Fate/Grand Order in the Build (カイナイ)
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始まりのグランドオーダー

仮面ライダービルドとfate/grand order のクロスオーバーです。ただの思いつきなのであまり良く出来てません。



人理継続保障機関カルデア。

時計塔の天体科を牛耳るマリスビリー・アニムスフィアが創立した未来を保障するための機関。擬似地球環境モデル・カルデアスと、近未来観測レンズ・シバを使い、100年後までの未来を観測し、人類の存続を保障することを任務としている。

科学者、桐生戦兎はそのカルデアの職員だった。もとより魔術のことなどさっぱりだが、その高い知能と天才的な発想を買われ、機械開発などに携わっていた。数週間前、居候先のカフェのマスター、石動惣一にカルデアを紹介され、働くことになったのである。

 

戦兎「はぁ…最悪だ」

 

少し事情があり、その日は早めに上がった戦兎はマイルームへと向かっていた。

 

(でもまぁカルデアでの仕事も結構慣れてきたな。マスターに連れて来られるまでずっと寝ていたからイマイチここがどこかも分からず来たんだが…)

 

ドンッ

 

「キャッ」

 

戦兎「おっと」

 

肩が軽くぶつかってしまった。しかし倒れたのは戦兎の方だった。

 

「あの、すみません…大丈夫ですか?」

 

ぶつかってしまった女の子が手を差し伸べる。紫がかった綺麗な銀髪だった。眼鏡をかけているが、片方の目はその銀髪に隠されている、印象的な子だった。戦兎が女の子の手を取った。

 

戦兎「あぁ、こっちもごめん。少し考え事してた。ケガはない?」

 

女の子「はい、大丈夫です、先輩」

 

戦兎「先輩…?」

 

聞きなれない呼称に戦兎は首をかしげた。自分が配属されてから、このカルデアに新入職員が入ったことはなかったはずだ。

戦兎が先輩と呼んだ理由を尋ねようとすると、少女の首元から鳴き声のようなものが聞こえた。

 

「フォーウ!!」

 

鳴き声の正体は、少女のフードに隠れていたこの白い動物らしい。見たことのない生き物だ。

 

女の子「…失念してました。あなたの紹介がまだでしたね、フォウさん。こちらのリスっぽい生物はフォウ。カルデアを特に法則性もなく自由に散歩する特権生物です。私以外にはあまり近づきませんがどうやら先輩は気に入られたみたいです。あ…またどこかに行ってしまいましたね」

 

少女の肩から服をつたって器用に着地すると、フォウは廊下を走って行ってしまった。

 

???「あぁ…そこにいたのか、マシュ。あまり動き回らないように…っと先客がいたんだな。君は…そうだ、確かソウイチの紹介で入った科学者の…桐生戦兎だったね。私はレフ・ライノール…といっても直属ではないにしろ一応は君の上司だからね。名前くらいは知っているだろう」

 

フォウが進んだ逆の方向の廊下から、緑の紳士服に身を包んだ男が姿を現した。

戦兎は身を正し、丁寧な態度で応対する。

 

戦兎「はい、勿論です。なんでもマス…石動さんとはお知り合いだそうで」

 

戦兎がカルデアに入所できたのも、惣一とレフが友人だったおかげだ。

 

レフ「あぁ…彼とは旧知の仲でね。昔はよくお互いの夢を語り合ったものだ」

 

マシュ「先輩は職員の方だったのですね。カルデアの制服を着用していないので分かりませんでした」

 

レフ「あぁ、そうだマシュ。君もそろそろ管制室へ向かいたまえ。Aチームが遅れてはしめしがつかないぞ。私は先に行っているからね」

 

レフは身を翻し、その場を去った。

 

マシュ「はい。それでは…キャッ!?」

 

再びどこからともなく現れたフォウがいきなりマシュの顔に飛びつき、肩へと乗り移った。

 

フォウ「フォウフォーウ!」

 

マシュ「フォウさん…。あぁ、先輩のことを見ててくれるのですね。それなら安心です。それでは先輩、私はこれで。運が良ければまた会えると思います」

 

マシュはフォウを戦兎に預け、足早に去って行った。フォウを預かった戦兎は、再びマイルームへと向かい、部屋に入った。

 

???「はーい入ってまーーーって、うわああああ!?誰だ君はーーーーって戦兎くん?」

 

戦兎「はぁ…ロマンさん…何やってるんですか。」

 

戦兎にロマンと呼ばれたこの男、ロマ二・アーキマンはカルデア医療部門のトップである。いつもゆるふわな雰囲気を漂わせており、一職員である戦兎にもフランクに話しかけるため、たまに上司であることを忘れてしまいそうになる。よくサボっているので、おそらく今回もサボりだろうと思った戦兎は少し呆れたようにロマ二に話しかけた。

 

戦兎「なんで俺の部屋にいるんですか?」

 

ロマン「いやーごめんごめん。隣の僕専用のサボり部屋と間違えたみたいだ。難しい数式でびっしりの透明なアクリルボードとか、やたらコードに繋がれた機械とか、開発職員の部屋ってどこも似たような部屋だしね。それにしても戦兎くんはどうしたんだい?レイシフトのために僕以外の職員は総動員されているはずだろう?」

 

部屋に無断で入っておいて、いまだにベットでくつろいでいるロマ二に呆れた視線を注ぐが、当の本人はそれに気づかずキョトンとしている。その無神経さも、この男のひとつのいいところでもあるのだが。

 

戦兎「あぁ…ちょっと所長の職員向けの説明会を聞いてたらウトウトしちゃって。ファーストミッションから追い出されたんですよ」

 

ロマン「そいつは災難だ。僕と一緒だね」

 

しばらくロマ二と戦兎が軽く談笑していると、ロマ二の携帯端末が音を鳴らした。

 

レフ「ロマ二、あと少しでレイシフトだ。念のためこちらへきてくれないか」

 

ロマン「分かった。すぐ向かうよ」

 

ロマンが通信を切り、固まった体をほぐすようにぐっと伸びをする。

 

戦兎「レフさんですか?」

 

ロマン「あぁ…どうやらもう始まるらしい。そろそろ行かないとね」

 

戦兎「レイシフトか…俺も試してみたいな」

 

ロマン「ハハッ…それはいいね。そういえば君は割と配属されたばかりだし、レイシフトの適性検査はまだしたことないんじゃないかな?今度やってみたらどうだい?」

 

戦兎「ハハハ…所長が許してくれませんよ。俺は魔術に関してはさっぱりですから。それにマスター適性を持つ魔術師はもう47人揃っていますしね」

 

ロマン「そうだね……ん?」

 

フッと部屋の電気が消え、視界が暗闇を映した。

 

アナウンス「緊急事態、緊急事態。管制室で火災が発生しました。職員は速やかに避難をーーーーーーーー」

 

けたたましいサイレン音と、緊急避難を促すアナウンスが鳴り響く。突然の事態に、戦兎とロマ二は動揺を隠せないでいた。

そして、轟音。

 

ロマン「なんだ?!今のは爆発音か!?モニター、管制室を映してくれ!みんなは無事なのか!?」

 

いち早く落ち着きを取り戻したロマンが、状況を確認しようと動く。

モニターに管制室が映し出された。管制室は炎と大きな瓦礫に覆われ崩壊していた。

 

ロマン「なんだこれは…!?戦兎、君だけでも逃げるんだ。僕は管制室に行ってくる!」

 

ロマンは部屋を飛び出し、管制室の方向へ全速力で走って行った。

 

戦兎(管制室って…そうだ!あの子は…マシュは無事なのか!?)

 

戦兎も立ち上がり、管制室へ向かおうとする。しかしその前にベッドの下を探り、“大きなアタッシュケース”を2つ拾い上げた。ケースを両手に持ち、管制室へと走る戦兎。なんとか到着するも、どう見ても事態は手遅れだった。

 

戦兎(爆発の基点はここか…。これは…人為的な破壊工作?だとしたら一体誰が…。いや、今はそんなことよりも!)

 

必死にマシュを探す。しかし炎の勢いが強いため、捜索には困難な状況だった。

 

アナウンス「システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年ーーーーーーーーーー」

 

戦兎(何か様子がおかしい…いや今は…)「あっ!?」

 

マシュ「あ……」

 

マシュは頭から血を流し、倒れていた。足は瓦礫に潰されている。見えないが、おそらくこの瓦礫の下にも血だまりがあるのだろう。

戦兎は思った。

 

戦兎(助からない…)

 

マシュ「はい、理解が早くて助かります。だから…はやく逃げてください…」

 

アナウンス「レイシフト適合者検索中…発見。登録外の桐生戦兎を適応番号48 マスターとして登録、設定します。」

 

戦兎「い…いや、そんなことはない!今すぐそこから出して…」

 

頭を振り、湧き出た嫌な考えを払い落とす。

そして持っていたケースを下ろし、片方のケースに手をかけようとする。

 

マシュ「先輩…手を、握って、もらえますか?」

 

アナウンス「レイシフト開始まであと3」

 

戦兎「手?それぐらい…」

 

アナウンス「2」

 

ケースに伸ばしていた手をマシュに向ける。両手で、脆いものを掬うようにしてマシュの手を包み込む。

 

アナウンス「1。全行程クリア。ファーストオーダー 実証を 開始 します。」

 

意識が遠くなる。

瞼が重くなる。

それでも、握ったこの手は離さない。

 




一番最初なので結構グダグダしてますねー戦兎の口調がイマイチ分からない…
パンドラボックスや三都や万丈や火星のことは後々に書いていく予定です


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特異点F 炎上汚染都市 冬木
現れるヒーロー


今回もグダグダしております…。なるべく本編と矛盾しないよう気をつけてはいますが難しいですね…


「フォウフォーウ!キュー!」

 

「んん…?何だ…?」

 

「あの、先輩、早く起きてください!」

 

何かに舐められた様な感覚と、少女の優しげな、それでいて少し切迫詰まったような声で戦兎は目を覚ました。寝ぼけた目で声の主の方を見上げる。

 

戦兎「あぁ…マシュとフォウか…って何だその格好!?」

 

ギョッとする戦兎。それもそのはずだ。さっきまで比較的おとなしめな服を着ていたマシュが妙に露出度の高い鎧を身にまとい、自身の体格よりも大きい盾の様なものを片手に構えていたのだから。盾の様なものは高貴な黒を基調としており、ある種の神聖ささえ感じられる。

 

マシュ「その説明は後にさせてください…!それよりも今は!」

 

戦兎「え?…なっ!?」

 

戦兎があたりを見回すと、数体の骸骨に囲まれていた。それも意志を持つようにこちらをにらみ、手には剣や槍といった武器を持っている。

 

戦兎「何だあれ…?骸…骨…?」

 

マシュ「魔力で自律行動するエネミーのようです…。切り抜けます!マスター、サポートをお願いします!」

 

戦兎「はぁ…目覚めた瞬間に…最悪だ…」

 

戦兎は自分の所持していたアタッシュケースを広げ、その中の赤い、掌に収まるほどのボトルに手をかけた。そしてボトルを片手で振り始める。カタカタカタッと、軽快な音を鳴らすボトル。マシュは一瞬戦兎に目をやるが、何をやっているのか理解できない。しかし、次の瞬間、

 

戦兎「ハッ!」

 

骸骨エネミー「Gaa!?」

 

戦兎は常人をゆうに超える速さで一気にエネミーとの距離を詰め、ボトルを握る手で拳を突き出し、エネミーを瞬時に散らせた。エネミーは断末魔を上げながら灰のようになって消えてしまった。

 

マシュ「マ、マスター!?今のは…!?」

 

戦兎「説明は後、だ。まずはこいつらを片付けよう」

 

マシュ「は、はい!」

 

マシュと戦兎はお互いの背中を預けあい、傷一つなく周囲を取り巻いていたエネミーを消滅させた。

 

戦兎(ふぅ…あれぐらいの相手ならボトル一本で倒せるか)

 

マシュ「先輩!先程のはどういう…」

 

ロマン「ああ!やっと繋がった!もしもし、こちらカルデア管制室だ、聞こえるかい!?」

 

電子音とともにDr.ロマンの大きな声が流れる。

 

マシュ「こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライトです。特異点Fにシフト完了しました。同伴者は桐生戦兎1名。心身ともに問題ありません」

 

ロマン「あぁ…やっぱり戦兎くんもレイシフトに巻き込まれていたか。でもまぁ二人とも無事そうで何よりだ。だ、だけどマシュ…君の身体能力、魔力回路、全てが向上している。そしてハレンチ過ぎるその格好…」

 

最後の部分はいらなかったんじゃないだろうか…と思ったが、マシュが気にしていないようなので、黙っておく。

 

マシュ「はい、カルデア六つ目の実験…デミ・サーヴァント、のようです。ですが私は自身が何の英霊と融合したのかも分かっていません…。彼は私にこの宝具と戦闘能力を託して消滅してしまいました…」

 

ロマン「やっぱりデミ・サーヴァントだったか。でもそれなら心強い!…ということは戦兎君がマスター、ということでいいのかな?」

 

戦兎「マスター…か」

 

戦兎の右手の甲には、赤い紋様が刻まれていた。サーヴァントと契約した際に刻まれるという、令呪に間違いない。

 

ロマン「戦兎くん、マスターやサーヴァントのこと、ある程度は…知っているよね?」

 

戦兎「はい、一応は。」

 

戦兎は魔術は行使できないが、カルデアに勤めだしてから、魔術について勉強を始めていた。その能力の高さ故か、学んだことはすぐに覚え、特に今回のレイシフト実験で必要だったサーヴァントとそのマスターに関しての知識はほぼ完全に理解出来ている。

 

ロマン「それは良かった。…っと、通信が切れそうだ。じゃあそこから少し先に霊脈があるから向かってくれ。そこなら通信も安定するだろう。それじゃあ健闘をいの」

 

マシュ「…切れましたね。それではドクターの指示通り霊脈へ向かいましょう、先輩」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

マシュ「この辺りのはずです。あ、先程は聞きそびれてしまいましたが先輩のあの動きは…」

 

「「キャアアアアアアアアアアア!!」」

 

戦兎「!?行くぞマシュ!」

 

マシュ「は、はい!」

 

叫び声を聞いた途端、戦兎は瓦礫の山を駆け抜け叫び声の主の元へと向かった。声が聞こえた場所には、女性が2人。1人はうずくまっており、もう1人はうずくまる女性を背で庇いながら魔術を行使して、迫るエネミーに必死で抵抗していた。

見覚えがある女性だった。割と嫌な方面で。

 

マシュ「しょ、所長!」

 

戦兎「げっ…」

 

オルガマリー「マシュ!?それはデミ・サーヴァントの…」

 

カルデアの現所長、オルガマリー・アニムスフィアだ。

戦兎の最後の記憶では彼女の演説中に眠りこけ、追い出されたところだった。

しかしオルガマリーはマシュに注目し、戦兎には一瞥もくれない。ただの一職員であるから覚えられていないのも無理はないし、覚えられていても困るのだが。

 

戦兎「話は後です!ハッ!」

 

マシュ「やぁっ!」

 

先の戦闘と同じように協力してエネミーを倒す戦兎とマシュ。

全ての敵を消滅させたことを確認すると、戦兎はうずくまっている女の子に駆け寄った。

 

戦兎「もう大丈夫だ。ケガはない?」

 

女の子「は、はい…大丈夫でーーーーーって戦兎!?」

 

戦兎「えっ…美空!?」

 

その少女は石動美空。戦兎の居候先のカフェのマスター、石動惣一の娘である。

カルデアについてからある程度連絡は取っていたが、こうやって直接会うのは久しぶりだ。

 

戦兎「何でお前がここに…」

 

美空「分かんないよ…目が覚めたらこんなとこにいて、しばらく歩いていたら変な骸骨みたいなやつに会って、この女の人が助けてくれて…」

 

戦兎「そうか…。でもまあ、無事ならいい」

 

こんなところで二人もの知りあい、それも片方は数週間も会っていなかった人に会えるとは。

戦兎はこの状況に奇妙な感覚をもった。

 

オルガマリー「ねえ」

 

マシュ「あの、お知り合いですか、先輩?」

 

美空「先輩…?戦兎アンタいつの間にこんな可愛い子を…というか何て格好させてるの!?」

 

オルガマリー「ちょっと」

 

戦兎「いやいやいや、俺がさせたんじゃないって!」

 

フォウ「キュー!キュー!フォーウ!」

 

オルガマリー「ちょっと!」

 

マシュ「先輩!その子はどういう…」

 

オルガマリー「私の話を聞きなさーーーーーいっ!!!」

 

「「「…………」」」

 

オルガマリーの一喝で、一気に沈黙が訪れた。

 

オルガマリー「まずは何故今になってデミ・サーヴァントが成功したかよ。いえ、それ以上に貴方!私の演説で眠りこくっていた貴方よ!何でただの科学者である貴方がマスターなんかになっているのよ!?そ、それにさっきの常人離れした動きは一体…!?」

 

しっかりと覚えられていた。

 

戦兎「い、いやそれは…」

 

マシュ「先輩にはマスター適性、レイシフト適性があったということです。経緯を説明させて頂きます」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

オルガマリーにこれまでの経緯を説明し、霊脈での召喚サークルを確立、ロマンとの通信を確認できた戦兎達。とりあえずの方針として、冬木という都市に何故悪霊や低級エネミーで蔓延っているのか、事態の原因を探ることとなった。

 

オルガマリー「冬木という都市、ということだけでも事態は聖杯の影響と考えて間違い無いと思うわ」

 

マシュ「聖杯…ですか?」

 

戦兎(聖杯…そうか。冬木市には聖杯戦争、というのがあるんだったな)

 

オルガマリー「えぇ、あの聖杯よ。冬木の魔術師たちはその聖杯を起動するために七騎の英霊を召喚した。7人のマスターがそれぞれの英霊をサーヴァントとして使役して競い合い、最後に残った1人が聖杯を手にする、それが冬木の聖杯戦争。そのデータを元にカルデアの召喚式は開発されたのよ」

 

マシュ「なら、聖杯を破壊、もしくは回収できればこの特異点は…」

 

オルガマリー「えぇ、修正できるでしょうね」

 

美空「何の話だか全然分かんないよ…」

 

話についていけない美空が嘆いていると、通信機器が叫びを上げた。

 

ロマン「適性反応だ!ものすごいスピードでこちらへ向かってきている!この反応は…サーヴァント!?」

 

???「!!!!」

 

ロマンが言い放った瞬間、一体のサーヴァントが放った炎が戦兎達を襲った。マシュはギリギリのところで攻撃を防ぎ、臨戦態勢へと切り替わる。

戦兎「サ、サーヴァント!?聖杯戦争の生き残りか…!?」

 

マシュ「逃げきれません!応戦します!先輩は所長達をおねがします!」

 

???「今のを防ぐとはな。なかなか出来た嬢ちゃんだ。」

 

戦兎達を襲った青い長髪のサーヴァントは、背丈ほどの杖を携えていた。

 

オルガマリー(ドルイドのような格好に先ほどの炎を飛ばす攻撃、このサーヴァントのクラスは…)

 

キャスター「サーヴァント、キャスター。悪いがお前らには消えてもらう」

 

オルガマリー(やっぱり…!)

 

キャスター。魔術師のサーヴァント。その名の通り、魔術を得意としており、なかには神秘の溢れていた時代や神代の魔術を行使するものもいるという。戦兎はおろか、オルガマリーも魔術では到底敵わない相手だ。

 

キャスター「ふん…行くぜ…」

 

キャスターが指で何かを刻むと、刻まれた文字が炎となってマシュに襲いかかった。しかしマシュの体に到達する直前に、炎は壁にぶつかるように散っていった。

マシュ——シールダーの持つ、魔術無効化のスキル、対魔力だ。

 

オルガマリー(今のはルーン魔術!?厄介ね…今のはなんとか対魔力だけで防げたけど、ただ刻むだけで魔術を発生させられるルーン魔術なら…こっちに攻撃の機会を与える間も無く攻撃できる!これ以上大きな魔術で攻撃され続けたら…!)

 

キャスター「へえ…対魔力スキルか。中々高いランクを持っているらしいな。だがこいつでどうだ!」

 

キャスターは多数のルーン文字を空中に刻み込んだ。その一つ一つが先程の攻撃よりも大きな炎となってマシュに飛んで行く。

 

マシュ「ぐっ…」

 

攻撃をする隙もなく、対魔力を貫通した炎がマシュを襲う。じわじわと追い込み、体力と魔力を奪っていく。

 

マシュ「くっ…ハァァァァァァァァァッ!!」

 

マシュの構えが解ける。そして次の瞬間、唯一の武器であり宝具でもあるその盾をキャスターに向かって投げつけた。

 

キャスター「なっ!?」

 

マシュの行動が予想外だったためか、思わずルーンを刻んでいた両手で防御の姿勢をとる。盾の勢いは思うより大きく、キャスターは一瞬押し込まれそうになるが、何とか堪えた。しかし今度はマシュがキャスターの受け止めた盾に向かって突進した。既に盾の投擲によって姿勢が崩れかけていたキャスターは、大きく後ろへ飛ばされた。

 

キャスター「ぐおっ!………ヘッ、中々思い切った戦い方するじゃねえか。だが…ぐっ!?」

 

キャスターの背中に、鋭い衝撃が走った。ボトルを手にした戦兎の死角からの攻撃である。戦兎は再びボトルを振り、キャスターからの反撃をくらう前にマシュの元へ瞬時に戻った。

 

キャスター(さっきまであの嬢ちゃんの後ろに隠れていたハズのあいつがいつの間に…!?それに俺を殴った時のあの衝撃…サーヴァントでもねえし魔力の流れも感じなかった…。ナニモンだあのボウズ…?)

 

戦兎「マシュ、下がっていてくれ。ここからは俺の出番だ」

 

対魔力スキルである程度軽減出来たとはいえ、マシュの体は炎に包まれていたのだ。決して無事ではない。

 

マシュ「は、はい。マスター…」

 

マシュは特異点に来てからの戦兎の常人離れした動きや、その自信溢れる雰囲気から、この男は普通ではない何かが、もっとすごい何かがある、と直感的に感じ取っていた。

 

キャスター「何だ?選手交代か?俺はまだまだいけるぜ」

 

傷を負いながらもおどけたように、少し挑発的に言うキャスターを横目に戦兎は持っていたケースの中から青いボトルと、大きな歯車が特徴的な黒いアイテムを取り出した。戦兎がそのアイテムを腰につけた途端、アイテムからベルトが飛び出し戦兎の腰へと固定される。

 

美空「戦兎…」

 

心配そうな美空に戦兎は目線で応えると、不敵な笑みを浮かべた。

 

戦兎「今からお前らに、「仮面ライダービルド」のサイッコーな変身を見せてやる!」

 

両手に一つずつ持った赤と青のボトルを振り、その蓋を正面に合わせた。

 

戦兎「さあ、実験を始めようか。」

 

 

 

 

 

 




今回も変身はせず…!でも次回からは戦兎くんが活躍しまくる予定です!冬木編はこれ含めて3回で終わらせる予定(予定)。
ちなみにオルガマリー所長の「私の話を聞きなさーい!」という発言は実際にFGO本編にあります。所長のセリフでも特に好きなものなので今回無理やり入れこんでみました


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ベストマッチな奴ら

なるべく投稿しようと思ってます。ハーメルン使うの初めてなのでまだちょっと慣れてないですが…


「さあ、実験を始めようか。」

 

戦兎はそう言うと、両手のボトルを下腹部に巻かれたベルトの、2つのスロットに1本ずつ装填した。

 

ドライバー「ラビット!タンク!ベストマッチ!」

 

勢いよくベルトが音声を鳴らす。その音を聞いて戦兎は自信げな笑顔を浮かべると、ベルトのレバーを回転させた。戦兎の周りを赤と青のチューブ状のものが覆い、戦兎の前方と後方で人型に形作られる。

 

ドライバー「Are you ready?」

 

勢いよくファイティングポーズを取る。お決まりのポーズだ。

 

戦兎「変身!」

 

ファイティングポーズを解いた戦兎に赤と青の装甲がぶつかる。鋼鉄に覆われた桐生戦兎のその姿にマシュとオルガマリー、キャスターさえも大きく目を見開き、驚愕に囚われていた。

 

ドライバー「鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!」

 

キャスター「何だそれは…宝、具…?」

 

初めて見るその現象に、キャスターは一つの可能性を考えた。しかし、それは違う、とすぐに自ら否定する。魔力の流れを、一切感じないからだ。

 

ビルド「仮面ライダービルド。創る、形成するって意味のビルドだ。さあいくぞキャスター。勝利の法則は…決まった!」

 

意気揚々と語る戦兎。その後ろ姿を見るマシュ。

彼は先輩で、カルデアの科学者で、自分のマスターで、そして————————

 

マシュ「仮面ライダー…ビルド…」

 

キャスター「ハッ!抜かせ!」

 

ビルドとキャスターがぶつかる。ビルドのスピードはボトル1本を手にしていた時よりも格段に速くなっており、キャスターの猛攻を防ぎ、避けながら、互角の戦いを繰り広げていた。

 

オルガマリー「何!?あれは何かの礼装!?貴方、彼の知り合いなんでしょう?説明して!」

 

オルガマリーが美空に詰め寄る。

 

美空「…あれは仮面ライダービルド。私のお父さんが戦兎に与えた科学の力、ビルドドライバーとフルボトルで変身する…正義のヒーロー」

 

美空は腕につけられた金色の腕輪をさすりながら答えた。

「仮面ライダービルド」

聞き慣れない言葉、そして今目の前にある、サーヴァントとさえ渡り合える戦闘能力を持った人間が、魔術ではなく科学の力で戦っているという美空の発言に、オルガマリーは驚きを隠せなかった。

 

ビルド「くっ…中々厄介だな、その炎。それなら!」

 

ビルドはドライバーの左側に挿している青いタンクボトルを引き抜き、代わりに腰につけていた赤いボトルを差し込んだ。

 

ドライバー「消防車! Are you ready?」

 

再びビルドがレバーを回すとビルドの青い装甲が赤の装甲に変わった。

 

ビルド「ハッ!」

 

ビルドは左腕に装着された銃形状のものから水を噴出した。その水がキャスターの放った炎を搔き消す。そして仕返しにと言わんばかりに、キャスターに向かって炎を噴射した。ビルドのうちだした炎がキャスターを包む。

 

キャスター「ぐっ…はぁ…だったら…っ!とっておきをくれてやる!我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社…」

 

オルガマリー「魔力が高まってる…マズイ!宝具を使う気よ!」

 

キャスター「遅い!サーヴァント共々燃え尽きな!焼き尽くせ、木々の巨人!『焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!!!」

 

キャスターがその杖を頭上に掲げたかと思うと、炎を纏った巨大な現れた。

巨人がビルドに手を伸ばす。その後方には、美空たちがいる。

 

ビルド(どうする?あれだけ大きな相手じゃ防御しても俺はともかく美空たちが…。…いや、迷ってる場合じゃない!)

