ウルトラマンメビウス BRAVE NEW WORLD (ローグ5)
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再誕-REBIRTH- 

以前投稿した『光に触れて、その先へ』の続編となる話です。

本作は1990年代終わりごろからウルトラマン達と地球人が怪獣や宇宙人と戦い続けている世界観のになっており、複数のウルトラマンが登場する作品です。


暗殺宇宙人 ナックル星人 キャザ
彗星怪獣  ガイガレード      
                         登場


夢を見た。まだ彼が20代の前半だった頃のことだ。自分の無力さに絶望していた頃に彼は奇妙な夢を見た。

 

夢の中で彼がいたのはどこかの遺跡のような空間だった。そこに生物の姿はないがどことなく古代を思わせる森の中であり、空の色は色あせた写真のような色をしていた。

 

「ここは・・・」

 

「ここはですね.えーっとなんて言えばいいんでしょうか・・・・・ネクサス空間?」

 

気が付くと彼の前には年頃らしい仕草で首をかしげるショートカットの少女がいた。10代半ばほどの少女は整った顔立ちをしており、なによりもその明るい表情は同年代の男子だけでなく老若男女問わず人々から愛されていることを感じさせる、魅力的なものだった。だが彼は少女につられて笑うことはない。むしろ気づかわし気に声をかける。

 

 

「いやそんなことより・・・君は大丈夫なのか?」

 

 

明るい表情とは裏腹に、少女は有体に言ってボロボロだった。服のそこかしこが破れているうえ、頭部を始めとして血が止まりかけているものの、その体には多くの外傷があった。そしてなにより仕事柄のせいか、この不可思議な空間のせいかは分からないが、彼は少女が心身共に疲弊しきっていることを見抜いていた。

 

 

 

「あははは 私は大丈夫ですよ ちょっと疲れていますけど友達と一緒にばっちり生きています!ただちょっとしばらく戦うのは無理なんで・・・急なんですけどこれ、お願いしますね!」

 

そういって少女は彼に懐に入っていたものを差し出した。それは鞘に入った白い短剣のような道具だった。中央には美しい緑の宝石のような物がはまっており、それを守るように赤と黒の塗装がなされている。

 

 

「戦うって・・・・一体何と?これを使って戦うのか?」

 

「すいません、時間がないんであまり多くは説明できないんです。ただ時が来たら分かりますとしか。ただ私が言えるのは私の次はあなたがこの力に選ばれて、ウルトラマンネクサスとして戦う運命にあるってことです。」

 

 

「ウルトラマンネクサス?俺が?ということは君が・・・・」

 

 

ウルトラマンネクサスは地球を滅ぼそうとしたバット星人に地球人と一体化して立ち向かい、地球を守り抜いたウルトラマン、この世界の地球のウルトラマン・ザ・ファーストというべきウルトラマンである。自分がそれに選ばれたことに彼は困惑するが同時に私の次という少女の言葉に反応する。

 

 

「ええ!私はウルトラマンネクサスの変身者、デュナミストでした!あなたの先輩ってことになりますね!」

 

「そうか・・・君が・・・・地球を守ってくれてありがとう、地球人を代表して礼を言うよ。でも俺がウルトラマンになるのは無理だ。」

 

 

彼の言葉にどこか誇らしげに胸を張っていた少女はええっ、とややオーバー気味に驚いた。

 

 

「俺はそんな立派な人間じゃない。最愛の人すら守れなかった愚かで無力な人間だ。もっと他に的確な人が」

 

「そんなことありません!!」

 

 

少女は自嘲を断ち切るように声を張り上げる。

 

 

「大切なのは力じゃありません!誰かを守ろうとする心です!!ネクサスさんがあなたを選んだっていう事は、あなたがそういう心の光を人一倍持っているってことです!!」

 

「心の・・光・・・」

 

「そう心の光です!そしてそれはあなたのだけじゃない!周りの人から受け継いだ光だってあるはずですっ!あっやばっ!」

 

 

そこまで言い終えた所で少女の体が透けていく。

 

 

「時間を超えたのもあってちょっとエネルギーを使いすぎました・・・。私はそろそろ戻ることになりそうです。あと最後に一つだけ、周りの人だけじゃなく自分を大切に・・・」

 

そういって少女は消えていく。それと同時に彼の意識もまた遠のいていぅた。

 

 

それは絶望に屈していた彼が再び立ち上がるきっかけとなった日、だれかを守る為に戦おうとした日、そしてウルトラマンネクサスになった日のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

細波リオは目覚まし時計などを使うことなく、目が覚めた。今日は久しぶりにとった連休の一日目で起きる必要はないのだが、もう十年以上続けている対怪獣レスキューチーム隊員としての性か、自然に目が覚めてしまった。

 

(久しぶりに見たなあの時の時の夢、俺もあの子も若かったな・・・・まあもう十四年も前になるから当然は当然か。)

 

そう思うリオは机にならべられた写真を見やる、まだ新人だった頃の彼と婚約者と映った写真や、それよりも年を取ったリオが何歳か年下の女性や小学生くらいの少年と撮った写真、いずれも彼の人生を彩る思い出の詰まった大切な写真だ。それらを一瞥し、リオは身支度を整え、部屋から出ていく。今日彼にはいくべき場所があった。

 

「あ~副隊長おはようございます~」

 

基地とその周辺地を分ける門のあたりでリオは普段彼のチームのオペレーターをしている女性隊員と会った。間延びした口調とは裏腹に頭の回転が速く指示も的確で、リオ自身も彼女の指示に何度か助けられている。

 

 

「ああ おはよう ところでなにか怪獣に関する動きはあったか?」

 

「いやーありませんよ~先週のティグリス君もアンデスでゆっくりしてます~」

 

 

オペレーターが差し出したスマホの画面には長い尻尾を持った4本足の怪獣、ティグリスがのんびりと欠伸するさまが映し出されていた。先週九州に現れた個体を鎮静化させ怪獣共存区に移送したのだが、特に問題はないらしい。どうやら前回の怪獣の移送計画はうまくいっているようだ。

 

 

「それならいいや。せっかくの休暇だし楽しんでくるよ」

 

「ごゆっくり~今日もやっぱりいつものあの公園行くんですか~」

 

「ああ十何年も前からお気に入りの場所だからな」

 

「そうですか~副隊長なら大丈夫でしょうけど、不審者に間違われないようにしてくださいね~」

 

「・・・・・・・」

 

 

のんびりとした口調で放たれる思いのほか厳しい言葉にリオは肩をすくめる。確かにそれは重要な事だった。

 

 

 

 

 

リオは春の日差しの中、手入れの行き届いた公園の中を散歩する。この広い公園は本格的な運動施設から屋根付きの休憩用スペースなどおよそ人々が公園に求める設備をすべて満たしており、ここらの地域住民の憩いの場となっている。

 

のどかな風景の公演を一通り散歩した後、公園の入り口付近にある休憩スペースにあるベンチに腰かけたリオは屋台で買ったホットドッグをかじりながら周囲を眺める。

 

(やっぱりここはいつ来ても平和だな・・・。みんな笑顔で幸せそうだ)

 

 

リオがこの公園を好むのは設備が充実しているからではない。設備や雰囲気のせいか、あるいはまだ明るい時間に来ているからか、公園にいる人々が老若男女問わず皆幸せそうな顔をしているからだ。

 

(俺も一人の人間なりに頑張った甲斐があったかな、なあ奈菜・・・・・)

 

リオは今はもういない、けれどいまだに彼にとって一番大事な人間である婚約者に呼びかける。彼女もまたこの公園が好きだった。良く二人でこの公園に来ては他愛のない事をして楽しんだ。それはリオをいまだに支え続ける大切な思い出だった。

 

 

 

そうして穏やかな時間を過ごしているとリオの近くの席に中学生くらいの少女が何人か座ってきた。軽いスポーツを楽しんだ後なのかラフな格好の少女たちはかしましくおしゃべりに興じている。

だがその内容は年頃の少女たちのそれとは少し異なっていた。彼女たちが囲んでいるのはウルトラマンが描かれた雑誌であり、話の内容もウルトラマンに関係したものだった。どうやら彼女たちの中に何人かウルトラマンのファンがいるらしい。

 

 

「ウルトラマンティガがアラスカに現れた怪獣レイキュバスに大勝利!!う~んやっぱりティガ様はかっこいいな~この顔立ちからして中身の尊さがあふれ出ているよ~」

 

 

少女の手にした雑誌の記事には赤と銀に紫のウルトラマンの姿が描かれている。どうやら少女はこれまで何人も確認されているウルトラマンの中でもティガを好んでいるようだ。

 

「『中の人がイケメンそうなウルトラマン』第一位だしね。でもあたしはやっぱりネクサスかなあ。あのサムライって感じのたたずまいがいいって!」

 

「あーぎんじょーちゃんのお兄さんとお姉さん小学生のころネクサスが助けてもらったんだよねー。そりゃーネクサスが一番かー。」

 

「そーそーあれ以来三葉姉ちゃんだけじゃなくて継兄ちゃんまでやたらしゃきっとしてさ、ネクサスにはマジ感謝だよ」

 

「なんか蒼色の珍しいネクサスだったらしいよ。青色のネクサスは初期の銀色や赤のネクサス、それに今のネクサスと違って二回しか目撃されたことないんだって。」

 

「へえ~ますます縁起がいいねー」

 

 

きゃいきゃいと少女たちはウルトラマンに関する話題を話している。リオは彼女たちの話に自身の知っている人間の名前が出ていたことに気づき、ちらりと少女たちを見た。先程兄弟をネクサスに助けられたと語っていた少女はリオの”後輩〝ともいうべき少年の妹であるようだ。今はもう大学生になった彼から何度も写真を見せられた妹に違いなかった。

 

あの頃彼女は小学校低学年ほどの年だったはずだが、時間が流れるのは早いものだとリオは人知れず密かに感慨に浸る。

 

 

(しかしなんというか、こそばゆいな・・・うん?)

 

もう二十年近く地球を守り続けているネクサスを始めとしてウルトラマンに好意を抱き、称賛する人は多々いる。そうした人々の声を実施兄リオは聞いてきたが、それでもまだ街中で称賛の声を聴くとどうも落ち着かない。

 

そう思った所でリオはこちらに近づいてくる人影に気づく。パーカーのフードをかぶり顔を隠した男がこちらの休憩スペースへ近づいてきていた。

 

(なんだあいつ・・・こんなとこで顔なんかかくして・・!?)

 

 

リオはその男と目が合ったような気がした。それと同時にリオは背筋に冷たいものを感じる。十数年前は日常のように、そして今の仕事においても稀にだが感じる感覚、殺気を感じた。

 

 

「伏せろっ!!」

 

 

それからのリオの行動は素早かった。少女たちに注意を促すと同時にテーブルを掴み盾とする。

 

そうした行動が功を制し、テーブルが盾となって男の放った毒針は一本もリオや少女たちに届くことはなかった。

 

それを見て男は笑う。

 

「地球人の分際でやるじゃねえか。俺はナックル星人キャザ。てめえはどうでもいいがそこのガキを頂くぜ。」

 

ブヘへへと品性が知れる笑い越えを上げた男はフードを脱ぎ捨てその正体を露にした。白い体毛に覆われた筋肉質な体に黒い顔に凶暴な赤い目、銀河中に悪名を轟かせる暗殺宇宙人ナックル星人が男の正体だった。そしてナックル星人キャザは黒く長い髪に赤いリボンを付けた少女を指さす、隣にいた少女がそれを守るように立ちふさがる。

 

 

「なんで・・・何で千歳ちゃんを狙うんですかあなたは!?」

 

「ああん?そいつがなんなのか知らないのかてめえは。ほんと地球人は物を知らねーなぁ。まあ雑魚どもは纏めて殺してうおっ!?」

 

 

幸運なことにキャザはかつてウルトラマンと鎬を削ったというナックル星人の中でも三下の雑魚だった。

うかつにもリオから目を切ったキャザに持ち前の瞬発力を活かしたリオが飛び掛かり、そのまま手にしたボウガンをたたき落として素手での殴り合いに持ち込む。

 

「こっこいつ!いい加減にしやがれっ!」

 

地球人が宇宙人相手に格闘戦を挑む事は、一見とんでもない無茶な行為に思えるが実は意外と理にかなっている。宇宙人の多くは高い身体能力を誇っているが、それは自前の能力だけでなく高度な科学技術に支えられた装備による力も多く、素の身体能力は一部の強力な宇宙人を除けば絶対的な差は存在しない。現にここ二十年の防衛隊や警察と宇宙人の戦闘では白兵戦で宇宙人を制圧した例が多数報告されている。

 

リオとキャザの殴り合いでも当初は身体能力で勝るキャザが押していたが、徐々にリオの方が優勢になっていく。いつまでたっても地球人一人を倒せないことにキャザは焦り大ぶりのパンチを放つがそれはリオの望むところだった。がら空きになったキャザの顎に右腕に添うように放たれたクロスカウンターが突き刺さる。

 

 

「ごぺっ・・・・・・」

 

 

人型である以上宇宙人とはいえ頭部が急所であることには変わらない。強烈な一撃で頭部を揺らされたキャザは糸が切れたように崩れ落ち、それをリオは素早く押さえつける。

 

「答えろ!なぜあの子を狙う! お前らチンピラ共の薄汚い商売に関係あるのか?」

 

「うぐえ・・はっ・・・地球人共はおめでたい奴らだぜ。自分たちの隣に特大のお宝が眠っていることにも気づかないなんてよ」

 

「お宝?どういう事だ!?」

 

「いいぜ 冥土の土産に教えてやるよそれは・・・・・」

 

 

その時だった。突如リオたちの百メートル程前の野原に禍禍しい色の光が降り注ぐ。その光が収まるとそこには巨大な生物がたっていた。灰色の鋭角的なフォルムに刃物のような頭部、そして強い悪意を感じさせる目、人々がイメージする宇宙怪獣としての特徴を兼ね備えた姿をリオは知っている。

 

「あれは ガイガレード!」

 

降り立ったのは彗星怪獣ガイガレードという怪獣だった。数年前にも月起動周辺での出現が報告されており、ウルトラマンティガを苦戦させた強力な怪獣である。さらに最悪な事にガイガレードはまっすぐにこちらに向かってくる。

 

(人口密集地に向かわないのは幸いだが・・・やはりあの子に狙われる理由があるのか?)

