FAIRY TAIL ─Salamander of the another One─ (そーめん)
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プロローグ





────これは新たなる《妖精の尻尾》の物語





 ────百年クエスト────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛いよ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 助けて…ナツ…

 

 

 グレイ…

 

 

 エルザ…

 

 

 ウェンディ…

 

 

 ハッピー…

 

 

 シャルル…

 

 

 みんな…

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 右の拳に炎を纏った少年があたしの横を通り過ぎた。

 その少年の左手は既に失われており、自分の炎で止血した痕が見られた。

 

 少年の拳を、男は受け止める。

 

 少年は火を吹く。

 

 躱される。

 

 少年は蹴りをいれる。

 

 躱される。

 

 

 

 片腕のみの少年は体のバランスが取れずその場に倒れ込んだ。

 男は少年を嘲笑う如く、力なく倒れる少年を攻撃する。

 

 

「やめて…」

 

 

 ほとんど声は出ていない。こんな掠れ声では…少年の耳には届かないであろう。唇だけが微かに動き、何度も…何度も…あたしは同じ言葉を繰り返した。

 

 周りには今の少年と同じくして力なく倒れる仲間達…。共に戦い…笑い合いあった…何者にも変え難い、かけがえのない仲間たち…。

 

 

「やめてよ…」

 

 

 声を出すたびに腹部が悲鳴をあげ、大量の鮮血が流れる。

 少年はあたしの方を向き…笑った。そして再び立ち上がり、男に向かって走って行く。

 

 無理だよ…こんなの…。

 

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!ナツーーーーー!!!!!!!」

 

 

 

「俺はぜってぇ…諦めねぇぞォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FAIRY TAIL

Salamander of the another One

 

 

 

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「夢…?」

 

 ルーシィは自室のベッドで目覚める。部屋の天井が霞んで見える理由が涙だと気づくのに時間はかからなかった。

 

 その涙を拭い、ベッドから起き上がり、シャワールームへ。

 

 熱いお湯を頭から被り、心を落ち着かせようとする。

 

 

 

 ガシャン!!!

 

 

 

 なにかが落ちる音が聞こえた…鍵は閉めたはずなのに…。

 そっか…また()()()が…

 

 ルーシィはタオルを一枚だけ巻き、音がしたリビングへ足を進ませる。アイツならタオル一枚で充分よね。

 

 そして、リビングへの戸を開ける。

 

「ちょっとアンタ達!!!勝手に人の部屋に入るなっていつも言ってるでしょうが!!!」

 

 

 目の前にいつもの仲間達が自分の部屋でくつろぐ光景が広がった。

 

 

『よう!ルーシィ』

 

『脱ぎやすい部屋だぜルーシィ』

 

『エルザ見て〜エロい下着〜』

 

『こ、これは凄いな…』

 

『ルーシィさんごめんなさい、ごめんなさい』

 

『なかなかいい部屋じゃない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻覚が消えた。いや…ここにみんなが居ないのは分かっている。

 

 アイツがいたから…みんながここに来てたんだ。

 

 そしてルーシィは音の主を発見した。

 写真立てだ。フェアリーテイルのみんなで撮った写真が入った写真立てが床に落ちてしまっていた。

 ルーシィはそれをそっと拾い上げる。その写真の中には、威勢のいい笑顔で笑う《ナツ》の姿があった。

 再び視界が歪む…。ポタ、ポタっと写真に涙が落ちた。

 

 

「ナツ…!!」

 

 

 一週間前…ナツは、死んだ。

 

 百年クエスト。百年間誰もクリア出来なかったクエストの総称。

 

 それを受注したルーシィ達フェアリーテイル最強チームは、イシュガルの最辺境に位置する《黒の迷宮》と言われる洞窟へ向かった。

 

 《ゼレフ書の悪魔崇拝団体 イルミナティ》の殲滅。

 

  途中までは順調だった。《イルミナティ》の下っ端達は《ラグナロク》にて最も大きな功績を残したフェアリーテイルのメンバーにはそれほどまでの強さには感じなかった。

 しかし…

 

 《七つの大罪》を名乗る七人の《イルミナティ》の幹部のたった一人の魔導士よってチームは半壊。全員が瀕死の重症を負った。

 しかし、それでも一人で大罪の一人に向かっていったナツは…相手の魔法により跡形もなく姿を消した。

 

 その後《イルミナティ》も《黒の洞窟》から姿を消し、クエストは失敗。百年間も誰もクリア出来なかったクエストだ、失敗したとしても『仕方ない』で済まされる。

 だが…失ったものは、何よりも大きかった。

 

 ゼレフを倒し、アクノロギアを倒したナツが…()()()()()()()()()に殺されたのだ。

 

 ギルドメンバーはナツの死を受け入れることが出来なかった…泣き、叫び、悲しみ…。全員が抜け殻のようにその場にうずくまった。

 

 フェアリーテイルのメンバーだけではない。セイバートゥース、ラミアスケイル、マーメイドヒール、ブルーペガサス、クワトロケルベロス、クリムソルシェール…。評議員やフィオーレ王国までもが、ナツの死を嘆いた。

 

 ルーシィは今日もギルドへ向う。本当はどこにも行きたくはない…だが、一人でいるのが辛いのだ。

 

 ルーシィは重い足を動かし、ギルドに向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──マグノリア──

 

 

 

 

「腹減ったァ…」

 

 

 目元まで伸びる黒い髪。背負ったリュックサックには大きなテント。

 この少年の目の先には…一つのギルド。

 

 

 

 妖精の尻尾はあるのかないのか…それは永遠の謎…永遠の冒険。

 

 冒険は終わることは無い。

 

 今まさに新たなる冒険が始まろうとしていた。

 

 一人の少年の手によって。

 

 

「妖精の尻尾…か…」

 

 

 フィオーレ王国、ここは魔法が溢れる世界。

 そこに、一つのお騒がせギルドがあった────

 

 その名も…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

プロローグという事で文字数が少なくて申し訳ありません。

図々しい事を言うようですが、お気に入り、評価、感想をお待ちしています。

それでは次回《Salamander of the another One》でお会いしましょう!