 

ビルドは消防車ボトルを引き抜き、再びラビットタンクフォームへと戻った。そしてもう一度レバーを回転させる。

 

ドライバー「ready go!ボルテックフィニーシュ!イェーイ!」

 

ビルドは大きな放物線をなぞりながらキャスターの放った宝具に蹴りを繰り出した。ビルドが持つ必殺技、兎の力で飛び上がり、放物線の上を滑るように加速、そして戦車の力を持った右足で攻撃するライダーキックである。

 

ビルド「ぐっ…うおおおおおおおおおおお!!!」

 

宝具の巨人とビルドがぶつかる。

完璧な角度、計算されたスピードで打ち出された必殺のライダーキック。しかし、巨人の体を打ち破るには、まだ足りない。

 

キャスター「ふん………う…ぐ…違う、そうじゃねぇ…やめろ…」

 

だが一瞬、巨人の力が弱まった。何故か、キャスターがうずくまっている。

しかしその一瞬を見逃すような戦兎ではない。キャスターによって放たれた宝具を打ち破ったビルドの必殺技が、キャスターを襲った。

 

キャスター「ぐおおおおおおおおおおお!!!」

 

キャスターは後方へ大きく吹き飛ばされた。大きな傷を負ったキャスターは戦える状態ではなくなっていた。すると、倒れたキャスターから煙のようなモノが立ち込める。

 

戦兎「あれは!?」

 

変身を解いた戦兎は、中に何も成分が入っていないボトル、エンプティボトルを取り出し、蓋の部分をキャスターへと向けた。するとキャスターから立ち込めていた煙のがボトルへと吸収された。

 

戦兎「やっぱり…でもこれは…?」

 

その煙は戦兎の想像したとおり、スマッシュを倒したときに得られる成分だった。だが戦兎が掲げたボトルは通常得られる成分より少なく、ボトルのおよそ4分の1ほどしか溜まっていなかった。

 

戦兎(このまま浄化しても…ボトルとしては使えないか…)

 

キャスター「ぐ…」

 

オルガマリー「!?ま、まだ倒しきれていないわ!」

 

キャスター「ま、待て。さっきまで…俺は俺じゃなかった…」

 

キャスターは必死に訴えかけるようにこちらを見た。オルガマリー達は怪訝な目を向けていたが、戦兎はキャスターから成分を回収できたことからキャスターの話を聞くことにした。ひとまずオルガマリーを説得し、キャスターの傷を回復させることに成功する。

 

キャスター「ハァ…悪かったな、いきなり襲っちまってよ」

 

戦兎「それはまぁ、いい。それよりも俺じゃなかったってどういうことだ…?」

 

キャスター「ああ、俺はこの冬木の聖杯戦争で呼ばれたサーヴァントでな。しかしある時聖杯戦争の何かが狂っちまった。だがセイバーは聖杯戦争を続けていてな、奴に倒されたサーヴァントは皆んなおかしくなっちまった。」

 

戦兎「お前も…それで?」

 

キャスター「いや、そして俺がセイバーを倒す機会を伺っていた時だ。妙なコウモリ男が現れてな。そいつがいきなり仕掛けてきやがった」

 

戦兎「コウモリ男…」

 

戦兎の頭にその言葉が当てはまる男の記憶がよぎる。男に人体実験をされる。記憶喪失の戦兎が唯一持っていた記憶だった。

 

キャスター「んでそいつの相手をしていたんだがな。後ろから何かの毒を刺されたのかそこで意識を失っちまった。倒れる前にそいつの顔を見たんだが…俺と戦ったコウモリ男に似たような、赤いヘビ男だったぜ。そのあと目を覚ましてな。何故だかお前らを攻撃しなきゃいけないような、お前らを生かしておいてはいけないような気が、いや確信があった。おそらく眠っている間に何かされたんだろうが…」

 

戦兎「なるほどな。そういうことか…。」

 

戦兎は先程の4分の1ほど溜まったボトルに目を落としながら納得した。戦兎はそういったことに思い当たることがあった。

 

オルガマリー「戦兎、言うことを信じるの?」

 

戦兎「はい、おそらくキャスターの言うことは本当です。俺が日本で仮面ライダーとして戦っていた相手、スマッシュは、本来ただの人間だったものがガスを注入されて変質されたものです。彼らは理性を失い、手当たり次第に破壊行為を行います。そのガスの成分がキャスターから回収できたということはスマッシュと同じ、ガスの注入を受けた可能性が高い。キャスターが理性を保ったまま、俺たちだけを狙った理由までは分かりませんが…」

 

オルガマリー「スマッシュ…ガス…うぅ、分からないわ…」

 

キャスターが歩ける程度まで回復すると、戦兎達はキャスターを引き連れ再び事態の原因を探ることとなった。戦兎は歩きながら自身が仮面ライダーへと変身することになった経緯や、記憶にあるコウモリ男のことを話した。

 

ロマン「そんなことが…。大変だったね。」

 

戦兎「いえ、俺を拾ってくれたマスターや美空に支えられてきましたから」

 

ロマン「そうか…。と、ところでキャスターは何故一緒に?」

 

キャスター「あん?そりゃ決まってるだろ。俺を利用したアイツラが気に食わねえからさ。まあもちろんこの事態の解決ってのもあるがな」

 

美空「でも…信用していいの?」

 

キャスター「そんなに心配なら俺の真名を教えてやるよ。…我が名はクーフーリン。アイルランドの光の御子」

 

マシュ「クーフーリンさん…でしたか。「クランの猛犬」と言われた赤枝の騎士。影の国の女王に弟子入りし魔槍ゲイボルグを賜った…」

 

クーフーリン「あぁ、大体そんな感じだ。俺もランサークラスで呼ばれていたら少しは違っていたんだろうがな。どうもキャスターってのは性に合わねぇ」

 

オルガマリー「ところでキャスター、聖杯の居所はあの山の大空洞、という場所で間違いないのね?」

 

クーフーリン「ああ。だがあそこはセイバーの野郎が守っているからな。俺とそこの嬢ちゃん、そしてボウズの妙ちくりんな力を合わせても全員傷を負った今のままじゃ恐らく無理だ。だから…」

 

クーフーリンが指を指す。指の先には、大きな純和風の屋敷があった。

 

クーフーリン「あの家で一晩休憩だ。どうせこの街にもう人はいないだろうしな。」

 

オルガマリー「はぁ…そうね。何事にも準備は必要だわ。…マシュ、戦兎、あと美空。本日はここで休息をとります。しっかり休んで、セイバーとの戦いに備えなさい」

 

3人「「「はい」」」

 

戦兎が屋敷の扉に手をかけ、開いたその瞬間。

 

???「ウラァッ!」

 

玄関の闇の中から、何者かの拳が戦兎めがけて飛んできた。ギリギリのところで体を仰け反らせた戦兎は、その腕を下から弾き、弾いた腕とは逆の腕で奇襲してきた相手にアッパーを食らわした。戦兎の強烈な一撃を食らった何者かは、頭を打ちそのまま気絶してしまった。

 

戦兎「何だコイツ…」

 

クーフーリン「この街にもまだサーヴァントでない人間がいたのか…すまねえ、俺のミスだ。見たところただの人間らしい。そいつに話を聞きたい。傷を見てやってくれねえか?」

 

クーフーリンは男を担ぎ出し、マシュが用意した布団へと運んだ。美空が家にあった救急箱である程度の治療をし、見張りをクーフーリンと戦兎に任して女性3人はそれぞれその広い家の中を探索することになった。

 

しばらくして男が目を覚ました。

 

???「ぐっ…痛ぇ…ハッ!?」

 

男は飛び起き、様子を見守っていた戦兎とクーフーリンに向かって戦闘態勢に入る。

その姿が妙に様になっているのを見て、戦兎は何か格闘技をやっていたのかと思った。

 

戦兎「まぁ待て。俺はお前の敵じゃない。お前が気絶しても何もされず手厚く治療されてるのがその証拠だ」

 

???「あ、あぁ…そうだな…確かに…」

 

男がファイティングポーズを解く。信用してくれたらしい。

 

戦兎「俺は桐生戦兎。こっちはクーフーリン。俺たちは今事態の解決に向かって動いてる。お前の名前と…何故こんなところにいたのか教えてくれないか?」

 

万丈「…俺は万丈、龍我。彼女の香澄と出かけてた時に…変な、ヘビみてえな男に襲われて…目が覚めたら今度はコウモリ男に…無理矢理何かの実験をされてた。それでまた気を失って気づいたらこんなところに…」

 

戦兎(またコウモリ男にヘビ男…、そして人体実験…。何だ…俺の記憶と関係が…?)

 

クーフーリン「…なるほどな。事態はセイバーを倒すに止まりそうにもないかもしれねえな…」

 

戦兎は自身が冬木の地に来た経緯や、自身が日本でやっていた仮面ライダーの活動などを万丈に話していた。万丈もそれを聞き込み、半分ぐらい理解しながら少しずつ戦兎たちに心を開いていった。

しかし、

 

「キャーッ!!」

 

戦兎「!美空の声だ!」

 

突如上がった悲鳴に、戦兎とクーフーリンは反射的に飛び出した。少し遅れて、戸惑いながらも万丈も後を追う。

 

中庭に出ると、美空は2体の異形の怪物に襲われていた。

 

戦兎「あれはスマッシュ!?何故こんなところに!?」

 

戦兎がラビットタンクフォームへと変身し、クーフーリンが杖を構えた。

遅れて万丈が追いつき、変身した戦兎と不可思議な魔術を使うクーフーリンの姿に驚いた。

 

万丈「何だアイツら…俺が見てきた骸骨とは全然違え…」

 

????「よう」

 

万丈「っ…テメェッ!」

 

クーフーリン「アイツは…!」

 

万丈が見上げた先の屋根の上に、赤い全身と蛇を模した形の緑の目、パイプに絡まったような上半身を持つ男が座っていた。万丈とクーフーリンを襲った蛇男だ。

 

スターク「オイオイ、テメェとは失礼だな。俺の名はブラッドスタークだ」

 

万丈「うるせぇ!どっちでもいい!お前俺に何しやがった!ここはどこだ!何が目的なんだテメェ!」

 

スターク「随分と自分のことばかりだなぁ。もっと大事なことを忘れちゃいねえか?」

 

まくしたてる万丈に、ブラッドスタークと名乗る男は嘲笑う。

 

万丈「あぁ!?」

 

スターク「お前の恋人…どこに行ったんだろうなぁ?」

 

万丈「!?テメェ…香澄にも何かしやがったのか!?」

 

スターク「フッ…そこのオレンジ色の怪物…お前の恋人、だったりしてなぁ!」

 

ビルド「何!?」

 

万丈「グッ…テメェェェ!!!」

 

ビルド「だ、大丈夫だ!倒した後に成分を回収すれば…」

 

スターク「無駄だ。その人間の体は弱くてなぁ…もし倒して成分を回収し人間にでも戻れば…そのまま消滅するだろうからなぁ」

 

ビルド「な、なんだと!?」

 

万丈は言葉を失う。目の前で暴れる怪物が自身の恋人であり、彼女を人間に戻した瞬間、彼女の命が絶たれてしまう。その事実が万丈の怒り狂っていた心を、黒い絶望で蝕んでいた。

 

 

 




ということで万丈、ちょこっとだけ登場です。あと1話で終わらない気がしてきました…


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後悔のセパレーション

スターク「お前の恋人は成分を抜き取り人間に戻った途端消滅する。かといってこのまま怪物として生きていても元に戻ることはないだろう。さあどうする?」

 

万丈「っ……くそ!」

 

万丈はしゃがみこみ、地面に自分の拳を叩きつけた。恋人である香澄のために、自分ができることは何もない。自分の無力さが何よりも憎かった。

 

ビルド「万丈…」

 

スターク「さて…俺も少し参加させてもらおうか」

 

スタークが屋根から飛び降り、スマッシュ達に加わる。場は、ビルド、クーフーリン、少し遅れてきたマシュ、とスマッシュ2体、スタークの3対3の混戦となっていた。

 

クーフーリン「ハッ!さっきはよくもやってくれたなあヘビ男!」

 

スターク「ブラッドスタークだって言ってるだろ?遊んでやるよ!」

 

クーフーリンがルーン魔術で先制すると、スタークはそれに所持している銃、トランスチームガンで応戦した。マシュは後方のオルガマリーと美空を守るため、彼女たちと最も近い位置にいたスマッシュと戦い、ビルドは万丈の恋人である香澄が変化したスマッシュと対峙することとなった。

 

ビルド(最悪だ…!どうすれば…)

 

スマッシュ(香澄)「グ…ググガガガ……」

 

ビルドを攻撃していた香澄のスマッシュの動きが止まった。というより、先程から攻撃をあまり行わず、その場で身じろぎしてばかりだった。

 

ビルド「あれは……そうか…。」

 

ビルドは、スマッシュの中の香澄が、スマッシュとなったことで発生した凶暴性に必死で抵抗しているのだと感じた。ビルドは万丈に優しい声で話した。

 

ビルド「万丈…お前の恋人は本当にすごいよ。あのヘビ男にガスを注入されてもう自我は無いはずなのに…必死でお前を護ろうとしてる」

 

万丈「……香澄…」

 

万丈のなかに、香澄との記憶が走馬灯のように流れる。思い出の中に浮かんだ香澄は、いつも彼女らしい、満面の笑みを浮かべていた。

万丈は握っていた拳をさらに強く握り、立ち上がった。

 

万丈「…なぁ、戦兎。元に戻れないならせめて、最期くらいは人間の姿で……」

 

万丈はすがるようにビルドに懇願する。その言葉を聞き、ビルドは無言で頷いた。身じろぐスマッシュに目を向け、ビルドは静かにレバーを回す。

 

ドライバー「ボルテックフィニーシュ!イェーイ!」

 

ビルドは、こんな時でも快活な音を鳴らす自分のベルトにほんの少しの腹立たしさを覚えた。

ビルドの放ったライダーキックがスマッシュに迫る。スマッシュは避けようとする素振りさえ見せず、それを正面から受け止めた。倒れたスマッシュからビルドが成分を回収すると、香澄の姿が現れた。

 

万丈「香澄!」

 

万丈が香澄に駆け寄る。香澄は既に体の消滅が始まっており、どう見ても長くは持ちそうになかった。

 

香澄「龍我…」

 

香澄は残った力を振り絞って手を伸ばし、弱弱しげに万丈の頬に触れる。そして微笑んだ。

 

香澄「ごめんね、龍我…いつも迷惑ばっかりかけて…。私と出会わなければ…きっともっと幸せな人生があったはずなのに…ごめんね…」

 

万丈「ふざけんな!これ以上幸せな人生があってたまるかよ!俺はお前に会えて…最高に幸せだった!!」

 

万丈が叫ぶ。その言葉には、なんのためらいや嘘は無かった。万丈の言葉に、嬉しそうに、涙を流して香澄は笑う。

そして、香澄の体は完全に消滅した。

 

スターク「ハッ!…やはりこうなるか」

 

クーフーリン「そこだ!」

 

スターク「おっと!」

 

万丈の様子を見て呟いたスタークにクーフーリンが仕掛ける。避けてはいるが完全な回避はできず、クーフーリンのほうがやや優勢であった。

 

マシュ「ハァァァァァ!!」

 

スマッシュ「グガアアアアアアア!!」

 

マシュが飛び上がり、スマッシュを盾で叩きつける。スマッシュはその勢いに耐えられず、倒れていった。

 

スターク「はぁ…ここまでだな。それじゃあまた会おう。チャオ」

 

クーフーリン「逃すか!」

 

クーフーリンがルーン魔術で追跡するも、スタークはスチームガンで発生させた煙に紛れ逃げてしまった。

変身を解いた戦兎はマシュの元へ急いで駆け寄り、マシュが倒したスマッシュの成分を回収しようとした。すると戦兎がクーフーリンから成分を回収した時に使用したボトルが、反応するように光りだした。戦兎がそのボトルを取り出し、蓋を向けるとたちまちに成分が回収された。ボトルには4分の3ほどの成分が溜まっていた。

 

戦兎(クーフーリンから回収した成分とあのスマッシュの成分は同じだったってことか…?いずれにしろこれじゃあまだ使えないか)

 

しかし、成分を回収されたスマッシュは、一瞬人型の黒いシルエットになったかと思うとそのまま塵となって消滅した。

 

戦兎「あれは…!?」

 

クーフーリン「シャドウサーヴァントだ。サーヴァントになりきれなかった出来損ない。サーヴァントの霊気を模した影のようなもの。大方セイバーと聖杯の影響で生まれたモンだろうが…しかし連中、不完全とはいえサーヴァントに最も近い生命体さえ怪物に変えるとは…一体どんな力だ…」

 

万丈「……っ…香澄…」

 

万丈は香澄が消えてからもその場を動けなかった。覚悟を決めていたとはいえ、実際に恋人の死を目の前で看取っていたのだ。まだ立ち直るには時間がかかった。

 

戦兎たちは、今は万丈を放っておいてやろうということになり、ケガの手当てを済ませ、しばらくその家で仮眠をとることとなった。スタークが攻めてきたため危険だ、と美空は言ったが、スタークが自分たちの場所を的確に攻めてきたのは、おそらく自分たちを監視しているためであり、それならばどこに逃げても同じだ、とクーフーリンに諭された。

クーフーリンはルーン魔術で結界を張った。またサーヴァントである彼に睡眠は必要ないため、戦兎たちが眠っている間見張りをすることになった。

 

クーフーリンが軽く外の風にあたろうと部屋を出ると、縁側に万丈が座り込んでいた。

 

クーフーリン「…よう、ボウズ」

 

万丈「…あぁ」

 

クーフーリン「……万丈、だったか」

 

クーフーリンが万丈に語りかける。万丈も、彼の言葉に静かに耳を傾けていた。

 

クーフーリン「後悔してるか?」

 

万丈「後悔、かはわからねえ。でも…本当にこれで良かったのかって…」

 

クーフーリン「自分の選択を悔い、悩むってのは確かに必要なものだ。だがよ、後悔して悩むだけじゃ何も変わらねえ。お前には俺と違ってこの先がある。そういう後悔や悩みを全部飲み干して、お前は今出来ることをするべきだ」

 

万丈「今、出来ること…」

 

クーフーリン「ま、とりあえずは食って寝ろ!何事もそっからだ!」

 

クーフーリンに促され、万丈も床につく。万丈の顔つきは先程のように考え込み憔悴した顔ではなく、その目には少しの光が宿っていた。

 

クーフーリン「さて…ん?あれは……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クーフーリン「そろそろ出るぞ。」

 

クーフーリン、マシュ、オルガマリー、万丈の4人は既に出かける用意ができていた。

 

戦兎「ちょ、ちょっと待って!」

 

クーフーリン「はぁ…まーだかかんのかあ?」

 

戦兎は起床してから何かを作っていた。また美空は何やら被って機械に繋がれていた。

 

戦兎「…完成した!」

 

戦兎が飛び上がった。髪の一部が跳ね上がっており、その手にはドリル状の剣が握られていた。また、戦兎の頭上に小さな龍のようなものが飛び回っていた。

 

クーフーリン「なんだそりゃ」

 

戦兎「回転剣銃ドリルクラッシャーとクローズドラゴンだ!すごいでしょ?最高でしょ?天才でしょ?」

 

戦兎が悦に浸っていると、美空が被っていた機械を外した。

 

美空「はぁ、できたよ。寝起き早々疲れたし…」

 

戦兎「…よし」

 

戦兎の持ってきたもう一つのアタッシュケースには、ボトルの浄化作用をもつ、持ち運び式の浄化装置である。ラボにある巨大な装置より時間がかかり、もちろん美空の力を必要とするが、戦兎が念のために持ち込んでいたのが功を制した。

 

戦兎の手には青いドラゴンボトルが握られていた。その青いボトルを、戦兎は万丈に手渡した。

 

万丈「これは…」

 

戦兎「お前の恋人のボトルだ。お前が持ってろ」

 

万丈「…あぁ」

 

戦兎から受け取ったボトルを、万丈は握りしめる。

 

クーフーリン「おお、そうだ、ボウズ。昨日庭先でこいつを拾ったぞ。おそらくあのヘビ男が置いていったものだ」

 

クーフーリンが2本のボトルを戦兎に渡した。白と水色のボトルだ。

 

戦兎「パンダボトルとロケットボトル…?もしかして…」

 

戦兎がドライバーにクーフーリンから受け取ったボトルをさした。

 

ドライバー「パンダ!ロケット!ベストマッチ!」

 

戦兎「おおおおお!!!ベストマッチキター!! 」

 

クーフーリン「はぁ…いちいち大げさだねぇ。よし、んじゃあ行けるか?」

 

戦兎「ああ、行こう!」

 




今回で終わらすつもりだったんですがやっぱりというか終わりませんでした。(ゴミ)
あと後半すっごいグダグダっていうか無理矢理な感じですみません…
次回に期待していただけたら幸いです


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世界のエンディングが始まる

冬木編は今回で終わりです。というか無理矢理終わらそうとしていつもより量が多くなってしまいました…


時刻は戦兎たちが眠っていたときに遡る。万丈がクーフーリンに促され、床についた頃だった。

 

スターク「よう」

 

スタークが、クーフーリンの前に姿を現したのだった。しかしロマンはその存在を観測できない。スタークはなんらかの手段を用いて、己にジャミングをかけているようだった。

 

クーフーリン「テメェ…」

 

スターク「おいおいそう身構えることはねえだろう。どちらにしろお前の張った結界とやらで俺はそう簡単にそっちには入れねえんだ。今回は話をしにきたんだよ。……お前、俺につかねえか?」

 

クーフーリン「ハッ、抜かしてんじゃねえぞ」

 

スタークの意外な提案を、クーフーリンは一蹴する。

 

スターク「キャスター、お前はサーヴァントだ。」

 

クーフーリン「あぁん?だからなんだってんだ。」

 

スターク「サーヴァントってのは自分の叶えたい欲のために、聖杯に呼ばれ己のマスターに従うんだろう?それが聖杯戦争ってモノらしいからな」

 

クーフーリン「………」

 

スターク「だが聖杯はセイバーが守っている上に、セイバーを倒したらお前は奴とともに消えてしまう。そこで、だ。俺がお前を助けてやるよ」

 

クーフーリン「そいつはどういう意味だ」

 

スターク「これだ」

 

すると、スタークの手の上から、黄金の光を放つ聖杯が顕現した。クーフーリンはその光景に戸惑いを隠せなかった。

 

クーフーリン「なっ…」

 

スターク「恐ろしいほどの魔力塊、万能の願望機。見ての通りコイツは聖杯だ。この冬木の聖杯のとは別物だけどな。」

 

クーフーリン「聖、杯…」

 

スターク「お前が俺についたらコイツはくれてやる。これで生前の未練でもなんでも叶えるがいい。そしてコイツはプレゼントだ」

 

スタークがボトルを3本、地面に置いた。

 

スターク「このロケットボトルとパンダボトルは普通のボトルだ。だが、この黒いボトルは一見浄化したように見える未浄化のボトル。コイツをドライバーに挿したらビルドは終わりだ。ロケットとパンダは普通に戦兎に渡せ。お前の渡すボトルへの信頼感を持たせるためだ。そしてこのボトルは戦兎がピンチになった時に渡すんだ。俺もその場に居合わせる。いかにも俺から今奪ったかのように見せかけろ。なに、簡単だろう?こんなことで聖杯が手に入るんだ。」

