ペロロンチーノの冒険 (kirishima13)
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第1話 美少女モノのエロゲは王道

 

 

 ユグドラシルの終了まで残りわずか。ペロロンチーノは急いでいた。目指すはナザリック地下大墳墓の第9階層、そのミーティングルームだ。速度上昇や移動系のスキルをフル活用し階層を最短距離で走り抜ける。鳥人である彼が疾走していく様子はまさしく弾丸であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DMMO-RPGユグドラシル。ペロロンチーノの元にメールが訪れたのはユグドラシルサービス終了の前日であった。体感型RPGはペロロンチーノがかつて遊んでいたゲームだ。そして、そのギルドメンバーからの久しぶりのメール。ペロロンチーノも所属していたギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルドマスター、モモンガからのものであった。内容は要するに「サービス終了前にみんなで集まって遊びませんか」というようなものだ。

 

 サービス終了の前日にメールするなんてモモンガさんらしいなぁ、きっと迷惑かな、送ってもいいかなとか迷っているうちに前日になってしまったのだろう、彼らしいなぁ、とかつての友人を思い出す。しかし、彼にはそんな思い出に浸っている時間はないのだった。なぜなら彼がモモンガからのメールに気づいたのはサービス終了1時間前だったからである。なぜ気づかなかったのか。それにはやむを得ない事情があった。世界の平和、人々の安寧、犯罪率の低下、それらのために彼は戦っていたのだ。いや、いつも彼は戦い続けている。世界のため、そして自分のために。モモンガのメールに気づくその時まで。そう、つまり彼はエロゲとかエロゲとか、つまりエロゲをしてたためメールに気づかなかったのである。

 

 ユグドラシルに久しぶりにログインした彼の目に最初に飛び込んできたのは銀髪の少女であった。場所はナザリック地下大墳墓の第2階層の死蝋玄室。彼が最後にログアウトした場所である。銀髪の少女こそ彼が制作したNPCシャルティア・ブラッドフォールンである。

 

(久しぶりに見たけど、可愛いなぁ……真祖(トゥルーヴァンパイア)をこれだけ可愛く作るのは苦労したものなぁ)

 

 目の前の少女の頭を撫でる。サラサラとした感触が心地よい。そして、ほかの場所も触ろうと手を伸ばし、手を止める。そうだ、これはエロゲではなく、R18指定がかかっている。ユグドラシルにおける規約違反のペナルティは非常に厳しく即時アカウント停止もあり得る。残念そうに手を引っ込め、さっそく集合場所であるミーティングルームに向かおうと転移を選択するが、何も起きなかった。

 

「あれ?なんで転移できないんだ?」

 

 そしてふと自分の手を見る。ギルド拠点内でギルドメンバーは転移が可能であったが、それはギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を装備しているときだけだ。彼は引退したときに指輪を含むほとんどのアイテムをモモンガに預けていたので当然装備は何もしていないのであった。

 

 彼の額に汗が浮かぶ・・・・・・ことはないため、汗のアイコンを表示する。指輪がないのであれば第2階層からモモンガがいるであろう第9階層までは歩いて行かなければならず、かなりの距離がある。残りの時間内でいけるかどうかぎりぎりだ。

 

「メッセージを使ってモモンガさんに迎えに来てもらえばいいかもしれないけど・・・・・・」

 

 ただ、それでは直接会う感動が半減だ。もう来ないのでは、と思っているところで直接顔を出したい。間に合わなかったらメールで話をしよう。そう思った瞬間、彼を翼を羽ばたき、難攻不落のダンジョンナザリック地下大墳墓を一気に駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サービス終了10分前、ミーティングルームの前にペロロンチーノが立っていた。すでに集まりは解散しているということはないだろう。少なくともモモンガさんは最後までいるはずだ。モモンガをよく知る彼には分る。モモンガさんならサービス終了の瞬間までいるはずだと。ユグドラシルというゲームに拘っていたモモンガさんなら。

 

(サービスが終了したら別のゲームに誘ってみようかな)

 

「モモンガさーん!お久しぶりです!」

 

 部屋に入ると41の椅子で囲まれたテーブルのみがあった。誰もいない。残り時間も少ない。汗のアイコンを出し、そしてまた彼は走り出した。

 

・・・・・・ギルドメンバーの個室。いない。

・・・・・・大浴場。いない。

・・・・・・食堂、にはメイドたちがいた。そして立ち止まる。

 

「メイド服はいいものだ。うん、ビバメイド服!」

 

 いや、違う。そんな時間はない。そしてふと思い出す。モモンガさんを魔王、自分がその右腕として遊んだ魔王ロールのことを。

 

「たっち・みーさんが勇者で、ヘロヘロさんと姉ちゃんが女冒険者の服を溶かす役だったなぁ」

 

 そして、モモンガが言っていたことを思い出す。ナザリック地下大墳墓が8階層まで攻略されたときは、迎撃に向かうのではなく、そこで待とうと。魔王は玉座で待つものだと。

 

 

 

0:00 ペロロンチーノは玉座の間の扉を開ける。そこに漆黒のローブをまとった骸骨を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、立ち眩みがした気がした。しかし、何も変化はない。そして、結局玉座の間にもモモンガさんはいなかった。それどころかほかの誰もいなかったのだ。

 

「仕方ない。メッセージでも送るか」

 

 そう思ってふと時計を見ると、サービス終了時間はすでに過ぎていた。

 

「あれ?サービス終了処理に手間取っているのかな?」

 

 過去にもこのような経験があったため、俗にいう『ロスタイム』かと思い、気にせずにいた。

そこへ、誰もいない玉座の間に声が響き渡った。

 

「ペロロンチーノ様!?」

 

 声のしたところを見るとやはり誰もいない。いないはずであった。言葉を発するはずもないNPC以外は。

 

 

 そこには8人のNPCがいた。玉座の間に配置していたサキュバス。白髪の執事。六姉妹(プレアデス)と名付けられたメイド達。

 

「えーっと、確か名前はアルベドだったかな?」

 

 自分の名を呼んだNPCの名前を思い出す。頭からヤギのような角を生やし、腰には黒い翼が生えている。黄金の双眸からは驚きの感情が見られたが、その美貌はひと欠片も失われていない。胸元が開いた白いドレスを纏い扇情的な雰囲気を醸し出している。

 

(うん、エロい。やっぱサキュバスはいいよね)

 

ペロロンチーノはサムズアップをした。

 

「お帰りなさいませ、ペロロンチーノ様」

「お帰りなさいませ!」「お帰りなさいませ!」

 

 アルベドを筆頭に、その場のNPCすべてから喜びの声が上がる。

 

「NPCが喋ってる?もしかしてNPCを操作できるパッチでも追加されたんですか?うわー、俺もやってみたかったなぁ!R18ぎりぎりのこととか操作してやってみたかった!」

 

 ペロロンチーノがまず思ったことは、彼らNPCはギルドメンバーであるということだった。NPCが勝手に話を始めるはずもない。

 

「モモンガさんですよね?お久しぶりです!」

 

 しかし、その声に対する反応は困惑であった。

 

「あ、あのペロロンチーノ様?おっしゃっている意味がわかりません。モモンガ様がいらっしゃるのですか?」

 

 サキュバスが困惑している。

 

「モモンガさんじゃない?もしかしてヘロヘロさん?それとも姉ちゃんとか?」

「あ、あの、私は先ほどペロロンチーノ様がおっしゃったとおり、アルベドでございます」

「え、いや、そんなことあるわけが・・・・・・誰か中の人がいるんでしょう?」

「中の人とは誰のことでしょう?」

 

 その時、違和感に気づく。

 

(口が動いている・・・・・・瞬きや息遣い?こんな機能はなかったはず)

 

 分からないことだらけだ。だが、分からなければ詳しい人に聞けばいい。そう思い、ペロロンチーノはモモンガにメッセージを送る。

 

 しかし、メッセージはつながらなかった。ほかのギルドメンバーにも、そしてGMにさえ。

 

 さらにコンソールも出なければログアウトもできない。ここにきてペロロンチーノは悟る。これはゲームに閉じ込められる的なアレだと。そしてAIが進化したのかどうなのか分からないがNPC達は自我を持っている。これは今までのユグドラシルではない・・・・・・。そして考える。R18指定ももしかして解除されているのではないか・・・・・・と。

 

「アルベド」

「はっ!何でございましょうか」

「胸を触ってもいいか?」

 

 そう言って、アルベドの胸に手を伸ばした瞬間、激痛が走る。

 

「ペロロンチーノ様。私は身も心も魂さえもモモンガ様のものです。たとえ至高の御方であるペロロンチーノ様といえどもこの身に触れることは叶いません」

 

 ニッコリとほほ笑むアルベドだが、その手はペロロンチーノの手を握りつぶそうとしていた。

 

「いででででで」

「アルベド様!何をなさいます!」

 

 白髪の執事とメイド達が慌てて引きはがす。

 

(このおじさんの名前なんだっけ。男のNPCなんて名前覚えてないしなぁ、まぁおじさんでいいか)

 

「助かったよ、おじさん、ユリ、ルプスレギナ、ナーベラル、ソリュシャン、エントマ、シズ」

「おじ・・・・・・」

 

 おじさんがショックで口をДの字にして固まっている。だが、口をДの字にして可愛いのは小さい女の子だけだ。

 

(痛みまで感じるのか・・・・・・)

 

 そして気になることが一つ。

 

「アルベドってそんな設定だっけ?たしかモモンガさんが作ったわけじゃなかったよね?」

「はい、私の創造主はタブラ・スマラグディナ様です。しかし、その後モモンガ様から私にモモンガ様を愛していると!ええ、愛せよと!そのようなお心をいただきました!」

 

 目は爛々と輝き、腰の翼をパタパタさせながら胸の前に両こぶしを揃えて力説する。

 

(モモンガさん・・・・・・まさか最後にそんなことして遊んでたなんて・・・・・・見直しましたよ!やっぱりモモンガさんと俺は似た者同士ですよね!そんなこと言うと姉ちゃんはモモンガさんに失礼なこと言うなって怒ってたけど)

 

「しかし、触れないということはR18設定は生きている?いや、アルベドはモモンガさんの設定に縛られているだけの可能性もある。ここは・・・・・・」

 

 じっとプレアデスたちを見る。うん、かわいい。

 

「ナーベラル」

「はっ!」

「胸を触ってもいいか?」

「はっ!至高の御方がお望みとあらば!」

 

 そう言って頬を染めながら近くに跪いた。そして手を伸ばそうとした瞬間

 

「ナーベラル。初めてがペロロンチーノ様で本当によいのですか?」

 

言葉の主を探すとやはりアルベドであった。

 

「このナザリックを今までずっと守り、私たちとともにいてくださったモモンガ様より先にはじめてを捧げてよいのですか?」

 

 ナーベラルはその言葉にはっとする。

 

「あなたたちはモモンガ様とペロロンチーノ様どちらにはじめてを捧げたいのですか?私はもちろんモモンガさまです!」

「モモンガ様・・・・・・です」

「ぼ・・・・・・私もモモンガ様でしたら」

「当然モモンガ様ですわ」

「モモンガ様・・・・・・好き」

「わたしもぉ、モモンガ様がいいですぅ」

「モモンガ様っす」

「私はモモンガ様でもペロロンチーノ様でもお望みとあらば」

 

 最後のおじさんは殴っておいたが、ナザリックのNPC達はモモンガさんを慕っているらしい。それは嬉しいことだがなんとなく釈然としないペロロンチーノであった。

 

「ところでペロロンチーノ様、なぜ突然胸をもみたいなどと。いえ、確か以前いらっしゃったときもそんな話ばかりされてた気もしますが」

「現在ナザリックには異常事態が発生している。それを確かめるためだ」

「異常事態・・・・・・でございますか?」

「GMコールも機能しないし、ログアウトもできない。明らかに異常事態だ。まぁむしろそれが良いともいえるんだけど」

「申し訳ございません。私ではGMコールやログアウトに関する知識がございません。階層守護者を呼び状況を確かめるのがよろしいかと愚考します」

「そうだな、ではおじさん、そしてプレアデス達。各階層守護者を呼んできてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に来たのは、この階層から一番近い第7階層の階層守護者であるスーツを着た悪魔であった。黒髪に丸眼鏡スーツという姿でありながらその後方にはしっぽが生えている。

 

「おお!ペロロンチーノ様!いつかお帰りになると思っておりました!」

 

そう言って、平伏する悪魔の名前が思い出せない。男のNPCの名前なんて覚えるつもりもなか

 

「デミウルゴスでございます」

 

男のNPCの名前なんて

 

「デミウルゴスでございます」

 

その瞳に宿るカラットがキラリと光る。

 

「ああ、デミウル・・・・・・ゴスだったな。久しぶり」

 

 それを見た白髪の執事がДの字の口をしていたが、可愛くなかったので無視した。

 

 その後、ダークエルフの双子の姉妹、アウラとマーレ。姉妹?確か姉妹だったはずだ。そして、二足歩行の白い昆虫、コキュートスが到着し、ペロロンチーノを見て歓喜する。そして一番最後に来たのがシャルティアであった。玉座の間に黒い空間が突如として出現する。移動系魔法であるゲートだ。そこから銀髪の少女が飛び出してきた。フリルのついた赤いボールガウンを纏い、そのままペロロンチーノの胸に飛び込む。

 

「ペロロンチーノ様!ああ、ペロロンチーノ様!ペロロンチーノ様!」

 

 その目からは涙がとめどなく溢れ、涙以外の色々なものも合わせて溢れペロロンチーノの胸を濡らしていく。

 

「えぐっ・・・・・・信じていました。いつか来てくださると信じていました。ペロロンチーノ様ぁ・・・・・・。それに一番に私に会いに来てくれて・・・・・・頭を撫でてくれて・・・・・・嬉しい・・・・・・嬉しいです・・・・・・」

 

普段の廓言葉も忘れて泣き続けるシャルティア。

 

ダークエルフの双子の姉、アウラがそれを見て

 

「よかったね・・・・・・よかったね・・・・・・」

 

と泣いている。他の守護者も目に手を当て感激していた。

 

「それではお帰りになったペロロンチーノ様に忠誠の儀を」

 

 

 

 

 

 

 各々からの忠誠の言葉を聞き、ふと疑問に思う。彼らは自分のことをどう思っているんだろうと。何となくだが、彼らはギルドメンバーのことを神のように崇めて、尊敬しており、そんなギルドメンバーの一人である自分もそう思われているんだろう。ここにいるだけで感謝され、忠誠を尽くされている。

 

「それでは各階層守護者に聞きたい。お前たちにとって俺はどのような存在なのか」

 

「モモンガ様の親友。まさに魔王の右腕にふさわしい方です」

「淫魔さえも超える知識を持った人を堕落成さしめる恐ろしい御方です」

「空ノ支配者。遠距離攻撃ニオイテ比類ナキ腕ヲ持ツオ方デス」

「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・すごくエッチな方です」

「あの人のようになっちゃだめだよーってぶくぶく茶釜様がいってました!」

「わらわの創造主にしてエロの伝道者。ありとあらゆる性癖を熟知した御方でありんす」

 

「あ、はい」

(こいつら・・・・・・マジか?)

 それしか言えなかった。

 

 

 

 



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第2話 凌辱モノはグロ成分控えめが良い

 結局、守護者たちもこの状況について理解はできていなかった。ただし、外の様子が違っていたとのことだ。ナザリック地下大墳墓は沼地にあったはずであるのに、なぜか草原が外には広がっていたのだ。そして守護者たち曰く、ペロロンチーノが来る直前までモモンガがいたと言う。

 

 しかし、ナザリックの隅々まで探したがモモンガを見つけることはできなかった。残る可能性があるとすれば、外か宝物殿か、だが宝物殿はギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)がないため入ることが出来ない。メッセージで宝物殿の領域守護者パンドラズ・アクターに連絡をとったが、宝物殿にモモンガは居ないとのことであった。

 

 ちなみにパンドラズ・アクターに宝物殿の中にギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)がないか確認させたが、見つからなかった。つまり、ギルド内転移を可能とする指輪は現在一つもないのである。そのため、ペロロンチーノは比較的外界に近いシャルティアの部屋で、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)の操作をしていた。操作方法がおぼつかなかったが、何とか近くの集落らしい場所を映すことに成功する。

 

「おめでとうございます」

 

 後ろで白髪の執事が褒めてくれる。

 

「ありがとう、おじさん」

 

 白髪の執事はなぜか、悲しそうな顔をした。なぜだ。

 

「さすが、ペロロンチーノ様でありんすえ」

 

 腕に抱きついたままのシャルティアが耳元でささやく。

 

 シャルティアは玉座の間で会ってからずっとペロロンチーノにベッタリであった。そして気づいたことがある。シャルティアやその部下の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)などはペロロンチーノに絶対の忠誠を誓っているのだ。R18に該当する行為を試してみたが、特に嫌がるそぶりもなくペナルティーはなかった。おそらくペロロンチーノ自身で作成または傭兵システムにより召喚したNPCはモモンガよりもペロロンチーノを優先するのだろう。

 

 そして、この世界に来て以来シャルティアはペロロンチーノに甘えに甘えていたし、ペロロンチーノも満更でもなかった。己の煩悩の限りを尽くして作ったNPCが何でも言うことを聞いてくれるのだ。それこそ「なにそのエロゲ」である。

 

 煩悩の限りを詰め込まれたNPCとその創造主。まさに最高(さいあく)のコンビであり理解者であった。ここにはいつも弟にツッコミを入れていた(ぶくぶく茶釜)も暴走を止めていた親友(モモンガ)もいない。

 

 

 

 

そしてここからこの変態(ばか)たちが世界へ飛び立つことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村の村娘エンリ・エモットは妹の手を引いて森への道を走っていた。後ろからは全身を鎧で身に包んだ兵士がニヤニヤ笑いながら追いかけてくる。背中を斬られる。しかし致命傷ではない。嬲るつもりなのだろう。突如村を襲った兵士たちは何の目的も告げずに村人たちを殺し始めた。エンリを逃がすために兵士に向かっていった父は大丈夫だろうか。母は大丈夫だろうか。もはや死を迎え入れるしかない少女達の前に、突如黒い空間が現れる。

 

 

 

 

 

 そこから現れたのは全身を羽で覆われた異形、黄金に輝く4つの翼を持った亜人と、この世のものとは思われないほど美しい銀髪の少女だった。血の臭いを嗅いだその少女から舐めるように見つめられる。

 

「美味しそうな純潔の匂いがするでありんすねぇ」

「可愛い・・・・・・。これはフラグか?ここで助けることで×××(ピー)×××(ズキューン)な展開になったりして!」

「そ、それはわらわも参加していいんでありんすか!?」

「もちろんだシャルティア。それどころか一緒に×××(バキューン)な展開かもしれないぞ」

「まさかそんなプレイが・・・・・・。さすがペロロンチーノ様でありんす!」

「エロゲー イズ マイライフ!」

「エロゲー イズ マイライフでありんす!」

 

 シャルティアはエロゲーとは何のことか分からないが、創造主が言っているのだからきっと素晴らしいものなのだろうと思っていた。この世界をゲームまたは夢としか認識していないペロロンチーノは特に何も考えてないだけであったのだが。

 

 呆れるような会話に冷静さを取り戻した兵士は突如現れた化物に斬りかかる。

 

(レベルにして10以下ってところか)

 

 ペロロンチーノはスキルにより敵の強さを確認し、安堵する。これなら避ける必要さえもない。二度三度と剣を振るうが傷一つ負わせることができない兵士は、大きく振りかぶり渾身の一撃を振り下ろそうとしていた。しかし、傷がつかなかろうが至高の存在がやられるのを黙ってみているわけにはいかない。

 

「ペロロンチーノ様に触れるな!」

 

 次の瞬間、兵士の頭がコロンと落ち、血が吹き上がる。シャルティアが手刀を振るったのだ。切断面から骨が見え、ビクンビクンと血管が震えている。

 

「グロッ!い、いや俺はエロ画像取得のためあらゆる罠にあえてかかりグロ画像を見せられても耐えてきたんだ。この程度のグロには耐性が・・・・・・」

 

 

 

 

 木の幹に大量の虹が舞った。無理でした。

 

 

 

「狂ったか運営・・・・・・規制をなくすことはいいが、見せちゃいけないものは規制しておいてくれよ・・・・・・グロすぎだろう。せめて残虐な表現のオンオフ機能を付けてくれ・・・・・・」

 

 ペロロンチーノはGMコールを連打しながら跪いていた。しかしGMコールはつながらない。

 

「まったく!まったくでありんす!まったくうんえいはまったく!」

 

 当然、シャルティアは何も分かっていない。

 

 

 

 

 

 何とか立ち直り、出来るだけ内臓とか切断面とかは見ないようにしながら少女と幼女に話しかける。

 

「怪我をしているようだな」

 

 あらためて見るとなかなか整った顔立ちをしていて可愛い。このフラグを繋げるべくアイテムボックスを探す。その中からたいした価値もないのでそのまま入れっぱなしにしていたポーションの瓶を手に取る。

 

「これを飲むといい」

 

そう言って真っ赤なポーションを差し出した。

 

「ひぃ!血・・・・・・?」

 

 少女は考える。先ほどから意味不明のことを言っている化物の持ち物だ。それにすぐそこで虹を吐いていた化物が出したアイテム・・・・・・とてもまともな飲み物であるはずがない。だが、飲まないとどんな目に遭うか・・・・・・逡巡するエンリに化物の仲間が声を張り上げる。

 

「至高の御方がお慈悲をくれてやろうというのに受け取らないとは・・・・・・殺すぞ!」

 

 仲間の女の目が真っ赤に染まる。口からはチラリと牙が見えた気がする。彼女も間違いなく化物だろう。圧倒的な殺気と恐怖に少女の股間が濡れていき、そしてつられるように幼女の股間も濡れていく。

 

(なんだこれは、こういうイベントか?先ほどの発言は撤回しよう。運営やるじゃないか。グッジョブ)

 

 シャルティアを見ると彼女も興奮している様子だ。しかし、このまま放尿プレイをしていてもイベントは進まない。仕方ないので、少女の顔にポーションをぶっかけ、ニッコリとほほ笑む。

 

 ポーションの効果が発動し、少女の傷が治る。

 

「大丈夫ですか?お嬢さん」

 

 その言葉を聞いて、少女は本能で感じる。この顔を醜く歪ませている化物たちが本気で心配してるとは思えない。自分を、そして妹を舐め回すように見るあの目・・・・・・。食べようとしているのか、いやもっとおぞましいことをするつもりなのか。しかしエンリの本能とは逆に人見知りをしない妹が声をかける。

 

「うん、大丈夫です。ありが・・・・・・」

「ネム!見ちゃダメ!見ちゃいけません!」

 

 瞬間、少女は幼女の手を引いて村のある方向に向かって逃げて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵士たちの殲滅は終わったが、フラグの折れたペロロンチーノの心も殲滅されていた。

 

「あれ、絶対キモがられてたよね。何が悪かったんだろう。エロゲトークしてるところを目撃した女性陣と同じような目をしてたよ・・・・・・」

「至高の御方に助けられておいて逃げだすとは許せないでありんす!今すぐわらわが連れ戻して・・・・・・」

「やめて!これ以上俺の心を折らないで!」

「そうでありんすか?」

「本当に何が悪かったのか・・・・・・」

「困ったときはデミウルゴスでありんす」

「デミウルゴス?」

「はい、デミウルゴスはナザリック最高レベルの頭脳を持っているでありんす。聞いてみんしょうかえ」

「なるほど、困ったときはデミウルゴスか」

 

 ペロロンチーノは心にそうメモした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリックに戻り、デミウルゴスに先ほど集落での経緯を説明する。

 

「なるほど、恐らくですが原因は顔・・・・・・でしょうか」

「やっぱりか!ちくちょう!」

 

 ペロロンチーノが地面を叩く。

 

「やっぱイケメンじゃないとダメか!?俺の顔じゃダメだったか!」

「そんなことはありんせん。ペロロンチーノ様のお顔は最高です!」

「その通り。ペロロンチーノ様は非常に美しくあられます。ですが、おそらく人間達はペロロンチーノ様のお姿に恐れを抱いたのではないでしょうか」

「恐れ?え?このアバターそんなに怖い?むしろかっこいいと思うんだけど」

「もちろん大変素晴らしいお姿です。ですが、愚かな弱者たる人間にはその価値が分かるはずもなく嫌悪することもございましょう。そのような人間どもは命じてくだされば即座に皆殺しにして見せます」

「いやいや、殺すなよ。これ以上グロを見せられるのは勘弁だ」

「さようでございますか。御意に」

「ユグドラシルじゃ普通に人間の町に行っても大丈夫だったのになぁ」

「確かに、かつていた世界では人間も異形もある程度ともに暮らしておりました。しかし、先ほどのペロロンチーノ様の話を聞く限りですとこの世界の人間はさらに弱いのではないでしょうか。弱ければ弱いほど臆病であるのは道理でございます。自分たちの種族だけでコミュニティーを形成しないといけないほどに。同じ人間で整った顔のものが対応していれば結果も違ったことでしょう」

「なるほど、つまり『ただし、イケメンに限る』と言うことか」

「イケ・・・・・メン・・・・・・でございますか?」

「イケメンなど滅びればいいのに!」

「あの・・・・・・ペロロンチーノ様聞いていらっしゃいますか?」

 

 

「少し我を忘れてしまったようだ。忘れてくれ」

「御意に」

「次からは人に化けてから町にでも行くことにするよ。でもまぁ、人助けもできたし良いとするかな」

「まったくあの人間はもっとペロロンチーノ様に感謝するべきでありんす」

「しかし、ペロロンチーノ様であればそのお姿のままでも人間を如何様にも支配できるのではないでしょうか。それほどまでに人間に気を使う必要があるのでしょうか。ペロロンチーノ様らしく、欲望の限りを尽くしてもよろしいのでは」

「それではフラグがほぼ折れてしまう。できれば王道ルートを行きたい。無理やりというシチュもたまにはいいが、後回しだな。まぁ悪人になら多少のことはいいだろうが」

「フラグ・・・・・・王道・・・・・・ふふっ、なるほど。欲張りな方だ。さすがはペロロンチーノ様です」

「くくくっ、分かるかデミウルゴス。このHめ・・・・・・」

「あ、あのペロロンチーノ様。本当に分かってます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその頃、カルネ村へ向かった王国戦士長(イケメン)達が陽光聖典の特殊部隊と遭遇し全滅させられるのであるが、それはまた別のお話。

 



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第3話 透明化モノは感情移入が難しい

―――ナザリック地下大墳墓 玉座の間

 

「さあ、次のセリフよ」

『アルベドよ、愛している』

「くふー!いいわ、いいわよ!次のセリフ行きましょう」

『ただいま、アルベド』

「はい!おかえりなさいませ!モモンガ様!ご飯になさいますか?お風呂でしょうか?それともわ・た・し?」

『もちろん、お前だともアルベド』

「くふー!モモンガ様ー!」

『あの・・・・・・アルベド様。そろそろ職務に戻らせていただけないでしょうか、データクリスタルの整理が終わってないのです』

「ちょっと駄目じゃないパンドラズ・アクター。まだ全部セリフが終わってないわ」

 

 そこへ扉を開き、スーツ姿の悪魔が現れる。他の階層守護者が後ろへ続いて入ってくる。

 

「何をやっているのかね。アルベド」

「あら、デミウルゴス。あなたたちが集まるまで時間があったからモモンガ様のお声を聴かせていただいていたの」

「モモンガ様の声?」

 

 アウラが不思議そうに首を傾ける。

 

「そうよ。宝物殿の領域守護者パンドラズ・アクターは至高の御方への変身ができるの。それでモモンガ様に変身してもらってあーんなセリフこんなセリフもメッセージで・・・・・・くふふふ」

「なにそれー!ずるいー!あたしもぶくぶく茶釜様のお声が聴きたいー!」

「ぼ、僕も・・・・・・」

「イイ加減ニシロ。我ラノ存在理由ヲワスレタカ」

「まったくだ。コキュートス。私たちは至高の御方のお役に立つべくここに在るのだよ?」

「だって!だってしょうがないじゃない!モモンガ様に会いたいんだもの。ああ。モモンガ様に会いたい、モモンガ様に会いたい、モモンガ様に会いたい」

 

 そう言いながらアルベドは地面を転げまわる。

 

「守護者統括殿はお疲れのご様子だが・・・・・・本日集まってもらったのは他でもない。今後の我らの行動指針を決めておきたいと思ったからだ」

「こ、行動指針ですか?」

「そうだとも。マーレ。現在ナザリックには至高の御方としてペロロンチーノ様がいらっしゃる。その御方のためにどうやって我らがお役に立ってゆくのかということだよ」

「そう言えばペロロンチーノ様は?シャルティアも来てないけど」

「ペロロンチーノ様は人間の町に赴かれた。おつきの者としてシャルティアがついていったよ」

「なにそれずるいー。あたしもペロロンチーノ様のお役に立ちたいのに!」

「で、でもなんで人間の町なんかに行かれたんですか?」

「それは分からない。あの御方は他の至高の御方々がおられたときから変わっておられたからね」

「それよ。至高の御方のことを悪く言う気はないけど、ペロロンチーノ様にこのナザリックを管理してゆけるのかしら」

 

 転がりながら戻ってきたアルベドが立ちあがる。

 

「アルベド。至高ノ御方ヲ疑ウナド不敬ダゾ」

「いや、アルベドの言うことももっともだとは思う。だがそれのどこに問題があるのかね?」

「ナンダト?」

「いやね、確かにモモンガ様は偉大な御方だ。だが、それ故に一人で何でもなされてしまわれる。現にナザリックの管理も我らに頼ることなくお一人でなされていた。だがペロロンチーノ様なら?ペロロンチーノ様の手となり足となりお役に立てる機会に恵まれることだろう」

「なるほどねー。あたしたちの出番ってわけね」

「そこでだ。先日、ペロロンチーノ様からお聞きした話を皆に伝えておきたい」

「ホウ、ペロロンチーノ様ハ何ト」

「『フラグを立てろ、王道を行く。』そんな話をされておられた」

「フラグ?王道?どういう意味?」

「ペ、ペロロンチーノ様の言ってることってたまによくわからないよね」

「フラグとは旗のこと。つまりペロロンチーノ様はこうおっしゃっられたいのだよ。世界中の(フラグ)をすべてナザリックに染めろ、そして世界の王者としての道を作れと」

 

 おおーっ、と守護者たちから感嘆の声が上がる。

 

「ナルホド、ソレハ確カニ至高ノ御方ラシイ考エダ」

「ぼ、ぼくも頑張ります!」

 

そこに、今まで黙っていたサキュバスが口を挟む。

「ちょっと待って。その世界の王者とは誰のことを指すのかしら?」

「え?ペロロンチーノ様じゃないの?」

「モモンガ様を差し置いて?」

「ではアルベド。どうしたいのかね」

「そんなの決まってるじゃない。モモンガ様を探すのよ!きっとこの世界のどこからにいらっしゃるはずだわ」

「なぜそう思うのかね?」

「だってそうじゃない。モモンガ様はペロロンチーノ様がいらっしゃる直前までいらっしゃったのよ!私たちが今やることはモモンガ様を探すことよ!」

 

 その言葉にほかの守護者が黙り込む。それは怒りを含むものであった。

 

「あら、どうしたというの?」

「分からないのかい?アルベド。では聞かせてもらおう。なぜ、モモンガ様なんだい?」

「それはモモンガ様が至高の御方のまとめ役として・・・・・・」

「我々はね、なぜモモンガ様だけなのか、と聞いているんだよ」

「あ・・・・・・」

「私たちが自分の創造主に会いたいと思っていないとでも言うのかい?」

「そうだよ、あたしもぶくぶく茶釜様に会いたい!」

「ぼ、ぼくもそう思います」

「当然ダ。武人建御雷様ニ会イタイトモ」

「モモンガ様に会いたいあまりに気が付かなかったわ・・・・・・守護者統括失格ね・・・・・・」

「まぁ、君の気持ちもわかるとも。そのためにもペロロンチーノ様の提案は良いかと思うがね。世界をナザリックの旗で埋め尽くすことは至高の御方々を見つけることにもつながるだろう」

「分かったわ。その方針には賛成よ。それで、周辺の国の状況とかは調べているの?」

 

「もちろんだとも。まずそこから説明しよう。このナザリック地下大墳墓のある場所はリ・エスティーゼ王国という国の中にあるらしい。ペロロンチーノ様が訪れてる国だね。この国ははっきり言って魅力がない斜陽の国だ。貴族と王族が争い、そして国民は重税に苦しみ国庫は破綻寸前。隣国のバハルス帝国との戦争を毎年繰り返しているにも関わらず危機意識がまったくない。また、強者の噂もない。この国最強と言われている戦士長も最近亡くなったとのことだ。至高の御方がいる可能性は低いだろう」

 

「次に、バハルス帝国。鮮血帝と呼ばれるものが率いている国だ。人間にしてはなかなかの名君で国民の支持も高い。いずれ王国を飲み込むだろうね。王国に比べても強者が多いらしく、この世界では最高位の魔法詠唱者がいるとのことだ。まぁ我々の敵ではないだろうがね」

 

「スレイン法国。先ほどの2国とエ・ランテルを境に国境を持つ国だ。法国の名の通り神を信仰している国で、六大神というらしい。この六大神についてはその強さ、その現れ方から私の予想では至高の御方と同じくぷれいやーであると思われる」

「ぷれいやー?無謀にもナザリックに攻めてきたあの?」

「そうだよアウラ。もしくは至高の御方か、だ。六大神の一人は髑髏の顔をしてたらしいという情報もある」

「モモンガ様が!?」

「それは分からないが調べてみる価値があるだろうね。ただし、その血を引く強者や強大なアイテムを持っている可能性も見て警戒しておくべきだろう」

 

「次にアーグランド評議国。5匹とも7匹とも言われる竜が評議員として支配している国と言われているが真偽は不明だ。ここは様々な種族が暮らしているらしいが強さも不明。至高の御方がいる可能性も考慮する必要があるだろう」

 

「そして、聖王国。ここは人間の国らしいが六大神とは別の神を信仰しているらしい」

「らしいって?調べられなかったの?」

「ああそうだ。強力な探知阻害が国全体に張り巡らされていて情報の収集は困難だ。こちらが探知防御対策をしていなかったら手痛い打撃をくらっただろう。長らく鎖国状態にあるらしく周辺国家との国交も皆無。侵入させたしもべたちは帰ってこない」

「なんかむかつく、滅ぼしちゃおうか」

「私ガ先鋒ヲ努メヨウ」

「まぁ待ちたまえ。まずは情報収集だ。敵対的交渉のみが我々の手段ではないのだからね」

「それで、どの国にモモンガ様がいるの!?」

「アルベド、また先ほどの繰り返しをするつもりかい」

「そ、そうね。至高の御方々をね」

「デハ順番ニ潰シテ行クカ」

「まずは情報収集だといっただろう。それに隠れた強者がいないとも限らない。目立つような殺傷行為は最低限にしておこう」

 

 目立たないように殺す分には構わないとはあえて言わないでおく。

 

「えー、めんどくさいなー。さくっと皆殺しにしちゃえばいいのに」

「シャルティアみたいなことを言わないでくれアウラ」

「そういえばあの子は大丈夫かしら」

「まぁペロロンチーノ様がいらっしゃるのだし、大丈夫だろう」

「本当に?」

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテル。3重の壁に囲まれたリ・エスティーゼ王国城塞都市である。隣国のバハルス帝国と国境を接する都市であり、国境であるカッツェ平原では毎年のように王国と帝国の戦争が行われていた。その都市の中をペロロンチーノとシャルティアは歩いていた。ペロロンチーノは種族スキルである擬態により人間に、シャルティアは赤い瞳をコンタクトで隠し、牙を研いで人間に扮していた。試行錯誤の結果、黒髪の美男子へと変態を遂げた変態と、大人になりかけた絶対の美少女の組み合わせは周囲の目を釘付けに・・・・・・しなかった。

 

 なぜなら彼らは不可視化により周囲に認識されていないからである。

 

「不可視化を見破る能力者はいないみたいだな」

「まったく、この程度も見破れないとは人間とは本当に劣った生き物でありんすねぇ」

「こうしてばれないということは・・・・・・いけるな」

「はい、ペロロンチーノ様」

 

 そう言って二人は笑う。不可視化でバレなければやることなど決まっている。透明化はエロゲの定番の一つである。透明化していたずら、お触り、×××。時間停止ものとともにエロゲ界の定番となっているシチュエーションである。そして最初に行くとしたらそれは風呂だろう。つまりNO・ZO・KIである。

「行くぞシャルティア。行動を開始せよ!」

 

 

 

 

 

 

 ペロロンチーノは公衆浴場へと侵入し、後悔していた。エロゲでは可愛い子しか出てこない。いや、可愛くない子が出てきたとしても攻略対象ではないことがほとんどだ。だが、侵入した公衆浴場には年齢も体形も対象外のおばさまたちが集まり井戸端会議の真っ最中であった。

 

「俺のグロ耐性がどんどん上がっている気がする・・・・・・」

「それはいいことなんでありんすか?」

「ああ・・・・・・とてもいいことだよ・・・・・・とても・・・・・・ううっ・・・・・・」

 

 精神的に萎え切り真っ白になったペロロンチーノは、不可視化の目的をエロから情報収集へと切り替えた。町の人々の何気ない会話から思わぬ情報を得ることもあるだろう。そして、この世界での常識を知らないペロロンチーノには常識を得るチャンスでもある。つまり、不可視化による覗きに失敗した結果の現実逃避である。

 

 しかし、その中から思わぬ情報を得る。なんとこの街には冒険者組合というものがあり、登録することで冒険者になれるという。冒険者、どのような仕事か分からないがこれにはユグドラシルで冒険を繰り返したペロロンチーノの心が揺さぶられる。

 

 冒険をしてみたい。ただし、今ペロロンチーノは装備も初期装備たる布の服のみの状態である。そこで最低限の装備だけでも揃えようと考える。長距離爆撃を得意とするペロロンチーノのメイン武器はもちろん弓である。しかし、彼の装備はおそらく宝物殿にあり、取り出すことは不可能だ。そのため、街で見かけた道具屋で狩猟用の木の弓を買うことにした。ユグドラシル金貨を代価として出すと店主は驚いた様子を見せたが、お釣りをよこす。金としての価値があり特別に使わせてくれるとのことだった。

 

 かつての仲間たちと世界中を旅をした思い出。それが蘇りペロロンチーノは冒険者組合へと向わ・・・・・・なかった。

 

 情報収集の結果、この街には複数の娼館があることが分かったのだ。これは行ってみるしかないとシャルティアと連れ立って建物の扉をくぐるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペロロンチーノは鉄格子の中にいた。

 

「あのねぇ、あんた。お金払えば何でもしていいってわけじゃないんだよ?」

「はい」

 

 正座である。それを見たシャルティアが相手を睨めつけようとするがペロロンチーノの手がその頭を撫でる。途端にシャルティアの頬が緩み目を細めてペロロンチーノの手に頭をこすりつける。

 

「ふにゃーん」

「女の子連れなのに、その子も含めて3人でとか。おかしな衣装着せようとしたりとか。それに×××(ピー)×××(ズキューン)とか」

「ちょっと上級者すぎましたか?」

「しっぽも折角用意したでありんすのに」

「そういうことじゃなくてね。お店から苦情も出てるんだよ。おかしなことをさせようとする人がいるって」

「結局やらせてくれませんでした」

「当たり前だ!」

「エロゲでは普通です。もちろんノーマルはいい。いいんですが、それだけじゃ物足りなくなる時もあるでしょう!いいんですか娼館がそんなありきたりで!」

 

 衛兵の目が生暖かいものに変わる。

 

「あー、はいはい分かった分かった。分かったからもう名前書いて帰っていいよ。ただし、もうあの店に近づかないこと。いいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「出入り禁止になってしまったな」

「ペロロンチーノ様。なんで人間なんかの言いなりになってたんでありんすか?力づくで言うことを聞かせればいいでありんせんか?」

「前も言ったけど、それをやったら今後フラグが全部折れてしまうじゃないか。ということで、一般人への暴力は禁止だ」

「一般人でなければいいんでありんすか?」

「まぁ、悪人になら・・・・・・いいかなぁ。うん、悪人にならいいことにしよう」

「かしこまりんした。ふふふ、悪人を捕まえるのが楽しみでありんす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者組合の扉を開いで入ってきたのは背中に弓を背負った黒髪の美男子、そしてボールガウンを着た美少女の二人組であった。冒険者組合におよそ似つかわしくない二人組。依頼者か、と周りの者が観察する中、黒髪の男が受付に声をかける。

 

「あの、冒険者になりたいのですが」

「え、あの、お二人・・・・・・ですか?」

「はい、私とこの子の二人です」

「かしこまりました。では手数料をいただいたのち手続きとなります。最初は(カッパー)のプレートからとなります」

 

 受付がスラスラと説明を続けている中でふと気になることを言った。騎乗魔獣等を町に入れるには登録が必要であり、その絵を魔法で描くというのだ。もし連れているのであれば料金がいるらしい。

 

「あの、それはどのくらいの精度の絵が出来る魔法なのですか?」

「ほぼ実物と変わりません」

 

その言葉を聞き、ペロロンチーノの背中に稲妻が走り、天啓が降りる。

 

「あの!っていうことは裸のお姉さんにその魔法をかけるとそれが絵になって出来上がるんですか?」

「え?あの・・・・・・」

「もしかしてそれを使うとエロ本が作れるんじゃないですか!?もしかしてそういった本がすでに売ってたりしますか?技術の進歩はエロと戦争からって言いますからね!どうなんですか?お姉さん!」

 

 グイグイ近づいてくる男に受付は完全に引いている。顔はいいがこの男は完全に駄目な人だ、逆に顔がいいせいでその駄目っぷりに拍車がかかる。その場の誰もがそう思う中、受付に救いの手が伸びる。

 

「おいおい、にーちゃん、人に迷惑かけてんじゃねえよ。新米冒険者の分際でよ」

 

 ぐいっと肩に手が置かれる。

 

「まだ新米冒険者でさえないけどな」

「女連れでおぼっちゃんが冒険ですかー?」

 

ぎゃははははは、と仲間たちが囃し立てる。それを聞いてペロロンチーノは確信する。

 

(これは、冒険の最初でごろつきが絡んでくるイベントに違いない)

 

 チラリと受付嬢を見る。この世界は男も女も外見の平均レベルが非常に高い。受付もペロロンチーノのストライクゾーンであった。そして、無造作に男の胸倉を片手でつかみ持ち上げる。それを見て周りの人間の目が変わった。片手で大の男を持ち上げる膂力を見て驚いたのだ。そしてそのまま放り投げた。

 

「おっきゃああああああああああああああああああああああああ」

 

 絶叫は冒険者組合にこだまする。投げられた男の悲鳴ではない。男は気を失い倒れている。投げた先のテーブルに座っていた女だ。女と言っても戦士のようであり、つくところにはしっかり筋肉がついている。赤茶色の髪をしており、(アイアン)のプレートを胸に提げていた。そしてその床に割れた瓶があり青色の液体が広がっている。

 

「ちょっとちょっとちょっと、あんたねぇ、なんでそんなデカぶつ投げてくんのよ!ポーションが割れちゃったじゃない!」

「ポーション?たかがポーション・・・・・・」

「たかが?あたしが酒を控え冒険を繰り返し、やっと、やっと買ったポーションを!これがあればもしもの時命が助かるかもしれない、そう思って今日!今日買ったばかりのポーションを壊したのよ!弁償しなさいよ!」

「それならそっちの男たちに・・・・・・」

「いや、今のはどうみてもあんたが悪いでしょ」

 

周りの人間もうんうんと頷いている。

 

「なるほど、これは・・・・・・」

 

(お金で払ってもいいがそれでは話が終わってしまう。彼女と会うことはもうないかもしれない。ここは嫌われてでも会う機会を残すべき)

 

「は?なにぶつぶついってんの?」

「分かった、弁償しよう」

「あら、素直じゃない。じゃ、お金出して」

「金はない。体で払おうじゃないか」

そう言って服を脱ぎだすペロロンチーノの顔に拳がめり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 盗賊団のアジトの調査。それが今回ポーションを壊された女、ブリタたちの冒険者パーティの受けた依頼であった。そしてそのパーティに二人の(カッパー)のプレートの冒険者が荷物持ち兼連絡係として追加で参加していた。ポーションの弁償代を働いて返すと言い出したのだ。狩猟用の弓しかもっていないような貧乏そうななりであり、お金がないと言われれば信じるしかなかった。ちなみに今回はブリタの代わりに働くということで、当のブリタは参加していない。

 

「おう、あんたこれも持ってくれ」

「分かりました」

 

 ズシっと重いリュックが持たされる。

 

「これも持ちな」

「おう、これとこれもな」

「体で返すとか偉そうなこと言って持てないとか言わねえよなぁ」

「そりゃそうだ、あんだけでかい口叩いたんだからよ、ぎゃはははは」

 

 あり得ないほどの大量の荷物が次から次へと目の前に置かれる。彼らも冒険者組合での様子を見ておりペロロンチーノ達にいい印象を持っておらず、嫌がらせをしようというのだろう。しかしそれは悪いこととは言えない。態度の悪い新人を教育するのは先輩冒険者の務めだ。

 

 しかし、それを当の新米冒険者はいとも簡単に持ち上げた。

 

「ペロロンチーノ様。わらわが持ちんす。至高の御方が荷物持ちなど」

「このくらい荷物にもならないからいいさ。それに新米冒険者らしく冒険を楽しもうじゃないか」

 

 かつての仲間たちの冒険を思い出し、ペロロンチーノは実際楽しんでいる。

 

 そう言ってニコリと笑う男に周りが黙り込む。これだけの重量を軽く持ち上げるだけで相当の膂力だ。大口を叩くだけはある。もしかしたら自分たちの上をたやすく超えていくほどの存在なのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

《死を撒く剣団》

 普段は傭兵団を名乗っているが戦争などがないときは盗賊として人々から金品を巻き上げ生活の糧としている。人数だけは多く、対処に困った人々が冒険者組合に討伐の依頼をだしたのだ。

 

 アジトらしき洞窟を発見し、注意しつつ冒険者たちが取り囲む。

 

「わらわたちは何もしなくていいんでありんすか?」

「荷物持ちとしてきたからな。こういう討伐クエストっていうのを見るのも楽しいかもしれない。見物させてもらおう」

 

 伝令係として待機しているペロロンチーノ達に何かしろと言うものはいない。ペロロンチーノ達の役目はピンチの時に助けを呼びに走る役だ。逆に前衛に出たほうが周りに迷惑をかけるだろう。それにペロロンチーノはこの世界の人々の能力にも興味があるし、戦い方はチームワークにも興味がある。ワクワクしながら離れたところで様子を見ていたのだが。

 

 しばらくして冒険者に気づいたらしき盗賊たちと戦闘がはじまる。練度は冒険者たちのほうが高いが、人数は盗賊団のほうが圧倒的に多かった。人数の多さに苦戦をしているのを見てペロロンチーノはシャルティアに指示を出す。助けは求められていないし、救援も要請に行くようにも指示はない。だが、一時でもチームを組んだ以上このまま見過ごすのは心が痛む。

 

「シャルティア。ちょっと手伝ってやれ」

「かしこまりんした!お任せください!」

 

 創造主からの命令だ。シャルティアは気合の入りまくった声をあげる。ここはいいところを見せねばなるまい。何しろペロロンチーノ様が現れて初めてお役に立てる機会をいただいたのだ。

 

 そして、シャルティアが魔法が発動する。この世界では存在さえほとんどの者が知らないほどの強大な魔法を。第10位階魔法。

 

魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)内部爆散(インプロージョン)

 

 

 

 周りに盗賊が血の雨となって降り注ぐ。冒険者たちはそれを呆然と見ていた。何が起こったというのか。ありえない。突然目の前の人間達が爆発したのだ。そして何より感じる恐怖。

 

 そこに笑い声が響き渡る。

 

「あは、あははははははははは。花火ぃ・・・・・・綺麗ぃいいいいいい」

 

 後ろを振り向くとボールガウンを着た少女が目が真っ赤に染めて笑い声をあげている。その口は耳まで裂け、注射器のような歯が口の中から除く。

 

「ちょ、シャルティア!?血の狂乱か!?しまった忘れていた!」

 

 彼女の相棒の男が慌てている。そして少女があり得ないほどの跳躍を見せ前に躍り出る。

 

「血ぃいいいい吸ってもいいよねえええええ」

 

血生臭い息を吐きながら少女(ばけもの)は叫んだ

 

「や、やめろシャルティアあああああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血の海が出来上がっていた。敵も味方もなかった。肉片が飛び散り血の中に浮いている。盗賊団のアジトからはその後も増援の男たちが出てきていた。自信満々で刀を持ったブレ何某とかいう男が出てきたりしていたが、今はビクンビクンと痙攣し干からびたレッサーバンパイアのなりそこないとなっている。ペロロンチーノは必死にシャルティアを止め冒険者たちを守ろうとした。しかし・・・・・・

 

「くぅ・・・・・・無理だった・・・・・・せめて一人だけでもと思ったのに・・・・・・」

 

 頭や腕に噛みつかれた痕が残っているペロロンチーノは項垂れる。さすがに自身もレベル100とはいえ、同じレベル100のシャルティアからの攻撃に身を挺していたのだ。無傷で済むわけがない。その目の前に元の姿に戻ったシャルティアが土下座していた。

 

「わ、私はとんでもないことを・・・・・・至高の御方に手を挙げるなど・・・・・・この命を持って償います!」

 

そう言ってスポイトランスを自分に向けるシャルティアを慌てて止める。

 

「ま、待て待て。シャルティアお前が悪いわけじゃない。これは血の狂乱を忘れていた俺のミスだ」

「ペロロンチーノ様・・・・・・」

「でもまぁ今後のために言っておくけど殺すのはなるべくなしにしような」

「かしこまりんした」

「それをなるべく血を浴びないようにするんだぞ。そのスキルはお前の切り札なんだからな」

「切り札でありんすか?」

「そうだ。お前がスキルも魔法も使い切った時、それでも倒せない相手がいるときこそ、血の狂乱を使うべき時だ。その時は頼りにしている。だから普段は抑えるんだぞ」

「ペ、ペロロンチーノ様ぁ」

 

 頼りにしている、その言葉がシャルティアの頭の中を木霊する。

 

「シャルティア、お前のすべてを許そう」

 

 シャルティアがペロロンチーノを見上げ、涙が頬を伝って落ちる。

 

「ほらほら、泣くんじゃない。美人が台無しだぞ」

 

そう言ってハンカチでシャルティアの涙をぬぐうが、周りが血の海の中ペロロンチーノは気を失いそうになっていた。

 

(しかし、盛大にやってしまった・・・・・・やばい・・・・・・どうやって冒険者組合をごまかそう・・・・・・)



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第4話 調教モノには愛が必要

――エ・ランテル冒険者組合

 

 冒険者組合の組合長。アインザックの前の銅のプレートの冒険者二人が座っていた。

「それで、盗賊団のアジトを調査に行った結果、強大なヴァンパイアがいて全員殺されたと」

「そーです」「そーでありんす」

(嘘はいってない)

 

 棒読みでそう言う二人を見つめる。

 

「そして、最低でも第3位階の魔法を使ったとあるがそれは本当かね」

「あれはすごかったなぁ。ボーンって」

「そうでありんすね。体の内側からボーンって綺麗でありんした」

「綺麗?」

「いや、怖かったなぁー」

「それで伝令係の君たちは逃げてきたと?」

「そーです」

「仲間がやられた割には平気そうだね」

「仲間というか借金の取り立て人というか昨日会ったばかりです」

「借金払う必要がなくなったでありんすね」

「いや、払う相手はブリタちゃんだから。あ、報酬は彼女に」

「まぁいい、偵察に行ったものからレッサーバンパイアが現地にいたという報告もある。君たちが借金取りを見捨てて逃げてきたという証拠もないことだしね。報告はそのまま受けとろう」

「あの、もう帰っていいですか?」

「はぁ・・・・・・君たちは・・・・・・」

「組合長大変です!」

 突然ドアが開き組合職員が入ってくる。

「なんだノックもせずに」

「組合長、こちらへ」

「何・・・・・・」

「墓地で・・・・・・ンデッド・・・・・・」

「そんな・・・・・・見張り・・・・・・どうな・・・・・・」

「あのーどうしたんですか?」

「緊急事態だ。君たちにも来てもらう」

「すべての冒険者に招集をかけろ!急げ!」

 

 

 組合の話によると墓地からアンデッドが溢れているそうだ。普段からアンデッドが墓地に出現することはあったらしいが、せいぜい数体であったらしい。それが今回は推定数千体のアンデッドで溢れかえっているとのことで明らかに異常事態だ。

 

「ミスリル級の冒険者を中心にアンデッドの討伐に向かってくれ。アイアン級以下の冒険者はあふれ出たアンデッドが町に行かないように盾となるんだ。危ないようなら撤退してくれて構わない」

 アインザックの号令が飛ぶ。

「数千のアンデッドか・・・・・・モモンガさんでもさすがにそれだけを一度に呼ぶのは無理だったなぁ」

「そうなんでありんすか?」

「俺が知らないだけで知らないうちにそういうパッチが当たってた可能性はあるけど、うーん。確かめてみるか」

「モモンガ様の可能性があるなら行くべきでありんす!」

「そうだな、よし」

「お、おい。お前たちはカッパーだから町の警護だ!おい、待て!」

 

 この街に知らないものはいないほど有名になる二人の冒険がここから始まる。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「班長!もう門が持ちません!」

ドンドンドン

 アンデッドが門を叩く音が鳴り響く。それも一つ二つではない何百という音が鳴り続けている。

「諦めるな!門を押さえろ!ここを突破されたらおしまいだぞ!」

 

 怒号が飛び交う中、涼しい声が後ろから聞こえてきた。

 

「おおー、目に見える限り全部アンデッドで埋まってる。すごいな」

 

 声のした方向を見ると、上空に男女の二人組が立っていた。

 

 飛行(フライ)の魔法なのだろう。最低でも第3位階の魔法の使い手だ。

 

「冒険者か!助かった!」

 

 そう思い、彼らのプレートを確認すると銅のプレートがかかっている。第3位階の魔法の使い手が(カッパー)のプレートなどであるわけがないが、男の装備を見るとどうみても安物の弓しか装備していない。異様だ。すべてがちぐはぐしている。反応に困っていると声がかかる。

 

「はやく門を開けるでありんす」

「な、なにをいっている。アンデッドがいるんだぞ!」

「その程度、相手にもなりんせん」

 

 買い物にでも行ってくる程度の軽い声がするが、当然門を開けるわけにはいかない。

 

「開けないなら仕方ない」

 

 男が弓を引き絞る。そして矢を上空にめがけて放った。どこに向けて撃っているんだと誰もが思う中、上空に放った矢が雨のようにアンデッドたちに降り注ぐ。矢を受けたアンデッドは爆撃でも受けたように爆散していた。

 呆然と見つめる衛兵たちの前で今度は女のほうが手を打ち鳴らす。パンっとそれだけのことで周りの周囲すべてのアンデッドが消滅した。

 

「爆撃しながら飛んでいくか。シャルティア」

「かしこまりんした。ペロロンチーノ様」

 

 上空を二人が飛んでいく。アンデッドをまき散らしながら。

 

「アンデッドを帰還させるのではなく消滅させた・・・・・・それもあれだけの数を・・・・・・」

「それだけの神官ということか・・・・・・いや、まさか、そんな神官聞いたこともないぞ」

「あれが(カッパー)のプレートの冒険者なんて何かの間違いだろう?」

「ああ、俺たちは伝説を目にしたのかもな・・・・・・」

「ああ、あれこそが英雄・・・・・・空の英雄だ・・・・・・」

 しかし、彼らは知らない。あの二人は彼らを守ることや名声を高めることを微塵も考えていなかったことを。それどころかあまり何も考えていなかったことを。そして、より相応しい二つ名で呼ばれることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 秘密結社ズーラーノーン。その幹部であるカジットはエ・ランテルで捕まえたンフィーリアという少年にアンデッドを召喚させ続けていた。叡者の額冠。通常では使用できないほどの上位の位階魔法を使用可能とするアイテムであるが使用できる人間がほどんどいない。それをどんなアイテムでも使用可能という才能(タレント)を持った少年にかぶせていた。そして使用する魔法は第7位階魔法不死の軍勢(アンデス・アーミー)。アンデッドを大量に召喚する魔法を使用させ続けている。少年には意識がないようであった。

 

「くっくっく、いいぞ。もっとアンデッドを呼ぶが良い。エ・ランテルほどの大都市を死都と化せば死の螺旋を発動しこの身を不死の存在とできる」

「カジット様、人が飛んできます。冒険者かと」

「ほう、最低でも第3位階の魔法の使い手か・・・・・・このわしに魔法で挑もうとは無謀なことだ」

 

 空から飛んできた二人の冒険者が目の前に降り立つ。

 

「なにものだ」

「俺はペロロンチーノ」

「わらわはシャルティアでありんす」

「くっくっく、馬鹿確定だな」

「あんたたちがアンデッドを呼んでるのか?」

「それがどうした」

「それ迷惑だからやめてくれない?」

「言うことを聞くとでも?」

「そっちのあんたもこいつらの仲間なのかな?」

「ふーん、なんで気づいたの?魔法?やるじゃーん」

 

 猫のように引き締まった肢体をした女が音もなく姿を現す。整った顔立ちをしているがその顔はいやらしく歪みニヤついている

 

「名前を教えてくれるかな?俺はペロロンチーノ」

「ペロ?ふーん変な名前。どうでもいいけどねー。あたしはクレマンティーヌ。そっちのはカジッちゃんだよー」

「おい」

「いいじゃーん、どうせ殺しちゃうんだしさぁ」

「それで、仲間なのかな?」

「そうだよー。それが?」

「よっし!悪人で美人!いいね!シャルティア!」

「分かってるでありんす!つまり」

「「悪人なら好き放題してもいい(でありんす)」」

 

 墓地に黄色い悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 アインザックは頭を悩ませていた。

 

「君たちがこの事件の首謀者達を捕まえたのは間違いないだろう。こうして目の前にいるんだからね」

 

 ペロロンチーノとシャルティアに両腕を掴まれて攫われてきた宇宙人のようにクレマンティーヌが項垂れていた。

 

「あざっす」

「でも君たちに言ったよね。(カッパー)級の冒険者は町の防衛を頼むと」

「はい」

「それなのに君たちは敵の本拠地へ突っ込んだ」

「いけると思って」

「でもモモンガ様はいらっしゃいませんでしたでありんす」

「だなー」

「君たちの話では途中のアンデッドを倒しながら進んだらしいが」

「はい、たくさん人を救いました」

「人を・・・・・・救ったね・・・・・・それは本当かね?」

「はい、門を破られそうになってたのでその周辺のアンデッドを倒しました。空の英雄とか呼ばれちゃって。へへ」

「へへ、じゃない!そのあとは?」

「え?」

「そのあとは!君たちは確かにアンデッドを倒したんだろうね、雑に!撃ち漏らして散ったアンデッドたちは君たちが拠点を襲撃してる間にその後門を破ったんだよ!だから、君たちがアンデッドを倒したという証言をするものもいないんだけどね!」

「すんません」

「はぁ・・・・・・まったくそれほどの力があるのだから人を守るために使ってくれたまえ」

「気を付けます」

「それでは捕虜にしたという女を渡してもらおうか」

「嫌です」

「は?」

「彼女は俺が捕まえたんだから俺のものです」

「何を言っている!」

「組合長こそ俺から彼女を取り上げて何をする気ですか!いやらしい!けしからんですよ!」

「君こそ何を言っている!尋問するに決まっているだろう!」

「尋問!?拷問ですか!」

「これほどの事件を起こしたんだ。公にはしないがそれも必要になるかもな。なんだね、女が拷問にかけられるのをかばうのかね」

 

 アインザックは少し目の前の男を見直す。敵とは言え女の身を案じる姿に気高いものを感じて。

 

「そんなうらやましいこと俺にやらせてくださいよ!調教には愛が必要なんですよ!あ、傷つけるのはなしで。×××や×××なことをしたいんです!」

 

 少しも気高くなかった。項垂れていた女がビクンと震える。

 

「おい、組合長!助けてくれ!あたしが悪かった!もう悪いことはしない!だからこいつらに渡さないでくれ!おねがいします!こいつら化物の上に変態だ!」

 

 その後、話し合いは朝まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局認めてくれなかったな」

「話が長かったでありんすねー」

「スキップ機能もないのに悪かったな」

「そ、そんなことありんせん。ペロロンチーノ様と一緒にいられるだけで幸せでありんす」

「これもイベントと思って我慢するかー」

「でも報酬はもらえたでありんすよ?それに階級もあがったでありんす」

 

 ペロロンチーノたちの成したことは本来であればアダマンタイト級にしても良いくらいの偉業であった。しかし、彼らの昇級は多くの者が反対した。組合長をはじめ、セクハラされた受付嬢、冒険者たち、あらゆるものが反対した。

 

「あんな変態を上に立たせてはいけない」と。

(アイアン)のプレートか。まぁ一つあがったからいいか」

 

 チャラリと新しくもらったプレートを揺らす。

 

 そして、彼らに二つ名がつけられることになった。

 黒髪の美男子の狩人、ボールガウン姿の美少女の魔法詠唱者は恐ろしく強く、そして恐ろしく×××だと。恐れと畏怖をこめて。面と向かって呼ぶ勇気のあるものはいないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペロロンチーノは冒険者組合の受付嬢に詰め寄っていた。

「ねぇ、受付のおねえさん。(アイアン)級への依頼がまったくないってどういうことですか」

「申し訳ありません。たまたま、本当にたまたまないんです」

「じゃあ、カッパー級の依頼でも荷物持ちでもいいから」

「申し訳ありませんが、すべて予約済です」

「ふーん、じゃあ上級の依頼ってどんなのがあるの?」

「階級が足りないと受けることはできませんよ」

「ちょっと知りたいだけだから。教えてよ」

「そうですか?例えばですね・・・・・・」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ」

 

 後ろから大声が聞こえてくる。アインザックだ。

 

「上級の依頼を知ってどうするつもりかね」

「いや、先輩方にはどんな依頼があるか知りたいだけですよ」

「そんなことを言って、この前みたいに勝手に上級の依頼を実行されたら困るんだよ!」

「ギガントバジリスクの討伐とかですか?」

「そうだよ!勝手に討伐に行って!倒してくるだけならまだしも捕まえて来るとは何事だ!」

「皮とか毒袋とか素材として欲しいんじゃないかなぁと思って」

「生きたまま連れてくることないだろう!」

「素材は新鮮なほうがいいかと思って」

「町がパニックになったじゃないか!」

「すぐに締めてあげたじゃないですか。あ、そういえば報酬もらってません」

「猛毒の体液で組合の裏庭が汚染されたんだぞ!報酬などその浄化費用に充てさせてもらったわ!」

「依頼がなくて暇だったんです」

「暇だからって問題ばかりおこさないでくれ・・・・・・分かった。この依頼をするといい」

「これは?」

「荷物持ち兼護衛だ。行先は王都リ・エスティーゼだ。向こうの組合に紹介状も書いておこう。君たちには王都のほうが向いている」

「王都か、どうしようかなぁ」

「王都には黄金と呼ばれる姫君もいる・・・・・・」

「お姫様!?女騎士は?女騎士はいますか!?」

「あ、ああ。女騎士もいるだろうさ。どうかね」

「いきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったんですか?組合長」

 

 心配そうな顔で職員が話しかける。

 

「仕方ないだろう。これ以上迷惑をかけられて堪るものか、これで帰ってこなければ万々歳だ」

「そもそも組合長が彼らに仕事をさせないために(アイアン)級の仕事を減らしたりするから」

「仕方ないだろう。これ以上もめ事を増やされてたまるか」

「いえ、そうではなくてですね」

「ああ、分かってる。王都の冒険者組合に押し付けたことだろう。だがうちではもうごめんだ」

「いえ、それもそうなんですが、彼ら・・・・・・王女様に何かしでかしたりしないでしょうか」

 

 アインザックの顔が真っ青になる。

 

「ま、ままままさか。そこまでの馬鹿ではないだろう。うん、それはない。ないはずだ」

「で、ですよねー。あはははは」

 

 冒険者組合に乾いた笑いが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――王都リ・エスティーゼ

 

 高級宿屋兼酒場に非常に目立つ5人組がいた。宝石を宿した仮面をつけた小柄な人物イビルアイ。そっくりな顔、恐らく双子であろう女忍者衣装の二人ティアとティナ。そして男のような筋肉を宿す、大柄な女ガガーラン。アダマンタイト級冒険者チーム青の薔薇である。そして最後の一人、王国兵士のクライムが話しかける。

「ラキュース様より伝言です。例の件をいよいよ実行するので準備をしておいてほしいとのことです」

「よう童貞。そんなことだけのためにご苦労さん」

 

 大柄の女性。童貞食いが趣味と公言してはばかれない女戦士である。

 

「私たちだけで大丈夫?アダマンタイト級の護衛がいるかもしれない」

 

 双子の一人ティアが無表情で何かをポリポリ食べながら話しかける。

 

「六腕か。アダマンタイト級とか言われてるがどうだかな」

 

 仮面の魔法詠唱者イビルアイが訝しむ。

 

「アダマンタイトといや、知ってるか?エ・ランテルで新しいアダマンタイト級が現れたらしいぞ?」

「ああ、知っている。だが少し違っているな。実力はともかく階級は(アイアン)級らしい」

「はぁ?なんでアイアン級程度の噂が王都までくるんだよ」

「なんでもアダマンタイト級の変態、もしくはただ単に変態と呼ばれているらしい。安物の弓を装備した狩人の男と絶世の美女の信仰系魔法詠唱者の二人組らしい」

「はぁ?二人だけ?んで、そいつらそこまで言われるからには何らかの偉業を成したんだろう?何をしたんだ?」

 

 ガガーランが面白がる。

 

「なんでも3か月くらいの間にこなしたらしいが。エ・ランテルでのアンデッド数千の発生事件を解決。ギガントバジリスクの討伐。強大な力を持ったヴァンパイアの情報を持ち帰る。娼館での度を越したプレイを要求し出入り禁止に。美女のほうは男も女もいけるそうだ。冒険者組合の受付嬢からはセクハラで訴えられているらしい」

「そいつは・・・・・・すげえじゃねえ。いろんな意味で」

「その男も女もいけるという美少女について詳しく」

 

 ティナが身を乗り出す。

 

「ギガントバジリスク・・・・・・」

 

 クライムは記憶をたどる。石化の視線や猛毒の体液、その皮膚はミスリル並みの硬さだという。非常に危険なモンスターだ。

 

「そりゃうそだろ。ギガントバジリスクを二人で倒せるわけがねえ」

「ああ、そうだ。倒したわけじゃなかったらしい。なんでも生け捕りにして町に連れてきたとか」

「はぁ!?嘘だろ。どんな馬鹿だよそれは」

「それは討伐するよりそんなにすごいことなんですか?」

「俺らでもちょっと無理だな・・・・・・あれを生け捕りするなんて。こりゃすげえ隠し玉持ちだな」

「そのせいで町を汚染させ、いまだに(アイアン)級らしいが、実力は間違いなくアダマンタイト級だな」

「すごいですね」

「まぁ噂だけかもしれんがな。会ってみないことには実力は分からん」

「それより、そろそろ鬼ボス来るだろうから準備をする」

「ああ、ラキュースは王女のところだったな。確かにもうじき戻ってくるかもしれん」

「ところでさっきの変態だけどよ、黄金と呼ばれた王女に手を出すってことはないか?」

 

 ニヤっと笑いガガーランがクライムを見つめる。

 

「ラナー様が危ない?」

「安心する。冗談」

「ちっ、ティア。面白いからもうちょっと黙ってろよな」

「まぁ常識的に考えて王女に手を出すような馬鹿はいないだろう」

「そ、そうですよね」

「うん、いるはずない」

「まぁいねえわな」



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第5話 ヤンデレモノは刺されるまでが様式美

――――王都リ・エスティーゼ

 

 首都ということもあり、立派な建物が並んでおり、街の活気もある。そこに二人の新たな冒険者が立っていた。新しい町について彼らが最初にやることは決まっている。不可視化である。しかし今度は公衆浴場を覗くような失敗はしない。可愛い女の子がいなければいるところへ行けばいいのだ。彼らは王城にいた。メイドなどもさすが王城は綺麗どころがより取りみどりだ。一通り情報収集(のぞき)を楽しんだ後、情報をもとに王女の部屋の前へと立っていた。ちなみに護衛の仕事はすでに終えている。

 

「ここが王女様の部屋か」

「楽しみでありんすね、黄金と呼ばれるだけの美貌があるんでありんしょうか」

「見るだけ、見るだけだからな」

「分かっていんす、ペロロンチーノ様の御意に」

「時間停止中に部屋に入ろう、その後は不可視化でばれないようにな」

「了解しんした」

 

 室内に入るとそこに王国の黄金と呼ばれるのにふさわしい美少女がいた。ブロンドの髪に整った顔立ち。今まで見た王国の誰よりも美しかった。白を基調としたシンプルがドレスが彼女にかかると豪華に変わる。

 彼女はふっと振り返る。ペロロンチーノ達は不可視化してる。そして念のために周辺には人避けの魔法結界も展開してた。それなのに王女は彼らのほうを真っすぐ見つめていた。

 

(まさか、バレていないよな・・・・・・)

 

「どなたですか?」

 

(やばい、バレてる!シャルティア!)

