Re.Dive タイムコール (ぺけすけ)
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プロローグ
「夢の終わりに」


初めまして、「ぺけすけ」と申します。
初投稿の初心者ですが、よろしくお願いします。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______夢を見ている。

 

 

 それはなんて事ない「普通」の日常。

 

 

 自分がいて、家族がいて。

 

 それで、すこしだけ口うるさい上司との仕事。

 

 上司の彼女たちは厳しいけど、それでも出来損ないの俺に少しずつ魔法を教えてくれて。

 

 時折、「本当に私の事を覚えてない?」なんて、まだ出会って1年も経っていない間柄なのに。

 

 彼女たちは「俺」と言う人間をよく知っていた。

 

 苦手だったはずの魔法も、彼女が教えてくれた魔法は何故か使えた。だんだんとこの日常が楽しいと感じ始めた、そんな時間が愛おしく思えた。

 

 

 そんな「夢」。

 

 

 この日常はきっと美しい。

 

 

 _________ああ、でも一つだけ。

 

 

 

 夢のはずなのに、どうしてこんなにも懐かしい/悲しいのだろう……。

 

 

 

 

 

 

 初めて彼と出会ったのは、まだ私が小さい頃。

 

 

 初めて魔法に触れて、ジュエルシードを集め出して。

 

 そんな新しい日常、魔法の世界を知ってから少し経った時だと思う。キミは覚えていないけれど……あの公園ではじめてあったよね?

 

 何もわかない私に少しずつ魔法を教えてくれて、優しくしてくれて、少し無愛想で、時々意地悪で。

 

 でもそんな日々が夢のようで。

 

 もちろん辛い事時が無かったって言ったら嘘になっちゃうけど、それ以上に大切でしあわせな事ばっかり君は私にくれたんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 最初の出会いはちょっと……かなり悪かったかな。

 

 あの時の私は母さんに言われた事が絶対で、自分の幸せは母さんの幸せだって信じて疑わなかった。

 

 でも貴方はそんな私を、本当の幸せを知らない私に一番大事なモノ/幸せをくれたよね?

 

 今思い返すと、貴方にはあの頃からずっと助けてもらって、大切な事を教えてもらって。

 

 

 ーーーーだけど貴方は自分の幸せを見つけられたの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやなぁ、キミと出会ったのは公園のベンチやったっけ?

 

 最初はボケーっと何もないとこばっか見とって、何してんやろって私が見てたら目が合って。

 

 次の日にまた公園に行ったら座ってて、スルーしよ思ったのに、急に話しかけてきた時は正直ビックリしたで?

 

 まぁ、それが私たちの出会いやったな。それからなんの縁かよく会うようになって。

 

 でもヴィータたちはずっと警戒しとったよな。

 

 ……まぁ、最初に懐いたのもヴィータやったけど。

 

 私の家によく来るようになってからはみんなとすぐ打ち解けて、家族みたいだって言ってくれて本当は凄いうれしかったんやで?

 

 寂しい時はいっつも気づいたら側におってくれて、泣いてるとこ見られた時は恥ずかしかったけど、何も言わずに撫でてくれて。

 

 本当に感謝しかないなぁ……。

 

 もしも寂しくなったりしたらすぐに帰ってきてええんやで。いつまででも待ってるから。

 

 

 

 

始まりはいつも突然。この物語は、そんな時間旅行(タイムコール)の一欠片。

 

 

 

 

 

 

 




プロローグでした。
次回から本編に入っていきます。




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無印
第1話 出会いは突然


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___風を切る音が聞こえる。

 

 体は重く、まるで自由落下でもしてるみたいだ。

 

 

「っ……?」

 

 

 

 少し瞼が重い。心地よい微睡みから無理矢理起こされる感覚。

 

 ……それにしても体が重い。

 

 身体の中の大事な何かがごっそりと減ってるような感覚。つい、今の今まで何か大切な事をしていた気がするのだが、どうも思考がハッキリとしない。

 

 そもそも自分はいつ眠りについたのだろうか?

 

 

「……………え?」

 

 

 誰かの声が聞こえた。幼く高い声。

 

 何処か聞いたことのあるような、だけど初めて聞く何とも言えない声。この矛盾した考えに少し苛つきながら瞼を完全に開ける。

 

 

 そこには

 

 

「…………………」

 

 

 ぽかーんと口を開いたまま此方を凝視してくる少女が1人。

 

 背丈は小さく、茶髪にツインテール。白い学校の制服のような服装。そしてヘンテコな魔法の杖のようなモノをギュッと握りしめている。

 

 キミは何処の魔法少女かね。

 

 

「…………………」

 

 

 ここまで約10秒。ふむ、顔は整っているが間抜けな表情の所為で少し残念。

 

 そしてこの子の事を何処かで……そんな思考をしていると。

 

 

「……えっと、なのは? そろそろ正気に戻ってくれると、僕的にも助かるんだけど…」

 

 

 目の前の少女以外の声が聞こえた。

 

 はて? と周りを見渡す。

 

 今更気づいたが、ココは何処かの公園のようだ。………しかし、何かが決定的に違う気がする。

 

 まるでこの公園だけが別の場所に切り離されているような、そんな感覚。

 

 

「あ、あの……えっと……」

 

「…………ん?」

 

 

 どうやら今度は、目の前の少女からで間違いなさそうだ。

 

 

「……あの……」

「………………」

 

 

 何だろうか? 言葉の続きを待つ。

 

 

「えっと……」

 

「………………」

 

「うぅ………」

 

「…………………」

 

「あぅ………」

 

 

 何故そこで涙目になるのだろう。……とりあえず、名前くらいは聞いた方がいいのだろうか。

 

 

「えっと、キミは?」

 

「えっ!あっ……えっと、私は高町なのはです……」

 

「そっか」

 

「……あの、貴方は?」

 

「俺は、……………?」

 

 

 __違和感。なんで俺は今自分の名前が出てこない? そもそも、ここはどこで俺はどうしてここにいる?

 

「…………?」

 

目の前の少女が不思議そうに見つめて来る。 名前……名前……?

 

 

「………ユウ、ユウだ」

 

「ユウさん、ですか?」

 

「ああ」

 

 

 名前は少し思考すればパッと出てきた。しかし、他の事が何かに蓋をされたように出てこない。

 

 少し気持ち悪い。

 

「あの……聞きたいことがあるんですけど、さっきのは?」

 

 さっき? さっきのとは一体なんのことだろう?

 

 頭にハテナを浮かべていると、目の前少女がコクコクと頷いている。

 

「………うん、そうだね。あのユウさん、少し付き合って欲しいんですけど、大丈夫ですか?」

 

 

 何か彼女の中で考えが纏まったらしい。正直、自分の名前以外わかない状態で1人になるのも心細い。

 

 

「ん、大丈夫だ。 何処か場所でも移すのか?えっと……」

 

「………? あ、なのはで大丈夫ですよ。」

 

「じゃあ、よろしく頼むなのは……?」

 

 

 なんだろう、また違和感。始めて呼ぶ筈の名前なのだが、異様に呼び捨てが慣れない。

 

 

「はい!じゃあ行きましょう。」

 

 

まぁ、とりあえずはこの違和感を気にしないようにしておくか。

 

 

 

それにしても。

 

なんで俺は名前以外わからないのに。__こんなにも、落ち着いているんだ?

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 1週間前の話、私こと高町なのはは魔法使いになった。

 

 出会いは偶然の偶然。

 

 不思議な声が聞こえて、フェレットのユーノ君と出会って、それであの夜、あの病院の中で始めて魔法を使った。

 

 なんでもユーノ君の大切なもの、ジュエルシードが海鳴市に散らばっちゃったらしい。ジュエルシードは危ないもので人の願いや想いを捻じ曲げて叶えちゃうの。

 

 そんなジュエルシードを封印して集めていくのが今の私のする事、したい事。

 

 そして今日もそのうちの一つを封印し終わった時にそれは起こったの。

 

 

「………ふぅ、封印完了」

 

「お疲れ様、なのは」

 

「うん、ありがとうユーノ君」

 

 

 これで二つ目。ジュエルシードは全部で二十一個もあるらしいから、これからもっと頑張らなくちゃ!

 

 

「それじゃ、回収しなきゃ……?」

 

 

 あれ? 封印した筈なのに…なんで光り出してるの!?

 

 

「ユ、ユーノ君!?なんか光だしたよ!?」

 

「僕にもわからない……なんで……」

 

 

 私は焦って距離を取る。とりあえず、封印をし直さなきゃ!

 

 

「とりあえず何が起こるかわからないから、様子を見るんだ、なのは!」

 

「うん!」

 

 

 その一瞬、されど一瞬。私たちは目を離してしまった。

 

 

「きゃ!?」

「うわ!?」

 

 

 光が一気に結界内に広がる。あまりの眩しさに咄嗟に目を閉じてしまう。

 

 

「…………っ!」

 

 

 少しづつ光が収まっていく。ジュエルシードは………え?

 

 

「…………………え?」

 

 

 ジュエルシードがあった筈の場所には。

 

 

「…………………………」

 

 

 黒髪でジャージ姿の男の人。

 

 あれ? ちょっと待って。ジュエルシードは? というかこの人はいつのまにか目の前に現れたの? ここ、結界張ってたよね?

 

 目の前の男の人が起き上がり、目を開く。少し眠そうで目は灰色。

 

 えっと、まずは冷静にならなきゃだよね?

 

 とりあえずはえっと、えっと、あうあう……

 

 

「……えっと、なのは? そろそろ正気に戻ってくれると、僕的にも助かるんだけど…」

 

 

 ユーノ君の声で少し落ち着く。

 

 そ、そうだよねとりあえずは自己紹介とかした方がいいよね、うん。

 

 目の前の人はなにかを探すように公園の中をキョロキョロしている。

 

 と、とりあえず私から話しかけなきゃ!

 

 

「あ、あの……えっと……」

 

「…………ん?」

 

 

 うわぁ……やっぱり年上の男の人だと緊張するよぉ……

 

 

「……あの……」

「………………」

 

 

 ジッと私を見てくるお兄さん。き、緊張が……

 

 

「えっと……」

 

「………………」

 

「うぅ………」

 

「…………………」

 

「あぅ………」

 

 

 誰か助けてぇ!! 少し涙目になってると

 

「えっと、キミは?」

 

 

 ! 落ち着いて……落ち着いて……

 

 

「えっ!あっ……えっと、私は高町なのはです……」

 

「そっか」

 

「……あの、貴方は?」

 

「俺は、……………?」

 

 

 何かを思い出すように考え出すお兄さん。どうしたのだろう?

 

 

「………ユウ、ユウだ」

 

「ユウさん、ですか?」

 

「ああ」

 

 

 ………少し様子がおかしかったような? でも名前は答えてくれた。ユウさん、ユウさん。

 

 よし、自己紹介は出来たから次こそ本題。

 

 

「あの……聞きたいことがあるんですけど、さっきのは?」

 

 

 そう、ジュエルシードの事。ユウさんが現れた場所にあった筈のジュエルシードが無くなってしまっていた。

 

反応も感じないし……さっきの光が原因以外にないよね。

 

 

「…………?」

 

 

 あ、あれ? ユウさんがなんのこっちゃって顔してる……

 

 

(なのは、とりあえずは何処か落ち着いた場所で話を聞くのがいいと思うよ?)

 

(そうだよね、なんだかユウさんの反応が可笑しいし、場所を移すよ)

 

(それがいいと思う。ユウさんから魔力を感じるし、もしかしたら魔導師かも)

 

(え!?ユウさんが?)

 

(うん、その辺とか含めて話を聞くのがいいと思うよ)

 

(わかった、とりあえず提案してみるね)

 

「あのユウさん、少し付き合って欲しいんですけど、大丈夫ですか?」

 

「ん、大丈夫だ。 何処か場所でも移すのか?えっと……」

 

 

 どうしたんだろう? あ、そっか。

 

 

「あ、なのはで大丈夫ですよ。」

 

「じゃあ、よろしく頼むなのは……?」

 

 

 なんで疑問形なんだろう? とりあえずは悪い人ではなさそうだし、行くなら私の家か翠屋かなぁ…… 。




今回はここまでで。
次回は明日か明後日には更新します。


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第2話 最初の"はじめまして。"

 

 

 

 

 

 

 

 

日差しからして、まだ午前中だろうか?

 

とりあえずはこの目の前の少女……なのはの後へついて行く。

 

 

公園を出る前に格好や、持っていた筈の杖が消え、普通の女の子らしい格好になった時は驚いたが……それが普通の事だと、当たり前のことなのだと思考が噛み合った。

 

 

また違和感が生まれる。

 

 

普通じゃない筈のことが普通に思える、そんな不快感。

 

あまり考え過ぎても良くないと自分の中で割り切りながら話しかける。

 

 

「なぁ、何処に向かうんだ?」

 

「あ、そうですね。……えっと、とりあえずはあまり人前で話せることじゃないので、私の家に行こうと思ってます」

 

 

………この少女の家に?

 

少し……いや、かなり誤解を生みそうな気がするのだが……?

 

この幼い少女の家に転がり込む年上の男。犯罪臭、幼女趣味とかこの子のご両親に誤解されるのは正直、面倒な結果しか生み出さないと思う。

 

 

「ユウさん?どうしました?」

 

「いや、大丈夫だ。ん? いや大丈夫ではないのかな……?」

 

「へ?」

 

 

まぁ、何かあればなのはが説明してくれるだろう。一応、俺が誘われた側だし。

 

ふと、この歩いている道を見渡す。

 

暖かい日差しと心地よい風。両脇の桜は咲き出したばかりなのか、とても美しい。

 

あぁ、そういえば。

 

 

「なのは、今って何月?」

 

「今は四月ですよ。どうしてですか?」

 

「えっと……」

 

 

うむ、記憶も無ければ時間感覚もほとんどないと言ったら、また先ほどのように混乱するのは目に見えている。

 

 

「あとで話すよ」

 

「?  わかりました」

 

 

ふぅ、これからどうなる事やら。

 

そういえば俺は自分の持ち物すら確認してない。そう考えながらポケットを漁る。

 

 

「……?」

 

 

なんだろうか、コレは。

 

横10cm縦20cmくらいで、幅が5cmくらいの機械? が入っていた。

 

横に何かのスイッチと裏側には何かをはめ込めそうな凹み。全体色は黒色。

 

 

「なんですか?それ」

 

 

興味を持ったのか隣を歩いていたなのはが見上げてくる。

 

 

「いや、ポケットに入ってたんだけど……俺にも良くわからないんだ」

 

「それ、ユウさんのじゃないんですか?」

 

 

あっ。

 

 

「あ、いや……うん、俺のだけど」

 

 

なんて、間抜け……。

 

さっきの自分の行動を全て否定する事をやらかすとは。

 

 

「??」

 

 

あぁ、また頭にハテナを浮かべている。誤魔化しつつ、まだ何か無いか探す。

 

とりあえず他には無いか……? 

 

すると左のポケットの方に少し違和感。

 

 

コレは……なんだろうか。

 

少し小さめの容器のようなもの。

 

大きさはペットボトルの蓋より少し大きいくらいで、中身は透明だが少し重量を感じる程度には重い。

 

その容器が3つほど入っていた。

 

 

…………なんだろう、何かが足りない。

 

この容器には何かを"入れて"初めてソレになるような、そんな直感。

 

 

「ユウさん、着いたよ」

 

 

深い思考から呼び戻される。ふと顔を上げると、彼女の家であろう建物。

 

 

「それじゃ、私の部屋にいきましょう」

 

「ん、おじゃまします」

 

 

とりあえず、大人しくついて行く。二階の部屋、なのはの私室に通され、大人しく座る。

 

さて、何を聞かれるのだろうか?

 

 

「えっと、それじゃあ単刀直入に聞きますね?」

 

「ああ」

 

 

少し覚悟を決めたようにこちらを見ながら、彼女はこう聞いてきた。

 

 

「ユウさんは……魔法使いですか?」

 

 

…………?

 

真面目な質問かと思えば、魔法使いかどうか?

 

……少しまとめよう。

 

この質問は先ほどの、なのはの様に変身ないし、言葉通りの「魔法」が使えるかどうかという質問でいいのだろうか?

ならその解答はNOで正しいはずだ。

 

俺は魔法なんてもの知らないし、と言うか文字通り記憶にない。

 

 

だからそう言えばいいんだよな。

 

 

 

「いや、違う」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、本当に俺は魔法なんてーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーこの魔法はね、昔大事な人におしえてもらったんだ。

 

 

 

 

……………まほう………魔法………

 

 

 

 

 

何か、大事な何かを忘れてる気がする。

 

 

 

 

 

ーーーーだから今度は私が君に教える番だよね、ユウくん。

 

 

 

 

 

 

………さん!……ユ……ん!!

 

 

 

 

 

 

「ユウさん!!」

 

 

「!!?」

 

 

え、と俺は……何を?

 

 

「大丈夫ですか? 急に顔が青くなり出して……」

 

 

 

あぁ、そうか

 

魔法使いかどうかを聞かれたんだっけ。

 

なんだろう、何か大事なことを思い出した気がするけど、なんだっけ。頭がぼーっとして、意識が飛びそうになる。

 

 

 

でも、その前に。

 

 

 

「俺は、魔法を使える………と思うよ。」

 

 

コレだけは答えないと、いけない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ってきて、私の部屋に来てもらって。とりあえずは落ち着いたかな?

 

 

(なのは、なにから聞くかとか、もうまとまってるの?)

 

 

ユーノくんからの念話がくる。

 

少し緊張しているのがわかるなぁ。

 

さっきまで一緒に歩いてる時は不思議と緊張しなかったけど、やっぱり魔法関係の、それもジュエルシードの話になるとやっぱり私も緊張しちゃうなぁ……

 

 

(うん、とりあえずは単刀直入に魔法が使えるかどうかを聞いてみようかな)

 

(うん、それで反応を見てみるのがいいと思うよ)

 

 

よし、それじゃあ………

 

 

 

 

「ユウさんは………魔法使いですか?」

 

 

…………?

 

あれ、ユウさんぽかーんってしてる……なんで?

 

結界の中に入れたのもそうだけど、私の変身(セットアップ)の解除を見ても何も言わなかったし……きっと同じ魔導師だと思うんだけど。

 

ユウさんは何かを思考した後、

 

 

「いや、違う」

 

 

と答えた。

 

え?でも……

 

 

「本当ですか?」

 

 

私の中の引っ掛かりが取れずに聞き直してしまう。

 

 

 

「ああ、本当に俺は魔法なんて__」

 

 

 

 

「ユウさん?」

 

 

どうしたのだろうか、急に黙ってしまう。と言うか、どんどん顔色が悪くなって行く。

 

え、え? なんで!?

 

 

(なのは!とりあえずユウさんを!)

 

 

あ、そうだよね!

 

とりあえずはユウさんを助けなきゃ!

 

「ユウさん!ユウさん!!大丈夫ですか!?」

 

 

反応がない……焦った私はとりあえず肩を揺さぶる。

 

 

「ユウさんっ!!!」

 

 

「っ!!?」

 

 

あ、目の焦点が戻ってる。とりあえずどうしたのか聞いてみないと。

 

 

「大丈夫ですか? 急に顔が青くなり出して……」

 

 

こちらをじっと見たまま何かを思い出そうとしているユウさん。

 

 

「俺はさ」

 

「?」

 

 

「俺は、魔法を使える………と思うよ。」

 

 

ーーーやっぱり、ユウさんも。なら、色々聞きたいことが!

 

 

「ユウさん、あの!」

 

「……………………」

 

「色々聞きたいんですけど……?」

 

 

 

あれ、反応が無い?

 

 

 

「……ユウさん?」

 

「…………………」

 

 

(大丈夫、気を失ってるだけみたいだね)

 

あ、そうなんだ……大丈夫そうならよかった。

 

(うん、とりあえずはユウさんは魔法を使えるみたいだね)

 

(うん……そうみたい)

 

(でも……)

 

 

? ユーノ君の歯切れが何処か悪い。

 

 

(どうしたの?)

 

(いや、これはユウさんが起きてから聞くべきだと思うから)

 

(?)

 

 

まだ私には話が見えてこない。

 

 

(とりあえず、ユウさんの目が覚めたら僕も自己紹介するよ)

 

(あ、そう言えばしてなかったね。じゃあ私はお茶でも持ってくるよ)

 

 

うーん、やっぱり不思議な人だなぁ。

 

とりあえず、目が覚めたら色々お話を聞かなきゃ。

 

私以外の魔導師の人と会うのも初めてだし、少しワクワクしてるかも。

 



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第3話 魔法とフェレット

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーキミは飛行魔法がそんなに得意じゃないんだね。

 

 

そう言って苦笑いした貴女を覚えている。

 

 

ーーあー、そんないじけないでよ。得意じゃないってだけで使えるから。

 

ーーでも……

 

ーーキミにはそのデバイスと"ソレ"があるでしょ?

 

 

彼女が指差したのは俺の手元にある黒色の機械と小さい容器のようなもの。

 

 

ーー俺にはコレの使い方もよくわからないですよ。なんで■■■さんはコレの使い方を知ってるんですか?

 

 

ーーそれはね、キミが——

 

 

 

声が霞む。

 

 

ーーソレはキミを守ってくれる。もしも危なくなったら、ソレの存在を思い出して。

 

 

 

 

身体がゆっくりと浮上する感覚。

やっぱりコレも夢なのかなぁ……

 

 

ーー大丈夫だよ、キミならできる。だって私を助けてくれたのはキミでしょ?■■くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

 

 

ふと瞼が上がる。

ここは……なのはの部屋だっけ。

少し気怠げな体を起こす。

 

部屋の中には人はいない。

さっきまでなのはが座っていた場所にはなのはの代わりに

 

 

「キュー」

 

「………」

 

 

小動物がいた。

えっと、コイツはずっとなのはの肩にいたやつ?だよな。

 

 

「目が覚めたみたいですね」

 

「……………………………お、おう」

 

 

もう……何も驚かないし突っ込まない。

 

例え目の前の小動物が喋り出してもな。

 

 

「その、君は?」

 

「あ、ごめ……すみません。ボクはユーノ・スクライアって言います」

 

「ユウだ、よろしく。……それと、話し辛いなら敬語は要らない」

 

「あ、そう?……なら普通に喋ることにするよ」

 

 

そう言って力を抜き、そばに来る小動物、ユーノ

 

 

「ユーノ、でいいか? どのくらい俺は眠ってた?」

 

「うん、大丈夫だよ。 うーん……5分くらいじゃないかな。今さっきなのはがお茶を取りに行ったばっかりだし」

 

 

そんなに時間は経っていないのか。

 

さっきの夢、なんだっけ。

 

たしか魔法の事だったような、違うような?

 

 

「あのさ、ボク、ユウさんに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「あぁ、別に構わないよ。 ……というかさん付けもしなくていいぞ?」

 

「わかった。それじゃあユウに質問」

 

「ああ」

 

「ユウはさ、管理局の人間なの?」

 

「管理局?」

 

なんだろう、知っているような知らないような。

 

……あ、そもそも記憶がないのをなのはやユーノに早めに伝えなければ。

 

 

「すまない、ユーノ。その前に俺の話を聞いてもらっていいか?」

 

「うん、大丈夫だよ。 あ、それってなのはもいたほうがいい?」

 

「出来れば。二度手間になるからな」

 

 

うんうん、そうだよねと頷くユーノ。

 

……冷静に考えると俺、今動物と話してるんだよな。

なんとも言えない感覚だ。

 

ユーノと話しつつ、そんな事を考えていると……

 

 

ガチャ

 

ドアの開く音。

どうやらタイミングよく帰ってきたらしい。

 

 

「よいしょっと、あ! ユウさん目が覚めたんだ。大丈夫?」

 

「おう、ごめんな話の途中で」

 

 

にゃはは、大丈夫ーなんていいながら飲み物とお菓子を運んできたなのは。……なんというか、無防備? 俺は何もするつもりないけど、見ず知らずの他人だぞ、俺。

 

 

「じゃあ、ユウ?」

 

「ああ、なのは俺の話を聞いてもらってもいいか?」

 

「うん、大丈夫だよ。ユーノくんとはもうお話ししたんだね」

 

「それじゃあ、改めて自己紹介と俺の現状について、まずーーー」

 

 

 

そこから俺は自分の名前、気づけばあの場所にいた事、あとなのはにも敬語はいらないと言う事、

 

そして「記憶がない」ことを話した。

 

 

「ーーーって感じかな。質問とかあればどうぞ」

 

「………えっと、はい」

 

「はい、なのは」

 

 

手を上げてきたので指名。

別に挙手制ではないんだけども。

 

 

「ユウさんは名前以外の記憶はないんだよね?」

 

「あー、一応年齢くらいなら覚えてるぞ? 16歳のはずだ。」

 

「え? そうなんだ。……じゃなくて!」

 

 

なのはの急の大声にユーノがビクッとしている。

 

 

「ユウさん、家に帰れるの?」

 

 

………………これは盲点。

 

俺ってどこに住んでたの?

 

 

「ユウ?」

 

「あー……どうしよう、なんも考えてないや」

 

「やっぱり……ユウさん、携帯電話とかお財布とかもないの?」

 

「なんもない……いや、確か…」

 

ポケットに入れたままだったよな?

右ポケットから謎の機械を取り出す。

 

「それさっきの……あ、だから自分のかわからなかったんだね」

 

おっしゃる通りです。

 

「……ユウ、それみせてもらってもいい?」

 

「ん、別に大丈夫だぞ。ほれ」

 

「ありがとう」

 

 

おお、小さい体で器用に受け取るな。

 

ふむふむ、やっぱり……なんて呟いてるユーノ。

 

 

「それ、なんだか分かるのか?」

 

「うん、多分だけどコレはデバイスだよ」

 

「え!デバイス? レイジングハートと同じ?」

 

 

デバイス?レイジングハート? なんの話なんだろうか。

 

 

「えっとね、デバイスって言うのは」

 

 

………なのはとユーノからの説明によるとデバイスって言うのは魔法使い=魔導師が魔法を使用するための補助的なモノらしい。

 

簡単に言うなら杖みたいなもの、とのこと。

なのはが持っているデバイスが「レイジングハート」と言う名前らしい。

 

デバイスにも種類があり、レイジングハートはインテリジェントデバイスと言うものだとか。

 

 

そう言えば、そんな事を誰かに教えてもらったような……?

 

 

「でもこのデバイス……見たことない素材やデザインだなぁ……」

 

「そうなのか?」

 

ユーノが物珍しそうに眺めている。

 

「うん、コレ起動できる? 正直、種類すらわからないんだ。横のスイッチが起動用のものかと思ったけど、起動しないし……」

 

 

「少しいじってみるか、貸してくれ」

 

はい、とユーノが渡してくる。

なのはも興味があるのか俺の手元のデバイスに釘付けになっている。

 

 

「うーん……」

 

「やっぱり、起動しない?」

 

「ああ、横のスイッチ以外押すところもないしなぁ……」

 

 

横のスイッチはユーノが押してダメだったみたいたが一応押してみる。

 

PiPi PiPi………

 

「ん?」

 

「あ!」

 

「え」

 

 

……画面に何か表示された?

 

System = Zeit・Aufstieg

 

なんだコレ システム=ツァイト・ライゼ?

 

この機械の名前か?

 

 

「それ、このデバイスの名前?」

 

「わからないけど、ツァイト……ライゼ…しっくりくるんだよなぁ…」

 

「あれ?その下……」

 

なのはに言われたままその下を見ると

 

4/100%

 

と表示させている。

どうやら起動までもう少しかかるみたいだ。

 

 

「こんな風に表示されるのもボク、初めて見たよ」

 

目を輝かせるユーノ。

もしかしてこういうの好きなのか?

 

さてとりあえずデバイスは置いていて……

 

 

「まずは住む場所と働き口か……」

 

はぁ……そもそも自己証明できるものが何もない俺に住むところどころか働き口なんて見つかるのだろうか……

 

 

「ねぇ、ユウさん?」

 

 

軽く絶望している中、なのはに呼ばれる

 

 

「もしかしたら、働ける場所に心当たりがあったり、なかったり……」

 

 

マジで?

 

 

 

 

 

 

9/100% Load……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「うん、構わないよ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ああ、なんなら直ぐにでも働いてもらっても構わないよ」

 

 

今俺はとんでもない聖人を目の前にしてるのではないのか?

 

ニコニコとしている男性ーーーなのはの父親をみながら思わず、そう考えてしまう。

 

 

 

少し時を遡る。

 

 

 

 

 

「ちょっと待っててね、ユウさん」

 

「え、あ、はい」

 

 

思わず黙ってしまう。 それもそうだろう?

 

死活問題のバイト先に心当たりがあるのが、出会ってまだ1時間くらいの少女だと言うのだから。

 

………部屋に上がり込んでいる時点で何かおかしい気がしないでもないが。

 

 

〜〜〜10分後〜〜〜

 

 

「ユウさーん!ちょっときてー」

 

 

なのはの声に思わずビクッとしてしまう。

 

さて、さてどうなるやら……

 

 

「……なんか緊張してきた」

 

 

「はは、頑張ってユウ」

 

 

「ん、行ってくるよ」

 

 

ユーノの声援を受けながらなのはの元に。

そもそも、一体なんのバイトなんだろうか?

 

そんな事を考えながら一階に降り、玄関の方にいるなのはの元へ。

 

 

「それじゃ、行こっか」

 

 

「おう、じゃなくてさ。俺はなんのバイトを紹介してもらえるんだ? 」

 

 

「あ、言ってなかったけど私の家、喫茶店やってるんだー」

 

 

何という幸運。なのはのご両親は喫茶店をやってるのか。

 

それならこの歳の女の子がバイトを紹介できる理由も納得できる。

だが、問題はまだ…ある。

 

 

「それはありがたいけど……俺、身分証とかないぞ?」

 

 

「あ、そっか。でも大丈夫だよ?お父さん少しくらいの事情がある人には優しいから」

 

 

いやいやいや。

 

記憶なくて、身分なくて、魔法使いかもしれないような得体の知れない奴だぞ。

 

普通に断るだろう。

 

 

と思っていた。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、こういう時は助け合いだよ!助け合い」

 

こんな事を平然と言ってのける、なのはの父ーーー士郎さん。

 

一体なのはは俺のことをなんて説明したのだろうか?

 

そう思いながらなのはに目を向ける。

 

 

(どうしたの?)

 

 

!!??

 

脳内に響くなのはの声?

 

なんだコレ、また魔法か何か?

 

 

(あ、そっか。ユウさん、コレは念話だよ)

 

念話?

 

 

(とりあえず、私のことをイメージしながら声に出さないで話しかけてみて)

 

 

言ってること無茶苦茶じゃないか?

 

 

(こんな感じか?)

 

 

(うん!聞こえてるよ)

 

 

あれ、出来た。

 

なんだろう、言われてることは滅茶苦茶だけど、一番「俺」にとってわかりやすい説明だったような……?

 

 

(それで、どうしたの?)

 

 

ああ、そうだった。

 

 

(俺のことを、士郎さんになんて説明したんだ?流石にここまで初対面の相手に良くしてくれるとは思わなかったんだが……)

 

 

(えっとね……記憶が無くて帰る場所もわからない人がいるんだけど、助けられないかな?って)

 

 

それ、別の意味で誤解するよね?

 

 

「さて、ユウくんだったかな?」

 

「あ、えっと……はい」

 

士郎さんの言葉で混乱していた頭を整える。

 

 

「なのはから話は聞いてるよ。歳はいくつだい?」

 

「16歳です」

 

「うんうん……それじゃーーーー」

 

 

 

そこからは面接みたいな感じだった。

 

年齢から始まり、どこまで覚えてるか、ここら辺の街に見覚えがあるか、接客は出来そうかなど。

 

というか……警察だとか家出だとか何か不穏なことも聞こえたけど、とりあえずスルー。

 

俺はなのはに言われた通り魔法に関すること以外は出来るだけ正直に、丁寧に答えた。

 

 

「ーーーうん、それじゃあ明日から早速働いてみるかい?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

まさかの働き口、ゲット。

身分証明出来なくても働けるのか。

 

 

「さて、ユウくんは住む場所はどうするんだい?」

 

 

 

これまた問題が。

正直、住むところよりお金、働く場所をどうするかに必死すぎて何も考えずに、ここまで話を進めてしまった。

 

 

「あー、大丈夫です。なんとかしますよ」

 

 

まぁ、さっきの公園はベンチもあったし今晩はあそこかな。

 

野宿か……なんとも……。

 

 

「ふむ、提案というかお願いみたいな形になるんだけどね?」

 

「はい?」

 

「最近、人手が足りなくてね。もしユウくんさえ良ければ、泊まり込みで働いてみないかい?」

 

「はい??」

 

 

え、え? どういうこと?

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!俺、自分で言うのも何ですけど、怪しさ満点な奴ですよ!?そんな奴を泊まり込みでって……」

 

 

「はは、だって君はこのままだと泊まる場所すらないだろう?それに僕は人を見る目だけは自信があってね。

なのはからのお願いって言うのも正直あるけど、それ以上に話してみて僕は君の事を気に入ったから。そんな理由じゃダメかな?」

 

 

惚れてまうやろ。

 

イケメン過ぎないか。

 

 

「でも、士郎さんにも家族がいるでしょう?

その人たちになんて言われるかわかりませんよ?」

 

 

「ああ、それなら大丈夫だよ。

ーーそこでずっと見てるし」

 

 

「え?」

 

 

思わず後ろを振り返ると、そこには、笑顔でこちらを見ている女性が1人。

 

ああ、見た目がなのはそっくりだ。 歳も若いしお姉さんか?

 

 

「あ、お母さん」

 

 

お母さんだったらしい。若すぎないか?

 

とりあえず、頭を下げておく。

 

 

「さて、紹介するよ。僕の嫁で桃子だ」

 

 

「こんにちは、ユウくんよね?高町桃子です。これからよろしくね」

 

 

「…ユウです、よろしくお願いします」

 

 

 

そんなこんなでバイト先と住む場所すら確保できてしまった。

 

なのはを見ていた時から思うのだが、この家の人たちは優しすぎないか?

へんなところに騙されないか心配すぎる。

 

 

「あとは、なのは以外にも子どもはいるんだが、帰ってきたら紹介するよ」

 

 

「恭也と美由希って言ってね、ユウくんより2つ上と1つ上なの。仲良くしてあげてね」

 

 

「は、はい」

 

 

 

恭也さんに美由希さんか。

どんな人なんだろうか。

 

 

「それじゃあ、なのは、家に案内してあげて?

部屋は二階のなのはの隣が空いてるからそこを使ってね」

 

 

「はーい、それじゃユウさん行こう」

 

 

「あ、ああ」

 

 

なんでこんなにあっさり受け入れられるのだろうか?

本当に不思議だ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「なぁ、なのは」

 

「なぁに?」

 

 

翠屋からなのはの家まで約5分程度。

その道を歩きながらなのはに自分の疑問点を聞いていく。

 

 

「本当に良かったのか?

俺みたいな奴と一緒に住む事になるんだぞ?」

 

「平気だよ?ユウさん悪い人じゃないし、それに困ってたらお互い様だよ!」

 

 

あの親あってこの子あり。

なのはには、このまま綺麗に育ってほしいものだ。

 

 

「まぁ、いいなら俺からは感謝しかないんだけどな。

本当に助かる、ありがとう」

 

 

「にゃはは、どういたしまして!」

 

 

さて、住む場所、お金の問題が解決したなら次は……

 

 

「魔法について、か」

 

 

ふとポケットに入れっぱなしのデバイスを見てみる。

 

29/100%

 

 

着実に起動は進んでいるようだ。

……少しながい気もするが。

 

 

「ユウさん、今日の夜時間ある?」

 

 

「ああ、何もする予定はないよ」

 

 

別段、魔法の使い方でもなのはかユーノに聞こうとしていたくらいだ。

 

 

「私、魔法の特訓をしてるんだけど一緒に行かない?」

 

「ああ、それなら俺の方から頼むよ。

魔法の魔の字もしらないからな」

 

 

さて、これからどうなっていくのか。

 

俺の今の目標というかするべき事は、記憶を取り戻すのと、魔法の使い方、それとーー

 

 

 

「ふふんふーん♪」

 

 

 

愉快に鼻歌を歌っているこの少女を助ける事かな。

 

 




少し長くなりすぎました……。
申し訳ありません。
次回からやっと魔法がつかえるかな?

ここまでお疲れ様でした。
評価、感想をいただけるとうれしいです!


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第4話 買い物とデバイス「Zeit・Aufstieg」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここの部屋を使ってね、ユウさん」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

そんな会話をしながら扉を開ける。

部屋の大きさは十二分で俺のような居候に使わせるような場所とは思えないほど広い。

………というかここ、誰かが使った後や倉庫って感じでもない。

それなのにエアコンにベット、机に本棚まである。

 

 

「なぁ、なのは ここって誰かが使ってた部屋なのか?」

 

「ううん、昔からあるけど誰かの固定の部屋みたいな使われ方はしてないよ?」

 

「なるほど、客間というか誰かのお泊まり用?」

 

「うん、そんな感じかな」

 

 

ホントに申し訳なさしかないな……

とりあえず、ポケットに突っ込みぱなしになっているものを机に置く。

 

デバイスとよくわからんモノ。

 

 

「あ、そういえばこれお父さんから」

 

「?なんだこれ」

 

 

なのはに手渡されたのは茶色い封筒。

とりあえず、開けてみる。

長方形で薄い紙が5枚ほど。

というかこれ……

 

 

 

「………お金?」

 

 

「うん、お父さんがそれで必要なものは買っていいよって」

 

 

「いやいやいやいや」

 

 

まだ何も働いてすらいないぞ、俺!?

 

 

 

「う、受け取れないぞ流石に……」

 

 

「にゃはは、そういうと思ったよ。でも、お父さんから伝言で

『それは明日からのバイト代の先出しみたいなものだから気にしないように』

だって。ユウさんお金、まったくないんでしょ?必要なもの最低限は買わないと生活もできないよ」

 

 

「……おっしゃる通りです」

 

本当に頭があがらない……

 

というかなのはって見た目よりずっと賢いというか大人というか……

そういえば

 

 

「なぁ、なのはって何歳なんだ?」

 

 

「私?9歳だよ」

 

 

ビックリだよ

 

どんだけ大人びてらっしゃるんだ。 というか……

 

 

「9歳の女の子のヒモかぁ……」

 

 

情けなさマックス。

 

 

「ヒモ??」

 

「なんでもない」

 

 

あ、そういう知識は無いのね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

37/100%

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎さんから頂いたお金で最低限のものを買いに来た。

 

なのはとユーノは付き添いで付いてきてくれた。

なのはの言い分は"だってユウさんお金の読み方すらわからないんでしょう?心配だから私もついて行くよ"

 

とのこと。 なんもいえねぇ……てか、なんでお金の単位すら忘れてるんだよ。

 

「とりあえず服と日用品、それから……」

 

 

少し大きめの買い物かごにガンガンと物が入れられていく。

 

Tシャツにジーパン、ジャージなどの衣類から、歯ブラシ、くしなどの日用品。

 

 

「こんな感じかな、うん」

 

「こ、こんなにいるのか?」

 

目の前には少しはみ出すほどの日用品と衣類の類。

流石にこんなには入らないような……

というか、ジャージと軽い日用品があれば俺はそれでいいのだが。

 

 

「でも、毎日ジャージでいるつもりじゃ無いでしょ?バイトだってあるんだから服装は整えないと」

 

 

………お母さん?

 

 

(ユーノ)

 

(ん、どうしたの?)

 

(女の子って、すごいな)

 

(??)

 

 

俺の頭に乗っかっているユーノには同意を得られないようだ。

ホントに9歳か?この子

 

 

そんなこんなで買い物をしていると

 

 

「なのはちゃん?」

 

「なのは?」

 

 

なのはを呼ぶ2人の声

振り返ると紫色の髪に穏やかそうな雰囲気の少女と金髪で活発そうな少女がいた。

 

 

「あ、すずかちゃんにアリサちゃん」

 

「こんにちは、なのはちゃん」

 

「なによ、買い物?」

 

 

和気藹々と会話をする3人。

友だちのようだ。

………なんか面倒な匂いがする、少し距離を置くか。

 

「あ、ユウさん紹介するよ。

こっちがすずかちゃんでこっちがアリサちゃん」

 

 

ちょっと

 

 

「えっと…….こんにちは。月村すずかです」

 

 

「……アリサ・バニングスよ」

 

 

「……こんにちは、ユウだ」

 

 

なんなん、この空気?

なのはだけニコニコしていて、すずかちゃんとやらは、こちらをおずおずと観察していて

アリサちゃんとやらは警戒心マックス。

 

 

(こういう時、どうすればいいんだ?)

 

(うーん、なのははユウのことちゃんと紹介したの?)

 

 

この2人の反応を見るに急に俺を紹介したんだろうなぁ……

"あ、ちょっとまってて!紹介したい人がいるの"

とかそこら辺だろう。

 

「なぁ、なのは。

俺の事なんて言ったんだ?少しくらいは事情説明とかしたの?」

 

「あ」

 

ほらね

 

「あ、えっとごめんね、紹介し直すね。

この人はユウさんって言って、明日から私の家で働く人なんだ」

 

 

そこから俺となのはで少しだけ事情説明。

簡単に言うと俺が記憶喪失なのと魔法関連を伏せた内容を伝えた。

俺が泊まり込みで働くことを聞いて少し怪しんでいたが、一応は納得してくれたみたいだ。

 

「ところでなんですけど」

 

説明がひと段落して質問タイム。

まず、すずかが手をあげる。

 

「ユウさんは学校とかってどうしてるんですか?」

 

学校?

 

「いってないけど、どうしてだ?」

 

「え、行ってないの!?」

 

 

おう、今度はアリサからのツッコミ。

 

「ああ、行ってない」

 

「……まぁ、何か事情があるっぽいし深くは聞かないけど」

 

 

と言って、少しバツが悪そうな顔する2人。

どうしたんだ?

 

 

(ユウさん、ユウさん)

 

(今度はなのはか。どうした?)

 

(多分、2人勘違いしてるよ?)

 

 

勘違い?

 

 

(だってユウさんまだ16歳でしょ?普通の人はまだ高校生だよ?)

 

(そうなのか?)

 

 

なんだろう、俺の中ではもう働いててもおかしくない年な気がするのだが。

(多分、2人は家族とかそういう変な誤解をしてるんだと思うよ?)

 

なるほど、お金がなくて学校に行かせてもらえてないとかだろうか?

一応、誤解は解いて置くか。

 

 

「あのさ、2人とも?」

 

「はい?」

 

「なに?」

 

「別に俺は誰かのせいで学校に行けてないとか、そう言うのじゃなくて少しだけめんどくさい事情があるんだ。

だから変な勘違いとかするなよ?」

 

 

「あ、そうなんですか?てっきり……」

 

「なによ、少し悪いこと聞いちゃったとか思ったじゃない……」

 

 

今時の子は初対面の相手にも気が使えてすごいな。

というかこの子たちが優しすぎるような?

 

 

「あ、すずかそろそろ時間」

 

「え?あ、そっかごめんねなのはちゃん、私たちそろそろ塾の時間なの」

 

「土曜日まで大変だね」

 

「うん、それじゃあね。なのは、ユウさん」

 

「それじゃあ私たちは失礼します、ユウさん。

またね、なのはちゃん」

 

「うん、2人ともまたねー」

 

「えっと、じゃあな」

 

 

なんか、俺の知り合っていく人って少女ばっかりのような……

頭の上でウトウトしているユーノを小突きながらそんなことを考える。

 

 

 

 

 

74/100%

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

買ったものを手に持ち、高町家に帰宅する。

 

ぼーっと歩きながら今日半日で起きた事を振り返っていく。

 

目が覚めたと思ったら公園で、魔法少女が目の前にいて、気づいたら記憶が無くて、そのまま出会って1時間くらいの少女の家で住み込みで働く事が決まって。

 

思い返して見ても良くわかないな。

なんなんだろうか、この半日。

 

 

「おーい、ユウさん!通り過ぎてるよ!」

 

(ユウ、なのはの家は一個前だよ?)

 

あ、またか。

どうやら俺は思考し始めると周りが見えなくなるみたいだ。

ぺしぺしと頭を叩かれる感覚でやっと気づいたが、なのはの家を過ぎている。

 

「悪い、少し考え事してた」

 

「大丈夫だよ。さて、まずは服とかしまわなきゃね」

 

本当にお母さんみたいだな。

 

「あ、なのはおかえりー」

 

知らない女性の声が聞こえた。

桃子さんではない。

となると……

 

「あ、キミがユウくんかな?私は高町美由希。 今日からよろしくね」

 

 

やっぱりなのはのお姉さんの美由希さんか。

優しそうな人だなぁ……って言うのが第一印象。

 

「ユウです、よろしくお願いします」

 

「さんも敬語もなくていいよ。私も話しにくいし」

 

「えっと、それじゃあよろしくな」

 

「うん、よろしくね」

 

 

 

さて、あと挨拶できてないのは恭也さんだけか。

 

 

「美由希、恭也さんってもういたりするか?」

 

 

「恭ちゃん?もう帰ってると思うよ。

道場の方にいるんじゃないかな?」

 

 

道場? この家、道場まであるのか。

 

 

「先に挨拶だけしてくるよ、道場ってどこだ?」

 

「あ、私が案内するよ」

 

 

なのはに手を引かれる

それじゃ、お願いするか。

 

 

「ねぇねぇ、ユウくん?」

 

「ん、なんだ?」

 

 

今度は美由希に呼び止められる。

なんだろう?

 

 

「なのはとは今日初めて会ったんだよね?」

 

「?そうだけど…」

 

「その割に随分と懐かれてると言うか…」

 

と、こそこそっと耳うちしてくる。

そうなのか?

どちらかというと何もできない俺をしょうがないから助けてあげるって感じじゃないか?

 

 

「気のせいじゃないか?じゃ、ちょっといってくる」

 

 

「はーい、いってらっしゃい」

 

 

 

 

91/100%

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュッ!シュッ!と何かを素振りする音が聞こえる。

こっそりと扉の間から中を見ると年上であろう男性が竹刀で素振りをしていた。

 

 

「うーん、どう見ても練習中なんだよな……出直すか?」

 

「大丈夫だと思うよ?それに、ほら」

 

なのはが指差す方を見ると、恭也さんがこちらを見ていた。

 

 

「ああ、すまない。少し集中し過ぎた様だ」

 

 

入ってきてくれ、と言われ入室。

うん、士郎さんそっくりのイケメンだ。

 

 

「キミがユウだな?俺は高町恭也。今日からウチで寝泊まりするってことも聞いてる。

男同士だ、何か困った事があれば相談してくれ」

 

 

やだ、性格もイケメン。

 

 

「ユウです、色々お世話になります」

 

「ああ、よろしくな。俺のことは恭也でいい」

 

 

それと敬語もいらん、と言われた。

 

「えっと、それじゃあよろしく、恭也」

 

「おう、もうすぐ夕食の時間だからそろそろ俺も切り上げるよ。先に行っててくれ」

 

 

18時30くらいに夕食らしい。 

というか俺まで頂いて本当にいいのだろうか?

 

 

「それじゃ、ご飯まで私とお話ししてようよ、ユウさん」

 

「ん、了解」

 

それじゃ、私の部屋に行こう!なんて言いながら先導される。

 

「……ふむ、なのはに随分と好かれてるな」

 

「え?恭也さんもそう思うんですか?」

 

「俺以外にも言われたのか?」

 

「えっと、美由希さんに」

 

「ああ、確かに言いそうだな。

まぁ仲良くしてやってくれ」

 

 

了解、と言いながら道場を後にする。

とりあえず高町家の人達には挨拶できたし、次は夕食後の魔法の特訓かな。

 

チラッとデバイスをみてみる。

 

 

98/100%

 

もう少しか、なのはと話していれば100%になりそうだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

《complete》

 

「ん?」

 

「え?」

 

「キュ?」

 

なのはの部屋で、ユーノとなのはの出会い魔法関係の話を聞いていると突然そんな音が鳴り響いた。

鳴ったのは俺のポケット、デバイスが入ってる場所。

 

 

「ユウさん、今のって……」

 

「デバイスからだったよね?」

 

ずいっとこちらに体を寄せてくる2人

 

興味津々の様だ。とりあえず取り出す。

 

画面には

 

100/100%

complete

Touch

 

と表示されていた。

とりあえず触れれば良いのかな?

 

画面に触れてみると、少しの機械音。

起動したみたいだ。

ん?初期設定画面?

日付と時間の入力画面か。

 

「なぁ、なのは"今"って何年なんだ?」

 

「えっとね」

 

 

なのはに教えてもらいながら操作していく。

 

……なんでこれめちゃくちゃな日にちに設定されているんだか。

 

「ユウ、その文字読めるの?」

 

「ん、ああ」

 

「それ、僕がもともと住んでいた場所の言語なんだけど…」

 

なんだって?

 

そういえばさっき話してて聞いたが、ユーノはこの世界生まれでは無いらしい。

 

「やっぱりユウも僕たちの世界出身なのかもね」

 

「まぁ、今は覚えてないけどなっと」

 

設定完了。

 

画面が開かれる

 

……不思議と操作の仕方が少しだけわかる気がする。

 

というか、メールと電話がある時点で携帯としても使えるみたいだ。

 

「あ、ユウさんそこの下」

 

「ん?えっと……なんだこれAIセットアップ?」

 

「とりあえず開いてみれば?」

 

「ああ」

 

とりあえずタップしてみる。

 

Load now?

 

《hello, master》

 

へ?

しゃ、喋った?

 

「あ、インテリジェントデバイスみたいだね」

 

「あ、それはなのはのレイジングハートと同じ種類ってことか」

 

「うん、私のレイジングハートも喋るよ?」

 

なにそれ聞いてない。

 

《Nice to meet you》

 

「あ、えっとよろしくな」

 

なのはの持つレイジングハートに思わずお辞儀。

なにしてんの、俺

 

「とりあえず、そのデバイスの名前って……」

 

「あ、そっか。一応聞いておくべきだよな」

 

そんな感じでデバイスに聞いてみる

 

 

《Zeit・Aufstieg 》

 

ツァイト・ライゼでいいみたいだ。

とりあえず

 

「ツァイトでいいか?」

 

《Yes,master》

 

「んじゃ、よろしく」

 

《Nice to meet you》

 

とりあえずはこんな感じかな。

 

「無事に起動できてよかったね、ユウ」

 

 

ここで、下の方から呼ばれる。

そういえばそろそろ18時30くらいか

 

 

「そろそろご飯だし、いこっか」

 

「ああ、魔法は飯の後の特訓で使ってみるか」

 

セットアップ?だっけ。

何というか色々と覚えることが多いなぁと思いつつ、なのはたちとの夕食へ。

 

まぁ、とりあえずは何とかなるだろう。

 




今日はここまでで。
次回は魔法の特訓編。
やっと主人公がセットアップできそうです。



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第5話 最初の力《Formula・Nova》システム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから夕食をご馳走になり、少しの時間が経った。

桃子さんの料理、絶品でござった。

士郎さんの終始ドヤ顔の理由もよく分かる。

 

そろそろ魔法の特訓とやらに行くという話になったところで、ふと気付く。

なのはの年齢的にこの時間に出歩くのはマズイのでは?

まだ19時半とは言え、士郎さんたちに心配をかけたくないなぁ……

よし。

 

 

「それじゃ、いこう」

 

 

そんな風に言いながら部屋の窓に足をかける。

 

 

「いやいや、普通に玄関からで大丈夫だよ?」

 

 

「え、そうなのか?一応、なのはもまだ歳が歳だし士郎さんたちにバレない方がいいとおもったんだが」

 

 

「お父さんたちにはランニングしてるって言ってるし」

 

 

そう言いながらジャージに着替えているなのは。

こう見てみれば食後の運動と言われれば信じるかもな。

 

「それじゃ、行くか」

 

「うん」

 

「キュー」

 

2人+1匹で階段を降りて行く。

あ、桃子さん。

 

 

「あら、ユウくんも食後の運動?」

 

「はい、軽く走ってきます」

 

あらあら、なんて言いながらニコニコしている。

 

「いいわねぇ、若いって」

 

謎である。

 

「なのはの事よろしくね?その子、凄い運動音痴だから」

 

「お母さん!」

 

もうー!!なんて言ってじゃれてる親子。

仲良いなぁ…

 

「遅くなっちゃうから行くよ、ユウさん!」

 

「はいはい、それじゃあ行ってきます」

 

いってらしゃい、と言いつつ玄関まで見届けてくれる。

 

それじゃ、頑張りますか。

 

 

「ところで、魔法の特訓ってどこでやるんだ?」

 

「あ、言ってなかったね。ボクが結界を張るから基本的にどこでも大丈夫だよ」

 

便利かよ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「よっ!ほっ!とりゃ!」

 

「へぇ……凄いな」

 

 

俺は目の前の光景を見つつ、思わずそう呟く。

あの公園でユーノが結界を貼り、今まさになのはが魔法を使っている。

射撃魔法?らしい。

桜色の玉やらビームみたいなのを打ち出すなのは。

投げた缶を撃ち抜く練習らしいが大体文字通り消えている。

 

 

「……ふぅ、こんな感じかな」

 

「お疲れ様、なのは」

 

「いや、凄いな。本当に魔法ってあるんだな」

 

えへへ……なんて褒められて嬉しいのかなのはが捻れている。

 

 

「それじゃあ、ユウ?とりあえずはセットアップしてみようよ」

 

 

「ん、そうだな。どうすればいいんだ?」

 

 

「普通に"セットアップ"って言えばデバイスがバリアジャケットを生成してくれるよ」

 

 

バリアジャケット……あぁ、イメージするんだっけ?

 

「よし、やってみるか」

 

「頑張れー」

 

飛んだままこちらにエールを送るなのは。

よっしゃ、やるか

 

 

「セット………」

 

なんか、恥ずかしい……

9歳の女の子が叫ぶならまだしもそこそこの歳の俺が叫ぶって痛いというか…恥ずいというか……

 

「?」

 

「ユウ?」

 

純粋な1人と1匹の目が痛い。

ええい、ままよ!

 

「セットアップ!!」

 

《error》

 

え?

 

「あれ?セットアップ!」

 

《error》

 

「えぇ……」

 

エラーってなんだよ、エラーって……

 

「セットアップ出来ないね……なんでだろ?」

 

 

ユーノが俺のデバイスを見てくれる。

なのはも気になったのかこちらに寄ってくる。

 

 

「あれ、これって……」

 

 

「なんか分かったのか?」

 

 

「うん、この裏側の所さ、何かをはめ込むように出来てないかな?」

 

 

あ、そういえばそんなのもあったな。

 

「それなんだけど、何をはめ込むかもわからないんだよ」

 

「うーん、お手上げかな…」

 

つまり俺は魔法が使えないのか……

なんか、損した気分だ。

 

「あれ?この形……」

 

なのはが俺のデバイスをくるくると見回している。

 

「ねぇ、ユウさん」

 

「どうした?」

 

「ユウさんが持ってたのってデバイス以外にもう一つ無かった?」

 

あ、そういえばコレがあったな。

 

「これか?」

 

「あ、それそれ!貸してくれない?」

 

「?別に構わないよ、ほれ」

 

ありがとう、と言いながらそれ受け取るなのは

何すんだ?

 

「やっぱり、このくぼみに差し込むのってコレじゃない?」

 

え、マジで?

そう言われてみると、形が似ているような……

 

「ものは試しだよね、ほい!」

 

ガチャ、という音と共にぴったり差し込まれる。

 

「おお、ぴったりだ」

 

「ホントだね、ボクも全然気付かなかった…」

 

どうだ!というドヤ顔のなのは。

いやはや御見逸れしました。

 

《Not enough. Please charge magical power 》

 

今度は魔力をくれ?

 

 

「えっと、魔力ってどうやってあげればいいんだ?」

 

 

《Bombard me with magical power》

 

 

魔力を砲撃しろ?

 

「お前にか?」

 

 

《Yes, please》

 

 

「……壊れたりしない?」

 

《no problem》

 

「おう…そうか……」

 

俺のデバイスはドMなのか……

 

「なのは、頼めるか?」

 

「えっと、私は構わないけど……ホントにいいの?」

 

そう言ってツァイトに尋ねるなのは。

 

 

《All right, thank you》

 

 

やっぱりドMじゃねーか。

全力でお願いって。

 

 

「うん!やってみるよ!」

 

あらヤる気満々。

頼むから壊さないでね。

 

「ねぇ、ユウ」

 

「なんだ?」

 

「ホントに良かったの?」

 

「ん、まぁ必要なことみたいだしな…」

 

 

そう言って目の前の光景を見る。

先ほどまで文字通り消えていた缶の代わりに俺のデバイス、ツァイトが置かれている。

……すっげぇ不安

 

 

「それじゃ、行くよ!全力全開!」

 

 

全力全開……さっきのでまだ余力があったのか……

 

 

「やぁーーー!!!!」

 

 

おお、凄いレーザーみたいだ。

グングンと俺のデバイス目掛けて飛んでいく。

ツァイトとは短い付き合いだったな……

 

 

「ユウ、よく見て!あれ!」

 

何か興奮するように俺の頭をペシペシ叩いてくる。

なんだよ……

 

壊れたであろうデバイスの方を見る。

 

 

「?壊れてない……というか」

 

ツァイトの前でなのはの砲撃が消えて言ってる?

いや、吸収が近いかもしれない。

 

 

そして、放った砲撃は全てツァイトの中に消えた。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ありがとうな、なのは」

 

「全ぜ…ん、大丈夫…だよ……はぁ……」

 

「めちゃくちゃ疲れてるじゃん」

 

「それより…どう?デバイスの方は」

 

息を荒げながらもツァイトが気になるのか。

 

 

「おう、今取ってくるよ」

 

 

ツァイトを拾い上げて確認して見る。

傷1つ付いてない……

本当にさっきのを吸収しきったのか。

 

 

《Release function》

[mode・Formula Nova]

 

 

画面に表示されたのはまたまた見た事ない画面。

モード・フォーミュラーノヴァ?

 

「あ、ユウそのセットアップのところ……」

 

「ん?あ、さっきと違うな」

 

さっきまでは灰色の枠に黒字でsetupだったが

今は白い枠と薄い桜色の四角の中に赤くsetupと書かれている。

 

「ふぅ……もう魔力空っぽだよ……」

 

「そんなになるまで撃たなくても良かったんだぞ?」

 

「えっと……なんていうか」

 

なのはは不思議そうに

 

「私、途中から撃つのやめた筈なんだけど、その……吸われる?感覚で魔力全部持ってかれちゃったんだ」

 

 

つまり、ツァイトがなのはの魔力を全部受け止めたんじゃなくて、全部吸い出したって事か?

 

《Thank you.nanoha》

 

「えっと、どういたしまして?」

 

割と喋るなコイツ。

 

「と、とりあえずこれでユウもセットアップ出来るんじゃない?」

 

「うん、私ユウさんのバリアジャケット見て見たいな」

 

「いや、別に元々変身するつもりだったけどさ……」

 

こんなに食いつかれるとやっぱり恥ずかしいな。

 

「まぁまぁ、とりあえずーーーー」

 

《master》

 

レイジングハート?

 

「ユーノくん、ジュエルシードが!」

 

「……!!最悪だ、このタイミングで」

 

「えっと、どうしたんだ?」

 

「とにかく、行こう!」

 

「うん!ユウさんも来て!」

 

「え、あ、ちょ!」

 

なのはに手を引かれ走る。

何がなんなんだよ……

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ……あれ」

 

 

目の前には巨大な黒い狼のような生き物。

こちらをみてかなり警戒している。

 

 

「あれがさっき話したジュエルシードの暴走体だよ」

 

 

ユーノには説明してもらったが、ジュエルシードとやらは願いや想いを捻じ曲げて叶えるだっけ?

 

 

「とりあえず結界は張ったから後は封印するだけなんだけど……」

 

「ごめんね……」

 

そう、先ほどツァイトがなのはの魔力を全部吸い取ってしまった所為でセットアップすら出来ない。

正直、結構ヤバイ。

目の前のヤツがいつ襲いかかってくるか予想がつかない。

 

グルルル………

 

《master》

 

「なんだよ?」

 

急に話しかけて来たツァイトを見る。

……画面にはセットアップの文字。

あ、そっか。

 

「なぁ、ユーノ」

 

「?」

 

「ジュエルシードの封印って俺でも出来るか?」

 

「ユウも魔導師なら出来ると思うけど……」

 

「よし、それじゃ一丁頑張るか」

 

「え!危ないよ!」

 

なのはが止めてくる。

 

「その危ない事をこれからもやるのはお前だろ?」

 

「うっ……」

 

バツが悪そうに目をそらす。

 

「だから、俺にだって手伝うくらいは出来ると思うから」

 

「ユウさん……」

 

よし、そんじゃ行ってみるか。

 

「ユーノ、まずどうすればいい?」

 

「とりあえず、セットアップしてみてくれないかな?流石に生身は危ないよ」

 

「了解、それじゃツァイト」

 

《ok.master》

 

[setup・mode Formula Nova]

【Are You Ready?】

 

「セットアップ!」

 

 

 

光に包まれる。

内側にある自分の大切なものに別の誰かの暖かいものが流れ込んでくる。

 

 

 

ーーソレはね、魔力(マジック)メモリって言ってキミ以外の魔力を登録(インストール)できるモノなんだよ

 

ーー登録?

 

ーーうん、ソレを使えばキミはたくさんの人を守れる。大丈夫、キミならソレを使いこなせるよ。

 

 

ひとつだけ、たったひとつだけど思い出した。

 

 

俺のデバイスとこの力は——大切な人たちを守る為のものだ。

 

 

 

 

 

 

《mode1・Blaster Nova》

【complete phase1】

 

 

ーーー頭に情報が流れてくる。

 

モード1・ブラスター ノヴァ

見た目は白と青をベース色とした装甲に巨大なキャノンとブースターが装着されている。

所々つなぎ目の辺りは桜色の線が走っている。

移動速度は低いが、火力と装甲がいいタイプか。

 

 

「はあわ……」

 

「綺麗……」

 

ユーノとなのはがぽかーんと俺をみている。

そんなに変?

 

「というか、ユウさん!髪と目!」

 

「は?髪と目?」

 

キャノンの反射する部分を使い自分の容姿を確認する。

茶髪に少し桜色の色彩。

………は?

 

「は?え?なにこれ」

 

いつイメチェンしたの俺!?

なんなんだこれ!

 

《Linker core Synchro. probability 94.2%》

【System all green】

 

は?シンクロ?

 

「でも、よくみたらなのはそっくり……」

 

「え?あ……バリアジャケットとかもだけど、髪の色も目の色も……」

 

「……つまりどういう事?」

 

「えっと……多分だけど…って、ユウ!

前!前見て!」

 

は?前?

 

グルァァァァ!!!!

 

 

「ちょ!?」

 

 

思わず、銃口で狼の引っ掻きを受け流す。

そして、噛みつきには回避、尻尾の振るいにはしゃがむ。

あれ、なんでこんなに動けるんだ?

まぁ、とりあえず

 

「やられてばっかりは、どうも性に合わないみたいだ。ツァイト!」

 

《ok.master》

【load now……burst square】

 

「バースト・スクエア!」

 

狼に向け引き金を引く。

銃口から放たれる桜色と青色の光は弾けるように、絡むように狼を包む。

 

右から、左から、上下から。

ありとあらゆる360度からの砲撃は狼を一気に飲み込む。

 

衝撃。

全てを包み込んだまま、光は少しづつ収束していく。

 

狼がいた場所には子犬が1匹。

その横には青い石が1つ。

 

どうやらコレがジュエルシードとやらみたいだ。

こんな子犬を巨大な狼に変えるとは……

 

「ユウさん!」

 

「ユウ!」

 

「ん?」

 

なのはとユーノが興奮したようにこちらに駆けてくる。

 

「凄い!凄いよユウ!あの暴走体を一発なんて……」

 

「うん、凄い魔法だったよ!私にも教えて!」

 

おおう、こういう所は子供っぽいんだけどなぁ……

 

《over the time limit》

[Reformation]

 

「え?」

 

ツァイトからそんな音声が流れたと同時に変身が解けてしまう。

 

「どうやら、時間制限もあるみたいだね」

 

「らしいな……となるとあまり長く戦う事は出来ないのか」

 

「でも、さっきみたいに1発撃破!ってすればいいんじゃない?」

 

「そんなにうまくいくかな……」

 

はぁ……なんか疲れた。

今何時だよ……

 

………?

んん???

 

21時………??

 

「……なのは、桃子さんたちに何時に帰るって言った?」

 

「え?えっと20時くらいじゃなかった?」

 

「……今何時か見てみ」

 

「え?………あっ……」

 

「「急いで帰らなきゃ!!」」

 

「はは……」

 

そうして高町家まで全力疾走。

少し怒られてしまったのは、また別の話。

 

今日は本当に濃い一日だった。

明日からバイトか。

楽しみのような、不安のようなそんな感じ

 

まぁ、なるようになるだろう……多分。

 




はい、という事でユウの初セットアップでした。
魔力メモリに関しては少しづつ分かってくると思いますよ。
ちなみになのはの魔力を吸収したメモリは青色ベースに桜色の配色って感じです。
イメージはSDカードとかで大丈夫です。
デバイスに関してはまんま黒いスマートフォンをイメージして頂ければ大丈夫です。

それではまた!


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第6話 平和な日常

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走る、走る、走る。

 

 

ビルが立ち並び、所々で爆発音や風を切る音、何かがぶつかる音、様々な音が聞こえる。

 

 

ーー目の前に誰かが突然現れる。

"俺"は勢いを殺さずそのままの勢いで右手に持つ魔力で出来た剣をその相手に振るう。

 

瞬間、自分の手元にあった筈の剣が弾かれ相手の剣がこちらに迫る。

直ぐに立て直す為に距離を図らなければ。

ーーしかし

 

後ろから砲撃。

敢え無く俺はその砲撃に飲まれる。

桜色の大きい魔力の残留。

 

また、負けてしまった。

訓練とは言え悔しさが残る。

 

 

ーー惜しかったな、私1人ではそろそろ厳しいやもしれんな。

 

そう言って、目の前の女性が此方にやって来る。

 

ーー■■■■副隊長にはまだまだ敵いませんよ……

 

ーーしかし、■■■の砲撃が無ければまだ立て直せていただろう?

 

 

今の訓練を思い返し、反省をする。

そこへ

 

ーーお疲れ様、■■くん。惜しかったね?

 

ーーさっきの砲撃はムリですよ……

 

もう1人の女性が此方にくる。

先ほどの砲撃を放った人物だ。

 

ーーでも■■くん、なんでデバイスを使わないの?もってるでしょ?

 

ーー使わないんじゃなくて、使えないんですよ。エラーって表示しか出なくて……

 

ーーだからそのアームドデバイスを使っているのか。

 

納得した様に頷く■■■■さん。

 

ーー大丈夫だよ、そのデバイスはきっと使えるようになるよ。

 

そう言って、何処か懐かしそうに俺のデバイスを見つめる■■■さん。

 

 

………さん!……さん!!

 

 

ーーどうして■■■さんは俺のデバイスを知ってるんですか?

 

ーーん?それはね

 

 

ニコニコと何が嬉しいのか微笑む。

でも何処か悲しそうな……そんな表情

 

 

ーー秘密だよ、ユウくん

………起きて!ユウさん!

 

 

 

声が重なる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んぁ?」

 

 

ここは……

 

 

「あ、目さめた? そろそろ起きないと時間なくなっちゃうよ?」

 

 

目の前の少女は……

 

……そういえば俺は昨日からなのはの家にお世話になってるんだっけ?

寝る前に"明日の朝、もう一回魔法のお話しよう?"と言われた事を思い出す。

 

 

「ん、ごめん。今起きるよ」

 

 

「うん、おはようユウさん」

 

「おう、おはようなのは」

 

 

そう言ってニコニコとしているなのは。

 

ーー何処かで

 

やっぱり何処かでこの子を見た事がある気がする。

 

 

「それじゃ、何から話そうかな?」

 

「うーん、そう言えばなのはとユーノ」

 

「ん、何?」

 

「今、ジュエルシードって何個集めてるんだ?」

 

そう言えば何個あるかは聞いたが、今現状何個集まってるかまでは聞いてなかった。

 

えっとね、なんて言いながらなのはが数えだす。

 

「ボクが最初の一個を封印して、それで力尽きた話はしたよね?」

 

「ああ、聞いてるよ」

 

「その後、病院で一個。これが初めてなのはが封印したジュエルシードで、その後に神社でもう一個、それで昨日の朝に3つ目のジュエルシードを封印したんだけど……」

 

ああ、そういうことか。

その封印した筈のジュエルシードが無くなって俺がその場所にいたって事ね。

 

「それで昨日の夜にユウが封印したので4つ目だよ」

 

「じゃあ、あと17個か。以外と道のりは長いな」

 

「そうだね……でも、頑張らなくちゃ!」

 

朝から気合満点のなのは。

元気だな。

 

 

「それで何だけど、ユウ」

 

「ん?」

 

「ツァイトあの後からどう?

何か変化とかあった?」

 

「いや、特にはないな」

 

 

あの戦いの後、ツァイトはスタンバイモードに戻り特に変化なし。

強いて言うなら魔力メモリが強制パージされたくらいだ。

 

 

「ねえ、ユウさん。そのはめる容器みたいなのって結局なんなんだろうね?」

 

あ、そう言えば説明してなかったな。

 

「ああ、コレは魔力メモリって言うみたいだ。簡単に説明すると俺以外の誰かの魔力質をコピー、登録するものなんだ」

 

「え?ユウさん、記憶……」

 

「ユウもしかして……」

 

「いや、セットアップした時にメモリの事だけなんか思い出せたと言うか……約束したなぁ…って」

 

「約束?」

 

「ん、いや気にしないでくれ」

 

 

あの時、思い出した事は大切な事のように思えるけど、それ以上に約束ではなくて誓いに近かったような……

 

「そっか……」

 

「まぁ、もう少し世話になると思う。これからよろしくな?なのは、ユーノ」

 

うん!なんて言いながら笑顔のなのは。

よろしくね、とユーノ。

さてさて、今日からバイトだよな。

頑張らなくては。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

バイト1日目。

 

 

「まず、接客の練習かな?次にレジ打ち、最後に皿洗いまで覚えてみようか」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

そんなこんなで1日目。

昨日なのはに選んでもらった服とエプロンを装着していざバイト。

 

シフトは9時から12時が午前で1時間休みを取って13時から17時までとなっている。

計7時間か、よしやるぞ。

 

 

カランカラン

 

扉の鈴の音、早速お客さんのようだ。

 

 

 

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ユウくん、そろそろ休憩に入っていいよ」

 

「え?もうですか?」

 

 

ツァイトの画面を見る。

時間は12時ぴったり、気づけばもう休憩の時間のようだ。

 

「ああ、随分と熱心に働いてくれていたみたいだね。お昼ご飯は用意してあるからなのはと一緒に食べておいで」

 

休憩終了の5分前くらいに戻ってきてくれればいいから、と言われエプロンを解く。

 

「わかりました、それでは休憩行ってきます」

 

「うん、お疲れ様。ん?あぁユウくん」

 

「はい?」

 

 

ほら、と指を刺された方を見る。

店の外でこちらに手を振りながら待っている少女と小動物がいた。

と言うか、なのはとユーノである。

 

「お迎えみたいだよ?」

 

「すいません…行ってきます」

 

 

そう言いながら翠屋から出る。

 

「ユウさん、お疲れ様」

 

(お疲れ様、ユウ)

 

「ん、待っててくれたのか?」

 

「うん、一緒にお昼ご飯食べたかったから」

 

「おう、ありがとうな」

 

何というか、もし妹がいたらこんな感じ何だろうか?

くすぐったいが暖かな気持ちになるなぁ……

 

少しだけなのはと肩にいるユーノをなでる。

 

「どうしたの?」

 

「キュ?」

 

「あ、いや何でもない。行くか」

 

「うん!」

 

 

えへへ、何て言いながら隣を歩くなのは。

少し距離感が近すぎたかな?

小さいとは言え女の子だし、もう少し気を使うか。

 

 

 

高町家に帰ってくると、美由希がいた。

 

「あ、おかえり。お昼出来てるよ」

 

「ありがとう、美由希。恭也は?」

 

「あー、忍さんの所じゃないかな?」

 

「忍さん?」

 

誰だろう、初めて聞く名前だ。

 

「お兄ちゃんの彼女さんだよ。あとすずかちゃんのお姉さんなんだ」

 

「へー……そうなのか」

 

「うん、2人とも仲良しなんだよ?」

 

なんともそれは……

 

「それより早く食べちゃいなよ、2人とも。

時間なくなっちゃうよ?」

 

「ん、そうだな」

 

「それじゃ、食べよっか」

 

 

さて、午後からも気合入れて頑張らなきゃな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ありがとうごさいました。またのご来店、お待ちしております」

 

 

レジを打ち、お釣りを返す。

そして最後のお客さんがちょうど帰ったところだ。

 

「お疲れ様、ユウくん」

 

「あ、お疲れ様です。士郎さん、桃子さん」

 

キッチンから出てきた士郎さんと桃子さん。

 

「教えた事もすぐに出来るし、接客も出来る。ユウくん、以前こういう仕事していたんじゃないかい?」

 

「うんうん、全然緊張とかもしてなかったし、びっくりしたわよ?」

 

「そ、そうですか?」

 

おお、褒めてもらえた。

なんというか嬉しいな。

 

「とりあえずこんな感じで最初は週4でやってみようか?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

うんうん、と頷く士郎さん。

まずは慣れるまで頑張らなくては。

 

 

 

そして夜になれば夕食の後、魔法の練習タイム。

 

 

なのはと俺はそれぞれの魔法を練習して行く。

 

 

そして練習して行くうちに気づいた事がある。

 

 

 

「ユウさん、この魔法なんだけど……」

 

「ああ、これはなーー」

 

そう言って実践しつつなのはに教える。

 

「あ、そうやってやるんだね」

 

「おう、出来そうか?」

 

「やってみる、とりゃ!」

 

おお、出来てる出来てる。

 

「あ、できた!」

 

「うん、今のであってるね」

 

「ユウさん、ありがとう!」

 

「ん、どういたしまして」

 

何というか、言葉ではなくて感覚で。

この身体が魔法を覚えていた。

 

「ユウ、なのはに魔法を教えるの上手いよね」

 

「そうなのか?」

 

「うん、さっきの魔法もなのはが苦手だったと言うか使い方がわからない物だったんだけど、ユウが教えたらすんなり使えるようになったよ」

 

「うん、何というかユウさんの教え方が凄くしっくりくるんだ。……あ、別にユーノくんの教え方が分かりづらいとかじゃないよ!?」

 

「はは、大丈夫。勘違いしてないから」

 

慌てて訂正するなのはと大丈夫と繰り返すユーノ。

 

「うーん、なんというか俺も前に"誰か"にこんな感じで魔法を教えてもらった気がするんだよなぁ…」

 

「へぇ、じゃあその人はユウさんにとっての魔法の先生なんだね」

 

「まぁ名前どころか顔をすらわからないけどな」

 

思わず苦笑い。

なんというか恩知らずもいいところだ。

 

「なのはも将来、魔法を教える相手が出来たら少しずつ丁寧に教えてやってあげてくれ」

 

「うん、わかった。約束!」

 

「ん、まぁそこまでは言わないけど、それなら約束だ」

 

 

 

 

 

とこんな感じで1日目は終了。

俺の1日のサイクルはこんな感じ。

 

あとは平日はなのはを起こす事が追加されるくらいだ。

意外と寝起きがわるいらしい。

 

 

そんなこんなで1週間。

バイトの方は慣れつつ(すずかやアリサが来店して少し交流を深めたり)、高町家での生活もかなり安定してきた。

 

魔法の関係、つまりジュエルシードはここの所、特に異変もなく特訓は毎日なのは、ユーノとこなしている。

 

 

 

 

そしてバイトを終え、部屋でゆっくりしていると……

 

《master》

 

「うぉ!?」

 

急にツァイトに話しかけられ変な声が出てしまう。

 

「どうした?」

 

《Jewel Seed reaction》

 

ジュエルシードの反応!

 

「ユウさん!」

 

(ユウ!)

 

それと同時になのはとユーノが部屋にやって来る。

 

「ああ、行くか」

 

さて、今回はどんなのが出て来るのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ここか?」

 

「うん、反応はここから出てるよ」

 

目の前には学校。

名前は私立聖祥大学付属小学校?

はて、何処かで聞いたことのあるような。

 

「ここ、私が通ってる小学校……」

 

「あ、そうか。なのはから聞いてる場所か」

 

そう言えば時々学校の話をしてくれる時に聞いた名前だったな。

 

「何というか、不気味だな」

 

夜という事も相まって凄く雰囲気がある。

 

「とりあえず結界は貼ったよ」

 

「ああ、それじゃ行くか」

 

「……うん」

 

若干声が震えているなのは。

 

まぁ怖いよな。

さてさて、どうしたものか。

 

「なのは、怖いなら俺1人で行ってこようか?」

 

「え、ダメだよ!私も行く!」

 

「うーん、でも結構震えてるし怖いなら無理しない方がいいぞ?」

 

ぶんぶんと頭を振るなのは。

人それぞれ苦手なものはあるし、というかこの雰囲気の場所に小学生が入るのは少し勇気がいるよなぁ……

 

「……ユウさん、行こう」

 

「え、あ、うん」

 

スッと俺の手を掴んでそのまま中に入っていく。

まぁ、何とかフォローするか。

 

 

 

 




今回はここまで。
次回はアニメ本編の3話冒頭辺りです。

またよろしくお願いします!
評価、感想の方もお待ちしております!


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第7話 ジュエルシードと休日と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

こんばんわ、ユウです。

 

今俺となのは、ユーノはジュエルシードの反応を確認して深夜の学校に来ている訳なんだが。

 

 

「ちょ、落ち着け!」

 

「なのは、落ち着いて!」

 

「にゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

ガイコツの模型に追いかけられています。

 

何を言ってんだ?って感じだが文字通り追いかけられている。

 

そして

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

どうやら俺が想像していたより遥かに怖いものが苦手だったなのは。

 

レイジングハートをぶんぶんと振り回しながら走っている。

 

 

「ユーノ、ジュエルシードの反応は?」

 

「この学校からってまではわかるんだけど、そこからは……」

 

とりあえずガイコツを巻き、まだ暴れてるなのはをどうにかしなければ。

 

「なのは落ち着け。大丈夫、大丈夫だから」

 

「うぅ……」

 

とりあえず撫でつつ泣きべそをかいてるなのはに目線を合わせて慰める。

 

ホントにこういうの苦手なんだな。

 

「ユウ、とりあえずは何もきてないよ」

 

「おう、ありがとうなユーノ」

 

俺がなのはを慰めている間、ユーノが辺りを見ていてくれる。

 

「……もう、大丈夫」

 

「お、復活したか?」

 

「…うん、ごめんなさい」

 

「気にすんな、ほれ立てるか?」

 

「うん、……あれ?」

 

立とうとするなのは。しかし立ち上がろうとしているのだが、どうも力が入らないらしい。

 

「腰、抜けちゃったみたいだな」

 

「うう、ごめん……」

 

「大丈夫だって、ほれ」

 

「え?」

 

「とりあえず、背中に乗っとけ」

 

そう言ってなのはを背負う。

 

「あ、ありがとう……」

 

「おう、気にすんな」

 

一丁前に照れてるのか?

 

まだ子どもなんだから気にする事なんて無いと思うけど。

 

「ユーノ、とりあえず探索してみよう」

 

「うん、なのは大丈夫?」

 

ユーノが気遣う様になのはに聞く

 

「うん、大丈夫だよ」

 

そう言って力無さそうに笑うなのは。

 

まったく……無理してるのがまるわかりだぞ?

 

「さて、この学校の異変はジュエルシードで間違い無いんだが、その本体とやらはどこにいるのやら」

 

先程から起きているこの奇々怪界な出来事は間違いなくジュエルシードの所為なのだが、肝心の使ったであろう核の部分が見つからない。

 

「一応、行けるところは殆ど行ったと思うんだけど……」

 

「うーん、なのは。ほかに行ってないとこってあるか?」

 

「えっと……」

 

うーん、なんて言いながら考えているなのは。

教室、職員室、理科実験室など思いつく場所は殆ど行ったはずだが……

 

「あ、そういえば」

 

「ん?」

 

「屋上は?」

 

「ああ、行ってないな」

 

屋上か、それは思いつかなかったな。

 

「よし行ってみるか」

 

「うん」

 

なのはを背負い直し、階段を登っていく。

こうやって背負うとホントに軽いな。

そんなことを考えながら階段を登る。

お、ここか?

 

「ここ?」

 

「うん、そこの扉の先が屋上になってるよ」

 

「何が出るやら……」

 

少し緊張しつつ扉を開く。

そこには……

 

 

「何だろコレ……」

 

「……きゅう」

 

「あ、なのはが気を失った」

 

まぁ気持ちも分からんでもないが……

何だこのデカイ幽霊みたいな奴は。

 

「ユーノ、これだよな?」

 

「うん、これが本体で間違えないと思うよ」

 

目の前で静かに佇む巨大な幽霊?を横目に見つつ扉の側になのはを降ろす。

 

「それじゃ、封印しなきゃな。ツァイト」

 

《ok.master》

【Are You Ready?】

 

 

「セットアップ」

 

 

 

《mode1・Blaster Nova》

【complete phase1】

 

「ぅ……やっぱりこの感覚はなれないな…」

 

今回でセットアップは2回目。

やっぱりまだ慣れない。

 

 

「ユウ、頼んだよ」

 

「ああ、いってくる!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「はぁ……っと。」

 

着地してあたりを見渡せばもう怪異は消え、不気味さだけが残る普通の学校へと戻っていた。

 

案外簡単に封印できたな?と目の前に転がる青い石、ジュエルシードを見ながらそう思う。

 

拾ったこれをどうするかと考え、とりあえずポケットに入れとくか?とそのまましまっておく。

 

 

「さて、ユーノどうだ、学校全体の様子は?」

 

「えっと……うん、魔力の反応とかも消えてるし、もう大丈夫だと思うよ」

 

「そっか、なら帰るか」

 

さてさて、お眠な姫さまを背負ってとっとと帰らんとまた怒られちゃうからな。

 

「セットアップ解除」

 

[Rifo mation]

 

 

ふぅ、と息を吐く。

 

やはりバリアジャケットを着ていると疲れるというか普段より少し体が重い気がするんだよなぁ……

 

「よっと……」

 

なのはを背負うと一定の安定した呼吸が聞こえる。

 

どうやらかなり疲れているみたいだ。

 

「ユーノ、少しなのはを休ませてやるのもいいんじゃないか?丁度明日は日曜だし」

 

「うん、それはボクも思ってたんだ。

最近のなのはは何というか焦っているというか……張り切ってるというか……」

 

「少し息抜きとかさせた方がいいよなぁ…」

 

 

ふと、俺の背中で眠るなのはを見る。

 

うーん、何かしてやりたいがどうしたらいいんだ。

 

……そういえば士郎さんが明日オーナーをやってる少年サッカーチームの試合に応援しに行くんだっけ?

 

なのはが楽しそうに"アリサちゃんとすずかちゃんといくんだー"って言ってたな。

 

 

「まぁ、せっかくの休日だし、英気を養ってくれればいいけどなぁ……」

 

「キュ?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

今日は日曜、士郎さんと桃子さんがサッカーの応援の為翠屋は休みになっている。

 

つまり、俺も休み。そんなわけで……

 

 

「こんな感じですかね?」

 

「そうそう、上手じゃない」

 

 

桃子さんと一緒に朝食を作っていたりする。

 

とりあえず今はおかずを作っているのだが、何となく作り方もわかるんだよなぁ…

 

「桃子さん、お米炊けたんで蒸らしつつ回しておきます」

 

「あ、お願いね。それと卵焼きの方は…」

 

テキパキと作り、皿に盛る作業。

少し楽しい。

 

「おはよう桃子、ユウくん」

 

「おはようございます、士郎さん」

 

士郎さんがキッチンにやってきた。

丁度7時か。

 

「そろそろなのはを起こしてきますね」

 

「うん、お願いね」

 

さて、起こしてくるか。

階段を登り、なのはの部屋へ。

 

コンコンとノックする。

 

「おーい、なのは朝だぞ」

 

「………………」

 

「おーい?」

 

「……………」

 

「まだ寝てるのか?」

 

ここ1週間、ノック2回目あたりで返事はきこえてきたんだがな?

しょうがないか。

 

「開けるぞ」

 

ドアを開く。

やっぱりスヤスヤと気持ちよさそうに眠るなのはの姿。

………疲れてるんだろうなぁ、昨日も家についてやっと起きたくらいだし本当はこのまま寝かせてやりたいんだがな。

なのはの側にいきツンツンと柔らかいほっぺを突く。

 

「うぅ…ん……」

 

「………」

 

…………………ツンツン

 

「ふみゅ……」

 

………少し強めに突いてみる。

 

「むにゅ……」

 

なんだろう、このまま続けたい。

だんだんと楽しくなってきた。

 

 

「………ぅん?」

 

「あ」

 

 

なのはの目がパチリと開く。

 

 

「…………ユウ…さん?」

 

「あ、うん。おはよう」

 

どうやらまだ寝ぼけているようで俺をぼーっと見ている。

 

「………?」

 

「あー……なのは?」

 

「………?……!?」

 

あ、顔が一気に赤くなっていく。

これはーーー

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ですよねー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!ユウさんのバカ!」

 

「すんません……」

 

プンスカと怒るなのはの前で俺はつい正座で弁解。

 

因みになのはのほっぺで遊んでいたのもバレた。

 

「普通に起こしてくれればいいのに……」

 

「ごめんて、機嫌直してくれよ……」

 

「……つーん」

 

「えぇ……」

 

どうしろって言うんだ……

うーん……

あ、そうだ。

 

「なぁなのは?」

 

「………何?」

 

おぅ、オコだ。

 

「その……あれだ。貸しひとつってやつ。それで今回のことは許してくれないか?」

 

なんと言うか少しベタだが、これが一番いい気がする。

 

子どもはこういうなんでもって言葉に弱いからな。

 

「……ホント?貸しって大きいんだよ?お父さんがいってた。」

 

ほれキタキタ。

 

「ああ。まぁ……何かしらを頼まれても俺に出来ることならって前提があるけどな」

 

「……なら、許してあげる」

 

やったぜ。

 

「ああ、それで俺は何をすればいい?」

 

「うーん……今はいいや。また今度!」

 

そう言って何かを思案するような表情をみせる。

 

少し嫌な予感がするが……まぁ、いいか?

 

「了解、それじゃ朝飯行こうか」

 

「うん! あ、それと…おはようユウさん」

 

「おう、おはようなのは」

 

 

 

ああ、それと。

 

「ユーノ、お前も起きろ」

 

「……zzz」

 

一番寝坊助なのはコイツか?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「えぇ!!ユウさんは行かないの!?」

 

「お、おう」

 

「なんで!?」

 

 

状況説明。

 

朝食を取り、いざサッカーの応援に行くという時に俺が、玄関で見送ろうとしたらなのはに"ユウさん、早く行こう?"と言われ"いや、俺行かないぞ?"と返したらこうなった。

 

「なんでって言われてもな……」

 

「うぅ……」

 

「えっと、少し海鳴市の方の探索をしようと思ってたのが今日なんだ。その、色々しらべようとおもってだな……」

 

おぅ…なんか罪悪感が……

 

「うーん、どうしようかな……」

 

「そうねぇ……」

 

おぅ……士郎さんと桃子さんがこちらをチラチラ見ながら話し合ってる

分かりましたよ……

 

「わかった、調べ物が終わったらすぐに行くから……」

 

「ホント!?約束だよ!」

 

「ああ、だから行ってこい」

 

「うん!行ってきます!」

 

ふぅ……出来るだけ早く用事を済ませなきゃな

 

「ふふ、なのはに好かれてるのね」

 

「え?そうですか?」

 

「ああ、なのはがあそこまでワガママを言うのを僕たちも見たことがないよ」

 

どこか嬉しそうに話す士郎さんと桃子さん。

 

「本当は親の僕たちがワガママを聞いてあげたいんだけど……なのはは僕たちにはワガママを言ってくれないんだ」

 

「本当に申し訳ないんだけど、少しだけでもいいからなのはに付き合ってあげて」

 

お願い、なんてお世話になってる2人から言われたら無下にできる訳がなく……

 

「…了解です、出来るだけなのはと一緒にいるようにはします」

 

まぁこうなるわな。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

さて、とこんな所かな?

 

少しの探索と調べ物、まぁ本屋に行ったのだが収穫は特に無し。

 

しかし、タダで出るのも本屋に悪いと思い本を一冊だけ購入しもはや縁があるであろうあの公園に来る。

 

ベンチに座り本をペラペラと眺める。

 

ふと空を見上げれば青色の晴天で温度も24度くらいか?

少しの暖かな春の風と日差しが眩しい。

 

そんなひと時。

 

………そろそろなのはの所に行かないと怒られるかな。

 

そう考えつつぼーっとしていると。

 

 

「……?」

 

「あっ」

 

 

こちらを見ていた少女と目が合う。茶髪で肩まで伸びた髪。

 

車椅子で移動している最中だったのか、手は両手とも車輪の横の操作バーに掛かっている。

 

こちらと目があって少し驚いているのか、固まっている。……なんだろう、あの子。

 

なのはの始めて会った時の感覚に似ている。

 

今この瞬間始めて会ったはずなのに知っている。

 

「あ」

 

いってしまった。

 

うーん、話しかけるべきだったかな?

 

でも冷静に考えると今話しかけにいってたら完全に変質者だったよなぁ……

 

 

「……そろそろ行くか」

 

 

立ち上がり、ぐっと背筋を伸ばす。

 

ふぅ、行くか

 

 

 

 

 

 

 

おお、やってるやってる。

 

サッカーの試合と聞いていたが元気にボールを追いかけシュート。

それを見事に止めるキーパー。

 

割と本格的にやっているんだな。

 

河川敷の横には応援するなのはたちの姿。

アリサとすずがもいるな。

 

うーん、やっぱり友だち同士水入らずっていうか行かない方がいい気がするんだけどなぁ…

 

《go.master》

 

「……でもなぁ…」

 

ツァイトにまで急かされる。

 

うーむ。

 

「あ!ユウさん!」

 

行くか行かまいかで悩んでいると、こちらの方に気づいたなのは。

これは行くしかないか。

 

手をぶんぶんと振っているなのはに軽く振り返しながら河川敷の下の方に下がって行く。

 

 

「もう、遅いよ!」

 

「ごめんごめん、でもちゃんときただろ?」

 

「……まぁそうだけど…」

 

少し不服そうななのは。

 

「よ、2人とも」

 

「こんにちはユウさん」

 

「ユウも来たのね」

 

あれからちょくちょく翠屋に来ていた2人とはそれなりに話したおかげで緊張の類も抜けている。

 

「なのは、ユウが来ないから試合が始まる前までずっとまだ来ないとか遅い!って言ってたのよ?」

 

「ふふっ……なのはちゃんがこんな事言うの初めて見たからびっくりしちゃいましたよ」

 

そう言って耳うちしてくるアリサとすずか。

 

うーん、やっぱり来て正解だったか。

 

あそこで行かなかったらもっとマズってたかな。

 

 

「でも、ユウいつのまになのはとこんなに仲良くなったの?」

 

「あ、それは私も気になります」

 

「2人もそんなこと言うのか。俺からすると2人の方がよっぽどなのはと仲良くみえるけどな」

 

「えーでも…」

 

「うん、でも….ね」

 

「?」

 

「ユウさん?アリサちゃんとすずかちゃんも何してるの?」

 

おっと、お呼ばれしたみたいだ。

 

 

さてさて、試合の方は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果で言うと2-0で勝ったようだ。

その事でチームの子たちはもちろん、士郎さんも大喜び。

 

「いやー!よくやったなぁ!!」

 

この通りである。

そして

 

 

「それじゃ、勝ったのを祝して翠屋で食事会だ!」

 

の士郎さんの一言により今は翠屋で食事会となっている。

 

目の前ではなのは、アリサ、すずかが座りアリサとすずかにユーノがこねくり回されている。頑張れユーノ。

 

一瞬、2人がユーノの事を"普通のフェレットとちがうような?"なんて言われたりもしたが今はどうにか誤魔化せている様子。

 

「さて、そろそろ時間かな」

 

気づけばもうお開きにはちょうどいい時間。

士郎さんの言葉と同時に解散となる。

 

……近くにいた男の子、キーパーの子だったか?今何か……?

 

その子はマネージャーの女の子の方に行ったが……うーんなんかいい雰囲気だし、ここで水を刺すのも悪いか。

 

なのはも今の子が気になったのか目で追っていたが途中で辞めたようだ。

 

「あ、そろそろ私たちも時間」

 

「え、あっそんな時間だね」

 

「ん、2人も用事か?」

 

「ええ、それじゃまたねユウ、なのは」

 

「それじゃあね、ユウさんなのはちゃん」

 

「ああ、それじゃあな」

 

「うん!またね」

 

そう言ってユーノを手渡し帰って行く2人。

お疲れ様、ユーノと撫でてやる。

 

「さて、僕は一旦家にもどってシャワーでも浴びようと思うけど、なのはとユウくんはどうする?」

 

「うーん、ユウさんは?」

 

「俺も一度戻ろうかな」

 

「それじゃ私も一回帰ろうかな」

 

それじゃ、行こうかと士郎さんなのはと共に家に帰る。

少し疲れたかもな。

 

 

 

ふぅ……とベットの上に座る。

 

「ふぅ……疲れたぁ……」

 

そして俺のベットの上で寝転がるなのは。

……なんで俺の部屋?

まぁいいけどさ。

 

(お疲れ様、2人とも)

 

「おう、ユーノもな」

 

(あはは……ちょっと疲れたかな)

 

まぁ、かなりこねくり回されていたからな

 

「ねぇ、ユウさん」

 

「んー?」

 

少し伸びをしつつなのはと会話する。

 

「さっきのさ、キーパーの男の子から一瞬だけど魔法の気配がしたんだ」

 

「あ、なのはもか?なんか気になる気配がしたんだよなぁ……」

 

そんな事を話していると………

 

 

 

「!」

 

(ユウ!なのは!)

 

「…やっぱりか」

 

 

 

ジュエルシードの気配……!

 

「いくぞ!なのは、ユーノ」

 

「うん!」

 

少しの嫌な予感と後悔。

もし今考えてる事が合ってるなら……さっき俺たちはジュエルシードを見逃したことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作にそって書いていますがかなりの長さ……
無印だけで結構話数を持ってかれそうで少しどうするか考えています。

感想ありがとうございます!
かなりの励みになります!まだ投稿し始めて1週間ですがこれかも頑張りますのでお付き合いのほどよろしくお願いします!


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第7.5話 私とあなた(you)

想像以上の方に読んでいただき、とても嬉しい反面少し緊張してまいりました。
どうもぺけすけです。
今回は少しオマケと言うかほんの少しだけ未来のお話。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な人だな。

 

うん、最初に私がユウさんに抱いた気持ちはこれで間違ってないと思う。

 

出会いは公園。

キッカケは魔法。

これだけ見ると少しロマンチックだけど、フタを開けて中身を見ると大体の人が頭にハテナを浮かべると思うな。

 

最初はユウさんが持っているであろうジュエルシードについて、あの光について聞くために私のお家に呼んだんだけどお話を聞いてくうちに、私もなんでかわからないけどほっとけない!なんて思っちゃって。

 

後の私の行動は早かった。

すぐにお父さんにお願いを、ユウさんを助けて欲しいって伝えて。

少し驚いたお父さんはふむ、と思案顔になって"その子を連れてきて"と言われて。

 

すぐに私がユウさんを呼びにいくと何処か緊張気味。

そんな彼が少し可笑しくて、でもなんだか見ていて楽しくて。

 

そこからお父さんに直ぐに気に入られているのを見て私も少し安心。

そのあと、服とか買いにいったなぁ……

 

 

初めての魔法の特訓はびっくりする事だらけ。

セットアップが出来ないと思ったらユウさんのデバイスさんに砲撃して欲しいなんて言われて、砲撃したらしたで私の魔力を全部吸れちゃった。

 

それで、いざ特訓!と思ったらジュエルシードの暴走体が現れて、あの時は凄く焦ったなぁ……

 

その暴走体はユウさんが止めてくれたんだけど、ユウさんのバリアジャケットがまた驚きで、私そっくりだったんだ。

 

凄く綺麗なバリアジャケット。

見た瞬間の私の感想。

何というかユウさんだけの、ユウさん本来の物じゃないんだけど私とユウさんが合体した感じ?

 

それにバリアジャケットだけじゃなくて、髪の色とか目の色まで私みたいに変わっちゃうから余計にビックリ。

 

まぁ、私以上にユウさんがビックリというかテンパってたけどね。

それで、前から暴走体が襲ってきたんだけどユウさんはスルスルと攻撃をかわして、そのまま見たことない魔法を使って倒しちゃったんだ!

あの時は凄く興奮したな。

つい、私にもその魔法教えて!ってユウさんに迫っちゃったな……

 

ここまでが初めて出会った日の1日の出来事。

 

今更な気もするけど、凄く濃いよね。

思わず苦笑いしちゃう。

 

 

「あ、ここ……」

 

 

その次の日からはユウさんが朝起こしてくれるようになったよね。

何時もはお母さんが起こしてくれるのに急にユウさんだったから余計に驚いて、でもユウさんに寝坊助だと思われたくなくて次の日から少し早く起きる用に努力しだしたな。

 

……まぁ、ユウさんのノックで起きるから結局寝坊助だなって笑われちゃったんだけど。

 

朝、ユウさんにバスの近くまで送ってもらって学校に行く。

帰ってくればユウさんが待っててくれる。

 

そんな時間が暖かくて。

少しづつユウさんにはワガママを言うようになっちゃった。

 

お店でユウさんがアリサちゃんとすずかちゃんと楽しそうにお話しているのを見て、仲良くなれてよかったって思う私と、私もユウさんとお話したい!って欲張っちゃう私が居て。

 

どんどんユウさんに甘えちゃってる。

 

でも、とても暖かくて。

 

楽しくて。

 

心地よくて。

 

深夜の学校の時は怖かったけど、ユウさんの手をギュッと掴んだら一気に勇気がこみ上げたんだよ?

 

そう言えば、まだ"貸しひとつ"って話残ってるよね?

 

何をお願いしようかな?

 

 

 

 

 

「こんな事もあったね」

 

つい、そう呟きながら"私"は日記の角を撫でる。

 

「あの時はユウくんに頼ってばっかりだったなぁ……私」

 

"今"はキミが私を頼ってるけどね、ふふ。

そんな事を考えながらトレーニングのメニューを考える。

 

 

「明日も頑張らなくちゃ、ね」

 

 

 

 




如何でしたかね?
次回の本編は明日、明後日には更新します。
評価、感想待ってます!


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第8話 《mode2・Saber Nova》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュエルシードの気配を感じ俺となのは、ユーノは走る。

何というか凄く嫌な感じがする。

さっきの子が持っていたのがジュエルシードなら次の核になってしまうのは……

余計な事を考える頭を思いっきり振り悪い考えを逃し冷静になる。

 

 

ジュエルシードが発動したであろう気配を追って走っていたが思わず俺の足が止まってしまう。

 

 

ーー最悪だ。

 

 

「ユウ!?どうしたの!」

 

「ユウさん!?」

 

なのはとユーノの声が聞こえるが俺は反応する事が出来ない。

 

……冷静になれ。

こういう状況なのだから寧ろ頭を冷やせ。

 

「ユーノ、なのは落ち着いて街の方を見るんだ」

 

「「え?」」

 

なのはとユーノは少し先にある街の方を見る。

 

「……うそ」

 

「こんなの……」

 

目の前に広がるのは巨大な樹木。

ソレは少しづつ地面を破り町に浸食して行っている。

 

「ユーノなのは、落ち着け。

まずは町に着いたらユーノは結界を。なのはと俺はセットアップだ」

 

冷静に自分たちの役割と出来る事を考え、計算する。

でもあの大きさなんてどうすれば良いのか。

俺の砲撃となのはの砲撃を合わせても多分………無理だ。

 

「とりあえず町まで行こう」

 

「うん!」

 

「急ごう!」

 

そして再び走り出す。

ユーノの言っていた"強い思いを持った人間が発動させた時、ジュエルシードは一番強い力を発揮するから"という言葉を思い出す。

本当に危険なものだと言う認識を改めさせられた。

 

 

 

「酷いな…」

 

既に町は巨大な木の根でめちゃくちゃになっている。

とりあえずユーノには結界を張ってもらい維持してくれるように頼む。

 

「なのは俺たちは……?」

 

「………」

 

「なのは?」

 

反応がない。

何かを後悔している顔だ。

しかし今はそれよりも先にこの状況をどうにかしなければいけない。

なのはを揺さぶる。

 

「え、あ……ごめん、ぼーっとしてた!」

 

「おう、それじゃ俺たちはアレを止めるぞ?」

 

「……うん」

 

「何かあったんだよな?後で聞くから今はコレを止める事を先に考えよ?」

 

こちらを見て少し気合を入れたなのは。

 

「うん!行こうユウさん!」

 

「よし、それじゃやるぞ」

 

「「セットアップ!」」

 

そしてバリアジャケットに。

さて、どうしたものか。いざ目の前にして止めると言ってもこの巨大な木をどうすれば止めれるのか検討もつかない。

 

「ユーノ、こう言う相手にはどうすればいいか分かるか?」

 

 

一番魔法経験があるユーノに聞くのが適切だろう。

ユーノは少し考え、

 

「封印するには元になった部分、核の部分を探さないといけないんだけど……範囲が広がりすぎててどうやって探せばいいのかボクにも……」

 

つまりピンポイントで核を見つけなきゃいけない訳だな?

"探索魔法"を使えばいい!

 

「なのは、探索魔法って使えるか?」

 

「え?えっと……」

 

《No problem》

 

レイジングハートが先に答える。

 

「よし、頼んだ。俺はーー」

 

 

と話しているとナニかが此方に攻撃してきた。

 

ヒュン!と鞭のようなしなる音と共に緑色のモノが飛んでくる。

 

「やっぱり攻撃もしてくるよな…!」

 

「ユウさん!」

 

「ユウ!」

 

どうやらこの巨大な木の根やツタで攻撃してくるようだ。

 

「こっちはなんとかするから元となった場所を探すんだ!」

 

と言っても俺のバリアジャケット、ブラスター ノヴァは遠距離の砲撃型。

完全に近寄られていて尚且つ相手は近距離有利だと避けるのも精一杯だ。

くそ、装甲が重い。

どうすりゃいいんだ……

 

《master》

 

「なんだよ!」

 

前と左斜めから飛んでくるツタを避ける。

くそ、砲撃もロクに打つタイミングがない…!

 

《I recommend the mode change》

 

モードチェンジを推奨?

 

「お前っ、そんな!ことも、できる、のか!?」

 

ツタやら根っこやらを避けながらツァイトに聞く。

 

《yes》

 

「もっと早く言ってくれ!」

 

《I copy that》

 

「それでどうすればいいんだ!早く!」

 

もうそろ限界。

どうすりゃいいんだ!

 

 

《mode2・Saber Nova》

【change・Rifo mation】

 

 

モードセカンド・セイバーノヴァ。

音声と共にまた"あの時"と同じで頭に情報が流れ込んでくる。

 

 

「ぶっつけ本番は上等!」

 

 

《phase2 shift ・Saber》

【Are You Ready?】

 

 

「モードチェンジ!」

 

 

 

剣を鍛えあった記憶。

 

ーーお前は剣で何を成したい?

 

ーー何を成すか……ですか?

 

ーーああ、ただ闇雲に殺生というわけではないのだろう?

 

ーー強くなりたい……じゃダメなんですか?

 

そういうと少し苦笑いする目の前の女性。

 

この人は誰だったっけ……

 

ーーその理由が見つかればお前は、■■はもっと強くなれる。今の私は家族を守るためにこの剣を振るう。

 

昔は少し違ったがと言いながら苦笑いする。

 

ーーなら

 

ーーん?

 

ーーなら俺も、

 

 

 

 

 

 

 

 

《mode2・Saber Nova》

【complete phase2】

 

 

モード2・セイバーノヴァ。

 

装甲はブラスターの1/3にパージされ薄くなったが推進力は3倍。

ツァイトの処理能力を使用者の脳内伝達部分とダイレクトに接続し反射力を常人の数倍に引き上げる。

メイン武装は腰に掛けている西洋剣風の武装一本。

ツァイトライザー、出力は自身の魔力によって決まり外部から魔力を吸収も可能。

装甲はブラスターモードのリメイクの様な感じ。

あちらは歩く戦車の様だったが、此方は騎士の様。

 

ーーー行ける!

 

 

「なのはユーノ!そっちは任せた!」

 

「うん!……って何そのバリアジャケット!?」

 

「姿が変わった!?」

 

「あとで説明する!!」

 

 

この姿の、セイバーフォームの使い方は……わかる。

 

先程まで早すぎて苦戦していたツタも

 

「はぁ!」

 

一閃。

このフォームなら避けるより切った方が早い。

次々に迫り来るツタを右、左とスパスパと切っていく。

 

身体が軽い。

ブラスターは強力で一撃一撃の威力が強みだが、このセイバーは完全にスピード特化と言った感じだ。

 

「ユウさん!核になった2人を見つけた!」

 

「よし、封印できそうか!?」

 

「やってみる!」

 

なのはのレイジングハートの姿も変わっていた。

……すごい魔力だな。

 

「ユウ!核の2人を守る様に装甲が!」

 

やっぱり簡単には封印させてくれないよな。

 

「それは俺に任せろ!いくぞ、ツァイト?」

 

 

《Ok, master》

【Load now…… Crashes Streamer】

 

 

「クラッシュ・ストリーマ!!」

 

剣に自分の魔力を収束させ、巨大化。

そのまま一気に収束させた魔力を解放しながら切り裂く。

 

緑の装甲は紙のように切り刻まれる。

 

 

「なのは!」

 

「うん!行くよディバイン・バスター!!!!」

 

なのはのレイジングハートから巨大な魔力の本流が放たれる。

ーー綺麗な桜色。少しだけ見惚れてしまった。

 

なのはの放ったディバインバスターが巨大な木にぶつかる。

 

爆発音と共に世界から色が消えた。

 

 

 

光が開けると目の前の木は消え、町も元に戻っている。

 

「ふへぇ……なんとかなったかぁ……」

 

一気に緊張が解けた。

 

「なのは、お疲れ」

 

「……うん、核の2人も大丈夫だってユーノくんが」

 

「そっか」

 

なら安心だな。

 

「ユウさん、私ね…多分気づいてたんだ、あの男の子がジュエルシード持ってたの…」

 

「…うん」

 

「ホントはこんな事になる前に止められたかもしれなかったんだよ」

 

「ああ」

 

「あの時、私が止めていれば……」

 

そう言って落ち込んでしまうなのは

 

「なのは」

 

頭を撫でながら話しかける

 

「実はな?俺もあのキーパーの子とすれ違った時、微かに魔法の気配を感じたんだ」

 

「…え?」

 

「だから俺もあの時止められなかったから……そのなんだ、俺も悪い」

 

「そ、そんなこと!」

 

「あーもう!2人で反省して次から。

こんなことないように頑張ろうぜ?起きた事をずっと後悔するのは悪いとは言わないけど、前に進めない。

だからこれからのジュエルシード集めは俺たちの精一杯で頑張ろうぜ?」

 

まぁ、これも誰かの受け売りだった気がするけどな。

 

「ユウさん……」

 

「ユーノもお疲れ」

 

「うん、ありがとう」

 

「それじゃ、帰るか」

 

よいしょっと立ち上がる。

 

「背中、のるか?」

 

「……うん」

 

全く、甘えん坊なお姫様だな。

 

今日の事は俺の反省もある。

あの時、少しの違和感だったがあの子を止めるべきだっただろう。

 

少し考えることが増えたなぁ……

 




こんにちは、ぺけすけです。
今回は原作無印の3話の終わりまでですね。

次回は原作4話に入る前に少しだけユウの休日のお話。
この騒動の次の日にあたるお話になると思います。


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第9話 休日と文学少女

今回は日常回です。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は月曜日。

普通ならば平日の始まりであり、学生や社会人の人は億劫になるであろう。

 

 

そんな中、俺はと言うと。

 

 

「はいこれ、ユウくんのシフト表ね」

 

 

朝、桃子さんに渡された俺のバイトのシフト表を見ながらつい考える。

 

日、火、水、金。

 

この4日のみ……?

確かに週4とは言われていたが流石に三食付きの家にまで居候させてもらっているのに甘え過ぎでは……

 

と言ったのだが。

 

 

「いいのよ、それにもう少し慣れてきたら増やして貰うつもりだから」

 

と笑いながら言われてしまった。

 

 

そんなわけで休日なのだが、何分自分の趣味も特に持ち合わせてないんだよな。

 

思いつくのは魔法の特訓くらいだが生憎、ユーノもなのはもいない。

うーんどうするかな。

 

(なのは?)

 

念話なう

 

(わ!えっと、ユウさん?)

 

(おう、今大丈夫か?)

 

(うん休み時間だから大丈夫だよ)

 

(お、なら聞きたいんだが)

 

とりあえずはなのはに普段休日にしている事を聞いてみた。

今思うと小学生の女の子じゃなくて士郎さん辺りに聞いた方が良かった気がしなくもないが

 

(うーん友だちと遊んだり本を読んだり、あとは公園に行ったりかな)

 

(へー……)

 

 

なるほど、色々選択肢が増えたな。

 

 

(ありがとうな、ちょい色々試してみる)

 

(うん、それじゃ帰ったらね)

 

 

ばいばいと、念話が切れる。

…さて俺に今出来るのは友だちがいないから本を読むか公園に散歩に行くかだな。

 

……友だち、友だちかぁ…。

 

 

まぁ、散歩しつつ公園で本を読むってのもありか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

思いついたが即行動。

昨日買った本と財布に鍵を小さいショルダーバッグに突っ込み、ジャージのポケットには携帯(ツァイト)を入れる。

 

 

「いい天気だな」

 

 

春の日差しと風が気持ちいい。

空も晴天。

飲み物でも買ってゆっくりするのもありかな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

ベンチに座り直す。

ツァイトで時間を見ると2時間くらい経っていた。

もうすぐ12時か……

読書を中断し空を見上げながら考える。

 

少し疲れてるなぁ……昨日、魔法を使いすぎたからか?昼ごはんとかどうしようかな?

 

と空を見上げていた顔を下げると。

 

 

「あ」

 

「ん?」

 

 

あの子は確か……昨日この公園で見かけた女の子だ。

 

また同じ場所の同じ時間に会うって事はそれなりに近い所に住んでいるのか?

とりあえず話しかけに行くべきだろうか。

 

昨日の事、あの時の直感を信じて話しかけるなら今しかないよなぁ……

 

とうだうだ考えていると少女が車椅子を操作しだす。

って、ヤバイ行っちゃう。

どうする、行くか?行かないか……

 

………やらずに後悔よりやって後悔だ。

すぐに立ち上がり話しかける。

 

 

「あの!」

 

「へ?」

 

 

あ、止まってくれた。

……というか何を言えばいいんだ……?

 

 

「あー…えっと」

 

「…?」

 

 

ヤバイ絶対怪しく見られてるよコレ。

 

何か、何かないか?

さっきまで考えていた事とか何かヒント……

 

ふと、さっき見たツァイトの時間とお昼時前なのを思い出す。

 

 

「あの……?」

 

「お、お昼!お昼まだ食べてない!?」

 

「え!?えと、はい…」

 

「一緒に食わないか!?」

 

 

 

何言ってんの?俺

初対面の相手にそれって下手なナンパよりヤバイんじゃないか?

 

 

「私と、ですか?」

 

明らかに警戒した顔。そりゃそうだよ。

 

「あ、ああ」

 

 

「えっと……」

 

 

少女は少し思案した後、どこか覚悟を決めたような顔をして口を開く。

 

 

「はい、かまへ……大丈夫ですよ」

 

 

え?いいの?

 

「え?いいの?」

 

「え?」

 

 

思わず心に思った事をそのまま言葉にしてしまう。

俺から誘ったのにその返しはおかしいよなぁ。

 

 

「あ、いやなんでもない。えっとそれじゃ……」

 

 

場所はどうするかな……俺、冷静にこの街で知ってる飲食店って翠屋だけなんだよな。

 

 

「あの……もしよかったらですけど、ウチで食べます?」

 

 

へ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこを右に行ってください」

 

「あ、ああ」

 

 

うーん……謎だ。

 

このキッカケを作ったのは間違えなく俺だが、出会って数分の女の子とスーパーに向かってるこの状況は本当に謎だと思う。

 

 

「あ、そう言えばお兄さんの事、私なんも知らへんかった。自己紹介くらいはしませんか?」

 

ああ、そう言われてみれば。

 

「自己紹介……自己紹介かぁ。えっと、名前はユウで年は16。近くの飲食店でバイトしてる……それくらいか?」

 

「私に聞かれてもなぁ」

 

と笑う少女。

 

「私ははやて、八神はやてって言います。今年で9歳になります。得意分野は家事全般かなぁ?」

 

 

「へぇ、その歳で家事全般こなせるのか?」

 

 

「まぁ一人暮らしやからね」

 

「え…?」

 

 

「私のお父さん、お母さんは小さい頃に事故で死んじゃってるから」

 

「……ごめん」

 

 

やってしまった。

 

特大の地雷を踏んでしまったかもしれない。

 

 

「そんな顔せえへんでいいって。気にしてないから」

 

「いやでも……ごめん」

 

「もー大丈夫やって」

 

 

そう言って笑うはやて。

なんというか強い子、と言うよりは……むりやり我慢を覚えてしまった子か?

 

「それに会ったのもさっきの間柄やし、わからんのはしゃーないよ?」

 

「……はやてがそう言ってくれるなら」

 

「うん、ホントに気にせんといてな?」

 

「ああ」

 

 

あ、と言うか聞かなきゃいけないことがあったんだ。

はやての車椅子を押しながら話しかける。

 

 

「なぁ、はやて」

 

「ふぁ……なんや?」

 

 

少し眠いのか欠伸を噛み殺している。

まぁ天気もいいし眠くなるのはわかるな。

 

 

「俺、自分で言うのなんかアレだと思うけど何でさっきの誘いに乗ってくれたんだ?」

 

「誘い?あ、お昼一緒に食べようってヤツ?」

 

「ああ、これも自分で言うなって事なんだがあって数分というか目が合っただけだろ?俺たち」

 

「んー……私も実は何でかよくわからないって言うのが本音なんよ」

 

 

はて?

 

 

「ユウさん、昨日私と会ったやろ?」

 

「あ、覚えてくれたのか」

 

「うん、実は何でか知らんけどな?あの一目会った時から少し気になってたんよ」

 

「へ?」

 

 

それは……俺と同じ感覚だったと言う事だろうか?

 

俺もはやてと目があった瞬間、気になった。

 

 

「何となくお話ししたいなぁ…みたいな?感じでな。でも初対面やろ?なんて話しかければいいかわからんくてな。そのあと目があって逃げちゃったのは愛嬌な?」

 

 

と言って、あははと笑うはやて。

 

…まぁ、冷静に見ると、黒ジャージでよくわからん本片手に死んだ目のままぼーっとしてるやつと目があったら逃げるよなぁ、普通……しかも男で年上。

 

俺がはやて側なら逃げる、速攻で。

 

 

「でもビックリしたんやで?今日も"また居たら話しかけてみようかなー?"くらいで公園に行ったら全く同じ構図で居るもんやから思わずスルーしよ思っちゃったわ」

 

「あれはその、俺も最近疲れててな…」

 

 

思わず魔法の事を言いそうになり言葉が詰まる。

 

 

「ふふ、話してみてわかったんやけどやっぱり面白い人やね」

 

「そうか?」

 

 

今の会話で面白いと思われる部分はあったのだろうか?

でもはやては楽しそうにニコニコとしている。

 

 

「だってなぁ…話しかけるにしてもいきなりお昼に誘われるとは思わへんかったよ」

 

「うぐ…」

 

 

冷静に考えなくてもいきなりナンパ紛いの事をした俺をよく通報しなかったなぁ……

 

だってはやてってなのはと同い年なんだよな? つまり小学3年生……

……これ以上は、うん、俺の精神安定状よくないし考えない。

 

 

「でもよくそんな奴を家に招こうと思ったよな」

 

 

これは単純な疑問。

 

それこそ俺をいきなり家に来るか?と誘うはやても相当凄いと思うけど。

 

 

「んー……なんとなくユウさんならいいかなって思ったんよ。不思議とな?」

 

「そうなのか」

 

「うん、とそこまがってな」

 

「了解」

 

 

そんな事を話しつつ歩く。

車椅子を押した事はないがそこまで重いとかはなく少しの力で動いてくれる。

楽チンやなーなんて時折はやてが呟いているのを耳にしながらゆっくりとお互いの事を話しつつ歩いていく。

 

うん、結果的な事だけどあの時、はやてに話しかけて良かったかもな。

不思議とこの子と居ると懐かしいと言うか、楽しい。

 

 

「あ、それにな?」

 

「ん?」

 

「ユウさんのお昼に誘われた理由。久しぶり誰かとご飯たべたいなーって」

 

「一人暮らしだって言ってたもんな」

 

「うん、そこそこ一人暮らしはしてるけど寂しい時はあるんよ」

 

 

そう言って少し悲しそうに笑う。

……なんというかほっとけない。

 

 

「なぁ携帯とか持ってるか?」

 

「え?そりゃさっき話したけど保護してくれてる叔父さんとの連絡にもつかうしな。持っとるよ」

 

「良かったら俺と連絡先、交換しないか?」

 

「え?」

 

「いやその、寂しかったりしたら電話とかメールとか……別に遊びに行ったりとか出来るだろ?

俺もバイト以外の時間は基本暇人だからさ、俺で良かったら、ってこれこそナンパみたいだな!忘れてくれ」

 

ホントに学習しないなぁ俺。

思ったらすぐ行動する癖、直さなきゃな……

 

「ユウさん」

 

「…ん?あ、ごめん何?」

 

軽く自己嫌悪に陥っていてはやての話を聞いてなかった。

 

「…ホントにええの?連絡先交換しても」

 

「え、ああ」

 

「私、寂しがり屋だから直ぐに電話とかしちゃうで?」

 

 

そう言って何かを探るように確かめる用に俺の方に振り返りながら話すはやて。

 

 

「おう、どんと来い」

 

「ホントに?めんどくさいで?私」

 

 

?そんな事ないと思うけど…

 

 

「別に気にしないぞ?」

 

 

そうして少し覚悟した様に此方を見ながら

 

 

「えっと……、ほんならよろしくお願いします」

 

 

と言って携帯を取り出すはやて。

なんというか少し緊張してる?

 

 

「えっと此方こそ?」

 

 

ツァイトを取り出し赤外線通信でアドレスと電話番号を交換する。

 

 

「んこれでオッケーだな」

 

「……えへへ」

 

「はやて?」

 

 

何やら携帯の画面を見てにやけてるはやて。

どうしたんだ?

 

 

「おーい」

 

「ふふ……」

 

 

うーむ、反応なし。

ほっぺでも突くか?

 

ツンツンと。

 

 

「ふへ?」

 

「お、戻ってきた」

 

「なにしとんの?」

 

「いやなんかトリップしてたから…つい」

 

「…あー、なんでもあらへんよ?」

 

 

そう言って少し顔を赤らめるはやて。

変な奴だな。

 

 

「それよりここでいいのか?」

 

「へ?あ、もう着いたんか」

 

 

目の前には何時ぞやの俺の服を買った店。

ここの一階がスーパーになっている。

 

 

「よーし、それじゃ何食べたい?ユウさん」

 

「お、リクエストしていいのか?」

 

「バッチ来いや」

 

 

そんな会話をしつつスーパー入る。

さて、何をリクエストしようかな?

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あ、そこの家や」

 

「ん、ここか」

 

 

そんなこんなで買い物を済ませはやて宅前にまで来た。

場所はそこまで高町家からは離れてないし歩いて来れる距離だな。

 

 

「それじゃ入って入って」

 

「おう、お邪魔します」

 

 

はやての生活がしやすい様に様々な場所がバリアフリーになっている。

 

というか普通に大きい一軒家だな。

 

 

「それじゃユウさんはリビングのソファーで座っててな」

 

「いや俺も手伝いくらいなら……」

 

 

流石にそこまで甘えちゃまずいだろう。

 

 

「ええの!私がええって言ってるんやからユウさんはくつろいでて」

 

「わ、分かったよ」

 

 

うん、と満足そうに頷くはやて。

ホントにいいのかな……

 

とりあえず言われた通りソファーに座る。

おお、フカフカだ。

さてくつろぐと言っても何をするか……

 

そういやまだ本読み終わってないんだよな……これでも読んでおくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し鼻歌を歌いながら私は鶏肉を切っていく。

とりあえず下味をつけて後は揚げるだけにしとかんとな。

 

今作ってるのはユウさんリクエストの唐揚げの下準備。

私も久々に食べたかったし丁度良かったかもなぁとか考えつつユウさんの事を思い浮かべる。

 

昨日のお昼頃、ホントになんとなく気分で公園に行った時ふと、ベンチにいた1人の男の人に目が止まった。

その人は紺色のジャージで本を片手に空をぼーっと眺めていた。

 

ーーなんだろう?気になる。

そんな風に思ってしまい思わず車椅子を止めて彼の方をじっと見つめる。

そこで我に帰る。

このままじっと見てるの何というか変だ。

他の人の目が少し気になり公園から出ようとして車椅子の車輪に手を掛けて最後にその人の顔を見ようともう一度彼を見ると。

 

 

「え」

 

「あ」

 

 

目があった。

なんとなく私は恥ずかしくなって直ぐに逃げまでしまった。

……話しかけてみたかったなぁ。

 

少し後悔しつつ家に帰る。

明日、もう一回公園に行ってみよう。

それでもし、もしもあの人が居たら話しかけてみようかなぁ?

 

 

そして次の日。

昨日と同じくらいの時間に家をでて少ししたくらいにふと思う。

あの男の人って見た目的に高校生くらいだったなーと。

そこで気づく今日は月曜日。

学生なら学校に行っているはずであり、12時前のこの時間、お昼どきに公園にいるはずがないのでは?と。

 

あちゃーと思いつつ居ないのは分かってはいるが出て来たものはしょうがない。

公園の方をチラッとみつつお昼ご飯の買い物にでも行こうと思考を変える。

 

さて、やはり公園のベンチには誰もーーー

 

 

「ふぅ……」

 

 

ーー居た。

昨日と同じ様にベンチで本を片手に空を見上げている。

いざこうして目の前にしてみるとやはり話しかけるのに勇気がいる。

どうしよう……やっぱりやめとこかな……

 

 

「ん?」

 

 

あ、また目が合った。

……うん、また今度にしよ今回はスルーやな。

 

そう思い車椅子を操作する。

すると後ろから

 

 

「あの!」

 

「え?」

 

 

なんと向こうの方から話しかけて来てくれた。

でも突然すぎて頭の中が真っ白になってしまっている。

せっかく話しかけてもらえたのだから何か話さなきゃ!そう思うのだからそれとは裏腹に言葉に出来ない。

 

むしろこの人はどうして私に話しかけて来てくれたの?と言う疑問が生まれてしまった。

 

そうして彼の言葉を待っていると。

 

 

 

「お、お昼!お昼まだ食べてない!?」

 

 

え、お昼?

 

 

「え!?えと、はい…」

 

 

「一緒に食わないか!?」

 

 

お昼ご飯のお誘い?

これはどうしたらいいのだろうか。

新手のナンパ?

そんな思考に陥る。

ーーでも

 

 

「はい、かまへ……大丈夫ですよ」

 

 

つい、彼ともっとお話がしたくてオッケーしてしまった。

私も自分で言った言葉に驚いたが彼も驚いていて少しおかしい。

 

 

それでどこで食べるか迷ってる彼につい、

 

 

「あの、もしよかったらウチで食べます?」

 

なんて言ってしまった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウさんーできたよー」

 

「っとはいよ」

 

 

少し集中して読んでいたせいかはやての声に少し驚く。

あれからもう30分も経っているのか。

 

時刻は丁度12時半と言ったところか。

ふと鼻に香ばしくいい香りが漂ってくる。

 

 

「ちょっと作りすぎたかも知れへんけど、ユウさんなら食べれるやろ?」

 

「おお、すごいな」

 

 

テーブルの方に行くとご飯とお味噌汁にサラダ、そしてメインの唐揚げがこれでもかと積まれていた。

 

 

「ちょっと気合入れすぎかもしれへんな」

 

 

あははと笑っているはやて。

いやはや凄い美味しそうだ、これは期待せずにはいられない。

 

 

「さ、温かいうちに食べて食べて」

 

「それじゃ早速、いただきます」

 

 

早速、唐揚げを1つ摘みそのまま口に運ぶ。

うまい、ちゃんと肉汁が逃げない様に揚げられていて下味もしっかりと付いている。

揚げ具合も完璧で外はサクサクの中はふわっとした鶏肉と肉汁が噛むたびに溢れ出てくる。

 

 

「毎日でも飽きない自信あるぞ……この唐揚げ」

 

「お、気に入ってもらえたん?それなら嬉しいわ」

 

「ああ、マジで美味いよこれ。はやてはすげーな」

 

「もうそこまで褒めんといてな、少し恥ずかしいわ」

 

 

と言いつつニコニコしているはやて。

ホントに料理が上手いんだな。

 

 

「ほらほら冷めちゃうで?」

 

 

おっとこの料理は冷めても美味いだろうけどせっかくなら温かいうちにいただきたい。

少しだけがっつく。

 

 

「えへへ……」

 

「んぐ?」

 

 

はやてはこちらをまだ見ている。

 

 

「はやては食べなくていいのか?」

 

「え?食べとるよ?」

 

「ん?そっか」

 

 

ほら私のこと気にせんとたんと食べてなー、なんて言われつつ俺はガツガツと唐揚げを平らげる。

ホントに止まらないな、これ。

それになんか懐かしい味もするんだよなぁ……お袋の味?

 

 

「ご馳走さまでした」

 

「お粗末様でした」

 

 

あれだけあった唐揚げも今は無くなっている。

いやマジで美味かった。

 

 

「いや本当にご馳走さま、はやて」

 

「そんなに気に入ってくれたんなら作った甲斐があるってもんやで」

 

 

そこからは食後のお茶を飲みながら色々な話をした。

趣味の話に今俺が住んでいるところの話、仕事の話など。

 

それと俺が記憶が無いこともつい話してしまった。

なんというか…この子にならいい気がしてしまったのだ。

 

 

「それじゃユウさんも家族と今は会えないんやね」

 

「ああ、と言うか居るのかもわからない」

 

「そっかー」

 

 

お茶を飲みながらはやては少し考えて。

 

 

「なんか私とユウさんって似てるかも知れへんね」

 

「あー確かにな」

 

「せやろ?」

 

 

なんてたわいも無いけど充実した話をした。

はやては本が好きらしくよく図書館に行っていると言うことを聞いた。

そういえば調べ物するなら図書館に行くのもありだな。

 

 

「なぁはやてもしよかったら今度一緒に図書館に行かないか?」

 

「もちろんええで、何か調べ物?」

 

「ああ、それもあるけどはやてのオススメの本とか教えてくれよ」

 

「それならユウさんが好きそうな本を選んどくよ。どんなのが好みとか苦手みたいなのはあるん?」

 

 

「うーん、そうだなぁーー」

 

 

なんて事のない会話をする。

何というか心地が良い。

この子と話していると気分が晴れて疲れも飛ぶ感じがする。

 

 

しかしそろそろ時間も迫ってきている。

つい先ほどまで13時くらいだど思っていたがもう16時になる。

そろそろなのはの迎えに行かなければいけない時間だ。

 

 

「すまんはやて、そろそろ時間だ」

 

「え、あもうこんな時間か。」

 

 

時計を見たはやてが驚いている。

まぁ俺もだからはやての事をは言えないが。

 

 

「それじゃまたな」

 

「うん、今日は楽しかったで。……その電話とかしてもええ?」

 

「ああ、さっきも言っただろ?いつでもいいぞ」

 

「そっか!ならバシバシメールも電話するで?」

 

 

そう言って笑顔を見せてくれるはやて。

 

 

「今度は泊まりに来てな?そんでいっぱいお話とか遊んだりしよな?」

 

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

 

「うん、それじゃまたね」

 

「ああ、またな」

 

 

 

これがはやてとの出会いの話。

今思い出してもめちゃくちゃな出会いなのは分かってるけれど、それでもこの出会いは間違いじゃないと思う。

 

 

それからははやてと過ごす時間が増えてある意味、俺のはじめての"友だち"かも知れないな、はやては。

 




如何だったでしょうか?
次回は原作の4話あたりのお話に入って行くと思います。
それではまたよろしくお願いします。

感想、評価まってます!


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第10話 もう1人の魔法少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

最後のお客さんが帰り今日はこれで閉店かな。

そんな事を考えながらテーブルを拭き椅子を片付けて行く。

もう慣れてきたもので今日で働き始めて2週間ちょいか?

 

 

「お疲れユウくん」

 

「あ、士郎さんお疲れ様です」

 

 

うんうんと頷きながら奥の方から出てくる士郎さん。

どうしたのだろうか?

 

 

「だいぶ慣れてきたみたいだね」

 

「はい、おかげさまで」

 

「はは、あんまり無理はしなくていいからね?明日もあるしそろそろ僕たちも上がって家の方に戻ろうか」

 

 

桃子が晩御飯作って待ってるだろうしね、なんて言いつつ士郎さんがエプロンを外す。

 

 

「さて明日は特にお客さんが多いから頑張らなくちゃね」

 

「そうですね日曜は特に多いですよね」

 

 

この翠屋は平日もそこそこお客さんが多いのだが休日、特に日曜日は段違いに忙しい。

 

 

「それじゃ明日もよろしくねユウくん」

 

「はい頑張りますよ」

 

「はは、頼もしいね」

 

 

あ、そう言えばと士郎さんが何かを思い出した様に続ける

 

 

「なのはとはどうだい?」

 

「えっと……何がですか?」

 

「最近さらに仲良くなったみたいじゃないか。なのはも楽しそうだし、まぁ親の僕から見ると少し嫉妬もあったり……ね」

 

 

 

おぅ……少し士郎さんから黒いもの感じる…

 

 

「そうですかね、普通に接してるつもりなんですけど」

 

「そうなのかい?あの子、ユウくんが居ないと直ぐに"ユウさんはどこ?"なんて聞いてくるよ?」

 

「そうなんですか?」

 

 

知らなかったな。

最近、なのはと一緒にいる時間は朝起こす時と見送りに学校からの迎え、夜の魔法の特訓にそのあと寝るまでの間おしゃべりくらい………ってほとんど一緒にいるような……

 

 

「ユウくん何時もなのはと一緒にいるだろう?」

 

「今思い返すとたしかに……」

 

 

ほらね、と笑いながら士郎さんに言われる。

うーん……なのはと一緒にいる時以外は桃子さんと朝食を作ったり美由希と話したり偶に恭也と体を動かすくらいか?

 

最近ははやてと電話やメールをしたり休みの日に遊んだりしていたが、それでもなのはとの時間が多いな。

 

 

「……いやユウくんあの子と仲良くしてくれて本当にありがとうね」

 

「え、いや別に俺もなのはの事は好きですし仲良くできて楽しいですよ」

 

 

まぁ魔法云々も正直あるがなのはと過ごす時間はとても楽しい。

これは本当のことだ。

 

 

「そう言ってくれると助かるよ、あの子はユウくんの前だけでは本当に子どもらしいから」

 

「俺の前だけ、ですか?」

 

「うん、少し事情はあるんだけどなのはは何というか…子どもらしくないみたいに思った事はないかな?」

 

「そうですね、出会って最初の頃は何というか……少し大人び過ぎているというか…」

 

 

何というべきだろうか。

我慢していると言うかワガママな一面が全くなかったのだ。

……今はそんな事はないけど俺の前だけってことか?

 

 

「うん、これも前に話したけどあの子は僕たちに全くワガママを言ってくれないんだ」

 

「でも、俺には言うと?」

 

「その通りだよ、それでこの前みたいなお願いをしたわけだけど、ユウくんは本当になのはに良くしてくれてるよ。

本当にありがとう」

 

 

と頭を下げられてしまう。

 

 

「いやそんな頭をあげてください!俺だってなのはと楽しくやってるだけですから。

それに恩人の士郎さんに頭を下げられると俺がどうしていいかわかりませんよ」

 

 

「む、そうかい?ならこの話はここまでにしとこうか」

 

「はい、そうしましょ」

 

「それならユウくんに話とかないと言けない事があってね。

ユウくんは温泉とか好きかい?」

 

 

温泉?

そりゃ嫌いな人の方が少ないと思うが。

俺はどちらかと言えば好きな部類に入るとおもう。

 

 

「はい、好きですよ」

 

「それは良かった。今度の休日にみんなで温泉に行こうと思っていてね、もちろんユウくんも来るだろう?」

 

「え、俺も…ですか?」

 

「ああ、もう家族みたいなものだし僕もユウくんと色々話したいからね。何か都合が悪かったりするかい?」

 

「…いや大丈夫です。俺も行きたいですよ」

 

 

なら良かったと笑顔を見せてくれる士郎さん。

家族か……そんな風に思ってくれてたのか。

 

 

「そう言えばなのはは明日友だちの家に行くらしいですよ」

 

「うん聞いてるよ、月村さんの家だったかな?それで恭也も行くみたいだからね」

 

「あ、そう言えば恭也の彼女さんはすずかのお姉さんでしたっけ?」

 

「そうそう忍ちゃんって言ってね…」

 

 

なんて会話をしながら高町家に帰る

大体バイト終わりはこうやって士郎さんとの雑談がありそれが楽しみだったりもする。

さて明日は頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

空は雲一つない晴天。

いい一日になりそうだな。

 

 

「なのはーそろそろ時間だぞ?」

 

 

ドアの前でノックしつつ声をかける。

……反応なし。

うーん、どうしたものか。

 

 

「おーいなのは?」

 

 

やはり反応がないな。まだ寝てるのか?

 

 

「はいるぞ?」

 

 

ドアを開けてみるとやはりと言うか予想通り気持ちよさそうに眠るなのはの姿。

さては日曜日だからってアラームをかけるのを忘れたな?

 

 

「まったく……」

 

 

なのはの顔を見つつ昨日の士郎さんとの会話を思い出す。

 

 

「俺の前だけでは子どもらしいから……か」

 

 

なのはの頭を撫でる。

少しくすぐったいのかもぞもぞと動く。

なんでお前はそんなに俺の事を信用してくれるんだ?

 

 

 

「ぅん……」

 

「まぁ信頼してくれるならそれに答えなきゃな……」

 

 

そうだよな、信頼してくれてるなら。

俺に出来るのはこの子の信頼を裏切らない事だけだよな。

 

そう思考をまとめていると何やら背中に視線を感じる。

 

 

「……何してるんですか?桃子さん」

 

「うふふ……」

 

 

ドアの横で少し体を隠してこちらを見ている桃子さん。

何というか少し恥ずかしい。

 

 

「ユウくん、なのはを起こしに行ったきり帰って来ないから少し様子を見に来たら……ふふ」

 

 

ふふって何だ、ふふって。

別に変な事をしていたつもりはないがどんどん羞恥心が芽生えて来る。

 

 

「すいません、なのは直ぐに起こします」

 

「もっとゆっくりしててもいいのよ?」

 

「遅刻しちゃうでしょ!?」

 

 

あらあらなんて言いながらなのはの部屋に入ってくる。

 

 

「なら私が起こすわよ?ユウくん此間寝起きのなのはの顔を見て怒られてたでしょ?」

 

 

「あっ」

 

 

忘れていた。

 

 

「よろしくお願いします……」

 

「はーい任されました」

 

 

さて俺は下で朝飯の準備の続きをしておくか……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

「………」

 

「なのは?おきてるでしょー?」

 

「……うっ」

 

「やっぱり」

 

 

私はゆっくりと体を起こす。

お母さん……いつから気づいてたんだろ?

というかなんでそんなにニコニコしてるの?

 

 

「なんでわかったの?」

 

「んー?だってなのは、ユウくんに撫でられてる時ずっとにやけてたわよ?」

 

「え!?」

 

 

嘘!?とつい口元を触る。

 

 

「ユウくんは気づいてなかったみたいだけどね」

 

「そっか」

 

 

少しだけ安心。

ユウさんにバレてたら恥ずかしすぎてこの後顔を合わせられない。

 

 

「ホントにユウさんのこと好きねぇ…」

 

「え!?そんな事ないよ!」

 

「あら嫌いなの?」

 

「そういう訳でもないけど…」

 

 

うぅ…絶対からかってる。

今日は少しだけユウさんに甘えたかった気分なだけで…だから本当は起きてたけど寝たふりなんかしちゃった……

 

 

「うふふ…ほらそろそろ起きないと本当に遅刻しちゃうわよ?」

 

「うん……お母さんこの事ユウさんには……」

 

「わかってるわよ、言わないわ」

 

 

それじゃ先に下に降りてるわね、とお母さんが私の部屋から出て行く。

途中からどのタイミングで起きるか迷ってたからお母さんが起こしてくれて助かったけどバレちゃってた……

 

はぁ……私も着替えて下に行こ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が下に降りて朝食の準備をしていると思ったより早く桃子さんが降りて来た。

なのはは桃子さんだとすぐに目を覚ましたのか?

 

 

「なのは起きました?」

 

「ええ、すぐにね」

 

「うーん明日から俺が起こすより桃子さんが起こした方がいいですかね?

俺だと時間かかっちゃうみたいで」

 

「それだと私があの子に怒られちゃうわよ。

明日からもユウくんがおこしてあげて?」

 

「え?わ、分かりました」

 

 

怒られる?

なんのことだろうか。

頭にハテナを浮かべている俺を見て笑っている桃子さん。

はて?

 

 

 

そんなこんなしているうちになのはや士郎さん恭也、美由希がテーブルに集まり朝食の時間となる。

それもワイワイと話しつつ食べているうちにもう時間に。

 

 

「なのは恭也そろそろ行かないとマズイんじゃないか?」

 

「ん?もうそんな時間か。ごちそうさま」

 

「あ、私もごちそうさま」

 

 

2人は少し焦り気味に食器を流しに置く。

そのまま準備していたバックを手にする。

 

 

「それじゃ夕方には帰ると思うから」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

「いってきます、ユウさん」

 

「おう、行ってこい」

 

「それじゃ行ってくるね」

 

 

そう言って二人は出て行く。

ふぅ、俺は午前中は翠屋のバイトだ。

頑張るか。

 

 

「それじゃ美由希とユウくん僕と桃子は先に店の方に行ってるから10時前には来てくれ」

 

「はい」

 

「りょうかーい」

 

 

そう言って士郎さんと桃子さんはお店の方に、俺と美由希は後片付け。

 

 

「美由希ここは俺がやっとくから先に支度してていいぞ?」

 

「ホント?じゃお言葉に甘えようかな」

 

 

ありがとーと言いながら上に行く美由希。

俺の方は特に支度もないし、洗い物が終わったらはやてにメールを返してそのまま店に直接向かうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでお昼どき。

 

俺のシフトももうすぐ終了か、さてもうひと頑張りだな。

 

 

(ユウ!)

 

 

おっと?

ユーノからの念話か?

 

 

(ユーノか、どうした?)

 

(大変なんだ!ジュエルシードが……なのはが!!)

 

 

ーー頭が真っ白になる。

なのはに何かあった?

どういう事だ?

なのはは今、すずかの家で遊んでいるはずで特に魔力も俺は感じていない。

 

 

(詳しく教えてくれ)

 

 

まずはユーノに状況と何があったかを詳しく教えてもらわなければこの後の行動も起こす事が出来ない。

 

 

(えっとね……)

 

 

ユーノに説明してもらったのはすずかの家でお茶会をしているとジュエルシードの発動を感じたらしく、その場所に向かうと文字通り巨大化した猫がいたらしい。

その猫は特に暴れなかったらしくそのままジュエルシードを封印しようとしたが、そこで

 

 

(なのは以外の魔導師が現れたんだ)

 

 

その魔導師はかなりの強敵らしくなのはも動揺して上手く戦えなかったらしい。

その魔導師……金髪で黒衣のバリアジャケットの少女はジュエルシードを手に入れた後すぐに消えてしまったと言う。

 

 

(なのはは?)

 

(とりあえず今ユウと話してるうちに治療はしたから目がさめるのを待つだけかな)

 

 

相手の魔法も非殺傷だったから特に怪我もないよと言うユーノの言葉に一安心。

そしてユーノにその魔導師の特徴や戦い方の情報を聞く。

なんでもなのはと同じくらいの女の子らしい。

 

 

(俺はこれからその子を探してみるよ)

 

(え!危ないよ!)

 

(大丈夫だ、下手に戦闘もする気は無いし話を聞くだけだから)

 

 

そこからもユーノは何か言いたそうだったが黙って"わかった"とだけ言ってくれた。

 

 

(それじゃ行ってくる、なのはを頼んだぞ?)

 

(うん、ユウも気をつけて)

 

 

ああ、と返して念話を切る。

とりあえずバイトは終わったから士郎さんに少し出かける事を伝え翠屋をでる。

 

 

さてと、まずは探索魔法からだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、これは……」

 

 

あれから1時間くらい俺は海鳴市の様々な場所を探索、ツァイトを使ったサーチをしていた。

 

すると別の反応をツァイトが感知した。

これは……ジュエルシード?

この先の山の中から反応が出ているがまさか山の中にあるとは思わなかったな。

それにこの様子だと暴走もしてないみたいだし先に封印して回収する方が先決だ。

 

 

「ここら辺か?」

 

 

山の中枢、草木が広がるちょっとした広場のような場所に出た。

反応はここら辺の筈なんだが……見つからないな。

 

 

ツァイト頼りに探して行く。

にしてもまだお昼なのに木陰のお陰か陽の光があまり当たらない。

先ほどまで少し暑かったがここはむしろ涼しいくらいだ。

 

 

「お」

 

 

とある木の前でツァイトの反応が強くなる。

この付近か?目の前の木から魔法の反応が出ているように見えるけど特にジュエルシードが見当たる訳でもないんだよな。

あ、もしかしたら

 

 

「この木の上か?それならツァイト、セットアップだ」

 

《ok.master mode1・Blaster Nova》

 

 

飛行魔法を使うにしても俺はデバイス補助がなければ発動もできない。

さてと少し大きい木の上を探すとやはりあの青い石、ジュエルシードがあった。

さっさと封印して探索に戻らなければ。

 

 

《backward.caution》

 

 

「え?」

 

 

突然のツァイトの音声に俺は反応する事が出来なかった。

次の瞬間ーー後方からの魔力反応。

背中に衝撃が走る。

俺はすぐさまジュエルシードを手に取り地面への衝撃に構える。

 

 

《Sphere shield》

 

【road.now……Sphere shield】

 

 

ツァイトから何か聞こえると俺の体を包むように半透明な桜色のモノが球体のように展開された。

"スフィアシールド"そう言ったよな?

 

 

「……っ!」

 

 

地面に着地しそのままの勢いで"そこ"から飛び上がると今まさに俺がいた場所に射撃魔法が突き刺さる。

黄色い魔法色……もしかして。

先ほどユーノに聞いたもう一人の魔導師、確か魔法色は黄色だったはず。

 

 

「ツァイトあの魔法は?」

 

《Photon Lancer》

 

 

フォトンランサーか、兎に角あの射撃は早すぎてこのブラスターだと避けるのも正直なところ…キツイ。

 

 

「くそっ!」

 

 

そんな事を考えているうちに更に追い討ち。

黄色い閃光が目の前に迫ってくる。

考えている暇はない。

目には目を、射撃魔法には射撃魔法!

 

 

「ライトエクセリア!」

 

《light・Ekuseria》

 

 

「ッ!?」

 

 

目の前でぶつかる魔法と魔法。

俺の光の本流は少しづつ相手の魔法を削り取って行く。

そしてーー弾けた。

 

 

光が消え目の前の魔導師に目を向ける。

ーー間違いなさそうだな。

金髪で黒衣のバリアジャケット、背丈はなのはと同じくらいで赤色の目。

 

 

「……何故、俺を襲ってきた?」

 

「………貴方が持っているそのジュエルシードを渡してください」

 

 

やっぱり目的はジュエルシードか。

しかし何故コレを集めているんだ?

ジュエルシードは危険なものという事をわかっているのだろうか。

 

 

「何でジュエルシードを集めているんだ?」

 

「貴方に話しても多分意味は無い」

 

 

冷たく言い放たれる。

この子も訳ありか。

 

 

「悪いけどコレは渡せない」

 

「なら奪うまでです…!バルディッシュ!」

 

 

そう言うと持っていた杖の形状が鎌の形に変化し一気にこちらにも斬り掛かってくる。

 

 

「はぁ!!」

 

「っ!待ってくれ!俺は戦いたい訳じゃ…」

 

「なら大人しくジュエルシードを渡してください!」

 

 

そう言いつつ更に攻め込んでくる。

ブラスターだと避けるのも辛い。

……くそ!

 

 

「ツァイト、セイバーだ!」

 

 

《mode2・Saber Nova》

【change・Rifo mation】

 

 

 

 

彼女の鎌が目の前まで迫る。

 

 

 

 

《phase2 shift ・Saber》

【Are You Ready?】

 

 

「モードチェンジ!」

 

 

身体が軽くなる、腰にある剣を一気に引き抜くと同時に魔力を放出し迎え撃つ。

 

 

「!?姿が……」

 

「はぁ!!」

 

「くっ…」

 

 

そのまま魔力を解放、砲撃に使い形で相手にぶつけ距離を稼ぐ。

この子を相手にスピード勝負は厳しい。ならば距離を置きつつ消耗戦にするしかないか…

 

 

「といっても……」

 

「……っ!」

 

「そう来るよなっ!」

 

 

やはり一気に距離を詰め右、左と斬りつけくる。

くそ、動きづらい!

周りは木々があり正直戦いづらい。

どうにか"別の場所に移動できれば"何とかなるかもしれない……っ?

 

 

「っ!」

 

「うわっ!?」

 

 

先ほど突っ込んだジュエルシードが光りだす。

まさか暴走か!?

とりあえず取り出さなければ!

 

 

「あっ」

 

「えっ!?」

 

 

俺がジュエルシードを取り出した瞬間、一気に俺と目の前の少女が光に包まれる。

この感覚……少し身体が重く"何処か"に飛ばされる感覚が。

 

 

 

 

 

そこで俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 




今回はここまでになります。
次回は少しだけオリジナル展開です。

またよろしくお願いします。

感想、評価まってます!


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第11話 異世界で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーまた、夢を見ている。

 

 

 

俺が昔の記憶を夢に見る時は決まってこの”感覚”を味わうことになるせいか、直ぐに”ああ、またか”と頭の隅にその思考が並ぶ。

 

夢から醒めて起きてしまうと忘れてしまうのだが、今だけは様々な事が思い出せる。

 

 

 

目の前に広がるのは大きなビル街。

天気は晴れで休日だからか様々な人がショッピングモールや飲食店を忙しなく動き回っている。

そんな家族連れや恋人、友人たちと過ごす人々を片目にふと、空を見上げて思い出す。

 

 

ーー俺何でここにいるんだっけ?

 

 

ああ、そうだ確か今日は■■■■さんと買い物にきてたんだっけ。

あの人は容姿を含めて目立つから直ぐに見つかると思ったんだけど中々見つからない。

さてどうしたもんかな?

と考えていると

 

 

ーーユウ!

 

 

どうやらあちらの方が先に俺の事を見つけてくれたみたいだ。

振り向くとこちらに手を振りながら笑顔の女性が俺の方に小走りで駆けて来る。

彼女の長い金色の髪が太陽の光を反射して煌びやかに写る。

相変わらず綺麗な髪をしているなぁ■■■■さんなんて思いながら手を振り返す。

 

さて、今日は良い休日になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………何だ?凄い、眩しい……それと蒸し暑い。

 

ここ最近では味わった事がない暑さで、不快感から意識が覚醒し、ゆっくりと瞼を開けて見る。

 

 

「ぅ……?」

 

気だるげな体を起こしながら周りを見渡す。

 

ここは……どこだ?

 

まず目に入ったのは太陽、そして体を起こして最初に目に入ったのは海?

 

そして自分が今いる場所が海岸のような場所だと言う事、そして後ろには森があった。

はて?俺は何でこんな所で寝ていたのだろうか。

ツァイトで時間を確認する。

 

 

91:61

 

 

「何だこれ…」

 

 

故障でもしたのだろうか時計の表示がバグっている。

うーんどうしたものか……

この後の行動をどうするべきか考えながらふと隣から感じる気配。

目を横に向けると

 

金色の髪を黒いリボンでツインテールでまとめ、黒いTシャツにスカートの女の子が寝息をたてていた。

 

 

 

ーー思い出した。

俺とこの子は戦ってる最中に急に光出したジュエルシードに呑まれて……

そこまで思い出してふと考える。

 

 

「ツァイト俺がここに来てどのくらいだ?」

 

 

《………》

 

 

「おーい?」

 

 

ダメだ反応しない。

と言うことは魔法も使えないと言う事………ってあれ?俺って今ものすごくピンチなのでは?

 

試したがなのはやユーノにすら念話も届かない。

そして横には先ほどまで戦っていた敵であろう少女。

 

非常にマズイ、この少女が眠っているうちにここから早く離れなければ。

 

 

そっと少女の顔を見る。

敵な以上、顔は覚えておき直ぐに逃げよう。

今ツァイトが使えないと言うことは抵抗すら出来ずジュエルシードを奪われてしまう。

さて、パパッと確認だけして逃げますか。

 

 

「ん……?」

 

 

この子……何と言うか苦しそう?

汗もかいてるし……ってそうかこんな日差しが強い上にこの湿度だと体を壊してしまうかもしれない。

 

早く違う場所に移してあげなければ……

だがしかしこの子は仮にも敵だ、連れて行くと言うことは、背負うくらいしかない訳で、無防備な背中を開けるということになってしまう。

 

それは……マズイよな。

ここは心を鬼にして最初のプラン通りに逃げ……

 

 

「うぅ……ん……」

 

 

暑いのか苦しそうに唸る少女。

 

そんな名も知れぬ()と自身の良心を天秤に掛けた結果。

 

 

「………………………はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よいしょっと」

 

 

まだ眠っている女の子を背負う。

 

随分と軽い、この体で先ほどのような戦いを俺としたと言うのだからあらためて驚かさせられる。

 

こうやってこの子を背負うと少し温度が高いのがわかる。

何だろうか、風邪でも引いてしまったのかな。

 

 

「バレたらユーノには怒られるだろうなぁ……俺」

 

 

冷静に敵の女の子を心配して、ここまで背負って来た時点でお察しなのだが……さてこの後どうなるのやら。

 

この子が目覚めた瞬間に俺のことを襲うかも知れないし何かの間違えで協力してくれるかも知れない。

どの道、もう俺の中では多少なりとも情が移ってしまったこの子を見捨てると言うことは無いが。

 

 

「できれば、後者がいいなぁ……」

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

さて、少し森の中を歩いたけど特に目に当たるものもない。

背負っている子があまり負担にならないように日陰を歩いているつもりだが大丈夫だろうか?

 

そっと女の子の顔を見る。

 

先程よりは顔色が良くなっており可愛らしい寝顔を浮かべている。

何と言うかなのはみたいだな、何んて考えながら歩く。

この子もこうして大人しければただの子どもなのだがさっきの戦闘のせいで眠れる獅子を背負っているみたいだ。

 

 

「ん……?」

 

 

この音、水の流れる音?

 

近くに川でもあるのか?さっきの海から歩いて1時間くらいだが割と近場に水があったのは助かるな。

俺も少し休みたいし、水の音の方に歩いて見るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ!」

 

 

飲めるみたいだなよし、とりあえずはここでいいか?

 

休める場所を見つけふぅ……と一息つく。

この子もまだ少し暑いし冷やしてしてあげたいのだがどうしたものか。

 

何かないかとポケットを探す。

あ、ハンカチか。これなら水に浸しておでこにでも乗せておけばマシにはなるか?

 

 

 

もう一度少女を背負い木陰に移動する。

 

枕の代わりになりそうなものは流石にないか。

うーん、少し申し訳ないが俺の膝で勘弁してもらうか。

かけるものも俺のジャージの上着しかないが許してくれ。

 

 

「んっ……」

 

 

冷やしたハンカチを当てると少し驚いたのかビクッとする。

だが気持ちよかったのか少し呼吸が安定して来た。

 

うーん……ホントに寝てるだけなら可愛い子どもなんだけど。

 

「………」

 

少しだけ、と自分に言い聞かせつつ頭を撫でる。

 

なのはやはやて、アリサとすずか達と接してわかったのだが俺はどうやら子どもが好きみたいだ。

 

一緒に過ごすのはもちろん遊んだりこうして撫でたりしていると何とも言えない幸福感が心に満ちてくる。

頭を撫でていると

 

 

「ん……」

 

 

 

 

「……ふぁ……?」

 

 

大きなあくびとともに赤い目が俺の目と合う。

 

 

「えっと起こしちゃったか?」

 

 

「え?えっと貴方は……」

 

 

 

そう言って頭にハテナを浮かべていたが

 

 

「!?」

 

 

ばっと起き上がろうとする動作を見るに、どうやら先程までの事を思い出したらしいが。

 

 

「おっと」

 

「あぅ……」

 

 

まだうまく力が入らない様で、俺の膝にまた戻ってくる。

どうやら頑張って起きようとしてるけど、上手くいかずばたばたと余計な体力を使ってしまっている。

 

………とりあえず休戦提案くらいはしていいよね、うん。

 

「あのさ、とりあえず敵意は無いから今は俺の話から聞いてほしんだけど……いいかな?」

 

 

俺の方に戦意が無いのと、いまの自身の状況を考えてか、少女は少し黙った後

 

 

「……わかりました」

 

 

と言ってくれた。

 

 

「ありがとうな、ならまずは状況の確認だけど……」

 

 

 

取り敢えずいま俺の分かる事を少女に話していく。

ここには気づいたらいた事、最初いた場所から少し離れた所まできた事。

 

少し迷ったけど、話も通じる様子だし素直に魔法が使えなくなっている事も話した。

 

 

「私も」

 

「?」

 

「私も魔法が使えなくなってる……」

 

 

この子も使えなくなってるのか。

何と言うか少し安心。

いまの俺はいつボコボコにされてもおかしくなかったからな。

 

 

「取り敢えずなんだが少しの間、休戦にしないか?」

 

 

そう提案してみる。

流石にこの状況になってまで戦うつもりはないのか少女も頷いてくれる。

 

 

 

「それじゃここを脱出するまでは共闘だな。俺はユウだ、よろしくな?」

 

 

君は?と聞いてみる。

目の前の女の子は少し呆気に取られたような表情をした後

 

 

「…フェイト」

 

 

と名前を教えてくれた。

 

どうやら部の悪い賭けには勝てたみたいだ。

 

 

「取り敢えずこのまま休んでていいぞ。もう少し俺も休んだらまたフェイトの事おぶって移動するから」

 

 

「えっ……?私のことおぶってきたの?」

 

「ああ、それ以外に連れて来る手段がおもいつかなくてな」

 

 

何やら少しあわてているフェイト。

どうしたんだ?

 

 

「それよりもう少し休んでおけよ?まだ身体きついだろ?」

 

 

「……うん」

 

 

何と言うか思ったより素直?

 

さて、これからどうしようか、そう考えつつ少し俺も休む。

自然とフェイトの事を見るとまだ辛かったのかもう眠っている。

 

フェイトの頭を撫でながら俺も少しだけ意識を手放す。

 

 

まぁフェイトとは何となくうまくやっていけそうだな、なんて考えながら。

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。
次回からはフェイトちゃんとのお話になります。


励みになるので感想、評価投票良ければよろしくお願いします!


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第12話 心の距離

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、気分が悪くなったら遠慮なく言うんだぞ」

 

「……うん」

 

 

さてさて、あれから30分くらい休んで、またフェイトを背負い歩き出した訳なんだが……これからどうしたものか。

 

正直に白状すると、どうすれば最善なのか全く分からん。

そもそもここはどこで、どうしたら海鳴市に帰れるんだろうか?

 

 

「なぁ、フェイト。ここら辺ってやっぱり見覚えないよな?」

 

 

「うん、私も来たこと無いと思う」

 

 

一応少しの望みとともにフェイトに聞いてみるが、やはり知らないらしい。

そうするとツァイト頼りだったのだがコイツも全く反応してくれない。

 

 

「うーん…フェイトのデバイスも反応しないんだっけ?」

 

「私のバルディッシュも何時もはすぐに答えてくれるんだけどスタンバイモードのまま何も…」

 

 

そうなると本当に探索するしかないな。

森の中をゆっくりと歩いているが景色も特に変わらない。

木、木、木。

何か変わったことがあるとすれば少し涼しくなったくらいだ。

 

 

……さて、黙って歩いてるのも何と言うか……やりづらいと言うか、なんか辛い。

少しフェイトに話しかけるのもありかな?

 

 

「なぁフェイト」

 

「何?」

 

 

あれから少しづつ会話したおかげか、割と素直に返事してくれる。

 

これなら行けそうかな。

 

 

「フェイトは趣味とかあるのか?」

 

「え?」

 

「休日何してるーとかこれが好きだーとかそんな事」

 

「え、と…」

 

 

何やら困ってる様子。

まさかとは思うが趣味がないなんて事はないよな?

