成層圏を超えて翔ぶ、魔女たち~Over The Stratos To Fly Witches~ (ダニエルズプラン)
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プロローグ:原作前1

 21世紀半ば、世界を驚かせるようなことが幾つかあった。

 まず一つ目に、2050年マーストリヒト条約により設立されたヨーロッパの地域統合体『欧州連合』、通称『European Union(EU)』がとある一つの思想に基づいて提案された構想によって解体。

 そして新たに主要国を加えて、新組織を結成した。その組織の名前は『連合国』、この組織が結成された元となる構想は『すべての欧州諸国に加え、一部の国が協力して困難に当たっていく』というようなものである。

 それに並行するように、連合国に所属しているいくつかの主要国は通称名は変わらないが連合国内での名前を変更した。例えば・・・

 イギリス→ブリタニア連邦

 フランス→ガリア

 ドイツ→帝政カールスラント

 カナダ→ファラウェイランド

 ロシア→オラーシャ帝国

 イタリア→ロマーニャ公国

 アメリカ→リベリオン合衆国

 フィンランド共和国→スオムス

などだ。

 この連合国の結成当時は世界中の少数の国から非難が殺到していた、例を挙げるとすればアジアの赤い国旗の国とか韓が付く国とかからの殺到が一番多かった、だが連合国に所属している国々はこれを当然無視した。

 さて、気になる我が国日本はどうしたかというと・・・連合国には参加しなかった、いやできなかったのだ。当時の日本政府は連合国に参加することは賛成だった、だが参加不参加を分ける国民投票において連合国反対派が多くを占めて結局不参加になった。 そして次に2054年、連合国結成から四年後の夏。この時期になると非難・・・いやクレームは少なくなっていたがまだ少しはあった。

 それは置いておくとして、この年の夏にとあるものの発表が行われた。そのある物とは『インフィニット・ストラトス』通称『IS』というものだった。

 これは当時中学生だった『篠ノ之 束(しののの たばね)』が発表会において発表したもので、世界各国の高官たちや科学者たちは夢物語だと言った。

 その1か月後、連合国に参加している国も含むすべての国の軍事コンピューターがハッキングされ、日本に向けて2341発以上のミサイルが発射される。

 だがそのミサイル全てを()()()()()()()篠ノ之束の純白のISが撃墜したのだ。この事件はのちにミサイルを撃墜したISの見た目から、『白騎士事件』と呼ばれることになる。

 世界各国はこの一件を受けて、ISの研究及び開発を開始、だがそれは篠ノ之束が本来臨んだ用途での使用はされなかった。

 本来ISというものは、『宇宙に向けての翼』として発表された、ものだった。だが世界各国は篠ノ之束の願望をあざ笑うかのようにISの軍事的な利用価値しか見なかった。・・・・・・連合国以外は

 連合国はまずISの研究開発を行うための施設として『連合IS研究開発所』を設立、この施設の目的は、連合参加国のすべての国でも研究しているが連合参加国すべての研究成果をここに集め、さらなる技術革新を望むことである。

 そしてこれに並行するように連合国はとある施設を設立した。それはISでの()()()()を目的とした『連合宇宙開発研究所』である。この施設はISだけではなく、ISを使わなくても宇宙空間での活動が可能になるように研究し、それを使って地球外の探索を目指している。

