FAIRY TAIL ~ハンターの物語~ (ペラペラ)
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黒竜との闘い

1話目では主人公のキャラが全く出せていませんがご了承ください。


深い森の中・・・

そこである男は目覚めた。

その男を見てまず目につくのはその身にまとう防具だろう。赤を基調とした、どこか刺々しい印象を受けるその防具は、リオレウスと呼ばれるモンスターの素材によって作られるものである。兜については装備しておらず、若いものの、数多くの修羅場を乗り越えてきたことを感じさせる精悍な顔つきをしていた。

 

「ここは...どこなんだ...」

 

男は自分の現在の状況に困惑していた。

男の名は〈レクト・ロールス〉

あらゆるモンスターを討伐し、若くしてG級へと上り詰めた<モンスターハンター>である。

昨日も火竜との激闘に勝利し、自宅にて疲れを癒すべく早々にを睡眠をとったはずである。

 

「なぜ森の中に...」

 

そう呟きながら、レクトは体を起こし、辺りを見渡してみるも、その場所に覚えはない。どうしたものかと考えていると、レクトに突如緊張が走った。

これは大型のモンスターに遭遇した際に感じるプレッシャーのようなものである。

 

——ガアアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 

直後凄まじい威圧とともに、爆音とも呼べるほどの咆哮が響き渡った。

その声に木々が震え、地震でも起きたのかと錯覚するほどの衝撃が走る。一般人であれば間違いなく気絶するほどの圧力、しかしレクトは臆することなくその咆哮のもとに向かう。

 

「黒い竜...こいつはなんだ...」

 

多くのモンスターを相手にしてきたレクトにも、その竜に見覚えはなかった。初めて見る黒い竜の姿に多少の驚きはあったが、すぐに一つの思いが生まれた。それは・・・

 

 ———狩りたい 

 

それはハンターであるレクトにって当然なのかもしれない。

 

すると黒竜は自分に向かってくる圧を感じ、レクトに視線を向けた。竜にとって人間など恐れるに足りないものである。それは〈竜の王〉であり、他者を寄せ付けない圧倒的な力をもつ黒竜にとって当然のことである。

 

しかし・・・

目の前の男は竜の目から見ても弱者とは思えなかった。それどころか、王である自分に届きうる力を持つと、そう感じていた。

故に、黒竜は決めた。この男を、今、全力で排除しようと——

 

 

レクトは狩りたいと思うと同時に、今自分は武器を所持していない事に気づいた。いくらレクトが強者であろうと、竜相手に武器は必要だろう。

その時レクトに不思議な感覚が走った。

 

——出せる

 

そう感じたレクトは右手に意識を集中した。あらゆる武器を巧みに使いこなし、相手に合わせて自在に戦闘方法を変えるレクトがその時使いたいと思った得物は、太刀と呼ばれるものだった。

するとレクトの右手に一振りの刀が現れた。

 

———黒刀【終の型】

 

それは属性こそないものの、切れ味に特化した太刀であり、あらゆるものを切り裂く鋭さを持った刀である。その刀を見てレクトはニヤリと笑みを浮かべて、刀を背に背負い竜に向かって駆け出した。

 

向かってくるレクトに対し、黒竜も臨戦態勢となり、自分と比べればはるかに小さいその体を潰そうと腕を振り下ろした。

 

———ドカアアアアアアアアアァァァァァァァァァアアアアアアアア

 

竜の一撃は地面をえぐり、木々を吹き飛ばし、向かってくるハンターを押しつぶしたようにも見えた。

しかし、レクトは様々なモンスターとの戦闘経験から相手の攻撃場所を予測し、事前に回避、そして背に背負う太刀を引き抜き、黒竜に向かって勢いよく振り下ろした。

 

――ブシャアアアア

 

そのひと振りはあらゆる竜の攻撃でも傷つけることが難しい黒竜の体を切り裂いた。

 

「ゴアアアアアアアァァァァァァァァァァァァアアアアアアアア」

 

その一撃では竜に与えるダメージなど微々たるものだろう。しかし竜にとって人間に傷つけられるということは初めての体験であり、プライドを傷つけられる傷つけられるものであった。

 

「どうした?たった一撃食らっただけだろう?

 今までどんな敵を相手にしてきたのか知らないが俺を一緒にしないほうがいいぞ。

 おれは〈ハンター〉だからな。」

 

攻撃の後距離をとったレクトは、そう言って口元に笑みを浮かべた。

 

 

言葉のわかる黒竜にとってそれは、存外に油断をしていれば死ぬぞと、そう言われたように感じた。

 

「——ガアアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

それに怒りを覚え、黒竜は全身から怒気を発しながら、大きく咆哮をし、ふたたび向かっていった。

 

「そうこなくては、油断などない、本当の強者との戦闘だからこそ燃えるのだから——」

 

そう言ってレクトもまた、黒竜に向かって駆け出した。

 

 

 

***********************

 

 

 

 

そこからの戦いを言葉で表すならまさに災害であった。

竜の一撃で地面は抉れ、ブレスによってあらゆるものが吹き飛ばされていく。

それらの直撃を避けレクトもまた太刀をふるう。人間とは思えないほどの力を持ったそのひと振りは、風を巻き起こし、小さいながらもまるで竜巻のようであった。

 

互いに死力を尽くし傷を重ねていく。竜の体には多くの切り傷があり、そこから赤い血が流れている。ところどころ鱗もはがれており、黒竜の力を知っているものが見たら、驚愕することは間違いないほどに、傷を負っていた。

 

レクトもまたかつてない程の強大な相手と戦える嬉しさを感じつつも、その身の疲労度は無視できないほどのものであった。戦いの最中に、太刀と同じ要領で回復薬等の道具を出せることに気づく。しかし、出せる数は無限ではなく、取り出すたびに力が抜けていくように感じたため、最低限の回復のみにとどめていた。そのため、体の至る所が痛み、身にまとっていた強固なレウス装備も所々破損していた。

 

そして長く続いた激闘は終わりを迎える。

何度目になるか分からない1人と1匹の激突。竜はその巨体と翼を用いた推進力でレクトを押しつぶさんとする。

それをレクトは人間離れした動きでさけて、刀を振り抜き、突き、切り上げる。そこで大きく黒竜は怯んだ。

レクトはそこを好機とみて、残り僅かな力を振り絞り刀を大きく振るう。それは気刃大回転斬りとよばれる技である。これで仕留めるという強い意志で刀を振るい、レクトは確かな手応えとともに黒竜を切る。これで終わり、そう思った。

しかし黒竜は意地とプライドで耐えきり、僅かな体力を使い切りブレスを放った。

それを見抜いたレクトは避けようとした。しかし、体は限界を迎えていた。

直前の気刃大回転斬りで力を使い切っており、避けるだけの体力も残っていなかった。

迫ってくるブレスを見てレクトは

 

「クソッ!!」

 

と悔し気に叫びながらブレスを受けた。この戦いにおいて初めてまともに食らった攻撃であり、レクトの強靭な体を持っても一撃でダウンさせる程の威力を持った攻撃であった。ブレスを受けたレクトはその頑丈さで、粉々になるということはなかったものの体を削られながら、遥か彼方まで吹き飛ばされていった。

それを見届けた黒竜もまた、力を使い果たしその場に倒れこむのであった。

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 

吹っ飛ばされていく中で、レクトは自分がいた場所が無人島であったことを知る。

ブレスの勢いはすさまじく島の外まで飛ばされやがて海に落ちた。

 

 

 

 

 

楽園の塔

 

それは闇の魔導士ゼレフを生き返らせることを目的とした、海にたたずむ建造物である。

そこでは、誘拐されてきた者たちが奴隷のように、毎日厳しい労働を強いられている。

そんな建物に大量の血を流しながら、漂着した男がいた・・・



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楽園の塔

楽園の塔にて・・・

 

監視から血まみれの男が居るという情報が入り、数人の警備兵は男のもとへ出向いた。

 

「本当に血まみれじゃねえか」

 

「どうする?まだ息があるようだが」

 

「最近騒いでいるガキ共の牢屋にぶち込んでやろう。人が死ぬところを目にすれば少しは静かになるだろう」

 

そう言って、警備兵達は男を建物の中に引きずっていった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

楽園の塔内の牢屋・・・

そこにはまだ幼い少年少女からお年寄りまで、多くの人が入れられていた。そこでは青い髪をした少年<ジェラール>を中心に数人の子供達が、これから脱走しようと話し合っていた。

 

そこに1人の男が連れてこられた。

 

「今日から新しい仲間だぞ、仲良くするんだな!ハッハッハッハッハッ!」

 

そう言って警備兵は牢屋に男を投げ入れた。

 

「なっ!?」

 

その場にいた全ての者達は声を失った。その男・レクトは生きているのが不思議な程の状態であった。体の至る所から血を流し、特に腹部は大きくえぐれ、もうすぐ死んでしまうと皆が思った。

 

「どうする・・・」

 

「もう手遅れだろ・・・」

 

そんな声がちらほらと聞こえて来る。そんな中、ある少年と少女が声を上げた。

 

「すぐに手当てしよう」

 

「まだ助かるよ!ロブおじいちゃん、どうすればいいの?」

 

1人は先ほど、子供達の中心となっていた青髪の少年ジェラール、もう1人は赤い髪をした少女エルザだ。2人はレクトを助けようと考え、経験値のある牢屋内で一番高齢のロブに相談した。

 

「この牢屋で出来ることは限られてくるね。そこらにある布を傷口に巻くぐらいしか・・・」

 

そう言ってロブは残念そうにした。此処には回復系の魔法を使える者はおらず、治療をするための道具もない。多くのことを経験してきたからこそ、レクトが助からないという結論に至ったのだろう。しかし、それを聞いた2人はすぐに取り掛かった。そんな2人に触発され、周りに居た者も動き出していた。ボロボロになった装備ではあるが、火竜の素材を生かして作られた防具は重く、大人でも一苦労するほどであった。防具を脱がし、布を体に巻きながら、大人はこの重さの装備を纏っていたレクトに驚きつつも、皆で手当てをした。

そして、一通り体を布で覆った後、男を寝かせた。小さくではあるが、確かに呼吸をしており、まだ生きていることが分かり、レクトの生命力に驚きつつも皆一息ついていた。

 

 

 

:::::::::::::::::::::::::::::

 

 

 

子供達は決心が揺らいでいた。血まみれで牢屋に入れられたレクトを見て、失敗すればどうなるか想像してしまったのだろう。実際のところ、レクトの傷は黒竜との傷によるものであり、楽園の塔に居る教団とは一切関係ないのだが、知るよしもない。

 

そんな時、牢屋の外から声が掛かって来た。

 

「この牢屋のガキ共が脱走を企てているっていう話を聞いた。そんなふざけた奴らは全員懲罰房行きだが、これ以上の建立の遅れはまずい。そこで、今回に限り懲罰房行きは計画の立案者のみとする」

「優しいだろう?俺達は、ヒヒヒヒ・・・」

 

そう言って教団の男達は醜い笑みを浮かべながら詰め寄って来る。

立案したのはショウだった。しかし、恐怖で名乗り出ることができずにいた。そんな中・・・

 

「俺だ、俺が計画を立案し指揮した」

 

そう言って名乗り出たのはジェラールだった。しかし

 

「ほう、だがこの女だな」

 

そう言って男はエルザを連れて行く。

 

「違う!!」 「エルザッ!」

 

ジェラール達は叫ぶが、教団の男達はそのままエルザを引きずって行く。

 

「大丈夫だよ...私は平気だから...」

 

そう言ったエルザはガクガクと震えながらも、皆に必死に笑みを浮かべ連れて行かれた。

 

 

そんな中、壁際で寝かされていたレクトの体はすさまじい勢いで回復していた・・・

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「エルザッ!」

帰って来たエルザを見て子供達が駆け寄る。

エルザはフラフラで片目は潰されたのか、血を流しており、その目からは光が失われていた。そんな姿を見て皆悲痛な表情を浮かべ、ショウは泣きだしてしまった。

 

「俺達が何をしたっていうんだ!」

 

ここにいる全員が怒り、しかし何もできない無力さに嘆いた。

 

「なに騒いでいる!!」

 

泣き声を聞きつけた警備兵が怒鳴りながらやって来る必死。周りの者は必死にショウをなだめるも、一向に泣き止む気配がない。子供の精神ではもはや限界だったのだろう。

 

「うるせえガキが!1人くらいならいいだろう」

 

そう言って男が持っていた剣を振り下ろした・・・

 

ボンッ

 

そんな音が聞こえたのち、男が持っていた剣は吹き飛んでいき天井に刺さった。

 

「モンスターでもない、こんな幼い子供に切りかかるってのはどういうつもりだ」

 

そこにいたのは一切の傷がなく、真っ赤な2本の剣〈サラマンダー〉を手にしたレクトだった。

 

「なぜお前が生きてっ!?」

 

いるっ!と言おうとした瞬間、男は吹っ飛ばされ壁に激突、同時に周りにいた男達も一切反応が出来ないまま、吹っ飛ばされ気絶した。

 

「剣の峰を使うのは初めてだな・・・」

 

そう言ってレクトは剣を見る。レクトは剣の峰を男達にぶつけた。普段のレクトからは考えられない程手加減したものだが、その双剣のもつ属性は火であり、男達を気絶させるには十分すぎる程の力を持っていた。

 

牢屋内に居た者達は全員驚愕していた。生きているのが不思議なほどの怪我を負っていた男が、いきなり警備兵を倒し、その体には傷が一切なくなっていたのだから。

全員が言葉を失っていると、不意にレクトが話し始めた。

 

「俺の名はレクト・ロールス。手当てをしてくれたこと心より感謝する。ところで、この状況について誰か説明してもらいたいのだが、それよりも・・・」

 

レクトはあまり掴めていない現状を聞こうとするも、1人の少女に目が行きそちらに近づいていく。片目から血を流しながら、こちらを見ていた赤い髪の少女、エルザのもとへ。

 

「見ず知らずの男の言葉など信用できないかもしれないが、騙されたと思ってこれを飲んでみてくれないか?」

 

そう言ってレクトは意識を集中することによって出した〈古の秘薬〉を渡す。エルザは戸惑いながらもそれを受け取る。初めて話す相手であるが、どこか安心する男の雰囲気を感じ、それを受け取り、口に入れた。

すると、今まで流れていた血も止まり、驚くことに目が治っていた。その様子を見ていた周りの者も驚き、それを渡したレクトに驚愕していた。

 

「目が・・・治った・・・」

 

だが誰よりも驚いていたのはエルザである。もう一生治ることはないと思っていた傷が、一瞬にして治ったことで、驚きそしてなによりも嬉しかった。

 

「ありがとうございます!」

 

そう言って頭を下げるエルザの頭に手を置き

 

「それは良かった、君の名前は?」

 

と聞いた。

 

「エルザ・・・ただのエルザ」

 

「そうか、それは少し寂しいな。綺麗な髪の色をしている。その髪の色、スカーレットを名前にする、というのはどうだろうか?」

 

レクトはエルザの頭をなでながらそう言った。

 

「エルザ・・・スカーレット・・・うん! 今日から私はエルザ・スカーレット!」

 

そう言って満面の笑みを浮かべた。それを見て

 

「これからもその可愛い笑顔を大事にすると良い」

 

そう言ってもう一度頭をなで、エルザに優しく微笑んだ。

エルザは顔を真っ赤にしながら、小さくうなずいた。そしてレクトは立ち上がり周りを見渡し尋ねた。

 

「俺は何故、此処に居るのか、此処がどこか全く分からない。誰か説明してはもらえないか?」

 