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第一話 Salamander of the another One





────この出会いは運命か、必然か





「なんで誰も責めねぇんだよ!!!」

 

 日中、フェアリーテイル。薄暗い店内の中で、一人の男が立ち上がった。

 グレイだ…。

 

「俺たちは…死んだナツを置いて逃げてきたんだぞ…!!あいつは俺たちにクエストのクリアを託した…なのに…俺たちは…」

 

「グレイ…落ち着け、お前らのせいじゃねぇ。」

 

 立ち上がったグレイをエルフマンが制す。

 そうだ…誰も責められるわけがないのだ。元々《イルミナティ》は戦闘特化集団では無かったのだ。百年クリアされなかった理由はゼレフ書の悪魔の《加護の呪い》が奴らを守っていたから…。つまり、ゼレフが死んだいま《イルミナティ》はただの宗教団体のはずであった。

 

 しかし突如現れた《七つの大罪》。評議員のビンゴブックや《闇ギルド》にもその名前は登録されていなかった。

 

 ルーシィとウェンディ、シャルルそして、ハッピーはギルドの一番端のテーブルに腰をかけていた。グレイの憤慨する姿は見ていられなかった。

 

「ギルドが…いつもとは違いますね。静かです…」

 

 ウェンディの不意のつぶやきに、ルーシィとシャルルは拳を握る。そして…

 

 ドガシャァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 いつもの様にテーブルが壊れる音がした。しかし次に発せられた声はいつもの騒がしい声とは違った…。

 

「この状況で落ち着いていられるかってんだ!!!」

 

「うるせぇつってんだろ!グレイ!!」

 

 グレイの苛立ちの声にガジルが立ち上がり、グレイの方へ向かってる歩いていく。そして、胸ぐらを掴み壁に叩き付けた。

 

「てめぇらがサラマンダーを殺したと思ってんなら、一生そう思っていやがれ!!!それともなんだ!?あぁ!?お前はずっと「グレイのせいじゃない気にするな」とでも言われ続けてぇのか!?飛んだ甘ちゃんじゃねぇか!!」

 

「黙れ!!!」

 

 その言葉に逆上したグレイは今度はガジルの胸ぐらを掴み、地面に叩きつける。

 

「じゃぁ逆になんでてめぇはそう平然といられる!!?ナツが死んだ方がいいとでも思っていたのか…ドラゴンスレイヤーが一人減れば自分の存在価値が上がるとでも思っていやがったのか!?違ぇだろ!!

お前は自分を偽ってるだけだ!!」

 

「お、おいやめろお前ら!」

 

「グレイ様!」

 

「ガジル!」

 

 ジュビアやレビィを初めとしたメンバーが二人の喧嘩を止めようと抑えるが、二人は止まらずお互いを睨みつける。

 その視線は…今までの《敵》を見る目と同じだった。

 

 憎い、邪魔…その感情が二人の視線から滲み出ている。

 

 

「やめてよ!!!」

 

 

 突如発せられた声に、一同は動きを止める。その声の主、ハッピーは二人の元へ駆け寄り、今にも泣き出しそうな声で口を開いた。

 

「やめてよ…ナツはこんな事望んでないよ…。ナツはそんな目で《仲間》を見ないよ!!」

 

 ハッピーはそう言ったあと、振り向きルーシィに近寄る。

 

「ねぇルーシィ…なんでナツは死んじゃったの?なんでオイラを置いて行っちゃったの?なんで…なんで…」

 

「っ…!!」

 

 ハッピーの涙で崩れた顔を見た途端に、ルーシィはハッピーを抱きしめた。自分の目にも涙が宿る。

 

「なんで死んじゃったんだよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 ハッピーの悲痛の叫び声はギルド中に広まった。

 ギルドメンバーは俯き、元の場所へ戻る。涙を流すもの、虚ろな表情になるもの、ギルドを出て自分の家に帰るもの…。

 

 もう、戻ってこないのだろうか…。あの楽しかった日々は…。

 

「ごめんね…ルーシィ…。」

 

 そう言ったハッピーはルーシィの胸から顔を離すと、ギルドをあとにした。

 

「ごめん…ウェンディ、シャルル…あたしも…今日は帰るね。」

 

「る、ルーシィさん…!」

 

「ウェンディ」

 

 何かを言いかけたウェンディの手を掴んだシャルルは無言で首を振った。

 ウェンディは一人ギルドをあとにするルーシィの姿を見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンっ!!

 

 

「きゃっ!!」

 

 突然ギルドの入口から現れた人影にルーシィは激突し、その場に尻餅をつく。

 人影はルーシィに気づくと、口を開いた。

 

「おっと、悪いな。前見て歩かなきゃあぶねぇぜ?大丈夫か?」

 

 差し出された大きな手から、この人影が男性であることを察した。依頼人かな?そう思いながらも、ルーシィは差し出された手を握り体を起こす。

 

「あ、ありがとう…ごめんね…っ!!」

 

 

 ルーシィはその少年の顔を見た途端に…心臓が止まりそうになった。

 

 

 髪色は黒でそれこそ違うものの、キリッとした目尻、目にかかった前髪、大きなリュックサックに備え付けられているテント、そして…

 

 

 竜の鱗の様なマフラー…

 

 

 そしてその少年の存在に、ギルドメンバー全員が振り向く。

 みんな、「ありえない」と言う様な表情を浮かべたまま…少年を視線に捉える。

 そして、ルーシィは無意識に口を開いた。

 

 

「……ナツ……」

 

 

 少年はポカーンという顔をしたあと、思いついたかのように喋り始めた。

 

「夏?あぁ…そろそろだな…それより、手離してくれるか?」

 

「ご、ごめん…!!」

 

 握りっぱなしの手をルーシィは離すと、少年はルーシィの横を通り過ぎ、ギルドの中に入っていく。

 周りの視線に気付いていないのか、少年は笑みを顔に浮かべたまま受付のミラの方へ向かって歩いていった。もちろんミラも少年を虚ろな表情で見つめたまま、少年が自分に話しかけるのを待った。

 

「あの…」

 

「えぇ!?あ、はい…依頼ですか?」

 

「あぁ…えーっと…」

 

 少年は息を大きく吸い込み、口を開いた。

 

「俺、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りに来たんですけど」

 

 この少年の言葉に、ギルドメンバーがピクリと動く。ナツに似た少年が…ギルドに…。

 

「マスターいます?それともおねーさんがマスター?」

 

 ミラさんは一度驚愕の表情に移ったが、いつもの気前の良い笑顔に戻ると少年の質問に答える。

 