 この二つの施設は地中海のとある島に建てられた。そしてこの施設を中心にして、島は発展していった。

・・・・・・話は変わるが、この連合国にはとある防衛組織があった。それは連合国結成当初から存在して、ヨーロッパの平和を守ってきた。

それは施設と同じ島に集められていて、何かあったときには翔んで駆けつけてくる。

ヨーロッパの人々は彼女たちのことをこう呼んだ 『WITCHES』と・・・

~~~~~~~~~~~

 空、それは有史以来人類が求めてきた広大なフロンティア。

 そんな空を私は舞っていた。私は少しだけ思案してから、左目を隠すようにつけている黒い眼帯をはずす。

 眼帯をはずして見えたのはヨーロッパ本土の方にある、無数の光。私はそれに対して溜め息をこぼしながら、また眼帯を着けていく。

 

『美緒、試験飛行終了よ。美緒の魔力やストライカーユニットにも異常はなし。戻ってきて』

 

 「わかった、もう少しだけ周辺を翔んでから帰るよ」

 

『まったくもぅ・・・・・・気を付けて帰ってきてね』

 

 「わかっている、通信終了」

 私は保護者のように言う友人に返答してから、通信を切った。

 そして私は自分の脚に装着したものを見る。

 そこには緑を主体として塗装されたストライカーユニット型のISの姿があった。

 これは日本の山西航空が作った『N1K5-紫電改』というもので、性能は私が今も使っている『零式艦上戦闘脚』よりも良いらしい

 だけど私から言わせてもらうと、今の零式の悪いところを改善したものが欲しかった。

 まぁそんなことを思っていてもしょうがないので、私は進路を基地の方に向けた。

 基地に帰還して私のことを待っていたのは、先程まで通信をしていた赤紙の友人『ミーナ・ディートリンデ・ウォルケ』だった。

 

 「お疲れ様、美緒。どうだった?それ」

 

 「実に良い性能だったよ、だけど欲を言うなら私は零式の改善型が欲しかったよ」

 

 「ふふ、そこは我慢してもらうしかないわね。あの子達も上達しているといっても、まだまだだし・・・」

 私は着けていたストライカーユニットを外し、ユニット固定用の装置に固定しながらミーナと話していた。そしてそのまま私たちウィッチーズが生活している建物へと続く廊下を歩いていると…

 

 「・・・ねぇ美緒」

 

 「ん?なんだミーナ、なにか言いたいことがあるのか?」

 ミーナは顔を俯かせ、耳を赤くしながら神妙な声で話しかけてきた。

 

 「こ、今度の日曜って空いているかしら?」

 今度の日曜?それなら・・・

 「空いているけど・・・何でだ?」

 私の返答を聞いたミーナはパアァと明るい光を出し始めた。

 

 「空いてるのね!じ、じゃあ私と・・・・・・」

 

 「私と?」

 

 「で、で、デートしましょ「坂本少佐ー!」・・・ちっ」

 ミーナが私になにかを話そうとしたときに、誰かが私のことを呼んできた。

 呼ばれた方向に視線を向けると、ペリーヌこと『ペリーヌ・クロステルマン』が私の方に走ってきていた。

 

 「ペリーヌか、いったいどうしたんだ?行きなり抱きついてきたりして」

 

 「えへへ、少佐の帰ってきたところを偶然見かけたからです。・・・・・・それと」

 ペリーヌはそう言うと、私にではなくミーナの方に視線を向けた。はて?心なしかペリーヌの顔を見たミーナの顔がひきつっているような気がする。

 

 「少佐に対しての抜け駆けをさせないためでもありますけどね(ぼそっ)」

 

 「ぬ、抜け駆けなんてしてにゃいわよ!」

 

 「抜け駆け?何のことだ?」

 

 「「美緒(少佐)には関係ないわよ(ありません)!!」

 

 「そ、そうか・・・」

 私は心なしか疎外感を感じながらも、二人と一緒に寮に向けて歩き始めた。

 そして、あと少し考え事をしていると、ミーナが突然爆弾発言ともいえるような会話内容(ネタ)を急降下爆撃をしてきた。そりゃぁもう脚が可愛い九九艦爆もびっくりするくらいの垂直爆撃で

 

 「・・・・・・そういえば美緒は来週から本土の方へ行くのよね」

 

 「「「「「「「「そうなんですか、坂本さん(少佐)!!」」」」」」」」

 

 「うおっ!?いきなり近くで大きな声を出すな!あとお前たちはどこから出てきた!?」

 ミーナが小さくつぶやいたその言葉に対して、最初にこたえたのはどこからか現れた宮藤を筆頭とした9人だった。

 

 「美緒、貴女ずっと考え事をしていたみたいだけど・・・もう寮の食堂の前についていたのよ?」

 

 「なん・・・だと・・・?」

 

 「「「「「「「「「そんなことより!!」」」」」」」」」

 

 「ぜひとも」

 

 「さっきの」

 

 「お話を」

 

 「聞かせテ」

 

 「いただきたい」

 

 「ですわ!」

 

 「さぁ坂本さん?」

 

 「詳しく、座って」

 

 「説明してください!!」

 

 「・・・はっはっはっ、わかったわかった。ほら皆、説明するから食堂の席についてくれ」

 私の言葉を聞くと、8人は一斉に食堂の席に腰かけていった。それを見た、私とミーナはため息を一つ吐きながらもそのあと微笑みあって食堂に入っていった。

 食堂にある舞台の上に私たち二人が昇った時には、もう全員が着席しており話を聞く態勢が整っていた。

 

 「・・・それじゃあ、まずは隊長である私の方から説明させてもらうわね?」

 ミーナは一呼吸いれた後に説明を始めた。

 ここで突然だが、私たち住人が所属している『連合軍第501統合戦闘航空団「STRIKE WITCHES」』のことを説明させてもらおう。

 連合国では、連合参加国すべてから集められた精鋭の連合軍があり、結成当時から存在している独立部隊があった。それが私たち『魔女(ウィッチ)』で編成された『連合軍統合戦闘航空隊』だ。

 まずウィッチというのは、この世界に存在する魔力を発揮でき、唯一ストライカーユニットを使うことが出来る少女達の総称であり。ストライカーユニットというのは、ウィッチが保有する魔力を動力にする「魔導エンジン」により駆動される機械装置だ。

 そして前述した連合軍統合戦闘航空隊は、私とミーナをはじめとする、所謂『始まりの魔女たち(ファーストウィッチーズ)』で構成されていた。

 だが私たちだけでは欧州全土を守り切れないことと、私たちにかかる負担が大きいことからいくつかの戦闘航空団に分かれた。

 それが連合軍統合戦闘航空団である。この航空団はブリタニア連邦の第501統合戦闘航空団「STRIKE WITCHES(ストライクウィッチーズ)」の他、東部戦線の502「BRAVE WITCHES(ブレイブウィッチーズ)」、503「TYPHOON WITCHES(タイフーンウィッチーズ)」、ロマーニャ公国の504「ARDOR WITCHES(アルダーウィッチーズ)」、ウラル方面の505「MIRAGE WITCHES(ミラージュウィッチーズ)」、ガリア防衛を担う506「NOBLE WITCHES(ノーブルウィッチーズ)」、スオムスの507「SILENT WITCHES(サイレントウィッチーズ)」の7つの航空団によって編成されている。

 そしてその中でも最初に作られたのが私たち『第501統合戦闘航空団』であり、ファーストウィッチーズの私とミーナの二人が属しているところでもある(何度も言うが・・・)。

 このストライクウィッチーズの拠点はブリタニア連邦に属する一つの島にある。

 

 「・・・・・・じゃあ、ここからは坂本少佐の方から説明してもらうわね。美緒、お願い」

 

 「わかった・・・ミーナ、どこまで説明したんだ?」

 

 「あなたがモンドグロッソに行く理由までは話してないけど、それ以前のことまでは話したわ」

 

 「そうか、よし、なら話させてもらおうかな。・・・まず第一に、私の魔眼の能力を詳しく把握しているものは手を挙げてくれ」

 私は眼帯をしている右目を指さしながら、目の前に座っている9人に問いかける。すると手を挙げたのは9人中3人、宮藤芳佳と先ほどのペリーヌ、そして『シャーロット・E・イェーガー』だった。シャーロットと仲の良い『フランチェスカ・ルッキーニ』はなぜ知っているのか?というような顔をイェーガーに向けていた。

 

 「私の魔眼の能力、それは・・・『ISや、魔力を出すもののコアを識別できる』というような能力だ。ここまで説明すればわかってくれたと思うが・・・私の能力を使ってモンドグロッソの警護をすることだ。それと、モンドグロッソの当日には、諸君らも私と同じように警護に来るようにと連合側から要請されている」

 私がそこまで言うと、みんなはどこかホッとしたような表情になった。私はそれに疑問を持ちながらも、話をつづけるために咳払いをする。

 それに反応して、みんなは姿勢をもう一度ただすと話を聞く態勢になってくれた。

 

 「私がモンドグロッソに行くもう一つの理由、それは・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 私が『()()()()I()S()()()()()()だからだ」

 



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プロローグ:原作前2

 「ふぅ・・・・・・それで?どうしたんだお前たちは?」

 私は私がモンドグロッソに行くことを前から知っていたミーナ以外の、9人に説明し終えた私は食堂に併設されたテラスに出て、そこに置かれた椅子に腰かけていた。食堂の中では『エーリカ・ハルトマン』が同郷である『ゲルトルート・バルクホルン』に小言を言われていた。ふむ・・・今度久しぶりにハルトマンを訓練に誘ってみるか。

 そして椅子に座って、地中海を眺めていると後ろに三人が立っていることを感じたので振り返りながら言った。するとそこに立っていたのは、宮藤とペリーヌ、そしてシャーロットの三人だった。

 

 「坂本さん・・・その・・・」

 

 「はぁ~こいつら二人が言いたいのはねその右目のことなんだよ。まぁ私も詳しいことはあの日でも聞いてないけど、一体全体何があったんだ?」

 

 「・・・ちなみにシャーロットさん、あの日っていうのは?」

 あ・・・この話は

 

 「ん、あの日っていうのはな?まぁ今から5ヶ月以上前かなぁ、その時に長期休暇をもらって私と坂本、あとミーナとルッキーニで日本に言ったじゃん?その時にさ、ミーナと私、あと美緒で混浴?っていうのをしたんだよ。それでその時のネタになったのがその話ってわけ、・・・・・・それで?いったい何があったのさ?」

 私は額に手を置いて空を見上げる、そうでもしないと背後に般若を浮かべた宮藤の姿と同じく背後に雷雲をバックにして今にも咆哮を上げそうなほど逆鱗に触れている雷龍を浮かべたペリーヌの姿が視線に入ってしまいそうだった。

 私はそれをなるべく視線に入れないようにしながら、シャーロットに対して説明を始めた。

 

 「この右目の魔眼はな、私がウィッチになったころから持っているものじゃないんだ」

 

 「・・・ん?待てよ?美緒の固有魔法は確か・・・」

 

 「そう、シャーロットだったら知ってるだろうな、私がお前に話したんだし・・・私の固有魔力は『振動』、魔眼の方は魔法ではなくどちらかというとIS要素の方が大きい」

 

 「つまり、どういうことだ?」

 シャーロットの言葉に対して思わずずっこける私たち3人、私は苦笑いをしながらも説明を続ける。

 

 「この魔眼の本当の名前は『オーディンの瞳(ヴォーダン・オージェ)』と言ってな、ある戦闘の後に手に入れたものなんだよ」

 

 「どんな戦闘なんだ?・・・あれ?そういえば美緒が眼帯をつけ始めたのは確か・・・」

 

 「1年半前・・・ですわね」

 

 「うん・・・」

 時期を言った瞬間に、ペリーヌと宮藤の二人の顔に暗雲が立ち込め始める。ああ・・・まだあの時のことを引きずっているのか

 

 「1年前にな私とミーナ、それとこの2人以外がこことは違う東部の部隊『ブレイブウィッチーズ』の方に行っていただろ?」

 

 「あのときかぁ・・・なかなか骨のあるやつが多かったな!」

 

 「ほぅ、お前が認めるほどか・・・あいつの教えがいいのか?まぁそれはいいとして、その時に運悪くこっちの方でISを使った事件があったんだ」

 私がそう言うとシャーロットは顔をいぶかしめながらも、私に話の続きを促してくる。

 私はそれにこたえるように頷いてから、続きを話し始めた。

 

 「その時には私たちで制圧に向かったんだ。それで中々に強くて苦戦したが何とか鎮圧することができた」

 

 「それで?それだけなら美緒のその目のことにつながらねぇだろ?」

 

 「そうなんだが・・・ここからが大事なんだ。確かに私たち四人は鎮圧することができた、だけど私たちは油断していたんだ」

 

 「油断?あの美緒がか?」

 

 「そうよ、美緒はあの時珍しくも油断していたの」

 

 「うおっ!?ミーナいつの間に・・・?」

 シャーロットに限らず、宮藤とペリーヌも突然現れたミーナに対して驚いていた。私?私は別にミーナが食堂から出てくるところを見ていたから驚きもしなかった。

 ミーナはそのまま私のところまで近寄ってくると、私の方に両手を置いた。

 

 「美緒・・・そこから先は私に語らせて頂戴」

 

 「・・・わかった、私はミーナの説明をちゃんと聞いておくことにするよ」

 ミーナは私に対して小さく『ありがとう』と言うと、私の代わりに語り始めた。あの日の真相を・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「みんな、ブリタニアから私たちに出動要請があったわ。なんでも、4人の女がISを使って男性に対して攻撃をしているらしいわ。このことから連合側は完全鎮圧を許可、『AIS(アンチ・インフィニット・ストラトス)』弾を使用して敵ISを完全鎮圧します」

 