すると1人の男が前に出て、此処が闇の教団が作ろうとしている塔で、自分達は奴隷として連れてこられたということを説明した。

 

「そうか・・・皆辛かっただろう、しかしそれも今日までだ」

 

そう言って、牢の檻を切った。奴隷達は鉄を容易く切ったレクトに驚き、そして思った。この男なら自分達を救ってくれると・・・

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

楽園の塔ではかつてない暴動が起きていた。

 

解放された奴隷達が集団で反乱を起こし、教団の者は対処しきれないでいる。いつもは自分達を恐れて一切抵抗しないが、まるで救世主を味方につけたように、希望に満ちた目をして突き進んで来る。そして時折聞こえて来る轟音に、教団の者は恐怖を感じるが、奴隷達はさらに勢いづいていく。奴隷に体力はさほどないはずだが、誰かが回復させていると思うほど、動きが鈍る気配すらない。誰が見ても奴隷達が有利であった。

 

白い装備を身に纏ったレクトは、赤い双剣で警備兵を次々と無力化させていき、奴隷を解放していく。圧倒的なスピードについていけるはずもなく、敵は見る見るうちに数を減らし、レクトが柱なども切り倒すことによって、教団の連携は一切機能していなかった。また、レクトは〈フルフル〉と呼ばれるモンスターの素材によって作られる防具のスキル、広域化によって奴隷達を肉体的にもサポートしていた。

 

エルザやジェラール達は無事に外までたどり着き、脱出に使おうと決めていた船に乗り込んだ。奴隷達は皆乗り込み一息ついている中、レクトのことを特に気にしていた2人は、塔のほうを見ていた。

 

「レクトさん・・・大丈夫かな・・・」

 

「当然でしょ! 絶対に負けないから!」

 

少し不安げに言うジェラールに対して、エルザは言い切った。

 

ドオオオォォォオオオオン

 

そんな時、大きな爆発音が聞こえたかと思うと塔が崩れだした。出口もふさがり思わず2人とも顔が険しくなる。しかし、ドカアアアァァァンという音とともに、塔に穴が開き白い服の男が飛び出して来た。そしてそのまま船に飛び乗った。

その男、レクトにエルザは勢いよく抱き着いた。その目からは涙が流れており、やはり心配だったのだと思われた。

 

「心配かけてすまなかったな」

 

「うんっ」

 

エルザの頭を撫でながらそう言いいつつも、内心で『大タル爆弾Gやっぱすごいな・・・』などと考えていた。ふと我に返ったエルザはいきなり抱き着いたことに恥ずかしくなり、顔を赤めて元の場所に戻って行った。

そしてレクトは周りを見渡して言った

 

「もう皆を縛るものはない。出航しよう」

 

それを聞いた元奴隷たちは、雄たけびを上げた。自由になれたことの喜びと、自分達を救ってくれたレクトをたたえて。

船は自由に向かって進み出した。

 

 



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FAIRY TAILへ

船は楽園の塔から近隣の島を目標に進んでいた。

元奴隷たちはボロボロの服を着ていたため、レクトがインナーを出し着替えさせていた。鎧の下に着るものなのでかなり薄手のものだが、きれいなものを着れるだけでも喜んでいた。

ある程度落ち着いてきたところで、今後の事について話し合うことにした。

 

「この船は運のいいことに、教団の者たちのお金がのっていた。これを分配していこうと思う。そして島に着いたら各々の行きたいところへ行き、やりたいことをしよう」

 

そう言ってレクトは皆にお金を配った。

 

「幼い子や今後の事がまだ考えられない者はしばらく助け合っていくと良い。この者たちが今後の指揮をしてくれる」

 

そうして2人の男を示した。2人はレクトが最初に助けた奴隷である。レクトの雄姿に感動し、レクトのように皆を救いたいと考え自ら申し出たのだ。こうしてほとんどの者が今後の事を決めていく中、2人の子供がレクトのもとにやってきた。

エルザとジェラールである。そしてその後ろからやってきたロブが言った。

 

「レクトさん、どうかこの2人をFAIRY TAILという魔導士ギルドまで連れて行ってくださいませんか」

 

「FAIRY TAIL?」

 

「はい。私が奴隷になるまでいたギルドです。この子達は魔導師になりたいと言っておりまして、レクトさんが引き受けてくださると安心ですから」

 

レクトはロブに言った魔導士という言葉に疑問を持っていた。これまでのことを思い出してみると、起きてすぐ黒竜との戦闘になったり、気づけば奴隷たちと牢に入れられていたりと落ち着いて今の状況を考える暇がなかったことに気づく。冷静になってみれば教団の者たちは杖から火や風をとばしており、レクトも装備やアイテムを自在に出していたが、それはまるで魔法である。

(ここは魔法が存在する世界、そして俺自身魔法のような力でも与えられたのか・・・)

元G級ハンターなだけあって順応力が高く、普通なら発狂するほどの事にもかかわらず、落ち着いて現状と向き合っていた。

それどころか・・・

(この世界では黒竜のように、今までにない強者とも出会えそうだ)

とすでに楽しみにしているのであった。

 

「いいだろう。俺も世界を見て回りたいし、魔導士ギルドにも興味がわいた。だが2人は俺とでいいのか?」

 

そう聞くと2人は声をそろえて、

 

「レクトさんと行きたい!!」

 

エルザはなぜか顔を赤らめながら、ジェラールは羨望のまなざしを向けて言った。

 

「そうか、では一緒に行こうか。FAIRY TAILへ」

 

こうして、レクトと2人の子供は共に行くこととなった。

 

 

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、船は陸についた。

そこからは別れて、それぞれの行きたい場所へ行くことになった。

レクト達もここからは陸を進んでいくため、船を降り、元奴隷の者たちとは離れることになる。これから、まだ船に乗って海を行く者達たち、陸の違った進路を行く者たちがいるが、2人を除きレクトとは別れるため、最後にもう一度感謝の気持ちを伝えた。

ロブは「2人のことよろしくお願いします」と言い頭を下げた。ロブは先が長くないことを悟り、海を行くことになった残りの子供たちの面倒を見るそうだ。

 

エルザとジェラールも他の子供たちに別れをつげて、落ち着いたらまた連絡を取り合おうと約束した。

そして、3人はFAILY TAILへ出発した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

3人旅の道中、様々なことを話した。ジェラールがレクトの強さの秘訣を聞いたり、エルザがなぜかレクトの好きな女性のタイプを聞いたりと、そんなやりとりをしながら仲を深めていった。

 

また時間があるときはレクトが簡単な体捌きを指導したり、時折遭遇する盗賊やモンスターと戦ったりと、エルザとジェラールはこの短期間でもぐんぐん成長していた。強い敵が現れた時はレクトが喜々として向かっていき、1人で倒していたが・・・

そんな中、2人は魔法が発現した。エルザはレクトのことを考えてると、レクトと似た、ザ・ナイトと呼ばれる魔法が使えるようになった。剣や鎧を換装する魔法で、レクトと同じだと内心で大喜びしていた。

ジェラールは天体魔法を使うようになった。途中、立ち寄った小さな村で読ませてもらった文献に載っていたものだ。レクトの圧倒的な剣のスピードや破壊力にあこがれたジェラールは、この魔法でいつかレクトのような強者になると誓った。

 

 

 

そうして3人は進んでいき、FAIRY TAILのある街、マグノリアに到着した。

 

 

 

 

*****************

 

 

 

 

マグノリアの街をFAIRY TAIL目指して歩いていると、凄く賑やかで明るい街であることが伝わってきた。そして、時折FAIRY TAILのことを楽しげに話す人も見かけ、2人はこの良い街とその中心であるギルドに入ることが益々楽しみになっていた。

 

「大きい!」

 

そう言って驚くエルザとジェラール。2人の反応は正しいだろう。それほどにFAIRY TAILは大きく堂々としていた。レクトはギルドの集会所のような雰囲気に懐かしさを感じつつ、

 

「早速中に入ろうか」

 

そう言って緊張している2人を促し、ギルドに足を進めた。

 

 

中に入って最初に思ったことは『騒がしい』だった。まだ昼間であるにも関わらず酒を飲んでいる者、取っ組み合いの喧嘩をしている者、女性を口説いている者等、多くの人が集い盛り上がっていた。

 

とりあえず、マスターに挨拶しようと周りを見渡す。すると1人の爺さんが目に入る。その爺さんのオーラから何かを感じ取ったレクトは、2人を連れて向かう。

 

「あなたがここのマスターか?」

 

そう爺さんに尋ねると、

 

「そうじゃ、わしがFAIRY TAILマスターのマカロフという。わしに何か用かな?」

 

そう言ってくる爺さん改めマスターマカロフ。

 

それに対してエルザとジェラールは

 

「FAIRY TAILに入れてください!!」

 

そう言い、頭を下げて頼み込む。

マカロフはその姿を見て、心の底からFAIRY TAILに入りたいという意思を感じ取り言った。

 

「良かろう。2人をFAIRY TAILに迎えよう。同世代の子たちもおるから話してくるといい」

 

その言葉を聞いて2人は喜び、近くにいた子供たちのもとへ行った。

 

2人が離れたところでレクトはマカロフに2人の境遇とこれまでの経緯を説明する。それを聞いたマカロフは、このギルドは皆家族となり2人にとっても楽しい場所になると言った。

そんな中マカロフはレクトに問う。

 

「2人のことは分かったが、おぬしはどうするんじゃ?」

 

レクトはその言葉を聞き、答える。

 

「俺は強敵と戦い自分の力を極めたい。そのために、しばらくは旅をしようと考えている。あの子らのことも心配だが、強い子たちだからきっと大丈夫だろう」

 

レクトは魔導師ギルドに興味があったが、ここに来るまでにも様々な経験をしてまだまだ旅をしながらモンスターと戦いたいと思っていた。

そう言ったところで2人がちょうど戻ってくる。

レクトの話が聞こえていたのか、急に暗い顔になり、

 

「レクトさんはFAIRY TAILに入らないの…」

 

「もう会えなくなってしまうのですか…」

そう言って落ち込む2人。

 

「俺もお前達とは離れたくないが…」

 

目の前で泣きそうな顔をする2人に珍しく狼狽えるレクト。

それを見たマスターが言う。

 

「FAIRY TAILに所属して旅に出てはどうじゃ?お主の力を見て問題が無ければ認めよう。FAIRY TAILに所属してここを拠点とすれば何度でも会えるじゃろう」

 

そう提案する。それを聞いてレクトは決めた。

 

「では俺もFAIRY TAILに入るとしよう」

 

それを聞いて2人はすぐに笑顔になり喜んだ。

 

「だが、先程も言ったように旅に出ようと考えている。戻ってくるのもいつになるかは分からないが大丈夫か?」

 

「きちんとここに帰ってくるのなら良かろう。だがお主の力を見たい。1週間後にギルダーツというFAIRY TAIL最強と言われている男が帰ってくる。その男と戦ってもらいたい」

 

マカロフはレクトのオーラから、普通の魔導師では相手にならないと感じた。そのため、ちょうど10年クエストから帰ってくるギルダーツのことを思い出し、戦ってもらうことで力を見極めようと考えた。

 

それを聞いたレクトは、『この世界では人との戦いにも慣れないといけないな』と考え、これは良い機会だと思い、了承した。

 

「分かった。その戦いの話、受けよう」

 

「よし、ではきちんと皆に紹介しよう。3人とも前に出てくれ」

 

そう言うと、マカロフは大声で、

 

「全員こちらに注目せい!この3人は今日から新しく仲間となったものたちじゃ」

 

と言う。すると、先ほどまで騒がしかったギルドが静まり、皆の視線が集まる。

そしてマカロフに1人ずつ紹介される。

 

「この女の子がエルザ・スカーレット、この男の子がジェラール・フェルナンデス、この男がレクト・ロールスじゃ」

 

すると、

 

「よろしく!」「どんな魔法使うの?」「歓迎会するぞ!!」

 

と歓迎されているようであった。それと同時に

 

「かっこいー!」「一緒に遊びに行こー!」

 

等、レクトに向けて女性からの黄色い声援が上がる。

レクトは整った顔立ちをしており、加えて数々のモンスターと戦う中で増していった男らしさがさらに女性からの支持を集めているようであった。

レクト本人は、

 

「ハンターは皆同じような顔だったが・・・」

 

等と思いながらも、きちんと受け入れてもらえているようで安心する。

 

こうして、3人はFAIRY TAILに所属することとなった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

皆から歓迎されてから1週間の間に様々なことがあった。まずは皆と一緒に食事をして盛り上がり、仲を深めた。エルザは女子寮に入ることになり、レクトとジェラールは、決まるまではとりあえずギルドで寝泊まりし、新しい環境に慣れていった。また時間があるとき、レクトは書庫で本を読み漁り、この世界の知識を深めていった。近場の簡単な依頼も受注して3人で向かい仕事もこなしていった。

 

 

そして1週間たった・・・

FAILY TAILから離れた広場にて2人の男が向かい合っていた。1人は先日入ったばかりの新入りであるレクト。今回防具は身に着けておらず、町で買った身軽な服装でいる。もう1人は今日帰ってきたFAILY TAIL最強と言われる、橙色の髪をオールバッグにしマントをした男、ギルダーツ。

マスターの言った通り、帰ってきたギルダーツとすぐに戦うこととなった。

ギルダーツの強さを知っているため、その戦いを間近でみようと集まった者や、レクトの実力を知るためにきた者、応援しに来た者など、ギルドの大半が集まっていた。

 

「俺がギルダーツだ。怪我しても恨みっこなしにしようぜ」

 

「レクトだ。見せてもらうぞ、ギルド最強の力」

 

お互い簡単に自己紹介をし、そして戦いが始まった。

 

 

この1週間でレクトの実力を見たものはいない。故に、エルザとジェラール以外の予想ではギルダーツの圧勝だと思われていた。それほどギルダーツは力があり、大陸でもトップクラスである。しかし

 

ヒュンッ

 

そんな音が聞こえたかと思うと、ギルダーツのマントの一部が切れた。そこには、赤い太刀を振りぬいているレクトの姿があった。周りの者は剣をふるう姿が見えなかったことに驚き、ギルダーツもレクトの実力を測り間違えていたことに気づく。そして、周りの者たちに言う

 

「もっと離れろ、俺も本気でやりてえ」

 

それを聞いた周りの者はすぐに離れていく。ギルダーツの本気の魔法に巻き込まれると、魔導士であってもただでは済まない。

ギルダーツはレクトに対して圧倒的強者のオーラを感じ、久しく忘れていた挑戦者としての気持ちを持って挑むことにした。

 

「オラッ!」

ギルダーツは魔力を持って拳をふるい、クラッシュという触れたものを粉々にする超上級魔法をレクトに放つ。

しかし、レクトは太刀の一振りで魔法を切る。あらゆるものを砕く自分の魔法を切られたことに驚愕するも、ひるまず拳を放ち攻め続ける。それらすべてを受け流し、切り裂き、レクトもギルダーツに向けて剣撃を放つ。

 

2人の周りの地面は、魔法の余波と斬撃でボロボロになっていく。しかし、2人の姿には大きな違いがあった。ギルダーツの体には傷が増え続けていくが、レクトの体には傷一つない。加えてギルダーツは自分の体に違和感があった。体の動きが悪くなっていき、次第にしびれていく。原因はレクトの使っている武器は、龍木の太刀と呼ばれる麻痺属性を持った剣である。ギルダーツは攻撃を受けるたびに、体の自由を奪われていき、ついに

 

「クソッ、完敗だ」

 

