突然だが質問だ。"転生"という言葉をご存じだろうか?
因みに自分は2回程経験した。え?嘘をつけ?まあ、信じられないのもわかる。自分自身でも信じ切れていないのだから。
まあまあ。落ち着いて話を聞いてくれ。聞くだけ損かもしれないが、もしかしたら聞く価値のある話かもしれないぜ?
一度目の人生は平凡。これに尽きる。
平和な世界で平和な日常で、時に笑い、時に泣き。それだけの自由が保障されたぬるま湯のような優しくも残酷な世界。
争いごとはあったが彼の周囲では起きていなかった。偽りの平和を信じ込まされ、享受していた哀れな男。
だが、唐突にもその人生は幕を閉じる。25という若さで男はこの世を去った。
ここで男の物語は終わる。そのはずだった。そうならなければいけなかったのに、男は何故か転生してしまった。
天上の神々にでも気に入られたのか、前世から続く呪いなのか、それとも天文学的な確率での偶然か……
まあ、理由はどうであれ彼は転生してしまったのだ。いくら喚こうとその事実だけは変わらない。
彼の二度目の人生は剣聖。
ぬるま湯から無理やり引き上げられたような違和感。彼にとっては二度目の人生は地獄に見えただろう。
彼が生まれ落ちた世界は、前の世界風に言うなら"剣と魔法のファンタジー、上級者向け"といったところか……
ある王国貴族の中でも異端と蔑まれていた下級貴族の家があった。
その家に生まれた彼は、幼少期から過酷なほどの剣の修練を強要された。
兄と妹も同じ内容をやっていたが、ある程度時が経つとそれぞれ別な内容の修練を課された。
掌には肉刺が出来、さらにそれが潰れ血まみれになる。だが、それでも修練は緩まない。
弱音を吐こうものなら厳しい罰が待っていた。
三人ともそれがわかっていたので一切の弱音を吐かなかった。
その御蔭か、はたまた天性の才能なのか、彼は剣の扱いが上手かった。
数えで10の頃には最下級とはいえ竜種を狩って見せたのだから。
それからはいろいろとあった。
兄が討伐の最中に亡くなり、兄の婚約者と結婚して当主とならなければならなくなったり、妹が夜這いしてきて兄妹の一線を軽々と飛び越えてこようとしたり、王都に行ったら上級の竜種に襲われていたので首を切り落として瞬殺したり。
それから王に気に入られ、王子の剣術指南役として仕事を賜ったり、そのせいで他の貴族が嫌がらせをしてきて全て返り討ちにしたり、騎士団全員を治療院送りにしたり、騎士団が動けない状態で隣国が戦争を仕掛けてきたので一人で全滅させたり。
誰が呼んだか、"不敗の剣聖"。
だが、彼も純粋な人族。寿命には逆らえなかった。
3人の妻には既に先立たれ、初老に入った息子夫婦に幾人かの弟子、国王となった元王子に見守られながら息を引き取った。
彼の二度目の人生は、大往生で終わった。
3度目の人生は、これから始まる白紙の冒険譚。
彼は一人の老人に育てられた。今生の名は、ベル・クラネルという。
白髪に赤眼のただの少年である。
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出立
さて、数奇な運命という名の神の悪戯ともいえる天文学的確率の下に3度目の転生を果たし、今世では"ベル・クラネル"という名を貰った俺だが、その生活はまさに農民である。
片田舎に育ての親である祖父と二人で暮らし、朝日が昇るとともに起き、畑を耕し、木を切り倒して薪を確保し、他の農民と交流し、暇が出来ると剣を振り、極稀に村に迷い込んできた魔物を切り殺す。そんな生活である。
前世の魔物とは比べ物にならないほどに弱すぎるソレは、無造作に払った一閃で簡単に死んでしまう。
拍子抜けにも程がある。
試しにどれほど弱いのか調べてみたが、小石を頭に投げつけただけで死んでしまった時は、余りの弱さにその場で呆然としてしまった。
それと、祖父のことだ。どうやらただの人間ではないみたいだ。村の他の人間とは何かが違うが、正直育ての親に恩義や家族愛を抱くことはあっても、気味の悪さを抱くことはない。育ててくれるだけありがたいものだ。
その祖父は夜になると、寝物語に"
だが、その祖父の悪癖の一つが、女癖だ。畑仕事が終わって家に帰ると知らない女性とお茶してたり、一度だけあったのは祖父の寝室から喘ぎ声が聞こえた時は静かに家を後にして、庭で剣を振っていた。
煩悩退散とか思って振ってたわけじゃない。前世の全盛期に少しでも近づけるために振っていた。身内であろうと他人の情事に興味なんて無いし。
その御蔭か、前世で最初に覚えた技の"燕返し"ぐらいなら出来るようになった。前世よりも劣化しているが。
この技の元は、前々世の娯楽作品からだった気がする。もうすでに前々世のことはほとんど覚えていない。名前も、親の顔も覚えていない。
そして、ある日のこと。
「ベル。お前、オラリオに行ってみんか?」
祖父の言葉に首を傾げる。
オラリオといえばそこらの子供でも知っている、この世界で一番有名な都市の名前だ。
"迷宮都市オラリオ"
世界で唯一の迷宮が存在する、世界の中心とも呼ばれる都市。迷宮の真上に"バベル"という塔が建っており、バベルを中心とした円形の都市だったはずだ。後ついでに神がいるとか何とか。
「なんで?」
俺の疑問に祖父は不敵な笑みで答える。
別に俺の村はさほど物資が足りてないわけでもないし、基本自給自足だ。月一で来る行商人に足りないものを売ってもらえばそれで済む。
「理由は? 爺さんが神であることとなんか関係あるの?」
続けての疑問に祖父は目を見開く。
正直、祖父が神かどうか確信が持てなかったが、俺の勘が当たっていたようだ。
「いつ、気づいた?」
「カマかけただけ」
「むうぅ」
悔しそうな顔して唸る祖父を見て苦笑する。
見た目は老人なのに内面はまるっきり子供なんだよな、この人は……
「俺が邪魔になったって訳じゃないんだな?」
「うむ。それだけは絶対にない!」
「じゃあ、いいよ」
俺としても迷宮都市には興味はあったし、今の状況じゃこれ以上強くなれそうにないし。
「良いのか?」
「別にいいけど?断る理由もないしね」
「ならば前々から言ってる通り、ハーレムを作ってくるのじゃ!!」
「ボケたのか?」
祖父の女好きには困ったもので、ことあるごとにハーレムハーレムうるさい。
俺としては前世の記憶があるせいか恋愛ごとに興味がない。別に枯れてるわけでもなければ、男じゃないとダメなわけではない。
前世の妻を3人とも愛していた身としてはアイツラ以外を愛せない。
ようは、他の女では性的興奮が得られないのだ。
試しに二番目の妻との初夜を思い出したらバッキバキだった。俺は決して不能ではなかった。
多分、あの3人の全てを凌駕する女が現れたら結婚してもいいと思うんだが、いかんせん未だにそんな女は現れてないから何とも言えない。
「なんじゃいなんじゃい!!ハーレムの良さがわからんとは!!ベルよ、お前はそれでも儂の孫か!?」
「孫だよ」
「くうぅ」
変な唸り声をあげて癇癪を起こした祖父を軽くスルーして、自分の寝室へと向かう。
もう夜中だからな。明日からはオラリオに向かう準備もあるし早く寝てしまおう。
数日後。
準備も済んで、村への挨拶も済まして、いざ出発。
村総出で見送りされた。村は爺さん婆さんが中心だが若いのがいないわけじゃない。
年上のお姉さん方からは別れのキスを頂いた。俺にとっては挨拶程度の意味しかないが、目を潤ませているお姉さん方にとっては一世一代の告白だったのかもしれない。
まあ、お姉さん方でも俺の心は動かないので、その思いは受け取れないんですけどね。
というか、俺はまだ13なんだが、いろいろと大丈夫なのだろうか、このお姉さん方は……
因みに、お姉さん方からのキスラッシュで祖父が一番嫉妬していた。落ち着けよ。
挨拶も済んだので、月一で来ていた行商人のおじさんの馬車に便乗してオラリオへと向かう。
祖父から餞別代りに貰った剣と一緒に。
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美女、二人
ガタゴトと車輪が回る。
この世界の道は都市レベルでもない限り舗装はされていない。だが、道が無いわけではない。獣道以上、街道以下といったところだ。
なので、デコボコした道が殆どのため、徒歩で消費する体力が倍以上になる。
だったら馬車に乗れば楽だって?
