TSキリン娘のヒーローアカデミア (鰹節31)
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番外編
トリック・オア・トリート!お菓子くれなきゃ雷落とすぞ♪


このお話は麒麟達が中学生だった頃のお話です。完全にオリジナル展開です。本編に関係しません(多分)


「トリック・オア・トリート!」

 

 10月31日、月明かりが強い夜。私の部屋の前でミイラの代表であるマミーの格好をした私の弟雄馬が、両手を上げて笑顔でハロウィンのお決まりのセリフを言う。

 

「ふふ、アメちゃんどうぞ」

「やったー!」

 

 飴を貰って喜ぶ雄馬を見ながら私は笑顔になる。今日はハロウィン。他の場所からも子供の声が聞こえる。近くの街ではハロウィンのイベントを行っているらしく、私と出久と勝己はそこに行くことになっている。せっかく行くので仮装もしている。仮装は狼。私の髪の毛に合う白い狼の耳のカチューシャがあったから狼の仮装をする事にした。服は自作で、本当はキリンの装備を作りたかったのだが、先ずこの世界にはキリン装備が存在しない為作るのを止めた。雄英に入ったらコスチュームとして作ってもらおう。

 

「じゃあ、お姉ちゃん行ってくるね」

「うん!」

「行ってらっしゃい麒麟」

「行ってきます」

 

 お母さんと雄馬に見送られながら家を出る。私の家の前では既に来ていた出久と勝己がなにやら言い合いをしているようだ。と言っても、勝己が一方的に文句を言っているだけなのだが。

 

「だからなんでテメェと同じ衣装なんだデクゥ! 少しは断るとかしろや!」

「いや、だってお母さんも光己さんも凄いノリノリだったから……」

「んなことは関係ねぇ!」

「家の前で喧嘩しないでくれない?」

「ああ?」

「あ、麒麟さん。ご、ごめんね」

 

 出久と勝己の衣装はお揃いで吸血鬼。多少違うところがあるとすれば蝶ネクタイが緑と赤ぐらいである。

 

「……あら? 出久と勝己は衣装お揃いなのね」

「う、うん。お母さんにかっちゃんと麒麟さんとハロウィンのイベントに行くって言ったら衣装作るってはりきっちゃって。それでお母さんが光己さんに衣装の事を話したら光己さんもノリノリで……」

「それで一緒になったのね。良いんじゃない? 出久と勝己が同じ服着るなんて滅多にないし」

「それが嫌なんだっつてんだろうが!」

 

 と、いつもの如く叫ぶ勝己と困った顔をする出久を連れてハロウィンイベントをやっている街へとやってきた。街はイルミネーションや飾り物でハロウィンのイベントをやっているのがすぐに分かる。色々な人が仮装していて、小さい子がマミーの仮装をしているのを見つけて雄馬を思い出し笑みが零れる。

 

「麒麟さんは僕達と来て良かったの? 友達と行かなくて」

「ええ。皆と行く予定だったんだけど、皆が皆仮装にお金使いすぎたらしくて電車賃無くなったのよ。だから今回は中止になったのよ」

「そ、そうなんだ」

 

 この話事実である。衣装なら作ろうかと友達に言ったところ、どうやら皆は気に入った衣装がそれぞれあったらしく既に衣装を買っていたのだ。その時にお金を使いすぎたらしく、電車賃がないから行けないと謝ってきた。計画性が無さ過ぎるとあの時ばかりは思ってしまった。

 

「けっ、計画性がねぇ奴らだな」

「それは私も思っちゃったわ」

 

 私は苦笑し、勝己は周りを見る。しかしまぁ、出久と勝己が同じ服を来て並んで歩くのを見るのはいつぶりだろうか。昔はよく見ていたのだが……なんだが弄る事が少なくなって面白くない。

 

「へい! そこのお嬢さんちょっといいかい?」

「えっと……私?」

「そうそう! 君以外に誰が居るのさ!」

 

 街を色々周り、小腹が空いてきた頃。紳士服を身に纏い、ジャックオランタンの被り物をした人が私に声を掛けてきた。頭重くないのだろうか?

 

「ここの近くで仮装コンテストをやるんだけどお嬢さんもどうだい? お嬢さんなら優勝間違いなしさ!」

「そ、そうかしら? 出久、ここの近くで仮装コンテストなんてやってた?」

「うん、いろんなところにコンテストの張り紙があるから多分それだと思う。優勝した人には最近できたケーキ屋さんのお食事券が貰えるんだって!」

「お嬢さんコンテスト参加してみないかい?」

「そうね……じゃあ、参加しようかしら。全員で」

「ええ!?」

「ああ!?」

 

 私の言葉に出久と勝己が驚いた声を上げる。私だけ出場するのはつまらない。全員で出たら面白いと思うのだ。

 

「いいじゃない。吸血鬼兄弟とかそんなんで参加すれば。衣装もお揃いなんだし、ね?」

「ひ、人前に出るのは…恥ずかしいというか…」

「なんで俺がデクと一緒に出なきゃなんねぇんだ!」

 

 否定のオンパレードである。どうすれば乗ってくれるだろうか? 勝己を動かせば出久はそれに引っ張られる事になるはずだ。よし、よ勝己を動かそう。

 

「勝己」

「あ? んだよ」

「私とどっちがコンテストで優勝するか勝負しましょう? 勝った方は負けた方に何でも命令できるわ」 

 

 私と勝己はよく勝負をする。今まで私の全勝だが、私から勝負を仕掛けたことはない。今回は“個性”は使わないし、勝てば何でも命令できるという特権付き。これで勝己が動かない訳がない。

 

「面白ぇ…今度こそテメェを泣かす!」

 

 勝己は獰猛な笑みを浮かべて小さな爆発を起こす。勝己は意外とチョロい。勝負を持ちかければ案外上手く動かせるのだ。

 

「出来たら良いわね」

「…けっ、行くぞデク!」

「え? 僕も!?」

「テメェは俺の指示通り動いてりゃあいいんだ! クソ女に勝つためにテメェを利用すんだよ!」

「いや、僕は──!」

 

 勝己は出久を引きずりながら人混みの中に消えていく。出久とのお揃いとか協力をとことん嫌がるのに、私に勝つためとなると出久と協力するなんて…あのボンバーマンどんだけ私に勝ちたいのか……。

 

「えっと、お嬢さん。俺達も会場に行こっか?」

「ええ、案内宜しくお願いします。ジャックオランタンさん?」

「お任せあれ!」

 

────────────

 

 場所は変わってコンテスト会場の控え室。結構参加している人が多く、マスコミなども来ていた。先に出久と勝己は会場にでており、色々話していた。勝己が優勝宣言をしたときは苦笑いしてしまった。

 

「雷麒麟さ~ん。出番ですよ~」

「は~い」

 

 私の順番になり、私はコンテスト会場に出る。色んな人が観客として来ている。私は最高の笑顔でステージを歩く。それはさながらランウェイのようではあるがまぁ、全体を見るためには必要ではある。

 

「雷麒麟さん、素晴らしいランウェイをありがとうございます! 最後に何か一つお言葉を!」

「そ、そうね…ええと、じゃあ……トリック・オア・トリート! お菓子をくれなきゃ雷を落とす(イタズラしちゃう)ぞ♪」

「「「わああああ!」」」

 

 聞け勝己。これが私の容姿の効果である。確かにお前も容姿はカッコいい部類に入るだろう。だが、キリン娘という美少女に敵うわけがないのだ。

 

 その後コンテストの結果が発表され、当然ながら一位であった私は黒い笑顔で勝己の財布を全力で空っぽにすべく焼き肉に出久と勝己を連行した。とても良い思い出になったのは言うまでもない。



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番外編:闇に潜む黒き竜~黒き竜の外套は光すらも蝕む~

皆様お久しぶりです。今回ちょっとした予告が入ってます。
ヒーロー側に“モンスター”が居るなら(ヴィラン)側にも“モンスター”居てもおかしくないはず! という事で書きました。仕方ないんです本編のモチベーションが沸かないんです……。


 この世は理不尽である。これはこの世界、僕のヒーローアカデミアで僅か3歳にして理解せざるおえない事であり、希望を絶望に塗り替える事でもある。俺もその例外ではない。決して“無個性”だった訳じゃない、寧ろ“強個性”といっても過言ではない。だが、あまりにも神は俺に非情なのだろう。

 

「ちっ……」

 

 路地裏にひっそりと構えるカラオケ店。その中はそこら中に付着した血によって漂う鉄の臭いと目を逸らしたくなるような光景が広がっている。まぁ、目を逸らしたくなると言ってもこれを作りだしたのは他でもない俺なのだが。

 

「ヤクザは健康じゃねぇから美味くねぇ。ヤクやってんじゃねぇだろうなこの屑共」

 

 カラオケ店というのは表向き。あくまでも此処はヤクザ達の拠点である。何故俺がこんな所に来てこんな惨状を作り出したのか。答えはいたって単純。ヤクザ達(食料)を食べにきたのだ。なに言ってんだこいつと言われても否定はしない。だがこれは俺の“個性”のせいである。

 

 俺の“個性”は“黒蝕竜ゴア・マガラ”になることが出来るというもの。擬人化、竜化、何でもござれ。擬人化しなくとも狂竜ウイルス撒き散らしたい放題、身体能力はそこらの異形型じゃあ比にならない。別に擬人化、竜化しても目が見えなくなるって訳じゃない。なら、何が不満なのか。それはこの体が肉を求めているからである。スーパーで売っているような肉じゃない。何故かは分からないが人間の肉ではないと満足しないのだ。馬鹿げている。

 

「まぁ、腹の足しにはなったな」

 

 自分自身が転生者であるのは理解している。この世界の漫画は読んでいたし、勿論MHはやっていたさ。ゴア系モンスターの厨二心を擽られる名前である武器をコンプさせるぐらいにはやり込んだ者である。実際、ゴア・マガラの力を手に入れて歓喜しなかった訳じゃない。なのに人間の肉を喰わねば生きていけないという縛りを付けられ、躍っていた心は沈み、目は絶望しか映さなくなった。

 

 前世の死因も分からず、転生したと思ったら生きる為に人を喰わないと生きていけない呪いをかけられ、それでも尚、生きたいと願ってしまう俺は果たして悪と言えるのか? いや、言えるのだろう。だってこの世界は理不尽なのだから。

 

「さて、探すか」

 

 カラオケ店にあるはずのない拳銃を二丁程回収し、持てるだけの弾を持ち、ヤクザ同士の抗争事件に見せる為何十発か撃ってから店を出る。口に付いた血を拭き取ってからフードを深く被り、路地裏から出れば雑踏が耳に響き、ビルからの光の反射で目を細める。

 

────この光は俺には眩しすぎる。

 

 俺の“個性”は表の世界には似合わない。暗く淀み歪んだ裏の世界にしか潜むことしか出来ないのだ。

 

《緑谷出久じゃなくて雷麒麟!? あの距離から大逆転とかありかよ!?》

 

 テレビショップに置かれているテレビからヒーローの声が聞こえる。ああ、そういえば今日は雄英高校が体育祭をしているんだっけか。

 

「……は?」

 

 チラッと見たテレビを見て驚愕した。雷麒麟と呼ばれた彼女の額からは蒼き一本の角が生えていたからだ。彼女は雷を身に纏い、笑顔で一人の男の子を見ている。いや、そんなのはどうでもいい。問題はあの蒼い一本の角と雷だ。あれはどう見ても“幻獣キリン”じゃないか。俺以外にも転生者が居ることには驚いたが、それよりも怒りがこみ上げてきた。こんなにも自分の力で“個性”で苦労しているのに、なんであの雷麒麟という奴はキリンの“個性”で彼処まで晴れ晴れしく居られるのか。

 

────ああ、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、ニクイ、ニクイ、ニクイ。

 

 同じモンスターなのに、同じ古龍なのに! 俺と彼奴の何が違う、性質は違えど何もかも同じじゃないか!

 

「……殺してやる」

 

 未来すら見ることを諦めてしまう程の絶望を与えて、自身の鼓膜が破れるぐらい叫び声を上げさせて、喉が潰れるくらい鳴かせて、それでも目に光が灯るなら目を切り裂いて、無残に残酷に醜く、殺してやる。それから喰ってやる、どこも残さず、存在していたことさえ思わせないくらいまで喰らいつくしてくれる。良い肉付きしてんだ……きっときっと喰ったら美味いんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数週間後、俺はオール・フォー・ワンと名乗る男と出会った。どうやらそいつも雷麒麟を狙っているらしい。目的が一致しているなら此奴を利用して雷麒麟を探し出してやる。

 

 そして数ヶ月後、俺は開闢行動隊として(ヴィラン)連合の輩共と一緒に林間合宿をしている雷麒麟を襲った。

 

──さぁ……殺して喰ってやる。




3/2 17:44現在、自分のミスでこのお話が最新の話として投稿されなかったので投稿し直しました申し訳ありません。


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番外編 : 魔王と黒き竜

死んでました(生きてます)。
ずっと放置していて申し訳ありません。
作者、鬱になってました(なんでだろう)。
漸く元気になったと思ったらヒロアカ滅茶苦茶凄いことになってるし、本編書けないしで申し訳ないです。

後、生存報告用にTwitterアカウント作りました。進捗を偶に呟いたり、来た質問に答えたり答えなかったりします。良ければフォローしてください。


「も、もう許し、ゴハッ」

「この、バケモンがッ!」

 

 深夜、誰も訪れることのない廃工場で俺は目の前のゴミ2人を叩きのめしていた。

 

「ハァ……良い取引があるっていうから来てみりゃあ…いきなり襲いかかってくるのはなんなんなだ?」

 

 今朝、ヤクザ共を貪っていた俺に黒いモヤを纏った男が接触してきた。男は俺に新鮮な人肉を用意する代わりに協力するよう持ちかけてきた。

 

『あなたの“個性”はとても強力なもの。これからの我々の活動に必ず必要になる』

『……なんでお前が俺を知っているのかはどうでも良い。信用ならねぇ、帰れ』

 

 言い捨てた俺に新鮮な人肉をノータイムで渡してきた男を睨みつけながらそれを受け取った。毒であっても俺の身体なら問題なく解毒出来る。試す価値はあった。

 

『今夜、指定の場所にて詳細を話させていただきます。どうにも此処は血なまぐさい。ヒーローにバレてしまうのは時間の問題でしょう』

『……罠だったら殺す』

 

 渡された地図を頼りに来てみればこれだ。やはり罠だったか、あの男見つけ次第殺すと心に誓いながらゴミ1人の胸倉を掴む。

 

「聞いていた通り素晴らしい“個性”だね」

「……あ?」

 

 俺とゴミ2人以外誰もいなかった廃工場にモヤの男と異様なマスクを被る男が背後に立っていた。

 

「見つける手間が省けたなぁ…罠だったんだろ? ぶっ殺してやるよ、モヤ男」

「いえ、罠ではありませんよ。勝手ながら我々はあなたを試したのです」

「試すねぇ」

「ヤクザ相手に圧倒できたとしても数々のヒーローを殺した凶悪犯にどう対処できるか、僕はそれを知りたかったんだよ。そして君は傷つくことなく勝利した」

 

──騙すようで悪かったね。

 

 笑いながら微塵も悪いと思っていないようにマスクをつけた男はそう付け足した。

 

「そうか」

 

 短い返答。これ以上話しても意味がないと判断し、目の前の2人を殺すために鱗粉を撒き散らす。姿からして胡散臭いような奴らだ、今後も絡んでくる可能性を考えれば今ここで殺しておいた方がいいだろう。

 

「じゃあ、死ね」

 

 竜人かした状態で即座に接近。最初にモヤ男の顔と思われる掴む為に右腕を伸ばす。

 

「……?」

 

 掴んだ感触がしない。なんなら俺の右腕が背後から伸びている(・・・・・・・・・)

 

「っ……ワープ系か。見んのは初めてだな!」

 

 離れるのは相手にワープで追撃される。近づいて攻撃……いや、さっきのようにワープを使われる。なりたくねぇが、ゴア・マガラになるか?

 

「随分と血気盛んだね。だからこそ君の力が必要だ。これから僕達は大きな作戦の実行する」

 

──君には雷麒麟という少女を相手にして欲しいんだ

 

「なんで……そいつを?」

 

 一度離れてからマスクをつけた男を睨みつける。不気味に笑いながらマスクをつけた男は俺に近づいてきた。

 

「君も彼女に興味があるのかな? そうだと嬉しいね。僕は彼女の“個性”が欲しいんだ」

「“個性”が欲しい……?」

「おっと、これ以上は秘密さ。君が仲間になるなら話しても構わない」

「いや……それはどうでもいい……取引に一つ追加だ。雷麒麟は俺に殺させろ」

「いいや、僕の目的が終わるまでは生け捕りさ。それさえ終われば後は好きにしてもいいよ」

 

 雷麒麟を殺すなら駒は多い方が良い。相手は古龍、だからな。それにマスクをつけた男……なにやらきな臭い。雷麒麟を殺した後にコイツも殺すとしよう。

 

「それでいい」

「いいね、それじゃあこれから宜しく頼むよ。僕の名前はオール・フォー・ワン。皆からは先生と呼ばれているよ。君も是非そう呼んで欲しい」

「俺は、(しょく)だ……」

「……うん、蝕君か。良い名だね。黒霧、彼をアジトに連れて行ってあげなさい。皆に挨拶をしないとね」

「畏まりました」

 

 モヤ男が広がり、飲み込まれたと思いきや目の前の景色がガラリと変わる。辺りの眩しさに若干目を細めながら周りを見る。ここはBARか?

 

「黒霧、なんだこいつ」

 

 目の前にいる奴らは様々な寛ぎ方をしながら俺を見てくる。なんだか随分と愉快な性格をしてそうな奴らだな。

 

「こちらは蝕さん。今回の作戦に参加してもらう方です」

「……蝕だ。雷麒麟は俺が殺す」

 

 その俺の一言に色んな反応を見せる愉快な奴ら。こいつらの名前や思想、目的なんてどうでもいい。どうせ目的を果たしたら俺は此処を去るつもりだ。

 

「まぁ、いい。使えるなら使うし使えないなら殺すだけだ。ようこそ(ヴィラン)連合へ。せいぜい働け」

「ぶっ殺す」

 

 俺は取引をする相手を間違えたのかもしれない。




この後、黒霧に止められた。

蝕君の皆への印象。

死柄木弔→ぶっちぎりのイカレ野郎。ファッションセンス皆無、ネチネチウザい、多分美味しくない。

黒霧→ワープ便利。小言うるさい。食えるのかコイツ?

荼毘→焦げてる。絶対美味しくない。

トガヒミコ→血美味いよな、わかる。めっちゃ絡んで来てウザい。肉付きいいし絶対美味い。

トゥワイス→なんだこの全身タイツ。言ってること滅茶苦茶だし、めっちゃ絡んで来てウザい。作った分身は不味かった。多分本体も不味い。

Mr.コンプレス→便利な“個性”。焼いた肉を携帯食料にしたいから“個性”使うのお願いしたら断られた。めっちゃ絡んで来てウザい。多分美味い。

スピナー→ランポス? ……いや、色違うか。ステインなにそれ美味いのか?って聞いたらブチ切れた。意味分からん。多分不味い。

マグネ→オネエ。めっちゃ世話やいてくる。止めろ普通の飯近付けんな。食える量多いから美味しくなくても満足できるかも。

マスキュラー→戦闘狂。戦おうってうるさいから捻り潰したらずっと勝負挑んでくる。多分不味い。

マスタード→身体中ガスまみれで多分不味い。

ムーフィッシュ→キモイ。わかる、人肉いいよな。多分不味い。

オール・フォー・ワン→きな臭い。他の奴とは存在感が違う。目的果たしたら殺す。食べる気にならない。


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本編
TSキリン娘に転生してやったぜ


アニメの僕のヒーローアカデミアを見ていて思いついたので書いてみました。見切り発車で、文もグチャグチャです。


 朝、小鳥の鳴き声と少し眩しい朝日。不快に感じてしまう程大音量で鳴る目覚まし時計に目を覚まされる。パジャマから制服に着替え、部屋にあるスタンドミラーの前に立つ。スタンドミラーに映る少女の見た目は、背中まで伸ばした純白の髪、ブルーサファイアのような瞳。身長は162cm。胸はまぁ、そこそこあるんじゃない? 自分で言うのもあれだけどやっぱり美少女だよね。

 

「てか、やっぱり。スカート慣れないわぁ……」

 

 ()(いかずち) 麒麟(きりん)。折寺中学校在籍。“個性”キリン。スカートになかなか慣れないただのしがないTS転生者だ。

 

────────────

 

 中国の軽慶市での「発光する赤児」の報道以来、生まれてくる人達に様々な超常的な能力を発現していった。そして現在、世界総人口の約8割が超常能力“個性”持つ超人社会。簡単に言えば、ヤベェ力を持った奴らがいっぱいということだ。

 

 人が力を持てば大体二種類に分けられる。力を使い悪行を行う者達。悪行を行う者達を裁く者達。前者をこの世界の人間は(ヴィラン)と呼び、後者をヒーローと呼ぶ。ヒーローは一般人から讃えられ、憧れとなっている。しかし、誰でもヒーローになれる訳ではなく、高校でヒーローとしてのいろはを学び、ヒーローになるための試験を受ける。まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

 “個性”は誰しもが持つ訳ではない。世界総人口の約8割が持っているが、逆に言えば約2割が持っていない。個性を持ってない人達を“無個性”と呼び馬鹿にする。私はそんな下らないことはしないが、他の人達はするのだから気が知れない。

 

「お、おはよう麒麟さん!」

「おはよう出久」

 

 何時もの通学路を歩いていると、少年に声を掛けられたので笑顔で挨拶を返す。緑色の癖っ毛と顔のそばかすが特徴的な少年の名前は緑谷出久。私の幼なじみで僕のヒーローアカデミアの主人公。そして私達の世代ではかなり珍しい“無個性”である。

 

「何回も言ってるけど、別に呼び捨てでいいんだよ?」

「そ、そ、そんな呼び捨てだなんて!」

 

 そしてまぁ、女の子と話すと緊張する節がある。幼なじみなんだから呼び捨てで呼んでもいいとは思う。本当に。

 

ドォン!

