マシュ・キリエライトは告白されたい (とやる)
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デート大作戦

 人理継続保障機関フィニス・カルデア──!! 

 

 それは人理の未来を語る資料館。

 魔術だけでは見えず、科学だけでは計れない世界を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために標高6,000メートルの雪山に作られた特務機関である。

 

 かの王により行われた人理焼却事件も結末を迎え、カルデアには平穏な日常が戻ってきていた──。

 

「むぅ」

 

 しかし!! しかしである!!! 

 だからこそ生じる悩みもあるのだ!! 

 

 平穏──それは思考のゆとりを生む。

 すなわち、今まで考えられなかったことへ思考が及ぶということに他ならない! 

 激動の非日常から緩やかな日常を取り戻した少女──マシュ・キリエライトは悩んでいた。

 

「…………むぅ」

 

 それはもう真剣に悩んでいた。

 

 頭を悩ませるのは彼女の先輩──ともに7つの特異点を駆け抜けた人類最後のマスターのこと。

 

 グランド・オーダーを完遂して早1ヶ月。

 いざ人理修復の旅を思い返し、彼女は思った。

 

「先輩から告白されたい」

 

 告白──それは意中の異性へ溢れる想いを伝える青春の一大イベント! 

 その恋が実にせよ実らないにせよ、それは思い出となって人は成長していく。

 そう──彼女は人理修復の旅の途中、何度も先輩へ好意を伝えたのだ。

 しかし! 肝心の先輩からは直接的な言葉はないのである! 

 

 態度から恐らく自分のことを嫌っていないのは分かる。

 むしろ強い好意を抱いてくれているはずだ。

 だが! 度重なる幾度のアプローチをスルーされ続けたマシュは次第にこう思うようになった。

 すなわち、ここまで私が頑張ってるのに先輩から何もアクションがないのは納得いかない──そんな感情である。

 

 思い返すのはこれまでの自分の行動。どれだけマスターが特別かも伝え、ちょっと大胆な衣装で単純接触効果を狙って見たりもした。恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかったが、エッチな格好を見せたこともある。

 

「私はこんなにも伝えているのに」

 

 先輩は明らかに自分を女の子として見ている。大切な仲間とか、信頼している相棒とか、そんな少年漫画のお茶濁しのようなものではない。自分を! マシュ・キリエライトを! ひとりの女の子として意識しているのだ! その確信がマシュにはあった。

 

 しかし、肝心な先輩は自分に好意をそれとなくでも伝えたことがあっただろうか。否! 否である! 先輩から直接的な言葉はもちろん、態度もなにもないのである! 勿論、とても言葉では言い表せないほど大事なものを貰った。それは尊く、生涯この胸に大きな温もりとなって残り続けるだろう。

 

 当然ながら、女の子として意識している=好きということにはならない。マスターとて思春期の少年なのだ。距離感の近い積極的な女の子がいればそりゃ意識もするだろう。

 だが──気づかない。マシュはそのことに気づかない。マシュの脳内では先輩→マシュの矢印が既に出来上がっている! 

 

 つまるところ、ここまで素っ気ない態度をとられて自分から告白するのは釈然としないのだ。自分の事が好きなら先輩から告白して欲しいのだ。

 大好きな人から、好きだって言って欲しいのだ。

 

「なんとしても、先輩に告白させてみせます!」

 

 繰り返そう、この矢印はそもそも前提が間違っている可能性がある! 

 しかし! カルデアの自室にてひとり決意を固めたこの一瞬、この瞬間から、マスターのことが大好きなマシュ・キリエライトの[私に告白させてみせる大作戦]の開始を告げるゴングは高らかに鳴り響いたのだ! 

 

 

 ☆

 

 

 ひとり決意を固めてからはや数日。マシュは練りに練った作戦を決行しようとしていた。

 その作戦とは、

 

「先輩からデートに誘ってもらいます!」

 

 デート!!! 古来より男女の仲を深める手段として存在する王道の手法!!! 勿論、既に懇ろの仲にあった男女もデートによって楽しいひとときを共有する。

 

 ここで大事なのは、デートとはある程度親密な男女で行われるということだ。最近ではむしろデートしてから──といった行動も見られるため、必ずしもそうといったわけではないが、少なくともマシュの中ではデートとはそういうものだった。

 

「私に好意を寄せている先輩が私をデートに誘う。これはもう告白しているようなものです!」

 

 作戦はこうだ。

 今の時間、レオニダスさん達とのトレーニングを終えた先輩はマイルームでゆっくりしている筈だ。

 そこに先輩を労う程でお邪魔し、ダヴィンチちゃんから渡すように頼まれた資料の中に自分が用意した[オルレアンの絶景10選]と印刷された冊子を混ぜる。

 ダヴィンチちゃんが至急確認してほしいと言っていたと言えば、先輩はすぐに資料を確認し始め、マシュが忍ばせた冊子にすぐさまたどり着く筈だ。

 案外綺麗な景色といったものが好きな先輩は必ずそこで手を止める。

 

 ──あ、とても綺麗なところですね……。そういえば、先輩ってこういうの好きでしたよね。行くんですか? 

 

 そこですかさずマシュがこう言えば、元より興味があり行く気満々のマスターはその場ではこう言う他はない。

 

 ──マシュも一緒に行く? 

 

 と!! 

 

 実はこの[オルレアンの絶景10選]にセレクトされているのはどれも恋人や新婚の夫婦が訪れる、いわゆるラブパゥワー的な名所ばかり!! しかも一目では分からぬよう表紙は「ただの絶景ですが何か?」感を醸し出すポップなフランスの大自然の文字!!! 

 

 ──先輩。恋人が訪れるラブパゥワースポットに、私と。私と一緒に行きたいんですか。へえ。そうですか。

 

 それは必然的に、あなたとそうなりたいという意思表示にもなり得る!! 

 

「ついに先輩から……ふふ」

 

 照れるようにはにかむマシュは成功を確信していた!!! 

 

 

 ☆

 

 

「すぅ……はぁ。よしっ」

 

 先輩のマイルームの前で深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 緊張する。

 先輩が告白してくれるシミュレーションは幾度となくしてきたが、いざそれが目の前にあると思うと、恥ずかしさや照れくささ、それに何よりも心の奥から湧き上がってくる嬉しさで胸が苦しくなってしまう。

 

 この[デート大作戦]は、先輩の背中を押すためのもの。ちょっと場を整えて、告白するしかないような状況になれば、先輩はきっと私に想いを伝えてくれる。

 

「そうしたら、先輩と私は……」

 

 幸せな未来予想についつい頰が緩んでしまう。

 だって、しょうがないだろう。

 あの日、燃えるカルデアスの側で手を伸ばしてくれたときから。ずっと、ずっと好きだったのだ。

 

 どれだけアプローチしてもちっとも態度に出してくれないへたれな先輩に悶々とする日々も終わり。そこも可愛くて愛おしいけど、やっぱり好きだって言って欲しいから。

 

 先輩のマイルームのドアを開ける。

 

 

「先輩、お疲れ様です」

 

 ちょっとずるい方法かもしれないけれど。

 私は、貴方に告白して欲しい。

 

 

 ☆

 

 

「ん、マシュ? どうしたの?」

 

「ひゃあっ! ど、どうして服を着てないんですか!?」

 

 マシュを出迎えたのは半裸のマスターだった。シャワーを浴びてすぐなのか、上半身裸の状態で頭からタオルを被っている。

 これまでの旅の中で色々なサーヴァントから鍛えられていたため、その体躯はしなやかな筋肉で覆われている。

 有り体に行って仕舞えばエロかった。

 

 マイルームに入る前に入れ直した気合いも吹き飛ぶ衝撃映像。とっさに手で顔を覆ったためマシュの手から作戦の肝である資料が落ちる。

 

「ん? 何これ」

 

 当然そうなれば、マスターはその資料を拾おうとする。

 

「あっ、先輩それはっ」

 

 そして──見つけてしまう。

 マシュが用意した切り札[オルレアンの絶景10選]を──!! 

 

 今一度説明しよう! 

 この[デート大作戦]とはつまり、電光石火の急襲が命なのである! 

 冷静に考えなくても、ダヴィンチちゃんの資料の中に観光名所雑誌じみたものがあるのはおかしい。

 しかし、そこに気がつく前に行きたいのかと尋ねてしまうことで、「何でこれが?」から「一緒に行く?」に疑問を制限する。

 

 しかし! マシュが持ってきたファイルから出てきた冊子としか認識をしておらず! なおかつ予定外の事態により機先を制されて仕舞えば!! 

 

「へえ。マシュ、行きたいの?」

 

 必然的にマシュがここに行きたいという意思表示の理解をされる!!! 

 

「えっあのっそのっ」

 

 作戦の崩壊──追い詰めたと思っていたが気がつけば自分が追い詰められていた。

 しかし、マシュは未だ服を着ていないマスターをまともに見られず、再起動出来ず! 

 

 マシュ、万事休す──!! 

 

「綺麗な場所だね。ま、マシュは何でこれを、その、俺に?」

 

「あわ、あわわわ」

 

 ぺらぺらと冊子を見るマスターからの追撃! 

 マシュの頭脳はこの状況を乗り切るため高速で回転していた! 

 

 ──先輩と一緒に行きたいと思って。

 

 だが、その言葉はでない。これは、先輩から言ってもらえなきゃ意味がないのだ。

 

 何か、何か逆転の手は。

 そうマスターを盗み見るも、

 

「ん?」

 

 そこには半裸のマスター! 

 沸騰する頭! 吹き飛ぶ思考! 

 まともに考えることができるか。いや出来ない。

 

 結局、マシュが選択したのは逃げることだった。

 

「だ、ダヴィンチちゃんが先輩に渡しておいて欲しいって言われてた資料なんですけど、きっと何かの手違いで混ざっちゃったんですね! これは私がダヴィンチちゃんに返しておきますね! ではわたしも用事がありますのでこれで! 失礼しました!」

 

 そう早口でまくし立て、マスターの手から冊子をひったくる。

 マシュは逃げるようにマスターのマイルームを後にした。

 

 

 ☆

 

 

「……あれ、前にジャンヌたちから聞いた、そういう場所だよね」

 

「もしかしたらって思ったけど、マシュが用意したわけじゃなさそうだし……」

 

「我ながら、女々しいなあ……」

 

 

 ☆

 

 

「はあ……失敗しました……」

 

 [オルレアンの絶景10選]を胸に抱えカルデアの廊下を歩く。

 予定では、今頃先輩から告白をされている筈なのに、ひとりとぼとぼと自室に帰ることになるとは。

 いや、だって、あれはずるい。

 お風呂上がりの先輩なんて見たら、きっと他の人だってこうなる。

 だって、あんなに──

 

「な、何を考えているんですか私!」

 

 ぶんぶんと頭を振って思い浮かべた映像を胡散させる。

 これはだめだ。出来るだけ想像しないようにしないと、心臓がもたない。

 普段先輩が着ている魔術礼装はどれもしっかりしていて肌が殆ど見えないため、先ほどの先輩は刺激が強すぎるのだ。

 

「まだ、諦めたわけではありません」

 

 今回は想定外の出来事(先輩の半裸)により失敗してしまったが、これで終わるつもりは最初からない。

 失敗したら、また次の作戦を考えて先輩に告白させる。

 自分は、1度の失敗で諦められるような女ではないのだ。

 

「絶対に先輩から告白させてみせます」

 

 マシュの長い戦いはまだ始まったばかりなのだから。

 

 

 本日の勝敗

(先輩の半裸を見れたため)マシュの勝ち

 




告白されることに憧れちゃう気持ちも分かる


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追跡大作戦①


鈴鹿御前の幕間の若干のネタバレを含みます。
また、前振りのため勝負はありません。




 

吹き飛ばされた瓦礫。空間を焼き尽くす炎。そして、黒く染まったカルデアス。

数ある書物の中から得た知識の中で、地獄というものが浮かび上がり、ああ、きっとこんな光景なのだろうかと瞑目した。

 

身体の胴より下を押し潰す瓦礫は到底どうにかできるような重さではなく、まるで自分の身体が最初からそこに固定されているのが自然なような感覚を覚える。

いや、もう既に熱い、痛いといった生きていれば当たり前の感覚すらないのだ。もしかしたら私の下半身は既に消失していて、私は押し潰されているという錯覚をしているだけなのかもしれない。

 

どちらにせよ私がここから動けないということには変わりはなく、同時にもう直ぐに死ぬのだろうという避けられない現実がそこにあった。

だから、私は言ったのだ。

 

「せん…ぱ……私の……ことはいい…です…から……逃げ…て……」

 

さっきから私の横で、私を押し潰している炎で熱せられた瓦礫を、手のひらの皮膚を焼かれながら必死に退かそうとしている先輩に。

 

まだ会ってから1日も経ってない……いや、時間など関係はない。とにかく、もうどうあがいても助かる事のない私に付き合って貴方まで死ぬことはない。そう、私は伝えたかったのだ。

私を助ける、なんて無駄なことはせず、早く逃げてと。

 

なのに。

 

「バカっ!そんなことできるわけないだろっ!」

 

そう言って、先輩は私の言葉なんて聞きたくないとばかりに、動くはずのない瓦礫を必死に持ち上げようとする。

 

私はその行動の意味が分からなくてただ茫然と先輩を見て、どこか遠くでドアの閉まる機械音を耳が拾った。

これで、先輩もこの地獄から逃げることが出来なくなってしまった。

 

ーーああ、中途半端に生きてなんかいなくて、死んでおけばよかった。

 

私が下手に意識のある状態でいたから、魔術師らしい合理性を持たない先輩を死なせてしまった。後悔が胸中を満たした。

 

「……はは、逃げられなくなっちゃったね」

 

先輩も逃げ道がなくなったことに気がついたのか、ごめんね、と困ったように笑った。

 

「……手……を、…….、握っ…て、くれ……ます…か…?」

 

私は、先輩にひとつのわがままを言った。

私がこれから殺す先輩に。私のせいで死んでしまう先輩に。そのことは棚に上げて、お願いをした。

なんでかは分からないけど、とにかく先輩に触れてみたかった。そう、強く思った。

 

「うん」

 

そう、短く言って先輩は私の手に優しく両手を重ねーー微笑んだ。

 

重ねられた手は火傷により爛れ、物に触れるだけで激痛があっただろう。

熱く、熱く灼かれた空気は肌を、呼吸をするたびに肺を焼き、息さえまともにできなかっただろう。

死ぬ事への恐怖もあっただろう。

 

それら全てを押し殺して、先輩は微笑んだのだ。

もう、意識すら朧げになり、数瞬後には力尽きてしまう私を想って。

 

この人は、例え自分が確実にその命を失ってしまうような状況でも、誰かのために微笑む事のできる人なのだと理解した。

 

その時、私の全身を一瞬にして駆け抜けていった感情は、きっと先輩は分からないだろう。

 

ーー死なせたくない。

 

この心優しい人を。

 

ーー護りたい。

 

極寒に閉ざされた私の世界で初めて出会った先輩を。

 

瞬間、私の視界は白く染まり、身体が消滅する錯覚にとらわれる。

その刹那、私は強く願った。

 

ーーこの人を護れるだけの力が欲しい、と。

 

 

 

 

「信じられません!先輩最低です!!もう護ってなんか上げませんから!!!」

 

時刻は正午。お昼時であり、昼食を取ろうとカルデアの職員やサーヴァントたちが集まり賑やかな食堂にてマシュの怒気を孕んだ声が響く。

 

頰は多少ぷっくりと膨れ、この怒りのぶつけ先はお前だとばかりに勢いよくうどんをすする姿は、普段のマシュからはかけ離れており、その珍しい光景にマシュの周囲が珍しげに首を向ける。

 

が、私機嫌が悪いです!オーラ全開のマシュをひとたびみるや、いつものじゃれあいかなと、何事もなくそれぞれの昼食に向き直り食事や雑談に戻る。

 

ちなみに本日のカルデア食堂のメニューはエミヤシェフによるうどんスペシャルである。かけうどんから天ぷらまでなんでもござれ。もちろんサイドメニューも忘れない。遠くの席では「うどんおいしー!」や「大きくて黒い方の我が王!これは椀子そばではないのですが!」といった声も聞こえ、大反響のご様子である。

 

「気持ちはわかるけどしょうがないし。結局見るだけ見てお預けだったんしょ?行きたくなるのは当たり前とういか」

 

マシュの対面に座るケモ耳JKセイバーといった属性もりの女性ーー鈴鹿御前が、いなり寿司を摘みながらごちる。

 

「そうなのですが!それでもです!」

 

しかし、ぷりぷりと怒るマシュの溜飲は下がりそうもない。

 

「気持ちは分かるんだけどなあ……」

 

おかわりです!と席を立ったマシュを遠目に見ながら、鈴鹿御前はこうなった経緯を思い返す。

そう、あれはつい1時間前……

 

 

 

 

「〜〜♪」

 

想定外のイレギュラー(先輩の裸)により失敗に終わった[デート大作戦]から数日。マシュは先の失敗がまるで嘘のように上機嫌だった。

マシュの内心を表すかのような軽快なメロディを刻む鼻歌。ともすればスキップをしてしまいそうなほどにその心は弾んでいた。

 

すれ違うカルデアの職員たちやサーヴァントも、マシュの嬉しそうな姿を見て思わずにっこり。

マシュの裏表のない無垢な幸せオーラは周囲の人まで朗らかにしてしまう力があった。

 

「もう、先輩も隅に置けないんですから」

 

ともすれば語尾にハートマークを幻視するほどの甘ったるい声。

いくらなんでも浮かれすぎているが、もちろんこれには理由がある。

 

「ダ・ヴィンチちゃんにフランスへのレイシフトのお願いをしてるなんて、もう理由は1つしかないですよね」

 

こういう事である。

 

『すまないねマシュ、検査を予定より数日早めちゃって。あ、そういえば、彼からフランスへレイシフトがしたいって申請来てるんだけど何か知らないかい?』

 

『え?先輩がフランスにですか?ーーあっ』

 

『……その顔を見るに心当たりがあるみたいだね。今日のお昼頃にはレイシフト出来るようにしておくから、そう伝えておいてくれないかい?』

 

『はい!マシュ・キリエライト迅速に先輩に伝達します!』

 

『顔ゆるっゆるだなあ……』

 

定期検査の前の雑談をダ・ヴィンチちゃんとしているときに入手したこの情報。

 

まあつまり

 

①先日先輩は[オルレアンの絶景10選]を見ている

②先輩単独でのレイシフトは安全面を考えてできない

③先輩の護衛といえばマシュ・キリエライト

 

マシュはマスターからデートに誘われると思っているのである。

②→③が飛躍してない?とかそもそも君戦えなくなってない?とか色々あるが全部頭から蹴っ飛ばしている。

マスター→マシュはマシュの中では確定事項であり、このタイミングでのレイシフトで自分を誘うのもマシュの中では必然なのだ。

そうったらそうなのだ。

 

さらに大事なことがもうひとつ。

 

「私のことが好きなのに素直に私をデートに誘えない先輩は、どうにかして私からデートに誘わせようとしてくるはず……」

 

情報戦!!

