藤丸立香ちゃんの無個性ヒロアカ (夢ノ語部)
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立香ちゃんのヒーローアカデミア
藤丸立香ちゃん15歳。
カルデアで1年過ごして人理修復の旅を終えた彼女は、日本に帰って魔術とは無関係の平凡な日常を送っていた。
カルデアによるバックアップによって、魔術師なにそれぐらい無関係、世界線が違うのではというぐらい、「ま」の字もありはしない生活を送っていた。
「おいおい藤丸の奴、雄英志望かよ。無個性なのに死ぬわあいつ」
「いくら藤丸でも無個性じゃなぁ」
「立香ちゃん正気を取り戻して!」
「あー、先生も藤丸が頑張ってるのは知ってるが、むむむ」
これ異聞帯じゃねと言いたくなるぐらいだが、この二次創作では人理焼却前から『個性』も『ヒーロー』もいたので、これが正しい日常なのだ。
話を聞いてカルデアのエミヤが発狂したのは立香の記憶にも残っていた。
『レイシフト適正がアホみたいに高い個性』は、現代科学では全く検出されず、魔術師的にもカルデアでしか意味がなかったので、藤丸立香の個性は実質無個性扱いなのだった。
そんな『個性社会』による無個性に対する発言に、藤丸立香は必ずこう返していた。
「デキる後輩に、先輩は私のヒーローだって言われちゃったからね。このぐらい見栄をはらなきゃ駄目なんだ」
と。これに対して周りは、
「なんだただの記念受験か」
「誰? 後輩? 女の子?」
と、様々な反応をしたが、まさかカルデアの話をするわけにもいかず立香は曖昧に笑って誤魔化していた。
その中で一度だけ、落ちても大丈夫なんだねと言った女友達に対して、
「ははっ……落ちたら師匠達に殺されそう」
と肩を落とした彼女がいたが、それ以上を語ることはなかった。
◇◇◇
雄英高校ヒーロー科、実技試験当日。
誰もが緊張して息を呑むのも憚られるような雰囲気の中、
『俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!』
「ようこそー!」
この少女ノリノリである。
さすが、緊張という言葉は母親の腹に置いてきた女だ。時には英霊すらドン引きさせるマイペーススタイルは日本に戻っても変わらなかった。
『受験番号4518良ーいレスポンスセンキュー!』
「Fuu!」
◇◇◇
「おいおいおい、4518の女子が無個性? 増強系じゃあないのか?」
審査会場にいる雄英の教師達はそのモニターに釘付けになっていた。
はじめこそ今年は豊作だとゆったりと構えていた彼らだが、試験会場Cのトップ受験生について話をしていた時、試験会場の方にいるプレゼント・マイクから通信が入った。
『受験番号4518がTOP? なんのジョークだそりゃあ』
おや? と教師達は思う。
プレゼント・マイクはお気に入りの受験生に甘く、ノリで点数が上下する。だから審査ではなく司会にまわっているのだが、受験概要説明の時にレスポンスを返した4518は、そのお気に入りになっていると思っていたのだ。
違和感を持った教師の一人が資料を確認した。
「無個性……」
「「はぁ!?」」
大騒ぎだ。
無個性受験自体は珍しくないが、一試験会場内での現在トップとなれば話が変わってくる。それはペースさえ変わらなければ合格ほぼ間違いなしという事で、無個性合格となれば雄英始まって以来の偉業、あるいは珍事となる。
無個性と聞いてドキッとした平和の象徴が居たが割愛。
「さっき1Pだけど素手で倒してたよな? 無個性でそんなことできるのか?」
「それより敵を見つけた時、瞬間的に加速してるわ、これは個性じゃないの?」
「あれでペースが落ちてねぇ。どうなってんだ」
「それどころか鉄パイプを手にとってから殲滅スピードが上がってる。あれは槍術か?」
「イレイザーヘッド、お前なら似たような事は出来るだろ?」
抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』。個性を打ち消す個性を持つそのヒーローは、言い換えれば個性以外には無個性と同じ条件になるということだ。
だから話を振ったのだろうが、それは合理性を愛する彼からすれば許しがたく思えた。
「だからこの試験は非合理的だと反対しているんだ。仮に彼女がプロと同じ事が出来ると言うなら俺達に教えられることは何もない。個性が無い以上、伸び代もほとんど無いだろう、その内彼女には意味の無い授業も多くなる」
「し、しかし……」
「でも、確かに……」
「むむむ」
「しかし、その上で点数以外で評価すべきでない。この試験内容で始めたのだから今から合格基準に手を加えるのは非合理的だ。来年からは無個性は書類審査で弾くようにするのが合理的だ」
「それは法律で……」
「この個性社会で平等であるというのは幻想だ」
「イレイザーヘッド!」
社会感、英雄感、それはそれぞれ違う。紛糾しかけた審査会場にて、ぱぁんと大きな柏手の音が響いた。
「HAHAHA、それぐらいにしよう、今の主役は彼らだ。まずはこの試験をしっかり見届けようじゃないか」
「オールマイト……」
「ああ、すまない、そうだな」
「……」
オールマイト。無個性のヒーローというものに考え悩む機会のあった彼は、ここにいる誰よりも冷静……だったわけでなく、弟子にとった緑谷少年がまだ0ポイントだから、それどころじゃなかった。
彼なら救助ポイントがとれると信じてるけども、見てくれないとポイントが入らない可能性があるから、もう気が気じゃないのだった。
(おおおぉ、少年、たのむぞぉ……)
◇◇◇
「ええぃ! 見様見真似・
動きながら、不用意だったかも、と立香は焦った。
カルデアでの組み手ならこんな攻撃はあっさり返され痛い目にあうのだ。試験だからと昂ぶっていたのがマズかった。
ここで動きを止めれば余計に酷い目にあうと、殴り抜ける事を決める。
「はあっ!」
ドゴン!
「お?」
立香はまさか付け焼き刃のマジカル八極拳でメカが壊れた事に驚いていた。壊れるような相手は今までいなかったのにと。
しかし、こんなラッキーは続かないだろう。次からせめて武器を使おうと、工事現場(に見せた会場内の建物)にあった鉄パイプを拾う。
2,3振りして、バランスを把握したらどんどんと敵を破壊していく。
「うひゃあ、な、何か強くなった気分!」
1年前からは明らかに強くなっているし、規格外の師匠や周りの英霊のせいで自覚はあまりないが、競争率がおかしい雄英の試験で会場内トップになれるぐらいに彼女は強かった。
スカサハに及第点を貰える時点で、並のケルト兵より強いのだが、周りの英霊に叩かれ続けた立香は気づいていない。
ヘラクレスから逃げ切ったり、アメリカ大陸横断したり、身体能力だけみてもおかしいのは明白なのだが、比較対象(英霊)が悪すぎるのだった。
英霊達からしても教えたら教えた分だけ応えてくるものだから完全に悪ノリしていた。
「マスターは魔術の才能は皆無ですが、筋肉の才能は溢れんばかりです」
とはレオニダス一世談。
閑話休題。
審査会場の混乱など知らないままに、鉄パイプを槍に見立て、次々にメカを破壊していく立香。
「あ、無理」
しかし、流石に巨大な0Pメカを見た時、引く判断は早かった。
ビルより大きいメカに対する有効打は持っていないし、そもそもマスターとして「生き延びる為の戦い方」を教えられてきた立香は自分の限界を知っていた。
だから立香はその場から逃げる、筈だった。0Pメカを前にして、コケた少年を見つけなければ。
巨大ロボの拳が少年に迫る。
その大質量が直撃すれば大怪我は間違いない。
「ああああああ! 死ぬなら女子のオッパイに埋もれて死にたかったああああ!」
「めっちゃ分かるっ! よいっしょおお!」
思い浮かべるのはマシュの姿。
誰よりも前に出てマスターを守る盾としての姿……と、思考汚染されてマシュマロオッパイを脳内に浮かべ、鉄パイプを振るう。
ガァンと試験会場に硬質な音が響く。
見るものが見れば分かるだろう。たかだか鉄パイプ一本で、あの大質量を流しきった絶技に。
「流石に、きっつぅ……」
その左腕と左足は一瞬その質量を支えたために折れてしまったが、立香はまだその場に立っていた。
「あんた……」
「オッパイ、いいよね」
誰か止めろ。
その思いに答えるように、巨大メカが腕を上げる
「関節か履帯と車の間狙って、もいで投げて!」
「なんでオイラの個性……」
「さっき見た!」
戦いの中でも周りを警戒する力。能力を把握する力はマスターとして鍛えられてきた。
そのマスターとしての経験と勘がささやくのだ、
「皆! こいつを倒すよ!」
は?
他の受験生は理解出来なかった。何を言っているんだと思った。
「街を蹂躙する、誰もが倒すのを諦める敵を、私達が協力して倒す。それってさ……」
それでも、その言葉には、聞かせるだけの力があった。
「めっちゃ
ああ、これは、逃げられる筈がない。
雄英を受ける生徒は必ず強い思いを持っている。
憧れや感謝、名誉欲などの思いまで。それ自体は様々だが、総じて共通している事がある。
ヒーローになる。
シンプルで明確な目標。その思いが彼らを思うより先に動かしていた。
◇◇◇
「……」
審査会場は、その光景に静まりかえっていた。
0Pメカを、人を助けるために一撃で倒した少年に。
0Pメカを、ライバルと協力して倒した無個性の少女に。
「今年は、難しい採点になりますね」
誰かが呟いた言葉に、誰もが頷いた。
レスキューポイントも含めると、無個性の少女が首席になるところなのだから……。
もぅマジ無理……失踪しょ
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続いた
ヒロアカはジャンプと二次創作知識で書いてたので、
単行本買ってアニメ見ました
「雄英合格しました」
「」
先生はスタンした。
クラスメートもスタンしたし、これは色々使えるかもと立香は考えたが、両親は「へーそうなんだ」ですました事を思い出し、実践投入は見送る事にした。
◇◇◇
「つ、疲れたぁ」
放課後。立香はようやく解放されたことに息をついた。
スタン後に解除不可のバフがつくだなんて聞いてないと愚痴を吐く。
大体の人が合格を疑ってかかってきた上、説明しても信じてくれず無限ループするのは立香ですら心が折れそうになった。
「無個性なのにどうやってあのロボット倒したんだよ!」
「殴って」
「嘘吐け! そんなので壊れるわけ無いだろ!」
「私もまぐれかと思って、その後は鉄パイプでこう……」
「嘘吐け! そんなので壊れるわけ無いだろ!」
無限ループである。
最終的にこの男子生徒はルチャで黙らせたが、反省文を書くことになってしまった。解せぬ。
その反省文も終わって、今は机でゴロゴロしている所だ。
「……雄英かぁ」
正直……一番信じられていないのは自分自身だと立香は思っていた。あの雄英に合格して、しかも首席合格との事。
何かのドッキリという線も未だに脳の片隅に残っている。
一年前、ただの無個性だった藤丸立香なら、きっと何も出来ずに不合格だっただろう。
そして仕方ないのだと口元に笑みすら浮かべられたんじゃないだろうか。
何も、無かったのだ。
「ふぅ……」
今は期待を向けてくれる人がいる。信頼してくれる人がいる。僅かばかりの自信もある。
何も無くなったあの世界で、今日の自分を手に入れた。
「マシュ……私、頑張るから」
嘘だったかのように何も無かった事になったあの一年を、嘘にしない為に。
立香は教室を後にした。
◇◇◇
雄英高校1-A。
立香ちゃんは新しい出会いに胸を膨らませ、ドアに手をかける。
(虹演出来いっ!)
クラスメートはガチャじゃない。
「おは」
「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないとは思わんのか!」
「思わねぇよ! テメーどこ中だよ? 端役が!」
「よぅ……」
意気揚々と教室に入る彼女は、目の前の光景にショックを受けた。
新生活に対する期待と勢いが挫かれる。
「もう仲良くなってるっ! イベントに出遅れたんだっ!」
新生活はイベントじゃない。
カルデアでも極小特異点とかレムレムする時に「夏イベ良いよね」「ボックスきたー!」「コラボかー」とか言ってるものだから、奇行、迷言は今に始まった事じゃないのだが。
「誰が仲良しだっ! このクソフシアナ女が! ぶっ殺すぞテメェ!」
「えー、だって……」
矛先が変わった事で視線が集まる。
大体が心配している目線だが、一部はどうするのか興味深いと静観している。
立香が落ち着いて対応しているのも静観するに足る要素だ。それが個性なのか技術かは分からないがきっと何とか出来るのだろうと思えたのだ。
「ぶんぶん振ってる尻尾が見える」
「生えてねぇわ! 尻尾はあっちのモブ顔だ!」
そんなの無かった。
マイペースな立香ちゃんは爆豪くんと相性が悪かった。
実際、登校初日にイキってた爆豪くんはテンションが上がりきっており、立香ちゃんの人を見る目は実に的確だったのだが。
そして、そんな爆豪くんを良く知る少年が一人。
「ぶふぅ!」
耐えろというのが無理なのだ。少年を責めてはいけない。
「デェクぅぅぅ……テメェ」
「あ、あわわ、ぐ、ごめんかっちゃん、ぐっふ……わざとじゃ」
怒りで真っ赤になって迫ってくる爆豪くんが、実際見透かされた事への恥も含んでいる事に、幼馴染である緑谷少年は気付いてしまう。
もう尻尾と耳が幻視できるほど、中身がピッタリ過ぎるのだ。
表面と行動は今にも暴れまわる
「喧嘩をする元気があるなら先に進めてしまっても構わないか……?」
◇◇◇
『個性把握テストぉ!?』
個性を使った身体能力テスト。
ソフトボール投げのデモンストレーションは爆豪くんがやったよ。
最下位は除籍。説明終わり。
「はっ」
「どうかしたの藤丸ちゃん」
「何かスキップされた気がする」
(((不思議系女子だ……)))
50m走、握力測定、立ち幅跳び、反復横飛び、ソフトボール投げ、上体起こし、長座体前屈、持久走。
全八項目の個性把握テストが今始まる……!
藤丸立香以外の記録は原作で見れるのでスキップだ!
◇◇◇
相澤消太、ヒーロー名『イレイザーヘッド』は藤丸立香の事を増強系の個性の持ち主ではと疑っていた。
病院の個性検査が間違っていたというのも例が無いわけではない。
もし増強系の個性の持ち主だとすれば、実技試験の際に時々見せていた瞬間的な加速やパワー、スタミナも説明がつく。
そうすれば『無個性』についてまわるアレやコレやの面倒がなくなる。実に合理的だ。
藤丸立香。
㊿m走、5秒00。
ほら、個性禁止の大会の世界記録を抜いてきた。
相澤は自分の考えが間違っていなかった事に確信をもった。
「藤丸、もう一度走れ」
「え? あ、はい!」
こうして『個性』を消せば、なんて事もない……。
4秒85。
相澤は藤丸について考える事をやめた。実に合理的な判断だった。
尚、魔術による身体強化も藤丸立香は習得していない為、素の身体能力である。
合言葉は『ケルトすごい』。
◇◇◇
握力102kg。
立ち幅跳び5m05。
反復横飛び、峰田と1回差の二位。
実に人外な数字である。
立香自身は、反復横飛び以外の種目で、クラスメート達に負けてるので悔しがっているぐらいだが。
反復横飛びは歩法についてミッチリ師匠に鍛えられているのと、このぐらい急に切り返しが出来ないと物理的に(師匠達に)殺されていた。必死だった日々の賜物である。
「反復横飛びは自信あったのに……!」
「立香ちゃん凄いよ、私なんて全然だったもん」
お茶子ちゃんが隣でフォローするが、そう言われても悔しいものは悔しい。
こうしたファイティングスピリッツが、脳筋サーヴァント達に受け入れられた所以なのだろうが……。
「有利な個性じゃないと中々数字は伸びないよね」
「個性……そうか! お茶子ちゃんありがとう! よしっ」
「え? ちょ、立香ちゃん!」
ガバリと、勢いよく体操服を脱ぐ。下は薄いアンダーシャツでブラが透けて見えた。
「ウヒョー! サープラーイズ! シンプルなフリルがポイントたけぇぜぃ!」
「見んな男子!」
周りがうるさいが立香ちゃんは気にせずソフトボールを手に取る。
そのままジャージにソフトボールを包んだ。
「見様見真似!
