気弱アリナと天才かりん (ファンタは友達)
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気弱アリナと天才かりん
神浜市の東側に位置する栄区。そこには栄総合学園と言う教育機関があり、二人の魔法少女が通っていた。一人は自称”ハロウィンが生んだ魔法少女”―――御園かりん。紫色の髪と西洋の魔女を思わせる格好が特徴の魔法少女。もう一人は魔法少女の解放を謳う”マギウスの翼”をさらにその上から支配する”マギウスの一角”―――アリナ・グレイ。緑の髪と帽子を被った憲兵のような恰好が特徴の魔法少女である。
「アリナ先輩!このマンガ面白くないの!」
手に持ったマンガをパンパンと叩きながらアリナに見せるかりん。そのマンガは絵こそ画家が描いたような美しく力強いものだったが、ストーリーはお世辞にも面白いとは言えなかった。
「ア、アリナ的には面白いと思うワケ…かりんとアリナは感性が違うと思うんだヨネ…」
アリナは世界的に有名な若き天才芸術家であり、その作品はいくつもの賞をとるほどに他を圧倒していた。最近は芸術活動の傍らマンガの方にも力を入れ始めようと考え、天才漫画家でありいくつもの連載を抱えるかりんに指導を頼んでいた。
「アリナ先輩が面白いと思ってもダメなの!マンガは読む人が面白いと思わないとダメなの!」
「そ、そんなに怒らないでほしいんですケド…」
「ダメなの!今日と言う今日は許さないの!ちゃんと私の言ったとおりに描けるまでいちご牛乳はあげないの!」
「それはアリナ的にバッドなんですケド…」
アリナはその言葉を聞いたと同時に泣き出しそうな顔になった。アリナはかりんとの約束で、面白いマンガがかけたらいちご牛乳をかりんからもらうと言う約束をしていた。
かりんはため息を吐きつつ再びアリナの描いたマンガを手に取り読み始めた。その眼差しは決してアリナの作品を馬鹿にしているものではなくもっと良いものを作ってもらいたいと言う真剣さが現れていた。アリナは普段自分に強く当たるかりんを少し苦手に感じていたが、かりんのそういう所は好きな部分の一つであった
「うん、分かったの。アリナ先輩は一言でストーリーをまとめようとしているの」
「そ、そんなワケないんですケド…アリナはちゃんと分かるように描いてるつもりなんだヨネ…」
「つもりじゃダメなの!ちゃんと意識を持たないとダメなの!アリナ先輩は意識しないで絵を描いてるの?」
「……」
かりんに痛いところを突かれたアリナは黙り込んでしまった。黙り込んだアリナを意に介さずかりんは淡々とアリナに説教を続けた。かりんの説教が30分を過ぎた辺り――――
「あの…アリナはお手洗いに行きたいんですケド…」
かりんは先程よりも大きいため息を吐きそれを了承した。そしてアリナはその場から逃げるように教室をそそくさと出て行った。残されたかりんはふと視界に入ったアリナの描きかけの絵を見つめた。
「……」
その絵は何をモチーフにしてどのような構図で描いているのかはかりんにも分からない絵だったが、その絵からは何とも言えない力強さと美しさが滲み出ていた。
「…マンガの方もこれくらい何かを感じられるように描けたらいいと思うの…」
ガタッ――――――――
かりんは音がしたと同時に振り返っていた。しかしそこには誰もいなかった。否、いなかったと言うよりは今はいないと言った方が正しいとかりんは思った。かりんが見つめ続けるとアリナが教室の扉の影からこちらの様子を窺うようにそーっと出てきた。
「……」
「……」
アリナとかりんは無言で互いを見つめ合った。いや、アリナもかりんも何を話して良いかが分からずにいたと言った方が正しいと思われた。無言の静寂が少し過ぎたころ、その静寂をアリナが破った。
「アリナの作品…変…?」
「別に変じゃないの。わたしはアリナ先輩が何を描いてるのかわからないけど、すごいものを描いていると思っているの」
その言葉を聞いたアリナは心底嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ、続きを始めるの!わたしも考えるから一緒に完成させるの!」
今日もこうして二人の物語は描かれていく、この先、アリナがマギウスとして魔法少女の解放を成功させる物語を描くかもしれないし、逆にかりんとの壮絶な別れを描くかもしれない。それはその
「「――――――この幸せな時間がずっと続けばいいな」」
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