 

「ん?」

「なんだろ今の音……あ、あれ!」

 

 いきなり鳴り響いた轟音。出久と轟音が鳴った方向に目を向けると、巨大化し暴れる人間……(ヴィラン)が視界に入った。

 

(ヴィラン)! ごめん麒麟さん。僕、ちょっと行ってくる!」

「え、あ、ちょっと!」

 

 出久は走って(ヴィラン)が居る場所に向かう。(ヴィラン)居るところにヒーローあり。出久は重度のヒーローオタクであり、ヒーローのことをノートに分析して纏めている程である。恐らく、ヒーローの活躍を見に行ったのだろう。

 

「ま、大丈夫よね」

 

 ヒーローが駆けつけるのなら出久の無事も保証されるし、私は転生者だ。多少の原作知識はあるから分かる。出久がピンチになるのはまだ少し先。私が助けなかったとしても“彼”が助ける。

 

 さて、私は今日起きる出来事。原作の始まりの日を存分に楽しむとしよう。緑谷出久のヒーローとして成長する運命の日。イレギュラーの私はひっそりと見守ろうじゃないか。鼻歌を歌いながら学校を目指す。微かに春の匂いを感じた。

 

────────────

 

 人が混乱する声が聞こえる。ヒーローが苦戦する表情が、薄い金髪に赤目の三白眼が特徴的な幼なじみの爆豪勝己の苦しむ表情が見える。

 

「順調、順調。何も異変はないわ」

 

 勝己が(ヴィラン)に襲撃を受けてしまったヘドロ事件。イレギュラーである私が向かえば直ぐに解決出来る事件だ。それじゃあ意味がない。陰ながら見守るならば私もそれ相応の行動しなければ。

 

「……フフフ」

 

 ヘドロ事件の現場の近くの建物の屋上から出久を見る。原作通りの動き、それを見て“彼”が動く。

 

「プロはいつだって命懸け!」

 

 出久が一般人が一番賞賛し、憧れるヒーロー。

 

「DETROIT──」

 

 No.1ヒーローと呼ばれ絶対的な人気を誇る“平和の象徴”

 

「SMASH!」

 

 彼の名はオールマイト。誰もが知るヒーローだ。

 

「フフフ、ハハハハハ!」

 

 降りしきる雨を浴びながら私は笑う。実に愉快。原作を直で見ることがなんと光栄なことだろう。気づけば“個性”を使用し、頭からは蒼い一本の角を生やして雷を纏ってしまった。

 

「まだ制御しきれてないわね。練習が足りないわ」

 

 満足した私は雷を纏ったまま建物の屋根に飛び移り、自宅へと帰ったのだった。




(いかずち)麒麟(きりん)
TS転生者。緑谷出久と爆豪勝己の幼なじみ。一人称は私、他人を貴方(貴女)若しくは呼び捨てで呼ぶ。背中まで伸ばした純白の髪、ブルーサファイアのような瞳に身長は162cm。胸は本人曰わくそこそこ(実際はB程度)

“個性”キリン。
モンスターハンターのキリンの力を扱うことが出来る個性。三段階の形態がある。普段は人間と何ら変わらない姿だが“個性”を使用すると頭から蒼い一本の角が生える。形態変化としては人間状態→擬人化状態→キリン化状態と変化出来るが、キリン化状態は体力の消耗が激しい。


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実技試験

「君はヒーローになれる」

 

 プロヒーローに憧れ、なりたいと努力する者にプロヒーローがそれを言えばどれほど感激するのだろうか。もし、No.1ヒーローオールマイトにそう言われたのなら。ヒーローを目指す者達はどう返事をするのだろう。

 

「ゔ、ゔあ゙あ゙あ゙あ!」

「良かったね、出久」

 

 出久の泣き声を聞きながら私は微笑む。満足して家に帰る途中、出久がオールマイトに選ばれる場所を思い出して向かったのだ。

 

「私も頑張らないとね。色々と」

 

 足音と気配を出来るだけ消し、私はその場から離れる。今日から出久は雄英高校に向けて努力していく。私も雄英高校を受ける身としては努力しなければならない。

 

────────────

 

 あの日から10ヶ月過ぎるのは早く、出久の頑張りを見ながら私は“個性”の強化を進めた。前世で見てきたキリンの攻撃方法だけではなく、私だけが出来るキリンの力を使ったオリジナルの技も編み出した。まだ人に向かって使えるかは分からないが、多分きっと問題ない。

 

「……よし」

 

 今日は雄英高校の受験日。制服に着替えた私は朝早くから家を出る。理由としては“個性”が、ちゃんと制御出来るかの最終確認である。幾ら制御出来るようになったとしても力の元がキリンである以上下手すれば大変なことになりかねない。

 

「糸を身体に巻きつけるイメージ……」

 

 生えた蒼い一本角から発生した雷を全身に纏う。雷を自由に操るということは糸を操ることと似ていた。頭の中で糸をどう動かしたいか、それをイメージすれば雷はイメージ通りに動いてくれる。

 

「ふぅ……」

 

 少し動いてみれば普段よりも速く動けるし、力も溢れ出る気がする。“個性”の鍛錬はかなり実を結んだ。人間状態に戻り雄英高校へと向かう。実技試験が楽しみだ。

 

────────────

 

「今日は俺のライヴにようこそー!エヴィバディセイヘイ!」

 

 ボイスヒーロープレゼント・マイクの爆音ともいえるだろう声を聞きながら私は周りを見渡した。原作知識で知る人物だけではない人達。全員が全員自信に満ち溢れてる。

 

「こいつぁシヴィー! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ! アーユーレディ!?──────YEAHH!」

 

 まぁ、なんだ……こうみると凄く可哀想に見えてしまう。私だけでも返事を返した方がよかったのだろうか? いや、恥ずかしいからやめよう。

 

「入試要項通り! リスナーにはこの後! 10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!」

 

 原作通りだ。聞き流しても良いけど“私という存在しない人物”が居るのだからイレギュラーがあってもおかしくはない。

 

「持ち込みは自由! プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!」

 

 「OK!?」と聞いてるが相変わらずシーンとした会場。クスクスと笑いなが受験番号を見る。遠目で見た出久と勝己とは会場はやはり違う。

 

「演習場には“仮想(ヴィラン)”を三種多数に配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある! 各々なりの“個性”で“仮想(ヴィラン)”を行動不能にし、ポイントを稼ぐのがリスナーの目的だ!」

 

 私はニヤリと笑みを浮かべる。やはり“仮想(ヴィラン)”のポイント制。所詮はロボット。直ぐに壊れる。

 

「もちろん他人への攻撃等アンチヒーローな行為は御法度だぜ!」

「質問よろしいでしょうか!?」

 

 手を挙げる青年、飯田天哉。少し苦手意識があるので、合格したらあまり関わらないようにしていきたいな。

 

「プリントには四種の(ヴィラン)が記載されております! 誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態! 我々受験生は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!」

 

 プレゼント・マイク並みに大きい声。飯田の隣の席の人達と演習場が同じだったら後で慰めて上げよう。

 

「ついでに縮毛のきみ! 物見遊山のつもりなら即刻雄英(ここ)から去りたまえ!」

すみません……

 

 周りからクスクスという笑い声が聞こえる。それにつられて私もクスクスと笑ってしまう。

 

「オーケーオーケー受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな! 四種の(ヴィラン)は0P(ポイント)! そいつは言わばお邪魔虫! スーパーマリオブラザーズはやったことあるか!? あれのドッスンみたいなもんさ! 各会場に一体! 所狭しと大暴れしている『ギミック』よ!」

 

 スーパーマリオブラザーズなら毎日のように家族とやる。持ち上げて味方を穴に落とす楽しい遊びだ。

 

「俺からは以上だ! 最後ににリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう! かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!────更に向こうへ! “Plus Ultra”!」

 

 それを聞いて私は少し拳に力が入るのを感じる。

 

「それでは皆いい受難を!」

 

────────────

 

 ガヤガヤとした他の受験生の声を聞き流しながら私は準備運動をし終える。原作知識があるにはあるが、正直な話どのタイミングでスタートになるか分からない。直ぐにスタートダッシュ出来るように最前列には居るけど。

 

『ハイ、スタートー!』

 

 聞き逃さないように集中しているとプレゼント・マイクの声が聞こえる。それと同時に私は走り出した。出だしは好調。さて、仕留めていくとしよう。

 

「標的捕捉! ブっ殺ス!」

 

 仮想(ヴィラン)の前で足を止め、蒼い一本角を生やし、雷を纏って軽々と攻撃を避ける。そのまま懐に潜り込み仮想(ヴィラン)に右手で触る。

 

「雷はお好き?」

 

 右手から放たれた雷が仮想(ヴィラン)を包み込む。仮想(ヴィラン)は機能を停止し、後ろに倒れ込んだ。

 

「威力はこれぐらいでいいのね。さ、次を探さないと」

 

 身体能力を強化されているのだから仮想(ヴィラン)に拳と蹴りでどの程度対抗出来るかを把握しておかなければならない。

 

「どんどん壊すわよ」

 

 私は身体を軽く捻り、丁度よく現れた仮想(ヴィラン)に蹴りをお見舞いする。威力が予想よりも高く、蹴りが当たった仮想(ヴィラン)の頭部分は遠くに吹き飛んでいった。

 

「蹴りは大丈夫そうね。なら、拳は……!」

 

 縦横無尽に駆け回り、仮想(ヴィラン)を発見する。周りに誰も居ない。なら、この仮想(ヴィラン)は私の物だ。

 

「シッ……!」

 

 拳が当たった(ヴィラン)の胴体には穴が空く。これも威力が思ったより高い。もう少し調整を行えるように努力しなければ。

 

「他の技も試さないと」

 

 私はいつの間にか試験のことなんか忘れて自分の技を試すために仮想(ヴィラン)を壊しに走る。雲一つない晴天。空からは雷鳴が鳴り響いていた。

 

────────────

 

 どんなに偽っていても人間の本性というものはいとも簡単に見ることが出来る。恐怖、挫折、嫉妬、怒り、感情に心を揺さぶられ正常な判断やヒーローとしての自覚が無くなるなんてものはよく見てきた。戦闘能力を問われるだけではないこの実技試験では、ヒーローとしての行動が出来るかも問われてくる。

 

「逃げろおおおお!」

「あんなの勝てる訳ねぇよ!」

「助けてぇ!」

 

 即ち、人を助けられるかということなのだが、周りの受験生は皆が敵同士。どうせ試験だからという理由で助けるという行為を行わない者が殆どだ。何があっても勝己は絶対助けないと思うけど。

 

「漸く、来た……」

 

 ビルを破壊しながらどんどん私達の方に進んでくるお邪魔虫の仮想(ヴィラン)。予想よりもはるかに大きく、並大抵の“個性”では太刀打ちできない。立ち向かえばロボットであるため巨大な鉄の塊に襲われることは必然的で逃げに徹するのも賢い選択ではある。私としては本当に邪魔なので壊すつもりだ。

 

「キャア!」

「大丈夫ですか?」

 

 転んで逃げ遅れた女性を助けつつお邪魔虫を視線から外さずに見る。かなり近づいてきた。さて、これは撃退するしかないようだ。

 

「ありがとうございます。貴女も早く逃げないと、あんなのどうあがいても敵わない!」

「そうかもしれないですね。ですが──」

 

 私が雷を生み出すと、鳴り響く雷鳴はよりいっそう激しさを増す。いままで努力したんだ大丈夫、いける。現段階で出せる最高の落雷をお見舞いしてやろう。

 

「勝てるかどうかの前に、貴女を助けることの方が先ですよ?」

 

 女性に少し下がるように頼んでから、お邪魔虫に狙いを定める。

 

「ロボットじゃ、私の相手にはならない」

 

 指パッチンと共にお邪魔虫に巨大な落雷が落ちる。狙いは完璧、直撃した落雷は巨大な音を轟かせながらお邪魔虫を壊した。

 

「すごい……」

「怪我はない? あったら直ぐに手当てしなきゃ」

 

 驚きを隠せない女性に笑いかけながら怪我がないか聞くが反応がない。目の前で巨大な落雷を見たのだから仕方がないと言えば仕方がない。

 

『終了~!』

 

 プレゼント・マイクの声が聞こえ私は動きを止める。実技試験は終了。残りは筆記だけどたぶん大丈夫だろう。人間状態に戻り、空を見上げる。雷鳴が鳴り響かなくなった静かな青空は今の私の心のように澄み渡るほど美しかった。

 

 

雷麒麟 ヴィランポイント58P レスキューポイント30P 実技総合88P 。入試実技1位。



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合格発表

「おめでとう雷麒麟さん! (ヴィラン)P58 レスキューP30で1位で合格だ! 君のような優秀なヒーローの卵を我々は歓迎するよ!」

「うわ、やっべぇ」

 

 オールマイトが投影されている合否の通知を伝える機器を見て私は久し振りに“男”としての口調になる。やってしまった。1位になってしまった。

 

「どうだった“お姉ちゃん”……?」

「雄馬? ダメでしょノックなしに女の子の部屋に入っちゃ」

 

 弟である(いかずち)雄馬(ゆうば)が私の部屋に入ってくる。年齢は9歳まだまだ甘えん坊の小学3年生である。“個性”はビリビリ。両手の指先から微弱な電気を発生させることが出来る。

 

「ごめんなさい」

「次気をつければいいよ。こっちにおいで」

「……うん!」

 

 雄馬を私の膝の上に乗せ、テーブルに置いてある投影機器をつける。

 

「オールマイトだ!」

 

 投影されたオールマイトを見てはしゃぐ雄馬の頭を撫でながらオールマイトの言葉を聞き直すが変わらない。ああ、一位か。これは少し厄介事が起きる。一位に拘るアイツなら絶対にキレてくるのは目に見えている。

 

「あ、お姉ちゃん」

「なに?」

「勝己お兄ちゃんがお姉ちゃんに用があるって電話が来てた」

 

 全くよくできた弟だ。3年生でちゃんと家電に出て私に伝えてくるとは。でも、嬉しくない知らせだ。

 

「そう、ありがとね雄馬。それじゃあ、お姉ちゃんは勝己に会ってくるから一緒にリビングまで行こうか」

「うん!」

 

 雄馬を連れて私の部屋から出る。ドアを閉めるために後ろを振り向くと投影されたオールマイトが「頑張れ」と言わんばかりのグッドサインをしていた。ムカついたから後で壊すとしよう。

 

「お姉ちゃん合格したの?」

「合格したよ。お姉ちゃんヒーロー目指せるね」

「本当! お姉ちゃんすごーい!」

 

 弟の可愛らしい笑顔も見たし、少しだけ頑張りますか。

 

────────────

 

「勝己何か用?」

 

 家を出ると道路側で勝己が不機嫌そうな顔をして腕を組んでいた。その様子だと電話した後、直ぐに駆けつけたのだろう。と言っても家は凄く近いのだが。

 

「何か用じゃねぇ……テメェだろ! 試験の一位は!」

「何言ってるの? 私の合否を聞かないで試験の順位を聞くなんて。普通聞く順番逆じゃない?」

「うるせぇ! どうせテメェは合格してんだろうが! 俺はテメェの順位を聞いてんだ!」

 

 私は気づかれないようにため息をつくと「ああ!?」と威嚇されてしまった。どうやら気づかれたみたいだ。

 

「一位。88Pで一位よ」

「やっぱテメェか! 11P差かクソ!」

 

 最早(ヴィラン)向きの顔になってきている勝己を見て苦笑いしてしまう。本当にヒーロー目指す人の顔なんだろうか?

 

「チッ……雄英に行ったらテメェをブッ潰す。いいか、俺はただの一位を取りたいんじゃねぇ──」

「完膚なきまでの一位でしょ? 耳にタコが出来る程聞いたわよ」

「……絶対にブッ潰す!」

 

 そう言って勝己は自分の家に帰ってしまった。合格だやったぜという私の脳内パーティーが一気に冷めたんだが、後でどうしてしまおうかあのボンバーマン。

 

「はぁ、買い物行こ」

 

 嫌な事があればショッピングをすればいい。ショッピングは楽しいものだ。この世界に産まれてきてから早15年。考えは完璧に女性よりとなっており、よく小説等で見かける身体に考え方などが持ってかれるというのは本当であった。

 

 前世なんてショッピングに連れてかれればウンザリとした表情をしていたが、今では超楽しいのだから一瞬自分が狂ったのかと思ってしまう。まぁ、実際のところ服とか買わず見るだけで終わっているし、ショッピングよりも帰り道の近所のおばさんと混ざって世間話をする方が楽しみだったりする。BBAと言われても仕方がない気がする。精神年齢は軽く30を越えているのだから。

 

「雄馬、遠くまで買い物に行くけど一緒に来る?」

「え~お姉ちゃんお買い物長いもん」

「あら、それだったら私も行くわ麒麟」

「お母さん。何を買いに行くの?」

 

 (いかずち)朱美(あけみ)。私の母親で、“個性”はプラズマ。“個性”の名前の通りプラズマを操ることが出来る。基本的に虫を退治するときに使う。

 

「何か買うってわけじゃなくて静岡に新しいショッピングモールが出来たのよ。お父さんもまだ帰ってこないし、どう?」

「ええ、一緒に行くわ。雄馬はどうする?」

 

 雄馬はリビングのソファーの上で考えるような素振りをする。3年生でもそんな仕草するのか、と苦笑してしまう。

 

「う~ん、行く!」

「じゃあ準備しないとね」

「うん!」

 

 準備と言っても少し着替えて財布を持つぐらいで、そこまで時間はかからない。と言っても遠くまで出かけるのだから少しでもオシャレはしたいものだ。

 

「お母さん少しだけ待ってて」

「急がずにゆっくりでいいわよ~」

 

 自室からお気に入りの服とジーンズを引っ張り出して着ていく。キャップ帽を被り財布を持った。

 

「こんなところかな」

 

 他の女の子よりも私の着替えは数倍早い。スカートだって穿かないし、ジーンズの方がしっくりくる。こういった所は前世の“男”としての部分が残っているのだろうか? 残っていたら残っていたで大切にしていきたいものである。

 

「お姉ちゃん着替え手伝って」

 

 雄馬が少し開けていたいたドアの隙間から私に声を掛ける。ちゃんと私の部屋に入らないようにするとは、約束を守れるあたり流石私の弟である。

 

「今そっちに行くね」

 

 ドアを開けて雄馬の部屋に行く。成長を見込んでの多少ブカブカなズボンとTシャツを着せ、靴下を選ぶ。

 

「今日はオールマイトにする?」

「オールマイト!」

 

 オールマイトが描かれた靴下を選び雄馬に履かせる。準備も整ったことだし行くとしよう。

 

「お母さんお待たせ」

「相変わらず早いわね。もう少し時間を掛けてオシャレしてもいいのよ?」

「十分オシャレしてるよ」

「あらそう? それじゃあ行きましょうか」

「お菓子だ~!」

 

 どうやら雄馬はお菓子を買って貰えることを前提にしているようだ。お母さんがそれを許すか分からないけど、私が出してもいいと思う。

 

────────────

 

「ひろーい!」

 

 私の合格をお母さんに伝えたりしながら電車に揺られること数時間。それから少し歩いて漸くショッピングモールに着いた私達は笑みを浮かべる。確かに雄馬の言うとおり広い。これは退屈しなさそうだ。

 

「ちょっと何があるか見てくるね」

「ええ、お願い」

 

 ショッピングモールになにがどこにあるのかを見るために案内板を見る。それを見た限りじゃかなりのお店があるみたいだ。

 

「ちょっといいか?」

「なんですか?」

 

 案内板を見ていると声を掛けられ、声がした方向を見る。そこには右半分が白、左半分が赤の髪の毛に左目周辺には火傷の痕がある私と同年代の男性が立っていた。

 

(と、轟焦凍!?)

「……いや、それを見たくてお前が真ん中に居たから」

「あ、ごめんなさい」

 

 私がいきなりの邂逅で混乱する中、轟は真剣に案内板を見てから私の方に向く。

 

「邪魔したな。悪かった」

「いえ、全然。私も真ん中に居て悪かったし」

「そうか」

 

 轟はその場から離れようと歩き始める。さて、共に勉学に励む中になるのだ多少顔見知りにしとくか。

 

「ねぇ、貴方」

「……? なんだ」

「貴方、相当強いでしょ?」

「っ……!?」

 

 振り向くような形で轟は驚く。そうだ、その表情だ。やっぱりそういう表情を見ているのは面白い。

 

「お前……」

「言っておくけど私は(ヴィラン)じゃないわ。寧ろその逆に近い。ただ、なんとなく分かるの。貴方が強いかどうか」

 

 実際はそんなんじゃなくて、原作を知っているから強いかどうか分かるだけである。それでも少しは強そうな印象をつけておきたい。

 

「いつか、手合わせ出来ることになったらお互いに楽しみましょ?」

「ああ……」

 

 轟はそう返事をした後、どっかへ行ってしまう。さて、驚いた顔は拝めたし結構満足だ。

 

「麒麟さっきの子は知り合いなの?」

「いいえ、さっき知り合ったばっかり」

「その割には仲良くお話してたじゃない」

「そうかな?」

 

 仲良く話してはないと思う。お母さんがそう思ったのならどうでもいいが。

 

「それで、どこに行くの?」

「最初にご飯を食べた後に服を見て、それから食材を買うわ」

「いつもとあまり変わらないね」

「いいえ、甘いわ麒麟。もしかしたら変わりダネがあるかもしれないでしょう? それに、今日はお祝いしなきゃね。麒麟が雄英に受かったんだから」

「ありがとうお母さん」

 

 時間を確かめる為にスマホの電源をつける。起動画面が終わり、ロック画面が映った瞬間、私は顔を引きつってしまった。

 

「出久から電話がきてた……」

 

 不在着信、その数およそ20件以上。これには私も唖然としてしまう。嬉しさが溢れすぎではなかろうか。

 

「出久君から? 待ってるから出てきなさい」

「そのつもり」

 

 人がいない隅っこに移動し、出久に電話を掛ける。呼び出し音が二回鳴った後、出久の声が聞こえてきた。

 

『もしもし、麒麟さん?!』

「こんにちは出久。電話出れなくてごめんね。電源切ってたから」

『ぜ、全然大丈夫だよ! それで、麒麟さん』

「ん? なに?」

『麒麟さんは、雄英受かった?』

 

 出久なりの優しさだろうか? 原作通りなら出久は受かっている。万が一を考えて受かったかどうか聞いているのか。

 

「受かったよ。なぜか勝己にキレられたけど」

『か、かっちゃんらしいね。麒麟さん僕も受かったんだ雄英に……!』

「良かったね出久。皆で、ヒーローになれるね」

『うん、僕絶対にヒーローになるよ! オールマイトの期た……』

「どうしたの出久。オールマイトがなに?」

『なんでもないよ!?』

 

 安心しろ出久。私はオールマイトと出久の関係もワン・フォー・オールについても知っている。それを秘密にしていることも分かっている。分かっている上で他人に話そうとは思わないから。

 

「そう? ……ああ、そういうことね」

『……』

 

 ゴクリという出久の唾を飲み込んだ音が聞こえた。バレたとでも思っているのだろう。大丈夫、真実が明るみになるまで私は知らない振りをするから。

 

「出久はずっとオールマイトに憧れてたもんね。出久ならなれるよオールマイトのようなヒーローに」

『ありがとう麒麟さん。それじゃあ、僕は用事があるから切るね』

「分かったわ。じゃ、また今度」

『うん、また今度』

 

 電話を切り、お母さん達の所に戻る。雄馬が早く行きたいと駄々をこねているので、雄馬の頭を撫でて謝る。

 

「出久君なんだって?」

「出久も合格したって。ああ、そうだ勝己も合格したわ」

「出久君と勝己君も受かったのね! これは本当にお祝いしなきゃいけないわ。麒麟、帰ったら出久君と勝己君と二人のご両親を家に招待しなさい。今日はパーティーよ!」

「やったー!」

 

 それから食材を買うだけで夕方となってしまったが、お祝い事の為にお母さんが真剣に食材と睨めっこしていたので良しとしようと思う。因みに、雄馬にお菓子をいっぱい買わされました。



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入学

 夜になり、家には出久と勝己。それと出久と勝己のご両親が集まってパーティーを開いていた。三人全員で雄英へ合格する事が出来たのだから、とお母さんは張り切って料理を作ったので量がかなり多い。食べきれるのだろうか? そもそも、お金大丈夫なのか?