 「了解だ。それと、敵ISの種類は?」

 

 「敵ISはフランスの『ラファール』、先月デュノア社が発表したばかりの完全新型機よ。可能な限りのスペック情報を送ってもらったけど・・・まだまだ情報不足よ、よって本作戦は各隊員の判断によって任せます」

 

 「「「了解」」」

 そういって私たちは出撃ハンガーに走って向かっていく。そして出撃ハンガーに着くと私たちは自分たちのストライカーユニットを装着していく。

 ISが世に登場する前は、ストライカーユニットを専用の発射台に固定してからそこに飛び乗って出撃するのが主流だった。だがISが出てからはストライカーユニットの待機形態を持っていれば、いつでもどこでも呼び出せるようになった。

 そのまま私たち4人は大空高くまで昇って、目的地まで飛んでいく。

 そしてそのままブリタニアの首都『ロンドン』に向かっていく。ロンドンに着くと、街のあちこちからパトカーのサイレンの音や人の悲鳴が聞こえてきていた。

 

 「ミーナ!」

 

 「わかってるわ!」

 ミーナのその言葉を合図にして、たった今爆発音と黒煙が立ち上ったところに向けて全力で飛行する。到着した場所には、3人の女がISを纏って男性に向けて発砲していた。

 そして今にも新たな男性が撃たれそうになっていたが・・・

 

 「ふぅ・・・何とか間に合ったようだな。大丈夫か?」

 

 「は、はい」

 私が一瞬で男性と女の間に割り込み、防御魔方陣で弾丸を止めた。

 そして私は男に向けて非難を促すと、AIS弾を装填した『九九式二号二型改13mm機関銃』の安全装置のレバーを『安』から銃撃を意味する『火』に下ろす。そしてトリガーに指をかけて・・・

 

 ダダダダダッ!!

 思いっきりトリガーを引く。フルオートで発射されたAIS弾のほとんどが敵ISにヒットする。AIS弾はその名の通りISに対して開発された弾丸で、現在ISを除いてISに対して有効的な攻撃を与えられるものになっている。

 そのため、これを連続で当たった1機のISが強制解除されて、纏っていた女が地面に這いつくばる。

 狙いを変えながら撃っていると、上の方からも無数の弾丸がISに向けて降り注いできた。ハッとして上を向いてみればそこにいたのは自分の獲物を構えて攻撃する3人の姿があった。

 

 「もぅ・・・一人で先行しないで頂戴。坂本少佐?」

 

 「すまんな、居ても立っても居られなくなってな」

 

 「坂本少佐、大丈夫でしたか・・・?」

 

 「坂本さん!け、ケガは・・・?」

 私はミーナの言葉に苦笑いで答えながら、2人の心配してくれる声に対して『問題ない』と答えた。すると2人はホッとしたような顔をしてから、残った2人の女に獲物を構える。

 

 「そこの人!今すぐに投降しなさい、貴女のやっていることは自己じゃすまないのよ!?」

 

 「なっ・・・!ウィッチ・・・!時代遅れの御伽噺は、ISには勝てないのよ!!」

 女は錯乱しながら言い放つ、そしてもう一人の女と共にIS用ライフルをこちらに構えて、乱射してきた。

 その照準は全く定まっておらず、滅多に防御魔法陣に当たることはなかった。しかし、ここはロンドンの中、そのために無用な被害を出さないためにも下手な発砲はできなかった。

 

 「ミーナ!市民の避難はどうなってる!?」

 

 「ちょっと待って・・・・・・いいわ、周辺は警察が立ち入り禁止にしてくれたわ!発砲を許可!」

 

 「ああ、二人とも聞いたな!?発砲開始!敵を無力化する!」

 そこまで言うと私たち四人は一斉に引き金を引いていく。私たちの攻撃はISが持つSE(シールドエネルギー)によっていくらかは軽減されるが、女たちの攻撃は私たちウィッチが張ることができる『防御魔方陣』によって空中で止まるように落ちていく。

 それでも往生際の悪い女たちは攻撃をやめて投降しようとしない、それどころか粒子収納していたロケットランチャーを展開して撃とうとしていた。

 

 「あれを放とうとするなんて・・・何を考えているんだ!」

 私はもう一つの武器を()()()()()()。この武器の名前は『烈風丸』、この刀は私が日本にいた名のある刀匠から免許皆伝された後に、自分の魔力を込めながら打ったものだ。

 そしてもう一度鞘に納めながら、居合義理の体勢を取った。私の体が青白く光りはじめ、零式脚の回転数が上がり烈風丸が少しづつ振動し始める。

 私はISの瞬間加速(イグニッションブースト)にも引けを取らない速度で敵ISに近づいていく。女たちはこちらに気づき、急いでライフルを向けてくる。だが、もう5メートルもない間合いで私の攻撃を防ぐ術は、なかった。

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 通り過ぎざまに2閃。振動を帯びた烈風丸は青白い光を出しながら剣跡を残しながら女たちの体を切り裂いた。

 切り裂かれた女たちはISの強制解除が働いて地面に放り出される、私たち4人はそれに応じて確保するために警戒しながら近づいていく。

 だが、そこで予期せぬことが起こった。宮藤に一番近い女が、最後の力を絞って腕だけを展開してライフルを構えたのだ。

 宮藤はそれに背を向けているために気づくことはない、私は気づけば宮藤へと先ほどよりも早く飛び出していた。

 

 「宮藤ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 「え・・・?」

 ドンッ!

 私は宮藤を弾き飛ばし、女の前に立ちふさがる。その時には女はすでにトリガーを引いていて、銃弾が発射された後だった。

 私は急いで防御魔方陣を展開しようとしたが、一発の弾丸が右目に当たってしまった。

 

 「うが、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 右目に走る鈍痛、痛い、痛い、気が狂いそうだ。私のそばで多数の銃撃音とミーナの声、そして宮藤とペリーヌの悲鳴が聞こえる。

 ここで意識を失えたならばどんなに楽だろうか、だけど私は烈風丸を地面に落としてから肩にかけていた銃を片手で構えた。

 

 「~~~~~!~~~」

 

 「心配・・・するなよ、ミーナ」

 

 「~~!」

 

 「~~~~!!?」

 私は残った左目でしっかりとISを展開した女の、ライフルを握る手を狙って・・・

 

 パァンッ!!

 引き金を引いた。



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プロローグ:原作前3

 「・・・っていうことだったの」

 おっと、いつの間にかミーナの説明が終わっていたようだ。ちなみに途中から私たちが話していることが気になった、他の7人も話を聞いていた。

 この話を聞いた各々の反応はいろいろだった。私に対して驚愕の感情を向けるもの、ただただ呆然としているものなどだ。

 

 「それで・・・そこからどうなったのさ?」

 

 「そうだヨ!美緒はそこからどうしちゃったのサ!?」

 シャーロットとルッキーニが話の続きをせがむ。

 そんな二人をミーナは落ち着かせつつ、話の続きを語り始めた。

 

 「その後は、犯人たちは当然ご用。美緒は事件後に近くの病院に救急搬送されて手術が行われたわ」

 

 「でも、ギリギリだったんだろう?」

 

 「ええ、その時の美緒の傷は奇跡的に脳には届かなかった。だけど右目は完全に失明していたわ」

 

 「そんな・・・!」

 私は右目の眼帯に触れながら、あの日のことをもう一度思い出そうとしていた。

 

 「だけど・・・ドイツの人たちがある提案をしてきたの」

 ミーナの言葉を受けて、私は再び志向の海に入っていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「IS対応型の義眼・・・ですか?」

 

 「はい、現在わが国で開発中の新技術でして。右目の残った細胞を採取し、日本で生まれた『IPS細胞』で移植、そして完全に視力が戻るまでの間子の義眼で過ごしてほしいのです」

 私はそれを聞きながら、最近の技術の進歩のすさまじさに驚いていた。私は軍事(こっち)は詳しい方だが、最新科学(そっち)の分野に対しては少しだけ理解ができないのだ。・・・これを機に勉強してみる事にしょう。

 それはさておき、私はこの件を受けるかどうかを考えていた。確かにその義眼を使えば今まで通りの活動や生活はできるだろう、だがこれはあくまで試作品(プロトタイプ)。いくら知識のない私でも、必ず治るという保証がないということには気づいている。

 だが、ここで躊躇って移植をやめてしまっては目が治るという唯一のチャンスを逃してしまうかもしれない。私は眼帯で隠された右目を触り、決意を固めた。

 

 「・・・そのお話、受けさせてもらいます」

 

 「美緒!?」

 

 「大丈夫だミーナ、お前の国であるカールスラントが開発してくれたものだぞ?それに・・・」

 

 「・・・それに、なによ?」

 ミーナは少しふくれっ面を浮かべながら聞いてくる。私はそれに対して微笑んでから言う。

 

 「私はミーナや他の奴らのためにも、一刻も早く元の生活に戻りたいからな」

 

 「美緒・・・!」

 私は少し涙目になってしまったミーナの目元をぬぐい、頭を撫でる。するとミーナは私に抱き着いてきたので、私は優しくポンポンと叩く。

 そしてそのままドイツの高官の方に視線を戻し、決意を口にする。

 

 「その話、喜んで受けさせてもらおう」

 

 「・・・よろしいのですか?言い忘れていましたが、この義眼はまだ試作品です。必ず視力が戻るという確証はないんですよ?」

 

 「それも覚悟の上だ。それとも・・・カールスラントの技術者は自信がないのか?」

 

 「!そこまで言われたら、やらないわけにはいきませんね。では詳細情報を説明させてもらいます」

 そこから先は義眼の説明が行われた。義眼の実験が私によって成功すれば、カールスラントのとあるIS部隊に使われるらしい。

 ・・・・・・その部隊は全員が女性で結成されているらしく、その女性すべてが右・左眼に何らかの障害がある部隊のようだった。

 

 「すいません、もし・・・もしその娘たちに義眼が移植されたら、その娘たちに会ってみてもいいでしょうか?」

 

 「私も・・・行ってみてもよろしいですか?」

 

 「・・・私一人で決められないことですが、おそらくドイツ政府はOKを出すでしょう」

 私はその言葉を聞いて心の中で喜んだ。こうなったら私がいち早く義眼を使いこなして、その子たちに教えることにしよう。カールスラントも多分OKを出してくれるだろう・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「・・・それで美緒の眼能力を残したまま回復してきてるってことよ」

 うんうん、今ミーナが言った通り私の眼は能力を残しつつ、視力が回復してきている。

 私は右目の眼帯を撫でながら、ミーナの説明を代わる。

 

 「そして私の義眼を改良したのが、現在のカールスラントのIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』に使われている」

 その言葉を聞いて9人はやっと納得した顔をした。

 

 「さて・・・これで説明は終わりだ。何かほかに聞きたいものはあとで私に直接聞きに来てくれ」

 

 「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 返事と共に、用がない者たちは次々に解散していった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「・・・・・・」

 一息ついた私は、先ほどの椅子に座りながら地中海を眺めていた。もっとも、私が考えていたのは私の義眼の改良型を使っている『シュヴァルツェ・ハーゼ』のことだったが・・・

 

 「あの子たちのこと?」

 

 「ん?ああ、ミーナか・・・」

 ミーナは片手に紅茶と茶菓子が乗ったトレーを持ちながら、私が座っている椅子の反対側の椅子に座ってそれを置いた。

 私とミーナがシュヴァルツェ・ハーゼのことを気にかけているのは、ある一つの理由があったからだ。

 半年ほど前、私とミーナはカールスラントの高官に言った通り私の義眼が使われているという部隊を訪れた。

 そんなときに私たちは彼女と出会った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「ん・・・?ミーナ、あの子は・・・」

 

 「え?ああ・・・あの子ね」

 私はシュヴァルツェ・ハーゼの基地の近くの花畑をミーナとともに歩いていると、端っこの方にうずくまっている銀髪の少女の姿を見た。

 そんな少女のことについて、私は気になったのでミーナに聞いてみた。

 

 「あの子はね、その義眼・・・『ヴォーダン・オージェ』が不適合しちゃった子なの」

 

 「不適合?やっぱりあったのか?」

 

 「ええ、やっぱりそれも人が作ったものだもの、不適合者は必ず一人は出るわ」

 

 「そうか・・・」

 

 「そうよ、って美緒!?あなた何するつもりなの!?」

 私は引き止めるミーナの声を無視して、銀髪の少女に歩み寄っていく。

 そして少女の隣に来ると、その隣に座って少女の頭を撫でた。

 それに反応して少女は一瞬だけビクッと驚いたが、私の方には目を向けようとはしなかった。

 

 「なぁ、名前は何というんだ?」

 

 「・・・・・・」

 

 「私の名前は坂本美緒。今君たちの隊に教官をしに行っているものだ」

 私は少女に声をかけるが、少女はいまだに顔を上げない。

 そんな少女を意にも介さず、私は少女に声をかけ続ける。

 

 「君は『ヴォーダン・オージェ』を移植されているらしいな」

 

 「・・・だったらなんだ」