そんなわけないだろう。延々と上下に振動している椅子に座っている状態を想像してほしい。振動の度合いはランダムだ。
そりゃ、酔うさ。慣れていなければ出立して一時間以内にダウンだ。酷いと五分でダウンだ。
そんな訳で俺は……
「本当に乗らなくていいのか、ベル?」
「いい。楽しすぎると弱くなりそうだし」
歩いてます。
馬車の速度は俺の歩く速さより僅かに早いくらいなので丁度いいくらいだ。
行商人のおじさんとは知らない仲ではないので、気安いものである。
世間話をしながらオラリオに向けてガタゴトと馬車の車輪の音をBGMに進んでいく。
おじさんの話は行商人だけあって多岐に渡る。オラリオのことだけじゃなく、ラキア王国の話もしてくれた。
"ラキア王国"
神アレスを信仰する国家系ファミリアらしい。時たま、オラリオに戦争を仕掛けては悉く返り討ちにされる迷惑国家らしい。
そんなに迷惑ならその神アレスを殺せばいいんじゃないだろうか? 神殺しは人に許された数少ない特権だと思うのだが。
数日掛けて、近くの大き目な街についた。ここからはおじさんとは別の道を行く。
おじさんはここから別の町に行くので、オラリオ方面とは別の道を行くそうだ。つまり、ここからは一人だ。
「大丈夫か、ベル?」
「大丈夫だよ。おじさんと一緒に居て野営の仕方も覚えたし、オラリオまでは一本道だしね」
おじさんと別れて、今日は町の宿屋に泊まり明日出立しよう。
ふと、背後に居るはずであろうおじさんの方へ視線を向けると、おじさんは一人の男と話していた。
祖父と似たような気配だったので、あの男も神なんだろうと当たりをつけ、興味を失ったので視線を目の前に戻す。
さて、宿屋はどこだ?
「彼、恐ろしいね……」
男は先ほどの光景を思い出し、顔を引きつらせていた。
気配には十二分に気を配っていた。万が一にも気付かれる素振りは見せていない。
なのに気付かれた。
「一度、モンスター10体ほどに襲われたんですよ」
「君が倒したのかい?」
「いえ、数十秒でベルが片づけました」
男は隣に居た行商人姿の男を見た。その顔は嘘を言っていなかった。
そもそも顔色を窺うまでもなくこの男には嘘をつけない。ベルが睨んだ通り、この男は神なのだから。
その名をヘルメス。
ヘルメスは自分の眷属が嘘を欠片も吐いていないことをわかっているのにも関わらず、信じれなかった。
彼は
想像するだけで身震いするヘルメス。その顔は新しい玩具を見つけたようなワクワクした少年の顔だった。
「これからが楽しみじゃないか」
「あんまりちょっかい掛け過ぎて殺されないでくださいよ?」
「あはは。神を殺す
ヘルメスは自分の眷属がまたもや嘘を言っていないのはわかっていた。だからこそ、笑って誤魔化した。自分の
冷や汗をかきながら、ヘルメスは雑踏の中に消えたベル・クラネルへのちょっかいは細心の注意を払ってかけようと心に深く刻むのだった。
やっとのことで宿屋を見つけた。なんで街の端っこにしかないんだよ。それなりに大きめの町だから結構歩く羽目になった。
宿屋に入ると、食堂らしき場所に美女が二人いた。祖父と似た気配だった。この世界本当に神が多いな。
特に興味もないので受付だけ済ませよう。二人の視線が背中に刺さってるが無視だ。無視。
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神殺し
受付を済ませて、部屋に荷物を置いて下に降りると既に美女二人はいなかった。
いや、いる。気配はあるのに姿が見えない。隠形?前世でもよく使ってくる奴がいたから対処法も知ってる。
だが、事を荒立てる必要もないし無視に徹しよう。
「こんにちは、坊や」
「隣いいかしら?」
無視に徹しよう。そう思っていた時が俺にもありました。無理だったけど……
一人は金色の長髪と純白の衣装が高貴さを醸し出している、10人中、11人は振り向くほどの美しさだ。
え?人数が多い?あまりの美しさに生き返って墓の下から出てきたんだろう。よくある話だ。
もう一人は、赤い髪をした胸元を無駄に強調した衣服を着こなした隻眼の美女。無駄に育った胸元に視線が行くのは男に掛けられた呪いのせいだ。俺は悪くない。
だが、残念なことに俺には奇麗なだけの美人さんにしか映らない。女神の美しさでも俺の股間は反応しなかった。不能じゃないのは解っているので特に問題はない。俺は一途なだけです。
「どうぞ」
「ありがとう、坊や」
「失礼するわね」
他にも空いている席があるにも関わらず俺と相席するってことは何か用なのかも知れんが、俺には関係ない。
二人からの視線が鬱陶しい。周りの男どもの嫉妬の視線も鬱陶しい。これぞ針の筵か!?
当然のことながら、それらを全て無視して宿屋の主人が作ってくれた食事を食べる。特別美味いわけではないが、別段不味くもない。宿屋で出される標準な味といえる。これが嫌なら外食しろってことだろう。これで食事まで美味かったら今より儲かるだろうが、負担も増える。そこは宿屋の人間が考えることであって、俺が口出しすることじゃない。
食事中も、そして食事が終わった今も二人からの視線が外れることはなかった。
「なに?」
と聞いても、微笑むだけで何も答えてくれない。これだから神は……
試しに殺気を放ったら、更に楽しそうに笑うだけだった。今の俺じゃ絶対に敵わない圧倒的強者。なんだよ、神の中にも面白い奴がいるじゃねえか!
周りで嫉妬の視線をぶつけて来た男共は俺の殺気にビビッて逃げ出していた。情けない。
「降参」
殺気を霧散してお手上げポーズで降参を表明する。
何が気に入ったのか二人は花が咲いたような笑顔だった。
「最高よ、坊や」
「ええ。下界に貴方みたいな優秀な子供がいるなんて思ってもみなかったわ」
「それで?何か用があったんでしょ?」
二人はやはり神だった。俺の勘も捨てたもんじゃないな。
なんでも神々が住んでる天界は、大勢の神が下界へ遊びに行ったので少ない人員で仕事を回さなければならなくなり、奴隷がマシに見えるほどの労働環境らしい。
それで、この二人が下界に降りて、
神は地上で死んだら
「だから、馬鹿をやっている神がいたら遠慮なく殺していいわ。私が許す」
「特にフレイとロキとフレイヤは殺していいわ。この私が許可しましょう」
殺していいといわれてもな。俺には別段そいつらを殺す理由がない。敵対してくるならまだしも、敵対していない、未だに会ったこともない奴を殺す理由は皆無だろう。
という訳で、敵対してきたら殺すけど敵対していない奴を殺すほど暇人じゃないよ。と、二人に告げる。
「それで構わないけど、可能な限り殺してほしいのだけど」
「そうね。誰も殺さないのは私たちとしても困るわ」
「アレ?いつの間に俺が神殺しをする流れになってるんだ?」
「「ちっ、気付いたか……」」
危ない危ない。いつの間にか神殺しをする羽目になるところだった。
二人は頬を膨らませて膨れていた。子供か!
美女二人がそんな子供っぽい仕草をするものだから宿屋の主人が見惚れていた。あ、女将さんに殴られた。
最終的に、オラリオに居る馬鹿やってる神を殺すことで話が終わった。強制的に押し切られた。流されたともいうが、俺の判断に委ねるところは譲らなかった。
オラリオの神の命は俺が握っているが悪い奴はいないかもしれないしな。え?フラグがたった?なんぞそれ?
話が終わったのでせっかくだからということで神々の世界の話を聞かせて貰った。特に刀剣の類を。
神の武器の話なんてそうそう聞けるものじゃないからな。
ほうほう。山を切るための剣。そういうものもあるのか。螺旋虹霓剣?何それ?刀身が炎で出来ている?鞘燃えない?