 

「楽しんでる? 出久、勝己」

「うん、勿論! ありがとう麒麟さん!」

「けっ」

 

 出久満面の笑みに対して勝己は不機嫌そうな顔をする。そんなに嫌だったのだろうか?

 

「こら勝己! 麒麟ちゃんのご両親がやってくれた事にそんな顔しないの!」

「うっせぇ! クソババア!」

 

 その瞬間、スパーンとかなりいい音をしながら勝己は光己さんに叩かれる。流石は勝己のお母さん。頭を叩くだけでもキレが違う。

 

「ハハハ、かっちゃんは相変わらずだなぁ」

「でも、変わらないのは良いことでもあるよ」

「え? どういうこと?」

「秘密」

 

 原作となんら変わりないのなら私も随分と立ち回りやすくなる。一番恐れているのがイレギュラーなことが起こるということだ。

 

「お姉ちゃん、はい!」

「ありがとう雄馬。野菜持ってきてくれて」

「うん!」

 

 それになりより家族の為に頑張らなければならないのだ。この平和が何時までも続くとは限らないのだから、それに備える為にも雄英で戦闘についてよく学んでおかなければ。

 

「出久、勝己」

「なに?」

「あ?」

「雄英にせっかく入れたんだから、全員でヒーロー目指して頑張りましょ?」

「そうだね! 皆で!」

「けっ、うるせぇ」

 

 くだらない、そう言うかのように勝己は料理を口に頬張る。私と出久はそれに苦笑いしてしまった。

 

────────────

 

 目標を達成し、新たな目標に向かう。それを時間の許す限り続けていれば時は過ぎるのは早い。凍えるような寒さを運ぶ冬は過ぎ去り、暖かな風を運ぶ春がやってきた。

 

「行ってきます!」

 

 元気よく家から出る。今日から新しき私の生活が始まるのだ。最初からテンション下がりながら行くのは縁起が悪すぎる。

 

「おはよう麒麟さん!」

「おはよ、出久」

 

 これからのことを考えている内に出久とばったり雄英の校門で会ってしまう。原作通りだと勝己と飯田の言い合いを聞くことになる。正直に言うと、関わりたくない。

 

 嫌なことばかり考えるのも駄目なので、新しき生活と既に知っている新しい仲間を思い出す。取り敢えず飯田と峰田とは距離を置きたい。飯田は悪い奴では無いのだが、うん、ちょっと厳し過ぎる気がする。峰田は……論外である。“元男”として多少の共感は覚えるが女性からすれば、あれはあれで(ヴィラン)である。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

「思わねーよ。てめーどこ中だよ端役が!」

 

 ほら~勝己がやらかしてる。だから早めに来たのに……なんで出久と同じ時間になったのだろうか? 勝己がやらかした後の後始末は私にまわってくるのでやめて欲しい。

 

「ボ…俺は私立聡明中学校出身。飯田天哉だ」

「聡明~!? くそエリートじゃねぇかブッ殺し甲斐がありそうだな」

「ブッコロシガイ!? 君ひどいな。本当にヒーロー志望か!?」

 

 ドアから覗いていた出久は飯田に見つかり自己紹介を受けていた。取り敢えず私も簡単な自己紹介をしてから教室に入る。

 

「デク……」

 

 勝己が出久に目を向けている間にそそくさと自分の席を目指して歩く。

 

「おい、無視してんじゃねぇ。ブッ殺すぞ」

「おはよ、勝己。悪いけど時間がないからお話はまた後でね」

「誰がテメェと話してぇなんて言った、ビリビリ女!」

「あら、久し振りに聞くあだ名ね」

 

 ワーギャーと騒ぐ勝己を無視して席に座る。チャイムも鳴ったし、先生が来てもいいタイミングだろう。

 

「お友達ごっこしたいなら他所(よそ)へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 知ってはいたが、なんともまぁ、異様な物も見る感覚に襲われる。寝具から人がヌーと出てくるのなんて初めて見たのが原因だと思う。

 

「担任の相澤消太だよろしくね。早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 やっぱりそうなるか。そのためにパーティーが終わった日からまた初心に戻って訓練はしていた。なに、不足はない。

 

────────────

 

「「「個性把握テストォ!?」」」

 

 いきなりの事で驚く声と相澤先生の声を聞き流し、集中する。私の“個性”の弱点は体力の消耗が激しくなることと、他に集中し辛くなることだ。後者はなんとかなってきているが、前者は改善できているとは言い難い。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m(メートル)走、持久走、握力、反復横飛び、上体起こし、長座体前屈。中学のころからやってるだろ? “個性”禁止の体力テスト」

 

 確かにやっている。記録は忘れたが、本気でやったことはなかったはずだ。本気出したら、また勝己に色々言われるので本気は出さない。かと言って軽くし過ぎると文句言われる。本当に解せない。

 

「んじゃまぁ───死ねぇ!」

 

 爆発音が聞こえ上を見る。おお、凄い飛んでいる。

 

「まず自分の『最大限』を知る。それが、ヒーローが形成する合理的手段」

 

 他の人の目を気にせず、準備体操を開始する。相澤先生の説明もちゃんと聞いているので問題ない。

 

「生徒の如何は先生(おれたち)の自由。ようこそ、これが───」

 

 丁度準備体操を終え、相澤先生は先生を見る。相澤は邪魔そうな前髪をかきあげ不敵な笑みを浮かべる。

 

「雄英高校ヒーロー科だ」

 

 相澤先生の言葉に私は拳を握り締める。さて、勝己にゴチャゴチャ言われないように頑張るとしよう。



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個性把握テスト

 生徒に個性把握テストの説明をしている時に相澤はある一人の生徒を見ていた。

 

(説明を聞きながら準備体操……態度としては最悪。だが、行動としては合理的だ)

 

 説明が終わってはいテストと言われても解されてない身体は思うように動かない。そこに“個性”が追加されれば尚更である。何時でも“個性”を使える状態にするのはヒーローとしても重要なこと。それを知っていた上で準備体操をしていたとするならば、流石首席で合格したと褒めるべきだろう。

 

(雷麒麟……面白そうなやつだな)

 

 テスト開始を宣言すると共に相澤は不敵な笑みをうかべるのだった。

 

────────────

 

第一種目50m走

 

 雷を纏いクラウチングスタートの姿勢に入る。隣は蛙吹さん。一応雷が蛙吹さんに届かないように制御するとしよう。

 

「位置についてよーい」

 

 ドンッ! というピストルの音で走り出す。雷を調整、上げた身体能力を下げつつ走る。

 

「6秒42!」

「ま、こんな感じね」

 

 全力とも言えずかと言って手を抜いている感じでもないこの記録。この状態でいくとしよう。

 

第二種目握力

 

「ふぅ……!」

 

 メーターを見てみれば78kgだった。これは強くやりすぎてしまったのではないだろうか?

 

第三種目立ち幅跳び

 

 少し軽く飛んだからか20mと多少短い。ここまで順調に勝己の記録を越すことがなくきている。素晴らしいと言うしかないだろう。

 

第四種目反復横飛び

 

 やってしまった。勝己の挑発につい乗ってしまった。多少本気を出したため記録は146。しかし、峰田の記録を越せなかった。反復横飛びだけなら化け物級である。

 

第五種目ボール投げ

 

「イメージ。そう、思ってるより簡単。今まで何度もしてきたじゃない」

 

 ボール投げをする前に雷を纏おうとするが、雷が発生しない。何度イメージしても出来ない。

 

「ま、いいわ」

 

 諦めて思いっきり投げるが、そこまで遠くまで飛ばない。

 

「38m」

「本当におかしいわ。何で“個性”が使えないの?」

「雷。早く投げろ」

 

 手をグッパーグッパーしていると相澤先生に急かされる。相澤先生を見ると髪の毛が逆立つように浮いていた。

 

「はい。次は“全力”で投げます」

「……ならいい」

 

 笑顔でそう返すと相澤先生の髪は浮かなくなり、私も“個性”が使えるようになる。やはり、全力をだしてなかったのが見透かされていたということだろう。相澤先生の存在が今後の行動に支障がでなければいいが。

 

「危ないから皆下がっててね?」

 

 普段の雷を纏っての強化はモンスターハンターのキリンからすれば何時も身に纏っている位の雷である。ならば今此処で見せてやろう。怒り状態で纏うキリンの雷を。

 

──其の雷は始祖である。

 

 蒼い一本角から雷が発生する。空には雷鳴が轟きその激しさに皆は息をのむ。

 

──本能に恐怖を刻む蒼く輝く刹那。

 

 閃光。巨大な雷が私に落ちる。落ちた雷は多少強い衝撃と共に私はそれを纏う。周りから心配する声がするが聞く余裕はない。少し制御を誤れば雷が暴走するかもしれないのだ。

 

──故に人間よ畏れろ。

 

 ボールを握り、片足を高く上げる。

 

──我が雷は全てを貫く滅びの意志なり。

 

「……シッ!」

 

 フルスイングで投げたボールは一瞬で空高く飛んでいく。気を抜いた私から雷は消え、雷鳴も聞こえなくなった。

 

「1640m」

「まだ、制御甘いわね」

「「「おおっ!?」」」

 

 記録を聞いてため息をつく。本気を出した際の制御が甘々である。やはり、あのレベルの雷はキリン化状態じゃないと制御出来ないのだろう。

 

「お前すげぇよ雷! なんだよあれ凄いな!」

 

 そう言ってくるのは上鳴電気。同じ雷系の“個性”として分かることがあるのだろう。

 

「ありがと」

「おい、ビリビリ女ァ! さっきのはなんだ!」

「本気を出しただけよ。制御が甘いから上手くは扱えないけどね」

 

 勝己が爆速ターボで突っ込んでくる。それを受け流し、質問に答える。てか、相澤先生は勝己を止めて欲しい。

 

「クソが!」

「それに勝己落ち着いて? 今は個性把握テストの最中。テストで暴走行為を起こしたら0点よ?」

「ッ! 死ね!」

「あら、酷い言いようね」

 

 舌打ちをしながら勝己は私から離れる。いい加減その中ボスがしそうなつまらない態度をしないで欲しいと思う。まぁ、勝己の性格上仕方ないかもしれない。十何年の付き合いなのだからそう思ってしまおう。

 

「なぁ、お前」

 

 声をかけられ私は声がした方向へ振り向く。そこには轟がいた。

 

「久しぶりね。元気だった?」

「ああ、元気だ。ずっとお前と話そうとしてたんだが、あいつに何度も睨まれてな」

「別に無視してもいいと思うけど。でも、そうしたら後で文句言われそう」

 

 クスクスと笑う私に轟は不満げな顔になる。そう不満を持たないで欲しい。多少冗談が入っているのだ。

 

「彼奴、爆豪勝己と彼処に居る緑谷出久は幼なじみよ。多分敵視してるんでしょうね」

「お前に話し掛ける度にか?」

「偶然だと思うけど。それで、何か私に話したいことがあるの?」

 

 轟は真剣な顔になって私を見る。なる程、この闘志を燃やす目。宣戦布告というわけか。

 

「あの時、お前は言ったよな。手合わせ出来たら楽しもうって」

「確かに言った覚えがあるわ。それがどうしたの?」

「俺はお前に勝つ。左は使わねぇ、右だけでな」

 

 やはりそうきたか。しかし甘いな轟。私を氷だけで倒せると思ったら大間違いである。そう簡単に上手くことが進むと思わないほうがいい。

 

「そう。貴方の左右に何があるか知らないけど──」

 

 私は少し雷を纏い笑う。キリンの古龍の覇気を孕んだ言葉で一度閉じた口を開いた。

 

「私も負けるつもりはないから。一応これでも負けなしなのよ」

「それだったらすまねぇ。お前の連勝記録は俺が止める」

「それは楽しみ。後、私はお前じゃなくて雷麒麟。名前で呼んでくれる?」

「俺は轟焦凍。貴方じゃねぇ」

「ごめんなさい。これからよろしく轟」

「ああ、よろしくな雷」

 

 今は戦う時ではない事を知っている私と轟は互いに握手をする。その後は出久の活躍を見たり、他の皆と話したり、勝己の突撃を避けたりしているうちに個性把握テストは終了した。

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する。ちなみに──」

 

 ブンっと相澤先生の持つ端末からみんなの記録が開示されると共に相澤先生は自身の顔が隠れる前に話を続ける。

 

「除籍はウソな」

 

 驚愕の表情をする皆の顔を見て相澤先生はハッと笑った。

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

「「「はー!?」」」

「あんなのウソに決まっているじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」

 

 驚く皆に八百万はそう言うが、どうだろうか? 相澤先生は去年の一年生全員を除籍処分した合理的マン。可能性は充分にあるといえばある。

 

「そゆこと。これにて終わりだ。教室に戻ってカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」

 

 出久にリカバリーガールの所へ行くよう指示し終えた相澤先生は振り返らずに歩いていく。結果は6位。そこまで動いてないのになぜか少し疲れてしまった。全力を出し過ぎたのだろうか?

 

────────────

 

 オールマイトから離れた相澤は雷について再度考え直す。

 

(次は全力で投げます、か)

 

 第五種目のボール投げまで全力を出していないような雰囲気を感じとった相澤は、ワザと麒麟の“個性”を消した状態で二投目を急かした時に言われた言葉。

 

(つまり、気づかれてたってことか。どんだけ勘がいいんだ)

 

 相澤が麒麟の“個性”を消したことを知った上で言ったとしか思えない。実技試験の際にも全力は仮想(ヴィラン)の0P(ポイント)を壊した時以外は出してないように見えた。

 

(全力を出さない慎重さと、それでも上位に食い込める強さ。面白いよりも厄介だな)

 

 はぁ、とため息をこぼしながら相澤はゆっくりと歩いた。



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戦闘訓練

「わーたーしーがー! 普通にドアから来た!」

 

 普通とも言える午前中の授業は直ぐに終わり、残りはオールマイトが担当する午後の授業だけとなった。午後の授業は戦闘訓練。周りの声を聞き流しながら戦闘訓練の内容について考える。人数が奇数になったのだ戦闘訓練がどう変化するか少し楽しみである。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う課目だ! 単位数も最も多いぞ」

 

 オールマイトは勢いよく、BATTLEとかかれたカードを私に見せてくる。

 

「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」

「戦闘……!」

「訓練…!」

「そしてそいつに伴って…こちら!」

 

 オールマイトは皆の反応を見て笑うとリモコンを壁に向けて操作する。すると壁がガゴッという音を鳴らしながらスライドし、1から21迄の番号がかかれた棚が現れる。

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!」

 

 周りからおおお! という声が上がる。それも仕方がない。私だって楽しみなのだ。さて、問題はちゃんと要望通りに作られているかだが、適当に理由を付けたので大丈夫だろう。

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!」

「「「はーい!」」」

 

────────────

 

 更衣室でコスチュームを取り出した私は喜びで笑みを浮かべる。コスチュームの制作会社ありがとう、私は今人生の中で一番喜びを感じている。漸く、私はキリン娘としての階段を上ったのだ。

 

「うわっ! 麒麟ちゃん露出度高過ぎやん!」

 

 コスチュームに着替えた私を見て麗日が驚いたと言わんばかりに言ってきた。確かに露出度は高いが、それを気にする程私は恥ずかしがり屋ではないのだ。

 

「そうね。でも露出度はないにしても、お茶子はかなりパツパツだと思うわ」

「えっと、これは、要望ちゃんと書かなかったから……」

「でもいいんじゃない? 何かを多く着けるより機動性を重視するのもいい考えだし。私も実際その考え方でコスチュームを決めたし」

 

 そう言ってはいるが、勿論嘘である。そんなこと一切考えてない。咄嗟に出た言い訳でしかない。

 

「取り敢えず、いきましょ?」

 

 お茶子達と談笑しながらグラウンド・βに向かう。グラウンド・βには既に来ている人達がちらほら居る。男子達はチラチラと私を見て来る。見たいならじっくりと見ても構わない。生キリン娘なのだ国宝ものだろう。

 

 それから少し経ち、出久以外集まったらオールマイトが口を開いた。

 

「恰好から入るってのも大切な事だぜ少年少女! 自覚するのだ! 今日から君は────ヒーローなんだと!」

 

 皆がそれぞれの表情を浮かべる。勿論私は笑っている。

 

「さあ! 始めようか有精卵共! 戦闘訓練のお時間だ!」

 

 丁度そのタイミングで出久が入ってくる。お茶子はそれに気づいたようで出久と話している。出久、パツパツスーツを見て興奮するのはいいけどリアクションを考えなさい。あと峰田、ヒーロー科最高とか言うな。男子達の中で一番私のコスチュームガン見してるの知ってるからな。

 

「良いじゃないか皆。カッコイイぜ!」

 

 オールマイトはサムズアップを決めたあとムム!? と言いながら笑っていた。笑うのも分かるが、出久の気持ちも考えて欲しい。

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 明らかに人間からロボットにジョブチェンジした飯田がガションと手を挙げて発言する。声聞かないでもなんか行動だけでもう分かる。動きが個性的なのだ。

 

「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

 やはり屋内なのか。しかし、人数は奇数である以上どう分けるのだろうか。考えれるのは3人一組のトーナメント式、10対11の大乱闘。オールマイトの制限を考えて後者の方がいいが、それでは評価がつけにくい部分が出てくるだろう。

 

(ヴィラン)退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうが凶悪(ヴィラン)出現率は高いんだ」

 

 なる程。前世でも屋内での犯罪の方が多かったのは事実。どの世界の犯罪者も考えることは同じという訳か。

 

「監禁・軟禁・裏商売…このヒーロー飽和社会、ゲフン、真に賢しい(ヴィラン)屋内(やみ)にひそむ!」

 

 だからこそとオールマイトは続ける。

 

「君らにはこれから『(ヴィラン)組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!」

 

 2対2? そうなると一人余ることになる。何か考えがあるのだろうか?

 

「先生! 2対2だと一人余ってしまいます!」

「大丈夫! 主席合格した君なら大丈夫だよ。ねっ雷少女!」

「え?」

 

 オールマイトは私にサムズアップを決めてくる。なる程一人で戦えという訳か。主席とかどうでもいいが、仲間が居ないなら思いっきり“個性”が使える。

 

「はい。一人でも構いませんが、私には相手がいません」

「そこも大丈夫! 相手はクジで決める!」

「分かりました」

 

 一人で二人を相手するなんて初めての経験だ。出来ることならヒーロー組として戦いたい。それから説明を聞き終えた私達はAコンビとBコンビの戦闘。出久チームと勝己チームの戦闘を見ていた。

 

「“『頑張れ!』って感じのデクだ”!」

「ビビりながらよぉ……そういうところが、ムカつくなぁ!」

 

 まだ溝は深い。あの二人の溝が塞げるように私も何度も努力したが意味がなかった。やはりきっかけがないとダメなんだろう。

 

「はぁ……」

 

 一位大好きマンの自尊心は勝己そのものを作ってるとも言えるほどなのだ。それに付き合わされていた過去の思い出が蘇り私は思わずため息をつく。

 

「出久、頑張って」

 

 届くことはないだろう応援をスクリーン越しの出久に向ける。しかし、怒ってる勝己の顔はやっぱり(ヴィラン)似である。

 

────────────

 

 一通り全員の戦闘訓練が終了し私の番になった。今はオールマイトがクジを引いている。

 

「雷少女の相手はこのコンビ! Bコンビだ!」

 

 うっわ本当に言ってるのだろうか? 相手は轟と障子。索敵も範囲攻撃も揃っているようなチーム相手に一人とはかなり辛い戦いになりそうだ。

 

「オールマイト先生。私がどっちの組か決めてもいいんですか?」

「君は一人だからね! 決めてもいいぞ!」

「ありがとうございます。それでしたら私が『ヒーロー組』でお願いします」

「分かった! それではBチーム準備を!」

 

 それから五分経ち、私は見取り図を見ながら建物に入った。戦闘訓練がスタートし、私は建物に入る。

 

「? なにもしてこない」

 

 いや、違う。障子が私の位置を特定している最中なのか。あと、少しすれば氷が迫ってくるだろう。私は全力の雷を発生させ、手に集中させる。

 

「来た!」

 

 前方から私目掛けて迫る氷。私は地面に向かって手を振り下ろす。雷は凄まじい音を鳴らしながら氷とぶつかる。

 

「くっ! 重い!」

 

 まさに質量の暴力。いくら雷を出せても迫り来る氷は冷気を放って私を妨害してくる。だが、それだけならなんともない。勝己の爆発の方が正確。こんな数打ちゃ当たる方式の攻撃なんて勝己の爆発を何度も受けてる私に通用するわけがない。

 

「はあああ!」

 

 発生させる雷を槍状に変化させ氷にぶつける。暫くして氷の進行は止まり、私は額の汗を拭き取る。全く、化け物にも程がある。

 

「それじゃあ、ちゃちゃっと終わりにしないと」

 

 雷を纏って走る。見取り図によれば最上階の端に広くてドアも一つしかない隠すのに絶好な部屋がある。恐らく、そこに核があるのだろう。

 

「問題はどう見つからないか。いえ、もう見つかってるかもしれない。なら、二人とも倒しちゃいましょう」

「それは無理だ」

 

 私は笑いながら声がした方向を向く。左半身を氷に覆い隠したコスチュームを着た轟焦凍が居た。

 

「フフフ、出来るの? 一応教えとくけど───」

 

 私は雷を発生させて氷にぶつける。氷は砕かれ、雷はそこに残留した。

 

「轟にとって私の“個性”は天敵よ?」

「それでもお前を倒す。言ったろ、お前の連勝記録は俺が止めるって。雷、お前には負けねぇ」

「そう。勝てるといいわね!」

 

 私は走り出し轟は氷を出現させる。私が氷を殴った瞬間、轟音が鳴り響いた。



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戦闘訓練2

 鳴り響く轟音。砕いた氷が新しく作られた氷に吹き飛ばされ、私を襲う。コスチュームの露出度が多かったのが原因で氷が私の肌にぶつかり痛い。たまらず私は後退した。

 

「デタラメね。壊しても壊してもキリがない」

 

 弱点は知ってはいるがどの程度“個性”を使ったら弱体化するのかが分からない以上手が出しづらい。

 

「でも、いいわ。その方が楽しいし。勝己風に言えば……ブッ殺しがいがある、かしら?」

「どうでもいい」

 

 バックステップや壁を蹴る等して氷を避ける。さて、そろそろ弱体化しただろうか?