………俺もあんまり無いけど。

 

 

「……思いつかないか?」

 

「あ、うん」

 

「ならそうだなぁ……俺の話でもいいか?」

 

 

コクっと頷くフェイト。

最初の方と比べてだいぶ敵意も無くなってきたかな。

 

 

「俺な、記憶喪失なんだ」

 

「……記憶喪失?」

 

「ああ、少し前なんだけどさ。目が覚めたら海鳴市の公園いたんだ。それ以前の記憶は……まぁ、歳と名前くらいしか無くてな」

 

 

そんな雑談を始める。

少し興味を持ってくれたのかフェイトが偶に相づちを打ちながら話を聞いてくれる。

 

そこから俺は今住んでいる場所にそこの人たちの暖かさや優しさ、他にもこの海鳴市でできた小さな友人達の話をした。

そしてジュエルシードを集めていた時の話も。

 

 

「いやさ、それでな?急に襲ってくるもんだからつい変な声でちゃってなー」

 

「ふふ……そんなこともあったんだね」

 

 

お、やっと笑ってくれたか。

そのキッカケが俺の間抜け話というのは、少し複雑だが今は妥協だ。

そうして森の中をゆっくりとフェイトと話がら歩いていく。

 

そして一旦俺の話が区切りよくなった時、フェイトの方から俺に話しかけてきた。

 

 

「ユウはさ、どうしてジュエルシードを集めるの?」

 

 

そう言えばそっち関連については全然話してなかったな。

 

 

「さっき話した居候させてもらってる家の話はしたよな?」

 

「うん」

 

 

「さっき話したおっちょこちょいの女の子とフェレットがジュエルシードを集めてるんだよ。

元々、そのフェレットのやつが海鳴市にジュエルシードを落としたらしくてさ」

 

 

と、ここまで話して思い出す。

そういえばフェイトってなのはたちと戦ったんだっけ?

 

 

「ほら、多分戦ったことあるだろ?白いバリアジャケットの女の子」

 

「……うん、あるよ」

 

 

そう言って少し俯いてしまうフェイト。

どうしたんだ?また気分でも悪くなったのか?

 

 

「フェイト?」

 

「ユウはなんで私にこんなに……その……」

 

「?」

 

 

少し考え何かを決したように俺に聞いてくる。

 

 

「その、どうして私に優しくしてくれるの?

私はその女の子を傷つけたんだよ?」

 

 

友だちなんでしょ?と言ってくるフェイト。

ああ…成る程、そう考えていたのか。

 

 

「うーん、そうだなぁ……最初はほっとけなかったから、かな?」

 

「ほっとけなかった?」

 

「ああ、そりゃここに来る前は戦ってた敵同士だったけど、ここに来てから最初に見たフェイトは苦しそうで……つい助けちまった」

 

 

うーん、フェイトが起きる前は正直ビクビクしてたんだよな。

 

けど、起きて話してみれば、凄い良い子だし多分あそこで見捨ててたら俺は後悔していた。

 

 

「まぁ……なんだ、成り行きで助けたって言うのがキッカケだけど今は助けて凄く良かったって思ってるよ」

 

「えっと……なんで?」

 

「そりゃ俺がフェイトの事を気に入ってるって事だよ。

こうやって話して触れ合って、まだ1時間くらいの間柄だけど俺はもっと仲良くなりたいって思ってる。………別に深い意味はないぞ?」

 

「う、うん……ありがとう?」

 

「はは……別にお礼を言われることじゃないよ」

 

 

なんだが照れてしまう。だが俺の本音は今言ったことが全部なんだと思う。

 

そりゃなのはを倒したって聞いた時は、どんな強敵なんだーとかネガティブな事を考えたが、いざ目の前にしてみれば普通の女の子で、話してみればとても良い子だったからな。

それに思った以上に俺はフェイトの事が気に入ってしまっている。

 

なんだろうな?

なのはやはやてとはまた違う安心感を覚えるというか……うーん?

 

「まぁそんな感じだよ。俺のフェイトへの感情……というか思ってることは」

 

「怒ったり…してないの?」

 

「ああ、別に怒ってないよ。それに怒るとしたらアイツであって俺が怒るのはなんか違うだろ?」

 

「そっか…」

 

 

そう言って何かを考え込むフェイト。

少し難しかったかな。

 

 

「私も…」

 

「?」

 

「私もユウと仲良くできたら……嬉しい」

 

「そっか」

 

 

うん、と頷くフェイト。

この子とはなんだかんだ言って長い付き合いになりそうだな。

……ジュエルシード云々はとりあえず置いといて。

 

 

「あ、なら俺もフェイトに聞きたいことがあるんだけどさ」

 

「何?」

 

 

「なんでジュエルシードを集めるんだ?」

 

 

「それは……ごめん」

 

 

「言えないか。気にすんな。人には言えない事の一つや二つあるもんだよ」

 

 

まぁ、訳ありなのは見ててわかる。

フェイトの性格的にフェイト自身がジュエルシードを欲しがっているようには見えないから別の第三者が関わってるんだろう。

 

 

「ねぇ、ユウあれって……?」

 

「ん?」

 

 

背中のフェイトが指を指す方向を見ると

 

 

「小屋?」

 

「みたいだな」

 

 

始めて木以外のものを見つけた。

なんだろうこの小屋?真新しいな。

 

 

「寄ってみるか」

 

「えっと……大丈夫かな」

 

「まぁ事情を話して何処かくらいは聞いておきたいししょうがないだろう?」

 

 

そうだよね、と合意を得られたのでいざ小屋に。

扉をノックしてみる。

 

 

「………留守かな?」

 

「開けてみる?」

 

 

うーん割と犯罪的な思考じゃないか?

と思ったが一応ドアノブを回してみる。

 

 

「開いてるな」

 

「うん……」

 

 

まぁなんとかなるだろうと扉を開くとやはり誰もいない。

というか生活感が全くない。

小屋の中にあるのはテーブルと椅子が二つにベットと奥の方がキッチンか?

 

 

「誰も使ってないのか?」

 

「そうみたい……」

 

 

とりあえずフェイトを椅子の上に降ろしてやる。

ふぅ…俺も少し疲れたな。

 

 

「あれ、これ……」

 

 

なんだっけ?このテーブルの上にあるもの。

何処かで見た事あるような……

 

 

「あ、それデバイスの……」

 

「ユーノが言ってたデバイスの修理用具?」

 

 

なんでこんなとこに?

この小屋の持ち主のものか?

 

 

「ユウ、それの使い方わかるの?」

 

「いやわからない……はずなんだけど」

 

 

不思議だ。

俺はこの修理道具を使ったことがある気がする。

 

 

「ここの人には申し訳ないけど……少しだけ借りてみるか」

 

 

罪悪感とともに中身を確認していくと、やはりどこか使った覚えがある。

持ち主さんお借りしますと心の中で謝りながら触ってみる。

 

「とりあえず、やってみるよ」

 

「うん……頑張って」

 

フェイトと話しながらツァイトを修理していく。

さて上手くいけばいいがどうなるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前でテキパキと自分のデバイスを開けながら修理していくユウを見つめる。

 

 

なんでこの人は私に優しくしてくれるんだろう?

 

それが最初の疑問。

 

ユウは私のことを"気に入ったから"と言って訳を話してくれたが敵だった相手を助けるあたりかなりお人好しなのだろう。

でも私はそういう人は嫌いじゃないみたいだ。

 

話してみて最初は警戒していたけど彼の話を聞いていくうちに気づいたら笑っていた。

ユウの話すバイトや住んでいる場所、お友だちの話に彼のちょっと間抜けな出来事。

 

そんななんて事ない彼の日常の話がとても聞いてて心地よくて楽しくて。

 

私もユウと仲良くなりないってつい言ってしまった。

 

ホントは彼と私は敵同士。

私は母さんのためにジュエルシードを集めなくちゃいけなくて。

でもユウはユウでお友だちのためにジュエルシードを集めなきゃいけない。

 

絶対に仲良くはなれない敵同士。

 

それが私とユウだ。

 

 

でも、なんでだろ?

 

そのはずなのに、私は彼の友だちを傷つけて彼のことを襲って敵同士のはずなのに今はこうして目が合うと笑いかけてきて"どうした?"なんて気遣ってくれる。

 

 

始めてだった。

暖かいなって、一緒にいて楽しいなって思える。

少しならユウに甘えてもいいよねって考えちゃう。

これが友だちって関係なのかな?

 

どうやら私もユウのことが気に入ってしまっているようだ。

出来ればこのまま仲良くなりたい。

そう思う。

 

 

ーーでもそれはきっと

 

 

 

きっと後で辛くなっちゃうかもしれないけど私は……この暖かさを今だけは。

今だけは感じていたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これでどうだ?」

 

 

あれから1時間くらいだろうか?

かちゃかちゃとツァイトの蓋をつけて修理を完了する。

フェイトと雑談しながらツァイトを修理してみたんだが、さて動くかどうか。

 

PiPi……

 

 

この音はもしかして

最初にツァイトが起動した時のことを思い出す。

 

 

《hello.master》

 

「お!」

 

「あ!」

 

 

俺とフェイトの声が重なる。

何とか修理出来たみたいだ。

 

 

「やったねユウ!」

 

「おう!なんとかなるもんだな!」

 

 

少し興奮気味にこちらに駆け寄ってくるフェイト。

俺も少し嬉しくてフェイトをそのまま抱き上げる。

 

 

「わっ……ユ、ユウ?」

 

「おっと…すまん、つい何時ものノリで」

 

 

と言いつつツァイトにサーチをしてもらう。

フェイトはまだ俺の腕の中。

意外と抱き心地がいいなこの子。

 

 

「お、おろして……」

 

「お、おう、ごめん」

 

 

そんな顔を真っ赤にしながら蚊の鳴くような声で言わなくても……

少しからかい過ぎたかな?

 

はやてを抱き上げてやったら"またやってなー"なんて言われるくらいには気に入ってもらえたんだがなぁ……

 

 

《complete》

 

 

「お、結果が出たか」

 

 

ツァイトの画面を見て詳細を確認していく。

………なんというか少し合点がいく内容だった。

原因は俺かぁ……

 

 

「……えっとフェイト?一応ここが何処なのかわかったよ」

 

「ホント?」

 

「ああ、ここは"ジュエルシードが作り出した擬似空間"らしい」

 

 

説明タイム

この空間はジュエルシードによって作られた"何処でもない"何処か。

つまり存在しない場所らしい。

俺がフェイトとの戦闘中に考えた"何処か違う場所に"の部分にジュエルシードが反応して俺とフェイトを巻き込みこの世界に転移してきたらしい。

その無理な転移が原因でツァイトとフェイトのデバイスが少し不調になっていたみたいだ。

つまり………

 

 

「つまりその……俺のせいだ。ごめん…」

 

 

大体俺のせいでした。

まじごめん。

 

 

「えっと……大丈夫だよ?半分は私のせいでもあるんだし……そんなに気にしないでいいよ?」

 

 

天使かよ、優しすぎるフェイトに感謝。

とりあえず出れる方法はあるのだろうか?

 

 

「ツァイト、出る方法はあるか?」

 

 

ツァイト頼りなのは変わらん俺ホント無能。

お、画面に何か表示された。

 

 

「残り72:30……?」

 

 

なんだこれ?

72時間どうしろと?

 

 

《survival》

 

「え?」

 

《fight》

 

「は?」

 

 

えっと……72時間、つまりは3日間かかるってことか?

 

 

「それ以外は……」

 

《no.plan》

 

「えぇ……」

 

 

分かりづらい人の為に簡単に言うとこれから3日間この空間、無人島のような場所でサバイバル生活すれば出れるらしい……

3日間……バイト……連絡できない……

 

 

 

「ユウ…大丈夫?」

 

 

心配そうにこちらを気遣ってくれるフェイト。

大丈夫ではないかな……はは……

 

 

「まぁ……しょうがないか」

 

 

クビ確定だがとりあえずはここから出られるようになるまで生きることを考えなければ。

 

 

「えっとフェイト、とりあえず3日間の時間、ここで生活すれば出れるみたいなんだが……その」

 

 

「うん、それしか無いんだよね。頑張ろ?」

 

「おう、これから少しの間だが改めてよろしくな」

 

「うん、よろしくね」

 

 

なんだろう少しだけフェイトと距離が近くなったような気がする。

最初は冷たい感じだったのに今は優しい笑みを浮かべてくれてる。

 

本来のフェイトはこっちなのかな?

 

 

 

さて、まずはこの小屋のものを確認したが風呂にトイレキッチンにベッドはあるから思ったより不便さはなさそうだ。

問題は食料か?

一応さっきの川で魚は見たからそこから調達出来るし水も飲めたからなんとかなりそうだな。

 

 

つまり問題は

 

 

 

「暇だ……」

 

 

そう暇なのである。

サバイバルと言うくらいだからもっと過酷なのを想像していたのにびっくりするぐらいイージーだった。

ジュエルシードさんありがとう。

じゃなくて、どうしようか?

 

本調子じゃないフェイトをとりあえずベットに寝かせてはいるが俺がする事は魚を取りに行ったり水を汲むくらいか?

 

冷蔵庫まであるが電気やガスは何処から出ているのだろう……謎だ。

 

というか冷蔵庫に食料もある程度は入っているからそこまで心配もないんだよなぁ……

 

 

「ユウ?」

 

「ん、どうした?」

 

 

どうやら目が覚めたフェイトに声をかけられる。

 

 

「もう大丈夫だよ私。熱も多分下がったと思う」

 

「ん、ちょいまってな」

 

 

一応フェイトのおでこを触ってみる。

……うん、多分大丈夫かな?

 

 

「ああ、下がってるみたいだな」

 

「うん、看病してくれてありがとう」

 

「気にすんな。さて、何かしたい事とかあるか?」

 

「したい事?」

 

 

頭にハテナを浮かべるフェイト。

あ、そっかまだ全然説明してなかったな。

とりあえずは3日分の生活はどうにかなりそうな事、つまりヒマな3日を送るということをフェイトに伝える。

 

 

「まぁなんだ、軽い休日みたいなもんだよ」

 

「お休み…」

 

「そ、だからフェイトは何かしたい事ないか?出来る事なら俺が叶えるぞ?」

 

 

……深くは聞いていないがこの歳頃の女の子が趣味の一つもないというのは少し異常な気がする。

もし俺の嫌な考えが当たっていれば……

 

 

「……何をしていいのかわからないか?」

 

「……うん」

 

「ならそうだな……少し森の中を散歩でもするか」

 

 

そう言ってフェイトを連れ出す。

さて3日もある訳だし俺も遊ぶか。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ、あれは何?」

 

 

「ん?……あー、なんだろあの鳥」

 

 

フェイトの手を引き森の中を散策していく。

思ったより動物もいるんだな。

 

 

「ユウ、あれは?」

 

「お、リスか俺もあんまり見た事ないんだよな」

 

「リス?」

 

「おう、あのちっこい奴の名前」

 

 

森の中の小さな住人たちに興味津々のフェイト。

初めてみる生き物たちに少し目が輝いてる。

ん?なんだ急に背伸びするように木の上を見ている。

 

 

「どうした?」

 

「えっと、そこの上にいる子を見たくて…」

 

 

ああ、リスが気になってるのか

フェイトの身長的に木の上には届かないよなぁ……

よし。

 

 

「フェイト、ちょっとごめんな」

 

「え?…わわっ!」

 

 

フェイトを肩車してやる。

こうすれば見えるかな?

 

 

「見えるか?」

 

「え?あ……うん!」

 

 

少し興奮気味のフェイト。

どうやら気に入ってもらえた様だ。

そのままの肩車で森を歩いていく。

少し俺もテンションが上がってきたな。

 

 

 

「よし!いくぞーフェイト!」

 

 

森の中を走り抜けていく。

 

 

「ちょ、ちょっとユウ!」

 

 

わー!!なんて俺の頭にしがみつきなが叫ぶフェイト。

はっはっは!もう少し早くしてやろう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから森の中で散々遊び少し日が暮れてきたので小屋に戻ってきた俺とフェイト。

次は夕食でも作るかな。

 

冷蔵庫にはある程度の食材はあるしフェイトに食べたいものを聞くと"ユウの好きなのものがいい"なんて可愛い事を言ってきたので最近俺がハマっているパスタにした。

 

 

「よし、こんなもんか」

 

 

「これはなんていう料理なの?」

 

 

「一応カルボナーラって名前なんだけど俺のアレンジがかなり入ってるから本来のものとはかなり違うよ」

 

 

 

そうなんだ、と俺の作った料理をじーっと見つめているフェイト。

そんなに珍しいものでもないと思うんだけどな。

 

 

「えと……いただきます」

 

「おう召し上がれ」

 

 

フォークを使い少し緊張気味のフェイト。

何でそんなに緊張してるんだ?

 

 

「あ、おいしい……」

 

「お、そりゃよかった」

 

どうやら口にあったみたいだ。

少しドキドキしていたが嬉しそうに食べてくれるフェイトを見ていると笑顔が溢れる。

 

 

「そんなにがっつかなくても誰もとらないぞ?」

 

 

「ふぐ、別にがっついてないよ!」

 

「口についてるぞ?」

 

 

意外とおっちょこちょいなところもあるな。

口元を拭いてやると少し顔を赤らめている。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「おう、まだあるから足りなかったら言ってくれ」

 

「うん」

 

 

 

さて次は風呂とかの準備しなきゃな。

タンスを見るとジャージと下着があった。

ホントにジュエルシードって何なんだ?

親切すぎて少し怖いな。

 

 

「食い終わったら風呂入ってきな。着替えはここに置いとくから」

 

 

「あ、うんありがとう」

 

 

さて俺は洗い物をしちゃいますかね。

なんというかお父さんにでもなった気分だ。

フェイトくらい可愛い娘がいたら俺も毎日が楽しいだろうな。

フェイトの両親が少し羨ましい。

 

 

 

フェイトが風呂に行くのを見送りながらコーヒーを淹れて椅子に座る。

……うーんなんだろうか。

すごく平和だ。

ホントにジュエルシードの中なのか?

 

 

《happiness?》

 

「あー…そうかもな」

 

 

ツァイトが聞いてきた幸せかどうかなら今は割と幸せな時間かもしれない。

今日一日でフェイトへの印象もだいぶ変わったなぁ……

ホントに優しくて気遣いの出来る子だしなのはやはやてと友だちにでもなってほしいものだ。

コーヒーを一口飲みながらジュエルシードをどうするか考える。

 

正直に言えばフェイトにも協力してやりたいがなのはやユーノを裏切ることは俺には出来ないし、したくはない。

しかしフェイトを助けてやりたいのも事実だ。

……ホントにどうしたもんかね……

 

 

 

「ユウ、上がったよ」

 

「おう、なら俺も入ってくるよ」

 

 

少し大きい黒色のジャージをまくって着ているフェイト。

なんというか萌え袖っていうんだっけアレ。

たしかに容姿的にも高いフェイトがやると破壊力あるな。

 

じーっと俺が見ていたせいかフェイトが少し顔をかしげながら何?と聞いてくる。

うーん、天然なのがまたすごいな。

 

少し前にはやての家に泊まった時、はやてもやっていたが狙っていたのがわかったのでまだよかったが天然になるとこんなにも変わるものか。

 

 

「なんでもない、行ってくる」

 

 

さて、俺も入るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

さて風呂から上がりそろそろ寝るかと思ったところで問題発生。

 

ベットが一つしかない。

流石に一緒に寝るという選択肢は取れないし俺は椅子で寝るか。

と考えていたところ

 

 

「えっと一緒のベットで私は大丈夫だよ?」

 

 

とフェイトが言ってくれたがなんというか……色々まずいと思うんだ。

何というか事案といいますか、何となく仲良くなってきてはいるけど実際は今日初めて会った子といきなりは……

と考えているとフェイトが俺のジャージの裾を引っ張りながら。

 

 

「私はユウと一緒に寝たいな…」

 

 

なんて言ってきた。

あれ?こんなに懐かれてたっけ?

 

なんだろうか、なのはと言いはやてと言い、俺は子どもに好かれるスキルでもあるのか?

 

 

「えっと……ならお邪魔させてもらうよ」

 

「うん、寝よう」

 

 

そんなこんなでベットに潜るフェイトの横に寝転ぶ。

意外と大きいなこのベット?俺とフェイトが入っても少し余裕がある。

 

 

「ねぇユウ」

 

「ん?」

 

「ユウの話、聞きたい」

 

「俺の?」

 

 

なんの話だろうか、昼間にほとんどしてしまったような気がするしネタがもう思いつかない。

 

 

「なんでもいいよ?」

 

「そうか?なら……」

 

 

なら最近見つけた喫茶店の話でもしようかな?

あっちにもどったらフェイトを連れて一緒に行こうなんて話をする。

そんな話をしているうちに夜は深くなって行く。

 

さてあと2日間か。

何をしてフェイトと過ごそうかな?

 

 

 

 

 

 

 




フェイトとの心の距離のお話です。
次回でフェイトちゃんとのお話は一旦終了です。
一応書いておくと、うちのフェイトちゃんは優しさ5割り増しくらいです。


それではまた!

評価、感想お待ちしております!


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第13話 大切なものはいつだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトとの生活2日目。

 

残り時間で言うとあと50時間くらいだ。

 

外の天気を見ると見事に晴天だ。

太陽の日差しが強く、今は四月のはずだがもう真夏なんじゃないかと思うくらいに外は暑い。

というわけで

 

 

「今日は海に行くか」

 

「海?」

 

 

朝食を食べてながらフェイトに提案する。

パンをかじりながらこちらに聞き返すフェイト。

 

 

「正確に言うなら海かどうかわからないんだけどな、最初に目が覚めた場所が海岸っぽかったから泳ぎにでも行こうかなって」

 

 

普通に砂場もあったし距離も直線で突っ切ればそこまでかからない。

ツァイトのマップ表示で見るとこの小屋から歩いて20分くらいだ。

最初はかなり遠周りしてしまったことがわかる。

 

 

「でも水着とかないよ?」

 

「さっきクローゼットの中を漁ってたら出てきたんだよ、ほら」

 

 

ホントになんでもあるなこの小屋とびっくりした。

まるで"俺とフェイトが来ることがわかっていた"みたいだ。

それにこれが欲しいなと思ったものが大抵、叶うのも少し変な気がしなくもないが、せっかくなのでありがたく使わせてもらおう。

 

ツァイトによると、この空間は何処かの島をコピーしたもので、それをジュエルシードがまんま再現しているらしい。いわば願いが叶う島、的な?

 

ジュエルシード内の魔力が尽きるとともに消滅するためそれまで待っていればいいのだが、願いを叶える石って感じだよなホント。

 

 

「フェイトは行ってみたくないか?」

 

 

そう聞くと少し考え出すフェイト。

もしかして泳げない?

 

 

「うーん…行ってみたいかな」

 

「よし、そうこなくちゃな。飯を食い終わったら行くか」

 

「うん!」

 

 

 

それなら俺は今のうちに色々準備しておくかな。

水筒の代わりに使えそうなものとかそこら辺もあったし、今日は一日海で遊ぶか。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ、準備できたよ」

 

 

「よし行くかー」

 

 

パジャマ代わりのジャージからTシャツ短パンの夏装備に着替えたフェイトと共に小屋から出る。

今のフェイトは髪を下ろしているのだがなんだろう。

俺的にはこちらのフェイトがしっくり来る。

うーん不思議と見慣れてる気がするんだよなぁ……。

 

俺の方は下を水着に着替え上はTシャツの格好だ。

 

 

「ユウどうしたの?」

 

 

おっと…じっと見ていたせいかフェイトが不思議そうに聞いてくる。

 

 

「や、なんでもないよ。ストレートも似合うな」

 

「え、そうかな?」

 

 

軽くフェイトの頭を撫でながら誤魔化す。

さて行きますか。

 

外に出るとまだ木陰があるおかげで涼しいが太陽光が燦々と降り注いでいるのが分かる。

昨日とは違う道をフェイトの手を引きながら歩いて行く。

 

森の中を見渡すと鳥やリスなんかの小動物が今日も顔を見せてくれている。

フェイトも忙しなくキョロキョロと森の中を見ている。

 

 

「動物とか好きなのか?」

 

「うん、好き……かな」

 

 

昨日から見ててそうなんじゃないかとは思っていたが動物が好きなのか。

あっちに戻ったら動物園とか連れて行ってやりたいが……

正直、今の関係が危ういのはわかってる。

元は敵同士で偶然と偶然が重なって仲良くなれたがこの世界での生活が終わればそれはきっと。

 

 

「ユウ?」

 

「あ、いやなんでもない」

 

 

少し止めてしまった歩みを進める。

出来ればフェイトとは戦わずこのままの関係が続けばいいなぁ……とは思うがどうなるかはわからない。

 

 

「でもまぁ」

 

 

その事を考えるのは後でいいか。

今はフェイトとの時間を楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー」

 

「わぁ……」

 

 

目の前の海の広さに感嘆の声を上げる俺とフェイト。

凄い綺麗な海だな、澄んだ水色から奥にいくにつれて青が濃くなっている。

 

昨日は移動する事とフェイトの事でいっぱいいっぱいでキチンと見ていなかったが、これは凄いな。

海鳴市も海に面していたがここまで綺麗ではなかった。

 

 

「………」

 

 

フェイトも口を少し開けてじーっと水平線の方を見つめている。

 

この世界が偽りでも。

夢だったとしてもこの光景を見てる俺たちにとってはホンモノと変わらないのかも知れない。

 

 

「フェイト入ってみようぜ?」

 

「う、うん」

 

 

少し緊張気味に海の方に近づくフェイト。

初めてならこの反応も分からなくもないか。

 

 

「あっ……冷たい……」

 

 

海に片足を入れたフェイトはその場で少し留まって何やらポカーンとしている。

少しして正気に戻ったのか興奮気味にこちらに戻ってくるフェイト。

 

 

「ユウ凄いよ!海冷たくて!」

 

「はは、なら次は着替えて泳ぐか」

 

「うん!」

 

 

どうやら喜んで貰えたみたいだ。

なら俺としても嬉しいかな。

フェイトが笑顔で下に着てきた水着に着替え俺を呼んで来る。

 

俺もフェイトの手前隠してはいたが実はテンションが上がっていたりする。

遊ぶかー!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから2時間くらいフェイトと海ではしゃいだ。

泳いだり、海の中を潜ってみたりじゃれあったり。

気づけばもうすぐお昼過ぎだ、これは弁当を作って来て正解だったな。

 

 

「フェイトー!一旦休憩しようぜー」

 

「わかったー!」

 

 

少し奥まで泳いでいたフェイトを呼び戻す。

最初は深い所が怖かったはずなのに気づけば1人でスイスイと泳いでいた。

 

 

「ほれタオル」

 

「ありがとう」

 

 

ふぅ、と言いながら引いてあるシートの上に座るフェイト。

やっぱり疲れるよな、あんだけはしゃいだら。

 

 

「ほら飲むだろ?」

 

「うん」

 

 

少しクールダウンして二人で静かな海を眺めながらお茶を飲む。

こういうのもなんかいいなぁ。

無言だが別に気まずさもなくゆったりとした空気。

フェイトも特に気にしてないのか海を見ながら少し鼻歌を歌っている。

 

 

「私ね」

 

「ん?」

 

「こんなに楽しいって感じた事初めてかも知れないんだ」

 

 

それはーー

………踏み込んではいけないこともある。

 

 

「そりゃ良かったよ」

 

「うん、ありがとうユウ」

 

 

おう、と返事を返すが少しだけ空気が変わる。

この歳の女の子が初めて"楽しい"という感情を感じたというのは正直おかしい。

この子は色々抱えているとは思ったがかなり重いものなのかも知れない。

 

そう考えていると少し気の抜ける音がする。

 

 

「あっ……」

 

「あ、昼時だもんな腹減ったよな」

 

 

フェイトのお腹から可愛らしい空腹を訴える声を聞きカバンから弁当を取り出す。

時間があまりなかったのと手軽さを考えてサンドイッチにしたが口に合うだろうか?

 

 

「ほい、弁当。食べようぜ?」

 

「…ありがとう」

 

 

恥ずかしかったのか少し顔を赤らめているフェイト。

気にしなくてもいいのになぁ。

照れ隠しかサンドイッチを黙々と口に運ぶフェイト。

あーあー口のまわりがソースだらけだ。

 

 

「ちょっとじっとしてろよ」

 

「ん……」

 

 

口元を拭いてやる。

少し手のかかる妹が出来たみたいでなんか嬉しかったり……ってなのはとそこまで変わらないか?

そんなやりとりをして少し笑みがこぼれる。

 

さて、午後からも遊ぶことになるだろうし俺も、もう少しだけ休むとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイトーそろそろ陽も落ちてきたし帰るぞー」

 

 

私が海の中でぼーっとしているとそんな声が聞こえてきた。

もうそんなに時間経っちゃったんだ。

さっきまでお昼休憩をしてたくらいだと思っていた。

 

不思議だなぁ……ユウといると時間が早く過ぎていく。

 

最初は三日も出れないって聞いて凄く焦った。

母さんには早くジュエルシードを集めてほしいと言われていたし向こうに残っているアルフが心配だった。

 

でも今は光のように早く過ぎ去るこの時間が凄く切ない。

この世界がなくなれば私とユウは敵同士、のはず。

 

だけど私はユウと戦えるのかな……。

帰り道を歩きながら手を引いて歩いてるユウの顔を見上げる。

 

なんと言うのだろうかユウは何処かお兄ちゃん気質というか……つい甘えたくなってしまう。

 

もし、もしも私がユウにジュエルシードを集めるのを手伝って欲しいとお願いしたらそれは……

 

それはもう一人の子、あの白い魔導師の女の子を裏切って欲しいとお願いする事になる。

きっとユウは悩んでくれる。

でも私はユウに"そんな事"をして欲しくない。

 

でも私の味方でいて欲しいだなんて矛盾だらけで子どものワガママのような考えが浮かぶ。

 

 

「どうした?」

 

「え?」

 

 

急にユウに声をかけられ少し上ずってしまう。

 

 

「なんか悲しい顔してたぞ?」

 

 

ーーホントにこの人は。

 

どうしてこうも私の気持ちをすぐに汲み取り助けようとしてくれるのだろう。

 

そんな事されたら私は……ユウに甘えたくなってしまう。

 

でも。

 

 

「ううん、何でもないよ」

 

 

だからこそ、この事だけは。

このユウと2人のこの世界にいる間は心の中に閉じてしまっておこう。

 

もし、もし向こうに戻って寂しくなったりしたら……

 

 

「その時はユウに甘えさせてもらおう」

 

 

うん、だから今は別の甘え方でユウと過ごす。

それが一番私とユウにとっていい事だって思うから。

 

 

 

そういえば私はどうしてこんなにもーー

 

 

 

「ユウと一緒に居たいって思うんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて早いもので三日間という時間はもうすぐ終わる。

どんな夢だって終わりは来てしまう。

ツァイトの残り時間を確認する。

 

 

00:35

 

 

あと30分でこの世界自体が消えて無くなる。

何となくだがもう二度とこの場所には来れない気がする。

 

最初この場所で三日間となった時はどうしたもんかと早く海鳴市に戻らなければと考えたものだが、今は少しだけ切ない。

なんだかんだと言いつつ楽しい事しかなかったからな。

フェイトと森で探検したり、海に行ったり川で釣りをしてみたり。

 

三日間という時間だがここには俺とフェイトの想い出が詰まっている。

そこが消えて無くなってしまうのはなんだ…いい言葉が見つからない。

 

 

「そろそろ…かな」

 

「ん、そうだな」

 

 

今はフェイトと最初に目覚めたあの海岸で座りながら話している。

フェイトも少し悲しそうにしているのを見るにこの場所での時間はかけがえのないものになってくれたみたいだ。

そこは俺としても嬉しいかな。

 

 

「あっちに戻ったら…ユウと私は……」

 

 

フェイトが何かを言おうとして詰まらせる。

なにが言いたいのかは分かっている。

この世界からでるまでの"共闘"でありあくまで"休戦"最初の俺とフェイトの契約みたいなもの。

でも……

 

 

 

「色々考えたんだけどさ、別に敵同士って選択肢だけじゃないだろ?」

 

「……うん」

 

「もしも助けが必要だったり、後はそうだな……」

 

 

うん、多分今から言うことに間違いは無いはずだ。

コレはあくまでも俺が友だちを助けるっていうだけなんだから。

 

 

「寂しくなったり遊びたくなったらすぐに俺を呼べよ?」

 

「でも……」

 

「あー…そうだな、ジュエルシードを奪い合う魔導師としてじゃなくて友だちのフェイトとして俺とこれからもよろしく、って事じゃダメかな?」

 

 

「………」

 

 

こちらを見つめて少し固まっているフェイト。

やっぱり無理があったかなぁ……

 

 

「……ふふ、少しズルイよ?」

 

「はは、そうかもな…」

 

「うん、なら"魔法とは関係ない"私とよろしくお願いします」

 

 

コレが俺とフェイトの二度目の契約。

魔導師として相対する時は敵同士。

でもそれ以外の時は友だちとして。

これはつまり"そう言う"事だ。

 

 

 

《master》

 

「ああ、転移するんだろ?」

 

《…yes》

 

「フェイトも大丈夫か?」

 

 

もう一度この世界を見渡すフェイト。

そして一度頷き、

 

 

「うん、もう大丈夫だよ」

 

 

そしてまたこの感覚。

体が重くなりぐるぐると回る感じ。

ああ、転移か。と三日前の感覚を思い出す。

 

さてなのはや士郎さん達になんて言い訳するか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ」

 

 

ここは……あの時フェイトと戦って居た場所か?

どうやらもどってこれたみたいだ。

体を起こし腕を振ったり首を回す。

………うん、調子は悪くない。

と、自分の体を確認し終えてツァイトを確認してみると時間表示も正しくなっている。

 

 

「んん……」

 

 

俺の隣で眠って居たフェイトも目を覚ます。

 

 

「……戻ってこれたんだ」

 

「ああ、気分は平気か?」

 

「うん、ユウは?」

 

 

俺も平気だ、とフェイトに返すとそっかと話が切れる。

さて俺はまずなのはとユーノに念話を送ってみるか……

 

 

(ユーノ?)

 

(……あ、ユウ?何か進展があったの?)

 

 

あれ?思っていた反応とだいぶ違う。

てっきり3日も何処に居たんだーとかその類の話を一番にされると思ったのだが。

 

 

(いや3日も連絡しないで悪かったなユーノ)

 

(え?3日って何が?)

 

(いや俺3日くらい帰らなかっただろう?なのはを倒した魔導師を探しに行ってから)

 

(何言ってるのさ、まださっき探しに行くって言ってから2時間も経ってないよ?)

 

 

 

…………なんだって?

落ち着け、整理しろ。

俺とフェイトは3日という時間を別の世界で過ごして"ここ"に帰還したはずだ。

しかしユーノが言うにはまだ2時間程度しか経って居ないと言う。

 

 

「フェイト、俺と最初にあった日の時間とかって覚えてたりするか?」

 

「え、えっと確か……」

 

 

フェイトに時間を聞きツァイトで確認する。

……確かに時間はあっている。

なら日付けは………

 

 

「変わってない……?」

 

 

どう言う事だ?

余計に混乱してきた。

 

 

(ユウ?)

 

「どうしたの?ユウ」

 

 

ユーノとフェイトの2人に心配される。

とりあえずユーノとは一旦念話を切り、フェイトに状況説明と意見を貰うのが多分正しい。

 

 

(ユーノ、すまん一旦落ち着いたらもう一度連絡するよ)

 

(あ、うん。気をつけてね)

 

 

ユーノとの念話を切る。

なら次はフェイトだ。

 

 

「フェイト、とりあえず状況説明だけするから最後まで聞いてくれ」

 

「う、うん」

 

 

そこからフェイトに今現状俺が把握している事を話す。

 

 

「………向こうの世界とこっちの世界の流れていた時間が違ったのかも」

 

「まぁそう考えるのが妥当か……」

 

「それか……あれが全部夢だったとか」

 

 

そう言って少し悲しそうにするフェイト。

 

 

「そんな事あるわけないだろ?俺だって覚えてるし、もし夢だったとしても夢の世界の中を2人で生活したのは嘘じゃないんだから」

 

 

「……そうだよね、うん」

 

 

あの世界での出来事は俺にとっても大事な物になってたみたいで、ついフェイトの言葉に反論してしまった。

ただあの世界の俺とフェイトの思い出は嘘じゃないって偽物じゃないって伝えたくて。

 

 

そこまで話して俺とフェイトもそろそろお互いの帰るべき場所に帰らなければいけなくなる。

 

 

「フェイトは携帯とか持ってたりするか?」

 

「携帯?えっと……もってないかな」

 

「なら俺に念話してくれればいつでも……はバイトがあるから無理だな。でも話したりはできるだろう?」

 

「……うん!」

 

「それじゃ……」

 

 

と別れようとした時にふとポケットの重みを思い出し取り出す。

 

ジュエルシード。

忘れていたがそういえば、これが原因であの世界に飛ばされたんだよなぁ……。

 

ある意味俺とフェイトの縁を結んでくれたものでもあるんだが。

ふとフェイトの視線を感じる。

フェイトは俺のもっているジュエルシードを見つめていた。

 

 

「……、それじゃあねユウ」

 

 

だが、頭を振ると別れの言葉をかけてきた。

 

……そっか、これはフェイトにも必要……なんだよな。

 

……………。

 

 

「フェイト、ほら」

 

 

フェイトにジュエルシードを手渡す。

 

 

「え、でもそれは……」

 

 

「俺はたまたまポケットに入ってた"見たことない石"を物欲しそうに見る友だちにあげようしてるだけだ」

 

 

 

自分で言ってて、かなり苦しいとわかってはいるが、このジュエルシードはなんとなくフェイトに持っていて欲しい。

 

そう思ってしまった。

 

 

 

「……そっか、ならありがとうユウ」

 

 

「ああ、でも俺も綺麗な石は割と好きでもう譲ることはないかもだからな?」

 

 

「うん、次からは……」

 

 

 

 

「ああ、それじゃ"またな"フェイト!」

 

「うん、"またね"ユウ!」

 

 

 

 

 

 

これが俺とフェイトの2人だけの想い出で出会いの話。

 

次に会うときはきっと敵同士だ。

けど、俺とフェイトが友だちなのは変わらない。

 

 

だから、今回だけはいつもはトラブルばかり起こすジュエルシードにフェイトとの出会いをくれた事に感謝はしておこう。

 

 

 

俺もゆっくりと高町家の方に歩き出す。

なんだかこうしてみるとあの3日が本当に夢だったみたいだ。

 

 

 

「夢じゃないんだよな…」

 

《yes.master》

 

「なら安心かな?」

 

 

 

少し鼻歌を交えながら歩いて行く。

誰かに教えてもらったこの曲は今歌うとすごく心に響く。

 

次はいつフェイトと会えるかな?

なのはやはやてにも紹介してやりたいなー?

 

なんて。

 

 

そんな事を考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。

これで原作無印の3話まで終了しました。
このペースでプロット作っているのですが無印完結まであと40話近くかかりそうで減らすか悩んでいたりも。

それでは次回からは温泉旅行編に入ります!

評価&感想お待ちしております!
それではまた。


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第13.5話 ヤキモチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 

ユウさんの声が聞こえる。

 

どうやら帰ってきたみたいだ。

ふと時計を見ると時間は17時くらいでいつもより遅いことがわかる。

ユーノくんから聞いたけど今日すずかちゃんの家で私と戦ったあの女の子を探しに行ってたらしいけど……

 

 

 

「おかえりユウさん」

 

 

「ただいまなのな」

 

 

………?

なんだろうユウさんの雰囲気というか何かがいつもと違うというか……嬉しそう?

少し気になる。

 

 

「ねぇユウさん」

 

「ん?」

 

 

二階に上がる階段を登りそのままユウさんの部屋について行く。

 

 

「その……私」

 

「ん、ユーノから聞いてるよ」

 

「そうだよね…ごめんなさい」

 

 

なんで謝るんだよーと言いつつ私の頭を撫でて慰めてくれる。

ユウさんって頭を撫でるの好きだよね。

私も撫でられるのは結構好きだったりするから嬉しかったり。

 

 

「次は俺も一緒に戦ってサポートするから、そんな落ち込むなよ?」

 

 

「うん、ありがと」

 

 

おう、とこの話を切ってくれるユウさん。

じゃあ次はさっきのことを聞いてみよう。

 

 

「それでもう一つ聞きたいんだけど」

 

「んー?」

 

「ユウさん何かいい事あった?」

 

「ああ、そうだな……気に入った奴が出来たというか、新しい友だちが出来て少し浮かれてるのかもな」

 

 

新しい友だち?

その人のことを思い浮かべてるのか私の知らない表情をするユウさん。

………なんか少し面白くない。

 

 

「……ふーん」

 

「結構面白い奴でなー」

 

 

ユウさんがその子の事を嬉しそうに教えてくれるが不思議と私の耳はその子の事を受け流してしまう。

なんというかユウさんを取られたみたいで少しムカムカする。

 

 

「……ねぇユウさん」

 

「ん?」

 

「その子って女の子?」

 

「あ、ああ。なのはと同じくらいだと思うけど……なんでそんなにむすーとしてんだ?」

 

「この前出来たお友だちも私とおんなじくらいの女の子って言ってたよね?」

 

「う、うん」

 

「今回もまた同じ」

 

「は、はい」

 

 

なんというか凄く面白くない。

どうしてこうもユウさんの交友関係は女の子ばかりと言うか……

こう…むしゃくしゃする。

 

そうしてユウさんを見てると何かを考えついたようにユウさんが私を見てああーと声を上げる。

 

 

 

「なのは、もしかして妬いてるのか?」

 

「え?」

 

 

妬いてる?ヤキモチ?

 

 

「いや俺が他の奴の話をし始めてから機嫌悪そうだし……自溺れじゃなきゃ妬いてるように見えてな」

 

 

確かにユウさんがお友だちの話をし始めてから私は何処かムカムカし始めてたかも。

ユウさんの言う感情が心に当てはまる。

 

これ、ヤキモチなんだ。

 

 

「……えっと多分というか少しだけユウさんのお友だちに妬いてたかも」

 

「やっぱりか。どうしてだ?」

 

「うーん…なんかユウさんを取られちゃうというか……私にもよくわかんなくて…」

 

 

うんうんと私の話を真剣に聞いてくれるユウさん。

こういう事をちゃんと聞いて理解してくれるのは嬉しいかも。

 

 

「なんというか可愛い奴だな、なのはは」

 

「え?」

 

「別にな、俺は誰かが優先とか特別だみたいなのは出来るだけつけたくないけど……俺にとってなのはは特別なんだ」

 

 

………まずい少し顔をそらす。

どうしよう本人からそういう事を言われると凄く嬉しくなる。

口元が緩む、こんな顔できれば見せたくないがどうしてもニヤけるのが止まらない。

 

 

「まぁ理由は色々あるけどさ何より俺はなのはに受けた恩を忘れないし一緒にいて楽しいって長く付き合っていきたいなーって思ってるんだぜ?

それくらい俺はなのはのこと好きだぞ」

 

 

「え……え?」

 

 

今何を言われた?

頭が混乱する。

すき?好きと言われた。

それは……Like?それとも。

 

 

「もちろん高町家の人達にもみんな感謝してるし大好きだ」

 

「……そっか」

 

 

Likeの方だったみたい。

なんとなく安心しているようながっかりしているようななんとも言えない心情。

でもそう言ってもらえて。

そう思っていてくれたのはとても嬉しい。

 

少し思考が落ち着き冷静になってくる。

最近の私はユウさん関連で嫉妬しすぎではないだろうか?

もうちょっと落ち着こう。

と考えつつユウさんの側に近寄り少し甘えさせてもらう。

 

 

「どうした?」

 

「んー?えへへ」

 

なんとなく今は近くにいたい気分。

この人になら安心して自分の弱いところを見せられる、そんな思いがあるせいか余計に甘えてしまう。

ユウさんも特に拒絶もせず頭を撫でてくれてそのまま私は微睡みに体を委ねる。

 

少しくらい寝ちゃっても平気だよね?

 

 

 

来週からは温泉旅行。

お父さんやお母さんお兄ちゃんにお姉ちゃん、そしてユウさんと行く久しぶりの旅行。

 

楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 




前回のお話のオマケです。
時系列的には前回から1週間くらい後のお話です。
基本的に0.5が付くお話は三人娘の誰か視点でのお話を予定しております。

それでは!


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第14話 温泉と不思議な気持ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は祝日。

いつもなら俺は翠屋のバイトがあるのだが今日から高町家+月村家とアリサそして俺で海鳴温泉に行くことになっている。

 

その為朝からいつもより少しだけ騒がしい。

まずはいつも通り桃子さんと朝食を作ってそのあとなのはを起こしに行く。

 

なのははフェイトと戦った後から色々とアッチ関連で悩み過ぎている。

今回の温泉で少しでもゆっくりしてくれればいいのだが……

 

 

「なのは?」

 

「あ、うん起きてるよ」

 

 

おや珍しくなのはの部屋に声をかけただけでなのはが出てきた。

もしかして楽しみであまり眠れなかったのか?

 

 

「おはよなのは、ユーノ。なのはは珍しくこの時間に起きれたのか」

 

「おはようユウさん、ちょっと楽しみで眠れなくて……」

 

「キュー」

 

 

階段を降りながらなのはと話す。

やっぱりか、気持ちはわかるけどな。

 

 

「アリサとすずかはもう少しで来るみたいだからそれまでに朝食をたべちゃえ」

 

「はーい」

 

 

なのははトコトコと食卓の方に歩いて行く。

さて、俺は一回部屋に戻って準備しなきゃな。

 

 

「あ、そういやはやてにもメール打っておくか」

 

 

一昨日一緒に本屋に行ったがその時に温泉に行くことを話しそびれていた。

いつもなら明日ははやてと会う日だから会えない事とお土産は何が欲しいかという内容でメールを打っていく。

 

 

「よし、送信と」

 

 

まだ8時前だしはやても寝てるだろう。

とっとと服とかカバンに詰めて準備を終わらせなければ。

と服を詰めているとツァイトがメールを受信した音を発する。

 

 

「おお、すぐ返事がきた…」

 

 

はやても割と朝に弱いはずだが……なのはと言いはやてといい珍しいな今日は。

えっと何々?

"温泉かぁ羨ましいわ。お土産はユウさんのセンスに任せるで。楽しんできてなー"

 

うーん……はやても誘えばよかったか?

ちょっと後悔しつつはやてには了解と送っておく。

まぁ今度はやては何処か別の場所に連れて行こう。

 

 

「ユウくーんそろそろ準備できたかい?」

 

「あ、はーい!」

 

 

士郎さんからのお呼ばれ。

そろそろ出発かな?

大きめのカバンといつも使ってるショルダーバッグを斜めがけにして下に降りる。

一応忘れ物がないかショルダーバッグを確認するが財布、携帯、カギに本と大丈夫そうだ。

 

 

「それじゃ大きいカバンの方は車に乗せちゃうね」

 

「お願いします」

 

「うん、そろそろ月村さんの人たちも来るからなのはたちも呼んできてくれるかい?」

 

「了解です」

 

 

士郎さんにカバンを車に積んでもらう。

さてなのはたちを呼びにいくかな。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ出発しようか」

 

あの後すぐに月村家とアリサが到着し、今は出発前。

さて俺はどの車に乗ればいいんだ?

 

 

「おっはよーユウくん」

 

「あ、忍さんおはよう」

 

 

後ろから肩を掴まれ振り向くと笑顔の忍さんが居た。

この人がすずかの姉で恭也の彼女さんだ。

 

 

「何か迷ってたみたいだけど、どうしたの?」

 

「ああ、俺はどちらの車に乗ればいいのかなって」

 

 

目の前には移動用の車が2台。

一つは士郎さんでもう一つは月村さん家の車。

好きな方に乗っていいと言われたが逆に困っている状態だったり。

 

 

「んー……だったら私と乗る?あっちの車」

 

「ああ、それでも……」

 

 

と続けようとして左手が引かれる。

ん?と左を見るとなのはが少し膨れて俺の手を引いている。

その後ろではアリサがもう…と言いつつ俺を見て、すずかが何やらニコニコしている。

 

そのなのはたちを見て忍さんは"あ、なるほどねー"なんて言いながら少し離れる。

なんだ?どういうこと?

 

 

「なーんだそういう事ね。それじゃまたあとでね?ユウくん」

 

「え?え?」

 

「ユウさんはこっちに乗るの!」

 

「ちょ、なのは?」

 

「ユウは私たちと乗るって事でいいじゃない」

 

「ふふ、ユウさんと私もお話したいし一緒に乗りましょ?」

 

 

アリサやすずかまで?

まぁ別に俺はどっちの車に乗ってもいいのだが何故なのはは少し怒っていたのだろうか?

 

というわけで俺となのは、アリサ、すずかは士郎さんの運転する車に乗る事に。

恭也と美由希は忍さんたちの少し大きい車の方へ。

 

そうだな、とりあえずなのは達の邪魔にならないように一番後ろに座るか?

運転席に士郎さんで助手席に桃子さんが座っているから2列目に3人で3列目に俺が座れば問題ないだろうと3列目の窓側に座る。

 

 

「あれユウさん後ろに座るの?」

 

「ああ、ここしかないだろ?」

 

「私たちの所に座れますよ?」

 

 

2列目のすずかが横を空けてくれるがすでに小学生とはいえ3人が座っている為俺が座ってしまえば狭いよな。

 

 

「いや狭いだろ?」

 

「何言ってるのよ?さっきユウと話したいからこっちに呼んだのにそこに座ってたら意味ないじゃない」

 

「話くらいできるだろう?」

 

 

そういうとアリサがはぁ……わかってないわねとため息を吐く。

んん?俺なんか変なこと言ったか?

 

 

「まぁユウのそういう所は私は嫌いじゃないけど……とりあえず前に座って」

 

「あ、ああ….分かったよ」

 

 

まぁ3人がいいなら俺も拒否する理由は……狭いくらいしかない。

 

 

「えっと誰の隣に座ればいいんだ?」

 

「そりゃユウが選べばいいんじゃない?」

 

「そうですよユウさんが選んでください」

 

 

と言われて、なら1番最初に空けてくれたすずかの隣、窓側に座ろうとすると何やら視線を感じる。

 

 

「むぅ……」

 

「えっと……?」

 

 

なのはさんがむくれていた。

今何か俺はなのはの機嫌を削ぐような事をしてしまったか?

 

 

「若いわねぇ……」

 

「ユウくんの困ってる姿はなかなか見ないから僕は新鮮だよ」

 

 

と前で笑いながら話している士郎さんと桃子さん。

笑ってないで助けてくださいよ……

 

 

「ユウさんこっちに座りませんか?」

 

「だけどすずかがなのはと喋り辛いだろ?」

 

「大丈夫ですよ、それに」

 

 

よいしょとすずかが俺の膝をまたぎ窓側の方に移動してくれる。

 

 

「ほら、こうすればなのはちゃんともアリサちゃん、ユウさんともお話出来ますから」

 

 

と俺の膝の上に軽く乗り胸に頭を預けてくる。

おおたしかに。

 

この体勢ならフェイトと何度かしたから慣れているし、違和感もない。

そんな中、ついフェイトの事とあの島での出来事を思い出し、すずかとフェイトを重ねてしまう。

 

あの子は今は何をしてるんだろうか?

 

あれから一度だけ念話が来て以来話を出来ていない。

この頃はジュエルシードも見つかっておらず、フェイトと戦わずに済むことに安心している反面、もう一度会いたいと思っている自分がいた。

 

 

「えっと……ユウ、さん?」

 

「ん、なんだ?」

 

「どうして私の頭を撫でてるんです?」

 

「へ?……あ!ごめん」

 

 

ああ……また俺の悪い癖が。

すぐに退けようとするが、

 

 

「えっと、もう少し撫でて欲しいなーって」

 

「え?わ、わかった」

 

 

えへへと笑っているすずか。

なんだ怒ってるわけじゃなかったのか。

と、反対側から何かを抗議するように手を引っ張られる。

 

 

「っと、どうした?」

 

「……私とアリサちゃんを無視し過ぎ」

 

「翻訳すると私にも構って欲しいってことよ」

 

 

そんなこと言ってないもん!とアリサに反論するなのは。

そんなにすずかばかりに構ってたかな…

 

 

「はは、それじゃそろそろ出発するよ?」

 

 

士郎さんから出発コール。

ゆっくりと発車する車に揺られ出す。

確かここから2時間くらいかかるんだっけ?

前の席では士郎さんと桃子さんが完全に2人の世界に入っている。

うーん……仲良い夫婦だな。

 

ああいう関係は男として憧れてしまうのはしょうがないよなぁ……俺もいつか父親になるんだろうか?

それなら士郎さん達みたいにずっと仲睦まじい関係のパートナーが欲しい。

 

 

「ふぁ……」

 

「なのは眠いの?」

 

「うん、少し夜更かししちゃって」

 

 

えへへと笑うなのは。

そういや今日は早起きだったな。

 

 

「別に時間もあるし寝ててもいいんじゃないか?」

 

「え?でも……」

 

「別にあっちについてから遊べばいいじゃない?」

 

「うん、今のうちに寝てもいいと思うよ」

 

 

うーんと何かを悩んでいるなのは。

なんだ?枕とか無いと寝れないタイプか?

 

 

「別に俺の膝の上とか枕がわりにしていいぞ?昨日もそれで寝てたし」

 

「え?」

 

「は?」

 

 

すずかとアリサが何かを驚くように俺の顔を見ている。

今度はどうしたんだ?となのはの方を見るとこっちは少し赤くなって固まっている。

表情豊かだなこの子たち。

 

 

「……寝る」

 

 

と言って俺の膝の上にぼふっと倒れてくるなのは。

とりあえずこの前みたいに、軽く頭を撫でていれば、かなり眠かったのか、すぐになのはの寝息が立ち呼吸が安定しだした。

 

そしてずっと感じてる左右からの視線。

アリサは何処か驚いてるような感じですずかは不思議そうになのはと俺を見比べている。

 

 

「どうした?」

 

「ユウの前だとなのはってこんなに素直というか……」

 

「なのはちゃん甘えん坊?」

 

「?」

 

何を言って……ってそういえば士郎さんが言ってたな。

 

なのはって俺の前以外だと全然甘えたりしないと言うかワガママな一面もないって。

それなのに俺は2人の前であんなこと言ったからなのはもふて寝を始めてしまったのか。

 

確かに同年代の友だちにそういう自分の見せたくないであろう一面をバラされたようなもんだからな。

 

ちょっと悪いことしたかな。

 

 

「ねぇ、ユウ」

 

「ん?」

 

「普段のなのはってユウと一緒だとこんな感じなの?」

 

「んー……俺と2人だとって感じかな」

 

「へぇ……なんか少し意外かも」

 

「でもなのはちゃんってユウさんが一緒だと何時もより子どもっぽい気がするな。

今日も車に乗る前にあんな風にユウさんの方に突撃して行った時は少し驚いたもん」

 

 

やっぱりそうなのか。

俺の膝で眠るなのはの顔を見る。

静かに寝息をたてながらこちらのシャツの裾をギュッと握っている。

 

ふと車の外を見ると海沿いを走っているおかげで綺麗な海岸が見える。

今度はなのはたちを連れて海に行こうかな?

そんな考えがよぎる。

 

 

「そうだ、なら2人から見た普段のなのはの話を聞かせてくれよ」

 

「ん、いいわよ」

 

「それならこの前私の家に遊びに来たお話からしようかな」

 

 

アリサとすずかから聞く普段のなのはは俺の知ってるなのはとはだいぶ違った。

 

 

「俺の知ってるなのはとはだいぶ違うな」

 

「でしょ?逆に今のなのはが私たちからすればかなり新鮮よ」

 

「うん、びっくり」

 

「まぁ確かにな」

 

「今度はユウの話を聞かせてよ?この前とかなんか妙に楽しそうというかいい事あったみたいだったし」

 

「そういえばアリサちゃんと翠屋に行った時、ユウさん普段より楽しそうだったね」

 

「アレは……そうだな、新しい友だちが出来たから少し浮かれてたんだよ」

 

 

そこから温泉に着くまではアリサとすずかとの話をしているうちにあっという間だった。

普段見ないなのはの一面や学校の話などとても面白いモノばかりだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて到着して今は車を止めたところなのだがまだなのはが起きない。

余程眠かったのかすやすやと可愛い寝顔のままだ。

 

 

「うーん起きないわね」

 

「まぁとりあえず俺がおぶって行くよ」

 

「ごめんね、ユウくん」

 

 

よいしょとなのはを背中に乗せる。

もうこれも何回目だろうか?

それになのはを背負う時って大抵意識ないよな。

 

 

(ユウー……)

 

(ん?ユーノか)

 

 

そういやユーノは恭也たちの方に連れてかれていたな。

 

 

(助けて……)

 

(また美由希とかにめちゃくちゃにされたのか)

 

(うん、もうヘトヘトだよ…)

 

 

そう言ってこちらに駆けてくるユーノひょいひょいと俺の肩に乗ってくる。

 

 

「ユウって動物にも好かれるんだ」

 

「その子がそこまで懐いてるのなのはちゃん以外は初めて見たかも」

 

「ん……まぁな」

 

 

ホントは喋れて疲れて俺の方に逃げて来たとは言えないよな。

 

向こうの車の人たちも降りて来たみたいで合流する。

? 恭也が俺の方を見ているがどうしたんだろうか。

 

 

「どうした?」

 

「いや……なのはは寝てるのか?」

 

「ああ、疲れてるみたいだからとりあえず俺が背負ってる」

 

 

ふむ、と何かを考える恭也。

後ろでは士郎さん、桃子さん、美由希がそんな恭也と俺を何処か面白そうに見ている。

 

 

「俺がなのはを背負ってもいいか?」

 

「え?別に構わないけど……」

 

「よしなら……」

 

 

といいすぐに俺の背中のなのはをおぶろうとするが……

 

 

「あ、なのはユウくんの事ギュッと握ってる」

 

「これは無理そうだね」

 

 

なのはは俺のシャツの肩の部分をギュッと握って離してくれない。

これは士郎さんが言う通り無理そうだ。

 

 

「むぅ……」

 

「ほらそんなムクれないで行くわよ恭也」

 

 

忍さんに引かれ連れて行かれる恭也。

 

 

「恭也も相変わらずなのはが好きだな」

 

「そうねぇ…普段からもう少しなのはにあんな風に接してあげればいいのに」

 

 

士郎さんと桃子さんが何やら話しているがよく聞こえなかった。

まぁいいか、そろそろ俺も移動するか。

 

 

「アリサ、すずか行くぞー」

 

「うん」

 

「はーい」

 

 

トコトコと俺の後ろをついてくる2人。

なんか何処ぞのゲームのパーティーみたいだな。

 

 

 

「そういや士郎さん、部屋って何人部屋なんですか?」

 

「えっとね、6人部屋を2つ借りてるよ」

 

 

そういいながら受付からもらって来たであろう鍵を2つ見せてくれる。

 

 

「そうだね、僕と桃子とユウくんは同じ部屋にしようか?せっかくの機会だしたまには僕もユウくんと男同士の話をしたいしね」

 

「了解です。ならあと3人は…」

 

「私もユウさんと同じ部屋がいいなぁ」

 

「なら私もすずかとなのはと一緒がいいし、そっちに行こうかな」

 

 

といった感じで3人が決まった。

横で聞いていた忍さんたちも特に異論はないらしく部屋に向かう。

 

 

「それじゃ部屋で少し休憩したら温泉に行こうか?」

 

「はい、それまでになのはは起こしておきます」

 

 

ついでに疲れて寝てしまったユーノもな。

 

 

「おお、いい部屋ですね」

 

「だろう?浴衣はそっちにあるから準備しようか」

 

 

部屋は和室でさすが6人部屋と言うべきかかなり広い。

窓から綺麗な景色が見える。

これは温泉にも期待が膨らむな。

 

 

荷物を置き浴衣を準備し始める。

うーんこういうのは着たことないから大丈夫か?

そんなこんなしているうちにもう20分もたつ。

そろそろなのはを起こすかな。

 

 

座布団を軽く引いて寝かせているなのはのほっぺたを突く。

おっ、少し反応した。

 

 

「なのはちゃん起きました?」

 

「んにゃ今起こしてるとこだよ」

 

「爆睡してるわね……」

 

 

横にすずか、後ろにアリサが来た。

どうやらなのはを待っていたみたいで2人は温泉に行く準備は出来ている。

 

 

「おーいなのはー置いてくぞ?」

 

 

「んにゃぁー……」

 

 

猫かコイツは?

試しに腹を撫でてやるとまた変な声を出した。

 

 

「ふふ、なのはちゃんって寝起き悪いんですね」

 

「いつもはもう少し良いんだけどな」

 

 

どうしたもんかな?

となのはをいじっているとゆっくりと体を起こすなのは。

 

 

「うぅん……ユウ、さん?」

 

「おう」

 

 

まだ呂律が回ってないのとぼーっとしてるから寝ぼけてるなこれ。

 

 

「えへへ……」

 

「おいおいまたか?」

 

 

抱っこのポーズをとるなのはを抱き上げる。

この前もこんなことあったよな。

 

 

「……あれ?」

 

「お、目が覚めたか?」

 

 

ご機嫌だった顔から少しづつあたりを見回してだんだん目に正気が戻ってきている。

 

 

「起きたなら降ろすぞ?」

 

「あ、うんもう着いてたんだね」

 

「おう、追加でいうならなのは以外はみんな温泉への準備万端だ」

 

「え!わ、私も準備しなきゃ!」

 

 

慌ただしく俺から降り服を取りに行こうとするなのは。

しかし降りようとした瞬間に固まる。

 

 

「あ、アリサちゃんとすずかちゃん…」

 

「今日は面白いものばかり見れて飽きないわね?すずか」

 

「ふふ、あんまり意地悪いっちゃダメだよ?アリサちゃん」

 

 

そんなこと言いつつすずかも楽しそうに笑っているところを見るに結構楽しんでるな?

まだ俺の腕の中で固まってるなのはを揺さぶる。

 

 

「おーい今度はどうした?」

 

「………」

 

「もうなのはったら恥ずかしくて再起不能になってるのね。ユウくんなのはは私が連れて行くから大丈夫よ」

 

 

 

と桃子さんがなのはを連れて行く。

それじゃまた後でねとアリサすずかも着いて行く。

 

 

「ユウ、俺たちも行こう」

 

 

と恭也に言われ俺も温泉に向かう。

あ、ユーノはアリサが連れてった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと温泉に浸かる。

少し高めの温度の温泉は俺のコリや疲れを癒してくれる。

つい気の抜けた声を出すと隣に入っている士郎さんと恭也とハモり顔を見合わせ笑う。

 

 

「いやー気持ちいいなぁ……これで日本酒とかあればまたいいんだけど」

 

「父さんはすぐに調子に乗って酔うんだからあんまり飲み過ぎるなよ?」

 

 

と親子らしい会話をする2人。

にしても2人とも凄い体だな。

引き締まってるのは服の上からでもわかっていたがここまで鍛えてるのは裸じゃないと分からない。

恭也は普段から鍛えてるのは知っていたが士郎さんがここまでモリモリだとは知らなかった。

 

 

「そういやユウは最近どうなんだ?」

 

「何がだ?」

 

「俗に言う"なんかあった?"って奴だよ」

 

「あぁ……最近は特にこれと言って特質した事はないと思うけど」

 

 

なんかあったか?

いや魔法関連ならバリバリあるっちゃあるがこの2人に話せる内容ではないので割愛。

 

 

「前と比べて休日とか遊びに行ってるじゃないかユウくん」

 

「ああ、仲のいい奴でも出来たか?」

 

 

ふと関西弁で寂しがりやの文学少女と大人びてるが子どもらしい一面を見せて甘えてくる魔法少女が頭をよぎった。

そういや話してなかったな。

 

 

「まぁそんな所ですかね、面白い奴ですよ」

 

「そうなのか?せっかくだから話してくれよ」

 

「ああ、僕も気になるな」

 

「えっと別に構いませんけど…」

 

 

そこからははやてとの出会いの話や得意な事、おっちょこちょいで面白い奴だと。

フェイトのことは魔法系を全部割愛しつつ話していく。

 

 

 

「ってな感じでめちゃくちゃ可愛いやつであんな妹とか居たら俺甘やかしまくってると思いますよ」

 

「なるほどなー僕もなのはとかそうだからユウくんのそれはお父さんに近いかもね」

 

「ああ、聞いてると娘自慢にしか聞こえない」

 

「まだ子どもがいるような歳じゃないですよ」

 

 

 

まだ16だぞ?俺。

 

 

 

「でもその話を聞いたらなのはが嫉妬しそうだね」

 

「あいつは最近ユウにべったりだからな、まぁ少し俺も寂しいというのがあるが」

 

「僕も親としてはユウくんとなのはを見てると少し嫉妬してたり……ね?」

 

 

なんして2人して急に黒いオーラを俺にぶつけ出したんだ?

 

 

「まぁ確かにこの間、少し話したら凄い面白く無さそうな顔してましたよ」

 

「え、話したのかい?」

 

「はい、なんか妙に怒ってると言うか……拗ねていたんで、妬いてるのか?って聞いたら"うん"って言ってましたよ」

 

「そのあとは大丈夫だったのかい?昨日の夕飯の時は2人ともそんな感じしなかったけど」

 

「まぁ、そのあとなのはには俺の気持ちをちゃんと話したら機嫌を直してくれましたよ」

 

「………ユウ、ちょっと詳しく聞かせろ」

 

「え?別にいいけど……」

 

 

そこから何があったか細かく話していく。

 

なのはに話した俺の新しい友だちの内容と状況、それからなのはの様子を細かく丁寧に。

 

最初の方は黒いオーラ全開だった士郎さんと恭也も後半になるにつれて何故か俺を残念な物を見るような何か哀れむ表情に変わっていった。

 

 

「……ってな感じですけど」

 

「うーむ…何というかそれは…」

 

「ああ、なのは勘違いしかけただろうな」

 

「えっと……?」

 

 

何やら士郎さんは遠い目をしつつ何か過去を思い出してるような顔を。

恭也は少し苦い顔をしている。

 

 

「ユウくん、何か相談事とかあったら言うんだよ?」

 

「ああ、俺も父さんもそれなりに"そっち"系のトラブルは経験してるからな」

 

 

何か勘違いされてるような……凄く優しい顔をした2人に肩を組まれる。

 

 

「だが、なのははあげないよ?」

 

「え?は、はい」

 

「逆にユウはなのはの事どう思ってるんだ?」

 

 

こうポジションと言うか関係性というか?と恭也に聞かれる。

うーん……これまた難しい質問だな。

 

 

「どうなんでしょ、最初はしっかりしてて年上の俺の事を助けてくれるくらいの子ですから面倒見のいい子だなーって印象でしたけど……」

 

「最近は変わってきたのかい?」

 

「はい、なんか凄い甘えてくるし、別に俺も嫌じゃなくてどちらかと言うと嬉しかったりもするんですが、何だろう?少し歳の離れた妹とかいたらこんな感じかなーみたいな」

 

「ユウくんはそういう視点かぁ……」

 

 

あー……なるほどね、と2人とも何となくは分かってくれたみたいだ。

 

そこからは男同士特有の話やこれからの話、はたまた趣味など語り合った。

少しのぼせそうなくらいは風呂に入ってたなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じくらいの時間の女湯の方ではまた別の意味で盛り上がっていた。

 

 

「んで、なのは?」

 

「うん、どうなの?」

 

「2人とも何か顔怖いよ…?」

 

 

温泉で私は今、ユーノくんを持ったアリサちゃんとすずかちゃんに問い詰められている。

えっと……何のこと?

 

 

「ユウとのことに決まってるでしょ?」

 

「うんうん」

 

「あ、それ私も気になる」

 

 

いつのまにか忍さんまで増えていた。

えっと……ユウさんのことって何?

ますます頭にハテナが浮かぶ。

 

 

「もしかして本当に私たちが聞きたいことが分かってない?」

 

「うん…」

 

「しょうがないわね、すずか説明!」

 

「え?えっと……なのはちゃんってもしかしてユウさんの事好き?」

 

「え?うん」

 

 

ユウさんのことが嫌いならもっと違う態度を取ってしまっているだろう。

そもそも家に一緒に住んでいる時点で嫌いなわけがない。

 

 

「もうそうじゃなくてLoveの方で好きなんじゃないのっていってるの!」

 

「私もそれ気になってたな」

 

 

アリサちゃんの言葉につい頭が真っ白になる。

Love?ラブ、らぶ!?

 

ついこの前の事を思い出してしまうが、あの時自分はどう思っただろうか?

つい残念だなとlikeの方と言われて不思議な感覚になったのを覚えている。

 

 

「なのは?」

 

「なのはちゃん?」

 

「え、えっと……分からないかな…」

 

 

うん、今は分からない。

これが私の中で1番しっくりきた。

アリサちゃんはなにそれーと言っていたが分からないものは分からないんだ。

そう答えると今まで傍観していたお母さんと忍さんがこちらに来る。

 

 

「じゃあさ、なのはちゃんはユウくんが他の女の子といてなんかムカムカしたりとかない?」

 

「え?えっと……ある、かな?」

 

 

そう答えると忍さんはなるほどねと言ってお母さんに視線を送る。

お母さんは何か優しそうな表情で私に語って来る。

 

 

「なのは、気持ちっていうのはねいつ変わってもおかしくないの。

お友だちとして好きだったのがいつの間にか……なんて事もあるのよ?」

 

 

「?うん」

 

 

お母さんが何かを伝えてくれるのは分かるがまだ私には理解できていない。

 

 

「今は分からないかもしれないけど、もし感じた事の無い気持ちが溢れたりしたらその感情に向き合うのも大事な事なの。

後悔だけはしないようにね?」

 

 

「……うん、覚えておくね」

 

 

お母さんが言ったことを忘れないように心に置いておく。

気持ちが変わるのと受け止める、だよね?

 

 

「それに私的にユウくんなら安心して任せられるのよねー」

 

「?」

 

 

なんの事だろうか?

忍さんが"弟かぁ…"と言っていたがよくわかんないや。

 

 

「なのはちゃん」

 

「どうしたの?」

 

「もしも困ったこととかあったら私たちに相談してね?」

 

「 ? うん、ありがとう」

 

 

ホントにどうしたんだろう?

 

さっきまでの会話にそんなに私を心配するような事があったのかな。

うーん……

後でユウさんにも聞いてみようかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。

評価&感想お待ちしております!


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第15話 魔導師として"敵"として

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温泉から上がり少しゆっくりする。

着替えた浴衣は今の俺は初めて着たが動きやすく、お風呂上がりの火照った身体には丁度いい。

今はコーヒー牛乳を飲みながらマッサージ機に乗り士郎さんと恭也と一緒にぐでっている。

なんでも温泉上がりはこれが定番とか。

 

 

 

「どうだいユウくんいいものだろ?」

 

「結構気持ちいいものですね……これ」

 

 

これ時間を忘れてしまうな……というか温泉上がりで身体が温まっているのとなんとも言えない刺激に振動で少しずつ眠気が……

 

 

「ふぁ……すいません、少し外に出て涼んできます」

 

「あ、うん僕と恭也ももう少ししたら部屋に戻ると思うから夕食までには戻っておいでね」

 

「了解です」

 

 

 

恭也は疲れているのかもう寝ている。

こういう所兄妹っぽいよなー、寝顔が割とそっくり。

 

さてせっかく知らないところに来たし少し散歩しますかね。

俺もテンションが上がってるのかいつもより足が軽い。

さて何かないかな…?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

少し旅館内を歩き今は外のベンチに座っている。

旅館内はゲームセンターや卓球台に土産屋、コンビニまである良設備だった。

外は外で自然が多く気持ちいい場所だ。

 

時間を確認するとまだもう少し時間がありこれからどうしようかと思案。

 

 

「なんか飲もうかな」

 

 

 

少し歩いて喉がまた乾いている事に気づき自販機を探す。

 

近くの自動販売機を見つけそちらに歩いていくと何やら浴衣姿の女性がにらめっこしていた。

………自動販売機とにらめっこしてる人は初めて見たな。

 

 

少し気になり観察する。

その女性は色んな飲み物を見比べて何かを考えていた。

そして何かを探すように身体を弄っていたが少し焦り出す。

 

 

「あれ?ここに入れといたはずなんだけどなぁ……」

 

 

もしかして……

 

 

「えっと……大丈夫ですか?」

 

「え?」

 

 

おお美人さんだな、髪色や少し日本語が慣れてないところを見ると海外の人だったり?

 

 

「もしお節介ならアレですけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「いやー助かったよ、アンタいい奴だね?」

 

「いや困ってたらお互い様だ、気にしないでくれ」

 

 

この人は財布を落としてしまったらしくとりあえず俺が代わりに飲み物を買った。

 

………またなのはとかに怒られるかな。

何もなく人が困っていると見捨てられないというか助けなきゃいけないような気がして身体が動いてしまう。

 

 

「とりあえずアタシはアルフって言うんだ、アンタは?」

 

「あ、俺はユウだ、よろしくな」

 

 

おう、よろしくなーと気軽に話しかけてくれる。

随分と気軽と言うかいい人オーラが出てるというか、何となく気があうような感じ。

 

 

「ユウはどのくらいここに泊まってるんだい?」

 

「えっと二泊だったかな?」

 

「ならそれまでにお金は返すよ、ありがとね」

 

「いやこれくらいは気にしないでくれ、俺も暇してたし……そうだ」

 

「ん?」

 

「なら少し話に付き合ってくれよ?それでそのジュース代は無しでいいよ」

 

 

この人と少し話してみたいので、そんな提案をしてみると。

 

 

「お、そうなのかい?丁度アタシも暇してたしその提案はありがたいな」

 

「なら決まりかな?」

 

「うん、それなら……」

 

 

と会話が始まる。

初対面の相手だと会話に詰まったりする事もあるのだが不思議とアルフとは詰まらずポンポンと共通の話題が出た。

 

 

 

「それでね、私の……ご主人的な人なんだけどこの前、久々に嬉しそうに話しててね」

 

「へぇ……さっき話してた人だよな?」

 

「ああ、アタシも帰って来た時ビックリしたよ。"友だちができた!"なんてあんな顔久しぶりに見たよ」

 

 

何でもいつもは何かに追われている用に自分の事を放り投げていた人がある日の出会いを境に変わったという話。

きっとその人にはとてもいい出会いがあったんだろう。

 

 

 

「その人に俺も会ってみたいなぁ…」

 

「ユウとは気が合うと思うよ、私が保証するよ」

 

 

なんて何処か嬉しそうに語るアルフ。

こんな人のご主人だって言うならまたその人もとても良い人なんだろう、俺も興味がある。

 

 

「次はユウの話を聞かせてよ?」

 

「おう、そうだな……」

 

 

そこからは俺の最近の話。

たわいも無い日常や交友関係などの話だが今さっき会ったばかりなのにやはり会話が弾む。

 

 

「はは、そんな子もいるんだ」

 

「ああ、いい奴なんだぜ?」

 

 

そんなこんなで話していると気づけば1時間くらい経っていた。

 

 

「あ、俺はそろそろ行かないと」

 

「ん?そうかい、ならアタシもそろそろいくかな」

 

 

そう言ってベンチを立つとアルフも伸びながら隣に立つ。

何だかんだ話し込んで座りっぱなしだったからなぁ……

 

 

「それじゃまた縁があれば会えるかね?」

 

「ああ、俺はまた会いたいと思ってるよ」

 

 

そうかい?なら嬉しいねと笑いながら手を振り去っていくアルフ。

気持ちの良い人だったな、暖かいというのかな?

 

 

「面白い人と最近はよく会うなぁ…」

 

 

さて俺も部屋に戻りますかね。

そろそろ時間的に戻っておかないとまずいだろうし、士郎さんたちを待たせるのはマズイだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから部屋に戻ると何か怒っているアリサとそれを落ち着かせるすずかに何かを考えているなのはがいた。

なんかあったのか?

 

 

「どうした?」

 

「あ!ユウ聞いてよ!」

 

「お、おう分かったから落ち着け?」

 

 

アリサが憤怒している訳を聞いていくと何やら酔っ払いのような人に絡まれたらしく気分を台無しにされて怒ってたみたいだ。

 

 

「もう!最悪よ!」

 

「まぁまぁ……これから飯なんだし気分変えていこうぜ?こういう場所なんだからそういう人もいてもしょうがないって」

 

「むぅ……」

 

 

と言っても怒りたいアリサの気持ちもわかるしなぁ……

とりあえずは収まってくれたアリサを横目に次はなのはに話しかける。

 

 

「なのははどうしたんだ?」

 

「あ、えっとね……」

 

 

話そうとしてすぐに口ごもるなのは。

なんだろう。

あまり他の人に聞かせられない話なのか?

うーん……それなら念話がいいか。

 

 

(どうした?)

 

(あ、そっか念話すれば良かったんだ)

 

(気づかなかったのか、まぁそれでどうしたんだ?)

 

(えっとね、さっきの人の話なんだけど……魔力を感じたんだ)

 

 

 

そこから何があったのかを詳しく聞いていく。

今から1時間ちょっと程まえに歩いていると突然知らない女の人に絡まれ、魔力と殺気を当てられたらしい。

ユーノからもその時の話を聞くとユーノも魔力を感じたらしい。

その人はどうやらコッチ側の人間か。

 

 

(とりあえず何かされたとかはないんだな?)

 

(うん、特別何かされた訳じゃないからそこは大丈夫だよ)

 

 

ならそこに関しては安心だ。

今回はあくまでも警告という形で接触してきたのだろう。

 

 

(何か心当たりとかあるか?)

 

(ううん、知らない人だったと思う)

 

(もしかしたらジュエルシード関係の相手かもしれないね……)

 

 

なるほど、相手もジュエルシードを集めてる可能性があるならそれは大いにある。

とりあえずは相手が分からない以上こちらからアプローチはかけられないかな……

 

 

(とりあえずは様子見にして、今は旅行を楽しもうぜ?)

 

(うん、そうだね)

 

 

 

なのはもそれで納得してくれた。

それじゃそろそろ飯の時間かな、どんな料理が出るのか楽しみだ。

 

それから料理が来てはしゃいだ士郎さんはお酒を飲みつつ潰れてしまった。

 

時間はもうすぐ21時を過ぎる。

そろそろ子どもは寝る時間という奴だ。

 

すずかやアリサも少しはしゃぎ過ぎたのか船を漕いでいる。

 

 

「ほれ2人とも寝るならそっちの布団に移動しよう」

 

「うん……」

 

「はーい…」

 

 

2人を布団に誘導しそのまま寝かせるとすぐに安定した呼吸になる。

疲れてたのかな?

 

 

「なのはもそろそも寝たらどうだ?」

 

「あ、うん私も寝るよ」

 

 

トコトコとユーノを抱えこちらにくるなのは。

 

 

「ユウさんは寝ないの?」

 

「俺はもう少し起きてるつもりだけど」

 

「なら私ももう少しだけ起きてようかな?」

 

 

なのはが俺の座る布団の横に座る。

もう他の人たちは寝てしまっているので特に会話もなくゆっくりした時間が過ぎる。

 

なのはと過ごすこの時間は悪くない。

読書用に持ってきた本をめくるペラリという音がたまにするだけであとは他の人の寝息が聞こえるくらい。

 

どれくらい経っただろうか?そろそろ俺も寝ようかな。

 

 

「なのは?」

 

「んー?」

 

「俺はそろそろ寝るけどどうする?」

 

「私も寝ようかな」

 

 

よいしょっと俺の布団に入ってくる。

え?一緒に寝るの?

 

 

「たまにはユウさんと一緒に寝たいなーって。……ダメ?」

 

「いや別に構わないけどさ、少し狭いぞ?」

 

「うん」

 

 

と言ってもそこそこ大きい布団だし平気か?なのはも小柄だし丁度2人が入るくらいだった。

まぁたまには一緒に寝てもいいか、別に何か減ったりするものでもないし。

 

 

「それじゃ電気消すぞ?」

 

「はーい」

 

 

カチッという音と共に暗くなり月明かりが部屋の中に満たされる。

この時間になると他の人工光がないから完全に月の光だけだ。

布団に入り目を閉じればすぐに眠気がやって来る。

どうやら俺もそれなりに疲れが来ていたみたいで意識が落ちていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………っ?」

 

 

あれ、俺は………寝てたのか?

急に何かを感じ身体が起きろと命令してくる。

時間を確認すると0時前といったところでまだまだ夜は長い。

 

少しぼーっとする頭を振りながら起きろ!とうるさいこの身体を起こすとふと違和感。

なんだろう、寝る前と今で何か違うような?

 

 

ーー隣で寝ていたなのはがいない?

確かに先ほど一緒に布団につきそのまま眠りに入ったはずだが、隣には誰もいない。

 

少し嫌な予感がし、他の人を起こさないようにそっと着替え部屋を出る。

手にツァイトを持ちすぐになのはの魔力をサーチする。

 

 

 

「ツァイト、なのはは見つかったか?」

 

《yes.master》

 

「マップを頼む!」

 

 

靴を履き直し階段を一気に駆け下りる。

ツァイトのマーキングを確認しつつマップを確認するとなのはとユーノ以外に魔力反応が2つとジュエルシードの反応が森の方にあり、なのはたちは戦闘に入っているみたいだ。

 

 

ーー何という間抜け。

なのはとユーノは魔力の反応に気づきすぐに行動に移したというのに俺は眠りこけていた?

これではこの間と同じ事になってしまう。

 

手に力がこもりついツァイトを握りしめる。

急がなければ。

何か取り返しのつかない事になる前に、まだ見ぬ敵の可能性を考えながら必死に地面を足で蹴る。

 

ーー落ち着けこんな時だからこそ落ち着いて行動するんだ。俺は何のために今まで"訓練"を受けてきたんだ。

 

そうだ冷静になれ。

まずは状況の確認から行うんだ。

 

不思議と冷静になれる。

まずは確認したなのは達以外の魔力は2つで1つは飛行しつつなのはの周りを飛んでいる。

 

もう1つは地上で戦っているのか?

そしてこの2つの魔力はデカイ。

つまりかなり強力な魔導師の可能性があると言う事だ。

どういうわけか1つの魔力がユーノと共に何処かに転移する。

これはユーノが時間を稼いでいるのか?

なら俺は先になのはの方を!

 

 

セットアップはしておくべきか?

そう考えつつもう目の前の橋にまで迫る。

この先にいるはずだ。

 

 

一気に飛び込むと目の前ではーーー

 

 

 

 

 

黄色の大きな魔力の奔流。

なのはに迫るであろうソレがこちらにも迫ろうとしている。

それを放とうとしているのはーーー

 

 

「サンダー……」

 

 

黒いバリアジャケットに金色の髪をツインテールでまとめた赤い目の少女。

あの場所で過ごしたーーフェイトがそこにはいた。

 

 

「スマッシャー!!!!」

 

 

 

ーーまずい、アレはまずい。

なのははそれなりに消耗している。

それを今なのはがモロに受けてしまってはーー!!

 

 

 

身体は勝手に動いていた。

ツァイトに入っている桜色の魔力メモリを抜き取りポケットから"空"の魔力メモリを差し込みなのはの前に飛び込む。

 

 

 

「え!?」

 

「っ!!??」

 

 

ツァイトをフェイトが放った砲撃魔法・サンダースマッシャーの目の前に突き出す。

これは未確認の賭けであり、もしも失敗すれば俺もタダではすまないだろう。

 

 

ーーでも不思議と。

 

自分でも何故かは分からないけど、

 

 

俺のこの行動は間違いなんかじゃないって確信していた。

 

 

 

 

《complete.absorption》

 

 

 

ツァイトに砲撃がぶつかる寸前にその音声が鳴る。

 

ーーやっぱりか。

 

 

前になのはには魔力メモリに魔力を登録した時と同じだ。

なのはの魔力を登録出来るならとユーノの魔力を試してみようとしたがツァイトが"miss match"という音声しか出さず、結局残りの魔力メモリを使える事は無かったが今回はぶっつけでフェイトと俺の魔力がマッチしたという事だろう。

 

つまり

 

コレは登録出来る魔力と出来ない魔力があるみたいだ。

今のところ登録出来ているなのはに今吸収しているフェイト。

 

何が基準かはまだ分からないが俺の考えが正しければコレで新しいーーー

 

 

ツァイトが吸収を完了しゆっくりと光が消えいく。

そしてなのはが駆けてくる。

 

 

「ユウさん!」

 

「おう、大丈夫か?」

 

「私は平気だけどユウさんが!」

 

「俺も傷ひとつないだろ?」

 

「え?」

 

 

あ、ホントだ……なんて言っているなのは。

どうやら間に合って助けることが出来たみたいだ。

さて、次は。

 

 

「………」

 

「よ、久しぶりだな」

 

 

嬉しそうな、それでいて寂しそうな表情をしているフェイトに声をかける。

 

 

「……うん、久しぶりだね」

 

 

声をかけると少し嬉しそうにはにかんでくれる。

このまま久しぶりに話をしたいが二人の約束がある。

 

 

「さて……ホントは色々と話したいがルールは覚えてるよな?」

 

「……うん、敵同士だもんねユウと私は」

 

 

どうやらフェイトの方もそれは覚悟していたらしくゆっくりとバルディッシュを構えてくる。

 

やっぱり少し辛いなフェイトと戦うのは。

覚悟していたはずだがこの場面になってみてやはり辛いと思ってしまう。

 

しかしそうも言ってられない。

 

 

「なのは、とりあえずお前は休んでおけ」

 

「でも!」

 

「言ったろ?

もしもの時は俺がなのはのサポートをするって。もう少し俺の事を頼ってくれてもいいんだぜ」

 

「っ……うん、ありがとう」

 

 

そう言って何かを言いたそうにしたが飲み込むなのは。

ごめんな、後で色々と説明と謝らなきゃな。

ツァイトに桜色のメモリを挿し直す。

 

 

「ツァイト、ノヴァ使えるか?」

 

《yes》

 

「よし、それじゃセイバーでいくぞ?セットアップ!」

 

《mode2・Saber Nova》

【complete phase2】

 

 

 

そのまま一気に空に上がっていく。

フェイトとの戦闘は初めて会った時以来だがスピードと接近戦が得意なのはわかっているから敢えてセイバーで真っ向勝負を選んだ。

 

 

向こうもそれを察しているのかサイズフォームに変わっている。

 

 

フェイトにも俺の戦闘スタイルやモードチェンジは全て見られているから純粋な魔導師としての腕勝負になるのは間違いない。

 

そして俺は正直まだまだフェイトには追いつけないのは分かっている。

俺がここでフェイトに勝つにはどうにかしてフェイトの意表を突かなければいけないのだが………

 

ふと右手に持っている新しいメモリ、フェイトの魔力を登録したであろうモノをみる。

 

新しい魔力メモリ。

 

なのはのは青色をベースに中の透明だった場所が桜色と白になっているのに対してこちらのフェイトから吸収した魔力メモリは黒色ベースの本体に黄色のクリアカラーに少し赤色の線が走っている。

 

 

「コレの使いどころかな……」

 

 

まだ試してすらいないがきっとコレを使えば。

 

そしてフェイトとの戦いが始まるーー!!

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。
次回から戦闘パートに入りユウの新フォームのお披露目となります。

次回 「第16話 新しい力 《Blaze・force》システム」

評価&感想おまちしております!


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第16話 新しい力 《Blaze・Force》システム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前であの子とユウさんが何かを話している。

 

きっと戦う事になるのだろう。

 

私は先ほどまであの子と戦っていたがあの子はすごく、すごく強かった。

私の砲撃を躱してはこちらに撃ち、時にはあの杖の形状を変えて近接戦闘にも迫られた。

 

私が不意をつかれあの子の砲撃を受けそうになった時後ろから飛び出してきたユウさんが庇ってくれなければきっと……

 

 

 

でも気になる事が出来た。

最初にユウさんを見た時、私は安心したが向こう側のあの子の表情もユウさんを見て変わっていた。

 

少し、少しだけだったがユウさんを見て微笑んだ気がした。

その後はすぐに表情を戻しつつ少し悲しげな表情をしていたのも気になる。

 

ユウさんもユウさんでやはりあの子を知っているみたいだし……私が最初に倒された後ユウさんがあの子を探しに行ったのは知っていたが見つけたかどうかも聞いていない。

 

これは色々聞きたい事が増えた。

 

目を空に戻すとユウさんがセットアップを完了し戦いが始まろうとしている。

 

 

「本当に戦うしかないのかな……」

 

 

これだけはまだ私の中で拭えず残っている。

本当に戦うしかないのか?他に手段は、話し合いでは解決できないのか。

 

そんな事を考えながら戦いを今は見守るしかない自分に少し腹が立った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトの刃が俺の体に迫る。

空中での戦闘はほとんど初めてだがセイバーモードのおかげかフェイトの攻撃に対応し斬撃を時には避け、こちらのライザーで受け流しつつ戦っていく。

 

分かってはいたがやはりフェイトは強い。

スピードでは俺やなのはより1つ2つ抜けているのは戦えばすぐに分かった。

 

そしてまた一閃。

彼女の黄色い鎌が確実に俺の急所を突こうと高速で繰り出されていく。

 

このままでは時間の問題だ。

正直に言えばこのまま消耗戦に持ち込めれば御の字だったが少しフェイトを侮っていた自分が居たようだ。

 

確実にこのままいけば俺が先にあの魔力の鎌に意識ごとかられ敗北してしまうだろう。

 

 

「ツァイト、今何パーセントだ!?」

 

 

フェイトからの砲撃を一気に空に上がり避ける。

本格的にマズイな。

あれだけの魔力を使っているのだから消費も半端じゃないと思ったが全く息切れしてくれず俺の方がバテ始めている。

 

こちらの切り札というか唯一フェイトを出し抜ける可能性がある新しいメモリをツァイトにインストールし始めたがセットアップの新しいアイコンがまだ暗いままで起動できない。

ツァイトに聞くと画面に何か表示される。

 

 

72% 00:75

 

 

どうやらあと1分ちょい程耐えなければいけないみたいだ。

この斬撃と砲撃を1分間避け続ける………持つかなぁ……

 

 

「って危な!」

 

 

頭を下げるとそこにシュ!とフェイトの刃が通る。

非殺生設定と分かっていても今のは肝が冷えた。

マジで首飛ぶんじゃないか?コレ。

 

 

「フェイト!危ないだろ!」

 

「へ!?えっと…ごめん?」

 

 

と謝りつつ此方への攻撃を一切緩めないところを見るとやはり戦闘では隙を見せてくれないな。

というか俺の言葉にちゃんと謝るあたりフェイトらしいよなぁ……

 

さてどうやって時間を稼ぐか。

……そういえばフェイトにはまだ見せてない俺の魔法があったな?

 

 

「いくぞ!」

 

「っ!」

 

 

俺は一気にフェイトに突っ込んで行く。

そしてフェイトの刃が迫り……

 

 

「えっ!?」

 

「ユウさん!」

 

 

そのまま突っ込んだ俺の体に突き刺さる。

うへぇ……"こっち"から見てると凄いな。

自分が切られてる所を見ると少しくるものがあるな。

 

 

というかなのはが心配してくれるのは分かるがフェイトまでテンパり出している。

ホントに敵って自覚あるのかな?

 

「……っ? これ違う…!」

 

 

どうやらフェイトは気づいたらしく刺していたバルディッシュを"俺"の身体から引き抜くと俺の体は霧散する。

 

 

 

 

ーー幻影魔法。

 

フェイトは俺そっくりに出来た魔力で作られた偽物を切っただけで本当の俺は元いた場所から一切動いてない。

 

しかしすぐに気づく辺り流石としか言えない。

なのはも気づいたらしくホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 

「少し驚いたけどそれじゃあ時間を稼げただけだよユウ」

 

 

俺を見つけ少し挑発気味に笑いかけながら話しかけてくるフェイト。

もしかして少し戦闘狂の気があるのか?

まぁでも……

 

 

「それが狙いだったりして、な?」

 

「っ?」

 

 

ピクッとフェイトの眉が動く。

そして警戒するように俺の方を観察してくる。

しかし何もないと判断したのか此方に射撃魔法を放ってくる。

 

 

「っと危ないな」

 

 

さて時間は十分に稼げたはずだ。

あとはフェイトの隙を見てーー

とフェイトの方を見ると

 

 

「サンダー……」

 

 

おいおい、いつからチャージしてたんだ?

もしかして俺の方がフェイトに嵌められたか?

巨大な魔力の塊が集まり出している。

ツァイトの方を見るとあと数秒かかる。

間に合うか……?

 

 

 

「スマッシャー!!!」

 

 

 

 

《complete.》

 

「よし…!」

 

 

俺はセットアップを解除しなのはのメモリを抜きポケットから新しいメモリを差し込む。

すると前までは桜色だったセットアップアイコンだけだったが隣に黒と黄色のセットアップアイコンが現れる。

それにタップして見ると画面に

 

 

【system=Blaze・force】

 

 

兎に角コレに今は賭けるしかない…!

 

もう目の前まで迫る本流に覚悟を決めつつ言い放つーー!!

 

 

 

「ブレイズフォース、セットアップ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンダースマッシャー!!!」

 

 

少しづつ隙を見つつ溜めた魔力を一気に下にいるユウに放つ。

コレで終わりのはず、今確かに直撃した。

 

 

 

久しぶりに会ったのは戦場。

ここでのルールは敵同士。

だから私も全力でユウと戦うって決めていた。

 

正直に言うと前に森でユウと戦った時、魔法の使い方はまだ未熟で回避や剣撃も分かりやすく、回避や受け流しも簡単だった。

 

多分だがユウは魔法に触れ始めて早いのだとわかり魔力も特筆して大きいわけじゃないから少し舐めてかかっていた。

 

しかしユウは私の予想を遥かに上回る動きを見せてきた。

まるで前の時とは別人。

 

私が近接を仕掛ければそれを見越し剣のリーチを生かせる立ち位置から距離を詰めず戦い、砲撃を撃てば焦らず上空に避けつつこちらに射撃を打ってくる。

 

なんと言えばいいのか動きが鍛えられた、訓練されたそれなのだ。

前のような素人くささはまだあるものの明らかに強くなっていた。

 

 

これはまずいと焦りユウへ一気に加速しつつ急所に目掛けて斬りつける。

しかしこのスピードにも付いてくる。

どういうことだろう。この短期間でどうしてここまで強くなれたのだろうか?

 

私も次第に焦りが加速していく。

 

そんな時にユウは急に危ないだろ!なんて言うからつい謝ったけど私たち敵同士なんだから謝る必要なかったよね……

 

 

そして今度は急に私の方に突撃してきた。

今度は何をしてくるのだろうか?そう考えつつ突撃してくるユウを切り上げると、

 

ーー当たった?

ユウの身体に私のバルディッシュが突き刺さる。

嫌な汗が出てくる。

非殺生モードのはずだがこれでは……と考えたところで違和感。

 

ユウの表情が変わっていない?

それに普通切りつけられたら痛みで叫んだり後退したりするものじゃないだろうか?

 

すると目の前のユウが崩壊し消えてゆく。

やっぱり方法は分からないけど魔力で出来ていた偽物を囮に使ったようだ。

 

周りを見渡すとユウは元の場所に佇んだまま此方を見ていた。

私と目が合うとやっぱりすぐに気づいたかという顔をしていた。

 

これでは時間稼ぎにしかならないよユウ?

 

 

と少し挑発すると何やら不敵な事を言っていたのでこちらも隠しておいた砲撃を放ったという事だ。

 

何かしようとしていたとしても、先ほどの砲撃は直撃。

あのサンダースマッシャーには最初の比ではないほどの魔力を込め完全に隙を突いて放ったし直撃したはず……だ。

 

……非殺生だし大丈夫だよね?

少し心配になるが気絶してるであろうユウからジュエルシードを貰うため砲撃を放ち、まだ土煙が舞っている地上に降りていく。

 

 

私が降りていくにつれて土煙が消えいく。

さてユウは………?

 

 

 

いない……?

 

 

地上には地面が抉られた跡はあるがユウの姿が見えずキョロキョロと周りを見渡す。

 

 

ーー待て、地面が抉られた跡?

つまりそれは私が放った砲撃が何も障害物無く地面に激突したと言う事ではないか?

 

 

「っ!」

 

 

すぐに振り返りバルディッシュを構えるとーー!

 

ガンッ!と構えていたバルディッシュに衝撃が来る。

まさかとは思ったが私の後ろを取るなんて……

 

ユウに何か言おうとして言葉が詰まる。

 

ーー姿が変わっている?

まるでその姿は………

 

 

「悪いな、コッチにも奥の手はあるんだぜ?」

 

 

黒色の握り手を持ち魔力で出来た金色の剣。

そしてバリアジャケットが先程までの青と白とは対になる様な赤い線の入った黒い機械的な鎧に白いマント。

そしてユウの目と髪の色まで変わっていた。

まるで私の様に金髪で赤目。

その目を光らせ少し戯けるようにユウが言った。

 

 

「さて第2ラウンドだ。付き合ってくれるかな?」

 

 

なんだろう?性格まで少し変わってる気がする。

しかし、それよりも今は。

 

 

「望むところだよ!」

 

 

少し今のはムカついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫って来るフェイトの砲撃。

しかしそれよりも俺のセットアップが一歩速いーー!

 

 

 

 

《mode・Blaze Force》

【complet sword Edition】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりにこの感覚に落ちるな。

また頭に記憶が入ってくる……と言うよりは蓋が外れて溢れてくると言った表現が正しい気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー近接の戦闘では相手嫌がる所をとことん突いて攻めちゃうのが一番かな?

 

 

 

そう言いながら俺をどんどん攻めてくる■■■■さん。

 

 

ーーこんな風に、ね!

 

 

そしてそのまま俺のライフがゼロになりまた敗北する。

 

 

ーーはぁ……はぁ……もう勝てる気がしない…

 

ーーふふ、まだ今のキミには負けられないかな?

 

 

そう言って倒れたこちらに手を伸ばしてくれた貴女はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モード・ブレイズフォース ソードエディション。

 

 

このシステムは討伐目標に有利な武器を3つの中から使い分け殲滅するもの。

 

兎に角スピードと手数で勝負できるソードエディションを選択すると黒い機械的な鎧の様な姿になり後ろにはフード付きの白いマント。

 

そしてこの黒い機械のような20cmくらいのものは武器……の様だがこれがソードなのか?

 

マントのフードには気配を消す事が出来るらしくセットアップ時には最初から被っていた。

ちょうど鼻くらいまで隠れる。

 

 

どうやら知識にあるらしく俺の変わる事の出来るどのバリアジャケットより速い。

目の前に迫っていた砲撃を避けつつ木の影にそっと息を潜める。

 

 

目の前では俺に当たるはずだった砲撃が地面に衝突し、どんどん抉られていく。

 

……普通に死ぬと思うんだが。

 

さてとここからだよな?

 

 

(ユウさん!?)

 

 

っとなのはか、焦ってる所を見ると撃ち落とされたと思ってるみたいだな。

 

 

(なのはか、俺は平気だぞ)

 

(え!でも直撃……)

 

(する前に避けたよ、もう少しで決着がつくと思うからもう少し待っててくれ)

 

 

……うん、という言葉と共に念話が切れる。

さて頑張りますか。

 

少しフェイトに先ほどの砲撃について言いたくなるが我慢。

しかし今出て行ってフェイトに文句を言ってもしょうがない。

ここはじっと堪え隙を伺う。

 

 

すると空から少し焦った様なそれでいて心配そうに近づいて来るフェイトが。

 

 

後ろを見せてる今がチャンスだ。

いくしかないーー!!

 

 

 

右の腰に装着されていた機械を一気に引き抜き魔力を通すと金色の魔力光の剣となる。

 

フードを脱ぎ魔力を放出しながらフェイトの背後に迫るーー!!

 

瞬間何かに気づいたフェイトが振り向きざまにバルディッシュをこちらに斬りつけてくる。

流石だな、バレてたか。

このフォームになってからよくわかないが心の底の方から闘気の様なものが溢れてくる。

ーー戦いたい、この新しい力をフェイトに通じるか試してみたい。そんな感情があふれてくる。

 

 

ここからは第2ラウンドだ。

俺もも初めて使うこのフォーム、多分手加減出来ないが、

 

 

「いくぞ?フェイト!」

 

「……!」

 

 

フェイトに剣技を放つ。

何処で習ったか覚えたかは分からないが何処にどう攻撃すればいいか自然とわかる。

 

しかし流石はフェイトだ。

先ほどより早いはずの俺のスピードにまだまだ付いてくる。

これでは攻撃が当たらず意味がない。

なら

 

ーーなら更にギアを上げるだけだ。

2倍のスピードがダメならば

 

《Accelerator 3rd》

 

 

 

「っ!?」

 

 

3倍のスピードで!!

剣を上から下から左右斜めと様々な攻撃を絡めていく。

フェイトの顔が一瞬青くなる。

その一瞬を見逃さない。

 

 

 

《Lightning Assault》

 

【now.loading……complete】

 

 

 

「ライトニングアサルトーーー!」

 

 

その剣撃は現状俺の最高で繰り出せる最高速の技。

魔力で出来た剣を一度圧縮し細く小さくし貯める。

圧縮した魔力をブースター代わりに放ち残りの魔力で一回り大きい剣を生成し放つ斬撃。

 

速さのその果てを目指した剣撃。

 

 

フェイトも反応出来ず胴体に剣ーーシュバルツがぶつかる。

 

その瞬間圧縮してある魔力がフェイトにぶつかり弾けた。

 

 

 

「っはぁはぁ……」

 

 

忘れていた呼吸をする。

身体が足りていない酸素を求め一気に汗が溢れてくる。

足はガクガク体全体に力が入らず膝をついてしまう。

 

流石に負担が大きいな……このフォーム。

人間の限界を超えて動く事ができる代わり負担も掛けた倍数分跳ね上がるみたいだ。

 

しかしこれでーー

 

 

「……危なかったよユウ」

 

「……っ!」

 

 

後ろから首に見覚えのある鎌が添えられる。

ーーくそ最後の最後で油断した!!

 

 

 

「流石に予想外かな、その姿と戦い方は」

 

「……まぁ、俺もびっくりしてるよ」

 

 

そうなんだ、と笑ってる声が聞こえる。

あーあ、負けちゃったか。

 

 

「……ほれ、持ってけ」

 

「うん、ありがとう」

 

 

ツァイトに入れてあったジュエルシードを後ろに投げる。

 

 

「けど、どうやって耐えたんだ?確実に芯を捉えたと思ったんだけど……」

 

「それはね、私がユウを信頼してたからだよ」

 

「は?」

 

 

どういう事だ?

全く意味がわからず後ろを振り向くとクスクスと笑っているフェイト。

 

 

「戦ってた最中に速くなったでしょ?」

 

「…ああ」

 

「だから私はね?ユウならもっと速く動けるのに敢えて隠してトドメにくるんじゃないかって思ったの」

 

 

ーーそれは

まさかそこまで読まれてたのか?あの一瞬で?

 

 

「だから"信じたの"ユウならあの一瞬を詰める何かをしてくるって」

 

「……だから後ろに下がって威力を和らげられたのか……」

 

「うん、更にいうと絶対に普通じゃ避けられないと思って右に思い切りブースター代わりの射撃を打って避けたんだ」

 

 

それは俺と同じ事をあの一瞬で思い付き行動に移したという事か?

……完敗かな。

 

 

「見事だよ、俺の負けだ」

 

「うん、今回は私の勝ち。あとその姿かなり消耗するでしょ?ちゃんと休まなきゃダメだよ?」

 

「ああ、ありがとな」

 

 

それじゃ、と言ってフェイトは去っていく。

もうそろそろ限界と俺も後ろに倒れる。

 

はぁ……いけると思ったんだけどなぁ……

 

 

 

倒れたまま空を見上げると綺麗な星と月が俺を照らしている。

何となくこの夜空を見ていると"まぁしょうがないか……"と考えられた。

 

 

「ユウさん!」

 

「ユウ!」

 

 

おや2人が俺を見つけてくれたみたいでこちらに駆け寄ってくるのが見える。

正直あともう少しは動けなかったからありがたいな。

……それと2人にはジュエルシードを守れなかった事を謝らなきゃいけない。

 

とりあえずはそこからだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。
次回は16.5話の予定でこの後のユウとなのはorフェイトのお話となります。

先ほど評価の方を確認したら赤くなっていてびっくり仰天なぺけすけです。
この物語を読んで評価をして頂き本当にありがとうございます…!
これからもよろしくお願いします!


評価&感想の方も宜しければお願いします!


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第16.5話 戦いの後で (なのはのパターン)

初めての分岐のお話です。

いつもとは違うほんの少しだけ甘い物語。
どちらもあったかもしれない出来事。
でもどちらも無かったかもしれない出来事。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後少し休み動けるようになった俺は汗と疲れを落とすためにもう一度温泉に行く事にした。

何でも24時間入れる温泉らしくこの時間では家族湯なるものになってると書いてあるのを見ていた。

 

俗に言う混浴と言うやつだが、何故この深夜に設定されているのかはよく分からない。

最初に入る時に聞いた話によると深夜時間は滅多に人が入らないからゆっくり出来ると女将さんが言っていた。

せっかくだし使わせてもらうかな。

 

部屋に戻ってきて居間の方で先ほど脱いだ浴衣を回収、下着とタオルに財布を持って寝る準備をしているなのはに話しかける。

 

 

「それじゃ俺は温泉に行ってくるよ、おやすみ」

 

「え、温泉に今から行くの?」

 

「ああ、この時間でも空いてるみたいで人も少ないからゆっくりしようかなって」

 

 

寝てしまったユーノを布団に入れてから此方の方にくると何かを思い出したようになって聞いてくる。

 

 

「あ、あの家族湯っていうのに行くの?」

 

「そうそう、この時間帯はそれしかないしな」

 

 

んー……と何かを考え始めるなのは。

どうしたんだろ?

 

 

「それって混浴になってるよね?確か」

 

「ん、そうだな」

 

「それなら私もユウさんと一緒に入れるよね?」

 

「えっと……混浴だし問題はない、かな?」

 

「なら私も行く!少し待ってて!」

 

 

と何処か嬉しそうに慌てながらバックを漁りタオルやらを取っている。

そんなに焦らなくても別に置いて行ったりしないのにな?

部屋に付いてる時計を見ると0時過ぎを指しており、もうこんな時間かと思いつつぼーっとする。

 

部屋を出て扉の前でぼーっと待っていると数分ほどで準備を終えたなのはが出てくる。

 

 

「ユウさんおまたせ!」

 

「お、準備できたか。なら行くか」

 

 

こんな時間なのに元気だな、流石小学生。

尻尾でもあれば振ってそうな程、元気ななのはに手を引かれ温泉の方に歩いて行く。

なのはのこういう感じ動物に例えると猫みたいだよな、偶に天邪鬼な所もあるし。

 

そう考えるとフェイトは犬っぽいよな。はやては……狸?なんてバカな事を考えてるうちに温泉の前に着く。

 

温泉の前には張り紙があり、この時間帯は混浴であるという節と何時から何時までは混浴かなどの注意事項が書かれていた。

 

 

「と、どうした?」

 

 

急に温泉の扉の前で止まるなのは

なんだか何かを思い出して固まってる様な……?

 

 

「なのは?」

 

「っ何でもない!いこう!」

 

 

そして少し赤い顔をパシッと叩くと何か覚悟を決めた顔をして入って行く。

なんなんだ?

そのまま扉を潜り抜け、脱衣所に来る。

俺はそそくさと服を脱ぎ腰にタオルを巻いて準備完了。

さて、なのはは……

まだ脱いでないのか?

 

 

「俺、先入ってるぞ?」

 

「え?あ、うん!」

 

 

とりあえず身体を洗いつつ、なのはを待とうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、先入ってるぞ?」

 

 

温泉の扉を指しながら私に聞いてくるユウさん。

これは助かった。

 

 

「うん、すぐ行くから先に入ってて!」

 

 

そう言うとああ、と言って温泉の方に入って行く。

 

もっと早く気付くべきだったなぁ……私お父さん以外の人と一緒にお風呂に入るの初めてだ……。

ヤバイどうしよう恥ずかしい……!

 

 

最初ユウさんがお風呂に行くって聞いてピンと来た。

そう言えばお母さんが夜遅くになると混浴になるみたいな話をしてたなーって。

もしかしてユウさんと一緒にお風呂に入れるのでは?と思いつき更にはこの時間帯だから人も居ないなら普段話せない事とかも話せたりなど考えてるうちに行動に起こしてしまった。

 

 

気づけば温泉の前に着いていた。

ここでハッとなる。

あれ?お風呂って事は裸?

当たり前であるが風呂に入ると言う事は身につけている衣服を全て脱ぎ、生まれたままの姿で身体を清める事を指す。

 

完全に抜けていた自分を責める。

どうしよ……メチャクチャ恥ずかしい……!

 

 

しかしここまで来てしまったのも事実。

先に入ってているユウさんをいつまでも待たせるわけにはいかないし、女は度胸!ってお姉ちゃんも言ってた。

 

 

「よし……いこう」

 

 

それにさっきの事とかについてもちゃんと聞きたいしここで逃げる様な真似はしない。

 

身体にタオルを巻き、いざ!と扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痒いとこないか?」

 

「んー大丈夫ー」

 

 

アレから少ししてなのはが入って来たが何やら緊張していたので訳を聞いたが何でもないの一点張りだった。

 

取り敢えず湯に入る前に身体を洗っていたのだがせっかくなので今頭を洗ってあげている。

 

鼻歌を歌ってる辺りご機嫌になってくれた様だ。

 

 

「ほれ流すぞ?」

 

「はーい」

 

 

なのはの髪に着いたシャンプーをシャワーで落としていく。

誰かの頭を洗ったのは前にフェイトと風呂に入った時くらいなのでまだあまり慣れない。

 

 

「次は私がユウさんの背中流すよ」

 

「ん、頼む」

 

 

任せてーと言ってタオルに石鹸を馴染ませ、背中をゴシゴシと洗ってくれる。

……おお、中々に気持ちいいなこれは。

自分でやるのと他の誰かに背中を流してもらうのはここまで違うものなのか。

 

 

「よいしょ……痒いとこない?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「なら今度は前なんだけど……」

 

 

いやソレはマズイだろう。

いくら子どもとは言っても流石に女の子に男の前を洗わせる訳にはいかない。

 

 

「いや前は俺が自分で洗うから大丈夫だよ」

 

「だ、大丈夫。ちゃんと前も私が洗うから!」

 

「ちょ!」

 

 

こちらの方に回り込んで腕の中にスッポリと収まり俺の胸板あたりをゴシゴシと洗い始めるなのは。

なのは自身も緊張してるのかそれとも熱いからか顔が赤く少し強張っているのが見える。

 

………ヤバイ何だかんだ言って俺もドキドキしてきた。

落ち着け……落ち着け……相手はまだ子どもだ、と思考を落ち着かせて出来るだけなのはの方を見ないように上を向く。

 

2人だけの空間にゴシゴシと言うか音だけが酷く大きく聞こえる。

こんなにこの中って暑かったかな……

と言うかそろそろ良いよな?十分に洗ってもらった。

 

 

「な、なのはそろそろ大丈夫だ…」

 

「え!?あ、うん……」

 

 

ふぅ……取り敢えずシャワーで身体を流す。

何でこんなに緊張したんだ俺。

横の方に座ってるなのはをチラッと見るとあちらも俺のことを見ていたのか目が合い逸らされる。

うーん……何だこれ。

 

 

「取り敢えず湯に浸かるか?」

 

「うん…」

 

 

疲れを癒しに来た筈なのに逆に少し疲れた様な……?

しかし湯に浸かればまた気分も変わり一気に脱力感が俺の身体にくる。

 

 

「「ふへぇ……」」

 

「あっ……えへへ」

 

「はは……」

 

 

気の抜けた声がなのはとハモりつい顔を合わせ笑う。

先程までの変な空気は霧散していた。

 

 

「ねぇユウさん」

 

「んー?」

 

 

ぐーっと身体を伸ばし少し湯の中で軽いストレッチをする。

大分疲れていたみたいで結構痛いな……

 

 

「さっきの子、フェイトちゃんとはいつ知り合ったの?」

 

「あれ、フェイトの名前知ってたっけ?」

 

「ユウさんを探してる時に教えてくれたんだ。私が名前を聞いたら名前とユウさんの場所を教えてくれてそのまま何処かに行っちゃった」

 

「なるほどな、だからあんなにスムーズに俺の場所がわかったのか」

 

 

少し疑問だった事を聞けてスッキリした。

さて、俺とフェイトの事だよな……うーん何て説明するべきかな……

 

 

「最初にフェイトと会ったのはなのはがフェイトと戦った日だよ」

 

「私がすずかちゃんの家に遊びに行った日だよね?」

 

「その日だよ、あの後ユーノに聞いたと思うけど探したら……ばったりとな」

 

 

少し何があったか誤魔化しつつ話していく。

こればっかりは約束した事だしなのはにも話す事は俺からは出来ない。

もしもフェイトの方からなのはに話すと言うならば俺は何も言わないがな。

 

 

「……って感じかな。だから敵同士なのは変わらないよ」

 

「……そっか」

 

「フェイトの事、気になるのか?」

 

「うん、戦う以外にないのかな…」

 

 

少し顔を暗くしてしまう。

やっぱり優しい子だな、この子は。

ポンとなのはの頭に手を置く。

 

 

「一回フェイトとぶつかってみてもいいと思うぞ俺は」

 

「ぶつかる?」

 

「ああ、言いたい事全部フェイトにぶつけてみろよ。それでもダメならまた考えればいいさ」

 

 

アイツ中々に頑固だしな。

一度心を許してくれれば本来の優しい一面を見せてくれるが今は何かに追われてジュエルシードを集めている。

なのはの様な子と友だちにでもなればまた変わる様な気がするがどうなのだろう。

 

 

「まぁ存分に悩んでいいと思うぞ。なのはのしたい様にしてみてもしも助けが必要なら俺なんかで良ければいつでも相談なり頼ってくれていいよ」

 

「……うん、ありがと」

 

 

そう言って笑顔を見せてくれる。

どうやら少しは悩みのタネを解決できた様だな。

 

 

「でもユウさん」

 

「ん?」

 

「フェイトちゃん関係で隠してる事あるでしょ?」

 

 

……あれ、なんか少しむくれ始めてない?

と言うか完全に確信を持って俺が何か隠してるかどうか聞いてるよね、コレ。

 

 

「え、えっと……」

 

「だっておかしいもん。なんでそれだけの筈で敵同士の筈なのにあんなに仲良しなの?

ユウさんがさっき来てくれた時のフェイトちゃんの表情、何となくだけど親しい人に向けるものに見えたよ?」

 

 

うごごご……完全に何かを掴んでる感じだ。

何だろうこの感じ。

浮気がバレかけて彼女に少しづつ逃げ場を詰められて王手目の前みたいな……

 

 

「……ごめん、こればっかりは俺からは言えないんだ」

 

「ふーん……」

 

 

少しジト目のなのはからの視線が痛い……

でもこれはフェイトと2人の秘密と言う話。

俺の独断で話す訳にはいかない……

 

 

「うん、話さなくていいよ」

 

「……ん、悪い」

 

「ううん、フェイトちゃんとの約束なんでしょ?もしもユウさんがここで私に話しちゃったらフェイトちゃんが傷ついちゃうかもだし」

 

「俺からは話せないけどフェイトが話す分には問題ないからフェイトに聞いてくれ」

 

「うん、そうするよ」

 

 

何だかんだ言って納得してくれるなのは。

ふぅ、良かった。

 

 

「でも」

 

「ん?」

 

「でもユウさんが私に何か隠し事してたってのは事実だよね?」

 

「んぐ……それは…」

 

 

少し言い淀むとなのははここぞとばかり悲しそうな顔をしながら

 

 

「そっか……ユウさんは私に隠し事するんだ……」

 

「えっと、なのは?」

 

「私はユウさんに最初言われた通りコッチ関連のことは全部隠さずに話して来たのになぁ……」

 

 

……これが演技なのは分かっている。分かっているのだがなのはの言い分が正しい、と言うか全面的に俺が悪い……

 

最初に魔法関連は何かあれば全部共有しようと言ったのは俺でなのはは毎回何かあると全部相談してくれていた。

……しょうがない。

 

 

「…俺にできる事なら何でも……」

 

「えへへ、ならそれで許すっ!」

 

 

少し楽しそうに俺のほっぺを突いてくる。

最近のお返しか?

 

 

「これでなのはからの"何でも言うことを聞く"は2つか……」

 

「そうだね、私はユウさんに2つまでなら何でもしてもらえるんだよね?」

 

 

どうしようかなー?とニコニコしながら考えているなのは。

いい笑顔ですね……

 

 

「まぁ……決まったら言ってくれ。そろそろ上がるけどなのはは?」

 

「あ、私も上がるよ。そろそろ上がらないと寝る時間なくなっちゃう」

 

 

時間はもうすぐ1時を過ぎる。

流石に寝ないとまずい。

 

さてこの後からはどうなるやら……

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。
次回はフェイトパターンです。


評価&感想お待ちしております!


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第16.5話 戦いの後で (フェイトのパターン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、少し休み動けるようになった俺は汗と疲れを落とすためにもう一度温泉に行く事にした。

 

何でも24時間入れる温泉らしくこの時間では家族湯なるものになってると書いてあるのを見ていた。

 

俗に言う混浴と言うやつだが、何故この深夜に設定されているのかはよく分からない。

最初、入る時に聞いた話によると深夜時間は滅多に人が入らないからゆっくり出来ると女将さんが言っていた。

せっかくだし使わせてもらうかな?

 

 

部屋に戻り疲れて眠ってしまったなのはとユーノを布団に入れる。

あの戦いの後からずっと眠そうだったしゆっくり休んで欲しいものだ。

時間を確認すれば0時過ぎになりこの年頃の子どもはとっくに寝てる時間だ。

 

俺もパパッと入って寝ようかな、とこの後のプランを立てつつ先ほど脱いだ浴衣とバックから新しい下着、タオルや財布を準備してそっと部屋から出る。

 

流石に旅館とはいえこの時間帯では誰も歩いていない上に少し暗いせいで雰囲気あるな……

とっとと風呂に向かおう。

 

 

 

先ほど入った風呂の前に行くと何やら看板があった。

何々……?

簡単に言うとこの時間帯は混浴であるという節と何時から何時までは混浴かなどの注意事項が書かれていた。

まぁ知ってて来たし特に問題ないだろう。

 

扉をあけ、カゴを借りて来ている服を脱いでいく。

うわ……汗でびしょびしょになってるな、そりゃ気持ち悪い訳だ。

服を脱いでいると何やら腕周りや腰、太ももあたりが少し独特の痛みに襲われる。

こりゃ明日は筋肉痛かな……。

 

そそくさと服を脱ぎ温泉の方に入る。

とりあえず身体と頭を洗い汗を流してから中にある方の温泉に浸かる。

先ほどまではこちらは女湯だったのでまだ入ってなかったからか新鮮だな、とここでふと思い出す。

 

 

「そういえばこっちは露天風呂があるんだっけな?」

 

 

ふと最初に入った風呂には無かった扉の方を見る。

折角だしあっちの方に行ってみたいな、と思い気怠げな身体を立たせる。

 

 

「てかホントにこの時間帯は誰もいないんだな」

 

 

温泉を出ながらこの広い空間で俺1人というのは聴いていただけなら広々使えていいなと思ったが想像以上に寂しいというか折角だから会話相手とか欲しいな、なんて。

 

 

「誰もいるわけないよな……」

 

 

と露天風呂の方の扉を開けると暖まってたせいか少し寒く感じる風と共に中の風呂にも負けないくらいの大きい露天風呂があった。

そして、

 

 

 

「へ?」

 

「あっ……」

 

 

先客も居たりした。

というかよく知ってる子が少し伸びながらこちらを見ながら驚いている。

その子は何時もはツインテで2つに分けた金髪をストレートにそして何より体に何一つ衣服を纏っていなかった。

 

………というか風呂なんだから真っ裸が当たり前だよね、何考えてんの俺。

 

 

「よう、さっきぶりだなフェイト」

 

「うん、こんばんわユウ」

 

 

とりあえずは今はジュエルシードは関係ないから"今"はただの友だち、そういうルールだ。

温泉の中に入りフェイトの少し近くに座るとフェイトが何やら俺の顔色を伺う様にチラチラと見てくる。

どうしたのだろうか?

 

 

「どうした?」

 

「えっと、さっきはその……」

 

 

さっきとは先ほどの戦闘のことだろうか?

 

 

「……ごめんね、まだ痛いよね?」

 

「ん?もうピンピンだよ、そんな事気にしてたのか?」

 

「ちょっとだけ……」

 

「気にすんなって。あれがルールだろ?だから謝るのもこれからはなしだ」

 

 

うん、とは言ってくれたがまだ少し暗いフェイト。

うーんこういう所がこの子のいい所ではあるが俺の為にこんなに落ち込まなくていいのになぁ……何だったら俺も攻撃した訳だし。

少し元気付けた方がいいかな?

 

 

「おりゃ!」

 

 

落ち込んでるフェイトの顔を湯を飛ばす。

わわっ!とか言いながら目を白黒させてる辺り俺の砲撃は当たるまで気づいてなかった様だ。

 

 

「ユ、ユウ?」

 

「せっかく久しぶりに話すんだしもっと別の事を話そうぜ。何だかんだフェイトと話せてなくて俺は寂しかったんだぞ?」

 

「……うん、私も寂しかった」

 

 

といいつつ此方に寄ってくる。

どうやらさっきの戦いの時に見せた表情通り寂しかったみたいだ。

可愛いやつめ。

 

 

「一緒にお風呂に入ってるとあの場所を思い出すね」

 

「ああ、あん時は俺も変なテンションでフェイトと風呂に入ったなぁ」

 

「ふふ、私がぼーっとしてたら急に入ってくるから驚いたよ?」

 

「すんません……」

 

「?別に怒ってないよ」

 

 

変なのーとフェイトに言われつつあの時の事を思い出す。

確か2日目の夜だったか?冷蔵庫に入ってた飲み物を飲んだら変なテンションに入ってフェイトに突撃したのを覚えている。

あん時の俺はかなりどうかしていた。

 

と思い出しているとフェイトが胡座をかいていた俺の膝の上に座ってくる。

 

 

「ん、どした?」

 

「えへへ、今は別にいいよね?」

 

 

スリスリと頭を擦り付けてくる。

久しぶりだな、フェイトの甘えん坊癖は。

と考えつつ頭ついつい撫でてしまう俺も俺かもしれないがフェイトも喜んでくれてるしいいよな?

俺自身フェイトとの久しぶりの触れ合いで少しテンションが上がってるのも事実だ。

 

何というかこの人懐っこさが犬みたいで可愛いんだよなぁ……だからつい撫でたくなるのか?

 

 

「あ、そういえばこんな時間だけどフェイトは帰らなくていいのか?」

 

「うん、私ここに泊まってるから」

 

「そうなのか……てかこの時間に温泉に入ってるって事はそれ以外ないか」

 

「私こそびっくりしたよ?この時間は誰もいないって聞いてて、それで入ってたのに誰か来たと思ったらユウなんだもん」

 

 

それに関しては俺もビックリしたな。

誰もいないと思ってたのは俺もだし。

しかし1人より親しい人と会話をしながらってのもやっぱりいいもんだな、温泉は。

 

ふと空を見上げると綺麗な星と月が。

こりゃいいな……

 

 

「綺麗だよね、空」

 

「ああ、こっちだとホントによく星が見える」

 

 

少しの無言。

温泉の湯が注がれる音と溢れた湯が出ていく音だけが残る。

やばいな時間を忘れそう。

俺の膝に座り身体を預けているフェイトを後ろから少し抱きしめる。

 

 

「ユウ?」

 

「やっぱりフェイトと戦うのは抵抗あってな、ホントは戦う以外の方法が見つかればいいんだけどな」

 

 

こんな小さな身体で戦ってたんだもんな……フェイトには少しかっこつけてあんな風に言ったが俺もフェイトを斬りつけてしまった事を謝りたい。

少しだけの後悔と罪悪感に心を支配されていると

 

 

「今はそういうのはなし、でしょ?」

 

 

と言いつつ俺の頭を撫でてくるフェイト。

……何時もとは反対だな、俺が元気付けられている。

 

 

「そうだよな、ごめん」

 

「だから!謝るのもなしー」

 

 

と俺のほっぺたを伸ばしてくる。

 

 

「分かった!分かったから!」

 

「ん、ならいいよ」

 

 

おおう…少しヒリヒリする。

割と容赦なく伸ばされた…

 

 

「そういえばさ」

 

「ん?」

 

 

何かを思い出し此方の顔を見てくる。

なんだ?

 

 

「あの時の姿の事聞きたいんだけど、アレ私そっくりだったよね?」

 

「あー……アレか」

 

 

そういや何も教えてないんだっけか。

あの島でも一回も戦ってないし、というか俺もセットアップの姿が変わったのは初めてだしな。

 

 

「んー俺もよく分からないんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、俺も変身してみてビックリだよ。金髪になってるし目が赤くなってるし。」

 

 

これは少し嘘。

ホントはなのはのメモリと同様に容姿が変わるのでは?とは思ってはいたが実際変わるとビックリだった。

 

 

 

「私がビックリしたのは魔力光が変わった事かな、普通は変わらないんだよ?」

 

「へーそうなんだ」

 

 

そりゃ知らんかった。

ノヴァの時は桜色でフォースの時は金色だったか?

そんなこんなとフェイトと会話をしているともうすぐ1時を過ぎる。

流石に戻らなきゃいけないな。

 

 

「それじゃ俺はそろそろ上がるよ」

 

「え、もう?」

 

「もうすぐ1時だしな、そろそろ寝なきゃマズイ」

 

 

と言ったのだがフェイトはなかなか俺の上からどいてくれない。

 

 

「フェイト?」

 

「……もう少しだけ」

 

「え?」

 

「もう少しだけ……ダメ?」

 

 

此方の方に向き上目遣いで寂しそうに懇願する姿は俺の心臓にかなりきた。

……はぁ。

 

 

「もう少しだけだぞ?」

 

「うん!」

 

 

ホントにフェイトには勝てないなぁ……二重の意味で。

先ほどまで悲しそうにしていたフェイトは何処にやら。

今では鼻歌を歌いながらご機嫌だ。

……明日起きれるかなぁ?

 

 

 

とこの後も2回ほどフェイトの上目遣い&涙目の攻撃にやられもうしばらく2人きりの露天風呂が続くのだが、それはまた別の機会にでも話そうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。
次回からは原作の6話辺りに入っていくと思います。

評価&感想お待ちしております!


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第17話 光の中で / Over Drive System

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってきます」

 

 

「おう、いってらっしゃい」

 

 

 

 

なのはを学校に送り出し俺は家に戻る。

あの旅行の後からなのはが何か思い詰めているのは知っていたが今日は一段と何かを考えていた。

 

いや……何かじゃなくてフェイトの事とジュエルシードの事なんだろうけど。

さて、どうしたものかな?

あれだけ何も身に入ってないって事は学校でも四六時中あんな感じなら少し心配だ。

 

うーんと腕を組み歩いているとポケットの携帯がなる。

今の電子音的にメールだが誰だろう?

携帯を開くとはやてからメールが来ていた。

 

 

"今日は確かバイト休みやったよね?暇ならウチにこうへんか?"

 

"あいよー何時くらいに行けばいい?"

 

"今からでも歓迎するで?"

 

 

……ふむ、と時間を確認してみればまだ8時。

軽くコンビニでお菓子とか買ってはやての家に転がり込むというのも悪くないな……

よし、行くか。

 

 

"今から行くよ、15分くらいで着くと思う"

 

"あーい、早よ来てねー"

 

 

ついでになのはの事相談してみるのもありかな?

さてとっとと買い物を終わらして行くかな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビニでお菓子と飲み物などを買いもはや週2回で通っている見慣れた家の前に着く。

ここに来るのも最初の方はまだ抵抗があったが今では全くなくなってる辺り俺も居心地良く感じてるという事なんだろう。

 

チャイムを鳴らすとすぐに鍵が開く音が中から見慣れた茶髪の女の子が笑顔で迎えてくれる。

 

 

「やほーユウさん」

 

「おう、おじゃまするぞ」

 

 

どうぞーと許可が貰えたので中に入り靴を脱ぎそのままリビングへ。

そして買ってしたものを冷蔵庫にしまって置く。

多分だが今日は一日中ここにいるだろうし後で買い物も行かなきゃな。

と考えつつはやてのいるリビングに戻ると何かそわそわしている子が1人。

 

 

「どうしたそんなそわそわして」

 

「ふっふっふ………私が今日ユウさんを呼んだのはコレをやろうと思ったんや!」

 

 

と可愛らしいドヤ顔で何かを取り出すはやて。

ナニコレ?黒くて少し大きい長方形型の箱を抱えているが……見た事ないものだな。

 

 

「なんやコレ?」

 

「エセ関西弁やめーや!じゃなくてコレは今話題のゲーム機や。テレビのCMとかで見たことあらへん?」

 

 

む、たしかにそう言われて見れば見た事あるような……無いような……

はやての持つゲーム機をまじまじと見ているとそんな気にもなってくる。

 

 

「とりあえずせっかくやから遊んでみぃひんか?」

 

「2人でも出来るのか、これ」

 

「うん、ちょいと待っててな?」

 

 

テレビの方に行きかちゃかちゃと準備をしている。

俺はとりあえず準備をしているはやての手伝いをする。

 

 

「よっしゃ出来たで」

 

「なら座るか」

 

 

はやてを車椅子から抱き、ソファーに異動される。

俺はとなりに座ればいいか。

 

 

「ユウさん膝乗せてー」

 

「え、やりにくいだろ?ゲーム」

 

 

ええやんーと言いながら乗っかってくるはやて。

俺の膝ってもしかして座り心地良いのか?はやて然りなのはやフェイトもよく座ってくるし。

自分の膝だから自分では座れないからわかんないけど……まぁいいか。

 

はやてに渡させたコントローラーをのボタンを押すと画面が変わりゲームのタイトルが表示される。

 

おお……始まった。

画面にはゲームのオープニングのようなものが流れている。

 

 

「これ、どういうゲームなんだ?」

 

「私もよくわからへんけど"しゅみれーしょんゲーム"だって書いてあったな?」

 

 

えーとと言いながらゲームの説明書を読んでいるはやて。

とういかこれ1人用じゃないか?

 

 

「これ1人用みたいや。なんか選択肢が出たらそれを選んで進めてストーリーを進行しましょう、やって」

 

「へー……自分で読んで進めて行くのか」

 

 

何となく本を読んでいるのに近い感じだな。

でも自分で主人公の選択肢を選べる辺りまた別の魅力を感じるな。

 

 

「私もこうやって読み進めて行くみたいなゲームは初めてやから楽しみやわ」

 

「俺はゲームをやるの自体初めてだよ、少し緊張してる。というか俺がコントローラー握ってていいのか?これはやてがやりたくて買ったんだろ?」

 

「別に大丈夫やで?私はここで見てるのが楽しいんや。……というか少し怖い系みたいやし自分で進められる自信ないわ」

 

 

あははと笑いながら俺のシャツを掴むあたりホントに怖がってるのか。

というか何故そんなゲームをチョイスしたし。

俺もゲームカセットの箱を見て見る。

ナニコレ、CERO.C?伝奇アドベンチャー?

 

よくわからんし取り敢えずはプレイして見るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてプレイし始め2時間くらい。

はやては少し涙目、俺は顔が少し青い。

そしてゲームの画面ではまた主人公が死ぬシーンに。

 

協会から出たら少女にエンカウントし巨大な人のような敵からの攻撃を主人公が庇い真っ二つ………うわ、赤いのが…エグいな……

 

 

「……なぁ、一旦休憩しないか?」

 

 

コクコクとすごい勢いで頷くはやて。

うん、怖かったよな?よしよし。

このゲームホラーでは無いはずだが"そういう"描写もあり俺も怖いのだが、かなり奇妙というか不思議な魅力がありついつい進めてしまうのだがはやてにはまだ早いかもな……

と言うか主人公が死にすぎな気もする。

 

 

「ほれコレでも飲んで落ち着け」

 

「ありがと……」

 

 

ふぅ……と取り敢えず落ち着いたはやてを横目にゲームを一旦セーブし止める。

 

 

「いやー自分で買っといてなんやけどこんなモノだとは思わへんかった」

 

「序盤はそこまでだったけど学校で襲われた辺りから急に来たな」

 

 

あの槍に心臓を突かれるシーンとか迫真過ぎてちょっとビックリした。

声を当ててる人凄いな。

 

 

「取り敢えずこのゲームは一旦やめとこか」

 

「そうだな、続きが気になるけどそんなにぶっ通しでやるとこっちがもたない」

 

 

 

しかしこのゲームのモチーフが魔法だった時は少しビックリだった。

俺の知ってる魔法と随分違ったしこんな世界もあるのだろうか?

……とう言うかタイトルが知ってる子と同じ名前のあたり少し因縁を感じる。

この言葉って"悲劇的な運命"だっけか?

 

まぁそれは置いといて次は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ってな訳でな?ずっと上の空な奴を助けたいんだけどどうしたらいいんだろうな」

 

 

今ははやてと2人でお菓子を摘みお茶をしながら最近の事について話している。

今はなのはの事で相談中。

 

 

「うーん……難しい話やね、解決するなら根本のところをどうにかしないとアカンし…」

 

「だよな…」

 

 

つってもフェイトと次いつ会えるかもわからんしジュエルシードに関しても反応がキャッチできないとこちらからも動けない。

結論はどうしようもない、かな。

 

 

「まぁ次の機会を待つしかないかな」

 

「うん、私もそれしか思いつかへんな」

 

「ありがとな相談乗ってくれて」

 

「全然かまへんよ、ユウさんの力になれたなら私も嬉しいしな」

 

 

時間はもう13時。

そろそろお昼どきか。

 

 

「たまには俺が昼飯作るよ、何かリクエストは?」

 

「ホンマ?ならユウさんのオススメで!」

 

「あいよー」

 

 

はやてにはホントに助けてもらってばっかりだよな。

何かお礼とかしてあげたいが何がいいんだろう?

と考えつつ冷蔵庫にあるもので適当に献立を立てていく。

さて、気合い入れて作りますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから昼食を済ませて、あのゲームをもう少し遊びそれからあれやこれやとしてるうちに16時過ぎ。

そろそろ帰るかな?なのはとユーノは今日もジュエルシードを探すと言ってたし俺も手伝わなきゃな。

 

 

「それじゃ俺はそろそろ帰るよ、今日はありがとうな」

 

「そっか、またいつでも来てな?」

 

 

ばいばいと手を振ってくれるはやて。

……ちょっと寂しそうにしてるのが隠しきれてない辺りやっぱり可愛い奴と思ってしまう。

 

 

「また来るよ、今度はどっか遊びに行こうな?」

 

「……うん、ほんとはユウさんがウチに住んでくれたら嬉しいんやけどな……」

 

「そうだな……もし事情が出来て今いる場所に居れなくなったらここに来させてもらうよ。そん時はよろしくな?」

 

 

まぁ余程の事を俺がするか常にはやての側にいなきゃいけないなんて状況にならならない限りはそういう未来は来そうにないけど。

 

はやてと別れつつ家に帰る。

もうなのはは帰って来てるのだろうか?

 

そう考えながら歩いていると携帯から着信音が。

携帯を見て見ると珍しくすずかからの電話だった。

 

 

「もしもし?珍しいな俺に電話なんて」

 

「あ、こんにちわユウさん。ちょっと聞きたいことがあって……」

 

 

聞かれた内容は最近のなのはについて。

 

やはりというか予想通り学校でもあんな感じらしく今日アリサと喧嘩してしまったらしい。

 

 

アリサはなのはの力になりたいという気持ちとなのはの危ない事には巻き込めないし話さないという気持ち。

 

どちらも正しくどちらもすれ違ってしまっている。

 

その事ですすがが俺に相談して来たという訳だった。

 

 

「ユウさんはなのはちゃんが隠してる事知ってるんですよね?」

 

「……どうしてそう思うんだ?」

 

「だってなのはちゃんユウさんにだけは素直ですから」

 

 

そう言って電話の向こうでクスクスと笑ってる声が聞こえる。

全部お見通しってことかな。

 

 

「まぁ知ってるよ。でも……」

 

「話せないんですよね?」

 

「ああ、ごめんな?」

 

「いえ、わかってましたから。もしかしたら……くらいで聞いたので」

 

「あー、まぁ事情を知っている俺がいうのはアレかもしれないけど、仲のいい友だちでも隠し事はあるものなんだ」

 

「……はい」

 

「けど、それは悪意のあるものばかりじゃなくてさ。うん、仲がいいからこそ、何も言わずに信じて待ってみるのも良いと思う」

 

「信じて待つのも大事……」

 

 

そんな俺の言葉になにかを考えているのか黙ってしまうすずか。

 

本当なら俺も話してあげたいがなのはがこの2人に話してないのは意味があると思うから。

 

だから俺が勝手な事は出来ない。

 

 

「その……ひとつだけお願いなんですけど、もしもなのはちゃんが困ってたら」

 

「ああ、俺が助けるよ。約束だ」

 

「……はい、よろしくお願いします」

 

「それと俺からもひとつだけお願いだ」

 

「何ですか?」

 

「これからもなのはの事を頼むよ。何だかんだ言ってさみしがり屋だからアリサと喧嘩して絶対落ち込んでる」

 

 

そう言うとまた何処か嬉しそうに笑い、

 

 

「はい、任されました」

 

 

そう言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高町家に着きなのはの部屋に行くと誰も居なかった。

レイジングハートもユーノも居ないしやっぱりジュエルシードを探しに行ったのかな。

 

 

 

ーーーなんだこの感じ?

今一瞬だけど魔力を感じたような?

 

 

少し嫌な予感がして家を飛び出し感じた方に走って行く。

 

 

「ツァイト、サーチ!」

 

 

最近一番と言っていいほど使ってる探索魔法を自分を中心に半径20kmにかけてみると。

 

 

「これはなのはとユーノにフェイトとあとは知らない魔力が1つ……?」

 

 

ヤバイな出遅れた。

この状況的にもうジュエルシードは封印してあって奪い合ってる最中ってとこか?

 

 

走る、とにかく走る。

ここでは人目が多すぎて魔法は使えない。

とにかく今は貼られた結界内に入りなのはの助けにはいらなければーー!!

 

っ?何だ今の……今までは戦ってたであろう魔力を探知していたが急に大きくそれでいて嫌な魔力を感じる。

例えるなら封じられて居たモノを無理やり破り何かが出て来る感じ。

 

急がなければと結界内に俺が入った瞬間、眩い光が溢れる。

 

一瞬目に入ったのはなのはとフェイトのそれぞれの杖の間に挟まれたジュエルシード。

 

そして衝撃が襲って来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば俺は走っていた。

 

落ちてくるなのはとフェイト。

2人とも満身創痍、このままではーー

 

 

ジュエルシードは怪しく鼓動している。

 

 

 

「セットアップ!!」

 

 

走る、走る、走る。

コレはいつかの夢で見た光景に似ている。

飛ばされて来たなのはを受け止める。

 

 

「大丈夫か?」

 

「ユウさん……?」

 

 

少し放心しているようで目の焦点が合っていない。

しかし今は先にフェイトを!

 

 

勢いを殺さずさらに魔力ブースターで加速する。

そのままフェイトを受け止める。

 

 

「おい!大丈夫か?」

 

「う、あ……ユウ?」

 

 

こちらもなにが起こったのかわからず混乱している。

一旦このままジュエルシードから離れ2人を下ろす。

2人はボロボロだが傷は擦り傷程度。

しかし2人の杖は……

 

 

「フェイト!!」

 

 

後ろから誰かの声が聞こえ振り向くと。

 

 

「っ!?アンタ……」

 

「アルフ……?」

 

 

あの旅館で出会った女性アルフがいた。

何故……?しかも今アルフが叫んだ名前はフェイト。つまり…….

 

 

「嫌な縁が結ばれちまったようだな……」

 

「……そっか、アンタは……」

 

 

だが今はそれどころではない。

このままジュエルシードを放置しておけばマズイということはわかっている。

 

 

「すまん、話したいのは山々だが先にアレをどうにかしたい。今だけは協力してくれないか?」

 

「はぁ……まぁいいよ、ユウが悪いやつじゃないってのは知ってるしあの時の借りもある」

 

「すまない」

 

 

 

とりあえずはアルフと協力する事になるが次になのは達に事情を聞いていく。

時間が無いため軽くになったが原因は2人の魔力のぶつかりで封印が外れ暴走してしまっているとのこと。

 

 

「つまり再封印すればいいって事だよな?」

 

 

「うん……でも凄い魔力が必要になると思う」

 

「多分だけど私とユウ、それとその子を合わせても……」

 

 

 

足りるか分からない……か。

でも、手はある。

 

 

「2人の杖は今は使えないんだよな?」

 

 

コクっと2人とも頷く。

 

 

「なら俺がなんとかするから2人は休んでろ。そんなボロボロになって……全く心配しただろ?」

 

 

「え、でも」

 

「いいから任せろ。……アルフ、協力してくれるんだよな?」

 

 

おう、という返事が聞こえ少し安心する。

さて後は。

 

 

「コレをどうにかして帰りますか……」

 

 

目の前でゆっくりと鼓動するジュエルシードに目を向ける。

俺も正直今から自分がしようとしてる事が上手くいくかわからないし自分の身がどうなるか分からないけど。

 

 

ーーこの子たちを守る為ならこの身体は安い。そう思えてしまう。

 

 

 

ツァイトの画面を操作しついこの間解放されたモードを選択する。

黒と赤のアイコンをタップすれば【warning】の文字が現れる。

 

 

 

 

 

「ツァイト、オーバードライブ使うぞ?」

 

 

《……yes.master》

 

 

 

オーバードライブシステム。

簡単に言えば名の通り限界を超えて魔力を運用するものだがハイリスクハイリターンなモノだ。

………正直、使いたくないんだけどな。

 

 

 

 

「オーバードライブ始動、タイムスタート」

 

 

《Over Drive 》

 

 

 

オーバードライブが発動した瞬間、今まで装着していたセイバーノヴァの装甲がそれぞれ横や縦、斜めにスライドし桜色の線が赤く怪しく光りだす。

 

先ほどより1.2倍ほど大きくなったバリアジャケット。

そして青と白だった場所に少しの黒色が混ざる。

 

 

 

 

 

「ユウ……さん?」

 

「ユウ……?」

 

 

 

少し怯えた顔をでこちらを見てくる2人。

やっぱり怖いよな、コレ。

 

初めてこのシステムが解放されたのに気づいたのはあの温泉旅行から帰って来た時。

物は試しと誰もいないところで使用したのが不味かった。

最初試しで発動した時は5秒持たず意識がなくなった。

 

あの時はフェイトとの戦闘があったのもあり身体が全くいうことを聞いてくれなく使えなかったが万全の状態なら3分は持つという事が分かっている。

 

 

そしてオーバードライブシステムを説明すると簡単に言えば無理やり融合させているのだ。

 

普段の俺は誰かの魔力を登録したメモリを使い自身のリンカーコアに半分だけ他人の魔力質を入れてあのバリアジャケットを生成している。

 

ユーノが言うに普通は出来ないしなんなら他人の魔力をリンカーコアに入れた時点で崩壊してしまう可能性すらある危険な事らしいが俺が出来るのは何らかの"レアスキル"なるものが関係してるとか。

 

つまり俺のリンカーコア内にある魔力の色を他人と自分で一対一にしてるのが通常状態。

 

そしてオーバードライブ状態はこの一対一の状態を擬似的に崩壊させて融合させている。

例えば俺の魔力を10、そして今対となっているなのはの魔力を20とすると普段は俺15、なのは15にして調整し仕切りをリンカーコア内に作り崩壊せず平均を保っているのだが、今はその仕切りがなく俺の魔力10×なのはの魔力20という形になっている。

 

普段ならメモリを使っても15と15の魔力で30だが、オーバードライブを使えば10×20になり………一時的に200の力を得る事が出来る。

 

だが最初に言った通りこれは危険すぎるという事。

もしも時間一杯もしくはオーバーしてしまえば最悪俺のリンカーコアは砕け、死ぬ可能性もある。

 

だが超えなければ少し倒れるくらいで済む。

それでこの状況がどうにか出来るならーー

 

 

 

「安いよな」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怖かった。

ユウさんが何かを決意した瞬間の顔。

あれはまるで、自分のことを考えていないそんな感じだ。

 

初めてだった。

ユウさんを怖いと思ったのは。

 

 

そして端末を操作するとユウさんのバリアジャケットが変化していく。

先ほどより一回りほど大きくなり全身に赤い光った線が走り、何よりも黒く濁っていく。

 

アレはなんだ?

私が今まで感じていた魔力のどれとも違う。

凄いと思う反面怖い。

でも何かおかしいとも思う。

 

私の"怖い"って感情が無理やり引き出されてるような……そんな感覚。

 

怖いと凄い。そしてユウさんといる安心感。

絶対に共存しないはずの感情が私の中で共存する。

 

となりのフェイトちゃんも同じなのか強張った表情でユウさんを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分からない。

目の前のモノがわからない。

だけどそれは使っちゃいけないってことだけは私の直感が叫んでいた。

 

それはユウの命を縮めるモノだって、それはユウの心を砕くものだって。

それはーーユウがユウじゃなくなるものだって。

 

 

それなのにユウは笑って"行ってくる!"と言って暴走したジュエルシードに向かっていく。

 

ダメだよ……それは使っちゃダメ!そう言いたかったけど。

 

だけどきっと止めてもユウはやめてくれない。

 

だから、

 

 

「行かなくちゃ……」

 

 

1秒でも早くその姿をやめさせるために私も行かなくちゃ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《start.2:59》

 

 

タイマーがスタートする。

それと同時に身体の中に巨大な魔力が流れ込んでくる。

 

ーー痛い、痛い、痛い!!

 

身体中から悲鳴が聞こえるが無視する。

兎に角自分の体より今は目の前のモノを封印し、どうにかしなければ。

ジュエルシードの魔力が変化するのが見える。

どうやら向こうもタダでは封印されてくれないみたいだ。

 

 

「アルフ!俺は今小回りの効いた攻撃ができない!出来る限りでいいからジュエルシードから放たれる射撃を相殺してくれ!」

 

 

「わかった!ユウも気をつけなよ!」

 

「ああ、行ってくる」

 

 

身体の中に蔓延る魔力を後ろに回し一気に放つ。

身体が千切れそうと錯覚するほどのスピードとGが身体にかかるがそれも無視する。

 

ジュエルシードから伸びてくるいつかの触手を切り裂きどんどんと近づいていく。

 

分かる、次の攻撃が何処からきてどう処理すればいいのか頭でも理解でき、理解した瞬間に身体が実行している。

 

 

「ユウ!あのシールドを壊さないとジュエルシードは封印出来ないけどなんとかなるかい?」

 

「ああ、今ならなんとか出来る気がするーー!!」

 

 

ブラスターノヴァの武器、エクセリオンを生成する。

普段のモードなら使えないが今ならーー!!

 

 

 

《Overd.Ekuserion Bastard》

 

 

残りの魔力を全て砲身に集中させ放つ。

赤色と白の魔力の巨大な光はジュエルシードのシールドを壊しジュエルシードも飲み込んでいく。

身体から殆どの魔力が溶け無くなっていくのが分かる。

 

ーーヤバイ、意識が……

 

 

指にすら力が入らなくなってきている。

マズイ……このままだと中途半端になる……!

残りの時間は……

 

《00:15》

 

 

15秒もあれば十分……!

 

残りカスとなった魔力も込めていく。

 

 

 

 

「全部……持ってけぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

光と衝撃で目の前が真っ白になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に見えたのは光が消え静かなジュエルシードが落ちてくるのと。

 

 

 

 

落ちた俺を受け止めてくれるフェイトの泣きそうな顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。
今回でストックが切れたので次回は少しだけ遅くなるかもです。


評価&感想お待ちしております。


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第18話 自分自身 / Memory

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー落ちる。

 

 

ただひたすらこの暗闇の底を目指し身体が落ちていく。

 

下に下に何処までも落ちていく。

 

何処までも闇が続いている。

 

ココは何処だろう?

 

思考がまとまらずただ落下に体を任せるのみ。

 

 

 

自分は先ほどまで何をしていた?

 

分からない。

 

自分は一体何処からきた?

 

分からない。

 

自分のするべき事は?

 

分からない。

 

 

 

 

お前は誰だ?

 

 

俺は……誰だ?

 

 

 

 

 

思考を深めるたび何かを失っていく。

 

自分が自分以外の何かにすり替わる感覚。

 

これを恐怖と捉えるかそれとも。

 

 

だがこのまま微睡みの中で全てを忘れ消えてしまうのもまた一興。

 

もう一度瞼を閉じる。

 

 

 

 

ーーそれは困るな。

 

 

 

 

声が聞こえる。

聞いたことの無い男の声だ。

 

だが、その声音を聞いた瞬間。

 

自分の中の何かに火が灯る。

 

 

 

 

ーーどうやら2つまで手に入れたみたいだね。

 

 

 

2つ?

2つとは一体何の事を指しているのか自分には分からない。

 

 

 

ーー今はまだ分からなくていいよ、君はあと1つ、いや2つは持って帰って来て貰わなければ困るからね。

 

 

 

 

お前は……誰だ?

 

 

 

 

ーーあとはそうだね……オーバードライブはあまり使い過ぎない方がいい。"今のままのデバイス"ではコントロールが完全ではないから。

 

 

 

デバイス?オーバードライブ?コントロール?

 

何の話をしている?

 

 

 

 

 

ーーまぁ元の元は私が作ったモノだしそこまでは心配してないけどね、頑張りたまえよ。

 

 

 

 

声が遠くなっていく。

 

だが自分の中ではこの声のせいで分からないことが増えただけ。

 

 

 

 

ーーそろそろ時間だ、もともと君をそっちに送った理由は別にあったがどうやら君は君のしたい事を見つけてしまったみたいだね?

 

 

 

自分の……したい事?

 

 

 

 

ーーあの空っぽの君が自分の欲望を持てたんだ。私としても見てて面白い。

もうあの任務は無視して構わないよ。

 

 

 

 

空っぽ? 任務?

 

 

 

 

ーー好きに生きるといい。自由は素晴らしいからね? では最後に1つだけ贈り物を。

 

 

 

 

何かが"俺"の中に入ってくる。

 

 

 

ーーそれじゃ、また会おう。今は……ユウ、だったかな?

 

 

 

 

声が完全に消える。

 

 

そうだ……俺は守る為じゃなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺すために此処に来たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電子音が聞こえる。

 

ピピ……ピピ……と俺を起こすためになっているであろうアラームを止めるために目を閉じたまま手を動かしこの不快な音を鳴らしてる元凶を探す。

 

しかし見つからずまだ怠い身体を起こし携帯のアラームを止める。

 

体を起こしたせいか少し目が覚めぼーっとする。

 

なんだかいつもより身体が重く疲れているような?

ふと目を横にやるとなのはが俺の布団に手を突っ伏して寝ている。

何で?と考えた瞬間……

 

 

 

思い出した。

 

昨日の出来事を。

急いでツァイトに現状を確認すると、あの後の事を教えてくれた。

 

あの後俺はやはりというか分かってはいたが意識を無くし倒れたみたいでフェイトが受け止めてくれなければそのまま地面に落下し……なんて事になってた。

 

封印したジュエルシードはツァイトが回収してあるらしくそれを聞いて少し安心。

 

しかしツァイトが言うにオーバードライブの使用時間ギリギリまで使ったせいで俺のリンカーコアは疲労困憊でとても戦える状況では無いらしく大人しく休めと怒られた。

 

 

「悪かったって……」

 

《………》

 

 

少しの間は大人しくしてようかな……流石に今魔法を使えばヤバイという事くらい俺にも分かる。

横で眠るなのはをベットに移動させ、俺は部屋についてる椅子に座る。

昨日からずっと看病してくれていたらしく、感謝しかない。

 

 

「俺も今のうちにシャワー借りてくるかな」

 

 

目も覚ましたいし、身体が少し汗臭くて不快だった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴び、新しい服に着替え部屋に戻ってくるとまだスヤスヤと眠っているなのはが居る。

 

やはりかなり疲れてるみたいだ。

本当はこのまま寝かせておいてやりたいがもう少ししたら学校の時間。

あと5分くらいしたら起こすかな……

 

 

「ユウ!」

 

「お?」

 

 

何かが俺の足元に突撃してきた。

下を見ればユーノが何処か焦るように俺の足をつたって登ってくる。

 

 

「目が覚めたんだね!良かった、体は大丈夫?」

 

「お、おう大丈夫だから落ち着こう?な?」

 

 

どうしてこんなに興奮してるんだ?

取り敢えず、ユーノに何があったかを説明してもらう事になった。

 

 

「……ってなワケでユウは自分が思ってる以上に危なかったんだよ?」

 

「おう……そこまでだったのは予想外」

 

 

なんでもあともう少しユーノの治療が遅ければリンカーコアにヒビが入ってたかもしれないとの事。

そりゃツァイトも怒るか……

 

 

「しかもユウの魔力色は僕も見たこと無いもので最初、治せるかも怪しかったんだよ?」

 

「そんなに珍しいのか?」

 

「珍しいとかそういうレベルじゃなくて"色が無い"んだよ、ユウの場合」

 

 

色が無い?

頭にハテナを浮かべているとユーノが解説してくれる。

 

 

「普通ならそれぞれのリンカーコアが精製する魔力には色があるはずなんだ。例えばなのはは桜色、あのフェイトって子は金色。

その色を頼りに探索魔法で見つけたりするんだけど、ユウは色が無いって言うか透明なんだよ。

何にも染まっていない、それでいて何色にもなれるそんな色。

だからあのバリアジャケットなんだろうけど、あのオーバードライブを使った後は少し違ったんだ」

 

「違った?」

 

「うん、ユウのリンカーコアからなのはと同じ魔力を感じたよ。何というか透明だったのに着色された感じ?とでも言うのかな。

僕もビックリしたよ」

 

 

なんでも回復魔法をかけてバリアジャケットが崩壊したら元に戻ったらしいがまるで俺のリンカーコアがなのはのリンカーコアになったみたいだったと言う。

 

 

「あと無理に魔力を増やしたせいかかなり疲労してると思うよ?ちゃんと休んでね」

 

「ああ、心配かけた」

 

「それは僕よりなのはに言ってあげて。ずっと泣きそうだったよ?」

 

 

おおぅ……聞くんじゃなかった……

俺の中の罪悪感がまたフツフツと溢れてくる。

それだけ心配してくれたのは嬉しいが泣かしたとあっては士郎さん達に合わせる顔が無い……

 

 

 

「ごめんな、心配かけて…」

 

「ん……」

 

 

少しだけ頭を撫でると返事のようなものを返してくれる。

……というかそろそろ起こさない本格的にマズイか。

 

 

「ユーノこの話はまた帰ってきてからにしよう。そろそろなのはを学校に送らないと遅刻する」

 

「うん、わかったよ」

 

 

さてと、起こしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのは?なのはー朝だぞー」

 

 

 

むぅ……眠い……すごい身体が重い……。

誰かが私を起こそうと揺さぶってくる。

今日は……学校ある日だっけ……

私は怠い身体をなんとか起こし、目を開ける。

 

 

「お、おはよなのは」

 

「んー、おはよう……」

 

 

あれ、この私の部屋じゃない?

なんで私ここで寝てたんだっけ……?

そこまで思考したところで目の前のユウさんの顔が目に入り思い出す。

 

 

「え……ユウさん!?」

 

「ん?おう」

 

「だだ、大丈夫なの!?」

 

「ああ、もうゆっくり休んでピンピンしてるよ。誰かの看病のおかげだよ」

 

 

と言って頭を撫でてくる。

よ、よかったぁ……ユーノ君は取り敢えず安静にしておけば大丈夫だって言ってたけど目が覚めないし、呼吸も浅いしでずっとドキドキしていた。

 

 

「それよりなのは?時間時間」

 

「へ?」

 

 

時間?と時計の方を見ると……

 

 

「学校!!」

 

「うむ、早く支度して来ないとやばいぞ?」

 

 

まずい、遅刻はまずい。

急いで部屋に戻らなきゃ!……ってもう一つ!