マスターがデートのためにフランスへのレイシフトの準備をしているということは「マシュから」デートに誘う算段をつけたことに他ならない!!

 

本来なら後手に回ってしまっただろう……しかし!マシュは既にダ・ヴィンチちゃんからマスターがフランスへレイシフトしようとしている情報を入手している!!

 

つまり!!

 

マシュからデートに誘わせようとするマスターに対して、既にマスターがプランと準備を終えていることを指摘するカウンターが行えるのだ!!!

 

現代の戦いは情報量が勝負の明暗を分ける!

この戦い、勝った!

 

なお、全てマシュの勘違いである。

 

そんなことはつゆ知らず、マスターを探すマシュだが……

 

「どこに行ったんでしょうか……」

 

探せど探せどマスターは見つからない。

おかしい、大抵先輩はトレーニング等の予定がなければ、自室でサーヴァントの方達や職員の方たちといるのだが。

最近は黒ひげさんとも何やらコソコソやっているみたいだが、黒ひげさんは今軟禁されているのでその線はない。

 

「やっほー!こんなところで何してるし」

 

「鈴鹿さん!」

 

マスターをパーティールームへ探しにきたマシュはカラオケでJK力を磨いていた鈴鹿御前とばったり鉢合わせる。

 

マスターを探しているマシュは当然、鈴鹿御前にマスターの行方を知らないか尋ねるのだが……

 

「マスター?マスターなら黒い方の聖女と管制室に行ったし」

 

「えええええええっ!?」

 

マシュの驚きが回廊に反響する。

 

そしてようやく冒頭に戻るのである。

 

 

 

 

『オルレアンの絶景10選……行きたいな……』

 

『……なに、あんたフランスに行きたいの?」

 

『邪ンヌ。うん、ちょっと……観光雑誌、見ちゃってさ。ほら、そういうの俺好きだし』

 

『……知ってるわよ(ボソ)』

 

『ん?』

 

『……なら私が案内してあげるわ』

 

『え、でも邪ンヌは…』

 

『ふん。私だって、いけ好かない聖女様から別れた身だとしても、自分の祖国のことぐらい知ってるわ。……それに、一度ちゃんと見ておきたいとも思ってたし。あんたはそのついでよついで』

 

『……そっか。じゃあお願いしようかな』

 

『そう。じゃあしっかり準備しておきなさいよ』

 

『うん、わかった。楽しみだ』

 

『……私もよ(ボソ)』

 

 

 

 

「うう…先輩のバカ……最低です……夜なべして作ったのに……」

 

「タイミングが悪かったとしか言えないし……」

 

食堂。

怒りのままにうどんを完食しお代わりまでしたマシュは鈴鹿御前に慰められていた。

激おこモードが落ち着いてきたと思えば、急に項垂れるマシュに若干のめんどくささを覚える鈴鹿御前。

 

しかし、マスターと邪ンヌの件は鈴鹿御前も気になるところである。なんせ恋の話題はJKにとって必要不可欠。生きるための栄養だ。

恋バナに花を咲かせる自分とマシュのJK2人……うん、これはJK。

 

有り体に言ってしまえば、2人の様子がものすごく気になった。

そこで鈴鹿御前は、ある提案をした。

 

「そんなに気になるなら、ついていけばいいし」

 

「え?」

 

 

次回!デート大追跡!

 

 





とある聖女「あら?リリィ、オルタがどこに行ったか知りませんか?」

とあるサンタ「ああ、成長した私ならトナカイさんと一緒にいましたよ。管制室の方向に歩いてましたからレイシフトだと思います。ロジカルです」

とある聖女「おかしいですね…オルタは今日は何もなかったはずですが……私たちも行ってみましょうか」



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追跡大作戦②

 

 

フランス、冬。

一般的にフランスを旅行するなら春から秋だと言われているが、別段、冬のフランスが観光に適さないというわけではない。

少々肌寒いとは言っても日本の皮膚に突き刺さるようなそれとは違い、湿気を孕んだフランスのそれは肌を撫でるという表現が当てはまる。

日本の冬を想定した防寒装備で行くととめどない汗が噴き出すこと必至であるが、あまりにも極端な外気温でない限り適応可能なカルデアの支給服に袖を通したマスターと、お馴染みの現代風ファッションをバッチリ決めてきたーーそれでなくともサーヴァントであるジャンヌ・オルタには関係のない話である。

 

人理を修復し、各特異点は正常な歴史の流れへと戻りつつある。

冬木を除けば、マスターにとって初の特異点修復。言ってしまえば一番最初に人理定礎を正したフランスの特異点は、時間的な観点で言えば現在最も正史に近い特異点と言える。

とは言っても、未だに草むらからいきなり飛び出してくる野生の獣人はいるし、話の途中ですまないしてくるワイバーンも健在である。

1度焼却された歴史を修復するにはやはりそれなりの紡がれた時間というものが要るのだろう。

 

とはいっても、現在、フランスに微小特異点が発生したという観測はない。大空を竜種が飛ぶことがあるとはいえ、それは放っておいても消えて行くものであり、この時代のフランスに訪れなければならない理由はカルデアという組織的な観点から見れば絶無である。

 

だが、この2人には大いにあった。多少のすれ違いはあるが、フランスにレイシフトしなければならない理由は確かに存在した。

 

前置きが長くなった。端的に言おう。

ジャンヌ・オルタにとっては、マスターの認識がどうあれ初めてのデートである。

 

 

 

 

「オルレアンと言わず、フランスを見て周るわよ」

 

ーーだってオルレアンにある名所ってほぼあの聖女由来だし。

 

というジャンヌ・オルタの提案(という名の強制)によりマスターとジャンヌ・オルタは1週間かけてフランスを巡ることになった。

 

そうなると当然問題となるのは移動手段である。

金時の乗り回す愛車、ゴールデンベアー号に憧れたマスターは金時に教えを請い無免許ではあるが大型二輪車の運転はお手の物である。が、この時代のフランスにオートバイなどもちろん存在しない。必然的に移動手段は馬車になるのだが、ジャンヌ・オルタがこれに難色を示した。

 

色々と理由をつけたが理由は至極単純である。彼女も黒メイドの乗るバイクを見て、自分が乗れないのは負けた気になると練習していた。要はバイクに乗りたいだけだ。

 

とはいっても、マスターたちがやろうとしているのは言ってしまえば観光名所巡りであり、当然人目につく可能性も多分にある。流石にこれは無理な要求……に思われたが、そこはなんでもできる天才、我らがダ・ヴィンチちゃん。なんと他のキャスターとの共同で[周囲から絶対に怪しまれることはなくなる護符]というものを作っていた。認識阻害の一種である。

 

移動手段や明らかにこの時代のものとは一線を画すキャンプ用品その他諸々の問題をクリアし、マシュの作成した[オルレアンの絶景10選]から事を発した今回のレイシフトは、本人の思惑など知った事かと、マスターとジャンヌ・オルタの1週間のフランスツーリング旅行と相成った。

 

 

 

 

「あーーー最高だった!」

 

フランスの東北にある、アルプス最高峰モンブランの麓1,300Mの高地の絶景、シャモニー。

現代ではゴンドラ等の移動手段が完備されているが、当然この時代にそんなものがあるわけがなく徒歩での登山となったが、普段からカルデアの英霊の面々に鍛えられているマスターにとっては屁でもなかった。

次の目的地へ向かう途中。太陽もその半身を隠し始め、野営の準備を始める中、記憶から双眼に収めた大自然の絶景を思い起こしたマスターは感嘆の声をあげた。

 

観光ガイドブックもかくやと言った、半ば歩くウィキペディアとかしたジャンヌ・オルタの解説もあり、マスターにとってこの旅行は大変充実したものだった。

 

「ええ、そうね」

 

そして、それはジャンヌ・オルタにとっても同じだった。

普段は必ず誰かしらと一緒にいるマスター。そのマスターを独り占めにできる、期せずして手に入れた1週間の時間。

 

二台のバイクの排気音しか聞こえない大地を走った。

二人の他に大自然しか存在しない絶景を前に、一緒にご飯を食べた。

悪路を前に顔を見合わせ、あくせくとしながらバイクを手で押しながら渡る、そんな時間すらも楽しかった。

 

絶対に口には出さないが、フランス巡りを始めて4日、全ての時間がジャンヌ・オルタにとっての宝物となっていた。

 

明朗に、本当に楽しそうに笑うマスターに、ジャンヌ・オルタの顔にも穏やかな微笑が浮かぶ。

本人は自分が最大限に楽しむためと言い張るが、十分に下調べしてよかったと、内心の気色が隠せない。

 

まもなく夜が訪れる黄昏の時。邪魔をするものはありはしない、二人の間に流れる穏やかな時間。

 

しかし、まあ、これも当然といえば当然なのだが、面白くない、と。そう思う人物もいるわけなのだ。

 

 

 

 

「もう我慢できません!マシュ・キリエライト!!突撃します!!!」

 

「待つし。何回突撃敢行すれば気がすむのよ」

 

「でも鈴鹿さん!あんなっ、あんな!先輩と……あんな近くで!ああっ!先輩のお口についたご飯を指で……っ!それは私のお役目なのに!もう我慢できません!!マシュ・キリエライト突撃します!!!」

 

「いい加減にするし」

 

「あたっ」

 

私の頭を鈴鹿さんがぺしっとはたく。

むーっと抗議の目を鈴鹿さんに向けるが、鈴鹿さんは私の訴えの目線もどこ吹く風で手元の双眼鏡をのぞ巻き込んでいる。

 

先輩たちからざっと三キロほど離れた地点で、私と鈴鹿さんはテントを張っている。

魔術を使えない先輩の視力ならまず見えない距離であり、サーヴァントであるジャンヌ・オルタさんでもダ・ヴィンチちゃん特製のカメレオンテントとその迷彩服に身を包んだ私たちの姿を視認することは困難だろう。

 

「また来よう……?ダメです!次は私です!」

 

「こんなに離れてるのによく分かるね」

 

「こんな事もあろうかと読唇術の心得がありますので!JKの嗜みです!」

 

「絶対違うし」

 

「ぐぬぬ……なんか先輩とジャンヌ・オルタさんの距離が以前にも増して近くなっている気がします……」

 

「もう4日も一緒にいるしそういうこともあるっしょ」

 

4日……そう、4日だ。

先輩がレイシフトしてからもう4日も経っているのだ。

しかし、私と鈴鹿さんが先輩を見つけてから、という話であれば実は半日しか経っていない。なぜかというと……

 

「まさかオルレアンから遠く離れてツーリングしているなんて……うらやましい……」

 

簡単に見つけられると思っていた。

先輩が行くと予想されるオルレアンの場所は、もともと私がピックアップした場所だ。場所はおろか道すらも覚えている。しかも、先輩は管制室で常にバイタルや位置情報をチェックされている。仮にすれ違い続けたとしても、ダ・ヴィンチちゃんに聞けば一発で場所がわかるのだから。

 

だから、ダ・ヴィンチちゃんから場所を聞いたときは驚愕した。なんせ、先輩がいる場所はオルレアンなら数百キロも離れていたのだから。

 

先輩の後ろ専門(まだ私しか座ったことはない。ふふん)だった私には長距離移動手段がなく、鈴鹿さんにも長距離移動用の宝具などはない。先輩を追うためには1度カルデアに帰還し、再度先輩の近くにレイシフトし直す必要があった。

 

『マシュ、鈴鹿御前。君たちの近くにワイバーンの群れが向かっている。このままでは近隣住民に被害が出て、それが微小特異点の原因となる可能性がわずかにある。応援も送る。討伐をお願いできないかい?』

 

しかし、間の悪いことに話の途中ですまないワイバーン現象に襲われ、その対応に追われること3日。人為的な意思を感じざるを得ない間断なくやってくるワイバーンに辟易としながらも(鈴鹿さんとジャンヌさんたちが)蹴散らし、折角なのでリリィにフランスを案内するというジャンヌさんたちと別れ、ようやく先輩たちを追うことができた。

 

いや、まあ、いい。ワイバーンは別にいいのです。

でも……でも……!

 

「私もまだ先輩のご飯食べたことないのに……!!」

 

食べてもらったことはある。エミヤさんや頼光さんに習って、腕によりをかけた。お二方には及ばないものの、上手に作れた自負はあるし、先輩もおいしいおいしいとお代わりまでしてくれた。

 

ーーあのときの先輩かわいかったなあ……

 

ほわあっとそのときの情景を思い浮かべて、はっ!と頭を振る。いやいやそうじゃなくて。

 

先輩の手料理。そう、先輩の手料理だ。野営の簡素なそれであるとはいえ、それが先輩の手自ら作った料理ともなれば話は別だ。私にとってそれはとても魅力的なものだった。

 

それを、ジャンヌ・オルタさんは3日も食べている……。ジャンヌ・オルタさんが料理するなんてことは聞いたことがないし、恐らく先輩が料理担当。今日だって先輩が作っていたのをしかとこの目でみた。私も食べたことのない先輩の手料理を……。

 

「なんとかしなきゃ……どうにかしてこの状況を打開しないと……」

 

ジャンヌ・オルタさんには悪いですが、この状況は私にとって大変面白くない。しかし、さっきは冷静さを失って突撃しかけたが、簡単にはどうにかできる状況でもないのも確かだ。

 

なぜなら……

 

想定〔もしマシュが突撃したら〕

 

ケース① 偶然を装う

 

『あっ先輩!偶然ですね!こんなところでどうしたんですか?』

 

『そんな偶然あるわけないだろう?そんなに俺がジャンヌ・オルタと【二人きりで】1週間【一緒に旅行】することが嫌だったのか?もしかして俺のことが好きなのか?お可愛い奴め』

 

ダメ!不自然すぎる!カルデア内ならともかく、エリザベートさんでもないのにレイシフト先で偶然会うなんてあり得なさすぎる!却下!

 

ケース② 特異点修復

 

『先輩!実はフランスで微小特異点が確認されて……』

 

『そんな連絡は受けてないしかりに微小特異点が観測されても今サーヴァントになれないマシュが直接レイシフトして報告してくるのはおかしくないか?そんなにry』

 

無理!私がレイシフトしている理由にはならない!強引すぎる!却下!

 

ケース③ 本当のことを話す

 

『実は先輩を追って……』

 

『そんなにry』

 

うわああああ!?直球じゃないですか!むりむりむり!こんなのもう告白です!却下!

 

「打つ手なし……?でも、どうにかしないと……!でもどうすれば……」

 

現状を打開すべく、私の脳は高速で回転を始める。しかし、現状では打つ手なしということが重くのしかかるだけであった。

 

「何か、何かこの状況を変えるだけの何かがあれば……!」

 

「私にはたしかに神性はあるけど、祈っても何もできないよ?」

 

呆れたように肩をすくめる鈴鹿さん。

しかし、このお祈りのおかげか、私の願いは見事に叶ったのだ。良し悪しは別として。

 

 

 

 

「あー!いました!トナカイさんと成長した私!」

 

「もう、探しましたよオルタ。弟くんも」

 

「あれ?ジャンヌ?」

 

「ーー、ーーなっ、なんでアンタたちがここにいるのよ!?」

 

「おや、聞いていないのですか?オルタの場所を聞きに管制室にいくとワイバーンの討伐を頼まれたので、ついでに引き受けていました。てっきりオルタたちにも連絡が入っているものだと思っていましたが……」

 

「私たちがワイバーンさんの相手をしてる間に、成長した私はトナカイさんと遊んでましたね!?私の目は誤魔化せないですよ!ずるいです!」

 

「リリィもこう言ってますし、そうだ、家族旅行をしようと思いまして。みんな一緒の方が楽しいですよ!」

 

「なんでそうなるのよ!?」

 

それまでの穏やかな時間を置き去りに、にわかに騒がしくなるマスターたちのテント付近。

その様相を、離れたマシュもしっかりと目撃していた。

 

ーーあれは、ジャンヌさん!?

 

祈りながらも確認は怠っていなかったマシュの目に飛び込んできた待望のーー変化。

マスターとジャンヌ・オルタのテント近くに現れたのは、ジャンヌ・ダルクとサンタリリィだった。

 

そして……何かの役にたつかも……と、習得したものの今の今まで全く役に立っていなかった読唇術。それが今、初めてその役目を果たした。

 

マシュはたしかに読み取った。

 

家 族 旅 行

 

と。

 

瞬間ーーマシュに電撃走る!!!

 

確かに、マシュ一人だけでマスターとジャンヌ・オルタの旅程に割って入れば、それは裏に思惑のある行動だと捉えられかねない。

男女二人旅行に割って入るというのは、それだけの意味を持つ。

鈴鹿御前がいたとしても、若干の厳しさは否めない。

仮にジャンヌ・オルタたちの前に姿を見せたとしても、その場で涙を飲んで別れるしか選択の余地はないのである。

 

しかし!!!

 

自称とはいえ家族だと宣言するジャンヌ・ダルクなら話は別である!!!

そう、弟と妹の旅行に姉と妹が加わったところで家族の旅行というテイストになんら変化はないのである!!!

ジャンヌ・オルタの認識ではマスターと自分は男と女。男女の二人旅行……。だが、ジャンヌにとっては弟と妹の家族旅行。そこに家族である自分たちが加わることになんの問題があろうか。

 

いま、この旅行の名目は家族旅行というテキストに明確に変化した!!

 

家族旅行に、とても親しい仲の良い友人が同行する……何もおかしくない!自然と行われていることである!

 

つまりである!!

 

マシュ・キリエライトが自然(当社比)と割って入れるだけの下地が出来上がったことにほかならない!!!

 

たとえ自身の行動について突かれようとも、先のワイバーン退治の建前がある以上はジャンヌ・ダルクたちのように観光をしていて偶然といった言い訳でゴリ押せる!!!

 

この間、わずか1秒!

刹那、マシュは走った。

 

このチャンスを逃せば次はない……そんな思いもあった。

 

だが、それ以上にマシュを動かしたのは、

 

ーー私の先輩なんです…!!