 

「……チッ!」

「いきなり接近戦なんて、積極的じゃない」

「別にそういう訳じゃねぇ!」 

 

 轟の体に霜が積もったのを確認した私は後退を止め轟に突っ込む。幼少期から轟は英才教育を受けている。勿論武術も心得ていることだろう。だが、それは私も同じこと。

 

「“個性”は使わなくていいの? あのままならかなり足止め出来たのに」

「お前、気づいてるだろ?」

「なんのことかしら?」

 

 接近戦を仕掛ける轟に距離を保ちながら飛んでくる氷を避ける。連続の使用も出来てないし、動きも鈍い。これなら直ぐに決着がつくだろう。

 

「取り敢えず、寝てもらうわ」

 

 氷を軽々と砕く拳を轟の腹に向けて振り上げる。所謂、腹パンという攻撃なのだが驚くことに轟はそれを避けて巨大な氷を放ってきた。

 

「なっ!」

 

 巨大な氷を止める為に両手で抑えつけるが、またもや質量の暴力。私は建物の外まで吹き飛ばされる。弱体化したにはデカすぎる。まさか、回復した? あり得ない。

 

「ま、いいわ。それじゃあちょっと本気をだすとしましょう」

 

 本気の雷は擬人化状態では制御が甘い。じゃあキリン化状態になればいいではないかと言われてもそうはしたくない。あくまでもそれは奥の手。だから色々技を考えたのだ。

 

雷装(アームド)武装(ウエポン)雷刀…神威」

 

 身体能力とは違う強力な雷を纏う。雷装(アームド)は二つ種類があり一つは防御面を考慮した雷が何層にも重なったもの、もう一つは速さを求めて足に雷が集中して纏っているもの。今回は後者を使っている。続いて神威は雷でできた刀だ。私の制御で刀の形となっており、切ることも雷を放出することも出来る。因みに他の形に変えることも可能だ。

 

「さ、行くわよ!」

 

 私は走り、建物の中に侵入する。制限時間が決まっている以上、ちんたらしてらんないのだ。

 

「来たか。なんだ…それ?」

「私の技よ」

「そうか」

 

 轟は氷を私に向かって出現させる。だが、それは今まで通りの一方からではなく、全方位からの攻撃。完全に凍らせにかかっている。

 

「一つ言っておくけど、強力な“個性”なせいで攻撃が大雑把。そんなんじゃ、私には敵わない!」

 

 発生させる雷を両足に全て使い氷を蹴る。一瞬で轟の後ろに移動し、足が滑るのを防ぐために神威を地面に突き刺してそれに掴まる。

 

「お前、いつの間に!」

「さぁ? いつからでしょうね」

 

 振り返っても時既に遅し。私と同等の速さなんて出せる訳がない。チェックメイトだ。

 

「チッ!」

「っ! やっぱり強いわね」

 

 回し蹴りを腕でガードし私は後退する。動きが鈍ってもキレが凄い。そもそも男女の差なのかなんなのか力が強い。腕が痺れたような感覚。これは雷装(アームド)を変えたほうがいい気がしてきた。

 

「強いな。今の止められんのか」

「反射神経には自信があるわ。嗜む程度に武術も習ってるし余計にね」

「厄介だなお前」

「そう? そう言ってくれて嬉しいわ」

 

 神威を地面から抜き、私は構える。轟は拳を構えた。数秒の静寂、崩れかけていた氷が地面にあたり重々しい音が響いた瞬間、私と轟はそれが合図だと言わんばかりにぶつかった。

 

「はっ!」

 

 轟を切る勢いで神威を振るう。と言っても、逆刃で作っているので万が一当たっても問題ない。だが、轟も黙ってそれを受け続けている訳ではない。私の両手を的確に攻撃し、神威を持つ力が弱まる。結局私は神威を手放し距離を離さざる終えなくなった。

 

「……っ!」

 

 距離を離した瞬間襲ってくる氷。油断も隙もない。だが、轟よ甘かったな。神威は私が作った雷から出来た刀。その形を保っているのは私の制御があってこそなのだ。つまるところ、私が持っていなくても神威は私の制御で攻撃を行うことが出来る。

 

「弾けなさい!」

 

 私の言葉と共に神威は強く発光しながら雷を周りに放出した。

 

「ぐっあああ!」

 

 轟の苦しむ声が聞こえる。漸く有効打になる攻撃を与えられた。私も全力に近い攻撃をし続けたせいでかなり疲れている。もう終わらないだろうか。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 確保テープを手に持っての様子を見に行く。轟は気を失って倒れており、私は勝利したのを確信した。しかし、これは完璧な勝利ではない。真っ正面から勝ってはいないのだ。

 

「これを巻いて終わりね」

 

 これで轟が確保されたことになる後は障子を見つけて倒すだけ。いや、めんどくさいので核を確保しよう。

 

「ま、ここに居るって言うのは分かってたわ」

「居場所が最初からバレているとはな。轟は?」

「私が来てるんだから分かるでしょ? 確保したわ」

「っ!?」

 

 話している途中で私は障子の後ろに移動する。障子の“個性”は異形型。純粋に力は強いだろう。だが、まだまだ未熟だ。直ぐに攻撃は出来ない。

 

「私の勝ちね」

 

 私は核に触れる。耳につけた小型無線機からヒーローチームWIIIIN(ウィーーーーン)! と超五月蝿いオールマイトの宣言と共に戦闘訓練は終了した。

 

──────

 

「さぁ、講評の時間だ! 雷少女、よく一人で頑張った!」

「私もいい経験が出来て満足です」

「うん、素晴らしい対応だった! 最初の行動以外は特に建物の被害は無し、且つ相手が気を失う程度の攻撃が出来る精密さ。完璧だったぜ!」

「ありがとうございます」

 

 完璧と言われれば誰だって嬉しい。これは素直に受け止めて、反省すべきことは次に活かそう。チラリと勝己を見ると、勝己は顔を俯かせ歯軋りをしていた。めんどくさいので絡まれたくないのだが、絡まれたら今回はめんどくさらず付き合って上げよう。




戦闘シーンが薄いのはお許し下さい。自分には無理でした!


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クラスメイトが非常口になっていた

投稿が遅れて大変申し訳ありませんでした!
面接練習やら就職試験やらで忙しくあまり時間を取ることが出来ませんでした。就職試験も終わり、色々落ち着いて来たので前と同じペースで執筆できると思います。


 クラスの皆と戦闘訓練の反省会を少しした後、特に勝己に絡まれる事もなく帰宅することになった私は勝己と出久の話し合いの途中の近くに来てしまった。おかしい、もう終わっててもいい頃なのに。

 

「氷の奴見てっ敵わねえんじゃって思っちまった! クソ! ポニーテールの奴の言うことに納得しちまった……クソが! ビリビリ女が今まで本気じゃなかってのが嫌でも分かっちまった! なぁ! テメェもだ…デク!」

 

 やれば出来てしまう、センスの塊である勝己も少しずつ変わることが出来る。それを勝己の話を聞いて何となくでも分かった。

 

「こっからだ! 俺は…! こっから、いいか!? 俺はここで、一番になってやる!」

 

 まぁ、一番を狙い続けるのは勝己らしいと言えば勝己らしい。今後どういった行動をするのかは勝己次第なのだが、多少は手助けをするとしよう。

 

────────────

 

「教師としてのオールマイトはどんな感じですか?」

 

 天気も良く気持ちよい朝。ルンルン気分で登校してきた私に雄英高校の正門前に居る大勢のマスコミに質問をされた。新聞で大きく取り上げる程オールマイトが雄英に赴任したことは世間では知られている。当然オールマイトやオールマイトの授業を受けている私達にインタビューするのは普通なのだが。

 

「えっと……答えないと駄目ですか?」

 

 私からすれば大迷惑。ルンルン気分から一気に最悪の気分になった。私はマスコミが苦手なのだ。一言をもらえば二言目を欲しがり下がろうとしない。その貪欲さに私は鳥肌すらたつ。

 

「はい! 是非教えて下さい!」

 

 登校してきている学生の気持ちを考えてはいない。答えないとめんどくさくなりそうなので、他人の用事なんかそっちのけで聞いてくる人を蔑む目で見るのをなんとか堪えつつ、作り笑顔で私は答えた。

 

「先生としては経験が少ないらしく四苦八苦してるみたいですが、プロヒーローの一人として意見を言ってくれるのはとてもありがたいです。授業中も笑顔を絶やさず、優しく教えてくれるとても良い先生です」

 

 答えた後、私は笑顔から真顔に表情を変え早歩きでその場を離れる。本当に最悪だ。例えて言うなら勝己がキレて不祥事を起こした時と同じ位最悪だ。

 

「おはよう勝己」

「あぁ? んだよ。……用がねぇなら話しかけんな」

「あら、酷いわね。挨拶ぐらい当然でしょ?」

「うっせぇ」

 

 それからの道中は特に何事も起こらず、教室に入った私は勝己に最高の笑顔で挨拶をする。しかしそれがお気に召さなかったのか勝己は不機嫌である。それから少し経った後相澤先生が入ってきた。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった。爆豪、おまえもうガキみてえなマネするな能力あるんだから」

「……分かってる」

「で、緑谷は腕ブッ壊して一件落着か。“個性”制御…いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通さねぇぞ。俺は同じことを言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い、焦れよ緑谷」

「はい!」

 

 出久の返事を聞いた後、相澤先生は一拍間を開けて口を再び開いた。

 

「さてHRの本題だ…急で悪いが今日は君らに……」

 

 少し空気が重くなり、臨時テストだと思っているのかクラスの皆がざわつく。確かに臨時テストは最近されたばかりだし思ってしまうのも分かる。

 

「学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいのきたー!」」」

 

 学級委員長を決めてもらう。相澤先生の発言で一気に教室が盛り上がった。普通科や普通の学校なら基本的に雑務を任されることがあるためこうはならないが、ここはヒーロー科。ヒーローとして必要な集団を導くスキルを磨き上げることが出来る絶好のが機会だ。まぁ、私は学級委員長はやるつもりはない。

 

 それから飯田が手をピンと上げながら、学級委員長は多を牽引する重大な仕事で信頼されてこそ務まる聖務なのだから投票で決めるのはどうかというのを相澤先生に言った所、相澤先生は時間内に決まれば良いとのこと。さて、誰に入れようか。

 

────────────

 

「僕、三票ー!?」

「なんで、デクに…! 誰が…!」

 

 出久の声が教室に木霊する中、私は自分の名前を見ていた。私に入れられた票は二票。おい、誰だ私に入れた人は。

 

「取り敢えず、委員長は緑谷出久に決定だ。二票取った八百万と雷のどっちが副委員長をやるか決めろ」

「分かりました」

「では雷さん。ここはもう一度投票をいたしましょう。飯田さんの言う通り信頼されている方が副委員長をやるべきですわ」

 

 また投票をするのかというオーラを出しながら相澤先生は私達を見る。いや、私は一度も委員長をやりたいだなんて言ってないのだから無理して投票をする必要は無い。

 

「そうね……私は八百万さんがやれば良いと思う。講評の時に的確な分析が出来るのが理由。多を見て多に指示を出すなら私よりも貴女の方が適任だと思うわ」

「そ、そうですか? それでしたら私が副委員長を務めさせていただきます」

「じゃあ、委員長緑谷。副委員長八百万だ」

 

 なる程意外とちょろいな八百万。そんなことを考えながら私は薄く笑った。

 

────────────

 

 時は過ぎお昼。出久達のご飯の誘いを断り、早めにご飯を食べ終えた私は食堂の隅で自分の“個性”について考えていた。私の“個性”は3つの形態に変化する事が出来る。最近は弱い雷なら人間状態でも出せるようになった。

 

 即ち“個性”が成長しているということ。“個性”も身体の一部なのだから筋肉と同じように使い鍛えればより強くなっていく。だが、人間状態では雷を発生させるのは不可能の筈だ。擬人化状態とキリン化状態は角から雷を発生させるが、人間状態は雷を発生させる器官が存在しない。器官が無いのだから発生しない筈なのに、何事もなく私の周りから発生している。ここまで成長してくると物凄く怖い。常に私の周りに雷があるじゃないかと思うと物に触れない。まぁ、色々触ってるけど。

 

 一応、相澤先生やリカバリーガール等の先生方には相談しており、私の“個性”が発動型であることもあって授業中なら相澤先生が異変を感じたら直ぐに私の“個性”を消してくれるという話になった。色々小言を言われたが我慢しよう。これは私のせいなのだから。

 

ウウー

 

 立ち上がったと同時に警報が食堂に響き渡る。戦闘訓練のオールマイトの『ヒーローチームWIIIIN(ウィーーーーン)!』並みにうるさい。

 

 放送を聞く限りではセキュリティ3が突破されたので生徒は避難しろとのこと。予想外の出来事に混乱状態に陥った人達は一斉に出口へと向かう。まぁ、こう言ってしまうのは大変失礼かもしれないけど滑稽に見えてしまう。しかも愚策ともいえるだろう。現に沢山の人が押し寄せてバランスを崩したりする人も居る。危険なのは誰でも容易に想像出来る。

 

「皆さん、大丈ー夫!」

 

 飯田の声が聞こえ、私は出口の方へ歩く。その間にも飯田の声はよく聞こえる。出口の奥が見えるように少し背を伸ばすと飯田が非常口の標識になっていた。いや、知ってはいたのだけれど生で見ると凄く面白い。

 

「フフフ」

 

 笑いを堪えきれず少し笑ってしまう。それでも、何も問題ないことをこの場に伝えようと一生懸命になっている飯田はとてもカッコよく見えた。

 

────────────

 

 お昼が終わり、出久が飯田に委員長の座を譲った。小さく手を挙げていたのにもったいないと内心思っていたが、出久の意見の『カッコよく人をまとめられる』には私も同意見だった。出久も充分に人をまとめられると思うのだが。

 

 その後は何事も無く学級も終わり私は帰宅した。私の原作知識は明日起こる事件までしかない。私は明日の対策を考える為にノートとペンを手に机に向かった。



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USJ襲撃事件

早く執筆出来たので投稿です!


 ヒーローは(ヴィラン)を捕まえることだけが仕事ではない。状況に臨機応変に対応し、一般市民を『救助』しなければならない。しかし、救助の方法や自分の“個性”を生かし方を知らなければその場で立ち尽くすか、無駄な行動をしてしまうだけだろう。それを防ぎ、どうするかを教える訓練……レスキュー訓練をすべく私達はバスに乗っていた。

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪と雷だな」

「雷は轟の氷真っ正面から受け止めてたからな! 俺もあんな感じにカッコよく“個性”扱えたらなぁ」

「ありがとう。これでもまだ制御しきれてないのよ」

 

 上鳴がサムズアップしながら戦闘訓練の時の話を出す。あの時、もう少し頑張れば氷を全部破壊できたかもしれないけど、まだ制御しきれない間は止めた方がいいだろう。

 

「ケッ」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなそう」

「んだとコラ! 出すわ!」

「ほら」

 

 ワイワイガヤガヤと騒ぐバス内は相澤先生の一言で一瞬で静まる。そこら辺に関しては尊敬している。それ以外はなんだか受け付けない。

 

────────────

 

 レスキュー訓練の会場……嘘の災害や事故ルーム略してUSJで待っていたスペースヒーロー13号のありがたいお話を聞き終えた後、相澤先生が『まずは……』と良いながら広場を見た時、それは現れた。

 

「ひとかたまりになって動くな!」

 

 広場に広がっていく黒。そこから這い出るように出てきた大勢の人間。そいつらから発せられる途方もない悪意と殺気は、私達に(ヴィラン)という存在の脅威を再認識させられるには充分だった。

 

「13号! 生徒を守れ」

「なんだありゃ!? また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」

「動くなあれは……(ヴィラン)だ!」

 

 相澤先生はゴーグルをかけて口を開く。

 

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ…オールマイト…平和の象徴がいないなんて。子供を殺せば来るのかな?」

 

 小さく聞こえた(ヴィラン)の言葉。悪意しかないその言葉に出久達は固まってしまう。私は身体こそ動くが、思考がうまくまとまらない。予想していたよりも感じている恐怖。私のモンスターとしての勘が早く逃げろと警鐘を鳴らしている。

 

「13号! 任せたぞ!」

 

 広場に向かって飛び降りて行く相澤先生を見届けた後、私達は避難を開始する。分析をしている出久を引っ張り出口に向かうが──

 

「させませんよ」

 

 黒い霧のような(ヴィラン)がその行く手を阻む。

 

「初めまして。我々は(ヴィラン)連合。僭越(せんえつ)ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは──」

 

 黒い霧のような(ヴィラン)の目が笑うように細くなり、黒い霧が少し揺らいだように見えた。今から発するその言葉を。一部の人間なら絶望させるそのおぞましい計画を。

 

「平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 出久の顔が青ざめる。その気持ちも分かる。だが、その前に私達はしなければならないことがある。

 

「本来ならここにオールマイトがいらっしゃる…筈ですが。何か変更があったのでしょうか? まぁ、それとは関係なく…私の役目はこれ」

 

 黒い霧が広がった瞬間、勝己と切島が(ヴィラン)に攻撃する。しかし、どう見ても効いてない。

 

危ない(・・・)危ない(・・・)。そう、生徒といえど優秀な金の卵」

「ダメだ! どきなさい二人とも!」

「散らして、嬲り、殺す」

 

 13号先生の言葉と共に広がる黒い霧。残念ながらここにはイレギュラーが存在している。そう簡単に私達を散らせると思わないことだ。

 

「勝己、切島! 避けなさい!」

 

 勝己と切島がギリギリ反応、尚且つ(ヴィラン)の守りが間に合わない速度で私は雷の槍を(ヴィラン)の首目掛けて飛ばす。当たれば軽く気絶程度の雷。殺すレベルの威力ではない。

 

「ぐっ!?」

 

 雷の槍は見事(ヴィラン)に当たり、黒い霧は収縮する。これで倒せなくてもかなり時間を稼いだ筈だ。

 

「貴女が雷麒麟……なる程、先生の仰る通りこれは恐ろしい」

「軽く気絶するぐらいの雷なのだけれど……まぁ、いいわ」

「近づいてはダメです! 下がって!」

 

 後退した勝己と切島を確認した後、私は雷を纏い(ヴィラン)目掛けて地面を蹴る。私も考え無しに突っ込んでいる訳ではない。(ヴィラン)は必ず私を散らす為に黒い霧でワープさせるだろう。それを許すほど私の雷は遅くない。

 

「大人しく帰りなさい。此処に貴方達は必要ない」

 

 (ヴィラン)の首を掴み雷を放出させて気絶させる……筈だった。

 

「え?」

 

 私が伸ばした手が触れたのは黒い霧。私は動きを読まれ、そのまま黒い霧に飲み込まれていく。雷を放出し、抗うが意味もなく視界は黒に染まる。

 

「先生からのご要望で貴女は特別ステージです」

 

 耳元で囁かれたように聞こえたその声には私を慰めるかのように優しく、悪意にまみれていた。

 

────────────

 

「麒麟さん!」

「ビリビリ女ァ!」

 

 (ヴィラン)連合を名乗る(ヴィラン)……黒霧に飲まれた麒麟を見て緑谷と爆豪は声を上げる。明らかに麒麟が押していた状況。それを一転させたのは黒霧による読みであった。

 

「さて、私の役目を果たすとしましょう」

「させる訳ないでしょう!」

 

 再び広がる黒い霧。一度は止まったそれを止めようと13号が自身の“個性”使い黒い霧を吸い込んでいく。しかし哀しきかな。それをもろともせず広がる黒い霧は雄英の生徒達を飲み込んだ。

 

「皆!」

 

 生徒の大半、それ以上を飲み込んだ黒い霧は収縮。元に戻り黒霧が目を細める。

 

「皆はいるか!? 確認できるか!?」

「散り散りになってはいるが、この施設内にいる」

 

 非常口飯田に障子が答える。施設内に散り散りにされた生徒達。それを救出するのは困難だろう。

 

(皆さん、耐えてください!)