 ここで初めて少女が返事を返してくれた。私は少し気分を高揚させながら言葉をつづける。

 

 「私と同じだな」

 

 「・・・?どういうことだ?」

 

 「私の右目にもヴォーダン・オージェが移植されていてな、しかもこれはプロトタイプだからいつ視力がなくなるかがわからないんだ」

 私は右目に着けた眼帯を外し、少女に見せるように顔を向けた。

 

 「・・・そんなものをつけていて、不安になったりしないのか?」

 

 「どう・・・だろうな?不安なのは確かにそうだろうけど、けど私はこいつのお陰で仲間たちと一緒に普段通りの生活ができているからな。不安はあれど悔いはないさ」

 少女はそんな私の言葉にポカンと呆けた後、笑いがこぼれだした。

 

 「はははははは・・・面白いやつだな()()()は。申し遅れました、私は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』と言います。明日の訓練からはちゃんと顔を出させてもらいます」

 

 「ああ、君のシュヴァルツェ・ハーゼへの復帰・・・いや、確かなる()()を祝福する」

 

 「はっ!ありがとうございます!」

 この笑みは少女本来のものなのだろう。少女は雪が解け始めた春の初めに咲く花のように、元気な笑みを顔に咲かせた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「あの時はびっくりしたわよ、まさか急に話しかけに行くんだもの」

 

 「はっはっはっ、いいじゃないか。結局あれのお陰で()()()は部隊になじむことができたんだからな」

 

 「まぁ、確かにその通りなんだけど・・・」

 ミーナは小さくため息をつく。ミーナに負担をかけたことはわかっているが、あの時は本当にしなくちゃいけないと思ったから動いただけだった。

 ・・・まぁミーナにはそのお礼として何かをあとでするとしよう。

 

 「あ、そういえば。つい最近あの部隊に新しい人が入ったみたいよ」

 

 「へぇ、どんな奴なんだ?」

 

 「ん~、そこまではわからないけど・・・ラウラちゃんにも認められているし、結構できる子らしいわ」

 む、ラウラに認められる(そこまで)やる奴なのか・・・・・・またあそこに行ったときに会ってみるとしよう。

 そのあと私とミーナは紅茶を飲みながら、様々なことを話した。そりゃあもう様々なことを。

 



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プロローグ:原作前4

 そして月日は流れて一週間、私たちストライクウィッチーズはモンドグロッソの警護のためにカールスラントに来ていた。

 警護のためにここへ来たので、私とミーナの二人はシュヴァルツェ・ハーゼに向かうことができない。だが、ここへ来るときに通信で『私たちがお迎えしましょうか!?』というようなラウラの声が聞こえたが、丁重にお断りさせていただいた。・・・その後のラウラの言葉には少しの寂しさが感じられたが。

 まぁそんなことはどうでもいいとしても、このモンドグロッソでは世界中から人が集まってくるので、テロリストにとってみれば格好の餌なのだ。

 そこで警護するのが、迅速な対応ができて火力もある私たちウィッチだ。

 私たちウィッチはAIS(アンチ・インフィニット・ストラトス)弾を装備出来て、魔法によって普通より大きな口径の銃も扱える。それゆえにこういった重要ごとの警護、もしくは暴走したISの無力化を頼まれることが多いのだ。

 

 「む?」

 

 「?どうしたの、坂本少佐」

 私はモンドグロッソ会場の空を飛んでいると、ふと大きな違和感が私を襲った。

 ふと気になって眼帯を外してみる。すると会場から遠く離れたところに立っている建物から、大きな魔力反応が出ていることに気づいた。

 

 「ミーナ、郊外のあの建物から魔力反応がある。それも結構大きな反応だ・・・」

 

 「それは本当なの?・・・確かめてみる必要があるわね。宮藤少尉と坂本少佐、あとハルトマン中尉は私についてきて」

 ミーナは捜査のために、私を含めた三人の名前を呼んだ。

 ミーナに呼ばれた瞬間に、ハルトマンの顔に『面倒くさい』というような素直な顔が浮かんできた。

 

 「わかりました!」

 

 「え~?私も行くの~?めんどうくさいし、おなか減ったしぃ・・・」

 私はもとより、宮藤は元気よく返事をしたが。ハルトマンは少しだけだるそうにして乗り気ではなかった。・・・しかたない

 

 「ハルトマン」

 

 「な~に~坂本~、私は行きたく・・・」

 

 「ほれ、これを受け取れ」

 私はハルトマンに向かって、あるものを腰につけていたポケットから取り出して投げた。

 

 「うわっとと、あれ?これってもしかして・・・」

 ハルトマンは私が投げたものを危うく受け取って、それを見た。

 するとハルトマンの顔に喜びがあふれだす。

 

 「チョコレートだぁ!!坂本、これもらっていいの!?」

 

 「ああ、その代わり一緒に来てもらうぞ」

 

 「うん、いいよ!これならおなかも少し満たせそうだし。それに・・・坂本と一緒にいられるから(ボソッ)

 

 「ん?何か言ったか?」

 

 「い、いや!何も言ってないよ!」

 

 「そ、そうか・・・」

 ハルトマンの気迫に押され、私はミーナに視線を移す。視線を移した時のミーナの眼は、まるで嫉妬したような目立ったが、私が見ていることに気づいた瞬間にそれが消えていつものミーナの顔に戻った。・・・いったい何だったんだろうか?

 

 「とにかく、現場に向かいます。坂本少佐、作戦中の士気はあなたに任せます」

 

 「了解した。ハルトマン、行けるか?」

 

 「うん!いつでもOK!」

 

 「・・・・・・ハルトマン、いつも言うが。お前はもっとカールスラント軍人らしい立ち振る舞いをだな・・・」

 

 「うげぇ、トゥルーデの小言が始まったぁ・・・・・・行こ、坂本!」

 

 「あ、こら待てハルトマン!・・・少佐、ハルトマンを頼みます」

 

 「わかった。宮藤、ミーナ、行くぞ!」

 ハルトマンは、小言を言い始めたバルクホルンから逃げるように私が指さした建物に向かっていく。そんなハルトマンのことをバルクホルンが『頼む』と言ってきたので、私はそれを了承してミーナと宮藤を連れて建物へ飛んでいった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 建物の真上に先についていたハルトマンと合流した私たちは、肩から下げていた獲物の安全装置を解除していく。

 私と宮藤だったら『九九式二号二型改13mm機関銃』を、ミーナとバルクホルンは『MG42』の安全装置のレバーを『安』から、発射を意味する『火』に切り替える。

 

 「よし、みんな準備はいいな?」

 

 「準備OKです」

 

 「私もだよ~」

 

 「美緒、あれをお願いできるかしら」

 

 「わかった」

 ミーナに言われて私は右目の眼帯を外して、眼帯をポケットの中にしまう。

 そして私に向けて差し出されたミーナの右手をつかむ。ミーナがそのまま目をつむると、ミーナの体の輪郭が青白く光りはじめた。

 これはウィッチの一人一人に存在している、『固有魔法』を発動するときのしるしで。ミーナの固有魔法は『三次元空間把握』だ。この能力は私が持っている魔眼と合わせることによって、対象物の正確な位置を導き出すことができるのだ。

 

 「・・・・・・見つけた。魔力の反応があそこの部屋にいる人から出ているな」

 

 「わかったわ。さてどうしましょうか・・・」

 ミーナがどうやって突入するかを考えている。だが、その考えは不要だ。

 

 「ミーナ」

 

 「なに?美緒」

 

 「時には『考えるよりも、まず走れ』だ」

 

 「へ?」

 

 「ハルトマン?」

 

 「いいの~?」

 

 「構わん、やれ」

 

 「はいよ~『シュトゥルム』!!」

 

 「ちょっ!待って!」

 ミーナの静止の声は、無慈悲にも届かず。ハルトマンの手から、集められた圧縮された風が建物の屋根に向けて放たれる。

 屋根にぶつかった風は、ウエハースのように屋根を破壊して突入経路を作り出した。

 

 「今だ!突入!」

 

 「「了解!」」

 

 「はぁ~、しょうがないわね」

 ハルトマンがあけた穴から、私たちは勢いよく突入した。

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 織斑一夏side

 突然だけど、僕には最強と呼ばれた姉と神童と呼ばれた弟が()()。いた、というのは先ほどテレビから流れてきた姉の言葉と、自らの弟から受けてきた仕打ちの結果だった。

 弟は昔から運動も勉強もよくできていた。そして周りの人たちは『さすがあの千冬様の弟ね』とか『こんなにできるなんて・・・さすが  君だわ!』などと言って持て囃してきた。だから僕もみんなに認められたくて必死に努力してきた。だけど周囲からはいつも  と比べ続けられ、『できて当然』『できなければ織斑家の弟じゃない』というのが当たり前だった。

 姉である千冬姉も、  がいい点数を取れば『よくやったな』とか『さすが私の弟だ』と言って褒めていた。だけど僕がいい成績をとっても『取れて当然だ』と言って、できなければ『秋斗ができて、なぜできないんだ?もっと精進しろ』としか言わず、一回も褒めてくれなかった。

 そして嫌々ながらも、千冬姉のモンドグロッソの応援に来た僕は見知らぬ男の人たちに誘拐されてしまった。

 

 「おい・・・織斑千冬が試合に出てるぞ!?ちゃんと日本政府には伝えたんだろうな!?」

 

 「伝えたよ!ちくしょう!あいつは家族のことが大切じゃなかったのか!?」

 

 「もしかして、こいつのことは大切と思ってないんじゃ・・・・・・」

 僕は男の人たちの言葉を聞いて、絶望しかけていた。嘘だよね・・・?千冬姉・・・

 だけど、次にテレビから流れてきた千冬姉の言葉で僕は絶望した。

 

 『織斑選手!優勝、おめでとうございます!』

 

 『ありがとうございます』

 

 『今の気持ちを、誰に伝えたいですか?』

 

 『そうですね・・・応援してくれた弟・・・』

 そこまで聞くと、男の人はテレビの電源を切ってしまった。

 

 「それで・・・?もう用済みになったこいつはどうする?開放するか?」

 

 「そんな訳ないじゃない、バッカじゃないの?私たちの顔をが割れてるんだし、始末するのよ」

 

 「はいはい・・・わりぃな嬢ちゃん、これも仕事なんだわ」

 僕のことを嬢ちゃんといった男の人は、服の下に隠していたホルスターの中から拳銃を取り出して、僕の頭に狙いをつけた。

 僕の手を縛っていた鎖は、すでにいらないと判断されていて自由だった。そこで僕は必死に手を前に突き出して必死に抵抗する。しかし、男の人はそんなことは関係なくトリガーに指をかけて発射した。

 発射された弾丸は、僕の頭を正確に貫く。はずだった。

 いつまでも来ない痛みに僕は少しずつ目を開く。すると突き出した僕の手の前には()()()()()()()()()()()が展開されていた。

 

 「なに・・・これ・・・?」

 展開された魔法陣に男の人たちは驚愕に包まれた。女の人は誰よりも早く復帰して、ISを纏った。そしてIS用のライフルを持って僕に発砲してくる。

 

 「ぐぅ・・・!うぅ・・・!」

 何とか魔法陣で銃弾を防ぐ、だが一発の銃弾が壁に跳弾して僕の腕にかすってしまう。かすってしまったところからは少しづつ血が流れ始めた。

 それを見た女の人の顔が愉悦に染まる。一向にゆるむことのない銃撃、僕の体からは少しずつ力が抜けていく。

 

 「もう・・・限界っ・・・!」

 少しづつ魔法陣が明滅しながら小さくなっていったとき、轟音と共に天井が崩れ風と共に4人の女性が入ってきて、僕のことを救ってくれた。

 



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プロローグ:原作前5

 坂本美緒side

 私たちが天井を破壊して建物内に突入すると、そこには魔法陣を展開して銃弾を防いでいる()()()とその子に向けて銃撃を続ける女たちの姿があった。

 

 「宮藤、あの子を物陰に連れて行って治療をしてやれ」

 

 「はい!」

 宮藤は私の指示に対して元気よく返事をしてから、男の娘に向けて勢いよく駆け寄っていく宮藤。駆け寄っていくといってもストライカーユニットを装着しているために飛んでいくが正しいが、治療するために近寄っていく。

 そんな宮藤の邪魔をするためなのか、ISを纏った女はライフルを向ける。まぁ、私はそんなことをさせるわけないので、手に持った九九式を女に向けてトリガーを引く。

 

 ダダダダダダダダダッ!

 

 「!っちぃ!!」

 女は私が放った銃弾によって行動が阻害されて、宮藤への攻撃をやめて回避する。そして私の攻撃がとまると同時に私に狙いをつけて発砲してくる。

 私とミーナ、そしてハルトマンは防御魔方陣を展開して女たちの前に飛び続ける。所謂『ホバリング』の状態だ。

 私たち三人は、各々の銃を女たちに向かて構えながら警告する。

 

 「あなたたちに勝ち目はないわ!すぐにISをしまって武装解除しなさい!」

 

 「そうだ、今なら罪もある程度軽くなるぞ」

 

 「誘拐に殺人未遂、ISの不正使用に今は銃に制限が掛けられていてサブマシンガンとかは国や行政の許可が必要だから・・・・・・銃刀法違反もプラスかな?」

 先ほど言った罪が軽くなるという言葉は、ハルトマンの言った罪状の中から最低限軽くなるだけである。

 だけどISを纏った女は、何かをぶつぶつとつぶやき始めた。

 