 

「君たちっ!早く逃げろっ!!その子を連れてはやくっ!」

 

「わああああああああっ!!畜生来るんじゃねえっ!!畜生畜生っ!!」

 

ガイガレードの接近を知ったリオは無力化したキャザにかまわず少女たちに逃げるように叫ぶ。よろめきながらも彼女達が逃げ出すさまを見た後、自身も防衛隊が来るまでの時間を稼ぐため怪獣を引き付ける囮になろうとする。一方キャザはその巨体にみっともなく錯乱し拒絶の叫びをあげ、先程リオに落とされたボウガンを取りに向かう。

 

 

「てめえなんかこれさえあれば怖く──────ぐぎゃっ!!」

 

まるで邪魔な障害を薙ぎ払うようにガイガレードは腹部から無数の岩を発射した。弾幕のようなそれをキャザは無論躱すことは出来ず、蚊のように叩き潰された。それはキャザの近くにいたリオも同じであり

 

「がっ!・・・・ぐあっ・・・・」

 

かけらと言えど人間を殺傷するのに十分なサイズの岩がリオの腹に突き刺さり、その中身をもはや生存不能なほどに破壊する。激痛の中リオは血と泥にまみれ地面を転がる。

 

 

(今度こそ・・最後か。何回やっても、なれないなこういうのは・・・・あの子たちは無事に逃げられたか。)

 

 

防衛軍はまだ到着しない。走馬灯のように引き延ばされたリオの時間感覚では長く感じる時間もおそらく実際はガイガレードが現れてから三十秒ほどもたっていないだろう。あの少女たちが逃げるにはあまりにも短い時間だった。ならばやることは一つだ。リオはまだ死ぬ前にやることがある。

 

「ぐ・・う・・」

 

 

震える手でリオは発煙筒の紐を引き抜く。怪獣の注意を集める成分を多量に含んだ特殊な発煙筒をリオは万が一の場合に備えて普段から携帯していた。この発煙筒の効果でガイガレードを引き付けその間に少女たちを逃がそうという悪あがきをリオは行う。その決死の行為の甲斐あってかガイガレードは僅かに進路を変えたように思えた。

 

 それを見て薄れゆく意識の中リオはただ少女たち、そしてこの地域に住まう人々の安全のみを願う。自分が思っていたよりだいぶ遅くなったがまた婚約者と会えるだろうか。リオはただそう思う。そうして彼が一生を終えることは

 

──────────────────────────────────────なかった。

 

 

 

天から光が降る。一見先程と同じように見えたこの光はリオの基へ光の速さで到達し、その身を包み込む。

 

(これは・・・・あの時と同じだが同じようで違う・・・・ならこれは!)

 

リオは薄れ行く意識が急速に明瞭になっていくと共に全身を照らす暖かな熱を持った光を感じた。それは彼がかつて知っていたそれとは同質でありながら異なる光だった。

 

「君はウルトラマンなのか!?」

 

『そうだよ。僕はウルトラマンメビウス。君たち人類とともに戦うウルトラマンの一人だ。』

 

「そうか・・・ならメビウス頼む。俺の名前は細波リオ、俺と・・・俺と共に戦ってくれ!!かけがえのない命を守るために!!!」

 

『当然だよリオさん! ともに戦おう!』

 

メビウスの答えを聞きリオは自身の足で立ち右手を高々と天に突きあげて叫ぶ。

 

「メビウーーーース!!!」

 

 

 

 

 

凶悪な怪獣におびえる人々が見た。自分たちを逃がそうとした大人の身を案じながら怪獣から逃げる少女たちが見た。現場に急行する防衛隊の戦闘機部隊のパイロット達が見た。邪悪の化身のような宇宙怪獣の前に立つ赤き巨人、ウルトラマンメビウスを。

 

 

「ギャアアアアアアアアッ!!!」

 

「ハアッ!!」

 

 

巨体から想像もできないスピードでガイガレードが空中を突進し、それをリオと一体化したメビウスが抑え込み、そのまま人口密集地から離れた地点に投げ飛ばす。それを受けて転がったガイガレード先程のように腹部から無数の岩を飛ばす。

 

 

「メビウス! 君は光剣を出す技が使えるか?できれば取り回しがきく二刀のやつをだ!」

 

『ライトニングスラッシャーがある!!それを使うんだ!』

 

「こうか!?でいいいやああああっ!!」

 

 

メビウスは両腕から短剣のような光をだし、無数の岩を切り裂いていく。メビウスとリオの技が合わさったそれは無数の岩を一つも残さず切り裂いていく。人々や街を守る美しい光の軌跡が何重にも描かれた後、最後に飛んできた一際巨大な岩を回転切りで粉砕し、その勢いのまま体を回転させながら空中に飛びあがる。

 

「はああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

空気を焦がすような、いや実際に超高速の回転により生じた摩擦熱で空気を焦がしながらメビウスはガイガレードに飛び蹴りを叩き込む。ガイガレードは両腕の頑丈そうな鎌でメビウスを受け止めようとするが無駄だ。

 

かつてウルトラマンレオによって鍛えあげられ、その後も無数の死闘によって昇華されたメビウスの蹴りは到底一介の怪獣に受け止められるものではない。ガイガレードの鎌を粉砕し、そのまま腹の甲殻を貫き、その重厚な体を吹き飛ばす。

 

 

「ギイイ・・・・・・」

 

 

大ダメージを受けたガイガレードは忌々し気にメビウスをにらみつけ、格闘戦ではかなわないと光線を口から放とうとする。だがそうした判断は功を奏さない。すでに到着した防衛隊の戦闘機が搭載したレーザー砲や対怪獣用徹甲弾でガイガレードの頭部を集中的に攻撃し、光線の発射を阻害していく。メビウスの隣を飛翔する戦闘機のパイロットがサムズアップを送るのがメビウスと一体化したリオには見えた。

 

 

「メビウス! ここで一気に決めるぞ!!」

 

『ああ 行こう!』

 

 

メビウスが両腕を一気に広げると名前の通りメビウスの輪のような光が放たれ両手を一気に十字に組み合わせると同時に莫大なエネルギーを持つ光線が放たれる。これこそがメビウスの代名詞多くの敵を倒してきた必殺技

 

 

『「メビュームシュートォォ!!」』

 

 

名前の通り無限にも思えるような熱量を持った光線はまっすぐにガイガレードに飛び、その身を撃ち抜き爆散させた。

 

断末魔の叫びとともに爆散するガイガレードをバックに残身を決めたメビウスの姿が光となって消えていく。それは人々に今日の戦いの終焉と新たな希望の存在を予感させた。

 

 

変身を解いたリオは戦闘の影響でえぐれた大地に降り立った。その手には赤と金の太陽をかたどったようなブレスレットがある。

 

 

「ありがとうメビウス。おかげで助かったよ。おそらくあの子たちも無事だろう」

 

『いいんだリオさん。それにしても傷の治りの速さに、僕と一体化した事への順応性・・・・あなたはもしかして』

 

「ああ・・・」

 

 

リオの脳裏に映るのは十数年前凶暴な怪獣、悪辣な宇宙人、そして人の心の闇の化身といったかつての宿敵たち、そしてそれらと死闘を繰り広げた日々の記憶。

 

 

そうだ俺はかつてウルトラマン・・・・・ウルトラマンネクサスだった。」

 

『ネクサス・・・・・!彼もこの地球に・・・・・』

 

 

戦いの後の街を太陽の光が照らす。ありふれているが美しいその光景の中、十数年前は絆の、今は無限のウルトラマンとして、細波リオの戦いは再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場人物

・細波リオ

 2000年代前半にウルトラマンネクサスだった男。この地球では二人目のデュナミストであり、まだ防衛体制の整っていない地球を守り、過酷な戦いを続けていた。現在はXIGのチームシーガルのような防衛隊のレスキュー部隊の副隊長として活動している。


・七原千歳
 
 一見普通の女子中学生、どうやらナックル星人やガイガレードに狙われるような秘密があるようだが・・・・?

・ナックル星人キャザ 

 七原千歳を狙っていたチンピラ宇宙人 ブヘへへとか笑っちゃう時点で程度が知れるものである。ガイガレードの発射した岩が直撃し、死亡


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紡がれた地球のhistory

今回は世界観説明の要素が強く、戦闘描写は少ないです。


ミサイル超獣 ベロクロン

                                     登場


人々が寝静まった深夜、一人病院のベッドで眠る七原千歳は夢を見ていた。夢の中に出てきたのは無数の汚らわしい顔と手、人とは思えない顔で自分をあざ笑う悪意に満ちた顔と執拗に自分を捉えようとする手が、どこまでもどこまでもついてくる。千歳が泣きながら逃げても、許しを懇願してもどこまでもついてくる。彼女が助けを呼んでも助けにくることはなく、どこまでも千歳を追い詰めてくる。そしてとうとう千歳は崖の淵まで追い詰められて――――――

 

「ん・・・夢・・・?」

 

 

千歳が目を覚ますと見慣れない天井が目に入った。夢の影響か寝起きのせいかぼんやりと動かない頭を動かしながら千歳は考える。確か昨日は友達同士で近くの公園に行ったはずだ。そこのグラウンドを使ってみんなで楽しくフットサルをやってそれで――――――

 

{っ!?」

 

 

そこで千歳は激しい恐怖に襲われた。自身を襲う凶暴な宇宙人や怪獣、そうあの宇宙人は紛れもなく自分を狙っていた。あの事件で被害者は軽傷を負ったものが数名ほど、唯一の死者はあの邪悪な宇宙人だけであり、新たなウルトラマンの存在を除けば事件は収束したといってよかった。

 

だがあの宇宙人は明らかに千歳を狙っていた。そのことから千歳に何らかの狙われる理由があるのか調査する為に、昨日の夜から千歳は防衛隊の所有する病院に入院している。

 

 

「・・・・・・でも大丈夫だよね。だってウルトラマンが倒してくれたし。」

 

 

 

不安におびえる千歳は手で胸を押さえて自分を落ち着かせようとする。あの宇宙人は怪獣に潰されて死んだはずだし、その怪獣もあの赤いウルトラマンが倒してくれた。あのウルトラマンはティガやネクサスとは全く違うが、ウルトラマンなら人間の味方だから心配ないはずだ。

 

 

「本当に一応だよね・・・・・・一応。」

 

 

事件はもう終わったはずだ。自分が検査を受けているのはあくまで念のため。何かあったときはこういう念のため

の行為が大事なのだということは千歳も救命講習で習っている。そうだから心配はない。それに。

 

千歳はお気に入りの赤いリボンの隣に置いてあった眼鏡を掛け自身の携帯端末を見る。SNSの画面には千歳の家族や仲の良い友人からの千歳を気遣う言葉があふれていた。

それに一つ一つ返信しながら千歳は微笑む。何があってもこの人たちがいてくれれば自分は大丈夫だと。千歳はそう思っていた。

 

 

 

 

 

何処かの山中で二つの巨体が対峙する。一方は体から無数の青い突起を生やした怪獣、もう一方は銀色の体にどこか武士の装束のような形の装甲をまとった巨人だった。

 

前者はかつて地球に送り込まれたミサイル超獣ベロクロンと呼称される生命体である。

 

そして後者は今から20年近く前、滅亡の危機に陥った地球に飛来し人々を守り戦ったウルトラマン、ウルトラマンネクサスであった。

 

 

「ブシェアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

ごく短い攻防にも関わらず、すでに体の各所を負傷した青い超獣が叫び声をあげると全身からミサイルのような物が現れ飛翔する。この超獣の体表の突起はその名の通り全てが高火力のミサイルだったようだ。

 

「シェアッ!!」

 

 

ウルトラマンネクサスはミサイルに対して高速で飛翔する。大量のミサイルが不規則な軌道でネクサスを追尾するが、ことごとく躱されむしろネクサスの手から放たれる光弾でその数を減らしていく。

 

「へアアッ!」

 

「ガギャアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

そうして残り僅かなミサイルをネクサスは振り切り、まるで達人の斬撃のような鋭い跳び蹴りを超獣に放ち、相手を叩きのめす。そうして吹き飛んだ超獣にネクサスは躊躇なく必殺の光線を放ちその体を原子へと変換した。

 

 

 

「これは1990年代末期、ウルトラマンと怪獣の戦闘の映像としては最初期に撮影されたものだ。」

 

リオがボタンを押すと画面が超獣の爆発四散するシーンで止まる。

 

 

「いまから20年ほど前のことだ。突如としてバット星人が地球に襲来し侵略行動を開始した。各国の軍隊はバット星人に対して連戦連敗、半年後には日本の一部地域を除いて地球上のほとんどがバット星人の手に落ち、地球はもはやバット星人のに支配されたかのように思われた。」

 

 

リオはと語っていく。その時を境に地球は各国が争う時代はひとまず終わりを告げ、各国がひとまず協力し、地球を守るために団結する時代が到来した。急速な技術発達に伴う様々な社会問題の解決から今こそが人類の黄金時代と評する者もいる。だがその始まりは屈辱と敗北の連続だった。

 

「しかしそこに現れたのがウルトラマンネクサスだ。ネクサスは地球人の少女と同化し、バット星人に対して戦いを挑んだ。そして激しい戦いの後にとうとうバット星人を倒し地球を守り抜いた。」

 

リオはネクサスと少女についてよく知っているただ地球を守るための戦いを共にした戦友というだけの関係ではない。当時絶望の淵にあったリオが立ち直る手助けをしてくれた恩人たちだった。

 

 

『それが・・・・・リオさんの先輩だっていう美花さんですね。』

 

 

「ああ彼女がバット星人を倒したんだ。そしてその六年後、復興した地球には多数の怪獣や宇宙人が現れるようになった。その時にネクサスと戦っていたのが俺だ。」

 

 

今度画面に映ったのはかつてリオが変身していた赤いネクサスだった。その画像に続き水を操る蟹のような怪獣、あざ笑うような顔をした魔人、閻魔のような怪獣等多数の画像が表示される。そしてそれと戦う赤いネクサスは光線で、焔で、拳で怪獣と幾多の怪獣を倒していた。

 

 

「そして俺もまあ何とかだが・・・地球を守り切った。これにはこのころ創設された防衛隊の活躍も大きかったな。」

 

『昨日援護してくれた人たちですね。やっぱりバット星人の影響で創設されたんですか?』

 

 

「正直に言うとバット星人が来るまでの地球の各国家は仲が良く無くてな。それがバット星人の襲来で復興や防衛のために協力せざるを得なくなったんだ。皮肉な話だよな。」

 

『なるほど・・・雨降って地、固まるみたいですね。』

 

 

やや複雑そうにリオは呟く。それに対してメビウスが日本のことわざを引用して返してきたことにリオは驚く。

 

 

「よく知ってるな! ウルトラマンにも似たようなことわざがあるのか?」

 

『僕はこの地球ではありませんけど別の地球にいたことがありますから。もう何千年も前ですけどね。』

 

 

「分かっていたことだけどウルトラマンはスケールが大きいな・・・・話を戻そう。俺がネクサスでなくなったあたりからは、ティガを始めとする別のウルトラマンの参戦や防衛隊の強化でだいぶ戦いは楽になった。今だと随分戦う機会も減って今の4人目のネクサスは美花や俺と違ってもう何年も戦えているはずだ。ああ言っとくけど美花も三人目の継も今も生きている。むしろ二人とも元気すぎるくらいだな。」