 

 となれば生徒達に頼るしかない。戦闘訓練も満足におこなえていない今の現状。生徒達が心配で不安……それを振り切り13号は決断を下した。

 

「……委員長!」

「は!」

「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えて下さい」

 

 動揺。それを露わにする飯田をしっかり見据えて13号は続ける。

 

「警報鳴らず、そして電話も圏外になってしまいました。警報器は赤外線式。先輩…イレイザーヘッドが下で“個性”を消して回っているにも拘わらず無動作なのは…恐らくそれを出来るものが居て即座に隠したのでしょう。と、するとそれを見つけ出すよりも君が駆けた方が早い!」

 

 飯田が異議を、生徒達が行くのを促す。それを聞きながら13号は飯田に振り返ることなく言葉を発した。

 

「救うために“個性”を使って下さい」

 

 任せるのは託すのは簡単ではない。ましてや生徒……子供なのだ。それ相応の覚悟が必要だろう。その覚悟をもって行動し、助けるのがヒーロー。13号の言葉には確かな重みがあった。

 

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿保がいますか」

「バレても問題ないないから語ったんでしょうが!」

 

 スペースヒーロー13号。生徒達を救う為に“個性”を使う。彼の目には確かな闘志か宿っていた。



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雷麒麟:オリジン

今回かなり長くなっております。
また、内容が今まで以上にごちゃごちゃしているので、理解出来ない所があると思います。ご了承下さい。


 黒い霧が晴れた先。私の目の前には森林が広がっていた。

 

「ここは……?」

 

 雷を纏った状態のまま警戒を続ける。黒い霧の(ヴィラン)が言っていた先生と特別ステージ。覚えている原作知識からは、(ヴィラン)達から先生と呼ばれる人物はオールマイトと因縁がある巨悪ということしかわからない。その人の要望で特別ステージ? 意味が分からない。

 

「取り敢えず、ここが何処か把握して戻れるようなら直ぐに戻らないと」

「いや、その必要はないよ」

「っ!?」

 

 場所の把握の為に移動しようとしたと同時に背後から声が聞こえ振り向く。その直後、巨大な黄色い拳が襲ってきたのを間一髪で避け距離をとる。

 

「初めまして雷麒麟ちゃん。僕のことは“魔王”と呼んで欲しいかな」

「そう……」

 

 目の前に居る黄色い肌に脳がむき出しとなっている大きな怪物……確か名前は“脳無”だった筈。その脳無の胸ににラジカセのようなものが埋め込まれてあり、そこから声が聞こえていた。恐らくカメラ付きの通信機。一体なんの為に。

 

「そう警戒しないで欲しい。僕は君にある取り引きをしようと思ったんだ」

「取り引き……?」

「ああ、そうだよ。雷麒麟ちゃん…僕達と…いや、死柄木弔の仲間になってもらいたくてね」

 

 何を言っているのか理解に苦しむ。私が(ヴィラン)の仲間になれと? ありえない、そもそもヒーローの学校に通ってる奴に言うとか頭おかしいんじゃないだろうか?

 

「残念だけど、私は貴方達の仲間になるつもりはないわ。私はヒーローになる為にヒーロー科に居る訳じゃないけど、(ヴィラン)になるのは死ぬほど嫌。そもそも私のなりたいものは貴方達じゃ理解できない」

「だろうね。だからこそ、さ。僕は知っているよ。君の心の中にある未だに満たされない欲望を。僕なら君に相応しい居場所を、力を、欲するもの全てを与えることができる」

 

 こいつは本当に頭大丈夫なのだろうか? 私は断ったのだ。なんともまぁ、諦めが悪いというかなんというか。取り敢えず今分かるのは目の前に居るのは敵。此処は撤退が吉か戦闘が吉か……。

 

「あら素敵ね。でも丁重にお断りしとくわ。私はヒーローにも(ヴィラン)にもなりたくないの。ヒーローはあくまでも通過点。私がなりたいのは人智を超えた女神にも値する存在。キリン娘(女神)になる為の道には貴方達は必要ないのよ」

「それは残念だよ。もう一度聞いておくよ。本当に僕と共に来ることはないんだね?」

「ええ、勿論。だからさっさと帰って欲しいところね」

「仕方がないね。脳無捕まえろ」

 

 私の返事を聞いた魔王は脳無に指示を出す。脳無は大きい口を開け、私に向かって走り出してきた。

 

「帰ってと言ったのだけど?」

「さぁ? 僕はそのように聞こえなかったけどね」

「そう。ま、いいわ」

 

 雷を一点に集中。狙いは襲って来る脳無。魔王よ選ぶ相手を間違えたことを後悔するといい。脳無は確かに怪物だ。だが、それは私も同じ事。いや、私はモンスターなのだ。

 

「落雷」

 

 ドォン! という轟音と巨大な雷が脳無を襲う。オールマイトを襲っていた脳無の“個性“はショック吸収と超再生。全く同じとは思えないけど多分類似の“個性“。なら巨大な落雷には耐えることはできないだろう。

 

「雷を操る“個性“。やはり恐ろしいものだよ。だけど、思った程じゃない」

「嘘……でしょ?」

 

 宙に舞う砂煙の中から脳無は何事も無く歩いてくる。それはまるで雷を受けていなかったように。

 

「この脳無にはね、雷と衝撃に対する耐性がある“個性“を持たせているんだ。もし君が僕の勧誘に断ったら力づくで連れて行くために作ったのさ」

「滅茶苦茶ね……」

 

 滅茶苦茶だが突破口はある。耐性があるだけで無効ではない。雷と衝撃の耐性であの落雷を余裕で耐えているなら、本気を出せばなんとかなるだろう。そのためにも距離をとらなければ。

 

雷装(アームド)

 

 足に雷を集中。周りは森林なのだから速く動けば多少の目くらましにはなるだろう。

 

「じゃあ、また会いましょ?」

 

 高速で木々の間を縫って走る。キリン化状態になるには限界まで雷を出さなければならない。誤ってキリン化状態にならない為の所謂リミッターというもので、多少時間がかかるのだ。

 

「逃がさないよ」

「嘘!?」

 

 木々の間を縫うのもあって多少遅くなっているとはいえ、かなり全力を出して走る私を併走する脳無。急ブレーキし、バックステップしながら身を潜めようとしても、異常な腕力で木々をなぎ倒しながら追ってくる。これは……マズい。

 

「捕まえた」

「くっ!」

 

 木を投げられ、それを避けている隙に腕を掴まれる。振り解こうにも相手の力に勝てる筈もなく、持ち上げられた。

 

「かっ…は!」

 

 持ち上げられられた私はそのまま地面に叩きつけられ、背中を強打する。息が出来ない。苦しい、痛い、マズい、死ぬかもしれない。逃げようともがくが、踏みつけられて私の身体はピクリとも動かない。

 

「大人しくしないともっと苦しむことになる。君もそれは嫌だろう?」

「お生憎様……私は貴方達に興味はないわ!」

 

 雷を大量に発生させ、脳無に浴びせる。幾ら耐性を持つ“個性”であろうと、雨だれ石を打つ戦法で当て続ければ隙が出来る筈である。身体が拘束されようが関係などあるものか。私は生きて出久達の元に帰るのだ。

 

「脳無痛い目に合わせてやってくれ」

 

 脳無が口を開け、空いている右手を振り上げる。私は自身を守る為に雷装(アームド)を身体全体に纏うが、強度が足りなかったのか、いとも簡単に砕ける。

 

「ああああ───っ!?」

 

 雷装(アームド)を砕いた右手は私の角をへし折った。声にならない叫びをあげながら雷の出力が小さくなっていくのを感じる。

 

 雷が使えない──マズい。

 

 反撃なんて出来ない──殺される。

 

 私はまだ──死にたくない。

 

「もうこれ以上傷つけられるのは嫌だろう? もう君は──」

 

 魔王の声が遠のいていく。薄れゆく意識のなか私は出久と勝己の顔を思い浮かべていた。二人は大丈夫だろうか? 原作通りにいってないとするなら負けてる可能性だってある。脳無を倒して幼なじみを助けないと、守らないと。全員でヒーローになると約束したのだ。

 

『その心意気は良し。だが覚悟が足りん』

 

 ハッと目を覚ますと、不思議な場所に私は居た。所々地面に氷が張っている白い世界。その白い世界でゆっくりと私に近づくモンスターが居た。

 

「キリン……?」

『うむ、我はキリン。お主の魂に宿る者だ』

「え……? 言っている意味が分からないわ。此処はどこ? 脳無は? 私は死んだの? 魂に宿るって?」

 

 出てきた疑問を全部吐き出す。キリンの顔は困ったような表情をしたように見えた。

 

『質問は一つずつにして欲しいものだ。まぁ、いいだろう。此処はお主の精神世界。現実のお主は気絶して脳無に捕まっておる。死んではないが、このままでは連れ去られるのう』

「一刻も争う事態じゃない。なら早く戻らないと」

『一方的にやられていたのにか? 戻った所で結果は変わらんよ』

「それでも! 行かないことには何も変わらないじゃない!」

 

 私の叫びにキリンはため息をつく。前足で何度か地面を軽く蹴った後、私を見た。

 

『分かっておる。そこで我の出番という訳だ。我はお主に死が迫った際にそれを防ぐためにお主の魂に宿っている。お主を間違えて殺してしまった神のご厚意というものだ』

「それじゃあ、協力してくれるって事?」

『うむ。だが、その前に聞くことがある。お主はヒーローになりたいのか?』

「いいえ、私はキリン娘になりたいわ」

『それならもうなっているだろう? その格好で我と同じ力を持つ。それ以上なにを望む?』

「それは……」

『お主は意識が遠のくなかこう思っていたはずだ。全員でヒーローになると約束したと』

「……」

 

 確かにどうしてそう思ったのだろうか。私の目標はキリン娘になることでヒーローになることじゃない。ヒーローはキリン娘になるための通過点。じゃあ、私が目指したキリン娘とは一体なんなのだろうか?

 

『無意識に思っていたのではないか? キリン娘ではなく、ヒーローになりたいと。コスチュームを手にするだけならわざわざ雄英に行く必要もあるまい』

「そう…ね。未だにはっきりしないけど多分そうなのかもしれない。もしキッカケがあるとすれば……」

 

 幼い頃三人で見たオールマイトがデビューした時のあの映像だろうか? ただひたすらにヒーローに憧れてヒーローを目指す二人を見て私はそれに影響されたのだろう。私が立てた目標が幼い頃に塗り変わっているだなんて……少し笑ってしまう。

 

「認める。私はヒーローになりたいのよ。でも、キリン娘にもなりたい。目指したキリン娘がどんなものかは分からない。でも必ず見つけるわ」

『それでよい。では、お主の絶望的な状況を打開するとしよう』

「どうすればいいの?」

 

 私の質問にキリンは笑うように鳴いてから。私とすれ違うように歩く。

 

『お主の身体を我に貸せ。“個性”としてのキリンの力ではなく、モンスターとしてのキリンの力お主に見せてやろう』

 

 キリンは心底楽しそうに私にそう言った。

 

────────────

 

「……」

 

 気絶した麒麟を担ぎ、無言で歩く脳無。魔王と名乗った男の命令に従い、森林の奥を目指す。脳無という名前の通り考える知能がなくなっているとはいえ、麒麟には充分脅威となる存在ではあった。あくまでも麒麟にはだが。

 

「さて、狩りの時間とするかの」

 

 脳無の周りに迸る雷光。担がれていた麒麟は抜け出し、脳無を蹴り飛ばした。

 

「ふむ。角は折れてはしまったが、この程度なら支障はない。しかし、人間の姿で狩りをするのは久しいな。加減を間違えなければいいが……まぁ、どうとでもなる」

 

 雷を纏う麒麟は薄く笑う。何時もの笑みとは違う獲物を見つけたと言いたげな笑み。魔王は興味を持ったように話し出す。

 

「君は誰かな? 雷麒麟じゃないね」

「はて、どうであろうな。少なくとも我はキリンだと思っておるよ」

 

 雷鳴が轟き、麒麟の纏う雷の勢いが増す。立っているだけであるのに全く隙を見せない。麒麟から放たれる気迫はつい先程まで脳無にやられていたとは思えないものであった。

 

「まぁ、それをお主に伝えたところで意味はない。我の役目はお主の撃退。この状況を逆転するところにある」

 

 一歩。麒麟が踏み出した瞬間に、地面が割れると共にドンッという音が辺りに響く。

 

「シッ!」

 

 殴られた脳無は吹き飛び、麒麟は追撃と言わんばかりに三本の雷を地面と平行に飛ばす。木々を破壊しながら雷は脳無を襲い、僅かに脳無を傷つけた。

 

「おかしいな? 君の“個性”の限界に耐えれるように作ったのに。これじゃあ意味がないじゃないか」

「それは麒麟の限界であろう? 我にはその程度の耐性どうということはない。そもそもが角から発生する雷だけで戦うということこそ無謀というもの。あくまでこの角は媒体であり、我の雷の本質は別にある」

 

 瞬間移動とも言える速度で移動した麒麟は、未だに吹き飛ぶ脳無に踵落としをして無理矢理地面に沈める。

 

「この世界にはお主等では到底理解出来ぬ力が存在しておる。それを利用することで我は雷を自由に操ることが出来るのだ」

「まるで化け物のようじゃないか」

「ふむ。あながち間違えでもない。訂正があるとすれば我らはモンスターであり誇り高き“古龍”である」

 

 麒麟の言葉に共鳴するかのように、麒麟が立つ地面が青白く発光していく。ビリビリと周りを伝う雷が激しさを増し、耐性を持っている筈の脳無の筋肉を硬直させ始めた。

 

「努々忘れるな。我に喧嘩を売るという事は己の死を呼び寄せていることと同じ。お主など井戸の中の蛙である事を肝に命じておくのだな」

 

 馬のような鳴き声が響いた後、超巨大な落雷が脳無と麒麟を襲う。落雷で舞い上がってしまった砂煙が消え、地面に埋まっていた脳無が全身が焦げて絶命しているのを確認した後、麒麟は乱れた髪の毛を整える。

 

「ふむ……少し強すぎたか?」

 

 周りを見れば焼け焦げたような跡が幾つも残っており、麒麟は苦笑いを浮かべる。麒麟は脳無を仰向けにし、胸に埋め込まれた機械が壊れているのか確認した。最初の落雷にも耐えていた機械も流石にキリンの落雷には耐えられなかったのか幾つもの亀裂が入り、火花を散らしていた。それでも、原型を留めているのだから物凄い堅さである。

 

「少し無理をしたか……」

 

 麒麟は近くの木に寄りかかり、満足げな笑みを浮かべながらゆっくりと目を閉じた。




麒麟が自分のなりたいものとそう思ったキッカケを書いてみました。キリン娘になるという目標で埋もれていたのを掘り起こす為に書いたのですが、書くにつれてだんだんごちゃごちゃに……。とても読みにくくなってしまい大変申し訳ありませんでした。

話題は変わりますが、今回出てきたモンスターとしてのキリン。計画としてはまだまだ活躍は残っています。また、麒麟が成長するキッカケにもなりますのでキリンの活躍にご期待下さい!


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雷の権化

 イレイザーヘッドが意識不明、13号が重傷、オールマイトが重傷、緑谷出久が両足の骨折と手の負傷。重傷者は出たものの幸い死亡者は出ず、1-A組とヒーロー達は対オールマイトとして作られた“脳無”と(ヴィラン)達の撃退に成功した。ヒーロー達が一体何を相手にしているのか、(ヴィラン)達の底のない狂気と悪意を身に受けて尚、奮闘した彼らは賞賛に値するだろう。現在、生徒達の安否を確認する為に負傷者を除く全員がゲート前に集合していた。

 

 

「16…17…18……両足重傷の彼を覗いて……ほぼ全員無事か」

 

 連絡を受け駆けつけた警察官の一人塚内は1-Aの人数を数え、死者が居ないことに安心する。戦いを終え、緊張の糸が解けた生徒達は互いの無事を喜んでいる中、爆豪だけが周りをキョロキョロと見渡した後、肩を震わしていた。

 

「じゃねぇ……」

「ん? どうした爆豪」

「全員じゃねぇっつてんだ! ビリビリ女はどこだァ!」

 

 塚内は顔を歪めた。確かに一人足りない。何故、今まで気づかなかったのか。爆豪の叫びで生徒達がそれを把握し、探しに行く者が出だした頃───雷鳴が鳴り響いた。

 

「クソが!」

「待て、爆豪!」

 

 切島の制止を聞かず、爆豪は雷鳴が鳴った方向へ爆破を使って向かう。まだ(ヴィラン)が潜んでいる可能性がある。その場に居る全員が爆豪を追った。

 

(クソが、クソが、クソが! あんな三下共にッ!)

 

 爆豪勝己は才に恵まれている。やればなまじ何でも出来るし、“個性”に関しても努力こそしたが、効果と特性を理解して充分に扱いこなしている。幼少期から爆豪は周りから褒められっぱなしであった。自身を一番すごいと確信するほどにまで彼は恵まれていたのだ。

 

 しかし、その慢心は彼女によって打ち破られる。彼女の名前は雷麒麟。雷を操る“個性”を持つ彼女はありとあらゆる面で爆豪に勝ち続けた。勿論のこと戦闘面でも。雄英に入学し、麒麟と轟の戦いを見たとき爆豪は激怒した。今まで戦ってきた麒麟は手加減していたのだ。それは間接的に轟よりも自分が下だということを告げているようでもあった。事実、爆豪自身敵わないと思ってしまったのだからそれは仕方なのないことなのだろう。──じゃあ、この雷鳴はなんだ?

 

 空気を震わすほどの雷。余りにも三下に使うには勿体なすぎるその力を今、麒麟は使おうとしている。爆豪はそれが許せなかった。格上なら兎も角、自分等に当てられたような三下如きに体力テストの時に見たレベルの全力を出している。自分には一度もそれを使っていないのだ、その行動が嘗められてるとしか言いようがなかった。

 

「ふざけてんじゃねぇぞ、ビリビリ女ァ!」

 

 爆豪が叫ぶと同時に、馬のような鳴き声が聞こえ、今まで見たことのない超巨大な落雷が落ちた。爆豪の視界は白に染まり、衝撃波で吹き飛ばされる。なんとか受け身をとることに成功し、口の中に入った砂をぺっと吐き出す。

 

「なんだよ…今の…! 俺のこと毎回毎回嘗めやがって!」

 

 怒りのボルテージなど振り切った爆豪は爆破で移動する事すら忘れて走る。雷が落ちた所に近づけば近く程、焦げた臭いが鼻をつく。周りの木は薙ぎ倒されており、大きな足跡が幾つも残っている。少し開けた場所に出た爆豪は目の前の光景に目を見開いた。真っ黒に焦げたオールマイトと戦った奴と同じであろう“脳無”が仰向けで倒れ、その近くの木に寄りかかるように目を閉じている麒麟。麒麟の額から生えている一本の蒼角は半分ぐらいから折れているところを見ると激戦であったのは明らかである。

 

「嘘だろ…なぁ、嘘だよなぁ!?」

 

 爆豪は麒麟に駆け寄り肩を掴んで揺らす。自分とコイツがこんなにも差があるはずがない。オールマイトがなんとか撃破した“脳無”をたった一人で倒すなんてことあっていい訳無い。

 

「テメェと俺が、こんなに…!」

「爆豪!」

 

 爆豪を追いかけていた切島達が追いつき、驚きの声を上げる。そんな中、切島は爆豪に駆け寄り、爆豪の肩を掴み麒麟から離す。

 

「待て、爆豪! 怪我してるクラスメイトに何てことしてんだよ! 早く治療してやんねぇと」

「うっせぇ!」

 

 爆豪と切島が互いに掴みかかり、一触即発の状態となった時、麒麟の周りに幾つもの小さい雷が降った。

 

「煩いのう。羽虫の所為で目が覚めてしまったではないか」

 

 聞き慣れた声。だが、何かが違うその声の主はゆっくりと目を開き、立ち上がる。

 

「全く……少し休憩を取っていたというのに。お主らが敵であったら全員潰しておったところだ」

 

 見た目は麒麟。それは誰が見ても間違いのない事実である。だが、口調も纏う雰囲気を違う。そもそも、麒麟から出るこの覇気はなんだ? まるで、生物の頂きに君臨している者を見るような、自然と恐怖を与える異常なまでの存在感に全員は息を呑んだ。

 

「うるせぇ…テメェは誰だ…。テメェは、ビリビリ女じゃねぇ」

「ふむ。確かに我はビリビリ女などという名前ではないな。まぁ、お主らが思っておる麒麟ではないのう。名前はキリンではあるがな」

「訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」

 

 麒麟は爆豪の言葉に少し驚いたような顔をした後、考える仕草をしだす。意見が纏まったのか麒麟は真剣な目をして爆豪を見据えた。

 

「確かに訳が分からないだろう。今は我の事を二つ目の人格か雷の権化とでも思っていればよい。直にまた会えるよう努力して見せよう」

「は?」

「我はもう戻る。お主らが居れば麒麟が脅威に晒されることもないからのう」

 

 麒麟は爆豪に近づき、その距離が数cmまでなったとき、麒麟は薄くだが笑った。

 

「爆豪勝己…麒麟のことを宜しく頼んだぞ。緑谷出久にも宜しく頼むと伝えてくれ」

「テメェ、何言って」

 

 爆豪が言い終わるまでに麒麟は目を閉じ、力なく倒れる。爆豪は倒れる麒麟を受け止め、肩を揺らすが反応は無い。脈はある。どうやら気絶したみたいだ。

 

「……クソが」

 

 爆豪の独り言は周りに少し響く。歯を食いしばりながら麒麟をおぶり、爆豪は歩き出す。

 

「爆豪手貸すぞ?」

「うるせぇ」

 

 切島の言葉に短く返すと、爆豪はクラスメイトを残しゲートへと向かって歩く。クラスメイト全員が、爆豪の背中が少し頼もしく見えたのは言うまでもないのだろう。まぁ、性格があまりよろしくないのだが。

 

「彼、性格に難あるけど立派なヒーローになりそうだね」

「いやぁ、立派かどうかは分かりませんなぁ」

「うるせぇ! ブッ殺すぞしょうゆ顔!」

「しょうゆ顔!?」

 

 約一名。塚内の言葉に返した瀬呂範太は分かってても言っちゃうようである。




三人称視点を書くって難しいなと思いました。


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病院にて

『モンスターとしてのキリンの力よく理解できたか?』

 

 キリンは雷光を纏いながら私の目の前に現れ、ゆっくりと歩いてきた。

 

「ええ、まぁ……規格外っていうのは理解したわ」

 

 まるで映画のスクリーンを見るかのように私の身体を使ったキリンと脳無の戦いを眺めた。今まで私が使っていた力の何十倍も強いそれはこれまでの次元を遙かに超えたものだった。後、勝己がめっちゃ肩揺らしまくっていたので次あったら文句言おう。

 