 

そんな、幼稚な独占欲の発露だった。

3日会えなかった。

半日別の女性と親しげな想い人を見ていた。

それだけで、こんなにも胸が辛くなってしまう。

 

あの人は自分の大切で、大好きな人で。自分のことが大好きなはずの人なのに。

 

確信はあれど、確証はない。そんな不安定な土台に支えられた積み木の心。

 

実際問題、今回のマスターにもジャンヌ・オルタにも、責められるべき点など1つもない。

 

それを理解していても、マシュは溢れ出る気持ちを抑えられなかった。

要は、そういうことである。

 

 

 

 

「眩しいなあ……もう」

 

『君も、結構な大恋愛だったそうじゃないか』

 

「私のは……あんなに、純粋な気持ちだけで成り立つものじゃなかったし。時代も、立場も、それを許さなかった。あの人のことを想う気持ちに嘘はないけどね。ダ・ヴィンチ、私はもう戻るし」

 

『いいのかい?』

 

「ここから先は当人たちにお任せっしょ!いいJKは友達の恋を応援して、そっと見守るものってね」

 

 

 

 

「…………………………ぁぁあい……!!」

 

「ん?」

 

「……………………ぁぁぁあい…!!」

 

「おや?あれは……マシュさん?」

 

「はあ?アンタたちだけじゃなくシールダーまでいるわけ?」

 

「……………………ぱぁぁぁああい!!!」

 

「私たちと一緒にワイバーンさんを退治しましたよ。マシュさんは…その、今は戦えないので見てるだけでしたが」

 

「いやだから、なんで戦えないのにこっち来てんのよ」

 

「あ、俺にも見えた。おーーーい!!マシューーー!!!!……なんであんな全力疾走してるの?」

 

「………んぱぁぁぁぁぁあああい!!!!!」

 

「…………掛け値無しの全力疾走ね」

 

「あ、私これ分かりますよ。コケるやつです。身を以て知っています。ロジカルです」

 

「せんぱぁぁぁああうわああぁぁああ!!!!?」

 

「ま、マシュううううう!!!!」

 

 

 

 

そこからは、先輩と、ジャンヌさんたち三姉妹。それに私の5人でもフランス巡りになりました。

 

先輩の後ろに私が乗って、ジャンヌ・オルタさんの後ろにリリィさんがしがみついての移動です。

 

『あんたはどうやって移動するの?言っておくけど絶対に乗せないわよ』

 

『大丈夫です!お姉ちゃんはちゃんと移動手段がありますから!おいで、リース』

 

『キュイ!』

 

『わあ、イルカさんです!相変わらず口開けると怖いですね!』

 

先輩の背中に身体を預けて、フランスを自由に走るのはとても気持ちが良くて……。それに、行く先先々で楽しい思い出を共有するのは本当に楽しいひとときでした。

 

ジャンヌさんたちとの時間もとても楽しくて……でも、自称とはいえ家族旅行を邪魔してしまったのは少なからず罪悪感がありました。

何かお詫びを……

 

『はい、出来合わせのものと簡単に俺が作ったやつで悪いけどお召し上がりください』

 

『美味しそうです先輩!ありがとうございます!では私はこれを……』

 

『わあ!美味しそうですね!弟くんが料理できるとは知りませんでした!……うん、美味しいですよ!』

 

『……あ、私が食べようと思ってたやつ……で、ではこちらを』

 

『こいつ何気に料理できるわよ。同人誌描いてた時何度か軽食作らせたし……ん、まあまあね』

 

『なにそれ私知らない……それと私が食べようと……あ、たこさんウィンナーは!』

 

『わー!たこさんウィンナーです!ん〜!おいしいですよトナカイさん!』

 

『でもやっぱマシュの方が美味しいわね』

 

『だよなあ。所詮男料理だからなあ。次からはマシュにお願いしようかな』

 

『『『はははははははは』』』

 

『………………………………………はい』

 

……脳筋戦法を駆使する胸ばかりに栄養がいっている性女。ジャンヌさん。私の霊基が復活したときに、あなた達には防御バフしてあげませんから。さよならジャンヌさん。お詫びは無しです!!!

 

『ほら、マシュ!このたこさんウィンナー美味しいですよ!』

 

『あっ……』

 

もぐもぐ……おいしい。

 

『ごめんなさいジャンヌさん、私ジャンヌさんのことを誤解してました。ジャンヌさんはちゃんと聖女です。自信を持ってください』

 

『そこに自信をなくしたことは一度もないですよ!?』

 

 

 

 

本日の勝敗

 

マシュの勝ち(先輩と旅行できたため)

 

 

 





夏イベ面白すぎかよ…!!
かぐや様アニメ化おめでとうございます。



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オペレーションNo.1 歌唱力を向上させよう


人はこれを中の人補正という。




 

 

第1特異点オルレアン。

まるでお伽話のような竜と人の戦い。

人の身体能力を軽々と超える膂力や、空中を自在に飛び回る起動能力は、初の本格的な特異点修復を試みる小さなヒトへの洗礼としては十二分なものだった。

 

止まぬ波状攻撃。レイシフト直後であり、協力を仰げる現地のサーヴァントの助けもない。

自身の力のみでなんとか撃退か撤退を成さねばならない状況。

 

常時現界できるサーヴァントは私のみ。

デミ・サーヴァントであるこの身はワイバーンの数匹などに遅れはとらないが、一般的な人間の枠組みから外れぬ能力しか持たぬ先輩は別だ。

 

先輩から離れてはいけない。分かっていた。ワイバーン達が脆弱なヒトを狙っている。分かっていた。しかし、次第にワイバーン達の物量を捌ききれなくなった私は、少しづつ先輩から離され、そして一瞬の隙のうちに、

 

「ーーーーーー」

 

ダ・ヴィンチちゃんは、皆が全力を尽くした結果であり誰が悪いわけではないと言った。

ドクターは、安全な座標に正確にレイシフトさせてやれなかった自分が悪いと言った。

違う、違うのだ。

私の責任だ。

私は、私は、私は。あの、灼熱の地獄で願ったのだ。

この人を守れる力が欲しいと。この人を私が守りたいのだと。

 

「ーーーーーーー」

 

あの日。

先輩の肩を噛み砕かんとする竜の顎を。

下手な金属鎧より丈夫な魔術的防御を施されたカルデア支給服からの上とはいえ、術式を貫通され肉に牙が食い込み血が噴き出し、それでも目の前の存在を撃破しようと睨みつけた先輩を。

 

ーーなにより。

 

「治療は最低限でいい。先に進もう。俺たちはこんなところで止まれない。大丈夫、マシュのせいじゃないことは分かってるし、こんなのかすり傷だから」

 

あの時と同じ私を気遣った穏やかな微笑み……などではない、誰にでもわかる、明らかな作り笑い。無理をしているのは明白で、それでも自分しかいないのだという強迫観念が張り付いた笑顔を。

私は忘れることはないだろう。

 

もう絶対にこの人の側から離れない。改めた誓いを胸に。

 

 

 

 

「あ、探したわよ子イヌ!今からカラオケに行くんだけど貴方も行かない?」

 

「ふむ、カラオケか。同行しよう」

 

カルデアに激震走るーーー!!!

 

パーティールームで遊戯に興じていた者は一目散に飛び出し、食堂で食事をしていた者は慌てて目の前のものを胃に掻き込み、マスターと話していたマシュは即座に自室に退避し、ロビンフッドは抵抗むなしく連れて行かれた。

 

その様はまるで災害を予期した動物が如し。

しかし何もカルデアの面々の反応が大袈裟というわけでもない。

そう、これは列記とした災害。

災害名音痴である。

 

 

 

 

事の始まりは第2特異点での出来事である。

形のない島にいるという女神に会いに行くための短い船旅。その最中、ふいに船乗り達が歌い出した。

陽気な歌声は燦々と降り注ぐ日差しに、カラッとした気持ちのいい潮風を帆にめいいっぱい受け止めて進む帆船にとてもよく合っていて、こちらの気分まで高揚してくる。

 

「〜〜〜♪」

 

知らず、マシュは船乗り達の歌に合わせてハミングを奏で始めた。

船乗り達の野太い声とマシュの細く、それでいて芯の強さを感じさせる綺麗な鈴の音は一見ミスマッチのようで、とても心地よくユニゾンしていた。

 

言語は分からずとも、リズムは分かる。なんだか楽しくなってきたマスターは、自らも合わせてメロディを刻み始めた。

 

ところで、不協和音という言葉がある。

同時に2つ以上響く音が共和していない状態のことを指し、一概に不快な音を意味するものではないが……このとき、それに意を唱えるものは皆無だった。

 

まあ、飛びっきりの不興な和音だったというわけだ。

 

そして、それはエリザベート・バートリーという歩く騒音ドラゴニックガールと出会う事で加速する事になる。

 

彼女は音痴である。壊滅的なまでの歌唱力をもってして、自身のことをスーパーアイドルだと信じて疑っていない。

絶対の自信。

そして、ハロウィンで彼女が歌ったとき、マスターも歌った。歌ってしまった。

 

ユニゾン。

 

音と音の調和。2つの音のハーモニー。壊滅的であるが、同じく壊滅的であるがゆえの奇跡の調和。初めてユニゾンを経験したマスターはその気持ち良さにそれはもう喜んだ。音痴は音痴が分からない……エリザベートの自信満々な姿も手伝って、マスターは彼女と歌うことが一瞬で好きになった。

 

見方を変えれば濃密な2人の時間……後輩嫉妬案件なのだがこれに関してはマシュはノータッチである。

まああまりの耳障りさに近づくこともできないからね。是非もないよネ。

 

終ぞ、自身の歌唱力の悲惨な有様を知らぬままここに至るというわけである。

 

が、変化というものは往々にして些細なきっかけから起こるものである。

この日、マスターは自身の歌唱力の酷さをカラオケの採点機能という思いやりという言葉から最も縁遠いモノから告げられたのである。

 

 

 

 

「お願いします俺に歌を教えてください……!」

 

「えー……」

 

所変わってカルデアのとある一室。腰を90度に曲げ真剣に歌唱力向上のコーチを願うマスターの姿があった。

 

しかし、依頼された側……艶のある美しいブロンドの髪を編んだ女性ーー聖女ジャンヌ・ダルクの反応は芳しくない。

 

それもそうだろう、マスターの歌唱力の酷さは今や一部のマスターの同類サーヴァントを除き周知の事実である。であるからして、マスターの歌唱力の向上というのがどれほどの難題かということも多少なりとも音楽に心得があれば容易に察すことができるというもの。

 

出身からしてただの村娘でしかないが、類稀なる音感を持ちその歌唱力の高さが評判のジャンヌ・ダルクはそれが分かっていた。だからこその反応である。

 

「その、弟くんが歌について自分を客観的に見れた事も驚きなのですが、どうしてまた?」

 

取り敢えず、ジャンヌはなぜ歌唱力を向上させたいのか理由を尋ねてみた。

 

あのままエリザベートたちと楽しく歌っていれば害は……あるにはあるが、それは予測可能で対処もできる天災のようなもので、現状維持でいいというのが本音だ。

 

普段めったにサーヴァントを頼ってくれないマスターの頼みである。できる限り応えてあげたいのは山々なのだが、

 

「(それはあのなまこの内臓みたいな歌を聞き続けるのと同義なんですよね……)」

 

安請け合いするには少々しんどい。聖女にだってきついものはきついのだ。

 

「その、エリザベートとユニゾンするのが楽しくて……他の人ともやりたいって思ったんだ。でも、今の俺じゃレベルが違いすぎて出来ないんだ……だから、その……」

 

明朗なマスターには珍しいモジモジとした態度で、若干頬を染めつつ、気恥ずかしさからかジャンヌと目を合わせず斜め下を見ながらごにょごにょとマスターは小声で言った。

 

「(これは……!)」

 

キュピーン!と聖女センサーに反応あり。聖女には分かる。これは甘酸っぱい恋の顔だ。ええ、わかりますとも。聖女ですから!

 

「なるほど、分かりました。そういうことでしたらお手伝いしましょう。私に任せてください!(いくらマスターとはいえ基礎から教えれば流石に形にはなるでしょう)」

 

「ジャンヌ……!ありがとう!」

 

どんっと胸を叩き快諾したジャンヌにマスターの顔はぱあっと和らぐ。

 

「(ふふん!待っててくださいね妹たち!)」

 

なお、勘違いしていないようで盛大な勘違いをしていた。

 

 

 

 

「あっ……あっ……いやあああああああああ!!!!」

 

「ほげっ!ほげー!ほげ!!」

 

「助けてジルーーーー!!!!」

 

「ぼえ〜〜!!!」

 

ジャンヌ!!!圧倒的油断!!!!

甘い希望的観測からの安請け合い!!!自ら死地に踏み入る愚行!!!!

 

「なんで!?正しい音程を教えたじゃないですか!!!?なんで外れるんですか!?」

 

防音に優れたカルデアの自室(ジャンヌの部屋)での拷問!!!

まるで魔女の鍋をひっくり返したかのような悍ましい音色!!!

これは堪らないと中断をかける!

 

「いやいや。ちゃんとジャンヌが教えてくれた通りの音で歌っているのに」

 

「はい?……は?今の録音していますが聞きますか?」

 

「聞く聞く」

 

自身が奏でるデスメロディに気付かない呑気な顔でマスターがジャンヌからスマホを受け取るマスター。

ジャンヌも大袈裟だなあと軽い気持ちで再生すれば、

 

「うそ……え……?こんな……ドブみたいな声が……俺……?」

 

「だから言ったじゃないですか!!!!!!」

 

イヤホンから流れるのは死霊の雄叫びもかくやといった音。

嘘だよね?とジャンヌを見るも、それが真実ですと雄弁に目が語っていた。

 

「兎にかく、弟くんは音程の取り方が致命的に下手くそです。家畜のげっぷの方がまだましな音を出しますよ」

 

ですから、と前置きし、

 

「まずは腹筋です!」

 

「いやなんで!?」

 

 

 

 

後にマスターは聖女との2週間にも渡る特訓を思い出してこう語る。

 

『指導を仰ぐ人間を間違えた』

 

と。

 

聖女は脳筋だった。人の脳がピンク色なのは筋肉で出来ているから……ってぐらい脳筋だった。

 

彼女は言った。兎にも角にも筋肉だと。

確かに、一概に間違いだとは言えない。普通にトレーニングして鍛えられる部位と、より大きく、ブレず、綺麗な音を発するための器官は違うのだ。専用のメニューというのがあるくらいである。

 

しかし、人理の旅から始まってから今まで欠かさずサーヴァントのトレーニングとは名ばかりの臨死体験をこなしてきたマスターである。

筋骨隆々とはいかなくても、その身体に鍛えられていない部位は殆どなく、ジャンヌのトレーニングはその意味では殆ど意味がないと言えた。

 

しかし、ただの筋トレ信仰で終わらないのが聖女クオリティ。

なんと彼女は並行してボイストレーニングを要求してきた。

 

『ソ(レ)〜♪〜〜はぁ…はぁ…ジャンヌまってこれきつ……』

 

『ソ(レ)ってなんですか!ふざけないでください!クランチ20分追加!』

 

ジャンヌとの秘密の特訓があるからといって、普段のトレーニングがなくなるわけではない。マスターは、

 

『俺はこれを無事に終えられるのだろうか……』

 

と半分以上本気に思ったものだ。

 

しかしまあ、間違っていたら即座に指摘して手本を見せてくれる指導者がいて、膨大な数の反復、それをこなせる体力が備わっていた場合。

たとえ効率が悪かろうが形にはなるというのも事実である。

 

 

 

 

後日、カルデア内ではマシュと楽しそうにユニゾンするマスターの姿が目撃される。

それは、まだ些かの調子っぱずれさが残るもののちょっと前のマスターを知る者からすれば信じられないぐれない綺麗な音色であった。

一緒に歌いたくても歌えなかった2人はとても幸せそうに笑っていて、それをどこか母のような面持ちで見守る聖女がいたとか。

 

 

 

 

『最近子犬が一緒に歌ってくれない。はっ!そうだわ!私のドラゴンスケールの歌に聞き惚れてしまったのね!デュオをするよりも聞きたいという気持ちになってもしょうがないわね!……でも、たまになら一緒に歌ってあげなくもないのに』

 

 

 

 

【本日の勝敗】

 

(マスターがいつのまにか歌が上手くなっていて思いがけず夢を1つ叶えられたので)マシュの勝ち

 

 

 





またダラダラするつもりだったけどやる気出しました。
感想力になってます。ありがとうございます。





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雑誌大作戦

 

 

「ん?なんだろうこれ」

 

あくる日のカルデア。

マスターは自室の本棚にてふと目に止まった一冊の雑誌を手に取る。

 

「[百戦錬磨のサーヴァントが教える!気になるあの子を絶対にオトす10の方法]……こんなの置いてたっけ?」

 

身に覚えのない雑誌。マスターの部屋には毎日誰かしらが訪れるため、普通なら、誰かの忘れ物だろうとすぐに持ち主を探していた。

 

しかし、

 

「気になるあの子を絶対にオトす……」

 

どうしても目を引かれてしまう。

他人のものかもしれないから勝手に見るのはよくない……それはマスターとて分かっている。分かっているが……その一文がどうしても頭から離れなかった。

 

結論を言うと、我欲に負けたというのが正直なところである。

 

「ちょっと読むだけ……」

 

自分を抑えきれず、ベッドに腰掛けて雑誌を開く。

 

『方法①私のように完璧な黄金比の造形があればいいのよ!』

 

「ふざけんな!」

 

ぱん!と思わず雑誌を閉じる。

 

「そりゃ確かにサーヴァント達みたいな黄金比があったらモテるだろうけどさ!そういうことじゃない……!そういうことじゃないんだよ……!!」

 

お洒落をする……ならまだしも自身の造形を変えるのは土台無理な話である。なんの参考にもならない。

 

ページをめくる。

 

『方法②恋はインパクト!裸で絨毯に包まって気になるあの子に自分をプレゼントするのです!』

 

「それでオトされるのはカエサルだけだ!」

 

思わず天に向いて吠える。

インパクト……確かに大事だろう。何事も相手の印象に残らなければ意味がない。

しかし一般的な感性を持っていた場合、これで好印象を抱くことはなかなかないだろう。

 

「だいたいもう印象がどうこうのあたりは通り過ぎてると思うんだよね……」

 

ページをめくる。

 

『方法③非日常では男女の仲は発展しやすいというもの。自身に聖剣の鞘を埋め込んで冬木の聖杯戦争を勝ち抜くといいでしょう』

 

「バカにしてんのか!」

 

ばし!と思わず本をベッドに叩きつける。他人のものかもしれないということは完全に頭から抜け落ちていた。

条件がド級のハードすぎる。しかも無事達成したところでそれで惚れるのは腹ペコ王だけだ。

 

「まともなものがない……!しかもエッセンスでもなんでもなくてただの体験談だ……。まさか全部こんな感じの内容なんじゃ……?」

 

ぱらぱらとページをめくる。

見事にサーヴァント達の古式恋愛術だった。

 

「というかこれまとめたの誰だ……?全部女性から男性へのアプローチだな……」

 

ページをめくる。

 

『方法⑩ここまで読んだということは①〜⑨の方法がダメだったということでしょう。でも大丈夫。そんなあなたでもこの惚れ薬を使えば一発よ』

 

「……いやこれはダメなんじゃないかな」

 

恋愛で惚れ薬というのは邪道中の邪道というか、それ以前に倫理的に完全アウトである。いやある意味王道ではあるが。

 

「惚れ薬のお求めはヘカテー式魔術通販×××-××××まで……フィギュア作る資金足りなくなったのかな」

 

取り敢えずこれは辞めさせないとな、と独りごちてベッドに沈み込む。

 

「…………」

 

こんな雑誌を見たからか、頭の中を占めるのは気になるあの子の姿。

明確にこの気持ちを抱いたのはいったいいつだったろうか。決して長いとは言えない時間である。しかし、濃密な時間だった。もしかしたら最初から好きだったのかもしれない。

ただ、いつからこの気持ちがあるのかは分からなくても、いつこの気持ちに気がついたのかは分かる。

 

「俺だって……君に好きって言いたいんだ……」

 

でも、言えない。

理由がある。いや、他人からすればきっとくだらないしがらみだろう。ただ、マスターにとっては大事なことだった。

まあ、本人は気づいていないが、突き詰めると今のマスターの行動も理由に即しているとは言えないのだが……恋の免罪符で許される範囲だろう。

 

「…………………大好きだ。なんてね」

 

小さく笑って立ち上がろうとし、

 

「その話、聞かせてもらいましたぞ!」

 

「ゲぇ!?黒ひげーーー!?」

 

 

 

 

「いただきます」

 

マスターが突然現れた黒ひげの口を封じようと格闘している頃、マシュは食堂で定期検診のため遅めの昼食を取っていた。

 

ちなみに本日の昼食のメニューは頼光特製の肉じゃがである。召喚されてから現代の日本料理の研究に余念のない頼光のレパートリーはとどまる事を知らない。

 

「マシュ、定期検診ご苦労さん」

 

「いつもごめんねマシュちゃん。お疲れ様」

 

「いえ、皆さんも私のためにいつもありがとうございます」

 

定期検診に関わったカルデアの職員たちと和やかに会話しながら肉じゃがを口に運ぶ。

一見普通のランチタイム。しかし、マシュの頭の中はとある1つの事が大部分を占めていた。

それは、

 

「(そろそろ先輩も気づいた頃でしょうか。私が先輩の部屋に設置した[絶対に失敗しない♡大好きなあの子のハートをゲットする方法]を……!)」

 

大衆娯楽への飢え!!!!