色々と充実した一日だった。
そうそう、二人の名前が気になったので聞いてみたら快く教えてくれた。
金髪の美女が"ヤハウェ"、隻眼の美女が"オーディン"というそうだ。俺の名前も聞かれたので快く教えておいた。
二人は近いうちに天界へと戻ってしまうのでファミリアを作れないらしく、暫くは俺にくっ付いてくるそうだ。
え?マジで?
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オラリオ
眼前に聳え立つのは、石造りの巨大な城壁を思わせる壁。都市をぐるりと取り囲んでいる"ソレ"は、"守る"ためのものではなく"出さない"ためのものであるらしい。
"迷宮都市"という名の他にも"城塞都市"という名があっても不思議ではないほどの立派な壁。間違っても城壁ではない。ここには神はいれど王はいないからだ。
さらに言うなら、城壁があるのは隣国のラキア王国なのだが、これよりもしょぼい張りぼてのなんちゃって城壁らしい。
流石は世界の中心と呼ばれるだけある。
朝早くからオラリオに入るための長蛇の列が出来ている。最後尾に並んだと思ったら、俺のすぐ後ろに商人が来て更に後ろにと来ているので、既に最後尾は見えなくなった。
オラリオには8つの門がある。バベルを中心に8本のメインストリートがそれぞれの門へと伸びている。だから、この長蛇の列が8つあると思うと、どれだけの人がオラリオにいるのか想像もつかない。
前世に訪れたことのある王都も人が多かったがオラリオに比べると天と地ほどの差がありそうだ。
未だにオラリオに入るまで時間があるのでオラリオへと至るまでのことを話そう。
ヤハウェとオーディンの二人は一月もいられなかった。餞別にヤハウェから一振りのシンプルな槍を贈られた。何でもこの槍で神に傷をつけると強制的に神の力が発動する状態になるらしく天界へ強制転送されるらしい。
半信半疑だったが、一人旅の最中に(性的な意味で)襲ってきたイケメン神に使ったら天界へと強制転送された。その神の名はフレイというらしい。
他にもいろんなことがあった。
道を間違えてオラリオに向かっていたと思っていたら、テルスキュラにいたり……
ようやく元の道に戻ってきたと思ったら、「正義執行!」とか言いながら盗賊相手に無双している女神が居たり……
「像の頭をした息子によろしく!!」とか手紙を押し付けてく神の夫婦と出会ったり……
本当にいろいろとあった。
「次の者!」
おっと、ようやく俺の番か。待ちくたびれたぜ。
朝早くに並んだのにもうお昼時だ。お腹すいた。
「オラリオに来た目的は?」
「冒険者になりにきた」
「そうか」
門番の人の質問に答えていくと、質問は終わり簡単にオラリオに入れた。
入るときに、門番の人から小声で激励を貰った。良い人だ。
さて、冒険者になるには"ファミリア"に入らなきゃいけないんだが、ツテはない。いや、少しだけだがある。ただ、主神に対して取り次いでくれる可能性が低いだけで……
それに、恩恵無しでどこまでいけるか気にもなるし、ここは宿屋に荷物を置いてダンジョンに潜るのもありか?
方針は決定した。まずは、宿屋探しだ。この広さの町を探し回るのは面倒だ。
オラリオで一番高い場所ともいえるバベル50階層。ここはとある女神の居住空間であった。
いつも通り、女神は自分の城から地上を見下ろしていた。ただの気まぐれだった。偶然だった。ただ、女神はその時の偶然に感謝した。
そこに居たのは今までに見たことがない輝きをした魂。その輝きに、女神は見惚れた。
どこに居てもわかるほどの輝き、未だにその輝きはオラリオの外だが、あの様子からして今日中にはその姿が見えるだろう。
女神は自分の体を抱きしめる。恍惚の表情を浮かべ、今か今かとその姿が現れるのを待つ。
遂にその姿が見られたのは、太陽が中天を過ぎたあたりだった。
現れたのは白髪に赤眼の少年。どこにでもいそうなただの少年。そう見えるのは少年の表面しか見ていないものだけだろう。だからこそ騙される。それこそ、神であっても……
女神が初見で抱いたのは守ってあげたくなるような印象だった。だが、その思いは覆された。少年の視線が女神に向いた。ただ、バベルを見ていたのかもしれないと思ったが違った。少年と視線が合った。そういう確信があった。
女神の口が歓喜に震えた。少年の口が動いたのを女神は確認した。
『鬱陶しい』
女神は少年が自分にそう言ったのだとわかった。女神の口から恍惚のため息が漏れる。
神すらも歯牙に掛けないその言動に女神の独占欲が刺激された。彼が欲しい。自分のためだけに動いて、自分だけを見てほしい、自分だけを愛してほしい。
だが、いまは動けない。今じゃない。彼に接触するのは今ではない。
彼と邂逅するその日を想像して笑みを浮かべる。女神のその笑みは老若男女問わず魅了してしまうような美しさだった。
オラリオ最強の双璧。ロキ・ファミリアと対をなす、フレイヤ・ファミリアの主神。美の女神、フレイヤ。
ベルに見惚れた一柱の女神がそこにはいた。
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ダンジョン
宿屋は割と直ぐに見つかったので、一泊だけの契約で部屋に荷物を置いて宿屋を出る。
オラリオに入る前から感じていた視線は今は落ち着いているみたいだ。バベルの上の方から来ていたみたいだがなんだったんだ?
まあ、そんなどうでもいいことは置いておこう。さして興味もないし、敵対してくるなら斬ればいいだけだし。
確か、ダンジョンはバベルの真下にあるって話だったな。入り口も解らないし、適当な冒険者っぽい奴の後を続いていけば行けるだろう。
俺の予想通りに目の前の適当に目に付いた冒険者に(無断で)ついていったらダンジョンに入れた。気配を可能な限り隠したのもあるが、誰にも気づかれた様子はない。俺よりも上の実力があるやつにはバレてるだろうが一々気にしても仕方ないのでいないものとする。
大地よりも下にあるこのダンジョンは陽の光が差さない。入り口近くはバベルの方から引っ張ってきているのか、カンテラのようなものがそこかしこについているが、ここより下の階層は期待できそうにない。まあ、暗闇でも気配で何がいるかは大体わかるから問題はないんだが。
薄青色の壁で統一された空間はそれなりに広く、戦闘には支障がなさそうだ。試しに壁の強度を見るために剣の柄で小突いてみるが、それなりの強度はあるようだ。試しに斬ってみた。本気ではなかったのに普通に斬れた。思ったよりも脆い。斬った壁は直ぐに修復されたので割と無茶苦茶な戦闘法でも行けるかもしれないが、下手なことすると面倒なことになりかねないからなるべく安全に処理しておこう。
歩いていると、前方にモンスターが見えた。村に迷い込んでくることもあった個体だ。"ゴブリン"と"コボルト"だ。
村の近くのは石を頭に投げるだけで死んでしまうので、どれだけ強いのか楽しみだ。
小手調べに手近な奴を斬る。特に何の抵抗もなく真っ二つになり絶命する。え、弱すぎるんだが……
大した展開もなく全滅したモンスターを呆然とした気持ちで見下し、残った魔石を回収する。
数も少ないし、更に下に行こう。詰まらなすぎる。階段を見つけて下層へと向かう。
さっきよりは数が多いが、それでも微々たるもの。作業になりつつある戦闘に若干辟易しつつも、先へと向かう。
階段の手前に、ヤモリのようなモンスターが10体ほどいた。こちらを見つけたのか一斉にこちらへと向かってくる。床を、壁を天井を縦横無尽に這い回るその姿は嫌悪感を覚える。
俺にある程度近づくと一瞬止まり飛びつくように突撃してくる。それも10体同時に。
後方に一歩下がり、目の前の10の的全てを切り捨てるように剣を滑らせるように薙ぐ。然したる抵抗もなく両断し、魔石が落ちる。やはり弱い。
そのまま歩を進め、更に下層へと下る。カエルも黒い人型も少しだけ硬い蟻も特に抵抗らしい抵抗も見せずに絶命した。
この程度なのか?この程度は前世だったらそこらの農家の子供でも出来るくらいの難題だった。