 

クーフーリン「……」

 

スターク「それじゃあな。期待してるぜ。チャオ!」

 

スタークが去った後、クーフーリンは無言でスタークの置いていったボトルを3本とも拾い上げた。

そして、そのクーフーリンの口角は、引きつり上がっているように見えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クーフーリン「よし、聖杯はこの洞窟の奥だ。ちぃと入り組んでるんで、はぐれないようにな」

 

ロマン「そうだキャスター、セイバーの真名は分かっているのかい?」

 

クーフーリン「当然だ。やつの宝具はあまりにも強力かつ有名なものだからな。王を選定する岩の剣、そのふた振り目。その名は…」

 

???「約束された勝利の剣(エクスカリバー)。騎士の王と誉れ高い、アーサー王の持つ星の聖剣だ」

 

クーフーリン「おいでなすったぜ。アーチャー、いや、信奉者の登場だ。まーだセイバーを護ってるらしい」

 

アーチャー「フン、信奉者になったつもりはないが、つまらん来客を追い返すくらいはするさ。それに、今回は私だけじゃない」

 

するとアーチャーの後ろから、2体のスマッシュが現れた。

 

クーフーリン「ほぅ…テメェ、あの訳の分からねえ連中と組んでいやがったのか」

 

アーチャー「敵の敵は味方、というわけではないがね。私は利用できるものは何でも利用するだけだ」

 

戦兎がラビットタンクフォームへ変身し、両者がぶつかる。ビルドはドリルクラッシャーでアーチャーと応戦するが、そのクラス名に似つかわしくない華麗な剣技と複製された剣の射出の多彩な戦術に苦しまされていた。

 

ビルド「くっ…よし、試してみるか!」

 

ビルドがボトルを2本とも入れ替える。代わりに差し込まれたのは、新たに手に入れた、パンダボトルとロケットボトルだ。

 

ドライバー「パンダ!ロケット!ベストマッチ!」「Are you ready?」

 

ビルド「ビルドアップ!」

 

ドライバー「ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!イェーイ!」

 

ビルドの赤かった装甲が白く、青かった装甲は水色へと変化した。右手には大きな鉤爪がついており、ビルドはその鉤爪で迫る剣を次々と砕いていった。

 

アーチャー「フン!」

 

アーチャーはさらに剣を複製し、射出する。しかし、ビルドは左手のロケットから炎を噴出し、高速で回避した。そしてそのままアーチャーに勢いよく突進する。

 

アーチャー「ぐっ!…ならば…」

 

アーチャーは後方へ大きく下がり、黒い弓と螺旋状の剣を投影した。そして、螺旋状の剣を弓に番える。すると、剣は圧縮され、1本の矢のようになった。

 

アーチャー「手っ取り早く決めさせてもらおう。…我が骨子は捻れ狂う!」

 

アーチャーが矢を放つ。矢は強大な魔力を帯びながら、流星のようにビルドに襲いかかってくる。ビルドは放たれた矢を見た瞬間、その恐ろしさを直感した。

 

ビルド「クーフーリン!マシュ!みんなを守ってくれ!」

 

距離的な問題でオルガマリー達を守れないと思ったビルドは、クーフーリンとマシュに大声で呼びかけた。ビルドの声を聞いた両者は、オルガマリー達をルーン魔術と盾で防御する。ビルドはロケットの噴出で出来るだけ矢の着弾点より離れようとしていた。

そして、

 

アーチャー「終わりだ」

 

アーチャーの放った一矢が大爆発を起こした。

 

マシュ「マスター!」

 

マシュ達は比較的爆発地点より離れており、また防御が厳重だったため軽傷だった。しかし逃げたとはいえ爆発地から近かったビルドは絶望的だった。

アーチャーはこれで完全にビルドを倒したと思い、マシュたちに弓を向けようとした。

 

しかしその瞬間、

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「ボルテックフィニッシュ!イェーイ!」

 

アーチャー「何!?」

 

爆発によって発生した煙の中から、拳の一撃がアーチャーを貫く。アーチャーの強力な一撃を凌いだビルドの必殺技だった。

 

アーチャー「ぐっ…はぁ……ここまで、か…」

 

ビルドの姿は、先程と違って右腕の巨大なナックルが特徴的な、茶色と水色の別のフォームへと変化していた。その強力な一撃によって、アーチャーの体は消滅していった。

 

クーフーリン「あの爆発の中で死なないとしても無事に動けるとはな」

 

ビルド「輝きのデストロイヤー、ゴリラモンド。俺のベストマッチフォームだ。ダイヤモンドの力で俺の身を守った。とは言っても、やっぱり結構ボロボロだけどな」

 

ビルドはアーチャーの起こした爆発に巻き込まれ、倒されたそれぞれのスマッシュから成分を回収した。スマッシュ達はやはりというべきか、成分を回収した途端消滅する、シャドウサーヴァントを素体としたものだった。

その時、

 

スターク「おいおい、アーチャーも随分派手にやってくれたなあ。」

 

ビルド「…っ!ヘビ男とコウモリ男!」

 

ナイトローグ「フッ、ナイトローグだ…」

 

戦闘が終わったのを見計らったように、突如ブラッドスタークとナイトローグが現れた。2人が戦兎たちに襲いかかる。

 

ビルド(くっ…ただでさえアーチャーとの一戦でダメージも疲労も大きいってのに…)

 

マシュはローグと戦うビルドのサポートに入った。クーフーリンとスタークは一対一の状況になる。もみ合いながら、ビルド達に聞こえないようスタークが小声でクーフーリンに話しかけた。

 

スターク「さぁ、今だ。今渡せ!」

 

クーフーリン「………ボウズ!一旦下がれ!」

 

ビルドは言われた通り後方へ下がった。クーフーリンが横に並ぶ。そして手に持っていた未浄化の黒いボトルをビルドに見せた。

 

クーフーリン「…アイツが持ってたもんだ」

 

ビルド「ボトル!?よ、よし、一旦貸してくれ!」

 

スタークがマスクの下で嘲笑する。己の策が勝った…そう思った瞬間だった。

しかし、クーフーリンは持っていたボトルを落とし、それを踏み潰した。

 

ビルド「何して…これは!」

 

破壊された黒いボトルから未浄化だった成分が漏れ出す。それにクーフーリンや庭先で戦ったスマッシュから成分を回収していたボトルが反応したため、ビルドはそのボトルで漏れ出ていた成分を回収した。ボトルはいっぱいに成分が溜まっていた。

 

ビルド(偽物のボトルだったのか…だがこれでこのボトルが使える…)

 

クーフーリン「ボウズ、ここはおれに任せておけ」

 

ビルド「えっ…でも…」

 

クーフーリン「いいから行けってんだ。セイバーはこの奥にいる」

 

ビルド「クーフーリン……分かった。行くぞ!マシュ!みんな!」

 

マシュ達がビルドに続き、洞窟の奥へと向かった。ローグが後を追おうとするが、クーフーリンの放った炎がそれを阻んだ。

 

スターク「おいおい…やってくれたなぁキャスター。お前が聖杯を手にする唯一の機会をドブに捨てやがって」

 

クーフーリン「ハッ、騎士の忠義を甘く見るんじゃねえ。仮契約とはいえ、今の俺のマスターは桐生戦兎だ。それに生憎とな、俺には聖杯にかける願望なんてものはない。戦場を駆け抜け強いヤツと戦う。それだけで十分だ」

 

スターク「はぁ……英霊なんて連中はこんなのばっかりなのかねぇ…まぁいい。本来の目的は達成済みだ。とりあえずそこを退いてもらおうか!」

 

スターク、ローグがそれぞれトランスチームガンとスチームブレイドを携え、クーフーリンに襲い掛かる。

 

クーフーリン「決死の覚悟でこい。赤枝の騎士を舐めるなよ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その頃、ビルド達は洞窟の奥へと到達していた。

 

オルガマリー「これが大聖杯…何よあれ、超抜級の魔力炉心じゃない!」

 

???「ほぅ…面白い宝具、そして面白いマスターを持っているな」

 

ビルド達が見上げると、そこには黒い甲冑に身を包み、冷徹な目でこちらを見る少女がいた。

 

ロマン「間違いない。何か変質しているようだけど、彼女がかのアーサー王だ。伝説とは性別が違うみたいだが、何か事情があってキャメロットでは男装していたんだろうね」

 

セイバー「構えろ、名も知らぬ少女とそのマスターよ。貴様の守りが真実かどうか、確かめてやろう!」

 

セイバーがマシュに襲い掛かる。ビルドもマシュの援護をしようとするが、アーチャーと戦った際の傷が完全には癒えておらず、思うように体が動かない。そしてマシュも、セイバーの猛撃に防戦一方の戦いを強いられていた。

 

セイバー「応えよう。その瞳、主を守らんとする、その胸懐に!」

 

セイバーが魔力を纏わせながら剣を高く頭上に掲げる。その膨大な魔力を目の当たりにし、マシュ、オルガマリー、ビルドの3人は宝具だと察した。サーヴァントに関しての知識が無い万丈や美空も、それが危険なものである、と直感していた。

 

セイバー「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!」

 

黒い魔力の閃光がマシュ達に迫る。

 

ビルド(この威力じゃダイヤモンドでも軽減すら不可能だ…!)

 

マシュ「あ、あぁ…」

 

マシュ(守らないと…使わないと、みんな消える…。偽物でもいい。今だけでもいい。私が…私がちゃんと使わないと、みんな無くなってしまう!)

 

マシュ「ああ、ああああああああああああ!!!!!」

 

オルガマリー「 宝具!?」

 

マシュが盾を構える。すると、マシュの想いに呼応するかのように、それまで発動できなかったマシュの宝具が大きな壁を顕現させた。壁はマシュ達を守り、セイバーの宝具を完全に凌いだ。

 

セイバー「守ったか…」

 

マシュ「マスター、やり、ました…」

 

しかし、マシュは宝具を発動させた反動からか、倒れてしまった。

 

ビルド「よく頑張ってくれたな、マシュ。後は…俺に任せろ!」

 

ビルドは単身でセイバーと戦う。しかし未だに傷は癒えず、やはり戦況は絶望的だった。

 

美空(誰か戦兎を…助けて…。お願い…このままじゃ、戦兎もあの子も死んじゃう…!)

 

美空が心の中で願う。

その時、突如美空がつけている腕輪が光り出した。そして戦兎に渡されていた未浄化だった一本のボトルが光り出し、金色の、完全なボトルへと一瞬で変化した。その反動で倒れかける美空を、オルガマリーが抱きとめた。

 

美空「オルガマリー、さん。これを…戦兎に…」

 

オルガマリー「これって…えぇ、任せなさい!…戦兎!」

 

オルガマリーが叫び、美空から託されたボトルをビルドに投げる。ビルドはそれを受け取った。

 

ビルド(これはキャスターたちに使ってさっきやっと満タンになった……よし!)

 

それを受け取ったビルドが、既に入っていたボトルを引き抜き、新たに渡された金色のボトルを装填した。

しかし、

 

ビルド(…!?反応しない!?何故だ?)

 

セイバー「もういいだろう…地に墜ちるがいい…」

 

セイバーが再び宝具を発動する構えに入る。

 

セイバー「『約束された勝利の(エクスカリバー)…」

 

万丈「うおおおおおお!!!」

 

その時、ドラゴンボトルを握りしめた万丈がセイバーの後ろから迫り拳を向けた。

 

セイバー「ぐっ…邪魔をするな!」

 

万丈に宝具をキャンセルさせられたセイバーの剣が万丈を襲う。それを阻止するかのように、戦兎が開発したクローズドラゴンがセイバーに炎で攻撃した。

 

万丈「っ…戦兎!!使え!」

 

万丈がその間に、ビルドに自分の持っていたドラゴンボトルを投げる。

 

ビルド「これはお前の…分かった。お前の想いも背負って、戦ってやる!」

 

セイバー「くっ…ええい、鬱陶しい!」

 

魔力放出でクローズドラゴンと万丈は吹き飛ばされる。

ビルドは、万丈から受け取ったドラゴンボトルと、再び金色のボトルを差し込んだ。

すると、

 

ドライバー「ドラゴン!セイバー!ベストマッチ!」

 

ビルド「起動した!……さぁ、実験を始めようか!」

 

ドライバー「Are you ready? セイバードラゴン・アルトリア!!」

 

ビルドの装甲が、青と黄金に変わる。複眼も竜と剣を模したようなものに変わった。

そして何よりも、その手には本来ビルドが持ち得ないサーヴァントの宝具が握られていた。

 

セイバー「何だと!?何だその能力は!?」

 

ロマン「せ、戦兎君にサーヴァント反応がある!今までの変身とは違う…これは一体!?」

 

ビルド「行くぞセイバー。勝利の法則は決まった!」

 

セイバーとビルド。二人の聖剣が交わる。

ビルドは一度も握ったことのないはずのその聖剣を見事に扱う。その剣技は相手のセイバーと全く同じものだった。ビルドの先程の戦闘が嘘かのように、両者の力の差は埋まりつつあった。

 

ビルド(すごい…どう動けばいいのか分かる。まるでビルドの装甲に身体が引っ張られているみたいだ…!)

 

セイバー「舐めるな!」

 

ビルド「ぐっ…はぁっ!」

 

セイバーが魔力放出の勢いを乗せてビルドに剣を叩きつける。

ビルドはそれを受け止め、同じように魔力でブーストをかけ押し返した。

 

セイバー「くっ…力のみとはいえ、己との対決とは……ならば…」

 

セイバーが再び剣を頭上に持ち上げた。

 

セイバー「これで終わるとしよう。…卑王鉄槌。極光は反転する…」

 

ビルド「…応えてやる!…束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流…」

 

ビルドも同じように剣を掲げる。ビルドの剣は、先ほどとは比べ物にならないほどの量の魔力が纏われていた。

 

セイバー「光を呑め!『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!」

 

ビルド「…っ!『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!」

 

2人の宝具がぶつかり合う。

黄金と漆黒。

聖光と光をも呑み込む闇。

最強の幻想(ラストファンタズム)最強の幻想(ラストファンタズム)

本来同等であるその剣の放つ斬撃は、両者の間で拮抗していた。

 

ビルド「うおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

 

セイバー「はあああああああああああ!!!!!!」

 

ロマン「戦兎くん!」

 

万丈・オルガマリー「「戦兎!」」

 

美空「戦、兎…」

 

マシュ「先輩…頑張って…!」

 

ライダーシステム。

そのドライバーが持つ力は、使用者の感情の昂り、想いの強さに比例する。

戦兎は背負っているのだ。

カルデアで支えてくれている職員の、ロマンの、万丈の、オルガマリーの、美空の、マシュの、想いを。

この剣に乗せているのは戦兎ただ一人の想いだけではない。

故にーーーーーー

 

ビルド「くっ…うあああああああ!!」

 

その勝利は必然となる。

 

ビルドの放った光が、セイバーの宝具を打ち破り、セイバーを貫いた。吹き飛ばされたセイバーは、立ち上がるもダメージが大きく既に消滅が始まっていた。

 

セイバー「フッ…聖杯を守り通すつもりでいたが、最後の最後で気を緩めるとはな。己が執着に傾いた挙句負けてしまった。…結局どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるということか。」

 

ビルド「それは…どういう…」

 

セイバー「カルデアのマスターよ。グランドオーダー…聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだ。」

 

セイバーはそう言い残すと、完全に消滅した。戦兎もそれを見て変身を解く。

 

オルガマリー「冠位指定(グランドオーダー)…あのサーヴァントがどうしてその呼称を…。と、とりあえず戦兎、聖杯の回収に入りなさい。マシュ、美空も…立てる?」

 

美空「はい…」

 

マシュ「はい、問題ありません。では聖杯を至急回収ーーな!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クーフーリンと対峙したスターク、ローグは若干の劣勢を敷かれていた。

 

クーフーリン「ハッ!二人掛かりでそれとは情けないねえ。…おっ!?」

 

しかしクーフーリンにも既に消滅が始まっていた。

 

クーフーリン「あいつら…セイバーのヤツを倒しやがった!ハハハハハ!」

 

ローグ「スターク、ここまでだ。」

 

クーフーリン「逃すかよ!」

 

クーフーリンが残った魔力で畳み掛ける。しかしスタークとローグは煙に紛れ逃げてしまった。

 

スターク「フン、じゃあな、キャスター。チャオ!」

 

キャスター「ハッ、ヘビが…。それにしても、期待してなかったわけじゃないがまさかセイバーを倒すとはね。まぁ俺を倒したぐらいだ。そのくらいはやってもらわねえとな。はぁ…次はランサーで喚ばれたいもんだ…」

 

そしてクーフーリンの体も完全に消滅した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

万丈「なんだ…あのおっさん…」

 

???「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。想像外にして許容外なことだ。48人目のマスター適性者でありライダーシステムの担い手。ただの科学者と侮り見逃していた私の失態だよ。」

 

マシュ「レフ教授!?」

 

オルガマリー「あぁ、レフ!生きていたのね!」

 

オルガマリーがレフへ駆け寄る。マシュはレフから得体の知れぬ何かを察し、それを制止しようとしたが間に合わなかった。

 

レフ「やあオルガ。元気そうでなによりだ。」

 

オルガマリー「え、ええ!い、色々大変だったけどあなたさえいればこれからどうにでも…!」

 

レフ「だがね、君との再会を喜んでいる余裕はない。君は既に死んだも同然なのだから。」

 

オルガマリー「え…?それってどういう…」

 

レフ「分からないかな?君の肉体は既に死んでいる。今の君はただの残留思念だ。つまり…君はカルデアに戻った時点でその意識も消滅する。」

 

オルガマリー「え…え?消滅って何よ…カルデアに…戻れない?」

 

レフ「そうだとも。だがそれではあまりにも哀れだ。…そうだな。最後に君の宝物に触らせてあげよう。」

 

レフはそういうと聖杯を使ってカルデアスと空間を繋げた。

 

オルガマリー「カルデアスが…真っ赤に…な、か、体が引っ張られて…!や、止めてレフ!お願い!」

 

レフ「さようならオルガ。生きたまま無限の死を味わいたまえ。」

 

オルガマリー「い、いやいやいや!まだ誰にも褒められてない!まだ誰にも…認められていないのにーーーーーーー」

 

オルガマリーは、悲痛な叫びをあげながら沈んでいった。戦兎たちはレフに近づけば同じように殺される。その確信があったため助けに入ることは叶わなかった。

 

レフ「フン…さて、改めて自己紹介をしようか。私はレフ・ライノール・フラウロス。手短に教えてあげよう。お前たち人類の未来は焼却された。貴様たちの時代はもう存在しない。カルデアスの磁場でカルデアは守られているだろうが、外はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう。」

 

ロマン「そうでしたか…外部と連絡が取れないのは、そもそも連絡を受け取る相手がいなかったのですね…」

 

美空「え…?それって…じゃあお父さんは…」

 

レフ「ほう…貴様がソウイチの娘か…。フン、いずれにしろじきにそのカルデアも宇宙から消滅する。この結末は誰にも変えられない。」

 

その時、地面が大きく揺れる。洞窟が崩れかけていた。

 

レフ「この特異点もそろそろ限界か。…スタークめ。本来の予定から外れ随分と遊んでくれたものだ。……では、さらばだロマ二、マシュ。そして仮面ライダービルドよ」

 

レフはその場から姿を消した。

なおも洞窟の崩壊は進んでゆく。

 

マシュ「ドクター!至急レイシフトを!」

 

ロマン「分かってる!もうやってるさ!でもそっちの崩壊が早いかもだ!最初のレイシフトより人数が多いみたいだし!」

 

マシュ「っ…先輩!手を…!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦兎が目を覚ますと、そこはよく知る自分のマイルームだった。

 

フォウ「キュー!フォウフォーウ!」

 

戦兎「おわっと!」

 

フォウにズボンを引っ張られ、フォウの後をついていくことになった戦兎。廊下で、万丈と出会った。

 

万丈「おう。呼び出されたんで今から管制室ってとこに行くんだけどよ。ちょっと案内してくれねえか?」

 

戦兎「あぁ。どうやらフォウもそこに向かってるっぽいしな。」

 

戦兎と万丈がともに歩いていると、戦兎は自分のポケットからボトルを取り出した。

 

戦兎「返すよ万丈。お前のおかげで助かった。」

 

万丈「…おう」

 

管制室に到着し、自動ドアが開かれた。なかには談笑しているマシュと美空の姿があった。

 

マシュ「おはようございます先輩。無事でなによりです。」

 

美空「おはよう戦兎。」

 

戦兎「あぁ、二人とも無事でよかった。」

 

ロマン「やぁ、集まったね。まずは4人とも、生還おめでとう。君たちの誰が欠けてもこのミッションは達成できなかっただろう。…所長は残念だったけど…今は弔うだけの余裕がない。悼むことぐらいしかできない。」

 

美空「オルガマリーさん…」

 

ロマン「いいかい。僕たちは所長に代わって人類を守る。それが彼女への手向けになる。…人類のターニングポイント、特異点。君は7つの特異点へレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。戦兎君の言っていたスマッシュという怪物が何故冬木に存在していたのか。ブラッドスタークとナイトローグ…彼らは何者なのか。何故美空ちゃんと万丈くんだけが生かされたのか。謎はまだ多いままだ。だが君が人類を救いたいのなら。君はこの7つの人類史と戦わなければならない。君に、カルデアの運命を背負う覚悟はあるか?」

 

戦兎「俺に…出来ることなら。」

 

ロマン「…ありがとう。その一言で僕たちの運命は決定した。これよりカルデアは前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人理継続の尊名を全うする。目的は人類史の保護、及び奪還。探索対象は各年代と聖杯・聖遺物。これはカルデア最後にして原初の使命。人理守護指定・グランドオーダー。魔術世界における最高位の使命を以って、我々は未来を取り戻す!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

レフ「あまり自由に動かれても困る。貴様らは我らが目的のために生かされていることを忘れるな。」

 

ローグ「………」

 

スターク「フン…分かってるよ。だが…お前はその傲慢さで…足元をすくわれないようにな。」

 

レフ「……ほざけ。」

 

レフがその場から消える。

 

スターク「……フン、たかが悪魔風情が。それにしても…サーヴァントボトルか。面白くなりそうだなぁ、桐生戦兎…。」




新たに登場したサーヴァントボトルとかいう意味不明なやつ。次回あたりに解説は入ると思います。
それと、基本的には原作で死亡してしまった人間が生きている…ということは無いと思います。すみません…


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第1特異点 邪竜百年戦争 オルレアン
ジャンヌ・ダルクとの出会い


色々と忙しくて投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。
最近暑くなってきましたねー。家の中でも熱中症は起こるらしいのでなるべく水を飲んだり塩分取ったりして気をつけたいです…


マシュ「先輩、おはようございます。」

 

マシュが軽く2回ノックし、戦兎の部屋へと入ってきた。両手に持ったおぼんの上には戦兎の朝食であるサンドイッチとコーヒーがのっている。ここ数日、戦兎のためにマイルームへ朝食を運ぶのがマシュの日課となっていた。

 

戦兎「あぁ、おはよう。」

 

戦兎は作業していた手を止めてマシュの持ってきたおぼんを受け取った。部屋に備え付けの洗面台で手を洗い、食事を始めた戦兎の向かい側にマシュが腰を下ろす。

 

マシュ「先輩…サーヴァントボトル、というものの解析でしょうか?」

 

戦兎「あぁ、サーヴァントボトルの解析はダヴィンチさんの手伝いもあって大体終わったよ。あとでみんなの前で説明する。それで、今は新しいベストマッチフォームの武器を作ってる。」

 

マシュ「ベストマッチフォーム…先輩のベストマッチは、今はいくつあるんですか?」

 

戦兎「あれ?言ってなったか…マシュとの連携も大事だし、あとでシュミレーションルームで実際に見せるよ。」

 

そうして戦兎は食事の間マシュと談笑し、食べ終わるとおぼんを持って食堂の職員に預けた後、マシュと共にシュミレーションルームへ向かった。

 

ビルド「まずはラビットタンクだ。兎のスピードと戦車のパワー。バランスのいい基本的なフォームだな。」

 

マシュ「なるほど…ラビットタンク…兎と戦車…っと。」

 

戦兎は実際に変身し、マシュに説明する。マシュはそんな戦兎の説明を、メモを取りながら熱心に聞いていた。

 

ビルド「それで次はゴリラモンドでーーーーー」

 

ビルドはそれから様々なフォームに変身して、まだベストマッチが見つかっていないフォームに関してもその能力を説明した。

 

マシュ「なるほど…ラビットタンク、ゴリラモンド、ロケットパンダ、ホークガトリング、ニンニンコミック…そして未だにベストマッチが見つかっていない消防車、電車、ライト…。」

 

戦兎「あぁ、ガトリングと忍者ボトルは冬木のスマッシュから手に入れたものだ。」

 

