし……わたしは、必ず、もう一度あなたと出会う。どこか違う場所、違う世界で、絶対にまた巡り合うから……その時に、教えてね……ユウキが、見つけたものを……」

 ……うん。は――――っ!?

 その時一瞬だったけど、ボクはアスナの瞳のその奥に、見えた気がするんだ。

 あれ? ボクまで涙が出ちゃうよ。

 

 

 ユウキの紫の瞳が、ぴたりとアスナの瞳を捉えた。かつて出会った時と同じ、無限の活力(・・・・・)勇気に満ちた輝き(・・・・・・・・)が、刹那のあいだ煌めいた。それはすぐに二つの水滴へと形を変え、溢れ、ユウキの白い頬を伝って滴り、光となって消えた。

 唇がごくわずかに動いて、微笑みのかたちを作った。

 

 それは世界に直接、響くかのように……。

 

 

 ねえちゃん……。

 

 ボク、がんばって、生きた……。ここで、生きたよ……。

 

 

 無垢な雪原に最後の結晶がひとつ落ちるように、≪絶剣≫と呼ばれた"勇者(ユウキ)"の魂は、世界を渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 あれ? ここ、何処だろう?

 

 気が付いたら、目の前に何処までも生い茂ってそうな広大な大森林があった。

 さっきまでは綺麗な青空が広がっていたのに、妖精が一人も見つからないや。

 

 

 あまりにも非現実的な様子にユウキは悟った。

 

 

「あは! まさか本当に"次の世界"にこられるなんて……」

 ジュン……、ボク、思ってもみなかったよ。

 

 

 ユウキが辺り一帯を確認すると、近くに巨大なムカデの化物が現れた。

 ユウキは咄嗟に左腰に手を伸ばし、愛用の細めの片手用両刃直剣(マクアフィテル)を抜き放つ。じゃりーん、と高い音が響き、木々に吸収される。黒曜石で作られたその剣は紫黒色に輝いている。

 

 あはは、装備はそのままみたいだな。それなら……、

「みんな、ボクはここで、精一杯生きるよ! 待ってるからね。だから、ゆっくり、うんうん。当分来なくて良いからね! はあぁ――!!」

 

 

 そして、ユウキはムカデの化物――エビルムカデ――に向かって走り出す。

 悩んで苦しんだ旅は、大好きな人の腕の中で終わった。

 

 

 今度はここから始めよう!

 

 

≪確認しました。ユニークスキル『死逝者(シニイクモノ)』がユニークスキル『旅立者(イキダスモノ)』に変化しました≫

 

≪確認しました。"界渡り"で魂が鍛えられたことにより、条件を満たしました。群衆からの『寵愛』『祈り』『祝福』の三要素が揃ったのを確認しました。また、『悩み』『苦しみ』『勇気』などの要素を確認しました。"勇者の卵"が宿ったことを確認しました。自動的に"能力改変(オルタレーション)"が発動……成功しました。ユニークスキル『妖精の寵子(アイサレルモノ)』、ユニークスキル『旅立者(イキダスモノ)』を統合して、ユニークスキル『祈願者』は究極能力(アルティメットスキル)祈望の神(ガネーシャ)』に進化しました≫

 

 

 少女の旅は終わり、また新たに始まった。

 しかし、少女の祈りと願いは世界を越えて届くだろう。

 これは"眠る騎士"たちがすぐには集まらないように祈り願った、一人の"勇者"の物語。

 だが、勇者になれば、因果は巡る。再び、騎士たちが相見(あいまみ)えるまで。

 

 

 

 

 

 

 




 楽しんで頂ければ幸いです。感想などがあれば、どしどし。



PRESENT STATUS

ユウキ・コンノ

種族――闇妖精族(インプ)
加護――勇者の卵
称号――絶剣
魔法――なし
固有スキル――『暗視』『飛行』『壁走り』
アルティメットスキル――『祈望の神(ガネーシャ)
ユニークスキル――『情報一覧(システムウインドウ)』『絶剣(タエナキケン)』『求道者(モトメルモノ)
エクストラスキル――『剛力』
耐性――『痛覚無効』『精神攻撃耐性』


 少しだけ編集しました。
 ルビとかルビとかルビとか。


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"勇者の卵"編
スキル確認


 ようやっと、ユウキのスキルが決まりました。
 いや、何も考えずに連載は大変ですね。(自業自得)
 リムル様を見習い、慎重に生きましょう、慎重に。
 二話です。どうぞ。


 ユウキがエビルムカデを秒殺すると、エビルムカデは魔素、いや情報子に還元されユウキの元へとやって来た。

 それが消えると、ユウキの目の前にウインドウがポップする。

 

「うーん。エビルムカデか。麻痺のブレス以外は大したことないかな。それにしても、なんでウインドウが出たんだろう?」

 

 ピコン!