(かしこまりんした!)

 

人間種魅了(チャーム・パーソン)

 

 とたんに王女の目はトロンと濁る。

 

「なんでバレた?もしかして不可視化看破できるのか?」

「あら、うふふふふ。お友達?私にお友達ができるなんて」

 

 魅了の魔法は相手を自分が親しい友人だと思わせる魔法だ。

 

「まぁいいか。じゃあ質問しようかなぁ」

「はい、何でも聞いてください」

「じゃ、じゃあまず、お名前は」

 

 インタビューモノのノリで聞いていく。

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ」

「わらわにも聞かせてくんなまし。ぬし、初体験は?」

「ありません」

「処女!処女でありんすよ、ペロロンチーノ様!」

「じゃあ、次俺な。好きな人はいますか?」

「犬を・・・・・・うふふ、犬を拾ったんです」

「犬?」

「ええ、死にそうになっている犬を・・・・・・助けてあげたら私だけを見つめてきて」

「犬?人じゃなくて?」

「人間ですよ?クライムと言う犬ですが」

「・・・・・・」

「助けたことを恩に感じて私を慕って見つめてくるのです。あの目が好きで好きで好きで。鎖でつないでどこにも行かないように飼えたらどんなに幸せでしょうか」

「・・・・・・ヤンデレだ」

「ヤン・・・・・・デレでありんすか?」

「ヤンデレとはエロゲに欠かせないジャンル!このお姫様とは気が合いそうだ。これは応援しなければ!」

「しかし、まぁ見上げた変態でありんすね」

「あら、私の心が理解できるなんて。お友達。お友達?私のことが理解できるお友達何て・・・・・・なるほどなるほど。魔法で私を支配されてるのですね?」

「え、この子ほんとに魔法にかかってるのか?」

「魔法の効果は切れていないでありんすよ」

「自分の状況を分析して自分が支配されてることをわかったんですか?」

「ええ、そうですとも。でなければ私に本当の友達などできるはずがありませんもの。頭が悪く愚かで当たり前のことさえも分からず私を化物扱いする醜い人間なんかの友達など」

「おおー、ヤンでるヤンでる。しかし頭が切れてるお姫様だなー。いろんな意味で」

「でもあなた方なら本当のお友達になれるかも・・・・・・」

「ペロロンチーノ様、もう質問はよろしいでありんすか?」

「あ、そうだった。そういえばなんで俺たちに気づいたんですか?見えないのに」

「簡単なことです。いつもおしゃべりなメイドの話し声が聞こえません」

「ドアを開く音はしませんでしたが、挟んであった私の髪が落ちています」

「それに姿を消していたのでしょうが、この部屋には香が焚いてあります。私しか気づかない程度の色が空気についているのです」

 

(すげえ、でもこの子ちょっと怖い)

 

「そろそろ魔法が解けるでありんす」

 

 ラナーは魔法が解けた後、少しぼーっとしていたが、自分の言葉を聞かれたことに気づき頬を赤らめる。

 

「聞かれてしまいましたね」

「ヤンデレとは恐れ入ります。お姫様」

「ヤン・・・・・・なんですって?」

「ヤンデレ・・・・・・エロゲの女の子のジャンルの一つです」

「なるほど・・・・・・知らない言葉・・・・・・見たこともない魔法や能力・・・・・・これは神の降臨の可能性が・・・・・・」

「何を言ってるんですか?」

「いえ、何でもありません」

 

 そう言ってほほ笑むラナーは必死で頭を働かせる。この侵入者たちはラナーでさえ知らない概念を持っている。過去の神々、ぷれいやーと呼ばれた者たちとの共通点からいってこの国を滅ぼしえるほどの力を持っているのだろう。王城に平然と侵入し、緊張感の欠片もないことからそれが伺える。そして先ほどか会話から彼らの頭はそれほど良くなさそうだ。利用できる、とラナーは瞬時に計算する。

 

「そう、私はあなたの言うヤンデレというものでしょう。その理解者であるあなたはそれに協力してくれませんか?」

「というと?」

「私は先ほども言いましたクライムと結ばれたいのです。鎖につないでいつまでも私をあの目で見てほしい」

 

 うっとりとしながら王女が語る。世間で言われている王女とは別人だ。

 

「それで、俺にメリットは?」

「その前に確認を。あなた方は相手の体を自由に動かすような魔法を使えますか?」

支配(ドミネイト)の魔法であれば使えるでありんすが・・・・・・」

「それは素晴らしい。それで操ってほしい相手がいるの」

「それでメリットはなんなんですか?」

「そうですねぇ、私の裸を見せて差し上げるというのでは?」

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 ◆ 

 

 

 

 

 

 クライムはラナーの急な呼び出しに焦っていた。

 

(こんな時間に呼ばれるとは・・・・・・何かラナー様に危険が!?まさか、あの変態とかいうのが・・・・・・)

 

 王女の部屋についてみるが、周りには誰もいない。さらに、王女の部屋ノックするが返事がない。呼び出しておいていないのか。それとも出られない事情でも・・・・・・。

 

「ラナー様?いらっしゃいますか?ラナー様?」

 

 心配でたまらないが、勝手に部屋に入るわけにはいかない。しかし、クライムは()()()()()()()()()()()

 

(なに、体が勝手に・・・・・・)

 

「あら、クライム。こんな夜中にどうしたのですか?」

 

 ラナーが首を傾げて不思議がっている。クライムの体がラナーに近づく。

 

(お、おい。どうしたんだこの体は・・・・・・)

 

「え、クライム?」

 

 まるで自分の体でないように、ラナーの肩に手をかける。

 

「ちょっと、クライム。どうしたというのこんな時間に。手を放して」

 

(そうだ、こんなことをしてはいけない)

 

 クライムは必死に抵抗する。自分の敬愛する恩人にこれ以上無礼を働いてはいけない。

 

「やだ、クライムちょっと・・・・・・聞いてるの」

 

 ついに王女がベッドに押し倒される。一瞬ラナーの顔が醜く笑っているように見えたが気のせいだろう。涙目でクライムを見ている。その瞳を見ているとクライムは見えない力へ抵抗する意思が薄れてしまう。

 

 そして夜が更けていった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「いや、いいもの見られたなぁ、不可視化で隠れて」

「で、ありんすね。嫌がる男女を無理やり結ばせるとか萌えるでありんす」

「まぁ王女さんは嫌がってる振りだったけどな」

「嫌がる王女を押し倒してしまった男が罪悪感から言いなりになっていく様は見ものでありんしたね」

「まさかあそこまで調教しちゃうなんてな」

「ふふ、もう、恥ずかしいです。あ、そういえばお借りしたこの鞭と首輪、それからしっぽは・・・・・・」

「あげるでありんす。ぬし人間にしてはなかなかやるでありんすね。いい趣味してるわ」

「お二人には感謝しています。まさかこんなに早くクライムと結ばれるなんて」

「こちらこそごちそうさまでした」

「しかし、このまま公に私とクライムが結ばれることは今のままではありません」

 

 王女は悲しそうに顔を伏せる。

 

「なぜです?自由にしちゃえばいいじゃないですか」

 

「あの・・・・・・図々しいのは重々承知ですがお二人にお願いがあるのです」

「お願い?」

「この国には八本指という犯罪組織、そしてそれに連なる貴族が裏で国を支配しています。彼らは貴族の既得権益を最大限に利用し、国民から利益を奪い、奴隷のように扱っているです。そんな彼らがいる限り、平民のクライムと私が結ばれることはありません」

「どこの世界も同じですね。リアルも権力者しかいい暮らしなんてできなかったですよ」

「お願いします。八本指を倒すのにご協力いただけないでしょうか」

「えー・・・・・・別に俺たちは正義の味方ってわけじゃないしどちらかというと悪のギルドをロールしてたからなぁ」

「この国が平和になりましたらあなたのためのハーレムをつくって差し上げましょう」

「世界平和のため、協力させてください!」

 

 ラナーはニヤリと笑う。この変態二人を利用すれば世界を収めることさえ可能だろう。ハーレム程度では安いものだ。まず、貴族を廃し、王族も廃してやる。私とクライムだけが幸せに暮らせる、そんな世界のために不要なものはすべて殺してやる。

 しかし、王女は気づいていなかった。度を越した変態(ばか)というのは、その行動を読むことなどできないということを。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「よーし、八本指のみんなのために頑張るぞ」

「はいでありんす」

 

 二人は、八本指のために働いていた。



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第6話 ロリコンモノは危険が危ない

―――王都郊外の村

 

 

 ペロロンチーノとシャルティアの二人は、八本指の施設の一つの警護として雇われていた。冒険者としての仕事である。

 

「しかし、八本指は意外と良い人たちだったな」

「そうでありんすねぇ、あの王女は何か誤解していたようでありんす」

 

 あの後、早速八本指に乗り込んだペロロンチーノ達であったが、そこで聞いた話はまったく別のものであった。八本指は言わば商会であるらしい。実際に様々な施設があり、商品を卸したり、仕事を請け負ったりしている。麻薬を流行らせているというのも実際は重病人や怪我人痛みを和らげるための治療用の麻薬であるということだ。

 さらに六指という警備のトップ、ゼロと言う男に会ったところ、二人で乗り込んできたところを気に入られ、仕事を頼まれこうして働いているのであった。直接八本指に入ったわけではなく、村の警護依頼を冒険者組合に出したものを引き受けたというのが現状だ。

 

「報酬もなかなかよかったな。それに仕事が終わったらいい店を紹介してくれるそうだ」

「いい店でありんすか?」

「すんごい店だそうだ、楽しみだな」

「ところでわらわたちはいつまでここにいればいいんでありんすか?」

 

 ペロロンチーノ達は今、ある村の畑に立っていた。なんでも村の畑を襲う者がいるというのだ。それどころか村ごと焼かれた場所もあるらしい。

 

「まったく、お百姓さんが一生懸命作った作物を焼くとか許せないな。もしかしてこの間女の子を斬りつけてた兵士もその仲間とかじゃないのか?」

「人でありんすかね?」

「火を吐くモンスターの可能性もあるな」

「ドラゴンでありんすかね。暇なやつもいるもんでありんす」

 

 二人には何の警戒感もない。ドラゴンは確かに強敵だが勝てないというわけではない。もちろん強大なドラゴンはいるが高速移動に優れたペロロンチーノと転移を使えるシャルティアであれば撤退は余裕だ。

 

 その時突如人の気配がし、ペロロンチーノの影から姿を現す。そして背後から首筋にナイフが突きたてられた。

 

「誰だ?」

 

 ペロロンチーノの手にはナイフが握られている。振り返ることもなく受け切ったのだ。慌てて影が飛び、距離をとる。

 

「防がれた。ただ者じゃない」

「女忍者か?なかなかエロくていいが、今のは俺を確実に殺そうとした一撃だったな。こいつらか?畑荒らしは。人殺しまでするとか相当の悪党だな」

「おうおう、麻薬畑に荒らすも何もねえだろ」

 

 そう言って出てきたのはまるでマッチョな男のような筋肉を身にまとった女戦士だ。鎧に身を固め、巨大なウォーピックを持ってる。

 

「女忍者はいいが、うーん、ガテン系かぁ・・・・・・ガッツ・・・・・・うーん。駄目だ俺には。いや、それが悪いわけじゃなくこれは好みの問題だが・・・・・・ドンマイ!」

「なんか知らねえがムカつくぞこの野郎」

「油断しちゃダメ」

 

 もう一人女忍者が現れる。先ほどの女忍者と同じ顔で、さらに同じような露出の多い恰好をしていた。

 

「まったくその通り。油断は禁物だ。だが、急がなければならないのも事実だ。さっさとやるぞ」

 

 今度は仮面とローブで全身をつつんだ女だ。奇妙な、そして幼い声だけが彼女が女であることを証明している。

 

「ちょっと待って、この人達冒険者よ。ほら、プレートを付けてる」

 

 鎧に身を包み、背中に複数の空中に浮いた剣を漂わせたブロンドの女が現れた。鎧を付けているというのに見えるところは見えている。

 

「女騎士キター」

「さっきから何をいっているんだこいつは」

「ちょっと黙ってて、イビル・・・・・・は言っちゃだめね、んん。ねぇ、あなたたちはここで何をしているの?」

「何って畑の警護の依頼を受けた冒険者だ。だから案山子よりは働かなきゃならない」

「畑って・・・・・・ここが何なのか分かってないの?」

「なにとは?」

「ここは麻薬畑なのよ!こんなところは焼いたほうが世の中のためなの」

「は?それが犯罪なら司法の手に委ねればいいじゃないか。なんで焼くって発想になるんだ?お前たちは犯罪者の家を見つけたら放火するのか?」

「え?」

「麻薬だろうが何だろうが、法に則ることなくそれを村ごと焼き払うとかお前たちのほうが悪党だろう」

「それは仕方ないの!こうしないと貴族の横やりで潰されるの!それにそこに生えてるのは麻薬なのよ!」

「治療用の麻薬と聞いている。それにこれは冒険者組合が請け負った正式な依頼だ」

「私たちを信じて!」

「人を殺そうとしたやつを信じろと?」

 

 そういって女忍者から奪ったナイフをクルリと回す。

 

「言っても無駄だ!さっさとやってしまうぞ」

「ちょっと待って」

「いや、こっちもそのほうがいい。そうそう、自己紹介しておこう。俺の名はペロロンチーノ。名前も言えない畑荒らしさん」

「シャルティアでありんす。短い間ですがよしなに」

 

 二人が優雅に一礼をする。

 

「ふざけるな!我々がどんな気持ちでこんなことをやっていると思っている!」

 

 そう言って飛行(フライ)で飛び上がる仮面の魔法詠唱者。そして問答無用で魔法を唱える。

 

水晶騎士槍(クリスタルランス)

 

 水晶で出来た魔法の槍が男を襲う・・・・・・が、そこには既に誰もいなかった。

 

「へー、見たことのない魔法だなー」

 

 いつのまにか空中のイビルアイの後ろに男がいる。そしてその手にはイビルアイの仮面が握られている。仮面の下に幼いが整った顔が現れた。

 

「あら、かわいい」

「な、なんだと?どうやって後ろに回り込んだ!飛行(フライ)でそこまでのスピードは不可能なはず!」

「ふふっ、ペロロンチーノ様に空中戦を挑もうとは無謀でありんすえ」

「しかし、仮面が取れただと?盗賊職でもないのに。これは・・・・・・。それにその赤い目と牙は・・・・・・ヴァンパイアか?」

「・・・・・・ヴァンパイアで悪いか」

「別に可愛ければいいと思います。むしろ良いと思います」

「くっ、仮面を返せ!《結晶散弾(シャドー・バックショット)》」

「おっと。こいつももらっておくかな」

 

 水晶の散弾をものともせず、そう言って、次は水晶で出来た杖が奪われる。

 

「おお、盗れる、盗れる」

 

 ユグドラシルでは相手の装備は盗賊職が能力で盗むか、相手を倒した時にドロップする一部アイテムのみであった。この世界では倒せばすべて奪える。そう思うと暗い喜びを覚えるのであった。

 

「シャルティア!」

「はいな!」

 二人でアイコンタクトを送る。そしてペロロンチーノはイビルアイの両手を掴む。

 

「く、離せ!この・・・・・・」

 

 しかし、続いて両足をシャルティアが掴む。

 

「行くぞ、せーの」

 

 ペロロンチーノがローブを、シャルティアが服を順番に引っぺがした。残ったのは哀れ下着のみとなったイビルアイ(ロリ)であった。胸にはさらしを撒き、下着はなぜか黒い大人びたものである。

 

「ぎゃーーーーーーーーーーー!」

 

 剥かれたイビルアイは急いで飛行(フライ)により一番体の大きいガガーランの背中に隠れ真っ赤になって丸くなる。

 

「な、なななな、なにをするだー!」

 

「ペロロンチーノ様、下着もやってしまうでありんすか?」

 

 シャルティアが舌なめずりをする。

 

「み、見るなー!こっちを見るなー!」

「駄目だ、シャルティア。YES!ロリータ NO!タッチ」

「いえす・・・・・・なんでありんすか?」

「ロリは愛でるものであって触ったりしてはいけないというありがたい言葉だ」

「なるほど」

「だ、だれがロリかー!」

 

「おいおい、やべーぞこいつら」

「なんかうちのちっこいのが可愛い・・・・・・」

「うん、可愛い」

 

 双子の忍者がなんだか喜んでいる。

 

「ちょっとあなたたちふざけないで!」

「よし、次はあのエロ忍者たちだ」

「かしこまりんした、ペロロンチーノ様」

 

 武器を、そして防具を剥がされていく。空中を地上を自在に滑空し、翻弄される。スピードには自信のあるティアとティナであったが、体が追い付かない。しかし、シャルティアに装備を剥がされるティナはなぜか幸せそうであった。

 

「さて、あとは女戦士と女騎士の二人だけか」

「一人は女・・・・・・なんでありんしょうか?」

「なぁ、こいつら本当に(アイアン)級の冒険者かよ」

「もしかして彼らがあなたたちが言ってた《変態》じゃないの?」

「変態?いやぁ」

 

 照れるペロロンチーノ。悪名高い《変態》であれば本気でやるしかあるまい。ラキュースは観念して切り札を出す。

 

「唸れ魔剣!キリネイラム!超技・暗黒刃超弩級衝撃波奥義!(ダークメアインパクト)

 

 ラキュースの剣から巨大な暗黒球体が放出される。ラキュース最強の必殺技だ。ガガーラン曰く、ラキュースが本気を出せば街一つを飲み込むという。だが、その暗黒球がペロロンチーノの体に触れるがさしてダメージを食らっていないようだった。

 

「うそ・・・・・・」

「リーダーの必殺技でもダメージなしかよ」

「これは闇属性の剣でありんすか?わらわが触れても壊れないとは中々でありんすね」

 

 ラキュースの隣に剣を奪ったシャルティアが立っている。

 

「や、やめろ!そいつを手放したらこいつの闇が暴走するぞ!」

「なに?その剣にそんな能力が?」

「ああ、いつか言っていたんだ。己の中の闇の人格ことを」

「ちょっ!大丈夫だから!黙ってて!お願い!」

「お、おう」

 

 真っ赤になるラキュースだが、無垢なる白雪、ネズミの速さの外套、浮遊する剣群

次々と装備が奪われていく。そして白い細かな刺繍が施されたレースの下着一枚の姿へと変わった。ラキュースは腕や手で体を少しでも隠し頬を染めるが、相手をキッと見つめる。

 

「さぁて、次はどうしてやろうかな。この悪党め」

「くっ、殺せ!例え私の体を自由にしようと心まで自由にできると思わないで!」

 

 《変態》たちの動きが止まった。どうしたというのだろう。何か琴線に触れるような言葉を言ったのだろうか。

 

「さて、十分あそ・・・・・・楽しんだし。この辺にしておくか。さて、お前たちの雇い主・・・・・・いや、飼い主に伝えろ。このあたりで騒ぎを起こすな、でないとお前のところまでエロを伝えに行くとな」

「分かりました・・・・・・伝えます。でもこれだけは言わせてもらうわ。私たちの雇い主は本当に心が優しくて、人々の痛みが分かる方です。決して私利私欲のために私たちを雇ったわけではないの」

「おい、俺はまだ剥かれてない・・・・・・」

「いいから、もう帰るから服を返してくれ・・・・・・」

 

 ガガーランの言葉を遮り、イビルアイが涙目で真っ赤になりながら懇願する。

 

「駄目だね。これはあとで使って楽し・・・・・・証拠物件として没収する。それに畑荒らしに武器を返すやつがいるか」

「おい、今使って楽しむっていったか!?何に使うつもりだ!」

「言ってない」

「みんな、撤退よ!ここは撤退します!」

「くそ!覚えてろ!」

「お、おい先に行くな、いろいろ見えてしまう!」

「またね変態」

「じゃあね」

 

 ラキュース達とともに逃げ去っていく中、ガガーランがつぶやいた。

 

「なんで、俺は剥かれないんだよ・・・・・・」



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第7話 TSモノは地雷が多い

―――八本指

 

 その運営する娼館にペロロンチーノは案内されていた。歓迎するのは八本指の奴隷部門の幹部コッコドール、警備部門の幹部ゼロ、麻薬部門の幹部ヒルマもいる。

 

「まさかあの青の薔薇を返り討ちにしちゃうなんてねぇ・・・・・・でもそれ本当なの?」

「青の薔薇ってなんですか?」

「え?あんたたち知らないで戦ったの?」

「はっはははは、そうかそうかあいつら程度眼中にねえか。いいじゃねえかコッコドール。気に入ったぜ」

「私の部下が目撃してるから本当よ。二人であっさり撃退したらしいわ」

「だから言ったじゃねえか、ヒルマ。こいつらは使えるってな。どうだ?冒険者なんぞ辞めて六腕に入らねえか?」

「ちょっと抜け駆けはなしよ。この子たちはあたしが狙ってるんだから」

「いや、おカマは勘弁してください」

「いやぁね、分かってるわよ。ちゃーんと女の子用意しているから。じゃあねゼロ、ヒルマ。あたしはこの子たち案内してくるから」

 

 そう言ってコッコドールが床のボタンを操作すると隠し階段が現れた。

 

「うふふ、ここではどんなプレイでも自由だから。楽しんでいってね」

 

 歩きながらある部屋に通される。

 

「この部屋は?」

「ここはね、マジックミラーになってて客の様子が見られるの。ほら」

 

 スイッチを操作すると、壁のガラスが透ける。ユグドラシルにはなかったが魔法なのだろう。だが、そこには目も覆うような光景が広がっていた。男が女に馬乗りになり、殴っている。刃物を切りつけている者もいる。相手の生死など気にしていないのは明白だ。殺しを楽しんでいるのだろう。

 

「こ、これは・・・・・・」

「ここはどんなことをしてもいい娼館なの。でも何でもできるからこんな風に商品を簡単に壊されちゃうのが困るのよねぇ」

「あの女の子たちは?」

「ああ、大丈夫よ。麻薬で言うこと聞かせてるから。殺されたって夢の中で逝ってるんじゃないかしら」

「麻薬は治療のためといってませんでしたか?」

「ええ、治療よ?あの子たちが長持ちするようにね」

「人殺しを楽しむ施設か・・・・・・。クラシック映画であったな、女が旅行客の男を誘い込んで人殺しサークルに連れて行き殺人サークルの会員に殺されるっていう映画が。あれ最初はエロかったのに後半スプラッタになってトラウマだったっけ」

 

 何気なく語り掛けているがそこにあるのは怒りだ。怒りが後から後から湧いてくる。理由はよくわからないがペロロンチーノは怒っている。ペロロンチーノは権力者、特にそれを理不尽に振るう者が嫌いである。これは権力者と一般市民に明確な差があるリアルが原因だ。また、ペロロンチーノは基本善人である。少なくとも女の子を殺すようなことはしない。人が傷つけられていると不快だし、理由もなしに殺すなんてもってのほかだ。殺されるほどの悪事を働き罰を受けると言うのであれば同情はしないが。だが、彼らはそうではない、人として当然というべきルールを破り快楽に耽っている。

 

「くぅ・・・・・・クズがあああああ。人殺しで性的快楽を楽しむクズがよくも俺の・・・・・・俺とシャルティアの心を持て遊んでくれたななあああああああああ!」

 

 ペロロンチーノが地面を蹴りつけると建物全体がビリビリと揺れる。

 

「ひぃ!ちょ、ちょっと!」

「やっと、やっと楽しめるって。道具もいろいろ準備してきたのに人殺しサークルとかないだろうがああああ」

「ふん、やっぱりそうなったか」

 

 扉に背中を預けゼロが立っている。後ろにはヒルマも控えていた。

 

「ゼロ!」

「もしかしたらと思ってな。まぁ仲間にならなきゃ殺すつもりで誘ったんだがな。ついてきておいてよかったぜ。おい、変態」

「黙れ、俺を変態と呼んでいいのは女の子だけだ」

「・・・・・・まだ今なら考え直してもいいぞ。八本指に入れ」

「断る。あんたもそうなのか?」

「は?」

「あんたもあんな趣味を持っているのか?」

「まさか、あんな糞貴族どもと一緒にしてくれるな。俺には弱者を弄ぶ趣味はねえよ。ま、あいつらはお前の言う通り正真正銘のクズだ」

「んもぅ、失礼ね。だからこそ役に立つのよ彼らは」

 

 オカマがくねくねと身をよじる。

 

「あんたカルマ値はあまり高くないようだな。どうだ?今後悪事をやめるならあんたは見逃してやってもいいぞ」

「ふっ・・・・・・ふはははははは。この闘鬼ゼロに対して見逃してやってもいいぞ、だと」

「ちょっと、なに笑ってるのよん」

「舐めるなよ小僧。だが、ますます気に入った。もう一度チャンスをやる。俺たちの仲間になれ」

 

 仲間・・・・・・その言葉にかつての友人たちを思い出す。漆黒の豪華なローブを纏ったマジックキャスター、白銀の鎧騎士、世界を汚す悪魔の魔法詠唱者、女冒険者の鎧を溶かすスライム、ゴーレムクラフターの糞野郎、懐かしくも濃かった面子の顔が浮かんでは消えてゆく。

 

「断る。お前じゃ俺の仲間には物足りない」

 

「後悔するなよ!行くぞ」

「シャルティア、こいつらを捕えろ。殺したりするなよ」

「あの女どもはどうするでありんすか?」

「そうだな、治癒魔法で治してやれ」

「御意に。行動を開始しんす」

 

集団全種族捕縛(マス・ホールド・スピーシーズ)

 

 シャルティアの魔法が発動し、コッコドールとヒルマが転がる。ゼロは一瞬体が硬直するが耐えきったようだ。

 

「あら、この程度の魔法とは言え人間が抵抗するでありんすか」

「ここは俺がやるからシャルティアはこの館を制圧してこい」

 

 シャルティアは優雅に一礼をした後、扉から出ていく。

 

「ふん、女は見逃してやる、だがこの俺を相手に一対一だと?なめてんのか」

「あんた相手に二人がかりとか俺そこまで鬼畜じゃないからな」

「なめるなぁ!」

 

 ゼロの前身の入れ墨が光る。足の豹、背中の隼、胸の野牛、頭の獅子、すべてを発動させる。シャーマニック・アデプトによる肉体強化だ。常人ではありえない速さ、そして重さの拳がペロロンチーノの顔面を襲った。

 

「一発だけ殴らせてやる・・・・・・だがなるほど、この程度か」

 

 ゼロは信じられないものを目にする。今あるべき光景は男の頭が吹き飛ばされ、壁に染みを作っているところのはずだ。いや、ゼロと同じくらいの強者であれば傷つきつつも耐えられるかもしれない。だが、目の前の男はなんの痛痒も感じていないようであった。

 

「じゃ、一発は一発ってことで」

 

 男が手のひらを振り上げる。それが雲水の速さでもってゼロの顔面を直撃した。

 

「へぶっ!」

 

 ゼロの意識がそこで途切れる。味わったことのないような敗北感と屈辱の中で。自分がただビンタ一発で沈むという情けない状態を認めたくなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、全員捕獲したしお巡りさんに突き出すか」

「ほんと弱かったでありんすね」

「まぁお百姓さんと商人の集まりだからそんなに強さに期待してもなぁ」

「そういえばそうでありんしたね、ところでこいつらはどうするでありんすか?」

 

 目の前には捕縛された八本指と治癒により傷を治された女たちがいた。女たちは精神的に疲弊しているようで一人では歩けないような状態である。そこへ入り口から騒ぎを聞きつけたのであろう男が入ってくる。

 

「バタバタうるせえな!何やってんだ!」

 

 顔に傷があり、太い両腕を持った暴力を振るうために生まれてきたような容姿の男だ。門番か何かが騒ぎを聞きつけて入ってきたのだろう。そして中で縛られている仲間を見て仰天する。

 

「お、おめえら何を・・・・・・」

「シャルティア」

 

 

集団全種族捕縛(マス・ホールド・スピーシーズ)

 

 捕縛の魔法により男は一瞬で絡めらとられる。

 

「ペロロンチーノ様、外にも人の気配がありんす」

「外?」

 

 ドアを開けてみるとそこにはナザリックの白髪の執事がいた。その足元には布袋に入れられた傷だらけの女性。袋の口からわずかに頭と手が覗いている。執事は何かその女性に語り掛けているようであった。

 

「・・・・・・天から降り注ぐ雨を浴びる植物のように、己の元に救いが来ることを祈るだけの者を助ける気はしません。ですが・・・・・・」

「シャルティア、また怪我をした被害者だ」

 

大治癒(ヒール)

 

 治癒の魔法が飛び、女性の傷が一瞬で治る。そこでペロロンチーノは外の人物に気づく。

 

「あれ?おじさん。どうしたのこんなところで?何か用?」

「点から降り注ぐ・・・・・・何でありんすか?」

「なんかそんなこと言っていたな。雨を浴びる植物がなんだって?」

「ぐっ・・・・・・」

 

 執事は言葉に詰まる。

 

「ねえ、植物がなんだって?」

「救いがどうかしたんでありんすか?」

 

 涙目で真っ赤になった白髪の執事はブルブル震えながらしばらく俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 外に出ると夜も更けていた。魔法の灯りがあるとはいえ、このような裏通りはすっかり真っ暗だ。執事のおじさんに国の兵士を呼びに行かせペロロンチーノ達は家探しを始める。会員の名簿らしいものから会計簿らしいものまで集めていく。兵士が来る前に証拠をそろえておくべきだろう。

 

 そこへ、執事のおじさんが戻ってきた。後ろには白い鎧の兵士と5人の女性がいる。

 

「ご苦労さん・・・・・・って・・・・・・あ、王女様のペットだ」

「な、なにを突然言ってるんですか?あなた方は」

 

 真っ赤になって焦っている白い鎧は王女様のペットことクライムだった。不可視化をしていたためペロロンチーノ達のことは覚えてはいない。しかし、その後ろから大声が響き渡った。

 

「あーーーー!き、貴様らーーーーー!」

 

 そこにいたのは先日麻薬栽培村を襲った青の薔薇の5人であった。イビルアイがいきり立つ。全員装備を奪われたばかりのため、一般的な服を着ている。イビルアイの着ているのはどう見ても子供用の黒いワンピースだ。

 

「クライム!こいつらか!こいつらが娼館の悪党どもか!」

「あ、えっとどうなんでしょう?」

「イビルアイ様、違います。この方達は娼館で強制的に虐待されていた女性たちを助けてくださったのです」

 

 白髪の執事の言葉にイビルアイは疑いの目を向ける。

 

「こいつらが?女を助けた?とても信じられんが」

「誰かと思ったら畑荒らしロリじゃないか」

「誰が畑荒らしだ!」

「ちょっと黙って。イビルアイ。私が話をします。私は青の薔薇のリーダー。ラキュースと申します」

「あ、これはご丁寧にどうも。ペロロンチーノです」

 

 ラキュースは薄手のカーディガンにスカート姿だ。美人に急にかしこまられると対応に困るペロロンチーノ(ヘタレ)であった。

 

「それで、事情を説明していただいてもよろしいかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なるほど、彼らの依頼を引き受けた後、八本指の悪行に気づき、娼館を制圧して女性を解放したと」

「まぁそんなところです」

「なんだ意外といいやつじゃねえか」

「うん、意外」

「ただの変態かと思ってた」

 

 ガガーラン、ティア、ティナが見直している。

 

「ちょっと待てよ。こいつ闘鬼ゼロじゃねえか?」

「まだ生きてる」

「ゼロ!?六腕のトップを倒したというの!?」

「六腕を倒せるやつが(アイアン)のプレートとかどんな笑い話だよ」

「話も終わりましたし俺たちは帰りますね。面倒ごとはごめんですので」

 

 そういって去ろうとするペロロンチーノをラキュースが止める。

 

「それはどうでしょうか。あなたたちの立場はこれから悪くなる可能性もあるわ」

「立場が悪く?」

「そこに縛られている連中、客の中には貴族もいるはず。そんな彼らがこんなことをされて黙っているわけがない」

「そんなのは順番に潰していけばいいでありんす」

「ちょっとシャルティアは黙ってような」

 

 そう言ってシャルティアの頭を撫でる。ゴロゴロと音が鳴りそうな顔をしながら目を細めその手に頭をこすりつけた。

 

「何あの子可愛い」

「私も撫でたい」

 

 ティアとティナが羨ましそうにペロロンチーノを見ている。

 

「ではどうすれば?」

「私たちに協力してくれませんか?」

「ちょっと待てラキュース!こんなやつらの手を借りるのか!」

 

 今まで黙って見ていたイビルアイがいきり立つ。

 

「だってそのほうがお互いのためでしょう?」

「こんな得体のしれない連中のことなど信用できるか!そ、それにこいつらは私の・・・・・・私の裸を見たんだ!誰にも見せたことなかったのに!」

 

「裸って・・・・・・下着つけてたよな。それにロリだったし」

「一言くらい謝れないのか貴様は!」

「裸くらいいいじゃねえか、減るもんじゃなし」

「うん、可愛かった」

 

 仲間たちの追撃についにイビルアイが沈黙する。

 

「それで、協力って言うのは八本指のことなの。見ての通り八本指は人々をつらい目に遭わせて甘い汁を吸っている。でもこの間も言った通りちょっとくらい打撃を与えても貴族たちに揉み消されてしまう。だから決めたの。すべての施設をつぶすって。そして証拠を集める、揉み消されないくらいにね」

「それには俺たちだけじゃちっと手が足りないんだわ。本当ならガゼフのおっさんに頼もうと思ってたんだけどよ。貴族の陰謀で消されちまったしな、くそ!」

「ガゼフ戦士長様・・・・・・」

 

 クライムが暗い顔をする。ガゼフはクライムの届かない高みにいる剣士であり、時に鍛錬を積んでくれる師でもあった。人格者でもあった彼がなぜ死ななければならなかったのか。

 

(そういえば王女様がそんなことを言ってたな)

 

 ペロロンチーノは王女の言っていたことを思い出す。思えば彼女は真実を言っていたのだ。

 

「分かりました。協力しましょう」

 

 ラキュースとペロロンチーノが握手を交わす。

 

「話は終わったか?じゃあこっちの番だ!私たちの装備を返せ!」

 

 イビルアイはまだ怒っていた。

 

「えーなんでこんなに怒ってるの?この子」

「当たり前だろうが!」

「裸の付き合いをした仲じゃないか」

「は、裸の・・・・・・!?」

 

 イビルアイの顔が真っ赤に染まる。

 

「き、貴様もし次に人前でそんなことを言ったら・・・・・・。ああ、もう!さっさと装備を返せ!」

「まだちょっとしか使って・・・・・・いや何でもない。はいはい、返しますよっと」

 

 そう言って無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)からアイテムを取り出す。

 

「おい、今ちょっとしか使ってないって・・・・・・いや、何でもない。聞きたくない」

 

 イビルアイは疲れたようにアイテムを受け取る。その時、急に昼のように王都が明るくなった。夜の闇を切り裂くように王都の一部が十数メートルはあるだろう炎の壁に囲まれていた。

 

「なんだありゃ」

「王都が・・・・・・火に包まれてる」

「あれは倉庫区のほうね」

「ラナー様が心配です!私はラナー様の元に戻ります」

「ちょっと待って、その前にほかの兵士を呼んでこの娼館を封鎖するのよ」

「は、はい!」

 

 クライムが駆けていく。ふと、イビルアイはここに来た原因の二人を見た。首を傾げながら彼らはつぶやく。

 

「あれは・・・・・・ゲヘナの炎?」

「そうでありんすねぇ」

 

 心底不思議そうに二人は首を捻っていた。

 



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第8話 時間停止モノはよく考えたら負け

―――ナザリック地下大墳墓 玉座の間

 

 そこにシャルティア、ヴィクティム、ガルガンチュアを除く階層守護者が集まっていた。

 

「それでデミウルゴス。最初に旗を立てる国は決まったの?」

「ああ、アルベド。王国にしようと思う。利点はいろいろあるが、まずはナザリックの宝物殿が使えない以上資金調達の必要があることだ。そこでもっとも警戒の薄いと思われる王国の倉庫区を襲い財を得る」

「確カニ金貨ノ補充ハ必要ダ。下僕ヲ召喚スルノニモ使ウカラナ」

「ナザリック自体の活動資金のほうは宝物殿の金貨が使われてるのだけれど、それは問題ないわ。なにせあのアインズ様達が収支を考えて調整されたシステムですから」

「そして王国に悪魔たちを放つつもりだ。これは私と魔将たちで召喚した悪魔たちを使うのでナザリックの損失は0だ」

「な、なんで悪魔たちを放つんですか?王都を滅ぼすんですか?」

「そうではないよマーレ。滅ぼすことなど簡単だが、今回はそういうわけにはいかない」

「わっかんないなぁ。どうするつもりなの?」

「まず、表で活動するアンダーカバーとして魔王を作り出そうと思う」

「魔王?」

「ああ、かつて至高の御方々が目指したものだ。悪魔を使役し世界に悪を知らしめる、その魔王は世界中からの恐れと憎しみと言う名の栄誉を得るだろう」

「至高の御方々に見つけていただくための灯台というわけね」

「そうだとも。だが、そのまま魔王が君臨するつもりはない。奪うものを奪ったら王国からは撤退するつもりだ」

「なんで?そのまま支配しちゃえばいいじゃん」

「今の王国にはまるで魅力がない。そのまま支配するより裏で支配したほうが簡単だ」

「あ、あの、どういうことですか?」

「ああ、マーレ。王国に潜入させていたソリュシャン達からの報告よると八本指と言われる組織が国を裏から牛耳っているらしい。その幹部や裏でつながった貴族たちが王国の税を労働力をそこで貪っているのだ」

 

 皆が聞いていることを確認し、デミウルゴスは続ける。

 

「だが、人間達にしてみればそんなゴミのような者たちに支配され搾取されるより我らの役に立ったほうがよっぽどいいだろう。そこで王都を襲う際、この組織を手に入れるつもりだ。至高の御方々の情報収集といい意味でも組織は存続させる。ああ、そうそう。八本指と言えばその警備部門のトップ六腕の一人が不死王と名乗ってるらしい」

「不死王!?モモンガ様!私のモモンガ様がいるの?」

「落ち着きたまえ。モモンガ様が人間の組織のそれも下についているなどは考えられない。可能性は低いと思われるが、何か知らないとも限らない。この人物は捕えて連れてくるつもりだ」

「もしモモンガ様ではなかったら・・・・・・不死王などと名乗ったこと、許せないわ」

「それは当然だね、その際は任せるよ」

「それで、魔王役は誰がやるの?」

「はいはいはーい!あたしやりたーい」

「私ガヤロウ。至高ノ御方ノタメナラバ悪名ヲ受ケルコトナド容易イ」

「まぁ待ちたまえ。アウラとマーレには偽のナザリック建設を、コキュートスには1~4階層までの守護を任せているから無理だ。ここは私が行こうと思う」

「ずるいデミウルゴスー」

「アウラ、では他にいい案があるのかい?」

「ぶー、ないけど」

 

「はい、モモンガ様!私も愛してます!」

 

 ずっと黙っていたアルベドが突然わけのわからないことを言い出す。

 

「と、突然どうしたのアルベド」

「ああ、パンドラズアクターに1時間に1回「愛してる」とモモンガ様の声で言ってもらっているの」

「まだそんなことをやっていたのかね」

「だってそうでもしないととても耐えられないんだもの。ああ、モモンガ様・・・・・・」

「それでアルベド、作戦について意見は?」

「問題ないわ。モモンガ様・・・・・・いえ、至高の御方々が見つかるのを心から祈っております」

「ああ、そうだ。王都で一人だけ会ってみたい人物がいるんだ。もしかしたら君たちにも紹介することになるかもしれない」

「あら、誰かしら。人間?」

「それは会って見ないこととには分からないが面白いことになりそうだ。期待していてくれたまえ」

 

 

 

 

 

 

―――王都 リ・エスティーゼ

 

 突如出現した悪魔たちは、炎の壁の中より現れ、人々を襲っていた。そんな中、貴族は私兵で館を警備させ立てこもり、王族も戦士長不在という人手不足の中、市街の警備に回す兵士が足りない状態であった。その中で冒険者組合が中心となり、悪魔の討伐に乗り出すことになる。危険に見合ったと言えないかもしれないが報酬を用意され、雇われた冒険者たちがチーム毎に町に散らばる。

 その中で、ペロロンチーノとシャルティアは別働隊として動くことになった。飛行(フライ)を使える冒険者が少ないためである。王都の上空には空を飛ぶ悪魔が多く、王都の兵や飛空(フライ)の使えない冒険者たちでは対処ができなかった。王国は魔法詠唱者を軽視しており、さらに兵士は弓などを地上から射かける練度が低く、悪魔たちには通用しなったのだ。そこで、空を飛べるペロロンチーノ達が必然的に上空の悪魔たちの相手をしていく。だが、その殲滅速度はありえないものであった。通常の冒険者ではチームでやっと倒せるような強敵を一撃のもとに撃破していく。

 

「なんだあの空を飛んでいる二人は」

飛行(フライ)?第3位階の魔法の使い手か」

「魔法詠唱者だとしてもあの弓の腕は・・・・・・本職の俺より上だぞ」

「あんなボロボロの弓であれほど遠くから正確に・・・・・・」

(アイアン)のプレートってことはあれが?」

「そうなんじゃないか?でもあれが《変態》なんて何かの間違いじゃないのか?」

 

 一射毎に敵を精密に殲滅していく様子は王都の市民の視線を釘付けにする。しかし、ペロロンチーノは悪魔に矢を撃ち込みながら首を捻っていた。

 

「なんだってこんなに悪魔が出たんだろう?」

「分かりんせんが、召喚された悪魔っぽいでありんすね」

「そういえばウルベルトさんが《最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)》で世界を悪魔でいっぱいにしようとしてたなー」

「まさかこれはウルベルト様が!?」

「それにしては弱い悪魔ばかりなんだよな。まぁ全部倒せば親玉がでるだろう」

「では、さっさと殲滅しんす」

 

 シャルティアが速度を上げて範囲魔法を叩きこみ、ペロロンチーノも負けずと聖の属性付加した矢の雨を降らせた。闇夜に光り輝く矢と魔法が降り注ぐ美しい光景を王都の民は呆けたように見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イビルアイは全身を悪寒に襲われていた。原因は目の前の悪魔だ。南方の国で着用されるというスーツという衣装に身を包み、顔を奇妙な仮面で隠した悪魔。これほどの悪魔は見たことがない。伝説の魔神の再来ではないかと思わずにいられない。

 

「ふむ、この程度で死んでしまうとは。お悔み申し上げます」

 

 そう言って頭を下げる仮面をつけた悪魔の前には二人の仲間が倒れ伏している。ティアとガガーランだ。イビルアイ達は炎の壁を越えて順調に悪魔を討伐していた。いや、順調すぎた。弱い悪魔を倒すと次にそれより少し強い悪魔、さらに強い悪魔と誘い込まれているような嫌な予感を感じていたが、それでも悪魔達の壁を食い破り、行き着いた先にいたのが、仮面の悪魔だ。

 あの《変態》には苦渋を舐めさせられたがそれでも自分は《国堕とし》とかつて呼ばれた強者だ。だが、たかが悪魔に後れを取ることはないと過信した結果がこれだ。戦い始めてすぐ相手の圧倒的な強さには気づいた。そこですぐ撤退するべきだったのだ。己の強さを過信したツケは大きかった。もしあそこで逃げていれば、またはプライドを捨ててあの《変態》に応援要請のメッセージを送っておけば、後悔するがもう遅い。

 

 イビルアイが死を覚悟し、目をつぶる・・・・・・が、いつまでたっても死は訪れなかった。恐る恐る目を開けると、驚愕したように震える仮面の悪魔がいた。

 

「なぜここに?これは・・・・・・なぜ・・・・・・ああ、なるほど・・・・・・さすがでございます」

 

 そう言って悪魔は頭を下げる。振り向くと《変態》の二人が立っている。

 

「ど、どうしてここが?」

「ああ、他の悪魔は全部倒してあとはここだけだから」

 

 絶句する。あの数の悪魔を倒し切ったというのか。

 

「大丈夫か?」

「あ・・・・・・ああ。いや、大丈夫じゃない!逃げろ!そいつはお前たちでも勝てるような相手じゃない!」

「それはやってみないと分からないだろう」

 

 そう言ってイビルアイの前に男が立ったとたん、城壁に守られているような安心感を感じる。非常に腹が立った。女を裸に剥いて喜び、とぼけた感じで周りを煙に巻いているこんな呑気な男に守られてなんでこんな気持ちにならなければならないのだ。後ろから悔し気に睨みつけていると男と悪魔が情報戦を繰り広げていた。

 

「あれ?その仮面・・・・・・どっかで見た気が・・・・・・?ああ!」

 

 男がポンと手を打つ。

 

「私の名はヤルダバオト。お名前を伺っても?」

「は?何を言ってるんだデミウルゴス」

「デミウルゴスでありんすよね?」

 

 二人の声は相変わらず呑気だった。こいつらには緊張感と言うものがないのか。だが、それに対する悪魔の反応は顕著だった。

 

「ええー!?え、ええ、そ、そうです。私の名はデミウルゴス=ヤルダバオト。デミウルゴスと呼んでもらえれば幸いです」

「知り合い・・・・・・なのか?」

「ふふふ、そう。私と彼らは不倶戴天の敵。いつか滅ぼしてやろうと願っていましたがそれが叶うとは幸いです。それではもうこんな仮面など必要ないですね」

 

 そう言って仮面を投げ捨てるデミウルゴス。敵としてかつて戦った相手らしい。デミウルゴスはペロロンチーノにウインクを送っている。何の合図だろうか、恐らくはからかっているのだろう。

 

「え、おまっ・・・・・・裏切・・・・・・えー?」

「さて、あなた方もここで殺さなければなりませんね。お覚悟を」

 

 そう言った直後、シャルティアがどこからか奇妙な形の槍を出し、デミウルゴスの腹を刺し貫く。

 

「正気かデミウルゴス!ペロロンチーノ様に敵対するとか!殺すぞ!」

「ちょっ、ぐはっ・・・・・・やりすぎ・・・・・・」

 

 血を吐きながらデミウルゴスが飛びのく。

 

「ぐぅ、まったくあなたは・・・・・・。私一人では辛いですか。では行きますよ!」

 

 《能力(スキル)・魔将召喚》

 

 地面から全身から炎を吹き出し怒りの顔に燃えた巨体が現れる。

 

「てめぇ!デミウルゴス!本気か!本気で私たちとやる気かゴラァ」

 

 以前よっぽどのことがあったのだろう。シャルティアが怒りに顔を歪ませている。そのシャルティアの振るう槍を今度は巨体の悪魔が防ぐ。

 

「では次の一手です」

 

 そう言ってウィンクをしているが、されたペロロンチーノは顎に手をあて頭をひねっていた。

 

第10位階怪物召喚(サモン・モンスター・10th)

 

 イビルアイでは到底相手にできないほどの高位の悪魔が次々に現れる。

 

「なるほど、そういうことか。マッチポンプだ!」

 

 マッチポンプとは何だろうと思うイビルアイの前でペロロンチーノは納得したように手をうち、弓を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから始まった戦闘はかつての英雄と魔神の戦いを彷彿とさせるものであった。飛び上がった両者は空中で対峙し、イビルアイの理解を超えた攻撃の応酬がいつまでも続く。ヤルダバオトの爪が、腕が恐ろしいほどの速さで振られる中、あり得ない速さでペロロンチーノが攻撃をかいくぐる。数の上では劣勢だが、シャルティアが前衛を務め他の悪魔たちの手をペロロンチーノに届かせない。そして見事なのがペロロンチーノの動きだ。あれほどの高速で移動しながら射撃攻撃を一切外さないのだ。きりもみしながら、または逆さに飛びながらでも確実に攻撃を当てていく。その攻撃も安物の弓にも関わらず炎を、氷を、雷を様々な属性の輝きを持った矢が空中に弧を描く。

 

「すごい・・・・・・」

 

 イビルアイにはそれしか言葉が出てこなかった。彼らは何者なのか。神の血を引いた神人と呼ばれる者たちは強大な力を持つとされるが、あれがそれではないのか。いや、そうでなくては説明がつかないだろう。

 

 そんな常人を超越した彼らだが、悪魔たちの力も強大だ。降り注ぐ隕石、地獄の業火、しかも所々でいきなり消えたりしている。あれはもしかして伝説と言われる時間停止能力ではないのか。そんな悪魔たちの攻撃は《変態》たちにも決して軽くはない傷を負わせ、彼らの体から血が滴っていた。

 

「お見事です。私をここまで追い詰めるとは。ですが、私の部下から目的は達したとの連絡が入りました。ここはこの辺で退散させて・・・・・・」

 

 その言葉を遮り、シャルティアの咆哮が響き渡る。血も凍らせるような叫びだ。

 

「許すかこのアホがあああああああ」

 

 シャルティアの手に何らかのエネルギーが集まっていき、そのエネルギーは槍の形への変形していく。恐ろしいまでの神聖なるエネルギー。どれほどの信仰を捧げればあれほどの聖なる力が得られるのか。イビルアイは息をのむ。

 

 そして投擲される槍に《必中》《回復阻害》《威力上昇》などの能力(スキル)をめちゃくちゃにぶち込まれ、デミウルゴスの胸に突き刺さった。

 

「ぐはぁ!ちょ、だからやりすぎ・・・・・・もう・・・・・・やめて・・・・・・」

 

 血を吐きながらデミウルゴスが背を向けて逃げ出そうとする。

 

「これで終わるわけねえだろ!」

 

輝光(ブリリアントレイディアンス)

 

 聖属性の光の柱がデミウルゴスを中心に立ち上る。

 

「ぐあああああ!い、いい加減にしたまえ!《上位転移(グレーター・テレポーテーション)

「あああああ、逃げられた!しまった転移阻害をしておけば・・・・・・くぅううう」

 

 間違った廓言葉を使うのも忘れてシャルティアが悔しがる。

 

「ペロロンチーノ様もうしわけありんせん。逃げられてしまったでありんす」

「気にするな。あれでよかったんだ」

「え・・・・・・そうでありんすか?でもなんであのデミウルゴスが?」

「その話はあとにしよう、それより・・・・・・」

 

 ペロロンチーノがイビルアイを見つめる。今まで神話に出てくるような戦いをしていたとは思えないほど、気軽に話しかけてくる。

 

「大丈夫か?」

 

 そう言って伸ばされた手を一瞬躊躇したが取る。

 

「あ、ああ・・・・・・助かった。ありがとう」

 

 あの《変態》に助けられたと言うのになぜか気分は悪くない。

 

「いや、助けられなかったな。彼女たちは・・・・・・」

 

 そう言って、ガガーランとティアの遺体を見つめる。

 

「大丈夫だ。あとでラキュースが死者復活(レイズデッド)で復活をするだろうから」

死者復活(レイズデッド)?それならシャルティアがやったほうがいいかもしれないな」

「わらわがでありんすか?」

「嫌か?」

「いいえ、ペロロンチーノ様のご希望とあらば喜んでやらせてもらうでありんす」

「し、死者の蘇生を行えるのか?」

「その程度大したことありんせん。では、いくであんす。真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)×2」

 

 ガガーランとティアを白い光が包み込み、青かった肌に赤みがさす。イビルアイは目を見開く。見たこともないような高位の魔法だ。

 

「な、なんだその魔法は・・・・・・代償もなしに蘇生だと!?」

「いや、代償はいるはず・・・・・・ん?ポケットが軽く・・・・・・あ、金貨が・・・・・・」

「も、申し訳ありんせん!わらわが金貨を持っていなかったからペロロンチーノ様の金貨を」

仲間(パーティ)だから俺のが消費されたのか。まぁいい。しかし俺たちって本当に金がたまらないなぁ」

 

 イビルアイはチラリとペロロンチーノの武器を見る。どう見ても安物の弓だ。それも戦闘用ではなく狩猟用。金があればあんな武器を使ってはいないだろう。なけなしの金を使わせたことに罪悪感を感じる。

 

「金はあとで私が払わせてもらう。いや、払わせてくれ」

「いやー、子供からお金取るのは・・・・・・」

「誰が子供だ!・・・・・・あ、す、すまない命の恩人に。私は駄目だな、こんな態度しか取れないんだ」

 

 ペロロンチーノは不思議そうな顔をする。 

 

「いいんじゃないか?好きにすれば。自分を偽るなんてつまらないだろ」

 

 そう言って笑っている男を見ながらそういうものだろうかと思・・・・・・わなかった。いや、お前はもう少し恥じらいとか常識を持てと思う。しかし何となくこの男らしい言葉だなと思った。

 

「そうだな・・・・・・」

 

 イビルアイは少し羨ましく思う。馬鹿のくせになんて自由で楽しそうな冒険者なんだと。自分を偽ることなく曝け出して生きていけたらどんなに幸せなんだろうと。吸血鬼の自分にはその勇気がないし、それを世間が受け入れてくれることもないことは知っている。だが、この男ならそんなことも気にせずに失敗しようが何と思われようが自由に生きていくのだろう。

 遠くから声が聞こえる。ラキュースの声だ。ティナの声も聞こえる。王都の炎が消えた中、今度は朝日が王都を赤く染めようとしていた。



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第9話 エロゲが喋った日のあの感動

―――王都 冒険者組合

 

 悪魔騒動の後、ペロロンチーノは冒険者組合に呼び出されていた。青の薔薇の面々のほか討伐に参加した冒険者全てが集められている。今回の事件について事情聴取のためだ。だが、今までと違いペロロンチーノを見る冒険者たちの目には尊敬の感情が宿っていた。青の薔薇からの報告によると首魁デミウルゴス=ヤルダバオトの難度は200を超えるという。それは青の薔薇のメンバーが殺されたことからも信憑性は高かった。それをたった二人で(アイアン)級の冒険者が倒したというのだ。当の本人はそんな尊敬の目にも気づかず平然としているところが大物らしい。

 そんな中、組合の扉が開かれ、そこに明らかに貴族と分かる高級な服装をした男とおつきの騎士が現れた。

 

「ここにペロロンチーノとやらはいるかね」

 

 場がざわついく。

 

「え?だれ?」

 

 そんな周りの変化を気にもせずにペロロンチーノが奥から出てきた。

 

「お前がペロロンチーノか?」

「そうですが、あなたは?」

「私はランポッサ王の使いとしてきたアルチェル・ニズン・エイク・フォンドールである」

「それはご丁寧にどうもアルチェルさん。俺がペロロンチーノです」

 

 敬称を付けずに呼ばれ、アルチェルの顔が引きつる。

 

「アルチェル様。なにぶん野蛮な冒険者ですから、礼儀などわきまえてないのでしょう」

 

 御付きの騎士がフォローをしているが、今度はまわりの冒険者が憮然とする。

 

「ふん、まぁいい。ペロロンチーノ何だね、性は」

「せい?」

「ただのペロロンチーノではあるまい。ファミリーネームは何かね」

「いえ、ただのペロロンチーノです」

「貴様ふざけているのか!」

「じゃ、ペロロンチーノ・アインズ・ウール・ゴウンってことで」

「なに?貴様は貴族なのか?」

 

 アルチェルは仰天する。貴族は4つの名前で呼ばれるのだ。先ほどからの態度は貴族故というわけか。そうであるならば自分は態度を改めねばならない。

 

「ペロロンチーノ様、そんな風に名乗ったらまたあの大口ゴリラが怒こりんす。モモンガ様を差し置いてーって」

 

 横から口を出してきたのは、王国の黄金に並ぶのではないかと思われる可憐な少女だ。

 

「はっは、そりゃそうだ。今のは冗談です。ただのペロロンチーノです」

「ぐっ・・・・・・まぁいい。王より書状を預かっている。これより伝えるので傾聴したまえ」

「あー、はい。どうぞ」

「・・・・・・何故、膝をつかないのかね?」

「は?」

「王からの言葉をそのまま聞くつもりかと言っているんだ」

「あ、はい」

「あ、はいじゃ・・・・・・」

 

 アルチェルのこめかみがピクピクと痙攣する。そこへ騎士が耳打ちをする。

 

「アルチェル様御辛抱を。このような無礼な真似が許されないは道理。ですが、王の言葉を伝えずに帰るわけには参りません。ですので、このことは後ほど王に報告ののち罰してもらえばと思いますがいかがでしょうか」

「そうだな、そうしよう」

 

 アルチェルがペロロンチーノに向き直る。このような無礼者が後ほど手打ちになろうがどうでもいい。こちらの親切を無視するこの冒険者が悪いのだ。

 

「本当にそのまま聞くのだな」

「ええ、どうぞ」

「では王の言葉を伝える」

 

 長々として着飾った冗長的な文句だらけの手紙だったが、要するに先日の悪魔騒動での首魁討伐を称え、勲章を贈るので城まで来るように。その後、祝賀会兼晩餐会を開催するとのことだ。

 

 周りの冒険者たちから感嘆の声が上がる。青の薔薇の面々は納得の顔だ。あれほどの偉業を成し遂げたのだ。当然の褒美であろう。だが、それをペロロンチーノは気にも留めなかった。

 

「いや、別にいいですよ」

「は?」

「別に勲章とかいらないので。王様にはそうお伝えください」

「貴様!王のご好意を侮辱する気か!」

「一緒に働いた仲間に一杯やろうって誘われたなら断ったりしませんけど、なんか堅苦しそうですし遠慮しておきます。それより帰ってエロゲがやりたい」

「エロ・・・・・・?ふざけるな!貴様何様のつもりだ!これ以上王を侮辱するとただではすまさんぞ」

「・・・・・・それはどういう意味ですか?」

 

 ペロロンチーノが笑みを深める。今までの楽し気に話をしていたが、それとは違う笑みだ。

 

「そのままの意味だ!貴様を不敬罪でしょっ引いてやる!」

「・・・・・・シャルティア、これから何が起きても我慢しろよ」

「ペロロンチーノ様のお言葉とあらば」

 

 シャルティアが優雅な礼をする。それは王に捧げるもの以上に感じられ、アルチェルをさらに苛立たせる。

 

「失礼しました。王様のご厚意受けさせていただきます」

「は?え?行く・・・・・・のか?」

 

 突然の変化にアルチェルは戸惑う。

 

「それでいつ伺えば?」

「では、すでに馬車を用意しているから今から来てもらおう」

 

 これには冒険者たちがざわめく。騒動以降冒険者組合でずっと報告をしていた今回の事件解決の立役者に対して休む間もなく今から来いである。

 

「アルチェル様。彼は今回の戦い後休むことなく働きづめです。せめて少し休んでからにしては」

 

 さすがに冒険者組合長が出てきて口を出す。

 

「王や貴族達を待たせろと?」

「い、いえそういうわけでは・・・・・・」

「ならば黙っていたまえ」

「あ、いいですよ。組合長、行ってきますので」

「そうか、まぁ・・・・・・君が言うなら何も言うまい」

「ではついて来たまえ」

「それではみなさん、さようなら」

 

 そう言って出ていくペロロンチーノとシャルティア。青の薔薇の面々はそんな彼とふと目が合った気がした。一抹の不安がよぎる。あの《変態》が叙勲などまともに行えるのだろうかと。それに今のは別れの言葉なのか。もう会えないのではないかと言う思いを抱く中、彼は後ろ手に手をヒラヒラ振りながら出ていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――王都 リ・エスティーゼ 王城 ロ・レンテ

 

 豪華な馬車に乗るアルチェルとは対照的に、粗末な馬車に乗せられ王城まで連れてこられたペロロンチーノ達。当然そんな扱いにシャルティアは怒りを感じたが主人であるペロロンチーノに我慢しろと言われた以上そうせざるを得なかった。

 

 王城の広間には多くの貴族が集まっていた。国王であるランボッサ三世をはじめ、第1王子パルブロ、第二王子ザナック、第三王女ラナー。貴族からは六大貴族であるレエブン侯、ブルムラシュー侯、ペスペア侯、ウロヴァーナ伯、ボウロロープ侯、リットン伯のすべてが揃い、その他大勢の貴族たちが詰めかけていた。

 

 王国を救った英雄に一目会いコネクションを作っておくため、そして自領の勢力に引き込めないか見定めるためである。万の軍より一人の英雄が力を持つこの世界では喉から手が出るほど欲しい人材だ。ただし、それは貴族としてのプライドを捨ててまで欲しいかと言われると優先度は落ちるのであるが。

 

 式典開始までのお待ちくださいと執事に案内された席で特に何をするでもなく周りを興味深そうに見回している。そこへ一人の貴族が話しかけてきた。

 

「ほう、お前が此度の悪魔騒動で活躍したペロロンチーノか」

「どなたですか?」

「私はボウロロープ侯である」

「どうもペロロンチーノです」

(アイアン)級の冒険者にしてはがんばったようだな」

「そりゃどーも」

 

 その返答にボウロロープ侯が眉間がビクリとする。この自分が褒めてやっているのに貴族を貴族とも思ってない気のない態度。

 

「おい、君。ボウロロープ侯に対してなんだその口の利き方は!」

「はぁ?」

「まぁいいじゃないか、リットン伯。冒険者に礼儀を求めてもな」

 

 それに周りの貴族たちも同意の声を上げる。まったく礼儀を知らぬ生意気な冒険者めと。

 

「まったくその通りですな」

「しかし、よかったですな。ペロロンチーノ殿。見たところ服や装備も揃える金がないと見える。今回の褒賞はありがたかろう」

「はは、どうせ金が目当てなのだろう?そんなみすぼらしい弓を使っているようだからな。どうだ?私の領土に来て衛兵としてやとってやろうか。そうすればもう少しいいものが着られるぞ」

「そりゃ違いない。あははははは」

 

 嘲笑の笑いに包まれる。

 

「シャルティア我慢我慢」

「ぐ・・・・・・ですがペロロンチーノ様・・・・・・」

 

 ペロロンチーノの相棒であるシャルティアが涙目で悔し気に俯いているところを見て溜飲を下げる貴族達であった。

 

 

 

 

 

 

 そして式典が始まり、王の前へと進むペロロンチーノ。厳かな雰囲気の中王の声が響き渡る。

 

「ペロロンチーノ。汝のこの度の武勲を称え、勲章を授ける」

「お断りします」

 

 周りが一瞬静寂に包まれ、そして貴族たちが叫びだす。

 

「断るとはどういうことだ!」

「王様、俺は別に勲章なんか初めから欲しくはなかったんです。ただ、この国の権力者というものがどういうものか見るためにここに来ました。ははっ、これじゃあんな人殺し娼館が平然とあるわけだ」

「それはどういう意味かね」

「俺はあなたたちの部下でもなければこの国出身の国民でもない。そんな俺に対してここまで侮辱をするとは恐れ入りました。きっとウルベルトさんだったらあなたたちみんな皆殺しでしたでしょうし、やまいこさんだったらみんな一発ずつぶん殴られてるでしょうね。モモンガさんだったら・・・・・・きっとあなたたちを支配しちゃってたりするかも。そして俺だったらこうします」

「何を言っている!」

「これをご覧ください!」

 

 そう言って、ペロロンチーノは一つの本をどこからともなく出した。

 

「これこそは、悪名高い八本指、その経営する娼館の利用者名簿の写し、かっこ翻訳済みだ!」

 

 周りがざわつく。一瞬にして血の気が失せた顔をする者たちもいる。

 

「その娼館とは女性を攫い、麻薬浸けにし、そのうえで犯し、そして殺すことに快楽を感じる異常者のための娼館です」

 

 周りの婦人たちが一斉に顔をしかめる。

 

「先ほど自分の名前をさも誇りを持ってご紹介してくれた方々!どうもご丁寧な自己紹介ありがとうございました。おや?どうもこの名簿に載ってる方もいらっしゃるようですねー」

 

「あ、おい!兵士たち!!この無礼者をひっとらえろ!」

 

 兵士たちを避けながらペロロンチーノは続ける。

 

「まずは・・・・・・おっとボウロロープ侯、あなたの名前がございますな」

「う、うそだ!私はそんな館はしらんぞ!」

「さらに・・・・・・おおっと、アルチェル様の名前もありますなぁ」

「なっ・・・・・・何を言っているんだ貴様は!」

 

 そうして次々と貴族の名前が読み上げられていく。

 

「それから、これはこれは、王家の第一王子パルブロ様まで。ご利用ありがとうございます」

「なっ、違う!私はボウロロープ侯に無理やり連れていかれて・・・・・・あっ・・・・・・」

 

 周りから一斉に白い目が向けられる王子。これは白状したも同じだ。

 

「さて、この名簿は王様。あなたに差し上げましょう」

 

 そう言って呆然としている王に名簿を渡したところで、追いかけてきた兵士たちにその身を預ける。

 

「ひっ捕らえました!」

「王よ。このようなおかしな男の言うことを信じてはなりませんぞ!」

「それよりこれほどの無礼を働いたのだ。処刑は免れますまい」

 

 貴族達があしざまにペロロンチーノを糾弾する。それを見て王はどうすべきか考える。頼れる戦士長もおらず、国を割るような真似をすることもできない。二人の冒険者の命と国一つ、それを比べて判断をするしかなかった。

 

「分かった。この者たちは後ほど裁きにかけるとしよう。そして八本指の話は証拠があがってから考えれるとすればよかろう」

「おお、さすが賢明な王ですな。よろしい判断かと」

「このような狂人の言うことに惑わされるはずもないですな、ははは」

 

 そこに凛とした美しい声が響き渡った。

 

「父上!国を救った英雄に対しこの仕打ちはあまりにも酷すぎないでしょうか」

 

 王国の黄金ラナーであった。普段、このような場で政治的な発言をすることはめったにない。

 

「確かに礼に欠けるところはあったでしょうが、それは生まれにより仕方のないもの。この方たちがいなければ王都は悪魔に滅ぼされていたかもしれないのです。それは彼らのこの国を憂う正義の心によるもの。そんな彼らを処刑するなど納得できません」

 

 初めて見る王女の王への反逆ともとれる行為に周りが呆然とする中、ランボッサ王が告げる。

 

「ラナーよ。この場での発言を許したつもりはない。この者たちを処刑すると決まったわけでもない。それは裁判で決めればよいことだ。さあ、この話はもうおしまいにしよう」

 

 そう言って、場をおさめる王に、王女の悲しそうな顔と、貴族たちのどこかほっとした顔が対照的に映るのであった。

 

 ラナーは思う。《変態》を操ろうと思っていたが、彼らの行動はラナーでさえ理解不能だ。ならば彼らの行動に合わせてこちらが動けばいい。操るのでなく、彼らの行動を利用するのだ。この場でのペロロンチーノの発言を揉み消すことはもはや貴族でもできないだろう。ペロロンチーノの言葉を聞いたメイド、使用人、そして彼らからまた聞きしたもの等あっという間に町に広がっていくはずだ。それに国民は彼らの英雄的な戦いを実際に見ている。そんな彼らを処刑すればどうなるか。ラナーは悲しみに伏せた顔の下でひそかにほくそ笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