「あぁ、ごめんなさいね。マスターは評議員の方に会いに行っててもう三日程帰ってこないの…。ギルドメンバー認証は今は出来ないのよ」

 

「えぇ!?そ、そんなァ…折角早めに着こうと思って来たのに…。ハッ!!そうだ、飯は出せます!?俺お腹ペコペコで…三日何も食ってないんすよ…」

 

「え、えぇそれならいいけど…何にします?」

 

「えーっと…じゃぁ…」

 

 少年はミラさんから差し出されたメニューを見ながら答える。

 

「じゃぁこのファイアパスタで!」

 

「…!!!」

 

 ファイアパスタ…ほぼナツ専用と言っても過言では無いメニュー。ミラさんは再び驚愕の表情をして少年を数秒見つめた。

 

「あ…こ、これは普通の人は食べられなくて…。その、違うのにしたら?」

 

「いやこれで」

 

 少年はニヤッと笑ったあと、後ろを振り向き空いている席がないか探す。そして…

 

「この席いい?お嬢さん」

 

「え?あっはい!」

 

 ウェンディの真正面に腰掛けた少年は重そうなリュックサックを地面に置き、パスタが出るのを待つ。

 未だに驚きが消えない一同は、少年を見つめ、固まったままだ。

 

 すると…

 

「おい」

 

「ん?」

 

「グレイさん…」

 

 グレイが少年の横に突然移動していたのだ。グレイは少年を視線に捉えたまま口を開く。

 

「いま、ギルドメンバーの募集はしてねぇ、悪いが帰ってくれ」

 

「お前がマスター?」

 

「ちがう」

 

「じゃぁ却下。何が悲しくて所属魔導士の言うことなんて聞かなきゃならねぇんだよ。」

 

「…っ!!」

 

「それによ…なんだこの辛気臭い雰囲気は?」

 

「お前に何がわかる…」

 

「なにも。ただ…これがアクノロギア討伐に最も貢献したギルドとはねぇ…とんだ根暗集団じゃねぇか」

 

「…っ!!!」

 

 落ち着いていた様子をしていたグレイだったが、少年の服を勢いよく掴み少年を睨みつけた。

 

「ちょっとグレイ!」

 

 ルーシィはグレイの体を抑える。今にも飛びかかりそうな勢いで少年を見ていたからだ。

 

「お?なんだ、やるか?」

 

 少年とグレイは互いを睨み合うが、それを破ったのはグレイからだった。視線をずらし口を開いた。

 

「やんねぇよ…そんな気分じゃねぇ…」

 

「あっそ…なんかあんま歓迎されて無いみてぇだし、()()()帰るわ。三日後にまた来る。」

 

 そう言った少年は後ろを振り向き、出口に向かって歩き始めた。再び沈黙が訪れ、ギルドメンバー全員が少年の背中を見ていた。

 

「まってよ」

 

 ルーシィは無意識に少年を呼び止めた。少年は顔の半分をこちらに向ける。

 

「名前…聞いてなかったわね。」

 

 少年は顔を出口に戻し、背中だけこちらに見せながら、かったるそうな声で答えた。

 

 

「ソラ・ドラコチェイン…覚えとけよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 再びギルドに沈黙が訪れる。誰一人として喋るものはおらず、耳が痛くなるほどの静寂だった。

 理由は先程訪れた少年、《ソラ》。

 そして、誰もが思っていた事をウェンディは不意に口に出した。

 

「似ていましたね…ナツさんに…」

 

 黙って頷いたあと、シャルルが答える。

 

「そうね、性格は違ったみたいだけど…顔つきというか、雰囲気というか…。」

 

「似てねぇよ」

 

 グレイが呟く。

 

「アイツとナツは…全然違ぇ…。」

 

 三度、静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 夜、家に帰る為に川沿いの道を歩いていたルーシィは横でプルプル震えながら歩くこいぬ座の精霊《プルー》に話しかけた。

 

「似てたよね…ソラって人と、ナツ…」

 

「プルー」

 

「プルーはどう思う?」

 

「プルー」

 

「似てた?」

 

「プルー」

 

「似てなかった?」

 

「プルー」

 

 駄目だ…話し相手にならない!!答えが全部同じ!!

 

「なんか今日は一段と疲れちゃった…今日は早めに寝よう…」

 

 アパートの鍵を開けたルーシィは靴を乱雑に脱ぎ捨てると、廊下からリビングに向かって駆け足で向かった。

 

「あ〜、やっぱり落ち着くわ。あたしの…」

 

 ルーシィは勢いよくリビングまでのドアを開き…

 

 

「よう!」

 

「部屋ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「なんであんたがいんのよ!!ルーシィキック!!」

 

「ぐほぉ!!」

 

 開けたリビングのソファの上に、骨付き肉を頬張るソラの姿があったのだ。

 

「いやぁそこの窓が空いてたからさぁ!」

 

「それあんた普通に不法侵入だからね」

 

「ルーシィ見て〜ここの壁爪研ぎに向いてるよ〜!」ガリガリガリガリ

 

「猫!!爪研ぐな!!…てかなんであんたら一緒にいるの?」

 

 ルーシィが首をかしげながら聞くと、ソラが答える。

 

「俺が侵入した時にもう居たぜ。なんか悲しい顔してたから一緒に飯食ってたんだよ。飯食えば悪い事は忘れられるからな。な?猫」

 

「あいさー!」

 

「《侵入》って言っちゃってるし…てか勝手に私の部屋で晩餐会を…」

 

「…」

 

「…」

 

 ソラとハッピーが互いを見つめあっている。

 

 

「猫が喋ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

「えぇぇぇぇぇ!?どこ?どこ?それ売れるよ!!」

 

「あんたよ!!!そして今更!?」

 

 ソラは頭を抱えながら再び訳の分からないことを口にする。

 

「あれ?猫ってなんだっけ?「ワン」って鳴く奴だったっけ?」「それ犬」

 

「違うよソラ!最近の猫は喋るのが普通なんだよ!」「それが違う」

 

 

 あーー!!!もーー何なのこいつ…まるで…!!

 

 まるで…

 

 そう言えばさっきまであんなに落ち込んでたハッピーが…自然に笑ってる…。この人と一緒にいただけで?