 

「オワッ!? またポップした。え~となになに。ユニークスキル『情報一覧』の権能の一つ、『情報検索』の効果です、か。へぇ、どんなスキルなのかな?」

 

 ユウキが再び質問すると、またウインドウがポップする。そこにはこう記載されていた。

 

≪ユニークスキル『情報一覧』の権能は主に五つです。その効果は……

 

情報閲覧:自分や相手の『情報(ステータス)』を閲覧する。

 

情報操作:自分や相手の『スキル』『耐性』を一部操作する。

 

情報隠蔽:自分の『情報(ステータス)』を任意で隠蔽する。

 

情報記録:確認した『情報』や体験した『情報』を記録できる。またその記録を再現する。

 

情報検索:"世界の言葉"の権能の一部を流用し、欲しい『情報』を検索する。

 

 以上です≫

 

「な、なんかすごそうなスキルだね……。そう言えばさっきも何か聞こえてきたし、あれはなに?」

 

≪"世界の言葉"です≫

 

「へぇ、"世界の言葉"って言うんだ。じゃあボクの『情報』を表示してくれるかな?」

 

 ユウキの言葉により、ユニークスキル『情報一覧』が行使される。

 

 

 

ユウキ・コンノ

 

種族――闇妖精族(インプ)

加護――勇者の卵

称号――絶剣

魔法――なし

固有スキル――『暗視』『飛行』『壁走り(ウォールラン)

アルティメットスキル――『祈望の神(ガネーシャ)

ユニークスキル――『情報一覧(システムウインドウ)』『絶剣(タエナキケン)』『求道者(モトメルモノ)』

エクストラスキル――『剛力』

耐性――『痛覚無効』『精神攻撃耐性』

 

 

 

 

 

『祈望の神(ガネーシャ)』

被信仰:己を信仰するものに『神聖魔法』を行使させられ、また、自分も行使できる。

 

寵子:妖精や精霊の加護を得られやすくなり、また契約しやすくなる。

 

祈願:祈り願うことで、あらゆる障害を排除する。

 

部位再生:あらゆる損傷を癒す。

 

 

『絶剣(タエナキケン)』

超絶反応:全ての行動を一切のタイムラグ無しに反応できる。

 

思考加速:通常の千倍に知覚速度を上昇させる。

 

絶後:死後を絶つ剣……精神体、星幽体、魂に損傷を与える。

 

絶命:生命を絶つ剣……即死属性付与

 

絶空:空間を絶つ剣……空間属性付与

 

 

『求道者(モトメルモノ)』

解析鑑定:対象の解析及び、鑑定を行う。

 

並列演算:解析したい事象を、思考と切り離して演算を行う。

 

森羅万象:この世界の、隠蔽されていない事象の全てを網羅する。

 

予測演算:未来の事象を予測する。

 

生之真理:意味など無くても生きていて良い。寿命や病気で死なない。

 

 

 

 その後数日の間、スキルの確認にユウキは費やした。ユニークスキル『求道者』とユニークスキル『情報一覧』をリンクさせ、『森羅万象』や『予測演算』の精度を上げつつ、その情報を任意で脳内かウインドウに表示できるようにした。また、脳内に表示すれば『超絶反応』でタイムラグなく認識できる。理解するまでに時間はかかるが、少なくとも読む手間は省ける。

 また、『思考加速』『予測演算』『並列演算』『超絶反応』などの副作用による神経の切断などは、常に『部位再生』を発動させて置くことで無いものとしている。これでユニークスキル『絶剣』の『思考加速』を併用した、高速の演算も可能である。

 さらに『情報隠蔽』の効果によりステータスは勿論、溢れていた妖気(オーラ)も完全隠蔽済みだ。『情報』の中には、魔素(エネルギー)の量も含まれるらしい。

 結果、ユウキは……。

 

 

「や、やばい……。おなかすいた…………。アスナ……ボク、アスナのご飯が食べたいよ。ていうか、日本食が異世界にある気がしない。どうしよっか?」

 

 空腹で死にかけていた。

 当たり前だ。ここは『仮想世界』ではなく、『半物質世界』。そして、妖精とは言え、周囲の魔素のみで生きてはいけないユウキでは、食事は必須だ。

 ちなみに、空腹は寿命でも病気出もないので、『生之真理』を持っていても餓死はする。

 ユウキは食事を求めて歩みだす。

 そして、本人の意図することなくアルティメットスキル『祈望の神(ガネーシャ)』が発動し、あらゆる障害を排除する。ユウキが、ジュラの大森林でまともな食事にありつくための。