限界を迎え体はしびれて動かなくなり、地面に倒れる。それを見て、レクトは手に持った太刀を鞘に納める。

離れて2人の戦いを見ていた者たちは、あのギルダーツが手も足も出なかったことに驚いていた。

 

「全く、なんて強さだ。ここまで力に差があると悔しいを通り越して清々しいくらいだぜ」

 

そう言って仰向けになったまま言うギルダーツだが、レクトもギルダーツには驚かされていた。

大型モンスターを麻痺させる武器にあれだけ耐えて反撃し続けたこと、そしてその一撃の威力は周りを見れば一目瞭然だった。かたい地面がひび割れ粉々になっており、ギルダーツの力の凄まじさを物語っていた。

 

「俺も楽しませてもっらたよ。また戦おう」

 

そう言って秘薬を渡す。ギルダーツは一瞬驚くも、それを受け取り口に入れる。すると、見る見るうちに傷がふさがり、体のしびれも消えていく。驚愕するがこの男なら不思議じゃないかと思い立ち上がる。そして2人は握手を交わす。

そこにギルドの者たちもやってきて、2人の戦いを称え、その日は宴会となった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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旅と様々な出会い

レクトとギルダーツの戦いの後、ギルドは大いに盛り上がっていた。

皆が話すのは2人の勝負についてがほとんどで、戦いの余韻に浸っていた。特にレクトの強さを語るものは多く、それを聞いたエルザとジェラールはどこか誇らしげであった。

 

「おぬしの力には本当に驚かされた。ワシの想像をはるかに超えておったよ」

 

「全くだぜ、これほどの力を持ったやつがいるとは。俺を含めて皆にとっても良い刺激になったな」

 

そう言うマカロフとギルダーツ。

 

「それなら良かった。これで旅についても問題はないだろう?」

 

「そうじゃな、レクトの実力であれば1人の旅でも大丈夫じゃろう。じゃが、また注文を付けてしまって申し訳ないが、出発前にギルドの皆を少し鍛えてやってくれんか?まだあまり親しくなっていないが、憧れておる者もおるじゃろうし、あの戦いで皆レクトの強さに憧れておる」

 

マカロフにそう言われ確かにそうだと思い、

 

「分かった。俺もギルドの皆とは仲良くやっていきたいし、旅の準備も多少は必要だしな」

 

そう言ってレクトは了承し、少しの間ギルドのメンバーを鍛えながら旅の準備をしていくことにした。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

戦いと宴の翌日から、レクトはギルドのメンバーを鍛え始めた。全力で向かってきてもらい、動きに関して指摘をしていく。レクトも様々な魔法を見ることができ、楽しみながら指導していた。エルザやジェラールも参加しており、2人とも才能があるのかどんどん力を伸ばしていた。

そんな中、エルザに負けないほど熱心に指導を求めてくる子がいた。名前はカナ・アルベローナ。強くなりたいと、切羽詰まったような雰囲気があったため、

 

「時間があればいくらでも鍛えてやる。強くなりたい気持ちがあれば大丈夫だ。だが、そんな顔をするな。女の子なんだからもっと笑顔でいるんだ。かわいい顔が台無しだぞ」

 

そう言って頭をなでる。するとカナは顔を赤く染めながらうなずき、これで問題ないなと判断した。

そうしてギルドのメンバーとはさらに仲を深めていった。

 

街ではギルダーツとの戦いの話が広まり、レクトも積極的に交流していたこともあり、強くて頼りになる存在として認知されるようになった。

 

そんな中、1人の女の子が誘拐される事件があり、それをレクトが持ち前の実力と千里眼の薬を使って解決した。その子が町長の娘で、お礼としてギルドの近くの一軒家をプレゼントされた。1人で住むには大きすぎるほどのものだったが、せっかくいただいたものなのでありがたく使うことにした。

 

そうして1ヶ月ほど経って旅に出ることになった。その際、少し前に10年クエストを受けていたギルダーツを思い出して、旅のついでにいくつか10年クエストを受けていくことにした。

ギルダーツとの戦いで全員から認められてS級魔導師となったため、その役目も果たそうという考えだった。

マカロフもレクトの力は信頼しているため、同時に複数受けることも許可された。

そして

 

「すぐに帰ってきてね」

 

そう言って、少し目に涙を浮かべたエルザやカナ。

 

「次に帰ってくるまでにもっと強くなっています!」

 

レクトに宣言するジェラール。

 

「では行ってくる」

 

ギルドの皆に見送られて、複数の10年クエスト、そして世界を見て回る旅へと出発した。

 

 

 

 

 

*****************

 

 

 

 

 

旅に出てからしばらく経った頃

10年クエストの魔物の大量発生を大剣で切り倒していると、追い込まれている少女を助けた。すると、

 

「私を鍛えて下さい」

 

と頼み込んできた。

話を聞いてみると、その子は兄を探していると言う。兄の名前はシモンと聞き、レクトは以前に会った少年を思い出す。

 

「シモンという少年には心当たりがある。FAIRY TAILというギルドに行けばいつか再会できるはずだ」

 

その言葉を聞いて、驚愕し、

 

「それは、本当ですか!?」

 

レクトに詰め寄る。レクトは少女を落ち着かせながら、

 

「あぁ、きっと会える。マスターには俺から手紙を書いておく。近くまでは送っていこう」

 

「ありがとうございます。私の名前はカグラです。これからよろしくお願いします」

 

そう言ってカグラは頭を下げる。

 

「俺はレクトだ。こちらこそよろしくな」

 

そうして、カグラをFAIRY TAILまで送るのであった。

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

ある時、立ち寄った村でおかしな噂を聞いた。

村に悪魔がいると。レクトがギルドに所属していることを聞いて村人は退治を依頼した。レクトとしても、見たことのない敵と戦うことを楽しみにしていたためその依頼を受けた。

 

そして噂の家にやってきて、レクトは怒りを覚えた。そこにいたのは3人の子供達だった。おかしいと思い話を聞くと、村人を守るために悪魔に立ち向かい取りつかれたという。村を守ってくれた子供に対してこのような仕打ちをした村人達に任せてはおけないと、FAIRY TAILに来るかと誘った。

 

「私でもそのギルドに入れるのか!?」

 

長女で、悪魔に取りつかれた本人である女の子、ミラジェーンはレクトに聞く。腕が悪魔に取りつかれている自分なんかでも大丈夫なのかと心配なようだった。

 

「問題ない。俺もあまり詳しくはないが、その腕は取りつかれたのではなく取り込んでいるのだろう。テイクオーバーという魔法の1つだ。ギルドに行けばその力の制御の仕方も教えてもらえることだろう」

 

そうして、安心しろとミラの頭を撫でながらレクトは言う。すると、今まで我慢していたものが溢れてきたのか、レクトに抱き着いて泣き出した。エルフマンとリサーナは、ミラが突如泣き出したことに驚くも、ずっと気持ちを隠して我慢していたものを出せたことに安心し、レクトに心から感謝した。

 

そして3人を村から連れ出し、自由に、楽しく過ごせるように、FAIRY TAILに連れて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

 

またある時、遠くから悲鳴や轟音が聞こえてきた。すぐにそちらへ向かうと、大型のモンスターが暴れていた。そして、そのモンスターの前に1人の女性と2人の子供がいた。

女性が2人の前に立ち、子供達を守るようにモンスターに向かい合い戦っている。

 

大型のモンスターが口から息を吸い込みブレスを吐く準備をする。それに対して女性〈ウル〉は、自分の体を犠牲にしてでも2人を庇おうと覚悟を決めた。

 

ドゴオオオォォォ

 

という音とともにとてつもない魔力の込められたブレスが放たれる。それがウルの目前にまで迫った時、突如1人の男が間に入る。<アグナコトル亜種>というモンスターから作られる青色の防具を身に纏い、<レッドプロミネンス>と呼ばれる巨大な槍と盾のランスという武器を持ったレクトである。

モンスターのブレスに対して3人の前に立ち、盾を構えた。高威力のブレスが直撃するが、レクトは一切攻撃を通さない。ブレスが止まるとレクトは3人に向かって言う。

 

「ここは俺に任せてくれ。1人でこいつと戦いたい」

 

3人とも突如現れた男、レクトに驚くもブレスを軽く止めたのを見て、この人なら・・・

と思いその場から離れる。

レクトは3人が離れたことを確認すると、槍をモンスター<デリオラ>へと向け、襲い掛かってくる敵を迎え撃った。

 

3人は驚愕のあまり声が出なかった。デリオラはウルの魔法ですらほとんど効かず、圧倒的な強さを持っていた。それが今、一方的にやられているのだから・・・

 

デリオラの激しい攻撃を軽いステップで躱し、強固なガードで防ぎながらカウンターを繰り出していく。

そして槍での攻撃の度に、火が吹き出しデリオラの体を焼いていく。レクトの攻撃に耐えられなくなるのにそれほど時間はかからず、やがてデリオラの巨体は地面に倒れた。

 

「終わったぞ。3人とも大きな怪我はないようだが多少傷があるな」

 

そう言うレクト。するとレクトは回復薬を取り出し3人に渡す。

3人が手も足もでなかった相手を無傷で倒す強者であるが、不思議と恐怖は感じず、レクトに対して安心感を抱いていた。回復薬を渡された3人はそれを口に含む。すると、すぐに効果が表れ、体の傷が癒されていく。

 

「これでもう大丈夫だろう」

 

そう言うレクトに対して驚きっぱなしの3人ではあるが、助けてもらったことも含めてお礼を言う。その後ウルがレクトに対して質問した。

 

「あなたほど力のある人を見たのは初めてだ。どこのギルドに所属しているのでしょう?」

 

「俺はFAIRY TAILというギルドに所属している。仲間思いの良いギルドだ。まぁ俺は長い間旅をしていてギルドに帰ることは少ないが」

 

その話を聞いてウルは考える。2人の弟子は寒さに対する耐性もしっかりとついてきて、これからは魔力の使い方を覚えていかなければならない。そのためにも、もっと多くの魔導士と戦っていく必要がある。そこまで考えたところでウルは、

 

「この子達をFAIRY TAILにいれてくれないか?才能もあるし、まだまだこれから強くなる可能性を秘めている」

 

突如レクトに頼み込むウル。それを聞いて子供2人は驚くが、レクトは特に驚いた様子もなく

 

「それはもちろん構わない。うちのマスターの考えは基本来るもの拒まずだからな。ところであなたは来ないのか?」

 

ウルはそれに対して、

 

「私はこの子達を守ることが出来なかった。そんな私では「一緒に行こうよ!」

 

守り切れなかったことを悔やみ、2人のことは任せようと考えたウルだが、そんなウルの言葉を2人が遮る。そして、

 

「一緒に来てはどうだ?他人である俺から見ても2人はウルを慕っていることはよくわかる。2人にとってもウルは必要だし、ウルも離れたいわけではないだろう?」

 

そう言われてウルは二人の方を見ると、少し涙目になりながらこちらをじっと見つめていた。その目からはウルと一緒に行きたいという気持ちが見て取れる。そこでウルも決心した。

 

「やはり私もFAIRY TAILに入れてくれ」

 

それを聞いてレクトは、

 

「あぁ、歓迎しよう。これからは3人ともFAIRY TAILの魔導士だ」

 

そうして新たに3人、FAIRY TAILの魔導士が増えた。

 

 

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

 

 

1人の少女がいた。その少女は幼いころ親に見捨てられた。そんな世界が嫌で大魔法世界を望み、闇に手を伸ばしていた。そんな少女とレクトは出会った。初めは、「お前のせいで計画がっ」とレクトに対して攻撃的であったが、敵うはずもなく抑えられ、色々あって今はレクトが話を聞いていた。

話していく中で分かったことが、少女の名前はウルティア、幼い頃に親に施設へ捨てられ、今はハデスという男のもとにいるということ。

 

レクトは話を聞いている中で気になる点があった。それは少女の名前であり、少女の話を深く聞いていくうちに、最近ギルドへ招待したウルの実の娘ではないかと考えた。

レクトはウルから娘の話を聞いていた。助けたい一心で連れて行った娘が亡くなったこと、娘のことは心から愛していたこと、それらを思い出し、少女の話を聞くうちに予想が確信に変わった。

そして、それをすべてウルティアへ話した。初めはそんなはずがないとレクトの話を信じていなかったが、次第にレクトの雰囲気や眼差し、真剣な声から嘘でないと感じ、話の内容に驚愕し、そして母が自分を愛してくれていた事実に涙を流していた。

 

「今はFAIRY TAILという魔導士ギルドにいる。母に会いに来てはどうだ。ウルも娘に会えれば必ず喜ぶだろう」

 

「でも、怖くて・・・私のことはもう忘れているんじゃ・・・」

 

そう言って弱気なウルティアに対して

 

「この世に娘のことを忘れる親などいない。安心しろ。絶対に来てよかったと思える。俺が保証する」

 

そうしてウルティアはFAIRY TAILに向かうことになった。

 

 

 

 

 

:::::::::::::::::::::

 

 

 

 

 

その後も旅とクエストを行いながら、暴れている馬車を鎮めて金髪の幼い少女を救ったり、親から虐待に近い特訓を受けていた少女〈ミネルバ〉に守りの護符を与え励ましたり、星霊使いになるという銀髪の姉妹が盗賊に襲われているところを助けるなど、様々な問題に巻き込まれながらも多くの者を救い、レクトの旅は続いていくのだった。

 

 

 



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ギルドへの帰還

レクトは退屈に感じていた。

 

この世界に来て様々なモンスターと戦ってきた。初めて戦うモンスターばかりで楽しい日々だったのだが、如何せん相手にならないやつばかりだった。

-

勝つことは好きだが、ハンターとしてやはり血の滾るような熱い戦いを望んでいた。10年クエストも前の世界では上位に行くかどうかといったレベルだった。

 

「100年クエストに期待するしかないか」

 

そうつぶやくと、歩き出した。FAIRY TAILに向けて・・・

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

「私の方がアンタらなんかよりも気に入られているに決まってるだろ!」

 

「そんな性格で偉そうに。男と思われてるんじゃないか?」

 

「2人ともいつもうるさいぞ。女らしさの欠片もないな」

 

FAIRY TAILにて、少女達の言い合いが行われていた。ミラ、エルザ、カグラの3人である。内容は誰がレクトに気に入られているかというものだ。

 

ミラは悪魔に呪われたと嫌われていた自分を救ってくれたこと、エルザは楽園の塔から助けてもらい名前をもらったこと、カグラは兄を救い1人だった自分をFAIRY TAILに連れてきてもらったことなど、恩人であるレクトに好意を抱いていた。

普段は女性魔導士が少ないこともあり仲が良く、また競い合う良きライバルだが、レクトの話となるとお互いに一歩も譲らなくなるのだ。

3人が言い争っていると、ギルドの扉が開き2人の魔導士が帰ってきた。

 

「またやっているのか」

 

そう言いながら入ってきたのはウルとウルティアである。2人はレクトによってFAIRY TAILで再会を果たし互いの誤解も解け、仲の良い親子に戻っていた。ウルはグレイとリオンの指導を行いながらも、度々ウルティアと依頼を受けていた。

 

「あんたらみたいなちびっ子に興味持つわけないだろう。あたしみたいな大人の女性が好みってレクトも言ってたよ」

 

3人の少女に対してからかうように言うウル。

歳が上なこともあり、少女たちの母のような存在であるウルだが、レクトの話のときは時折こういった挑発をすることがある。昔に夫を亡くしており、ウルの本当の気持ちが分からないため本気で言っているのか分からないでいた。