 

 

「帰って来たら昨日のこと聞かせてね!?」

 

「おう、ちゃんと待ってるよ」

 

 

そう言って笑顔を見せてくれるユウさんには昨日のような怖さはなく私のよく知ってる人だった。

少しの不安が残っていたが消えて私の中には良かったという感情のみが溢れてくる。

でも帰って来たらちゃんとお話を聞かせてもらうよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この反応は……?」

 

 

1人のオペレーターがとある次元世界で発生した巨大な2つの反応を見つけ報告している最中だった。

 

 

「ランクSオーバーの魔力反応が2つ……発信源は何処なの?」

 

 

緑髪の女性が近くにいた黒髪の少年に問うと。

 

 

「発信源は第97管理外世界"地球"からです」

 

「見過ごせる大きさの魔力ではない……そう上から来てます。これよりアースラはこの反応の調査及び解決のために第97管理外世界に向かいます」

 

 

 

その言葉にその場の職員たちは直ちに行動を開始する。

向かうは管理外世界、何があるかはわからずこの巨大な反応について黒髪の少年、クロノは思考する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、やっぱりダメかな……」

 

 

何度か探索魔法を使ってみようとしたが魔法自体が発動せずどうしようもない。

今はバイトが終わり部屋に戻って来た所であと1時間もすればなのはも帰ってくる。

 

 

「それまでにある程度は回復してなのはの補助くらいはしてやりたかったんだけどな」

 

《……master?》

 

「わかってるよ、戦ったり無茶な事はしないって」

 

 

はぁ……とベットの上に寝転ぶ。

何かしてないと落ち着かない性分な自分がこういう時少し鬱陶しい。

このまま何もできないってのも悔しいしな。

 

 

「そういや………朝の夢、なんだったんだろ?」

 

 

思い出せるのは聞いたことのないだけど不快な男の声。

そして何か貰った事と何か大事な事を思い出した気がするのだが……なんだっけ。

あの男に言われた事の殆どは思い出せないけど、ただ1つだけまるで棘のように心に刺さり抜けないものがある。

 

 

 

「空っぽ……か」

 

 

 

自分の欲がない、自分の意味が見出せない。

自分が何を成したいかがわからない。

 

……やめよう、何だか頭が痛くなる。

 

 

 

「ふぁ……」

 

 

少し眠い。

時間はまだあるし少しくらい寝ても大丈夫だろう。

そのまま意識を落とす。

 

 

本当に俺は誰なんだろうな……

 

そう考えながら気づけば俺の意識は微睡みの中に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。

次回からは原作の7話〜8話くらいの話を予定しています。


ご感想&評価お待ちしております!


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第19話 時空管理局

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電子音が聞こえる。

 

ピピ……ピピ……という音は最近眼が覚める度に聞いているせいかこれが目覚めの合図だとすぐにわかり意識が覚醒する。

 

 

「ふぁ……」

 

 

何でこんなに今日は眠いのだろうか?

1時間くらいは寝たはずなのにまだまだ眠い……

 

 

とはいえそろそろ起きなければ………-時間は…………んん??

 

目をこすりもう一度時間を確認。

……16時?

 

 

バッと身体を起こしツァイトと財布とポッケに突っ込み部屋を出る。

寝坊した!!

 

 

すぐになのはを迎えに行こうと一階に降りると美由希に呼び止められる。

 

 

「あ、ユウくんなのはならさっき何処かに出掛けたよ?」

 

「帰ってきてたのか?」

 

「うん、いつもより早かったからどうしたのって聞いたらなんか探し物があるんだって」

 

 

 

探し物……?

なるほどジュエルシードを探す時はそういう風に言ってたのか、嘘は言ってないもんな。

 

 

「ありがとう!俺も少し出てくる!」

 

「はーい、いってらしゃーい」

 

 

 

玄関をでて取り敢えずはサーチ……って魔法使えないんだった。

取り敢えず適当に探すしかないかな……

そう考えながら軽く走る。

さて何処にいるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

あれから15分近場にはいない事がわかり、今度は街に行くか?と考えていると。

 

 

 

(ユウ!)

 

(ユーノ?あ、そっか念話を使えば良かったのか)

 

 

すっかり抜けていたがいくら魔力が少なくなっていても念話くらいならできるよな。

しかし何処か焦った感じのユーノ。

もしかして……

 

 

(ジュエルシードか?)

 

(うん、これそう?)

 

(ああ、場所と状況を教えてくれ)

 

 

 

状況を聞くともうジュエルシードは発動、なのはとフェイトの2人で封印している最中との事、発動したジュエルシードが予想以上に強く無差別攻撃を開始し手に負えない状況らしい。

 

………これは俺も戦うしかないかな。

 

 

(わかった、ここから近いからすぐに向かうよ)

 

(うん、無茶な事だけはしないでね?)

 

 

念話を切りツァイトを取り出す。

多分そこそこ休んだし大丈夫だとは思うんだが……

 

 

「一番負荷が少ないのってどのフォームだ?」

 

《Saber Nova》

 

「了解、それで行くぞ?」

 

 

目の前に迫った結界に思い切り飛び込む。

 

 

「セットアップ!」

 

 

 

ズキンッと身体の中が疼く。

やっぱまだ本調子にはなってないよな……

 

 

目の前では巨大化した樹があり上の方ではなのはが下の根っこをフェイトが攻撃している。

今回は樹を取り込んだのか?

 

 

そのままの勢いでライザーに魔力を通し、斬撃を根に撃ち込む。

 

 

「フェイト!右に避けろ!」

 

「っ!」

 

 

そのまま残りの魔力をフェイトの隙を狙っていた触手に放つ。

危ないな……

 

 

「ユウ!?なんでここにいるの!」

 

「え、なんで怒られるんだ!?」

 

 

フェイトに怒られるのは初めてかもしれないが今優先するのは目の前のジュエルシード。

 

 

「すまん、あとで話は聞くから今はコッチだ!」

 

 

そのまま上に一気に駆け上がりディバインバスターを放つ準備をしているなのはの横に並ぶ。

 

 

「すまん、遅くなった!」

 

「ふぇ!?なんで来ちゃったの!?」

 

「お前までそんなこというのか……」

 

 

俺、邪魔?

と、取り敢えず俺も魔力を貯めクラッシュ・ストリーマを放つ準備をする。

 

 

「一緒にいくぞ?」

 

「もう!あとでお話ね!」

 

「うっす……」

 

 

何でこんなに怒ってるんだろうか?

 

 

(悪い、フェイトも手伝ってくれ)

 

(むぅ……わかったよ)

 

 

こちらも何かに不満をもってらっしゃる。

俺なんかしたかなぁ……

 

 

そのまま3人同時に放たれた魔力の攻撃はジュエルシードに直撃。

封印は完了だ。

 

 

さて問題はここからだ。

この封印したジュエルシードをどちらが回収する……か?

 

 

ズキンッズキンッと胸の辺りの痛みが強くなってくる。

 

 

「もう!魔法使っちゃダメっていたよね?」

 

「ユウ……昨日の今日でこんなことして…」

 

 

2人がこちらに来る。

何とか誤魔化さなきゃ……

 

 

 

「あ、ああすまない」

 

「もう本当に無茶しちゃダメって私に言ったのユウさんだよ?」

 

 

なのはの声が少し霞んで聞こえる。

ヤバイかも。

 

 

「取り敢えず、そのジュエルシードどうするんだ?」

 

 

俺がそういうとなのはとフェイトの空気が変わる。

やっぱり俺がいない間に何か話したのかな。

 

 

 

「フェイトちゃんさっきの約束覚えてるよね?私が勝ったら話を聞いてくれるって」

 

「……」

 

 

無言のフェイト、だが了承はしてくれているのだろう。

 

 

「ユウさん」

 

 

 

なにかを決意した顔で俺の方を見て来るなのは。

 

 

「ああ、俺は手を出さないよ」

 

 

そう言ってバリアジャケットを解除して2人から離れる。

バリアジャケットを解除すれば痛みは引いていき随分と楽になる。

 

少し離れるとユーノとアルフが居た。

 

 

「アルフ、取り敢えずあの2人の戦いには」

 

「うん、フェイトにも言われちゃったからね。傍観しておくさ」

 

 

そう言って俺たちと少し距離を取る。

やっぱり敵同士なのは変わらないよな。

 

 

「ユウ、大丈夫かい?」

 

「ん、少し痛んだけど思ったより平気だ」

 

「え!痛んだのかい?ちょっと見せて!」

 

 

そう言ってユーノは何やら魔法陣を展開して俺に浴びせて来る。

おお、身体が軽くなってくる。

回復魔法をかけてもらいながら2人の方を見るともう戦う直前と言った所。

 

なのはにはぶつかってこいと言ったがさてどうなるかな……

 

 

2人がもう一度魔法を展開し再び戦いが始まるーーー

 

 

一気に加速しぶつかり合ったかのように見えた2人。

だがその間に。

 

 

 

「そこまでだ!」

 

 

なのはとフェイトの杖を掴み戦いを止めた者がいた。

黒いバリアジャケットに黒い杖、黒髪で少し鋭い目つきをした少年。

そして彼は、

 

 

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ…詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

 

 

 

 

時空管理局……何処かで聞いたような?

俺の肩に乗っていたユーノが反応する。

 

それと同時時にアルフも焦っているのがここからわかる。

 

 

 

「こちらが求めるのは戦闘行為の停止と武装解除だ。大人しく着いてきてもらおうか?」

 

 

「えっ?えっ?」

 

「……っ!」

 

 

 

なのははパニックにフェイトは焦っている。

しかしそれは俺も同じでなにが起きたのかちゃんと把握は出来ていない。

急に目の前に転移してきた少年……クロノだったか?

彼が次の行動に出ようとした瞬間

 

 

横にいたアルフが先に行動を起こす。

 

 

魔力による爆発音と土煙が俺たち全体を覆い、まともに視覚が機能しない。

 

しかし横にいたアルフが一気に飛び出したのが辛うじてみえた。

多分だがあの時空管理局とやらに見つかるとマズイのだろう。

恐らくこのまま撤退する為にフェイトを回収しに行ったのだろうが、俺もなのはを助けて逃げるべきか?

そう考えているとユーノが

 

 

「大丈夫、ユウはじっとしてて。時空管理局は敵じゃないから」

 

「そうなのか?」

 

「うん、どちらかと言えばこの世界の警察に近いもので僕らの味方をしてくれると思う」

 

 

なら、なのはに被害は行かないと思うが……フェイトは?

晴れてきた土煙の中なんとかフェイトを探すと上空のジュエルシードを奪取する為に飛行していた。

そして、クロノは……

 

 

 

「させるか!」

 

 

クロノの杖から放たれる射撃魔法は真っ直ぐとフェイトの背中に伸び……直撃する。

 

 

「フェイトォォォ!!!」

 

 

アルフの叫び声が聞こえる。

 

深いダメージだったのか気を失いかけたフェイトをアルフが辛うじてキャッチし助ける。

 

 

そして第二射をアルフとフェイトに放とうとしているクロノが俺の目に移る。

 

 

なのはは止めようしているが間に合わないーー!!

 

 

クロノの杖から第二の射撃が放たれ、フェイトを抱えたアルフに直進していく。

 

 

このままでは2人が危ない。

だがこの一番遠い距離にいる俺に何ができる?

 

 

思考が加速し辺りの風景が遅く感じる。

 

 

 

何か。

 

 

 

何かないか?この状況であの2人を助ける術が。

 

 

そう思考する頭を他所に身体は勝手に動いていた。

 

 

 

 

「ーーーー!!」

 

 

 

《Blaze Force Over Drive》

 

 

 

 

相手の射撃の速度を先回りし撃ち落とせばいい。

 

そう結論を出した時には既にオーバードライブモードに入っていた。

 

 

 

 

 

ピシリとヒビ割れるような音が聞こえる/関係ない。

 

 

 

身体中から何か大事な物が溢れ出ていく/関係ない。

 

 

 

それ以上進めばーー壊れるぞ?/関係ない。

 

 

 

 

 

まだ"足りない"あの射撃に到達するまでの速さが足りていない。

 

 

ならばもっと速く!

 

身体をそのスピードに耐えれずともカタチだけは残る様に作り変える。

 

 

 

 

《Re.Start》

 

 

 

 

間に合え!間に合え!間に合えーー!!

 

 

 

ただひたすらに速さを求め自身のリンカーコア内の魔力を全身に回し加速させる。

 

全身の血液が沸騰したかの様に身体中が暑い。

 

 

関係ない。

 

 

今だけは目の前の2人を助ける為に!!

 

 

 

 

そして射撃魔法を先回りし切り裂く。

後ろでは来るであろう衝撃に備えていたアルフが居た。

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 

間に合った。射撃魔法を切り落としたと同時にバリアジャケットが消えジャージに戻る。

いつまでもこない衝撃に気づきアルフが軽く目を開ける。

 

 

「……っ?」

 

「大丈夫、か?なら…早く…逃げろ」

 

 

少し目を見開きなにかを言おうとするが俺の逃げろという言葉を聞き"ありがとう"と言って消えた。

 

目の前にはクロノが迫ってきており、厳しい表情をしている。

 

 

「……何故、あの2人を逃した?」

 

「……あの射撃はやりすぎだろ」

 

「ならば先ほどのアレはなんだ?」

 

「…アレ?」

 

 

ゆっくりと呼吸し、体内に酸素を入れるが一向に心臓の音が激しくなるばかりで落ち着かない。

目の前のクロノは多分だが何処かと連絡しているのか何かをボソボソ話している。

 

 

「ユウさん!!」

 

「ユウ!!」

 

 

2人が駆け寄って来る。

 

 

「またさっきの使って……タダでさえ昨日のでまだダメージが残ってるのに!」

 

 

少し泣きそうになりながら俺を怒ってくるなのは。

そしてそれを横目に回復魔法をかけてくれるユーノ。

ホントに迷惑ばっかかけてるな……俺。

 

 

 

「悪いが着いてきてもらえるか?」

 

 

そう声をかけて来るクロノ。

ユーノの方を見ると。

 

 

(大人しく従った方がいいと思う)

 

(わかった、回復魔法ありがとな)

 

 

ううん、気にしないでと言われ取り敢えずはクロノについて行くということをなのはに伝える。

なのはも混乱はしていたが了承してくれた。

 

 

「わかった、何処に行けばいいんだ?」

 

「僕たちの船に来てもらう、転送するぞ」

 

 

そう言いつつジュエルシードを回収するクロノ。

 

そういえば……思っていたより身体に負荷が残ってない?

先ほどまでは苦しかったが段々と回復しているのがわかる。

ユーノの魔法のおかげか?だがそれにしても早すぎるような……

 

 

そう思考しているうちに俺たちは独特の浮遊感に襲われる。

これは何度か経験している転移の感覚だ。

 

さて向こうで何を言われるんだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。

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[ 2週目b ] 殺意の果てに "BAD END"

※注意!!

コレはあくまでオマケのお話として読んでください。
本編とはあまり関係ないです!

それでもよろしければどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で撃たれたフェイト。

 

 

 

目の前でフェイトを撃ったアイツ。

 

 

ナニカ/殺意が俺の中で反応し鼓動する。

 

 

 

今まで抑えてきた、否忘れさせていたこの感覚。

久しく取り戻したこの感情は正しく"俺自身"

 

 

 

ああ____なんだろうこの高揚感は。

 

 

 

世界がゆっくりとゆっくりと停止していく。

 

 

忘れていたはずの自分自身?

 

否。

 

忘れる事で新たな自分を構築しようした弱者のオレではコレは扱えない。

 

 

意識が"反転"する。

 

 

俺の中のオレ/黒と白が混ざり合いソレは新しい否、元の形へと戻っていく。

 

ああ___そっか。

 

オレは。

 

 

 

記憶が戻り始める。

 

アイツから出された命令は2つ。

 

1つは魔力の回収。

 

もう1つは。

 

 

 

 

 

 

「成長し、邪魔になる前に消す」

 

 

 

 

【Fu…ll Driv…e】

 

 

 

ザザ……とナニカオレの手元で蠢く。

前のオレは緩い使い方しかしていなかったからな。

 

 

ゆっくりと停止したような世界をただ1人オレのみが歩む。

この感覚は初めてだが___使い方はもうココに入っている。

 

 

ゆっくり、ゆっくりと近づき現れた青年の胸に形成した黒い刀を突き刺す。

 

 

そのまま撃たれた少女と倒れた少女の中から必要なもの/大切なモノを奪う。

 

 

 

コレでオレのやるべき事は終了だ。

 

 

 

ゆっくりとこの静寂した世界から自身の波長を消し"元"の自分のいた場所に帰還する。

 

 

 

コレで俺の存在意義は無くなる。

 

少しの虚無感と無力感を抱える。

 

 

だがそれもまた一興。

ゆっくりと浮遊する感覚。

 

最後に消えゆく未来では最強だった魔導師たちを見る。

 

 

ーーこんなあっさりと終わってしまうものなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

意識が覚醒し身体を起こす。

あれ?俺……何してたんだっけ?

 

目を覚ましたのは今居候させてもらっている高町家の俺の部屋。

時間を確認すればまだ早朝の5時といつも起きるより1時間以上早い。

そして身体がやけに怠く気持ち悪い。

 

 

「やけに気持ち悪いと思ったら……」

 

 

まるで水でもかけられたかのようにびしゃびしゃに汗をかいている。

すぐにベットから降り、服を脱ぐ。

 

 

「シャワー借りるか……」

 

 

なんだかなぁ……なんでこんなに汗かいてるだ?

何か夢を見ていた気もするけどよく思い出せない。

 

 

「まぁ、夢は夢だし気にするだけ無駄か」

 

 

 

今日は月曜日。

俺は休みだしはやての家にでも遊び行くか?

 

 

なんて考えながら自分の部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

残ったツァイトの画面に、

 

 

 

【again.start】

 

 

と一瞬表示されたのをこの時の俺は気づかなかった。

 

 





まだ、その力は及ばず。


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第20話 艦艇「アースラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移した先ではSF映画の船の中の様な場所だった。

こんな所には来たことあるはずもなくキョロキョロと物珍しく見渡しているなのはを横目に何処かこの様な場所に俺は来たことがあるような?などまた奇妙な感覚に襲われていた。

 

 

先ほどの場所から今の今までユーノに俺となのはは時空管理局についての説明を受けていた。

 

時空管理局は、いくつも存在する並行世界の狭間を渡り、それぞれの次元に干渉しあうような出来事を管理している組織……らしいのだがなのははずっと頭にハテナ、もちろん俺もちんぷんかんぷんだった。

 

そうしていると先導していたクロノが止まり俺たち、というかなのはに

 

 

「ここではバリアジャケットとデバイスを解除してくれるか?」

 

「え、はいわかりました」

 

 

そう素直に解除するなのは。

そして今度はユーノに目を向けるクロノ。

 

 

「キミもいつまでもその姿のままではなく元の姿に戻っていいんじゃないか?」

 

「あ、そうですね」

 

 

ユーノの元の姿?何のことだ?

俺となのはは頭にハテナ。

だがひょいひょいと肩から降りたユーノが光を放つと………

 

 

 

「ふぅ……この姿に戻るのは、久し振りになるのかな?」

 

 

と人間の姿に……ってえ?

頭が真っ白になりフリーズする。

だが

 

 

「ええぇぇぇぇ!!!!!????」

 

 

というなのはの悲鳴が艦内に響き俺の方は正気に戻る。

そうか、ユーノって人だったんだな……

 

 

 

「ユーノくんって人だったの!?」

 

「え?最初に会った時は人だったでしょ?」

 

「最初っからフェレットだったよ!!」

 

 

 

ええ!?とかそんな!とか聞こえて来るが別にユーノが人でもフェレットでもいいんじゃないだろうか?

なのはは何をそんなに何を焦って…………あ。

 

 

そこで俺はふと温泉旅行や普段の生活を思い出しガッテンがいく。

 

 

そういばなのはと一緒に風呂に入ってたりもしてたっけ?

年頃の女の子にはキツイか……ユーノ同世代っぽいし。

 

 

何やらお互いに勘違いしていたみたいでなのはに必死に謝るユーノ。

 

それに呆れているクロノ、その横でぼーっとしている俺。

 

 

なんだこれ。

 

さっきまでの空気が完全に霧散した。

 

 

「出来れば早く着いて来て欲しいんだが……」

 

「すまん、ほらいくぞ2人とも」

 

 

呆れ顔のクロノに俺が急かされ2人を取り敢えず連れて来る。

まだ困惑しているなのはと申し訳なさそうなユーノ。

ユーノもそんなに気にしなくていいと思うが……

 

 

「ユウさんは驚いてないの?」

 

「え?驚いてるぞ」

 

 

そりゃ急に人ですなんて言われたら驚くに決まっているだろう。

そこまで肝が座っているわけが無い。

 

しかし俺があまり動じて無いように見えたのかなのははまだ疑いの目線を俺に向けている。

ユーノもユーノで先ほどのなのはの同様を見て俺の様子をチラチラと伺っている。

 

 

「うーん、考え方の問題じゃ無いか?」

 

「考え方?」

 

「ああ、俺は別に動物でも人でもユーノはユーノだって思ってるんだよ」

 

 

まだ頭にハテナが浮かんでいるなのは。

むぅ……なんと言えば伝わるのだろうか?

 

 

「うーん……俺はさ今まで過ごしてきたユーノと今の人のユーノに見た目以外の違いが無いならそれでいいんじゃないか?って思ってるんだよ。

確かに驚いたけど俺とユーノが友だちなのは変わらないし寧ろ人なら人で一緒に遊びに行けたりとか堂々と話したりとか出来て得だと思うけどな」

 

 

こんな感じか?

……まぁ風呂とか着替えの件は俺は同性だから気にしてないってだけでなのははまた別だろうけど。

 

 

「ユーノくんはユーノくん……ってことかぁ…」

 

「ああ、まぁあくまで俺の考え方だから真似する必要はないぞ?

ユーノもユーノで別に今の姿でも俺は特に何も気にしないからそんな心配そうな顔するなよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 

さてそんな話をしているうちにクロノが1つの扉の前で止まる。

応接室か何かみたいだが……

 

 

「ここだ、入ってくれ」

 

 

 

そう言われて中に入ると先ほどまでの近未来的空間とは違いまだ見たことのある空間が広がっていた。

 

壁や扉は他の場所と変わらないのだが畳に毛氈、鹿威しそして抹茶と羊羹という相反するもの同士を合体させたような空間になっておりそこに佇むクロノと同じ制服をきた女性がまた変に威厳がある為目立つ。

 

横のクロノも少し顔が引きつっているところを見るにこの光景は予想外だったのだろう。

 

 

「どうぞ、お座りください」

 

「あ、はい」

 

 

座っていた女性にいわれ俺たちは目の前の座布団に座っていく。

そして目の前には抹茶がだされた。

 

 

「私はこの船、アースラの艦長を務めているリンディと言います」

 

「あ、これはどうも丁寧に俺はユウです」

 

 

と自己紹介タイムに入る。

てっきりガチガチの事情聴取とかイメージしてたからか正直、拍子抜けだ。

そこから少し落ち着きながらお茶を頂き、向こうが提示してきたことは事情説明だった。

 

 

「此方が観測したこの巨大な魔力反応について詳しく話して貰いたいの」

 

「それについてはボクから話します」

 

 

そうユーノが言い、これまでにあったこととジュエルシードの説明、そして俺の話をしていく。

 

 

「なるほど、ユウくんは次元漂流者かも知れないわね」

 

「はい、ボクもそう思います」

 

「えっと……次元漂流者って?」

 

 

聞いたことのない単語に思わず問いを翳してしまう。

何より俺自身に関係しそうなのが余計に気になってしまった。

 

 

「そうね、簡単に説明するとユウくんはこの地球以外の次元から何らかの原因があってココに飛ばされてきちゃった人なのかも知れないって話」

 

「他の次元?」

 

「それについても説明しましょうか」

 

 

そこからは俺やなのはでも分かる内容でリンディさんたちは色々な並行世界を渡りそれぞれの次元が干渉してしまうかもしれないような事件を解決するために働いている人たちらしい。

 

そして次はジュエルシードの説明に入る。

 

 

「そのジュエルシードという物はロストロギアだと思うわ」

 

 

ロストロギア、それは進化し過ぎた文明の危険な遺産で使用法によっては世界どころか次元空間さえ滅ぼしかねない危険な技術……らしい。

 

 

「あの観測で1つしか発動していないって言うのだからまた驚きね、複数発動すれば今度こそ次元震を引き起こしかねないわ」

 

「次元震……ですか?」

 

「ええ、なのはさんは近くで体験したみたいね」

 

 

あのフェイトと杖がぶつかった時、とてつもない魔力と閃光が俺の前で広がったの知っている。

アレが次元震……

 

 

「最悪、アレが複数発動するといくつもの並行世界を壊滅させるほどの災害"次元断層"のきっかけにもなってしまうの」

 

「そんな……」

 

 

「そしてこれよりジュエルシードの封印及び回収の作業は私たち次元管理局が全権を受け持ちます」

 

 

まぁ確かに専門のこの人たちに任せるのが妥当であり正しいんだろうけど……なのはとユーノの顔を見るに納得していないな。

 

 

「ここまで危険な封印を任せてしまってすまなかった。これより僕たちが責任を持って回収しよう。

キミたちはそれぞれの世界で平和に元の暮らしに戻るといい」

 

「……」

 

 

やっぱり納得してない顔だな……

となのはの顔を見ていると今度はクロノから俺の方に声がかかる。

 

 

「それとキミは……ユウだったな。先ほどの戦闘では此方にも非があった、すまない」

 

「あ、いやアレは俺が悪い。こちらこそ邪魔してすまなかった」

 

 

そう言って謝罪をしてくるあたり根は真面目で優しいのだろう。

あの時は戦闘中で焦っていたのもあるしお互い様だ。

 

 

「しかし気になることもある。ユウ、キミのバリアジャケット、アレはなんだ?」

 

「え?何と言われても……」

 

 

「クロノ執務官そろそろ……」

 

 

そうリンディさんに言われクロノが黙る。

 

 

「さて時間も時間ですし一晩時間を置いて、また明日話をしましょう。明日また迎えを寄越します」

 

 

 

その一言で会談と取り調べは終了し俺たちは元の場所に帰ってきた。

時間はもう夕方。

そして少し落ち込んでいるなのは。

 

 

「帰ろう、まだ明日まで時間はあるしどうしたいか話し合おう」

 

「……うん」

 

 

そういうと歩き始めるなのは。

そしてユーノはフェレットに戻っており俺の肩に乗ってくる。

 

 

「そっちに戻るんだな」

 

「うん、なのはの家族にもこっちで定着してるしそれにフェレットの方が便利だしね」

 

 

そう言って俺の肩やなのはの肩に乗るあたりフェレットの方が楽なのかもな。

さて、これならどうなるのか……ちゃんと話さなきゃな。

 

ゆっくりと家に歩いていく。

 

そういえば……フェイトは大丈夫だっただろうか?

念話も通じないし少し心配だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。

ご感想&評価お待ちしております。


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第21話 背負うモノ / やりたい事

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと歩き家に着く。

時間はもう18時を回りすぐに夕食となり士郎さんや桃子さん、恭也に美由希が俺たちの帰りを待っていてくれた。

 

 

「あ、2人ともお帰り。一緒だったんだね」

 

「ただいま、悪いな待たせて」

 

「はは、大丈夫だよ。ほらなのはも手を洗ってきなさい」

 

「あ、はーい」

 

 

士郎さんに言われぼーっとしていたなのはもようやく我に帰った。

とりあえずは夕食を食べた後に話そうという事になっているが1人で考えてしまっているこだろう。

 

 

「ユウくん、なのはどうしたの?」

 

「んー……大切な事を考えてるんだよ」

 

 

美由希はハテナを浮かべていたが何かを察している士郎さんと恭也は何も言わなかった。

 

 

「ユウくん、後で話さないかい?」

 

「はい、夕食の後で大丈夫ですか?」

 

「ああ、そんなに時間はとらないと思うから」

 

 

そういって優しげに笑う士郎さん。

……多分なのはの事だよな。

なのはも戻ってきて桃子さんが料理を運んできてくれる。

さて、今はアッチ関連の事は忘れてこの料理を楽しませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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食事後、なのはとの話し合いの前に庭の方で待っている士郎さんの元に向かう。

士郎さんは空を見上げて何かを考えていた。

 

 

「やぁ、急に悪いね」

 

「大丈夫ですよ」

 

 

少しだけ何時もの士郎さんとは違う雰囲気で何だか緊張する。

とりあえず士郎さんに座れば?と言われたので横に腰掛ける。

ココからだとよく星や月が見える。

 

 

「中々に綺麗だろ?まぁ、この前行った海鳴温泉と比べちゃうと雲泥の差かもしれないけどね」

 

「俺はこういう空も好きですよ、これはこれで楽しめます」

 

 

そうかい?なんて何処か嬉しそうに笑いかけてくる。

 

 

「さて、そろそろ本題に入るとね。ユウくんは最近なのはが思い詰めたり悩んだりしてるのを知ってるだろう?」

 

「……はい」

 

 

なのはが魔法の事やフェイトとの事で悩み時折ぼーっとしていたり返事も返さない時もあったりした。

それは何も俺の前だけではなく士郎さんしかり他の周りの人もうすうす気づいている位には上の空だった。

 

 

「コレは僕の勝手な考えと言うか予想なんだけど、ユウくんはその原因を知ってるんじゃないかい?」

 

「それは……はい」

 

 

はは、やっぱりかと笑う士郎さん。

そしてもう一度空を見上げ直す。

 

 

「今だから話しちゃうけどね?最初ユウくんを助けてくれってなのはに言われた時、どうしよかと迷っちゃったんだよ」

 

「まぁ……そうですよね。いきなり見知らぬ人を助けろって言われて頷く人の方が少ないですよ」

 

「そう言ってくれると助かるよ。でもね、僕も不思議なんだけどユウくんと顔を合わせた時、この子なら大丈夫だって助けなきゃって思っちゃったんだよ。もちろん僕がユウくんを気に入ったのはホントだよ?」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、まぁ結果的にユウくんと過ごすのは僕はとても気に入ってるしなんならこのまま家にいてくれてもいいなんて思ってるんだよ?」

 

 

店も助かってるし桃子たちもユウくんの事気に入ってるしなんて笑いながら話してくれる。

……そっか、俺はこんなにも好かれてたんだ、なんて漠然と思ってしまったがそれがどれだけ幸運でこの人たちに感謝しなきゃいけないかは理解できている。

本当に良い人たちだ。

 

 

「それでね、これはお願いなんだけどね」

 

 

そう言って此方を向いた士郎さんの表情は凄く真剣で。

 

 

「もしなのはが助けて欲しいって頼んできた時はーー」

 

 

「はい、助けますよ。なのはが傷つきそうなら守ります」

 

 

 

 

そう答えると士郎さんは微笑み、

 

 

「ーーそうかい、ありがとう」

 

 

そう、言った。

この約束は俺と士郎さんだけの話。

頼まれたからにはしっかりとその責務を果たさなければいけない。

 

 

 

「ならもう僕から言うことはないよ、なのはと話があるんだろう?言っておいで」

 

「はい、いってきます。それと、ありがとうございました」

 

「はは、こちらこそ。なのはをよろしくね」

 

 

 

多分なのはの答えは決まっているけど一応形として本人の口からその答えを聞かなきゃいけない。

 

ふぅ……と息を吐きなのはの部屋に向かう。

さて、桃子さんにはなんて言うか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、やっぱり最後までジュエルシードを集めたいよ」

 

 

 

俺がなのはの部屋に入り話し合いの一言目がこれだった。

分かってはいたがやっぱり…か。

 

俺としては別にリンディさん達に任せて危険のない、魔法に関わらず今の普通の生活に戻ってもいいと思っていたんだ

でもそれがなのはの答えなら。

 

 

「わかった。俺は何も言わないよ」

 

「え、いいの?」

 

「ああ、なのはのしたいようにすればいい。それにまだしたい事、あるんだろ?」

 

「……うん」

 

 

少し何かを考え決心した顔をする。

多分フェイトの事で何かしら自分の中で決着をつけたんだろうけど……

 

 

「もうすこしだけ考えてちゃんとまとまったら話すよ」

 

「ああ、わかった。ユーノからは何もないのか?」

 

 

先程から俺となのはの会話を傍観し何も言わないユーノに話しかける。

 

 

「うん、ボクからは何もないよ。ボクもなのはの意見に従うつもりだったから」

 

「そっか、なら頼めるか?」

 

「うん、ボクの方からアースラにジュエルシードの事について話してくるよ」

 

 

先程、ユーノからなのはがこの先も魔法に関わると言う選択を取った場合は自分がアースラになのはは必要な人材だと話をつけると言われていた。

 

ユーノが連絡を取りに行く。

その間になのはとはこれからの事について話していく。

 

 

「ユウさんは……」

 

「ん?」

 

「ユウさんは一緒に来てくれる……?」

 

 

不安そうにだけど聞かなきゃいけないと震えた声で聞いてくる。

ユーノがいるとはいえやっぱり不安なのだろう。そして俺が断るんじゃないかとでも思っているのかギュッと俺の方を握ってくる。

 

 

「なのはがそうして欲しいなら俺は着いて行くよ。そもそもなのはに助けられなきゃ俺はココに居ないし、なのは1人に行かせるのは俺も不安だしな」

 

 

そういうと安心したのか少し笑顔に戻る。

士郎さんにも頼まれた事だ、俺は俺の全力でこの子を守る。

 

 

「ユウ、なのは」

 

 

ユーノが戻ってきた。

そして結果は。

 

 

「協力して欲しいっていってくれたよ」

 

「それじゃ!」

 

「でも条件もあるよ」

 

 

アースラから、リンディさんからの条件は向こう側の指示を必ず守る事、なのは俺ユーノの3人の身柄を一時的ではあるが時空管理局の預かりにするの2つ。

これらを飲んでくれれば協力者として招きたいと言う事か。

 

 

「大丈夫?」

 

「ああ」

 

「うん」

 

 

ならばすぐにでも支度しなきゃだがその前に。

 

 

 

「なのは、桃子さんにこの事……しばらく家を出るって事だけはキチンと話さなきゃダメだ」

 

 

そう言うなのははギュッと手を握りしめ

 

 

「うん、今から言ってくるよ」

 

 

うん、ちゃんと話すつもりだったみたいだ。

俺もしばらくバイトには出れない事を話して来なければ。

なのはの話した後に行くとするか。

 

 

「ちゃんと伝えたい事を伝えて来いよ」

 

「うん!」

 

 

そう言ってなのはが下に降りて行くのを見送る。

俺も軽く旅支度をしてこようかな。

 

 

「ユウは本当に良かったの?」

 

「ん?なんだよ急に」

 

 

ユーノが何処か不安そうに俺に話しかけてくる。

俺はバックに着替えを入れながらユーノの話に耳を傾ける。

 

 

「なのはは自分で決めた事だけどユウはコッチの……魔法に関わるって危険な事だってわかってるでしょ?」

 

「ああ」

 

「だったら……」

 

「でも俺はお前たち2人をほっとけないよ」

 

 

そう言うと黙ってしまうユーノ。

 

 

「たしかにキッカケは偶然の出会いだったけど俺はユーノやなのはと出会って魔法に触れた事は後悔してない。

それに困ってる友だちを、ユーノを助けたいって思ってるのもあるしな」

 

「ユウ……」

 

 

 

自分が誰かも分からないし、この場所に来た意味も分からないけど。

それでもここでの出会いはきっと俺にとって大切な物だ。

 

それを守りたいって今の"俺"は思っているしそうでありたいって気持ちもある。

 

記憶を失う前の俺がどうであったかは分からないけど、今の俺のしたい事は決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を降り下で座っている桃子さんに話しかける。

 

 

「桃子さん」

 

「ユウくん、ちょうど良かった。今呼ぼうとしてた所なの」

 

 

そう言うとちょいちょいとテーブルの方に呼ばれ座るように促される。

 

 

「士郎さんからね、話は聞いてるわ」

 

「はい、しばらく帰れないと思います」

 

 

そう言うと少し悲しそうな顔をし話を続ける。

 

 

「なのはがね?"大切な友だちと始めた事を最後までやり遂げたい"って初めて私に自分からお願いしてきたの。初めてあんな決意した顔をなのはを見たから私もビックリしちゃったわ」

 

 

「それだけ本気って事ですよ、なのはも」

 

 

そう言うと少し寂しいけどねと言いながら何処か嬉しそうでもある桃子さん。

きっと成長したなのはを見て嬉しいと思う反面心配もしているのだろう。

 

 

「それでユウくんも少し何処か行っちゃうのよね?」

 

「はい、なのはと同じ所です」

 

「寂しくなっちゃうわね……でもちゃんと帰ってくるんでしょ?」

 

「はい、必ず」

 

 

そう言うとそれなら安心ねとやっと何時もの笑顔に戻ってくれる。

 

 

「なのはの事、よろしくね?」

 

「はい、行ってきます」

 

 

ちゃんとここに帰ってこよう。

そう心に誓う。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出発の準備を終え、なのはとユーノと共に玄関を出る。

アースラへの転送はこの後公園でしてくれるらしいのでそこまで歩いて行く。

 

俺ははやてやアリサすずかにしばらく会えない節を伝えるメールを送っておく。

 

 

「アースラでは臨時局員として乗り込むらしいよ」

 

 

そしてユーノにはこれからの俺たちの立ち位置などの説明をしてもらっている。

 

 

 

「少し緊張してきたな…」

 

「俺もちょっとな……」

 

 

なんだかんだと言っていたがやはり緊張する。

 

 

「なのは、アリサやすずかに連絡は?」

 

「うん、メールしておいたから大丈夫」

 

 

俺に出来る事はしたが後はこの子たちがちゃんと仲直りできるかの心配もあったり……

そんな事を話しているうちに公園に着く。

 

 

 

 

「それじゃ行こうか」

 

「うん」

 

「ああ」

 

 

出来るだけ早く解決し帰って来なければ。

そう誓いを立て転送されるのを待つ。

 

 

少し悩んでいるのはフェイトの事。

 

あの後から連絡もつかず、今どうしてるかもわからない。

状況的に管理局とフェイトたちは色々まずいのだろう。

つまり管理局側となった俺は完全に敵になった……という事。

 

だがもし、もしもの時は。

 

そう考えているうちに俺たちの姿は公園から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。

次回からはアースラ内での生活とユウたちの魔力測定、能力の測定などです。


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第22話 「調和結合」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日、俺となのははアースラでは臨時局員として働いていた。

この船では俺となのはは戦闘員として扱われ、先ほど反応があったジュエルシードを封印し終えた所だ。

 

 

 

この場所の人たちはプロという事もありかなり強力なバックアップをしてくれたおかげで今までにないほどスムーズに集まっていく。

 

既になのはとユーノは帰還しており俺は少し野暮用を済ませたところだ。

 

ここ数日て慣れた転移を使いアースラに戻ってくる。

 

 

「ユウ、帰還しました」

 

「あらお疲れ様、順調みたいね」

 

「お疲れ様ーユウくん」

 

 

ブリッジに入るとリンディさんとエイミィが声をかけてくれる。

エイミィは俺と同い年という事もあり割と友好な仲になっている。

 

 

「コレでここに来て回収できたロストロギアは2つだね」

 

「ああ、ここのバックアップは本当に凄いよ。的確に指示出ししてくれるから俺も楽させてもらってるよ」

 

 

それほどでもーなんて言っておちゃらけているが現場になれば別人かと思うくらいの明確で的確なアドバイスをしてくれる。

 

 

「さてユウくん、昨日話したと思うけどこの後なのはさんと一緒に測定に行ってきてね」

 

「はい、わかってます」

 

 

簡単に言ってしまえば健康診断のようなものと魔力の貯蔵量や他に何か能力がないかなどを調べるらしい。

 

 

「それにしてもユウくんもなのはさんも優秀だし将来は管理局に来てくれれば助かるんだけどね」

 

「はは……考えておきますよ」

 

 

ここ数日アースラに乗ってからリンディさんたちからのスカウトの話が時々出てくる。

なんでも戦闘員というか管理局はかなり人手不足らしく俺たちを雇いたいとか。

 

リンディさんたちの世界では就職は早くから出来るらしくクロノはまだ14歳だとか。

凄いよな、その歳でかなり上の方らしいから。

 

 

「ユウ、こっちだ来てくれ」

 

「ん、了解」

 

 

クロノに呼ばれアースラ内を歩く。

アースラ内の施設は様々で風呂や食堂、個室はもちろんの事、訓練室や保健室的なものまであった時は少しびっくり。

 

まぁ様々な場所に対応できるようにって事なんだろうけど一般人の俺からすれば驚きばかりだった。

 

少し歩くと訓練室に着く。

どうやらここで色々調べるみたいだ。

 

 

「なのはは?」

 

「ああ、彼女なら後から来るから気にしないでくれ」

 

「わかった、なら最初は何をすればいいんだ?」

 

「まずは身体調査だ。別段特筆したことはしないから気楽でいい」

 

 

簡単な身体測定やアレルギーの有無などを行っていく。

 

 

「君は何処かで鍛えていたりしたのかい?随分と身体つきが良い方だ」

 

「そうなのか?まぁ話したと思うけど俺昔のこと覚えてないからわからないんだけどな」

 

「そういえばそうだったな、しかしこの鍛え方は僕たち管理局の訓練でシゴかれたのかってレベルだ」

 

 

そんなにだろうか?

自分の身体を見回すが見慣れているせいでよくわからない。

 

 

「まあ良い、次は魔力質の検査と測定だ、セットアップしてくれ」

 

「ああ、なんでもいいか?」

 

「む、そういえばユウは複数のバリアジャケットがあるんだったな」

 

 

どうするかと考えているクロノ。

別に全部試してもいいんだが……

 

 

「とりあえずだが今のままで魔法を使えないか?軽くでいいからクラスだけ測ろう」

 

「クラス?」

 

「ああ、魔力量と技術でクラスわけできるんだ」

 

 

そういうと軽く説明してくれるクロノ。

ランクは複数ありBを超えていれば凄いらしい。

ちなみにクロノはAAA+らしく段違いなのがわかった。

 

 

「そういえばなのはの方は先ほど測ったがAA+で貯蔵魔力は僕の知ってる中で一番多いかもしれない」

 

「へぇ……凄いな」

 

「ああ、アレで魔法を使い始めて間もないなんて信じられない。紛れもなく天才の部類だよ彼女は」

 

 

なんて苦笑いしながら話すクロノ。

なのはって凄いんだな、元々魔力が多いのはユーノから聞いていたがクロノまで認めるとなるとまた別格の印象を受ける。

 

 

「さてユウの魔力量から測るぞ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

アレから10分ほどだったがまだ俺の測定が完了しない。

俺の魔力量を測っているのだが何やらクロノが怪訝そうな顔をする。

機械の数値で出ているのだが俺の方からは見えない。

 

 

「どうした、何か不調か?」

 

「いや……測れているんだが、コレだと色々おかしくてな……」

 

 

おかしい?

 

 

「ここ数日僕もユウと一緒に戦っているからある程度の魔力量は把握してるつもりだったが何回測り直しても低すぎるんだ」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、僕の予想ではAは超えていると思ったんだがC-なんだ、君の魔力量は」

 

「はは、低いな」

 

 

やっぱ才能ないのかなーなんて笑っているとクロノがまた怪訝そうな顔をする。

 

 

「これだと普段のキミの戦闘時と噛み合わなすぎる。それに初めて会った時のあの魔力量とも……」

 

「そんなにおかしい事なのか?」

 

「ああ、ハッキリ言って異常だ。この事に関して他の誰か、なのはやユーノに何か言われたことはないかい?」

 

 

ふむ、何かあっただろうか?

 

……あ、そういえば。

 

 

「そういやユーノがレアスキルだなんだって……」

 

 

確か俺のリンカーコアが他の人と違うんだっけ?

魔力の色もおかしいって言ってたし。

そう話すと詳しく教えてほしいとクロノに言われ、ユーノに受けた説明をそのまま話す。

 

 

「僕も聞いたことがない。他人の魔力を自分の中のリンカーコアに入れて染めるなんて……だから時折観測時になのはと君が区別つかなくなったのか」

 

「そんなに珍しいのか、コレ」

 

 

自分の胸を指してクロノに聴くと何やら呆れている。

 

 

「はぁ……なんでレアスキルだなんて大層な名前が付いていると思う?それは多分君にしかない特別な能力だ。他に例を見たことない」

 

「って言われてもな……俺には才能ないんだろ?ランクもクロノの何個も下だし」

 

 

いくら凄い能力でもそれを活かせられなければ意味がない。

そう話すとまた呆れた顔をするクロノ。

 

 

「僕の予想が正しければ君が本来の力を発揮できるのはあの特別なバリアジャケットを身に纏ってからだ。あのデバイス返すぞ」

 

 

そう言って俺のデバイス渡してくる。

そういや解析したいからって預けてたんだっけか。

 

 

「どうだったんだ、何かわかったか?」

 

「ああ、"何もわからない"事がわかったよ」

 

「へ?」

 

 

何もわかない事がわかった?矛盾してないか、それ。

 

 

「君のそれは僕たちの技術ですら解読不可だ。技術者は"まるで何年も未来から持ってきた異物"なんていってたぞ」

 

「そりゃまた大袈裟に聞こえるけど……」

 

「大袈裟なものか。ここにいる技術者は優秀な者ばかりだぞ?ジュエルシードが過去からのロストテクノロジー、ロストロギアならユウの持つそのデバイスは全くの反対で未来からの異物だ」

 

 

少し恨めしそうにこちらにいってくるあたり相当時間をかけて解析したが全く情報を得られなかったのだろう。

 

 

「それにそのデバイスのAIがかなり複雑なロックをしていて閲覧権限すら得られなかった。……というか何処か封印されてるみたいだったよ、まるでブラックボックスだ」

 

 

そこまで言われて俺の持つ"コレ"の異様性がフツフツと感じ始める。

あ、そういやもう一つ預けてたものがあった。

 

 

「クロノ、魔力メモリは?」

 

「ああ、すまない」

 

 

そういって渡してくる2つのメモリ

俺の手に帰ってきたメモリを見つつクロノが続ける。

 

 

「ホントにそれもよくわからなかった。調べてみれば中身はほんの僅かな魔力だけで気になったのはそれが他人の魔力だったというくらい。

他は殆ど分からなかったよ。

……君、ホントは未来人なんじゃないか?」

 

 

ジト目で俺を見てくるあたり本気で時間を無駄に使ったことを後悔しているのだろう。

 

 

「はぁ……まぁ調べさせて欲しいといったのは僕たちだし文句も言えないんだがな。

一応確認なんだがそれのデータを上に報告しても構わないか?」

 

「ああ、別に困る事もないしな」

 

 

わかった、協力感謝すると言いつつデータを何処かに転送している。

さて、次はセットアップしつつ魔法を使うんだっけ?

 

 

「よし、ここからの測定は記録してもいいか?」

 

「ああ、構わないよ」

 

「ありがとう、それと今ここの映像はリアルタイムでブリッジに流れてるけど気にしなくていい、単純に艦長やオペレーター、技術者が見たいだけらしいからな」

 

「構わないけど、暇なのか?」

 

「まぁ今は特に反応もないしみんな君のその力に興味津々で手についてない馬鹿者までいるんだ。……全く」

 

 

そう言って何処か愚痴気味になるクロノ。

苦労してんだな。

 

そんな話をしていると誰かがこの施設に入ってくる。

 

 

「ユウさーん!」

 

「お疲れ様、ユウ」

 

「なのは、ユーノ。そっちは終わったのか」

 

「うん、だからユウさんの方に来ちゃった」

 

 

許可はちゃんと貰ってるよ!と2人とも真っ先にクロノに報告するあたりよく分かってる。

 

 

「それにボクがいた方が何かと便利でしょ?ユウの魔法に関する事は一番近くで見てるし」

 

「たしかに君が居てくれれば助かる。今からセットアップ状態で観測に入るから……」

 

 

 

と何やら難しい話をしている2人。

俺にはわからないのでシャットアウトしなのはと雑談し始める。

 

 

「なのは、凄いんだってな」

 

「そうみたいなんだけど……なんだか実感なくて」

 

「まぁ急に言われてもなぁ……」

 

 

なのはの方は砲撃や戦闘など割と多種多様の診察をしたらしく、空戦向きだとも言われたと言っていた。

 

 

「ユウー始めるよー」

 

「ああ、わかった!それじゃ行ってくるよ」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 

さてとりあえず何から始めればいいんだろ?

 

 

「とりあえず君が1番はじめになったバリアジャケットになって欲しい」

 

「了解、ブラスターだな」

 

 

俺はいつも通りメモリをデバイスの背中部に差し込み起動させる。

 

 

 

《mode1・Blaster Nova》

 

「セットアップ」

 

 

 

セットアップするたびに感じるなんとも言えないこの感じ。

自分の中に何か入ってくる、コレが俺のリンカーコアになのはの魔力が入ってくる感覚なんだろうか?

 

 

 

 

「ふむ、やっぱりそのバリアジャケットは彼女のモノに似ているが違うものみたいだな……」

 

「うん、なのはとユウのバリアジャケットだと性質というか根本は似ているけど中身は別物だね」

 

 

難しい会話だ。俺には理解できないので完全に聞き流していく。

 

 

「それじゃあ魔力量を測るから少しじっとしててくれ」

 

「ああ」

 

 

もうこの作業も何回目か、特に身体に違和感などはないがじっとしてるのは苦手な方なのでなかなかにしんどかったりする。

測定できたのかピピッという音がする。

 

 

「ああ、少し待ってくれ今結果が出るから……」

 

「これ……やっぱり」

 

 

なにやら画面を見た瞬間難しい顔をする2人。

今度はどうしたんだ。

 

 

「魔力ランクAAA……一気に跳ね上がったね」

 

「ああ、やっぱり君の言っていた通り増加しているみたいだ」

 

 

どうやら先ほどの測定とは違う結果だったらしい。

 

 

「ユウ、君のレアスキルに名前をつけるとしたら"調和結合"とでも言うべきかな」

 

「調和結合?」

 

「ああ、僕もそれでいいと思う」

 

 

ユーノが解説してくれる。

俺のスキルは自分以外の魔力やそれに類似する魔力に関係したものを自身の魔力の波長(魔力色)と調和させて合体、つまり結合させる事が出来るのでは?との事。

 

 

「まだ詳しくは分からないけどもしかしたら他にも出来る事があるかも知れないね。例えば他の人の魔力の色を変えたりとか……」

 

「まぁ今は残りの計測を済ませよう、ユウ続けてくれ」

 

「了解」

 

 

 

そこからは通常のフォルムを計測していく。

 

ブラスターがAAAランク、セイバーがAAランクと高水準だ。

次はブレイズフォース。

ソードエディションがAA+でスピアーがAA、そしてその2つを使用したマルチモードがAAAランクだった。

 

 

 

「ここまで高ランクだと笑えてくるね、とういうかキミは1人で何フォームになるつもりだ」

 

 

とクロノに言われるが俺だってこんなにあると変身の時どれにするか迷うんだぞ?

と言ったらそうじゃない馬鹿者と言われてしまった。

 

 

「そういえばまだあるだろう?あの黒くなるやつ」

 

「あーアレか」

 

「「それはダメ!」」

 

 

オーバードライブの話をし始めるとなのはとユーノの声が揃う。

まぁアレ使って何回か倒れてるしな。

 

 

「何かマズイのか?」

 

「そういや説明してなかったな……」

 

 

そこからオーバードライブの仕組み、ハイリスクハイリターンな事をクロノに話す。

 

 

「なるほど、だからあの時あんな動きができたんだな」

 

「そういう事だ。まぁ変身するだけなら多少は大丈夫だけど……」

 

 

ちらっとなのは達を見るとブンブンと顔を振っている。

NGみたいだ。

 

 

「観測だけでもしたいのだが……」

 

「うーん……まぁ少しなら大丈夫だろ」

 

「もう!ダメだって!」

 

「別に戦闘しなきゃ痛みとかもないって言ったろ?少しだけだから」

 

 

 

そう言ってなのはとユーノを説得する。

一応使うつもりは無いけど必要になった時にこのデータは必要なのがわかっている。

なんとかなのはを説得し少しだけという約束で使用許可を得た。

 

 

「むぅ……」

 

「はは……それじゃ計測してくれ」

 

 

了解とクロノが返事をしたのでオーバードライブを起動する準備をする。

……やっぱり緊張はするんだけどな。

あれから数日、全く触れていないがあの時の痛みを覚えている。

 

 

「オーバードライブ」

 

《Over Drive 》

 

 

 

自分の中にあった壁が壊れる感覚がする。

俺の魔力が別のモノに変わっていく。

 

 

 

「よしそのまま動かないでくれ…………よしもういいぞ」

 

 

「ふぅ……」

 

 

オーバードライブを解除する。

手を握ったり足を動かすが特に痛みや変な感覚は無く問題ない。

 

 

「……コレは…」

 

「ん?出たか」

 

 

なにやら固まっているクロノとユーノの方に向かい後ろから画面を確認する。

測定不可?なんだこれ。

 

 

「今度こそ故障か?」

 

 

そういうとクロノが俺の方を少し真剣に見ながら説明してくれる。

 

 

「……違う、この測定器は少し古いものでSランクまでしか測れないんだ。

もしそれ以上のランクならこの表示になる」

 

「つまり……ユウのオーバードライブ中の魔力ランクはSオーバー……!?」

 

「それ、凄いのか?」

 

 

と言うと前の2人がずっこける。

そして俺を心底呆れたような目で見てくる。

え?何?

 

 

「ホントにユウは……」

 

「君の気持ちが少しわかったよ、この馬鹿者と戦ってきたというのだから……」

 

 

なんか仲良くなってない?この2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり食事の時間となっている。

ここでの食事は別段マズイという事もなくむしろ俺には割とあっている気がして気に入っていたりもする。

……とはいえ桃子さんやはやての料理が少し恋しくなりつつあるのもまた事実。

 

 

 

「となりいいかい?」

 

「んぐ、クロノか。構わないよ」

 

 

実は男同士という事もありクロノとの交流がなのはやユーノ次くらいにここでは多かったりする。

 

 

「さっきは色々驚かせてもらったよ、あの映像を見ていたクルー達も顔を引きつらせながら笑ってた」

 

「そりゃまた……」

 

「誰のせいかわかってるのか?」

 

 

なんて溜息を吐きつつスープを口に運ぶクロノ。

 

 

「あのオーバードライブだったか?アレには一定の魔力ランク以下の人間に恐怖を抱かせる能力もあるみだいだ」

 

「へーそうなのか」

 

「へーって……まぁいい。どうやらBランク以下はみんな怖がってあの姿を直視すらしたくないレベルだったらしいが、今のキミをみてみんな毒気を抜かれてしまったようだ」

 

 

そう言って周りを見渡すとここで知り合った人たちが俺に手を振ってくれる。

ふむ……何かしただろうか?

 

 

 

「自覚していないようだから僕から言うと君は天然記念物級のお人好しだ。ここに乗っている人間の数はかなり多いはずなんだが……この数日だけで君に助けられたと何件報告が来てると思う?」

 

「あー…別に気にしなくていいのに」

 

 

はぁ…そんな性格だな君はと言って俺とつるんでくるあたりクロノもかなりのお人好しだと俺は思うけどな。

 

 

「まぁいい、今はジュエルシードの反応もないしゆっくり休んでくれ。仮にも今キミたちはアースラの乗員メンバーだからね、倒れられると僕たちの責任になる」

 

 

そう言いつつ何やらお菓子のようなものを俺に投げ渡してくる。

 

 

「なのはとユーノもそれなりに疲労しているみたいだ。それでも持って息抜きでもしてくるといい。……まぁ君からは疲労の色が全く見えないんだが……」

 

 

 

そう言って他にもチョコレートのような物も渡してくる。

やっぱりクロノの方がよっぽどお人好しじゃないか?

 

 

「それじゃ僕はそろそろブリッジに戻るよ。ユウ、君も急に知らない場所で慣れない事をしているんだ疲れはいつ来るかわからない。

ちゃんと休んでおけよ」

 

 

そう言って去っていくクロノ。

ああいうのはなんて言うんだっけ……忍さんに教えてもらったんだが……

 

 

「相変わらずツンデレだねぇクロノ」

 

「あ、それだ」

 

 

急に現れたエイミィに同調する。

 

 

「まぁクロノの言う通り疲れはいつ来るからわからないんだよ?ちゃんと休んでね」

 

「休んでるぞ?」

 

 

そう言うとふふふと笑いながら小声で

 

 

「休憩時間に魔法の特訓してるの監視カメラでブリッジから見てるよー」

 

 

……バレてたのか。

 

 

「わかったよ、今日は大人しく休んでる」

 

「うむ、素直なのはよろしい。それじゃあ!」

 

 

 

そう言って何処かにいくエイミィを見送る。

俺も食い終わったら大人しく休むかなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。

割とスタックが溜まってきたので毎日投稿出来てますねw
と言いつつこのお話が最後のスタックだったり……

それではまた!


ご感想、評価お待ちしてます。


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第23話 海上戦線 last mission

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラに乗り込み約10日。

ここまでで俺となのはが見つけ封印、回収することの出来たジュエルシードは計3個。

 

反応はあったが途中で消え誰か/フェイトに回収されたであろうジュエルシードが2つ。

 

残りは6つだ。

 

 

 

 

 

 

今は食堂でなのはたちはおやつ、俺はコーヒーを飲んでいた。

今話している内容はユーノの家族の話。

 

 

「僕は両親がいないんだ。育ててくれたのはスクライア族のみんななんだ」

 

「物心ついた時にはもう今の仕事をしてたのか」

 

「うん、たしかに親がいないってのは寂しいことかもだけど僕にはみんながいたから寂しくはなかったんだ。もしも両親の事を覚えてて……とかだったらちがったかもだけど」

 

 

ユーノには親がいなかった。

だけど族のみんながいてくれたから平気って本人は言ってるけどきっと寂しかった時や疑問に思った時もあったんだろう。

なぜ僕には親がいないんだろう?って。

 

それでも乗り越えてるのは凄いと思う。

ふと此処で自分の親について考えてみる。

 

覚えてはいないが誰かに育てて貰ったという記憶とういうか胸に何かが残っている。

 

 

「なのはの家族のこと、そう言えば聞いたことなかったね」

 

 

そう言ってなのはの家族の話題に変わっていく。

まずは兄妹である恭也、美由希の話。

 

 

「2人……というか恭也に関してはいつも道場に居るイメージが俺にはあるな」

 

「うん、ボクもそうだね。美由希は朝とかユウや恭也と身体を動かしてるのはよく見るけど他は何してるんだろ?」

 

「うーん、お兄ちゃんはいつも特訓でお姉ちゃんはお兄ちゃんと特訓かお店の手伝いかな」

 

 

美由希はよく翠屋で士郎さんたちの手伝いをして居るのをみている。

時折、恭也も手伝いに来てくれるがそれでも美由希の方が多いイメージだ。

 

 

「そう言えば……温泉の時の話なんだけどさ。士郎さんって事故とかに巻き込まれた事とかあるか?」

 

「……うん、昔ね私もよくは覚えてないんだけど大怪我しちゃってしばらく入院してたよ」

 

 

そういうと何処か力なく笑うなのは。

……成る程、なのはが士郎さんたちにわがままを言えない一端が分かった気がする。

 

 

「昔から翠屋はやってたんだけどね、お父さんが怪我しちゃって営業とかで私以外のみんながすごく忙しくなっちゃったの。

あの時は家が凄く広く感じちゃって少し寂しかったかな」

 

「……それってなのはが何歳の時だ?」

 

「え?えっと……6歳くらいだよ」

 

 

 

6歳の女の子があの家で1人ぼっち。

それは……きっとよくないコトだ。

 

誰かが悪いなんて事はなくて、怪我をしてしまった士郎さんも、その士郎さんの代わりに頑張っていた桃子さんも、その2人を助ける為に頑張った恭也や美由希も。

 

その家族の後ろ姿を見て小さかったなのはは少しでも自分のせいでこれ以上家族が大変にならないようにと子どものワガママや寂しさを押し殺して過ごしてしまったのだろう。

 

その幼少期があるからこそ今のなのはがあるのかもしれないが……それでは余りにも悲しすぎる。

 

きっとその過去の出来事は"仕方がなかった"の一言で終わってしまうかもしれないけどその過去が無ければまた違った未来があったかもしれない。

 

 

「だからひとりぼっちは慣れてるんだ私」

 

 

あははと笑ってはいるがまだ二桁の歳にもなってない少女が持つ心構えとして異常だ。

俺が何かをなのはに伝えようとした時、でもねとなのはが続ける。

 

 

「今はみんな元どおりだし平気だよ?それに最近はユウさんやユーノ君が居てくれるから」

 

「……そっか。ならこの問題が片付いたら3人でどっか遊びに行こうか」

 

「うん、ボクもユウやなのはと遊びたい」

 

 

そういうと嬉しそうに笑ってくれる。

今度からはもっとなのはのワガママは聞いてやらないとなぁ……今まで我慢してたんだろうし、俺なんかで叶えられるなら叶えてあげたい。

 

だがもしこの問題、ジュエルシードの事が解決すればユーノはきっと元いた場所に帰り、俺は俺で決断しなきゃいけない事がある。

 

リンディさんとクロノに言われた事を思い出す。

 

 

"この事件が終わった後の話になるんだがキミは次元漂流者という扱いで僕たち管理局が保護する事が出来るんだ"

 

"私たちの所に一旦来てもらってユウくんの元いた場所を探すか、もし見つからなかったとしてもこれだけ魔法を使えるんだから管理局で雇って向こうで暮らすこともできます"

 

 

俺ももしかしたら近いうち、この地球から去らないと行けない、なんて今はなのはに言うことは出来ない。

 

でも桃子さんと約束したからには一度は必ずあの家になのはを連れて帰るのは俺の中で決まっていること。

あとは未来の自分の選択に任せるしかない。

 

と考えていた時だった。

 

 

 

 

 

艦内に大きく此処数日で聞きなれはじめたアラート音が鳴り響く。

どうやら休憩は此処までで最後の仕事の時間のようだ。

 

なのはとユーノを見ると少し緊張気味の顔の2人が俺の方を見つめている。

 

 

「行こうか?」

 

「「うん!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジに行くと忙しなく働くクルーや指示出しをするクロノがいた。

目の前の1番大きな画面では俺たちの捜査区域の海上で巨大な魔法陣を展開しているフェイトが映っていた。

 

 

「クロノ、アレって……」

 

「ああ、多分君が想像している答えで間違い無い。残り6つのジュエルシードの反応は全て海から出ている。

あのまま強制発動させようとしてるんだろう」

 

「だけどそんなことしたら!」

 

「ああ、あの魔力の使い方に消費量だ。封印を施す為の魔力が残るかどうか怪しい」

 

 

そう話しているうちに画面では海に魔力流が飲み込まれフェイトの目論見通り6つ全てのジュエルシードが同時に発動していた。

 

ジュエルシードは暴走し荒れ狂っている。

あの攻撃の中を一人で尚且つ残り少ない魔力で封印する事はいかにフェイトと言えど………不可能だ。

 

 

 

(アルフ!聞こえるか?)

 

(っ、ユウかい?)

 

 

 

少し焦り気味に今現場にいるであろうアルフに念話を送る。

 

 

(今そっちの状況は把握してる、そのままだと危ないのはわかってるだろう!?フェイトを止めるんだ)

 

(……ごめん、アタシも止めたんだけど今のフェイトは……)

 

 

そう言って声のトーンが落ちる。

どうやらフェイトにジュエルシードを集めさせている第三者が焦り出しフェイトにこんな無茶なことをさせているのだろう。

 

 

(わかった、なんとかする)

 

(でもアンタは……管理局と……)

 

 

 

やっぱり知ってたか。

少し前から念話が通じないのはやっぱりこれ以上関われば情が移ると判断してのことだったんだろう。

フェイトはきっと俺に情が移れば戦えなくなる、俺だってそうだけどあの子はそれ以上に優しすぎるのだ。

 

 

 

目の前の画面ですれすれにジュエルシードからの猛攻を避けるフェイト。

その戦闘の様子を見守る管理局員たち。

 

……やっぱりそう言う事なんだろう。

 

 

 

「あの!私も出動します!」

 

 

画面のフェイトのピンチになのはが思わず声をあげ出動すると言うが……

そこに待ったをかけるのはリンディさんとクロノ。

 

 

 

「許可できません、我々はこのまま待機です」

 

「え……な、なんでですか!?このままだと!」

 

 

その答えを予想していなかったなのはが抗議の声をリンディさんに言うが……

そこにクロノが止めに入った。

 

 

「このまま放っておけば確実にあの魔導師はジュエルシードの封印を行う前に魔力が底をついて自滅する。

仮に封印出来たとしてもその時点で力尽きるのは目に見えている。

ならば僕たちにとっての最善は今はここであの戦いの様子見が1番だ」

 

「そんな……」

 

 

無慈悲に聞こえるかもしれないが管理局として考えるならそれが一番正しい。

此方は最小限の動きだけで容疑者のフェイトを捉えることができ、後者でも封印済みのジュエルシードが付いてくる。

まさに一石二鳥といったところか。

 

アースラの人たちは仲間としてみてくれている俺たちには優しいが仕事で尚且つ敵となれば話は変わる。

なのははその事をまだ受け止められていないのか困惑していた。

 

 

「なのはさん、残酷な事だけどこれが現実なの」

 

「でも……」

 

 

厳しいリンディさんからの言葉に俯いてしまうなのは。

最初にこの船に乗る時の条件は指示に必ず従う事と言われていた。

その事をキチンと覚えているであろうなのはの中では今さまざまな葛藤が起きているんだろうな。

 

そして俺の方をみる。

……俺がなのはに言える事は少ないけど、これだけは聞いておかなければいけない。

 

 

「なのはは……どうしたいんだ?」

 

「私は……」

 

 

そう言って黙ってしまう。

しかしこればかりはなのは本人からキチンと言ってもらわなければいけない。

その時画面でフェイトに魔法弾が掠る様子が映し出される。

それを見てなのはの目に覚悟が宿るのを確かに俺は見た。

 

 

(なのは行って!)

 

(ユーノくん……)

 

 

そこでなのはと俺にユーノから念話が送られてくる。

ユーノはどうやらなのはのしたいことに気づいて助けようとしてくれてるんだろう。

 

 

(でも!)

 

(僕はなのはが困ってるなら力になりたいんだ、なのはだって困ってた僕を助けてくれたでしょ?)

 

 

そうユーノから言われ今度こそ俺の方に向き直る。

……どうやら決まったみたいだ。

 

 

「私は、フェイトちゃんを助けたい!」

 

「なら、行ってこい。俺もすぐに追いかけるよ」

 

 

そう言ってなのはは転送ポートに走り出す。

ここでようやくクロノたちが俺たちのしようとしている事に気づき慌て出す。

 

 

「待て!」

 

 

追いかけようとするクロノの前に立ち動きを止める。

その間にユーノがフェイトの結界内への転送準備を始める。

 

 

「……ユウ、君なら冷静な判断ができると思っていたんだが何をしているかわかってるのか?」

 

「ああ、すまないな。……正直に言えば確かにクロノたちのやり方の方が正しいと思う」

 

 

その俺の言葉を聞き余計に苛立ったのかクロノが俺の服を掴む。

 

 

「ならば!」

 

 

確かに正しいんだろう。

けど。

 

 

「でも!それでもなのはが間違っているとは俺は思えないんだ。

フェイトをただ捕まえて捕縛して正すって意味だけならクロノたちが正しいけど、感情的で管理局にとっては取るに足らない事かもしれないけど、今のフェイトを救って正すと言うって意味ならなのはが正しい」

 

 

クロノに聞いた管理局の犯罪に手を染めた人を捕まえ正すという在り方は立派で素晴らしいと思うけど今のこの状況で機械的にソレを行なっても……きっとフェイトは本当の意味で"正す"事は出来ない。

 

 

あの子は……きっと孤独を抱えてる。

それを一番理解できているのはきっとなのはだから。

 

 

「頼むよ、なのはの好きにさせてやってくれないか?」

 

「……しかし」

 

 

 

俺の言葉に少しは何かを感じてくれたのかクロノの力が弱まり少し後退する。

その様子を見ていたリンディ艦長が俺とクロノに声を掛ける。

 

 

 

「ならその正しいと思ったこと、やってらっしゃい」

 

「艦長……」

 

「クロノ、今回はなのはさんたちの好きにさせてあげましょう。何だかんだと私たちもここ数日助けられていたのは事実です。

特にユウくんに関してはここ局員の大体が何かしらの恩を受けていますしね」

 

 

 

そうリンディさんが言うとみんな此方を見ながらしょうがない奴だなぁとか頑張ってと明るく声をかけてくれる。

……ホントにいい人たちばかりだよな、ここ。

 

その言葉を聞いてクロノが俺の方をジト目で見つつ、

 

 

 

「キミは全く………しょうがない奴だな」

 

 

 

少し笑いながらそう言ってくれた。

 

 

 

「なのはさん1人ではもしかしたらがあります。それに」

 

 

そう言って少し俺に近づき耳打ちしてくる。

 

 

「あの女の子……フェイトさん?だったかしら。あの子ともユウくんは何かあるんでしょ?」

 

 

ホントになんでもお見通しだよな……やっぱり艦長ってだけあって凄いよ、リンディさんは。

 

そして他の局員の人たちも俺見て笑いかけてくれている。

 

……どうやらバレていたようだ。

 

 

 

「全く……僕もこちらの準備が済み次第君たちの応援に向かう。ゲートは開いておいたから行ってこい」

 

「……ああ、ありがとう。行ってくる!」

 

 

クロノに預けておいた俺のデバイスを受け取り転送ポートの方に走って向かう。

 

転送ポートではユーノが待っていてくれた。

 

 

「説得できたんだね、ユウ」

 

「ああ、俺も行ってくるよ」

 

「うん、頑張って!」

 

 

そのままポートに飛び込む。

転送されていく感覚と同時にバリアジャケットに換装すべくメモリをちらっとみる。

 

 

「こっちかな……」

 

 

黒色と金色に彩られたフェイトのメモリを差し込みソードを選択。

 

なんとなくだがこちらを使うべきと俺の中の第六感が叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送が終わると同時に落下する感じが俺の体を襲う。

 

海の上だから、だけではなく暴走したジュエルシードの風圧や魔力弾などもこちらに向かってくる。

 

 

飛行魔法を使いなのはとフェイトのいる方へと向かう。

 

2人は何かを話し、なのはの方は上空に飛んでいった。

そのなのはの方をずっと見続けるフェイトは何かを考えて自分の中で噛み砕こうとしているように見えた。

 

 

 

 

「フェイト!」

 

 

「……ユウ」

 

 

 

……何をなのはに言われたかは予想がつくがどうやらなのはの想いはフェイトの心に伝わったみたいだ。

 

 

「悪い、遅くなった」

 

「ううん、私が無理な事をしちゃってるのはわかってるから」

 

「そっか……ならとっととこれを封印しちゃうぞ?俺は2人のサポートをするから」

 

 

 

目の前に迫ってきた竜巻のようなモノに変質したジュエルシードの暴走体をみる。

 

なのはやフェイトに撃たれる魔弾を斬りつつ2人のチャージが完了するまで耐える。

 

 

 

 

「アルフ!遅くなった!」

 

「……ユウ、ホントに助けに来てくれたんだね」

 

「あたり前だろ?俺、約束は守るから」

 

 

ジュエルシードの暴走を止めているアルフに俺の魔力を補給する。

この姿の魔力なら使い魔のアルフでも供給しても問題ないはずだ。

 

 

「ユウのそのフェイトそっくりの姿については今は聞かないけどそのうち教えてよ?」

 

「ああ、そのうちな」

 

 

そういって2人で迫り来る攻撃を相殺し、切り裂き、時間を稼ぐ。

 

 

「あのなのはって子、フェイトをどうしてあんなに助けようとしてくれるんだい?」

 

 

急にアルフに聞かれた言葉になんて答えようか悩む。

うーん、アレはたぶんだけど。

 

 

「多分だけど俺が思うになのははフェイトと______ 」

 

 

 

そう話していると上空のなのはの魔力もフェイトの魔力も充填完了のようだ。

 

なのはの方を見上げると巨大な魔力流と魔法陣、ディバインバスターのフルパワーのようだ。

 

 

 

 

「いくよフェイトちゃん!せーの!」

 

 

 

下ではフェイトが別の魔法陣を展開し、こちらも巨大な魔力流となっていた。

 

 

 

「あの魔力攻撃を同時に受けるジュエルシードには少し……同情するな」

 

 

 

そう考えてしまうほどには巨大で、そして綺麗な桜色と金色の魔力光がジュエルシードの暴走体の間を挟んでいる。

 

 

 

 

「ディバインバスター!!!」

 

 

「サンダーレイジ!!!」

 

 

 

 

____2つの魔力光が同時に上と下から放たれ一直線に暴走体、6つのジュエルシードに向かっていく。

 

見ようによってはその光は美しく伸びる架け橋にでも見えた。

 

 

 

巨大な爆発音とともにぶつかり合う魔力と魔力。

クロノが言っていた天才の意味が分かった気がする。

ここまでの魔力を一度に噴出して尚且つまだあの子には伸び代がある。

 

魔法の才能がない俺からすれば今のなのはとフェイトの織りなすこの光景はとても美しくそれでいてすごいと思う。

 

だがそれと同時に2人の魔法の才能がとても大きく自分にないものだと見せられているような錯覚に陥る。

 

あの2人の止まることのないであろう魔法の才能。

 

 

それはとても____羨ましい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発と光が収まり海上に静寂が戻る。

 

封印された6つのジュエルシードは静かに佇みまるでなのはとフェイトを見守っているようだ。

 

 

最初はなのはの方から話しかけていった。

 

 

 

 

「フェイトちゃん、私は」

 

「…………」

 

 

 

その何かを伝えようとしているなのはをしっかりと目を合わせ向き合うフェイト。

 

 

 

「私は友だちに、なりたいんだ」

 

 

 

そう真剣にフェイトに自分の思いを伝えたなのはは何処か晴れやかで。

 

とても輝いて見えた。

 

その言葉を聞き動揺しているフェイトもまた何かを考えて伝えようとする。

 

 

しかし

 

 

《Danger》

 

「……っ!」

 

 

 

ツァイトの音声が聞こえた瞬間空から雷鳴が轟きだす。

 

今まで感じて来たどの魔力よりも強い、その矛先が目の前の少女たちに迫るのを感じた時には俺の身体は動いていた。

 

 

 

空から鳴り響きまさに光の速さで巨大な魔法の雷がフェイトにぶつかる___!!

 

 

「っ!?」

 

 

フェイトも隙を突かれ完全に固まりこのままでは直撃は免れない。

 

 

 

「フェイト!!!」

 

「え……?」

 

 

 

思い切りフェイトを対局のアルフがいる場所に突き飛ばす。

あの魔法は十中八九、魔力色で誰を狙い撃つか判断しているものだ。

 

ならば、あの追尾がある魔法でも今の俺のこのフェイトの魔力色を擬似的に使っている姿なら_________変わり身くらいにはなれる!

 

 

俺の予想していた通りフェイトを狙っていた雷はそのまま俺の体に突き刺さる。

 

 

「っ!!!くぅ!!!」

 

 

痛い、なんてモノではなかった。

身体中の水分が蒸発し肉が焦げ、頭の思考回路がショートしていく。

 

 

「ユウさん!?」

 

 

俺を助けようとしてくれたのか近寄ってくるなのはもこの攻撃に弾かれてしまう。

 

 

 

ーーヤバイ、意識が……

 

 

そろそろ俺も限界のようで体から力が抜けていく。

何かを叫んでいるなのは。

だが声は聞こえない。

 

 

今見えているのはジュエルシードを回収しようとしたクロノとそれを突き飛ばしたアルフ。

 

どうやら何処かのタイミングでクロノが応援に来てくれていたらしく、そのことに感謝をしたいが何故か声が出ない。

 

 

ついに飛行魔法が解け落ちていく俺が最後に見たのは俺を助けようと飛んでくるなのはと、アルフに抱えられたまま俺の方に手を伸ばす泣きそうなフェイトの顔だった。

 

 

 

____ああ、泣かせちゃったなぁ……

 

 

と考えた時には俺の意識はプツリと切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。
今回で原作の9話のお話が終了しました。
次回からは原作の10話か0.5話のお話を挟むかと思います。


それではご感想と評価の方、お待ちしております!



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第24話 黒幕と「約束」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

ふと目が醒める。

 

あれ、俺いつ眠ったんだっけか。

 

 

 

というか……此処はどこだろうか?目を開け顔を動かして見渡すが見覚えない部屋だった。

 

清潔感があり今俺が寝ていたベットも真新しく、棚などには薬や包帯など医療道具が目立つ。

 

自身の身体を見渡してみれば包帯や湿布、そしてコードに繋がれた先には自身の心肺などの数値であろうモノが表示されている機械があった。

 

はて、俺は何故こんな大層な治療を受けていたのだろうか?

 

少し痛む頭を回転させる。

 

最後に覚えてるのは確か………

 

 

 

青ざめた顔でこちらに飛んでくるなのはと苦渋の顔でフェイトを抱え撤退するアルフ、そして泣きながらこちらに手を伸ばすフェイト。

 

 

 

そこで全てを思い出す。

空から降り注ぐ怒りの様な感情を込められた雷。

 

その雷が一直線にフェイトに降り注ぐ瞬間、俺の身体は勝手に動いていた。

 

あ……そっか俺フェイトを庇って雷に撃たれたんだっけ。

 

そう自覚した瞬間、身体が痛みを訴えてくる。

まだ少しだけしびれが残っているのか上手く腕や足に力が入らないな……。

 

 

「って事はここはアースラの医療室か」

 

 

やっとここが何処かわかり少し安心した。

とは言え俺がどれだけ気を失っていたかやどれ程で復帰できるのかがわからないのが残りの不安である。

 

 

取り敢えず誰か呼んだ方がいいのだろうか?

しかし、俺の体感では眠っていたのは数時間程度の様な気もするし今局員の人たちは忙しいのではないのか?と頭で葛藤する。

 

 

だがここで報告しなければクロノに怒られるのは予想がつく。

取り敢えず念話で目が覚めた事だけ伝えるか……

 

 

(えっとクロノ、聞こえるか?)

 

(……っ!?ユウ!)

 

 

何やら凄く驚いた感じだ。

何となく嫌な予感がする。

 

この手の反応を今の状況の俺にするという事はそれなりに心配をかけてしまったのはまず間違い無くて……

 

 

(今すぐ行くから大人しくしててくれ!)

 

(え、ちょ!)

 

 

そのまま念話が切れる。

あー……ホントに嫌な予感がしてきた。

 

それから5分ほどで扉が開きクロノが部屋に駆け込んで来た。

 

そして俺の顔を見た瞬間に切羽詰まり焦っていた表情から一気に脱力し、溜め息をつくクロノ。

なんか失礼な気がする。

 

 

「俺の顔をみて何故に溜め息を吐く?」

 

「はぁ……そういう所だぞ、全く」

 

 

そう言いつつ横の椅子に座り呆れながらも笑いかけてくれる。

ふむ……やっぱり心配をかけてしまったようだ。

 

 

「君は今の現状は理解できているかい?」

 

「いや全く、自分がどれだけ気を失ってたかすらわからない」

 

「まぁそれが普通か。取り敢えず今の状況を説明するよ」

 

 

そう言ってクロノは現状の説明とあの戦いの後の事後報告をしてくれる。

 

 

「取り敢えず6つ中3つのジュエルシードはこちら側が確保したよ、残りは向こうだ」

 

「あー……悪かったな」

 

「今更だ、それに君たちのする事を認めてしまった僕自身の責任もある。……続けるぞ?」

 

 

そう言って続きを話し始める。

もっと怒られると思ったんだが、意外にもクロノは自分の責任と捉えているようだ。

 

 

「君が目覚めたのが丁度……あの戦いから2日だ。今、リンディ艦長がなのはの家の方にこの約10日間何をしていたかと、君がどうしているかの説明に向かっている所だ」

 

「え、でもあの人たちに魔法の事は」

 

 

士郎さんたちは魔法に関する事は一切知らせていない。

下手なことを言われると色々と誤解を生む可能性を考えつつ冷や汗をかいているとクロノが分かっていると言いつつ続ける。

 

 

「無論、全てを話す訳ではないから安心してくれ。……辻褄合わせのために少し勘違いしてしまうような事を話すかもだが」

 

 

要は嘘を吐く、って事か。

少し心が痛むが話せないことがある以上しょうがないかな……

 

 

「そしてここからが重要な話になる。今回の事件、ジュエルシード事件の黒幕に当たる人物が特定できた」

 

 

そう言ってクロノはデバイス操作し3Dモデルのようなモノを表して俺に見せてくる。

空中に浮かぶ文字と人物写真、そして経歴に目を通す。

 

 

 

「"プレシア・テスタロッサ"それが容疑者の名前だ」

 

「この人が……」

 

「ああ、出身はミッドチルダ……僕たちの世界だ。かつては僕たちの世界での学者で次元航行エネルギーについて研究していた強力な魔導師だ」

 

 

成る程、あの魔力攻撃はこの人からの攻撃だったのか。

 

それだけ凄い魔導師の攻撃ならあの感じた事がない程の痛みや衝撃も納得できる。

 

……俺がポンコツなだけかもしれないけど

 

 

「あれ、コレって………」

 

 

プレシアの経歴に引っかかるものがあった。

違法実験による事故により足取りが掴めなくなっていた?

そしてその実験内容や家族構成などが書かれている。

 

 

そしてその娘に当たる人物の名前"アリシア"当時の5、6歳程度だろうか?その子の姿がやけにフェイトと重なる。

 

よく見てみればプレシアの顔にフェイトの面影や似ているところがあるし多分親子なのだろう。

 

そう考えるとフェイトがジュエルシードを集めていた理由も母親の為という事で納得がいく。

 

………しかし、俺が引っかかり嫌なものが残った理由は。

 

 

「なぁクロノ、プレシアに他に子どもはいないのか?」

 

「ああ、記録に残っているのはそのアリシアという子だけだ」

 

「……そっか」

 

 

この記録によるならばこの時点でフェイトの記録がここに載っていないのはおかしい。

今のフェイトはなのはと同い年くらいだ。

 

つまりこの4、5年ほど前の物にプレシアの子どもとして情報が一切乗っておらず、代わりにアリシアという女の子が載っているという事は……今俺が無い頭で考えられるのは2つ。

 

1つはフェイト自身の本当の名前がアリシアで俺たちに偽名を名乗ったという可能性。

 

そしてもう1つはつい先日、このアースラで偶々俺が興味を惹かれ見ていた"クローン"の技術に関する事件記録。

けどそれは……

 

 

ここまで考え頭を振りリセットする。

あくまで憶測でありこれ以上考えるのは良くない。

 

 

 

「さてユウはこの後身体チェックに入ってくれ。もし問題ないようならこの後なのはたちと合流してもらって構わない」

 

「いいのか?」

 

「ああ、君のことを一番心配していたのは間違いなくあの子だからな。その間抜けな顔を早く見せて安心させてやれ」

 

「はは……そっか。ありがとな」

 

 

そういうとあまり無茶はしすぎるなよ?と言って部屋を出て行くクロノ。

それに入れ替わり検査を担当してくれるであろう人たちが入ってきた。

 

久しぶりに士郎さんたちに報告も兼ねて会えるのは俺自身とても嬉しい。

早く済ませて行くとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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転送ポートから公園に転送してもらう。

身体の方は特に問題なく、あまり無茶しなければ魔法も使用できるみたいだ。

 

リンディさんからは少しのお説教を頂く事になるとクロノに言われ少し億劫気味になりながらも此処に帰ってこれた。

 

時間を確認すると10時過ぎ。

なのは達は先に高町家にいるだろうし俺もすぐに帰りたいが先に寄らなければいけない所がある。

 

この公園から近いし先に会っておこう。

 

 

 

 

前までは3日に一度は来るくらいには入り浸っていた家が目の前に迫る。

ほんの数日、10日ぶりに来たこの場所はなんだが久しぶりに感じてしまう。

それだけ此処に通っている頻度が高いという事だろう。

 

インターホンを鳴らすと直ぐに家の中から"はーい"という声が聞こえる。

 

いやー……全く連絡してなかったのもあるんだが、何よりもこっちに戻って来たときにみたメールの量と不在着信で少し……いや、かなりドキドキしている。

 

そんな事を考えているうちにガチャと扉が開き………

 

 

「はーい、どちら様……?」

 

「えっと、こんにちは?」

 

 

ぽかーんとこちらを見たまま固まっているはやてに挨拶する。

………あれ?まだ復活しない?

 

 

「おーいはやてー?」

 

「…………ユウさん?」

 

「おう、久しぶり」

 

 

どうやら正気に戻ったようでこちらにやっと目を向けてくれる。

そしてとてもいい笑顔を見せてこう言われる。

 

 

「詳しく、話してもらおか?」

 

「ですよねー」

 

 

このはやての怒った顔を見るのは2度目だがやっぱり怖い。

前回は俺がはやてと戯れていた時に調子に乗り過ぎ怒られたが今回はその時よりも何倍も黒いのがはやての背後から出ている気がする。

 

そのまま久しぶりの八神家にお邪魔してリビングまで通され(連行され)る。

そして"っん!"と両手をこちらに伸ばして来るはやて。

 

はいはい……怒ってても俺が抱っこするのは変わらないのね。

 

そのまま車椅子からはやてを抱き上げ、ソファーの上に移動させる。

俺は対面に座ろうとしたがはやてのご指名により今は椅子と化しています、はい。

 

 

「……で?」

 

「え?」

 

「で、弁明は何かあるん?」

 

「いや……その……」

 

 

はやてからなんとも言えない凄みを感じる……これは言い訳は聞くけど許さんという不屈の意志が込められているように感じる。

 

 

「メールに返事もなし、電話は折り返してこーへん、それが10日間」

 

「えっとですね……一応、連絡は最初の方に……」

 

 

そういうとジト目をこちらに向けて余計に機嫌が悪くなる。

これは……薮蛇ったか?

 

 

「ふーん……10日前になんて送ってきたか、ちゃんと覚えてるん?」

 

「え?……えっと確か、"これから少しの間会えなくなる"みたいな?」

 

 

ふむ、確かそんな感じにメールを打った気がする。

そういうとはやての表情が笑顔になる。

……しかしその笑顔には怒りマークのおまけ付き。

 

 

「"しばらく会えない。多分連絡もつかないと思うから"って来たんよ?」

 

「ああ……そうだっけ」

 

 

確か転送直前とかで焦って打ったからそんな内容にもなるか……

というかその文体をいきなり送られてきたら……なんというか、勘違いしそうだよな。

 

所で急に静かになったな?と気になりふと顔を上げはやての顔を見ると目の前のはやてが段々と涙目になり嗚咽を漏らしていた。

 

 

「……急にいなくなるって言われてそっから連絡もつかんし」

 

「えっ……ちょ!」

 

「私が寂しかったら直ぐに駆けつけてくれるゆーたのに……」

 

「ごめん!ごめんなさい!!」

 

 

グスグスと泣き出してしまう。

俺の想像以上にはやては寂しかったみたいで俺の胸に顔を押し付けてギュッと服を掴んでくる。

なんとかあやそうと頭を撫でつつ謝るがあまり効果なし。

 

……ヤバイ、俺こういうの1番弱いのに。

こういう時どうしてやるのが1番正しくて、はやてへの謝罪になるかわかない。

 

 

「……急に居なくなったりしない?」

 

「え?」

 

「急に!あんな風に居なくなったり連絡しなかったり……そういうの私、寂しい」

 

「……悪い、もうしないよ」

 

 

このことは完全に俺が悪い。

そもそもはやてが1人で寂しいならと俺が自分からそばにいると言ったのに……

反省しなければ。

 

 

「なら、許す」

 

 

そう言って俺のTシャツで思い切り鼻をかむはやて。

……まぁ、これで許してもらえるんだ。

そのまま1時間ほどはやてと今まで何をしていたか(魔法の事は別の事に置き換えつつ)を話しまた後日、ちゃんと遊びに来る事を約束する。

 

 

「そろそろ俺は行くよ」

 

「むー……」

 

「いや、そんなむくれて抗議されてもな……」

 

 

俺の膝の上に張り付き両手で必死に留めようと俺の胸を握るはやて。

多分本人は力を入れてるつもりなんだろうけど俺からすれば可愛らしいくらいの力で押しのける事は簡単だが、その……出来ない。

 

俺の知っているはやては甘えてはくるがまだ何処か一線引きつつ俺と接していたはずだが、今目の前のはやてはその一線が切れて甘えてくる。

これがアースラでエイミィから教えてもらった"ギャップ萌え"なるものなのだろうか?

 

 

「……あと少しだけだぞ?」

 

「うんっ」

 

 

久しぶりのユウさんやー、なんていいながら甘えてくる子を無下にする事は俺には……出来ないッ!!!

 

甘すぎる自分に少し嫌気がさすがはやての顔を見ていると幸せになれるあたり俺も結構ちょろいんだろうな。

 

そうしてここから追加で1時間ほど過ごす事になるのだが、こんな事前にもあったような?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、時間は12時過ぎ。

あれから少し歩き目の前の高町家の前まで来た訳なのだが。

 

 

「少し……緊張するな」

 

 

今日は翠屋も休みで士郎さんと桃子さんは多分家にいるよなぁ……。

 

別に悪い事をした訳ではないのだが何となく入りづらい。

しかしいつまでも此処で地団駄を踏んでいてもしょうがないと鍵を開け、扉を開く。

 

 

「えっと……ただいま戻りました」

 

 

そのままリビングに入ると士郎さんと桃子さんにリンディさん、なのはとユーノが居た。

どうやら丁度いいタイミングだったらしくリンディさんが打ち解け桃子さんと談笑している最中のようだ。

 

俺が扉を開けるとまずなのはとユーノがびっくりした顔をしてそのまま固まる。

多分だがリンディさんに念話で落ち着け的な事を言われたのだろう。

俺が帰ってくる事はクロノ経由でリンディさんに伝わってるはずだし特に問題ないはず……だよな?

 

 

「あれ、おかえりユウくん。早かったね」

 

「おかえりなさい、ユウくん」

 

 

そう言って労ってくれる2人。

桃子さんは俺の分のお茶を入れに言ってくれた。

とりあえずは報告とこれからについて軽くではあるが話していく。

 

 

「明日1日は家にいるんだろう?このままゆっくりしてていいよ」

 

「すいません、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

「うん、僕としても少し休んで欲しいしね。リンディさんから聴いたよ?かなり無茶してるみたいだね」

 

「えっと……そんな事はない……はず?」

 

 

言い切る前になのはとユーノ、リンディさんからそれぞれ呆れや少しの怒りを感じ黙る。

そんなに無茶な事してないと思うんだけどなぁ……。

 

 

「どうやらなのははそうは思ってなかったみたいだね?休息も大事な事だよ、ユウくん」

 

「はい、ゆっくりさせてもらいます」

 

「うん、色々話を聞かせてくれると嬉しい。

………そろそろもう少し砕けた喋り方でもいいんだよ?」

 

 

そう言って少し寂しそうに俺に言ってくるが……割と砕けた口調で話していると思うんだが……

横で桃子さんもうんうんと頷いているのを見るとそうは思われていないという事だろう。

 

 

「えっと、努力します」

 

 

今の俺の返事はこれで精一杯だ。

その後、軽く世間話をして俺は部屋に戻らせてもらった。

久しぶりの自分の部屋に少し考え深いものを感じる。

 

最初は居候させて貰う部屋だったのもあり愛着のようなものもなかったのだが、それなりにここで過ごし久しぶりに帰ってきてみるとそれも変わったみたいだ。

 

 

さて、まだ14時だし本でも読もうかな?

とはやてから借りた本とイヤホンを取り出しツァイトに差し込み音楽を聴きつつ読書に入る。

 

因みにこのイヤホンは管理局員の方から貰ったもので時折、時間があれば使っている。

 

そもそも音楽を聴く機能がデバイスにある時点で色々突っ込みたいとクロノに言われたが便利だしいいと思うけど。

 

 

「〜〜〜♪」

 

 

少し鼻歌を歌いながら本を読み進める。

いろんな人と交流する時間は貴重で楽しいけれど俺はこういう1人でゆっくりとする時間も嫌いではない。

 

 

思えば最近は必ずと言っていいほど誰かが隣に居てくれたおかげで不安もなく尚且つ寂しさも無かったが久しぶりに1人になると少し考えてしまう事も出てくる。

 

 

例えばフェイトの事。

 

アレからあの子はどうなったのだろうか。

最後に見たあの泣きそうな顔とフェイトに放たれたであろう悪意のある攻撃。

 

多分フェイトはあの攻撃を放ったであろうプレシアの元に帰ったのだろうが……

 

 

マイナスな事を考えてしまう頭を振り思考を切り替える。

 

そこからはこれからの事、ジュエルシードの事を考えている家に時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?」

 

 

コンコン、と言う扉をノックする音で思考が中断されイヤホンを外し本に栞をかける。

 

 

「ユウさん、今いいかな?」

 

「なのは?大丈夫だよ」

 

 

扉がそっと開きなのはが入ってくる。

ああ、そう言えばまだ2日前から話してないんだっけか。

 

 

「とりあえず座れば?」

 

「あ、うん。……よいしょ」

 

 

そう言って俺が座っているベットの上に乗るなのは。

俺からすれば最後に見たのはあの海の上で目が覚めたのもさっきだからそんなに時間は経って感じないが、なのはからすれば俺と会話をするのが2日ぶりになるのか?

 

 

「身体、だいじょうぶ?」

 

 

俺の横で体育座りをしつつ顔だけこちらに向けて上目遣いで不安そうに聞いてくる。

クロノの言ってた1番心配してくれてた子に精一杯の元気アピールをする。

 

 

「ああ、めちゃくちゃ休ませて貰ったからな。もうぴんぴんしてるよ」

 

「そっか、なら良かった」

 

 

そう言ってクスっと笑うなのは。

やっと笑ってくれた。

 

 

「ユウさんはそういう人だってわかってるからあんまり言わないけど、あんまり無茶な事はしちゃダメだよ?」

 

「ん、悪い。心配かけたな」

 

「本当にもう……」

 

 

そこで会話が途切れる。

正確には俺がなのはに向き直り話しかけようとした時に見た顔からつーっと一粒の涙が流れているのを見てしまったから。

 

 

「……っ」

 

 

ぐしぐしと溢れてる涙を手で拭き取るが次々と流れる物は止まらず、泣き出してしまった。

………クロノの言っていた言葉が蘇る。

 

"キミの1番近くに居てくれる子の事をもっと理解して上げたほうがいい。いくら強いと言っても本当の心中まではその本人にしかわからないのだから"

 

 

「なのは」

 

「っ!なんでも、ないから」

 

 

やっぱり強がってしまう。

……本当に心配してくれていたんだな。

少し悪い事かもしれないがここまで心配してくれていたなのはの姿をみて申し訳ないと思う気持ちと罪悪感、そしてちょっぴりと心が温かくなる感覚。

 

俺はここまで誰かに大切に思われていたと感じたのは始めの気がする。

 

 

「なのは、ごめんな」

 

「なんで、謝るの?私は大丈夫だから」

 

 

そう言って顔を反対に向け、俺から逃げる様に後ろを向く。

ここで俺が一歩踏み出さなければきっとなのはは俺にも本心を言ってくれなくなる、そんな気がして。

 

 

「なのは、本当にごめんな」

 

「っ!」

 

 

俺の出来る限りで優しくハッキリとつげる。

そしてなのはを後ろからぎゅっと抱きしめる。

自分の存在を証明する、俺は生きている、元気だ、ごめんねの気持ちを伝える為に。

 

少ししてなのはがポツリ、ポツリと小さいがハッキリと言葉を発し始める。

 

 

「……しんぱい、したんだよ」

 

「ごめん」

 

「ユウさんが、しんじゃったかとおもって……っ」

 

「本当にごめん」

 

 

少しずつ嗚咽を含みながら隠していたであろうなのはの本音がポロリ、ポロリと出てくる。

俺が心配をかけたから、俺がなのはを悲しましてしまったから。

ゆっくりとゆっくりとなのはからの言葉を聞く。

 

そして、やっとこちらを振り向き見せてくれた顔は涙を沢山流し、顔が真っ赤になっていた。

 

そのままぎゅっと俺の胸に飛び込み声を上げて泣き出す。

今まで俺に言えず我慢していた事を一身に俺に浴びせてくれる。

 

そして少しの時間が経ちなのはの嗚咽が止まり始める。

 

 

「よしよし……もう大丈夫か?」

 

「……だいじょぶじゃない」

 

 

呂律が回らない口でそう言ってまたぎゅっとしがみついてくる。

コレはしばらくこのままかな?と考えていると何やら視線を感じ扉の方に目を向けると士郎さんたちがこっそりと俺となのはの様子を伺っていた。

 

俺が声をかけようとした瞬間に口に人差し指を指してそのままごゆっくり、と手振りで伝えてくる。

 

……気を使ってくれたのかな?

ならその気遣いを有り難く受け取り、このままなのはと過ごす時間を貰おう。

なのはに話しかけながら時間が流れて行く。

30分ぐらいしてふと思いつく。

 

 

「今日は時間もあるし何処か遊びに行くか?」

 

「……どこでもいい?」

 

「ああ、なのはの行きたいところに行こう」

 

 

そう言うとうーん……と考え始めるなのは。

泣き止んでもう平気そうかな。

そう考えていると決まったのかなのはが俺に目を合わせてくる。

 

 

「決まったか?」

 

「うん、今日はここでユウさんとお話したいな」

 

 

なのははこのまま俺の部屋で過ごしたいという事。

 

 

「なら、そうしようか」

 

 

そこからは何気ない、でも久しぶりに魔法関係抜きの話をした。

不思議となのはと2人で会話をするのが久しぶりな気がして俺としても楽しい時間が流れていく。

 

ふと時間を見ればもうすぐ日が落ちる。

そろそろ夕食の時間だ。

 

 

「ねぇ、ユウさん」

 

「なんだ?」

 

 

先ほどまでの表情から少し真剣な口調も顔になる。

 

 

「もう、本当に危ない事はしないでね?」

 

「ああ、するつもりはないよ」

 

 

そう言うとむぅ……と言った表情になる。

何故?

 

 

「その返事だとまたユウさん"体が勝手に動いたー"とか言うでしょ」

 

「うぐ、それは……その」

 

 

そう言われてもホントに身体が勝手に動いてしまう事があるのだが……

そう考えているとしょうがないなぁ……という顔をしながらなのはにこう言われてる。

 

 

「ならユウさん?あの時の約束使うよ。何でも私の言うこと、聞いてくれるんだよね?」

 

 

ここでそれを使うか……

 

 

「出来る限り危ない事と無茶な事をしない!約束、してくれる?」

 

 

少し上目遣いで懇願する様に、ぎゅっと俺の裾を掴みながら言ってくるなのは。

……出来る限り、努力はしてみるか。

 

 

「わかったよ、出来る限り無茶な事はもうしない。それでいいか?」

 

「うん、約束」

 

「ああ、約束だ」

 

 

そう言ってやっと笑顔を見せてくれる。

………まぁ俺も死にたくはないし、なのはの言ってる事は正しい。

正直、思い返して見れば最近は無茶な事をし過ぎた様な気もする。

 

 

 

「なら全部許してあげる」

 

「ああ、ありがとう」

 

「うん、そろそろ下に行こ?お腹すいちゃった」

 

 

そう言って俺の手を引いて急かしてくるなのはに先ほどまでの涙はなく、今は笑顔のみ。

 

 

「ああ、行くか」

 

 

 

今はこの束の間の休息を有り難く過ごさせて貰おう。

だがまだ俺の胸に残っているのは最後に見たあの子の泣きそうな顔。

 

 

あの子は今、どうしているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
ミスがあり遅れてしまい申し訳ありません。


感想、評価の方お待ちしております。


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第25話 生き方 / 理由

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

pipi……pipi……

 

 

 

久しく聴いていなかった電子音で意識がゆっくりと覚醒していく。

 

 

少し残った疲れと睡眠から目覚めたとき特有の気だるさ、そして何よりも太陽の光がどこか心地いい。

 

ぼーっとしている頭を振り体を伸ばす。

この部屋で迎える朝がなんだかとても久しく感じてしまうのはそれだけここが居心地がよかったという事だろう。

 

 

「6時か……」

 

 

この時間なら桃子さんは起きて朝食の準備を始めている頃のはずだ。

せっかく目も覚めた事だし久しぶりに手伝おうかな。

 

そう考え、部屋のタンスから黒いジャージを取り出し着替える。

この行動は十日前なら当たり前のようにしていたがこれまた久しく感じる。

ふと窓から外を見れば小鳥が鳴き朝を告げていた。

 

早々に着替えが終わり、下の階に降りて行く。

俺がジャージを好むのは脱ぐのも着るのも手軽に素早く出来るのと動きやすいという点が好きだから……だと思う。

 

下に降りキッチンに入ると丁度よく桃子さんがエプロンを結んでいるところで俺と目が合い、

 

 

「あらユウくんおはよう」

 

「おはようございます、手伝いますよ」

 

「まだゆっくり寝てていいのよ?疲れてるでしょうし……」

 

 

そう言って気遣ってくれるがここは俺のワガママを通させて貰おう。

 

 

「大丈夫ですよ、昨日ゆっくりさせてもらいましたし何より俺が桃子さんの手伝いをしたいんです」

 

 

久しぶりですしと言うと少し狐につままれたような顔をした後、笑顔になり

 

 

「なら一緒に作りましょうか」

 

 

と言ってくれた。

 

さて何を作ろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を作り始め少しすると士郎さんに恭也、美由希の順番で起きてくる。

 

これもいつも通りだ。

この後俺がなのはを起こしに行き全員で揃ってから朝食の時間になる。

 

 

 

「そろそろなのはを起こしてきます」

 

「ええ、お願いね」

 

 

残りの調理を一旦桃子さんに任せエプロンを外し二階に登る。

そしてなのはの部屋のドアをノックする。

 

 

「おーい朝だぞー」

 

 

…………やっぱり起きてないか。

もう一度ノックし一応断りを入れてから部屋の中に入る。

中に入ると予想どうりの光景が目に入ってくる。

 

スヤスヤと安定した呼吸音と暑かったのか少し布団が落ちていた。

少し申し訳ないが起こさないとな。

 

 

「なのは朝だぞー」

 

「んぅ……」

 

 

 

ベットの上で少しねじれながら瞼を開く。

少しぼーっとしているようで起き上がり自分の部屋をキョロキョロした後、帰ってきてたんだっけと呟いていた。

 

どうやら朝の俺と同じ感覚になっているみたいだ。

 

 

「目、さめたか?」

 

「あ、うん。おはようユウさん」

 

「おはよ、朝飯もうすぐ出来るから着替えちゃえ」

 

「はーい」

 

 

よし任務完了、下に戻って手伝いの続きかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後降りてきたなのはを加え朝食を取る。

久しぶりと感じることばかりだな今日は。

 

しかしいつまでもこの時間が続くわけもなく、それぞれの出勤時間や登校の時間になる。

 

 

「そろそろバスの時間じゃないか?」

 

「あ、ホントだ。ご馳走さま」

 

 

そう言って食器を流しに運ぶ。

さて俺もなのはを送ってからの事を考えなきゃな。

そのまま玄関までなのはと歩いて行くと士郎さんと桃子さんが見送りに来てくれる。

 

 

「それじゃいってきます」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

「気をつけてねー」

 

「……まぁ俺はすぐに戻ってきますけどこのままお店に行ったほうがいいですか?」

 

 

色々考えたがやる事が思い付かずやはり働いた方がいいという結論に至り士郎さんに提案してみるがすぐに笑いながら首を振られてしまう。

 

 

「なんならこのまま何処か出かけてきてもいいよ?せっかくなんだから」

 

「あー……わかりました。夕方には戻ります」

 

 

うん、いってらっしゃいと言われてしまい俺の方が折れてしまう。

そのまま玄関から出てなのはと通学路を歩きながらどうしたものかと考える。

 

 

「うーん……」

 

「行きたい所とかないの?」

 

 

あまりにも何も思い付かない俺に気を遣ってくれたのかなのはが聞いてくる。

 

 

「全くないんだよな、ぶっちゃけ翠屋の手伝いする気満々だったし」

 

「私としてはユウさんにはゆっくりしてて欲しいんだけど……」

 

 

そう言ってくれるのは嬉しいがかなり休ませて貰ったし、このままでは体がなまってしまうかも知れない。

うーん……何かないかな……。

 

 

「あ」

 

 

あるじゃないか、今の時間帯でも行けてなんなら魔法の訓練が出来る上に相手もいるかもしれない場所。

それに調べ物まで出来る万能な所、アースラが。

 

 

「決まったの?」

 

「ああ、今日はそこで過ごそうかな」

 

 

さて決まったら即行動だ。

時間は有限だし、なのはを送ってそのままクロノあたりに連絡を取ればすぐにでも行けるだろう。

そう考えているとなのはから何やら疑うような視線が。

 

 

「なんだ?」

 

「危ない事、しちゃダメだよ?」

 

 

少し黒いオーラを出しつつ笑顔で念を押される。

なんかこの感覚に覚えがあるような……ないような?

 

まぁ別に危ない事はしないし大丈夫だろう。

…………とは思ったが一応気をつける事にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはを見送った後、歩きながらクロノに連絡すると構わないと連絡がきてそのままの流れで転送してくれる場所の公園に向かう。

 

この道を歩くたびに思い出すのはこの場所での最初の出会いであり俺の始まり。

 

あの公園で初めて目覚め、気付けば魔法使いになってた……だなんて思い返して見ても不思議な事ばかり起きたものだとしみじみと思う。

 

魔法なんて何処かロマンチックな響きだが実際に使ってみれば危ない事が多かった。

でもこの出会いが無ければ今の自分がいないと思うとそれもまた考え深い。

 

 

「そういえば……」

 

 

ふと思い出すのは始まりのジュエルシード。

あの時なのはの話によれば俺がいた場所にはジュエルシードがあり、それが突然光出し収まるとジュエルシードの代わりに俺がそこに倒れていたと言っていた。

 

 

「……ならそのジュエルシードは何処にあるんだ?」

 

 

今更考えてみればみる程、今の俺のこの状況は可笑しなことばかり。

冷静に今自分が自分に対して疑問を覚えていることを考えて行く。

そもそも俺は何処から来た?俺は何をしていた?何故魔法が使える?

 

ポケットから取り出したデバイスを見つめる。

そして何故デバイスとメモリのみが手元にあった?

思考するが今欲しい答えは見つからずこれ以上の思考は無駄だという結論に至る。

 

 

「まぁ……しょうがないよな」

 

 

そう考えはするが何処か気持ち悪さは俺の心の端に残っている。

ふと気付けばもう公園は目の前だった。

……深く考え過ぎて周りが見えなくなるのも俺の悪い癖だとよく言われるし直す努力しなきゃいけないなぁ……はぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ユウくんお疲れ様ー」

 

「お疲れ様、エイミィ」

 

 

アースラに乗り込み最初にエンカウントしたのはエイミィだった。

 

 

「何かあったの?まだ休暇中でしょユウくん」

 

「何というか色んな人の好意のおかげでやる事がなくなったというか……」

 

 

と少し省きつつ説明して行く。

簡単にまとめるとバイトするつもりだったが休みになったので魔法の訓練に来たと伝えた。

するとエイミィが少し苦笑いしつつ、

 

 

「もう、それじゃ休みにならないんじゃない?」

 

「って言われてもなぁ……昨日もゆっくりさせてもらったし、何ならもう3日は魔法も使ってないから鈍ってるか心配なんだよ」

 

「焦る気持ちもわかるけど……クロノが多分ダメって言うんじゃない?」

 

「そうか?」

 

 

そういうとエイミィが何かを考えるようにじーっと俺を見てくる。

なんだろうか?

 

 

「アレだね、ユウくんって誰かからの好意とかに鈍いタイプだね」

 

「そんな事無いと思うけど……」

 

「更に付け足すとかなり損するタイプかな」

 

 

"私はそう言う所好きだけどね"、そう言って笑いながらブリッジに一緒に歩いて行く。

うーん……別にそんな事無いと思うし何ならそう言うものには割と敏感だと思っていたら少し驚いている。

 

 

「あと気になってたんだけどさ、ユウくんってこの事件の後どうするかって決めたの?」

 

「……まだかな、正直選択肢が広がり過ぎてるのもあるけど何より俺って割と優柔不断みたいだ」

 

「ふーん……私としてはユウくんと管理局で働けるのは楽しそうだしこのままアースラに来てくれたらなーなんて思ってたり、ね?」

 

 

もちろんなのはちゃんたちと!なんて人懐っこい笑顔を向けられながら言われる。

確かにその選択肢も惹かれていないといえば嘘になるがまだ先の事だ。

今は目の前の事件を解決する方が先決だと思っている。

 

と、気付けばブリッジの前まで着いていた。

エイミィに続き中に入るとクロノが軽く手を挙げてくる。

 

 

「お疲れ様、クロノ」

 

「ああ、そっちもなユウ」

 

 

軽く挨拶を交わす。

何だかんだと周りの局員の人たちも声を掛けてくれるあたり心配してくれていたみたいだ。

 

 

「それで突然どうしたんだ?まだ休暇中だろう」

 

「ああ、ちょっと訓練施設を貸して欲しくて」

 

 

そう言うと少し驚いた顔をしつつ溜息を吐くクロノ。

………よく分からんが何か失礼なことを思われてる気がする。

 

 

「全く……ホントにキミは……」

 

「ふふ、ね?言った通りになったでしょ?」

 

 

先ほどエイミィが言っていたのと全く同じ言葉をクロノが発する辺りここまで予測できていたのであろう。

そんなに俺ってわかりやすい?

 

 

「キミはまだ病み上がりだろう?少しは大人しく休んだり出来ないのか」

 

「いや……なんか鈍りそうで……」

 

 

そう言うと更に深い溜息をつかれた。

解せぬ。

しかしその後、苦笑いしながらしょうがないなと訓練に付き合ってくれることに。

 

 

「あまり無茶な事はしないでくれ、それと何か身体に異変があればすぐに伝える事を約束してくれ」

 

「ああ、了解した」

 

 

そのまま2人で訓練室Aと書かれた扉をくぐると前の測定した所より少し広い場所に出る。

 

 

「で、何をするんだ?」

 

「とりあえず一通り使える魔法を試すのとバリアジャケットも使い回してみようと思ってる」

 

「ならどれだけ回復したか測る必要があるか、この前の測定器を使うか?」

 

 

そう言って測定器を何処から取り出すクロノ。

ちょっと待ってくれ、今何処から取り出しんだ?

 

 

「む?キミのデバイスにもあるだろう、ストレージが」

 

「ストレージ?」

 

 

はて、聞いたことのないものだが?

そう聞き返すとクロノが少し苦笑いしつつ教えてくれる。

 

 

「簡単に説明するとユウのデバイスにはモノをしまっておける機能があるということだ。

使ったことないなら試しに開いてみたらどうだ?」

 

「へぇ……そんなのあったのか」

 

 

試しにツァイトに聞いてみると画面に一覧表のようなものが表示される。

あれ?俺は使ったこと無いはずなんだが何か入ってる。

 

 

「なぁクロノ、コレって……」

 

「多分、キミが以前記憶を無くす前に入れていたモノじゃないか?そこにモノを仕舞うのは例外を除いてマスター以外には出来ないはずだ」

 

「例外?」

 

「例えばそのデバイスが作られた時からずっと入れられているモノだったりだ。

まぁとりあえず何か記憶のヒントになるかもしれないなら出してみればいいんじゃないか?」

 

 

 

ふむ、確かに。

ならとりあえず1番上の所からでいいか?

1番上に表示されているものをタップしてみるとそのまま俺の手元に生成される。

何だこれ?

 

青と白のメタルで出来たツァイトと同じ形のケースのようなモノ。

というかピッタリとハマりそうだ。

 

 

「何だろうコレ」

 

「さあ?キミのものだろうそれも」

 

 

クロノとと2人で見回すが特にケース以上の役割を見出せない。

 

何か気になる点があるとすれば裏側にあるいつもメモリを挿入する部分の横に何かスイッチのようなものがあるくらいだ。

 

 

「試しにキミのデバイスをはめ込んでみたらいいんじゃないか?

取り外す事も出来そうだし」

 

「そうだな、やってみる」

 

 

クロノに言われた通りデバイスをはめてみる。

ケースの横のレバーを倒しスライドする感じで差し込む。

そのまま上にもスライド方式で入れれば真っ黒だった俺のデバイスが全く別物に見える物に仕上がった。

 

そしてツァイトを起動してみると……

 

 

「お、何か表示されたな」

 

「僕にも見せてくれ」

 

 

画面に【Awakening】 と表示され新しい物がダウンロードされ始めていた。

 

 

「コレはキミたちが話していた新しいバリアジャケットが解放されるときの物に似ていないか?」

 

「そうなんだけどこの"Awakening"の表示は俺も初めてみるぞ」

 

「そうなのか?……なら少し気になるな」

 

 

じーっと画面を見つめていると下に何か新しい表示が出る。

これは……

 

 

「あー……クロノ?」

 

「……まぁ君たちに聞いてた通りといえばその通りだが……」

 

 

ダウンロードにかかる時間が表示されているがその……かなり長い。

終わるのは明日の昼前くらいか?

 

 

「まぁ気にはなるがしょうがないだろう」

 

「だな……」

 

 

何となくガッカリしてしまう。

なんだかんだと新しい物がみれるかもと少し期待していた分かなり時間がかかるのは何だかもどかしい。

クロノもそれなりに気になっていたのか少し残念そうだ。

男というのは何だかんだ"こういう"ものに弱い生き物だからなぁ。

 

と後ろから誰かが入ってくる音がし、クロノと2人で振り返ると苦笑いしたエイミィが居た。

 

 

「えっと、何してるの?その端っこの所で」

 

 

え?と思いクロノと顔を合わせお互いの状況を確認すると広い訓練部屋でわざわざ男2人で角の方に身を寄せ合い何かを隠しながら残念がっているという奇妙な、それでいて何処か勘違いを生みそうな状況なことに気がつく。

 

 

「あ、いや違うんだ!少し事情があって」

 

「ああ、別に怪しいことはしてない」

 

「へー……まぁ深くは聞かないけど一応ここ訓練する場所だから使わないなら他の人に代わってあげてね」

 

 

それじゃーと言って出て行くエイミィを見送りつつ少し溜息を吐くと隣いたクロノと被る。

そのまま顔を見合わせ苦笑い。

 

 

「特訓するか」

 

「ああ、付き合おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから2時間ほどクロノに付き合ってもらい身体の確認と魔法がどの程度使えるか試してみたが基本的には完治していた。

ただOver Driveに関しては少し怖かったので試していない。

 

それとあのケース、名前をエクステンション(Extension)というものらしい。

ストレージの名前一覧にそう表示されていたので多分間違いないはずだ。

 

 

「にしても意外としっくりくるもんだな」

 

 

エクステンションを付けてから何となく違和感があるのでは?と思っていたがそんな事も無くむしろツァイトの演算力が速くなったりセットアップまでのスピードが上がったりと良いことしかなかった。

もちろんスタンバイモードの時も違和感なく重さも少し重くなったくらいで特に気にならない。

 

 

「これならもっと早く見つけておけばよかったな」

 

 

アースラの食堂でコーヒーを飲みつつ手で少し新しくなった自分のデバイスをくるくると回しながら観察する。

なんとなくフォーミュラーノヴァの外装に似ている気がして気に入ってたりもする。

なんならブレイズフォースの方のカバーもあればなぁ……

 

 

「む、まだ食べてないのか?」

 

「クロノ」

 

 

俺の前に座るクロノ。

どうやらお昼ご飯らしくお盆を2つ持っていた。

というかその量を1人で食べるのか?

 

 

「あー……よく食べるな?」

 

「バカもの、1つはキミのだ」

 

 

そう言って溜息を吐きながら俺の前に1つ置いてくれるクロノ。

 

 

「おう、サンキュー」

 

「気にしなくていい、冷めないうちに食べよう」

 

 

なんだかんだと1番気を使ってくれてるのはクロノかもしれないな。

というか他の局員の人に言われたのだがクロノがここまで人に気を使うのはあまり見た事がないらしく驚いていた。

……気になるし少し聞いてみようかな?

 

 

「なぁクロノ?」

 

「ん?」

 

 

もぐもぐとパンを齧りつつ何と質問するのがいいか少し思考する。

別にストレートでいいか?

 

 

「どうしてここまで俺に良くしてくれるんだ?元々そういう性格じゃないんだろ?」

 

「……誰かから何か言われたな?」

 

「ん、まぁそんな感じだ」

 

「はぁ……」

 

 

大きな溜息。

やっぱり俺の自惚れか?

 

 

「まぁその……僕もユウのような奴は嫌いじゃないって事だ。何となくほっておけなくなる」

 

「えっと……ありがとう?」

 

 

思っていた答えのどれにも当てはまらないもので少し返事が遅くなってしまう。

 

 

「僕が勝手にやっている事だ。もし迷惑なら言ってくれ」

 

「いや寧ろ助かりまくってて俺の方が申し訳ないというか……」

 

「ならそれこそ気にしなくていい、僕が勝手にしている事だ」

 

 

そう言って食事に戻る。

むぅ……クロノは俺のことを気に入ってくれてるらしいが俺なんかの何処を気に入ってくれたんだろうか?

そんな事を考えていると今度はクロノ方から声をかけられる。

 

 

「せっかくだから聞いておきたい事があるんだ」

 

「ん?」

 

「ユウ、キミはどうして人を助けるんだ?」

 

 

少し何かを躊躇ってからそう聞いてくるクロノ。

しかし俺にはどういう事かわからない。

 

 

「えっと……どういう意味だ?」

 

「そうだな……例えば僕たち時空管理局の局員はそういう"仕事"だからと言う理由で人を助ける者もいる。

他にも何かしらの利益があるからこそ誰かを助けると言うのが人の在り方だと僕は思っているんだ」

 

 

ふむ、つまり何かしらの自分への得があるから人は人を助けると言いたいのだろうか。

 

 

「だけどキミは……ユウは何の為に見ず知らずの他人を助けるんだ?少しの時間しか過ごしていない僕にでもわかるくらいキミは人を沢山助けているが、僕が見ている限り何も得がないように見えて仕方ないんだ」

 

 

何処か確かめるように、そして見定めるように俺に問いを翳してくる。

 

 

「それで戻るが、キミは何の為に人を助けるんだ?」

 

 

それは……何でだろうか?

俺自身、意識して誰かを助けた事なんてもしかしたら無いのかも知れない。

いつも誰かが困っていたり助けを必要としている場面に遭遇すると気づけば体は動いていた。

 

もちろん優先順位はあるだろう、赤の他人か何か恩のある人なら俺は恩のある人を助ける事を優先するだろう。

だけど、もしも手が届くならもう一つの方も助けたいと思ってしまう。

 

なら俺の答えは。

 

 

 

「多分、俺が人を助ける理由は無いんだと思う」

 

「無い?」

 

「ああ、損とか得とか考える前に誰かが困ってたら体が動いちゃうんだよ。まぁ損するタイプだってよく言われるけど俺自身はそう思った事ないけどな」

 

「………僕には理解できないな」

 

 

そう言って笑うクロノ。

俺自身、言ってる事が常人のそれとは違うというのは理解しているがそれが俺の"在り方"何だと思う。

 

何処かで俺はこの生き方に憧れた。

その誰かの事は思い出せないけど、きっとその人は強く、どんな時だって諦めずに色んな人の手を取っていた……気がする。

 

 

「だけど、その行動の理念はきっと綺麗な物だと僕は思うよ」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ」

 

「まぁあまり気張らず少しは自分の身も考えられるようになったらいいがな」

 

 

それを言われると倒れまくってる俺には耳が痛い……

 

 

「せっかくの休みなんだもう少ししたら戻ったらどうだ。そろそろいい時間だろう?」

 

 

そういえばもう15時前か?

ならもう少ししたら海鳴の方に戻ろうかな。

 

 

「ああ、ありがとう。また特訓とか必要になったら頼むよ」

 

「ああ、連絡してくれ」

 

 

 

そう言ってブリッジに戻るクロノ。

色々と考えされる質問だったな。

 

なんで俺が人を助けるか、か。

 

きっとそれは何も無い俺が初めて自分からすべき事と認知したからなんだろうけど。

 

その生き方をしていたのはどんな人だったんだろか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。
次回から戦闘パートに入ると思います。



評価、感想お待ちしております。


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第26話 それは覚悟の在り方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペラリ……ペラリ……と資料をめくる音だけが部屋に響く。

 

ここはアースラの資料室でよく無知な俺がお世話になっている場所だ。

 

あの後帰ろうと思ったのだが少し気になることがありここの場所を借りて調べ物をしている最中だ。

 

今俺が読み進めているのは希少能力(レアスキル)についての記述が書かれているもので今まで確認されてきたであろう様々な能力が記されている。

 

それは魔力に関係したものだけではなく様々なものがあるという事が書かれていた。

 

例えばそれは予知夢に似たもの。

例えばそれは動物と会話できるもの。

 

何処か地球でいうところの超能力に似ている。

 

 

「ふぅ……」

 

 

パタンと資料を閉じ、次の資料を手に取る。

リンカーコアと魔力生成についての本をめくって目を通していく。

 

だがよくわからないというのが正直なところだったりする。

 

表記の仕方や文章を読み取る事は出来たとしても専門用語や使い回し、その他が俺の理解の範囲に達する事が出来ない。

 

 

「辞書とかあればなぁ……」

 

 

少し愚痴っぽく呟くが今俺の読んでいるものでかなり優しい部類のものらしく、ここから下の本は残念ながらアースラには置いていないとの節を先ほど聞いた。

 

仕方ないと他の資料を眺めて行く。

 

タイトルだけでも地球には無いようなものばかりでどれも興味を惹かれるが量が量だ。

ぱっと見回すだけでも何千冊もあるように思えて少しくらっと来る。

 

いつまでもここにいる訳にも行かないし後一冊くらいで今日はやめておくかな……。

 

 

「……?」

 

 

ふと一冊の本のタイトルを見て俺の手が止まる。

 

研究資料棚の一番角にひっそりと置かれているそれは"聖王"についてと言う何処か妖しくも惹かれるタイトルにそっとその本を取り出しめくる。

 

中の内容はどうやらクロノたちの世界での昔話、俺たちでいうところの聖書やお伽話とかそこら辺の話のようだ。

 

今から何百年も昔の王様のお話で聖王と覇王なる人たちの少し悲しい物語。

 

………この聖王オリヴィエという名前に何処か引っかかる。

 

何となく前から聞いた事がある、いや"知っている"ような?

更に中身を読み進める。

 

前半はその伝説の話、お伽話のような書き方で後半は詳しく解説とオリヴィエについての記述が書かれていた。

 

今は聖王教会なる場所が神格化しているだとか聖遺物だとか興味を惹かれるものが多い。

 

そしてその魔法について書かれた場所でまたしても俺の目が止まる。

 

 

 魔法種について。

 

一般的に魔法技術に関しては大きく二つに分ける事が出来る。

一つは今現状の次元世界でもっとも多くそれでいて一般的にに使用されている魔法体系"ミッドチルダ式"

これに関しては特に記述する事は無いであろう。

 

そしてもう一つが最早見るのも稀となってしまったであろう魔法体系"ベルカ式"と呼ばれるものだ。

 

これに関してはまだ研究が進んでいない箇所もあるため不確定な事を前提に書き残す。

 

まずミッドチルダ式では基本的に魔法の使用者を魔導師と言う括りにおいて定義するがベルカ式では優れた魔法の使用者を騎士、と称していた。

 

遠距離からの砲撃や中距離を好むミッドチルダ式との使用点での違いはまずベルカ式は近接を好み直接相手に魔力光を叩き込む戦い方をする。

 

そして何よりも私が注目したのはベルカ式魔法の特徴であり強みの【カートリッジシステム】の存在だろう。

 

 

 

「カートリッジシステム……?」

 

 

初めて聞くはずだ。

 

初めて見るはずだ。

 

俺はこんな言葉、こんなモノを知らないはずなのに……どうしてこんなにも懐かしく/忌々しく感じる?

 

更に、ページをめくる。

 

 

 

そして最近になり新たにベルカ式にも追加項目が出来た。

 

それはベルカ式の原点にあたり更に言えば今は失われたモノ"古代ベルカ式"なる魔法形態が存在する可能性だ。

私はこれを聖王たちの時代で使われていたモノなのでは、と考えている。

 

そして新たに今私が発見した研究対象の異物は

 

________闇の……結晶?

 

 

「……っ!」

 

 

ナニかノイズのようなものが頭に走り少し痛む、なんだか気分が少し優れない。

資料を一度閉じ近くの椅子に座り込む。

ゆっくりと深呼吸し激しくなる動悸を抑え息を吐く。

 

すると局員が気を使ってくれたのか話しかけてきてくれた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「……ああ、問題ないよ」

 

 

そうですか、と言って元々いた受け付けの椅子に戻ろうとする彼女。

しかし俺が持っていた資料に目を向けて少し驚いていた。

 

 

「えっと……これがどうした?」

 

「あ、いえ珍しい物を読んでいるんですねと思っただけですので、それだけなので気にしないでください」

 

 

そう言って今度こそ元いた場所に戻ると思ったのだがその局員は出て行ってしまう。

 

……なんとなく、なんとなくだが今あの人が何か嘘をついたような?そんな気がしたが特に気にする必要もないかな………

 

 

(ユウ、今どこだ?)

 

(クロノ?どうした)

 

 

そうしているとクロノからの念話、なんでもなのはの方でトラブルがあったらしくブリッジに来て欲しいと言われた。

 

 

(わかった、すぐ向かう)

 

(ああ、頼む)

 

 

っと、そうだこの資料って借りてもいいのかな?

なんとなくだがこれは最後まで目を通しておかなきゃいけないような気がする。

 

 

(クロノ、資料室の本って借りて行っても大丈夫か?)

 

(ん?ああ、重要資料じゃなきゃ構わない。その資料のランクは………と言ってもわからないだろう、横の帯の色は?)

 

(えっと……)

 

 

タイトルが記されている下の所に貼られているラベルのようなシールは青色でEと書かれている。

それをクロノに伝える。

 

 

(ああ、むしろそれは持って帰ってもらって構わないよ。近々処分するようなものにしか貼らないタイプだ)

 

(え、でも一応書類だけどいいのか?)

 

(ああ、その分類分けだと信憑性がないか、もはや誰の知識でも持っているレベルのようなものにしか貼られないはずだから問題ない)

 

 

それならいいのか?

そっと資料に目を落としなら貰ってしまおうとデバイスのストレージにしまう。

 

そういやこれ誰が書いたんだろうか?と著者名を確認するが塗り潰されてしまっていてハッキリと読むことが出来なかった。

 

まぁいいか?それより早めに向かうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開き中に入るとすぐにクロノに手招きされ一つのオペレーターの席に呼ばれる。

 

 

「とりあえずこれを見てくれ」

 

 

そう言われて画面を見ると何処か見たことのある豪邸が映し出されていた。

と言うかアリサの家だよな?ここ

 

 

「ここに何かあったのか?」

 

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 

 

クロノが軽く画面を操作していくと切り替わり何やら檻のようなものに小さな生き物が対峙している画面に変わる。

……ユーノ?

 

 

「檻の中を見てみろ」

 

「……この狼って」

 

 

よく見れば檻の中には何時もフェイトに寄り添っていたアルフがいた。

 

状況が掴めない。

何故アリサの家の檻にアルフが?

 

 

「詳しくはこれから聞く所だ、先ほどまでの出来事を軽く説明するとーーー」

 

 

 

何でもなのはから連絡を貰い事態を観測しているとあの時の使い魔がケガをした状態でアリサに保護されていたとの事。

そしてなのははアリサとすずかを巻き込まない為に今はアリサの家に退避していてユーノがアルフに交渉しているらしい。

 

 

「これって俺も会話できるか?」

 

「ああ、念話と同じだ」

 

「なら少し話させてくれないか?」

 

 

そう言うとクロノは少し考え、

 

 

「まぁ、キミはどうやらこの使い魔と何かしらの接点があるようだし説得するにはもってこいか」

 

「恩にきる、それじゃ」

 

 

そのままユーノとアルフに話しかける。

 

 

 

(ユーノ、アルフ聞こえるか?)

 

(え、ユウ?)

 

(やっぱりアンタか)

 

 

突然の俺の念話で困惑しているユーノと少し力なく笑うアルフ。

まずはユーノに何を話していた聞いてみるとどうやらアルフはフェイトを助けたいだけで管理局に抵抗する気はもうないらしい。

 

 

(それで今からクロノに連絡しようとしてたら突然ユウが……)

 

(成る程、大丈夫だ横にいるクロノも聞いてるから)

 

(そういう事だ、さて次は……)

 

(……アタシの番かい?)

 

 

そう言って此方に話しかけてくる。

 

 

(ああ、出来れば信用してくれると俺は嬉しい)

 

(ユウのことは信用してるしなんなら信頼もしてるさ、フェイトの事を命がけで守ってくれるくらいだしね)

 

 

そう言ってくれると嬉しいが……

ただそれだと他の人は信用できないと聞こえてしまう。

 

……アルフからすればフェイトを傷つける奴はみんな敵に認定されてしまうのだろう。

 

 

(だからユウ、頼みがあるんだ。ユウだけじゃないアンタたち管理局にもだ)

 

(なんだ?)

 

(フェイトを……助けて欲しい。もし頷いてくれるなら全て話すよ……)

 

 

そう言われる。

クロノが俺の方をちらっとみて"好きにしろ"と少し笑いながら言ってくれる。

なら俺の答えは一つだった。

 

 

(任せろ、フェイトもアルフもみんな助ける)

 

(……ありがとう、やっぱりユウはフェイトの言ってた通りの奴だね)

 

(フェイトがなんて言ってたか気になるけど、それより先に話してくれるか?)

 

(ああ、約束は守るよ)

 

 

 

そこからアルフが話してくれた内容にクロノたちは何となく気づいていたのだろう特に驚く事もなく無言で進む。

 

フェイトは母親であるプレシア・テスタロッサの命令でジュエルシードを集めていた。

 

そしてプレシアのやり方やフェイトが何をされていたか、そしてフェイト自身が逆らえない理由も。

 

俺は俺であの時の、フェイトの背中の傷を思い出しアレもプレシアからの暴力が原因だと気づく。

 

 

「酷い……」

 

 

エイミィの呟きが聞こえる。

確かに親が子にする事としては余りにも酷すぎる。

 

いつかの日、あの凍ったような表情と焦っていたフェイトの顔を思い出す。

それでもあの子はきっと信じたかったんだろう。

 

 

 

(……これが今アタシが知っている現状だよ)

 

(協力、感謝する)

 

 

そしてアースラの任務をジュエルシードの確保から更にプレシアの逮捕へと、フェイトを助けるという目的が追加された。

 

そしてこの話を別で聞いていたであろうなのはにクロノが問う。

 

 

(キミはどうしたい?)

 

(私は……)

 

 

何かを掴むように、何処か不安もあるだろうけどそれでもなのはは……

 

 

(私はフェイトちゃんを助けたい)

 

 

その言葉に何処か俺の中の誰かと重なる。

 

やっぱり何時も何処でもこの子はこの子の理念を突き通す強さを持っているんだ。

 

 

(それにまだ私、フェイトちゃんから答えもらってないから)

 

 

そう言って笑うなのは。

"友だち"になりたいとあの時フェイトに言ったなのは。

だけど答えはまだ貰っていない。

 

それぞれのフェイトを助ける意思がアルフに伝わったのか少し涙ぐむ。

 

横にいるクロノに目を向けるとふぅと息を吐き顔付きが仕事をする時の顔に変わる。

 

 

「なら僕たちも行動しなければな」

 

「ああ、必ず助ける」

 

 

それとなのはには言うことがある。

 

 

(それとアリサとすずかにもちゃんと言うことがあるだろう?あんまり友だちに心配はかけないほうがいい)

 

(あっ……うん、お話ししてくる)

 

 

これでいつかのすずかとの約束は守れたかな?

 

そろそろ一度俺も家に戻るか。

そう考えているとクロノに声をかけられる。

 

 

「わかってると思うが無茶はするなよ」

 

「ああ、それじゃまたな」

 

 

そのままアースラを後にする。

全ては明日、なのはとフェイトの戦いに関しては俺は手を出せない。

ならせめて見守るだけでもさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、丁度20時辺りを回ったところで部屋がノックされる。

アースラから貰った資料に栞を指し、返事をするとやっぱりなのはとユーノだった。

 

 

「おう、開いてるぞ」

 

「うん、お邪魔します」

 

 

ひょこひょこと部屋に入ってきたなのははお風呂上がりなのかいつもツインテールで纏めている髪が下され顔が赤い。

 

そしていつもの様にベットに座る。

ユーノはユーノで俺の膝の上に器用に座ってくる。

 

 

「あれ、何読んでるの?」

 

「ああ、これか。アースラで貰ったそっち関連の資料だよ」

 

「へー……」

 

 

興味が惹かれたのか中を見ているがよく分からなかったらしく頭にハテナを浮かべている。

 

 

「ユーノならわかるんじゃないか?」

 

「えっと……うん、書いてることは読めるよ。ただ内容までは理解できないかな」

 

「難しい……」

 

 

そう言って本を閉じ俺に返してくる。

まぁ貰い物だしいつでも読めるし今度にしようかな。

 

 

「それでどうしたんだ2人とも」

 

「えっと……お願いがあってきたんだ」

 

「ボクはそれの付き添いみたいなものだから気にしないで」

 

「おう、なんだ?」

 

 

少し意を決したように此方の目を見ながらなのはが言ったのは。

 

 

「フェイトちゃんと戦う時、私と一対一にして欲しいんだ」

 

「ああ、わかってるよ」

 

「……え?いいの?」

 

 

何処かキョトンとしているなのは。

そんなに俺って戦うの好きそうに見えるのか?

 

 

「だってユウさん、フェイトちゃんに負けっぱなしだし……」

 

「それを言われると少し悔しいな……やっぱり俺が戦うか?」

 

 

あ!今のなし!と焦ってるなのはを横目に少し笑ってしまう。

どうやらアリサ達とはちゃんと仲直り出来たみたいだ。

 

 

「それにまだ戦うって決まった訳じゃないし、説得してみるよ私」

 

「ああ、話し合いで解決できるならそれが一番なんだけどな……」

 

 

ただあの子は、フェイトはきっと譲らないだろう。

あの子の強さの根底は母親への絆だと思う。それを否定してしまえば戦えなくなるどころが心が壊れてしまうかも知れない。

 

多分なのは自身も戦う事が避けられないのは分かってて言ってるんだろうな。

何となく暗くなってしまった空気を変えるべく少し話題を変える。

 

 

「明日、朝早いぞ?」

 

「それは大丈夫、ちゃんと起きるよ」

 

「なら安心かな、俺はそれだけが心配だったよ」

 

 

そう言ってなのはの頭を撫でるとシャンプーのいい香りがする。

特になのはも拒絶する事なく俺のこの行為を受け入れてくれる。

 

 

「ユウさんはすぐそうやって意地悪な事言うんだ……」

 

「はは、ごめん」

 

 

そして少しの雑談。

なのはが帰ってきてから何があったのか、アリサやすずかと話した内容、学校での事や士郎さんに言われたことなど話す。

 

 

「……あ、そろそろ」

 

 

気づけば22時前になっている。

そろそろ眠らなければ明日起きることはできないだろう。

 

 

「ユーノくんいこ」

 

「あ、ごめん少しユウに話があるんだ。先に戻ってて」

 

 

わかった、お休みーとなのはが出ていく。

はてユーノからの用事?なにかあっただろうか。

 

 

「ユウはさ、もう決めたの?どうするか」

 

「その話、か」

 

 

どうやらこの事件の後についてだった。

 

 

「うん、ボクは多分もうすこし地球に残ると思うよ。まだしたい事もあるし」

 

「そっか、ユーノはもう決められたんだな」

 

 

俺と違いユーノはスパッと物事を決められた見たいだ。

 

こういう時は自分の優柔不断なところに少し苛つく。

 

 

「ユウはまだ決まってないの?」

 

「ああ、実はクロノにも話したんだけどな。どうしたらいいのかまだ答えが見つかってない」

 

 

これから先の俺の道。

 

何が正しくて何が間違えで、何が良くて何が悪いのか。

 

その答えは未だ見えず、日を追うごとに俺の心中でグルグルと大きく渦巻いている。

 

 

「アースラにも誘われてるんでしょ?局員にならないかって」

 

「一応な、多分人員不足もあるみたいだし」

 

 

そもそも俺のようなへっぽこを雇ってもしょうがないような気もするんだけどな。

 

 

「多分だけど……」

 

「ん?」

 

「ユウはさどれだけユウ自身が沢山の人に必要とされてるかまだちゃんと分かってないんだとボクは思うよ」

 

 

少し力無さげに言うユーノ。

 

その言葉から何処か俺の気のせいで無ければ嫉妬のような感情を感じる。

 

 

「ユウはきっと凄い事を成し遂げる事ができるってボクは思うよ。だってこの少しの時間でユウはこれだけの人を助けて笑顔に出来た。ボクには無理だよ」

 

「ユーノ……?」

 

「もっと自信を持ってよ、ユウ自身の決断なら誰も文句は言わないさ」

 

 

そう言ってお休みと部屋から出て行くユーノ。

 

………また考えることが出来てしまった。

俺が俺に自信がない、か。

 

どうして今までの記憶がない俺が俺に自信もてる?どうして俺自身を俺が信用しようと出来ようか?

考えればきりが無くなる、だけど今は。

 

 

 

「……風呂、入ってこよう」

 

 

今は明日に備える事を優先しよう。

未来の選択は未来の俺自身に委ねるのが一番だ。

 

 

そして日は跨ぎ朝が来る。

決戦の日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュッと靴紐を結び玄関に立つ。

時間は早朝。

隣ではなのはとユーノが少し緊張気味に此方を見つめていた。

 

 

「おまたせ、行くか」

 

 

そう声をかけるとうんと頷く2人。

アルフとは途中で合流することになってある。

そして決戦の場所は臨海公園。

 

何かと彼処には縁があるがもしかしたらそういう場所なのかもと今考えるには少しズレた思考になるのは一種の現実逃避かもしれないと少し笑ってしまう。

 

 

そのまま2人と家を出て、何時もの通りを歩いて行く。

なのはとユーノはどうやら戦術の話をしているみたいだ。

 

そのままアルフと合流する。

正直そこまで顔色が良くないところを見るに説得は失敗してしまったのだろう。

 

 

「おはよう」

 

「ああ、おはよう」

 

 

それでも朝の挨拶を返してくれるくらいには俺たちを信用してくれている。

ならその信頼に応えるために絶対にフェイトを助けないとな。

 

まだ少し薄暗い朝、公園に着く。

 

日が差し儚い朝焼けの空の下に佇み、俺たちの方に振り返る子は何処か幻想的にも思えた。

そして俺と目が合い、

 

 

 

「…………っ」

 

 

何かを言いたそうだったがすぐに飲み込んでしまう。

……フェイトと直接会うのはあの時ぶりで本当は色々話したいが今は俺の出る幕ではない。

 

 

「フェイト……」

 

 

アルフがそれでも戦わないという選択を諦めきれずフェイトに話しかけるが少し悲しそうに笑いながら首を振る。

 

 

「ごめん、それでも……」

 

 

何かを噛み砕き考え自分なりの答えを出したフェイトが壊れそうな顔で言った言葉は

 

 

「それでも私はあの人の娘だから」

 

 

何処かまだ縋るように、それでいて壊れかけた/壊れている親子の絆を信じようと決めたフェイトは危なく見えたが俺には何処か羨ましくも見えてしまう。

 

 

「だからジュエルシードを渡して下さい」

 

 

そう言ってデバイスを構えるフェイト。

 

………どうしてそこまで信じることが出来るのだろうか?

そう疑問に思うかもしれないが子が親を信じてしまうのは言葉に出来ない理由がある、そう誰かから教えてもらった気がする。

 

 

横にいたなのはが前に出る。

それを見て俺たちは少し下がる。

 

 

「それでも、それでも私は負けられないから」

 

 

そう小さく呟くなのは。

なのはとフェイトは何処か似ている気がしていたがもしかしたらこういう所だったのかもな。

 

 

 

「全部賭けよう、お互いの持ってるジュエルシード」

 

 

 

なのはがスッとバリアジャケットにセットアップする。

 

この空の下2人の魔導師の決戦が訪れようよしていた。

 

 

 

「だから始めよう?私たちの最初で最後の本気の戦い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。

評価、感想お待ちしております!


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第27話 スターライト・ブレイカー 「IF」

今回はお先に書かせていただきます!
前半は順当なお話ですが後半は一種のIFのようなものと捉えて読んでいただけると幸いです!

少し長いですが何卒最後までよろしくお願いします。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュート!」

 

「っ!」

 

 

 

2つの少女のぶつかり合い。

なのはが放つ高速の射撃魔法をフェイトのバルディッシュが切り裂きまた空に昇る。

 

 

この空の上で激しいぶつかり合いが行われているとは他の誰も想像していないだろう。

 

1人はたった1人の母親の為、どんなに傷つけられようとその絆を信じ戦い続ける。

 

1人は救いたいと、友だちになりたいと願った相手のため、その想いを伝え分かり合うために。

 

 

 

「本当は……」

 

 

アルフが呟く。

 

 

「本当は戦わなくて良いはずなのに……どうしてこんなにも残酷な縁ばかり結んじまうのかね?アタシたちとアンタたちは」

 

 

その問いに対しての答えは残念だけど誰にも分からないと思う。

だけどきっとこの戦いの果てに残るものは決して悲しいものだけじゃないって思える。

 

 

2人の激しい戦いの中アースラはきっとこの戦いを何処から監視している、或いは干渉してくるであろうフェイトの母親、プレシアの行方を探している。

 

そして俺たちはなのはとフェイトの戦いを身守るのみ。

 

 

また空で光が弾ける。

 

桜色の粒子が集まり放つ。

対には金の息吹。

何処かこの戦いを見ていると不思議と幻想的にも思えてしまう。

 

 

 

「はぁ!」

 

 

フェイトが一気に接近しなのはの苦手な近接の範囲に入り一閃。

だがこれまでに戦っていたのとその抜群のセンスでなのはは一気に上に上がり避け切る。

 

 

_____だが、その距離が開いた瞬間フェイトの瞳が変わる。

 

フェイトの持つバルディッシュの形状が変化し、あの射撃魔法を打つためにシフトする。

 

だがなのはもすぐに気づき体制を整えようとするが………

 

 

 

「ッ!」

 

 

なのはの両手両足には既にフェイトからのバインドがかけられていた。

ただ見ていた俺ですら気付かないスピードでの高速魔法なんて正直避けれる気がしない。

 

そしてフェイトの周りには途方もない数の魔力生成弾が集まり、

 

 

「フォトンランサー・ファランクス!!」

 

【Photon Lancer Phalanx Shift】

 

 

なのはへと放たれる。

それはなのはへと真っ直ぐと、まるで元々あった場所に帰るかのように吸い込まれ命中していく。

 

あの攻撃を自分は全部受け切れるかと思考するが同時に無理だと結論付けてしまう程に絶望的な魔力だった。

 

フェイトも決着がついたのだと思ったのだろう。

ゆっくり杖を下ろした瞬間だった。

 

 

「えっ……!?」

 

 

桜色の紐のようなバインド魔法がフェイトの両手両足を一気に縛る。

……煙が晴れた先にはボロボロになっていてもまだ倒れていない、まだ諦めていないなのはが魔力を貯め始めていた。

 

 

「私は耐えたよ……だから次は私の番……!!」

 

 

「っ!」

 

 

ならばとフェイトの方も耐える体制になる。

なのははレイジングハートに溜め込んだ魔力更に圧縮し放つ俺の知っている限り最高の一撃。

 

 

「ディバイン……バスター!!!」

 

【Divine Buster】

 

 

なのはの魔力色である桜色と少しの白色が混ざり合いフェイトを飲み込む。

 

そのままなのはの放ったディバインバスターが少しずつ消え、霧散する。

 

果たしてフェイトは_______

 

 

煙の晴れた先その場所に影が見え、フェイトはたしかに倒れずに耐え切ってみせた。

 

 

「マジか……」

 

 

つい呟いてしまう。

あの射撃魔法はなのはの切り札であれ以上のものはないはず。

そしてフェイトがそれに耐えたということは。

 

 

「ユウ、まだだよ」

 

 

横にいるユーノのが何処か自信満々でまだ決着はついてないと言う。

 

 

「だけどあれ以上の魔法は……」

 

「あ、そっかユウはなのはの測定の時いなかったんだっけ?」

 

 

合点の言ったように納得する様にユーノが俺に悪戯っぽい笑みを向ける。

測定?測定とはあの魔力ランクや希少能力を見分けるものの事だろう……か?

 

まて、希少能力?

そこまで考えて視線をフェイトに戻すとフェイトが少し上の空を何処か呆然と見つめていた。

そして俺の視線も自然にその方向、なのはがいる方に向けて。

 

 

________桜色の星を見た。

 

なんだ?あの魔力の強さは。

俺はあんなにも強いもの見たことがない。

あの巨大な塊が純粋な魔力塊だとでもいうのだろうか?ならばデタラメすぎる。

 

 

「あれはなのはのレアスキル、"魔力収束"だよ」

 

「魔力収束……」

 

 

横にいるアルフも呆然と呟く。

何かユーノとなのはが話していたのは知っていたがここまでのものをなのはが持っているとは、正直思わなかった。

 

魔力収束は名の通り、散らばった魔力を掻き集め更に倍加させる。

ユーノから聞いた説明だけでどれだけのものか、どれだけ汎用的なものかわかる。

今回は放ったディバインバスターの魔力を集め直し更に自分の魔力をそこに追加しているのだろう。

 

あの小惑星のような巨大な魔法。

あれを目の前にしている恐怖は正直味わいたくない。

 

 

「いくよ?フェイトちゃん……受けて見て!私の全力全開!!」

 

 

なのはが大きく振りかぶる。

フェイトもなのはからの言葉でハッとし耐えようとするが……

 

 

「スターライト………」

 

 

それよりも先に巨大な魔力の渦が目の前に迫ってしまう。

 

 

「ブレイカー!!!!!」

 

 

 

 

 

世界から音が消える。

光が満たし視界が真っ白になり………

 

 

 

 

 

次に見たのは直撃し、力なく落ちていくフェイトの姿。

 

そしてそれを受け止めるなのはの姿。

どうやら決着はついたみたいだ。

 

なのはの勝利で落ち着いたのはいいがもしクロノたちの予想通りこの光景をプレシアが監視しているなら………

 

 

《Warning!!》

 

 

俺の胸ポケットのデバイスからの音声、危険を訴える。

やっぱり来たか!

すぐにバリアジャケットにセットアップしようと取り出す。

 

 

瞬間目の前が真っ白になり点滅する。

自己に起きたことが一瞬理解できず自分のデバイスを落としてしまう。

 

 

「ユウ!?」

 

 

目の前でフェイトのバルディッシュが雷に撃たれるのが見えた。

そして俺自身も狙われていたという事だろう。

 

2つの雷が俺とフェイトのデバイスにそれぞれ落ち、フェイトの方はデバイスが砕けてしまい、直撃した俺はジャケットを着ていなかったせいでもう意識を保つのもやっとだった。

 

算段ではプレシアの雷撃を俺が防ぐという予定だったのだが全て予想してたってことか……

 

雷撃が止み膝を落としてしまう。

 

 

「ユウ!しっかりして!」

 

「おい!しっかりしな!!」

 

 

ユーノとアルフの声が少し遠く聞こえ少しずつ身体の感覚が無くなってくる。

 

視界に残ったのはフェイトのバルディッシュから吐き出されたジュエルシードがどこかへと消える光景となのはとフェイトが此方に飛んでくる光景。

ゆっくりとスロー再生の様に見えるこの光景に何処か俺は俯瞰していた。

 

 

そのまま俺の意識は常闇へと沈む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラ内部のメインモニターの映像にてなのはとフェイトの戦いに決着が着く。

 

何だかんだと心配していたクロノも気が少し緩むがまだ目的のプレシア・テスタロッサが干渉してこない以上位置の割り出しが出来ない。

 

 

「なのはちゃん、フェイトちゃんを確保。どちらも無事みたいだよ」

 

「そうか……なら次は」

 

 

次はプレシアからの攻撃をユウが止めると言う算段だ。

そこから奴の居所を掴む。

少しの緊張が走り画面に注目した瞬間ーー

 

 

「来ました、次元魔法です!!」

 

 

局員の1人が声を上げる。

そこからそれぞれが一気に割り出しへと乗り出す。

画面でもセットアップしようとするユウが映り全て順調のはずだ。

 

はず、だった。

 

 

「え……2つの次元魔法を探知……?」

 

 

エイミィの報告に一瞬頭が真っ白になる。

そして_____

 

 

ジャケットを着ていない無防備なユウに巨大な魔力の雷が突き刺さる。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

迂闊だった……。

前回の戦いからユウを同時に排除するかもしれない……その可能性を見逃してしまっていた……!

 

生身であんな攻撃を受けてしまえばそれは死という結果に繋がってしまう可能性すらある。

 

………落ち着け、冷静に対処するんだ。

 

 

「すぐに応援を!

そこのキミたちは医療室ですぐにでも治療を行えるように準備するんだ!エイミィは引き続き割り出しに掛かってくれ!」

 

 

すぐに皆が指示に従い行動を始める。

頼む間に合ってくれ……

 

画面に映るユウに必死に回復魔法をかけるユーノとアルフ、そして真っ青なまま必死に叫ぶなのはとフェイト。

 

それぞれを早急に対処すべくクロノ冷静に行動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________?

 

 

 

 

___________________?

 

 

 

 

………………………………………?

 

 

 

 

 

 

 

深い、深い所から意識が覚醒する。

 

 

ふと、顔を上げると見たことのない景色。

 

壊れかけのビルにヒビの入った道路。

 

そしてあらゆる場所に落ちている故意に壊された様なロボットの様なもの。

 

まるで何処かの戦場かそれもモチーフにした訓練場の様にも思える。

 

何か大事な事を忘れている気がする。

 

ゆっくりとこの壊れかけた道を歩き始め辺りを見回し散策していく。

 

 

人影は特になく伽藍としたまるで無人の世界にも思える程にここは静かである意味、何もない。

 

崩れかけのビルの横を通るとガラスに反射し自分の姿が映る。

 

……?何か違和感。

 

鏡に写る自分自信の姿、いや格好に何処か不自然な感覚を覚え立ち止まる。

 

もちろん他の顔や身体つき、視力などは特に違和感もなくいつもの俺だと胸を張って言えるが今着ているこの服は…………

 

 

「どう見ても管理局の制服……だよな?」

 

 

くるっと回りながら後ろ姿も確認するがクロノたちが着ていた服に酷似している。

 

何なんだこれは。

 

何処と無く嫌なものが、苦手な感覚が体を支配していく。

 

 

(もうユウ!訓練中よ!?)

 

「っ!?」

 

 

突然誰かの声が聞こえて動揺する。

 

今のは……?

 

俺の記憶にある限り聞いたことのない声だった。

 

 

(何驚いてるのよ、とりあえず終わったみたいだし戻ってくれば?)

 

(え?あ、ああ)

 

 

何処か有無を言わさない感じの声音につい返事をしてしまうが戻るとは一体どう言うことなのだろうか?

 

この空間から出ようにも見渡す限り屋外にしか見えずどうしたらいいのかわからない。

 

 

(もう、ホントに何してるの?)

 

(えと、ごめん……出るってどうすればいいんだ?)

 

 

ここは素直に謝り聞くのが一番と判断して行動したが明らかに呆れた感じの声が帰ってくる。

 

 

(はぁ……ホントにもう、そこの場所から転移させるわよ?バリアジャケットも脱いでるし……)

 

 

何やらぶつぶつと言われているがどうやらここから出る事が出来るみたいだ。

 

助かった………。

 

次の瞬間、ふわっとした感覚と共に辺りの風景が変わる。

 

 

ここは……?

 

何処かの部屋のようだが明らかに俺の知っているものではない。

 

鉄の自動ドアに複数のモニター、更には宙に浮かんでいる謎の機械の数々に翻弄される。

 

そしてその空間の中でジト目かつ呆れた様な口調でその子は俺に話しかける。

 

 

「ホントになんでステージから出ることも出来ないのよ……はぁ……」

 

 

先が思いやられるわと呟きながら端末を操作する。

 

その2つに結ばれたオレンジ色のツインテールを揺らすこの子は……どなた?

 

 

「えっと……君は?」

 

「何?また何かのおふざけ?」

 

 

カタカタと端末を操作しながらまたため息をつかれる。

 

この子はどうやら俺のことを知ってるみたいだけど……俺には全く記憶にない。

 

そのままどうしていいか分からず黙っていると呆れながらも此方に振り向いてくれる。

 

 

「そもそも名前なんて尋ねなくてもココに書いてあるでしょうが……」

 

 

と自分の胸部のあたりを指す。

 

そこに書いてある文字は

 

 

「ティアナ・ランスター……?」

 

「ん、もういいでしょ。そろそろ報告してきたら?」

 

 

多分食堂にいると思うわよ、言ってそのまま俺は扉の外へ押し出される。

 

外に出るとアースラの様な廊下が広がりやはり見覚えは無い………無いと思う。

 

だけど、何処か懐かしいと胸の内側で逆巻く物がある。

 

 

そのまま真っ直ぐ進んでいると今度はピンク色の髪の少女が前を歩いて来た。

 

 

「あ、ユウさん!お疲れ様ですー」

 

「えっと、お疲れ様」

 

 

とりあえずと胸の名前のところを見る。

キャロ・ル・ルシエ?でいいのかな。

 

 

「訓練してたんですよね、副隊長と隊長たちなら食堂に集まってましたよ」

 

「そっか、ありがとう。行ってくるよ」

 

 

とりあえず無難な挨拶を返してみる。

多分おかしな事は言ってないと思うけど……

 

と思っていたのだがキャロが何処か不思議そうな目でを俺見つめていた。

 

 

「ど、どうした?」

 

「えっと……何処か雰囲気が違うような?」

 

「そんな事ないと思うけど……」

 

「うーん、なんか声音が優しいというか……?」

 

 

ヤバイなんか疑われてる。

 

何も悪い事はしていないはずだが、何処か焦ってしまう。

 

 

「ご、ごめん!とりあえず報告だけ先に行ってくる!」

 

「あ!」

 

 

横を小走りで通り抜ける。

 

流石に追いかけては来ないがどうやら今の俺に何か違和感感じているのは間違いないようだった。

 

再びこの機械チックな廊下を歩きながら思考を深める。

 

ここまでの事を整理しよう。

 

1つ、俺は気づいたら知らないところに突っ立ていてはたまた知らない場所に転移した。

 

2つ、俺には覚えのない子たちが何故か俺の事を知っている。

 

3つ、俺の着ている服装だ。コレはやはりどこからどう見ても時空管理のもので間違いないと思う。

 

 

そして……この名前のバッチの様なもの。

 

そしてポケットに入っていた身分証の様なものにバリバリ時空管理局第6課空戦陸士と書かれている。

 

というか陸? 空? 所属とかもよくわからないのに、これだけではなにも情報を得られない。

 

 

そのまま歩いていると隊長なる人たちがいるであろう食堂の前に着く。

 

 

………少し緊張してきた。

 

もしかしてまた記憶でもなくしたのか俺?

そんなぽいぽい記憶喪失ってなるもんなのかな………

 

少しでも緊張を解そうとそのまま思いっきり深呼吸をしようと空気を吸い込む。

 

 

「すぅ………」

 

 

ガラッ

 

 

「何やってんだ、オマエ」

 

「はぁ!?」

 

「あ?」

 

 

息を吐いた瞬間に扉が開き赤髪のおさげを下げた少女に怪訝そうな顔をされてしまう。

というか言葉遣い悪いな、おい。

 

 

「まぁいいか……で、終わったのか?」

 

「え?」

 

「訓練だよ、訓練。報告書貰いに来たんじゃないのか?」

 

 

あ、そっか報告しに来たんだっけ。

すっかり忘れていた。

 

 

「ああ、報告書を貰いに来たよ」

 

「今ならアイツならいるしとっとと報告書貰ってきちまえ」

 

グイッと親指で中を指しながらじゃあなと去ろうとする。

えっと名前名前……っと

 

 

「ああ、ありがとうヴィータ」

 

「っ……お、おう、またあとでな」

 

 

そう言って去っていく。

 

………一瞬、一瞬だが確かに俺が彼女の名前を呼んだ時目を見開いた気がした。

 

もしかして呼び方ミスった?

 

 

「あっ……そういや食堂にいるのって隊長と副隊長の人たちだけってキャロが言ってた様な……」

 

 

少し嫌な汗が垂れる。

 

どう考えても下っ端の俺が上司を呼び捨てにした挙句タメ口……

 

 

「はぁ……後で謝ろ……」

 

 

なんか気分が萎えた……

とりあえず報告とやらだけしに行かなきゃなぁ………

 

 

そのまま扉を開け食堂に入る。

 

中は清潔感があり広く20人程度なら簡単に収まるほどの大きさで、テーブルも6つもある大きい施設だ。

流石だな管理局の施設は。

 

 

「_______♪」

 

そしてそのテーブルの1つで少し頭を揺らしながら何処か聴いたことのある鼻歌を歌っているサイドテールの女性が1人。

 

どう見ても俺より年上だし管理局の制服も着ている。

彼女が隊長とやらで間違いなさそうだ。

 

そのままその人に向かって歩いていく。

 

ふと、何処かこの人の後ろ姿を見た事があるような……と考えた所でつい、口が滑る。

 

 

「………なのは?」

 

 

「_______っ?」

 

 

 

 

その人がゆっくり此方に振り向く。

 

ああ、やっぱりなのはそっくりだ。

何処か桃子さんの雰囲気もあるがもしなのはが10年くらいしたらこの人の様になるだろうと予想がつく。

 

だけどどうして先ほどから固まって何処か揺れるような眼差しで俺の事を見つめているのだろうか?