 

おおよそ生活に必要なもの全てが完備され、一部のDIYサーヴァントの手により趣味に関してもそこそこの自由が利くカルデア。

しかし、その立地ゆえか大衆娯楽文化には手薄にならざるを得ない。立地条件を無視したとしても、カルデアには多種多様な国から人が集まっているため特定の誰かをピックアップした充実は難しいだろう。

 

マスターは現代を生きる一般的な日本人である。

カルデアに来てからは平凡とは言い難い激動の一年を過ごして来たわけだが、元を正せば何処にでもいる学生の1人でしかない。

 

遠い故郷にも帰れず、唯一故郷を思い哀愁に浸れるのは自身のスマホの画像フォルダとエミヤの料理のみ……。そんなマスターが、ふと自国の大衆雑誌を感じさせる本を見つけるとどうなるか。

 

「(手に取って読みたくなるのが人情……そうですよね!)」

 

そうでなくても、雑誌に記載されているのは大好きなあの子のハートをゲットする方法である。

今現在ハートをゲットしたいあの子のいるマスターが読まないなんて事があるだろうか。いやない。

 

マシュのなかでは既にマスターを告白させるための算段がついている。

 

「(先輩はあの雑誌に書かれていることを私に実践してくるはず……!言い逃れができないぐらいテクニックを使った後で……)」

 

『あれ?先輩、もういいんですか?大好きなあの子のハートをゲットするテクニックは。どうですか?もう少し続けましょうか?だって、私のハート、絶対にゲットしたいんですよね?』

 

『それくらい私のこと……好きなんですよね?』

 

「(やりました!これは決まったでしょう!!!!)」

 

動物が最も無防備になる瞬間……それは捕食の時である!

マシュを狩にきたマスターを逆に狩返すのが今回の作戦、名付けて雑誌大作戦である。

 

「ふふ、ふふふ。ふふっ」

 

「いつになく機嫌がいいなあ」

 

「マスターくん絡みで何かあったんでしょう」

 

因みにこの雑誌、マシュお手製である。

 

 

 

 

「マスター殿、流石にサーヴァント相手に肉弾戦は無理でおじゃるよ。ヒヤッとはしたけど」

 

「ぜぇ……ぜぇ……げほっ、ぜぇ……ぜぇ……うるさい……」

 

所変わってマスターの自室。

男2人のどったんばったん大騒ぎも終わり、膝をついたマスターを黒ひげが呆れた様子で見下ろす。

 

「別に心配しなくても拙者言いふらしたりはしないでおじゃるよ?それぐれぇの分別はある……だからその輝かせてる令呪やめよ?ね?」

 

「……信じるからね」

 

すっ、と輝きを失う令呪。

マスターはのろのろと立ち上がると、どかっとベッドに座り込み、恨みがましい視線を黒ひげに送る。

 

「…………、いつからいたの?」

 

「ふざけんな!の辺りからかなあ」

 

「ほぼ最初からじゃないか……うわあああああああ!!!!」

 

「ちょ!?マスター落ち着いて!拙者本当に誰にも言わないから!というかみんな薄々気づいてるというか……数人とガンギマリ系の連中以外にはバレバレというか……」

 

「うるさい!黒ひげには俺の気持ちが分からないんだ!告白もできないのに虚空に向かって大好きだなんて言って思わせぶりに微笑を浮かべてた所を見られた俺の気持ちになってみてよ!」

 

「うーん、死にたくなるでござるな」

 

「うわあああああああ!!!」

 

「めんどくせえ……」

 

とは言いつつもマスターが落ち着くまで宥める黒ひげは何だかんだ面倒見のいい奴である。

 

「ところで、さっきから気になってたけどそれはなんでおじゃるか?」

 

マスターが落ち着くのを待って、黒ひげはマスターの傍に置いてある雑誌を指して言った。

 

「見てたなら知ってるんじゃないの?」

 

「いや、拙者からしたらマスターが奇声あげてるだけだったし……」

 

「うるさい。これは……あれ?こんなのあったっけ?さっき騒いだ時に棚から落ちたのかな?うーん、記憶にないや」

 

「どれどれ……[絶対に失敗しない♡大好きなあの子のハートをゲットする方法]……ふむふむ」

 

ぺらぺらと素早く目を通す黒ひげ。マスターはそのどこか故郷を思わせる雑誌に少なからず興味を刺激され、黒ひげの横から覗き込む。

 

数分して読み終わった黒ひげはぱたん、と丁寧に本を閉じてから、

 

「これはガセ本でおじゃるな」

 

「え?そう?女の子はこういう事喜ぶと思ったんだけど」

 

「はあ……これだから童貞は。いいでござるかマスター。ここに書かれてある内容は全部注釈が入るでござる。❇︎但しイケメンに限る」

 

それもそう。なにせマシュがマスターにやってほしいことの詰め合わせが内容なのだ。間違ってもこれから親密になろうとする者がやっていいことではない記載がビッシリである。

 

「これを女の子に……ましてやマスターの気になるあの子にやってはダメでござるよ?」

 

「うっ。わ、分かったよ……」

 

「マジかよこいつやるつもりだったのか」

 

黒ひげの顔に戦慄の表情が浮かぶ。

マスターと黒ひげは知るもよしもないが、後輩の知らないところで夜なべして作った後輩の雑誌大作戦は早々に失敗した。後輩は泣いた。

 

「まあ、この雑誌に頼らなくてもマスターには黒ひげ直伝の超モテテクニックを教えてやろうじゃないか。大丈夫、このエドワード・ティーチ様に任せろ」

 

どん、と胸を張る黒ひげだが、それを見るマスターの目は冷ややかだ。

 

「黒ひげの?どうせギャルゲー知識でしょ?」

 

「バカ言っちゃけねえ。この黒ひげ、乙女ゲーもやり込んでるのサ。あれはおにゃの子の理想が詰まったゲーム。つまりあれができるやつはモテるって寸法よ」

 

「分かるような分からないような……」

 

「ゴチャゴチャ言わずモノは試しでやってみるでおじゃる。ちょいとお耳を失礼、まずは……ごにょごにょ」

 

「ふむふむ……ばっ!そんな事できるわけないだろ!?」

 

ぼっ、と一瞬で真っ赤になるマスター。流石に乙女ゲー引用の甘い行為は初心なマスターが実践するとなるとハードルが少々高い。

 

「だいたい、そういうのって自然にやらないと……ほら、その演技っぽさが出たら台無しになるんじゃないの?」

 

多少の台詞くささというのはあってもいい……が、これに演技が滲み出ると途端に台無しになるものである。

あくまで自然にできるから絵になるのだ。

自分にはとても無理だとその点を指摘するマスターだが、対する黒ひげは納得のいかない顔をし、

 

「普段から臭い言動取りまくりのマスターが何言ってるのやら。ジャンヌ・オルたそといい勝負でござるよ?」

 

「流石にカッコいいからって理由で水着に刀二本差しはしないかな……」

 

しかも超長い漢字ネームである。密かに男心を惹かれたのは内緒だ。

 

「はあ、黒ひげのせいでどっと疲労が出てきた……喉乾いた……」

 

「勝手に部屋に入ったのは悪かった。でも暴れたのはマスターの方だからね?拙者のでよければ水分とる?」

 

「うるせいやい。じゃあ、貰おうかな。ありがとう」

 

備え付けてある冷蔵庫から麦茶を取り出そうとベッドから立ち上がりかけて、黒ひげの気遣いに再び腰を下ろし直して水の入った筒を受け取る。

中身をひと息に煽り、液体が喉を通る感触を知覚してからふと思った。

 

ーーあれ、そういえばなんで黒ひげが水を持ち歩いてるんだ?

 

「あ、いっけねこれ酒だった」

 

マスターがはっきりと思い出せる記憶はここまでである。

 

 

 

 

「あれ?先輩?」

 

昼食も終わり、職員の方たちと会談していたマシュはふと、食堂の入り口にマスターがいる事に気がついた。

 

「ん?ああ、マスターくんか。こんな時間に食堂にどうしたんだろ」

 

「マシュちゃん探しにきたんじゃないの?」

 

「この後、特に予定はなかったはずですが……すみません、ちょっと行ってきますね」

 

そう言って、マシュは席を立ち上がる。

自分に会いに来てくれたかもしれない……たったそれだけで緩みそうになる頬を引き締め、普段の自分を務めながらマスターの元へ向かう。

 

マスターはきょろきょろと誰かを探すような素振りをしていたが、歩み寄るマシュの姿を見つけた途端、ふにゃっとした笑みを浮かべて、

 

「先輩。どうされま………!!?!?」

 

マシュに抱きついた。

 

泥酔状態!!!!

 

泥酔とは、体内にアルコールを摂取することにより、血液によってアルコールが脳に運ばれ脳が麻痺している状態のことである。

脳内のアルコール濃度により症状が変わるが、今のマスターはいわゆるほろ酔いの状態であり、この段階での症状は体温の上昇、脈の加速。そして理性が緩む。

 

数分前、誤って黒ひげのお酒を飲んでしまったマスターは、見事に酔っ払っていた。

 

「マシュ。……会いたかった」

 

「ーー!?ひぇ、ひぇんぱっ、い、いきなりそんな、こっ、こまりまひゃああああ!?」

 

マシュを強く抱きしめたマスターはそのままマシュの首筋に顔を埋めて吐息を吐く。

が、突然抱きしめられ(嬉しい)とろんとした声で会いたかったと言われた(嬉しい)マシュの頭はこの時点で既にキャパオーバー。さらなる刺激に耐えられるはずもなく悲鳴とも驚きともつかない声が口から飛び出してしまう。

 

普段なら、こんなに密着すればマスターから仄かに漂うアルコールの香りにも気付けていただろうが、今のマシュには土台無理な話であった。

 

「マシュ……」

 

一度少しだけ抱擁の力を緩め、マシュの顔を見つめたマスターは堪え切れなくなったようにまたぎゅっと抱きしめる。

 

「ふわ……せん、ぱい……」

 

手に触れる、肩が触れ合う……マシュは、マスターの意識がある状態での身体的接触はそこまでが限界だった。

それなのに、力強く、しかし苦しくはない、自分を気遣ってくれているのが分かる優しい抱擁。

マスターから抱きしめられた事のなかったマシュは控えめにいって幸せの絶頂の中にいた。脳内麻薬もドバドバ出ている。

 

もちろん、既に作戦のことなど頭から吹き飛んでいる。

 

「マシュ……」

 

「あっ……、せん……ぱい……?」

 

抱擁をやめ、身体を話したマスターに残念そうな顔をするマシュ。

しかし、じっとこちらを見つめるマスターにマシュもまた見つめ返す。

 

交わる視線。感じる吐息。お互いの目に自身の姿を見ることができる距離。

 

そのまま、マスターの顔がマシュに近づいていき……、

 

「禁制禁制!御禁制です!!食堂でかような破廉恥な行い、母は許しませんよ!!!」

 

「むぐ!?んぐ、んんんう!う……」

 

騒ぎを聞きつけ、厨房から鬼のような速さで現れた頼光がマスターを引き離したことにより2つの影が重なることはなかった。

 

ついでにマシュから引き離されたマスターは頼光の豊満なそれに顔を押し付けられたことにより呼吸を阻害され、アルコールがいよいよ本格的に回り出していたこともあり意識を失った。

 

「はー、マスターくんも大胆な事をするなあ。ついに腹をくくったのか」

 

「それにしては様子がおかしくなかった?なんか心ここにあらずというか……」

 

「……?え?あれっ……?………!!?」

 

時間帯がずれているとはいえ、ある種の溜まり場と化している食堂には常にそれなりの人がいる。

ここが衆人環境の中だと気付いた(思い出した)マシュはその事を認識した瞬間、ぼっと顔から火が出るかのような勢いで顔を染め上げた。

 

「全く!風紀が乱れています!このような事をうら若き男女が行なってはいけません!こういうのは母の役目なのですから!」

 

ぐったりとしたマスターの頭をロックしたまま頼光かぷりぷりとしているが、マシュの頭には一向に入ってこない。

 

トリップしていた頭は鈍く、ろくな思考もマシュに許さなかったが、しかし強烈な羞恥心はマシュの身体を動かすには十分な燃料だった。

 

「し、ししし失礼しましゅ!!!!」

 

そうして、マシュは脱兎のごとく駆け出した。

 

 

 

 

『黒ひげぇえええ!!!!黒ひげはどこだアアアアアあ!!!!!』

 

後日。

意識を取り戻したマスターはその瞬間般若の形相で黒ひげを見つけ出すことに注力した。

 

はっきりと記憶にはない……しかし記憶がなくなるわけではない。何となく事の顛末と自身の言動を覚えていたマスターは、身悶えするかのような羞恥心とマシュへの罪悪感、そして自身の迂闊さと八つ当たりだとは理解していても黒ひげへの怒りを滾らせていた。

 

『あ……先輩……』

 

『ま、マシュ……』

 

『し、失礼しますっ』

 

『あ!まって、マシュ!マシュう!』

 

一連のことをマシュに謝りたいマスターであったが、それから数日の間、マスターはマシュと会話すらできなかった。

 

『……………………黒ひげええええええええ!!!!!』

 

カルデアでは数日の間、マスターの怨嗟の声が響いていたという……。

 

 

 

 

さらに数日後。

 

『やっと手に入りました![百戦錬磨のサーヴァントが教える!気になるあの子を絶対にオトす10の方法]……!』

 

『えっ!?は、裸!?む、無理です!そんなの恥ずかしすぎましゅっ』

 

『惚れ薬……』

 

 

 

 

『あー酷い目にあったでござる』

 

『拙者にも非があったとはいえ、殆どマスターの自滅なのに……とほほ』

 

『でもまあ、結果的にとは良かったじゃねえか。お互いにサ』

 

『さ、部屋に帰って新刊を堪能しますゾ!』

 

[絶対に失敗しない♡大好きなあの子のハートをゲットする方法]

 

方法①恋の定石はスキンシップです!気になるあの子を抱きしめて自分の事を意識してもらいましょう!

 

 

 

 

【本日の勝敗】

 

マシュの勝ち(先輩にしてほしい事をしてもらったため)

 

 

 




マスターは年齢を言っていない。誰もマスターの年齢を聞いていない。何も問題はなかった。いいね?