 

「ウルさんはおばさんなだけじゃん!」

 

「私だってレクトさんが・・・でもレクトさんがお父さんっていうのもありかも・・・」

 

そう言い返す3人に、なぜか顔を赤らめぶつぶつと言うウルティア。そんな光景が最近は度々見られるのであった。

 

 

また別の場所では、

 

「今日こそはぶっ飛ばしてやる!」

 

「上等だ、かかってきやがれ!」

 

そう言い合い喧嘩を始めるのは滅竜魔導士のナツとグレイである。2人はなぜか仲が悪く、顔を合わせては喧嘩をしていた。それを見て、

 

「ナツ、少しは落ち着いてくれ」

 

「グレイ、そんな子供のような喧嘩ばかりして恥ずかしくないのか」

 

2人を宥めようとするのはジェラールとリオンである。ギルド内で常識人である2人は喧嘩をいつも止めに入っていた。

 

「レクトってやつより俺の方が強いに決まってんだろ」

 

「お前なんかがレクトさんに勝てるか」

 

と言い合っていると、

 

ドカンッという音がし、ナツが床に倒されていた。

 

「レクトさんのことを悪く言うのは許さん」

 

そう言ってナツを見下ろすジェラール。

ギルド内はどんどんヒートアップしていた。あるところでは少女たちの戦いが勢いを増していき、別の場所では少年たちの喧嘩に火がついていた。どちらも魔法まで使おうとしており、周りのギャラリーも賭けたり応援したりと盛り上がっていった。そしていよいよぶつかるという時、

 

「静まれいガキ共!!」

 

ギルド内に響き渡る怒鳴り声。その声で喧騒は一瞬にして静まる。その声の主はマスターであるマカロフだ。

 

「お前らはいつもいつも。少しは落ち着かんか。仕事でも問題ばかり起こしおって、レクトが一切被害を出さず10年クエストをこなしてくれておるからなんとか面目を保っているものの、少しは常識というものを覚えんか」

 

そう言われて落ち込むギルドのメンバーに対して、続けてマカロフが言う。

 

「先程レクトから手紙が届いた。もうすぐ帰ってくるそうじゃ。会うのは数年ぶりになるだろうから少しは成長した姿を見せい」

 

その言葉を聞いてギルドの雰囲気は一転する。

 

「やっと帰ってくるのか!」

 

「本当に久しぶりね」

 

そう言ってギルドのメンバーは盛り上がっている。レクトといた期間は短かったが、皆それぞれお世話になっており、またレクトの強さは皆の憧れでもあるので久しぶりに会えることを楽しみにしていた。

そんな中狼狽える者たちが数名・・・

 

「レ、レクトさんが帰ってくるの!?」

 

「出迎える準備しないと!」

 

先程まで喧嘩をしていた少女たちである。それぞれがマグノリアまで送ってもらって以来会っておらず、嬉しさに加えていざ会うとなると緊張しているのだった。

そうして皆がレクトの帰りを盛大に迎えようと準備を始めるのであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

マグノリアの入り口に1人の男が立っていた。

 

「ギルドに帰るのは久しぶりだな、皆と会うのも楽しみだ」

 

そう言うのはレクトである。何度かギルドに誘った者達をマグノリア近くまで連れてくることはあったが、すぐに旅に出ていたためギルドに戻ることはなかった。そのため、ギルドまで帰るのは数年ぶりとなり、皆の成長した姿を見るのも楽しみにしていた。

 

活気の良い町の様子に、マグノリアに帰ってきたことを実感しながらギルドへの道を歩いていた。先に家に寄ろうかと考えたが、やはり最初はFAIRY TAILに行こうと思い進んでいく。

そしてギルドに着き、懐かしさを感じながら中へ入る。

 

「お帰り~!!」

 

レクトがギルドに入ると、メンバーが歓声を上げながら迎える。周りを見渡し皆の元気な様子を見ながら

 

「ただいま」

 

そう言ってギルドへ帰ってきたのだった。

 

 

 

 

::::::::::::::::::::

 

 

 

 

皆から声を掛けられそれに応えながら、まずはマカロフのもとへ行く。

 

「良く帰ってきたのう。10年クエストもすべて問題なくクリアしたと聞いたぞ。しばらくはここでゆっくりしてはどうじゃ?」

 

「あぁ、10年クエストや旅を通して様々な経験が出来た。今後の事についても考えがあるが、ひとまずはゆっくり休むとしよう」

 

その言葉を聞いて、マカロフは満足そうにうなずき、

 

「この数年の間に新しく入った者もおる。これからの事はまた後で聞こう。まずは皆と話してこい」

 

そう言われてレクトは懐かしい仲間と新しい仲間に挨拶しようとみんなのいる方へ歩き出したとき、

 

「俺の名前はナツ・ドラグニルだ!俺と勝負しろ!」

 

とレクトに向かって指をさしながら赤い髪のマフラーをした少年ナツが勝負を申し込んでくる。その様子を見て緊張しながらも声をかけようとしていた少女たちがイラッとして黙らそうとするが

 

「良いだろう、初対面の者に覚えてもらう良い機会だ」

 

そう言ってレクトは見覚えのない少年に(元気な子だな)などと考えながらも勝負を受けるのだった。

 

 

 

ギルド近くの広場にて2人は向かい合っていた。1人は先ほどと同じで格好で、体から熱を出しながらやる気十分といった様子のナツ。対するは動きやすそうな軽装に、〈フラッドウェイブ〉と呼ばれる片手剣を装備したレクトである。

 

「おいっ、お前はめちゃくちゃ固い防具にデカい剣で戦うって聞いたぞ。見るからに楽そうな格好に剣も小せえじゃねえか。なめてんのか!」

 

そう言ってレクトに怒った様子のナツ。レクトがきちんとした防具を身に着けると大抵のモンスターは傷すらつけられないため、もっと緊張感が欲しいと思い最近は防具はつけないことが多かった。しかし、

 

「確かに防具は着ていないが、この武器は舐めてかからないほうがいいぞ」

 

そう言って剣と盾を出し、ナツに向かって構える。それを準備が出来ていると判断したナツは、地面を力強く蹴りレクトに向かって殴りかかる。その手には炎を纏っており、スピードもなかなかのものだった。

レクトから見てナツは10台前半といった歳だが、思った以上に力のある様子に少し嬉しそうにしながらも軽くかわす。「クソッ」と言いながらも攻撃の手を止めず、炎を纏った拳や足を振るうが掠りもしない。

 

「ちょこまかと避けやがって、ビビってんのか!」

 

そう言って今度はブレスの体制に移るナツ。先程からナツが暴言を吐く度に、少女たちから殺気が出ているが知る由もない。

 

「なかなか面白い技を使うじゃないか。だがこの程度ではたとえ当たってもダメージにならんぞ」

 

そう言って挑発するレクトに対して、ナツはイラつきながらも

 

「火竜の咆哮‼」

 

口から火を噴き出す。それに対してレクトは手に持つ盾を前に出すと、魔力のこもった炎をたやすく受け止める。

自慢の攻撃が小さな盾に止められたことに驚くナツに対して、

 

「周りにも被害が出そうだし、そろそろ俺からも行かせてもらうぞ」

 

そう言って動き出すレクト。それに対してナツはすぐに二度目のブレスを放つ。しかしレクトが片手剣を振るうと炎は二つに割れる。剣は水を纏っているようで、ナツの炎を容易く切り裂く。そしてナツのもとまで来ると、一瞬でナツの首元に剣を添えた。

 

「ッ!!」

 

ナツは目の前に立つレクトを見て、自分では絶対に敵わないと悟った。

その様子を見て、周囲に居たメンバーたちが歓声を上げる。

 

「やっぱり強え!」

 

「早くレクトの帰還祝いしようぜ!」

 

レクトはナツの様子を見て、剣をおさめる。そしてナツに向かって、

 

「お前はまだまだ強くなる。また相手してやるからこれからも努力してくと良い」

 

そう言うと皆の方へ歩き出した。その後ろ姿にナツは強い憧れをもちレクトの後ろについていった。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

ギルド内にて、レクトが数年ぶりに帰ってきたことを祝って宴が開かれていた。

レクトも出されたお酒を飲んでいると、話しかけてくる者たちがいた。

 

「レクトさんお帰り!」

 

そう言ってくる者の方を見てレクトは自然と笑顔になる。

そこにいたのは、以前喧嘩をしていたエルザ、カグラ、ミラ、そしてウルとウルティアにカナだ。

 

「みんな成長したな、前よりも女性らしくなっていて見違えたよ。ウルも元気そうでなによりだ」

 

そう言われて照れている少女たちに対して、酒を片手に持ったウルはレクトに近づくと、

 

「レクトこそ相変わらず元気そうだな。久しぶりだし一緒に飲もう」

 

そう言うと、酒とは逆の腕をレクトの腕に回して隣に座る。そして、周りの少女たちに向かって

 

「子供たちは向こうでジュースでも飲んでな」

 

そう言ってニヤリと笑う。それを見て少女たちはイラっとしながら

 

「ウルさんはおばさんなんだから向こう行っててよ!」

 

「お姉さんだ!」

 

等と言い合っている。レクトはウルが腕に抱き着いてきたことで感じる柔らかな感触に照れながらも

 

「よくわからないがウル、あんまりからかうんじゃない」

 

「そんなこと言って腕に抱き着かれて喜んでるんでしょ!」

 

「レクトさん!久しぶりに会えるのを楽しみにしてたのにウルさんばかりにデレデレしないでよ!」

 

「いや、、デレデレなどしていない、、」

 

照れながらも責められて戸惑うレクト、少し顔を赤らめて腕に手を回しているウル、レクトとウルに対して怒っている少女たち、カオスな状況ではあるが周りの者たちも珍しく狼狽えるレクトを見れて楽しそうにしている。その後も騒がしい宴会は続くのだった。

 



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ギルドでの日々

ギルでの宴が終わり、レクトは久しぶりに自宅へと帰っていた。自宅と言っても旅に出る前に、夜寝るためだけに使っていたため、立派な外見に反して中は質素なものだった。

大したものは置いていなかったため、鍵すらかけずに出ていた。数年経っているので、かなり埃もたまっているだろうな等と考えながら家に入る。しかし、想像と違って、中はきれいで清潔感を保たれていた。

どうしてだろうと思いつつも、疲れもたまっていたためシャワーを浴びてからすぐに寝るのであった。

 

翌日、いつも通り早起きしてギルドに行こうとしたが、久しぶりに家に帰ったことだしゆっくりするのもありかと思い、ベッドに座る。改めて部屋を見渡すと、物の少なさを実感した。

今後の事も考えて多少は家具も揃えた方が便利だと思い、今日1日買い物をすることにした。

 

 

 

ギルドにて・・・

 

「レクトさんがまだ来ないなんて何かあったのか?」

 

そう呟いたのは、ミラである。レクトが朝は早起きなことを知っていたため、自分も早めにギルドに来て久しぶりに勝負してもらおうと思っていたのだ。そして同じ考えのものが数人。エルザ、カグラ、ウルティアそしてカナだった。5人が待っていると、

 

「レクトさんの家に行ってみないか?」

 

突如エルザが言い出した。5人の中でレクトの家を知っているのはエルザだけである。因みにエルザはレクトに勝手に家を使っていいと言われていたため、こまめに掃除を行っていた。

4人はレクトの家に行きたかったため、この提案にすぐ賛成し5人で家に向かうのだった。

 

 

 

「大きい!!」

 

レクトの家を見た4人は、そう言って驚いていた。

それもそのはず、レクトの家は二階建て、レンガ造りの一軒家で、1人で生活するには大き過ぎるものだった。

そんな家に驚きつつも早速レクトを呼ぼうと思ったところ、玄関のドアが開き中からレクトが出てくる。

 

「ん、どうした?こんなに大勢で」

 

そう言うレクトは、いつもの防具類や動きやすい服装ではなく、私服姿でこれから出かける様子であった。それを見て少女たちは、いつもと違ったレクトの雰囲気に見惚れていた。

 

「私たちレクトさんに指導してもらおうと思って、ギルドに行ったら居なかったから家に行ってみようって話になって」

 

最も早く正気に戻ったウルティアが代表して言う。

 

「そうなのか、それは悪かったな。今日は家の家具類を買おうと思ってな。指導については明日でも大丈夫か?」

 

「そうなんだ、じゃあ私もついて行っていいかな?」

 

「買い物をするだけだが、来たいならついて来てもいいぞ」

 

そうしてウルティアが一緒について行くことになると、

 

「私も行く!」「私も!」

 

すぐにほかの4人も賛同し、結局全員で買い物に行くことになった。レクトは少女たちがどうしてついてきたがるのか疑問に思うが、たまには戦いから離れたくなるのかと一人で納得する。そして、娘がいるとこんな感じなのか・・・などと考えており、少女たちの思いがレクトには一切伝わっていないのであった。

 

町にある家具屋を回りながら買い物をしていたのだが、少女たちのアドバイスが役に立った。武器や防具、戦いに必要な道具などには関心のあるレクトだが、インテリアの知識がほとんどなかったため、少女たちに言われるままに購入していった。

10年クエストをいくつも受けていたため、お金はかなりたまっていたので、値段は気にせずに質の良いものを選んでいった。ソファーやタンス、テーブルに椅子など様々なものを買って、かなりの量になったため家に直接届けてもらうことにした。

そうして、会話を楽しみながら買い物をしていくうちに、日が傾いていった。買い物も終わり、辺りも暗くなってきた頃、レクトが言う。

 

「今日は助かったよ。お礼に俺の家で夕食を食べていかないか?」

 

それに対して、

 

「行く!!」と即答するのであった。

 

 

 

 

レクトの家にて、少女たちは楽しみに待っていた。買ってすぐに届いた机やいすを並べ、それぞれ席について、キッチンで料理を作っているレクトを待っている。そして

 

「さあ出来たぞ。口に合うかわからないが好きなだけ食べてくれ」

 

そう言って、様々な料理を並べた。見るからに美味しそうな食べ物の数々に驚きながら、

 

「いただきます」と言って料理に手を付ける。すると

 

「おいしい~!!」と満面の笑みで少女たちは言う。肉に魚、野菜にデザートとどれも店以上の出来であった。レクトは昔、アイルーと呼ばれる猫に料理を教えてもらったことがあり、大抵の料理は作れるようになっていた。習っておいてよかったなと、少女たちの笑顔を見ながら思うレクトであった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ギルドにレクトは声を掛けられていた。

声をかけたのはラクサス。雷を使う魔導士であり、まだ若いが実力はギルドでもトップクラスである。そして、マカロフの孫でもある。

 

「俺と勝負してくれ」

 

そう言ってくるラクサスだが、その顔は何かに悩んでいるような表情であった。それを察したレクトは、

 

「あぁ、良いだろう。人のいない場所でやろうか」

 

と、2人きりで戦うことを提案し、ギルドを出ていく。

 

 

 

2人はギルドから離れた人気のない広場で向かい合っていた。バチバチと体から雷を迸らせるラクサスと、巨大な剣を背負ったレクトである。

 

「ラクサス、先に言っておくが俺と戦う時に俺に勝つこと以外考えるな。悩みなんて勝負の邪魔にしかならない。全力で俺を倒しに来るんだ」

 

そう言ってすぐに動ける姿勢になるレクト。ラクサスはレクトの言葉を聞いて、自分が悩んでいたことを見抜いていたことに驚くが、すぐに獰猛な笑みを浮かべてに飛び掛かっていった。

 