 

 

「あの……?」

 

 

そのまま立ち上がりゆっくり俺の方に警戒しながら歩み寄ってくる。

 

何故に無言なのか。

 

 

「今、ユウくん私のこと……」

 

「はい?どうしました隊長」

 

 

とりあえず敬語の方が良いだろうと判断し直ぐに切り替える。

 

するとこの隊長さんはまたえっ?えっ?と何やら焦っていた。

 

面白い人だな、ホントになのはの大人版みたいだ。

 

 

「………気のせい?」

 

「えっと、よく分かりませんけど訓練の報告に来ました」

 

「あ、うん。それじゃコレに記入しておいて」

 

 

そのまま紙を渡される。

ふむ、管理局と言えどまだ書類は紙のままなのか。

 

てっきり全部電子化してるのかと少し胸を躍らせてしまった。

 

 

「明日まででいいからキチンと書いといてね?ユウくん何時も適当に書くんだから」

 

 

パシンッと軽くおデコを小突かれる。

 

……少しドキッとした。

 

大人っぽい人なのに随分と子供っぽい仕草というか俺の方が少し身長が高いのもあり上目遣いなっているのも効いてる。

 

と言うか俺ってそんなに適当な奴って認識なのか此処では。

 

 

「ん、どうかした?」

 

「あ!や!何でもないです!」

 

 

落ち着け、落ち着け。

 

とりあえず今するべき事を確認するんだ、ここはどこなのかを確かめるのが一番優先度の高い事だ。

 

……なのだが、まだ目の前の女性がジーッと俺の目を見たまま何かを確かめる様に近づいてくる。

 

 

「あ、あの?」

 

「んー……」

 

 

そしてコテンっと頭を傾げ"やっぱり気のせいだったかなー?"なんて言っている。

 

 

「まぁいいや。ユウくん今日はもう上がりだよね?」

 

「え、えと……はい」

 

 

とりあえず話を合わせろと俺の第六感も言っている。

 

 

「うん、ならちょっと私とお出掛けしない?」

 

「へ?」

 

 

お出掛け?

それ自体は別に拒否する理由はないのだがこれ以上一緒にいたらボロが出そうで少しヒヤヒヤし出していたり……

 

 

「ダメ、かな?」

 

「……いえ、お供します」

 

 

だからその仕草はズルいって……

 

 

「やった!なら……」

 

 

と行き先を話そうとしたのだろうけど此処で食堂の扉が開き別の人が入ってくる。

その人は……

 

 

「あ、ユウお疲れ様。訓練終わったの?」

 

「え………?」

 

 

その人は綺麗な金髪を下ろし優しい笑顔と赤い瞳で俺を見つめていた。

____その顔がフェイトと重なる。

 

そしてまたもう1人後ろから入ってくる女性。

 

 

「あ、ユウくんお疲れやね。ティアナから聞いたで?また出られなくなったんやろ?」

 

 

ザザッ……とその人の笑顔が車椅子の優しい少女と重なる。

 

何だ……コレは?

 

頭の中で更に混乱していく。

 

俺の知っている少女たちに似ている、いや似過ぎている。

 

だけど、まだわからない、この人たちはまだ名乗って居ないんだ。

 

もしかしたら赤の他人の空似で違う人の可能性も……

 

 

「 フェイトちゃんもはやてちゃんもお疲れ様 」

 

 

 

_____ああ、やっぱりそう言う事なのか?

 

この2人がフェイトとはやてなら、今後ろから俺の肩に垂れているこの人は

 

 

 

「うん、なのはもお疲れ様」

 

「なのはちゃんもお疲れやね」

 

 

高町なのは、本人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ……何だかなぁ……

 

 

もしかしてとは思ってはいたがどうやら此処はミッドチルダと言う場所らしい。

 

クロノから聞いた彼らアースラの人たちの故郷だ。

 

そっと横でまだ談笑してる3人を見る。

 

大人になっても子供らしく無邪気にそれでいて綺麗になったなのは。

 

年相応に成長し、それでいて俺が見た事のない穏やかな笑みを浮かべるフェイト。

 

いつも何処か寂しげに笑っていたはずなのにそれは一切見せず太陽のような笑みのはやて。

 

 

俺は夢でも見ているのだろうか?

 

はたまたコレは現実で今俺の頭に入っている小さな頃のなのはたちが偽物だったのだろうか?

 

ーーきっとどちらも本物だと、根拠もなく思ってしまうのはいけない事だろうか?

 

 

そんな事を考えていると何やら3人から視線が来る。

 

 

「どないしたんや?今日はやけに静かやな」

 

「大丈夫?体調悪いの?」

 

「あ、えっと……なんでない、です」

 

 

はやてとフェイトの2人がホントに心配そうに聞いてくる。

参ったな、考え事をしていて話を聞いてなかったなんて言えない……。

 

ならええけどなーなんていいながらコーヒーを飲んでいるはやて。

 

そしてフェイトはあっ、と何かを思い出したように俺に詰め寄って来る。

だから近いって!!

 

 

「ユウは今日もう上がりだよね?」

 

「えっと、はい」

 

 

フェイトに敬語とか慣れなさ過ぎて少し話し辛いがそれ以上に距離感が……

 

そんな俺の気持ちに気付くはずもなく俺の返事になら!と更にずいっと近づいて来る。

 

 

「ならこの後遊びに行かない?私、ユウと行きたい所があって……」

 

「ちょっとまって!」

 

「せや!ちょい待ち!」

 

 

なのはとはやてがフェイトにストップをかける。

 

……今更だけどなのはとフェイトが仲が良さそうなのはまだ予想していたけどはやてとも仲良くなれたんだな。

 

そんな3人を傍観していると最初は誰と誰が遊びに行くと大人っぽい話し合いをしていたが気付けば"私が最初だもん!"とか"私もユウと行きたいとこが……" やら "今日は一緒に食事するって約束が……"と少しずつヒートアップしていく3人。

 

そして最終的に

 

 

「ユウは!」

 

「誰と!」

 

「遊びに行くの!?」

 

 

フェイト、はやて、なのはの順にずいっと顔を近づけられ責められる。

えっと……選べと?

これは誰か一人に絞ると何となくめんどくさい気がする……

 

と言うかこんな場面の話を士郎さんと恭也から聞いていたせいでそれは間違った選択肢だと俺は知っている。

 

確かこう言う時は……

 

 

「えっとみんなで……」

 

「ユウ?」

 

「ユウくん?」

 

「ユーウーくーん?」

 

 

圧、圧がすっごいよこれ。

えっとえっと……どうすればいいんだろ……

 

もはや助けはないとどうにか自身の知識でこの場面を切り抜けようとしていた時ガシャッと扉が開く。

 

 

「お、報告書貰ったか?」

 

 

それは俺にとってこの場ではまるで天使のような声だった。

 

 

「あ、ヴィータ!」

 

「え……?」

 

「ヴィータの事……名前で……」

 

 

あ、やべ……またやっちまった。

 

だけどどこかヴィータが嬉しそうにドヤ顔しているのは何故なんだろうか?

 

 

「?……ああ、なるほどな。おい、ユウ。さっきの約束したヤツいこーぜ」

 

「あ、ああ」

 

「それじゃユウは借りてくぞー」

 

 

とそのままヴィータに引っ張られて行く。

 

あれ、やけにあっさりと逃してくれるような……と3人を見ると何処か羨ましそうに、寂しそうに俺のことを見つめていた。

 

その表情がやけに俺の胸に残る。

何か、何か言わなきゃと思うが思いつかなくて、つい____

 

 

「ま、また今度な!なのは、フェイト、はやて」

 

 

つい、名前を呼んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むぅ……せっかくユウくんを誘ったのにまさか2人に見つかるなんて……

 

でもここは絶対負けられないの!久しぶりに重なった休みだし偶にはユウくんと2人で"あの時"みたいに遊びたい!

 

だけどその気持ちはフェイトちゃんもはやてちゃんも一緒みたいでなかなか折れてくれない……

こうなったら!

 

3人とも思いついた事は一緒でユウくんに迫る。

 

それに困ったように目を泳がせながら必死考えるユウくん。

 

……どうも先ほどからのこの仕草が気になる。何となく何時ものユウくんと違うようでそれでいて何処か……"ユウさん"に重なる。

 

でもそれは有り得ないよね、まだこのユウくんは“15歳”で私があの時出会ったユウさんは16歳。

 

ならまだ昔の私と出会っているはずがないんだ。

 

だから私たちと話す時も何時も敬語で、何処か他人行儀でそれでもう名前も呼んでくれない。

 

……こんなに近くにいるのにそれは凄く切なくて悲しい。

だけどそれでも私はユウくんと一緒過ごしたいって思うから。

だからちょっとだけワガママになっちゃう。

 

そうして少し困ったユウくんを見て少し楽しくなってきてた時、食堂のドアが開いた。

そこから入って来たのはヴィータちゃんだった。

ヴィータちゃんはすぐにユウくんを見つけると

 

 

「お、報告書貰ったか?」

 

 

と気軽にユウくんに話しかけるヴィータちゃん。

それに私は少しびっくり。

ヴィータちゃんは普段からユウくんに少し厳しいからユウくん自身が少し苦手がっていた。

それでいてヴィータちゃんもヴィータちゃんで今のユウくんに何処かぶつかっちゃってた。

 

だから今回もユウくんは直ぐにいつもみたいに苦笑いしながら"すみません、副隊長"って意味もなく謝っちゃって怒られるんだと思ってた。

 

だけどユウくんはヴィータちゃんを見た瞬間、

 

 

「あ、ヴィータ!」

 

「えっ……」

 

 

名前を、呼んだ。

 

何処か嬉しそうに、親しい友人のように。

それは私にとってとても衝撃的で、それは私にとって何処かショックで、それでいて期待してしまうものだった。

 

フェイトちゃんとはやてちゃんも凄く驚いてた。

そりゃそうだよね、だってもしかしたら

 

 

 

 

 

 

 

____________きっと、未来で_________

 

 

 

 

 

 

 

 

"また会えた"って思っちゃうよね。

 

でもきっとそれは勘違い。

 

あの時お別れしたユウさんはもういなくて、それでヴィータちゃんの名前を呼んだのは他の理由があって。

 

だから変な期待はしないって、そう心に言い聞かせようとしてるのに……

 

つい甘えてユウくんを見つめてしまう。

 

ヴィータちゃんに引っ張られてるユウくんは私たちを見てまた困った顔をしている。

 

 

そりゃそうだよね、だってコレは私たちの勝手な思い込みで押しつけだ。

 

だからもう_____

 

 

 

「ま、また!」

 

 

え?

 

 

「また今度な!なのは、フェイト、はやて!」

 

 

 

久しぶりに彼の声音で聞いた私の名前は、酷く懐かしくて。

その表情を見た瞬間また私は……

 

 

「期待、しちゃうよ……もぅ」

 

 

また貴方に甘えたくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぐまぐとアイスクリームをひたすら食べているヴィータを横目に自分の財布を見て少しため息。 

 

いや、助けてもらったから文句はいえないけどさ……どんだけ食べるんだよ………

 

 

「しゃあ!次はいちごな!」

 

「まぁ……いいけどさ」

 

 

一応助けられたしアイスならいくらでも奢ると豪語した手間引けないというのも正直あるが……

 

それよりも

 

「うまうま〜♪」

 

 

必死にアイスを口に運び少し汚してしまっても気にせず食べる姿に思わず笑みが溢れる。

 

この子の笑顔はまた癒される。

なのはやフェイト、はやてともまた違った感じだなぁ……まぁ上司だけど。

 

そんなことを考えて癒されていると視線が合う。

 

 

「なぁ、ユウ」

 

「ん?」

 

「何でさっきからじーっと見てくんだ?食いづらいんだよ」

 

 

ぶすぅっと不機嫌になるヴィータ。

そりゃ失礼しましたと言いつつそっぽを向く。

 

 

「む、それはそれでムカつくな……」

 

「どうしろっていうんだ……」

 

「それはお前が考えろ」

 

 

うーむこの子は随分とその……

 

 

「女の子らしくないなぁ……」

 

「あん?」

 

 

おっと。

 

なんかこの世界に来てから妙に口が軽くなったというか……なんか俺が俺じゃないみたいというか。

 

 

「ふぁ……」

 

「ん?眠いのか?」

 

 

むぐむぐと口を動かしながら気遣ってくれるのは嬉しいのだが、飛んでる、いちごのアイスクリームが飛んでくるから飲み込んでから話して。

 

 

「まぁ今日もお前は朝早かったしな」

 

「ん、そうだっけ?」

 

「何言ってんだよ、いっつも口癖のように言ってんじゃねえか。"俺は才能が無い分人一倍訓練したいんだ"って」

 

 

"この俺"はそんな奴なのか?

なんだかあまり想像がつかないなぁ……

 

 

「まぁここもしばらく空いてるし仮眠しちまえばいいんじゃねえか?」

 

「ふぁ……ん、そうしよかな」

 

 

やばいな、どんどん眠気が強くなってくる。

少しフラッとしたぞ今。

 

 

「フラッフラじゃねぇか、ほれとっとと寝ちまえ」

 

 

そう言ってヴィータが俺の手を引く。

ってこれだと……

 

 

「いや、流石に……」

 

「ん?別に気にしねーよ」

 

 

そのまま倒れた俺はヴィータの小さな膝の上に倒れこむ形に。

なんか、危なくない?コレ。

 

何が楽しいのか少しご機嫌そうに俺の頭を撫でてくれるヴィータ。

 

む、悔しいがかなり心地よくどんどん睡魔が………

誰かに頭を撫でられたのは初めてかもしれないがこんなに気持ちがいいとは知らなかった。

 

そのままゆっくりと瞼が落ちてくる。

 

 

「お休みな、ユウ」

 

「ん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした!
お分かりかもしれませんが一応書いておくとここから少しづつstsのキャラクターも出てくるお話があります。

それでは評価、ご感想お待ちしております!


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第28話 時空の彼方にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"自分自身"とは何だろうか?

 

例えばそれは明るい人、暗い人。

気さくな人、難しい人。

 

誰かを見て誰かに印象を持たれそれを自身で噛み砕き消化して出来たものが自分とも言える。

自分自身とは誰かから肯定されたものだ。

 

しかし自分を自分で解析し自分なりに解釈してその通りに振る舞う。

それも自分自身と言う風になるのでは無いのだろうか?

 

誰かから肯定された自分と自分自身が肯定し、作り出した自分。

どちらが正しくてどちらが本物なのか。

 

それはきっと_________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ……ピッ……と言う小さな音が聞こえ眼が覚める。

そのまま白く機械的な天井が目に入り起き上がろうとするが上手く力が入らず身体を起こせない。

 

 

「っ………?」

 

 

そして口も上手く動かせず少し息が漏れるだけで声もろくに上げる事が出来ない。

 

それでも自分の状況を確かめようと少し動く手と頭で周りを見回し手探りに何かを探す。

 

横に顔を動かし目に入ったのは何かの数字を表しピッピッと音を立てている機械に点滴の様な物が吊るされそこから伸びたパイプが俺の手についている。

 

そこでここが前自分が倒れた時に使っていたベットでここが医療室だという事に気づく。

 

……なんだか凄く息苦しい。

 

そう思い動く手で口の辺りを確認すると何か付けられていた。

それを力任せにぐっと外し、空気を吸い込むと肺に少し痛みが走る。

 

 

「っ………ぁ」

 

 

だが先ほどまでの息苦しさもなくぼーっとしていた頭に酸素が回り出しぼやけていた視界がクリアに広がる。

 

そのままゆっくりと深呼吸を繰り返していると身体が動くようになってくる。

 

どうやら先ほどまで吸っていた薬のせいか、麻酔のようなものをかけられていたのだろう。

それが抜け少しずつ体が動かせるようになり始めた。

 

10分ほどで体を起き上がらせる事ができ、ぐっと身体を伸ばすとぼきぼきと骨がなる。

 

どうやらそこそこ眠っていたようで少し気怠いが問題ない。

 

そのままベットから立ち上がろうとすると力が入らず膝をついてしまった。

 

 

「……?」

 

 

何故こんなにも疲労しているのだろうか?

 

もう少しだけ休ませてもらおうとベットに座り直し、そういえばと自分のデバイスを開き時間を確認しようとして気づく。

 

 

「……なんだ、この服」

 

 

それは薄緑で生地が薄いドラマや映画で見るような病院服だった。

何でこんなの着てるんだ?

 

それでは俺の服やデバイスはどこにいったのだろうかと思い自然と部屋を見渡すと反対側の簡易テーブルにデバイスと少し破れて焦げた後のある着慣れたジャージが置いてあった。

 

それを見てゾクッと何かが背中に走り、

 

 

 

「っ…………うぇ……」

 

 

少しの吐き気と痛みが後から身体を襲って来た。

 

……思い出した、そっか俺、撃たれたんだっけ。

 

何処か第三者の目線で冷静な思考を持てているが身体は言うことを聞かず始めて味わった死というモノからくる吐き気と恐怖が止まらない。

 

フラッシュバックするのは焦げた自分の肉の匂いとゆっくりと感覚の無くなっていき消えゆく意識。

 

何も出すものもなく近くにあったゴミ箱に胃液だけが流れていく。

 

少しでも落ち着かせようと横に置いてあったペットボトルの水を口に含み吐き出すのを2、3回繰り返しやっと落ち着く。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

まるで今までフルマラソンでもしたかの様に呼吸が荒げ苦しい。

息を落ち着かせる為ゆっくりと深呼吸しながら水を飲む。

 

 

「っはぁ……」

 

 

やっと落ち着き冷静になれる。

 

ゆっくりとツァイトを手に取り時間と日日を確かめるとアレからと3時間と少ししか経っていない事に違和感を覚える。

 

だが身体はもう2日は寝てたのでは無いかというくらいには怠く鈍っている。

 

 

もう動かせる身体を起き上がらせ、着ていた服を脱ぎ少しボロくなったジャージに着替える。

そして鏡に映った何時もの自分自身。

 

包帯を頭に巻き、所々何時もとは違うがそれでも顔や身体つきは変わらない。

けど、何処か違和感がある。

 

 

「何か……何か忘れてる気がする」

 

 

鏡に映る自分に問う様に口から言葉を吐き出す。

何だ、何を忘れている?ここで目覚める前に 何か/何処かを 見て何か/暖かさ を感じ、そして思い出した筈なのに。

 

それは手からこぼれ落ちる砂の様に失われていく。

 

何かを感じたという事を忘れ、ナニカを感じた筈なのに思い出せず、気持ちの悪い感触と汗が背中をつたう。

 

何か/誰かに突き動かされるように、何かを求める様に体が、足が動き出す。

 

扉を開き廊下を歩くたびに何処かデジャヴの様なものを覚えながらブリッジへと向かう。

 

ゆっくりとゆっくり一歩ずつ重い足を引きずりながらふと、気づく。

 

 

「人が……いない?」

 

 

何時もならば誰かが1人は通っているであろうこの通路や今通って来た訓練所などから人の気配がしないのだ。

 

……嫌な予感がする。

 

この場所で全ての人が集まる場所は1つでその理由も1つ。

 

それは_____

 

 

ブリッジの扉を開いた瞬間、局員たちオペレーターの叫び声や指示などが阿鼻叫喚の様に飛び交っている。

 

この場所で全ての人員を集めるということは大きい決戦がある時。

つまり今ここは………

 

 

目の前のモニターに出力された場所は異世界。 

 

空中に浮かび怪しげなオーラを放つその庭園にも見える場所では大きな戦いが起きていた。

 

そこに見知ったアースラの人たちが異形の者と戦っている映像がそこかしことモニタリングされていた。

 

そして、その映像の1つになのはとフェイトが大きな傀儡兵(くぐつへい)と戦い、消耗しているのが映されていた。

 

_____気づけばオレの身体は勝手に反転し走り出していた。

 

行かなければ、あの子達を守らなければ俺/オレが"ここ"に来た意味がない!!

 

先ほどまでの身体の痛みは不思議と感じずただひらすらに転送ゲートを目指し走り抜けていく。

 

その時だった。

 

 

「ユウさん?」

 

 

ふわりと肩を掴まれ止められる。

 

焦りと驚きで身体が固まり、人形の様に頭をギギと動かし止めて来た相手の顔を確認すると……あの時の資料室にいた局員だった。

 

だがいつまでも固まっている訳にはいかない。

 

 

「今は急いでるんだ!後にしてくれ!」

 

 

そういうとその人は一瞬キョトンとし、笑い出す。

 

 

「……ホントに、相変わらずですね」

 

 

何だ?何がおかしい?

焦りもあるせいか、いやに苛つく。

 

……何処と無く黒い感情が俺の中に渦巻き出す。

 

ギッと睨むとああ、すみませんと笑みを浮かべたまま手を話してくれる。

 

その対応に少し呆気にとられるがそれどころではないと思考が切り替わり、走り出そうと………

 

 

「だから、待ってください」

 

「ぇぐ!!」

 

 

……首の裾を後ろから引っ張られ首が締まり変な声が出る。

何なのだ一体。

 

少し恨めしい顔をしながら振り向くとまだクスクスと笑っている。

 

 

「そんなに怖い顔をしないでください、私は別に貴方を止める訳じゃないですから」

 

 

そう言って何かを俺に差し出してくる。

その手の平にあったのは……

 

 

「……何だよ、コレ」

 

 

その手の平サイズの機械の様なもの自体には特に見覚えはなかったが一応受け取り見回して見る。すると

 

何かの拡張スロットの様だがその入れ先の部分に見覚えがあった。

コレは、メモリの挿入部?

 

 

「それは必要でしょう?……さ、私の用事はこれだけです。行ってください」

 

 

もう言うことはないといった態度でビシッと転送ゲートの方へGOサインを出す。

 

 

「でも、何でキミがこんなものを……」

 

「良いんですか?なのはさんたち、結構ピンチですよ?」

 

 

何故コレを持っていたか、この人が何者なのかと気になる事は沢山あったがそれでも今は優先すべきことがある。

だけど、せめて名前だけでも……

 

 

「……キミの名前は?」

 

「え、えっと………」

 

 

初めて余裕の表情が消え少し焦り出すその子に何処か見覚えがある様な気もしたが少し何かを考え、

 

 

「今は、言えません!」

 

 

と謝り走り去って行ってしまう。

何なんだよ、一体……。

 

そう考えながら走っていく女性の後ろ姿を見送る。

俺と同い年か一個上くらいだったなぁ……

 

 

……ってこうしてる場合じゃなかった!!

急がなければと走り出しながらあの子に貰った新しいモノを見つめる。

 

どうやって使うんだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウさんが目の前でまたあの雷に撃たれて倒れてしまってから少しだけ記憶がない。

 

ただクロノくんが必死に何かを指示してたのは覚えてて気づいたらフェイトちゃんとアースラの部屋でリンディさんと話していた。

 

リンディさんが必死に私たちを励ましてくれて、それで私もやっと落ち着けて。

 

それからユウさんの手当てが完了して命に別状がないって聞いてから安心して崩れ落ちちゃって。

つい安心してまだ返事は聞けてないけどフェイトちゃんと笑い合っちゃった。

 

でも時間は待ってくれなくて直ぐに割り出せたフェイトちゃんのお母さんのいる場所、時の庭園に乗り込む事になった。

 

ユウさんがいないのは正直不安だったけど、それでも今までの積み重ねて来たものとフェイトちゃんを助けてジュエルシードを取り返すって決めたことを成し遂げたくてグッと拳に力を込める。

 

時の庭園には局員の人たちが突入する算段でフェイトちゃんのお母さんをそのまま逮捕するらしい。

 

手錠をかけられ、自分のお母さんの逮捕を見届けると言うフェイトちゃんとその様子を最後まで見届けるべく私とフェイトちゃん、ユーノくんにアルフさんはブリッジでその映像を見つめる。

 

 

でも、そこで見たモノは私の思ってた結末と全然違ってた。

 

クロノくんたちから聞いていたしフェイトちゃんのお母さんが凄いのは知ってて厳しい戦いになるって言うのは考えていたけど、突入した先を見た時、思考が停止してしまった。

 

そこに映されたのは大きな水槽の様なモノに入れられた6歳くらいのフェイトちゃんそっくりの女の子。

 

つい、横にいるフェイトちゃんに目を向けると私以上に目を見開き、驚いている。

アルフさんも同じ様子でどうやらこの水槽の存在を知らなかった様子だ。

 

 

 

 

ならばコレは何なのだろうか?

 

その疑問がきっとこのアースラ内全員の心の内に思った事だろう。

けどその疑問は直ぐに晴れる事になった。

 

突入していた局員の人たちが蹴散らされ、何処か狂気じみた声を上げながら"アリシア"と言う名前を叫ぶ女性、資料で見たフェイトの母親であるプレシアだった。

 

そこから彼女が語った真実は醜く残酷でフェイトにとっては悲し過ぎるものだった。

 

フェイトはプレシアの本当の娘であるアリシアを元に作ったクローンであり、今までフェイトに集めてさせていたジュエルシードは"アルハザード"というアリシアを蘇らせれる可能性がある場所を目指すためであり、フェイトはただの人形であり道具だと、挙げ句の果てにここまで頑張って来たフェイトに対して"大嫌い"だと……そう言い放った。

 

 

 

 

その言葉に完全に折れてしまい倒れそうになるフェイトちゃんを受け止め、画面に映る狂気的に笑うプレシアを見つめる。

 

何故、こんなにも酷い事が出来るのだろうか?只々、悲しい気持ちが胸に残る。

 

 

崩れ落ちてしまったフェイトちゃんを休ませるべく医務室のベットに向かいそのまま寝かせる。

 

私はあの人を、プレシアさんを捕まえに行かなければ。

フェイトちゃんの側にはアルフさんがついていてくれる。

 

私はユーノくんにクロノくんと一緒に時の庭園に乗り込んだ。

でもタダでは通してくれるはずもなく凄い数の傀儡兵が私たちの前に現れちゃった。

 

正直、苦戦だったけどそんな時に上から一撃の射撃魔法が飛んできて目の前の傀儡兵を一発で倒しちゃった。

 

静かに私たちの前に降り立ったフェイトちゃんは何処か憑き物が取れたような気がして。

 

そこから現れた巨大な傀儡兵を一緒に倒そうって言ってくれて、初めて仲間として戦えた。

 

2人で全力全開の砲撃魔法を放ちそのまま倒しきった。

 

……そして私はこの時の庭園の駆動炉に向かって、フェイトちゃんとアルフさんはその想いを伝える為にプレシアさんの元に向かう。

 

その後私は駆動炉を壊してフェイトちゃんの元に向かった。

 

ディバインバスターで壁を破壊して下に落ちかけていたフェイトちゃんに呼びかけ、手を伸ばす。

 

一瞬迷ったようなそぶりを見せたけど、私の手をフェイトちゃんは取ってくれた。

それだけでとても嬉しくて、心にあったかいものが溢れた。

 

後はここを脱出するという所で……それは起きてしまった。

 

 

もう一つの巨大な傀儡兵、駆動炉を直接中に入れているせいで止めることが出来ていないと言う最悪の敵だった。

 

私もフェイトちゃんも魔力はもう殆ど残っていない。

でも……それでも、戦う。

 

 

目の前に迫り来る攻撃を上に飛び避ける。

 

この巨大な腕の攻撃に擦りでもすればそれだけで私たちには大きなダメージになってしまうのは分かりきっている。

 

 

「フェイトちゃん!」

 

「うん!」

 

 

グイッと反転しフェイトちゃんのいる方に腕を振るう巨大な傀儡兵。

 

それを持ち前のスピードで紙一重に避け、さらに斬りつける姿にやっぱりすごいなぁ何て思えるあたり私も油断していたのだろう。

 

 

「っ!? 後ろ!」

 

「えっ?」

 

 

後ろを向いた私の方に迫るのは砲撃魔法。

 

___油断してしまった、あの傀儡兵からの反射攻撃に気づかなかった。

 

避けようとするが思った以上に身体は限界だったようで上手く動かない。

 

世界がゆっくりになる。

目の前に迫る非殺傷設定ではない魔法。

 

私はグッと目を閉じ来るであろう衝撃に怯える。

 

 

 

……………………

 

………………………………?

 

 

だが何時までもその攻撃が来る事は無く、うっすらと目を開けると______

 

 

白い装甲に青い特殊なウェットスーツ、そしてそのバリアジャケット全身に通った血管の様な桜色の線。

 

その見慣れた/見たかった背中は………

いつも、いつでも私を助けてくれるその人が目の前で迫っていた攻撃を防いでくれていた。

 

その人は振り向き、少しバツが悪そうな、それでいて何処かホッとしたような顔をしながら私に_____

 

 

 

「ごめん、遅くなった」

 

 

そう、いってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん!」

 

 

あの子に、"なのは"に声をかけられ来ていた攻撃を何とか躱し、一撃を与える。

 

けど、それも微々たるものですぐに再生が始まってしまう。

残りの魔力は僅かでもう限界が近い事もわかってる。

 

やっと、気づけたのに。

何が大切でどれだけ私のことをこの子が想ってくれていたか。

 

やっとユウの言っていたことが分かったのに、その事すら伝えられずこのまま終わるのだけは絶対に、絶対にイヤだ!!

 

そう気張り一旦距離を置くとなのはの方に傀儡兵が何かを行う。

するとなのはの後ろに反射した物が見え気づく。

その巨大な砲撃になのはは気づかない。

 

 

「後ろ!!」

 

 

そう伝えたが、遅かった。

 

彼女が振り向いた瞬間、白い巨大な魔力の渦はその命を刈り取ろうと少女を飲み込む。

その光景がスローに見える。

 

まだ、伝えてない。

 

まだ、その子に伝えていないのだ。

 

だから、だから_______

 

 

 

助けてっ……ユウ!!

 

 

 

 

 

 

 

なのはにその砲撃がぶつかる瞬間……私の横に風が走る。

 

何かが高速で走り抜けたような、そんな風圧が私の頬を撫でた。

 

その風を感じハッと目を開けると……

 

 

なのはに迫り来る砲撃を目の前で反射させながら受け止める白と青のバリアジャケット姿を見る。

 

その姿を見た瞬間、泣きそうになってしまう。

だって当たり前じゃないか、私がピンチになったり助けて欲しいって言葉じゃ無く思うだけで貴方はいつもまるで物語のヒーローの様に……私を助けてくれるんだから。

 

 

 

______その人は、なのはの方に振り返り何かを言った後、私の方を見て

 

 

 

「フェイトも、遅くなってごめんな!」

 

 

そう笑いかけてくれる。

 

 

やっぱりズルいよ、ユウは。

 

そんな事ばっかりされたら私は……また___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時の庭園に降りた俺は焦りまくっていた。

 

 

「ちょ、何だこれ!?」

 

 

何時もの様にセットアップしようとしていたのだがメモリが反応せずツァイトの画面もエラーのみが表示される。

 

何回もそれぞれのメモリを入れ替えしてセットアップを試して見たがエラーしか表示されずその都度、このカバーをつけた時にインストールされたモノが表示される。

 

 

【Extension Standby】

 

 

この表示がされメモリが弾かれてしまうのだ。

このケースが悪いのかと思い外そうとしたが外れず正直、お手上げだった。

 

 

まるで最初のセットアップの時の様だ。

あの時もバリアジャケットを纏うことが出来ず気分が落ちたっけ。

 

あの時はなのはがメモリを挿し込むということを思いつき、それで初めて魔導師としての自分になれた。

 

 

…………ちょっと待て、何かを挿し込む?

 

ふとポケットに雑に入れたモノを取り出す。

それはあの局員から手渡されたメモリの挿入口そっくりのもの。

 

まさかと思いその挿入口とは反対の部分をデバイスにスライドする形で挿し込んで見ると………

 

 

《complete.standby ready?》

 

 

「……やっぱり」

 

 

最初このケースが壊れているのだと思い込んでいたがそうではなかったのだ。

このケースだけでは1ピース足りなかったのだ。

 

 

そのまま新しくなった挿入口にメモリを差し込むと新しい表示が出る。

 

 

【 Awakening・mode formula 】

 

《Are You Ready?》

 

 

 

「すぅ……はぁ……」

 

 

少しの緊張と期待を落ち着かせる為に深呼吸をする。

今は何故このアイテムをあの人が持ってたとかは考えずこの新しい力を落ち着いて受け止める。

 

心拍数が安定し、言い放つ。

 

 

 

「セットアップ!!」

 

《set up ・ Full Drive》

 

 

 

_______力が、身体に満ちてくる。

 

感覚はあのオーバードライブに酷似しているがアレとは違い痛みや不快感、何か自分の中のモノを砕き混ぜ合わせる感じもない。

それどころか自分の物を、リンカーコア暖かく包む様な抱きしめられる様な感覚に陥る。

それは決して不快ではなく、むしろ心地よさのようなものもあった。

 

その一瞬のような果てしなく長い刻を刻んだよな瞬間から意識が戻る。

 

自分の姿を見回すと今までのノヴァのバリアジャケットからかなり変わっていた。

 

……だが見覚えもある。

この姿は俺がオーバードライブを使った時のスライドし拡張され黒く濁ったバリアジャケットのシルエットそっくりだった。

 

だけど黒く濁っていた場所は純真な白で赤く赤く血の色様だった全身を通う線は綺麗な桜色に。

そして身体に活力が回ってくる。

 

 

「……凄い、力が溢れて壊れそうだ……」

 

 

これなら、いける。

そう確信し飛行をしようとした時だった。

 

 

(ユウ!!!)

 

(!?ク、クロノか?)

 

 

念話ですら伝わる怒気が思わず俺の足を止める。

そういえば目が覚めてからあの人以外に見つからず抜け出してきたんだっけ……

 

そこからクロノからお説教を食らう。

何故抜け出したのか、起きたならすぐに報告するべきだろう、何処にいるのかと。

 

 

(……で、大丈夫なのか?)

 

(ああ、心配かけた。エイミィとリンディさんにも後で謝ってくるよ)

 

(当たり前だ、馬鹿者。……それでキミは飛び出して今はなのはたちの方に向かっている最中なんだな?)

 

 

そこからクロノから何があったかの説明をしてもらう。

今クロノは倒れたアルフとユーノを連れアースラの医療室にいるらしい。

……だから俺がいない事に気づいたのか。

 

俺が眠っている間に様々な事が起こっていたのは取り敢えずは把握したが、フェイトについてかなり動揺してしまった。

しかしなのはを助けるために2人で協力した事を聞いた時は暖かいものが広がった。

 

ーー頑張ったな、フェイト。そう言って慰めてやりたいが今はこの件を片付けるのが先だろう。

 

 

(それでこの馬鹿でかい魔力反応、まさかとは思うが……使ったのか?)

 

 

少し緊張気味にクロノが訪ねてくる。

オーバードライブのことを言っているのだろうがそれは勘違いだ。

 

 

(使ってない、昨日のあの新しい奴だ)

 

(っ……全く……ホントに次から次へと……)

 

(今回ばっかりは俺もビックリしてるよ。それで俺は……)

 

 

と続けようとした時だった。

 

巨大な魔力の反応とともになのはたちがいる場所から爆発音。

 

 

(………悪い、話はここまでだ。また後で)

 

(!?ま、待てキミ1人では!)

 

(大丈夫だ、何とかする!)

 

 

そのまま念話を切り、さらにスピードを上げる。

もうブレイズの最高スピードを超えているあたりかなり後での反動もデカそうだと覚悟する。

壊れた通路を一気に駆け抜け、先ほどの爆心地へと向かう。

 

 

ーー見えた!!

 

 

目の前で巨大な傀儡兵と戦う2人。

 

そしてなのはに迫ろうとしている砲撃。

 

今のままでは間に合わない____!!!

 

 

 

 

《delta access》

 

 

 

グイッと身体が押され、途方も無いGが身体にかかる。

身体が千切れるような錯覚を覚えるが、次の瞬間

 

______気づけばなのはの目の前、そして俺の前には砲撃が迫ってきていた。

 

 

そして身体が勝手に動き、

 

 

《Reflection》

 

 

青色のシールドが巨大な魔力の砲撃を受け止めてくれていた。

……受け止めるというより反射させ、弾いているというのがしっくりくる。

 

そしてまだ目を瞑ってるなのはをチラリと見て少し罪悪感。

クロノに聞く限りまた心配させてしまったらしいし何よりまた泣かせてしまった。

 

……更にこんな危ない所だったのだ。もう少し俺が遅ければもしかしたら……

 

 

そしてなのはを助ける時に抜けていった横にいたフェイトにももちろん罪悪感がある。

俺のせいで泣かせてしまった上に母親から否定されてしまったと聞いた時は胸が張り裂けでいっぱいだった。

 

だからこそ最初の一言目は2人に謝ろう。

 

 

「ごめん、遅くなった」

 

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です。

評価、ご感想お待ちしております!


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第29話 『Full Drive』/ 最後の魔法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傀儡は止む事なく新しい攻撃を新たに現れた敵である俺に仕掛けてくる。

巨大な魔力の塊、砲撃魔法だ。

 

_____けど、それはもう効かない。

 

 

《Reflection Clear》

 

 

迫り来る砲撃を碧色のシールドが搔き消し吸収する。

そのまま吸収した魔力を使い巨大な傀儡兵にバインドをかけ、なのはとフェイトの方に向かう。

 

2人の顔を何処か久しぶり見たよな気がして……何か伝えなければと感じるが今はそれよりもこの崩壊が始まった此処から逃す方が優先だ。

何か俺に話そうとする2人を一旦止め簡潔に伝える。

 

 

「もうすぐここは完全に崩壊して無くなる。それまでにアースラに避難するんだ」

 

 

そう伝えると素直に頷いてくれる2人。

 

 

「なら早く行け、怪我もしてるしもう殆ど魔力も残ってないんだろ?」

 

「……うん、わかった。行こう?」

 

 

そう言ってなのはが俺にも手を伸ばしてくる。

………後ろでギチギチと俺がかけたバインドが悲鳴を上げている。

 

 

「悪い、まだ俺には仕事が残ってるから先に帰って待っててくれ」

 

「え……だ、ダメだよ!!一緒に帰ろうよ!」

 

 

俺のその答えに動揺し声を上げるなのは。

優しい子だからな、こうなる事は予想がついてたけど……今は時間がない。

 

いつ後ろのヤツが暴れ出すかもわからないし正直この力がどこまでのものかもわからない。

 

それなのになのはとフェイトを守りながら戦える自身は俺には無いし、なによりもう崩壊が始まっていつ消滅するかもわからない此処にいさせるわけにもいかないんだ。

 

……少しの罪悪感を押し殺しなのはの首にトンッと当て身をぶつける。

 

 

「っ………?」

 

「ごめんな、すぐ帰るから」

 

 

倒れてくるなのはを受け止め、そう伝える。

聞こえていたかは分からないが別に俺だってここで死ぬつもりもない。

 

何か口を動かし俺に伝えようとしてくれたなのははそのままゆっくりと気を失う。

 

 

 

そのまま黙って俺となのはを見つめていたフェイトに向き直る。

少しの間でこんなにも成長したんだな、この子も。

いくら俺でも前までのフェイトと今のフェイトが違う事には気づく。

 

 

「……よ、話すのは久しぶりだな」

 

「……っ そうだね、ユウ」

 

 

ぐしゃっと泣きそうになるが寸のところで堪えてくれるフェイト。

……ホントに強いな、この子は。

 

 

「だけど今は時間がないんだ、なのはを頼むよ」

 

 

そう言ってなのはの身体をフェイトに預ける。

フェイトは素直に俺の頼みを聞いて抱きとめてくれる。

そして伝えるべき事を簡潔にまとめ、話す。

 

 

「アースラのリンディさんやクロノを頼るだ。きっとあの人たちはフェイトの味方になってくれるはずだから」

 

 

コクコクと頷き俺の言葉を全部飲み込んでいく。

さっきクロノにも頼んでおいたし大丈夫だろう。

 

俺のここですべき事はまずなのはとフェイトを助け、アースラに戻す事。

そして後ろで暴走したこの傀儡兵を倒す事。

 

最後は……

 

 

 

「……ユウは」

 

「ん?」

 

 

フェイトから呼ばれ後ろを振り向くと泣きそうな顔をで此方を見てきた。

どうしたのだろうか?

 

 

「ユウは帰ってくるんだよね?」

 

「……ああ、別に死ぬつもりはないさ、すぐにやる事を終わらせて戻るよ」

 

「なら、約束だよ?絶対に無事で帰ってきて。まだユウと話したい事沢山、あるから」

 

「おう、約束だ。……それじゃまたな、フェイト?」

 

「っ……またね、ユウ」

 

 

 

俺が来た道を辿りアースラへと戻るフェイトとなのはの背中を見つめながら思考する。

 

 

(クロノ、まだ時間は残ってるんだよな?)

 

(……ああ、そこが消滅して次元震を起こすまであと10分はある)

 

(一応確認だ、その次元震の被害はどこまで起こるんだ?)

 

(今のままでは分からない……正直に言えばこの規模のロストロギアの暴走だ、何が起こるか誰にも予想もつかない)

 

 

この時空の果て、この時の庭園はそれ自体がロストロギア。

それが今、主人を失いジュエルシードの暴走が引き起こした次元震の影響で共鳴しここ自体が一種の爆弾と化しているのだ。

 

それをほっておけば……

 

 

(時空断裂が起きる可能性がある……だよな?)

 

(……ああ、それを止めるにはその前にこの場所の核となってる場所を叩くしかない)

 

(ああ、了解だ)

 

 

俺の最後のミッションはここの奥深くにある駆動路である核を砕く事。

それが出来なきゃ沢山のものを失う事になる。

 

 

(待て!わかっているのか?核を破壊するという事はそれと同時に……)

 

(でも誰かがやらなきゃいけない事、だろ?)

 

(だが……)

 

 

核を失ったこの場所はただの石の塊と化し、そして虚数空間に飲み込まれる。

虚数空間では魔法は使えず、一度飲み込まれれば二度と出る事は出来ないだろう。

 

まだ今は核が生きているからこの場所は完全に飲み込まれていないがそれが消えればすぐにでも………

 

 

(大丈夫だって、俺はちゃんと帰るよ。それに他の局員の人はみんな戦えないんだろ?)

 

(……しかし!)

 

(クロノ、お前はお前の役目を果たすんだ。それがキミの守るものだったろ?俺は俺の守りたいものの為に戦うよ)

 

 

そう言うと少し間が空き、わかったと言ってくれた。

……後のことはこれで大丈夫だろう。

 

 

(それじゃ、エイミィ?ナビゲーションよろしく頼むよ)

 

(……っ、うん、任せて!)

 

 

 

さて、と。

後ろから放たれる射撃魔法と薙ぎ払いを避けつつ1回転しながら避ける。

俺のバインドを破り完全暴走した核を取り込んだ傀儡兵。

 

前までまでの俺なら手も足も出なかっただろうな、とどこか他人事のように笑ってしまう。

けど、今ならこの思い出したものと力がある俺は負ける気がしない。

 

 

「待たせたな、それじゃ……やろうか?」

 

 

ズンッ!!と巨大な身体がぶれ、拳をこちらにふるってくる。

 

だがそんな遅い攻撃ではまだまだフェイトの足元にも及ばない。迫り来る攻撃を敢えて紙一重を避けつつ一気に腕を伝って飛び抜け、まずはその邪魔な右腕を切断する。

 

 

《sword fragment》

 

 

直径2メートルの光力で出来た一種のレーザーブレードでその肩から腕を下から上に切り上げる。

 

_____思い出すのは剣技を鍛えられ、昇華した日々。

 

それに怒りのような悲鳴をあげるがそれが更に隙になる。

剣を収納し、新たな武装に換装する。

それは初めて手にした、巨大な塔身をもつ超圧縮魔力放出砲撃機。

ガチャンと弾丸を弾き出し、魔力を込める。

 

 

《Excellion Buster・Mode α 》

 

 

 

傀儡の頭部を抉り取るように溜め込んだものを一気に放つ。

桜色の極光の光線は龍の様に食らいつき、その頭を消し去る。

 

残りは胸部のエンジン、核の部分のみ。

 

 

しかし相手もただではやられてくれずそこから魔力の充填が始まっていた。

 

 

「魔力勝負か?付き合ってやる___!!」

 

 

 

エクセリオンバスターを変形させ砲撃モードから超収束砲撃モードに切り替え、残量を確認する。

 

あと7割強、まだ俺は戦える。

 

俺は真似事でしか戦えないが、この技はまだ"今"のなのはには使えないモノ。

 

ここでの戦いの映像は記録として残す事を出来ないのはクロノから聞いている。

ならば安心して使わせてもらおう。

 

 

自身の残り魔力ゲージが一気に消失し、収束砲の銃身に光が、満ちる。

 

 

___ここより発射されるは未来の一撃。

 

 

《Starlight Breaker ex》

 

 

 

____まるでそれは一つの小惑星。

 

光を超え、音を超えたその一撃はあの傀儡兵の砲撃すら飲み込みその巨体全てを無へと返す。

それは暗きこの場所ですら一瞬の光が満たすほどの力。

放出が終わった先には何もなく傀儡兵は虚無へと消えた。

これで二つ目、次で最後だ。

 

 

「こちらユウ、目標を駆逐完了。時の庭園の核部分へのルートは?」

 

『は、はい!こちらアースラ、ナビゲートを始めます』

 

 

つけたインカムに話しかけ、エイミィにナビゲートを頼む。

流石にここは広く核ともなれば奥深くに隠されている様でナビゲーションなしではつくのも難しい。

 

目の前に表示されたマップとエイミィの言葉を頼りに奥へと進む。

横目にタイムリミットと残り魔力ゲージを確認する。

 

残り3分弱とゲージは5割を切った。

 

 

 

『そこの先を真っ直ぐ行った所にあるはずです』

 

 

「この先か」

 

 

段々と熱を感じる様になる。

あと30メートルほど先に見えてきた5メートル代の黒い球体の様なものが怪しく鼓動していた。

 

 

「コレを壊せばいいんだな?」

 

 

最終確認をする、これでいいんだよな?

 

 

『はい、それで問題……な……です、ただ……の……すぐ……』

 

「?エイミィ、どうした」

 

 

ザザ……と異音が混ざり声が聞こえない。

 

 

『……状態……安定……!』

 

「……ここのせいか?」

 

 

多分だが通信状態が不安定な事を伝えようとしてくれているんだろう。

念話も通じないこの状況ではアースラとの交信は無理か。

 

本来なら最後まで指示を聞いてから動かなきゃいけないが今は時間がない。

 

チャージを開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメです!!通信出来ません!!」

 

「くそ!!繰り返し通信を試すんだ!」

 

 

最後の最後で重要なことをユウに伝えることが出来ず焦る。

あのコアを解析し終えた情報がたった今来たのに、このままもしユウが間違った方法を取れば………

 

その瞬間に、次元震がユウを襲う。

映像も乱れ完全にシャットアウトされてしまった。

 

 

「とにかくどうにかしてユウに伝えなければ……!!」

 

 

今、リンディ艦長は少しでも次元震を止めるべく魔法を行使しているため僕が指揮を取っているが正直この判断が正しかったのかわからない……けどユウに言われた僕の正義を貫く事を選んだ途端、このザマだった。

 

 

「落ち着け……どうすればいい、考えろ」

 

 

あのコアには魔力を撃ち込むとそれを飲み込み吸収する性質があるのだが、今のアレは暴走している上に魔力を一杯一杯まで注ぎ込まれ破裂寸前のホンモノの爆弾だ。

 

もしアレに砲撃系の魔法を放てば、その瞬間時の庭園の範囲全てを搔き消す。

 

逆に斬撃系のものを使えば少しのタイムラグが生まれ、脱出できる可能性が生まれるのだが、最後ユウはあの距離から砲撃するつもりだった。

 

手伝いをしているユーノと共に出した結論は

 

 

「……このままだとユウは100%助からない……」

 

「……ボクも、同じ結論だ」

 

 

重い空気がブリッジ内に広がり出す。

この事は絶対にあの2人には聞かせられない、ユウに最後に頼まれた"後は頼む"という言葉の意味が本当の意味で最後になるかもしれないという事実。

 

タイムリミットはあと2分、絶望的だった。

 

 

ガシャ、とブリッジの扉が開く音がする……。

 

振り返ればなのはとフェイトが何処かに呆然とこちらを見ていた。

 

……聞かれて、しまっていたのか

 

 

「ねぇ、クロノくん、ユーノくん今の話って……どういう事……?」

 

「お、落ち着いてなのは!」

 

 

ユーノが落ち付けようと止めに入るがなのはの顔が歪む。

フェイトは視線を回し縋る様にアルフに話しかける。

 

 

「………アルフ、教えて、何があったの」

 

「それは……その……」

 

 

話すしか、ない。

簡潔に時間が無いため短く結論だけを説明する。

なのはとフェイトの顔がどんどん青くなり歪む。

 

 

「だって……ユウさんはすぐに帰ってくるって……」

 

「そうだよ、ユウは約束、破らないよ…?」

 

 

それに答えれるものはここには誰もいない。

痛い沈黙が、この場を支配する。

 

 

____その時。

 

 

 

『……ラ、……えるか?』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャージを始めようとして気づく、この球体、魔力反射の陣が書かれている?

 

 

「確かこれって……ベルカ式の……」

 

 

その特徴的な三角形の魔法陣に文字。

あの資料に書いてあった魔法陣にそっくりなそれは確か範囲内の魔法無効化と吸収だったか?

 

 

「確か、ベルカ式の魔法なら反射しないんだっけか?」

 

 

ツァイトを起動し、このバリアジャケットの特殊なアビリティ「アナリシスモード」を起動する。

 

 

《Mode・Analysis》

 

 

自身の目にこの魔法の原点から使用用途、その過程を読み取り紐解く。

目の前に広がる、俺の目に写るソレを全て理解し疑問を解決する。

 

そして、回答を得られた時もはやこの魔法陣に意味はなく、ただそこにあるだけのモノと化す。

 

 

「___Release analyze」

 

 

自然と言葉が浮かびソレを紡ぎ口に出す。

瞬間、目の前の魔法陣から色が消え、重かった空気が少し軽くなっ気がする。

 

すると、今まで雑音しかしなかったインカムから音声が、人の声が聞こえてくる。

 

何やらもめている様なそれでいて緊迫しているものを感じ、そのまま声をかけてみた。

 

 

『ユウ聞こえるか!?』

 

「おう、クロノか?いつ切れるかわからないがとりあえず通信は復旧したぞ」

 

『なら手短に伝える!絶対に砲撃系でそのコアを破壊するな!何がで切り裂くんだ!』

 

 

 

……どうやら危なかったようだ、あのまま魔法陣に気づかず砲撃していたら何かしらあったみたいだ。

 

 

「了解、すぐに片付ける」

 

 

そう言って切ろうとした時、

 

 

『ちゃんと!無事で帰ってきて、約束!』

 

 

と聞こえた。

なら答えるべきは、

 

 

「すぐに帰る!」

 

 

プツンと通信が切れる。

こりゃ、ちゃんと帰らなきゃいけなくなっちまったなぁ………。

 

正直に言えばもうここで心中してしまうのもしょうがないと諦めかけていた自分がいたのも……また事実だ。

 

しかし最後のあの子の、なのはの声で気が変わった。

全力で生き残ってみせよう。

 

 

クロノに言われた通り武装を換装し使い慣れたライザーを取り出す。

残りリミットは1分を切り、もうここまで崩壊が始まっていた。

 

 

「全力の一撃で決めるぞ?」

 

《All right.master》

 

 

今まで付き合ってくれた相棒に声をかけると無機質な声の筈なのに何処か楽しそうな声音な気がして最後まで付き合うぞと励まされたような気がした。

その声に少し気が紛れ深呼吸し、最後の力を振り絞る。

 

 

魔力充填完了、一撃を放つ_____!!!

 

 

 

《Cradle Striker》

 

 

 

三角形の魔法陣と丸い魔法陣が交差しそのまま剣に固定し、一気に上から下へと刃を通す。

 

 

コア部分のど真ん中を切り裂く。

瞬間あたりから熱が消え始め、魔力も霧散し出す。

 

ミッション完了、あとは脱出するだけだ。

ガラガラと加速していく崩壊、このまま上から脱出するのが一番か?

 

 

______っ?

 

 

「えっ……?」

 

 

今、確かに………確かに誰かに呼ばれたような?

 

崩壊していく庭園の中、誰かの声が俺の耳に届いた。

 

しかしデバイスで確認しても生命反応も見れず、誰もいないことは明らかだ。

 

だけど、俺の中の何かがそこに行けと。

急げと言っている気がして。

 

 

 

(ユウ!何をしてる!早く脱出しろ!!)

 

 

俺が立ち止まっているのをモニターしていたであろうクロノから念話が飛ぶ。

けど……

 

 

(すまん!少し寄る場所がある!)

 

(何を言ってるんだ!?もうそこは完全に消え去るんだぞ!)

 

 

そう言われるがもう俺はそこに向かって、何処かの一室に向かって飛び抜けていた。

 

そのままの勢いで部屋の扉を切り裂き中に転がりながら入る。

そこは何かの研究室のような場所だった。

 

ベットがあるところをみるに研究室兼自室で多分だがプレシアの部屋だろう。

 

その部屋の机の上に雑に置かれた二冊の仄かに魔力を感じる本に目が行く。

 

___何故かわからないがコレを持っていかなければ!!

 

すぐにストレージにしまい、上に抜ける。

がしゃんと天井をそのまま突き破り空に出ると………

 

俺が脱出したと同時にその部屋すら崩れ出し、時の庭園が2つに割かれた。

 

本当に危機一髪とはこういう事を言うのだろうと冷や汗が止まらない。

 

……魔力もほぼゼロ。

何もできない、アースラに早く戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ………」

 

 

少し大きな溜め息をつきながらアースラへと帰還する。

 

転送用のゲートから中に入りその場でペタンと座り込む。

 

 

「マジで……死ぬかと思った……」

 

 

後になって変な汗が一気に流れ、自分がどれだけ危ないことをしたかを感じる。

 

とりあえず報告だけでもして来ようと立ち上がりブリッジに向かう。

汗が垂れ、鼓動はまだ早く何処かパニクっているのは実感しているが歩きながら深呼吸を繰り返し、生の実感を得ようとする。

 

疲労感と胸の鼓動が落ち着き、やっと安心できる。

 

 

「生きてるんだよ、なぁ……」

 

《Cheers for good work》

 

「……おう、お前もな」

 

 

さて、これからクロノの説教と考えると少し億劫になるがそれでも心配をかけたんだ。

それは甘んじて受けるしかない。

 

それでもチキンな俺はどんな様子か気になりブリッジ内の様子をそろー……と確認してみることにした。

 

ゆっくりと間から見てみるとブリッジ内の空気は………

 

 

 

「……お葬式?」

 

 

どんよりとした空気に暗い感じ。

俺の予想では作戦がうまくいったことを喜ぶ人や俺に怒ってるクロノなんかを予想していたばっかりに驚いてしまう。

 

中の局員の人たちは泣いてしまったり、身を寄せ合っていたりクロノなんて"すまない……"と呟いてグッと目を閉じて手を胸に置いて俗に言う黙祷をしていた。

横には泣いたエイミィとその2人を慰めるリンディさん。

 

なのはやフェイトも泣きじゃくっておりその2人を慰めるユーノとアルフ。

……フェイトが泣いてる理由はお母さんのことだと思うがなのははどうして……?

 

このタイミングで俺が入っていいのだろうか……うーん……

 

 

《Go.master?》

 

「行くしかないよなぁ……取り敢えず近くにいる人に何があったか聞くのがいいか?」

 

《nice.idea》

 

「おし、それで行こう」

 

 

 

とプランが決まりいざブリッジ内にコソコソと入り、一番近くにいたよく訓練をしたことがある局員さんに話しかける。

 

その人も随分と男泣きしていて軽く背中をさすりながらどうしたか聞いてみる。

 

 

「どうしたんだ……?なにがあった?」

 

「うぐっ……何言ってんだ……死んじまったんだよ……目の前のモニターみりゃわかんだろう……チクショウ!!」

 

 

どうやら誰か他の局員の方が無くなってしまったらしく、この状況らしい。

聞いていた話によれば俺があの巨大な傀儡兵と戦っている時点で"俺以外の全員が脱出して無事"とクロノから聞いていたのだが……それはとても悲しい。

 

せめてだれが死んだかだけでも聞かなければとまだ泣いてるこの人にその名前を聞く。

 

 

「すまない、不躾かも知れないけどその人の名前は……?」

 

「何いってんだよ!!アイツに……決まって……??」

 

「?」

 

 

少し怒り俺の方を振り向いた途端、その人は目を見開き口をあんぐりと開ける。

え?どうしたんだ。

 

 

「えっと?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!???」

 

 

うぉ!?今度は叫んだ!?

何なんだよ、一体?

っていうかそんな大声出したら!!

 

と、ここであらゆる場所から視線を感じる。

あーあ……遅かった……。

 

絶対に冷たい目やこんな時に不謹慎なみたいな顔してるんだろうなぁ……と振り向くと……

 

あれ?何でみんなして口開けてて目を見開いてるんだ?

え、えと……とりあえず報告か?

 

 

「えっと、ただいま戻りました……?」

 

 

そう言うと真っ先にクロノが俺の方に走ってきて……

 

 

「この!!!馬鹿野郎ぉぉぉ!!!!」

 

 

クロノから始めて飛び膝蹴りを腹に受けた。

むちゃくちゃ痛かったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……こそこそブリッジに入ってきた、と?」

 

「え、えーと、その……おっしゃる通りです」

 

 

あれからぶち転がされた俺はそのままユーノとアルフにバインドをかけられブリッジの真ん中で正座させられクロノから事情聴取、その後ろのリンディさんは笑っているが目が座っており激おこなのがヒシヒシと伝わってくる。

 

なのはとフェイトも最初は俺を助けてくれていたのだが俺の言い分を聞けば聞くほど、なのはは目が座り、いつぞやの士郎さんから出ていた黒いオーラのようなものが現れ始め、フェイトはフェイトで怒っているのはわかるのだがぷくーっと頬を膨らませていてどちらかと言うと可愛らしい。

 

……という現実逃避をするくらいには俺は今の現状が理解できていなかった。

そうしていると後ろのユーノとアルフの会話に、エイミィたちの声が聞こえる。

 

"全く……死んだかと思ったら……"

 

"ホントにユウはいっつもいっつも…"

 

"でもまぁ……無事だったわけだし許してあげても……"

 

 

 

ここまで来てもしかしてという俺の中で1つの答えが生まれる。

 

誰かが死んだという話、しかしクロノは全員無事だと言っていた。

そして俺を見た瞬間の局員さんの反応にこのなのはやフェイトの対応………

 

ドッと冷や汗や脂汗が背中やらオデコから流れる。

 

 

「あ、あのクロノさん……」

 

「………」

 

 

グイッと顎だけで言ってみろという節を伝えてくる。

 

 

「あの、何方か亡くなったみたいな事を聞いたんですけど……もしかしてそれって……」

 

 

……最後にあの場所を脱出する時、魔力反応はなく俺が最後でクロノからの通信をインカムを落とした事で切ってしまった。

そして魔力も空っぽになり、念話もできない状態で俺はゲートのところで少し休んでいた。

 

つまり……みんなが死んだと悲しんでいた相手は………

 

 

 

「もしかして、俺が死んだと思ってあの空気になってたの?」

 

 

「「「その通りだよ!!このアホ!!!」

 

 

クロノ、ユーノ、アルフに前から左右から一斉に一喝される。

 

ですよねー………

 

その後はまずクロノ、アルフ、ユーノからこってり絞られ、それ相応の罰とリンディさんからは思い出したくもないお説教。

普段怒らない人が怒った時の怖さたるやヤバすぎた。

 

そしてみんなに早くなのはとフェイトに謝りに行けと言われる。

 

ユーノがコソッと"メチャクチャ怒ってるからキチンと誠意を見せなきゃダメだよ"と言われ、いざ………なのはに話しける。

 

 

「えっと……なのはさん?」

 

「何?」

 

 

その声音と短い返答にビクビクする。

 

こんなにも低い声出るの?なのはって。

 

けどここで逃げるわけにはいかない、しっかりと誠意を見せて頭を思い切り下げる。

 

 

「えっと……すいませんでした……」

 

「……うん、それで?」

 

 

え?そ、それでってなんだろうか?

何を求められているのか分からず混乱してしまう。

 

 

(ユウ、誠意を誠意を見せるんだ)

 

(お、おう、わかった)

 

 

すかさずユーノからの念話で落ち着き、何とかしなければと頭を回す。

……というか横にいるユーノすら少し怯えているくらいには今のなのはから来る凄みがやばい。

 

 

「えっと……どうすれば、よろしいでしょうか……」

 

「ふーん……ユウさんは"それ"を私に考えされるんだ?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!!ちょっと待って!!」

 

 

どうする?マジでどうするんだ、俺。

 

今度は横にいるフェイトもなのはを見てプルプル震えて涙目じゃないか……?

その後ろにいたエイミィも怖かったのかフェイトを抱えてるし……

 

 

「何処、見てるのかな?……ユウさん?」

 

 

サッとなのはの方に目を合わせる。

考えろ、考えるんだ俺…………

そして結論を、出す。

 

……なのははきっと俺がいるだけでこんなにふうになるということはそれだけ嫌われてしまったということ、だろう。

 

ならば俺ができるのは……1つだけ。

 

 

「……すまない、本当に心配かけた。今回の件を含めていっつも心配ばかりさせちゃってるよな」

 

「……うん」

 

 

やっとなのはの声がいつも通りのトーンに戻りだす。

ならキチンと聞いてこれでおわらせよう。

 

 

「なのはは俺にどうして欲しいんだ?もちろん嫌われたのはわかってるからもう顔も見たくないっていうなら………」

 

「……へ?ちょ、ちょっとまって!」

 

「ああ、分かってるよ。もちろん家からもすぐに出るし……」

 

と言い切る前になのはがトンっと俺の胸に飛び込んでくる。

 

 

「……なのは?」

 

「もう……そうやってすぐ勘違いする所、嫌い」

 

 

おぅ……分かっていたとは言え直接言われると破壊力が段違いで少し泣きそうになる……

だがそれは仕方ないことなのだ、俺が悪いんだし……ん、勘違い?

 

 

「えっと……勘違いって……」

 

「……バカアホキライ……ユウさんなんて毎日タンスの角に小指をぶつければいいんだ」

 

 

そういいながらぐりぐりと俺の胸に頭を擦りながらぎゅっと抱きついてくる。

言われてることとやられてる事の違いに困惑しながらも取り敢えず"いつものように"頭を撫でる。

 

 

「……今度」

 

「?」

 

「今度、何処かいっしょに遊びに行ってくれるなら……許してあげる」

 

「……ん、わかった。約束だ」

 

 

うん、と頷きそのまま頭を胸に埋めてくる。

 

なんかなのはを抱きしめるのも久しぶりな気がして、俺も少し甘くしてしまう。

 

………何やら視線が?

 

周りを見回せばユーノとアルフがジト目、クロノは"そういう趣向か……"と呟き、リンディさんとエイミィから鬱陶しいほどのニヤニヤ顔、周りの局員もみんな腹立たしい笑みを浮かべておりとてもいずらい。

 

冷静にここ、アースラのど真ん中なんだよなぁ……どんどん顔が熱くなるのを感じ、これが照れるというものだと自覚する。

 

 

「むぅ……」

 

 

フェイトはまたぷくーと頬を膨らませ、少し睨んでくる。

何故にまたご機嫌斜めに?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、私は先に医務室に行ってるよ」

 

「ああ、ちゃんと治療してもらえよ」

 

 

うん!と言って笑顔でブリッジから出て行くなのは。

先ほどまでの雰囲気は全くなく凄くご機嫌だった。

さて、次は……

 

「……ふん」

 

「あー、フェイト?」

 

 

なのはがご機嫌に成れば成る程、下斜めに下がっていったフェイトに話しかけるとそっぽを向かれてしまう。

 

えぇ……何で?

 

 

「ホラ、頑張りなよユウ。フェイトにもキチンと誠意みせな」

 

 

アルフに軽く横腹を殴られる。

何故ユーノとアルフはまだジト目なんだ?ホントに訳がわからない。

 

そして向こうではエイミィがリンディさんとクロノに何かを話している。

 

 

「ユウくんはなのはちゃんとフェイトちゃんを完全に子どもとして見ちゃってますねー」

 

「ええ、ちょっと不憫だけどユウくんはそういう趣味じゃないみたいで良かったわ」

 

「ああ、唐変木で馬鹿ってだけでも考え物なのに挙句にソッチの趣味があったら僕が全力でその根性を鍛えていた所だ」

 

 

よくわからないけど凄く失礼な事を言われているという事だけはわかった。

 

まぁ……今はそれより

 

 

「なぁ、機嫌直してくれよー……」

 

 

少し情けなくはあるがフェイトに対して少し甘えるような形で頼んでみる。

 

……うーん、顔すら見てくれないし、少し強引にするか?

 

「ふん!………えっ、わ」

 

 

そっぽを向くフェイトを後ろから抱き上げそのまま座り俺の上に乗せる。

 

あの島でよく2人で話す時にしていた格好だ。

 

 

「なぁ、なんで急に機嫌悪くなったんだ?」

 

「え、あぅ……」

 

 

ありゃ、今度は赤くなってしまった。

 

そのまま、あわあわしているフェイトが可愛くて、つい調子に乗ってフェイトを抱きしめたまま、なでてみる。

 

……自分でも意地悪なのは分かっているがフェイトが困ってる姿が何だかとても可愛く見えてしまうのだ。

それでふとフェイトが静かになっている事に気づきはて?と顔を見ると………

 

 

「ん……ユウ……」

 

 

 

ん?んん??

 

何処か顔を赤くして少し涙目に切なげに俺を見つめ熱い吐息を吐いていた。

何だがいけないことをしてるみたいで、何となく背徳感と目があったままフェイトの方から視線を外せない。

 

そのままゆっくりとフェイトが俺の顔に近づいて来て………

 

 

「ストップ!!それはマズイって!!」

 

「「!?」」

 

 

……アルフが止めに入ってくれた。

今、俺は何を……??

 

 

「やっぱり叩き直すべきか……?」

 

「うーん……そっちのけもありそうだねぇ……」

 

「あら、おしかったわねー」

 

 

また何か言われているがそれよりもまたヘンな事をしでかす前にフェイトから少し離れる、離れようとした。

 

 

「っ……」

 

「……フェイト?」

 

 

けど、フェイトがそのままギュッと俺の服を掴んで離さない。

 

 

「もうすこし、このままがいい」

 

「うっ……」

 

 

これは破壊力が……でもリンディさんたちから一応"重要参考人だからあまり長く話せない"という節を伝えられていたのでどうしよかと目でリンディさんに訴えると、

 

 

「ならそのまま事情聴取しましょうか?ユウくんにも聞きたいことがあるしフェイトさんもユウくんがいた方が安心でしょう」

 

 

それでいいのか管理局。

 

 

「まぁ、いいだろう。ほら行くぞ」

 

 

ホントにそれでいいのか管理局員!?

そう突っ込もうとしたが腕の中のフェイトが心配だったのは本当だし、嬉しそうに笑うこの子を見たらもう、それでいいか……と思ってしまう辺り俺も相当バカなのだろう。

 

でも何か忘れてるような……?

 

 

 

そしてフェイトの軽い事情聴取の後、俺が実は大怪我していることがバレ、何故早く言わないとクロノにまたキレられ治療室に連行されそこで同じく治療を受けていたなのはに怒られるのはまた別の機会に話すとしよう。

 

……というか君たち、結構俺に乱暴なことしたよね?とは思ったが黙って治療は受けた。

 

 

………自分の怪我を忘れてるとかいよいよ記憶が飛び始めたかなぁ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。
いやぁ……ついに後、数話で無印が終了となります。
ここまで続けられたのも一概に読んでくださるユーザー様と暖かい感想をたくさん頂けたおかけです(๑>◡<๑)
いつも本当にありがとうございます!!

それではここからは少しこの後の展開についてです。
この後の流れは無印の後日談と数話のエピローグのようなものの後にAs編に入る予定です。

As編の最初のタイトルは「6月3日の私」です。
それでは次回もよろしくお願いします!!


評価とご感想お待ちしております!!


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第30話 [無印最終話] ともだち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が"俺"じゃないまだここに来る前に出された条件は3つだった。

 

1つ、全てを救うことはできない。

死ぬ人は死ぬし、それに意味があり、その出来事が消えて、無くなってしまうものがあるから。

 

2つ、この2つの事件の根底を覆す、又はそれ自体を起こさないという対処は絶対に行ってはいけない。

それで違う可能性を提示してしまえば変えてはいけないものまで変えてしまうかもしれないから。

 

3つ、一定以上の感情を写しすぎるのはあまり進めない。

彼処はココでありココではない。

故にそれは悲しく悲劇的なものになってしまうから。

 

 

それを踏まえた上でまだキミは行くのかい?

 

 

少し気遣うように、それでいて諦めたように俺に問うこの人は_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あの後、事情聴取が終わり形としてフェイトに残ったのは"次元干渉犯罪の最重要参考人"という立場。

 

それ故に俺となのは達はフェイトとの接触を禁止され、この数日間の間は安静にと言うことだった。

 

それは仕方のないことだと言うのは頭では理解しているし、納得もしたいが少し引っかかっていると言うのが正直なところだ。

 

………話は変わるがなぜ俺たちが未だにアースラに乗っているかと言うとあの時空断裂に近しい事象によって空間が安定せず少しの間だがここで待機しなければいけなくなっているからだ。

 

そして俺は今医務室で怪我がどれ程治ったかの確認をされているところだ。

 

フェイトとの事情聴取中になんかふらふらするし頭痛いなーなんて考えていたら目の前のリンディさんたちが慌てだして気付いたら頭から血が噴射してたんだよなー……

 

アレから既に4日くらい経っていてもう体も快調だし今の検査が終われば直ぐにでも俺の事情聴取をしたいとクロノに言われていた。

 

あの最後に俺が使った魔法についてとか、まぁ色々と心当たりはあるんだけど……

 

 

「……ほとんど覚えてないんだよなぁ……」

 

 

あの最後になのはたちを守らなければというのは覚えているんだが、放った魔法や知識がなぜか"抜け落ちている"

 

まぁ覚えてないのは仕方ないしと前向きに思考を向けていると局員の人が帰ってきた。

 

 

「はい、もう大丈夫ですよ。かなり傷の方も完治しているし今日からは自由でオッケーです」

 

「はい、了解しました。ありがとうございます」

 

 

どうやら平気だったみたいでもう病室生活ともおさらばのようだ。

けど、何処かこの局員の人が俺のカルテを見つつ不思議な事を言う。

 

 

「ユウくんの体は随分と丈夫だよね、どこの出身なんだろう……」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、私は見たことないかな。なのはさんや私たちミッドチルダの人間の数倍は頑丈だし、自然治癒能力も高いよ」

 

「へぇ……」

 

 

それは知らなかったけどそう聞くと納得する部分もある。

クロノたちにも言われたがあのプレシアの攻撃を受けてからの回復力や復帰までの時間が早すぎるとまた何かしたのかと詰め寄られた。

まぁ、ラッキーなのかな?

 

………あ、そういえば聞きたいことがあったんだ。

俺にデバイスの拡張アイテムをくれたあの女性、実は俺がここに戻って来てから一度も会えてない。

 

 

 

「すいません、聞きたいんですけど……」

 

 

あの直前、俺にこのアイテムを渡してくれた女の人について聞いてみる。

あの人は局員の人のはずだし、この人なら知っていると思うんだけど……

その人の特徴や見た場所などを伝えるが首を傾げられてしまう。

 

 

「うーん……私は知らないなぁ……と言うかそんな見た目のアースラの乗務員いたっけ……?」

 

「………そうですか……すいません、気にしないでください」

 

 

結局誰だったんだろ?あの人。

 

 

「とりあえず俺はクロノのところに行きます、色々ありがとうございました」

 

「あ、うん。また何かあったら気軽においで」

 

 

そう言って手を振ってくれる。

いい人だな。

 

 

 

 

そのまま医療室をでて廊下を歩きつつクロノに連絡する。

 

 

(クロノ?問題なかったみたいだからこのまま向かうぞ)

 

(ああ、訓練室に来てくれ)

 

(了解)

 

 

はて、訓練室?

てっきりあの事情聴取部屋あたりに呼ばれると思ったんだけどなぁ……

とりあえず向かってみると部屋の前にはなのはとユーノが既に待機していた。

 

 

「よ、2人とも」

 

「あ、ユウさん!」

 

「お疲れ様、ユウ」

 

 

テコテコと歩いてくるユーノと走ってダイブしてくるなのは。

そのままなのはを受け止め抱き上げると、えへへ……という声が聞こえる。

 

この数日のなのはの甘え方がどんどん強くなってる気がするが、俺自身嫌じゃないし構わないかと放置しているのだがその度に近くにいるユーノやクロノから白い目で見られるのだけが少しキツイ。

 

 

「はぁ……ほら行くよユウ」

 

「あ、ああ」

 

 

そのままユーノに先導され中に入るとクロノとエイミィ、リンディさんが何かを話し合っており、俺たちに気付いて振り向く。

するとリンディさんとエイミィはニヤニヤとまた鬱陶しい、笑みを浮かべ、クロノはユーノより酷い白い目でまたか……と呟く。

 

そろそろ自重すると言うか抱っこしているなのはを下ろした方がいいかな……

何より俺のライフが保たない。

 

 

「す、すまんなのはそろそろ降りてくれ……」

 

「え、なんで?」

 

 

そんな純粋無垢な目で俺を見ないでくれ……

 

 

「ユウはこれから事情聴取とかあるからちょっとだけ貸してくれ」

 

 

とクロノが助け舟を出してくれ、そっかといって降りてくれる。

マジ助かったとクロノに念話を送るとまたジト目をされる、何故?

 

そこからは4日前の時の庭園の中で俺が何をしていたか、何をしたか、そしてお説教が始まる。

まぁ話した内容は俺が見たまま、やったことをそのまま話した。

 

 

「それで、あの馬鹿みたいに大きい魔力は何だったんだ?」

 

「ええ、それは私たちも気になっているの。何よりあれほどの力を個人で持っているともなると管理局としては少し見過ごせないの」

 

「そ、そんなにですか?」

 

 

少し強めに警告され冷や汗が流れ出す。

俺ってそんなにやばいことしたの?

 

 

「ヤバイで済めばいいが、あの時の君から放たれた魔力は次元震よりも上だった可能性すらあるんだ」

 

「そうそう、モニター出来なかったけど感知はしててね、ほら」

 

 

エイミィが見せてくれたグラフには一部跳ね上がった場所があり、下には"Yuu"と表示されている。

俺か、コレ。

 

 

「へぇ……凄い大きさだな」

 

「はぁ……なんでそんな他人事に言えるんだろう」

 

「全くだ……」

 

 

ユーノとクロノからのまたジト目と溜息を貰う。

なんか最近2人が冷たいよ……

 

 

「それで、前も聞いたがユウはこの時のことほとんど覚えてないんだな?」

 

「ああ、嘘って思われたらそれまでだけど全然記憶にないんだ」

 

 

 

そういうとクイクイとなのはに手を引っ張られる。

 

 

「どうした?」

 

「それじゃ何処まで覚えてるの?私とフェイトちゃんを助けてくれた事は?」

 

「あー……確か2人に会ってそこからあの大きな傀儡兵と戦ってる途中から覚えてないんだよなぁ……」

 

「ふむ……」

 

 

そういうとまたクロノたちが話し合いを始める。

俺のした事が相当気になるようだけど……

するとクロノが振り返り俺の方に向き合う。

 

 

「さて、なら本題だ。ユウ、これからここで魔法を行使して欲しい」

 

「へ?構わないけど、なんでだ?」

 

「それはね、あの日のユウくんの魔法を再現して欲しいの。そうすれば私たちとしても色々と判断できるしね」

 

「そういうことだ、別に悪い様にはしないと約束しよう」

 

 

そう言って観測機を出し俺から離れる。

まぁ構わないけど、と俺もデバイスを取り出す。

みんなが一定以上離れ、準備が整う。

 

 

「それじゃ初めてくれ」

 

「おう、セットアップ」

 

 

そして俺はあの時の感覚の様に………?

あれ、反応しない?

デバイスを確認するとあの表示がされず普通のフォーミュラーかブレイズの選択肢が出るだけ。

 

 

「どうした?」

 

「すまん、なんかこの前のやつになれない」

 

 

そこからは俺のデバイスのチェックやカバーなどを技術者の人に見てもらう事になったのだが………

 

 

「お手上げ……か」

 

「ああ、前も話したがキミのそれは僕たちにも解析しきれないんだ」

 

「一応システムだけは残ってたみたいで、名前は"フルドライブシステム"って言うみたい」

 

 

わかったのはそれが全てで解析にはかなりの時間と人を必要とするみたいで後回しになると言う。

 

しょうがないと普段のフォームで一応観測したところ特に変わったところはなかった。

敢えていうなら俺の魔力量が増えていたという所くらいだ。

 

 

「ホントにキミは謎ばかりだな……」

 

「えっと、すまん?」

 

 

謝るな、と軽く殴られる。

しかしまだ解決してない事があったりもする。

 

 

「さて次がある意味、今回の疑問の中で一番解決できない事なんだが……」

 

 

クロノが何処か言いずらそうにしているとリンディさんが俺に目を合わせ言ってくる。

 

 

「ユウくん、貴方は何種類の魔法種を行使できるの?」

 

「へ?えっとミッドチルダ式のやつだけですよ?」

 

 

そういうとまたエイミィがモニターを操作して違う画面を見せてくれる。

そこには色々な魔法の使用履歴の様なものと人の名前に使用した種類が書かれている。

そこに俺の名前がなぜか"2つ"あった。

そこにはミッドチルダ式魔法術と……

 

 

「……ベルカ式魔法術?」

 

「ええ、貴方が使った事が観測されてるわ」

 

「ユウ、これにも覚えはないか?」

 

「ああ、全くないぞ」

 

 

普段使っているミッドチルダ式ですら覚束ないのにベルカ式なんて資料でしか見たことのない魔法使えるはずが無いと思うんだが……

 

 

「ねぇ、試してみれば?」

 

「うん、ボクもそれがいいと思うよ」

 

 

そうなのはとユーノに言われるが使い方の分からないものを使ってみろと言われてもなぁ……

そう悩んでいるとクロノから何かを手渡される。

 

 

「なんだこれ?」

 

「資料にあるベルカ式の魔法系のものだ。一応資料としてはアースラでも管理はしているからな」

 

「へぇ……ー

 

 

少し目を通してみる。

そこに書かれているのは魔法の使い方、近しいものを言うなら教科書や参考書だ。

でもこれは以前読んで全く理解出来なかった……はず……?

 

 

「…………?」

 

「どうだ?」

 

「えっと……やってみる」

 

 

その文書を読んだ瞬間、頭に何かが羅列されていく感覚に襲われる。

自然とどうすればいいか、どうすれば使えるかが頭に浮かんでくる。

まるで一度この魔法を読み解き共感し、理解した様な……

 

 

いつもの感覚、いつものように簡単な魔法を行使すると目の前に現れた魔法陣はいつもの円状ではなく三角形の形をしていた。

 

 

「……これは」

 

「やっぱり、使えたみたいだな」

 

「ええ、それは希少技術の1つね」

 

 

これが、ベルカ式……?

少し興奮したようにユーノが解説してくれたが2つの魔法種を使えるのは本当に稀のようで凄いらしいけど、全く実感がない。

 

本当は使えなかったのに最近使えるようになったような……そんな奇妙な感覚。

 

 

そこからはこの魔法の計測や残りの事情聴取などを行い、終了となった。

少しの疲れと気だるさに襲われるが、まだ数日ここにいなきゃいけないみたいだし、ゆっくりさせてもらうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウとなのはが訓練室を後にしたこの場所で僕たちはとある話し合いをしていた。

 

 

「それで、正直にどう思うの?」

 

「僕はユウから嘘をついていたり何かを誤魔化す感じは無かったと思う」

 

「ええ、私もそう感じたわ」

 

「だよね……ユウくん、本気で驚いてたし」

 

 

まず疑問なのはなぜ急にベルカ式の魔法を使用できるようになったか。

二つ目にあの時の巨大すぎる魔力について。

三つ目に頑丈過ぎるあの体。

 

これらが今僕たちの中で疑問になっている事だ。

 

 

「彼が次元漂流者な時点でわからない事だらけなのはしょうがないんだけどね……」

 

「ええ、それに彼と過ごした僕たちの結論は信用できる人物であると言う点は変わらないと思います」

 

「そうだね、ユウくんは悪い事とか自覚しては出来ない子だよね」

 

「うん、誰かに騙されてーとかならありえるかもだけど……」

 

「あー……お人好しだからね」

 

 

そう言って笑ってるエイミィとユーノ。

確かにユウのお人好しは異常なレベルなのは多分ここにのっている者はみんな気づいている。

 

身知らずの人だろうとその身を呈して守ろうするくらいだ、あのプレシアが落ちた時その場にいれば一緒に飛び込んでいたかもしれない。

 

 

「ホントに聞けば聞くほど欲しい人材ねぇ……」

 

「ユウには管理局員がかなり向いてるとボクも思いますよ」

 

「私もユウくんと一緒に働けたら楽しそうだなーと思うかな」

 

「ああ、僕も同感なんだが……」

 

「ええ、まだ答えを出せてないみたいね」

 

 

ユウには管理局に入って欲しいと何度か話したがまだ決めきれていないのと約束があるとかで一度地球には戻るとのことを言われている。

 

 

「人格者だし、力もあるしなんならすぐにでも出世しそうなのにねー」

 

「ああ、少しそっちのけがあるんじゃないかと心配はしているがな」

 

 

そう僕が言うと3人ともそれぞれの反応をする。

ユーノは少し遠い目で、母さんとエイミィは何処かの女子学生のようにはしゃぐ。

 

 

「前まではユウもどこかしらで止めたりなのはも自重したりしてたんだけどね……あの日からべったりもべったりだよ、ユウもユウで止めないし、なんなら満更でもなさそうだしさ……見てるこっちが恥ずかしいんだよね……」

 

 

ユーノも相当溜まっているようで一度愚痴り出したら止まらない。

 

 

「最近のユウくん、更に優しくなったというか甘くなったというか?なのはちゃんといると雰囲気が全然違いますよねー」

 

「ええ、実はこの前フェイトさんの聴取の時こっそりユウくんを連れて行ってあげたんだけどね、その時のフェイトさんいつもの何倍も笑ってたり甘えたりしてたわよ?ユウくんもユウくんでずっとフェイトさんを抱き抱えてたし」

 

「詳しく!」

 

 

はぁ……全く、接触禁止なのにそれを艦長が破ってどうするんだ……

 

心配する場面もあるがそれ以上に僕たちはユウの事を信用しているようだ。

後数日だがここでゆっくり休んで欲しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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_________アレから更に数日。

 

今は俺たちは元の生活に戻ることが出来ていた。

 

なのはは今日から学校で俺は今翠屋に久しぶりに店員として働いていた。

 

久しく会っていなかった常連さんたちからの温かい言葉や士郎さんたちとのこの時間に帰ってきたんだなと感じる反面、未だどうなるか分からないフェイトの事が頭から離れなかったりもする。

 

クロノたちから聞いた話によるとどの道向こう側、ミッドチルダでの裁判があるが決して悪いようにはしないとの事と保護役をリンディさんが引き受けてくれるらしくその辺りの厄介ごとも何とかしてくれるらしい。

 

………出来れば近くにいてやりたいんだけど、それは出来ないとリンディさんたちから言われてしまった。

 

次に会うときは出来れば笑顔で、そう約束したけど、どうなるかはまだ誰もわからないしなのはへの返事もできていないと後悔しているフェイトを俺は知っている。

 

どうにか会えないのだろうか?

 

 

 

明くる早朝、いつものように目が覚め着替えているとデバイスにアースラから連絡が来る。

そのまま通信を開くとエイミィがでた。

 

 

「おはよう、どうした?」

 

「おはよー実はね……」

 

 

そこから説明されたのはフェイトの裁判が決定し、管理局の本局の方へ移動になる事が決まったがその前になのはに会いたいと言ってくれたようで直ぐにでも向かわなければと準備を始める。

 

 

 

「了解、なのはへ連絡は?」

 

「うん、クロノがしてくれてるから……」

 

 

と話しているとなのはの部屋の扉が開く音がする。

どうやら飛び起きたようだ。

そのままバタン!と俺の部屋に少し寝癖がついたなのはが入ってくる。

 

 

「ユ、ユウさん!!」

 

「ああ、わかってるよ。行こうか?」

 

 

めちゃくちゃテンパってるところを見るに嬉しい反面どんな返事が来るか怖いのだろうな。

そのままユーノを頭にのせ家を出る。

 

 

 

「確か公園でいいんだっけ?」

 

「うん、そこで待っててくれるみたい」

 

「あ!ユウ、そこ右!」

 

 

そんな会話をしながら小走りで公園に向かう。

もう1週間はあってないもんな、俺も気になってたし。

 

そして走り抜けた先の公園には、静かに佇み待っていてくれたであろうフェイトが、そして横にはアルフとクロノがいた。

 

それをみてなのはが少し足踏みをしてしまう、まだフェイトから聞く返事が怖いのだろうか?……しょうがないなぁ……全く。

 

直前で止まってしまったなのはの背中を押す。

 

 

「ほら、行ってこい?フェイトも待ってるぞ」

 

 

「っ!うん!」

 

 

 

 

少し離れた所でなのはとフェイトを見守る。

横にはクロノ、アルフ、ユーノがいてそれぞれが話をしている。

 

 

「それで、次に会えるのは早くて数ヶ月後と言った所だ」

 

「そっか……」

 

「それで、お前はどうするんだ?」

 

 

クロノが俺に向き直り、聞いてくる。

 

あの時の問いの続きだろうか?

それならもう答えはでている。

 

 

「俺は、まだ此処に残るよ」

 

 

そう答えると静かに向き直り、そうかとだけ言われる。

確かに管理局に行くのもいいかなと思ったが俺には今のこの場所にいなきゃいけないって何処かで思えて。

だから今は此処にいることを選んだ。

……けど、

 

 

「けど、いつか未来で管理局で働きたいとは思ってるよ」

 

「そうか……なら、そのときはよろしくたのむよ」

 

 

そう言って笑いかけてくれる。

ホントに世話になったよな、クロノには。

 

そして次はアルフに話しかける。

 

 

「や、調子はどうだ?」

 

「ん?そうだね、悪くないよ」

 

 

そう言って微笑んでくる。

どうやらあの時のことは引きずっておらずこれからのことに前向きになれているようだ。

 

 

「アンタには、ユウには感謝してるよ」

 

「なんだよ、急に?」

 

「いやさね、結局お礼も言えてなかったからね?次会えるのもいつかわからないしさ」

 

 

アルフと話すのは最初の出会いからあの時の庭園での事まで。

 

結局ちゃんとお互いのことを話せたのはあの温泉でのベンチでだけで他は戦うことのみだった。

 

 

「でもユウがフェイトの言ってたやつだって気づいた時は驚いた反面、納得もしたんだよ?」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、アンタみたいな奴ならフェイトも心を開くってね?けど疑問なのはどうやってあんなに仲良くなったのか、かな?」

 

 

少し揶揄うように、楽しそうに問いただしてくるアルフから少し目を背け頬をかく。

 

 

「あー……それについてはフェイトから聞いてくれ、俺からは言えない約束なんだよ」

 

「そうかい?フェイトも教えてくれなかったんだよ、秘密って」

 

「む、なら余計に俺からは何も言えないよ」

 

 

そうかい?そりゃ残念、と何処か嬉しそうにアルフにいわれ何だか少し恥ずかしくなる。

なんだろ、これ。

 

 

 

……と話しているとなのはとフェイトの方にも変化があったようだ。

 

 

「どうしたら、ともだちになれるのか教えてほしいんだ」

 

 

意を決したようになのはに問いかけるフェイト。

それに微笑みながらなのはは答える。

 

 

「簡単だよ、すごく簡単!____名前を、呼んで?」

 

 

そして、

 

 

「___なのは」

 

 

………ともだちになるのはすごく簡単。

君でも貴方でもなくて、相手の目を見てその人の名前を呼ぶ。

最初はたったそれだけでいいんだよ?

 

そして2人の絆は深くなっていく。

それが始まりでそこからは芽生えて行くだけ。

時折、喧嘩しちゃうこともあるかもだけど、それでもごめんねって言えば元どおりになれる。

 

そんな事を誰かに教えてもらった気がする。

 

 

 

 

「うぅ……よかっねぇ……」

 

「ほら、そんなに泣くな」

 

 

横で泣きじゃくっているアルフをみて少し笑みが零れる。

 

そうだ、別にこれでお別れなんかじゃない。

すぐに会える、そう考えるのだ。

 

そしてなのははフェイトに思い出の、友情の証と自分のリボンを渡す。

 

フェイトも自分の止めていたリボンを解きなのはと交換する。

 

そしてお別れの時間はやってくるのだ。

 

 

 

クロノが先導し、転送の準備を始める。

 

この中で、なのはとフェイトの中に入ってまで話しかけるほど俺は空気が読めないわけではないから下がっているとなのはがこちらに戻ってくる。

 

 

「もう、いいのか?」

 

「うん、ちゃんと約束もしたんだ」

 

 

それはいつかの約束。

必ずまた会うという事、次に会ったら必ず名前を呼び合うという事。

 

 

「だから、大丈夫」

 

 

そう言っても少し涙目な、なのは。

その頭を少し強めに撫でる。

 

 

「ユウ!」

 

 

ふと、フェイトに呼ばれる。

何処か不安そうに、けど何かを決意したその表情に惹かれ、フェイトの方に向かう。

 

一応確認をとなのはとクロノに顔を合わせると、

 

 

「フェイトちゃん、待ってるよ?」

 

「少しなら時間はある、かまわないよ」

 

 

 

ならその言葉に甘えさせてもらおう。

そのままフェイトに顔を合わせるために少しだけ屈み、ほんの少しだけの2人の会話をする。

次に会ったら何処か遊びに行こうだとか、なのはと友だちになれたとか、この先にの事とか。

 

それはいつも通りだけど、今までになかった未来の話で、確かに前に進んでいるフェイトを俺は見ることができた。

 

 

 

「そろそろ、時間だ」

 

「ああ、わかった……それじゃ、フェイト?」

 

 

クロノから声をかけられ、フェイトに向き直ると少し悲しそうにしてしまう。

それがほっておけなくて、でもどうすることもできなくて。

そんな時、フェイトから一つ、お願いをされる。

 

 

「ユウ、もうすこしだけ屈んで欲しいんだ」

 

「え?ああ、いいけど」

 

 

そのままフェイトと俺の頭が丁度くらいまで屈むと何処か不安そうに顔を赤らめるフェイト。

どうしたんだ?

 

 

「えと……その……」

 

「?」

 

 

何かもじもじとし始める。

そんな中クロノからまた急かしの声をかけられフェイトが焦り出す。

 

 

「どうした?お腹でも痛いのか?」

 

「ち、違うよ!えっと……」

 

 

後ろからアルフの頑張れ!という声となのはのなにしてるの?あれ、とクロノの溜息にユーノの後が怖いなぁ……というのが聞こえてくる。

 

ホントになんなんだろうか?とみんなの方からフェイトの方に顔を向けなおした瞬間………

 

 

「ん……」

 

「ーーー!?」

 

 

へ……?

 

 

 

「それじゃまたね、ユウ!」

 

 

そう言って身を翻しクロノたちの方に駆けていくフェイト。

 

え、え!?

 

 

「い、今!何したの!?」

 

 

なのはが何かを叫んでいるが俺の耳から抜けて消える。

 

………俺の思考がまとまらない。

何をされたんだ?

 

そんな中、目の前では転送が始まる。

 

 

「全く……それじゃあな?」

 

「フェイト頑張ったね!あ、またね!」

 

「なのは、またね?……えと、ユウも!」

 

「フェイトちゃん!?ユウさんに今ーー!!」

 

「…………………」

 

「おーいユウ?………ダメだ、完全にフリーズしてる」

 

 

 

そうしてこの事件、ジュエルシード事件は終わりを迎える。

 

………そのあとの事はほんとんど覚えてなくて、やたらとなのはがプンスカ怒ってたのとユーノに色々と同情されたのを覚えている。

 

 

…………なんというか、その、柔らかかったなぁ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、お疲れ様でした。
これにて無印完結になります!!
ここまで読んでいただいたユーザー様に最大の感謝を。
ここまで続けてこれたのも一概に読んでいただき、感想を書いて頂いた皆様のおかげです。
ここから少しの後日談を挟んでからAs編にはいります(*'ω'*)

それではここまで本当にありがとうございました!
ご感想、評価お待ちしております!


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第31話 [後日談] 戻り始める日常

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュエルシード事件から少しして、俺は結局この海鳴市にあるこの翠屋で居候兼、バイトとして働いている。

 

もちろんだが、何時までもここで迷惑をかけるつもりはないし、なんならあの事件の後クロノ達と向こうへ行こうとしていたのだが、高町家の皆んなが止めてくれ、寧ろしばらくいて欲しいとまで言われてしまったからにはソレを蔑ろには出来なかった。

 

今、俺の日常はここで、非現実とは関係ない普通で暖かな生活をさせてもらっている。

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

______あの日以来、俺は一部の魔法が使えなくなっていた。

正確には使おうとすると、リンカーコアからの魔力供給がストップしてしまう。

そして妙なのは、その魔力が戻って来る訳でもなく、消費だけされてしまう。

 

イメージとしてはチューブに流していた水が、一定の場所へ到達するとそこに穴が開き、溢れてしまい消えてしまう様なのだ。

 

 

「次のお客様はこちらへどうぞー!」

 

 

何事も対価は必要で、対価を払えばそれに応じた物が得られるのがこの世全ての法則であり、魔法もまたそれに乗っといている。

 

しかし、これでは俺の消費した物は何処にいき、対価は何処にあるのだろうか?

 

 

「お疲れ様、今日はもう大丈夫だよ」

 

 

「了解です、夕食の買い出し行ってきますね」

 

 

「うん、よろしく」

 

 

士郎さんにそう言われ、エプロンを外し、そのまま買い物に出かける。

時間は16時過ぎで綺麗な夕焼けが俺の顔を刺す。

 

 

………まぁ、それでも今の俺には必要ないものだって割り切れる場所に居られるのは本当にありがたい事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り返るのはあの日、なのはと久し振りに帰ってきた高町家の前、事前にリンディさんが知らせて置いてくれたのか、皆んなが揃って出迎えてくれた。

 

あの時、正直に言えば士郎さんや恭也に何て言われるのか怖くて緊張していたんだ。

 

だってそうだろう? あれだけなのはを助けるって、守るって言ったのに傷つけてしまったんだから。

 

けどケジメはつけなければいけないし、何よりあの人達だけには顔を背けたくはなかった。

 

 

 

 

ーー家が見えてきて、横にいたなのはが駆け出した。

ふと、冷静に考えればまだ9歳の女の子で、今回の旅は少し長すぎた。

嬉しそうに桃子さんや美由希と嬉しそうに話している。

 

何処か久し振りにみた高町家の人たちは嬉しそうに、優しくなのはと会話をしている。

 

 

「……ユウ?」

 

「ん、ああ」

 

 

ふと肩に乗っているユーノに話しかけられる。

どこか気遣う様に、ユーノが俺に聞いてくる

 

 

 

「どうしたの?何かユウ、悲しそうな顔してたよ?」

 

「ああ、何か……俺にもさ、あんな風にして待ってくれてる家族がいるのかなーって」

 

 

それは何処かずっと俺の心にあった疑問で見ない様にしていたもの。

本当は俺には今まで築いてきた物は何もなくて、でもそれを見ない様にしてきたんじゃないか……なんて。

 

 

「はぁ、ユウらしくないなぁ……」

 

「はは……俺もそう思ってた所だ」

 

 

何処か呆れた様に笑いかけてくるユーノに答える。

本当に俺らしくないよな。

 

___オレらしくない?

 

ああ、俺は俺だから。

 

 

 

「……?」

 

「どうしたの?急に振り返って」

 

「あ、いや……なんでもない」

 

 

気のせい……だよな。

後ろには見慣れた道が続くだけで通行人は誰もいない。

 

ふと視線を感じ、顔を前に戻すと皆んなが俺の方を見ていた。

 

 

「ほら、ユウ?」

 

「……おう」

 

 

少しうるさくなった鼓動を無視して前に一歩踏み出し、家の方に歩く。

すぐに目の前に着き、士郎さんが何かを待つ様に俺の目を見ている。

 

 

「えっと……」

 

 

ヤバイ、どうしたらいいのだろうか?

そんな風に焦っているとくすくすと俺を見ながら笑う桃子さんと目が合う。

そして

 

 

「お帰りなさい、ユウくん」

 

 

たったその一言、その言葉だけで何処か俺の心にあった重みがスッと軽くなった気がした。

その言葉に何かを待つ様に俺のことを見てくる桃子さん達に、俺は出来る限り感謝を込めて、

 

 

「ただいま戻りました!」

 

 

そう、言葉にした。

 

 

 

 

 

 

それから数日は士郎さんや桃子さん、恭也に美由希からどんな事をしたのかや、なのはの様子について聞かれたが、特に俺を責めるようなものがなかった。

 

安心する反面、何処か不安なところもあり士郎さんに直接聞いてみれば、笑いながら"何言ってるんだ、ユウくんはちゃんと約束を守ってくれたよ!" なんて言ってくれた。

 

 

 

なのはは直ぐにアリサとすずかに連絡をしたらしく嬉しそうに出かけて言った。

何でもアリサの家に遊びにおいでと誘われたらしい。

どうやらもうあの時のようなすれ違いは無く、仲の良い友だちの関係に戻れたようで安心した。

 

余談なのだが、この後すずかからも連絡があり、なのはとアリサの件の解決と"今度はユウさんも一緒に遊びに来て下さいね?"とのお誘いを頂いた。

 

 

_________5月27日

 

 

 

「……と、こんなもんかな」

 

 

バキバキ……と少し疲れた首を捻り、ペンを置く。

目の前にはA4サイズの日記帳があり、まだ数ページしか埋まっていない。

 

コレはなのはがたまたま日記を書いてるのをみていたら、桃子さんに"ユウくんも書いてみれば?"と日記帳を渡され、ならせっかくだしと始めたのだが、何分'日記なんて物は生まれて初めて書くから'これでいいのか分からない。

まぁ何事も経験か、と日記帳を閉じて伸びる。

 

 

「……ふぁ……」

 

 

いい感じに眠気が……最近は翠屋も忙しいし、少し早めに寝ようかな……

 

ふと、日記帳をデバイスに仕舞おうとしてストレージ欄にある項目に目が止まる。

 

 

・〔Data.Ap,Y〕

 

 

「なんだっけ、これ」

 

 

こんなもん俺、持ってたか?と気になり寝そべっていた体を起こし、ベットに腰掛ける。

なんだったかな、これ?とタップし、そのまま開くと何処か見覚えのある本が出てきた。

 

……あ

 

 

「マズイな、これ時の庭園で取りに行ったヤツか……」

 

 

すっかり抜けていた。

何か戦ってた時の事は殆ど覚えてないのにこの本の事は見た瞬間に思い出した。

プレシアの部屋に保管されていたもの……だよな?

 

 

「クロノ達に渡すつもりだったんだけどなぁ……すっかり記憶から消えてた」

 

 

少し汚れたこの2つの本。

一つは日記のようで、もう一つは何かの研究?の結果や過程を観察した物のようだけど……

 

 

「さっぱりわからん……」

 

 

何だこのProjectAp.Y Planって……

読めば読むほど訳がわからず頭が混乱する。

 

魔力の結合?変換時の倍率にその運用に対する………?

 

 

「……うん、やめよう、パンクする」

 

 

ぽいっとデバイスにしまう。

頭痛くなりそうな単語や、数式によく分からない魔法陣ばかりだった。

 

にしても……

 

 

「"ママがごめんなさい"だっけ……」

 

 

あの時、あの瞬間。

あの空間で、俺以外の誰かのそんな声を聞いて、ついその方向に無理をして行ってしまったが、その結果がこの2冊の本かぁ……

 

 

「まぁ、誰か取り残されてるとかじゃなかったからいいんだけども……」

 

 

あの声、なーんか聞き覚えあったんだけどな……

今じゃそれすらあんまり思い出せないけど。

 

 

「あ、もう一冊の方……」

 

 

ペラリ、と今度は青い方の日記上のものに目を通す。

………中身はやはりプレシアの日記に近しいものだった。

前半はまだ何も失わず、ただ優しい母親と子供の日常や研究の一喜一憂が書かれていた。

 

 

「聴いてた話や、書類とは正反対の印象だな」

 

 

何とも親バカな文章で少し苦笑いしてしまうがそれでも幸せが溢れ出てくるような日記に少し暖かな気持ちになる。

 

 

「……それがどうしてあんなことになったんだろうな」

 

 

そこからペラペラとめくって行き、半分を超えた辺りから少し様子がおかしくなってくる。

 

……研究の末、上層部の方と対立し始め、その末に強引な手段で研究途中のものを起動、そして俺もアースラで見たあの事故に至るとの事。

被害に遭い、死亡したのはプレシアの娘ただ一人で、その日プレシアの帰りを待っていたアリシアはそのまま……

 

そこからはプレシアの後悔、嘆き、悲しみが綴られていた。

 

 

「………」

 

 

ただページをめくる音だけが部屋を木霊する。

時空管理局では全てがプレシアに原因ありという資料だけだったが……コレは一体何なんだ?

 

そして、一つの項目のように区切られたそこには_____

 

 

「プロジェクト…… F ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ……」

 

 

パタンと本を閉じる。

窓をみればもう明るくなり、早朝の5時前と言ったところだ。

 

 

「何で、コレ拾っちゃったかな……」

 

 

少しの後悔と、同情。

それだけで済めば、済ませればなんて楽なんだろう。

けど、

 

 

「見つけた物はしょうがないし、そのまま見なかった事に出来るほど俺は大人じゃない……だよなぁ……はぁ」

 

 

閉じた本の最後のページ最後の行をもう一度開きみる。

 

 

「"ごめんなさい、あの子の事頼んだわ"……か」

 

 

誰に対して書いたのかは分からないが、あの子って言うのは間違いなくフェイトの事で、それを見てしまって、この本を誰かに託さない限り、この遺言にも取れる事を成し得るのは俺だけ。

なら頼まれるだけ頼まれてやろう、それくらいなら俺にもきっと出来る。

ただ、一つ思うのは

 

 

「フェイトに直接言ってやって欲しかった……くらいかな」

 

 

この人からのごめんねの一言でどれだけ救われたのだろう?

けどもうそれをしてやれる人はこの世にはいなくて、だから代わりにって事なんだろうけど少し何かが心につっかえる。

 

 

 

「でも、終わったことはしょうがないよな」

 

 

よしっ!と顔を少し叩き、結局徹夜してしまった自分を恨みながら今日という日常を始める。

 

日記帳をデバイスにしまい、誰にも見つからないようにロックをかけ、俺の今日を始める。

 

 

 

____ありがとう、なんて聞こえた気もするがきっとそれは気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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A's編
A's編 第0話 プロローグ "元"通り


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____初めに、"力"は偉大だ。

 

どんな不可能をも可能にする不屈の力。

 

そんなモノがあれば誰だって欲しいし、使いたがるのが人という獣。

 

だけどね、なんでそうならないかって言うとソレは代償があるからなんだ。

 

だってそうだろう? どんな物にでも対価になるものが必要だ。

それを使う度にその対価は引かれていく。

 

初めてはタダにしておこう、何か不慮があるかもしれないしね / タダというのは一番高い。

 

 

 

最初に無くしていた物が消えた。

 

____過去の自分自身

 

次に味覚が失われた。

 

____味のないガムのような食事

 

その次に色が消えた。

 

____モノクロの世界

 

最後に、チカラそのものが無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に広がるのは果てしなく青い/黒い海。

 

 

「状況は!?」

 

 

それは苦渋の判断で、だけど貴方にとっては違ったかも知れないけど。

 

 

「半径2キロメートルが……消失しました」

 

 

でもこんなのは。

 

 

「爆心地の中心にいた者は……」

 

 

「………反応ありません。肉眼、レーダー共に反応ありません」

 

 

 

____ 巨大な白と黒の光の後、そこに残ったモノは無。

あえて何かを探すとしたら、それは彼が使用していたあの黒いデバイスの砕かれ、飛び散ったであろう破片だけ。

 

 

 

この空の下、天翔ける少女達の前に残るのは帰ると約束し、目の前で消えた者の死の匂いのみ。

 

 

彼が最後に残したのは確か………

 

 

 

 

 

 

_________きっと、未来で_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン……と朝を知らせる雀の鳴き声が聞こえてくる。

深い微睡みからゆっくりと、それでいて心地良く意識が浮上していく。

 

何時もは甲高いピピッ!という機械音が部屋中を喚き立て上げ、不快な感覚と共に目を覚ます事になると言うのに、我ながら珍しく心地の良い微睡みだ。

 

少しこのまま……と二度寝しかけた時

 

 

ピピッ……ピピッ!!

 

 

「………むぅ……」

 

 

目を開け体を起こし、まるで"二度寝は許さない"とでも言いたげな愛機の画面を少し八つ当たり気味に叩く。

 

 

《Good morning.master? 》

 

「……おはよ、悪かった」

 

 

コイツは機械だから感情を乗せるような音声を出せないはずなのだが、その無機質な筈の音が何故か不機嫌に聞こえ、反射的に挨拶と謝罪をしてしまう。

 

第三者から見ればどう見ても変人そのものだが、あの事件から少し読み取れるようになった(俺の勘違いでなければ)相棒とのこのコミュニケーションは案外、気に入ってたりする。

 

……と、そんな事を考えているうちに何時もの起床時間より体内時計で5分ほど経ってしまっていた。

マズイ、これも俺の悪い癖だな。

 

 

「……?」

 

 

シュル……シュル……と衣類が擦れる音だけが部屋にこだまする。

何だか今日はすごく静かな気がする。

 

この時間になれば何時もなら、誰かの足音などの生活音が聞こえてくる筈なんだけど……

 

少し気になり、着替えた後部屋を出るがシーンとしていて何処か違和感がある。

 

……なーんか忘れてる気がするんだよな。

 

そそくさと軽く身支度をして階段を降りリビングに入るがやはり誰もいない。

何時もであれば桃子さんがこの時間に朝食の準備を始めている筈なんだけど、と一応時間を確認するがやはり遅い訳でも早い訳でも無い。

 

と、ここでテーブルに置かれた紙に目が止まりそれを手にとってみる。

 

 

"ユウさんへ。

 

私は日直なので先に家をでます。

朝ごはんは軽くだけど、冷蔵庫に入れておいたよ

 

なのは"

 

 

 

 

「あー……そっか」

 

 

ここで3日ほど前の事を思い出す。

士郎さんと桃子さんがなんでも昔の知り合いの事で少し家を開けると言う話を聞いていた。

更に恭也と美由希も学校関連で少し家を空けると言っていた。

 

そして昨日のお昼頃からこの家には俺となのはしか居ないも忘れていた。

 

………うーん、何か最近物忘れ激しいなぁ。

何て考えつつカレンダーを見て見れば今日から6月か。

 

少しボーっとしながら朝食を食べ、何をするか思考する。

 

だが悲しいかな、このユウ16歳はほぼ無趣味。

あえて言うなら魔法を使うのが好きなくらいだ。

 

しかし真昼間からボコスコと魔法を使ったってなぁ……とどうするか考えていると端末からメールの受信音がする。

 

件名を見ると、どうやらはやてからのメールの様だ。

 

 

"今日はお休みだった筈よね?遊び行こー!"

 

 

少しクスッと笑ってしまう。

はやてからは何時も、俺がやる事を悩んでいるタイミングで見計らっているかの様にメールや電話が来るのだ。

さて、返信は……

 

"ああ、大丈夫だよ。取り敢えず落ち合おうか?"

 

 

と返信すると直ぐに了承の節が送られて来る。

なら準備しなくてはと、ショルダーバッグに財布と鍵、端末を放り込み軽く身嗜みを整える。

 

集合場所は彼女の家。

 

さて、今日は何をするのだろうか?

 

家を出るついでにめくって切った5月と書かれたポスタを軽く折り畳みゴミ箱へ捨てる。

 

 

……そういや6月って何か大事な事があったような?

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです、作者です(*'ω'*)

まずは初手謝罪を(;ω;)
そして言い訳フェイズです。
リアルの方でゴタゴタしていたのと機材の方がちょっとありまして、書いていたストック含めて全部飛んでしまったんですよね(;ω;)
なので一からプロットとにらめっこしながら書いて行くことになりますが、まだ「読んでやるよー!」って言ってくれる天使の様な方はまたよろしくお願いします(*´ω`*)


#追加 0時に予約していたつもりですが、出来ていませんでした!
申し訳ありません!

10.30 2:21


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A's 第1話 6月3日の私

伏線と平和(?)な日常回。

結構長いかもです。


 

日差しが燦々と輝き、空は晴れ模様。

 

季節も春からゆっくりと夏に変わり始めた事を実感させる様に少し暑い。

ゆっくりと何時もの桜並木の道を歩きながら目的地を目指す。

 

こんなにもいい天気なら、何処か遊びに行くのも悪くないなー、何て普段はどちかと言えばアウトドアよりインドア派の俺も思ってしまうくらいには、和やかな時間と雰囲気が流れている。

 

 

「……アレからもうすぐ1ヶ月経つのか」

 

 

なんて呟くとふつふつと蘇るはジュエルシードを巡り様々な出会いと戦いを消化した怒涛の物語。

 

今はこうして静かで平和な日々を過ごす事が出来るようになって嬉しいと思う反面、ここだけの話少し物足りないなんて思ってしまう時も正直ある。

 

不謹慎かも知れないがあの時の経験は俺の中の何かを刺激した様で、時折魔法を十分に使えない事にちょっぴり残念な気持ちにもなる。

 

ちゅんちゅんと鳥の鳴き声が聞こえる。

 

 

「けど、こののんびりした世界を捨ててまで魔法の世界に飛び込もうとは思わないんだよなぁ……」

 

 

染まり過ぎたと言われれば素直に首を縦に振るだろう。

ここは、海鳴市はあまりにも住むには心地よ過ぎた。

今だから考えてしまうがもしなのはと出会わず、それでいて魔法を先に使い、アースラの人たちと出会っていたならばまた違った未来だったのかも知れない。

 

けど、それはIFの話だから。

過去は決して変える事はできないし、もし変えられてもそれはしちゃいけない事だから。

 

今の俺は俺だし、この生活に満足している。

……あえて言うなら士郎さんたち高町家やはやて、この海鳴の人たちに甘え過ぎているから恩を返したい、と言うくらいか?

 

 

「……っと、またか」

 

 

気づけばもう八神という表札前。

やっぱり思考を深くし過ぎるのはよろしくないなぁ……。

 

取り敢えず、とインターホンを鳴らして扉の前で待つとすぐに元気な少女の声が聞こえる。

 

 

「あ、いらっしゃい。随分早かったね」

 

「おはよ、まぁ暇してたしな」

 

「ユウさんって、何時もそれ言ってるで?」

 

「え、マジで?」

 

 

なんて会話をしながら家に入る。

さて、何をするんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一時間くらいお茶会的なノリで雑談しつつ、気づけばもうすぐ11時になる。

 

同じく時計を見たはやてが何やら準備をしだす。

 

 

「ユウさん、買い物付き合ってー」

 

「はいよ」

 

 

どうやらお昼と夜のお買い物の様だ。

 

まぁコレもはやての家に来てからの日課の様な物で、もう慣れてしまった。

 

する事と言えば献立の組み立ての手伝いと荷物持ちくらい。

 

それとはやてとの行き帰りの散歩が楽しいくらいかな。

 

献立に関しては大体俺の食べたいものを聞いてくるのだが、大抵それがお昼ご飯となる。

 

ありがたや……ありがたや……と拝んでいるとはやてから白い目で見られたのでやめる。

 

 

「またやってるん?」

 

「いや感謝してるんだぞ?」

 

 

はいはい、と流されてそのままの流れで、はやての車椅子を押しながら家をでる。

 

最近はやてが俺の絡みに対して雑になって来て悲しいよ……少し前ならいい反応してくれてたんだけど、ここの所冷たい気がする。

 

何だかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買い物や昼食、ふと気がつけば時間はあっという間に過ぎ、16時。

 

はやてとの雑談もいい感じに一区切りしたところでそろそろお暇しようと、席を立つとふと見慣れない一冊の黒茶色の大きな本が置いてあるのに気づく。

 

 

「……ん?あ、それ気になるん?」

 

 

俺の目線に気づいたはやてがよいしょ、と言いながら鎖で封印された様な本を目の前に持ってきてくれる。

 

 

「ああ、何だこれ?」

 

「私も良くは分からないんよね、昔からウチにあって私の部屋を掃除する時にこっちに移動させてから、そのままココに置きっ放しにしてたんよ」

 

 

そう言いつつ、その本をはいっと俺に手渡してくるはやて。

 

えっと、受け取ればいいのか?

 

……まぁ、俺も中身が少し気になったし持ち主のはやてがいいなら……

 

そう思い、彼女の手から本を受け取ろうと指先が触れた瞬間——

 

 

バチンッ!!

 

 

「………っ!?」

 

「ん、どうしたの?」

 

「え、あ、……え?」

 

 

何だ?

今確かに……この本から電撃の様な痛みが伝ってきたような……そんな気がしたんだけど……?

 

疑問に思い受けったら本を裏返したり、左手に持ち替えたりとしてみたが特に異変も無く、俺に別段影響もない。

 

 

「気のせい……かな?」

 

「だから、どうしたん?」

 

「あ、や……気のせいだったみたいだ」

 

 

不思議そうに俺の事と本を交互にみるはやて。

それにつられて、俺も本をよく見てみる。

 

外装は何処から西洋風の柄と古めかしくも何となく、歴史を感じるような色合いの茶色で、その周りを鎖のようなもので十字に何処か封じられる様に括られている。

 

 

「まるで封印されてるみたいだな、コレ」

 

「あ、ユウさんもそう思うやろ?こういうの私結構好きやで」

 

「ああ、ロマンを感じるな」

 

 

軽く本のタイトルを確認しようと見回すが、それらしきモノは何処にも書いておらず、少し気になる点は掠れて読めなくなっているが、日本語でも英語でもないその文字が何処から見覚えがある事くらいだ。

 

 

「何か魔法の本みたいだな……」

 

「へ?」

 

「ん?………あ、いや、えっと……比喩だよ比喩!こんな感じの本はファンタジーモノの映画でよく見るだろ?」

 

「あー、わかる!最近見たのでもこんなんあったんよねー!」

 

 

つい何時ものなのはと会話するみたいにナチュラルに魔法の話を出してしまって動揺してしまったが、すぐに話題を変えられた。

 

はやてがそっち系のも好きで助かった。

 

なんてやりとりをしているとはやてが時計を見て、

 

 

「あ、ユウさんそう言えば時間大丈夫なん?」

 

「……へ?」

 

 

時計はあれから20分ほど針が進んでいた。

 

マズイ、そろそろなのはを迎えに行かなければ。

……そこでふと、時計の隣のカレンダーに付けられた4日の所の赤マルに気がつく。

 

何だか忘れちゃいけない事を忘れている気がしてはやてに聞いてみる。

 

 

「なぁ、4日って何かあるのか?」

 

「ん?……あぁ、その日は私の誕生日や」

 

 

しれっとまるでその日が特に普段と変わりない様な感じではやてが答える。 

……いや不味いな、非常に不味い。

 

何が不味いって何も用意していないのが一つ、そしてはやてはこの家に一人で……その……

 

 

「えっと……ごめん、またやっちまった」

 

「気にしてへんよー、そんな事でユウさんも気にしないで大丈夫よ?」

 

 

そう言いつつ、何処か寂しそうな笑顔を向けるはやて。

 

……何が気にしてないだ、そんな顔してそれは無理がありすぎるだろう。

 

むぅ……。

 

すぐにスケジュールをデバイスで確認してみれば3日と4日は何とか空いており、多少だが士郎さんにお願いすればたぶんだが、間に合うはず。

 

軽くメモ等を書いているとそれを覗き込む様にして、はやてがぽかーんとしている。

 

 

「ユウさん?さっきから何してるの?」

 

「まぁ、何だ……折角の誕生日なんだし、俺何かが祝っても大丈夫だろ?」

 

「え、え?」

 

「普段からお世話になってるし、それくらいさせてくれよ。……っと3日から行っても大丈夫か? こういうのって_____ 」

 

 

0時になった瞬間に祝うんだろ?と続けようとしてそれが途切れる。

 

目の前のはやてが困惑した様な……それでいてどうしたらいいか分からないといった顔をしながら、少し涙目になっていた。

 

 

「え!?あ、はやてさん!?」

 

「……何でもないんよ……ぅん」

 

 

グスッ……とか嗚咽聞こえるし!え、まって俺何かやらかした?やっぱり迷惑だった!?そうだよな突然そんな事しても、何だこいつ馴れ馴れしいな、とか思われるよな!?

 

と、テンパって俺がアワアワしているとボツボツとはやてが何かを話してくれる。

 

 

「違うんよ?……こういう事してくれるのお父さんやお母さん以外じゃ始めてで、久しぶりで、どんな顔したら……ええかわからなくなって……」

 

「なら、えっと……」

 

 

ずびーっ!っと俺の持ってきたティッシュで鼻をかんだはやてはいつも通りの笑顔で

 

 

「うん、3日待っとるよ!約束!」

 

 

何て、可愛らしい笑顔で言ってくれた。

これは色々と買って来なきゃな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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はやての家を後にし、そのままなのはが待っているであろうバス停の方へ急ぐ。

 

今日の分の買い物は俺となのはで行く約束をしていたのをすっかり忘れていた。

 

軽く走ると既に着いていたなのはが此方の方に手を振って待っていてくれた。

 

 

「すまん、遅れた!」

 

「大丈夫、私もバス降りたのついさっきだから」

 

 

行こ!と俺の手を引いて少し駆け出すなのは。

何か嬉しそうだけど、何かあったんだろうか?

 

 

「ご機嫌だけど、何かあったのか?」

 

「え、そうかな?」

 

「俺には嬉しい事ありましたーって顔に書いてあるように見えるけど」

 

 

えー、そうかな?なんて言いながら自分の顔を触っているなのは。

なーんか浮かれてるな?

 

 

「えへへ……」

 

「んー……?」

 

 

なんかやたらとくっ付いてくるなのはと一緒に買い物へ。

ホントに何があったんだろうか?

 

 

「あ、夜ご飯どうするの?お父さんたち帰ってくるの明日のお昼前くらいだからお惣菜とか買う?」

 

「そうだな……ユーノも今はクロノたちと向こうにいるんだっけ?」

 

「うん、だから今日は2人だよー!」

 

 

あ、またテンション上がった。

なのはのツインテールがぴょこぴょこ跳ねてるのが幻視できる。

 

 

「だよなぁ……たまには俺が作ろうか?」

 

「え、作れるの?」

 

「ん、ああ。そんなに期待されるような物は作れないけど、ある程度なら」

 

「へー!食べてみたいな」

 

 

はて、なのはに俺の作ったものって見せた事無かったかな?

 

 

「何か前に作らなかったか?」

 

「え?そうだっけ?………多分始めてじゃないかな」

 

 

うーん……誰かに作った記憶あるんだけど、なんだったかな。

 

 

「あ、フェイトにか」

 

 

思い出した、あの島でそんなこともあったな。

あの時は適当にあり合わせで作った物だったのに美味そうに食べてくれるフェイトを見てこんな子が娘に欲しい、何て考えたんだっけ。

懐かしいなー、何て考えていると何やらチクチクと視線を感じる。

 

 

「むぅ……」

 

 

あら不機嫌。

さっきまでのテンションは何処へ行ったのやら、ぶすーっとしてらっしゃるなのはさんがそこにはいた。

 

最近、と言うかあのフェイトとのお別れの後から俺がフェイトの話題を出すと決まってこう不機嫌になる様になった。

 

原因がよくわからず俺なりに考えてみたがそれでも答えはでなかったので、ユーノ達に相談してみれば、"はぁ……自分で考えた方がいいとと思うよ" とか "馬鹿者" だとか "うーん……私からはノーコメント!"で終わっているのでどうしようもなかったり。

 

ただ聞いた相手全員が口裏でも合わせたんじゃないかと疑うくらい統一して言うのは悪いのは俺との事で、責任とれ!と必ず言われていた。

 

……なのでここから俺が取れる行動を考えつつ、なんとかなのはの機嫌を取らなければ……!

 

 

「ふーん……私は食べてなくてフェイトちゃんはもう食べた事、あるんた?」

 

「えっと……まぁ、はい」

 

「へー……」

 

 

どんどん空気が重く……!?

ここで俺に取れる最善手は……

 

 

「好きなもの!なのはの好きなもの何でも作るから!」

 

「………」

 

「それに今日は2人だし、できる限り俺にできることはするから!」

 

 

ピクッと反応するなのは。

 

行けるか?

 

すると何やら考え出し、急に赤くなりだす。

そしてボソっと"よし!"と言ってこちらに振り返る。

 

 

「……なら、いいよ?」

 

「え?」

 

 

前半が小さい声で聞こえず、聞き返してしまう。

 

 

「一緒に寝てくれるなら!……いいよ?」

 

「あ、うん。構わないけど……」

 

 

と言うと一瞬、呆けた顔をしてから、また段々と何かに納得していない顔になる。

 

 

「むぅ……」

 

「え、何でまた不機嫌になるの!?」

 

 

なんしてまた急に?俺、何か間違えたかな……

 

ずんずんと前を進んで言ってしまったなのはを追いかけるように軽く走りながらそんなことを考えるが、俺にはよく分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最初はユウさんの手料理!って喜んでたけど、それを先にフェイトちゃんが食べてたって聞いて少しムッとする。

 

だって……何かムカムカするんだもん!私だって何でこうなっちゃうかは分からないけど、あのフェイトちゃんとユウさんの……別れ際の、えっと……アレを見ちゃってから時折、こうなっちゃうんだ。

 

そんな私を見て必死に機嫌を直そうとしてくるユウさん。

ふん!そんな簡単に今回は直らないから!

 

とは言え少し意地を張っちゃってるよね、私。

そろそろ機嫌を直しても……

 

 

「それに今日は2人だし、できる限り俺のできることはするから!」

 

 

………できる限り?できる限りなら言う事聞いてくれるってこと?

 

瞬間、私の中に沢山の選択肢がぐるぐると回り始める。

 

例えば、普段少し遠慮してしてもらえない様な事とか?膝枕してもらったり、髪を乾かしてもらったりとか……もしかしたら一緒に寝てもらったりとかも!

 

とここでふと先ほどの会話であるフェイトちゃんとユウさんがしたアレが脳裏をよぎる。

 

………いや、アレはダメだ。恥ずかし過ぎて私の方が死んじゃう。

 

ぶんぶんと自分の頭を振り、グッと拳を握る。

 

 

「……よし!」

 

 

なら今回は一歩引いて、一緒に寝てもらう……うん、そうしよう。

とは言え何か恥ずかしい……けどここで言わなきゃなんかいけない気がするし……

 

 

「一緒に寝てくれるなら……いいよ?」

 

 

言った!言っちゃった!

ユウさんの反応は……

 

 

「え?」

 

 

き、聴こえてない……

もぅ……恥ずかしいのに……!

少し多めに空気を吸い込み、ユウさんの方を見て言う。

 

 

「一緒に寝てくれるなら!……いいよ?」

 

 

す、少し大きい声すぎたかな?

でも今度は聴こえたはずだし、ユウさんの反応は……?

 

キョトンとした顔で

 

 

「あ、うん。構わないけど……」

 

 

と言われた。

 

え、あ、うん。

嬉しい、嬉しいんだけどさ。

 

何かこう、少しは驚くとか動揺するとかさ、そう言う反応をしてくれるのを待っていたわけで、そんなにもあっさりと承諾されると、何となくだけど負けた気がして……

 

だって私、女の子だよ!?

ユウさんにとっては子どもだと思うけど少しくらい反応してくれてもいいよね?

 

それが"あ、うん。構わないけど……"で終わりは何か、こう……納得できない。

 

 

「むぅ……」

 

「え、なのは?」

 

 

少しむしゃくしゃして先に歩く。

 

……むぅ、私めんどくさいなぁ……こんな事してユウさんに嫌われないかな……とか考えちゃう時点でもう色々と負けてる気がするけど

 

チラッと後ろを見れば、頭にハテナを浮かべたユウさんが追いかけてきてくれる。

きっと私が不機嫌な訳は分からなくて、でも必死にユウさんなりに考えてくれてるんだろうなーって思うと少し心が暖かくなる。

 

ホントにこの感覚は心地よくて少し切なくて、それでいて……

 

コレはなんなんだろう?

あの公園のフェイトちゃんとユウさんを見てから前より強くなったけど、この感覚は未だに慣れなくて、それでいてぽわぽわする。

 

私にはこの感情が何なのかわからないけど、お母さんやお姉ちゃん、アリサちゃんやすずかちゃんに聞いてみればわかるかな?

 

でも、きっとこの感情は悪くないものだって思ってるから、もう少しだけ私の中に隠してるのもいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………ふぁ……」

 

 

大きな欠伸が出る。

 

時間を確認すればまだ20時前で寝るには早すぎるし、なのはが何か一緒に寝たいから待ってて!と言ってお風呂に行ったばかりだった。

 

さてどうしたもんかなと、しまってなかった鞄を開けて整理を始めると

 

 

「あれ、これ」

 

 

俺の鞄から出てきたのは夕方、はやてに見せてもらった西洋風の古本。

ぽいっと自分の鞄を横に投げて仕舞い、そのまま本と端末を片手にベットに座り、なぜコレが俺の鞄に入っていたのかを考える。

 

間違えて鞄に入れちまったのか?いや、でもそんな記憶ないし……

 

 

「とりあえず、メールだけ打っとくか」

 

 

はやてに本を持ってきてしまった事とその謝罪をまとめた文を送る。

 

とりあえずはコレで大丈夫だろ、明日か明後日には持って行かなきゃな。

 

 

「そういや丁度いいし士郎さんにも連絡しておくかな……」

 

 

明後日にはやてへの誕生日ケーキを持って行こうと思い、なんなら翠屋のケーキにしようと思ったが今、士郎さんたちがいないなら用意できるかわからないんだよなぁ……

 

とりあえず相談だけしようと電話をかけてみる。

 

基本的に士郎さんと恭也はメールをあまり好まず、電話の方が楽だと言ってるから基本的に電話をかけるがあんまり出ないんだよな……

 

今回はどうだろう?と考え始めた時、ガチャと通話が開始する音がして

 

 

「もしもし、ユウくんかい?」

 

「あ、もしもし士郎さん、今大丈夫ですか?」

 

「うん、平気だよ。どうかしたかい?」

 

「実は……ーー」

 

 

 

そこから取り敢えず用意したい物とワケ、それから予算や、あの歳の女の子が喜びそうなものを聞き、悩んでいると電話の向こうから士郎さんの笑い声が聴こえた。

 

 

「えっと……なんです?」

 

「いや、ユウくんがそこまで悩むのも珍しいけど、それ以上にこのユウくんを見たらまたなのはが嫉妬しそうだなってね」

 

「うぇ、それは勘弁です……さっきも少しやっちゃったんで……」

 

「ははは!またかい?」

 

 

そこからは今日あったことや、はやての事などの雑談に入った。

 

 

「ふむふむ、なら3日は早めに上がってそのまま行っていいよ?」

 

「いや、でも週末ですし…忙しいですよ?」

 

「大丈夫さ、それにそのはやてちゃんって子もユウくんの事待ってるだろうしね。男として女の子を待たせるのは感心しないよ?」

 

 

そう言われてあの時のはやての顔がよぎり、言葉が詰まる。

 

 

「えっと……ならお言葉に甘えます、すみません」

 

「うん、それがいい。ならケーキは僕たちに任せてくれ」

 

「ホントに何から何まで……」

 

「いいんだよ!何時もなのはの事見てもらってるからね。………話は変わるんだけど、なのははどうしてるかな」

 

 

少し士郎さんの声のトーンが変わり、何処か不安そうだった。

 

 

「今は風呂入ってますよ、もう少ししたら寝ると思いますし」

 

「そうか、なら少し聞きたいんだけど、最近なのはとはどうだい?」

 

「え?」

 

 

なんだろ、質問の意味がよくわからず混乱する。

えと、最近のなのはと俺の事?を聞きたいって事だよな。

 

 

「そうですね、特に変わりないと思いますよ?別段何かあった訳でも……無いですし」

 

「ん……まぁ、そうだね。ごめんね、変な事を聞いたね」

 

「いえ、何かあったんですか?」

 

 

そう聞くと士郎さんは少し考え、話し始めてくれた。

 

 

「うーん、まぁ……いいかな。最近なのはが時折ユウくんのことをジッと見てるんだ」

 

「え?割と何時もの事、じゃないですか?」

 

 

これは桃子さんや美由希が良く食事中にネタにしているのだが、何かとなのはは俺のことを見ているらしく、それを弄られるとすぐに怒る。

……俺は全く気付かなかったけど。

 

 

「うーん……何というか僕も桃子に言われて気付いたから詳しくは分からないんだけど、最近のなのはのユウくんを見る目が……」

 

 

士郎さんと通話の最中階段を上がってくる音が聞こえ振り返るとガチャ……と扉を開けてお風呂上がりのなのはと目が合う。

 

 

「上がったよー……あ、ごめんなさい電話中?」

 

「ん、ああ。士郎さんだから大丈夫だよ」

 

「お父さん?」

 

 

てこてこ……と歩いて俺の座るベットの横にぺたんと座り、何話してるの?と聞いてくる。

 

なのはの様子がいつものと違うような……なんか、ぽけーっとしてる?というかねむそう?………ってそうだ、士郎さんと通話中だった。

 

 

「あ、ごめんなさい。何です?」

 

「あ、いや……うん何でもないんだ。急ぎでもないしまた今度で大丈夫だよ」

 

 

なのはが来た途端、何処か焦るように話を切る士郎さん。でもまぁ急ぎじゃないらしいし……いいか。

 

 

「あ、そうなんですか」

 

「うん、それじゃそろそろ僕ももどるから」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 

ピッ……と電話を切りそのまま端末を枕元に投げて、なのはの方に振り返れば何か気になるのか、無いはずの尻尾を振るのが見えた。

 

 

「ねぇ、お父さんと何話してたの?」

 

「んと、まぁ色々と?」

 

 

そう言うとそっかぁ……と言ってドサッと布団に転がる。

 

やはりもうお眠の様で少し目がトロンとしている。

 

 

「俺、風呂入ってくるけど先に寝てていいぞ?」

 

「……ふぇ?待ってるよぉ〜」

 

「え、いやそんな眠そうな声で言われてもなぁ……まぁいいっか、行ってくるよ」

 

 

はーい……何て気の抜けた声に見送られてお風呂場へ。

さっきまでなんかすごいはしゃいでたし相当疲れてるな、あれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「やっぱり寝てるか」

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 

20分ほどで風呂を済ませて部屋に戻れば予想していた通り爆睡するなのはの姿。

気持ちよさそうに寝ているその姿を見て俺も眠気が……

 

少し早いけど俺も寝ようかな。

電気を消し、そのまま布団に入ろうとして気づく。

 

 

「……寝れる場所、ないな」

 

 

冷静に1人用ベッドになのはが真ん中に大の字で寝ているのだから俺が横になるスペースは無く、どうしたものかと考える。

 

そこでふと前にタンスの中の奥にしまった敷布団の存在を思い出し、漁る。

 

 

「お、あった」

 

 

士郎さんがベッドか敷布団どっちがいいか分からないからと持って来てくれていたのだが、結局使わず今の今までここにしまっていたのだ。

有り難い、これを使わせてもらおう。

 

 

「ふぁ……眠い……」

 

 

一度睡魔が来たからだろうか?なんかいつも以上に凄く眠たい。

 

とっとと寝てしまうかな、と一応メール等の確認の為にデバイスを確認して見るとはやてから一通だけ。

 

 

"気にせんでええよー。

今度来る時にでも持ってきてな。

それと今日は色々とありがと、何かスッキリしたわ!あと楽しみにしてるでo(`ω´ )o

 

はやて "

 

 

………ホントに強い子だよな、はやては。

 

こうやって直ぐに立ち直れる強さが本当に羨ましい。そんなことを思いながら返信する。

 

 

「あ、そうだ一応本も」

 

 

忘れないようにはやての家から持ってきてしまった本を机の上から持ち、敷布団の横に置いてある自分の鞄の中にしまう。

 

にしてもいつ俺の鞄に紛れたんだろう?それともホントに俺の手癖が悪かったのだろうか……?

 

 

「それとも、ホントに何か魔法に関係してたり……なんて」

 

 

チラッと本を見るが特にそんな気配もないし、何よりそう言うのに敏感ななのはも特に何も言ってこない。

 

 

「ま、いっか……眠気が限界……だ……」

 

 

そのまま意識が深く深く落ちていく感覚の中で、瞳の端に映る本が一瞬、怪しく光ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………?

 

 

 

…………………?

 

 

暗くて、とても、寒い。

 

そんな感覚で目を覚ます。

 

あたりを見回すがそこにあるのは一面の闇のみで何も見えず、自分の手すらよく見えない。

 

誰か居ないか?そう声にしたはずなのに。

 

………声が出ない、ここはどこだろう?

 

そんな疑問だけが残り、この不可思議な空間を立っているのか横になっているのか、はたまた……浮かんでいるのかすら分からないが、動く手足を使い、前と思う方向に足をのばす。

 

不思議なことに手足を動かしている感覚はあるし、身体が移動してるのも分かるが、一向に体全体が何処かに触れているような感覚が消えない。

 

少し気持ち悪いこの感覚に身を委ねながらどれ程の道程を歩んだのだろうか?

 

 

____それは、突然目の前に現れた。

 

 

現れた、何て言うのも生易しく一瞬きの瞬間に最初からそこにあったかのように居た。

 

それはヒトの形をしていた。

 

けど俺の中の何がそれはヒトではなく、別のものと訴えていた。

 

その人のようなモノは黒い異国の衣服を身に纏い、銀色の髪をなびかせ目を閉じて佇んでいた。

 

恐怖しか最初はなかった、無かった筈だった。

 

それなのに見れば見るほど、何故だろうか?

 

とても、その人はとても_______

 

 

 

「______綺麗だ」

 

 

この永遠をも思わせる暗黒の中でなびく銀色の髪はとても美しく、その顔はまるで西洋人形のよう。

 

思わず溢れた声にハッとする。

 

声が出た?でも今は"出ない"

 

まるで出し方を忘れてしまったようだ。

 

いやそれよりも目の前の彼女は____

 

 

 

「________________________________ ?」

 

 

気づけばその人は目を開き、目の前の俺の顔をジッとみて、なにかを伝えてくる。

 

____なんだ、これ?

 

目の前の人から顔を背けることが出来ない?

それどころか先ほどまで動いていた身体が凍ったように全く動かない。

 

それでも、それでも抗い視線だけを身体にやると、そこには

 

 

黒く、どこまでも黑く長く長く太い大蛇がぐるぐると俺の身体を縛り上げていた。

 

 

________ッ!!

 

 

声にならない悲鳴を上げてしまう。

 

情け無いとか、男のくせにだとか、そんなものは関係ない。

 

アレはダメだ。

 

アレだけは触れてはいけない、手を出しちゃいけなかったものなんだ。

 

蛇から必死逃げるために体を震わせるが実際にはピクリとも反応せず、それでも身体を震わせる。

 

それを見て何処か嬉しそうに蛇がこちらを見て

 

 

_____ミツケタ

 

 

 

といった気がして、余計に恐怖が身体を支配していく。

 

 

そんな時だった。

 

目の前の女性が、ナニカ/本をめくり何かを呟くと蛇は忌々しそうにあの人を人睨みしてから……消えた………?

 

 

体は……動く。

 

少し安堵し顔を上げるとあの女性がこちらを見ていた。

 

助けてくれた?そう考えて、立ち上がりお礼を言おうとする………

 

 

「_________ 」

 

 

 

!? また、か…らだが……

 

目の前の女性の赤い目を見た瞬間、身体がまた固まり出す。

 

やっぱり……敵っ!!

 

 

______と思ったのも一瞬だった。

 

何故かって、だってその人は……泣いていたから。

 

 

「 _________________ 」

 

 

ナニカを呟き、その人は俺の首筋に思い切り、

 

 

 

「ーーーーッぁ」

 

 

 

齧りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………はぁ………はぁ………」

 

 

 

目を開けるとそこには見覚えはあるがいつもとは違う角度で見える自分の部屋の天井。

 

いつもなら目が覚め少し憂鬱にすらなるこの天井の光景が嫌に現実だと教えてくれ安堵する。

 

起き上がり時間を確認すればもうすぐ早朝かと言った時間で、嫌にこわばった筋肉をほぐしながら起き上がる。

 

 

「うわ……何だこれ」

 

 

起き上がった瞬間、全身から流れるように水が零れ落ちる。

台風の中傘もささず、しばらく立っていたらこんな風になるじゃないか?

 

取り敢えずこの気持ちの悪い感じをどうにかしようと着替えを抱えてそのまま風呂へと歩いて行く。

 

脱衣所に入り服を全て脱ぎ、脱いだ衣服の重さにまた驚く。

汗だけでこんなに重くなるものなのか……?

 

そのまま風呂の中へ入り少し冷たい水を頭から被り、一気に目を覚ます。

 

 

「……アレは夢……アレは夢なんだ」

 

 

少し冷静になりつつ、先ほどまでの夢を忘れようとするが、どうも脳裏にこべりついて離れない。

それでも忘れようとシャワーの勢いを増す。

 

 

「………っ?」

 

 

シャワーからの水が少し強かったのか右の"首筋と肩の間あたりがズキッ!と痛む。

 

なんなんだ、一体と手で触れてみるがやはり痛む。

 

寝違えた痛み……ではなく何処か擦り切れた様な擦れた痛みだ。

 

ふと目の前の鏡の自分と目が合う。

 

そうだ、触ってわからないなら見ればいいじゃないかと目線を痛みの原因であろう場所に目を写すと

 

 

「………こ、れ?」

 

 

そこに移ったのは、まるで噛み付かれたかのような後に

 

 

「黑い、アザ?」

 

 

その噛み口後の中を円状に広がる黒いアザが出来ていた。

 

触れてみるが痛みはアザからは無く、この周りの噛み跡からの痛みが原因だとわかった。

 

この気味の悪い現象に動揺し、少し吐き気がする。

なんなんだ?これは。

 

ドッ!ドッ!とまるで心臓が耳の横についているんじゃないかというくらいに痛く鼓動している。

 

この一連の出来事に俺は……

 

 

 

「ユウさん?お風呂はいってるの?」

 

 

「……!? 」

 

 

 

つい反射的に構えてしまうが、今の声は……

 

 

「……なの、は?」

 

「うん、そだよ?」

 

 

一気に脱力し、肺に溜まっていた空気を思い切り吐き出す。

 

何か、なのはが来てくれて少し安心した。

 

 

「悪い、少し寝汗が酷かったから借りてる」

 

「うん、大丈夫。それじゃ私は部屋に戻るね?」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

とっとっ……と言うかなのはが歩いて行く音を聞き落ち着いた自分自身をもう一度見てみる。

肩の傷は明らかに新しいもので、寝る前は無かった。

ならやっぱり

 

 

「あの夢の出来事は……」

 

 

グッと黒いアザの部分を握ると何だか力が抜ける様な感覚に陥る。

 

……取り敢えず、今のところは様子を見てみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かちゃかちゃと店の後片付けをして行く。

アレから丸一日立ち、もうすっかり立ち直る事が出来た。

 

あの黒いアザも特に酷くなってないし、生活に何か支障が出ているわけでもないので取り敢えずは、と後回しにしている。

 

皿を拭き、棚にしまうという作業を終え、次の仕事に取り掛かろうとした時、桃子さんに呼ばれる。

 

 

「ユウくーん、ちょっと来てもらえるかしら?」

 

「はい、何ですか?」

 

 

横の厨房に入れば桃子さんが白い四角の箱を渡してくる。

 

 

「えっと、これは?」

 

「何って今日なんでしょ?ユウくんのお友達のお家に行く日って」

 

「あ、はい。そうですけどこれって……」

 

 

中を軽く見てみると大きなホールケーキが入っており、ネームプレートまで書いてあった。

確かにはやてのバースデーケーキを頼んだが、こんなに大きなものでも増してや、ネームプレートまで頼んではいなかった。

 

情け無いが予算と時間が足らず、簡単なものを頼んでいたはずなのに渡されたのは5000円はしそうなくらい立派なケーキだった。

 

 

「え、でも俺が頼んでたのは……」

 

「いいの!いつもユウくんにはお手伝いしてもらってるし、私からのプレゼント」

 

 

喜んでもらいたいんでしょ?とウィンクしてくれる桃子さん。

……本当に良い人だな、ここの人たちは。

 

 

「ありがとうございます、こんなに立派なの……」

 

「いいのよ、それよりほら、そろそろ上がっていいわよ?」

 

「え、でも……」

 

 

時間を確認するが、まだ予定より1時間以上ある。

こんなにしてもらった上に更に早上がり何て、流石に……

 

 

「いいんだよ、ユウくん」

 

「士郎さんまで……」

 

「偶には私達に甘えてくれてもいいじゃない。ほーら!」

 

 

と言って背中を押される。

……参ったな、こりゃ。

また返さなきゃいけないものが増えてしまった。

 

 

「えっと……それじゃお言葉に甘えて、行ってきます!」

 

 

いってらっしゃい、と背中から聞こえそのまま着替えに一度家に戻り、直ぐに支度を始める。

必要なものとプレゼントはもう鞄に入れたし、行くか。

 

 

「っとと、まずい、忘れ物」

 

 

机の上に置いてあったあの洋書を手に取り鞄に……?

 

 

「あれ、この本こんなに綺麗だったか?」

 

 

何となく、本当に些細な事なのだが何処か2日ほど前に見た時よりも黒みが薄くなった様な……あと何だが不気味さが減った?

 

 

「うーん?」

 

 

くるくると見回すが特に変化もなく段々と自分の勘違いなんじゃないかと思い始める。

 

そんな時ポケットのデバイスからの音声。

 

 

《master》

 

「え?」

 

 

机の上に置いてあるデバイスを確認してみると時間が表示されており、アレから10分以上経ってしまっていた。

 

 

「まずい、行かなきゃ!」

 

 

今はこの違和感を無視して鞄の中に本を放り込む。

早く行かなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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少し息の上がった身体を落ち着かせるために深呼吸をする。

さて、目的地には着きインターホンを鳴らすところだ。

 

なーんか緊張するなぁ……俺が祝う!何て啖呵を切ったのは良いものの、俺自身祝い方が分からず、色々な人の知識だけを借りて来ている状態なのだ。

 

けど、男は度胸!と士郎さんから激務を貰っている。

ここでやらずしてどうする俺!

 

 

意を決してインターホンを鳴らすと直ぐに"はーい"と言う声が聞こえ、中からよく知った女の子が顔を出す。

 

 

「あれ、ユウさん?随分とはやい到着やね」

 

「お、おう、色々あって早く上がれたんだ」

 

「何でそんな緊張しとるん?」

 

「へ、や、そんな事ないぞ?」

 

「んー?変なユウさんやな」

 

 

くすくすと笑いながら、ほな押してなーと車椅子を任せてくれる。

 

よし、全力ではやてを喜ばせるぞ。

 

 

 

時刻は17時手前。

料理を作り始めるなら丁度良い時間だ。

 

 

「はやてー、冷蔵庫に物入れさせてもらうぞ?」

 

「ええよー」

 

 

まずはケーキと買ってきた食材を冷蔵庫にしまい、キッチン周りの準備から始める。

 

それを興味深そうにじーっと見てくるお客様が一名。

何だかやり辛い……

 

 

「えっと、別にリビングで寛いでて良いんだぞ?」

 

「んー……私はユウさんの料理姿見てたいかな」

 

「や、別に構わないけど面白いか、それ」

 

 

楽しいよーと笑顔で言われてしまっては何も言い返せず、ならいいかとキッチンの方に振り返り支度を始める。

 

誕生日らしいものなんてケーキしか思い付かなかった俺は何が食べたいかとはやてに聞いたところ、"そうやなぁ……あ、なら唐揚げ食べたいかも"との事だったので取り敢えずメインどころはそれにするとして、後はサラダと汁物、それから……と出来るだけ丁寧に、素早く下ごしらえを済ませて行く。

 

 

「へぇ……ユウさんって結構お料理するんやね」

 

「ん?あぁ、前にも話したと思うけどバイトしてる場所で軽食作ったりとかもするから、ある程度は作れるぞ」

 

 

油の温度は……よし、えっと次は……

 

 

「何かそう言うの素敵だと思うわ」

 

「そうか?」

 

「うん、ユウさんモテるやろ?」

 

「んー、残念ながらそんな経験は無いし、そんな相手もいないよ」

 

 

士郎さんと桃子さん見てるとすごい憧れるけどなー、気づけばイチャついてるし最近では恭也と忍さんのも見たから余計に胸焼けしてしまった。

 

俺もそう言う相手が出来たら何か変わったりするのだろうか?欲しいか欲しく無いかならそりゃ健全な16歳ですし欲しいけども、残念ながらそんな出会いも相手もいないのだ。

 

………何か、悲しいな。

 

っと、取り敢えず出来たものはテーブルに移動させておくか、と振り返るとはやてと目が合う。

 

その顔は何処か嬉しそうで、いつもより上機嫌な顔をしていた。

 

 

「そかそかー、いないんかー」

 

「何だよ、随分と引っ張るな?」

 

 

まぁ、はやてもそういうのが気になる年頃というのは分かっているからそんなに弄らないが、なのはやアリサ、すずかもこの手の話好きなんだよな。

前も何かそれ関連で話してたのを見かけたし。

 

……まぁ俺も恋話もどきみたいなのはよく美由希に付き合わされてるから知ってるけど、話し始めると面白いんだよな、あれ。

せっかくはやてが伸ばしてるし、少し話を振ってみるか。

 

 

「やっぱり、はやてもそういう相手が欲しいとか思うのか?」

 

「へ?」

 

「いや、彼氏とかそういうの。憧れたりするのか?」

 

「まぁ……そうやね、素敵やなって思うけど、あんまり考えた事ないなぁ……」

 

 

あ、まずい少し温度高いな、火強くしすぎたかな。

 

 

「ならどんな人が好みだー、とか気になる人みたいなのとかは?」

 

「え、えと」

 

「ん?」

 

 

何やら言い淀んだはやてが気になり少し振り返ると何処か赤くなり、ぼーっとしていたのか俺と目があった。

 

 

「はやて?」

 

「え、あ、何?」

 

「いや、誰か思いついたのかなーって」

 

 

まぁいいかと調理の方に戻る。

もう少しで完成かな?あとは米炊いて、盛り付けようのお皿を……

 

 

「気になる人、ならいるかも……?」

 

 

お、こりゃ意外。

なのはたちはそういう話はしても明確に答えを返してくれず、分からないか、教えないみたいな物ばかりだからつい俺も食いつく。

 

 

「いるのか、でも随分と疑問形なんだな?」

 

「えと、何というか今の会話で心当たりが出来たと言うか……」

 

 

どんどんと声が小さくなり、最後の方は殆ど聞こえなかった。

 

 

「ふーん、その人はどんな人なんだ?」

 

「え?……え!?」

 

 

なんか随分と取り乱しているな、珍しい。

少しするとぽつぽつと話し始めてくれる。

 

 

「私も、その人の事、すごく良く知ってるって訳じゃないんやけどね?」

 

「なら最近知り合った人なのか」

 

 

こくっと頷くはやて。

誰だろ、最近知り合ったって事ははやてが行くような場所だし、図書館か?

 

 

「その人はな、少し意地悪ですぐに私の事からかってくる人なんやけど」

 

「え、プラスになる要素なくない?」

 

 

言い方が悪いかもしれないが何でそんな人の事を気になってるんだ?

 

 

「でも、優しいんよ?すごく、すっごく。私が落ち込んでたり寂しいなーとか思ってると見計らったんじゃないかって疑うくらいのタイミングで電話とかメールしてくれるんよ。細かい事にもよく気づいて気遣ってくれるし、私の勘違いやなければ私の事凄く大切にしてくれてる……そんな人」

 

 

顔を真っ赤にさせながら俺の目を見てそう語ってくれるはやて。

なるほどなぁ、随分と仲の良い人がいるんだな、俺も会ってみたいかも。

 

 

「へぇ、そりゃいい人だな」

 

「……へ?」

 

「意地悪な所はマイナスかも知れないけど、そんだけはその人の良いところを上げられるなら少なからず好意はあるんじゃないか?」

 

「………」

 

「にしてもはやてにそんな人が居たんだな、同い年?それとも年上?俺も会ってみたいな」

 

 

と出来たものを盛り付け終え、皿を持ち振り返ると少しジト目かつ頰を膨らませて、先ほどの乙女な顔から如何にも私不機嫌ですー、といった顔に変わっていた。どしたの?

 

 

「何で急に不機嫌?」

 

「……追加でその人はバカで鈍ちんでバカ」

 

「一気にマイナスの要素増えたな、その人」

 

 

しかもバカって二回も言わなくても……可愛そうじゃないかその人。

名も知れず知らない人に少し同情する。

 

 

「それよりほら、出来たぞ?リクエストの物とその他」

 

 

テーブルには少し作り過ぎたんじゃないかと、思う位にはたくさんの料理が並んでいた。

 

 

「凄いけど……ちょっと作り過ぎやない?」

 

「張り切った」

 

「そんなドヤ顔で……」

 

 

まぁ作ってしまったものはしょうがないよな?そろそろいい時間だし、と時間を確認するためにデバイスを見ようとして……あれ?

 

 

「どうしたん?」

 

「いや、ちょっと……」

 

 

鞄をみるがやはりない。

おっかしいな、最後に見たのは……

あ、机の上か

 

 

「携帯忘れちまったみたいだ、時間って今何時くらいだ?」

 

「あ、それで探してたんやね、えっと20時前やね」

 

「うわ、凄い時間たってるな……ごめん」

 

 

始めたのが18時前くらいだったか、随分と待たせてしまった。

 

 

「大丈夫よ!私も見てて楽しかったし、ユウさんと話すのも好きやから」

 

「そう言ってくれると助かるよ。さ、冷めないうちに食べてみてくれ」

 

「うん!」

 

 

そのままテーブルに座り、はやてと向かい合う。

っと、そうだった。

 

 

「はやて」

 

「?」

 

 

いただきますのポーズをしたまま首を傾げるはやて。

まずいまずい、先に渡さなければ。

 

 

「あと4時間くらい早いけど先に。 誕生日おめでとうはやて」

 

 

はい、とプレゼントを渡す。

中身は色々と考えて俺が選んだものだけど気に入ってくれるかな……なんだかんだと1日しか無かったから外してたりしなきゃいいけど。

 

受け取ってくれたはやては一瞬ぽかーんとした後、笑顔で

 

 

「ありがとう!」

 

 

と言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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料理の方は高評価だったらしくもぐもぐと目の前で頬張ってくれるはやてをみて一安心。

 

こうやって自分の作ったものを美味しそうに食べてくれる子は凄い好感が持てる。なのはやフェイトしかり、はやてにも気に入って貰えたなら俺も嬉しい。

 

あれだけあって作り過ぎたと思っていた料理も殆ど空になり、片付け始める。

 

 

「今日はいつもより食べたな?」

 

「うん、凄い美味しかったからね、ありがとユウさん」

 

「こんなのでよければいつでも作るよ、ほいお茶」

 

 

ありがとーとお茶を啜るはやてを横目にそろそろケーキの準備をしようかとお皿を出す。

 

 

「このプレゼントって開けてええの?」

 

「ん?ああ、別に構わないけど、その……正直自信ないからそんなに期待しないでくれ」

 

 

と言ったのだが聞いてる途中からもう開け始めてるし。

大丈夫かな……

 

 

「あ……」

 

 

袋から出てきたのは40cmくらいの少し大きい狸のぬいぐるみ。

 

 

「いやその……話した時にぬいぐるみとか好きなの聞いてのと後は俺のイメージで……」

 

「………」

 

「は、はやてさん?」

 

 

やったか?これはやってしまったか?

やっぱりこう女の子が好きそうなアクセサリーとかそっちの方が良かったか?

プレゼント探して見つけた時はこれだ!ってなったけど持って帰ってきて冷静になると本当にこれで大丈夫か?となったがやはり失敗………

 

 

「かーわーいーいー!!」

 

「へ?」

 

「何やこれ!ユウさんいいセンスやな!」

 

 

え、あれ……すっごい喜んでくれてる?

ぎゅーと抱きしめて凄い笑顔だ。

 

 

「こういうぬいぐる持ってなかったから凄い嬉しいわ、ありがうユウさん!」

 

「あ、ああ喜んでくれたならよかったよ」

 

 

今日から一緒に寝よー!と凄いテンション上がってるはやてを見て凄い安心アンド嬉しい。

あー良かった良かった……と言いつつケーキをテーブルに。

 

 

「はやて」

 

「え、これ」

 

「そりゃ用意してるよ、誕生日ケーキ」

 

 

箱から出してロウソクを9本立て、火をつけたものをテーブルに置くとはやてが目を見開いて驚いてくれている、はっはっはー、そりゃこんだけ大きなケーキなら……?

 

 

「え、ちょ、はやて?」

 

「え?何?」

 

「何で泣くんだよ?」

 

「え……?」

 

 

何故か涙を流すはやてに焦る。

不味い何かやったか?でも変なことはしてないし……ケーキが嫌いとか?

アワアワしてると俺を見て、泣きながらも笑うはやて。

 

 

 

「違うんよ、これは嬉しくてつい出ちゃったんや。我慢してたのに、ここまでしてくれるなんて思ってなかったから」

 

「ああ、そういう涙か……てっきり何か失敗したのかと思った」

 

 

涙を拭きながらそんなことあるわけないよーと笑うはやて。

ホントに良かった、と一安心。

 

 

「それじゃ、えっと」

 

「ああ、消してくれ」

 

「うん!」

 

 

 

ふーっ!とはやてが息を吹きかければ火は全て消える。

 

 

「改めて、おめでとうはやて」

 

「ありがとう、さ!食べよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かちゃかちゃと食器を片付け、ゴミを捨てる。

ケーキを食べ、少しおしゃべりをした後今ははやてが風呂に入っている。

 

その間に俺は片付けだ。

最初は手伝うか?と聞いたのだが大丈夫!真っ赤になってお風呂に入っていたので今はとりあえず、と片付けをしている。

 

 

「前までならむしろ一緒にはいろーとまで言ってきたくらいなんだけどなぁ……」

 

 

いつも泊りに来ていた時は楽ちんやなーとか言って頭とか俺が洗ってたんだけど、どんな心境の変化だろうか。

 

 

「これが思春期?」

 

 

妹が離れて行くみたいで何となく寂しさを覚える。

そっか、これが恭也の言ってたやつか……

 

にしても何で急に?思春期はそんな突然発症するようなものなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ふぅ……とお風呂の中で一息つく。

 

このお風呂に入るというのも私からすれば結構大変で、何時もはユウさんに手伝ってもらって一緒に入ってもらうんやけど、今日は何だかと言うか……主にユウさんに自覚させられた感情のせいで一緒に入りづらくなってしまった。

 

 

「なーんで気付かへんかったかなー……」

 

 

お風呂に自分の言葉がこだまする。

 

確かに一緒にいて楽しかったし、近くに居たいって思った事もあった。

 

でもそれは……アレやお兄ちゃんみたいな感じとかそう言う理由だと思ってた訳で……

 

 

 

「急に自覚すると今までの自分の行動がすっごい恥ずかしくなってくる……」

 

 

ぶくぶく……とお風呂に半分くらい顔を沈めて息を吐く。

もう……ホント自己嫌悪だ。

 

 

「しかもあそこまで言ったのに全くこれっぽっちも気づかへんし」

 

 

我ながら結構大胆に、それでいてもうほぼ答えを言ったような気もする……というか言っていたはずなのに、それで返って来たのは"へぇ、そりゃいい人だな"という言葉。

 

何でよ!?普段一緒にいる男の人なんてどう考えてもユウさんしかおらへんやろ!だって私普段の生活の殆どを家で過ごしてるし、何なら最近できた知り合いなんてユウさんくらいだって話をつい最近したばっかり!

 

 

「ホントにバカで鈍ちんでバカや」

 

 

ホントにもう!私をこんなに悶々とさせてるのに何も気づかないし、なのに私が寂しい時とか困ってる時は一番に駆けつけてくれるし、優しく頭撫でてくれるし、楽しい話いっぱいしてくれるし………

 

 

「………やっぱり、気になるなぁ……」

 

 

今日だって私のためにこんなに色々なことをしてくれた。

私の誕生日を知ったのってあの時、2日前なのにお料理からケーキ、誕生日プレゼントまで。

 

 

「ふふ……」

 

 

マズイ、またニヤケてきた。

ユウさんの前ではできるだけ我慢したけど、油断したり思い出すだけで嬉しくなってしまう。

 

ホントにこのままずっとユウさんと過ごせればそれはどれだけ楽しくて幸福なことがあるんだろうか?