―――王都 処刑台広場

 

 名ばかりの裁判が終わり、ペロロンチーノとシャルティアの処刑が決まった。罪状は王族及び貴族への不敬罪及びあらぬ疑いを貴族にかけた侮辱罪だ。判決は死刑。公開処刑の場となった刑場には多くの者が集まっていた。

 

「やめろラキュース。お前でも出ていったらただじゃ済まねえぞ」

「貴族を、大貴族のほどんどを敵に回した」

「出ていったらだめ」

「でも!彼らがこの国にしてくれたことに対して私たちの国がすることがこれなの!?」

「そりゃ俺だって納得できねえよ。だが、これは・・・・・・」

「彼らが何をしたというの!悪を糾弾しただけじゃない!なのに彼らのほうが罪人として裁かれるなんてこんなことあっていいはずないでしょう」

「・・・・・・」

 

 イビルアイは複雑な心境でその光景を眺めていた。いけ好かない奴らである。自分を裸に剥き辱めた。反省の態度はまるでなし。欲望も性癖も隠そうともせずセクハラ三昧。それなのに自分なりの正義感は持っている。そしてヤルダバオトを含む悪魔と血だらけになりながら命がけで戦った。そんな彼らはいつでも楽しそうだった。幸せを楽しみ、失敗も楽しみ、本当の意味で生きている感じがした。

 

「馬鹿だからだ」

 

 そんな言葉がつい出てしまう。

 

「イビルアイ!彼ら対してそんな言葉・・・・・・」

「馬鹿だから八本指に利用される!馬鹿だから危険を顧みず強大な悪魔に立ち向かっていく!エ・ランテルのことでもそうだろう!馬鹿だから失敗ばかりしているんだ」

「イビルアイ・・・・・・」

「その上、馬鹿だから貴族の悪行を大勢の前で公表して見せて・・・・・・なんなんだあいつらは。もっと我慢して生きればいいじゃないか・・・・・・隠し事をしたっていいじゃないか・・・・・・全部曝け出して殺されるくらいなら・・・・・・隠していたって・・・・・・」

 

 イビルアイの声が震える。

 

 そんな中、刑の執行官から最後通告が告げられた。

 

「それでは刑を執行する!最後に言いたいことはあるか」

 

 その場の誰もが注目していた。国を、国民を救い、貴族にも屈しなかった彼らが何を言うのか。命乞いか、罵倒か、この世を呪う言葉か、それとも・・・・・・。聴衆の誰もがその言葉を聞き逃すまいと場が静寂に包まれる。だが、イビルアイは思う。彼らは何も言わないだろう。刑を受けると宣言したのだ。今更なにを言うというのだ。何も言わずに笑って死ぬのが彼ららしいな、そう思っていたイビルアイの予想は裏切られる。

 

「ある!」

 

 はっきりと、誰にでも聞こえるような声でそう言った。これから死ぬ人間の発する声とは思えない。  

 

「そうか・・・・・・ならば最後に言いたいことを言うがいい」

 

「条例による規制強化に断固反対する!」

 

 世界の中心で変態(ペロロンチーノ)はそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変態の演説は続く。

 

「犯罪者がエロゲをやっていたからといってエロゲを規制するのはやめろ!エロゲをやってたから犯罪を犯しているんじゃあない!エロゲは万人が楽しむものだ!」

 

「聞けよ運営!そしてエロゲを愛する同志たちよ!!今や、世界の大半が権力という名の規制強化に心折れ、多くの企業が無難な作品しか作らなくなってしまった!だが、考えてもみろ、規制された不満の矛先はどこへ向くのか!それはリアルである!エロゲは犯罪を助長するものではない!逆だ!エロゲがあるから犯罪が減っているんだ!」

 

「エロゲ好きであることを隠すな!むしろ誇れ!隠すから権力者たちに良いように利用される!モザイクしかり!見えない部分の欲求を他で満たすため、風俗業界を優遇するための権力者の謀略だ!エロゲを規制するのではなく売春を規制しろ!」

 

「かつて、声もなく、絵も稚拙な中でも様々なジャンルで勇気ある決断をした作品が作られた!規制強化前のこの輝きこそ、我らエロゲーマーの正義の証しである。我らに必要なのは自由と規制からの解放だ!」

 

 周りが静まり返る中、冷静になったペロロンチーノが執行官に話しかける。

 

「あ、終わりです」

 

 彼が何を言っているのか半分も理解できたものはいなかったが、彼が権力者である貴族、そしてその横暴に怒りを感じているのは伝わってきた。そして自由と解放。この国では口に出すことのなくなってしまった概念だ。彼らはこの国に、世界に理不尽を感じ、それを拒絶したのだろう。その結果がこれだ。民衆は彼らが悪魔から守ってくれたことを知っている。彼らが貴族に反逆したことも事実なのだろう。そして、彼らが糾弾した貴族の罪も。民衆の心に熱いものが宿る。

 

「やめろ!処刑をやめろ!」

「殺さないで!彼らは悪くないわ!」

「やめろ!」

「やめてくれ!」

「静かにしろ!貴様らもしょっ引くぞ!」

「刑の執行を待ってはくださいませんか?」

 

 そこに凛として声が響いた。ラナー王女である。

 

「彼らは国を、民衆を救った英雄です。ここで処刑してしまえば必ず禍根が残ります。彼らを救い、その正義を示してはくださいませんか?」

 

 執行官は固まる。国の第三王女の言葉である。無視するわけにもいかない。だが、そこに別の声がかかる。

 

「ランポッサ王。まさか、ここで処刑を取りやめたりはしますまいな。やつらを生かしておけば貴族の品位は地に落ちますぞ」

 

 ボウロロープ侯だ。王は悔し気に唇を噛むと決断する。

 

「刑を執行せよ」

 

 

 

 

 

―――そして、断頭台の刃が落とされた。

 

 

 

 

 刃が首に触れた瞬間。そこに何もなかったようにそれがストンと下に落ちる。首をすり抜けたように見えた。

 

《即死無効化》

 

 即死魔法や心臓、首などの急所への一撃必殺攻撃への無効化能力により、刃が首を落とすことはない。

 

 周りが反応に困っている中、ペロロンチーノ達は立ち上がる。

 

「悪法も法であるから、刑は受けさせてもらった。じゃあ罪も償ったことだし俺は帰らせてもらうよ。行こうシャルティア」

「ペロロンチーノ様の仰せのままに」

 

 いつの間にか拘束していた鎖からも解放されている。そう言って二人は飛び上がる。

 

「ま、待て貴様ら!」

 

 ボウロロープ侯が叫ぶ中、二人は大空へと舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――王都 上空

 

 

「そういえば、こうやってこの世界で空を自由に飛ぶのは初めてだな」

「ペロロンチーノ様とこうして並んで飛べるなんて幸せでありんす」

「ところでペロロンチーノ様。結局何がしたかったんでありんすか?あの人間どもは懲らしめるべきでありんす」

「貴族が酷いとは聞いていたけど予想以上だったな。これからどうなるかは知らないけど言いたいことも全部言ったしすっきりしたよ。それにこうやって大きな声を出せば届くかもしれない」

「届くって誰にでありんすか?」

「運営か・・・・・・姉ちゃんか・・・・・・モモンガさんか・・・・・・それとも他のギルドのみんなか」

「そのために騒ぎを起こしたんでありんすか?」

「どこからかツッコミが入らないかなーって少しだけ思ってた。だめだよーって」

「ペロロンチーノ様・・・・・・」

「でもこの国の冒険は失敗ばかりだったけどなかなか楽しかったな」

「ペロロンチーノ様が楽しんでおられたんならわらわ嬉しいでありんす」

 

 シャルティアがほんのりと頬を染め、ペロロンチーノを見上げる。自分が作った時よりはるかに表情が豊かになった真祖(トゥルー・ヴァンパイア)。いつかモモンガさんと戦わせてみたいなと思っていたことなどを思い出す。

 

「よし、もっと上まで行ってみるか!」

 

 ペロロンチーノは翼をはためかせ速度を上げる。

 

「ま、待ってほしいでありんすー」

 

 飛行(フライ)では追いつけず焦るシャルティアが後ろから叫ぶ。ドップラー効果で声が響いて聞こえる。

 

「ははは、なかなか気持ちがいいな。お、もう夜が更けるか」

 

 西に太陽が沈んでいき、星が煌めきだしていた。

 

「夜空の散歩とは・・・・・・贅沢だなーリアルじゃ絶対無理な光景だ」

 

 背面飛行で空を眺めるペロロンチーノにやっとシャルティアが追い付いてくる。

 

「速すぎるでありんすー」

 

 頬を膨らまし不貞腐れるシャルティア。その手をペロロンチーノが取る。

 

「じゃあ、これでいいだろ」

 

 そう言ってシャルティアの手を引いて高速で滑空する。

 

「きゃーーーーーー」

 

 嬉しそうな悲鳴を上げるシャルティア。至高の御方、それも自分の創造主にこうして手を引いてもらえるとは。それに、それはシャルティアにとっても初めて見る光景でもあった。これほどの高速飛行はシャルティアでもできない。ペロロンチーノしか見ることの出来ない音速の空間だ。風を切り裂く音の中それに負けないようにシャルティアが叫ぶ。

 

「私ペロロンチーノ様に作られて幸せです」

「俺もお前を創ってよかったなって思うよ」

「はい!」

 

 満点の星の下、音速の夜空で二人はいつまでも飛び続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 王都の空で飛びまわる《変態》をその場の誰もが見上げていた。貴族たちは矢を射かけるように命令したが、兵士たちは矢が届くわけもなく命令を実行できず困惑している。

 

「やつらは不死身か?」

 

 断頭台にかけられて平気なものなどイビルアイでも聞いたことがない。

 

「マジックアイテムの可能性もあるんじゃねえか?まったくやってくれるぜ」

「心配させて許せない」

「次会ったら殴る」

「っていうか生き返らせてくれた礼くらい言わせろっての」

 

 

 青の薔薇の面々はそう言いながらも嬉しそうだ。

 

「はっ、まったく空ではしゃぎやがって。馬鹿みたいに楽しそうなことだ」

 

 イビルアイは吐き捨てるが、ふと思う。自分があんな風にただ楽しむために空を飛んだのはいつのことだろうか。初めて飛行(フライ)を覚えたときだろうか。

 

「羨ましいの?イビルアイ」

「ラキュースか。羨ましくなんかない。あいつらはただの変態だ」

「でもとっても楽しそう」

「なんだイビルアイ。あいつらが殺されそうになった時泣きそうになってたくせに」

「いや、泣いてた」

「あれは泣いてたね」

「な、なななな泣いてたわけないだろう。ふざけるな、ふん」

「分かりやすい」

「うん、超分かりやすい」

「あいつらもう帰ってこねえのかな」

「さすがに無理でしょう。今のこの状態で帰ってきてもこの国は彼らを受け入れられないわ」

「腹の立つやつだ。別れの言葉も言わせないとは。一方的にさようならだと」

 

 王都の空で舞っていた二人が段々上空へ消えてゆき、やがて見えなくなった。一抹の寂しさを感じる青の薔薇の下へ上空から黄金色の羽が落ちてくる。思わずイビルアイが手に取り、大事そうに抱えながら二人が消えた空をいつまでも見上げていた。



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第10話 メイドモノには恥じらいが大事

―――ナザリック地下大墳墓 玉座の間

 

 

 シャルティアは涙目でデミウルゴスを除く階層守護者たちに責められていた。

 

「あなたは加減ってものをしらないの。清浄投擲槍でデミウルゴスを攻撃するとか何を考えているの」

「そうだよ。あんたさぁ、もう少し頭使ったほうがいいよ」

「ちょ、ちょっとやりすぎかなって思います」

「マッタクダ。作戦ガ台無シニナルトコロダッタゾ」

「わらわは悪くないでありんす!デミウルゴスはペロロンチーノ様を殺すっていったでありんすよ!」

 

 シャルティアが両拳を胸の前で上下させながら涙目で反論する。

 

「待ってくれみんな、これは俺のせいで・・・・・・」

「ペロロンチーノ様はシャルティアに甘すぎます!ここはガツンと言ってやらないと」

「そうですよ、この子は何度も言ってやらないと分からないんだから」

「・・・・・・」

 

 アウラに言われるとまるで自分が姉ちゃんに叱られているみたいでつい無言になってしまう。そして、アルベドとアウラの口撃は止まらない。

 

「シャルティア、あなた守護者の私たちが至高の御方を裏切るとでも思っているの」

「そんなのすぐ嘘ってわかるじゃん」

「ううっー・・・・・・でもぉ・・・・・・でもぉ・・・・・・」

「っていうかさー、なんでシャルティアが一番活躍しちゃってるわけ」

「そうよ、とどめはペロロンチーノ様に刺してもらわないといけないじゃない。デミウルゴスも言っていたわ、ペロロンチーノ様に滅ぼされたかったって」

「そこかよ!」

 

 思わずツッコミを入れる。デミウルゴスを攻撃したことじゃなく、ペロロンチーノに活躍の場を譲らなかったことが許せないらしい。

 

「デミウルゴスは今ペストーニャとルプスレギナが付きっ切りで看病しているわ。しばらくは再起不能ね」

「あーあ、誰かさんのせいでねー。ルプスレギナがまるでスプラッターだーって大騒ぎしてたよ。あんた攻撃に呪いも乗せたでしょ。治癒魔法を使える誰かさんはこんなところにいていいのかなー」

「わ、わらわも治癒の手伝いをするであんりすよ!」

 

 そう言ってシャルティアは泣きながら走っていった。

 

「ところで、ペロロンチーノ様、デミウルゴスの作戦はいかがでしたでしょうか」

「作戦?」

 

(ああ、あのマッチポンプのことか)

 

「ペロロンチーノ様のためにフラグを立てる。それが今の私たちの使命かと存じます。ご満足いただけたでしょうか」

 

「ああ、あれフラグを立てるためのものだったのかやっぱり」

 

(俺とあのロリ吸血鬼の間のフラグを立てるために頑張ってくれてたのか)

 

「これからも我ら守護者一同、ペロロンチーノ様のためにフラグを立てさせていただきます」

 

(やっぱりか、今後も俺と女の子の間にフラグを立てるためのマッチポンプしてくれるとは・・・・・・)

 

「分かった。それは全面的に任せる。でも出来るだけ俺に知られないようにやってくれると嬉しい」

 

(さすがに知ってると萎えるからな)

 

「畏まりました。隠密裏に行わせていただきたいと思います。それとフラグを立てる作戦とともに、活動資金の調達もさせていただきました」

「活動資金?」

「はい、これについてはデミウルゴスから報告書を預かっています」

「なにその紙・・・・・・血だらけなんですけど」

「デミウルゴスが血反吐を吐きながらもなんとか書き上げた報告書です」

「いや、休ませてやろうよ」

「いえ、デミウルゴスがどうしても・・・・・・と」

「・・・・・・」

「さて、ではデミウルゴスに代わり私が説明させていただきます。今回、王都を襲うとともに、資金の調達に関しては王都の倉庫区を襲い、悪魔騒動の中価値のあるものはすべて運び出すことに成功しています。こちらにその成果の一部がこちらに」

 

 そう言われて玉座の後ろを見ると山となった財宝や金貨があった。ペロロンチーノの額に一筋の汗が流れる。

 

「え?これ盗ってきちゃったの?」

「はいはいはーい!あたしが盗ってきました」

「お、お姉ちゃん。僕もがんばったよ」

 

 褒めてほしくてしっぽを振る犬のような目で双子のダークエルフがペロロンチーノを見る。だが、ペロロンチーノの心境は、違った。まるで預かった親戚の子供から万引きをした品を自慢されているような感じだ。盗みはいけないことですと叱ったものか、それとも生きるゆえにやった仕方のないことだと許すべきか。確かに宝物殿がない以上お金は必要になるかもしれない。だが、ペロロンチーノはログインしたときからつけっぱなしの維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)により睡眠も食事も必要なく、特にお金に困るということはなかった。どうしたものかと迷って出した結論は、ナザリックは悪のギルドだからいいか、考えるのをやめた。そもそも今から返すわけにもいかない。

 

「しかし、こんなに盗っちゃって王国は大丈夫なのか?」

「問題はないかと。放っておけば貴族に搾取されるだろう金額の範囲内です。これから王国では貴族への粛清が始まると思われます」

「粛清?」

「それほどまでにペロロンチーノ様の王国に対して打った手は決定的だったのです。当初は王女のペットを旗印にしようかと思っていました。魔王を撃退した勇者への感謝と尊敬の感情を利用する予定でしたが、より良く修正していただきました。今回ペロロンチーノ様がその代役を引き受けてくださるとともに、権力者たちへの市民の怒りという感情に火をつけてくださいました」

「今後、王国は貴族派閥、国王派閥のほかに、さらにもう一つの派閥が出来ることでしょう。ペロロンチーノ様が事前に交渉していただいていたおかげで契約は無事完了しております。ラナー王女は我々ナザリックへの忠誠を誓うとのこと。アレは人間と言うよりは精神の異形といった者ですので、人間種と見なさなくてもよろしいでしょう。違法娼館を利用していたという貴族、王族を含むスキャンダルは権力者の男への信頼を決定的なまでに地に落としました。これを利用し、表でもラナー王女に支配していただきます」

「そのために、傭兵モンスターを幾体か、王女に貸し出そうと思います。召喚にかかる金貨は王国から奪ったものを使用しますので、王国に還元したと思っていただければよろしいかと」

 

 いまいち理解できないが、まぁ任せておけばいいだろうとペロロンチーノは思う。そもそもこういう面倒なことはモモンガさんの役目だ。

 

「よく分からないけど、任せるよ。うん、がんばれ」

「分からないなどとご謙遜を。ですがお任せください」

「しかし、あの変態王女が国を治めるようになるってことか・・・・・・」

 

 ラナー王女の性癖をペロロンチーノは思い出す。ペットを鎖で繋ぎ、×××(ピー)なプレイや×××(ズキューン)なことをやっていた。あれはすごかった。王国中で女が男を鎖で繋いで闊歩する、そんな世界を想像する。

 

「なるほど・・・・・・あり・・・・・・だな」

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――バハルス帝国

 

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは頭を悩ませていた。リ・エスティーゼ王国での事件についてだ。王国戦士長ガゼフの死亡、そして悪魔襲撃事件。悪魔襲撃事件では二人の強大な力を持つ冒険者の活躍により撃退に成功したとのことだが、王国はその彼らを貴族に無礼を働いたと処刑したという。民衆の反発はかなりのものだそうだ。これは帝国として戦争を仕掛ける絶好のタイミングと思われる。戦力の低下、そして新たな指導者を求める国民、ジルクニフに攻めろと言っているようだ。だが、裏の取れていない情報のみを過信して行動するのは愚か者のすることだ。

 

「そのペロロンチーノとシャルティアなるものたちは処刑されたのち空を飛んで消えていったとあるが、これは死んで天国に行ったということか?」

 

 秘書官であるロウネ・ヴァミリオンに問いかける。

 

「いえ、処刑の刃は彼らの首を落とすことなく、文字通り空を飛んで逃走したとのことです。王国内では貴族が懸賞金をかけて探しているようですが、それに協力するものはおりません」

「刃が首を落とさなかった・・・・・・か。それは魔法で可能なのか?じい」

「そう言った魔法は知りませぬが、魔法とは深く、広い知識の集大成。あってもおかしくはないでしょう。空を飛ぶということは最低でも第3位階の魔法の使い手。ですが、話を聞く限り私に匹敵する魔法を使えてもおかしくはありますまい」

 

 じいと呼ばれた老人が嬉しそうに答える。主席宮廷魔術師であり、三重魔法詠唱者《トライアッド》と呼ばれる帝国最強の魔法詠唱者だ。その彼を同等の使い手と聞いてジルクニフは眉を顰める。

 

「何とか帝国に取り込めないものか・・・・・・。恐らく処刑までされた王国には未練はあるまい」

「ですが、陛下。素直に我々に下るでしょうか。彼らは金や名誉には興味はないように思います。そうであれば、王国の貴族たちにとうに下っていることでしょう」

「そうだな。それに権力者を嫌っているようなふしも見られる。だが、報告にあるこの二つ名はなんだ?聞き間違いか?《アダマンタイト級の変態》?」

「ただ単に《変態》と呼ばれることもあるようです。その・・・・・・女性へのセクハラ等が原因とか」

「ふん、本当の強者を知らぬ愚かなものたちが付けたのだろう。私はこう読んでいるのだ。彼らは国や世間の評価など必要としないほどの強者なのではないか、と」

「そ、それはどういう意味でしょうか」

「つまり、彼らにとって皇帝など取るに足りない存在ということだ」

「そんなまさか!」

「可能性は大いにある。そんな彼らを下すには何が必要か。戦力でないのは確実だ」

「《変態》と言うくらいですから女をあてがうと言うのは?」

「それは非常にいい案だ。だが、危険でもある。報告書には違法な娼館を一つ潰しているとある。無理やり連れてこられたような女は駄目だろう。それに他の報告から見る限り、彼らは女の肉体だけを欲しているとは思えない。もっと別の・・・・・・そうだな・・・・・・」

 

 ジルクニフは考える。王国にはあの嫌な女がいたはずだ。第三王女ラナー。あのような国の僅かな情報しか知りえないような状態でさえこちらの行動を読んだような政策を実行する化物だと思っていた。その彼女がいたにも関わらず二人を処刑したということはあの化物女でさえ扱いきれなかったということだろう。ならば出し抜いてやろうではないか。あの女が扱いきれなかった理由。《変態》と言うキーワード。

 

「ロウネ、お前なにか性癖を持っているか?」

「へ?」

「人に言えないような性癖はあるか?言え」

「は、はい・・・・・・えー、私は妻にその・・・・・・踏まれるのが好きですが」

「ほう、なるほどそういう性癖もあるのか・・・・・・」

「私は第7位階を超えるような魔法詠唱者に会うことですな。それを想像しただけで、私は・・・・・・私はもう・・・・・・はぁはぁ、彼らに会う際は、ぜひ私も同行したいものですな。同じ魔法詠唱者として魔法談義をしてみたいものです」

「じいの性癖は分かっているから、少し黙っていてくれ・・・・・・」

 

 フール―ダは魔法が絡むと少し駄目になるのが玉に瑕である。

 

「まぁ、すぐにと言うことはないが、対策は取っておくにこしたことはないだろう。あれほどの事件を起こしたんだ。しばらくは動かないという可能性もある。今はとにかく、情報だな。空を飛んで来る可能性もあるから皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)にも注意するように伝えろ」

「畏まりました!」

「まずは、力を確かめることだな。情報が本当かどうか。そして、それが本当であったのなら帝国に取り込むべく動かなければな・・・・・・。どんな性格をしていようが薄布を剥ぐように少しずつ心を壁を突き崩し丸裸にしてやろうじゃないか。ふむ、性癖か・・・・・・」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 大食堂

 

 ペロロンチーノは、しばらくナザリックで休息を取ることにした。色々と試したいことが出来たのだ。指の装着したその指輪を見る。維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)、飲食睡眠を不要にする指輪だ。特にバフ効果を必要しなかったこともあってログインしてから食事も睡眠も取っていなかったが、ふと食べてみようと思ったのだ。だが、ただ食べるのも面白くない。そこで、食堂でメイドでも愛でながら食べようかと思い大食堂へと向かった。

 

 大食堂の中ではメイド達が食事中であった。白と黒のメイド服にキャップをしたこの世でもっとも素晴らしい服の一つだ。

 

「ペロロンチーノ様!?」

「ペロロンチーノ様よ」

「お帰りになられていたのですね、ペロロンチーノ様」

「お帰りなさいませ、ペロロンチーノ様」「おかえりなさいませ」「おかえりなさいませ」

「お、おお・・・・・・」

 

 かつて自分が望んだ光景がそこにはあった。本物のメイドに迎えられるという光景が。なるほど、自分はこのメイド達の主人なのだ。ならば主人としてメイド達に相応しい態度でなければならない。ペロロンチーノはワクワクする。メイド達の主人として正しい行動、それはメイドに軽い意地悪やセクハラをし、その恥じらう様子を楽しむことだ。今までメイドの主人などやったことはないが、きっとそうに違いない。エロゲではそうだった。

 

「ただいま。一緒に食事を取らせてもらうよ」

 

 そう言って、メイド達の間をとおり、ビュッフェスタイルの食事をとりに向かう。

 

「ペロロンチーノ様、私がお取りします」

 

 メイドの一人、シクススがペロロンチーノにつく。はち切れんばかりの笑顔で張り切っているようだ。早速意地悪をしかけてみるか。

 

「いや、自分で取るよ」

 

 断ってみた。さて、ビュッフェの内容をみると、オムレツやサラダ、ソーセージ等の肉類もある。色々と種類があって美味しそうだ、どれを食べようか悩んでいるペロロンチーノはふと横を見るとシクススが倒れていた。

 

「ペロロンチーノ様は・・・・・・私が不要ですか・・・・・・ぐすっ・・・・・・」

 

 マジ泣きである。

 

「シクスス、泣かないで。元気出して」

「そうよ、ペロロンチーノ様はたまたま御機嫌が悪かっただけよ」

「シクスス、ほら泣いてたらペロロンチーノ様もお困りになるわ」

「ペロロンチーノ様のお役に立てないのなら・・・・・・私もう・・・・・・ぐすっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」

 

(なにこれ、俺が悪いの?やりすぎた?いや、何かこれは思ってたのと違うような・・・・・・だが、負けるものか。まだセクハラが残っている)

 

「そ、そんなに給仕がしたいのか?」

「はい!」

 

 眼を見開き、はっきりと返事をするメイド達。

 

(なんなんだろう。すごく違和感がある)

 

 そう思うペロロンチーノだが、己の信念を信じる。己の信じるメイド道を信じ、ペロロンチーノは勇気を振り絞る。メイドとは主人の意地悪に恥じらうものなのだ、と。

 

「じゃあ、パンツ見せてくれたら給仕してくれてもいいよ」

 

 ほんの軽いセクハラのつもりであった。少なくともペロロンチーノにとっては。だが、そこに現れた光景は想像を絶するものであった。

 

 メイド達全員がスカートをたくし上げたのだ。白く綺麗なパンツがどこを見ようと目に入ってくる。ペロロンチーノはパニックになった。どうなっているんだ、これは俺の常識がおかしいのか?いや、俺はおかしくない。ならば・・・・・・。

 

「やめなさい!」

 

 びくっと震えてメイド達が一斉にスカートを下げる。

 

「だめでしょ!メイドたるもの恥じらいを忘れちゃいけません!恥じらうメイドが嫌々ながらっていうのがいいんでしょ。メイドは絶対領域を守らなきゃだめよ!」

 

 なぜかおネエ言葉で説教するペロロンチーノ。

 

「あの・・・・・・ペロロンチーノ様、絶対領域とはなんでしょうか」

 

 メイドの一人がオズオズと手を挙げた。

 

「具体的に言うと・・・・・・マーレのスカートだ」

 

 メイド達がはっ・・・・・・と納得した顔をする。

 

「・・・・・・なるほど、あれが・・・・・・。さすが絶対領域の領域守護者マーレ様」

 

 メイド達が頷く。分かってもらえたようだ。ちなみにマーレは第6階層の階層守護者だ。

 

「ところで、パンツはお見せしましたので私が給仕をさせていただきますね」

 

 そう言って、嬉しそうにシクススが食事を運んでくる。ペロロンチーノは仕方がないので席に座って待つことにするが、座ろうとする前に椅子がすっと引かれる。メイドの一人が引いてくれたのだ。椅子くらい一人で座るが、と思うが仕方がないので席に着く。

 

「ペロロンチーノ様、どうぞ。このオムレツはとても美味しいですよ」

 

 そう言って、シクススはスプーンにオムレツをすくってペロロンチーノの口元に運ぼうとしてきた。

 

(なんか違う。俺の思っているメイドと何かが違う。何なのかはうまく表現できないが何かが・・・・・・)

 

 そう思い、つい自分でスプーンを取り自分の口に運ぶ。そして、ペロロンチーノは驚愕する。

 

「なんだこれ・・・・・・美味しい・・・・・っていうか味がする!なんだこれ!」

 

 味を感じるような機能はなかったはず、技術の進歩はここまで来たのか。驚いていると隣でまたシクススが泣いている。

 

「ペロロンチーノ様・・・・・・私はご不要ですか。私ではお役に立てませんか、ぐすっ・・・・・・ご不要でしたら自害をお命じください・・・・・・」

「ご、ごめ・・・・・・食べるから、シクススに食べさせてもらうから」

「さようですか!はい、どうぞ!」

 

 急に元気になって太陽のような笑顔でスプーンを運ぶシクススにペロロンチーノは食事の味を忘れるのであった。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

(はぁ・・・・・・なんか疲れた・・・・・・部屋に戻ろう。そういえば、第9階層に俺の部屋まだあるかな)

 

 ギルドメンバーそれぞれのプライベートルームがある第9階層に向かおうとすると、後ろに気配がする。

 

「ペロロンチーノ様、お供させていただきます」

 

 そう言って、10人ものメイドがついて来ていた。何か言おうと思ったが、何か何もかも面倒になったペロロンチーノは何も言わずそのまま第9階層に向かった。

 

 そして、第9階層の自分の使っていた部屋に入ってペロロンチーノは驚いた。何も変わってなかったのだ。そう、ペロロンチーノが引退した時から何も。ペロロンチーノが配置した家具、小物、R18ギリギリの書籍データ等すべてそのまま置いてあった。

 

(売っちゃっていいって言ったのに。モモンガさん律儀だなぁ)

 

 懐かしさに浸っていると、後ろにまだ気配がする。

 

「あの・・・・・・なんで部屋の中にまでついてくるの?」

「それはもう、いつでもペロロンチーノ様のお望みのときにお役に立つためです」

「何なりとお命じください」

「えー・・・・・・」

 

 困った。別に用はないのだ。部屋で懐かしさに浸った後はR18ぎりぎりの書籍データでも見て寝ようと思ってただけなのだ。そんな姿をなぜこんなに大勢に見られなくてはいけないのか。

 

「いや、ちょっと人数多すぎでは」

「さようでございますか。失礼いたしました」

「御用の際はいつでもお呼びください」

 

 そう言って、引き下がっていくメイド達。ほっとしたペロロンチーノはベッドに寝転んで久しぶりの睡眠を楽しむのであった。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 ふと、夜中に目が覚める。喉が渇いている。維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)はやっぱり必要か、と思うが飲み物を飲むのも新鮮で楽しくていいだろう。そう思い、立ち上がり、水差しを取ろうとしてふとドアのほうを見る。ドアの隙間から複数の目が見つめていた。メイドだ。

 

「ひゃあああああああああああああああああああああ!」

 

 ビビった。何あれ、何でドアの隙間から彼女たちは覗いているの。

 

「お飲み物をご所望でしょうか。リンゴジュースに、オレンジジュース、お酒もご用意してございます」

 

 メイド達が足音もさせずに入ってきた。

 

「あ、あの。いつからいたの?」

「ずっとおりましたが?」

 

 それが何か?と言いたげに不思議そうな顔をするメイド達。

 

「ずっと見て・・・・・・たの?」

「それはもう、いつでもペロロンチーノ様のお役に立てるよう」

 

(なんだこいつら・・・・・・普通じゃない!こんなんで眠れるわけがないだろう!)

 

 ペロロンチーノは心の中で絶叫した。

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

―――カクテルバー・ナザリック

 

 ナザリックには複数の娯楽施設があるが、ここもその一つだ。副料理長がドリンクを提供してくれる大人の雰囲気のバーである。ペロロンチーノの前にトンと飲み物が置かれた。

 

「10種類のリキュールを使ったカクテル、ナザリックでございます」

 

 10種類の色の層ができた非常に美しいカクテルだ。ペロロンチーノは一気に喉に流し込む。

「うん、不味い・・・・・・」

 

 本当に不味い、10種類もの飲料が全く調和していない。色と名前だけで作られたようなカクテルだ。

 

「やはり、もう少し改良の余地がありますね」

「副料理長、ちょっと愚痴聞いてもらっていい?」

「はい、バーテンダーにとってお客様の愚痴を聞かせていただけるのは誉れでございます。どうぞ何なりと」

 

 副料理長は茸生物(マンコニド)だ。飲み物しか作れないが、ここでバーテンダーとしての矜持は持ち合わせているらしい。ありがたく聞いてもらうとしよう。どこに耳があるかは分からないが。

 

「メイド達がおかしいんだ、あんなのは・・・・・・あんなのはメイドじゃない」

「さようでございますか」

「メイドには恥じらいが必要なんだ。分かるか?恥じらいだよ恥じらい。それなのに主人に言われたら躊躇せずにどんなことでもするとか・・・・・・」

「ご苦労されてますね」

「そうなんだよ!それに付いてくるんだよ、どこまでも・・・・・・断ると泣くしどうすればいいんだ」

「お察しします」

「あれはメイドと言うよりストーカーだよ。可愛いのに・・・・・・すごく可愛いのに残念過ぎる」

「わかります」

「分かってくれるか!副料理長!俺は・・・・・・俺はねぇ・・・・・・」

「メイド達の気持ち、よく分かります」

「へ?」

「至高の御方といつでも一緒にいたい、すぐにでもお役に立ちたい、至高の御方に創造された我々はそう思わずにはいられないのです」

「えー・・・・・・」

 

 話は聞いてくれていたが、心は理解してくれてなかったらしい。その時、ふとバーの入り口を見る。そのドアの隙間から複数の目が覗いていた。メイドだ。その目はペロロンチーノを、ペロロンチーノだけを見つめている。

 

「ひいいいいいいいいい、ふ、副料理長。また、メイド達が役に立ちたそうな目で俺を見つめてくるんだ・・・・・・た、助けて」

「へぇ、メイド達がですか、それはどんな目をしていますか?」

「え?」

「もしかして、こんな目ですかぁ?」

 

 そう言って振り返った副料理長の顔はメイドの一人、シクススの顔であり、輝くような笑顔でペロロンチーノを見つめそう言った。

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 気が付くとベッドにいた。心臓の鼓動が激しく脈打つ。汗もびっしょりだ。そして、自分の状況を把握してほっとする。

 

「ゆ、夢か、よかった・・・・・・」

 

 恐ろしい夢を見た。まぁ、メイドがストーカーだらけとかありえない話だ。ないない、メイドは愛でるものであってストーカー属性とか必要のないものだ。主人にセクハラされ、恥ずかしがり、キャッキャウフフと楽しむものだ。しかし、リアルな夢だった。24時間監視される続けるとかどんな拷問だというんだ。夢でよかった。本当に良かった。しかし目が冴えてしまったし、ちょっと飲み物でも飲もうか。そう思い、ふと顔を上げると、顔と顔がくっつきそうな距離でシクススがペロロンチーノの目を見つめていた。

 

「ペロロンチーノ様ぁ~?何か怖い夢でも見られましたかぁ~?何か私にできることはありますかぁ?」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 そして、ペロロンチーノは羽を休める暇もなくナザリックから飛び立った。



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第11話 女騎士モノは嫌がってなんぼ

―――バハルス帝国 帝都アーウィンタール 北市場

 

 ワーカー。それは冒険者を脱落した者たちを指す。ワーカーチーム《フォーサイト》、4人で構成されるチームだ。冒険者では出来ない違法な事から違法ではないが、冒険者組合が断るような案件まで規則に縛られることなく仕事を請け負うことが出来るのが魅力ではある。その分、自分たちで仕事の裏を取るべく情報を収集をしなければならないのだが。

 フォーサイトのメンバー、ヘッケランとロバーデイクは北市場に次の冒険で役立つ魔道具(マジックアイテム)を探すため市場へと調査に来ていた。大金が入る仕事を斡旋され、前金もたっぷり色を付けてもらったので、今であれば普段買えないような装備やアイテムも買えるかもしれない。掘り出し物がないかと魔道具の取引が盛んな北市場まで出向いてきたのであった。

 

「ないなぁ、ロバーデイク」

「ええ、ヘッケラン。掘り出し物はありませんね」

「まぁ、自分たちがいらなくなったものを売ってるから仕方ないか」

 

 ここでの物を売っているのは商人だけではない。冒険者たちが自分たちで使わなくなったアイテム等も売っているのだ。そのため、残り使用回数の少ないワンドや不要となったアイテム等、汎用性の少ないものが多い。値段交渉の大きな声が響き渡っているが、そんな中ひときわ注目を集めている声があった。

 

「おっちゃん!もっとこう、エロい目的で作られた魔道具ってないの?」

「こう、ウネウネ動く棒みたいなものとか、振動する玉みたいな魔道具はありんせんか!?」

「帝国って魔道具開発が進んでいるんだろ、どうなのそのあたり」

「こういう、しっぽみたいのはありんせんか?」

「あ、あのなぁあんたら・・・・・・ちょっとやめてくれないか」

「それか何か飲んだだけで女の子をその気にさせちゃう薬とかでもいいから」

「や、やめろー!そんなアホな目的のために貴重な触媒や魔法を使うわけないだろ!」

 

 店主が目を白黒させながら叫んでいる。結構顔もいい男女なのに残念なことを大声で言っている。周りが生暖かい目で注目する中、そんなことを気にせずにあんな道具はないか、こんなものはないかと聞いている。

 

「あれは・・・・・・冒険者か?」

「我々もあのくらい真剣に道具を探さなければいけませんね」

「そうか?」

 

 もう少しあの騒がしい二人を見ていたくはあったが、それほど暇なわけでもない。ここには必要なものはなさそうだと判断し、中央市場にでも移動しようと考える。その場を後にするヘッケランの後ろから、子供のような高い声が聞こえた。

 

「あの、ペロロンチーノ様。なんか変態みたいですよ?」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

「ぐっ・・・・・・」

 

 アウラのツッコミに思わず(ぶくぶく茶釜)を幻視する。今回はシャルティアに加えてアウラが同行していた。シャルティアが馬鹿な真似をしようとしたら止めると息巻いているが、彼女の発言はペロロンチーノの心を抉ってくる。

 帝都についたペロロンチーノ達は、魔道具の開発が進んでいると言う帝国のアイテムを物色するため、北市場へと来ていた。今回は王国で得た金があるので資金は潤沢だ。今回はアウラが同行したため、恒例の情報収集(のぞき)は中止にせざるを得なかった。ちなみにシャルティアはペロロンチーノの希望で白いセーラー服を着用している。赤いスカーフを、そして白いスカートをヒラヒラさせて楽しそうにしている。ペロロンチーノの身に着けているものも一部変化があった。胸に揺れる冒険者プレートをふと見る。

 

(シルバー)級・・・・・・か」

 

 冒険者組合に立ち寄ったところ、王都の冒険者組合が手を回していたらしく、王都防衛の報酬を渡されるとともに昇級を言い渡された。貴族たちの目がある中、一気に昇給させることは難しかったのだろうが、王国を救ってくれたせめてもの対応だろう。プレートを触りながら鉄より輝きを増したそれにペロロンチーノは顔をほころばせる。

 

「ペロロンチーノ様はただの変態ではありんせん。変態と言う名の紳士でありんすよ」

「シャルティア。それって変態とどう違うの?」

 

 ペロロンチーノの心を抉るその会話に、落ち着きを取り戻した店主が不思議そうな顔で問いかける。

 

「はぁ・・・・・・あんたら本当に変わってるね。奴隷とそんなに仲よくするなんて」

「え?奴隷?誰が?」

「え?そのダークエルフ、奴隷だろう?この辺りじゃ、エルフは奴隷として売買されているんだよ?」

「え?あたしってペロロンチーノ様の奴隷だったんですか?」

 

 なぜかアウラは嬉しそうにしてペロロンチーノを見つめている。

 

「ずるいでありんす!ペロロンチーノ様の奴隷はわらわでありんす!」

 

 そう言ってペロロンチーノの腕にしがみつくシャルティア。

 

「ほう・・・・・・奴隷売買なんてしているのかこの国は・・・・・・」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――バハルス帝国 皇城

 

 冒険者組合を通じ、冒険者チーム《変態》が帝都に入ったのを確認したジルクニフは帝国四騎士の一人を呼び出していた。帝国最高の攻撃力を持った女騎士、《重爆》レイナースである。金髪碧眼であるが、髪で顔の片方を隠している。これはかつてモンスターより呪いを受けたことによる。呪いが解けるのであれば帝国にも敵対すると公言する人物であり、もっとも忠誠心の低い騎士ではあるが、その力を評価し帝国四騎士に任じている。

 

「陛下、お呼びとお聞きしまして参上いたしました。どのようなご用件でしょうか」

「ああ、レイナース、お前に頼みたいことがある。この帝都に来ているある冒険者の力を確かめてほしい」

「冒険者?どのような人物でしょうか」

「ペロロンチーノと言う(アイアン)、いや今は(シルバー)級か・・・・・・の冒険者だ。力を確かめる方法は・・・・・・そうだな、全力で殴って見ろ」

「恐れながら陛下。(シルバー)級程度の冒険者を私が全力で殴れば死んでしまうかと・・・・・・」

「そうだな、その時はその時だ。私の眼鏡にかなわなかったということ。処理はこちらで行うから安心しろ」

「そうならない、と思っていらっしゃるのですね?」

「ふっ、そうであったら嬉しいな」

「ですが、もし強者であった場合、私と敵対することになるのでは?」

「情報によるとその男が女に暴力を振るったという話は聞かない。せいぜい装備を剥かれるくらいだろう」

「装備を・・・・・・剥かれる?」

「まぁその時も処理はこちらでするから安心しておけ。ああ、攻撃するときは偶然を装って、喧嘩をうれ。ただし殺す気でな」

「・・・・・・かしこまりました、陛下の命とあらば。ですが本当に殺してしまいましたら申し訳ございません」

 

 レイナースの目に冷たいものが宿る。帝国四騎士、その中でも最高の攻撃力を持つ自分が(シルバー)級の冒険者と比べられ侮られているということを考えて。女を捨て強さを求めてきたプライドが言っている。ならばそのような男は殺してやろうじゃないかと。自分が男などに負けるはずがないと。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

―――帝都 城下町

 

 

 市場を後にしたペロロンチーノ達は豊富な資金があるということで、帝都で一番の宿屋に泊まってみることにした。恐らく出される食事も驚くほどのものだろうし、この世界では味を感じることが出来ると知ったペロロンチーノはそれも楽しみであった。超がつくほど豪華な造りであり、当然ペロロンチーノはこんな王侯貴族が泊まるような宿に泊まったことはない。庶民根性がペロロンチーノの足を鈍らせるが、勇気を出して入口へ向おうとしたところで警備員と思われる男に止められた。

 

「お客さま、どなたかのご紹介状をお持ちでしょうか」

「あ、いや、あの・・・・・・初見です」

「冒険者の方・・・・・・ですね。プレートを確認しても?」

 

 (も、もしかして一見さんお断りか?だけど、俺は王都で活躍した冒険者の・・・・・・はず。俺たちのことを知っていれば・・・・・・)

 

 警備員が丁寧にプレートを受け取り、その裏を確認する。

 

「《変態》のみなさまですね。確認させていただきました」

 

(裏にそんなことが書いてあったのか、アインザック組合長あのやろう)

 

 そう言って、受け取った時と同様の丁寧な態度でプレートを返す警備員。

 

「お客さま達のご活躍はこのバハルス帝国にも鳴り響いております。大変申し訳ございませんが、当宿屋の品位を保つためお客さまをお泊めすることはできません。お引き取りください」

「ですよねー」

 

 予想通りの答えにがっくりと肩を落とす。シャルティアとアウラは不服そうだが、ここは(シルバー)級にあった宿を探すべきだろう。そう思い、少し下町のほうで宿を探そうと歩き出し、交差点を曲がろうとしたところ、角から一人の女がぶつかってきた。相当な勢いで走ってきたらしく、ペロロンチーノにぶつかった反動で大きな音と振動を立てながら塀までふっ飛んで倒れる。金髪碧眼の女性であり、マントを羽織った旅人といった恰好である。スラリとしたスタイルの美人系のお姉さんキャラと言った感じだ。

 

「なっ・・・・・・私の全力の突撃でびくともしない・・・・・・くっ・・・・・痛っ・・・・・・」

「あの・・・・・・大丈夫ですか?」

 

 そう言って、女性に手を伸ばすのと彼女が振り返るのが重なり、彼女の顔へペロロンチーノの手が触れる。「ぬるり」、そんな感触を彼女の顔から感じた。手を見ると黄色い膿のようなものがついている。

 

「なっ、何を・・・・・・見た・・・・・・な・・・・・」

「もしかして怪我をさせちゃいましたか?」

 

 そういって女の髪を除けると女性の顔の半分は非常に整った顔立ちだが、ペロロンチーノの触った半分は焼き爛れたようになっており、血の混じった膿が後から後から湧いてきていた。レイナースの心に怒りがわく。呪われた素顔を見られた!それもこんな綺麗な顔の奴に!皇帝の命令など関係ない、そう思った瞬間、目の前の男の顔にレイナースはビンタを食らわせた。ビンタと言っても《重爆》が放った掌底に近いそれは一般人であれば首がちぎれ飛ぶほどのものだ。しかし、ペロロンチーノはなんの痛痒も感じていない・・・・・・どころか笑顔になっている。

 

「ありがとうございます!」

 

 何故か礼を言われるレイナース。訳が分からないが、ようやく冷静さを取り戻した彼女は顔を隠す。皇帝からの依頼は達成した。この男は常人ではないことは分かった。ならばもうこの場に用はないだろう。

 

「失礼しました。これは怪我ではありませんので、お気になさらずに」

 

 そう言って去ろうとするレイナースをペロロンチーノが引き留める。

 

(もしかしてこれか?これがデミウルゴスが考えたフラグか?ならば乗るしかない!)

 

 ペロロンチーノはデミウルゴスによるフラグではないかと考えたのだ。そしてよく見ると彼女のそれは今できた怪我ではなく呪いによる効果ダメージが入っているように思われた。ならば、とカースドナイトのクラスを持つシャルティアに頼むことにする。シャルティアならば呪いをかけるのも移すのもお手の物だ。

 

「怪我じゃなければもしかして呪いですか?シャルティア」

「はい、ペロロンチーノ様」

「彼女の呪いを俺に」

「それが御方のお望みとあらば」

 

 シャルティアが手をかざすとレイナースの顔の呪いはペロロンチーノの顔へと移った。レイナースは自分の顔に手を当てる。いつものべたつく感覚も痛みもない。民家の窓に自分の顔を映してみた。呪いが消えている、これまで付きまとい、自分の人生を台無しにしてきたあの呪いが。レイナースの胸に複雑な感情が錯綜する。喜びと言う感情では言い切れない何かは涙となって流れ落ちる。

 

「あ・・・・・・あああああ・・・・・・」

 

 泣きながら目の前の恩人に感謝をしようとするがあまりの感情の爆発に言葉が出てこない。泣きながら頭を下げるしかなかった。 

 

 ペロロンチーノは土下座して泣きすがるレイナースを見て戸惑っていた。周りの視線が痛い。男が女に泣きながら土下座をさせている光景・・・・・・。何か言ってくれればいいが、泣いてばかりで何も言ってくれない。こんな女性に何と言ったらいいか経験の乏しいペロロンチーノの辞書にはない。少なくともエロゲにはなかった。

 

「じゃ、じゃあそういうことで」

 

 考えることを諦めたヘタレ(ペロロンチーノ)はそう言って逃げ出すのであった。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――皇城

 

 

 帝国四騎士の一人、《雷光》バジウッド・ペシュメルは己が見たことを皇帝へ報告していた。先ほどまで城下町で冒険者チーム《変態》を尾行していたのだ。

 

「なるほどなるほど、重爆の攻撃をものともしなかったか」

「はい陛下。あれは本気の一撃だったと思います。それから情報と違い、ダークエルフの娘を一人連れていました」

「王国では銀髪の少女と二人で行動していたと報告書にあるが・・・・・・。ダークエルフか」

「かつてトブの大森林にいたと聞いたことがあります。滅びたのか住処を移したのかは分かりませんが」

「奴隷か?そのあたりも調査の必要がありそうだな」

「しかし、重爆の全力の突撃でも倒れもせず、殴っても傷一つつかないとかどうなってるんですかね」

「魔道具の可能性もあるが、魔道具を使っていようといまいとそれは力だ。よし、やつを帝国に取り込むぞ」

「取り込めますかね?なんつーか、権力をものともしない感じでしたが」

「皇帝としていきなり訪ねても嫌がられるだろうな。ふん、先に友情でも深めるとするか」

「友情・・・・・・ですか?」

「ああ、いきなり知りもしない地位の高い人物が訪ねてきたらお前ならどう思う?」

「そうだなぁ、俺から情報を得る、または俺を利用して陛下に近づこうとしてるんじゃないかと思うんじゃないですか?」

「だろうな。では、お前の親しい友人が訪ねてきたら?私に会いたいとでも言ってきたら?」

「そりゃまぁ、一応陛下に聞いてみますかね。ただ、会う合わないは陛下の判断ですし、俺は陛下を売ったりはしませんよ」

「お前のそう言う正直なところは嫌いではないぞ。だが、その程度の違いでも随分違うではないか。私は奴の友人となる」

「しかし、聞いたところでは相当な変わり者ですよ。市場でも何か訳の分からないことを言って店主を困らせてましたし」

「それは奴を知らないからだろう。奴を知れば奴の言っている意味も分かってくるだろうし、分からなければ聞いてみればいい。見たところ奴を理解できている人間は少ない。人は誰かに理解されたいと思うものだ。奴の話を聞いてやり、情報とともに友情もいただいてやろうじゃないか」

「さすがは皇帝陛下。でも、本当にできるんですかい?」

「ああ、私に作戦がある。お前にも協力してもらうぞ。ふふふっ、見ていろ。王国の黄金め。お前では取り込めなかったやつらを私の手のひらの上で転がしてやる」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 ―――宿屋《歌う林檎亭》。現在ペロロンチーノ達が宿泊している宿屋である。バジウッドは普段の鎧姿ではなく、冒険者風の服装でその入り口をくぐる。彼らは食事をしながら談笑しているところであった。バジウッドは困惑する。ジルクニフからあの冒険者への贈り物を渡されたが、こんなものをもらって喜ぶのだろうか、と。バジウッドには理解できない。ジルクニフは非常に頭が回るのは知っている。だが、今回ばかりは気が触れているとしか思えなかった。命令された以上実行するしかないことにため息を吐く。そして、もうどうにでもなれと一歩を踏み出した。

 

「あー、ちょっとすまない」

「あ、はい?俺ですか?」

「ああ、私はバジウッドと言うものだが少し話をいいだろうか」

「えー、まぁ、なんでしょう」

「あー、その、なんだ。あんたに会いたいという方がいてな。少し時間をもらえないだろうか」

「会いたい?なんで?それ女の子?可愛い女の子ですか?ロリですか?」

「あ、いや、男性なんだが・・・・・・」

「えー・・・・・・」

 

 露骨に嫌そうな顔をされた。

 

「会いたいならそいつから会いに来ればいいでありんす」

「そうそう、失礼なんじゃない?」

 

 取り巻きの少女二人が口を出す。皇帝に対して失礼とは何事だ、とも思わないでもないが、皇帝の予想通りの展開だ。奴が男の誘いに乗るはずがない。そこで、バジウッドはジルクニフから渡された切り札を出す。封筒から紙を取り出すと、それをペロロンチーノの前に置いた。ペロロンチーノはそれを見るとバジウッドの顔を見上げ、二度見する。

 

 ―――それはメイドの着替え中の様子を魔法で紙に転写したものだった。

 

 こんなものを渡すくらいなら金や女でも渡したほうがよっぽどいいのではとバウジッドは思うが、ペロロンチーノは無言でそれをポケットにしまい、右手を差し出した。バウジッドも困惑しながら右手を差し出すとそれが強く握られる。そしてペロロンチーノは高らかに言った。

 

「行きましょう!同志よ!」

 

「ペロロンチーノ様、何をもらったんですか?」

「何でありんすか?」

 

 少女たちが騒いている中、パウジッドは何故かやるせない気分になるのだった。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――帝都郊外

 

 ここは郊外の屋敷を急遽借り上げたものだ。皇帝としての身分を明かして会うのは憚られたため、アンダーカバーとして別人として会うことにした。身分を明かすのは友人となってからでいいだろう。金髪を茶に染め、顔も魔法で多少変えてある。

 

「やあ、よく来てくれたね。私の名は・・・・・・そうだね。ジルとよんでくれるかな」

「ジルさんですか。この度はお招きいただきましてありがとうございます。俺はペロロンチーノです」

「ジルと呼び捨てしてくれても構わないよ」

「いえ、いくら同志でも親しき者にも礼儀ありです。ジルさん、それともジル氏と呼びましょうか?」

「い、いやジルさんで構わない。ところでここは男同士の会話と行きたいとおもうんだが。すまないが、そちらの可愛らしいお嬢さん方には美味しいお菓子も用意しているのであちらの部屋で歓談でもしていてくれないだろうか」

 

 ペロロンチーノは今まで言いにくかったことをジルが言ってくれて感動する。シャルティアはともかくアウラが一緒にいたらペロロンチーノの心をザクザクと抉ってくるのは間違いないだろう。

 

「そうですね。シャルティア、アウラ。少し待っていてくれるか」

 

 二人が部屋を出ていき、ジルクニフ、ペロロンチーノ、そしてバジウッドの3人が残った。

 

「さて、お渡ししたブツは気に入っていただけたかな?」

「もちろんです。メイドはやっぱりこういう恥じらいがあるのがいいですよね」

「え、ええ。恥じらいは大事ですね!その辺りも大いに語り合いたいと思いまして」

「ところで、こういった魔法で姿を投影したものは売ってたりはしないんですか?絶対売れると思うんですけど!っていうか買うんですけど!」

「ああ、魔法の触媒や行使に使われる代金が高いからね。作っても売れないだろうな。だが、自分たちがそういう技術を持っている者たちは違う。例えばこういう風に」

 

 そう言って、ジルクニフは一冊の本を差し出す。ペロロンチーノが恐る恐るそのページをめくると、その中にはメイドのあられもない姿が、それも明らかに隠し撮りだと思われる無防備な姿が映し出されていた。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおお、こ、これは!これこそは俺が求めていた知識いいいいいいいいいいいいいい!ひゃはははははは!」

 

(ひえっ、狂った)

 

 ジルクニフは仰天するが、すぐに気を取り戻す。

 

「あ、あの大丈夫かい?」

「すみません、興奮のあまり。これほどの物をお持ちとは恐れ入ります。いい趣味をお持ちで」

「それはありがとう。そうだ、よろしければ同好の士と言うことでそれは差し上げよう」

「え!?本当ですか。しかし・・・・・・」

 

 そう言ってペロロンチーノは悩んでいる。目は左右に泳ぎ葛藤している様子が手に取るように分かる。頭を抱え、髪を振り乱して、そして最後に冷静になった。

 

「申し訳ありませんがいただくわけにはいきません」

「え、なぜだい?」

「これはあなたにとって大切なものでしょう。例え見飽きたとしても久しぶりに見るととても新鮮に感じるものです。やり飽きたとデータを消してしまったエロゲを後で無性にやりたくなるように、これはあなたが持っているべきものです」

「え、あ、はぁ、ありがとう・・・・・・ございます」

 

 正直こんなものはジルクニフは持っていたくはない。そのような趣味もなければ、こんなものを持っていると誰かに知られればとんだスキャンダルだ。ペロロンチーノに渡すために作ったというのに持ち腐れになってしまった。ただ、彼が物ではつられないタイプということは分かった。軽い人物かと思っていたが、なかなかに固い。

 

「そうそう、噂で聞いたのだが、ペロロンチーノさんは色々と特殊な趣味をお持ちのようで」

「え、いやぁ、お恥ずかしい」

「恥ずかしがる必要なんてないとも。実は私も恥ずかしい趣味を持っていてね」

「ほう、メイドモノの他にもですか」

「ええ、実は私、女性に踏まれるのが好きなんだ」

 

 ロウネの性癖をここで使わせてもらう。自分の恥部を曝け出すことで親近感を持たせるためだ。後ろでバジウッドがぎょっとした顔をしているが無視だ。

 

「Mですか!Mもいいですよね。Mモノってなんか途中で逆転するのが多くて嫌になっちゃいますけど、やっぱり最後まで逆転なしがお好きですか?」

 

(逆転?途中から女性を攻める側に回るということか?頭を働かせろジルクニフ。この国の未来がかかっているんだぞ)

 

「もちろんさ。逆転などもってのほかだよ」

「分かりますか!いやぁ、こういうトークするの久しぶりだなぁ」

「ここには我々しかいないのです。大いに語り合いましょう」

「いいんですか!語っちゃっても!」

 

(乗ってきたな。ここでさらに親しみを深めさせてもらおうか)

 

「ええ、あなたと私は同好の士、遠慮すること何てありません」

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 ペロロンチーノが出て行った後、ジルクニフは疲労に眩暈がするようであった。ペロロンチーノは語った。語りまくった。今まで貯めこんでいたものをすべて吐き出そうとするように。その言葉の多くが意味不明のものだったが、それをさも興味深そうに聞き、彼の好むものの意味、色や形、趣向、そう言ったものを一つずつ把握していった。だがその量たるやとても一晩で語れるものでもなく、また会おうということで本日はお引き取り願ったのだ。

 

 隣の部屋でフール―ダが彼の相棒に靴を舐めながら弟子にしてくれと懇願してぼこぼこにされていたようであるが、それは見なかったことにしておく。

 

「陛下、大丈夫ですかい?」

「ああ、さすがに疲れたがな。あそこまでとは思っていなかった」

「そろそろ彼女を呼んでも構いませんかね」

「ああ、レイナースか。私に文句でも言いたいのだろう。通せ」

 

 レイナースがペロロンチーノに会いたがっていたが、ジルクニフは許可はしなかったのだ。

 

「よく来たな。レイナース。頼んだことの成果は期待以上だ。さすがだな」

「陛下、この度は帝国四騎士の座を降ろさせていただきたく参りました」

「ふん、呪いが解けた途端にそれか。まぁ、一応理由を聞こうか」

「確かに呪いは解けましたが、それはあの方がそれを引き受けてくださったからこそ。これからの人生はあの方のために生きたいと存じます」

「ふん、惚れたか?」

「そ、それは・・・・・・」

 

 頬を赤らめ俯く様子から一目瞭然だ。呪いを捨てた代わりに捨てた女を取り戻したとでも言うのか。帝国四騎士の一人、それも最大の攻撃力を有する《重爆》レイナースに抜けられるのは一軍を失うより痛い打撃だ。そんなことを許すつもりはないが、それを言っては彼女との溝はますます深まるだろう。他に取られるくらいなら殺したほうがマシと言うものだ。

 

「だが、お前のその気持ちを彼が受け入れてくれるだろうか。彼はあのような美貌を持つ女を二人も抱えている」

「それはそうですが・・・・・・」

 

 レイナースは悲しそうな顔をする。自分では相手にされないのではないのかと言う不安だ。それに彼女には恋愛経験などまったくない。今までの自分は恨みを晴らすため、そして呪いを解くためにすべてを犠牲にしてきた。そんな自分に恋愛など出来るのだろうか。

 

「ああ、安心しろ。彼女たちとペロロンチーノとの関係は不明だ。娘のように扱っているという報告もあれば、悪友のように扱っているという報告もある」

「さようですか」

「ところでどうだレイナース、お前のその恋に私も協力しようではないか」

「え?へ、陛下?」

「私とペロロンチーノは本日より友人となった。彼からは色々と話を聞かせてもらっている。そう彼の好みや趣向、どんな服装やどんな髪型、どんな性癖をしているかもな」

「なぜ私に協力してくださるのでしょうか。私に都合よすぎるのではと思うのですが」

「お前に一方的に利があるわけではない。もし彼とうまくいったらそのまま彼とともに帝国に残ってくれ。それは帝国のためにもなる」

 

 レイナースは悩む。だが、生まれて初めてのその気持ちは止めることが出来なかった。

 

「分かりました。もし、彼とこ、こここ・・・・・・恋・・・・・・人になれましたらそうさせていただきます」

 

 そう言ってレイナースは恥ずかしそうに俯いた。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 《重爆》が去った後、ジルクニフとバジウッドが部屋に残った。

 

「ありゃ、完全に恋する乙女の顔でしたね。あの《重爆》がねぇ・・・・・・」

「そう言うな。あれも女だ。だが、そこをとことん利用させてもらうじゃないか」

「しかし、陛下。よくここまで読まれましたね。俺はまさかあんな紙きれ一枚でここまでなるなんて思いもしませんでしたよ」

「奴が王国の冒険者組合で言っていた内容の報告から考えてな。あの1枚でも結構な出費なんだぞ」

「はぁー、そんな馬鹿な金の使い方するなんてなー。俺にはまったく考えつきませんぜ」

「趣味とは人に理解されないものだ。他人からしたらゴミのようなものでもな」

「ああ、それなら分かります。確かに男の趣味を女が理解しないってのはよくありますな」

「やつは確定するであろう未来を予想することを『フラグを立てる』とか呼んでいたな。ふふっ、女であるラナー王女には男の趣味など分からずフラグを立てられなかったらしい」

「しかし、あのペロロンチーノとか言うやつの趣味・・・・・・あれを理解しきれる女がいるんですかね」

「そこだな、問題は。だが、レイナースはいい駒になる。呪いを解いてもらえたことから来た気持ちは多少の趣味の問題などものともしないだろう。普通の女にはとても頼めん」

「確かに、あれを受け入れるのは大変なことですな。生まれたときから性的嗜好を詰め込まれたような女じゃなきゃ」

「そんな女がいるわけがあるまい。レイナースに頑張ってもらうとしよう。その準備もしなければならんな」

「はぁ・・・・・・あんなのが俺より強いとかやんなっちまいますな」

「そう言うな。あれはまさに・・・・・・《アダマンタイト級の変態》なのだからな」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――宿屋《歌う林檎亭》。

 

 レイナースはペロロンチーノの泊まっている宿を見張りながら立っていた。顔が熱い。これは彼への思いのため・・・・・・ではなかった。皇帝より彼の好みの服装として頂いた今、身に着けている衣装のためだ。髪はツインテールに結い、下には黒い厚手の伸縮素材のパンツ、上着は白の半そでの伸縮素材の生地で出来た服だ。胸には「れいな~す」と刺繍がされている。皇帝が急遽作らせたペロロンチーノ好みの趣味の服、《ぶるま》と《たいそうふく》だそうだ。他に《れおたーど》《どうていをころすふく》等も用意するつもりであったが、制作中とのことだ。

 

 恥ずかしい・・・・・・。周りの視線が痛い・・・・・・。しかし、これも彼と添い遂げるため。羞恥に耐えながらペロロンチーノが出てくるのを待つレイナースは思う。

 

 これは戦いだ。それも自分が今まで経験したことのない初めての戦い。負けるわけにはいかない。何としてでもやりとげ、彼にこの胸の想いを伝えるのだ。レイナースは自分をそう言い聞かせ、気持ちを奮い立たせる。そして、

 

 

「い、いくぞ」

 

 

 

 そう呟きパンを咥えた。

 

 

 



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第12話 学園モノのエロゲは万能

―――歌う林檎亭

 

 ペロロンチーノ達は朝食を取っていた。冒険者組合で聞いたところ、ここの宿屋は食事が美味しくて有名らしい。さらにお金さえ出せば身分は問わないというのも魅力の一つだ。シャルティアは食事が不要なので飲み物だけ注文している。

 

「今日もジルのところでエロを語り合おうと思うんだけど」

「えー、また行くんですかあそこ」

「ペロロンチーノ様。わらわあそこでジジイに足を舐められたでありんすよ」

 

 シャルティアが涙目でペロロンチーノに抱きついた。そしてついでに甘えてやれと顔を胸にこすりつけている。

 

「初対面の相手の足を舐めるとは・・・・・・そのじいさん上級者だな」

「足を舐めながらしよーしよーって言われたでありんす」

「初対面の女の子にエッチしようだと・・・・・・直結厨か・・・・・・」

「でしにしてくれーしよーって言ってたでありんす」

「あれは気持ち悪かったねー。でもあれは師匠って意味じゃないの?弟子になりたいって」

「師よ?ああ、なるほど。で、その後そのじいさんはどうしたんだ?」

「まぁ・・・・・・やっちゃったよね」

「で、ありんすね」

「え?()っちゃったの?」

「ペロロンチーノ様になるべくやるなって言われてるでありんすから死なない程度にぼこぼこにしただけでありんす」

「顔パンパンになってたもんね、あのおじいさん」

「老人は労わろうよ・・・・・・でもそこまでやったんならもう来ないんじゃないか?」

「それならいいんでありんす」

「まぁ、また来たらジルさんに言っておくよ。しかし、ここのご飯本当に美味しいな」

 

 ペロロンチーノはパクパクと美味しそうに出されたメニューを頬張る。ピンク色のスクランブルエッグのようなもの、何の肉か分からないが厚くジューシーな肉をやいたもの、リアルでは合成の味気ないものしか食べられなかったペロロンチーノにはその美味しさは初めてのものであり、感動していた。

 

「そっかなー。ナザリックのご飯のほうがあたしは好きだなー」

「ペロロンチーノ様。わらわにあーんさせて欲しいでありんす。あーん」

 

 食事の出来ないシャルティアの前には飲み物だけだ。ペロロンチーノのスプーンをもって口に運ぼうとするとペロロンチーノの顔は真っ青になる。

 

「や、やめろおおお」

「ど、どうしたでありんすか?」

「キ、キノコが・・・・・・キノコが振り返るとメイドで・・・・・・給仕をしたいって・・・・・・」

 

 ブルブルと震えるペロロンチーノ。恐ろしいものを見たように周囲を警戒している。

 

「どうしたんだろ。ペロロンチーノ様」

「何があったんでありんすか?ペロロンチーノ様」

「と、とにかく自分で食べらるからあーんはなしだ。それをよりアレを見ろ」

 

 そう言って、スプーンを指す方向には4人の男女がいた。くすんだ金色の髪を短めに切ったエルフのレンジャー風の女、。そして少し幼さが残る金髪の魔法詠唱者風の少女、髪は肩口あたりでざっくりと切っている。あと男が二人いるがペロロンチーノの目には映らない。

 

「あの4人がどうかしたんですか?冒険者ですかね?」

「はぁー、アウラみたいなお子様には分からないでありんすか」

「なによーあんたには分かるって言うのー」

「あのエルフ、かなりの貧乳のようでありんす。そしてあっちの大人になりかけのロリ。尻尾が似合いそうで美味しそうでありんす。あれを視姦しないとは失礼にあたりんす」

「そうだな。シャルティア、エルフと言えば巨乳、しかしあの貧乳はレアだ。モモンガさんならレア魂を揺さぶられていたことだろう。そこがいいんだ。あっちの女の子も合格だ。これは愛でるしかない」

「あたしそれ分からなくても別にいいかも」

 

 そうして変態二人はじろじろ見つめそれをおかずに朝食を食べていると、エルフの女がこちらを見て眉をしかめる。

 

「ちょっと、何見てんの?」

「お気になさらず」

 

 ペロロンチーノは気にしない。そして、貧乳を凝視する。

 

「ハーフエルフがそんなに珍しい?」

 

 そう言って立ち上がるハーフエルフ。手は刃物に置かれいつでも抜けるように構えている。目には明確な怒りがあった。

 

「おい、イミーナやめておけよ」

「ヘッケランは黙ってて」

「あんた!そんなにハーフエルフが珍しいの?何か文句でもあるわけ?」

「ああ、エルフじゃなくてハーフエルフなんですか。別にそれはどうでもいいんですが、文句どころかむしろその貧乳にこそ価値があると俺は思います」

「さすがペロロンチーノ様はいいことを言うでありんす」

「どうでもいいって・・・・・・じゃあそっちのダークエルフは?あんた奴隷なんじゃないの?」

「へ?あたし?あたしは奴隷じゃないよ。別にペロロンチーノ様の奴隷なら嫌じゃないけど」

「ペロロンチーノ様の奴隷はわらわだけでありんす!」

「でもペロロンチーノ様。そう言うの本当に変態みたいだからやめたほうがいいですよ。気持ち悪いです。ぶくぶく茶釜様もそう思ってると思います」

「それ今言わないとだめなの?」

 

