神様転生したけど本当にしたか自信なくなってきた (チームDR)
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事故紹介①

 

宙からどこかに投げ出されたような感覚。

そしてその直後に自分の体を襲う衝撃。

事態の前後すら掴めない中、唐突に知覚したのはその二つだった。

 

 

()うっ……? なん、だ?」

 

 

微かな頭痛に視界を眩ませつつも、俺は情報を集めようと目を開ける。

──視界一面に広がるのは、緑。

それに気づけば、より強く鈍い衝撃によって遮られていたチクチクとした刺激──つまり、自分が寝転んでいた下にも生い茂っていた草が自肌の露出した部分を刺す感覚にも気がつく。

その刺激を煩わしく思い立ち上がれば、徐々に思考も明瞭となっていった。

 

 

「…………」

 

 

顔を顰めながら空を見上げる。

本来なら青々とした快晴が広がるそこには、明らかな不純物があった。

 

───檻だ。

 

自分を逃がさないように天まで届く巨大な檻。鳥籠のような形状のそれは外から眺める分には見応えがあるかもしれないが、閉じ込められているのが自分とあれば不愉快極まりない。

 

 

(あぁ……そうだ……)

 

 

俺は記憶を取り戻しつつあった。

この光景……間違いなく()()()()()()()()()あれだ。

 

 

(神様転生ってやつを、まさか俺がすることになるとは……)

 

 

───そう。

俺は神を名乗る存在によって転生させられたのだ。

この、『ニューダンガンロンパV3』の世界へと。

 

 

 

 

 

 

転生をしたとは言うが、実は前世の記憶はなかったりする。憶えていることと言えば、上下の感覚が覚束ない不思議な空間で、「如何にも神です」みたいな存在に問いかけられたことだけだ。

その問いというのは、「ニューダンガンロンパV3ってどう思う?ぶっちゃけ」というなんとも威厳ない内容だったが。

 

状況は全く掴めなかったが、取り敢えず俺は1プレイヤーとしてありのままの感想を神に伝えた。

 

メタフィクションを題材にしている作品はそれこそ山の数ほどあるが、ダンガンロンパV3は新しい観点からの切り口を開いた作品だと個人的には思う。

従来のダンガンロンパのシステムもうまく利用できていたし、一部設定・展開には賛否両論あれど、総合的には過去作に勝るとも劣らない出来であったと太鼓判を押せる出来栄えだった。

他にも各キャラへの焦点を当てるという点において今作は優秀だったとか、どのキャラが好きだとかなん図書だとか塩だとか……有りのままの所感を俺は神へと吐き出した。

 

「ふむ……」と俺の話を意味深な態度で傾聴していた神は、立派に拵えた顎髭をさすり、やがて微笑みを零す。

そして、唐突に俺へと切り出した。

 

 

「突然だが、今しがた君が熱く語った『ニューダンガンロンパV3』の世界へと君を送り込もうと思う」

「は?」

「君は17人目の超高校級としてねじ込む。才能は……チームダンガンロンパよろしく才能を植え付けることも可能ではあるが、それではつまらんな。幸運あたりにしておくか」

「いやちょい待て。んなこと突然言われても───」

「君に拒否権はない」

 

 

慌ててなだめようとする俺に取り合わず、神の手元から眩い光が発せられる。

その直後、俺の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

「ハァーーー……………」

 

 

溜め息がかつてない程に重い。重力に従って地面に落ちれば、罅を作れる気さえしそうだ。

……上手く頭が回らない。

立て続けに発生する超常現象に、既に俺の頭はキャパオーバーを訴え始めていた。

 

やや虚しいが、少し情報を整理してみよう。

俺が倒れていたのは中庭だ。

原作主人公達である赤松楓と最原終一は校舎内のロッカーにぶち込まれていたが、外に放置されていた俺とどちらがマシな待遇なのかは……まあ考えないようにしておく。

 

よく周囲を見回してみれば、地面には俺のものと思わしきモノパットが無造作に置かれていた。地べたにあったとはいえ、土の汚れなどはない。草が多く生えている場所に置かれていたからだろう。

俺はモノパッドを起動した。

 

 

◎超高校級の幸運 志熊神曹(しぐまじんぞう)

 

 

モノパットには超高校級の才能はもちろんのこと、身長・体重・誕生日、更には好きなものや嫌いなものまで記載されている。プライバシーもへったくれもあったものではない。

不幸中の幸いか、世間に顔向けできないようなことは載せられていないようだが。

 