 

 そう例えば、何処かで死んだ何てことのないただの魂が"勇者"でもないのに、魂のみでの"界渡り"に成功したり。

 例えば、ちょうど良いタイミングで封印の洞窟の門が開いたことで、中から魔物が出たことを自由組合が気付かなかったり。

 例えば、何処かの貴族のせいで裁判所に連れていかれ、そのおかげで王に興味を持たれ、また有能な職人たちが仲間になった魔物が、街を作り始めていたり。

 

 

 常時発動(パッシブ)であるが故に、あまり役に立たなそうなその究極能力は、やはり究極能力なのだ。

 

 

 "勇者"を名乗れば、"勇者"になれば因果は巡る。

 

 それは、やがて"魔王"となる魔物と、"勇者"になるであろう"卵"との出会いから始まる。

 

 

 




 どうでしたか?
 いや、さすがは"勇者"。強いです。

 えっ? 時系列が可笑しい?
 いえいえ、気にしたら負けです。
 あえて言うなら、リムルはちょっとだけ過去に転生したのでしょう。
 ほら、幼馴染みのレオン君(百歳オーバー)とクロエちゃん(女性の年は聞いちゃダメ!)みたいな。

 さて、言い訳はこのくらいにして、次話もお待ちください。


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三人の異世界人

 さあ、やっと三話目。
 お楽しみに。

 


「うおおおおぉぉ!!!!」

 

 遠くから誰かが叫ぶ声が響く。

 

「うん? 何かあったのかな? 行ってみよう!」

 

 背中から半透明の紫色の羽を出して、ユウキは声のする方向へ飛び出した。

 少しすると、巨大な蟻が群れて走り、それから逃げる四人の人が見えた。

 

「『解析鑑定』! ふーん、巨大妖蟻(ジャイアントアント)か。蟻って、食べられるかな?」

 

 空腹なユウキは今は食べることにしか興味が無いようだ。

 

 

「死んだらカバルの枕元に化けて出てやる~!!」

「ふははははは! それは無理ってもんだぜ! なぜなら、俺も一緒に死んじまうからな!!」

「もう、いや~!!」

 

 どうやら必死に逃げている所のようだ。前衛職らしい男がカバル。化けてでそうな女の子は、魔法使いだろう。他には斥候(シーフ)のような男と仮面の人。

 すると覚悟を決めたのか仮面の人が蟻に振り向く。

 

「私が足止めをしよう」

「シズさん!? おい、よせって!!」

 

 斥候の男が叫ぶが仮面の人――シズと言うらしい――は立ち止まり剣に手を掛ける。

 

「心配いらない。あなたたちを逃がすくらいなら、今の私にもできる。この……」

 

 そして、巨大妖蟻(ジャイアントアント)の群と相対した。

 

「……"炎の力"を用いれば」

「ねぇ、ボクも助太刀するよ!」

「「「「えっ?」」」」

 

 そのとき、四人の声が重なる。

 空から降ってきた女の子に驚いたのか、はたまたその可愛らしさに驚いたのか。

 だが、それを待ってくれる程巨大妖蟻(ジャイアントアント)は甘くない。

 ユウキとシズに一斉に襲いかかる蟻たち。

 最初に動き出したのは、勿論≪絶剣≫ユウキだ。

 『思考加速』と『超絶反応』、さらにここ数日の修行とユニークスキル『情報一覧(システムウインドウ)』の補助によって習得した『魔力感知』を使用して、ただ一本の剣で蟻たちを蹂躙していく。

 逆にシズは"炎の力"を用いて蟻たちを焼き切り、切られた蟻はそのまま燃え尽きていく。

 スキルという点では、ユウキの複数あるユニークスキルに軍杯が上がるが、剣技では圧倒的にシズの方が上だ。

 当たり前だが、いくら≪絶剣≫とは言え、たった三年やそこら剣を振った少女が、五十年以上も研鑽を積んだ"英雄"に、技量(レベル)で叶うわけもなく。

 だが、少し焦って見えるシズの剣筋はわずかに鈍い。故に多少はユウキの剣も追随しているように見える。

 

 そして、ユウキの参戦もあり、比較的早く終わった殲滅戦に、シズがわずかに気を抜いた。

 その時……

 

「シズさん! まだだ!!」

 

 三人の内、誰が叫んだのかわからない内に傷が浅かった巨大妖蟻(ジャイアントアント)がシズを襲う。

 