「「ええええええ!?」」
石じゃなくてソフトボールだし一つだし、というツッコミはこの場で出来る人間はいない。
手持ち投石機の要領で思いっきりぶん投げたソフトボールは、そのまま勢いよく飛んでいく。
「ああ、軽いから失速しちゃうかぁ……」
651m。
「おおお、すげぇ!」
「あんな方法が、もう普通に投げちゃったよ俺」
「でも、ありなのかアレ」
ざわめく生徒達に、嫌々ながら相澤が動く。
「藤丸、どういうつもりだ」
「手で物を掴んで使える個性です!」
「「「それは普通だ!」」」
「ハァ……今の記録は記録としてつけといてやる。ただソレは個性把握テストの趣旨から外れるから禁止な」
真似をしようと準備している男子を見て釘をさす。
相澤的には嫌いじゃないやり方だが、この場で推奨するわけには行かなかった。
「あと、2回目投げる前に上着を着ろ」
もちろん、そのままソフトボール投げに戻ろうとした立香に注意するのも忘れなかった。
(全く手間のかかる……)
「見様見真似!
どがぁん
わー地面が抉れたぞ!
めっちゃ跳んだよな今!
上着がめくれ上がって、今ちろっと生ブラが……!
サイテー!
(……こいつらの担任かぁ)
壊れた機材を見て「ハァ……」とため息をついた。
◇◇◇
「ステ……ステ……ラ……うっ、頭が」
「藤丸さん、大丈夫ですか?」
緑谷少年のソフトボール投げを見て、立香は平行世界の剪定事象的な記憶のアレを受け取った気がするが、体調に問題は無かった。
個性把握テストは続き、上体起こしでは
小規模な爆発で上体を起こす爆豪
モギモギで反発して体を起こす峰田
尻尾で普通に起き上がってくる尾白
黒影が常闇を上げて降ろしてるだけの常闇
等の強豪を抑え、ただの筋力の立香が一位になった。
「凄いね! 増強系の個性なの?」
「筋肉があれば何でもできる! って師匠が言ってた」
筋肉凄い。
長座体前屈は、そもそも物理的に梅雨ちゃんとかに勝てないので。八百万百とか棒出してるし。
しかし、ここはカルデアの(筋肉)マスターとして足掻かなくてはなるまい。
「唸れ筋肉! うおおお!」
衝撃波出して計測器を奥に押しやったが相澤先生に不正扱いされた。解せぬ。
持久走。
バイクを出したヤオモモ。それとデッドヒートを繰り広げる立香ちゃん。
(無個性とは……)
哲学的問題にぶち当たる相澤先生。
疲れを知らない英霊達に、生身でついていける立香ちゃんは、他の何よりスタミナお化けなのだった。
……決して、バイクに乗ったお尻を追いかけている訳では無いのである!
◇◇◇
個性把握テストが終わって合理的虚偽とか終わった後の緑谷少年。
(凄かったな、あの娘が実技首席……あれで僕と同じ『無個性』だなんて)
緑谷少年は入学前のオールマイトとの会話を思い出していた。
「少年、私は一つ訂正しなければならない」
そして話された『無個性』の娘の首席合格。
オールマイトですら不可能だと思っていた無個性ヒーローの可能性。
そして……。
「……きっと君は比較してしまうだろう、同じ無個性として。しかし忘れないでくれよ。君を選んだのは私で、その手を掴んだのは君なんだってことをね」
……
(凄かった。でも、僕も負けられない。逆に無個性でもあそこまで出来るようになるんだったら、僕にももっと可能性があるって事だ。もっと……もっと、頑張らないと……!)
◇◇◇
決意を新たにする緑谷少年。一方その頃。
「思っていた以上に藤丸少女とんでもないなぁ……うーん、緑谷少年大丈夫かなぁ、ここで励ますのもなんか違うしぃ、ああああどうすればっ!」
平和の象徴《新米教師》は頭を抱えて思い悩んでいた。
体育祭ぐらいまでならなんとかマッスルフォーム出来そう
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戦闘訓練とコスチューム
時は遡り、雄英入学前の藤丸邸。
『カルデアの戦闘服が欲しい〜……?』
「あ、やっぱ駄目?」
藤丸立香は国際通話で、コスチュームについて相談していた。
雄英高校ヒーロー科では被服控除という制度があり、企業がヒーローコスチュームを作ってくれるのだが、立香はあまり気が乗らなかった。
人理修復の折によく着ていたカルデア戦闘服の高性能っぷりを知っているからだ。あれ以上というのが立香には考えづらかったのである。
「凄く軽くて丈夫で動きやすいから、コスチュームって聞いて真っ先に浮かんできたんだけど」
『駄目駄目。きみはこっちじゃ普段着みたいにしてたけど、あの礼装だってカルデアの叡智と技術の結晶なんだよ。きみの頼みでも表に出すわけにいかないよ』
そもそも魔術と関わりを持ってると知られれば命を狙われるからと、カルデアとの繋がりが分からないよう工作しているのだ。テレビに映るヒーロー稼業で礼装を纏うのは本末転倒といえる。
なので、この件はキッパリはっきりと断られた訳だ。仕方なく被服控除で企業にコスチュームを作ってもらう事にしたのだが……。
◇◇◇
「あの、オールマイト、これは……」
初めてのヒーロー基礎学の授業。
戦闘訓練だという内容と共に、被服控除によって作られたヒーローコスチュームが配られた。
壁から各ヒーローコスチュームの入ったコンテナが出てくる様に、映画のようなギミックだと興奮した。
ヒーローコスチュームに、初めての戦闘訓練、そしてイカしたギミック、何より平和の象徴たるオールマイトに対して、クラスメート達の興奮は最高潮に達していた。立香ももちろん全開である。
そんな中、オールマイトが立香を呼び止めた。
「藤丸少女はこっちね」
と。
立香がオールマイトを見れば、オールマイトは廊下から大量のダンボールを持ってきていた。
「え?」
「まだまだあるからね」
「え?」
そして教室に積み上がるダンボールの山。
何事だと立香は戦慄する。まさかこのamaz○nのようなダンボールに私のヒーローコスチュームが入っているのか、と。
「あの、オールマイト、これは……」
「藤丸少女のヒーローコスチュームさ」
いやいやいやおかしい、何故私にはあの素敵ギミックじゃないのか。
じゃなくて、被服控除の申請にもただ丈夫で動きやすい服でってぐらいしか書いてないのに、なんでこんなダンボールの山が。
「そうそう藤丸少女には手紙も来てたんだ」
「は、はぁ」
呆然としたまま手紙を受け取る。そこにはこう書いていた。
『やっほー! きみのダ・ヴィンチちゃんだよ♪
なんとなーくきみのコスチュームを作ってる企業を調べたら、無個性だからってすごい手抜きしてたのさ。これは見捨てておけないと、私が一肌脱いでコスチュームを作って認識阻害の魔術ですり替えようと思っていたんだよ』
「お、おおう……」
ダ・ヴィンチちゃん何やってんのとツッコミたいけど、手抜きコスチュームを防いでくれたのはありがたい。
『そのコスチュームを作っている最中にマーリンのクソ野郎に見つかって、面白がって吹聴して回ってくれやがってね。おかげでカルデアでは、皆が皆、きみのコスチュームを作りはじめちゃって……おかげでカルデアの倉庫はからっぽ、予算もほぼ使いきって……とりあえず皆が作ったコスチュームを送るから、よろしく』
(…………。よく見たらamaz○nes.comって書いてる……)
このダンボールの山は立香と契約していた英霊達が、立香の為に作ったコスチューム群である。と、立香は正しく理解した。
(清姫以外のコスチュームを着てテレビに映ったら清姫に殺される気がする。いや、バーサーカーは他の人も多分そう。バーサーカー以外でも問題ありそうなのがひのふのみ……)
よく人理修復できたなという問題児の多さである。
とにかく考えていても時間がいたずらに過ぎるばかり。
幸い今回はヒーロー基礎学の授業であり、テレビに映る訳でもないのでどのコスチュームを着ても良いだろう。
逆に言えば今はもう授業時間なので、はやくコスチュームを決めて更衣室に行かなければ時間がなくなってしまう。
これでいいやと適当なダンボールを選んで開けてみる。
――――――――――――――――
中身:超ミニセーラー服
差出人:エドワード・ティーチ
一言:日本のヒロインといえば、やっぱりコレでござるよマスター。デュフフ。
――――――――――――――――
「分かるけど着たくない!」
「ど、どうした藤丸少女」
「い、いえ、なんでも……」
立香ちゃんの普段も大概ミニだけど、黒髭が用意したというのでマイナスに振り切った。
次だ次。と、さっきのダンボールは記憶から消して次のダンボールに手をかける。
――――――――――――――――
中身:日本刀
差出人:両儀式
一言:殺るにはこれで十分だろ
――――――――――――――――
「アウトオオオオオオオ!」
「だ、大丈夫か藤丸少女!」
「大丈夫です! 大丈夫ですから見ないでください!」
絶対にヒーローが何か理解してない! 次次!
――――――――――――――――
中身:キャリコ M950A
差出人:殺エミヤ
一言:殺るにはこれで十分だ
――――――――――――――――
「もろ被りぃいいいいいい!」
「藤丸少女ぉ!」
「大丈夫ですぅうううううう!」
これだけで外伝が一つ出来そうだ。
早く着替えて授業を受けたいのに、こんな所で文字数を稼いでいる場合ではないのである。
次こそは!
――――――――――――――――
中身:愉快型魔術礼装
差出人:マジカルルビー
一言:愛と正義のマジカルステッキ、 マジカルルビーちゃんですよー! グランドマスターがヒーローなんておもしrげふん、大変に素晴らしい事をすると聞いて私が力になれればとぉおお、ちょ、グランドマスター! ステッキはそんな風に曲がりませんよ!? 折れる、折れる折れるぅ! あ、ちょ、仕舞わないで! この中無駄に封印術式がぁぁぁ!
――――――――――――――――
「藤丸少女、今、ステッキが喋っていたような」
「気のせいです」
「え、でも」
「気のせいです」
「あ、はい」
「すいません、オールマイト先生、私、戦闘訓練に、少し……少し? 遅れます……」
「あ、ああ、分かった。出来るだけ急いでくるようにな」
まだ、ダンボールの山は、ある。
◇◇◇
「という訳で、藤丸少女は遅れてくるとの事だ」
「あのコスチュームの数は凄かったですものね」
「そんだけ色んな企業に期待されてるって訳だよな! あいつパネェな!」
「うーん、立香ちゃんってコスチュームを使い分けないといけないような個性なのかな?」
「どうかしら、個性把握テストでは単純な増強系に見えたわ」
「諸君静かにしたまえ! 授業は始まっているのだぞ!」
(((真面目だ)))
(正直、助かるなぁ)
◇◇◇
「今のところ一番マシなのがトナカイ……!」
まだまだ、ダンボールの山はある。
◇◇◇
「『頑張れ!』って感じの“デク”だ!」
「“個性”使えよデク。全力のテメェをねじ伏せる……!」
「君が凄い奴だから勝ちたいんじゃないか! 勝って超えたいんじゃないか! バカヤロー!」
「その面やめろやクソナード!」
当作品の主人公不在の中、授業は進む……。
◇◇◇
「ううーん、スカサハ師匠作で橙色のタイツがあったけど、思いっきりルーン文字が刻まれてるのは大丈夫なのかな……? あと一個か二個ぐらい開けて目ぼしいのがなければ、とりあえず今日はこれかなぁ……」
ダ・ヴィンチちゃんから、魔術との関わりを見せるのは不味いからやめろって通達があったのに、隠蔽すれば大丈夫だろとばかりに自重してないのがスカサハ以外にもちらほら。
もう疲れてきてる立香ちゃんは、次のダンボールに手をかける。
「こ、これは……!」
◇◇◇
戦闘訓練は最初に決めた組み合わせが終わり、これから遅れてくる藤丸立香と、二回目が出来そうな生徒三人で最後の戦闘訓練を行う予定だった。
しかし、その藤丸立香はまだ姿を現していない。
「んんー、どうしたものか……」
「先生、あのコスチュームの数ですから見るだけで精一杯になるのは仕方ないのではないでしょうか。来ていないのは仕方ないとしてこの時間を無駄にしない為にまた無作為の四人で戦闘訓練を行うべきかと」
「そ、そうだね」
新米教師オールマイトは授業進行に慣れていない!
(藤丸少女の戦闘スタイルは一度見ておきたかったんだが、仕方ないか)
「それじゃあクジを……」
『すいません、遅れましたー』
「んん!?」
それは……鉄の塊だった。
オールマイトですら見上げる3mを超える人型は、白い蒸気を吐き出しながら歩みを進める。
「んんんー……!?」
『あれ、先生? オールマイト先生? もしもーし』
スピーカーのような機関から声がする。その度にシュコーと白い蒸気を吹き出す様はシュールを通り越してなんか怖かった。
生徒達は口をあんぐり開けて固まっている者、他の生徒の影に隠れる者、尻もちをついている者等、概ねマイナスの反応だ。
一部、上鳴電気と芦戸三奈だけはテンションが上がっている。「やべー」「すごーい」とペタペタと鉄の塊に指紋をつけるバカ2人。
『ああ! 新品なのに!』
このコスチューム(?)を選んできた藤丸立香も含めてバカ3人か。
言うまでもないと思うが、この鉄の塊は蒸気王チャールズ・バベッジの作ったコスチューム(?)だ。
チャールズ・バベッジが普段着ている鎧よりも肥大化しているが、魔力によらない蒸気機関でも長時間の駆動が可能という……蒸気機関とは、と首を傾げてはいけない。
「もしかして:藤丸少女?」
『もしかせずとも藤丸少女です』
「いや、無理があるだろ」
比較的冷静な轟くんがツッコミをいれる。
だが、藤丸立香は気にしていない。ノリにはとことんノル女である。
(HAHA……こういう時はどうしたらいいのかな!)
新米教師オールマイト。
新米にこういうイレギュラーな対応をさせるべきではないと、心の底から思っていたが口には出さなかった。
個性把握テストの時に「日本は理不尽にまみれている。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー」とか相澤くんが言っちゃってるからね!
頑張れオールマイト! 授業の成否は君の手にかかっている! 頑張れ頑張れオールマイト!
◇◇◇
『フォォムチェーンジ!』
監視カメラの映像で、コスチューム(?)が変形(!?)して、四脚になる。
そして巨体では不利かと思われた室内戦闘で、通路を縦横無尽に駆け回り、逆に通路を埋め尽くすような形で巨体を活かし、尾白を追い詰めていた。
『うわああああああ!』
「うわぁ、あれ良いのかなぁ」
「コスチュームってなんだっけ」
「あれを解析して創造できれば……」
「八百万ちゃん、色物扱いされるからやめといた方が良いと思うわ」
『ロケットパーンチ!』
『待っ……ぐふぅっ!』
「絶対アレ楽しんでんなぁ、気持ちは分かるけど。借りれねぇかな」
「テンションあがるよねっ! ねっ!」
「色気がねぇよ色気がよぉ。女性ヒーローはもっと露出してこそだろぉぉん?」
「サイテーね峰田ちゃん」
(楽しそうだな、あれ)
それで良いのかオールマイト!
彼女を止められるのは君だけだ!
ちょっとワクワクしてるんじゃないよ!
頑張れオールマイト!
立香ちゃんなら変形機能のあるメカがあれば選ぶよなぁ!