 

 

『ようルーシィ!』

 

『ちょっとここあたしの部屋なんですけど!!』

 

『見てールーシィの貰ったトロフィー綺麗にしといたよ〜』

 

『既にボロボロ!?爪立てんな!』

 

『これからもずっと一緒だろ?』

 

 

 不意に百年クエストに旅立つ前の会話を思い出す。『ずっと一緒』そう言ったのに…。どうして?

 

「う、うぅ…」

 

 突然涙が溢れ、ルーシィはその場にペタンと座り込んだ。

 

「ちょっ、えぇ!?おいどうした金髪!」

 

「ルーシィなんか変なもの食べたの!?」

 

「ごめん…ごめんね…。」

 

 ソラは頭をガシガシかいたあと、座り込むルーシィの目の前に座った。そして…

 

「お前の泣いてる理由は、ギルドの変な雰囲気も関係あんのか?」

 

「うん…」

 

「話してみろよ。」

 

「え?」

 

「これから俺もお前の仲間になるんだ。変な雰囲気の理由がわかんないんじゃぁ気持ちわりぃだろ?だから…」

 

 ソラはルーシィの頭にポンと手を置き、ニヤッと笑いながら言った。

 

「もう泣くな」

 

 その言葉を聞いた途端に体中が熱くなった。『泣くな』と言われたのに涙が更に溢れてくる。嗚咽が漏れ、何度も、何度もうなずいた。

 

「うん…うん…」

 

「お前もだ猫!」

 

 ルーシィの言葉を聞き、自分も泣きそうになっているハッピーの顔をソラは両手でギュッと潰した。

 

「お、オイラ猫じゃないよ…オイラハッピーだよ!」

 

「あぁそういや名前聞いてなかったな。ハッピーか…お前は?金髪」

 

「え?」

 

 溢れ出る涙を袖で拭っていたルーシィはソラの顔を見る。そして…答える。

 

「あたしは…ルーシィ。ルーシィ・ハートフィリア!」

 

 そしてルーシィはナツの事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ────評議員────

 

 

「一体何者なのだ!!《七つの大罪》というのは!?」

 

「新たなる闇ギルドなのか?」

 

「ビンゴブックにも載っていなかったのだぞ!」

 

「討伐隊を出すか?」

 

「フェアリーテイルの未来ある若き魔導士が殺されたのだぞ…そこらの魔導士では歯が立たたん。」

 

「むしろ百年クエストで死者が一人というのは賞賛すべきことではないのか?」

 

 《彼》は黙って耳を評議員に貸していた。その隣で、血のような赤い長い髪をした少女が震えた手を抑えている。

 彼女も仲間を守れなかった。誓ったはずだった。誰ひとりとして仲間を殺させないことを…家族を…殺させないことを。

 

「ならばもう一度六魔の時と同じ様に、フィオーレのギルドから精鋭部隊を」

 

「却下じゃ!!!!」

 

 《彼》は口を開いた。車椅子に乗っていて足は動かせないが、《彼》は隣の少女に合図を送ると、少女は車椅子を押して評議員の真ん中に鎮座した。

 

「家のガキが一人殺されたんじゃ…黙って見てる親はおらん…。相手が闇ギルドじゃろうが、宗教団体じゃろうが関係ねぇ!!」

 

 

「ワシら《妖精の尻尾》が、《イルミナティ》を、《七つの大罪》をぶっ潰す」

 

 

「いいだろう…では、妖精の尻尾マスター、マカロフ・ドレアー…そして、その護衛人エルザ・スカーレット。ギルドへ戻り魔導士達に伝えるのだ。」

 

「行くぞ、エルザ」

 

「はい!マスター!」

 

 

 運命は…既に動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








次回《ギルド加入試験 ソラVSグレイ》




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第二話 ギルド加入試験 ソラVSグレイ


 火竜立つ────






「それがナツ…ねぇ…」

 

 ルーシィの家。絨毯の上に座り込んだソラはあたしの話を丁寧に聞いてくれた。時々相槌も打ち、「すげぇなぁ」とか、「バカだなぁ」とか、リアクションも取ってくれるものだから夢中になって話してしまった。

 

 ハルジオンで出会ったことから、アクノロギアを倒した事まで…まるで子供が親に今日あった出来事を話す時のように、笑いながら話した。

 

「うん…これがナツだよ。」

 

「最期まで…お前らを守るために戦ったんだな。」

 

「うん…」

 

 ルーシィは続ける。

 

「それでね、アンタが凄いナツに似てるんだ。顔とか、雰囲気とか、だからギルドのみんなはあの時すごい動揺してたんだよ。ねぇ、アンタ、どこから…」

 

「くかー…」

 

 って、寝てるし!?この状況で寝る普通!?

 

 ハッピーも一緒になって寝てるし…。

 

 ルーシィはソラの竜の鱗のようなマフラーに触れる。ナツが着けているマフラーは確かイグニールから貰ったものと聞いていた。

 だが、ソラは《滅竜魔導士》ではない。そもそも、四百年前から未来へ送られてきた《滅竜魔導士》は五人のみ。ラクリマを埋め込まれたにしても、ナツからラクリマを取り出さないと滅竜魔法は使えないはずだ。

 

 なら、このマフラーは一体…。

 

 そんなことを考えているうちにルーシィは睡魔に襲われた。並んで寝るソラとハッピーに毛布をかけたルーシィはベッドに入り、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

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 三日の時が流れた。

 

 ソラとハッピーがギルドの寮に入るまでに家で居候させてくれ、とか言ってきた時は…流石に追い返したわよ。

 多分ナツの家にいるんじゃないかな?ハッピーと一緒に行ったし。

 

 今日は評議院に行ってたマスターとエルザが帰ってくる日、そして、ソラが《妖精の尻尾》に加入する日だ。

 グレイからは帰れ〜って言われてたけど、言われた本人はあんまり気にしてないっぽいし…それに…

 

「なんであんたらは家にいんのよ!!」

 

「特訓だよ!今日から早速仕事行けてぇしな!!」

 

「あいさー!!」

 

 フンっ、フンっ、と言いながら絨毯の上で二人は腕立てをする。

 

「汗臭いわ!!!ってか…仕事行くなら《チーム》を組むのが先よ」

 

「チーム?」

 

「一緒にクエストに行くメンバーの事、そんなことも知らないの?何人かいた方が分け前は減るけど早く終わるわよ。」

 

「へぇ…じゃぁ」

 

「一緒にチーム組もうぜ!!ルーシィ!!」

 

「え?」

 

 その時…あたしの中で数年前の記憶が呼び覚ました。

 