マシュ「なるほど…あ、先輩。そろそろミーティングの時間です。」

 

戦兎「おぉ…ホントだ。じゃあ行くか。」

 

マシュと戦兎は管制室へと向かった。管制室には、既に万丈、美空、ロマンの3人が揃っていた。

 

ロマン「やぁ、これで全員かな?」

 

???「おいおい、誰か忘れてないかい?」

 

ロマン「レオナルド!」

 

戦兎たちから少し遅れて、綺麗な黒髪の女性が管制室に入ってきた。カルデアで召喚した第二の英霊、レオナルド・ダヴィンチである。

 

ダヴィンチ「戦兎くん、頼まれていた資料だよ。」

 

ダヴィンチがぶ厚い紙の束を戦兎に差し出した。戦兎は少し驚いた様子を見せながらも、それを受け取る。

 

戦兎「ありがとうございます。…あぁ、サーヴァントボトルがどのようなものか分かりました。」

 

ロマン「本当かい?聞かせてくれ。」

 

戦兎「はい。まずは通常のフルボトルですが、これはネビュラガスをもとにした、スマッシュの成分を回収、浄化してできるものです。でもサーヴァントボトルは…このネビュラガスに聖杯の魔力が織り交ぜられている。」

 

万丈「聖杯の…魔力?」

 

戦兎「あぁ。そしてこの魔力が混ざったガスをある程度集めると…聖杯の機能を持つようになる。」

 

ダヴィンチ「聖杯の機能といってもね、万能の願望機には遠く及ばない。それでも、サーヴァントを召喚する程度のことはできるようだ。でもボトルになっていることで、戦兎君のライダーシステムによってビルドの能力として変換させられている。」

 

ロマン「そんなことが…だから戦兎君にサーヴァント反応が出ていたのか…」

 

戦兎「はい。ですがこれを使うには条件が2つあるみたいです。…1つはベストマッチでしか起動しないこと。もう一方に入れるボトルに、サーヴァントの逸話や能力にほんの少しでも関係があればベストマッチとなりそれに対応した英霊が呼ばれるんですが…」

 

ロマン「なるほど…もうひとつは?」

 

戦兎「これはライダーシステムの特性によるものなんですが、変身する際に強い“想い”が必要になります。…そもそもライダーに変身するには想いの強さが重要です。ですが、サーヴァントボトルを起動するにはより強い想いが必要みたいです。」

 

ロマン「ベストマッチと強い想いか。…今分かっているのはこれくらいかい?」

 

戦兎「はい。」

 

ロマン「ありがとう。引き続き調査してくれ。それにしてもレオナルド…君も研究に携わっているとはね。」

 

ダヴィンチ「私も天才の1人としてライダーシステムには興味があるのさ。」

 

ロマン「まぁ、君が手伝ってくれるのは心強い。…さて、今度は僕からだけど…前回のミーティングでも言った通り、今日の2時間後にレイシフトを行う。今回は1番ゆらぎの小さな時代だ。メンバーは戦兎君、マシュ、そして万丈君だ。今の万丈君なら低級エネミーはものともしないからね。」

 

万丈はドラゴンボトルやクローズドラゴンを使って戦うことができ、またレイシフト適性も持っていたため戦力のひとつとして数えられていた。そこには万丈の強い要望もあった。

 

ロマン「ーーーーと、そんなところかな。ということだから、各自準備をしてほしい。じゃあ一旦解散だ。」

 

戦兎「はい。」

 

ロマンが改めてレイシフトの目的と現地ですることを説明し終えると、戦兎たちは部屋に戻り、各々で準備を始めた。戦兎が作業をしていると、部屋に万丈が入ってきた。

 

万丈「おい戦兎」

 

戦兎「完成だ!」

 

万丈「は!?」

 

戦兎の手にはオレンジ色のガトリングと、ところどころに漫画のような絵が描いてある剣を持っていた。戦兎が急ピッチで作り上げた新たな武器、ホークガトリンガーと4コマ忍法刀である。戦兎は自分の作った武器を眺めながらうっとりとしていた。

 

万丈「おい…そろそろだからもう集まれってドクターが。」

 

戦兎「分かってるよ。今行くところだ。」

 

戦兎はビルドドライバーを手にし、万丈とともに部屋を出た。

 

万丈「なぁ戦兎…今更だけどよ、俺が出て大丈夫なのか…」

 

戦兎「はぁ…ホントに今更だな。…大丈夫だよ。お前は強くなってる。もしかしたらライダーシステムも使えるようになるかもな。」

 

万丈「そうか…。」

 

戦兎「ま、ヤバくなったらこの正義の天才ヒーローが助けてやるよ。」

 

万丈「フ…」

 

戦兎「お前いま鼻で笑っただろ!?」

 

そんな話をしてる間に、二人は管制室へと辿り着いた。既に、美空とマシュがなかで待っていた。ロマンに促され、戦兎、万丈、マシュの3人はそれぞれレイシフト用のコフィンの中に入った。

 

ロマン「それじゃあ行くよ。」

 

アナウンス「レイシフト開始まであと3、2、1…」

 

美空「みんな…生きて、帰って来てね…」

 

アナウンス「全工程 完了。 グランドオーダー 実証を 開始します。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

マシュ「ふぅ…到着しましたね。今回はコフィンがあったので安全でした。」

 

フォウ「フォウフォーウ!!」

 

マシュ「フォウさん!?ついてきてしまったんですね…仕方ないですね。……え…せ、先輩、あ、あれは…」

 

万丈「な、なんだあれは…でっけえ…。」

 

ロマン「よし、繋がった!…えっと時間軸は1431年。百年戦争のちょうど休止期間のようだ。」

 

通信の電子音とともにロマンの声が流れる。しかし、戦兎たちは3人とも空を見上げていた。

 

ロマン「みんなどうして…なんだ、これは…光の輪?なんらかの魔術式…?なんにせよこれが未来消失の一因だろう。」

 

空には巨大な光の輪が浮かんでいた。それは北米大陸を覆い尽くすほどの大きさで、戦兎たちはその強大さに圧倒されていた。

 

ロマン「あれはこちらで解析するよ。戦兎君たちは引き続き調査を頼む。」

 

戦兎「あぁ、はい。この近くに街とか…人の集まる場所ってありますか?」

 

ロマン「ちょっと待ってくれ…あぁ、そこから少し行ったところに砦があるみたいだ。」

 

戦兎「分かりました。」

 

ロマンのナビゲートで3人は東方にあった石の砦へとたどり着いた。しかし、砦の外壁はところどころに綻びが見られ、外壁内側の建物は崩れかかりボロボロ、兵士たちは負傷した者ばかりで、とても休戦中の砦とは思えなかった。戦兎は、砦にいた兵士の1人に話しかけた。

 

戦兎「こんにちは、俺たちは旅の者です。危害を加えるつもりはありません。…ここで何があったか教えて頂けませんか?」

 

兵士「ん?…確かに見た所武器のような物は持ってなさそうだが…。これは“竜の魔女“となって蘇ったジャンヌ・ダルクのドラゴンにやられたんだよ。」

 

戦兎「ジャンヌ・ダルク…?ドラゴン…?詳しく教えてくれませんか?」

 

戦兎たちは兵士から一連の出来事を聞いた。火刑にあったはずのジャンヌ・ダルク本人が間違いなく蘇ったこと。シャルル7世は蘇ったジャンヌに殺され、休戦条約を結べなかったこと。ジャンヌ・ダルクが、ワイバーンと呼ばれる竜の亜種体を使役して、街や砦を襲っていること。間違いなく特異点の影響だった。

 

戦兎「なるほどな…。」

 

「や、やつらが来たぞー!!!!」

 

突然叫び声があがる。声のした方を見ると、ワイバーンが兵士たちを襲っていた。

 

戦兎「マズイ!行くぞ二人とも!」

 

ボトルを握った戦兎と万丈、武装したマシュがワイバーンに応戦する。しかし骸骨兵より強力で数も多いワイバーンに、変身せずボトルで戦う戦兎と万丈はほんの少しの劣勢を強いられていた。しかし、戦兎が変身するためドライバーを取り出した瞬間、

 

???「兵士たちよ、水を被りなさい!彼らの炎を一瞬ですが防げます!そこの御方も私とともに!続いてくださいーーーー!!」

 

大きな旗を携え、甲冑に身を包んだ金髪の女性が現れた。

 

ロマン「おおう、サーヴァント反応だ。しかし反応が弱いな…彼女は一体…?」

 

その女性の助けもあり、戦兎が変身することなくワイバーンらを倒すことができた。

 

ロマン「よし!もう周りに敵性エネミーはいないみたいだ!」

 

マシュ「いまのが最後のようですね…。」

 

兵士「そんな、貴方は!いやお前は!逃げろ!魔女が出たぞ!」

 

マシュ「え、魔女…?」

 

ジャンヌ「……あの、ありがとうございます。私はルーラー、真名をジャンヌ・ダルクと申します。」

 

マシュ「ジャンヌ…ダルク!?」

 

万丈「ま、魔女になったとかいう…」

 

ジャンヌ「その話は後で。こちらへついて来てください。お願いします。」

 

戦兎「しょうがない。行こう、二人とも。」

 

森の中へと入り、たまに来るエネミーを撃退しながら落ち着いて話せる場所を探す戦兎たち。少し歩いたところで、周囲にエネミーがいないことを確認して腰を下した。

 

マシュ「まず、私の個体名はマシュ・キリエライト。こちらは桐生戦兎。そしてこちらが万丈龍我です。」

 

ジャンヌ「ありがとうございます。私はサーヴァント、ルーラー。数時間前に現界しました。しかし本来聖杯より与えられる知識やクラス保有スキルが欠落してしまっていて…」

 

戦兎「なるほどな…おそらく同時代に同じ英霊のサーヴァントが召喚された。もう片方のジャンヌが多分兵士たちの言っていた”竜の魔女“、なのかもな…。」

 

マシュ「はい…あ、失礼しました。今度はこちらから。私たちはカルデアという組織の構成員でーーーーーー」

 

マシュが人理焼却に関することをジャンヌに話した。ジャンヌは驚いたような、少し悲しそうな表情をしながら静かにそれを聞いていた。

 

ジャンヌ「なるほど…人理焼却。そんなことが…。」

 

マシュ「マドモアゼル・ジャンヌ、貴方はこれからどうするのですか?」

 

ジャンヌ「目的は決まっています。オルレアンの都市の奪還。そのための障害であるジャンヌダルクを排除する。ここで目を背けることは出来ませんから。」

 

ロマン「これほどの竜種の召喚となれば、竜の魔女と呼ばれるジャンヌ・ダルクが聖杯の力を使っていることは疑いようがない。彼女との目的は一致していると思うよ。」

 

戦兎「俺は彼女に協力したいと思う。どうだ?」

 

万丈「ああ、俺は賛成だ。」

 

ロマン「僕もだよ。救国の聖女と共に戦えるなんて滅多にない名誉だし!」

 

マシュ「はい、私もです。…マドモアゼル・ジャンヌ。私たちは私たちの目的がありますが、それと並行して貴方の助けになりたい。その旗の下で戦うことを許してくれますか?」

 

ジャンヌ「そんな…もちろんです!」

 

マシュ「良かった…。それでは早速ですが…しばらくは情報収集に努めたいと思っているのですが…。」

 

ジャンヌ「賛成です。では明日の早朝出発したいと思うので、戦兎さんと龍我さんは眠った方が…。」

 

戦兎「ああ、そうさせてもらうよ。」

 

戦兎と万丈は持って来ていた寝袋で床についた。少し地面がゴツゴツしていたが、やがてゆっくりと眠気に襲われ、目を閉じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦兎「ふぅ…それじゃあ出ようか。…ん?どうした?」

 

ジャンヌとマシュは昨日よりも少し晴れ晴れした顔のように思えた。どうやら戦兎たちが眠った後に少し話をしていたようだ。

 

マシュ「いえ、なんでもありません。それでは行きましょう!」

 

森を抜けてしばらく歩いた後、近くの街であるラ・シャリテにたどり着いた。しかし、街は荒らされ建物のほとんどが崩れきっていた。およそ人と呼べるものはなく、瓦礫のあとにはリビング・デッドとワイバーンが蔓延っていた。戦兎たちはリビング・デッドとワイバーンを蹴散らしていった。

 

ジャンヌ「なんてことを…。一体どれだけ人を憎めば、このような所業を行えるのでしょう。」

 

息をつく間も無いほどの戦闘を終えた戦兎たち。街の凄惨さを目の当たりにし、ジャンヌは祈りを捧げていた。その時、ロマンの観測するレーダーが、大きな反応を捕らえた。

 

ロマン「マズイ!そっちにご、5騎のサーヴァントが向かってる!他にももうひとつ大きな反応がある!とにかく逃げるんだ!」

 

ジャンヌ「ですが!せめて真意を問いたださなければ…。」

 

ロマン「戦力差が大きすぎる!早くしないと…ダメだ!もう間に合わない!」

 

そして5騎ものサーヴァントが現れた。その中央には、黒い甲冑を着たジャンヌ・ダルクそのものが立っていた。




今回からオルレアン編です。前章と同じでなんとか4回くらいで終わらせます。(鉄の意志)


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黒いジャンヌ・ダルク

また少し遅れました、すみません


ジャンヌ・オルタ「フ、」

 

戦兎「?」

 

ジャンヌ・オルタ「フフフ、アハハハハハ!まさかこんなことが起こるなんてね。ああ、なんてちっぽけなのかしら。ちっぽけ過ぎて同情すら浮かばない!」

 

黒い魔女、ジャンヌ・ダルク・オルタが嗤う。彼女の嘲笑とそのジャンヌそっくりな姿に気圧され、戦兎たちは少し気後れしていた。

 

ジャンヌ「…貴方は一体、何者ですか!」

 

ジャンヌ・オルタ「それは私の質問ですが…まあいいでしょう。私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ、もう一人の”私“。」

 

ジャンヌ「何を…。いえ、貴方の目的ーーーーこの街を襲った理由はなんですか!」

 

ジャンヌ・オルタ「そんなもの明白じゃない。壊すためよ、フランスを。そのためにはこうやって直接潰す方が確実で簡潔でしょう?」

 

ジャンヌ「馬鹿げたことを…!」

 

ジャンヌ・オルタ「はぁ…馬鹿げているのはどちらかしら?こんな国、こんな愚者達を救おうだなんて。人類が存続する限り私の憎悪は収まらない。ま、貴方のような聖人気どりにはどうせ何を言っても無駄なのでしょう。…バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン。その田舎娘を始末なさい。」

 

ジャンヌ・オルタが、後方に従えていた白髪のランサーと仮面を被ったアサシンに命令を下す。二騎のサーヴァントは特に異を唱えることもなく、むしろ待っていたとばかりに戦兎達の前へ出た。

 

バーサーク・ランサー(B・ランサー)「ーーーよろしい。では血を戴こう。」

 

バーサーク・アサシン(B・アサシン)「いけませんわ。私は血と肉、そして臓を戴きたいんですもの。」

 

B・ランサー「強欲だな。ふむ…では私は魂を戴こうか。」

 

B・アサシン「ええ。魂なんてものに興味はないわ。…それでは。」

 

ジャンヌ・オルタによって狂化されたサーヴァントが、ジャンヌに襲いかかる。マシュとジャンヌは戦闘態勢に入り、戦兎と万丈はひとまずボトルを使ってそれに応戦した。

 

マシュ「ハッ!」

 

B・ランサー「無駄なことだ。」

 

マシュが先制して盾を勢いよく振り下ろす。B・ランサーはなんなく手にした槍で防ぎ、押し返した。よろけたマシュに追撃を加えようとするが、横から迫る戦兎の拳がそれを許さない。戦兎のパンチが頬を掠るも、B・ランサーは意にも介さず戦兎に槍を振り下ろす。戦兎は、左手に持ったドリルクラッシャーですんでのところで槍を受け止めるが、純粋なパワーの差で押し込まれそうになる。

 

マシュ「マスター!」

 

体制を立て直したマシュが、盾を構えた突進を繰り返し戦兎を助ける。しかし、マシュの突進を受けたB・ランサーに大きなダメージは無いようだった。

 

B・ランサー「ほう。サーヴァントでもなし、かといって魔力の流れも感じない。なかなか面白い男だ。そしてその連携。一朝一夕でできるものではなかろう。」

 

マシュと戦兎の連携は高精度を誇る。冬木での経験やシュミレーションルームの訓練などで一緒に戦ってきたのだ。当然お互いの戦闘スタイルも覚えている。そして何より、互いへの高い信頼感が大きかった。

 

ジャンヌ「くっ…!」

 

万丈「オラ!」

 

B・アサシン「へえ、旗で戦うなんて面白い。そっちの貴方も人間にしては中々よ。でも…!」

 

一方、万丈とジャンヌは苦戦を強いられていた。出会ったばかりの二人に連携などできるはずもなく、弱ったジャンヌとボトルで戦う万丈では、個々の力もサーヴァントには及ばない。

 

戦兎(やっぱり生身じゃサーヴァントの相手は厳しいか。だったら!)

 

戦兎がビルドドライバーを取り出し、腰に巻きつける。手にしたボトルの色は紫と黄色。忍者ボトルとコミックボトルだ。

 

ドライバー「忍者!コミック!ベストマッチ!」「Are you ready?」

 

レバーが回り、戦兎の周囲にはスナップライドビルダーが展開。ボトルと同じ色のハーフボディが形成され、戦兎に結合する。

 

ドライバー「忍びのエンタテイナー!ニンニンコミック!」

 

ジャンヌ・オルタ「なに!?」

 

そこには先ほどのようなトレンチコート着た青年の姿はなく、鋼鉄に覆われた1人の戦士がいた。

この魔術が中心の世界において、科学の力を駆使し、かつての英雄や反英雄の現し身であるサーヴァントとさえ渡り合える力を持った正義のヒーロー。

その名は、

 

ビルド「仮面ライダービルド。以後、お見知り置きを。…よし、新しいフォームの初実戦だ!さあ、実験を始めようか!」

 

忍法刀「分身の術!」

 

ビルドは新たに造った4コマ忍法刀のトリガーを引く。するとビルドと瓜二つの分身体が3人現れ、万丈達の援護に回った。

 

ビルド「万丈!下がってろ!お前にサーヴァントの相手は早い!」

 

万丈「…チッ!」

 

万丈は通常の人間より頑強であるとはいえ、やはり生身の状態でサーヴァントと戦うのは不可能だ。今のところ彼に傷はほとんど無いが、それはクローズドラゴンの助力、そして敵サーヴァントの注意の多くがジャンヌに向けられていることが大きかった。万丈もそれを理解しているためか、舌打ちをしつつも素直に指示に従った。

 

忍法刀「火遁の術!」「火炎斬り!」

 

B・ランサー「ぐっ!炎を操る剣か!」

 

トリガーを2回引き、刀に炎を纏わせて斬撃を飛ばす。B・ランサーはそれをまともにくらったため、流石に傷を負ったようだった。

 

忍法刀「風遁の術!」「竜巻斬り!」

 

ビルドは3回トリガーを引いたことで風を起こし、B・ランサーを後ろへ吹き飛ばした。

 

B・アサシン「無駄よ!」

 

ジャンヌ「遅い!ハァッ!」

 

B・アサシン「!?」

 

B・アサシンがアイアンメイデンを円を描くように振り回し、ビルドの分身が全て消し去られるが、ジャンヌはその隙に溜めていた魔力の衝撃波を、一瞬油断したB・アサシンに叩きつける。弱った状態のサーヴァントとはいえ、高密度の魔力による攻撃は侮れない。

 

ビルド「ここで決める!」

 

ビルドが必殺技で一気にたたみ掛けようと、ドライバーを回す。ビルドの掌の上に、エネルギー体でできた巨大な手裏剣が形作られた。

 

ジャンヌ・オルタ「っ…!まずい!セイバー、ライダー!」

 

マシュ「させません!」

 

なかなか苦戦しているランサーやアサシンに苛立ちを覚えていたジャンヌ・オルタが、危機を察知し残りのサーヴァントを差し向けるも、マシュが立ちはだかる。B・セイバーたちが一瞬動きを止めた。必殺技を放つにはその一瞬で十分だ。

 

ドライバー「ボルテックフィニーッシュ!イエーイ!」

 

巨大な手裏剣がビルドの手を離れかける。しかし、

 

???「おっと」

 

渋みのある、そして悪意に満ちた声が聞こえた。

戦兎は何が起こったか分からなかった。突然全身に激痛が走り、変身は解除され必殺技は不発に終わっていた。

戦兎はあまりの激痛に倒れ込み、身を悶えさせた。

 

マシュ「先輩!」

 

戦兎の身体には触手のようなものが刺さっていた。それは戦兎の身体を離れ、吸い込まれるように元の位置に戻る。触手の先を追うと、そこには赤いボディに蛇を模した緑の目の男。

 

万丈「ブラッド…スターク!」

 

万丈が憎しみを込めてその名を叫ぶ。彼はスタークに恋人を怪物に変えられた挙句、殺されていたのだ。

 

スターク「よお!久しぶりだなぁ。冬木以来か?嬉しいぜ、お前たちの成長をこの目で見れてなぁ。」

 

ロマン「最初に捉えた反応は6つだった…。途中で反応は消えていたし実際に現れた敵の数も5騎だったからレーダーの故障かと思っていたが…何らかのジャミングをかけて隠れていたのか!」

 

ジャンヌ・オルタ「隠れていたことはまだしも…何故あのカルデアのマスターが妙な能力を使うと黙っていたのですか。通常の人間よりは強いとは言っていましたが、サーヴァントと渡り合うなど聞いていません。」

 

スターク「やれやれ。想定外のことが起こってもちゃんと対処するのも指揮官の務めだぜ、聖女サマ。」

 

ジャンヌ・オルタ「…その呼び名をやめなさい。燃やすわよ。」

 

マシュ「せ、先輩に何をしたんですか!」

 

スターク「ん?あぁ、毒だよ。激痛を伴ってやがては死に至る。俺にしか解毒できないものだ。」

 

ジャンヌ「な、そんな!」

 

ロマン(まずい…。彼らにとって未知だったビルドの力が、この圧倒的な戦力差を唯一カバーできるものなのに…。このままじゃ全滅する…!)

 

ジャンヌ達が絶望を感じた時、

 

???「ーーー優雅ではありません。貴方はその身を憎悪で縛り付けている。善であれ悪であれ、人間ってもっと軽やかであるべきじゃないかしら?」

 

硝子の薔薇が舞った。

 

ジャンヌ・オルタ「サーヴァント…!」

 

スターク「…ほう」

 

気品を感じさせる佇まいで、咲き誇る華のような女性がそこにはいた。

 

B・セイバー「貴女は!マリー…アントワネット!」

 

ロマン「何だって!?」

 

マリー「はい!ありがとう、その名を呼んでくれて!そしてその名がある限り私は私であり続けましょう。竜の魔女さん、これ以上私の愛する祖国を荒らし続けるつもり?」

 

ジャンヌ・オルタ「…黙りなさい。貴女に私の憎悪が理解できるとは思えません。」

 

マリー「ええ、分からないわ。だけどだからこそ知りたいの!」

 

ジャンヌ・オルタ「何を言って…茶番ね。さっさと始末しなさい、スターク、ランサー、アサシン。」

 

マリー「ごめんなさい、あんなことを言っておいてだけど、今は貴女達と戦うことは難しい。そのかわり…アマデウス!」

 

アマデウス「ああ、宝具『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!」

 

マリーの後ろに控えていたサーヴァント、音楽家のヴォルガング・アマデウス・モーツァルトが宝具を発動する。すると、スターク含め敵は十分に動けない状態になった。

 

マリー「それじゃあみなさんさようなら。オ・ルヴォワール!」

 

その隙にマリーに続き、マシュが戦兎を抱え、逃げだした。ジャンヌや万丈も逃げだし、何とかその場の難を逃れることができたのだった。




この前日焼けしたんですけど、あれってしばらくすると皮がめくれてくるんですよね。別段痛くないんですけどちょっと気持ち悪いのでさっさと全部めくれてほしいって思ってます。(本編と全く関係ない)


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燃えろドラゴン

やっぱスタークはいいとこで邪魔してくるのがすごく輝いている気がする


マリー「ふぅ…ここまでくれば大丈夫かしら?」

 

マシュ「ドクター?」

 

ロマン「大丈夫だ、反応はないよ。あとそこからすぐ近くの森に霊脈があるみたいだ。」

 

ロマンの指示で、マシュ達は霊脈へ向かうことになった。霊脈に辿り着くと、周囲を警戒しつつ、人理焼却のことなどお互いの状況について話をした。マリー達の協力を改めて得ることができたことを確認し、ひとまずの方針を他に味方になってくれるサーヴァントがいないか探すこととした。

 

万丈「戦兎は今どうだ?」

 

マシュ「今は落ち着いて、眠っているようです。ずっと激痛が続くわけではないようですが…。」

 

万丈「こいつの毒はあのスタークにしか解除できないんだろ?だったらあいつをぶっ倒して無理矢理解毒させてやったらいい!」

 

ロマン「それはそうなんだけど…彼の力は未知数だ。レーダーに引っかからないジャミング能力でいつ襲ってくるかも分からない。例え倒せたとしても、僕たちの要求に素直に応じるとは思えないし」

 

カルデアの職員は、戦兎に打ち込まれた毒を分析していた。

 

ジャンヌ「…少し、見せてください」

 

ジャンヌが戦兎に近づいて様子を見た。しばらくして、何かに気づく。

 

ジャンヌ「これは…毒…?いや、呪いの要素もあります!」

 

マシュ「呪い?」

 

ジャンヌ「はい。どうやら毒に呪詛を織り交ぜたような形ですが…」

 

ロマン「解析結果が出たよ。…うわ、巧妙だな。確かに上手く呪いと毒が融け合ってる。だけど毒そのものは戦兎君の身体には効かないみたいだな…。マシュと契約してるから盾の恩恵を受けているのか?」

 

マシュ「毒そのものに効果がないなら…呪いを解除できれば!」

 

ロマン「あぁ、また元気になれるはずだ。」

 

ロマン(わざわざ呪いまで仕込んでいたのか。…だけどスタークにしか解除できないのなら最初から毒だけ打ち込んでもいいし…彼は戦兎君に毒が効かないことを知っていた…?)