 

でも、それだと有り難みとか忘れちゃいそうで何だかもったいない気もする。

 

 

「ホントに、どーしたらええやろな」

 

「なにがだ?」

 

「うぇ!?」

 

 

え、え!?と振り返ると脱衣所の方で声がした。

 

 

「大丈夫か、すごい長風呂だけど?それと着替えここ置いとくぞ」

 

「あ……うん、ありがと」

 

「おう、じゃ俺はリビングいるから」

 

 

ガチャと扉がしまり気配が遠のいていく。

び、びっくりした。急にユウさんの声が聞こえるんだもん……

 

 

「ってもう1時間くらい経っちゃうんやな……」

 

 

普段どちらかといえば早く上がるのにこれだけ長風呂してしまえばユウさんも心配するよね。

 

 

はぁ……上がろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かち……かち……と時計の針が進む音だけが聞こえる。

闇も深くなり、窓を見れば真っ暗でもう遅い事がすぐにわかる。

 

時間を確認すればもうすぐ日を跨いでしまう。

 

 

「はやて、そろそろ寝ないとマズイぞ?」

 

「ふぁ……うん」

 

 

おや、どうやら眠かったみたいで横で既にコクコク……と船を漕いでいた。

 

 

「ほらおんぶしてやるから」

 

「ん」

 

 

 

そのまま自分の鞄を前にしてはやてをおんぶして二階の自分(借りている)の部屋にいく。

 

……というか一緒に寝るにしても1階のはやての部屋の方が楽なのでは?というと、絶対ダメ!!と拒否られてしまった。なぜ。

 

部屋に入りすぐにはやてをベットに下ろす。

 

 

「ほれ、ついたぞ?」

 

「ん、ありがとなユウさん」

 

 

よいしょと降りてそのまま布団の中に。

っとそうだ。

 

 

「あと忘れてたけどこの本返しとくな、何処に置けばいい?」

 

「あ、そっか。そこの棚に入れて置いて」

 

 

了解、と本棚にしまう。

すっかり忘れていたがこれを返すのも今日の目的の一つだった。

 

 

「それじゃ、おやすみ」

 

 

と言って出ようとすると手が掴まれる。

 

 

「今日は、一緒に寝たい」

 

「ん、狭いぞ?」

 

「大丈夫よ、ベット広いし」

 

 

そう言ってずれてくれるはやて。

ならお邪魔させてもらうかな?

 

そのままベットの横に入るとはやてがくっついて甘えてくる。

この子、眠くなるといつもこうなるんだが、朝起きると大抵恥ずかしがってるんだけど、今回もまたかな。

 

 

「それじゃ、おやすみ」

 

「……うん、おやすみ」

 

 

と、電気を切ろうと横の時計を見ればあとちょっとで0時になるところだった。

随分と遅い時間まで起きていたな、と改めて自覚し、丁度0時に、3日から4日へと日が変わった。

 

 

 

_____瞬間、ここしばらく全く触れていない、感じていないモノを感じる。

 

 

「ーーーー?」

 

 

思わず寝ようとし電気を切ろうとしていた手を止め気配のする方を振り返れば………

 

 

 

 

 

 

 

《 封印 を 解除 します 》

 

 

 

 

 

 

目の前にはあの本が怪しく光勝手にパラパラって開き、音を発し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です、作者です(*´ω`*)
一応現段階で必要なフラグをばらまいたら1万字を超えてしまいました……申し訳ないです(´・_・`)

それでは次回またよろしくお願いします!



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A's 第2話 闇の書と騎士

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で突然起きた出来事に即座には反応する事が出来ず、その魔力の本流に目を奪われる。

 

本を結ぶ様に、封じる様に巻かれていた鎖が外れ、中が開く。

 

 

「なに、これ……?」

 

「……!」

 

 

横のはやてが怯える様にギュッと服を掴む。

マズイ、ここに俺だけならまだしも、一般人であるはやてが居れば巻き込んでしまう……!

 

まだ何かもわからない目の前の本からはやてを少しでも遠避ける為に前に立つ。

本当は見せる訳には行かないが、今回は緊急事態、それならしょうがないとクロノも言ってくれるはずだ……!

 

そしてバリアジャケットを纏おうとデバイスを………

 

 

「しまった……こんな時に!」

 

 

デバイスは今、自分の部屋の机の上に置きっぱなしだ。

アレが無ければ俺はなにも出来ない。

 

焦る俺を不安そうに見ているはやてと目が合う。

何としてでもこの子を守らなければ、と本のを見返した瞬間

 

 

何かが、本から放たれる。

 

ソレ、は一つでは無く複数で最初、光を纏っていた。

 

そしてその内の一つがグンッ!と俺の方に明らかな敵意を向けて向かってくる。

 

ほぼ条件反射でしゃがみこむとその上をブン!とはらわれるのを風圧で感じる。

 

そして避けた俺を勢い任せで床に打ち付けてきた。

 

 

「ーーーっ」

 

「 _____動くな」

 

 

鋭く低い、女性の声だった。

チャキッと耳元で金属製のモノ、剣であろうモノを首に押し付けられる。

 

無言で相手の指示に従い、次の指示を待つ。

どうする?どうすればこの状況を覆し、はやてを助けらる?グルグルと思考を回転させ、今はただ、それだけを考える。

 

 

「今から聞くことに正直に答えろ、さもなくば、切る」

 

「……」

 

 

無言で頷き、チラリと後ろの状況を確認すると相手の人数は俺の後ろに1人、本の前に3人見え、はやてを確認すれば気絶してしまっている。

 

ここで少しの違和感が生まれる。

この4人が敵であると仮定しての話だが、何故全ての敵意が俺に向いている?

もし、俺がこの人たちの立場ならこの部屋全ての相手が敵で目の前には気絶してしまっている女の子が1人いるのだからそっちにも少しは気が向くはずなのに、真っ直ぐに俺のみを睨みつけてくる。

 

 

「貴様、何者だ?」

 

「……名前でいいのか?」

 

「ふざけているのか?何処の魔導師だ?」

 

 

魔法を認知している?それはそうか、と納得はしたが、それでもまだこちらにもきになることはある。

 

 

「所属はしてないし、そもそも急に飛び出してきて何なんだ、お前たちは?」

 

「貴様こそ主(あるじ)の前に立ちはだかり何をするつもりだった?」

 

「……主?」

 

 

主とは一体……あの本の事か?にしては言い方や理不尽さが際立ち、それは違うと判断できる。

ならば主とは一体?

 

 

「なぁ、貴女の言う主ってのは誰なんだ?」

 

「……?何を言っているんだ、貴様が襲おうとしていただろう」

 

 

え……?

 

どういうことだ? 話が見えてこない。

 

襲う?何のことだろうか、そもそも襲うも何もこの部屋には俺とはやてしか居ない……訳、で

 

ここで一つの回答に至る。

 

いやそんなはずは無いと思った、思いたかった。

 

でも現実っていうのはいつだって見たくないもので、それでいて

 

 

「そこで眠ってらっしゃるだろう」

 

 

残酷だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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________ああ、またこの感覚だ。

 

私達が起こされる時には決まって、この引っ張り上げられる様な感覚に陥る。

 

この感覚には毎回嫌気がさすが私達に拒否権など無く、またかと無理矢理納得させて目覚める。

 

一体何度繰り返したのかさえ、もう私には分からずまたこうして目が覚めれば新たな主と契約し、蒐集する事になるのは分かっていた。

 

今度はどんな主なのだろうか?と考えればすぐに出てくるのは碌でもない記憶の断片。

 

それでも私の使命だから、と割り切り目を開けてみれば……まずは衝撃だった。

 

最初目に入ってきた光景は何処かの部屋、寝室であろう場所にいる2人の人間。

片方は青年くらいでもう1人はまだ幼さが残る少女だった。

 

初め、主は青年の方だと思ってしまった。しかしパスを辿れば自ずと目の前で"襲われている"少女の方だった。

 

____一気に魔力を放出し、駆け出す。

 

封印を解かれ、目の前でいきなり主が襲われているのだ、正直にいってこんな幼い少女が主であるのも衝撃だったが、何より襲われているという場面で封印が解かれたのも初めてで少し混乱する。

 

しかしそんな事は言っていられない、すぐにでも助けなければと自身の中でも今出せる最速で切り捨る、切り捨てようとした。

 

しかし、手応えはあらず避けられてしまった。

 

今の状況で相手の男もかなり動揺していた、その場面で私の剣撃を避けるだと?

 

自惚れかも知れないが……私はそれなりに強いという事を自覚しているし、今の速度かつあの場面だ、避けるのは不可能だと思っていたのに、目の前の男は避けた?

 

先ほどまでの舐めた考えから一気に切り替えて避けた男を追い詰める。

油断するな、コイツは只者ではない。

 

と、思っていたのだが……見てみれば魔力の反応は全く"感じない"……いや微弱程度で、魔導士の端くれであろうということがわかった。

 

なら先ほどのは偶々……?

 

兎に角、情報が必要だと判断し、後ろの仲間と念話で話しつつ、この男に聞いていく。

 

そんな中相手の男から聞かれた主は誰だという質問に対して答えたモノを聞いて一気に顔が青くなる。

そして少し俯き、小さく

 

 

「……そうか」

 

 

とだけ呟いた。

……その態度と言葉に何か引っかかりを覚える。

 

 

「まだ質問に答えてないぞ?貴様は主に何をしようとしてた?」

 

「一緒に寝ようとしてただけだよ、貴女が考えている様な事は決してない」

 

 

……こちらの勘違い、ということか?

 

 

「……ならば主との関係は?」

 

「近しい所で言うなら俺は友人だと思っている。はやてが、その子がどう思ってるかまでは何も言えないけど」

 

 

どうやら嘘は言っていない様でその目や態度からも真摯に答えてくれているのが伺え、警戒はしつつも剣を下ろす。

 

その私の対応に何処か驚いた様に男は

 

 

「……いいのか?」

 

 

と聞いてくる。

 

正直に言うなら主に聞くのが一番だが、明らかに我らの影響もあり、気を失っているのがわかる。

 

ならばこの男にこの場所と主の事を聞きそれで最終的に判断するのが正しいと話し合った結果だった。

 

……ヴィータだけは反対していたが、それでも今の我らには情報が少な過ぎるとの判断ゆえだ。

 

 

「下手な動きはするなよ、私はまだお前を信用した訳ではない」

 

「いや、今はこの対応で十分だよ。ありがとう」

 

 

と言われ何処か力が抜けてしまう。

 

先ほどまで剣を突き付けていた相手にそんな顔でお礼をいうのは何処か可笑しくはないだろうか?と私の中の何が問いかけてくる。

 

 

「えと、それじゃはやてを起こしたくないし移動しないか?下に座る場所くらいはあるし」

 

 

そう提案され、一先ずは頷く。

 

 

「じゃあ付いてきてくれ、俺が信用ならないなら別に先に歩いてくれても構わない」

 

 

と手を上げながら話してくる。

……ますますよく分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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取り敢えずは大丈夫……かな?

何とか剣は下ろしてもらえ、下のリビングの方に移動する。

部屋に招き入れると何処かぽかーんとする4人に少し苦笑い。

やっぱり、あの本に封印されてたからか、はたまた古い時代の人たちだからかな?

 

 

「取り敢えずそこに座っててくれ」

 

「……」

 

 

無言で頷いてくれる。

何だかんだといって話は通じる相手で安心している。

 

さて、改めて4人を見てみる。

まずは先ほど俺と話していた赤い髪の女性。

少しつり目で雰囲気からしてもかなりの強者で尚且つ警戒してくるのがビンビンと伝わってくるが、冷静に物事を見てくれてる辺りまだ対話できそうだ。

 

そしてその後ろで無言かつ静かに佇む青色の髪の男性。

身長も高く、浮き出る筋肉から明らかに近接系の相手だと伺え、スキも少ない。

 

そして何処かアワアワとあたりを見回すしている緑色の服と金髪の女性。

正直、他の人と比べれば何処か抜けている感じだが、ああいうタイプはリンディさんの様に後方支援が主なタイプだと思う。

 

そして……そのある意味一番怖いのが

 

 

「……………!」

 

「えっと……」

 

 

ずっとギッ!!っと睨みつけてくる少女。

凄く気が強そうで近しい所を上げるならアリサ辺りかな。

 

他の3人は取り敢えずと座っているがこの子だけずっと俺の事を睨み続けており、どうしたものかと話しかけるが何も返してくれない。

 

取り敢えず自分を含め5人分のマグカップを取り出し何か無いか探せばこの前俺が買ってきてたココアがあった。

 

後ろからの熱い視線を出来るだけ無視してそそくさとココアを作りテーブルの方に持っていく。

 

 

「えっと、待たせた」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「…………」

 

「えっと……」

 

 

うーん、苦手な空気だ。

取り敢えず

 

 

「えっと、どうぞ」

 

 

とココアをそれぞれの前に出してみると。

 

 

「……これは?」

 

「ココアだよ、知らないか?」

 

 

クンクンと赤髪の女性が両手でマグカップを掴み匂いを嗅いでいる。

 

 

「毒とか入ってないぞ?何なら俺が毒味するけど」

 

「……いや、大丈夫だ。いただこう」

 

 

と何処かおっかなびっくり口をつける目の前の人に少し笑ってしまう。

 

 

「えっと、取り敢えずいつまでも不便だから自己紹介だけ。俺はユウだ」

 

「ん、ああ。私はシグナムだ」

 

「……ザフィーラだ」

 

「えっと、シャマルです」

 

「………」

 

 

順に自己紹介してくれたのだが最後の子だけまだ俺を睨んだままで何も答えてくれない。

 

 

「えっと……」

 

「……ちっ、ヴィータ」

 

「ヴィータか、えっとよろしく……?」

 

 

よろしくできるかは今からしだいだけどと思いつつ、挨拶を交わしたのだが、プイッと顔を背けられてしまう。

 

まぁ、取り敢えずこれで自己紹介は出来たし、少しはマシになったかな。

 

 

と、今度はちみちみとココアを飲んでいるシグナムに話しかけてみようとするのだが、飲んだココアを見て何処か呆気に取られていた。

 

 

「どうした?なんか変なもんでも入ってたか?」

 

「え、あ、いや何でもない。……ただ、その飲んだ事の無いもので少し驚いていたのだ」

 

 

と何処か微笑んだ様に見えて、少し驚く。

何だ、女性らしいところもあるんだなーなんて。

 

 

「気に入ったのならおかわり作るぞ?」

 

「え、と……頼む」

 

 

少し悩んだ様だが、直ぐに折れてマグカップを渡してくる辺り結構気に入ってくれたのかな?

 

さて、それじゃおかわりを作ってからは情報交換とどれだけ俺のことを信用してもらえるかが勝負だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……とここまでがはやての事と俺の事に、出会いまでかな」

 

 

取り敢えずはと今日までのはやてと俺の関係、それから話せるまでの情報出来るだけ丁寧に、詳しく話した。

 

もちろん、俺がある程度は魔法の方にも知識があるのと、はやてにはそっち関連の知識が全く無いことも。

 

 

「えっと、質問いいかしら?」

 

「何ですか?」

 

 

シャマルさんがおずおずと手をあげる。

別にそんなに畏まらなくてもいいんだけどなぁ……

 

 

「ユウくんは魔法が使えるって言ってたと思うんだけど、私はそういう人達の反応を探知する事が出来るの。けど、その……ユウくんから全く魔力源も感じなくて……」

 

ほぼ微弱しか……と困惑したように話しかける姿に、そういえばと思い出す。

 

「あ、それか」

 

 

確か俺の魔力って探知され辛い……っていうか透明で基本的にそういうのには引っかからないって話だったな。

 

一度俺の魔力を認識すればその後からはサーチ、探索魔法でも認識出来るらしいが初見では不可能レベルとかクロノが言ってた気がする。

 

 

「シャマルさんは多分だけど、探索系ので俺の魔力量とか見ようとしたんだよな?」

 

「ええ、でもその……全く感じなくて」

 

「それは私も気になっていた。あの瞬間、常人が避けれるスピード以上で切り上げた私の剣が空を切った時は、お前が騎士の類かと思ったが、魔力を全く感じなかったからな」

 

 

もぐもぐと俺の出したまんじゅうを食べながら聞いてくるシグナムさん。

 

うーん……こうして見てるとさっきまでの殺気とか忘れそうになるな。

 

 

「うーんと……結論だけ言っちゃうと俺の魔力質、というか根底が透明だからなんだ」

 

「透明?」

 

 

ピクッと反応し、初めて興味を持ったかの様にザフィーラさんが反応する。

 

 

「ああ、普通の人って何かしら魔法を行使するとそれに対して色があるらしいんだ。目には見え無いものでも探索魔法で引っかかるし、放出魔力とか射撃魔法で出すものについてる色とかだな」

 

「しかしお前にはそれが無い、と?」

 

「その解釈であってるよ、基本的には俺単体では何も無くて、ある意味ステルスみたいなものかな」

 

「それはまた厄介な……」

 

「敵にしたらかなり厄介ねー……」

 

 

何やら3人は俺の話を聞いて考え出してしまった。

なんだろうか、そんなに不味い話をしてしまったのだろうか?

 

 

………さて、と一息つきつつチラッとヴィータの方を見てみれば

 

 

「………」

 

 

先ほどよりはマシになったとは言えまだ警戒されているのは目に見えており、今のうちに少しは解いてくれると助かるんだけど……と何か策はないかと頭で考える。

 

………あ、そういや

 

 

「なぁ、ヴィータ」

 

「……何だよ」

 

「甘いもんとか好きか?」

 

「………?」

 

 

何言ってんだコイツって目で見られるが、何やら興味はある様だ。

ならちょうどいいし、開けちゃうかと冷蔵庫の中にあるファミリーパックのアイスクリームの箱を取り出して、開ける。

 

俺が突然キッチンの方に行ったからか、はたまた興味を持ってくれたからかは分からないが後ろからヴィータが付いて来ていた。

 

 

「バニラとチョコどっちが良い?」

 

「………?」

 

「あ」

 

 

ココアも知らないくらいだから多分、チョコとかバニラもよくわからないだろうな。

なら、と少し小さいお皿を出してバニラとチョコを半分ずつ出して偶々残っていたクッキーを乗せる。

まぁ、見た目は置いといてこれならマシにかな。

はい、とヴィータにお皿を渡すが俺の顔をアイスを交互に見るだけで受け取ろうとしない。

 

 

「ほら、召し上がれ」

 

「え、あ」

 

 

ならと、少し強引に渡すと困惑しつつも受け取ってくれる。

そして貰った物をじーっと見てるだけで何もしない。

 

 

「食べてみろって、美味いぞ?……あ、そっか食べ方わかんないか」

 

 

なら、とスプーンに一口分のせてヴィータの口の前に持ってくる。

 

 

「ほれ」

 

 

困惑した様に俺の顔と目の前のアイスを少し見つめていたが、何処かおっかなびっくりとアイスをパクッと口に運ぶ。

 

 

「……!」

 

「お、気に入ったか?」

 

「……ふん」

 

 

そのまま残りを持っていくヴィータを見てニヤニヤしてしまう。

やっぱりなー、と何処かでこの子がアイスが好きなのを予感していた俺はガッツポーズ。

物で釣る様で少し申し訳ないが、これで多少なりとも警戒を解いてくれると助かるのだが、まだ出会ってから2時間ほどしか経ってないし、こういうのは時間をかけてどうにかするのが一番だよな。

 

テーブルの方に戻ってくると、もう何かの結論を出したのか俺の事を待っていてくれた。

 

 

「すまん、お待たせ」

 

「構わない、それで続きなのだが……ヴィータ?」

 

「んぐ?、……何だよ」

 

 

もぐもぐとアイスを頬張るヴィータの姿に何処か目を丸くするシグナムさん。

そりゃそうだよな、さっきまであんなに警戒してたのにあんな笑顔でアイス食ってたら、驚きもするだろう。

 

とりあえず話を戻そう。

 

 

「えっと、それで?」

 

「あ、ああ、すまない。こういう事を遠回しに聞くのは私の性格上したくはないから聞いてしまうが、ユウの魔力を認知する事は可能なのか?」

 

「ああ、出来るぞ」

 

「それは……どうやって?」

 

「えっと、一回俺の魔法見ればそれで大丈夫のはず?だ」

 

 

と言うと今度はシャマルさんが少し驚き聞いてくる。

 

 

「え、そんな事でいいの?」

 

「はい、いくら透明だからってあるものですから一回引っかかってしまえばもう見えないなんて事は無いと思います。所謂初見殺しみたいなものなんで」

 

 

そう言うと今度はザフィーラさんが何処か納得していない様な顔になり、考え始める。

 

 

「俺から言うのも何だが……いいのか?手の内を晒す様なものだぞ?」

 

「え?あ、や別に俺はそういうの気にしないですし、何より戦う気も全く無いですから」

 

「しかし、我々とて突然現れ、お前に危害を加えたのは事実。敵の可能性は残っているのでは無いか?」

 

 

それに関してはなんとも言えないが、まぁ結論だけ考えるとこの状況、デバイスもない俺には何も出来ないし、この人数相手に勝てるとも思っていない。

 

 

「ならなんだけど、ユウくんの魔法何でもいいから私に見せてくれないかしら?念話とかでも良いのだけれど」

 

「はい、構わないですよ」

 

 

とそのまま軽く念話をして見ればシャマルさんがまた驚く。

 

 

「……ホントに感知できる様になるのね」

 

「はい、それでもうシャマルさんには分かったと思うんですけど、俺は魔導師としてはかなりヘッポコなんでそんなに身構える必要は無いと思いますよ」

 

「そうなのか、シャマル?」

 

「ええ、正直に言うと才能のある人とない人の境目でかなりない部類に入ると思うわ」

 

「……やっぱりそうですよね」

 

 

泣いてないし、別にヘッポコでも魔法使えるし。

と少し落ち込んでいるとグイッと服の裾が引っ張られる。

 

 

「おい、ユウ」

 

「ん、どした?」

 

「これ、まだあるか?」

 

 

ぐっと綺麗に空になった皿を押し付けてくるヴィータ。

ホントに気に入ってくれたみたいだな。

 

 

「おう、ちょっと待ってろ」

 

 

こくっと頷くのを確認して残りを全て皿に盛り、手渡すとまた黙々と食べ始める。

 

 

「あんまり焦って食うと頭痛くなるから気をつけろよ?」

 

「……」

 

 

聞いてないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「とりあえず、もう遅いしはやてには明日の朝話すって形でいいか?」

 

「ああ、私達も主に負担は出来る限り掛けたくはない」

 

 

とりあえず一旦の情報交換が完了し、お開きになり時間を確認すれば3時を回った所だった。

 

最初は俺からはやてに話すかと提案したのだが、そこはシグナムさん達の方が話を通したいらしく、断られてしまった。

 

 

「なら俺は寝るけど……」

 

「私たちの事は気にしなくていい、ここに居させてもらうだけで十分だ」

 

 

と言われたものの、何となくそれは俺が嫌だった。

しかしと言って家主のはやてに無断でどこかの個室を貸すわけにも行かないし、と考えた末、部屋に余分にある毛布くらいならと差し出す。

 

 

「これくらいは使ってくれ、言っても夜明けまでしばらくあるし、みんなも休んだ方がいいだろう?」

 

「……それならば有り難く借りよう」

 

 

と最初は遠慮していたのだが、何とかごり押して受け取って貰えた。

 

そのままの足で、いつもはやてに借りている部屋のベッドに倒れこむ。

 

 

「はぁ……」

 

 

緊張から解放され、疲れが一気に来たようで一瞬で眠気が襲ってくる。

 

にしても、はやてにまでこっちの……魔法関係の物に巻き込んでしまうとは、後悔の念が心に広がる。

 

話した感じだがあの人たち、はやてに対しては敵意はないし、明日次第では何とかなると思うけど、明らかにまだ俺の事は警戒していた。

 

それに、あの魔法は確か

 

 

「ベルカ、だよな」

 

 

また疑問が増えて余計に億劫になるが、今はただこの疲れた体を癒そうと目を閉じ、眠る事にしよう。

 

ああ、何だかこの深い眠りに落ちる感覚は

 

 

_____つい最近にも感じたなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。
またよろしくお願いします!


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A's 第3話 接触 / 侵食

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____目を開ければまた、この闇の中だった。

 

 

何処かぼーっとするこの感覚、そして全身を何かに触れている感じ、あの時の場所だ。

 

 

あの時と状況も感覚も一緒だけど、違う事が一つだけあった。

 

 

何故かは分からないけど、不思議と緊張せず、何処か安心するのだ。

 

 

気づけば俺の足は何処かに歩き出していた。

 

 

まるでその先にあるものに確信を持っていて、そこに呼ばれるかの様に歩みを進めている。

 

 

この暗闇の中、歩みを進めていればまたあの時のヒトに会える様な気がして。

 

 

 

 

「ーーー?」

 

 

 

 

_______気が付けば、目の前にあの時の女性が現れる。

 

その人は振り向き俺の顔を見て、たいそう驚いているようだが、俺にはその理由が分からず首を傾げてしまう。

 

 

 

「_____して?___がりが_____っている?」

 

 

 

 

………?

 

なんだろう、所々ノイズが入った様に聞こえなくなるけど、前の時より明確に声が聞こえて何を言ってるのか理解も出来る気がする。

 

 

もしかして、今なら会話くらいならできるのか?と思い、口を開こうとしてみるがやはり声は出ず、どうしたものかと考えていると今度は目の前の女性が俺の顔をジッと見て何処か困惑していた。

 

 

 

「___ミは?」

 

 

 

え、と……名前を聞かれたのか?

雑音の中、彼女の発した声音を必死に聞き取り"キミは?"と言われたと判断し、名乗ろうとするが生憎声が出ない。

 

 

「ーーー」

 

 

何とか手振りや、表情で自分の状況を伝えようとしてみると彼女はふんふんと俺の仕草を見て読み取ろうとしてくれている。

 

あれ、実はこの人って良い人?

 

 

「__だ、完全___ないのか」

 

 

俺の状態を確認して何かを考え始める。

 

"まだ"と言う点が嫌に引っかかり頭に残るが今の俺にはその意味を問う事も出来なし、何なら抵抗も出来ないので、静かに思考する彼女を観察している。

 

すると俺からの視線に気づいたのか俺と目が合い、何やら不思議そうに見つめてくる。

 

 

「キミは、怖くな___か?」

 

 

……そりゃ怖いけど、正直に言ってしまえば不思議と彼女なら大丈夫と思ってるのが8割に、2割の諦めの所為で余計に思考が冷静になってるのはあるかもしれない。

 

……そう言えば、先程からよく聞こえなかった彼女の声が段々とハッキリと明確に聞こえるようになってきた。

 

とりあえずはそんな細かいことを伝えることは出来ないので首を振ると余計にその赤い目を見開き驚く。

 

 

「何というか、不思議な子だね」

 

 

とホントに不思議そうに言われ、少しショック。

と言うかその怖がる原因を作った貴女が言うのかと少しジト目してみると苦笑いしながら、すまないと言ってくれる。

 

やっぱりいい人なんじゃないか?

 

 

「それなら次の質問なんだが、何故キミはココにこれるんだ?」

 

 

ココ?ココとはこの暗闇の空間の事だろうか?

うーんと悩んでいると彼女がまた俺の事をジッと見ていたのか上げた目線とぶつかる。

 

 

「そうか、分からないのか」

 

 

「ーーーー」

 

 

「なら、ココにはもう来ては行けない。これ以上同調してしまえば戻れなくなってしまうから」

 

 

 

戻れなく、なる?何の話なんだ、コレは俺の夢で貴女は……

すると彼女は何かに気付いたように俺の胸元に手を当て軽くさすってくる。

 

 

 

「……いや、違うな。キミを連れて来てしまったのは私の方か」

 

 

連れて来た?

 

 

「キミは随分と私と相性が良いみたいだ、その特性ゆえか、それとも私ではなくアレがキミを引き寄せたか……」

 

 

何処か申し訳無さそうに俺の身体の様々な場所を撫でつつ、あの噛まれた部分に触れる。

 

 

「やっぱり……種は根付いてしまってたのか。……すまない、今は平気かもしれないがコレは多分少しづつキミの身体を侵食する」

 

 

手を触れられている場所を見てみればあの黒いアザの部分で、そこを忌々しそうに睨みつける彼女の姿に少し怯えてしまう。

 

その俺の姿に気づいて少し笑い掛けながら説明してくれる。

 

 

「……ん?ああ、すまない。別にキミに対して敵意はないよ。ただキミの本質と言うべきか、性質が近いかな?その調和の能力と"融合"の力は随分とソレが気に入ってしまってる様なんだ」

 

 

俺の本質? 話の内容的に調和の能力って言ってたし、希少能力の調和結合の事を言ってるのは何となくわかるけど、融合の力?ソレ?一体何の事を示しているんだ?

 

 

「取り敢えず、また私がある程度なら遅らせることが出来るから」

 

 

とまた噛み付こうとされて、咄嗟に逃げようとしてしまう。

 

 

「……ん、そうか。多少の痛みがあるし、この方法は嫌って事かな」

 

 

コクコクと必死に首を縦に振ると少しくすくすと笑って

 

 

「なら方法を変えよう。一度私とキミはソレの接点とキミ自身の性質で一種のパスが通ってる状態だ。だからそれを使って私の_____を送るから、少しの間だけジッとしててくれ」

 

 

その言葉に従い、ジッと待っているとガシッと顔を両手で捕まれ、

 

 

「…………ん……ちゅる……」

 

 

「ーーーー!!!!???」

 

 

え、あ!? な、なにを!?

 

ギュッと顔を掴まれて唇を奪われる。

そのまま俺の抵抗も虚しく、口を無理やり開けられ、彼女の舌が俺の口内に入ってくる。

 

どれくらいの時間が経っただろうか、捕まれていた手が離され、ツー……と生々しく彼女と俺の唾液が垂れる。

 

 

「…………ちゅ、くちゅ……………ふぅ、終わったよ……って大丈夫かい?顔が随分と赤いけど」

 

 

顔を離されて、何でか力があまり入らず少しぐでっとその場に座り込む俺の前に前屈みで"何でそんなに疲れてるの?"とでも言いたげな彼女の顔が近づいてくる。

 

思わず、ブン!と顔をそらし、冷静になろうとしたが先ほどまでの感じた事も無いような感覚に脳みそが麻痺したかの様にピリピリと刺激がくる。

 

………………ちゃんと、その……理解できてないけど、何か凄く恥ずかしい事をした気がする。

 

 

「取り敢えず、それでまだ大丈夫のはずだから。……ただどんどんキミと私の繋がりが強くなってしまってるから、ホントはもう何も干渉しない方が良いんだが……」

 

 

また何かを考え始めてしまったこの人に少しの文句を言ってやりたいが残念ながらこの口は言う事を聞いてくれず、結局俺の出来る抵抗はジト目だけだった。

 

 

「さて、そろそろだな」

 

 

と呟いたかと思うと何だか意識がゆらゆらと揺れ始め、目の前の光景すらまともに見えなくなりだす。

 

 

「コレでもう会う事はないと願うよ、ここには君の求めるものは無いだろうし、失う事しか無いはずだから」

 

 

そう言って彼女は俺をトンっと押してくる。

その瞬間、身体が今までの浮遊が嘘の様に落ちていく感覚と彼女がどんどん小さくなっていく。

 

___その時の彼女の表情はどちらかと言えば笑顔に近いものと感じたけど、俺には何処か寂しがっている様にも見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ドスンッ!!

 

 

 

 

「…………痛ってぇ………」

 

 

落ちていく感覚が途切れて、次に目を開いてみれば毎日では無いものの、それなりに見慣れた部屋の天井。

 

ただ文句があるとすれば頭の方からベットの外に落ちて、かなり痛いおはようになったくらいか。

 

 

「本当に踏んだり蹴ったりだな、最近は」

 

 

はぁ……と肺に溜まった嫌な二酸化炭素を思い切り吐き出し、部屋の窓を開けて空気を入れ替える。

天気は今日も晴れで少し暑い。

 

 

「夢、なんだよなアレは全部」

 

 

あの中での出来事は俺の夢であり、虚無の出来事だ。

だからそこにそれ以上の意味はないし、俺が気にする事もない、はずなんだけど。

 

いや違うな、うん。

 

 

「夢じゃないんだろうな……はぁ……」

 

 

何となくそっち関連の事件は慣れ始めたせいか感覚でも分かるようになってきていた。

 

それに何よりアレが夢の中の出来事ならこの首筋に出来た全く同じ形の黒い痣の説明がつかないし、何よりあの女性とのその……あの出来事が夢なら俺は相当な欲求不満という事で………

 

 

「何となく認めなくない……」

 

 

そっと自身の下半身に目をやり軽いため息をついてから、しばらくの間下には行けない事を悟り、ベットに座り直して煩悩を消す。

 

そんな事をしつつ、そういえば今は何時だろうと部屋にある時計に目を向けて見る。

いつもの感覚だし、8〜9時くらいかな、何て目を向けてみれば

 

 

「12時過ぎ………!?」

 

マズイ、かなりマズイ!

今日の朝方の出来事を、シグナムさん達との約束を思い出し一気に心臓の鼓動が早くなる。

 

朝になればはやてに話すから俺も一緒に立ち会うって言ったのは俺なのにソレを寝坊は最悪すぎる。

 

 

「何でアラーム鳴らなかったんだ、ってそうだ忘れてるんだった!ってそれどころじゃない!」

 

 

脱ぎっぱなしだったジャージの上を焦りながら着直し、焦りながら部屋を出てまずは一応確認のためはやての部屋に行ってみれば、もうはやてはおらずやはり起きている様だ。

 

 

「ってことは、もうシグナムさん達とエンカウントしちゃってるって事だよな……」

 

 

ツーっと冷や汗が額から流れる。

落ち着け、こういう時だからこそ落ち着いて行動しなきゃ行けない。

 

部屋から出て下に向かいながらどんな状況か予想しながらプランを立てて行く。

 

 

「多分だけど、シグナムさん達からはやてに何かしらのアクションを起こしてるのは分かるし、それがはやてに対しての危害になるとは考え辛いから……」

 

 

………あるとすれば、はやてが拒絶してしまう事だろうか、そんな魔法とかわけからんしって感じになるのが普通の反応だし、突然過ぎてどうして良いか分からず、はやて自身が混乱してしまう可能性が高いと判断し、ここは俺からも説明しなきゃとリビングのドアの前に着く。

 

少しの緊張をほぐすために軽く息を吐き、いざ!と扉をあける______そこで見たものは。

 

 

 

 

 

 

「はやてー!これどうする?」

 

「ん?それは冷蔵庫やな」

 

「主、こちらを」

 

「お、シグナムありがとー」

 

「はやてちゃん、私がそれを運ぶから平気よ」

 

「シャマルもありがとなー」

 

「主、そろそろ起こしに行かなくてよろしくのですか?」

 

「ん、そか。まーだユウさん寝てはるんかな?……っているやん、おはよユウさん」

 

 

「…………………ふぅ」

 

 

がちゃ……と扉を閉めて一つ息を吐く。

 

 

 

 

何これ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。
またよろしくお願いします(*'ω'*)


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A's 第4話 平和な日々

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーン……ミンミンミーン………と蝉の求愛による鳴き声が何処かしこで少しうるさくなっている。

 

今日の気温は30度にとどくらしく、もう夏なのだと分からさせられる様な気温に少しの溜息と新たな季節への高揚感が溢れる。

 

さて、そんなバカ暑い日の真昼間に俺は何をしてるかというと。

 

 

「おい、早く行くぞー!」

 

「……はいよ」

 

 

ヴィータに急かされ、並木道を軽く走って先行していたヴィータの方へ追いつく。

それを何処か機嫌よく待っているヴィータを見て、ああ……現金な奴だなと思いつつ、またご機嫌斜めにならない様、気をつける。

 

今日は7月の5日。

この子達と出会った日から1ヶ月と一日。

 

……早いものだな、とこの一月の間を振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、俺は混乱しつつもはやてをこっそり呼び出し、どういう状況か聞くところから始まった。

 

少し焦る俺を見て、不思議そうな顔をするはやてに何があったか聞いてみれば、もう事情は把握してるから大丈夫、と思わず間抜けな声が出るくらいには驚く一言を頂いた。

 

 

「それより、もうお昼出来るから行こ?」

 

 

そう言われて大人しく着いていけば朝方に邂逅した4人が忙しなくはやての手伝いをしてるのを見てまた、たまげる。

 

けど、何処か納得のいってない様でそれでいて不思議そうにしている4人を見た所、まだ完全にははやてと話が付いていないのだろうと推測くらいは出来る。

 

取り敢えずと席に座って観察しているとシグナムさんと目が合い、呼ばれる。

 

なんだろう?と思いつつはやてに少し出てくる事を伝えて家の外へ。

 

 

「えっと、何だ?」

 

「突然すまないな、一応今の状況をお前にも……ユウにも伝えておくべきだ、と判断したのだ」

 

 

そう言いつつ、すぐ近くの公園のベンチへ。

 

 

「主からは何処まで聞いた?」

 

「話は把握したって言われたくらいかな、でもそうやってはやてが言ってるって事はちゃんと話したんだろ?」

 

「……まぁな、ただその全てを理解しているかどうかは……」

 

 

なるほど、話は一通りしたがはやてからすれば全てが初見で知らない世界だからシグナムさん達が言ったこと全てを理解出来ているかは正直分からないって事だろう。

 

 

「まぁ……でもはやては受け入れてくれたんだろう?」

 

「ああ、我らの話を聞き、家に居ていいと言ってくれた。……ただ、その」

 

「ん?」

 

「……いや、何でもない」

 

 

何かを言おうとして言葉を止めたシグナムさんが何処か引っかかる。

何かまだ納得出来ていない部分があるのか、はたまた話せない事があるのか、その両方か。

でも無理に聞き出す必要は無いなと判断し、情報交換していく。

 

 

「とりあえずはこれからはやての家で生活して行くんだろ?」

 

「ああ、海外からの親戚?とやらで通すそうだ」

 

「……まぁ苦しくはないか」

 

 

とシグナムさんの外見をチラッと見る。

確かにこの容姿なら日本人とは思わないだろうし、遠い親戚と言われれば大抵の人は疑問に思わないだろう。

と考えていると少し申し訳なさそうな顔をしたシグナムさんと目が合い、突然頭を下げられる。

 

 

「え、急にどうした?」

 

「……ユウ、君には無礼を働いた。主人から色々聞いたんだ、本当にすまない」

 

「ああ、成る程」

 

 

どうやら俺の事をまだ完全に信用していなかったシグナムさん達ははやてに直接色々と聞いたのだろう。

 

 

「頭を上げてくれよ、別に気にしてないしシグナムさん達の視点からあの行動は当然だろう?」

 

「いや、しかし」

 

「俺が良いって言ってるから良いんだよ、特に被害も無いし」

 

 

と言うと顔を上げたシグナムさんが一瞬間の抜けた顔をした後、少し不思議そうに見てくる。

 

 

「何だ?」

 

「あ、いや……その主が言っていた事と殆ど同じ事を君が言うから少し驚いた」

 

「へ?」

 

「主に謝ってくる事を伝えたら笑いながら、"ユウさんならこう言うよ"と言っていた言葉通りでな……」

 

 

ああ、成る程。

それで変な顔してたのか。

 

 

「まぁ、俺のことは気にしないでくれ、シグナムさん達の方こそはやてをよろしく頼むよ。

あの子はあんな風に振舞ってるけど本当は凄く寂しがりやだからさ」

 

「ああ、主を守るのが我らの仕事だからな。それとその……呼び捨てで構わない。君からのさん付けは何となく違和感がある」

 

 

そう苦笑いで俺に言ってくるシグナムさん……シグナムに思わず俺も苦笑いで返す。

 

 

「なら改めてよろしくな、シグナム」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、と買うものはこれくらいか?とはやてから渡されたメモとカゴの中身を確認しつつ、レジの方に歩いて行く。

よし、大丈夫かなと確認が終わり、いざお会計の方へと向かおうとするとヴィータが何かを持って走ってくる。

 

 

「ユウ、アイス買っていいか?」

 

「またか?」

 

「いいじゃんかー、ケチケチすんなよな」

 

「……ま、いいか」

 

「よっしゃ!」

 

 

やりー!何て言いながらカゴに何個かのアイスを入れるヴィータを見て少し笑ってしまう。

とは言えこの頃ははやてや三人にヴィータに甘過ぎると怒られたし、少し反省しなければ。

 

 

「それじゃ会計済ませてくるから、適当に待っててくれ」

 

「おう!」

 

 

タッタッターと走って行くヴィータを見ると本当に子どもにしか見えないなーとか思いつつ会計をしてもらう。

て、アイス買い過ぎじゃないか?こりゃまた怒られるな……

 

 

「計6580円になります、袋はお付けしますか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「今日はあの子とお買い物なのね、何時ものツインテールの子とはまた夕方?」

 

「あ、はい。また来ると思います」

 

 

モテモテねー、何てお会計のおばさんに言われて思わず苦笑い。

ほぼ毎日、しかも昼夕方で違う子と買い物に来てるからか最近こうやってからかわれる。

 

何より平日のこの時間だからかお客さんも余りいないせいかよく話しかけられ、答えていれば気づけば、よく雑談をするようになっていた。

 

 

「他にもあの車椅子の子とか、あとあの赤髪の美人の外国人さんなんかとも来てるじゃない?」

 

「はは……まぁその親戚みたいなものですから」

 

「本当かしらー?はい、これドライアイスのコインね」

 

「ありがとうございます、それじゃ」

 

 

また、と言って近くにあるドライアイスの排出機に専用の袋をセットしてコインを投入。すぐに袋の中にドライアイスが満タンに入り、取り出してアイスの方に別で入れる。

 

さて、これで完了だ。あとはヴィータを探して帰るだけ、と店を出てみれば横の出店の前で目を輝かせる赤髪の女の子を発見。

 

 

「おまたせ、何見てるんだ?」

 

「これ何なんだ?」

 

 

と指を指した方を見て見れば……ああ、クレープか。

 

 

「クレープだな、コレ」

 

「くれーぷ?うまいのか?」

 

 

興味津々の様子のヴィータに思わず買ってやろうか?と言いかけて脳内のはやてに、アカン!と怒られる。

……うーん、さっきアイスも買ったしなー。

 

 

「食ってみたいなー……」

 

「う……」

 

 

そんなキラキラした目でクレープを眺めているヴィータを見て少し心に来るがここは鬼にして、といざ断ろうとして屋台のおっちゃんと目が合う。

 

 

「お、兄ちゃん買うかい?その妹ちゃんも随分と気になってるみたいだし、ここは兄貴として懐の広い所を見せていいんじゃないか?」

 

「コイツは兄貴じゃねー!」

 

 

とヴィータが怒っているが、何処か期待した目でチラッと俺の事を見ていたのは分かっている。

脳内で買う買わないで天秤を作り、考える。

またはやて達に怒られるのは嫌だし、時間を確認すれば12時前のお昼時、ここでの買い食いはあまりよろしくないのはわかっている。

 

 

「なぁ……ダメか?」

 

 

………………………………………はぁ。

 

 

「お兄さん、クレープ一つ頼む」

 

「お、毎度あり」

 

 

結局折れるのは何時も俺なんだけど、まぁ食べてゴミを捨てちゃえばバレない……だろう。

それに

 

 

「よっしゃー!」

 

 

これくらいでこんなに喜んでくれるヴィータを見れるならまぁいいか、と思ってしまうから甘いって怒られるんだろうな……

 

それから数分で出てきたクレープを受け取りヴィータに渡して帰り道を歩く。

どうやらかなり気に入った様で、夢中になって齧っていた。

 

 

 

「はぐ……はぐ……」

 

 

あーあー……顔がホイップクリームだらけに……

それにもうすぐ家だが、まだ結構残ってるな。

 

 

「ほれ、公園で食べていっちゃえ」

 

「むぐ、わかった」

 

 

そのまま、八神家近くの公園によってベンチにヴィータを座らせる。

近くにあった自販機でコーヒーと適当なジュースを買ってベンチ戻ればまだクレープと格闘中のヴィータを見て少し笑ってしまう。

 

さっきよりも顔をクリームをつけて気にせず食べてる姿は下手に小綺麗に食べてる子より俺は好感が持てる。

 

 

「ほら、そんな焦らなくていいから」

 

「もぐもぐ……」

 

「聞いてないし……」

 

 

数分後、ペロリと食べきったヴィータは随分とご機嫌に感想を語ってくれる。

 

 

「すげー美味かった!」

 

「わかったから、ほらコレ」

 

「サンキュー」

 

 

と買ってきた飲み物をごくごくと飲んでるヴィータを横目にクレープの包み紙を横のゴミ箱へ。

コレでバレないだろう。

 

 

「それじゃ、帰るか?」

 

「おう、早く帰ろーぜ!」

 

 

ホントに元気だなーとヴィータを眺めつつ、走って行くその後を追う。

何だかんだと今のこれが俺の日常だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ユウさん、正座」

 

「はい」

 

 

すっと、その場で正座をして俯く。

うん、バレました。

 

 

 

 

 

あの後、家に帰ってきて買い物袋から買ったものを冷蔵庫に入れてる途中、手伝ってくれたシャマルさんの"まーたヴィータちゃんにアイス買ったの?"というお叱りを受け、なんとか咎めつつ、しまい終え昼食の準備を始めようとした時にリビングできゃっきゃっとヴィータとはやての話し声が聞こえた。

 

 

「盛り上がってるけど何話してるんだろ?」

 

「何でしょうね?ヴィータちゃんこの頃帰ってきたら何をしたかとかはやてちゃんに報告してるからそれかも」

 

「ふーん……」

 

 

とシャマルさんと雑談しつつ、野菜を切り始める。

取り敢えず人数も多いし量が作れる焼きそばにしてしまったが大丈夫だろうか?

 

 

「ユウくん、こっちの野菜も使う?」

 

「ん、使うから洗っといてくれるか?」

 

「わかったわ」

 

 

出来るだけ素早く下ごしらえを済ませていく。

キャベツと人参を少し大きめに切り、もやしを洗い、ピーマンを千切りにする。

 

 

「そういえばユウくん、今日の買い物少し遅かったけど何処か寄り道でもしてたの?」

 

「え、と……まぁ少しだけ」

 

 

先ほどのヴィータとの事を思い出して少し冷や汗をかくが何とか誤魔化せたようでシャマルさんも特に言及してこない。

そんなこんなで切った野菜と肉を炒めて、麺を入れ、少しの水でほぐして火力を上げて炒めつつソースをかけてもう完成だ。

 

 

「随分と早く出来るのね、このお料理」

 

「手軽さと美味さが兼ね備えられて最強に見える料理だろ?」

 

 

お皿に持ってはい完成、と。

ちょうどそのタイミングでオオカミに変身したザフィーラが入ってくる。

少し待たせ過ぎたかな。

 

 

「ユウ」

 

「お、もう出来たぞ?」

 

「いやそっちでは無く、主が呼んでいる」

 

「はやてが?了解、今いくよ」

 

 

何の用事だろうか?とリビングに入るとはやてが笑顔で手招きしてくる。

横には何処か申し訳なさそうなヴィータとやれやれといった感じのシグナムが居た。

 

 

「もう飯は出来るけど、どうした?」

 

「なぁ、ユウさん?私前も言ったよね?」

 

「?」

 

 

何だろうか?段々と黒いオーラが滲み出したはやてに少し怖くなり後ずさる。

はて、何やら約束しただろうか?と自身に問いかけてハッとする。

 

 

「……もしかしてヴィータ?」

 

「すまん……」

 

 

この時、全てを察して天井を眺める。

 

ああ……忘れてたよ、普段ヴィータはどちらかと言えば無口な方に入るんだがはやての前でだけはお喋りで、何かあればすぐに話してる。

 

つまり、アレだ。

 

俺のやってきた先ほどの隠蔽工作は全て共犯のヴィータの口から暴露されて、今目の前の笑顔なのに少し青筋を立ててるはやてとその横の呆れ顔のシグナムは全て聞いた上で俺を呼んだのだろう。

 

 

「ユウさん、正座」

 

「はい」

 

 

嗚呼、何て無力なんだろう。

静かにソファーに座るはやての前で正座して俯く。

 

 

「本当に学習しないなお前は」

 

「何とでも言ってくれ……」

 

シグナムからの哀れな目線と言葉に余計に頭が上がらない。

 

 

「もー、何でいっつもヴィータにはこんなに甘いんかな……」

 

「はやてー……ユウは悪くねぇよ?アタシが頼んだから」

 

「ヴィータはええの!大体何でもかんでも買っちゃうユウさんが一番悪い!」

 

「仰る通りです……」

 

 

と、はやてに叱られてると作った昼食を持ってシャマルさんとザフィーラがやってくる。

 

 

「あら、またやってるわね」

 

「まぁこうなるとは思っていたが……」

 

 

とそれぞれから好き放題言われているが自業自得だし、ここで言い返すとまたはやてに白い目で見られるので受け止める。

 

 

「と言うかアレね、これこの前テレビで見たダメな夫とそれを叱る嫁のドラマの図まんまね」

 

「ああ……そんなものを見ていたな。父親が子煩悩過ぎて嫉妬する話だったか?」

 

「それでは主がヴィータに嫉妬していると言う事になるのでは?」

 

 

こそこそとシャマル、ザフィーラ、シグナムが話している内容が気になるが敢えてスルーしておこう、拾ったら面倒な事になるのは目に見えてるからな。

 

と、ここで何故かはやてのお叱りが止んだ事に違和感を持ち顔を上げてみると、何処か顔を赤くしてワナワナと震えながら三人の方を見ていた。

 

 

「はやて?」

 

「あ、や、違うんよ……?」

 

 

ふるふると顔を振りながら何かを否定されるが、何なのか分からず頭にハテナを浮かべる。

 

……えっと、なんのことか取り敢えず聞いてみるか?

 

 

「何の話だ?」

 

「………え?」

 

 

と一瞬ポカンとした後、段々とまた黒くなっていく。

 

あれ、またなんか地雷踏んだか?

 

 

「そう言う所だ、ユウ」

 

「ええ、本当にね」

 

「?」

 

 

ポン……とザフィーラに肩を叩かれ、シャマルさんには呆れの笑みを向けられる。

 

やめろ、優しくするな!なんか虚しくなるだろう!

 

ただしシグナムはよく分かっていない様で首を傾げていた。

 

 

「はぁ……もうええよ、ユウさん次から気をつけてな?」

 

「え、ああ。すまん」

 

「ならお昼食べよ!お腹ぺこぺこやわ!」

 

 

と切り替えてお昼の方へ。

えっと、許してもらえたのか?

 

 

「はやてちゃん、いいの?」

 

「うん、もうええんよ。……ユウさんのああ言う所は今に始まったことじゃないし」

 

 

何か言われてるけど、まぁはやてもいいって言ってるし大丈夫かな。

 

っとそうだった。

 

 

「ほら、ヴィータも飯食うだろ?」

 

「あ、ああ。……そのごめん」

 

「気にすんなって、今度はちゃんとはやてに許可貰ってからどっか食いに行こうぜ?」

 

 

そう言うとまだ何処か申し訳なさそうな顔をしつつも、おう!と返事してくれたヴィータと食卓へ。

 

すると何やら目線を感じてそっちを見てみればシャマルさんが何処か不思議そうに見ていた。

 

 

「ん?どうした」

 

「前から思ってたんだけどね、ユウくんってヴィータちゃんに凄い優しいわよね?」

 

「……そうか?」

 

「ああ、それは私も思った」

 

「俺もだ」

 

 

周りからそう言われるが特に自覚は無く、そうかなー?なんて考えてると。

 

 

「……ユウさん、最近ヴィータばっかで私とはあんまりお買い物行ってくれないよね?」

 

「へ?」

 

「それにこの前、泊まった時も一緒に寝ようと思って探してみればヴィータと一緒に寝てたし」

 

「ちょ、ちょっと……はやてさん?」

 

 

何やらまた拗らせ始めてしまったはやてに対して焦りだす。

 

 

「もう、ほら冷めちゃうから先に食べて!」

 

 

とのシャマルさんの一言で取り敢えずは収まったが、何故あんなにはやてが黒くなったのか分からず、昼食後に洗い物をしながらシャマルさんに聞いてみる事に。

 

 

「なぁ、俺なんかはやてにしちゃったか?」

 

「うーん……しちゃったと言うよりはしてない、じゃないかしら?」

 

「へ?」

 

「最近、はやてちゃんから聞いたけど、あんまりユウくんに構って貰えないって言ってたわよ?」

 

「うーん……そう、なのかな」

 

 

考えてみれば確かに前よりもはやてとの時間が少なくなったのは分かるがそんなに……かな?

 

 

「それとアレは多分だけど嫉妬も入ってると思うわよ」

 

「嫉妬?」

 

「ええ、はやてちゃんも言ってたけど最近、一緒にお買い物とかしてないでしょ?」

 

「ああ、最近だとヴィータかシグナムとばっかりだなぁ、言われてみれば」

 

 

思い返してみれば、確かに。

 

ヴィータと買い物に行くときは大抵俺が1人で行こうとして着いてくるか、ヴィータの方から誘われるかのどっちかで、シグナムの方は沢山買う時に俺1人だと持ちきれないだろうと着いて来てくれるからであり、シャマルさんは基本家のことをしてくれてるし、ザフィーラははやてと基本的に一緒に居るから自然と誘うのはヴィータかシグナムのどちらかになっていた。

 

 

「最後にはやてと買い物行ったの結構前だな……」

 

「あと偶にははやてちゃんと一緒に寝てあげてもいいんじゃない?」

 

「あ、いや……それに関しては少し事情が……」

 

「?」

 

 

何かあるの?と目線で聞いてくるシャマルさんに何て言うか考える。

と言ってもこの事情は最近、酔っ払った士郎さんに言われたある事で俺が少し気にし過ぎてるんじゃないか、自意識過剰なんじゃないかとも思うし……

 

 

「聞くだけ聞くから話してみて?力になれるかもしれないでしょ」

 

「まぁ……いいか」

 

「ええ、別にはやてちゃんに言ったりしないから」

 

「えっとその、何と言いますか……ウザがられないかなーと……」

 

 

……そう、そうなのである。

 

この前、酔った士郎さんから聞かされた悩みが最近、娘(なのは)が冷たいとの事。

 

なんでも偶には一緒に寝ようと誘ったら拒否され、ウザがられたらしく、その事に随分とショックを受けた士郎さんが少し男泣きしながらお酒片手に俺に相談してきたのだ。

 

結局、なのはに話を聞いてみれば俺の目の前だから恥ずかしかったからとの事で桃子さんが士郎さんと話して解決していた。

 

……ただ、その士郎さんの相談を聞いて、ふと思い出したのはつい先月のはやてとのある出来事。

 

あのお風呂を手伝おうとして拒否られたアレはウザがられたのでは?というものが胸の中で広がり、これ以上近すぎる行動は控えようとしていたのだ。

 

よくよく考えたら何かはやてとの距離感が近すぎだかも……としばらく自己嫌悪と後悔の念がグルグルとしていたのは秘密だ。

しかし話してみない事には、とシャマルさんに相談してみる。

 

 

「……って事なんだけど」

 

「アレね、思春期の娘を持つお父さんの心情よね」

 

「言われてみれば、確かに」

 

 

くすくすと笑うシャマルさんを横目に見つつ食器をしまっていく。

 

 

「でも大丈夫だと思うわよ?」

 

「そりゃまた……」

 

「だってそうじゃなきゃ、あんなにもはやてちゃん寂しがらないもの」

 

「……だといいんだけどな」

 

 

そういうとまた笑い出すシャマルさんに少しジト目で返す。

 

 

「ホントに心配のし過ぎよ?……今日は泊まって行くのよね」

 

「え、まぁそう言われたしな」

 

「なら、偶にはユウくんからはやてちゃんを誘ってみれば?」

 

 

そう言われて思わず動揺し、お皿を落としそうになる。

 

 

「マジ……?」

 

「マジもマジの大真面よ?」

 

「むぅ……」

 

 

そんなに難しく考えなくていいのに、何て言われるがはやてから誘われるのと俺が誘うのだと色々な意味で変わってくる様な気がするんだけど……

 

 

「まぁ、誘うだけ誘ってみるよ」

 

「ええ、そうしてみて」

 

 

そう言いつつまた楽しそうに笑うシャマルさんを横目に次の約束をしているシグナムとザフィーラの元へ。

 

 

約束した通り庭で先に鍛錬している2人の元へ着く。

シグナムは模造刀を使い、型の練習をしており、ザフィーラは準備運動している。

何時もならこのあと2人が模擬戦をしたりするのだが、今日はなぜか俺が呼ばれた。

 

 

「それで俺は何をすれば良いんだ?」

 

「ああ、今日はユウと少し戦いたくてな」

 

「え、俺とか?」

 

 

突然のシグナムからの申し出に驚く。

 

 

「ああ、前にも話したがある程度は戦えるのだろう?」

 

「本当にそれなりだぞ?多分俺とやっても鍛錬にすらならないと思うけど」

 

「構わない、最近ではザフィーラかヴィータとしか模擬戦を行えないからな、偶には他の相手も欲しいのだ」

 

「けど、結界は……」

 

「ああ、それならシャマルがやってくれるさ」

 

 

と俺の後ろを指差したシグナム。

振り向けば笑顔で手を振ってくるシャマルが居た。

 

 

「……逃げ道なしか、まぁ構わないけど」

 

「何、手加減はするさ」

 

「シグナムの次は俺と頼む」

 

「ああ、了解だ」

 

 

なら、とシャマルが閉鎖結界を展開してくれる。

これで周囲には魔法の気配は感知されないし、被害も出ないから空中でも自由に戦える。

 

 

「それで、ユウはどう言う戦いがいい?得意なのもので構わない」

 

「んー、それなら近接で行くか」

 

「ほう……」

 

 

とシグナムの目が細くなり、俺の方を観察してくる。

 

 

「そういや、俺の魔法見るの初めてか」

 

「ああ、武装も戦い方も知らない」

 

「まぁ、ユウの魔力量は知ってるからな、ある程度と言うことはわかってはいるさ」

 

「それなら、と」

 

 

ポケットに入れてあるデバイスとメモリを取り出す。

随分と久し振りにだな、これを使うのも。

 

 

「それは……?」

 

「ああ、気にしないでくれ。俺が戦うのに必要なものだから」

 

 

俺がポケットから出したメモリを見て不思議そうにしている。

そりゃそうか、これは多分俺のオリジナルだし、クロノ達ですら知らないって言ってたもんな。

 

 

「それじゃ、えっとシャマルさん合図よろしくお願いします」

 

「わかったわ、それじゃ2人とも準備はいい?」

 

「「ああ」」

 

「それじゃ、始め!」

 

 

その合図で飛び込んでくるシグナムを目の前に、デバイスの中にメモリをセットし、叫ぶ。

 

 

「セットアップ!」

 

 

《mode2・Saber Nova》

 

 

___チクリ、と肩と首の間あたりが少し痛む。

 

 

「っ?」

 

 

だが特にそれ以上は痛みもなくすぐに引いていき、そのままバリアジャケットが身体を包むこの感覚に至る。

 

そして目の前に迫るシグナムの剣に対して持てる力全てを使い弾く。

 

 

ガギンッ!!と言う音と共に俺の剣とシグナムの剣がぶつかり合い、余波が辺りを襲う。

 

 

 

「ーーそれは、何だ?」

 

 

何処か呆然と、それでいて口元は確かに笑っているシグナムが聞いてくる。

やっぱり戦闘狂だよな、この人。

 

 

「まぁ……何だ、退屈はさせないようにするよ」

 

 

「面白い……!やってみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ガン!とシグナムからの一閃を受け止め、そのまま鍔迫り合いに。

 

空中戦かつ、剣の戦いという事で何とかついて行くことは出来るが、やはり強い。

 

 

「はぁ!」

 

「っ!?」

 

 

そして速い。

正直、目で追いつくのが限界で受け止めるのも厳しいかもという状況だが、不思議とシグナムの剣技に"見覚え"があり、対処の仕方もわかる。

 

右から高速で斬りつけられるのを魔力放出を使い上に上がり避けつつ、無防備になっている部分へ斬りかかるが、先ほどの剣撃をバネにして復帰され、いなされる。

 

 

「チッ!」

 

「甘いな」

 

 

だがそれでは俺も終われない、ワザと飛行魔法を切り、自然落下で避けつつ、剣を投げつける。

 

 

「っ!?」

 

 

流石に予想外だったのか、少し反応が遅れるシグナムに一気にブースターを使い接近し、もう片方の剣を展開し、斬りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇザフィーラ」

 

「ああ、正直に言えば予想外だ」

 

 

目の前でぶつかり合う2人を見てそう呟いくのは致し方ないだろう。

 

まずユウの魔力量は正直一般人とそこまで大差がないというのがシグナム達の知識にあり、それでいてユウはそこまで戦う事は出来ないと言っていた。

 

そして何より彼は我らの知っている通りであればこのような事で嘘は付かず、自身の力を本当に自身の思っている通りに話していたのだろう。

 

だが目の前で起きているこの模擬戦では、シグナムとほぼ互角で争うユウの姿。

 

しかもそれだけでは無いのだ、あのシグナムと剣技の競い合いで互角というのは正直、度肝を抜かれた。

 

我々が知っている限りシグナムより上の剣士は知らないし、何よりあのユウがソレをしているのだから余計に衝撃が大きかった。

 

そして次にユウの外見の変化と武装である。

 

黒い髪は茶毛になり、目の色は灰色から桃色掛かったものになり、普段の性格よりも好戦的に見える。

 

 

「それに気づいてる?」

 

「ああ、魔力量が段違いだ」

 

 

下手すれば数十倍じゃ済まないほど魔力の量が跳ね上がっている。

 

 

「あの量、もしかしたら私達よりも……」

 

「ああ、しかもまだ余力があるようだ」

 

 

目の前で繰り広げられる戦いを分析しつつ、少したじろいでしまう。

本当に目の前のアレはユウなのだろうか?

 

 

「……ふふ、でもシグナム楽しそうね」

 

「そうだな、アイツに着いていける相手などそうはいないからだろう、普段より張り切っているな」

 

 

普段よりも出している魔力が荒々しいのを見るにかなり張り切っているのが伺える。

そして何よりあんな顔をしたシグナムを見るのも久しい。

 

 

「これは俺も全力でやらなければいけないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンッ!!と高速で接近してくる剣を一重で躱し、反撃の構えになるがそこにさらに突きを入れられる。

 

けど、それは"わかっていた"

その突きを腕と脇の間ですり抜けさせ、あえて相手の懐に無理矢理入る。

 

 

「なっ!?」

 

「ーーはぁ!!」

 

 

そのまま剣の鍔で溝内に入れ、思い切り吹き飛ばすほどの魔力を込めて、押し込む。

 

そのまま吹き飛ばされると思っていたが、途中で食い止まり、少しの距離を開けてシグナムと目が合う。

 

浅かった……?いや確かに入れたと思うんだけど……

 

 

「随分と久しい感覚だよ」

 

「え?」

 

「今だから正直に言えば戦いに関してはユウに期待はしてなかったんだが、謝罪しよう」

 

 

え、何だ急に……?凄い楽しそうな顔で言わてるからべつにいいんだけど、それ以上に悪寒と嫌な予感が止まらない。

 

 

「ここからは私も全力で行かせてもらおう……!」

 

 

そう言いつつ、シグナムが持つ剣がガシャンと機械仕掛けの様に動く。

その動きは何処かデジャヴを起こし、何やら弾丸のようなものを弾いたと思うと……

 

 

「レヴァンティン!!」

 

「っ!?」

 

 

刀身に炎が燃え上がり、一瞬で魔力が跳ね上がるのがわかる。

アレはヤバイ……!!

 

避けようと一気に後退しようとしたが、気付けば

 

 

 

「____紫電一閃」

 

 

切られ、落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてて……」

 

「いや、すまない。久し振りに張り切ってしまった」

 

 

シャマルさんに治癒魔法を掛けて貰いつつ休む。

いやー、死ぬかと思った。

 

 

「凄いな、シグナムのさっきのやつ」

 

「まぁ私の奥の手でもあるからな。……たがそれよりも聞きたいのはユウ、お前のアレは何だ?」

 

「何のことだ?」

 

「先程の魔力量と剣技だ、まるであの戦い方は……」

 

 

とそこでシャマルさんやザフィーラからも色々と聞かれる。

あの魔力は何だーとか、あのバリアジャケットは?とかそんな感じ。

 

 

「それに一番気になったのはあの剣技、シグナムのにかなり似てたわ」

 

「ああ、アレは誰から習ったんだ?」

 

「あ、えっと……」

 

 

とりあえず隠していた訳では無かったが、記憶が無い事や、俺の魔法の事を話していく。

取り敢えず必要だと思ったものは話すが、説明すると誤解されそうな物や必要ないものは取り除き、今必要な部分は話す事にした。

 

 

「成る程な、なら誰から習ったかも覚えてないのか」

 

「そういう事だ、なんかすまないな」

 

「いや、気にしなくていいさ」

 

 

そう言って手を差し出して起き上がらせてくれるシグナム。

 

 

「……そうだな、たまにでいいのだがこれから私と鍛錬を付き合ってくれないか?」

 

「ああ、俺なんかで良ければ幾らでも付き合うよ」

 

「ならば、俺とも頼めるか?ユウとは戦ってみたい」

 

「ああ、構わないよ。ただ今日は少し休んでもいいか?久し振りに魔法を使ったせいなのか分からないけど、凄い疲れた」

 

 

何だか身体が痛む気もするし、別に無理はしてないと思うんだけどな?

 

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「悪いな、また次の機会でやろう」

 

 

そのまま家に上がり、ぐっと伸びをしてみれば身体の節々が痛むし、運動不足かな?

 

ただ一層痛むのは首の筋あたりか?うーん、捻ったかな?

 

 

「っとそうだ、そろそろ買い物……」

 

 

時間を確認すれば16時になるかという所でそろそろ行かなきゃ遅くなってしまう。

 

 

「なら私が付き合おう、主とヴィータは寝てしまっているし、ユウも疲れてるんだろう?」

 

「なら甘えようかな、行こうシグナム」

 

 

ああ、と返事を返してくれるシグナムを横目に軽く痛みが治まらない首元を確認すべく、洗面所に行ってみる。

 

 

「何だろ、本格的に捻ったかな?でもそれにしては痛みが______ 」

 

 

引かない、と続けようとして言葉が出なかった。

 

鏡に写る変わりない自身の顔を身体で唯一、違和感があるその場所は

 

黒く、まるで蜷局を巻く蛇の様に痣が侵食し出していた。

 

明らかに大きくなっているソレは、襟を引っ張り肩の方まで見てみれば二の腕辺りまで伸びていた。

 

何故、今まで気づかなかった?

いや違う、そうじゃない。

 

何故この自分の姿を見て未だにおかしいと思わないんだ?俺は。

 

止まらない冷や汗を拭い、何とか見えない様に少し長いジャージを着る。

 

正直暑いがシグナムたちに見られるよりはマシだと考えチャックも上まで上げきる。

 

 

「………」

 

 

ぐっと肩を握り締めればそこがまるで鼓動したかの様にドクン、と跳ね上がる様な気がして余計に嫌な汗が流れる。

 

 

 

「ユウ?まだかかりそうか?」

 

「……いや、大丈夫だ」

 

 

コンコンとノックされ声をかけられた。出来るだけ冷静かつ声が上ずらない様に返事したつもりだが、大丈夫だろうか?

 

 

「なら私は玄関で待っている」

 

 

足音が玄関の方へ向かうのが聞こえ、少し安堵する。

 

 

「……コレ、本当になんなんだろ」

 

 

もう一度自身の身体の黒い痣を見て呟くがその回答は返ってこない。

 

不安だけが膨らんでいくのを感じつつ、待たせているシグナムの方へと向かう。

 

 

_______その時、またぐっと締め付けられる様な痛みがした気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様でした。
またよろしくお願いします!


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A's 第5話 変質

 

 

 

 

 

 

季節は秋を迎え始め、少し涼しくなって来た9月の初め。

 

 

前までは満開だったあの桜並木道も、葉一枚と付いてない木になる程には時間が経ったが、あいも変わらず俺はこの街で、静かに暮らしいている。

 

 

 

「ハァ!!」

 

「ちょ!」

 

 

……特に荒れ事も無く、6月から新しく出来た友人(俺は友人だと思っている人?)たちも加わり、少し賑やかになりつつも同じような平和と言える日常を過ごして……。

 

 

「ボケっとするな!」

 

「待って!!掠った!!今掠ったから!!」

 

 

過ごしたかったなぁ……。

 

 

ブン!ブン!!と振るわれる模造刀を何とか紙一重で避けつつ、後方に一時退却しようとジャンプ。

 

すると逃さまいとシグナムが踏み込み、突きを放って来る。

 

 

「っ……!!」

 

「む……!?」

 

 

やられっぱなしも少し気に入らないなと、ならば逆に踏み込み、 突きを脇と二の腕の間に通して避けて、そのままシグナムの懐に思い切り入り込む。

 

と、上手くいくと思ったのだが踏み込んだ場所に泥濘みがあり、思ったより前に……?

 

 

「うぉ……?」

 

「おっと……」

 

 

そのままシグナムを押し倒してしまう。

シグナムもそのまま倒れてしまい、2人重なる様に地面にダイブしてしまった。

 

少し疲れていたのか足も縺れてしまっている。

 

 

「……すまん、滑った」

 

「構わない、少し集中しすぎたな。休憩しようか」

 

「ああ、少し疲れた……」

 

 

グッと伸びをしてから縁側に座り、予め用意しておいたお茶を一口飲み落ち着く。

 

身体を動かすにはこの温度は丁度よく、すぐにクールダウン出来るのもありがたい。

 

夏の終わりくらいから戦闘訓練兼、俺を鍛えてくれると張り切ったシグナムやザフィーラと八神家に遊びに来る度にやってるのだが、結局一度も勝てずボコボコにされてしまう。

 

そんな俺を見兼ねたのか、基本的な陸戦を想定して一部の魔法無しの模擬戦方式でやってもらっているのだが、これまた勝てない。

 

やっぱ魔法無しだと戦闘もままならいのかなーと少し落ち込んでいると隣に座るシグナムが笑いながら話しかけてくる。

 

 

「そんなに気落ちする事は決してないと思うぞ?ユウは戦えないと言うか……腕が"鈍っている"という表現が正しい」

 

「鈍ってる?」

 

「ああ、動きや目線で分かる。ユウは思考と身体の動きにズレがありすぎて動けてないのだろう」

 

 

そうは言われるが、自分ではよく分からず頭にハテナが浮かぶ。

 

 

「まぁ……感覚の問題だ、サボらず鍛錬をしていれば直ぐに戻る」

 

「そう、なのか?ならこれからもよろしくお願いするよ」

 

 

ああ、と返してくれるが本当に強くなれるのか疑ってしまう自分もいる。

 

けどやれる所まではやってみようとここから午後にかけて一日中鍛錬に明け暮れ、はやてに怒られたりもしたのだが、いつもの事なので割愛。

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ってな感じでボコられて今日は一日終了だった」

 

「それはまた、キミもよくやるね……?」

 

 

クスクスと笑う彼女を見て、つい俺も笑ってしまう。

 

このヘンテコな暗い空間に呼び出されるのも慣れたもので、前までは声を発する事すら出来なかったのに今ではこうして、この空間で唯一の話し相手になってくれる人と雑談をする事が出来るようになっていた。

 

 

「ホントに、キミはよく話題を作れる子だね?」

 

「え、そうか?俺、自分の過ごした日常を語ってるだけのつもりなんだけど」

 

「その自覚が無いところがまた……ふふ」

 

 

また楽しそうに、表情豊かに笑う彼女をみてそう言えば……と疑問が。

 

 

「なんか会う度に感情豊かになってる気がするような……?」

 

 

確か話せるようになった始めの方は、何処かほんの少しだけ口元が動いて微笑むとか、それ位の変化しか無かった筈なのに、気付けば綺麗な笑顔を咲かせるようなっていた。

 

俺がふと疑問に思い呟くと、彼女はまた楽しそうに笑いながら話してくれる。

 

 

「うーん……そうだね。それには色々と理由があるんだけど簡潔に答えると"私自身が折れてしまったから"がしっくりくるかな」

 

「?」

 

 

折れる?彼女の言う折れるという単語の意味に頭が追いつかず、うーんと唸っていると少し寂しげに笑う彼女と目が合う。

 

 

「別に分からなくて良いんだよ?あ、ただもう一つ付け合わせるならキミの執念深さに、がくっつくかな」

 

「え、俺そんなにしつこい事、何かしたか?」

 

 

俺がそう質問するとまた笑って誤魔化される。

 

本当に覚えが無いだけにうーん、とつい考えてしまう。

 

だって俺がしてきた事って本当に日常の話くらいで別段変なことはしていないと思うのだけれど。

 

 

「ホントに気にしなくていいんだ。あくまでも私がほんの少しだけ変わっただけだから」

 

「む、そうか?……なら気にしない」

 

「うん、そうしてくれると私も嬉しい」

 

「なら、偶には貴女の話も聞かせてくれないか?よくよく考えると俺、話してるだけで貴女の事を何も知らないんだ」

 

「私のこと?」

 

 

そう言ってうーん……と考え出す彼女をついジーッと見てしまう。

 

前にもこの様な切り返しをしたのたが、直ぐにほんの少しの苦笑いと共に"すまない"とだけ返されて話が終わってしまった。

 

しかし、今回はどこで覚えたのか、顎元に手を添えて頭を少し傾げながら、うーんと唸る彼女。前までの、クールでカッコいいと思っていた俺の中の印象が、ガラガラと音をたてながら崩れていくのを実感しつつ、何だかんだとこっちの方が親しみ易いし、印象もいいよなー何て考えていると思考が終了したのか彼女が此方に向き直る。

 

 

「なら少しだけ昔話でもしようか」

 

「お、是非是非」

 

「そんなに楽しい話では無いと思うけどね?」

 

 

 

そうして何処か遠くを見つめるように、思い出す様に彼女はとある本とその本を守る騎士達の旅の話を始めた。

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

ソレは最初、ただ魔法を記録し、研究をする為の資料本であり、その創造主たる主人と魔法記録をして行くにつれて、もしもの事が無いようにと4人の守護騎士たるプログラム、魔法で生きる魔法生命体と、もう1人その本を管理、持ち主たる主人のサポートや統制、発動などを担う騎士を1人、計5人の守護騎士、通称"ヴォルケンリッター"を想像した。

 

 

守護騎士はそれぞれの名称があり、私は"烈火の将"、"風の癒し手"、"紅の鉄騎"、"蒼き狼"と呼称し、主人をサポートする者はその書そのものであるのと変わらないから、何かの固有名詞は無かった。そうだね、あえて言うなら"その書の意思"が近いと思う。

 

 

その意思はいわば本の分身そのもので主人たちや他の騎士達との旅は長く、厳しく果てし無い物だったが、確かにその旅を私達は楽しんでいたんだ。

 

 

ーーある時、主人が寿命を迎えてしまう時が訪れた。

 

 

私達は魔法生命体であり、寿命は無いと言っても過言ではないのに対し、その主たる者は魔法を操れるとは言えど、何処までも人間という生き物であり、死という物からは逃げる事は出来ないのは私達も分かっていた。

 

 

だから記録し、それを守り、サポートすると言う私達もそこで終わると、最後だと思っていた。

 

 

……けれど、最初の主人は一番最後に私たち騎士に 贈り物(呪い)を残した。

 

 

それが私達、そしてこの本の始まりであり、変わってしまう未来に繋がる分岐点だったんだと思う。

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

話を聞いてる途中、すっと身体から力が抜けてくるのを感じ少しふらつく。

 

 

「っ?」

 

「ああ、そろそろ時間かい?」

 

「みたいだ、悪い話の途中に……」

 

 

グラグラと強くなっていくこの感覚に意識を少しずつ奪われながら、目の前の彼女に謝罪すると笑いながら気にしないでと言われる。

 

 

「それに……また来てくれるんだろう?」

 

 

何処か揶揄う様に片目を閉じて少しはにかみながら言われた言葉に少し驚きつつも頷くと、

 

 

「なら、またね」

 

 

 

意識が暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁー……と息を吐けば、少し白い吐息が漏れる10月の早朝の公園。

 

少しの肌寒さと眠気をなんとか誤魔化しながら、なのはと日課の魔法の特訓をしていく。

 

 

 

「投げるぞー?」

 

「うん!」

 

 

あらかじめ集めて置いたジュースやお茶の缶を一定の間隔をあけてたこの位置から、ぽいっと上に放り上げる。

 

少し高めに放り上げた間に向かってなのはが構えたレイジングハートの魔法弾が命中していく。

 

所謂、コントロールの練習で一応基礎的な物らしいが、やはり魔法のコントロールは難しいもので、そう簡単には行かないはずなんだが、なのははもうすでにマスターし始めている。

 

凄い才能だなーとみているとなのはから"早く!"と急かされる。

 

そんだけ才能もあるのに特訓も欠かさないとかホントに凄いとしか言えない。

 

 

「それじゃ、続けるぞ?」

 

「うん!」

 

 

元気よく返事を返すなのはに、今度は三つほど一気に缶を投げるとすぐさま対応し、全て中央の部分に射撃魔法を当ててみせる。

 

なら次はと、どんどん数を増やしつつ、射撃の精度の特訓も並行していく。ふとあたりに明かりが差しているのに気付き時間を見てみれば7時前と予定していた時刻をとうに過ぎてしまっていた。

 

 

「そろそろ時間だ、片付けるか」

 

「え、もうそんな時間?」

 

 

余程集中していたのか時間を伝えるとかなり驚いた様子のなのは。

 

 

「結構良いところだったのになぁ……」

 

「そうは言っても学校遅れちまうだろ?ほら、帰ろう」

 

 

不完全燃焼とも言いたそうな顔をしていたが、学校のワードを出せば仕方ないと切り替え片付けをささっと終わらせ、帰路につく。

 

 

「ユウさん、今日もお仕事?」

 

「ああ、確か朝から夕方までだったかな?なのははすずかの家行くんだっけか」

 

「うん!久しぶりにお泊りなんだ」

 

 

今日は平日だが、明日明後日が祝日と連続した休みという事でお呼ばれしたらしい。そう言えば夏休みの時は数日に一回のペースで泊まりに行ってたっけかな?と思い出していれば、なのはが少し残念そうに口を開く。

 

 

「ユウさんも一緒に来ればよかったのに」

 

「いや俺、仕事あるし……」

 

「でも明日はお休みなんでしょ?なら夕方から明日まで泊まれるよね」

 

「いやその……そこには色々事情が……世間体と言うか、女子小学生3人組のお泊まり会に男の(しかも歳的に高校生の)俺1人が混ざるのは勇気がいりすぎると言うかだな……?」

 

「???忍さんとかもいるよ?」

 

よく理解していないだろ顔をしながらそんな事を言うが、俺は悪乗りした忍さんによるあの夏の悲劇を忘れていない。

 

 

「………それに関して言うとよりタチが悪いんだけども……」

 

「????」

 

「取り敢えず今回は勘弁してくれ。また今度ってことで」

 

「むぅ、約束だよ?」

 

「お、おう……今回は2泊だっけ?」

 

「うん、明日から——」

 

 

とたわいも無い話をしながら家に帰りつつ、ならば俺ははやての所でも行こうかな?なんて考えていた。

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

 

「え、病院?」

 

「ああ、すぐに戻ると思う。取り敢えず入れ」

 

 

取り敢えずバイトを終えて、はやての家に直行してみれば珍しくザフィーラのみで他ははやての病院の付き添いらしい。……ん?

 

 

「あれ、先週俺が付き添った筈だけど」

 

「そうなんだが、なんでも調子が悪いらしい」

 

「大丈夫なのか?」

 

「わからないが……主人は大丈夫と無理をしていたようなのでな。シグナムが半ば強引に連れて行ったのだ」

 

 

ほんの2日前にあった時は特にそんな様子無かったけど……心配だ。

 

ザフィーラから聞いた話でそわそわしながら待つこと1時間弱、玄関が開く音と共にはやての元気な"ただいまー"の声が聞こえた。

 

 

「あ!ユウさん来てたんや」

 

「お邪魔してるよ。シグナムたちもお帰り」

 

 

はやての車椅子を押すシグナムたちにも声をかけたのだが……。

 

 

「……ああ」

 

「……ええ、ただいま」

 

「…………」

 

 

………なんだ?明らかに様子がおかしいと言うか、なにかを思い詰めているような?ってまさか?

 

 

「ま、まさかはやてに何か……?」

 

 

焦りつつシグナムたちに聞いたが、それに答えたのは他でも無い本人のはやて。

 

 

「へ?いやいや、いつも通りよ。少しだけ調子が悪かっただけ」

 

「そ、そうなのか?ならなんで……」

 

 

シグナムたちは暗いんだ?と聞こうとしたが。

 

 

「ユウ」

 

「っ」

 

 

普段とは違う声で、名前を呼ばれつい身体が強張る。触れるなと言うことだろうか…?

 

 

「すみません、主人。先ほども言った通り少し我らは話があるので席を外します。……ユウ、主人を頼む」

 

「え、あ、ああ」

 

 

そう言って4人は別室に向かってしまい、残されたのは俺とはやてだけ。

 

「どうしたんやろか。取り敢えずユウさんお茶でも飲む?」

 

「……ん、そうだな」

 

 

そう言って特に気にした様子もないはやてと、お茶の準備をしつつ考えるのは先程までの3人。

 

あの顔はなんと言うか……良くない顔だ。何かを思い詰め、それでいてどうしようもないと半ば諦めがはいった様な顔。

 

 

「それにしても最近寒くなってきたなぁ、もう息も白くなるんよ?」

 

「そろそろ10月も終わるしな、今日は……」

 

 

ちらりと日にちを確認してみればもう今月も残り数日という所。

 

今日は10月27日。

 

もう冬はそこまで迫っている。

 

 

 

 

 

 

 

 





お久しぶりです!

またちょこちょことプロットを書きつつ更新していくのでよろしくお願いします(´∀`*)


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A's 第6話 崩壊

 

 

 

 

 

 

 

とある日の朝、突如としてデバイスからの連絡が届いた。その相手は管理局に務める友人、戦友ともいうべき少年。

 

 

「ロストロギアが起動してる……?」

 

「ああ、しかも厄介なことに一級捜査指定がかかっているものだ」

 

 

どこか焦燥した、そして憎しみを感じような口調で警告してきたのはジュエルシード事件でお世話になったクロノ。

 

そんな突然の連絡に動揺しつつも、詳細を尋ねればこの地球という管轄外の世界で起きつつある天災の予兆を話してくれた。

 

 

「あまりキミたちには伝えたくなかったんだがな……数日前からそのロストロギアの反応を地球、いやユウたちが住むその街で観測された。」

 

「穏やかじゃない話題なのはわかった。捜査中ってことだよな」

 

「ああ。すでにこちらの捜査員はそっちで活動を開始しているんだが」

 

 

そういって言葉を切り、ため息とともに言葉を続ける。

 

 

「すでに数人が逆に襲われ、再起不能という状態で見つかった。相手は我々、魔導士の核とも言うべきリインカーコアを奪取、逃亡中ということだな」

 

 

忌々しいことに、そう言ってより不機嫌そうに話すクロノの姿に違和感を持つ。あのジュエルシード事件でもこういった彼の姿は見たが、明確な嫌悪や殺意とも言える強い負の感情は見せていなかったはずだ。

 

そもそも管理局としてどこか事件そのものを俯瞰してみていたクロノが、ここまで感情的な姿勢な時点でなにか浅はからぬものを持っているのは間違いない。

 

 

「とにかく気を付けておいてくれ。アレはボクたちの仕事だ。出会っても決して深追いはするな」

 

「あ、ああ。なんだ、随分と余裕がないな?」

 

 

ギリ、そんな音が聞こえた。

 

 

「……いいから言う通りにしておいてくれ。すぐにアースラもそちらへむかう」

 

「わかった。それで、そのロストロギアの名前とかってわかるのか?」

 

ここまでの会話でいかに危険なものかはわかったが、一切でてこないそのアイテムの名。それは。

 

 

「"闇の書"。他人の命を糧に鼓動するロクでもない古代の産物だ」

 

 

 

 

————————————

 

 

 

早朝の公園にて急遽、呼ばれたユウ。そこで待っていたのは。

 

 

「しばらく来るなって……どういうことだよ」

 

「そのままの意味だ。主人の元へ来ないでほしい」

 

 

緊張した空気の中そう言葉を続けたのはシグナム。

 

あの日、10月の終わり頃から突然として出会ったばかりのような冷たい雰囲気に戻った彼女が口にした言葉は、拒絶の色を強く持ったものだった。

 

 

「でも、はやては」

 

「気にするな、こちらで伝える。お前は気にするな」

 

「……」

 

 

質問は許さない、そんな意味も込められているその一言につい黙ってしまう。何かしてしまったのか、そんな疑問が浮かんだが。

 

 

「すまない、こちらの問題なんだ。すぐに解決させて再び、会おう」

 

 

そんな言葉が先にシグナムの方から言われてしまった。その時の彼女の顔は後悔しているような、諦めているような……とにかく本意ではない、そんな感触を感じるものだった。

 

 

「うん、なら俺はしばらくおとなしくしているよ」

 

「……ああ。本当にすまない」

 

「気にするなって。次会う時はまたみんなで遊ぼう。でも困ったりしたら気にせず連絡してくれよ。」

 

 

もう家族みたいなものなんだからさ、そう続けた俺にポカンとした顔をした後。

 

 

「ありがとう。家族、だからな」

 

 

そう笑顔をこぼすシグナム。……でもなんでだろう、その顔には辛そうなものも含まれているように感じた。

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

クロノとシグナムの件から数日、俺はなんてことのない日常を送っていた。翠屋でのバイトになのはとの特訓、そんな穏やかな日々を送っていた中で抜け落ちたのは、はやてという少女との触れ合いだけだった。

 

あれから彼女たちからの連絡もなく、「しばらく来るな」という言葉だけをもらった俺からすれば、いつはやてたちと再び会えるのかだけが痼りとして心に残っている。

 

そんな日常の中で士郎さんの頼み事……というかバイトのようなもので少し離れた地にいた。なんでも士郎さんの昔の仕事のツテでとある依頼が来たらしいのだが、すでに引退した身ということでその依頼、護衛のようなものを断ろうとしていた。

 

そこで代わりに自分で良ければとユウが向かった、というのが簡単な経緯。細かく話すと長くなるので割愛するが、まぁそれなりに戦う術もある俺がその依頼を受けたわけだ。

 

 

「いやー助かったよ。また次もあれば今度からはユウに頼むことにするさね」

 

「は、ははは……できれば、あんまり命に関わらないものでお願いしたいです」

 

 

ばんばん!と背中を叩いてくる依頼主に苦笑いをこぼしながらこの8日間の依頼を思い出す。平穏な日常を過ごしていたはずなのに気づけばドンパチと撃ち合う血生臭い戦いに巻き込まれたわけだが、まぁ大きな怪我もなかったということで、無事任務達成。明日からは海鳴市にへと帰還できることになった。

 

 

「はぁ……」

 

 

ここ数日でまるで我が家のようになったホテルで荷物をまとめる。別に魔法とは関係ないものではあったが、確実に寿命を削るような経験であったのは間違いなかった。というか士郎さんの前職って本当になんだったんだ……?今はスイーツ作りに勤しむ彼への謎を深めつつ、ベットへダイブ。

 

疲れも限界だったのかすぐにくる眠気。まぁ命のやり合いなんて普通は経験しないものだから、疲労が貯まるのも無理ないか、とうとうとする。

 

 

《Good work today.》

 

「おう、サンキュー」

 

 

そんなデバイス、ツァイトからの労いの言葉がしみる。そのまま、意識は遠くなり……。

 

 

 

 

『ユウ!』

 

 

…………!!

 

 

気づけば失っていた意識もユーノからの切羽詰まった通信でびくりと起き上がる。彼の後がないような言葉に嫌な予感を感じる

 

 

『ユーノか、久しぶりだな。どうした?』

 

『とにかく、細かいこと後なんだけど』

 

 

 

なのはがやられた、その言葉を聞いた。





「よう、3年ぶりだな……」


お久しぶりです。ぺけすけです。吹っ飛んだPCのデータが復旧できたので投稿しておきます。待っていてくれた方、まじで感謝!


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A's 第7話 再開 / 衝突

 

 

 

 

 

 

12月2日。それは約束の日であり、とあるふたりの少女が再開する運命の日付。なのはとフェイト。彼女たちはあのジュエルシード事件を経て友となった魔導士であり、魔法少女という非日常の出会いが生んだかけがいのない関係。

 

 

早朝、普段ならば鬱陶しいアラームによって恋しい布団からかけ離される辛い時間だが、なのははすぐに飛び起きた。この日は彼女にとって待ち侘びた再会の日であるから。

 

 

「急がなきゃ……!」

 

 

すぐに身支度を済ませ__あの日交換したリボンで髪をくくり__家を飛び出す。まだ上り立ての太陽を背中に公園へと走り出す。

 

そして、そこには。

 

 

「……あ」

 

 

白いリボンで髪をくくった金髪の少女、フェイトが佇んでいた。

 

 

「フェイトちゃん!」

 

「なのは!」

 

 

ようやく共の時間を歩むことができるようになった、かけがえのない"ともだち"との再会は、晴天の中で感嘆の思いとともに達成された。

 

 

 

 

————————————

 

 

 

「フェイト、今頃はなのはとあってる頃ですかね」

 

「ええ、とても楽しみにしてたから」

 

 

地球の海鳴市にある新居の一室で穏やかに話すのは、時空管理局提督であり、アースラの艦長を務めるリンディ・ハラオウンとフェイトの使い魔であるアルフ。この部屋はこれからフェイトたちが生活していく場所いであり、保護者となったリンディが設けたフェイトとの絆を深める場所でもある。

 

 

「まぁ急な話でもありましたから、ユウが不在なのは残念でしょうけどね」

 

「私もユウくんとはお話したかったから残念ですけど、すぐに会えるでしょう」

 

「全く……あいつもドタバタしてますねぇ」

 

「高町さんの話を聞くに明日には帰ってくはずだから、その時がフェイトさんとの再会ね」

 

「でも秘密にしておいてよかったんですか?アタシとしては、ユウにもすぐに伝えてよかったと思うんですけど」

 

「そう思ったのだけれど、ね。あの時のこともあるし、動揺しちゃうと可哀想でしょう?」

 

「あ、あー……はは」

 

 

カチャリと飲んでいた紅茶のカップをおき、苦笑いするリンディに同調するアルフ。それはジュエルシードの事件があった最後。フェイトがユウにした行為を思い出したからであろう。

 

 

「ただでさえ危ない仕事中なのに、そこにフェイトさんが帰ってきた話をしたら、ユウくんひっくり返っちゃうわよ」

 

「あれで意外と小心ものですからね、ユウは」

 

 

事件を経てようやく手に入れた安寧、しかし。

 

 

「ゆっくりできる……はずだったんだけどね」

 

「またこの街で何かが起きている、ままならないものですね」

 

 

 

 

時空管理局のとある一室。そこではふたりの局員と提督が最近起きている事件についての資料をまとめていた。

 

 

「大型生物ならびに巨大な魔力を持つものへの奇襲……そしてリンカーコアの奪取、それが多くの時空で起きている……」

 

「ええ、穏やかな話ではないわ」

 

「やっとフェイトちゃんもなのはちゃんたちの元に行けたのに……よくないことって、どうしてこうもタイミングが悪い時に怒るのかなぁ」

 

 

そんなエイミィの言葉に同じ思いをもつクロノはため息をつく。本当にタイミングが悪い、というよりあの厄介な男が引き寄せているんじゃないかと思ってしまう。

 

 

「もう、あの街がおかしいとしか思えないよね」

 

「それかアイツのせいだ」

 

「あはは……」

 

 

もはや八つ当たりに近いことだというのはわかっているが、大抵の事件の中心にいる、というか首を突っ込むあのボケーっとした男の顔を思い出しているであろうクロノに苦笑いを浮かべる。しかし、否定はしていないあたり、エイミィにも思うところがあるようだ。

 

 

「ただ願わくば」

 

「無事でいてほしい、でしょ?」

 

「……ああ」

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

その日、なのはが通う学校には新たな転入生が転学した。もちろん彼女の名はフェイト。アリサやすずかたちと同じクラスへと入ったわけでコミュ力強な彼女たちがフェイトと友情を結ぶのに時間がかかるはずもなかった。

 

そして学校の帰り、なのはとフェイトはふたりで語り合う。多くの話題がある中でやっぱり始めるに出る話題は。

 

 

「そういえば、ユウはどうしてるの?」

 

「ユウさん、今お父さんのお願いでお仕事中なんだ。私もついて行きたかったけど、遠いところだし、少し時間もかかるからって」

 

「そうなんだ……」

 

 

それを聞いてしょぼんとするフェイトの姿になのはは慌てたように言葉を付け加える。

 

 

「でも明日には帰ってくるってお父さんも言ってたから、すぐに会えるよ!」

 

「うん……!」

 

 

本当に嬉しそう笑顔を浮かべるフェイトに自分のことのように嬉しくなるなのは。その姿とユウの話題でふと思い出すことがあった。

 

……あ、そういえば。

 

 

「そういえばフェイトちゃん」

 

「?」

 

「あの時、最後にユウさんにしたのって……」

 

「!!??」

 

 

初めは頭にハテナを浮かべていたフェイトもなのはの言葉を聞いたタイミングで顔真っ赤、そしてあわあわと慌て始める。年頃の女の子にその手の話題は大変恥ずかしいのは、なのは自身もわかってはいるはずだが、気になっているものはしょうがない。

 

 

「最後、ユウさんの背中しか見えなくて何してたのいかなぁって」

 

「え、あ、その」

 

「誰に聞いても教えてくれないし、ユウさんも誤魔化すからフェイトちゃん本人に聞くのが一番でしょ?」

 

「う、ぅう」

 

「ねぇなにしたのー?」

 

 

少し黒い笑みを浮かべながら問い詰めるその姿にたじろぐフェイト……というかわかってやっているでしょ。どうやって誤魔化すか、フェイトは混乱した頭を回転させ、ここにくる前にクロノとユーノから預かっていたものを思い出す。

 

 

「あ、あのねなのは」

 

「なぁに?」

 

「これ、ユーノとクロノから預かってたんだ。」

 

「へ?あ、これ魔法の」

 

「うん、教材とかだよ。これで一緒に魔法の勉強できるかなって」

 

「ありがとう!」

 

わー!とはしゃぎながら中を見るなのはの姿にホッとするフェイト。そこからの会話は魔法についてや、なのはの知らないミッドチルダの世界についてなどだった。

 

 

 

そんな1日を思い出し、自室で微笑む。今日は本当に嬉しいことばっかりだったなぁ……。そんな彼女見て微笑むのは今はミッドチルダにて無限書庫の仕事をしているユーノだった。

 

 

「それじゃ、特に問題なくフェイトと会えたんだね」

 

「うん!ユーノくんはお仕事忙しいの?」

 

「そうだね、ここはとても深いから色々と詰まってるよ」

 

「そっか、せっかくならユーノくんとも会いたかったんだけど」

 

「そのうち行くよ。ユウとも会いたいしね。っとそろそろ時間だから」

 

 

気づけば通信を始めて結構な時間が経っていた。また、と言葉を残して通信を切る。

 

また明日、フェイトと会える、そしてユウが帰ってくる、欲しかった日常を前に上機嫌で寝支度を始めていたなのは。

 

___そこへ突如、レイジングハートの警告音が鳴り響く。

 

 

《Emergency! Emergency!》

 

「え…?」

 

 

瞬間、異変が起こる。一瞬で結界の中へと巻き込まれる。

 

 

《Communication Disconnected》

 

「通信もできない……って何か……!?」

 

 

レイジングハートの警告には、なのはの元へと迫る何かについてもキャッチしていた。焦りながらもなのはは、謎の的の元へと向かう。駆け出した先はとあるビルの屋上。警戒しながらあたりを見回すが、相手の姿は見えない。

 

 

「どこに…!」

 

《Behind!》

 

 

冷たいものが背中に走る__そのレイジングハートの声と同時になるべく強力な防御魔法を展開した瞬間、ガンッ!という音とともに凄まじい衝撃が発生した。

 

 

「アイゼン!!!」

 

《Jawhol》

 

 

赤いバリアジャケットを身に纏った鉄槌の騎士がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 



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A's 第8話 後悔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはがやられた__その言葉を聞いた俺は考えうる限りの全てを尽くして帰還した。

 

ユーノの話を聞きながらルートを聞き、向かうべき場所……知らない新居へと到着した。そこで待っていたのは。

 

 

「リンディさん……?」

 

「いらっしゃい、ユウくん。事情は把握してるようね」

 

「は、はい。でもなんでリンディさんがここに……」

 

「あら、そこはユーノくんから聞いてないのね」

 

『す、すみません。それよりなのはたちは?』

 

 

たち……?他にも誰かやられたのか? そんな俺の疑問には答えず、ただ先を行くリンディさんについて行くとそこには、横たわったなのはと。

 

 

「なのは! それに……フェイトとアルフ!?」

 

 

ぐったりした姿の3人が意識を失ったまま寝かされていた。というか聞いた話だと激しい戦闘のあとって言ってたけど……。

 

 

「傷がない……いや治されてる?」

 

「……相変わらず慧眼ね。その通り体の方はもう平気なのだけれど」

 

「魔力が低い、ですね」

 

「ええ」

 

 

前までの大きな魔力が全く感じられないふたりから、おおよその検討はついた。傷ついたのは外ではなく内側、魔法を行使するための根源であり魔導士として命とも言える大切な機関。

 

 

「リンカーコアが奪われてるみたいなの。とはいえ少し時間が経てば回復するから命の心配はいらないわ」

 

 

場所を移し、リビングでリンディさんの説明を受けてホッとする。それならな目もそのうち覚めるな。

 

 

「それで一体なにが起きたんですか?襲われたということは把握しましたが、相手は」

 

『それはボクが説明しよう』

 

 

通信から新たに登場したのはクロノ。一体なにが起きたのか、それはシンプルなもので最近起きている(以前にクロノから警告されていた)事件のターゲットがなのはたちに向いた。それだけ、それだけなのだが。

 

 

『正直にいえば想定外だ。なのはクラスの魔導士がやられることはないと思っていた』

 

 

まさに俺が言いたいことで、あの強力な力と魔力を持つなのは、さらにはフェイトとアルフがいたのにも関わらず倒されてしまった。その事実がなんとも受け入れることができず、頭を抱える。

 

 

『とにかくこの事件はボクたちが担当することになった。くれぐれもだが、ユウ自身も気をつけるんだ』

 

「ん、ありがとうな」

 

『ああ。……母さんも気をつけて』

 

「ええ、休暇中に災難だわ」

 

 

そう言って通信が切れた。……さて次に気になるのは。

 

 

「それでなんでフェイトがこっちに?というかいつから……」

 

「ごめんなさい、それはね__」

 

 

リンディさんから受けた説明は、まぁ納得できるものでこちらに来たのも今朝となればしょうがないのだが。

 

 

「動揺するとしても一応知らせておいてくださいよ。倒れてるの見て本当に驚いたんですからね?」

 

「うふふ、でもお仕事中だったんでしょう」

 

「う、そうですけど」

 

「フェイトさんと最後になにをしたのか胸に手を当てて考えてみなさい。……ほら動揺した」

 

 

くすくすと笑うリンディさんを恨めしく睨むがよりニコニコされてしまい白旗をふる。いくら子どもと言っても女の子なんだから、自分がどう思われているかなんて想像できる……はぁ。

 

 

「とりあえず今日のところはこれでお暇します。また何かあればいつでも連絡してください」

 

「もう帰っちゃうの?折角だからなのはさんとのこととかも」

 

「失礼します!」

 

「あらあら」

 

 

 

————————————

 

 

 

しばらくは専用の施設がある時空管理局の方で治療するというなのはたち。士郎さんたちにはすでに事情が伝わっているようで、特に問題はなかったようだ。

 

それから2日後。夜、ひとりで魔法の鍛錬をしているとクロノからの通信が入った。

 

 

『相手の姿がわかった』

 

「さすが管理局。こんなすぐにわかるもんなんだな」

 

『いやこれは彼女たちのデバイスのお手柄さ。戦闘中の映像が残っていた』

 

 

レイジングハートとバルディッシュ、どちらも最高の性能を誇るインテリジェントデバイスだ。この件でもその2機が活躍したようで……本当に持ち主に似てどちらも優秀な限りで羨ましい。

 

 

「それで、どんな相手だったんだ?」

 

『本来なら見せてはいけないものなんだが、一番狙われそうなのは君だしな。映像を送る』

 

 

はぁというため息ととも転送中の文字が流れ始める。クロノさんや、なぜにそんな呆れた顔なんだい?

 

 

「あのさ、なんでため息?」

 

『こちらは毎日この区間の監視をしている。大人しくしていろといったはずの馬鹿者があえて魔法を使って駆け回っているのを気づかないと思うか?』

 

「は、はは。随分とバカなやつもいるんだな」

 

『ああ、そんな馬鹿が少しでも生き残れるように送ってやるんだから感謝しろ。……全く』

 

 

ものすごいジト目とともにダウンロード中の映像について説明が行われる。……いやさ、俺だって別に考えもなくそうしてたわけじゃないんだけどね。

 

 

『相手はベルカ式、それも本物の古代ベルカ式魔法の使い手だ。前にその辺の資料を読んでいたユウならわかるだろう』

 

「というかベルカ式なら多少使えるしな」

 

『知ってるさ、他ならぬボクらの前で使ったじゃないか』

 

「なんで使えるんだろう」

 

『知るか』

 

 

そんな軽口を挟んでいればピコン、という音とともにダウンロード完了の文字が表示される。

 

 

『終わったか?』

 

「ちょうど終わった。開いていいか?」

 

『それなら、まずはなのはとの相手を確認してみてくれ』

 

 

その言葉とともにファイルを開く。どこかの屋上、そして空中のサムネが表示された。そして再生する。

 

 

『と言ってもその敵の外見からの情報は一切ない。管理局のシステム、情報データベースでもヒットしないからお手上げさ』

 

「……なぁ」

 

 

映像で繰り広げられる戦いはまさに死闘とも言えるべきもので、これが映画やフィクションなら大いに盛り上がるものだろう。

 

——でも俺はそんなことよりも。

 

『?』

 

「相手はベルカ式、そして前も話していたけど今回の事件で中心になったロストロギアって」

 

『闇の書だ。一見ただの古い古書のようだが、危険極まりないものだ』

 

 

大きな鉄槌をかざし、なのはへとぶつかり行く赤いバリアジャケットの少女。そしてその横に佇む本は___。

 

 

「……ヴィータ」

 

 

正直に白状してしまえば、心のどこかでわかっていたんだ。あの日、6月3日の夜中に出会った途方もない魔力を持った4人。

 

そして、突如として……俺が拒絶されたあの日から事件は本格化した。

 

 

『……何か知っている、のか?』

 

「……」

 

『答えろ!ユウ、そいつらが誰でなんなのか知っているんだな!?』

 

「……悪い」

 

『!待て、ユ__』

 

 

《Communication Disconnection》

 

 

通信を切り、近くのベンチへと座り込む。

 

力を抜き、空を見上げれば憎たらしいほどに綺麗に輝く冬の星空が見えた。

 

 

《are you OK?》

 

「ああ、問題ないよ。……行こうか」

 

 

ゆっくりと立ち上がり、行き慣れた道を進んでいく。少し前まではこの道行を歩む自分は大抵、プラスの感情で動いていた。

 

__けど今は、ただただこの足が、歩みが1歩進むごとに重くなっていく。

 

 

《Emergency! Emergency!》

 

 

振り返るのは楽しかった友人たちとの思い出。

 

買い物にゲーム、時にはきつい模擬戦なんてものもあったけれど、どれも間違いなく、胸を張って良いものだったと言えるものだけ。

 

 

《Communication Disconnected》

 

 

どうしてこうなるんだろうな。

 

あの時、病院の帰りに悲痛な顔をしたあの子たちに対して無理を通してでも聞き出せばまた違った結果があったのかもしれない。

 

人の営みが、音が消え去った異質とも言える空間になったとある住宅街の道の真ん中。

 

俯かせていた顔を上げる。

 

————そこにはこちらを睨みつける、敵意しかない視線が4つ。

 

 

「……止まれ」

 

 

ガチャリと手に持った刀、剣を俺へと向ける彼女たちにかける一言は、うん。

 

 

「……久しぶりだな」

 

「……」

 

「こんな夜中に散歩か?」

 

「……っ」

 

 

何気ない会話を投げかけた俺には変わらず敵意のある視線だけ。いや悲しそうな顔はしてくれるのか。

 

 

「……それとも食後の運動で魔導士でも襲いに行くか?」

 

「「「「!?」」」」

 

 

その一言で緊張が走る。

 

多分だけど、彼女たちも俺が魔導士、管理局と繋がりがあるとは思わなかったのだろう。……先ほどまでの迷いは消えてそこにはただ、冷たいものがあるだけ。

 

 

 

「次に会う時は笑って、いつもみたいに飯でも食いながら遊んで。——そんな平穏な日常だって信じていたよ」

 

 

その言葉に__シグナムは。

 

 

「ああ、私もそう願っていたよ」

 

 

《Laevatein》

 

 

「本当に__」

 

 

どうしてこうなるんだろうな。

 

 

《mode2・Saber Nova》

 

 

「セットアップ」

 

 

 

  その夜、何気ない普通の街中で、鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡った___

 

 

 

 

 

 



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A's 第9話 失ったモノは

 

 

 

 

 

 

「ユウさんが病気?」

 

「はい。そんなに重くないもののようですが、しばらくは来れないと言伝を預かっています」

 

「大丈夫なんよね……?」

 

「…ええ、すぐにでもまた会えるようになりますよ」

 

 

ユウを遠ざけるべきだ。初めにそう行ったのは私だった。

 

シャマルやヴィータは反対したが、これから起こることを__自分たちの手を汚すことを彼は容認しない、それかユウまでもが主人のために汚しかねない、そう話せばすぐに反対意見は消えた。

 

主人以外で、そして初めてできた守護騎士以外での仲間、いや友人__家族とも言える相手を巻き込むわけにはいかなかった。……傷つけたくもなかった。

 

そのために主人に嘘をつき、誓った騎士としてのものを切り捨ててここまできたはずだった。それなのに。

 

 

 

「次に会う時は笑って、いつもみたいに飯でも食いながら遊んで。__そんな平穏な日常だって信じていたよ」

 

 

シャマルの貼った探知結界に反応した瞬間、嫌な予感はした。すぐに封鎖領域を展開し向かった先にいたのは悲しそうに微笑むユウの姿。

 

どうして?

 

初めは彼が私との約束、言葉だけとはいえ交わしたものを裏切ったことに少なからず失望していた。いや、これは言い訳だ。本当は今のこの汚れた我らを見られたくなかっただけだったのだろう。

 

 

辛そうに言われたユウの言葉に私は、返す言葉もなかったはずなのに私は__

 

 

「ああ、私もそう願っていたよ」

 

 

ただ自分が過去に願っていた理想を吐き捨てた。

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

 

 

響く。ただ剣同士がぶつかる鉄の音だけが響き渡る。

 

 

「なんで、どうして!」

 

「言葉はいらない!」

 

 

何度も交わしたシグナムとの斬り合い。それは鍛錬、もしくは模擬戦という形でのあくまで練習だったもの。

 

右から下から彼女のひと先が迫り来る。……本来ならば俺のような未熟者が、受けることもかわすこともできないはずの極められた最高の一撃__でも、それでも。

 

 

「!!」

 

「伊達に、負け続けてない……!」

 

 

そのさきを見通せるだけの場を設けてくれたのは、他でもないシグナムだ。

 

 

「シグナム!」

 

 

そのザフィーラの言葉とともに迫り来る拳、彼もまた一流の騎士たる力をもつ最良の戦士だ。けれど、俺は。

 

 

「展開!」

 

 

《Reflection》

 

 

多くの時間と負けをもらって、何度も撃ち抜かれたその拳がくる位置は把握できる。シグナムと同様に、いやそれ以上に戦ったザフィーラの拳は確実に一撃で仕留めに来る、すなわち手足といった致命傷にならない甘えた部分を身構える必要はなく__ただしっかりと受け止めればいい。

 

 

「アイゼン!!」

 

「……ヴィータ」

 

「ッ!!ハァ!!」

 

 

上空から迫り来る巨大な鉄の塊。小柄で可愛らしく、時にはやんちゃな彼女が見せたこともない凶暴な顔で迫ってくる。

 

 

__痛い

 

 

大きく跳躍し、その攻撃を避ける。今放たれた一撃はコンクリートなんて糸も容易く砕き、そこにはクレーターが残る。

 

 

「クラールヴィント!」

 

「ぅぐ…!」

 

 

空中に逃げた俺の四肢を絡め取る強力なバインド、シャマルさんは誰かを傷つけるような魔法は使わない、それが彼女の優しさであり強さだが、この複数人との戦闘での支援役というのは驚異でしかない。この強大な結界も通信阻害も彼女が担っている……その最中での更なる魔法行使。

 

 

「本当に、強いな」

 

 

なんとか逃げようとするがその度に強く、強く締まるバインドに改めて彼女たちの強さを実感させられる。

 

 

「……ユウくん、無駄よ」

 

「シャマルのバインドは、我々が使う魔法はベルカ式。ユウ、お前に抜け出す術はない」

 

 

そう諦めるように/懇願するように言葉を発したシグナム。……ベルカ式は確かに使うものも少なく、その上彼女たちが使う古代のものは一介の、それこそ俺のような半端な未熟者では解除できない、そうわかっているからこそだろう。

 

終わったと思い武器を下ろす四人の姿に、やはり戦いたくはない、そんな感情が垣間見えた。

 

 

《Mode・Analysis》

 

「……Release Analyze」

 

 

パキン、とひび割れる音が聞こえる。顔をあげれば驚いた/顔を歪めた4人の表情が見えた。

 

 

「まだ、終わってない」

 

「ユウ、お前は一体__」

 

 

なんだ?

 

 

その言葉が続く前にバリアジャケットを解除する。身構えた彼女たちの顔がまた困惑したものに変わるが、その隙はあまりにもーー致命的だ。

 

 

《mode・Blaze Force》

【complet sword Edition】

 

 

「セットアップ」

 

 

一気に魔力を解き放ち、シグナムへと接近__一刀を切り上げる。

 

 

「なっ!チィ!!」

 

 

しかし、それでも届かない。ここまで油断を見せていたのにも関わらず、渾身の一刀すら防がれた。

 

 

「それは以前の……いやどちらもか!」

 

「前に言っただろう、俺のは全部借り物の力だって」

 

「なるほどな、あの子どもたちとの戦いでの違和感はこれか」

 

 

距離をとり、返された言葉を返す。ただそれだけなのに。

 

 

__痛い

 

 

 

「……だったのかよ」

 

「……ヴィータ」

 

「裏切り者だったのかよ!!ユウ!!」

 

「————」

 

 

 

その言葉は、泣き腫らした憤怒と悲しみで彩られたその表情はあまりにも。

 

 

 

「シャマル!」

 

「ッ!」

 

 

再び四肢に楔が固く巻きつく。それは先ほどまでのものとは比べ物にならないほど強固なもので、ここまでしてもなお俺は手加減されていたという事実が心にのしかかる。

 

 

「……蒐集を」

 

「シグナム!?」

 

「こうなっては、仕方がないんだ。………主の、為だ」

 

「……俺がやる。お前たちは見るな」

 

 

蒐集。あの映像に残っていたリンカーコアを摘出する、あれのことだろうか。でも、それよりも気になるのは。

 

 

「はやての為って、なんだよ」

 

「……貴様は知らなくていい」

 

「これははやてがさせてる事なのか__!」

 

「……違うっ。決して主人はこのようなことを望まない」

 

 

そう答えるシグナムに何かを言い返そうとした。けれど。

 

 

「なんで」

 

 

先ほどまでの、今までの彼女から見たこともない。

 

 

「どうして__泣いてるんだよ」

 

 

ひとすじの涙が感情を揺さぶってくる。

 

 

「……ッ!!??」

 

 

激痛。そんな言葉で表せるほど緩くはない痛みが胸に走る。目を胸元へと向ければそこには

 

 

「これが、リンカーコア」

 

 

自分の魔導士としての命がそこに露出していた。

 

 

「……始めるぞ」

 

「ッァ!!」

 

 

声にならない悲鳴が喉を突き刺す。なんだこれは、なんだこの痛みは。苦しい、苦しくて狂いそうだ。目尻は熱くなり、暴れたくても身体は縛り上げられ、それすら許してもらえない。

 

このままだとまずい、しかし俺にはどうすることもできない。狂いそうな苦痛の中、見えたのは__彼女たちの悲痛な顔。

 

 

「……」

 

 

頭が冷えてくる。

 

そうだ、俺は何をしているんだ。ここにきたのは彼女たちを止めるためのはずだろう。

 

まだ、やるべきことをこなせていない。何より、この惨状を、この人たちを助けたくて来たはずだろう。

 

 

力を込める。

 

それでもバインドは解けない。

 

解析する。

 

見たこともない羅列に魔法が対応できない。

 

__手段はない。

 

でも、それでも俺は。

 

 

 

 

《Master》

 

「……た、のむ」

 

《…Sure》

 

 

 

 

そう、手段は"選べない"

 

 

 

 

 

《Over DriveーBurnup》

 

 

《start.1:29》

 

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、これ……」

 

 

そう言葉を漏らしたヴィータに私は何も返せなかった。目の前で起きたのは黒い魔力の本流。それととも聞こえたのは何かがひび割れる音……!

 

 

「…シャマル!」

 

「やってるけど…ダメ!抑えきれない!」

 

 

シャマルは間違いなく一流の魔導士。彼女の本気の鎖はたとえ私であろうと決して解くことができない、それほどまでに強力な縛りのはず。

 

それがなんだ、一体なんなんだ。

 

 

「シグナム!」

 

「ッ!わかっている!」

 

 

ザフィーラの言葉ですぐにカートリッジを起動する。自身の中の何かが警戒音を鳴り響かせる。あれを起動させてはいけない、と。

 

 

「ハッ!」

 

「ッ!!」

 

拳と剣、そのふたつが一才の油断も隙もなく、ユウの命を刈り取るために繰り出される。

 

 

ーーすまない、ただ一言をつぶやいて。

 

 

けれど…-当たる直前、俯いていたユウの顔が上がり……その赤い狂気のような瞳が私を写した__。

 

 

 

 

 

 



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A's 第10話 一番大切なモノ

 

 

 

 

 

ゆっくりと、どろどろした感覚から意識が戻る。

 

 

「ん、起きたかい?」

 

「貴女は、っ」

 

「無理しないほうがいい。……騎士たちがキミの体から魔力を蒐集しているところだから」

 

 

彼女の、この暗闇しかない空間の主と目があった瞬間に起きあがろうとしたが、全く体がいうことを聞かない。

 

 

「キミも無茶をするね。私を通してコレから魔力を引くなんて」

 

 

彼女がいう言葉の意味が分からずに、視線を同じ位置へと向けるとーーナニかがそこにいた。

 

黒い塊、いやあれは蟠を巻いた蛇のような、そんな得体の知れない存在。……怖いもののはずなのに、なぜかそれに対して哀れみの気持ちも溢れてくる。

 

 

「全く、繋がりを利用して逆に引っ張るなんて考えても実行はできないよ。……それだけあの子たちを守りたかったということなんだろうけど」

 

 

それにこれもだいぶ弱らされてる。そう言ってゆっくりと頭を撫でられる。この人が一体誰なのかは分からないけど、疲れ切った/傷ついたこの身には、不思議なくらい沁みる。

 

 

「……もう覚えてないのかい?」

 

 

 

__頭にノイズが走る

 

 

 

何かを切り裂く感触。

 

何かを貫く感触。

 

何かを壊す感触。

 

ーー誰かを殺そうとする感覚。

 

 

——————!

 

——————!?

 

——————……

 

——ウ……?

 

 

恐怖に染まった、けれど止まった"俺"の手を見て呆然とする、■ィータの顔

 

 

 

 

「無理に思い出さなくて良いんだ」

 

 

目の上に手のひらを乗せられ、ゆっくりと再び撫でられる。

 

 

「色々と言いたいことはあるけれど、そうだね」

 

 

うん、とうなずき彼女は微笑みながら

 

 

__ありがとう

 

 

そう、俺に伝えた。

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと瞼が開く。まだ少し暗い、夜明け前の時間帯で見たことのない天井が初めに映った。

 

 

「……目が覚めたか」

 

 

声がした方を向けばそこにはひとりの女性が俺へと視線を向けていた。

 

 

「悪いが貴様をここで拘束させてもらう。……まだ我々を見つけられては困るんだ」

 

「……」

 

 

よく見れば包帯を巻き、ところどころケガをしているようでその跡は大きな戦いがあったことを告げている。

 

ぼーっと彼女の言葉を聞きながら顔を見ていれば、怪訝そうな顔をされた。……どうしたんだろうか。

 

 

「なんだ、言いたいことはないのか?あれだけの後だが、傷は全て治っているだろう」

 

「……えっと」

 

 

あれだけのあと……?傷?

 

なんのことか分からずに困っていると今度は心配したような様子で語りかけてくる。

 

 

「本当にどうしたんだ。何もないというなら、私の方が聞きたいことが山ほどある__」

 

「あの、貴女は誰?」

 

「__んだ……が……」

 

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

 

それは戦いなんてものではなかった。虐殺、一方的な嬲り殺し。

 

 

「シグナムっ!」

 

「私はいい!下がれ!」

 

 

迫り来る黒い砲撃を寸のところで交わし、切り裂く。

 

 

「俺が畳み掛ける!援護を!」

 

「ええ!」

 

 

ザフィーラの渾身の一撃にシャマルの支援魔法、数多の戦場で繰り出された必殺の一撃。

 

 

「————————!」

 

 

それを、あの黒いバケモノは飲み込んだ。

 

 

「チィッ!!」

 

「アタシがやる!!」

 

「っ、待て!」

 

 

焦りを見せたヴィータが前へ出る。彼女の持つアイゼンは破壊力は随一、普段であるならば待てなどかけないが。

 

 

 

「ぁ…」

 

 

黒い本流が大きな口を開く。そして一瞬で飲み込まれる。そうして残るのは恐怖でへたり込む少女ひとり。

 

 

……この距離では間に合わない。

 

 

 

「ヴィータ!」

 

「…ひっ」

 

 

とっさにかけた一言ももう眼前の恐怖の前に届くはずもなく、振り上げた巨大な黒剣が映るだけだった。

 

そして、無惨にも少女の、仲間であったヴィータの亡骸だけが残る__。

 

 

 

 

__

 

___

 

____?

 

 

 

 

「……ぇ?」

 

「—————」

 

「ユ…ウ……?」

 

 

 

そんな予感した未来訪れず、目の前には必死に手を止めるバケモノ/ユウの姿があった。

 

 

「シャマル、ザフィーラ!!」

 

「っ!」

 

「ああ!」

 

 

猶予はない。自分の持てる最速にてヴィータを救出し、ザフィーラの拳で退け、シャマルで縛りあげる。

 

 

「蒐集を!」

 

 

ザフィーラの声とほぼ同時に手元にあった闇の書を起動する。

 

 

「やっている!」

 

 

ゆっくりと力を失っていくユウだが、油断はできない。彼には聞きたいことが山ほどある。とにかく我々の正体と主人の居所を知るユウを返すわけにはいかなかった。

 

だからユウを背負い、結界をかけたあの場所、主人の家のユウの部屋で尋問をかけるはず、だった。

 

 

 

「あの、貴女は誰?」

 

 

それが、こんな……こんなふざけた結果が残るなんて思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

「えっと、それで貴女は…」

 

 

俺の言葉を聞いた途端、固まってしまった目の前の女性に声をかける。どうしたんだろうか、何か変あことでも聞いたか、俺?

 

 

「な、にを言ってるんだ」

 

「へ?」

 

「ふざけるのも大概にしろ!」

 

「え!?ご、ごめんなさい!」

 

 

突如として激怒する姿に思わず謝ってしまったが、別に何も悪いことはしてない……よな。

 

 

そこからは質問の嵐だった。お前の名前は、我々のことは、魔法は……とにかくたくさんのことを聞かれたけれど。

 

 

「その、すみません」

 

「……」

 

 

ギリっという音が聞こえるくらいには大きな歯軋りが聞こえた。……いや、そんなふうにされても分からないものはわからないんですが……。

 

 

「あの」

 

「……なんだ」

 

「貴女は__」

 

「…シグナムだ」

 

「へ?あ、シグナムさんは俺の家族か何かです、か?」

 

「……ああ」

 

 

苦虫を噛み潰したような顔で、けれどしっかりと肯定の言葉をもらう。うん、これってもしかしたらだけど。

 

 

「…なるほど」

 

「……」

 

「俺、記憶喪失?」

 

 

 

 

 

 





ざんねん ながら ゆう の きおく は きえてしまった!


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A's 第11話 Re:Start








 

 

 

 

 

 

「でもよかった。ユウさん、もう大丈夫そうなんやね」

 

「お、おう。特に問題ないよ」

 

「それならまた遊べるやんな!今日も泊まっていくやろ?」

 

「…えっと」

 

 

返答に困り、目の前の少女——八神はやての後ろに佇み、無言で睨んでくるシグナムさ…シグナムに視線をおくってしまう。

 

 

「迷惑やった……?」

 

「……………」

 

 

ギロリ、そんな音が聞こえるくらいには目がつり上がるシグナムの姿に背筋がピンと伸びる。

 

 

「だ、大丈夫!しばらく休みだし、よければ居させてくれ!」

 

「うん!」

 

 

ただこの家に泊まるというだけのはずなのに、やたら嬉しそうにするこの少女の姿に。

 

 

「……愛されてたんだなぁ」

 

「ん?何がや?」

 

「なんでもないさ、それより手伝うことあるか?」

 

 

記憶を失う前の自分が、いかに彼女から信頼され、大切に思われていたかを感じるとなんだか騙しているような気がしてしまう。

 

 

「それなら買い物いこか!…あ、でも久しぶりに会えたし、他にもしたいことたくさんあるなぁ……」

 

 

別になんてことないはずのものを、うーんと悩むはやてについ笑ってしまう。

 

これなら上手く誤魔化せそう、そう思っていたんだけど。

 

 

「あ!そや、前にユウさんが話してくれたお店いこ!」

 

「………はい?」

 

「バイトしてるって話してたとこ!行ってみたかったんよね」

 

「…………………うん、その」

 

 

一気に冷や汗が流れ出す。背中も脇もびちゃびちゃ、目は泳ぎまくりでとにかく頭を回転させるが……なーんにも浮かばない。

 

まじでどうしようとテンパり始めた俺に、後ろで様子を見ていたシグナムからの一声。

 

 

「主、特に問題ないように見えますがユウはまだ病み上がりですし、少しの間はゆっくりと過ごすのがよろしいかと。……お前もそれでいいな?」

 

「あ、ああ。ごめんな、はやて?」

 

「大丈夫よ、私こそはしゃいでごめんな…すっかり抜けてもうてたわ」

 

 

だってユウさん元気そうなんやもんと笑う彼女にまた罪悪感を覚えつつ、見えないようにシグナムにだけ、「助かった!」とジェスチャーを送る。

 

 

「……ふん」

 

 

 

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

 

 

 

「バレないようにしろ……?」

 

「ああ、特に主……この家の主人であるはやてには絶対に気づかれるな」

 

 

時は早朝まで戻り、俺が目覚めて色々と問答していたところ。

 

 

「お前は主にとってあまりにも大切な存在だ。……ユウ、そんなお前が思い出を失っているという事実はあの幼い少女には、あまりにショックなんだ」

 

 

 

結論から言ってしまえば、俺は"ほとんど何も"覚えていなかった。

 

 

恐ろしいことに何故ここにいるのか、何があったか、そんな前後の部分から始まって、基本的な部分である名前から住所、人間関係すら思い出せない。

 

……そんな状態の俺にシグナムさんから課せられたものは、何も覚えていないという事実を隠せ、ということなんだけれど。

 

 

「わ、わかったけど」

 

「なんだ」

 

「正直、不安というか……だって俺、居候みたいなものなんだろう? しかも相手は9歳の女の子って……あれ、記憶を失う前の俺ってかなり危ないやつだったのか……?」

 

 

てか何をどうしたらそんな幼い少女と仲良くなって家に転がり込めるんだ……?もしかしてそういう趣味だったのか、俺。

 

ぐるぐると混乱する頭を抱えながら苦悶していると、呆れたような……安心したような声がシグナムさんからかかる。

 

 

「……はぁ。本当に記憶がないんだな」

 

「え、まだ信用されてなかったんですか?」

 

「当たり前だ、バカ。全く……しかし都合がいい、とも取れる」

 

 

……バカと言われて普通はムッとするはずなんだろうが、なんか言われなれてる気がして、申し訳ないという気持ちが先にくる。

 

と、それよりもその後の言葉が気になる。都合がいいとは一体なんぞ?

 

 

「???」

 

「こちらの話だ。気にしなくていい」

 

「あ、うん」

 

「……調子が狂う。とにかく、お前が記憶を失ったということを知られては私が、いやお前も含めて困ることになる」

 

 

そう言ってシグナムさん、いやシグナムはこの家に住む住人たちについてや、話し方、俺についてを詳しく話してくれた。

 

彼女たち、シグナム、シャマルさん、ヴィータさん、そしてペット?のザフィーラは、はやての遠い親戚とかで海外から来たらしく、俺だけは本当に何も関係がないところから出てきた間柄らしい。

 

 

「……うーん」

 

「なんだ、何か引っ掛かるか」

 

「いや、そのさ。この関係図なら俺、ここから早く出て行った方が良くないか?」

 

 

どう考えても無関係かつ、おじゃま虫にしか見えない自分の立ち位置に何故そんなにもこの家に俺を置きたがるのかが疑問として残る。

 

そもそも最初にシグナムは俺のことを家族と言ったけど、明らかに他人なのでは……?そう疑問をぶつけると。

 

 

「………いや、お前は正真正銘、友であり家族だと……少なくとも私と主は思っているはずだ」

 

「けど」

 

「今のお前が疑問に思う気持ちもわかるが、決して主の前では、その言葉を、気持ちを見せないでほしい。……頼む」

 

「む、そこまで言われるなら……わかったよ。今は頼れるのはシグナムしかいないし……えっと、よろしく?」

 

 

右手を差し出すと少し躊躇ったような様子を見せるシグナムであったが。

 

 

「……ああ」

 

 

最後には手を握り返してくれた。

 

 

 

そんなこともあって改めて始まった新生活なんだが、これがまた大変だった。

 

とにかく記憶がないというのは全てにおいて不便。シグナムからの言いつけで家からは出ていないが、はやてとの会話がとにかく地雷だらけなのだ。

 

多分、最初に言われた"久しぶりにあった"ということもあって、話す内容は前の俺がしてきたことについてばかりで、冷や汗が止まらない。

 

 

「そういえば前にーー」

 

 

そんな言葉で始まる会話の時は、とにかくシグナムを探すようになってしまう。彼女は自然に俺とはやての会話を助けてくれるので、本当に感謝だ。

 

……まぁこの難題を押し付けてきたのはシグナムだからマッチポンプとも言えるかもだけど。

 

もちろん問題は他にも多くある。それは……

 

 

「……………」

 

「…………あー」

 

「……………………」

 

「………ヴィータ?」

 

「ッ!」

 

「………はぁ」

 

 

それは他の住人たちについて。あらかじめシグナムがもろもろの事情を説明してくれたって聞いたんだけど。

 

まぁ、ものすごく疑われるような視線を向けられまして。

 

以前の俺が何をしたのかは教えてもらえなかったけど、とにかくファーストコンタクトは最悪の一言。

 

部屋で待機していたら殺気マシマシ、敵意カラメな2人組+1匹が入ってきたもんだから普通に飛び上がったよね。

 

そこからはずーっと質問攻め。中身はよくわからないものも混ざっていたけど、とにかく答えれるものは素直に全て答えた、はずだ。

 

 

「本当に、何も覚えてないのね……」

 

「えと、すみません」

 

「ごめんなさい、ちょっと」

 

 

そう言って退室するシャマルさんに何もいえず。

 

 

「………」

 

「………?」

 

「………」

 

「……ぉう」

 

 

ただ何かを見定めるようにジッと俺の顔を見続けるザフィーラに居心地の悪さを感じ。

 

 

「おい」

 

「あ、キミは」

 

「………ヴィータ」

 

「えーと、ヴィータさん、ちゃん?」

 

「…………チッ」

 

「あ」

 

 

何より、悲しそうな顔をして会話を切られてしまったヴィータの姿に……嫌に胸が締め付けられた。

 

 

「はぁ……」

 

「そう落ち込むな。……皆も混乱しているんだ。そのうち元に戻るだろう」

 

 

そう言ってくれるシグナムだが、なんとなく彼女からも何か……罪悪感のような感情を感じる。

 

 

「私はお前のことについて話し合ってくる。何かあるまではこの部屋から動くな」

 

 

分かったな、そう確認すると同時に出て行くシグナムの背中を見届け、シーンとした部屋の中、再びベットに背を預ける。

 

 

「………なんだかなぁ」

 

 

一体自分が何者で、何をしてきたのか。そんか当たり前のことが分からない現状で、どうしてこんなにも。

 

 

「俺、落ち着いてるんだろ」

 

 

こういうのに慣れてる………そんなわけもないか。

 

 

 




5時に公開予定だったのに間違えて公開しちゃった☆


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A's 第12話 偽りの幸福

 

 

 

 

 

とある家の一室にて、話し合う4人の顔は決して明るいものではなかった。

 

 

「__という状況だ。私が感じた限りだが、ユウは何も覚えていない」

 

 

その一言を聞いた時の衝撃は計り知れないだろう。

 

仲間として、友として彼女たちが守りたかった者のひとりを傷つけ、さらに思い出を奪ってしまった……その原因は間違いなく自分たちで。

 

 

「なん、だよそれ」

 

「言った言葉の通りだ。我々のことを含め、あの戦いについて、これまでの全てが抜け落ちている」

 

 

動揺する中で言葉を発するのはシャマルとザフィーラ。

 

 

「でも……そんなこと今まで一度も……」

 

「蒐集が原因、いやしかし……」

 

「今、思えばあの蒐集時のユウは異常だった。体の機関であるリンカーコアを奪う蒐集は確かに苦しみや痛みがあるとは思うが」

 

 

あの時の彼の苦しみ方は4人がこれまで経験した多くの蒐集のどれにも当てはまらないほど、苦悶の声と表情を見せていた。初めは身体的な怪我か何かと思っていたが。

 

 

「体は間違いなく治したの……あのアザ以外は全部、治したはずなのに」

 

「……あの黒いアザは微かに魔力を感じる。あれにも何かがあるとは思うが、大元の原因は」

 

「アタシたち、だろ」

 

 

ぐっと拳に力が入るヴィータに何も返す言葉が見当たらなかった。そう、どんなに言い訳を探そうともユウが記憶を失ったその要因を作り出したのは我々であり、それを思うたびに何かが心を締め付ける。

 

無言の時間が続くが、今は時間が惜しい。他にも話し合わなければいけないことが多い。シグナムは顔を上げる。

 

 

「闇の書の方はどうだ」

 

「あの"4人がかり"の蒐集から止まったままよ。それにこれ……」

 

 

蒐集は守護騎士がそれぞれ1日1回行うことができる特殊な魔法。

 

魔導師の魔力の源であるリンカーコアを闇の書に吸収させることで、白紙だった666ページを魔法の情報で埋め、主を覚醒へと導く魔導書。

 

それを暴走したユウを止めるために使った後、異変は起きた。

 

 

「これは、ほぼ全てのページが埋まっている……?」

 

「ええ、はっきり言って異常よ。たったひとりの魔道士から半分以上埋める魔力を蒐集できるなんて」

 

「しかし、書はまだ起動していない」

 

「……どうなってんだよ」

 

 

ユウから蒐集をしたあと、ページが埋まった闇の書は沈黙を貫くまま。完成したこの書が何も起こさないはずがない、そう”知っている”シグナムたち守護騎士は困惑を隠せなかった。

 

ただ言えるのは。

 

 

「これでもう蒐集はしなくていい、ってことだよな」

 

「……」

 

「皮肉なものだな。守りたかった相手に我々の心を守られることになるとは」

 

 

普段では見せない後悔を滲ませた苦笑いを浮かべるザフィーラの言葉に、より重く心に負荷がかかる。

 

ユウは、我々が誰かを傷つけるのを止めるために来てくれた。しかしそれは主を、はやてを見捨てろと言っているのも同意議で、決して分かり合えることはないはずだった。

 

 

「……最後さ」

 

「……」

 

「アタシは絶対にやられるって思ったんだ。けど、あんな状態になったアイツは、手を止めてくれたんだ」

 

 

迫り来る明確な死の匂いを真正面から受けたヴィータが思い浮かべるのは最後に垣間見えたアイツの顔

 

 

「笑ってた。困ったように、いつもわがままを聞いてくれたあの顔を、アタシは確かに見た」

 

「ヴィータちゃん……」

 

「簡単に壊せるはずの拘束を解かずに最後までただ、笑ってたんだよッ」

 

 

ガン、と拳を机にぶつける悔しそうなヴィータにかける言葉が見つからなかった。

 

 

「今度はアタシが、アタシたちがアイツを守ってやるんだ。絶対に傷つけてやるもんか……!」

 

 

その言葉に全員が静かに頷いた。

 

 

……ただ、いざ記憶を失ったユウと対面した3人の取り乱しは酷いものであった。もう何も覚えてない、何も知らないであろう自分たちに向けられる彼の声は、表情は狂おしいほど何も変わっていなかった。

 

 

 

————————————

 

 

 

 

「……暇だ」

 

 

ぼけーっとベランダから冬空を眺めつつ、のどかな日差しと景色を眺めてはや1時間。すでに飽き始めていた。

 

ユウは今、シグナムたちからの言いつけである「何もせずゆっくりしていろ」という言葉を素直に聞いて部屋でぼーっとしていた。

 

 

「何もするなって言われてもなぁ……」

 

「……」

 

「はぁ……」

 

 

チラリと部屋の入り口を見てみれば半分だけ顔を出して、俺を監視する小さな視線と目が合う。

 

ここ数日でシグナム、シャマル、ザフィーラは初対面のような気まずさや壁は消えていたものの、未だにヴィータとはうまく話せていなかった。

 

話しかけようとすれば逃げられるし、目を合わせれば睨まれる。なんとも居た堪れない、落ち着かないこの現状をどうにかしたかった。

 

なぜここまで、ヴィータが気になっているのか。それは時折見せる彼女の表情が原因であった。

 

ユウもただ嫌われている相手と仲良くしようとは思わないが、記憶がなく多くの困った場面に合う現状でヴィータは自然と俺を助けてくれる。

 

物を探すとき、誰かを探すとき、頼まれごとで困った時……そんな場面で言葉はほぼないものの、毎回すぐに手助けしてくれるのがヴィータであり、勘違いでなければ常に側にいてくれているような気すらする。

 

 

「……」

 

 

今なお視線を向けてくる小さな監視者とどうやって仲良くなろうか、そう考えているとふと一つ案が浮かんだ。……俺が困っている時は必ず助けてくれる、はずだ。

 

なるべく自然に独り言に聞こえるように、でもヴィータに聞こえるように言葉を発する。

 

 

「暇だなぁー」

 

「……」

 

「あぁ暇だ〜」

 

「………」

 

「誰か話し相手になってくれないかなー」

 

「…………」

 

 

ちらっとこそりドアの方を見てみれば、どこか迷った表情を見せているヴィータの姿が視界に映る。

 

 

「暇すぎて死んじゃうかもなー」

 

「………っ」

 

「……いや、寂しがり屋か俺は」

 

 

自分が発していた独り言が構ってほしい幼児のようで我に返る。

 

ちょっと自己嫌悪。なんだよ暇すぎて死にそうって。

 

こんなので釣れるわけ……

 

 

「……どうしたんだよ」

 

 

あるのかよ。

 

 

その日からヴィータとの気まずさは嘘のように消えた。俺の周囲5メートルに意地でも入ってこなかった彼女は。

 

 

「ん」

 

「お、さんきゅ」

 

「……うん」

 

 

食事中は常に隣に座り。

 

 

「はやてがくれた」

 

「よかったな。……え、俺のところで食うの?」

 

「……ダメか?」

 

「いや、構わないけど」

 

「うん」

 

 

とてとてと小走りで近づいてきて、隣に座りもぐもぐとアイスを食べるヴィータ。……猫?

 

突然の変化に困惑し、皆に相談するも。

 

 

「前はずっとこんな感じやったやん。最近は喧嘩でもしてたんや思ってたんやけど、仲直りできてよかったなぁ」

 

 

とはやてからは頭を撫でられ。

 

 

「ヴィータちゃん、ずっとユウくんのこと心配してたからねぇ」

 

 

とシャマルさんからは微笑ましそうにされ。

 

 

「……」

 

 

ザフィーラにはポン、と前足で肩を叩かれた。……前から思ってたけどこの犬、人間の言葉理解してない?

 

 

「——ってことでやたら懐かれてるんだけど」

 

 

胡座をかいた俺の膝を枕にすやすやと眠るヴィータの姿に苦笑いを浮かべる。

 

 

「ヴィータは記憶を失くす前のお前に懐いていたからな。よかったんじゃないか」

 

「まぁ、あんなふうに常に陰から見られているよりは断然いいんだけど」

 

 

そんな俺の言葉に苦笑いをこぼすシグナム。そこには前のような影はなく、親しいものへ送る顔に見えた。

 

 

「主も心配していたからな。ここ最近、ユウとヴィータに気を使っていたのは気づいていたのだろう」

 

「……マジ?」

 

「……本当にそういうところは。はぁ…とにかく本来は久しく会っていなかったお前と語り合いたいことがあったでろう主が、"そっとしておこう"なんて子どもらしくない気を使うほどには心配していたということだ」

 

「それは悪いことしたな……」

 

「そう思うなら主との時間も作れ。お前の気持ちもわかるが、少し避けているだろう」

 

「うっ……」

 

「気づかないとでも思ったか」

 

 

……シグナムのいう通り、俺は少しはやてから一歩下がった位置で接していた。

 

 

「全く。……何が不安なんだ」

 

「そりゃ、あんだけ大切に思われていたら困惑するだろ。俺、あの子と初対面みたいなもんだしさ」

 

 

俺に向けられるはやての顔は親愛に満ちていて、それが自分ではない自分へのものだという事が嫌に心に引っかかってしまう。

 

 

「罪悪感、が近いのかな。あの優しい女の子を騙している気がしてさ」

 

「……」

 

「シグナムたちは俺の事情を知っているからいいんだけど、あの子ははやてだけは知らないんだろう?それがさ」

 

「………すまない」

 

「なんでシグナムが謝るんだよ。悪いのは俺だけだ」

 

「違う、んだ。お前のそれは」

 

「いいんだよ。うん、俺もどこかではやてを避けてたんだと思う。前と同じようにとは行かなくても、なんとかしてみるさ」

 

 

ヴィータとも仲良くなれたんだ。あんなに俺を好いてくれているはやてには今まで申し訳ないことをした。

 

そっと枕と俺の膝を入れ替え、いまだ眠るヴィータの頭を撫でる。

 

 

「そうと決まったら早速、はやてと話してくるよ。そんな不安そうな顔するなって!俺、そんなに前と変わってないって言ってくれたのはシグナムだろ?」

 

「……ああ。お前は本当に、変わらない」

 

「それなら心配ないな。行ってくるよ」

 

 

男は度胸!なんとかなるさ。

 

 

 

 

一階に降りてみると、ソファの上で静かに本へ目を向けるはやての姿を見つける。俺が降りてきたのに気づいたのかこちらへ向ける笑みは変わらず優しいものだった。

 

 

「ユウさん、どうしたん?」

 

「ん?まぁなんだ……少しはやてとおしゃべりでもって」

 

 

そういうとキョトンとした顔の後に嬉しそうに笑って。

 

 

「私も久しぶりにユウさんと2人でお話したいわ」

 

 

多分、これから多くのことをはやてに偽って過ごさなければいけない。

 

けれど、この穏やかで優しい笑顔を向ける少女の顔を歪ませてはいけない、そう心の中で誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 







全てを忘れても、変わらないのは心のあり方。


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A's 第13話 消失した彼の行方

 

 

 

ユウの反応が消えた——その知らせを受けたのは、目覚めてすぐだった。

 

その言葉を聞いて真っ白になった頭に追い討ちのように続くのは、彼がこの事件の犯人たちの正体を知っているかも知れないというクロノの言葉。

 

 

「ユウは君たちが襲われた映像を見て様子を変えた。そして、襲撃者の正体を尋ねたと同時に"否定せず"通信を切ったんだ」

 

 

嘘がつけない彼らしい、そんな現実逃避とも言える感想が胸を占める。

 

 

「その後、君たちとの転送に使っていたあの公園を最後に反応がない。通信はおろか、念話の類も全て試したが……」

 

「ダメ、だったんだよね」

 

「……ああ」

 

「十中八九ユウは、敵に捕まっていると考えていいだろう。今までの傾向なら次の襲撃は近いはずだ。そのタイミングで必ず助ける」

 

 

そのクロノくんの言葉に強く頷くけど不安な気持ちは消えてくれない。なんとなく、第六感とも言える何かが嫌な予感を発し続けている。

 

同じものを感じているからなのか、フェイトちゃんも暗い顔のままずっと黙ったままだった。そんな友だちの姿になのはは明るく声をかける。

 

 

「大丈夫だよ。ユウさんはきっと、大丈夫!」

 

「……うん。ユウ、だもんね」

 

 

そんな言葉を裏切るように__この日から襲撃は鳴り止んだ。

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

「ベルカ式カートリッジシステム?」

 

「うん、それが新しく組み込まれてるの」

 

 

襲撃が鳴り止んだ、けれどそれがいつ再開されるかもわからない中で、なのはとフェイトは鍛錬に勤しんだ。

 

次こそは負けないため、あの子たちと話し合うために対抗する新たな力を望んだなのはたち。その想いに応えたのは、あの戦いの中で大破した2機のデバイス。

 

レイジングハートは新たにエクセリオンの名を冠し、バルディッシュもアサルトへとその姿を変えた。

 

 

「まさかデバイスの方から提案されるとは思わなかったけどね」

 

 

そう疲労困憊の顔で力無く笑う技術者の顔に申し訳なさと感謝の気持ちを覚える。

 

 

「ありがとうございます!それで、このシステムって」

 

「そう。なのはちゃん、フェイトちゃんが戦った闇の書の騎士、ヴォルケンリッターと同じ力」

 

 

あれから無限書庫に勤めるユーノの助力により、今回の敵__闇の書についての情報が集まり出していた。

 

闇の書、その真の名は"夜天の魔導書"。本来は多くの偉大な魔導師たちの魔法を記録し、研究するために作られた資料本としてのストレージデバイスであった。

 

しかし、ある時に歴代の所有者が己の欲望のままに夜天の魔導書のプログラムを改変した結果、それは凶悪な兵器として生まれ変わってしまった。

 

 

『今では持ち主すらにも悪影響を及ぼす正真正銘、文字通りの負の遺産さ』

 

「なるほどな……それであの魔導師たちは」

 

『あの4人は闇の書を完成させるために作られた守護騎士、ヴォルケンリッター。あの本の守り人であり、蒐集と呼ばれる闇の書のページ集めを担う存在だよ。もっとも様子を見るに闇の書の記憶、暴走するなんてことは知らないようだけどね』

 

「……彼女たちも被害者というわけか。後味の悪い……」

 

 

頭を抱えるクロノに同調するユーノ。沈黙が訪れるが、切り替えたクロノが次について話始める。

 

 

「それで、今は蒐集が止んでいるわけだが、君の意見は?」

 

『正直、想像の域を超えないしわからないことだらけなんだけど、ユウが消えたあの場所で一瞬観測された反応』

 

「あの時、時の庭園で見た巨大な力。それと同等のものだな」

 

 

目の前のモニターに表示された馬鹿馬鹿しいほど巨大な魔力の爪痕に頭が痛くなる。

 

 

『それ、多分だけどユウがやったものだと思うよ。魔力の波も似ているし、何より』

 

「その場所にいたのは守護騎士たちとあいつだけ、そういうことだな」

 

 

つまり彼が時間を稼いでくれた、そう考えるのが妥当だろう。

 

 

『うん。……でも』

 

「どうした」

 

『この魔力、確かにユウのものそっくりなんだけどさ……言葉より見てもらった方が早いね』

 

 

そう言ってユーノはデータを転送する。そこにはユウの魔力に"重なるように"検出されたものと酷似した資料が送られてきた。

 

 

「これは……?」

 

『そのデータはとある事件で観測された、暴走時の魔力だよ』

 

「……待て」

 

『……これはクロノの方が詳しいと思うけどね。11年前に起きたエスティアでの暴走事故』

 

 

震える手を強く握り締め、これから聞くことになるであろうユーノの言葉に黒い感情が生まれ始める。

 

 

『時空管理局で保管されていた__闇の書の暴走時に記録された魔力跡とほぼ同じものだった』

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

 

エイミィの言葉でハッとする。ボクは……。

 

あたりを見回せばすでに会議は終わり、残っていたのはボクとエイミィのふたりだけ。

 

 

「ああ。……全く、本当に」

 

 

動揺した心を落ち着かせるために椅子へと深く座り直す。先程のユーノからもたらされた情報は大きなものだったが、同時に酷く辛いものでもあった。

 

 

「ユウくんがぶつかった、もしくは使った力は"闇の書"の可能性がある、か」

 

「エイミィは……どう思う」

 

 

ユウが闇の書事件と大きくつながっているかも知れない、その疑いは__あの日の通信からあったことだった。あの動揺した表情と苦しそうな言葉が嫌に耳に残っている。

 

 

「うーん、管理局としての私は疑わしい、としか言えないけど」

 

「そう、だな」

 

 

そう、ボクたちは管理局であり次元世界の崩壊を防ぐ番人。いくら友人であろうと、疑わなければいけない。

 

そんなボクの思いを見抜いたのか、エイミィは少し明るく大きな声で管理局としてではない、彼女自身の考えを話してくれた。

 

 

「私個人としては”あり得ない”、かな。だって……あのユウくんが誰かを傷つけるわけないよ」

 

「……」

 

「他の人の考えはわからないけど、ジュエルシード事件でどれだけ彼に救われた人がいると思う?そもそもあれだけ一緒の時間を過ごした私たち、アースラの乗員はみんな”またユウくんが不幸に巻き込まれた”って思ってるんじゃないかな」

 

 

ふふ、と笑いをこぼすエイミィに自分の口も自然に開く。

 

 

「そんなところだろうな。本当に……迷惑ばかりかけるやつだ、あいつは」

 

「そんなこと言って。クロノ、笑ってるよ?」

 

「む」

 

 

たった数分の会話だが、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。

 

 

 

それからは色々なことが話し合われた。最優先、最終目標は闇の書並びにその持ち主と騎士たちの”確保”。

 

だが、ユーノの活躍により確保という名の保護であることは暗黙の了解であり、あくまで戦闘はその場の対応によるものとなっている。

 

回復し、新たなデバイスを手に入れたなのはとフェイトは海鳴市へと戻り、嘱託魔導師という立場で動いてもらうこととなった。彼女たちの任務もボクたちと同じ闇の書の確保……そして消えたユウの捜索。

 

なのはたちの回復スピードを見るにユウもすでにリンカーコアは癒えて魔力が蓄えられているはず。それならば見逃さないように厳重態勢であの街を監視するだけだ。

 

 

「必ず、助ける」

 

 

11年前のように、また誰かを失ってたまるものか。そう誓ってクロノは執務官として現場に立つ。

 

 

 

 

————————————

 

 

 

いくら嘱託魔導師という立場になってもなのは、フェイトはまだ学生であり日中はその身を学校におかなければいけない。

 

初めは焦りを見せていたふたりだったが、家族を始めクラスメイトやアリサ、すずかという大切な友との触れ合いは心の傷を癒すのに十分なもの。

 

今日も魔導師ではない、普通の小学生としての日常が始まっていた。そんな日常での一コマ。

 

 

「はやてちゃん?」

 

「うん。図書館でたまたま友だちになった子なんだけどね」

 

 

物語の歯車は再び、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 



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A's 第13.5話 不安の種

 

 

 

 

 

__ふと、違和感を持ったのは何気ない会話の中の一言だった。

 

 

「また新しい本読んでるのか」

 

 

そんな言葉が彼から漏れた時、すぐに否定する。

 

 

「何いうとんの?これ、ユウさんがくれた本やん」

 

「っ、ああ。そうだったな」

 

 

何かバツの悪い、でもすぐに誤魔化すように話題を変えるユウさんに、どこか引っ掛かるものが生まれた。

 

その違和感の要員は他にもあった。

 

例えば、魔法について。

 

 

「私も早くみんなみたいに魔法で飛んでみたいぁ」

 

「ん?そうだな、魔法があれば空だって自由に飛べるだろうな」

 

 

お茶の間で、たまたまみていたファンタジー物の映画をみていたとき、私以外の家族が使える魔法の話をした。……それをユウさんはまるで”あったらいいな”と言っているようで。

 

例えば、家族のことで

 

 

「最近はシグナムやザフィーラと訓練しないんけど、まだ体調戻ってへんの?」

 

「ん、体は大丈夫だよ。てかシグナムはまだしも犬のザフィーラとはすることないだろ?」

 

 

初めはとても小さな違和感だった。でもユウさん__”今のユウさん”と話しているとそんな違和感が疑問や不安になってくる。

 

その不安を少しでも取り除きたくて、他の誰かに聞いてもらいたくて。

 

 

「なぁシャマル」

 

「どうしたの?」

 

「ユウさん、なんか変やない?」

 

「……そう、かしら」

 

「うん、なんとなくやけど…話してると__」

 

 

そう相談してみても。

 

 

「気のせいじゃないかしら。いつも通りのユウくんだと思うけど」

 

 

まるで口を合わせたかのように、私以外誰も違和感を持っていなかった。

 

 

「うん、そうなんやけど……ユウさんなのは間違いない、んやけど。たまに私の知ってるユウさんじゃない気がするんよ」

 

「……そっか。うん、まだ本調子じゃないのかも知れないわね」

 

 

その時、目を逸らすシャマルにまた何か違和感を感じる。けれど、何が引っ掛かるのかが分からず、結局黙ってしまう。

 

最近はどこかみんなの様子がおかしいのも気になっていた。少し前までは夜な夜などこかへ行っていたと思えば、ユウさんを止めてあげてほしいなんて言われて。

 

初めはしばらく会えないと言われていたから、こんなにもすぐに顔が見れて嬉しかった。守護騎士のみんなもまた家にいてくれるようになって暖かかった。

 

でもユウさんとみんなに壁ができたように見えて。時折、ユウさんが私の知っているユウさんとは違う人に見えて。

 

 

「なんなやろなぁ…」

 

 

間違いなく彼はユウさん、それは確信を持って言える。けれどいまだに違和感が拭えず、気分転換に図書館へ来てみたが、ぼーっと棚にある本を眺めることしかできない。

 

……うん、考えてもわからへんものはしょうがない! 何か読もう!

 

そう気を紛らわせるように棚の上部にある本へと手を伸ばす。……絶妙に届かない本をなんとか取ろうと苦戦していると。すっと目の前から本が消える。

 

 

「あの、これで大丈夫ですか?」

 

「え、ありがとうございます…!」

 

 

その日であったのは自分と同い年くらいで、たまに図書館で見かけていた女の子。それがきっかけで友だちにもなれたその子は、月村すずかちゃんという子。

 

場所を移して少し話しただけで凄く気が合う優しげな女の子で、すぐに仲良くなれた。

 

 

「そんならすずかちゃんは聖祥学園に通ってるんかー!」

 

「うん、凄くいいところでね__」

 

 

たわいも無い会話で笑みが溢れる。そういえば同い年の子と最後に話したのはいつだったろうか?気づけば長いこと話してしまっていた。

 

もうそろそろ帰らなければいけない、それを考えるのと同時にまた好ましくない感情が胸に滞り出す。

 

 

「えっと、はやてちゃん?」

 

「…ん、あ!ごめんな。なんでもないんよ」

 

 

少し俯いていたせいか不安げなすずかちゃんの顔が目にうつる。

 

 

「何か悩み事?」

 

「え」

 

「なんだか不安そうな顔してたから」

 

「……うん、少しだけ」

 

 

そんな言葉をきっかけに胸の内に秘めていたものを話してしまう。

 

 

「__だから、不安というよりなんだか引っかかってね。私の勘違い、やと思うんけど……」

 

「……」

 

「すずかちゃん?」

 

 

何も反応がなく、顔をみてみればそこには、ポカンとした表情でこちらをみていたすずかちゃんがいた。

 

 

「あ、ごめんなさい。……うん、はやてちゃんの気持ち、私もわかるよ」

 

「え?」

 

「仲の良い人に何かを隠されてるかもしれない……私も少し前に、凄く仲のいいお友だちが私の知らないところで大変なことをしてたみたいでね」

 

「……うん」

 

「いくら聞いても誤魔化されちゃって……実は私も少しだけ怒ってたんだ。でもね」

 

 

困った顔で話していたすずかちゃんは、少し笑みを浮かべて。

 

 

「仲がいいなら信じて待つことも大事、そんなこと言ってくれる人がいたんだ」

 

「信じて、待つ……」

 

「うん、年上のお兄さんなんだけどね。たまに意地悪なところもあるけど、凄く…凄く優しい人なんだ」

 

 

そう話してくれたすずかちゃんの言葉がすっと沁みる。

 

 

「さっき話してた人って、はやてちゃんにとって凄く大切な人なんだよね」

 

「へ!?」

 

「ふふ、わかるよ。……そんなに想える人ってことはもしかしてだけど」

 

 

にこにこと笑うすずかちゃんの視線に顔が熱くなるのを自覚する。

 

 

「そ、そろそろ私帰らなきゃだから…!」

 

「あ、もうこんな時間。うん、ならまたね」

 

 

連絡先を交換してなるべき早く外に出る。……まだ頬が熱い。

 

 

「……信じて待つことも大事」

 

 

気になることもいっぱいあるけれど。

 

 

「うん、待ってみよう」

 

 

この胸の内にあるものがいつか晴れる、そんなことを願って車椅子の車輪を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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A's 第14話 発現

6/3。800文字くらい追加


 

 

 

 

 

 

 

12月15日

 

 

 

「はやてが入院しなきゃいけないって……」

 

 

「心配するな。検査のため少しの間だけだ」

 

 

時折、はやてやシグナムたちが定期診察のために病院へと行っていたのは知っていたが、突然のことで驚く。

 

 

「でも、この時期からってクリスマスは……」

 

「……ああ。病院で過ごすことになる」

 

 

少し悲しそうにそういうシグナムにパーティーまでの退院は不可能なことが伝わってくる。それは困ったな……。

 

 

「む。それなら病室にプレゼントを届けなきゃいけないよな」

 

「……」

 

「ん?なんだよ」

 

「ふふ。いや、なんでもないさ」

 

 

少し惚けたような顔を見せたかと思えば次には笑いだすシグナムの姿にハテナが浮かぶ。なんだ?

 

 

「少し前まではあれだけ避けていたのに、今では元に戻ったようなことばかり……お前は根から清い人間なだろう」

 

「おう?」

 

「わからないならそれでいい。……お前も主の見舞いに来い」

 

「え、でも」

 

「大丈夫だ。ただ……必ず私やシャマルと共に来てもらうことになるがな」

 

 

そう言って踵を返すシグナム。つまり、外出許可が降りたってことなのか?それならプレゼントを自分で選ぶくらいはできる、そう考えていると再びシグナムが部屋に戻ってくる。

 

 

「ユウ、これを」

 

「ん?」

 

 

そう手渡されたのは、ボロボロの黒い機械とヒビの入った2本のメモリのようなもの……何か見覚えがある気もする。……む。

 

 

「あ、それ」

 

「……覚えているのか?」

 

「え?そうじゃなくて、ほら」

 

 

見覚えのあるものにピンときてジャージのポケットから黒く染まり、赤い線が入った真新しいメモリを取り出す。

 

 

「ずっと入れたままにしてたんだけど、起きた時からここに入っててさ。……うん、やっぱり同じものだ」

 

 

シグナムから受け取ったメモリと比較しても同じものだというのがわかる。まぁこれが何かはわからないけれど。

 

 

「それでこれは……なに?」

 

「はぁ……警戒するのがバカらしくなるな……。それは元々お前のものだ。少し借りていたが返しておく」

 

「返すって言われても……」

 

 

黒い機械を見回すが一体なんの用途で使うのか、そもそも何なのかが分からなければ、どうしようもないと思うんですが。

 

 

「予め私たちの方で直そうとしたんだが、見ての通り動かない」

 

 

シグナムはそう言って俺の手元から端末を抜き取り、横のスイッチのようなものを押すが、このよくわかない端末は沈黙を保ったまま。……壊れてるってことか。

 

そのまま機械を俺へと投げ渡し、部屋を後にするシグナム。そして部屋で一人手元に残った謎の機械を眺めてみる。

 

……至る所に傷が入り、画面にも少し日々が入っている。ボロボロと表現したが、もうこれでは直すこともできない廃棄物に近いかも知れない。

 

 

「ん、傷はずいぶん新しい……でも、こんなにボロボロなら別に捨ててくれて構わなかったんだけどなぁ」

 

 

それともそんなにも前の俺はこれを大切にしていたのだろうか。今となっては何もわからないけれど、せっかくなら持っておこうかな。

 

 

「って、この横のスイッチも取れそうになってるし……」

 

 

本当に何があってこんなになったんだよ……押し込めば大丈夫か?取れかけたボタンを押し込んで、くっつけようとすると指先に静電気のようなものが流れる。

 

 

 

「…ッ?」

 

 

《……err…or》

 

 

「………起動、した?」

 

 

トントンと画面を叩いたり、もう一度ボタンを押すが反応しない。……気のせいか。

 

 

「あ、あとメモリみたいなやつ」

 

 

そして謎のアイテムその2である、このヒビが入った謎の機械。うーん、みるからにこれに差し込むっぽいけど。

 

 

「まぁ、ものは試しか」

 

 

適当に選んだ黒いメモリを差し込んでみる。

 

 

《……ins…tall…》

 

 

「お」

 

 

【0%】

 

 

「……」

 

 

【0%】

 

 

「…………ん?」

 

 

【0%】

 

 

「変わらない…?」

 

 

やっぱり壊れてるのかな?でもなぁ、とガチャガチャイジっていると画面が消えてしまう。

 

 

「あぁ……」

 

「ユウ、飯だぞ。……どうしたんだ」

 

 

ひょっこりとドアから顔を出したヴィータに怪訝そうな顔をされてしまう。……まぁベットの上でひとり崩れ落ちてたらそんな反応になるよな。

 

 

「なんでもない。今行くよ」

 

 

完全に壊してしまったであろう謎の機械をポケットにしまってヴィータについていく。一応起動はしたみたいだけど……うん、気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……__認証___確認___主__失敗__再登録開始

 

 

 

《System = Nacht Wal(ナハトヴァール) Alternative(オルタ-ティブ) —— clear —— Optimisation(最適化) ——Start》

 

【0.2%】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月24日、クリスマスイヴ。

 

 

この日、俺はシグナム、シャマルさん、ヴィータと共に入院中のはやてのお見舞いに向かっていた。別に大きな心配事など無いはずなんだが、俺は。

 

 

「……なんかすごい緊張する」

 

「別にとって食われるとかねーぞ?」

 

「いや、俺、初めての外出。怖い」

 

「シャマル、シグナム。ユウが壊れた」

 

「あら困ったわね」

 

「元からだ。放っておけ」

 

 

ひどい言われようでは??