 

『俺たちでチームを組もう!!ルーシィ!』

 

 

「あ、アンタが《妖精の尻尾》に入る事が先でしょ?ほら行くわよ二人とも」

 

「おーう!」「ルーシィエロい下着つけないの?」

 

「何故今!?」

 

 私たちは、ギルドに向かって足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

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「到着っと…ソラ、アンタあんまり他のメンバーを煽る行動は取らない方が…」

 

「たのもーー!!!!!」

 

「話を最後まできけぇぇぇぇぇ!!!」

 

 ソラは勢いよくギルドのドアを開き、足を踏み入れる。再びソラにギルド中から視線が集まる。

 

 ソラはそんな事は気にしないようで、誰にともなく口を開いた。

 

「あれ?まだマスター帰ってきてないのか?ハッピー」

 

「うん、まだ帰ってないみたいだね」

 

「じゃぁ待たせてもらうか。おーい!ルーシィ、一緒に飯食おうぜぇ!」

 

 ダメだ…アイツにはモラルやら常識がない…。ゴーン。

 

「ルーちゃん…」

 

「ん?どうしたのレビィちゃん」

 

「あの人…ソラと仲良くなったんだね。」

 

 レビィちゃんのソラを見る顔は少し緩くなっていた。

 

「ナツに似てるから?」

 

「うん…なんだか…アイツといると…」

 

 ドガシャァァァァァァァァァァァァ

 

 突然大きな破壊音と共に、ソラが座っていた机が宙を舞った。

 グレイが、ソラの机を蹴り飛ばしたのだ。

 

「なにすんだよ!!」

 

「この前帰れって言ったのが聞こえなかったのか?」

 

「あん?言ったろ、所属魔導士の言うこと聞く義理はねぇ…。」

 

「目障りなんだよ…てめぇは!!」

 

「あぁ?お前もどうせナツか…!似てるなんて理由で取り消されちゃこっちだって溜まったもんじゃねぇんだよ!!」

 

 ソラとグレイは互いを睨みつけ合う。そして…

 

「ソラっつったな…表出ろ。俺がテストしてやるよ」

 

「お前が…《妖精の尻尾》に相応しいかな…」

 

「はっ!望むところだ…負けて泣きづらかくのはお前だぜ…グレイ」

 

 何も言わずにグレイがルーシィの横を通り過ぎた。続いて、ソラもルーシィの横を通り過ぎる。

 他のギルドメンバーもやはりソラの実力が気になるのか、ソラとGLAYの戦いをこの目で見ようと次々とギルドから出る。

 

 二人はギルドの正面に立ち、視線をぶつけ合わせる。

 

 ルーシィの隣にレビィとハッピー、その隣にはウェンディとシャルル、ガジルが二人を見つめる。

 

「で?なにしたら勝ちなんだ?」

 

 ソラの問いかけにグレイは簡潔な答えを言った。

 

「『参りました』…なんてどうだ?」

 

「だったらお前に勝ち目はねぇぜ?」

 

「こっちのセリフだ。氷漬けにしてやる。」

 

 ウェンディがルーシィに向かって口を開いた。

 

「ルーシィさん。ソラさんの魔法は?」

 

「私にも分からないの…まだアイツが魔法を使ってるところを見たことない。」

 

 すると、審判役のマカオがソラとグレイを中心として集まるギルドメンバー全員に聞こえる声で、言った。

 

「おめェら喧嘩はいいが…あんまり暴れんなよ。んじゃ…」

 

「スタート!!」

 

 

 

 

 声と同時にグレイが地面をける。

 

 片方の手を握り、片方の手を開く。グレイの魔法《氷の造形魔法》だ。

 

「アイスメイク…!!!」

 

「ハンマー!!!!」

 

 突如ソラの頭上に現れた氷のハンマーはソラを潰す勢いで落下。

 

 ソラはそれを身軽に右に回避、だが、グレイの猛攻は止まらない。

 

「アイスメイク…アロー!!」

 

 数十本もの矢がソラを目掛けて飛んでいく。ソラは全力で疾走し、ソラが走った場所にソラを追うように次々と矢が刺さる。

 

「おもしれぇ魔法使うじゃねぇか!!」

 

「褒めてる暇があったら反撃しやがれ…!!アイスメイク!!」

 

「プリズン!!!」

 

「…!!?」

 

 氷の牢がソラの頭上から落下。ソラは今まで通り横ステップでそれを交わそうとするが…ハンマーより範囲の大きかったプリズンはソラを牢獄の中に捕らえた。

 

「なんだこれ?氷の牢?」

 

「わりぃな…ソラ…」

 

 グレイは右手を後方に左手を前方に向け、何かを構える体制をとる。次々と氷の結晶が集まり…そして、巨大な大砲が現れた。

 周りからはグレイを止めるような声が聞こえる、

 

「おい、グレイ!!やめろ!!」

 

「魔法使わせてやれなくてよ…」

 

アイスキャノン!!

 

 氷の大砲から放たれた攻撃は、牢獄の中のソラに向かって勢いよく飛んでいく。しかし…ソラは動かない。

 

「魔法使わせてやれなくてよ、だって?お前なんか勘違いしてね?」

 

 アイスキャノンがソラに近づく。その距離…十メートル、五メートル、三メートル…。

 

 

 ドカァァァァァァァァァァァアン!!!!

 

 

「ソラ!!」

 

 無意識にルーシィとハッピーは叫んだ。アイスキャノンはソラの牢獄に激突、辺りには氷の破片が飛び散り冷気に包まれソラの姿を確認出来ない。

 

「ふん…この程度か…口だけは達者だったみたいだけどな」

 

「ちょっとグレイ!!なんで手加減を…」

 

 ルーシィはギルド内に戻ろうとするグレイを反射的に呼び止めた。グレイは振り返り、口を開く。

 

「ムカつくんだよ…アイツの態度が…まるで…まるで…!!」

 

 その場にいた全員がグレイの言葉の意味を察した。ソラがナツに似ているからこそ…ソラをナツとして見てしまうからこそ…ソラはこのギルドにいてはいけない。

 ナツを忘れる事が…出来ないから。

 

 ピチャ…

 

 静寂の場にひとつの小さな音が聞こえた。水滴が落ちる音…。

 グレイは未だに冷気に包まれているソラの場所に振り返った。ソラは仕留めたはず…まさか…。

 