出オチなので戦闘シーンは大幅カット。
多分このコスチュームはもう出てこない。
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諦めて投稿
諦めて投稿。
USJと体育祭書けたらいいやと、繋ごうと思って書いてた回です。
プロヒーローである教師に通報が入った。
ヒト型の巨大な何かが白いガスを撒きながら戦闘訓練会場に向かっていったのを見たと。
戦闘訓練会場を使用している1−Aの担任であるイレイザーヘッドは、通報を受けてB組での授業を切り上げ現場に急行した。
オールマイトがいるから大事には至らないとは思いつつも、オールマイトの怪我や生徒の事を思えば楽観視出来ないと判断した為だ。
(あるいはオールマイトが雄英に来たからこその襲撃かもしれん)
有り得そうな可能性を上げながら、イレイザーヘッドは急いだ。
そしてイレイザーヘッドは見た。
『ロケットパーンチ!』
通報にあった巨大ロボが戦闘訓練を受けている姿と、それをワクワクした瞳で見ている平和の象徴を。
イレイザーヘッドはキレた。
◇◇◇
『私は調子にのった愚か者です』
立香ちゃんは首からそんな看板をぶら下げて、大きなタンコブを作っていた。
「あはは、相澤先生めっちゃ怒ってたねー」
「あははじゃないよ藤丸ちゃん。頭だいじょうぶ?」
「三奈ちゃんそれはどっちの意味かな?」
「どっちも!」
「よーし、戦闘訓練の続きをやろうじゃないか」
戦闘訓練の続きを〜とか言い出す辺り全然堪えていないようだが。
尚、例のコスチュームは相澤先生に没収された。
あれはコスチュームの域を出ているので、本来なら国から許可がおりるはずのないコスチュームだとのこと。何故だかコスチューム許可証はダンボールに同梱されていたが。
ちなみに銃にも日本刀にもマジカルルビーちゃんにもコスチューム許可証が同梱されていた。カルデア自重しろ。
大量のダンボールは雄英の倉庫に送られており……相澤先生が他のダンボールの検査にいかない辺り認識阻害が仕事しているようだ。
雄英の倉庫に違法物やら危険物やらが大量に収められてしまったことに立香ちゃんは多少の罪悪感を覚えたが……正直立香ちゃんにはどうしようもないので、後でダ・ヴィンチちゃんに苦情を出す事にして、深く考えない事にした。
「尾白ちゃん、災難だったわね」
「本当だよ……凍らされて追いかけ回されて……」
ちなみに最後の戦闘訓練はヒーロー側は尾白、葉隠。
あまりにアレだった轟被害者の会である。個性の関係上消耗が少ない面子でもあるので、オールマイトが決めた形になっていた。
「でも、あのまま授業が続いてたら私達の勝ちだったよね! あれだけロボ音がしてたら、いくら障子くんでも私の足音は聞こえてないでしょ?」
「あー確かに、そこん所どうなんだ障子。……障子?」
「え、あ、すまん。どうした?」
「いやいや、お前こそどうしたよ。ボーッとして」
「ああ……ちょっと、な」
◇◇◇
『向こうの勝ち筋は葉隠ちゃんによる奇襲だけなんだよね』
戦闘訓練の作戦タイム。意外とマトモなことを言い出したロボ子に障子は目をパチクリとさせた。
『なに?』
「いや……尾白はどうなんだ? あいつかなり鍛えてる。強いぞ」
『尻尾のある相手との模擬戦は結構やらされたから大丈夫だよ。勝てる』
誤魔化すように尾白について聞けば、さらりと返答がきた。
油断や慢心とは違う。そのロボコスチュームによる余裕かとも思ったが、それよりも経験による自信のように感じた。
『それより葉隠ちゃんに逃げ回られるとかなり厄介だよ。気配遮断されるとどうしようもないからね。幸いそこまで至ってないけど、足音を消されると気付けないかも』
確かにと障子は思う。
戦闘訓練だからと障子は戦闘を想定し尾白を驚異だと見ていたが、確かに気付けなければどうしようもない。
障子は藤丸に対する評価を上げた。
『そこでこのコスチュームの出番だよ!』
「どこでだ」
パシューっと白い煙を吹くロボ子に思わずツッコミをいれる。
『これ動いてるだけで駆動音がかなり大きいからね! 障子くんが耳を作って、駆動音を聞く。その音がヒト型に反射してる所をあらえば葉隠ちゃんが見つかるって寸法だよ』
「そんな事出来ないが」
『え?』
「え?」
……障子はジョークを言われたのかと思ったが、このロボ子は本気で言っていた事を察した。もしそんなことが出来れば神業だと思うのだが。
「俺の個性では音の発生源ぐらいなら分かるが……人間の器官しか作れないからな、コウモリのような真似は無理だ」
『おおぅ……そっか、普通そうだよね……』
「それより、藤丸は何が出来るんだ?」
『おお! 聞いてくれたね障子くん! まずは変形機能!全16種のパターンにより陸海空宙! 狭い場所の機動戦から広い場所での長距離戦も! 全パターンでロケットパンチが撃てるあたり私好みだよね! さすバベ! 16パターン目なんてコテージになるらしいよ、蒸気レンジに蒸気こたつ、蒸気冷蔵庫、蒸気自爆機能付き! もちろんロケットパンチも撃てる! ヤバイよね! ね!』
「そっちじゃなく、藤丸の個性について聞いたつもりなんだが」
色々ツッコミ処があったが、作戦タイムは有限である。障子くんは疑問を飲み込んでストイックに作戦タイムを使う事にした。
『無いよ? 私無個性』
まさか、より衝撃的な返答が返ってくるとは思いもよらなかったが。
「しかし、個性把握テストで……」
『めっちゃ鍛えたからね! あ、そうだ、轟音の中での音の聞き分けならどう? できる?』
「それは……可能だな」
『私が尾白くん目掛けて暴れれば、葉隠ちゃんなら走って核を目指すと思うんだよね。轟音は尾白くんが捕まるまでしか鳴らないし、尾白くんを救けるなら速攻をかけて勝てばいい。ね、そう考えたら慌てて走ってくるよ』
「あ、ああ」
『お、良い時間だね。
障子は複製腕で耳を作り
いつものように様々な音を拾う。しかしいつもと違い音は耳を通っても抜けていく。
聞こえているのは『無個性』という言葉で、見えているのは個性把握テストの時に藤丸の見せた身のこなしだった。
◇◇◇
「葉隠、あの時核を目指して走ってたか?」
「走ってたけど……え、まさかあれだけうるさかったのに聞こえてたの!?」
障子は頭を振る。
「いや、聞いてなかったよ」
考えても意味のない雑念を追い出すように。
次回はUSJ。学級委員長とかマスコミとか諦めた。
立香ちゃんは学級委員長になりたがらなさそうで、
マスコミも超コミュ力で普通にスルーするだろうと。
イベント走りたいし!内容諦め!
以下、書いて消してしてた最後に残ったボツ
◇◇◇
マスコミ、マスメディア、報道陣。
まぁ表現はなんでも良いのだが、パパラッチとか言えば迷惑さがより伝わるだろうか。
藤丸立香はかつてない強敵の出現に震えていた。
(こ、こういうのの対処なんて聞いてない!)
カルデアでの一年間、色々な状況を想定した訓練を行って来たが、マスコミ対策なんて一切習っていない。
そもそもマスコミなんてものが発展していない時代の人達ばかりだし、近代に近い英霊やカルデアスタッフなんかも「認識阻害」の一言である。
藤丸立香は魔術の才能がからきしである為、そんな便利な魔術を使えるわけもなく……ぐるぐると目を回すのであった。
(ああ、もしカルデアから持ち込まれた違法物危険物その他がすっぱ抜かれでもしたら……いや気付かれる訳もないけど、無難に返答せねば……えーっと、えーっと? 現代でなくても、こういう民衆への対応に慣れていた英霊はいたはず! 思い出せ……!)
「あれ? マスコミに囲まれて動けなくなってるの、藤丸じゃね?」
「あ、ホントだ。こういうのに捕まるようなキャラじゃないと思ったんだけどな」
すでに校門を通り抜けた切島と芦戸が立香を見つける。
「よし、助けよ
「不敬ですよ! ここはヒーローの登竜門、天下の雄英高校です! 頭をたれなさい!」
……なんて?
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5話
「今日のヒーロー基礎学だが、災害、水難、何でもござれ。レスキュー訓練だ」
相澤先生の発言にざわつく教室。
レスキューというのは往々にして戦闘よりも難易度が高いものだ。
戦闘訓練の時はただ高揚感を覚えていた生徒も不安混じりの様相だ。もちろん、いつもと変わらない様子の生徒もいる。
藤丸立香は後者だった。いやむしろ普段のぽやっとした雰囲気が鳴りを潜め、凛々しさすら感じるようだ。
レスキュー訓練と聞いてどこか威圧感まで出し始めた藤丸立香に、相澤先生は警戒度を上げた。
(本当に分からないなこいつは)
性格も行動も合理性に欠ける。
こういった
過去にイレイザーヘッドが受け持った雄英生の中にも、レスキュー訓練の際にスイッチが入る生徒がいたが、過去に火災で肉親を亡くした生徒だった。
ところが藤丸立香の過去を調べてもこうした経験は出てこない。それどころか入試の際に見せた中国武術を師事した記録すらなかった。
その経歴は平凡な一般人だった。
(答えの出ない事を一々考えても時間の無駄だな)
「今回コスチューム着用は各自の判断に任せる。が、藤丸、お前は体操服以外を使うつもりなら、一度俺にもってこい。5分で決まらなければ今回は体操服だ。いいな」
「はい、先生」
「……なんだ?」
今の「はい」は肯定の「はい」ではなく、挙手をし意見を言うための「はい」だ。相澤は心底面倒くさいと思いながらも、手を下ろす気配が欠片もないので仕方なく聞くことにした。
「レスキュー訓練ならば相澤先生はヒゲを剃り身だしなみを整えるべきです」
「は?」
「先生は小汚く不衛生です」
今、直接、面と向かって言うのかと、他のクラスメートの間に緊張が走る。
相澤は一瞬引きつるがそこはプロヒーロー。すぐポーカーフェイスを取り戻す。
「おい藤丸……」
「レスキューに必要なのは、清潔! 消毒! 殺菌! こちらがコスチュームを決める5分があれば、相澤先生も一定の身だしなみは整えられるでしょう。さぁ粛清されない内に先生! さぁ!」
粛清ってなんだよ。
1−Aの心は藤丸立香を除き一つになった。
「残念だが藤丸、俺はひげ剃りを持ってきていない」
「大丈夫です、私が持ってきています」
「なん……だと……」
何故男性用のひげ剃りが、女性である藤丸立香のカバンから出てくるのだろうか。
1−Aの面々は疑問を覚えるが、藤丸立香も相澤先生も鬼気迫る様子で、声をあげるに至らなかった。
◇◇◇
「やっちゃった……」
「オイコラ、ここまでやっといてやっちゃったはないだろ……」
凹む藤丸に凹む相澤。
雰囲気こそどんよりしているが、その格好はサッパリしている。
ヤオモモまで巻き込んで、5分の間に散髪、洗髪、顔剃り、そして消毒液を噴霧して、ヒロアカ本編では記者会見の時ぐらいしか見れない清潔感アリアリな相澤先生が完成した。
ちなみに消毒液の噴霧に関しては生徒全員も対象で、唯一抵抗した爆豪くんは力技で制圧され消毒されたが、他のクラスメートは恙無く消毒を受けた。
その辺りで正気に戻った立香ちゃんは、自分の暴走を反省しているのだった。
尚、立香ちゃんが着ているのは普通に体操服だ。
「ああ……バサカらないように気をつけてたのに、バサカっちゃうなんて……」
「戦闘訓練でも
「個性把握テストでもいきなり上着を脱いでいたわね」
「今更だよねー」
「……え?」
「そこは自覚してろやクソバーサーカー! くっそ! これほどけねぇ!」
バスの片隅にロープで縛られた爆豪くんが居たが、些細な問題だった。
消毒を拒否する衛生の敵に容赦はいらないのである。
「か、かっちゃんにバーサーカーって言われた、よりにもよってかっちゃんに……」
「かっちゃん言うな! あとそりゃどういう意味だクソが!」
「そのまんまの意味だろ
「君たち! 我々は旅行ではなく授業の為にバスに乗っているのだ! もう少し静かにしたまえ!」
◇◇◇
「イレイザーヘッド、その……」
「聞くな」
「ええぇ……いや、だって朝は」
「聞くな」
13号は綺麗なイレイザーヘッドに困惑している!
◇◇◇
藤丸立香は
統一感がなく災害後を模したそれは、特異点を想定した様々な環境を用意したシミュレータ風景に酷似していた為だ。
カルデアの旅の最初の特異点である炎上汚染都市・冬木では、ビル等の遮蔽物が多く遭遇戦が多かった。
人類最後の希望たる立香ちゃんが生き延びる為には奇襲対策は必須だと、万能の天才を中心に様々な対策が行われた。
例えばシバによる観測をレーダーに即時反映する技術の確立や、レイシフト地点との通信状況の安定化等、様々なアプローチが成された。
その対策の一つが、シミュレータによる藤丸立香の『訓練』である。
何度か心臓が止まりかけた事がある所業を『訓練』と表記する事が許されるのであれば、だが。
その『訓練』の結果、藤丸立香は一つの真理に気付いた。
相手が奇襲せんとするとき、こちらも奇襲するチャンスなのだと!
「見様見真似! ヤコブ絶命拳! しゃおらああああ!」
「ぐああああああああ!」
竜をも泣かす右正拳突きが黒い渦から出てきた敵の顔面……を覆っていた手にぶち当たる。
一番手でドヤって出てきたらこの仕打ちである。
(浅いっ!?)
手の分の狙いがズレた事で確かにクリーンヒットではないが、これは竜を泣かせた正拳突きである。その威力は名も知らぬ敵を気絶させるには十分すぎた。
しかし立香ちゃんは気付かない。クリーンヒットしなければダメージすら負わない、いやクリーンヒットした所で余裕で殴り返してくる相手ばかりと戦っていた為に基準が大きく狂っていた。
よって、立香ちゃんは黒い渦から押し出されるように向かってくる敵に、パンチが効いていないのだと思い込んで何度も殴りつけた。
黒霧が死柄木を一旦押し出そうとした為に起きた悲劇だった。
「ああああああっ! くぅ、これでもまだ向かってくるの!?」
勘違いである。
敵を察知するスピードで藤丸立香に負けたことは、イレイザーヘッドにとって痛恨であった。
「藤丸っ!」
手も、捕縛布も届かない。
イレイザーヘッドはよく知っていた。こうして血気にはやり突出したヒーローは……死ぬのだと。
「他の奴らは前に出るなっ! あれは
藤丸を助けに向かう前、他の生徒が来ないように釘を刺す必要があった。
すぐに助けに向かう場面だというヒーローとしての判断と、生徒を守る教師としての判断。一瞬の迷い、停滞。
それが悲劇を生んだ。
イレイザーヘッドは間に合わなかった。守れなかった。止めることが……出来なかった。
「え、あれ、どっちが
「何を言って……」
イレイザーヘッドはその光景を見て絶句した。
藤丸立香というバーサーカーがそこには居たのだから。
ーーーーーーーーーー
死柄木くん
(ここはやっぱリーダーとして一番手で行くべきだろうなぁ。一番手ならオールマイトの驚く所を見れるし、めっちゃお得じゃね。こうして背中を見せていくカリスマリーダー……いいじゃんいいじゃん、あがってきた。驚いて泣き叫んで絶望させる……オールマイト、今殺してやるよぉ!)