 

「――伏せろ」

 

 その言葉と同時に天から黒く染まった巨大な稲妻が落ち、巨大妖蟻(ジャイアントアント)を焼き殺した。

 

 抉れた地面からはもぅもぅと煙が上がり、その稲妻の凶悪さを物語る。

 腰を抜かしたのかシズは座り込んで動けないでいる。その際に仮面が外れ素顔が見えていた。顔の左半分は痛々しい火傷の痕があるが、見た目は若く、美人と言える。

 カバルが「シズさん、大丈夫か?」と言いながら駆け寄る。続いて、斥候(シーフ)の男が近くに寄り、魔法使いの女の子が介抱をする。

 カバルたちが黒い稲妻を怪しく思っているとそのすぐ後、煙の向こうから声が聞こえてきた。

 

「うおおぉ。手加減したのに威力ありすぎだろ、この能力(スキル)……」

 

 そんなことを言いながら、煙の中から青白い粘体が現れ、

 

「うわぁ、ビックリした。すごい威力だね! 助けてくれたの? ありがとね、"スライム"さん」 

 

 ユウキがそれに声を掛けて礼を言った。

 ユウキは既に『解析鑑定』でこの場にいる全員の能力を調べ済みだ。故にただ一匹、≪妨害≫されたスライムに警戒していた。

 そして現れたのは、仮面を引っかけた月白色の何処か気品のあるスライムらしくない態度のスライム。

 戦闘での疲れが表れたのかシズは横になっているが、残りの三人は目を丸くする。最初に口を開いたのはカバルだ。

「…………え? スライム?」

 

 当然の疑問だろう。巨大妖蟻(ジャイアントアント)を一撃で倒す黒い稲妻を放ったのが、最弱種族(スライム)だと言われれば誰だってそう思うだろう。ユウキは実力の一端に気がついているが、そこは言及しない。

 

「なんだ、スライムで悪いか?」

「あ、……いえ」

 

 カバルの反応に少し気を悪くしたのか、少し威圧的だ。

 

「ほれ、仮面。そこのお姉さんのだろ?」

 

 シズは手を伸ばしそれを受けとる。

 

「すまんな、使いなれないスキルだったんで、手加減が分からなかった。怪我はないか?」

「ええ、大丈夫」

 

 スライムは何故か訝しげにシズの顔を覗く。

 だが、シズは気にせずに――あるいは気が付いていないのか――小さくスライムに微笑む。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

 その言葉と、シズの雰囲気で空気が緩んだのか、男たちがどっかりと腰を落とす。そして盛大にため息を放った。相当疲れているようだ。

 

「どうしたお前ら? 怪我でもしたのか?」

 

 スライムに問に何の抵抗もなく二人は答える。

 

「いや、精神的な疲労っつうか」

「あっしら、もう三日も巨大妖蟻(ジャイアントアント)に追われてたんでやす」

 

 一度喋り出せば、決壊したダムの如く延々と愚痴が続いた。

 荷物を落とした……。振り切ったと思ったら寝込みを……。どんどん増えて……。ぐだぐだ……。ペコペコ……。

 

「ええ~。ボクなんか、生まれてから一度もご飯食べたことないよ。もうペコペコでペコペコで」

「「「「「え?」」」」」

 

 五人――四人と一匹か?――の声が重なる。

 当然だろう。十五才くらいの女の子がそんなことを言えば。

 

「はあ、仕方ないな。簡単な食事ならご馳走するよ」

「スライムさん。この辺に住んでるの?」

 

 くるっと回り進みだしたスライムに、魔法使いの女の子が前のめりで質問する。

 

「そうだよ。引っ越したばっかでさ、この先で街を作ってる途中なんだ」

 

 三人組はボソボソと相談を始めるがユウキは違う。

 

「街!? ご飯もあるの?」

 

 "食事"におもいっきり飛び付いた。さっきまでの警戒はどこえやらだ。

 だが、他の四人はいまだ怪しんでいる。そこに、

 

「俺はリムル。『悪いスライムじゃないよ!』」

「「ぶっ!」」

 

 その言葉に二人ほど吹き出した。

 

「どうしたんでやすか? シズさん」

「いえ、なんでもない。それよりついていきましょう。この子はきっと信用できる」

 

 そういうと、シズはスライムを抱え、道を訪ねながら森を歩き出した。

 そのあと、何故か楽しげにシズとスライムは笑いながら街と向かった。

 

 ちなみに、スライムの登場が印象的過ぎて忘れかけられていたユウキは、道中にやっとお礼を言われた。

 