「水…だと?」

 

「もう一度言わせてもらうぜ…お前なんか勘違いしてね?」

 

 冷気の煙からひとつの影が見えた。長いマフラーをなびかせ、その場に堂々と立っている。

 その影は右手を肩ほどまで上げ、振りかぶった。

 

 冷気が一気に蒸気と変わり、辺りが熱に包まれる。ルーシィとハッピーそしてグレイはソラに視線を移す…そして、目を見開いた。

 

 そこに立っていたのはソラの姿…そして、構えた右手に炎を纏っていた

 

「俺は魔法使わなかっただけなんだけど…?」

 

 その光景にガジルとウェンディも体を前のめりにしてソラを見つめた。そして、ルーシィは虚ろの表情のまま、言った。

 

「あなたも…《火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。」

 

 ありえない。イグニールはナツ以外にも滅竜魔法を教えていたというのか?いや、そんなはずはない。この話が本当だとしたらナツと面識がないのはおかしな事であり、アクノロギアに目を付けられなかったことはどう説明するというのだ。

 

 刹那、ルーシィは心の中で堂々と右手に火を宿す少年に尋ねた。

 

『あなたは一体…何者なの?』

 

「なんだボーッとしてんじゃねぇよ、クソ氷。」

 

「だまれ!!!」

 

 怒号を発したグレイは再び魔法を構える。

 

「アイスメイク…ハンマー!!!」

 

 いつもなら空中から落とされるはずのハンマーを掴み、グレイはソラに突進する。ソラは右手を後方に勢いよく伸ばし…言った。

 

「火竜の…」

 

「鉄拳!!!!」

 

 ズカァァァァァァァァァァァァン!!!!

 

 ソラとグレイの魔法が激突する。しかし…

 

「軽い…」

 

 ソラの火力が強まる。グレイのハンマーは蒸気を発しながら溶けだした。

 

「吹き飛べ!!!!」

 

 ハンマーが粉々に砕け散り、ソラの鉄拳はグレイの顔に突き刺さった。何度もバウンドしながら吹き飛んだグレイは、見ていたフェアリーテイルメンバーを巻き込み、木に激突。

 だが、ソラはグレイを逃さない。地面を勢いよく蹴ると、たった一蹴りでグレイの目の前まで移動する。足に炎が宿る…これは…

 

「火竜の鉤爪!!!」

 

「ぐはぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 激突した木が大破し、グレイは再び後方に弾き飛ばされる。だがやられてばかりのグレイでは無い。両膝と右手を地面につかせ勢いを軽減、そして制動。弓を構えるような仕草で魔法を放つ。

 

「アイスメイク…アロー!!!」

 

「同じ攻撃は効かねぇ!!」

 

 手から地面に向かって火を放出したソラは悠々と宙を舞い、グレイの攻撃を躱す。そして、そのまま空中で体制を変え、頭を地面の方向に向ける。両手の拳を握りそれを口に当てた。これはブレス攻撃…!!

 

「火竜の…」

 

 ソラの口元からグレイにかけて、何枚もの魔法陣が生成される。

 

 

 

 

「咆哮おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 

「ちっ!!アイスキャノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 ズカァァァァァァァァァァァァン!!!!

 

 

 

 巨大な衝撃が押し寄せ、一同は足を踏ん張る。

 

 草木が揺れ、大小様々な葉や石が辺りを飛んだ。衝撃が収まったところで、ルーシィ達はゆっくりと目を開ける。

 

 二人(ソラとグレイ)を包んでいた煙は徐々に晴れ、一つの影が見えた。そして…煙が完全に晴れる。

 

 その光景に審判役のマカオは『参りました』は言ってないものの、これ以上の試合続行は不可能と判断したのか、判決を下す。

 

「お、お前ら!!試合終了だ…勝者…」

 

 立っていたのはニヤけ顔でマフラーと黒い髪を揺らす少年だった。そして、腕を上へ高々と上げる。

 

 

 

「ソラ・ドラコチェイン!!!」

 

 

 

 一瞬の静寂…そして…

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 一気に歓声が巻き起こった。ギルドメンバーはソラの元へ駆け寄る。

 

「お前さんすっげぇな!!」

 

「ソラ兄かっけぇ!!」

 

「やったなソラ!!」

 

 

 それを遠目で見るルーシィ、ハッピー、ウェンディ、シャルル、ガジル、リリー。

 

「やった!!やったよルーシィ!!ソラが勝ったよ!!」

 

「うん…!やったね、ソラ!」

 

「なんで…ソラさんが火の滅竜魔法を?」

 

「ソラ・ドラコチェイン…アイツ一体何者なのかしら…」

 

「ギヒッ!もう一人のサラマンダーか…」 

 

「久しぶりに笑うじゃないか…ガジル。」

 

 

 

 だが、これで終わりではなかった。

 

 思わぬ歓声に包まれ、驚いた表情をしていたソラの耳に一つの声が響いた。

 

「まだだ…」

 

「まだ…俺は言ってねぇぞ。マカオ!!ぐっ…」

 

 ボロボロになったグレイが立ち上がろうとしていた、しかしもう戦える状態ではない、

 エルフマンはグレイむけてはな向放った。

 

「やめろグレイ…お前は十分漢だ。ソラはナツとは違う…。」

 

「魔法も…同じなのにか!!お前はなにか…ナツと関係があるんじゃないのか…ソラ。」

 

 ソラは抱きつくギルドメンバー達を払うと、グレイに向かって歩き出す。

 ジュビアが前に立ちはだかり、それを止める。

 

「もうやめてくださいソラさん!!このままじゃグレイ様が…」

 

「安心しろよ、別に殴ったりするわけじゃない。」

 

 ソラは立ち上がろうとするグレイの前に立ち、口を開いた。

 

 

 

「お前にとって…ナツってなんだ?ギルドにとって…ナツってなんだ?」

 

 話すソラの声が震えていた。ソラはナツとは面識がないはずだ。ナツの事なんてどうでもいいと思っているはずだ。なのに…

 グレイは口を開いた。

 

「…なんでもねぇよ、ただの同じギルドのメンバーだ。」

 

「嘘つくな。はっきり言えよ」

 

「だから…」

 

 グレイが続けざまに言葉を発しようとするが、ソラの大声がそれを遮った。

 

 

「じゃぁなんで!!!てめぇは泣いてるんだよ!!!」

 