 「・・・・・・!・・・ッチ何て!ウィッチなんてただの小娘どもの集まりじゃない!そんな御伽噺の連中がISには勝てるはずないのよ!!」

 

 「ッ!?散開!」

 

 「ま~たあんなこと言うんだから~」

 女は叫ぶと、錯乱したように銃を乱射しだす。

 私は身の危険を感じて、二人に散開の指示を出す。何発かが私が張った防御魔方陣に当たったが、私はうまく宮藤が隠れた物陰に入ることができた。

 物陰では宮藤が先ほどの子を、固有魔法である『治癒』で治療していた。医学の発展した現代でも宮藤の使う治癒はすさまじい効果があって、軽い打撲ならすぐに治るし、重度の怪我でもある程度までは回復させることができる。

 

 『美緒、聞こえる?』

 

 「ああ、聞こえてるぞミーナ」

 物陰で攻撃のチャンスをうかがっていると、通信機にミーナからの通信が入る。

 

 『作戦指揮権はあなたにあるわ。どうやって無力化するの?』

 

 「そうだな・・・ミーナたちは私の合図とともに女に向けて集中砲火をしてくれ」

 

 『わかったわ、ハルトマン中尉もそれでいいわね?』

 

 『はいはい~』

 緊張も何もあったもんじゃないハルトマンの返答に私は少しだけ笑うと、私に向けて不安のこもった視線を向けてくる宮藤の方に顔を向けた。

 

 「坂本さん・・・・・・」

 宮藤は今にも泣きそうな顔で私の名を呼ぶ。恐らく、あの日のことを思い出しているんだろう。

 そんな宮藤の頭に私は手を置いて、わしゃわしゃと撫でまわした。そして視線を合わせると・・・

 

 「心配するな宮藤、あの日のことは私がしたくてやったことだぞ?私は私がやりたいと思ったことをやるだけだ」

 

 「あ・・・」

 

 「だから、私を信じてこの子と一緒に待ってろ」

 

 「・・・・・・はい」

 

 「よし、いい子だ」

 もう一度宮藤の頭を撫でる。そうしてから視線を宮藤の右に移すと、積まれた段ボールの上に座ってジッと私を見ている先ほどの子の姿があった。

 私はそんな子の姿に少しだけ吹き出しそうになりながらも、微笑みだけを向けて宮藤と同様に頭を撫でまわす。

 その時、この子は一瞬だけビクッと驚いたが、だんだんと顔を赤くしながら俯いてしまった。

 

 「よし・・・作戦開始は、今だっ!!」

 私はその言葉と共に女に向けて発砲する。そしてそれを合図にしてミーナとハルトマンも女に向けて発砲する。所謂クロスファイアの状態だ。

 

 ダダダダダダダダダッ!!

 

 「くっ・・・!SEがもう・・・!」

 ISには『SE(シールドエネルギー)』というものが存在していて、それがなくなるまではたとえ戦艦の攻撃でも耐えることができるのだ。

 だがいくらSEがあろうとも、AIS弾を何百発も浴びてしまえば耐えきれるはずがない。

 私は射撃をやめ、九九式を置くと背中に掛けていた烈風丸を鞘から抜く。

 そして一般的に『霞の構え』と呼ばれている構え方で烈風丸を構えると、烈風丸とストライカーユニットに魔力を込めていく。

 それに反応して烈風丸は青白い光を帯び、ユニットは回転率が上がって凄まじい風を起こし始める。

 腰を少しだけ落としてから・・・

 

 「せいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 女に向けて突撃し、烈風丸を振り下ろす。

 その際に私の真の固有魔法である『振動』を使うことによって、さらなるダメージを加速させる。私の突撃の気づいた女がこちらにライフルを向けるが、もう遅い!!

 私の振るった烈風丸は女の握るライフルの銃口から重心までを切り裂き、勢いを殺すことなく女の纏ったIS『ラファール』を切り裂いた。

 その一撃によってISのSEは完全になくなったようで、ISが強制解除されて女の体が外に投げ出される。

 こうして、戦闘は終わった。え?男たちが残ってるって?

 はっはっはっ、拳銃だけを武装した生身の人間は私たちに敵うはずないじゃないか。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 その後、無事に女+αをとらえた私たちは、保護した男の娘(誤字にあらず)に対してなぜこのようなことが起こったのかを聞こうと、近づいた。

 だが・・・・・・

 

 「寝てしまった、か・・・」

 

 「はい。坂本さんたちの戦闘が終わったと同時に、糸が切れた人形みたいに気を失ってしまって・・・」

 

 「そうか・・・だが当然だな。こんなにも幼いのに普通に生きていれば経験はしないようなことを経験したんだからな」

 私は心地よさそうにぐっすり眠る男の娘の頭を撫でながら、宮藤に返事をする。あ、そうだ・・・

 

 「宮藤、それでこの子の容態は?」

 

 「はい、それが・・・」

 ?どうしたんだろうか、宮藤らしくない。宮藤はいつもならこのようなことに関してはすぐに言うが、今は言うのをためらうような感じだった。

 

 「どうしたんだ?ケガなんてIS用ライフルの弾が掠ったくらいだろう?」

 

 「いえ、それもあるんですけど・・・」

 本当にどうしたんだろう?

 

 「すぅ~はぁ~・・・じゃあ言わせてもらいます。はっきり言って異常の一言です」

 

 「異常?どういうことだ?」

 

 「この子は銃弾のかすり傷に加えて、右の上腕骨が折れていました。それに手当はされていましたが、満足のいくような手当ではなく素人知識での応急手当でしたし、体のあちこちに複数のだ僕が見られました」

 私は宮藤の言葉を聞いて戦慄していた。医学も何も知らない素人が見たとしても、大変な傷だったということはわかるし、こんな幼い子供が負っていい傷でもないからだ。

 

 「坂本さん、私・・・この子をここに置いていきたくないです」

 

 「ああ・・・とりあえず警護の方は他の奴らに任せて、私たちはこの子を連れて基地に帰還しよう。ミーナ、別に構わないな?」

 

 「ええ、私もそんな子を放置して帰るなんて嫌だし・・・」

 ミーナの言葉を聞いた私は、この子を抱きかかえる。所謂『お暇様抱っこ』という奴だろうか?私はそういうところにも詳しくないのでわからないが・・・とにかく抱きかかえた。

 そしてハルトマンがあけた天井の穴から飛び出すと、基地に向けて飛んでいった。

 



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プロローグ:原作前6(いつまで続くの(´・ω・`))

 ~織斑一夏side~

 

 「んっ・・・うん・・・?」

 僕は目を覚ますと、見知らぬ天井がまず目に飛び込んできて、体を起こすと現在となっては珍しいような装飾の部屋にいた。

 あっちにある棚にいくつかの薬品があることから、ここが医務室であるということがわかった。

 僕はベッドから降りて、コート掛けに掛けられていたカーディガンを羽織ると、木とガラスでできた懐かしさを感じさせるまだを開けた。そして僕の目に飛び込んできた景色は・・・

 

 「うわぁ・・・!すごい奇麗!」

 いつもはこんなに大きく驚かない僕でも、目の前に広がる光景には素直に驚いた。

 透き通るような青い海、眼下に見える街には中世ヨーロッパあたりに建てられたようなオシャレな家が広がっていて、目の前に存在しているものすべてが僕の眼にはきれいに写った。

 

 ガチャッ

 扉の方から音がしたので僕は扉の方を見る。部屋に入ってきたのは、僕のことを助けてくれた人たちのうちの2人の()()だった。

 

 「・・・もう動いて大丈夫なのか?」

 

 「へ?あれ?そういえば腕の痛みが・・・って、何をしてるんですか!?」

 右目を眼帯で隠した女性が僕に問いかける。僕はそこでやっと違和感に気づいた、腕の痛みがなかったのである。

 僕がそれを不思議に思って質問する前に、セーラー服姿の女性が僕の腕を取って僕の体の隅々を確認してきた。

 僕はそれにあえて触れることなく、眼帯の女性に質問することにした。

 

 「あの・・・ここは?」

 

 「む・・・?あぁ、そうか説明がまだだったな。ここは地中海の連合軍所属『第501戦闘航空団ストライクウィッチーズ』の拠点だ」

 

 「基地?ここが?」

 僕は純粋に驚いていた。窓から見える景色には基地を感じさせるものは一切なく、ここが基地だということがわからなかったからだ。

 

 「はっはっはっ!驚いているようだな・・・・・・まぁ、厳密にいうならこの医務室から見える方は基地ではなく研究員たちが住む街だがな」

 

 「あ、こっちは基地じゃないんですね」

 

 「そういうことだ。・・・それと、名前は何という?」

 微笑みを僕の方に向け、頭を撫でながら眼帯の人は優しく問いかけてくる。僕はその撫でている手に、今まで一度も感じたことのない不思議な温かさを感じた。

 ちなみに僕の体を診ていたセーラー服の人はいつの間にか眼帯の人の後ろに立っていた。いつ移動したんだっけ?

 ずっと撫でてもらいたいという気持ちを抑えて、話が進まないので話すことにした。

 

 「僕の名前は・・・名前は『織斑一夏』です。こんな姿ですけど・・・僕は男なんです」

 

 「む?そうか、私は坂本美緒。君を救助したもので、ストライクウィッチーズの戦闘隊長だ。そしてこっちは宮藤芳佳。君の怪我のチェックをしてもらっていた。・・・それと」

 眼帯の人--坂本さんはそこで一度言葉を区切った。そして悪そうな笑み、具体的には何かを企んでいるかのような笑みを浮かべていった。

 

 「言い忘れていたが、私も男だ」

 

 「ほぇ?え、えぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 医務室に僕の驚きの声が響き渡った。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 坂本美緒side

 ふっふっふ、うまくいったな。私はこのような見た目ゆえに、昔から男ではなく女として見られることが多かった。そしていつの間にかその人が男か女かをわかるようになっていたのだ。

 ・・・まぁ、時々本当に見分けられない者もいるがな。

 それは置いておくとして、私は落ち着いた一夏くんに詳しい話を聞いていた。

 

 「ところで・・・『織斑』というともしかして・・・?」

 

 「はい・・・織斑千冬は僕の姉です」

 一夏くんの顔に心なしか若干の暗さが宿る。多分だが、体にたくさんできていたあのケガに直接的かどうかはわからないが、関係しているんだろう。だが、私はあえてそれについては触れなかった。

 

 「だけど・・・だけど、僕はもう千冬姉からは必要とされてないんだ。千冬姉がインタビューで『弟に』って言っていたけど!あれは僕じゃなくて、弟の  の方だと思うんですよ!・・・・・・もぅ、もうどうしていいのかわからないんですよ・・・」

 それは心からの叫びだった。一夏くんのすべてを感じ取ったわけではないが、この叫びは家族の愛を受けなかった『愛に飢えた幼き獣』としての叫びだった。

 私はそんな一夏君のそばまで寄ると、一夏くんの頭を胸に抱きかかえた。

 

 「ふぇ・・・?」

 

 「・・・・・・つらかっただろうな。君みたいにまだ幼い子供がそんなつらい体験をしていたなんて」

 

 「あぁ・・・あぁぁ・・・」

 

 「私には君と同じ体験をすることはできない。だけど、つらい時は泣いてもいい、悲しい時は誰かを頼って泣いてもいい。だから・・・もう無理をするな」

 

 「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁん!」

 途中から一夏君の目尻には涙がたまり始めていたが、私が放った最後の言葉で私の胸に頭を押し付けて泣き出した。

 私はそれに一瞬だけ驚きはしたが、すぐに一夏くんの頭に手を乗せて撫でた。

 

 --------

 それから数分後、一夏くんは泣き疲れてしまったようで、寝てしまった。

 私はそんな一夏君をベッドに寝かせ、タオルケットをかけて宮藤と共に医務室から出ていった。

 

 「・・・・・・あの子、これからどうなるんですか?」

 宮藤と共に格納庫までの廊下を歩いていると、宮藤がおそるおそるといった感じで聞いてきた。

 

 「・・・少なくとも、今の私たちだけでは決めることはできない。だが・・・」

 

 「だが・・・?」

 

 「結局最後に決めるのは、個人だからな。そこのところは一夏くんに決めてもらうさ」

 

 「そう、ですか・・・」

 その言葉を聞いて宮藤の顔に影がさす。

 ストライクウィッチーズの医療担当ゆえに、彼の治療を間近でしてきた。そんな彼女だからこそ、少女のような姿の彼に思うところがあるのだろう。

 私はそれに対して何も言わず、ただ歩き続けた。

 そしてそのまま歩き続けると、格納庫に着いた。

 

 「~~~~!」

 

 「~~、~~」

 

 「~、~~!」

 格納庫の中では、バルクホルンとハルトマンが何かを言い合っていた。

 私たちが少しづつ歩み寄っていくと、会話の内容が聞こえてきた。

 

 「そもそもだな、お前はどうやったら給弾機をなくすことができるんだ!?」

 

 「そんなこと言ったって・・・・・・あぁ!坂本と宮藤じゃん、どしたの?」

 

 「あ、おい待てハルトマン!話はまだ終わって・・・」

 

 「いいじゃん別に~坂本が来たんだしさ」

 

 「んなっ///!?」

 ハルトマンが私の方に来る際に、最後に何か言って、それを聞いたバルクホルンが顔を真っ赤にしてしまった。私はそれを不思議に思って首を傾け宮藤の方を見るが、宮藤はどこか不貞腐れていた。

 私はそれを見るが、忘れていたハルトマンの突撃時の衝撃が私の腹を襲った。

 

 「うっ・・・!」

 

 「へへへ。さ~か~も~と~、何しに来たのさー?」

 ハルトマンは私の腹に刺さった頭を上げると、私の腕に自信の腕を絡ませながら上目遣いで言ってきた。

 