FGOでは箱イベが始まりましたね。ネロ祭ではなくなったことに驚きましたが、やることは変わりませんガリガリゴリゴリ


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幕間 ある日の日常

 

 

「むああああすたああああ!!おはようございます!!!朝ですぞお!!!」

 

ーーカルデアの朝は早い。

たまの休みはあれど、だいたいは暑苦しい声でマスターの一日は始まる。

 

「むぅっ、おはようございます。マシュ殿も毎日精が出ますな」

 

「はい、おはようございます、レオニダスさん。……ほら、先輩、起きてください。レオニダスさんが来ましたよ」

 

「ん……むにゃ……」

 

「ダメですよ先輩、もう起きてください。……仕方ありません。マシュ・キリエライト、これより対先輩目覚ましフェイズに入ります」

 

すでにマスターの部屋にいたマシュが優しく揺すって起こそうとするが、マスターは一向に起きる気配もない。

レオニダスを待たせているため、マシュははぁ、と小さく肩を落として、マスターの両肩に手を添えて、

 

「あーさーでーすーよー!」

 

「うわあっ!!?」

 

激しく揺することでようやく意識が半覚醒するマスター。

そんなマスターにあらかじめ用意しておいた水を渡しながら、

 

「おはようございます、先輩」

 

「ふぁ……うん、おはようマシュ」

 

 

 

 

スパルタ訓練……レオニダスがやり始めたということから、レオニダスの出身地にちなんで名付けられた毎日のトレーニング。

今となってはその由来が出身地なのか訓練内容なのか非常に際どいところにあるが、とにかく、マスターの毎朝の日課であった。

なお、主に筋トレである。

 

「ふんむぁ……!ほらっ……どうですかマスター!溜まって来たでしょぅ!……筋肉の……源がぁ!」

 

「溜まって!きては!いるんですけど!たぶん乳酸だと思います!」

 

カルデアのトレーニングルーム。元は会議室として使われる予定だった場所を正面に、隣接した四部屋をぶち抜きかなりの広い面積を確保した場所だ。

さまざまなトレーニングマシーンが運び込まれているが、それでも自由に動けるスペースには困らない。

しかし……男2人は並んでひたすら腹筋を繰り返していた。

 

「4892!4893!……ああ!素晴らしい!健全な肉体に健全な精神は育まれる!どうですかマスター!体を動かすことは気持ちいいでしょう!」

 

「ここまでくると…!キツさが勝ります!」

 

汗の水たまりを作りながらも同じペースで腹筋を続ける2人。

マスターは余裕が失われつつあるが、それでも必死に食らいついていた。

 

最初でこそひいひい言っていたマスターだが、その面影は今はもう見る影もない。

スタミナの確かな成長。目にわかる肉体の進化。差し迫った危機もない今、それはモチベーションとなり意欲に変わっているが、当然きついものはきつい。

 

終了を告げるレオニダスの声に安堵ともに仰向けに倒れるのも、毎日の光景であった。

 

 

 

 

「おはようマスター。朝食はそこによそってあるから持っていくといい」

 

「ありがとうエミヤ」

 

訓練という名の筋トレが終わると、マイルームで軽く汗を流してから食堂で朝食をとる。

筋トレが朝早い時間に始まるのもあり、マスターとサーヴァントや職員たちとの食事の時間はそう大きくずれることはない。

いつも誰かしらがいるが、食事の時間はひときわ賑やかな食堂は「小さくて黒い方の我が王!ハッシュドポテトなるものをマッシュして参りました!小さくて黒い方の我が王の舌もご満足なさるかと!!」「ばっ!ガウェイン卿!それは!」「ほう?一体私のどこを見て区別したのか興味があるな」「はっはっは、何を仰いますやら。一目瞭然ではありませんか」「モルガーーーーーン!!!!」「「ぐわあああああ!」」「ガウェイン卿とランスロット卿が星に……私は悲しい」「あのバカどもは放っておきましょう」活気に溢れている。

 

「ふぅ……」

 

空席を探して腰を落ち着ける。疲れからか、ホッと一息。

 

「どうしたマスター、今日はえらく疲れてるじゃねえか」

 

「肉体的にはもちろんこの後にちょっとね……ってあれ、兄貴が朝にこっち来るなんて珍しいね」

 

椅子を引きながら、マスターの隣に座るのは全身青タイツの2枚目、クー・フーリン。

夜はここで飲み会に参加している姿が多々見受けられる彼だが、朝見かけることは珍しい。

どうしたのかと問えば、彼はカラッとした笑みで、しかし逆に疑問を投げ返す。

 

「たまには顔を出すさ。何だかんだアイツの飯はうめえしな。それよか嬢ちゃんはどうしたよ」

 

「別にいつも一緒にいるわけじゃ……。それに、最近のマシュは料理に凝ってるみたいで、エミヤたちと厨房にいると思うよ」

 

先程食事をとりに行った際には出会えなかったことから、まだやることが多々あるのだろう。そこら辺、一人暮らしの男飯程度の経験値しか持ち合わせないマスターにはよく分からない。

 

「ふーん料理ねえ。愛されてるねえマスター」

 

「その顔やめろ。こっち見てないでご飯食べたら?」

 

ニヤニヤとこちらを見るクー・フーリンにぶすっとした視線で睨み返す。

はいはい、仕方ねえなあとばかりに肩をすくめた彼に若干イラッときたが、何を言ってもからかわれるだけだと食事に集中する。

 

そうして、2人とも食事を終わらせたタイミングで、そういえば、とマスターは呟いた。

 

「師匠から今日は空けておけって言われたんだけど、兄貴何かしらない?」

 

「ん?師匠から?いや、俺は何も聞いてないな……鍛錬じゃねえのか?」

 

一瞬、遠い目をしたクー・フーリン。その気持ちは分かる。

師匠……スカサハの鍛錬は、先のレオニダスの筋トレが可愛く見えるレベルのラインナップだからだ。

命の危機的な意味で。

 

「いつも鍛錬なら鍛錬って言ってたから、分からなくなってさ」

 

「まあ鍛錬だと思うぜ。いいかマスター、叡智だなんだ言われちゃいるが、あの女は脳筋だ。こと鍛錬に関しちゃ聖女なんか比じゃねえ。つーか、鍛錬以外の関わり方が分からないんだよ。ま、年甲斐もなくはしゃぐより全然いいけどなーはっはっは」

 

「…………」

 

突然黙り込むマスター。その瞳は泳ぎ、身体はカタカタと震えている。

 

「ん?どうしたマスター。まあ師匠も鍛えがいのあるやつが見つかってはしゃいでるんだ。キツイだろうけど、付き合ってやってくれや。じゃないとあの女、そのうちふりふりの服きてどーれーにーしよーうーかーなーとか言っちゃうぶりっ子になりかねないからな!師匠のそんな姿を想像すると腹が痛いぜ!」

 

「あ、兄貴……」

 

「ん?」

 

「うし、うしろ……」

 

「後ろがどうしーーーー」

 

「どうした?ほれ、続けよ。誰が、年甲斐もなくはしゃぐ、おばさんだって?」

 

「げえっ!?師匠ぉ!!?」

 

マスターに促されて後ろを振り向いたクー・フーリンの眼前には、これまた全身タイツの美女。

彼の師であるスカサハその人だった。

クー・フーリンより先に気がついたマスターはスカサハの発する静かな怒気に怯んでいたのだ。

 

「っー!!!」

 

「うわっ!?」

 

そこからのクー・フーリンの反応は早かった。

スカサハを認識した瞬間隣のマスターの襟首を掴み腕力に物を言わせ強引にスカサハへパス。

マスターをキャッチしようとするスカサハを尻目に神速のスタートを切り振り切る!!!

 

かつて行われた聖杯戦争で最も速い英霊が選ばれるランサーのクラス。

その神速をご覧に入れよう!!

 

「逃すか!ゲイ・ボルグパンチ!!!!」

 

「ぐへぇ!!?」

 

「ぶべっ!」

 

しかし、クー・フーリンの脚に翔けるための力が入った瞬間、その頰に突き刺さる師匠渾身の右ストレート!

 

「なん…で…」

 

吹き飛ばされながら見たのは、受け止められることもなく普通に地面に叩きつけられるマスターの姿。

 

ーーああ、そういえばこういう人だった……

 

そんなことを思いながら、クー・フーリンは床に叩きつけられた。

 

「頭が割れるように痛い!!!」

 

一方、普通に床とごっつんこしたマスターは頭を抱えゴロゴロしていた。

 

「ふむ、咄嗟の受け身も取れぬような鍛え方をしたつもりはなかったのだが、鍛え方が甘かったかな?」

 

マスターの頭上の声に視線を合わせば、そこには腕を組み見下ろすスカサハ。

 

「受け止めてくれてもいいじゃないですか師匠……」

 

恨みがましい視線を送るも、

 

「いやはや、私も丸くなったものだ。これは心を鬼にして鍛え直すしかなかろうて。のう?」

 

「ひえっ」

 

赤い瞳は細められ、その涼しげな口元は弧を描いているというのに、なぜかその笑みには言いがたい迫力があった。

 

「もちろん、そこのバカ弟子もな」

 

「勘弁してくれよ師匠……」

 

ちらりと一瞥しながら言うスカサハに、狸寝入りをしていたクー・フーリンが普段の彼からは想像もつかない疲労の滲んだ声を出す。

 

「ああ、ああ、楽しみだ。どうしてやろうか。ふふふ」

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

これはもうどうにもならないな。そう自分を無理やり納得させて、マスターは天を仰いだ。

 

なお、この騒ぎはスカサハのルーンにより一部以外には気づかれてはいない。

 

 

 

 

「もう……だめだ……一歩も動けない……」

 

うつむけに倒れ込むようにベットに沈み込めば、ぼふっとどこか情けない音を立てて柔らかなスプリングが俺を迎えてくれる。

 

朝から夜まで師匠の無茶振りをやり通した身体はこれ以上はもう無理だと、海中をもがくかのような疲労で訴えていた。

 

昼、夜と無理やり口の中にぶち込まれた保存食のようなものしか食べていないが、身体は空腹よりも一刻も早い休息を求めている。

 

半ば這って戻ってきたマイルームでなんとかシャワーだけは浴び、少々はしたなくはあるが下の下着だけは身につけ、もう寝てしまうかとぼやけた頭で思案する。

いやいや、やっぱり服は着ないとなと思い直すが、

 

「だめだ……眠い……」

 

身体は言うことを聞いてくれない。

ごろん、と仰向けになった。

まずい、どんどん瞼が重くなっていく。そんなこともどこか遠いところで考えている自分がいて、ああ、これはもうだめだなと閉じていく瞼。

 

だんだんと視界に映る輪郭もぼやけてきて、完全に瞼が閉じる前にそういえば、と。ひとつ、思い出した。

 

「きょうは……ましゅにあわないな……」

 

口に出したか、出してないか分からない。

ただ、そんなことを意識が落ちる直前にぼんやりと考えた。

 

 

 

 

たん、たん、と弾む足音が響く。

早朝よりもなお早いその時間に通路を歩くのは彼女だけで、誰の目もないと分かっているからこそ、意識して殆どスキップをするかのような足取りを正すことはしない。

ただ、鼻歌は流石に自重だ。

 

数分もしないうちに目的の部屋にたどり着く。

ただ、油断してはいけない。

最近は減ったが、ここに忍び込む人がいるのも事実。

別に、彼女は招かれざる客というわけではないのだが、鉢合わせたら鉢合わせたで困るのも事実である。

 

扉をあけてそっと中を覗くと、見る限りではベッドの上で規則正しく上下する膨らみ以外に人の気配はない。

 

「おじゃましまーす……」

 

小声で、囁くように言ってから部屋へ入る。

部屋の主を起こさないための配慮だが、彼女が忍び足なのを合わせて客観的に見ると侵入者みたいだ。

 

「まあ……間違いではありませんが」

 

許可は得ている。朝は弱いから起こしてくれと頼まれているから、自分は溶岩水泳部とは違うのだ。

しかし、彼の意にそぐわないことをしているという点では、自分も彼女たちとはそう変わらないだろう。

 

静かにベッドに近づく。

部屋の主ーーマスターはすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。

そっと手を伸ばし優しく頭を撫でると、こそばゆかったのかわずかに身じろぎし、慌てて手を引っ込めるが、また何事もないように眠るにマスターにほっと一安心。

 

「失礼しますね」

 

眠りが深いと見るやいなや、慎重にベッドに入ろうと試みる。

 

「っ!?」

 

掛け布団をあげた際に服を着ていないことに顔が熱くなるが、以前見てから度々思いおこしていたので、以前ほど取り乱しはしない。

しかしやはりまじまじと見つめてしまう。が、寒かったのか掛け布団を己の身体に巻きつけるようにマスターが動く気配を察知し、慌てて身体を滑り込ませた。

 

「ふわ……」

 

鼻孔をくすぐるマスターの匂い。

それに包まれるだけで幸せいっぱいだった頃が懐かしい。

ただ、この幸せになれてしまった彼女はさらにもう1つ上の幸せを求めるようになった。

 

布団の中で微妙に場所を調整する。

そして、寝返りを打ったことでこちらに顔を向けることになったマスターの首筋に自分の頬を擦り付けるように頭を差し出した。

 

「せんぱい……」

 

顔から直接伝わるマスターの体温に、先ほどよりも濃い匂い。

熱く、暖かく、それでいて切ない小さな痛みが胸をいっぱいに満たす。

いつもは、ここまでだ。

この先にやることを想像すると顔から火が出そうだったし、マスターの方から求めて欲しかった乙女心があるからだ。

でも、今日の彼女はさらにもうひとつ上が欲しくなった。

 

「……」

 

少し首をあげると、マスターの唇が見える。

味なんかないし、間違っても味覚的に美味であるはずがないそれが、その時の彼女にはとても、とても美味しそうに見えたのだ。

 

「意識がないなら、ノーカンですよね……」

 

結局、欲望に負けたというのが正直なところである。

ずっと求めたものが無防備に目の前にあって、それに手を出せずにいられる人はそうはいないだろう。

 

そこに、自身のそれが合わさることを想像して。

ちろっ、と、自身の唇を小さく舐めた。

その行為が何か、とてもいやらしいことのように思えて、途端に顔に血が集まるが、だからといって今更自分を抑えることも無理な話だった。

 

「ん……」

 

だから、そっと。

優しく、触れるか触れないなかの接触を。

 

「……っ」

 

先ほどでは比べ物にならない熱が身体を支配する。

心臓はドキドキと耳元にあるのかと錯覚するほどに狂ったように拍動し。

身体中の血液が全て集まってるんじゃないかと思うほどに顔が熱い。

名前をつけるのも難しいほどの様々な感情が去来し、歓喜に震えるその中に僅かな切なさを。

 

ぼーっと、今しがた自分のそれを重ね合わせたそこをみる。

先ほどの行為で少し湿っていることに気がついて、やはり何故かとてもいやらしいことに思えてそれがまた頭を沸騰させた。

 

そして、半ば無意識にまたーー

 

「むああああああすたあああああ!!朝ですぞぉおお!!!」

 

「んひゃう!?」

 

ビクッと思い切り身体が跳ねる。

慌ててマスターの様子を確認するが、まるで起きる気配がないことにとりあえず安心した。

 

「もう、終わり……」

 

そうどこか残念そうに呟いた瞬間に、自分が何のためにここにいるかを思い出してぶんぶんと首を振った。

名残惜しそうにマスターを見ている場合ではない。

日課の時間がいつのまにか来ていてたのだ。なら、自分の役目を果たさなければならない。

 

だから、そっとマスターの肩に手をかけ、

 

「先輩、起きてください。朝ですよ」

 

今日もまた、一日が始まる。

 

 

 

 

【毎朝の勝敗】

 

マシュのデンジャラスビースト

 

 





「せめて布団に入ってから寝れないか……」

「むにゃ……」

「フ。まったく、世話がやけるやつだ。風邪を引かれては困るからな。寝て、しかして予防せよだ」

「………俺も疲れているな」



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看病大作戦


コメディ100%




 

途切れることのない怒声。鳴り止まぬ剣戟。散りゆく命。

第2特異点。人と人の戦争。

目の前で呆気なく吹き飛ぶ命を前にしても、先輩は目を背けず、ただこの一瞬を生き抜くために必死だった。

 

死体を見るのは初めてではない。オルレアンでも、竜種に無残に食い殺されたフランス兵の死体を見た。

乱雑に食い散らかされたそれはとても直視できるようなものではなく、その時の衝撃はとても言いあらわせるようなものではない。

 

「マシュ!右前方から5人来てる!うわ!左からも!」

 

「ッ!先輩!一旦引きます!私の側を離れないでください!」

 

「ダメだ!俺たちがここを離れたら戦線が崩れる!なんとか持ちこたえないと!」

 

「でもどうやって!兵士の皆さんももう殆どいないんですよ!?」

 

「……左は俺が。服の魔術も使って時間稼ぎに徹すれば死にはしないと思う。兵士さんから槍術もちょっと教わってたんだ」

 

ーーでも、1分も持たないから早く助けに来てね

 

槍を握りしめ優しげに笑う先輩に安心した。

相手軍の兵士を気絶させて直ぐさま駆けつけ、右腕を深く切られてはいても気丈に、大丈夫だと微笑む先輩にああ、この人は強い人なんだと思った。

 

以前よりも巧くなったその微笑みを私は信じてしまった。

 

大地が紅く染まるほどの戦場で、平凡な少年のその姿がどれほど異常なのか気づくことができなかった。

 

 

 

 

「先輩」

 

「い、いや違うんだマシュ。これには深いわけが」

 

「先輩」

 

「ーーマシュ、マシュは笑顔の方が可愛いよ」(優しく微笑むイケメンムーヴ)

 

「先輩」

 

「申し訳ありませんでした」

 

時は1日ほど前に遡るーー!!

 

 

 

 

 

早朝。

この日もいつものようにマスターを起こしに来たマシュだが、違和感を抱く。

 

「先輩の息が荒い……?」

 

最初は静謐のハサン辺りがくんかくんかでもしているのかと思ったが、どうも違うようだ。

眠るマスターに近づくと、顔は上気し、寝汗がひどい。

 

「し、失礼しますね」

 

赤く、悩ましげな普段見ない表情に少しときめくが、そんな場合ではないとかぶりを振って手をマスターと己の額に添えれば。

 

「熱い!こ、これはーー!」

 

ここまで条件が揃えば、マシュの明晰な頭脳は瞬時に答えをはじき出した。

 

「先輩が風邪をひいてしまいました!」

 

風邪ーー!!

 

一般的に、風邪はウイルスがノドにある上気道に感染して急性炎症を起こした状態であり、ノドが痛い、咳が出る、熱っぽい、痰が出るなどの症状が出ている状態を指す。

なお風邪薬は症状の緩和が主目的であり、風邪の特効薬といったものは存在せず、古来より寝て治すのがいちばんの治療法である(個人差あり)

 

マスターの症状は主に発熱とそれに伴う意識の朦朧である。

 

「ぅん……マシュ……?」

 

「あっ、先輩!」

 

「朝……レオニダスさん来るから……行かないと……」

 

「ダメです!動かないでください!!」

 

覚醒し、起き上がろうとするマスターの両肩を抑え、再び横にさせる。

目覚めたことにより身体の気怠さを自覚したのか、マスターの息が苦しさを孕んだものになる。

 

「とにかく、大人しく待っていてください。レオニダスさんには私から伝えておきますから。絶対に動いてはダメですよ」

 

「わかった……」

 

「体温計や熱冷ましを持ってきます。すぐに戻りますね」

 

頰に赤が差し、潤んだ瞳で心細さを訴えるかのようなマスターに一瞬くらつくが、マシュは己を律して足早にマイルームを後にする。

 

目指すは医務室。そこにはこういった状況に対処するためのあれこれが揃っているからだ。

 

「おや、マシュ。おはよう。随分と急いでいるようだがどうかしたのかね?」

 

「エミヤさん!おはようございます!先輩が風邪をひいてしまったみたいで!!急いでいるので失礼します!」

 

途中、朝食の仕込みに食堂へ向かっていたエミヤとすれ違い、手早く状況を説明してその場を離れる。

 

「マスターが風邪か……」

 

マシュからマスターの風邪をしったエミヤは何か栄養のあるものを作って持って行こうと思案していると、

 

「おはようございます、アーチャー。マシュが何やら早っているようでしたがどうしたのですか?」

 

「ああ、セイバーか。おはよう。いや、どうやらマスターが風邪をひいたみたいでね」

 

「む、それはいけませんね。身体は何よりの資本。早く良くなるといいのですが」

 

同じく(こちらはつまむものを手に入れるため)食堂に向かう早起きである青いアルトリアに先程の様子を尋ねられ、マスターが風邪を引いたようだ伝える。

 

「ねえ、さっきのーー」

 

「マスターがーー」

 

マスターはその人柄故か、カルデアの皆から好かれている。

 

「なあーー」

 

「マスターがーー」

 

つまり。

 

「「「どうやらマスターが風邪を引いたらしい」」」

 

マスターが風邪を引いたということはあっという間に、それこそ朝食の時間にはカルデア周知の事実となったのである。

 

 

 

 

「39度……これは今日明日は絶対安静ですね」

 

医務室から体温計その他諸々をマイルームに持ってきたマシュは、まず最初にマスターの体温を測っていた。

 

機械的なフォントで表示された体温は39。普段通りというわけには行かないラインである。

 

「ごめんねマシュ……迷惑かけて……」

 

「いえ、こんな時ぐらいもっと私を頼ってくれていいんですよ。冷えピタを貼りますから、じっとしていてください」

 

「ん……気持ちいい……」

 

「それは良かったです。先輩、食欲はありますか?もしなくても、食べられそうなら消化に良いものを作ってきますが」

 

「ちょっとなら……」

 

一見、風邪を引いた先輩を心配してお見舞いに来た甲斐甲斐しい後輩の姿。

いや、間違いではない。事実ではある。

しかし。

 

「(これはチャンスです……!!)」

 

親和欲求の法則!!!