 

 




 予定の半分も進まなかったが、明日は平日。
 多分、書けないので、ここで投稿します。


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魂の繋がり

 一時間ちょっと遅れてしまいました。

 これで、転スラの一巻が終わりですね。
 楽しんで頂ければ幸いです。

 ちなみに作者は、漫画版のシズさんがとても好きです。小説(一巻)にはない笑顔が良いですね。
 ちなみに、「もぐもぐ」も天然? な感じで好きですね。
 あれ? 完全にネタバレですね。すいません。ではお楽しみに。・゜・(つД`)・゜・。


「ちょ、お前! それ俺が狙ってた!!」

「酷くないですか? それ、私が育てていたお肉なんですけどぉ!?」

「旦那方、こと、食事に関しては譲れないんですよ!」

「もぐもぐ」

「ばくばくばくっ、ひょい、がばばばっ、ひゅいひゅい、ぱくぱくっ、ごくごく、もぐもぐ」

 

 少しして…………。

 

「あーっ! ヒドイ、ギド。それ、あたしが狙ってたやつ!」

「食卓とは戦場なんでやすよ、エレンの姉さん」

「いいもん、カバルの貰うから」

「ギャー!! 俺の育てた肉が~~!!」

「もぐもぐ」

「もぐもぐ、うん! おいしい~!」

 

 …………しばらくして。

 喧騒(三人組に限る)は、まだ続く。

 

 

「スライムさん、スライムさん。焼けた鉄板に触れてるよ」

 

 シズがスライムに声をかけると、スライム――個体名:リムル・テンペスト――は慌てて粘体(て?)を鉄板から離す。

 

「溶けるかと思った」

「そうならなかったとこ見ると、熱に対する『耐性』があるのかな?」

「『耐性』?」

「異世界から渡ってくるものは、その際強く望んだ能力を得るの。それが『スキル』だったり『耐性』だったりする」

 

 リムルの問いに、シズが答えた。

 ちなみにリムルは『熱変動耐性』を獲得している。

 

「ああ、前世は刺されて死んだんだけど、その時に、体が『熱い』とか『寒い』とか思ったときに獲得したんだろうな」

 

 シズが、刺されてのところでわずかに驚くが特に聞き返したりはせずに話しを続ける。

 

「そっか、大変だったんだね」

「まあな」

 

 その後は、シズの話しが続いた。

 空襲のなか、街は紅蓮に包まれたこと。

 死にかけているときに魔王に召喚されたこと、などを。

 どうやらリムルは、苦労人なのだろうが擦れた感じがしないシズのことを気に入ったようだ。それはユウキにも同じことが言える。ここに来るまでに色々なことを話した。剣を教えてもらう約束(ユウキが無理矢理した)までしたほどだ。

 

「そう言えば君はどうなんだ?」

 

 今度はリムルがユウキに問う。

 

「え? ボク? ボクも転生者だよ。一週間くらい前に闇妖精(インプ)として、こっちに来たんだ。スキルに夢中になってたら餓死しかけちゃって。ご飯、ありがとね!」

「おい、大丈夫か? それにしても異世界人が三人も集まるとは奇妙なことがあるもんだな。それで、君はなんでこっちに来たんだ? そう言えば名前も聞いてなかったが……」

「ああ、ボク? ボクはAIDSが発症しちゃってね。前は、なんで生きてるんだろう、生きる意味なんて無いのにって、思ってたんだけど」

 

 リムルたちは押し黙った。

 

「でもね! ボク、後悔はないよ! だって、たくさんの人に囲まれながら、大好きな人の腕の中で、旅を終えられたから」

 

 その笑顔は、少し暗くなった雰囲気を簡単に吹き飛ばす程には、魅力的だった。

 

「それに、仲間たちがね、次の世界に行ってもうろちょろせずに待ってろ、って言ってたから。ボクはこの世界でも精一杯、生きるって決めたんだ!」

「そうか、頑張れよ。えっと……」

「そっか、ボクまだ名乗ってもいなかった。ボクは、ユウキ。紺野木綿季です。よろしくね、リムルさん」

「そうか、『ユウキ』っていうのか。俺のことはリムルでいいよ。こちらこそ、よろ……し…………」

 

 グダ~――――。

 そうとしか表現出来ないような形に、リムルは倒れた。

 

「え? スライムさん。大丈夫?」

「り、リムル様!? 大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。魔素が急に減って倦怠感が有っただけだ」

 

 シズが困惑し、リグルドが慌ててリムルに近付く中、ユウキは"世界の言葉"を聞いていた。

 