 「うぅ・・・今日はマガジンの給弾に来たんだ」

 

 「へぇ・・・・・・あ、坂本。あれ貸して!」

 

 「あれ?ああ・・・あれか」

 私はハルトマンが言ったあれがさすものの正体を思い出すと、拡張領域からそれを取り出す。

 すると私の空いていた右手に青色の粒子が集まって、それの形を作っていった。

 

 「ほれ、今度はなくすなよ」

 

 「わ~!ありがとう!」

 私がハルトマンに渡したのは、ハルトマンが持っているもう一つの銃『MP40』の給弾機だった。なぜ私がMP40の給弾機を持っているかというのは、話が長くなるために割愛させてもらう。

 私から給弾機を受け取ったハルトマンは、すぐ弾薬箱から球を取り出して装填をし始めた。

 それを見たバルクホルンはため息を一つ着くと、私に近寄ってきた。

 

 「坂本少佐、あんまりハルトマンを甘やかさないでくださいね」

 

 「む?甘やかしているつもりはないんだがな・・・」

 

 「・・・・・・なんでハルトマンばっかりぃ、羨ましぃ(ボソッ)」

 

 「何か言ったか?」

 

 「い、いえっ!なんでもありません!」

 

 「?そうか」

 バルクホルンはそう言いながら少しずつ私に近寄ってくる。それを私は不思議にも思わず、バルクホルンに他のことを聞いてみた。

 

 「バルクホルン」

 

 「っ!な、な、なんでしょうか」

 

 「ん、いや、ハルトマンは今回はどういった理由で給弾機をなくしたんだ?」

 私は気になっていたのだ。ハルトマンが給弾機をなくす理由としては、『なくした』とか『どこやったのかわかんない』とかそんな感じの理由だ。だが、時々とんでもない理由でなくすことがあるのだ。

 

 「あ~・・・今回は、ですねー・・・」

 バルクホルンはまるで自分のことのように思い出して、恥ずかしくなっている。きっとハルトマンが同じカールスラント軍人だからという理由で恥ずかしいのだろう。・・・かわいい奴め。

 

 「なんというか・・・本当にくだらないんですけど、この間のモンドグロッソの時に落としていたみたいなんですよ」

 

 「そうか・・・だいたい予想通りだったな」

 

 「ええそうでしょう・・・へ?予想通り?」

 私はハルトマンが給弾機をなくした理由を、何となくだが察していた。その理由としては、先ほどハルトマンに渡した給弾機にあった。

 

 「先ほどハルトマンに渡した給弾機はな、モンドグロッソであの少年を救出した際にハルトマン自身が落としたものなんだよ」

 

 「へぇ・・・えぇぇぇぇぇぇぇ!!??は、ハルトマンがご迷惑をおかけしました!」

 

 「いや、別にいいさ。あいつのあの癖はたぶん治らないと思うからな。・・・・・・さてと、私も装填をするかな」

 私はバルクホルンに言ってから、ハルトマンが今も弾を込める弾薬箱の近くに歩んでいく。そして弾薬箱の近くに来ると、拡張領域からドラムマガジンタイプ専用の給弾機を取り出して九九式のドラムマガジンをセットしてレバーを回す。

 そうやってしばらく装填していると、宮藤と仲の良い『リネット・ビショップ』が格納庫の中に入ってくる。そして宮藤と私の間を陣取って、彼女も自信の武器である『ボーイズMk.I対装甲ライフル』と『ブレン軽機関銃Mk.I』のマガジンに弾を込めていく。

 

 「・・・・・・リーネちゃん、なんで私と坂本さんの間に割り込むの?」

 

 「給弾のための弾薬箱が一番近かったし、それにそこが空いていたからだよ?芳佳ちゃん」

 はて?心なしか二人の身に纏う空気が変わったような気がする。具体的には悪くなった意味で。

 おかしいんだ。この二人はいつも仲良しのはずなのに、時々今のような状況になることがある。その時に出てくる威圧感は・・・・・・想像したら寒気がしてきた。

 私は一刻も早くこの空間から抜け出すために、無心になってマガジンに弾を込めることにした。するとどうだろう、いつもよりも圧倒的に早く終わったのだ。

 私は装填し終わったドラムマガジンを拡張領域にしまうと、私は勢い良く立ち上がった。

 

 「じゃ、じゃあ私は先に行ってるぞ!お前たちも頑張ってな!」

 

 「「「「・・・・・・」」」」

 私は背中に四人の鋭い視線を受けながら、早足に格納庫を出ていった。

 

 「しかし、いったい何だったんだ?」

 私は自室に向かう途中の廊下を歩きながら、先ほどのことを考えていた。

 宮藤たち二人の空気が悪くなる時、たいていその時は私が一緒にいる時だ。それにハルトマンのあの過剰なスキンシップ。もしかして・・・・・・

 

 「私が・・・好きなのか?・・・はは、ないな。私のどこに好きになる要素があるっていうんだ?」

 よそうこんな話は、自分の心を傷つけるだけだから。

 そのまま気持ちを切り替えて廊下を歩いていると、後ろから聞きなれた声がかかった。

 

 「美緒」

 

 「ミーナか。どうした?」

 

 「いえ、ただあなたをお茶に誘いたくて」

 

 「そうなのか?じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 別に部屋に戻ったところで、何もすることはないのでミーナの言葉に甘えることにした。そのままミーナの後について、ミーナの部屋に入る。

 

 「紅茶を淹れてくるから、くつろいでいて頂戴」

 

 「ああ、わかった」

 私はミーナに言われたとおりに、窓の近くに設置してある少し高そうな椅子に腰を下ろした。そして物思いにふけていると、ミーナがキッチンから紅茶と茶菓子を持ってこちらに歩いてきた。

 そして机にトレーを置くと、ミーナも私と同じように椅子に座った。

 

 「ふぅ・・・さぁ飲んで頂戴」

 

 「ああ、いただくとしよう」

 そう言ってから私はティーカップを手に取ってから、紅茶を飲む。ふむ・・・ダージリンか・・・・・・ダージリン、戦車、クルセイダー巡航戦車、うっ頭が。(リミッター全開ですわー!)

 そういった考え事は頭の隅に置いておいて。ダージリンの良いにおいが肺を満たし、好ましい刺激的な渋みが私を幸福にいざなってくれる

 

 「それで・・・?あの子はどうだった?」

 

 「ああ、一夏くんのことか。一夏くんは・・・傷がすごく多かったし、多分隠しているけど精神的な傷も多いだろうな」

 

 「そう、なのね・・・」

 ミーナの顔に悲しみが宿る。やはり彼女もまだ齢十一の幼い子供が、私たちが想像もできないようなことを受けていたという事実を認めたくはないのだろう。

 わたしは茶菓子の中からクッキーを取り出してからそれを口に運び、紅茶で口を潤わせてから再び話を始めた。

 

 「・・・一夏くんが起きたら、彼の考えを聞こうと思うんだ」

 

 「どういうこと?」

 

 「彼が自分が魔力を持っているということを知ったうえで、この先どうしていくのかを」

 

 「・・・最後に決めるのは周りではなく、その人自身が決める。っていうことね」

 

 「そういうことだ。だから私たちは一夏くんがどっちをとってもいいように、準備をしていこうではないか」

 

 「ええ、わかったわ」

 ミーナに紅茶のお代わりをもらいながら、私は話を続けていた。そしてその話にミーナも納得してくれた。

 私はそのいっぱいを飲み干すと、『ごちそうさま』とミーナにお礼を言ってからミーナの部屋を出ていった。そしてまた自分の部屋に戻るために廊下を歩きだす。

 

 「一夏くんが起きるのは・・・明日くらいか。一夏くんが起きたら、あの事を言わないとな」

 私はそれを心に難く決心して、自分の部屋に入った。

 --------

 そして翌日の朝。私と宮藤、そしてミーナの三人で一夏くんの朝食を運んだ。そして一夏君が食べ終わり、少し落ち着くと本題に入った。

 

 「一夏くん。今から言うことは嘘ではない、すべて真実だ」

 

 「?何のことですか?」

 一夏くんは首をこてんと傾げて私たちに問いかけてくる。わたしは一回だけ深呼吸をしてから、一夏くんと視線を合わせてから話し始めた。

 

 「一夏くん、君は魔力を持っていてウィッチになれる資格がある」

 

 「ウィッチ、ですか?僕が?」

 

 「ああ、そうだ」

 一夏くんはこのことを聞いたとき、目を見開きながら私に確かめてきた。誰だってそうだろう、いきなり『君は魔力を保有していて、ウィッチになれます』なんて言ったら、まず出てくる言葉は『何言ってんだこいつ?』だろうからな。

 まぁひとまず私はそんな一夏君を放置して、話を進めていく。

 

 「モンドグロッソ決勝戦で誘拐されたとき、君は魔法陣を張っていただろう?」

 

 「魔法陣・・・ああ、あれですか!」

 一夏くんはそう言ってから右腕をベッドの横に突き出して、防御魔方陣を展開する。・・・やはりな。

 

 「一夏くん。その防御魔方陣は、本来魔力がある『女性』にしか張れない者なんだ」

 

 「え、そうなんですか?でも、僕と坂本さんは男なのに張れてるじゃないですか」

 

 「そう、私たち二人は唯一の例外なんだ。男なのに魔力を保有しており、『魔女(ウィッチ)』の称号を持つ者としてな」

 

 「ウィッチの称号を持つ者・・・」

 一夏くんは感慨深そうに繰り返した。

 そして私は本当の話題に入るべく、一回だけ咳払いをしてから話を切り出した。

 

 「一夏くん、それを知ったうえで君に聞きたいことがある」

 

 「聞きたい・・・こと?」

 

 「ああ、魔力を持った女性は数少なく、しかもそこからウィッチになる数は少ないんだ。だから、強制はしない、だがその力を私たちウィッチーズに貸してほしいんだ」

 

 「・・・・・・」

 私は一夏くんに深々と頭を下げる。後ろを横目で見れば、二人もいっしょに頭を深々と下げていた。

 一夏くんは私たちの姿を見て少し迷っているらしかった。だが、すぅ~というような大きな呼吸音が聞こえると一夏くんは答えを言い始めた。

 

 「僕は・・・僕は力が欲しいんです。傷つけるための力ではなく、大切なものを守れるだけの力と他人に誇れるくらいの力が」

 

 「「「・・・・・・」」」

 

 「だから、ウィッチーズに入隊します」

 

 「っ・・・!」

 

 「よろしくお願いします。えーと、坂本・・・?」

 

 「あ、ああ、そういえば階級を言ってなかったな。私の階級は『少佐』、織斑一夏。君の入隊を歓迎する」

 

 「ありがとうございます!坂本少佐!」

 こうして一夏くんは私たちストライクウィッチーズに入隊して、世界で二番目の『男性魔法使い』になった。



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プロローグ:原作前7 (プロローグ終了!閉廷!解散!)

 今回はかなり長いです。あとオリジナル設定多めなので、それがダメな人はブラウザバック推奨。
 それがOKだという人は、ゆっくりしていってね!


 ウィッチーズに入隊することを決めた一夏くんだが、そのためにはまず専用のストライカーユニットを支給することが必要だった。

 

 「・・・というわけで、何がいいと思う?」

 

 『うーん・・・』

 私と宮藤を除いた九人は困ったようにうなる。ちなみに宮藤は現在、傷を治した一夏くんのそばで看病してくれている。いくら傷が治ったとはいえ、いきなり動いたら傷が開いてしまう可能性があるからだ。

 まぁ、それは今は関係がないので置いておくとして・・・。私たちは現在前述したように、一夏くんに支給する専用のストライカーユニットを選んでいるのだが・・・

 

 「ここまで意見が違うことになるとは・・・」

 

 「あはははは・・・」

 ミーナが苦笑いで私の言ったことに賛同?してくれる。先ほどからみんなに聞いていたが、全員が自分の国のストライカーユニットを押してくるので話が進まない。今だってみんなで『メッサーシャルフがいい』だの『いや、ノースリベリオンだ』とかの言葉が聞こえてくる。

 

 「あら・・・?そういえば美緒、あなた前に新型ユニットの試験飛行をしていたわよね?それは使えないの?」

 

 「紫電改のことか?あれはまだ試作段階だったから、山西航空に返却したぞ?だから一夏くんに渡すんだったら、わたしはガリア空軍の『アルミュルィ』を薦めるぞ」

 わたしはそう言い放つ。その言葉を聞いたみんなからは『なんで!?』『そんな・・・』などの落胆がこもった言葉を小さなボリュームで言われる。

 わたしはため息を一つだけ付きながら、アルミュルィを薦めた理由を説明し始めた。

 

 「はぁ・・・わたしがアルミュルィを薦めたのはな?アルミュルィ自体がとても優秀な成績を収めているし、それについ先日報告された内容によれば、アルミュルィの性能改善機をガリアが作ったそうじゃないか」

 

 「あぁ、そういえば本国からそんな報告も来ていましたわね」

 ガリア出身のペリーヌからそんな声が漏れる。というか、そういう内容の報告はちゃんと覚えていてくれよ、ペリーヌらしくない。

 私は心の中でそう思いながらも、話を続ける。

 

 「その機体は『アルミュルィVG.39bis型』、最高速度は確か・・・420マイルだそうだ」

 

 「よ、420マイルゥ!?そ、それって時速675キロメートル相当じゃない!!よくそんなものを・・・」

 

 「驚くのも仕方ないが、話をつづけるぞ?子の機体だが、つい先ほど私がガリアの方に確認を取ったところ・・・二つ返事で使うことを許可してくれた。っていうかお願いまでされた」

 

 「えっと・・・それってつまり・・・」

 

 「一夏くんの専用ユニットはアルミュルィVG.38bis型になるな」

 わたしの言葉に先ほどとは違う、納得したような声が漏れてきた。

 

 「あの・・・坂本少佐」

 

 「む?どうした?サーニャ」

 手を挙げて私に質問してきたのは、夜間戦闘を得意とする『サーニャ・V・リトヴャク』だった。

 わたしはサーニャを指名して、質問するように促す。

 