『ふむ。それもそうかもしれんな。今まで我の力の源を根本的に間違って捉えていたのだからな』

「そ、それは……」

『仕方のないことではある。我ら古龍が扱う力の源である“龍脈”は人間には感じることのない力だ』

 

 『だが、お主ならば直に分かるようになる』と言いながらキリンは笑いながら言う。私の目の前で止まったキリンは角を私の折れている角に当てた。

 

『今は折れてはいるが再生する。なに心配するまでもない。お主は我らと同じ古龍の一体なのだ。生命力も身に秘める力も我らとなんら大差ない』

「あら、私も古龍なの?」

『無論。人間が勝手に古龍と認めているが、我らが古龍と認めれば古龍である。人間の常識など我らにとってみればままごとだからのう』

 

 確かに古龍にとっての常識は人間からすれば非常識なのだろう。それにしても私も古龍とは……なんだか言葉に表せない気分である。そもそも私がなりたかったキリン娘ってこんなんじゃなかったような……。

 

「そう……。それで私は何時になったら戻れるの? あの時は焦って戻ろうとしたけど戻り方なんて分からない」

 

 戻れと念じれば戻れるって訳でもなさそうだし。私を此処に呼んだキリンならなにか知っていても不思議じゃない。

 

『その点については心配することはない。我が直ぐに戻すことができる』

「それじゃあ戻して欲しいのだけど」

『その前に我の頼みを聞いてはくれぬか?』

「別に良いけど。なに?」

『戻ったら一点に雷を集中してから我を呼んでくれ。流石にここに十何年も居るのも飽きがきた。それに、爆豪勝己と約束したからのう』

「約束……? それに貴方此処からでれるの?」

『我は古龍なのでな』

 

 無駄に説得力がある言葉を聞いて私はなる程と納得してしまった。流石は古龍。

 

「分かった。言われたことをすれば良いんでしょ?」

『うむ。頼んだぞ』

 

 キリンの言葉を聞くと共に私の目の前は真っ暗になった。

 

────────────

 

「ん、んぅ……」

 

 目を開けば窓から射し込む光が眩しく、つい目を細めてしまう。少し経てば目は慣れ、周りを見ることが出来るようになった。

 

「此処は……」

 

 起き上がると、知らない天井に知らない景色。身体の所々に包帯が巻かれ、凄くフカフカのベットに寝ていたことは直ぐに分かった。恐らく此処は病院なのだろう。

 

「角は……折れてる。身体は痛いけど別に動けないほどじゃないってところかしら」

 

 私の身体がどれぐらいの調子なのか分かった所で数回ノックが聞こえ病室のドアが開く。ぞろぞろとクラスの皆が私が居る病室に入ってきた。

 

「麒麟さん! 良かった目が覚めたんだね!」

「麒麟ちゃん! 目が覚めてよかった~!」

 

 私を見て出久とお茶子が笑顔で私に寄ってきた。他の皆も良かったと喜んでくれた。一人を除いてだが。

 

「おい、ビリビリ女」

「勝己……」

 

 何時ものように顔は不機嫌な顔をしている。でも、少しだけ今日の勝己の目は優しく見える。

 

「あのバケモンはテメェが倒したのか」

「いいえ、私じゃない。見た目は私なんだけどなんて言えばいいのか分からない」

「あん時のテメェは二つ目の人格とか雷の権化とかぬかしやがった。あれは…俺の知ってるテメェはそんなに遠くねぇ」

 

 勝己は両手を握り締める。私の耳に聞こえる程歯軋りをして悔しそうな顔をする。今まで見た悔しそうな顔の中でダントツだった。

 

「俺は、昔っからテメェに一度も勝ててねぇ…何をしても、何時も俺をテメェが先に進みやがる! いいか麒麟! 最初にテメェに勝つのは俺だ!」

 

 「知ってるかオールマイトって絶対負けないんだぜ!」なんて昔勝己が言っていたことを思い出した。勝己にとってのヒーローは絶対勝つヒーローなんだろう。だからオールマイトに憧れたのだろう。だからどうした? 私はもう負ける気はない。

 

「……いいわ。次に戦うとき全力で来て。私も全力で行くから」

「それ言う前に怪我治せや。治さなかったらブッ殺す!」

 

 勝己はそう言うと乱雑に持っていたバックを私に投げつけ、病室を出て行く。えっ、なんか痛いし重いんだけど。あのボンバーマン怪我人になんて事するんだ。

 

「果物?」

 

 バックを覗けばリンゴやミカンなどの私が好きな果物がいっぱい入っていた。勝己も素直じゃないだけで優しい所もあるのだ。

 

「あはは、かっちゃんらしいね」

「ええ、勝己らしいわ」

 

 出久と笑いあう。昔もこんな事があったなと思い出に浸る。お茶子に引き戻されてからは勝己が持ってきた果物を皆と食べながら色々話をした。“脳無”のこと、あの時戦っていたのは誰なのか、キリンという存在。到底信じれる話ではなかった筈なのに私の話をちゃんと聞いてくれた皆には感謝だ。途中からお母さん達が来たり、騒ぎまくる峰田がうるさかったけど良い思い出になった。

 

「それじゃあ、また来るねっ!」

 

 皆が思い思いの言葉を口にし、病室を出て行く。時刻は夕方。お母さん達はまだ残ってて雄馬はすっかり寝てしまった。

 

「皆、いい子達ね。新しい学校になってからお母さん心配だったけど安心したわ」

「大丈夫に決まっているだろう? 俺達の娘なんだからな!」

 

 お母さんの安堵のため息にお父さんが豪快に笑う。お父さんの名前は(いかずち)雄二(ゆうじ)。“個性”は雨男。名前からして凄く使えなさそうな“個性”だが、本気を出せば雷雲すら自由に呼び出し、雷を操れるらしい。本当かどうかは分からないけど。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 

 苦笑いを浮かべる私にお母さんとお父さんは微笑む。少ししてからお父さんは私の頭を撫でた。雑な撫で方だからか若干痛い。

 

「お前は本当によく頑張った。最初はお父さんもお母さんも心配だったんだ。でも、今回の件でお前は成長してたんだなって実感したよ」

「お父さん……」

「これからも嫌なこと、辛いことがあるかもしれない。泣きたくなったら泣きなさい。叫びたかったら叫びなさい。お父さんとお母さんが側にいて支えてやる」

「……うん」

 

 なんだか胸がいっぱいになった感じがした。

 

「おっと、もうこんな時間か。面会の時間も残ってないし帰るとするかな」

「明日も来るわ。ちゃんと寝るのよ」

「ええ」

 

 お父さんは雄馬をおぶりお母さん一緒に病室を出て行く。窓から外を見れば真っ暗になっていた。なんだか時間の流れが早かったような気がする。

 

「あ、そうだ」

 

 私は右手に雷を集中させる。キリンに頼まれたれたことをしなければ。

 

「キリン」

 

 私がそう言うと、右手に集中した雷が形を変え、キリンの形へと変化していく。

 

『ふむ。思ったよりも少しサイズが小さいな』

 

 私の上に立ったキリンは大きめの人形サイズ。ちゃんと表すならトイプードルぐらいだろうか?

 

「随分、ちっちゃくなったのね」

『我の大きさはお主の雷の量に比例する。お主は今相当な弱体化をしているのだ』

「それはまぁ、今まで通りの“個性”の使い方だと角だよりだからでしょ?」

『うむ。お主はまだ龍脈を感じるのことが出来ぬのでな存分に力を振るえんのだ。故に我はある策を思いついた』

「ある策?」

『そうだ。麒麟……お主は亜種という存在を知っているか?』

「え?」

 

 キリンの言葉に私は硬直した。



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亜種

皆様、メリークリスマス!(もう遅い)
クリスマスネタが無かったので書くことが出来ませんでした。いくら考えても雷を落としまくるトナカイ(キリン)とサンタクロース(麒麟)しか出てこなかったんです。

話は変わりますが、気づけばお気に入りが1000件越えていました! こんな拙作を見ていただいている方々には感謝感謝です!


『麒麟……お主は亜種という存在を知っているか?』

「え?」

 

 硬直する私にキリンは楽しそうに笑う。少し腹立った私はキリンを持ち上げて上下に振った。

 

『こ、こらお主! やめんか!』

「何を言ってるか分からないわ」

 

 少し経ってからキリンを私の太もも辺りに降ろす。キリンは少しふらついたが直ぐに戻る。前足で私の太ももを何度か踏んだ。

 

「痛いのだけれど」

『痛いのなら自慢の雷装(アームド)でも使えばよかろう?』

「自慢ではないわ。使えば良いと言われればそうなんだけど雷が操りにくいのよ。なんて言うのかしら……そう、今まで角から出した雷を操ってたのに別のとこから出てきた雷を操る感じ。いきなり出てくるから扱えないのよ」

『それが龍脈を使った雷だ。お主から発生するのではなく天、地、宙から発生しておる。身体に発生しないからこそ龍脈の強大なエネルギーを存分に扱えるのだ。いくら古龍である我らであってもエネルギーを身体から発生させれば只ではすまんからな』

 

 どこか残念そうなトーンでキリンは話す。キリンが何を思ったのかは知らないが、古龍が龍脈を身体から発するなんてことしたらモンハンの世界が崩壊してしまう。龍脈が強すぎるということは逆に良かった。

 

「そうなの? 龍脈のエネルギーは凄いのね」

『うむ。それはそうとして無意識ではあるが龍脈を扱えるのなら話は早い。本題に戻るがお主は亜種という存在を知っているか?』

「ええ…色違いの個体でしょ? 属性とか行動とか全くもって違う特徴をとるものも居るけど」

『解釈は間違えておらん。だが、我と我の亜種はその性質が違う。我の角は雷を発生させ、操ることができるがあくまでも準備運動。本質は龍脈を使用し発生させた雷を角で操作するのだ。だが、我の亜種の角は氷を操作しておる。一本の角には一つの役割しか持たせることが出来ぬが例外が存在する』

「例外……?」

『そうだ。お主の角は今折れている。つまり使える雷の量が減ったということだ。このまま再生まで待つのも一つの策ではあるが、今の状態で我の亜種の力を得ると面白い現象が起きる』

「もしかしてどっちの力も扱えるの?」

『うむ。雷と氷…両方の力が半減するが、扱えるようになる。過去に我が向こうの世界に居たときに両方の力を扱う同胞がいてな。詳細を聞けば角が折れた際に外敵の少ない雪山で休息をとっていたら氷を扱えるようになったと言っていたのだ。あくまでも仮説だが、雪山のような環境化に置かれた場合に龍脈の力が変化するかもしれん』

「それじゃあ……」

 

 私の顔を見たキリンはフッと笑うと、雷を纏いだす。

 

『少し、雪山に行くとしよう』

 

────────────

 

 周りは純白の雪に覆われ、太陽の光が反射していてキラキラと輝く。はぁ、と息を吐けば白い息となって宙を少し漂う。雲一つ無い晴天、冷たくなる身体を少しでも暖めてくれる太陽には感謝である。雄馬も連れてきたらとても楽しい遠足気分になれたのだろう。というよりも──

 

「寒いわ。というか、ヒマラヤ山脈まで来る必要あったの? 一応私入院中なんだけど……サンダルだから足も冷たいし」

『我が向こうの世界に居たときに似た雪山が此処しかなくてな。久しぶりに駆け回るのも悪くはない』

 

 一時的に自身の雷によって普通の大きさに戻ったキリンは私を乗せて海を横断した。はっきりいって意味が分からなかったけど渡れる理由を聞いてみたら古龍だからという返事が返ってきた。何故かなる程と思ってしまった。

 

『ふむ。此処ではちと暖かいな』

「え……?」

『此処よりも寒いところはあるか?』

「此処より寒いところって……北極?」

『乗れ。其処へ行くぞ』

「え、ええ……」

 

────────────

 

「グルルル」

「ねぇ、キリン。ここ危ないと思う」

『そうか? 相手はただの獣であろう?』

 

 北極に移動し、少し歩いていたらホッキョクグマが私達の前に立ちふさがった。凄い威嚇している。弱体化した状態で勝てるのだろうか?

 

『龍脈をはっきりと感じるには丁度良い相手だゆっくりと倒してみろ。なに、心配するな。何かあれば助けに入る』

「分かったわ」

 

 キリンの言葉を信じて私は雷を纏う。角から発生した雷ではなく龍脈から発生した雷。まだ若干扱いにくいが、少しずつ慣れてきた。

 

『む? 龍脈に慣れたか。そのままの状態を維持しながら龍脈自体を感じ取って見ろ』

「ええ」

 

 ゆっくりと目を閉じて雷が発生しているところに意識を集中させる。本当なら敵の前でこんなことしちゃいけないのだが、キリンが居るから大丈夫だろう。

 

「ん?」

 

 雷が発生しているところから少し穴が空いているように感じた。穴が空いてると言っても1mmぐらいの穴だ。穴に意識を集中させると、それは穴ではなく、地面と繋がっている管ということが分かった。管を通る感覚で地面のなかへと入っていく。

 

「うっ……!」

 

 地面もとい地球の中に入った瞬間に強力なエネルギーの奔流に襲われる。このエネルギーが龍脈なのだろろう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 龍脈に飲まれただけで疲れる。龍脈というエネルギーがどれだけ強力なのかが分かった。古龍達が理不尽な災害をポンポン生み出せるのが理解できた。これは恐ろしい。確実に“個性”よりも遥かに勝っている。

 

「グルゥ……」

 

 私が龍脈を感じ取れるようになってきたと同時にホッキョクグマが少し後退りした。

 

『龍脈自体を感じ取ったな? それがお主が本来使うはずの力だ』

「凄いわね。原理としては地面から出てきた龍脈を雷に変るって感じかしら。雷の操り方は角を使ってた時と同じだから……」

 

 管から出る一歩手前で雷になるイメージ。簡単に言えば管から糸を出しているようなもの。此処にいれば勝手に雷が氷になる訳じゃないし、雷を氷にする場合に糸じゃなくて固いものに変えれば良いのだろうか?

 

「じゃあ……鉄?」

 

 管から出る龍脈を鉄になるイメージをしながら轟の真似をするように右手を振り上げる。すると、ホッキョクグマの足元から巨大な氷が現れ、ホッキョクグマを吹き飛ばした。

 

『ほう……。直ぐに習得したか』

「いや、私もこんなに早く出来るとは思わなかったわ」

 

 1~2mほど飛んだホッキョクグマを見ながら私は苦笑いをする。こんな簡単に亜種の力が使えて良いのだろうか?

 

『環境によって力が変わるのなら我も力が変わるはずなのだが……何も変化が無いな』

「出せるのは雷だけ?」

『うむ。何か他の原因があるのだろう』

「私はイメージで氷が出せたわ」

『そうか。我ら古龍はイメージなどしないからな。どれ、やってみるか』

 

 キリンの鳴き声と共に雷が落ちる。キリンは不機嫌そうに前足で氷を蹴る。

 

『無理だったか。よく分からんな』

「そう……。取り敢えず、帰りましょう?」

『む? まだ帰らせんぞ。もっと龍脈に慣れさせなければならんのでな』

「え?」

 

 この後一時間みっちりと鍛え上げられ、帰るのは深夜になってしまった。一時間も北極に居た所為か風邪も引いてしまうし、最悪である。まぁ、凍死しなかったのが少し不思議だったりする。



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雄英体育祭

意外と早く書けたので投稿です。珍しく筆が進みました!
恐らく今年最後の投稿になりそうです。


 入院は一週間で終わり、迫ってきている雄英体育祭に備えて残りの一週間は訓練だらけとなった。雄英体育祭とは学年別の総当たりで戦う“個性”ありの運動会。予選である障害物競争に騎馬戦に勝ち抜いた生徒が本戦で戦うというもの。バンバン“個性”を使うことになるので体力と持久力の強化と雷と氷の制御練習をしていたのだ。場合によればキリン化状態で戦うかもしれない。もし、そうなったら加減をしなければ周りにとんでもない被害が出てしまう。後訓練をしたお陰なのか擬人化状態に及ばないが、人間状態でも龍脈を操れるようになった。

 

「皆、準備は出来ているか!? もうじき入場だ!?」

「コスチューム着たかったな~」

「公平を期す為着用不可なんだよ」

 

 飯田の呼びかけに三者三様の反応をする皆を見つつ、少しだけ身体を解す。“個性”を満遍なく使えるようにしとかなければ。

 

「緑谷」

「轟くん……なに?」

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」

「へっ!? う、うん」

「お前オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこを詮索するつもりはねぇが…お前には勝つぞ」

「おお!? クラス最強が宣戦布告!?」

「僕も本気で獲りに行くよ!」

「……おお」

 

 出久は完全に“個性”を使いこなしていない。自身を傷つけたとしてもオールマイトから受け継いだ“個性”は強力。だが、尤も恐ろしいのが出久の観察力にある。相手の“個性”の特徴を理解し、対策を練る。今まで戦ったことはないが、敵となるなら油断できない。轟もそう思ったのだろう。

 

「雷、お前もだ」

「なにが……?」

「訓練の時みてぇに簡単にはやられねぇ。お前にも俺は勝つぞ」

「勝てるといいわね」

「ビリビリ女に勝つのは俺だ! 半分野郎!」

「おう、爆豪。お前にも勝つ」

「ああ!?」

「皆、静粛に!」

 

────────────

 

《雄英体育祭! ヒーローの卵達が、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル! どうせてめーらアレだろこいつらだろ!? (ヴィラン)の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星! ヒーロー科1年、A組だろぉぉぉ!?》

 

 私達の入場になり、私達は廊下を歩いて会場へと出る。騒音にも似た声援。それに包まれながら私は笑う。宣戦布告、それを受け取ったのなら本気でやろう。少なくとも出久、勝己、轟は必ず本戦に行く。キリンと鍛え、更に強力となった私の力を見せつけてやる。

 

「選手宣誓!」

 

 皆がソワソワしている中、18禁ヒーローミッドナイトが鞭でピシャンと音を鳴らしながら主審をする。今年はミッドナイトかなどの話を聞く限り去年は違うのだろう。去年の雄英体育祭は見てないので私には分からない。

 

「18禁なのに高校にいてもいいものか」

「いい!」

「静かにしなさい! 選手代表!」

 

 ミッドナイトはピシャンとまた鞭を鳴らす。しかし峰田が五月蝿い。

 

「1-A雷麒麟!」

「あら、私なの?」

 

 私にニコニコと笑いながら朝礼台に乗る。ヒーロー科入試の一位だからとか、なんでビリビリ女なんだとか言っているが無視だ。

 

「宣誓。私達一年はこれから行う種目全てに全身全霊で挑み、相手に敬意を持って戦う事を誓います。最後に」

 

 勝己だったらなんて言うだろうか? 多分きっと──

 

「私が一位なるわ」

「ええ!? 雷!?」

 

 切島の叫びの後に大ブーイングが起こる。ふざけんなA組とか自信過剰とか潰すとかビリビリ女ざっけんな! とか。私は笑顔になりながら皆を見た後、少しだけ古龍の風格を出してマイクを持つ。

 

「怒って吠えるだけなら犬でも出来るわ。そうしたいだけなら止めてくれないかしら? 目障りだから」

 

 会場はシンっと静まる。やはり古龍の風格はいい、キリンと訓練をしているときに会得したものだけどクマぐらいなら余裕で怯えさせることが出来る。

 

「さ、さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!」

「雄英ってなんでも早速だよね」

「いわゆる予選よ! 毎年多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)! さて運命第一種目! 今年は──」

 

 ドゥルルという音がなりながらルーレットが回る。少し経ってからルーレットが止まる。

 

「コレ!」

「障害物競…!」

「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4km! 我が校は自由が売り文句! コースさえ守れば何をしたって(・・・・・・)構わないわ! さあさあ位置に着きまくりなさい!」

 

 ミッドナイトの言葉通りに皆がぞろぞろとランプが付いたゲートの前に集まる。というかゲート狭すぎだと思う。前で小競り合いをしていたのでそれを回避すべく私は一番後ろに居る。選手宣誓で一位になると言ったからなのか凄い見られてる。

 

「スタート!」

 

 ゲート目掛けて走り出す皆を見届ける。その瞬間に足元からパキパキという音が聞こえ、私は下を見た。

 

「あら……轟の仕業ね」

 

 足元が氷で覆われており、身動きがとれない。周りの皆も私と同じように身動きがとれないでギャーギャー騒いでいる。

 

「えい!」

 

 蒼角を生やして雷を纏い、氷を殴って砕く。蒼角と言っても半分から上はキリン亜種の角の色である淡い紫色をしている。氷が扱えるようになった所為だ。

 

「いきなり妨害だなんて。本当に勝つ気まんまんなのね」

 

 抜け出せない人達を歩いて追い抜かし、第一関門ロボ・インフェルノの前で私は止まった。放送を聞く限りでは轟が戦闘で突破したらしい。氷像とかした入試の時の0ポイント(ヴィラン)を乗り越えながら仮想(ヴィラン)を蹴散らしていると、元気よく動いてるもう一つの0ポイント(ヴィラン)と目があった。

 

「こんにちは。とってもいい天気ね」

「……」

 

 何の反応もせず、0ポイント(ヴィラン)は私を潰すべく右手を私に向けて伸ばす。それと同時に0(ヴィラン)の足元が青白く光った。

 

「ええ、本当に。落雷をするにはいい天気だわ」

 

 私の指ぱっちんで0ポイント(ヴィラン)を覆う落雷が落ち、0ポイント(ヴィラン)は落雷の衝撃で砕け散る。勿論周りへの配慮もしている。破片が生徒に飛んでいったら小さい落雷で打ち落としているのだ。

 

《ロボ・インフェルノの方で落雷があったが大丈夫かよ!?》

《あれは雷の落雷だな。仮想(ヴィラン)を砕くとはとんだ規格外だ》

《おいおい二つの巨大ロボを壊すとかお前のクラスはどうなってんだよイレイザーヘッド!》

《知らん》

 

 少し早く走りながら前方を見る。先に行った人達が立ち止まっている。第二関門だろう。一体どんな仕掛けなのだろうか。

 

《オイオイ第一関門チョロいってよ! んじゃ第二はでうさ!? 落ちればアウト! それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!》

 

 綱渡りといったところだろう。ただ、かなり長い綱を何回も渡らなければならないし、高所に作られているのもあって恐怖心を植え付けられる。まぁ、私には関係ない。訓練中に仙人が通るような道を高速で走っていたりしたのだから。

 

「凄い高さね」

「わっ! 麒麟ちゃん!」

「どうしたのお茶子? 梅雨ちゃんも行ってるし、サポート科の人も行ってるわよ?」

「そ、そうなんやけどちょっと怖いなぁって」

「まぁ、そう思うのも仕方が無いわね」

 

 綱が固定されてある器具まで歩き、下を見る。完全に暗闇。これ落ちたら大丈夫なんだろうか?