 凹むペロロンチーノ。腕に抱き着くシャルティア。呆れるアウラ。そんな馬鹿な会話にイミーナの毒気が抜かれる。

 

「ごめん。ちょっと知り合いにエルフの奴隷を道具のように酷く扱うやつがいてさ。あんたもそういう奴かと思っちゃった。あんたがエルフを差別してないってのは分かったけど・・・・・・あんたたちどういう関係なわけ?」

「関係?このダークエルフの子は・・・・・・うーん何て言ったらいいか複雑だなあー。姉ちゃんの子供?みたいな?」

「え?でもあんた人間でしょ?あんたの姉さんって何なの?」

「俺の姉ちゃんは・・・・・・えーっと、ピンクの肉棒?」

「はぁ?」

 

 ペロロンチーノの姉、ぶくぶく茶釜のアバターはピンク色のスライム種であり、周りからピンクの肉棒と呼ばれなかなかパーティに誘われなかった。そこをギルドに誘われた経緯がある。ヘッケランから声が上がる。

 

「そりゃ誰だってピンクの肉棒が親だろうさ。イミーナお前だってピンクの肉棒のおかげで生まれたんだろうし、俺だって一皮剥けばピンクの肉棒が・・・・・・ぐはぁ!」

 

 イミーナの裏拳がヘッケランにまともに入る。それを見てペロロンチーノが指を刺して笑っている。シャルティアも指を差して笑っている・・・・・・が、もちろんシャルティアには意味が分かっていない。

 

「ははははは」

「ほんともう何なのあんたたち・・・・・・」

「そのくらいにしませんか。もういいでしょう」

 

 ロバーデイクのその言葉にイミーナは振り向き、ふともう一人の少女、アルシェがうつむいたまま考え込んでいるのに気づく。先ほどからの彼ら《フォーサイト》は深刻な話をしていたのだ。アルシェの両親の貴族が膨大な借金を抱えながら贅沢な暮らしをやめないこと。その両親から妹二人を引き取るためにお金が必要なこと。そして次の大きな仕事が終わった後アルシェはチームから抜けること。こんな馬鹿を相手にしている暇はない。

 

「ごめん、アルシェ。話の途中だったね。ほらっ、ヘッケランもさっさと起きて」

 

 倒れ伏してるヘッケランを起し、アルシェに声をかけたところ、アルシェがイミーナを見つめる。そして、イミーナの向こうに見える恐ろしいモノも。

 

 その瞬間、アルシェが突然、虹を吐いた。

 

「おええええええ。イミーナ、そ、その後ろの人・・・・・・」

「ど、どうしたのアルシェ」

「おええええええ」

「大丈夫か!?」

「気分が悪いなら治癒魔法を使いますよ」

 

 後ろからは驚いたような喜ぶような声。

 

「美少女ゲロインが虹を吐くところとか・・・・・・ありがとうございます!」

「ゲロインとはなかなかいいものでありんすね」

「あの・・・・・・あたしついていけません」

 

 アルシェが真っ青になりながら震える指でシャルティアをさした。

 

「そ、その子!その子は!!」

「あんたたちアルシェに何かしたの!?」

「わらわがどうしたんでありんすか?」

 

 不思議そうに首を傾げるシャルティア。美少女によるその様子はまわりを魅了してやまないほど可憐なものであるが、それがアルシェにはとてもとても異様に見えていた。その才能(タレント)により、シャルティアの使える魔法の位階の上限が見えるのだ。第10位階、この世界では聞いたこともない神々の領域の魔法。それを使える存在であるというオーラが世界を覆いつくすほどに見える。それを見破ったということが分かれば自分はどうなるのか。それに気づき、アルシェは黙り込んだ。

 

「どうしたの?アルシェ。あの子がどうしたの?」

「え、えと・・・・・・えっと、あの子可愛い!って言おうとしたの。余りの可愛さに嘔吐(えず)いちゃって・・・・・・」

「うふふ、わらわの美しさも罪でありんすねぇ。ぬし可愛がってあげてもいいでありんすよ?」

「いえ・・・・・・ごめんなさい遠慮しておきます。あの・・・・・・失礼ですが、そちらの子とあなたはどういう関係なんですか?」

「俺?俺とシャルティア?それは・・・・・・うーん、そうだなぁ。この子は俺の性癖のすべてを詰め込んだ俺の娘のようなものですね!」

「そうでありんす!わらわにはペロロンチーノ様のあらゆる性癖が詰め込まれているでありんす!」

 

 そう言って、シャルティアは誇り高そうに偽物の胸を張る。酷いことを言われているのにとても嬉しそうだ。

 

「シャルティア。あんたさぁ、そう言うのやめてよね。あたしまで馬鹿に見られるじゃん」

「あの、変なこと聞いてすみませんでした」

「別にいいですよ。さて、ご飯も食べたしそろそろ行くか。でも、この国ではエルフがそんな酷い目にあっているのか・・・・・・奴隷ねぇ・・・・・・ちょっと気になるな」

 

 そんなことを言い残しながらペロロンチーノ達が宿屋を出ていく。残されたのはフォーサイトの四人。代表としてヘッケランがアルシェを問う。

「で、アルシェ。何だったんだ?今のは」

「あの3人・・・・・・。化物・・・・・・だと思う・・・・・・」

「化物だと?人間じゃない?」

「それは分からない。でも、フールーダ様よりずっと強い・・・・・・と思う」

「はぁ!?フールーダって言ったら帝国どころか周辺国最強の魔法詠唱者だぞ。それより強いとかありえないだろ」

「あのシャルティアっていう子の力はフールーダ様の数倍、いやもっとかもしれない。大きすぎて私じゃつかめない」

「私も気づいたこと言っていい?」

「なんだ?イミーナ?」

「あのダークエルフの子、瞳の色がそれぞれ違ってた」

「ああ、珍しかったな。それがどうしたんだ?」

「強大な力を持つエルフの王は瞳の色がそれぞれ違うらしい。無関係とは思えない」

「じゃあ、そんな二人に様付けで呼ばれてるあの男はなんなんだよ」

「調べてみる?」

「やめてイミーナ!絶対にやめて!関わらないほうがいい!」

「そ、そうだな。でかい仕事が控えてるんだ。危ない橋は渡らない。このことはもう忘れよう」

 

 次に控えた大きな仕事のためこれから準備をしなければならない。前金もたっぷり。成功報酬も莫大だ。トブの大森林の南に位置する草原に発見された遺跡の調査。複数のワーカーチームの合同で行う仕事の相談、そしてそのお金の使い道についての話を彼らは再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――歌う林檎亭前

 

 そこに決意をした女、帝国四騎士の一人《重爆》レイナースが立っていた。ペロロンチーノが宿屋から出てくるのを確認し、レイナースは皇帝に言われたことを思い出す。これから行うことはテンプレなる儀式であり、ペロロンチーノには非常に魅力的な行為らしい。「遅刻遅刻」と言いながらパンを咥えてぶつかると言う儀式。これをされた男はその女性の魅力にメロメロになってしまうらしいのだ。

 勇気を振り絞りレイナースはパンを咥え走り出したが、「遅刻」と言おうとして戸惑う。パンを咥えてどうやって喋れと言うのだ。しかも口が塞がって息が苦しい。

 

「ひほふーひほふー」

 

 くぐもったような声を出しながら、息苦しさと極度の緊張で混乱したレイナースは全速力でペロロンチーノへと向かっていく。前回と同様に全力でのタックルとなってしまったその衝撃は、レイナースを弾き飛ばし、塀に突っ込む結果となるのだった。余りといえば余りの事態にペロロンチーノは呆然とする。だが、そのまま放っておくわけにもいかず、遠慮がちに声をかけた。どこかで見たような光景だと思いながら。

 

「あ、あの・・・・・・大丈夫ですか?」

 

 顔を見ると、やはりどこかで見たような女性であった。しかし、その恰好は異様だ。ブルマに体操服・・・・・・その姿を見たまま固まるペロロンチーノ。およそこの世界の世界観にあっていない。もっともシャルティアにセイラー服を着せているペロロンチーノに言えることではないが。そんな彼をよそにレイナースは勇気を振り絞ってテンプレなる台詞を言う。

 

「痛ったーい。どこ見て歩いてんのよあんた。気をつけなさいよ」

 

 恐ろしいほどの棒読みであったが羞恥に晒され混乱したレイナースにはこれが精いっぱいであった。恥ずかしさで顔が火照りとてもペロロンチーノの顔を見ることが出来ない。両手で顔を隠し反応を待つ。

 

「これは・・・・・・何と言っていいか・・・・・・」

 

 ペロロンチーノは思う。これは・・・・・・。

 

(デミウルゴスのプロデュースだろうが・・・・・・違うだろう!フラグを立てるらしいがこれは色々間違っている!がんばったのは認める、認めるがこれは違う)

 

 ペロロンチーノが言うべき言葉に迷っていると、シャルティアの容赦のない言葉が飛んだ。

 

「わらわも体操服とブルマは持っているでありんすが、着る人が違うとこうも痛い服になるんでありんすな」

 

 さらに、そこへアウラの追撃も加わる。

 

「なんかもう可哀そうで見てられない感じだよね」

 

 人間に興味のないアウラにさえ憐れみの視線を受けるレイナース。涙目で顔を真っ赤にして固まっている。さすがにペロロンチーノが彼女を庇う。

 

「や、やめて差し上げろ!」

 

 ペロロンチーノからの自分を庇う一言。呪いを解いてくれた彼はまたもや自分を救ってくれる。愛しい彼のその言葉に一筋の光明を求めレイナースは縋るようにペロロンチーノを見つめた。

 

「確かに痛い!痛痛しい!見ていられない!そう、確かに体操服とブルマと言うものはもっと幼い感じの女の子が着てこそ映えるものだ!綺麗系のお姉さんが着た場合はエロい。エロいが違うんだ!ギャップ萌えと言う言葉があるがそれは元の姿を知っていてこそギャップが萌えるんだ。初見でいきなりお姉さんが体操服にブルマはないと思う」

 

「そしてパンを咥えてぶつかってくるシチュはいい!とてもいいがこれも体操服ではだめだ!スカート!スカートを要求する!ぶつかった拍子にスカートがめくれ足の付け根が露わになる!それがブルマでは出来ないんだ!スカートがめくれ、どこ見てんのよと言ってビンタされる!そこまで頑張らないと!百歩譲ってどうしても体操服とブルマで行くというのであれば体に触れさせてください!どこ触ってんのよビンタして欲しい!」

 

「でも安心してください。俺はお姉さんの体操服とブルマも評価します!企画もののAVみたいでそれはそれでいいです!だが、それはあくまでコスプレとして楽しむものでありたい!だけどお姉さんは頑張った!頑張ったところを評価して俺はこう言わせてもらおうと思う!」

 

 ペロロンチーノは一呼吸置き、真面目な顔で叫んだ。

 

「そっちがぶつかってきたんだろう!お前のほうこそ気をつけろ!」

 

 そう言って振り向いたペロロンチーノの指の先には、レイナースはすでにいなかった。

 

「あの人なら泣きながら走っていっちゃいましたよ」

「え、どの辺で?」

「痛々しいって言われたあたりでありんすね」

「そうか・・・・・・」

 

(残念だ、デミウルゴス・・・・・・今回は結構頑張ったのにな。今度会ったら褒めてやろう)

 

 澄み渡った青空に笑顔で敬礼するデミウルゴスを幻視するペロロンチーノであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――帝都郊外

 

「そうか、駄目だったか。私も何となくレイナースには似合ってないかなぁっとは思ってたんだが」

「それなら言ってあげましょうよ陛下。まぁ、俺も思っていましたが」

「それでペロロンチーノの評価はどうだったんだ?」

「ええと・・・・・・何か《重爆》の年じゃこの服はきついそうですぜ」

「なるほど、装備に年齢制限がある服というわけか。それは失敗したな。これも若さゆえの過ちと言うものか」

「陛下、今回は若さが足りないんで失敗したのではないんですかい」

「ははっ、確かにそうだな」

 

 部屋の隅で体育座りで泣いていたレイナースが二人を睨みつける。

 

「笑い事じゃないですよ!ぐすっ・・・・・・私もうお嫁にいけない・・・・・・」

「そう気を落とすな。ほら見ろ。《どうていをころすふく》が完成したんだぞ」

 

 露出の少ないブラウスとスカートだ。ただ、胸のあたりを強調するデザインではある。ジルクニフにはその良さはよく分からないが、ペロロンチーノには効くかもしれない。

 

「・・・・・・」

 

 涙目でジルクニフを睨むレイナース。

 

「だ、大丈夫。今度は比較的まともな服だぞ。ああ、そうだ。今度ペロロンチーノ達が来た時に色々聞いておいてやろう。次の作戦のためにな」

「痛い女って言われたんです・・・・・・ぐすっ」

「それでいいじゃないか。好かれようと嫌われようと今回はどっちでも結果はよかったんだ」

「へ?それはどう言う意味ですか?」

「ペロロンチーノ曰く、好きと嫌いは変換可能。駄目なのは興味を持たれないこと、だそうだ。だが、お前は奴に強烈な印象を与えたのは間違いない。次こそが本番だと思え」

「そ、そう・・・・・・なんですか?」

「そうそう、大丈夫、大丈夫。お前は世界一可愛いぞ《重爆》。きっとこの服なら奴もいちころだ。なぁ?バジウッド」

「へ?俺ですかい?俺に振らないでくださいよ」

「・・・・・・絶対ですよ」

「何?」

「私諦めませんからね!絶対応援してくださいよ、陛下!」

「あ、ああ・・・・・・」

 

 レイナースの決意が籠った本気の眼差しに若干引き気味のジルクニフであったが、さらに引かせるような声が別のところから上がった。

 

「ところで、陛下!提案がありますぞ!」

「いたのかフールーダ・・・・・・」

 

 フールーダは昨日のペロロンチーノの仲間の靴を舐めるという失態を犯したため本来ここには呼ばれていなかった。

 

「先日、シャルティアなる御方を見た際のあの魔力の波動!あれこそは最高位たる魔力の波!あの力を見たとき私は・・・・・・私はもう・・・・・・ほぼイキかけました!」

「じい、お願いだからもう帰ってくれないか」

「まだ話は終わっておりませんぞ陛下」

「はぁ・・・・・・まだ何かあるのか」

「陛下、かの者たちを帝国魔法学院の教師として招聘することを提案します!」

 

 お前それ自分が学びたいだけだろうとその場の誰もが思ったが、ジルクニフはその案が意外と悪くないのではないかと考える。

 

「そこで教師として魔法の実演でもさせてみる・・・・・・か。そうすることによって奴らの魔法がどの程度の力があるかを試す。そして奴らの力の秘密も明かされるかもしれないな」

「その通りです!陛下!かの御方の魔法の深淵を探るためにも!ぜひ!ぜひ!」

「なるほど、そしてそこに私が生徒として紛れ込んで、ペロロンチーノ様と一緒に学生ライフを送ればいいのですね」

「おい、そんなことは何も言ってないぞレイナース」

「陛下、私も生徒として・・・・・・」

「あのなぁ・・・・・・じい、お前その年で生徒になる気か?さすがに無理があるだろう」

「ご安心ください。幻術を使用し、女生徒に紛れ込もうかと思います」

 

 その発言にジルクニフは頭が痛くなる。フールーダは魔法が絡むと駄目になる時があるが、今回は特に駄目だ。だが、そんなことはお構いなしにフールーダは魔法により姿を少女に変えた。

 

 銀髪のおさげの13~4歳くらいの非常に可愛らしい少女だ。シャルティアをモデルにしていると思われる。

 

「なぜ女生徒なのだ・・・・・・。だが、声はどうしようもあるまい。じい、お願いだからもう帝国魔法省で魔法の研究でもしていてくれないか」

「ご安心ください陛下。帝国魔法省の魔法詠唱者を総動員して声を変換する魔道具を作成しました。これで少女の声です」

 

 そう言って首につけた蝶ネクタイ型の魔道具を発動させたフールーダの声は幼い少女のものとなる。

 

「おいじい!お前は国民から預かった大切な税金を何に使ってるんだ」

「魔法少女フールにおまかせあれっ」

 

 そう言って片足を上げ、頭に右手をかざすポーズを取るフールーダ。仕草が数世代ほど古い。元の姿を知っているジルクニフは吐き気を催す。

 

「ああ、もう分かった分かった。彼らが帝国魔法学院の教師をしてもいいというのであればお前たちに任せよう。奴は学校というものにこだわりをもっていたからな。乗ってくるかもしれん」

「陛下・・・・・・。俺帰ってもいいですかい?」

「何を言っているんだバジウッド。こいつらが暴走したら斬り捨ててもいいからお前が止めるんだぞ」

「ええー・・・・・・」

「さて、お前たち帝国魔法学院に潜入するための準備をしておけよ」

「「はっ」」「はぁ・・・・・・」

 

 郊外の閑静な屋敷の一室で、二つの元気な返事と一つのため息が静けさに消えていくのだった。



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第13話 女装モノは男の娘モノへの登竜門

―――帝都 郊外

 

 

 

 その日もペロロンチーノはジルの屋敷を訪ねていた。お金もあるし、他に特にやることもない。すでに冒険者と言う立場も忘れつつあるペロロンチーノであった。シャルティア達はフールーダに会いたくないということで宿で待っていてもらってもよかったが、離れたくないと言うので外で待機している。

 

「よく来てくれたね、ペロロンチーノさん。今日はどんな話を聞かせてくれるのかな」

「ジルさん、先日すごいものをみたんですよ」

「すごいもの?」

「美人のお姉さんが体操服とブルマでパンを咥えて走ってきたんです。いやーこの国にもあったんですね。体操服とブルマ」

「へぇ」

 

 ジルクニフの仕掛けたことであるがそんなことはおくびにも出さない。子供の頃より王族として貴族達との駆け引きを演じてきたのだ。初めて聞くような興味深そうな表情を見せる。

 

「信じます?」

「ああ、もちろんだとも。だが、帝国では珍しい格好だね。でもペロロンチーノさんがそれを見てどう思ったか知りたいな。魅力は感じたかい?」

「エロいにはエロかったんですが、さすがにちょっと引いちゃいまして、その間にいなくなっちゃいました。いや、すごく綺麗な人だったんですけどね」

「ちなみにどこが引くポイントだったのか教えてくれるかな」

「やっぱ年齢はともかく雰囲気ですかね。ああいう恰好は小さい子向けですから」

「なるほどなるほど。ちなみにその人だったらどういう服を着てほしいと思う?」

「もっと大人っぽい服・・・・・・ですかね。OLとか女教師とか、ああ女騎士とかも似合いそうでしたね」

「女騎士・・・・・・いや、それは・・・・・・」

 

 もうすでに女騎士なのであるが、もしかしたら変に衣装を変える必要などなかったのか。ジルクニフは己の失敗を呪うが、こぼれたミルクは皿には戻らない。

 

「強気な感じで責められるのもいいですし、オークなんかに捕まって×××(ピー)な事されるのもいいですね。ジルさんもそういうの好きでしょう?」

「オークが他種族に対してそういうことをするというのは聞いたことがないのだが・・・・・・」

「え?オークは人間の女の子襲わないんですか?」

「食べるためにと言う以外で襲うのは聞いたことがないな」

「そうですか・・・・・・」

 

 露骨にがっかりしているペロロンチーノ。話題を変えるタイミングだと判断し、ジルクニフは次の作戦への布石を打つ。

 

「ああ、ところでペロロンチーノさんは学校に興味あるかい?」

「もちろんありますよ。学校というシチュエーションでは王道の中の王道。美少女モノから調教、寝取られ、透明化、あらゆるジャンルのエロゲが出てますからね。でもそれが?」

「実はこの国には帝国魔法学院というものがあってね。私もその関係者の一人なんだ。

それでね・・・・・・ペロロンチーノさんの仲間のシャルティア嬢が相当な魔法の使い手だという話を聞いた。ぜひご教授いただけないかと校長から相談されてね。もちろん報酬は用意するよ」

「俺も!俺もついて行ってもいいですか!?」

 

 詰め寄ってきたペロロンチーノに引きながらジルクニフは快諾する。

 

「もちろん良いとも。保護者として付き添って生徒と交流を深めてくれたまえ」

「いいですね、魔法学院!魔法少女、魔法少女はいますか!?」

「あ、ああ。まぁ魔法を使う少女はいるだろうが・・・・・・魔法少女は・・・・・・」

 

 フールーダと言う魔法少女の姿をジルクニフは頭の中から振り払う。

 

「ところで、学校で何かしたいことはあるかい?」

「学校のイベントですか?女の子からチョコとか手作りクッキーもらったりは定番ですね。リアルじゃ貰ったことないですけど・・・・・・」

 

 リア充爆発しろと呟いているペロロンチーノを見ながらジルクニフはその辺りの話もあとで詳しく聞いておくことにする。

 

「じゃあ詳しい場所や時間はあとで教えるよ。お願いできるかい?」

「分かりました!シャルティアを連れていきますのでよろしくお願いします!」

 

 その後ペロロンチーノは魔法少女についても語るのであるが、変身をしたり触手に絡まれたりするそれはジルクニフの知っている魔法詠唱者像とはかけ離れており、ジルクニフの頭を混沌(カオス)へと堕としていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――帝都 奴隷市場

 

 帝国内では奴隷制を認めていないが、エルフは別である。これはスレイン法国との国際関係にもよるものであった。スレイン法国ではエルフの国と戦争状態であり、そこで捕えたエルフの処分先として、帝国へ奴隷売却するという手段を取っていた。周辺国最強とされるスレイン法国の圧力により高値で輸入されたエルフの奴隷は、戦闘能力が高く、なぜか若い女ばかりである。そのため帝国内では超高級商品であり、一般人が手を出せるものではなかった。そんなエルフたちは首輪をつけられ、奴隷の証として耳を半分ほどから上を切り取られている。これからの自分の運命を悲観し、暗く悲し気な顔をしたエルフ奴隷たち。そんな商品を買おうと貴族や商人と思われる者たちが多く集まっていた。

 

「なんでこんなところに来たんですか?ペロロンチーノ様」

「アウラ、お前は同族のエルフが奴隷にされていると聞いてどう思った?」

「え、別に。ナザリック以外の者がどうなろうと何も思いませんけど?」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

 

 ペロロンチーノはアウラが同族が奴隷扱いされていることに嫌な思いをしているのではないかと思っていたが、そうでもないようであった。だがまだ幼い彼女にはナザリック以外の者との交流は少なく、マーレ以外の同族と過ごしたこともない。これから同族について愛着を持つ可能性もある。そんなアウラのことを思っていると、大きな悲鳴が市場に響いた。見ると若い男がエルフを殴っている。

 

「さっさと歩きなさい。この愚図が!」

 

 バシッバシッという音が響く。叩かれたエルフは必死に耐えながら謝り続けている。男の名はエルヤー・ウズルス。切れ長の目に鈴の音を思わせる涼しい声をしている。腰には南方でしか手に入らないと言われる貴重な武器、刀を差していた。ワーカーチーム「天武」のリーダーであるが、チームは彼以外はすべて奴隷のエルフと言う構成をしている。

 

「ちょっとやりすぎじゃないですか?」

 

 そう言ってペロロンチーノはエルヤーの腕をつかんだ。プレイでもないのに女を殴るなど許されないことだ。

 

「何を・・・・・・。ああ、貴方も奴隷を買いに来たのですか。それはダークエルフですね。いい奴隷をお持ちのようだ。確かに物を粗末にするのも恥ずかしいですね」

 

 頭にきて物にあたっていた、そう言い切った男は見下すようにアウラを見つめた。

 

「物?この子は家族のようなものですが?」

「家族?ぷっ・・・・・・、失礼。私と同じ価値観の方かと思ったら人権主義者の骨董品でしたか。ははは、それでは失礼しますよ。ほらっ、さっさと歩きなさい」

「は、はい!」

 

 エルフを引き連れて去っていくエルヤー。

 

 ペロロンチーノは歩き去っていくエルヤーを見ながら思う。王国でも人を人とも思わぬ人間がいた。帝国ではエルフは人として扱われない。アインズ・ウール・ゴウンは異形として人間プレイヤーから忌避された者たちが集まったギルドだ。異形種狩りと称してただ人間でない、気持ち悪いそんな理由で狩られてきた。首輪をつけられ怯えるエルフ達にそんなかつての自分たちを重ねる。

 

「なるほど・・・・・・。少しだけ不快だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして競売の開始が宣言された。エルフの年齢、能力、性格などが紹介され競売参加者たちの入札を煽っていく。エルヤーは今回の競売で少なくとも一人、出来れば二人のエルフを手に入れたいと考えていた。エルフの奴隷は高価だが、エルヤーはワーカーとして報酬を独り占めしているためそのくらいの蓄えはある。今のエルフの戦闘能力に問題があるわけではない。

 

 ―――飽きたのである。エルヤーにとってエルフとは敵であり、ゴミであり、芥であった。それはエルヤーの出身国のスレイン法国の教えによるものだ。人間の役に立って死ねばいい存在、その程度の認識である。飽きたエルフは売るなり、モンスター退治の囮にして殺してしまうなりすればいい。

 

「100金貨!」

 

 エルヤーが声を張り上げる。しかし、すぐに別の声が続く。

 

「200金貨」

「くそっ!!」

 

 まただ。完全にエルヤーの予算を把握されている。

 

 「200金貨、200金貨以上入れられる方はいらっしゃいませんか?では、落札決定です」

 

 その落札者を睨めつける。黒髪で顔はいいが軽薄そうな男———先ほどの男だ。銀髪の白い奇妙な服を着た少女とダークエルフの少女を両脇に控えさせている。どちらも超が付くほどの美貌を有していた。あれほどの至宝を持ちながら女エルフの奴隷を落札することも許せないが、それが全ての女エルフ奴隷となればなおさらだ。そう、ペロロンチーノは本日この場で出品されたすべての女エルフ奴隷を落札していた。次の奴隷が連れてこられているが、エルヤーに落札することはできないだろう。

 

「おい、なんなんだこれは!」

 

 怒りに任せて傍に控えている自分の奴隷を殴りつける。倒れ伏しながら怯えた目でエルヤーを見つめる。

 

「なんなんだこれは!ええ!」

 

 蹴りつけ、殴りつけエルフの顔が腫れあがっていく。しかし、エルヤーの冷静な部分が手を止めさせる。殺してしまうつもりの奴隷であったが、新しい奴隷が買えない以上こいつをまだ働かさなければならない。

 

「も、申し訳ありません。ご主人様」

 

 怯えた目で見つめ、頭を地面に擦り付けるエルフ。他の二人も震えて目を伏せている。そう、この目だ。人外のゴミは生きたいのなら人間にそのような目を向けて卑屈に生きていればいい。

 

「覚えていろ。顔は覚えた。今に見ているがいい!」

 

 そう言って、エルヤーは3人のエルフ奴隷を連れて奴隷市場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ペロロンチーノ様。こんなにエルフの奴隷を買ってどうするんですか?」

「そんなのは決まっているでありんすよ。×××(ピー)なことや、×××(ピー)なことをして楽しむんでありんす」

「うわぁ・・・・・・マジで?変態じゃん」

「マジでありんす。うふふふっ、今から楽しみでありんすね。ペロロンチーノ様」

 

 アウラがドン引きの顔をしている。シャルティアへの口撃はそのままペロロンチーノに向かう。アウラのまさかペロロンチーノ様まで?と言ったような顔を見てられない。

 

「買うつもりはなかったんだけど、あの男に買われるのを見てられなかったからな」

 

 まるでかつて迫害されていた自分たちを見ているようで、と言う言葉は飲み込む。

 

「それにアウラの近親種族だしな」

「へ?あたしエルフが奴隷としてどうなろうと別に何とも思ってませんけど」

「ああ、アウラはまだ子供だから分からないかー。大人になれば同じ種族の友達も欲しくなるだろう、たぶん」

「ぷぷぷっ、そうでありんすねー。アウラはまだまだ子供でありんすからね」

「なにさー、あんただって胸は子供どころか平面じゃない」

「なんですってー!」

 

 いつものように喧嘩する二人をよそに、エルフの奴隷たちを見る。勢いで買ってしまったがどうしようか。別に一緒に冒険をするつもりもなければ、何かをしてもらうつもりで買ったわけでもなかった。デミウルゴス達からもらったお小遣いの大半を使ってしまったわけだが。

 購入したエルフ達は全員女性で整った顔立ちをしている。普段であれば愛でるところであるが、奴隷の印として長い耳の半分ほどを残して切り取られており痛々しい。怯えたような目でペロロンチーノ達を見ている。自分たちのこれからの運命を思ってだろう。

 

「あー、諸君。俺が君たちを買ったわけだが傷つけたり酷いことをしたりはしないから安心するように。しかし、その耳の傷は痛々しいな。シャルティア治してやってくれ。その後はどこに行こうが好きにしてくれて構わない。ただもしも感謝のしるしにエッチなサービスをしてくれるというのであればこちらは一向にかまわないのでお願いします」

「かしこまりんした。我が君。《大治癒(ヒール)》」

 

 シャルティアの魔法によりエルフ達の耳やその他の傷が完治する。突然の大魔法に驚くエルフ達だが、一人が耳を触り、周りのエルフ達を見渡す。一人、また一人と自分の耳があることを確かに感じ、その感触に涙した。

 

「あ・・・・・・ああ!ご主人様・・・・・・私どもにしていただいたこの御恩は決して忘れません」

「ありがとうございます!」

「ありがとう・・・・・・ございます!」

 

 口々にエルフから感謝の言葉が上がる。

 

「いや、別に俺が善人で助けたわけじゃないから。気にしなくていい」

「ご主人様、私たちの話を聞いてくださいますでしょうか」

 

 エルフ達は話し出す。彼女たちはスレイン法国との戦で捕虜となり、奴隷として帝国に売られてきたとのことだ。そのため、この場で彼女たちを自由にしたとして、無事に国まで帰れるとは思えない。そして、彼女たちの国の王は強大な力を持ち、自分の血を継いだエルフ達を戦場に送り出して覚醒しないか実験しているという暴君であり、国に帰ったとしても、また戦に駆り出されるだけだという。

 

「ですので、できればご主人様にお仕えさせていただけないでしょうか。お願いいたします」

 

 ペロロンチーノは買っておいて行先もないのに放り出すのは無責任だと考える。だが助けておいて「じゃあエッチな事して」とこちらから言うのはさすがに恥ずかしい。向こうからしてくれる分にはむしろ歓迎するのであるが。そこでペロロンチーノの頭にナザリックのメイド達の姿を思い出す。帰ったら24時間監視の生活を強いるあのメイド達。その代わりとして彼女たちに働いてもらうのはどうだろうかと。

 

「そう言うことなら・・・・・・うーん。メイドでもやる?」

「は、はい!ご主人様」

「メイドと言っても絶対の忠誠を誓った仕事のためなら命をかけるようなそんなメイドじゃなく普通!普通のメイドな!24時間監視してくるようなのじゃなく普通にセクハラしたら恥ずかしがってくれるような!」

「え、ええ・・・・・・ご主人様が言うようなメイドは普通いないと思いますので・・・・・・」

 

 エルフ達は当面ナザリックで預かることととする。帰りたいというのであればいつでも帰すつもりだし、あの狂気のメイド達から解放されるのであればありがたい。

 

「じゃあデミウルゴスにでも任せるとするか。困ったときはデミウルゴスだろう」

「ペロロンチーノ様。それはやめておいたほうがいいと思いんすが・・・・・・」

「何でだ?シャルティア。デミウルゴスなら任せられると思うんだけど」

「何て言うか、そうでありんすねぇ・・・・・・なんか牧場で働かせたり酷いことになりそうでありんすし・・・・・・」

「ふーん、シャルティアあんた変わったね。何かナザリックの外のやつに優しいなんて」

「ふふんっ、これでもペロロンチーノ様から色々学んで成長しているでありんすよ」

「確かにシャルティアもちょっと変わったな。じゃあ、彼女たちは第6階層のマーレに預けることにしようか」

 

 シャルティアの成長を喜ばしく思い頭を撫でているとアウラが口を尖らせる。

こうして、エルフ達はナザリックの第6階層で預かることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――帝国魔法学院

 

 ジエット・テスタニアは悩んでいた。進級試験のことだ。同級生貴族の嫌がらせのため、平民の彼は昇級試験の実地課題への参加メンバーを集めることに苦慮していた。家族のため、ここで挫折するわけにもいかない。第1位階魔法までは使えるのでここをやめたとしても勤め先はあるが、ジエットの目標は帝国魔法省へ入ることだ。もしかしたら自分の才能(タレント)を晒せばもっといい職に就けるかもしれない。そう思い、右目の眼帯に触る。彼の才能(タレント)はあやゆる幻覚を見破るといったものだ。しかし、それは逆に危険を招き寄せる恐れもある。先の見えない悩みに頭を抱えながら授業が始まるのを待っていると教師とともに二人の見知らぬ学生が入ってきた。

 

「あー、今日から皆さんと一緒に勉強する転校生を紹介します。フールさんとレイナースさんです」

 

「私、転校生のフール!フールちゃんって呼んでくれると嬉しいですぅ!よろしくね!」

「レイナースです。よろしくお願いします」

 

 二人とも魔法学院の制服に身をつつんでいるがその印象は対照的だ。フールと名乗った少女は非常に活発そうであり、片足を上げポーズを取っている。銀髪のおさげ髪で非常に整った顔をしているが、なぜかそれがジエットには不自然なものに見えた。レイナースのほうは若干緊張しているのか表情は硬く、周りをきょろきょろと見回している。

 

「それと本日より臨時教師の方にも来ていただくことになりました。主席宮廷魔術師フールーダ様からのご推薦です。どうぞ」

 

 教室の扉から彼女が入ってきた瞬間、時間が止まった。いや、止まったと皆が感じた。余りにも美しいのだ。まだ幼さの残るあどけない顔、雪のように真っ白な肌、スーツにスカート、メガネと言う女教師スタイルだが、無理をしてして大人ぶっているようで愛らしい。教室のすべての視線が注目する中、その外見に相応しい鈴のような声を鳴らした。

 

「今回臨時の教師として参りんしたシャルティア・ブラッドフォールンでありんす。シャルティア先生と呼んでもいいでありんすよ」

「シャルティア先生は午後の魔法実習で早速講義をしてくださいます。みなさんよろしくお願いしますね」

 

 可愛い転校生と新任教師、周りの生徒たちが喜色満面で囁きあう中、ジエットのみは何とも言えない違和感を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――昼の休み

 

 シャルティアは大勢の生徒たちに囲まれていた。

 

「シャルティア先生、どんな魔法を使えるんですか?」

「先生の肌すごく綺麗ー」

「先生、一緒にご飯食べましょう!」

「恋人はいますか!?シャルティア先生」

「先生・・・・・・わらわが先生・・・・・・はぁ!いい響きでありんす!ぬしら可愛いでありんすね。わらわのペットにしてあげてもいいでありんすよ」

「きゃー、先生のペットだって!」

「私も先生に可愛がられたーい」

 

 シャルティアは先生と呼ばれることに喜びを感じていた。いつもデミウルゴスやアルベドにアホの子扱いされ(自分ではアホの子などとは微塵も思っていないが)悔しい思いをしてきたのだ。その自分を先生を呼んで慕ってくれる生徒たち。

 そして生徒たちも幼い顔で先生扱いされて純粋に喜ぶシャルティアに好感を持っていた。なんて可愛い生き物なんだと。

 

「すごい人気ですねペロロンチーノ様」

「そうだな。まー楽しそうで何よりだ」

「まったくあんなに喜んで・・・・・・調子に乗らなきゃいいけど」

「ところで、あれはなんですか?バジウッドさん」

「あれ・・・・・・とは?」

 

 ペロロンチーノとアウラは保護者として、バジウッドは警備として隅のほうでその様子を見ていた。ペロロンチーノが指さした先、フールを見てバジウッドは顔をしかめる。

 

「あのじいさんは何なんですか?シャルティアの足を舐めた上級者だって聞いてましたけどまさか女装趣味まであるとは」

「あの・・・・・・幻術が見破れるんですかい?」

「あの程度の幻術ならすぐ分かりますよ。でもなりきってるなー。元の姿が見えてるから若干引きますが」

「ご不快でしたら斬り捨てますが、あのじじい」

「いやいや、女装したくらいで斬り捨てないでくださいよ。でも何であんなことを?」

 

 バジウッドは焦る。何と言ったらこの人物を不快にさせない、いやこちらに好感を持たせることが出来るのか。はっきり言ってフールーダのしていることは変質者のそれと変わらない。それをどう言ってごまかせばいいか。こういうのは陛下の考えることだ。裏路地出身で己の腕一本で今の地位まで上り詰めたバジウッドでは思いつかない。胃が痛くなってくる。誰かあの変態を止めてくれ、その思いがつい口に出てしまう。

 

「・・・・・・ただの変態だからですぜ」

「ほう・・・・・・。では女装して女学生に混ざり女の子たちの着替えを覗いたり、女の子同士の猥談を聞いたり、そしてそれがバレて逆に攻められたりと言った女装モノのエロゲによくあるシチュエーションを実践していると。でも、犯罪では?」

「いや、何言ってんのか分かんないですが、あーその・・・・・・あの方はそれなりの地位にいるんでこの程度は見逃してます。気持ち的にはとっ捕まえて斬り捨てたいんですが」

「しかし、あの発想はなかったな・・・・・・。俺は女の子に擬態するべきだったのか・・・・・・女の子の姿なら変態扱いされずもっと近くで覗いたり見たりできる。あのじいさん天才かよ・・・・・・」

「ま、まぁ、納得してくれんでしたらありがたいです」

 

 面倒だから正直に自分の気持ちを言っただけだが、バジウッドは何とかごまかすのに成功したことに安堵する、それが間違っていたらと思うとぞっとするが。女学生フールを羨ましそうに見るペロロンチーノを横目に見ながらバジウッドは息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジエットは他の生徒たちとともに午後の実習授業が始まる校庭に集まっていた。先生のシャルティア、それを爛々とした目で見つめる転校生のフール、付き添いとして離れたところにいる3人、一人はどう見ても屈強な騎士、もう一人はどこから連れて来たのか見たこともない可憐さを持つダークエルフ、もう一人の黒髪の男。そして手にチョコとクッキーを持って、その男をチラチラ見ているもう一人の転校生の女性。すべてが異常だ。ジエットは決意して己の眼帯を外して周りを確認した。

 

 ―――その瞬間、世界が変わった。まずはシャルティアの瞳の色、真っ赤に染まったその目は人間のものではない。そして保護者だと言う男は鳥の顔をした羽の生えた亜人であった。そして不可視化で隠れていたのか、建物の中には皇帝陛下と思われる姿も見える。しかし、そんなことは些細なことだった。その後見たものに比べればどうでもいいことだ。全身に鳥肌が立ち、足の震えを抑えられなくする存在、転校生フール。その本当の姿は白く長いひげを生やした老人・・・・・・帝国でその存在を知らない者はいない大魔法詠唱者フールーダ・パラダイン老その人だった。そしてそれが女学生の振りをしてキャッキャと飛び跳ねているのだ。恐ろしい・・・・・・怖気の走るソレをそれ以上見て居られなくなったジエットは、そっと眼帯を装着するのであった。

 

「それでは授業を始めるでありんす。えーっと、確かぬしらは魔法を覚えたいんでありんすね。先生のわらわが!わ・ら・わが授業をはじめるでありんすよ」

 

 魔法学院でそれ以外の何を学べと言うのか・・・・・・とは思うが嬉しそうに説明を始めたシャルティアに生徒たちは生暖かい目を向け頷く。

 

「まず魔法とは何か。それは神々から与えられた力でありんす。神々とは至高なる41人の存在。わらわにとってはペロロンチーノ様でありんす。わらわの魔法はすべてペロロンチーノ様に与えられたもの。分かりんしたか?」

「え、あの終わり・・・・・・ですか?」

「そうでありんすよ?」

 

(教えるの下手かよ!)

 

 ジエットはそう言いたかったが、フールーダからの推薦の教師にそんなことを言うわけにもいかない。誰か何か言ってくれないかとお互いの顔を見回している中、一人の女生徒が進み出た。フールである。

 

「はいはいはぁい!先生!質問でぇす」

「げっ・・・・・・あの時のじじい・・・・・・」

「フールでぇっす!」

「はい・・・・・・フールさん」

 

 幻術を見破り、老人が両手をフリフリしているのを見るシャルティアはドン引きしながら仕方なしにフールーダを指名する。

 

「じゃあ、その神様?ペロロンチーノ様に魔法の覚え方を教えてもらうのが良いと思いまぁす」

「それもそうでありんすね。ペロロンチーノ様?」

「え?俺?」

「ペロロンチーノ様。やっぱあの馬鹿じゃ人に何か教えるなんて無理だと思いますよ」

「まぁ、だよねー。そういう設定だし。そこがいいところなんだけど」

 

 保護者として離れて見ていたペロロンチーノはいきなり振られて戸惑うが、教師として報酬ももらっている以上あれだけではさすがに不味い。仕方なしにペロロンチーノの知っていることを語ることとする。

 

「えーっと、どうも。ペロロンチーノです。魔法を使うにはそれに応じた職業(クラス)につく必要があります。そしてその職業でのレベルを上げることにより魔法を覚えることが出来ます。上位の魔法を覚えるにはさらにレベルを上げる必要がありますが、一つの職業にはレベルの上限があるので、他の職を上げることにより新たな魔法を覚えたり、さらに新しいジョブに就く条件を満たしたりと順にこなしていく必要があります」

 

 静寂が訪れた。一つの職業(クラス)を極めるだけでも人生を費やすのに複数の職業(クラス)それもさらに先を求めよと言うのだ。彼らはそれを成したものと言うことなのだろう。途方もない努力と時間、そして才能、それが必要と知り顔を伏せるもの、ならばやってやろうという目に力が漲るもの、それぞれの反応を示す中、フール震える。最上位冒険者の中には強くなるため効率的なれべるあっぷなる儀式をする者がいると聞いたことはあるが、フールの求めるものは魔法の深淵。それを覗くのには不要と捨て置いた知識だ。

 

「先生、れべるを上げるというのはどうすればいいんですかぁ?」

「アイテムによる方法もありますが、基本はモンスター・・・・・・いや、モンスターに限らず何かを倒す・・・・・・殺すことで経験値がたまり、ある一定値を超えるとレベルが上がります」

「ただ、弱いものを倒しても意味は余りありません。大量に倒せばレベルは上がりますが、それよりは自分と同等以上の相手のほうがいいです。そうやって幅広い職業(クラス)でレベルを上げてさらに上を目指すって感じですね。まぁ俺は魔法詠唱者じゃないのでそれほどの魔法は使えません。シャルティア実際に見せてやろうか」

「それでは魔法の実演をするでありんすが、ここでやって本当にいいんでありんすか?」

 

 かなり広めのグラウンドの真ん中に木で出来た人形の的が立てられている。周囲からの距離もあり、十分大丈夫だと判断した教員が頷く。

 

「これだけ広ければ大丈夫でしょう。お願いします。先生」

「うふふ、先生・・・・・・いい響きでありんす。では簡単な魔法から行くでありんすよ。《魔法の矢(マジック・アロー)》」

 

 空中に魔法の矢が10本現れ、目標の人形に突き刺さった。

 

「きゃー!見て見て!すっごーい。第1位階魔法の《魔法の矢(マジック・アロー)》よ!実力により本数が変わるの!10本なんて見たことがないわ」

 

 フールが大興奮で叫んでいる。周りの生徒たちも驚き、尊敬の目をシャルティアに向けた。彼らでは1本、せいぜい2本を発動するのがやっとだ。シャルティアは続けて魔法を放っていく。

 

「《衝撃波(ショック・ウェーブ)》」

 

 通常の何倍もの衝撃が人形にさく裂しばらばらになる。その衝撃波はまわりを強風となって襲い、生徒たちがスカートを抑える。ペロロンチーノの目は的ではなくそちらに釘付けになった。

 

「《火球(ファイヤーボール)》」

 

 小さな指から放たれた火の玉は対象を炎で包むだけに飽きたらず、その周辺が火の海になった。襲い掛かる熱波に誰もが後ずさる。汗ばんだ女生徒たちの服が体に密着し、そのラインを浮き彫りにするのをペロロンチーノは脳に焼き付ける。

 

「すごいすごーい!」

 

 フールが大はしゃぎしているが、一部の生徒は若干引き気味であった。

 

「もっと下がったほうがいいと思うよ」

 

 アウラの忠告に教師も生徒もさらに一歩下がる。

 

「《吹き上がる炎(ブロウアップフレイム)》」

 

 校庭から炎の柱が吹き上がった。もう的の人形は跡形さえない。吹き上がる熱気に目も開けられない。

 

「《連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)》」

 

 雷のエネルギーが龍の形を模して校庭をかけまわる。圧倒的な魔力、これを食らったら確実に死ぬということが誰しもわかる。これは伝説の物語(サーガ)に登場するほどの魔法であるということも。

 

「こ、これは私をも超える魔法では!すばらしい!すばらしいですぞ!ひゃははははは」

 

 フールの口調がおかしくなってきたが、みなそれどころではなかった。魔法としての極意、その頂点を目撃して。だが、まだそれが頂点ではないと分かり顔を青く染め上げる。

 

「《朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)》」

 

 紅い光点が目の前に炸裂する。だが、その熱量は恐ろしいものであった。地面が融解し校庭の木々は火を噴き上げる。校舎のガラスが解け始め周りは火の洪水といった様子だ。さすがに危険を感じたバジウッドとレイナースは皇帝の元へと走っていく。他の生徒たちはなすすべもなく立ち尽くすしかなかった。濡れる制服にめくれるスカート、ペロロンチーノも立ち尽くすしかなかった。フールのみが「MOTTO!MOTTO!」と狂喜乱舞している。

 

 

「《力場爆発(フォース・エクスプロージョン)》」

 

 シャルティアを中心とした爆風が生まれる。いや、それは爆風と言うだけでは収まらない魔力の渦である。女生徒たちのスカートが垂直にめくれ上がり抑えることさえできない。ペロロンチーノが顔の前で拳を握りしめて凝視している。建物の屋根が吹き飛び、建物自体もバラバラと崩れていく。

 

「最後は派手に行くでありんすよ!《魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)隕石・・・・・・(メテオ・・・・・・)》」

「やめなさい!さすがにやりすぎでしょ!」

 

 スパーンと音とともにシャルティアの詠唱が中断される。お尻を押さえるシャルティア。常人には分からないほどのスピードで蹴りが入れられたようだ。

 

「アウラ。いいところなのに何をするでありんすか」

「少しは頭使いなさいよ。そんな魔法使ってこの国滅ぼす気なの?」

「あ・・・・・・」

 

 少しだけ頭を使ったシャルティアは魔法効果範囲拡大化したその魔法の結果を想像して額に汗を滲ませる。

 

「分かった?この辺でやめておくのが丁度いいって」

「分かったでありんすよ!」

 

 この惨状でどこが丁度いいんだとその場の誰もが思ったが、それを言い出すものはいない。むしろ自分たちがなぜ無傷なのかが不思議でたまらない。

 

「でもここの人達意外と丈夫だよねー。あれで怪我一つしないとか」

「ふふんっ、それはわらわが最初に《火属性無効化(エネルギーイミュニティ・ファイヤー)》と防御系魔法を全体化して使ってたからでありんすよ」

「へー、だから暑くてもダメージなかったんだ。やるじゃん。最後はちょっと駄目だったけど」

「わらわも手加減っていうものを覚えたでありんすよ。それにちょっと優しくなったと自分でも思っていんす」

「うんうん、シャルティアが成長してくれてなんか嬉しいよ」

「アウラ、なんで上から目線でありんすかー」

 

 キャイキャイと騒いてる様子は可愛らしい女の子同士のように見えるが、この惨状の中でそれを出来るということに誰もが瞠目する。崩壊した校舎、破壊尽くされマグマの池が出来ている校庭、メラメラと燃え続ける樹木。そんな中、フールの興奮した叫び声だけが響き渡っていた。そして

 

 

 

 

―――その日、帝国魔法学院は消滅した。

 

 

 

 ジエットの進学試験へ対する心配はなくなり―――

 シャルティアの教師生活に憧れる未来もなくなり―――

 フールーダの魔法少女生活もなくなり―――

 レイナースの期待した甘酸っぱい学生生活もなくなった―――

 

 そして、賠償と言う名の借金のみをペロロンチーノが得るのであった。



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第14話 男の娘モノはBLモノとの境界線

―――スレイン法国

 

 

 議場のような場所に7人の男女が集まっていた。最高神官長及び6大神殿それぞれ、火水風土光闇の神官長である。彼らが何をやっているかと言うと・・・・・・掃除である。法国の最高権力者が掃除等と思うかもしれないが、神のために議論する議場を清潔に保つことはこの上ない栄誉であり、他の者に任せることなどできない。

 掃除が終わり、最高神官長が代表して神への感謝を述べる。

 

「今日も人間たる我々の命があったことを神に感謝します」

「「「「「「感謝します」」」」」」

 

 祈りが終わり、最高神官長が本日の議題を発表した。とは言ってもこの場で真っ先に話す議題など、かの者たちの話題しかないのであるが。

 

「では闇の神官長、報告を頼む」

「分かりました。では、占星千里からの報告を書き記したものを回しますのでご覧ください」

 

 そう言って紙を渡す闇の神官長の頬には紅葉のような赤い痕があった。まるで手のひらの形のようだと誰もが思う。そして面倒なことをする、と。回された紙を読み終わり、土の神官長が叫ぶ。

 

「嘘だ!難度200の悪魔を撃退し、第10位階の魔法を使いこなすものなどおるはずがない」

「帝国の魔法学院を消滅させただと。そしてその魔法を使った者と同等の力を持つものがさらに二人もいるとは」

「これはやはり100年の揺り返しではないのか」

「分からん。どこかに潜伏していた可能性もあるからな」

「それよりもその者たちが人間に対して敵なのか味方なのかと言うことが重要だ」

 

 神官長達はお互いの顔を見回し、彼ら・・・・・・冒険者チーム《変態》のしでかしてきたことを何度も読み返す。そして代表するように最高神官長が口を開いた。

 

「王国で冒険者として活躍・・・・・・と言っていいのかどうか分からんが、とにかく活動し、そうと思えば王国の暗部、八本指に肩入れし、そうかと思えば入ったばかりの八本指を壊滅させ、王国のために悪魔と戦ったと思えば、貴族と敵対し追放される。帝国に活動拠点を移したかと思えば冒険もせずに、学院の教師だと?何がしたいのかさっぱり分からん」

「強さから言えば神か魔神かいずれかと思うのだが、やつらの目的は何なのか・・・・・・」

「ふっ・・・・・・」

 

 議論が白熱する中、闇の神官長が笑いを漏らした。

 

「何がおかしい」

「闇の神官長、おぬし何か隠し事でもしておるのか」

「神の前に隠し事など、不敬にもほどがあるぞ」

「いえ、そうではありません。まぁ私の胸に仕舞っていても胃が痛いだけですし、話しましょう。皆さんもご存知でしょうか。占星千里の事件のことは」

 

 占星千里の事件とは、情報収集後しばらく情報を話そうとせず部屋に閉じこもってしまった事件のことだ。

 

「その占星千里からの詳しい報告書がこちらです。最初に見せた場合皆さんに信じてもらえないかと思いまして」

 

 そう言って、回された紙を見た神官長達は顔を真っ赤にして俯く。

 

「お、お、お前!これを占星千里に報告させたのか!」

「もしやその頬の赤い痕はその時のものか!若い女子にこのような報告をさせおって。この下種が!」

「うらやましい・・・・・・」

「なぜ私も呼んでくれなかったのか!」

「あとでもっと詳しい話を聞かねばな」

 

 そんな男たちの声の中、唯一の女性である火の神官長が軽蔑したような目で彼らを見た。

 

「おぬしたち・・・・・・最低じゃな」

「おほんっ!それで・・・・・・この報告書によるとその者は王国で多くの女性を半裸に剥き、さらに王女とその騎士を無理やりに×××(ピー)させ、×××(ピー)×××(ピー)×××(ピー)にするようなところを見物し、帝国魔法学院でも女生徒たちのスカートがめくれるところを愛でていたと・・・・・・」

「おい、言葉に出すな。恥ずかしい」

「これはセクハラではないのか!占星千里に訴えられたらどうするのだ!」

 

 そんな他の神官長達からの批判に闇の神官長が真面目な顔で答える。

 

「セクハラではないですとも。目撃した事実の報告を求めただけですから。涙目で恥ずかしがる占星千里に王女のどこに何をどうしたのか詳しく、ええ、詳しく状況報告させただけです。それはもうじっくり時間をかけてね。まぁ、私の気持ちが通じることなくこうして頬にご褒美・・・・・・いや、ビンタを食らってしまいましたがね」

 

「では、これより闇の神官長の懲罰動議を行いたいと思・・・・・・」

「「「「「異議なし」」」」」

 

 発議に被る形で決議が即時なされた。闇の神官長が神官たちに連行されていく。

 

「光ある限り闇がある・・・・・・女子がいるかぎりセクハラがある・・・・・・例え私がここで消えようとも第2第3の闇の神官長があらわれ・・・・・・」

「さっさと連れていけ!」

「はっ!」

 

 闇の神官長を見送り、穢れた議場を再度掃除した後、残った6人は頭を悩ませる。

 

「さて、冒険者チーム《変態》についてだが、おぬしたちどう思う」

「王国では墓地の事件の解決や悪魔騒動解決で英雄扱いか・・・・・・」

「帝国兵に扮して王国の村々を焼いて回っていた部隊の一つが全滅しておる。これは奴らの仕業なのではないか?」

「陽光聖典ニグンがその近くでガゼフ・ストロノーフを屠っておる。ニグンと遭遇する前にガゼフが殲滅した可能性もあろう」

「推測の域はでんな。だが、エ・ランテル近くの野盗のアジトで野盗と冒険者を殺したのはやつらで間違いないな?」

「それは間違いない。目撃者を呼んでおる」

 

 神官長に呼ばれ、鎧を着た長髪の黒髪の男と手首を錠と鎖でつながれた女が連れてこられる。

 

「お呼びにつき、漆黒聖典隊長参りました」

「ぺっ・・・・・・」

 

 礼儀正しく礼をする隊長とは対照的に連れてこられた女は神のために清掃したばかりの床に唾を吐く。神官長達が眉にしわを寄せる中、漆黒聖典隊長は語りだす。

 

「はい、野盗も冒険者もその二人、いや、そのうちの一人シャルティアなるものが殺しております。それも弄びながら。そしてその者は紛れもなくヴァンパイアでした」

「もう一人の男はどうなのだ」

「冒険者たちをヴァンパイアから守ろうと何度も噛みつかれておりましたが、それほどの負傷を負っていたとは思えません。同等の力があるように思えます」

「人間を守ったということはヴァンパイアと敵対していた?それとも眷属にされたか。ヴァンパイアは吸血することにより眷属とすると聞く」

「魅了の魔眼で操られている可能性もあるな」

「私には非常に仲睦まじく見えましたが・・・・・・」

「王国では悪魔の襲来から人々を守っており、王国の貴族がその英雄性に恐れ、罪を着せていますがそれも甘んじて受け入れておるな」

「人を守ったとは言い切れまい。目の前の敵を排除したのみかもしれん」

「ところでこの話を番外席次には?」

「しておりません。したらその者の子供を産みたいなどと言い出しかねません。いずれ知られるでしょうが・・・・・・」

「お前はどう思うのだ。直接会ったのだろう。クインティアの出がらしよ」

 

 その場にいる全員がクレマンティーヌを蔑んだ目で見つめる。彼女がここに居た時見慣れた目だ。

 

「なぁに?あたしなんかに頼っちゃってるわけ?王国の牢屋にいるところを攫ってきやがって糞が」

「クレマンティーヌ。生かされておるだけ感謝せよ。お前の奪っていった至宝、叡者の額冠のことも答えるのだ」

「知るか!つーかあいつに関わるなら勝手にやってよ。あたしはもう関わりたくないんだからさ」

「・・・・・・では自ら話したいようにしてやろうか?」

 

 冷たい目で見降ろされる。こいつらはやると言ったらやる。人類の守り手などと言っているが大を救うために小を見捨てるどころか小を殺し、焼き、苦しめてもなんとも思わない糞どもだ。神のためならなんだってする。クレマンティーヌは諦めたように息を吐いた。

 

「はぁ・・・・・・あいつらに捕まったらおまえらが想像もできないような目にあわされるよ。あれは本当の変態だ。おまえらも人類のためとか言ってエグいことやりまくってるけどあいつらの頭ん真ん中はもっととんでもない。捕まってこれからどういうことをあたしにするかたっぷり語ってくれた・・・・・・。ははっ!おまえらがそんな目に合うと思うと少しはすっとするよ」

 

 クレマンティーヌは彼らが自分に行うと宣言したプレイの数々を語る。それを聞いた神官長の面々が顔を赤くしたり青くしたりしているのが良い気味だった。 

 

「そ、そのような・・・・・・何と邪悪な・・・・・・ケツに・・・・・・×××(ピー)だと」

「どういう脳味噌をしてるのだ。×××(ピー)とは可能なのかそのような・・・・・・」

×××(ピー)とか天才のそれかよ・・・・・・」

「ヴァンパイアとして喜んで人の血を啜っている以上やはり人類の敵なのだろう。それにその変態性、見過ごすわけにはいかん。これは人類の・・・・・・女の危機じゃ」

「ババアに用はねーんじゃねーの。きゃはははは」

「黙れクレマンティーヌ」

「やはり破滅の竜王の捕獲を急ぐべきか・・・・・・」

「そうだな・・・・・・漆黒聖典に命じる。破滅の竜王(カタストロフドラゴンロード)を捕獲するためトブの大森林へ再度向かうのだ」

「はっ!」

「ところで、この報告書によるとやつらが出入りする遺跡を見つけたのであろう。潜入などの捜査は行っているのか」

「占星千里により平原にある遺跡の監視を続けているが、その内部までは探知できない。情報阻害の対策が施されているようだ。反撃の可能性もある。そこで帝国の貴族を使うことにした」

「帝国の?」

「遺跡の情報を貴族に流したところワーカーを雇って調査に乗り出した。うまく動いてくれたわい。それに対して奴らがどう動くか監視と行こうではないか」

「暫定としては、やつらは人類の敵として想定して動くこととしよう。用心に越したことはない」

「「「「「異議なし」」」」」」

 

 こうして、スレイン法国は破滅の竜王(カタストロフドラゴンロード)の捕獲、そして間接的にナザリック地下大墳墓の捜索に乗り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――帝都 郊外

 

 屋敷にバジウッドの姿はなく、ジルクニフ、フールーダ、レイナースにさらにもう一人の人物が参加していた。《激風》ニンブル・アーク・デイル・アノック、金髪碧眼美男子、貴族出身の騎士であり、鎧で身を包んでいる。

 

「陛下。最近城に居ないと思ったらこんなところにいたんですか。秘書官のヴァミリオンが仕事押し付けられて泣いてましたよ。ところで、私をお呼びになった理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「ああニンブル。バジウッドが任務中体調を崩してな。後任として勤めてもらいたい」

「はぁ・・・・・・バジウッドからは胃を悪くしたと何となく聞いてますが、あの帝国魔法学院が《謎の》爆発で消滅した件でしょう。ですが本当なんですか?魔法一つでマグマの池が出来たとか周囲一帯吹き飛んだとか」

「いかにも!あれこそは魔法の深淵!魔法とは第10位階まであると言われていたがそれを証明する者はいなかった。あれこそが、あれこそが!もう、もう私は・・・・・・私はい・・・・・・い・・・・・・」

 

 フールーダが興奮した様子でさらに続けようとする。フールーダにとってあの魔法学院での時間は至高の時間であり、いまだに夢幻の中にいるような気持ちであった。求めても求めても手の届かなかった世界をその目で見られたのだ。

 

「じい、もう黙っててくれ。話にならん」

「フールーダ様がここまで興奮されるということは本当なんでしょうね。それで、どうするんですか?」

「魔法学院はなくなったが、被害者は0だ。いや、バジウッドが倒れたくらいか。教師も生徒も無事でいるんだ。学業をする場所など別に作ればいい」

 

 とはいうもののジルクニフも学園の崩壊までは想定していなかった。あの魔法は想定外だ。しかも、あれでも手加減していたと言うのだから笑うしかない。被害額はかなりのものだが、それはこれからペロロンチーノに払ってもらえばいいと思考を切り替える。ニンブルもそこは気づいているようで思考を変える。キレる男だ。

 

「いえ、学院も心配ですが、その二人です。危険では?」

「ああ、危険だな。何が危険かと言うと自分たちの力と言うものがどれほどの影響力があるのかまるで気にしていないところだ。扱いを間違えれば国が滅ぶほどだというのにな」

 

 ジルクニフは認識を改めた。あれは簡単に振るってよい力ではない。帝国に取り込めればと思っていたが、絶対に敵にしてはいけないだけでなく、安易に振るってはいけない力だ。

 

「それでどうされるのですか?」

「順番に言うぞ。まず一つ目だ。今回の魔法学院の事故については、彼らに賠償を負ってもらうことになっている。そしてそれが払えないというであれば私が肩代わりする。つまり、彼らの弱みを握るのだ。そして、その賠償として頼みごとをする。つまり利用するのだ」

「彼らほどの強者がそれを認めるでしょうか」

「認めなかったとしたら、それはそれで負い目になろう。敵対したときの命乞いの材料くらいにはなるかもしれないな」

 

 ジルクニフは自嘲気味に笑う。力ずくでこられたらもうどうしようもないのだ。フールーダさえああなのだから。

 

「それで頼み事とはどのようなものをされるのでしょうか」

「王国との戦争の先兵・・・・・・とかですか?」

「それは無理だ。彼らは王国に敵対心を持っていない。それにあの国は悪魔に襲われ多くの死者が出ている。そのような状態で攻め入れば国民からの反発が考えられる。占領しても統治はうまくいくまい。喪に服している間は、こちらからは弔意を出すこととしている」

「では、彼らに何をさせたいというのですか」

「王国の村々が襲われた件で帝国兵が犯人だという噂が流れているのは知っているか」

「ええ、ガゼフ・ストロノーフが殺された件と関係ある話ですね」

「そうだ。あれはガゼフをおびき出すために王国の貴族が仕掛けたのだろう。だが、裏ではスレイン法国が手を引いていると私は睨んでいる」

「スレイン法国ですか・・・・・・しかし、あの国は人類の守り手。そのようなことをするでしょうか」

「はっ!人類を守るためならどのような事でもするだろうさ。王国の最大の戦力を殺すことで帝国に王国を併合させようと動いていたんだろう。だが、そうなったら今度は法国の圧力に今以上に苦しむことになるだろうな。この国のためになるのであればよいが、人類のためと平気で無辜の村人を殺して回るような連中だぞ。役に立たなくなったら簡単に切り捨ててくるだろうな。信用できるか」

「そこで・・・・・・あの冒険者たちですか」

「そうだ。やつらに法国の動きを探らせる。うまくぶつかってくれるといいな」

「そううまく行くでしょうか」

「やつらには一国を滅ぼせる力があると私は見ている。うまく動かすんだ。私はやつの友人であり、借金の肩代わりまでしているんだからな」

「ですがすべて彼ら任せというのは危険ですね」

「その通り、そこで二つ目だ。あの学院でペロロンチーノが言ったことを考えてみた。命を奪うことによるけいけんちとれべるあっぷなるものについてだ。私なりに彼の言葉を言い換えると、命を奪うことによって人は強くなる。そして殺す相手は自分と同等の実力以上が望ましい。さらに一つの職でなく様々な職で行うことでさらに強くなる。どうだ?じい」

「さすがは陛下。かの御方の言葉をよく理解しておりますな。私は彼の言葉に目から鱗が落ちましたぞ」

「ニンブル、お前はどうだ?今の話に思うところはないか?」

「確かに強敵を打倒したとき、ふいに全身に力が漲り、強くなったと感じる瞬間がありますが、まさかそれが・・・・・・?」

「戦士でない私には分からんが、お前たちがそう感じるのであればそうなのだろう。これはまさに神の知恵ともいうべきものではないだろうか。これが本当であるならば命とは資源と見なすべきものになる」

「命が資源?」

 

 聞くものが聞けば非常に危険な言葉だ。もし神殿勢力が聞いていたらただでは済まないだろう。だが、ジルクニフはいるかいないか分からない神などより現実の知恵を是とする。

 

「まず、死刑囚たちの処刑はこれまで執行官が行っていたが、これは資源の無駄遣いと言えるだろう。死刑執行は特定の一人で行い、けいけんちなるものを得るべきだと考える。だが、命は有限だ。そう殺してばかりはいられない」

「どうするのですか?」

「そこで、じいの研究だ。アンデッドの自然発生の研究をしていたな。それをうち進めるのだ。無限にアンデッドを生み出すことに成功すれば、それを倒し続けることで人は無限に強くなれるのではないだろうか」

「おお!さすがは陛下。じいは感服いたしますぞ。かつて死の螺旋なる無限にアンデッドを発生させる儀式があったと聞きます。カッツェ平原で実験を行いましょう。巨大な穴を掘り、そこに死体やアンデッドを大量に入れることにより自然発生や強大なアンデッドの発生も見込めます。そしてその無限に続く至高への道を進む役にぜひ私を・・・・・・」

 

 このジルクニフの案こそナザリックのアンデッド自動発生のメカニズムに近いものであったが、知る由もないところ考えつくのはさすが帝国史上最高の頭脳を持つとよばれるだけはあった。

 

「自分と同等以上の相手でないと効率が悪いという。強者たるじいでは効果が薄かろう。他の者で実験せよ。その上で倒せないほどの強大なアンデッドが出現した場合ははじいにまかせる形でいいだろう」

「そうですな。では、私の高弟から見繕いますかな」

「次に3つ目だ。ペロロンチーノはエルフの奴隷を大量に買っていったらしい。これはエルフに同情した、または救うために動いたと見ているがどうだ?」

「そのようですね。その証拠に購入したエルフの耳を強大な回復魔法で癒しております」

「法国の圧力がある以上、奴隷制を廃止などできないが、やつとの交渉には使えるだろう。エルフの待遇改善を条件などな。まぁこれは相手次第だ」

「そして4つ目だが・・・・・・。レイナース。れおたーどなる服が出来上がったのだが・・・・・・」

「それですが、陛下。私はこれ以上あの御方を欺くようなことはしたくありません」

「なん・・・・・・だと?」

 

 レイナースは一直線にジルクニフの目を見つめ、ジルクニフが顔を顰める。

 

「あの御方に恩を受けておきながらちゃんとした礼も述べておりません。私は本当のありのままの自分であの方と向かい合いたいと思います」

「まぁ、待て。本当の自分が奴に拒絶されたらどうするのだ。ここは奴の好みに合わせて・・・・・・」

「偽りの自分を見せて気に入っていただいてもそれでは意味がありません。例え拒絶されようと気持ちだけは伝えたく思います」

「そう急ぐことも・・・・・・」

「いえ、陛下。私の気持ちは決まっております。ご安心ください。この場のことをあの御方に漏らすようなことは致しません。ただ、私は私のこの気持ちに従います。それでは失礼」

 

 そう言って、レイナースは去っていった。ジルクニフは己の手に残った衣装を見つめる。金、同情、友情あらゆる手を使って懐柔する気ではいるが、やはり欲や愛によって縛るのが望ましい。そして、ふと思いだす。ペロロンチーノが言っていた男の娘・・・・・・という属性について。

 

「ニンブル。お前なかなか綺麗な顔立ちをしているな」

「え?え?突然何を言われるのですか。陛下」

「おまえならば女装しても行けそうだな・・・・・・どうだ?」

 

 そう言ってれおたーどを差し出すジルクニフ。

 

「いやいやいやいや、どうだじゃないですよ!勘弁してくださいよ陛下」

「それならば私が・・・・・・」

「じい、お前の幻術は見破られただろう」

「そうでしたな。くぅ・・・・・・無念ですわい。あの御方の御傍に仕えて深淵を覗きたいと思っておりましたのに」

「そう言うわけだ。頼むぞ、ニンブル」

 

 この皇帝も帝国最強の魔法詠唱者もだめだ。帝国の未来は終わった。ニンブルはそう思い、バジウッドが倒れた理由がやっとわかった気がした。 

 

 

 

 

 

 

―――歌う林檎亭

 

「仕事をしようと思います」

「わらわのせいでありんすね・・・・・・。ペロロンチーノ様、もう・・・・・・もうわらわはこの身を売ってでも借金を・・・・・・」

「何を言ってるんだ。シャルティア、お前にそんなことをさせられるわけないだろう」

「ペロロンチーノ様・・・・・・」

 

 そう言ってわざとらしく抱き合う二人。アウラはそんな二人を冷めた目で見つめる。

 

「あのペロロンチーノ様、シャルティアをそんなに甘やかさないでください。そんなだからいつまでもこの子は馬鹿なんですよ」

「あれは女学生の下着に夢中になってた俺の責任でもあるからなぁ・・・・・・」

「ええ!あの時そんなものが見えてたでありんすか!?魔法に夢中で気づいてなかったでありんす」

 

 両腕をパタパタさせて悔しがるシャルティア。そのシャルティアの肩に手を置き、まるで彼女を導く指導者のようにペロロンチーノが語り掛ける。

 

「まだまだ甘いなシャルティア。もっと広い視野で世の中を見るんだ。思考を回転させるんだぞ」

「ペロロンチーノ様。良いこと言ってるようですが、それ駄目なやつだと思います」

「そんなことないでありんす!ペロロンチーノ様は正しいでありんす!」

「そう言うことで仕事をします。すっかり忘れてたけど俺たちは冒険者だったので冒険に出かけます」

「デミウルゴスにもらったお金はどうしたんですか?」

「エルフを買うのに使いすぎた」

「じゃあもっとナザリックから持ってくればいいですよ。まだまだありましたよ」

「人の物を期待するのもな・・・・・・やっぱエロゲは自分で買ってこそだからな」

「そうでありんすよ。まったくアウラは分かってないでありんすね」

 

 当然、シャルティアは意味が分かってない。

 

「でも冒険者かぁ。そういえばあたし冒険者の仕事ってしたことないです」

「ふふん、わらわが、先生のわらわが教えてやるでありんすよ」

「あんた教師クビになったじゃん」

「あれは・・・・・・あれは・・・・・・」

 

 何か言い訳をが探そうとしているようだが、シャルティアにはまったく見つからないようで目がぐるぐる回っていた。可哀そうになったアウラは話題を変えてあげる。

 

「ところでペロロンチーノ様。その顔の呪いの傷いつまでそうしておくんですか?」

「ああ、これ。もう呪いはとっくに解除されてるんだけど傷があるように擬態しているんだ。フラグのために」

「フラグ?ああデミウルゴスが言ってたやつですか」

「うまく立てばいいんだけどな。さて、ということで、アウラとシャルティアは冒険者組合で依頼を受けてきてくれ。俺はジルさんに謝ってくる。身を切る思いだが、俺に策が・・・・・・ある!」

「わかりました!報酬の多いの選んできますね」

「さて、この料理の美味しい宿屋ともお別れかな。行くか」

 

 金がない以上、これ以上宿屋に泊まって散財するわけにもいかない。維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)をつけながら、名残惜しそうに歌う林檎亭を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――帝都 郊外

 

 

「この度はうちの子が大変なことをしでかしてしまいまして・・・・・・すんませんでした!!」

 

 DO・GE・ZAである。最大級の謝罪の姿勢、そしてここまでするんだから許してという気持ちを込めた姿勢である。ジルクニフは目を丸くするが、すぐに助け起こす。

 

「頭をあげてくれ。ペロロンチーノさん」

「しかし、仕事を紹介してもらったのにその仕事先を壊してしまって・・・・・・」

「大丈夫ですよ。私のほうで費用は建て替えておきましたから。それに建物の被害だけで怪我人はゼロですから。人さえいればどこでも学校は再開できます」

「そう言っていただけるとありがたいですが、弁償はさせていただきます。あの・・・・・・これが俺の持っている全額で・・・・・・」

 

 そう言って机に置かれたお金はジルクニフが想像していたよりかなりの多い金額だ。魔法学院の再建の頭金には十分足りるほどである。それでもすべての弁償費用には足らないが。

 

「そしてこれを・・・・・・ぐぎぎ・・・・・・これを・・・・・・売って・・・・・・」

 

 そう言ってペロロンチーノが1冊の本を差し出す。目に涙を浮かべ、その手は震えていた。よほど価値のある本なのだろう。魔法学院の建物に匹敵するだけの書物・・・・・・魔導書か技術書か、ジルクニフはそれから得られる国益を考えながらそのページを開いた。

 

「これ・・・・・・は」

 

 そこには先日ジルクニフが作ったメイドの本に似ていたが、そこに写っているのはモンスターであった。すべて女性系のモンスターで扇情的な格好の悪魔や、半人半獣で上半身が裸のもの、妖精や人魚など艶めかしいが大切な部分は微妙に隠されている。これはモンスターの生態の研究資料としては価値があるだろうが、ペロロンチーノはそのようなつもりで集めたのではないだろう。エロ系モンスターを集めたペロロンチーノ秘蔵の品であった。これが魔法学院に匹敵するだけの価値があるのだろうと思っているのだと考えるとジルクニフは引きつった苦笑いが出そうになるが懸命にこらえる。

 

「だめだよ。これはもらえないよペロロンチーノさん。これは君が持っていてこそ価値がある」

「ジルクニフさん!」

 

 ペロロンチーノは同志の手を掴む。やはり同じくエロを嗜むものとして分かってもらえた。万感の思いであった。

 

「お金はある時払いの催促なしでいいから。ちょっとずつでいいから返してくれれば」

「それじゃさすがに悪いですよ。何か代わりになるものと思ってこれを持ってきたんですが・・・・・・」

「別の物ではどうだい?例えば商人から君がエルフを買い占めたという話を聞いたんだが、それを売るというのは?」

「すみません。彼女たちはもう別の場所に移して保護しているんです。そう言うわけには行きません」

 

(この短期間に帝国から連れ出した?どうやって?検問からそのような報告もないということは・・・・・・転移か?彼らほどの力があれば他者を転移させる魔法が使えてもおかしくはない・・・・・・)

 

「気を悪くしたならすまない。そういう方法もあると言っただけだ」

「分かっています。じゃあ、他に何か俺に出来ることがあれば言ってくれますか?」

 

 その言葉を待っていた。先ほどのモンスターの本は度肝を抜かれたが、流れはジルクニフの思う通りに進んでいる。

 

「では・・・・・・こういのはどうかな。ペロロンチーノさんは冒険者。私が依頼をお願いするので、その依頼を請けることで弁償費用に充てるっというのは」

「それでしたら喜んで。それでどういう依頼ですか?」

「実は・・・・・・」

 

 ジルクニフは王国の村民が殺されていること、それを帝国兵に偽装した者が行い、帝国へ罪を擦り付けていること。そしてその犯人を突き止めて欲しいことなどを依頼する。

 

「そういえば、前に王国でそんな連中見ました。あれが・・・・・・」

「知ってるのかい!?」

「ええ、ではその周辺を調査するということでいいでしょうか」

「ああ、ぜひお願いするよ。これは王国の人々のためでも、我々の名誉のためでもあるんだ。頼めるかい?」

「同志の頼みです。お任せください!」

 

 チョロい。魔法学院では失敗したが、うまく操れそうだ。部屋から出ていくペロロンチーノを見ながらジルクニフはほくそ笑みを隠し切れなくなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――街道

 

 ジルから依頼を受けた帰り道、ペロロンチーノは女性の声で呼び止められた。男だったら無視してもいいが、女だったらまずは顔を見るしかない。振り向くと騎士の恰好をした女性。顔には見覚えがある。以前二度ほどぶつかってきたことがあるエロいお姉さんだった。

 

「突然失礼します。私の名はレイナース・ロックブルズと申します。先日は、大変お見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした」

 

 そう言って、深々と頭を下げるレイナース。以前がとんでもない恰好をしていたので、女騎士の凛々しい姿とのギャップが映えている。

 

「いえ、気にしないでください。見苦しいどころか、無理して恥ずかしがってるところがとても可愛らしかったですよ」

 

(か・・・・・・可愛い!?私が!?可愛いイコール好き。好きイコール愛している。これは結婚しようって言うこと!?)