10階層の広場で殺した豚面の大型モンスターの死体を前に溜息をつく。魔石を回収して帰路に就こう。
そういえば祖父の話では竜種を狩るのにもこの世界は苦労するのだったか。だったら仕方ないのか?だが、いくら何でも弱すぎるのにもほどがあるだろう。
特に何の感慨も持たずにダンジョンを後にする。
「はぁ……」
ため息をつきたくもなる。
まさか、魔石の換金にファミリアに入る必要があるとは……
だからこそ、適当なファミリアでいいやと思って行ってみるとまさかの門前払い。それが30連敗。
「はぁ……」
そして、20連敗辺りから尾行されている。子供よりも下手糞な尾行だ。どこまで着いてくるか試してみるか。
決めたら即実行の精神のもとに、行動に移す。腰を上げて、歩き出す。真後ろの気配は慌てたように俺に(バレバレだが)見つからないように尾行を再開する。
現在地が東と北東のメインストリートの間。そのまま東のメインストリートに出て、ダイダロス通りに入る。迷路のようなここをぐるっと回るように入ってきた場所と同じ場所から出て、バベルへ向かう。
時間は大体夕方。バベルから帰ってきた冒険者が出てくるので、その中を針の穴に糸を通すようにスルスルとぶつからずに抜けていく。
後ろに意識を向けると、だいぶ離れた位置にストーカーがいるのが分かった。
バベル近くのベンチに腰を下ろして少し休憩する。ストーカーの方を見ると、声しか聞こえなかった。
「はぶっ!?ご、ごめんよ。こちらも急いでいたんだ。はぶっ!?」
冒険者とぶつかって謝罪。そして少し進んで別の冒険者とぶつかる。まさに無限ループ。
30分程かけて俺の姿が見えるところまで来たので、俺は腰を上げて北西のメインストリートへと向かう。
背後から、「待っておくれよ~!!」とか聞こえるが聞こえないふりしてそのまま目的地まで歩く。
背後で誰かが転んだようだが、気にしない。目的の店の看板が見えたのでそちらへと足を向ける。
"ヘファイストス 北西支店"。ここが目的の店。武器屋だな。
爺さんから貰ったこの剣はこの店のオーナーじゃないと整備できないといわれている。軽い点検ぐらいなら俺も毎晩やってるが、本格的なものは無理だ。
適材適所。プロの仕事はプロに任せるほかない。素人が弄った剣なんて怖くて触りたくもない。
扉を開けるとドアベルが鳴り来店を示す。カウンターに居た女性がこちらを見る。
右目に眼帯をした赤髪の女性で神だ。男装をしているから大丈夫だがオーディンと被るなぁ。オーディンは胸元を強調しすぎてるからわかりやすいし、区別はしやすいからあんまり被らないか。
「いらっしゃい。初めて見る顔ね」
「こんにちは。今日オラリオに来たばっかだから当然だと思うよ」
世間話から初めて、剣の整備を頼もうとしたときに大きな音を立ててストーカーが転がり込んできた。
ストーカーはバレバレの尾行をしてきた時からわかっていたことだけど、神だった。最近神にしか会ってない気がしてきたが気にしないでおこう。
黒い髪を頭の横で結んだ、確かツインテールって髪型だったはずだ。故郷のお姉さん方が一時期こんな髪型だったな。3日で飽きて別の髪型にしてたな。
小柄で裸足の紐を纏った女神だ。ハァハァしてるのはなけなしの体力を使い果たしたからだと思う。そうだといいなぁ。
「ハァ……ハァ……」
息を荒げたまま俺へと手を伸ばして近づいてくる姿は、そのまんま変質者そのものだった。
一歩下がって手の届かないようにすると、ストーカー女神はそのまま倒れた。
その姿はまるで「立ち止まるな」と言っているようだった。
「え?ヘスティア?何やってるのこの子は……」
「何故か尾け回されたんで軽く逃げてただけですけどね、おれは」
まともな方の女神様はため息をついてダメな方の女神の介抱に向かう。
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ファミリア
オラリオの北西メインストリートに居を構える、世界に名を轟かせる"ヘファイストス・ファミリア"の支店の一つで、説教が始まっていた。
椅子に腰かけて待っている俺の直ぐ傍で説教が行われているというだけです。
床というか、地面に正座したストーカー女神こと神ヘスティア。そのヘスティアを見下ろしてガチ説教しているのがカウンター(に居た)女神こと神ヘファイストス。
爺さんの話によると神ヘスティアは神ヘファイストスの伯母だって話だが、これじゃそうは見えないな。
店の外に視線を向けると陽が落ちようとしていた。壁に隠れて見えないが、地平線に沈む夕陽を見ているとたまにこう思ってしまう。
「どうすれば、あの夕陽を斬れるんだろう……」
前世から考えてはいた。剣聖なんて大層な呼び名があるにも関わらず、俺には斬れないものが多すぎる。
いつからこんなことを考え出したのかは覚えていない。だが、太陽の光や夜の帳はなぜ斬れないのかと子持ちの大人が考えることじゃないと今更ながらに思う。
その為に剣を振るった。すべてを斬り裂くことが出来ないのなら未完成もいいところだと。
剣を鞘から抜いて刀身に映った自分を見る。そこに映っているのはどこにでもいそうな只の少年だ。
ふと、静かになった店内が気になり説教が終わったのかと思い、視線を店内に戻すと、二人の神が俺を見ていた。
「説教は終わったんですか?」
「へっ!?……そ、そうね。次やったら親族の縁を切ることにするわ」
「えっ!?そ、そんなことを言わないでおくれよ、ヘファイストス!!」
神ヘスティアが神ヘファイストスの足元に縋り付き泣き叫んでる。
みっともないことこの上ないし、顔から出る液体が全て出てる今の姿は百年の恋も冷めるようだ。
「まるで、離婚を突き付けられて慌てて妻の説得を試みる駄目夫みたいだ」
「
「酷いよ、ヘファイストス!!」
「じゃあ……ヘラに捨てられそうなゼウス」
「「冗談でも止めて!!」」
ふむ。こういう時にはこの例えが一番いいって言ってたヤハウェの言葉の通りにこの話は終わりとなった。
そして、最初からやり直し。自己紹介から始まり、何故、神ヘスティアが俺をストーカーしていたか、俺がこの店に来た目的は剣の整備のためなので一言で済ませた。
ストーカーしていた理由は、俺をファミリアに誘おうとしていたらしい。
「だったら何故早く声をかけなかったんですか?俺は10回も無駄にファミリアの入団断られ続けた意味は?」
「だ、だって……なんか緊張してしまって……」
「乙女か!!」
「乙女だよ!!」
「いい年こいて何言ってんだコイツ」
「じょ、女性に歳の話をするのはマナー違反だぞ!!」
「はっ」
「は、鼻で笑われた!?」
そりゃ、笑うだろ。千年以上も股に蜘蛛の巣が張った女に価値はない。とっとと婚活でもしていろ。
まあ、丁度良かった。どこのファミリアも入団拒否してくるから、入団拒否したファミリアの主神は全員天界送りにしてやろうかと思ってたし。
最近短絡的になってきた気がしないでもないが、今は気にする必要もないだろう。
正座から四つん這いの体勢になり落ち込んでいるヘスティアに手を差し伸べる。
首を傾げるヘスティアに苦笑し、無理やり立たせる。「あ、足が!!」とか叫んでいるが気にせず立たせる。
「ファミリアに入れてくれるんでしょ?」
「う、うん!!」
満面の笑みを浮かべて俺の手を両手で握りしめる。もう逃がさないといわんばかりに。
神ヘファイストスの手を打ち鳴らす音で神ヘスティアは喜ぶのを止め、恥ずかしそうに俺の後ろに隠れる。
なんで俺を壁代わりにしたのかはわからないが、特に実害もないので放っておく。
神ヘファイストスのクスクスと声を押し殺して笑う姿に、神ヘスティアは顔を赤くして膨れる。
「なにさ……」
「フフフ……なんでもないわ」
「くぅぅ……」
女神二人のじゃれあいを横目に店の外を確認すると、既にとっぷりと日が暮れて夜の帳が降りてきていた。
街灯が点き、ある程度の明るさはあるが既に外を歩いているものは片手で数えるほどしかおらず、どこからか聞こえてくる笑い声はどこかの酒場の酔っぱらいだろう。
故郷ではなかった光景だ。途中の町でも見られはしたが、オラリオ程騒がしくは無かった。冒険者がいるからだろうか?