 

『そうですか、それは何よりです!』

 

 

二人が健在であることを語るリオと同様にメビウスは嬉しそうだった。メビウスは戦いを終えた後も幸せに彼らが生きていることがよほど嬉しかったのだろう。それはリオも同意見だ。その他にもこの地球の情報をある程度伝えた後にリオは画面を消して立ち上がる。彼は昨日の事件の目撃者としてやることがある。それは一人の人間として、一時的にとはいえウルトラマンの力を持った彼がやるべきことであった。

 

 

 

 

都内の道路にリオは車を走らせる。目的は七原千歳が入院した病院にいる超常事件調査チームの聞き取り調査に協力する事。怪獣や宇宙人事件に関する調査を行う彼らは今回の事件に関する調査を当然担当しており、リオもそれに協力する為に病院に行くことを命じられた。もっとも場所が病院なのはリオ自身の千歳を見舞いたいという思いを調査部の友人に汲んでもらったことからだが。

 

 

「そうか メビウスは光の国のウルトラマンだったのか。どこかの宇宙にウルトラマンの総本山ともいうべき国があるとは聞いていたが、実際に光の国出身のウルトラマンと会うのは初めてだな。」

 

 

この地球で戦っているウルトラマンはネクサスを除けば、ティガ等地球に根付いた存在が多い。かつて一度来たオーブやタロウ等を除けばそうした別の星からのウルトラマンであるメビウスはリオにとって非常に新鮮な存在だった。

 

 

「それにしてもあの子が狙われた理由が気がかりだな。メビウス、こういう風に宇宙人が怨恨が理由でもなしに人ひとりを狙うようなケースって何かあるのか?」

 

『ないわけじゃないけどそんなに多くはないと思います。もしあるとしたら何か強力な特殊能力を持っているとかそういう特別な事情がある場合がほとんどです。例えば僕の知り合いにもいますがサイコキノ星人という宇宙人は非常に強力な念動力を持っていてその力を他の宇宙人に狙われることも多かったそうです。」

 

「そうか。なら一つ心当たりがある。これを見てくれ。」

 

 

車が停止した間にリオは書類を傍らに置いたメビウスブレスの前に置く。そこには昨日狙われていた少女についての詳細な情報が載ってあった。

 

 

「現在の家族関係に問題はないがあの子はどうやら養子らしい。しかも母親が病死した際に預けられたらしく父親については誰か不明。もし何らかの事情があるとしたら父親に秘密があるんだろう。さっきメビウスが言っていたように何らかの特殊能力を持った宇宙人だったのかもしれないな。」

 

 

そこまで行ったところでリオは顔をしかめる。メビウスが治したものの致命傷を負った腹のあたりがかすかに傷んだ気がした。

 

 

『ああすいません! まだリオさんの傷は完全に治ったわけじゃないんです。おそらく後一週間くらいは僕と融合していないと完治までにはいかないと思います。』

 

「いや。致命傷を直してもらったんだ。贅沢は言えないさ。そういえばメビウスはなんでこの地球まで来たんだ?」

 

『ああ それは・・・・僕はこの世界に逃げ込んだベリアル軍の残党を倒しに来たんです。』

 

 

「ベリアル軍?」

 

 

 

メビウスは自分がこの地球に来た理由を語る。曰くかつてベリアルという邪悪なウルトラマンが宇宙の破壊をもくろみ強大な軍勢を築き、メビウスたち光の国の宇宙警備隊と死闘を繰り広げていた。だがその死闘はベリアル自身が生み出した彼の息子、ウルトラマンジードによって倒された事によって終わりを告げた。首魁を失ったベリアル軍の残党は各地に散らばり、ベリアル軍の復活の為に暗躍を続ける者も多いという。その中の一部が次元跳躍によりこの世界に跳び、メビウスはそれを追ってきたのだという。

 

 

『この世界に来たベリアル軍残党の大半は僕が倒しました。でもまだ一人逃げている幹部がいて奴が厄介な物を持ち出しているんです。』

 

「厄介な物?」

 

『はい。奴が持っているのはライザーと呼ばれるものの試作品、怪獣の力を込めたカプセル二つの力を使って強力な融合怪獣を作り出すこともできるんです。』

 

「融合怪獣とは厄介だな俺も似たようなやつとは戦ったことがあるが・・・早く取り戻さないと危険だな。」

 

 

 

メビウスの言葉にリオは考え込む。防衛体制の強化された地球においても怪獣一体は都市一つを壊滅させかねない強大かつ危険な存在である。そんな怪獣の中でも強力な二体を合成させた合成怪獣はとてつもない強さになるだろう。もし可能ならばそれを使う前にその幹部を倒さなくてはならない。

 

(しかしそんなものまで別の宇宙に存在するとはな。この場合多元宇宙は広いというべきか?)

 

 

そうしてリオがメビウスと話しているうちにリオの運転する車は病院に着いた。地球防衛隊が所有するこの病院は戦闘で負傷した隊員の治療の為に最新鋭の設備と有能な医師を揃えていると世間では評判だが、実際はそれだけではない。地球に亡命した宇宙人技術者等、地球防衛上重要な者をかくまう為に使われることもあることをレスキューチームの隊員とはいえ防衛軍の一員であるリオは知っている。

 

『あっちょっと待ってくださいリオさん!』

 

「どうしたんだ?」

 

『あれを見てくださいメロンパンの店がありますよ!』

 

リオの脳裏には嬉し気なメビウスの声が響く。確かに病院の外にはいくつかの移動屋台が停まっており、その中にメロンパンを売る屋台が一つある。メビウス曰くかつて地球にいた頃に一度仲間の一人と食べたことがあるらしく印象に残っているらしい。

 

『なつかしいなあ・・・・ハルザキ君と食べて以来何年ぶりだろう』

 

「なら仕事の後食べに来るか?もしあそこの店がなくなっても他に売ってる店はいくらでもあるだろうし。」

 

『本当ですか!ありがとうございます!』

 

メビウスは本当に嬉しそうだ。なんというかあまり年上という感じがしないなとリオは感じる。ひょっとしたらリオをさん付けで様に地球人でいうとまだ二十代くらいなのかもしれない。

 

 

 

 

そんな事を思うリオが車から降り正門に歩いていくと中学生ぐらいの子供たちと警備員が話しているのが見えた。少女たちは昨日千歳と一緒にいた子たちであり、おそらく千歳の身を案じてこの病院に駆け付けたのだろう。

 

ただ、一人先頭に立ち特に切羽詰まった様子で警備員と話す少年だけは昨日いなかったこともあり、やけにリオの目についた。

 

 

「お願いです。なんとか千歳ちゃんに合わせてほしいんです」

 

「いやほんとうに十分だけでいいんです! 俺たちは千歳ちゃんが心配で心配で、特に俺なんて昨日心配しすぎて

夕飯がのどを通らなかったんですよ!」

 

「いや夕飯は食べなさいよ。せめてガラス越しでもいいんで・・・・」

 

「なんとか頼みますよ!ああ~千歳ちゃんに早く会わないと俺はっ俺は暴走して・・なんかもう爆発しますよ!

 爆発ですよ!爆発! ウルトラにヒートな爆発をしますよ!!!」

 

「そ、そうね・・・」

 

 

その少年は自身の切実な気持ちを警備員に訴える。やや七三分けに近い髪型に、広がる翼が刺繍された上着が特徴的なその少年はそのあまりの必死さに、警備員だけでなく周囲の少女たちもやや引いているようですらあった。

 

 

「残念だけ君たちを通すわけにはいかない。なにせ事件が事件だからね。今日のところは帰ってくれ」

 

「そうですか・・・・ダメなんですか・・・・・・」

 

 

すると少年は今度はものすごくつらそうな表情になった。八方塞がりの状況に悲痛に耐えるその表情、まるで「お前は異形の化け物」だの「生まれた罪で死ね」とでも言われたかのようなその表情は、彼と無関係な人にも、その表情を見ただけで彼に同情の念を抱くであろう途轍もない辛さ感じさせるものだった。

 

 

「う・・・・・嫌ダメだ。万が一の可能性、例えば君たちに変装した宇宙人が混じっている可能性などを考えると君たちを通すわけにはいかない。もしもの事があったら彼女の親御さんに申し訳が立たないからな。」

 

 

「そんな・・・・」

 

「心配はない。彼らを通しても大丈夫だ。」

 

少年の表情にたじろぐが職務熱心な警備員は彼らの願いを断固として断る。彼の姿勢に少年たちもさすがに諦めようとしていたかに見えたが、正門へスーツを着込んだ金髪の男が歩いてきた。彼の手には最新式のPDFがあり、それを掲げて見せる。

 

 

「君の言ったような可能性に備えて先程から光学的な偽装を含む各種偽装の可能性について精査していたが彼らは白だ。友達を少し見舞うくらい問題ないさ。それにあの子も不安を感じているだろうし、友達が近くにいた方がいいに決まっているよ。」

 

「はっ!」

 

男の言葉に警備員は敬礼する。その身なりと言いどうやら男は防衛軍のそれなりの地位にいるようだ。

 

 

「えっそのありがとうございます!! あっでも俺は彼女の友達というよりどちらというと彼氏に・・・・痛てっ!」

 

 

「ははは 例には及ばないよ。私たちは君たちのような子を守るために戦っているんだからね。ただ警備員の人たちを恨まないでほしいな。彼らも君達やあの子を守るために必死なんだ。あそこの彼もね」

 

 

 

秀でた体格にサングラスの男は一見怜悧ないかにもエージェント然とした冷淡な人間に見えたが、その話し方は思いのほか穏やかだった。そう言って彼はリオの方に目線を向ける、その視線に応じて少女たちもリオの方を見て驚くき、昨日のお兄さんだと騒ぎだす。どうやら思ったより騒がしい見舞いになりそうだった。リオは少女たちに会釈をしながら金髪の男に向き直る。

 

 

「あいかわらず気取った格好をしているなウーリ」

 

「そういう君は相変わらず地味な格好をしているなリオ。」

 

 

そう言って苦笑する金髪の男はウーリ・ベルモンド地球防衛軍の元エースパイロットで現在は調査部極東支部の指揮官―――――――――――――――――そしてリオの従兄であり、彼がネクサスであったことを知る数少ない人間である。

 

 

 

 

 

 

 

人間の生存を許さない暗く寒い宇宙、その地球軌道上には多くのデブリが浮遊している宙域が幾つかある。現在においても技術的な困難さから衛星監視網の緩いそこに浮かぶのは、多くはその役目を終えたデブリばかりである。しかしその中に一つ真新しい円盤が周囲を睥睨するかのように堂々と浮かんでいた。

 

 

「ふむ・・・・ガイガレードは敗北しましたか・・・ウルトラマンが何人もいる事は知っていましたが、さすがにメビウスまで来るとは予想外ですねえ」

 

 

その白い外観とは裏腹に薄暗い円盤の中で主はひとり呟く。異形の手でカプセルのような物を弄びながら次なる一手を思考していた。

 

 

「まあいいでしょう。障害が二つから三つに増えただけです。むしろあの憎きウルトラマン共を屠るチャンスと考えましょう。幸い駒は豊富にあることですし。そして」

 

 

思考がまとまったのか円盤の主は一人うなづき、周囲のモニターに映し出された何体かの怪獣を見やる。その目に燃えるのは復讐と野望の暗い炎。

 

 

「私は復讐を果たし宇宙の覇者となる。かつてウルトラマン共に完勝したあのお方、ベリアル様のように・・・・・・・!!」

 

悪は赤い目を歪めにたりと嗤う。地球に飛来した邪悪は次なる一手を刺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この世界は1990年代末期、丁度現実だとウルトラマン平成三部作が放映されていた時あたりにウルトラマンサーガに近い事件が起き、それをきっかけにその後も20年近く怪獣や宇宙人との闘いが続いている世界観となります。ちなみに戦いの頻度はテレビシリーズほどではないのですが、長期に渡って続いている分、多くのウルトラマンが地球に現れ、人々に認知されています。


登場人物
三光翼 

七原千歳のクラスメイトである少年。成績優秀スポーツ万能おまけにイケメンで家は学者の家系と一見完璧超人に見えるが、千歳のストーカーに片足を突っ込んでたり、なんか言動が変だったりと実際は残念なイケメン。ちなみに特技は後方彼氏面と辛そうな表情。


ウーリ・ベルモンド

リオの従兄である防衛隊調査部極東支部指揮官。リオがネクサスだった頃は防衛隊のエースパイロットとして多くの視線を潜り抜けてきた。




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赤いリボンの少女

スクルーダ星人ディスタ

レギオノイド ブレイドカスタム

ベリアル融合獣〇〇〇〇〇〇

〇〇〇星人〇〇〇〇〇〇

                                     登場


ドイツのベルリン郊外の森の中、そこには周囲から浮いているほどに巨大な建物が存在する。そこは地球防衛隊独逸支部の拠点であり日夜多くの隊員たちが務めている智裕防衛においても重要な施設だった。

 

 

その地下にある一室では逮捕された宇宙人に対する尋問が行われていた。手錠をはめられ不貞腐れた様子で座るのは鴉のような顔をした宇宙人、誘拐宇宙人レイビーク星人の一人だ。

 

 

「お前の言ったことは確かなのか?」

 

「だからさっきから言ってんだろ。俺たちが何のためにこんな田舎の星に来たか、もう十遍は説明してやっただろうが。全く地球人はこんなこともわからないのかね。」

 

「黙っていろ犯罪者が!!バウマン 今すぐ日本支部に連絡を取れ! はやくこのことを伝えないと!」

 

(はあ・・・・まさかこんな程度の奴らに捕まるなんてな・・・事が終わった後も減給間違いなしだな、こりゃ)

 

 

 

 

そのレイビーク星人の男はうんざりした様子でついてないと思う。男は宇宙人による小規模な犯罪組織の一員であり、組織がある筋から受注した地球での仕事の後方支援を来なう為に何名かの部下を率いてドイツに来た。だが様々な偶然が重なり、その姿を地元住民に目撃されたことから通報され、逮捕されることとなってしまった。

 

寄りにもよってこんなバカそうなやつらに逮捕されてしまうとは我ながら情けない。そう思うレイビーク星人は地球人を見下し切っており、尋問者の顔や名前を碌に覚えていなかったが、一人だけ印象に残っている男がいた。

 

(だがまぁ・・あのやたらガタイのいい男はただもんじゃなかったな あいつがひょっとしてウルトラマンだったりしてな・・・まあそれはねえか。しかし)

 

 

監視に気兼ねすることもなく、チンピラらしく椅子にだらしなく座るレイビーク星人は振動に気づく。どうやら「雇い主」が行動を開始したようだった。

 

 

(はやく雇い主がこの星を制圧してくれるといいんだがね)

 

 