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6話
どうすんだよこれ。
ヒーローもヒーローの卵も
この世が平和になる日は近い。
◇◇◇
イレイザーヘッドが立香ちゃんを引き止めた後、無事(?)黒モヤから押し出された名も知らぬ
そこで明らかにやりすぎた事に遅まきながら立香ちゃんも気付いたのだった。
「やっべ」
「っ! ああ、まずいな」
イレイザーヘッドは周囲に
あの痙攣具合はすぐに心筋痙攣に繋がる。立香ちゃんは経験豊富だから詳しいのだ。
そしてヒーローというのは殺害禁止なのである。いや、そうでなくとも聖杯探索でローマ兵に対して峰打ちを指示していた立香ちゃんは、こうして自らの手で命を奪うことに忌避感を覚えるのだ。
そしてもう一つ、もっとも大切な事がある。
――――命は救わねばならない。たとえ命を奪ってでも。
「貴様、死柄木をっ!」
「こいつっ! ワープはこいつの個性か!」
黒モヤの
その黒モヤはイレイザーヘッドの『個性』でかき消したが、黒モヤに呼応するように周りの
イレイザーヘッドはその動きに対応する為に、立香ちゃんを捕まえていた捕縛布を外しゴーグルをかけて臨戦態勢に入った。
「仕方ないか……。藤丸、包囲網を突破する。あわせるから前に出ろ」
現状はイレイザーヘッドにとって最悪と言っていい。
イレイザーヘッドの個性『抹消』は、視た相手の個性を一時的に消すというもの。もちろん視なければ使えない為、背後の敵に対しては対応が遅れる。生徒を守りながらではその遅れが致命的になり得るのだ。
幸いその守るべき対象である藤丸は、その類稀なる身体能力に高い武術の腕がある。
守るべき対象でなく、逆に共闘相手として見れば悪くない。近接戦闘を藤丸に任せて、中距離での撹乱、捕縛をイレイザーヘッドが担えば、この程度の包囲網なら突破できる可能性は高い。
……藤丸を戦わせれば、必ず始末書が待っているのが問題か。
いや、それよりも藤丸が前に出ていかないのが問題か。
「あ?」
捕縛布が緩み、動けるようになった立香ちゃんは相澤先生と共闘……することなく、名も知らぬ、もとい、死柄木とか呼ばれた
その動きに
「緊急治療!」
「かっはぁぁ!」
どう見ても治療行為ではない。
◇◇◇
そして冒頭に戻る。
皆ドン引きである。どっちが
立香ちゃん的には今のは治療行為で死柄木なる
中でも一番慄いているのは、さっきまで襲いかかろうとしていた雑魚敵達だった。今は完全に腰が退けている。
「お、おいお前行けよ」
「馬鹿押すなよ! あんなイカれた女の相手するぐらいならイレイザーヘッドのがマシだわ」
「
「世も末だな」
イレイザーヘッドは、一人を徹底的に痛めつけるのは相手の戦意を折るのに合理的なのだなぁと考えていた。ヒーロー的にやらないが。多分。
黒霧は動けない。女生徒が何をするか分からない現状、女生徒と死柄木の距離が近すぎる為下手に動けずにいた。イレイザーヘッドに警戒されているのも痛い、状況を動かすにはあまりに不利だ。
13号とA組生徒達は物理的に距離が遠い。あまりな状況に絶句するばかりだ。
そんな中、立香ちゃんに殴られた死柄木がかすかに身じろぎするように動いた。
よかった生きてた。
そんな風に感じたのが
「のう……むぅ………ころ……せ……ぐっ!」
立香ちゃんが死柄木を踏みつけて黙らせるのと、
「あ?」
ドシャリと首無しの
衝撃、轟音、風。
天井に張り付いた人体は個性によるものか岩のような体表をしているが、それが剥がれ胸部が陥没していた。
殴りぬいた格好で止まっているその
その怪力でもって、
そう理解するのに時間はかからなかった。
「に」
圧倒的暴力が動く。
「逃げろぉぉ!」
一斉に逃げ始める
「やらせん!」
捕縛布は切断する事こそ出来るが、他の物理手段では破壊は難しい。見たところあの脳無は刃物は持っていない。その異様な怪力も『抹消』すれば捕らえられるとイレイザーヘッドは判断していた。
だから『抹消』しても変わらなかった怪力に反応が遅れた。
「うぉ、おおお!?」
捕縛布を掴んで引っ張った。脳無のやったことはそれだけだが、それは捕縛布の先にいたイレイザーヘッドを
イレイザーヘッドはナイフで捕縛布を切断した。しかし、体はすでに空中に浮いていて進行方向のコントロールはきかない。
そしてその先には脳無がいる。その右腕は大きく振りかぶられていた。
(くそっ、冗談じゃない!)
残った捕縛布を前面に集め、両腕をクロスしてガードする。これにどれだけの意味があるかは分からないが生存確率はあがるはずだ。
(13号、すまない、生徒達を頼む)
たとえ生き延びても動く事は出来なくなるだろう。
拳が、届いた。
「先生、大丈夫ですか?」
藤丸立香の拳が、脳無の拳を横から叩き落とした。
これは『ショック吸収』を『抹消』していたから出来た事ではあるが、オールマイト並のスピードの拳にあわせて殴るだけで神業といえた。
イレイザーヘッドは一回転して勢いを殺すことで怪我なく着地した。
「藤丸、逃げろ」
「嫌です」
脳無は地面に大穴をあけて腕が肘まで埋まっていたが、すぐに引き抜いていた。あれが当たればやはり生存は難しかっただろうか。
「はぁ……お前には色々怒りたい所だが、逃してくれそうな相手じゃないな。あれを捌けるか?」
「ええ、時間稼ぎは得意です。あ、でも」
時間を稼げば、避難も進み動きやすくなる。応援もそのうち来るだろう。最悪でも授業時間を超えれば不審に思った誰かが来るはずだ。
「別に倒してしまっても良いんでしょう」
イレイザーヘッドは今日一番不安になった。
◇◇◇
藤丸立香は英霊達から聞いた言葉を口にして自分を鼓舞していた。
明らかに相手は格上だ。
こうして相手取るのは避けろとカルデアの訓練では言われていた。
令呪で誰かを呼ぶのが、カルデアでのこうした場合の対処方法だった。
しかし、令呪はもうない。
頼れる後輩も側にいない。
先生がどれだけ出来るかも分かったが、この
私が前で頑張る必要があるのだと、藤丸立香は分かっていた。
藤丸立香は英雄ではない。その足はかすかに震えていた。
色々悩んだけどゴーサイン。
死人はヒロアカ的にNGかと思ったのですが、fate的には良いのかなと。
早く体育祭いこう(ぁ
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vs脳無
脳内と文章の乖離が凄い。
そういうのを処理できる文章力と、毎話1万文字書けるセンスと、毎週投稿できるスピードが欲しい。
それよりそのぐらいやってる小説が増えて読み専になりたい
「あっぶ! なぁ!」
脳無の右のテレフォンパンチ。それを立香ちゃんは、先程先生を助けた時のように横からの打撃で打ち落とすつもりだった。しかし、結果は先程とは違い、脳無の拳は撃ち落とされる事なく、咄嗟に首を捻った立香ちゃんの髪の毛を数本持っていった。
今、避けれたのは運が良かった。もし欲張ってカウンターを決めるつもりでいれば、立香ちゃんの顔は胴体から離れていただろう。
立香ちゃんの体勢が崩れた所に左のパンチで追撃が来るが、イレイザーヘッドが捕縛布で立香ちゃんを回収し距離をとった。
「大丈夫か」
「な、なんとか」
時間稼ぎは得意とか言っておきながら即効で沈む所だった。フラグ回収にはまだ早い。
「来るぞ!」
「ああ、もう!『抹消』お願いします!」
幸い、脳無の体術は素人以下だ。
それを補って余りあるほどのパワー差とスピード差だが、そういう相手を想定した模擬戦闘の数では誰にも負けていないと自信を持っていえる。
この脳無以上の相手に実戦せざるを得ない状況もあった。
だから出来るのだと鼓舞をする。
(落ち着いて、よく見る!)
さっきと同じ右の大振り。同じように左の打ち下ろし気味のフックで横から叩き落とす。
打撃は、通った。狙い通り、脳無の体勢が崩れる。
(『抹消』が効いてる)
明るい情報だが喜ぶ暇はない。相手には多少の体勢の崩れならば気にせずに打ち込んで来れるほどの筋肉量がある。
左、スウェーで距離をとる。
追いかけてきての右、弾いて脳無の背中側に回る。
振り向いての右、屈んで避けて、捕まえる。
「しゃああらぁ!」
投げっぱなしジャーマン一閃。
体重差をものともせずに、頭から一気に落とした。
首の骨が折れる可能性があるので良い子は真似しないように!
オレンジ色の髪が燃える闘魂を表しているようないないような……
尚、黒霧は死柄木を連れて帰宅したので、正史のような黒霧による支援はない。
◇◇◇
「すっご……」
「言ってる場合か緑谷くん! 避難するぞ!」
飯田の声にハッとしたのは何も緑谷だけではない。
いきなり目の前で起きた殺人が衝撃的で、殺し方が圧倒的だったのだ。目を逸らせば次に死ぬのは自分ではないかと思わせる力があった。
それだけに藤丸立香の戦う姿は彼らに少なくない衝撃を与えていた。
スペースヒーロー13号も例外ではない。
殺人が発生した後に
逃げる中で多くの
そんな現状にスペースヒーロー13号は選択を迫られていた。
多勢の
普段ならば
しかし、脳無のような
そこで投げっぱなしジャーマンが見えた。
絶句である。
避難誘導するにしても言葉がでない程の絶句だ。
無個性だと知っているからこそ余計に思考が真っ白になる。
だから警告が遅れた。
「避難なんてする必要ねぇだろ」
「ま」
轟焦凍が動く。
一瞬で
あまりの早業に、圧倒的な制圧力。それは本来称賛を受けるものだった。
しかし、相手が悪かった。
パァンと乾いた音が響く、氷柱が砕かれた。砕かれた氷は弾丸となって藤丸立香とイレイザーヘッドを襲う。
「くっ!」
「くそっ、13号! 生徒をしっかり下げさせろ!」
「ふっざけんな! 見殺しにする気かよ!」
「それでもヒーローの卵かよ! くそぅ、死にたくねぇよぉ!」
「かあちゃんごめん! ごめぇん!」
「嫌だ嫌だ嫌だぁ!」
脳無だけが被害なく、動いている事に気付いた
轟焦凍は、己の短慮が状況を悪化させたことにただ立ち尽くしていた。
「そんなつもりじゃ……」
「デク!」
誰もが氷柱と脳無に意識を奪われていた中、いきなり飛び出した緑谷に気付いたのは爆豪だけだった。
珍しく心配するような雰囲気が声に乗っているように感じたのは緑谷の気のせいだろうか。
しかしもう止まれない。
「うわあああああああああああああ!」
怖い、正気じゃない、飛び込んでどうする、無理だ、死ぬぞ、怖い、叫ぶ、意識を引く、脳無がこっちを見る、怖い、涙が出る、目を閉じるな、足が痛い、左足が折れた、もう走れない、飛び込め、脳無が腕を引く、狙われている、いやにゆっくりだ、もう方向転換もできない、空中だ、正面から当たるしかない、怖い、僕はなんて馬鹿なんだ、もうやるしかない。
「緑谷!」
「ガンド!」
捕縛布が脳無の腕を捉え、氷の礫が脳無の目に突き刺さる。
二人共凄い。砕かれた氷はかなり深く突き刺さったように見えた。それでもここまで動けるんだ。
脳無の動きが止まった。
「SMASH!」
緑谷の一撃は、脳無の右腕を粉砕し吹き飛ばした。
◇◇◇
「やりすぎだあああああ!」
叫んだのは爆豪だけだが、他の面々も同じように感じていた。
◇◇◇
「いったあああ! あわわわわうええええ、ぐっ……僕、僕は、なんてこと……」
「落ち着け緑谷、何かが違えばこっちが殺されていたんだ。責任は……俺がとる」
それに最初に気付いたのは、やはり藤丸立香だった。
嫌な話ではあるが人が死ぬ場面に立ち会った経験は豊富な為、冷静さを保っていたこと。そして
出来た事は、相澤先生と倒れている脳無の間に縮地で体を滑り込ませる事だけだった。未熟な縮地では次に繋がる行動をとることができない。
(こういう時は、どうしていたんだっけ)
わずかな違和感。
聖杯探索でも似たような局面はあったはずだ。その時はどうしていたのか思い出せない。
地面から跳ね上がるように繰り出された拳は、そんな違和感ごと藤丸立香を打上げた。
◇◇◇
平和の象徴はまだ来ない
ガンド(物理
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決着
ヒーローになる。
『世界を救ったからといって増長するなよ雑種。貴様がヒーローなどという器でないことは分かっているであろう』
『ハッ、ヒーロー? ドン・キホーテの間違いだろう、馬鹿め』
『マスター、頭でも打ったか』
『む、セタンタよ。そこで何故私を見るのだ』
そう言ったとき、カルデアの皆は大体こんな反応だった。
私自身、旅の中で自分が凡人であるという事は嫌という程理解させられてきた。
だから彼女がヒーローになるという私を肯定してくれた事に、逆に驚きを感じたくらいだった。
その疑いのない視線がたまらずに、何故と聞いたことがある。
この時私の予想では、世界を救った先輩ならという実績の話やら、英霊に鍛えられた技ならという能力の話やら、先輩なら大丈夫だという根拠の無い信頼やらの返答が帰ってくると思っていた。
『だって、先輩はあの時、わたしの手を握ってくれました』
彼女はそう言って微笑んだ。
『わたし以外はあの時の先輩を知らないですから』
だから他の人には、先輩とヒーローが結びつかないのだと彼女は言った。
でも、私にはあの時、何も出来なかった。
そう言った私に彼女は首を横に振った。
『あの時、わたしは確かに救われました』
そう彼女は言った。
『だから先輩はわたしのヒーローなんです』
◇◇◇
「ふじ……」
「あああああっ!」
「爆豪!」
誰もが動きを止めた中で、咄嗟に動けたのは爆豪だけだった。
脳無は無茶な体勢で腕を振り上げた為にまた倒れたが、すぐ起き上がるだろう。その目の前には動けないデクと、氷の散弾を浴びたイレイザーヘッドがいる。
脳無が起き上がればどうなるかは明らかだった。
(クソクソクソクソ!)
あの脳無の戦いを見た。スピードにパワーに耐久力、どれも爆豪自身では対抗できない圧倒的なものに見えた。
それを圧倒していたバーサーカー女に、揺るぎかけていた自負が粉々に砕かれたのを感じた。
半分野郎の氷が砕かれた際、動けなかった自分と動けたデクの差を感じた。
(ふざけんじゃねぇ! 俺は、俺は……!)