「それじゃあ、ヘファイストス。僕たちはこれで失礼するよ!」
神ヘスティアに引っ張られる形でおれは神ヘファイストスの店を後にする。満足に別れの挨拶も交えないまま。
あ、剣の整備頼んでない!
神ヘスティアが向かったのはとある本屋だった。
なんでもここの2階の雰囲気が気に入ってるとかで、初めての眷属はここで恩恵を授けると決めていたらしい。店長のお爺さんが店を閉めようとしていたところに神ヘスティアの一声がかかり、お爺さんはやれやれといった表情で店を開けてくれた。
神の"お願い"にただのヒトが逆らえる訳もない。まあ、神ヘスティアの"お願い"は脅しという感じではなく誠意をもってのキチンと頭を下げているあたり好感を持てるものだ。
他の神だったらもれなく"神威"を発動させている。
「それじゃあ、服を脱いでくれるかな」
「変態?」
「違うよ!?
そういうことか。割と本気で心配した。大体はフレイのせいだから俺は悪くない。
上半身だけでいいそうなので、上だけ脱ぐ。特に恥ずかしいという感情はないが、目の前で顔を赤くしている女神を見ていると少しだけ羞恥心が浮いてくる気がする。
店主の人にも長時間開けて貰っているのは悪いので、早々に刻んでもらう。
うつ伏せになり、神の血で俺の背中に恩恵を刻む。刻み終わったのか、神ヘスティアが俺の背中からどいた。
服を着なおして、神ヘスティアに向き直る。そこに居たのは俺のステイタスを見て唸っている我が主神様がいた。
「これは……まぁ、いいや。改めて、僕が君のファミリアの主神のヘスティアさ。よろしくね、ベル君」
「こちらこそ。神様」
満面の笑みを浮かべた"神様"の手を取り、ここに"ヘスティア・ファミリア"は結成された。
ニコニコ顔の神様と共に下に降り、店長さんに頭を下げて謝罪とお礼を言い店の外へ出る。暗い闇の中、星の光が一際強く光り輝いていた。
感想でもあったのですがここらでちょっとした補足。
ベル君の強さについてですが、
現時点では14歳という年齢とファルナが無い時点ではカドモスより少し弱い程度の強さしかありません。
ファルナを授かったことによりこれからどう成長するかは作者の私も決め切れていません。
因みに、前世の絶頂期であれば隻眼の黒竜は一人で討伐が可能です。
なんだそれと言われるかもしれませんが、「そうなんだ」とご納得ください。
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出会い
"ヘスティア・ファミリア"が結成されて半月ほど経った。
恩恵を刻んで直ぐに宿屋に戻って荷物を持って、ヘスティア・ファミリアのホームへ向かった。
ホームは西のメインストリートの少し奥まったところにあった。廃協会となった場所の地下にあった。
神様は恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうな顔で案内してくれた。俺は特に気にしないので、そのままホームに入る。地下だからそれなりに広いのかと思っていたが、予想よりも狭かった。
壁は土だったので、掘れば広げられそうだ。もしもの為に神様には地上で待機してもらって、ホームの拡張に一日費やした。運よく崩れることもなく拡張は成功。自分の部屋と神様の部屋、共用空間と簡易ながら調理場も出来た。
神様は大層喜んだ。ピョンピョン飛び跳ねて壁に頭を打ち付けて、床に蹲るほどに喜んでもらえた。
ホーム拡張の翌日にギルドに行って、新規ファミリア登録と自分の冒険者登録を済ませた。ギルド職員のハーフエルフのお姉さんが「登録を完了しました」と言ったのでそのままサヨナラしてダンジョンに行った。後ろから慌てる声が聞こえたが、貧乏ファミリアにとっては些細なことだった。
そのままダンジョンで半日ぐらいこもって魔石を集めた。10階層までを行ったり来たりして、モンスターを斬り殺し、魔石を集める作業を続け
いい時間だったし、モンスターも大体狩りつくしたので地上に戻って換金した。
初日のと合わせて200000ヴァリスとなった。まあ、こんなもんかと思っていたら、今朝のギルド職員が鬼のような形相で来て説教をされた。なんでも新人には担当アドバイザーというのがついてダンジョンの決まり事等を教えるのが決まりらしい。
説教の大半を右から左へと聞き流し、ゼエゼエと息を荒げてるところに、「あ、終わりました?」って言ったら更に怖い形相で説教が長引いた。
換金所のすぐ近くで説教を受けている俺の姿はさぞ滑稽だっただろう。冒険者が来るたびに俺の姿を見て忍び笑いを浮かべるのだから。
説教は夜がどっぷり暮れる頃まで続いた。というか、お姉さんの喉が枯れるまで続いた。最後の方はコヒューコヒューという人の息の音ではない音を出して倒れた。
頭とかぶつけると危ないから一応抱き留めてあげた。俺が原因みたいなもんだし。
やっと説教が終わったので凝り固まった体を伸ばすように動かしたら何故か肩の辺りからバキボキと音がした。なんで肩なんだよ。
このまま床に倒れさせておくのもアレなので、お姫様抱っこの要領でもちあげ(意外と軽かった)、ギルド内にある長椅子に寝かせておく。
「よし、腹減ったし飯行こ」と、俺が言ったら、今まで見物していた冒険者たちが爆笑しだした。何が琴線に触れたのかは知らんが、特に関わりあうこともせずにホームへと戻った。
神様は大量のお金に驚いていたが突然、「よーし、ファミリア結成祝いだ!!」とホームを出て食材を買いに行っていた。勿論調理するのは俺だ。
その翌日には、再び神ヘファイストスの所へお邪魔して剣の整備を頼んだ。
剣を見た神ヘファイストスは今までに見たことがないほどに驚いていた。心なしか手が震えている。どこで手に入れたのかと聞かれたので、祖父から持ってけといわれたと正直に言うと、驚きつつも懐かしそうな顔をしていた。
「にしても、なんでここに整備を頼みに?」
「ここでなら剣の整備ぐらいなら無料でやってくれるって、爺さんが」
「あの野郎!」
といったやり取りがあった。その時の神ヘファイストスの顔はちょっと見せられない感じだった。
ただ、爺さんの言う通り剣の整備は無料でやってくれるそうだ。やったぜ。
どうにもこの剣は神ヘファイストスが作った一品らしくて、ヘファイストス・ファミリアの団長でも満足に整備が出来ない代物らしい。自分が作ったものだから自分が面倒みると言っていた、神ヘファイストスは苦笑していた。
そして今……
俺は何故か知らんが5階層でミノタウロスに追っかけられている。
遭遇して直ぐに斬り殺そうとも思ったんだが、他の冒険者もいたので人気のない場所に誘導中という訳だ。
ブモオオオと、叫び声(?)を上げて追いかけてくるミノタウロスを引き離さないように適度な速度で走る。そうこうしているうちに5階層の端っこに来ていたようだ。行き止まりだ。
「さて、それじゃあ、やろうか」
相も変わらずブモオオオと声を荒げているミノタウロスは手に持った斧で襲い掛かってきた。
それを剣で弾く。適当に弾くと剣に負担がかかるので最小限の負担になるように弾かなければならない。
ミノタウロスは今までで一番手ごたえがある相手だ。前世だと雑魚の部類に入るがな。
そのまま斬り合いを続けて、そろそろ終いにしようとして、技を出す。
両腕を切断し、後は首を断つだけというところで、ミノタウロスの背後から剣が突き出てきた。
俺の剣と突き出て来た剣。どちらが勝つかといえば、向こうだ。俺の剣は半ばからポッキリと折れた。いや、斬られた。
おかげで俺は臭いミノタウロスの血を頭から被る羽目になった。
目の前の金色の髪の人形みたいな女にキョトンとした視線をされながら……
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裏話①
今回はベル君視点ではなく、他者の視点でお送りします。
「うーん……」
僕、ヘスティアの目の前にある一枚の紙。その紙自体は何の変哲もないそこらに有り触れている普通の紙。問題なのはその紙に書かれている内容だ。
僕のたった一人の
ベル・クラネル
Lv.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《魔法》
【】
《スキル》
【剣聖一途】(ブレイド・ブルーム)
・成長する
・刀剣類装備時のみ効果発動
・格上の相手との戦闘時のみ効果上昇
「確実に……レアスキルだね……」
どうするべきか……
このレアスキルはベル君には教えていない。教えたことによって、メリットよりもデメリットのほうが大きいと判断したからだ。
いや、ベル君だったらそのデメリットも意味がないのかもしれない。けど、僕の初めての眷属を希望的観測で不幸にしてたまるかってんだよ!!