 

「轟達も通過した事だし、私も行くわね。ゴールで会いましょ?」

「う、うん」

 

 雷装(アームド)で足に雷を集中的して纏う。おもいっきり踏み込み、私は跳躍した。

 

「よっ!」

 

 大きく跳躍した私は目の前にあった足場に着地。そのまま勢いを殺さずに走り、何度も飛んで足場を渡っていく。

 

《1-A雷ジャンプだけででザ・フォール突破! こいつはシヴィー!》

「嘘やろ!?」

 

 途中から軽く飛んでみたけど意外といけた。やっぱり角から出る雷と龍脈から出る雷では威力が高い。流石は龍脈。使えるようになるとこれほど頼もしいなんて。

 

《先頭が一足抜けて下は団子状態! 上位何名が通過するかは公表してねぇから安心せずに突き進め! そして早くも最終関門! かくしてその実態は一面地雷原! 怒りのアフガンだぁ!》

 

 一同立ち止まり周りを見る。よく見れば地雷の位置はなんとなく分かる。放送を聞く限りでは地雷の威力は大した事はないらしい。派手なのは音と見た目だけらしい。

 

「へぇ……」

 

 雷装(アームド)を変えて防御重視にしてからワザと地雷を踏んでみる。ボウンと大きな音で爆発しピンク色の煙が周りを覆う。確かに威力は大した事ない。雷装(アームド)を纏った状態なら衝撃すらこないし、安全に通れるが、音が五月蝿い。

 

「ま、直に慣れるわ」

 

 爆発を受けながら走る。目の前が流石に見えづらくなってきた頃、後ろから大爆発が起きた。

 

「出久!?」

 

 緑色の板、0ポイント(ヴィラン)の装甲を盾にして敢えて爆発を受けて飛んだ。

 

「デクぁ! 俺の前を行くんじゃねぇ!」

 

 減速した出久は宙に投げ出されるような形で飛んでいる。幾ら爆発を利用して飛んだとしても永遠に飛ぶ事は出来ない。出久は勝己と轟に抜かされる。通常ならそこで終わり。でも、出久は違う。

 

「流石ね出久!」

 

 前方で再度大爆発が起きる。気弱で泣き虫でそれでも夢を諦めない出久は掴んだチャンスは必ず逃さない。今回もそうだ。仮想(ヴィラン)の装甲を床に叩きつけ爆発でさっきと同じように飛ぶ。横に併走してた勝己と轟の妨害をしつつ先に進める。どういう頭したらその考えが出てくるのか不思議に思ってしまう。

 

《さァさァ序盤の展開から誰が予想できた!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男! 緑谷──》

 

 通常なら誰も追い抜かす事など出来ない。出久とゴールの距離は2m。出久の一番乗りは確定していたことだろう。そう、通常なら確定していた。だが、残念ながら私というイレギュラーが存在している。

 

「ごめんね出久」

「えっ?」

 

 本気の速度。車やバイクなど非にならないような速度で地雷原から駆けた私は出久を追い抜きゴールした。止まるのに若干手間取るあたりこのスピードにまだ慣れてない。

 

《緑谷出久じゃなくて雷麒麟!? あの距離から大逆転とかありかよ!?》

「はぁ、はぁ、麒麟…さん?」

「一位奪ってごめんね? こう見えて私負けず嫌いなのよ。それにやってみたかったのよね──」

 

 唖然とする出久を見ながら私は再度口を開く。

 

「大逆転っていうシチュエーション」

 

 歓声を聞きながら私は不敵に笑った。



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雄英体育祭2

明けましておめでとうございます!(今更)
こんな拙作ですが今年も宜しくお願いします!


(雷少女……今の速さは一体)

 

 誰もが緑谷出久の一位を確信していた。緑谷出久も勝った、そう思っていただろう。だが、実際一位でゴールしたのは雷麒麟であった。誰もが視認出来なかった速さ、オールマイトも完璧に見えていた訳ではない。その速さは閃光と呼んでも良いであろう。それに類似した速度なら一度だけ見た。戦闘訓練の時である。

 

(まさか実力を隠し持っていたのか?)

 

 恐ろしい子だ。ワン・フォー・オールを身につけるための特訓をしていた時に何時も緑谷少年が雷少女について話していたことが納得できる。そう思いながらオールマイトは雷麒麟と緑谷出久を見ていた。

 

(頑張れ、緑谷少年!)

 

 見ることしかできない歯がゆさを感じながら、オールマイトは膝の上に乗せている両手を握り締めた。

 

────────────

 

 障害物競走の結果が発表され、一位の欄に私が表示されているのを確認して私はニィと笑う。多分人に見せられない顔をしてるんだろう。それを隠さない私もどうかと思ってしまうけど。

 

『さーて、第二種目よ! 私はもう知ってるけど~何かしら!? 言ってるそばから──コレよ!』

 

 モニターには騎馬戦と書かれている。制限時間は15分。ルールは二人から四人のチームを自由に組んで騎馬を作り、障害物競走の順位によって振り分けられたポイントが騎馬のポイントになる。騎手がポイントが書かれたハチマキを首から上に装着する。保有ポイントを騎手達が奪い合い、最後に多くのポイントを持っていた騎馬の勝利だ。尚、ハチマキが取られたとしても、騎馬が崩れたとしてもアウトにはならない。“個性”を使用はありだが、崩し目的の攻撃は禁止である。

 

「一位は1000万……ねぇ。障害物競走はあくまで予選。相手の力量を見るには十分な種目だったってところね」

「麒麟ちゃんどうゆうこと?」

 

 私の独り言にお茶子が反応して首を傾げる。私は笑いながら口を開いた。

 

「三つの関門は上位に居る素質を知るのには十分な仕掛けなのよ。第一関門は“個性”の強さ、第二種関門は“個性”の応用、第三関門は目と足を使いながら“個性”を使う器用さ。例え後ろで見えなくても上位に居るだけで少なくともそれら全部が備わってるってことね。まぁ、私はただのごり押しだったけど」

「た、確かに言われればそうやな。はぁ~麒麟ちゃんは凄いなぁ」

「そんな事はないわ」

 

 お茶子と話していると、他の人は既に組まれている。私も組もうと周りを見るが……明らかに目線を逸らされている。なる程、一位はこうなりかねないのか。序盤で大きなポイントや所持するのはリスクが高い。それを15分間他の騎馬達から守らなければならないのだから。

 

「麒麟さーん! 麗日さーん! 僕と組んで組んでくれないかな?」

「デク君! うん、組もう!」

「二人ともいいの? 多分物凄く狙われるわ」

「それについて考えたんだ。飯田くん!」

「ん?」

 

 飯田は出久に呼ばれ、私に近寄る。そうか、飯田は機動力として確かに申し分ない。

 

「飯田くんを先頭に僕、麒麟さん、麗日さんで馬を作る。そんで麗日さんの“個性”で僕と麒麟さんと飯田くんを軽くすれば機動性は抜群! 騎手は麒麟さんにやってもらえば中距離の攻撃で他の騎馬を迎撃できる!」

「……さすがだ緑谷くん。だが、すまない。断る」

 

 飯田は立ち上がり、眼鏡を上げる。入試の時から出久に負けっぱなしだと、出久についていくだけでは未熟者のままなのだと。

 

「君をライバル視しているのは爆豪くんや轟くんだけじゃない。だからこそ俺は君に挑戦する!」

 

 飯田は振り返り、轟のチームへ歩き出す。重要な機動力を取られたか。結構辛いものがある。出久がブツブツと考えていると一人の女の子が私の前に急に現れた。

 

「私と組みましょ、一位の人!」

「貴女誰?」

「私はサポート科の発目明! あなたの事は知りませんが、立場利用させてください!」

「「あ、あけすけ!」」

「良いわよ」

「麒麟さん!?」

「麒麟ちゃん!?」

 

 私は発目をジロジロと見ながら口角を上げる。

 

「障害物競走で道具使ってたでしょ? 私達にも使わせてくれるんでしょ?」

「話が早くで助かります! やはり、あなたと組んで良かった! これで私のベイビーが大企業に!」

 

────────────

 

 配置や作戦を考えていると、制限時間が過ぎ、騎馬を組む。先頭に私、左右にお茶子と発明、騎手に出久だ。最初は私が騎手だったのだが、的確な判断が出せるのが出久だと思ったため出久を騎手にした。カウントダウンが始まり、出久はハチマキをキュッと頭に巻く。

 

「麒麟さん!」

「ええ」

「麗日さん!」

「っはい!」

「発明さん!」

「フフフ!」

「よろしく!」

 

 出久の声と同時にカウントダウンが終わり競技が始まる。実質私達一位のポイントの奪い合いとなるだろう。

 

「誰にも奪わせない。絶対にね」

 

 私は雷を纏い、笑った。



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雄英体育祭3

START(スタート)!》

 

 騎馬戦の開始の合図と共に他の騎馬達が一斉に私達目掛けて駆けてくる。直ぐに此方に来そうなのは先攻してる二つの騎馬だ。

 

「出久、どうする?」

「逃げの一手!」

 

 騎馬が居ない方向へ足を運ぼうとした瞬間、突如足が沈み始めた。恐らくは誰かの“個性”だろう。私達騎馬が行動出来なければ圧倒的に不利。厄介な“個性”がいたものである。

 

「麗日さん! 発明さん! 顔避けて!」

 

 出久が背中につけていたバックパックに繋がっているスイッチを押した瞬間にバックパックが火を噴き、私達は空を飛んだ。後ろから追いかけてきてる耳朗のヘッドセットは私の雷で防がれた。

 

「ありがとう麒麟さん!」

「身体が痛くなったら言ってよ。雷の耐性なんて出久達は無いんだから」

「勿論!」

「着地するよ!」

 

 

 お茶子の“個性”で私達を浮かし、発明の作ったベイビーを使って空に飛ぶ。対空の“個性”なんて周りを見た所持ってる奴なんて居ないだろうし、遠距離攻撃は私の雷を全員に纏わせているのである程度なら防げる。私以外雷の耐性が無いため雷の出力を下げているから強度は弱く、気休め程度にしかならない。所謂雷装(アームド)の弱体化だ。何度も攻撃されたり、大きな攻撃で簡単に破られる。

 

「ふざけてんじゃねぇぞ! デクゥ、ビリビリ女ァ!」

「かっちゃん!?」

「やっぱり来たわね!」

 

 対空の“個性”は居ないが、勝己のように飛んでくる奴は居る。今は地上に居るので良いが、これが飛んだ状態で爆破を食らえば踏ん張りがきかないし危険だ。

 

「死ねぇ!」

 

 反応が遅れ、出久が爆破をモロに受ける。そこまで強い爆破ではなかったが強度がない雷は破られた。

 

「そんなんで俺を止めれると思ってんじゃねぇ!」

「思ってないわよ!」

 

 第二撃目が来る。壊された雷装(アームド)よりも少し出力を上げたもの全員に纏わせる為に急いで雷を発生させる。

 

「かってすんな爆豪!」

「っ!?」

 

 勝己が瀬呂の“個性”で戻される。飛んできたのは独断のようで、何の打ち合わせもしていなかったらしい。まぁ、勝己らしいと言えば勝己らしい。やってることは最低だけど。

 

「気、張るわよ!」

「「うん!」」

 

 一難去ってまた一難。守れば一位、穫られれば最下位の状況は変わらずにそのまま。制限時間までポイントを守らなければならない私達は多くの騎馬から狙われる。

 

「さっきよりも出力を上げた雷を纏うわ。多少ビリッときても耐えて」

「わかった!」

「任せて!」

「ベイビーは大丈夫ですよね?」

「その辺は考慮してるから大丈夫よ」

 

 発生させた雷を纏う。まだ、氷を使うのは早い。せめて盛り上がる時に使わないと。ニィ、と自然に口角が上がる。私の中の“古龍の本能”が疼いてくる。敵を倒せと、狩りを行えと。

 

「ふふふ」

 

 迫り来るは敵。私達のポイントを奪いに来る貪欲なハンター(ヒーロー)達。なら、片っ端から蹴散らすまで!

 

「出久、お茶子、発明、少しはっちゃけるわ。いつでも飛べるように準備してて!」

「っ! 分かった!」

「うん!」

「了解です!」

 

 出久達に纏わせた雷はそのままに。私が纏っている雷だけ出力を上げる。両足に集中、あの時と同じようにしっかりと雷を一点に。

 

「キリン、力を借りるわよ!」

『承知した』

 

 完全なキリン化状態になるには雷を限界まで出さなければならない。それは出久達を傷つけてしまう。それはいけない……でも、擬人化状態では負けてしまうかもしれない。だから──

 

『しかし、良いのか? 我がお主を使うということは勝負を決するぞ。最善は尽くすがお主の身体を傷つけてしまうやもしれん』

「いいのよ。アレ以外は出し惜しみ無しでいかなきゃ。本気でぶつかる為にもね」

『そうか。ならばよい』

「『始めるとしよう』」

 

 ──脳無を倒した時みたいにキリンに私の身体の支配権を譲る。と言っても私の意識はあるままなので勝手に身体が動くという気持ち悪い感覚がある。

 

「麒麟さん……?」

「麒麟ちゃん?」

「『む? 今は麒麟ではないぞ。いや、キリンではあるがそうではない』」

「どういうこと?」

「『見れば分かることだ。さて楽しむとしよう』」

 

 キリンが雷の出力をどんどん上げていく。それでも出久達の苦しむ声など聞こえない。これが本家の雷を操る技術力。

 

「『出来る限りの守りを作ってやる。貴様等は攻めることだけを考えているだけでよい』」

「今の麒麟さんは麒麟さんじゃないことは分かったよ。後で色々教えてね麒麟さん!」

「『うむ。麒麟の代わりに我が答えよう』」

 

 勝己はB組の人に絡まれてるし、他も他で混戦状態。ちらっと見えたけど障子が峰田と梅雨ちゃんを乗せている。あれ少しだけ楽しそう。

 

「麒麟さんの防御も上がって立ち回りやすくなったから無理に突っ込まないで此処は回避に徹しよう! 今は混戦状態だから逃げ切りやすくなるはず!」

「『そう簡単に事が運ばんことはお主が一番理解しておろう? ほれ、来たぞ』」

「っ……! そうだよね、そう上手くいくはずないか」

「そろそろ……奪るぞ緑谷」

 

 私達の目の前に轟達が立ちふさがる。まだ中盤線なのに取りに来たってことは取った後ずっと守るつもりなのだろう。

 

「時間はもう半分! 足止めないでね! 仕掛けてくるのは──」

 

 轟達、その外の騎馬達が焦ったのか漁夫の利を狙ったのか、私達に襲いかかってくる。混戦状態だったのが一気に変わるのは凄い。一発逆転を狙う為なのだろう。

 

「一組だけじゃない!」

 

 出久がそう言った瞬間に無差別な放電が上鳴から放たれる。私達にも襲うがキリンはその電気をバッグパックに受け流す。あれ? そうなるとバッグパックつかえないのではないだろうか?

 

「皆、飛ぶよ!」

 

 轟の次の手に警戒した出久は私達と一緒に飛ぶ。そうするはずだったのだが。

 

「バッグパックがイカレた!?」

「ベイビー! 改善の余地あり」

「『む? すまぬ、電気をその箱に受け流したのが間違いだったか。仕方あるまい……牽制といこうか』」

 

 勿論飛べるはずがない。あれだけの大口を叩いたのに戦犯してしまうとは……キリンもかなり抜けている。

 

「『ええい、黙らんか麒麟。我の本領は此処からだ』」

 

 キリンが少し腹が立っているみたいだけど気にしてられない。轟は他の騎馬達で氷拘束してからハチマキを取って順調にポイントを重ねている。だが出久もそんな轟に近づけさせないよう氷で限られたスペースで逃げ切っている。

 

「麒麟さん、上鳴君の電気後何回防げる?」

「『限界などあるはずがなかろう? 我からすればあんなものそよ風と同じようなもの。指示するならば幾らでも防いでやろう』」

「良かった。これなら最悪の事態が起きても大丈夫」

 

 出久の声が張り詰めたものから少し安心したように変わった時、轟達が身構える。

 

「奪れよ、轟君!」

「え?」

 

 いきなり轟達は加速して私達に近づく。それは私以外反応出来ない速度での攻撃。出久達は呆気にとられているが安心して欲しい。こちらには海を走って渡るなどの異常行動をさも当然のように行える規格外が味方なのだから。

 

「取られた!?」

「言ったろ緑谷くん。俺は、君に挑戦すると!」

 

 カッコつけているとこ申し訳ない。でもキリンは空気なんて読まないからこういうことはズバズバと言ってくる。

 

「『焦るでない緑谷出久。なにも取られてはいないのだからな。轟焦凍、先程まで握っていたハチマキを感触を忘れたか? はよ次の手で決めてしまわんと2位のままで終わってしまうぞ。我の作った偽物を誇らしげに持っている場合ではなかろう?』」

「なっ……!」

 

 轟が持ってるのはキリンが咄嗟に雷で作った偽物のハチマキ。ワザと雷の守りを解除し、掴む瞬間を狙って偽物のハチマキを轟の手の中に作ったのだ。なんとも性格の悪いことだ。

 

「『最近我を悪く言うようになったではないか麒麟。そもそもが何故人間に格を合わせなければならないのか。我は誇り高き“古龍”なのだ。お主も歩く速度を自らアリと同じにする事はなかろう? それと同じだ』」

 

 フッとキリンは笑う。今更思ったけどこれ全国放送されている。つまり客観的に見て私は戦犯して自分の事を我と言っている。凄い恥ずかしい。

 

「『……我慢せい。そうしたいと言ったのはお主だろう? さて、どうする轟焦凍。時間はごく僅か。先程の一手で決めれなかったのはなんとも痛手よな。騎馬の前も既に使えない様子……いや、痛手ではなく愚策か』」  

「テメェ……!」

 

 完全なる挑発。その挑発に乗った轟の氷も上鳴の電気もキリンは完全に相殺していく。それを何回か繰り返している内に──

 

TIME UP(タイムアップ)!》

 

 ──試合は終わった。味気ないなんて思わないでもらいたい。生物の頂点に立つ“古龍”が参戦すればこんなものである。何はともあれ宣言通り一位を貫くことが出来たのだから良しとしよう。

 

《早速上位4チーム見てみよか! 一位、緑谷チーム! 二位、轟チーム! 三位、爆豪チーム! 四位、鉄て…アレェ!? オイ! 心操チーム!? いつの間に逆転してたんだよおいおい!》

 

 あの心操って人は勝己と一悶着あったとかで覚えている。持ち点が持ち点なだけに全ての騎馬を見切れては居ないが、あの人が大きく指示をしているのを見たことがない。ということは騎馬戦に置いて騎手になることで有利になる“個性”だったとするなら……少し注意した方がいいのかもしれない。

 

「麒麟ちゃん凄かったよ! もう、ビリビリィ! ってやって轟君達の攻撃全部防いでたもん!」

「『……』」

「……? 麒麟ちゃん?」

「え? ああ、ごめんなさい。ちょっと疲れたみたいでボーッとしてたわ」

「大丈夫? やっぱりあれだけ凄いことすると疲れるんだね!」

「ええ、私の“個性”は体力勝負なのよ」

 

 拳をえいえいと元気よく前に突くお茶子を見て笑みが零れる。しかし、多少は自重しなければならない。流石にはっちゃけすぎたと思う。そもそもがキリンが私の身体を使って戦うというのはどうしても私では敵わない相手が出た時ように考えた作戦。もうちょっと自分で物事を解決するようにしなければ。それにキリンが私の身体を満足に扱えてないようだし。

 

『鍛えるのはゆっくりでよい。短時間で我と同等になれと言うのが無理なもの。お主が完璧になるにはまだ早い』

「ええ、分かってるわ。それでも少しは焦らなきゃ」

「麒麟ちゃん、ご飯食べよ! 私ペコペコだ!」

「そうしましょうか。それじゃ、皆でたべましょう。今の戦いで色々聞きたいことがあるし」

「む? それは俺もだぞ麒麟くん!」

「あ! 飯田くん! あんな超秘もってたのズルイやん!」

「ずるとは何だ! あれはただの“誤った使用法”だ!」

 

 そう思ってはいるけれど、今の空間に居るのも悪くはないかな……なんて思ってしまう。

 

「どうも緑谷くんとは張り合いたくてな」

「男のアレだなあ~。……ていうかデクくんどこいったんやろ?」

「さぁ? ちょっと探してくるわ。行きたいところもあるしね」

「分かった!」

 

 お茶子達に見送られながら私は別れて歩く。オールマイトがどこかに行くのがチラッと見えたから恐らくどこかで話しでもするのだろう。少し二人には悪いがついて行くとしよう。



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雄英体育祭4

キリが良かったので投稿です。今回凄く短いですし、話が進まないです。


「居た」

 

 オールマイトを追いかけ、階段を下ろうとするがオールマイトは誰かと話をしている。出久だろうか? なら隠れた方が良いだろう。

 

「これだけ覚えておけアレは…いずれは貴様をも超えるヒーローにする。そうするべく……つくった仔だ」

「…何を……」

「今は下らん反抗期だが、必ず、越えるぞ……超えさせる…!」

 

 今の話は何のことだろうか? 少なくとも出久……ワン・フォー・オールについての話ではない。オールマイトを超える為につくった? くだらない話である。少なくとも出久に害があるように思えないし放置しても問題ない。動いてお腹も空いたし、お茶子達と合流しよう。

 

『麒麟、我は昨日の晩にでていた牛丼とやらを食したい。お主は美味そうに食していた、美味なのだろう?』

 

 ……あったらね。あったら私の身体を使って食べてもいいわ。というかお腹空いてるのは私なのよ? 確かに私の身体使って動いてたけど、キリンはお腹空いてないでしょ。

 

『そのような些細なことなど気にすることはない。我は今腹がヘった。何の問題もなかろう?』

 

 頭の中でニヤリと笑うキリンを想像し少しの苛立ちを覚えながらお茶子達と合流する。結局牛丼があったからキリンが私の身体を使って食べたし、キリンは牛丼を食べると満足して私の身体を解放したけど食べた感覚は残っておらず、お腹に食べたのがあるという不思議な感覚を覚える。気分はあまり良いものではない。

 

「雷さん、少しよろしいですか?」

「なに?」

「峰田さんと上鳴さんに相澤先生からの言伝で私達は午後に応援合戦をしなければならないらしいんです。衣装は私がお作り致しますので採寸させて貰えませんか?」

「……ええ、構わないわ」

 

────────────

 

 体育祭、午後の部。チアリーダーの衣装を全員で来てポンポンを持ちながら周囲を見る。……薄々思っていたが、やはりそうだったのか。これは──

 

《最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんとレクリエーション種目も用意してんのさ! 本番アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん? アリャ?》

 

 ──峰田と上鳴の罠だ。

 

《どーしたA組!?》

「峰田さん、上鳴さん! 騙しましたわね!?」

 

 八百万が声を荒げながらバカな二人を見るが向こうはサムズアップしている。

 

「何故そうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」

「アホだろアイツら…」

「まぁ、本戦まで時間空くし張りつめてもしんどいしさ…いいんじゃない!? やったろ!」

「透ちゃん、好きね」

 

 三者三様の反応。ため息が出てくるが今更これをグチグチ言うのも仕方がないだろう。

 

「そうね。せっかくだからやりましょ? 少し騒いだほうが緊張も解せるだろうし」

 

 八百万を慰めていたら話が進んでいたみたいで尾白とB組の庄田の棄権が決まり、B組の鉄哲と塩崎が替わりに入っていた。しかもクジで組を決めたのだが初戦がさっきまで慰めていた八百万……何故か辛く感じる。

 

「雷さん、よろしくお願い致しますわ」

「え、ええ…よろしくね。手加減はしないから全力で来てね」

「はい、勿論全力でお相手致しますわ!」

 

 誰にも負ける気なんてさらさらないが、出久とあたったらなんか申し訳ない気がしてならない。と言っても出久は轟と戦うことになるだろうし、結果はわからない。それよりも──

 

「勝己、早かったわね。決勝で戦うつもりだったのだけれど」

 

 ──このボンバーマンと戦うのが決勝じゃないのは少し驚きだ。私と勝己、どっちのクジ運が低かったのだろうか?