 

≪告。個体名:リムル=テンペストより"名付け"が行われました。身体組成が再構成され、新たな種族へと進化します≫

≪確認しました。種族:闇妖精(インプ)から闇妖耳長族(ダークエルフ)への進化……成功しました。全ての身体能力が大幅に上昇しました。固有スキル『闇視、暗中飛行、天井走り(シールラン)、聴覚強化』を獲得しました。続けて各種耐性を再取得……成功しました。『痛覚無効、物理攻撃耐性、精神攻撃耐性、熱変動耐性』――――以上を獲得しました。以上で進化を完了します≫

≪さらに能力獲得を試行……成功しました。コモンスキル『思念伝達、影移動、威圧』を獲得しました。≫

 

 

 

 そして、ユウキは進化の眠りに着いた。

 意識がもどっても動けない間には『思考加速』や『並列演算』などを行使して自分の能力の把握に努めた。

 

 さらに時間が過ぎ、七日間かけて進化に身体が馴染みユウキが目覚めると、街が焦土と化していた。

 

「え? なにこれ?」

 

 テントの外を確認して小さく呟いた。

 

「おお、起きましたか、ユウキ殿」

 

 ちょうどそこにリグルドと呼ばれていた筋骨隆々の人鬼族(ホブゴブリン)の村長がやって来た。

 

「ユウキ殿が起きた気配がありましたのでやって来たのですが、このあとどういたしますか? リムル様より丁重にもてなせと言われておりますので」

「え、えっと。状況説明をお願いできるかな?」

 

 ユウキがそういうとリグルドはこの七日間の出来事を語った。

 シズのイフリートが暴走したこと。リムルがそれを止めたこと。そして、ユウキが名付けによって進化したであろうことを。

 

「うーん。とりあえず、リムルに会ってみるよ、お礼もかねてさ」

 

 そう言って、ユウキは教えてもらったテントに向かった。すると……。

 

「いいよ。貴方の憎しみ(おもい)は、俺が引き継ぐ。貴方を苦しめた、男の名前は?」

「レオン・クロムウェル」

 

 少しずつだが、シズが老い始めた。

 

「約束し――――――っ!?」

「待ってよ!! シズさん!!」

「ユウキ……。君といると昔の生徒を思い出すよ。前向きで明るい、ユウキっていう男の子を。ちょっと重ねちゃったかな?」

「そんなのどうでもいいよ。いくらだって重ねていい。剣を教えてくれるって約束、なのに」

 

 あれ、なんでボク、こんなに必死なんだろう。そう思いつつもユウキはユニークスキル『情報一覧(システムウィンドウ)』を行使する。人の延命方法を検索するために。

 

「ユウキ、シズさんは……」

「あった! リムル、演算って、得意?」

「は? ああ、むしろそれくらいしか出来ない……」

「手伝って!!」

 

 ユウキはそう言うや否や、『思念伝達』で考えを教えて、名付けによる魂の繋がりを利用してユニークスキル『情報一覧、求道者』の制御をリムルに任せた。

 そして、ユウキは己の最高の能力、究極能力(アルティメットスキル)を初めて意識的(アクティブ)に行使した。

 ユウキが行使した究極能力(アルティメットスキル)『祈望之神』の権能の一つ『祈願』。それは祈り願うことで、あらゆる障害を排除するという、まさに『ガネーシャ』の名にふさわしいと言える能力だ。

 そしてこの能力を具体的に二言で表すと、『確定結果』と『法則操作』だ。ユウキが願った全てのことが、魔素(エネルギー)が足りさえすればどんなことでも叶えるスキル。

 これを使用してリムルの行動が必ず成功するように祈り願った。

 

 

 一方リムルは、伝えられた通りの行動を『大賢者』に任せていた。

 それは、ユニークスキル『情報一覧』の『情報記録』の記録能力と再現能力を使いシズとユウキの間に魂の繋がりを再現する。

 そしてユニークスキル『求道者』の『生之真理』で、シズに繋がりを経由して影響を与える。

 "生"には命を保つという意味が含まれている。

 本来、所有者(モトメルモノ)にしか効果の無い権能だが、魂の繋がりとユニークスキル『情報一覧』の『情報記録、情報操作』があれば、それも可能。言うなれば、『擬似的部分能力付与(ユニークギフト)』だろうか。