 

 恋愛経験0のレイナースの頭は混乱のあまりおかしな計算式から混沌の答えを導き出す。

 

「いきなりすぎます!まだ早いです!で、でもその前に呪いを解いていただいたお礼を言っておりません。あの・・・・・・ありがとうございました!」

 

 深々と頭を下げるレイナース。これについてはいくら感謝してもしたりない。しかもその呪いは彼に移ってしまっているのだ。

 

「あの・・・・・・それであなたに移ってしまった呪いは大丈夫なのでしょうか?私のせいで苦しんでいるのでしたら・・・・・・」

 

 そう言ってペロロンチーノの顔に手を触れる。じっと物憂げに見つめてくる綺麗な青い目に今度は恋愛経験0のペロロンチーノが戸惑う。

 

(近い近い近い!ちょっ、やめて!そんな澄んだ瞳で見ないで!俺の醜い心を見ないで!)

 

 フラグを立てるために呪いを顔に残している自分が酷くちっぽけで醜く見えてくる。そんな自分に本気で感謝し、そしてペロロンチーノを心配して心を痛めている彼女とエロのために突き進む自分。心が痛い。

 

「だ、大丈夫ですから。このくらいすぐ治りますから」

「すごく感謝してるんです。私はモンスターからその呪いを受けて・・・・・・家を追放され・・・・・・誰もから奇異なものを見る目で見られて・・・・・・ぐすっ・・・・・・もうずっとそうだと諦めてたのにあなたが・・・・・・救ってくれたんです・・・・・・」

 

 レイナースの瞳から涙がこぼれ落ちる。つい言わなくて良いことまで言ってしまったが、レイナースは自分でも何を言っているのかもう分からない。

 

「だから・・・・・・いくら感謝してもしたりません。あなたのために何でもしてあげたいんです」

「ん?今何でもっていったよね」

 

 条件反射でテンプレを返してしまったペロロンチーノ。下種の上に下種を重ねる自分の行動に罪悪感が心の中で暴れまわる。

 

「はい!あなたのためならば!どんなことでも致します。何でも言ってください」

 

 真面目に返されてペロロンチーノは頭を悩ませる。これはどうすればいいのか。欲望のまま希望を言っていいのか悪いのか。これは感謝なのかそれ以上もオッケーなのか。恋愛経験0のペロロンチーノには判断できない。しかし、それはレイナースも同じで頭が沸騰してさらにおかしなことを言いだす。

 

「だから・・・・・・その・・・・・・私の部屋に来ませんか?」

 

(わ、わわ私は何を言ってるんだ。やっぱり陛下の知恵を借りないと私一人ではだめなの?これで来ますって言われたら私は・・・・・・。で、でも来てくれたらこの身を差し出しても・・・・・・キャー!)

 

(これはオッケーと言うことなのか?ここで行きますと言えばいいのか。エロゲだったらどうだったか。いやいやここはフラグを信じて・・・・・・いや、死亡フラグと言うこともある。どうする、どうする俺)

 

 恋愛経験のない同士で内心悶絶して見つめ会っている二人であったが、ペロロンチーノの心が先に折れた、ポッキリと。

 

「えーっと・・・・・・えーっと・・・・・・仕事があるんでまた今度!!今度お邪魔します!」

 

 そして、ペロロンチーノ(ヘタレ)は問題の先送りして走って逃げるのであった。

 

 

 

 

―――こうして、ペロロンチーノはジルクニフの依頼を受けることになるが、シャルティアとアウラが向かった冒険者組合では、(シルバー)クラスで一番報酬の高い仕事、すなわち未知の遺跡への探索隊護衛及び荷物運びを受けてきていた。

 ダブルブッキングとなったペロロンチーノはチームを二つに分けることとする。ペロロンチーノとシャルティアはトブの大森林周辺の調査へ、アウラは護衛と荷物持ち。このチーム分けがその後の彼らの運命を変えることになるのであった。



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第15話 エロRPGは次のエロシーンまでが長い

―――トブの大森林 南部

 

 草原に数十人の人間が集まっていた。彼らは運んできた馬車で周囲を囲み、野営の準備をしている。貴族より遺跡の調査を依頼されたワーカーチームたちだ。フォーサイト、ヘビーマッシャー、天武など冒険者のクラスで言えばミスリル級に匹敵する人員が多数集められていた。未探索の遺跡、それはこれだけの人員を雇う価値があるものであるとともに、危険をともなうものなのだ。そんな準備の最中、怒鳴り声が聞こえてくる。

 

(ゴールド)級と(シルバー)級の冒険者しかいない?それで我々が遺跡に潜っている間野営地を守れるのですか!?」

 

 声の主は天武のリーダー、エルヤーであった。依頼主の代理人である執事に詰め寄っている。それを見た他のワーカー達は顔を顰める。ここで諍いをおこして良いことなどあるはずがないと誰でも分かるはずである。それを分からない男。誰か殴ってても止めろとワーカー達が思う中、一人の少女が馬車の中から顔を出した。

 赤黒い鱗のようなものを張り付けたぴっちりした軽装鎧の上から白地に金糸の入ったベストを着ている。(シルバー)級のプレートを付けているにも関わらずその場の誰よりも高級な装備に思われた。そしてそんな彼女はよほど膂力があるのだろう。大量の荷物を涼しい顔で運んでいる。自分が注目されていることに気づいたアウラはワーカーたちを見つめる。

 

「ん?なぁに?」

「おまえはあの時の!」

 

 エルヤーが叫ぶ。忘れるはずもない。自分の邪魔をし、金にモノを言わせてエルフを買い占めたあの忌々しい男の奴隷だ。

 

「え?誰?」

「奴隷市場にいたあの男の奴隷だな。あの時の男も一緒にいるのか?」

「ペロロンチーノ様のこと?いないよ?」

 

 その言葉にエルヤーはほくそ笑む。あの男の居ない間にこのダークエルフをどうしてくれようか。ダークエルフに人権など存在しない。挑発し、怒らせたところを返り撃ちにしてくれようか。あの男はさぞかし悔しがることだろう。

 

「じゃあお前が我々の護衛を?ふふっ、笑わせてくれる。ダークエルフ風情に護衛が務まりますかね、それも(シルバー)級冒険者程度とは」

「は?何それ?喧嘩うってるの?」

「喧嘩?いえいえ、これはテストですよ。我々の護衛が務まるかどうか。力を試して差し上げようと」

 

 そう言ってエルヤーは刀を抜いた。周りにいた他の冒険者たちが止めようとするがアウラがそれを手で制する。

 

「ふーん。で、あたしが負けたらどうするの?」

「そうですね・・・・・・ふふっ、ではあなたが負けたら私の物になるというのはどうですか?」

「は?あんたあたしのこと好きなの?」

「何を馬鹿な。奴隷は奴隷らしく私がしつけてやるというだけですよ」

「あんたの奴隷に?まぁ負けるわけないし良いけど。じゃああんたが負けたらその後ろのエルフ3人をくれる?なんかペロロンチーノ様が集めてたみたいだから」

 

 生意気な、と思うがどうせこれから死ぬんだ。最後くらいは言いたいことを言わせてやろうとエルヤーは耐える。

 

「・・・・・・いいでしょう。ですが、その余裕が命取りです」

 

 アウラとエルヤーは野営地から離れていき、それを冒険者やワーカーたちが見つめる。その誰もがあのダークエルフは殺されるのだろうと思っていた。ダークエルフに帝国では人権はない。殺されたとしても物損として扱われるだけだろう。しかし、フォーサイトの面々だけは違う感想であった。

 

「おいおい、止めなくていいのかよ」

「あの糞野郎死んだわね。ざまあみろだわ」

「イミーナやめてください。あんなのでも一応潜入チームの一つなんですからその分我々の負担が増えますよ」

「あいつがいたほうが面倒事が増えると思うけど?それにいなくなってくれれば見つかる財宝も増えるかもしれないじゃない。ねぇ、アルシェ」

「うん・・・・・・そうだね。多分あの人じゃ勝てない。いえ、この場の誰でも勝てない」

「安心しろアルシェ。あんなやついなくなっても俺たちならやれるって」

 

 ヘッケランのおどけたような言い方にアルシェは頬を緩める。今回の探索はアルシェの借金のために受けたも同然であり、仲間たちには感謝してもし足りない。これから探索する遺跡は未知のものであり、危険は計り知れないがこの仲間たちとならきっとうまくいく。アルシェは仲間の優しさにしっかりと頷くことで答えた。

 

 

 

 

 

 

 ―――《テスト》の結果は、アウラの圧勝であった。

 

 エルヤーの斬撃をヒラリヒラリと退屈そうに避け、次第にエルヤーの息が上がっていく。終始余裕を持って最後はエルヤーを鞭で撃ち据えて下した。それもまるで本気を出している素振りも見せず手加減をして、である。ミスリル級に匹敵する仲間が(シルバー)級に破れる。ありえない光景に場が静まり返るが、敗者に同情する者はいない。この場にいる者は力こそすべてと言える世界で生きている者であるからである。弱ければ死ぬしかないのだ。しかも、エルヤーは地に伏せてはいるが、大した怪我はしていない。

 

「じゃ、約束通りこの子達はもらっていくねー」

 

 アウラに手招きをされたエルフ達は嬉しそうにアウラについていく。

 

「ぐっ・・・・・・亜人が!」

 

 悔しそうに呻くエルヤーを無視して、アウラはふいに振り返りワーカーたちに問いかけた。

 

「ところでさー。あんたたち何で遺跡に侵入するの?」

 

 その質問にワーカー達は顔を見合わせる。なぜそんな分かり切ったことを聞くのかと思うが、代表して一人が答えた。

 

「そりゃあ・・・・・・なぁ、報酬のためさ」

 

 他のワーカーチームも同様の答えを返す。それ以外何があるというのか。命を張るだけの報酬を約束されている。それを金のためと言わずに何といえばいいのか。

 

「ふーん、くっだらないなー。でも一応忠告しておいてあげる。誰かがいるかもしれない遺跡に入るなんてやめておいたほうがいいよ」

 

 そう言い捨ててアウラは荷物運びに戻る。アウラとしてはシャルティアを真似てちょっとした優しさで言った言葉であったが、残ったワーカー達は苦笑いである。ここまで来てお宝も見ずに帰るなんてありえないのだから。無辜の人々の住処であった場合として忠告したのだろうが、不法滞在者を殺してしまうくらいはやむを得ないとワーカー達は考えていた。そこで得られるお宝に対する期待で頭の中は一杯であり、アウラの忠告はワーカー達の心に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 野営設置や荷物の運搬の仕事が終わり、アウラが一人になったところへ《伝言(メッセージ)》が届く。

 

『アウラ。ナザリックの入り口のあたりにいるようだが、その人間達はなんだね』

「デミウルゴス?もう動けるの?大丈夫?」

『ああ、シャルティアにやられた傷は癒えたとも。それでどういうことなのか説明してくれるかね』

「なんて言うかなー、ナザリック見つかっちゃったみたいだよ。帝国の貴族が捜索隊を雇って連れてきたの。ま、あたしもその捜索隊の護衛の仕事をもらってるんだけど」

『ナザリックが見つかった?そうか・・・・・・このようなことになるなら周りに丘陵などを多数作り幻術なども使用して偽装しておくべきでしたね、うっかりしていました。しかし君がそこにいると言うことはペロロンチーノ様もいらしゃるのかい?』

「んーん、いないよ。ペロロンチーノ様は別の依頼でトブの大森林に行ってるから」

『トブの大森林に?なぜチームを分けたんだい?』

「あー、いや、それは・・・・・・お金がね。まぁ言っちゃっていいか・・・・・・なくなっちゃったんだよ」

『お金?王国から奪った金貨や財宝がまだまだありますよ。資金が不足したならいつでもお届けしますが』

「それがペロロンチーノ様は自分で稼ぐって」

『それは・・・・・・我々は不要と言うことでしょうか』

 

 デミウルゴスの声が自信なさげに小さくなる。ナザリックの者にとって至高の存在の役に立てないということは自分には存在価値がないと思えてしまうのだ。

 

「それは違うんじゃないかな。ペロロンチーノ様は自分でお金を稼ぐのを楽しんでるんじゃないかってあたしは思うなー」

『・・・・・・そうですか。楽しんでいるようであれば何よりです。しかしナザリックを探ろうとは愚かな者たちだ』

「でも侵入されたとしても問題ないでしょ?」

『もちろんだとも。防衛体制は万全だ。そういうことであればしっかりと歓迎の準備をしてやろうじゃないか。ふふふっ、楽しみだね。喜劇となるか、悲劇となるか、どのようなドラマを演じてくれるんでしょうね。ああ、アウラ、君は依頼でそこにいるのであれば、外の状況を逐一報告してくれたまえ。』

「りょーかい。でも、デミウルゴスのプロデュースかぁ・・・・・・あいつらちょっと可哀そうかも」

『アウラがそんなことを言うとは意外だね。人間のことなど気にもしてないと思っていたよ』

「シャルティアの影響かな。なんかあの子ちょっと優しくなったかも。まぁ相変わらず馬鹿だけどね」

『シャルティアは守護者最強の存在であるのだからもう少し頭を使ってほしいのだけどね』

「でもペロロンチーノ様がいるから大丈夫・・・・・・あれ?大丈夫かな?」

 

 よく考えるとペロロンチーノ様も心配で仕方がない。なぜなのか分からないがアウラはシャルティアとともにペロロンチーノ様にも教育が必要ではと考えてしまう。さすがにそれは不敬だろうとアウラはその思考を打ち消した。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓

 

 ワーカーチーム、フォーサイトの4人は混乱の最中にいた。突入後は弱いアンデッド等しかいないので安心しきっていた。さらに財宝の詰まった宝箱もあり、誘われるように奥へ奥へと進んでいたところ突如床の魔法陣が発動し、現在は森の中にいるようであった。空が見えることから外に転移したらしい。

 

「やばいぞ、この遺跡どうなってんだ」

「ヘッケラン、今のって転移よね。転移の罠なんて聞いたこともない。どれだけの存在がつくったの」

「でも外に出られたのではないですか?でもこの建物は・・・・・・」

「転移魔法は第5位階を超える・・・・・・そんな存在が少なくともいる・・・・・・」

 

 アルシェの言葉に全員が身震いをする。森林の中に帝国の闘技場にも似た建物が建っている。その扉が触れもしないのに少しずつ自動で開いていった、彼らを誘っているかのように。はるか向こうに闘技場中央の台が見えている。

 

「入ってこい・・・・・・ってことだよな。どうする?逃げるか?」

「逃げ切れると思う?」

「無理でしょうね。殺す気ならとっくに殺されているような気がします」

「うん、少なくとも何か言いたいことがあるんだと思う。もし話が通じるなら交渉するのが得策。逃げるのはその後でもできる」

 

アルシェのその言葉に納得し、フォーサイトの4人は扉をくぐると、闘技場の中央まで進む。すると突然万雷の拍手が彼らを迎える。周りを見回すと客席に所狭しと詰め込まれたゴーレムたちが手を叩き、足を打ち鳴らしている。そして中央には二人の人物。いや、人物と言っていいのか、一人はスーツを来たカエルのような顔をした化物、そしてもう一人は4本の腕を組み、白い二足歩行の昆虫と言った姿だ。手には刀が握られている。デミウルゴスとコキュートスである。

 

「ようこそ、みなさん。さあ、どうぞもっと中に入ってくれたまえ薄汚れた盗賊たちよ。我々は君たちを歓迎するよ」

 

 カエル顔の化物が邪悪な笑顔で歓迎の言葉を口にするが、それが本当に歓迎とはとても思えない。ヘッケランたちが訝しむような表情をしているのに気付いたのかさらに言葉をつづけた。

 

「ああ、そうとも君たちが思っている通り、歓迎と言っても豪華な晩餐を用意しているわけでも、素敵なプレゼントを用意しているわけでもないよ。ただ、君たちのことを彼が気に入ったらしいのでね。君たちには自分たちの運命を自分で決めてもらおうと思ったわけだ」

 

 少なくとも対話は可能のようである。そう判断し、フォーサイトを代表しヘッケランが交渉を試みることにする。

 

「その前に謝罪させてください。まさかあなたたちの住処とは思わなかったんです。もし賠償が必要と言うのであれば支払います。ですのでどうかお許しいただきたい」

 

 そう言って深々と頭を下げる。仲間たちもそれに続くように頭を下げた。頭を下げるだけならただである。そんな中ふとアルシェを見ると吐き気をこらえているようである。これはあの宿屋で会った者たちに匹敵する魔法を使うと言うことなのだろう。ヘッケランは相手の反応を伺う。下手に出て何とか見逃してもらうしかない、戦って勝つのは不可能だろう。

 

「はぁ・・・・・・。君たちはこの地がどのような場所なのかまるで分っていないのですね。この地こそ至高の御方々が作られた地、神々の住まう場所だ。そこに侵入し財を奪った君たちをそのまま帰すなど出来るものか」

「そのような場所とは知らなかったのです!どうかお許しを!」

「そうだね。君たちに限っては許してもいい。彼、コキュートスが認めた者達なのだから」

「それならば・・・・・・」

 

 一縷の希望に縋るように顔を上げると、まだ続きがあるといったように手で制される。

 

「君たちの能力、チームワーク、心構えに戦士としての輝きを感じたと彼は言うのだよ。戦士ではない私には理解しかねるがね。そこで、君たちには二つの選択肢を用意しよう。彼、コキュートスと戦い、死んで許されるか、許されず生きて地獄を味わい続けるか。私としては後者にしたいところなんだがね。せめてのもの救いに戦って死ぬことを選ばせてくれることに感謝したまえ」

「戦って死ぬことのどこに救いがあるというのですか!」

 

 どちらも地獄でしかない、そう思うヘッケラン達に武人といったいで立ちの白い昆虫が腕を組みながら静かに告げる。

 

「戦士トシテ戦場デ死ヌコト以上の誉レハアルマイ」

「許可もなく至高の御方々の作られたこの地、ナザリック地下大墳墓に侵入し財を奪ったのだ。君たちに拒否する権利などあると思うのかい?」

 

 ナザリック・・・・・・その名を聞いたヘッケランにある考えが浮かんだ。もしかしたら・・・・・・まさか・・・・・・と思うが死地の中では天から降りてきた一筋の糸のようなものかと感じる。

 

「もし・・・・・・許可をとっていたとしたら?」

 

 ごくりと唾を飲み込む。黙っていても殺されるだけだろうと思い発した言葉。それに対する反応は顕著であった。悪魔が黙り込み、昆虫は口から威嚇音を発している。それは彼らより上位の存在がおり、その者の許可があったのであれば許さざるを得ないのだろうとヘッケランは判断する。悪魔は悩んだ末に頭を振る。

 

「ありえない。人間などに至高の御方々がそのような許可を与えるなど。だが、念のために聞いてあげましょう。誰がその許可を出した?」

「名前は言っておりませんでした。ただ・・・・・・」

 

 ヘッケランは覚悟を決める。これから言う言葉が本当に通用するのか。化物が言ったナザリックと言う言葉。ここがその本当にナザリックという土地であれば・・・・・・。古くから伝わる合言葉。それを必死に思い出し、ヘッケランは叫んだ。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」

 

 カエルの化物が、白い昆虫の化物がそして周りのゴーレムたちすべての時が止まった。そしてカエルの化物がブルブルと震え、ヘッケランに詰め寄る。

 

「どこで・・・・・・どこでその名を聞いた!アルベドがその名を名乗ることが出来る者はただ一人と言うので誰もその名を外には出してないはず!誰から聞いた!」

 

 混乱と焦燥、いままで落ち着き払っていた化物とは打って変わり必死の形相でヘッケランを揺さぶる。

 

―――そして、ヘッケランは語りだす。詩人(バード)による詩、絵本、口伝、様々な場で伝わる古の物語を。

 

 

 

 

 

 

―――《一人ぼっちのスケルトン》

 

 むかしむかしあるところに一人のスケルトンがいました

 

スケルトンは世界に、冒険に憧れをもって旅に出ます

 

しかし、スケルトンを見た人間達は彼を忌避しました

 

人間達はスケルトンを何度も何度も打ち、叩き、削り、焼き、斬りつけました

 

スケルトンは何度も何度も死にました

 

スケルトンはそれでも旅を続けようとしましたが人間達は彼を殺し続けます

 

まだ弱かったスケルトンは負け続けます

 

弱いことは悪だから

 

スケルトンが何もする気がなくなりそうになったその時

 

白銀の騎士が彼を救いました

 

そして騎士とスケルトンはともに旅立ち仲間を集めました

 

一人だけでは弱いから。弱いことは悪だから

 

人間から身を守るため、心の拠り所となる最初の9人が集まりました

 

仲間は増え41人になりました

 

彼らは地下に彼らのための世界を創ることにします

 

その世界の名はナザリック

 

数多もの世界を作り、そしてスケルトンは君臨しました

 

しかし、命に終わりがあるように世界に終わりが訪れます

 

世界は終わり、仲間は去り、スケルトンは再び一人ぼっちです

 

スケルトンは探します。かつての仲間を

 

スケルトンは探します、かつての世界を

 

そしてついに新たな世界を見つけました

 

しかしそこには誰もいません

 

一人ぼっちのスケルトン

 

彼はそこで叫びます。

 

アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ

 

アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ

 

世界が光り輝き、すべての者がひれ伏します

 

そしてスケルトンはこの地で神として降臨しました

 

その名はアインズ・ウール・ゴウン

 

弱いことは悪であり、アインズ・ウール・ゴウンが正義です

 

全ての世界はアインズ・ウール・ゴウンの元に

 

                      編:ネイア・バラハ

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓

 

 ナザリックと言う言葉で思い出し、かつて詩人(バード)に聞いた物語。それを語ったヘッケランはその反応に驚いていた。他のメンバーもそうだ。目の前の化物達が泣いているのである。白い昆虫は涙が出ないのか目に手を当てる仕草だけであるが。

 

「それこそは・・・・・・それこそはアインズ・ウール・ゴウンの伝説。おかしなアレンジが加えられていますが、至高の御方々の神話!おまえたち!どこで、どこでその話を聞いた!」

「こ、答えたら命は助けてくれますか?」

「それは・・・・・・」

 

 デミウルゴスは頭を悩ませる。デミウルゴスの持っているスキル《支配の呪言》などで無理やり答えさせることもできるが、もし至高の御方との関わりがあるのであれば生かす価値がある。そう思い、口を開こうとした瞬間、デミウルゴスに《伝言(メッセージ)》が届いた。

 

「《伝言(メッセージ)》?こんな時に、なんだねアルベド。今、大事な・・・・・・」

 

 大事な話をしているからあとにしてくれと言いかけたデミウルゴスは驚愕に飛び出るのではないかと言うほど目を、落ちるのではないかと思うほど顎を開き、頭を抱えた。そう、デミウルゴスにアルベドより来た《伝言(メッセージ)

 

 

 

それは―――

 

『デミウルゴス。ペロロンチーノ様が、ナザリックに反旗を翻しました』



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第16話 NTRモノは両者の立場で二度おいしい

―――トブの大森林

 

 ペロロンチーノとシャルティアは森の分け入り奥へ奥へと進んで行く。以前村が襲われていた場所から調査を開始し、かなりの奥地まで来ていた。すると突然どこからともなく声が響いてくる。

 

 

「某の縄張りへの侵入者よ。立ち去るのであればよし。去らぬと言うのであれば我が糧となってもらうでござるよ」

「ござる?」

「猿でありんしょうか?」

「猿とは失礼な!もう許してやらないでござる!」

 

 そう言って一匹の魔獣が姿を見せる。白い毛並みにつぶらな瞳を持った巨大なハムスターが。

 

「おお・・・・・・でかいハムスターが喋ってる!」

「ハムスター?某にはハムスケと言う立派な名があるでござるよ!」

「ハムスケ?それは・・・・・・酷い名前だなー・・・・・・ネーミングセンスがまるでモモンガさん並に酷い」

「殿にもらった名前を馬鹿にするとは!許さないでござるよ」

「ごめんごめん、名前を笑ったのは悪かった」

「素直でござるね、まぁ謝るなら許すでござる。某は名乗ったでござるよ。侵入者たちよ、おぬしたちも名乗るでござる」

「俺はペロロンチーノ」

「わらわはシャルティアでありんす、よしなに」

 

 優雅にセーラー服のスカートを持ち上げて礼をするシャルティア。

 

「これはご丁寧に・・・・・・じゃないでござるよ。某はこの地を守護する者。こうして相対した以上命の奪い合いでござる」

「好戦的なハムスターだな。でもハムスターに凄まれても・・・・・・」

「ハムスターじゃなくてハムスケでござるよ!」

「でもハムスターが喋るとかすごいなー。で、名前がハムスケ?」

「もしかして某の種族を知っているでござるか?知っていればどこにいるのか教えて欲しいでござるよ。子孫を作らねば生物として失格であるがゆえに」

 

 ハムスケの言葉が非リア充のペロロンチーノの心を抉りつける。

 

「ぐっ・・・・・・こいつ・・・・・・女の子がいっぱいいて子作りしたくても相手にされない男だっているんだぞ!」

「それは甲斐性なしというのではござらんか?」

「うぐっ・・・・・・お前は同族さえいれば子作りできるとでも思っているのか?」

「出来るでござるよ。魅了(チャーム)の魔法で操ってその間に済ませてしまえばいいでござる」

「いろいろと酷いな!お前!」

「某だって子供を産みたいでござるよ」

「産みたい?え?聞いてもいい?お前ってオス?メス?」

「メスでござるがそれが・・・・・・?」

「その話し方でメスかよ!いや、それなら聞きたいことがある。もしかして人間に化けたりできない?」

「この御仁は何を言っているでござるか!?そんな目で某を見ないで欲しいでござる」

「さすがはペロロンチーノ様、そこに気づかれるとは」

「この人も何を言っているでござるか!?訳が分からないでござる」

「ケモ耳娘とかになれない?そうしたらハム子とでも名付けよう。そのフワフワの耳とか毛を残したまま人間化して・・・・・・いいじゃないか!それなら子作りしても・・・・・・」

「何がいいでござるか!某は変身なんて出来ないでござるよ!」

「え、出来ないの?」

 

 この世のすべてに絶望したような顔で地に手をつき落ち込むペロロンチーノ。シャルティアが肩を叩いて慰めている。そんな様子をハムスケは疲れたように見つめた。

 

「なんで某が悪いみたいになっているでござるか・・・・・・そんなことより命の奪い合いをするでござる」

「戦うって言われても別にそんな理由ないし。うーん・・・・・・村を襲ってたのは帝国兵の恰好をした人たちってことだしこいつは関係ないかな?それともその殿って言うのがペットのこいつに村を襲わせたのか。なぁ、ハムスケ。最近人の村を襲ったりしてないか?」

「人の村?そんなことをするはずがないでござる。某はこの森の守護者。森の外には出ないでござるよ」

「それじゃあ鎧を着た人の集団を最近見なかったか?」

「さっきから質問ばっかりでござる。もう面倒でござる。そちらが来ないのであればこちらから行くでござる」

 

 ハムスケが身構え戦闘態勢を取る。ペロロンチーノはハムスター相手に戦うのもどうかと思ったが、いろいろと聞きたいこともある。アウラを連れてきていれば能力(スキル)で従属できただろうが、ペロロンチーノにその力はない。仕方なしに弓を取り出し、上空へ飛び立つ。

 

「ずるいでござる。空を飛ぶのはずるいでござるよー」

 

 ハムスケが地上で騒いでいるが、ハムスターがはしゃいでいるように見えて可愛らしい。ペロロンチーノはため息を吐くとハムスケを外すように周囲に弓による爆撃攻撃を行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 巨大なハムスターが恐怖に身を震わせて小さくなっていた。周囲にはクレーターのように爆撃跡が出来ており、ハムスケの場所だけがそこから外れている。

 

「じゃあこいつはペロロンチーノ様のペットにするということでいいでありんすか?」

「それは困るでござる。某の主は殿のみ、他の誰かに仕える気はないでござるよ」

「主って誰?」

「殿は殿でござるよ」

「いや、それじゃ分からないから。まぁいいか。ん?お前なんか指にはめて・・・・・・。指輪?」

 

 ペロロンチーノはハムスケが赤い宝石を付けた指輪をしているのに気づきそれを取り上げる。

 

「これどっかで見たような気がするなぁ・・・・・・どこだったか」

「返すでござるよ!それは殿より守護者の証としていただいた大切な指輪でござる」

「どこだったかなぁ・・・・・・」

 

 ペロロンチーノが思い出そうと頭を捻っていると、森の木々からから声が聞こえてきた。

 

「あ、あのー・・・・・・ちょっといいかな。余りこの辺りで暴れないで欲しいんだけど」

 

 怯えるような震え声がした方向を確認するとドライアードが木の影から恐る恐る見つめている。

 

「ドライアード・・・・・・なのか?エロくない・・・・・・ゲームによってはエロいのに・・・・・・。ケモ耳娘もいなけりゃ、ドライアードは可愛くもない。何なんだ、このクソゲは!」

 

 半裸の妖精のような姿を想像したペロロンチーノはがっかりしている。

 

「何いきなりがっかりしているんだい。失礼な人だね君は」

「おぬしの気持ち何となくわかるでござるよ」

 

 ハムスケがドライアードの肩に手を置いて頷いている。

 

「ていうか、誰?」

「僕はこの木の精、ドライアードのピニスン・ポール・ペルリア。君たちは・・・・・・人間と・・・・・・魔獣?」

「俺はペロロンチーノ、こっちはシャルティア」

「某はハムスケでござる」

「で、なんで暴れたらいけないんだ?」

「それだよ!ここの地下には魔樹が封印されているんだ。あまり暴れてもし起こしでもしたら・・・・・・」

 

 その瞬間、地面が激しく揺れ動く。枯れ木となった地帯の大地が盛り上がり、巨大な樹木が現れた。樹木というにはあまりにも恐ろしいそれは大きな牙の生えた口と多数の蔓のような触手をもち、大きさは数百メートルはあるだろう。

 

「あわわわわ、そんな・・・・・・まさか・・・・・・」

「なんと強大な・・・・・・某では勝てぬでござるなぁ・・・・・・」

「おおー、まるで死亡フラグのようないいタイミングだな」

「あれは・・・・・・結構強いでありんすね。勝てなさそうには思いんせんが」

「勝てる!?あれに勝てるって言うのかい君たち!?」

「勝てるだろうけど・・・・・・まずは友好的に対話を求めてみよう。このハムスターみたいに好戦的とは限らないからな」

「確かに某は戦いが嫌いではないでござるが、戦闘狂のように言われるのは心外でござるよ」

「友好的!?あれに会話が通じるとでも思っているのかい!?」

「そういう偏見がいけないんだ。モンスターだからっていきなり攻撃するのは乱暴だろう。もしかしたらモンスター娘に変身する可能性もある」

「ないないない。ないってあれは・・・・・・」

 

 ピ二スンが言い終わる前にペロロンチーノは飛び立っていた。そして魔樹に近づく。

 

「やあ、こんにちは。俺の名はペロロンチーノ。お友達になりませんか」

 

 にこやかに手を差し出したその言葉に帰ってきたのは咆哮であった。触手が二度三度とペロロンチーノを打ち付け、完全に地面にめり込むまで打ち込み続けた。

 

「ああ・・・・・・だから言ったのに・・・・・・もうおしまいだー!」

「ええ、おしまいでありんすね・・・・・・。ペロロンチーノ様にあれほどの無礼を働くなど・・・・・・殺す!」

 

 シャルティアが能力(スキル)により装備を完全武装の赤い鎧への切り替え、スポイトランスを構える。しかし、それを地面の下より飛び立ってきたペロロンチーノが止めた。

 

「話し合いが通じない・・・・・・か。仕方ない、誰かに被害を与えるなら倒してしまうか。シャルティア。その二人を守っていてくれ、俺が相手をする」

「畏まりんした。我が君」

 

 ピニスンとハムスケを守るように槍を構えるシャルティア。

 

「え?え?あれでなんで無事なの?ありえなくない?」

「黙って見ているでありんす。あの御方こそ、この世界で最も尊い御方。その目に焼き付けておきなんし」

「は・・・・・・はい・・・・・・」

 

―――そして、ペロロンチーノと魔樹の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 深い森に潜伏するように漆黒聖典が身を伏せていた。

 

 長髪の黒髪で白く輝く鎧に古びた槍をもっているのは漆黒聖典の隊長である。

 

 そして、白銀の生地に天に昇る龍が金糸で刺繍されたチャイナドレスを纏っているのはスレイン法国の幹部であるカイレ。老婆といっていい年齢でありスリットの隙間から枯れ枝のような足が出ており思わず顔を背けたくなる。

 

 漆黒聖典のメンバーとしては、大盾を持った騎士は第八次席である《巨盾万壁》セドラン。探知能力に優れた第十一次席の女性《占星千里》、さらに大剣を持った第六次席や、ブレザー型の女子学生服のような衣装を着た第七席次もそろっている。なお、番外席次は同行していない。彼女は法国での守護の役目があるからだ。各々が六大神から受け継いだ強大であるがこの世界の常識からは外れた格好である。

 

 そんな彼らは、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を捕獲しようと来ていたのだが、噂の冒険者、《変態》の二人がそこであろうことか、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)と戦っていたのだ。

 

「あの戦っている男・・・・・・ただ者ではないですね。そしてあそこでモンスターと共にいる女も。ドライアードからはそれほどの脅威は感じません。あの魔獣も倒せる範囲内かと」

「しかし隊長、いかがいたしましょうか」

「とりあえず様子を・・・・・・」

 

 漆黒聖典隊長がそう言いかけたときには、魔樹の触手が全て矢で吹き飛ばされていた。光の雨となって降り注ぐ矢が魔樹の全身に突き刺さり火を噴き上げる。もはや勝敗は決していた。

 

「一人で破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を倒す存在・・・・・・危険ですね。ですが、それよりも強大な力を持つというヴァンパイア。眷属を作り出し無限に災いを引き起こすアレを今のうちに何とかしましょう。もし彼が眷属であればそれで解決です」

「仕掛けますか」

「ええ、行きます。もしもの時は・・・・・・カイレ様、お願いしますね」

「任せておくがいい」

「では行くぞ!」

 

 隊長の一声により風のように一気にシャルティア達に詰め寄った漆黒聖典はまずは邪魔な弱者から片付けることとする。モンスターに容赦などする必要もない。隊長の驚異的な速さの槍がハムスケに届くかと言ったところで、シャルティアの槍がそれを防ぐ。

 

「ぬし・・・・・・何をするでありんすか?ペロロンチーノ様が守れと命じたこの者達を傷つけようと・・・・・・」

「モンスターなど生きる価値なし!」

 

 そう言って包囲を狭め、殲滅を開始しようとする漆黒聖典。シャルティアの頭にペロロンチーノから言われたことが思い出される。人を傷つけないように、人を殺さないように、弱いものは守ってやれ、シャルティアはそれが良いことと信じた。だが、現実は非情だ。かつて至高の存在も人間に迫害されていたという神話を聞いたこともある。至高の存在がこれほど慈悲をかけているのに、恩を仇で返すとはこの事でなないのか。人間とはなんと愚かな生き物なのか。シャルティアはその理不尽に我を忘れかける。

 

「やれ!」

 

 その瞬間、隊長の後ろにいた、龍の刺繍の入ったチャイナドレスを着ている老婆から光が溢れる。溢れた光はドラゴンの形となりシャルティアへと迫った。これこそ法国の至宝、六大神の残した世界に匹敵する効果を持つアイテム《傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)》である。その効果は相手への強力な魅了という洗脳効果。

 

 ———これは食らっては不味いものだ。そうシャルティアは理解したが、避けては後ろにいるハムスケやピニスンに直撃する。ペロロンチーノが守れと言った者たちだ。守らねば、そう思い、能力(スキル)《不浄衝撃盾》を発動させる。しかし、相手の攻撃を防ぐことはなかった。防御スキルでも防げないほどの攻撃。せめて武器で防ごうとスポイトランスを体の前に翳したところシャルティアの体が、トンと軽く押し出された。魔樹を倒したペロロンチーノが全速力でシャルティアを庇い押し出したのだ。そして代わりにペロロンチーノがその光を浴びることになる。

 

 光を浴びた瞬間、ペロロンチーノの頭の中が真っ白になり、そして頭の中の空白に(おぞ)ましいものが現れる。

 

 

―――それは

 

 

 

 ()()()である。目の前にいるチャイナドレスを着たババアで頭の中がいっぱいになる。

 

 

 

―――ペロロンチーノを見つめ、ウィンクして投げキッスをする()()()

―――「お兄ちゃん起きて!」と布団をめくり顔を赤らめる()()()

―――「ばばあ」と書かれたスク水の食い込みを指でパチンと直す()()()

―――半裸に剥かれ「くっ殺せ」と睨みつける()()()

―――恥ずかしがりながら服を脱いでいく()()()

―――両手で胸を隠し、上目遣いに見つめてくる()()()

―――背中から裸で抱きつき、「好き」と囁く()()()

―――耳にふっと息を吐きかけてくる()()()

―――腕にしがみつき胸を押し付けてくる()()()

―――縄で縛られ恥ずかしそうな嬉しそうな目で見つめてくる()()()

―――ペロロンチーノを踏みつけ、欲情した目で罵ってくる()()()

―――触手に全身を絡め取られて蠢く()()()

―――メイドの恰好で「ご主人様のエッチ」とスカートを持ち上げる()()()

―――ベッドに入り、ペロロンチーノの×××(ピー)×××(ピー)する()()()

 

 そんな悍ましい映像で頭の中でいっぱいになるのにそれがまったく不快ではなく、むしろ喜びさえあるのがさらに恐ろしい。こんなババアを好きになれと言うのか。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だなんでババアなんだ若い子にしてくれできればロリがいやロリでなくても構わないお姉さん系でも獣娘でもスライム娘でもなんでもいいからああもう贅沢は言わないからあああああああああああああああああああせめてロリババアにしてくれえええええええええええええええええええええええ!」

 

 ペロロンチーノは頭を埋め尽くすババアから解放されたくて頭を撃ちつけ地面を転げまわる。

 

「嫌だーーーーーーーーーーーーーー!!ババアは嫌だあーーーーーーーーー!!!」

 

 ペロロンチーノは力の限り叫んだが、その声は徐々に小さくなり、やがてその眼から光を失った。

 

 

 

 

 

 

 自分を庇いペロロンチーノが攻撃を受けた。シャルティアにとってそれはもはや許せることでない。

 

「ペロロンチーノ様に何をしたババアああああああああああああ!」

 

 シャルティアが怒りに目を真っ赤にし、即座に清浄投擲槍に能力(スキル)追加してババアに撃ち込む。大盾を持った漆黒聖典隊員が防ごうと立ち塞がるが、その大盾どころか体ごとカイレともども撃ち抜かれる。

 

「カイレ様!セドラン!」

「・・・・・・我らを連れて逃げよ!ペロロンチーノ!ぐふっ・・・・・・」

 

 血を吐いて意識を失う前にカイレが言った一言。その一言だけで充分であった。続いて武器を振るおうとしたシャルティアの前にペロロンチーノが刹那の速さで立ちふさがる。

 

「あ・・・・・・ペロロンチーノ・・・・・・様?ご無事ですか?」

 

 シャルティアはペロロンチーノに手を伸ばす。しかしその手は払いのけられた。そしてシャルティアを冷たい光を失った目で見つめる。ペロロンチーノは擬態を解くと漆黒聖典の生き残り、そして死んでいると思われる二人をそのカギ爪のついた足、そして両腕で抱え、垂直に飛び上がった。そこから一気に4つの翼をはためかせ音速で飛び去る。

 

「人間ではなかったのか!」

「何というスピード・・・・・・息が・・・・・・」

「・・・・・・ババアは嫌だ・・・・・・ババアは嫌だ・・・・・・ババアは嫌だ・・・・・・ババアは嫌だ・・・・・・ババアは嫌だ」

「きゃああああ!隊長!この人あたしのお尻を揉んでくるんですが!」

「我慢しなさい!ここは引くしかありません!」

 

 驚く漆黒聖典の面々、ぶつぶつとつぶやき続けながら自らを慰めるように女性隊員のケツを揉み続けるペロロンチーノ、悲鳴を上げる占星千里、それを横目に見ながら隊長は逃げの一手を打つ。戦ってもこちらの消耗のほうが激しいと判断して。

 

 

 

 

 

 シャルティアは自分の払い除けられた手を見つめる。自分の主人ペロロンチーノからの初めての拒絶。どんなことでも許してくれた主人からの反発。それが恐ろしいほどのショックとなってシャルティアを襲った。しかし、それは彼らに操られているからなのではと思いつき急いで後を追う。

 

「ペロロンチーノ様!」

 

 必死に《飛行(フライ)》で追いすがるがレベル100の鳥人(バードマン)には追いつけず、次第に距離を離される。シャルティアは恐怖に身を震わせる。ペロロンチーノを失った未来を想って。今までの楽しい思い出が走馬灯のように頭を通り過ぎていく。一緒にした冒険、一緒にした失敗、二人して怒られたこともあった。でもいつも二人で笑いあっていた。ペロロンチーノが笑うとシャルティアも笑い、シャルティアが笑うとペロロンチーノも笑ってくれた。ナザリックを去ってしまい、会うことが出来ないと思っていた。しかし帰ってきてくれた最愛の創造主。いつも撫でてくれた、手をつないでくれた、一緒にいてくれた。その主人に向かってシャルティアは泣き叫ぶ。涙があふれて止まらない。

 

「ペロロンチーノさまああああああああああああ!」

 

 やがてペロロンチーノの姿が見えなくなるが、シャルティアはいつまでも追い続ける、魔力が枯渇し墜落して地面を舐めるまで。



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第17話 シスターモノには背徳感が必須

―――ナザリック地下大墳墓

 

 玉座の間に階層守護者が集まっていた。デミウルゴスに呼ばれた者たちだ。ただし、全員が集まっているというわけではなかった。

 

「さて、みな集まったね」

「デミウルゴス。シャルティアがいないんだけど?」

「ああ、アウラ。シャルティアにメッセージを送ったが、魔力が枯渇して動けないようなんだ。それに泣いていて何を言っているのかよく分からない。今ユリとルプスレギナが魔力の譲渡に向かっている」

「あいつに何かあったの!?」

「な、何かあったんですか?シャルティアさんに」

「そのあたりもこれから説明するよ、アルベド。ペロロンチーノ様がナザリックを離反したという話のほうだ。確かな証拠でもあるのかね」

「ペロロンチーノ様ガ離反ダト!?ソノヨウナ事ガアルハズガナイ」

「まぁ、これを見て頂戴」

 

 そう言ってアルベドは玉座にあるコンソールを操作し、マスターソースのPC(プレイヤーキャラ)の欄を表示させる。

 

「正常な状態では名前は白。死亡した場合は名前が消えるわ。そして、今の状態がこれよ」

「ピンク・・・・・・ですか?」

「ピンクナド聞イタコトモナイゾ。精神支配サレタ場合ハ黒デハナイノカ」

「なんでピンクなのかは分からないけど、これはペロロンチーノ様が離反した確かな証拠といえるのではないかしら」

「それはどうかな、アルベド。私はペロロンチーノ様に王都でお会いした時そのあたりの防御対策をしていないことに気づいた。それで君に第八階層のワールドアイテムを渡しておくように頼んだじゃないか。ワールドアイテムさえ持っていれば対抗できるだろうからね」

「あら、何の話かしら?」

「君への報告書に確かに書いたはずですよ!」

「報告書?これのことかしら?」

 

 そう言って差し出した血塗れの報告をデミウルゴスは乱暴に取り上げる。

 

「ええ、書きましたとも。ここに・・・・・・」

「ああ、そこ。あなたの血で何が書いてあるか分からないわね」

 

 そこは後から血を塗りたくったように塗りつぶされており、とても読める状態ではなかった。

 

「これは・・・・・・私の血ですか?」

 

 デミウルゴスはアルベドを睨めつけるがアルベドは涼しい顔だ。誰が塗りつぶしたか証拠などあるはずもない。

 

「それよりもこれからの方針についてだけどデミウルゴス。あなたから聞いた話のほうが私は気になるの。アインズ・ウール・ゴウンを知る者がいたと言っていたわね」

「ええ・・・・・・彼らは今第六階層でエルフ達とともに置いています」

「その話の中にあったスケルトン、それはモモンガ様のことではないかしら」

「可能性はありますが、確証はありませんね。まずは調査が必要かと」

「その調査は私が行います!確かネイアとか言う者が情報を知っているのね」

「ペロロンチーノ様はどうするのですか!」

「そうだよ!ペロロンチーノ様を救わないと」

「ぼ、ぼくもそう思います」

「でも私は一刻も早くモモンガ様を探すことが・・・・・・」

 

 アルベドがそう言いかけた時、玉座の間の扉がノックされた。

 

「皆さま、シャルティア様をお連れしました」

 

 ユリとルプスレギナに両脇を抱えられてシャルティアが入ってきた。一緒にハムスケと本体の木ごとピニスンも連れてこられている。

 

「うぐっ・・・・・・えぐっ・・・・・・ペロロンチーノ様・・・・・・ペロロンチーノ様・・・・・・」

 

 シャルティアの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。顔から地面にでも突っ込んだのか泥だらけでもある。一人では立ってられないほど憔悴しており、その場に跪く。

 

「シャルティア・・・・・・」

「シャルティアさん・・・・・・」

 

 アウラとマーレが同情するようにシャルティアを見つめる中、デミウルゴスの厳しい声が響き渡る。

 

「シャルティア。泣いてないで何があったか説明したまえ」

「えぐっ・・・・・・ペロロンチーノ様が・・・・・・トブの大森林で・・・・・・ババアが・・・・・・人間が・・・・・・魔樹を倒してたら・・・・・・魔獣とドライアードを守れって・・・・・・えぐっ・・・・・・」

 

 いつもの廓言葉も使わず支離滅裂なシャルティアの説明にデミウルゴスは頭を抱える。

 

「ああ、もう。話にならないな。それで、その魔獣とドライアードは?ユリ?」

「シャルティア様と一緒におられたので、連れてまいりました。シャルティア様がペロロンチーノ様より守るように命じられたと」

「こ、ここどこ!?ねぇ、僕たちどうなっちゃうの!?」

「助けてほしいでござる!食べないで欲しいでござる!それに指輪を返して欲しいでござるよ」

 

 指輪?とアルベドが不思議そうに首を傾げているが、ハムスケとピニスンの二人は抱き合って怯えている。シャルティアは混乱の極みにあり、デミウルゴスは代わりに二人に事情を聴くことにした。二人は知っていることを守護者たちに伝える。

 

「要するに人間の集団の攻撃によりペロロンチーノ様が精神支配されたのではないかと言うんだね?」

「うん、目の色が失われていたからね。多分そうじゃないかなぁって」

「某の魅了の魔法を使った時もあんな感じになるでござるよ」

 

 2匹の答えにアルベドの眉間に青筋が浮かぶ。他の守護者たちからも不穏な空気が醸し出された。

 

「それを黙って見ていたと言うの!シャルティア!」

「うぐっ・・・・・・そ、そんなわけないでしょ!ババアと盾を持った奴はやったわ!でも・・・・・・でも・・・・・・」

「このような守護者失格の者はこの場で処刑すべきだわ」

「切腹モヤムヲ得ナイカモシレヌナ」

「あ、あの・・・・・・それはちょっと待って欲しいっていうか・・・・・・あの・・・・・・その」

「アルベドの言うとおりよ・・・・・・主人を守れないような私なんて守護者失格・・・・・・存在する価値もない・・・・・・もう・・・・・・死んだほうが・・・・・・ううっ・・・・・・」

「このお馬鹿!!!」

 

 膝をつき、涙に暮れ、自分の存在価値を否定したシャルティアにアウラが強烈なビンタを食らわせた。勢いでシャルティアが壁まで吹き飛ぶ。

 

「あんたが死んでどうするの!そんなことしたらペロロンチーノ様はもっと悲しむよ!あんたの今すべきことは何!?泣いてること!?違うでしょ!」

「私のすべき・・・・・・こと・・・・・・?」

「あんたペロロンチーノ様のために作られたんでしょ!じゃあペロロンチーノ様のために動きなよ!今すぐ!」

 

 アウラのその言葉にシャルティアの目に光が差す。そうだ、その通りだ。自分には泣いている暇なんてないとシャルティアは目を見開き、ペロロンチーノに設定された廓言葉に話し方を変える。

 

「そう・・・・・・でありんすね。死ぬことはいつでもできる・・・・・・まずはペロロンチーノ様をお救いしなければ」

「そのとおりだ、シャルティア。まずはペロロンチーノ様をどう救出するのかだ。アウラの話によると法国の動向を探りに行った際に巡り合ったということは、下手人は法国の可能性が高い」

「デハ、私ガ先兵トシテ法国ヲ滅ボソウ」

「ぼ、僕も・・・・・・やっちゃいます」

 

 マーレとコキュートスが目に決意を浮かべるが、それをデミウルゴスが制した。

 

「待ちたまえ、それは愚策だ。まず大切なのはペロロンチーノ様の身の安全。彼らがペロロンチーノ様を人質にした末に殺してしまうとも限らない」

「人間なんかにペロロンチーノ様が殺されたりするかな?」

「アウラ、精神支配されているのであれば死ねと命ずるだけで命を奪えるだろう?精神支配とはそれほど恐ろしいものなんだ。だからペロロンチーノ様を攫った者たちが身動きを取れないようにする必要がある」

「どうするの?」

「まず、ペロロンチーノ様の場所を探る必要がある。だが、ニグレドの探知でも見つけることはできなかった。恐らく潜伏スキルを使用させられているのだろう。ペロロンチーノ様クラスの能力を使われては遠距離で探知するのは不可能だ。物理的に捜索をする必要がある。アウラ、探索能力に優れた君にこれはお願いしたい」

「了解。任せておいて」

「さらに、ペロロンチーノ様が精神支配され、法国に攫われたという情報を流す。シャルティア、君は依頼を請けた帝国の冒険者組合へ報告するんだ。王国や帝国にはペロロンチーノ様の勇名は知れ渡っているだろう。それを聞いた彼らはどうするか?法国を非難することだろうね。公になった以上簡単に殺すという手段はとれなくなるはずだ。その間にペロロンチーノ様の場所を探す。どうだい?異論はあるかい?」

「はぁ・・・・・・仕方ないわね。でもモモンガ様に関する調査も同時に行うわよ」

「それについては任せるよ」

「ペ、ペロロンチーノ様酷い目にあっていないかな・・・・・・」

「法国は人間以外を敵視する国、酷い目にあっているやもしれないね」

「許スマジ法国」

「ペロロンチーノ様・・・・・・御いたわしいでありんす」

 

 こうしてナザリック地下大墳墓の階層守護者たちはペロロンチーノを救うべく行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

―――リ・エスティーゼ王国 王都

 

「あの冒険者がスレイン法国に精神支配を受けて連れ去られたらしいわ」

 

 ラキュースの言うあの冒険者、青の薔薇の会話の中でそれに該当するのは一人しかいない。

 

「あの馬鹿が!なんでそんなにいつもいつもトラブルに巻き込まれるんだ」

「でもよ、あいつがそんな簡単に精神支配受けるようなたまか?」

「油断していたんだろう。ほんとにあの馬鹿は・・・・・・」

「そんなこと言ってイビルアイ、心配してんじゃねえの?」

「私もそう思う」

「イビルアイはツンデレ」

 

 ガガーランとティアティナに突っ込まれたイビルアイは慌てる。

 

「そ、そんなわけないだろう!この国の連中の気持ちを代表して言ったまででだな」

「そうか?その割にあいつが落としたとかいう黄金色の羽を大事そうに持ってるじゃねえか」

「キラキラして綺麗」

「いつも撫でてる」

「それはだな・・・・・・」

 

 返答に困るイビルアイをラキュースは助けて上げることにする。へそを曲げられると面倒だ。

 

「みんなそんなにイビルアイを揶揄(からか)わないの。でも、イビルアイの言う通りこの国は彼らのおかげでずいぶんよくなったわね」

 

 現在リ・エスティーゼ王国はラナーの活躍により貴族勢力の力はかなり削られている。その容姿による人気もさることながら、彼女が悪徳貴族を罰し、接収した領地には新たな農法が取り入れられ、権力者が一方的に奪う政治から、両者に利益がある政治への切り替わりつつあるのだ。そしてその後押しをしたのが彼らのことば「自由と規制からの解放」だ。

 

「ふふっ、あんな目にあったのに私も意外とあの冒険者たちは嫌いになれないわ」

「同意」

「剥かれて新たな属性に目覚めた」

「わ、私は許していないぞ!あいつは私のは裸を見たんだからな!絶対に仕返ししてやる!」

「俺は剥かれてないんだけどな・・・・・・」

 

 ため息をつくガガーランは無視して、ラキュースが話を戻す。

 

「でもスレイン法国か・・・・・・やっかいね」

「彼らは亜人も人間も容赦しない」

「鬼畜の集団」

「罪もない亜人を殺しても平気な顔のやつらだからなー。俺の尊敬するガセフの旦那を殺したのもやつらで間違いないだろう」

「そんな連中に捕まって何をされているのか・・・・・・糞!我慢ならん!私はちょっと行ってくる」

「スレイン法国に行くって言うんじゃないでしょうね」

「そんな無茶はせん。ちょっとリグリットのババアに相談してくるだけだ」

「ペロロンチーノのことが心配?」

「好きになっちゃった?」

「違うと言ってるだろう!奴が私以外の誰かから酷い目にあっているだろうことが許せないだけだ!奴には私が借りを返してやるんだからな!」

「ふふっ、イビルアイ。あなたちょっと変わったわね」

「だよな。そんな熱いやつだったかおまえ?」

「恋の魔法にかかってる」

「イビルアイ可愛い」

 

 仲間たちに揶揄(からか)われつつ。変わったとしたら奴のせいだとイビルアイは思う、王国で見た周りのことなどどこ行く風といった自由で楽しそうな奴の。そしてそんな奴が窮地に立たされている。イビルアイは仮面の下に怒りを隠し、唇を噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

―――バハルス帝国 郊外

 

 屋敷にいつもの3人が集まっていた。ジルクニフ、フールーダ、ニンブルの3人だ。ちなみにバジウッドはいまだに休養中であり、レイナースはペロロンチーノが帰ってくるのを待って自宅待機中だ。

 

「陛下、今回はどうされたのですか」

「ペロロンチーノが法国の魔道具により精神支配され連れ去られたらしい。やつの仲間のシャルティアが冒険者組合に届け出た」

「陛下は彼らが国を滅ぼすほどの実力があると言われてませんでしたか?これは彼らを買いかぶりすぎていたのでは?」

「そうとは言えませんぞ、ニンブル。法国は歴史の古い国だ。あれほどの者を洗脳する魔道具を持っていてもおかしくはありますまい。恐るべしは法国の歴史ですな・・・・・・」

 

 フールーダが髭を撫でながら難しい顔をする。帝国一の魔法詠唱者でも恐れるほどの力を法国は持つと言うことだ。それに対しジルクニフはいつもの余裕を持った微笑みを浮かべる。

 

「だが、狙いはうまく行ったとも言えるだろう。これで王国で蠢動していた者たちの正体ははっきりした。スレイン法国、それも特殊部隊である聖典のいずれかだろう」

「それで、どうするんです?強国であるスレイン法国にさらに強者であるかの者を奪われたのですが・・・・・・」

「確かに脅威だな。だが、引くことなど出来るものか。戦争とまではいかんが、非難声明くらいは出さねばな。我が国の客人を魔道具により精神支配し連れ去ったとな」

「わが師シャルティア様もたいそう嘆かれていたそうです。陛下がそうしてくだされば印象もよろしいかと思います」

「第10位階まで使える女の怒りを買うわけにもいかんからな。ところで、ニンブルちょっと聞いてもいいか?」

「奇遇ですな陛下。私もニンブルに聞きたいことがあるのです」

 

 ジルクニフとフールーダがニンブルを見つめる。ニンブルは戸惑ったように二人の顔を交互に見る。

 

「何で女装をしているんだ?」

 

 一瞬時間が止まった。そう、ニンブルは当初から『どうていをころすふく』を着用していたのだ。長髪のウィッグをつけたニンブルはもともと綺麗な顔立ちをしていただけあり、非常によく似合っている。金髪碧眼の美麗な女性がそこにはいた。

 

「陛下がしろっていったんでしょう!!って言うか最初に言ってくださいよ!なんで今頃言うんですか!」

「いや、目覚めたのか・・・・・・とか、言ったら不味いか・・・・・・とかいろいろ考えてな」

「もう帝国四騎士やめようかな・・・・・・」

 

 そうつぶやくニンブルにジルクニフは両手を上に向けておどけて見せる。

 

「冗談だ。そう怒るな」

「はぁ・・・・・・陛下何か変わられましたね。以前はこんな馬鹿な冗談言わない方でしたのに」

「そうか?」

「確かに変わりましたな。何と言うか、以前はもっと張りつめてる感じでしたが今は力が抜けているというか楽しそうというか」

「自分では分からんが、まぁ悪いことではないだろう。私は私だ」

「いや、巻き込まれる身にもなってくださいよ」

「しかし、ペロロンチーノか・・・・・・。法国でどのような目にあっていることやら」

「スレイン法国は邪魔なものは人間であろうとなかろうと容赦のない国。酷い目にあっていることでしょう」

「我が師の仲間がそのような目に合わされるとは。許しがたいですな」

「ああ・・・・・・酷い目に・・・・・・あっているのだろうな・・・・・・」

 

 ペロロンチーノとの馬鹿な会話を思い出しながら微笑みを絶やさないジルクニフが珍しく顔を歪めた。

 

「・・・・・・少し不快だな」

 

 

 

 

 

 

―――スレイン法国

 

「なんで私がこんな酷い目にあわないといけないんですか!」

「カイレ様が至宝を使えない以上こうするしかないんです。我慢してください」

 

 チャイナドレスのような服を来た占星千里が漆黒聖典隊長に食ってかかっている。そしてその後ろでは4枚の神々しい黄金色の羽を生やした鳥男、ペロロンチーノが占星千里のケツを揉み続けていた。

 

「そうです、仕方ないことなんですよ。こうやってケツを揉むのもあなたが俺をそのアイテムで支配してるから仕方ないことなんです」

「ケツって言うな!なんで精神支配してるのに普通に喋ってるんですか!この人、本当は正気じゃないんですか!?」

「それはありえません。至宝の力を確かに感じます」

 

 漆黒聖典隊長はその言葉を否定する。カイレのかけた術式が解けることを心配した漆黒聖典はその至宝を別の人間に着用させることで術者を切り替えたのだ。それが占星千里であった。

 

「でも隊長!」

「そうです俺精神支配中ですよ、占星千里様。俺の頭の中は占星千里様でいっぱいですから。だからこの程度許してください。いや、俺も普段は愛でるだけでこんなことはしないんですよ。でもこの気持ちはなんでしょう。何かあらゆる制約から解放されたような清々しい気分です。占星千里様こそ俺の嫁、俺のエロゲのヒロイン、そんな気持ちがとまらないんです」

「なんですかそれ!隊長!この魔道具こんな効果でしたか!?」

「いや・・・・・・普通に精神支配するだけだと思っていましたが・・・・・・最初の術者が再起不能になったのが原因で不完全なのか、それともこの亜人の頭の中がどうかしているのか」

「頭の中がどうかしてる?そりゃどうかしちゃってますよ。だって俺の頭の中はね・・・・・・」

 

 そう言ってペロロンチーノは占星千里に耳打ちをする。

 

「きゃあああああああああああああ!な、な、な・・・・・・何してるんですかー!私のことを頭の中で何してくれてるんですかーー!!」

 

 そう言って往復ビンタをする占星千里。それをペロロンチーノが嬉しそうに受け入れる。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!でも仕方ないんです。これは魔道具による効果ですから。だから占星千里様のケツを揉むのも仕方ないんです」

「ケツって言うなーー!!なんで私がこんな酷い目に!!」

 

 

 

 

 

 

―――スレイン法国 中央広場

 

 マクシミリアンは議場の建物へ向かって歩いていた。一人の少女が目の前で転ぶ。マクシミリアンはそんな少女に手を差し伸べ、そして治癒魔法で傷を癒してやった。少女は何度もお辞儀をして去っていく。周りの人たちはそんな彼を尊敬のまなざしで見つめていた。

 

(違うだろう。私を見てどうする。少女が転んだんだぞ。生足が丸見えになり下着まで見えていた。私じゃなく少女の生足を・・・・・・下着を見ないか!)