爆豪がその場に着いた時には脳無はすでに起き上がっていた。爆音を上げながら近づく自分に見向きもせず、その顔は動けもしないデクを見ていた。
「ふ」
ブチリと音が聞こえた。
カチリとコスチュームのピンを抜く。
「ざけんじゃねぇええ!」
全力を越えた全開。
コスチュームよ、腕よ壊れろと、全てを込めた一撃。余波だけで緑谷とイレイザーヘッドも軽く吹き飛ばされるほどの威力。
それでも脳無は無傷だった。
「かっちゃん……!」
「クソがあああああああああ!」
逆の手で脳無の顔面を目掛けて爆破する。威力よりも煙を増やした目潰しとしての爆破。それも腕の一振りで掻き消された。
その軽く振ったであろう腕の一振りが、全開の爆破並だというのは悪い冗談のように爆豪には思えた。
風圧に抑えつけられるように動けないでいる爆豪に脳無が迫る。
「あああああっ!」
腕を振るう。爆破。
それは爆豪の天才的な戦闘センスが成した技だった。決して爆豪に脳無の一撃が見えたわけではない。
藤丸と脳無との戦闘から、脳無の攻撃スピードにタイミングを把握していたこと、藤丸が脳無の攻撃を捌く技を見た事。
その模倣により、一撃を奇跡的に捌いて見せた。
しかし、二度目はない。
爆豪の体は、爆破の反動と脳無の腕の風圧で地面から離れてしまった。
無防備な体に拳が迫る。
「ちく、しょぉ……」
「レシプロバースト!」
ド
足が、脳無の顔にめり込む。
その一撃は緑谷のスマッシュにも、爆豪の爆破にも匹敵する一撃。
「間に合った……!」
それは脳無を思いっきり蹴り飛ばしてみせた。
「大丈夫か、爆豪くん」
「……けっ、誰も助けろなんて言ってねぇよクソ眼鏡」
「なっ、君って奴は……!」
「ったく、抹消が間に合ったからいいものを……あいつら」
氷の散弾で破損したゴーグルを外したイレイザーヘッドが仏頂面でつぶやいた。
状況は極めて悪い。
脳無へ向かっているのは何も爆豪と飯田だけではない、1−Aのほとんどの生徒が走ってきている。
藤丸が殴り飛ばされた事を切っ掛けに暴走したのだ。
(考えるより先に体が動いていたっていっても、相手が悪い)
すでに脳無は立ち上がっている。ダメージはないようだ。
「チッ、来るぞ! お前ら、立ち向かうなら気張ってみせろ!」
生徒は暴走している。戦力は足りない。ならば合理的に被害を減らす為の判断をする。
「戦闘を許可する!」
◇◇◇
■■■との出会いは今でも覚えている。
彼はいつもひょうひょうとしていて、ヘタレで、誰より人の事を気にかけていて、自分の苦労は誰にも見せようとしない人だった。
ああ、それに甘いお菓子が好きだった。
……本当に甘いものが好きだった。
『愛と希望の物語という』
……馬鹿。アホ。ヘタレ。格好つけちゃって、文句を言う暇もくれやしなかった。
『未帰還者、1名』
私は、覚えている。
誰が忘れても私は覚えている。
彼が救ったこの世界、彼が生きたいと願ったこの世界。
そこで私は生きている。
ああ……そうだ。
ヒーローになって、愛と希望の物語を紡ぐのはどうだろうか。
◇◇◇
生徒たちが合流して5分。
藤丸と緑谷を除けば、今のところ奇跡的に死者も重症者も出ていない。
イレイザーヘッドの的確なフォローと、怪我は多いものの動きがよくなっていく爆豪が前線を支えているのが大きい。
しかし、この拮抗した状態は薄氷のようなものでいつ瓦解してもおかしくない。特にイレイザーヘッドと爆豪は度重なる個性の使用で体に反動がきている。
特に爆豪は出血も酷く、爆風で血を撒き散らしながら戦っているような状態だ。今は動きが良くなっていっているが、そのうち動きが鈍くなるだろう。そうすれば脳無の攻撃を受ける事になる。
それは1分後か、それ以下。今すぐの話かもしれない。
切島、尾白、障子、佐藤の4人は近接戦闘に自信があったのだが、2合ともたずに後退する羽目になっていた。
他の生徒も隙を伺っているが、爆豪と脳無の高速戦闘に手出し出来ないでいた。
「13号……すまない、頼む」
「っ、先輩」
「すまん」
最悪に至るのなら、よりマシな最悪を。
イレイザーヘッドはこの状況を無事に終わらせる事を諦めた。
13号の個性『ブラックホール』はこの場でもっとも殺傷力の高い個性だ。
ヒーローに
それはプロヒーローの資格剥奪だけですむ問題ではない。この個性社会で、プロヒーローという仕組みへの信用を無くし、社会を揺るがせるとして重罪にあたる。
(このままでは全滅だ……もっとはやくこの決断をすべきだった。……藤丸、すまん)
「……っ、分かりました」
「爆豪! 下がれ、ケリをつける!」
「チィ!」
爆豪が爆風をあてて距離をとる。
抹消されている脳無はタタラを踏む。
13号がコスチュームの指ギミックを開く。
そして、脳無に鉄骨が降ってきた。
「高さが足りてマース!!」
「なっ!」
USJの天井を支えていたであろう鉄骨が、脳無の四肢、胴体を貫いた。
元々エタる予定の短編だったなぁって思ったら気が楽になった。
これで脳無戦決着です。色々考えてたけど投げっぱなしジャーマン。
他生徒の掘り下げはそのうちやりたい。
人数おおいよほぃ(泣)
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結果
ぐだ子がヒロアカ世界に転生した話
https://syosetu.org/novel/184379/
が面白かったので、モチベーション復活して投稿です。
「藤丸!」
脳無が暴れようとするが、鉄骨は脳無の四肢を貫通し、完全に地面に縫い付けていた。危険な戦いに決着がついた事は間違いなかった。
しかし、それを喜ぶ事は誰にも出来なかった。
「へへ、うぷっ、が、はぁ……ろろろ……」
鉄骨の上に立っていた藤丸立香が、嘔吐のように赤い血反吐を撒き散らす。
ビチャビチャと脳無の体を赤く染めていく。人間の体にこれほどの体液があるのかと目を疑うほどに、それは明確に致死量だった。
藤丸立香の体から力が抜ける。
鉄骨の上からフラリと倒れ落ちる。
そこは脳無の顔の上。鉄骨で縫い付けられながらも未だに衰えぬ悪意をもって、口を開く。
ビチビチと顎の力で己の頬を裂きながら、落ちてくるソレを食い千切らんと牙を向く。
「アアあああ゛アア゛ァァァアアあ゛ぁ」
「いやあああああああ!」
誰の悲鳴だか、しかしその悲嘆的な未来は訪れない。
バキンと歯と歯が噛み合い砕けた音が響く。
「思わず飛び込んだが、これは一体どういう状況だ!」
「オールマイト! 藤丸をはやくリカバリーガールの元へ! 頼みます!」
「くっ!」
一瞬の逡巡。
明らかに重傷である藤丸少女を動かして大丈夫か、どのぐらいの速度なら大丈夫だろうかという思いからだが、選んだ選択肢は藤丸少女への負担を無視した全速力――可能な限り揺れないようにはするが――だった。
すでに手遅れなのだ。負担を気にする段階はとうに超え、一刻もはやくリカバリーガールに見せる必要がある。いや、それも気休めか、あるいは現実逃避か。
藤丸少女の心臓はもう動いていないのだから。
(何が平和の象徴だっ!)
平和の象徴は間に合わなかった。
それはどうしようもない事実であった。
◇◇◇
「クソ、納得いかねぇ……!」
「かっちゃん、駄目だよそんなこと言っちゃ」
身体中に包帯を巻かれた状態でベッドに倒れている爆豪が唸る。
足と腕を折った為に、ベッドで安静にしている緑谷も、窘めはしたが内心同じ思いだった。
オールマイトが藤丸立香を連れて行ったあと、他の教師陣と警察が来た。
脳無や
「完全復活!」
「なんでだよ! そこは死んでろやクソがっ!」
立香ちゃんはピンピンしていた!
「体力お化けにも程があるねぇ……人生で一番驚いたよ。あの状態でここまで体力が残ってるなんて、一体どうなってんだい?」
血液が流れ、骨があるのかと思えるほどにグニャグニャとぶら下がった腕、他も骨折箇所は数え切れず、内臓もいくつか破れていた。
リカバリーガールが一目見てまず助からないと匙を投げた。これは死体であると。
それでもあのオールマイトが泣いて頼むものだから、期待はするんじゃないよと言い含め個性を使ったのだ。
そうしたらコレである。
「俺も完治させろや!」
「ベッドから立ち上がれるぐらいの体力があれば考えるよ」
「くっ……がるるる……」
「あははは……」
◇◇◇
USJから帰りのバス内。
行きより三人少ない為空席がある。
緊張感と楽しみと、色々な意味で盛り上がっていた行きに比べ、誰一人として顔をあげず、暗い雰囲気が蔓延していた。
「私……思ったこと何でも言っちゃうの」
「……」
「まるで、葬式のようね」
「……」
蛙水の言葉に誰も顔をあげない。
「先生はもちろん、爆豪ちゃんも、緑谷ちゃんも、立香ちゃんも、凄かったわ。だから被害も最小限ですんだと思うの」
「……私、立香ちゃんが死んじゃったと思ったわ。でも生きててくれた。それがとても嬉しいの」
「でも、嬉しいのと同時に、ね、今、とても悔しい。……悔しいわ」
途切れ途切れの独白。それは少なからずこの場の全員が感じていた事だった。
「俺、何も出来なかった」
切島が手を固く握りしめ、口を開く。
「俺、変わるんだって決めて、雄英に入って、今度は守るんだって、漢気ある漢になるってよ……でもさ、俺、何も変わってねぇ、変わってなかったんだ……! 畜生、畜生……!」
涙が溢れてくる。バスの中ですすり泣きが聞こえる。徐々にそれは伝播していく。
「切島はちゃんと前に出て、あんな凄いパンチ2発耐えてたじゃん、私なんて……そんな事言うなよ馬鹿ぁぁ、わぁぁん!」
「芦戸! 酸! 酸!」
「オイラ、皆が向かっていった時も、足が竦んで動けなかったんだぜ。皆格好よくてよぉ、くそぅ……」
「前に出て足手まといになった俺よりマシだろ。雄英に入れて、俺出来るんだって天狗になってた」
「フン……」
「……」
「立香ちゃん大丈夫やろか……」
「藤丸さんならきっと大丈夫ですわ……ええ、きっと」
史実では黒霧のワープで飛ばされた先で
その現実に誰も打ちひしがれていた。
それ以上に、ショックを受けている生徒もいた。
「お、れ……は……」
生徒が脳無に立ち向かった時、前に出なかった生徒の中には轟焦凍がいた。右手を見つめる瞳には、氷を粉砕する脳無の姿が焼き付いていた。
バスは走る。
轟くんを精神的にイジメたかった脳無戦終了です。
このあと休校の時とか幕間書いて、体育祭までやります。
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閑話 前
雄英は一日休校である。
急に学校が休みになれば、イヤッホー休みだー! と普通なら喜ぶ所であるが、当然というかA組の彼、彼女らは葛藤だの落ち込んだり鬱憤をためたりとめちゃくちゃネガネガしていた。
例外といえば立香ちゃんだが、彼女は彼女で焦っていた。
『マジカル☆ルビーちゃん復活!』
「は?」
急に聞こえてきた念話に、立香ちゃんは朝ごはんの玉子焼きをぽろりと落とした。
『あれ? パス繋がってますね、あーあー、テステス、本日は晴天なり、グランドマスター聞こえてますー?』
「は? はぇ?」
絶望である。脳無に対しては感じなかった、それこそ
あの封印を解いたというのか馬鹿な! と
『いやぁそれがですね、グランドマスターがボコボコにされたというのがカルデアに伝わって、カルデアから封印を弱めたんですって』
「えぇ……」
『封印を弱める際に、こっちに念話が飛んできて伝言も預かってるんですよ』
「え?」
『おっぱいタイツ師匠からですね、こほんこほん、あーあー。「心臓が止まったぐらいで動けなくなるとは情けない、これは鍛えなおさねばな。首を洗って待っておけ、首を落とした時に雑菌が入っては蘇生が面倒だ」とのことです』
……首を落とされても動けるようになれと? 酒呑童子じゃないんだから。
そんな軽口も叩けないぐらいに、歯の音がカチカチとなる。脳無相手には覚えなかった恐怖である。
つい手を伸ばして自分の首がついているか確認する。今までの修行では流石に首を飛ばされた経験はなかった……はずだ。なかったかなぁ……? あったかもしれない。うっ頭が。
開けてはいけない記憶の箱を厳重に封印しなおす。苦しいと思ったら首を確認した手で自分の喉を締め付けていたので、指を緩める。
――今死んだほうが楽に逝ける――
そんな考えを頭を振って追い出した。死んでも蘇生されるか死霊とかにされて、
『グランドマスターの精神状態に、正直ルビーちゃんドン引きなんですけど。』
はて、なんのことかな。
とりあえず脳無との一戦をカルデアに伝えた奴を見つけて……というか十中八九花の魔術師の仕業なので、マーリンを粛清せねばならないと立香ちゃんは心に決めた。
『ま、まぁいいんですけど。じゃあ確かに伝言は伝えましたからね! ではではー』
「おー……はっ!? ちょ待っ!」
プツンという音とともに念話が切れ、ツーツーツーというサウンドが流れる。
「念話にそんなSEないでしょ! じゃなくてルビー! ルビー!」
『ただいま念話に出ることが出来ません、ピーという放送禁止用語の後に伝言をどうぞ。ピー』
「ツッコミ所が多い! ああもう! お父さんお母さん、ちょっと出かけてくる!」
野放しにされた愉快型魔術礼装はこの上ない危険物だ。被害者が出る前に止めなければ。
立香ちゃんはあわてて玄関に向かい……リビングに戻ってきてご飯を全部平らげて「ご馳走さま!」と言ってから家を飛び出していった。
「……あの娘、遅い中二病なのかしら」
「今日の玉子焼きうまいな」
残された藤丸父、母は呑気であった。
◇◇◇
切島は町中をジョギングしていた。
はじめこそランニングのつもりで走っていたのだが、つい力が入りスピードが上がりすぎた結果バテてしまい、今はジョギングで体力を戻しているのだった。
「ちくしょー……ゼェ……情けねぇ、っ、はぁ……ゼェ……くそ……」
切島の脳裏によぎるのは体力テストの時の藤丸の姿だ。
藤丸はバイクと並走しながらゴールして息一つ乱さなかった。あのぐらいの体力が俺にあれば、もしかするとあの
いや、体力以外にも技術、スピードとか色々。自信のあった根性ですら、どれをとっても藤丸にかなわない。
ボロボロになりながらも諦めなかったあの姿が、俺の目指すヒーロー像だったんじゃないか。
俺は、どこか甘えていたんじゃないか?
あそこまでボロボロになった時に俺は立ち上がれるのか?
脳無という
恐怖と疲労で崩れそうになる体に鞭を打って足を動かす。
止まってしまえば動けなくなるような、そんな気がしたからだ。
「……ゼェ……っ、ゼェ……ゼェ……」
『がんばれ♡ がんばれ♡』
朦朧とした意識の中、声が聞こえた。
頑張れなんて言われるまでもなく、自分では頑張っているつもりだった。雄英に入る為に、入った後も俺は頑張ってきた。はずだ。
今もこれだけ苦しい思いをして走ってるじゃないか、これでも頑張りが足りないのか。一体これ以上、何を頑張ればいい……?
疑問、迷い、苛立ちのままに切島は声の方向に顔を向けた。
「う、ん……?」
『いやん、そんな熱い目で見つめないでくださいよ、きゃっ』
魔法少女のステッキっぽいのが浮いていた。
走っている切島に並走? 並飛行? しながら、サイドの羽根っぽい部分を折り曲げて顔を? 星を? 隠すようにして、いやんいやんとばかりにクネクネしていた。
切島は理解が追いつかないなりに、ステッキだけが浮いてる事から、クラスメートの透明人間のいたずらだろうかと考え聞いてみた。
「……葉隠?」
『誰ですそれ』
声も違うもんなぁと思いながらも、切島は、このステッキとこの声、どこかで見たような聞いたようなと首を傾げる。
実際ヒーロー基礎学の時にチラリと見ているが思い出せないでいた。
『わたしは愛と正義のマジカルステッキ、マジカル☆ルビーちゃんです! 透明人間に持ってもらわないと浮遊できないただのステッキとは違うのですよ! ただのステッキとは!』
「えぇ……」
『あ、コラ、透明人間ならいるであろう場所を触ろうとするんじゃありません。もし女の子がいたら胸を触って、「きゃ」「あ、ご、ごめん」「ううん驚いただけ」みたいなラブコメしようって魂胆でしょう! わたしの目が黒いうちはそんな事させませんよ!』
誰も考えてないし、お前の目ってどこだよ、黒い場所すらないだろ。
そうツッコミかけたところ、ステッキがキュピーンというSEとともに、いきなり顔(?)を背けた。
『むっ、プレッシャー……もう近くまできてますね、パスからは追えないようにしたのに、どうして真っ直ぐ向かってこれるのでしょうか。グランドマスターってこういう所ありますよね、全く』
ステッキが焦りを見せる。何も知らない切島からすれば「はぁ」としか言いようがない。
ステッキは『さて』と声をあげ、置いてけぼりの切島に再度顔を向けた。
『
「は?」
ステッキは目を合わせ、名前を呼んできた。いや、目なんてないのでそんな雰囲気という事だが。
ステッキは真面目な雰囲気のまま、切島の様子を気にかけることなく、言葉を紡ぐ。
『あの人は弱い人です』
「――――」
『どこまでいっても普通の人、
なんの話だ? そう聞こうと思っても、その真剣な口調に口を挟めない。
『それでも無理して背負おうとするから心配になっちゃうんですよねぇ……。とにかく、私達は近くにいれないので代わりにあの人の事お願いしますよ、という話です!