レイビーク星人は欠伸交じりにそう考えた。

 

 

 

 

千歳が受けた検査は当初の予想よりも普通の検査だった。何か物々しい機械を使って自分の体を隅々まで調べつくすのかと思ったが、実際にはTVの人間ドッグで見るような機械で体をスキャンしたり、採血をした程度で特にどうということはなかった。

 

そのあっけなさは自分が何者であるかが重視されてないように感じられ、本当に一応のことという先程の自分の考えを補強するように千歳には思えた。

 

(大したことなさそうなのはよかったけど・・・やっぱり暇だな・・・本とか持ってきてもらえればよかった。今日の午後には帰れるといいな。)

 

 

千歳はそう思いながらスマホに入れたゲームをして暇をつぶす。そうやって適当に時間を潰しているとドアを軽くノックする音が聞こえてきた。

 

「はい。どうぞって麗奈ちゃん!?」

 

千歳がドアを開けると目に飛び込んできたのは長い髪の千歳とは対照的にショートカットの少女、そう多くない千歳の友達の中でも一番の親友である麗奈だった。

 

「こんにちは千歳ちゃん!検査大丈夫だった?元気してる?」

 

「あう、うん元気だけど・・・・よくここに来れたね?ここ警備厳しそうなのに。」

 

「へっへー責任者のおじさんが入れてくれたんだー。もう検査も終わったし今日か明日には退院だから会ってもいいって言ってくれたよ!」

 

 

いつも通り元気いっぱいの麗奈も他の友達も口々に心配したんだよー退院したらお祝いしよーねと言ってくれた。みんな自分を心配してくれてたんだと改めて感じやや不安そうだった千歳は笑顔になる。さっきまでが嘘のように幸福な気分だった。

 

 

「千歳ちゃんが元気そうで俺も鼻が高いよ・・・・。」

 

 

少し離れた場所で壁に寄りかかった翼は幸せそうな千歳を見て満足げにうなずく。だがチトセは無視した。なんというかアレだったからだ。

 

 

友達を通してくれたお礼も兼ねて千歳は責任者らしき、身なりの整った男に軽く会釈をした。もっとも麗奈のおじさん呼ばわりにダメージを受けて相手はそれどころじゃないようだったが。

 

笑顔で千歳は友人と話し出す。みんながいててくれれば怖い事があっても平気だ。彼女はこの時改めてそう思った。

 

 

 

「おーいウーリ息してるか?顎にいいの貰ったボクサーみたく足が震えてんぞ。」

 

「だ、大丈夫さリオ。ちょっと純真な中学生の言葉が聞いただけさ・・・そうだよな俺もう40近いおじさんだよな・・・。」

 

 

ウーリは予想外の攻撃にダメージを受けたようだった。年齢の割には若く見られるウーリはあまりそういう扱いをされることがないため、自然にされたおじさん扱いは強烈だったようだ。

 

 

 

「いい加減回復しろよ。特に時間が余っているわけでもないしそろそろ説明を始めるぞ。」

 

「ああ、そうしよう。まずはあの子たちが襲われた経緯について、そして君が十数年ぶりにウルトラマンになったことかな」

 

「よく知ってるな!?」

 

 

従兄相手とは言えこうも早く正体が割れるとは意外だった。やや驚くリオにウーリは不敵な笑みを浮かべる。

 

「カマかけも混じってるけどな。一体これまで何回ウルトラマンの変身が目撃されてると思うんだい?変身解除時の光の収束を観測できれば後は状況証拠から数人まで絞れる。そしたら今回はちょうど元ウルトラマンがいたわけさ。」

 

ウーリは自信ありげに言う。ウルトラマンの変身者の特定はウーリのようなごく少数の防衛隊職員の行う重要な業務である。

 

 

「ああF計画の再来を防ぐためにウルトラマンの正体は防衛隊のトップシークレットでお例外は数人しか君のことは知らない。前の時みたいにはならないから安心してくれ。」

 

 

「そういう事か。なら紹介するよ。彼はウルトラマンメビウス、地球に来た目的は―――――」

 

 

そうしてリオはメビウスと共に事の経緯を語っていく。リオが千歳達を助ける為危機に陥りそこをメビウスに助けられたこと、メビウスがライザーを持ち出したベリアル軍の残党を倒しに来たこと等を語っていく。最初はリオの無茶っぷりに呆れたような顔をしていたウーリだがメビウスがなぜこの地球に来たかの話になるとその表情は自然に真剣味を増していった。

 

 

「融合怪獣を作り出すライザーか。宇宙には厄介なものがあるものだな。そうだメビウスさん。そのライザーを持っているベリアル軍の幹部は誰なんだ?」

 

『それについてなんですが・・・・・そいつが誰だかわからないんです。

倒して来たベリアル軍の構成員の話では、いつも通信越しにしか話さず、決して姿を見せることはなかったとか。

分かっていることはベリアルの片腕だったストルム星人という宇宙人直属の有能な科学者だったこと、そしてウルトラマンに強い恨みを持っている事だけなんです。』

 

 

メビウスブレスから空中にデータが幾つか投入された。リストはベリアル軍の幹部、中でもベリアルの側近だったというストルム星人――――杖を持ったフクイデ・ケイと名乗る伊達男から、メビウスにこの宇宙で一撃で倒された下級構成員まで多岐にわたる。

 

 

「ウルトラマンに恨みか、この地球だけでもそんな宇宙人は数十種はいるし、絞り込みは困難だな。やはりベリアル軍にもそういう奴は多いのか。」

 

『はい。特にベリアル軍でもいまだに抵抗を続けているのはさっき言ったようなウルトラマンに強い恨みを持っている奴や、ベリアルに強く心酔している奴ばかりです。何人ものウルトラマンがいるこの地球に来たのにも何か関係があるかもしれません。』

 

「そうかあの子を狙うのは宇宙人の中でも相当に危険な奴だという事か。わかった。上に掛け合って警備を強化するよ。少数だが陸戦専門の人員も配置する。」

 

ウーリはメビウスの言葉にうなづき、今後の警備計画の概要を語る。あらかじめ配置されている警備に加えさらなる増員――特にSAT出身者等で構成された対宇宙人用部隊を上に進言するつもりだった。

 

 

「助かるよウーリ。俺としても宇宙人に狙われている子を見捨てられないからな。」

 

「その思いは昔取った杵柄から、か?」

 

「いや一人の人間としての気持ちさ。」

 

 

 

リオは当たり前のようにそう答える。ネクサスになる前から持ち続けていたその意思は少しも変わっていない。

 

 

 

「だろうな。そういうところは年取った時から変わらないな。」

 

『僕も微力ながら助太刀させていただきます!』

 

「そいつは頼もしいな!けれどウルトラマンの微力か。謙遜すぎるんじゃないか?」

 

 

 

 

ウーリはそう言って笑う。従兄の変わらぬ人助けを是とする考え方、そしてメビウスの言葉を聞き、改めて親しみを覚えたようだった。ウーリにリオ、メビウスの三者の間にどこか和やかな雰囲気が流れる。しかしその雰囲気は無粋な振動と、それに続く緊急サイレンの音にかき消された。

 

 

「どうした!何があった!」

 

「日本上空の防宙網を怪獣かそれに類する存在が突破!無人衛星を撃破し迎撃戦闘機部隊が発進する間もなくすでに日本上空に到達しつつあります!」

 

「何!昨日に続きまたしてもか!」

 

唐突なまでの凶報にウーリは歯噛みする。重要機密であるため一部の防衛隊員にしか知られていないが、三か月前の戦闘で対怪獣用の軍事衛星などのいくつかが破壊され、現在の防宙網は宇宙人の円盤ならまだしも圧倒的な火力と機動力を持つ怪獣に対して効果を発揮し難くなっている。そしてさらに凶報が続いた。

 

 

 

「さらにドイツのライプチヒ郊外に宇宙人の手によって投下されたと思しき怪獣が出現!すでにネクサスがメタフィールドを展開し、交戦状態に入っていますが、市民はパニック状態です!」

 

「同時攻撃だと・・・・ネクサスの封じ込めが狙いか・・・・しかし。」

 

かつてリオがネクサスだった時以来の複数の怪獣の同時襲来にウーリは考え込む。確かにウルトラマンが複数いるこの地球はベリアル軍にとっては狙うべき場所であるのかもしれない。しかし昨日の侵攻に続き、今度は2体同時とはいくら何でも侵攻ペースが速すぎる。しかも戦力的には枯渇しているはずの残党がそのような攻勢に出るとなると――――

 

(ウルトラマンへの復讐が目的としても不安定な戦力での襲撃はうまくない。そうすると七原千歳・・・・やはりあの子が何か関係があるのか?)

 

 

「ウーリ!上空の奴は俺とメビウスが倒す。容堂に備えてお前はこの病院の守りを固めてくれ!」

 

「分かった!すでに部下が入院患者や職員の避難を始めている!こっちは任せておけ!」

 

ウーリの返事を聞くや否やリオは屋上へと駆け出し、ドアを開けしっかりと屋上の床を踏みしめると右手を突き上げる。

 

「行くぞメビウス!」

 

『ああ、行こうリオさん!』

 

「メビウーーーース!!!」

 

∞をかたどった焔のエフェクトと共に焔の巨人ウルトラマンメビウスが現れる。そして赤き巨人は自身と対照的な青い空へと飛翔していく。

 

 

 

 

 

大気圏突入による振動の中その怪獣―――否ロボットの操縦席に座る宇宙人は微動だにしない。

その宇宙人を地球の人々が見たならば少なくない人が「ダダ」と答えるのではないだろうか。確かにかつて人間標本を作ろうと目論んだとして有名なダダと彼は似ているように見える。しかしどこかユーモラス風貌のダダと異なり、その宇宙人は頭部から体格まで引き締まったシルエットをしている。そして何よりダダと対照的に小さく残忍そうな眼がダダと異なる種族であることを明確に示していた。

 

 

「ブリーフィングの通りあなたのミッションはウルトラマンの撃破です。ネクサスは私が足止めしたのでメビウスかティガ、あるいはその両方の相手をお願いします。」

 

「フン、ウルトラマン2体などと簡単に言ってくれる。だがまあいい。報酬の方は弾んでもらうぞ。」

 

 

モニターから雇い主の声のみが響く。用心深さか臆病さ故か雇い主は決して姿を見せず、以前から声のみでこちらに指示を下してきていた。

 

 

「ええもちろんですとも。一生どころか七代先まで遊んで暮らせる報酬を用意しております。」

 

「用意のいいことだ。こちらの流儀で存分に暴れさせてもらうぞ!」

 

「ええご自由に。銀河屈指の好戦種族スクルーダ星人の精鋭の力、存分に発揮してください。」

 

 

 

そう答える雇い主にもはや答えることなく宇宙人―――――スクルーダ星人ディスタは青い星へ降下していく。そして彼を迎撃しに上がってきた赤い巨人の姿をみて好戦的な笑みを浮かべる。

 

そして銀と赤の巨人と白亜の機械兵器が激突した――――――。

 

 

 

一説にはウルトラマンメビウスの飛行速度は数千年前かつて彼が別の地球で戦っていた頃の時点でマッハ10であるとされる。当然ながらその超高速に追随できる兵器は、ごく一部の実験機を除いて現在の地球には用意しがたく、そのごく一部も今この戦場にはいない。故に戦いは味方の加勢がなく、昨日の戦いと異なりロボットと一対一と物となる。

 

 

超高速の巴戦、両者が刃を振りかざし切りつけては離れを繰り返す。そうした攻防が数回続いた後に両者は先程の速度が嘘のように空中に制止する。

 

 

「ふむ・・・・さすがはウルトラ兄弟の末席。相手にとって不足なしといったところか。」

 

「そういうおまえは誰だ!何のために地球へ来た!」

 

 

余裕の態度を崩さない相手にリオは叫ぶ。明らかに戦略的な意図を含んだ侵攻の先兵である目の前の相手に疑問をぶつけた。

 

 

「さあな俺はただ雇われただけだ。奴のあの娘を攫う作戦を邪魔するウルトラマンを排除するためにな。」

 

「雇われただと?黒幕の傭兵という事か!」

 

「いかにも。俺の名はスクルーダ星人ディスタ。貴様の命を断ち切る者の名だ!!」

 

 

そういうや早いがディスタの乗るロボットは複雑な軌道を描き、メビウスに両腕の光剣で切り付けてくる。

 

大理石のような白と黒に塗り分けられたスマートなフォルムのそれは一見美しい観賞用の機体にも見える。だがその機体の両腕は、三角形の大型の光波ブレード発生器に肘から先が置換されており、非常に剣呑な印象を見る者に与えていた。レギオノイドブレードカスタム、スクルーダ星人ディスタが同胞以上に信頼する愛機である。

 

 

「スクルーダ星人だと・・・・・知っているかメビウス!」

 

『スクルーダ星人は好戦的な性格で有名な宇宙人。ですがその気質と正反対に身体能力は虚弱そのものの為、彼らの戦士は何らかの改造を肉体に施しているそうです。気を付けてください!奴も何らかの改造を受けて肉体を強化しているはずです!』

 

 

 やや大ぶりの斬撃を飛行速度を上げて躱し、右斜め後ろに飛んだメビウスが手から連続して光弾を撃つ。ロボット型怪獣の弱点は機械が故の内部機構の脆さである。この攻撃はレギオノイドの一部を損傷させその戦闘能力をそごうという意図があったが――――

 

 

「踏み込みが甘いっ!」

 

 

ディスタの駆るレギオノイドは達人の技を以て光弾の全てを切り払う。リオやメビウスのあずかり知らぬことであったがディスタが強化されているのは単純な筋力などではない。伝達速度の高速化を始めとした様々な強化が神経系を中心に施されている。機動兵器操縦の為強化された彼の体が故の超反射でこの絶技をなしたのだ。

 

 

「今度はこっちの番だ!」

 

 

光弾を切り払った勢いのままレギオノイドは突進する。スラスターを全開にして加速をかけたレギオノイドはすれ違いざまにメビウスの体を浅く切り付けた。

 

 

「ぐあっ・・・」

 

「その首もらったあっ!!」

 

 

メビウスの直上をとったレギオノイドは自由落下の勢いをつけてさらなる高速でメビウスに接近する。機体各所の機関砲で牽制しつつ、両腕のブレードによる同時攻撃で戦闘にけりををつけようとした。

 

 

「悪いがあれをやるぞメビウス!」

 

『かまいません!存分にやってください!』

 

 

だがディスタはメビウスの一部そしてリオの戦闘経験を過小評価していた。凶悪な双刃が到達する寸前、メビウスの体の一部が唐突に爆発し飛び散る。

 

 

「何ッ!」

 

 

その爆発の勢いを利用してメビウスはスライドするように急激に移動する。故にレギオノイドの刃は空を切り、そのままメビウスに無防備な背後を晒した。

 