ベル君が拡張してくれたホームの自室にて僕の唸り声が響く。これ以上考えてもいい案は浮かばないというのは解っているんだけど、問題がある。
誰に相談するか……
案として友神の
う~ん。う~ん。と、いつまで僕は悩んでいるんだろうと悟りを開きかけている僕に天啓が降りてきた。いや、比喩表現であって本当に天啓が降りてきたわけじゃない。大体、神である僕にいったい誰が天啓を降ろすんだ?
真面目に考えてみた。…………………………アルテミスか?
と、下らないことを考えてるんじゃなかった。そうだよ、適任がいないなら僕とベル君の秘密にしておこう。秘密には出来そうにないからベル君にちゃんと説明すればいいんだよ。
なんだ。何も心配する必要なんてなかったんじゃないか!
フラグが建った気がするけど、大丈夫。僕のベル君はその程度のフラグをポキポキ折ってくれるよ。いや、斬るのか?
心配事が
思い出すのは少し前のこと。あれは僕が、下界に降りて来たばかりの頃。初めて見るオラリオの町並みは初めて見るものばかりで新鮮だった。歩き疲れた頃にデメテルと会って、会いに来たうちの二人が既にオラリオに居ないのを知った。
もう少し詳しいことを聞くためにヘファイストスの所にいった。そこで聞いた内容で更に、ロキが嫌いになってフレイヤが苦手になった。
呆然としすぎて何もする気が起きないぐらいにはショックだった。
「そっか。もう君たちは居ないんだね……」
会えるとしたら、それは何時のことになるやら……
「さて、バイトの準備をしよう。ベル君にばかり稼がせてばかりじゃいけないからね!」
その日は、不思議な日だった。
私、ヘファイストスが打った、二度と会うことのない剣を見た日だった。ついでに私の親族がその持ち主の子供にバカやった日でもあった。
その剣は、私がオラリオに来てファミリアを作って少し時が経った頃だった。鍛冶ファミリアとして新米だった私の所へ一つの依頼が舞い込んできた。というか、依頼者は
「眷属が使うものかしら?」
「いや、儂が使う」
「何のために?」
「儂もダンジョンでモンスターを狩るんじゃ!!」
「馬鹿じゃないの?」
本当に目の前の
結局のところ依頼は受けた。だが、最強ファミリアの主神がダンジョンに行くとかさせるわけにはいかないので、
力を使わずに剣を打つのは下界に来てから何度もやって来た事なので慣れてきていたが、今回は"神が使う下界の剣"を打たなければいけない。幾ら力を抑えて、ヒトと同じ力しか出せないといっても神が使うとなると普通の剣を打っても意味がない。私の全力で打つ。勿論
三日三晩かけて打った剣は神が持つに問題ない程度に仕上がった。問題ない程度といっても"神剣"というカテゴリでいえば底辺。ただ、神が使った剣というその程度の付加価値しかない。ただ、それだけの剣。
ゼウスは剣を受け取ってそのままの勢いで走ってバベルへと走っていった。私も追った。あの人を失うのは損失以外の何でもないから。ゼウスは自分の眷属の制止を振り切り、バベルへと爆走して……
ヘラにドロップキックされて止められた。
その場で一安心した。それはゼウスファミリアの全員も一緒だろう。
ゼウスはヘラに首根っこを掴まれて連れていかれたので私はヘラがどんな説教をしたのか知らない。
ただ、ゼウスはダンジョンに潜ろうとするのを止めた。それだけは事実だ。
私の打った剣はヘラに折られたらしく、悔しそうにゼウスが修理をしてくれと言ってきた。
「またダンジョンに潜るつもりじゃないでしょうね?」
「もうそんな気はないわい。ただ、折角打ってくれたこの剣が可哀想じゃろう?」
「それなら別にいいけど……」
受け取った剣は半ばから折れていた。ヘラはこれをどうやって折ったのかしら。
ただ、素材が無いので直ぐには無理だと伝えると、"構わない"と言って、去っていった。
ゼウスが何のためにこの剣を預けたのかは解らない。最後の表情も見たことがないほどだった。ヘラに説教されて顔が腫れていたのもあるが。
私は良い素材が手に入るまでこの剣を私のプライベートルームの片隅に置いておくことにした。
素材はミスリルが好ましいという私の希望は、その入手難度から断念せざるを得なかった。だが、一人の鍛冶師として妥協はしたくはない。幸い、ゼウスは何時でもいいと言っているのでミスリルが手に入ってから修理しよう。
そう、あの剣は……
彼が、ベル・クラネルが持っていたあの剣は私がゼウスに打った剣だ。神が振るえる剣だ。
あの剣をどうやって手に入れたのかは知らないが……。いや、十中八九ゼウスから手渡されたのだろうけど……
彼は今やヘスティアの眷属だ。私が打ったゼウスの剣がヘスティアの下にあるなんてどんな廻りあわせなのかしら。
「さて、この剣の整備は私しか出来ないし、さっさと仕事を済ませてしまいましょう」
目の前の剣を見る。
私の名が銘として刻まれた、古い剣を……
お知らせです。
これからは週一更新です。
日曜の1800に更新予定です。
もし、時間になっても更新されなければ、「今週は休みかよ!!」と思ってください。
一応、不定期更新のタグはそのままにしておきます。
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報告
仕事クビになったり、就活したりとイイロイロあったんです。
という訳で最新話を投稿です。
ダンジョンの5階層。その外れにて、静寂が訪れていた。
一人は、気まずそうな雰囲気をしている金髪の剣士。もう一人は頭から大量の血を被った少年。つまり俺だ。
血生臭い。これに尽きる。
というか、そんなことよりも剣が折れてる。
俺がいつも使っている剣はヘファイストス様に整備を頼んでいるので、「そこらにあるの貸してあげる。適当に持っていきなさい」と言われたので、重さと長さが似通った適当な剣を持ってきた。つまりはこれはヘファイストス・ファミリアの一級品である。
確実に借金だ。しかも数千万規模の。下手すれば億単位だぞ?どうすんだよこれ?
「あの、大丈夫ですか……」
「大丈夫なわけないだろ。人の武器折りやがって……」
獲物の横取りはまあいい。俺が血を被ったのも嫌だけどいいとしよう。だが、武器を折るのは頂けない。
人の物を壊しちゃいけないって教わらなかったのか?全く、親は何をしているんだ!!
立ち上がり、半ばから折れた刃先を拾いに行く。俺の歩いた後には赤い足跡が……
すっごいテンション下がる。水を被るよりも不快なべとべと感。歩くとヌッチョヌッチョするこの感覚は二度と味わいたくない。早くシャワー浴びたい。
「ご、ごめんなさい……」
「弁償してくれるんなら、いいけど?」
「わ、わかりました」
何故どもってるのかは知らないが、言質は貰った。値段も見ずに実用性重視で選んだから俺もこの剣の値段は知らない。
斬られたのは3分の1ほどだ。刀身は残り3分の2ほど残っているので、割と問題なく戦闘は出来る。ぶっちゃけた話、斬撃を飛ばせば距離とか関係ないからな。
だが、刀身を斬られた以上無茶は出来ない。更に損傷して俺にまで請求がいく真似をするつもりはない。零細ファミリアである
「おい、アイズ。そっちは終わった……って、なんだそのトマト野郎は?」
「あ、ベートさん……」
「なんか増えた」
考え事をしながら金髪剣士(仮称)の下へ戻ろうとすると、剣士が来た方向から現れたのは犬耳と尻尾を生やした男。ヒューマンではなく獣人の一種だろう。
俺はげんなりした表情で、新たに現れた男を見やる。籠手に脚甲をしているということは格闘主体の戦闘スタイルか?