 「は、はい・・・その・・・一夏さんはこのストライクウィッチーズの所属になるんですか?」

 

 「ん?あ、あ~・・・一夏くんには一人前になったら、新たな統合戦闘航空団を任せようと思っているんだ」

 

 「新しい・・・航空団、ですか?」

 この言葉に少し騒いでいた全員の視線が、すべてわたしに突き刺さってきた。わたしはそれに対して一回だけ咳ばらいをすると、疑問で返された航空団についてを話し始めた。

 

 「一夏くんが一人前になったら任せる予定の航空団。それは今まで手薄だった日本・・・いや、細かく言うと『IS学園』の警備を担う部隊だ」

 

 「IS学園、ですか」

 

 「そうIS学園だ。IS学園には現在、専用の護衛部隊などはなく在学している世界各国の代表候補生や代表、そしてISを扱える教師が外敵から学園を守っている状態だ」

 

 「それは・・・ちょっと、頼りないですね・・・」

 IS学園。それは世界各国から集められた、優秀なIS操縦者の卵たちにISの基本的なことはもちろん、ISの整備や戦術を教える場所だ。もちろんこの連合参加国の中からも優秀な操縦者たちを数多く輩出している。

 だが、このIS学園は『IS運用協定』通称『アラスカ条約』で定められた『学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されない』という条文があるために、世界のどの国も防衛という()()で部隊を送ることができないのだ。

 しかし・・・

 

 「しかし、IS学園の方から直々にウィッチーズを防衛部隊として結成してほしいと連合国に言ってきた」

 

 「IS学園の方から・・・それで?連合国(こっち)側の返事はどうしたのさ、坂本」

 

 「連合国はこの件を聞き入れた。もともと、この連合国からも輩出しているIS学園の防衛力が小さすぎるのも、上の連中の悩みどころだったらしいからな」

 

 「ああ・・・そういえば連合各国の代表選手もあそこに行ってるもんね~連れ去られたりしたら大問題じゃん」

 今ハルトマンも言ったように学園には代表選手も言っているため、誘拐されたり殺されてしまったらそれだけでその国にとっては大問題なのだ。

 わたしは話を続ける。

 

 「そこで話を聞き入れたこちら側は、新たな航空団を結成して学園に派遣することに決めた。そこで体調を任せようと思うのが、一夏くんだ」

 

 「・・・・・・ん?ちょっと待って、その航空団の結成指揮って坂本に一任されてるの?」

 

 「ああ、連合は私に新たな航空団のメンバーや使用するストライカーユニットの選択は私に任せるそうだ。まったく、私も信用されるようになったな」

 

 「なるほどね~あ、話続けていいよ」

 

 「・・・その航空団のメンバーとしては、あらかた目星はつけているんだ。これを見てくれ」

 わたしはそう言うと、プロジェクターをつけて目星をつけておいたメンバーの表を出す。

 

 「は~・・・こりゃあ、驚くほどに有名なところの娘ばかりだね」

 

 「あら・・・私と同じ出身の人もいますのね。しかもあの『デュノア社』のご令嬢とは・・・」

 

 「あら美緒ったら、ラウラちゃんまで入れるのね」

 

 「ああ、あいつのあの能力はウィッチであるからこそ生かされるものだからな。あそこで腐らせるのはもったいない」

 そこに映し出された表に乗っていた名前は、大半が有名なところの令嬢か、貴族の家の当主だ。まあ、大半っていっても映っているのはたったの三人なんだけど・・・

 

 「一夏くんにはまずこの三人と接触してもらい、有効な関係を結んでもらう。わたしたちは、この子たちの保護者を説得する。以上だ」

 わたしはそこで話を区切り、みんなを見渡す。みんなは了承してくれたようだった。

 

 「さて・・・これにて会議を終了する。解散!」

 これにて、一夏くんの今後と新たな航空団についてを話し合う会議は終わった。

 

 

 ------------

 ~五年後~

 あの会議から約五年がたった。え?日付が飛びすぎて何があったのかわからない、だと?

 仕方がない、この五年で何があったのかを少し駆け足気味で教えていこう。

 まずあの会議の一月後、あの表に乗っていた三人と一夏くん・・・いや、一夏が接触し、一夏のお手柄でウィッチーズに入隊してくれた。三人とも初めのころは一夏のことを警戒していたが、少しずつ緊張がほぐれて仲良くなってくれた。

 だが、予想外のことにラウラが一夏のことをお気に召さなかった。ラウラによれば『坂本さんが見ず知らずの男に取られる!』と言っていたが、二人は少しずつ喧嘩をしたり言い合ったりしていくうちに仲良くなっていた。・・・というよりも、一夏を愛する者同士の同盟が作られていた。

 そして一夏たち三人を私たちストライクウィッチーズで訓練させることが決定した。もちろん、優しくしては訓練の意味がないので厳しくやった。最初のうちは夜になれば()()()()()()に四人で死人のように眠っていたが、慣れてくると段々余裕が生まれて色々聞こえるようになってきた。色々って何かって?・・・そりゃあ、その・・・ナニだよ///

 ま、まあそんな話は置いておいて///一夏たちの成長は予想よりも早く、予定では一年で起訴をすべて教えることになっていたが、約半年ほどで教え終わってしまった。

 言い忘れていたが、一夏以外のほかのメンバーは・・・

 フランス(ガリア)出身で、有名なIS『ラファール』と一夏専用機である『アルミュルィ』を作った『デュノア社』の社長令嬢である 『シャルロット・デュノア』

 

 ドイツ(カールスラント)出身で、私のことを姉のように慕ってくれて、黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)のもと隊長である 『ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 ちなみにシュヴァルツェ・ハーゼの方は頼りになる人に任せておいた、まさかあいつがあの隊にいたとは・・・

 

 イギリス(ブリタニア連邦)出身で、名門貴族『オルコット家』の当主、わずか十一歳にして()()()()()遺産を分家(ハイエナたち)から守り切った少女 『セシリア・オルコット』

 

 の三人だ。この三人は非常にウィッチとしての素質もよく、コンビネーションも素晴らしかった。

 話を戻すが、この四人はあっという間に基礎訓練を終わらせて、実地訓練・・・つまるところ、このストライクウィッチーズでの任務をこなしていくことになったのだ。

 ラウラはつい半年前まで現役でISを動かしていたために、さすがの一言だったが。ほかの三人はまだISを動かすどころか、触ったこともなかったために慣れるまで数年かかってしまった。

 あ、その道中で一夏が普通にISも使えることが判明した。魔力を持っていれば必ずしもISを動かせるとは限らないのだよ。

 そしてやっと実地訓練が終わり実地試験も終わって、新たな航空団を任せたところで衝撃のニュースが世界に響き渡った。

 

 『日本にて、世界初の()()I()S()()()()発見!動かしたのはあの世界最強(ブリュンヒルデ)の弟である『織斑秋斗』さん!』

 この件によって、連合国が極秘にしていた私と一夏の正体を隠す必要がなくなって、連合国はISを動かすことのできる男子が二人いることを世界に打ち明けた。

 それで例によってぁの赤き国旗の国とか朝鮮半島の下の方の国は何か言いだした。『ISを動かせる男子を寄越せー』とか『独占するなー!』とかそんな感じの内容だった。もちろんスルーした、対応するのが面倒くさい。

 一夏たちは当初の予定通り、IS学園の防衛するための航空団『第508統合戦闘航空団infinite WITCHES』を結成して、通学のためにもIS学園に行くことになった。

 そしてなぜか私も男性IS操縦者という理由でIS学園に行くことになった。・・・ストライクウィッチーズのみんなも連れて。

 私たちストライクウィッチーズがいない間は、第502のブレイブウィッチーズの方でブリタニアの防衛もしてくれるそうだ。・・・後でお礼に何かを持っていくとしよう。

 そして現在私たちは、日本のIS学園に向けて航行する『連合艦隊旗艦 Warspite(ウォースパイト)』の船内にある応接室で、ある()()()()と話をしていた。

 

 「・・・それでは、篠ノ之博士?ここに来た理由を教えてもらえますか?」

 

 「ここに来た理由~?それはもちろん、いっくんに会うためさ~!やほ~!いっくん、元気にしてた~?」

 

 「は、はい束さん、元気にしていましたけど・・・ちょっと苦しいです」

 

 「あ、ごめんね~」

 重要人物・・・ISの生みの親である『篠ノ之束』博士は、豊満な胸に埋めていた一夏を離すと、こちらに視線を向けてきた。

 その表情は、とても真剣なものだった。

 

 「まずは、そうだね・・・いっくんを助けてくれてありがとう!」

 

 「ちょっ!?は、博士!?頭を上げてください!」

 

 「いや!この件については、ずっっっとお礼を言いたいと思っていたの。だからお礼は言わせてほしい!」

 目の前にいる重要人物たる篠ノ之博士は、私に向かって急に頭を下げてきた。わたしはそれに驚いて、頭を上げるように言うが、篠ノ之博士は頭を上げようとしない。

 仕方ない、一夏に援護を求めるとするか・・・

 

 「一夏!篠ノ之博士をどうにかしてくれ!?」

 

 「無理です。わたしもこんな束さんは見たことがありませんし、私もこう見えて混乱しているんです」

 

 「あ、そう」

 一夏に求めた願いはあっけなく散ってしまった。後ろで私たちの動向を見ていたミーナとラウラも、博士が頭を思いっきり下げたことに混乱してしまっている。あれでは援護を求めることができない・・・

 

 「と、とにかく!頭を上げてください博士!」

 

 「いや!何か君がお礼として求めてくるまで、頭はあげないもん!」

 

 「絶対楽しんでませんか!?」

 お礼として何かを頼む!?ISの生みの親にか?いったい何を頼めっていうんだ・・・下手なものを頼んだら、最悪それをめぐって戦争が起こるぞ!?

 お礼・・・お礼・・・

 はっ!そうだ、あの手があった!

 

 「で、では博士。あなたに頼みたいことがあるのですが・・・」

 

 「うん、何でも言っていいよ。き、君が望むんだったら私の体でも・・・」

 

 「随分と魅力的な相談ですが、そうではありません。わたしと・・・私と友達になってもらえませんか?」

 

 「・・・ふぇ?友達?」

 

 「はい、友達です」

 よく考えれば、簡単なことだった。なんでも頼めとは言ったけど、なにも形がある者だけじゃない。だから私は篠ノ之博士との友好関係を結ぶことにしたのだ。・・・これでも一悶着はありそうだが。

 篠ノ之博士は一瞬だけ呆けたような表情を作ってから、急に腹を抱えて笑い出した。

 

 「あっははははは!ひぃ~・・・いや~笑った笑った。まさか頼みごとが物とかを作るんじゃなくて()()()()()()()()()というのだとはね・・・君面白いね!君名前は?」

 

 「え?あ、私は坂本美緒。階級は・・・「あ~そこまででいいよ」・・・そうですか」

 

 「美緒ちゃんか・・・美緒ちゃんだから・・・君は今日からみーくんだ!よろしくね、みーくん」

 

 「・・・信じられないことですが、よろしくお願いします博士」

 

 「ノンノン!みーくんと私は友達だよ~?博士じゃなくて、束って呼んでほしいな~(チラッチラッ)」

 

 「・・・・・・わかった。これからよろしく、束」

 

 「うん!よろしくねみーくん!」

 わたしはそういうと博士・・・いや、束と固い握手をした。それにしても、みーくんか・・・その呼ばれ方は初めてだな、普段はなぜか『もっさん』って呼ばれるからな。

 握手が終わると、束は私たちと向かい側のソファーに座った。そして私たちがソファーに座ると、ミーナが束に紅茶を出してくれた。

 束はそれを一気に飲み干すと、『ありがとう』と小さな声でミーナに礼を言ってから話を始めた。

 

 「私がここに来た理由はね~?主に二つなんだ~」

 

 「理由?そりゃあまたどんな?」

 

 「うん、一つ目の理由としてはいっくんが所属している、統合戦闘・・・なんだっけ?まあ、それのメカニックとして私も所属したいんだ~」

 

 「「んなぁ!?」」

 これには私と一夏の二人だけではなく、後ろに控えて立っていた二人も同じように驚いていた。

 そんなことはお構いなしに、束は話を続ける。

 

 「いっくんやみーくんたちが着けるあの・・・ストライカーユニット?も気になるからね」

 

 「ストライカーユニット、か・・・?」

 

 「そう!・・・あれってさ、世間にも超重要機密として隠しているけど、あれ作ったのみーくんでしょ?」

 

 「!?もう知っているなら隠しはしないが、一応どこからその情報を仕入れたのかを聞いても?」

 

 「ん~?ふっふっふ~私には超優秀な子がいるのさ~紹介するね、おいで~クロちゃん」

 束がそう言うと、何もない空間から一人の少女が表れた。いや、何もない空間か現れたんじゃなくて、もともと束のそばにいたのか・・・

 だがわたしはここで強烈なデジャブを感じた。瞳は閉じているが、その特徴的な銀髪や小柄な体で思いつく人物と言えば・・・

 

 「「ラウラ・・・?」」

 

 「いえ、あなたたちが言っているラウラ・ボーデヴィッヒは、私の妹になります。私の名前は『クロエ・クロニクル』。血は繋がっているとは明確には言えませんが、そこにいるラウラと姉妹なのは変わりありません」

 

 「ふぇ?ということは、貴女が私の姉・・・?」

 

 「そうですね。ほら、甘えたいなら甘えていいんですよ?」

 

 「・・・・・・ゥ!!お姉さまー!」