 

『「メビュームシュートォ!」』

 

 

レギオノイドに向けて必殺光線が放たれる。さしものディスタの高速神経系をもってしても必殺の一撃を躱された動揺と機体の加速により躱し切れず直撃した。

 

 

「ぐああああああっ!!」

 

 

レギオノイドはディスタがとっさに動力を閉鎖した為爆発四散は免れたものの、機体各所から小爆発を発生させ無人の海岸へ墜落していく。この空を飛ぶのはメビウス一人、リオとメビウスはまたしても敵に勝利した。

 

 

「はあっ・・・・はあ・・・思ったよりきついなこれ。光の国のウルトラマンは皆この技を使っているのか?」

 

『さすがにここの技を使うのは僕とタロウ兄さんだけです。でも驚きました。メビュームダイナマイトにこんな使い方があるなんて。』

 

「地球にはリアクティブアーマーっていうのがあるんだ。それの応用で思いついただけさ。」

 

 

 

ウルトラマンメビウスの特徴的な技の一つにメビュームダイナマイトという自爆技がある。自爆時の膨大なエネルギーを相手に叩きつけるこの技は多大なリスクを伴いながらも、強力な怪獣ですら一撃で倒しうるメビウスの必殺技の一つだった。リオはこの技を応用し体の一部のみを爆発させ、その勢いを利用して緊急回避を行う技を編み出した。

 

轟音と共にレギオノイドが海岸に落ちた。メビウスは落下地点めがけておりていく。おそらくまだ生きているディスタからは何か情報を聞き出せるだろうと考えてたからだ。夕焼けの中ウルトラマンが大地に降り立っていく。

 

 

 

 

 

「ぐ・・・うう・・・・俺としたことが敵の強さを見誤っていたようだ・・・・・。」

 

既にレギオノイドブレードカスタムは動力部を破壊され大破し、戦闘は不能。その反動によりディスタ自身も浅くない傷を負っている。上空のメビウスが軽傷以上の傷を負っていない以上ディスタの敗北は明らかであった。

 

(いやそれだけではない。奴は空中戦とはいえ地球人共の街に微塵も被害を与えたなかった。)

 

実際にこの戦いで地球人んは避難の際の軽傷者しか出ていない。そう、メビウスとリオは被害を与えないように神経を使いながら超高速の空中戦でディスタを倒してのけたのだ。

 

(ここまで力の差があるとはな。ならば敗者としてのやることは一つ。無様に知る限りのことを吐くだけだ。)

 

どこかすがすがしい気分でディスタはそう考える。傭兵に身をやつしたとは言え自身もひとかどの戦士であると自負する彼は潔く敗北を認めた。故にディスタは自身の知る限りのこと、雇い主の部下から聞き出した目的や、その戦力についての情報を、冥土の土産としてメビウスに吐こうとする。

 

 

「聞け!ウルトラマンメビウス!冥土の土産だ!雇い主の情報を吐くから止めを刺すならば、その後に――――」

 

 

ディスタは目の前に降り立つメビウスに死ぬ前に情報を伝えようと、レギオノイドの壊れかけたスピーカーの音量を最大限にする。そしてメビウスに対して口を開くが

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。大口をたたいておいて情けない。やはり同胞以外を信用するべきではありませんね。」

暗黒の宇宙に浮かぶ宇宙船の中、邪悪が敗者をあざける。

 

《 デスフェイサー 》《 ハイパーゼットン 》

 

宇宙船の中心部、人の身長を優に超える巨大な機械の中で二つのカプセルが起動する。

 

《 フュージョンライズ 》

 

 カプセルから暗黒のエネルギーが放射され、まるで絵の具が混ざりあうようにして組み合わさっていく。そしてその暗黒のエネルギーは宇宙船を包み込んでいく。

 

《 ハイパーデス! 》

 

 

 暗黒のエネルギーが凝縮され宇宙船を中心に人型を成す。そしてその人型は一瞬で地球上に転移し、日本上空に出現する。そしてその悍ましい姿にメビウスが気付くより早く右腕のガトリングガンを地上に向けて掃射した。

 

「おのれ・・・がああ!!」

 

『「メビウスディフェンスサークル!」』

 

圧倒的な火力の弾幕が一瞬でレギオノイドを破壊し中のディスタ毎容赦なく爆散させる。その圧倒的な密度にリオとメビウスはとっさにバリアを出して街を守る。

 

(まずい・・・・・威力と密度が桁違いすぎる!だが諦められるか!)

 

圧倒的な火力にメビウスのバリアはひびが入り、それから数秒と経たずに砕け散った。だがリオとメビウスはその身を盾にして弾幕を防ぐ。

 

(街にはまだ避難してない人たちがいる。その人たちを死なせない、死なせるものか!)

 

そしてとうとう怪獣のガトリングガンが回転を止める。リオとメビウスは腹から光の血を流しながらも怪獣の猛攻を防ぎ切った。

 

 

「まさかこのハイパーデスの火力を止められるとは。ウルトラマン共は本当に無駄に強いですねえ。」

 

 

ハイパーデスと呼ばれた怪獣は赤や青の光沢のある銀色の体に黒く有機的な関節を持ち、クワガタのような大角が生えた頭部には黄色と赤の目がそれぞれ一対ずつ光っている。さらに右腕は大型のガトリングガンに、左腕は大型のブレードが装着されておりそのシルエットを一層禍禍しい物としている。

 

これこそがベリアル融合獣、ハイパーデスウルトラマンを倒すために作られた無機と有機の体を併せ持つ悪魔である。

 

 

無機物と有機物が混ざったその体は無機物よりの存在であることを裏付けるかのように機械的に右腕を上げた。ハイパーデスから傲慢な声が響く。

 

 

「頭の悪い地球人にもわかるように簡潔に言いましょう。私はモネラ星人ヴェンジェラ。ある者を求めて地球に来た宇宙人です。」

 

 

ハイパーデスの頭部に映像が投影される。その映像を見て少なからぬ人が悲鳴を上げ息をのんだ。

 

映像に映し出されたのは濁った黄土色の骨格に肥大した頭部を持つ宇宙人である。その怪物然とした風貌は報道などで宇宙人の姿に慣れた地球の人々をも恐れさせる明らかな異形だった。

 

 

「そのある者はなんて事のない、皆さんのほとんどからすれば価値のない者です。ですが寛大な私はその者を引き渡してくれさえすれば、地球から去りましょう。ああもしそれだけでは不服なら役に立つ科学技術のようなプレゼントも上げますよ。」

 

 

にやにやとヴェンジェラは上機嫌に告げる。不意打ちとはいえ憎むべきウルトラマンを下せて実に気分がよかった。故に余興もかねて地球の”おもちゃ〝たちに譲歩すらしてやっている。

 

 

「その者とはそう。」

 

もったいぶってヴェンジェラは言葉をいったん切る。その視線の先には七原千歳が入院していた病院があり、

 

「七原千歳と呼ばれる地球人の少女、いやこれは正確な呼び名ではありませんね。ス ト ル ム 星 人 チ ト セを引き渡していただきたい。それが私の願いです。」

 

自信たっぷりにヴェンジェラは言い切る。それと同時に活動限界を超えたメビウスが消えていく。

 

「私が宇宙人・・・・・ストルム星人・・・・?」

 

避難所の中麗奈にかばわれた千歳は青ざめる。少女の地獄は宇宙の彼方から、どす黒い悪意とともにやってきていた。

 

 

 

 

 

 

 




登場人物

・七原千歳
友達と家族を大切にする普通の女子中学生―――――のはずであったが彼女の正体はストルム星人だという。彼女の命運は果たして・・・・

・スクルーダ星人ディスタ
スクルーダ星人は漫画『ULTRAMAN』に登場した種族。まぬけな印象のあるダダをモチーフとした姿とは裏腹に好戦的で冷酷な種族。本作に登場したディスタは何らかの事情で傭兵となり、メビウスと戦った。


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思いは灯の様に

今回は会話中心です。

この分だと5,6話で終わりかな?


会議室の中を煙と苦虫を噛み潰したような顔が満たす。この広い部屋は地球防衛隊日本支部に置かれた会議室であり、ここにいるのは防衛隊の高官ばかりである。普段多忙な彼らが一か所に集うのは非常事態を除いていない。そんな彼らが一か所に集うということは紛れもなく現在地球非常事態下にあるという事を示している。

 

「状況を説明します。」

 

いかにもエリート然とした参謀本部付きの職員が席を立ち説明する。

 

「昨日出現したモネラ星人ヴェンジェラ、及びレジストコードハイパーデスの現在位置は依然として不明です。ドイツおよび日本に出現した怪獣や宇宙人犯罪者の鎮圧は完了しましたが、事態は依然として予断を許しません。」

 

モネラ星人ヴェンジェラはメビウスを倒した後、虚空へと吸い込まれるように消えていった。自身の目的とする人物の引き渡しを48時間以内に引き渡しを来なうように言い捨てた後にだ。

 

 

モニターにハイパーデスの姿が表示されるとその構成要素の一部、ゼットンの要素に見覚えのある高官たちは一様に渋い顔をする。

この地球においてもゼットンの名を持つ怪獣は幾度か出現し甚大な被害をもたらしている。もう一方の構成要素であるデスフェイサーについては不明だがおそらくゼットン同様非常に強力な怪獣だろう。

 

「モネラ星人ヴェンジェラの要求は七原千歳という少女の引き渡しです。彼女は地球人ではなく実際にはストルム星人なる宇宙人であるとヴェンジェラやその傘下の犯罪者達は主張してます。」

 

 

 

「その情報は確かなのかね?宇宙人が何らかの目的で主張しているブラフでは?」

 

「その可能性は低いと思われます。最新鋭の検査機器を使用して検査を行ったところ彼女の体内に明らかに地球人の体内には存在しない器官が発見されたそうです。また彼女の父親は彼女の生後数か月で事件性のない事故により死亡していますが、戸籍データなどを含め不審な点が多いです。その為七原千歳は正確にはストルム星人と地球人のハーフだと思われます。」

 

 

彼女の数奇な生い立ちも非常に興味深い物だったが彼らの興味を強く引いたのはその体内のストルム器官であった。ストルム器官についての資料内容に何人かがうなる。調査部に先日メビウスから送信された情報によればベリアルはかつてストルム器官を利用し、失われた自身の肉体を復活させ自身の大幅な強化を果たしたという。

 

 

「奴の目的はストルム器官というわけか。それを用いてベリアルの復活をもくろんでいると。」

 

「おそらく奴の主目的はそれでしょう。しかし私は別の目的もあると考えています。」

 

 

続いて発言したのはまだ若い学者風の男だった。彼は宇宙人の文化や生態研究に関するエキスパートであり、防衛隊の顧問としてこの会議に出席していた。

 

「ヴェンジェラが七原千歳を狙うのはベリアルがストルム星人を従え多くのウルトラマンを打ち破った軍団の最盛期を再現するという目的もあるのだと私は考えます。滅びた勢力の残党はいつの世も首魁の子息などを担ぎ上げて世間にアピールするものですが、宇宙人についても同様のパターンが散見されます。奴がこのような事を行うのにはそうした他の残党勢力への呼びかけもあるのかもしれません。」

 

その言葉に会議の出席者達は押し黙る。最悪の場合別宇宙で滅びたはずの闇の軍勢がこの宇宙で復活し多元宇宙への侵攻を開始するだろう。まず手始めにこの地球を滅ぼしながら。

 

絶望の可能性を提示され、しかしそれでも出席者達は会議を有益な物とするべく話を続ける。あらゆる手段を地球のために講じながら。

 

 

 

 

 

 

「ご存知の通り千歳は私たちの実の娘ではありません。」

 

平凡だが掃除が行き届き、清潔な室内でウーリは千歳の両親と向かい合っていた。千歳の両親は予期せぬ不幸にここ数日だけで随分と老け込んだように見える。無理もない。なにせ自身の娘が宇宙人に名指しで狙われているのだから。

 

「あの子は私の友人の娘です。友人が夫に先立たれた数か月後にその友人までもが事故死し、引き取り手のいなかったあの子を私たちが引き取りました。」

 

リビングには写真が飾ってある。どこか悲しみを秘めているが、それでも笑顔を作った夫妻が赤子の頃の千歳を抱いている写真だった。

 

「あの子は子供のいない私たちにとってただ一人の大切な娘です。例え宇宙人の血が流れていようとそれだけは確かです。」

 

「それは分かります。私も人の親ですから。」

 

ウーリはうなづく。短い時間言葉を交わしただけだが、それだけでも十分に夫妻が千歳を愛している事は伝わってきた。

 

「ただあの子の母親については子供のころから知っていますが、父親については気になった事があります。」

 

「気になること、ですか?」

 

「はい。私達は彼と一度だけあった事がありましたが、その時に彼はこう言っていました。『チトセという響きは我ながら良い名前を付けたと思っている。このチトセという言葉は自分の故郷でこういう意味を持っているんだ。』と。」

 

 

千歳の父はその意味をウーリに話した。ウーリはその意味に感心する。おそらくその意味はストルム星の言葉が由来なのであろう。だがその言葉に秘められた愛は地球人のそれと変わらない。子を思う親の愛だった。

 

 

「なるほど・・・・あの子の父親、おそらく彼がストルム星人だったのでしょうが千歳さんに心から愛情を注いでいたんですね。」

 

 

「ええ。顔を知らない相手だったので当初は私達も最初は警戒していたのですが、彼と友人の幸せそうな様子を見ていると自分たちの疑念が馬鹿みたいに思えてきて・・・・それが今になってこんなことになるなんて・・・・。」

 

沈痛な表情を夫妻は浮かべる。千歳が生まれたときの二人の幸せそうな様子が目に浮かんでいた。

 

「ウーリさん。私は宇宙人の事情についてはまったく知りません。ストルム星人なんて存在すら知りませんでした。でもこれだけは言えます。あの子の父親はあの子にただ幸せになってほしかったのでしょう。」

 

そう言って夫妻はうなだれる。突然愛娘に降りかかった禍に何もできない自分たちが歯がゆかった。その表情にウーリも我が事のように胸が締め付けられる。

 

「大変です!千歳さんが!」

 

2階で千歳の護衛についていた女性隊員が息を切らせてリビングに降りてきた。

 

「千歳さんが、瞬間移動を行い消失しました!」

 

「まずいな・・・まさかストルム星人としての力を使えているとは。至急この近辺の警察や防衛隊に連絡を!」

 

部下に指示を出しながらウーリは立ち上がり自身も捜索に加わろうとする。しかしその前に夫妻へ言うべき言葉があった。

 

「あの子のことをあのモネラ星人は多くの人にとってどうでもいい者と言いました。だけど私や他の防衛隊員は微塵もそう思っていません。」

 

静かに、されど断固とした口調で語る彼の目には強い意志が宿っている。

 