格闘主体の相手は少しやりにくいんだよな。懐に入られたら打つ手がかなり限られてくるので、近づかれる前に仕留めるのが俺の方針だったりする。
というかトマト野郎って……。もう少しネーミングセンスはないのか?まあ、わかりやすいけど。
「はぁ……」
溜息も吐きたくなるほどテンションが下がっているのがわかる。というか、この血まみれの姿をどうにかしたい。具体的に言うとシャワーが浴びたい。
面倒ごとに巻き込まれるのも嫌なので、二人から踵を返して今日の稼ぎを切り上げる。
背後から声を掛けられるが全て無視した。一々反応するのも面倒だし、足早にダンジョンからオラリオへと抜け出る。
バベル一階のメインホールからギルド直営のシャワールームで体中にべったりと纏わりついていたミノタウロスの血を洗い流す。
冷たい水が頭の上から降りかかり、一糸纏わっていない体を満遍なく濡らしていく。先ほどまで下がっていたテンションも通常時まで回復した気がする。多分、サッパリしたからだと思うが。
着替えを済ませ、魔石の換金をしにギルドへと向かう。今日はあまり稼ぎがよろしくない。朝早くからダンジョンに潜り、先ほど出てきたのが大体昼過ぎ。いつもの半分も居なかったのと、ミノタウロス騒ぎでいつもの4分の1もない。
案の上だった。俺の予想通り、今日の稼ぎは2万ヴァリスポッチだ。いつもだったら7万ほどいってるはずなんだがな。
小さく、誰にも聞こえないほど小さなため息を吐きつつ、ギルドを後にする。
後ろから見覚えのあるギルド職員の声がするが、今日は気分じゃないので無視を決め込む。キャンキャンと五月蠅いが、子犬が威嚇していると思えば微笑ましいものだ。
ギルドから出て、一番最初に向かうのは神ヘファイストスのところだ。借り物をぶっ壊されたので報告をしないといけない。
決してこっちに借金が来ないように先手を打っておこうとか、そんな魂胆は微塵もない。
いつもは大体混雑しているこの道も今の時間ならある程度は空いているようで、店まではスイスイと止まることもなく向かえた。
いつも通り店の扉を潜り、来店を示す鈴の音と共に店内へと入る。なぜかこの店だけは空いている。というか今まで俺以外の客を見たことがない。
今日は工房にもおらず、他の店舗にでも行っているだろう神ヘファイストスを待って店の中を見て回る。
店内の剣を見て回ると、俺が借りた剣の場所へとたどり着いた。
「あ、この剣一億ヴァリスだ……」
ロキ・ファミリアの借金がものすごいことになりそうだと確信した瞬間だったが、他人事だしどうでもいいやと直ぐに俺の頭から飛んで行った。
神ヘファイストスに事情を説明した後のやり取りはこんな感じだった。
「は?折られた?」
「はい。ちゃんと弁償してくれると言質を取りました。」
「どこのファミリア?」
「ロキ・ファミリアです」
「あの絶壁がぁぁぁぁぁぁあ!!」
いやー怖かったわー
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中層
※ベル君はサラマンダーウールどころか碌な防具を持っていません。
神ヘファイストスに報告した次の日。天気は雨だった。何気にオラリオに来て初めての雨だ。
雨の日でもオラリオは特に変わらない。冒険者は朝からダンジョンに向かい、商店は冒険者から金を巻き上げるために店を開く。ただ、いつもより規模が少ないように感じる。誰だって濡れるのは嫌なんだろう。
天気が変わろうとも、俺はいつもと変わらずダンジョンに赴く。途中で
さて、昨日は横やりが入ったせいで満足に稼げなかったし、ここは中層まで行くのもありかもしれない。
思い立ったら即行動の精神で足を速める。
10階層までをいつもよりも素早く流れるようにモンスターを処理して魔石を回収する。
「今までは10階層までしか行ってなかったからなー、少し楽しみだわー」
自分でもわかるほどに上機嫌で11階層へと続く階段を降りる。今までは効率重視で階段を降りることはなかったので、実は10階層から下は何も知らない。
11階層は10階層とほとんど同じ構造のようで、天井は高く、霧が出ている。
出てくるモンスターは10階層から引き続き、
まずは、武器を振り上げてこちらに疾走してくる豚頭。3体か。
鞘から剣を抜き放ち、即座に3つの首を落とす。魔石が3つ地面に落ちる。腰後ろにつけているポーチから投擲用のナイフ4つを取り出し、蝙蝠に向けて投げつける。魔石が4つ落ちた。
遅れて向かってきた豚頭4体を即座に切り捨て、頭上でキーキーと五月蠅い小悪魔を投げナイフで刺し貫く。
最後に残ったのは、初めて見る白い猿だ。大きさは昨日のミノタウルスと同程度だが、騒音度ではこの猿の方が上だ。
叫び声を上げながら疾走してくる猿に向かって俺も歩を進める。その距離は直ぐにゼロになった。
殴りつける為に振り上げた猿の右腕を根元から切り落とし、悲鳴を上げる猿の胴体に横一閃の斬撃をくれてやる。
魔石にあたって猿は消滅した。同時に猿の魔石は粉々に。
「しまった。魔石を斬ったら報酬が下がるんだった」
失敗だ。次は上手くやろう。
魔石を斬らないように斬殺しないと稼ぎの効率が落ちる。効率が落ちればその分稼ぎが低下する。
ただでさえ昨日はロキ・ファミリアのせいで稼ぎが少ないんだ。今日は10万ヴァリス……いや、20万ヴァリス稼ぐつもりでいかないと……
剣を一閃して、刀身についた血糊を落として鞘にしまう。落ちている魔石を拾い、下に降りる。
上層の最終階層でもある12階層は更に霧が濃く広がっている。一寸先は闇ならぬ、一寸先は濃霧だ。
普通であるなら警戒しつつ進むのだろうが、俺は気配でどこに何がいるかは大体わかるので、今までと変わらずに普通に進む。
出会ったのは大きなアルマジロのようなモンスター。ハード・アーマードだったか?
丸まって転がってきたので、居合の要領で一閃する。普通に斬れた。
おかしい。上層で最硬の防御力を誇るんじゃなかったのか?普通に斬れたぞ?
やはり、上層じゃ作業にしかならんか。腕試しに
四方八方から向かってくる
やはり上層じゃ旨味が少ないか。落ちていく魔石を一瞥し中層辺りに赴くことを思案する。
向かってくる
他の冒険者も今いる階層に居るわけだが、この濃霧の中じゃ戦闘の音は聞こえても絡もうとするのはいなかった。ならば、魔石を拾い終わったらすぐにでも13階層に向かうことに決めた。
「中層ではもう少し骨のある相手がいると良いんだが……」
13階層からは更に地形が変わった。壁や地面、天井の材質が岩盤に変わったからだ。
しかもランダムに下の階層直通の縦穴もあるらしく、
今、俺の目の前にその入り口がぽっかりと口を開けるようにして佇んでいる。
上層と中層は比べ物にならないそうだが、俺にとっては楽しみでならない。少しは楽しませてもらわないと割に合わないし、何よりも詰まらない。
天然の洞窟のような道を突き進み、最初に出てきたのは
赤い眼に白い毛皮、頭部に一本の角の生えた兎。かなり好戦的な性格なのかこちらを視認した途端に襲い掛かってきた。普通に斬り殺して魔石にしたが。
ある意味俺にそっくりなモンスターだった。いや、いろんな意味でか?