 

「あぁ? んだその格好」

「峰田と上鳴に嵌められたのよ。格好は置いといて、勝己と戦うのは決勝じゃないのね」

「んなこたぁどうでも良い。テメェも決勝に来た奴もブッ殺して一位だ。やられんじゃねぇぞビリビリ女」

「ええ、やられる訳ないじゃない。そっちこそくたばらないように頑張ってね?」

「……」

 

 何時もなら「くたばるわけねぇだろ!」とか言いながらキレてくる筈なのに勝己は黙って去っていく。集中しているのかなんなのか。予想外の行動で少しビックリしたけど、キレて言い返してこない勝己は新鮮だ。成長したような気がして笑みが零れる。

 

「さて、応援しましょうか」

 

 大玉転がし、借り物競争、懐かしく思える競技を応援しながら次の種目について考える。次の種目をトーナメント戦のガチバトル。初戦は八百万の戦闘。私の雷を防ぐシートが作れるのは痛手だ。シートが焼き切れるぐらいの力で牽制、体制が崩れた所を仕留めにいく感じで良いだろう。氷はまだ使わない。初めての御披露目は勝己にするのも良いかもしれない。

 

「ファイトー!」

 

 色々な考え(企み)のお陰でテンションが上がった私は精一杯の声援を送る。ハメを外せば私だってこうなるのだ。おい、峰田こっちみんな。



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雄英体育祭5

皆様お久しぶりです!
モンハン草のオーグγも揃い、漸く執筆が出来る時間が空きました。
GWは何をやっていたのかと言いますと、麒麟ちゃんの絵をかいてみたり、ディビジョン2をやっていたり、惰眠を貪っていましたすみません(因みに麒麟ちゃんの絵はかけなかったです)
大して文字数が多いわけでもない拙作のくせにお待たせしてしまい申し訳ありません。これからも遅いなりに一生懸命書かせていただきますのでご容赦を!


 雄英体育祭の大目玉であるトーナメント戦。初戦は出久と心操の対決。注意は必要だがワン・フォー・オールは使わずとも出久なら勝てるだろうと踏んでいたが……。

 

《緑谷完全停止!? アホ面でビクともしねぇ! 心操の“個性”か!?》

 

 心操の煽りに怒りで応えた出久がいきなり停止した。なんなんだろう心操の“個性”は。何をした? “個性”を使用する動作なんて見えなかった。

 

『傀儡を作り出すとは面白い。我から見ればあの小僧は傀儡子よな』

 

 傀儡以外に言い方はなかったのだろうか? わざわざそんな言い方をしなくても良かったと思ってしまう。それにしてもあの“個性”の発動条件は何なのだろう?

 

『さしずめ応答によるものだろう。緑谷出久が吠えてから様子が変わったのが証拠だ。しかし、小僧に応えた者が操られる……なんとも愉快な力だ』

 

 愉快ではないような気がする。凄く強力且つ初見殺し。上手く使えば人であればどんな奴にも通用する。それ程までには強いけど。

 

『あの力を善に用いるのも小僧の心が染まってなかった故だ。本来ならば悪に適している』

 

 私もそう思ってしまう。その“個性”はヒーローよりも(ヴィラン)よりだと。心操にとってそれは何度も聞かされたことだろう。人に使うならば強力すぎるが、入試の時はロボットが相手だ。落ちるのも頷ける。

 

 しかし、落ちたからといって“個性”が弱いかと言われればそれは違う。警戒は必要だと思っていたが、もしかしたら私も出久と同じようになって場外に歩いていったかもしれない。

 

「勝負……あったわね」

 

 興味をなくした私は視線を逸らす。いや、興味をなくしたんじゃない。ただ単に出久の敗北が見たくないのだ。そしてそれ以上に敗北を認めたくないのだ。

 

 苦しくても、辛くても、諦めずに頑張ってきた出久が負けるのが嫌だ。誰よりも努力してきた出久が報われないなんてそんなの間違っている。だから──

 

「出久、負けないで!」

 

 気づけば叫んでいた。その瞬間、出久の手から暴風が吹き荒れた。

 

「え……?」

 

 出久の指が腫れている。ワン・フォー・オールを使用したからああなったのだろう。でも操られてたのにどうやって? 

 

「でも、良かった」

 

 心からそう思えた。安堵の笑みを浮かべると同時に何故か疲労を感じる身体を楽にする。原作が分からないことがこんなにも怖いなんて……予想以上だ。

 

「……! 指動かすだけでそんな威力が羨ましいよ!」

 

 心操の言葉に出久は応えない。

 

「俺はこんな“個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間には分かんないだろ」

 

 そう、出久は恵まれた。でもそれは諦めなかった出久だからこそ得たものなのだ。

 

(あつら)え向きの“個性”に生まれて望む場所へ行ける奴等にはよ!」

 

 出久は走る。心操の肩を掴み押していく。

 

「なんか言えよ!」

 

 心操に殴られても出久は押すのを止めない。

 

「あああ!」

「押し出す気か? フザけたことを…!」

 

 心操は避ける。二人の立ち位置は入れ替わり叫びながら出久の顔を押していく。形成逆転。出久が場外になるのも時間の問題だ。

 

「お前が出ろよ!」

「んぬあああああ!」

 

 それでも出久は諦めない。綺麗に背負い投げをして心操を場外に出した。

 

「心操くん場外! 緑谷くん、二回戦進出!」

「爆豪も背負い投げられてたやな」

「黙れ、アホ面…んのクソが…!」

 

 勝己にアホ面と言われて落ち込んでいる上鳴を横目に空を見る。素晴らしい程の快晴。今の私の気持ち並みに気持ちがいい。

 

「ふふふ」

 

 まだ私の番じゃ無いけどきっと直ぐに来る。その前に備えなければならない。

 

『やけに興奮しておるな麒麟。周りが見えなくなるなどないようにしなければ足元をすくわれるぞ』

 

 八百万はそんな事しないと思う。けど、油断は隙を生み、隙は負けを生むのは確か。気は引き締めないといけない。

 

『うむ。最悪の場合は我に任せると良い』

 

 そうなったとしても自分の力で勝ち上がるようにしていきたい。ずっと頼りっきりだと成長はしないから。

 

『ふむ、その考えができるだけでも成長しているというもの。その気持ちを忘れなければお主は成長し続ける』

 

 誇るがいいお主は我が認めた者なのだからな、とドヤりながらキリンは付け足す。私は苦笑しつつ退場していく出久を見る。

 

「ええ、そうね」

 

 私が応えると同時にどこからか雷の音が聞こえた気がした。



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雄英体育祭6

遅れて申し訳ありませんでした!
全てはダクソ3のゲールのせいです。


 第1試合は見事出久の勝利で終わり、私は他の試合を見ていた。第2試合は轟の攻撃で瀬呂が氷付けにされて終了、第3試合はナンパに失敗した上鳴がウェイウェイしたけど完璧に防御された挙げ句に拘束されて負けて終了、第4試合は発目に嵌められた飯田が走りまくり、発目の場外(故意)によって終了、順番的に次のつぎの試合の為、私は控え室で準備をしていた。

 

「麒麟さん!」

「麒麟ちゃん!」

「あら、出久に…お茶子顔凄いわよ?」

「え!? ああ、顔ね! ちょっと緊張が顔に出てたね!」

「ふふふ。それでどうしたの?」

「えっともう直ぐ麒麟さんの順番だし少しでも応援出来たらと思って」

「麒麟ちゃん頑張ってね!」

 

 ニコッと笑う二人に私は微笑む。

 

「ありがとう。あんな宣戦布告したんだから相手が誰だろうと負けはしないわ。それが例え出久とお茶子でもね」

 

 私は二人の横を通り過ぎ、ドアを開ける。

 

「決勝で待ってるわ」

「「……うん!」」

 

 二人の返事を聞いた後、私はステージに向けて歩き出した。

 

────────────

 

《ここまで宣言通りの勝ち越し! 落雷電撃ガール! ヒーロー科雷麒麟!》

 

 ワアアという歓声を聞きながら目の前の相手に集中する。相手は八百万その“個性”は創造。私にとって──

 

《“個性”を使った戦術は多種多様! 麒麟にギャフンと言わしちゃえ! 同じくヒーロー科八百万百!》

 

 ──天敵に等しい。

 

START(スタート)!》

「先手必勝ですわ!」

 

 八百万はスタートの合図と共にかなりデカい耐電シートを出し自身に被せる。その瞬間に棒を創造し、私に突っ込んできた。

 

「そんなんじゃ痺れちゃうわよ?」

 

 様子見で雷をステージに蔓延らせる。八百万は耐電シートのお陰でダメージは負ってないように見える。厄介な“個性”である。

 

「麒麟さん。何故攻撃なさらないのですか?」

 

 八百万言うとおり八百万が創造する間に私はやろうと思えば簡単に八百万を倒せる。だがそれでは意味が無い。相手が私に対する対策を万全にした状態でどこまで対抗できるか。それを私は知りたかった。脳無にやられた時のように、私は自分の弱点を突かれて負けては自身の成長に繋がらないのだ。

 

「全力の貴女と戦わないと意味がないから……かしらね」

 

 そう答えながら私は両手に雷を発生させる。雷を操るのに最も重要なのは如何にイメージ出来るか。前と違って龍脈を扱えたとしてもそれを怠れば宝の持ち腐れとなってしまう。だからこそ前世の断片的な記憶から形状を思い出し作っていく。想像(イメージ)しろ、創造(イメージ)しろ、それを現実に引き出せ。私なら出来る。

 

武装(ウエポン)双雷剣キリン」

 

 バチバチと両手から音が鳴る。それは細長く収束し、私がイメージした通りの形になった。少しだけ安心して笑みがこぼれたのは許して欲しい。

 

「……傷はつかないように刃つけてないけど痛いわよ。痺れるとかじゃすまないかもね」

「望むところです!」

 

 雷に対抗すべくフル装備の八百万と一定の距離を保ちながら周りを歩く。八百万は長い棒を創造し、こちらから視線を外さない。だからゆっくりと近づいて相手が反応出来ない速度で一気に詰める。

 

「シッ!」

「くっ!」

 

 胴体に一振り当て、直ぐに詰め寄る。柔らかいのに守られてるのか決まった感覚は無い……全然決定打にはならないが、そういった攻撃に強いことは分かった。

 

「頑丈なのね。ならそれを上回るだけよ」

 

 連打、連打、連打。反撃を許さず、こちらの好きを見せず、徹底的に相手を消耗させる。それでも八百万は倒れることはない。依然守りに徹している。

 

「反撃しないの?」

 

 質問しながら攻撃をし続ける。それを聞いた八百万が気のせいか笑ったように見えた。

 

「反撃致しますわ。直ぐにでも!」

「危ないわね」

 

 突き出された長い棒を横に避ける。しかし何かが私の両に巻き付いてくる。

 

「縄?」

「そう避けて下さると信じてましたわ! そしてこれが──」

「え?」

 

 八百万が縄を引っ張ることで私の腕が八百万の方に吸い込まれる。そして私の視界は白色に支配される。恐らく目くらまし。過ぎに離れようと後ろにジャンプしようとするが縄のせいでジャンプ出来ない。

 

「今の私に出来る精一杯の反撃です!」

 

 ガシャンと両手首に何かを嵌められ動けなくなる。次第に目が慣れ、動けない理由が分かった。

 

「手錠…しかもコンクリートに繋ぐなんて…動かなかったのはそういう事なのね」

「ええ、これでは麒麟さんは動けません。私の勝利ですわ」

「負け…ねぇ」

「麒麟さん動ける?」

「はい、動けます。直ぐに動きますね」

 

 鉄の拘束? コンクリートで動かさないようにする? 確かに並みの“個性”だったら不可能かもしれない。だけど私は違う。あまり古龍を舐めないで欲しい。

 

「え……?」

「敵に塩を送る訳じゃないけど、離れた方がいいわよ?」

 

 腕をコンクリートに振り下ろすと同時に落雷がコンクリート目掛けて落ちる。一応飛散しないようにしてはいるけどコンクリートの砕け散る音はかなり五月蝿い。

 

「あら? 手錠はかなり頑丈なのね」

 

 バキッと音を鳴らしながら鎖を千切る。八百万は驚きを隠せない表情で私を見る。

 

「拘束は良い考えだけど私を捕らえるには強度が無いわね。もう少し頑丈にする事をオススメしとくわ」

「嘘…拘束を力ずくで壊すなんて…」

「さっき精一杯って言ってたけど貴女の“個性”のことだからまだあるんでしょう?」

 

 だからと言葉を続けながら笑う。ああ、今私は非道い笑顔をしているんだろう。でも許して欲しいと思ってしまう。私は今凄く楽しくてしかたないのだ。

 

「他のも見せて欲しいわ。全部真っ正面から受け止めるから」

「っ! ……私の負けですわ」

 

 顔を伏せ、八百万は弱々しくそう発言する。八百万のことだからかなりの策を用意した筈。なのに負けを認めるというのはどういうことだろう?

 

「もしかして貴女……」

 

 手を震わしている八百万を見て私はなんとなく察した。違う、八百万は仕方なく負けを認めた。そうしなければならない理由があるのだ。

 

「……分かったわ。痛くないようにしてあげる」

「お願い、致しますわ」

「ええ」

 

 私は八百万の頬に手を当て、微弱な雷を発生させた。




ヤオモモが負けたのは大体麒麟ちゃんのせい。ボコスカと連打してましたからね。ヤオモモ守るのと創造で精一杯でした。
一応ヤオモモの弱点は作者の優しさで緩和されています。多少強化も入ってたり。
主に挙げられるのは
・大きな物を創造するスピードの上昇
・器用さ精密さUP
・身体能力を少し強化
です。いずれ上鳴君も強化します。あまりウェイウェイさせないようにするぞぉ!


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雄英体育祭7

皆様明けましておめでとうございます! そしてお久しぶりです!

まだそんなに経ってないだろとか余裕かましてたら気づいたら年明けてました……本当に申し訳ない(メタルマン)

どんな風に書いてたのかほぼ忘れてしまったので申し訳ないのですが文字数少ない上に進んでないです……。

亀更新が続いてますが今年もよろしくお願いします!
それと、後書きの方にアンケートがありますので答えて頂ければ幸いです。


 倒れ込んでくる八百万を受け止め、お姫様抱っこをする。なんとも言えない空気の中、ミッドナイトの声が響いた。

 

《勝者、雷麒麟!》

 

 沸き立つ会場。それに相対するように私の熱は冷めていく。一方的な蹂躙、相手の隙を潰し戦うのは正当な戦い方ではあるのだろう。

 

 天敵から身を守るためありとあらゆる方法を取るのはモンスターなら尚更だ。ああ、それなのに何かが物足りない。

 

『良くも悪くも闘争が芽生えてきているな。ふむ、我としては喜ばしいことではあるが……まだ人間の身である麒麟にはちと要らぬものか』

 

 少しだけしんみりとしたキリンにクスリと笑みをこぼしながら、私は八百万をリカバリーガールのところへと連れて行った。

 

────────────

 

「リカバリーガール、宜しくお願いします」

「来たね。そこのベッドに寝かせてくれるかい?」

「分かりました」

 

 リカバリーガールの指示通りに八百万を寝かせる。外傷は無いけど、多分痛みとかはあるかもしれない。

 

「しんみりするんじゃないよ。二人共良く戦ったんだからね」

「はい…ありがとうございます」

 

 頭を下げてから部屋を出る。ふぅ、と息をつくと隣に気配を感じて隣を見た。

 

「お疲れ様、麒麟さん」

「ありがとう」

 

 微笑む出久に微笑み返す。その後出久は周りをキョロキョロと見た後に私を見る。

 

「麒麟さん次の次に始まる試合はかっちゃんと麗日さんの試合なんだ」

「ええ、分かってるわ」

「付け焼き刃かもしれないけど、かっちゃんの癖とかを麒麟さんと確認しながら戦略を考えたいんだ。少しでも麗日さんが勝てるように」

 

 お茶子の勝率が上がる。それは私としても嬉しいことだ。だけど、それと同時に勝己が負けるのはなんとも言えない感情が私の中に生まれた。

 

「……勿論、と言いたい所だけど、私は協力出来ないわ」

「え……?」

 

 驚いた表情でフリーズする出久。気持ちは分かるけどそれは無理だ。どうせなら勝己とお茶子の全力のぶつかり合いが見たい。

 

「私はどっちも応援してるのよ。だからどっちかに肩入れするのは無理ね」

 

 勿論、お茶子には勝って欲しい。でも、勝己にも勝って欲しい。そう思ってもそんな事は絶対にあり得ない。だから私は見守ることにした。二人の戦いに余計な介入は不要だから。

 

「それじゃあ、私は先にお茶子と会ってくるわ」

「う、うん。分かった」

 

 驚きを隠せてない出久の横を通り抜け、お茶子が居るだろう控え室へと向かう。一言かけた後は勝己の所にも行くつもりだ。

 

「おっ?」

「……?」

 

 某少女漫画の如く、曲がり角をはじめとして曲がるとぶつかるシチュエーションの一歩手前で私は立ち止まる。私は目の前の大男……万年No.2(エンデヴァー)を見上げて首を傾げた。

 

「おォ…此処に居たか」

「何かご用ですか?」

「君の数々の活躍を見させてもらった。素晴らしい“個性”だね。宣言通り周りを圧倒し続けるのには驚いたよ」

「ありがとうございます。では、急いでいるので」

 

 万年No.2(エンデヴァー)からの賞賛なんて嬉しくもなんともない。私はそそくさと歩き出す。

 

「君もあの緑色の癖っ毛の少年も実にいい“個性”だ。君達はウチの焦凍にテストベットとしてとても有益なものとなる」

「……そうですか」

 

 私は足を止め少しだけ振り返る。目を細め、微量の雷を発生させて古龍の風格を出す。

 

「テストベットですか。それはさぞかし有益になるかもしれませんね」

「あ、ああ、そうだ。君達との戦いで焦凍は予想よりも早くオールマイトを超えることができるだろう」

「オールマイトを超える……? 何を言ってるんですか? これからの戦いで利益を出すのは私だけ。安心してくださいエンデヴァー。貴方のご自慢の息子さんは私には勝てませんから」

「一体何を……?」

「私が轟を勝たせないと言ったんです。貴方は少し考え方を変えた方が良いですよ。そんなんだから万年二位なんです」

「っ…貴様…!」

 

 最悪の気分だ。本当に最悪だ。私と出久をヒーローが実験台呼ばわり。出久が知ったらどんな顔をするだろうか。

 

『ククク、ハハハハハ! よい、よいな! 見たか麒麟よあの男の瞳の奥に宿るくだらぬ憎悪と劣等感が! 久方振りにあの様な人間を見たぞ!』

 

 キリンは愉快、愉快と言いながら再び笑い出す。今の私にはそれが少しうるさくて、眉を顰めしまった。

 

『む……? すまぬな麒麟。負の感情しか持ち得ぬ人間を見るのは久方振りだったのだ許せ。いや、負だけではないか……ふむ、どちらにせよ歪んでおる』

 

 歪んでいようが、歪んでなかろうが関係ない。あんなヒーローとして終わってしまっている奴のことなんか考えたところで時間の無駄だ。余計な時間がかかったせいで控え室から出てくるお茶子とばったり会う。本当なら少し話したかったんだけど。

 

「お茶子」

「あ、麒麟ちゃん! 応援に来てくれたの?」

「ええ……知っての通り勝己は強いわ。でも、彼奴だって万能じゃない」

 

 そう言って私は右手の拳を前に出す。

 

「虚を付けば彼奴だって反応が鈍る筈よ。頑張ってお茶子。応援してるわ」

「うん……ありがとう麒麟ちゃん!」

 

 互いの拳をぶつけた後、お茶子はステージに向かう。勝己の所にも行く予定だったがまぁ、仕方がない。

 

『さて、麒麟。あの少女の戦いを見学するとしようではないか』

 

 確かに早く席に行かないと始まっちゃう。

 

「急がないとね」

 

 私は少しだけ雷を纏い走り出した。




友達がモンハン関連の小説なのに祖龍居ないの可笑しいよと言っていたのですが、居た方がいいのでしょうか?

1月24日に投票終了します!


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