「あの子は多くの人に愛され平和を望むかけがえのない存在です。私たち防衛隊の隊員はそんなかけがえのない人間を見捨てる事はありません。そんな人々を守るのが防衛隊の存在意義ですから。それはあのウルトラマン達も同じでしょう。」

 

 

「だから絶対にあなた達の娘さんを守り抜きます。それでは。」

 

 

そういってウーリは退出していく。その背中に夫妻はドアが閉まった後も頭を下げ続けていた。

 

 

 

どこかの公園近くをとぼとぼとまるで追放された罪人のように歩く人影があった。まだ幼さを残した顔立ちの千歳は打ちのめされた面持ちで歩く。

 

 

「ははは・・・・本当に瞬間移動ができるなんて・・・・やっぱり私人間じゃなんだ・・・。」

 

何も千歳は自身が瞬間移動出来ると知っていたわけではない。防衛隊を通じて自身のストルム器官がどういう物かについては知らされていたが、瞬間移動ができるとは知らなかった。

 

自室でふさぎ込んでいた千歳は自分がいれば家族や友人が危険にさらされる申し訳なさに消えてしまいたいと考えていたところ、実際に瞬間移動してしまったもだ。どう考えても地球人にはありえない能力であることに千歳はより一層自身の存在の異物感、異常性に罪悪感を抱く。

 

 

(でも・・・・・どこへ行こう・・・)

 

 

まだ中学生である千歳の行動範囲は狭く、自分がどこへ行くべきかはわからない。周囲の為を考えればどこかあの宇宙人に見つからないところへ行くべきなのかもしれない。だが、あの宇宙人から隠れられる場所など千歳には考え付かないし、仮に隠れる事ができたとしてもあの宇宙人は千歳を探すために街を破壊するだろう。あのウルトラマンを倒した砲撃の威力、それを思い出すだけで千歳は青ざめる。

 

(ウルトラマンはきっと勝ってくれる・・・ネクサスもティガも、メビウスっていう私を助けてくれたウルトラマンも勝ってくれる・・・でも。)

 

あの悍ましい怪獣を思い出すだけで千歳は身震いする。千歳も地球人の大多数と同様にウルトラマンの勝利を信じている。あの怪獣がいくら強くても最終的に三人のウルトラマンが勝つだろう。でもその過程で壊される街は?戦死する防衛隊員や逃げ遅れて死ぬ街の人は?千歳一人の為に一体どれだけの犠牲が出るだろうか?そのことを考えれば千歳はとても平穏な気分ではいられない。

 

 

千歳は回想する。血のつながらない自分を愛し、育ててくれた両親。病弱で引っ込み思案な自分に隣の席だったことをきっかけに話しかけ、自分の一番の親友になってくれた麗奈を始めとする友達たち。皆千歳にとってかけがえのない人々だった。彼らが自分のせいで傷つく事を想像するだけで千歳は涙が出そうになる。いや実際に千歳の目からは涙がこぼれ落ちていた。

 

 

 

「うああ・・ううっ、ぐす・・・・うぐ・・・私なんか・・・私なんて死んじゃえばいいんだ・・・」

 

 

千歳は泣きながら考える。坂道を転げ落ちるように千歳の思考はマイナスへと傾き続ける。もはや千歳の思考には自分が命を絶ち、それによってモネラ星人の興味を失わせるという方向にまで思考が向いていた。千歳は自身の破滅的な思考を肯定するかのように独白を続ける。

 

 

「そうよ・・・・・私はどうせ人間じゃないから無駄に長く生き続けて、そして一人ぼっちになる・・・なら今別れたって同じじゃない・・・」

 

 

この宇宙の宇宙人の多くは地球人からすれば長すぎるほどの寿命を持っている。ならばその宇宙人の血を引く千歳の命は自身の大切な人が全て死んだ後も続くのではないか。それは何よりも家族と友人を大事にする千歳には耐えがたい事であった。絶望に沈む千歳にはまた自分が命を絶つべき理由が見つかったような気がした。

 

「それは違うよ。」

 

 

千歳の絶望の闇を切り裂くように声が響く。千歳が見上げると声の主である男性には見覚えがあった。確か二日前

に千歳達を逃がそうとしてくれた人だ。あの時に怪我をしたのか包帯を体のあちこちに巻いている。

 

「その怪我・・・あの時の?」

 

「ああ、あれとは別件だよ。まあ俺の怪我のことはいい。そう簡単に死のうなんて言ってはいけない。」

 

「どうして・・・・どうしてそんな事言うんですか!私が生きていたって皆迷惑するだけなんですよ!?なのになんで!」

 

「簡単な事だ。君が死んだら君の両親や友達が悲しむ。」

 

「!」

 

千歳は自身が目をそらしていた事を突き付けられ動揺する。

 

 

「確かに君の言う通り大切な人との別れはいつか来るだろう。でもそれは今じゃない。今の君には想像できないくらいずっと後に来ることだ。それは今じゃないし、ましてやあんな奴によってもたらされる物じゃない。」

 

僅かにモネラ星人への怒りをにじませながらリオは言い放つ。

 

「そんなことを起こさない為に俺たち防衛隊やウルトラマンが居るんだ。だから今日は君の家へ帰ろう。」

 

「でも・・・・」

 

千歳はいまだ変える決心が持ててない。自己評価が低いわけではないが、どうしても自身が多くの人々の安全を脅かしてまで守られるほどの存在であるとは思えないのだ。

 

「俺の従兄、ああ君の家に来ていた金髪の男が君の両親から聞いた事があるんだ。君の生みの親であるストルム星人、その人が言っていたそうだ。『チトセという言葉は私の故郷で幸福にという意味なんです。いい名前でしょう?妻も大喜びで賛成してくれました。』ってな。」

 

 

千歳は目を見開く。今は亡き両親も自分を確かに愛してくれていた。その証が千歳という名前に込められていることを理解した千歳の目には涙があふれ出す。

 

「君は多くの人に愛されて今一つしかない命を生きているかけがえのない存在なんだ。もう二度と死んだほうがいいなんて言ってはいけないよ。」

 

 

リオの言葉に千歳はとうとう堪えていた涙を抑えきれなくなる。赤子のように泣きじゃくる千歳をリオはそっと撫でてやる。夕暮れの中千歳の中の絶望の闇を振り払えたことにリオは安堵を感じていた。

 

 

 

 

 

「さっきは助かったよメビウス。」

 

『どういたしまして、リオさん。』

 

日の暮れた街を千歳の自宅に向けてリオは車を走らせる。リオはメビウスの力を借りて千歳の位置を探知し、最悪の事態になる前に彼女を見つけ出す事が出来ていたのだ。その事を考えれば感謝の意を示すのは当然だとリオは考える。

 

ふとリオはメビウスに聞きたいことがあったのを思い出したことから助手席の千歳が寝ていることを確認し、メビウスに質問してみた。

 

「メビウスも地球にいた頃大切な仲間がいたのか?」

「はい。僕が初めて地球に来て戦っていた時いつも僕を助けてくれたのはCREW GUYSのかけがえのない仲間たちでした。もう彼らと会うことは出来ないけど・・・・皆と結んだ友情は今も僕の中に息づいています。』

 

 

メビウスの長い生の中でもあのかけがえのない時間の思い出は、自身の心の中で暖かい炎のような光を灯し続ける大切なものだ。メビウスの答えに共感を覚えたリオはそれを聞き、うなづく。

 

「俺もそうだ。俺も何よりも大切な人がいた。子供のころから一緒にいた幼馴染でいつも俺を支えてくれた人だった。・・・・・・怪獣災害で死んでしまったけどな。」

 

 

そうリオの婚約者だった奈々は十数年前怪獣による災害でリオの目の前で死んだ。何よりも大切な人を助けることができなかった当時のリオは自身の無力さに絶望していた。

 

「でも俺がネクサスになった後も奈々の思い出は俺を支えてくれた。時にやさしく、時に厳しく敵に屈しそうになる俺を支えてくれたんだ。だから俺は思うんだ。人が人へ向ける愛情は永遠に続く。時には親から子へ、友人から友人へと受け継がれていくものだって。」

 

『とても素敵な考えだと思っています。でもリオさんがさっき言った通りあの子の場合は・・・』

 

「ああ、それはまだずっと後のことだ。後であるべきなんだ。だからメビウス、俺たちはあんな卑怯者に負けるわけにはいかない。奴には必ず勝つぞ。」

 

『ええ!絶対に勝ちましょう!』

 

リオとメビウスは気持ちを新たにする。あのような卑劣な宇宙人にこの子の為にも、地球に生きる人々の為にも負けるわけにはいかない。元より一つだった二人の気持ちはさらに強固に収束する。

 

 

そうして車を運転していく内に千歳の自宅が見えてきた。リオはその家の前に集まっている人々の顔ぶれを見て足然に笑みがこぼれる。家の前にいるのは千歳の両親だけではない。チトセの友達も集まっている。それを見て目を覚ましていた千歳は驚き、また泣きそうになる。

 

「麗奈ちゃん・・・・・」

 

「千歳ちゃんどこ行ってたの!あんな事があったばかりだから私もう千歳ちゃんに会えないんじゃないかと心配で心配で・・・・・」

 

「ごめんね麗奈ちゃん。私はもうどこにも行かないから。」

 

千歳は自分に最高の友達がいることを改めて噛みしめる。そう自分が大切な人々と別れるのはまだずっと遠くの話だ。その時までに暖かな思い出を作り続ける為に自分は生きているのだから。

 

「そんな心配しなくても大丈夫だって!ウルトラマン、特にネクサスがあんな不意打ちだけの奴に負けるわけないじゃん!」

 

快活な友達が千歳を楽観的なまでに明るく励ます。

 

「もし七原ちゃんに変な事言う人がいたら私に任せて!将来の予行演習に言い負かしてやるんだから!」

 

勝気な法律家志望の友達が千歳の味方になることをぐっと力こぶを作って宣言した。

 

「とにかく今日はゆっくり休むこと!疲れていると変な方向に頭が行くからこれ食べて寝ちゃいなさい!」

 

料理上手で面倒見のいい先輩が千歳の好きなチョコレートケーキの包みを手渡しながら言う。

 

「あ・・・その・・・・お、俺もが、頑張るから千歳ちゃんもげ、げげ、元気出して・・・・ね」

 

なぜか大量の汗をかきながらいつのまにか来ていた翼が言う。普段は千歳の目には残念な人としか映らない翼も今この時はありがたかった。

 

 

「みんな・・・ありがとう・・・・」

 

 

涙を流しながらも笑顔を作る千歳の心に光が灯る。人が人を思うことで発生するその光は千歳以外の誰にも気づかれることなくメビウスブレスに流れ込んでいく。ただ純粋に相手を思う気持ち、その気持ちは光となり傷ついたリオとメビウスを癒し、新たな活力を与える。

 

 

(この人に光が流れ込んでる?あの時のことと言いもしかして・・・・・っ!)

 

千歳は自身を一昨日も、今日も助けてくれたこの青年こそがウルトラマンメビウスなのではないかと思う。そしてそれと同時にまるで歯車が噛み合うように千歳の脳は自分自身を救う為の閃きを導き出した。

 

「あ、あの!誰か防衛隊の方と話させていただけませんか!」

 

突然の申し出に千歳は自身の考えを伝えようとする。自身や家族友人の未来をつかみ取るため千歳は自分に出来る事をして、困難に立ち向かおうとしていた。

 

 

 

暗黒の宇宙にハイパーデスが浮かぶ。どこかその無機質なボディの中でモネラ星人ヴェンジェラは余裕を崩さず、あざ笑うような笑みを浮かべながら、強大な力を秘めた体の起動を行う。

 

「さてと・・・地球人共の脳みそでもそろそろ答えは出るでしょうし、準備をしますか。」

 

ヴェンジェラの言う準備とはハイパーデスの胸部に装備された大量破壊兵器、ネオトリオンフレイム砲の起動準備だ。モネラ星人のテクノロジーとゼットン特有の1兆度の火球を複合したこの破壊兵器は、一射で地球に壊滅的な被害を与えられるだろう。

 

そうヴェンジェラはストルム星人を回収して立ち去るつもりは毛頭ない。去る前にハイパーデスの力を以て地球人とウルトラマンを滅ぼすつもりだった。

 

「そして私は同胞の復讐を果たす。おもちゃの分際で我々に逆らったクズ共を皆殺しにして・・・!」

 

今から千年単位の遠い昔、ヴェンジェラ達モネラ星人は遊び半分にある宇宙の地球を滅ぼそうとした。彼らにしてみればウルトラマンという多少骨のある相手と地球人というどうとでもできるおもちゃを弄繰り回す。その程度の気持ちで彼らは地球侵略に踏み切った。

 

 

――――――――結論としてモネラ星人は敗北した。ティガとダイナというウルトラマンと、モネラ星人からすれば自分たちより比べるべくもないほど劣った地球人たちにだ。

 

モネラ星人唯一の生き残りとなったヴェンジェラは故にウルトラマンと地球人を憎む。だからこそウルトラマンを蹴散らし、一度は地球どころか宇宙を滅ぼしたベリアルに心酔し、その配下となったのだ。ヴェンジェラの目的について防衛隊の考察は当たっている。この手前勝手な宇宙人の目的はストルム器官の悪用と、ストルム星人を従えたベリアルの故事の再現により、軍団を再建することである。故にヴェンジェラはストルム星人を手中に収めウルトラマンと地球人を殺しつくそうとする。

 

邪悪な表情でヴェンジェラは笑う。すべては自身の復讐のために。凶悪な殺戮兵器を手にするこの邪悪な宇宙人は心からそう考える。

 

 

――――――――――だが、そうはいかない。一見見渡す限り闇に覆われた宇宙が少し見渡せば星々の光に満たされているように、宇宙には邪悪以上の光が存在する。

 

 

宇宙の闇を切り裂くようにハイパーデスの胸部に向けて凄まじい熱量を持った光線が伸びる。不意を突かれたヴェンジェラはあわててハイパーデスを瞬間移動させ、その光線を回避した。

 

「ぐっ・・・・誰です!この私を攻撃するとは!」

 

『決まっているだろう』

 

 

その声と共に焔の塊がハイパーデスに近づいていく。不死鳥を思わせるその莫大な焔の力を持つのは地球上においてただ一つ。

 

「おのれ・・・・ウルトラマンメビウス!貴様のような矮小な偽善者が偉大なる私の邪魔をっ!!」

 

『うぬぼれるなよ邪悪。』

 

リオとメビウスの声がシンクロする。焔をまとったその姿はこれまでとは違う。金色の翼を象ったその形態はバーニングブレイブ、メビウスがかつて共に戦った仲間たちとの絆が生み出したメビウスの最強形態であった。

 

『お前がどれほど邪悪だろうと、どれほど強かろうと関係ない。あの子たちの未来の為、おまえを倒す!』

 