ラクサスはその身に纏った雷の威力を存分に活かして戦う。目で追うのが難しい程のスピードに加えて、腕を振ると雷が落ちたかのような破壊力を生み出す。凄まじい攻撃を繰り返すが、レクトには一切傷がついていなかった。攻撃が来る場所が分かっていたかのように避け、時に巨大な剣を盾にラクサスの拳を受け止める。

 

「いい攻撃だ。これまで積み重ねてきた努力が伝わってくる。だが、まだ隠しているものがあるんじゃないか?」

 

そう言ってくるレクトに対して、ラクサスは自分が勘違いしていたことに気づく。ラクサスはレクトがギルダーツを圧倒するところを見ており、レクトの力が自分よりも格上であることを理解していたはずだった。だが、ここ最近負けることはおろか、傷つけられることすら少なかったラクサスは、自分の力を過信していた。マカロフの孫だと自分を見てもらえないことによる苛立ちから、力で相手をねじ伏せることを繰り返していたことも関係しているのかもしれない。

だが、現実は違った。先程から拮抗しているようだが、レクトは一切攻撃をしていない。いい攻撃だと言いながらも、一度たりとも食らうことはなく、さらにはラクサスを観察して力を隠していることにも気づく。

 

まだまだ余裕のあるレクトを見て、ラクサスの気持ちに変化があった。なぜ自分は勘違いしていたのだろうか、自分は今挑戦者ではないか、と。

 

マカロフの孫ではなく、一人の男として向かい合ってくれるレクトに対して感謝しながら、隠していた力を使う。

 

「雷竜の咆哮!!」

 

ラクサスは口からとてつもない魔力の込められた雷のブレスを放つ。竜を倒すための魔法、滅竜魔法の威力は先ほどまでとは比べ物にならない程のものであった。

それに対して、レクトは大剣を振り下ろす。大きく振るわれたそれは、ラクサスのブレスを軽々と切り裂き、地面に大きな地割れを起こす。ラクサスは驚愕した。今のブレスは全力で放ったものであったが、たやすく切り伏せられ、さらには地面の傷を見て、レクトの実力に圧倒されていた。

 

「そろそろ俺からも行かせてもらうぞ」

 

そう言ってレクトは走り出す。ラクサスはそれを見て、

 

「おもしれえ、やれるだけやってやる!」

 

そう言って自分を鼓舞し、ラクサスもまたレクトに向かって駆け出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

地面に仰向けで倒れているラクサス。その向かいには無傷で立っているレクト。この状態を見ればわかる通り、結果はレクトの圧勝であった。傷すらつけることが出来なかったラクサスであるが、その心はすっきりとした状態であった。

 

「クソッ、ここまで圧倒されると悔しいを通り越して清々しさすら感じるな」

 

「確かに俺の勝ちだがなかなか楽しませてもらったよ」

 

レクトもまた、ラクサスとの勝負は楽しかったようでその顔には笑みを浮かべている。そこでラクサスはずっと悩んでいたことを聞いた。

 

「俺がじじいの孫だってことは知ってるだろう。俺のことどう思う?」

 

そう聞いてくるラクサス。聖十大魔道であるマカロフの孫としか見てもらえず、実力も全て才能のおかげだとされてきたことを気にしていた。それに対して、

 

「ラクサス、お前はお前だ。周りが何を言っても気にすることない。お前の努力は分かる人にはわかる」

 

と言い、それにと続けて

 

「マカロフの孫であっても、俺に傷一つつけられないようじゃまだまだだがな」

 

そう言ってにやりと笑うレクト。それを見てラクサスは今まで悩んでいたことも馬鹿らしく感じた。レクトに比べると自分は小さい存在だと、マカロフの孫であることなど些細なことだと。

 

「いつか絶対に倒す!そして偉いジジイの孫なんかじゃなく、一人の男として世界に認めさせてやる!」

 

「その意気だ。もっと強くなれ。いつでも俺はお前の目標となってやる」

 

そうレクトに言うラクサスとそれに応えるレクト。

こうして、ラクサスはさらに力をつけようと、レクトはラクサスの目標として恥じないようにと、男2人は誓いあうのだった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

広場でFAIRY TAILのメンバー数名を、指導も含めて皆成長したな等と考えながら、ギルドに入っていくとウルに声を掛けられた。

 

「お疲れ様。時間があれば今日の夕食うちで食べない?助けてもらったお礼も含めて、私が料理を振る舞うからさ」

 

突然ウルに誘われて驚くレクト。普段は男勝りな印象を受けるウルだが、この時は少し恥ずかしそうにしており、いつもとは違った雰囲気であった。

レクトはわざわざお礼をしたいというのに対して断るのは失礼だと思い、

 

「そういうことならお言葉に甘えて、今日はお邪魔させてもらおうかな」

 

そう言うとウルは嬉しそうな表情をして、レクトに家の場所を伝えると「じゃあ待ってるから!」と言って帰っていった。

 

 

 

***************

 

 

 

その日の夕方頃、レクトはウルの住む家に来ていた。早速お邪魔しようかと玄関に行くと、ウルティアが出て来て

 

「いらっしゃいレクトさん、今日はゆっくりしていってね」

 

と言って家の中へ案内される。ウルとウルティアは2人で暮らしているため、ウルが今日はレクトが家に来ると言うと、ウルティアも大喜びであった。もちろん他の少女達には伝えていない。

 

台所へ行くと、ウルが料理を作っているところだった。部屋着にエプロンを付けて、手際良く調理をしてる所を見て、普段とのギャップにドキッとしていると

 

「先に座って待ってて、もうすぐ出来るから」

 

そう言われて、ウルティアと料理が出来るのを待っていた。それから少しして、「出来たよ!」というウルの声が聞こえ、いくつか料理を出される。どれも美味しそうな出来上がりであり、「いただきます」と言ってから、それを口に入れる。

 

「美味しい」

 

一口食べてレクトが言うと、ウルはほっとした表情になり、そして笑顔で喜んでいた。ウルティアからレクトは料理が上手と聞いていたため、満足してもらえるものが作れるか不安に思っていたウルだったが、レクトの言葉を聞いて安心すると同時に心から嬉しいと感じていた。

 

それから3人で会話を楽しみながら、料理を食べていく。仲良く食事をする光景はまるで家族のようであった。そしてすべて食べ終わり、そろそろ帰ろうと玄関に行きそこで、

 

「今日はありがとな。本当に美味しい料理だった。また一緒に食事をしよう。今度は俺が振る舞うよ」

 

そう言うレクトに対して、ウルが

 

「えぇ、こちらこそ楽しい夕食になったよ。レクトの料理楽しみにしとくよ」

 

と言った後

 

「これはもう一つのお礼ね!」

 

と言い、レクトにキスをした。

驚きや恥ずかしさで固まるレクトであるが、その背をウルに押されて家の外に出され、扉が閉まる。「お母さん!?」と言う声が聞こえてきたが、レクトはそれどころではなかった。狩りばかりで女性に対する免疫があまりないため、先ほどの事にドキドキしながらも家に帰っていくのだった。ウルはキス程度では何ともないはずなのだが、レクトに対しては思った以上に緊張してしまい外に押し出した後の顔は赤く、恋する乙女のようであった。

こうして今日も平和な一日が過ぎていった。

 



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100年クエストへ

レクトは旅がかなり長かったこともあり、新しく入った者たちとはあまり親しくなかったため、この期間で仲を深めていた。手合わせをしたり、食事をしたりと、皆と交流した。

その中で、勝負を挑んできたナツを倒した後、ナツの父親はドラゴンだと聞いた。黒竜の他にもドラゴンがいることを知って、会ってみたいと言ったところ、ナツは喜んでいた。この話はなかなか信じてもらえずにいたようだ。レクトからしたら竜は特に珍しい存在でもないのだが。

また、レクトがここに連れてきた少年達とも手合わせをしていた。ジェラールの天体魔法に、グレイとリオンの氷の造形魔法と、強力な魔法を使いレクトに挑むが、簡単に避けられ、ボウガンを構えたレクトに、睡眠弾を撃たれて眠ってしまったり、麻痺弾を撃たれて痺れたりと全く相手にならなかった。しかし、憧れの男の強さを改めて感じることが出来、皆満足そうな表情だった。

 

 

 

そんな生活を続けて3ヶ月程経ち、レクトはそろそろかと思いマカロフに話をした。

 

「100年クエストをいくつか受けたい。またしばらく帰れなくなるが許可もらえるか?」

 

100年クエストはS級魔導士ですら達成できる可能性はほぼ無い。それを複数等まずありえない事だった。しかし、

 

「まぁお主の実力からすればなんの問題もないじゃろう。しかし、その目、本当にそれだけか?」

 

レクトはS級魔導士の中でも別格のギルダーツですら相手にならなかった。マカロフの目から見ても世界最強と言える力を持つレクトなら大丈夫と思った。

しかし、その目はなにか大きな決意をしたようなものだった。まるで命をかけた戦いに挑むような。

 

「流石だな。マカロフの言う通り、俺は100年クエストだけが目的ではない。以前からずっと考えていたことだ。黒竜と戦いたい」

 

その言葉を聞いたマカロフは言葉を失う。

 

「100年クエストは10年クエストよりもはるかに難しい。それに挑むことは楽しみだ。だが最近は思うようになった、それだけで満足できないのではないかと。より強い敵と戦いたい」

 

続けて、

 

「黒竜とは一度戦ったが、倒すことが出来なかった。リベンジしたい。例えこの命を賭けて戦うことになろうとも」

 

そこまで言ってマカロフを見るレクト。

マカロフは迷う。親として、ギルドの者が命を失うかもしれない戦いに行くなど、許可できることではない。レクトの実力は信頼しているが、黒竜の強さはレベルが違う。例えるならば天災、まず関わってはいけない存在なのだ。だが、レクトの目、そこに宿る強い意志は曲げることはできないと感じた。

 

「お主が黒竜と戦ったことがあるという話は初耳じゃな。一つ条件を付ける。命を賭けて戦うと言ったが、死ぬことは許さん。何があろうと絶対に無事にギルドへ帰ってくること。それが条件じゃ。そして、一度目の戦いも含めて、黒竜との戦いをわしの酒の肴に聞かせてくれい」

 

そう言うマカロフ。無茶な願いを許してくれて、心から心配をしてくれたことにレクトは感謝した。そして必ずここに帰ってくると誓う。

 

「黒竜のことは皆には内緒にしておいてほしい。無駄に心配をかけたくない」

 

マカロフはその頼みも聞き入れ、ギルドの者には100年クエストに行くことだけを伝えることにした。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

翌日、レクトが100年クエストに出発するという話を聞いて、ギルドの者達が見送りに集まっていた。レクトが、大陸でもクリア出来るものがほとんどいない10年クエストを、被害を出さずにいくつもクリアし、問題ばかりのFAIRY TAILという印象がなくなっていた。そんな、ギルドの誇りであるレクトが今度は100年クエストへ行くというのだ。複数の100年クエストを受けることを止めるものはおらず、心配もほとんどされていない。それほどレクトは信頼されており、今回の期待も大きかった。

 

「早く帰って来いよ!」「帰ったら飲むぞ!」

 

等と言った、すでにクリアすることが決まっているような声がかけられる。

 

「あぁ、楽しみにしとく。皆も問題ばかり起こさずにしっかり働けよ」

 

そう言って笑い合い、レクトと周りのメンバーは和やかな雰囲気で会話をしていた。

 

そんな中、唯一人浮かない表情の者がいた。黒竜の話を聞いたマカロフである。レクトは笑顔で皆と話し、不安にさせないようにしているが、内心ではどうなのかと心配になっていた。そんなマカロフの様子に気づいたレクトはマカロフの元に来て、「信じてくれ」と、ただ一言だけ告げた。

マカロフはその言葉を信じ、明るく送り出すことにした。

 

「ギルドの仲間は家族。皆お主の帰りを待っとる。必ず帰ってくるんじゃぞ」

「あぁ、もちろんだ」

 

マカロフの言葉を聞いてレクトは歩き出す。その背をギルドメンバーは期待と信頼に満ちた目で見ながら見送るのだった。

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

100年クエスト、その難易度は今までのものに比べるとやはり別格だった。レクトが受けたクエストは3つ。

1つは、陸から離れた海にて、巨大なサメの大群の討伐。1匹1匹の強さもほかのモンスターに比べると桁違いで、それを数十匹倒さなければならない。水中での戦いの大変さ、50m近い巨体に皮膚の硬さ、様々な要因がありこれまで幾多のS級魔道士が犠牲になり、クリアされなかったクエストであった。

 

2つ目は、大陸の西にある極寒の地で遺跡の調査をすることであった。はるか昔からあるその遺跡は探索に行ってから帰ってきたものが1人もおらず、今もなお謎に包まれた場所だった。過酷な環境に加えて、遺跡の中では猛毒を持ったモンスターや、麻痺毒を扱うモンスター等様々な敵に襲われる。遺跡の奥には今まで誰も手をつけることのなかった黄金が眠っているという。

 

3つ目は、火山の鉱石の採取である。暑さだけでさほど難しくないようだが、溶岩に囲まれたその場所は、何もしなくても体力を奪われ、炎の魔道士ですら長くは留まれない。加えてここでも、溶岩を泳ぐ魚竜種のモンスターや体がマグマで出来たモンスターなど、変わった魔物で溢れている。そして何より、鉱石をとることが難しい。壁に埋まっているのは間違いなく超希少な鉱石だが、壁が硬く、それらはギルダーツのクラッシュですら簡単には砕けない程。

 

 

どれも難易度の高いクエストだが、結果としてレクトはすべてクリアした。水中での戦いは何度も経験しており、慣れた動きで襲ってくるサメを大剣で切り伏せていった。すべて討伐し、平和になった海域はこれまで近づけなかった漁師達から感謝された。2つ目のクエストでは、とあるドリンクを飲んで寒さは一切関係なかった。モンスターも今までに比べると強いのだが、いつも通り無駄のない動きで倒していき、黄金までたどり着くことができできた。お金は特に必要としていなかったため、大量の金をすべて寄付したことで産業の発展に貢献につながり、大陸中から注目を浴びた。3つ目のクエストでは2つ目同様、ドリンクを飲んで暑さを無効化、モンスターについても相手に合わせて水の属性を持った武器で倒すなどして、苦戦することなく進んでいく。そして鉱石は金のピッケルを出し採掘していった。問題なく硬い壁を削り、掘り出していくとどんどん楽しくなっていき、かなりの量を入手していた。昔から荷物はかなり持てていたのだが、この世界に来てから武器と同様に物も別空間に入れれるようになったため、残さず持ち帰った。それらを納品すると、今までにない鉱石に武器屋や宝石店などは大喜びであった。

 

クエスト達成の報告をするため、評議会を訪れると聖十大魔導の称号を受けることとなった。高難度のクエストをいくつも達成する実力と、大陸への貢献度から選ばれたのである。レクトとしても特にデメリットが無いのであれば良いかと思い、聖十大魔導となった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

FAIRY TAILにて・・・ギルドの者達は大いに盛り上がっていた。レクトの活躍が大陸中の話題となっているからだ。100年クエストの達成、それによる大陸への様々な貢献、そして聖十大魔導となったことはFAIRY TAILにも伝わってきた。

 

「流石レクトだ。うちのギルドの誇りだぜ」

 

「全くだ。俺らも見習わないとな」

 

そう言って盛り上がる男達。

 

「やっぱりかっこいいわ」

 

「ファンクラブ出来そうね」

 

そう言ったのは女性魔導士である。その手には新聞があり、そこにはレクトの写真が載っていた。聖十大魔導となったことで顔写真を撮られていたのだった。

 