「お、おい! ちょっと!」
言い逃げるようにステッキが空に飛んでいく。透明人間なら人が持っている訳で空を飛べるはずがない。
葉隠説が頭から離れていなかった切島は何がなんだか分からなかった。
「異形型……かな?」
多分違う。ふと、いつの間にか止めていた足に気付く。
……足を止めているけど、さっきまでのような焦燥感は襲ってこなかった。
「きぃりしまくぅぅん!」
「お? よう藤ま、るぉ! あぶねぇ!」
ブレーキをかけようとしていたが、止まりきれず突進してきた藤丸に、走馬灯を見た切島は横っ飛びで避けた。
キィィィというブレーキ音に、アスファルトが焼ける臭いがして、藤丸は止まった。
「切島くん! 大丈夫!?」
「お、おお、間一髪避けれたけど、気をつけろよそのうち事故るぞ」
「〜〜〜〜っ、じゃなくて! さっき飛んでったアレ! ニチアサっぽいステッキ」
「ニチアサ」
関係ない話だが、プリズマ☆イリヤは深夜アニメである。
「何かされなかった? 危険物だから、関わらないようにしてね……あぁ、ルビーのことだしやっぱりA組狙いなのかなぁ、まずいまずいまずい……」
「ええ……何、俺ら狙われてんの?」
あの藤丸が焦るような相手だったのかさっきの。と切島は冷や汗をかいた。
「ごめん、何も無かったら良いんだ。じゃ、私急ぐから!」
「あ、じゃあこっちでもクラスメートに注意喚起しとこうか? 藤丸からメールも電話も来てないし、やってないんだろ?」
「あ」
◇◇◇
まずA組の皆に連絡しようという話になった。
もし見つけても、ステッキに関わらず場所を教えてほしいという話をしていく。電話の中でプロヒーローに頼ったほうが良いという話も出たが、立香ちゃんからすれば身内の恥なので断固拒否した。
あいうえお順に電話して、最後である八百万百と電話がつながった直後にそれは起きた。
『きゃっ!』
「ヤオモモ!?」
短い悲鳴がしたと思えば、携帯からはもう電子音しか帰ってこない。
「おいおい、やべぇぞこりゃ」
「くっ、居場所だけでも聞けてたら……! 走って探すしか……」
「! いや、待て、峰田からメールだ」
「峰田くんから? これ、位置情報だけ……?」
本文もなく、位置情報だけのメール。
それは近くの公園の場所を示していた。
「……行ってみよう、無意味にこんなメール送らないよ、きっと何かあったんだ」
「ヤオモモ、峰田……!」
一体ヤオモモと峰田に何があったんだー(
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閑話 後
さて、前提としてカレイドステッキを使うには魔術回路が必要だ。
魔術礼装であるからして本来当然のことであるのだが、自立行動してたり性格がアレだったりで忘れがちな話だ。
まぁ立香ちゃんはグランドマスターであるからにして、今回ルビーが暴走してもA組の皆に魔術回路がない以上、最悪の場合でも立香ちゃんの恥ずかしい話、あるいは写真や動画をばら撒かれたりするぐらいの被害ですむだろうと考えていた。
いや、立香ちゃんのカルデアでの経験を思えば、これも立香ちゃんが絶望するに足る被害なのだが。
実際その予想は当たっており、ルビーはA組女子に立香ちゃんの恥ずかしい話etcを吹き込むだけのつもりだった。
これは立香ちゃんが死にそうになったことへの罰であったり、暴れて人外認定されかけている立香ちゃんへのフォローであったりもするのだが。
それらの思いや推測は、fate界隈では概ねイレギュラーによって、思ってもみない最悪の方向に進むのである。
◇◇◇
「なん……だよ、これ」
切島と藤丸はその惨状を目にし茫然とした。
公園の木々、遊具はなぎ倒され、砂場では炎が立ち上がり、鉄骨が杭のようにそこら中に無造作に突き立っている。
どこかUSJを思わせる光景に、切島は吐き気を覚え……そして、公園の中で、血に塗れ倒れているクラスメートを見つけて我を忘れた。
「峰田ァ!」
駆け寄り、抱き起こす。
息はある。生きてる。
しかし、それも荒く、出血量から一刻を争うように見えた。
「おい、峰田! しっかりしろ! 警察、いや、ヒーロー、それより救急車か、ああくそ! なんで圏外なんだよ! こんな町中の公園で!」
「きり……し、ま……」
「峰田! 良かった、意識が」
「
しかし、そんな有様でも、峰田の目には力が宿っていた。
その目は切島を見ていない、切島の向こうの何か見ていた。
そして切島を払いのけ、血塗れになりながらも、震えながらも、自力で立ち上がった。
(峰田、お前……)
USJの帰りのバスでは、震えて前に出られなかったと後悔していた峰田。しかし、それからたった一日で、このクラスメートはヒーローとしての殻を一つ破ったのだと切島は理解した。
切島自身、後悔して迷っているうちに、クラスメートが前に進んでいたことが悔しくも嬉しくあった。
そして、その峰田と藤丸が空を見上げていることに気付き、切島も空を見た。
『おや、さっきぶりですね切島さん』
「ヤオモモ……?」
空には、さっき見たばかりのステッキと、そのステッキと雰囲気を合わせたかのような、紫色の魔法少女然とした八百万百がいた。
『来るのはグランドマ……あーえーっと、立香さん? だけだと思っていたんですけどね、ええ。人払いの結界を張ってるんですけど、『硬化』の個性を持っていると人扱いにならないんでしょうか』
「てめぇ! 俺のクラスメートに何しやがった!」
八百万はこうして空が飛べるような個性ではない。公園の鉄の杭や、砂場の炎――おそらくナパーム――などは八百万の個性なのだろうが、こんな事をするような彼女ではない。
何より、クラスメートに手を出す訳がない。
脳が沸き立つような怒りとともに睨みつけると、ステッキはニヤリと笑った気がした。
『……フフ、まぁ良いでしょう。やれますね
「は、
え? と声を上げる間もなく、八百万は力いっぱい腕を振り上げた。まさかと思うこともできず、ただ見ている事しかできなかった。
「胸に輝くは正義の光、愛と希望のミライを創る。魔法少女クリエティ☆モモ! おいたをする子はお仕置きしちゃうぞ!」
キュピピーン シュワーン
SEに合わせて、創造で作られた造花が背景を彩る。
「は?」
切島は混乱している。
「ひゅーお仕置きしてくれ〜!」
峰田は手を振り上げて息を荒くしている。血塗れなのもよく見れば鼻血なのが分かる。
「ああ変身シーン見逃したぁ! 貴重な初回変身シーンがっ!」
立香ちゃんは絶望して地面に膝をついている。目にハイライトがない、ガチである。
「は、恥ずかしい……」
八百万は顔を覆って、マトリョーシカをどんどん産んでいた。
『うひょーいいですねいいですねー、口上も恥ずかしがってるその表情もグッドですよー、あ、こっち視線くださーい』
ルビーはテンションをあげて写真をとっていた。
「なんだこれ」
切島のつぶやきは虚しく公園の中に消えていった。
◇◇◇
「で、弁明は?」
『いやー個性ってヤバイですね。創造でしたっけ? 魔術回路がないのに魔力が作れちゃうなんて、世の魔術師が知ったら封印指定もんですよ。こんなに面白そうならついつい契約の一つや二つ、ね? だからあの、立香さん、モモさん? どちらか手を離して頂ければ、ちょ、もげる、おお、大岡裁きぃぃぃ!!』
「ヤオモモは手を離すべきそうすべき」
「ルビーさんを渡せば酷いことするつもりなんでしょう!?」
「あのステッキと場所変わりてぇ……」
「やめとけ、死ぬぞ」
立香ちゃんの全力に、『強化』の魔術で対抗する八百万。生身の人間ではまずもげるだろう。
「こらルビー、抵抗しない! イリヤにチクるよ!」
「ふぬぬ」
『イリヤさんに言うのだけは止めてください! わたしだってまさかこんな事になると予想してなかったんですよ、不可抗力です! 折角だから楽しもうとしたのは事実ですが、あいたたたたた! ねじらないでねじらないで! 変身シーンの動画送りますから!』
「ええ!? あっ」
八百万はルビーに撮られてるなんて想像もしておらず、恥ずかしさで力が抜け、ルビーが手からすっぽ抜けた。
じゃらり
驚きから、立香ちゃんも思わずルビーを手放し、引き寄せられたルビーは八百万の手に戻った。
「……ヤオモモ?」
「ごめんなさい藤丸さん。でも、ルビーさんは渡せません」
ルビーから伸びた鎖は、八百万の右腕に繋がっていた。
『言ったでしょう不可抗力なんですって』
「私には力が必要なんです。ルビーさんがいれば私は、私は……! ち、チカラ、チカラが……あ、あ、あ」
考えてみればおかしい話だ。
この公園の惨状は一体誰がやったのか。八百万か、ルビーか。どちらにせよ暴れる理由はない。
正気であるならば。
「ルビー、説明」
『
「それって大分まずいのでは?」
「■■■■■■!!」
◇◇◇
「峰田くん意外と頑張るなぁ」
「お、おい藤丸、アレ止めなくて良いのかよ。そもそも何が起きてるのかサッパリなんだが」
「なに見物決め込んどんじゃあ! 助けやがれください!」
「■■■■■!」
「いやぁぁ!」
新たな鉄杭が放たれるが、峰田はモギモギを進行方向に投げ、ぶつかる事で急転換し回避する。
「ほら、切島くん今の見た? あれヤオモモから目を離さないままモギモギを投げたよね。一挙一動に集中してるから、回避に余裕があるんだよ」
「お、おう、すげーな確かに」
「くそぉ! そのスカートどうなってんだよ! 命狙われてんだからそのぐらいのご褒美あってもいいだろぉ! でも鉄杭を撃ったあと一瞬素肌が見えるのはとても良いと思います!」
「■■■■■■■■■■!!!!」
この暴走は峰田のスマホ(変身シーン録画)を破壊するまで続いた。
公園は正気になったヤオモモとルビーがなんとか元に戻したよ。やったね!
クリエティ☆モモの一発ネタがやりたかっただけ。
エミヤ並の解析能力が身につけば、エミヤの完全上位互換ワンチャンいける!?
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雄英体育祭(ローマ
青山不在タグで書いてる人ら大変じゃない?????
「ローマ!」
雄英体育祭である。
君が来たと知らしめて欲しいとか緑谷出久の決意を固めるパートとかすっ飛ばして雄英体育祭である。
ただいまヒーロー科の入試主席が雄英体育祭の選手宣誓で、両手を高々と掲げて第一声を発したところ。
ローマではない。
「祭りとは、あらゆる時間、場所において、あまねく人々が楽しめるであろう催しのこと――」
雄英体育祭を楽しもうとしていた空気は、謎の宣誓に理解が追いつかずに死んでしまったが、立香ちゃんは気にしない。気付いていないとも言う。
「すなわちローマである!!」
違う、雄英体育祭である。
「絢爛豪華なこの舞台において、各々が研鑽してきた肉体と技をもって、大いに楽しもうではないか!」
お、ちょっと宣誓っぽい。死んでしまった空気が息を吹き返しかける。
「さぁ始めよう! ローマの祭典、オリンピアを!」
ように見えた。現実は非常であり、今日は雄英体育祭である。オリンピアではない。
「ではここで一曲――」
「おいあのバカを降ろせ」
かっこいいぜイレイザーヘッド!
こうして雄英体育祭は、選手代表が18禁ヒーローミッドナイトに眠らされ、引きずり降ろされる前代未聞の珍事から始まった。
史実で選手宣誓した爆豪でもやらかさなかった偉業である。
◇◇◇
「雄英体育祭は、かつてのオリンピックって呼ばれてる。藤丸さんは更に古いオリンピアという言い方をした。なんでオリンピアなんて言い方をしたんだろう、雄英体育祭とオリンピアの違い、国、規模、場所、時代……そうか、オリンピアは『個性』がない時代だ、純粋な体力勝負。あの脳無すら倒してみせた藤丸さんに、体力で勝てる生徒はいないと思っていい。自分の得意を押し付けて勝ち上がってみせるという彼女なりの覚悟の表れなんだ。一曲歌おうとしたのも軍隊では歌は士気の高揚に使われるって言うし、藤丸さんは宣誓の場を自分のコンディションを整えて勝つための準備に使ったんだ!」
「怖いわ緑谷ちゃん。あと多分藤丸ちゃんはそこまで考えてないわ」
◇◇◇
「さぁ!ゴタゴタしたけど早速第一種目行きましょう!」
「立香ちゃん起きて、始まっちゃうよ」
「zzz」
「……おかしいわね、そんな強く嗅がせてないから普通に起きる予定だったんだけど……でも時間おしちゃうし進行しないわけにいかないのよね」
雄英体育祭は現代のオリンピックばりに世界から注目されており、テレビ局にスポンサーにとがっつり入ってるので、放送予定を遅らせるわけにはいかない。
それが一番注視されていたヒーロー科主席が起きない大放送事故であろうと、だ。
(うう、後でめちゃくちゃ怒られそうだけど、仕方ないじゃない)
18禁ヒーローミッドナイトは後でイレイザーヘッドから胃薬を貰おうと心に決めた。
立香ちゃんが状態異常に弱くて良く寝るせいで、関係者一同の胃がやばい。
「さぁ第一種目はこれよ!!」
『障害物競争』
計11クラスでの総当りレース、スタジアムの外周4kmを走る。何でもありのレース。
「さぁさぁ位置につきまくりなさい!」
その言葉を聞いて、A組はスタート地点に即座についた。(立香ちゃんを除く)
すぐに動くことが勝利に繋がっていると知って体験しているから。藤丸立香を心配していた面々も、藤丸立香を置いて、すでにレースへと気持ちを切り替えている。
トップヒーローなどはその切り替えの早さを見て、ほぅと感嘆の声をあげた。
「あの……先生?」
一方、他のクラスは身が入っていなかった。
B組委員長の拳藤一佳が指をさす『アレ』をどうするのかと、ミッドナイト先生に質問を投げかけている。
ミッドナイト先生の過失にしか見えていないし、本当にこの状況で始めるのかと不安そうに顔を見合わせている。
ミッドナイト先生はその質問に答えない。
答えようがないというのもそうだが、彼女はすでに『位置につく』ように指示したのだ。
ならば勝負は始まっている。
スタート地点の3つ点灯したランプ。
1つ目のランプが消える。
A組は体勢を整え、B組が気付き、他のクラスはまだ気付かない。
2つ目のランプがつく。
A組は力をこめ、B組は走り出し、そこではじめて他のクラスが異変に気付く。
3つ目のランプがつく。
「スターーーーーーーート!!!!!」
例年、多くの生徒が涙を飲んだ予選。勝ち上がるのは一握りの有精卵のみ。
A組が走り出す。
B組が遅れて続こうとする、が、狭いスタートゲートは氷に覆われた。
◇◇◇
「轟の奴、容赦ねぇー……」
上鳴はすっかり氷で覆われたスタートゲートを見て身震いする。アレではスタジアムから出ることは出来ないだろう。
少なくとも上鳴ではあの氷をどうにか出来るようには思えなかった。
「カッ! 妨害の為に手ぇ止めてりゃ世話ねぇな半分野郎!」
「チッ……」
しかし先頭を飛んでいく爆豪の言うとおり、巨大な氷の生成の為に足を止めたので、轟はA組最後尾(立香ちゃんを除く)になってしまった。
足元だけの氷生成なら足を止めず、A組に対しても若干の妨害になったはずだが、轟には予感があった。
(あの氷の厚みでも全く安心できねぇ、もっと……もっと強度を……)
それはUSJで脳無に氷壁を砕かれたトラウマからくるものであり、その脳無を倒してしまったクラスメートに対する畏怖でもあった。
(俺は……負けない……!)