邪悪の前に不死鳥の勇者が立ちふさがる。その姿は邪悪を浄化し、全ての善なるものに希望をもたらす焔と光の化身だった。



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天と地の、光の戦士達

今回は戦闘中心の回です。


ベリアル融合獣ハイパーデス

宇宙怪獣ベムラー

磁力怪獣アントラー  
                                     登場


漆黒の宇宙を蒼く美しい地球を背に、二筋の光が駆け抜ける。その一つは禍禍しい紫の、もう一方はどこか暖かな焔のようなきらめきを感じさせる赤い光であった。

 

二つの光はすさまじい勢いでぶつかりそしてまた離れてを繰り返す。だがより強い勢で宙を飛ぶのは赤い光の方だった。禍禍しい紫の光が赤い光に弾き飛ばされる。

 

「ちいいっ! 一度倒れたばかりの貴様が、どこからそんな力を!」

 

「分からないのかモネラ星人ヴェンジェラ?お前が傷つけ利用しようとしたあの子の勇気が、この力の源だっ!」

 

「何を分けの分からない事を!っ!?貴様らまさかっ!」

 

瞬間移動を交えてメビウスの攻撃を回避しながらヴェンジェラのその明晰な頭脳はある可能性に気づく。彼のような闇の者には、理解どころか発想すらし難い千歳の行動に気が付いた事はその頭脳の優秀さを示していた。だがそれはもう遅い。

 

「ストルム器官の力を使い、手下共の闇の力を光の力に反転させたというのかっ!」

 

「そうだっ!そのまさかだよっ!」

 

凄まじい威力を秘めたメビウスの回転蹴りがハイパーデスに突き刺さり、錐もみ状態にして吹き飛ばす。

 

そう千歳が防衛隊を説得して行った事そのものは簡単な事である。かつてベリアルの配下であったストルム星人が光の力を闇の力に転移させたように、千歳も自身の持つストルム器官の持つ力を応用し、ヴェンジェラの部下を始めとした収監された宇宙人犯罪者の持つ闇の力を反転させ、メビウスやリオに渡していた。これこそがひどく傷ついていたはずのメビウスが最強形態であるバーニングブレイブとなり、ハイパーデスを圧倒している理由の一つである。

 

 

「おのれ忌々しい巨人どもが・・・・・ならば数の差に押しつぶされなさい!」

 

ヴェンジェラが合図をするとデブリ帯に隠されていた円盤が楕円形の護衛機と共に10個近く動き出した。その円盤にはそれぞれ怪獣や戦闘兵器が搭載されており、その平凡な外見から想像もできない程の危険性を秘めている。だがここでもモネラ星人はよく考えるべきだった。地球人に居場所を知られていないはずの自分が、何故先制攻撃を受けたのかを。

 

 

《シャドウリーダーより各機、槍を放て》

 

《了解!FOX3!》

 

何もないはずの宙域から放たれたスペシウム弾頭封入型のミサイルが次々と中身の怪獣ごと円盤を粉砕していく。否、その宙域には確かに何かが存在していた。モネラ星人の科学力を以てしても探知は極めて困難な、超高性能のステルス戦闘機隊が。

 

 

彼らは専守防衛を旨とする地球防衛隊にあって、侵略宇宙人への先制攻撃や暗殺を目的とした参謀本部直属の特殊戦闘機部隊、『シャドウ隊』である。シャドウ隊は防衛隊が今回の事件の様々な情報、衛星による観測データから匿名のタレコミまで――――を統合し、ハイパーデスが存在すると予想された宙域にステルス性を活かした隠密飛行で赴き、メビウスにその正確な位置を教えていた。

 

《こちらシャドウ2。敵円盤の全機撃墜を確認。討ち漏らしの護衛機の掃討に当たります。》

 

《シャドウリーダー了解。偶数番機は護衛機の掃討、奇数番機はメビウスを援護だ。スピードに惑わされて撃つ相手を間違えるなよ!》

 

《了解!》

 

一瞬のみ刃物の様に鋭利な機影を映した後、再び彼らは闇に溶け込んでいく。それとほぼ同時に残りの護衛機が爆発していき、さらにハイパーデスへ無数の小型ミサイルが放たれる。

 

「この私が舐められたものですねえっ!地球人ごときがぁっ!ぐぅっ!」

 

ヴェンジェラの怒声と共にハイパーデスのガトリングガンが火を噴き、ミサイルを掃射していく。次々と爆発するミサイルは通常の弾頭だけでなく煙幕や閃光を発する弾頭も含まれていた。そうした弾頭がガトリングにより起動し、ハイパーデスの視界を奪っていく。そこにメビウスが焔をまとった跳び蹴りを放つ。

 

「せやああああああああああああああああああっ!!」

 

「ぐがああああああっ!!!」

 

気づくのが遅れたハイパーデスは瞬間移動による回避が間に合わない。とっさに両腕を盾にするものの、回転の勢いを加えたすさまじい跳び蹴りはその両腕と顔面の一部を粉砕し、ハイパーデスを月面に叩きこんだ。

 

 

「おのれ・・・・・おのれおのれおのれぇっ!」

 

顔面が半場砕けたハイパーデスが立ち上がる。皮肉にもその構成要素となったデスフェイサーがかつてそうなった様に顔面を砕かれたハイパーデスの全身からはどす黒い怨念のオーラが漂う。

 

「もはやベリアル軍の復活などどうでもいい!私をコケにした地球人とウルトラマン共を殺す!」

 

その言葉と共に先程とは別の宙域に隠されていた2つの円盤が地球に向けて動き出す。当初の計画が破綻したヴェンジェラは、もはや千歳の確保などどうでもよく、可能な限り怪獣で地球人を殺戮するつもりであった。だが月面に降り立つリオとメビウスは動じない。地球の人々を、そして地球を守り続けてきた光の巨人を信じているからだ。

 

 

『そんな事が出来るものか、させるものか!地球の人々はお前に殺されるほど弱くも無価値でもない!』

 

「ほざけえええええええええええええええっ自らの無力に絶望しながら死ね!死ね!ウルトラマンメビウスゥゥゥゥっ!!!」

 

憎悪の叫びと共に両腕に禍禍しい刃を生やしたハイパーデスが突進する。この事件に終止符を打つ最後の決戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

「ふーやっと最後かあ・・・・・」

 

最後の宇宙人を文字通り蹴散らした三光翼はようやくといった感じで一息つく。彼の周りにはおよそ数十人の宇宙人が倒れている。この宇宙人たちは全てヴェンジェラの手により地球に侵入した宇宙人であり、今日破壊工作や千歳の家族友人を人質にする為に暗躍しようとしていた。

 

 

が、その目論見はたった二人の男によって破綻した。翼ともう一人の手により彼らは全員叩きのめされ無様に這いつくばっている。

 

「ツバサ。奴が隠してあった円盤が2機地球に向かっているらしい。無人地帯に誘導して叩くぞ。」

 

翼からやや離れた位置にいた男が声をかける。短く刈り揃えた金髪に深い知性を湛えた瞳の偉丈夫は懐から短剣のような形状の神器を取り出す。その名はエボルトラスター。

 

「了解です。よしと・・・・・気合い入れていくぞ!」

 

自身の顔を叩いて気合いを入れた翼は白い神器を取り出す。その名はスパークレンス。

 

 

「どうしたツバサ、好きな子の為にいつも以上に気合十分か?」

 

「もちろんですよ!好きな子の笑顔を守りたいと思うのは当然でしょう?それに俺は千歳ちゃんにも、あの子の家族や友達にも、それに世界中の人々が笑顔でいてほしいんです。その為の戦いなら幾らでも気力がわいてきます!」

 

高空で傷だらけの円盤が爆散するが、その一瞬前に二体の巨大な怪獣が射出される。それをしっかりと両の目で見た二人は勇ましく自らの手に持つ神器を掲げる。

 

「そうか。なら始めるぞ。ネクサーーーーース!」

 

「ティガーーーーーー!」

 

 

テオドール・シュミット、この地球で4人目のウルトラマンネクサスの変身者

 

三光翼、超古代人の遺伝子を受け継ぐウルトラマンティガの変身者

 

二人の体は光となり高空へと延びていく。その美しい光の軌跡は地球の人々を、シェルターの中で戦いを見守る千歳の顔を照らしていた。

 

 

 

円盤の一方に搭載されていたのはかつて初代ウルトラマンと戦った怪獣ベムラー、もう一体はクワガタの様な角と強靭な外骨格を持つ磁力怪獣アントラー。この二体がハイパーデスを除き、ヴェンジェラの保有する最後の戦力だった。

 

関東の無人地帯に叩き落とされたこの二体の凶悪怪獣は、自身の敵であるウルトラマンに対して憎悪を込めたうなり声をあげるが、すぐにその唸り声は困惑するような調子になった。ネクサスが自身の腕から清浄な波動を放ち、周囲の空間を特殊空間メタフィールドに作り替えたからだ。

 

「ガギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ブブブ・・・・ジュアアアアアアッ!!」

 

それでも二体の凶暴怪獣は持ち前の凶暴性を発揮し、それぞれの敵となるウルトラマンに向かっていく。

 

アントラーが向かったのはこの空間を作り出したネクサスである。アントラーはその怪力と強靭な体を活かして、突進からの一撃でネクサスを粉砕しようとする。

 

『ヘアアッ!』

 

「ギギィッ!?」

 

だがアントラーの一撃がネクサスを粉砕することはなかった。ネクサスがカウンター気味に放った、ただの拳の一撃でアントラーの突進は止められ、その強固な外骨格の一部が砕ける。

 

『どうした。そんなものなのか貴様の力は。』

 

ネクサスは基本形態と言える銀色の姿から、すでにテオドール特有の強化形態に姿を変えている。アントラーの攻撃を真正面から受け止め、逆に強烈な反撃を叩き込むネクサスの姿は先程よりも一回り程大きくなっていた。その理由は体の各部を鎧の様に覆う装甲である。

 

手足は濃い緑色に銀のラインが奔った小手や具足のような装甲に覆われ、また胸部もカラータイマーの周囲を中心に堅牢に装甲されている。その重厚な様相は武士的な印象の強かった過去のネクサスと異なり、鎧をまとった騎士を見る者に想像させた。これこそがテオドール・シュミットの変身するネクサスの強化形態、ジュネッスグリューンであった。

 

『その厄介な角を折らせてもらうぞ!うおおおあああああああっ!』

 

勇ましい叫びと共にネクサスはアントラーの片角をへし折る。その怪力に主張のあるアントラーを圧倒していることからもわかる通り、ジュネッスグリーンの特徴は堅牢な装甲とウルトラマンの基準からしても非常に強力なパワーである。代償としてスピードの低下をもたらすものの現在のような近接での殴り合いでは関係ない。そのパワーを最大限に活かしてアントラーを圧倒していた。

 

『もう一発だっ!』

 

さらにネクサスがアントラーの角をへし折り、アントラーは潰れたような叫び声をあげる。。銀と緑のウルトラマンが破城槌のような拳を打ち込み、アントラーの外骨格が砕けていく。その力強さは地球の人々が最大限の信頼を寄せるウルトラマンであるネクサスに寄せる、信頼の強さを象徴しているようですらあった。

 

 

 

 

翼の変身するウルトラマンティガは三つの形態を使い分け、臨機応変な戦いを可能とするウルトラマンである。基本形態のマルチタイプに加え、速い相手ならば速度の出るスカイタイプに、力のある相手なら剛力を持つパワータイプになって対応する。

 

だがベムラーはバランスの取れた能力を持ち、特化した能力を持たない為タイプチェンジの判断がしにくい厄介な相手である。

 

―――――常識的に考えたならば。

 

「ゴギャアアアアアアアアアアアッ!」

 

(これは・・・・・うん、スカイタイプなら躱せる!)

 

ベムラーが無数の光弾を放つと同時にティガはマルチタイプからスカイタイプに代わり飛翔し、青い光弾を次々躱していく。ベムラーは空中を自由自在に飛行するティガを追い、さらなる光弾を放つがとうとうエネルギ―が尽きる。それと同時にパワータイプに変身し、落下の勢いを載せてベムラーに瓦割のような強烈な打ち下ろしの拳を叩き込む。

 

(今のは聞いただろ・・・・おっと!)

 

ベムラーは倒れた勢いを利用してしっぽを振り回す。先端の鋭い輝きや攻撃の角度から、ティガは回避や受け止める事よりもこの一撃を捌く事を決断し多彩な技を持つバランスの良いマルチタイプにチェンジ、光を纏った手刀で尻尾をはじいた。そうして尻尾があらぬ方向に振り回され、がら空きになったベムラーのボディに再度パワータイプにチェンジし蹴りを叩き込む。さらにその一瞬後にはスカイタイプにチェンジし、ネクサスに反撃しようとするアントラーへ牽制の光弾を素早く見舞う。

 

 

『よーしよしよし今日も冴えてるぞ俺!ああ、千歳ちゃん・・・メタフィールドだから見えないだろうけど心の目とかそういうサムシングで俺の活躍を見守ってくれ・・・・・!』

 

翼は周囲にはスポーツ万能の青年として知られているが身体能力や体格が飛びぬけているわけではない。彼がそう評価されるのは一重に判断から行動までの速度が人間の限界とほぼ同等まで早い事が理由である。

 

超古代人の血筋がもたらすものなのか、翼はその状況において自分のやるべき事を迅速に判断し、実行に移す能力が地球人のほとんどどころか高い身体能力を持つ宇宙人よりも高い。そんな彼がウルトラマンの力、特に三つの形態を使い分けられるティガの力を得たならばどうなるか。

 

(っ! テオさんがアントラーを殴り飛ばした!ならこっちもベムラーを)

 

一秒未満という、極めて短い時間で適切に形態を切り替えて戦う事すら可能である。今も翼の変身したティガはマルチ、スカイ、パワーの三タイプを瞬時に切り替え続けベムラーを追い詰め、ネクサスの一撃でアントラーが吹き飛んでくるのを見るや否やパワータイプの力でベムラーを殴り飛ばし、位置を強引に変えて二体をぶつけた。

 

「ガグッ・・・・・・!」

 

「ギジュアッ・・・・!」

 

轟音を立てて二体の怪獣がぶつかり倒れ伏す。それを後目にティガとネクサスの二人の巨人が並び立ち、うなずきあった。そしてティガは両腕を広げた後にL字に組み合わせ、ネクサスは右腕を引きタメを作るような動作を行う。

 

「ゼペリオン光線!」

 

「ブレイクレイシュトローム!」

 

ティガのL字に組み合わせた腕から、ネクサスのカタパルトのように打ち出された拳から光がほとばしり、アントラーとベムラーを撃ち抜いた。そして二体は爆散し、塵となって大気中に流れていく。

 

それと同時にネクサスの展開したメタフィールドが消失していき、再び現実世界に二人のウルトラマンが現れた。

 