 

「……………」

 

 

情報が乗せられているのは現在、俺だけ。

ゲームのシステムになぞらえて推論を立てるなら、他の人に挨拶をすれば通信簿が埋まる……ことになるのだろうか。

 

……いつまでもここで突っ立っていても仕方がない。寄宿舎か校舎、或いは外。どこから見て回るか───そう思案していた俺に、背後からよく通る男の声が届いた。

 

 

「おい、そこのテメー!まだ話したことない奴だよな?」

「ん、ああ……そう、だな」

 

 

振り返る。

声質と口調から、声の主が一体誰なのか判別は予めついていた。

視界の先に見えるのは、ボリュームのある奇抜な髪型が特徴的な青年の姿だ。

当然初対面だが、俺は既に彼の名前も才能も知っている。

 

 

「随分ボーッとしてたみてーだが大丈夫か?こんな事になって不安に駆られちまうのはわかるがよ……もっと自分から前に進まねーと状況は好転しねーぞ?」

「……お前は随分と楽観的なんだな」

「へっ、こんな壁がなんだ。直ぐにこの宇宙に轟く百田解斗がお前らを外に導いてやるからよ!だからそう辛気臭え顔すんな!」

 

 

右手だけを上着の袖に通さないというなんとも動き辛そうなスタイルながら、百田は器用に身振り手振りを添えて俺を鼓舞する。

会ったばかりの人間にこうもグイグイ取れる積極性。ゲームで見たままの百田解斗である。

 

 

「さっきの口ぶりから察するに、他にも人がいるってことだよな?俺が会った人間はお前が初めてなんだが、情報があったら教えて欲しい」

「ん?そうだったのか?つっても、教えられることなんざ特別ありはしねーよ。俺らも突然こんなトコに閉じ込められて絶賛混乱中ってとこだ」

「……なるほどな」

「お、そうだ。今まで会ってきた奴らは全員何かしらの超高校級の才能を持ってたが、テメーはどうなんだ?つか、そういやまだ名前も聞いてなかったか……てな訳で自己紹介を頼むぜ」

 

 

「ちなみに俺は泣く子も黙る超高校級の宇宙飛行士、百田解斗だ!」とサムズアップをしながら百田は俺の回答を待つ。

全くこんな才能に身に覚えはないし、あの神の言う通りであれば効力など無いに等しいのだろうが……???枠は既にいるし、才能がないと称するのは明らかに浮く。気は進まないが、名乗るしかないだろう。

 

 

「志熊神曹。『超高校級の幸運』だ………」

 

 

思ったよりも尻すぼみな声が出た。

前途多難な気力のなさに、余計に精神力がすり減りそうだった。

 

 

「なんだ、随分ハリのねー自己紹介だな。つか幸運って……どんな才能だそりゃ?」

「さあね、俺が聞きたいレベルだ。別に何か大層なことをしたわけでもないのに、突然ギフテッド制度に選出された通知が来たんだよ」

「ああ?なんだよそりゃ?」

「だから、むしろ聞きたいのは俺の方だよ…」

 

 

完全なでっち上げなんですけどね。

まあ、下手に盛ったエピソードを喋った結果ボロを出すよりはマシだろう……多分な。

 

 

(こんなんで大丈夫なのか、俺……)

 

 

恐らく、大丈夫ではないだろう。

 

自己紹介を全員分早く済ませたいので百田とはここで別れる。単独行動をしちゃいけない理由もないしな。…というか、原作でも誰かと共に行動をしていたのは最原と赤松だけだ。……もしかしたら茶柱と夢野あたりもそうだったかもしれないが。

 

 

(他に外に居たのはゴン太とアンジーだっけ?必ずしも原作通りとも限らんだろうが)

 

 

建物の中に入るのは外を一通り見て回ってからでいいだろう。そう判断し、緑と灰色で敷き詰められた学園の敷地を歩き始める。

寄宿舎のすぐ横にある階段を下れば、直ぐに遠目からでも明らかに目立つ風貌の巨漢が見えた。

うん。ゴン太だろうな。

虫を探しているのか鬼気迫る眼力で草むらを見つめていたが、俺が近寄るのが見えたのか、フレンドリーな笑みを携えこちらに挨拶を飛ばしてくる。

 

 