 

 全員の視線がグレイへ移った。グレイも今になって気づいたのか、そっと自分の下を触る。

 

「仲間だったんだろ…いや、今でも仲間だ。かけがえのない、何者にも変えられない…家族だったんじゃねぇのかよ!?」

 

「だまれ…」

 

「黙らねぇ」

 

「黙ってくれ…」

 

 グレイの中でいくつもの記憶が蘇る。

 

 

 

『おいグレイ!!仕事行くぞ!!』

 

『なんだてめぇやんのかグレイ!!』『こっちのセリフだ、クソ炎!!』

 

『死んで欲しくねぇから止めたのに…俺の言葉は届かなかったのか?』

 

『死ぬことが決着かよ。あぁ!?なめてんじゃねぇぞコラ!!』

 

『俺たち…友達だろ?』

 

『運命なんて…そんなもん俺が燃やしてやる!!』

 

 

 

「ぐっ…く…」

 

 グレイの瞳からは幾度となく涙があふれる。立ち上がろうとしていたが、再び膝を地面につき、ただ…泣いていた。

 

「なんでだよ…なんで止まんねぇんだよ。ちくしょう…!!」

 

 再び辺りが静寂に包まれた。ジュビアはグレイの元に駆け寄り、抱きしめる。

 

「俺はナツがどんな奴だったのかはルーシィから聞いただけだからわかんねぇ。けどな…」

 

 

「こんなにも想ってくれる人間がいたのなら…ナツは幸せだったと思うぜ。」

 

 

「ソラ…」

 

 ルーシィは不意に呟いた。真剣な眼差しでグレイを見つめるその姿はナツそのものだった。

 

「なぁ…ソラ。お前にとって…ナツはどういう存在になった?」

 

 グレイの問いかけに、ソラは答えた。

 

「最期までみんなを守り抜き…戦った。ナツは…俺の、いや…」

 

俺たち(妖精の尻尾)の…誇りだ!!」

 

「誇り…か…」

 

 そう言いながらグレイは自分の傷に氷を当て、治療をした後立ち上がった。

 

「続きをやろうぜ…ソラ。俺はまだ、『参りました』なんて言ってねぇ」

 

「後悔するぜ?負けて」

 

「上等」

 

 ソラとグレイは互いを睨みつけ合ったまま、ニヤッと笑った。

 

 互いに後ろに下がり、距離をとる。

 

 そして…

 

 

「モード、氷魔。」

 

 グレイの体に黒い紋様が浮かび上がる。氷魔…滅悪魔法だ。

 

「へぇ…まだそんな隠し玉あったのか…やっぱすげぇな。《妖精の尻尾》の魔導士は。」

 

 

 二人の周りに凄まじいオーラが宿る。これは…奥義!

 

 

「ソラの奴…奥義まで使えんのかよ!?」

 

「やめろぉぉぉぉお前らァァァ!!ギルドがこわれるぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 え?え?ちょちょちょ…

 

「ルーシィさん…なだかとってもまずい気がします…」

 

 

 

「滅竜奥義…!!」

 

「滅悪奥義…!!」

 

 スレイヤーどうしの奥義対決なんてこんな所でやったら!!

 

「紅蓮…!!」

 

「氷魔…!!」

 

 ま、まずい…!!

 

 ソラとグレイは同時に地面を蹴った。距離がだんだんと近づいていく。そして…

 

 

 

 

「爆炎じ…」 「零ノた…」

 

 

 

 

 

 

「何をしてる貴様ら」

 

 ズカァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 二人の距離が数十センチとなった所に現れた鎧を着た女は二人の後頭部をめいっぱい叩くと、二人は顔から地面に衝突…。

 

 顔が地面にめり込んだ状態でお尻を突き出しながらその場に倒れた。

 そして、ソラより早く顔を上げたグレイは、鎧の女を見た途端に叫んだ。

 

「エルザァァァァァァァァァァァァァァ!!!」グモォォ

 

「やかましい…服を着ろ」

 

 バキッ!!

 

「ぐほぉ!!」

 

 容赦ない…!!

 次にソラが顔を上げる。

 

「てめぇ!!女ァ!!男と男の真剣勝負に手を出す…がはぁ!!」

 

「お前は誰だ…む?」

 

 ルーシィはエルザの元へ駆け寄る。

 

「エルザ、帰ってきたの?」

 

「む、ルーシィか。ただいまな。それより、これはなんの騒ぎだ。この少年は一体…?」

 

 エルザはほぼ気を失っているソラの襟をつかみ持ち上げる。

 そんな猫みたいに…。

 

「そ、それはかくかくしかじか…」

 

「ほう、そんな事があったと言うのに…ギルドメンバー誰一人としてコイツらを止めなかったというわけか…?」

 

 ヒィィィィィィィィィ!!!地雷踏んだァァァァァァァ!!

 

「まぁいい、ルーシィの処罰はあとだ」

 

「あたし一人!?」

 

「グレイ、そしてそこのお前、何か言うことは…」

 

 

 

「「()()()()()()()()()」」

 

 

 

「勝者…エルザ・スカーレット」

 

 マカオの的確な判断に、一同は頷いた。






次回《新チーム結成》




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第三話 運命なんて

お気に入り20ありがとうございます!


 ────???────

 

 

「《妖精の尻尾》…」

 

「あのギルドは我々にとって脅威だ。ゼレフ卿を倒し…アクノロギアまでも撃退した。」

 

 暗がりの中、男は自分の前にひざまずく何十人もの魔導師に言葉を放った。

 

「《七つの大罪》、【放漫の罪】、ルシフェル…前へ」

 

「はっ」

 

「《妖精の尻尾》の突起戦力、ナツ・ドラグニルの抹殺、ご苦労であった。この功績を讃え…」

 

「《七つの大罪》に《新生バラム同盟》の一角を受け渡そう。」

 

 途端、辺りがざわめく。反対する声、賞賛する声、その二つが交わった。

 ルシフェルと呼ばれた男は、そのざわめきに耳を貸すことはなく、言った。

 

「ありがたき幸せ。」

 

 ルシフェルは群衆の中に戻り、再びひざまずく。

 

 それを見届けた男は、言った。

 

「我々は、ゼレフ卿の意志を継ぐ者である!!アクノロギアによって失われた尊き命を取り戻し、世界を再生するものなり!!」

 