 

 マクシミリアンは憐れむように周りを見つめる。皆微笑みを浮かべ朗らかな表情をしている。

 

(これが今の法国・・・・・・何とつまらない国か・・・・・・)

 

 宗教国家であるスレイン法国の徹底した宗教教育により国民は清貧と貞潔をモットーとし、神への誓約と制約により自らを縛っている。その結果、国民はいい大人だというのに聖歌を歌うことを喜びとし、神への祈りを日課とする。結婚相手でさえ親に決められ、夫婦の営みも子供を作るためにしか行わないというつまらないものだ。

 

(この国の行く末が心配だ)

 

 マクシミリアンはこの国では異端であり、破戒僧ともいうべき立場だ。だが、神を敬う気持ちも国を想う気持ちも本物であった。

 

(かつて神がいた時代の資料にはこの国にはもっと活気があった。それを封じ込めたのは今の神殿勢力だろう。国が一体となって人類を守るために行ったのであろうが・・・・・・我が神・・・・・・スルシャーナ様はこのような息苦しい国は求めていなかったのではないか)

 

 八欲王に屠られ今はいなくなってしまった神を思いながらマクシミリンは議場のある建物に颯爽と入ってゆく。男性神官にサムズアップで挨拶し、卑猥な言葉を投げかけ真っ赤になった女性神官に聖書を投げつけられる。マクシミリアンの日常だ。

 

(ふふふっ、元気のいいことだ。そして恥ずかしがる姿が素晴らしい)

 

 そんな彼のことを毛嫌いする女性神官や信者も多くいるが、彼のことを理解して応援してくれている神官も多数いる、そしてそれは驚くべきことに男女問わずになのである。欲求不満は男女ともにあるものなのだ。

 

(懲罰動議などでこの私を縛れるものか。この国を憂う者は少なからずいるのだ。この国に必要なのは度を越した制約などではない、この国にはガス抜きが必要だ。制約などに縛られない崇高なもの、そう・・・・・・エロが必要なのだ)

 

 そして彼は堂々と呼ばれてもいない議場の扉を開く。彼の名は闇の神官長マクシミリアン・オレイオ・ラギエ。

 

 

 

 

―――そこで彼は本当の神に出会うことになる。

 



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第18話 孕ませモノは幸せとか家族とか計画的に

―――スレイン法国 議場

 

 そこには最高神官長と地火風水光闇それぞれの六神官長、漆黒聖典隊長と占星千里、クレマンティーヌに加え、さらにペロロンチーノが揃っていた。最高神官長が口火を切る。

 

「それでは漆黒聖典隊長よ。報告を聞こうか」

「はっ。破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を捕獲するためトブの大森林に赴きましたが、この者・・・・・・例の冒険者によって破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)は倒されました。そのため、その仲間・・・・・・主人であると予想しましたヴァンパイアの女に傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)で仕掛けたところ、この者が庇い精神支配することになりました。さらにヴァンパイアの女に術者であるカイレ様とセドランを討ち取られたため、やむを得ず撤退してまいりました」

「待て待て、いろいろと情報に齟齬がある。まず例の冒険者?人間・・・・・・いや、ヴァンパイアではなかったのか?その者は亜人に見えるが」

「なんらかの能力により人間に化けていたようです」

「しかし、これは・・・・・・ただの亜人でしょうか。見たこともない。このような4つもの翼を持ち光り輝く、なんと見事な姿か・・・・・・」

「クレマンティーヌ。お前を捕まえたのはこの者で間違いないのか?」

「あたしは人間の姿しか見てねえからしんなーい。っていうかお前らなんかに協力するかよ」

「ペロロンチーノ。お主はこのクレマンティーヌを知っているか?」

「ええ、エ・ランテルの墓地で捕まえたエロい女です」

「そ、その声は・・・・・・まさか・・・・・・本当に!?あああああ、何してんだおまえらあああ!」

「その反応・・・・・・本人で間違いないようじゃな」

「馬鹿だろ!おまえら。そいつがどんなやつか知ったらおまえらだって・・・・・・」

「しかし、この者が破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を一人で倒したなどとは・・・・・・信じがたい」

「それは事実です。私がこの目で確認いたしました」

「あっ・・・・・・あんっ・・・・・・あっ・・・・・・そんなところ・・・・・・」

「よほど、強大なマジックアイテムを持っているのではないか」

「いえ、調べたのですが彼の装備は・・・・・・何と言うか装備と言っていいものかどうか。ただの木の弓に布の服・・・・・・装備として攻撃力も防御力も皆無です」

「ではその者の力のみで破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を倒したと・・・・・・」

「これは神の降臨なのではないか」

「魔神の可能性もあるぞ」

「ああっ・・・・・・そこは・・・・・・あんっ・・・・・・だめっ・・・・・・」

 

 議論を遮る喘ぎ声に、神官長達がその発生源を見つめる。

 

「おい、うるさいぞ占星千里」

「お主、傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)でその亜人を操り何をやっておるのだ」

「神聖な議場で亜人を使って一人遊びか。ケツなど揉ませおって」

「ケツって言うな・・・・・・。いえ、これは彼が勝手に・・・・・・」

「そうです。占星千里様がどうしてもケツを揉んで欲しいというのです。魔道具の効果で俺には逆らいようがありません」

 

 ペロロンチーノからしれっといい加減なことを言い出され、周りの視線が冷たいものとなって占星千里に突き刺さる。

 

「ちょっ、何言ってるんですか!違いますよ!私はそんな女じゃありませんから」

「まぁいい、ケツを揉ませようが揉ませまいが話を続けよう。趣味は人それぞれじゃ」

「違いますって!っていうかケツって言うな!」

「ではまず問おう。ペロロンチーノ、お前はこの世界を守る者か、それとも仇なす者か」

「え、俺?俺はただのエロゲーマーですが・・・・・・」

「エロ・・・・・・ゲーマー?なんだそれは」

「聞き方が不味かったのではないか?お前は人間を傷つける者か?」

「えーっと、それがプレイじゃないのであれば・・・・・・そうですねー、人を傷つけるのは好きじゃありませんね」

「ぷれい?まぁいい、それでお前はどこから来たのだ?」

「リアルです」

「りある・・・・・・?先ほどから言ってることがよく分からないな。リアルとはどのような場所だ?」

「深刻な環境汚染・・・・・・汚染された空気により太陽の光は失われ・・・・・・酸の雨が降り注ぎ緑の消えた世界・・・・・・防護服なしでは外も歩けないディストピア」

 

 ペロロンチーノの語る、かつていた絶望しかない世界のことを。この世の地獄とも思える世界の話を聞くにつれ、神官長達の顔が引きつる。

 

「なんだそれは!?どこの地獄から来た!?こやつは魔神なのか!?ぷれいやーである可能性もあるかと思っていたのだが・・・・・・」

「お前はそこでどんなことをしていたのだ」

「エロゲをしていました。そう・・・・・・ある時、俺は大学生でした。家庭教師として招かれた館にてロリ女主人とメイドに薬を盛られ、無理やり女の子と・・・・・・」

「や、やめい。何の話をしている!?」

「ある時、俺は女学園の寮の管理人でした。そこで俺は女生徒の部屋にカメラを仕掛け、それで撮った弱みをもとに彼女たちを・・・・・・」

「や、やめろ汚らわしい。だからさっきから何の話をしたいるのだ!?」

「え?どんなエロゲをやっていたのかって話じゃないんですか?」

「先ほどの地獄のような世界の話はどこにいったのだ!」

「わけがわからないぞ」

「六大神はゆぐどらしるなる世界から来たと言う伝承がある。それについては分かるか?」

「・・・・・・ユグドラシル

・・・・・・それは世界樹の名

・・・・・・無数にあるその葉を食い荒らす巨大な魔物が出現する

・・・・・・葉は一枚一枚と落ち、最後に九枚の葉が残った

・・・・・・アースガルズ、アルフヘイム、ヴァナヘイム、ニダヴェリール、ミズガルズ

・・・・・・ヨトゥンヘイム、ニヴルヘイム、ヘルヘイム、ムスペルヘイム

・・・・・・九つの葉が九つの世界へとなる

・・・・・・しかし、最後に残った九つの葉にも魔物の影が

・・・・・・君が世界を守るのだ

・・・・・・さあ未知の世界を旅び立とう・・・・・・COMING SOON」

「ユグドラシルを知っている!?」

「かみんぐすーんってなんじゃ!?」

 

 そこで今まで黙っていた闇の神官長が咳ばらいをする。全員がそちらを見て嫌な顔をした。本来呼ばれもしていないのに何を話すというのか。どうせ碌なことは言うまいという無言の共同認識があった。

 

「皆さん神学の研究が足りませんな。りあると言う名称は六大神の一人が使った記録がある。それにゆぐどらしるという言葉も。これらの言葉を知っているというだけで神と同等の存在と見て間違いないだろう」

「魔神の可能性がある以上神などと軽々しく認定はできん」

「話した感じでは温厚そうではあるな」

 

 その言葉に反応したのはクレマンティーヌであった。手足をつなぐ鎖をジャラジャラと鳴らし叫ぶ。

 

「温厚!?温厚だってこいつが!?おまえらがどうなってもあたしは構わないけど一言言っておく!こいつはとんでもない変態だぞ!」

「黙っていろクレマンティーヌ。お前は聞かれたことだけに答えればいい」

「神は魔神かは別にして、精神支配してしまった彼を今後どどうすべきか・・・・・・」

「ペロロンチーノ。お前は精神支配が解除されたらどうする?」

「このケツとは離れがたいですが帰って冒険者組合に報告しますね」

「ケツって言うな・・・・・・」

「冒険者組合?どのような依頼をされていたのだ?」

「王国の村々を襲ったという帝国兵に扮した者達を調べるようにと」

「帝国の冒険者組合か・・・・・・それは・・・・・・まぁ当然の調査だろうが・・・・・・」

「あなたたちが犯人なんですか?」

「王国のクズどもが悪いのだ。肥沃な大地を持っているというのにそれを巡って争い、麻薬を流行らせ、国民を奴隷のように扱う」

「その話は今すべきではないだろう。だが、この者を帰すことはできぬな」

「仲間も恨んでいよう。帰すくらいであれば戦力として利用すべきでは」

「本当にそれでよいと思っているのか?」

 

 闇の神官長は全員を見渡しながら眼光を飛ばす。普段のふざけた態度はそこには微塵もなかった。

 

「闇の神官長、どういうことだ」

「私は彼は今までの発言からやはり神と言えると思う。その神を魔道具で縛るなど不敬ではないか。ここは精神支配を解き、腹を割って話し合うべきではないのか」

「このいつまでもケツを揉んでいるのが神だと!?」

「まったくだ。ケツさえあればいいというのか」

「あんたはいつもセクハラしてるから慣れてるかもしれんが、ケツを揉むなど犯罪だぞ」

「ケツケツ言うな・・・・・・」

 

 占星千里が涙目で訴えるが、その間もケツを揉まれている。

 

「とにかく、ケツさえ揉ませておけば精神支配は完成している。質問にもすべて答えた。この者は法国の所持する兵器扱いとすればよかろう」

「「「「「異議なし」」」」」

「・・・・・・」

 

 闇の神官長が呆れたようにため息を吐くが、合議制である以上仕方ない。こうしてペロロンチーノは法国の戦力として保持することで議会は閉じた。

 

 

 

 

 

 

―――占星千里の部屋

 

 漆黒聖典の隊員は機密保持等のために、闇の神殿に各自の部屋を持っていた。占星千里もその一人だ。その部屋の前から扉を叩く音が鳴り続けている。他の隊員はそれを見るなり呆れて帰っていった。

 

「ちょっと、占星千里様。カギを開けてください。中に入れません」

「入れるわけないでしょう!あなたには部屋を用意したのだからそちらで寝てください!」

「一人じゃ占星千里様の体をまさぐれません」

「まさぐるな!」

「頭の中を占星千里様でいっぱいにしておいてそれはないでしょう。あんなことやこんなことしておいて」

「あなたの頭の中の占星千里様とか言う人に色々と言いたいことはありますが、私はもう寝ます!」

 

 バタンと音がして、返事がなくなる。ドアを叩き呼びかけるがすべて無視された。途方に暮れるペロロンチーノの肩を叩き、救世主が現れる。

 

「お困りですかな?」

 

 闇の神官長マクシミリアンであった。

 

「えーっと、あなたは?」

「先ほど議場でお会いしたと思いますが・・・・・・」

「男の顔なんて覚えません」

「ふふっ、素晴らしい考えです。私は闇の神官長ををしておりますマクシミリアンと申します」

「膜染みアンアン?」

「おお、素晴らしい聞き間違いです。神よ」

「神?神って俺が?」

「いかにも。ぜひ神とお話がしたく伺いました」

「男とお話しする趣味は・・・・・・」

「おっと、なぜか私の手の中に占星千里の部屋の鍵が・・・・・・」

「神よ!」

 

 ペロロンチーノがマクシミリアンの手を強く握る。

 

「それで神よ」

「なんですか神よ」

「いや、私は神ではないのですが」

「俺も神じゃないんですが」

 

 二人で笑いあう。結局お互い名前で呼び合うことにした。マクシミリアンからすれば不敬ではあるが神が望むのであれば仕方ない。

 

「それでペロロンチーノ様。先ほど話をされていたエロゲなるものについてお聞かせいただきたい」

「聞いてくれますか!」

 

 ペロロンチーノは語る。エロゲとは何か。法であり、社会の規範であり、抑止力であり、人生である。ペロロンチーノが熱く語るそれをマクシミリアンは目を輝かせて神の言葉として記録する。

 

「なるほど・・・・・・妄想を現実とする仮想空間を作り、そこで絵や映像を見せて体感させると・・・・・・。それにエロ本やエロ動画、エロ小説・・・・・・エロマンガなる存在・・・・・・興味深い」

「いやぁ、すみません色々と語っちゃいまして」

「ペロロンチーノ様。これをご覧いただきたい」

 

 そう言ってマクシミリアンは水晶を取り出す。そしてそこにあられもない姿の女神官が映し出された。風呂の映像だろうか。湯気で曇っている。

 

「おおっ!これはエロ動画!?」

「私はこういった魔法や魔道具の研究をしていましてな。映像を撮る魔道具、それを映し出す魔道具等、そういった世の中のためになるものを作ろうとしているのです」

「素晴らしい研究です!」

「そしてペロロンチーノ様の語られた様々なエロを伝道するための触媒。まずは簡単なエロマンガやエロ小説なるものから取り掛かることになるかもしれませんが、いずれ映像を制御する魔法を開発することに成功すればエロゲなるものも作れるようになるかもしれません」

「本当ですか!」

「ええ、その時はぜひペロロンチーノ様にもお見せしましょう。ですのでお願いしたいことが」

「エロゲの知識ですか!?もちろんです。あらゆる性的趣向からシチュエーションまでお教えしましょう」

「それもお願いしたいのですが、それよりもまずはペロロンチーノ様を精神支配などにより縛っていることをお許しください」

 

 そう言ってマクシミリアンは真摯に頭を下げる。

 

「今はその精神支配を解くわけには参りません。ですが、いずれその術式が解除されたとき、我らを許してくださいませんか」

「そんなことですか。同好の士を許さないわけないでしょう」

「ありがとうございます!それで、先ほどの性的趣向の話を詳しく・・・・・・」

「そうですね・・・・・・ではロリあたりから・・・・・・」

 

 そうして夜は更けてゆき、マクシミリアンとの友情が深まるのであった。その後、映像記録の魔道具を持ったペロロンチーノが占星千里の寝室に侵入し、神殿中に響き渡るような悲鳴が上があがるがそれはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 次の日、ペロロンチーノは正座で占星千里の前に座っていた。

 

「あのペロロンチーノさん、お尻揉んだり寝室に侵入したりもうやめてください」

「お断りします」

「何でですか!術者の私の命令ですよ!」

「何を言ってるんですか!占星千里様は俺の頭の中でもっとエロいことしてって命令してるじゃないですか!俺はどっちの命令を聞けばいいですか!訳が分かりませんよ!」

「訳が分からないのはこっちですよ!」

 

 朝から騒ぎ立てる二人であるが、騒ぎを聞きつけたのかそこに左右の髪と瞳の色の違う幼いと言ってもいい顔立ちの少女が通りかかる。白銀と漆黒で分けられたその髪により耳まで隠れている。

 

「あれ?なにその亜人は?亜人が神殿に来てるなんて聞いてないけど」

「これは番外席次様。おはようございます」

「おはよう。それで?殺したほうがいい?それとも拷問する?」

「い、いえ。この人は何と言うか・・・・・・ただの変態です」

「どうも、俺がその変態です」

「ただの変態相手に法国の至宝である傾城傾国まで使ってるの?」

「いや、あのそれは・・・・・・」

「私に言えないこと?無理やり言わされるのと自分から言うのどっちがいい?」

「脅さないでくださいよ。言います、言いますから。彼はぷれいやーっぽいです。破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)も倒しましたし・・・・・・」

「ぷれいやー?神様ってこと?」

「神じゃないですよ。神様っていうのは昨日俺に占星千里様の部屋のカギを渡してくれた人のようなことを言うんですよ」

「おい、それ初耳ですよ。誰からもらったんですか!?」

「それは神のみぞ知る・・・・・・」

「ぷっ・・・・・・あはははは。全然精神支配されてないじゃない。面白い。それになんかキラキラしてるし・・・・・・綺麗」

「褒めてくれてありがとうございます。俺もこのアバター作るの結構苦労したんですよ」

化身(アバター)?やっぱり神様なんじゃ・・・・・・それに破滅の竜王を倒すほど強いって?」

「あ、あの番外席次様。おかしなこと考えないでくださいよ」

「おかしなことなんかじゃない。ねぇ、貴方名前は?」

「俺の名前はペロロンチーノ。占星千里様のエロ奴隷です」

「だーかーらー!変な事いうなーー!」

 

 占星千里が首を絞めるがペロロンチーノは喜んでいる。そんなペロロンチーノを見て番外席次は唇の端を吊り上げる。

 

「ペロロンチーノ。私と勝負して」

 

 

 

 

 

 

―――アーグランド評議国

 

 広間に一匹の巨大な竜と人間の老婆がいた。竜の名はツァインドルクス=ヴァイシオン。アーグランド評議国の永久評議員を務める白金の竜王(プラチナ・ドラゴンロード)と呼ばれる者である。そして腰から剣を下げた白髪の老婆はリグリット・ベルスー・カウラウ。十三英雄の一人であり、ツァインドルクス・・・・・・ツアーの友人でかつての冒険仲間だ。

 

「やあ、リグリット。よく来たね」

「ああ、ちょっと相談があっってな」

「君が相談何て珍しいね。どうしたんだい?」

「インベルンの嬢ちゃん、いや、今はイビルアイと名乗っておったかの。あのチビ助から相談を受けてな」

「ああ、あのヴァンパイアの・・・・・・確か国堕としとか呼ばれていたね」

「あの子をそんな名前で呼ばないで欲しいね。それにあれはあの子が悪いわけでもない」

「ああ、そうだったね、悪かったよ。おや、ところで君にあげた指輪をしていないようだけどどうしたんだい?」

「それにも関係ある話さ。まず、指輪だけど若いのにやった・・・・・・んだけど、その若いのが最近殺されたらしい。殺したのは恐らくスレイン法国」

「それはまた厄介な国の連中の手に渡ったようだね。あれは竜の魔法で作ったアイテム、同じものはもう二度と作れないだろうアイテムだよ。戦士としての技量を限界を超えて高めるアイテムをもしぷれいやーや神人にでも使われたらと思うとぞっとする」

「さらに、そのぷれいやーが現れたやもしれぬ。100年目の嵐かもしれない話さ」

「なんだって!?」

「イビルアイが言うには最近おかしな冒険者が現れたらしい。王国を襲った悪魔を撃退したらしいが、その強さはイビルアイを優に超すということじゃ。その冒険者の一人が法国に精神支配を受け連れ去られたらしい」

「まさかかつての盟約を破るつもりなのだろうか」

「100年前といい今回といい、まったく困ったものじゃな」

「100年前には失敗したからね。まさか亜人に滅ぼされるだけと思っていた聖王国がたった一人のぷれいやーのためにあそこまでの強大な国になるとは・・・・・・。ぱわーれべりんぐなる大儀式を行い、あそこの国民はもはや人間とは思えぬ強さを持っている。気づいて攻め入った時にはもう遅かった。我らとしたことが完璧に撃退されてしまったよ」

「じゃがあの国は完全に閉じておる。侵略などしない以上放置しておくしかないじゃろ」

「もし法国に同じようなことが起これば奴らは人間以外を駆逐するべく動くだろうね。もしそのような動きがあるのであれば・・・・・・それとも聖王国が動くような事態になれば・・・・・・もはや戦争しかないかもしれないね」

「とにかくその冒険者・・・・・・調べてみてくれるか?」

「ああ、私はここを動けないが・・・・・・」

 

 そう言ってツアーはちらりと鎧を見つめる。かつてリグリット達と共に冒険者として活躍した鎧を。

 

「あれの出番かな」

 

 

 

 

 

 

 占星千里、番外席次、ペロロンチーノは町から離れた草原に立っていた。遠くに森が見えるが、それ以外には何もない平野だ。番外席次は十字槍に似た戦鎌(ウォーサイズ)を持ち、その体を六大神が残したとされる至宝で身を固めていた。さらも陽光聖典がガゼフ・ストロノーフより奪った至高なる指輪も装備している。

 

「あの番外席次様。まずいですって勝手にこんなことしちゃ」

「いい、責任は私がとるから。ペロロンチーノ、あなたも最高の装備できて」

 

 ペロロンチーノは自分の手元にある弓を見つめる。みすぼらしい何の変哲もないただの木の弓だ。

 

「これが俺の今の最強装備です」

「は?ふざけてるの?」

「わけあって俺の最強装備は持っていません。でも大丈夫です。これに勝って占星千里様と結婚します」

「勝手に勝負の景品にしないでください!いいですか!殺しはなしですよ!殺しは!」

「いえ、殺す気できて。こっちも殺す気で行く。じゃあ占星千里、合図よろしく」

「ああ、もう!知りませんからね!じゃあ、魔法のハンドベルを持っていますからこれが鳴ったら開始です」

 

 やる気なさそうに棒立ちのペロロンチーノ。それに対して番外席次は殺気を放ち、構えをとる。そしてハンドベルが鳴り響いた。

 

 

「はぁーーーーー!」

 

 番外席次の戦鎌がペロロンチーノに詰め寄る、と思われた瞬間、爆風が発生する。ペロロンチーノが飛び上がったのだ。番外席次が飛行の効果を持ったアイテムを使い飛び上がろうとするが上空から矢の雨がその全身を滅多打ちする。

 

「痛っ!」

 

 叫ぶ番外次席が上空を見上げるとすでにペロロンチーノはいなかった。矢は殴打属性が付与されているようで、体に刺さるようなことはなかったが、それを手加減されていると感じ、怒りを胸に上空へ飛び上がる。ペロロンチーノを探すが、周囲を見渡しても見つけることが出来ない。

 

(逃げた?いえ、そんなことをする必要はないはず。それに精神支配されているのだから・・・・・・不可視化?でもその程度は見破れる!)

 

 全神経を感知に回して気配を探るが周辺には全く気配がない。そう思っているとガンっと頭にまた強い衝撃が走った。

 

「痛った!」

 

 激痛に撃たれた方向を見つめる。森があるが、そこから番外席次のところまではどう見ても1キロ以上の距離がある。

 

(そんな超長距離スナイプが可能なはずがない・・・・・・近くに隠れているの?)

 

 きょろきょろと周りを見回していると同じ方向から今度は矢が嵐のように撃ち込また。さらに身動きが止まったところに今度は上空から振り注ぐ矢により地面へ打ち付けられる。余りの連続攻撃に立ち上がるのがやっとの番外席次が顔を上げるとそこには頭に矢を突きつけるペロロンチーノの姿があった。1キロを超える超長距離スナイプをした上、その距離を瞬時に詰めてきたのだ。

 

「ずるい!遠距離攻撃とかずるい!」

「えー」

「ずるいずるいずるい!」

「わがままだなぁ・・・・・・だけどロリは正義。じゃあもう一回やろうか?」

 

 番外席次のわがままにペロロンチーノは快く応じる。再試合となり、開始の距離は戦鎌(ウォーサイズ)の届くほどの近距離となった。

 占星千里の開始のベルが鳴ると同時に番外席次が仕掛ける。首を薙ぎに行くと思われた瞬間、ペロロンチーノのカウンタースキルにより回避と同時に番外席次に矢が放たれた。だが、その矢は見当違いの地面に刺さる。

 

「ふふっ、やっぱ近距離戦闘苦手なんだ。外してるし・・・・・・やっぱ私は強い」

 

 そう言ってペロロンチーノに迫ろうとするが番外席次の体は動かなかった。

 

《影縫いの矢》

 

 スキルにより影を縫われ動けない番外席次に対して上空至近距離から弓を弾き絞るペロロンチーノ。

 

「ちょ、ちょっと待って・・・・・・そんな近くから撃ったら・・・・・・」

 

 矢に恐ろしいほどの魔力が注ぎ込まれていくのが分かる。光が一点に集約し、莫大なエネルギーを感じる。命乞いともとれることを言う番外席次に対してのペロロンチーノの答えはシンプルだった。

 

「近接戦闘が得意なんだろう?」

 

―――そして矢が放たれた。

 

「にゃーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 滅多打ちにされ、犯された後の女の子のようにボロボロになった番外席次に占星千里が必死に回復魔法をかけている。

 

「私ってそんなに弱いかなぁ?」

「弱いとかじゃなくて戦闘経験がないって感じかな?」

「仕事でいっぱい亜人を殺してるんだけど」

「自分と同格以上と戦ったことは?」

「・・・・・・ない」

「遠距離攻撃をさせたくないなら移動阻害や遅延、時間対策をしないといけないし、回避が間に合わないならダミーなり何なりで相手をごまかして距離を詰めないと。何の対策もしてなかったよね」

「・・・・・・ペロロンチーノはあたしより強い」

「かもね」

「決めた!私ペロロンチーノの子供を産む」

 

 番外席次の宣言に占星千里が慌てる。いつもおかしな言動をする番外席次であるが、今日は特におかしい。

 

「ちょっと、番外席次様何を言ってるんですか!」

「私は強い子供を産みたいの。これは本能なのかな、どう?ペロロンチーノ」

「ロリと子作り・・・・・・ううっ・・・・・・だが・・・・・・断る!」

「え、なんで」

「俺は今魔道具のせいで占星千里様としか子作りできないからです。ちなみに頭の中ではずっと子作りしてます」

「おい、その妄想をいますぐやめろ」

 

 占星千里に首を絞められるが、ペロロンチーノの妄想は現在進行形で実施中だ。

 

「魔道具のせいなんだ。じゃあ、傾城傾国を私が着ればペロロンチーノは私のものってことね」

「え・・・・・・まさか番外席次様」

「脱いで」

「いえ、ですが、これは預かりものですし・・・・・・」

「脱いで。至宝は私が守るから安心して」

「ここで・・・・・・ですか!?」

「早く!それとも無理やり脱がされたい?」

「俺はどっちかと言うと無理やり脱がされるところが見たいです」

「あなたはあっち向いててください!」

 

 しぶしぶ傾城傾国を脱ぐ占星千里をガン見するペロロンチーノであるが、占星千里と番外席次が服を交換し終わると態度ががらりと変わった。

 

「この服胸が苦しいです・・・・・・それにお尻も・・・・・・」

「それ以上言ったら殺すわ」

「あ、なんかすみません。っていうかお尻触られるのから解放されるならこれはこれでいいかなって思いました」

「そうですね。俺はもう番外席次様のことを愛していますから過去の女には興味ありません」

「あの、私この人のこと好きでも何でもないですが。むしろ嫌いですが、何か捨てられたみたいな言い方がすごく傷つくんですが」

「俺のことは忘れて新しい愛を見つけてください」

「きぃーーーーーー!むかつくぅーーー!って言うか何で番外席次様のお尻は触らないんですか!」

「YES!ロリータ!NO!タッチ!これは俺のポリシーですから」

「何か釈然としない・・・・・・」

「じゃあ子作りに行くわよ。ペロロンチーノ」

「はい、番外席次様」

 

 こうして二人は闇の神殿に戻ることになる。その後、占星千里はパツパツの服を着ているところを闇の神官長に撮られたり、男性神官たちを集め占星千里の映像の上映会を開かれたりとひと騒動あるのだが、それもまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

―――番外席次の部屋

 

 番外席次はシャワーを浴びながらこれから始まることを考え、薄い胸をドキドキさせていた。

 

(キラキラしてた・・・・・・神官たちが召喚する天使なんかよりもっと・・・・・・)

 

 あれが本当の神と言われるものなのだろう。全身を羽で覆われ鳥の顔をした亜人であったが光り輝く4枚の翼、その精悍な顔立ち、思い出しただけで心臓が高鳴る。

 

(負けた・・・・・・それも力じゃなく技で・・・・・・知識で・・・・・・それにキラキラしてた!)

 

 力だけでも負けていたもしれない、しかし彼の洗練した戦い方に結局番外席次は近づくことさえできなかった。そんな彼が今は自分の支配下にあり、そして男女の関係になろうとしている。

 

(それに占星千里にはあんなにセクハラしまくってたのに私にはしないなんて・・・・・・ふふっ、それって私のほうが大事ってことじゃ・・・・・・)

 

 ついついニヤついてしまい、番外席次は思わず口元を両手で押さえる。

 

(そんな彼とついに・・・・・・私は今夜初めてを・・・・・・きゃーーーー!)

 

 自分の中の女が目覚め、嬉しいのと恥ずかしいのでシャワーを浴びながらバタバタする番外席次。いつも敗北を知りたい、強い男の子供が欲しいなどと言っていたが実際いたすとなるとどうにも踏ん切りがつかないのであった。

 

(よ、よぉし、行くわ。は、初体験・・・・・・私とペロロンチーノの子供を作りに!)

 

 番外席次が覚悟を決め、体に薄い胸を手が隠しながらシャワー室からベッドに向かう。

 

―――しかしそこにはすでにペロロンチーノの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 闇の神殿上空、そこにペロロンチーノはいた。そして、その背にクレマンティーヌを乗せている。下からは警報(アラーム)の魔法の大音量が聞こえているが、そんなことはもはや関係なかった。

 

「あはははは、色ボケが!初体験に期待するあまり油断してるからこういうことになるんだよー!」

 

 クレマンティーヌはその身に傾城傾国を身に着けていた。番外席次は服を来たままシャワーを浴びるわけにもいかず、脱ぎ散らかした傾城傾国をクレマンティーヌが奪ったのだ。

 

「やった・・・・・・やってやったわ!法国の糞どもが!いつもいつも糞兄貴と比べて馬鹿にしやがって!ざまあ見やがれ!」

 

(とにかく助かった。こいつに関する情報を喋っちまった以上、あたしはもう用なしに近い。殺されるのも時間の問題だった・・・・・・。闇の神殿に軟禁されていたが、こんなチャンスがあるなんて・・・・・・)

 

「しかもこの指輪まで手に入るんなんてね!あははははは!さいっこーの気分だよ。さあ、ペロロンチーノあたしを連れてこの国から逃げ出しな!」

「はい、クレマンティーヌ様。それでどこに行くんですか?」

「あたしたちを一番高く買ってくれそうな国だよ。そう、竜王国へ!」

 

 窓からクレマンティーヌを連れて飛び出したことにより警報(アラーム)の音が鳴り響いている神殿を後目にはるか上空をペロロンチーノが息も詰まるような速度で飛び去って行く。しかしそのあまりの速度にクレマンティーヌはバランスを取るのに必死だった。

 

「おまえ、ちょっと!落ちるって!」

「クレマンティーヌ様。そうやって背中から抱きつかれるのもいいのですが、落ちると心配です。俺の手に捉まってください」

「そお?じゃあ、たのもっかなぁ。ってどこつかんでんだ!?ちょっ、おまっ」

「これは仕方のないことなんです!ええ、仕方のないことなんですとも!」

「どこに手を入れてんだ!おい、や、やめろーーーー!」

 

 こうして新たなコンビが新たな国を目指して飛び去って行くのであった。



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第19話 ケモ耳娘はだいたい尻尾が性感帯

―――竜王国

 

 竜王国の女王ドラウディロン・オーリウクルスと宰相は頭を悩ませていた。近年のビーストマンによる侵攻によりすでに3つの都市が落とされている。ビーストマンたちの目的はただの食料として食べるためという単純なものであったが、今もなおビーストマンによる侵攻は止まらない。多くの兵を投入し、冒険者やワーカーを雇い防衛していたが、その資金ももう尽きかけ、竜王国の命運はもはや風前の灯火であった。

 

「もうおしまいじゃあーーー!私たちはあの獣たちの胃袋におさまるんじゃ-!」

 

 ドラウは生足の見える服装でバタバタと駄々っ子のように手足を動かす。あえて生足が見えるこの衣装は謁見した者の心を揺さぶるように宰相が用意したものだ。

 

「陛下、お気を確かに。まだ手は残されております。スレイン法国から陽光聖典の者達が来ておりますので」

「じゃが、今度はどれだけ搾り取られる?もう我が国の国庫は空も同然じゃ」

「そこは情に訴えるしかあるますまい。陛下、いつものアレ頼みますよ」

「また幼子の振りをして同情を買えと言うのか。さすがにあれはしらふではできん。酒持ってこい酒!」

「昼間っから酒臭い息をする幼子がどこにいるんですか!もういい年なんですから分別を持ってください」

「おまえ・・・・・・都合よく子ども扱いしたりババア扱いしたりしないで欲しいのじゃが」

 

 ドラウは七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)の血を八分の一ほど受け継いでおり実年齢は宰相よりも上である。本来の姿は胸の大きい大人の女性であるが、周りか同情を買うため、また、この国のアダマンタイト級冒険者がロリコンであるため幼女の形態をとっていた。

 

「泣きの演技も忘れてはなりませんよ。幼い少女が涙ながらに国を想い、助けを求めてくるのはなかなかに効きます」

「同情という意味で効くのであればよかろうが、うちのアダマンタイト級冒険者のように性的欲望の対象として効くのはさすがに勘弁して欲しいんじゃが」

「国がなくなるかどうかの危機ですよ。減るもんじゃなしその程度我慢してください」

「私の貞操をもっと大事にしてくれ!」

「はいはい。では、法国の方達をお呼びしますので頼みますよ」

「いや、さらっと流すな。聞いてくれ!」

 

 宰相はそれをも無視して陽光聖典を謁見の間に呼ぶ手配をする。女王はこの国で一番心を悩ませ国の舵を取りってきたのだ。個人的な感情と国の一大事どちらが大事かは知っていると信じている。宰相はそう思い、屠殺場へ連れていかれる豚を見るような憐れんだ目で女王を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 黒い法衣を纏った集団が謁見の間に入ってくる。それぞれ変わった形の杖を腰に刺していることから魔法詠唱者の集団であることが伺えた。彼らこそスレイン法国の特殊部隊の一つ、陽光聖典である。任務としては亜人掃討が主な任務であるが、命じられれば暗殺でも何でもやる集団だ。

 

「お久しぶりです、女王陛下。陽光聖典ニグンお呼びにつき参りました」

 

 恭しく膝をつき礼をする男は短い髪に鋭い眼光をしている。王国で一仕事終え、そこで強者を屠ったことで自信に満ち溢れていた。隊員たちも最低でも第3位階の魔法を使用できる実力者ぞろいである。

 

「ようこそ来られたニグン殿。早速で悪いが今我が国はまさに存亡の危機にあるのじゃ。こうしておる間にもビーストマンによって国民が殺されておる。ぜひ助太刀をお願いしたい」

 

 ニグンは女王の言葉に何かを考えるように数秒目をつぶったが、静かにその返答を告げた。

 

「さようでございますか。では、白金貨にして1万枚ご用意いただきましょう」

「な、なんじゃと!?1万!?ニグン殿、さすがにそれだけの額を用意するのは無理じゃ」

「無理ですか?では代わりになるものを頂きたい」

「ま、まさかお主も私の体を欲しいと・・・・・・」

 

 目の前で生足を露出した幼子が自身の体をかき抱きブルブルと震えている。

 

「いや、そんなことは言いません。お主も?え?そんなことを言う者がいるのですか?」

 

 女王の隣に控える宰相から「ちっ、ロリコンじゃないのか」と言う舌打ちが聞こえるが、気のせいだろう。

 

「聞き間違いじゃ、気にするな。それで代わりのものとは?」

「国家総動員令を出していただきたい」

「なっ!?」

「亜人は滅すべき我らの共通の敵です。ですが、金だけ出して我々だけに戦わせる。それは道理に反するのでは?」

「それはそうじゃが・・・・・・しかし・・・・・・」

「聞けば陛下は生命を魔力とする始原の魔法(ワイルドマジック)を使用できるとか。ただ亜人に食われていくより国を守るための犠牲になっていただいたほうがよいでしょう」

「そのような非道な真似はできん」

「非道?金だけ払って我らに命をかけさせるのは非道ではないのですか?」

「うっ・・・・・・」

 

 おろおろと困り果てるドラウに宰相が耳打ちをする。

 

(陛下、ここです・・・・・・泣いてください)

(え、急に?無理じゃ。そう簡単に涙などでない)

 

 そう言った瞬間、ドラウの足に激痛が走る。思わず叫びそうになるが口を押えて耐えた。痛みに涙があふれる。見ると宰相が思い切りドラウの足を踏みつけている。

 

「うっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・しかしそんな真似は・・・・・・ぐすっ・・・・・・ううっ」

 

 口元と押さえ、嗚咽に咽ぶ幼い少女の涙にさすがにニグンも罪悪感に苛まれるが、人類のため私情は捨てた男は心が揺らごうと態度が変わることはなかった。

 

「この国がこのままでいいと思っているのですか?例え今回我らが撃退できたとして、次はどうするのです?この国には亜人と全国民を挙げて戦う姿勢が必要なのです。そうなれば次回は自国民だけで撃退できるやもしれないでしょう」

 

ニグンは自分でも酷なことを言っていることは分かっている。だが、亜人との国境を守る国は盾の役割もあるのだ。この国が滅べばより人類の生存圏が侵される。それは人類の存亡にも関わることだ。そのためにも守られるのではなく、国民全員で盾となるくらいの覚悟はしてもらわねばならない。

 幼い女王陛下は「むぅー」と唇を尖らせ、宰相は困ったような表情をしている。悩んでいるのだろう。もちろんニグンは断られたとしても力を貸すだろう。だが、その力がいつでもあると思ってもらっては困るのだ。しかし、そんなこの国の明暗を分ける決定を待つ場に、場違いな甲高い声が響き渡った。

 

「まーたそんな耳障りの良いこと言っちゃってー。女王様ー?騙されちゃだめだよー」

 

 

 

 

 

 

 そこに現れたのは竜の刺繍の入った白い奇妙な服を着たニヤついた顔の女であった。美しい顔立ちなのだが、その人を小ばかにしたような表情がそれを台無しにしている。その脇には鳥の顔をした亜人を連れていた。

 

「お、おまえは!?」

「どもー、ニグン隊長ひっさしぶりー」

 

 そう言って馬鹿にしたようにヒラヒラ手を振っている。

 

「元漆黒聖典の裏切者・・・・・・疾風走破。お前がなぜここに!漆黒聖典が捕えたと聞いているぞ」

「裏切者?先に裏切ったのはどいつらだよ!あぁ!?おまえらがあたしに何をしたのか忘れたのか」

「陛下、お下がりください。この者は危険です。おいお前たち、やるぞ」

 

 隊長の命令に隊員が動きだす。隊員の一人が炎の上位天使(アークエンジェルフレイム)を召喚する・・・・・・が次の瞬間ばらばらに切り刻まれ光となって消えていた。その場には代わりにスティレットを握ったクレマンティーヌが立っている。

 

「速い!一瞬だと!?」

「あはははは、すっごいでしょー。見て、この指輪の効果なんだよー?あたしの武技もこんなに威力が上がるなんてね」

「まさか・・・・・・その指輪は!?それにその着ている服は傾城傾国!?」

「そう、法国が大切にたーいせつに守ってきたやつだよー?防御力もすごいし精神系の魔法も無効化してくれちゃうしすっごいよねー。それにとこの指輪はあんたたちのおかげで手に入った指輪だよねー?それにやられるってどんな気持ち?超うけるー」

「貴様ぁ!おまえたち!一斉に攻撃せよ!」

「んー、全員いっぺんはちょっときついかなー?・・・・・・ペロロンチーノ、やれ」

「はい、クレマンティーヌ様」

 

 黒い影が目の前を通り過ぎた、陽光聖典の隊員たちにはそうとしか感じられなかった。影が走った瞬間に意識は奪われたのだから。そこには数十人いた隊員たちがすべて倒れ伏している。

 

「な、なにをした!?」

気絶(スタン)属性をつけて殴っただけですよ」

「殴っただけ・・・・・・だと!?」

 

(ありえない。これだけの数の隊員を一瞬で!?ほとんど見えなかったぞ。なんだ・・・・・・なんなんだこいつは)

 

「ね?すっごいでしょー?これがぷれいやーってやつだよー」

「ぷれいやー!?これが・・・・・・神だと言うのか!?」

「神なんて碌なもんじゃないけどね、おまえたちの崇める神のようにろくでなしさ。いや、これはマジで。何かあるたびに体弄ろうとするし」

「貴様!神を侮辱しているのか!」

「はっ、今のあたしならあんたなんてスッといってドスで終わりだよ?やる気?」

「神を冒涜するこの薄汚い売女が!おまえのような女は男たちの上で腰を振っていれば・・・・・・」

 

 言い切る前にニグンは股間に激痛が走る、武技《疾風走破》で距離を詰めたクレマンティーヌが局部を思い切り蹴り上げたのだ。余りの痛みに泡を吹いて気を失うニグン。それを尻目に震える女王へと笑いかけた。

 

「さーて、女王陛下。交渉といこっか?」

 

 

 

 

 

 

 クレマンティーヌの交渉内容を聞いたドラウと宰相は耳を疑う。なんとたった二人でビーストマンの侵攻を止めるというのだ。

 

「お主たちがビーストマンを何とかしてくれるのか?」

「そーだよー?報酬は法国の糞どもみたいにたくさんは求めないから安心していいよー」

「しかしたった二人でそのようなことが可能なのか」

「んー?さっき見てなかったの?こいつはねー?神様並みに強いの。そしてあたしの言うことをなーんでも聞いてくれる。まぁ大人しくさせるのに苦労したけど」

 

 ペロロンチーノは法国にいた時と違い、クレマンティーヌに大人しく従っていた。その目は体を舐め回すように見つめ続けてはいたが。

 

「何が望みじゃ」

「とりあえず、この国に居させてくれればいいよ。衣食住を提供してくれればねー。もう戻る場所もないし」

「ど、どうする宰相」

「その前にその亜人について教えていただきたい。その・・・・・・人を襲ったりしないのでしょうか」

「ああ、こいつ?大丈夫大丈夫、魔道具で支配してるから。心配があるとすれば・・・・・・あたしが襲われないか心配なだけだよ・・・・・・」

 

 急にトーンを下げて引きつった顔をするクレマンティーヌ。そんな彼女に従う亜人は何をするともなく、やはりその体を見つめていた。それを見た宰相は口元をわずかにほころばせる。

 

「ほう、魔道具で支配ですか、それはそれは。では安心ですな。陛下、この話受けるべきかと」

 

 宰相のその言葉に、それまでずっと黙っていたペロロンチーノが口を開く。

 

「その前に質問があります」

「お、おい。精神支配しているんじゃないのか?喋りおったぞこいつ」

「そうなのよ・・・・・・勝手にしゃべるのよ・・・・・・はぁ、何なのこいつ」

「こいつじゃありません。俺の名前はペロロンチーノです。お嬢さんお名前は?」

「わ、私の名は、ドラウディロン・オーリウクルスじゃ」

「この国は竜王国と言われているのになんで王様が人間なんですか?それともモンむすですか?もしかして人間化する能力でもあるんですか?」

「国民たちは人間じゃが、私は正確には人間と竜の両方の血を受け継いでおる。まぁ竜の血のほうは八分の一程度しかないがの。もんむすってなんじゃ?」

「っと言うことは!あなたのご先祖様はドラゴンとやったんですか!?」

「ぶっ!!な、なにを言っておるのじゃこやつは!?」

「どっちが男でどっちが女だったんですか?竜のモノはおっきくて入りそうにないから人間の男がドラゴンの女とやったんですか?異種間交配って可能なんですか?陛下は人間とドラゴンどっちとやるんですか?ていうかドラゴンの特徴ありませんよね?ツノとか尻尾とかあるんですか?」

 

 滝のように質問を投げかけるペロロンチーノに面白がってクレマンティーヌが追撃をかける。

 

「そういやあたしも考えたことなかったなー、で、そこんところどうなの?」

「あ・・・・・・あ・・・・・・それは・・・・・・その・・・・・・」

 

 ドラウは顔を真っ赤にしてモジモジしながら黙り込んでしまった。七彩の竜王は、竜王の間でも人間と交わった変態として名高い。そんことも言うわけにもいかず、宰相が仕方なしに助け舟という追撃をかける。

 

「えー、陛下が存在することですし、異種間交配が不可能ということはないでしょう。そして陛下の婿には私としてはドラゴン等の強い種族を推します。強い子供を産んでもらわないといけませんからね」

「か、勝手に決めるなー!」

「なるほど、頑張れば可能ってことですね」

「さようですな」

「私はがんばらんぞ」

 

 ペロロンチーノがドラウを舐めるように見つめている。この視線をドラウは以前感じたことがあった。アダマンタイト級冒険者、ロリコンの変態、《閃列》セラブレイトの視線と同じものだ。

 

「ぺ、ペロロンチーノとやらもしや私を・・・・・・」

「いえ、俺はクレマンティーヌ様のエロ奴隷ですから何もしませんよ。でもロリとして愛でたいなと思っただけです」

「おまえをエロ奴隷にした覚えはないけど・・・・・・。っていうかこの女王陛下は見た目はこんなだけど結構歳はいってたような・・・・・・」

「なんだロリババアですか」

「ロリババア言うな!」

「ロリババアの話は置いておきましょう。では、クレマンティーヌ殿、ビーストマンの件、お任せいたします」

「勝手に決めるなー!」

 

 陽光聖典の隊員たちが倒れ伏す中、クレマンティーヌと竜王国の交渉は成立した。そして陽光聖典は神殿へ運ばれ治癒されることとする。もし彼らが失敗するようなことがあれば助勢を頼まなければならない。おかしな亜人とおかしな女にこの国の行く末を任せることに一抹の不安を覚えるドラウであった。

 

 

 

 

 

 

 謁見の間から出てきたクレマンティーヌは非常に機嫌が悪かった。まさか陽光聖典と鉢合わせするとは思ってもみなかったのだ。そして彼女をキレさせたニグンの最後の一言。

 

「くっそ、思い出したくないこと思い出させやがってニグンの野郎」

「クレマンティーヌ様、お兄さんがいたんですか?」

「は?そうだけどー?」

「お兄さんと何かあったんですか?」

「・・・・・・なんでそんなこと聞くのよ」

「いや、俺も姉ちゃんがいたもので」

「・・・・・・つまんねー話だよ。優秀な兄と比べられ役立たずと罵られ痛めつけられて捻くれた妹のさ。命令を聞かせるために男たちが寄ってたかって・・・・・・って何でお前にこんな話してんのあたし」

 

 そんなクレマンティーヌのぼやきを腕を組みながらうんうんと頷き聞くペロロンチーノ。

 

「分かります。俺も姉に勝る弟はいないなんて虐げられてきましたから」

「え・・・・・・そうなの?そうか・・・・・・あんたも・・・・・・苦労したんだね」

「俺も・・・・・・エロい種族集めてナザリックハーレムを作ろうとか言って殴られたとか、エロゲに出演するのやめてくれって姉ちゃんに懇願して殴られたとか」

「いや・・・・・・ごめん違ったわ。よくわかんないけどあんたとあたしの話の落差が大きすぎてついていけないわ・・・・・・」

「なんでですかー、一緒ですよ。兄や姉に虐げらた者同士傷を舐めあいましょうよ。いや、傷ではなくもっといろんなところを!」

「お前それを言いたかっただけだろう!?ちょ、やめろ触るな」

「ご褒美くれるって言ったじゃないですか!」

 

―――『ご褒美』

 

 そう、クレマンティーヌはペロロンチーノの操り方が段々わかってきた。ご褒美をちらつかせればこいつはよく言うことを聞く。ペロロンチーノが今まで大人しくしていた理由。それはクレマンティーヌは所かまわず体を触ってくるペロロンチーノにしたある約束だ。

 

 あとで『すんごいこと』をしてやるから大人しくしてろ、と。

 

「まだだ、まだ。後でしてやるから!」

「じゃあ一部前払いでお願いします」

 

(この魔道具は本当に厄介だね・・・・・・魅了の効果が強すぎる気がする。仕方ない・・・・・・)

 

 クレマンティーヌは覚悟を決める。

 

「はぁ・・・・・・しょ、しょうがないわね。ちょっとだけ前払いしてあげるから目をつぶれ」

「はい!」

 

 期待に胸を高ぶらせるペロロンチーノ。目をつぶった自分にいったいどんなことが起きるのか。起きたら縛られていてむりやり×××(ピー)なことをしてもらえるのか。そんなワクワクする彼の頬に何かが触れた感触がした。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

「あの・・・・・・今どき頬にキス程度で命令聞くのは俺みたいに魔道具に支配されたやつくらいですよ」

「う・・・・・・うるせえ!さっさと行くぞ」

 

 クレマンティーヌは初めて自分からしたキスに意外とドキドキしている自分に戸惑いながらごまかすようにペロロンチーノの背に乗るのだった。

 

 

 

 

 

 

―――中央大陸国境付近 上空

 

 そこは戦場と言うより文字通り弱肉強食の場であった。兵たちは岩や塹壕に隠れ反撃の機会を伺っていたが、見つかったら食われるという恐怖がその足を鈍らせている。

 

 『ビーストマン』、肉食獣の顔を持ち全身を体毛に覆われた亜人は肉体能力のみでも人間の数倍があり、訓練を受けたものにおいてはそれが数十倍となってしまう。もちろん兵士たちの中にも強者はおり、数人掛かりであれば倒せるが相手は数においても勝っており、絶望的な状況であった。

 

「おー、いるいる、ビーストマンがわらわらと。あ、あそこで生きながら喰われてんじゃん。あはははは、なっさけなーい」

「あ・・・・・・けも耳してる・・・・・・」

「んー?どうしたのー?」

「何でもないです、クレマンティーヌ様、俺は何をすればいいんですか?」

「んー?みーんなやっちゃって」

「みんな?竜王国の兵士みたいな人たちも混ざってますよ?」

「別に兵士を助けるなんて約束してないしー?墓地でアンデッドまとめてぶっ飛ばしてたみたいに一気にやっちゃっていいよー」

「そう・・・・・・ですか。はい、畏まりました」

 

 少し考えるそぶりをしたペロロンチーノは弓を取り出すと爆撃を始める。広範囲にわたる高高度爆撃だ。それまで狩る立場だったビーストマンたちがなすすべもなく狩られる立場へと変わる。絶え間ない爆撃により動くものが動かないものへと変わっていった。

 ビーストマンに分かったのは上空より「光り輝くもの」が現れたこと、そしてそこから光の雨が降り注いだことのみである。そしてビーストマンの数およそ10万、そのすべてが倒れ伏すことになった。

 

 

 

 

 

 

 動くもののほとんどいなくなった戦場。そこにクレマンティーヌとペロロンチーノが降り立つ。ただし、死んだ者も一人もいなかった。すべてが倒れ伏しているがよく見ると胸が動いており息をしているのが分かる。ペロロンチーノは気絶(スタン)効果を載せた矢のみで場を鎮圧したのだ。

 

「あんた、なんでこいつら殺してないのよー、つまんないじゃないー」

「殺せとは命令されてないです。あとグロいと吐いちゃいます」

「何言ってんの?殺すのって楽しいじゃない。あたしはねー、殺すことが好きで好きで恋してて愛しているの」

「そうですか?殺さないほうが面白いと思いますけど」

「え、なんで?」

「殺しちゃったらそこで終わっちゃうじゃないですか。いくら楽しくてもそれで終わるのはつまらなくないですか?」

「ふーん・・・・・・なるほどねー。そういう考え方もあるかー。まぁいっか。全部殺しちゃってもつまんないしー。さーてどいつにしようかな」

 

 散歩に行くような気軽さでビーストマンを品定めするクレマンティーヌ。その中から体格が良く、装備もよさそうなビーストマンを選び、蹴りを入れる。

 

「げふっ・・・・・・」

「あんたその恰好は隊長クラスとかそのあたり?ねー、教えてくれるー?あんたたちのボスはどこ?」

「げほっ・・・・・・げほっ・・・・・・人間などに答えるか」

「ふーん・・・・・・じゃあ死になよ」

 

 クレマンティーヌがその首筋にスティレットをあてがう。その動作は手馴れており、それが冗談ではなないことをビーストマンに体で伝える。

 

「あ、あそこにいる方だ」

 

 震えるビーストマンが指さした先、そこに一際体格が大きく、輝く鱗のようなもので出来た鎧を着たビーストマンが倒れていた。

 

「ありがとー。じゃあお前は用なしだから死んでいいよー?」

 

 そう言ってスティレットをビーストマンの眼球に突き付ける。

 

「ま、待て話しただろうが!お、お願いします!殺さないで!」

「だめー。じゃーねー」

 

 振りかぶったスティレットはビーストマンの顔をかすり地面に突き刺さる。ビーストマンは白目を剥いて失神した。

 

「あはははは。本気にした?」

 

 再び動かなくなったそのビーストマンを放置し、ボスと思われるビーストマンのところまで歩くと、その腹に蹴りを入れ、気絶(スタン)を解除する。

 

「げふっ・・・・・・なんだこれは・・・・・・お前がやったのか?」

「さて、あんたがビーストマンたちのボスってことでいいの?」

「そうだ・・・・・・俺がビーストマンの王・・・・・・獣王だ・・・・・・」

「獣王!へぇ!メコン川さんと同じ名前だ」

「あんたこの亜人しってるの?」

「ギルメンの一人なんですが・・・・・・メコン川さんの知り合いですか?」

「違う・・・・・・いや、違います。その・・・・・・あなた・・・・・・は・・・・・・その4枚の翼はまさか・・・・・・神!?」

「はぁーまた?あんた何回間違えられるの?」

「神よ・・・・・・我らになぜかような試練を与え給うのか。お聞かせください」

 

 獣王はそう言って鎧の胸部に仕舞っていた木の像を取り出す。それは獣の顔に4枚の翼を生やした像であった。

 

「これは古より伝わる我らの神・・・・・・まさか顕現なさるとは」

「いや、それ顔が獣じゃん・・・・・・いや、これは・・・・・・ふーん、面白いかな。ちょっと待っててねーん」

 

 クレマンティーヌはペロロンチーノと共に声の聞こえないところまで離れる。

 

「おい、ペロロンチーノ。あんた神の真似をしなよ」

「俺は神じゃないですよ」

「そんなことはあんたに色々されたあたしが一番わかってるよ!神だとしてもエロを司る悪神とかエロを伝道する悪神だろうが!それで神のふりしてこいつらビーストマンの王を連れて行こうよ、そのほうが面白そうじゃーん」

「けも耳の王を竜王国へ・・・・・・?」

「あん?何か文句あんの?あんたが殺すの嫌だっつってんでしょ。神の振りをして戦争終わらせちゃおっか?いや、ビーストマンの国も竜王国もこっちのもんにしちまえば都合がいいかなー?さすがにそうなってしまえば法国の連中もちょっかい出しづらいでしょ。んふふふふ、あたしってば天才」

「竜と人間から生まれた幼女・・・・・・では獣と人間では・・・・・・?」

「なにぶつぶつ言ってんのー?神のふりすんのしないのどっち?」

「分かりました!協力しましょう!」

「最初からそう言えばいいのよ、じゃ帰ろっか」

「その前にちょっと待ってください。いつすんごいことをしてくれるんですか?もう辛抱たまらんのですが」

「あ、あとで。あとでやるから今は協力するんだ」

 

 面倒なことを思い出したペロロンチーノにそう言ってごまかすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――竜王国 謁見の間

 

 ビーストマンの侵攻部隊を撃退したと聞いてドラウは耳を疑った。しかし、ペロロンチーノと共に戦場より帰還した兵たちがそれを証明する。まさしく神の所業であったと。そして捕えた獣王は縄で縛られ、謁見の間まで連れてこられていた。侵攻部隊は防いだもののビーストマンの国は今も健在であり、次の侵攻がないとも限らない。そのため、交渉のため生きたまま連れてきたのだ。そしてその場の仕切りはクレマンティーヌとペロロンチーノに任された。

 

 獣王を連行したペロロンチーノは課金エフェクトを発動させる。たっち・みーの課金エフェクトに触発されて買ったものだ。後光を発するだけのものだが、その効果はてきめんであった。獣王が目に感激を称えひれ伏している。

 

 そしてペロロンチーノから神勅が下った。

 

「人間の女王よ・・・・・・そして獣の王よ・・・・・・汝ら争うことなかれ」

「はっ・・・・・・ははぁ!神よ。承りました」

 

 調子に乗って神の振りをするペロロンチーノにひたすらひれ伏す獣王。それを見てドラウと宰相は困惑する。お互い耳打ちをして現状を把握しようと必死だ。

 

(ど、どういうことじゃ?なぁ、宰相。これはどういうことじゃ?)

(よく分かりませんが、停戦の申し入れを取り付けてきたのでは。やつが獣王であるならば、話を合わせるのが得策かと)

 

「わ、私も同意・・・・・・してもよいかなぁ」

「汝人間を愛せよ・・・・・・汝獣を愛せよ・・・・・・獣と人間、その愛によりケモ耳娘を作るのだ・・・・・・」

「お、おお!我らと人間が!?」

「え!?」

「ケモ耳娘こそ萌え・・・・・・ケモ耳娘こそフレンド・・・・・・」

「分かりました!我ら人間を愛します!」

「あ、いや、さすがにそれは・・・・・・」

 

 あまりと言えばあまりの展開にドラウは目を白黒させる。人間と獣が愛し合う?それは今まで物理的に食われていたものが性的に食われることになるということなのだろうか。迷う女王に獣王は表情を険しくする。

 

「神の言葉に逆らうと!?人間の女王よ・・・・・・」

「これこれ、無理やりは駄目だぞ。獣の王よ」

「はっ、失礼いたしました」

「陛下、もうここは腹をくくるしかないかと。ここは耐えてください」

「わ、分かったのじゃ。もう好きにせい!食われないだけましじゃ!」

 

 もうどうでも良くなりやさぐれた女王の決定により、こうして停戦協定と融和策が決まったのであった。

 

 

 

 

 

 

―――来賓室

 

 女王により戦争の終結が宣言されると国民は熱狂した。ビーストマンとの国交を開くことについては不安の声はあったが、国民は概ね安心している。それは竜王国の圧倒的な勝利を持って今回の宣言がなされたことが大きかった。そんな中、ビーストマンに対する抑止力、ペロロンチーノとクレマンティーヌは国賓として部屋を用意され二人で酒盛りをしていた。

 

「あのさー、神の振りをしろって言ったけど、あんたなに勝手に変なアレンジ加えてんの?」

「すみません、ケモ耳娘が出来たら面白いなぁっと思ったら我慢できませんでした」

「ケモ耳娘って・・・・・・あんたの頭の中どうなってんのよ・・・・・・」

「もちろんクレマンティーヌ様でいっぱいになってますよ。今夜のご褒美が何なのかその妄想でいっぱいです。具体的に言うと・・・・・・」

「いや、言わなくていい、具体的に言わなくていいから」

「ところでクレマンティーヌ様。このお金は俺ももらっちゃってよかったんですか?」

 

 ペロロンチーノのアイテムボックスには少なくない金額が入れられている。さすがにこれだけのことをして無報酬というのは気が引けたのか竜王国は二人に報酬を支払っていた。

 

「あー、いーのいーの。別にあたしお金が欲しかったわけじゃないからさー」

「じゃあ何が欲しかったんですか?」

「そりゃあ・・・・・・その・・・・・・あー、もう!そんなことどうでもいいでしょー。それよりもう一杯ついでよ」

「はいクレマンティーヌ様」

 

 クレマンティーヌは勝利の美酒を飲みながら思う。こいつは色々とおかしい。クレマンティーヌは自分は狂人だと思っているし、実際にその通りだ。だが、この男は自分に輪をかけてぶっ飛んでいる。国を支配しようとしていた話がなんでケモ耳娘になるんだ。そう思うとなんだか笑えてきた。

 

「ぷっ・・・・・・あはははははは。おっかーしいのー」

 

 クレマンティーヌは腹を抱えて笑い続ける、何なのだこいつは。おかしい、狂ってる。しかし、何となくそれが心地よかった。世界なんてぶっ壊れてしまえばいいと思っていた。法国には居場所がなかった。ズーラーノーンはただの協力関係にあっただけだ。楽しいこと何て何もなかった。だが、そんな常識は全部こいつがぶっ壊してくれた。そして今自分は心の底から笑えている。

 

(『すんごいこと』をどうやってごまかそっかなーって思ってたけど・・・・・・あげてもいいかな・・・・・・。いや、まぁこいつ結構働いてくれたし・・・・・・)

 

 改めて考えるとこの絶対的強者と一緒になるのはそう悪いことでもないかもしれない。法国の連中も見返すことが出来たし、人間の男なんかに比べればよっぽどいい。

 

(そういや、こいつ姉に虐げられていたとか言ってたな・・・・・・ってあの話なんなの。ふふっ・・・・・・こいつとお互い慰めあうのもいいかな・・・・・・)

 

 そんな気持ちとは裏腹にクレマンティーヌは猛烈な眠気に襲われれた。深い水の底に引きずり込まれるような急激なものだ。

 

(なんだこれは・・・・・・眠っちゃだめだ。こいつに褒美をやらないと・・・・・・すんごいことを・・・・・・)

 

 しかし、ペロロンチーノとの未来を夢見ながら、睡魔には勝てずに眠りに入ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 来賓室のドアが開かれる。その時、大音量で警報が鳴り響いた。《警報(アラーム)》だ。

 

 

「警報を張っていたとは用心深い」

「お、おい、宰相。酒で酔いつぶれていようがこんな大音量じゃ起きてしまうのではないか」

「彼女もそう思って警報を設置していたのでしょうな。ですが、ご心配なされるな。強力な睡眠薬です。朝までは絶対に目を覚ましません」

「睡眠薬?この女の着ている魔道具は精神系の魔法を無効化すると言っておったぞ」

「精神系魔法の無効化という効果に甘え油断したのでしょうな。自ら口にした薬まで無効化するものではなかったと言うことです。精神支配のアイテムを持っている以上盗まれることを警戒はするでしょうからな」

「宰相・・・・・・お前意外とえげつないやつじゃな」

「お褒めに預かり恐縮です。《道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)

「ど、どうじゃ?」

「やはり間違いありません。神を操っていたのはこの服のような魔道具です。では陛下、これを着てください」

「わ、私が?い、嫌じゃ。話を聞いていたが、この男はとんでもない変態じゃぞ。どんなセクハラを受けるか分からん・・・・・・お前が着ればいいだろうが」

 

 そう言うドラウの視線の先にあるのは眠り込んだクレマンティーヌの服のスリットをめくりあげている変態(ペロロンチーノ)だ。手には水晶をはめたような魔道具らしいものを持って足の間に向けている。

 

「これは女性にしか扱えない魔道具のようですからそれは無理ですな」

「そんなぁ・・・・・・」

「私にそんな縋るような目をしても無駄ですよ。そういう目は外向けにお願いします」

「ちっ・・・・・・」

「では陛下。服を脱がせますので足を持ってください」

「分かった。これで良いか?」

「何をやっているんですか?」

「うわっ!びっくりした!術者の意識がなくても会話ができるとは・・・・・・」

「何をやっているんですか?」

「え、えーっとですね・・・・・・おお!これはクレマンティーヌ様が酔って寝てしまってますね。それにお酒で汚れて・・・・・・これは脱がして差し上げねばなるますまい!」

「それはいい考えです!いやぁ、服にしわが出来てしまうから仕方ないなぁ、ええこれは仕方ないことなんですとも」

 

(おい、宰相。こいつ本当に精神支配されているのか)

(分かりません、ですが、ここはごまかして服を脱がしてしまいましょう)

 

「行きますよ陛下」

「わ、分かったのじゃ」

 

 宰相が服を引っぺがすと下着だけになったクレマンティーヌにペロロンチーノはさきほどの魔道具を掲げている。

 

「さあ、陛下。これを・・・・・・」

「こ、ここで着替えるのか?」

「はやく、目を覚まさないとも限りません。それからこの指輪も強力な魔道具のようです、奪っておきましょう」

「ちょっとあっちを向いていてくれないか?」

「ご安心ください。私は陛下のようなロリババアには興味ありませんので」

「おまえいつも私の扱いが酷いな。覚えていろよ」

 

 そう言って、傾城傾国を身につけるドラウ。その瞬間、ペロロンチーノの視線と魔道具の向きが変わった。

 

「これで私の命令を聞くようになったのか?」

「試してみましょう」

「よし、おいペロロンチーノ。お手」

 

 ペロロンチーノの手がドラウの手の上に載せられる。

 

「宰相!成功したようじゃぞ!」

「ロリには手を出さない俺だけどロリババアならありでしょうか・・・・・・触ってもいいんでしょうか」

「触る・・・・・・?ど・・・・・・どこを?」

「ロリババアなら触ってもいいですよね」

「どこをじゃ!」

「いいですよね」

「おい、宰相こいつやばいぞ。セラブレイト以上の変態じゃ」

「陛下、幼子の振りです。幼子の振りをするのです」

「ペ、ペロロンチーノお兄ちゃん・・・・・・やめて欲しいのじゃ」

 

 そう言って潤んだ目で見つめる、その足は宰相にグリグリと踏みにじられているが。

 

「分かりました。やっぱロリに手を出すのはだめですね」

「よし!やったぞ宰相!」

「さて・・・・・・これで我が国も安泰ですな。では早速命令をして見ては?」

 

 

 

 ◆

 

 

 ドラウが宰相の反対を押し切って最初にした命令は自分を乗せて空を飛ぶことであった。ドラウはドラゴンの血を引いているとはいえ、飛行能力は失われている。竜王などと呼ばれているが飛べないことを揶揄されることもあり空に憧れを持っていた。

 

「はははははは、高い高い!すごいぞペロロンチーノ!速い!ははははは」

「嬉しそうで何よりです。あとペロロンチーノお兄ちゃんと呼んでください」

「ペロロンチーノお兄ちゃん、もっと雲の上まで行ってみたいのじゃ」

「へへへっ、畏まりました」

 

 夜の空から眺める景色は格別であった。遠くに見える町の光がキラキラと輝いてまるで宝石のようだ。ペロロンチーノは翼をはためかせ上空へのさらに登っていく。雲に入り、その湿気に息を詰まらせるドラウであったが、その先に見た光景に思わず息を飲む。どこまでも澄んだ空気、上には満天の輝く星空、下には一面の雪原のような雲が広がり幻想的な雰囲気を作り出している。

 

「すごい・・・・・・なんと美しい・・・・・・すごいぞペロロ―――」

 

静寂(サイレンス)

 

 感動を言葉に出そうとドラウがペロロンチーノに話しかけようとするが、その言葉には音が無くなっていた。そして代わりに美しい鈴のような声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

―――そこまでにしていただきんしょうかえ

 

 



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第20話 あらゆる服の目指すところは絆創膏である(The goal of all clothes is bandaid)

―――竜王国上空 

 

 

 

 漆黒の黒い球体から姿を現したもの、それは黒いボールガウンを着た少女であった。その美貌は女性であるドラウでさえ魅了されそうになるほどだ。たが、美しい姿とは裏腹にドラウは背中に氷柱を突き刺されたような恐怖を感じた。叫ぼうとするがその声は音にはならない。

 

(声が・・・・・・でない!?)