 ラウラはクロエに飛びつくように抱き着いた。それを優しく受け止めると、クロエはラウラの頭を優しくなで始めた。

 わたしは家族の幸せの再開をしり目に見ながら、束と話をつづけた。

 

 「なるほど・・・あの子はラウラと同じ『試験管ベビー』で、あのシュヴァルツェ・ハーゼにいなかったってことはあらかた不適合だったんだろ?これが」

 親指で自分の右目を指さす。そこにはいつも通り黒い眼帯でふさがれた『ヴォーダン・オージェ』があった。

 

 「ううん・・・クーちゃんたちはちーちゃん・・・『織斑千冬』という存在になることを目指して作られたんだ。・・・今までにも何人かの子が『完璧じゃない』っていう理由で捨てられてたんだ」

 

 「・・・なんとも胸糞悪い話だな」

 

 「ええ、人間のやることだとは思えませんね」

 

 「・・・クーちゃんよりも前に作られた子は、助けてあげられなかった。だから私はこれ以上クーちゃんのような悲劇を起こさないようにするために、試験管ベビーを作り出していた施設を破壊したんだ」

 わたしは束が言ったことを、とある事件として知っていた。その事件は、私がまだラウラと出会う前にドイツのとある実験をしていた施設が何者かの襲撃を受けて壊滅した、というような内容だった。

 いつの間にか束の横には、ラウラを膝にのせてホクホク顔のクロニクルと、髪をぼさぼさにしながらも満足そうな笑みを浮かべるラウラの二人の姿があった。

 

 「坂本さま、私のことはクロニクルではなく『クロエ』で構いません」

 

 「なんでそれを・・・聞くだけ野暮か。わかった、お前のことはこれからクロエと呼ばせてもらうよ」

 

 「はい。わたしもよろしくお願いします」

 クロエにお礼を言われたわたしは、ミーナに紅茶のお代わりを頼んでから話を再開した。

 

 「お前に超優秀なクロエがいるのはわかった。だが、お前がインフィニット・ウィッチーズに入隊したい真の目的はなんだ?ストライカーユニットはあくまでも次いでだろう?」

 

 「ストライカーユニットがついでって・・・あれは私たちウィッチの中でも、限られた人しか知れないくらいの極秘情報なのよ?それがついでって・・・」

 

 「ミーナさん、これが束さんの通常運転ですからあまり気にしないでください」

 

 「ひどいなーいっくん、私もストライカーユニットのことを知りたいのは本当だよ?だけどね、本当の理由は・・・」

 六人しかいない部屋の中に、私とミーナ、一夏の三人の『ゴクリ』というような唾をのむ音が響く。ラウラ?あいつは姉と今一緒に遊んでいるよ、なんでゲームボーイアドバンスなんだ?

 

 「私が本当に入りたい理由。それは・・・・・・単純にいっくんたちに興味がわいたからだよ!」

 束のそんな能天気な言葉を聞いて、私たち三人は椅子からずれ落ちた。いや、ミーナは膝から少しガクッと崩れただけだったが・・・

 体勢を直したわたしは、ミーナの入れてくれた紅茶を一口飲んでから束に話の続きを促した。

 

 「そうか・・・そういうことにしておこう。それで?ここに来た理由の二つ目はなんだ?」

 

 「・・・この理由はいっくんへの質問なんだ。いっくん」

 

 「はい。なんですか束さん?」

 

 「いっくんはさ・・・ちーちゃんのことを恨んでいるのかな?」

 

 「っ・・・!?」

 その質問は一夏にとって大きな意味を持つ質問だった。現に、今の一夏は拳をぎゅっと強く握り、きりっと凛々しい顔にも皴を作っていた。

 そんな一夏をラウラは心配そうな顔をしてみているし、ミーナだって少し心配そうな顔をしている。・・・今の私は、どんな顔をしているだろうか。

 

 「嘘でも好きとは・・・言えません」

 

 「そう、なんだ・・・」

 

 「だけど!」

 一夏はそこでいったん言葉を区切る。そして何らかの決意がこもった目で束を見つめなおすと、言葉をつづけ始めた。

 

 「だけど・・・モンドグロッソのあの日に、千冬姉は私のことを捨てたわけじゃないと知ったときは・・・すごい、嬉しかった!」

 一夏が着ている青い服に、一夏の瞳から零れた一滴の雫が落ちる。わたしは気が付けば一夏の手を優しく握っていた。

 それを見た一夏は私の方を少し見る。一夏の瞳には溢れんばかりの涙が溜まっていたが、その瞳にはしっかりとした決意がこもっていた。

 

 「だから、千冬姉とはもう元の関係には戻れないとは思うけど・・・また新しい関係を作っていきたいと思うんです」

 

 「そう・・・」

 

 「それに・・・千冬姉があの時来なかったおかげで、坂本さんたち『ストライクウィッチーズ』の人たちとラウラ(彼女)たちとも出会えましたからね」

 クロエの膝から降りて一夏のそばに来ていたラウラの頭を、優しく一夏は撫でる。

 

 「そう・・・な~んだ、もうわたしたちから離れて行っちゃったのかー・・・」

 束の表情は複雑なものだった。自分の本当の弟のように可愛がっていた一夏の自立を嬉しく思う反面、それを寂しく思っている。

 

 「・・・だけどさ、いっくん」

 

 「はい?」

 

 「せめてさ・・・君が大人になるまではさ、私とちーちゃんを頼ってよ。それが、私のお願い」

 

 「・・・・・・じゃあ、甘えたくなったら私も甘えさせてもらいますね」

 

 「うん!」

 その言葉を聞いて、束の瞳からきらりと光る一滴の雫が流れた。だけど、束の表情は喜びであふれた、満面の笑みだった。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「あ、だけど秋斗だけは関係を持つのも嫌ですね」

 

 「そこまでなのか・・・?」

 

 「「うん(はい)」」

 

 「あははは・・・」

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 夜の飛行甲板。わたしたち四人は、いつでも飛びたつことができるようにカールスラント空母『グラーフ・ツェッペリン』に戻って休息をとっていた。だが、私はなかなか寝付くことができずにグラーフの飛行甲板に座っていた。

 

 「坂本さん」

 

 「一夏か・・・どうしたんだ?こんな夜更けに」

 

 「それはこっちのセリフですよ・・・はい」

 

 「おっとっと・・・ビール?わたしとお前は未成年だったはずだが?」

 

 「束さんがつくった完全ノンアルコールビールだそうです。なんでも炭酸水をベースに作ったとか・・・」

 

 「なんでもありかあの兎は・・・」

 わたしはそう言いながら、ビールの缶を開けて一口飲む。・・・キンキンに冷えてるのがなんか、こう、ムカつく。

 ちなみにその兎だが、一夏たちインフィニット・ウィッチーズのメカニックになるためIS学園についていくようで、今は束のために急いで用意した部屋でクロエと一緒に寝ているだろう。・・・いや、クロエはもしかしたらラウラと寝ているかもしれないな。

 

 「それで・・・?何を話しに来たんだ?」

 

 「んくっんくっ・・・え?ただ坂本さんと話がしたかっただけですよ?」

 

 「だから、その話の内容を聞いているんだ」

 わたしがそう言うと、一夏は何かを考え始めた。おいおい、まさか・・・

 

 「すいません、話の内容を考えてくるのを忘れました」

 

 「やっぱりか・・・そういうところは成長しても変わらないよな、お前」

 

 「言わないでください・・・結構気にしてるんですから」

 一夏は顔を赤くしながら、ビールを一口飲む。それにつられて私も一口飲む。

 さて、酒の肴になる話・・・あ、そうだ。ひとつ良い話があったな。といっても飲んでいるのは酒ともジュースともいえない何かだけど・・・

 

 「一夏、こんな話を知っているか?」

 

 「んくっ?どんな話ですか?」

 

 「わたしはウィッチになる前はロンドンの方でとあることを勉強していたんだ」

 

 「とあること?」

 

 「そう、わたしはロンドンで『魔術』というものを少しだけ勉強していたんだ」

 

 「魔術・・・ですか」

 一夏は少し信じられないような顔をしていた。それもそうか。

 

 「まあ、この話は信じてくれても信じなくてもいいんだけどな。まあ、話をつづけるぞ?この魔術の世界に関連する一つの話だ」

 わたしはそこで話をいったん区切り、のどを潤わせるためにビールを飲む。

 

 「『神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させるための理--人類の航海図。これを魔術世界では人理と呼ぶ』というような話だ」

 

 「人理・・・・・・だけどなぜこのような話を?」

 

 「ロンドンにいたころ、日本から魔術を学ぶために来た二人の先輩から一つの話を聞いてな、その話に出てきた一人の女性がお前にそっくりなんだ」

 

 「わたしに・・・ですか?だけど、なんで?」

 

 「さあな、わたしにも分からん。だけど私はこの話を聞いて色々調べた。だけど、わたしにはウィッチとしての才能はあっても魔術の才能はなかったらしくて、全然わからなかった」

 一夏はわたしのその話を聞いて少し驚いているが、わたしだって人間なので得意不得意はある。こいつは私のことを何だと思っているんだ、まったく・・・

 

 「だけど、調べてみてお前たちに関することでわかったことがある」

 

 「わたしたち・・・?それはインフィニット・ウィッチーズのわたしとラウラ、シャルロットにセシリアについてですか?」

 

 「ああ。残念ながらラウラとオルコットは違うが、お前とデュノアは世界的にも有名な人物の()()だった」

 

 「え!?え?だけどなんでそんなことがわかるんですか?その時は私たち四人はおろか、ストライカーユニットの人たちとだって会っていないじゃないですか」

 そう、その時の私には一夏のことやミーナたちのことはわかるはずがない。だけどそれは、出会う前の話だ。

 

 「はっはっはっ・・・何ヶ月か前にわたしが私用でイギリスに行っただろう?」

 

 「はい、確か言ったのはイギリスの・・・はっ!」

 

 「そう、イギリスのロンドンだ。その時にわたしはお前たちが戦闘時に使っている武器と、ちょっとだけ引っかかっていたことを調べるために調査をしていた」

 

 「調査・・・」

 

 「それでわかったことは、わたしを何度も驚かせた」

 

 「いったいどんなことがわかったんですか・・・」

 

 「お前たち二人共・・・そうとうすごい家系図だった。一夏は予想外の『アルトリア・ペンドラゴン』の子孫だし。デュノアの方はあの『ジャンヌダルク』の血を引いてるし。もう何なんだお前ら・・・」

 

 「え?わたしがアーサー王の子孫で、シャルの方は聖女ジャンヌダルクの子孫?へ?え?聖女って・・・?」

 

 「混乱しているところ悪いが・・・お前の使っていたその長剣」

 わたしは一夏の腰に下げている長剣を指さす。おっと、いつの間にかビールがなくなっていたので空き缶を()()()()()()。そして話を再開する。

 

 「それ、アーサー王が持っていた『エクスカリバー』だぞ?」

 

 「へぇ・・・え?えぇぇぇ!?」

 一夏はわたしが言ったことに、大きな声で驚く。それに反応して私は思わず耳を塞いだ。

 というか、よく考えればわかる話だろうに。一夏があの長剣を受け取ったのは、インフィニット・ウィッチーズが結成される一週間前。突然イギリスのエリザベス女王に呼び出された一夏は、新たな航空団を結成した()()()()()あの長剣(エクスカリバー)を受け取ったのだ。

 

 「あ、それと・・・デュノアの使っていたあの旗印と剣。あれは十五世紀のジャンヌダルクが使っていたものらしい」

 

 「・・・もう、驚くのも疲れました・・・」

 

 「あっそう、まあ話をつづけると。どうやらデュノアも十歳の誕生日の時にフランス王家からあの二つを貰ったらしい。このデュノアの話を聞いて、わたしはお前ら全員のことを一通り調べた」

 

 「それで・・・?」

 

 「なんとびっくり、お前とデュノアはさっきも言った通りアーサー王とジャンヌの子孫だったじゃありませんか」

 

 「・・・・・・もういやぁ」

 一夏から疲れたような言葉が漏れる。わたしはそれに何も言わずに開けていたもう一本のビールを飲むと、一夏の頭を抱き寄せて思いっきり撫でた。

 すると一夏はわたしの胸に頭を押し付け、少しすると嗚咽が聞こえてきた。一夏は昔から優しい子だったから、これから起こる姉との再会や様々なことを想っていたのだろう。

 だからこそわたしは、そんな一夏を拒むことなく優しく撫でた。成長したとはいえ、まだまだ繊細で純粋な心を壊してしまわないように・・・

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 それから数日後、私たち二つの航空団を乗せた連合艦隊は、日本からやってきた連合艦隊にその任を任せ帰還。IS学園に行くまでは、私たちが乗る艦は日本が世界に誇る『連合艦隊旗艦超戦艦 大和』になった。

 そして倭の中で波に揺れる日を数日過ごすと・・・

 

 「うわぁ・・・あれがIS学園なんだね!一夏!」

 

 「まったく・・・貴女は子供ですかシャル。ですが、本当にすごいですね」

 私たちの視線の先には、世界のどこにも属すことのない人工の孤島があった。その孤島こそがわたしたちが通うIS学園だ。

 しかし・・・

 

 「ここも綺麗だが、やっぱりわたしは地中海の景色の方が好きだな。うん」

 

 「もう・・・美緒ったら・・・・・・あら?そういえばわたしたちは今十八歳、つまるところ高校三年生なのよね?また高一から入りなおすのね・・・なんか複雑だわ」

 

 「そう・・・だな・・・」

 そんなどうでもいい話を交えつつ、わたしたちはIS学園に上陸した。



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