 

簡単にいうと、心が弱っているときに優しくされると、その相手に好意を抱いてしまう現象のことである。

普段めったなことでは体調を崩さないマスターがここまで弱ることは稀である。

しかも。

 

「(先輩がいつになく積極的になっています!)」

 

実は先のやり取りの間、マシュの左手はマスターのかけ布団の中に入っていた。

言うまでもない。手を握っているのである。

 

帰ってくるなりいきなり手を握られたときには心臓が飛び出る思いだったが、マシュは不謹慎ではあるが役得の2文字が頭をチラついてしょうがなかった。

 

先輩はマシュが好きだけど告白してこない+心が弱って積極的な先輩=献身的な後輩に我慢できなくなって告白

 

マシュの脳内ではパズルのように幸せな未来への方程式が組み上がっていく。

マスターのことが心配である。看病だっていくらでもできる。全部本心ではあるが……この機に乗じて先輩から言質を取りたいと思う恋心もまた偽りない心の叫びだった。

 

「分かりました、では少し待っていてくださいね」

 

「あ……」

 

そういって、病食を作るためにベッドの側の椅子に座っていたマシュが立ち上がる。

 

必然的に手が離れ、それにマスターがあげた震える声音に今すぐにでも手を握ってあげたくなるが、ここは自制をして食堂に向かおうとするがーー

 

「風邪をひいたそうね!!!!」

 

「エリザベートさん!?」

 

バンッ!と勢いよく現れたエリザベートに思わず足を止める。

マシュのリアクションに満足したように腕を組んだエリザベートはしたり顔でうんうんと頷いでいる。

 

「えっと、先輩は見ての通り高熱を出してしまっていますので、用事はまた機会を改めて……」

 

「違うわ、マシュ。私は見舞いに来たのよ」

 

エリザベートはやけに芝居掛かった調子で腕を軽くあげることによりマシュを制止する。

 

「見舞いといえば、そう、見舞いの品よ。でも、廊下で聞いてからすぐに来たから物は用意できていないわ」

 

「はあ……」

 

マシュの背中を冷や汗が流れる。

どうにも嫌な予感がする。何か、とてもよくないことが起ころうとしている、そんな予感が。

そんなマシュの内心も知らず、エリザベートはかっと眼を開き、自信満々の顔で、

 

「だから見舞いの歌を!マスターのためだけのナンバーを持ってきたわ!」

 

「そう!私たち!!」

 

「エリザベート・バートリーによる!」

 

「パイロットのための」

 

「この日限りのクインテットです」

 

vocal:エリザベート(槍)

vocal:エリザベート(術)

vocal:エリザベート(剣)

vocal:エリザベート(1号)

vocal:エリザベート(2号)

 

作詞作曲:エリちゃん’s

 

「さあ!ライブの始まりよ!」

 

「させませんよ!!!?」

 

 

 

 

「はあ……どっと疲れました……」

 

何故かスタイリッシュなポーズを決めながら次々と現れたエリザベートによる悪夢のようなライブを全力で阻止し、マシュは食堂に向かって歩いていた。

 

最終的にはあの間にマスターの意識が落ちていたということもあり、渋っていたがなんとか一声かけるだけに着地させることができた。

 

「好意自体はありがたいですけど……ん?」

 

食堂につき、厨房に入ろうとしたところでここでは見慣れない人物がいることに気がつく。

 

何をやっているのかと声をかけようとーー

 

「ふふ、あとはこれを入れて……できたー!いやーマスターの突然の病にもこうやって直ぐにキュケオーンを用意できる私流石だなー大魔女だなー。ふふ、このヒーリングキュケオーンを食べればマスターもたちまち全快さ!だっていろんな薬効を魔術で数十倍にしたものを加えたからね!死人も蘇るってもんさ!いやーこれでマスターも私のことを……ふふっ」

 

「なんてものを食べさせようとしているんですか!!?」

 

「うわあ!?なんだマシュか、びっくりさせないでおくれよ」

 

「こっちのセリフです!!!」

 

「あ、キュケオーン食べるかい?」

 

「いりません!!!」

 

「えー」

 

怪しげなキュケオーンを錬成していた不審サーヴァント……キルケーは突然大きな声を出して現れたマシュに驚いて手を止めるが、「ちょうどよかった」と言葉を紡ぎ、

 

「さっきこのヒーリングキュケオーンが出来たところなんだ。マスターに食べさせたいんだけど」

 

「食べさせませんよ!!?」

 

ちゃぷ、とキルケーの手元で波打つ紫色のとろみのある物体を見て本日2度目の咆哮。

 

一体何をどうすればそんな色のキュケオーンが出来上がるのかマシュには見当もつかなかったが、まかり間違っても病人に食べさせて良いものではないことは間違いなかった。

 

「なんでさ!病人にはキュケオーン。ギリシャでは常識だよ!」

 

「百歩譲ってそうだとしても、目にしみる刺激臭を放つそれを先輩に食べさせることはできません……!」

 

「な!キュケオーンをバカにすることは許さないぞ!」

 

「せめて安心して食べられるものを作ってから言ってください……!!」

 

キュケオーンガチ勢vs先輩の盾系後輩の仁義なき争いは、

 

「やれやれ、何をやっているんだ君達は……」

 

席を外していたエミヤが厨房に戻ってくることにより引き分けという形で決着が付くのだった。

 

 

 

 

マシュは頑張った。

それはもう頑張った。

マスターを心配するあまりトンチンカンな事をするサーヴァントの親切という名の死体蹴りから、見事マスターを守りきったのだ。

 

あるときは筋トレで風邪を治そうとする聖女を説得し、あるときはえっちな本を見舞いに持ってきた黒ひげを叩き出し、あるときは鼻息が荒い溶岩水泳部と格闘し、またあるときは風邪のときこそ乾布摩擦だと半裸で突入してきた円卓を蹴り飛ばした。

 

「先輩、飲み物はいりませんか?」

 

「ありがとう……」

 

「はい、では少し顔をあげてください」

 

「うん……」

 

そうしてやっと訪れた穏やかな時間。

自分の気遣いに素直に甘えてくれるマスターにマシュは喜色を隠せないでいた。

 

普段人に、それも自分には中々見せない弱った姿を曝け出し、なおかつ全面的に頼ってくれている。

嬉しくないわけがなかった。

 

今も繋がれている2人の手。

幾らか安らいできているマスターの顔を見つめていると、喜びの感情が爆発しそうになる。

 

「マシュ……お腹すいた……」

 

「あ、もうこんな時間になっていたんですね」

 

言われて、時計を見ると短針はすでに真下を半ばほど過ぎている。

結局、朝はキルケーのヒーリングキュケオーンをエミヤが薄めて昇華させたお粥(身体に良いものを集めたというのは本当だったらしい。ただ本日のカルデアの朝食はそれになった)を、昼はエミヤお手製の病人食をエミヤが食べさせていたため、マシュは自分の料理を食べてもらってもいなければ、あーんも出来ていないことを思い出した。

 

「では、私が作ってきますね。ついでに、冷えピタと氷枕も変えのを持ってきます」

 

「うん……おね…がい……」

 

「寝ていても大丈夫ですよ。では、行ってきますね、先輩」

 

あーんがどうしてもしたかったマシュは、マスターのお願いということもあり名残惜しくも繋いでいた手を離し、食堂へと向かう。

 

そして、入れ替わるように入ってくる影が1つ。

 

「……ぁ、マシュ……?」

 

「……間違えてんじゃないわよ。ばーか」

 

 

 

 

「我ながらいい出来だと自負があります!」

 

出来た食事をトレイに乗せて、マシュはマスターのマイルームへ向かう。

事前にエミヤたちにも作って持っていくことを伝え、他の誰かがお夕飯を持ってくるという可能性を潰す周到性。

 

万全の準備。完璧なセッティング。

もちろん、お腹が空いたというマスターの要望に応えるために用意したというのが大前提にあるが、それを満たしつつ自身の望みも叶える。

まさに一石二鳥というやつだ。

 

少し歩き、マスターの部屋の前に立ったマシュは扉を開けーー、

 

「全く、枕で寝なさいよ」

 

「ジャンヌオルタの膝……冷たくて気持ちいい……」

 

「……ふん、今日だけだからね。明日同じことしたら燃やすわよ」

 

「うん……ありがとう、ジャンヌオルタ……」

 

「……とっとと寝なさい。それまではこうしててあげる」

 

ーーようとして、聞こえてきた声に動きを止めた。

 

「…………」

 

一瞬。ほんの一瞬、マスターが早く良くなるようにと心を込めて作った食事や、あーんをすることに焦がれていた気持ち、ずっと付きっ切りでいたのにマスターを取られたって思いや感情がごちゃ混ぜになって、心がズキンと痛んだ。

 

ーーでも、今ここで誰かが部屋に入ってくるのは、私なら嫌だって思いますよね。

 

1度、袖でーーーを拭って、マシュは踵を返して歩き出した。

 

「明日には良くなってるといいですね、先輩」

 

 

 

 

そうして、翌朝。

たっぷりと寝ていたためかいつもより早く起きたマスターは、熱で頭が茹っていたとはいえ昨日の自身の行いを仔細バッチリ覚えていたので赤面していた。

 

「なんて恥ずかしいことを俺は……!」

 

思い返される行動の1つ1つに羞恥心が湧き上がる。

そして、やり場のない感情を逃がすために布団をぎゅうっと力いっぱい抱え込んだところで、

 

「あ、先輩。おはようございます」

 

「お、おはようマシュ」

 

いつもより遅い時間に起こしに来たマシュが現れる。

まだ羞恥心が尾を引きぎこちない挨拶になるマスター。

 

「その様子だと、だいぶ良くなったみたいですね、先輩」

 

「うん、色々と迷惑かけたよね。ありがとうマシュ」

 

「いえ、先輩のお世話は私のやりたい事でもありますから。なので、他の皆さんに言ってあげてください」

 

そこでマシュは「それより」と前置きし、

 

「何か私に言うことがあるんじゃないですか?先輩」

 

「え?……ありがとう」

 

「いえ、違います」

 

「……?えーっと、マシュ?」

 

「ご飯、一生懸命作ったのになあ……」

 

そこで、思い当たる節があったのかマスターの顔にサッと青みが指す。

 

そうして、冒頭に戻るのである。

 

 

 

 

『反省していますか?』

 

『心から反省しています』

 

『先輩の体調が悪かったのは分かっていますが、あれは凄く傷つきました』

 

『ごめんなさい……償いっていうと変だけど、俺にできることならなんでもするよ……』

 

『本当ですか?』

 

『うん、本当だよ』

 

『そうですか。じゃあ、仕方ないので許してあげます』

 

『ありがとう』

 

『では、せっかくなので早速なんでもしてもらいましょうか』

 

『え?』

 

『実は、今日の朝ごはんは全部私が作ったんです。食べてくれますよね?先輩』

 

『ーーうん、もちろん』

 

 

 

 

【本日の勝敗】

 

マシュの勝ち(最終的にあーんができたため)

 





まさか鬼王の正体がきゃつだとはこの孔明の目を持ってしても見抜けなんだ。
これから新年にかけてかぐや様アニメ、7章アニメ、二部三章と盛りだくさんでおらワクワクすっぞ。



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催眠大作戦

 

『つまり、暗示は相手の意識を狭搾して方向性を1つに絞ることよ。そうすることで、こっちが意識を誘導することができる』

 

『魔術を使っても技術を使っても、結局やる事とその結果起こる事に違いはないわ』

 

『といっても確固たる技術があるわけでもないから、魔術や薬物を用いない催眠は殆ど成功する事はないわね』

 

『そこでこちら、ヘカテー式魔術通販オススメの品の惚れ薬よ』

 

『本来の催眠と違って自由度はなくなるけれど、飲ませるだけで相手の意識をある1つの方向へ誘導できるの。名前の通り、これは対象に好意を向けることへ集約されるわ』

 

『といっても潜在意識に働きかけるだけだから、誰でも好きなるのではなくて、元から好きだった人、と限定はされるけどね』

 

『え?暗示とどう関係があるのか?それはね、この惚れ薬を飲むとある変化が起きるから』

 

『聞いたことないかしら?好きな人の言う事は聞いてあげたくなる……それが自制できなくなるのよ。耳に痛い話ではあるけれど』

 

『つまり、この惚れ薬は簡単にいってしまえば「好きな人の言葉をなんでも聞くことへ意識を集約させる薬」というわけ。問答無用で恋心を押し付けるよりは幾分かマシだとは思うけど、あまり褒められたものでもない事は確かね』

 

『とはいっても、軽度の意識の空白を強制的に作る状態だから、本気で嫌なことを強制させる事はできないわ。親しい人を害せよとかは無理よ』

 

『え?買う?そう。まあ所詮簡単な暗示でしかないから、多少なりとも魔術の心得があったり、サーヴァントには効果がないか、あってもちょっと話を聞いてやろうかなぐらいの効果しかないのだけれど……』

 

『あ、マスターにはあなたの加護があるから魔術的なものの効果のほどは分からない……って、行ってしまったわね。素直になればいいのに難儀な事をやる子たちね、全く』

 

『……これも廃棄しようかしら』

 

 

 

 

「珈琲が入りましたよ、先輩」

 

「ありがとうマシュ」

 

自室で資料を読むマスターと、珈琲を淹れるマシュ。

 

「先輩はお砂糖1つでしたよね」

 

ぽと、と静かに角砂糖を1つ落とし、出来上がったものをマスターに手渡す。

マスターは読んでいた資料を脇に置き、ありがとうとそれを受け取り口をつけた。

 

「ハンドドリップもだいぶ手馴れてきたね」

 

「毎日練習していますから!紅茶もエミヤさんから教わってるので、そろそろ先輩にも飲んでもらいたいです」

 

適度に弾む会話。緩やかな時間の流れ。

取り戻した日常。何ものにも変えがたい幸せを享受する2人。

 

が、真実はこうである。

 

「(飲んだ!飲みましたよ!先輩が惚れ薬を……!!)」

 

惚れ薬!!!

 

古今東西、あらゆる恋愛ラブコメに登場する恋の万能薬、惚れ薬。

しかしその実態は恋の甘酸っぱさからは縁遠い。特定の人物を意図的に支配するなど悪質極まりない所業である。

永続する薬など存在しない。本来の存在目的を達するためには必然的に継続摂取が必要になる以上、その用途は束の間の思い出を作るためといったことに限定されやすい。

 

しかし、マシュが使用した今回の惚れ薬は言ってしまえば『恋愛感情の自制を取り払う』薬である。

好きでもない相手に恋愛感情を抱かせることはそもそも出来ない。

 

では、一体何のために使ったのか。

 

「(この薬を飲んだ先輩は私の言う事を聞きたくて仕方がなくなる……この状態で愛を証明してと言えば……!!)」

 

証拠!!!

 

お互いに好意を持っているが中々一歩踏み出せない。

そのような2人がいた場合、急速に大きく関係が進む場合は大きく分けて2つある。

1つは、責任を取らなければならない事態が生じる事。

もう1つは、好意が一方通行ではないと証明される事である。

 

積極的になれない理由の大部分は『好意の確証がない』ということに起因する。

そもそも恋愛とはその状態がスタートなため、そこに不安を感じるのも究極的にはおかしな話だが、そうは言ってられないのが人心。

そのため、確信を得た後の行動は得てして大胆になりやすい。

 

愛の証明という抽象的なお願い。

しかし、その言葉には具体的な方向性が内包されている。

 

良心的なのかタチが悪いのか、催眠中の記憶が無くなる事はない。

意識の集約であって、無意識の状態を作り出すわけではないのだ。

 

では、マシュのお願いを聞いて愛を証明してしまったマスターは。

何故マシュがそんなお願いをしたのか考える事ができるマスターは。

 

「(責任を取って……告白するしかないですよね?)」

 

名付けて、催眠大作戦。

いつになく攻め気のマシュは、普段なら取らなかったであろう手法を選択していることに気がつかない。

先日、マスターが病床に伏したとき。

扉一枚隔てたその向こうの光景が自身の心に差し込んだ懐疑のかけら。それを無理やり振り払おうとしていることにマシュは気がつかなった。

 

「……どうやら、完全に落ちたみたいですね」

 

こくん、と落ちるマスターの首。

その様子に完全に惚れ薬がまわったと得心する。

 

「先輩、顔をあげてください」

 

その声に、すっと従うマスター。

その瞳はどこか眠たげに虚ろげで、焦点が定まっていないようにも見える。

 

「先輩、右手を挙げてみてください」

 

力なく挙げられる右手。

 

「今穿いているし、下着はどのようなものでしょうか!」

 

「……黒いボクサーパンツ」

 

「む、胸の大きさの好みは!」

 

「……大きい方が好み」

 

「間違いなく催眠状態ですね」

 

念のために軽い質問と、答えるには憚られる質問で試すがやはり効果に疑いはない。

 

「………ッ!」

 

この時点で、マシュは飛び跳ねそうな程に歓喜に打ち震えていた。

この惚れ薬の性質上、マシュの言う事を聞くことはつまり、マシュのことが好きだという事に他ならない。

マスターは自分の事が好きだという確信があっても、不安がないわけではなかった。もしかしたら……が頭をよぎることもあったのだ。

それらが払拭されたのだ。その喜びはとてもじゃないが容易に言い表わせるものではない。

 

「……」

 

そこで、ふとマシュは思った。

せっかくだから普段出来ないことをやろうと。

 

「……頭を撫でてください、先輩」

 

「……ん」

 

「ふぁ……」

 

まるで意識があるかのように優しく頭に乗せられる自身より大きな手が、気遣わしげにゆっくりと動く。

手のひらから伝わるマスターの体温と優しさに心が満たされる……が。

 

「なにか違いますね……」

 

子どもの姿で召喚されるサーヴァントたちに接するときに見せる、充足感のようなものがない。

その様子を見ていいなあ……などと密かに思っていたマシュだが、流石に頭を撫でてくださいと言うのは恥ずかしすぎる。薔薇の皇帝のように自信満々とはいかないのだ。

なので今お願いしてみたが……良いことは良いが、どうにも想像していたものとは違った。

 

「うーん、やはり意識の有無なのでしょうか……」

 

虚ろな目で頭を捻るマシュを見るマスター。

その瞳は空虚で、感情を感じさせないその表情は、おおよそ意識といったものが欠落しているように見える。

しかし。

 

「(え!!!?なんで!!!?どいうこと!!?マシュどうしたの!?え!?ホワイ!!?)」

 

内心凄いことになっていた。

 

惚れ薬を飲み催眠状態に陥ったはずのマスターに何故意識があるのか。

簡単な話である。効かなかった。それだけのことだ。

 

では何故催眠がかかったふりをしているのか。

 

マスターはマシュから珈琲を受け取り口をつけた後、会話の途中ふと水回りに目を向けてそれに気がついた。

元来の目の良さも合わせて、バッチリ見つけてしまった。

催眠薬と記された目薬ほどの容器を。

 

迂闊……!圧倒的油断……!!