「えっと、まだ挨拶してなかったよね?はじめまして!ゴン太は獄原ゴン太、超高校級の昆虫博士なんだ!」

「おう、志熊神曹だ。才能は超高校級の幸運な。よろしく」

「うん、よろしくね志熊くん。えっと……幸運ってことは、志熊くんは運が良いってことなの?」

「あー、何故だかそんな大層な称号が付いちゃいるが、ぶっちゃけ気にしなくて大丈夫だ。運とか人並みだから」

「そうなの?ごめん、ゴン太は馬鹿だからあんまり理解できてないのかも……」

 

 

シュン、という擬音が聴こえてきそうなほど落胆した表情を見せるゴン太。

才能育成計画の九頭龍や大和田もそうだったが、純真なこの性格には本当に毒気を抜かれるな。

 

 

「にしても、昆虫博士か。さっきは虫でも探してたのか?」

 

 

このまま立ち去ってしまうのも何なので、少し話を広げてみる。

気性穏やかなゴン太も虫の話になると途端にヒートアップしてしまうきらいはあるが、下手に突っ込んだことを聞かない限りは問題ないだろう。

 

 

「あ、うん……そうなんだけど、実はさっきから一匹も虫さんが見当たらないんだ。こんなに自然があるのに、これっておかしいよね?」

「一匹も、ってのは確かに妙だな」

 

 

実際はモノチッチが飛んでるわけだが。

いや、果たしてあれを虫と呼んでもいいのかという疑問はあるけども。

 

 

「んじゃ、俺はこれから他の奴に会いに行くけど、虫を見かけたらゴン太にも教えとくよ。おまけ程度の俺の幸運が、もしかしたら仕事してくれるのに期待しといてくれ」

「本当!?志熊くんって優しいんだね!ありがとう!」

「自分で言っといてなんだが期待はするなよ。いや、本当に……」

 

 

運が良かろうと悪かろうと、この学園内で虫が見つかることはないだろうからな……

良心に胸を痛めながら最後にゴン太に一言添えて、おそらく外のどこかにいるであろうアンジーを探し始めた。

 

一先ず原作で見た場所にと噴水に足を運んでみれば、どこか神秘的な印象を抱かせる褐色肌の少女の姿が見える。

未来から来たと言われても違和感は覚えないであろう程にアバンギャルドな装いだが、不思議と近寄り難い雰囲気は発していない。

 

 

「おーいそこの人。ちょっといいか?」

「……んー?見たことない顔だねー。お前もここに連れられてきたのかー?」

「そんなとこだ。で、自己紹介をしてもいいか?」

「おけおけー。最初の挨拶は肝心だって神様も言ってるよー」

 

 

「にゃははー」と笑うアンジー。

百田とは別ベクトルでの前向きさというか、ポジティブさを感じさせる話し方だ。

本当の意味で初対面ならばのらりくらりとしたその態度に面食らっていたかもしれないが、生憎彼女のことも俺は知っている。

 

「俺は志熊神曹。超高校級の幸運だ」

「こちらは夜長アンジーだよー。超高校級の美術部なのだー!」

「美術部ね……。まあ、それっぽい格好ではあるのか」

「アンジーは神様に体を貸してるだけだよー。神った作品は全部神様が作ったものなんだー。……『超高校級の幸運』ってことは、ひょっとして神曹も神様に祈りを捧げてるー?神った人間なのかー?」

 

 

幸運、というミステリアスなフレーズに引かれたのか、アンジーは俺の才能に食いついてきた。迫ってくる笑顔がどこか怖い。

前世の記憶はないからなんとも答え辛いが……おそらく、神を特別掲げていたりはしなかったはずだ。

各宗教のいいとこ取りをした、日本人ならではの宗教観にどっぷり漬かっていたと思われる。万華教って言うんだっけか?そういうの。

 

 

「いや、特に神に祈ったりはしてないな……。ていうか、この称号は飾りだ。実際には幸運でもなんでもない」

「おろ、そーなのかー。でも大丈夫だよー。神曹にも神様がついてるからねー。70代くらいの顎髭が立派なお爺さんみたいな神様が見守ってるよー」

 

 

…………………。

うん、やっぱこいつ怖いな。

悪い奴ではないんだろうが……どこからそんな電波受信したんだって勘の良さを時折見せるから、正直不気味に思えてしまうこともある。

 

なんとなく、長話をするのはマズイ。

根拠のない直感にあてられ、俺はそそくさと逃げるようにその場を立ち去ることを選択した。

 