「《ラスト・イクリプス計画》…開始だ。」

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソラとグレイが戦ってから少し時間が経ち、私たち《妖精の尻尾》メンバーはギルドの酒場に腰をかけている。殆どのメンバーが揃っているが、いないメンバーもいる。ギルダーツ、ラクサスだ。

 そして、ギルドメンバーの目線は同じ場所へ。

 

 ギルドマスター《マカロフ・ドレアー》。

 ソラは同じ席に座っている私に声をかけてきた。

 

「あれがマスター?」

 

「あんた…《妖精の尻尾》に憧れてるって言う割には何も知らないわね。あの人がマスターのマカロフ・ドレアーよ。」

 

「へぇ…じゃぁあのじいちゃんに声かければ入れるのか?」

 

「今はそういう雰囲気じゃないでしょ!?」

 

 まったく…こいつは…。

 

「お前ら、静かにしろ。マスターがお話になる。」

 

 同じ席に座るエルザが言った。

 私とソラは再びマスターに視線を戻し、マスターが口を開くのを待った。そして…

 

「みな、集まったようじゃな。話を始めさせてもらおう。」

 

「ワシはこの三日間《イルミナティ》と名乗る組織の影を掴むために、評議院を訪れておった。そして、一つの決定が下った。」

 

 全員が唾を飲む。緊張感が高まり、息が荒くなっていることに気づくのに時間はかからなかった。

 マスターの声は落ち着いていたが、その声の深奥に眠る感情の数は計り知れないものがあるだろう。

 そして、マスターは口を開いた。

 

 

「ワシら《妖精の尻尾》の全勢力を用いて、《イルミナティ》を殲滅させる。これは…《戦争》じゃ!!!!」

 

 

 一瞬の静寂。そして、

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 

 ギルドメンバー全員が椅子から立ち上がり、拳を上へ高く挙げた。

 

 みんな、この判決を待ち望んでいたのだ。《イルミナティ》の殲滅作戦。

 そして、ルーシィも無意識に椅子から立ち上がっていた。次いで、ハッピー、グレイ、エルザ、ウェンディ、ガジル、シャルル、リリー…。

 

「それでじいさん!!具体的な作戦はどうするんだ!?」

 

 グレイの言葉に一同は頷き、マスターに視線を戻す。マスターの顔は真剣で、言った。

 

 

 

「考えとらん!!!」

 

 

 

 「だぁ!!!」と一同その場に倒れ込む。

 い、いい加減ねぇ…。

 

 けど、《イルミナティ》は最近になって現れた組織。断片的な情報も明らかになって無いから、居場所をつかむためには。

 

「全員でクエストを受けまくる。」

 

 不意にソラが口を開いた。

 

 全員の視線はソラの方を向いた。

 

「お、おいおい。そんなみんなよ。」

 

「ソラ、どういうこと?」

 

 あたしが聞くと、ソラは威勢のいい顔で答える。

 

「そのイルなんとかってのの情報は、まだ分かってねぇんだろ?だったら色んなクエストをギルドメンバー全員で受けて、イシュガルの隅から隅まで回るんだ。クエストを着々とクリアすれば、《妖精の尻尾》の知名度は今以上にうなぎ登りだ、イルなんとかの情報も入ってくるんじゃねぇのか?」

 

「なるほど、確かに闇雲になってイシュガルを回るより、《イルミナティ》に関するクエストが再び《妖精の尻尾》に入って来るのを待つということか。知名度が上がれば、それに比例してS級、SS級、十年、百年クエストの依頼も入ってくるだろうな。うむ、いい考えだ、ソラ。」

 

 エルザはソラに意見に賛同すると、マスターに視線をずらし、聞いた。

 

「いかがでしょうか、マスター。ソラの作戦を採用するというのは」

 

 マスターはソラを見つめる。ソラもマスターを見る。互いに視線をぶつけ合わせる時間が数秒続いた。

 

「ソラ…と言ったな。こちらへ来い」

 

 ソラは立ち上がり、マスターの方に向かって歩いていく。メンバーは意識的にか無意識にか、ソラにマスターまでの道のりを譲った。

 ソラはカウンター席の前に立ち、マスターをながめる。

 

 マスターは薄く笑うと、いった。

 

「これも…()()か。ナツによく似ておる。」

 

 ソラは視線を横にずらした。

 

「もうそれは沢山聞いたよ。何番煎じだっての…。」

 

「そうじゃろうなぁ。ソラよ…お前は、ワシらと共に希望の明日(あす)を歩くことが出来るか?絶望の明日を受け入れることは出来るか?」

 

 ソラは一度黙る。

 

「そんなの知らねぇよ。明日(あした)が来るかなんて、誰にもわからねぇからな。ただ…明日を作ることなら出来る。だから俺は《妖精の尻尾》の明日を作ってやる。その道を、明日を、俺はじーちゃん達(妖精の尻尾)と歩くためにここに来た。俺は絶望なんて作る気はねぇ。」

 

「それが例え、《運命》だとしてもか?」

 

「そうだとしても」

 

 ゴォ!!

 

 ソラの右手が炎で覆われた。その炎は先程グレイと戦った時よりも遥かに強く、そして、とても優しい炎だった。

 ソラが次に発する言葉に、ナツの声が被さった。

 

 

「『《運命》なんて…俺が全部燃やしてやるよ。』」

 

 

 その言葉にマスターは、笑った。

 

「その《覚悟》…しかと心に植え付けた!お前は今日から、」

 

 ソラの肩に、紋章が浮かび上がる。

 それは、尻尾のある妖精…。

 

「《妖精の尻尾》のソラ・ドラコチェインじゃ!!」

 

「おっす!!!」

 

 眩い光がソラを包み込み、弾けた。ソラの肩には赤い《妖精の尻尾》の紋章が浮かび上がっていた。

 

「ソラの作戦を使う!!お前ら、仕事じゃぁァァァ!!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 ソラは自分の肩の紋章を確認し、不敵な笑みを浮かべると、後ろを振り向く。

 そこに立っていたのは、六人の仲間達。

 

 ルーシィ、ハッピー、グレイ、エルザ、ウェンディ、シャルル。

 

 全員は顔を見合わせ、頷いた。

 

 

 

 

 この運命が絶望なのか、希望なのか、それは誰にもわからないことだ。

 

 運命が残酷だと知るのは…あとすこし先のこととなる。

 

 

 

 



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