 

惚れ薬の混入を急くあまり、要肝心のそれを懐に仕舞うことを忘れるマシュの致命的なミス。

しかし、惚れ薬だと体裁が悪かろうと気を利かせたヘカテー式魔術通販の心遣いによりそのレベルは催眠薬となっていた(効果は催眠と似たものなためこれは誤魔化しようがないから)

 

これにより生じる2人の認識のすれ違い。

すなわち。

 

レクリエーションによる催眠遊びのつもりのマスターとガチ惚れ薬服用を狙ったマシュの認識齟齬……!!

 

本当に催眠をかけるつもりなら容器をあんな見えるところに置き忘れるなんて訳がない。マシュの珍しい茶目っ気だと判断したマスターはそれに付き合うことにした。渾身の恐らく催眠状態はこんな感じだろうという演技。顔や手をあげる命令に内心微笑ましく従っていたところに下されるまさかのパンツカミングアウトの要求。

 

性癖の暴露まで求められ、マシュ痴女になっちゃったの!!?と死角からハンマーで殴りつけられるかの如く衝撃を受けるが、あまりの衝撃についそのまま正直に答えてしまう。

 

早く催眠が解けたふりでもすればいいものを、続け様に求められた頭を撫でながら、マスターの頭は冷静さを未だ取り戻せずにいた。

 

「では……そろそろ」

 

マスターが狸寝入りならぬ狸催眠をキめている事など露ほどもしらぬマシュは、効果時間の懸念から本命のお願いに移ろうとしていた。

 

「もっとして欲しいこと、本当はありましたが……」

 

ーーやっぱり、いつもの先輩がいい。優しく微笑む先輩がいい。

 

ならば、愛の証明のお願いとそれを叶えようとするマスターの行動はどうなのかという事にもなるが、それはそれ。これはこれである。

恋に手段は選んでられないのだ。

 

「先輩……」

 

「(近い!近いよマシュ!)」

 

顔を近づけ、目を見つめるマシュに赤くなりそうな顔と盛大なビートを刻む心臓を必死に抑えるマスター。

 

「私……先輩に聞いてほしい事があるんです」

 

「(きゃあ!マシュ!?なんで耳元で囁くの!!?ま、マシュの身体やわらか……うわあ!?頰に触らないで!!熱くなってるのバレる!!)」

 

さらに密着するマシュに、男の子的なときめきが限界を突破しそうなマスター。

 

そしてーー

 

「先輩、私はあい「マスター入るわよ」色の下着を着ています!!!」

 

ーー愛の証明が欲しいです、とは言い切れなかった。

 

突然の来客!!マシュ!緊急回避!!!

 

「あー……お邪魔しちゃったようね」

 

しかし!それはさながら海面に不時着するかの如く!!!

 

「あ…あ……ああ……」

 

固まる時間。固まらずに肥大する羞恥心。

 

小刻みに震えるマシュと、驚愕による硬直で動けずにいるマスターを見て一瞬で状況を把握した来客者……キャスターのサーヴァント、神代の魔女メディアはため息をひとつこぼし、

 

「マスター、手を挙げておろしなさい」

 

その言葉で再起動を果たしたマスターは、訳もわからず催眠状態の振りを続けたまま従う。

 

「……え?」

 

マシュは大声での下着カミングアウトの羞恥心も忘れて目を見開く。

 

ーー好きな人の言葉を聞くのでは?

 

ーーつまり、それは、先輩はメディアさんの事がすーー

 

「私としたことが、失敗作を渡してしまったわ。おおよそ全ての好ましいと感じる人に効果があるようね。だから、あの子が私を異性として好きという事じゃないわ。ーー焦ることもないのよ」

 

「ーーあ」

 

その言葉に込み上げる安堵。そして安堵したが故に、心に湧いたのは一連の自分の行いに対する極大の羞恥心。

やってはいけないことをやってしまった、恥の心。

 

ここでマシュがマスターに飲ませたのが惚れ薬だとマスターに知られるのは、少女には辛いものがあるだろう。

大局を見たメディアの優しさ。しかしそれは正しく、一連のマシュの行いを突きつける言葉でもあった。

 

「失礼します先輩……」

 

恥の感情からその場にいる事に耐えられなくなったマシュは、逃げるようにマスターの自室を後にした。

 

「……いつまでそうやっているつもり?」

 

「……えっと」

 

しばらくして、メディアに声をかけらたマスターは催眠の演技をやめてメディアを見る。

 

いったい何だったのだと説明を求めるその瞳にメディアは、

 

「今日のことは忘れてあげなさい。腑に落ちなくてもね」

 

ーー相当に切羽詰まってたようだし。

 

という言葉は飲み込む。

元来、惚れ薬など使う子ではないのだ。副産物とはいえ作った側の自分が言うのもおかしな話だが。

人の気持ちが尊く、尊重されるべきものだと理解している。

いくら根本的には本心を曝け出すものだとはいえ、無理にそれを強要ていいものでなない。

なのに何故、こういった行動に出てしまったのか。

それは、マスターが考えるべき事だろう。

 

「マシュも疲れてたのかな……」

 

説明にもなってない説明なので仕方のない部分もあるが、的外れな方に飛んだマスターの思考に、自分でも自覚するほどマシュの肩を持っているメディアは若干こいつ……と呆れを乗せて嘆息する。

 

だから、ひとつお節介を焼く事にした。自分の責任でもあるからと。

 

「あの子のことが大事ならね」

 

「え?」

 

「明日ね、あの子は謝ってくるわ。何故かは考えても考えなくてもいい。でも、マスターが今日のことを何とも思ってないのなら、ひと言言ってあげなさい」

 

「何を……」

 

「それはマスターが考えることよ。マスターの言葉だから意味があるの。今日のあの子を見てたら分かるでしょう」

 

マスターは何かを思い出すように天井を見上げ、

 

「藍色……」

 

「忘れなさい」

 

 

 

 

『あ、先輩……』

 

『やあ、マシュ』

 

『あの!その、私、先輩に…先輩の、気持ちを、無視するようなことを……してしまって……!」

 

『うん』

 

『それが、とても綺麗なものだと、大切なものだと……教えてもらったのに……!私は……!」

 

『うん』

 

『謝って許されるような事じゃないのは承知しています……それでも!でも、先輩……ごめ『マシュ』……え?』

 

『風邪引いて高熱が出てさ、結構しんどかったんだよね。サーヴァントのみんなや職員の人たちが来てくれてさ、心配をかけるのは申し訳なかったけど嬉しかった』

 

『はい……』

 

『でもね。優劣をつけるわけじゃないんだけどね。みんなみんな、嬉しかったのは本当だから。でも、1番嬉しかったのはマシュがずっと側にいてくれた事だった』

 

『え……?』

 

『改めてお礼を言うね。ありがとう、マシュ』

 

『は、はい……いえ!それは、先輩のサーヴァントとして当たり前のことで…!それと、これは違くて……!』

 

『じゃあさ、マシュ』

 

『……はい』

 

『紅茶が飲みたいな。練習してるんでしょ?それで俺は満足だ』

 

『え…?いえ、でも…!』

 

『ぐああああ!急に喉がものすごく乾いた!今すぐマシュの用意した紅茶を飲まないと死んでしまう!』

 

『ええっ!?』

 

『ま、マシュ!はやく、はやく紅茶を……!マシュのいれた紅茶を……!』

 

『え?え…?わ、分かりました!すぐに用意しますから待っててください!』

 

『美味しいのを頼む…!』

 

 

『……行ったか』

 

『……我ながら、本当に女々しいなあ』

 

 

 

 

「本当に、難儀な子たちね……」

 

フリフリとやたらと可憐な服と裁縫のための道具や、お手製のフィギュア。そして見ただけでは何に使うかもわからないような魔術の何か。

大局的な要素で構成されるその部屋の主……メディアは少年少女のことを考えていた。

 

少女の方はいい。

 

ひとりの少年に恋をして、自分を好きになってもらおうとアピールして。

明らかに自分を意識しているはずなのに、何故かその好意を隠そうとする。

そんな少年に意地になって、やきもちを妬いて。可愛いものだ。

恋を全力でしている。

 

でも、少年の方は。

 

「考えすぎてるのよね……」

 

経緯が特殊すぎるというのもあるだろう。

ただ、ひと言でその心を表すのなら。

 

恐怖。

 

生か死か。極限の日々を駆け抜けた2人。安寧を手にし、少女には普通の身体と、普通の人生が与えられた。少年と少女が勝ち取った当たり前に朝日が昇る世界。

でも、そこで少年は考えた。否、思い至ってしまった。

 

自分がいれば、少女の自由を狭めてしまうのでは?と。

 

少女は普通の現代的な一般人は少年しか知らない。

じゃあ、少女がこの先世界を知って、普通に暮らせるようになったらどうなるのか。

それを知る前に、自分が少女の錨になってしまってもいいのだろうか。

 

だが、それで割り切る事のできない莫大な感情が恋というもの。

 

じゃあそういう事で。と、少女と離れることは少年には出来なかった。いや、したくなかった。

理性と感情の矛盾に直面した少年は、あるひとつの妥協点を。あるいは、自分を納得させられる理由を用意した。

 

つまり、少女の方から告白をすれば、少なくとも自分から少女の見聞を狭めたわけではない、と。

 

過程が違うだけで結果は同じである。

本来少年が避けようとした事などまるで避けられていない。

ただ。そんなどうしようない矛盾も。

相手と一緒にいたいという一念だけで跳ね除けてしまえるのが恋なのである。

 

「そもそも、好き合う2人。何もおかしくはないのよ」

 

だから、これは。

 

臆病な先輩を告白させようとする後輩と。

無垢な後輩に告白できないでいる先輩の。

 

結果の見えた、ありふれた日常のお話なのである。

 

 

 

 

【本日の勝敗】

 

引き分け

 

 





本当なら雑誌大作戦の後に入れようと思ってました。
ここで取り敢えず一区切り。惚れ薬ってよく考えたら笑い事じゃないよな?ってところからスタート。
かぐや様巻数増えるごとにぽんこつさに磨きがかかって行ってるような……。魅力も磨きがかかってるんだけどね!
つまりマシュのぽんこつも魅力はさておき加速する。


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幕間 ある日の日常②


細かいことは気にしないスタイル。




 

『ゼェ……っあ、ハァ…ハァ…ッ!!』

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!』

 

走る、走る、走る、走る。

あまりの苦しさに唾を飲み込もうとして、しかし、今もなお汗に変換され続ける水分に唾液を作る余裕はない。

 

大地を抉り、木々をなぎ通し。あらゆる物を吹き飛ばしながら迫り来る圧倒的脅威。

 

ギリシャ神話の大英雄ヘラクレス。

 

追いつかれれば死は免れない。戦力差、という次元ではない。同じステージに立って始めて優劣は生まれる。だが、己とあの大英雄では生物としてのスケールが違うのだ。

故にそこに戦力差はなく。ただ圧倒的な死が事実として存在する。

 

『もっと急ぎなさい。死ぬわよ』

 

『全力……、だよ……っ!!』

 

腕の中で声援の一つもくれない女神に言い返し、決して落とさぬよう腕に力を入れなおす。

いや、これも彼女なりのエールなのか……いずれにせよ、彼女の言う通りスピードを上げなければ、数秒の間にあの斧剣により自身の半身と永遠に泣き別れることになるだろう。

 

『ゼェ…ゼェ……くそッ!』

 

それはダメだ。己が死ぬ事ではない。いや、それも良くはないが……それ以上に、自分が死ねば全てが終わってしまう。

それはダメだ。看過できない。自分に託された想いを、任された世界を踏みにじることなど許されない。

 

だが、だからといって背後の脅威が止まることなどあり得ない。

彼我の差は刻一刻と埋められている。

このままでは先の想像通りになるのは明白。

そう、このままでは。

 

『第二陣!目標ヘラクレス!マシュ・キリエライトいきます!!!』

 

震える声に勇気を滲ませ、己と逆方向に疾走する少女。

 

瞬間ーー激音。大英雄の斧剣が埒外の膂力で少女の盾に叩きつけられる。

 

『うぐ………ッ!!』

 

『マシュ!!!』

 

拮抗は一瞬。

鍔迫り合いにもならず少女は冗談のような速度で吹き飛ばされる。

 

だが、一瞬の拮抗。その隙を逃さず、待機していたサーヴァントたちが大英雄の猛追を緩めるため仕掛け出す。

 

『行ってください!先輩ーーー!!!』

 

少女の叫びを背に駆ける。

大気を震わす戦闘音を置き去りにただひたすらに走る。

 

『あの子との約束覚えてる?』

 

忘れるわけがない。

が、女神の問いかけに答える余裕はないため、目線で答えとした。

 

 

『先輩、本当ならこういったビーチでは海水浴というものをやるんですよね』

 

『今は特異点を正常にする事が最優先ですけど……』

 

『いつか、私もこの広い海を自由に泳ぐことが出来るのでしょうか』

 

『全部終わったらまた来よう……ですか?はい!それは……とても楽しみです』

 

『約束ですよ、先輩。だから……無事でいてください。絶対ですからね?』

 

 

ーー死ねない理由がまだあった。

だから。今にも砕けてしまいそうな心と震える脚を暖かなそれで支えて。

彼女のために走るのだ。

 

 

 

 

夏が来た。

特殊な場所にあるカルデアでは季節など知るかとばかりに外は猛吹雪だが……とにかく、日本では夏である。

 

さながら国籍のサラダボウルと化しているカルデアでは当然季節感にも食い違いが出てくるが、唯一のマスターが日本人というのもあり、四季は日本をベースにしている。

 

カルデア内の室内温度を普段より高めに設定したり、それに伴い職員の制服もクールビズ仕様になったり、一部のサーヴァントがどこから持ってきたのかアロハシャツになったりと、限界はあれど夏の要素を取り入れている。

 

自然環境と違い徐々に変わる景観や気温などはなく、決められた日にガラッと入れ替える。衣替えのような変遷を辿るため、ある種イベントの始まりといっても過言ではなく、事実食堂のメニューからレクリエーションルームの内装まで変わるためイベントの一種でもあるといえる。

 

そのため季節の変わる日を楽しみにしている者は多く、この日は盛大に騒ぐのだ。

 

もちろん、少女ーーマシュもその1人である。

 

「今年もこの季節が来ましたか……!」

 

夏!!

 

一般的には6月から9月の間の季節であり、1年で最も暑い時期である。

しかし、暑くなるのは何も気温だけの話ではない!

 

「夏は1年で最も恋する季節……!!」

 

告白の多い季節というものがある。

男性と女性で多少の差異はあれど、統計すればそれは6月から8月に集中する。

一説によれば人間にとって活動しやすい時期であることや、夜に出歩く機会に恵まれること、薄着の異性に魅力を感じることなどが挙げられる。

 

夏は恋の季節というのは恋愛普及幻想の虚偽ではあるが、事実として夏に誕生したカップルの話などそれこそ枚挙に暇がない。

諸説あるが、要は男女の仲もアツくなりやすい季節なのだ。

 

「素敵なビーチ……水着の私と先輩の2人きり……何も起こらないはずもなく……!!」

 

めくるめく展開される妄想の中で描かれるのは幸せなゴールの瞬間。

 

「カルデアのスタッフさんたちに選んでもらった水着もあります!」

 

この日のために一緒に頭を悩ませてくれたスタッフたちを思い起こす。

太鼓判を押して送り出してくれたスタッフさんたちのためにも、絶対に告白させてみせる意気込みである。

 

「そ、その、身体には自信をもっていいとも言われましたし……」

 

恥ずかしくてしりすぼみになってしまったが、水着を選ぶ際に女性スタッフから言われた言葉だ。

 

『マシュちゃんいい身体してるんだから!マスターくん初心そうだからちょちょいとやれば1発よ!』

 

何をちょちょいとやるのかは未だ未熟だと自覚するマシュには皆目見当つかなかったが、とにかく水着の自分にマスターをオトす力が秘められている事だけはわかった。

 

「なので!この夏で先輩を一気にーー」

 

「ねえダーリン!どの水着を私に来て欲しい?」

 

「いやお前の水着はどうでもこの白と赤のがいいです!!」

 

「あらあら、いけません。この破廉恥な水着は母が没収いたします!」

 

「んー、お弟子に見せられないのは選べないなー」

 

「どれも普段の服と変わらないようなのばかりだね」

 

「ブーディカさんはそうねえ」

 

「マタハリさんも変わんないんじゃないかな」

 

「……一気にーー」

 

通り過ぎていった一団を見る。

圧倒的だった。何がとは言わないがとにかく圧倒的だった。

自身をリンゴだとするならメロン、いやスイカほどの戦力差が彼我の間にはあった。

 

「…………」

 

思わず目線を下に向ける。

自信?なにそれあれ見ておんなじこと言えるの?

 

「ッ!」

 

走る、走る、走る、走る。

背後に過ぎ去っていった胸威を置き去りにとにかく走る。

そして、目的の場所へ飛び込みーー

 

「エミヤさん!!ご飯大盛りでお願いします!!」

 

デミ・サーヴァントであるマシュには成長できる余地があるのだ。まだ負けてはいないのだ!

 

なお、この後。

 

「きゃああああああああああ!!?」

 

数日たくさん食べたからといって望むところに栄養が行くはずもなく。

数百グラムを気にする乙女的に看過できない事実を容赦なく叩きつけられるのである。

 

 

 

 

「夏が来た……!」

 

夏!!