 

「《静寂(サイレンス)》をかけんした。これでもうペロロンチーノ様に命令はできないでありんすよ。道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)》・・・・・・なるほど《傾城傾国》、これでありんすね」

「ちょっと、シャルティア一人で勝手に行かないでよー」

「そうですよ、先手を取って《静寂》をかけたのはいいですが、先走りすぎです」

「御イタワシヤ、ペロロンチーノ様。私ガ必ズオ助ケイタシマス」

「や、やっちゃいましょう」

 

 次々と黒い球体から新しい影が次々と現れる。漆黒の羽を生やしたカエル顔の男、ドラゴンに乗ったダークエルフの少女達、背にトンボのような虫のモンスターを張り付けた白い巨大な昆虫。そのすべてがドラウでは計り知れないような力を持っていることが伺われた。

 

(これはなにが起こっているのじゃ・・・・・・)

 

「まさかレンジャーのあたしを差し置いてシャルティアがペロロンチーノ様を見つけるなんてね」

「私もびっくりしたよ。おそらく戦闘行為により潜伏状態が一時的に解除されたんだろうが、ニグレドは大まかな位置までしかつかめなかったからね。それをまさか遠見の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)でしらみつぶしに探すとは」

「っていうかシャルティア使い方分かったんだ」

「お、お姉ちゃん失礼だよ。でも使ってるとき頭から煙出てそうだったけど」

「海ニ落チタ針ヲ探スヨウナ作業ダッタハズ。マッタクソノ執念ニハ恐レ入ル」

「執念?うふふ、これは愛でありんす。私とペロロンチーノ様との間の赤い糸が二人を巡り合わせたんでありんすよ」

「はぁー、帰ってきたときはあんなに泣いてたくせに調子のいいこと」

「そ、それは言わないで欲しいでありんす!」

 

 頬を可愛らしく膨らませるシャルティア。そんな穏やかな雰囲気の会話にドラウは毒気を抜かれた。

 

(ドラゴンを見たときには驚いたけど、こやつらは話せば分かるのでは・・・・・・。いや、話せないんじゃが・・・・・・)

 

「さて、それでペロロンチーノ様の背に乗っているゴミが精神支配しているということでいいんだね」

「トブの大森林でペロロンチーノ様を襲った連中とは違うでありんすね。でもその服は見覚えがありんす。攻撃してきたババアの着ていたものでありんすよ」

「ならば確定だ。さて、そのゴミのことだが。どうべきと思うね?」

「ん?そりゃ殺しちゃっていいでしょ。だってペロロンチーノ様をあんな目に合わせてるんだよ」

「私モソレガ良イト思ウ」

「ぼ、僕は恐怖公のところに連れて行って体の内側から食べてもらうとか良いと思います」

「なるほど、マーレ。それで傷を癒して何度も食べさせるわけだね。そうだとも!殺すだけでは飽き足らない。皮を剥ぎ、痛みと言う痛みを与え、精神と肉体は魔法で治しながら何度でも拷問を行うべきだろう。それか大穴に連れて行って虫の苗床として永遠に苦しめるのもいいね」

 

 先ほどまで和やかに話をしていた者たちからドラウへ叩きつけられるのは恐ろしいまでの殺気と憎悪。それはとても通常の精神と肉体を持ったドラウに耐えられるものではなかった。意識はかろうじて保つが、全身に突き刺さる恐ろしいまでの殺気にドラウの股間が濡れていく、そしてペロロンチーノの背中も。それに気づいたデミウルゴスは声を上げる。

 

「度し難い!ペロロンチーノ様に何という粗相を!」

「待つでありんす。デミウルゴス、あれは許してもいいと思うでありんすよ」

「なぜですか!ペロロンチーノ様にあのようなことを」

「昔至高の御方々が言っていたでありんす。たしか餡ころもっちもち様が・・・・・・」

「シャルティア、それって『飼い犬がうれしょんして困る』って話をしていたときのこと?」

「犬の話がなぜここで出てくるのですか」

「その時ペロロンチーノ様はこう言ったでありんす。でも『ロリしょんはいいものですよね』、と」

「あー、確かに言ってたわね。他の至高の御方がドン引きだったよ」

 

 守護者たちの会話にペロロンチーノが懐かしそうな遠い目をしながら反応する。

 

「そうそう、あの時も姉ちゃんに殴られたんだよな。だけど・・・・・・俺は間違っていなかった!これはいいものだ」

 

 会話に加わってきたペロロンチーノに守護者一同が目を見開く。精神支配されたと聞き、物言わぬ人形になっているのではと心を痛めていたのだが。

 

「ペロロンチーノ様。話をされることができるのですか?」

「デミウルゴス、もしかしてペロロンチーノ様は精神支配解けてるの?」

「違うわアウラ!よく見るでありんす」

「あ・・・・・・目の光が・・・・・・」

 

 ペロロンチーノの目はいつも守護者が見ていた時の光を失っていた。見ているようで見ていない虚ろなものだ。

 

「やはり精神支配は受けているようだね」

「じゃあ何で普通に話が出来るの?」

「恐らくだが、条件反射のようなものじゃないだろうか。本能と言えば分かりやすいかな?」

「でも普段とあまり変わらないよ?」

「私の勝手な憶測だが、それは普段ペロロンチーノ様が裏表なく本能に近い行動をされているからではないかな」

「あー、何となくわかる」

 

 アウラはジト目でペロロンチーノを見つめるが、シャルティアは一瞬たりとも目を逸らすことはなかった。

 

「ペロロンチーノ様!ナザリックへお帰ってきてくんなまし!」

「それは出来ない。ドラウ様のいるところこそ俺の居場所だから」

 

 そう言って、ペロロンチーノはドラウを愛おしそうに見つめ、手に持った水晶をはめた魔道具のようなものを掲げる。

 

「くっ・・・・・・」

「無駄です、シャルティア。作戦を実行しましょう」

「デハ一番槍行カセテイタダク」

「まっ・・・・・・待つでありんす!」

 

 コキュートスが手にした刀で斬りかかる。それはまさに神速といっても過言ではないものであった。しかし、それに追いつきシャルティアのスポイトランスが斬撃を防いだ。シャルティアの予期せぬ行動にコキュートスが憤る。

 

「シャルティア何ヲスル!」

「デミウルゴス!やっぱりペロロンチーノ様を傷つけることにわらわは反対でありんす」

「それについては散々話をしたでしょう。安心してください、殺しはしません。ですがペロロンチーノ様を行動不能にしないとその女からの精神支配を解除するのは難しいです」

 

 コキュートスとデミウルゴスからの叩きつけられる殺意にドラウは再び股間が緩みそうにそうになるが必死に耐える。

 

(だ、だめじゃ・・・・・・もうおしまいじゃ、殺されてしまう、いや、ペロロンチーノに乗って逃げきれれば・・・・・・じゃが声が・・・・・・命令もできずにどうすれば)

 

 そんなドラウの気持ちを汲み取ったのかペロロンチーノは後ろにドラウを庇い、飛び去ろうとする。しかし、まっすぐ進むはずがぐるりと回り結局もとの位置に戻ってきてしまっていた。

 

「ペロロンチーノ様。大変申し訳ございませんが、この周辺には移動阻害、転移阻害の能力(スキル)を展開しております。私を倒さない限り撤退は難しいですよ」

「腕ノ一本ヤ二本ハオ覚悟クダサイ。至高ノ御方ヲ傷ツケタ罰ナラバ後ホドウケイレマス」

「そうだね、はやくやっちゃおう。それでその後ろの女は絶対に殺す」

「う、うん。お姉ちゃんの言う通りだと思います」

「わらわたち守護者の存在理由は至高の御方をお守りすること!ペロロンチーノ様が傷つくなど我慢できんせん!」

「それは分かるがねシャルティア。時と場合というものがあるでしょう」

「デミウルゴス!それウルベルト様にも同じことが言えるでありんすか!?」

「それは・・・・・・」

 

(揉めてる?しかし、まずいのじゃ・・・・・・このままでは殺されてしまう。降伏したい・・・・・・したいが声が・・・・・・)

 

 静寂の効果で声が出せずに降伏も出来ない。今はペロロンチーノとシャルティアに守られているからいいが、時間の問題だ。何か降伏の合図をと思い、ドラウはひらめく。

 

(そうじゃ!白旗じゃ!白旗を上げて降伏の印を示せば・・・・・・じゃが何も持っておらぬぞ・・・・・・、いや1枚あるにはあるが・・・・・・)

 

 降参をしたいが、口をふさがれていてそれもできない。身振り手振りでは伝わらない。白い布について思いを巡らせ先ほど濡らしてしまった自分のはいているものを見つめる。

 

(いやいや、それは人としてやってはいけないことじゃろう・・・・・・)

 

 ぶんぶんと首を振って否定をするが、他に何も思い浮かばないうちに相手は行動を進めようとする。

 

「確かに相手がウルベルト様であれば私もあなたと同じ行動をしたかもしれない。だからこれはそれぞれの至高の御方から与えられた役割だと考えましょう。コキュートス。アウラ、マーレ。もはや問答は無用。シャルティアごとやってしまいますよ。しかしペロロンチーノ様を傷つける前に背中に張り付いているゴミを先に殺せればベストだ」

 

(ひぃ!そ、そうじゃ!私は一部でも竜の血が流れているから人じゃない!だから人としてやってはいけないことをしてもいいのじゃ、きっとそうじゃ!)

 

 ドラウは真っ赤になりながら自らの白い布を足から抜き、右手で高々とか掲げた。それを見た一同が皆固まり、場がまさに静寂で包まれた。

 

「何を・・・・・・しているのかね」

「何あれ・・・・・・?変態?」

「あの・・・・・・その・・・・・・女の子がそういうことするのは・・・・・・あの・・・・・・」

 

(違う!違うから!気づいて!もう降参!降参じゃ!)

 

 必死にドラウは白い布をヒラヒラと降る。それは裏側に熊の絵がついているお子様用のものであった。

 

(宰相が悪いのじゃ。ふとした拍子に見える可能性があるからお子様用しかはかせないなどと・・・・・・くぅ)

 

「モシヤアレハ降伏ノ印デハ」

「そうでありんすか、コキュートス?降伏?はぁ・・・・・・じゃあ戦わなくていいでありんすね。よかった・・・・・・」

「まぁそうなら手間が省けて助かるよ。女、もし降伏するというのであればその身につけた魔道具をこちらに渡したまえ」

 

(パ、パンツを脱いでおるんじゃぞ。それでこの服を脱いだら・・・・・・)

 

 それを察したのかペロロンチーノが声を上げた。

 

「ドラウ様。そのままでは恥ずかしいでしょう、この服をどうぞ着てください」

 

(ペロロンチーノ・・・・・・、こやつなかなか紳士じゃの。よかった・・・・・・裸にならずにすむのじゃな)

 

 そう言ってペロロンチーノがアイテムボックスから出したもの。それは紙でできた箱だ。ドラウはそれを受け取り、箱を開けると中には・・・・・・。

 

(・・・・・・絆創膏?服って言ったはずじゃが・・・・・・?これは絆創膏?服?絆創膏?)

 

 それは絆創膏であった。それも指に巻く細長いタイプだ。ドラウの頭の中に疑問符が飛び交う。

 

「さあ、ドラウ様。どうぞ!それをお貼りください!」

 

(え、貼る!?どこに!?ええ!!?そういうこと!?)

 

「おお!さすがはペロロンチーノ様でありんす。わらわのアイテムボックスにも入っていんしたが使い方がわかりんせんした。こんな使い方があるとは」

「シャルティア・・・・・・私には理解できないのだが、君には分かるのかね?」

「守護者随一ノ頭脳ヲ持ツデミウルゴスヲ超エルトハ」

「あたしは何となく分からなくてもいいかも・・・・・・」

 

(こ、こいつら・・・・・・)

 

 それでも裸よりマシかと、絆創膏による3点目貼りを行い、《傾城傾国》を脱いでシャルティアに向かって投げた。受け取ったシャルティアは装備変更スキルにより一瞬で着用を完了する。

 

「では、ペロロンチーノ様。こちらへおこしくだしゃんせ」

「はい、シャルティア様」

「シャルティア・・・・・・様!?」

 

 様付けされることにゾクソクしたものを感じ身もだえるシャルティア。主従が逆転したプレイに動かない心臓が高鳴る。

 

「さて・・・・・・ところで何者かの視線を感じるような気がするのだが、アウラ?」

「うん、いるね。でもどこかは分からない。潜伏スキルか、魔法なのか」

「見つけらないか。藪蛇にもなりかねない。ここは撤退を優先しよう。シャルティア」

「《転移門(ゲート)》でありんす」

 

 そのまま《転移門(ゲート)》にドラウを放り込み、守護者たちは撤退を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 上空から消えていく絶対的強者たち。それを見つめる存在があった。全身を白銀の鎧で身に包んだ中が空洞の鎧。ツアーは鎧を操りながら混乱の極みにいた。

 

(え?女の子にかけられて喜んでる?・・・・・・幼い女の子を裸にしていた?)

(え、なに?あの人達何してるの?)

(冒険者が洗脳されているって話は?スレイン法国は?)

(絆創膏・・・・・・?服・・・・・・?絆創膏・・・・・・?服・・・・・・え?え??)

 

 リグリットに頼まれて様子を見に来たが、あまりにも理解を超えたことが起こっていた頭が真っ白になる。その強さにも目を見開かせるものがあるが、それよりもその意味を理解したくない行動の数々。もはやツアーの頭には一つの言葉しか思い浮かばなかった。

 

(へ・・・・・・変態だーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)

 

 これをどうリグリットに説明したものか。空に集まった複数の影が一つ、また一つと消えていき、空洞の鎧はしばらく誰もいなくなった夜空を見上げていたが、やがて脱力したように肩を落とし、評議国に帰るのであった。その後、ツアーは誰に何を聞かれても顔を赤くして答えなかったという。

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 玉座の間

 

 玉座の間に久しぶりに階層守護者たちとペロロンチーノは集まっていた。《傾城傾国》を着たシャルティアがペロロンチーノに寄り添っている。そんな中、デミウルゴスが皆の働きを労い、主人が帰ってきたことを喜んでいた。

 

「ゴタゴタはあったが、みんなよくやってくれた。特にシャルティア」

「ふふん、わらわだってたまにはやるでありんす」

「そうね、今回はシャルティアの働きが大きかったわね」

「それでさー。あの女はどうするの?さっさと殺しちゃおうよ」

「まぁ待ちたまえ、アウラ。情報を引き出す必要もあるし、殺すにしてもペロロンチーノ様の判断を仰がねばなるまい」

「あー、確かにそうね。それであの女どうしたの?」

「とりあえず第6階層に置いてきたでありんすえ」

「あのさー、別にいいんだけど何か連れてくる度にあたしたちの階層に置いていくよね」

「す、すごく増えちゃいました」

「エルフと、侵入してきた人間、ドライアードに、あとは・・・・・・まん丸い魔獣も連れてきたでありんすね」

「それも判断はペロロンチーノ様待ちだ。さあ、シャルティア、ペロロンチーノ様への精神支配を解き給え」

「そうでありんしたね」

 

 シャルティアが傾城傾国の効果を切ろうとしたその時、ちょっとしたいたずら心が芽生え、つい声に出してしまう。 

 

「ペロロンチーノ様!わらわNADENADEPONPON(なでなでぽんぽん)がして欲しいでありんす」

「はい、シャルティア様」

 

 ペロロンチーノはシャルティアの頭に手を乗せると優しくなでつける。そして最後にポンポンと頭を叩いた。

 

「ふああ・・・・・・ふああああああ」

 

 シャルティアは目を細めて喜びに打ち震えている。

 

「ちょっと!シャルティア何やってんのよ!」

「だって!今ならペロロンチーノ様に何でもしていただけると思ったら我慢できなかったでありんす」

「ずるいー!っていうかあんたならそんな道具使わなくてもいつもやってもらってんじゃん!あたしだって色々してもらいたい!」

「至高ノ御方ヲ操ルナド不敬デハナイノカ」

「でもこんな機会もう二度とないよ。いいの?またペロロンチーノ様出て行っちゃうかもしれないよ」

「ムゥ」

「そうね、確かにナザリックすべての者が今回心を痛めたわ。慰労の意味でもちょっとくらいはいいかしらね」

「ほんと!?じゃあ次あたしね!」

「ナント。デハ私ハゼヒペロロンチーノ様トガチバトルヲオ願イシタイ」

「ぼ、僕も色々したいなぁ」

「あら・・・・・・でもそれは無理ね。その魔道具は女性専用らしいからコキュートス達は使えないわ」

「アルベドがそんなことを言うとは・・・・・・。まぁいいでしょう。ただし、決してナザリックから外には出ないこと。いいね」

「女限定かー。じゃあ、あとはプレアデスとメイド達くらいかな」

「ニューロニストさんは・・・・・・確か中性でしたけどどうなんでしょう」

「その辺りは分からないわね。みんな、一通り遊んだらもとに戻すのよ。いいわね」

「はーい」

「分かったでありんす」

「ところでさー。アルベドはどうするの?」

「私?私は遠慮するわ。だってこの身はモモンガ様のものなんですもの。他の誰かを魅了するなんて御免だわ」

「サキュバスとは思えない発言でありんすね」

「純情なサキュバスって何なの」

 

 かしましい女性陣の声が響く中、ナザリックに久しぶりに平穏な日々が戻ってきた。ナザリックのすべてがペロロンチーノの帰還を喜ぶ中、《傾城傾国》はナザリックの女性陣の間で持ち回りされることとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――アウラとマーレの部屋

 

 第6階層にある巨大樹、その中にアウラとマーレの部屋はあった。部屋の中にペロロンチーノを連れてきた二人は、その様子をじっと見つめていた。《傾城傾国》はアウラが着用している。しかし、ペロロンチーノから二人をどうこうしようとする気配はなかった。

 

「ペロロンチーノ様、これ本当に精神支配されてるのかな」

「もちろんです。アウラ様」

「わっ、喋った。アウラ様って言った・・・・・・くぅー、シャルティアの気持ち分かるな。これは効くね」

「お姉ちゃんずるい・・・・・・」

「ペロロンチーノ様、あたしに手を出さないんですか?」

「姉ちゃんの娘に手を出すのはさすがに怖いので」

「本能までぶくぶく茶釜様を怖がってるんですか・・・・・・。そうだペロロンチーノ様。あたしのことアウラお姉ちゃんって呼んでください」

「はい、アウラお姉ちゃん」

「くぅー!なんだか!なんだか知らないけどすごく変な気分!」

 

 何ともいえない気分にアウラはワタワタしていたが、ふと思い出したことがあった。もうはるか昔のことに思えるが、この部屋でぶくぶく茶釜の膝の上で抱きしめられたことを。

 

「ペロロンチーノ様、次はあたしを膝の上に乗せてもらってもいいですか」

 

 アウラはペロロンチーノの膝の上におさまり、まるでぶくぶく茶釜に抱かれているような感覚を感じる。やはり姉弟だからだろうか。アウラは恥ずかしそうに次の指示を出す。

 

「じゃ、じゃあ抱きしめてください」

「何かおねえちゃん、シャルティアさんみたい・・・・・・」

「へへっ、本当はシャルティアのやってるの見てちょっとうらやましかったんだよね。ペロロンチーノ様ぁ・・・・・・」

 

 ペロロンチーノの胸に顔をこすりつけるアウラ。ぶくぶく茶釜とは姿も声も何もかも違うが、姉弟だけあって何となくその雰囲気が似ている気がする。そう思うとアウラは昔ぶくぶく茶釜に可愛がってもらったことが思い出されて涙が出てきた。そんなアウラの髪をペロロンチーノが優しくなでる。

 

「お姉ちゃんずるいよー」

「うん、そうだね。マーレもおいで」

「う、うん。・・・・・・ありがとうお姉ちゃん」

 

 かつてぶくぶく茶釜が他の女性陣と共に過ごした空間。こうしてアウラとマーレはペロロンチーノと懐かしさを噛みしめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 プレアデスの6人はまるで賞品のように配置されているペロロンチーノの前に集まっていた。長女のユリが少し困り顔をしながら口火を開く。

 

「みんな、守護者の方々から一通り遊んだら返すようにと、このアイテムを渡されました」

 

 そう言って、ペロロンチーノと《傾城傾国》を他の面々に見せるユリ。それを見てルプスレギナがいやらしそうな笑みを浮かべて前に出てきた。

 

「ねぇねぇ、これどうするんすか?ユリねえ」

「ルプスレギナ、ペロロンチーノ様に向かって失礼よ」

「でも、これでペロロンチーノ様が何でも言うこと聞いてくれるんすよね?」

「こらっ、至高の御方を使って遊ぶなど不敬でしょう」

「じゃあユリ姉の順番はいらないんすね。あたしは一杯したいことあるっすよ」

「なっ・・・・・・いらないとは言ってないわ」

「そうっすか?はっきりしないユリ姉に代わってここは二女のあたしが順番決めちゃうっすよ。最初がナーちゃんでー、次がユリ姉、ソーちゃん、シズちゃん、それからあたしで最後がエンちゃんに決まりっす」

「ルプスレギナ、なんであなたが決めるのよ」

「ユリ姉がはっきりしないからっすよ。じゃ、ナーちゃんよろしく!」

 

 ルプスレギナは、そう言って《傾城傾国》とペロロンチーノをナーベラルに押し付けた。

 

 

 

―――ナーベラルの部屋

 

 ナーベラルは困っていた。自分たちは至高の御方のために何かをするために存在するのであって、至高の御方に何かしていただこうという考えが理解できない。そのため、誰かを参考に出来ないかと考えた結果、思い浮かんだのはシャルティアであった。玉座の間でペロロンチーノにお願いしていたこと。少し羨ましいなと感じたことを思い出した。

 

「あの・・・・・・ペロロンチーノ様」

「なんでしょうか。ナーベラル様」

「はうっ・・・・・・わ、私なぞを様付けで呼んでいただくわけには・・・・・・」

 

 絶対なる主人に逆に主人扱いされて慌てるナーベラルであるが、何とかやってほしい事を伝える。

 

「わ・・・・・・私もその・・・・・・なでなで・・・・・・を」

「え?」

「あの・・・・・・シャルティア様がされていたNADENADEPONPON(なでなでぽんぽん)をしていただきたく・・・・・・」

 

 わずかに頬を染め、俯くナーベラル。その頭に手が添えられた。優しくナーベラルのサラサラの髪が撫でられポンポンされる。

 

「はぁ・・・・・・さすがシャルティア様が求められるだけあります・・・・・・これは・・・・・・ふあああ」

「それで次はどうしますか?」

 

 ペロロンチーノはナーベラルを見つめる。先ほどまで頭を撫でられていたので顔が近い。ナーベラルは固まってしまった。シャルティアのされていたことを思い出す。

 

「次・・・・・・次は・・・・・・その・・・・・・抱きしめて・・・・・・」

 

 ナーベラルはペロロンチーノの体に自分の体を近づけていく。そんな緊張したナーベラルに突然からかうような声がかけられた。

 

「次はどーするんすか?やっちゃうんすか?いいんすよ最後までやっちゃっても」

「ルプスレギナ!いつからそこに・・・・・・」

「にっしっし。不可視化で最初からずーっといたっすよ。あー、ナーちゃんは可愛いなぁ」

 

 猫のようにコロコロと笑い転げるルプスレギナの腹筋にナーベラルの拳が突き刺さった。

 

 

 

 

―――ユリの部屋

 

「はぁ、まったくルプスレギナ至高の御方のことをなんだと思っているのかしら」

 

 そんなことを言いつつ、ごくりとユリの喉が鳴る。ペロロンチーノと二人きりだ。邪魔する者は他に誰もいない。それに今なら何でも言うことを聞いてくれる。

 

(何でも・・・・・・)

 

 ユリは紙にサラサラと文字を書き連ねていく。そしてそのうちの1枚をペロロンチーノに渡した。

 

「ペロロンチーノ様。ここに書いたセリフを言っていただけますか」

「分かりました。ユリ様」

「ユリ様・・・・・・恐れ多い、恐れ多いですがこれはこれで・・・・・・うふふふふ。ではお願いします」

「ユリ、お前こそ俺の誇りだ」

「こ・・・・・・これは!素晴らしいですね・・・・・・」

「ユリ、お前の働きはナザリック随一のものだ」

「何もしていないのにお褒めの言葉をいただくなんて不敬よ。不敬だけど・・・・・・」

 

 至高の存在の役に立つことはナザリックの者として喜びだ。そしてお褒めの言葉をいただくなど至高の喜び。その光栄さにユリは身もだえていた。しかし、そんなユリに予期しない言葉が投げかけられる。

 

「ユリ、お前を愛している」

「あれ?そんなこと書いてないですが・・・・・・も、もしかしてペロロンチーノ様の本心!?」

「ユリ・・・・・・お前は美しい」

 

 ペロロンチーノはユリの肩に手を当ててベッドに押し倒した。そして顔がどんどん近づいてくる。

 

「ペロロンチーノ様・・・・・・。これはもう・・・・・・もう・・・・・・ここで私初めてを・・・・・・」

 

 ちらりと周りを確認するユリ、誰も見ていない。そしてアンデッドゆえにベッドを使ったことはないが配置してくれたやまいこに深い感謝を捧げる。

 そんなユリの視界にペロロンチーノが目を向けている紙が入った。そこには『愛していると言ってベッドに押し倒す』と書いてある。

 

「くふふふふっ、ユリねえってば、ほんっとむっつりスケベっすねえ」

「ルプスレギナ!?え?いつから?」

「不可視化して紙にいろいろ書いておいたっす。次はいよいよ本番っすよー・・・・・・ごふぅー」

 

 事態を把握したユリの鉄拳がルプスレギナのみぞおちを捉えた。スキルを全開にしたそれはルプスレギナを壁まで吹き飛ばす。

 

「さっきと同じところに・・・・・・。さ、さすがストライカー・・・・・・効いたっす。がくっ」

 

 

 

 

―――メイド達の部屋

 

 そこにはメイド達を創造したヘロヘロ、ク・ドゥ・グラース、ホワイトブリムの代表としてシクスス、フォアイル、リュミエールの3人が机に向かっている。

 

「プレアデスのお姉さまたちから一通り遊んだら返してって言われたけど・・・・・・」

「お姉さまたちはどうなさったの?」

「ソリュシャン様はお風呂で全身を体で洗って差し上げたんですって。羨ましいわ」

不定形の粘液(ショゴス)ですものね。体の外も内も全部綺麗にしてあげたと喜んでいらしたわ」

「シズちゃんは二人で並んでずっと座っていたらしいわね」

「あー、分かるー。微笑ましいよね。見たかったなぁ・・・・・・」

「それよりナーベラル様とユリ姉さまよ。二人は最後まで行こうとなさったんですって」

「最後までって・・・・・・きゃーーー!それって本当?ねっ、ねっ、どこまでしちゃったの?」

「ルプスレギナさんがお止めになったって言ってらしたわ」

「ふざけてそうで色々考えてるよね」

「でもルプスレギナさんはペロロンチーノ様に凄いことしたって自慢してたわね」

「すごいことって何でしょう」

「とても喜んでいたらしいわ。でもその後エントマ様と一緒に恐怖公の部屋でお食事デートに行かれたとか」

「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」

「ルプスレギナさんって上げておいて落とすのお好きですよね」

「それより、ペロロンチーノ様の尋問はうまくいっているかしら」

「みんなごめんなさい!私のせいで・・・・・・」

 

 シクススが机にぶつける勢いで頭を下げる。それをフォアイルとリュミエールが慌てて止めた。

 

「シクススのせいじゃないわ!」

「だって私ペロロンチーノ様に避けられて・・・・・・きっと私のせいでペロロンチーノ様は出ていかれたんだわ」

「泣かないの。きっとペロロンチーノ様のことだから何かお考えがあったのよ」

 

 そこに、一般メイドの一人が急いで歩いてきた。決して走らず急いで歩くメイドのたしなみである。そして3人の前まで来ると敬礼を行う。

 

「ペロロンチーノ様を尋問した途中結果を報告するわ」

 

 3人はその報告内容を真剣にノートに書いていく。シクススの失敗、それはメイドすべての失敗と捉えられていた。そのためにペロロンチーノを自由にしていいと言われたメイド達が行ったこと。それはペロロンチーノの尋問である。何でも答える今ならばペロロンチーノが何を求め、何に満足するのか確実に分かると考えたのだ。

 

「メイド服のスカートはもっと短く・・・・・・胸元を開いて露出も多く・・・・・・ね。でも見えないのはそれはそれでいいってどうすればいいのかしら」

「バリエーションを求めてらっしゃるんじゃないかしら。プレアデスの方たちはそれぞれ特徴があるわ」

「《絶対領域》ってこういう意味だったのね。そして特定条件下で領域を解放する必要があるっと」

「でもこの『ドジっ子メイド』についての報告がよく分からないわね」

「転んでお茶をこぼすなんてそんなメイドはナザリックに居ないわ」

「でもペロロンチーノ様が必要とお考えならそうしなければいけないわよ」

「それに『ご主人様のえっち』というセリフ。至高の御方に口答えするなんて不敬でなくて?」

「この『どこ見てんの、豚野郎』よりはいいんじゃないかしら」

「わ、私は至高の御方が求めるのであればビンタでも蹴りでもしないといけないと思います」

「でもこの報告書イラスト入りで分かりやすいわね」

「ホワイトブリム様に作られたメイドは絵がうまいのよね」

「確かホワイトブリム様は『漫画家』なる職業についてたのよね」

「絵に魂を込める創造系のご職業ね」

「あとは・・・・・・何々?恥じらいが大切?これじゃない?シクスス」

「なるほど、恥ずかしがる演技を勉強しなきゃ!私がんばる!」

 

 フォアイルとリュミエールはシクススの両目に大火を見た。

 

「メイド服も改造しなくちゃいけないわね。あとは台詞の練習も」

「フォアイル。あなた少し短めにしてるね」

「ふふんっ、私の勝利ね」

「でも失敗の練習は難しいわ・・・・・・それに至高の御方にお仕置きされるまでがペロロンチーノ様の望まれることなんて」

「シクスス、がんばるのよ。次こそ至高の御方に満足していただけるために!」

「もっとペロロンチーノ様の知識を得ないとね」

「そうね、ペロロンチーノ様だけでなく他の至高の御方が来た時のためにもがんばりましょう!」

 

 こうしてメイド達による尋問は一昼夜続き、ペロロンチーノが嘘偽りなくその本能のまま語ったことを綴った『メイドの心得byペロロンチーノ(イラスト入り)』が完成したのであった。

 

 

 

 

 

 

―――アルベドの部屋

 

 アルベドの部屋の一室、そこには一つの旗が掲げられている。その旗の意味はモモンガ。そんな旗を体に抱きしめながらアルベドは叫んでいた。

 

「あー、モモンガ様に会いたいモモンガ様に会いたいモモンガ様に会いたい」

 

 アルベドは旗を抱きしめながら床をゴロゴロと転がる。

 

「最近モモンガ様成分が足りないわ!足りなさすぎる!おのれパンドラズ・アクター!何で最近、守護者統括たる私のお願いを聞いてくれないのよ!365日24時間モモンガ様の声を聴かせてくれるだけでいいのに!」

 

 最近はパンドラズ・アクターも四六時中のアルベドからの注文に呆れ、多忙を理由にメッセージも無視している状態であった。

 

「モモンガ様のお声が聴きたいモモンガ様の匂いが嗅ぎたいモモンガ様に抱きしてめてもらいたいー!」

 

 アルベドは床を高速で転がり続ける、壁に角がゴンゴンと当たっているが気にもしない。そんな中、ナザリックの仲間たちがペロロンチーノにしたことに想いにはせ、不意に止まった。

 

「しかし、私たちでも至高の御方を問題なく精神支配できることはこれで証明されたわね。《傾城傾国》・・・・・・ね。くふふふ、《傾城傾国》の美女。まさに私のためにあるようなアイテムね」

 

「でも足りないわ。これだけじゃ足りない・・・・・・何とか宝物殿に入る手段を手に入れないと・・・・・・」

 

「モモンガ様はいったいどこにいらっしゃるの!ペロロンチーノ様の赴いた国にいらっしゃるならお声をかけるはずですし・・・・・・」

 

「あーモモンガ様がいらっしゃったら何でもして差し上げるのに!モモンガ様さえお望みであればシャルティアが言っていたあの絆創膏なる服でも着て差し上げるのに!」

 

 アルベドは絆創膏を貼った自分がモモンガからされることを想像する。恥ずかしがるアルベドの絆創膏を一つずつ剥がしていくモモンガを。妄想したその素晴らしい光景にアルベドはモモンガが見つかったらして差し上げる事項にそれを加えた。



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第21話 お風呂でばったりはエロゲの定石

―――ナザリック地下大墳墓 玉座の間

 

 精神支配を解除されたペロロンチーノに守護者たちはその帰還を喜ぶ。そして今後のナザリックの方向性を決めるため、主人に今まで何が起こっていたのかの確認を行うこととなった。今までの経緯を尋ねられたペロロンチーノは頭を押さえる。

 

「確か・・・・・・スレイン法国の特殊部隊漆黒聖典の女の子・・・・・・女の子だったよね?に魔道具(マジックアイテム)を使われて・・・・・・」

「いえ、確か最初はババ・・・・・・」

 

 シャルティアがその間違いを訂正しようとしたとき、ペロロンチーノは激しい頭痛に襲われた。

 

「うっ・・・・・・頭が・・・・・・」

「シャルティア!」

 

 ペロロンチーノの状態を察したデミウルゴスはシャルティアを遮り、目配せを行う。

 

「そ、そうでありんすね。最初は女の子でありんしたね」

「そうですよ、女の子・・・・・・可愛い女の子だったに違いありません!」

 

 記憶を女の子にでっちあげ、頭痛のおさまったペロロンチーノは精神支配されていた間に起こったこと、スレイン法国、そして竜王国であったことを語った。

 

「それからナザリックに戻ってきて・・・・・・戻ってきて・・・・・・何だっけ。黒い・・・・・・黒いカサカサしたものが・・・・・・うっ頭が・・・・・・」

「ペロロンチーノ様!そこまでで結構でありんす!」

「しかしペロロンチーノ様を精神支配し、道具として使おうとは。スレイン法国、竜王国ゆるすまじ。報復の準備はできておりますが、いかがいたしましょうか」

「報復?いや、結構楽しかった気がするし、それに二つの国は・・・・・・エロゲの開発に、ケモ耳娘の開発・・・・・・今後が楽しみだ。報復の必要はない」

「開発・・・・・・ですか?」

 

 ペロロンチーノは法国であった闇の神官長、そして竜王国とビーストマンたちの関係について語る。それを聞いてデミウルゴスは目を輝かせて喜んだ。

 

「それは素晴らしい!精神支配されている状態でありながら、望む世界への布石、まさに(フラグ)を立てていたわけですね。とくに異種間交配に着手されていたとは、先を越されてしまいましたね。さすがはペロロンチーノ様です」

 

 ペロロンチーノが守護者たちからの称賛を受ける中、デミウルゴスは侵入者たちより得た情報を報告する。その報告にペロロンチーノは口をほころばせる。ナザリック地下大墳墓に侵入者が現れ、それは撃退された、その者達の中からモモンガに関する情報を得たというのだ。

 

「モモンガさんいたんだ!それでどこに?」

「現在調査中ですが、それほど時間はかからないかと」

「分かった、調査を続けてくれ。それから捕えた女王や侵入者たちだけど・・・・・・」

「はっ!いかがいたしましょう」

「竜王国の女王はさっき言ったように価値があるので殺す必要はない。侵入者たちも情報の見返りに帰してやってもいいけど、モモンガさんの情報を得るまでは手放さないほうがいいかな」

「その後でも手放せばペロロンチーノ様の正体やナザリックの存在の情報が漏れてしまうのでは?」

 

 デミウルゴスの疑問にペロロンチーノはなるほどと思うとともに、かつての仲間たちがいたらどう思うかと少し考えると、不敵な笑みを浮かべる。

 

「それで何か問題はあるか?」

「え」

 

 かつての仲間であったなら喜んで侵入者の挑戦を受け入れたであろう。モモンガやウルベルト等の少し中二病が入ったメンバーであったなら嬉々として魔王ロールを楽しんだかもしれない。そう思うと侵入時にナザリックに居なかったことが少し悔やまれた。そんなことを考えるペロロンチーノにデミウルゴスは不思議そうな顔をして言葉を詰まらせる。

 

「ナザリックの存在が明るみになる。そして、ここを襲われるようなことがあって何か問題があるか?何百人、何千人にここが攻められたとして何か問題が?」

 

 他の守護者たちが答えに窮している中、その疑問にいち早く答えたのはコキュートスであった。

 

「ソノヨウナコトハゴザイマセン!ドノヨウナ者ガ何人来ヨウトモ全テ撃退シテゴ覧ニ入レマス!」

 

 コキュートスの自信を持った言葉に守護者たちは悔し気に顔を歪める。なぜ自分たちはすぐにその言葉を発せなかったのかという後悔だ。

 

「そのとおり!このナザリックが堕ちること何て俺はこれっぽっちも思っていないぞ?それじゃあ捕縛した人たちとは後で俺が話をしてみる。後は冒険者組合への報告か。アウラは冒険者組合に報告しておいてくれ。王国の村を襲ったのはスレイン法国の部隊らしいと。それから遺跡調査の依頼への報告だけど・・・・・・」

 

 ペロロンチーノの言葉の先を読みアウラが答える。

 

「帝国の冒険者組合にはすでに帰還者なしで報告しています」

「そうか。さて、今まで生きて帰ったものの居ない難攻不落のナザリックに侵入した勇者たちに会って来るとするかな」

 

 こうして、アウラは冒険者組合へ、ペロロンチーノは捕縛者たちの尋問に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 第六階層

 

 

 第六階層の一角に、ログハウスが建てられていた。中には複数の個室があり、それぞれの部屋は一人が十分快適に過ごせるだけの広さがある。入口から入った場所にはリビングがあり、そこに複数の男女が集まっていた。

 エルフのメイド達、フォーサイトの4人、そして竜王国の女王ドラウだ。ドラウはその服装を不憫に思った白髪の執事からメイド服を与えられていた。

 その中でエルフ達と他の者達との待遇は違う。彼女たちは奴隷から解放されたことを感謝し、ナザリックで働くことを望んだ。国に帰っても戦争に駆り出されるだけだからだ。その上でナザリックの一員として迎えられている。

 彼女たちと違い、フォーサイトの4人とドラウは捕虜という扱いであったが、ペロロンチーノの判断により開放することが伝えられた。それまでは客人待遇という扱いだ。命の心配が薄れ、ほっと胸をなでおろす彼らの前に、人間に擬態したペロロンチーノとシャルティアが現れる。

 

「いらっしゃいませ!ペロロンチーノ様」

 

 エルフのメイド達が一斉にお辞儀をする。その態度には明確な忠誠があり、彼らが本当にペロロンチーノに感謝しているのが分かるものであった。その中でただ一人、ドラウだけが不思議そうな顔をする。

 

「え?ペロロンチーノ?どこに?」

「ええっと、正気の状態では初めましてかな。初めまして、ドラウ陛下。俺がペロロンチーノです」

「ええ!?人間じゃったのか!?」

 

 ドラウが驚いている中、アルシェがペロロンチーノに対して謝罪の言葉と共に頭を地面に擦り付ける。

 

「ペロロンチーノ様。この度は申し訳ございませんでした!」

 

 アルシェに続き、フォーサイトの他の3人も頭を下げた。それを見ていたドラウも慌てたように頭を下げる。

 

「解放まで待つように言われていますが、お願いがございます!妹たちが無事かだけでも確認させていただけないでしょうか」

 

 アルシェはペロロンチーノに事情を説明する。両親が見栄のために借金を重ねていること、いくら説得しても聞く耳を持たないこと、妹たちを引き取るためにお金が必要であったこと、このままでは妹たちまで破滅すること。それを聞いたペロロンチーノはシャルティアに大きな鏡を用意させた。

 

「この鏡は遠見の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)と言う。遠くの映像を見るための魔道具だ。様子を見てみよう、場所を教えてくれるかな」

 

 それはアルシェたちが見たこともないような高度な魔道具であった。あらためてこの地が外とはレベルの違うことを思い知る。帝国内の実家の場所を聞き、ペロロンチーノは鏡を操ってゆく。するとやがて、大きな屋敷が見えた。その前に馬車が止まっている。男たちが幼い少女二人に袋をかぶせて馬車にまるで荷物のように積み込んでいるところであった。その傍で両親と思われる男女は慌てるでもなく、平然と男たちから金貨を受け取っている。

 

「クーデリカ!ウレイリカ!」

「あれが妹さん?」

「お願い!妹たちを助けさせて!私が・・・・・・」

 

 縋りつくアルシェを落ち着かせ、ペロロンチーノはシャルティアを連れて、ナザリック入口より帝国へ転移した。

 その場に残ったアルシェたちは、遠見の鏡にペロロンチーノ達の姿を確認する。ここから帝国まで一瞬だ。その高位すぎる転移魔法に驚きつつ、鏡を確認すると男たちとペロロンチーノが話をしているようだ。

 やがて男たちの一人がペロロンチーノを殴ろうとする。その瞬間、男が倒れ伏した。シャルティアが動いたような気がしたが、アルシェたちには速すぎて捉えられない。怯む残りの男たちや両親を無視して妹たちの入った袋を掴むと、そのまま転移門(ゲート)をくぐり、ペロロンチーノ達は鏡の中から掻き消えた。

 

 しばらくして第六階層に姿を現したペロロンチーノ達にアルシェは駆け寄る。

 

「ああ・・・・・・クーデリカ!ウレイリカ!」

 

 アルシェは急いで袋を開け、妹たちを抱きしめる。妹たちには何が起こったのかわかってなかったようでキョトンとしていたが、姉を認識し、喜んで抱きついた。

 

「人身売買みたいだったから連れてきちゃったけどよかったかな?」

「ふふん、ペロロンチーノ様の慈悲深さにむせび泣くといいでありんす」

「シャルティアもよくやったな」

 

 ペロロンチーノがシャルティアの頭をいつものように撫でるとシャルティアもいつものようにその手にもっともっとと頭をこすりつけて目を細める。

 

「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

 

 アルシェは涙ながらに感謝する。そして家の名誉のために子供を売ろうとした両親を想い顔を歪ませる。

 

「まさか妹たちを売ろうとするなんて・・・・・・」

「アルシェ、ありゃもうだめだ。諦めろ」

 

 ヘッケランが諭すように言う。最後に借金を返し終えてから妹たちを連れ出そうとしていたが、あの両親たちにはその価値さえないだろう。

 

「うん・・・・・・そうする」

「ペロロンチーノさん、あんた結構いいやつなんだな」

「意外と優しいのですね」

「ただの変態かと思ってたけどやるじゃない」

 

 ヘッケランに続き、ロバーデイクとイミーナも同意する。それを聞いたドラウはもしやと思い、ペロロンチーノに問いかけた。

 

「そ、そうなのか?もしかして私たちの国でケモ耳娘とやらをつくらせると言う話も冗談か?」

「あれはぜひお願いします」

「!?」

「とにかく、ロリが増えるのは歓迎するよ。ここの施設は自由に使ってもいいから。第八階層にはバーもあるし・・・・・・。そうそう、スパリゾートナザリックっていう大きい入浴施設もあるから。じゃ俺はこれで」

「それではわらわもこれで失礼しんす」

 

 片手をヒラヒラ振りながら去っていくペロロンチーノの後を、優雅に一礼したシャルティアが続く。残った彼らの頭に先ほどペロロンチーノが言った言葉がよみがえる。そう、聞き捨てならないことを今彼らは言っていった。

 

「お風呂じゃと・・・・・・」

「それも広いお風呂?」

「最近ここで水浴びしかしてないよね・・・・・・」

 

 お風呂と聞いては黙っていられない。ドラウ、アルシェ、イミーナ、お肌を気にする女性陣の目が期待に輝いた。

 

 

 

 

 

 

―――スパリゾートナザリック

 

 男女合わせて9種17浴槽を持つそこにエルフ達、ハーフエルフのイミーナとアルシェ、そしてドラウが降り立った。お風呂の扉を開くと同時に、3人の口も大きくДの字に広がり間抜けな声を出す。

 

「「「ふぁー」」」

 

 このような神の居城に住んでいる以上大きいお風呂だとは思っていたが、想像していたものの規模が全く違った。その広さは一つの集落といってもいいほど広く、お湯を張った複数の湯舟があるが、その一つ一つも巨大だ。蒼く光り輝くお風呂や、奥にはジャングルが見える。お風呂にジャングルである。

 

「すごいのじゃ・・・・・・」

 

 ドラウの何とも味気ない感想にイミーナとアルシェも同意する。それしか表現のしようがない。

 

「すごいね・・・・・・」

「うん、すごい・・・・・・」

 

 3人が裸で佇んでいる中、クーデリカとウレイリカはシャワーを掛け合って喜んでいた。エルフ達は以前から使わせてもらっているようで、それぞれお風呂を楽しんでいる。ただし、いまだ棒立ちの3人にはエルフ達のその大きく揺れる自分たちにはないものがいやが応にも目に入って心が痛い。

 

「しかしあのエルフ達の胸・・・・・・」

「すごいのぅ・・・・・・」

「んー?どうしたのアルシェと陛下」

「いや、それは・・・・・・」

 

 言い淀むアルシェは自分の薄い胸とエルフ達のものを比べてため息をついた。

 

「んもー、可愛いんだからアルシェは。お姉さんに任せなさい」

「きゃー!」

「ほーれほれ。いっぱい揉んでおっきくしてあげるからねー」

「ちょっと、イミーナ!やめ・・・・・・あんっ」

 

 アルシェを弄ぶイミーナをドラウは呆れたように見つめた。イミーナの胸は歳の幼いアルシェと比較しても微妙だ。

 

「そんなこと言う割にはお主も小さいのう」

「なんですって!えーい、そういう子もこうだー!」

「ぎゃー!ちょ、やめるのじゃー!」

「うわー、肌すべっすべ。それにつるつるだー。ほら、アルシェも触ってみて」

「え、いいんですか?あ、本当だすっごいすべすべで・・・・・・ぺったんこ」

「何をー。これは仮の姿じゃ。見ておれ!私の本来の姿は・・・・・・」

「うわ、でっかくなった!」

「ふふん、ほれ。お主らの貧相なものと比べてみるが良い」

「「ぐぬぬ」」

 

 悔しがるイミーナとアルシェ。そんな姦しい女風呂の脱衣所に、侵入を成功させた者たちがいた。ペロロンチーノだ。今回は訳あってシャルティアは置いてきている。そして、なぜかヘッケランとロバーデイクが連れられていた。

 

「ちょっと、ペロロンチーノさん。不味いって殺されるぞ・・・・・・俺とロバーデイクが」

「そうですよ。神がこのようなことをお許しになるはずがありません」

「いやいや、俺のエロゲ神はこういっているよ。汝女湯を覗くべし、汝男仲間とその幸福を共有すべし、そしてそのすべてを後世の同志たちに残すべしと」

「あの・・・・・・意味が分かんねえよ」

「神を冒涜してるのですか?」

 

 二人を色々と引き留めるがそれを無視して、ペロロンチーノは女風呂の扉に手をかける、そして手は水晶のようなものがついた魔道具。しかしその時、風呂場全体に大きな声が響き渡った。

 

 

 

―――覗きをする者風呂に入る資格なし!これは天誅である!

 

 

 

「うわ、ライオン像が喋った」

「動いたわ!」

「あれ?でも脱衣所の方に行っちゃう?どうしたのじゃ?」

 

 女性陣が不思議そうに事の成り行きを見守っている中、命の危険を感じたヘッケランはロバーデイクの腕を引く。

 

「ロバーデイク、逃げるぞ!」

「ええ!これは不味そうです」

 

 逃げる二人を尻目に、ペロロンチーノは引かない。絶対に引くわけにはいかない。ライオン像が脱衣所の扉をぶち破り、その場にいる者に攻撃を加えてきたとしても。

 

「俺は負けない!同志たちのため・・・・・・いや、言い訳はよそう!他の誰のためでもない!俺・・・・・・俺自身のために!そう、この目で神秘を見るまでは!絶対に・・・・・・絶対に俺は倒れない!」

 

 その後、脱衣所一帯を破壊しつくした戦いという名の一方的な蹂躙はしばらく続いた。魔道具を守るため、一方的にボコボコにされた結果、ペロロンチーノは風呂でばったりと床にめり込んで倒れている。侵入者を撃退したことに満足したのかライオン像は元の位置に戻ってお湯を吐き出していた。エルフ達が心配してペロロンチーノに声をかけているが気が付く気配はない。

 

「ねぇ、イミーナ。この人なんなんだろう」

「さぁ?馬鹿だってことは分かるけど・・・・・・」

「何か手に持ったアイテムをずっと守ってたよね?必死に守って一方的にやられたみたいに見えたけど」

「時々チラチラこっち見てそのたびにぶっ飛ばされてたわね」

「おかしな奴じゃなぁ・・・・・・」

「「ぷっ」」

 

 ドラウのその呆れたような物言いに二人はつい笑ってしまった。

 

「ふふっ、ほんと馬鹿みたい」

「じゃが悪い奴じゃないの」

「うん、あたしも嫌いじゃないかな」

「クーデリカとウレイリカの恩人だしね」

 

 その後、裸の女性陣に囲まれているにも関わらずスパの中でペロロンチーノの意識は回復することなく、風呂から退場するのであった。

 

 

 

 

 

 

―――ペロロンチーノの私室

 

 激闘の末倒れたペロロンチーノは治癒を施され、自室のベッドに寝かされていた。傍にはメイドが一人いるのみで静かな部屋だ。ペロロンチーノは目を覚まし、周囲を確認する。まず心配したのは魔道具だったが、それは手の中にしっかりと握られていた。傷もついていない。ペロロンチーノはホッと胸をなでおろす。中を見るのが楽しみだ。

 だが一人で見るというのも味気ない。やはり想いを同くする同志とともに見たいものだ。ペロロンチーノは一人の人物を思い浮かべる。エロいことは好きなくせに恥ずかしがってツッコミを入れてくれたギルドマスターの姿を。

 そんな物思いにふけるペロロンチーノの頭にデミウルゴスから伝言(メッセージ)が届いた。

 

『ペロロンチーノ様、モモンガ様の居ると思われる国が判明いたしました』



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第22話 緊縛モノのエロゲは着衣のままで

―――聖王国 城門

 

 聖王国、リ・エスティーゼ王国の南西にあるこの国は、陸に面した北部と海に面した南部に分けられる。とりわけ陸に面した土地では高さ10mを超える強固な壁で囲まれているのが特徴である。国土の陸部全てを囲んだこの壁こそが、この100年国を守り続けているのである。そんな門壁の上部に聖騎士と思われる人間たちが散見された。

 

 聖王国に着いたペロロンチーノ達は壁を下から見上げる。今回は供としてシャルティア、デミウルゴス、アウラに加えてアルベドが付いてきていた。本来であればアルベドはナザリックの防衛に残しておきたいところであったが、モモンガがいるかもしれないと聞いて無理について来たのだ。

 

「ここが聖王国か」

「はっ、ペロロンチーノ様。ネイア・バラハなる者はここの聖騎士団に属しているとのことです」

「モモンガ様は!?モモンガ様はどこなの?モモンガ様ー!あなたのアルベドでございますよー!」

「アルベドちょっと落ち着くでありんすよ。必死すぎてなんか怖いでありんす」

「もうすぐモモンガ様にお会いできるかもしれないのよ、落ち着いてなんていられないわ!」

「アウラ、あの城壁にいる兵たちのレベルは分かるか?」

「はい、えっと・・・・・・およそ50から60レベルですね」

「我々には及ばすとも周辺国に比べてはるかに強いですね。いかがなさいますかペロロンチーノ様」

 

 ペロロンチーノは考える。もしこの国にモモンガさんがいるのであれば、快く迎え入れてくれることだろう。そのため、敵対することはないだろうと踏み、対話から試みる。

 

「まずは友好的に話をしてみよう」

 

 ペロロンチーノ達が門に近づくと門の上から大声で怒鳴られる。

 

「止まれ!何者だ!亜人に・・・・・・悪魔!?なんだおまえたちは!?」

 

 モモンガがいるのであれば人間の振りをしておくメリットは何もない。ペロロンチーノ達はありのままの姿で門の前に立っていた。それを見て聖王国の騎士たちは警戒を強める。

 

「はじめまして。俺はペロロンチーノと言います。この国にいるかもしれないモモンガさんと言う人に会いたくて来ました」

「モモンガ?」

 

 モモンガ?モモンガってなんだ?そんな声が壁の上で飛び交っている。そして返事が返ってきた。

 

「そのようなものは知らない!」

「ではネイア・バラハと言う方は?」

 

 その名前には聞き覚えがあるらしく、騎士が後ろを振り返る。だがいかにも怪しい集団に答えてよいかどうか迷っているようであった。しかし、しばらくすると後方から一人の女性が姿を現す。

 

「私に何か御用ですか?」

 

 それはブロンドの髪に整った顔立ちをしているが一つ欠点のある少女であった。そう、目つきが凶悪なまでに鋭いのだ。さらにその下にクマが出来ており、狂眼と呼ぶのがふさわしい。しかし、その装備は見事なもので特に弓は神聖な雰囲気を醸し出している。彼女が目的の人物と判断してペロロンチーノが話しかける。

 

「あなたがネイア・バラハさん?」

「そうですがあなたたちは?」

「この国にモモンガという方はいませんか?もしかしたらアインズ・ウール・ゴウンと言う名前かもしれませんが」

「モモンガという人はしりませんが、アインズ・ウール・ゴウン様はこの国の・・・・・・いえ、この世界唯一の神です」

「神?モモンガさんが?」

「そうです、あの方こそ正義の御方。まさに至高の御方です」

 

 ネイアはうっとりと上空を見つめる、まるで天にいるその神を崇拝するように。

 

「俺はモモンガ・・・・・・いや、アインズ・ウール・ゴウンさんの友人なんですが会うことはできませんか?」

「あなたが?」

 

 ネイアは訝し気にペロロンチーノを見つめる。狂眼から放たれるそれは視線だけで相手を殺せそうだ。

 

「ええ、俺はナザリック地下大墳墓からきましたペロロンチーノと言います。モモンガさんにそう伝えてもらえませんか?」

「ナザリック!!?」

 

 ネイアは驚きに凶悪な目がさらに悪く見える。その反応にペロロンチーノ達は確信する、ネイアは確実にモモンガのことを知っていると。

 

「やっぱりナザリックを知っている?モモンガさんはここにいるんですね?」

「違う!ナザリックなど、そんな名は知りません!」

 

 ネイアは頑なに否定する、まるで何かを恐れるように。しかし、その反応に後ろに控えていたアルベドがついに我慢を出来ず口を出す。

 

「嘘ね・・・・・・。ねぇ、ネイアとか言ったかしら。モモンガ様・・・・・・アインズ・ウール・ゴウン様は私の大切な大切な、ちょー超絶魅力値が降り切れてる素敵な素敵な・・・・・・私の愛して愛してやまない方なの。返していただけないかしら?」

「返す!?今までアインズ様をさんざん放っておいて!?アインズ様は私たちの神!そう!私たちのものです!あなたたちなど知らない!」

「モモンガ様が・・・・・・あなたたちのもの?」

 

 ネイアの言葉にアルベドの笑顔が引きつり、その背後から見えないどす黒いものが漂いだすのを幻視する。しかし、引くわけにはいかない。

 

「ええ、アインズ様はこの国を愛し、我々もアインズ様を愛しています。あなたたちにアインズ様を渡すようなことはありません!」

「モモンガ様を・・・・・・愛しているだと!この小娘が!モモンガ様は私の!私だけの愛する方!いつまでそんな高いところにいるつもり?降りてきなさい!」

 

 許せない言葉。モモンガから愛することを許されたのはアルベドのみのはずである。その「愛」という言葉にアルベドは我を忘れる。世界級(ワールド)アイテム、真なる無(ギンヌンガガプ)、対物体最強とされるその武器で迷うことなくネイアの足場としている擁壁を攻撃する。しかし、その結果は擁壁の一部のみが崩れるといったありきたりのモノで終わった。

 そして、その壁の中から異形が現れる。

 

 

 

――――デスナイト

 

 

 

 どんな攻撃をも一撃だけHP1で耐えるというアンデッドモンスターだ。そう、これが評議国の竜王たちによる襲撃をも防ぎ切った秘密だ。

 

「まさか!?この壁すべてが!?」

「やられたデスナイト!下がりなさい!あなたたちは聖王国に!アインズ・ウール・ゴウン様に敵対するということでいいですね!?」

「くぅ!」

 

 攻撃を受けたデスナイトは下げられ、負のエネルギーを注がれ回復されている。他の擁壁を守っていた騎士たちも城門の上に集まってきていた。その中でネイアは左手を天に掲げる。その薬指には赤い宝石の指輪が輝いていた。それを見せつけるようにネイアが声高々に叫ぶ。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

「「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」」」

 

 ネイアに続いて聖騎士たちがその誓いを唱和する。そして彼らの体が、いやその体から発せられる雰囲気が一回り大きくなったように感じた。

 その唱和に呼応するようにアウラが驚きの声を上げる。

 

「ペロロンチーノ様!?あいつらのレベルが跳ね上がりました!およそ70~80レベル!」

「使役系の能力!?それとも指揮系統か!?」

 

 驚くペロロンチーノ達にネイアはさらなる追撃を加えべく、声高々に命令を下す。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様の名のもとにひれ伏しなさい!」

 

 ネイアが大きく手のひらで空間を押さえつけるように振るう。その瞬間、アルベドが地に伏せた。他の守護者たちも顔を歪めている。

 

「ぐぅ!」

「アルベド!?これは・・・・・・支配の呪言!?いや、特定条件下による洗脳?支配能力?アルベドが特に影響を受けていることを考えると・・・・・・」

 

 デミウルゴスがその明晰な頭脳で答えを導こうと現状を分析する。

 

「特定の信仰、この場合はモモンガ様への信仰ですか、それを持つものに影響が?くっ、油断すると私までも膝を屈してしまいそうです」

 

 ひれ伏すアルベドに戸惑うデミウルゴス。しかし、戸惑っているのは力を振るったネイア自信も同じであった。ネイアの職業(クラス)伝道者(エヴァンジェリスト)による効果はモモンガを信仰する者に特に強く現れる。

 

「なぜあなたたちが・・・・・・まさか本物!?」

 

 明らかに異常な自分たちの状態にアウラは特殊技能(スキル)により自分たちのステータスチェックも行う。

 

「デミウルゴス!あたしたちの能力値も下げられてるよ」

「不味いですね。彼女を何とかしなくては・・・・・・ですが、モモンガ様を崇拝する我々にとって彼女はまさに天敵・・・・・・いかがいたしますか?ペロロンチーノ様?」

 

 デミウルゴスがペロロンチーノの指示を仰ごうとして振り返った時、そこにはすでにその姿はいない。聖王国の聖騎士たちも一人足りないことに気づき周りを探すが見つからない。

 それぞれが戸惑っている中、太陽から一直線に降りる影、ペロロンチーノ。そう、ペロロンチーノは太陽の光の中にいたのだ。急降下勢いそのままにネイアの体を攫って壁の下に降り立った。その一瞬の出来事に双方が瞠目する。

 

「なっ・・・・・・あなたは影響を受けていない!?アインズ・ウール・ゴウン様を信仰していない?」

「モモンガさんと俺は友達だから信仰とかそういうのはないかな。シャルティア!」

「了解でありんす。転移門(ゲート)

 

 以心伝心、ペロロンチーノの命令と同時にシャルティアの《転移門(ゲート)》が開く。ペロロンチーノはネイアを連れての撤退を迷わず選択する。戦いに勝つことが目的ではなく情報こそが必要と判断したからだ。

 

「みんな!私のことは構わないでください!私に何があろうと門を開けないように!ちょっ、どこ触ってるんですか!?」

 

 ペロロンチーノに抱えられどさくさに紛れて色々と触られながらネイアの叫びを残して転移門(ゲート)は閉じた。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 第五階層 拷問部屋

 

 

 ネイアはナザリックに連れ込まれ、尋問を受けることになった。尋問官はペロロンチーノ、そしてシャルティアの二人だけだ。他のナザリックの者達はネイアに操られる危険があるためここにはいない。この部屋の主人、ニューロリストも含めてだ。特にアルベドは怒りのあまり殺してしまうかもしれないとの判断もあるが、その代わりネイアから剥いだ装備の鑑定を任せている。

 

「んーーー!むーーー!」

「シャルティア、なんでボール咥えさせてるんだ?」

「こうしておかないとすぐ舌を噛んで死のうとしんす」

「なるほど、それで・・・・・・なんで縄で全身を縛ってるんだ?」

 

 ネイアは口にボールギャグを咥えさせられ、服の上から縄で亀甲縛りと言われる縛られ方をしていた。第五階層の氷結牢獄にいるとあって、気温が低く、ネイアの息が白い湯気となってボールから立ち上っている。

 

「ボールと縄はセットかなと思いんした。いけませんでしたでありんすか?」

「なるほど・・・・・・シャルティア。おまえの考えはすべて正しい。なんか縛りって胸の小さめの女の子のほうがエロいよね・・・・・・。しかもジト目の子と来たらこれしかない」

「まさにペロロンチーノ様のおっしゃるとおりでありんす!」

 

 二人はサムズアップでお互いの趣味が完全に一致していることを再確認する。ネイアはそんな二人に何をされるのかと寒気を感じ暴れまくるが、縄がさらに深く服に食い込み体のラインをさらに浮き立たせる。

 

「んーーー!んーーー!」

「さて、ネイアさんだったね。まずは改めまして。俺はペロロンチーノといいます。モモンガさん、君たちの言うアインズさんの友達です」

 

 友達・・・・・・その言葉を信じていいものか、ネイアの目に警戒の色が浮かぶ。

 

「それから君を連れてきたのは話を聞いて欲しいからです。傷つけたり殺したりするつもりはないので安心してください」

「でも多少のセクハラはするかもしれないでありんすよ」

「それは否定しない」

(否定しないんだ)

 

 ネイアは連れて来られるとき体をどさくさに紛れて弄られたことを思い出して顔を赤らめる。

 

「さて、君が布教してたと思われる書物でナザリックのことが書かれていたけど、ここがそのナザリックです。もし君がナザリックについてモモンガさんに詳しく聞いてたら本当だと分かるんじゃないかな?」

 

 ネイアはここまで連れて来られた時に見たものを思い出す。墳墓、地底湖、氷河、ネイア達の神が話してくれたナザリックと一致している。彼らは神の居た土地の住人に違いないのだろう。

 

「君と話がしたいからボールを外そうと思うんだけど、舌を噛んだりしない?」

 

 突き付けられた事実、それを認めるしかないネイアは頷く。ペロロンチーノがボールを外すとネイアは少しむせたあと言葉を紡いだ。

 

「ここがナザリックだと言うことは納得しました。ですがアインズ様を渡すことはできません」

 

 ネイアは語る。アインズより聞かされた約100年前よりの出来事を。

 

 ネイアによると100年前この地に現れたアインズはナザリックを探そうと躍起になっていたらしい。しかし、仲間(かぞく)ナザリック(いえ)も見つからず、聖王国に行きついたということだ。そしてその地で力と知恵を授けて神とあがめられるようになった。特にアンデッドの自然発生を用いて作ったシステムが優秀であり、自然発生したアンデッドを襲われる心配なく倒せる仕組みを開発した。それを使い、かつての聖王国の民たちは急速にレベルを上げていったとのことだ。そしてそれからは血の混じりも加わり、聖王国民全体のレベルが底上げされることになる。

 さらに死んだ後も国のために働きたいと望んだ高レベルの民たちはアインズの上位アンデッド作成に耐えられるまでのレベルになり、死した後も聖王国を守るため働いているとのことであった。

 

 ネイアの話を聞いていたペロロンチーノとシャルティアは驚きを隠せない。モモンガがこの地に来たのが、100年も前のことであったこと。そしてその後行ったことの数々に。しかしシャルティアとペロロンチーノではその驚きの種類は違っていた。

 

「さすが・・・・・・さすがモモンガ様でありんすね」

「いやいや、やりすぎでしょ。何なのあの要塞国家。デスナイトの壁で国を囲うとかナザリックより攻めづらそうなんだけど」

 

 ネイアはさらに語る。その後、モモンガの力を利用しようとする勢力から仲間を騙った誘いが続いたらしい。何度も期待をさせられ、そして裏切られ・・・・・・それでモモンガはついに諦め、外の世界との交流を一切遮断したとのことであった。

 

「アインズ様は私たちの正義であり、希望なんです!私たちから取り上げないでください!お願いします」

 

 ネイアは床に頭をこすりつける。その姿はペロロンチーノの心を動かすに値する者であった。

 

「分かった、無理やり取り上げたりはしない。でもモモンガさん・・・・・・アインズさんが会いたいって言ったら?それでも君は反対する?」

「それは・・・・・・」

「もしアインズさんが会いたいって言ったらせめて一目会わせてくれないかな。無理やり攫ったりするようなことはしないから」

「・・・・・・分かり・・・・・・ました。聞いてみます」

 

 語り掛けるように紡いだペロロンチーノの心からの言葉にネイアも折れた。そして確信する。この人こそ神の言っていたかつての仲間なんだと。

 

 そしてネイアは聖王国へ帰されることとなった。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 第六階層

 

 ネイアを帰したペロロンチーノは第六階層の大森林にいた。ネイアからの連絡を待つしかないが、それでよかったのか。モモンガは自分に会いたいと本当に言ってくれるか。一人で少し考えたくなったのだ。珍しく真剣な顔をしているペロロンチーノに予期しない人物から声がかかる。

 

「むむ、そこにいるのはペロロンチーノ殿でござるか?」

 

 それはトブの大森林で成り行き上連れてきたハムスケであった。

 

「あ、えーっとなんだっけ。ハム太郎だっけ?」

「某の名はハムスケでござるよ!」

「相変わらず酷い名前だなぁ、ハハ」

「某の名は殿に着けてもらった大切な名でござる。馬鹿にしないでほしいでござるよ」

「ごめんごめん。あ、そういえばお前は別にここに居てもらわなくてもいいんだった。帰そうか?」

「忘れてたでござるか!?酷いでござる!でもまぁ・・・・・・ここは食べ物もおいしいでござるし餌をとる必要もないでござるからもうしばらくいてもいいでござるが・・・・・・」

「・・・・・・何て言うか、本能のまま生きてて幸せそうだな」

「・・・・・・ペロロンチーノ殿だけには言われたくないでござるよ。ところでペロロンチーノ殿。そろそろ某の指輪を返してくれないでござるか?」

 

 指輪と言われてペロロンチーノの頭にはクエスチョンマークが付く。

 

「指輪?なんだっけそれ」

「森でペロロンチーノ殿が某から取った指輪でござるよ!」

「そんなのあったっけ?」

「忘れるなんて酷いでござる」

 

 ハムスケは腹を見せて手足をジタバタさせて抗議をしている。思わず腹を撫でてみたくなるが、ぐっと我慢してペロロンチーノはアイテムボックスを探る。すると一つの赤い宝石をはめた指輪が出てきた。

 

「あった・・・・・・これか?こんなの取ったっけ?」

「それでござる!」

「ああ、そうか。トブの大森林で・・・・・・つい手に取ってそのまま精神支配されたから・・・・・・。あの時どこかで見た指輪だなって思ったんだよな・・・・・・」

 

 ペロロンチーノはその指輪をじっと見つめる。なんだか懐かしいような楽しいようなそんな気分になってくる。そしてペロロンチーノの記憶がつながる。

 

「これ・・・・・・ギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)じゃないか!」

「なんでペロロンチーノ殿が殿の名前を知っているでござるか?」

 

 不思議そうな顔をするハムスケにペロロンチーノは驚く。

 

「おまっ、殿ってモモンガさん、アインズ・ウール・ゴウンのことだったのか!?」

「言ってなかったでござるかなぁ」

「でもこれがあれば宝物殿に入れる!ハムスケ、もうちょっとこれ貸してくれ」

「あ、ちょっと!ペロロンチーノ殿!某はいつ森に帰れるでござるかー!」

 

 ハムスケの叫びを無視して、ペロロンチーノは指輪の効果を発動させた。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 宝物殿

 

 ペロロンチーノは一瞬にして第六階層から宝物殿に転送を完了した。その事実に指輪をじっと見つめる。

 

「転移成功!これは本物か・・・・・・。ということはハムスケの言っていたことはすべて本当と言うこと・・・・・・」

 

 この指輪を持っていたのはギルドメンバーの誰かであることは確実だ。そしてそれは恐らくモモンガさんなのだろう。様々なことを考えながらペロロンチーノは宝物殿を進む。するとそこに見慣れた姿が現れた。

 

「モモンガさん!?」

 

 会っていない時間は長くともギルドで仲良くしていた親友のアバターを忘れることなどない。ペロロンチーノ前にはモモンガの姿があった。いつも着ていた神器級(ゴッヅ)アイテムではなくシンプルなローブ姿だ。

 

「これはこれはペロロンチーノ様。お久しぶりでございます」

 

 そう言って、モモンガは足をカッと鳴らし揃えると大仰に敬礼を行う。それを見てペロロンチーノは笑う。

 

「ぷっ!はははは、昔のモモンガさんみたいだ」

 

 ペロロンチーノは軍服や中ニ病的な行動を好んでいた頃のモモンガを思い出す。あの時は痛かった。そしてギルドのみんなはそれを生暖かく見守っていたものだ。

 

「おっと、これは失礼いたしました。アルベド様がいつもモモンガ様の声を聞かせろと言っていたものでそのままでした」

 

 そう言ってモモンガの姿が崩れる。その後現れたのは卵頭の埴輪に目と口の穴が開いたような黄色い軍服姿の人物だ。宝物殿の領域守護者、上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)であるパンドラズ・アクターだ。あらゆる人物の姿や能力をコピーすることが出来る。

 

「お前は確かモモンガさんが創った・・・・・・」

「いかにも!至高の御方のまとめ役、ナザリック地下大墳墓のずぇったい的主人、ん~~~~~~~ノォモンガ様より創造されました、パンドラズ・アクターでございます」

 

 パンドラズ・アクターは片手を胸に、そして片手を帽子に当てオーバーアクションで自身を紹介する。

 ペロロンチーノはパンドラズ・アクターのどうだ、かっこいいだろう?と言いたげなドヤ顔で見つめられてまた吹き出しそうになる。モモンガさんそっくり。

 

「しかし、ちゃんと整理されてるなぁ、サービス終了するって言うのに。さすがモモンガさん」

 

 周りは金貨の山などが乱雑に積まれているように見えて、その奥には収納スペースに種類ごとに整理整頓されてアイテムが収まっていた。

 

「パンドラズ・アクター。俺の装備ももしかしてあったりする?」

「もちろんです、ペロロンチーノ様。こちらへどうぞ」

 

 案内された先は、ゴーレム像が並んだ通路だ。そこへ入る前にパンドラズアクターより指輪を預けるように言われる。覚えていないが、そのまま入ると襲われる仕組みであると言うことだ。そのゴーレム像を見てペロロンチーノは驚く。ペロロンチーノを始め、他のギルドメンバーたちを模ったゴーレムたち、そのすべてに当時装備していたアイテムが着けられている。

 

「売っちゃってもいいって言ったのに・・・・・・。モモンガさん・・・・・・」

 

 モモンガさんはどんな気持ちでこのゴーレムたちを作ったんだろう。ギルドメンバーが一人辞め、二人辞め、ペロロンチーノも辞めてしまった。しかし、モモンガは一人残り、このゴーレムたちを作りみんなで作り上げたものを残そうとしてきたのだ。ペロロンチーノはそう思うと少し切ない気分になる。そして、ペロロンチーノはかつての自分の最強装備をそのゴーレムから預かることとする。

 

「ちょっとの間返してもらいますよ。モモンガさん」

 

 今はいないこのギルドのリーダーに向かってペロロンチーノはつぶやくと、自分のアイテムを装着した。そしてしばらく装備したアイテムの能力や使い方を確かめているとパンドラズ・アクターが首を傾げてペロロンチーノに問いかけた。

 

「ところで、ペロロンチーノ様。ペロロンチーノ様が来られる前にアルベド様がこちらに来られたのですが、指輪は複数見つかったのですか?今までギルドの指輪は見つかっていないとの報告を受けていたのですが」

「何?」

「おや?先ほどアルベド様が来られまして世界級(ワールド)アイテムをいくつか持って行かれたのですがご存じない?」

 

 ペロロンチーノは急いでアルベドに伝言(メッセージ)を使う。しかし、その伝言がつながることはなかった。



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第23話 百合モノのエロゲは男子禁制

―――聖王国上空

 

 アルベドは下方を見つめる。不可視化を行っているが、聖王国の聖騎士たちのレベルであれば看破は可能であろう。そんなことは知っている。しかし、彼女が目指すところは一つしかない。ネイアよりもたらされた情報、モモンガの居る場所こそが彼女の向かう場所だからだ。

 

(・・・・・・モモンガ様)

 

 国境を越えたところで警報の大きな音が響き渡った。しかし、そんなことはお構いなしにアルベドは突き進む。だが、聖王国の聖騎士たちは上から下から飛び交うように攻撃をしてくる。防御スキルでそれを防ぐが、それでもダメージが少しずつ蓄積する。だが、止まるわけには行かない、そして反撃をしている余裕もない。愛しい方の場所が分かったのだ。その場所へ向かい、愛する人に一目会うこと、それ以外はすべて無視して進むのみだ。

 

(・・・・・・モモンガ様・・・・・・モモンガ様)

 

 体力が削られ、特殊技能(スキル)もほぼ使い切った。それでも目的地へ向かって飛び続けるアルベドの意識はもう少しで遠のこうとしていた。すると、あたりと違う雰囲気の建物を発見する。それはアルベドの見慣れた建物、ナザリック地下大墳墓の地上部分だ。一瞬ここがどこなのか混乱するが、アルベドは確信する。これはモモンガ様の作られた場所、そう、ここにモモンガ様がいると。

 

(・・・・・・モモンガ様。今、アルベドが参ります!)