 

『さすがに今からあちらに加勢する余裕はないな・・・・・あとはメビウスに任せるしかないか。・・・・・や飲んだぞメビウス。もっとも君がアイツに負けるはずがないがな。』

 

『頼みましたよメビウスさーん!あの卑怯者をぶっ倒してくださいねー!』

 

人々には聞こえない声でメビウスを激励し、ティガとネクサスは、二人の変身者は光に戻っていく。地球の人々はその姿を仰ぎ見てある者はあこがれを、ある者は尊敬を抱く。地球を守り続ける巨人がこの地球上の人々の多くが敬愛していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場人物紹介

テオドール・シュミット

本作品の世界では4人目のデュナミスト(ウルトラマンネクサスの変身者)。名前の通りドイツ人であり、普段は医者として活動している。

彼の変身するネクサスの強化形態はジュネッスグリューン。緑と銀の強化装甲によりパワーと防御力が大幅に強化されており、その強みを活かした格闘戦で怪獣を圧倒する。



三光翼

これまでの話ではただの七原千歳のストーカーでしかなかった彼だが、実はウルトラマンティガの変身者。
判断力に優れた彼は場合によっては一瞬毎にティガの形態を変え、臨機応変に戦う事を可能とする。


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絆ーINFINITY-

モニターの中でティガとネクサス、二体のウルトラマンが光となって消えていく。しかし人々がその事について不安を感じる事はない。その立ち姿は雄々しく、メタフィールドに取り込まれた2体の怪獣もいない。それは彼らの勝利を意味していた。

 

その光景を見てシェルターの中の千歳はホッと一息をつく。作戦は順調に進んでいるようだ。安堵の気持ちが祟ったのか視界ぐらりと揺れ、千歳は慌てて椅子にもたれかかる。

 

(う・・・・気持ち悪い・・・・)

 

千歳は青ざめた顔をしているが無理もない。先日まで一介の中学生だっった千歳が宇宙人犯罪者に対面し、あまつさえストルム器官を駆使してメビウスのエネルギーを生み出した事は多大な負担を与えていた。

 

だがそれでも家族に支えられた千歳は月面近くに切り替わったモニターを見やる。そこでは今もウルトラマンメビウス/細波リオと、ハイパーデス/モネラ星人ヴェンジェラが凄まじい戦いを繰り広げている。その戦いは激しさを増し、もはや防衛隊の戦闘機では近寄ることすら出来なかった。

 

(お願いします…私はまだ友達や家族と生きていい・・・・だから)

 

千歳は一瞬だけ見えたメビウスの姿に祈る。どうか勝ってと。

 

 

 

 

 

 

 

『「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああ!!」』

 

「があああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

月面をウルトラマンメビウスとハイパーデスがつばぜり合いの状態のまま移動していく。二人のエネルギーの強さを証明するか様に月の地表を砕き、回転するかのように位置を入れ替えつつ、高速で二つの影が地表を滑っていく。

 

 

既に両者は互いの力を尽くした死闘により、全身に大小の傷を負っている。だが両者の動きにはその影響は微塵も見えない。メビウスとリオは人々を守るという思いで、ヴェンジェラはウルトラマンと地球人への憎悪の力で、いまだに全力の戦闘行動を続ける。

 

「ああああああああ!しつこいんですよぉっ!!」

 

「ぐぅっ!」

 

ハイパーデスが折れた左の鎌でメビウスを殴りつけ、その体を吹き飛ばす。しかしメビウスも負けじと吹き飛ぶ間際に光のエネルギーを込めた手刀でハイパーデスの体を引ききるようにして切り裂く。

 

「ぐあっ!おのれえっ!」

 

『「メビュームシュート!」』

 

 

吹き飛ばされたメビウスはそれでもバランスを立て直し、抜き打ちに必殺光線を放つ。だがハイパーデスはゼットン由来の瞬間移動により光線を回避し、逆にメビウスの背後に出現した。

 

「殺ったぁ!がぐっ!」

 

しかしメビウスはあらかじめ予測していたかのように背後に向き直り、渾身の拳をハイパーデスに叩き込む。

そう、メビウスはハイパーデスの瞬間移動を予測した上で、自身が渾身の一撃を打ち込む為の布石としてメビュームシュートを放っていた。さらにメビウスは光線の反動を利用し、自身の拳に勢いをつけるという芸当までやっていたのだ。

 

 

メビウスとリオの豊富な戦闘経験を活かした巧みな立ち回りにヴェンジェラは対応しきれず、ハイパーデスが今度は月の重力を振り切り、弾き飛ばされ、さらにそれを追うようにメビウスが下からのスピンキックを見舞う。

ハイパーデスはとっさに腕で防御するが、ウルトラマンが回転を利用して放つ蹴りはそんな物では防ぐことは出来ない。右腕がその鋭利な刃毎粉々に粉砕されていった。

 

 

「がああああああああああああああああああああっ!!・・・・・だがこれでっこれで貴様を葬ることができる!」

 

両腕が砕け満身創痍のハイパーデスの中でそれでもヴェンジェラは勝利を確信する。その理由は二つ。まず一つ目はハイパーデスの胸部に搭載された殺戮兵器ネオトリオンフレイム砲のエネルギーの充填が完了した事。そしてもう一つはその射程内に地球を収められた事である。当然ながらメビウスはその射線上に立ちふさがりこちらも最大のエネルギーを込めた必殺技を放つ。

 

「ネオトリオンフレイム砲、発射ぁ!!」

 

『「バーニングメビュームシュート!!」』

 

ハイパーデスの胸部の砲塔からどす黒い熱線が放たれると同時に胸のファイアーシンボルからの焔のエネルギーと光のエネルギ―が融合した超高温の熱線が十字に組んだ腕から放たれる。二つの光線が宇宙空間でスパークを迸らせてぶつかり合う。当初はネオトリオンフレイム砲の莫大なエネルギーが勝っているかに見えた。だが徐々に、メビウスの光と焔の光線が闇の炎を押していく。

 

「もっとだ・・・・もっと熱く輝けえええええええええええええええええええ!!」

 

 

「馬鹿な・・・・ネオトリオンフレイム砲が・・・・・押し負けているだと・・・・・?」

 

ヴェンジェラは知らない。かつてリオがウルトラマンネクサスの変身者であった頃、この地球以外のネクサスの変身者の多くがそうであったように、リオのネクサスは赤い強化形態へと変身していた。だが彼のネクサスはそれだけでなく、焔を生み出し操る力を持ち、その莫大な熱量を以て幾多の強敵を倒してきた。そのネクサスとして戦った頃の力の残り火はまだ彼の体にかすかにある。その灯は今再び守るべき物の為に再び燃え上がりメビウスの持つ焔の力をより強力な物としていた。

 

「馬鹿な・・・・・まだ私は・・・・私の復讐は・・・・・」

 

『モネラ星人ヴェンジェラ!そんな歪んだ憎しみで、地球の人々を傷つけさせなどするものか!そのためなら僕は・・僕たちはどこまでも頑張れる!』

 

さらにメビウスの光線がハイパーデスの光線を押していく。メビウスが地球を、そこに生きる人々を守ろうとするのは、彼らの勇気を、平和を望む心をそれこそ数千年も前から心から愛しているからだ。ファイトの意味は憎しみじゃない。大切な物を守るためにどこまでも力を振り絞れるメビウスの勇気に、ヴェンジェラの歪んだ憎しみがかなうはずがなかった。

 

「おのれウルトラマン!おのれ地球人!この恨みいつか晴らしてくれる――――ぐぎゃああああああああ!!!」

 

そしてメビウスの光線がハイパーデスに到達し、その胸部を含む砲塔部分をヴェンジェラ毎消し飛ばすと同時に、大爆発を起こした。

 

超新星爆発のようなまぶしい光の中メビウスは地球へと飛翔する。美しく青い星に住む世界中の人々が彼らの帰りを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

人々を脅かすものが何にもない平和な朝の街を学生たちが歩いていく。月曜の朝にもかかわらず憂鬱そうな顔を見せる者は少なく、その大半は楽し気にしていた。その中には友達に囲まれた七原千歳もいる。彼女はかつての絶望が嘘のように幸せそうにしている。リオやウーリはその近くの車道に止めた車からそれを見守る。

 

「あの子はもう大丈夫そうだな。実に幸せそうな顔をしている。」

 

「さすがに登校を再開した直後はひと悶着あったらしいが、今はもうすっかり元通りの平穏な生活が送れているようだ。」

 

 

モネラ星人ヴェンジェラが倒れてからはや数か月、千歳はこれまで通りの平穏な生活を送っている。それには先日の戦闘で防衛隊とウルトラマンが彼女を守る意思を明確に示したのも大きいだろう。

 

確かに多くの悪の宇宙人にとってストルム星人の能力は魅力的である。しかしヴェンジェラのような特別な事情を持った者を除けば複数のウルトラマンや、強化され続ける防衛隊を相手にするリスクを負ってまで狙う程ではない。おそらくこれからも彼女は平穏な生活を続ける事ができるだろう。

 

「しかし・・・・・あの研究結果は本当なのか?もしそうなら喜ばしい事だが。」

 

「ああ。もう彼女や両親には伝えてあるが、恐らくはそうだろう。」

 

後部座席に座っていたテオドールが書類を取り出す。書類には大量の専門用語を含む非常に難解な内容が記述されており、門外漢のリオやウーリには解読不能だった。

 

「専門的な内容を抜きにして・・・・・この書類の内容を要約するとだな、地球人の血は俺たちが思っている以上に濃いということだ。人型の宇宙人でもストルム星人のような人間に近い種族とのハーフならば、ストルム星人の能力を持った地球人に近いといえるだろう。つまり・・・・・」

 

そこでテオドールは一度言葉を切る。本来生物としては望ましくない結果であるはずにも関わらず、彼はどこか嬉し気に口を開いた。

 

「彼女の寿命は地球人のそれに準ずる可能性がほぼ確実であるという事だ。彼女は友達や家族と同じ時間を歩んでいく事が出来る。それはよい事なんだろうな。」

 

 

何処か安堵したような三人はそのまま友達と仲睦まじい様子の千歳を見やる。風に吹かれたのかトレードマークの赤いリボンがほどけかけ、それを友達の麗奈という少女が結びなおしていた。電柱の陰に隠れた翼がその光景を見て何処か満足気にうなずいていた。

 

「・・・・・・・なんというか、彼は大丈夫なのか?」

 

「おそらくだが心配ないだろう。ああみえてティガに選ばれるだけの善性や勇気は持っている。おそらく、きっと、大丈夫なはずだ。それにあの子の周囲に護衛となれる人間がいた方がいいだろう。」

 

「・・・・そうだな。」

 

ウーリのややため息交じりの科白にリオはうなずいた。まあ恐らく大丈夫だろう。あの翼という少年は善良な人間

なのだし。

 

こちらに気づいた千歳がそっと会釈する。その様子からはあの時の影は見えなかった。穏やかな表情の千歳にこちらも会釈を返し、ウーリは車を発進させる。あの子はもう大丈夫だろう。

 

平日の朝の為か道路は空いている道路を車が走り抜ける。まずはテオドールが研究成果についての見解を述べる為防衛隊の研究所前で降りる。ただその前にリオとテオドールは同じ光を受け継ぐ戦友同士として拳を合わせる。

 

「地球は任せたぞ、後輩。」

 

「ああ。俺は生きてこの絆の・・・ネクサスの光を継いで見せる。だから安心してくれよ、先輩。」

 

いかつい顔に笑みを浮かべ言い放ったテオドールは踵を返し、研究所へ向かっていく。彼は彼でネクサスとしての他に、人の命を救う医者としての使命もある。二つの使命を背負った背中はその頑健な体躯以上に大きく見えた。

 

「さてと、じゃあウーリあの公園まで頼む。」

 

「了解。不審者に間違えられるなよ?」

 

「・・・・・前もオペレーターに言われたよ。それは。」

 

従兄同士の気の置けない会話をリオはウーリとする内に車は公園に着く。リオは一つ伸びをすると、のどかな公園の道を散歩する。あの激動の数日間が過ぎた後、傷の癒えたメビウスはすぐにリオと分離し、旅立っていった。宇宙警備隊員である彼が救うべき人々は世界中どころか数えきれない宇宙にいる。故に彼また戦いの旅に出ていった。別れ際にしたメビウスとの会話がリオの脳裏に思い起こされる。

 

 

 

「ありがとうウルトラマンメビウス。おかげあの子達の命や未来を守る事が出来た。」

 

『それは僕だけの力じゃありません。確かに僕はヴェンジェラを倒した。でもあの子を救ったのはリオさんやあの子の友達や家族の愛情です!』

 

メビウスはどこか熱を込めてそう言った。ウルトラマン特有の表情の分かりづらい顔もどこか嬉し気にリオは感じられた。

 

『僕も嬉しかったです。地球の人々の愛情や思いやりを久しぶりに感じることができて。仲間たちと戦ったあの頃を久しぶりに思い出しました。』

 

「そう言われると照れ臭いな。でもそういう思いは大切だと俺は考えているよ。」

 

穏やかな目をしたリオはそこで言葉をいったん切る。宇宙の彼方から来た戦友に伝えておくべき言葉があった。

 

「俺はもうウルトラマンじゃない。でも一人の人間として人々の笑顔を守るために自分なりに、戦い続けるつもりだ。そして少しでもこの地球を平和で良い場所にしていきたいと思う。だからメビウス。いつかまたこの地球に来てくれないか。例え俺がいなくなった後でも構わない、平和な地球を見てほしいんだ。」

 

『喜んでリオさん!僕は必ず行きます!絶対に・・・・この地球にまた来ます!』

 

「そうか。ありがとうメビウス。君のことは忘れない。」

 

『僕もです!短い間でしたが、ありがとうございました!』

 

そういってメビウスは飛び去ってい行った。リオの中に鮮烈な記憶を残して。

 

 

公園を歩きながらリオは考える。メビウスの名を持つウルトラマンはその名の通り、仲間との絆を人からすれば無限とも思える時間受け継ぎ、戦い続けている。だがそれは地球人も同じなはずだ。人が人を思う気持ちはこの世界に人がいる限り受け継がれていく。その絆の連鎖を永遠とするためにウルトラマンは、人々は戦っていくのだ。自分がかつてそうであったネクサスやメビウスの様に。

 

「絆は永遠、か。」

 

メビウスの去っていった空をリオは見上げる。一人の人間としての彼の戦いはまだ続く。だが今は自身の内にある絆を想おう。穏やかな日の下、リオはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ウルトラマンメビウスBRAVE NEW WORLDはこれで完結です。

つたない作品にもかかわらず、読んでいただきありがとうございました。今後もすぐにではありませんが、この作品と同様の世界観のウルトラマン作品を書く事になると思うので、その時が来たらまたよろしくお願いします!


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