 

だって考えてみてほしい。目が覚めてから20日ちょっとの間、というか記憶が無いからこの街を歩くのは初めてなわけで。

 

左右をひたすら見回す俺の姿に呆れたような様子を見せるシグナム。いや、こうなってるの貴女たちが大元の原因ですよ?

 

なんて思っているうちに海鳴大学病院へ到着した。

 

 

……うん。

 

 

「ごめん、先に行っててくれない?」

 

「は?」

 

「いや、そのさ」

 

「なんだ」

 

「お、お手洗い……」

 

「……行って来い。主の部屋は__」

 

 

我、トイレ離脱。

 

緊張でぐるぐるとなる腹を抑えてそそくさと男子トイレに。

 

……情けないものを見るような3人の目がとても痛かったのを、俺は絶対に忘れないだろう。

 

 

 

 

 

「あー……」

 

 

そこそこの時間をかけて治ったお腹をさすりながらトイレからでる。うん、快便!

 

さて、早めに合流しなければと教えてもらった病室に向かおうとしたところで。

 

 

「あら、ユウくん?」

 

「はい?」

 

 

突然、名前を呼ばれて振り向くとそこには見知らぬ白衣をきた女性が。……これは。

 

 

「久しぶりね。最近はどうなの?」

 

「あ、えっと」

 

 

間違いなく俺を知っている人のようだ。まずい、俺この人のことわからないぞ……。

 

なんとか情報がないかと目を泳がせていると首から下げた病院関係者用のカードに目がいく。

 

 

「ど、どうも石田先生」

 

「こんばんわ。はやてちゃんのお見舞いよね?」

 

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

 

 

一方、はやての病室では出会ってはいけない、出会うはずのない者たちが不幸にも顔を合わせてしまっていた。

 

 

「あ、すずかちゃん!来てくれたんや」

 

「こんばんわ、はやてちゃん。えっとそれで」

 

「うん、前に話してくれたお友だちなんやろ?」

 

 

偶然。嘘偽りなくその出会いは運命の悪戯。

 

 

「うん、アリサちゃんになのはちゃん、それとフェイトちゃんだよ」

 

「初めまして!」

 

「…こんばんは、なのはって言います」

 

「……」

 

「私は八神はやてって言います。それでこっちが」

 

「……シグナムだ」

 

「こんばんわ。シャマルです」

 

「………」

 

「こら!ヴィータ!」

 

 

パシン、という軽い音とともに赤髪の少女へ目掛け丸めた雑誌が叩かれる。

 

 

「うっ…………ヴィータ」

 

 

友人の誘いできたこの場所で出会ったのは闇の書の騎士の3人。すぐにクロノへと連絡をしようとしたなのはたちだが。

 

 

(……繋がらない……!)

 

 

危険な相手を前に友人たちを巻き込まず、どう対応するか。

 

あまりにも難題なこの事象だったが……ここで戦うのが本意でないのは向こうも同じようで、目の前のシグナムと呼ばれた騎士からの念話により、戦闘は起らない。

 

 

(……後ほど屋上に来い)

 

 

……無事、見舞いを終えてすずか、アリサと別れたなのはとフェイト。……向かうのは屋上、そこに待っているのは。

 

 

 

「まさか、お前達とここで会うことになるとはな」

 

 

3人の闇の書の騎士であった。

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

「そこ座って」

 

「は、はい」

 

 

そう言って通されたのは(多分)検査などをするであろう、彼女の部屋。

 

そんなに時間は取らない、少し話を聞きたいと言われて断れずにおずおずとついてきてしまったが、よかったんだろうか?

 

 

「さて、はやてちゃんがいない時に話すのは、初めてだったかしら」

 

「そう、ですね」

 

 

とにかく話を合わせるために必死に頭を動かす。ここまでの道ながら聞いた感じ、この石田さんという医者ははやての主治医、なんだと思うが。

 

 

「別に怒ったりしないから、そんなに怯えた顔をしないで?……そうね、あなたには前から言っておきたかったことがあるのよ」

 

 

俺がビクビクとしているのがわかったのか、少し申し訳なさそうに笑う石田さん。……って言いたいこと?

 

 

「なんでしょう…?」

 

「ありがとう、そうお礼を言いたかったのよ」

 

「へ?」

 

 

お礼?

 

 

「なんで、そんな」

 

「ユウくんは知らないかもしれないけど、前と比べてはやてちゃんはよく笑うようになったの」

 

「……」

 

「こんなこと、他人の私がいうべきことではないとは思うんだけどね」

 

 

そう言って彼女、石田さんが話してくれたのは俺が出会う前のはやての話だった。

 

幼い頃に両親を亡くしてはやては、ずっとひとりで暮らしていた。普段は明るい彼女も天涯孤独という重いものを小さな時から背負っていた。

 

 

「本人は自覚していないでしょうけど、時折ね。病院にくる家族をみてとても眩しそうにしてたの」

 

「はやてが……」

 

「ええ、いくら口で平気だと言ってもまだ9歳の女の子。とても寂しかったんでしょう」

 

 

小学生なんてまだまだ親に甘えたい年ごろの子ども。でもはやてはずっとひとりだった。

 

 

「初めは、突然紹介されたユウくんのことを警戒したものよ。"急に友達です"って連れてきたのが7つも上の、しかも男の子」

 

「あー、その説はすみません」

 

 

”どう考えても事案だよ、それ”と突っ込みそうになったが、自分がしでかしたことなだけに苦笑いを浮かべるしかない。身に覚えも記憶もないけど。

 

 

「でもね。その日から、はやてちゃんは本当によく笑うようになったのよ」

 

「そう、なんですか」

 

「他人からすれば、それこそなんて事のないものかも知れないけれど、ユウくんとあった出来事をひとつひとつ、宝物のように教えてくれたわ」

 

 

……石田さんから語られる以前の俺がしてきたことは、うん。言ってしまえば当たり前のことばかりだった。

 

どこかへ遊びに行ったり、話したり、誕生日を祝ったり。はやてくらいの歳の子が経験して当たり前の日常を、俺が支えていた。

 

 

「だから、お礼を言いたかったのよ。突然来なくなっちゃうんだもん、心配したのよ?」

 

「……すみません」

 

「でも大丈夫そうで安心したわ。さて、思ったよりも時間を貰っちゃったわね。行ってあげて」

 

 

そう笑顔で送り出される。この少しの時間で彼女がどれだけはやてに気をかけてきたがわかるが、少し言いたいことができた。

 

 

「はい。……あの」

 

「何かしら?」

 

 

まるで自分ははやてに何もできなかった、そんなニュアンスを感じる彼女の言葉に。__少し腹が立っていた。

 

 

「さっきの話、先生はまるで自分は何もしていないと言ってるみたいでしたけど。多分、はやては石田さんのことも大切な人だと思っていますよ」

 

「……」

 

「俺が出会う前のはやてを支えていたのは、間違いなく石田さんです。……そこはだけは、はやてのためにも忘れないであげてください」

 

「……ええ」

 

「それじゃ俺はこれで」

 

「行ってらっしゃい。……本当に、はやてちゃんと出会ってくれてありがとう」

 

 

 

診察室を出て急いで病室へ向かう。気付けば30分以上も時間が経っていた。

 

 

「……絶対、怒られる」

 

 

今から起きる自身への悲劇を嘆きながら急いで階段を登るユウ。もう少しで目的の階に着く、その時。

 

 

「……!?」

 

 

視界が、感覚が切り替わる。先ほどまで聞こえていた人の声は止み、気配も消え去る。

 

 

 

「……?」

 

 

いや、なんだ?爆発音のようなものが聞こえる……?耳を澄ませればここよりも、もっと上から__

 

 

《Emergency! Emergency!》

 

 

「うわっ!?]

 

 

突然鳴り響いた警戒音に驚いてその出どころを探る。音の発信源は……あの黒い機械。画面には"Emergency"の文字が表示され、タップすれば消えてしまった。

 

 

「なんなんだ、一体……」

 

 

突然のことに頭が混乱するが、今はどんどんと大きくなっていく音を頼りに階段を登る。音のする方を目指して上に登っていけば、そこには古びた扉があった。

 

 

……屋上?

 

 

 

 

近づくほどに大きくなっていく、聞いたこともないような激しい衝突音に恐怖を抱くと同時に興味を惹かれてしまっていた俺は、迷いながらもドアノブへと手を伸ばす。

 

そして、震える手でゆっくりとドアを開く。

 

 

扉を開いた先、病院の屋上。……そこには__非日常が広がっていた。

 

 

 

 

 

自分がよく知る人たちが見たこともない……はずの姿で空を駆け、魔法陣のようなものからレーザーを放つ。

 

円状の理解できない文字列から放たれる光、それを空中で受け止める少女たち。その姿、その光景が嫌に何かと重なる。

 

そう、それはまるで……。

 

 

 

「ま、ほう……?」

 

 

 

これは現実か?

 

今までの自分の中にあった常識が崩れていく。

 

冬の闇空の元、奇妙な空間の中で繰り広げられる壮大なファンタジーの世界。

 

 

そんな未知の世界で唖然としていた俺の目の前で何かが起きる。

 

 

 

音にするならば、ドカン! そんな音が眼前でおきた。……屋上のコンクリートが崩壊する。

 

 

何かが空から落ちてきた……?

 

 

 

一体何が……土埃がまった狭い視界の中で目を凝らした先には。

 

 

 

「ヴィータ……!?」

 

 

 

苦悶の表情で屋上に打ち付けれらた——姿は変わっているが——ヴィータの姿をこの目で見た。

 

再び唖然としている中で気づく。……ヴィータの視線は上空に固定されていた。

 

自然とその方向に目を向ければ……そこには巨大な桜色の"魔力"が収束していた。

 

 

 

「————!」

 

 

 

あれは、あれはまずい。

 

確実にヴィータへと向けられたその砲撃を見た瞬間、考えるよりも先に__体が走り出していた。

 

 

走り出したと同時に、ヴィータも俺の存在に気づいた。

 

 

 

「待てッ!来るな!!」

 

 

 

 

そんな必死そうな声が聞こえたが、体は止まらない。

 

 

上空に目をやれば、発射準備が完了した砲撃がもう間も無くこの屋上を飲み込もうとしていた。

 

 

 

「アタシは大丈夫だから…!お前は逃げろ!!」

 

 

怪我をしたまま、額から流れる血をみて……それが自分を逃すための嘘だとはっきりわかる。

 

 そんな言葉を聞いて/そんな強がりを聞いて、止まれるわけないだろッ……!

 

 

 

同時にあの砲撃を構えていた相手……はやてと同い年くらいの少女が何かを口にし、魔力の本流が迫り来る。

 

今までの打ち合っていたものとは、根本的に力の強さが違う。アレは必殺の一撃であり、確実にヴィータを倒すための切り札。

 

——必ず倒す。そんな強い意志を杖を構えた少女の顔から感じた。けれど、その一撃を当てさせるわけにはいかない……!!

 

 

世界がスローモーションのようにゆっくりと流れて行く。一歩、そしてまた一歩と足を進め、ヴィータの前にたどり着いた。

 

どうする。ここから一体どうすればいい?そんな思考が頭を埋め尽くし、俄然に迫る光の本流とそれを放った少女へと目を向ける。

 

 

__そして、俺と彼女の目が合った。

 

 

 

 

「……え……?」

 

 

 

 

その瞬間のあの子の顔は先ほどまでの強い意志を持っていたものとは打って変わり……まるで迷子のような、それでいてあり得ないようなものを見たような……そんな唖然とした顔になっていた。

 

 

その表情に一瞬、虚をつかれるが今はそれよりも。——目の前のものをどうにかしなければ、その意味すらも聞くことは叶わない。

 

 

 

 

__迫り来る巨大な力を前に足がすくむ。お前に何ができる?そんな問いかけが、幻聴が聞こえる。

 

 

この場にいても、駆けつけても何も知らない、何もできないお前が何の役に立つ?

 

 

そうだ、俺は彼女たちが何をして、何のために戦っているかも知らない……部外者であり、イレギュラー。

 

 

むしろ足を引っ張ることになるのは、この場にいる誰もが気づいている。……けれど。

 

 

あのまま、何もできずに……大切な仲間を失うなんてことは。

 

 

 

__ヴィータを見捨てる、そんな選択肢なんてものは……。

 

 

 

 

 

 

 

「あるわけ、ないだろッ!!」

 

 

 

 

視界が、反転する。

 

 

 

__右の首筋が痛む。何かが侵食するように自分の体を這いずる、嫌な感触。

 

 

 

目の前に迫る砲撃を前に適切な魔術を模索する。

 

 

今からヴィータを抱えて逃れられるか?

 

__否。

 

ならば正面から砲撃を打ち消す攻撃を放てるか?

 

__否。

 

なら、できることはひとつだけ。この場面で、この身をもってできることは。

 

 

 

 

————自然に体と口が動く。目の前に訪れた濃い死の匂いを前に俺は右手を上げ__決められた言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

「■■■■■!!」

 

 

 

《Panzerschild》

 

 

 

 

ズキリ、とより強い痛みとともに首筋から"何か"が右腕へと伸びていく。

 

 

——血管のようにも、切り傷のようにも見える赤黒い線が右手の甲まで伸びきると同時に……目の前に迫った砲撃と俺の間に衝撃が走る。

 

 

目が霞む。痛い。胸の内が焼けるように痛い。

 

 

 

けれど、それが発動するための代償というのなら、甘んじて受け入れよう。……そして。

 

 

 

___目の前には黒い、"三角形"の魔法陣が俺たちを守るように盾として展開されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






フォームチェンジは主人公の特権。


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A's 第15話 出会ったのは

 

 

 

 

 

指先が熱い。ぶつかり合う障壁と砲撃の余波がダイレクトに右手を通して伝わってくる。

 

 

「——ッ!」

 

 

ガリガリと、自身がはった命を守るための壁が削られていくのがわかる。

 

なぜ、自分もこんな力が使えるのか、だとかこれはなんなのか?……そんな思考はもうすでに消え去り、今はただこの猛攻に耐えきることだけを意識する。

 

——どれほどの時間が経ったのだろう。

 

数秒か、はたまた数分か。重みを、痛みを訴えていたはずの右手が軽くなる。

 

荒く呼吸を乱しながらゆっくりと目を開ければ、あの強大な力の本流は消え失せていた。

 

 

 

《Standby.___Language__Optimisation___…………確認__完了。目標の消失を確認しました》

 

 

《再設定完了。……認証、確認。接続、確認。システム融合値/適合率……現在……98.2%___おはようございます》

 

 

《では(マスター)、次の指示を》

 

 

 

 

頭痛のように頭に鳴り響く、ノイズの混じったような無感情の女の声に、自分があの攻撃を耐え切ったことを自覚する。

 

多分助けてくれたであろう何者かの声が自身の胸の内から聞こえるという奇妙な体験。そして気になる言葉がいくつもあった。

 

 

「認証……それにマスターって……なんのことだ……?」

 

 

右腕に現れた赤黒い、何かの動力線のようにも見える奇妙な跡……そして、胸の痛みがより酷く辛いものになっていく。

 

 

 

けれど、そのおかげで代わりにヴィータを守れた。その安心感が胸の中に広がり、歓びにも近い感情が生まれる。

 

 

……そうだ、ヴィータは?

 

 

この身をかけて、必死に守った大切な仲間の__彼女の方へと振り向く。その先にいたヴィータの表情は。

 

 

「……お前、それ、なんで……?」

 

 

そこには想像した顔はなく。

 

——恐怖に近い感情で埋め尽くされたヴィータの顔と声が、あった。

 

 

「ヴィー、タ?」

 

「………ッ!ユウ、アタシの後ろに来い!」

 

 

なんでそんな顔をするのか、そのこと尋ねる前にヴィータに腕を引かれ、俺と立ち位置が入れ替わる。

 

それはまるで自分を守ってくれるような立ち振る舞いに見えた。

 

 

「今は大人しくしてろ。……聞きたいことは、あとで教えてやるから。今は目の前の敵に……?」

 

 

 

そう言って視線を上げたヴィータの顔が怪訝そうなものに変わる。同じく、上空にいるであろうあの少女の方へと視線を向ける。

 

 

 

「なんでっ……どうして……?」

 

「……?」

 

 

 

俯き、小さな声で何かを言っているようだが、その表情と声はこちらには届かない。

 

どうするべきか、様子を見ている俺たちの横にシグナムが駆けつける。

 

彼女の姿もやはり変わっていた。まるで騎士のような鎧にも似た姿だが、一体これは……?

 

 

 

「無事のようだな、ヴィータ。そして……ユウ」

 

「……あぁ」

 

「お、おう」

 

「聞きたいことがあるのは分かるが、今はそれどころではない。わかってくれ」

 

 

 

この状況では落ち着いて話すことはできない、そう続けるシグナムに同意する。

 

 

 

「けど、シャマルさんは?一緒にいたはずだろ」

 

「シャマルは結界役だ。別の場所でここを見ている」

 

「結界……って。……その辺もあとで教えてくれるんだよな?」

 

「……………約束する。だが、私もお前の"それ"に関しては、必ず聞かせてもらうぞ」

 

 

 

彼女の視線は、俺の右首から手までを警戒した様子で睨めつけていた。……説明、って言われてもなぁ。

 

コレがなんなのか、なんてことを1番聞きたいのは俺なんだけど。

 

そう伝えておこうとした時、目の前へ誰かが飛び込んでくる気配を感じた。

 

 

 

《未確認の新たな反応あり》

 

 

「っ?」

 

 

 

それと同時にシグナムとヴィータが再び武器を構える。

 

そして、また知らない少女がひとり、この屋上に現れた。

 

俺たちから約10メートルほど離れた位置に立ったその子は、綺麗な金髪を長く伸ばした赤い目の女の子。

 

歳は……はやてや、あの上空の子と同じくらいだろう……けれど、その手に持つ鋭い鎌のような武装と特殊な姿が、彼女もまた魔法を使う非日常の住人ということを表している。

 

多分、敵……のはずなんだろうけど、彼女の視線は真っ直ぐと俺へ注がれていて……最初は驚いたような顔をしていたが、今そこには敵意はなく、どこか親しいものへ向けるような表情のような気がした。

 

 

 

「……………ユウ」

 

「え、と。あの、キミは——」

 

 

 

そんな声と表情に、彼女もまた"前の自分"を知っている人物なのではないか? そんな考えが頭によぎり、声をかけてみようとするが、先にシグナムが前に出る。

 

カチャ、と手に持つ剣を鳴らし俺の前に……俺を守るように? 一歩進み出たシグナムの顔は、どこか焦っているようにも辛そうにも見えた。

 

 

 

「悪いがテスタロッサ、事情が変わった。コイツを巻き込むわけにはいかない。……ヴィータ、ユウを連れて行け」

 

「ッ!? 待ってください!私もユウに……」

 

「おい、ユウ!いくぞっ!!」

 

「えっ……ちょっ」

 

 

ぐい、とヴィータに手を引かれて後ろに後退させられようとする。 でもまだ、確かに自分の名前を呼んだ、あの女の子と話が出来ていない。

 

 

 

「けど、あの子が」

 

「いいから!……いいから着いてきてくれ」

 

 

 

ぎゅっと手を握るヴィータの表情もシグナムと同じように辛そうな顔で……それでいて"何かを隠したがる"ような焦りが見えた。

 

そんな姿を見て黙ってしまう。……今は何も聞かないでくれ、後で話す、そう言われていた……けれど。

 

 

「お願い、待って……ッ!」

 

 

……初めてあったはずの女の子の悲しそうな声と顔が嫌に胸を締め付ける。

 

でもシグナムやヴィータに言われた言葉を破りたくもない、そんな葛藤で気づけば腕を引かれて離されて行く。

 

 

「………退いて、くださいッ!!」

 

「悪いがそれは出来ない!」

 

 

すぐ後ろではシグナムの剣と金髪の少女の鎌がぶつかり合うのが見える。

 

やはり、敵なのだろうか? けれども俺には、そうとは思えない、そんな感情が渦巻く。どうにか話をしたい、そう思った瞬間。

 

 

 

《砲撃感知。(マスター)、止まってください》

 

「え…?」

 

「クソ……アイゼン!」

 

 

その謎の声と、ヴィータの焦ったような言葉が聞こえたのとほぼ同時に振り向けば、逃げ道だった目の前に砲撃が放たれた。

 

その攻撃は俺たちを狙ったものではなく、止めるために放たれたようで、気づけば先ほどまで上空にいたはずの……茶色の髪の少女が降り立っていた。

 

 

「邪魔しやがって…!おい、ユウ危ないから動くなよッ」

 

「あ、おい!」

 

 

そうして、俺の前に出ていくヴィータ。やはり、この場に俺が出てきたせいで彼女たちの邪魔になってしまっている……。それなら、ここから早く蹴るべきなんだろうけど。

 

空から地に足をつけた目の前の少女の顔が、再び俺の心を揺らがせて行く。

 

 

「……ユウ、さん」

 

「……キミは」

 

 

悲しげで、けれどその顔は間違いなく親愛も混ざったもので。そして、俺の名前を知っている。

 

やっぱり、この子も。杖を構えた白い少女……この子も後ろの子と同じで、俺のことを知っているんだ。なら、聞いてみたい。

 

彼女たちが何者で、なぜ闘っていて……そして、俺のことを。今度は自分の方から話しかけようとする……けれど、俺の前に立っていた少女がすぐに襲いかかっていく。

 

ハンマーと杖がぶつかり合って、鉄の音が響く。

 

 

「ッ!!」

 

「ぁ……!待って、私はお話をしたいだけなの!」

 

「邪魔すんなよ……!アタシたちの邪魔をするなあぁぁぁ!!」

 

 

そして、鍔迫り合ったまま高く空へと駆けていく__それは流星のように、赤と桜色の魔力の本流を纏ったふたりが何度もぶつかりながら、夜空へと飛び立っていく。

 

 

「……ウさん……んで、ヴィー………んが!?………ったの!?」

 

「…るせぇ!……には関係………!………らこそ、アイツの…………!」

 

「私たちは……さんの………で、家……だよ!!」

 

「…れなら!アタシたち………だ!!」

 

 

 

何かを話しているようだが、もうほとんど風と激しい戦闘音で聞こえず、断片的にしか拾えない。

 

どうする、俺はどうしたらいい? 眼前で起こっているふたつの戦いを前にして、元から混乱していた頭がより酷くなる。

 

 

 

(マスター)、指示を》

 

 

 

ッ!そうだ、この声についてもまだ謎のままだったんだ。キミは、一体……。

 

 

 

《私は貴方のDevice……言語再構成……デバイスです》

 

 

 

デ、デバイス? てか、やっぱり自分の中から声が聞こえる……というか会話できるのか?

 

 

 

《現在、機体外部の損傷に伴いコアとのリンクを通じていますので》

 

 

……ごめん、言葉が複雑すぎて何言ってるか理解できない。けど、敵じゃないんだな。

 

 

《肯定します。私は貴方の所有物に"なりました"。先ほど全ての構成、接続が完了し、現在は人格プログラムの生成中です》

 

 

AIみたいなもの、なのかな。えっと、とりあえずだけど。

 

 

《はい。ご命令を》

 

 

 

さっきはありがとな。お前があのシールド?を出してくれなきゃ、やられてたよ。

 

 

 

《……………………___いえ。ユーザーデータを修正します》

 

 

先ほどまでのテキパキとした返答から急に間があるものに変化した、デバイス?に違和感を覚える。

 

どうしたんだ? てか何を修正するんだ。

 

 

 

《問題ありません。……また、デバイスという呼称は間違いです。主は他人を人間とは呼ばないでしょう》

 

 

 

そうりゃそうだけど……俺、お前の名前知らないぞ?

 

 

《現在は、認識番号Y-prn0000.S.Nacht Wal Alternativeです》

 

 

長くない……?

 

 

《お好きにお呼びください》

 

 

 

え、それなら……ナハトヴァール、も長いか? うーん。……今この現状で呑気に考えている場合でもないか。

 

 

 

《その考えを肯定します。そして主、既存データの人物が接近中です》

 

 

はい?

 

 

そのナハトヴァールからの声と同時に見知った顔、シャマルさんが現れた。

 

 

 

「ユウくん!大丈夫!?」

 

「おお、本当だ」

 

 

 

便利だな、お前。

 

 

《ありがとうございます》

 

 

 

ぽんぽんと胸を叩いていると、焦っていたような顔をしていたシャマルさんが、怪訝そうな顔へと変化していた。

 

 

 

「え?本当って……」

 

「あ、こっちの話です!……それよりシグナムとヴィータが」

 

「わかってるわ。それでユウくん、貴方……防御魔法を使ったのね……?」

 

 

何かを疑うような、そしてこの人もあのふたりの様にどこか恐れた様に確認してくる。……やっぱり俺に隠しておきたかったのは、この魔法関連のことみたいだな。

 

親しい人に何かを隠されるのは……まぁ、悲しくないって言ったら嘘になるけど。

 

 

 

「この目の前のこと……魔法が、俺に隠してたものなんですよね」

 

「………ええ」

 

 

少しの間の後に、諦めたような表情で肯定するシャマルさんの姿にやはり、罪悪感などがあったことを感じる。

 

……別に攻めようってわけじゃないんだけどなぁ。それに多分だけど。

 

 

 

「……他にも何か言えないことがある、んですよね?」

 

「………ごめんなさい」

 

 

より、後悔が滲みだすシャマルさんの表情に……魔法以上に何か俺に知られたくないことがあるのだと確信した。

 

 

「正直、シャマルさんたちが何をしていたのかとか、何を隠してたのとか……そんなのは別に良いんですよ」

 

「え……?」

 

「だって、なんの理由もなく"みんながそんなことをするはずがない"って信じてますから」

 

「そ、れは……」

 

「だから大丈夫です。……まぁ様子を見ている限り、シャマルさんたち側が何か俺にしちゃった、とかですかね」

 

「ッ!」

 

「あー、やっぱりそうなんですね?」

 

 

 

明確に彼女の表情が変わる。やっぱり、嘘がつけない人たちだな、とつい笑ってしまう。

 

……初めて目が覚めた時、シグナムは明らかに敵意が強く出た顔をしていた。

 

今だからこそ言えることだけど、あの時から……俺は、はやて以外のみんなが俺の記憶喪失に関係しているのだろうと、心のどこかで確信していたんだ。けどさ。

 

 

 

「それでも。あの家で一緒に生活した時間は、笑い合った瞬間は嘘偽りなく良いものだったんです。だから、何があっても……例えみんなが本当は敵だったとしても、俺は絶対に許します! でもって、またあの家に帰りましょう!」

 

 

「ユウ、くん」

 

 

ようやく柔らかい表情になってくれたシャマルさんの表情に安心する。

 

うん、変に遠慮されたり悲しそうな雰囲気よりも、こっちの見慣れた顔の方が良い。

 

 

「このこと、シグナムたちにも言っておいてください。……ってどうしたんですか?」

 

「なんでもないわ。ほんっとうに変わらないのね?」

 

 

笑いながら頬を突かれてしまった。

 

 

「それにシグナムたちにも、今の会話は全部伝わってるわ。だから大丈夫よ」

 

「え、何それすごい」

 

「念話っていうんだけどね。……ユウくんは使えないみたいね」

 

 

くそぉ……そんな便利なものがあるなら使いたいけど……あ。

 

 

「おーい」

 

 

胸を叩くとすぐに答えが返ってくる。

 

 

《今の主は使えません》

 

 

そっかぁ……。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

「……いえ、なんでもないです。それより今は」

 

「ええ、この場を乗り切ることよね」

 

「はい。それでこれから——ッ」

 

 

 

ようやく、本当の意味で分かり合えた。ここから頑張ろうと、そう思ったのに。

 

__突然、激しい痛みが胸を裂く。

 

 

「う、ぐ…ぁぁ……!!」

 

「ユウくん!?……な!」

 

 

……目の前で黒い何かに捕縛されるシグナム、ヴィータ、シャマルさんが、痛みで霞む目の中にうつり込む……。

 

 

 

闇の目覚めが、来た。

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

シャマルを通じて聞こえてくるユウとの会話に、自然と笑みが出てしまう。

 

安堵と、嬉しさ……そのふたつの感情が、心を埋め尽くしてくれる。

 

 

(本当に前から変わってない……けど、変わったやつだな)

 

(ああ、ユウはやっぱりユウだ)

 

 

声音からシグナムも笑っているのがわかる。……うん、アタシ自身びっくりするぐらい心が軽くなっているのがわかった。

 

けれど、それが致命的な油断へ繋がってしまったのは、あまりにも皮肉なことだ。

 

気づけば、ヴィータの四肢は、なのはの捕獲魔法——レストリクトロックによって動きを封じられ、空中に磔のようにされてしまっていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

焦り魔法の術師、なのはの姿を探す。__彼女は、手にBuster Modeとなったレイジングハートを構え、魔力を貯めていた。

 

その姿を視認すると同時にバインドを解こうともがくヴィータであったが。

 

 

「ク……ソ……ッ!」

 

 

どれだけの魔力を使ったのか、その強力な拘束は外れることなくヴィータを縛り上げる。

 

そして、眼前に迫るのは巨大な魔力の渦、レイジングハート・エクセリオンから放たれる必殺の一撃。

 

 

 

《Divine Buster Extension》

 

「シュート!!!」

 

 

 

AAA+を誇る並の魔導士では手の届かない、最強の一撃。それはすでに目と鼻の先。

 

……そして、それを向けられたヴィータは身体を縛られ、動くことができない。それはつまり。

 

 

 

「アタシの、負けだな」

 

 

目を閉じ、迫る砲撃を受け入れる……。

 

それは、普段の彼女なら絶対に認めず最後までもがくはずだが、今のヴィータはどこか付き物が落ちたかのように……苦笑いをこぼしながら目の前に迫る攻撃を受けようと、した。

 

 

 

 

………

 

 

 

…………

 

 

 

……………__?

 

 

 

 

痛みが、こない?

 

いつまで経っても来ない衝撃に、ゆっくりと目を開ける。……目の前には——あの日から、ユウと戦った/蒐集したあの日から沈黙を貫いてきた闇の書が、黒い瘴気を纏って佇んでいた。

 

闇の書が自分を守った? そんなことは今まで一度も__いや、違う。これは。

 

 

「こ、れ……アタシは、知っている……?」

 

 

そうだ、この嫌な感じをアタシは確かに知っている。いや知っている、なんて言葉で済ませるべきことではない。

 

目の前に現れた闇の書__そこから吹き出すように現れた無数の蛇を睨みつける。

 

 

 

《自動防衛運営システム_ナハトヴァール_起動》

 

 

 

「そう、だ。コイツが……コイツが居たからアタシたちはッ!」

 

 

 

《一部、損壊あり……修正。ページ不足。闇の書の完成を最優先に変更。__守護騎士システムの維持を破棄》

 

 

その無機質な声とともに、この戦場にいる全ての__ユウ以外の魔導士が捕縛された。

 

 

 

 

 

 

————————————————————————

 

 

 

 

 

 

やっと、会えた。最初にユウさんと再開できたら、きっとそんな風に思えて、すぐにまた欲しかった元の日常が返ってくるって信じてた。

 

けれど、現実は残酷で辛いもの。……闇の書の持ち主、はやてちゃんとその守護騎士、ヴィータちゃんたちと会えたのは本当にたまたま。

 

けれど、会えたなら聞かなくちゃいけないことがあった。

 

 

 

「ユウさんはどこにいるの?」

 

 

 

闇の書は見つかった。けれど、ユウさんの姿が見当たらない。それが私もフェイトちゃんもどうしても気になって、聞いた……聞いてしまった。

 

その言葉を聞いた瞬間、3人の守護騎士たちは先ほどまで見せていた、まだ対話が可能な雰囲気から殺気とも取れるほどの強いものに変わってしまっていた。

 

だから、本当は嫌だけど戦うことになって。お話をするために、ヴィータちゃんを追い詰めた。

 

これでもう戦わずに済む……そんな思いで撃った一撃は__一番会いたかった人によって受け止められてしまった。

 

それだけなら。それだけなら良かったんだ。けど、その人が持つ魔力が。

 

 

 

「………どうして?なんでユウさんが……」

 

《Search.……Unknown》

 

 

 

黒く、怖い未知のモノに変質していなければ。

 

 

気づけばフェイトちゃんともう1人の騎士、シグナムさんとの戦いが起きた。__目の前に流れる景色が濁る。

 

頭が真っ白になって、よく考えられないけど。

 

私と目が合ったユウさんが……私を認識できていないように、まるで知らない相手とあったような顔をしていたのが、見えてしまった。

 

 

「なんでっ……どうして……?」

 

 

同じ言葉が何度も口からこぼれ落ちる。わからない。

 

ここまで頑張ってきたのは、またユウさんに会いたかった。また話したかった。……また、撫でてもらいたかった。

 

ぎゅっとレイジングハートを握る手に力がこもる。……そんな時。

 

 

 

《Master》

 

「……レイジング、ハート?」

 

 

ただ、呼ばれただけ。それだけなのに、その音が声がなんだか元気付けてくれたように感じて。

 

 

「……うん!いけるよね?」

 

 

《No Problem.》

 

 

もう一度、話すんだ。ユウさんが、"ああ"なったのは、きっと何か事情があるはず。……多分、フェイトちゃんは、それがすぐに分かったから、もう戦っているんだ。

 

深呼吸をして、再び目を向ける。

 

そこに映ったのは、ユウさんをどこかへ連れて行こうとするヴィータちゃんの姿。でもよく見ると、それはなぜかバリアジャケットを着ていないユウさんを、助けようとしているように思えた。

 

 

「やっぱり、何かあったんだ」

 

 

その光景を、守護騎士と決して悪い関係じゃない雰囲気のユウさんを見て確信する。それなら、きっと全部なんとかなる。

 

そう思って再び、ヴィータちゃんとの戦いが始まった。

 

接近戦は辛いけど、空中で飛びながらの撃ち合いは、まだ部のある方に感じてた。

 

……だからこの戦いの中でヴィータちゃんにユウさんのことを聞いてみる。

 

 

「ユウさんが戦わないのはなんでなの! どうしてここにユウさんが!? ヴィータちゃんたちと仲間だったの!?」

 

「うるせぇ!! オマエには関係ないことだろ! オマエらこそ、アイツのなんなんだよ!」

 

「私たちはユウさんの仲間で、家族だよ!!」

 

「それなら!アタシたちもユウの仲間で家族だ!!」

 

 

ヴィータちゃんの口から出てくる言葉にきっと嘘はなくて、だから彼が……あそこにいるのが、私の知っているお人好しで意地悪で、すごく、すごく優しいユウさんだって確信できたんだ。

 

だってユウさんなら、敵だったはずのこの子たちと仲良くなっているのも不思議に思わないから。

 

だからこそ、どうしても聞きたい__聞かなきゃ、いけないことがあった。

 

 

「なら教えてよ……どうしてユウさんは、”私とフェイトちゃんのことがわからないの?”」

 

「ッ!そ、れは……」

 

 

攻撃の頻度も質も一気にさがり、先ほどまでの言葉の勢いが消えていく。……やっぱり知ってるんだ。

 

 

 

「お願い!大切な、大切な人なの!」

 

「ッ……」

 

「ヴィータちゃん!!」

 

「うるせぇ! なら、アタシに勝って無理矢理聞き出してみろ!!」

 

 

……それなら、それなら戦うしかない。

 

 

「絶対、教えてもらうから……!」

 

 

吹っ切れたように、何かから逃げるように激しい攻撃を繰り出すヴィータちゃんは、先ほどのような脅威を感じなかった。

 

そして、何かがあったのだろうか。再び攻撃の手に乱れが増え出す。

 

表情をうかえば……そこには泣きそうなほど顔を歪めたヴィータちゃんが無理やり魔法を行使していた。

 

 

「シャマル…!なんでッ!」

 

 

一体何があったのか、それは気になるけど今はチャンスだ……! なんとか隙を見つけて……?

 

先ほどまでの乱れた攻撃から今度は、一瞬だがピタリと攻撃が止む……そしてポカンとした顔の後に、少し嬉しそうに笑ったのが見えた。

 

……気になるけれど、疑問を持つのは後! 今はっ。

 

そして、拘束魔法を使って……自分の持てる最高の一撃を準備する。そして……放つ。

 

 

 

《Divine Buster Extension》

 

 

「シュート!!!」

 

 

 

確実に捕らえた、そう思っていた一撃は。

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

突然、現れた闇の書によって防がれた……いや、吸収された……?

 

初めは守護騎士の誰かの助けかと思ったけど、ヴィータちゃんが一番驚いた表情をしているのを見て……嫌な予感がした。

 

そして。

 

 

 

《自動防衛運営システム_ナハトヴァール_起動》

 

 

 

本を黒い……黒い蛇たちが覆い尽くし……。

 

 

 

《一部、損壊あり……修正。ページ不足。闇の書の完成を最優先に変更。__守護騎士システムの維持を破棄》

 

 

 

 

 

悪夢が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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A's 第16話 Nacht Wal Alternative

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《___、___》

 

 

………?

 

 

 

《__てくだい。主》

 

 

「ぁ……っ……__!?」

 

 

 

 

 

 

無機質な声とともに意識が浮上する。

 

意識が覚醒すると同時に、訪れる酷い頭痛と胸を刺す痛みに視界が霞むが……映り込んだ街の景色にそれが全て吹き飛ぶ。

 

 

「なんだよ、これ」

 

 

暗闇と静寂、人々の営みが掻き消えた海鳴市。ただ静かなだけならまだマシだった。それならばまだ、気を失うまえに見ていた景色だから。

 

 

けれど俺の視界に映るこの世界は、なんだ? 赤い光の柱が何本も天へとのぼり、見ただけで畏怖すら覚える奇妙な岩の彫像が数多く出現し、街を未知の世界へと変質させていた。

 

 

 

《おはようございます、主。気分はいかがでしょう?》

 

「……良いように見えるか?」

 

《いえ、全く》

 

 

 

感情のない声のはずなのに、このナハトヴァールと言う相手の声は、どこか愉快そうに聞こえるのは勘違いだろうか? 

 

むしろこの状況を把握しているような余裕すら見える気がする。

 

 

「お前、これがどうなってるのか……わかるのか?」

 

《肯定します》

 

「…………」

 

《………》

 

 

嫌な沈黙が生まれる。コイツは俺の質問に対して誤魔化すこともせずに、素直に"はい"と答えた。どこまでを知っているんだ? さっきまでのことか、それとも目の前に広がるこの地獄のような景色についてか、……あるいは。

 

身のうちに潜む正体不明の存在に、第六感とも言うべきものが警戒の音を鳴らす。

 

これ以上、踏み込むな、そんな警告を。

 

……でもこのナハトヴァール、ナハトと言う相手が敵かはわかないし、俺を助けてくれたことも事実。それなら。

 

 

「ナハト、教えてくれ。何が起こってるのか、なんでこんなことになってるのかを」

 

《……了解しました。では___》

 

「ッ………これ、は」

 

 

その言葉と同時にまた鋭い痛みが頭に響く……それと同時に多くの知識が流れ込んできた。それは俺の知らない、裏の世界とも言うべき記憶。

 

闇の書、守護騎士、蒐集……そして、自動防衛運営システム"ナハトヴァール"。

 

 

 

《___完了。以上になります》

 

「………お前は」

 

《はい》

 

「お前は……"ナハトヴァール"なのか?」

 

 

 

ごくりと、喉がなる。今こいつから貰ったものは、どう考えても良くないもので、それでいて自分の中に潜むもの正体と言うべき情報だ。

 

そんなものをなぜ、気軽に……それこそ俺に渡したんだ? だって、そんなことをすれば俺がどうするかなんて、俺の中を見ているナハトには筒抜けのはずのはずなのに。

 

自然と胸を押さえる手に力がこもる。だけど、聞かなきゃいけなかった。自分の身に巣食うこの相手の正体を。

 

 

 

《正確には違いますが、そうとも言えます》

 

「……なら」

 

《私はプログラムの一部……いえ、今はほぼ孤立したモノであり、言わばコピーに近いものとお考えください》

 

「コピー? でも、なんで俺の中にお前が……?」

 

 

敵じゃない、それだけでも少し安心したわけだが。けれど疑問は残る。コピーとはいえ、なんでこんな物騒なシステムが俺の中にいるんだ?

 

 

《主、貴方が私を求め、原典(オリジナル)がそれに応えたと言うだけです》

 

「………前の俺、か?」

 

《肯定します。とはいえ無意識のうちだったようですが》

 

 

以前の、記憶を失う前の俺がコイツを……ナハトヴァールの力を必要とした? なんだ、俺は一体何をしていたんだ? そもそもどうやって、このシステムへと繋がったんだ?

 

多くの疑問がまた頭に上ってくる。それは、どれもが聞かなきゃいけないこと……なんだろうけど。

 

 

 

「……はぁ」

 

《いかが、いたしますか?》

 

 

……無機質な声なんて俺は表現していたけど……というか、感情がわからない声なのは変わってないんだけど、その何かを聞くナハトの声には少し、色がある気がして。

 

 

「まだ色々と聞きたいことはあるけどさ。力、貸してくれるんだよな」

 

《肯定します。繰り返しますが、私は主の所有物ですから》

 

「なら、俺はこれを止めたい。仲間を、はやてを助けたいんだ」

 

 

それに、あのふたりの少女たちとまだ話せてない。眼前の先、遠すぎて少ししか見えないが今も海で何かと戦う、あの白い桜色の魔力を持った少女。

 

そして、俺が意識を失っている間に取り込まれてしまった騎士、シグナムたち。そして闇の書によって飲み込まれているはやてを助けなきゃ……いや、助けたい。

 

 

《……》

 

「お前が、ナハトが何者なんてまだ理解できてないけど。……力を貸してくれ。今の俺にはお前が必要だ」

 

《ええ。この身は貴方のために》

 

「ありがとう」

 

《はい》

 

「……」

 

《……》

 

「……」

 

《……》

 

「……それで、その」

 

《はい》

 

「俺、どうすればいいんですかね……?」

 

《……はぁ》

 

 

いやね、いくら魔法うんぬんの知識をもらっても、使えるかどうかは別のお話でして。

 

 

《決めたセリフの後に言い訳は見苦しいですよ》

 

 

そういえば心の中の声まで聞こえるんでしたね。先ほどまでのシリアスな空気感はどこへやら。

 

ほんと申し訳ないんだけど、助けて……。

 

 

《ダメな主を介護するのもデバイスの務めですから》

 

「はい……」

 

《時間がありません。すでに原典(オリジナル)は管制人格を侵食し始めています。早急に向かいましょう》

 

「いや、それができないから困ってるわけでしてね?」

 

《うるさいですね、最後まで聞きなさい》

 

 

ナハトさん? あなた、なんかどんどん性格変わってませんか?

 

 

《今から主は私を使います。デバイスの使い方は__今、教えました》

 

「それはありがたいんだけど……あのさ、この痛みはなんとかならないの?」

 

《はい。次にですが、私の危険性についてです》

 

「"はい"じゃなくてさ……って危険性?」

 

 

初耳なんですけど。

 

 

《すでにご存知でしょうが、私はあの原典と同じ性質、つまり使い続ければロクなことになりません》

 

「……それは」

 

 

自分の右手を見れば、そこには赤黒い線がまだぼんやりと光るように鼓動している。一度、ナハトの力を借りたときにできた呪いの証。

 

 

《ただ運が良いことに主は"偶然と思えないほど"、私たちと相性が良いのです。ただ融合率が高まるほど危険性、暴走の可能性が上がっていくという事実は変わりません》

 

 

そのナハトの言葉とともに目の前に、半透明の画面が現れる。そこには【システム融合値/適合率98.9】と表示されていた……って。

 

 

「もう100%いきそうじゃん!?」

 

《ええ、普通なら即死ですね。ですが主はまだ余裕があります》

 

「そうなの……?」

 

《はい。ですが先ほども言ったように調子に乗って使い過ぎれば……》

 

「過ぎれば……?」

 

《"戻れなく"なります》

 

「戻れなく?」

 

 

それは一体どういう意味なのか、その疑問を俺から聞く前にナハトは自身の危険性を伝えてくる。

 

 

《言葉通りです。私と完全に融合し、主は人ではなくなる__そういう意味です》

 

「……」

 

《大きすぎるリスクです。もう一度聞きますが、それでも》

 

 

 

 

__私を使いますか?

 

 

 

そのナハトの言葉に迷わなかったと言ったら嘘になる。人でなくなる、ナハトと同じようになってしまう。その危険性は、恐怖は確かにすごく大きいものだ。

 

 

自分が自分ではなくなる、それはある意味の死を意味した言葉で、コイツの言葉通りあまりにも大きなリスク。

 

きっと本当ならそんな力は手放すべきで、他の方法を探すのだろうけど。……うん。

 

 

 

 

「——俺の答えは変わらない。力を貸してくれ」

 

 

きっと、自分を犠牲にするこのやり方は、この選択は……他の人からしたら愚かで。

 

 

 

《良いのですね?》

 

「ああ」

 

 

 

とてもじゃないが、見ていられないものかも知れない。けれど俺は、自分よりも大切な誰かを助けたいから。

 

 

 

 

《……了解。【standby lady?】》

 

 

 

だから、俺は。

 

 

 

 

Nacht Wal Alternative(ナハトヴァール・オルターティブ)__セットアップ」

 

 

 

 

この選んだ道を後悔したりしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 









自己犠牲の果てに掴む力は、弱く脆く儚い。__けれど、誰かを守ることはできる。


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A's 第17話 Re:再会

 

 

 

 

 

 

 

 

時が止まったかのように静寂する海上で、白き魔導士……そして稲妻を纏う魔導士と、闇の書の管理者は激しい攻防を繰り広げていた。

 

管理者——闇の書の意志によって海に出現した奇怪な岩の中、空を駆け、魔法を駆使し……辛く長い戦いは続いている。

 

 

 

「フェイトちゃん!」

 

「ッ!バルディッシュ!」

 

 

 

迫り来る黒い魔力の本流、それをなのはが防ぎ、フェイトが攻める。再開して間もないとは思えないほどに、ふたりの息はあっていた。

 

片や、はやてを騎士たちを……そして目の前で涙を流した管制人格を救うため、片や幸せな悪夢を切り捨て大切な友を救うため、戦うなのはとフェイトの覚悟はすでに英雄や勇者と呼ばれる類の人種と変わらないほどに強くなっている。

 

 

 

「お前たちが……お前たちさえ現れなければッ!!」

 

 

相対する闇の書の意思、その想いも強いもの。まもなく訪れる終焉、彼女の主たる少女——はやての死の前に、彼女の最後の願いである夢を守るために、戦い続ける。

 

……けれどその願いは悲しいもので、それでいて彼女の主が本当に願っていたことなのか、その小さな疑問を確かに胸のどこかに隠したまま。

 

 

正義は勝つ、そんな言葉があるが現実で同じことが起きるとは限らない。この戦いはお互いの大切なものを守るための戦いで、正義というものがあるのなら、それはなのはとフェイトに傾くであろう。けれど。

 

 

 

「闇に……沈めッ!」

 

 

空中へと展開される数多の血が如き赤に染まった短剣__ブラッディダガーはその鋭い命を刈り取る刃先をふたりの魔導士へと牙をむく。

 

それはすでに激しい消耗をかせれた、なのはたちには厳しい攻撃。それはあまりにも無慈悲な一撃。

 

 

「いっ……!」

 

「なのはっ!ぁっ……!」

 

 

仲間がいれば多くのコンビネーションでの攻撃が可能だが、一方で仲間だからこそ被弾すれば気がそちらに向く。その隙を決して闇の書の意思は見逃さない。

 

先ほどまであったはずの距離は一気に詰められ、鋭い拳の攻撃は体制を崩した__なのはへと向けられる。

 

 

 

「沈めッ!」

 

「ぁ……」

 

 

世界が、時間がゆっくりしたものへと変化する。迫り来る攻撃……シュヴァルツェ・ヴィルクングを前に、すでにシールドを貼る余裕があるはずもなく。

 

ただ、このコンマ数秒後にくる痛みを覚悟した。

 

 

 

___けれど、痛みはこない。

 

 

 

恐怖で閉じた瞳をゆっくりと開ければ、そこには。

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 

いつか見た、そして一番見たかったあの人の背中があった。

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

Nacht Wal Alternative(ナハトヴァール・オルターティブ)__セットアップ」

 

 

 

 

《Erosion・Nacht Alt 1 Plot Mode》

 

【phase1 Start】

 

 

 

灰色のバリアジャケットに黒く渦巻く蛇のような装飾が施された鎧、そして全身へ赤く鼓動する魔力線が伸びている。

 

 

《リンカーコアとの適合および変質確認。行使魔法を最適のものへ》

 

 

三角形の__古代ベルカ式魔導陣が眼前に現れ、自然と手を伸ばせば黒曜石のように黒く、そして鈍く光る西洋剣が出現した。

 

 

すぐそばに落ちている砕けたガラスに反射した自身の姿はまるで……。

 

 

 

「……騎士?」

 

 

近いもので言えば……シグナムのバリアジャケットのような感じか? ただ近いだけで別物のようだけど。

 

 

《適合完了。現在は問題ありません》

 

「おう。それでどうすればいい?」

 

《基本的な演算、アシストは私が担います。主は気が向くままに戦ってください》

 

「なら早く行こう。一応聞くけど」

 

《飛行魔法も可能です》

 

 

それを聞いて右手を振りかぶり、ベルカ式の魔法陣を出現させる。そして背後には鳥類のような黒い翼が現れた。……この姿、客観的に見ると。

 

 

「どう見ても悪役の格好なんだけど」

 

《とてもお似合いです》

 

「………」

 

《とても、お似合いです》

 

 

なんで2回いったの? そう問い詰めようとしたが、それよりも先にナハトから待ったがかかる。

 

 

《感知した管制人格と戦闘中の魔導士の魔力が低下中。簡潔に言えばピンチです》

 

「マジかっ!急ぐぞ!」

 

 

思考が切り替わる。始めて使う力だが練習している暇はない。自然と足に力を込め、飛び上がる……普通なら少しジャンプして終わりのはずだが、ぐんぐんと飛距離を伸ばし、空中で停止する。

 

 

「あの子たちは!?」

 

《4時の方向、海上です》

 

 

その言葉を聞くと同時に空中へ魔法陣を平行に展開、そしてそれを足場のように蹴り飛ばす。

 

 

《アシストは要らないようですね》

 

「はい!?」

 

《いえ、説明せずとも"自然に"使いこなしているようですので》

 

 

……そう言えばさっきから特に意識せずに、魔法が使えてる?

 

 

《記憶を失っていても体は覚えている、ということでしょう》

 

「ホント、そこら辺はありがたいな!」

 

 

さらに魔法陣を展開して蹴り飛ばし加速する__まだ足りない。

 

 

《魔力を再計算__演算完了。適合します》

 

 

あたりの景色がブレる、体へかかる負荷が増えた? もしかして速度を上げてくれたのか。

 

 

《肯定します。あと15秒後に敵対相手との戦闘領域へ侵入します》

 

 

そのナハトの言葉を聞いたとほぼ同時に、あれほど遠くにいたはずの少女たちと闇の書の意思、管制人格の姿を捉える。ってマズい!

 

 

「おい、あれって!」

 

《完全に体制を崩しています。間違いなく__解析、シュヴァルツェ・ヴィルクング__が命中します》

 

 

それなら!

 

 

「このままあの攻撃をしてる人に突撃するぞ!なんかないのか!?」

 

 

命令(オーダー)、確認。展開準備開始》

 

【Panzerschild】

 

 

その音声とともに目の前にベルカ式魔法陣が展開される。これヴィータの時のやつか? この一枚の障壁で防ぎ切れるのか、そんな不安が胸の中をよぎるが。

 

 

《問題ありません。そのままの速度で行ってください。直撃まであと4秒》

 

「うぇ!?あぁ!もう!!」

 

 

右手を前にして覚悟を決める。今更あと戻りはできないんだ、それなら派手にかますしかない! もう目の前に迫った相手の姿に覚悟を決める。

 

 

《3、2、1……出力最大》

 

 

「——展開ッ!!」

 

「……っ!」

 

 

白い少女の斜め横後ろから割り込む形で相手の攻撃を受け止める。同時に先ほどまでの体への負荷とは、比べられないほどの衝撃が右手にかかる。

 

マズい、抑えきれないっ! 瞬時に左手で同じシールドを展開する。あとのことなんて考えている間もなく、なるべく多くの魔力を集中させて、今にも軋み砕けそうなパンツァーシルトを維持し……闇の書の意思を思い切り跳ね除ける。

 

かなりの衝撃だったのか、遠くまで吹き飛ばすことに成功した。今なら、この子たちと少しは話せる。

 

 

「よしっ!」

 

 

そして振り返り、背後の少女の安否を確認する。見た目は……傷は酷いけど無事みたいだな。

 

 

「大丈夫か?」

 

「………」

 

「? おーい」

 

 

ポカン、そんな効果音がつきそうな顔をしたまま反応がない少女に少し焦りだす。あ、あれ、もしかして掠ったりしてた?

 

あわあわとどうしようかと迷っているともう一人の、金髪の少女が近くに来る。

 

 

「……ユウ」

 

「えっと、キミは……」

 

 

確か、シグナムがテスタロッサって呼んでた子だったか。その子も少しポカンとした表情をしたあと、俯いてしまう。え? なんで?

 

頭にハテナが浮かんでいると、とん、と背中に何かがぶつかる。振り返れば白い少女が頭を俺の背中に預けていた。

 

 

「……ユウさん」

 

「あ……だ、大丈夫か?」

 

「…………うん」

 

 

か細い声ではあったが確かに安否の確認ができて一安心。……なんだけど、声音がなんだか泣いているようなものの気がして、どうするべきか分からず、困ってしまう。

 

 

「っ!」

 

「うぉっと!?」

 

 

そんな俺へ突撃してくる子がもう一人……というか、さっきまで俯いていたテスタロッサちゃん? だった。

 

え、なにこれ、ナハト助けて……。

 

 

《子どもが泣いているんです。慰めることくらいできるでしょう》

 

 

そんなこと言われても、俺、この子たちのことわからないんだって。

 

 

《それは主の視点です。その少女たちは、どう見ても貴方のことを慕っています》

 

 

……う。そうだよ、な。なら、えっと。

 

散々迷った上で、抱きついてきたふたりの頭をなるべく優しく撫でてみる。本当に恐る恐るだけど、ゆっくりと撫でてみれば……。

 

 

「……ぅ……っ…」

 

「……ぇぐ……ぅ…」

 

 

悪化してませんか!? 泣き始めちゃいましたけど!? ちょ、ヘルプ!ナハト!?

 

 

《知りません。……それより、来ますよ》

 

 

「ッ!」

 

 

その言葉と同時に二人の少女を抱き上げ、上に飛翔する__そして、先ほどまで俺たちがいた場所へは赤黒い砲撃が空を切った。

 

……本来なら泣いている子たちにかける言葉じゃないんだけど、そんなことも言ってられない。抱き上げられ、ハッとした表情をした少女たちになるべく優しく話しかける。

 

 

「……悪い。今は俺、戦わなくちゃいけないんだ。君たちは早く逃げろ」

 

 

巻き込むわけにはいかないから、そんな意味を込めて彼女たちにかけたその言葉は。

 

 

「「……」」

 

「……え?」

 

 

先ほどまでの泣きそうな顔から一転して怒った表情へ。なぜに?

 

 

「あ、あの?」

 

「私たちも戦えるもん!ユウさん、そう言ってまたどこかに行っちゃうんでしょ!」

 

「そうだよ…もう絶対行かせない……!」

 

 

Why? いったいなんで俺は怒られているんですか?

 

 

 

「あの君たちは……」

 

「なのは!」

 

「フェイト!」

 

「は、はい……なのはさんとフェイトさんは何をそんなに怒っていらっしゃるんですか……?」

 

 

ピキリ。アニメや小説なんかで登場人物が怒った時に使われる効果音。そんな音が確かにふたりから聞こえた。

 

 

「……ユウさん。終わったらお話しようね?」

 

「……絶対、もう離さないから」

 

「……………はい」

 

《何そんな小さな子たちの圧に負けているんですか》

 

 

なんとでも言え。怖いものは怖いんだ。

 

……さて。逃さない、行かせないってことは。

 

改めてふたり、なのはとフェイトに顔を合わせる。俺の顔を見たふたりも俺の意図に気づいたのか、顔を引き締める。

 

 

 

「一緒に、戦ってくれるか?」

 

「うん、今度は一緒に」

 

「私たちとユウで」

 

 

 

「「戦おう」」

 

 

 

 

覚悟が決まったふたりの顔は少女のものではなく、まるで英雄や勇者のようで__どこか安心するものだった。それならば、俺だけではなく、3人で立ち向かうとしよう。

 

 

そして振り返って先には黒い塊……いや蛇を手に宿らせた__?

 

 

「……キミ、か」

 

 

黒い西洋風の騎士服のような姿、白よりの銀髪……そして、その赤い目は———確かに見覚えがある。いや、けれど……。

 

 

 

「……ユウ。できれば、こんな形で会いたくはなかったよ」

 

「な、んで」

 

 

 

苦しそうに歪んだ表情で、けれど悲しそうな表情をする目の前の、管制人格を確かに俺は知っている。その姿は……その顔は、やっぱりあの夢の中で会った__。

 

 

 

「キミを、傷つけたくない。……そんな力に頼っていても私を救ってくれたキミを。だから」

 

 

 

逃げてくれ、その言葉を発したと同時……ナハトヴァールの暴走が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







予約投稿の日にち(本来は6/9公開)を間違えたので、明日は更新ありません……。


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A's 第17.5話 心の世界で

 

 

 

 

 

 

すぐにこれが、夢ということは気がついていた。

 

自分の意思に従って自由に動くことができる足。欲しかった、大事にしていた家族のみんなとの日常。

 

朝になれば共に寝ていたヴィータと起きて、台所に向えば一緒に朝食の準備をしてくれるシャマル。

 

常に寄り添うように、守ってくれるように側にいてくれるザフィーラに、いまだに少し遠慮が抜けきらないシグナム。

 

それでいて、毎日遊びに来てくれる私の初めてのヒト。

 

 

 

「————」

 

 

 

欲しいものが全て揃っていて、不自由な体もなく、ただただずっと続いて欲しいと願うような理想の光景。

 

だからこそ、これが夢だと……覚めてしまう残酷なものだと気づいた。

 

けど、不思議なことに。

 

 

「何も、思い出せない」

 

 

目の前の光景が夢だと気づいても、目覚めることはなく。そして、現実のことを考えようとすれば、もやのようなものがかかって上手く思い出せない。

 

”いつものように”ソファーに座ってそのことを考えていると、ぽん、と頭に手が乗せられる。その腕の持ち主は優しく微笑んでいて、何かあったのか? なんて聞いてくる。

 

 

「ん。なんでもないんよ」

 

 

そうか? なんて言いながら隣に座ってきたヒトの顔を見て、もうこのままでも良いかな、なんて思い始めた。

 

現実は辛くて、悲しくて、嫌なことばかり。けどこっちなら苦しむことなんてない。それなら、このまま__。

 

 

「良いのか?」

 

「え?」

 

 

その言葉を投げかけてきたのは、さっきまでの顔から一転して少し悲しそうに笑う目の前の少年。なんで、そんなことをいうのか? そんな心の中の声をまるで聞いたかのように彼の口は開く。

 

 

「ここには多くのもがるけどださ」

 

「……うん」

 

「はやてが大切にしていたあの人はいないだろ?」

 

「————」

 

 

あの人……それが指すのは今まで夢でしか会えなかった、けれど大切な私のもうひとりの家族。

 

 

「ここは幸せで、優しいところだ。けど」

 

「あの子が、いない」

 

「ああ」

 

 

いつも守護騎士のみんなを案じてくれて、私のことを気にかけてくれて。夢から覚めると忘れてしまう綺麗な赤い目の女性。

 

それを思い出すと同時に、自分が眠る前のことがゆっくりと確実に、そして鮮明に蘇る。

 

そうだ、なんで忘れてたんだろう。この場所は理想のような場所だけれど……確かにあの子が、あの子だけがいない。

 

 

 

「思い出したのか?」

 

「うん」

 

「そっか。……ならはやてはどうする? このままここにいるのか?」

 

 

その問いかけはどこか私を案じているようで、この人にそんな言葉を投げかけれたら頷きたくなっちゃうけど。うん、でも。

 

 

「私、行かなきゃ」

 

 

この夢はとても楽しいもので、私の理想を詰め込まれたような場所。けど、あの子がいない。最後に泣いていたあの子の笑顔をまだ見ていない。

 

そう話すと彼は。

 

 

「うん。だったら行かないといけないな」

 

 

そう言って優しく頭を撫でてくれる。……そんな目の前の人に少し引っかかるものがあった。この場所にいる他のみんなは、どこか違和感のようなものがあったけれど、この人だけは全くそれがなく、現実の彼と言われても気づけないくらいだった。

 

そんなところが逆に違和感になって、気になっているのだけれど。そんな疑問に再び気づいたのであろう、彼が口を開く。

 

 

「ん?……まぁオレはちょっとだけ特別なんだ。けど別に対して他のみんなと変わらないさ」

 

「なら、なんで」

 

「今は」

 

 

他にもあった疑問をぶつけるよりも先に言葉を重ねられてしまう。

 

 

「今はもう時間がないんだ。あっちのオレも頑張ってるけど、暴走が進みすぎてる」

 

 

そう言って再び、いや先ほどよりも強めに頭を撫でられる。

 

 

「早く行ってあげな。この先、辛いことも悲しいこともたくさんあると思う。けど同じくらい素敵なことや新しいことに溢れてるのが現実なんだ。だから、決して諦めるなよ?……ほら」

 

 

そう言って背中を押される。

 

先ほどまでソファーの背もたれがあったはずなのに、私の体は倒れ込むように落ちていく。

 

まって、まだ聞きたいことがある。そんな言葉は、開かない口で発せずに。ただ遠くなっていく少し寂しげに笑う__ユウさんの顔を見ていることしかできなかった。

 

 

「頑張ってこい!……最後に会えてよかったよ」

 

 

最後って、何を言って————。

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

「………ぁ」

 

 

再び目を覚ました時、そこは先ほどまでの自宅のリビングではなく。暗く不気味なほど広い空間。

 

そして自身が座るのはソファーではなく、車椅子。足は自由に動くはずもなく、今の今まで見ていた幸せな夢を思い出して苦笑を浮かべてしまう。

 

そして、顔を上げた先には__うん。やっと会えた。

 

ずっと泣いていたのだろうか、元から赤い目をより赤くして、辛そうに私を見続けてくれたあの子がそこにいた。

 

 

「……主、なぜ……」

 

「全部、全部思い出したよ」

 

 

その私の言葉に顔が、表情がくしゃっと歪む。

 

 

「どうか、どうか再びお眠りに……せめて貴女の心だけは幸せに、夢の中だけでも……ッ」

 

 

彼女から伝わってくる私への優しい気持ち。それだけで、どれほどこの子が私を想い守ろうとしてくれていたかが伝わってくる。

 

 

「……ありがとうな。けど、そやけどソレはあかん」

 

「ッ」

 

「私ら似てるなぁ。……うん、みんな一緒や。たくさん辛いことがあって、ずっと寂しい思いも悲しい思いもしてきた」

 

「なら、せめてっ!」

 

「そやけど、忘れたらあかん。今の(マスター)は私。そして、貴女は私の大事な子や」

 

 

彼女の頬を撫でる。一体どれほど私のために泣いてくれたのか、涙の跡が残ってしまっている。

 

 

「ですが、ナハトがっ……暴走が止まりません!もう抑えることが……」

 

「大丈夫。……止まって!」

 

 

魔法の使い方は、まだあまりわからないけど。けれど、今も外で戦う誰かを感じ取れる。

 

 

「聞こえますか? 聞こえますか!?」

 

 

必死に外へと声を伝える。暴走しているものではなく、あの本なら、この子を通してならきっと通じる。

 

 

「すみません、協力してください!」

 

「この子に絡まった黒い塊のようなのを壊してください!」

 

 

きっと外で戦ってくれている病室であった、なのはちゃんとフェイトちゃん。そしてユウさんへ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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A's 第18話 破滅へのカウントダウン

 

 

 

 

得体もしれない黒き呪いの化身。目覚めれば、己の主人すら巻き込んで有りとあらゆる全てを破壊し尽くす破壊に特化した狂ったシステム__ナハトヴァール。

 

 

その目覚めの始まりは、自身の宿主であり書の管理を司る存在、管理人格を取り込むのがファーストステップ。

 

つまり、目の前で起こる光景……あの人を縛り上げ始めたあの蛇がその現象の現れの証というのは明白だった。

 

事前にナハトからもらった知識で知っていた光景に、分かっていることだからこそ覚悟も対応もできるはずだったんだ。その、管理人格の顔を見るまでは。

 

苦悶の表情で、耐えるように顔を歪める涙で濡れた赤い目を持った銀髪の女性……俺は彼女のことを“知っている”。

 

 

 

「貴女が闇の書の管制人格(マスタープログラム)、だったのか」

 

「ユウさん、あの人のこと知ってるの?」

 

「それに”逃げろ”って言われてたけど」

 

「………ああ。とても、とても優しいヒトだ」

 

 

 

なのはとフェイトの言葉に自然と口が動く。

 

そうだ、あの人は絶対に悪い人じゃない。目の前の人とは初めて会ったはず、けれどこの体が、胸の中の何かがそう訴えてくる。

 

絶対に、助けろ。そんな想いとともに。

 

けれど、この子たちからしてみれば闇の書の根幹であり、まごう事なき諸悪の根源。それでいて今の今まで争っていた相手。

 

それを助けたいだなんて、言えるはずが__

 

 

 

「なら!助けなきゃ!」

 

「そうだよ!早く助けないとダメだよっ」

 

 

ない、はずなのだけれど。俺のたった一言で助けなきゃいけないと断言するふたりの言葉に動揺してしまう。

 

 

「いい、のか?」

 

「うん。私たちははやてちゃんも守護騎士の人たちも……あの人もみんな助けたいんだ」

 

「ユウも、だよね? だから私たちにも協力させて」

 

 

当たり前のように手を差し伸べてくれる少女たちに、感動の涙で少し目が霞む。けど1度助けたという前例があっても、この場に現れた俺はどう見ても向こう側だ。なら、どうしてそんなに協力的なんだ?

 

そんな疑問に答えが出ず、つい言葉に出して確認をとってしまう。

 

 

「けど、俺は君たちの敵かもしれない__」

 

「絶対ない!!」

 

「冗談でも、怒る……!!」

 

「ぅえ!?」

 

 

なんだこの厚い信頼は。けれど、それも今はありがたい。

 

 

「そ、それなら、うん。協力してくれ」

 

「「うん!」」

 

 

強く頷くなのはとフェイトを見て、不思議と強く信頼できた。俺ひとりでは、どうしても手数が足りないがこの子たちがいればなんとか__

 

 

 

「——ぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

酷く苦しむ叫び声。その絶叫にすぐに目の前で起きる事象を目の当たりにする。

 

先ほどまで左手だけを縛り上げていたあの黒い塊は四肢へと伸び切り、彼女を__管制人格を確実に侵食していた。それと同時に。

 

 

《現在、原典の管制人格への侵食率60%を突破。簡潔に言ってマズいですよ》

 

「わかってるよ。見てるし、痛いほど"感じてる"」

 

 

胸の刺すような痛みが彼女の悲鳴に合わせ、どんどんと増している。これは間違いなく。

 

 

 

同調(シンクロ)現象確認。主、問題ありませんか?》

 

「まだ大丈夫だ。……大丈夫、だよね?」

 

《肯定します。ただ、確実に変化は訪れていますが》

 

「ユウ、さん? 誰と話してるの……?」

 

「それに苦しそうだよ。何か私たちに隠してる……?」

 

「っ。いやなんでもないよ。それよりアレをどうするかだけど」

 

 

 

正直、中にはやてがいるということも相まって下手に手出しができないのが現状だ。どうする、どうすればいい?

 

ただ、様子を見ることしかできない、そんな状況で管制人格の持つ闇の書とナハトヴァールに異変が起こる。

 

先ほどまで激しく暴れていたはずなのに、止まった……?

 

同時に聞き覚えのある、あの少女の声が聞こえた。

 

 

 

『……えますか?…の人!』

 

「この声……」

 

「はやてちゃんの声だ!」

 

 

 

暴れ続けるナハトヴァールとは別。その隣の書から発せられた声は間違いなく、はやてのものだった。

 

 

『すみません、協力してください!』

 

 

確かあの子は、はやては闇の書によって縛られ、"幸せな夢"を見させれて眠っている状況のはずだが。

 

 

《その優しい呪縛を解き放ったのでしょう。おそらくですが、自分の意思で》

 

 

つまり……あとは。

 

 

『この子に絡まった黒い塊のようなのを__』

 

「っぁぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 

「ッ!」

 

 

耳が引き裂かれそうなほどの絶叫。どれほどの苦しみか、その声を聞くだけで伝わってくる……いや、これは抑えてるから、か?

 

 

《肯定します。現在、管制人格の最大限の力によって原典はまだ解放されていません。……時間の問題ですが》

 

 

やっぱり、あの状況と苦しみ方は抵抗してるから。本来なら諦めてしまえばすぐに楽になる……けれど自身の苦痛と引き換えに耐え忍んでいるのだろう。ただ、もう崖っぷちというところのようだ。

 

ならば、はやてのいう通りあの黒い塊__ナハトヴァールを分離させればなんとかなるはず、だよな。

 

 

《通常、内部に巣食う原典が表に出ているこの状況なら……いえむしろこの状況が絶好のチャンスでしょう》

 

ああ、でもどうすればいい。攻撃して良いのか?

 

 

そんな俺の疑問は、この場にいない別の第三者の声によって解決することになる。

 

 

『なのは!聞こえるかい!?』

 

「ユーノくん!」

 

 

『フェイト!大丈夫?』

 

「アルフ!」

 

 

「ユーノ、アルフ……?」

 

 

横にいるふたりの少女がノイズがかった画面を開いていた。そこからはそれぞれ別の声が出ており、様子を見るになのはとフェイトの仲間のようだ。

 

 

『今の現状は分かっている。主が書から目覚めたことで、今なら防御プログラムから切り離せるかもしれない!』

 

 

その聞こえた言葉に、つい食い気味になって耳を傾けてしまう。

 

 

「本当!?」

 

「具体的にどうすれば!?」

 

『ふたりの純粋魔力砲でその黒い塊をぶっ飛ばして! 全力全開、手加減なしで!』

 

 

どうやら手加減なしの砲撃であれを、ナハトヴァールを吹き飛ばせば良いとのことだったが……。

 

 

「でも、暴れているせいで照準が……」

 

『……だからこそ、僕たちが向かってるんだけど』

 

 

時間はかかる、そういうことなんだろう……なら。

 

その通信に声を割り込む。

 

 

「それなら俺がなんとかする。だから砲撃はこのふたりに任せるってのでどうだ?」

 

『え、この声……ユウッ!?』

 

 

あ、この人も俺の知り合いか?

 

 

『ちょ、そこにユウのヤツがいるの!?』

 

 

そっちもかい。

 

 

 

「うん!見つけたよ!」

 

「けど、今はその話より」

 

『あぁ、ごめん。冷静さを欠いたよ。それならいけるはずだ。……ユウ、あとで話があるよ』

 

『……アタシもちょっと聞きたいことがたんまりあるから』

 

「お、おう」

 

 

声音が一段階低くなった謎のふたり……ユーノとアルフの言葉になんか背筋が凍ったが、それでもはやてたちを助けることができる、そんな言葉の嬉しさに思考が切り替わる。

 

 

「作戦はシンプル。俺が押さえてなのはとフェイトが撃つ。いくぞ?」

 

「うんッ!」

 

 

なら、あとは実行するだけだ!

 

 

 

『全く……変わりないみたいだね』

 

『ほんっとうに腹立たしいくらいにね』

 

『でも』

 

『……ああ』

 

『ここの状況をサーチした時、確かになのは、フェイト、闇の書の意思の魔力反応しかなかったはず……』

 

『何かあった……んだろうね』

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

あちらもこっちの思惑に気がついたのか、黒く濁った魔力の塊を無造作に放ち始める。

 

これじゃ、魔力を溜め込んでいるなのはとフェイトはまともに避けることができない……!

 

 

「チャージまでどのくらいだっ!?」

 

「私はあと……20秒!」

 

「私も同じくらい……!」

 

「わかった!必ず砲撃には間に合わせるから、何があっても俺を信じて時間通りに撃ってくれ!!」

 

「「うん!!」」

 

 

すでに大きすぎる魔力を練り込んだふたりに声をかければ、すぐに返答が来た。

 

20秒……短いように見えるがこの暴れ狂う化け物を相手に全く動けない少女ふたりを守り切るというのは、なかなか骨が折れそうだが。

 

 

 

「20秒か。……なら、それまでの防衛戦ってことになるけど」

 

 

頬をかすった攻撃で血が滲む……シールドを貼っても、相手の攻撃の激しさと魔力の大きさに多少貫通されているようだ。

 

 

 

「いけるよな、相棒」

 

《問題ありません。カウント開始します》

 

 

その言葉と同時に体内のリンカーコアに溜まっていた魔力がごっそりと持っていかれる。

 

 

「行くぞッ!」

 

《20、19》

 

 

まずは自分の障壁を解除し、なのはとフェイトの前になるべく強固に作り込んだパンツァーシルトを2重ずつ展開する。

 

 

《Panzerschild展開。……それぞれ2重、4枚は持っていかれますよ?》

 

「平気だ!」

 

《了解。16、15》

 

 

黒く細い砲撃が的確になのはたちを狙っている。ナハトヴァールも何が明確にまずいのか理解しているのだろう。

 

秒毎に抵抗が激しくなっていく攻撃を避けながら、管制人格への元へと飛び込んでいく。今の、あのふたりへと集中しているあれなら近づける!

 

そんな俺の思考にナハトからのDanger音で急速回避する。

 

ハッとして顔をナハトヴァールへと向けてみれば……。

 

 

《警告。照準が主に固定、そして魔力反応増大》

 

「……本当、嫌になるくらい頭の良いやつめッ!」

 

《お褒めに預かり光栄です、主》

 

ナハト(お前)じゃなくてナハトヴァール(あっち)だよバカ!」

 

 

名前が同じだからこんがらがる!いや存在もほぼ一緒らしいけどさ!

 

激しく、大量の鋭い針のような魔力攻撃に全ては避けきれず、左足が被弾してしまう。……まずいな、分かってはいたけど非殺傷じゃない。

 

バリアジャケットを貫通して滲み出る自分の血に冷や汗が流れる。けれど、逃げることはできない。

 

間いれず、襲いかかってくる攻撃を……避けきれないものを無視して致命傷にならないように避けていく。

 

足は無視。利き手の右手は死守。頭と胸は全力で避けるっ!

 

 

 

《残り10(テン)カウント》

 

 

 

その声を聞いてチラリと後ろをみれば先程の倍以上に膨れ上がった巨大な魔力と、大きな丸い魔法陣が視界に入る。

 

全力全開、そんな言葉をあのユーノという少年は言っていたけれど、あれでもまだ全部じゃない……その事実に味方ながら戦慄する。

 

 

《主、拘束の準備を》

 

「分かってる! あのバインドとかいうのを使うぞ!」

 

 

先ほどまであの子たちや目の前のナハトヴァールが使ってきたものを準備しようとする……しかし。

 

 

 

《非推奨です》

 

「は!?」

 

《それだけでは簡単に抜けれてしまいます。残り5秒》

 

 

そんなナハトの言葉に一瞬、頭の中が真っ白になる。コイツはアイツの分身のようなもので、それ故に相手の力量も手に取るようにわかる……そんな最高のアドバイザーが無理だというなら、不可能なのだろう。

 

そんな思考の中も攻撃は鳴り止まない。それどころかより激しさを増し、距離も近くなったから近距離のものも増え始めている。

 

鞭のようにしなる黒い魔力の攻撃は、確実に俺の命を刈り取ろうと左右から、上下からと激しく降り注ぐ。けれど考える頭を放棄することはできない。

 

どうする……どうすればいい!?

 

もうほぼ目の前まで迫ったナハトヴァールの姿とタイムリミットに焦りを隠せない。何かないか、少しでもヒントを探すために目の前の相手を視界に入れる__

 

 

「__ぅあぁぁぁあああああ!!!!」

 

 

——目を見開き、自分の身を侵食する呪いに絶叫する彼女の姿を見た瞬間、もうなりふり構ってられない。そんな言葉で頭がいっぱいになる。

 

ない頭でこの場の最適解を考えろ。見つけ出せ。きっと打開策は何かあるはずだ、もっとシンプルにまとめろ。

 

結界だけでは、魔力だけでは押さえられない。けど、彼女を宿としたあの呪いを切り離すには"彼女ごと"砲撃を当てる必要がある。

 

 

……そうだ、簡単なことじゃないか。

 

 

 

《!? 主、それは推奨できません》

 

 

 

残り3秒。そんな時に思いついた策に珍しく焦ったような声になるナハト。けど、他に方法が思いつかない。

 

 

 

《この状況でなければ主に障壁を纏いつければ問題ありませんが、今は不可能です! "主が体で押さえ込む"など自殺行為です!》

 

「けど、それしか思いつかなかったんだ!……悪いな、出来の悪いマスターで。頼むよ」

 

《…………命令(オーダー)、確認。自己強化及び、魔導士へのシールド補強を同時並行》

 

 

 

俺がいうまでもなく、残りのタスクも把握してくれているデバイスに少し笑ってしまう。

 

 

 

《ただ、覚悟はしておいてください。限界を超えた魔法行使ですから、"代償"も大きなものになります》

 

 

「できてるよ。やってくれ!」

 

 

《了解》

 

 

 

 

その言葉と同時に何かが軋む音が聞こえた。

 

 

「ぅがァ……!?」

 

 

__痛い。痛い痛い痛い。

 

 

焼けるように、突き刺すように。

 

 

体の隅々が悲鳴をあげる。

 

 

けれど、そんなものは関係ない。__たくさん助けられた、助けてくれたあの人/あの子を救えるのならば。

 

 

加速を止めずに一気に両手を広げてナハトヴァールに、管制人格に後ろから飛び込む。

 

自分の腕を、彼女の暴れ回る腕ごと巻き込んで腹に回すように取り押さえる。……激しく暴れ回るナハトヴァールの攻撃で、もう腕の感覚も怪しい。

 

本当に遅くなったけれど、ようやく捕まえた。

 

 

 

「っ……ぁあ……ュ、ウ……?」

 

 

俺の飛び血で汚れた顔。その口から漏れた言葉に、自分の名を呼ぶ声にまだ意識があることを確信できた。

 

 

「ごめん、遅くなった。最後にとびきりのが来るけど、我慢してくれ」

 

 

本当に痛いと思うけど。その言葉を聞いた彼女は、苦悶の表情の中でほんの少しだけ笑っているように見えた。

 

 

 

 

《カウント0。砲撃、きますよ》

 

「ああ」

 

 

__目の前に迫る桜と金の2色が混じったあまりにも巨大な砲撃。

 

それはとても、とても綺麗で。

 

ふたりの想いの全てが込められた純粋な魔力を前に。

 

 

 

「なんとか、なったなぁ」

 

 

 

なんて、気の抜けた感想が口から溢れてしまった。

 

 

 

 

 

 








「……でもこれ、痛いだろうなぁ」

《当たり前でしょう》


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A's 第19話 「この姿は主の好みでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

「目を覚ましたら、そこは真っ暗な世界だった」

 

 

一体何を言っているのか、自分でも疑問なんだけれどまさに文字通り。

 

なのはとフェイトの砲撃を受け止めて、次に目を覚ましたらこの真っ暗で何もない空間にぽつんと座り込んでいたんだけど。

 

どこなのか、とかなんだこれ? という疑問はもちろんあるけど、この1日で起き続けた怒涛の非日常の連続に一周回って落ち着いてしまっている。

 

 

「………うーん」

 

 

いくら見回そうが何もないこの場所。不思議と既視感のようなものもあるからか、恐怖心の類も特に生まれていない。

 

ただ気になるのは、あのあと闇の書が、ナハトヴァールがどうなったかということ。

 

まぁ魔法も使えず、話し相手もいない、そして全く何も起こらないこの場所で、それを確かめる手段も方法も見つからないとなれば、大人しくしているしかないわけで。

 

 

「はぁーあ」

 

 

ごろんと寝そべって1ミリも変わらない暗闇の天井を見上げる。ぼーっと見上げたまま胸を占めるのは、やはりあの子たちのこと。

 

 

「はやてたち、大丈夫だったのかな」

 

「はい。現在問題なく書の主は覚醒、騎士たちも再召喚という形で寄り添っています」

 

「あ、そうなのか。そりゃよかった」

 

「問題は分離された原典の方ですが、こちらは主の尽力もあり現在は沈黙。タイムリミットで言えば6〜8時間程度かと」

 

「なら少しは休める……?」

 

 

あれ? 俺、誰と会話してるんだ。

 

自然と話してしまっていたこの状況の違和感に気づき、バッと体を起こせば目と鼻の先には。

 

 

「おはようございます、(マスター)。気分はいかがですか?」

 

 

「………はい?」

 

 

声は無感情。顔も無表情のまま、俺の真横に体育座りしている__闇の書の管制人格の姿が目に飛び込んできた。

 

 

「は? いや、え?」

 

「主のバイタル変化。ふむ、混乱していますね」

 

「え?うん。……じゃなくて、なんでお前」

 

「?」

 

 

こてん、そんな効果音が聞こえてきそうな……そんなふうに顔を横に傾げる彼女に、違和感を持つ。

 

待て、この人ってこんなに感情がなかったか?

 

困惑し続ける俺をじっと見ていた目の前の謎の人物は、合点がいった、そんな感じでぽんと手のひらに拳を叩く。

 

 

「なるほど。こちらでお会いするのは初めてでしたね」

 

「は?」

 

「改めて。ご機嫌いかがでしょう? "私の"(マスター)

 

「………………は?」

 

 

主、マスター? その呼び方をしてくるのって。

 

 

「お前……まさかとは思うけどナハト、か?」

 

「はい」

 

「え、いやなんで」

 

「この姿のことをおっしゃられているのですか?」

 

「それもあるけど、ここの事とか、外の事とか……」

 

 

やばい、めちゃくちゃ混乱している。なんだ、何が起きてるんだ。

 

そんな俺の様子を読み取ったのか、目の前の……ナハト? はゆっくりと説明してくれる。

 

 

「1つずつお教えします。まずはこの外見のことですね」

 

「あ、ああ」

 

「さて、初めに言っておきましょう。私は貴方のデバイス、正確には少し違いますが……主とともにいた存在と同一のものです」

 

 

ですので、そう怯えないでください。そう言って俺の頬に触れてくるナハトに、嫌に緊張する。

 

な、なんか距離感が近い?

 

 

「そしてこの姿ですが、これは原典のコピー……以前にもお伝えしましたが、私はあの書の一部です。ですから、多少は似てしまっているのでしょう。正真正銘、これが私本来の姿です」

 

「いや、どう見ても瓜二つなんだけど」

 

「そうですか?……そんなにですか」

 

 

……そんなに似てますか? とどこか不満げに、そう言って自分の体を見回すナハトはなんだか少し間抜けで、ちょっとだけ肩の力が抜けた。

 

ほんの少しの笑みもなし、喜怒哀楽といった感情が薄い、そんな部分以外は彼女と言われても正直、見分けが付くか怪しい。目を丸くしてナハトの顔を見ていると、少し眉毛がへのじに曲がり、ムッとした顔になる。

 

……案外、感情はあるのか?

 

 

「……」

 

「いや、そんな不満げに見られてもマジでそっくり、というか双子かって感じでさ」

 

「……まぁ、良いでしょう。次にこの場所ですが、ここは貴方の中……深層心理ともいうべき場所です」

 

「深層心理?」

 

「はい。簡潔に説明します__」

 

 

簡潔という割に長いので簡単にまとめると。

 

 

・ここは俺の心の奥、意識の下にある場所

・普段は認識できない空間

・ここに立ち入れるのは、その深層心理の持ち主だけ

・Q.なんでお前は入れるの? A.お前無茶しすぎて融合率がとんでもないことになってるから。

・Q.俺の体は無事? A.はい。

 

 

「__以上です。他に何か?」

 

「いや、うん。大丈夫、です」

 

「そうですか。では次に外の状況ですが」

 

 

そう言って話を続けようとするナハトに待ったをかける。

 

 

「ご、ごめん! その前にさ」

 

「はい?」

 

「で、できれば少し距離をね?」

 

 

俺がここまで動揺している一番の理由、それは随分とシンプルで思春期な男の子あるある。

 

ナハトの距離感、パーソナルスペースがものすごぉーーーく近くて変に緊張するからなのだ。

 

だって考えてみてほしい。ついさっきまでは顔もしれない相手だったはずのナハトが、実はあの管制人格と同じ外見なんだよ?

 

 

「距離感?」

 

 

また何を言ってるかわからないと言いたげに、あざとい姿を見せてくる。だから、そのですね? 大人の女性特有の母性の塊がですね?

 

 

「……なるほど。理解しました」

 

 

その言葉に安心して、ほっとする。普段、周りにいる相手がそんなに近い距離感じゃなかったからさ。

 

そんな俺の内心とは裏腹に。

 

 

「このような感じでいかがでしょう?」

 

「……………ナハトさん?」

 

「はい」

 

「何を納得して俺を抱き寄せているんですか?」

 

 

横から優しく抱き寄せられ、体がガチガチに固まる。え、なんで? 何を理解したの、貴女は?

 

 

「ちょ、近い近い!」

 

「暴れないでください。まだ満足していただけませんか?」

 

「違う!根本から違う!むしろ不満が__」

 

「気分の高揚を確認。なるほど、これが照れ隠しですか」

 

 

その言葉に逃げようと暴れていた自分の体が再び、カチンと固まる。

 

 

「なっ……!?」

 

「いえ、お伝えした通りここは"貴方の"深層心理です。そこに溶けている私には」

 

 

貴方の感情は手に取るように伝わってきますから。

 

 

「………いや、違くてさ」

 

「この容姿は随分とお気に召しているようですね」

 

「その」

 

「簡潔に言えば貴方の好みドストラ__」

 

「だぁ!! ストップ! 俺の負けでいいから!」

 

「了解しました」

 

 

そう言って無表情……いやこれはドヤ顔してるな? もうわかるぞ、お前の表情……!

 

 

「というかなんでこんな好感度高いの!? 俺、お前と出会ったばかりだぞ!」

 

「……はぁ」

 

「その腹立つため息やめろ!」

 

 

心底呆れたような表情————いや真顔だけど————でため息をつかれる。いや、なんでそんなバカを見る感じの目なんだお前。

 

 

「何度も繰り返しますが、私は原典、そしてあの管制人格の写み身です」

 

「それは分かってるって」

 

「なら、貴方へのこの好意は元となったものから引き継いだもの。つまり、そういうことです」

 

「いや、わからないけど……?」

 

 

俺、管制人格の記憶とかナハトヴァールのこととか知らないし……。そんな言葉を聞いたナハトは少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうな表情をした。

 

 

「詳しくはあちらの、現実世界の管制人格に尋ねてみるのがよろしいでしょう」

 

「ッ! そうだ、それって!」

 

「ええ。目標は沈黙し、主や騎士、管制人格の分離は成功しています」

 

「そっか。そっかぁ……」

 

 

体から力が抜ける。一番の心配事が解決し、一気に疲れが襲ってくる。

 

 

「闇の書、いえ夜天の魔導書は主の覚醒に伴い、その真の姿と力を解放。同時に管制人格は新たな名を授けられたことで、原典からの呪縛から……解放されました」

 

「ナハトヴァールの方は?」

 

「先ほどもお伝えした通り、現在は沈黙していますが、数時間後に再び活動を開始します。主と協力した魔導士たちは惑星軌道上の母艦へ撤退し作戦会議といったところでしょう」

 

 

下手に刺激を与えれば被害は甚大になる、そう判断したようです。そんなナハトの言葉に疑問が生まれる。

 

 

「今、俺の体は?」

 

「同じく船の中に。現在は回復中です」

 

「そこにみんなも、はやてたちも?」

 

「はい。……同時に主の現状についても共有されているようです」

 

「……そっか。あー、バレちゃったのか」

 

 

記憶喪失。その事実はなるべく隠しておきたかったんだけど、状況的に仕方がないのだろう。ただ、気になるのは。

 

 

「結局、なんで記憶消えちゃったんだろう」

 

 

その答えだけは見つからないままだった。そんな俺の疑問の答えを持っているのは、シグナムたちだけだろうし。

 

そんな思考を読み取ったのか、どこか遠慮したような口調でナハトが口を開く。

 

 

「それは……そうですね。主が自ら手放した、というのが一番適した答えかと」

 

 

思わぬ場所から重要な情報が出てきた。

 

 

「……何か、知ってるのか?」

 

「全ては把握していません」

 

「頼む。知ってることだけでいいから、教えてくれ」

 

「了解しました」

 

 

そしてナハトから語られたのは、記憶を失ったあの日の戦いと……本当の原因だった。

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

「__ってことは、記憶が消えたんじゃなくて」

 

「消費した、その言葉が適切です」

 

「……そっか」

 

 

力の代償。それはなんとも残酷なもので。

 

 

「シグナムたちを止めるために、か」

 

「はい。騎士たち4人を相手では」

 

 

 

守護騎士たちを止めるために大きな力を求めて、ナハトヴァールから力をぶんどった。その代わりに記憶は消えた。

 

けど、少しは蒐集された俺のリンカーコア、つまり書の頁に保存されているかもしれない、か。……例えあってもほんのひと握りの断片的なものらしいけど。

 

でも、それが身を過ぎた力を求めた代償というのなら仕方がないし、自業自得ということなんだろうな。

 

 

 

「半端な力じゃ無理だよな。そして、その戦いがきっかけになって」

 

「私が生まれました。いえ、そうなるようになっていたのでしょう」

 

「どういうことだ?」

 

 

まるで自分が意図的に仕組まれて作られたかのような言葉に、つい突っ込んでしまう。

 

 

「主がもともと所持していたデバイス、あれは未完成でした。推測も入りますが、あれは設計の時点であまりにも大きな欠点があったはずです」

 

「……」

 

「致命的に“主に合わせた管制・補助部分のシステム”が欠けていました。他機能は全て、貴方に最適化されていましたが、その部分のみ空白のように……まるで"私が組み込まれることが前提になっている"かのように、大きなストレージが空けられていましたから」

 

「そりゃ、たいそうな準備だな」

 

「はい。私は主の元のデバイスと、融合型デバイスの中間のような存在です。現在はまだ復旧が間に合っていませんが、その状態で主の性質……貴方が持つその希少能力ともいうべきスキルが混ざり合った結果」

 

「今の俺は、お前とくっつき始めてる……のか」

 

「肯定します。魂、とでもいうのでしょうか。そこに混ざり始めています」

 

 

来世なんてものがあっても一緒かもしれませんね。そんな冗談めいた言葉に、なんとも現実感がなくて聞き流してしまう。

 

 

「私は本来闇の書であり、あのプログラムの一部。その性質である転生とも言える機能も原典とリンクしている限り存在していますから」

 

「随分と厄介なやつなんだな、お前。なんでそんなのに好かれてるんだか……」

 

「お褒めいただき光栄です」

 

「……………はぁ」

 

 

そんな雑談ちっくな言葉を交わしていると、意識が少し薄れ始める。

 

 

「ぅ、あ?」

 

「どうやら時間のようですね。現実(あちら)の方で意識が覚める予兆です」

 

 

ほんの少しだけ、名残惜しい、そんな感情がナハトから伝わってくる。……ここは心の中。言葉や表情以外でダイレクトに真意が通じてくる、そんな世界。

 

 

 

「そっか。……まぁなんだ」

 

「?」

 

「会えてよかったよ。多分、迷惑もかけるだろうけど、これからよろしくな」

 

 

 

めちゃくちゃ厄介で、性格もちょっとアレなやつだが。嫌いじゃない。

 

 

そんな言葉と感情が伝わったのか、ナハトは少し惚けたような顔をした後。

 

 

 

「はい。末長くよろしくお願いします」

 

 

 

そう言って微笑んだ。

 

 

……なんだよ、笑えるじゃんか。

 

 

 

 

 

 

 

 






なお、シリアスな話をしている最中もずっと抱きしめられていた模様。


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A's 第20話 束の間の休息での一波乱

少しえっちぃです。ここまでシリアスで疲れてたから……はしゃいじゃった☆


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……次に目が覚めた場所は知らない天井だった、なんてな」

 

《おはようございます、主。身体に違和感などは?》

 

「ないよ、お前は?」

 

《問題ありません》

 

 

パッと開いた目の先には、近未来的な施設が並ぶ病室のような場所。さっきまでいた真っ暗な何もない空間とは打って変わり、どこぞのSF世界にでも潜り込んだみたいだ。

 

自分の体を確かめてみれば、先ほどまでの激戦が嘘のようにピンピンしている。しかも、魔力も空になっていたはずだけど満タンに。

 

 

《この設備と騎士によるものでしょう。ただ》

 

「そう、だな。なんか代償があるんだっけか」

 

《はい》

 

「今は気にしている場合じゃないし、とりあえずは誰かがいるところに行くか」

 

《問題ありません。すでに呼んでいます》

 

「へ?」

 

 

そんなナハトからの言葉と同時に、部屋の扉が開く。そこにいたのは……。

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

ポカンと目を見開く守護騎士のみんなと、はやて、なのは、フェイトに見知らぬ少年と女性たち……って多くない?

 

しかも随分驚いたような顔で、俺を見つめてくるもんだから居心地が悪いというか……えっと、とりあえず。

 

 

「お、おはよ?」

 

 

片手をあげて朝の挨拶をしてみた。

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

 

「……ユウさん!!」

 

「ユウ!」

 

「よかったぁ……」

 

 

なのはとフェイトは突撃。はやては涙目でホッとした表情に。

 

 

「……本当に変わりないな」

 

「ああ、本当に無事のようだな」

 

「ユウくん、大丈夫?」

 

「大丈夫、なのか?」

 

 

守護騎士のみんなも心配していてくれたようで、各々が声をかけてくれた。

 

なんだ、この心配のされようは? と困っていると肩が軽く殴られる。そちらに顔を向けてみれば、これまた知らない顔が。

 

 

「君の現状は分かっている。けど、これはあの夜の分だ。馬鹿者」

 

「あ、それならボクも」

 

「アタシも!」

 

 

どん、どん! とさらに2回のおかわりもいただきました。なんか理不尽に殴られた気がするけど、すごく心配したような顔でそんなことをされると何も言えない。

 

先ほどまでの静かな病室はどこに行ったのやら。この一室はすごい賑やかな場所に変わっていた。

 

……とりあえず大丈夫だというのは分かっているけれど、ちゃんと確認しておきたくて、はやてに声をかける。

 

 

「色々あったけど、もう大丈夫なんだな?」

 

 

そう聞けば、すぐに明るくいつものように笑顔で。

 

 

「うんっ!」

 

 

元気な返事が聞けた。ああ、もうほんと、安心した。

 

 

「はぁ〜……」

 

「え、どうしたの?」

 

「うん?なんだ、力が抜けた」

 

「そっか。……えへへ」

 

 

近くまで来たはやての頭を——なんだか随分と久しぶりに——撫でる。

 

 

「むっ。ユウさん!」

 

「その、私たちも」

 

「あ、えっと。うん、色々助かったよ。最後まで信じてくれてありがとな」

 

「うん!」

 

「ぁ……うん」

 

 

相変わらず懐かれているふたりにも、はやてと同じように頭を撫でる。この子たち、最後まで俺のことを信用してくれてたもんなぁ……。

 

脳裏に蘇るのは、あの最後の砲撃。俺が管制人格を捕まえた瞬間は動揺したようだったけれど、何があっても撃つ、そんな約束を守ってくれていた。

 

ほんの少し、穏やかな空気が流れる中でふと思い出す。

 

あ、そうだ。気になったことまだあったんだ。

 

 

「ところで、なんでこんなにぴったり……しかも大人数で俺のところに?」

 

 

そんな疑問にいち早く答えたのは、シグナムとヴィータ。

 

 

「ああ、そのことか」

 

「ユウは初めて会うよな……って、なんで扉の前で隠れてんだ?」

 

「へ?」

 

「我らの仲間だ」

 

「仲間……ってお前、ザフィーラか」

 

「こちらの姿を見せたことはなかったか」

 

「お、おう……普段は犬だったし」

 

「……狼だ」

 

「ご、ごめん」

 

「もう! ユウくんもザフィーラもそこまでよ! ほら、貴女も早く来て」

 

 

そんなわちゃわちゃした中で、まだ誰かが来ていない……ってそうか、あの人がいないのか。

 

気づけばヴィータに手を引かれてやってきた彼女と目が合う。……うん、やぱり。

 

そして、はやてがどどんと彼女のことを、夜天の魔導書の管制人格を紹介してくれた。

 

 

「ユウさん、紹介するね。私たちの新しい家族の__リインフォースや!」

 

 

そんな言葉とともになんだか、遠慮していたような彼女__リインフォースは俺の前にやってくる。

 

 

「……こうして再び会えるとは思わなかったよ、ユウ」

 

「そうか? 俺はまた会えるって思ってたけど」

 

「……もうほんとに、キミは。迷惑かけたね」

 

「そんなことないよ。これまでたくさん助けてもらったんだ。これでも返しきれないくらいだ」

 

「覚えてる、のか?」

 

「ん? ちょっとだけな。あとはアイツが教えてくれた」

 

《不調はないようですね、管制人格(マスタープログラム)

 

「っ! そういうことか。……キミは誰とでも仲良くなれるんだね」

 

「そんなことないよ。コイツがたまたま……ってみんなどうしたんだ? そんな顔して」

 

 

ふと周りの声が止んだことが気になって見渡してみれば、皆、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。

 

 

「え、と……ユウさん、リインフォースのこと知ってたん?」

 

「ああ。 って何も聞いてないのか」

 

「私とフェイトちゃんはなんとなく知り合いってことは……」

 

「けど、なんだかすごく仲良さそう」

 

 

そう言って、何かを疑うような表情をするなのはとフェイト。

 

俺から説明していいのかな?

 

 

「いや、私からしよう。ユウ、まだ全てを聞いたわけではないんだろう?」

 

「あ、そっか。パスが繋がってるから」

 

「うん、キミの考えていることはわかるよ」

 

「なら頼むよ。俺だと上手く説明できるか分からないし」

 

 

そうしてリインフォースの口から語られたのは、俺と彼女の出会いから現在まで。今、俺がどうしてこうなっているのか、なぜ魔力質が変わっているか、とか自分でも把握していない部分まで教えてくれたのだから、俺としても助かった。

 

 

「__というところだ。今もこうしてユウと繋がっている」

 

「「「「……」」」」

 

「そんな感じだな」

 

 

俺とリインフォースの顔を繰り返し見比べているみんなの姿が少し面白い。笑いながら彼ら彼女らの様子を見ていると、確かクロノという少年が声を上げた。

 

 

「……つまり、ユウ。君は今、擬似的に守護騎士の一員という立ち位置なのか?」

 

「はい?」

 

 

何それ聞いてない。

 

 

「ああ。直接、私と繋がっている分、特別な立ち位置だ」

 

「はい!?」

 

 

何それ聞いてない!

 

ちょっとナハトさん!?

 

 

《はい》

 

 

どういうこと!?

 

 

《そのままの意味です。主は今、特殊な体に変質しています》

 

 

何それ聞いてない!!

 

 

《聞かれませんでしたから》

 

 

「おい!?」

 

 

つい声を出してしまう。その姿に苦笑いを浮かべるのは、唯一今のやりとりを把握しているであろうリインフォース。

 

 

「はは……本当に良好な仲のようだね」

 

「さっきからユウ、独り言が多いね」

 

「しかも百面相。やっぱり落ちた時の打ちどころが悪かったのかね」

 

 

そこのユーノとアルフ、聞こえているからな?

 

とはいえ、困ったな。これじゃ俺が一人芝居をしているようにしか見えない。……何とかならない?

 

 

《お任せください。それでは__》

 

 

《このように聞こえるようにしましょう》

 

「うぉ!?」

 

 

突然、頭の中で響いていた声が外に出てきて驚いてしまう。それはもちろん俺だけではなくて。

 

 

「え?」

 

「今の声って」

 

「リインフォースやないけど……」

 

「似ていた、な」

 

 

困惑するみんなの視線が俺へと集中する。……いや、これはこれで困るというか。

 

 

《注文が多いですね。改めまして、(マスター)ユウのデバイス、Nacht Wal Alternativeです》

 

「おい!?」

 

「「「「っ!!」」」

 

「あ、ちょ!ストップ!違うから!」

 

 

一気に警戒するみんなに焦って説明する。そりゃ、さっきまで戦っていた相手と同じ名前が出てきたらこうなるって!

 

 

「だから、本当に無害……かは分からないけど、敵じゃないんだ」

 

「ユウさんがそういうなら……」

 

「でも……」

 

「本当に、大丈夫なんか?」

 

「主、私が保証します。……ナハト、お前もあまり揶揄うような真似はするな」

 

《さて、何を言っているのか》

 

 

ちょ、怖い。リインフォースがすごい怖い顔して俺のこと睨んでるって!? いや声がする方向、つまり俺の方を見ているのはわかるんだけどね? はちゃめちゃに怖い顔してるんですよ!

 

体裁だとかそんなものを気にしている余裕はなく、すぐに自分の胸に住まうナハトに声をかける。とは言え、こいつなんかリインフォースに対して嫌に攻撃的で言うことを聞いてくれるか分からない……。

 

 

「ナハト、頼むよ……!」

 

《主がそう言うのでしたら……了解しました》

 

「……嫌に素直だな、おい」

 

《そうでしょうか》

 

 

なんか、すっと退いてくれた。ま、まぁこれなら大丈夫……? そんな俺の思考とは裏腹に懐疑的な視線を送り続けるリインフォースに涙目になる。どうしろと?

 

 

「随分と大人しいな、ナハト」

 

《主の命ですから》

 

「……なんだ、素直なものだな」

 

《ええ。私は貴女と違って主に従います》

 

「っ! 貴様!」

 

《なんでしょう?》

 

「待って!本当に待って! 泣くぞ!? これ以上やるなら、俺はここでわんわん大泣きするぞ!」

 

「む」

 

《ふむ》

 

「なんで"少しそれも気になるな……"みたいな反応してるのさ!?」

 

「あはは……」

 

「なんというか」

 

「問題なさそう、やね」

 

「ええ。それにしても」

 

「声が似すぎてて姉妹喧嘩のようだな」

 

「ちょ!余計なこと言わないで!? ナハトもリインフォースもストォォォプ!!」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

「すまない……」

 

《熱くなりすぎました》

 

 

「はぁ……はぁ……一応、俺怪我人だからね……?」

 

 

あれから数分。ようやく落ち着いたふたりの姿を確認して息を整える。危ない危ない、あのままならもう、泣き脅しを使うしかないところだった。

 

 

「本当にお前、記憶ないんだろうな? ユーノ、どう思う」

 

「ボクも疑い始めてるところさ」

 

「なんでこっちはこっちで別の疑いを……?」

 

「君のそのたらし具合がな」

 

「ほんとにね」

 

 

じっとりとした男二人の視線に耐えられず、顔を背ける。前の俺よ、一体何をしてきたんだ。

 

今だけでもいいから記憶が蘇らないかな、なんて現実逃避していると今度ははやてから声がかけられる。

 

 

「でもユウさん、なんでそんなに仲良しなん? まだナハトと出会ったばっかりなんよね」

 

 

その質問に蘇るのは先ほどまでの、あの深層心理での会話内容。

 

 

 

————何度も繰り返しますが、私は原典、そしてあの管制人格の写み身です

 

————それは分かってるって

 

————なら、貴方へのこの好意は元となったものから引き継いだもの。つまり、そういうことです

 

————いや、わからないけど……?

 

 

うん。

 

 

「わかんないんだよね」

 

「え、えぇ……」

 

「だからナハトにはリインフォースに聞けって言われたんだけど……」

 

「なんでそこでリインフォースが出てくるん?」

 

「さ、さぁ?」

 

 

そうして俺とはやての目線はリインフォースに向けれる。

 

 

「え、その」

 

 

そしてたじろぐリインフォース。……あれ、なんか心当たりあるのか? そんな疑問にナハトが追い討ちをかけるように言葉を繋げる。

 

 

《私は原典(ナハトヴァール)とそこの管制人格(マスタープログラム)から生まれた存在です。ですので、"元からあった想いや感情"を引き継いでいますから》

 

 

ちなみに原典が4、管制人格が6です。

 

そんな言葉が発せられた瞬間、シーンとする。

 

そして、全員の視線が俺とリインフォースを交互に見比べるように右左へとなんども動く……って、なんでだんだんと目が細まって行くんだよ。

 

 

「え?なに、つまり?」

 

「ナハトが嫌におとなしくて」

 

「ユウに素直なのって……」

 

「リインフォースの影響ってこと……よね?」

 

「っ。そのよう、です」

 

 

はやてたちからの疑問に頷くリインフォース。

 

そして次に襲ってきたのは、さっきまで2つしかなかったはずのジト目が増えて俺へと向けれる。

 

 

「ユウ。お前……」

 

「ユウくん、それはないわ」

 

「ユウ、見損なったぞ」

 

「けっ……」

 

 

「守護騎士のみんなの視線が痛いっ!?」

 

 

「もうほんと、ユウさんは変わってないねぇ……?」

 

「そういうところは……嫌い」

 

「バカ!もう嫌や!バカ!」

 

 

「こっちはもっと酷い!」

 

 

「一体何をしたらそんなことになるんだ……?」

 

「ボクに聞かれても……あれに聞いてみれば?」

 

「アタシは嫌だよ。汚される」

 

 

「なんで憐れみも含まれてるんだ……!?」

 

 

三者三様。

 

それぞれからの熱い反応に涙が止まらないっ。なんだ、本当に前の俺はリインフォースと何をしていた!?

 

 

《ここで実演して貰えばいいのでは?》

 

「はぇ?」

 

「ナハトッ!?」

 

 

顔を赤くし、焦ったようなリインフォースの声に嫌な予感がする。

 

 

「あれ、またナハトの声が」

 

「多分、ユウたちだけが聞こえる会話、なのかな」

 

「そこはちょっと羨ましいなぁ」

 

 

「お前っ、急に何を言い出すんだ!」

 

《いえ、深い意味はありませんよ。初めはその意味も分からず医療行為でしていましたよね》

 

「それはっ……そう、だが」

 

《"何度も"しているうちに、心境もその行為の意味も変わっていたようですが……貴女も内心喜んでいたでしょう》

 

「ぅうう……」

 

「ちょ、ナハトさん? 涙目、リインフォース涙目になってるからそこまでで……」

 

 

ものすごい嫌な予感がするのと同時に、先ほどまで言い合っていたリインフォースが、完全に言われっぱなしになっているのが不憫で止めに入る。

 

もうほら、リインフォースが凄く可哀想な顔になってるから……。

 

 

《別に揶揄っている訳ではありませんよ。それに先ほど管制人格本人が説明していたではありませんか。"原典を抑え込むために自身の魔力を注ぎ込んでいた"と》

 

 

え、ああ。それは知ってるけど。

 

 

《普段はパスから少量流れていますが……今、主は私の使いすぎでそれが足りていない、そして一種の毒素が溜まっています。それを吸い出すのも目的の一つですから、こうやって進めているんです》

 

 

……それにしては随分と楽しそうにいじめてたよな? それにあんなに嫌がるって、どんな行為なんだよ。

 

 

《否定はしません。また嫌がっているというのは主の間違いですよ。また、あの忌まわしき原典が消えれば"それ"もしなくて済みますから、一種の延命行為です》

 

 

そうなのか。けど、それにしては……。

 

 

《いいから四の五の言わずにやってください。管制人格、貴女も薄々気づいているでしょう。主は溜まりすぎています》

 

 

その言葉を聞いたリインフォースは少し悩んだような素振りを見せたあと、覚悟したように俺と顔を合わせる。

 

 

「……ああ。その、ユウ」

 

「え?」

 

「少し、じっとしててくれ。……なるべくすぐに済ませるから」

 

 

そう言ってベットに座る俺のすぐそば……というか目の前に迫ってくる。

 

 

「お、始まるみたいだね」

 

「はぁ……今度は何をするのか知らないが、余程のことでない限り驚かないぞ、僕は」

 

「まぁね。もうアタシもお腹いっぱいだよ。このあとまだ戦いが残ってるってのに」

 

 

「……私はこう言った時、勘が鋭いのだが」

 

「……奇遇だな、俺も嫌な予感がしている」

 

「二人ともなんでそんなに顔を顰めてるのよ。でも何しようとしてるのかしら?」

 

「アタシに聞かれても、わかんねぇよ」

 

 

「なんか、既視感があるような……?」

 

「なのは? なんで私をそんな顔で見てくるの?」

 

「リ、リインフォース、何するん?」

 

 

そんな多くのギャラリーからの声が耳に入るが、俺の視線は何かを決心したような顔の……真っ赤な顔のリインフォースが近づいてきていて、目を離せない。

 

……というか、まだ近づいてくるの?

 

 

「リ、リインフォースさん?」

 

「……」

 

「いや、あの、そのままだとぶつかっちゃうかなー、なんて__」

 

 

 

「__ん、ぁ」

 

「!!!???」

 

 

 

「「「ちょ!?」」」

 

「「「はぁ!?」」」

 

「「あぁ……」」

 

 

 

ぐい、っと体をひかれて気づけば目前、というかもう鼻先にはリインフォースの顔があって。

 

 

「ん、ぐぅ……ぁ!?」

 

「……ぇあ……ちゅ……ぅ」

 

「んー!んーッ!!」

 

 

必死に逃れようと手足をジタバタするけど、逃がさないようにリインフォースの腕が俺をぎゅっと抱きしめる。

 

な、なんだ、これ。どんどん力が抜けて……きて……。

 

 

「れぁ……ん、く」

 

「ん、ぐぇ……ぅあ……っ」

 

 

ゆっくりと、確実に俺の口内を舐る彼女の舌はなんだか別の生き物のようで。

 

今まで感じたことのない未知の快感、そんな形容し難い快楽ともいうべきもので頭の中が支配されていく。

 

リインフォースから流し込まれたものを飲み込む、と思えば次は自分のものが吸い出されて……一体どれほどの時間をその行為に費やしたのだろう?

 

だんだん、思考もぼんやりとしてきた。

 

 

 

「…ん、く……んぐ……はぁ……」

 

「っはぁ、はぁ……?」

 

 

数秒、数分だろうか? 正直、どれくらい経ったかもわからないほどにソレをしていたが、唐突に唇が離れ、銀の糸が俺と彼女の間に繋がったままアーチのようにこぼれ落ちる。

 

ゴクリ、と何かを飲み込むリインフォースの顔から目が離せなかった。

 

 

 

「っん……大丈夫、か?」

 

「え、あ……うん」

 

「そう、か」

 

 

 

真っ赤な顔をして少し微笑むリインフォースの赤い瞳に、自分の惚けた顔が映り込んでいるのが見える。

 

 

 

………………………………

 

……え、っと。

 

 

 

 

「どういうこと、なんでしょうか?」

 

 

 

つい、真っ白になった頭のままそばで今の行為を見ていたみんなに質問してしまう。……あら、皆さんもお顔真っ赤ですね、はは。

 

 

 

「こっちのセリフだよっ!?」

 

「……もう!本当に、もう!!」

 

「うふふふ、リインフォース? 話、聞こうかぁ?」

 

 

「はぁ……」

 

「もう、何もいうことはないな」

 

「え!?え!?」

 

「ぁう……」

 

 

「なんでそう安安と余程のことをしでかすんだ……!」

 

「ははっ、もうしーらない」

 

「言葉が出ない、とはこのことだね」

 

 

 

ギャーギャーガヤガヤ。

 

そんなより一層大きくなる周りの声は右から左へ。

 

一体何が起きたのか、それがまだ理解できず、ただただ沈黙する目の前のリインフォースを見つめてしまう。

 

 

 

「………………」

 

「ぅ……なんだ、足りないのか?」

 

「「「もう!! ストップ!!」」」

 

 

 

《愉快ですね、この人たち》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










《それで感想は?》

「勘弁してくれ」

《「うわ、何これ、いい匂い! 柔らか!? 」……なるほど》

「勘弁してくださいッ!」




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A's 第21話 未来の為の戦い

 

 

 

 

 

時空管理局・巡航L級8番艦アースラ。

 

 

その中にある一室にて行われているのは現在、なのは、フェイトの両名によって分離に成功した闇の書の防衛システム・ナハトヴァールに対して行われる戦闘の作戦会議。

 

 

参加するのは、本事件の執務官を務めるクロノ、艦長であるリンディ、無限書庫の司書を務めるユーノ、そして闇の書……夜天の魔導書の主たるはやてとその管制人格であるリインフォース。

 

この事件で、もっとも必要な情報のみをまとめ上げるために少人数での作戦会議のため、残りのメンバーは別室にてこの映像を確認しつつ、各々が補給や休息を取っている……はずなんだけど。

 

 

「なんで俺、ここにいるんだ」

 

《さぁ》

 

「馬鹿者。キミたちがある意味一番重要なんだぞ」

 

 

そう言って呆れた目線を向けてくるのは、14歳の少年。話を聞くに随分と親しい友人だったようで、他の乗員たちのように俺へ気を遣うような素振りが一切見えない、というかなんか手のかかる子どものように見られてる気すら感じる。

 

そんなクロノを咎めるように声を上げてくれるのは、艦長であり、彼の母親であるリンディさん。

 

 

「もう、クロノ。まだ目が覚めたばかりのユウくんのことを、何も言わずに連れてきたんでしょう?」

 

「う、それはそうですが……」

 

「まぁまぁ……ユウに突っかかりたくなる気持ちは、よーーーくわかりますけど今は作戦会議ですから」

 

「ほんまにね。ほんまに色々と聞きたいけど、ねぇ……?」

 

 

口では笑っている、けど目はピクリとしていない、そんな顔ではやては視線を俺とリインフォースに向けてくる。

 

 

「あ、主……?」

 

「は、はやて……?」

 

「あははは、声までピッタリやねぇ?」

 

 

怖い。ものすごく怖い。

 

そんなやり取りを挟みつつ、リンディさんの一声で全員の表情が変わる。そう、残った問題である……今も海鳴市の海底に潜む怪物の討滅作戦。

 

 

「現在、目標は想定外のダメージで海底深くで沈黙。けれど、約4時間後には再び活動を再開するってことでいいのかしら?」

 

《はい。アレは今、自己修復プログラムにてその身を休めています。この状況で、攻めに転じるというのも悪くありませんが》

 

 

それなら今のうちにこっちから仕掛ければいい、そう思ってしまう俺の思考を読んだようにクロノがナハトへ確認をとる。

 

 

「奴が自壊覚悟で全てを巻き込む可能性があるから、下手に突けない。そうだな?」

 

《肯定します。元はなんの意思もないシステムでしたが、アレは致命的なバグが生まれています》

 

 

それに答えるのはリインフォース。

 

 

「闇の書の闇、そう呼ぶしかないブラックボックス。私たちが続けてきた長い旅の中で、偶然生まれた産物だがその中身は直前まで一体化していた私にも分からない」

 

《私は、元はあの原典(オリジナル)、ナハトヴァールの一部でした。現在でもある種の繋がりがある私が、それ故にアレを表現するなら、人の業をかき集めた醜悪な怪物です。……私も含めてですが》

 

「うん、データにあったよ。歴代の闇の書の主たちによって改編されたナハトヴァールは、あらゆるものを学習、そして取り込んでいる。そこには元の持ち主たちが見せた黒い欲望も含まれてるんだろうね」

 

「元は"あんなもの”じゃなかった、そいうことだな」

 

「そうなの?」

 

「はい。ナハトは、ナハトヴァールというシステムは、元を辿れば私たち騎士と主を守るための純粋な兵器に近い存在でした」

 

《ですが、長い時を重ね、業を読み取り、それを吸収し……最後には別のものへと変質しました。アレはそういうものです》

 

 

リインフォースとナハトが語るのは、まだ正常だったナハトヴァールのこと。事前に知識としてナハト本人から頭に叩き込まれていたが、こうして彼女たちの思いとともに語られるとまた別の視点で見えてくる。

 

今までのことでナハトヴァールは"ただ悪いシステム"として見ていたけど、俺にはなんだか。

 

 

「ナハトヴァールも被害者なんだろうな」

 

《……》

 

「……」

 

「……なんだよ?」

 

「いや、うん。……思っていても言わないことだけど、そう言葉にしてくれるのは"救われるな"と思ったんだ」

 

《主は甘すぎますが、私としては好ましいですよ》

 

「?」

 

《しかし、アレにそんな感情は不要です。完全にコアを破壊しなければ、この負の連鎖は続きますから》

 

「その通りだ。外装に覆われ、隠されたコアを消滅させなければ……この惑星程度ならナハトは簡単に飲み込む」

 

 

その言葉に改めて緊張が走る。……同情するのは良いが、ナハトヴァールを破壊することを躊躇ってはいけない、そんな念押しをされた気がした。

 

 

「なら、やっぱり作戦は変わらないわね」

 

「はい。目標が復活した直後、一番弱っているタイミングで全力を持って叩き」

 

「私とみんなでナハトのコアを露出させて……」

 

「ボクとアルフがナハトヴァールのコアを衛星軌道上に転送」

 

「あとはこの船の砲撃"アルカンシェル"をぶつければ解決、だな?」

 

「問題ないはずだ。いくらナハトヴァールと言えど、この規模の魔導砲では免れることは不可能だ」

 

《はい。確実に自己修正プログラムも間に合いません》

 

 

ある意味、この相手において一番のアドバイザーであるナハトとリインフォースからの箔押しだ。作戦自体は問題ないだろう。不安があるとすれば……。

 

 

「一番の不安要素はコアの露出、作戦の第一段階である海上戦だ。管理局の魔導士でなんとかすると言いたいが……」

 

「それは不可能だろう。あれもわざわざ、やられると分かっているのに抵抗しないわけがない。本気で暴れるだろうな」

 

《はい。また、コアは原典にとって、何をしてでも死守すべき場所です。故に半端な攻撃では結界すら破壊できないでしょう》

 

「だから、私たちの出番ってわけやね」

 

 

そう言って前に出てくるのは、夜天の魔導書として覚醒したはやて。

 

なんとも恐ろしいことに、彼女の魔力量はなのはやフェイトと並ぶ……いや、それ以上のようで、あのふたりの全力攻撃をこの身で受けた俺としては冷や汗ものだ。

 

 

「海上戦では僕たちが支援を行う。君たちと騎士は全力でナハトヴァールの防御魔法を破壊してくれ」

 

 

その言葉にはやてとリインフォースは強く頷く。俺としては、はやてを戦いに向かわせるというのに抵抗があるのだが。

 

 

「大丈夫」

 

 

そんな一言で黙るしかなかった。なら俺も全力で戦ってみんなを守るしかないな。そう覚悟を決めていたのだけれど。

 

 

「いや……ユウ。君は今回の戦闘に参加させない」

 

「え?」

 

 

予想外のストップがクロノからかけられる。そして奇妙なのが、この猫の手も借りたいはずの状況で誰も異議を唱えないこと。

 

慌ててクロノに問い詰める。

 

 

「ちょっと待ってくれ。なんでだよ!?」

 

 

そんな俺の言葉を聞いたクロノから感じる感情は怒りだった。

 

 

「それは君が一番わかっていることだ。……もうほとんど"感覚も"ないんだろう?」

 

「っ」

 

「気づいていないと思ったか? リインフォースから色々と聞いているよ。まさかとは思って治療したばかりの肩を強めに殴ってみれば……案の定だった」

 

「………はぁ……思ったより強い衝撃が来た、とは思ったよ」

 

「……ああ、すまない」

 

 

自覚がなかった、と言うと嘘になる。目が覚めてから体の感覚が鈍くなっていたし、貰った飲み物も色がついた水だと思ってたくらいだから。

 

けれど、どうして気づかれているのか? それを考えたと同時にクロノが誰からそれを聞いたかを思い出し……。

 

 

「……ナハト、お前か」

 

《はい。管制人格に尋ねられましたので》

 

「ん、そっか」

 

 

この状態を的確に把握しているのは、多分ナハトだけだし、さっきまでコイツと意思疎通が取れていたのはリインフォースのみ。

 

病室に呼んだ時かそれより前か?

 

今、俺が失っているのは記憶、そして次は五感。なら次に一体何を持っていかれるのか。

 

それは誰にも分からないけれど、俺のために気遣っていてくれているというのは痛いほどに伝わってくる。

 

 

「これは、僕たちの。そして君たちの未来を守るための戦いだ。いくら何かを守るためでも、君がそこに含まれていなければ意味がないんだ」

 

「……ああ。わかったよ」

 

「……もうこれ以上自分を犠牲にするな。以上だ、各自作戦開始まで体を休めてくれ」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

束の間の休息、とでもいうのだろうか。クロノから言い渡された作戦開始時刻までの、ほんの少しの時間でのみんなとの交流。

 

正直、俺はなのはやフェイトたち、クロノやユーノ、アルフといったアースラの人たちのことはわからなかったけれど、みんなすごく優しくて、それでいて暖かな人たちばっかり。

 

それとほんの少しの幸運もあったんだよな。

 

 

「ユウ、これを」

 

 

そう言ってリインフォースが差し出してきたのは、夜天の魔導書の1ページ。それはまごう事なく俺の魔力を浴びていたもので、手に受け取ったと同時に一握りの、とある少年の記録が流れ込んできた。

 

それはぐちゃぐちゃに破られた紙を適当に繋ぎ合わせただけの、随分と酷いストーリーだったけれど俺にはとても懐かしくて、自然と頬が緩むような素敵なお話だった。

 

とある少女たちとの出会いや、見たこともない生物との戦い、そして"オレ"が本当に忘れていたことをちょっぴりと。

 

 

「なんで、こんなものを捨てたんだろうな、俺」

 

《その大切なものを守るためだったのでしょう》

 

「それを言われたら何もいえないな。……なのは、フェイト」

 

「え……?」

 

「っ……」

 

「ごめん、随分と心配かけたみたいだ」

 

 

それからは随分と泣かれて、そして怒られて。けど最後には笑って許してくれた。

 

もちろん、はやてや騎士のみんなとも多くのことを話したよ。

 

 

「ユウ。あの日のこと、だが……」

 

「ああ、あんまり覚えてないけど全部聞いたし、わかってるよ」

 

「そう、か」

 

「でも関係ないさ。たぶん、もう一度同じことが起きても俺の選択は変わらない。だから、あれだ。またよろしく!」

 

「……っ。本当にすまないっ……!」

 

 

泣かせるつもりはなかったんだけど、それはもう泣かれたさ。普段は見せないようなシグナムの顔だ。そりゃレアなものを見せてもらったよ。

 

 

「シャマルさんも色々と辛いことさせて悪かった」

 

「……謝るのは私たちの方よ。本当にごめんなさい」

 

「やめてくれって。ちょっと前に言ったばっかりだろ?」

 

「え……?」

 

「"何があったとしても俺は許す"って、ね?」

 

「……そうだった、わね。本当に……もう……っ」

 

 

あの時に約束したということもあるけれど……多分、騎士たちとの戦いの最中でも俺は最後までこの人たちのことを疑っていなかった、そんなふうに思う。

 

 

「あー、ザフィーラとこうして話すのはなんか違和感あるな」

 

「俺としては、さっきまでのお前の方が変に感じていたがな」

 

「ならお互い様か。……今になって思えば、記憶がなくなった初めの頃はよく側にいてくれたもんなぁ」

 

「大したことではない。……罪滅ぼしのような身勝手なものだ」

 

「そうか? でもそれでも俺は嬉しかったよ。お前もふもふだったし、実は癒されてたんだぜ?」

 

「フッ、そうか。……そうか」

 

 

今はもう薄くしか感じられないけれど、ポンと肩を叩かれたその感覚はあの家で時折、慰めるようにされていたものと変わらないように感じる。

 

 

「で、ヴィータはなーにをそんな罰の悪そうな顔してるんだ?」

 

「ぅ……なんでも、ねぇよ」

 

「別にもう怒ってもないし……というか最初から怒ってなかったんだぞ」

 

「でも! ……でも、いっぱい、酷いこと言ったし、怪我もさせた……っ」

 

「けど、それ以上に優しくしてくれただろ? 記憶がなくなったあと、ずっと一緒にいてくれたのはヴィータだろ」

 

「ぅう……ユウ……っ」

 

「あーもう、そんな泣くなよ……って俺の服で鼻かむなっ!?」

 

 

なんだかんだと、はやての次に一緒にいたのはこの子だった。それは今も前もきっと変わらずで。

 

いつも、はやての側にいたヴィータが、あの戦いのあとで常に俺を守ろと近くで見ていていくれたのは、俺が一番わかっている。

 

 

そして。

 

 

「もう……知ってるんだよな、全部」

 

「うん。ユウさんが隠してたこと、全部聞いたよ?」

 

「う……それはなんて言うか……ごめんな」

 

「もう、本当に怒ってたんやからね。……でも」

 

「ん」

 

「リインフォースの中で全部、聞いてたから。ユウさんが私のこと助けようとしてくれてたの、見えてから。だから良いんよ」

 

「そうやって改めて言われると……なんか照れるな」

 

「えー?」

 

 

そう言って。

 

今の俺はほんの少ししか見ていなかったけれど、いつもと変わらない笑顔を見せてくれたはやての顔に、許してくれると言ってくれた彼女の言葉に、少しだけ心が軽くなった。けど。

 

 

「だから、これが全部終わったらまたあの家に帰ろうな?」

 

「………そうだな、今度はリインフォースも一緒だ」

 

「……? どうかしたんか?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 

また、嘘を……ひとつ前よりももっと大きな嘘をつかなければいけない事が、酷く心を揺さぶる。

 

 

「ごめん、はやて。リインフォースと守護騎士のみんなを借りていいか?」

 

「みんなが良いならええけど、なんの話するの?」

 

「いや、なんだ……戦いが終わった後のお祝いをな」

 

 

気が早いよー、と笑うはやての笑顔を見るたびにまた、心が痛む。

 

でもこれは……これは、はやてや、なのは、フェイトには、巻き込んでしまう騎士たち以外のみんなには言っちゃいけない。そんな独りよがりなもので。

 

そして残った守護騎士のみんなは……リインフォース以外の全員は疑問を浮かべた顔をしている。

 

 

「話がある。あんまり、良い事じゃないんだけどさ」

 

「……ユウ」

 

 

すごく心配そうな顔をしている。きっとそれは勘違いじゃないとは思うけど、これから俺と同じことを覚悟しているリインフォースが自分だけでなく……俺のことや話を聞くことになる守護騎士たちまで心配しているのは、彼女がそれだけ優しい人なんだと改めて実感させられる。

 

それでも、辛いことだけど、これが俺の最後のやるべきことだ。

 

 

《主。良いのですね?》

 

ああ。……まぁお前とナハトヴァールが繋がっているって聞いた時点で、それなりに覚悟してたことだしな。

 

《……申し訳ありません》

 

いいよ。俺こそ巻き込んで悪いな。

 

 

改めて守護騎士のみんなに向かい合う。どうやら真剣な、そしてそれが悪い話だと察したのか、彼女たちの表情は変わっていた。

 

 

 

「リインフォースにとっては隠しておきたいことだと思うけど、シグナムたちには話さなきゃいけないだろう」

 

「それは……?」

 

「遠回しな言い方とか俺できないからさ、とりあえず結論から。俺とリインフォースは___」

 

 

 

その言葉を聞いたみんなは、酷く顔を歪めて。そして何度も何度も繰り返すように”やめろ”と言ってきたけれど。

 

 

 

「ごめん。他に方法がない。……そうだよな」

 

「……ああ。すまないな、みんな。そしてユウも」

 

「まぁ、しょうがないことだから」

 

 

 

そんな諦めたような言葉と、何よりはやてを守るためだと言えば最後には……納得はしてくれなかったけど、何も言わずに頷いてくれた。

 

……この選択に、これまでの俺の行動に後悔はしていない。けど、この最後の会話は随分とへこむもので。

 

 

「辛い、役回りを押し付けちゃったな」

 

 

そんな後悔が残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








でもこれは、今じゃなくて未来を守るための戦いだから。


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A's 第22話 ハッピーエンド

 

 

 

 

 

"それ"が生まれた意味は初め、とても単純な理由だった。

 

数多の魔術を未来へと託すため、そして保管するために作られたストレージ。それを守護すると言う、たったひとつだけの目的のために作られただけの意志を持たない無機物。

 

されど、それ以外にも本を守るために作られた魔導の生き物が存在した。

 

 

赤き炎を纏い、敵を切り裂く剣を担う剣士__剣の騎士・烈火の将

 

傷を癒やし、主とその守りの騎士を癒すもの__湖の騎士・風の癒し手

 

その渾身の撃墜は迫り来る外敵を一瞬にして無に返す__鉄槌の騎士・紅の鉄騎

 

雄々しい拳。されど本質は攻ではなく、守りである書の番人__盾の守護獣・蒼き狼

 

 

そして、私を司り書の中核、主と融合することで真価を発揮する補助にして意思。

 

 

主が率いたそれらとの旅路は果てしなく長く、膨大な容量を誇った魔導書の頁を埋め切るには気が遠くなるような時間を費やした。

 

 

それでも書は一度完成した、したのだ。

 

これで自分たちの役目も終わり、あとは眠りにつくだけ。

 

だが、最後にその持ち主は騎士たちへと置き土産(大きな呪い)を授けて、独り逝った。

 

 

それはこれまでとは比べ物にならないほど、長い、長い旅の始まりであった。

 

 

あまりにも長い道中で、次第に訪れたのは変化。____私という無が、少しずつ別のものをその身に宿すには十分すぎた。

 

 

繰り返される輪廻の輪。

 

繰り返される転生。

 

繰り返される悲劇。

 

 

ただ、その無限とも言える物語に私はいつも自分の意思を持たない。

 

 

そう、命令(プログラム)されたから。

 

そう、学習(改編)されたから。

 

 

だから、そこに私の選択はないし、意思もなかった。

 

 

でも、でも。私は、いつか見た私の仲間たちが歩んだ旅路を、その無が憧れてしまうような輝かしい道へと————"踏み込みたい"と願ってしまった。

 

 

 

 

 

《__それが私という意思が、存在が生まれた、小さな"きっかけ"です》

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

前触れはなく、予兆もなく、運命の時刻にきっかりとその戦いは始まった。

 

 

深い海底の底から現れたのは異形というのに相応しい相貌と、黒く濁った怨嗟と憎しみの巨体。

 

見ているだけで嫌悪感が生まれる、そう言葉を漏らしたのは誰だっただろうか。

 

目の前に突如として立ち上がった醜い欲望の集合体。

 

それが、今彼女たちが討滅するべき目標。今を続け、日常を守るために倒すべき明確な敵。

 

 

セットアップ__自身をただの人から魔導を操る別の存在へと変化させる呪文。それを口にしたと同時、目の前の獣が大きな雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

画面のモニターに表示された激しい戦いをじっと見つめる。

 

どんな原理かなんて、魔法というものを知ってしまったから不思議には思わないけれど、その巨体を海の上に固定させ、浴びるほどのドス黒い瘴気、魔力を撒き散らすナハトヴァールをただ見つめる。

 

 

「……」

 

 

上空よりも下の位置では、剣を扱うシグナムと鎌を自在に操るフェイトによるミッドレンジの戦闘が繰り広げれらていた。

 

 

「テスタロッサ!」

 

「はい!」

 

 

夥しいほどの触手が暴走体となったナハトヴァールから伸び、一瞬にして飲み込まれる__ように見えたが、気づけばそれは木っ端微塵となり、切り裂かれて海に落ちる。

 

それでも追撃は止まないが、背を合わせたもうひとり、フェイトが撫でるように空気を切れば数えるのも馬鹿らしくなる量の斬撃と魔導の砲撃がその追随を全て叩き落とした。

 

 

上空では、つい数時間前まで険悪な中に見えていたヴィータとなのはのコンビネーションが、ナハトヴァールの攻防を切り裂いていた。

 

 

「合わせろよ……なのは!」

 

「ぁ……うんっ!」

 

 

近距離から中距離にかけての戦いを、自身の持つ鉄槌で砕き、飛ばし、そして後方の砲撃を任されたであろう、なのはをも守りながら華麗に戦い続ける。

 

そして、十二分に砲撃役としての立ち位置、装填時間をもらえるなのはには、その小さな体に溜め込まれた膨大な魔力を杖先へと集中できる__故にそれはもはや砲撃だなんて生やさしいものではなく、全てを無に帰す幻想のような一撃へと昇華される。

 

 

時を同じくして、その騎士たちの主もまた、戦場へと降り立つ。彼女の力は、真価は自分を守る騎士たちの司令塔としての役割こそが重要だ。

 

またそれは補助役となる存在、融合型デバイスという異物を操るために必須となる歯車がいるからこそ、その力はもうひとつ上の段階へと押し上げれる。

 

 

「リインフォース!」

 

「はい。__ユニゾン・イン」

 

 

 

けれどそんな激しい戦闘でこの場所、海鳴市は大丈夫なのだろうか? そんな杞憂は、意味がない。

 

 

アースラから派遣されたその道を極めたもの、そして結界という魔法に特化した術師であり、騎士が全てを支えているから。

 

 

ならば、あとはきっかけのみ。少し、ほんの少しの小さな隙間、油断。

 

それを作り出すことさえできれば、あの黒き異形が保ち続ける4層もの防御結界を打ち崩すだけの何かがあれば。

 

 

それを成すのは、書を守り続けた守護の獣と11年前に大切なものを奪われた少年。

 

 

「はぁッ!!!」

 

「今こそ、だ……デュランダル!」

 

 

獣が放つ拳の一撃は、その全てを込めた鋭い一撃は鉄壁にすら見えた防御魔法の1枚を薄いガラスを砕くが如く、破壊し……クロノが受け継いだ氷結の杖は山のような巨体を持つナハトヴァールの動きを氷の中へと封じ込めた。

 

 

それはほんの少しの拘束。しかし、それは勝負を決めるにはあまりにも致命的な時間。

 

 

動くための足を縛られ、抜け出そうとするナハトヴァール……その闇の書の闇ともいうべき破壊の権化にも、焦りが見えた。

 

それは擬似的な生物と化したから、それだからこそ感じ取れたのであろう。

 

自信が持つ巨大な頭部は自然と自身の真上へと顔を上げる。そこには、その先には__。

 

 

「行くよ、レイジングハート! 全力全開————」

 

「バルディッシュ、終わらせよう————」

 

「……ごめんな。おやすみな————」

 

 

桜、金、白__。

 

 

それぞれの少女たちの持つ魔力の眩く大きな、星のように大きな力の鼓動が生まれている。

 

 

この攻撃は全ての悲しみを、負の連鎖を、血に濡れた過去を精算するために込められた必殺の砲撃の煌めき。

 

 

「スターライト ————」

 

「プラズマザンバー ————」

 

「ラグナロク ————」

 

 

これが彼女たちが持ちうる全ての終幕を飾る一撃。

 

 

 

「「「ブレイカーーーッ!!!!!」」」

 

 

 

三つの力は途中で交わり、融合し、決して破れることがない3つの防御結界を破りゆく。

 

最後に到達するのは、その結界の持ち主たる歪められたシステム本体。砲撃はその体を飲み込み、巨体を作り出していた核となる命の源を露出させる。

 

 

「今だっ!」

 

「わかってるよ!」

 

 

こうして繋がれたもので、最後の仕掛けが起動する。コアはふたりの魔導士によってこの惑星の軌道上、遥か空高くの空間へと転移した。

 

 

最後に、何も巻き込まない宇宙空間にて事件全ての根幹であるナハトヴァールのコアは、アルカンシェルで撃ち抜かれた。

 

 

 

__それで物語は終わる、はずだった。

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

文字通り、自分の持てる全ての魔力を使い果たして、なのはちゃん、フェイトちゃんと共に放った全力の一撃はナハトヴァールの防護魔法を、肉体を砕いた。

 

手筈通り、コアは露出し転移されてたった今、この地上からですら目視できるほど大きな攻撃がコアを破壊した。

 

 

 

『作戦は成功だ。……ああ、成功だ!』

 

 

そんなクロノくんからの通信が聞こえて、ふらっと体から力が抜ける。

 

 

「ぁ」

 

 

まずい、全力と入ったけど飛行すらままならないほどに、力を使い切ったつもりはなかったんやけどなぁ。

 

同じく、横で飛行していたなのはちゃんとフェイトちゃんもゆっくりと落ち始めている。

 

 

「はやて!」

 

「なのは!」

 

「フェイト!?」

 

 

けれど、すぐにそれぞれに助けが入ってくれる。そして、まだちょっと不安そうな顔をした騎士のみんなも集まってきてくれた。……もう、全部終わったんよ?

 

 

「お疲れ様でした、主」

 

「ありがと、リインフォース」

 

 

ユニゾンが解除されて、そっと受け止めてくれたリインフォース。……うん、我ながらちょっと頑張りすぎたかもしれんなぁ。

 

 

「はやてちゃん、大丈夫?」

 

「そんな心配な顔せんでも平気よ。それになのはちゃんたちもへとへとやん」

 

「あ、あはは……魔力、全部使い果たしちゃった」

 

「うん。正直、結構限界だけど」

 

「でも、なんとかなったな?」

 

 

そう言えばふたりは少し顔を見合わせた後で。

 

 

「うん!」

 

「よかった」

 

 

一緒に笑い合ってくれた。

 

そう、これで全部元通りに___。

 

 

 

《Emergency! Emergency!》

 

 

突然、この場に相応しくない嫌な音声が響き渡る。その音は、目の前のなのはちゃん、フェイトちゃん、そしてここに集まっていた人たち全員のデバイスから鳴り響いていた。

 

 

「え、何!?」

 

「っ!」

 

 

すぐに警戒体制に入ろうとするけれど、もう本当にみんな一杯一杯で……ろくに魔法も使えない。その中で、酷く困惑したクロノくんが飛び込んでくる。

 

……とても、嫌な予感がした。

 

 

「みんな!」

 

「クロノくん! 何があったの!?」

 

「……まずい、ことになった。落ち着いて聞いてくれ」

 

 

苦虫を噛み潰したようように背後へ、たった今打ち倒したモノの抜け殻が残るそのさきを見つめて、口を開く。

 

 

その先を聞きたくない。直感的にそう感じたけれど、時は止まってなんかくれない。

 

ああ、そうだ、そうなんだ。忘れていた。 

 

不幸なことというのは、いつだって__

 

 

 

「ナハトヴァールが、再生を始めた」

 

 

 

一番、起きて欲しくない時に起こるものだったから。

 

 

「なん、で」

 

 

その疑問が誰の口から溢れたかなんて、わからない。

 

 

「……ありえないことだ。だからこそ、そんな可能性はそもそも見ていなかった」

 

 

「だから、なんで!?」

 

 

この追い込まれた状況でまた、誰かがヒステリックに声をあげる。そうだ、そもそもなんで? コアは確実に消滅したはず__

 

 

 

「"ふたつ"、あったんだ」

 

 

「————」

 

 

「意味がわからないし、ありえないはずだ。けど、もうひとつ、アレの中には……リンカーコアが存在している」

 

 

あまりにも残酷で、単純な答えだ。

 

魔法を使うことができる生物はひとりひとつ、その先天的な器官をもって生まれる。これは生物としてのルールであり、クロノやアースラの人々、そしてまだ魔法に触れて浅い私たちですら、常識として備わった知識。

 

体にふたつのリンカーコアなんてありえない。その常識があったからこそ、今のこの状況はあまりにも……絶望的だ。

 

 

「そん……な」

 

「なんで……?」

 

 

だからその絶望はこの場にいる死力を尽くした全ての人間が同時に感じて、感染する。……絶望という感情はそのまま、肥大化していく。

 

全てを使い切った、アースラも航海用のエネルギー以外を出し切っているから増援も見込めない。つまり。

 

 

「もう、どうしようもない……っ」

 

 

悔しそうに、辛そうに厳しすぎる、残酷すぎる真実を口にしたクロノくんの言葉に、もう力すら入らなかった。

 

なんで、どうして。

 

そんな過去の間違いを、過ちを振り返る言葉と思考だけが頭の中を埋め尽くす。

 

 

そうしている間にも、目の前の大きな絶望は少しずつ確実にその命に再び火を灯していく。

 

 

 

「………時期に結界も持たなくなる。せめて……君たちだけでも」

 

「まって! それじゃ他のみんなは、街の人は!」

 

「そうだよ、私たちだけなんて……!」

 

 

周りは何かを言い合っているけど、それすら遠くなっていく。

 

あぁ、もう嫌だ。もうこんなことは。

 

もう何も聞きたくない、それならいっそ___

 

 

 

 

「大丈夫、なんとかする」

 

 

「——ぇ?」

 

 

 

誰もが絶望した、もう無理だと諦めかけていたその場に投げ込まれた声は。

 

 

「全部、見てたよ。本当によく頑張ったな」

 

 

ここにいるはずのない、いや来て欲しくないその人の、いつものお気楽な声音で。

 

 

「だから、こっからは俺の番だ」

 

「ユ、ウさん……?」

 

 

それもいつものように、ぽん、と蹲った私の頭を撫でてくれたユウさんの顔は、やけに優しげに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





けど、その笑顔を見た私は、嫌に心が騒ついた。


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A's 第23話 次へバトンを繋ぐために

 

 

 

 

 

 

本来であれば、1つしかないはずのコア。

 

それがふたつあるというのは、身近なもので例えるのならばひとつの体に心臓が2つ存在しているというのと同意議だ。

 

構造的にも、身体的にもそれは不可能のはず。多くの要因はあるけど、そもそもリンカーコアというものは、それぞれの存在が個別に内部へ生成する唯一無二の臓器であり、この世に同じものは生まれない。

 

けれど、俺の持っていたリンカーコアはあまりにも特殊すぎるものであった。あのコアは、無透明でなんの特徴もない……一見すると個性も色もない無機物であり、水と同じようなものだった。

 

水、いや白紙の紙とでもいうのが一番しっくりくる表現だろうか。それは単体では役に立たず、色をつけてくれる描き手がいなければ無価値と言っても過言ではない。

 

 

そんな特異的なものであるからこそ、アレは……ナハトヴァールという存在は目をつけた。

 

 

無色であり、ゼロである存在はどんなに小さな色だろうと一度それを注がれれば、一瞬で別のものへと変質してしまう。

 

今回の一件でいえば、まぁ……汚染された、というのが適切かな。それはもはや擬似的な第2のリンカーコアであり、命のストックとも言えるあまりにも■■を冒涜する存在。

 

それ故に目の前で崩れ落ちるはずの存在は、新たな■■を、新たな器として生まれ変わろうと蠢いている。

 

……事前に予見していなかった、といえば嘘になるさ。でも、その可能性があるかもしれないということは、内なる協力者からある程度の予見をもらっていたし、そうなったとしたら……もう死力を尽くして戦ってくれている彼女たちに立ち向かう術はない。

 

ならば、もしもの可能性を見据えて協力と準備をしておくのが大事だろう。

 

俺自身、すでにほとんどのコアを汚染され、もはや別物となったこの体では前のような力は扱えない。

 

それならば__すでに澱み切った自分の体でも……いやむしろ、だからこそ元からあった自身の特異性を使って、組み合わせることができる協力者と、それを手助けしてくれる補助がいれば、これは無二の力を与えてくれる。

 

無論だが、それには大きな代償を伴う。けれど、この戦いが終われば何方にせよ、消えなければいけない運命にあった俺が使うのなら。

 

きっとそれは、彼女たちの未来へとつなげることができる。

 

 

《ですが、そこには》

 

「キミの未来は無いぞ」

 

 

うん。でも、そもそも俺は"そういう存在"で、そのために来た……らしいからさ。

 

 

それにあの子たちとは、ほんの少しだけお別れが早くなっただけだ。どのみち、俺はここで1度"必ず死ななければいけない。”

 

 

本当は……貴女やお前には、はやてやなのは、フェイトたちと違う未来を生きて欲しかったけど、全てを根幹から解決するには一緒に逝くしか無いんだろ?

 

……そんな顔しないでくれよ、別に俺は平気だ。みんなには出来てないけど、守護騎士たちには色々と任せられたし、後悔もしてないんだから。

 

 

だから、行こう。__これが正真正銘、ここでの最後の戦いだ。

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

多くの人が必死に戦った。戦ってくれた。

 

 

だからこそ、今のナハトヴァールには本当の意味でとどめをさせる。

 

眼前でゆっくりと体を癒す……いや、生成し始めていた全ての始まりに目を向ける。__これが俺の最後の仕事だ。

 

ポンと頭の上においた手を離し、そっとはやての手元にある夜天の魔導書を手に取る。その本は、初めて見た時の禍々しさは消え去り、本来あるべき輝きと栄光を宿している。

 

他の皆からの視線が全て俺に向かってくる。……ま、俺はアースラで待機って話だったしな。

 

そんな呆然とした表情をしたみんな……それでも最初にでた言葉は当然の疑問であり、俺にはなんとも答えにくいことだった。

 

一番近くにいた、否、俺が向かった先にいたはやての口が開く。

 

 

「なん、で? なんでユウさんがここにおるん?」

 

「……」

 

「それに、ここからはユウさんの番って……?」

 

 

たぶん、薄々は気づいてしまっているのか、その言葉の先々には力がなく、目に涙を浮かべてしまっている。

 

言葉を出さない俺の元へ、もう蹲って動くこともできないのであろう、なのはとフェイトからの視線を感じて目をそちらに向ける。

 

 

「待って、待ってよ! まだ私たち戦える、からっ」

 

「そうだよ……! ダメだよ、ユウが戦ったら……」

 

 

やっぱりこの状況で出てきてしまっては、全てを察してしまっているようで、とっくに限界を超えている2人からのそんな声に、改めて自分がここまで大切に思われていたという実感が沸き、なんだか無性に嬉しくなる。

 

 

「ごめんな」

 

 

ただ一言、そう3人に告げて立ち上がる。全く、そんな顔しないでくれよ。その顔を見るとちょっとだけ後悔しそうになるからさ。

 

けど、行かなきゃいけない。

 

振り返れば、そこには守護騎士たち……シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの4人とリインフォースが、待っていてくれた。

 

初めに口を開いたのはシグナム。

 

 

「本当に、これしか方法はないのか。……まだ何か」

 

「ああ。もう、こうなっちゃったからな。時期に動き出すよ」

 

「けど! ……まだ、お別れも、できてないじゃないっ……」

 

「そんな泣かないでくれって、シャマルさん。手筈通りに維持だけは、なんとかしてほしい」

 

「っ…………ええ」

 

「ユウ」

 

「おう。こうなったからな、しょうがないさ。少しだけお別れが早まっただけだから、気にするな」

 

「しかし……っ!」

 

「ザフィーラ。はやてを、頼んだ」

 

「…………ああ。お前はリインフォースを頼んだぞ」

 

「任せろ。ヴィータ」

 

「っ」

 

「あんまりお菓子とか食べすぎるなよ? はやてに心配かけないようにな」

 

「……子ども扱い、すんな」

 

「なら、あの子を守ってあげてくれ。騎士なんだろ?」

 

「っ…ぅ……うん……!!」

 

 

「待って、待ってよ、みんな何の話しとるん!? 私にも教えてよっ!」

 

「そうだよ、なんで、そんなお別れみたいな……」

 

「ぁ……待って! ユウ、待って!」

 

 

……名残惜しいけれど。あまりここで話しては3人にとって、俺はあまりにも大きな傷になる。だから、背を向ける。

 

そして、自分と共に運命を共にしなければいけない、魔導書の意思への元へと向かう。

 

 

「ごめん、やっぱりダメだった。リインフォース……悪いけど、力を貸してくれ」

 

「ああ、もちろんだ。……すみません、主。私は行かねばなりません」

 

「ぇ……いや、いやや! 待って、どうして!?」

 

「どうか、どうか幸せに。貴女が行く未来に幸福が多いこと」

 

 

そう言って、はやてに向けるリインフォースの微笑みはあまりにも慈悲と優しさが込められていて……それを見て、どうしようもなく心が痛む。

 

離れようとする俺とリインフォースのもとへ、はやて、なのは、フェイトの3人が追い縋ろうとするが、そこに待ったをかけるのは守護騎士たち。

 

 

「待って! まだ……ぁ、ザフィーラ……? 何を__」

 

「……申し訳ありません」

 

「!? ヴィータちゃん、待って! まだ__」

 

「……悪い」

 

「なんで、シグナム……どうして__」

 

「……すまない」

 

 

それぞれがもう動くのも辛そうな3人を抱えて、結界の外へと離脱していく。……本当に、辛い憎まれ役を頼んでしまった。こればかりは、やっぱり俺の中にも残ってしまうものだな。

 

__ただ、時間はそう待ってくれない。次にするべきことは。

 

 

「待て!! 何をする気だ! 君は待機のはずだろう!?」

 

「クロノ。その、なんだ、悪いな」

 

「聞きたいのはそんな言葉じゃない! 一体何をしようとしているんだ!」

 

 

クロノにそう問い詰められて……こんな状況下でも、どこまでも俺を心配してくれる優しい言葉に、場に合わないような笑みが溢れてしまう。

 

そんな俺の目に映るのは、酷く顔を歪ませた少年の顔。

 

 

「なぜ、笑っているんだ……! なんで、そんな安心したような顔で__」

 

「俺が"アレ"をなんとかする」

 

「__っ!」

 

「俺なら、アレをなんとかできる」

 

「何を、根拠に__」

 

「あそこにあるのは、"もともと俺のもの"だからだ。……ユーノなら気付いてるだろ?」

 

 

そう言葉を区切って目をクロノの背後に向ければ、厳しい表情でただ黙って俺を見つめているユーノと視線がぶつかる。俺のその言葉に、クロノがユーノへと駆け寄る。

 

 

「一体なんのことなんだ!」

 

「……ユウのリンカーコアは特殊なものだ。あれは何かと融合することで、肥大化し、真の力を発揮するもの」

 

「そんなものは知っている! だからそれが__」

 

 

なんだというのか。その言葉が出る前に。感情のない/感情を殺した、平坦な声で事実のみをユーノが答える。

 

 

「今、ナハトヴァールが使っているコアは、ユウのリンカーコアと結合した闇の書の意思そのものなんだよ」

 

「__」

 

「どうして、そうなったかまでは分からないけど。今、目の前の原因となっているものの根幹は彼のコアなんだ」

 

 

それなら、どうすればそれを処理できるかは。__何が最善手であるのかは。

 

 

「俺自身が一番よくわかっている。」

 

「それ、は……そうかもしれないが」

 

 

管理局として、この世界を守る番人として。

 

……そして、俺の友人という立場にいてくれた、そんな責務と友情を思ってくれているクロノだからこそ、言葉に詰まり……何がこの場において、より多くの人を守るためにはどうすればいいのかを、自ずと導き出してしまう。

 

 

「……ユウ。君は、自分のコアとアレをぶつけて__」

 

「ああ、それならなんとかなるはずだ。リインフォースのことも、本人から聞いているだろ?」

 

「それは……うん。けど、ユウ。君は本当にわかっているのかい? それはつまり」

 

「わかってるし、覚悟も決めてるよ」

 

「でも、それでも。……止めても、無駄かい?」

 

「それは、ユーノなら分ってくれているだろ?」

 

 

ギリッ、そんな歯軋りのような音がユーノの口から響く。

 

 

「本当に、君は最低なヤツだ」

 

「ああ。本当にどうしようもなく、な」

 

「でも、それでも僕は。君のともだちだ」

 

 

だから

 

 

「さよならは言わないよ」

 

「おう。ま、もしかしたらまた会えるさ」

 

 

その言葉を聞いて。ユーノは何かを投げてくる。

 

 

「これは」

 

「通信機だよ。君、今はそれの影響でロクに念話も使えないだろ。……せめて最後までサポートさせてくれ」

 

「ほんと、いつもサンキューな」

 

「クロノ。結界をなるべく強く維持しなきゃいけない。協力してくれ」

 

「…………」

 

 

今の一連の会話を聞いていたクロノの顔は、より厳しい顔となっていたが先ほどまでの否定的な言葉は溢さなかった。

 

ひとつ、小さなため息を吐いた彼は、残ったアースラの魔導士たちへと指示を出す。

 

 

「全局員に通達。即刻、結界内から退避し、残った魔力を全てこの場の維持に専念……以上だ」

 

 

背を向けたまま、何をするかも言わずにただ頼んだ俺の望みを、ただ静かに聞いてくれた。

 

 

「……助かるよ、クロノ」

 

「ひとつ、約束しろ」

 

「……」

 

「必ず、もう一度ボクたちの元へ帰ってこい。それだけは守れ」

 

「…………ああ」

 

「絶対にだ。……ユーノ」

 

「うん。……ユウ、任せたよ」

 

 

「任された。今度はゆっくり話でもしような」

 

 

この事件を解決したら。そんな次の約束を交わす。

 

 

「………」

 

「全部終わったら、絶対に」

 

 

そんな俺の言葉にただ、肯定の頷きと絶対いう言葉を残してふたりは一度も振りかえず、ただ結界の外へと飛び立つ。

 

ただその光景を黙って見つめる。

 

……次、次か。そうだな。

 

 

「……いつになるかは分からないけど、守るよ」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

「行かせて! お願い!」

 

「………」

 

「ヴィータちゃん、お願いだから……」

 

「……悪い」

 

 

はやてとなのはの抵抗も虚しく、もう体を動かすことすら難しい私たちはシグナムたちにされるがまま、結界の外へと連れ出されてしまっていた。

 

ユウがこの戦場に来た、来てしまった。それだけでも、とても嫌な予感がしたのに。最後のお別れのような会話が嫌に心をざわつかせる。

 

彼が一体何をしようとしているのか。誰も口にはしないけれど、みんな心の中ではもう分かってしまっている。でも、まだそれを肯定する言葉を事情を知っているであろう、シグナムたちは語っていない。

 

だから、きっとまだ何か。他に何かがある、そんな希望的観測を持ち続けている私は、せめてユウが何をしようとしているのかを……自分が思っていることではないと言って欲しくて、必死に自分を抱え込む剣の騎士へ質問を続ける。

 

 

「ユウは、何をするつもりなの?」

 

「…………」

 

「なんであそこに来ちゃったの?」

 

「…………」

 

「なんで、リインフォースだけ残ったの?」

 

「…………」

 

 

なんで、なんで。そう言葉を投げかけても、目の前のシグナムはただ目を瞑り、何も言ってはくれない。その姿がより、私の心をぐらぐらと不安定にさせる。

 

 

「なんで、何も言ってくれないの?」

 

「…………すまない」

 

 

何度尋ねても、ただ謝って終わり。違う、私が聞きたいのはそんな言葉ではなくて、彼の、ユウのことなんだ。

 

だから、安心したくて。何事もなく帰ってきてくれると言って欲しくて。

 

自分の声がもう掠れるほど、今までこんなに使ったことがないほど喉を酷使して、シグナムに問い続けた。

 

 

「どうして? ねぇ、教えてよ……ユウは何をする気なの?」

 

 

そして、ようやく硬く縛った彼女の口が開いてくれる。ああ、これでいい。これでこの心の嫌なざわめきとお別れすることができる、そう思ったのに。

 

 

「…………アイツは」

 

 

シグナムから聞かされた言葉は、真実は想像していたよりも、もっと残酷で冷たくて……信じたく無いもので。

 

 

「アイツとリインフォースは」

 

 

でも、その言葉を紡ぐシグナムの表情が。顔が。

 

 

「ナハトヴァールとともに__」

 

 

その言葉が事実であると、現実であると私に強く認識させてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






これは次に繋げるための戦い。


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A's 第24話 ユニゾン・トライヴ

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙していた黒き呪いの獣、闇の書の"闇"ともいうべき悲しみの連鎖の根幹。

 

幾たびの時を超え、幾たびの屍を生み出し、幾たびの悲劇を作り出してきた全ての元凶。

 

幼き魔導を操る少女たちが乗り越えた__否。乗り越えきれなかった絞り霞ではあるが、それはまごう事なき厄災。

 

あまりにもその大きな力は、身体とリンクするように肥大化し、今では元の小さな武装であった頃の面影など、ちらつきもしない。

 

 

「————」

 

 

空気を吸い込み、肺の二酸化炭素を吐き出す。生物として当たり前のことを行なっただけなのに、空間が軋みをあげた。

 

ただその大きな眼で見つめられている。それだけのはずなのに、背筋が凍るような感覚すら覚えさせられる。

 

 

__もうお前は用済みだ。大人しく身体を寄越せ。

 

 

そんな意図が、殺意とともに込められたものが自分へと向けられている。……そう、確信できる。

 

 

……その視線に、体が震える。

 

 

みんなには、なんとかするだなんて……あんな強気な啖呵を切ったけど……たぶん、俺は恐怖というものを眼前の獣に感じているのだろう。

 

でも、ここで退くわけには行かない。

 

これは俺のためではなく、あの子たちを。この街の人々すべてを守るために、やらなきゃいけない最後の使命だ。

 

そんな強がりと今まで貰った/貰ってきたものを胸に俺はただ戦うのだ。

 

 

「ナハト」

 

《はい。既に最適化済みです。今の主人ならば、全てを代償にする主なら私を十全に扱えるでしょう。……管制人格(マスタープログラム)

 

「ユウは既に騎士たちや主と同じ……いや、もうそれ以上に私と繋がり、同化してしまっている。……夜天の魔導書も扱えるだろう」

 

 

初めは偶然の不幸からだった。出会うはずのない、出会ってはいけない器を求める者(ナハトヴァール)適した器()

 

アレは既に適していたはずのものを、より自分の求めた最高の身体に、最適の入れ物にするために時間をかけて、書の管理者(リインフォース)を道として俺を侵食していった。

 

魔法という異能。

 

それを使うたびに、ナハトという分身を使うたびに、この身は人間から魔法生物へと……もっともアレが臨む形へと変換されていった。

 

全てあれの思惑通り。

 

初めて出会ったその瞬間から定まっていた……定めていた、想像していた終幕通りの結末こそが、今ここに立っている"俺"という___ヒトでは無くなった器。

 

ナハトヴァールからしてみれば、嘸かし愉快なことだろうな。

 

けれど、誤算があったとすれば……。俺という新たな容器を作った先が、お前以上にナハトヴァールと敵対するもの(リインフォース)と相性が良かったことだろう。

 

 

__強く、もう一度、負けないように強く目の前の悪を睨みつける。

 

 

 

「もう、言葉はいらない。お前には色々と助けられたけど————あの子たちを傷つけると言うのなら、俺は絶対に許さない」

 

 

《【standby lady?】》

 

 

「__セットアップッ!!」

 

 

《Erosion・Nacht Alt 2 Ex Mode》

 

【phase2 Start】

 

 

 

正真正銘、これが本当に最後の戦いだ。

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

「———————————ッ!!!!」

 

 

__迫る。迫る。迫る。

 

 

限りなく視界を埋め尽くすほどの魔法による攻撃と、無辜の人々から奪ってきた力の本流が、ただ俺と言う個を手に入れるためだけに迫り来る。

 

海面に映る形容し難い、吐き気を催すほどの冒涜的な触手はひとつたりとも余すことなく、自分へと伸びて向かってくる。

 

 

《解析不可。主、回避を推奨します》

 

 

ナハトからの警告に自身の全てを使って身体を動かす。右、左……下、斜め、その悉くから一瞬たりとも休む暇を与える隙も与えずに、伸び続ける悪意の本流になんとか対応する。

 

頭上から現れた砲撃をいなし、海上から生える触手を切り裂き、稲妻のように走る魔力の一槍を上から叩き潰す。

 

まだ一度しか使っていなかったこの力だが、明らかに先ほどまでとは比べ物にならないほどに、格段の出力、反射神経、魔力を与えてくれている。

 

 

「シュート!」

 

 

ただ一言、そう命令を下せばベルカ式の砲撃魔法が起動し、目の前で無数に蔓延っていた触手は溶け消え。

 

 

「シルト!」

 

 

ただ一言、言葉とともに手を前へとかざせば黒く大きな三角形のシールドが、燃え盛る業火をいとも簡単に防ぎ切る。

 

 

__すごい。

 

 

ただ、その言葉に尽きるほど、このNacht Wal Alternativeという存在の恐ろしさに、使い手であるはずの俺が驚かせせられる。

 

 

空をかける速度は迅雷の如く。

 

砲撃を防ぐ防御魔法は鉄壁のように。

 

敵を切り裂く炸裂魔法の力強さは竜の息吹の如し。

 

 

この力は、あまりにも人が踏み入ることができる領域ではなく、これが生命という最大限のコストを支払っているからこそ、だというのをナハトを行使している自分が一番理解している。

 

そう、十分。いや十二分なほどの力だ。あまりにも大きな——自分が本当に使いこなせているかすらも、わからないほどに大きな力なんだ。けれど。

 

 

__それでも、自分の持てる全てを使ったこの力を出し切っても。それでも、なおアレに手が届かない。

 

 

攻撃が、手数があまりにも……いや、あらゆるもの全てが多すぎる……!