 

 モモンガ様に会いたい。その想いのみでここまで来た。それがついに叶えられる。尽きかけた体力の中、アルベドは世界級(ワールド)アイテムを発動させた。

 

 

 

 

 

 

――ナザリック地下大墳墓 玉座の間

 

 アルベドを除く階層守護者とペロロンチーノが集まっていた。議題となっているのはアルベドの取った行動だ。ネイアの装備を検分した後、アルベドの消息は不明であった。守護者を代表してデミウルゴスが口火を開く。

 

世界級(ワールド)アイテムを持って逃亡するとは。守護者統括にあるまじき行為」

世界級(ワールド)アイテムは至高の御方達が苦労して集めたアイテムでありんす。それを許可もなく持ち出すなんて」

「マッタクダ。許シガタイ」

「それよりさー、不思議だよね?アルベドはギルドの指輪はどこで手に入れたの?あれだけ探してなかったのに」

「そ、それにどこにいっちゃったんでしょう」

 

 アルベドの行動に怒る者、宝物殿に侵入されたことを不思議がる者、行方を心配する者、それぞれの反応の中、デミウルゴスが答える。

 

「それだよ。今までナザリックではギルドの指輪は一つも見つかっておりませんでした。今ペロロンチーノ様がお持ちになっている指輪はまさにギルドの指輪。ハムスケなる魔獣が持っていたものですね。そしてアルベドが手に入れた指輪、これが問題です」

「アルベドが持っていたならもっと早く宝物殿に行ってたはずでありんすね。パンドラズ・アクターにモモンガ様の姿を取らせるために」

「鹵獲したアイテムは宝物殿に入れられないので守護者統括たるアルベドが管理しておりました。ですのでこれまで指輪を持っていたとは思えません。つまり、最後に鹵獲したネイア・バラハが持っていたというのが妥当ではないでしょうか」

 

 デミウルゴスの読みに、ペロロンチーノは頷く。

 

「聖王国のネイアから伝言(メッセージ)が入っている。指輪を返してもらってないと。それから聖王国でアルベドが目撃されたらしい。異常事態が発生しているようで助力を求められている」

「それでペロロンチーノ様いかがなさいましょうか?」

「アルベドの行動は予想できる・・・・・・というかそれしか考えられないけどまず間違いなくモモンガさんのところに飛んで行ったんだろうな」

「まぁ・・・・・・そうですね」

 

 デミウルゴスを始め守護者全員が呆れたようにため息をつく。アルベドの行動は終始一貫している。モモンガに会うことだけでずっと望んでいたのだ。それが分かれば飛んでいかないわけがなかった。

 

「ソレデハナザリック全軍ヲ動員シテアルベドヲ捕縛スルトトモニモモンガ様ヲ助ケ出シマショウ。先兵ハコノコキュートスガ」

「落ち着きたまえ、コキュートス。今ナザリックを手薄にするのは非常に不味い。指輪の話を考えてみたまえ」

「ドウイウウコトダ」

「ハムスケの持っていた指輪、ネイア・バラハの持っていた指輪、これは恐らくモモンガ様が渡したものだろう。だが、その二つだけだとどうして言える?」

 

 デミウルゴスの疑問にペロロンチーノは納得する。

 

「なるほど、他にも指輪を持っている者が聖王国にいる可能性がある。そして彼らはいつでも自由にナザリックのどの階層にでも侵入できるというわけか」

「おっしゃる通りでございます」

「じゃあ聖王国には少人数で行くしかないな。危なそうなら逃げてくる」

「それがよろしいかと。それから世界級アイテムをお持ちください。パンドラズ・アクターの話ですとアルベドの持ち出した世界級アイテムは3つ。そのうちの一つはあの傾城傾国です。こちらも世界級アイテムを所持しているものでないと対処は難しいかと」

「分かった。それからナザリックの警戒強化については、アルベドがいない状態では防御力が心配だな・・・・・・。よし、パンドラズ・アクターを宝物殿から出そう」

「パンドラズ・アクター!アインズ様の創造されたかの者でしたらあらゆる状態での対応力という面では適任ですね。しかし、代わりの宝物殿の守りはどうなさるので?」

「宝物殿か。うーん、誰が適任か・・・・・・」

「現在ギルドの指輪は一つのみ。つまり一人しか宝物殿にはいけません。宝物殿を守れるだけの実力を持っていることが必要でしょう」

 

 デミウルゴスの心配に他の守護者たちも頭を悩ませる。

 

「でもさ、宝物殿に入ったら出られなくなっちゃうじゃない?どうするの?」

「ソウダナ、アウラ。コウイッタ議論ニ特ニ必要ナイ者デナイトナ」

「あと影が薄くて、誰も気にも留めないようなのが良いでありんすねえ」

「ぼ、僕もそう思います」

「うーん・・・・・・」

 

 ペロロンチーノは悩んだ末、一人の人物を思い出した。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 宝物殿

 

 宝物殿に一人の人物が立っていた。拳を強く握りしめ俯いて唇を噛んでいる。

 

「ぐぬぬ・・・・・・」

 

 白髪の執事は悔しそうにうめき声をあげた。

 

 

 

 

 

 

―――聖王国 女王の間

 

 聖王国の王城、白で彩られまさに聖王国の象徴とも言える場所へペロロンチーノとシャルティアは招待されていた。迎えるのは聖女王カルカ・ベサーレス。金色に輝く髪は光沢を放ち天使の輪のようであり、非常に愛らしい顔立ちをしている。そしてその両脇に茶色い髪の二人が控えている。顔立ちは似ているが、肩程度までの髪をしているのが聖騎士で姉のレメディオス・カストディオ、腰まで髪を伸ばしているのが魔法詠唱者で妹のケラルトカストディオだ。

 聖王国で発生した異常、それを解決するにはやむを得ずと判断し、ペロロンチーノたちを招き入れた。しかし、100年門を閉ざして門を守り抜いてきた国である。当然それを不快に思う者もいる。レメディオスもその一人であった。

 

「カルカ様、国外の有象無象をこの神の地へ招き入れるなど・・・・・・」

「レメディオス、ちょっと黙ってくれる?まぁまぁ何て可愛らしいお客さまでしょう。シャルティア様とおっしゃったかしら?」

 

 カルカは自分とは対照的な愛らしさのシャルティアを見て顔を輝かせる。金髪のカルカが太陽の輝きだとしたら銀髪のシャルティアは月の輝きといったところか。それを見てレメディオスはカルカの服の裾をクイクイと引っ張る。

 

(カルカ様!カルカ様には私とケラルトという者がおるではないですか・・・・・)

 

 頬を膨らませるレメディオスにカルカは唇に指をあてて黙らせる。

 

「もう、静かにしてて、ね。後で可愛がってあげるから」

「本当ですか!今夜ですか!今夜寝室に行ってもよろしいのですか」

「もう、姉さんばっかりずるいですよ」

 

 カルカはレメディオスに嫉妬したケラルトの唇も指で塞ぐ。

 

「もう、しようのない子達ね」

 

 それを見たシャルティアはペロロンチーノの服の裾をつまみ、クイクイと引っ張って耳打ちする。頷きつつ聞いていたペロロンチーノはカルカに告げる。

 

「あの、うちの子がぜひ3Pに混ざりたいと言って・・・・・・ごめんなさいなんでもありません」

 

 ペロロンチーノはカルカの後ろから4つの恐ろしい視線を受けて発言を撤回する。それを見てシャルティアは再びペロロンチーノの服の裾をつまみ、クイクイと引っ張り耳打ちをした。それを聞いてペロロンチーノは再び頷く。

 

「あの、うちの子がその指で唇塞ぐやつだけでもやりたいって言って・・・・・・いえ、なんでもありません続けてください」

 

 カルカは後ろからの視線には気づかない様子で本題の話を続ける。

 

「さて、ペロロンチーノ様。この国にお越しいただいたのはお願いがあるからです。聖王国の神アインズ・ウール・ゴウンが住まう地が謎の空間に飲み込まれました。アインズ様はその空間を調査しようと入ったきり戻りません。そしてその空間を発生させる直前、あなた方の地でネイアが見た女性が目撃されております。そこで事態の収拾をお願いしたいのです」

「その程度、このような外部の者に頼らずとも私が何とかしてご覧に入れます!」

 

 レメディオスは鼻息も荒くいきり立つ。それを聞きながしカルカは続ける。

 

「中は人が生きられるような空間ではないとのことです。ですが、あなた方ならそれが可能なのでは?」

「そうですね・・・・・・どんな空間か分かりませんが、対策をしてはいれば可能でしょうね。でもどうして俺たちに頼ろうと思ったんです?」

「ネイアがあなた方のことを話しておりました。我々の神を同じく愛する者達であったと。ならば何も言うことはありません」

「もしかしたらモモンガさん・・・・・・あなたたちの神は俺たちを選んでしまうかもしれませんよ?」

「神の選択に誰が異議を唱えられましょうか。ネイアは・・・・・・あの子はちょっとアインズ様に依存しすぎなところがあります。ですが、我々は信じています。神が我々を見捨てることなどないと」

 

 カルカの真摯に向き合う態度にペロロンチーノは頷いた。隣ではシャルティアが分かったように頷いているが、頭の中は目の前の3人との情事について想像を巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 聖騎士たちに案内される中で、ペロロンチーノは驚く。聖王国と言うのは名ばかりなのか、何とアンデッドが町中を闊歩しているのだ。アンデッドの馬が馬車を引き、アンデッドが農作業や土木作業をしているのも見て取れる。そんな中、人々は非常に豊かそうに暮らしており、農作物をたわわに実っている。他国との戦争や異種族との争いを抱えていたこれまで見た国と違い平和そのものである。

 

(ここがモモンガさんの国か・・・・・・すごいなぁ)

 

 ペロロンチーノが感心しているとやがて目的地に着いたようであった。そこには確かに謎の空間との境界が現れている。聖騎士たちは自国民でないペロロンチーノたちに友好的でないにしろ最低限の情報を与えてくれた。聖騎士たちの話によるとアルベドと思われる女が聖騎士たちの攻撃をかいくぐりここで何かを行った結果、謎の空間が現れたと言うことだった。しかし、ペロロンチーノにはこの謎の空間に見覚えがあった。

 

「これは世界級(ワールド)アイテムの効果だな」

「そうなんでありんすか?」

「世界級アイテムの一つの効果と現象が一致している。中はどうなってるか分からないな。シャルティア。準備はいいか?」

「各属性空間などへの対策は万全でありんす」

「よし、じゃあ行くか」

 

 ペロロンチーノとシャルティアは覚悟を決め、空間に触れる。そして内部への侵入を選択した。するとそのとき、この空間の製作者が定めたルールが頭の中に流れ込んでくる。《山河社稷図(さんがしゃしょくず)》、世界級アイテムの一つであるそれは、巨大な隔離空間を作成し、周りの人や建造物を取り込み隔離する。さらに隔離した空間には発動者が望んだエフェクト効果を空間全体に発生させることも可能である。しかし一定条件を満たして脱出されると所有者が移り奪われるというデメリットも存在した。

 

「この脱出条件は・・・・・・アルベドらしいというかなんというか・・・・・・」

「なんて条件を設定するでありんすか!アルベドぉ!モモンガ様に何て条件を!うらやまけしらかんでありんす!」

 

 アルベドに呆れる二人が見たものは、隔離空間のエフェクトとして選択された毒沼地帯であった。そして、その先の建物を見て二人は驚く、そこに在ったもの、それはナザリック地下大墳墓の入り口そのものであった。ユグドラシル時代、毒沼地帯にあったナザリック地下大墳墓、その再現と思われる。しかし、一部だけ異なるところがある。その入り口が完全に閉じられているのだ。ナザリック地下大墳墓はゲームのシステム上最奥部まで1本の線で結ばれていなければならない。もし塞いでしまうようなことがあればシステム(アリアドネ)が発動し、ペナルティーとしてギルド資産が減り続けるのだ。しかし、この世界にはそのような縛りがないからであろう。防衛策として当然のものである。

 

「これは・・・・・・硬いな」

 

 ペロロンチーノはその扉を叩く。魔法金属のようであるが、超高レベルの魔法詠唱者(マジックキャスター)によって創造されたものだろう。厚さも計り知れない。

 

「物質破壊はヘロヘロさんの得意とするところなんだけど・・・・・・」

「ここは、わらわにお任せを」

 

 シャルティアは得意のスポイトランスを全力で振るう。しかし、対物体への攻撃力に優れているわけでなく扉はびくともしなかった。そこでペロロンチーノは思い出す。宝物殿でモモンガにより大切に保管されていた自身の装備を。この装備は一つ一つが神器級(ゴッズ)アイテムであるが、その真価はすべての装備が揃った時に発揮されるものなのだ。

 

「シャルティア、ちょっと離れてろ。せっかくフル装備が手に入ったんだ。試してみよう」

 

 ペロロンチーノの全身鎧、そしてその武器ゲイボウに込められたデータクリスタルすべてが連動して発動する。そうすることで自身が新たな特殊技能(スキル)を発動できるようになったことをペロロンチーノは感じた。そして、ペロロンチーノは秘められた特殊技能(スキル)《太陽堕とし》を敢行する。

 

 

 

 

 

 

 今だ溶解した入口から煙がくすぶっている中をペロロンチーノとシャルティアは墳墓へ踏み込んでいく。中に入った二人はそこでさらに驚きの声を上げる。その内部までもナザリック地下大墳墓にそっくりであったのだ。

 第1~第3階層の墳墓、第四階層の地底湖、第五階層の氷河と降りてゆくが、そのすべてがオリジナルと瓜二つである。しかし、一つだけ違う点、それはその間に誰も存在していないということだ。まるで抜け殻のナザリック。そしてそれを創造しただろう者を想い、ペロロンチーノは心を痛める。

 

(こんな広い拠点に一人だけ・・・・・・モモンガさん・・・・・・)

 

 その後、第六~第八階層も調べてみたが、まるで人の気配がない。そして第九階層、ギルドメンバーたちの部屋が並ぶ場所だ。もしいるとしたら自室の可能性が高いのではないか、そう思い、ペロロンチーノはモモンガの部屋の扉をそっ開ける。

 カギはかかっておらずドアの隙間から中を覗くことが出来た。その高級ホテルのような広い部屋の中、ベッドで蠢く影があった。裸の骨と裸のサキュバスが絡み合っている。正確に言うと裸の骨に裸のサキュバスが絡みついていた。

 

「ハァ!ハァ!モモンガ様!モモンガさまぁ!」

「やめっ・・・・・・ちょっ!そんなことしても俺アンデッドだから!」

「モモンガさまぁ、モモンガさまぁ、モモンガさまぁ!」

「ちょーーー!」

「傾城傾国も効かないなんて!そんなストイックなところも素敵です!モモンガ様ー!」

 

 モモンガの持つ世界級アイテムに阻害され、傾城傾国の効果が発揮しなかったため、アルベドは実力行使に出ていた。なお、山河社稷図もモモンガを取り込めなかったが、モモンガが空間へ入ることを選択したため中に閉じ込められている状態である。

 そしてモモンガの言葉などお構いなしにアルベドが舐めしゃぶり、絡みつき、体をこすりつけている。モモンガが助けを求めるように周りを見渡したその時、モモンガとペロロンチーノの目が合った。

 

「あっ」

「あっ」

 

(うそ!?ペロロンチーノさん!?た、助けてくださーい!)

 

 モモンガは必死で身振り手振りに口パクでペロロンチーノに合図を送る。アルベドはモモンガに絡みつくのに必死で全く気が付く素振りを見せない。

 モモンガの合図に気づいたペロロンチーノは合図の意味を瞬時に理解する。ひとつ頷くと、アイテムボックスより水晶の嵌った魔道具を取り出し、モモンガとアルベドに向けた。

 

(な、なんか知らないけど違う!違います!ペロロンチーノさん!)

 

 必死に助けを乞うジェスチャーをするモモンガ。それを見たペロロンチーノは、ハッとしたように相槌を打ち、サムズアップをする。モモンガの合図の意味が今度こそ理解できたのだ。魔道具をシャルティアに任せて、アイテムボックスを探す。そして取り出した指輪を見てモモンガは思わず声を出す。

 

「ちょっ!それもしかして俺の《流れ星の指輪(シューティングスター)》じゃ・・・・・・」

 

 《流れ星の指輪(シューティングスター)》、それは超位魔法、《星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)》を3度まで経験値消費もなしに発動できるアイテムである。このアイテムを手に入れるためにモモンガはボーナスのすべてをガチャに突っ込んでいた。その効果は、「ランダムな効果を経験値消費量応じて選択できる」というものだったが、この世界ではそれが「望んだ願いを実現する」に変化している。ペロロンチーノはその指輪を手のひらに乗せると、シャルティアの小さな手を取る。手を取られたシャルティアはペロロンチーノを見上げた。

 

「ペロロンチーノ様?」

「一緒にモモンガさんとアルベドの願いをかなえてやろう」

 

 モモンガとアルベドの願いをかなえる、それは二人を認めると言うこと。死体愛好者《ネクロフィリア》であるシャルティアにはつらいことである。

 しかし、シャルティアは考える、自分にはこんなに愛してくれるペロロンチーノがいる。それは至高の幸せである。ならばアルベドも幸せになってもいいのではないか。そう思い、シャルティアは頷いた。ペロロンチーノの手とシャルティアの手の中に指輪が収まる。そしてその手を高々と挙げ、声を張り上げた、まるで天空にある城を崩壊に導く声のように。

 

「「アイ、ウィッシュ!」」

「ペロロンチーノさん!ちょっ!まっ・・・・・・」

「「モモンガさん(様)がアルベドと結ばれますように!」」

 

 ペロロンチーノとシャルティアの言葉にモモンガは瞠目する。アンデッドのアインズがアルベドと結ばれる。その願いの意味はモモンガが人間種になることなのか、それともアソコだけが生身になることなのだろうか。世界級アイテムを持つアインズはその効果を無効にすることもできる。

 しかし、モモンガは考える。人間になるのも悪くないのではないか、と。感情を抑制され、食べることも寝ることも出来ない体にはメリットもデメリットも存在した、それならば・・・・・・。モモンガはペロロンチーノ達の願いを受け入れることを選択する。ボーナスを無駄にしたくないと言う想いと共に。

 しかし、その結果はモモンガの想像と違うものであった。ペロロンチーノの願いにシャルティアの死体愛好者としての想いがのったその結果は・・・・・・。

 

 アルベドがそれに気づき、頬を赤らめる。

 

「まぁ!まぁまぁまぁ!モモンガ様ったらついに・・・・・・ついに!その気になってくださったのね、くふぅーー!」

 

 モモンガの足の大腿骨と大腿骨の間、恥骨の下部にさらに一本骨、モモンガのモモンガが追加されていたのだ。

 

「ペロロンチーノさーん!!」

 

 モモンガの叫びをよそにペロロンチーノとシャルティアが二人でモモンガへ向け親指を立てて笑っている。そしてモモンガの叫びを聞きながらすべてが終わるまでシャルティアは片手で魔道具を掲げ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 アインズとアルベドが結ばれたことにより、山河社稷図の所有権はモモンガに移り、異空間は閉じることになる。そう、アルベドが設定したこの空間からの脱出の特殊条件『モモンガとアルベドが結ばれること』が達成されたためだ。

 

「モモンガさん!会いたかった!」

 

 通常空間に戻ったことを確認すると、ペロロンチーノが強くモモンガの手を握る。しかしモモンガは喜びと恥ずかしさと混乱とアンデッド特有の精神の鎮静化で複雑な気分であった。感情が高ぶっては鎮静化のエフェクトが発生するのでチカチカと眩しい。

 

「台無しです!何て言うか感動の再会が台無しです!待ってたのに!感動の再会を待ってたのに!」

「ああ懐かしいなぁ、モモンガさんのツッコミ」

「聞いてないし!・・・・・・まぁ、そんなところも変わってなくて嬉しいですけど」

 

 ちなみにアルベドはモモンガと結ばれた喜びに興奮しすぎて失神してしまい、シャルティアがナザリックへ連れ帰っている。ペロロンチーノはモモンガとの再会を喜びながら墳墓の入口へと向かう。

 混乱と鎮静化のループから立ち直ったモモンガはペロロンチーノからこれまでの話を聞くことにした。そして他のギルドメンバーはいないことを知るとモモンガは少し寂しそうな顔をしたが、ナザリックがこの地に現れたことを素直に喜んでいた。

 

 

 

◆ 

 

 

 

 二人が聖王国の墳墓から外に出るとそこには異常事態の収束を確認した聖騎士たちが多く集まっていた。

 

「アインズ様!」

「アインズ様がお帰りになったわ」

 

 モモンガが無事に異空間から帰還した。その知らせが、広まると聖騎士たちだけでなく、多くの聖王国の国民たちが喜び集まってきていた。モモンガのあまりの人気にペロロンチーノはモモンガを冷やかす。

 

「いやー、モモンガさん、さすが神様。すごい人気ですね」

「あ、いや、それは・・・・・・別に俺が神って名乗ったわけじゃないんですが」

「これからどうするんです?神様。この国に骨を埋めるんですか?骨だけに」

「あのペロロンチーノさん・・・・・・全然うまくないですからね、それ」

「ナザリックのNPC達も会いたがってましたよ」

「それですよ。NPCが自我を持って動いてるなんて・・・・・・。いや、それを言ったら俺やペロロンチーノさんのアバターがどうして現実みたいに動いてるんだって話になりますけど」

「どうします?帰ってきます?」

「この国に愛着はあります。もちろん見捨てるつもりはありませんが、ナザリック・・・・・・帰りたいですね」

 

 それを聞いたペロロンチーノの口ばしがニヤリと釣りあがる。

 

「じゃあ、ギルド活動再開ですね!」

 

 ギルド活動・・・・・・。かつてモモンガがギルドマスターとして世界を股にかけてメンバーたちとした冒険の数々が思い出となって甦る。モモンガに取って忘れられない輝かしい黄金の日々。

 

「ええ・・・・・・帰りましょう。我が家へ」

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓

 

「おかえりなさいませ。モモンガ様」

 

 ナザリック地下大墳墓に帰還後、最初にモモンガたちを迎えたのは白髪の執事であった。アルベドが失神中とはいえ戻った今、宝物殿はパンドラズアクターに任せてある。モモンガは懐かしそうに白髪の執事を見つめた。

 

「ああ、確かたっち・みーさんが創った・・・・・・セバス・・・・・・だったな。ただいま」

「お・・・・・・おお・・・・・・(わたくし)の名を・・・・・・。この地に来て初めて私の名を呼んでくださった・・・・・・そうです・・・・・・ぐすっ・・・・・・私の名前は・・・・・・セバス・・・・・・です・・・・・・」

 

 この世界に来て初めて名を呼んでもらったことに白髪の執事は跪き、モモンガに縋りついて漢泣きをする。「うおおおおん」と言う泣き声を聞きながらモモンガの精神は許容値を超えアンデッドの特性により精神が鎮静化される。

 

「え?え?何で?何で泣いてるの?」

 

 混乱するモモンガのもとに次はメイド達が歩いてくる。シクスス、フォアイル、リュミエールの3人だ。

 

「モモンガ様、おかえりなさいませ」

「おかえりなさいませ」「おかえりなさいませ」 

 

 それぞれがモモンガが見たこともないような露出度の高いメイド服を着ているのにも驚いたが、さらに3人がモモンガの手前で可愛らしく転んだのだ。そしてその拍子に彼女たちのスカートの中の布がモモンガの目に飛び込む。シクススたちは頬を赤らめ、モモンガを上目使いに睨んだ。

 

「もう!モモンガ様のエッチ!」

 

 そう言って3人からそれぞれビンタがモモンガに飛ぶ。ビンタをした3人はその場を逃げるように離れると柱の陰からこそこそとモモンガの様子を伺っていた。小声で話声が聞こえる。

 

(モモンガ様はご満足くださったかしら)

(この後はお仕置きされるまでがセットでしたわね)

(お仕置き・・・・・・きゃー!何されちゃうのかしら!何されちゃうのかしら!)

 

 柱から除くメイド達の目が期待に輝いている。モモンガはアンデッドであるにも関わらず眩暈を覚える。そして、ふと横のペロロンチーノを見ると何故かどや顔をして、モモンガに指示を出す。

 

「さぁさぁ!モモンガさん。彼女たちにお仕置きを・・・・・・」

「メイド達に何させてるんですか!ペロロンチーノさーん!!」

 

 その後、メイド達への聞き取りにより『メイドの心得byペロロンチーノ(イラスト入り)』の存在が明るみになり、それはその場でモモンガに没収され封印された。また、メイド達の衣装は元通りに戻され、ペロロンチーノはめちゃくちゃ怒られるのであった。

 ・・・・・・しかしメイドがペロロンチーノ仕様になっている程度大した問題ではないなど、現在のモモンガには知るよしもなかった。



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第24話 エロゲーイズマイライフ【完】

 


―――ナザリック地下大墳墓 第六階層

 

 モモンガのナザリックへの帰還後、歓迎式典が守護者たちにより行われた。その後モモンガはナザリックのまとめ役として玉座におさまることを守護者達は期待していたが、モモンガからペロロンチーノの見てきた世界を見てみたいと提案がなされた。

 聖王国に籠り、周辺への警戒と守備に力を入れてきたモモンガにとって危険を顧みず世界を回ってきたペロロンチーノの行動は呆れるというより憧れのほうが強かった。そのため、ペロロンチーノと共に各国に赴くことになったのだ。

 そんな出発の準備のためナザリックの総点検をモモンガが行っている中、ペロロンチーノは第六階層で獣と戯れていた。

 

「ふんふん・・・・・・、これは何かのタネでござるかな?」

 

 ハムスケはペロロンチーノの与えたものをひとつ摘まむと口に放り込みコリコリとした音が鳴らす。それを両手でつかんで少しずつ噛り付くハムスターを想像していたペロロンチーノはそのおっさんくさい仕草に期待を裏切られる。

 

「ほお、これは・・・・・・美味いでござるなー!何でござろうか。この味、この噛んだ感触・・・・・・魂を揺さぶられる気がするでござる」

「そうかそうか、ひまわりのタネは美味しいか。やっぱこれどう見てもハムスターだよなー」

「これは・・・・・・むぐむぐ・・・・・・これは某のソウルフードに認定するでござるよ」

 

 ひまわりのタネを貪り食う様子を楽しそうに眺めて暇をつぶしていると目の前に突然モモンガが現れる。指輪による転移だ。

 

「ペロロンチーノさん!スパリゾートナザリックが崩壊してるんですが!何かあったん・・・・・・ってハムスケ!?」

「もぐもぐ・・・・・・と、殿!殿では・・・・・・もぐもぐ・・・・・・これは・・・・・・やめられないでござるなぁ」

 

 主人との再会より食欲が勝ったハムスケはひまわりのタネに夢中であった。

 

「おまえなぁ・・・・・・なんでこんなところにいるんだ?」

「んぐんぐ・・・・・・よく分からないでござるが捕まったでござるよ」

「やっぱりモモンガさんが殿だったんですね。なんです?このハムスターは」

 

 ペロロンチーノの疑問にモモンガはこの世界に飛ばされた直後のことを思い出す。

 

「森で戦いを挑んできたので、返り討ちにしたら懐かれてしまってですね。ちょうどいいので森からモンスターが外に出て迷惑かけたりしてたのでこいつを置いてたんですよ」

「じゃあこいつの持ってた指輪は?」

「指輪?」

「これです。ギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)ですよね」

 

 ペロロンチーノはハムスケから奪った指輪をモモンガに見せる。

 

「そういえば森の守護者みたいなものなので、領域守護者の印として渡しましたね」

「他には?ナザリック外でこの指輪を持たれてると侵入される危険があるんですが」

 

 その言葉にモモンガは納得する。ナザリックが存在しないと思いこみ、軽い気持ちで指輪を渡してしまった。回収しないと非常に危険だ。

 

「確かに危険ですね。でも2つだけですよ。渡したのはネイアとハムスケです」

 

 モモンガの話によると森の守護としてハムスケに、聖王国の守護としてネイアに渡しただけであった。そしてその二つは既に回収されている。残る心配と言えば・・・・・・。

 

「アルベドは今どうしてるんでしょう?」

「ああ、そういえばシャルティアが連れ帰ってから会ってませんね」

 

 二人の疑問に意外な人物が答える。ハムスケである。

 

「アウラ殿の話を聞いたでござるが、アルベド殿は『ねはんのきょうち』と言うところにいるそうでしばらくしたら戻ると言っていたでござる」

 

「ねはんのきょうち?」

 

 モモンガは聞きなれない言葉に首を傾げる。

 

涅槃(ねはん)の境地というのは仏教における悟りの境地のことですよ。モモンガさんとのアレでまだ夢の中から帰ってこられないんでしょう」

「とても人様に見せられる顔ではないと言っていたでござる」

「ペロロンチーノさん、なんでそんな難しい言葉知ってるんですか?」

 

 小卒のモモンガとしては同レベルと思っていた友人が知らない知識を持っていたことが少し悔しかった。

 

「それはですね。エロゲの中で出てきたからですよ。えーっと、あれは触手型宇宙人に宇宙船が襲われるエロゲだったかな」

 

 全然悔しくなかった。

 

 アルベドの意識がまだ回復しないのであればあとは守護者たちに任せておけばいいだろう。モモンガの思考は次の疑問に移る。

 

「それよりペロロンチーノさん。スパリゾートが破壊されてるんですが何かしりませんか?」

「あ、あれは俺のせいじゃないですよ。るし☆ふぁーさんが罠を仕掛けてたからで俺は悪くないんです!本当です信じてください!」

 

 狼狽えるペロロンチーノは怪しいが罠のギミックと言うのは、いかにもるし☆ふぁーらしく、かつて迷惑をかけられた友人を思い出す。

 

「へぇ、お風呂に罠のギミックですか、知らなかった。どんなギミックなんです?」

「そ、そういえばモモンガさん、宝物殿みましたよ。すごく整理されててびっくりしました。いやぁさすがモモンガさんですね。俺たちがいなくなっても・・・・・・」

「おい・・・・・・何ごまかそうとしてるんですか。何があったんです?」

「な、なにもありませんでしたよー」

 

 ペロロンチーノは目をそらして口笛を吹こうとするがバードマンは(くちばし)のため上手く吹けないでひゅーひゅーと音が鳴る。

 

「目をそらさないでください。おい、こっち見ろ」

 

 モモンガはペロロンチーノの顔を掴むと無理やり自分のほうを向かせる。

 

「モモンガさん、痛い痛い!《負の接触(ネガティブタッチ)》が発動してます!」

「あれだけの破壊があったんです。気になって当然でしょう。再発防止をはからないと」

「ああ、もう!言いますよ!女湯を覗いたらゴーレムが襲ってきたんですよ!」

「はっ?」

「女湯を覗くとゴーレムが攻撃してくるトラップでした」

「いや、それは分かりましたがなぜ女湯を?」

「だって18禁が解除されてるんですよ!女湯があったら覗くでしょう!」

「覗きませんよ!」

 

 そう言えばこの友人はこういう人だった。アンデッドの特性により精神を鎮静化されつつこの友人のことを思い出した。ペロロンチーノさんはまた同じことを絶対やる、その前に対策を考えておかねば。そう思うモモンガであった。

 

 

 

 

 

 

―――宝物殿

 

 ナザリックの総点検、その最後の場所として宝物殿に転移してきたモモンガとペロロンチーノ。そこに一人の人物が出迎えていた。ブロンドの髪に整った顔立ち、王国のアダマンタイト級冒険者ラキュースだ。ただし、一つだけ問題点がある。

 

「モモンガ様!おかえりなさいませ!お会いしとうございました!」

 

 ラキュースは駆けだすとモモンガに抱きついた。女性特有のその柔らかい感触といい匂いに女性経験の少ないモモンガの精神の限界は一瞬で振り切れる。なぜなら・・・・・・。

 

「ちょっ!?誰!?っていうか何で裸の女の子が!?」

 

 そう、ラキュースは服を一切纏っていなかったのだ。

 

「おっと失礼。ペロロンチーノ様に望まれた姿のままでした」

 

 一礼したラキュースの姿が崩れ、黄色い卵頭のハニワが姿を現す。パンドラズ・アクターである。

 

「改めまして、おかえりなさいませ!私の創造主たる、ん~~~~~ノォモンガ様!」

 

 大仰に敬礼をするパンドラズアクターであるが、その中二病的アクションよりもモモンガには気になることがあった。

 

「ペロロンチーノさん!ここで何してたんですか!」

「だって仕方ないじゃないですか。モモンガさんだって考えたことあるんじゃないですか?もしコピーロボットがあったら何をするかって。そう!俺は誰もが考える当たり前のことをしたんです!」

 

 ペロロンチーノは悪びれもせずに胸を張る。

 

「しませんよ!そんなこと!」

「ですが、モモンガ様は以前女性の至高の御方の姿を私にとらせて・・・・・・」

「ちょっとお前は黙ってようなー」

 

 モモンガがパンドラズ・アクターを黙らせてる中、ペロロンチーノはしゃがみ込みモモンガの足の付け根に話しかける。

 

「ねー、モモちゃんもそう思うよねー」

「ちょっと!人の息子に勝手に名前つけないでくださいよ」

「いいじゃないですか減るもんじゃなし」

「パンドラズ・アクター。ペロロンチーノさんからその類の命令は聞かなくていいからな」

Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあれば)

「・・・・・・」

「はははははは、やっぱり似てますよね。モモンガさんに」

「おお・・・・・・至高の御方であるペロロンチーノ様にそう言っていただけるとはまさに至高の喜び!ありがとうございます!」

「ぐっ・・・・・・」

 

 モモンガは過去の自分を思い出し言い返せないので、話題を変えることにする。ペロロンチーノのしてきた冒険のことだ。どんな国に行き、どんな出会いをしてきたのか。ペロロンチーノの見た世界とはどんなものだったのかを知りたかった。

 

「ペロロンチーノさんの見てきた世界を俺にも見せてくれませんか?」

 

 モモンガでは出来なかったことをしてきた友人の冒険の軌跡を見るために。

 

 

 

 

 

 

―――スレイン法国

 

 

 スレイン法国にやってきたモモンガとペロロンチーノ、二人は人間の姿に変装している。そしてさらにもう一人がついてきていた。国境を通ってはいない。転移門(ゲート)による密入国である。モモンガは久しぶりの遠出にワクワクしていた。

 

「いやぁ、ペロロンチーノさんと旅するなんて懐かしいなぁ」

「モモンガさんは旅とかしなかったんですか?」

「昔みんなを探すためにしましたけど、結局見つからなかったので引きこもっちゃいました。ところでこの子はなんでついてきてるんです?」

 

 ペロロンチーノの腕にシャルティアが抱き着いている。

 

「わらわはお二人の護衛でありんす」

 

 そう言いつつペロロンチーノの腕に顔をこすりつけて喜んでいる。創造したNPCに慕われているペロロンチーノをちょっと羨ましく思ったモモンガは自分の創ったNPC(パンドラズ・アクター)が自分に抱きついてくるのを想像する。・・・・・・全然羨ましくなかった。

 

「でもスレイン法国って大丈夫ですか?異形種を敵として見なしているって聞きましたけど危険じゃないですか?」

「そうでもないですよ、あ、あの人です」

 

 ペロロンチーノは事前に連絡していた人物に手を振る。そこには一人の神官と思われる格好の男がいた。闇の神官長、マクシミリアン・オレイオ・ラギエである。

 

「これはペロロンチーノ様、よくいらしてくれました」

「お久しぶりです。モモンガさん、こちらスレイン法国の闇の神官長、マクシミリアンさんです。以前こちらの国に精神支配されたときに知り合いました」

「神官長!?スレイン法国の最高権力者の一人じゃないですか!?って精神支配!?え!?」

 

 モモンガは精神の限界を超えて鎮静化が発動し、エフェクトによって発光する。それをマクシミリアンは眩しそうに見つめた。

 

「その際は大変失礼いたしました。ペロロンチーノ様。こちらのチカチカしてる方をご紹介していただいてもよろしいですか?」

「こちらは私の友人のモモンガさんです」

「おお、ペロロンチーノ様の友人と言うことは我々の同志ですな」

「同志!?」

「それで、研究の成果は出ましたか?」

「よくぞ聞いてくれました!これをご覧ください」

 

 闇の神官長が自身を持って手を指さす先、そこに巨大な倉庫を思わせる建物が建っており、その中に向かって長蛇の行列ができている。最後尾は道の角を曲がった先まで続いており、数千人は並んでいると思われた。

 

「ペロロンチーノ様より与えられた神の知恵をもと、同人即売会、『こみけ』なるものを開催しております。ご覧の通り大盛況です」

「コミケ!?ペロロンチーノさん、話が飲み込めないんですが」

 

 混乱するモモンガをよそに、マクシミリアンは薄い本を渡してきた。

 

「さぁさぁ、ペロロンチーノ様もモモンガ様もどうぞこちらを」

 

 渡された本をペラペラとめくるモモンガはその内容に絶句する。

 

「これ・・・・・・は」

「すごいでしょう!モモンガさん。エロ同人ですよ、エロ同人!さらにこの方は魔道具を用いたエロゲ制作まで進めてるんですよ」

「いやいや、ペロロンチーノ様のご協力のおかげです」

「いえいえ、マクシミリアンさんの頑張りのおかげですよ。ほら、このお借りした魔道具だって」

「それ!俺とアルベドに向けてた魔道具ですよね!それ一体なんだったんですか!?」

 

 ペロロンチーノは魔道具を操作し、今まで記録した映像を水晶に映し出す。すると映し出されたものは・・・・・・

 

    あられもない姿の占星千里

    シャワーを浴びる番外席次

    ローアングルから取ったクレマンティーヌ

    絆創膏を貼った少女

    女風呂のエルフや女の子たち、そして・・・・・・。

 

「俺とアルベドまで!何ですかこれは!ペロロンチーノさん!」

「すごいでしょ、カメラですよカメラ。ビデオカメラを魔道具で再現したんですよ」

「おおお!ペロロンチーノ様。このようなすばらしい映像を撮影されるとは。ぜひ同志たちのために複写せねば」

 

 混乱によりさらにチカチカしだしたモモンガ。そこへ、スレイン法国では見慣れた顔ぶれが現れる。最高神官長や他の神官長達だ。

 

「こんなところにいおったか!闇の神官長!」

「いかがわしい本をばらまきおって!今日と言う今日は・・・・・・」

「ふんっ!なめるなよ!この私がおる限り、この国にエロの目をつぶさせるようなことはない!」

「何じゃと!?」

「私こそ秩序を破壊し混沌をもたらす闇の神官長!マクシミリアンだ!ふははははは」

 

 そう言って闇の神官が逃げ、他の神官長たちが必死に追いかけていった。残されたのは精神が鎮静化されて光る一人と笑ってる二人。

 

「ねっ?」

 

 ペロロンチーノが両手を上に向けておどけて見せる。隣ではシャルティアが同じポーズを取っているが、意味は分かっていない。

 

「ねっ、じゃないでしょ。これペロロンチーノさんが原因なんですか!?」

 

 モモンガがペロロンチーノへ詰め寄ろうとしたその時、人込みをかき分けて、両目の色の違う、幼さの残る少女が飛び出した。そしてペロロンチーノに抱きつく。

 番外席次である。

 

「見つけた!」

 

 番外席次はペロロンチーノの胸に顔をこすりつけて、その顔を見上げる。幼いながらその顔は女のものであった。

 

「ペロロンチーノ、子作りの続き、しよ?」

「あの・・・・・・ペロロンチーノさん?」

 

 

 

 

 

 

―――竜王国

 

 番外席次とは伝言(メッセージ)のアドレスを交換し、また会うことにしたペロロンチーノはモモンガ、シャルティアと共に次の国を訪れていた。竜王国である。突然来訪した闖入者たちに女王であるドラウは玉座の後ろに逃げ込み、顔だけを出して叫んだ。

 

「な、何しに来たのじゃ!?」

「あの・・・・・・物凄く警戒されてるんですが、ペロロンチーノさん何したんですか?」

「何って、確か裸にひん剥いて代わりに絆創膏を貼ってあげたくらいですかね?」

「こんな小さい子に何やってんですか!?犯罪ですよ!」

 

 ペロロンチーノを責めようとするモモンガを宰相がフォローする。

 

「それについては我々も悪かったのです。不可抗力とはいえ、ペロロンチーノ様を精神支配してしまいましたので」

「ここでも精神支配!?」

「ですので、ここはお互いなかったことにしましょう。それに我々はペロロンチーノ様に感謝しているのです。この国を救っていただいたことに」

 

 ペロロンチーノがビーストマンの神としてこの国に降臨して以来、ビーストマンとの戦争はなくなった。そして今のところ人とビーストマンの交流はあるものの力づくでビーストマンが何かすることはない。さらに平和のためになればと宰相はドラウに耳打ちする。

 

(さあ、陛下。あれお願いします)

(普通に嫌なんじゃが・・・・・・痛い痛い!足踏んでる!足踏んでる!)

 

「・・・・・・ペロロンチーノお兄ちゃん、これからもこの国を守ってほしいのじゃ」

 

 潤んだ目でペロロンチーノを見つめ、無理に笑顔を作る幼子。こんなに小さいのに国を憂えて頑張っているのか、そう思いモモンガは心を揺さぶられる。

 

「何カマトトぶってんだこのロリババア!」

 

 そんな幼子は横から飛び蹴りを食らって笑顔のまま吹き飛んだ。代わりに露出の多い軽鎧の女戦士が現れる。

 

「どもー、ひっさしぶりだね、ペロロンチーノ。元気?」

「クレマンティーヌ!」

「あ、名前覚えてくれてたんだ、嬉しいなぁー。あのさー、あそこまで盛り上げてくれちゃって逃げちゃうとか酷くない?」

 

 クレマンティーヌともあと一歩のところまで言っていたことを思い出し、ペロロンチーノは素直に認める。

 

「それは俺も残念に思っています」

「あ、そうなんだー。じゃあさ、提案があるんだけど。エ・ランテルの墓地であたしにするってしたこと・・・・・・」

 

 クレマンティーヌはペロロンチーノの傍まで来て耳打ちする。

 

(していいよ?)

 

「あの・・・・・・ペロロンチーノさーん?」

 

 

 

 

 

 

―――バハルス帝国

 

 ドラウとクレマンティーヌと伝言の連絡先を交換したペロロンチーノとその一行。次なる国としてバハルス帝国、そしてその冒険者組合に来ていた。これから旅に出るにあたり、モモンガも冒険者としてチームに加えようという話になったのだ。

 

「見てくださいモモンガさん!金級冒険者にランクアップしましたよ!」

「綺麗でありんすねー」

 

 シャルティアは嬉しそうに金のプレートを太陽に掲げてキラキラ光るのを喜んでいる。これまでの功績を認められ一つランクが上がったのだ。しかし、モモンガのみが微妙な顔をしている。

 

「あの・・・・・・この世界の強さのレベルで行ったらペロロンチーノさんはアダマンタイトでも収まらないくらいじゃないかと思うんですが・・・・・・」

「俺頑張ったんですよ!銅から鉄に、それからやっと銀になって今回金になったんですから」

「そうでありんすよ、モモンガ様!ペロロンチーノ様とわらわと、あと途中からアウラも入って頑張ったでありんすよ!」

「あの・・・・・・冒険者プレートの裏に『変態』って書いてあるんですけど。ペロロンチーノさんいじめられてるんですか?」

「それ俺たちのチーム名ですよ。俺たちの功績を称えてみんなそう呼ぶんです」

「ふふん」

 

 シャルティアは嬉しそうに偽物の胸を張る。

 すると突然、冒険者組合の扉が乱暴に開かれた。そして二人の人物が乗り込んでくる。皇帝ジルクニフとフールーダの二人だ。冒険者組合よりペロロンチーノが現れたと聞いて飛んできたのだ。

 

「ペロロンチーノ!いや、ペロロンチーノさん。無事だったんだな。君たちに依頼したことに少し責任を感じていたんだ」

 

 ジルクニフはペロロンチーノの手を取る。トブの大森林、そして法国の調査を依頼した後、精神支配されたと聞いて心配していたのだ。それは強者であるペロロンチーノが法国へ取り込まれることへの心配なのか、この惚けた男自身への心配なのかジルクニフでもよくわからないのだが。

 

「お久しぶりです。ジルさん」

「あのペロロンチーノさん。こちらの方は?どこかで見たような気がするんですが」

「こちら帝国で知り合ったエロの同志、ジルさんです」

 

 そんなペロロンチーノの照会に、モモンガの耳は周りの囁きを聞きとる。

 

(あれ皇帝陛下じゃね?)

(きゃー、かっこいいー)

(なんで陛下が冒険者組合に?)

 

 そんな囁きにモモンガの記憶が蘇る。バハルス帝国の皇帝の肖像画にそっくりだ。しかし、それより瞠目する事態が隣で起こっていた。

 

「しよー!しよー!」

「くっ・・・・・・毎度毎度!離れるでありんすよ!」

 

 ジルクニフと一緒に来た老人がシャルティアの足にまとわりつき、シャルティアが蹴り剥がしている。

 

「そうだ、ジルさん。魔法学院を破壊した修理代の残りも渡しておきますね」

「魔法学院を破壊!?」

 

 モモンガがまた精神をすり減らしている中、ジルクニフも慌てる。お金を返されてしまえばペロロンチーノとの関係が薄れてしまう。もしや帝国を離れるのではと言う心配をするがその予想はすぐに肯定された。

 

「少し旅に出ようと思ってます。ですが同志のジルが呼ぶのであればいつでも飛んできますよ。またエロ談義をしましょう。あ、そうそう。法国で手に入れたんですが、これ喜ぶのではないかと思ってジルの分も買ってきました」

 

 そう言ってペロロンチーノは法国で手に入れたエロ同人誌を渡す。中を見たジルクニフの笑顔が引きつる。

 

「あ、ありがとう・・・・・・」

 

 その時、冒険者組合の扉がまた乱暴に開かれる。周りの冒険者たちが何度目だ、と思う中、入口を見つめると金髪の美女が立っていた。それを見てペロロンチーノとモモンガがつい思ったことをそのまま口を出す。

 

「あ、童貞を殺す服」

「あ、童貞を殺す服」

 

 そう、そこには童貞を殺す服を着た女騎士レイナースが立っていた。

 

「ペロロンチーノ様!」

 

 レイナースはペロロンチーノに抱きつく。ペロロンチーノが法国の手に落ちたと聞いて幾度も法国へ行こうと思ったが、皇帝の許可は下りず、ずっと心配していたのだ。頬を染めながらペロロンチーノを見上げるレイナース。

 

「お会いしたかったです、ペロロンチーノ様。心配しておりました。それで・・・・・・その・・・・・・以前のお約束を・・・・・・」

「・・・・・・ペロロンチーノさーん!?」

 

 

 

 

 

 

―――リ・エスティーゼ王国

 

 ペロロンチーノはジルとレイナースと伝言の連絡先を交換した。その後、ジルクニフが隠していたメイドの盗撮写真集やエロ同人誌が見つかりひと騒動あるのだが、それはまた別のお話。

 

 そして次の国、リ・エスティーゼ王国に来た時点でモモンガは我慢に我慢を重ねていたことをペロロンチーノに告げる。

 

「あの・・・・・・ペロロンチーノさん、ひとこと言っていいですか?」

「え?いいですけど突然どうしたんですか?」

「リア充爆発しろ!!」

「え!?突然どうしたんですか?」

「何各国に彼女作ってるんですか!メアド交換みたいに伝言(メッセージ)使って!俺たち非モテ同盟だったでしょう!」

「ええ、俺もリアルでは非モテですよ!でもゲームの中でくらいいいじゃないですか!そう、このR18ユグドラシルを俺は楽しんで・・・・・・」

 

 モモンガにツッコミを受けながら冒険者組合の中にペロロンチーノが入った瞬間、その顔に靴がめり込んだ。

 

「今頃何しに来たんだ、貴様ああああああ!」

「な、何この子!?」

 

 モモンガが突然の出来事に驚いて見ると仮面をつけた小柄の女の子がペロロンチーノの顔に蹴りを入れている。《飛行(フライ)》を使っているようで靴は顔にめり込んだままだ。しかし、ペロロンチーノは特に気にする素振りも見せずに挨拶を返す。

 

「イビルアイだったっけ。久しぶり」

「久しぶりじゃない!貴様はー!私が貴様のことをどれだけ・・・・・・」

「え?俺のことを?」

「あ、いや、別に貴様のことなど心配しておらんぞ!ただ貴様にあの時の借りを返してやるためにだな・・・・・・」

「もうっ!イビルアイ。ずっと心配してたって言えばいいじゃない。あの時の羽根もずっと大事そうに抱えちゃって」

「べ、別に心配などしておらんと言っているだろう!」

 

 イビルアイを揶揄うように笑っているのは青の薔薇のリーダー、ラキュースだ。それを見たモモンガがつい呟いてしまう。

 

「あ・・・・・・宝物殿で見た裸のお姉さん・・・・・・」

「え?」

「しっ、モモンガさん」

「おい、裸って何のことだ。話せ」

 

 ペロロンチーノの胸倉をつかんで持ち上げる。もはや何で自分が怒っているのか自分でも分からないが止めることが出来ない。しかし、それでもペロロンチーノはまったく気にしなかった。

 

「ふふっ、俺にとって可愛いロリに痛めつけられることは苦痛ではないといい加減学んだほうがいい」

「か、可愛い!?」

 

 ぱっと手を放すイビルアイ。顔が熱い。自分は何でこんなに動揺しなければいけないんだ。そう言った思いがさらに苛立ちを募らせるが、そのまま黙り込んでしまい、誤魔化すように別の話題を切り出した。

 

「と、ところでペロロンチーノ。こっちのは男は誰なんだ?おまえと違ってまともそうだが」

「お初にお目にかかります。私はモモンガ・・・・・・いえ、アインズ・ウール・ゴウンと言います」

 

 外の世界ではアインズで通してきたので、それで自己紹介するモモンガにイビルアイは目を見開く。数百年を生きる吸血鬼であるイビルアイはその名を聞いたことがあったのだ。

 

「アインズ・ウール・ゴウン!?それは聖王国の神だぞ!?その名を騙るなど命知らずにもほどがある」

「いや、本人だから。この人」

「ペロロンチーノさんとは昔からの友人でして、あの・・・・・・なんか色々とご迷惑をおかけしているようで申し訳ない。それで、あの時の借りって何のことです?」

 

 聖王国の神を騙る人物、モモンガの言葉に青の薔薇が顔を見合わせる。そして青の薔薇より語られる王国でのペロロンチーノの冒険、それを聞いてモモンガは頭を抱える。青の薔薇の全員の服を剥いたことについてだ。

 

「俺が剥かれてないんだが・・・・・・」

 

 ガガーランの言葉は無視して、さらに青の薔薇はペロロンチーノの去った王国のその後を語った。

 

 ラナーの敵対貴族(特に男)への粛清は秘密裏に完全に行われ、現在王国は実質ラナーをトップとする今までとまったく別の封建体制が出来上がっていた。さらにラナーはクライムと自分の性癖を認めさせるため、完全女性上位となる法律を施行した。違法な娼館が明るみになったことにより権威の落ちた男性の代わりに、圧倒的な女性より支持を受けその法律は現在も守られている。周りを見ると首輪をつけられた男が女性にリードに引っ張られている姿がそこかしこで見られた。

 

「Mの国ですか・・・・・・。いいですね!」

「いやいや、ペロロンチーノさん!?何やってるんですか!?」

「それを言ったらモモンガさんだって百合の国を作ってたじゃないですか」

「あれはあの聖王女が特殊なだけですよ!それにこの人たちの装備を剥いたなんてて・・・・・・」

「だって相手の装備をドロップでもないのに奪えるとかテンションあがるじゃないですか」

「うっ、その気持ちは分かりますが・・・・・・」

 

 ユグドラシルでは不可能であった装備アイテムの全ドロップ。それは確かにプレイヤーにとっては魅力的な収穫だ。

 

「もうそのことは我々も気にしてませんので、どうかお気になさらずに」

「私は気にしているぞ!」

 

 ラキュースが場を収めようとするが、イビルアイはまだ胸がもやもやしていた。それをガガーラン、ティナ、ティアといった青の薔薇の面々がからかう。

 

「イビルアイ、おめぇが気になってるのは別のもんだろ」

「うん、そうそう」

「分かりやすい」

「そ・・・・・・そんなことはな・・・・・・くもないが・・・・・・。そうだ!ペロロンチーノ!お前に話があるんだった」

「ごまかしたな」

「うん」

「ヘタレ吸血鬼」

「ああ、もう!私はそんなことを言いに来たんじゃない!・・・・・・ペロロンチーノ、お前アーグランド評議国に興味はあるか?」

 

 

 

◆ 

 

 

 

―――アーグランド評議国

 

 イビルアイと伝言の連絡先を交換だけでなく、なぜかお詫びと称して二人きりで会う約束まで無理やりさせられたペロロンチーノはアーグランド評議国の指定の場所まで来ていた。モモンガは周囲を執拗に警戒して、防御魔法を重ね掛けしている。

 

「ペロロンチーノさん、油断しないでくださいね。この国は周辺国最強と私は思っています。古からの存在する数匹の強大なドラゴンが支配してると言う話ですから」

「ドラゴンはユグドラシルでも強大なモンスターでした。いろいろと世界のことを知ってるんでしょうね。あはははっ、モモンガさん、ワクワクしませんか?」

「ペロロンチーノさんの感知能力が一番高いんですからおねがいしますよ。でもまぁその気持ちは分かります」

「ペロロンチーノ様とモモンガ様にはわらわが指一本触れさせないでありんす。ご安心を」

 

 モモンガは評議国のドラゴンがペロロンチーノを呼んだ理由はペロロンチーノとモモンガが接触したことだろうと考えていた。なので、呼び出し油断したところを、と言うのは考えにくいが、モモンガはかつてぷにっと萌えが考案したPK術を参考にいつでも逃げられる状況で奥へと進む。そんなこと状況にモモンガの脳裏にはギルドのメンバーとの思い出がフラッシュバックしていた。世界を股にかけて未知を探索したこと、未知の地域や未知のモンスター、アイテム、練りに練ったPKやPKK。そんなことにみんなで没頭していた日々。

 

「いいですね・・・・・・この感じ。あー俺も聖王国にこもってなくて冒険者になってればよかったなぁ」

「何言ってるんですか!モモンガさんももう冒険者チームメンバーですよ。金級冒険者チーム《変態》の一員です!」

「あの・・・・・・そのチーム名何とかしませんか?」

 

 嬉しく思いつつも素直に喜べず、とりとめのない会話をしながら案内された先には明らかに人間が開く扉のサイズを超える巨大な扉、ドラゴンが十分通れるだけのものだ。ペロロンチーノ達がそれを超えると。そこに白く巨体をもつドラゴンが鎮座していた。ツァインドルクス=ヴァイシオンである。

 

「やあ、はじめまして、でもないかな?私はツァインドルクス=ヴァイシオン。ツアーと呼ばれるこの国の評議員の一人だ。えーっと翼の生えた君がペロロンチーノさんで、そちらの君が聖王国の神だね」

「神ではないですが・・・・・・ツアーさん、あなたいつか私のいる国を攻めてくれましたね」

 

 ツアーを見つめるモモンガの赤い眼光が細まるが、ツアーはそれを気にも留めなかった。

 

「あの時のことを謝るつもりはないよ。世界を守るため危険な力は早めに摘むことは必要な事なのだから」

「まぁそれは俺も分かりますので文句を言うつもりはありませんよ。ところで今日呼んだ理由は?」

「化かしあいは好きじゃないんでね。単刀直入に言うよ。聞いた話によると各国を巻き込んで色々とやっていたようじゃないか。正直言うと、一度ペロロンチーノさんを目撃してるんだ。竜王国でね。その時彼が何をしていたかは言いたくないけどそれは私の理解を超えていた。君たちの目的は?今後どのようなことをするのか聞かせてもらいたいんだ」

 

 モモンガは考える。ペロロンチーノが各国で行っていた行動。ツアーが言いたくないと言った聖王国での目撃現場。それはかつてのギルド・アインズ・ウール・ゴウンでの行動の再現ではないのか。すなわちギルドとしての冒険だ。未知を探索し世界を旅する。これほど心躍ることはない。モモンガは仲間が誰もいない中、一つの国に閉じこもってしまったが、ペロロンチーノという仲間が帰ってきた今、無性に世界中を旅したい気持ちでいっぱいである。それをペロロンチーノは実践していたのではないか。そしてそれはモモンガがこれからペロロンチーノと共にやろうと思っていることだ。

 

「冒険・・・・・・ですかね。世界を旅し、未知に遭遇する喜び、それを感じるためでしょう。ですから我々は旅に出ようと思っています。この辺りの国は見て回りました。ですので外の世界に行ってみようかと」

「冒険・・・・・・」

 

 モモンガの語ったその言葉にツアーは感じいる。ツアー自身も仮の姿として鎧を遠隔操作してだが、十三英雄として世界を旅した冒険者であった。その時の幾多の出会い、そして別れ、それを思い出す。中にはつらいこともあったが大切な思い出だ。

 

「なるほど、冒険か・・・・・・確かにそれならば納得がいく。すまない、私は君たちが世界を汚すものたちではないのかと疑っていたのだ。でも、その割には各国でやったことに悪意が感じられなかったからね。なぜか各国の治安が向上したくらいだ。竜王国では戦争さえなくなっていた。・・・・・・わかった。旅に出ると言う君たちの行動を持ってそれは確認させてもらおう」

 

「あの、ツアーさん、ちょっと一言よろしいですか?」

 

 ツアーのその言葉を持ってこの会談は終わるかと思ったが、ペロロンチーノがそれにストップをかける。その表情は真剣なものだ。これまでおちゃらけてたイメージと違い、その目には決意を感じる。

 

 

―――ツアーは思う。

 

 その目、かつての冒険者仲間たちに宿っていたものと同じものをみて。ペロロンチーノ、この新たに現れたユグドラシルプレイヤー。周辺各国を冒険したその男の口から何が語られるのか。この男はアインズとは違う、そうツアーは思う。

 彼の言いたいこととは何か。この世界の情報なのか。それともそれは未知を見つける喜びと共に自分たちで見つけるべきものであり、別のモノを求めるのか。もしかして仲間になってほしいと言わる可能性も考える。

 仲間・・・・・・。ツアーはかつての冒険したときの記憶がキラキラと輝いて脳裏に浮かぶ。新たな仲間と世界へ、それはとても魅力的に思えた。

 

 

―――モモンガは思う。

 

 真剣な目でツアーを見つめるペロロンチーノを見て。ペロロンチーノの言ったギルド活動の再開、そして始まる新たな冒険のことを。ギルドの他のメンバーはまだ見つかっていない。もしかしたらこの世界のどっかにいるかもしれない。それを探すことも含めて未知を求めて、たった二人で・・・・・・いやNPC達も含めて冒険することはこの上なく楽しいだろう。前衛兼回復役としてシャルティア、後衛としてモモンガ、遠隔攻撃のペロロンチーノ、そして意識が戻ったらついてくるだろうアルベドを含めるとバランスとしては最高のパーティだ。そう思うとモモンガはいてもたってもいられなくなる。・・・・・・俺たちの冒険がここから始まるのだ。

 

 ペロロンチーノは意を決したようにモモンガとシャルティアに頷き、モモンガとシャルティアもペロロンチーノに頷き返す。

 

 そしてペロロンチーノはこの世界最強のドラゴンに向かって言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

      ―――サキュバスとかエロ系モンスターの居る場所をしりませんか?

 

 

 

 

 

             ~ペロロンチーノの冒険 完~

 




                 ~あとがき~

                 「弟、黙れ」
 
 っというわけで、最後まで読んでくださった方いましたらありがとうございました。何年も前ですが、2chで勇者魔王の台本形式の短編のSSを主に書いていましたが、転載禁止になったのを機に書かなくなってしまいました(何を書いてたかは活動報告に書いておこうかなと思います)。
 そんな時、たまたまこんな素晴らしいHPがあることを最近知り、使わせていただいたことに管理人様に感謝させていただきます。ありがとうございました。
 
 内容についてですが、タイトルは「ペロロンチーノの冒険」ですので、モモンガさんと合流した時点で終わりにしようと思っていました。あとドワーフ国とか出すかどうか悩みましたが、ドワーフ国でエロを探すのはちょっと上級者向け過ぎて断念しました。ドワーフやクアゴアのエロシーンが見たかった人は申し訳ありませんでした。

 ハーメルンについては使わせていただくのが初めてだったので機能の使い方とかよく分からず、最初は誤字報告機能もよく分かってなくて色々と申し訳ありませんでした。誤字報告していただいた方には本当に感謝しております(誤字多くて申し訳ありませんでした)。
 
 感想については全部読ませていただき、書いていただいて本当にうれしく思っております。書き終わるまでは書いてる側から何かを言うのは避けたい主義なので返信や前書き、途中でのあとがきは書きませんが、面白く読ませていただきました。っというか私が書いてることより感想のツッコミのほうが面白い気がしてます。逸脱者についてのツッコミとか最高に笑わせていただきました。
 ありがとうございます。

またどこかでお会いしましょう。 

それでは!


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