 

「信じる者はー、救われるー」と立ち去る俺の背中へと言葉を放つアンジーをスルーし、俺は寄宿舎へと駆けた。

多分苦難に直面したとしても、拝む神はあのクソジジイではないかな……

 

 

 



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事故紹介②

 

寄宿舎へと立ち入る寸前、そういえば俺の部屋ってどの位置にあるんだ……?という疑問が頭を過ぎったが、寄宿舎のドアを開けばすぐにその答えは提示されていた。

入り口のドアのちょうど対角線上の位置。

つまり、赤松と星の個室の間に俺の個室はあるようだった。

 

 

(俺が割り込んできたことで誰かがいなくなってる可能性も考えてたが、これでその線は消えたな)

 

 

二階建て構造の寄宿舎内を見渡す。

各ドアの上に付けられているネームプレートに描かれたドット絵で原作キャラがいるかどうかの確認をしたが、やはり欠けているキャラはいないようだった。

 

 

「まるで寮みたいだな。ここで寝泊まりしろってことか?」

 

 

既に視界に映っている先客をスルーし続けるのもどうかと思うので、この場所への疑問を呈するような形で俺は『彼女』に話しかけることにした。

 

 

「黒幕の目的はまだ分からないけど、ここがホテルや寮のような役割を果たしている建物なのは間違いないでしょうね」

 

 

寄宿舎に居た人物───遠目からでも品のある佇まいと装いをしていると分かるメイド服姿の女性は、黒い手袋をはめた手を口元に寄せながら分析するように俺の疑問へと返答する。

宝塚役者のように淡麗な顔立ちの彼女は、そんな動作ですらも様になっていた。メイド服と言っても配色は全体的に暗い色合いで、白を基調としたヒラヒラのフリルが至る場所につけられた、某オタクの聖地でよく見かけそうなものではないこともその一因に一役買っているのかもしれない。

 

 

「個室の中も少し覗いてみたけれど……ベッドやテーブルを始めとして、そこそこ質のある家具で揃えられていたわよ。一定以上の快適性は保証できるでしょうけど、それでも何か不満があれば私に申しつけて頂戴」

「んーと、そんなことを突然言ってくるあんたは一体?」

 

 

才能に関しては初見であっても見た目で9割方の人間は予想がつくだろうが。

 

 

「……失礼したわ。名乗るのが遅れてしまったわね。私は超高校級のメイド、東条斬美よ」

「ご丁寧にどうも。俺は志熊陣曹、超高校級の幸運だ。さっきの発言は、あんたがメイドだからってことか」

「ええ、みんなに尽くすことこそが私の喜びよ。だからあなたも遠慮なく、なんでも言ってくれて構わないわ」

 

 

東条はスカートの端を僅かに持ち上げつつ優雅に微笑んでくる。

高嶺の花というか、雲の上の存在すぎて真っすぐに直視できない。

 

 

「ま、考えとく。……というかあんたに何かを頼む暇がある程、ここに長居したくはないもんなんだがな。こんな場所に超高校級を何人も集めて何をする気なのやら」

「……あまり悲観的な考えは好まないのだけれど、この異常事態は少し目に余るわね。身の危険というのも……多少は覚悟しておいた方が良いかもしれないわ」

 

 

先程の(たお)やかな表情から一転、眉を寄せて深刻そうな表情を浮かべる東条。

見覚えのない地に見覚えのない面々。不吉な想定が浮かんでくるのは当然の事だし、事実でもある。ここからここで起こるのは、『まともではない事』だ。

彼女は紛うことなき善人だが……だからと言って、『良い奴』が必ずしも殺人を起こさないとは限らない。

原作で使命を思い出した東条斬美が、星竜馬を殺害したように。

 

「仮にどんな事が起ころうとも、私はみんなの為に滅私奉公を貫くわ」という東条の言葉を最後に、俺は寄宿舎を出た。

 

 

 

本校舎内にいる人間以外には、おそらくこれで全員と自己紹介を終えたはず。

そう思い本校舎の扉を潜ると、扉のすぐ向こうから不気味な出で立ちの長身男性がぬっと近寄ってくる恐怖現象を体験した。

 

 

「おっと……すまないネ」

 

 