 

 

俺たちが死力を尽くすように、ナハトヴァールもまたこの星全てを飲み込むほどの力を使い、目の前の欲した俺という器を手に入れようと死力を尽くしてきているのだ。

 

攻撃の手は、もう秒毎に大きくなっている。小雨だったはずのものが豪雨になるように、穏やかだった川の流れが濁流へと変貌するように。

 

当たり前の話だ。相手はこの地球全てを滅ぼすほどの力を、その身へと宿した正真正銘の化け物。

 

 

その上で、余りある滅びの力を奮っている相手は、たかが人間ひとり。

 

 

そして、俺一人では把握しきれない……否、使いこなせていないナハトの力では太刀打ちする事ができるはずもない。

 

……やっぱり当たり前のことだった。いくら目の前のものと同じ力を持っていたとしても、扱うものが未熟であれば戦いにすらならない。いや、その土台に立てているかすらも怪しい。

 

 

《次がきます》

 

「……っ! 全部は無理だ!」

 

 

これではまともに近づけないどころか、こちらから攻撃することも叶わない。俺とナハトのみならば、このままならば、その指ひとつすらアレに触れることもできないだろう。けれど。

 

 

「なら全てを切り裂け。今のキミなら私と擬似融合化(ユニゾン)……いや、その暴れ馬とともに別のものへとなれるはずだ」

 

 

そのリインフォースの頼もしい言葉が、スッと強張って力んでいた肩の力を抜いてくれる。

 

忘れるな。今の俺には、ナハトヴァールと言う存在を知り尽くした天敵、その写身たる者(ナハト)夜天の魔導書の意思(リインフォース)が付いていてくれているんだ。

 

ならば、それならば。十全となったこの力をより引き出し、ひとつ上の段階へと登りあがることができる。

 

眼前に迫る数多の攻撃から、決して邪魔をされないように……ひと時の間だけ逃れるために、遠い……遠い空の上を目指して大きく駆ける。そして。

 

 

 

__空へと、静寂があたりを包み、暗き世界を月明かりのみが照らす……喧騒なき静かな夜天の元へと辿り着く。

 

 

 

この血生臭い、死という匂いに充満した世界でも何も変わらずに、ただただ美しい月が視界に入る。……そして、ともに在るもう一人の、もう一つの力と顔を向き合わせる。

 

 

__この生き残れない、誰かを守るためだけの戦いへと赴く俺に、ただ一つの曇りも迷いもなく頷いてくれた彼女へと手を差し出す。

 

 

これは今とのお別れであり、先への道筋となる儀式。

 

———月光がリインフォースの銀色の髪へとうつり、光り照らす。

 

月下の元で光り、煌めく彼女の姿はとても幻想的で、そして儚い。……そう感じるのは、きっとこれが終わりだから。

 

そんな、場違いすぎる感情と目の前のヒトを改めて見てつい、自分の口が軽くなる。……言うつもりがなかった心の内側を言葉にしてしまう。

 

 

 

「今だから白状するとさ。本当は俺、戦うのとか大嫌いなんだ」

 

 

 

誰かを守るためだとか、何かを勝ち取るためだとか、そんな正義の大義名分があったとしても、それは。

 

 

「みんな、同じだと思うんだよ。戦うってことは、それぞれがどうしても譲れないものがあるからで」

 

 

例えそれが非道なものや、関係のない誰かを傷つけてしまうものだとしても。

 

 

「結局、戦うってことは俺自身もその相手を傷つけちゃうってことだからさ。……それがどうしても、嫌だしやりたくないって思うんだ」

 

 

それが絶対的な悪であろうとも、それが海上で咆哮する……ナハトヴァールだとしても。

 

 

「甘い考え、だよな」

 

 

平和なんて言葉はまやかしで、それが実現することができない理想だと言うのも十分に理解している。でもこの考えだけは、今この状況下であっても消えてはくれなかった。

 

……とても甘くて反吐が出るような綺麗事。それをこの戦いへ、ともに出向いてくれた……文字通りに命をかけてくれたリインフォースとナハトに伝えると言うのは、彼女たちを裏切るというのと同意議だろう。

 

けれど、この人たちには。この俺の本当の想いを隠しておきたくなかったから。

 

そんな自己中心的で、偽善に満ちた言葉を投げて意味はないけど、それでも言わなきゃいけないと思ったから。

 

きっとこの本音で、彼女たちが失望するとしても。

 

けれど、そんなあまりにも酷い言葉/本音を聞いたリインフォースの顔を見た時、それが間違ったものだと気付かされる。

 

 

"笑っていた。"

 

 

大きな声をあげたり、満遍の笑みだったりとかじゃなく、ただ、静かに微笑んでいた。

 

 

「やっぱり、キミは。ユウは変わらないな」

 

「ぇ?」

 

 

ただ、俺がそう考えるのが当たり前だと……そう在るのが自然だとでも言うような言葉とともに、そっと俺の手を両手で優しく包むように握ってくれる。

 

 

 

「多くのことをキミから聞いた。

 

多くのことをキミに教えてもらった。

 

多くの感情を、キミからもらった。

 

だから……本当にユウのことは、よくわかるさ」

 

 

 

それだからこそ、私はユウという存在を信頼しているし

 

 

 

「だからこそ、この力を主以外のキミへと貸せると思っているんだ」

 

 

「リイン、フォース……」

 

 

「それはナハトも同じだろう?」

 

 

《ええ。何度も繰り返しますし、貴女と似ているという点で、かなり癪ではありますが。……本ッ当に癪ではありますが、認めましょう。私たちは、どうしようもないほどに————》

 

 

 

 

「————キミを、ユウを()いてしまってるんだ」

 

 

 

 

そう、顔を赤らめて微笑む彼女の声と視線に、どうしようもなく心が動かされる。

 

 

明確な好意、というものなんだろうか。

 

けど、それは。

 

これまで多くの人たちから向けてもらえたもののはずなのに、リインフォースから受け取ったこの感情は、なんだか別ベクトルのような気がして……その想いは、酷く尊く美しいもののように感じてしまう。

 

この天空で、月明かりを背に微笑み、暖かな言葉を紡いでくれたリインフォースとナハトの声を、表情を__俺は、何があっても決して忘れることはないだろう。

 

 

「そんなキミが守りたい者のための戦いだ。私も全てをユウに預けるよ」

 

《心配ありません。私たちが、ナハトヴァールという最高の武器と、それを担う……リインフォースがいるのです。恐れるものなどあるはずがないでしょう?》

 

 

「………ホント、俺がいうのも大概だけどさ」

 

 

「?」

 

《?》

 

 

「物好きだし、趣味が悪いと思うぞ」

 

 

「……ふふ、ああ。でも好きなものは仕方がない、だろ?」

 

《その通りです。責任をとってください》

 

 

「はは……そうだな。けど、それは」

 

 

視線を下の方へ……以前として力の限りを尽くし、暴れ続ける"敵"の姿をこの目に定める。

 

 

「ナハトヴァールを倒してからだ。__行くぞ?」

 

「ああ」

 

《はい》

 

 

【Last.Unlock】

 

 

Nacht Wal Alternative(ナハトヴァール・オルターティブ)、リインフォース」

 

 

 

【Final.Form__Standby】

 

 

「————ユニゾン・トライヴ」

 

 

【LimitOver Trivu・On】

 

 

 

 

 

 

 






ただ、最後にその想いを聞いてしまったのは……なんとも、後悔が残りそうだな。


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A's 第25話 今を受け取り、次へと託す。それが人の描く物語

 

 

 

 

 

 

「————ユニゾン・トライヴ」

 

 

【Limit Over Trivu・On】

 

 

「《Pseudo Fusion・Night sky Primitive》」

 

 

 

触れていた指先からゆっくりと光の粒子となって、リインフォースが俺の中へと溶け込む。

 

手先のみで感じていた暖かな体温は、全身を包むように優しく身体の隅々へと入り込んでいく。それは決して不快なんていうものはなく、心地よさのような癒しのような、不思議な感覚だった。

 

 

 

__黒く濁り澱んでいた自身の体を守る鎧は、汚染されたものを洗い流すように鈍く輝く黑色(こくしょく)へと、その本当の姿を取り戻し。

 

 

___力を使うたびに体を侵食するかの如く、全身へと走っていた血のように赤き魔導線は、その色を白色(はくしょく)へと塗り替える。

 

 

____空を駆けるため背より生伸びる、堕天によって汚れてしまった翼は、1対から3対へと大きく広がって……純白の聖光を宿し、背後の月明かりを反射していた。

 

 

 

 

静かに、目を開く。

 

 

 

先ほどまで死の色でモノクロと化した暗い世界が再び、自分の知っている色を取り戻した。"赤くなった"自分の瞳の先、視界ににチラつくのは元の自分の黒い前髪と、一部が白い"銀色の"毛となったもの。

 

 

融合って、こういうことか。

 

 

__自分が一体どうなったのかが、自然と頭の中に浮かび上がってくる。ギュッと握りした自分の右手の"感覚に"自然と笑みが笑みが溢れた。

 

 

ああ……これなら。

 

 

全部を、なんとかできる気がする

 

 

溢れ出るものと中に巡る魔力が、その大きさがあまりにも自分に勇気と気力を与えてくれる、そんな気がするんだ。

 

 

手を握ったり開いたり、足の感覚や背中の羽を確認していると、耳にはめていたインカム型の通信機が小さな振動と通知音を鳴らし始める。

 

横にある小さなスイッチを押してみれば、焦ったような声とともに目の前にはユーノとクロノの姿が映し出された。

 

 

『ユウ! っ、その姿って……それに目が……?』

 

『……また未知の魔力を観測したと思えば。やっぱりお前か、ユウ』

 

 

このふたりの反応を見るに結構、見た目も変わっているようだな。

 

 

「《えっと、そうだな……これは、あれだよ。ちょっとばかりの色直しだ》」

 

 

ん、なんか声が少し高くなってるけど、これもユニゾンの影響かな。

 

 

『もしかして……とは思っていたけど融合形態(ユニゾン)、だね。やっぱりそのためにリインフォースはそっちに残ったのか』

 

「《ああ。今から最終決戦だからな、俺の本気……というかナハトとリインフォースとの全力さ》」

 

『はやての事例があるからユニゾンというものを、僕たちもある程度は把握しているが……つくづくキミは規格外なヤツだと改めて実感させられたよ』

 

「《それは、まぁ……そうか。あんまりよくは分かってないけど、随分とすごい力を感じる》」

 

『ユウ、君の魔力量は……観測した数値は、もうSSランクを優に超えているんだ。……ボクの知る限り、こんな数値は見たことないほどさ』

 

『ナハトヴァールと同様にメーターも振り切れている。その白と黑が混ざった魔力光が、キミ本来のものか……? しかし以前のような混ざったものではなく、明確に別れたものが2つ?』

 

 

そう言って、俺ではよく分かっていなかった自身の力量について語るふたりは、言葉を発する度に目を見開いていく。たぶん、心底驚いているんだろう。でも、それがなんだかより心を軽くしてくれた。

 

 

「《そう言葉で聞くとなんだか自信がつくよ》」

 

 

そんな言葉をふたりに向けて言うと、また少し驚いたような顔をする。

 

 

『なんか、さっきまでと雰囲気が違うような……』

 

『キミ、そんなに自分に自信とか持つようなやつだったか?』

 

「《さぁな。それより今は》」

 

 

___改めて自分が討滅すべき厄災の姿をこの目に宿す。

 

黒き呪い、悲劇の根源、破滅を知らせる悪の渦。

 

大きな獣のような姿から羽化するように溢れ出た、いや生まれた龍のようなソレは。

 

探していた俺という器を__上空に佇む俺の姿をその紅い眼で見つけた。

 

 

〈Glaaaaaaaaa!!!〉

 

 

大きな、地響きのような咆哮を上げながら。

 

 

俺がナハト、リインフォースとユニゾンして姿を変えたように。ナハトヴァールもまた、その身を新たな形態へと……闇というものを司る真の姿へと変えていたのだ。

 

 

『っ!? 今のは……って数値がより増大? なんだこれ……これじゃまるで』

 

『チッ! おい、ユウ! まずいぞ、今のナハトヴァールは先ほどまでのものとは違う!』

 

『飛行能力まであるのか……!? ユウ、空に上げさせたらヤバいよっ!』

 

『なんと止めれないのか……いやこの規模の魔力を持つ相手にキミひとりでは……』

 

 

カメラを通して、そして観測機で俺に立ちはだかるナハトヴァールの存在を、遠くからでも認識しているふたり。

 

だからこそ、以前の力量を知っているクロノとユーノからしてみれば、今の俺はいきなり死線に立っているかのように見えているのだろう。

 

 

「《わかってる。でも、大丈夫さ》」

 

 

__ああ、うん。目の前の咆哮をあげる"魔法生物"が、すでに別領域へと足を踏み入れた未知の存在だということは、実際に目の前で見ている俺が一番わかっているよ。

 

山をも砕くような巨大な足、羽ばたこうと広げただけで空間が振動するほどの翼。常に黒い瘴気/魔力を吐き出し続ける醜き口先。

 

その全てが神話に登場するような終末の龍を思わせる__でも、その場所へ足を踏み入れたのは、お前だけじゃない。

 

 

少しの間、目を瞑り————ユウ、これを————必要な魔法を探し出す、いや見つけてもらう。

 

 

側に佇む夜天の魔導書へ、そっと手を向ける。

 

 

とりあえず、空に飛ばれたら厄介だし……まずはその動きを抑制しよう。

 

 

 

「《擬似認証、強制解除(コード)■■■■。遥かな過去__記録より再現し、拘束しろ————グレイプニル》」

 

 

【Gleipnir】

 

 

 

そう、ただ言葉を口にしただけ。

 

 

瞬間、無数の古代ベルカの紋様が術式となって、ナハトヴァールの体を囲むように展開され、魔力で作り出された黑と白の鎖によって体を縛り付ける。

 

とある神話にて、悪神から生み出された神殺しの獣。それの体を封じ込め、あまつさえ力をも奪い取る魔法とよく似た魔術で作られた伝説の鎖————あくまで再現した紛い物ではあるが、その拘束力はあまりにも強すぎる。

 

けれど、決して油断はしないし、ナハトヴァールという存在を甘く見るつもりはない。手に魔力を集中させ……握る。

 

そうすればさらに多くの鎖が展開し、よりきつく頑丈に、絶対に逃さないように黒き龍の身体を締め付ける。そして、龍は再びその口で大きな音をあげる。でも、さっきとは違って。

 

 

 

〈Glaaaaaaaaa!!!???〉

 

 

 

随分と苦しそうな、悲鳴のような咆哮だけどな。

 

 

 

「《1、2、3……うん、20本くらいで多少は時間を稼げるかな》」

 

『………は? え、ボクの見間違い? あれって"S"クラス以上のバインド……いや、それに属する拘束だよね。それを同時に20も展開って』

 

『見間違い、であったなら良かったが僕の目にも、観測機にもしっかりと写っている。……それでもあの拘束だけでは長くは持たない、というのが現実だがな』

 

 

クロノの言葉通り、あくまでこれは動きを封じるだけの時間稼ぎだ。ナハトヴァールが空を飛ぶ手段、先ほどまでなかった移動方法を得てしまった以上、結界から出られてしまう可能性ができてしまった。

 

それならば、あの鎖が全て破壊されて消え去る前に翼を叩き落とし、決着をつけるしかない。

 

なら、狙うべき場所……アイツの弱点となる、今なお俺から奪い続けているリンカーコアの場所を破壊するしかない。

 

 

「《ユーノ、ナハトヴァールのコアの位置はわかるか? まだ俺とアイツの引っ張り合いは続いているから、検知できないか》」

 

 

そう聞けば、ちょっと前まで混乱していたユーノの顔と声が切り替わる。うん、やっぱりお前は一流の■■■だよ。

 

 

『それは大丈夫だよ、ばっちり補足してみせる! クロノ、手伝って!』

 

『わかっている! 演算と修正……探知の並行だ、お前も僕もしばらく寝込むことを覚悟しておけ!』

 

 

今のナハトヴァールが、コアを失ったはずのアレが動き続け、再生し、新たな姿へと変生したのは俺から引っ張り出したリンカーコアのおかげだ。

 

奪われた、というのは少し間違いで正確にはまだ、俺の中にほんの少しだけ……1割にも満たないほど小さなものが残っている。

 

本来であればリンカーコアのほとんどを持って行かれた俺は、魔法を使うことができない。

 

実際、記憶を失ってから今日という日まで俺の魔力は低すぎて、クロノたち管理局や現地でサーチをかけていた、なのはたちにすら発見できない程に消えかかっていたからな。

 

でも不幸中の幸いとでもいうべきか、前の俺のデバイスを通じてNacht Wal Alternative(ナハトという擬似融合型デバイス)を、"直接、自分のリンカーコアにインストール"したことで魔導士としての死は免れた。

 

ナハトやリインフォースのような融合型デバイスというのは、少し特殊でそれぞれが個々の生き物であり、独自のリンカーコアを持っている。

 

つまり、もう消えかけていた俺のコアを補強するように、もうネジ1本しか残っていなかった俺の部品を軸にするように、ナハトが自分のリンカーコアを俺と融合/結合してくれたから、あの瞬間————"私"という意思が目覚めた瞬間————から魔法が使えるようになった。

 

ただ、いくら元の俺の魔力が組み込まれていても、それはほんのわずか。

 

改めて俺の体を検査したクロノやリンディさんたちが、"魔力光や質が変わりすぎて、別人のようだ"といったのも頷ける。それほどまでに変質してしまっているからな。

 

けど、現在進行形で目の前のナハトヴァールは、俺のリンカーコア全てを奪い切ろうと繋がりを残したままに、その魔の手を伸ばし続けている。

 

 

その理由は簡単で、アイツが欲しがっているのはリンカーコアだけではなく、"俺"という存在の全てだからだ。

 

 

しかし、そのせいでナハトヴァールは俺との明確な線を切り切れていない……だから、それを逆手にとってやれば__

 

 

 

『……ッ! 見つけた! ユウ、コアは頭部の中心……目と目の間にあるよっ!』

 

 

__お前が1番隠しておきたい俺の心臓(お前の命)を見つけ出せる。

 

 

「《助かった。ありがとう、ユーノ、クロノ》」

 

 

画面の先では、残りあった少量の魔力を使い果たし、顔も真っ青にしたふたりが声もなく目を虚ろにしながら、ただ頷く姿が見えた。

 

多分、もう間も無く意識も失ってしまうだろう。また無理、させちゃったな。

 

 

……本当に、助けてくれてありがとう。それと。

 

 

「《今までのことも、ありがとな。__本当に感謝してる》」

 

『……ユウ、何を、言ってる、の?……ぅ』

 

『……ッ……待て、キミ、記憶が__』

 

 

ゆっくりと倒れて意識を失ったふたりの姿。そして、クロノからの"最後の言葉"に少し苦笑い。

 

ふと、横に浮遊する夜天の魔導書に……俺のリンカーコアを蒐集したものへと、優しく触れてみる。

 

 

いや、別にな。全部を思い出しているわけじゃないさ。

 

 

そう、たださ。ほんの少し__

 

 

 

 

 

__えっ!あっ……えっと、私は高町なのはです……

 

 

__それにボクがいた方が何かと便利でしょ?ユウの魔法に関する事は一番近くで見てるし

 

 

__私もユウと仲良くできたら……嬉しい

 

 

__まぁその……僕もユウのような奴は嫌いじゃないって事だ。何となくほっておけなくなる

 

 

__うん、もうええんよ。……ユウさんの"ああ言う所"は今に始まったことじゃないし

 

 

 

 

ほんの少し、懐かしい光景が頭に蘇ったってだけのことだから。

 

 

 

 

 

〈Gilllaaalaaalaalaaaa!!!!!〉

 

 

 

 

「《全く……少しくらいは待ってくれてもいいんじゃないか?》」

 

 

 

どこかで見た/どこか懐かしい思い出から、ひとつの大きな鳴声と砲撃魔法に現実へと引き戻される。

 

いくら体を拘束しようと、コアがある限り無限に膨張し続ける魔力を使って遠距離攻撃をしてくるのは当たり前の話だ。

 

時間をかけるごとに激しく、多くなり続ける黒炎をレーザーのような魔力の砲撃がほんの少し身体に掠る。

 

 

「《やっぱり全部を避けるのは無理か。でも近づかないと、コアを破壊できない》」

 

 

海上から上空にかけて、無数に繰り出され続ける穢れた魔力と炎を避けながら思考する。

 

アイツのコアを破壊する、それは"自分と今も繋がり続けるコアごと"同時に行わないといけない。

 

繰り返すが、この身に宿るリンカーコアはすでにほぼ消えかけ。

 

けれど、その大元である元の自分のコア__否、もはや第2のナハトヴァールとなり、その本体とも言えるあのコアだけを破壊すれば、転生という資質と一度繋がった道を辿って……きっと目に見えるほどの近い未来で、俺とナハトのコアは第3のナハトヴァールとなる。

 

そして、俺という存在とナハトヴァールを繋いだ、繋いでしまったリインフォースと夜天の魔導書もまた同じ。

 

自動修復システム、無限転生機構によって何度も時代を超えてきた書はいわば、ナハトヴァールという存在の生みの親であり……現存する限り、夜天の魔導書が絶対に切り離せない、闇の書という面を持っている限り、次のナハトヴァールを生み出してしまう。

 

 

 

__遠回しな言い方とか俺できないからさ、とりあえず結論から。俺とリインフォースは、どんな結末になっても……この戦いの後に消えなきゃいけない。

 

 

__俺もリインフォースも、もうこの身体でいる限りナハトヴァールを生み出すきっかけになっちゃうんだ。

 

 

__それで、ここからはもしかしたらの話だけど。

 

 

__今も奪われ続けている俺のコアを、ナハトヴァールが完全に支配しちゃってたら多分、あれは作戦が無事に終わっても復活する。

 

 

__だからその時は俺とリインフォースの番だ。……リインフォースには連戦になって申し訳ないんだけど。

 

 

__絶対に俺がアレを止める。だからシグナムたちには、はやてたちを頼みたいんだ。なるべく結界から遠ざけてくれ。

 

 

 

 

だから、俺はどのみち絶対にこの先の未来がない。それは確定事項だ。

 

 

でも、なのはやフェイト……そして、はやて。あの3人とこの街の人々、アースラの乗員たち。

 

 

その人たちには明日があるんだ。

 

 

時間にすれば1年くらい。けれど、その間にみんなには多くのものをもらってきた。

 

 

そう、受け取ってきた側の人間なんだ、俺は。

 

 

 

「《————なら、次は渡す側に立つ。これは決して、悲しいことなんかじゃない》」

 

 

 

悲しいことではなく、明るい綺麗な先/未来へとあの子たちを見送るための道筋。それを作るために、そして作ることで俺は。

 

 

 

 

「《俺は、自分の未来をあの子たちへと託すんだ》」

 

 

 

 

 

 

 

 





それが俺/ユウという人間の物語の終焉だ。










———————————————————————


こんにちわ。作者のぺけすけです(๑╹ω╹๑ )

珍しく後書きみたいなものを書かせていただきますが、興味ないよ! という方は遠慮せずに飛ばしちゃってください(笑)。

さて長いようで早かったA's編の物語も、もうまもなく終わりを迎えます。ありがたいことに、復帰してから多くの感想やメッセージをいたただいおり、この速度で投稿できていました。

この場で改めて、読んでくれた読者の方、感想やメッセージをくれた方々に感謝を!

またネタバレを危惧し、配慮のためにわざわざ感想と考察をメッセージでくれた方々までいました。本当に長く待たせてしまってすみません……!


そんなメッセージで多く質問いただいていましたので(多かったものや、答えれる範囲で)、ここで返信させていただければと思います。

(想像以上に多くのメッセージをいただいて驚いている反面、嬉しい限りです! 必ず全てに返信させていただくので、まだ返ってきていない、という方は恐縮ですが、もう少しだけお待ちください……!)



Q.結局、ユウって何者?

A.一般人?です。


Q.シリアスで心がしんどい。ヒロインとのイチャイチャもっと……!

A.A's編後はsts(strikers)編になるんですが、もうそれは多く書きますとも!


Q.A'sの後は空白期とかなの?

A.空白期は一部やりますが、StS編の間とか完結後の予定です。


Q.なんかリインフォースとのお話だけえっちくない?

A.趣味です。


Q.リインフォースとユウの絡みってもうないの……?(主に好きになった過程とか)

A.番外編の『.5話』で出す予定です。ユウがA'sでの最後の力を開放するために、本当はいっぱいイベントがあってそのお話もあるんですよ。……私のPCのフォルダに。


Q.リインフォースって、もしかしてヒロイン?

A.はい。

何というか……原作があんな感じだった反面、INNOCENT時空ではあまりに普通の女の子でしたので。私の小説くらいでは、ごく普通の女の子と同じように多くのことを知って、多くの出来事を見て、そして恋をする。そんな経験があったー、なんてロマンチックじゃないですか?


Q.なのは、フェイト、はやてとのイチャイチャはどこ?ここ?

A.もうほんとstsで死ぬほどやります!! なんならメインまであります。


Q.もうA'sも終わりでこの作品が終わりと思うと悲しい。

A.めっちゃ嬉しいメッセージでした! でもここだけの話、まだ半分も行ってないんですよ。この物語のメインはstsなんです、はい。


Q.ユウのデバイスってどうなったの?

A.軽くは描写しましたが、ナハトヴァールのコピーをインストールするという過程で"ナハト"という魔力生命体(今はユウを生かすためにリンカーコアに留まっている)へとなって完全に崩壊しました……というか、もうナハト=ツァイトという感じですね。


Q.なんでユウはリインフォースとユニゾンできるの?

A.ナハトヴァールの影響とか、リインフォースからの魔力をもらい続けたからとか、体が人間から魔法生命体になり始めてるとか、色々あるんですが……。

長いので一言にまとめると、めっちゃ体の相性が良かったからですね。ええ、深い意味はありませんとも。


Q.ユウくんの一人称が俺とオレの2種類あるのってなんで?

A.ひ み つ。


以上です。ここまでお付き合いしてくれた方は、おつかれさまでした。

そして再び感謝を。まだ続きますが、長く待っていてくれた方、そして新たに読み始めてくれた全ての読者へ、本当にありがとうございます!

あなた方のコメントや感想、評価がモチベややる気につながっているので本当に嬉しい限りです。これからもぜひ、感想やメッセージを気軽にいただけると、作者が泣いて喜びながら投稿のスピードを上げていきます(笑)。

では、またどこかで!






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A's 第26話 [A's最終話] またいつか、きっと会えるさ

 

 

 

 

 

 

 

 

〈Gilllaaalaaalaalaaaa!!!!!〉

 

 

 

大きく耳を揺らす咆哮と共に繰り出される魔力の砲撃。

 

ひとつ、ふたつ……数えるのも威力も、測るのがバカらしくなるような黒い閃光が、自分という個を刈り取るために撃ち放たれる。

 

それはまるで黒星の煌めき。流星の如く輝き、美しくも見えるだろう。

 

 

だが、その本質は呪い。

 

 

この世の生ける生物全てを滅ぼそうとする暗い、どこまでもドス黒い……目を背けたくなるような悪意の塊。

 

常人ならば受けることすら叶わず、直撃前の余波をもらった時点で体は__溶け消える。

 

例えその砲撃を受けて耐えたとしても、次に待つのはアレに込められたあらゆる生物からの悪感情。

 

あまりにも悪趣味な力を前に顔が歪む。

 

防いでも悪感情による呪いの伝染は免れない……ならば、あの名もなき魔法を受けるのではなく、消し去る。

 

 

__魔力を回転させ、右手に練り込む。

 

 

 

「《古き神を束ねし主神■■■■■(オーディン)の槍よ。巨人を滅し悪神を払った……その力を顕現せよ————グングニル!》」

 

 

【Gungnir】

 

 

巨神の神族を滅ぼし、消し去ったとされる彼の神が持つ槍の模造品。

 

魔法による光の奔流と、槍先から力を流れ出す黑い滅却の祈り。

 

右手に携えた贋作の力を振りかぶり……本来の力の一欠片を輝度するための言霊を刻む。

 

 

「《これはただ、先のものを消し去り。

 

これはただ、悪を滅し。

 

これはただ、祈りのために。

 

————消え去れッ!》」

 

 

ぐん、と投げた自身の体すら持っていかれるような錯覚に陥る。

 

自分の手から離れた主神の槍は、彼の雷神の力を浴びたように光速と為りて、放たれ……悪龍と化したナハトヴァールを目指す。

 

__その行く先にある黒き呪いの塊を食い散らしながら。

 

 

狙うのは片翼。グレイプニルによる拘束をすでに千切り始めた、あの巨体を天へと上げるための根幹部。

 

 

槍はそこを目指して……否。あの槍の性質は"正しい場所にとまったままでいない"。その言葉の意味は、必中。

 

 

 

〈Gaaakyaalaaalaaa!!!???〉

 

 

 

直撃。

 

槍はあの翼に触れると同時に、その巨大なもの全てを飲み込むような空間断裂を起こして、ともに消滅した。

 

根本から抉るように消したんだ。生物となってしまったお前には、さぞ痛いだろう?

 

 

槍を放つと同時に駆けるようにナハトヴァールへと飛び出したが、すぐに次の攻撃が放たれた。

 

接近した故に、今度は本体の一部から連なる触手の包囲と突き。

 

 

「《……ったく、切り替えが早いな!》」

 

 

書のページを捲る。次に使うべき魔法は、もう分っている/聞いている。

 

飛翔する自身の周りにベルカの魔法陣を4つ展開し、その石化の特性を宿した槍の名を束ねる。

 

 

「《彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍————ミストルティン!》」

 

 

ひとつの魔法陣を中心に6本、そして中央に1本。

 

それが4倍だ。遠慮することはない、どうせ片道切符のこの戦い……魔力を使い果たす勢いで、やらせてもらうぞ!!

 

ミストルティンの槍。それは攻撃性能は乏しい、ヤドリギで出来た木製の槍。

 

されど切り裂いたものに対して与える効果は、文字通り石化させる特上の呪い。

 

 

「《お前も随分と俺に酷いものを投げてきたんだ。遠慮なく味わえ!》」

 

 

石と化した触手を自分の武器、左の腰に挿していた西洋剣————悪竜殺しの刃、グラムに力を回す。

 

切り裂くと言うよりは砕いている、そんな感触が伝わりつつ、眼前に広がる無数の触手を捌いていく。

 

いったい何度この剣を振り下ろしたか。気づけば辺りには灰色の岩の残骸が霧散していた。

 

……そして、目の前には。

 

 

 

「《……よぉ。こうやって近くで顔を合わせるのは初めてだよな?》」

 

〈Gulalalalalalallalalllaaalaalaa!!!!!〉

 

 

 

もはや目と鼻の先と言っていいほど、接近したナハトヴァールが怒りの声をあげる。だが、その鳴き声の中には焦りの色も混じっているのを、確かに俺は感じた。

 

死の恐怖。

 

それは今まで無限に転生する……いや、転生し続けていた自動防衛システムだったお前が、決して持つことはなかった"感情"だ。

 

生物になると言うことは、欠点が増えることでもある。ただ機械的に敵を殺し続けていたお前なら、システムとしてのお前だったら絶対に手に入れることができない痛みだ。

 

 

……ほんの少し。心の隅っこで、同情というものが生まれる。

 

 

初めはただ、自分も同じように書の主や騎士たちと共に旅をしたかった。苦楽を共有する仲間になりたかった。

 

 

それが、この目の前で暴れ続ける存在の原初。

 

 

彼らが巡ってきた時の旅は多く、あまりにも永いもので。それはただの機械だった、歯車であったはずのシステムに感情という想いを作らせてしまうほどだった。

 

 

 

___ようやく手に入れた、手に入る。なのに何故、邪魔をするんだ。

 

 

 

そんな言葉が、確かに自分の胸に響いてくる。

 

ああ、お前のその願いは決して悪いものではない。憧れていたモノへと成りたい、それは誰でも願い、思うのが自由なものだ。

 

けど、それは。

 

 

 

「《もう……終わりだ。これで全部、おしまいなんだ》」

 

 

悪いな。お前もきっと被害者のひとりだったんだ。

 

訳もわからず生み出され、命じられたのは知りもしない一冊の本と名も知れぬ相手の護衛。

 

そして、生まれ変わるたびに加わる欲望という名前の汚い感情と、悪意が凝縮された自分への改変。

 

 

わかってるよ。お前は全部、命令された通りに自分の使命を果たしてきた。それだけなんだろう。

 

 

……だから、それ全てをここで終わらせる。

 

 

 

〈Gyaaaalaaaaagaaaaa!!!!!〉

 

 

 

俺からの言葉を、決別の意を込めた想いを拒絶するように。

 

ナハトヴァールは大きく口を開けて、新たな魔法を放つために"丸いミッドチルダ式"の……見覚えのある魔法陣を展開した。

 

その魔力の収集に集まる色は真っ黒だが、微かに桜色のものも含まれていた。

 

……闇の書、いや夜天の書は本来、数多くの偉大な魔導士が操る魔法術式(キセキ)を集め、保管するためのものだった。その起源すら譲り受けているであろうナハトヴァールはこの場で最適となる攻撃をあの子の……なのはの砲撃魔法と見定めたのだろう。

 

それだけなら、まだマシだった。

 

その隣と上部に2個目のミッドチルダ式魔法陣と、古代ベルカ式の魔法陣が現れた。しかもその魔力光の色は、金と白。

 

 

 

「《……ほんっとうに、悪趣味なヤツだな》」

 

 

次第に大きく膨れ上げっていく身に覚えのある術式に、感じたことがある心優しき少女たちの魔力の本流につい、言葉を吐き捨てる。

 

さて、どうするべきか。今こうして目の前に蔓延る触手を相手しているうちに、本体は魔力を貯め込んでしまう。

 

ならば、次の一手は___

 

 

 

 

『ユウさん!!』

 

『ユウッ!!』

 

『ユウさん! リインフォースっ!』

 

「《————っ!?》」

 

 

 

その思考は、突然耳に響いた声でかき消えた。……って、あぶな!

 

 

気を取られて鼻の先に触れかけた鋭い触手を横から切り裂き、海上から少し飛び立つ。そして、インカムを押してみればそこには、なのは、フェイト、はやての3人と……後ろに申し訳なさそうな顔をした守護騎士3人が映り込んだ。……ついでに寝かされているクロノとユーノの姿も。

 

え、ちょっと待ってくれ。一旦タンマ、めっちゃ混乱してるから。

 

たぶん、目を白黒させていた俺をよそ目に画面の3人は、同時にそして大きな怒気と悲しみを交えた声で、全ての事情を騎士たちから聞いたことを告げる。

 

 

「《そっか、聞いちゃったか。そっかー……》」

 

『嘘、なんだよね……? またからかってるだけなんでしょ!?』

 

『またいなくなるなんて、もう絶対ダメだから……!』

 

『なにか……なにか答えてよ! リインフォースもそこに居るんやろ!?』

 

「《…………ごめんな》」

 

 

その俺の言葉に3人の顔が酷く歪む。……全く、こうなるから言いたくなかったし、もう会うつもり、なかったんだけどな。

 

 

『いや、いやだよ……まだいっぱいしたいことも、話したいこともあるのに……っ』

 

『せっかく私、こっちに来れたんだよ……これから、ユウと、やっと……』

 

『ダメっ! 絶対ダメやっ! リインフォースも聞こえてるやろ! 今すぐやめて!!』

 

 

涙とともに取り乱し、荒れた声をあげる3人を慰める資格は……これから一生、この子たちの心の傷になる俺にそれをする資格はない。

 

 

————ユウ、少し変わってもらっていいか?

 

 

リンカーコアおよび、魂そのものへ完全に融合し、一体化しているナハトとは違って、まだ部分的にしか溶け込んでいないリインフォースから、そんな言葉が聞こえた。

 

 

ああ。……多分、はやてとは"これ"が最後になるぞ。

 

————もともと覚悟してるさ。それに本来は、何も言わないはずだったことだからな。幸運とも取れるよ。

 

……わかった。ナハトヴァールの攻撃は続いてるから気をつけろよ。

 

 

意識が切り替わる。

 

 

「《__むぅ。ユウの体で話すというのは……なんとも違和感があるな。……さて、主》」

 

『ぇ……リイン、フォース? リインフォース、よね?』

 

「《はい。少々、ユウの体を借りています》」

 

『! そうや、それ! なんでなの!? 全部、全部聞いた! 他に何か__』

 

「《__ないんです。これが最善なんです、主》」

 

『ある、はず……』

 

「《私はどの道にせよ、夜天の書とともに消えねばいけない運命でしたから。ああ、ご安心を。……騎士たちは、すでにプログラムから切り離していますから、こちらに残り主を守ってくれます》」

 

『違う……違うんよ……そういうことを言ってるんじゃないの……せっかく、せっかく家族に成れたのに、これからたくさん、幸せなことたくさん……っ!』

 

 

そのはやてからの言葉に、リインフォースの心は……直接リンクしている俺にはダイレクトに伝わってきたものは、ほんの少しの怒りと大きな喜びの感情。

 

 

「《何を言っているのですか、主。私はすでに十分に貴女から幸せをいただきました》」

 

『……ぇ? なん、で、何を言って……?』

 

「《主の暖かな言葉、感情、思い出。……そして何より貴女からは、あまりにも大きな名前という贈り物をいただきました》」

 

『リイン、フォースっ……!』

 

「《はい……大丈夫です。私はもう、世界で一番幸福な魔導書ですから》」

 

 

その言葉に、その彼女の嬉しそうな微笑みに嘘なんてものは、ひとつもなかった。

 

 

「《ありがとう……そして、さようなら。貴女が幸福な未来へと翔けますように》」

 

『ぅ……ぁああ……っ』

 

 

 

もう、いいのか?

 

————ああ。十分だよ、本当に私には十分過ぎる幸運だった。

 

 

…………____

 

 

 

「《はやて。今のリインフォースの言葉に嘘なんて"ひとつ"もなかったよ。……ユニゾンしてる俺が保証する》」

 

 

その言葉とともに大きく泣き崩れるはやて。

 

……お別れ、か。そうだな、まぁこれも幸運といえば、そんな気もしてくる。

 

 

目の前で迫っていた最後の一体を斬り伏せて、顔をあげる。そして夜天の書を開き、目的の魔法を3つ起動させる。

 

まずは、ふたつの桜色と金色の"ミッドチルダ式"砲撃魔法陣。

 

 

「《なのは、フェイト》」

 

『っ……』

 

『ぅ……』

 

 

右手に術式に必要な魔力を生成、そして自身の希少能力たる調和の力を起動する。

 

本来であれば反発してしまい、混じり組み合わせようとした時点で崩壊してしまうはずの魔力を、自分という異物の魔力をふたりの魔法陣へと融合させる。

 

 

「《たくさん迷惑とか、心配かけてごめん。でも、とりあえず今は最後にふたりとこうして話が出来てよかったよ》」

 

 

『まって、ねぇ……やだ、やだよ』

 

『なんで、最後って、どうしてっ』

 

 

……眼前のナハトヴァールは、魔力を貯め終わるまでもう間もなく、といったところか。凄まじい速度で膨れあがる力の気配が、緩やかになり始めていた。

 

__本当のお別れが近づいてきている。

 

 

「《なのは。

 

お前には居場所とか誰かと触れ合うことの大切さとか、今の俺を作る大事なものをもらった。

 

魔法とかよくわからない世界に入る時もよくわかならない事件に巻き込まれた時も、誰かを助けようと頑張るなのはの小さな背中、実は結構憧れてたよ。

 

今だから言っちゃうけど、初めて会ったあの時から、今まで一番俺の心の支えになってくれてたのは、なのはとあの高町の家だったんだ。

 

だから、本当に今までありがとうな。この世界で最初に会えたのが、なのはで本当によかったよ》」

 

 

『なら……なら! また帰ってきてよっ……これでお別れなんて、そんなの……そんなの……っ! ……ぅ、くぅ…ぁああ……』

 

 

そんなぐしゃぐしゃに泣き腫らした顔と声で、それでも帰ってきて欲しいと言ってくれる。……本当に覚悟が鈍りそうで困ったものだ。

 

俺の心って、こんなに脆かったかな。

 

 

「《フェイト。

 

まずは久しぶりに会えるはずだったのに、消えててごめん。それと、またどこか一緒に遊びに行くっていう約束と……動物園、連れて行けなくてごめんな。

 

……む、なんか謝ってばっかりだな。そうだな、フェイトに言いたいことは……うん。

 

お前は、最初あった時は敵同士で、めちゃくちゃに強くて警戒したけど、触れ合ってみれば……なんというか、少し泣き虫で甘えたがりで、素直で……そんな年齢通りの普通の女の子だった。

 

……でも。その強くて真っ直ぐな心と、他の誰かの痛みを知っている、理解できる優しさ。そして、"許せる"っていう力を持った立派な魔導士だったよ。

 

その心の在り方は絶対無くさないでくれ。俺との最後の約束だ。》」

 

 

『ユウはっ! ユウは、私との約束破るのに、そんな酷いこと言って居なくなるなんて、絶対、絶対っ……ぅ……、ぜったい、なくさない、から……!』

 

 

なら、約束だ。必死に涙を堪えて、"絶対に許さない"とは言わずに、ただこの誓いを立ててくれたフェイトの顔をしっかりと記憶に刻み込む。

 

 

最後の魔法陣……古代ベルカの白き術式を起動する。思えば全く使い慣れていなかったはずの術式だったのに、いやに馴染んでくれたのは何でだったのだろうか? そんな疑問が残るが、今から使うのはリインフォースと、はやての魔法。

 

それが使えないはずもなく、今まで以上にしっくりと術式に嵌め込まれる。

 

 

……本当に、もう時間は残されていない。

 

 

 

「《はやて》」

 

『っ……ユウ、さん』

 

「《はやてにもたくさん伝えたいことや、言わなきゃいけないことあったんだけど……とりあえず、今言うべきことを伝えるよ。

 

いつか誰だってお別れが来るものだ。今回はそれが俺とリインフォースだった、ってことなんだけど。

 

きっとこれはとても辛いもので、この先の未来にはそんなものが多く待っている》」

 

『っ……そんなの、そんなものだったら……私は!』

 

「《けどさ。それよりもずっと多くの素敵なことや、新しいことに溢れてるのが未来っていう先のお話なんだ。だから、焦らずに少しずつゆっくり、今の傷を癒して……それでたくさん笑える明るい未来()をめいいっぱい、生きて楽しめ!》」

 

『…………っ……ぅ……うん……っ!!』

 

 

きっと、何かを言おうとした。けど、それを飲み込んで、涙をグッと堪えて。大きな返事と俺が大好きな__はやての笑顔を見ることができた。

 

 

なら、もう思い残すことはきっと何もない。

 

 

それに、きっと。またいつか、どこか別のどこかで。

 

 

 

「《__またいつか、きっと会えるさ。きっと遠い先の未来で》」

 

 

 

【Starlight__】

 

 

【Plasma Zamber__】

 

 

【Ragnarok__】

 

 

 

完全に装填が完了した砲撃魔法__3人が駆使できる最上級魔法を束ねる。

 

 

これが、正真正銘、俺の持てる全てであり、全力全開————!!

 

 

「《ブレイカーーーーッ!!!!》」

 

 

【【【Breaker】】】

 

 

ただ、その3つの光の本流は綺麗だった。

 

 

迫り来る、ナハトヴァールから放たれた同種、いや魔力色以外は全く同じ魔導砲。

 

 

それは対面する全く同じはずの魔法すらも大きく飲み込み、ナハトヴァールの顔を大きく抉り……。

 

 

俺/ナハトヴァールのリンカーコアを露出させた。

 

 

自身へと宿る新たなコアをフルで回転させ、燃え尽きるほどの流星と化す。

 

 

光速を超え、力を一切たりとも逃すことなく、ただ露出させたコアへと向かい————

 

 

 

 

__リインフォース。

 

 

__ああ。

 

 

__これでお別れだ。

 

 

__うん、お別れだな。

 

 

 

ほとんど魂の中にまで同化しきった、もはや半身とも言うべき戦友と言葉を交わす。

 

 

 

__色々と巻き込んで悪かったな。けどこれで、あの子たちの未来は守られた。

 

__巻き込んだのは私の方だよ。けど、それは……守れたというのは、とても誇らしいことだな。

 

 

__全くだよ。……ああ、そうだ。最後に。

 

 

__?

 

 

__あの時の返事だけど。——————、——————。

 

 

__……もう、キミは。でも、うん。嬉しい限りさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に広がるのは果てしなく青い/黒い海。

 

 

 

 

巨大な白と黒の魔力によるぶつかり合いの後、そこに残ったモノは。

 

 

 

 

__彼が持っていたデバイスのカケラと、書の意思たる彼女が残した主への贈りものだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






最後に見た彼女の顔は、赤らんだ彼女の表情は……とても幸福そうで__美しいものだった。


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StrikerS編
sts編 ミッション:1 時空管理局暗部所属:ユウ・レイド 15歳


 

 

 

新暦75年。

 

とある時空管理世界のひとつにある表向きには存在しない部署・時空管理局暗部第3部隊にて。

 

ここ数日の間に、他の所属メンバーがやらかした、とんでも案件の提出資料を睡眠時間を削って死ぬ気で書き上げていた少年、ユウへと上司が吐いた言葉は何とも仰天する内容。

 

 

「あ、お前さ。異動な」

 

「は? え、待ってくださいよ」

 

「これ異動届けの紙っぺらと内容な。読んどけ」

 

「だから待ってくださいって」

 

「あと表向きの身分も発行されてるから。はーん、(おか)の方で二等陸士か」

 

「だから待てって言ってるよねぇ!?」

 

 

話を聞いてもらえず、上司のおっさんと俺しかいない部屋で大きな声が響く。そんな涙が混じったような俺の訴えで、ようやく手元の書類から顔を上げたおっさんの顔はめんどくさそうだった。

 

 

「うるせぇな。何だよ?」

 

「うるさいじゃないですよ! なんですか急に異動って! 俺、ここでもう5年も働いてますけど、誰もそんなのなかったじゃないですか」

 

 

俺がここまで焦っているのは異動なんていう、あり得ないものがきたから。一般的な時空管理局員ならまだしも、この特殊な部署ではまずあり得ないはずなのだ。

 

何たってここの名前は暗部。表で見せられないような……それこそ身内のゴタゴタの処理や、汚い法外の手だって使う時空管理局という正義の裏側、暗闇の底。

 

それ故に、この部署は名前どころか存在自体なかった事とされており、所属するメンバーもみんな身分や名前なんてものは偽名だし、経歴も全部嘘っぱち。

 

あまりにも秘匿されまくったせいで、たまーに会う(というか処理させる)時空管理局の人には都市伝説扱いされている始末らしいのだ。

 

そんなロクでもない連中しかいない"ここ"から、しかも事務処理しかしてない1番下っ端の俺がそんなのになったのか、あまりにも疑問が多すぎた。

 

この上司も俺がそのことを気になっているのを知っているからか、普段は似合わないヘラヘラした表情から、眉間に皺を寄せてその厳つい顔に似合ったものになる。

 

 

「だーかーら、特例なんだよ、特例。"上"からのな」

 

 

そう言って、心を落ち着かせるように煙草を吸うおっさんの顔色に疲れを感じる。……上、ねぇ。

 

 

「それっていつものとこですか?」

 

「バカ、一番上だ。俺だって、初めてこれが来た時は3回は見返したわ」

 

 

そう言って投げられた自分宛ての異動命令書を改めて受け取り、確認する。えーと。

 

 

「ユウ・レイド暗部隊長補佐を本日付けで解任、異動する。なお、次の指示はすでに送付済み……って何ですかコレ」

 

「しらねぇって。全く、せっかくの雑用が取られるってみんな嘆いてるぞ」

 

「おい、テメェ」

 

 

薄々感じていたが、やっぱりこいつら俺のことパシってたな?

 

おかしいとは思ってたんだ、なんだ、急に苦しみ出したと思ったら”ニコチンが、ニコチンが切れた……!”って言って煙草買わせに行かせたり、”あ、ついでに昼飯頼むわ”とかほざいて買わせに行かせたり。

 

……あれ、よく考えなくてもパシリじゃない? 俺の5年間、そんな記憶しかないけど。

 

うーん、と唸っていた俺を尻目に再び、隊長が口を開いた。

 

 

「はぁーあ。ま、いいんじゃねぇの? まだ処理だってしてないお前は白い方だ。この機会に足洗えや」

 

「何人を犯罪者扱いしてんだ」

 

「とにかくお前は異動。ほれ、もう上がっていいから準備しに帰れ」

 

「………はぁ。了解しました、ユウ・レイド暗部隊長補佐、本日付けで失礼させていただきます」

 

「おう、お疲れ。……あ、そうだ」

 

「はい?」

 

「悪りぃけど、煙草切れちまって」

 

「失礼します! そして地獄に落ちろっ!!」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

俺、ユウ・レイドという人間が初めて目を覚ましたのは、9から10歳になるくらいの時で場所はよく分からない機械の中。

 

 

初めて声をかけてきた、胡散臭いドクターと呼ばれた男との会話内容は。

 

 

 

「全く、老人たちもよくわからない物を作らせたもんだな……さて、脳波は……」

 

「……」

 

「問題ないようだな。ふむ、処理もできている……いや、少しはみ出しているが全ては覚えていないか」

 

「……あ、なたは?」

 

「ん? 私か? 私は天っっ才だよ!!!」

 

 

そんな憎たらしいほどのドヤ顔と訳もわからない内容の独り言を聞かされ、挙句に天才とか名乗る……変人が俺のこの世界でのファーストコンタクトした相手というのは、今思い返しても不幸すぎる。

 

そこからは訳のわかならない、いや……今じゃ愛用しているデバイスを渡され。

 

 

「キミはここに行きたまえ」

 

「は?」

 

 

たった数日で訳もわからない言葉と紙、そして変な制服を着せられて送られたのが時空管理局暗部という場所。

 

まぁそれからの約5年間はとにかく酷いの何の。初見で隊長に自分の魔力の低さを笑われ、部隊の人たちからはイジられ、酒を飲まされ……うん、嫌な記憶を掘り起こすのは精神的によくないな。

 

とにかく、めちゃくちゃに割愛するけど、ユウ・レイドの人生というのは人造の体を持っているということ以外は案外普通だった、と思う。

 

暗部なんてやばそう、というかやばいことしている奴らの中に放り込まれはしたけど、やってたことは少しの訓練と事務作業だったしね。

 

 

そんな自身のこれまで辿ってきた人生を振り返りながら、目の前に佇む数日前に届いていた宛先不明で謎の段ボール箱と睨めっこ。

 

ずっと放置していたこの箱。

 

多分、これが隊長の言ってた上からの荷物なんだろうけど……多くね? さて、どうしたものかと自分の愛機に声を掛ける。

 

 

「どうしたらいいかな」

 

《開ければいいかと》

 

「いやでも、なんか厄介臭がすごいというか……」

 

《開けなければ次に進みませんよ、チキン》

 

「……お前、今でも思ってるけど本当に俺のことマスターって思ってるか?」

 

《もちろんです。敬愛すべき、そして心のそこから愛しているとこの口がいつも言っています》

 

「それはそれで気色悪いというか」

 

《…………そうですか》

 

「あ、まった。今のは俺が悪かった、だから拗ねて電源切ろうとしないで」

 

 

今話しているのは、あの自称変態から渡された謎の黒い機械……デバイスと呼ばれる魔導士が魔法を行使するのを補助してくれるもの。

 

らしいんだけど、俺の持っているこいつ……えっと。

 

 

「お前、正式名称って何だっけ」

 

《N.W.As0001-アインスです》

 

「そう、それそれ」

 

 

長ったらしいからアインスと呼んでいるけど、俺がずっと持っている謎のアイテム品である。

 

インテリジェントデバイスという種類らしいのだが、本来は別の呼称があるとかで最初はよく噛みつかれたけど、今では仲良し……かなぁ。

 

 

《私はインテリジェントデバイスではありませんが》

 

「だから心の中まで読まないでくれって。本当に気になってるんだけどさ、それってどうやってんの?」

 

 

そう、この機械、なんか俺の心を的確に読んでくるのである。インテリジェントデバイスなら、それが普通だと思って居たんだけど、他の人に聞いてみれば笑われ、そんな訳ないと逆にバカにされる始末だったり。

 

 

《ですから、私はインテリジェントデバイスではありません》

 

「だぁ! もう読むなって! てかなら、お前は何なんだよ!」

 

 

しかもアインスの厄介なところが。

 

 

《それは……私にもわかりませんが》

 

 

コイツも俺が目を覚ました瞬間からしか、記録がないってこと。

 

標準的な基礎知識とか、デバイスとしての機能は全く問題ないんだけど、他のデバイスとは違って明確な意思……というか人間臭さ? はあるし、アンロックされている本来の姿があるだなんて言っている、俺にも理解できていないものなのだ。

 

ただ、まだ幼い目覚めた瞬間の俺からすれば、このアインスという存在はすごく心の支えになってくれたもので、コイツが居なければどっかで折れていてもおかしくなかったと思っている。つまり、すっごい感謝してるのさ。

 

 

《それは分かりましたから、さっさと開けてください愛しい主(チキンマスター)

 

「……変なルビついてない?」

 

《気のせいです》

 

 

もういつも通りなやりとりを交わしながら、厄介な香りがぷんぷん漂う箱を恐る恐る開いてみる。……中身は、ってこれ。

 

 

「管理局の制服じゃん。うわ、同じのが何着も……それと、何これ書類?」

 

 

出てきたのは表側に属する管理局員が来ている正式の制服。それが6、7、8って多くないか?

 

それとともに入っていたのは、正式な異動手続き用紙と時空世界を行き来するために使う、特殊な乗り物のチケット。

 

最後に上とやらからの任務依頼の書類か。うわ、これ。

 

 

「いや、読み終えたら必ず燃やして処分って……」

 

《どこかのスパイ映画のようですね》

 

「みたい、というかまんまっぽいぞ」

 

 

内容は簡単に言えば、記された連絡先に定期的でレポートを送れという内容。しかもそれが、俺の次の職場となる新設されたとある部隊とのこと。やっぱり厄介なものじゃんか……はぁ。

 

レポート内容は、その部隊の内部事情についての調査や、上官に当たる人たちの監視及び、可能な限り接近して親密となり情報を得る……ってまじでスパイものの映画みたいだな。

 

で、その新しい部隊ってのも問題でそこに所属するであろうメンバーの名簿帳も入っていて、そこに並んだ名前は俺のような裏ですら知っているやばーいエリートだらけ。この上司たちを口説けってか? はは、馬鹿言いやがる。

 

中には男嫌いなんじゃないか、なんて言われている人もいるくらいだ。てか、そんな過剰とも言える戦力を集めて戦争でも起こすきか?

 

 

「で、部隊名は……"古代遺物管理部機動六課"、略して機動六課ねぇ……?」

 

《随分と大層な名前の部署ですね》

 

「な。……うーん」

 

《どうしました?》

 

「え、いや別に。なーんか見覚えのあるような名前だなーって」

 

《それはそうでしょう。そこに連なるのは、若干19歳で上部へと食い込んだ(マスター)とは才能も巡りも違いすぎる方々です》

 

「まぁな。……ん? 今なんか馬鹿にした?」

 

《いえ》

 

「そっかー」

 

《そういうところが愛おしいですよ》

 

「やっぱなんか馬鹿にしただろ!」

 

 

閑話休題。

 

 

さて、それじゃ異動することになったなら色々と準備しなきゃいけないよな。

 

まずはおっさんからもらった、この移異動けか……ら……?

 

 

(マスター)? いかがいたしましたか》

 

「はは、いやまさかそんな」

 

《?》

 

 

俺は震える手で自宅にあるカレンダーへと目を向ける。そして再び、移動手続きの日付を確認した。そこには移動の日と時刻に場所が書かれているんだが……場所は第一管理世界ミッドチルダ。

 

問題は次の項目、その日にちと時刻……それは明日の朝8時。

 

そして、今から準備して超特急で向かうとしても、着く時間はどう足掻いても__昼。

 

 

「…………ははは」

 

《一番下っ端でしかも新人が遅刻とは良いご身分ですね》

 

「あのクソ上司ぃィィィぃ!!!!!」

 

 

届いた日にちが10日以上前のこの書類を片手に思いを馳せるのは憎き元上司。

 

あのおっさん、資料面倒だからって全部放置してたからなぁ……絶対怒られるんだろうな……ああ、不幸。

 

 

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:2 遅刻。その先に待っていたのは……豊満なバストであった

 

 

 

「新たに異動してくる人員、ですか?」

 

「そうなんよね、私も少し前に知らされたから詳しくはわからんけど」

 

「しかし主、それは」

 

「ザフィーラもわかってるとは思うけど、多分どっかのスパイ……もしくは視察の使者って感じやろ」

 

「陸ですか」

 

「そうやろな。じゃ、なきゃ来るまで素性ひとつ来ないなんてのは異常やし。ああ、でも」

 

「何かお聞きに?」

 

「まぁな。ちょっと教会でな、その子のこと聞いたんやけど……元、暗部の子らしいわ」

 

「………穏やかではありませんね。どうするつもりで?」

 

「んー、とりあえずなのはちゃんとフェイトちゃんには共有したし、扱いとしては他の子たちと変わらんかな。けど、あくまで警戒はするけどな」

 

「なるほど。で、その新人はどこに?」

 

「それが遅刻みたいよ? もうー、初日からこれとか随分となめられてるのか、それともトラブルか。とはいえお説教やな」

 

「いきなり不幸なものですね、そのスパイも」

 

「あはははは、無理やり入ってきたんや、きっちりしごくで?」

 

「…………お手柔らかにしてあげてください。ところであの子は……」

 

「ん? ああ、リインはその社長出勤の子のお迎えよ。そろそろ来てもおかしくない、って声が聞こえてきたわ」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

死ぬ気で全ての手続き資料を書き込み、そして荷物をまとめ終わった頃、もうすでに日は出始めていた。

 

無駄に多く、そして手書きなんていうザ・アナログなクソ作業を片っ端からこなし、シャワーを5分で浴びて大慌てで飛び出した俺に降りかかるのは、次なる不幸。

 

 

「申し訳ございません。こちらのチケットですが、期限が昨日まででして」

 

 

初手にクソ上司による追い討ち、チケットの期限切れで自腹を切ってアホのような値段のチケットを買い。

 

 

「機動六課隊舎? 南駐屯地内A73区画……あー、今かなり渋滞してるねぇ」

 

 

泣く泣く乗った移動手段では渋滞に巻き込まれて予定からまた遅れる始末。

 

 

《もうそういう運命の元に生まれてますよね、貴方は》

 

 

トドメに普段は、あれだけ煽って人様の不幸を馬鹿にするアインスに、本気で同情されるという屈辱を受ける。

 

しかし、しかしだ!

 

 

「たどり着いたぞぉぉ!! 機動六課隊舎!!」

 

 

湾岸地区にあるミッドチルダ南。今、目の前には機動六課隊の文字がある建物。いくら遅刻したとはいえ、あれだけの大冒険をした俺には感動もの。本当によく頑張った、えらい。

 

 

 

《…………》

 

 

「何だよ、その無言の訴えは」

 

《お労しいマスター……》

 

「本気の同情はやめろ!!」

 

 

そんな馬鹿なことをしながらも、時間が押している……というか現在進行形でバリバリ遅刻の新記録を更新しているわけで、急いで宿舎内へと入る。どうも外見は古くも感じたが、中身はピカピカで設備もとんでもないくらいハイテク。

 

今までいたあの暗部の部屋が馬小屋か? って思うくらいには別の世界で少しキョどる。やっぱり思うけどこんなとこに、なぜ俺が呼ばれた? いや任務だけど、場違いすぎないか?

 

それによってより高まるイヤーな緊張をほぐしつつ、どこに向かうべきかキョロキョロと見回していると。

 

 

「あー! あなたですね! もう大遅刻ですよぉー!!」

 

 

そんな声が聞こえてビクっ! と体が固まる。そして勢いのままに俺がしたことは……。

 

 

「すみませんでしたぁぁぁ!!」

 

《うわ》

 

「へ!?」

 

 

足を折り曲げ勢いよく正座。そしておでこを地につける。まごうことなき、土下座。

 

あらゆるトラブルに瀕した時、それを救ってくれたのは、いつもこの姿勢。初めは何とも抵抗があったものだが、今の俺にはそれはない……。

 

あるのはたった一つ。たった一つのシンプルな思考だ。

 

全力で誠意を見せて謝り、許してもらう。

 

相手が誰とか関係ない、悪いのは100%俺であるこの場面でこの渾身の一撃を使うのに、躊躇う理由など微塵もありはしないのだぁ!

 

 

「あわわわ、そんなことしなくていいのですよ! 大丈夫です、リインも怒りすぎましたからぁ!」

 

 

たぶんさっきの声のかけられ方的に上司に当たる人……だと思ったのだけれど、聞こえてくるあまりに可愛らしい少女の声に疑問が生まれた。

 

大丈夫だから、という言葉を聞いて少しずつ体をあげていくと、そこには……。

 

 

「でもリインを見てそんなふうにしてくれたのは、貴方が初めてです!」

 

 

ポワポワ、そんな効果音が聞こえてきそうな感じでふわふわと飛ぶ何とも可愛らしい……。

 

 

「……妖精さん?」

 

「妖精じゃないです! リインはリインですぅ!!」

 

 

ぷんぷん、そんな音が聞こえてきそうな動きと怒りというには、あまりにも可愛らしい声に力が抜ける。……え、疲れすぎてついに幻覚?

 

 

「もう、せっかく大遅刻の新人さんを待っていてあげたのに……」

 

 

そんな言葉を聞いてすぐに180度自分の考えをひっくり返す。間違いなく、この妖精さんは俺の上司……!

 

 

「ナマ言ってすみませんでした!!」

 

「え!? え、と。はいです?」

 

「私、本日付でこちらの機動六課の方へと移動になりました、ユウ・レイド二等陸士です!」

 

「あ、ご親切なのですね。よろしくですー」

 

「いえ、先ほどのご無礼失礼しました! ところでその……上官殿のお名前は……?」

 

 

瞬間、俺の脳内で巡るのは今に至るまで、ひたすらに暗記したこの部隊の名簿欄。誰だ、この可愛らしい妖精さんは……。

 

俺の彼女への扱いが気に入ったのか、さっきまでの不機嫌な様子は消え去り、ふんす! と手を腰に当てて自己紹介してくれた。

 

 

「私はリインフォースII(ツヴァイ)曹長です! えっと、ユウ二等陸士くん?」

 

 

やっべ、めっちゃ上官。

 

 

「よろしくお願いいたします! リインフォースII曹長!」

 

「わぁ……よろしくです、後輩くん!」

 

 

きゃっきゃ。そんなはしゃぎかたでぐるぐると自分の周りを飛ぶ曹長殿に敬礼したまま、直立。

 

がんばれ俺、これがクビになるかどうかの瀬戸際だ……今更失敗しましたとか、初手の報告で送るわけにはいかないのだ……!

 

そのまま、ものすごく上機嫌(ついでにお菓子とかあげたらよりテンションアップした)リインフォースII曹長と会話しながら、部隊長が待っているという部屋に歩いていく。

 

 

「あ、でもそう呼んでくれるのは嬉しいですけど、リインで大丈夫ですよ?」

 

「そうですか? でしたら、リイン曹長と……」

 

「はいです! ユウくんは素直でいい子ですねぇ」

 

 

ちょんちょんと頭を撫でられる感触を感じる。……あれ、もしかしてこの職場って結構ホワイト? てっきり暗部(あっち)酷すぎたから(くっそブラックすぎたから)、こっちもやばいと思ったんだけど。

 

これだけ可愛らしい上司がいるなら、他にどんなヤバいのが潜んでいても頑張れる気がする……!

 

 

《キモいです》

 

 

うるせぇ! この癒し空間入ってくるな!

 

 

《………》

 

 

あ、ごめん、ごめんだから常にデバイスを振動させて、脇腹を刺激しないで……。

 

 

アインスからの反撃に笑いを耐えながら、何とか目的地であろう部屋の前……って食堂室?

 

 

「あ、着いちゃいました……もっとお話したかったですぅ……」

 

「俺でよければいつでも歓迎ですから、そんなに気を落とさず……」

 

「ホントですか!? わーい!」

 

 

ぴょんぴょん、いつの間にか俺の頭の上に座っていた小さな曹長は、飛び跳ねながら喜んでくれていた。なんか妙に気に入られた、というか懐かれたな。

 

しかし、もう部隊長との対面か……確か八神はやて部隊長だったかな。う……まずい……緊張で動きが鈍る。

 

 

「それじゃ、はやてちゃんのとこにレッツゴーです! あ、結構待ってるので怒ってるかもです」

 

「すぐに行きましょう! 失礼します!!」

 

《弱すぎです……》

 

 

うるさい! そんな言葉とともに扉を開ければそこには何とも広い豪華な食堂が。そしてその中で、椅子に座りながら足元に大きな青い犬を置いた年上のお姉さんが何かを小言のようにしゃべっていた。

 

 

うわ、あれが司令官か……てかなんで犬……? そんな俺の視線に気づいたのか、まずはワンコと視線がぶつかり……?

 

 

「__ッ!?」

 

 

だん、と飛び上がり俺のことをガン見して警戒する犬っころ。いや、何でやねん。

 

 

「はやてちゃーん! 連れてきたのですぅー!」

 

 

あ、待ってリインさん!? なんか嫌な予感がバリバリバリッシュと!

 

そんな俺の心情など聞こえるはずもなく、その大声はしっかりと八神司令官へと届いている。

 

 

「どうしたんや、ザフィーラ? ……さて、それで随分と遅かったねぇ、新人、く……ん……?」

 

 

黒いオーラとともに立ち上がり、笑っているような声なのに冷や汗が止まらなくなる。やばい、とにかくヤバい。

 

見てよほら! 最初、優しそーな声音が少しはあったのに、今俺の顔を見た瞬間、凍りついたようになって、しかも目を大きく、見開いて……ってあれ?

 

 

「え、っと。八神、部隊長殿ですよね?」

 

「……………」

 

 

「あのー……?」

 

 

え、なにこの反応は。そんなふうに困っていると頭に乗ったリイン曹長が助けに入ってくれる……ってまだ乗ってるんですか?

 

 

「ほらほら、ユウくん! まずは自己紹介と遅刻のことですよ!」

 

「あ、はい!」

 

 

そうだ、まずは初手に謝罪と挨拶。これ基本。すぐに行動に映す。

 

 

「初日にも関わらず大変ご迷惑をおかけし、申し訳ございません! 自分、本日より機動六課の方へと移動になりました、ユウ・レイド二等陸士です。若輩者ではありますが、以後よろしく__ふぐぅッ!?」

 

「え!? はやてちゃん!?」

 

 

自己紹介の途中で突然、八神司令官が俺へと突撃し、ガシっと頭を両手で掴んだかと思うとそのまま……ぎゅっと抱きしめられた。

 

は? え? は? なんでぇ?

 

え、なにこれ何があった俺は今自己紹介の途中で遅刻の件を謝っていてそれでとてつもなく柔らかいふたつの大きな果実があははははははは。

 

 

《しっかりしてください》

 

 

「ヘぁ!?」

 

 

そうだ、落ち着け、よくわからんがなんか抱きしめられている? ……え、何で?

 

訳がわからないまま、今なお力強く拘束されている頭を、視線を上にあげてみると。

 

 

「……ぅ……く……うぅぅ……」

 

 

ガチ泣き!?

 

 

視線の先では文字通りすごい感極まった表情で涙を流す自分の上官さまの顔があったそうな。いや、そうじゃなくて。

 

 

 

「あ、あのぅ……?」

 

「ぐすっ……ぅっ……」

 

「えぇ……?」

 

「ええ!? はやてちゃんどうしたのですか!?」

 

 

あわわとする妖精に泣き崩れる上司。未だに警戒をするわんこ、そして困り果てる俺。

 

いや、どうしろと? そうして困っていると、混沌としたこの場に新たな人物が。

 

 

「おい、どうしたんだよザフィーラ? 念話で緊急事態なんて、今は遅れてきたバカ野郎のや、つを……」

 

「私もまだテスタロッサと新人のテストについて、通信中だったんだがな。何があ、った……?」

 

「もう! 私まで呼ぶなんて何があったのよ! まだ検査とかの準備、が……」

 

 

 

新たにこの場に来たのは、赤毛の元気そうな少女に、桃色の髪を束ねた女性と、白衣を着た女医さんっぽい金髪の女性。

 

と、とにかく助かった! 今は初対面なんて関係ない!

 

何とか顔をそちらに向けて知らない3人……えっと胸元の名前は……。

 

 

「あ、あの! 自分、今日から機動六課の方へと移動になりましたユウ・レイド二等陸士です! ちょっとよくわからないんですけど、助けてください! えっと、ヴィータさん?」

 

「え、あ………ぇ?」

 

「え、何で泣きそうなのさ!? ならシグナムさん!」

 

「っ………!」

 

「こっちは号泣!? 最後の希望! シャマルさん!」

 

「うぅ………!」

 

「だから何でさぁ!?」

 

 

 

 

えー、拝啓。

 

 

新たな職場へと送り出しやがってくれました元・クソ上司さま。

 

 

新人兼、重大なミッションを片手に初日から大遅刻をかましたバカは今、この短い人生の中でも屈指のピンチになっています。

 

 

どうか、助けて。

 

 

 

「みんな、どうしちゃたんですかぁー!?」

 

 

そんな可愛らしい妖精さんの声に。

 

 

「俺が一番聞きたいよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 







「……う、ぐす」

あ、泣き止みそう……

《慰めればもう少しマシになるでしょう》

それだ! えっと

《頭でも撫でればいいのでは?》

おう!


「っ!……ぁ……う……うう」


悪化しましたけどぉぉぉぉ!?


《ダメですね、これは》




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sts ミッション:3 いや人違いですよ…?

 

 

 

 

「むぅ、ヴィータちゃん遅いなぁ」

 

「どうしたんだろうね、急に呼ばれたって行っちゃったけど」

 

「うん、ごめんねシャーリー」

 

「大丈夫だよ! えっとこっちの様子は……」

 

「頑張ってるみたいだね、みんなまだ荒いけど鍛えがいがありそう」

 

「あんまりイジメないであげてよ?」

 

「そんなことしないよ?」

 

「……ふぅーん」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

ぐりぐり、そんな感じでひたすら頭を俺の胸元へと擦り続ける上官さま。

 

ぐすん、えーん。そんな感じで入り口でたったまま泣き始めてしまった他の上官さま

 

あわわわ。そんな感じでテンパる可愛い妖精さん……いや、この子も上官でした。

 

 

まさにカオス、混沌ともいうべき謎の空間となったこの場は大体5分くらい続いたんだけど、ようやく大元である八神部隊長が顔を上げた。

 

真っ赤に泣き腫らしたとまでは言わないけど、まだ少し涙目のまま身長もあって上目遣いのようになる。その顔には何か期待のようなものも、込められている気がするが……。

 

なんだ、何を求められている? 

 

未だ女性経験ゼロの少年には、あまりにも難題すぎた。

 

だからとりあえず、でとった行動は、恐る恐る声をかけることくらい。

 

 

「あ、えっと。ど、どうも?」

 

「ユウ、さん……また会えるって約束、してくれたのウソやなかったんやね……?」

 

「はい? えっと、自分は」

 

「いっぱい言いたいこととか、怒りたいことあったはずなのに、もう全部忘れてもうたわ……えへへ」

 

「……はやてちゃんとユウくんはお知り合いだったのです?」

 

「へ?」

 

 

???????

 

待ってくれって。いや、何これ。

 

めちゃくちゃ親しそうに名前呼んでくるし、なんかさん付けだし、また会えるってそんなロマンチックな約束した覚えはないし。

 

まるで恋する乙女のような顔で俺の頬に触れてくるこの上官さまに、より頭の中が混乱してくるが愛しき相棒から鶴の一声がかかる。

 

 

《……誰かとマスターを勘違いしているのでは?》

 

 

あー、そういうことか? でも言われてみれば明らかに別の誰かを見てるっぽい?

 

 

《はい。早めに訂正した方がいいのでは? 色々と取り返しの利かないことになるかと》

 

 

確かに。さんきゅー、アインス先生。

 

 

《大いに讃えなさい》

 

 

そんな余計な一言は無視。早速、あやしい雰囲気になりつつあった部隊長へと恐る恐る声をかける。

 

 

「あ、あの、八神部隊長? 隊長は勘違いされているのかと……」

 

「……? 勘違いって、何を言って」

 

「俺、八神部隊長とお会いするのは初めてですし……というかここにいらっしゃる方、全員と初対面と言いますか……」

 

「ぇ……」

 

「!? いや! 別にお名前は知っているんですがね!? 先ほどまでの誰かと俺は別人かと……」

 

 

知らない人だと言った瞬間の彼女の顔が、まるで迷子になったかのような子どもの泣き顔に見えて、慌てて言い訳というか優しい言葉に言い換える。

 

その俺の慌てぶりを見て何を思ったのか。

 

 

「なぁ」

 

「はい!」

 

「ユウ……くんの方から私を抱きしめてくれん?」

 

「はい!……はい?」

 

 

とんでもない要求が降ってきた。いや、だから人違いなんですって!

 

 

「ダメ……?」

 

「………う」

 

「………ぐす」

 

「あー!! 待って! 泣くのは反則です!?」

 

「女の子を泣かせちゃダメですよぉ!」

 

「っ! ええい、ままよ!」

 

 

リイン曹長の叱責と再び泣きそうになった八神さんの顔を見た瞬間にもう反射的とも言えるほど、体が勝手に彼女を抱きしめてしまっていた。

 

あぁ……やだな、セクハラとか言われないといいな……はは……。

 

 

時間にすると1、2分ほどだっただろうか。ただ静かに抱きしめ合っていたこの時間は、八神部隊長から俺の背中を叩く動作で終わりを告げた。

 

 

「ん、ありがとうな。もう大丈夫やから」

 

「え、あ。はい?」

 

 

次に見た彼女の顔は先ほどまでの、小さな迷子のような少女みたいな表情から明るい大人の女性の笑顔に変わっていた。切り替えた、ということだろうか?

 

咳払いとともに、ようやく挨拶の時間がやってきたようだ。

 

 

「うぅん! それじゃ改めて自己紹介やね。私は八神はやて、階級は陸上二佐でこの機動六課の一番上、ってことになってるけど気軽に接してや? ほら、せっかくだからヴィータたちもこっちおいでな」

 

 

そう呼ばれて八神部隊長の横に立つのは先ほど、この食堂の入り口で取り乱していた女性たち……ってこの部隊、女の人ばっかりだな。ふと、そんなことを考えていると、まずは白衣のお姉さんことシャマルさんから自己紹介が始まった。

 

 

「まず私からね。私はシャマル、この機動六課で主任医務官をしてるの。任務とか訓練で怪我しちゃったら、気軽においで?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

そう言って握手を交わす。うん、なんかさっきのことはよくわからないけど、大丈夫そう……? って何でそんな驚いた顔してらっしゃるの?

 

 

「え? あの?」

 

「え……あ、ごめんさいっ。……何でもないのよ」

 

「は、はぁ……?」

 

 

パッと手を離されたけど、なんか妙に驚かれていたというか、何というか。

 

 

《サーチ魔法を感知しました。何かを確認されたのでしょうが、特に問題ありません》

 

 

そうなのか、なら別に触れなくていいか。

 

 

「次は私だな。同じく機動六課所属で階級は二等空尉、そしてお前の戦闘訓練の教官も務めるシグナムだ。……ああ、よろしくな」

 

「はい、まだまだ若輩者ですが何卒、よろしくお願いします」

 

 

口調だけだと厳しそうだけど、随分と優しげなほほ笑みを浮かべる人だなぁ……って二等空尉!? どんなキャリアしてるんだよ、この人も……。

 

 

「……最後にアタシだな」

 

 

そう言って、他の上官とは違ってどこか不機嫌ちっくな表情をした赤毛の少女……幼女? が、ずいっと前に出てくる。

 

 

「………」

 

「……え、えっと?」

 

 

ジーーーっと顔を見つめらる。ただ黙って、ひたすらに顔を見続けられるというのは、何とも居心地が悪いというか……。

 

 

「ふん! ……なんだよ、やっぱり勘違いじゃない…じゃんか」

 

「は、はい?」

 

「何でもねぇよ。アタシもシグナムとおんなじで、お前を鍛える先生だ。バシバシ行くから覚悟しとけよ、ユウ」

 

「う、うっす!」

 

 

めっちゃ体育会系! 思わず変な返事をしてしまう。

 

 

「……はは、全くお前は……ふんっ!」

 

「うごっ……なぜに…蹴るん…ですか……!?」

 

「……痛そうですぅ……」

 

「言葉遣いは気をつけろ、アタシはお前の上官だぞ?」

 

「う、うす……」

 

「学ばないなぁ……お前?」

 

「は、はいぃ!」

 

「あわわ……」

 

 

すみません! 完全に俺が悪かったので、的確に脛を狙って蹴るのはよして!

 

 

《はぁ……》

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

シグナム、ヴィータとともにそのまま他の新人たちとの訓練へと引きずられていくユウさん……いや、ユウくんの姿を見送り、この場に残ったシャマルと念話から会話に切り替える。

 

……こっそりザフィーラに監視を頼んだけど、まぁバレへんやろ。ユウくん、完全に犬扱いしてたし。

 

 

「やっぱり、あの子は」

 

「ええ。魔力も小さくなっているし、歳も違うようだけれど」

 

「ユウさん、よね」

 

「……絶対とは言えないけれどね」

 

 

魔力光、その魔導士が生まれた瞬間から持ち続け、失うまで決して変わることのない不変の色。彼が内に秘めているそれは、確かに見覚えのあるものだった。

 

 

「けど、どういうことなのかしら……彼は確かにあの時」

 

「私もわからんし、正直すごい混乱してるんよ? まさか陸の連中が送ってきたのが、ユウさんとはなぁ……」

 

「はやてちゃん……でも」

 

「うん。でも関係ないんよ、私たちからしたら、また会えた。……まぁあの子からは初対面みたいな感じやったけどね?」

 

「それでも、ええ。本当に約束は守ってくれる子だったものね」

 

 

思い浮かべるのは、あの最後の場で。きっと彼からしたら私たちが前を向けるように言った優しい嘘だったんやろうけど……随分と長い時間を経て、また会えた。

 

 

「本っ当に、大遅刻やけどな! もう!」

 

「ふふ。口では怒ってるのに随分と嬉しそうね」

 

「あはは……うん、それに初対面って言ったけど」

 

 

何かあったら困ったように目を下にそらす癖、誤魔化す時の頬をかく仕草。そして。

 

 

「私を撫でてくれたあの感じは変わってない。……絶対、間違えたりせぇへんよ」

 

 

結構雑な面もあった彼に女の子の髪の扱いを教えたのは、間違いなく私で。その時からずっと変わらないあの感覚を久しぶりに味わえた。

 

 

「ふふ……えへへ」

 

「もう、それよりこれからどうするの?」

 

「へ? あ、そっか。なのはちゃんとフェイトちゃんにも知らせんと」

 

「ええ。大変なことになると思うわよ」

 

「んー……まぁヴィータもいるし、軽く念話だけ送っておくかな」

 

「それだとまたユウくん、はやてちゃんと同じことされちゃうんじゃない?」

 

「む、それはちょっと妬けるけど……ま、たくさん泣かされたし、遅刻した罰としてはちょうどいいやろ」

 

 

なのはちゃんもフェイトちゃんもユウさんには酷いことをされたんだ。少し、ほんの少しだけムッとするけど、今はこの再会を親友たちと分かち合いたい気持ちが強い。

 

あ、あとこれはすごく、すごーく個人的なものだけれど。

 

 

「それに、ちょっとくらい痛い目にあって欲しいしなぁ? 全く、リインのこといきなりたらして……余計なところまで、ホンマに変わらんなぁ……?」

 

 

自然とユウくんの頭に乗ったまま、一緒に行ってしまった自分の愛機を思い出し、顔の表情筋がピキる。ふふふふ、全く数分で一体どうやってあんなに気に入られたのかなぁ?

 

 

「……その黒いオーラはしまっておいた方がいいわよ?」

 

「んー? 何のことや?」

 

「引かれちゃうわよ、ユウくんに」

 

「う……そ、それは困るけど……何というか」

 

「?」

 

「リインフォースって名前がついた子と仲良くしているの見ると、こう、な?」

 

「もう……」

 

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:4 エース・オブ・エースのお姉さん

 

 

 

 

 

「ユウくん、ユウくん」

 

「はい?」

 

「それでさっきの続きです!」

 

「ああ、はい。えっと確か俺が、キレ散らかして重要書類でトランプタワーを作り始めたところですよね」

 

「ですです! でもそのせいで」

 

「ええ、もうそりゃシゴかれましたよ。”お前の作り込みは甘い!”なんて言って上司含めてみんなで__」

 

「(シグナム。何でもうコイツ、リインとこんなに仲良くなってんだよ)」

 

「(私に聞かれてもな……そんな恨めしそうな顔でユウを見ても仕方がないだろ)」

 

「(別に見てねぇよ! ったく、こっちの気も知らないで……)」

 

「(それが嫉妬というものなんじゃないか?)」

 

「(違うって言ってるだろ!?)」

 

「はわぁ……そうなんですね」

 

「はい。それで結局、ターゲットの人たちまで加わって解決しました」

 

「(今の聞いていなかった数分で何があったんだよ)」

 

「(少し気になるのが腹ただしいな)」

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

「ほらこの先だ」

 

 

そう言ってヴィータさんとシグナムさんに案内されたのは、訓練用のシュミレーターがある施設。

 

これは24時間いつでも場所や時間を設定して、あらゆる戦闘場面を想定した擬似空間を生み出してくれるハイテクな部屋なんだけど。

 

一部署がこんなに金のかかるとんでもない代物を抱え込んでいる、というだけで機動六課という場所の異質さと上からの手厚い支給があることは一目瞭然だろう。

 

 

「とりあえずユウは急だったからな……スターズかライトニングか決まってないんだ」

 

「さっき言ってた分隊ですか」

 

「ああ、私がライトニングの副隊長で」

 

「アタシがスターズだな。ま、人数がどっちも偶数だからユウを入れるのはフォーメーションとかブレるし、はやて次第だな」

 

 

おお、これが本来の時空管理局による部隊か……! あっちにいたときは、"フォーメーション? んなもんねぇよ。殴ったら良い"とか真顔で言うのが普通だったから、何とも新鮮だな。

 

《マスターの場合、役に立たなさ過ぎて1日で事務作業行きでしたが》

 

………。

 

《申し訳ありません。今のは悪意なく真実を述べたものですが、それによってより傷つきましたね》

 

アインスなんて嫌いだ。

 

 

「さて、まずはヴィータの方だな」

 

「ああ。おいユウ、お前デバイス持ってるか? ないなら貸出しあるけど」

 

 

おっと、話を聞いてなかった。えっとまずはヴィータさんのスターズからか。それとデバイスだっけ。

 

腰の右側についたホルダーから自分のデバイス、アインスを取り出して見せる。

 

 

「大丈夫です、持ってますよ。……あ、そうだ。お前も挨拶しておけ」

 

《はい。(マスター)ユウのデバイス、アインスと申します》

 

「………おう、ったく」

 

「ふぅ……ああ、よろしく頼む」

 

「よろしくですぅー!」

 

「?」

 

 

はて? 何でまた微妙そうな顔で俺とアインスを見比べるんですかね。

 

 

「なのはのヤツ、取り乱すだろうなぁ」

 

「ああ、テスタロッサの方も今から怖い」

 

 

そしてその不穏な会話は何ですか? 今出たのってバリバリ上の上官どころか超有名なおふたりですよね?

 

胸の内にまた不安なものを抱え始めた俺であったが、ひょいひょいと気づけば転送装置に乗せられてしまった。

 

 

「ほら、リインは離れとけ」

 

「はーい! それではユウくん、頑張ってくださいね!」

 

「はい。……頑張る?」

 

「おし、行くぞー」

 

「って、待てヴィータ。お前、転送先が!」

 

「あん? あ」

 

「え、何ですかその不吉な__」

 

 

言葉は? そんな俺の言いたいことを待たずに景色が反転する。

 

次に俺の目の前に現れた景色は、先ほどまでのSFチックな機械部屋から廃墟のようなビルが多く立ち並んだ擬似空間だった。

 

顔を上げれば真っ青な空に、さんさんと輝く太陽。そして、ドカンバコンと響く聞き覚えがありすぎる音に胸騒ぎがする。

 

つー、と冷や汗が頬に落ちる。何だろう、転送してくれたのが凄い人たちだから、まさかそんなミスをするとは思えないんだけど……。

 

 

「………」

 

 

恐る恐るそっと視線を動かしてみると。

 

 

「ティア!」

 

「ええ!」

 

 

二丁の銃型デバイスを操るオレンジ色のツインテールが目立つ少女と、拳を握りしめ、謎の飛行ドローンに真正面から立ち向かう短髪青髪の子。

 

 

「エリオくん、いくよ!」

 

「うん!」

 

 

ピンク髪の魔法少女のような格好した女の子と、鋭い槍型アームデバイスを携えた赤髪の少年。

 

その計4人が明らかに穏やかではないことを繰り広げていた。というか、絶対戦闘訓練だった。

 

や、やばいぞ。戦闘力なんて皆無、実践経験なし、覚悟もなしなんて役満を引っさげた俺が居ていい場所じゃない……!

 

ならば。

 

 

「退散するのが吉……うん、逃げよう」

 

 

ピコン。

 

 

そう結論をつけて何も見なかったことにし、回れ右……ピコン?

 

……なに、今の音。

 

 

《ターゲッティングされましたね》

 

 

何に?

 

 

《訓練用戦闘ドローンに》

 

 

ガチャリ。

 

アインスの音声とともに重い機械音が近くで聞こえた。……はは、もうほんとに。

 

振り向けば先ほどの子たちが戦闘を繰り広げていた物騒なガジェットと目があってしまった。さらに銃口はピッタリと俺の方に向けられているのを見て、もう笑ってしまう。

 

ワンチャン助けてくれないかなー、なんて向こうの同期であろうフォワードメンバーに目線を向けても、まだ気付かれてすらいなくて涙が出る。

 

最後に戦闘したのは、もう2年以上前。けど、こうなってしまったからには腹を括るしかないだろう。

 

 

「アインス」

 

《はい、随分と久しぶりですね。……Standby.ready?》

 

「セットアップ!」

 

 

久しく味わっていなかった自分を包むバリアジャケットの感触に、なんとも言い難い感情を覚えながらも放たれた砲撃を瞬時に弾く。

 

 

「ホント、このコスプレみたいな姿はなれないなっ!」

 

 

黒いシャープな下地に白い軽装の鎧。

 

これだけ聞くと昔話に出てくるような下っ端兵を思い浮かべるが、近未来的な機械の装甲とレーザーを纏わせた主武装の剣が何ともごちゃごちゃな世界観にしている。

 

一応、訓練らしいしこのドローンとか壊しちゃっても問題ない、よな?

 

 

《そんな事をためらう程の余裕がありますか?》

 

「ありません!」

 

《なら目の前の三機くらい、とっとと片付けてしまいましょう。見た目に反して、かなり弱いみたいですから》

 

「オッケー!」

 

 

内に秘める魔力が少ない故に俺の戦闘方法はシンプル。避けて切る! そしてやばい攻撃は、雀の涙の魔力で防ぐ! 以上!

 

 

「はッ!」

 

 

足をスナップさせ、体を一回転。玉状の魔法弾をくるりと避けて……。

 

 

「勢いを保ったまま……切り裂く!」

 

 

いくら硬い装甲を持っていようがこのアインスの(つるぎ)……えっと名前は忘れたけどよく切れる剣はスパンとガジェット型のドローンを綺麗に真っ二つにする。

 

それと同時、残り2機となったドローンが接近戦は危ないと判断したのか、距離を取ろうとする。ならば。

 

 

「アインス! なんか出るやつ!」

 

《いい加減に覚えてください。……Proto.Saber》

 

「それ!」

 

 

魔力を自分の体から剣先に充填し、肩へ担ぐように構える。現状で唯一使える中距離用の技だ、喰らえ!

 

 

「————らぁッ!!」

 

 

大きく振りかぶるように空中の飛行体目掛けて魔力の刃を撃ち出す……白いレーザーのように高速で放たれた自身の攻撃は、一気に2つの目標を飲み込んで__消し去った。

 

この技、便利なんだけど燃費最悪な上に、はちゃめちゃに目立っちゃうから、暗殺とか暗躍がメインだった前の部隊じゃ一回も使わなかったんだよなぁ。

 

自分が消し飛ばしてしまったドローンの最後を見届け、足元に転がった綺麗にふたつに別れたドローンを持ち上げてみる。

 

うーん……これ。

 

 

「なーんか見覚えがあるような、無いような……?」

 

《以前の任務で破壊した目標の護衛機と類似しています》

 

「あ、それ。何だっけか、レリック?」

 

《はい。すでに本部へと送ってしまったので、私の中にあるデータのみでの判断になりますが》

 

 

以前に担当した、よくわからんロストロギアとかいう物体の確保任務。そこでエンカウントした機械の軍隊と確かに似ている。

 

けど、何でそれが時空管理局の訓練用ドローンになってるんだ……?

 

そんな事を考えていると、何やら視線と物音が聞こえてきた。

 

そちらに振り向くと、怪訝そうな顔した同世代くらいの女の子2人と、警戒した表情の幼い少年少女の視線とぶつかった。

 

何でそんな顔で見てくるのか、ちょっとした疑問はありつつも手をあげて挨拶。

 

 

「あ、どうも」

 

 

なるべく警戒を解いてくれるように願いながら、気さくな感じで声をかけてみれば、とりあえず武器は下ろしてくれた。そして、彼女たちのリーダー……たぶん、さっきの戦闘で指示を出していたオレンジ髪のツインテール娘が声をかけてくれる。

 

 

「……アンタは?」

 

「おん? 聞いてないないのか? 俺はユウ・レイド。二等陸士で多分お前らと同期になる」

 

「え! 他にもメンバーいたの!?」

 

 

俺の自己紹介に大きな声を出したのは短髪青髪の活発そうな少女の方。様子を見るに、何も聞かされていないようだった。

 

と言うことで説明タイム。今なんで俺がここにいて……その、訓練に後から参加したのかを。

 

初めはふーん、なんて顔をしていたが事情を聞くうちに呆れたような同情したような顔になっていく面々に苦笑い。

 

 

「はは……ってことでよろしくな」

 

「アンタ、すごい度胸ね。上官があのメンツでよく初日から……」

 

「なのはさん、怒ってそうだね……」

 

「僕、フェイトさんの怒ったところ見た事ないけど」

 

「すごく怖そうだよね……」

 

 

上から順にティアナ、スバル、エリオ、キャルという子たちの今後の俺に対する見解と感想でした。うん、やっぱり謝って逃げようかな。

 

 

「ま、同期って言うならよろしくね? えっと」

 

「ん? ……ああ、好きに呼んでくれ」

 

「そ? どれくらいの付き合いになるかは知らないけど、改めてよろしくね、ユウ」

 

「うん! よろしくね、ユウ!」

 

「同じ男の人がフォアードに増えて嬉しい限りです!」

 

「えっと……よろしくお願いします」

 

 

あら、結構フレンドリーなのね。と言うかこんなに言葉が通じるのがすっごい新鮮。やっぱあそこはクソだったのか。

 

 

「何感動してるのよ」

 

「言語が通じる素晴らしさを噛み締めていたんところだ」

 

「はぁ?」

 

「こっちの話だから気にしなくていいよ」

 

 

とりあえず、同期となるメンバーとの初会合は悪くない感じ。そこからは少しの情報交換と談笑を兼ねて雑談。

 

スターズと呼ばれる分隊に属するのが、ティアナ・ランスターというリーダーっぽい、ちょっと強気な子とスバル・ナカジマという元気ハツラツな子。

 

そして、もう一つのライトニングに所属しているのが、エリオ・モンディアルという赤毛の少年とピンクの髪を束ねたキャロ・ル・ルシエという少女。

 

ふむふむ。あの資料にあったけど、やっぱり同期の新人とはこの子たちで間違いなさそうだ。

 

一旦、欲しかった情報を全てまとめられたタイミングで、つい先ほど味わった転送特有の浮遊感が体に訪れる。

 

 

「おっと」

 

「うん、教官たちのところに呼ばれるみたい」

 

「そうみたいだな、それじゃまた」

 

 

次の瞬間、また景色が一変する。

 

今度はどこかのビルの屋上のような場所に、簡易テントと謎の装置がわんさかと置かれた特急の司令所みたいなとこだった。

 

そこには、時空管理局の制服を着た年上の女性がふたり。眼鏡をかけた方の女性は、ティアナたちが教えてくれたメカニックのシャリオ・フィニーノだろう。

 

そしてもう片方は、全く時空管理局の人を知らない俺ですら外見も名前を知っている超有名人、高町なのは一等空尉だ。

 

有名人と実際に会うというのは、何とも緊張するもので、いくら知っていても雑誌とかに映っていたあの人が目の前に現れると少し身構えてしまう。

 

 

「よ、お疲れ」

 

 

ちょっと硬くなっていた俺の体にポンと手が置かれた。そちらを見てみれば、ヴィータさんがバツの悪そうな顔で頬をかいている。

 

 

「はい。急に戦闘とは思ってませんでしたよ」

 

「あー、悪い。アタシのミスだ。他のひよっこを転送した時の設定のままでな」

 

「肝が冷えましたよ。俺、戦闘なんて2年ぶりでしたし」

 

「……は? おい、待て」

 

「?」

 

 

その言葉を聞いたヴィータさんの様子が変わる。なんだ、今度はどうしたんだ?

 

 

「さっきの戦闘、お前は普通にガジェットドローンを倒してたよな」

 

「あ、見てたんですね。はい、そんなに強くなかったですし、訓練用でしたから弱めだったんですよね」

 

「………」

 

 

何その無言。

 

そして、頭に手を当ててため息をついたヴィータさんが語った言葉は、ちょっとびっくりするもの。

 

 

「あれは実践に兼ねて上から2番目に設定してあったはずだ。新人の力量を測るためにな」

 

「へ?」

 

「あの4人は協力して4機倒したが、それでも十分だった。それがお前は単騎で3体だぞ?」

 

「あ、あれ……?」

 

 

なんかこう……"俺なんかやっちゃいました?"系の波動を感じる。

 

 

「もともとこの最初の訓練は、7機のドローン相手にどこまで粘れるかを測るためのもんだ。でもってしばらくは、全て撃破を目標に訓練していくってのが、なのはのプランだったんだが……」

 

「つ、つまり?」

 

「お前、やりすぎだ。ロクに実践経験がないって聞いてたが……ユウ、なんか訓練くらいはしてたか?」

 

「え、と……前の部隊では週に3回くらいですかね」

 

「それだけでこれって……どんだけ過酷なとこにいたんだよ、お前……」

 

 

すごい同情と哀れみの言葉に自分が感じていた、あそこの異常さが改めて実感する。やっぱりブラックじゃないか。

 

 

「てことはもしかして、さっきからチラチラと感じる高町教官の視線は……」

 

「それは別の意味もあるだろうけど、ま」

 

 

よくも台無しにしてくれたな、なんて意味もあるかもな。

 

ヴィータさんからの言葉に、今まさに他の集められた4人へと総括を伝えていた高町教官からの熱い視線の意味が理解できた。

 

いきなりイキリプレイかまして、目をつけれたってこと……?

 

 

「それじゃ、一旦解散ね。みんなは少し休憩」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

あ、でも解散になるなら俺も一緒に行けば……。そんな甘い思考に釣られてこっそり動き出そうとした瞬間。

 

ガシ、と肩を強く掴まれる。……あの。

 

 

「ヴィータさん、なんでそんな強く俺の肩を?」

 

「あっはっはっは。まぁ、なんだ。なのはにユウを残すように頼まれてるからな」

 

「後生です……! この場は逃してください……!」

 

「ダメだ」

 

 

いい笑顔でグッと親指を立てながら言われた死刑宣告に涙が止まらない。そんな俺を尻目に解散したメンバーのひとり、スバルが俺の元に寄ってきた

 

 

「ユウ! とヴィータ副隊長? えっと……」

 

「ん? ああ、気にするな。お前らは休憩入れてこい」

 

「は、はい。……が、頑張って」

 

「おう……」

 

 

何かを察したように苦笑いと小さなガッツポーズによる応援をして、スバルは去ってしまった。ああ、無常也。

 

 

「ほら、行って来い」

 

 

そう言って背中を押されて、よろけた先にいたのは……うん。

 

 

「あ、あははは。初めまして高町教導官……」

 

 

静かに俺の顔を見つめる高町教官だった。や、やばいぞ、何を話せばいいんだ……!

 

 

「うん。初めまして、だね」

 

「えっと……その」

 

 

マズいマズいぞ……この静かな感じはアレだ、怒りが一周回って冷静になるっていうタイプの一番あかんパターン……!

 

とにかく謝らなければ、そんな思考で頭がいっぱいになった時、そっと高町教官の手が俺の方へと伸びてきた。

 

な、殴られ……?

 

 

「………?」

 

 

あ、あれ? 何もこない……?

 

 

痛みに強ばり、ぎゅっと閉じていた目を恐る恐る開けると。

 

優しく、壊物を扱うかのようにゆっくりと俺の頭、そして頬を撫でる華奢な腕と手。

 

 

「もう、そんなに怯えないでよ。……まだ私の方が低いけど。身長、だいぶ追いついたなぁ」

 

 

慈悲深い、柔らかい、そんな感想を抱いてしまうほど。色々な感情が混ざった……そんな表情をした高町教官の顔が目に飛び込んできた。

 

 

「え、あの……?」

 

「ホントに変わらないなぁ……うん、やっぱり」

 

「………」

 

「でもちょっとだけ、顔は幼いかな……それはそれで可愛いけど」

 

 

………なんだ、何だ? 何が起きている。なんで俺、エースオブエースなんて言われてる管理局のトップ様に顔を撫でられているんだ?

 

というか、その。ものすごく、恥ずかしい事をしてるのではないだろうか。

 

 

《いいじゃないですか。マスターの歳上好きな性癖にぴったりのシチュエーションでしょう》

 

 

そう言われるとラッキーな気もするけど、実際にこんな場面に会うとですね? 思春期真っ只中である青少年のユウくんとしては、なんとも言い難いというか、死ぬほど恥ずかしいと言いますか。

 

 

「あ、顔赤くなった。……照れてるんだ?」

 

「勘弁してください……ッ!」

 

 

これは下手に怒られるよりもよっぽどクるモノがるぞ……! というかなんだよこれ! 八神部隊長といい今日はラッキースケベ日和なの!? 普段の不幸からの贈り物なの!?

 

ぐるぐるぐる、そんな効果音が出そうなくらいに目と頭が回りだす。

 

もうこれ以上は限界、耐えられそうにない、胸の鼓動が爆発しそうになっていた俺へ。

 

 

「あ、はやてちゃんだけずるいし、私も」

 

「!!??」

 

 

とん、と飛び込むように高町教官は当たり前のように俺の胸へと飛び込んできた。……飛び込んできました。

 

俺より身長が低い分、ぴったり自分の胸の位置に頭が入り、背中に手が回されてしまってもう脱出は不可。すりすりと頬を擦り付けられる感触と、何か、本日2度目となる柔らかな感触が布一枚を通して伝わってきて……っ!

 

 

「ちょ、ちょっとタンマです! なんですか、何が!?」

 

「んー?」

 

「そんな甘えた声出さないでください!?」

 

「えー?」

 

「"えー?"じゃありません! 待って、ヴィータさん!? 見てないで助けて! えっと、シャリオさんも!」

 

「あー、そういや他の新人たちのデータは?」

 

「へ? あ、こっちにありますけど……あのなのはさんと新人くんって」

 

「いいから行くぞ」

 

「待ってぇ! この状況で置いていかないでぇ!」

 

 

さっさと行くぞ、なんて言いながら本当に転移してしまったヴィータさんたちによって、正真正銘、この場には俺と高町教官しかいなくなってしまった。

 

どうする、どうやってこの場を切り抜ける……!?

 

あわあわと焦っていた俺にどこか不機嫌そうな声が聞こえた。というかこの場にいるのは俺と高町さんだけで、それはつまり。

 

 

「ユウくんはなんでそんなに嫌がるのかなぁ」

 

「へ!? 決して嫌がってる訳では……」

 

「私のこと、苦手? それとも」

 

「いや初対面でこんなことされたら、誰だってこうなりますから! この状況に関してはむしろばっちこいですけどね!?」

 

 

あ、まず。余計なこと口走った。

 

俺のそんな失言に一瞬、ポカンとした顔になった高町教官だったが、次にはからかうような笑みに。

 

 

「ふーん。相変わらず歳上の方が好きなんだ?」

 

「なぜそれをっ!?」

 

「知ってるよー? ……いっぱい、君のことは、知ってる、んだから」

 

 

からかうような口調だったはずなのに、気づけばその声音は……泣いているような切ないものに変わり始めていた。

 

 

「………高町、教官?」

 

「っ……ごめんね、ちょっとだけ、こう、させてて」

 

 

ぎゅっと再び顔を胸に沈ませた高町教官の肩は震えていて……それが泣くのを我慢しているものというのは、俺にでもわかった。

 

いまだによく、状況は理解できていないけれど。

 

 

「……自分の胸で良ければ」

 

「……うん、本当に……また会えてよかった」

 

 

何も言わず、空を見上げて。

 

ただ、高町教官が落ち着くのを待った。

 

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:5 雷光の執行官様からのお誘い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ごめんね、ありがとう」

 

「もう大丈夫ですか?」

 

「うん。いっぱい充電できたよ!」

 

「それなら良かったです。じゃ、そろそろ俺たちも移動を……」

 

「あ、その前に」

 

「はい?」

 

「ユウくん、遅刻したよね」

 

「…………いや、ははは」

 

「突然の乱入に私の訓練の計画をパー。ふふ。」

 

「それは情状酌量の余地があると思うんです……!」

 

「んー、ダメっ」

 

「なんでそんなに笑顔で死刑宣告できるんですか……?」

 

「いっぱい訓練してあげるから、楽しみにしててね?」

 

「………はいぃ……」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

笑顔で圧をかけられて怒られる。怒鳴られたり体罰よりも恐ろしいものとは思わなかった。

 

疲れ切った体を癒すべく、他の同期たちが向かったという食堂に言ってみれば、ティアナとスバルがもぐもぐと食事中の模様。

 

 

 

「あら、どうしたのそんなグッタリした顔して」

 

「うん。色々あったの……聞かないで」

 

「あはは……やっぱり絞られたんだ」

 

「スバル、何か知ってるの?」

 

「ほら、さっきユウとヴィータ副隊長が」

 

「ああ……ご愁傷さま」

 

「その言葉ですら今の俺には嬉しいよ……」

 

「……本当に大丈夫? ユウ、さっきと今で随分と顔やつれてるよ?」

 

「スバル、ほっておいていいのよ。自業自得」

 

 

そんなこと言いつつも、目と表情は心配してくれているの丸わかりだぞ? このふたりは随分とお人好しというか根が優しいというか。

 

 

「それで何か手伝うことでもあるの? まだ時間もあるし、簡単なことなら」

 

「………」

 

「手伝うわよ、って何よその顔」

 

「俺は今、人の温かさに触れている……っ」

 

「え、なんでそんな泣きそうな顔に、って本当に涙流さないでよ!? ほら! ティアも謝って!」

 

「なんでよ!?」

 

 

俺、こんなにもあったかい人たちとこれから働けるのか……。

 

わちゃわちゃと揉み合うティアナとスバルを横目に、大きな感動を胸にたぎらせる。

 

これならきっと多くの困難があっても乗り越えられるはずだ。俺、スパイだけど。

 

 

「なら高町教官から出されたこのレポートを」

 

「あ、なのはさんのならパス。頑張んなさい」

 

「ごめん、私もなのはさんのなら手伝えないや」

 

「ふたりなんて嫌いだ」

 

 

あまりにも早い手のひら返し。もう何も信じられない。

 

 

それから午後の訓練と高町教官による追加の実習をこなし終わった頃には、もう日は落ちて寮へと移動となった。

 

けどまた問題が発生。急に移動となった俺のお部屋がありません。

 

ということで今、俺は八神部隊長と高町教官のふたり挟まれて自分のいく先を話し合っていた。

 

 

「うーん、どうしよなぁ。流石に男女は別にせんとアカンし」

 

「数日あれば片付けとか終わるし、それまでの間をどうするかだよね」

 

「一旦、どこかホテルとかの宿泊施設が妥当やろうけど」

 

「ここのアクセスの悪さがね……ちょっと大変だろうし」

 

「あの、別に俺はこの食堂とか、それこそ雨風しのげればどこでも」

 

「「絶対ダメ」」

 

「いいんですけど……はい……」

 

 

薄々思ってたけど、なんか八神部隊長も高町教官も俺に対して過保護すぎるような……?

 

別にサバイバルとか慣れてるんだけど……というか、移動用の履歴書を見てるふたりならわかってるはずだし。

 

大体、2〜30分くらい話し合いが行われたが結論が出ず、他のメンバーからの意見も聞くことになり、俺は一旦ここで待機となる。

 

 

「うーん、なんでそんなに優しくしてくれるのやら」

 

《一般的にはこの対応が普通かと》

 

「マズいなぁ、いたところがアレだから普通ってのがわからん」

 

《それは……仕方ないことです。徐々に慣れましょう》

 

 

持て余した時間でアインスと今日一日のことを振り返る。正直、新しい価値観が多すぎて疲れてしまった。

 

そんな雑談をしていると食堂の扉が開く音が聞こえた。どうやら帰ってきたみたいだ。

 

さて、どうなるのやらと振り返ると、その先には思っていた人物とは違う人が立っていた。

 

 

「ぁ………」

 

「え? あ、えっと確か……」

 

 

長い明るめ金髪と深い赤色の瞳、そして少し疲れたように肩を落とした姿が俺の視界にはいる。む、見たことがあるぞ……って!

 

ばっと席を立ってすぐさま敬礼。

 

 

「自分、本日よりこの課に配属されましたユウ・レイド二等陸士です! よろしくお願いいたします!」

 

 

この機動六課隊のトップスリーである八神部隊長、高町教官に続く3人目、フェイト・T・ハラオウン教官。聞いた話では今日、本部の方で色々と動いていたとのことだが、今帰ってきたのだろう。

 

とりあえず、まずは挨拶。大きな部隊に属する下っ端として、すぐにその行動に出たのだが。

 

肝心のテスタロッサ教官の表情はポカン、そんな顔。

 

おや……なんだろうこの感じ、流石に今日で3回目だから、この後に起きそうな事態が予感できる。

 

シーン。

 

なんとも言えない空気と静寂が食堂を包み、気まずさで顔がヒキつく。

 

そんな死んだ空気の中で元気な少年少女の声が入ってきてくれる。それはエリオとキャルのふたりで、確か保護者がテスタロッサ教官だとか言ってたし、待っていたのかな。

 

 

「あ、フェイトさん!」

 

「お帰りなさい……ってあれ?」

 

 

しかし反応を見せないテスタロッサ教官を見て頭にハテナを浮かべ、そして敬礼をしながら冷や汗をかいている俺を見比べる。そして、何かを察したようにそっとドアの方へと戻っていく。

 

 

「えっと……エリオくん」

 

「うん……そうだね、お邪魔しました」

 

「待って!?」

 

 

すっと消えていくふたりに思わず声をあげるが、苦笑いと共にお辞儀をされて去っていってしまったエリオたち。

 

ということで、残ったのは俺とテスタロッサ教官だけ。

 

再びシーンとした空気がこの場を満たす……だが、その静寂はテスタロッサ教官の一言で消え去る。

 

 

「ユウ、だよね」

 

「へ? は、はい」

 

「ホントに、ユウだ……っ」

 

 

そう言って、ゆっくりと俺という存在を確認するように体へと触れてくる。その手は少し震えていて、目元は涙を溜めていた。

 

やっぱりこの人も八神部隊長たちと同じで俺のことを誰かと勘違いしているようだ。これは早めに誤解を解かなければ、面倒なことになる予感がする。

 

 

「テスタロッサ教官……その俺は」

 

「聞いてるよ。全部、はやてとなのはから聞いてる……」

 

「え? それなら」

 

「でも、やっぱりユウはユウだよ」

 

「……?」

 

「聞いてたけど、それでも……うん」

 

 

懐かしむように、嬉しそうに頬へと触れてきたテスタロッサ教官と静かに見つめ合う。

 

なんか、妙な空気感になってきて。それに当てられたように、ただただ目と目を合わせる。

 

 

「ね」

 

「っ!」

 

 

テスタロッサ教官からの問いかけで、ハッとする。

 

な、なんだ? 今俺は何を考えていたんだ?

 

 

「は、はい……?」

 

「少し、お話しよ?」

 

 

そんな問いかけに俺は、ただ静かに頷いた。

 

テスタロッサ教官との会話内容は、ごく普通のもので。

 

何が好きなのか、とか。どこにいたのか、だとか。俺への質問が多かった気がするけど、特に面白みもない返答をひとつひとつ噛み砕くように、笑顔で聞いてくれる彼女の表情はとても印象的だった。

 

そして話題はさっきまで行われていた訓練のことや、今俺が置かれている宿無し問題に。

 

 

「__ってことで、今は八神部隊長たちがどうするかを考えてくれてるんですけど」

 

「ん……そっか」

 

 

その話を聞いたテスタロッサ教官は、顔を傾けてうーんと何かを考え始め、すぐに何かを思いついたように表情が明るくなる。

 

 

「それなら大丈夫。荷物とかってもうある?」

 

「へ? はい、全部ここにありますけど」

 

「なら行こっか。なのはたちには私から伝えておくから大丈夫。ほら」

 

 

そう言ってリュックサックを背負った俺の手を引いて、どこかへと歩き出す教官に慌てて質問する。

 

 

「いや、どこか当てがあるんですか? 高町教官たちはどこもないって……」

 

「うん、あるよ。ユウなら大丈夫だろうし、まだたくさん話したいこともあるから」

 

 

気づけば六課の寮前へと連れてこられてしまったが、まだ片付けていない部屋があるとかでもう空き部屋はないはず……?

 

疑問を感じながらもただ、繋がれた手を振り解くことなんてできない俺は、そのままとある部屋の中へと向かい入れられた。

 

まだ全てが片付けられていないのか、少しダンボールや書類そして管理局員の制服がベットの上に並んでいた……というか、ここ誰かの部屋じゃ?

 

 

「まだ散らかっててごめんね。ベットは大きいからたぶん大丈夫」

 

 

その言葉にここが誰の部屋か、そしてこの目の前の人が何をしようとしているかを察し始める。

 

 

「あの、ここって……え、そんなまさかとは思いますけど」

 

 

本日何度目のピンチか。自分のほっぺたに"もういい加減にしろ"と怒られそうなほど、ピクピクと痙攣する顔の表情筋を押さえながら、頭にハテナを浮かべたテスタロッサ教官に疑問をぶつけると。

 

彼女はどうしたの? なんて言いたそうな涼しい顔で。

 

 

「私の部屋だよ? ここなら問題ないから」

 

 

いえ。問題しかありませんよね?

 

 

「いや、いやいやいやいや」

 

「ちょっと狭いかもだけど、好きに使っていいから」

 

「待って、ストップです」

 

「?」

 

「なんでそんな不思議そうな顔してるんですか!? わかってますか、俺は男ですよ!」

 

 

そうなのだ。なんか女所帯で一瞬頷きそうになったけど、俺は男であり目の前の方は女性。

 

その人と一緒の部屋で生活? 思春期真っ只中な俺と?

 

何より目の前の人は、なんというか……とびきりの美女なんですよ? 俺、オオカミになっちゃいますよ?

 

というかそもそも、誰かの部屋に云々は八神部隊長と高町教官からのお誘いを土下座してまで断ったばかり。だって、さ、わかるだろ。

 

 

《マスターが泣きながら謝るのは本日何度目か、数えるのも馬鹿らしくなりましたよ》

 

 

そう、その土下座は俺のなけなしの涙つき。だって女の人と仕事ですら長時間いたことがない奴が、いきなり同じ部屋で生活するとかハードル高すぎて……想像しただけで心臓がいくつあっても足りるわけがない。

 

 

 

「というか八神部隊長にはなんて言ったんですか!? 絶対反対されたでしょ!」

 

「え、えと……あはは」

 

「そんな可愛く笑っても誤魔化されません! 絶対に"なんとかする"みたいな本質情報ゼロで伝えたましたね!」

 

「う……で、でも」

 

「でもじゃないです! とにかく俺はすぐにでも__」

 

 

そう言って踵を返そうとした瞬間、キュッと自分の腕の裾をつままれた。その手を伝って持ち主の顔に行きつけば。

 

 

「……どうしても、だめかな?」

 

「………………くっ」

 

 

眉毛を申し訳なさそうに八の字に下げて、上目遣いで甘えるようなとろける声でそんなことを言われても……! 俺の意思は硬い!

 

 

「だ、だめです! 俺はすぐにでも__」

 

「ぅ……私、ユウと一緒にいたい」

 

「わかりました。わかりましたから、ちょっと泣きそうになるのやめてください。それは卑怯です」

 

 

少し涙目になり出したテスタロッサ教官の姿を見た瞬間に、脳内アラートがとてつもない音を鳴らし出した。そもそもこのミッションの中には、上官3人との親交を深めろというのも含まれている。

 

それなのにここで好感度を下げてしまうのは論外だし、泣きそうな彼女の顔があまりにも悲痛そうで俺の良心が悲鳴を上げた。

 

 

「なら、ここにいてくれる?」

 

「わかりましたから、とりあえず泣くのはやめてください……!」

 

「ほんと?」

 

 

本当にこの人、俺より4つ上の歳上か? 仕草とか言葉がなんか幼いような気がするんだけど……。

 

 

「もう……はい、一緒にいます」

 

「嘘じゃない?」

 

「はい」

 

「ずっとここにいてね」

 

「はい…………ん?」

 

「やった。約束だよ?」

 

 

え、ずっと? 感じた違和感に気づいた時にはもう遅く、そこには先ほどの幼い少女のような顔をしたテスタロッサ教官の姿はなく、少し悪い笑みを浮かべた大人の女性がおったそうな。

 

こ、この人……まさか。

 

 

「は、ハメましたね……!?」

 

「ふふ、もう約束したもん。相変わらず優しいね、ユウは」

 

「待って! 今のなし!」

 

「……嘘、ついたの?」

 

「だぁ! それは卑怯ですってぇ!?」

 

「………もう、本当にキミは」

 

 

俺の様子を楽しむようにクスクスと笑う教官殿に大きな憤りを感じる。さっきまでのあれは全部、計算尽くの演技だったな……?

 

まだからかうようにニコニコとするこの人に、何とか反撃しようと頭を回転させ、ピコンと思いつく。

 

女性一人の部屋に男を招いたということの危なさを教えてやる。

 

 

「……でもいいんですか?」

 

「?」

 

「俺は男でテスタロッサ教官は女性。そんな状況でこの部屋に二人ですよ?」

 

「えっと、うん?」

 

 

何を言ってるの、わかってることでしょ? とでも言いたそうな顔のテスタロッサ教官に、痛烈な一撃をかます。

 

 

「俺、教官のこと襲っちゃうかもしれませんよ」

 

「へ………?」

 

 

それを言った瞬間、随分と惚けた表情をしたテスタロッサ教官を見て、やはりと思う。やっぱりこの人は、そっち方面の危機感が薄い……だからこの俺の言葉は大いに効くはずだ……!

 

ほれ見たことか。みるみるうちに頬が赤くなって、モジモジと……ってあれ、なんか思ってたアクションと違うような……すぐに追い出されるか、ビンタくらいは覚悟してたんだけど。

 

 

「ユウは、さ」

 

「はい」

 

「私のこと、そういうふうに見れるの……?」

 

「へ? そりゃ教官くらいの美人なら誰だって」

 

 

何を当たり前のことを聞いてくるんだ、この人。そんな疑問を頭に、赤い顔で何かを考え始めた教官殿の姿にまた違和感。

 

えっと……俺はどうすれば?

 

 

「そっか。そっか……うん」

 

「あのー……?」

 

「ね、ユウ」

 

「?」

 

 

意を決したように、赤い顔のまま彼女の放った言葉は。

 

 

「ユウなら……いい、よ?」

 

「………………はい?」

 

 

俺の脳内を破壊するには十分すぎた。

 

は、は? え、つまりそれは何か?

 

 

「あの、意味わかってます?」

 

「………ぅん」

 

 

蚊の鳴くような声で、けどしっかりと頷いたテスタロッサ教官を見て目が点となる。

 

あ、え、えっ!? ストップ、一旦待って。頭の処理が追いつかないから。

 

なんだ、それはその、オッケーサイン……? ということは、もしこのまま俺が頷けば……? それはもう……?

 

ぐわんぐわんと揺れる頭に膨らむ妄想。そんなトリップしかけた俺の耳に聞こえてきたのは、ちいさな笑い声。そして、ぽんぽんと頭を優しく撫でられる感触。

 

 

「ふふ、あはは……もう、顔赤くなりすぎだよ」

 

「へ、え?」

 

「ちょっとだけ、からかったの。本気にしちゃった?」

 

「……………はい?」

 

「私のこと考えて、そう言ってくれたんだよね。大丈夫だよ」

 

「………も」

 

「でも、そんなに可愛い反応してくれるとは思わなかったけどね?」

 

「弄びましたね……!? 俺の純情な心を……っ!」

 

「ふふ、うん」

 

「"うん"。じゃなぁぁぁぁいっ!!!!」

 

「こら、大きな声出さないの。もう夜だよ?」

 

「…………ぐぐぐ………」

 

 

めっ! と叱られて反論しようにもまさに正論で、その通りとしか言えない言葉に唸り声を鳴らすしかない。

 

 

「それじゃ、私はお風呂入ってくるから少し待っててね」

 

「…………はい」

 

「そのうちにもし逃げちゃったら……私、本気で泣いちゃうからね?」

 

「…………………はいッ!」

 

 

少し出た俺の考えを読むように釘を刺されて完敗。そっと体育座りをして、さめざめと泣くしか……それしか、もう俺にできることはない。

 

 

 

《マスターが幸福そうで何よりです》

 

 

どこがだっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 





真っ赤にした顔を隠すようにシャワールームへと駆け込んだ彼女の本音を知るのは……本人だけ。


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sts ミッション:6 初日最後で最大のピンチ

 

 

 

 

 

 

《いつまでメソメソと泣いているんですか》

 

「だって……だって」

 

《子どもじゃないんですから……こうなったものは仕方ないでしょう》

 

「うぐ……でも大変だぞ? これから八神部隊長や高町教官の目を欺かなきゃいけないなんて」

 

《そこはマスターがしっかりと口にチャックできれば問題ありません》

 

「あと……襲っちゃうかもしれないというか」

 

《大丈夫です》

 

「な、何を根拠に?」

 

《貴方はヘタレです》

 

「…………。ばーか!!」

 

《否定できないからといって、子どものような罵倒で対抗しないでください。情けないです》

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

テスタロッサ教官……いや、フェイトさん(と呼んでくれと言われたので、そうなった)がシャワーを浴びている間、俺はただ虚空を見上げて時間を潰す。

 

この後、きっと当たり前のようにお風呂上がりで姿を表す上司の姿を予感して、ただ静かに天井を見続ける。

 

 

《現実逃避しても何も解決しませんよ》

 

「………」

 

《はぁ……でもよかったではありませんか、いくら同室といってもかなり広いですし、寝床も2つあります。一定の距離感さえ保てば少しリッチな暮らしでしょう》

 

「それはまぁ……そうなんだけどさ。確かここの寮って基本的に複数人なんだっけ」

 

《はい。マスターも同期の方々と、情報を交換している際に聞いていたと思いますが》

 

「ティアナとスバル、エリオとキャロが同じ部屋だっけ。副隊長とかもかな」

 

《おそらくですが。ただ流石にここは隊長格ということもあるので、部屋の大きさはこちらの方が大きいでしょうね》

 

 

アインスからの言葉に改めて部屋を見渡せば、確かになぁと納得する。簡易的なキッチンはもちろん、軽い区切りがあって寝室兼作業室ともなるように机やら資料が入った本棚なんてものがついている。

 

たぶん、他の局員の寮部屋はもう少し小さいのだろう。以前に使っていた自分の部屋が、いかに経費を削減されたものかがわかった。

 

 

「本当にいくらかかってるんだろうな、この新部隊」

 

《さぁ。ただ他の部署と比べれば1、2段階上なのは間違いないでしょうね》

 

 

キョロキョロと部屋を見回しながら、改めて数日間ではあるが自分の居住区となるスペースを探していると。

 

ガチャリ、と部屋の扉が開く音がした。どうやらフェイトさんがお風呂から上がって来たみたいだけど、決して俺はそっちを振り向かない。

 

だってお風呂上がりですよね? 目の毒待ったなしだろ、そんなの。

 

とにかく、決して目をそちらに向けることなく、色々と確認を取っていく。

 

 

「もう逃げようとはしませんから。それで俺はこっちのベットを使えばいいんですか?」

 

「………」

 

「あ、あと荷物ですけど適当に置かせてもらいました」

 

「……………」

 

「にしても豪華な部屋ですね、ここにフェイトさんひとりだったとか結構ずるいのでは?」

 

「………………へぇ」

 

「とりあえずは観念したんで、さっきみたいなことはもうやめてくださいよ。これ以上は心臓が持たないというか」

 

 

《マスター、マスター》

 

あん? なんだよ。

 

《私は今感動しています》

 

 

《こんなにも間抜けな人が実在するとか夢にも思いませんでした》

 

アインスからの笑いが堪えられない、とでも言いたげな言葉を聞いてふと気づく。

 

あれ、今の声ってフェイトさんのものじゃなかったような? そんな疑問を浮かべた俺は、何も考えずに自然と体を振り向かせた。

 

そこには。

 

 

「ね、ユウくん。今のどういうことかな?」

 

「…………な、なぜ」

 

「どうしたの、そんなに焦った顔しちゃって」

 

「なぜ、ここに高町教導官が……?」

 

 

ニコニコ。そんな、今日一番と言っていいほどにとても素敵な笑顔(とても怖い笑顔)を浮かべる教官様。冷や汗が止まらないまま、とにかく沸いた疑問を自然と口にすると。

 

 

「ここ、"フェイトちゃんと私の部屋"だもん」

 

 

とんでもない爆弾が返ってきた。

 

いや、うん、複数人で使うのが基本だって言ってましたもんね、俺。そして笑っていらっしゃるアインスさん……。

 

 

「そーれーで?」

 

「ひぃ……!」

 

「私が頑張ってお仕事を片付けてる間に、フェイトちゃんとふたりっきりで何してのか……教えて?」

 

 

恐怖、まさに恐怖。めちゃくちゃ美人さんな人だからこそ、その圧がついたとびきりの笑顔は人をも殺しえるッ!

 

どうにかして誤魔化さなければ、そう焦る俺の元にタイミングぴったりで金髪の天使が舞い降りた。

 

 

「あ、なのは。おかえり……? どうしたの、そんな顔して」

 

 

すぐさまこの全ての元凶という名の天使へと飛びついた。もうね、藁をもすがる気持ちとはこのことですよ。

 

 

「フェイトさんっ! 助けて!」

 

「へ? わわ……もう、どうしたの」

 

「怖いんです……高町教官がものすごく、怖いんです……ッ!」

 

「なのはが? ……えっと、何かあった?」

 

「んー? ちょっとユウくんに聞きたいことがあったんだけど……うん、フェイトちゃんもおいで?」

 

「え、えと……なのは、顔怖いよ?」

 

「ふふふ、もう本当に……このちょっとの間で何があったのかなぁ、ふたりは」

 

 

なんかより怒りメーターが上がっていらっしゃる!? 頼む、もう希望はフェイトさんしかいない!

 

 

「ひぃ……! フェイトさん……!」

 

 

とにかく何があったのか、それをこのひとの口から伝えてもらえば、きっと誤解は生まれないはずだ。だから、とその意を伝えるアイコンタクトを送る。

 

頼む……! 伝われ、俺の想い……!

 

ジーっと、とにかく目で訴えていると。

 

 

「何があったって……その……えと……あぅ……」

 

「フェイトちゃんは、なんで顔真っ赤にして俯くかなー? ねぇユウくん?」

 

「違うんですよ!? 誓って何もしてません! ホントに違うんですぅ!?」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

なんというか、まぁオチまで話すと。てっきりフェイトさんだけの部屋だと思っていたここは、高町教官と共同の部屋でして。

 

さっきフェイトさんが言っていた"なのはには私から言っておくね"とは、俺を自分たちの部屋に泊まらせるということ。よくよく思い出してみれば、八神部隊長にちゃんと伝えたかを聞いたときは、焦っていたけど高町教官の時は特に大きな変化がなかった。

 

そんなこんなで、お風呂を済ませた俺と高町教官、そしてフェイトさんの3人はちょっとした雑談タイムになっていた。

 

 

「というか高町教官。俺がこの部屋にいるのわかってて、からかいましたね……?」

 

「えへへ、ごめんね?」

 

「そしてフェイトさんも途中からノってましたよね……?」

 

「うん、楽しそうだったから。ね、なのは」

 

「あはは、ごめんね? ……ちょっと本気だったところもあるけど」

 

「なんでまた黒い笑みになるんですか!」

 

「だって結局何があったか教えてくれないんだもん」

 

「う」

 

「えっと……」

 

 

ほぼ同時に別の方向に視線を向かせる。それはもう何かあったと言っているのと同じで、それを見た高町教官はまたぷんぷんと怒り出す。

 

 

「ほら! ふたりしてまた目逸らした!」

 

「本当に何もなかったですよ! ね、フェイトさん!」

 

「え……う、うん」

 

「嘘、今のフェイトちゃんの反応は絶対にウソだったよ!」

 

 

と、そんな雑談もありながらも時間が時間のため、就寝となったわけだが。もう本日何度目か、新たなピンチが俺に訪れる。

 

 

「じゃ、寝よっか。ほらおいで」

 

「うん、ユウ。おいで」

 

「「……む」」

 

 

同じタイミングで言葉が被ったフェイトさんと……なのはさんの言葉にそれを予感していなかったわけではないが、いざそう言われると困るよなぁ……。

 

流石にこの規律とかが重要な時空管理局の一員として、そればっかりは俺も認められない。

 

 

「女性の部屋に男の俺が寝泊まりするってだけでも、黒寄りのグレーですから流石にダメですよ? 俺、別に床とかで平気なので」

 

「ユウは私と寝るって約束したの」

 

「ずるいよ! 私だって一緒がいい!」

 

「あの? 一緒に寝ませんよ?」

 

「それなら明日はなのはで、今日は私で順番にしよ?」

 

「うーん……それなら……」

 

「寝ないって言ってますよね?」

 

「なら決まり! ほらユウ、こっち」

 

「むぅ……明日は私だからね!」

 

「寝ないって言ってますよねぇぇぇ!!!???」

 

 

必死に声を張り上げて最後まで抵抗し続けた俺の努力も虚しく。

 

 

「………」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「……………」

 

「ん……ぅ………」

 

 

 

静かで暗い部屋の中に響くふたつの小さな寝息を耳に安眠できるはずもなく。

 

先ほどまでの疲れはどこに行ったと言わんばかりに俺の目はギンギラギンにばっちりと覚めていた。

 

 

………後数日、俺は一睡くらいできるのであろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:7 ちょっとした朝練仲間

 

 

 

 

 

 

 

「………ん……ぁ」

 

「………」

 

「………ぅん……」

 

「……………」

 

「すぅ………」

 

「…………走りに行こう」

 

《まだ4時前ですが》

 

「もう立派な朝じゃないか、よし!」

 

《貴方、一睡もしてませんけど》

 

「めっちゃ元気だ!」

 

《……深夜テンションでは?》

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

「はぁ……はっ……はっ……」

 

 

海岸沿いにある機動六課宿舎の周り、つまり海に面したひとけのない道をひたすらに走る。

 

頭の中を空っぽにするように、ここ数時間で溜まりに貯まった煩悩を消し去るために、ただ無心で何周もぐるぐると走り抜ける。

 

春に入ったとはいえど、まだ深夜から早朝は肌寒く体を温める目的もあっていつもより多めに走り込んでいるんだが、これが意外とリフレッシュ効果もあるのか気分が良くなる。

 

 

「陽が出る前の海ってなんとも静かで、普段見てる時よりこっちの方が好みかもな」

 

《さざなみの音だけしか聞こえませんね。この辺りはほぼ居住区もありませんし、機密的に作られた六課の施設を置くに丁度よかったのでしょう》

 

「いち局員所属の魔導士としても好物件だと思うけどなぁ」

 

《しかし補給などの物資を搬入するのが困難です。現在の主な手段はヘリを用いているようですが、一般的にはありえないことです》

 

「まぁな……でもこの月明かりだけで十分に視界が確保できるってのは、ランニングしてるやつからしたらありがたい限りさ」

 

《視界的にも心身的にも人口の光以外を浴びるというのは、存外休まるものですから》

 

「へー」

 

 

ほんの少しだけ空が薄く明るみ始めた中で、アインスと小話をしながら何周目かわからないゴール地点……機動六課の門の前へと差し掛かると、薄く人影が見えた。

 

スポーツウェアにツインテールでまとめられたオレンジ色の髪、そしてまだ少し眠そうな少女が軽くストレッチをこなしているようだ。その人物は俺も知っている人で、もう5メートルくらいで着きそうなタイミングに俺のことを認識し、少し驚いた顔を見せた。

 

 

「おはよ、ティアナも朝からランニングか?」

 

「おはよ。驚いた……アンタ、早起きなんだ」

 

 

……ここで上司の寝息とか女性特有の匂いとか、どうしても触れてしまって伝わってくる体温で寝れませんでした。だなんて言えるわけもなく、とりあえず笑って誤魔化す。というか、(多分だけど)なのはさんに憧れてるティアナにそんなこと言った日には、その日が命日になりそうで絶対無理。

 

 

「んー、いやー……ははは」

 

「そういうわけでもなさそうね。大方今日からの訓練で緊張したってとこ?」

 

「そんなとこだよ。ティアナは日課か?」

 

「ええ。ま、私も寝れなかったのもあるけどね」

 

 

そう言って少し欠伸をかみ殺すティアナの表情に、ちょっと意外な一面もあるんだな、なんて思ってしまう。

 

まだ出会ったばかりの相手だが、昨日の訓練や少しの雑談で真面目かつ強気な感じから結構、神経が太そうとか思っていたんだけど、案外普通の子なのかも。

 

つい、そんなことを考えてティアナの顔を見ていると少し不機嫌そうな顔に。

 

 

「何よ、その顔」

 

「いや。もしかしてティアナって遠足の前日とか眠れないタイプ?」

 

「……まぁ。って、なんで笑ってんのよ」

 

「意外な一面をゲットってね」

 

「なんかムカつくわ」

 

「だからって当たり前のように蹴らないで?」

 

 

ちょっとびっくりした出会いもあって、そのままの流れで共に走ることになる。まずは温まってないティアナに合わせて軽めのジョギングペースで、海岸沿いの道を再び走り始めた。

 

澄んだ空気と涼しげな海風に当てられながら、ひょんなことで仲間になった少し寒そうな彼女と軽く会話を交えていく。

 

 

「スバルは? 確か同じ部屋とか言ってたろ」

 

「まだ爆睡よ。本来の起床は7時30分だし、訓練学校時代は大抵寝坊しかけてた子だから」

 

「同じ学校出身だったのか。そりゃ仲良いわけだな」

 

「ん。……一応、親友よ」

 

「なんで赤くなってんのさ……ってあぶなっ!」

 

「うっさい」

 

 

突然迫ってきた拳を頭を下げて避ける。なんだ、自分で言っておいて照れてるのか?

 

 

「で、アンタはなんでこんな朝っぱらから走ってるのよ」

 

「……気分転換?」

 

「自分のことなのに私に疑問を投げかけないでよ。ま、いいけど」

 

「ティアナは日課なんだろ。大丈夫なのか、また今日もなのはさ……高町教官たちからのキッツイ訓練始まるけど」

 

「平気。私、こうでもしないとみんなに追いつけないから」

 

 

一個前までの強気な感じから一転して、少し弱い口調になった彼女につい視線をそちらへと向けてしまう。

 

ほんの少しだけ影が映ったティアナの表情に、なんて声をかけようか悩む。俺のそんな心情が伝わったのか、また表情が切り替わって先ほどまでの強気な少女の顔へと変わる。

 

 

「気、使わなくていいから。そっちの方が嫌」

 

「了解。じゃ、気を使わずに聞くけど、なんか焦ってるのか?」

 

「別に大したことじゃないわ。私はここでも凡人で、周りは才能をもった人ばかり……アンタも含めてね」

 

「俺、別に自慢できるものとかないけど」

 

「嫌味? 初日にいきなり訓練ドローン3機も撃破しておいて、どの口が言うのよ」

 

 

そう言葉にしたティアナの表情には、呆れたものと……ほんの少しの嫉妬みたいなものが確かに宿っていた。でもなぁ、俺からすれば。

 

 

「俺からすればティアナたちの方が羨ましいけどな」

 

「謙遜なら結構よ」

 

「本当だって。俺、ランクDの超弱者魔導士だからさ」

 

「は……?」

 

 

俺の言葉を聞いたティアナの表情はなんとも信じられない、幽霊でも見たような顔で。

 

 

「待ちなさいよ、ならなんで」

 

「訓練のことは単純に命の取り合い、場数の違いみたいなもんだよ。俺、前までそういうとこにいたから」

 

 

訓練ですら非殺傷モード禁止だったし、文字通りの生きるか死ぬかの訓練ばっかだったなぁ……最初はそれで死にかけたりしてたか。懐かしい。

 

 

「………いつから? よく考えたら同い年くらいなのにあたし、アンタのこと知らない」

 

「大体、5年くらい前だな。とはいえ成り行きで今がある感じだけど」

 

「5年って、まだエリオたちと同じくらいの時じゃない! 両親とかって」

 

「あー、俺さ。よくわかってないんだけど特殊な生まれで、親とか血の繋がりがある人いないんだ」

 

 

それを聞いた彼女の表情はぐっと歪み、暗いものになる。……朝から少し重い話だったかな? 暗部の時は大抵は笑い話にされるか、同じような境遇の人たちばっかりだったから、こういう反応はちょっと驚いた。

 

 

「……ごめん」

 

「あはは、そんな顔すんなよ。別に気にしてないし、なんなら俺が一番なんとも思ってないから」

 

「でも」

 

「その分、結構いい出会いもあったし、案外楽しく生きてるよ。そうじゃなきゃ、とっくに局員なんて辞めてるし」

 

「……そっか。なら、何も言わないわ」

 

「おう」

 

 

少し、沈黙が訪れる。聞こえるのはふたり分の地を蹴る音と、静かな波のものだけ。

 

どれほど、その静寂が続いたか。ぽつりと小さな声が隣の少女の口から漏れ出す。

 

 

「……あたしも」

 

「ん?」

 

「あたしもユウと同じだから、少しは理解できるわ」

 

 

そう口にしたティアナの顔は、決して明るいものではなかったけれど。俺に対しての思いやりのような、ちょっとした暖かい意味が込められているように感じる。

 

ティアナも一緒、それはたぶんだけど。土足で踏み入ってはいけない彼女の大切な部分で、けれどそれを俺に見せてくれるくらいには歩み寄ってくれた、と考えていいのだろう。

 

 

「……そっか。なら仲間だな」

 

「うん。……でもあんまり言いたくないことだから、秘密にしておいてね」

 

「おう。なんか吐き出したくなったら、また気軽に言ってくれ」

 

「……聞かないんだ、あたしのこと」

 

「聞かれたくないだろ? なら言いたくなった時に言ってくれ。弱みを見せる相手、ひとりくらい居ても良いだろ」

 

「ふふ……それがまだ出会って1日の不真面目大遅刻までも?」

 

「勘弁してくれ……」

 

「あはは。やだ」

 

 

同世代の相手とこうして汗をかくというのは、結構青春っぽくて楽しいもので。こんなイベントがあるのなら……実は朝起きるのが苦手だったりする俺でも結構続きそうな日課だな、なんて思っている。

 

まだ1日程度だけど、ティアナの俺への態度はだいぶ柔らかい感じになっていて、それは共感できる部分があったから、なのだろう。

 

のちに聞くこととなったが、親がいない、そして兄がとある事故で亡くなってしまって天涯孤独というティアナの過去……あまり良い共通点ではないものではあるが、それのおかげで随分と仲が深まった気もする。

 

数周のアップを兼ねたランニングを終えて、彼女の魔法に付き合っていれば、もう7時前となっていた。

 

 

「おつかれさま。ひとりだとできることも限界があるから助かったわ」

 

「そうか? 俺、特に何もしてないけど」

 

「そんなことないわよ。魔法を使う相手がいるだけで全然」

 

「ならいつでも言ってくれ。結構楽しかったし、俺もここで戦っていくなら鍛えなきゃいけないからな」

 

「……なら」

 

「ん?」

 

「なら、また明日も同じ時間ね?」

 

「ああ、了解」

 

 

 

本当に小さなとある日の一幕。

 

それからは毎日のように早朝はティアナとランニングから始まって、軽い魔法の訓練をこなす……朝練のようなものが始まるのだが、それでちょっとした喧騒が起きるんだけど……また、それは別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:8 活発元気っ子な少女の憧れ

 

 

 

 

 

 

 

 

「はよー……」

 

「おはよ!」

 

「おはよ……ってアンタ、寝癖ぐらい直してきなさいよ」

 

「え、あ、やべ」

 

「ユウ、いっつもアホ毛立ってるね」

 

「顔洗ってから直そうとはするんだけど、寝起きだと抜けるんだよな」

 

「全く……ほら、動かないで」

 

「ん、さんきゅ……って痛いって!」

 

「我慢しなさいよ、男の子でしょ」

 

「男女関係なく痛いもんは痛い!」

 

「アンタが髪の手入れしてないのが悪いの。もう、さっきも気になってんだから」

 

「わ、悪い……」

 

「…………」

 

「何よ、そんなにじっと見て」

 

「ティアとユウってそんな仲よかったの?」

 

「へ……?」

 

「だって、なんか雰囲気が」

 

「そ、そんなことないわよ!」

 

「ちょ! 痛い! 引っ張らないで!? ティアナさん聞いてます!?」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

「はーい、ここまで! うん、少し休憩ね」

 

 

なのはさんからの終了コールで止まった訓練用ドローンに、ふぅ吐息を吐く。

 

周囲を見渡せばすでにバテバテとなったフォワードの4人が、地にへたり込むように座ったり倒れ込んだ姿が目に入ってきた。

 

んー、なんというかこれは想像以上に厳しい訓練だったな。

 

なんて他人事のように思うが、実際まだ訓練学校から出たばかりだという訓練生と、実践経験も全くない少年少女のふたりにはハードなものだろう。

 

今日で4日目となる実戦想定の訓練は、初日と比べるまでもなく激化している。この教導の主任がなのはさんだから、というのもあるかもしれないが、とにかく辛いのなんの。

 

 

「もう……無理……動けない……」

 

「はぁ……はぁ……だらしないわよ、スバル……はぁ……」

 

「ぅ、きついね……」

 

「本当に、訓練になると……鬼だよね……なのはさん……」

 

 

もう全員死屍累累かってくらいにはへばって、息もたえたえとなったメンバーを見てつい苦笑いをこぼす。

 

普段はあんなに優しいなのはさんだがキャロのいう通り、もう本当に鬼かってくらいにキツいメニューをこなさせてくる。

 

全員が前日までの内容に慣れてしまわないように、本当にギリギリの少し上くらいを目安にして訓練の中身を調整しているからだろうけど……もしかして結構、いじめるのが好きなタイプか、なのはさんって。

 

ちょっと肌寒いものを感じて視線をなのはさんへと向けると、俺たちの様子をニコニコといつもの笑顔で見守っている姿が映る。

 

うん、間違いなさそうだな。なんて納得していると視線がぶつかってしまう。……嫌な予感がする。

 

 

「んー? ユウくんはまだ余裕そうだね。なら__」

 

「あー! めっちゃしんどい! もう動けないわー!」

 

「まだそんな暴れる余裕あるなら少し追加で」

 

「え、何? なのはさんの目には何が映ってるの? 鬼なの?」

 

「冗談だよー」

 

 

嘘だ。今そっと隠した追加訓練用のメニューの本は、ここ数日の間で俺が追加訓練をやらされてきた時に必ず教官が持っていたものだ。それを取り出してまで、追い討ちをかけようとしたな、この人。

 

 

「もう……ホントに冗談だから」

 

「ほ、本当に?」

 

「うん」

 

「そうですか! ああ、今はなのはさんが天使に見える……!」

 

「今日から別でシグナムさんから特訓があるし、今は休んでてね」

 

「悪魔! 鬼教官! なのはさんのばか!」

 

「あ。おかわりが希望かな?」

 

「もう大好き! 愛してます!!」

 

「え、えと。それはそれで嬉しいけど……」

 

 

一瞬でも信じた俺が馬鹿だった。

 

ここ数日の訓練で剣に特化した戦闘を行う俺という魔導士は、そこそこ戦えるのが(俺にとっては悪い意味で)評価されてしまい、同じく剣を扱う上位の魔導士たるシグナム副隊長と接近戦が主な担当であるヴィータ副隊長と別トレーニングを行うこととなっていた。

 

それが今日からなんて初耳ですけどね!!

 

あまりにも辛い死の宣告を受けて、どよーんと落ち込んでいるといつの間にか復活していたスバルがポンポンと肩を叩いてくる。

 

 

「あはは……色々とお疲れさま。大丈夫? 愚痴くらいなら聞くよ」

 

「……本当の天使はこっちか」

 

「ホントに大丈夫? 辛いことありすぎて、ちょっと可笑しくなっちゃった?」

 

「スバル以外もう信じられない」

 

「………だめだこりゃ」

 

 

呆れたように笑いながら横にちょこんと座ってきたスバルと自然に会話を始める。

 

このとんでも訓練は慣れていない人間からすると、今ぜぇぜぇ言っている他の3人のようにしばらくは動けなくなるはずなのだが、この子と俺は割とすぐに復活するので、みんなを待っている間に気づけば話ようになっていた。

 

 

「今更だけど、スバルって体力すごいよな。あっちで死にかけてるメンバーとは随分とガッツが違うというか」

 

「それはユウも同じじゃん。あたしは……なんでだろ? 昔から体力は人一倍あったから」

 

「へー。そりゃ羨ましいことだな」

 

「そうかな。……そうかも?」

 

 

ポーッと疑似空間内の偽物の青空を見上げながら、ただ思ったことやあったことについて頭を空っぽにして話す。そんなどっかの学校の休み時間みたいな、この時間は案外気に入っている。

 

 

「それだけ気合も根性もあるなら、スバルはすぐにでもなのはさんとか教官たちを追い抜けそうだな」

 

「そう、かな。……うーん」

 

「あれ?」

 

 

いつもなら元気よく返事するか、そんなことない! と否定する……いい意味でハッキリしたスバルには珍しい、なんとも言えないような微妙な反応につい、反応してしまう。

 

顔を見てみれば、真っ直ぐとどこかを……今もこの後の鬼のような訓練スケジュールを確認しているであろうなのはさんへと熱い視線が注がれていた。

 

ああ、そういえば。

 

 

「憧れ、なんだっけか。なのはさんが」

 

「うん。なのはさんは、あたしの憧れで目標」

 

 

熱の籠った言葉とともに、どこか懐かしむような表情となるスバル。

 

その顔を見て、また自然と口が開いた。

 

 

「どうして憧れ始めたんだ?」

 

「そっか、まだユウには話してなかったっけ」

 

「ああ。俺の記憶違いじゃなければ、だけど」

 

「別に隠してることじゃないんだけどね。……昔さ。あたし、おっきい火災に巻き込まれたことあるんだ」

 

 

スバルが語った内容は、当時11歳出会った彼女が経験するにはあまりにも過酷で辛いはずの内容だった。

 

新暦71年に起きたミッド臨海空港の大規模火災事故。それは世間でも大きく取り上げられ、今ではエースオブエースなんて称号がついた"高町なのは"の名を知るきっかけとなった人も多い……あまりにも有名な事故。

 

あの事件のことは有名だが、被害者となった相手と実際に会うのは初めてで……でも、そんな辛い経験をスバルは随分と大切そうに語る。

 

 

「あの人の……なのはさんの差し伸べてくれた手が、強さが今でもしっかりここに焼き付いてる。あれがあたしの魔導士を目指したきっかけで、今ここにいるスタート地点なんだ」

 

「辛くはなかったのか? その、色々と苦労したり、それこそ魔法なんて嫌になりそうだけど」

 

 

多くのことを包んだ俺の"色々"という言葉に、一切の迷いも悪感情もなく太陽のように眩い笑顔で。

 

 

「全然! だって、誰かを助けられる強さってそれだけで憧れるもん!」

 

「………そっか。悪い、野暮だったな」

 

「気にしてないよ? うん、だから今も昔もずっと、なのはさんはあたしの憧れでいつか辿り着きたい先なんだ」

 

 

恥ずかしそうに、でもとても大事そうに自分の中にあるものを語ったスバルの笑顔は……。

 

 

「……ちょっと眩しすぎるな」

 

「え?」

 

「なんでもないよ。素敵で尊い目標だなって思っただけさ」

 

「そ、そうかな」

 

 

照れながら頬をかき、笑みを浮かべる……大きな目標を、理想をもった少女の姿はとても綺麗なものに見えた。

 

 

「でも、ちょっと嬉しいよ」

 

「何が?」

 

「笑ったり、馬鹿にしないでこうやって、あたしの夢を聞いてくれたのって、男の子だとユウが初めてだからさ」

 

「そうなのか」

 

「うん。大抵は無理とかあの人を目指すなんてー、ってね」

 

 

諦めたような顔でそう語るスバルの表情には少し影が差しており、どこか元気がなかった。

 

そりゃ、目指すのがなのはさんってのは中々どうして、厳しそうだけれど。

 

 

「少なくとも、ここ数日のスバルを見てきた俺はなれると思うけどな」

 

「………」

 

 

ただ頭を空っぽにして、スバルから聞いた話を自分のなかで噛み砕いて。それで思ったことを素直にただ伝えた。けど、特に反応がないのが気になって、スバルの方へと顔を向けると間抜けな顔をした少女がこちらを見つめていた。

 

 

「なんだよ、随分と惚けた顔して」

 

「……えと。今のって本当に? 本音?」

 

「嘘ついても仕方がないだろ」

 

 

それを聞いて……そっか、とつぶやいたまま再び視線は偽物の空へと向けられる。どうしたのだろうか、と疑問を持ちつつも同じように上を見上げる。

 

ああ、のどかだなぁ。

 

 

「………ユウってさ」

 

「?」

 

 

再び疲れた体を癒すべく、だらんと力を抜いているとスバルから声がかかる。今度はなんだ?

 

 

「女の子、いっぱい泣かせてきたでしょ」

 

「突然なんだよ、藪から棒に」

 

「たらし」

 

「は!?」

 

 

突然の罵声に体が飛び上がる。

 

何を急に言い出すんだとその言葉を放った相手を見てみれば、体育座りのままジトーっとした目線浴びせてきていた。

 

 

「わかんないなら、よりタチが悪いよ?」

 

「そんなこと言われてもな……悪いけど女性経験とか微塵もないぞ、俺」

 

「ふーん」

 

「なんでそんな疑うような目線と声音なんですか……?」

 

「んー、ナイショ!」

 

「……わけわからん」

 

 

ふふ、と小さく笑いながらその言葉の真意をいう気がない口調のスバルに、諦めて地面に寝転がる。

 

白い雲が流れてていく、その景色を見ながら……まぁ。

 

 

 

 

「元気になったなら何よりだよ」

 

「うん、ありがと」

 

 

 

 

また、こうして短な休憩時間は過ぎていく___

 

 

 

 

 

 

 

 






「でもさ、ティアには何かしたでしょ」

「本当に心当たり皆無」

「へー、ふーん」

「一気に馴れ馴れしくなったな、おい」

「それほどでも!」

「はぁ……ま、そういうとこ好きだよ」

「……たらし」

「なんでまたそれ言ったの……?」



———————————————————————




こんにちわ。作者のぺけすけです(๑╹ω╹๑ )


話数でいうと10話ぶりくらいですね。まずは前回と同じくお礼から。

多くの感想やメッセージありがとうございます! 早いものだと投稿から1時間以内で送っていただけたものなんかもありました。マジで感謝です!

さて、本題ですがまたQ&Aのコーナーです。作品の性質もあって、感想よりもメッセージでの感想や考察、質問が多く、それにまとめてお答えさせていただきます。

では早速。



Q.作風がAs以前と比べて明るめですね

A.暗い話の後は明るめです。
Stsでは一部シリアスもありますが基本はコメディ、ラブコメ多めです。ユウくんの頑張った先ですから、ご褒美タイムみたいなものですね。


Q.暗部でのユウくんって何してたの?

A.とある一件以外は全て事務作業でした。


Q.1話のドクターが言ってた老人って……。

A.察しの良い方が多くて笑っちゃいました。ご想像通りの方ですね、脳しかない人たちです。


Q.ユウくんってどこのスパイなの?

A.陸とはやてちゃんたちは睨んでますが、実はもっと上だったり。というか実際はスパイというよりも……。


Q.ユウくん、記憶喪失多過ぎない?

A.stsに関しては記憶喪失じゃないって噂が。


Q.アインスってもしかして……?

A.INNOCENTを履修済みのファンなら気付きますよね(笑)。その通りです、見た目はあの子ですが中身は少し……出番はまだ先ですが、お楽しみに!



Q.前のユウくんって結局、消えちゃったの? 今のユウくんがこれから過去にいくのかな?など。

A.これが一番多い質問でした。ですので、はっきりと書いておくと。






今の体は別ですが、中身は"間違いなく今のユウくんとAs最終決戦でのユウくんは=。つまり同一人物です。"


これ以上は何も言えないのでご容赦を……。


あ、あと実はツイッター(@pekesuke_ReDive)の方が復活できました。何かあればメッセージか、そちらにご連絡ください。


ではでは、またどこかで!




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sts ミッション:9 バレた。

 

 

 

 

 

「ユウー」

 

「どした?」

 

「ご飯行こ!」

 

「おうー」

 

「ユーウ!」

 

「はいはい」

 

「タオル貸してー」

 

「へいよ」

 

「ユウー……」

 

「なんだ?」

 

「この書類教えて……」

 

「ああ、これはな__」

 

「……ティアナ。何があったん、あれ」

 

「え、と……さぁ? なんか懐かれたみたいですね」

 

「しっぽが見えますぅ……」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

————鋭い、銀の刃が迫り来る。

 

 

「ハッ……!!」

 

「ぅく……!」

 

 

いなす余裕もかわす動作も行う時間などあるはずもなく、上から迫った重い一撃を体全体で受け止める。

 

魔法などは一才使わず、ただ上から下に剣を振り下ろしたに過ぎない……けれど、その一閃は体の節々へと大きな負荷を与えた。

 

 

「この程度が見えないようじゃ命はないぞっ!」

 

「っ……はい!」

 

「返事だけではなく力を見せろ!」

 

 

斬、と斜め上から次なる攻撃が自分の意識を刈り取るため、副隊長から放たれる。

 

けど、これなら。真正面からの攻撃ではなく斜めならば多少は受け流せる__

 

 

「甘いことを考えているな?」

 

「なッ!」

 

 

流すという動作をするために重心を下げ、体を一歩引こうとした瞬間……まるで俺の動きを完全に把握しているかのように、強く前に踏み出したシグナムさんの一刀に身体のバランスが一気に崩される……!