「やっぱりレクトさん凄い。また手合わせしてもらいたいな。私の実力を見てもらえばきっと・・・」

 

「私の成長した姿を見てもらわねば。今なら1人の女性として意識してもらえるだろう」

 

「アンタなんか見てもらえないよ。レクトは私みたいな女がタイプなんだから」

 

レクトがクエストに出発して数年、他の魔導士以上にレクトを尊敬し、思いを寄せていた少女達も成長し、今では立派な女性になっていた。相変わらずレクトの話になると喧嘩になるが・・・

 

「ハハハ、あんたらはまだまだガキじゃないか。レクトはきっと私に会うのを楽しみにしているさ」

 

そう言うウルに対して、

 

「レクトは若い女の方が好きなんだよ!」

 

言い返すミラ。このやり取りも昔と変わらなかった。

騒がしいギルドだが皆その顔は笑顔である。憧れ、目標、想い人、それぞれレクトに対する思いがあるが、皆が尊敬しており、帰りを楽しみにしていた。クエストをクリアしたということはそろそろギルドに戻ってくるだろうと考え、帰ってきたらどうやって迎えようかと考えているのだった。

 

そんな中、マカロフだけは険しい顔をしていた。100年クエストをクリアしたことは嬉しく思っている。ギルドの家族が偉業を成し遂げたのだから嬉しくないはずがない。だがそれは、これから黒竜に挑むということを示している。信じているがやはり不安はぬぐい切れない。

 

「必ず帰ってくるんじゃぞ」

 

そう呟いて、心の中で無事を祈るのだった。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

 

評議会を出たレクトは目的に向かって動き出す。100年クエストを行う中で黒竜の情報も集めていた。2つ目のクエストで遺跡の奥深くを進んでいる時、黒竜について描かれた壁画を見つけた。そこから読み取れる情報、また自分で集めた大陸中の情報と合わせて黒竜の場所を予想し移動していた。山を越え、森を抜け、ひたすら歩き続けた。自分の力をぶつけたい、そしてリベンジを果たしたい、その思いは目的の場所に近づくほどに強くなっていた。そして、とある場所に着いた。

 

先程まで歩いていたジメジメしていた洞窟とは一変、広大な土地が広がっていた。一面に茂る緑の草原に色鮮やかな花が咲き誇る。そんな美しい光景を前にしても、レクトの目にはそれらは一切入っていなかった。

レクトが見つめるのはそんな美しい景色の中にいる巨大な黒い生物。1度しか会っていないが見間違えるはずがない。この時を待ち望んでいたのだから。

 

「久しぶりだな。こうやって目の前にすると、やはりお前は他のモンスターとは次元が違う。今度こそは勝たせてもらうぞ、アクノロギア」

 

そう黒竜の名前を言って睨みつけるレクト。古龍と呼ばれるモンスターから作られた防具に長く細い剣を背負ったその姿は、黒竜に比べると遥かに小さいが凄まじいオーラを放っていた。

 

それに対してレクトを見つめる黒竜も強いプレッシャーを感じさせる堂々とした佇まいである。その姿には、一切の油断がなく、自分が認めた人間を全力で倒すという意志が表れていた。

 

ガアアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

黒竜が咆哮をあげたのを合図に、両者は動き出した。黒竜はその巨体による圧倒的な力を武器に、レクトは背負った剣に手を添えて。

 

 

今、再び世界最強の竜と人類最強のハンターがぶつかった。

 



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ハンターと黒竜

ドカアァァァァァン

 

広大な大地に響く轟音。それと同時に地面が大きく抉れ、美しかった光景は見る影もない。攻撃の度にとてつもない魔力が放出されることで天候が崩れ、この一帯のみ嵐の中にいるかのように荒れていた。

 

その中でアクノロギアとレクトは互いに1歩も譲らない戦いを繰り広げていた。

 

「オラァァァァァァァァァ」

 

「ゴアァァァァァァァァァ」

 

普段は冷静なレクトだが闘争心をむき出しにして切りかかり、アクノロギアもそれに応えるように咆哮して襲い掛かる。

 

 

アクノロギアが勢いよく腕を振り下ろし、地面に巨大なクレーターが出来る。そんな攻撃を回避し太刀で切りかかる。レクトに直撃することはなく、有利に戦いを進めているように感じる。

しかし、とてつもない硬さの体に攻撃を加えることで何度か武器を振るうとすぐに切れ味が落ち、硬い鱗にはじかれてしまい、また攻撃の余波だけでもダメージ溜まっていく。やはり戦いは互角であった。

 

ある程度太刀による攻撃を行ったところで、レクトは武器をハンマーに変える。危険は伴うが顔を狙って武器を振るう。狙いは部位破壊。 叩きつけるように振り下ろしそして振り上げる。

全力で振るうその攻撃は、大地を揺らす程で強固なアクノロギアの鱗の上から衝撃を与えていく。動き回り、強力な攻撃を繰り返していたアクノロギアだったが、何度も頭に打撃を受けるうちに一際大きくひるむ。そこに、

 

「食らえええぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

する気迫のこもった声とに合わせて、力を溜めた一撃を叩き込む。すると、

バカァァァァァァンという音とともに、アクノロギアの頭部の鱗がはじけ飛び、大きな傷跡がついた。これにはアクノロギアも大きく怯み、かなりダメージを受けたようであった。

 

さらにレクトは武器を変え、手に持つのはランス。戦い後半に差し掛かってきており、ここからは相手の体力を確実に削ってこうとな考えた。

高い防御力を誇る盾でアクノロギアの攻撃を防ぎながら、鋭い矛で攻撃を加えていく。しかしアクノロギアの耐久力は今までのモンスターとは格が違う。頭部を破壊されたことで怒りもあり全くひるまずに、その巨体から生み出される力で盾ごと突き破らんと猛攻を繰り返す。

 

何度目かわからないアクノロギアの攻撃を盾で防いだ時、キイイィィィンと今までとは違う音が響く。防御するたびに後ろに大きく後退しながらも、すべての攻撃を防いできた盾に大きなヒビが入ったのだ。しかし、武器を変える暇も距離を取る余裕も無い程の連続攻撃に押され続け、盾はバキィィィィィィンという音とともに砕け散る。そこにアクノロギアの黒い拳が迫り、レクトの体を捉え吹き飛ばす。

 

「ぐはっっ!」とうめき声をあげ、口から大量の血を吐きながらレクトは大きく吹き飛ばされていく。戦いの中で巨大なクレーターや斬撃の痕のついた広場から離れることとなる。遠く離れた大地まで飛ばされる中でも勢いが落ちる様子がなく、矛を地面に突き刺してどうにか止まる。そこにアクノロギアも飛んで追いかけ来ており近くに降り立つ。

攻撃1つ1つがS級魔導士ですら即死レベルで地形を変える程の一撃をまともにくらったレクトは、すぐに秘薬を飲むことでどうにか立ち上がる。

 

秘薬により傷はかなり回復しているが、それでもこれまで積み重なっていた疲労や傷によりフラフラの状態である。防具もボロボロだが、新しい防具に変えることすらなく、全ては剣の攻撃に費やすべく、武器のみ大剣に変えアクノロギアと向かい合う。

アクノロギアも体中の傷から攻撃の度に血が流れ、かなり体力を消耗した状態である。頭部の部位破壊による傷も大きく、かなり苦しそうである。

お互い満身創痍だが、一切気にすることなく決着をつけるべく戦いを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

「黒竜だと!?」

 

報告を聞いた老人は思わず声を出して驚いている。周りにいた者達も同様に驚愕しているようだった。

とてつもない魔力を感知し、すぐに近くにいる評議員に調査へ行かせた。そこで評議員が目にしたものは、吹き飛ばされてきた男とそれを追いかけてきた黒竜。男は見るからにボロボロだが巨大な剣を背に黒竜に向かっていき、黒竜もまた疲弊しているようだが男を正面から迎え撃つ。

離れた位置から望遠鏡で見ていた評議員は、その男を近頃話題の魔導士であることに気づき、それらも含めて上へと報告したのだった。

 

「手負いの黒竜をしとめる機会等今回を逃せば一生ないぞ」

 

「しかし報告ではFAIRY TAILの魔導士、レクト・ロールスが互角に戦っているそうではないか」

 

「あの黒竜に勝てるものか。足止めしてくれているのなら好都合ではないか。報告によれば周囲に人はいない。FAIRY TAILの魔導士には本当に申し訳ないが今しかない」

 

今評議員では議論が行われていた。内容は衛星魔法陣からのエーテリオン攻撃により戦っているレクトもろとも黒竜を消し去るというものだ。

 

「黒竜を確認することすら難しい。そんな存在が今攻撃できる位置にいるのだぞ。おまけに弱っているとなると絶好の機会ではないか」

 

そう言う老人。それに対して

 

「1人の青年の命を奪うのだぞ。まだまだ先のある人生をワスらが奪い、青年の家族や友人にどれだけ悲しい思いをさせてしまうか。そこまで考えているのか!」

 

そう怒りをあらわにして反対するヤジマ。だが、黒竜という人類では抗うことすらできないと言われる存在、それを倒せる機会を前にして、評議員たちは一人の命よりも黒竜を殺すことに気持ちが傾いていた。レクトの命を奪ってしまうことにより、大陸中の人々からの批判の声や、評議会の評価の低下、そしてFAIRY TAILの敵対など様々なことが考えられるが、皆目先のチャンスに引かれていた。

 

そして多数決により、エーテリオンによる攻撃が行われることとなった。

 

「すまん、マー坊。ワスでは止められんかった...」

 

皆が急いで攻撃の準備をし騒がしくなっている光景を見ながら、ヤジマはぽつりとつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされたことにより、場所が変わってからも激闘は続いていた。

お互いに疲労を感じさせない動きで攻撃を繰り返していた。レクトはアクノロギアの尻尾に攻撃を集中していた。アクノロギアは動きも早く狙った場所を攻撃するだけでも難しいが、攻撃の嵐をかいくぐり大剣を振り下ろす。そして、アクノロギアが大きく腕を振るい攻撃をした時、地面が大きく陥没し爆風が巻き起こるが、それに耐えながら力を溜めて勢いよく振り下ろした。

 

『ズバンッ』という音とともにアクノロギアの尻尾は切断された。

 

「グアアアアオオオオオオオオオオ」

 

アクノロギアは痛みで苦しそうなうめき声をあげる。しかし苦し紛れに腕を振るい、攻撃後で隙が出来ていたレクトは避けきれず脇腹辺りを大きくえぐる。

 

「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁ」

 

レクトもまた激痛に苦しむが、尚も攻撃を仕掛けようとしてくるアクノロギアを見て立ち上がる。今は魔導士だが、芯にあるハンターとしての誇りが2度も負けることなど許せなかった。

 

脇腹から大量の血を流しながらも立ち向かうレクト、体中の切り傷に加え、尻尾からも血を流し続けながらも翼を大きく広げ迎え撃つアクノロギア。お互い力もほとんど残っておらず、決着をつけようとした時、眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

その日大陸の一部が地図から消えた。黒き竜と、1人のハンターとともに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レクト・ロールスは勇敢な魔導士であった。その数々の栄誉、そして黒竜討伐の偉業を讃え聖十大魔道の称号を永久に与えることとする」

 

大陸中に届いたニュース。それは世界中の人々に衝撃を与えた。FAIRY TAILの世界最強魔導士とも言われつつあったレクトの死。天災ともいわれる黒竜の討伐。そして、互角に戦っていたレクトも含めてエーテリオンで攻撃したということ。

 

評議会には批判の声が殺到していた。レクトによって救われた人々やレクトの活躍を楽しみにしていたファンの者達。評議会はとにかく謝罪し、「人類の悲願のため」と伝えた。評議会の印象は悪くなる中で、同時に伝説とも言える竜の討伐に喜ぶ者もおり、良くも悪くも世界中が注目することとなった。

 

 

そして、FAIRY TAIL・・・

皆が悲しみに明け暮れていた。この話を聞いても、黒竜と戦うということを聞いていなかったギルドのメンバーは一切信じなかった。しかしマカロフの口からレクトの思いを聞き、それが事実だと知る。

評議会がエーテリオンによる攻撃で、レクトを利用して黒竜を倒したという話を聞いて、メンバー全員が憤慨した。だが、評議員が直接ギルドまで足を運び、土下座をして謝ったことで怒りのやり場を無くし、悲しみが残っていた。評議員はすべてが終わってから、自分達がどれだけのことをしたのかに気づき、ただただ謝罪をするばかりだった。

ナツが評議員に対して「お前らは俺達の家族を殺したんだぞ」と言って飛びかかろうとするが、周りの者に止められる。その目から涙が溢れており、止めた者達もまた涙をながしていた。

 

ウルとウルティアは家で声を上げて泣きながら抱きしめあっていた。帰ってきたら2人で食事を作って振舞おうと話していたが、それも叶わぬものとなり、もう会えないと思うと悲しみが溢れていた。

 

エルザとミラ、カグラとカナもまた悲しんでいた。ショックはあまりにも大きく、ミラは魔導士として生きていくのが難しい程の状態となり、ギルドのウェイターとなり、性格も変わった。

エルザとカグラはより力を求めるようになった。いつか会えるのではないかと淡い希望を心に秘めて、その時は隣で戦えるようにと。

 

ラクサスは目標でありな最も尊敬していたレクトの死により、初めて悲しいという思いをもつ。そして、エルザたちと同様、力を求めるようになる。どこか危うさを感じさせる程に追い詰められたような様子で、『弱いやつはいらねぇ』と小さく呟く。

 

グレイやリオン、ジェラールは命の恩人であり、憧れであったレクトがいなくなったことにショックを受けていたが、レクトの代わりにみんなを守ると決意し、それぞれが今まで以上に仕事や修行を行うようになっていった。

 

マカロフは止めなかった自分の行動を悔やんでいた。あの時どうにかしてやめさせていれば、そんな思いがぐるぐると頭の中でまわっている。しかし、過去は変えられない、ならば自分がすべきことは何かと考え、もう2度とギルドの家族は失わないように、守っていこうと決意したのだった。

 

 

 

 

 

死んだと思われた青年、レクトとFAIRY TAILのメンバーが再会を果たすのはまだ少し先になる。その時メンバーは何を思い、どんな行動をするのか、今はまだ分からない。

再会を果たすのはまだ少し先になる。その時メンバーは何を思い、どんな行動をするのか、今はまだ分からない。

 



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過去と未来

「あの光は何だったんだ・・・」

 

戦いが終わり、張っていた緊張の糸が切れたことで気を失っていたレクトが、起きて最初に思い出すのは最後に見た光景。

それは決着をつけようとした時に上空に現れたものであり、レクトも何なのか理解出来なかった。だが、ボロボロの状態で受けるのは流石にまずいと感じたレクトは、咄嗟にモドリ玉を使った。原理は不明だが、一瞬で拠点まで移動できるそれを使うことで避けよと考えたのだ。

 

しかし、

 

「ここはどこだ?」

 

そう言って辺りを見回す。

木々に囲まれたその風景を見て、この世界に来た時のことを思い出しつつも、自分の今の状況を考える。防具はボロボロで先ほどまでの戦いの激しさを物語っているが、体の傷は一切ない。寝たら回復するというハンターの異常な特性ですでに元気である。

初めは自分がこの世界に来たときの森かと思ったが、やはり違うと判断する。ハンターとしての勘が、ここは何かがおかしいと告げている。まるで今までとは別の時代にいるかのように・・・

 