長い体躯というのは時として威圧感を人に与える。扉のすぐ向こうに人がいたという事実にも、その男の見た目にも俺は反射的に一歩飛びのいてしまったが、軍服を思わせる制服を着込む眼前の男はさして驚いた様子もなかった。

寧ろ臆した俺を見て、「ククク……」と意地悪そうに笑う始末だ。

 

 

「お互い扉を開けようとしたタイミングが被ってしまったようだネ。驚かせてしまったかい?」

「あ、いや……こっちこそ悪かった」

「謝ることはないヨ。何があるのかと得体の知れない建造物の門を開けて、如何にも怪しげな風貌の人間が出てきたら、驚くのは誰だって同じサ」

 

 

本人も自称している通り、この男は明らかに怪しすぎる格好をしていた。

服や帽子こそまだ普通の範囲内だろうが、両手を覆うように隙間なく巻かれた包帯や、顔の半分ほどを隠してしまうマスクは、他人に不信感を与えるに十分すぎる。

加えて、自動販売機並みに巨大な頭身。

街中でこんな不審人物が歩いていたら通報待った無しである。

 

 

(ビビったのは見た目にだけじゃないんだけどな……)

 

 

不気味な外見の期待通り中身も色々とぶっ飛んでいるこの男だが、今の段階では俺がそれを知っている由もない。

 

 

「僕は真宮寺是清。時に超高校級の民俗学者と呼ばれることもあるヨ」

「……超高校級の幸運、志熊神曹だ」

「幸運?ヘェ、ギフテッド制度にはそんな才能が認定されることもあるんだネ。興味深いな……よければ少し話を聞かせてもらっても?」

「悪いが、あんたの知的好奇心を刺激するようなエピソードはなにもないぞ。生まれてこの方普通の人生を歩んできたもんでね」

 

人との対話は手慣れたものなのか、見た目に反しフレンドリーな雰囲気を出す真宮寺。

だが残念ながら、話すことなど本当になかったりする。神様転生(不幸な事)はついさっきあったばっかりだがな!

 

 

「そうなの?残念だなァ。『運』というのは人の生を語るにおいて無視できない要素だからネ……唐突だけど、古代ギリシアの数学者アルキメデスが、どういう風に没してしまったか君は知っているかな?」

「……なんかの計算をしてる最中に兵士に殺されたんだったか?うろ覚えだが」

 

 

これ自体は有名な話だろう。一般的な認知度も高い逸話だろうし、大して物知りじゃない俺も知っていた。

 

 

「正解だヨ。他にも数々の歴史的な偉業を達成していながら、死に切れない不運な結末を迎えた偉人っていうのは意外と多いものなんだ。有名どころだと、赤髭王バルバロッサことフリードリヒ1世や、古代ギリシアの詩人アイスキュロス辺りもそうだネ」

「民俗学…ってイメージは掴めてるような掴めてないような微妙な感じだが、『運』も関係してるって言いたいのか?」

「その通りサ。さっき名前を挙げた彼らのように、人間である以上、どんなに優れていても不運であれば死んでしまうこともあるからネ。だから古来より人は運勢を高める儀式や、逆に他者の運を悪くする術を開発し続けてきたのサ。左馬や六曜のように、僕らの周りにだって運が密接に絡んでくる所作や風習はあるでショ?『運』だって民俗学の立派な研究対象なんだヨ。だからこそ、君の才能にも大いに興味があったんだけど……」

「……随分と口が回るんだな」

「ククク……褒め言葉として有難く受け取っておこうかな。……どうにも第一印象があまり良くないみたいだったからネ。この対話で少しでも君が警戒を解いてくれれば幸いだヨ」

 

 

そんな殊勝なことを言われると、実は良い奴なんじゃないかと思ってしまいそうだが……コイツは変人の皮を被った常識人の鎧を纏った狂人である。

間違いなく、1.2を争うレベルで心を許してはならない存在だ。

おそらく先程の発言は心からのものであるからこそ、性質(タチ)が悪いとも言える。

 

 

「第一印象を良くしたいのなら、その格好止めたらどうなんだ?」

「この服装は気に入ってるんだ。その要望には悪いけど応えられないなァ」

 

 

……そうなのか。

ならもう、何も言わないが。

 

 

「その話はさておき……予想はしていたけど、校舎外に出たからといって僕らが自由の身になれるわけではなさそうだネ」

 

 