 

けど、タダでやられるわけにはいかない。崩れて地に着こうとした体を前に、右手をついて一回転するように反転する。

 

バク転の要領でそのまま足を地面につけ、目の前に迫っていたシグナムさんへと一気に突きかかる。自信が向かう先には、彼女の模造刀があるがこれならば、相打ちには持っていける__!

 

 

「馬鹿野郎!!」

 

「あたっ!?」

 

 

攻撃が交じ合う直前にこの組み合いを見守っていた第三者、ヴィータ副隊長からのハリセンが大きな音をあげて俺の頭をはたき落とす。

 

そのまま地面に叩き落とされた俺は、痛みに涙目になりながら、強烈なひとたたきを放った相手を恨めしそうに見ようとして……固まった。

 

顔を上げたその先、目の前には……赤い修羅が立っていたとな。

 

 

「なぁユウー……? お前な、今日何回目だぁ……?」

 

「い、いやー、その……」

 

「質問に答えろ、この馬鹿!」

 

「あいたっ! 多分……3回目くらい……ですかね」

 

「6回目だアホ!」

 

 

パン! と気持ちいいくらいの音を鳴らして、またはたかれる。

 

 

「ったく、何回言えばいいんだ? 相打ちなんてマネはすんなって言ってるだろうが」

 

「す、すいません……」

 

「落ち着けヴィータ。お前もわかってるだろう、ユウの動きは全部叩き込まれたクセだ」

 

 

すっと前に出て庇ってくれるのは、この組手の相手をしてくれていたシグナムさん。こうやって庇われるのは今日で6回目で、ここ数日を含めたらもう数えきれない。

 

このふたりからの訓練は、いざとなった時の俺の自滅特攻癖を矯正する目的も含まれているので、こうやって厳しくされているんだけど。

 

なぜか俺が悪癖を発動するたびに、普段よりも2、3倍は強く怒られていた。

 

 

「そりゃ、わかってはいるけどさ……コイツが相打ちなんて真似すると……シグナムも、わかるだろ」

 

「……痛いほどな」

 

 

そして一番しんどいのは、シグナムさんもヴィータさんもこの俺の行動を見るたびに怒るだけではなく、少し悲しそうな表情をするということ。

 

完全に俺のミス、100%非があるのはこっちなのに、そんな顔されてしまうとなんとも言えなくなってしまうのだ。これなら派手に怒られたほうが、よっぽどマシだと思う。

 

 

「ははは……す、すみません?」

 

「謝る暇あるなら直す努力しろ、馬鹿」

 

「お前のそれがしょうがないこととは言ったが、ヴィータの言うことはもっともだぞ」

 

「う、うす……」

 

 

ジグナムさんからは軽く頭をこづかれて、ヴィータさんからは横っ腹を突かれて、ふたり同時に説教される。

 

うーむ……"何があってもターゲットを逃すな、命に変えても叩きおとせ。"

 

暗部での鉄則であり、俺たちが正規の管理局員と言われない理由のひとつに上げられる掟。

 

初めて自己というものを認識してから、ほんの少し前までずっと身体ごと叩き込まれていたものだからか、つい危なくなるとダメと分かっていても勝手に動いてしまう悪い癖……直すのは随分かかりそうだ。

 

かりかりと頬をかきながら、どうしたもんかな、と考えていると上官たちからのため息をもらう。

 

 

「時間も時間だからな。今日はここまでにしておこうか」

 

「あ? まだそんなに経ってない……って思ったより食ってるな」

 

「ああ。悪癖は大きな問題だが、ユウは覚えるのが早い……いや、鈍っているのか? 目線と思考は良いが体が追いついていないだけだからな」

 

「教えるが楽しい、か。まさか、なのはが言ってたことをこうしてコイツで実感させられるとはな」

 

「……あれ? もしかして褒められてます、俺」

 

 

なんか今の言葉はすごく嬉しいものだった気が……え、生徒としては意外と好印象ですか?

 

わくわくと期待を胸に目をシグナムさんたちに向けると、またため息を吐かれ、ジトっとした視線でみられる。……なんで?

 

 

「余計な一言がなければ完璧なんだがな」

 

「全くだ……おい、上がっていいぞ」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 

なら飯でも行こう。早くいかないと、また食堂閉まってカップ麺になる。

 

ぱっぱと片付けを済ませて体をはらい、宿舎内へと向かおうとするとヴィータさんが思い出したように声を上げた。

 

 

「おう……っとと、そうだった」

 

「はい?」

 

「はやてがお前のこと呼んでたぞ」

 

「うぇ、なんかやらかしたかな……」

 

「はは……まずはその心配が出てくるあたり、何か心当たりがあるな?」

 

「藪蛇……!?」

 

 

突かれたら痛いところだらけ。はたかれたら埃ばっかりな、この体故につい失言をしてしまう。

 

それをみたシグナムさんは苦笑いをこぼしたまま、俺がようやく待ち侘びたものの準備ができたと教えてくれた。

 

 

「全く……主は別の用だ。ユウ、お前の部屋が準備できたそうだ」

 

 

「飯なんて食ってる暇ねぇ!! 自由だぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

感嘆の思いを込めて、両手を大きく上げ__叫ぶ。ああ、やっと……やっと俺は……!

 

 

「安眠が手に入るッ!!」

 

 

「……おい、シグナム。コイツの反応」

 

「ああ。……この喜びようは何かあったな」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

「はい、部屋は3階の角や。前まで物置だったんやけど、その分少し広いで」

 

「ありがとうございます!!」

 

「あはは、随分と嬉しそうやな?」

 

「そりゃもう!」

 

 

訓練時のジャージ姿のまま、猛ダッシュで八神部隊長の元へと向かい、ポカンとした表情の彼女を無視してすぐに本題の鍵を貰う。

 

手渡された鍵は、この世の金銀財宝どれと見比べてもそれ以上に(俺の目には)眩い光を放っているように見える。

 

今日で10日。毎晩毎晩、交代交代でなのはさんとフェイトさんのベットで朝まで無心になって、ただ心を沈めるという修行の日々とはおさらばだ!

 

いい加減に慣れるとも思っていたが、全くそんなこともなく。……というか2回目から気づけば抱き枕のような扱いとなって、悪化するという楽園(悪夢)のような監獄からはおさらばだ!

 

しかも今日はふたりとも外出(そとで)で帰ってくるのは、明日の午後の訓練から。

 

つまり、なのはさんからの甘え攻撃とフェイトさんの涙目アタックによって行われると危惧していた、あの部屋のお泊まり延長なんていう可能性は微塵もない……。か、完璧なタイミングだ……完全犯罪はここに成立した!

 

幸運の女神様はたまには俺にも微笑んでくれるんだ……!!

 

 

「そんなに喜んでくれるなんて、私も嬉しい限りや」

 

「ほんっとうに今日で助かりました! もう最高です!」

 

「今日? なんか関係あるんか?」

 

「いえ! 全く持って深い意味などなく!」

 

「そうかぁ?」

 

 

うーん、となんだか疑うような視線を向けられるが、今の俺にはなんてことはない。もう有頂天のハッピー。

 

こうしちゃいられない、すぐにでも引っ越しだ!

 

失礼しますと挨拶だけして、意気揚々とスキップしながら自分の荷物があるなのはさんたちの部屋へと向かおうとすると、八神部隊長に呼び止められる。

 

 

「あ、ユウくん」

 

「はい?」

 

 

もう今ならなんでも答えちゃいそう。なんだろうか? あ、俺の正体ですか? 実はスパイなんですよ__

 

 

「今までどこで寝泊まりしてたん?」

 

「————は、はい? なんて言いました?」

 

 

一瞬体が凍ったかのように固まったが、このユウ。決して動揺などするはずもなく……例えしていても素振りなど見せない。

 

 

「やから、どこで寝てたん? って」

 

「な、なんでそんなことを……?」

 

「フェイトちゃんからは当てがあるって聞いたけど、どこかまでは結局教えてくれなかったんよね」

 

「……………なるほど。それならフェイトさんから」

 

「あと気づいたらなのはちゃんとフェイトちゃんのこと、"名前呼び"になってるよな、ユウくん」

 

 

笑顔。すごい笑顔なんだけど、足が震えるのはなんでだろうか。

 

 

「ま、ええわ」

 

「は、はは。そうですか? なら俺は__」

 

「私もちょうど手が空いたし、荷物運ぶの手伝うわ」

 

「ぴぇ……」

 

「ほな行こうか……ユウくん?」

 

 

絶体絶命。この場で俺が取れる最高の選択肢。考えろ、考えろ考えろ考えろ__!

 

にっこりと笑って目の前に迫っていた八神部隊長に、俺は。

 

 

「……し」

 

「? し?」

 

「失礼しますぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

「へ? あ」

 

 

体を反転させて猛ダッシュ。走れ、走るんだユウ! 楽園を前に今バレて折檻なんて目に遭うのはごめんなんだ。きっと明日になったら忘れていてくれる……そうじゃなくても全力で誤魔化しきる!

 

俺にはその"覚悟"があるッ!

 

 

 

「……リイン、ちょっと来てー。あのな、少しお願いなんやけど__」

 

「……? ! はいですぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

がちゃんと扉を開けてすぐに飛び込み、自分の荷物をカバンとリュックの中へと急いで詰め込む。

 

何も知らない一般管理局員が見れば、美人上官の部屋に派手に飛び込み、よからぬことをしている犯罪者にしか見えないだろうが……今の俺にそんな余裕も気を遣う暇もありはしない。

 

 

「急げ急げ……!」

 

《目が血走って完全にダメな顔になってますよ》

 

「詰め込め……とにかく早く……!」

 

《壊れきってるじゃないですか……ですから、あれほど寝ろと》

 

「今だけは限界を越えろ……!!」

 

《……全くもう》

 

 

この5年の人生で間違いなく最速と誇れるスピードで身支度と、自分がいた痕跡を消していく。指紋ひとつ、髪の毛ひとつ残すもんか……!

 

 

「よし!」

 

 

そして数分で全ての作業が完了し、両手と肩に荷物を背負い……この部屋とお別れをする。

 

 

「長く、辛い戦いだった。けど……俺は生き残ったんだ……」

 

《本当に大丈夫ですか?》

 

「もーまんたい! 今は最高な気分さ!」

 

《そうは見えないんですが……寝てない人間とは、ここまで壊れるものなんですね》

 

「今は許せ! 今日からはぐっすりだ!」

 

「そかー、それはよかったなぁ」

 

「もうほんとに! この10日間、寝れたのは限界すぎて気絶した時と訓練中の休みだけでしたから」

 

「ふーん?」

 

「大変だったんですねぇ……」

 

「そうなんですよ! わかってくれ……ます……?」

 

「ん? どうしたんや、続き聞くで。なぁ?」

 

「はいですぅ!」

 

 

待て、待ってくれ。俺は今、アインスと話していたはずだ。けど、なんか人数が増えているような……あれか、寝不足すぎて幻聴が。

 

《いえ、マスターの耳は正常です》

 

……………はは、ならこの声は一体。

 

とん、と肩に誰かの手が置かれて……震えながら振り返る。そこには。

 

 

「さっきぶりやね。ユウくん?」

 

「こんばんわです!」

 

「………………どうも」

 

「さて、まぁ……私が何を聞きたいか」

 

 

わかるよなぁ?

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

「__ということがありまして……」

 

「それで? 最後はふたりの誘いを断れずにずっといたわけやね?」

 

「はい……ッ!」

 

 

新たな居住スペースとなる部屋で、俺のベットになる予定の場所に足を組んで座る八神部隊長。

 

一方で、その目の前で床に正座したまま全てを吐かされているのは、弱小下っ端局員。

 

あまりにも情けないこの状況をリインさんに見せるのが嫌で、八神部隊長には必死にお願いしてふたりにしてもらったが……ミスったねこれ。

 

ちなみに、この状況については……もう何もいうことはないだろう。

 

 

うん、全部バレた。

 

 

 

「おかしいとは思ってたんよ、この辺で泊まる場所なんてロクにあらへん。けどユウくんは一回も遅刻してないみたいやし」

 

「……はい」

 

「しかも最近じゃ寝不足そうにクマまで作っとるのに、ティアナとの朝の特訓は欠かさずしとるし」

 

「……………なぜ、それを……?」

 

「一番上ってのはな、下の子たちをよーく見とるんよ? 覚えとき」

 

「……………はい」

 

 

どうする。最悪、俺が罰則とかになるのは仕方がないとはいえ、気を使って部屋を貸してくれたなのはさんとフェイトさんにだけは、なんとしてでも迷惑をかけるわけにはいかない……!

 

呆れたように言葉を続ける八神さんにそっと頭を下げる。

 

 

「どうか……どうか教官たちのことは見なかったことに……!」

 

「……なんでユウくん、そんなことするん? 普通に考えれば一番悪いのはあの2人やろ?」

 

「それでも恩は恩です。俺はどんなことでしますから、何とぞ……!」

 

「はぁ……もう、本当に。……そんなことせんでいいから」

 

 

その言葉に顔をあげて見れば、そこには先ほどまで怒った顔はなく、呆れたように微笑む八神さんの姿が。

 

 

「元々は私がユウくんの部屋を用意してなかったのが原因やからね。堪忍な?」

 

「いえ! そもそも急に異動になったのは俺ですから」

 

「いーの。今回だけやからね? もうこういうのはナシや。約束」

 

「は、はい」

 

「ん! なら片付けしちゃおか」

 

 

雰囲気が優しいものになり、自然と荷物の整理を手伝い始めてくれる八神さんの姿に感動する。

 

なんだよ……めちゃくちゃに良い人じゃんか……!

 

シワになると困る制服や、明日使うデスクワーク用の書類などをまとめてひと段落すれば、時間はもうかなり遅いものに。

 

 

「すみません、遅くまで」

 

「ええよ。それより私はこれ片付けとくから、お風呂入っておいで。疲れてるやろ」

 

「え、いや流石に」

 

「いいの! ほらこういうのは素直に聞いとくもんや」

 

 

……なら、甘えて良いのだろうか。そんな考えのもとにありがたくお風呂へ。

 

しかし、限度はあるとなるべくすぐにシャワーを終えて、部屋へと戻る。ちょうど、やってもらっていた片付けが済んだのか、伸びをしていた八神さんと目があった。

 

 

「ずいぶんと早かったなぁ? 別にゆっくりしててよかったのに」

 

「いえいえ、もう十分ですよ。本当にすみません」

 

 

きっと八神さんも疲れているのに、多くの迷惑をかけてしまった。感謝しかない。

 

 

「そか? なら」

 

「はい、今日は色々とありが__」

 

「私もシャワー行ってくるなー。あ、服借りるで」

 

「とうございました……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでこうなった。

 

 

 

 

 

「ふふ、ちょっとだけ狭いなぁ」

 

「………あの」

 

「ん?」

 

「何をしてらっしゃるんですか……?」

 

「え? うーん……ユウくんと同衾?」

 

「何をしてるんですか……!!!」

 

 

あらよあらよと気づけば、シャワーを使って上がってきた八神さんは俺のTシャツと、膝の丈までしかないハーフパンツ姿で現れ。

 

ほな寝よかー、との言葉とともに俺の体を拘束してベットへダイブ。

 

 

もう一度言おう。

 

 

どうして、こうなった。

 

 

 

「八神さん、おかしいです、これは絶対におかしい」

 

「む」

 

「そもそも今回の一件は、俺がなのはさんとフェイトさんという女性の部屋にむぐ」

 

 

指でそっと口を止められて言葉が詰まる。

 

……え、なんで大人向けの少しえっちな映画であるようなシーンに? これってあれだよね、”うるさい口は今は閉じて”とか男がするタイプのロマンチックなやつだよね。されてるの男の俺だから反対だけど。

 

お風呂上がりで自分と同じ石鹸の香りがする、その上に狭いベットでぎゅっと抱きつかれているからか、体温やら女の子特有の柔らかい感触とかが直接……?

 

 

「はやて」

 

「……へ?」

 

「名前で呼んで?」

 

「え、あ、え?」

 

「私だけずっと"八神部隊長"なんて、寂しいの。……だめ?」

 

「………は、やてさん」

 

「……ん? 聞こえへんな?」

 

「はやてさん……っ!」

 

「えへへ……うん」

 

 

なんだこれ。

 

なんだ、このバカップルみたいな脳みそが溶けきった甘ったるい空気とトークはっ!?

 

嬉しそうに微笑みながら、より密着するように抱きしめてくるはやてさんの体は、びっくりするくらい華奢で今まで感じたことがないほどに柔らかい……ってあれ、え、いや……まさか。

 

 

「あの、まさかとは思いますし、こんなこと聞くのはセクハラかもですけど……」

 

「んー?」

 

「……下着、つけてます、よね?」

 

「んーん」

 

 

目が座る。落ち着け、ここ数日でなのはさんたちに鍛えられた強靭な鋼の心と無の境地を蘇らせろ。

 

落ち着いて深呼吸をして……あぁ良い匂い、じゃなく! 心を無にする。

 

 

「……………なぜ?」

 

「着替えなかったからなぁ。それに寝るときは外す派なんよ、私」

 

「…………」

 

「ふふ、こんな暗いのに真っ赤になってるの見え見えやね?」

 

 

つんつんと、つつかれる頬がより熱くなるのが実感できて、先ほどまでとは比べられないほどに羞恥が高まる。何が鋼だ、こんな状況に慣れるわけないだろ。

 

 

「……な、なぜ一緒に寝ることに?」

 

「ユウくん、なんでもするって言ったよな?」

 

「うぐ……けどこれじゃ罰には……」

 

「ならご褒美や。最近、シグナムたちとの訓練頑張ってるみたいやしな」

 

 

すりすりと背中を撫でながら、ほぼゼロ距離の近さで囁くようにご褒美とか言わないでください。理性が死にます。

 

 

「……もう本当になんで……」

 

「ご褒美、たらへんか?」

 

「……はい?」

 

「……んー、なら」

 

 

え、何? これ以上一体何を? と体を硬直させている俺に、はやてさんは__。

 

 

 

「————んっ」

 

 

 

そっと、頬に何か柔らかいものが当たった気がした。

 

 

 

「は……は? え? いま、何を……っ!?」

 

「……ひーみつ! おやすみな」

 

 

 

まだ目が慣れない薄暗闇、そしてベットの中で。何をされたかをはっきりとはわからないが……別に察しが悪い訳でもない俺は、呆然としながら慌てて事実確認をしようとしたが……。

 

 

「待って! 待ってください! せめて、せめて! この密着だけは解いて……って寝るの早すぎですよ!?」

 

「………」

 

「なんでっ……なんで……? 俺の安眠は……? 今日からの楽園は……?」

 

「ん………ぅ……」

 

「なんで誰も答えてくれない……っ! アインス、アインス先生!」

 

《Zzz……》

 

「お前に寝る機能とかねぇだろぉぉぉ!!」

 

 

 

 

本当になんでもない静かな夜に。

 

悶々とした思春期の少年の叫び声が大きくこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:10 下っ端くんの意外な才能と男子の悩み

 

 

 

 

 

「……はよ。ごめん、遅れた」

 

「もう! ユウ! 遅いわよ……ってどうしたのよ、その顔」

 

「……ああ、これ。……ふふ……な、知ってるか? 地獄って案外、そこらへんに転がってるもんなんだぜ」

 

「いつにも増して頭がおかしいわよ、アンタ……」

 

「はは、おかしいのはこの世界だよ。この世界なんだ、ティアナ」

 

「ホントに大丈夫なの……? ちょっと……やだ、目が虚じゃない……!」

 

「いいんだ、気にするな。今はただ、走りたい。できればこの数時間の記憶を消せるくらいに自分を追い詰めて、走りたいんだ」

 

「む、無理はしないでよ? 倒れられたら困るでしょ……?」

 

「その優しい心遣いだけで、俺は今救われたさ……先行ってるな」

 

「あ、ちょっと! ……なんなのよ、もう」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

機動六課での訓練は大まかに2つある。

 

それは戦闘時での陸戦を想定した、実技による魔法訓練。もうひとつは管理局員という職種的に避けては通れない、デスクワークの練習。

 

前述したひとつ目の戦闘訓練は、まさに実力と体力……何より根性が一番必要な気力の問題。それゆえに、ある程度しごかれてきたフォワード陣は息を乱したり、弱音を吐いても気合いで乗りきることができる。

 

問題は2つ目であるデスクワーク……つまり事務作業。

 

これは書類の作成から、報告書の管理に本部への通達と、多くのことで発生する面倒な手続きを踏む必要がある局員にとっては必須な技術であり、非戦闘員なら当たり前、戦闘員でも一定の力量を求められてしまう辛ーいお勉強。

 

大抵はまず、この事務作業から始めるのが局員としての一歩なんだけど、この機動六課という特殊な部隊では事情が別。

 

なのはさんによるサディスティックな訓練を乗り越えてきた、メンタルつよつよで体力上限爆上がりなはずのティアナやスバル、エリオにキャロだが……。

 

 

「あ、ここ間違ってるよ」

 

「……うぅ」

 

「ん? スバル、よく見てみて。これじゃ意味が……」

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

「エリオ、ここの言葉遣いがね?」

 

「す、すみません……」

 

「うーん。キャロ、ここちょっと変えてみようか」

 

「はいぃ……」

 

 

今日から本格的に始まったデスクワークの業務を内包した事務作業訓練。教官はみんなの癒し、フェイト・T・ハラオウン執行官さま。

 

少し苦笑いで優しく何度も書類の書き方や文法、順番などを教えてくれるフェイトさんだが……教え方は優しくても決して手を抜いたり、妥協していないあたり、さすがは執行官の資格を持っている人だと思うのだけど。

 

なんていうのかな……一生同じことをさせれている苦痛というか、どんどん4人の横に溜まっていく書類という名の本日のノルマ。それはもう肩に迫るほどに高くなっているかのように見えるほど、積み上がっていく。

 

いくらガッツがあっても、終わることのない山のような課題はあまりにもしんどいだろう。

 

これが理不尽な教え方だったり、厳しい教官相手なら反発してしまうところだと思うけど、教えてくれている相手がフェイトさんだからなぁ……。

 

"大丈夫! できるよ!"と応援されながら、丁寧かつ細かく……何よりも、あまりに優しく接してもらっているという状況では……投げ出すことも良心が阻んでできない。

 

これはなのはさんとは違うタイプで厄介な先生、ということなんだろう。うーん。

 

 

「………なんていうか、これはこれできついだろうな」

 

 

南無、とそっと手を合わせて目が虚になっていく4人へ同情の念を食っていた俺に、ムッとした顔でフェイトさんが近くに来た。

 

 

「もうユウは……手が止まってるよ。まだ始まったばっかりなのに飽きちゃったの?」

 

「あ、いえ。そういうわけでは」

 

「なら頑張ろ? まだ始めたてで大変だと思うけど、これも大切なお仕事なの」

 

「えっと……これを」

 

出来の悪い生徒に優しく努力をさせるため、必死に説得するかのような表情のフェイトさんにペラ20枚前後の書類を手渡す。

 

それを受け取り、不思議そうに中を見始めたフェイトさんは次第に目が丸くなっていき……。

 

 

「え?……え?」

 

「はは……そんなふうに書類と俺を見比べられても困るんですが……」

 

「でも、これ……」

 

「何か問題点とかありました?」

 

「う、ううん。大丈夫……だと思うけど」

 

 

再び視線を渡した紙束へと落とし、今度は一枚一枚確認していく姿を見守る。……全て見終わったのか顔を上げたフェイトさんは、なんともたいそう驚いた顔で口を開き。

 

 

「ご、合格です……よくできました?」

 

「なんで疑問系なんですか」

 

 

どうしてか疑うような視線と口調のまま、俺が書いた書類にオッケーサインを出した。

 

 

「え、でも……えぇ……?」

 

「はは、結構得意なんですよ。こっちの仕事」

 

「うーん……そうなの?」

 

「はい。そんなに難しい物もありませんでしたしね」

 

 

本当に謙遜でもなんでもなく、中身は随分と優しい事後報告書や訓練時のレポートばかりですぐに終わるものだったのだ。……なんか数枚、事件報告書とか執行用書類なんてものも混じっていたけど、その辺りは前職で嫌ほど書いてきた俺にはちょちょいのちょい。

 

 

「でもこれ、私が作成しなきゃいけない書類も混じってたんだけど……よく書けたね」

 

「少し違和感があったのはフェイトさんのミスですか……」

 

「う……ごめんね?」

 

「いえ。それに特段、処理をするのに問題もありませんでしたから」

 

「……意外な才能?」

 

「あまりにも失礼なことを言ってるって自覚はあります??」

 

 

あわあわと謝り始めた素直な上官さまを少しからかっていると、何やら複数の視線を感じてその方向に目を向けると。

 

 

「………」

 

 

明らかに疑うような目線を向けるツインテ娘。

 

 

「むむ……」

 

 

なぜかムッとしている元気っ子。

 

 

「ユウさんって意外と……」

 

「頭いい、のかな」

 

 

尊敬しているのか、それとも馬鹿にしているのか判らない言葉と視線を向けるちびっ子たちの顔が。

 

普段の行いが行いだからあんまり強く言えないし、秘密にしてるからアレだけど、一応俺って5年ほど局員としては先輩なんですよ、はい。

 

たかがこの程度の書類なら朝飯前だし、知識も経験もこの中なら上の方……のはず……だよね?

 

 

「で、でもこっちのデジタルでの作業は__」

 

「ああ、はい。これです」

 

「できてないはず…………うぅ……合格です……」

 

「なんで残念そうなんですか」

 

 

普通は教える負担も減るし、喜ぶところでしょうに。なーんでそんなに肩を落として落ち込むですか、フェイトさんは。

 

 

「だって……せっかくユウに色々教えられるって思ってたんだもん……」

 

「"だもん"って……別に何も教えて欲しくないとか言ってるわけじゃないですよ。次の課題を__」

 

「………いの」

 

「はい?」

 

「もう、ないの……ユウがやったそれが今日の中で一番難しい書類……」

 

「…………えっと、なら」

 

「………」

 

「お疲れ様でした?」

 

「うん……よくできました……」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

他の4人よりもかなり早くデスクワークの訓練を終えた俺は、少し離れた場所でぼーっと今なお頑張っている同期たちの姿を眺めながら休憩タイム。

 

手持ち無沙汰になり疲れた頭でも休めようかと、こっそり持ってきていたチョコレート菓子をひとりでもぐもぐしていると。

 

 

「ーーーキュ!」

 

「あ、ユウくーん!」

 

 

小さな竜と妖精さんが釣れてしまった。というか片方に関しては上司だから、妖精扱いなんて実際にはできないけど。

 

甘いお菓子に釣られてきたのであろう可愛らしいおともだちに、残っていたチュコをお裾分け。

 

 

「全くめざといな、お前は……。あ、リインさんはこれもどうぞ」

 

「キュキュ!」

 

「わーい! おいしーですぅ!」

 

 

チョコひとつでこんなに喜んでくれるのなら、嬉しい限りではあるけどチョロすぎる曹長殿の姿はなんとなく不安になる。……なんかこう、気づいたら拐われてそうでさ……。

 

もう一方の小さな白龍……フリードリヒと名付けられたキャロの使役している使い魔……なのかな? この子はことあるごとに俺から菓子や飯をねだりに来る可愛らしい盗人なんだけど。

 

キャロにもあまり間食を与えるのは……と言われているので、チョンチョンと突きながら一応形だけでも怒るが……。

 

 

「キュー!」

 

「む! そこは私の場所ですよぉ!」

 

 

パタパタと飛んで頭の上に着地されてしまう。フリードは多分、怒ったとは思わずに遊んでもらってるとでも思っているのだろうか?

 

そしてリインさん、俺の頭は別に誰のものでもなくてですね? だからあの、そんなにふたり……1匹とひとりでぐるぐると飛び回りながら喧嘩しないで。ね?

 

一応言葉で落ち着いてくれるように対話を試みてはいるものの、どっちも聞いていない。さて困ったと腕を組んで唸っていると……新たに2つの声がこの場に入ってきた。

 

 

「もう! フリード、めっ!」

 

「リインさんも落ち着いてください。ユウさん困ってますから……」

 

「キュ……」

 

「あ……はいですぅ……」

 

 

つい先程までフェイトさんの課題で四苦八苦していた少年少女、キャロとエリオのコンビが助けにきてくれた。この場にいるのが自分以外、随分と小さい、そして竜や妖精と戯れているのが幼い少年少女というのもあって、なんだかメルヘンな空気だ。

 

 

「おお、また新たな小さいおともだちが……」

 

「へ?」

 

「はい?」

 

「なんでもない。エリオ、キャロさんきゅな」

 

 

俺の戯言を聞いて頭にハテナを浮かべるふたりにお礼をして、ついでにお菓子も手渡す。

 

 

「甘いもんは疲れた頭に効くからな、食っとけ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ごめんなさい、またフリードが……」

 

 

見た目は幼いが随分と中身は大人びていて、礼儀もしっかりしているよなぁ……ま、保護者があのフェイトさんらしいし、素直に礼儀正しく育つ理由もわかるけどな。とりあえずいまだに申し訳なさそうな顔をするキャロとしょぼんとしたリインさんへ声をかける。

 

 

「リインさん大丈夫ですから気にしないでください。それより、お仕事平気ですか?」

 

「あ、もうすぐ休憩終わっちゃいます……ユウくん、また遊びに行きますね!」

 

「はい。俺の部屋ならいつでもどうぞ。さて、キャロも別に平気だよ。フリードも別に悪気があるわけじゃないだろうしな」

 

「キュー!」

 

「ほらな」

 

「それなら……でも……」

 

「いいんだって。俺が暇してたから付き合ってくれてたんだよな」

 

「キュキュー」

 

 

俺から構ってもらっていた、そう説明したことでようやくキャロも引き下がってくれた。……そういえば気になってたんだけど。

 

 

「あのさ、ふたりとも書類終わったのか? さっきまで随分と苦労してたみたいだけど」

 

「えっと……その。全部はまだです、今日はティアさんとスバルさんがあの状態なので……」

 

 

その視線の先にはフェイトさんに泣きついて、書類の書き方や基礎的な処理の仕方を聞いているふたりの姿が目に入る。

 

おいおい、お前らって一応訓練学校だと首席とか言ってなかったか?

 

 

「残りは明日までってことになったんですけど。それで僕たちユウさんにお願いが……」

 

「?」

 

 

はて? なんだろうか。特に何か思い当たる節もないが……。

 

 

「「お仕事のやり方教えてください!」」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

時間は20時前。午後の戦闘訓練と夕食を終えた俺は自室にて、ふたりの生徒を持つことになっていた。現在、補習というほど重い空気などなく、ココアをおともにお風呂上がりのちびっ子たちへと事務仕事の基礎から少し応用までを教え始めたんだが……。

 

 

「んー、この書類は上官じゃなくて処理官の人へのものだから」

 

「えっと……こうですか?」

 

「そうそう。で、逆にエリオのはフェイトさんみたいな上の人への提出用レポートだから……」

 

「こっちを使えばいいんです、よね?」

 

「うん。なんだ、ふたりとも直ぐに理解できるじゃんか」

 

 

水を吸収するスポンジのように、自分が与えた知識を吸収していく姿にちょっと感動していた。さっきまでの苦戦していた姿はどこへやら。気づけば自分から正解を導けるようになっていたエリオとキャロ。

 

これなら別に俺から教える必要なかったんじゃないかな、なんて思っていると自分が書いた書類を不思議そうに眺めるエリオとキャロが。

 

 

「どうした? まだなんか分かんないところでもあったか」

 

「あ、いえ……そうじゃなくて」

 

「ユウさんって先生とかしてたんですか?」

 

「いや、ないけど。なんでまた急にそんなことを?」

 

「すごく分かりやすかったんです。キャロもだよね?」

 

「うん。あ! 別にフェイトさんの教え方が悪いとかじゃなくてですね!?」

 

「そ、そうですよ! フェイトさんからのもちゃんと!」

 

「はは……大丈夫だよ。わかってるから、そんなにアワアワしないでいいって」

 

 

慌て始めたふたりをどうどう、と落ち着けて床に用意した座布団代わりの枕へと座らせる。簡易テーブルに3人で囲むように座ってるのだが、やっぱりちょっと狭かったな。

 

 

「なんでかな……私、すごくこういうの苦手だったんだけど」

 

「僕も正直、できる気しなかったよ……」

 

「そんなに俺とフェイトさんだと教え方違ったか?」

 

《基本的なものは同じでしたが、マスターの視点や経験の賜物かと。貴方はこの2人と同じ年頃に似たような努力をしていたでしょう》

 

 

……あー、なるほど。要は目線の違いか。

 

 

「えっと、アインスさん……ですよね」

 

「こんばんわ。お邪魔してます」

 

《こんばんわ。良い夜ですね、キャロ、エリオ》

 

 

他のデバイスと違って妙に人間臭い、うちのアインスに挨拶をするふたり。一般的にはデバイスに今風に接するのは、なんとも妙だがコイツはこんなんだから、みんな人のように扱っていたりする。

 

 

「それで今のってどういうことなんですか?」

 

 

おずおずと手をあげて、聞いても良いのかな? なんて雰囲気で質問されたが、別に隠すことでもないか?

 

 

「えっとな……俺もキャロたちと同じ歳の頃に事務作業を始めたんだけど、そりゃ苦労したんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、初日から"よろしくー"なんて言いながら、数十枚の報告書という名の詫び状を毎日書かされ……ひとつでも誤字があればその日中にやり直し……あげくの果てに処理するペースの2倍以上で増えてく仕事……ふふ、ははは……」

 

《マスター、マスター》

 

「その上残業は当たり前で、それはもう……え?」

 

《ふたりがドン引いてます》

 

「はい?」

 

 

アインスのその言葉を聞いてエリオとキャロへと視線を向けると。さっきまで結構距離感が近かったはずなのに、気づけば2メートルぐらい離れた先で何かをコソコソと話している姿が目に入った。

 

 

「………うわぁ……」

 

「………瞳孔開いてる……」

 

「待ってくれ」

 

 

 

 

 

ちょっとしたトラブルもありつつ、残っていた課題を進めていく。やっぱりこのふたりは物覚えが良いから教えるのに全く苦がなかった。だから俺もちょっと気合いを入れて教えてたんだけど。

 

 

「………ん……すぅ」

 

「寝ちゃったなぁ」

 

「ですね」

 

 

机に突っ伏してすやすやと寝息をたてるキャロの姿に、エリオとふたりで顔を見合わせる。ふと時間を見ればもう22時を超えて23時前と、この子たちの歳ならとっくに就寝時間は過ぎてしまっていた。

 

 

「すみません、今日はこの辺りで……ふぁ…っ……ご、ごめんさい!」

 

 

言葉の途中にあくびをする成長期の少年。まいったな、ちょっと俺も調子に乗って遅くまで付き合わせ過ぎたか。

 

 

「はは、エリオも眠そうだな。ならお開きだけど……キャロどうするかな」

 

「起こすしかなさそうですね」

 

「そうだけど。……うーん、この寝顔を見るとな?」

 

「えへへ………ぅ……」

 

 

少しよだれをこぼしてぐっすりと気持ちよさそうに眠るキャロを見るて、起こそうという気にはなれないよな……なら、しょうがないか。

 

 

「エリオって秘密とか守れるタイプ?」

 

「え、はい……なんですか、突然?」

 

「あと敷布団でも寝れるか?」

 

「? はい」

 

 

俺からの質問にずっとハテナを浮かべたまま、素直に頷くエリオ。あんまり規律とか風紀的にはよろしくないんだけど。

 

物置のスペースを開けて目的のものをふたつ取り出す。

 

 

「悪い、テーブルどけてくれるか?」

 

「あ、はい! あの、その布団って」

 

「親睦を深めるがてら、お泊まり会でもするかってね」

 

 

取り出した2組の敷布団を見て少し驚いているエリオ。基本的に自室以外での寝泊まりはあまりよろしくないものではあるけど、緊急事態ってことでね。

 

 

「良いんですか? あんまり、その」

 

「構わないさ。最近買ってきたものだし、シーツとかも洗濯したばっかりだら大丈夫なはずだ。それに」

 

「?」

 

「案外こういうのは楽しいもんだ。たまには男同士、ちょっと夜更かしして秘密話でもしようぜ」

 

 

少し悪い顔でそう言ってみれば、目を丸くして驚いた後に。

 

 

「はい! ぜひ!」

 

 

普段はあまり見せない年相応の少年らしい表情を見せてくれた。俺もちょっと年上だからな、この女所帯で気づかずに溜まってるストレスを抜いてやるのも役目だろう。数少ない男同士、親睦を深めるのも込みでな。

 

 

 

「ところで」

 

「ん?」

 

「どうしてお布団を常備してるんですか? これじゃまるで誰かが泊まりにきてるみたいな……」

 

「………うん、とびきり厄介で無理矢理押入る人たちがな。布団用意しておかないと、ベットに入り込んでくるから」

 

「……その、僕でよければ愚痴くらい聞きますから……。酷いくらい疲れた顔してますよ、今」

 

「今日は色々語ろう。エリオだって保護者がフェイトさんに、そばにはキャロだと……そのあるだろ?」

 

「………………はい」

 

「今の沈黙で大体わかった。まずはお前からだな……全部吐き出しちまえ」

 

「…………はいッ!」

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:11 緊急アラートと初出動

 

 

 

 

 

「もう本当にフェイトさんもキャロも無防備というか……当たり前のようにお風呂とか一緒に入ろうとするし……」

 

「うんうん」

 

「自分が子どもっていうのは自覚してますし、家族扱いしてくれるのはすごく嬉しいんですけどね。でも僕だって男ですし」

 

「ああ、わかるよ……エリオの気持ち、痛いほどわかるさっ!」

 

「ユウさん……っ!!」

 

「寝る時とか突然布団に入っていたり、後ろから急に抱きつかれたり……もう本当に子ども扱いってキツイよな!」

 

「……えっと」

 

「ん?」

 

「そのふたつはされたことないです……」

 

「…………」

 

「というかそれは、もう男女の仲なのでは……? 一体誰と……?」

 

「…………おやすみ」

 

「え! 待ってくださいよ。そんな気になる話の途中で寝るのズルいですよ!」

 

「ええい、暑苦しい! ベットに乗ってくるな!」

 

《兄弟ですか貴方たちは……もう遅いんですから、寝てください。明日に響きます》

 

「アインス母さん……?」

 

「というよりお姉ちゃんでは?」

 

《寝なさい!》

 

「「はーい」」

 

《はぁ………》

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

とある日。訓練がひと段落して休憩していると、宿舎内の放送で招集が行われた。

 

呼ばれたのはティアナ、スバル、エリオにキャロ。そして俺というフォワードメンバー。集合場所は技術開発部の部屋ということで、シャーリーさんのところということで、薄々何が待っているか気づいてる4人は妙にソワソワしていた。

 

どこか浮ついたような空気を持ったまま開発室へと入ると、そこには素人目には何が何だか分からないような機械の山と、ガチャガチャと片付けをするシャーリーさんの姿が。

 

 

「お! ようこそー、早かったね」

 

「ども。手伝いましょうか?」

 

「大丈夫、今終わったところだからね」

 

 

ガチャンと最後であろう謎の機械を机の下に置いたシャーリーさんは、お待たせと言いながら何かを持ってきた。

 

__そこには4機の真新しいデバイスが鎮座していた。

 

 

「さて、もうわかってるとは思うけど。これが君たちのデバイスだよ」

 

「わぁ……!」

 

「触っても良いですか!?」

 

「うん、どうぞー」

 

 

オッケーの言葉が出た途端に4人は、わーっとこれから自分たちの愛機となるデバイスの元へと向かう。

 

初めから専用のデバイスを持っていた俺とは違って、今まで貸出し用の訓練デバイスを扱っていた彼女たちからすれば、待ちに待ったアイテムなのは間違い無いだろう。

 

おっかなびっくり触るキャロとティアナ、おー! と目を輝かせているエリオにスバルと反応はそれぞれだが、全員嬉しそうなのは間違いないな。

 

 

「ふふーん、気に入ってもらえたみたいだね。なんたってなのはさんやフェイトさんも開発に協力してくれたからね、一級品のできのはずさ!」

 

 

わーわーと話す4人とシャーリーさんを見てちょっと羨ましくなってくる。良いなぁ、新しいデバイス。

 

 

《ふーん、へー、ほーん?》

 

「……なんだよ」

 

《いーえ? 長年連れ添った愛機を差し置いて、不貞な考えを過らせているようですのでね?》

 

「う……だってさ、自分だけないってなると少しな?」

 

《浮気者》

 

「凄く不名誉な敬称をつけるな」

 

 

ちょっとだけ蚊帳の外な俺は、拗ね始めたアインスにかまってもらっていた。というか、なんで俺まで呼ばれたんだろ? 別に4人だけでよかったんじゃないかな。

 

そんな俺の元へとやってきたのは。

 

 

「ユウくんは相変わらず、アインスと仲良いね?」

 

「なのはさん、お疲れ様です」

 

「うん、遅れちゃった。みんなもごめんね!」

 

 

この場に現れたのは、シャーリーさんと共にスバルたちのデバイスを作ったというなのはさん。

 

どうやら彼女たちのデバイスにはまだ特殊な仕掛けが施されているようで、その説明と基礎機能の解説をしてくれるようだ。

 

 

「シャーリー、どこまで教えたの?」

 

「一応スペックは一通りね。あとは」

 

「リミッターだね」

 

「リミッター?」

 

 

聞き慣れない単語につい、気になって聞き返してしまった。

 

 

「うん。今渡した子たちはまだ全力の状態じゃないの。機能とか出力、そもそも馬力とかも含めて多くの項目を下げた状態で制限してあるんだ」

 

「えっと……それはどうして……」

 

「使い慣れないデバイスだと魔導士の使い手側が負担になっちゃうし、そもそも初めから全開だと振り回されちゃうことがあるの」

 

 

それぞれ目線を自分のデバイスへと落とす4人。

 

まぁ冷静に考えてこれまで使ってきたものから、基礎的な能力が一回り以上あがるものを渡されて、いきなりフルスペックで使おうとしても追いつかなだろうな。

 

 

「つまり、その子たちは使い手の成長に合わせて進化していくんだ。だからリミッターの外れるタイミングは、みんなの頑張り次第でってことだね」

 

「あたしたちの」

 

「頑張り次第……」

 

 

おお、凄い燃えたような表情になってるな。流石なのはさん、みんなを焚き付けるのが上手い。

 

一通りの説明を終えたところで、ふとスバルが手をあげて質問をした。

 

 

「あの、ところでユウはなんでここに?」

 

「え、何? 俺ここにいたら邪魔か?」

 

「ち、違うよ! デバイスの説明だけだったら、ユウが呼ばれる理由がないなって思っただけで……」

 

「冗談だからそんな焦るなって」

 

「え? ……あ! またからかったでしょ!」

 

「はは、悪い……って殴るのは禁止! お前やたら力強いの自覚しろ!」

 

「女の子に言うセリフじゃないよ! もー、ユウのばか!」

 

 

ポカ、なんて可愛らしい音ではなくドゴッ!

 

スバルから放たれる拳は洒落にならない威力であり、一回モロで受けた時は気絶したこともあるくらい。

 

言葉でだけなら大袈裟に聞こえるかも知れないが……日頃から何発も喰らっている俺はその恐ろしさを嫌というほどに、この身で経験している。

 

だからこそ、いつも助けてくれるティアナの背中へと即座に退避した。

 

 

「きゃ!? ちょっと、もう。……しょうがないんだから……スバル、今は教官たちの前なんだから後にしなさいよ」

 

「う……でも……ティア……」

 

「でもじゃないでしょ?」

 

「うぅ……は、はい……」

 

「ユウもよ。あんまりスバルをからかうのはやめなさいって。私は良いけど、この子すぐ引っかかるんだから」

 

「はーい」

 

「ホントにわかってるんでしょうね……?」

 

 

呆れたような視線をティアナから向けれるが、結局はため息と共にいつも助けてくれる。とりあえずご機嫌取りはしておかなければ。

 

 

「そんなティアナが大好きだぜ!」

 

「はぁ……もうそれも聞き飽きた……から……」

 

「どうした急に顔を青くして」

 

「ユウ……! ユウ……!」

 

「スバルもかよ、何? 後ろ?」

 

「ユーウーくーん?」

 

「はい? ……ひぇ……!?」

 

 

ぽん、と肩に置かれた手、そして名前を呼ばれたので振り返るとそこには……満遍の笑みを浮かべたなのはさんの顔が、びっくりするぐらい近くに迫っていた。

 

一見すると男を陥落させるような素敵な笑みに見えるが、この場にいるフォワード陣からすれば今のこの人の顔は、間違いなく見たくない部類の恐ろしい表情なのだ。

 

肩に置かれた手が両手となって、ぎゅっと掴まれる。そして、耳元に顔を近づけたなのはさんの声音は、優しいように聞こえるけど……。

 

 

「もう本当に困った子だねぇユウくんは? 私のお話を聞くの飽きちゃったのかな?」

 

 

言葉は全く優しくないですね。

 

言い訳を考えるべく必死に頭を回転させるけど、ぎりぎりと捕まれ続けている肩と嫌な寒気で思考が混乱する。

 

 

「いや、あの……そのですね……」

 

「そんなに怯えてどうしたの? ……ね、ユウくん。私のお話を無視して、どうしてスバルたちといちゃいちゃしてたのか……教えて?」

 

 

声低っ!? 初めて聞いたぞ、こんななのはさんの声!?

 

だめだ、俺一人でなんとかできる気がしない……助けてみんな!

 

 

「…………!」

 

 

目線と小さな手振りで目の前のティアナ、スバル、そして少し隠れて様子を見ていたエリオ、キャロ、シャーリーさんにヘルプサインを送る。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

なんでそっと目を背けるんですか……? 同世代のよしみで助けてくれても良いじゃんか! てかそもそもお前らも原因のひとつだろ! ……大元は俺だけどさ。

 

くそ! 助けてエリオ、キャロ!

 

 

「あはは……」

 

「ファイトです……ユウさん!」

 

 

………シャーリーさん?

 

 

「ねね、あのふたりってやっぱり仲良いの?」

 

「えっと、そうですね……今思うとなのはさん、ユウさんとよく一緒にいるような……?」

 

「へー!」

 

「なに野次馬根性を出してんだアンタ」

 

 

助けを求めていたはずなのに、シャーリーさんとキャロの会話につい突っ込んでしまった。……その一連の行動が裏目になるとは思わずに。

 

急にパッと手を離されたかと思うと、今度は後ろから抱き寄せるように拘束されてしまった。

 

 

「ぐぇ!? ちょっと!?」

 

「もぅ……よそ見したらだめだよね? 今誰がユウくんとお話ししてるのかな?」

 

「わかりました! わかりましたから離れて!?」

 

「なーんでそんなに嫌がるのかなぁ……?」

 

「どうしてそんなに怖い顔するんですかぁ……」

 

 

この理不尽な状況と羞恥で涙が止まらない……なんでこんな出来の悪い子ども扱いしてくるんだ、この人は……!

 

まさにカオスとなったこの場であったが、謝り倒す&ご飯を奢るという条件に免じてなんとか、なのはさんの機嫌を元に戻すことに成功した。

 

 

「約束だよ、今度絶対!」

 

「はい……ですからもう……」

 

「うんっ。……どうしたの? みんな変な顔して」

 

「あ、あはは……いえ」

 

「なのはさん、ユウのこと随分と……」

 

「スバル、お口チャックだ。余計なこと言うな……頼む」

 

「あ、うん」

 

「?」

 

 

ようやく落ち着いた場。一度、他のみんなはそれぞれ、自分のデバイスを確認している間に俺、なのはさん、シャーリーさんの3人は少し離れたテーブルへ移動。この場に来る必要がないはずの俺がよばれた理由が、ようやくふたりの口から語られた。

 

 

「ユウくんは元々、アインスっていう専用のデバイスを持ってるよね」

 

「はい」

 

「ちょっと前に貸してもらったのは覚えてるかな」

 

「確かメンテナンスの時でしたっけ」

 

 

以前、訓練後にデータを収集することを含めてシャーリーさんに預けたことを思い出す。

 

 

「それそれ。で、みんなには新しいデバイスを渡して君にはなにもなしじゃ可哀想だと思って……はいこれ」

 

 

そう言ってシャーリーさんが手渡してきたのは……小型のメモリチップ?

 

これは一体? と頭にハテナを浮かべていると使い方をなのはさんが教えてくれる。

 

 

「アインスの横に差し込めばオッケーだよ」

 

「えっと、はい。……いいか?」

 

《はい》

 

 

言われた通りに横のカバーを外して、メモリを差し込む。もともとはコンピューターとの接続や、データ保存のための場所なんだけど……これで何か変わるのかな。

 

 

《Download.....Complete》

 

「お」

 

「問題なさそうかな?」

 

「どうだ、アインス?」

 

《………はい、全てインストールを完了しました。__なるほど、これは》

 

「ふふ、結構すごいでしょ」

 

《ええ。感謝します、なのは、シャーリー》

 

 

珍しく高揚したような口調のアインスに、それを聞いて喜んでいるなのはさんたち。そして話についていけない俺。

 

 

「え、え? あのこれは?」

 

「ユウくん、遠距離の戦い苦手だったよね?」

 

「はい」

 

「だからプレゼント。特別だよ」

 

「へ? ……これって」

 

 

その言葉と同時にアインスから表示された画面。そこには見たことがない武装が映っていた。

 

白と青色の長い頭身、それを支える補助グリップに持ち手にはトリガー。どう見ても長距離用の武器なんだろうけど……。

 

 

「アインスはどっちかと言ったらアームドデバイスの性質が強い子なんだけど、扱いはインテリジェントデバイス。魔導士へその場の最適な力を提案するなんて機能もあるはずなんだけど」

 

「シャーリーとメンテの時に確認したら"X.Saber(イクスセイバー)"って名前の剣1本しかデータ登録されてなかったからね。だから、私のレイジングハートのブラスターモードを参考に新しい武器のデータを作ってみたの」

 

「随分と凄そうなものを……使えそうか、アインス?」

 

《素晴らしい出来栄えです。すぐにでも最適化します……が》

 

「?」

 

《私はインテリジェントデバイスではありませんので、あしからず》

 

「それはもういいって……」

 

「にゃはは……」

 

 

変にこだわるな、こいつは……。呆れていると"そうだ"と何かを思い出したようにシャーリーさんが声を上げた。

 

 

「あ、それでアインスの所有者のユウくんに聞きたいことがあったんだけど」

 

「なんですか?」

 

「このデバイスって誰が作ったの?」

 

「………えーと」

 

 

なんとも答えずらい質問をしてくるな……アインスを作った人、ねぇ……? 

 

頭に浮かぶのは、"出来た、できたぞ! 見たまえ! この素晴らしい作品を! さすが私……やはり天才だ……!! はぁーはっはっはっ………"と目にクマを作って、パンツいっちょでアインスを片手に踊りながら大笑いをかましていた変態の姿が過ぎる。

 

 

「ユウくん?」

 

「あー……その名前は知らないんですけど、自称天才で変態のおじさんですね」

 

「て、天才で変態のおじさん?」

 

「はい……」

 

「よ、よくわからないけど、その人と連絡を取ることとかって可能だったり……」

 

「無理ですね、もう5年以上は姿どころか連絡もないので」

 

「あちゃー、そっかー」

 

 

ものすごく残念そうにするな、シャーリーさん。そんなにあの人に会いたいのか……? え、変な趣味でもあるの?

 

 

「ん? ああ、別にコンタクトが取れないなら大丈夫だよ」

 

「ちなみにあの人とどんな話をするつもりで……?」

 

「あれ? アインス、ユウくんになにも言ってないの?」

 

「おい、アインスさんや。何かあったのか? 俺、なんも聞いてないけど」

 

《聞かれませんでしたから》

 

「お前なぁ?」

 

「まぁまぁ、私から説明するね。シャーリー、画面出してくれる?」

 

「はーい」

 

 

空中の画面……ハイテクな魔法によるディスプレイが目の前に表示される。そこにはアインスのデータが表示されているんだけど……これ。

 

 

「随分と未入力項目が多いような……」

 

「うん、その通り。アインスなんだけど、色々とロックがかけれてるみたいで私たちだとこれが限界だったんだ」

 

「なのはさんにレイジングハート、他にもリイン曹長とか多くの人に協力してもらったんだけど開かなくてね」

 

「へー……ってアインス、なんで開けてやらないんだよ」

 

《……開けないのではありません》

 

「は?」

 

「"開けられない"……だよね?」

 

《はい。私の機能……本来使えるはずのものは、現在封印処理が施されてます》

 

 

アインスの言葉には、忌々しいものを語るようなものが含まれていて、封印処理とかいうのがコイツにとっても不本意なことが伝わってくる。……まぁ声は相変わらず無感情なんだけど、不思議とそう感じるんだよね。

 

 

「よほど作り手が優秀だったんだろうね。ここまでガチガチで強固なのは見たことないよ……」

 

「シャーリーでお手上げなら、六課の誰でも無理だろうね。うーん、ここまでの強いロックをかけるって何があるんだろうね」

 

「さ、さぁ……俺に聞かれても……あ」

 

「ん?」

 

「……いえ、なんでもないです」

 

 

そういえば、確かドクターが言ってたのは……。

 

思い出すのは、あの壊れかけの研究所を追い出される前日に、天才で変態な例の男とした懐かしい会話。発狂したように鼓舞していた姿はどこへやら、真顔でアインスを手渡してきたあの日の記憶。

 

 

 

__これは?

 

__絞りカスだよ。欲しいものは全て取り出したが、余分なものが残ったのでね。君にはどうせ作らなければいけないものだったからな、有効活用というものさ。

 

__……これ、確か……デバイスとかいう? しかも随分と綺麗な……。

 

__見た目はね。仮にも私も作品だ……だが、本来のものは君が全てを取り戻した時に現れるだろう。……あの老人たちがいる限りは到底、無理だろうがね。

 

__なんですか、急にまた訳のわからないことを……。

 

__しかし、アレだな……この私がロマンもなく、意味のない役割をただやられているというのは癪だ。

 

__ちょっと? 自分の世界に入んないでくださいよ……

 

__気が変わった。"前の、いや別の私が作らされた作品"など興味はなかったが……貴重なものを持ち帰ってきた君へのほんのお礼だ。

 

__はい? ってちょっと。

 

__……さて、よく覚えておきたまえ。必要なのは今の君を作り出した事件、その————

 

 

 

 

「————始まりの記録、ねぇ?」

 

「へ? いったい何の__」

 

 

その言葉の続きを阻むように、聞いたことがない大きなアラート音が部屋に鳴り響く。

 

 

「っ。シャーリー!」

 

「は、はい!」

 

 

一瞬で顔つきと声の質が変わる。その中には焦りと緊張も含まれていて、だからこそ俺もすぐに察することができた。

 

緊急事態、それを知らせるようにこの部屋以外でも大きく響き続けるこの音は。

 

 

 

「みんな出動だよっ!」

 

 

 

ついに、その時(初任務)が来たことを知らせるものだった。

 

 

 

 

 



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sts ミッション:12 不安に思うのは優しいからさ

 

 

 

 

 

 

緊急アラートが鳴り響いてからの行動はみな早かった。すぐさま出撃時のシークエンスを実行し、現場まで急行する移動手段であるヘリの中へと乗り込んだ。

 

このヘリJF-704式ロイの最新式のモデル。機動六課のロングアーチチームに所属するパイロットのヴァイスさんによって飛び立ったヘリ内で行われるのは、今回の任務内容と作戦。

 

人員はフォワード人員である5人と隊長のなのはさんにサポートとしてリインさんが搭乗。別任務に当たっていたフェイトさんは、現地で合流する手筈ではやてさんは部隊長として本部での指示をしてくれている。

 

もの凄いスピードで移動する最新鋭ヘリ内部で、なのはさんが起きた事件に関しての情報を俺たちへと伝える。

 

 

「とりあえずおさらいだけど、今回起きたのは列車の暴走。そして原因と思われるのが」

 

 

言葉を続けたまま、空中に表示されたタッチスクリーンの画面が切り替わる。そこに映るのは現在進行形で暴走を続ける列車とその車両内の映像。

 

赤いコードをうねうねと動かして、車内のコンソールパネルを掌握している原因の姿が映し出されていた。その原因となっている機械は随分と見覚えがるもので、訓練用ガジェットドローンと類似しているように見える。

 

 

「作戦の目的は大きく分けて2つ。まずは車両の内外にくっついている飛行型ガジェットの破壊。もうひとつは」

 

 

再び画面が変わり、次に表示されたのは赤い宝石のような結晶体と鎖で封じられた箱。……おいおい、これって。

 

 

「列車で移送中だったロストロギア"レリック"が封じ込められた箱、レリックケースの確保。ただ危険なものだから決して無理はしないようにね」

 

 

ロストロギア。それはいったいどこで誰が何のために作ったかすら分からない超古代遺産の総称。

 

多くの時空世界が混在するゆえに、ひょんなことで現れたり、時には流れ着いたり……そして人為的に悪用される魔法技術の遺産。

 

有名な話だと、我らが隊長3人は過去に大きなロストロギアが発端の事件を2つ解決しているそうで、その過去のデータについても調べなきゃいけないんだけど……かなり高い権限がなければ大まかな資料でも見ることすら出来ないレベルだったので、今は放置している。

 

と、そんな感じでとにかくやばいブツを運んでいた列車が襲われたとなったら、出動するしかないよな。

 

ガチガチに緊張した4人の顔を見ると心配だが、今日まで遊んできたわけじゃない。もう泣き出して逃げたくなるような訓練を受けてきたんだから、あとは実戦で同じことをするだけだ。

 

 

「まずはそれぞれのメンバーだけど、スバルとティアナは内部に突入してガジェットの破壊と目標の確保」

 

「「はい!」」

 

「エリオとキャロは車両外部で襲ってくるガジェットの破壊と防衛」

 

「「わかりました!」」

 

「でユウくん、君はちょっと特殊」

 

「はい?」

 

「ユウくんはまず初め、エリオとキャロのライトニングとして防衛戦。で、ある程度数を減らしたら内部に突入してティアナとスバルの援護」

 

「………あの」

 

「で、あとお願いしたいのは内部のチェックとできればハックしてるガジェットのサンプル確保、それから」

 

「待って待って、多いめちゃ多い……俺だけ多すぎですって。今日初出動のペーペーですよ、俺」

 

 

そういうとキョトンとした顔の後に、にっこりと笑って。

 

 

「頑張って。元"処理班"のユウくん?」

 

「っ…………はい」

 

 

処理班。それはごく一部の、それこそ艦長レベルですら知っているものが少ない暗部の隠語。

 

なるほどな。流石に何も情報を掴んでないほど甘い部隊ではなかったってことか。すっかり油断してたけど、こりゃはやてさんやフェイトさんにもある程度バレてるかな……ちょっと警戒しなきゃ。

 

珍しくシリアスな空気になったこの場で、さてどう返したものかと悩んでいるとちょっと意地悪な笑みを浮かべたなのはさんの顔が目に入った。

 

 

「ふーん、否定しないんだ?」

 

「へ? どういう意味です……っ! まさかとは思いますけど……」

 

「えへへ、ごめんね。今のひっかけだよ?」

 

「…………はは、処理班って何のことですかー? ユウわかんなーい」

 

「そうだねー、わかんないねー?」

 

 

やってもうた。

 

これってなのはさんたちは俺の素性について大方は分かっていたけど、掴み切れていなかったってことで、今のやり取りで確信に近いものを与えたちゃったのだろう……つまり大失態。

 

 

「その辺は今は置いとくけど、ユウくん」

 

「は、はい?」

 

「4人のことよろしくね? フォローとか私もするけど……」

 

 

そう言って心配そうな目となった、なのはさんの先には緊張で先ほどよりも顔色が悪いフォワードたちの姿。

 

 

「了解です。……いや別に処理班とか知らないですけど」

 

「ふふ、うん。じゃ、任せたね」

 

「目的ポイントに到達です! なのはさん、準備を!」

 

「了解! リイン、あとはよろしくね」

 

「はいですぅ!」

 

「うん、セットアップ!」

 

 

言ってくるね、その言葉とともにセットアップをしたなのはさんはすでに空戦中のフェイトさんの元へと向かう。リインさんは引き続き、はやてさんとの通信へと戻った。

 

なるべく期待には応えたいけど……俺だって実践経験は薄いんだけどね。まぁ今にも吐きそうなほどな他のメンバーと比べたら……?

 

どうしたものかと視線をスバルたちへと向ければ、そこには切り替わった表情になった陸士たちの姿が目に入った。けど、その中でまだ不安そうな顔を隠せていない少女に目がいく。

 

 

「…………ふぅ」

 

「キャロ?」

 

「ふぁい!?」

 

「キュゥ!?」

 

 

おお、肩を大きく飛び上がらせて驚くとかあんまり見たことないぞ。隣のフリードもその反応でびっくりしちゃってるし。

 

目をチカチカさせて俺を顔を見たかと思うと深呼吸を始めてしまうほどに、今のキャロは随分と緊張してしまっている……いや、これは不安かな?

 

 

「緊張、するか?」

 

「……はい」

 

 

少し迷ったように目を左右に彷徨わせた後に返ってきたのは肯定の言葉。なるべく優しい声で話を続ける。

 

 

「どうしてだ?」

 

「……私のこの力は、大きすぎるんです。私自身が扱えないほどです……だからまた」

 

「誰かを傷つけてしまうかも、か?」

 

 

コクリと頷くキャロの表情はより暗いものになってしまっていた。……キャロ・ル・ルシエ、彼女は竜召喚士としてあまりにも大きな力を携えて生まれてきた稀代の召喚士。

 

事前にフェイトさんから聞いていた通り、彼女は過去のトラウマともいうべき己の力を恐れているのだろう。まだ心も体も未熟で幼い頃の召喚術による暴走と、居場所であり家族であったものたちからの拒絶は幼いキャロにとって、あまりにも過酷な運命だった。

 

……全く、なんで俺の周りはこんなにも救われない子達ばっかりなんだか。

 

 

「な、キャロ。お前は自分の力が怖いって、扱いきれないって思ってるんだろ?」

 

「えっと……はい」

 

「それに竜たちの暴走で俺たちを傷つけたくない、か」

 

「………はい」

 

「全く……ちょっと俺は悲しいぞ」

 

「……え?」

 

「だって、それは俺たちがそんだけ頼りない……キャロの力で守らないといけないって思ってるってことだろ?」

 

「ち、ちが!」

 

「違わないさ。……誰かを傷つけたくない、守りたいって気持ちはとても優しくて、綺麗なものだ。でも俺たちに向けるのは少し違うだろ?」

 

「……でも」

 

 

不安げに見つめてくるキャロと目線を合わせるためにしゃがみ込んで言葉を続ける。

 

この子の根幹にある不安、それの正体はきっと優しいもの。今この場にいる六課のメンバーを自分の手で傷つけたくないし、誰かに傷つけさせたくもない。この年頃の子が持つにはあまりにも大き過ぎる真っ直ぐな想い。

 

誰かを、他人を思えるっていうのは本当に強い人間にしかもうてないもの。その心持ちを否定する気はなし、ましてや俺個人としては共感もできる。けれど。

 

 

「そんな不安な顔するなよ。それに俺たちはそこまでヤワじゃない。みんなでなのはさんの過酷な特訓を乗り越えてきた仲間、だろ?」

 

「……ぁ」

 

「な、お前ら」

 

 

黙って俺とキャロの話を盗み聞きしていた3人へと話を振ると、どいつもこいつもニヤリと笑って

 

 

「ええ。本当にキツくて正直、やめてやろうかって悩んだこともあったけど、みんながいたしね」

 

「うん! 大丈夫だよ、キャロ。あたしたちみんな強いよ!」

 

「まだ不安な気持ちもあるけど。僕もこの数週間の特訓おかげで、自信を持って戦えるって思ってるよ」

 

「みんな……」

 

「確かにキャロの力は大きいかもだけど……それを止めるだけの力と根性を持ったやつがここには大勢いるんだ」

 

 

そう、ここにいるのはキャロの力で守られるだけのヤツはいない。いるのは。

 

 

「だから、俺たちに"頼れ!" それで絶対に無事にこの任務を乗り越えよう」

 

 

キャロから守られるだけではなく、キャロを守れる……頼って頼られる。この場にいるのは、そんな関係の"仲間"だけだ。

 

目を見開いて、驚いたような表情をしたキャロは一度静かに目を閉じて……再び目を開ける。そこには。

 

 

「はい! 頑張りましょう!」

 

 

先ほどまでの不安と怯えが残った表情は消えていた。……うん、大丈夫そうだな

 

 

「よし! なら気合い入れろよ!」

 

「はい!」

 

「ってことでこれで俺の仕事8割終了!  あとは任せた!」

 

 

親指を立ててティアナたちへと渾身の笑顔と他力本願を発動。これで安心だろう。

 

そんな俺の一連の行動に、呆れ切った顔と視線が3つほど。な、何だよ。

 

 

「ほんとにアンタは……たまには良い事言うと思ったら……」

 

「もう! ダメだよユウ! あそこまで啖呵きったんだから!」

 

「そうですよ、ちょっと憧れをもった数分前の僕の感情を返してください」

 

「いやいや……君たちも知ってるよね、俺って魔導士としてはド三流以下だぞ?」

 

「女の子に守られて恥ずかしくないの?」

 

「はは、子って歳でもない……いや今のは俺が悪い、だからふたり揃って拳を構えるな」

 

「ふふ……」

 

「む」

 

「あら」

 

「うん!」

 

「あ」

 

 

キャロの笑い声が響き、さっきまでの緊張はどこへやら。もういつものフォワード陣の空気感へと戻り……いい意味で力も抜けた。なら。

 

 

「行くか、ファーストミッション」

 

「はい!」

 

「全く……最初からそう言えばいいのよ」

 

「でもティアも分かってて乗ってたでしょ?」

 

「楽しそうでしたよ、ティアさん」

 

「……ふん」

 

 

いざ、俺たちはもう目前……ヘリの下に迫った暴走する列車へと突入するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







「でも俺が三流ってのはホントだからなんかあったら助けて」

「締まらない泣き言を言ってんじゃないの!」

「そうだよ! 何で1個かっこいいことすると2つは情けなくなるの!」

「でもそれがユウさんの良いところっていうか……」

「うん。私、いたことないけどお兄ちゃんみたいだよね」

「こんなのが兄とかあたしは絶対認めないけどね」

「でたなブラコン」

「は?」

「待て。クロスミラージュを向けるのは卑怯だと思うぞ、お兄ちゃんは」

「 は ? 」

「助けてキャロ!!」

「……弟みたい、かな?」





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sts ミッション:13 竜魂覚醒

 

 

 

 

 

 

暴走により、通常とは比べられないほどに加速を続けるリニアレールの車両上部。

 

降り立った俺たちの上……上空では巨大な桜色の砲撃と金の稲妻を纏った2人のトップランク魔導士による戦闘が繰り広げられていた。

 

迫り来る接近したガジェットはフェイトさんが瞬時に切り裂き、遠方からチャージして狙い撃とうとするドローンは瞬きの一瞬で逆に破壊される。

 

それぞれの強さも際立っているが、魔導士としてもコンビネーションの息の合い方も年季があまりにも違い過ぎる。

 

 

「この距離でも見えるって……本当にあの人たちあれでリミッター掛けられてるのか?」

 

「経験も素質も全部が上位なの。今更でしょ……フェイトさんのあのスピードはおかしいと思うけど」

 

「やっぱりなのはさん、すごいなぁ……軽い砲撃でどんどん落としてる」

 

 

格が違う、その言葉に尽きる空中戦に少し見惚れかけるが今は任務中。すぐに行動を開始する。

 

 

「スバル、ティアナはリイン曹長とともに内部へ」

 

「はいですぅ!」

 

「ええ、ユウとエリオ、キャロはここで防衛戦ね」

 

「俺も後から合流する。とりあえず無事に終わらせるぞ。リインさん頼みます」

 

「ユウくんもお気をつけて! エリオくんたちも無茶しちゃダメですよ!」

 

「もうそんなの当たり前よ、スバル」

 

「うん! また後でね!」

 

 

その言葉ととも列車内へと突入したリインさんたちを確認したと同時に、タイミングよく現れたのは……列車内を破壊するように攻撃してきた既存のドローンと未知の大型ガジェット機体。

 

……何事も訓練通りに行くのが理想だけど、実際の現場でそんなふうになるのは稀。小型はまだしも、あの大きなやつは一体どんな性能なのか、攻撃は、多くの情報が足りていない中で戦うのは危険だけど、やることは1つ。

 

 

「よし、俺たちも行くぞ!」

 

「「はい!」」

 

 

今日までなのはさんたちに教えられてきたことを思い出し、最善を考えて戦う。それだけだ。

 

 

「アインス!」

 

《Standby.ready?》

 

「セットアップ!」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

目の前に迫ってきたガジェットの群れを一掃する。うん、制限があってもこの程度ならすぐに片付けられる。けど。

 

 

 

(なのは。また来るよ)

 

(うん、見えてるよフェイトちゃん)

 

 

続々と増援するかのように展開され続ける飛行型ガジェットドローンに目を細める。明らかに想定していた数よりも多く、それでいてガジェットたちの目的が……。

 

 

(私たちの足止めにしか見えない、よね)

 

(たぶん、余程あのレリックが欲しい見たい)

 

 

少し視線を落としてスターズ、ライトニングの子たちが途中した暴走列車を確認する。そこには見覚えのない新型と思われる巨大なガジェットと戦闘を繰り広げるキャロ、エリオ、ユウくんの姿が映る。

 

 

(できればすぐにでも向かいたいけど……)

 

(流石に余裕ないかな。ちょっと多すぎ……数の暴力だね、これ)

 

 

今のたった数秒の会話。その間に増えた飛行型の数はぱっと見で"30"機。

 

言ってしまえばガジェットの自力ではどう足掻いても勝てないのは向こうも分かっている、だから手数でレリックを確保するまでの時間稼ぎが目的なんだろうけど。

 

 

(悔しいけど、今の私たちに一番厄介な手段なんだよね)

 

(出力リミッターさえ外せれば、すぐにでも倒せるけど)

 

 

管理局では1部隊での保有できる魔導士にはランク制限がかかってしまう。本来、ランクSを越えた魔導士を1人抱えるだけでも十分すぎる上に過剰とされて、一気に入れることができる戦力に制限がかかる。

 

それを機動六課ではSランク超えが3人に、AAクラス以上も多く加入している。いかにそれが可笑しいことかは、説明す必要もないだろう。……いわゆるところの裏技というもので、隊長、副隊長クラスの魔導士と騎士は全て自分の魔力に出力リミッターをかけて無理やり、1部隊で保有できるランク制限をちょっとはみ出るくらいに抑えているのだ。

 

本当にグレー寄りの黒をしているんだけど、はやてちゃんが色々と動いた結果……今の六課という強力な部隊が完成した。

 

でもそれを言い換えると、私たちは基本的に本来の力を使うことができないということで、見掛け倒しなところがあるのも否定できない。

 

 

(ホントに厄介だよね、この制約。私、久しぶりにレイジングハートの全力出したいなぁ)

 

(しょうがないよ、管理局としても海にばかり贔屓はできない。陸の反発が強まる原因にもなるから)

 

 

海と陸の衝突。とある中将によって激化するこの対立は、根深い問題で解決の糸はいまだに見つからない。

 

……海側にも原因はあるが、最近見せている陸の怪しい動きも気になるし下手に触れない案件でもあるから、本当に厄介極まりない。そんな状況で作った六課という部隊は陸の反感をより高めるもので、最近では本部ですれ違うだけでも酷い視線を向けられることもあるくらいだ。

 

 

「ホント、世界平和って遠いんだね」

 

 

(なのは? 今何か)

 

(ううん、なんでもないよ)

 

 

昔、誰も争わない世界が理想だなんて言っていた人をふと思い出して、少しナイーブな気持ちになった。

 

……本当にもう。

 

 

「色々、期待しちゃってるからね? ユウくん」

 

 

昔、初めて彼が私の前で姿を変えた時。あの時はわからなかったけど、その姿は私の"フォーミュラ"を使った姿にそっくりで……遠い星へと渡った懐かしい友だちの顔が浮かぶ。

 

そんな懐かしい気持ちとともに、またそれが見れたら良いな、なんて気持ちと純粋に力になりたいという想いでちょっと無理して作ったあのメモリ。

 

……ほんのちょっぴり、本当にちょっと邪な気持ち(私の魔力)も込めながら渡したデータチップに思いを馳せながら、再び杖を握り直した。

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

「————ッ!」

 

 

迫り来る攻撃。それを勢いに任せて姿勢を低くし、紙一重で避ける。少しかするが問題はない……それよりも懐に潜り込めた……っ!

 

「落ちろッ!」

 

 

キンッ! と剣が鉄の肉体を持つ大型ガジェットの懐を削り取る……けれど付いたのは僅かばかりの切り跡のみで、全く聞いていない。ならば!

 

 

「エリオ!」

 

 

後ろで魔力を練り込んでいたエリオと入れ替わるように後退する。十分な魔力と加速による槍の突き。これなら……。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

鉄と鉄が大きく衝突し、大きな衝撃と音が社内に響く。エリオが放った槍の一撃は、模擬戦ではなのはさんの防御魔法すら貫通させた一撃。

 

__しかし、それをも簡単に防がれる。

 

 

ダメか……!

 

 

「か、硬い……っ!?」

 

「一回離れろ!」

 

 

ベルトコンベアーのようなものを鞭のようにしならせて、攻撃してくる大型ガジェット。けど動き自体は単調で避けることも防ぐことも少し余裕がある……が少し体勢を崩したエリオだと避けきれない……!

 

すぐさま後方で支援する少女に指示を出す。

 

 

「キャロ!」

 

「はい! ブーストアップ・アクセラレーション!」

 

「ありがとう!」

 

 

名前を呼んだだけで、すぐに対応し……そしてエリオも何が来るのかを瞬時に把握して、補助魔法によって加速する自身の動きを把握し、修正して攻撃を避け切る。

 

お見事だな、ふたりのコンビネーションは。

 

 

「次は俺も行く! キャロ、攻撃補助を! エリオは先に動け、俺が合わせる!」

 

「はい!」

 

「行きます! ブーストアップ・ストライクパワー!」

 

 

一人がダメでも2人同時に、そしてそこにキャロの支援も加われば突破できる……はずだった。

 

 

__ガキン! 再び装甲に阻まれ、自身の持つ剣とエリオの槍が防がれた。

 

 

 

「なっ!?」

 

「流石に硬すぎる……!」

 

 

後退し再び視線をガジェットに向ける……今の渾身の一撃は確かに装甲へとクリーンヒットした。けれど凹みのひとつもない……?

 

思考を巡らせて原因を考える。なんでだ? 最初に放った切り裂き傷は残っているのに、なぜ今の攻撃はほとんどダメージが発生していない?

 

何が違った。今と最初……むしろ2回目は魔力を練り込んだ分、距離を稼いで加速も加わって、より強力に————魔力?

 

嫌な閃きがよぎり、ある程度の魔力を込めた簡易のシュートを放ってみる。その攻撃は……目的の大型ガジェットに到達する前にかき消えた。

 

 

 

「……ああ、もう本当に……」

 

「ユウさん?」

 

「なぁエリオ、あれ多分だけどAMF張ってる……」

 

「それは……ガジェットですから。でもそれにしたって硬い気が」

 

「違う、範囲だ」

 

「範囲、ですか?」

 

「たぶん、あの大型ガジェットが放ってるAMFはかなり広範囲な上に……幾分もパワーアップしてるぞ」

 

 

おかしいとは思っていた。なぜただの斬撃が効いて、魔力を纏わせた攻撃が一切効いていなかったのか。

 

 

「下手するとこの車両全体がアイツの領域だ」

 

「でも、それじゃ」

 

 

ガジェットを破壊できない。エリオの言いたいことはわかるし、俺もそう思うけど。

 

 

「あのAMFを貫通させるだけの力を押し付けるしかない……やれるか?」

 

「はい!」

 

「よし、行くぞ! キャロ、なるべく全力で支援頼む!」

 

「はい! 全力全開です!」

 

 

……それ、なのはさんの口癖だよね?

 

気になるけど今は目の前の敵に集中だ。こいつ1機だけならまだなんとか……っ?

 

 

《マスター!》

 

「チィッ!」

 

「え、ユウさ__!?」

 

 

後方車両から伸びてきた新たなベルトコンベアー型の攻撃は確実にエリオを狙っていたもので、突き飛ばす形でエリオを車両の隅に遠ざける。

 

それと同時、凄まじい衝撃が腹部を襲ってきた。……後ろの2機目の大型ガジェットがエリオを狙ったように、前方のガジェットは俺をターゲッティングしていた。

 

それが直撃。

 

 

「……っぁ……!」

 

 

予期していなかった2体目の大型ガジェットに不意をうたれ、モロに受けてしまった体を起こす。……肋骨の2、3本はいってるな。

 

……くそ、2体目を予期してなかったわけじゃないが……本当にどこまでも嫌なパターンばかり引くな、今日は……!

 

元は3人で一機を倒す予定だったが……これならば、パターンを変えるしかない。

 

俺の直撃を見てしまい、焦り顔が青くなっているふたりへ瞬時に指示を出す。

 

 

「キャロ、エリオ! 前の1体は任せる、後ろは俺がやる!」

 

「でも!」

 

「怪我……ユウさん、血が!」

 

「落ち着け!!」

 

「「!!」」

 

「俺は大丈夫だから……そっちを頼む。ここで止めなきゃ時期にスバルたちの方へ行っちまう!」

 

 

俺の大声にびくりとしたふたり。けど、すぐにこの状況の不味さを把握したようで、表情が切り替わった。

 

 

「「……はい!」」

 

 

気合いの入った返事を聞き、なぜか後退していく2機目を追って……後ろの車両へと走り出す。

 

 

「よし、頼んだぞ! ……アインス」

 

《はい》

 

「正直、俺ひとりでアレを破壊できると思うか?」

 

《………運が味方してマスターが万全なら……勝率5%ほどと推測します》

 

「はは……ま、今の負傷した状態なら2〜3%か。十分だ!」

 

 

だから、そっちは任せたぞエリオ、キャロ。

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

手が、震える。

 

 

「ブーストアップ・ストライクパワー!」

 

「ソニックムーブ!」

 

 

自分の唱えた補助魔法はエリオくんを包み、より強力な攻撃を目の前のガジェットへと向かう。

 

 

「フリード! ファイア!」

 

「キュァ!」

 

 

支援だけではなく、フリードとの連携魔法を駆使して攻撃も与え続ける。このAMFの中でもある程度は、攻撃がかき消えないくらいには竜の炎は強力。

 

前方をエリオくん、後方を私。この動きは何度も何度も練習してきたから……あの大切なわたしの居場所で、かけがえの無い人たちと一緒に!

 

再び魔法を行使するために力を溜め込む__

 

 

「!? キャロっ!」

 

「ぇ……?」

 

 

そのエリオくんの声に一瞬、何が起きたかが理解できなかった。

 

目の前に迫っていた……今までとは比べられないほどの急速な攻撃。

 

それは私を狙ったもののはずだったのに、なんで目の間に倒れているのは……エリオくんなの?

 

 

 

__また手が、震える。

 

 

 

フラッシュバックするのは、地獄のような光景。巨大な龍たちが暴れまわる、心の底に眠っていた過去の記憶。

 

 

つい、数秒前まで笑い合っていたはずの人が物言わない姿になり。

 

つい、昨日まで気をかけてくれた優しい人の目線は恐ろしいものを見るような目になり。

 

 

__つい、今の今まで共に戦っていた少年の生気を失った顔が瞳に映り込む。

 

 

「ぁ……ああ————」

 

 

また、またなのか。

 

せっかく……せっかく出来た私の居場所。それがまた、こうも簡単に……いや、自分のせいで……?

 

直前に見た自分の前へと飛び出した少年の顔が思い浮かぶ。

 

私が足を引っ張ったから……エリオくんが庇ってしまったから。__そして、うちに秘められた自身の魔力が蠢き始め……それに同調するかのように、フリードリヒの鳴き声が凶暴なもへと変質していく。

 

 

〈グゥ__ロォォォ__〉

 

 

その咆哮に、目尻へ涙が溜まり……再び内なる魔力/絶望が強くなる。あまりにも嫌悪していたこの感触は、幼い少女の光を失わせるには十分すぎた。

 

この声は、この感覚は……また、私は__

 

下を向き、ただもう……何も出来ないと諦めかけていた。けれど、

 

 

 

(……ャロ! キャロ!!)

 

 

誰かの、声が聞こえた。

 

 

「ぁ……え?」

 

(聞こえるか!?)

 

(ユウ、さん?)

 

(ああ! ……っ!)

 

 

焦ったような声とともに念話が、ユウさんの声が自分の胸の内に届いた。それと同時に少し正気に戻り出す……けど、もう冷静でいることはできない。

 

どうすればいいか、何が正解なのか。もう何もわからない。

 

迫り来る大型ガジェットを前にただ、縋り付くようにユウさんへと自分への指示を求める。

 

 

(わ、わたし……っ!)

 

(落ち着け。全部、エリオから聞いてる)

 

 

その言われた内容ででまた、言葉が詰まった。

 

ならもうユウさんも分かったはずだ、私が如何に役立たずで……期待に応えられない__

 

 

(その上で言うけど、"諦めるなよ!")

 

 

__なんで

 

 

(なんで、どうして……?)

 

 

ただ頭の中を占めるのは、今までの経験。

 

優秀な竜召喚士として派遣されて……失敗するたびに蔑まれ、失望され続けた苦い記憶。

 

今回も同じだと思っていたのに、ユウさんの声は、言葉は……元気付けるような明るいものだった。

 

 

(エリオから聞いたさ。キャロのおかげで自分は戦えてる、こっちはなんとかなるって)

 

 

……きっとエリオくんは気絶する直前までユウさんと念話をしていたのだろう。……そんなに心配されてたんだ、私。

 

そんな私の心の中を読むように、ユウさんは言葉を続けた。

 

 

(心配じゃない)

 

(……え?)

 

(だから僕たちを信じてくれ、それが今の言葉の真意だよ)

 

(………)

 

(エリオはキャロのこと心配してたんじゃなくて、信頼してたからそう言ったんだよ)

 

(っ)

 

(こういう状況だからな。……お前たちを任された俺は自分も含めて全部が心配だったんだが、エリオのやつはそうでもなかったみたいだぜ?)

 

 

__怯えていたはずの手に、力が入る。

 

 

(今そこにキャロがいるのはエリオが庇ったから。それは真実だけど、さっき俺は言っただろ)

 

 

震えていた足はもう揺らいだりせず、グッと立ち上がる。

 

 

(仲間なら守って、守れて当たり前。気にせず頼れ!)

 

 

折れかけていた、消えかけていた心の炎が……再び、その暖かさを取り戻す。

 

 

(失敗を恐れるな! 自分の力を恐れるな! きっとキャロの力は誰かを傷つけるものじゃなくて)

 

 

(誰かを……みんなを守りたい……わたしの力を使って……!)

 

 

(ならやっちまえ! 今まで散々言ってきた奴ら全員を見返すくらいの勢いで、盛大にかましちまえ!)

 

 

灯った炎は大きく、どんどんと大きくなって体を包んでくれる。そうだ、そうだった。

 

わたしのこの力は、大切な人たちを守りたい……助けたい。それが最初の願いだった。

 

 

(被害は気にするな、俺が全部責任持つから……好きに暴れちまえ!)

 

 

ああ、さっきまでわたしの心はあんなにも辛くて暗くて……重たかったはずなのに。

 

今はこんなにも__

 

 

 

「————はい!!」

 

 

 

__軽い!

 

 

 

溢れ出た災い/絶望は消え去り、本来の力を自覚し制御した時、それは……原初の祈りは新たな魔力/希望となって__キャロの体から溢れ出る。

 

 

それはこの車両を包み込んだAFMでも抑えが効かないほどの、純粋な白銀の魔力。

 

 

偶然にもその色は、彼女の側に居続けた力を封じられ幼き姿となった竜と同じもの。

 

 

「フリード……今までごめんね。……力、貸してくれる?」

 

「キュ!」

 

 

すぐに肯定の意を示す自分の大切な相棒をひと撫でする。__ならあとは、その真なる姿を解き放つだけ。

 

 

「————蒼穹を走る白き閃光」

 

 

初めて使ったとき、この力は呪われたものだと……厄災しか起こさない恐るべきものだと言われた。

 

暴れ回る竜たちを見てそう思われるのは仕方がないし、何より、その光景の根幹は私の心の弱さ。

 

……きっと、どこかでわたしはフリードとあの子を恐れていたのだろう。それがこの力を暴走させた本当の原因。

 

 

「我が翼となり、天を駆けよ」

 

 

けど、今は……この力を、私自身も恐ろしいと思っていたこの能力を私は受け入れる。だから__

 

 

()よ……我が竜フリードリヒ__竜魂召喚っ!!」

 

 

__友だちを、仲間を。みんなを守る力を貸して!

 

 

暴走する列車の1車両に巨大な魔導陣が現れ、閃光が走る。……その大きな白銀の光は竜が解き放たれた眩い煌めき。

 

 

あまりにも強い輝きにガジェットのセンサーすらもエラーを発揮し……再び、観測が可能となった眼前には、自身が屠った少年と膝を折っていた幼い少女の姿はなく。

 

 

 

 

「__いくよ、フリード」

 

〈——————ッ!!!!〉

 

 

 

白銀の翼をはためかせる、幻想種の主たる"龍"の姿が観測された。

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:14 モード・ブラスターエクセリオン

 

 

 

 

__何両か先で聞こえた竜の咆哮。それは、間違いなくキャロとフリードの覚醒を物語っていた。

 

 

それを聞いて安心した。これならきっとあっちは何とかなるな。

 

息を吐いて呼吸を整えようと寄りかかった壁から立ち上がる。俺も休憩してる暇はない。

 

 

「………向こうは……大丈夫そうだ、な」

 

《はい。現在、巨大な術式反応と支援魔法が感知されました。……ですから》

 

「ああ。あとは俺たちの方だな。……っぁ!」

 

 

歯を食いしばって、腹部に刺さった鉄の針を引き抜き床に投げ捨てる。キャロとの念話で油断するとか、鈍ってるかな。

 

隠れるのを辞めて、再びターゲットの前へと向かう。……武装は先程までの打撃や魔法術式ではなく、実弾に鉄槍を狙撃と魔導士殺しの武器へと変わった大型ガジェットの姿が視線の先に入る。

 

同時に向こうもこちらに気づいたのか、俺へと標準を合わせて遠距離系の攻撃を放ち出す。

 

 

《右、左、下……同時に上、右です》

 

「チッ!」

 

 

アインスの言葉通り、鋭く尖った物理攻撃……AMFの範囲内であるのも生じて防御魔法では簡単に貫通されてしまう厄介なものが、次々と放たれる。

 

油断して安易に防御魔法に頼った結果、今俺の横っ腹には大きな穴が空いてるってわけだ。

 

全く……本来は戦闘とか、こう言うのは俺の専門外なんだけどな……?

 

 

「……っ!」

 

《マスター、左足に着弾。すぐに自動治癒に切り替えます》

 

「いや、いい。腹部の出血の方が優先だ……足ならまだ平気だし、腹と違って抜いて縛っておけばマシだ」

 

《……了解しました。》

 

 

いまだに迫り来る鉄の針を剣で叩き落とし、体を回転させ避けて……タイミングを伺う。アイツの攻撃は魔法と違って実弾式であり、リロードのタイミングが生まれる。ならその瞬間に一気に近づいて叩いていくしかない。

 

__あと3発。

 

あの新型の厄介なところは、戦闘が長引くほどこっちを解析して一番効率的に処理する手段を考えてくるところだ。

 

__あと2発。

 

今なんて俺が長距離の攻撃手段がなく、魔導士という存在であることから、決して攻撃範囲に入らずに射撃だけで体力と気力をジリジリと持っていかれている。

 

 

__ラスト!

 

 

痛みを忘れるために一気に息を吸い、今回の弾数最後の一発を叩き落として……加速魔法と共に駆け出す。

 

 

「……ふ……ぅ……いくぞッ!」

 

《リロードまで残り5、4》

 

 

ガチャン、と背後に空となった箱を投げ捨てて次のストレージをセットしようとする姿が見える。

 

《3、2……》

 

 

この距離なら……間に合うッ!

 

 

「くらえ__!!」

 

 

大きく振りかぶり……剣先ではなく自身の体内、筋力の補強へと魔力を解き放つ。いくらAMFがあっても体内でひたすら練り込んで、それを自強化に回せば……この一撃は純粋な物理の攻撃だ!

 

世界がスローモーションになっていく。今、目標は全ての手足となるものを弾の補充、それを放つための銃本体、体を支えていて防ぐことなどできるはず__?

 

 

あれ。コイツ、こんなにも近くにいたっけ?

 

 

「————ぁ?」

 

《マスター!!》

 

 

なんだ、何が起きた? 車両内にいたはずなのに、どうして俺は空を見上げて大の字になっているんだ。……とにかく起き上がらなければ__

 

 

「がぁ……!?」

 

 

ただ、起きあがろうと力を体に入れただけ。それだけで、全身から悲鳴が巻き起こる。

 

 

「ア、インス……何が……?」

 

《喋らないでください! ……今は全ての魔力を回し、最低限動けるようにします》

 

 

落ち着け……よく思い出せ。俺はなんでこうなった。

 

先程、内部でやろうとしたのは力を込めて飛び上がり、床にへばりついたガジェットを叩き斬ろうとした……けど、俺が空中にいた段階で5メートル以上あったはずのアイツの頭部が目の前に………っ!

 

 

「くっそ……なんだよそれ。お前……飛べたのか……!」

 

 

なんとか顔だけを起き上がらせて……眼前に”飛行する”大型ガジェットの姿を視認する。俺の姿を嘲笑うかのようにガチャガチャと機械の体を動かし、不快な音を響かせる。

 

そして、すでに槍の充填は……完了済みか。

 

 

「……っ!」

 

 

放たれた自分の命を刈り取る鋭い棘。それを体を回して転げるようになんとか避ける。

 

なんて、無様。

 

……全部あの機械野郎のシュミレーション通りに遊ばれてたってことか。

 

眼前で自由に空を駆ける相手に飛行手段がない近距離陸士の俺は……反撃する手段がない。

 

 

「……ぅ…く!」

 

 

ようやく立ち上がれるようになった体を持ち上げて、策を考えるが……もう。

 

 

「……詰み、だなぁ」

 

 

アレを撃ち落とす手段がない上に、もう満身創痍。他メンバーも依然として交戦中となれば……。

 

 

「せめてお前が他にちょっかいかけないように時間を稼ぐかな……はぁ」

 

 

案外あっけない幕引きというか、しょうもない最後というか。

 

あんだけたんか切って帰ろう、なんて言った俺はここで脱落かよ。……と言ってもいつかは誰もが死ぬもんだし、今回がたまたま俺だったってだけだな、うん。

 

暗部にいた頃からそれなりに覚悟を決めていたことだし、今更何かを後悔するほどの未練も……そんなにないか。

 

 

「えっと……これこれ。持ってきて正解だったな」

 

 

ポケットから痛み止め……いや痛覚遮断剤を口へ放り込む。

 

暗部戦闘員御用達の違法な薬だが……ま、大目に見てもらおう。

 

 

「んー! はぁ……。アインス、悪いけど最後まで付き合ってくれ」

 

《……》

 

「なんだよ。最後くらい、いつも見たいな憎まれ口叩いてくれよ?」

 

《………マスター》

 

「ん?」

 

《まだ、ほんの僅かですが生き残る手段が……可能性があるとすれば、どうしますか?》

 

「……このタイミングでそんな冗談は笑えないぞ」

 

 

人の覚悟に水刺すこと言いやがって……。と少し呆れながら、迫り来る槍を叩き落とす。

 

 

《冗談ではありません。不幸で仕方がない主ですが……この切り替わった障害物の無い戦場と、"なのはからの幸運の贈り物"に感謝をした方がいいかと》

 

 

贈り物………? ………あ!

 

 

「……あ……あぁ!!!!」

 

《やっと思い出しましたか?》

 

 

慌てて胸ポケットに入れたままの、桜色のメモリチップを取り出す。そうだ、すっかり忘れてたけど、これ!

 

カキン! とまた迫ってきていた攻撃を切り裂き、少し後方の車両に飛び移る。

 

本当にテンパってたのと諦めかけていたせいで抜けていたが、俺にも新しい武器があった。

 

 

《列車内では危険すぎて使用できませんしたが、今ならいけます》

 

「もうほんと、受け取っといてよかったぁ……」

 

《いいから早く入れなさい。アレは待ってくれませんよ》

 

 

アインスからの言葉に慌てて、メモリを差し込もうとするが自分の体から急に力が抜けて転びそうになる。

 

 

「とと……俺もちょっと血を流しすぎて実は限界なんだよね……はは」

 

《わかっています。ですから生き残る可能性が増える、と言ったんです》

 

 

その言葉に少し混乱したが、すぐに納得した。

 

 

「だいぶヤバいのか、これ」

 

《はい。なのはには感謝しますが……張り切りすぎですよ、彼女》

 

「はは……普段でもやばそうなのに、今は無理矢理体を酷使してるからなぁ」

 

《その上で実践ぶっつけ本番です。他の子たちのようにリミッターも無いようですから……生き残れたとしても覚悟はしておいてください》

 

「………本当に」

 

 

ガチャリと、メモリをスライドするように剣の持ち手部分に嵌め込む。

 

 

「どこもかしこも、代償なしには生き残れない職業だな、局員ってのは」

 

《ええ、本当に》

 

 

【Reload...】

 

 

あえて距離を取ったのを不審に思った……いや、データにない動きだったからか、ガジェットは少しの間は警戒していたようだが……単純に逃げたと判断したようで再び銃口が向けれる。

 

 

【Realize Reflection.......Complete】

 

「なにこれ」

 

《武装の用意ができました。貴方のバリアジャケットも最適なものへと変化させます》

 

「え、またコスプレ……?」

 

《わがまま言わないでください。さっさと変身口上(キーワードパス)を決めてください、ほら》

 

「う……えっとそれじゃ」

 

 

セットアップ……じゃないよな、すでに変身してるし……今度は変化、チェンジ……よし、なら!

 

自身の持っている剣をガジェットへと向けて、右手の腕に左手を添える。

 

自分の練り込める魔力を今は剣となっているアインスへと注ぎ込む……そして、新たなコードを叫ぶように、口にする。

 

 

 

 

「……チェンジコネクト・エクセリオン!」

 

 

《【Mode.Blaster Exelion】》

 

 

 

アインスからの音声と共に自分を包み込んでいたバリアジャケットが変化する。

 

黒いインナーは反転し、純白と少しの青色へ。

 

騎士のような薄い甲冑は、近未来的なミッドチルダ式の青と黒が印象的な機械装甲になり、胸部から肩、腕に足先へとコンバートされていく。

 

そして胸元には自分の魔力光である黒色のコア……アインスの制御プログラムが。

 

 

 

《解除・換装完了。モード・ブラスターエクセリオン起動》

 

 

 

……なんていうのか、これは。

 

 

「………全身が重い……っ!」

 

《当たり前です。普段のプロトとは違い、収束魔導砲特化型フォームです。機動力よりも収束と防御が軸ですから、今までの物とは全くの反対です》

 

「にしたって重くないか、これ……てかデザインは所々違うけど、すごい見覚えのある格好なんだけど……」

 

 

自分の目に映る体や腕の装甲は、どう見てもなのはさんのバリアジャケットからデザインされたような色合い。あえて違う点を挙げるなら、黒という自分の魔力光が混ざっている点だけど……。

 

 

「どう見ても痛いコスプレじゃんか! 元となった人がいる分、よりタチが悪いって!!」

 

《………》

 

「なんでこんなデザインにしたんだよ!」

 

《……いえ》

 

 

こんなの俺がなのはさん大好きって言ってるようなもので、恥ずかしいたらありゃしない! と怒っていると何か言いずらそうにしているアインス。

 

 

「ん? どうした」

 

《バリアジャケットは本来、固有のものです。そして、それは術者がイメージしたものが大半、形を得るんですが》

 

「そんなのは知ってるって! でも俺、今回は」

 

《貴方の今のバリアジャケットは……"元からベースデータが"あったものです》

 

「は?」

 

《いえ……これについてはまた後ほど。そろそろアレもデータの収集を終えて動き出しますよ》

 

「っ!」

 

 

気づいた時にはすでに発射された死の象徴が目の前に迫っていた。回避しようと体が自然と動き出すが……重くて避けきれない!

 

 

「………く!」

 

 

迫ってきた顔面への攻撃に、どうしようもないと利き手ではない左手を犠牲にして前に出し……防ぐ。

 

くっそ、いきなり負傷……て、あれ? なにもこない……?

 

つい閉じてしまった目を開くと足元には……何かに阻まれたように先が曲がった鉄槍が転がっていた。そのまま視線を上げると白と青色の装飾が施された60センチほどの大きなシールドが2枚、俺を守るように浮遊している。

 

 

「………えぇ……? なにこれ……」

 

《ですから、防御にも特化していると言いました》

 

「にしても俺、別に操作とかしてないけど」

 

《自動防衛システムです。そしてそれは、"フォートレス"と呼ばれる武装のようですが……》

 

「一気に凄まじい単語が出過ぎて追いつかないんですけど」

 

 

今も放たれ続ける攻撃を読んだかのように自動で防ぎ続けるフォートレスというシールド。なにこれ、めっちゃ便利。

 

 

「無敵じゃんこれ」

 

《いえ、マスターの魔力を動力としていますし、物理攻撃ですので耐久はどんどん削られています》

 

「へー……」

 

 

目の前で動き続ける盾はかなり頼りになるようだけど、俺の低い魔力じゃそんなに持ちそうもない。

 

少し放心してみていると、向こうのガジェット側も攻撃を変化させてきた。次は……魔力砲か?

 

 

「おい、これは」

 

《問題ありません。リロードを》

 

「へ? ああ、これ?」

 

いつの間にか、手に持っていた長距離型魔導砲の横に付いたボルトを引く、コッキングすると、弾丸のようなものが2つ吐き出された。

 

そしてガジェットによって放たれた魔力による砲撃は……。

 

 

【Protection EX】

 

 

フォートレスから発動した桜色の魔導シールドによって全て防がれる。……強くない、これ?

 

 

「っ……?」

 

 

なんかふらっとしたような……?

 

 

《カートリッジシステムですか……しかし、多少は貴方の魔力も持っていかれます。乱用は危険ですね》

 

 

カートリッジシステム……なのはさんが使ってた圧縮魔力による補助で、一時的に爆発的な力を使えるってやつか。

 

けど、足りない分は俺から持ってかれるわけね……ならとっとと決着をつけなければ。

 

 

「カートリッジ、残弾は?」

 

《6発と予備が1本です。全てなのはの魔力が込められているようですが……マスター、"なんとも"ありませんか?》

 

「あ、ああ。……え、なにその不穏な確認」

 

《いえ、問題ないならいいのです。それよりも、目の前の敵を破壊します。……すでにもう一機の反応は消えましたから、新型はこれが最後です》

 

 

大きな白銀の龍が羽ばたく姿がこの距離でも見えた。その背には見覚えのあるふたりの少年少女の姿が。

 

キャロ、エリオやってくれたか。なら、俺も頑張らなきゃな?

 

 

「そっか。……なら俺たちも派手にかますか!」

 

 

横の持ち手を2回コッキングさせ、4発のカートリッジをリロードする。

 

 

【Conversion.Raising Blaster Standby】

 

 

レイジングブラスターって名前なのか、これ。……まんまなのはさんのデバイスから着けたな?

 

 

銃口へと収縮され、集められていく魔力の量は……もう俺からすれば桁違いの質と量。それに大型ガジェットも気づいたのか、突然上空へと飛び立ち始め……今、なのはさんとフェイトさんが空戦を行っている方に逃げ出す。

 

新たな敵の反応を感知したのか、空中のなのはさんたちがこちらに振り向き__俺と目があった。

 

 

「中距離しか攻撃できないと思って逃げたみたいだけど……やっぱり機械だな」

 

《ええ、所詮は応用が効かないポンコツです。わざわざ自分の味方を巻き込むように標準に入ってくれるとは》

 

 

__右手に力を込める。

 

自分の視界に入る、いやブラスターの標準の先となった中心の大型ガジェットを含め残滅できる飛行型の数は……ざっと20か。

 

集束させた魔力を解き放つための方法は至ってシンプル。右手で握ったグリップのトリガー部分を押すだけだが。

 

 

「————さんざん痛ぶってくれたんだ。遠慮せずに持ってけ!!」

 

【Full Charge.....Over 120%】

 

 

確か、なのはさんが使って集束型砲撃魔法の名前は__

 

 

 

 

「__スターライトブレイカーーー!!!!!」

 

 

 

《【Starlight Breaker-Exelion】》

 

 

 

 

 

音が消えて__砲身から放たれた白と桜色の魔力の本流は、一瞬で無機質な機械の兵団を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:15 ユメ

 

 

 

 

 

 

断片的な映像がつぎはぎに、無理矢理つなげられたように目の前で再生される。

 

 

夜の帳が下りた物静かなどこかの公園。

 

見覚えの無い場所で俺はただ、そこに立っていた。

 

まるで固定されたかのように自分の意思では動かない体。そして目の前には。

 

 

”————、————?”

 

 

聞き取れないが何かを伝えようと、少し焦った顔の……どこか見覚えがある少女。

 

背丈は小柄で、茶色の髪をツインテールまとめている。一見すれば、ただの子どもに見えるがその服装が……白い学校の制服のようなバリジャケットが彼女を魔導士と証明している。

 

 

「————。————?」

 

 

なぜか涙目となっていた少女に話しかけ始めた俺の口は、勝手に動いていて。けど、なにを言ってるのかはわからない。

 

けど、俺から出た言葉を聞いたであろう少女の顔は先程までの焦ったものはなくなり、少し落ち着くように深呼吸をして。

 

 

”————、————……”

 

 

また何かを伝えてくる。何だか大事なことのように思える。

 

でも……申し訳ないんだけど言葉が聞こえない以上、何を言ってるかは理解できない。

 

今も自然と動く自分の口の奇妙さに悶えながら、ただ目の前の少女を観察する。

 

どこかで、確かにどこかでみたような気がするんだ。

 

 

 

”————”

 

 

 

この困ったような顔を。

 

 

 

”————”

 

 

 

この悩むような顔を。

 

 

 

”————!”

 

 

 

この優しい笑顔を。

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

重い瞼がゆっくりと持ち上がる。

 

初めに目に入ったものは、いつかの訓練で運ばれた医務室の天井。

 

随分と気を失っていたのか、窓から入って来るのは太陽の光ではなく、薄い月光。

 

 

「…………」

 

 

重い体と魔力不足特有の怠い感覚と共に、自分が意識を失った瞬間を思い出した。

 

調子に乗ってカートリッジと残ったありったけの魔力を注ぎ込んで、なのはさんの技を模写したあの時。随分とハイになって忘れていたけど、満身創痍で慣れもしない武装をフルに使った結果、そのまま崩れ落ちたんだった。

 

 

《お目覚めですか、マスター》

 

「………ああ。……おはよアインス」

 

《おはようございます》

 

「任務、どうなった?」

 

《5時間ほど前に無事、完了しました。現在はスターズ隊が本局へとレリックを護送、そのほかのメンバーは休息といったところでしょう》

 

「そっか。なら安心だな……よっと」

 

 

上半身を医務室のベットから持ち上げて肩を回す。ろくに寝返りもうっていなかったのか、凝り固まってバキバキになっている体全体をほぐし、枕元に置いてあったアインスを手に取る。

 

む、随分と体が軽い……というか怪我してはずの部分がほとんど治ってるな。

 

 

《貴方の回復速度が異常というのもありますが……約2時間前まではシャマルによって、魔法治療されていましたから。余程酷いものだったのか、焦っていましたよ彼女たち》

 

「うわ、迷惑かけたな……たち?」

 

《はい。貴方が倒れる直前にレリックの確保は完了し、全て問題なく任務完了……だったのですが》

 

「………もうわかったから、それ以上言うな」

 

《バリアジャケットを解除すれば全身血まみれ。右腹部、左足、左手は貫通されて穴が空いたマスターを見た部隊陣の焦り方は》

 

「言うなって!!」

 

 

ペラペラと聞きたく無いことを楽しそうに報告してくるアインスに叱責するが、それを無視されてより耳を塞ぎたくなる言葉を責めるように淡々と羅列してくる。

 

やれ、スバルが取り乱してわーわーと叫びながら重体の俺を揺さぶって怪我が悪化したとか。

 

やれ、ティアナが罵詈雑言を気を失ったままの俺にぶつけながら唯一無事だった頭を叩いていたとか。

 

これだけでも頭を悩ませるのに、エリオとキャロなんて自分達のせいとかなり落ち込んでいたなんて話もしてくる。

 

トドメに。

 

 

《なのは、フェイトの泣き顔は滅多に見れないでしょう》

 

「………俺、もう少しここで寝てようかな……」

 

《馬鹿ですか、早く目を覚ましたことを報告しに行きなさい。体はほぼ回復しきっています》

 

 

嫌だなー、怒られるだろうなー……。

 

という本音を隠して体を起こし、扉を開ける。今は大体21時くらいだしみんな部屋に解散してると思うけど……一応、よく集まってる食堂は見にいくか。

 

もう随分と歩き慣れた六課の宿舎内を抜けて、玄関口まで歩いて行くと人の気配。

 

誰かいるのかな、とポケットに手を突っ込んだまま頭空っぽで様子を見に行くと、よく知る青い短髪少女とオレンジ髪のツインテの二人組が疲れたような顔で、ちょうど中に入ってきていた。

 

あれか、レリックの護送とかで出てたんだっけ? とりあえず声かけてみるか。

 

 

「おっす、お疲れ」

 

「ん、お疲れ。もうこんなに掛かるとは思わなかったわ」

 

「お疲れさまー。手続きとかってあんなに時間とられるんだね」

 

 

もうクタクタと首を回したり、どよんとした空気をまとったティアナとスバル。随分と長く時間を持っていかれて休む暇もなかったのだろう。

 

 

「そりゃ今回のはロストロギアだし、例外もあるんじゃないか?」

 

「こんなのは今回限りにして欲しいわ……で」

 

「本当にねー。………うん」

 

「なんで急にふたりで顔を見合って頷き合ってるんだ? とりあえず、ゆっくり休めよー」

 

 

じゃあなー、と振り返って本来の目的である食堂に向かおうと一歩足を踏み出した瞬間、両肩が誰か……というかティアナとスバルのコンビに掴まれた。

 

 

………いや、うん。アインスからさっきまでの二人を聞いていたから、なんか対応がおかしいとは思ってたんだけどね。

 

 

「…………あ、あの?」

 

「本当に……こっちが誰かさんを心配して超特急で帰ってきたのに、そいつはボケっとした顔で歩いてて」

 

「一言目が"お疲れー"なんて、ムカつくくらいボーっとした顔で言われるとは思わないよねぇ?」

 

 

振り向けない。別に押さえられているとか、言葉で止められているとかじゃなくて。とんでもない圧を感じる。

 

 

「は、ははは……いや案外平気だったというか……」

 

「出血多量に魔力不足で呼吸困難、さらには」

 

「3箇所の貫き傷によくわからない薬の副作用」

 

 

あら、薬のことまで全部バレてるのね。

 

 

「そんな状態の体だったはずなのに今は随分平気そうね?」

 

「うん、瀕死だったのに"今ならいつもみたいに"しても大丈夫そうだね」

 

「「で、言い訳ある?」」

 

「………………まぁいったん落ち着こう。な?」

 

 

恐る恐る振り返るとそこには。

 

 

「ふふ」

 

「えへへ」

 

 

すごく素敵な笑顔でそれぞれの利き手を振りかぶる彼女たちに俺は。

 

 

「ははは……はは……」

 

 

ただ乾いた笑いしか出なかった。

 

 

 

 

廊下で立ったまま俺は、同期ふたりから激しい……それはもう激しい説教を受けていた。

 

右側からはぷんぷんと怒こり続けるスバル。

 

 

「もー! 無茶しないって当たり前のことだよね!?」

 

 

バシっ!

 

 

「はい……」

 

 

左には絶対零度の目と呆れた口調のティアナ。

 

 

「スバルの言うと通りよ。誰だったかしら、カッコつけて"無事に任務を終わらせよう!"なんてほざいたのは?」

 

 

バコっ!

 

 

「本当にもう……おっしゃる通りです……」

 

 

「ここにきて一番心配したんだよ! 血は止まらないし、ピクリともせずに顔色悪くなっていくし!」

 

ドン!

 

「そのくせ満足しきったような顔で気絶してるとかアンタふざけてんの?」

 

ビシ!

 

 

「謝る、謝りますから蹴ったり殴ったりしないで………」

 

 

「「はぁ?」」

 

 

「生きててごめんなさい……!」

 

 

時間にして10分もの愛のあるお説教と鞭を頂いたとさ。

 

 

「許して……もうホント許して……」

 

「………これじゃあたしたちが虐めてるみたいじゃない」

 

「よしよし、怖かったね? でももう無理はしちゃだめだよー?」

 

 

頭を撫でる感触に顔を上げるとなんとも慈悲深い笑みを浮かべた天使のような子の顔が。今の傷心しきった俺の心を優しく包んでくれるこの人は……母さん?

 

 

「スバル……母さん……?」

 

「ちょっと? なんでそんな顔でスバル見てるの、あたしよりよっぽど殴ってたのその子よ?」

 

「ひぃ!?」

 

 

そうだった! 危うく騙されかけたけど、ティアナの2倍くらいポコスカ殴ってきたのはスバルの方じゃん! 

 

すぐさまティアナの後ろに隠れるように逃げ出す。

 

 

「あ……もう、しょうがないわね。本当に心配したんだから……気をつけなさいよ、ユウ」

 

「ティアナ……姉さん……?」

 

 

つんとほんの僅かな力加減で頬を突きながら、あまりに優しげな微笑みを向けられて静かに涙が出てくる。俺には姉がいたのかもしれない……?

 

そんなやり取りを見ていたスバルが再びぷんぷんと怒り出した。

 

おいおい、もしかして嫉妬かぁ? 悪いがお前の親友であるティアナ姉さんは俺の味方だぜ!

 

 

「ティアー! もー、せっかく懐き出したのに!」

 

「変なもの拾ってこないの。六課(うち)はペット禁止」

 

「本当はふたりとも俺のこと嫌いだろ」

 

 

ぽいっと捨てられて気づけば2対1になっていた。もう俺にはアインスしかいない!

 

 

「アインス!」

 

《もちろんですよ、私は貴方の味方です》

 

「アインスさん……!」

 

《ところでマスター、報告もせずに朝まで逃げ切ろうとしていた、なのはたちへの報告はいいのですか?》

 

「アインスさんっ!!??」

 

「へぇ、今の」

 

「どう言うことかな?」

 

「やめて! その顔で近づかないで! いやああぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

無限ループ。その怖さを知った数十分だったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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sts ミッション:16 上司様たちのありがたーいお説教?

 

 

 

 

「本っ当にそういうとこは小心者ね、アンタ」

 

「あれだけ心配させてたんだから、大丈夫ならすぐにでも報告行くべきだよ?」

 

「……はい」

 

「もう……なら、あたし達からはこれくらいにしてあげるから、早く行きなさいよ」

 

「ちゃんと謝ることを忘れないようにね。すごく動揺してたし、元気な顔見せてあげて」

 

「……はい……行ってくる……」

 

「はいはい、それじゃスバル。私たちは戻りましょうか」

 

「うん。あ、ユウ」

 

「まだ何か……?」

 

「もうそんなくよくよしないの、男の子でしょ」

 

「……あいよ。で、なんだ?」

 

「また今度部屋行ってもいいかな、今日も提出レポートで戸惑っちゃって……えへへ」

 

「んー、了解。適当に準備しとくよ」

 

「やった! ……あれ、ティアどうしたの?」

 

「………なんでもないわ。……ユウ」

 

「今度はティアナか。なんだよ」

 

「その、さ」

 

「?」

 

「あたしも今度、行っていい?」

 

「え? なんもないぞ、俺の部屋」

 

「………だめ?」

 

「いや、構わないけど」

 

「ん……それだけ。スバル行こ」

 

「………えっと、これは……ティア、意外と好感度高め?」

 

「いいから部屋帰るわよ!」

 

「あー! 待ってよ!」

 

「なんだ、一体?」

 

《さぁ?》

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

これから向かう先のことを考えて、重くなる足を動かしながらアインスと話すのは、あの列車で起きた戦闘でのこと。

 

ほぼ近距離しか攻撃範囲がなく、空中戦なんて絶望的だった俺になのはさんがくれた新しい力、ブラスターエクセリオンという遠距離専用収束魔法特化型フォーム。

 

攻撃できる範囲や、戦術への幅を広めてくれた上にカートリッジシステムなんていう、バケモノスペックを誇るもののデータをくれただけなら、ただ感謝して終わりなんだけど……気になるのはバリアジャケット。

 

本来ならバリアジャケット、魔導士の防護服となるものは術者のイメージから形を成して、生成されるオンリーワンな形がポピュラーで、管理局みたいな一部の増産型デバイスに標準装備されている例外を除けば、ある程度は初めの姿に固定される。

 

もちろんモードチェンジという例外は存在している……というか、なのはさんやフェイトさんは実際に複数の形態を持っているし、姿形も多少は変化する、が。

 

そんな前提条件があっても、あの時に俺が新たに得た姿は元のモード・プロトタイプのバリアジャケットからは程遠い姿……あのなのはさんのセットアップした姿と酷似しすぎていた俺の新しいジャケットには疑問が残るのだ。

 

 

「ここまでなんか間違ってるか?」

 

《いえ、全て正しいかと》

 

「ならなんだったんだよ、あれは」

 

《……私には封印処理がされている機能が、複数存在しているのはご存知ですよね》

 

「そりゃ、あんだけ"本来はもっと優秀ー"とか、"私の真の姿は別にあるー"なんて意味深なことを毎日のように聞いてればな」

 

 

封印されてるとは聞いてなかったけど、そもそもコイツはインテリジェントデバイスじゃないと本人が言ってたし。それに記録データが破損してるとか、作ったのがあの人だとかで胡散臭さもぷんぷんだからなぁ。

 

電光灯で照らされた廊下の天井を見上げながら、今更自分のデバイスの不明さや怪しさに気付き出す……けど、別に疑ったりはしてないし何かをアインスが隠してるとかも思ってない。

 

数年で構築された信頼関係はそんな簡単に壊れない。

 

もっといえば唯一の家族みたいな存在相手だったのだ。今更不信感なんて持てるわけがない。

 

 

《……ふふ、そうですか。私もそう思われていると分かっていても、"改めて想っていただける"のは嬉しいです》

 

「勝手に心を読まれるのは今でも慣れないけどな……ホント、どうなってるんだよお前」

 

《わかりません。こうして通じ合っているのは貴方だけですから》

 

「そーかい。……それで、結局あのエクセリオンってのはなんなんだよ」

 

《主武装"レイジングブラスター"に関しては、なのはから頂いた完全に新規のものでしたが……フォートレスやバリアジャケットに関しては、元々私の中に存在していたデータです。》

 

 

言っている本人、アインスですら不思議そうに語っているのを見るに、コイツもあの初換装時は予想外だったのか。……ふーん、元からあったデータねぇ?

 

 

「最初から使えなかったってことは、封印されてたものだったのか」

 

《その通りです。任務出撃前にデータをダウンロードした際、一部のロックが解除されましたが……まだ全てではありません》

 

「うーん……ロックされた中にあったのが、なのはさんとそっくりのバリアジャケットか。出来過ぎた話だけど」

 

《真実ですから、なんとも言えませんね。なのはからのデータには多少の彼女の魔力が込められていただけで、他に何か隠されたものがあったわけでもないので。実際、貴方の変わった姿を見た彼女の顔は驚愕していましたから》

 

 

気を失う前、最後の瞬間。なのはさんの収束魔法を模写したあの時に見えた彼女の顔は、驚くほどに動揺していたし予想外だったのは間違い無いだろう。

 

 

「そういや随分と驚いてたよな。……教え子が自分に似た姿に変わったら驚くのが普通だとは思うけど」

 

《私も一点気になることが》

 

「んー?」

 

《最後の収束魔法、あのスターライトブレイカーという攻撃ですが》

 

「ああ、別になんでもないさ。ただ見た目がなのはさんそっくりの姿だったし、魔法も収束型ってことであの人が使ってた一番強いのを見様見真似、名前も借りパクしただけ__」

 

《"見ていません"》

 

「? 何を」

 

《この課に来て……いえ、そもそもマスターが持つなのはのデータは私が知る限り、名前と姿だけのです。交流が増えた私生活や訓練中を含めても、なのはは一度もスターライトブレイカーという魔法を行使した記録はありません》

 

 

歩いていた足が止まる。

 

アインスの言葉を聞いて、自分の喉が嫌に乾いてくる。

 

 

「………何、を言ってるんだ? そんなわけ……勘違いとかじゃ」

 

《ありません。そもそも私のデータ上にもなかったはずのもの……しかしマスターがトリガーを引くと同時、いえ魔法名を口にした瞬間にあの技は"解除されました"。もう一度確認しますが》

 

 

どこでスターライトブレイカーという技を知ったのですか?

 

 

……そう言われても、今の俺の中にはしっかりとあの魔法のイメージが……なのはさんがレイジングハートを片手に巨大な黒い獣へと放つ姿が思い浮かぶ……?

 

 

「待て……あれ」

 

《マスター?》

 

 

右手で頭を押さえて必死に今思い浮かんだ光景を、ビジョンを思い出す。

 

霞むような映像だけど、しっかりと思い浮かんだものは……確かにその技を放つ……少女の姿が__?

 

 

「………っ」

 

 

ふらりと貧血のような眩暈が起きてたまらずに壁に手をついてしまう。何かをアインスが言っているけど、今はそれよりもこの頭に浮かんだ光景のことだ。

 

 

__違う、今のは違う。確かに似ていたけど、この頭に刻まれたあの光景は……あの女の子はなのはさんの歳から離れた幼い少女のもの。

 

そして奇妙なのは、あの娘の姿は夢で見てた女の子と同じ顔で……姿も似ていた。

 

混乱する頭を振ってもう一度、しっかりと先ほど浮かんだ記録とも言える光景を思い出そうとする。けど、その奥に、続きを追うように縋り付くだけで激しい吐き気と頭痛が襲ってくる。

 

これ以上は頭が割れそうで、ゆっくりと深呼吸をして……思い出すことを諦めた。

 

 

「………悪い、俺もわかんないや」

 

《そうですか。……酷い顔をしています。一度休まれては?》

 

「平気だよ。今は先にやんなきゃいけないことがある。……めちゃくちゃ気が重いけど」

 

《情けないことを言わないでください。もう目の前ですよ、目的地》

 

「げ……」

 

 

話に夢中になっていたせいで気づかなかったけど、もう目と鼻の先には食堂が。

 

いやー、ものを考え出すと他のことが目に入らなくなって、目標の場所を通り過ぎたりしちゃうんだよね。

 

今一度、服装や寝癖をチェックして深呼吸。

 

 

「よし」

 

《では、ご武運を》

 

「別に戦うわけじゃないんだけどね?」

 

《………そうですね》

 

 

なんか変な間があったけど、今はスルー。意を決して扉をゆっくりと静かに開き、中の様子を伺いながら入ると……残念なことに目的の3人が全員揃って何かを話していた。

 

しかも空気重めで、こっち側に顔を向けていたなのはさんとフェイトさんの表情は……盗み見た感じ落ち込んでる、のかな。

 

とりあえず耳を澄ませて会話の内容を失敬する。

 

えーと、なになに?

 

 

 

 

「じゃ、なのはちゃんたちの見たかぎり記憶はなさそう?」

 

「うん。あのバリアジャケット姿を見た時はもしかして、って思ったけど」

 

「ユウが目を覚ましてからじゃなきゃ、本当のことはわからないから……まだなんともだけど」

 

「ふたりともそう落ち込まないの! 怪我は全部完治してるみたいやし、あの薬もすぐに抜けてるから問題ないはずや」

 

「そう、だといいけど……あれって前の事件の時に本局へ送ったサンプルと同じだよね」

 

「……たぶんな。敵さんのだと思ってたけど、まさかこっち側のとは思わんかたわ。……管理局も一枚岩じゃないからなぁ」

 

「あんなものユウが使ってるなんて……でも、そういうところにいたってことだから」

 

「幸い中毒症状も出てないみたいやし、使ったのも今回が初めてか、多めに見積もって精々2〜3回くらいやって言ってたよ」

 

「シャマルさんに感謝だね。……でも情けないかな、私たちがいてこうなっちゃうのは」

 

「………大丈夫かな、ユウ。まだ目も覚めてないみたいだし、また……」

 

「大丈夫やって。それに今回の件はちょっとおかしいところが多いからなぁ……魔導殺しの武器が積んであるなんて情報もなかったし、きな臭いんよ」

 

「それにキャロたちが撃破した大型と、ユウくんの方が対応した機種が少し違ったのも気になるよね」

 

「キャロとエリオの方は飛行機能なんてなかったし、動き自体も単調だった。けど、ユウの方は」

 

「学習して成長しているみたいだった、よね? 戦い方も最初からユウくんを孤立させるために動いてたみたいやし」

 

 

 

 

めっちゃ難しい話してますやん……しかも、すごく大事そうなこと。

 

え、どうしよう。この中に入っていくのは空気が読めないどころか、完全に邪魔してしまうのでは……?

 

 

《今更怖気ずいてどうするんですか》

 

「って言われてもさ……あの空気だぞ?」

 

《別にやましい事をするわけではないでしょう。今の盗み聞きという状況のほうが大いに問題です》

 

「た、確かに……」

 

《納得されたならすぐに行きなさい。今すぐに》

 

「よ、よし!」

 

 

気合いを入れてしゃがみ込んでいた体勢から立ち上がる。堂々と入っていった方が印象はいいだろうし、万が一隠れているのを見つかる方が不味そうだからな、と足を伸ばした瞬間。

 

 

 

「なら、もう遅いし今日はここまでだね。私、ユウくんの様子見てくるよ」

 

「私も」

 

「もちろん私も。みんなでいこか」

 

「そうだね、じゃあ………ぁ」

 

 

いや、なんで? なんでそんなタイミング良く(悪く)立ち上がって、俺と目が合うの? ちょっと聞いてる神様?

 

 

《しばらくスリープモードに入ります。……ご健闘を》

 

 

「ちょっとアインスさん!?」

 

「なのは? ……あ」

 

「どうしたのふたりとも? ……はぁ」

 

 

つい大きな声を出した瞬間、視線が三つに増えた。驚いたような顔をした目線がふたつに、何かを察してため息とジト目のコンボを繰り出す計3つ。

 

ほんと、自分の自業自得っぷりに足が震えるぜ。

 

 

「………はは、こんばんわ……あの、お邪魔そうなので俺はこれで……」

 

 

ここは一旦引く。これは逃げではない……戦術的撤退であり、次の一手のための布石。

 

優秀な軍師は場と状況を見極め、その瞬間の最適解を常に判断する。だからこれは決して逃げ腰になっている訳ではないのさ。足が震えているのは武者振るいであると宣言しよう。

 

と、いうことで。すぐに回れ右をして自室へと__

 

 

 

「「「ユウ((くん))」」」

 

「……はい」

 

「こっちおいで」

 

「すぐにきて」

 

「観念しておすわりや」

 

「…………はい……ッ!」

 

 

戦術的失敗ですね、マスター。そんな憐れむ声が確かに聞こえたぞ、このやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正座。

 

それは床にひざまずき、手は控え目にひざの上へと置いて心を沈める正しき座り方。

 

一方で、それは足へと極度の負担をかけさせて、痺れを起こさせ苦痛を伴わせる一種の罰にもなり得る。

 

 

「__で、逃げようとしたって言うことやね?」

 

「はい……」

 

「はぁ……」

 

「もう……!」

 

 

正しい座り方という便宜はあるが、とんでもない苦痛を与えるこの独自の座り方は、以前まで全くと言っていいほど馴染みがなかった。

 

けど、六課で怒られる際は総じてこの体勢にさせれてきたからか、自然とその座り方になってしまう。……もう何回この座り方をしたかは思い出したくない。

 

 

「しかも体はもう平気なのに、私たちに嘘つこうとしたんだ。……ユウくんはほんとうに悪い子だねぇ?」

 

「それでも男の子なんか? 情けないわ」

 

「今のユウはダメな子」

 

「………はいぃ………」

 

 

最初はとにかく心配してくれた隊長たちも、どっかの休眠中(スリープモード)とか言ってたバカの一言で目の色が変わってしまった。

 

なーにが"これに懲りて少し反省してください"だ……! コソコソ隠れて様子を見てたことまで、きっちりとバラして行きやがって……!

 

 

「む! ユウ、他のこと考えてるでしょ」

 

「………いえ」

 

「ふふ、なんでフェイトちゃんから私の方に目を逸らしたのかな?」

 

「……………いえ」

 

「こっち向いても私の顔があるだけやで、ユウくん?」

 

「………………すみませんでした……っ!!」

 

 

3方向、どこを向いても恐ろしい顔をした人しかいなくて声が震える。

 

 

何、なら下を向けばいいって? はは、馬鹿言うなよ。そんなことしたら。

 

 

 

「どこに顔向けてるのかな?」

 

「お話をするときは相手の顔を見るのが基本、やろ?」

 

「……私、本気で怒っちゃうよ。ユウ?」

 

 

 

こうなるからなぁ……?

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

約1時間後。ようやくお許しの言葉がいただけた。

 

 

 

「__ふう。こんなもんかなぁ」

 

「そうだね。ユウくん、こっち座って」

 

「足痺れてない? 立てる?」

 

「………大丈夫です、はい」

 

 

 

 

もうそれはそれは思い出すだけで震えるくらいにお三方からこってり絞り切られた俺は、だらんと食堂の机の上に上半身を倒し込む。

 

 

………鬼だ。仮にも重症だった俺にここまでの事をするなんて、とんでもない鬼がいたもんだ。やっぱり六課は恐ろしいところです……!

 

 

悪魔のような姿になった隊長たちを幻視した俺は、今後の態度を改めようと心に誓った。

 

 

もう何があっても騙されないぞ、あんなに優しかったフェイトさんが一番恐ろしいとかなんの冗談だ。あの人のこと心のオアシスなんて呼んでた過去の自分の曇った眼をくり抜いてやりたい。

 

 

はやてさんもあの夜の一件から、みんなの見えないところであんなにベタベタくっついて来て……正直、勘違いしかけていたんだぞ。純情な心を弄ぶ悪魔じゃ、悪魔が潜んでいるんじゃ……!

 

 

そしてトドメになのはさん! なんだかんだと絶対助けてくれるし、こんな落ちこぼれ相手でも訓練後に残ってわざわざ気をつかって、ふたりっきりで秘密のトレーニングなんてしてくれた人だぞ。

 

"みんなにはナイショだよ?"なんて小悪魔ちっくに言われた時のトキメキを返してくれ。

 

 

もう2度と俺は騙されない! これは鋼の誓いだ!

 

 

強く決心した俺はバッと顔を上げ、今もきっと恐ろしい顔をしている彼女たちの表情を改めて心に刻もうとする。

 

もう決して惑わされないために! そう思っていた俺の視線に入ってきたのは。

 

 

「ごめんね? 足痛かったよね。……またユウの元気そうな顔見れてよかったよ」

 

「………聖母?」

 

「ホントにな。戦わせてる私が言うのはおかしいかもやけど……。でも、よう頑張ったね」

 

「……………天使?」

 

「すっごく心配したんだよ。もうあんな無茶しちゃだめ、約束。……助けてくれたのはありがとね。……かっこよかった、よ?」

 

「…………………女神?」

 

 

 

ものすごく優しげな表情した3人から一斉に涙が出そうな言葉をもらって困惑する。

 

どなたですか、貴女たちは。

 

まだ心配そうに、けれど本当に嬉しそうに微笑むフェイトさんに、優しく頭を撫でながらよく頑張ったと褒めてくれるはやてさん。

 

果てには、少し怒った顔をして話し始めたはずなのに最後は少し頬を赤らめて、俺が嬉しくなる(恥ずかしくなる)ような言葉をくれたなのはさん。

 

 

え、さっきまでの鬼のようで悪魔みたいな隊長たちはどこに? なんでそんなに慈悲深い顔できるんですか?

 

 

混乱した俺はされるがまま、彼女たちのアクションを全て受け入れていた。……安らぎは、ここにあった……?

 

 

《鬼と悪魔しかいないのではなかったんですか?》

 

 

はは。何を言ってるんだ。ここに居るには聖母に天使に女神だぞ、目が腐ってるのかお前は。

 

 

《………そうですか。はぁ………》

 

 

 

「もうムリしちゃ、め! だよ? ……でもエリオたちを守ってくれてありがとう」

 

 

「無理をするのは悪い子。けど、たくさん頑張ってくれたところはええ子やったよ」

 

 

「むちゃはもうホントにだめ。……そんなことにならない様にまた一緒に頑張ろうね?」

 

 

 

 

楽園はここにあった。……もう何も怖くない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 






《ところでマスターは、飴と鞭と言うのは知っていますか?》

「何それ。甘いものと物騒なもんが混在した変な言葉だな」

《……それで把握しました。もう結構です》

「?」


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sts エクストラミッション 鬼教導官とのスイートな1日:前編

エクストラミッション=間話。sts編のどこかで起きているちょっとした小話です。

※つまり主人公とヒロインがイチャつくだけ。


 

 

 

 

「なのはさんがワーカホリック気味、ですか?」

 

「そうなんよ……お休みもしばらく取ってへんし、少し心配なんよね」

 

 

とある日の夜。

 

滅多にない休暇前日ということで、本来は明日までだった報告書が今日中となり、ギリギリになってはやてさんへと提出しに来てみれば、そんな相談をされた。

 

いくら休日と言っても管理局を大元にする起動六課では、一度に全員を休ませるのは難しい。

 

そこで交代制での休暇申請を取り入れて、今回からそれが実施されたわけなんだけど。

 

 

「なのはちゃん、"みんな優先でー"なんて言って、気づいたら休み取ってなかったんよね……」

 

 

なんと我らが隊長にして、教導官なのはさんがお休みを入れずにひとり働き続けようとしていたらしい。

 

薄々気づいてはいたけど、俺たちの指導に自分のデスクワーク、さらには別の任務の出動をする姿を見かけるなのはさんが、ろくに休めているはずがない。

 

 

「ホントに仕事の虫というか、オーバーワーカーというか……それで、なんで俺にそれを?」

 

「ん? んー、深い意味はないんやけど。ユウくんならなんとかしてくれるかなーって」

 

「雑すぎますよ……というか休みを取ってない人をどうにかするなら、ここでは1番上のはやてさんが勝手に休暇を入れればいいじゃないですか」

 

 

そもそも休みを取るのは義務のひとつでもあるので、ここのトップであるはやてさんが一言、休めって言えば全て解決じゃないか?

 

てか、法律とか詳しくないけどさ。本人の意思云々の前にずっと働いているという事象そのものが、よろしくないことな気がする。

 

ほら、世間体とかあるし。もっと言えば何かの拍子にこれが責任問題にでもなって、誰が悪いんだーってなれば、ここの1番上であるはやてさんが困るはず。

 

俺の言いたいことがわかっているようで、苦笑いを浮かべているはやてさんを見るに……なるほど。

 

 

「それはわかっとるし、なんなら明日お休みにさせたんやけど……」

 

「自分の部屋で仕事をする可能性がある、ですね」

 

「そういうこと。それじゃ意味あらへんのよね」

 

 

仕事に真剣なのは嬉しいんだけど、と言葉を続けた呆れ気味のはやてさんの顔には心配も含まれていた。

 

なるほど、明日が休みかぁ……。

 

 

「うーん……スバルたちはまだ休みは先だし……誰かなのはさんとお休みが被ってて仲のいい人にどこかへ連れ出して貰えばいいのでは?」

 

「それが明日だとユウくんとなのはちゃんだけなんよ。他にもいるけど、数日の申請でとっくに出てるしな」

 

「へー……数日もお休み取れるんですね」

 

「普段はあんまり休めへんけど、まとまった休日を取ること自体は珍しくないよ? 1日しか申請を出さんかったのはユウくんだけやし」

 

 

まぁ、1日すら出さんかった隊長さんがおるから困ってるんやけどね? と再び困ったようにため息を吐くはやてさん。

 

俺としても、普段からお世話になっているなのはさんの現状を聞いてしまったからには、なんとかしたい。

 

 

「とりあえず、なのはさんに話を聞いてみます。せめて1日くらいゆっくりしてくださいって俺からも言ってみます」

 

「お願いなー。ユウくんが言ってくれるなら、それなりに効くやろうしね」

 

「別にそんな事ないと思いますけど?」

 

「それがそうでもないと思うよ? とりあえずよろしくな」

 

 

少し微妙そうな顔をして、去っていくはやてさんを見送ってから、どうしたものかと考える。

 

別に仕事をすることが悪い、と言っているのではなく、それが原因で倒れちゃったりしたら元もこうもない……それがはやてさんの言いたいことなんだろうけどさ。

 

 

「ガス抜きくらいはしなきゃ、パンクするよなぁ」

 

《いくら慣れていてもストレスは溜まるものです。マスターも最近は疲れ気味でしたし、どこかでゆっくりされる予定でしたよね》

 

「そうだな。適当に部屋でだらけるか、ミッドチルダの街でも見てこようかなって」

 

《でしたら、それになのはを誘えばよろしいのでは? もちろん彼女の都合次第にはなりますが》

 

「えぇ……」

 

《嫌なんですか?》

 

「そんなことないけどさ……断られた時のショックがね?」

 

 

苦笑いとともに言葉を濁されて断られるビジョンが頭に浮かび、気分が滅入る。

 

というか、なのはさんとかフェイトさん、はやてさんも男性関連の話題は結構シビアのものをよく聞いていたし、休日に俺からお出かけのお誘いをしても十中八九、断られるのがオチだろう。

 

あれだけの綺麗どころだから、本曲で別部隊にいた時もたくさん誘われていただろうに、そっち系の噂は一切無いのが証拠だ。

 

 

《チキン》

 

「うっせ」

 

《普段からお世話になってるんですから、声くらいはかけましょうよ。はやてにも頼まれていますし、誘うだけならタダです》

 

「でもタダほど高いものは無いという言葉がな?」

 

《少しくらい高いものの方が質はいいです。貴方もなのはと関係を深めたいと思ってはいるんでしょう?」

 

「そりゃ、任務もあるしな。……うーん、行くだけ行ってみるか」

 

《はい、それがよろしいかと。予想ですが貴方が危惧しているようなことは起こらないと思います》

 

 

アインスとの会話で渋々ながら向かうのは、なのはさんとフェイトさんの部屋。

 

六課に来た初めのころは、生活していた部屋だし迷うこともなく目的地へと到着する。

 

……まぁ、誘うだけなら別になぁ。

 

少し躊躇しつつもコンコン、と扉をノックすればすぐに返事が返ってきた。 

 

返事とともに扉が開かれて、ラフな格好のなのはさんがキョトンとした顔で現れる。

 

 

「はーい。あれ、ユウくん? どうかしたの?」

 

「こんばんわ。今って時間大丈夫ですか?」

 

「うん。特に何もしてなかったし、今日は私ひとりだから」

 

「フェイトさんはまだ本局に?」

 

「そうなんだよー、明後日までだったかな」

 

 

入って入ってーと部屋の中に招かれて、少し雑談。内容はちょっとしたことばかり。

 

会話をしつつ、なのはさんの様子を見ながらチラリと机を確認してみれば……やはり俺が来るまで何かの資料を作成していたのか、作業中のまま止まった画面が表示されていた。

 

こりゃ、はやてさんの予想通りくさいな。

 

 

「それで、ユウくんはどうしたの? 寂しくなっちゃった?」

 

「だから子ども扱いしないでくださいよ……」

 

「えへへ、ごめんね。でも本当に何かあったの? ユウくんの方から私の部屋に来るのって珍しいよね」

 

「あ、えっと……」

 

「?」

 

 

よくよく考えてみれば、なのはさんたちから俺の部屋に遊びに来ることはあっても、俺から行ったことはない。

 

別に意識してなかったけど、今この部屋には俺となのはさん2人きり。あれ、なんか緊張してきた……?

 

 

「もぅ、どうしたの?」

 

 

ツン、と頬を突かれた感触で泳いでいた目が前へと定まる。

 

視線の先にはテーブルへと乗り出して、頬を突いてくる困ったような微笑みを浮かべるなのはさんの顔が、思ったよりも近くにあった。

 

うぐ……なんか変な雰囲気になりかけてる……? まずい、早いこと誘って断られよう。

 

 

「あの、なのはさんって明日はお休みですよね?」

 

「そうだよ。はやてちゃんがお休みにしてくれたんだ。……あれ? なんでユウくんが知ってるの?」

 

「はやてさんから聞いたんですよ。それで、何かすでに予定とか入っていたり……?」

 

「たまった分の書類とか作っちゃおうかなって」

 

「それ、休みじゃないですよね?」

 

「にゃはは……でもほかにすることもないし、私以外はみんな訓練とかあるから、遊びにもいけないからね。何もしないで1日終わっちゃうのはもったいないでしょ?」

 

 

………む、なのはさんは俺が休みなの知らないのか?

 

 

「え、と……よかったらなんですけど」

 

「うん?」

 

「明日は俺と過ごします?」

 

「………………ふぇ?」

 

 

俺の言葉の意味が理解できなかったのか、ふにゃふにゃの鳴き声がでて、ポカンとした顔になった教官さま。

 

なんとも間抜けな顔だな、おい。こんな顔見たことないぞ。

 

それから数秒たったくらいだろうか? 少しずつ頬に赤みが刺して、もじもじとし始めたなのはさん。

 

……思っていたリアクションと違うもので、ちょっと嫌な予感。

 

 

「ユウくんも、明日お休みなの?」

 

「たまたまですけどね」

 

「だから、私を誘ってくれたの?」

 

「一応、お時間があれば、くらいですけど。何か予定があればお気にせずに」

 

「だ、大丈夫! うん、大丈夫!!」

 

 

妙に気合の入った返事ですね。なんか様子おかしくない?

 

それにどんどんモジモジ度が上がっていくし、目線もあっちこっちへと挙動不審のようになっている。

 

どれくらいそれが続いたか、少し落ち着いたなのはさんが、意を決したように口を開く。

 

 

「あの、聞きたいことというか、確認なんだけどね?」

 

「はい」

 

「これって、私とユウくんのふたりだけでってこと?」

 

「そうですね、他に誰もお休みはいませんし」

 

「…………ぅ」

 

「なのはさん?」

 

 

より赤みを増すなのはさんを見て、頭にハテナが浮かぶ。なんだろう、本当は体調が悪いのかな。

 

無理はさせられないと、断りの言葉を入れようとした時、先に彼女の方から少し弱った声音でまた確認がとられる。

 

 

「そ、それってさ」

 

「はい」

 

「で、でーと……ってこと、かな?」

 

「はい?」

 

「私、そういうの経験ないけど……それでも良かったら……」

 

 

でーと……デート? あれ、なんかおかしい気がする。

 

目をぐるぐるさせて混乱したなのはさんに、少し焦り始める。

 

 

「あ、あの?」

 

「別にお誘いをもらったことがないとかじゃないんだけどね!?」

 

「別にこれはデートとかじゃなくて……」

 

「男の人と2人きりでお出かけするなら、やっぱり好きな人とが良いというか……でも私、ずっと想ってる人がいてね!?」

 

「聞いてます? あれ、おーい?」

 

「昔からずっとなんだけど、もう会えないと思ってたから、あれでもその人は目の前に? え? あれ!?」

 

「ちょ! なんでそんな目を回してるんですか⁉︎ 煙、頭から煙出てますって!?」

 

 

ばたんきゅー。

 

混乱した末にキャパオーバーになったのか、パタンと机に上半身を倒れ込ませた上官さまに慌てて駆け寄る。

 

おいおい、まだ目がぐるぐるしてるじゃん……てか、何をこんなにテンパっているんだ。

 

恐る恐る声をかけてみるけど。

 

 

「なのはさーん? 聞こえますー?」

 

「へにゃぁー……」

 

「……ダメだこりゃ」

 

《思ったよりそっちの耐性がないようですね。……ふむ、男女の付き合いは今までに無さそうですか》

 

「何を考察してるんだ、お前は」

 

《ひとまず休ませてあげましょう。……普段は少し距離を取りがちな貴方から迫れば、こうもなりますか》

 

「別に壁とか作ってるつもりないんだけど」

 

《なのはたちから誘われて行くことはあっても、マスターから誘うことはないでしょう。そういうことです》

 

「?」

 

《……はぁ》

 

 

それから少しの時間を経て復活したなのはさん。まだ赤みがかった頬を隠すように、少し俯いたままの彼女からの言葉は。

 

 

「……ユウくんがよかったら……一緒に、ゆっくりしたいな」

 

「…………え、と。了解です」

 

「………うん。……楽しみに、してるね?」

 

 

上目遣いで、緊張したようにオッケーをいただいてしまったとさ。

 

 

………お部屋デートって、マジ?

 

 

 

 

 

 






ほのぼのした特別なお話シリーズ、スタート。不定期ですがちょこちょこ挟んでいく予定です。

第一弾はTwitterの方でリクエストをいただいた、なのはさんとの小話。

このシリーズは糖分マシマシなので、ちょっとだけ注意です。


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sts エクストラミッション 鬼教導官とのスイートな1日:後編

 

 

 

 

普段はゆっくりと自分だけの時間を過ごせるプライベートな空間。

 

寮という性質上、身近に友人や上司が住んでいるという点を除いても基本的に気を抜ける唯一の癒し空間。

 

さらに今日は久しく貰っていなかった休日で、どんな格好をしていようが、例え昼まで眠りこけていたとしても、誰からも怒られることはない……はずだった。

 

 

「お、おはよ。……きちゃった」

 

「は、早いですね。えっと、とりあえずどうぞ」

 

「うん……お邪魔します」

 

 

今はまだ9時前と普段なら朝礼を終えた時間くらい。けれど今日はお休みということで、部屋の中でだらけて1日を浪費するつもりだったけど、ひょんなキッカケでなのはさんが部屋に遊びに来ていた。

 

別に俺の部屋へと誰かが遊びにくるのは初めてじゃないし、特に意識することもこれまではなかったのだけれど。

 

休みの日に二人きりという字面。

 

さらには女の人と前日に約束して、となると流石の俺も緊張するわけでして。

 

扉の前にいつまでも居てもしょうがないと、部屋の中へと招き入れたなのはさんとふたり並んで沈黙してしまっているのが現状。

 

妙な雰囲気になっているのを自覚しつつも一旦、落ち着くために座って会話でもするのがいいのだろうか?

 

少し挙動不審な様子を見せるなのはさんは、いつもの管理局の制服ではなくTシャツに短めのハーフパンツ、そこにパーカーを来たラフな格好。

 

普段目にする乱すことなくきっちりと着た制服姿。気を抜くような仕草を見せない超優秀な空尉の姿は鳴りを潜めて、お淑やかな雰囲気と休日用の服装が普段とのギャップを起こして大変なことになっている。

 

改めて綺麗な人だなぁ、と他人事のように考えるけど、そんな人が自室に来ているという現実からは逃げられない。

 

 

「……立ったままなのもアレですし、ひとまず座ります?」

 

「あ……う、うん」

 

 

ひとまず俺は自分のベットの上に座って息を吐く。

 

成り行きで結局部屋に呼んでしまったけど、こっからどうすればいいんだ……! 何度かなのはさんもこの部屋に遊びに来たことはあるけれど、必ずフェイトさんやはやてさん、ヴィータさんといった副隊長たちも一緒だった。

 

みんな訓練中で今寮には誰もいない。そしてその中の一室、個室である俺の部屋には美人な上司とふたりきりとか、どこのラブコメ世界のシチュエーションだ?

 

こんなことをスバルたちや他の隊長陣にバレでもしたら、風紀的にも倫理的にもすごくマズい。主に男の俺が。

 

本当にどうしよう、と頭を抱えていると。まだなのはさんがそわそわとしながら、立ったままなのに気づく。

 

 

「どうかしました?」

 

「ぇ……うん。……好きなところに座っていいの、かな?」

 

「? はい、座布団代わりで申し訳ないんですけどクッションにでも__」

 

 

座ってください。と続ける前になのはさんは自然と俺の隣へとそっと腰をかけた。………隣?

 

何が起きたかを頭が理解する前に自然と顔が横へと向いて、もうほんの数センチ先にいる俯いて前髪で目を隠した女性の姿が目に入った。

 

なんだ、この超展開は。いや、もう既に何度か一緒に寝た仲ではあるんだけれど、あの時とは雰囲気とか仕草、空気感が違いすぎてあの時の比じゃない緊張感と静寂が場を包んでいる。

 

それに耐えられず口を開く。

 

 

「ななな、なのはさん? あ、あの何故に隣へお座りになったので?」

 

 

少し震える声音と変になった口調で、そう問いかけてみると。

 

 

「……イヤ、だった?」

 

「イヤじゃないです」

 

 

上目遣い&寂しげな表情でそんなことを聞かれて、頭で判断するよりも早く口が勝手に喋り始めていた。

 

ホントはかなりキャパオーバーで、すぐにでも離れようと思っていたけれど、よくよく考えてみれば今のこの状況って一男としてメチャクチャにラッキーなのでは?

 

即答した俺に少し目を見開いたかと思うと、くすぐったそうに微笑んで……またほんの少しだけ距離が詰められる。

 

 

「……ふふ、そっか」

 

「………は、はい」

 

「ね、もう少し近くに行ってもいい?」

 

「ぅえ!?」

 

 

それ以上ってもう触れ合っちゃいますけど!? 流石に無理無理!!

 

 

「……ダメ?」

 

無問題(もうまんたい)!」

 

「ありがと。……くっついちゃったね?」

 

 

俺は……弱いッ!!

 

 

確かに言葉通り近づいた距離はほんの少しだけ。

 

けど、元からほぼゼロ距離と言っても良いくらいに近かったゆえに、今はピッタリと肩と肩がくっついて、なのはさんからの体温が布一枚を通して感じられてしまっている。

 

壁に預けていたはずの背中はいつの間にかピンと姿勢が正しくなり、ほんの少し体重を俺に預けて寄れ掛かっているなのはさんを支える無言の柱となっていた。

 

 

「…………」

 

「……えへへ」

 

 

時折、上機嫌そうな上官様の声だけが部屋に響くだけで、それ以外はただ静かに時間が過ぎていく。

 

どれくらい経ったころだったか。なのはさんが不意に言葉をこぼし始めた。

 

 

「今日さ、なんで私のことを誘ってくれたの?」

 

「へ?」

 

「だってユウくん、あんまり自分からこういうことしないでしょ」

 

「そんなこと……あります、ね」

 

「うん、だからなんでなのかなって。……誰かに言われた、とか?」

 

 

よくよく考えてみるとこの状況は結構不自然で。

 

フェイトさんやはやてさんたちに比べれば、俺となのはさんはまだ交流も少ない方だろうけど、ほぼ毎日顔を合わせている。

 

だから少し考えれば、今の現状がおかしい事くらいすぐに気づくだろう。

 

さて、ここで素直にはやてさんの名前を上げれば違和感もないと思う。でも何かを期待したように見つめてくるなのはさんの目線と言葉にどうしたものか、と少し悩む。

 

どう思いますか、アインス先生。

 

《嘘、ダメ絶対》

 

はい。

 

《ですが、女性の気持ちを踏み躙るようなことはもっとダメです。うまく立ち回りなさい》

 

急に無理難題言うじゃん。

 

………うーむ、嘘はよくないよな。なら。

 

 

 

「そう、ですね……白状するとはやてさんから少し相談を受けました」

 

「……うん」

 

「休みなのに自室で働こうとする仕事中毒の困った隊長さんがいるらしいって、困ってましたよ?」

 

「ぅ……はは……その、別に休憩とかはするつもりだったよ?」

 

 

顔を逸らして誰でも嘘とわかる反応をするなのはさん。誤魔化すように笑っていたけど、最初の言葉ではどこ残念そうな顔をしたのを見逃さない。

 

始めは確かにはやてさんからの一言。けれど、今日こうして彼女を誘ったのは俺自身の意思。

 

 

「そっか、そうだよね。うん、ごめんね。心配かけて」

 

「いえ。……あとは、そうですね」

 

「?」

 

 

キョトンとした顔。

 

もう他に理由がないと思っていたのか、不意をつかれたような表情になっているなのはさんに、もうひとつの嘘偽りない本音を言葉にする。

 

 

「もっとなのはさんと仲良くなれたら嬉しいな、なんて思ったからです」

 

「………ぇ」

 

最初(キッカケ)は、はやてさんからの相談っていうのは本当のことですけど。結果としてなのはさんのところに行ったのは自分の意思ですから」

 

「………」

 

「今思うと、確かにこれまでの人生で自分から誰かを何かに誘うとかは無かったですから。よくよく考えるとなのはさんが初めてですね」

 

「…………あぅ」

 

「別に人見知りとかじゃないとは思うんですけど————ってどうしたんですか?」

 

 

いつの間にか、完全に顔を下に向けてしまっていた教官さまに声をかけるも反応なし。

 

少し気になって同じように体を下げて顔覗き込んでみると。

 

 

「っ!」

 

「いや、"ぷい"じゃないですよ……どうしたんすか?」

 

「ま、待って。ちょっとだけ待って……っ!」

 

「えぇ……」

 

「不意打ちはずるいよぉ……!」

 

「不意打ち……?」

 

「なんでもないの! こういう時は聞こえないフリしてっ!」

 

 

なんかすごい理不尽なこと言われてませんか……?

 

それから5分ほど経ったくらいか、息を吐きながら顔を上げたなのはさんの顔は少し赤みがかっている。

 

 

「………むぅ」

 

「なんでジト目なんですか? え、なんでつねってくるんですか」

 

「ばか」

 

「なんで罵倒されたんですか?」

 

「知らないっ」

 

 

女心と秋の空。さっきまでの浮ついたような空気と感情はどこへやら。

 

少し怒ったようにジト目で二の腕をつねってくる上官さまの心情など、俺にわかるはずもなく。時折、罵倒を絡ませながら幼い子どものようにぽこぽこと叩いてくるなのはさんに苦笑いをこぼすしかない。

 

いや、怒ってるのは伝わってくるんだけど、そんなふうにされても可愛いだけなんですよ。

 

 

「もう! 何笑ってるの!」

 

「え? あ、いや……はは」

 

「私、すっごく怒ってるの!」

 

 

なんか幼児退行してないか、この人。

 

でもいくら子どもっぽい反応されても、上官は上官。それにせっかくのお休みを不機嫌なまま過ごすのは俺としても、あまり良くないし一応機嫌くらいはとったほうがいいのかな?

 

ぷんぷんと(真剣に?)怒っているなのはさんを、なるべく刺激しないように恐る恐る声をかけてみる。

 

 

「あの、なのはさん」

 

「……ふん」

 

 

いや、"ふん!"て。

 

だから、そんな反応されても可愛いだけだって……これ、狙ってやってないからタチ悪いよなぁ。

 

心の中でつい呆れてしまいながらも何度も謝るが一向にご機嫌斜めのまま、そっぽを向かれてしまっている。……なぜかピッタリとくっついたままではあるが。

 

もう何も思いつかずに弱った末、どうしたら良いのかと本人に聞くことに。

 

 

「いやもうホントに……どうしたら機嫌直してくれますか?」

 

「え? え、えーと」

 

「……ん?」

 

 

急に焦り始めたなのはさんに違和感を覚える。

 

……まさかとは思うけど、この人自身も途中から何も考えずにただ、ノリで怒ってたのか?

 

 

「まさかとは思いますけど、高町隊長?」

 

「ち、違うんだよ? 別に途中から"困るユウくんを見るの楽しいな"なんて思ってないから!」

 

「へぇ……隊長殿は随分と良いご趣味をお持ちのようで?」

 

「違うんだってばぁーー!!」

 

 

今度は俺がジト目になり、なのはさんが焦り出すという逆転現象が起きた中で、あわわとしながら混乱したように目を回しつつ彼女が口にした内容は。

 

 

「う、うう……な、なら甘やかして! ほら、私偉いから!」

 

「はい? あの、大丈夫ですか?」

 

「良いから! もう!」

 

「慌てすぎてボキャ貧になってますけど……甘やかす?」

 

「そう! 普段は忙しくて疲れも溜まってるし、癒やしを提供して! ね!?」

 

 

完全に混乱した様子で、ピヨピヨと頭の上にひよこを回している教官のご命令は"甘やかせ"。

 

甘やかすって言われてもなぁ……うーん。

 

 

「どんなことして欲しいんです? 俺にできることならしますけど」

 

「え!? えっと……」

 

 

何をして欲しいか、それを聞いた途端にまたあわあわし始めるなのはさん。うーん、なんて言いながら悩みつつ。

 

ちらり。

 

と俺の顔をたまに見ては、また悩み出すのを何回かした後。

 

意を決したような顔をして、ずいっと顔を近づけてきて随分と緊張した顔で口を開く。

 

 

「なんでも、いいの?」

 

「は、はい。俺ができることなら、ですけど」

 

「…………な、ならさ」

 

 

ゴクリ。

 

あまりの真剣さに何を要求されるのか想像が付かずに、つい喉が鳴ってしまう。

 

なんだ? 一体何を__

 

 

 

 

「私のこと、後ろから抱きしめて欲しいの」

 

「…………………………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは……近い、ね」

 

「………………うす」

 

「ユウくん、結構体温高いんだ」

 

「…………そうですかね」

 

「あと、すごいドキドキしてる」

 

「………………うす」

 

 

それはそうだろう、なんて声が出そうになるのをすんのところで飲み込む。

 

自分の頬のすぐ横。

 

もう吐息すら感じるほどの距離から聞こえるなのはさんの声に、ただ頷くか短い返事をすることしかできない。

 

視線をちょこっと横に逸らせば、今までに経験がないほどに近い位置にある女性の顔。しかも、飛び切りの美人で追い討ちに表情は照れるかように微笑んでいるとか、どう反応して良いのかわからない。

 

改めて自分が今どんな体勢をしているかを俯瞰する。

 

自分のベットの上で壁に背中を預けて、なのはさんの脇の下に自分の腕を通してお腹あたりを抱きしめている……うん、完全に恋仲がするような体勢だね、はは。

 

体の内側で感じる柔肌を無視して深くは考えないようにただ、じっと目の前の壁にあるデジタル時計の秒数を見つめ続けていると。つんつんと頬をつつかれる。

 

………いや、誰が突いてきているかなんて分かっているんだけどね。この状態では、とぼける気にもならない。

 

 

「目、据わってるよ。もう……話聞いてたの?」

 

「聞いてますとも。ええ、聞いてます」

 

「じゃあ、次の……お願い」

 

「…………」

 

「ユウくん?」

 

「……すみません、聞いてませんでした」

 

「ほらー」

 

 

クスクスと笑ないながら俺の胸に体が寄りかかってくるなのはさん。もう、これは一種の拷問なんじゃないだろうかと錯覚を持ち始める。

 

なのはさんからのお願いは、"私のことを子どものように甘やかしてほしい"というもので、まず強請られたのはハグ。

 

それも後ろが抱きしめる今の形。これは果たして友愛とか親愛とかそっち方面なのだろうか? 本当に小さな子どもへ"こういう事"をするならまだしも、相手が相手。

 

正直、どうして良いのかが分からずされるがままになっている。……だから話もあんまり聞いていない。

 

しょうがないなぁ、と楽しそうにしながら俺が聞き逃した彼女の次の要求とは。

 

 

「ね」

 

「はい」

 

「いちゃいちゃ、しよっか?」

 

「————」

 

 

絶句だよ。

 

 

「それは、もう甘えるとかのレベルではないのでは……?」

 

「少しおまけしてくれても良いと思うけどー?」

 

「おまけ……? おまけ、おまけ……?」

 

 

自分の中にある"おまけ"というものの概念が崩れていく。すでに甘ったるいこの空気感とシチュエーションでこれ以上どうしろと。

 

言われた言葉を噛み砕くだけの理解力がなく、固まってる俺に"早くー"と急かしてくる歳上お姉さん。

 

 

 

「ご、ご要望は?」

 

 

「……たくさん可愛がって?」

 

 

「………………………」

 

 

 

この日の記憶は全て消そう。

 

 

そう、誓いを立てて俺は……なのはさんとめちゃくちゃイチャイチャしました。はい。

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

「お、ユウくんおはよー。……なんでそんなにげっそりしてるん?」

 

「俺、ここの訓練ってだいぶ過酷って思ってたんですけど」

 

「うん」

 

「そんな事ないんだなって、"わからされ"ました」

 

「……昨日っておやすみやったよな?」

 

「ええ。ホントに充実した1日でしたとも」

 

「そ、そか。それはよかったなぁ……? あ、なのはちゃん」

 

「!?」

 

「おはよー。あ……え、えと……ユウくんもおはよ」

 

「…………おはようございます」

 

「………うん。……えへへ」

 

「……ははは」

 

「…………ほーん?」

 

「それじゃ。またあとで、ね?」

 

「………はい」

 

「ユーウーくん?」

 

「……なんすか」

 

「じっくり聞こうか。なんや、今の付き合いたてのカップルみたいな頭ハッピー(砂糖漬け)の会話は?」

 

「もう……」

 

「?」

 

「もう、楽にしてください……っ!!」

 

「待って? 本気で泣くのは予想外やから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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