 

マシュ「ジャンヌさんなら解呪できるのでは?」

 

ジャンヌ「そうですね…なかなか強力な呪いのようです。私一人では…」

 

ロマン「なるほど…やっぱり味方になってくれるサーヴァントを探し回るしかないみたいだね。」

 

その日はそのまま夜を過ごすことになった。

戦兎は苦しげな表情を見せてはいるが、最初の時よりはだいぶ落ち着いているように見えた。歩くことも出来ないが、話をする程度なら可能なようだ。様子を見にきた万丈が戦兎の近くに座った。

 

万丈「おい、大丈夫か?」

 

戦兎「ぐ…大丈夫に、見えるかよ…。」

 

万丈「ハハ、………スタークは俺が倒す。他のサーヴァントなんて見つける前に俺が。」

 

戦兎「それは…俺の為、か?」

 

万丈「…どうだろうな。分からない。やっぱり、私怨かもしれない。」

 

人の為に何かをする、それが万丈には一度だけあった。

昔、香澄の治療費を稼ぐためにボクシングの試合で八百長をした。しかしそれが表沙汰になり、万丈はボクシング界から永久追放され、結局は香澄に大きな迷惑をかけてしまうこととなった。

ーーーー相手の為を思った自分の行動が、相手に迷惑をかける。だったら、他人ではなく自分の為に動けばいい。

そんな経験からか、万丈は自分の行動に「人のため」と理由付けをすることにある種の迷いを感じていた。

 

戦兎「……お前はさ、なんでレイシフトのメンバー申請をしたんだ?わざわざこんな危険を冒してまで、オルレアンに来た理由は?」

 

万丈「香澄の仇と…俺の身体を弄ったアイツを直接ぶっ飛ばすためだ。」

 

戦兎「そうだな。それも、あるだろう。でも…それだけじゃないはずだ。だってスタークが現れるかどうかなんて…分からなかった。それでもお前は志願したんだ。…それはやっぱり、人の為を思って起こした行動なんだよ。紛れも無い正義だ。」

 

万丈「正、義…」

 

戦兎が枕元に置いてあったケースを、万丈に手渡す。ずっしりとした重さを感じた。

 

戦兎「万丈、マシュ達を頼む。俺の正義、お前にしばらく預ける、ぞ…」

 

ガクリと戦兎がうなだれ、倒れこんだ。

 

万丈「お、おい!戦兎!?」

 

ロマン「大丈夫だよ。今は眠っているだけだ。」

 

万丈「なんだよ…」

 

ロマン「ハハハ……あのさ、万丈君。」

 

万丈「ん?」

 

ロマン「僕はね、最初君がレイシフトするのを反対していたんだ。」

 

ロマンがゆっくりと口を開いた。万丈はそれを静かに聞き入れる。

 

ロマン「確かに君は普通の人間よりは強いだろう。だけどサーヴァントには及ばないし、危険なことに変わりはない。いくらレイシフト適性があるからって、マスターなわけじゃないから戦場に赴く必要も本来はない」

 

厳しい言葉が万丈に刺さる。しかし、ロマンは正しい。サーヴァントとは戦えない今の万丈は元々足手まといにしかならない。万丈もそれはよく分かっていた。

 

ロマン「だけどね、戦兎君がどうしてもって言って君を推薦したんだよ。何故だかわかるかい?」

 

万丈「…」

 

ロマン「信頼していたからだと思うよ、君を」

 

「信頼すること」

一見簡単なように見えて、これほど難しいことはない。だけど戦兎は信じた。万丈龍我という人間の強さを、彼の戦いの根底にある信念を。

 

ロマン「君の戦いが人の為になることを信じてたんだ。だからこそ君を連れていった。……まあ、何があっても君とマシュを守れるっていう彼の自負もあったんだろうけどね。」

 

万丈「………寝ます。」

 

ロマン「うん、おやすみ。」

 

夜は更けていく。

ここはどこへ行っても敵地だ。ジャンヌ・オルタのクラススキルによる感知能力、そしてスタークのレーダーにひっかからない謎のジャミング能力がある以上、オルレアンに安息地はない。

 

それでも、万丈には先程のような不安や迷いはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

森を抜け、しばらく歩くと街が見えた。同時にロマンのレーダーが小さな反応を捉える。

 

ロマン「近くにサーヴァント反応がある。一騎だけだし少し弱っているな…ジャンヌ・オルタに従っていない、こちら側のサーヴァントの可能性が高い。警戒を忘れず、接触を試みてくれ。」

 

マシュ達はロマンが示した建物の地下へ向かった。すると暗がりの中で、胸元を大きく広げた白銀の甲冑に身を覆う男が腰を下ろしていた。

 

???「ぐ…次から次へと!」

 

男ーーーサーヴァントと見られるものは深手を負っていた。ジャンヌ・オルタ達複数のサーヴァントを相手取ったのだろう。サーヴァントは警戒心を露わにし、傷ついた体でなお剣を振るってきた。

 

ジャンヌ「待ってください!私たちは敵ではありません。」

 

???「……確かに奴らと違って邪悪な気配は感じないが…」

 

ジャンヌ「私たちに力を貸して欲しいのです。話を聞いてくださいますか?」

 

???「……いいだろう。」

 

ジャンヌが事のあらましをサーヴァントに説明した。

 

???「なるほど…道理でワイバーンがあんなにも湧いていた訳だ。俺が狙われたのもそのためか。」

 

ジャンヌ「協力してくださいますか…?」

 

???「…ああ、いいだろう。」

 

ジャンヌ「良かった…」

 

マシュ「ひとまず外に出ましょう。あまり長居していては危険です。」

 

セイバー「あぁ、そうだ。俺はセイバー、真名は…」

 

ジャンヌがセイバーに肩を貸し、地上へと出た。しかし、通信の受信音が突然鳴り響く。

 

ロマン「4つのサーヴァント反応だ!こっちへまっすぐ向かってきているから恐らくは黒いジャンヌに与するものと思われる!」

 

ロマンが撤退を促すが、こちらには手負いが二人いる。とても急速に迫るサーヴァントから逃げ切れるとは思えない。

 

ジャンヌ(戦兎さんが今頼れない以上力の差は歴然ですが…仕方ありません!)

 

ジャンヌ「迎撃します!」

 

マシュ「ええ、それしかありません。」

 

マシュ、それに続いてマリーとアマデウスが頷く。

そして数秒後に4騎の敵サーヴァントが現れた。1人は前回ジャンヌ・オルタと出会った際に傍にいた白い服の女性、B・ライダーだ。もう1人も前回遭遇したB・ランサー。そして顔に包帯を巻き、長い爪が特徴的なB・アサシン。最後の1人は黒い甲冑に身を包んだバーサーカーだった。

 

マシュ「ハァ!」

 

最初にマシュが動いた。

盾を構え、突進を仕掛ける。

 

B・ランサー「絶叫せよ!」

 

ランサーが難なくそれを躱し、槍を振り切ろうとする。マシュが槍の追撃を盾で弾く。

 

B・ライダー「えい!」

 

ライダーが杖を掲げると、マリーの体が光に包まれ小さな爆発を起こした。

 

アマデウス「マリア!」

 

アサシンを相手取っていたアマデウスが声を荒げる。

 

マリー「…え、えぇ、大丈夫。」

 

マリーに大きなダメージはない。しかし、

 

アマデウス「見えなかった…魔術による遠隔攻撃か!」

 

そう。ライダーの攻撃は杖を掲げて祈りを捧げ、標的を定めるだけで完了する。魔術の衝撃波を飛ばすのではなく、対象がひとりでに爆破する。過程を殆ど省き、結果を発生させているのだ。

故に防御することは不可能。高い対魔力で防ぐか、もしくは

 

ジャンヌ「そこです!」

 

B・ライダー「っ!!」

 

ライダーが攻撃に入る前に叩くしかない。

ジャンヌが強力な膂力を活かした旗の薙ぎ払いでライダーを弾き飛ばす。ジャンヌが勢いに乗りライダーに追撃を加えようとする。

 

バーサーカー「Arrrrrrrrrrr!!!」

 

しかし、しばらく動かなかったバーサーカーが突如としてジャンヌに襲いかかった。その苛烈な攻撃を前に、ジャンヌは防戦一方の戦いを強いられる。

 

ジャンヌ「このサーヴァント…強い!」

 

ロマン(ビルドの力がない以上、強力なサーヴァントに仕掛けられたらマズイ…ここは撤退をするべきか?…いや、それを向こうが許すわけがない。今背中を見せるわけには…)

 

バーサーカー「A-urrrrrrrrrrr!」

 

ジャンヌ「ぐっ…!」

 

B・ライダー「フン!!」

 

マリー「きゃっ!?」

 

B・ランサー「血を捧げよ」

 

マシュ「させません!」

 

B・アサシン「ラララララ!」

 

アマデウス「くそっ…しつこいなコイツ!」

 

サーヴァントと戦えるほどの能力はない万丈、呪いをかけられ動けない戦兎、戦兎とと同じように傷つき動くことができないセイバー。3人を守りながらでは、マシュ、マリー、アマデウスも思うようには動けない。

ジャンヌはバーサーカーに抑え込まれている。その凶刃がジャンヌに届くのも時間の問題だ。

戦況は完全に向こうの支配下にあった。

 

万丈「っ……」

 

万丈は嘆いた。

思い出すのは冬木での悲劇。自分の力の無さ故に香澄を救い出すことができなかった、後悔の出来事。

また大切な人を失うのか。冬木を乗り越え、カルデアで過ごした仲間たちをーーーーー

 

万丈「させるもんかよ…」

 

セイバー「ぐっ…下がれ!今のお前では死ぬぞ!」

 

万丈がドリルクラッシャーを手に取る。セイバーがそれを止めようとするが、万丈は聞く耳を持たない。

 

万丈「俺は今…できることを、するだけだ!」

 

万丈がドリルクラッシャーをバーサーカーに叩きつける。

効いた様子はない。しかし、一瞬気が逸れたことでジャンヌが窮地を脱した。

 

バーサーカー「Au…Aaaaaaaa!!!」

 

バーサーカーが魔力を周囲に放出し、万丈を吹き飛ばす。

吹き飛んだ万丈に目もくれることなく、バーサーカーは再びジャンヌへ斬りかかった。

 

万丈「くそっ…!」

 

吹き飛ばされた万丈が立ち上がろうとすると、手に違和感を感じた。ゴツゴツとした地面でない、滑らかなアルミの感触だ。その感覚に目をやると、ひとつのケースがあった。

 

万丈「これは…戦兎が渡してきた…」

 

昨日はロマンと話した後そのまま眠ってしまったため、ケースを開けることはなかった。

ケースに手をかけ、そっと、とは言えないほど勢いよく開く。

そこには戦兎の使う科学の結晶、ビルドドライバーが有った。

 

万丈「これは…!」

 

脳裏に戦兎の言葉が浮かぶ。苦痛にまみれる中で戦兎が放った、決意の言葉。

 

『俺の正義、しばらくお前に預ける、ぞーーーーーー』

 

ビルドドライバーを握りしめる。戦兎からケースごと受け取った時よりも、それは重いように感じた。

 

万丈「戦兎、お前の正義、受け取ったぞ!」

 

ドライバーが万丈の腰に巻きつけられる。

何かを示すように、クローズドラゴンが万丈の頭上を飛び回っていた。

 

万丈「お前も…力を貸してくれ!」

 

「ウェイクアップ!」「クローズドラゴン!」

 

クローズドラゴンがガジェットモードへ変形し、万丈がドラゴンボトルを装填、ビルドドライバーに装着する。

レバーが回り、ビルドと同じ、ハーフボディが形成される。

 

ロマン「まさか…!」

 

ドライバー「Are you ready?」

 

万丈「……変身!」

 

「Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!!」「イエーイ!」

 

敵味方を問わず、そこにいた誰もが目を奪われた。

 

新たな姿形、新たな力。されどその信念、受け取った正義は変わらず。

 

戦兎「ぐっ…そうだ万丈。今のお前なら使える。いけ、仮面ライダー…クローズ!」

 

 

クローズ「今の俺は…負ける気がしねぇ!!」

 

 




ということでクローズ、登場です。
ビルド本編では香澄の手紙によって「人の為に戦うこと」を知りました。
しかし、こちらの世界の万丈は人理焼却という世界存亡をかけた危機の前に、自然と「人の為に戦うこと」に目覚めていきます。これは香澄を軽んじているわけではなく、香澄と過ごす日々があったからこそ胸の内に芽生えたものだと思っております。
そしてそれを戦兎に自覚させられ、ロマンによって戦兎の想いを知らされる。
仲間に危機が迫る中で、クーフーリンに言われた言葉を思い出す。悲嘆するよりも、苦悩するよりも、今出来ることをする。
そういった沢山の仲間があっての万丈の変身です。


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激戦、クローズ

久しぶりの更新となります。よろしくお願いします。

それにしても仮面ライダービルド、遂に放送終了しましたね!
ビルドらしい、少しビターだけど希望のあるエンディングですごく良かったです!Vシネも楽しみです〜


クローズ「今の俺は…負ける気がしねぇ!」

 

新たな仮面ライダー、クローズが雄叫びを上げる。

それが戦いの開始の合図となった。

 

ロマン「よし、いいぞ!勝機が見えてきた!」

 

ランサー「フン!」

 

いち早く危険を感じた白髪のランサーがマシュを抜き、クローズに槍を突き上げた。

 

クローズ「オラ!」

 

ドリルクラッシャーで槍を弾き返し、ランサーに振り下ろす。

ランサーは咄嗟に身を捻ってかわしたが、クローズの強烈な蹴りがランサーを横腹を打ち、大きく後退させる。

 

ランサー「っ……ふむ…」

 

ランサーが槍を地面に突き刺した。

すると地面を穿った槍の先端より魔力が影のように這い出し、無数の杭となってクローズを襲いだす。

 

クローズ「うおっ!何だこれ!?」

 

クローズはジャンプしてそれを避けようとするが、杭はどこまでも追いかける。

 

クローズ「クソ!杭が邪魔して近づけねぇ!」

 

迫る杭にドリルクラッシャーを打ちつけたが弾かれ、クローズの手を離れてしまった。

 

クローズ(どうする…!?あいつがああしている限り攻撃は止まねえ。皆は他の連中に気を取られて……そうだ!)

 

クローズ「キャスター!そいつ寄越せ!」

 

アマデウス「ん?……ああ、そういうことか!」

 

バーサーク・アサシンと戦っていたアマデウスは、クローズの言葉を理解したかのように頷いた。

そして指揮棒を振るい、いくつもの魔力の弾丸をアサシンに向け発射させる。

 

アサシン「当たりはしない…お前の歌は聞こえはしない…」

 

次々に飛来する魔力塊を全て躱し、嘲笑うかのようにアマデウスを挑発するアサシン。

 

アマデウス「失礼なやつだな!こちとら世界一の音楽家だぞ!……だが…君は上にも気をつけた方がいいんじゃないか?」

 

クローズ「うおおおおお!!!」

 

アサシン「!?」

 

アサシンの頭に衝撃が走った。

跳躍したクローズの、上空からの肘打ちだ。

アサシンは知らぬ間にキャスターの誘導を受け、クローズに近づいていたのだ。

着地し、体を半回転させ勢いを乗せたキックを、体勢の崩れたアサシンに加える。

 

アサシン「ぐおおお!」

 

ランサー「!?」

 

このままではアサシンにも危害が及ぶと思ったランサーが咄嗟に槍を引き抜いたが、クローズの蹴りに吹き飛ばされたアサシンはランサーを巻き込み、その体を瓦礫へと叩きつけた。

 

クローズ「そこだぁぁぁぁ!!!」

 

地面に突き刺さっていたドリルクラッシャーを拾い上げ、ランサー達の元へ駆けるクローズ。

 

アサシン「ぐっ……『地獄にこそ響け(クリステーヌ・)…」

 

アマデウス「『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!」

 

アサシンが宝具を発動させようとしたが、既に待機していたアマデウスが一瞬早く宝具を使い、ランサーとアサシンに重圧を加える。

 

ランサー「くっ…!」

 

クローズ「そこだぁぁぁぁ!!!」

 

走るクローズ。

ドリルクラッシャーにゴリラボトルを装填する。

 

「Ready go!」「ボルテックブレイク!」

 

ドリルクラッシャーの刃が土色のエネルギーを纏い、拳の形となって2騎のサーヴァントを襲った。

圧倒的な拳撃に打ちのめされ、ランサーとアサシンは消滅した。

 

クローズ「はぁ、はぁ、はぁ…フン!」

 

ランサー達の消えていった場所を見つめながら一呼吸置き、再びクローズは動き出した。

残る敵は2騎。バーサーカーと、狂化されたライダーだ。

クローズは冷静に戦況を見渡す。

バーサーカー。相変わらずジャンヌを襲っているが、マシュが援護に入ったためか先ほどよりは善戦している。まだ幾分かは持つだろう。

それよりもライダーだ。マリーが戦っており、先程からライダーの攻撃を受け続け不利な状況だ。アマデウスがサポートに入ってはいるが、二人とも前線で戦うタイプではない。今行くならこちらだろう。

 

クローズ「オラァ!」

 

ライダー「フン」

 

クローズが背後を狙った奇襲を仕掛ける。

しかし読まれていたのか、簡単に躱されてしまった。

ライダーは驚くクローズを杖で殴り、後退させた。

 

アマデウス「クレッシェンド!」

 

マリー「えい!」

 

クローズに気を取られた一瞬の隙を突いて魔力の弾丸を浴びせるも、それはライダーに当たる前に霧散していった。

 

アマデウス「クソ!対魔力まで持ってるのかよ!」

 

クローズ(あまりモタモタしてる暇は無いってのに!)

 

ジャンヌ達はさっきよりも善戦している、とはいってもバーサーカーに押され気味なのは変わらない。このままではジリ貧で、いずれ彼女たちはバーサーカーに屠られるだろう。

 

アマデウス「まずいぞ…」

 

3人が危機的状況に汗を流した、その時。

 

???「あーはっはっはっは!随分足掻いてるようじゃない。そいつらと戦ってるってことは貴方達アイツの敵なんでしょう?いいわ、今回は私が手伝ってあげる。」

 

妙な高笑いとともに、身の丈に合わない大きな槍を携えた少女が瓦礫の山の頂上に現れた。

 

???「やれやれ…よく鳴きますね。このカナヘビは。」

 

そしてまた、今度は雅な着物に身を包み、槍を持った少女とは対照的に落ち着いた雰囲気の少女が現れた。

 

槍の少女「うるっさいわね!仕方なく一緒にいてあげてるのになんなのよこの田舎女!」

 

着物の少女「仕方ないのはこちらです、エリマキトカゲ。」

 

槍の少女「貴方がアイツラに襲われてるのを助けてあげたんでしょう!このアオダイショウ!」

 

着物の少女「別に頼んでいません、コモドオオトカゲ。」

 

槍の少女「アッタマきた!やっぱり先にアンタを殺すわ!」

 

クローズやアマデウス、マリー、敵のライダーまでもが唖然としていた。

状況から彼女達はサーヴァントだろうが、この場で突然喧嘩しだすことに何の意味があるのか。

 

ライダー「…はぁっ!」

 

ライダーは困惑を振り払い、謎の少女2人にも、祈りによる遠隔魔術攻撃を仕掛けた。

 

槍の少女「キャ!?」

 

着物の少女「あぁ!?」

 

軽い傷を負った少女達。

 

槍の少女「やってくれたわね…」

 

着物の少女「…いいでしょう。あまり気は乗らなかったのですが…ええ、まあ。このエリザベートとのアレコレは後にしましょう。わたくし、少し頭にきましたので。」

 

エリザベート「…清姫!行くわよ!」

 

清姫「ふふふ…」

 

エリザベートと呼ばれた槍の少女は怒りを露わにし、清姫と呼ばれた少女も表情こそ笑ってはいるが目の奥に炎が燃えたぎっているのが分かる。

2人はクローズ達の味方をするように、ライダーと対峙する形を取った。

 

クローズ(ま、任せていいのか…?い、いや!)

 

クローズ「頼んだ!」

 

そう言い残しクローズはマシュ達の元へ駆け寄っていった。

 

アマデウス「さて、僕にもよく分からないけど…4対1だ。…おそらく形勢逆転だね。」

 

ライダー「……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

バーサーカー「Arrrrrrrr!!!!」

 

バーサーカーがマシュとジャンヌを追い詰める。既にジャンヌには所々に傷が見られた。そのため、ジャンヌを庇うようにマシュが何とかバーサーカーの猛攻を受け止めていた。

 

クローズ「ハァッ!」

 

クローズが上空から、落下の勢いを乗せてドリルクラッシャーで斬りかかる。

バーサーカーは持っている剣でそれを受け止めた。そして波のように激しく、それでいて滑らかな動きでクローズに凶刃を振るう。

 

クローズ「攻撃が、激しすぎて、受け止めきれねぇ!くっ…うわぁっ!?」

 

マシュ「万丈さん!」

 

捌き切れず、斜めからの剣戟を受けかけた。

マシュがバーサーカーとクローズの間に割って入り、それを防いだ。

 

ジャンヌ「ハァッ!」

 

ジャンヌが旗をバーサーカーに振るうーーーーーしかしまたしても剣で受け止めた。

その背後をクローズが襲う。バーサーカーは態勢を低くし、刃と旗の柄の部分を支点にして空中を回転し、ジャンヌの背に回り込んだ。

 

クローズ「うおっ!?」

 

ジャンヌ「ぐむっ!?」

 

クローズの攻撃は空を切り、バーサーカーはジャンヌの背を蹴ってクローズとともに2人を飛ばした。

 

バーサーカー「Gurrrrrrrr…」

 

クローズ「3対1でも敵わねえのかよ…」

 

バーサーカー「Ga!」

 

クローズ「疲れってもんを知らねえのかコイツ!」

 

バーサーカーが再びジャンヌ達を襲う。

魔力消費を物ともせず、異常なまでの執念で動くその怪物は、まるで人の形をした呪いだ。

 

バーサーカー「Arrrrrrr!!」

 

クローズ(どうにか考える時間を…)

 

クローズ「マシュ!少しでいいから時間を稼いでくれ!」

 

マシュ「は、はい!……宝具、展開します!」

 

マシュが盾の前に大きな城壁を顕現させる。

城壁は一直線に飛んでくるバーサーカーの道を阻む。

バーサーカーは目にも留まらぬほどの剣戟でそれを破壊しようとする。

 

バーサーカー「Gaaaaaaaaa!!!!」

 

マシュ「くっ…すごい勢い…!」

 

クローズは思考する。

こういった集団での戦いに経験はない。だからこそ頭を捻るのだ。

 

クローズ(あいつ…バーサーカーは何故かジャンヌに向かってくる。俺とマシュは仕掛けなければあいつはこっちに注意すらしないだろう。だったらそれを利用するしか…)

 

クローズ「ジャンヌ!作戦だ!」

 

ジャンヌ「は、はい!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

清姫「はぁぁぁぁ!!」

 

ライダー「無駄よ!…!?」

 

清姫が炎を吐き、ライダーがそれをジャンプで避ける。

しかしライダーが跳んだ先にはエリザベートが待ち構えていた。

 

エリザベート「落としてあげる!」

 

ライダー「ぐっ!?」

 

エリザベートの一撃をくらい、地につかされたライダー。

しかしライダーにはまだ余裕があるように見えた。

その余裕の正体。それは彼女の宝具に他ならない。

 

アマデウス「魔力の高まり…宝具だ!」

 

ライダー「来なさい!

愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)』!」

 

すると鋭い棘の生えた甲羅と長い尾を持った、大きな怪物が現れた。

その怪物が放つ、サーヴァントでさえ物怖じするような特有の威圧。

 

アマデウス「コイツは中々…マズイね…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クローズ「マシュ!宝具を解いてくれ!」

 

マシュ「は、はい!」

 

ジャンヌ「こっちです!バーサーカー!」

 

バーサーカー「Arrrthrrrrrrrrr!!!!」

 

眼前に広がっていた壁が消滅する。

ジャンヌが挑発し、バーサーカーは引き寄せられる。

 

クローズ「マシュ!コイツと…これを預ける。」

 

クローズがマシュに渡したもの。

それこそこの状況を好転させる鍵に他ならない。

 

マシュ「これは……はい!お任せください!」

 

ジャンヌ「くぅぅっ!これ以上は!」

 

マシュ「はぁぁぁぁぁ!!」

 

マシュが盾を構え、バーサーカーめがけ突進をする。

バーサーカーはジャンヌを蹴飛ばし、片手に構えた剣で迫る盾に打ちつけた。

 

マシュ「す、すごい力…ですが!」

 

マシュが盾から手を離す。

盾の横から抜け出し、バーサーカーの脇腹を捉えた。

突然反発する力がなくなり、バーサーカーの体は前に傾く。

 

マシュ「先輩!力を貸してください!」

 

「Ready go!」「ボルテックブレイク!」

 

マシュが持っていたのはドリルクラッシャー、そしてラビットのフルボトル。

ラビットボトルの力で繰り出す刃の高速回転が、バーサーカーの魔力で出来た体を削っていく。

ドリルクラッシャーは体に深く突き刺さり、そう簡単には抜くことは出来ない。

 

バーサーカー「gu…gaaaaaaaa!!!」

 

バーサーカーの剣が眩しい輝きを放ち出した。

 

マシュ「宝具…!」

 

咄嗟にマシュはドリルクラッシャーから手を離し、後ろに下がった。

 

バーサーカー「Arrrrrrthurrrrrrrr!!!!!!」

 

かつてないほどの絶叫を上げ、バーサーカーは光る剣を振り下ろした。

ドリルクラッシャーは粉々に砕け散る。

マシュの放った一撃は、バーサーカーに大きなダメージを与えたが倒し切ることは出来なかった。

 

しかし、それで終わりではない。

 

クローズ「余所見してんじゃ、ねえええええ!!!!」

 

「ready go!」「ドラゴニックフィニッシュ!」

 

バーサーカー「Ahrrrrr!!!!」

 

クローズが青い竜の炎を纏い、ライダーキックを繰り出す。

バーサーカーはそれに気づいた。

しかし、もう遅い。

傷ついたその体では避け切ることが出来ず、バーサーカーの体は竜の炎のなかで消えていった。

 

クローズ「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

 

ジャンヌ「やりましたね!」

 

クローズ「あ、あぁ…悪かったな。囮なんて頼んで」

 

ジャンヌ「いえ!それよりも…」

 

クローズ「あぁ…まだ残ってる。マシュを頼む!」

 

クローズが駆け出した。まだあのライダーが残っている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

マリー「『百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)』!」

 

マリーが美しいガラスの馬の宝具でライダーとタラスクを引きつけつつ、味方の傷を回復させる。

 

アマデウス「連続使用は避けたかったんだけどね!

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!」

 

ライダーとタラスクの動きが鈍くなる。

 

清姫「いきます…

転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)』!!」

 

清姫が炎を吐く大蛇ーーーー竜に転身し、タラスクを締め付け、体を抑えつける。

 

清姫「いきなさい!エリザベート!」

 

エリザベート「任せなさい!そーれっ!!」

 

ライダー「ぐっ…」

 

エリザベートが動きの鈍ったライダーに槍を突き刺した。

決定的な一撃。

暴れ回ってこちらを苦しめていたタラスクもこれで終わりだ。

エリザベートに突き刺されたライダーは、既に体の消滅が始まっていたが、何故か憑き物が晴れたような顔をしていた。

 

ライダー「ふぅ…やっと狂化の呪いから解放されたわ…まぁ、もう長くは持たないでしょうけどね。」

 

アマデウス「ライダー…君は…」

 

ライダー「大丈夫よ。…少しいいかしら?」

 

ライダーが気を失っている戦兎に近づく。

マリーは一瞬止めようとしたが、アマデウスがそれを阻んだ。

 

ライダー「ごめんなさいね。…少しだけ、役に立たせて…」

 

ライダーが戦兎に手をかざす。残った力を振り絞り、戦兎にかかった呪いの一部を解いたのだ。

戦兎の顔は、少し安らいだように思えた。

戦兎を守るようにしていたセイバーの深い傷も少しだけ癒し、立ち上がる。

 

ライダー「…キャスター。ここから南にある街に聖人のサーヴァントがいます。彼の力があれば…あなたがたのマスターは助かるでしょう。」

 

アマデウス「……」

 

ライダーの体は殆ど消えていた。同じく消えかけているタラスクに近づき、頭に手を当てる。

 

ライダー「タラスク、ごめん。次はもうちょっと真っ当に召喚されたいものね…」

 

そしてライダー、聖女マルタは消滅した。

 

クローズ「待たせた…ってあれ?」

 

アマデウス「ははは、もう終わったよ、万丈くん。」

 

クローズ「マジか!…はぁー…疲れた…」

 

クローズがその場に座り込み、変身を解く。

 

ジャンヌ「みなさーん!」

 

ジャンヌが手を振り、マシュとともに万丈達の元へ歩いてきた。

 

マシュ「あれ?貴方達は…?」

 

マシュは見慣れない二騎のサーヴァントに目を引かれた。

 

マリー「ふふ、まあその話は後でね。」

 

既に全員ボロボロだ。

だが勝利を収めた。

絶望的な状況から誰一人欠けなかったのは、奇跡だろう。

 

しかし、そんな奇跡を嘲るかのように、

 

ロマン「巨大な反応がくる!何だこれ…サーヴァントよりも大きいぞ!」

 

冷酷な機械音が鳴り響いた。

 

万丈「何だと!?」

 

マシュ「この状況で…っ!」

 

アマデウス「ああ…ここからでも見えてしまったよ。巨大な竜が…」

 

ロマン「視認できるほどの距離に…ってこれは…まさか!」

 

マシュ「ワイバーンなんか比較にならない…真の竜種…!」

 

ジャンヌ・オルタ「あら、随分と満身創痍ですね。まさか全滅するとは思いませんでしたが…いいでしょう、そろそろ滅びなさい!」

 

巨大な黒い竜に乗ったジャンヌ・オルタがこの竜を操っているようだ。

黒い巨龍から感じられる威圧はタラスクのそれを上回り、全員でかかったとしても、とても今の状態で勝ち目があるとはどう考えてもあり得ない。

 

万丈「くそ…やるしかねえ!」

 

セイバー「いや、ここは俺に任せて欲しい。」

 

マシュ「セイバーさん!」

 

万丈「お前…大丈夫なのかよ…」

 

セイバー「あぁ。あの聖女のおかげで多少は動けるようになった。…さぁ、逃げろ!」

 

ジャンヌ「行きましょう!…今はそれしかありません!」

 

万丈「クソ!」

 

セイバー「…万丈。君が教えてくれたんだ。さっきまでの俺は傷ついているからと動こうとしなかった。すまない…これが…今俺が出来ることだ。」

 

万丈「……」

 

セイバー「頼む。誰かのためでも、己のためでもない。自分の信じる者のために戦う、そんな…『正義の味方』になれ。」

 

万丈「……絶対!後で追いかけてこいよ!」

 

戦兎をマシュが背負い、セイバーを除く全員が逃げ出した。

セイバーは一度深呼吸をし、しっかりとかつての宿敵を見据える。

 

ジャンヌ・オルタ「逃すと思ってるのでしょうか。ファヴニール!」

 

しかし、ファヴニールと呼ばれたその竜はジャンヌ・オルタの言うことを聞こうとはしない。

 

ジャンヌ・オルタ(ファヴニールが怯えてる…?まさかあのサーヴァント!)

 

セイバー、白銀の剣士は高らかに宣言する。

 

ジークフリート「蒼天の空に聞け!我が真名はジークフリート!かつて汝を打ち倒した者なり!」

 

 

 




今回は戦闘描写をちゃんと書こうと思ってました。
拙く読みづらい文ですが、なんとか形にできたと思います。

オルレアン編は次回で終わりそうです。4話で終わらせるとか言ってたんですけどね…


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ファヴニールが唸りだす

投稿遅れてすみません。
今回は少し長くなりそうだったので2つに分けました。次話は3日後には投稿できると思います。


気がつくと、戦兎は不思議な空間に立っていた。

何処を見てもひたすら白い世界が広がり、空には幾重もの扉が浮かんでいる。

 

戦兎「何だ…ここは…」

 

???「桐生戦兎」

 

ふと、自分の名を呼ぶ声がした。

しかしあたりを見渡しても、声の主の姿は見当たらない。

 

???「無駄だよ。いくら見渡しても、君には今はまだ見えない。君が僕という存在を認識できていないからだ。」

 

戦兎「お前は…誰だ?」

 

???「…それは言えない。君が僕を認識しない限り。」

 

戦兎「ここは一体…」

 

???「今僕が君に言えることは1つ」

 

戦兎の言葉を遮るように謎の声が響く。

 

???「君は…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

その瞬間、意識が引っ張られるような感覚とともに戦兎は目を覚ました。

 

 

戦兎「夢…か…」

 

戦兎は分厚い寝袋に包まれていた。寝袋から這い出し、上半身を起こす。

 

マシュ「先輩!目が覚めたんですね!」

 

戦兎「パンドラ…ボックス?スカイウォール?」

 

聞きなれない単語。

戦兎は自分の手を見つめていた。

 

マシュ「あの…先輩?」

 

戦兎「あ、あぁ。マシュか…ごめんな、心配かけて…」

 

申し訳なさそうに頭を掻く。

どうやら夜らしい。辺りは木々に囲まれ、少し離れた場所で万丈達が焚き火をしている。

 

マシュ「いえ…もう起き上がっても大丈夫なんでしょうか?」

 

戦兎「ああ、まぁ戦うことは出来ないけど…」

 

ロマン「そうだね…だけどその状態は一時的なものだ。やっぱり完全に呪いを解かない限りはいずれ…」

 

戦兎「死に至る…」

 

疑いようのない事実が、重くのしかかる。

ライダーが施したのは応急処置のようなもので、やはり戦兎にかけられた呪いを解くには、ジャンヌともう一人の聖人サーヴァントによる洗礼詠唱が必要だ。

 

マシュ「今夜はここで休息をとります。食事を持ってきますので、先輩もゆっくり休んでいてくださいね。」

 

戦兎「あぁ、ありがとう、マシュ。」

 

マシュが立ち上がり、焚き火の方へ歩いて行った。

入れ替わるように万丈が戦兎に近づく。

 

万丈「よう、目ぇ覚めたか」

 

戦兎「おう」

 

万丈が戦兎の枕元に座った。

 

戦兎「変身したんだろ?」

 

万丈「…あぁ…仮面ライダーに変身して初めて分かった。力を持ったことの重さってもんが…」

 

戦兎「…ま、お前がそれを、正義のために振るうのなら問題はないさ…」

 

マシュ「先輩、お待たせしました」

 

両手に焼いた肉を携え、マシュが戻ってきた。

戦兎が眠っていた間にサーヴァント達が森で動物を捕まえてきてくれたようだ。

 

万丈「サンキュー」

 

戦兎「ありがとう、マシュ」

 

万丈「ところでよ、これから、ング、どうすんだ?」

 

戦兎「食いながら喋んじゃないよ…聖人を探すんだっけ?」

 

マシュ「はい。ライダー…マルタさんの情報によれば、ここからさらに南に行った街に聖人のサーヴァントがいるようです。」

 

万丈「セイバーを…待たねえのかよ」

 

マシュ「……」

 

ロマン「申し訳ないけど…これだけ待って来ないってことは、彼はもう…」

 

万丈「……」

 

戦兎「…まぁ、どこか別の場所に逃げてる可能性だってあるんだ。今はライダーの助言に従おう。」

 

ロマン「そうしてほしい。それにしても…しばらく姿を見せていないスタークとローグが気がかりだな…」

 

食事を済ませ、しばらく談笑し戦兎と万丈は目を閉じた。

だが眠りにつくまでの間、戦兎の頭の中には「パンドラボックス」そして「スカイウォール」という2つの言葉がずっと渦巻いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エリザベート「行っくわよー!」

 

アマデウス「騒がしい…」

 

森を抜け、しばらく歩くと小さな街が見えた。

街に入ると、すかさず見たことのないサーヴァントが目の前に現れる。赤銅色の鎧を身につけた高潔な雰囲気の男性だ。ライダーが言っていたサーヴァントだろうか。

 

サーヴァント「そちらで止まってください。何者ですか?」

 

敵対するような、棘のある雰囲気だ。しかし、問答無用で斬りかかってくるわけではなくジャンヌ・オルタに従っているような感じはしない。

マリー、続いてジャンヌ、戦兎、マシュが名乗りでて、あらかたの事情の説明をした。サーヴァントの警戒は解けたようだった。

 

ゲオルギウス「失礼しました。次はこちらから。私はライダー、ゲオルギウス。今はこの街の警備を任されている者です。」

 

ジャンヌ「一緒に来ては戴けませんか?」

 

ゲオルギウス「ええ、この街の住民の避難が完了次第、出発しましょう。」

 

ジャンヌ「ありがとうございます!」

 

ジャンヌ達が避難を手伝っていると、機械の通知音が鳴った。

 

ロマン「多数の敵性反応だ!スマッシュの反応もある!サーヴァントが一体!どうする?」

 

ジャンヌ「迎撃します!街の住民を守らなければ!」

 

街を大量のワイバーン、そして三体のスマッシュが襲った。

率いているのはナイトローグとジャンヌ・オルタと初遭遇した時のバーサーク・セイバーだ。

 

ロマン「ナイトローグ!現れたか!」

 

万丈「あのコウモリ男は俺とマシュに任せろ!他の敵を頼む!」

 

万丈とマシュは一直線にローグの方へ向かう。

 

エリザベート「この私に雑魚の掃除をさせようだなんて…まあいいわ!ちょうど暴れたかったところだし!」

 

ジャンヌ「では私はセイバーの相手をしましょう」

 

マリー「私もご一緒していいかしら?」

 

バーサーク・セイバー「王妃…」

 

アマデウス「マリーがいるなら僕もこっちだ。さぁ、行くか!」

 

乱戦が、始まった。

 

アマデウスとマリーは先の戦いで見せたように、魔力の弾丸を放ち、ジャンヌは前方に立ってセイバーと直接剣を交える。

 

ジャンヌ(ものすごい剣技…ですが!)

 

瞬時に身を低くし、セイバーの突きを避ける。

 

ジャンヌ(()()バーサーカーほどではない!)

 

思い切り旗をセイバーの腹部の叩き込んだ。野球ボールのように叩き飛ばされたセイバーに、アマデウスとマリーの魔力弾が追い打ちをかける。

 

セイバー「はは…やるね。いいだろう、私を苛む狂化の呪いも疼いている…

百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)』!」

 

セイバーが高く飛び上がったかと思うと、背後には大きな百合の花が浮かび上がった。その幻想的な光景に、戦っていた3人は目を奪われる。

 

マリー「綺麗…」

 

セイバー「そこだ!」

 

途端、幻惑に囚われていた3騎にセイバーの剣が刻まれる。

 

ジャンヌ「くっ…宝具ですか…体がうまく…」

 

アマデウス「魅了以外にもパラメーターダウンの効果もあるのかっ…」

 

確かにセイバーの攻撃は黒いバーサーカーには及ばない。しかし、セイバーの戦闘スタイルはそもそも宝具の美しさに惑わされた敵に容赦なく剣を振るうことにある。

 

アマデウス「思ったより面倒そうだな…」

 

一方、ナイトローグを相手取るクローズとマシュ。

 

クローズ「ハァッ!」

 

マシュ「ふん!」

 

2人の連携は、拙くも形になりつつあった。ローグも若干押され気味になっている。

 

ローグ「フッ!剣はどうした!」

 

クローズ「フン、素手の方が俺は慣れてんだよ!」

 

ローグ「流石の成長速度だな…万丈龍我…!」

 

一方でエリザベートと清姫、ゲオルギウスはワイバーンに囲まれていた。

 

清姫「はっ!」

 

エリザベート「邪魔!」

 

清姫とエリザベート、ゲオルギウスは、戦兎を守りつつ次々とワイバーンを蹴散らしていく。

しかし、ワイバーンはいくら倒してもその分湧いてくるのだ。まるでキリがない。また、未知の敵である3体のスマッシュにも気を配らなければならない。

 

エリザベート「あぁっ!もう!イライラする!もういいわ!…サーヴァント界最大のヒットナンバーを聞かせてあげる!」

 

エリザベートの魔力が高まると同時に、巨大なアンプを携えた城が召喚される。

 

清姫「ちょ、エリザベート!?こんなところで貴女の宝具を撃ったら…!」

 

エリザベート「『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』!ボエ〜♪」

 

エリザベートの壊滅的に音痴な歌が響き渡る。いわばスーパーソニックブレスである。

 

セイバー「な…ぐわっ!」

 

その広範囲にわたる衝撃に、セイバーも吹き飛ばされる。

 

アマデウス「ひどい音だ!でも…今だ!」

 

ジャンヌ「ぐ…はああああ!」

 

セイバー「しまっ…ぐはっ!」

 

隙をついたジャンヌの決定的な一撃がセイバーを突き刺し、そのままセイバーは消滅していった。

 

「ready go!」「ドラゴニックフィニッシュ!」

 

ローグ「ぐはぁっ!」

 

同じように、隙ができたことでクローズはナイトローグにライダーキックを叩き込んだ。

 

クローズ「どうだ!」

 

ローグ「はぁ、はぁ、はぁ…万丈、龍我…」

 

クローズ「あん!?何だよ」

 

ローグ「ジャンヌ・オルタを倒したいのなら今しかない。ファヴニールが貴様らのセイバー…ジークフリートとの戦いで負った傷のせいで動けない今しか」

 

クローズ「え?おいどういうことだよ!」

 

クローズがその真意を問いただそうとしたが、ローグは煙に紛れ逃げてしまった。

 

マシュ「なんだったんでしょう…」

 

エリザベート「ねぇー!なんかこの怪物から黒い煙みたいなのでてるんだけどー!」

 

万丈「ああ!成分回収しねえと!」

 

万丈は変身を解除し、倒れている3体のスマッシュから成分を回収していった。

 

マシュ「これって…!?」

 

成分を回収したことで露わになったその姿は、ワイバーンだった。

 

ロマン「ワイバーンすらスマッシュに変えることができるのか…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜。

戦兎らは新たな仲間とともに再び拠点へと戻った。

 

ロマン「あのナイトローグの言葉…少し不可解だな…」

 

マシュ「はい。敵である私たちに情報を流す理由が…」

 

清姫「ですがやはり、進軍するなら味方が多く集まった今でしょう。」

 

ロマン「そうだね。いずれは行かなきゃならない。あまりぐずぐずしていたら敵の戦力が増える可能性も高いんだ。ナイトローグを信じるか信じないかは別にして、今が一番ということに間違いはない」

 

ジャンヌ「できました!」

 

戦兎「はぁ…」

 

ロマン「お、戦兎君の解呪が完了したみたいだ。」

 

ジャンヌ「はい。これで戦うことはできそうです。ですが…しばらく変身することは控えた方がいいでしょう。」

 

ロマン「そうだね。どのみちビルドドライバーは一つしかない。今は戦兎君にあまり負担はかけられないし、今回は万丈君に任せよう。…いいかな?」

 

少し申し訳なさそうにロマンは万丈に目を配った。任せろと言わんばかりに、万丈が拳と掌をあわせる。

 

ロマン「ありがとう…よし、明朝出発だ。みんな、しっかり休んでね。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大量のワイバーンと数々のサーヴァントと対峙する。

目指すはジャンヌ・オルタの居城。

狙うは聖杯。

 

万丈「っしゃあ!行くぞ!」

 

ロマン「総力戦だ!どうやら敵側にも新しいサーヴァントがいるみたいだが…気を引き締めていってくれ!」

 

ロマン(巨大な反応は今のところなし、か…ナイトローグの言葉、信じていいのかもしれない…)

 

B・アサシン「来たのね」

 

エリザベート「決着よ!」

 

バーサーク・アサシンが目を鋭くし、エリザベートが槍を構える。

 

マリー「あら?」

 

アマデウス「お前は…シャルル・アンリ・サンソン!」

 

サンソン「やあ…マリア」

 

知り合いに話しかけるようにマリーが微笑み、アマデウスが憎しみを込めて叫んだ相手、サンソンが虚ろな目を上げる。

 

B・アーチャー「壊してやる…何もかもおおおお!!!」

 

清姫「乱暴な方ですね…」

 

暴れ回るバーサーク・アーチャーを見据えながら、憂鬱そうに清姫が扇を整える。

 

ゲオルギウス「守護騎士の名にかけて…このオルレアンを守り抜きましょう!」

 

ゲオルギウスは大量のワイバーンを前に己の誓いを口にする。

 

万丈、マシュ、ジャンヌ、そして戦兎は一直線にジャンヌ・オルタのいる城へ駆け上がる。味方のサーヴァントがそれぞれ相手を抑えているため、邪魔はない。

ロマンのナビゲートに案内され、ジャンヌ・オルタのいる部屋のドアを蹴破った。

ジャンヌ・オルタは新たなサーヴァントを召喚しようとしていた。手を止め、憎しげにジャンヌ達を睨む。

 

ジャンヌ・オルタ「こんなにも早く来るのは少し予想外でしたが…」

 

ジャンヌ「こちらにも、心強い仲間がいるのです…!」

 

ジャンヌ・オルタ「黙りなさい…無様に塵となるがいい…!」

 

万丈「変身!」

 

「Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!! Yeah!」

 

万丈がクローズに変身した。

 

戦兎「フッ!」

 

フルボトルを片手に戦兎も応戦する。まだ多少は痛むが、問題なく戦えるようだ。

 

ジャンヌ「ハアアアア!!」

 

戦兎が軽く牽制したところを、ジャンヌが旗を大きく横薙ぎする。ジャンヌ・オルタは後ろに下がりそれを避けるが、下がった先にはマシュが待ち構えていた。

盾を大きく振り上げ、ジャンヌ・オルタを上空に打ち上げる。

 

ジャンヌ・オルタ「くっ…!」

 

「ドラゴニックフィニッシュ!」

 

クローズ「一気に終わらせる!」

 

ジャンヌ・オルタ「舐めるな!」

 

クローズのライダーキックにジャンヌ・オルタは黒い炎をぶつけ相殺しようとする。

 

クローズ「うおおおお!!」

 

ジャンヌ・オルタ「何!?」

 

しかし、クローズは炎に包まれても止まりはしない。

驚愕に囚われた黒いジャンヌにクローズが一撃を加えようとした、その時。

 

???「きしゃああああ!!!!」

 

無数の触手に阻まれ、クローズは叩き落とされた。

 

クローズ「くそっ!」

 

ジャンヌ・オルタ「ジル!」

 

ジル「愚かな匹夫どもめ…貴様らに我が聖女の復讐を邪魔させるものか!それが例えジャンヌ…貴女だととしても!」

 

ジャンヌ「ジル…」

 

ロマン「海魔の召喚術…キャスターだ。察するに真名はジル・ド・レェのようだが…」

 

戦兎「今も海魔が続々と召喚されてる…どうやら無限に近いみたいだな。数の有利が一瞬で覆された。」

 

途端にジルの召喚した多数の海魔に囲まれた。

海魔一匹の力は、今の戦兎でも倒せる程度だ。しかし、あまりにも数が多い上にジャンヌ・オルタとも立ち回らなければならない。海魔の主であるジルを叩こうにも、海魔が邪魔をする。

 

マシュ「っ…!」

 

ジャンヌ・オルタ「燃えなさい!」

 

クローズ「ぐあっ!クソ…」

 

戦兎(不味いな……いや、でもあのフォームなら…試す必要はあるか!)