 魂の繋がりが無くなれば効果も無くなるが、これでシズは擬似的な不死者――寿命で死なない――になれる。

 そして、魂の繋がりによりユウキの、リムルから名付けで貰い、ユニークスキルなどを獲得しなかったために余った膨大な魔素(エネルギー)が一部とは言え、シズに流れ込む。

 そして『炎の魔人』は『爆炎の仙魔人』へと進化する。仙人と同様に、人よりも寿命が大幅に伸び、肉体が半精神生命体に変化する。

 その実力は技量(レベル)を加味すれば魔王種(Sランク)を凌駕する。

 

 ここに英雄は甦った。

 

 因果が巡り、運命は加速していく。

 その先が絶望か希望か、まだ誰もわからない。

 

 

 

 




 はい。というわけで、『嘘・゜・(つД`)・゜・(嘘泣き)』でした。

 こうなった原因は、私の友人が
「スライムなんだったら、人化せずにスライムでいろよ」みたいなことを言っていたからです。(確かに!)

 まあ、リムルは永遠にスライム、ということはたぶん無いでしょう。(だってデモンスライムに進化するし……)

 さて、では次回もお楽しみに! あいうぃるごーべっど……。


 ちなみに、英語は苦手です。



PRESENT STATUS

ユウキ

種族――闇妖耳長族(ダークエルフ)
加護――勇者の卵、暴風の紋章
称号――絶剣
魔法――無し
固有スキル――『闇視』『暗中飛行』『天井走り(シールラン)』『聴覚強化』
アルティメットスキル――『祈望之神(ガネーシャ)』
ユニークスキル――『情報一覧(システムウインドウ)』『絶剣(タエナキケン)』『求道者(モトメルモノ)』
エクストラスキル――『剛力』
コモンスキル――『思念伝達』『影移動』『威圧』
耐性――『痛覚無効』『精神攻撃耐性』『物理攻撃耐性』『熱変動耐性』


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大鬼族(オーガ)

 週末に急いで書き上げた物ですが、どうぞ!!



 村には平和が戻っていた。

 炎の巨人(イフリート)が暴れたにも関わらず、ホブゴブリン達は平然としていた。

 ゴブリン・キングに任命されたリグルドが見事な統率力を見せたのが大きいだろう。

 ユウキとシズが眠っている間に建設は進んでいた。ユウキのテント周りが焦土のままだったのは、大きな音を立てないようにという魔物達なりの配慮だ。

 

 場所は変わって、いつの間にか出来上がっていた丸太小屋の中の衣服関係の製作工房。

 小屋の中では、ガルムという名のドワーフがゴブリナ達に指示を出し、衣類を製作していた。

 

「おいっす、ガルム君。ちょっと彼女達の服を作って欲しいのだけど?」

「わかりました、旦那。ハルナ、彼女達の採寸を頼む!」

「えっ? ボクの服も作ってくれるの?」

「戦闘服だけじゃ困るだろ?」

 

 一連のやり取りに質問するユウキだが、リムルは当然だと言わんばかりに答える。

 

「ありがとね、スライムさん。それと……ガルムさんも」

「おお、任せとけ!」

 

 いまだにリムルのことを『スライムさん』呼びのシズだが、以前より親しくなったようだ。

 

「それより文句は言いに行かないのか?」

「うん。ほんとは他にも行きたい理由は有るのだけど、ユウキとの約束も有るからね。もう少したってそれでもダメなら、行こうとは思ってるよ。今の私ならもしかしたら、一発くらい殴れるかも知れないしね?」

「そうか……。まあ、当分はユウキと警備隊の訓練でもしてやってくれ」

「うん。わかったよ。じゃあユウキ、採寸が終わったら早速始めようか?」

「うん! よろしくね!」

 

 最終的にシズは、村に留まることにした。

 ユウキへの約束と恩もそうだが、何よりこのどこか不思議なスライムに希望を見出だしたからだろうか。それともユウキに希望を見出だしたのか。

 それは本人すらも断言はできない事柄だった。

 

 そして、翌日。

 戦場では、激しい戦いが繰り広げられていた。

 ユウキが進化したスキル『暗中飛行』で戦場に到着すると、リムルが大鬼族(オーガ)五人を相手に無双していた。

 

「あっ、ユウキさんじゃないっすか! 今、リムル様が助けに来てくれたとこなんすよ!」

 

 ゴブタが感激の声を上げる。

 残念ながらシズはいない。さすがのシズも、足場の悪く木が生い茂るなかを、飛行するユウキと同じ速度走るのは無理らしい。

 

(すごい……。シズさんの言う、B+ランクは有りそうなオーガ達をたった一人で……)

 