勝つと言えなくなってる事を、轟はまだ自覚していない。
◇◇◇
「くそっ、A組がぁ!」
「骨抜たのむ……!」
「いけなくはないが、これだけ分厚いと時間がかかるな……すまん」
「ちくしょう!」
「おい、そこボサっとしてんじゃねぇ」
「あ、あぁ……?」
「おぅ……?」
「俺をゴールまで運べ!」
◇◇◇
それは苦し紛れの発言だった。
道などすでに無い。
だからゴールに行く手段なんてない。
だけど、これしかないから、これだけしかないから。
出来る事をする、出来ないと思っても、足掻くしかない。
足掻いて、駄目なら、ヒーロー科はすげぇって、諦める事が出来そうだから。
目の前のどうしようもない力の差を、思い知ることが出来るから。
ところで心操の心理描写は一旦置いといて立香ちゃんの話。
眠りはもちろんとして、洗脳もアッサリかかるのはfateの主人公補正なのだろう。
今回も例外ではない。
「フッ」
一呼吸、それだけでスタートゲートに群がっていたB組をはじめとした生徒たちが弾き飛ばされる。
「ハァ!」
重い震脚。スタジアムが揺れる。
「ヌゥォォオオオオッッッッラララララララァイ■■■■■■■ーーーー!!」
そして、ただ暴力を叩きつける。
マジカル八極拳由来の技に、バーサーカー由来の原始的な暴力。本来交わらない2つの流れは、見様見真似で未完成ゆえに混じり合う。
そもそも……そもそも藤丸立香とは本質として戦う人ではない。
身につけた技術も、はるか格上の相手からコンマ何秒生き残る為だけに教え込まれたものだ。
このような攻撃偏重の無様な姿を晒せば、一部の英霊は藤丸立香を見限っていただろう。
だから普段の藤丸立香なら、この技の選択肢は選ばず、巨大な氷を前に為す術がなかったはずだ。
他人から見れば超人的に見えても、立香ちゃんは自分の事を普通の人間の範疇に収まると本気で思っていて……こういう力技は仲間の皆にお願いしてきた。
しかし、心操に洗脳され、思い込んでいた限界は取り払われた。
それでも足りない力は八極拳で大地から生み出す。
これぞ、見様見真似・
巨人をもふっ飛ばした超暴力、その劣化とはいえ、たかが氷で防げる道理はない。
◇◇◇
『オゥオゥどうなってんだどうなってんだ!? 1−A 藤丸! 起きたと思ったら氷の壁を粉砕! 喜べマスメディア! これが主席の力だ! シヴィー! レースはまだまだこれからだ!』
(無個性でやれることかよアレが、どうなってんだよイレイザーヘッド)
(あいつに関しては考えるだけ無駄だ)
『うんん? 藤丸が肩に抱えてるアイツ誰だ? えぇと……普通科 心操????』
『あいつに関しては考えるだけ無駄だ』
レースは始まったばかりだ
雄英体育祭前に、ちょっとした修行パートとか考えてた記憶あるんですけどカットカット。
デクくんの強化は書くモチベーションの犠牲になったのだ……
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雄英体育祭
結構短めだけど連続更新
『さー! スタートゲートが開放されて盛り上がってきたレースだが、ロボインフェルノを突破した先頭集団にカメラを戻して見ていくぜyeah! ってはえーなおい!』
『予想通りだが、あっさり突破したな。足を止めなかったから連携される前に抜けれたんだ』
「チィッ!」
実況を聞いて、藤丸立香がスタートゲートを抜けて来た事を知ったA組の面々に動揺はなかった。
あいつならやる。
あの氷を砕いた方法は分からなくても、藤丸立香は何とかするだろうと思っていたからだ。
「くそがぁ! どうなってやがる!」
それよりも分からないものがあった。
2位の爆豪が、前を走るクラスメートを観察するが、何か特別な事をしているようには思えなかった。
しかし、USJの時は間違いなく
「待てやこの、クソポニーテール!!!」
『1-A! 八百万百が現在一位! 足が速すぎるぜガール! 後続を置き去りにしていくぅ!』
(おい、『創造』ってあんな事もできんのか? まるっきり増強型じゃねーか)
(わからん……少なくとも俺は知らん)
個性にはまだ分かってない事がある。個性伸ばしの特訓で新しい事が出来るようになる事例も多く、一概に出来ないと言える話じゃない。
しかし、それでも『創造』が成長して、増強型のように走れるようになるとはイレイザーヘッドには思えなかった。
(なんだ、あれは……)
◇◇◇
(オールフォーワン……!)
オールマイトには新しい個性が付与される現象に心当たりがあった。
宿敵、AFOの『個性を奪い、与える個性』。
まさか、そんなはずはないと思いながらも、敵連合から感じ取った底知れぬ悪意に既視感を覚えていたオールマイトは、その考えを振り払う事ができないでいた。
◇◇◇
(身体強化魔術は神経を使いますわね。もっと慣れないと、まだ咄嗟に切り替えるのは出来そうにないですね。ルビーさんは空を飛びながら『創造』で鉄杭を出したりしていましたが……はるか先の話ですね、成長しなければ)
大体、
オールマイトのただでさえボロボロの内蔵に負担をかけながら、八百万百はルビーに体を操作されていた時の記憶を思い出し、魔力を『創造』で生成していく。
ここで少し魔術回路の話。
魔術回路は魔術師が体内にもつ疑似神経のことで、その役割は生命力の魔力変換と、魔術基盤へのアクセスだ。
当然、魔術基盤にアクセスできなければ魔術を使えない……というのが普通だが、一部の天才は魔術式を「その日その瞬間だけしか成立しない魔術基盤」にして魔術を発動させたりする。
それを体感したからといって簡単に真似できてたまるかという芸当なのだが、八百万百も天才の類であり、魔術基盤を創り上げる事に成功していた。
更に八百万百は、生命力を魔力に変換するのは、魔術回路を通さずに『個性』として行える為、魔術師が感じる負担を軽減している。
世の魔術師が発狂する魔術適性の高さだ。
元凶の
『創造』を知ってる人間がのきなみ「何あれぇ……」ってなってる事を除けば、増強型並の強化手段を手に入れた八百万百は、A組の誰より先んじて壁を一つ乗り越えていた。
「がああああああああ!」
爆豪も汗の分泌量が増えて加速してきているが、それでも尚追いつけない。
勝つ為にきた。勝つ、勝つ、勝つ……!
どうやって?
「ーーーーーっ!」
過る弱音を振り払う。考えるのを止めれば負けるだけ、頑張ったけど負けたなんて言い訳にもならない。そう知っているから。
だから、チャンスが来たときにすぐ掴む事ができる。
『もう第二関門が見えてきたぞ! 階段を登れば、ザ・フォーーーール! 落ちればアウトの地獄谷だぁ!』
大穴に立った柱にロープが張られている第二関門。
飛べる個性持ちに有利なフィールド。
「行けます……!」
「行かせねぇ!」
『八百万ハイジャーンプ! ロープなんて関係ねーーー!! この独走体勢を止められるのか!? 2番手爆豪も飛んで猛追……しない! 着地して!?』
「止めるんだよ! 死ねぇ!!!」
振りかぶった爆豪の手から一際大きい爆風が起きる。そこから拳大の石が八百万に迫る。
「なっ!?」
『投石!? おいおいどういう教育してんだイレイザーヘッド』
『何でもアリなんだろ、勝つ為に妨害は必要だった。合理的だな』
『シヴィー!』
爆豪の頭を過ぎったのは藤丸立香が「ガンド」と呼んだ投石術。
自身の個性が強いからといって、個性だけに頼る必要はない。あのUSJの戦いは爆豪の視野を広く持たせていた。
(油断しましたわ……!)
爆豪が追いかけてきている事は分かっていたのに、距離があるから有効な妨害はないと判断して、ジャンプして逃げ場のない空中に出てしまった。
身体強化のおかげで投石のダメージはそこまでではないが、着地地点がズレて体は奈落に向かってしまっている。
(飛行魔術……! いえ間に合いませんわ、とにかく固くて長い棒……!)
とれる手段が増えたために起きる一瞬の判断の遅さ。『創造』が遅れた為に八百万は体勢を立て直すのが遅れる。
爆豪が着地した事で起きたタイムロスを補って余りあるほどの時間が。
「ハッハーー! 俺が一番だ!!」
「くっ、お待ちなさい!」
『ここで先頭が変わったぁ! ブーイングが心なしか多いが、これが何でもアリの雄英体育祭障害物競争だ! やりあってる隙に後続も追いついてきたぞぉ!』
身体強化を『創造』しなおした八百万と、爆豪のデッドヒート。
「すごい2人共、でも負けない!」
「かっこ悪い様はみせられん!」
それに続くようにA組の面子が続く。
「■■■■■■■■■■■」
かすかに聞こえる咆哮に追い立てられるように。
超改造クリエティモモがやりたかった。
轟くんはここに居たはずなのにね。うへへ
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雄英体育祭 障害物競争決着
『弔、機嫌が悪そうだね』
「あ? なんだ、先生か。そりゃあそうだろ、どこのチャンネルも雄英雄英雄英、痒くて仕方ないよ」
敵連合のアジト……ではなくとある治療室。
死柄木弔はスピーカーから突如先生の声がして少し驚いたが、今いる場所は先生の用意してくれた部屋だという事を思い出していた。
死柄木弔はUSJの襲撃の際に、一時心停止しており、誰よりも重症だった。
史実のイレイザーヘッドが雄英体育祭の時にはミイラマンなので、この時期の貧弱弔くんがイレイザーヘッドより重症な時点で病院のベッドから出られるわけがなかったのだ。
「先生は……随分機嫌が良さそうだ、何かあった?」
『おや? 嫌だと思いながらも雄英体育祭を見ていたんだね。勉強熱心で何より』
「チッ」
治療室に備え付けられたテレビでは雄英体育祭の映像を流していた。
「質問ぐらい答えろよ、機嫌が良いと饒舌になるの悪いところだぜ」
『クク、いや、見ていたなら話がはやいと思ってね。少し暇つぶしが出来そうな話をもってきたんだよ』
テレビの画面が、八百万百を正面から撮影した画角に切り替わる。
走っている競技者を正面から映すのは明らかに不自然な撮影で、雄英もそんなカメラは配置していない。恐らく先生が話をするために何かをしているのだろうと死柄木弔は判断した。
『弔は彼女の個性が何か分かるかな?』
「増強だろ。トリガーまでは分かってねぇけど、体は人間に見えるから異形系じゃなくて、もっとシンプルな奴」
『うん、ちゃんと映像を見ているね。まぁ全然見当外れなんだが』
何も調べずに雄英に突撃した時と比べて成長していると満足気な雰囲気を見せる先生に対して、死柄木弔は青筋を立てるも何とかベッドの一部を崩壊させるに留めた。
ベッド全部を崩壊させれば困るのは自分だと、なけなしの理性が踏みとどまらせてくれた。
「まじで機嫌が良いと人を煽る癖、辞めた方がいいぜ」
『ハハハ、すまない、性分でね。代わりに正解を教えるよ』
またテレビの画像が切り替わる。今度は幼少期の八百万百がマトリョーシカを量産しているところだった。
明らかな隠し撮りだが気づかれてはいないようだ。
『彼女の個性は『創造』。脂肪分を生物以外のものに変化させる個性だよ』
「あ?」
それはおかしい。
死柄木弔は思った。
まさか
部下に真っ先に調べさせた
『そこで本題だ。これは……そうだね、面白い暇つぶし、クリアする必要のないサブクエストようなものだと思ってほしい』
すっと空気感が変わる。OFAの話をするときの押しつぶすような威圧感とは違う、逆に玩具を見つけた時のような浮き上がった雰囲気に。
『これはおとぎ話でも何でもない、現実の話で、私ですら実際に会ったことがなければ信じられなかったような話でね』
『
◇◇◇
「くっ……飯田さん……!」
「追いついたぞ八百万くん!」
ザ・フォールを抜けた八百万が見たのは、爆豪の遠い背中、そして自分と同時にロープを渡りきった飯田天哉の姿だった。
飯田の個性『エンジン』は走る競技に滅法強い。
強化の魔術で同程度のスピードが出せるようになったが、本来はあり得ないことなのだ。
「おそらく兄も見ているのだ……っ! その速さの秘密は気になる所だが、まずは勝たせてもらう! 君にも! 爆豪くんにも!」
飯田天哉の安定した走り。
それに対して、見た目こそ走りを維持できているが、強化の制御に必死な八百万百。
その差は徐々に現れてくる。
「ハー……ハー……くっ、ふぅ……っ!」
「おおおおおおおお!」
『2位がここで入れ替わったぁ! しかし先頭に追いつくのは厳しいか!? 1-A爆豪勝己は最終関門に到着だ! 一面地雷原、地獄のアフガンだぁーーーー』
「俺には関係ねぇ!!」
『だぁよなぁ! ズリィー! 空中で地雷をオール無視だ! これは決まったかーーー!』
「な!?」
その実況に飯田と八百万は動揺した。
爆豪勝己に勝てない。勝ち目がない。
障害物競争だから、まだ希望があったのだ。それが何だ。障害物なんて無いのと同じ、どころか自分たちには牙をむくのだ。
その現実を突きつけられ……先に動揺から立ち直ったのは八百万百だった。
「はぁ……! 飯田さん……っ……! 協力しませんか!?」
「八百万くん?」
「速さの秘密を知りたいのでしょう?」
◇◇◇
『おいおいおいなんだありゃ!? 1-A飯田天哉! 八百万百を抱えて加速ぅ!? どーなってんだ!? 地獄のアフガンも……爆発する頃には走り抜けているーー! 速すぎるぅ!』
「いやぁ……天才だね彼女は、他人への強化をぶっつけ本番で成功させるなんて。むしろ自己強化より安定してるようにも見える。個性とやらが魔術に影響を与えているのか、あるいはあのぐらい出来てこその『英雄』という事かもしれないね。このチャーシューおいしいね」
「さすがに個性の影響じゃないですか。強化魔術って体内でグワーって魔力を回しますけど、彼女は個性で変換した魔力を外に出してから体内に取り込んでいましたし。エミヤさーん、専門家としてどう思います? あと枝豆のおかわりー」
「ちょうど茹で上がった所だ。それと私が君たちに魔術について話すのは釈迦に説法だろう」
「あ、私運びますよ」
「おっと、ありがとうマシュ」
カルデアでは雄英体育祭が各所で放送されている。
その中でもエミヤsキッチン周辺は、おかんによって至れり尽くせりな環境であり、ガヤガヤと賑わっている。
「ああそうだ、マシュ、ついでに頼まれて欲しいんだが」
「はい?」
エミヤがフライパンで肉を炒めながら、顎で談話室の一角を指し示す。ガヤガヤと一番騒がしい一帯だ。
「他の人の言いなりになるやなんて、マスターはんはほんま学ばへんなぁ……」
「おお圧制者よ! いまこそ叛逆である!」
「おぉ……母の教育が至らなかったのでしょうか。母は悲しいです」
「ああ、なるほど……マスターが悪いわけではなく、このスカサハの教え方が温かったのか。影の国ではないからと死なない程度に抑えていたのが悪かったのだろう、きっと、ククク」
「私の計算では筋肉が足りないようですね、脳の筋肉が足りていれば洗脳など気合いで弾けるはず」
「■■■■■■■■■■」
「あそこを何とか宥めてもらえないかと」
「前に先輩に教えてもらったんですが自殺幇助って犯罪だそうですよ」
殺気をはじめとした混沌とした雰囲気はカルデアらしいなとマシュは思う。英霊達の方がカルデア職員より多くなってから1年以上過ごした身としてこういうダークサイドに慣れ始めてはいる。しかしそれは解決できるという意味ではないのだ。
それに、とマシュは思う。
「きっと宥めなくても大丈夫ですよ」
「ほう?」
『A組緑谷! 大爆発で猛追ー!』
テレビでは地雷が大爆発をおこし、爆風にのったもじゃ頭の男の子が先頭に追いつく。
爆発でおきた砂煙は後続を妨害するように大きく巻き上がる。
「期待には必ず答えてくれるんですよ、私の
――――見様見真似
――――
◇◇◇
『砂煙から飛び出したのはA組藤丸だぁ!!! どこに居たんだぁ!?』
『おそらくコース横の木を飛び移ってきたんだろ。木のしなりを利用して加速してきたんだ』
『トップ争いに一気に2人……? いや3人参戦だぁ! 普通科、心操! 何故か藤丸に担がれてグロッキーだ!』
「デクにバーサーカー女まで……!? ふざけんなクソがぁ!」
「八百万くん……!」
「くっ、驚いて制御が……!」
「〜〜〜〜っ!」
「■■■■■■!!」
「あばばばばばば」
先頭での団子状態。しかしこのままでは負けると即座に理解した2人が同時に行動を起こした。
疑似爆速ターボで勢いを得ただけで、このまま失速する緑谷出久。
一方、木やロープのしなりを利用してここまで来たが、直線勝負になれば爆破や強化の魔術ほどのスピードが見込めない藤丸立香。
同時に振りかぶる。
――――追い越しが無理なら
――――見様見真似
――――抜かれちゃ駄目だ!
――――
『いや、緑谷が地雷を爆破させ後続妨害&加速!!』
「
爆発で藤丸立香の『洗脳』が解ける。
結果として心技体がバラバラになった投槍の極地は、スッポ抜けて、本来の勢いを大幅に減ずるに至った。
まぁこの場合の槍は心操人使の事で、本来の勢いだと死んでいただろうが。
「んなぁ……!?」
「うわああああああ!」
緑谷の横を心操が追い抜いていく。
『これは……!? 届くか? いや、届く! キタアアアアアアア! どういう展開だこりゃ! 最初にスタジアムに帰ってきたのは誰も予想出来なかったこの男! 雄英体育祭はじまって以来の快挙! 英雄科を抑えたのは――――』
『普通科! 心操人使だああああああ!!!!』
「……その、お約束の期待っていうのもあってな、マシュ」
「先輩先輩先輩先輩先輩先輩……」
「ああっ!マシュがダークサイドの一角に!?」
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雄英体育祭 騎馬戦仲間探し
雄英体育祭がはじまって以来の大金星。
ヒーロー科を抑えての第一種目1位、普通科、心操人使。
普通科の
◇◇◇
(生きてる生きてる生きてる生きてる生きてる!)