とりあえず防具を脱いで楽な格好になると、そこから歩き出した。周囲を見渡しながら、心の中で新種のモンスターいないかな等と考えながら歩いていると、おかしな光景を目にした。

 

「木々が枯れている?」

 

先程れくとはいっさいきにすることなくまで生い茂る木々に囲まれていたのだが、ある範囲から命を吸い取られたかのように木が枯れ果てており、だれが見ても異常であることが分かる。しかし、レクトは一切気にすることなく、この場所の手掛かりが見つかるかもしれない期待と不思議な現象に対する好奇心で進んでいく。そこには黒い服装で黒髪の青年が頭を抱えていた。

 

「それ以上近づかないでくれ!僕はだれも殺したくないんだ!!」

 

そう言って近づかれることを拒み、苦しんだ様子を見せる。レクトは体調でも悪いのかと思い、何らかの処置をしようとさらに近づいた所で、

 

「うあああああぁぁぁぁぁ」

 

と頭を抱えたまま青年が声を上げる。合わせて黒い魔力のようなものが青年の体から出てくる。それによってわずかに残っていた草も残らず散っていき、レクトは正面から受けてしまう。命を奪う波動をもろに食らったレクトは、

 

「ちょっと不快だな」

 

と言って1つの実を取り出すと、それを食べる。体の状態異常を治すウチケシの実を食べて「お、不快感もなくなったな」等と言っているレクトを見て青年、ゼレフは驚愕する。自分の魔力を受けてまず不快だなで済んでいることがおかしいのだ。それどころか、どこからともなく取り出した見た目ただの雑草を口に含むとすでに元通りである。

 

 

「君は一体・・・」

 

呆然とするゼレフにレクトは近づくと、肩に手を置き

 

「なんだ病気じゃなさそうだな。いろいろと聞きたいことがあるんだが」

 

そう言って黒魔導士ゼレフとレクトは話し出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

ゼレフにとっては自分の魔法が一切効かなかった相手、レクトにとっては自分の今後の行動を左右する相手と言うことで、お互い関心があるためすぐに打ち解けていった。自己紹介を済ませたのちに、レクトはゼレフに対してこの場所はどこなのか聞き、ゼレフはレクトにどうして魔法が効かなかったのか、そして何者なのかと聞いた。

 

レクトはゼレフの話を聞いて驚く。聞くところによると、今いる世界は少し前までいた時代よりも100年程前の世界で魔導士という存在もあまりいないことが分かった。流石のレクトも、モドリ玉で時代まで戻るというとんでもない現象に驚く。

 

またゼレフのなぜ魔法が効かなかったのかという問いに対して、

「あの程度でやられる程俺は弱くない。魔導士だがハンターでもあるからな」

と言うレクト。それを聞いたゼレフも驚いていた。あらゆるものの命を奪う自分の魔法をあの程度ですましたことを。さらに、

 

「ハンターか。こんなに人間離れしたハンターは初めて見たよ」

 

「俺なんてまだまださ。少し前にもリベンジに失敗したばっかりだしな」

 

そうして2人が会話を続けていると、レクトがゼレフに1つ聞いた。

 

「ゼレフはいろいろと詳しそうだから聞くが、未来に行く方法は分かるか?」

 

それを聞いたゼレフは大きく目を見開く。突然未来へ行くにはどうすればいいかと聞かれて答えられる者等普通居ないだろう。レクトの雰囲気から冗談で言っているのではないことが分かるが、ゼレフは

 

「すまないが僕にはわからない」

 

そう言って謝る。レクトとしても特に焦りは感じておらず、のんびりと帰る方法を探そう位の気持ちだったため、気にすることはなかった。話していくうちにゼレフから「僕の魔法が効かず、さらには未来に行くという君に興味がわいた。しばらく一緒に研究しないか?」と提案され、レクトはそれを受け入れた。そうして黒魔導士ゼレフと魔導士のハンターレクトという不思議なコンビは様々な研究を行っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

 

「わあぁ!!大きい!!」

 

そう言ってFAIRY TAILのギルドを見上げるのは金髪の少女ルーシィだ。

 

「中入るぞ」「あい」

 

ナツとハッピーに促され、ルーシィは憧れのギルドへ足を踏み入れる。そこには多くの魔導士が集まり、会話をする者や食事をする者等、皆が楽しそうに過ごしていた。

 

「ここであの人も・・・」

 

とルーシィがぽつりと呟いたが、ナツの怒声にかき消される。サラマンダーの情報が嘘であったと提供者を蹴り飛ばしたことで、ギルド内が荒れ次第に大乱闘が始まってしまう。

 

 

「な、なによこれ・・まともな人がいないじゃない」

 

そう言ってショックを受けているルーシィに対して銀髪の美女、ミラが声をかけた。

 

「あら、新入りさん?ごめんねこんなに騒がしくて。このギルド元気な人ばかりだから。あの人がいてくれたら鎮めてくれるんだけどね」

 

少し暗い顔をしたミラがそう言っているとき、乱闘を起こしていた者達は、喧嘩にとうとう魔法まで使いだそうとしていた。その時、

 

「やめんかバカタレ!!」

 

という怒鳴り声とともに、巨人が現れ喧嘩を止める。巨人、マスターマカロフはルーシィに挨拶すると、2階に上がり評議会から届いた書類を読み始めた。それはFAIRY TAILの魔導士がそれぞれの仕事先で起こした問題の数々だった。それを一通り読み上げた後

 

「上から覗いている目ばかり気にしていたら魔道は進めん。自分の信じた道を進んでいく。それがFAIRY TAILの魔導士じゃ」

 

そう言った後にじゃが、と言葉を続ける。

 

「おぬしらの行動でレクトが積み重ねた人々からの信頼、数々の功績を汚してしまうのは嫌じゃろう。評議会もわしらに対して罪悪感があったのか厳しく言ってこなかったが、最近はレクトのことなど無かったことのように考えておる」

 

それを聞いた魔導士達は、落ち込んでいた。

 

「悔しいじゃろう。悔しかったらFAIRY TAILの魔導士としての自覚をもって、仕事にもとりかかるようにせい。あやつの功績を守りたいじゃろう」

 

そう言ったマカロフに対して、魔導士たちは、大きく盛り上がりを見せる。皆レクトにはお世話になり、レクトの功績を同じギルドとして誇りに思っていたからだ。

 

「よっしゃー、ひとつもモノ壊さず依頼達成してやる!」

 

「お前には無理だろ」

 

「何だと!?」

言い合っているナツとグレイ。そんな様子を見ながら、ルーシィはミラに話しかけた。

 

「実は昔魔導士の方に助けてもらったことがあるんです。後から聞いたらFAIRY TAILのレクトさんっていう方だって聞いて。いつかきちんとお礼をしたいと思ってたんです」

 

「そうなの」

 

「でも、レクトさんは死んでしまったって。私詳しいことは知らないんです。差し支えなければお話聞かせていただくことはできますか?」

 

ルーシィはレクトのことをほとんど知らなかった。そのため、自分を救ってくれた人のこと、そして今の状態を知っておきたいと思ったのだ。聞かれたミラは

 

「ルーシィも今日からギルドの仲間だもんね」

 

そう言って話し出した。

 

「レクトはFAIRY TAIL最強と言われていた魔導士なの。数々の偉業も成し遂げて、聖十大魔道っていう大陸トップの魔導士にも選ばれているわ」

 

「すごい!」

 

「でも、数年前に黒竜との戦いの最中に、評議会からの魔法による攻撃で姿を消したの」

 

「評議会!?」

 

「黒竜を仕留める機会はそうあるもんじゃない。世界の為だって理由でレクトは攻撃に巻き込まれたの」

 

「そんなことが許されるの!」

 

「みんな怒って、みんな悲しんだわ。でもね、今はみんなでレクトの帰りを待っているの」

 

「え?でもレクトさんは・・・」

 

「生きてる!みんなそう信じてるわ。レクトの遺体も見つかってないし、何よりレクトの強さを1番知っているギルドのメンバーからしたら、魔法の攻撃なんかで死ぬわけないって思ったの。何らかの方法で今も生きてる。そう考えるようになったの」

 

「そうなんですね」

 

「みんなレクトに救われたり、指導してもらったりお世話になったからね。いつか帰って来た時。その時にレクトを驚かせようって思ってるのよ。成長した姿を見てもらってね」

 

「素敵ですね。私もいつかきちんとお礼を言って、指導してもらいたいな」

 

「レクトは優しいからきっと見てもらえるはずよ。ただ、これ以上ライバルはいらないかな」

 

最後の言葉にゾクッとしつつも、ルーシィはレクトのことを知ることが出来て満足そうであった。自分のこれからの目標も決まり、決意を新たに新団員ルーシィは仕事に取り組むのだった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

レクトとゼレフは様々な方法で、未来へ行くための研究を行っていた。レクトは自分の居るべき場所に帰るために、ゼレフは溢れる知識欲を満たすために、目的は違うが互いに協力していくうちに親しくなっていった。

 

研究を行っていく過程で、レクトは様々な経験をしていた。星霊界に転移し星霊王と決闘を行ったり、西の大陸に飛ばされそこで行ったモンスター討伐により英雄として称えられ、さらに昔の時代に飛びドラゴン達と会うなど、濃い時間を過ごしていた。

途中からゼレフが面倒を見だした少女と男3人にレクトも指導をしてやったりもしながら、それなりに充実した時間でもあった。

 

「おそらくこれで戻れるはずだよ」

 

「ゼレフが自信をもって言うなら間違いないだろう。ここまで長かったな」

 

そう言ってゼレフが手に持つ玉のようなものを見る。レクトが出せるモドリ玉はなぜかどこへ移動するか分からず、ゼレフの魔法を交えながら効果を特定させようと研究を繰り返してきた。そうして得られたデータをもとに、レクトが行きたいという時代へ移動する手段を作りだすことが出来たのだ。

 

「これでお別れだね。僕にとって君は初めての友人だった。そんな相手に頼むことではないけど、僕を殺してくれないか?君との日々での刺激は素晴らしいものでこれ以上楽しいことはもうないと思う。もう満足したんだ」

 

そう言ったゼレフを「ドカッ!!」という音とともにレクトは殴り飛ばした。そして

 

「そんなもんまだわからないだろう。この世界はまだまだ未知に溢れてる。もっと楽しいことなんていくらでもあるさ。それでも死にたいのであれば自分で方法を探せ。本当にどうしようもなくなったら未来の俺に頼め。その時は友としてなんとかしてやるさ」

 

そう言ってレクトはゼレフの手から拳大の玉をとる。そして「それじゃあな」と告げ弾を地面にたたきつけた。ボフッという音とともに煙が出てきてそれが晴れた時そこにレクトの姿はなかった。

 

殴られた頬をさすりながらゼレフは立ち上がり

 

「ほんとに君には敵わないな。僕ももう少し努力をしてみるよ。駄目だった時は頼むよ」

 

1人になった森の中でそう言うと、歩き出した。

 

 



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最強のギルド

幽鬼の支配者の滅竜魔導士、鉄竜のガジルがシャドウギアの3人に危害を加えたことで、FAIRY TAILとの全面戦争となった。

FAIRY TAILが攻撃を仕掛けるべく乗り込もうとした際、幽鬼の支配者が動くギルドを使ってFAIRY TAILに直接攻撃を仕掛けてきた。そして幽鬼の支配者のマスター、ジョゼが言った

 

「雑魚を痛めつけたのは単なる挨拶がわりですよ。我々の目的はルーシィ・ハートフィリア。今すぐこちらに差し出せ。あの男のいない今、お前達が勝てる未来はない!」

 

それを聞いたFAIRY TAILのメンバーの怒りは爆発した。

 

「ふざけるな!」

「お前らなんかに仲間を渡すわけないだろ!」

 

それに対してジョゼは、

「馬鹿どもは1度痛い目を見ないと分からないようですね。魔導集束砲ジュピターにて手始めにギルドを消してあげましょうか」

 

するとギルドから巨大な大砲が現れ、魔力が集まっていく。

 

「みんな下がっていろ」

 

「私も手伝おう」

 

皆に声をかけてからエルザが前に出ると、カグラも続いてエルザの横に立つ。FAIRY TAILの女性魔導士トップの2人が並んで刀を構える。

 

「発射しろ!」

 

ジョゼの声の後に大砲からジュピターが放たれる。それに対して2人は刀を振るい斬撃をぶつけた。すると、ズバァァァァンという音ととともにジュピターの膨大な魔力は霧散した。

お互いに良きライバルとして高め合ってきた2人の実力は聖天大魔導にも劣らぬものとなっており、息の合った剣技による無数の斬撃は威力も凄まじいものであった。

 

「なに!!」

 

驚愕するジョゼに対して、FAIRY TAILのメンバーは盛り上がり勢いづいていく。

 

「FAIRY TAILに手を出したことを後悔させてやるぞ!ファントムの小僧ども!」

 

マカロフがそう宣言し戦いは始まった。

そこからの戦いは一方的だった。

 

ジョゼが次のジュピターの発射を指示するが、ジェラールの天体魔法、七聖剣〈グランシャリオ〉により粉々に破壊される。それならばと禁忌魔法アビスブレイクを発動し、さらにジョゼの魔法〈幽兵〉によりFAIRY TAILもギルドも襲撃を受ける。

しかし、FAIRY TAILのメンバーも黙っていない。ファントムのギルドにはマカロフ、エルザ、カグラ、グレイ、ナツが乗り込み、残りのメンバーはギルドを守るべく迎え撃った。

ジョゼの幽兵は決して弱くはない。ジョゼ自身聖十の称号を持つ程に力があり、魔法の質も一般的な魔導士とは比べ物にならない。そんな魔法兵に対して、

 

「あんたら乗り込んだ奴らだけにいい格好させないよ!」

 

そう言った後近づいていた幽兵達をまとめて凍らすウル。

 

「私達もお母さんに負けないよ!」

「当然だ!」

 

そこに娘と弟子のウルティアとリオン。2人も氷のバラや動物による攻撃で次々と敵を撃破していく。氷の魔導士たちの活躍に感化され周りの魔導士も勢いづいていく。カナはカードから凄まじい炎や水を放出し敵を蹴散らす。エルフマンとリサーナは全身接収によるパワーとスピードで幽兵をなぎ倒し、ギルドのピンチだからと参戦を決めたミラは圧倒的な魔力で殲滅していった。他の魔導士達も各々の魔法を活かして戦っており、次々と現れるジョゼの幽兵を倒していった。

 

ファントムのギルドに乗り込んだ5人に関しても一方的であった。グレイは水の魔導士であるジュビアの相手になるが、リオンと競いウルを追いかける中で磨いてきた氷の造形魔法は熱湯をも一瞬で凍らして撃破した。グレイの強さを見てFAIRY TAILというギルドに興味をもってジュビアは気絶するのだった。

ナツは鉄の滅竜魔導士ガジルとの勝負となる。レクトからやみくもに突っ込むだけではダメだと指導されてきたナツは、フェイントや回避もうまく使いながら戦っていく。途中ガジルは鉄を食べることで回復を図るも、ナツの攻撃に押され、最後は滅竜奥義にて倒された。自分の強さに絶対的な自信があったガジルは、下に見ていたナツ相手に敗北したことで悔しそうにしながらも、ナツに問いかけた。

 

「お前はなぜ強い?お前だけじゃなくジュピターを防いだ女達や大砲を粉々にした青髪の男もだ。どうやってそれだけの力を手に入れた?」

 

「そんなもん皆修行したからに決まってんだろ。まぁレクトに指導してもらったってことも大きいけどな」

 