 正確には、ランガが桃髪の妖術師(マーヤー)を相手にしているが、些細な違いだ。

 まさに"邪悪な魔物"を体現したような姿になり、リムルはオーガ達を怪我をしないように倒していく。

 どうやらユニークスキル『捕食者』の『擬態』と、ユウキのユニークスキルへリンクしたことにより"情報子"の扱いを僅かだが覚えたらしい『大賢者』の荒業により、エクストラスキル『万能変化』を獲得しているようだ。

 その邪悪な魔物は、ランガをさらに大きくしたような黒狼に姿で、炎を纏い、凶悪なサーペントとムカデの姿をした尻尾を生やす。背中にはまるで悪魔の翼のような羽を生やし、何故か口から吐いた糸で、紫の女オーガをぐるぐる巻きにした。

 そのときの隙をつくかのように青オーガが攻撃を仕掛けるが、鱗で覆われた前足に剣を止められ、そのときの衝撃で剣が折れる。さらに青オーガの胸当てを破壊するほどの威力の蹴りにより、青オーガを吹き飛ばす。

 既に黒オーガは麻痺によって戦闘不能だ。

 

「エビルムカデの『麻痺吐息』、ブラックスパイダーの『粘糸・鋼糸』、甲殻トカゲ(アーマーサウルス)の『身体装甲』。さらに吸血蝙蝠(ジャイアントバット)の翼に嵐蛇(テンペスト・サーペント)の形をした尾、黒牙狼と似た体躯」

「不意打ちへの反応速度を見るに『魔力感知』も持っているでしょう。他にも多数の魔物の業を体得しているやもしれません。ただ擬態するスライムと思って、油断召されるな、若」

 

 白髪の老オーガの発言に感心した様子のリムルは、戦闘を止めるべく話し掛ける。

 

「ここら辺にしないか? そろそろ俺の言い分も聞いて貰いたいのだが?」

「黙れ、邪悪な魔獣め! どうせ最初のスライムの姿も我々を油断させる演技なのだろう!? 確かに貴様は強い。だからこそますます確信が深まった。貴様も、我々の里を滅ぼした邪悪な豚共を操っていた仮面の魔人の手先なのだろう? ただの豚頭族(オーク)如きに、我らが敗れるなど考えられぬ。全ては貴様と、今やって来た魔人の仕業なのだろうが!」

 

 リムル(と巻き込まれたユウキ)は困惑する。

 

((さすがに言い掛かりにも程がある))

 

 と。そのあとの語尾は省いたが……。

 とっさにリムルは弁解する。

 

「待てよ、それは誤解……」

 

 だが、リムルとは違いユウキはとっさに移動と受け流しに撤した。

 ユニークスキル『求道者(モトメルモノ)』の『予測演算』で辛うじて気付いた、リムルの首へ迫る刀に剣を振る。辛うじて愛剣(マクアフィテル)でのパリィに成功する。

 

「むむ、私も耄碌したものよ。まさかこれほどの剣士を見誤るとは……」

「さすがに不意打ちは見逃せないかな」

「ふふ、来るが良い、お嬢ちゃん」

「全力でいくよ」

 

 互いに好敵手を見つけたかのように剣士達は戦闘を始める。

 圧倒的に肉体性能と魔素(エネルギー)量、さらにスキルまでもが上回るユウキと、唯一技量(レベル)のみが圧倒的に上回る白髪の老オーガの戦闘は苛烈を極めた。

 『思考加速』『予測演算』『超絶反応』。さらに『剛力』により力を強化。果ては『絶空』すら発動させて挑むユウキと、剣の一本で張り合うたかがBランクの老オーガの剣士。

 何百年間も剣を極め続けた剣士と、スキルを駆使して張り合う生まれて二週間そこそこの少女。

 

 

 結果は、リムルが岩を蒸発させた驚きで互いに唖然としてしまい、そこで桃髪のオーガが仲裁に入ったので、着かずに終わってしまった。

 

 

 その後、勘違いを認めた赤オーガの謝罪により戦端は終結。理由はリムルとの圧倒的なまでの実力差で豚頭族(オーク)を引き連れなくとも、大鬼族(オーガ)の里を容易く壊滅させられると気付いたからだ。

 やはり、ユニークスキル『大賢者』により数多のスキルを完璧に使いこなすリムルと、未だ使いこなしきれていないユウキとの実力差は歴然のようだ。

 

 勘違いを認めてくれたことにホッとしたリムルは、どうせだから、と言いオーガ達を村に案内することにした。

 遅れてきた仮面の魔人(シズ)のことで一悶着が有ったとか、無かったとか…………。

 

 

 




 え? 戦闘シーンが無い?
 オークを殲滅するまで待ちましょう! お願いします ⤵️


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