落ちた魔石を拾い先へと進む。まあ、直ぐにまた白兎が襲ってきたのでちょこちょこ足を止められながらも13階層を踏破し、14階層へとたどり着く。
14階層で最初に出てきたのは黒い犬。『
流石の俺も熱いのは嫌なので俺に向けて放射された炎を斬り裂き、一足で肉薄して首を斬り裂いて殺す。
一匹だけなら対処は割と楽だが、群れる習性でもあるのか集団で来る。
前世以来の緊張感だ。
いや、シヴァと一昼夜ぶっ続けで戦ってた時も感じてたから、シヴァ以来だ。
あの
ヤハウェから聞いていた通り破天荒だった。いや、破天荒どころじゃなかったがな。シヴァと一緒に降りてきたパールヴァティが止めてくれたからどうにかなったが。止めてくれなかったらシヴァを殺す羽目になっていただろう。良くて相打ちだったろうから命拾いしたが……。
未だ14歳の体じゃ前世のような動きは出来ない。全盛期の足元どころか100分の1以下の動きしかできていない。
歯痒いが、こればかりは仕方ない。今、この未熟な体で無理をすれば成長した時に支障が出るのは明白だ。
前世では親父殿のせいで一時期剣が握れなくなった。物心つく前から無茶な鍛錬を強要されたせいだろうと当たりをつけていたが妹は特にそんな素振りも無く死ぬ直前まで剣を振っていたが……
「はあ、早く強くなりたい……」
この独白は俺の本心。いや、渇望だろう。
今の俺にはこの程度の力しかない。前世での自分の動きを力を知っているからこその息苦しさ。
いくら、モンスターを斬り殺せても、どれだけ魔石を稼げても。未だ遠い目標に比べれば些細なことだ。
そんなことを考えながらも群れで襲ってくるモンスターを半ば作業のように斬り殺す。
相変わらず、この世界は動きづらい。いつになったら気にならなくなるんだろうか……
原作との相違点
・天気が雨
・シルと未遭遇
・上層踏破&中層デビュー
ベル君がキチンと最短記録でレベルアップ出来るか心配になってきた。
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豊穣の女主人
いやー、ギリギリ間に合ったわー
迷宮都市オラリオ。その街の北西のメインストリート。通称"冒険者通り"と呼ばれる大通りにあるオラリオの運営を一手に引き受け、更にはダンジョンに潜る冒険者のフォローもしている万能組織、"ギルド"。
その内部は黄昏時という時間帯において、ギルドの職員は戦場に身を放り出すような忙しさに見舞われていた。
冒険者は、朝早くからダンジョンに潜り、戻ってくるのは大体今の時間帯だ。故に、換金所には長蛇の列が出来ていた。前に居る冒険者のおっさんが金額が少ないだのとギャアギャア騒いでいるのが激しく鬱陶しい。俺より後ろに並んでいる冒険者からの舌打ちを聞くのは何度目だろうか。
一度、あまりにも鬱陶しかったので首根っこ掴んでギルドの外に放り投げたら、かなり怒られた。ギルド職員のお姉さんに。
怒っていたのは半ば俺の担当になりつつあるハーフエルフのお姉さんだ。いつも通り右から左へ聞き流していたら、案の定息を切らして肩を上下させていた。他のギルド職員はハラハラした面持ちでこちらに注目し、冒険者は今回の説教でハーフエルフの職員が気絶するかしないかで賭けをやっていた。
いつになったら終わるかな。と、説教をBGMにぼーっとしていたが、思わず欠伸をしたら説教がヒートアップした。勿論お姉さんは気絶した。
その後、お姉さんの同僚の獣人のギルド職員に怒られた。因みに予想外の結果に冒険者の賭けは不成立になって、苦情が来た。知らんがな。
なので、手は出さない。殺気を向けるだけで止めておく。
おっさんは一度体をビクつかせ、後ろに居る
その後姿を尻目に前に進み、今日稼いだ魔石を換金所の受付に出す。
ザラザラと大小様々な大きさの魔石、あるいはその欠片が魔石を入れる容器に入っていく。器に入りきらずにこんもりと山になって器の外へと零れていく。
「は?……へ!?」
「え、何あの量……」
「きっと、何日か潜ってたのよ!そうに決まってる」
「そうはならんやろ」
「なっとる!やろがい!」
等々。後ろが騒がしいが特に反応する必要もないので放置。俺にとっては目標の20万ヴァリスに到達しているかどうかが重要だ。
中層に降りて、アルミラージ、ヘルハウンド、そしてこの前横取りされて殺せなかったミノタウロスを狩りまくった成果はどうなのだろうか。
「19万9千ヴァリスになります。」
「あ、もうちょい稼いどきゃよかった」
「「いやいや、十分だろ!!」」
後ろが五月蠅いが関わると後が面倒なのと、何よりもお腹が空いたのでさっさと金を受け取ってギルドを立ち去る。案の定ストーカーが出てきたが、気配を消して人ごみに紛れ込めば直ぐに撒けたので、そのままヘスティア様の下へ急ぐ。
「すごいじゃないかベル君!!」
ヘスティアファミリアのホーム『廃教会の隠し部屋』に戻って、
その謝罪は珍しく遊びに来ていた神ヘファイストスによって中断させられた。
「一日の稼ぎで20万弱……。しかも一人で。こんなことが出来るのは貴方ぐらいよ。それで、どうやって稼いだの?」
「中層辺りで出てくるモンスターを手あたり次第殺しまくっただけ」
俺の今日の行動にヘスティア様は天を仰ぎ、ヘファイストス様は口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。その後、5分ほどして再起動したヘスティア様に「無理をするな」と怒られ、ヘファイストス様はアホを見るような視線を俺に向けていた。
説教が一段落したところで、今日の夕食は外食にしようと提案し、可決された。勿論、代金は俺の今日の稼ぎから出る。つまり、本日の夕食代金は20万弱である。まあ、そんなに使わないだろうけど。
そんな中、帰ろうとして腰を上げたヘファイストス様も(ヘスティア様が)誘って、美味しい料理の出る店に連れて行けと(ヘスティア様が)強請ったので、苦笑しながらヘファイストス様は案内してくれた。店の名前は『豊穣の女主人』という場所だ。
3人で地下から地上に出て、大通りを進む。今は装備を置いてきている。勿論、剣もだ。うん、すっごい違和感を感じる。剣が傍に無いからだろう。
真ん中にヘスティア様、右に俺、左にヘファイストス様が並んで歩いている。すまない、訂正しよう。俺とヘファイストス様はヘスティア様に引っ張られているので横一列ではなく、矢じりの形で歩いている。
満面の笑みを浮かべて、ヘスティア様はスキップしそうなくらいに軽やかに歩みを進める。彼女の両手は俺とヘファイストス様をグイグイと引っ張っていく。どこにこれだけの馬力があるのか甚だ疑問ではあるが、まあいい。
時折、ヘファイストス様に注意されて道を間違えそうに(ヘスティア様が)なりながらも、無事に到着した。
『豊穣の女主人』
そう掲げられた看板の下には入り口が開いており、中の様子が見て取れた。
酒場兼食事処といった店のようで、店員は見る限りは女性店員オンリー。もしかしたら男は裏方作業に従事しているのかもしれない。
中では、仕事終わりの冒険者が酒を飲み、料理を食べ、店員を口説こうとしてあっけなく振られている。そして、店に響く大爆笑。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。
「ここよ。」
「わあ。とても楽しそうな所じゃないか!」
「ここ美味いんすか?」
「ええ。私も来るのは初めてだけれどロキのお墨付きよ」
「「じゃあ、ダメだ」」
ロキ・ファミリアの主神御用達とか。ロキ・ファミリアに対していい印象がないので出来れば別の店にしてほしい。ヘスティア様が嫌がってる理由は知らん。
まあ、店は変えなかった。ヘファイストス様が問答無用で引っ張っていったからだ。
「3名様、ご案内でーす」
「「いらっしゃいませー!」」
扉を潜ると、近くに居た銀髪のヒューマンの店員が俺たちの来訪を告げる。すると、他の店員も俺たちの来訪を歓迎するように挨拶をしてくれた。
銀髪の店員はそのまま俺たちを席まで案内してくれた。店の奥まった場所にあるテーブル席だった。今はここしか空いて無いらしいが正直そんなことはどうでもよかった。
席に座り、適当に料理と飲み物を注文し店員が去ってから雑談に興じる。この雑談とは主に俺の話だったりする。
俺の今後の教育に関する話だったり、俺がオラリオに来るまでどんなことをしていたかとかだったり……
暫くして、飲み物と料理が揃い、乾杯をしてから手を付けだす。
ヘファイストス様が連れてきてくれただけあって料理はとても美味しかった。
神ロキが御用達にしてると聞いたときは少し不安だったが……
そんな時だった……
「御予約の団体様ご来店でーす!」
ロキ・ファミリアが店に来たのは。
次回、ベル君大暴れ(多分)
という訳で今年はこれで最後となります。
また来年お会いいたしましょう。
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