「聖十のレクト・ロールス。俺も噂は聞いたことがあるが確か死んだんじゃないのか?」

 

「レクトは生きてる!今はいないけど必ず帰ってくる。お前も強くなりたいならうちに来いよ。そしたらいつかレクトに鍛えてもらえるぞ」

 

そう言うナツの言葉を聞いてガジルは考えた。『今までの自分のままではいつまでたってもこいつに勝てない。この様子だとファントムは負けて攻撃を仕掛けたことによる罪でギルドも解散になる。それならば・・・』そこまで考えたところで

 

「俺をFAIRY TAILに入れろ。いつか絶対お前を倒してやるからよ。ギヒッ」

 

「いつでもかかってきやがれ。但し、レビィとジェットとドロイにはちゃんと謝れよ」

 

そうして滅竜魔導士2人の戦いは幕を閉じた。

 

カグラとエルザに関しては勝負にすらならなかった。エレメント4の兎兎丸、ソル、アリアを相手に瞬殺。3人ともファントムのS級魔導士だが、エルザとカグラとの力の差はあまりにも大きく、それを見た他のファントムの魔導士達の戦意も奪っていった。

 

そしてマスター2人は向かい合っていた。

 

「どうして私のギルドの魔導士がFAIRY TAIL如きに!絶対に認めませんよ!最強はファントムなのですよ!」

 

そう言って怒り狂ったジョゼはマカロフに魔法を放つが、冷静さを失ったジョゼの攻撃はマカロフを捉えることが出来ない。

 

「その若さでそれだけの魔力は大したものじゃ。しかしうちにはお主レベルの魔道士はおるし、そやつらは今も向上心を持って努力を続けておる。道から逸れ、他の魔導士の見本とならんお主にマスターの資格はない」

 

そしてマカロフは妖精の法律を発動し、ジョゼは敗北した。

1人1人の魔法の質、技術の高さ、どれをとってもFAIRY TAILはファントムを上回っており、この時からFAIRY TAILは大陸1のギルドとして認知されるようになるのだった。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

FAIRY TAILは強い。

それが大陸中に浸透したことにより、回ってくる依頼も増えていた。その1つに闇ギルド、六魔将軍の討伐があった。闇の最大勢力であり、バラム同盟の1つである六魔将軍を相手にするということで連合を組むこととなった。複数のギルドで協力して行われるこの依頼に、FAIRY TAILからはカグラ・エルザ・ジェラール・ナツ・ウルティアが代表として向かうこととなった。

青い天馬のギルドにて各ギルドの代表の顔合わせとなった。

 

「相変わらずFAIRY TAILの皆さんはお美しい」

「長旅でお疲れでしょう。どうぞこちらへ」

「お前ら可愛すぎだろ」

「僕ずっと憧れていたんだ」

 

ギルドに着くと、ジェラールとナツ以外の3人はすぐに声を掛けられていた。一夜はともかく、トライメンズというイケメン魔導士ランキングでも上位の3人に、一般的な女性であれば間違いなく喜ぶところであるが、

 

「今回はよろしく頼む。だが気安く触れないでくれ」

「チャラチャラした男は嫌いなんだ」

「2人と同じく」

 

3人とも1人の男に惚れこんでおり、他の男の誘いには一切動じなかった。全く相手にされなかったことにショックを受けている様子を見て、無視されていたナツがトライメンズを茶化していると、残りの連合のメンバーも到着した。

蛇姫の鱗からは聖十のジュラと男2人に女1人。眉毛が濃かったり、犬っぽかったり、ケバかったりと個性的な面子であった。

化猫の宿からは1人の少女と猫。幼い少女を危険な依頼に出したことに対して批判の声も上がっていたが、これからは仲間として行動するため、取り敢えず自己紹介をしていた。

 

「化猫の宿から来ました。ウェンディです。よろしくお願いします。戦闘は全然ですけど、サポートの魔法が使えるので、仲間はずれにしないで下さい~」

「またそんな弱気になって、だから舐められるのよ」

 

緊張して萎縮しているウェンディに対して、

 

「エルザだ。困ったことがあったら何でも聞いてくれ」

「カグラよ。危険もあると思うけど一緒に頑張りましょう」

「私はウルティア。お姉さん達をしっかり頼ってね」

 

FAIRY TAILの3人が優しく接してくれたことで緊張がほぐれ、ウェンディはお姉さん気質の3人に懐いていた。そうして、一通り顔合わせが終わったところで、一夜から今回の作戦の概要の説明があった。青い天馬の爆撃艇で奇襲をかける、そのためにまずは六魔将軍の拠点を見つけるという話を聞き早速出発した。

その直後、連合軍は襲撃を受けた。相手は目的の六魔将軍。突然現れた敵に驚き怯んでいると、六魔将軍のメンバーが動き出した。迎撃しようと動いたのは青い天馬の一夜を除いた3人と蛇姫の鱗のジュラを除いた3人である。「おい、お前達!落ち着け!」そう2人が止めようとするが、冷静さを失っているのか声が届かない。

魔法を六魔に向かって放つが無意味だった。青い天馬の3人はレーサーのスピードに翻弄され、攻撃を当てることすらできずに、あっという間に倒されてしまう。ラミアの3人も各々の魔法で攻撃を仕掛けるが、ホットアイの魔法で足場を崩され、コブラの攻撃により体が麻痺してしまう。

 

一瞬にして半分近くダウンさせられてしまったところで、六魔将軍のメンバーは一度距離をとった。六魔将軍の予想では、全員冷静さを失って動くと思っていた。しかし、冷静にこちらの動きを観察しているところを見て、唯の雑魚と言う認識を改めていた。

 

ここで初めてお互いに向かい合った。六魔将軍はマスターのブレインを筆頭に、寝ているミッドナイトを除いて皆自信に満ちた表情をしているが、エンジェルと呼ばれる女性のみ険しい顔をしている。

連合側はFAIRY TAILの5人にジュラ、一夜、ウェンディと人数の有利はほとんどなくなっている。そんな中で、ジェラールが連合のメンバーに声をかけた。

 

「今回は俺が指示を出す。それで大丈夫か?」

「あぁ、もちろんだ」

「それにしてもナツ、よく飛び出さなかったわね」

「当り前じゃねえか。レクトの教えだろうが」

「それもそうだな」

 

その光景を見て、ジュラは驚きを隠せないでいた。戦いが始まってすぐに6人も倒され、流れが悪いことは明らかである。そんな中でも取り乱すことなくこれからの動きを確認しているFAIRY TAILのメンバー、聖十の1人である自分ですら仲間が倒された時は焦っていたにも関わらず。

 

「ジュラさんもそれで大丈夫ですか?」

 

ジェラールがジュラに聞く。聖十の称号を持つ実力者であるため、他ギルドの魔導士の指示で良いか確認をとるためであった。

 

「あ、あぁ、大丈夫だ」

 

そう答えながら、『大陸一は伊達じゃないな・・・』ジュラは小さくつぶやくのだった。

 

 

 

「ミッドナイト、お前も起きて戦え。相手も多少はやりそうだ」

 

そう言われて絨毯の上で寝ていたミッドナイトが起き上がる。マスターであるブレインは続けて

 

「全員気を抜かずに全力でやれ。こいつらさえ倒せば邪魔はなくなる。そうすれば我らの目標は達成したも同然だ」

 

それを聞いて六魔将軍のメンバーは笑みを浮かべる。これから相手を蹂躙することに対しての気持ちの高ぶり、自分達の目的が目前にまで来ていることを再認識したことによる喜び、それらから皆楽しそうにしていた。

まかせた前」

「エンジェルお前もだ。妹を守りたいのならな」

 

ブレインは唯一の女性であるエンジェルに向かってそう言ってにやりと笑う。それを聞いてエンジェルは悔しそうな顔をするが、少し経つと覚悟を決めた表情をした。

 

 

 

「ウェンディは先程やられた者の手当てを頼む。一夜さんもその補助に回って終わり次第こちらのサポートに入ってくれ」

 

「分かりました!」「任せたまえ!」

 

「ナツはコブラ、ウルティアはエンジェル、カグラはレーサー、エルザはミッドナイト、僕はホットアイの相手をする、ジュラさんはブレインの相手をお願いします。戦いが終わり次第援護に回るように」

 

「「分かった」」

 

ジェラールの指示を受けてそれぞれ動き出し、連合と六魔将軍の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

ウルティアとエンジェルの戦いは拮抗していた。

星霊魔導士のエンジェルは黄道十二門のスコーピオン、さらにジェミニを呼び出し、ジェミニをスコーピオンに変化させる。そして2人になったスコーピオンによる強化した砂の魔法、さらには砲台としてカエルムを呼び、三体同時召喚による連携攻撃でウルティアに襲い掛かる。

対するウルティアも、氷の造形魔法と時のアークを使い応戦する。物質の時間を操り次々と放たれる攻撃を無効化、美しく芸術的にすら思えるが威力は凄まじい氷の造形魔法、実力的には間違いなくS級のウルティアはエンジェルの猛攻にもしっかり対応していた。

そんな戦いの中ウルティアは向かいあった時から思っていたことを問いかけた。

 

 

「あなたはどうして闇ギルドにいるの...そんなに、苦しそうな顔して!」

 

「っ!うるさいんだゾ!こうするしか、、あの子のために!」

 

エンジェルの攻撃には迷いはない、しかし決意をしても表情は隠しきれていなかった。

 

「あの子?それは一体?」

 

「私の妹だゾ。マスターのブレインに妹のユキノを人質にされて、星霊魔法は使えるから妹に手を出さない代わりに六魔将軍の一員となれって」

 

「そんなことが・・・でも、それなら問題ないわ。ブレインの野望も今日、私達が砕くから!」

 

「できるはずがない!だから私とユキノは決めたんだゾ。きっと、またあの人が助けてくれる。それまでは我慢するんだゾ。レクトさんが来るまで!」

 

「っ!そう、それなら見せてあげるわ。そのレクトさんに鍛えられた私達の力を!」

 

そうウルティアが力強く宣言した。互角の勝負が続いていたが、ウルティアが攻撃を無効化して出来た隙に一気に攻撃を畳みかけた。

「アイスメイク白竜!アイスキャノン!」

造り出された氷の竜がスコーピオンに襲い掛かり無力化、続けざまに放たれた氷の砲弾がジェミニとカエルムを打ち抜き星霊界へと還す。その際に星霊達がエンジェルに対して見せた申し訳なさそうな顔から、星霊に慕われていることを表していた。そして、

 

「アイスメイク薔薇の王冠!」

 

ウルティアの放った攻撃を避けることが出来ず、もろに受けてしまったエンジェルはダウンした。

仰向けに倒れているエンジェルに向かってウルティアは話しかけた。

 

「レクトさんは今はいないけど、必ず帰ってくる。それを信じて私達も待ってる。ブレインを倒してあなたの妹もあなたも開放するわ。そうしたら一緒にレクトさんの帰りを待ちましょ。FAIRY TAILで!」

 

それを聞いてエンジェルは涙を流しながらうなずく。こうして女2人の戦いは幕を閉じた。『レクトさんは一体どれだけの女性を...帰ってきたらしっかりお話しないと...』ウルティアは1人そんなことを考えていた.

 

 

 

他の者もジェラールの指示通りに戦闘を行っていた。

ナツとコブラは滅竜魔導士の力を存分に使い、激しい戦いを繰り広げていた。炎と毒のブレスがぶつかり合い、周囲の木々を燃やし、腐らす。近接戦では相手の考えを聞き取ることが出来るコブラが優位に立っていたが、ナツもコブラの動きを見極め、徐々に差がなくなっていった。そんな中、ナツが毒の攻撃を食らったことで苦しい状況となるが、追い込まれたナツが竜を思わせる咆哮をし、耳が良すぎるコブラは気絶してしまう。思いがけない形での決着であったが、ナツの勝利は紛れもない事実であった。

カグラとレーサーは勝負にならなかった。レーサーは魔法により圧倒的な速さで襲い掛かるが、直後とてつもない重さがレーサーを襲う。カグラが使った重力魔法、それによりレーサーは碌に動けない状態になってしまい、鞘で殴り飛ばされる。吹き飛ぶレーサーを一瞥すると、仲間のサポートをするために歩き出す。大陸トップクラスの女魔導士相手ではレーサーでは力不足であった。

エルザは物質を曲げるミッドナイトの魔法により、鎧を破壊され不利な戦闘が続くが弱点を見抜いたエルザに反撃を食らう。追い込まれたミッドナイトは幻覚を見せるも、強い精神を持つエルザにはすぐに破られ、斬撃を食らったことで敗北した。エルザはカグラやミラ、ウルティアと競い合う中で、肉体や技術だけでなく精神もS級にふさわしいものとなっていた。

ホットアイは土を柔らかくする魔法を得意とする。それにより相手はまともに踏ん張ることもできず、大人数相手でも優位に戦える力を持っているのだが、天体魔法を使い空を自由に飛び回るジェラールでは相手が悪かった。そして最後は七星剣により、隕石に匹敵するほどの威力を受けたホットアイは気絶する。

ブレインとジュラの戦いはカグラ同様圧倒的であった。聖十に選ばれるほどの力を持つジュラは、ブレインの攻撃をすべて防ぎ、とてつもない魔力の込められた岩石の攻撃によりあっという間に倒してしまう。その直後禍々しい魔力とともにブレインのもう1つの人格が現れる。六魔将軍のメンバーが倒されたことで、封印がなくなり現れたゼロはブレインとは比べ物にならない力を持っている。ゼロは解放された力ですべてを壊すべく動き出す。しかしそれを阻むのはFAIRY TAILのメンバーである。先程まで戦っていたにも関わらず、その疲れを一切感じさせずにジュラの横に並ぶ。

 

「あとはあの男だけだな」

「よっしゃー、燃えてきたぞ!」

「ナツ、毒は大丈夫?」

「わ、私が治しました」

「さっさと終わらせてギルドに帰るぞ」

「FAIRY TAILは本当に頼もしいな」

 

ゼロを前にしても一切臆することなく、戦いが始まった。ゼロの魔法をジュラの岩石とウルティアの氷で防いだ隙に他のメンバーが距離を詰める。ウェンディと一夜がサポートの魔法と香りで支援、それを受けて猛攻を仕掛ける。炎のブレス、隕石による攻撃、凄まじい斬撃、それらを捌きもきることが出来ない。ゼロも強大な力を振い応戦する。ゼロは強い、しかしそれ以上に連合の力は圧倒的であった。ダメージが積み重なり、やがてゼロは耐え切れず倒れた。こうして六魔将軍との戦いは連合の勝利で幕を閉じ積み重なりた。

 

 

 

 

 

 

戦いの後、応援に駆け付けた各ギルドのメンバーが六魔将軍の傘下を殲滅した。樹海の中で発見されたニルヴァーナは青い天馬の爆撃艇により破壊された。六魔将軍の野望が完全に砕かれた瞬間でもあった。

後に向かったウェンディのギルドでは、化猫の宿が幻であることが分かりウェンディはFAIRY TAILに入ることを決意した。さらに六魔将軍のエンジェルことソラノとその妹ユキノもFAIRY TAILに入ることになった。ソラノは脅されて闇ギルドに入っていたこと、FAIRY TAILのメンバーが擁護したことで評議員は罪がないことを認めた。ユキノは囚われていたところを救出され、姉と同じくレクトに会いたいとFAIRY TAILに入ることを決めた。

 

魔導士ギルド〈FAIRY TAIL〉

3人の新たな仲間を加え、その勢いはさらに増していき、大陸中から認められるのだった。

 

『最強のギルド』であると

 



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