 

戦兎「万丈!」

 

クローズ「あ!?なんだよ!」

 

戦兎「選手交代だ!」

 

クローズ「は!?……っ仕方ねえ!いけるんだろうな!」

 

絡みつく海魔を払いながら万丈は変身を解き、戦兎にビルドドライバーを投げ渡した。

 

戦兎「あぁ!ここからは主役の出番だ!」

 

万丈「フン、よく言うぜ…」

 

ロマン「大丈夫かい、戦兎くん」

 

戦兎「はい。問題ないと思います。………さあ、実験を始めようか」

 

戦兎の取り出したボトルの色は橙色と灰色。

手慣れた様子でドライバーに装填する。

 

「タカ!ガトリング!ベストマッチ!」

「Are you ready?」

 

戦兎「変身」

 

「天空の暴れん坊!ホークガトリング!イエーイ!」

 

タカと機関砲を模した複眼。背に広がる翼。手に持っているのはオルレアンに出発する前に造ったホークガトリンガー。新たなビルドのベストマッチフォーム、ホークガトリングだ。

 

ジャンヌ・オルタ「別の姿…!」

 

ビルドがトリガーを引くと、6匹もの海魔が一瞬で散った。

 

ジル「きしゃあああああああ!!!!!」

 

奇声を発しながらジルは海魔をさらに召喚する。

 

「10!」

 

リボルバーが回転したことで、ガトリンガーがカウントをする。

トリガーを引くと更に10匹の海魔を倒した。

 

ジャンヌ・オルタ「このっ…!」

 

ジャンヌ・オルタが止めに入ろうとしたが、ビルドは飛翔しそれを回避した。更にマシュとジャンヌがオルタを止めに入る。

 

ロマン「おお!空飛んでるよ!」

 

「20!」「30!」「40!」「50!」

 

ビルドがレボルバーを更に回し、上空から追撃を加える。

ただの海魔のみでは敵わないと思ったのか、ジルは巨大な海魔の触手を数本操り空を飛ぶビルドを捕らえようとする。触手を上手くいなしていくも、その内の一本に捕まってしまった。

 

ビルド「うわっ!?」

 

ジル「フフフフ…どんなに足掻こうと所詮は蛮族…貴様ごときが我が望みを阻もうなど…」

 

万丈「オラッ!」

 

ジル「ぐぬ!?」

 

予想外の万丈の攻撃がジルの追撃を止めた。変身を解いた万丈に大した脅威はないとタカをくくっていたのだ。

 

万丈「今だ!戦兎!」

 

「60!」「70!」「80!」「90!」

 

「100!フルバレット!」

 

タカの形のエネルギーを纏った弾丸が降り注ぐ。

 

ビルド「どうだ!」

 

倒した、と思った。しかし、

 

万丈「何!?」

 

煙の中から伸びた触手がビルド、マシュ、万丈、ジャンヌを捕らえた。

ジルとオルタは共に深い傷を負っているものの、致命傷には至らなかった。ジルが咄嗟にオルタを引き寄せ、海魔の壁を作りダメージを軽減させたのだった。

 

ジャンヌ「マズイ!」

 

ジャンヌ・オルタ「っ…これは憎悪に寄って磨かれた我が魂の咆哮…

吼えたてよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・へイン)』!!」

 

竜の魔女の宝具、彼女の怨嗟の具現ともいえる黒炎が降り注ぐ。ビルド達に打つ手はない、かに見えた。

 

「『仮想宝具 擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!』」

 

巨大な城壁が降炎からビルド達を守った。

 

ジャンヌ・オルタ「なっ…どうやって!?」

 

ビルド「ホークガトリンガーの弾丸は自由に操れる。こうなることをあらかじめ考えてさっきの攻撃から念のため数発残しておいたんだ。それがマシュに絡んだ触手をちぎった。…これが勝利の法則だ!」

 

ジル「匹夫がああああああ!!!!!」

 

マシュ「マスター!」

 

「鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!」

「ボルテックフィニッシュ!イエーイ!」

 

ビルド「とどめだ!」

 

敵を拘束し、兎の跳ね上がり、戦車の馬力で繰り出すラビットタンクのライダーキック。

ジャンヌ・オルタとジルは防ぐこともできず、その蹴撃を受けた。

 

ジャンヌ・オルタ「な、に…そんな…私が負ける、なんて…」

 

ジャンヌ・オルタの体は消滅が始まっていた。悲しそうに、そして恨めしそうにつぶやく。

 

ジル「いえ、いいえジャンヌ…貴女は少し疲れただけ…大丈夫、私に任せて少し眠りなさい。その間に…私が全て終わらせています…」

 

しかしそういうジルの体も消滅が始まっている。消えるのも残り数分の問題だろう。

 

ジャンヌ・オルタ「そう、そうよね。ジルが戦ってくれるなら、安心して…」

 

ジャンヌ・オルタは消滅していった。しかし、驚くことに彼女の体があった場所に聖杯が顕現していた。

 

ジャンヌ「やはり…彼女は貴女が聖杯で創り出していた、のですね…」

 

ジル「ええ…勘の鋭い御方だ…」

 

ビルド「そういうことだったのか…」

 

聖杯で創られたジャンヌ・オルタ。それこそがこのオルレアンで聖杯を持ったジル・ド・レェの願いだった。

 

万丈「ん?どういうことだ?」

 

ビルド「バカは黙ってろ」

 

万丈「バカってなんだよ!」

 

万丈を軽くいなし、ビルドはジルに話しかけた。

 

ビルド「だが…それは本来のジャンヌじゃない。本当のジャンヌなら、そんなことはしない」

 

ビルドの言葉を聞き、体のほとんど消えかかったジルが怒りに肩を震わせた。

 

ジル「貴様に…貴様に何が分かる…!思い上がりも甚だしい!たとえ彼女が憎まずとも私が憎んだのだ!彼女は赦すだろう。しかし、私は赦さない!…滅ぼしてみせる。殺してみせる。それが聖杯に託した我が願望…我が道を阻むな!桐生戦兎ォォォォ!!!!」

 

もう攻撃のひとつも十分に出来ないはずのジルの剣幕に、ビルドは後ずさりをした。

 

ジル「スターク!!!」

 

スターク「呼んだか?」

 

ジルが名を呼ぶと、まるで最初からそこにいたかのように柱の陰からブラッドスタークが現れた。

 

ロマン「なっ、いつの間にそこに!?」

 

ジル「……始めなさい」

 

スターク「おいおい、仕方ねえなぁ」

 

そういうと、スタークの手から三色の箱が出現した。

その箱を見た瞬間、ビルドの頭に鋭い痛みが走る。

 

ビルド「なんだ…?あの箱…どこかで…?」

 

万丈「お、おい!窓!窓!」

 

マシュ「あれは…!」

 

窓に見えたのは巨竜、ファヴニール。

身体の所々に傷はみられるが、問題なく動いている。

 

ロマン「くそ!やっぱり嘘じゃないかナイトローグめ!」

 

ファヴニールは城の屋根を破壊した。

 

スターク「なんというんだったかな…?…あぁそうか!…さあ!実験を始めよう!フハハハハハ!」

 

箱が光り出したかと思うと、光はファヴニールを包み込んだ。そしてジルの持っていた聖杯が浮かび出したかと思うと、引き合うようにファヴニールに吸い寄せられていった。

 

ジル「これこそが…我が破壊の象徴!怨嗟の集塊!最高のCOOLを!今こ」

 

スターク「じゃあなお前もそこそこ役に立ったぜ」

 

スタークがジルを撃ち抜いたことにより、ジルは完全に消滅していった。

 

ジャンヌ「ジル!」

 

スターク「おおっと…俺に気をとられている場合じゃないぞ。なにせ俺もここからどうなるかは少し分からないからなぁ!」

 

光の繭が次第に解ける。その姿がゆっくりと露わになる。

 

スターク「フッハハハハハ!!完成だ!聖杯とパンドラボックスの力の融合!お前は…ネビュラ・ファヴニールだ!」

 

ネビュラ・ファヴニール「Guoooooooo!!!!」

 

その姿はまさに破壊と怨嗟の象徴。その咆哮はまさに憤怒による魂の唸り。

 

ビルド「最悪だ…!」

 

 




皆さまジオウ、どうでしょうか。
なかなか設定が凝ってて面白いな〜と思います。ここからどう平ジェネにつながっていくんでしょうかね〜
それと小説のご感想等お願いします!


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オルレアンの結末

オルレアン編が終わります。
3日で完成する予定でしたが思わず書く量が増えてしまいました、すみません…


スターク「さぁ!どうする桐生戦兎!」

 

ロマン「前回のファヴニールよりも脅威度が高い!どうなってるんだ…ファヴニールをスマッシュ化させるなんて!」

 

ビルド「危ない!」

 

ネビュラ・ファヴニール「gaaaa!!」

 

禍々しい姿のネビュラ・ファヴニールが黒いブレスを吐き出す。

ビルドは万丈を抱え回避するも、その一撃で城は半壊した。

 

ビルド「なんて威力だ!」

 

マシュ「また来ます!先輩!」

 

巨竜は再び大きく口を開き、その身から怨嗟の炎を撒き散らす。

 

ジャンヌ「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!」

 

ジャンヌの宝具が、炎からビルド達を守った。

押し潰されそうな威圧を放つネビュラ・ファヴニールに、そして嗤うスタークに、ジャンヌは毅然と立ち向かう。

 

ジャンヌ「ジル…これが貴方の選んだ道というのなら、私がそれを阻みましょう!」

 

ビルド「ジャンヌ…」

 

「『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!」

 

音による魔力の重圧がファヴニールにのしかかる。

 

エリザベート「ちょっとコイヌ〜!」

 

エリザベートがこちらへ近づいてきた。一度別れた仲間達は、傷を負っているようだが全員無事らしい。しかし、未だ多くのワイバーンが彼らに敵意を向け、清姫とゲオルギウスのおかげでアマデウス、マリー、エリザベートの3人はその包囲網から抜け出す事ができたのだ。

 

ビルド「みんな!無事だったのか!」

 

アマデウス「おいおい!やっとこっちの決着がついたと思ったら何だアレ!前見たファヴニールより強くなってないか!?」

 

ビルド「スタークがファヴニールに手を加えたんだ!聖杯はファヴニールが持ってるから倒すしかない!」

 

ファヴニール「Guoooooo!!」

 

アマデウス「チッ!動き出しやがった!ほとんど効いちゃいない!」

 

ビルド「もう一度頼む!二人も宝具を!」

 

アマデウス「もうほとんど満身創痍なんだけどね…

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!」

 

再びファヴニールの動きが鈍くなる。しかしそう長くはもたない。ならば、

 

ビルド(この一瞬にかける!)

 

マリー「『百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)』!」

 

エリザベート「『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』!」

 

「ボルテックフィニッシュ!イエーイ!」

 

3つの宝具とビルドのライダーキックがファヴニールを襲う。

 

ビルド(これだけの力が合わされば…倒すことはできなくても傷くらいは!)

 

ファヴニール「guuuuuu…」

 

しかし、その攻撃を受けた後でもファヴニールに変わった様子はなかった。確かに多少のダメージを負ってはいるが、かすり傷のようなものだ。

 

ビルド「くっ…!」

 

「パンダ!ロケット!Are you ready?」

 

ビルド「ビルドアップ!」

 

「ぶっとびモノトーン!ロケットパンダ!イエーイ!」

 

左手に備え付けられたロケットを噴射させ、動きを撹乱する。

 

「ボルテックフィニッシュ!イエーイ!」

 

ファヴニールの後ろを取り、必殺のボルテックフィニッシュを仕掛ける。死角からの攻撃。これが決まらなければ、いよいよビルド達にあとはない。

 

ファヴニール「gagagagaga!!」

 

しかしファヴニールは首を大きく上げたかと思うと、天に向かって光線を吐き出した。光線はとたんに放射状に広がり、強力な熱の雨となってビルド達の頭上に降り注いだ。

 

ビルド「ぐわっ!?」

 

マシュ「先輩!」

 

雨の一つに直撃し、攻撃の途中でビルドは叩き落とされた。そのダメージによって戦兎の体から鋼鉄の装甲は剥がれ落ちていく。マシュは落下する戦兎を受け止め、守るためにその盾で身体を覆った。

 

マシュ「うわぁっ!」

 

しかし盾を失ったマシュは、ファヴニールの光線をよけきれず直撃してしまう。

 

万丈「なんだよあれ…」

 

ジャンヌ「危ない!

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!」

 

ジャンヌは降り注ぐ光にどうすることもできない万丈と、まともに防御手段を持たない他のサーヴァントを宝具で守る。

 

ジャンヌ「くっ…」

 

なんとかファヴニールの攻撃を防ぎきったジャンヌだが、身体は重く思わず膝をつく。

魔力の限界か。ジャンヌはそう思った。

そもそも現界した時点で万全とは言い難い状態ではあった。いい加減、ガタがきたのかもしれない。

しかしーーーーーー

 

 

戦兎「うっ…はっ…ハァ、ハァ、ハァ…」

 

ほんの一瞬だが気を失っていた。

俺は確か…そう、戦闘中にファヴニールに叩き落とされたんだ。

身体が重い。ダメージによるものもあるが、何かが俺に覆いかぶさっているようだ。

予想外に重かったので、持ち上げずに被さっているものから這い出る。見ると、それはマシュがいつも持つ盾、彼女の宝具だった。

そしてそのすぐ近くに彼女もいた。目を閉じ、倒れている。一瞬動揺したが息はできている。

気を失い、情けなく落下していく自分を受け止め、攻撃から守ってくれたのだろう。

キッ、と炎の中に揺れるファヴニールを睨みつけた。

怒りがこみ上げてくる。ファヴニールにはもちろん、情けない自分自身にも。

深呼吸をする。ポケットにしまっていたフルボトルを取り出した。使えるかどうかも分からない不確定なものに頼るのは科学者としては本意ではない。

だけど…今なら!

 

 

戦兎はあらかじめ変身するときに万丈から借りたドラゴンボトルをもう片方の手に持った。

ボトルを振って腰に巻きつけたビルドドライバーに装填する。

 

「ドラゴン!セイバー!ベストマッチ!」「Are you ready?」

 

戦兎「変身!」

 

「セイバー・ドラゴン!アルトリア!」

 

光に包まれながら、冬木で強敵を打ち破った、かの騎士王の力をまとう戦士が希望とともに姿を現した———

 

かに、見えた。

 

ビルド「ぐわああああ!!!」

 

バチン、と火花が散るような音が鳴り響く。

セイバーボトルで変身したはずの戦兎は、突然身体に電流が流れたように全身が痛み出し、再び変身は解除されてしまっていた。

短時間に変身を繰り返すことは身体に大きく負担がかかる。ましてや、戦兎はスタークによる呪いが解かれたばかりの病みあがりのような状態だ。数回のビルドアップでも身体に思わしくない影響を及ぼす。

想いがいくら強かろうと、身体がついてこないのでは意味がない。戦兎の身体は既に限界だった。

 

万丈「戦兎!」

 

その一部始終を見ていた万丈が、なおも暴れ回るファヴニールの攻撃を、サーヴァント達の助けもあり間一髪でかわしながら倒れた戦兎に駆け寄った。

 

万丈「おい!戦兎!マシュも!大丈夫か!?」

 

マシュの透き通った声も、戦兎の憎たらしい文句も返ってこない。

今すぐ治療しなければいけないという状態ではない。しかし、このままではあの巨大な邪悪に戦兎たちが踏み潰されるのも時間の問題だ。

万丈の心は絶望で黒く塗りつぶされかけていた。

 

万丈「くそ!早くあいつを倒さねえと…こいつらが!」

 

 

「なら、俺がその役目を引き受けよう」

 

 

万丈の後ろから声がした。横を通り過ぎ、目の前に立っていたのは銀色の鎧、白い髪、見事なまでの大剣。

 

万丈「セイバー…」

 

ジークフリート「ああ」

 

万丈「……頼む…あいつを…ネビュラ・ファヴニールを…!」

 

ジークフリート「ああ」

 

ジークフリートが剣を空高く掲げた。

気配を感じたのか、ファヴニールが攻撃の手をやめこちらを振り向いた。

 

ジークフリート「久しぶり…というほどでもないな、ファヴニール。随分と姿形は変わったようだが、こう何度もお前と相見えようとは。先の戦いは俺の敗北に終わった。だが今度こそ…行くぞ、再び地に還るがいい邪竜!」

 

ジークフリートがファヴニールに向かい一直線に駆け寄る。

ファヴニールも応戦するが、読んでいたかのようにその攻撃をジークフリートは避けた。

そして一気に距離を詰め、ファヴニールの堅固な身体に一太刀を浴びせた。

 

アマデウス「はは…すごいな…」

 

その俊敏な動きを見て、アマデウスが感嘆を漏らした。

 

ジークフリート「はぁぁ!」

 

ファヴニール「gugu…gugaaaaa!」

 

なおもジークフリートはファヴニールに攻撃を続けている。

華麗ともいえるその動き。

ファヴニールの攻撃を上手くかわしながらも、少しずつではあるがダメージを与えている。

 

ロマン「すごい!いけるぞ!」

 

だがしかし、その動きに綻びが見え始めた。

 

アマデウス「なんだ…?あいつ段々動きが…」

 

ファヴニール「guooooo!」

 

ジークフリート「ぐっ…がはっ!」

 

ファヴニールの攻撃が、ついにジークフリートを捉えた。

 

ジークフリート(まずい…傷が完全には癒えていなかったか…!…今すぐ勝負を決めるしかない!)

 

ジークフリート「『幻想大剣・天魔(バルムン)ーーーー』」

 

ジークフリートは膝から崩れ落ちた。

なんとか立ち上がろうとするも、ファヴニールの光線が無慈悲にも迫ってくる。

 

ジークフリート(…ダメか…!)

 

万丈「くそ!セイバー!」

 

まさに憎き怨敵を完全に消し去ろうと、その一撃がジークフリートの眼前に迫ったとき。

 

ジャンヌ「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

ジークフリート「!?」

 

ジャンヌ「『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!!!!」

 

すんでのところでジークフリートはその旗の輝きに守られた。

 

 

身体は痛む。

既に魔力はほとんど底をついた。もう現界しているのがやっとで、宝具はおろか旗の一振りも出来るかどうか。

しかし———立ち上がる。

オルレアンの人々を守らなければ。

そしてこれは彼が、ジル・ド・レェが仕掛けたこと。ならばその解決には私にも義務がある。止めてみせると誓ったばかりなのだ。

もう一つ。これは私の我儘に近いのかもしれないが。

私は戦いたいのだ。私の信じる、マシュさんや戦兎さん、万丈さんのために。

だから、これは。

誰かのためであり、己のためであり、そして。

 

ジャンヌ「私の信じるもののために!」

 

 

 

万丈「!!!」

 

目を見張った。彼女の言ったことは、ファヴニールと最初に出会った時の引き際に、セイバーが言ったことだ。

…俺は何をしていたんだ。ただ倒れた二人を見て、セイバーに助けを請いただけだ。

違うだろ、今の俺には力がある。信じるものがある。冬木に一人でいた昔の俺じゃない。

足りていなかったのは覚悟だ。たとえ自分一人になろうとも、立ち向かう覚悟。その覚悟を、こうやって目の前で見せつけられた。

———だったら、立ち上がるしかない。

 

 

万丈は戦兎のドライバーからボトルを取り出した。

 

万丈「クローズドラゴン!」

 

万丈の呼びかけに応えてクローズドラゴンはガジェットモードへと変形する。

万丈の振るボトルの色は青いドラゴンボトル、ではなく黄金のボトル。

そのボトルを装填し、クローズドラゴンごとドライバーに収める。

レバーを回し、変身に備えた。

 

「Are you ready?」

 

万丈「はぁぁぁぁぁ……変身!」

 

「Wake up CROSS-Z! Get SABER DRAGON・SIEGFRIED! yeah!」

 

白銀色の装甲。青白く光る胸部。手に握られた、竜殺しの魔剣。

そこにいるのは仮面ライダークローズ。しかし、その身に纏う力はまさしく。

 

ロマン「あのセイバーそのもの…!」

 

クローズ「今の俺は…負ける気がしねえ!」

 

ファヴニールがクローズに標的を変えた。彼を脅威と受け取ったのだ。

 

クローズ「オラッ!」

 

瞬時に躱し、ファヴニールを斬る。

ファヴニールの叫声が響く。

 

ジークフリート「よし、ありがとう。君はここで休んでいてくれ。まだ少し…戦える!」

 

ジャンヌとマリーの宝具である程度回復したジークフリートは、動けないジャンヌをマリーに任せ飛び出した。

 

ジークフリート「万丈!」

 

クローズ「ハァッ!…セイバー!」

 

ジークフリート「それがどういうものかは分からない。だが君に俺と同じ力が宿っているというのなら…!慎重に策せ、大胆に動け、広い範囲で物事を見ろ、深く一点に集中しろ。海のように、空のように、光のように、闇のように。矛盾する二つの行動を取れ。今の君なら…それが出来る!」

 

クローズがファヴニールの右側に、ジークフリートが左側に同時に走り出す。

ファヴニールは一瞬どちらを攻撃するか躊躇ったが、先に手負いのジークフリートを攻撃しようとその大口を開けた。

 

エリザベート「『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』!」

 

強烈な歌声にファヴニールの一撃は阻まれた。

 

エリザベート「ほら!さっさとしなさい!」

 

エリザベートの宝具で一瞬無防備になった悪竜の身体に、いくつもの傷が刻まれていく。流石の巨竜にも余裕の色は全く無いようだ。

 

ファヴニール「gahaa!」

 

ジークフリート「なっ!まずい!」

 

ファヴニールが放射状に広がるあの強力な攻撃を繰り出した。

標的を確実に仕留めるため、降り注ぐ光は全てクローズとジークフリートに絞られて放たれた。

エリザベートは宝具の連発はできず、ジークフリートとクローズの猛攻を耐えながら放った渾身の一撃。

 

クローズ「ぐわああああ!」

 

ジークフリート「ぐはぁっ…!!」

 

上手く躱そうとしたものの、数撃を受けてしまった。

身動きの取れない二人に、トドメと言わんばかりにファヴニールが顔を向ける。

 

ジークフリート「このままでは…!」

 

「汝は竜!罪ありき!

力屠る祝福の剣(アスカロン)』!」

 

ファヴニール「guaaaaa!!!」

 

クローズ「ゲオルギウス!」

 

ゲオルギウス「彼女が宝具で一瞬ですが道を拓いてくれたのです!おかげで間に合った!」

 

清姫は大蛇に転身して、全力の火炎放射でゲオルギウスを送り出したのだ。

 

アマデウス「『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!!」

 

ファヴニールに重圧がかかる。ゲオルギウスに足を一本やられたこともあってファヴニールは動けない。

 

アマデウス「もうこれで打ち止めだ!さっさとケリをつけてくれ!」

 

クローズ「アマデウス…ああ!」

 

ジークフリートとクローズが、それぞれの剣を掲げる。

 

ジークフリート「邪悪なる竜は失墜し…」

 

クローズ「世界は今、洛陽に至る!」

 

二人「撃ち落とす!」

 

剣に光が収束する。

本来、同時に存在することなどありえない二振りの魔剣。

二人は高らかに、その名を天に向け吼える。

 

 

「「『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!!」」

 

 

ファヴニール「gu…ga…gooooooo!!!」

 

圧倒的な魔力の波に飲まれ、ネビュラ・ファヴニールの身体は消滅していった。

それに呼応するように、あたりを飛んでいたワイバーンたちも消えていった。

スタークの姿も既にそこには無かった。

残ったのは、聖杯と魔力を帯びたネビュラガスの成分のみ。

変身を解いた万丈は、ファヴニールの残滓をそれぞれ回収した。

 

ロマン「聖杯の回収は完了した!すぐにでも帰還してくれ!」

 

エリザベート「もう終わりなの?…まあいいわ。じゃあね、コイヌたち!また私の歌を聴かせてあげる!」

 

清姫「全く…最後までうるさいドラ娘ですね。… けれどここで離れ離れなんて…でも大丈夫。またお会いしましょう。それでは、ごきげんよう。」

 

アマデウス「やれやれ…ようやくお役御免か。ともかく…万丈、戦兎

。君たちは指揮者というよりは演奏する側に近かったけど…どちらにせよ、君たちとの仕事は実に、実にやりがいがあった」

 

マリー「ありがとう、二人とも。お別れは寂しいけれど…でもまた会えそうな気がするの!それじゃあ、ヴィヴ・ラ・フランス!」

 

ゲオルギウス「どうやら終わりのようです…君たちの助けになれて、本当に良かった。しかし、この様子だと再び召喚される日も遠くはなさそうだ」

 

サーヴァントが口々に別れを述べながら、消滅していった。

その一言一言を、戦兎やマシュの分まで聞き入れようと万丈は噛みしめるように聞いた。

 

ジャンヌ「恐らく、貴方達と出会い、共に戦ったことは全て無かったことになるのでしょう。…少し悲しいですが。ですが、みなさんにはまた会えそうな気がします。私の勘は、結構当たるんですよ?」

 

万丈「…」

 

ジャンヌ「さようなら、そしてありがとう。全てが虚空の彼方に消えるとしても、残るものが、きっとーーーーー」

 

ジャンヌも、消滅した。

この時代に来て初めて会ったサーヴァント。バーサーカーと戦ったとき、初めての変身でまだ拙かった自分と共に戦ってくれた彼女。

その力は、その旗の輝きは、彼女の在り方は。どこか暖かさに満ちていた。

たった数日のことだが、これからもその温度はずっと自分たちのなかに残るのだろう。

 

ジークフリート「もう、行くんだな」

 

万丈「ああ」

 

ジークフリート「君と戦えて、実に光栄だった」

 

万丈「俺のセリフだよ」

 

ジークフリート「実を言うと、君に言ったあの言葉は…生前俺が成しえなかった事なんだ。自分のできなかったことを他人に願うのはどうかと俺自身も思うのだが…」

 

万丈「いや、ありがとう。俺もこれから、戦っていけると思うぜ。…あ!そういやさ、ファヴニールからどうやって逃げたんだ?一対一でジャンヌ ・オルタもいたんじゃ中々逃げれなかっただろ?」