一般的にはry

 

「マシュと海に……」

 

夏を楽しみにしていたのはなにもマシュだけではない。

もちろん少年ーーマスターも楽しみにしていた。

日本育ちであるマスターには刷り込まれた夏意識がある。

夏だから〜とだけで謎の高揚感に包まれ、根拠のない自信のようなものが溢れてくるアレである。

 

海に行きたい理由にすけべ心がないといえば嘘になる。

水着?みたいに決まっている。

 

「それに、夏の女の子は積極的だし」

 

あわよくば告白も……なんて期待しちゃうのもまあ無理からぬ話だろう。

 

しかし、それには海に行く必要がある。

 

海山問題!!!

 

夏といえば海!と同じぐらい夏をあらわすもの、それが山である。

古来より争われてきた絶対的対立。個人の嗜好が色濃く浮かび上がる思想戦争である!

 

しかし!しかしである!!

マスターとマシュとの間でおいてのみそれは問題とはならない!

なぜなら!!

 

「結局、一緒に海に行こうって約束、まもれてないからなあ……」

 

正確には少し違い、行ったことはある。

あるにはあるのだが……。

 

「無人島を開拓したりレースしたり同人誌を書いたり、何のしがらみもなく羽を伸ばしたりはしてないんだよね……」

 

引っ切り無しに持ち込まれる厄介ごと。それはそれで楽しくはあったのだが、2人でゆっくりなんて時間とは縁遠かったのもまた事実である。

きっとあの約束を覚えてくれているはずのマシュも、自分と同じ気持ちのはず。

だから、どう2人きりになるかとあう問題はあっても、海と山のどちらに行くかは問題とはならないーー

 

「嫌です海には行きません。山に行きましょう先輩!」

 

「ええ!?」

 

ーーはずだった。

 

マシュも海に行きたいと思っている。そう高を括っていたマスターはなんの気負いもなしにマシュに話しかけた。

 

『今年もサーヴァントやスタッフのみんなと海に行こう』

 

と。

しかしーー間が悪いことに……このときのマシュは日々憎きアイツと睨めっこしており……とてもではないが好きな人の目に肌の大部分を晒すこと……すなわち水着になるのはとても許容でなかった。

 

「え…その……約束……は……」

 

想定外の事態に困惑したマスターは絞り出すように声を出すが、

 

「それはまた今度です!とにかく今回は山なんです!」

 

マスターが約束を覚えていたことに嬉しさがこみ上げるもそこは頑なに譲らない姿勢のマシュ。

 

そもそも約束を抜きにすればマシュの水着が見たいの一念だけで海を推していたマスターは、追求されると答えに窮するのは自明の理。

 

したがって、あえなく山となった。

 

 

 

 

『登山も楽しいね、マシュ』

 

『はい。そういえば、一部のサーヴァントの皆さんが競争を始めてしまったのもあって……その、2人きり……ですね、先輩』

 

『ん、そうだね』

 

『……あの、先輩。そこ、道が不安定ですから、手をこちらに』

 

『……うん、お願いマシュ』

 

『はい、任せてください』

 

『……あったかいね、マシュ』

 

『……はい』

 

 

 

 

『どうしてだいメディア!この日のために登山グッズ揃えたんだぞ!なのになんで行っちゃダメなんだ!』

 

『行ったらダメとは言ってないわ。暑い夏を乗り切るにはアイスキュケオーンだ、なんていいながら大量に作ったこれを何とかしてから行きなさいと言っているの』

 

『分かってないなーメディアは。今なんとかしたらマスターが食べられないだろう?そんな事も分からないのかい?』

 

『私は!これを!!私の部屋から退けなさいって言ってるのよ!!!』

 

『うわあっ!?ちょ!メディア!?アイスキュケオーンは冷やしてないといけないんだ!だからメディアの部屋を魔術で冷やして……!メディアも暑くてかなわないっていってたからついでにいいかなって……!』

 

『いいわけないでしょう!!?』

 

 

 

 

【海山の勝敗】

 

マシュの勝ち(乙女的プライドを死守したため)

 

 





二部三章のプロローグをやりました。
やっぱり新所長は癒しですね……。
かぐや様はPV第1弾が。石上がイケボすぎて二度見(聞?)してしまいました。



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幕間 アナスタシアは食べたい

ちょっと文体が違います。


私の名はアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。

高貴な皇女よ。

 

趣味はラーメン巡り。

 

「いらっしゃい」

 

今日はカルデアの食堂に足を運んだわ。

ディナーの時間も過ぎベッドへ身体を沈ませる者も出てくるこの時間……カルデアの食堂は夜食を食べに来る人のために開かれている。

 

本日のシェフは褐色のアーチャー。

彼は古今東西の料理に精通していて、尚且つ美味しい。

中でも……拉麺は別格です。

 

「注文は?」

 

カウンターに楚々と腰を下ろした私に、彼が背を向けたまま声だけを投げかける。

もちろん、私がオーダーするのは1番人気の豚骨……ではない。

メニュー表にひっそりと書かれている、

 

「醤油とんこつ。薄めで」

 

「麺の硬さは」

 

「カタメよ」

 

これが、彼の拉麺の最適解。

理解っている注文の仕方。

彼の口元が僅かにニヤリと歪む。

 

貴き者として養われた私の目は、所作や立ち振る舞いを見ただけでその人物の拉麺適正を測ることができる。

彼が作る最も美味しい拉麺……それは醤油とんこつ薄め以外にありえないわ。

 

「いらっしゃい」

 

「わあ!いい匂いですねー!」

 

あら?

この時間に、私以外にここを利用する人がいるなんて。

流麗な金髪にあの顔鎧。あれは……フランスの聖女だったかしら。

マリーと仲が良いのは知っているけれど、あまり話した事はないのよね。

 

それにしても……ふふふ、随分と可愛いお客さんね。

トレーニングジムと間違えて入ってきたのかしら。

 

「注文は?」

 

「そうですねー、えーっと……」

 

マスターや自身の別側面とよく共にいますが、所作や食事の好みを見る限り田舎娘そのもの。

注文も恐らくは1番人気の豚骨ラーメンでしょう。

 

「醤油とんこつーー薄めで!」

 

!!

なんですって!

彼の拉麺における最適解をこの見るからに頭からっぽそうな聖女が弾き出したというのですか!?

 

えへへと緩みきった笑みを見せる姿からは想像もできない……。

 

偶然なの?

いや、でも考えてみればこの時間、電気節約のため仄かに薄暗く閑散とした食堂はただの脳筋田舎娘がひとりで入って来られるような雰囲気ではないわ……。

マスターと一緒とかならともかく、ひとりで来て拉麺を頼む……。

 

まさかこの聖女ーー『喰える側』の人間だというの?

 

「麺の硬さはどうする?」

 

「えーっと、バリカタで!」

 

……ふーっ。

バリカタ……そんな流行りに乗ったお遊戯用の硬さを選ぶなんて……。

ロシアなら茹でたそばから麺が凍ってバリカタどころかコナゴナになるので致し方ないですが……拉麺は程よい麺の柔らかさがあってのもの。

やはり只の田舎娘だったようね……とんだ杞憂……買いかぶりだったみたいね。

顎のトレーニングでもしに来たのかしら。

 

さっきの注文もただのビギナーズラック。

聖女に向けられた女神の気まぐれな微笑み……なんて言うと彼女に対しては皮肉が効き過ぎているかしら。

 

ん……あれは確か、ポニーテールだったかしら。

前にマリーから見せてもらった写真でもマリーがしてたわね。

なるほど、あれなら食事中に髪が邪魔になることもない……そういえば筋トレしてるときもあの髪型だったわね。

……私もやろうかしら。印象も随分変わるみたいだし。

 

あら……そうこうしているうちに拉麺が出来上がったみたいね。

コト、と小気味の良い音を鳴らして私の注文した拉麺が置かれる。

 

ふふ、仕方ないわね。

ここは先達として、彼女に本当の拉麺の食べ方というものを見せて差し上げましょう。

 

「いただきます」

 

まずは香り。

両手の指先で丼を挟むように固定してスープの熱を手で楽しみ、若干顔を近づけて呼吸。

 

「ん……」

 

スープ元来の香りが鼻腔に染み渡る。

それはまるで拉麺という空気を飲むかのよう。肺がごくりと飲み込むのがわかる。

 

香りの強い紅生姜の対極から拉麺の香りを楽しむのがセオリーだけど……ふふ、彼もそれは重々理解しているようね。

紅生姜を1番遠くにして差し出した彼の気配りが嬉しいわ。こういった細かな気遣いが本物たる所以なのでしょう。

 

香りを楽しめば、次はスープ。

レンゲを手に取り、ゆっくりと麺を押し込むようにスープに沈ませる。

ゆらゆらと白い湯気が立ち上るそれを掬い上げれば、黄金のスープに振り散りばめられたきめ細かな油が飾り付けられている。

 

空気と混ぜながらティスティング。

脳を上から使っていくつもりで、嗅覚・味覚を研ぎ澄ます。

油があるというのに、嘘のようにさらりと舌を滑るスープに私の舌が歓喜を挙げているのがわかる。

 

ただし音は出さない。

音を出してスープを飲むなどNO!

皇女的に断固NO!

皇女はいつだって美しい振る舞いが求められるものなのです。

あ、暑すぎる夏とプロレスの試合に出る場合は除きます。

 

スープを味わえば、麺です。

召喚されてから練習したお箸で少量を掴む。

途端、ふわっと広がる湯気をふー、ふーっと軽く息を吹きかけて冷ませば、出来るだけ音を立てないようちゅるっと口に運ぶ。

 

僅かに押し返してくる麺の弾力を歯で楽しみ、喉で味わう。

バリカタではこうはいきません。

 

最後に、忘れてはならないのが水。

繊細な味わいを楽しむために舌上に残った油分と塩分をリセットすることが大切です。

単純な工程ですが、これをするのしないのとでは雲泥の差があります。

 

拉麺の熱で温まった口内が、冷えた水によって漱がれるのは、何とも言えない気持ち良さがあります。

 

「ふぅ……」

 

余韻を息にして吐き出し、こと、とグラスを置く。

 

これで1セット。

これを繰り返すことを水廻しと私たちは呼んでいます。

 

やはり、彼の拉麺はとても美味しい。

洗練された技術が詰まっているのはもちろん、この拉麺には並々ならぬ想いが込められているように感じます。

中華系の料理に対して何かあったのでしょうか。

 

さて、あの聖女はどうやって食べているのでしょうか。

気になるので不躾にならないよう横目で様子を……!!

 

「えへへ」

 

ミニラーメン!!

レンゲをひとつの丼に見立て、その世界に小さい拉麺を作り上げる食技!

 

やはり只の田舎娘!

私のような高貴な血筋にはそういったちまちまとしたことは恥ずかしくてできない。

下々の民の特権ね。

 

「ん〜♪」

 

お、美味しそうに食べるわね……。

出来上がったミニ拉麺をぱくってひと口で……あんなに顔を綻ばせて……。

 

まあ、たしかに一概には馬鹿に出来なのいのも事実です。

拉麺を食すという概念上、ひと口で全てを食せるミニ拉麺は一であり全でもあり、究極の形とも言えます。

突き詰めていえば、最も拉麺を食べるという本質に迫っているでしょう。

 

しかし、前提が間違っています。

ほら、そうやってまたちまちまとミニ拉麺を作っていては、麺が伸びてふやけてしまってとてもベストな状態とは……

 

……あら?ふやける……?

 

「あ〜んっ」

 

はっ!!!

だからこそのバリカタ!!

 

予めバリカタで注文しておくことで、ちまちまとミニ拉麺を作っているうちに麺の硬さはベストな状態へと達する!!

 

「おいひ〜♪」

 

ま、まさかこの聖女……そこまで計算して!?

 

暇があれば筋トレして、アーツで殴れば万事解決ですと言って憚らない彼女が!?

この前の腕相撲大会でそこのシェフを瞬殺した筋肉聖女なのに!?

 

思えば博多ラーメンはきくらげ、ネギ、紅生姜と細かく切られた食材を多く用いる……最もミニラーメンにしやすいジャル!

 

まさか……!?

これが全て計算だとしたら、カリブ海のEティーチ並みの状況判断センスの持ち主ということになるわ!

 

でも、まだよ。

彼女にはまだ喰う側として最大の障害が残っているわ。

 

「……」

 

ちらり、とカウンターに置かれている四角い箱を見る。

蓋が閉められているというのに、その存在を主張するように強烈な存在感を漂わせる箱を。

 

そう、それは性差。

私たちが女であるが故に超えられない壁。

 

それはニンニク!

 

味の強いにんにく投入を邪道と呼ぶもの多い……しかし、それは二流の拉麺しか食べたことのない者の言い分。

本物の拉麺はにんにくの味に負けず高め合う。

勿論、褐色のアーチャーのシェフの拉麺は本物だ。

このにんにくを投入することで私の舌に新たな一面を覗かせてくれることは間違いないわ。

 

拉麺を語る上で切っても切れない暴力的な旨味!

でも、引き換えにその強烈な臭いは翌日まで残る……!

 

だめ!それはだめ!

皇女的にも乙女的にも断固拒否!

ちょっと気になる相手がいる乙女としては絶対に受け入れることはできない!

 

『アナスタシア……その、これを』

 

そういって差し出されたブレスケア。

あの時の辱めを私は障害忘れることはないわ……!

 

いつか、そう。例えば、ロック好きな少年が、にんにくを投入しない完成された拉麺を作り上げるかもしれない。

 

でも、それはifの話。

現実には、この拉麺はにんにくを投入する事で完成する。

もう、私はにんにくを投入する事は出来ないけれど、貴方はどうなの……?

 

「あ……」

 

具を消費し切ったみたいね……!

どうするの!?もうミニ拉麺は使えない!

 

……えっ。

待って、その箱は!

ああ!ガーリックプレスを手に……!

まさか……っ。まさか……!!

 

ガリィ……!

程よく硬いものが砕ける音。

瞬間、暴力的なまでの強烈な臭いが食堂を席巻する。

 

行ったーーーーー!!

超えた!超えたわ!女の壁を!!

 

ずん、と鼻腔を侵略するかの如く蹂躙する臭い。

しかし、そこに不快さはなく……旨味が鼻を通して舌を転がり、知らず知らずのうちに唾液が滲み出る。

 

くっ……。

こうなればもう、認めざるを得ないわね。

敬意を払いましょう!

 

私は俯いていた顔を上げて、幸せそうに拉麺を啜る聖女ーージャンヌダルクを見る。

 

もう彼女を田舎娘として見ることはないわ。

彼女はひとりの喰う側!

 

「ふ〜〜っ♡」

 

ラーメン喰いよ……!

 

「んしょ」

 

どうやら麺を食べ終えたようね。

あら?丼を持った……?

まさかスープまで!?

 

馬鹿っ!止まりなさい!

塩分過多よ!!

それにスープにはにんにくも残ってるのよ!!

麺だけならいざ知らず、スープまで飲み干せば翌日の口臭パンデミックは必至!

それはもはや乙女としての死を意味するのと同義!!

にんにく女のあだ名を襲名したくはないでしょう!!?

 

あ、あああ!

丼を持ち上げて、口をつけて軽く上を向き徐々に傾けて……あああーーー

 

ーーでも。

私にもあったな……そんな時代が。

 

口臭も気にせずにんにくを入れて、塩分なんて考えもせずにスープを飲み干す。

 

今では皇女としての振る舞いや頭の片隅にぼんやりと浮かぶ誰かのことが気になってとてもそんなことはできないわ。

 

私は……。

私はどうして皇女になってしまったの。

 

ぐびぐひと丼を持ち上げる彼女の顔は下がるどころか徐々にその角度を上げていく。

こくっ、こくっと上下する喉は止まることをしらない。

 

……そうよ。走りなさい!

振り向かなくていい!

その若さは私が失った輝き!!

走り抜け!!

 

知らないうちに、私は拳を握っていた。

最初は軽んじていたはずの彼女。でも、今はもうその彼女から目が離せなかった。

私は……新たなラーメン喰いである彼女を応援したかったのです。

 

やがて、ひときわ大きなぐびっとした音がなり、彼女の喉が止まる。ゆっくりと丼をカウンターに置き、至福の顔で、

 

「ぷはぁぁ〜〜」

 

完飲ーー!

 

「ご馳走様でした〜♪」

 

「840円だ」

 

お金を払い終わった彼女が食堂を出ようと背を向ける。

でも、その前に私はどうしても彼女に伝えたいことがあった。

 

「貴女……」

 

「はい?」

 

不思議そうに振り向いた彼女に向かって私はーーサムズアップ。

おめでとう。貴女のこれからの拉麺道に……祝福を!

 

「え……あ……え……?」

 

状況がよく分からなかったのか、戸惑いながらもサムズアップ返す彼女に、私は微笑むのだった。

 

【本日のラーメン戦】

 

ジャンヌ・ダルクの勝利

 

 

 

 

『は〜拉麺美味しかったです!さ、歯磨きもしましたし……オルター!リリィー!寝ますよー』

 

『なんであんたの言うこと聞かなきゃなんないのよ。私はまだ寝なっ……』

 

『ダメですよ成長した私。夜更かしは美容の大敵なんですかっ……』

 

『おや?2人ともどうかしましたか?』

 

『……あいつのとこでも行きましょうか』

 

『……そうですね、成長した私。今日はそっちで寝ましょう。トナカイさんなら事情を話せば許してくれそうです』

 

『えっ。え?どうして私から距離を取るんですか。ねえ!』

 

『あの……正しく成長した私。これを……』つブレスケア

 

『……あっ』

 

『別にあんたが何食べようがどうでもいいけどさあ。にんにく臭い聖女サマってどうなの?あんたそれでいいの?』

 

『あ、あ、ああああ……し、失礼しますーー!!』

 

 

 

 

『エミヤー!お腹すいたからなんか食べさせてー!』

 

『あれ?アナスタシア?どうしたの、すごく嬉しそう』

 

『そんなに嬉しそうな顔をしているのかって?うん、してるよ。すっごい楽しそう』

 

『え?新しい友人ができるかもしれない?え、ほんと!?それは良かった!』

 

『あ、ラーメン食べてたの?エミヤー!俺もラーメン食べたい!座って待ってろ?分かった!ありがとう!』

 

『へえ、アナスタシアもラーメン好きなんだね。え?色々教えてくれるの?やった!聞きたい!なになに?エミヤの作るラーメンで1番美味しいのがーー』

 

【本日の勝敗】

 

なし

 




かぐや様アニメが始まりました。
声優さんの演技が素晴らしく、私はイメージ通りの白銀とかぐや様で、お話のテンポもよく大満足です。
FGOは年始イベも終わりプリズマコーズの復刻が始まりましたね。
私は初参加になるので、ちょっと気合い入ってます。

この話今まで1番オマージュ色が強いですが、寛大な心で受け入れていただけると幸いです(震声)


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