体感時間が遅くなって、人生で体験した色々な事が頭の中で流れてきた中に、吹き飛ばされたヒーローがぐるりと回転しながら地面の衝撃を和らげる姿を思い出し、一か八か実践した心操くん。
奇跡的にある程度の衝撃を逃がす事に成功したが、途中で逃しきれず地面からバウンド。体が空中で高速回転するのを体感して
あ、死んだわ。
と覚悟を決めたところ、ミッドナイトのクッションに包まれ停止。
感触を楽しむどころじゃない心操くんは、自分の体を確認する。
それをミッドナイトは普通科の彼が1位をとったことを、まだ信じられていないのだろうと受け取り
「おめでとう心操人使くん、あなたが1位よ」
と語りかけた所あたりで、心操くんは自分が五体満足で生きていることに気付いて号泣。
後日、新聞の1面を飾る事になる写真はこの時撮られたものだ。
◇◇◇
「やられた……人をあんな風に投げるなんて……。OFAを使えば同じようなことが出来るかもしれない、けど、個性なしでなんてどれだけ鍛えれば……ううん、鍛えるだけでできる事なのか……? 遠すぎる、背中が……」
「オレが、さんい……クソナードどころか……モブにも……クソ……クソが……っ!!! いや、モブじゃねぇ、アイツだ、なんのつもりだクソが」
(走る事を犠牲にしてまで出せる最高硬度の氷を張った。それでも壊されて……抜かれるのか。くそっ、これじゃああいつの鼻をあかすことなんて……もう負けない、負けられない)
「藤丸さん!」
「バーサーカー女!」
(藤丸!)
◇◇◇
「テメェ飯田ゴラァ! 八百万の体はどうだったんだええおい! 妬ましい羨ましい変われ畜生!」
「峰田くん、僕はそんな……」
「あ゛あ゛? いい子ちゃんぶりやがってよぉ。男は乳尻ふとももの誘惑には勝てねぇんだよ、オイラに正直に言っちゃいなぁあぁん?」
「峰田くんサイテー」
◇◇◇
続々とゴールしていく生徒たち
障害物競争は上位46名が1次予選勝ち抜きとなった。
1位心操人使。
2位〜22位がA組。
23位〜43位が原作のA組以外(氷の妨害が念入りだったのとスタートが遅れた為)
44位〜46位が作者都合のモブくんたちだ。
◇◇◇
「ゴールシーンを凄い雑に飛ばされた気がする」
「立香ちゃんがまた変なこと言うとる……ほんまに正気に戻っとるんか?」
「判別が難しいですわね……しかし、洗脳ですか……厄介な個性ですわね」
「うん、洗脳されたらもう試合終了だもんね、警戒しなきゃ」
ホログラムで投影された順位表を見ながら、悲喜こもごもでざわざわと話をしていると、パンパンとミッドナイトが手を叩く。
「さ、順位は確認したわね。予選通過は上位46名。第一種目から大波乱だったけど本戦は今からよ! 取材陣も白熱してくるわ! キバりなさい!」
◇◇◇
第2種目は騎馬戦。
原作通りなので説明は省略。読んでね!
◇◇◇
「予選通過1位の心操人使くん!! 持ちP1000万!!」
オォ……
何でさ!?
心操人使くんは頭を抱えたい衝動にかられるのを必死で抑えていた。全国放送の真っ最中で、注目の的なのがわかっているからだ。
生きてるだけで号泣するという醜態を晒して、更に醜態を重ねたくはない……が、この騎馬戦のルールのせいで無様な姿を晒す未来しか見えなくなった。
(Plus Ultraって簡単に云ってくれるが……正直、あのヤベェ入試1位を運良く洗脳できただけで何もしてないんだぞ俺は……。そもそも洗脳は初見殺しでしかない。こんなに目立って警戒されるつもりなんて無かったんだ、くそ)
もちろんまだ洗脳の発動条件に気付いてない生徒も多いだろうし、何が起こったのかも分かっていない生徒もいるだろう。
だから1回は洗脳は使える。はずだ。
だが全員から警戒されている今、その1度を使えば二度と洗脳にはかかってもらえなくなるだろう。
(たった1度をどこで使うか……。いや、その前に俺から話しかけようにも1000万Pってだけで避けられてるから、その1度のチャンスもあるか分からないな……)
試しに声をかけようとしてみれば露骨に避けられて、思わず笑ってしまった。
なんだか懐かしさまで感じる。
個性を知れば、誰もが離れていった。俺が洗脳を使わないようにしていたって、使われるかもしれないという恐怖だけで彼ら、彼女らにとって俺は危害を与えてくる人間だったのだろう。
変わりたい、俺もヒーローに。
そう思って雄英ヒーロー科の受験を受けるも、実技は相性最悪の対ロボット戦闘。何とか普通科に縋り付いて、
それがどうだ、雄英でも何も変わらない。
目をそらされて、話もできない。
これは俺が悪いのか?
この個性がある限り、何も変わらないのか?
どうすればいい、何をすればいい。
そもそも変わるべきなのは、変えるべきなのは……
俺じゃなくて、■■の方なんじゃないのか?
「いたーーーーーー!!」
響く声。驚いて皆がそちらを見る。
障害物競争で洗脳した入試一位女が俺を指差していた。
「ハッ」
鼻で笑ってしまった。
洗脳した事への文句でも言いに来たのか。
入試一位様は勉強はできてもバカなようだ。
身体能力の化け物さは体感した。話しかけてくるなら洗脳して味方にすれば心強い。
もう洗脳にはかかってくれないだろうと諦めていた相手だったが、都合よく来てくれた。
「何か文句でも」
「私とチーム組もう!!!」
「ある……のか?」
なんて言ったこいつ。
思わず自分の個性の暴発を疑ったが、そんな訳もない。
「やっぱ集団戦闘だとスタン要因がいるだけで全然違うからさぁ、最初峰田くんも良いかなって思ったけど私はモギモギくっつくわけだし、落としたところ警戒しないといけないからさ。誰かいないかなーって思ってたら、そこにいるじゃん! って」
指をパチンと鳴らしてくる入試1位。ウゼェ。
「それに1000万Pとか守るだけで良いんだよ。私はそっちのが得意だし、君もそうでしょ?」
「はぁ?」
俺が、何だって?
「ん? あー……なるほどなるほど、自覚なし、かぁ……」
うーん、あーでもないこーでもないと少し悩んで見せたこいつは、すぐにバッと顔をあげニマーっと笑ってきた。
「よし! バランス編成で考えてたけど、特化編成にしちゃお。えーっと、ヤオモモと、サポート科の子かな。やっぱ優秀サポートよ、マーリン孔明マーリン孔明」
「何言ってるんだ?」
頭がおかしいのか?
そう思ってると、入試一位様は今度はニカッと大きく笑ってみせた。
「君の見てる世界を変える話だよ!」
……頭がおかしいのか? じゃなかった、頭がおかしい。
入試一位様に「さ、行こう」と促されて着いていってしまう俺も、大分おかしくなっているようだが。
変わろうと思ってきた。
変えようと思ってきた。
今までずっと願って叶わなかったことなのに、入試一位様が言うと本当に変えてしまうんじゃないかって……信じたくなってしまった。
「あ、そうだ。君、名前は?」
「……心操人使」
「ひとしくんね! 私は藤丸立香! 無個性! よろしく!」
「心操で頼む、入試一位様……は?」
「藤丸立香! はいはい時間ないから行くよー! ヤオモモー! サポート科のゴーグルちゃーん!」
「おい、待て! おい!」
発目女史は原作だと緑谷チーム
ヤオモモは原作だと轟チーム
人数多いねぇ……!
書いてる人すごいねぇ……!
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雄英体育祭 騎馬戦開始
カルデアの
放っておけば日本までいって雄英を襲撃しかねない一触即発だった雰囲気は、己がマスター騎馬戦の姿を見て霧散していた。
「まぁ……うちらも受け入れるお人好しやもんなぁ」
「貴女は……そうでしたね。楽しそうで何よりです」
洗脳されていた障害物競争のときとは違い、キラキラと輝いた瞳。
洗脳した下手人は許しがたいが、マスターの上で困惑している姿は英霊達にとって非常に身に覚えのある姿だった。
すぐに誰でも受け入れるマスターに対して、自分達も困惑していたから。
そんなほんわかとした空気が流れはじめた暗黒面を見て、カルデアキッチンの主はホッと一息つく。
しかし、何かに気付いたエミヤはテレビに映ったマスターを二度見して、苦みばしった表情で同情を滲ませた。
「どうしましたエミヤさん? ……あぁ」
良妻賢母が声をかけるが、彼女もマスターの顔を見て察した。
あの顔をしたマスターは
「殺したかっただけで死んでほしくはなかった……なんて酷い事には騎馬戦なんて遊びで……それも時間制限がある中ではならんだろうが、あの顔をしたマスターと敵対したいとは思わんね」
魔神柱に対して、どこまでの火力が叩き出せるかと、心折れるまで叩きつけはじめた彼女に、人類悪かな? と感じた封印された記憶がぼやぼやと蘇りかけてくる。
「心が折れなければいいがな」
◇◇◇
『ぜっ……』
あれだけ盛り上がっていたスタジアムがしんと静まり返っていた。
衝撃の光景が言葉を忘れさせた。
プレゼント・マイクが声を出せたのは、実況という立場とプロ意識が声をあげさせただけで、一言目は言葉にもならなかった。
プレゼント・マイクはゴクリとツバをのみ、声をあげる。
『全滅ぅーーーーッッ!!!』
『開始1秒、心操チームを除いて!! 全騎馬が崩れた!! 立ってるのは心操チームのみ! 障害物競争の王が! 頭が高いと全ての騎馬を崩して、高みから見下ろす! 民よひざまづけ! これが王だ!!』
その実況を皮切りに、スタジアムが大歓声で揺れる。
『悪質な騎馬を崩す行為はルール違反となっているが……』
「怪我をさせない為のルールだから、このぐらいはセーフよ!」
『だ、そうだ。何チームか復帰しはじめてるが、崩れてしまっても騎馬の組み直しはルール上アリになっている。ルールに救われたな』
『イレイザーヘッド解説センキュー! とんでもねぇー事になったがまだまだこれからって訳だ! 盛り上がっていけリスナァァァ!』
◇◇◇
「わぁお、開幕宝具、思った以上にうまくいったねぇ」
「ハハッ、まじかよ……」
「これが個性に合わせたベイビーの力ですよ! 見てますか企業の皆さん!」
「敵じゃなくて本当に良かったと思ってますわ……」
やったことは単純で
今までは隠れて不意をつかないと使えない個性だと思っていた。それが堂々と真正面から不意をつくだけで、こんな事になるのかと、心操人使は体が震えるのを必死で抑えながら思っていた。
「出鼻は挫いた。まずは1ターン」
騎馬戦が始まる前の作戦会議で「開幕で一斉にかかられるとヤバいからヨロシク」と、重大な責任をかぶせてきた入試一位様は、
八百万の出した武器。そして両手をフリーに動かせているのは、同じく八百万が俺をのせる簡易的な御輿のような道具を作ったからだ。
両手がフリーなのは何も入試一位様だけじゃない。
八百万も発目も、その個性で材料を出し組み上げ、設計図を書き上げ生産していく。
洗脳で作った時間を有効に使って、勝つフィールドを組み上げていく。
「1000万ポイントを持った耐久イベだけどさ……別に全部のハチマキをとっても構わないでしょ」
この作戦を立てた入試一位様は、ニヤリと笑ってみせた。
洗脳から脱したいくつかの騎馬が起き上がり向かってくるが、それは「一斉に」には程遠く、足取りはバラバラだった。
「一騎ではなぁ!呼ッ!」
棒を振るえば魔法でも使ったかのように人が舞う。
物理法則を無視してるように見えるが、修行の成果であって無個性らしい。
「頼もしすぎるだろ……」
その呟きは拡声器のスイッチを切っていたお陰で、誰に聞かれる事もなかった。開幕で叫んだあとは、俺の出番はもう少し先だ。
◇◇◇
少し時間を遡る
◇◇◇
(君が来たっていうことを! 世の中に知らしめて欲しい!!)
オールマイトから言われたその言葉が、緑谷出久に重くのしかかる。
障害物競争で2位。このポイントを守っても決勝に進出できるだろうが、それは僕が来たとは言えないと思う。
守りよりも、攻める為の人選が必要だ。
そう考えた時、ある光景が飛び込んでくる。
「藤丸さん……!?」
洗脳を受けていたと聞いたから「ない」と思い込んでいた心操、藤丸ペアがうまれる。
USJで脳無相手に戦った彼女の姿は記憶に新しく、1000万ポイントをとる難易度が跳ね上がった事を理解した。
(どうする、どうすれば藤丸さんに勝てる? 正面からぶつかるのは無理。最初に別チームと連携してまとめてかかれば何とかなるかもしれないけど、多分連携はとれない。それに上手く行っても、どのチームがハチマキをとるか分からなくて運に任せる事になる。ヒーローは運任せじゃ駄目なんだ。何か、何か……別に直接倒す必要は無くて動きを止められたらいい、そう、そうだ。どれだけ強くても無個性なんだから……!)
「緑谷」
「ハイィ!? な、何いきなり」
「いや、何回か呼んだんだが……驚かせてすまん」
考え事が終わり、顔をあげた所で声をかけられる。
驚きが収まれば、その声をかけてきた人物が丁度声をかけようと思い立った相手の1人な事に気付いた。
「あ、轟くん! 丁度よかった。あの、僕相手じゃ嫌かもしれないけど、で、出来たらその、チーム……」
「俺と組んでくれ」
それは思いがけない一言で、緑谷は口をパクパクと開くことしか出来なかった。
元々無個性で、ワンフォーオールの超パワーを使えば体を壊してしまう。同じ増強型の個性なら、客観的に見て砂藤くんの方がバランスが良くて強いと思う。
僕なら僕を選ばない。それが緑谷出久の自己評価だった。
何故僕なのか、ドキドキしながら轟の次の言葉を待っていると、轟は肩を落とした。
「駄目か……」
「駄目じゃないよ!! 組もう! チーム組もう!! 丁度轟くんを探そうとしてたんだ! ……でも、なんで僕と組もうと……?」
そう言うと、轟はスッと声を潜めた。
「お前の力、オールマイトに似てるよな」
「エ゛ッ゛」
「いや、別に問い詰めようってわけじゃない。何か言えない事情があんだろ」
「エーイヤーアハハハハハー」
「隠し子とか……」
(な、なるほど、そう見えるのか……)
右往左往して冷や汗をかく緑谷を見て、轟は不思議そうに小首をかしげるが、まぁいいかと構わず話を続ける。
「あいつ……藤丸には俺の氷じゃ足止めも出来なかった。もうどうしようもないって、正直絶望していた……そんな絶望した時にはオールマイトが駆けつけてくれるんだよな……って、思って。ふと、お前を見たんだ」
声をかけた理由は単純で
「獲るつもりなんだろう、1000万P。藤丸に勝つつもりなんだろう。本気で」
緑谷が来れば何とかなるような気がした。
「作戦を教えてくれ。緑谷」
その言葉とまっすぐな瞳を見て、緑谷は体が重くなった気がした。
期待を受けることの重さ、作戦を考え、実行する事の責任。雄英体育祭がプロヒーローや企業へのアピールの場であることも考えれば、将来の可能性まで肩にのしかかる。
(期待されるってこんなに重いのか……)
それでも
(それでも前に進むって決めたんだ……!)
「分かった。でもその前に仲間を集めよう!」
「ああ、誰に声かける?」
「飯田くんと上鳴くんに。手分けして探そう!」
◇◇◇
『かかってこいよ!1000万ポイントはここだぞ!』
突然の大音量に「うるせぇ!」「なんだぁ!?」という声や、「ああ!」とか「行くぞ!」とか「ぶっ殺す!」とかの声が聞こえた後。
全ての騎馬が静止して、静かになった。
『自チームのハチマキを投げ捨てろ』
僕たちの騎馬戦が始まった。
本当にどうなってしまうんだ……
感想いつもありがとう御座います
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