呆れている俺を尻目に、真宮寺は外の光景を見ていたらしい。視線は主に、この学園の敷地を囲う鳥籠のような鉄線に向けられている。

絶望的な事実の筈だが、真宮寺に目立った動揺は見られなかった。むしろ良い観察対象を見つけたと言わんばかりに、切れ長の目を細めている。

 

 

「ああ、鬱陶しいことにな。俺の他にも何人か外に人はいるから、挨拶してきたらどうだ?」

「そうさせてもらうヨ。ククク、ここには興味深い人物が何人もいて、僕を飽きさせてくれないネ……」

 

 

不気味な笑みを引っさげながら、真宮寺はそのまま外へと歩き出して言った。

 

不穏なシルエットの背姿を見送り、今度こそ校舎の中を歩き出す。

普通の学校の造りのようで、所々に整備され切っていない自然が見える校舎は酷く違和感を齎した。

最後にプレイしたのがそこそこ過去のことなので校舎内の詳しい位置関係までは記憶していないし、初顔合わせの時に誰がどこにいたかまでは忘れてしまっている。

とはいえ幸いにして今探索できる範囲はそこまで広くないし、適当にぶらついていれば全員と会うことができるだろう。

 

次に会ったのは、男女の二人組だ。

勿論、原作主人公ペアである赤松楓と最原終一のことである。

遠目から眺めていると、何やらカラフルなクマ5体と問答をしており、赤松の方はやや不機嫌なのが伺える。

 

 

(ピアノの鍵盤みたいな扉が見えるな……多分、研究教室に関しての説明か?)

 

 

そういえばあまり気にしていなかったが、俺って目覚めてからモノクマーズと一回も会ってないな。

これは何か意味があるのか、それとも……

おそらく、考えても答えは出ないだろうな。

そもそも主人公達以外がどのタイミングで会っていたのか不明だし。

 

湧き出た疑問は取り敢えず頭の片隅にしまっておき、モノクマーズが去ったのを見計らって2人に近づいた。

 

 

「どーも。あんたら2人も目が覚めたらいつの間にかここに居たって認識でいいのか?」

「あ……うん。そうだよ。私と最原君──横にいる彼も何故か教室のロッカーに入れられてたんだ。そこから二人でここを探索してて、さっきこの部屋の説明をモノクマーズ達に受けてたんだけど……君の名前は?」

「志熊神曹。超高校級の幸運だ。よろしくな」

「うんっ、よろしく志熊君!私は赤松楓。超高校級のピアニストなんて言われてるけど、要はただのピアノバカだね」

「僕は最原終一。超高校級の探偵だよ。一応、だけど……」

「もー、最原君ったら。男の子なんだからもっとハキハキと喋らなきゃダメだよ?」

「う……ごめん」

「なんかもう既に尻に敷かれてるな」

 

 

気弱な最原を活発な赤松が引っ張る、という図式は健在のようだ。

仲睦まじいそのやり取りは、見ようによってはカップルとも言えそうな気がする。

……口には出さないが。

 

 

「なあ、さっき2人と話してたあのカラフルなクマ共はなんなんだ?さっきに口に出してたモノクマーズってやつなのか?」

「えっ?モノクマーズと会ってなかったの?」

「少なくとも俺はな。他に外にいた連中がどうだかは知らないが……」

「……外?」

 

 

外というフレーズに最原が的確に反応する。

一拍遅れて、赤松もそのワードに食いつきを見せた。

 

 

「えっ、外って……志熊君、この建物の中に外から入ってきたの!?」

「ん?そうだけど……ああ、予め言っておくが、助けを求めるのはあれじゃ期待できねーよ。言葉じゃ説明し辛いが……ま、実際に外に出れば意味がわかる」

「そんな……」

 

 

目に見えて落ち込む赤松。

赤松程ではないにしろ、最原も少なからず落胆しているのが見て取れる。

 

 

「……ううん!そんなに簡単に諦めちゃダメだよね!まだ、自分の目で確認もしてないんだし……もしかしたら、外へ出る手段がパパッと閃いちゃうかもしれないよね!」

「ポジティブなんだね……赤松さん」

 

 

しかしへこたれたのも一瞬のことで、赤松はすぐに気を持ち直した。最原の方は赤松の意見を否定こそしないものの、そう上手く事が運ぶとは考えていないように見えるが。

 

赤松と最原とはそこで別れ、俺は次の人を探す為に足を進めた。

 

……研究教室について聞いてなかった気がするが、まあいいか。

 

 

 



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