 

ジークフリート「ああ、それは助けてもらったんだ。瓦礫の山に埋もれかけた瞬間、瓦礫が死角を作ってファヴニールにも見えなかったんだろう。その瞬間に、煙に包まれたと思ったら、既に近くの森にいた」

 

万丈「一体…誰に?」

 

ジークフリート「すまない…分からない。黒い外套を被って顔は見えなかった。だが君たちの使うボトルのようなものを持っているのは、ちらりと見えたんだが」

 

万丈「ボトル!?」

 

ジークフリート「ああ。紫色の、コウモリのようなものを意匠したものだったと思う」

 

万丈「コウモリ…」

 

ジークフリート「ああ、もう時間のようだ。…ありがとう、万丈龍我。いつかまた、君と共に」

 

万丈「…あぁ!セイバー!」

 

最後にジークフリートも消えていった。

 

ロマン「もう時間だ!準備はいいかい?」

 

万丈「あ!おい起きろ戦兎!マシュも!」

 

身体が宙に浮くように感じた。レイシフトが始まったのだろう。

戦兎とマシュを抱きかかえながら、万丈は顔を上げ、オルレアンの大地と空を見た。

このオルレアンで、様々なことに気づかされ、成長した。

目を閉じて、オルレアンの日々に思いを馳せながら。万丈はゆっくりと、その感覚に身を任せ————

 

 




次回は第2章


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第2特異点 永続狂気帝国 セプテム
新たな地、ローマ


色々と忙しくてあまり書けていません…すみません…


マシュ「おはようございます、先輩」

 

フォウ「フォーウ!」

 

戦兎「ああ、おはよう」

 

マシュがフォウを連れながら、ノックをして戦兎の部屋へ入った。

 

マシュ「また何かの開発作業中ですか?」

 

戦兎「まあな。ドリルクラッシャーの補修も済んだし、新しいボトルも手に入ったし」

 

オルレアンから帰還した戦兎は、傷が癒えるや否や自身のマイルームに篭りきりになっていた。食事とたまの鍛錬にトレーニングルームを使うこと、ダヴィンチの工房に顔を出す以外では殆ど部屋からは出てこなかったのだ。

ダヴィンチと協力して、ファヴニールから採取した成分で作った新たなサーヴァントボトルの解析、その他ボトルの浄化、壊れた武器の修復など、やることは山積みだった。

 

戦兎「でもまあこれでやることは大体終わったよ。次のレイシフトには間に合いそうだ」

 

マシュ「それは良かったです…」

 

ほっ、と安堵した様子を見せるマシュ。

戦兎はそんなマシュを見て少し歯がゆい思いをしていた。

本来彼女が戦うことは戦兎としては望むことではない。

だが今のカルデアで、彼女が重要な戦力であることは理解している。

だからこそ、彼女の負担が出来るだけ減るように武器の開発やサーヴァントボトルの研究は戦兎の第一課題だった。

 

戦兎「そういや万丈は?」

 

そんな自分の思いを悟らせまいと、戦兎は話題を変えることにした。

 

マシュ「この時間だとトレーニングルームだと思います。食事の後のトレーニングが最近の日課みたいです」

 

戦兎「そうか…ま、あのバカは他にやることもないもんな」

 

マシュ「そ、そんなことは…あ、先輩。あと少しでミーティングの時間です。そろそろ行きましょう」

 

フォウ「キュゥ〜」

 

 

会議室にはロマン、ダヴィンチ、万丈が既に入室していた。

 

ロマン「それじゃあ始めようか。まずは僕から。次の特異点についてだ。今回向かう先は1世紀ヨーロッパ。つまり古代ローマだ。転移先は帝国首都ローマを予定している。出発の時間は明日のこの時間。メンバーは前回と同じ、戦兎君、万丈君、マシュ。到着したらまず最初に——」

 

ロマンが簡潔にレイシフトについての説明を済ませ、質問がないことを確認すると戦兎に目配せをした。

 

戦兎「じゃあ次は俺が。ファヴニールから回収したボトルですが、あれは新しいサーヴァントボトル、バーサーカーボトルであることがわかりました」

 

ロマン「なるほど。発動にはやはり条件がいる…って認識でいいのかな?」

 

戦兎「はい。やはり想念の強さ、そしてもうひとつのボトルでベストマッチを作ることが必要です。しかし…」

 

ロマン「万丈くん、だね…」

 

万丈「え、オレ?」

 

戦兎「万丈はオルレアンでジークフリートの力を召喚させた。そもそも、サーヴァントボトルは特定のクラスの英霊を召喚させることしかできない不完全な聖杯なんです。その上召喚には触媒が必要です。通常の聖杯戦争だったら目的の英霊を呼ぶために使う触媒ですが、このサーヴァントボトルは触媒としてもうひとつのボトルを使わなければそもそも起動すらできない。…ですが、前回万丈はセイバーボトル一本で変身した。何か別に起動条件があるのか、それとも…」

 

戦兎(『万丈自身』に何かがあるのか…)

 

戦兎「…いずれにせよ、まだ研究段階のことです。結果は随時発表します」

 

ロマン「そうだね、ありがとう。じゃあ次は…」

 

 

それぞれの発表事項を話し終え、ミーティングも終了時刻になった。

ロマンは管制室へ、ダヴィンチは研究室へと向かっていった。

 

万丈「あー終わったー。腹減ったなあ…戦兎、マシュ!飯食いに行こうぜ!」

 

マシュ「はい、ご一緒させていただきます。先輩はどうしますか?」

 

戦兎「あぁ、ちょっと寄る所があるからあとで追いかけるよ。先に行っといてくれ」

 

マシュと万丈は戦兎の言葉を了承し、食堂へ向かって行った。

戦兎もある程度歩くと、ある一室の扉の前で止まった。ここが戦兎の目的地、ダヴィンチの研究室だ。

ダヴィンチとは共同で研究を行っているだけあって、この部屋に来るのはそれなりに慣れたものだった。

 

戦兎「ダヴィンチさん、頼んどいたアレできた?」

 

ダヴィンチ「もちろん。さぁ入ってきたまえ!」

 

 

ダヴィンチへの用事を済ませ、受け取った“モノ”をマイルームに置いた後、戦兎は食堂へ向かった。

 

戦兎「万丈のことだからもう食い終わってるかもな…」

 

美空「戦兎」

 

戦兎「うお!?…って美空か」

 

美空「最近顔見ないから心配してたんだよ。私も食堂行く」

 

戦兎「おう、悪かったな」

 

美空「ロマンさんから聞いたよ。また行くんだってね」

 

戦兎「ああ」

 

美空の唇が少し歪む。

あの危険な特異点にまた戦兎は行かなければならない。

美空にはそれが苦痛だった。

マシュや万丈のように共に戦えるわけではない。自分が出来るのはせいぜいボトルの浄化だけ。

ロマンやマシュよりも戦兎をよく知る美空にとって、やはりそれは歯がゆかった。

 

戦兎「美空」

 

美空「え?何?」

 

戦兎「俺が行くしかないんだ」

 

美空「…わかってるよ。今は戦兎の力が必要なんだもんね」

 

万丈「おーい!ここだ!」

 

美空「う、うん!」

 

戦兎に見透かされていたのを誤魔化すように美空は万丈達の元へ駆け寄る。

4人で食卓を囲み、他愛もない話をし続けた。

しかし、どう振る舞っていても美空の心にかかるもやは払いきれないままだった。

 

 

レイシフト当日。

全ての準備を済ませ、戦兎たちはレイシフトが始まるのを待つばかりだ。

 

ロマン「それじゃあいくぞ!プログラム・スタート!」

 

「レイシフト開始まで 3、2、1…全工程完了 グランドオーダー 実証を 開始します」

 

美空「帰ってきてね…みんな…」

 

 

マシュ「レイシフト、完了です」

 

マシュの言葉に気がついた戦兎が目を開くと、鮮やかな緑が広がる丘陵地帯が映った。

カルデアにいては感じることのできない、爽やかな風が頬を撫でる。

しかしそれと同時に、穏やかな雰囲気とは似つかわしくない激しい剣戟と人々の叫び声が耳に伝った。

 

ロマン「さ、早速だがサーヴァント反応だ!そこからすぐ東南の方向!」

 

フォウ「フォウフォーウ!」

 

戦兎たちが駆けつけると、特徴的な形をした赤い剣を振るう女性が先陣をきる小部隊と、その剣を素手で受け流す男性率いる大部隊がぶつかり合っているようだった。

そしてその大部隊の方には、決して嬉しいとは思えない戦兎たちもよく知る姿があった。

 

戦兎「ナイト…ローグ!」

 

ロマン「サーヴァントは男の方だ!しかしそれと渡り合っている彼女は一体…?」

 

戦兎「とりあえず彼女の方に加勢しよう!マシュ!万丈!」

 

マシュ「はい!」

 

万丈「おう!」

 

万丈が、戦兎によって新たに造られたビルドドライバーを腰に巻きつける。

 

戦兎&万丈「「変身!」」

 

「鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!」

「Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!」

 

赤と青、兎と戦車。二種のスキルを操るビルド。

蒼い炎を纏い、竜の力を制するクローズ。

二人の仮面ライダーがそれぞれの持つ力と共に、このローマの地に姿を現した。

 

ローグ「来たか…!」

 

赤剣の少女「おお!加勢か!よいぞ、余と轡を並べて戦うことを許そう!至上の光栄に浴すが良い!」

 

サーヴァント「うおおおお!!!」

 

マシュ「はあっ!」

 

相手の攻撃をマシュが盾で防ぎ、その頭上から赤剣の少女がサーヴァントに向かって剣を振り下ろす。

 

ローグ「ふん!」

 

ローグが隙のできたマシュ達に銃弾を撃ち込む。

それをビルドがドリルクラッシャーで弾いて防ぐ。

 

クローズ「お前の相手は俺達だ!」

 

ビルド「万丈!お前の武器だ!」

 

クローズが受け取ったその剣はビートクローザー。剣身にメーターがついた、戦兎が新たに開発したクローズ専用武器だ。

 

クローズ「おう!…オラ!」

 

ローグ「くっ…ふっ!」

 

クローズは初めて振るうその剣を、見事に扱っている。

それもそのはずだ。ビートクローザーには、オルレアンや戦闘訓練などの今まで万丈が使っていたドリルクラッシャーのデータが反映されている。

ドリルクラッシャーとビートクローザーが生み出す剣戟の連携攻撃は、ナイトローグを追い詰めつつあった。

 

サーヴァント「あ、あ…我が愛しき…妹の子…。なぜ、捧げぬ。なぜ、捧げられぬ。美しい…我が…我が…我が…」

 

ローグ「仕方ない…」

 

赤剣の少女「消えた…?叔父上…」

 

ロマン「霊体化して撤退したようだ。見たところバーサーカーみたいだったけど…」

 

赤剣の少女「さて」

 

赤剣の少女が振り返る。

値踏みするように碧い目で戦兎達を見つめた。

 

赤剣の少女「加勢、感謝するぞ。改めて褒めてつかわす!…氏素性を尋ねる前に、余からだ。余こそ—ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスである!」

 

————————————

 

首都ローマ。

賑やかな喧騒が街を包み、人々の顔には笑顔が溢れている。

 

戦兎「活気付いてるなぁ」

 

ネロ「そうであろう、そうであろう!それ、マシュに戦兎に龍我。リンゴはどうだ?」

 

万丈「お、サンキュー」

 

戦兎「がっつくなバカ」

 

街の様子を見終えた後、戦兎達はネロの館へと招かれた。

そこでネロはローマの現状を伝える。

連合ローマ帝国——突如として現れた「皇帝」を名乗る複数の者たちの手によって、本来のローマの半分を奪わていたのだった。

その「皇帝」を名乗る敵将のなかには先程のバーサーカー、ネロの伯父でもあるカリギュラの姿もあった。

 

ロマン「なるほど…その連合ローマ帝国が特異点の原因…敵将の誰かが聖杯を所持しているとみて間違いないだろう」

 

ネロ「悔しくはあるが…最早余一人の手では事態の突破は難しい。故に頼もう!余の客将となるがよい!ならば聖杯とやらを入手するその目的、余とローマは後援しよう!」

 

戦兎「願っても無い申し出です。ありがたく、協力させていただきます」

 

満足そうにネロがうなづく。

 

ネロ「うむ、決まりだな!では寝床を用意するから今夜はゆっくりと…」

 

そこへ甲冑を着た兵士が飛び込むように部屋へ押し入ってきた。

 

兵士「お、恐れながら申し上げます!首都外壁の東門前にて連合隊が襲来!強力な兵士がおり…我々では抑えきれず!」

 

ロマン「強力な兵士…サーヴァントか!?」

 

ネロ「むぅ…仕方あるまい。3人とも、出向いてくれ。今一度その力を余に見せるがよい!」

 

マシュ「先輩!万丈さん!」

 

戦兎「ああ!」

 

万丈「よっしゃ!」

 

 

戦場では既にたくさんのローマ兵士が倒れていた。

そして嵐のごとく暴れ回り、兵士を拳ひとつで薙ぎ払う男がひとり。

 

ロマン「…あれ?」

 

深緑のモッズコートに身を包んだ男がこちらに振り向く。

 

???「やっと骨のありそうな奴が出てきたな…」

 

ロマン「戦兎君!その男…()()()()()()()()()()()!」

 

戦兎「!?」

 

振り返った男の腰には——–青いベルトが巻かれていた。

ただのベルトではない。スパナのようなものがついており、不自然に真ん中にスペースがある。

 

「ロボットゼリー」

 

男がボトルのようなものを差し込んだ。

けたたましい待機音が鳴り響く。

 

???「変身」

 

男がスパナに手を下ろしたかと思うと、ボトルのようなものが潰され、男の身体が黒い液体に包まれる。

 

「潰れる!流れる!溢れ出る!ロボットイングリス!ブラァ!」

 

マシュ「変身…した…」

 

万丈「マジかよ…」

 

黄金のボディが際立たせる黒い頭部。その奥の赤い複眼に、全てを焼き尽くすような熱い炎が燃えている。

 

 

グリス「仮面ライダーグリス、見参」

 

 



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黄金のソルジャー

平ジェネforever、観てきました


グリス「仮面ライダーグリス、見参」

 

ロマン「ええぇ!?」

 

戦兎「仮面ライダー…グリス…」

 

グリス「心の火…心火だ。心火を燃やしてぶっ潰す!」

 

拳を胸の前で握りしめたグリスと名乗る金色のライダーは、吼えるように声を上げながら戦兎達に迫る。

 

戦兎&万丈「「変身!」」

 

「鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!」

「Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!」

 

咄嗟にベルトを構え、変身する。マシュも臨戦態勢へ入った。

グリスは大きく振りかぶって殴りかかる。

マシュが助走をつけてそれを盾で防ぐが、衝撃でマシュは後ろへ吹き飛ばされた。

 

マシュ「パンチひとつでこんなに…」

 

クローズ「はぁぁ!」

 

ビルド「はっ!」

 

グリス「ふん!」

 

クローズ、ビルドがナイトローグを追い詰めた連携をみせる。しかし、グリスはその全てをかわしながら一瞬攻撃の手が緩んだ瞬間を狙って、クローズの腹部に強烈な一撃を打ち込んだ。

 

クローズ「ぐわぁっ!」

 

クローズさえもマシュのように殴り飛ばされる。

その拳はなんら鈍器と変わらない。ひとつひとつが致命傷に至る。

 

ビルド「くっ…これならどうだ!」

 

「忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!イエーイ!」

「分身の術!」

 

ビルドはニンニンコミックにビルドアップする。

それと同時に、4コマ忍法刀のトリガーを引いて分身体を出現させた。

分身体がそれぞれ分散し、四方から黄色い剣を振り降ろす。

しかしそのほとんどはかする程度で、大きなダメージにはなっていない。

 

「ツインブレイカー!」

「シングル!シングルブレイク!」

 

グリスは片手の青い武器に、自身の持っていたロボットボトルを装填する。

すると武器のパイルの部分にエネルギーが集中、高速回転し小さな竜巻を作り出す。竜巻は地面を削りながら分身体に襲いかかった。その衝撃で分身体は消滅し、ビルドの本体にも深いダメージを与える。

 

ビルド「くっ…」

 

クローズ「なんてやつだ…」

 

グリス「なんだ…思ったより大したことねえな」

 

ビルド「まだだ…!」

 

ビルドが二つのボトルを取り出す。

 

「海賊!電車!ベストマッチ!」

「定刻の反逆者!海賊レッシャー!」

 

海賊と電車。オルレアンで回収したボトルによって見つかった、新たなベストマッチフォームだ。

髑髏と電車の線路を模した複眼。小さなコートがついた右手には弓型の武器、カイゾクハッシャーが握られている。

 

ビルド「ふん!はぁっ!」

 

カイゾクハッシャーを斧のように振るうビルドの攻撃を避け切り、後退するグリス。そのグリスの身体を、ビルドの右肩に備えられた砲門のひとつから発射された銛のワイヤーが巻きつく。

 

ビルド「捕らえた!」

 

「各駅電車!急行電車!快速電車!」

 

グリスの動きを止めている間に、カイゾクハッシャーの弓を引き、エネルギーを溜める。

 

グリス「ぐ…うおおおお!!」

 

「海賊列車!発車!」

 

グリス「うおらっ!」

 

ビルド「引きちぎりやがった!」

 

ワイヤーを力ずくで引きちぎり、咄嗟に空中へと逃れる。

 

クローズ「まだだ!」

 

しかしそれを予知していたかのように、跳んだ先にはクローズが先回りしていた。

ピンチを切り抜けたことによる一瞬の油断をついた攻撃がグリスを地上へ叩き落とした。

 

グリス「やるじゃねえか…!」

 

すぐに体勢を立て直し、グリスはビルドに一直線に走りだす。

 

マシュ「通しません!」

 

グリス「邪魔だぁっ!」

 

マシュが立ち塞がるが、またもやパンチで大きく後方へ吹き飛ばされた。

 

「ボルテックフィニッシュ!」

「ドラゴニックフィニッシュ!」

 

ビルドとクローズが必殺技の構えに入る。

この一撃で決めなければ勝機は薄い。長期戦で仕掛けられるような相手ではないと二人はこれまでの戦いで悟っていた。

 

グリス「いいぜ…」

 

「スクラップフィニッシュ!」

 

ドライバーのレンチに手を下ろし、ボトルのようなものを再び潰す。

グリスの肩と背中からゼリーが噴き出し、ロケットのように加速させる。

これがグリスの必殺技、ライダーキックである。

 

ビルド・クローズ・グリス「「「うおおおおおお!!」」」

 

ドラゴンのオーラを纏ったクローズ、出現させた線路の上を滑走しながらエネルギーを溜めたカイゾクハッシャーをぶつけるビルド。

3人の必殺技がぶつかり合い、巨大なエネルギーの爆発が起きる。

爆発の煙が晴れ、そこに立っていたのは———

 

グリス「やっぱり…大したことなかったな」

 

グリスただ一人だった。

 

ロマン「おいおい嘘だろ…」

 

戦兎「くっ…」

 

戦兎と万丈は多大なダメージを負ったことによって既に変身が解除されていた。

地面に叩きつけられた身体はあちこちが痛み、立ち上がることすらままならない。

 

グリス「そろそろ終わりにするか…」

 

マシュ「先輩!」

 

グリスがその言葉通り戦兎に手をかけようとしたその時。

 

「そこまでだ!」

 

赤剣の少女——皇帝ネロが援軍を抱えグリスに向かって剣を指していた。

その傍らには、赤髪の女性と筋骨隆々な男が立っている。

 

ロマン「両者ともサーヴァント反応がある!味方っぽいけど…」

 

グリス「なんだお前ら?」

 

グリスが毅然と立つネロに警戒を向ける。

 

ネロ「余はネロ・クラウディウス。このローマの皇帝である」

 

グリス「親玉がそうそうに出てくれたってわけか…」

 

ネロ「貴様の軍を見よ!」

 

グリス「…?」

 

グリスが後ろを振り返る。自分の引き連れた軍員は、全員が怯えるような表情を浮かべていた。

 

ネロ「貴様はただの人に比べあまりに強すぎる。嵐のように暴れ回る様は味方の士気を上げるどころか巻き添えを喰らわぬよう後ろへ避けるほどだ」

 

グリス「……」

 

ネロ「余と、余の援軍。弱った貴様の軍では、貴様も無事ではすまないだろう。痛み分けだ。ここで退くなら余も追うまい」

 

グリス「…また会おう、仮面ライダービルド、クローズ」

 

その言葉通り、軍を引き連れグリスは去っていった。

 

戦兎「ぐ…」

 

万丈「くそ!」

 

ネロ「ひとまず戻ろう。3人を治療するのだ!」

 

マシュ「何も…出来なかった…」

 

————————

 

治療を終え、ようやく歩ける程度にまで回復した3人はネロの元へ集まっていた。

 

ネロ「まずは謝らせて欲しい。3人で向かえば十分であろうと甘く見ていた余の失態だ。許せ」

 

???「まったく、たまたま私たちがガリアでの戦いを終えて帰ってきたときだったからいいものを…しっかりしてよね、ネロ・クラウディウス皇帝陛下」

 

皮肉交じりに声をかけてきた赤髪の女性。戦兎達を助けにきたとき、ネロと一緒にいたサーヴァントだ。その隣には同じように加勢にきていたあの筋肉男もいる。

 

戦兎「…?」

 

ブーディカ「ああ、ごめんね。私はブーディカ。で、こっちのでっかいのがスパルタクス」

 

スパルタクス「戦場に招かれた勇猛な闘士よ。圧政者の集う巨大な悪逆が迫っている。叛逆の時だ。共に戦おう」

 

戦兎(な、何言ってるか全然分からない…)

 

万丈「すげえ筋肉だ!」

 

マシュ「私はマシュ・キリエライトです。そしてこちらが桐生戦兎、万丈龍我」

 

フォウ「フォーウ!」

 

マシュ「あぁ、そうですね。こちらがフォウさんです」

 

ブーディカ「ふふ、よろしくね」

 

スパルタクス「圧政者たちの叫びは我が愛の前に無力。共に歌おう、勝利のときを」

 

万丈「おう!よろしくな!」

 

戦兎(あいつスパルタクスの言ってることが分かるのか…?筋肉同士通じるものがある、とか?)

 

ネロ「痛み分けか…そうは言ったが奴らはほとんど傷つかず、こちらは幾人かの兵士を犠牲にした。とても言葉通りではないだろう。奴が戦に関しては素人であることが幸いしたか。…それにしてもあやつ…戦兎と同じような力を使っておったな。何か心当たりはあるのか?」

 

戦兎「いや、分かりません。ライダーシステムを使っているのは確かなんですが…」

 

ネロ「そうか…まあよい」

 

マシュ「……」

 

ブーディカ「……」

 

沈黙が流れる。

戦場の最前線であるガリアで連合国相手に勝利した。その喜ぶべき事実があるにも関わらず、突如現れた謎の男に戦兎たち3人がまとめて圧倒されたというもうひとつの事実が、重くのしかかった。

 

スパルタクス「ふはははははは!」

 

スパルタクスが突然笑う。いや、常に微笑みを浮かべてはいるのだがここまで大きく声を上げて笑うことは戦場以外では珍しい。

 

スパルタクス「これはいい、これは素晴らしい。新たな圧政者は嵐の如き苛烈な猛者。これでこそ、勝利したときの凱歌はさぞや叫び甲斐のあることだろう」

 

相変わらず何を言っているのか戦兎には理解できないが、何を伝えたいかはなんとなくだが伝わってきた。

例え絶望的な状況だろうと、必ず希望はある。

スパルタクスは様々な苦痛の先にある勝利を信じていた。

 

ネロ「…うむ。分からぬことをいつまでも考えていても仕方ない。ひとまずガリアにて勝利を収めたことを祝おう。宴会の準備だ!」

 

ネロがそう言うと、従者が沢山の料理や酒を手に室間へ入ってきた。

万丈ががっつき、それを戦兎がツッコんでマシュが笑う。

いつも通りの光景がそこにはあった。

 

————————

 

ネロ「出陣だ!」

 

万丈「いきなりだな…」

 

ネロ「先程兵士たちが知らせを持ってきてな。余が送った特別遠征軍の凱旋を阻む連合国側の大軍隊が現れたという。まだ日も昇ったばかりであるというのに…戦兎達のいない間が悪いときではあるが、至急応援に向かうぞ!」

 

戦兎、マシュ、ブーディカの3人は霊脈を確保するため、ロマンの案内で早朝からエトナ火山へ向かっていた。

万丈が残ったのは留守中にナイトローグが現れた場合を考えてのことだ。ほぼ初見であるローマ兵士や味方のサーヴァントよりも、ある程度奴らの手の内が読める万丈が残るという戦兎の考えだった。ブーディカが戦兎たちについていったのも、敵がナイトローグ、という点をローマ連合側の兵士、という点に変えれば同じ理由だ。

 

万丈「よし、いくぞ!」

 

 

戦場は既に大乱れだった。

真っ先に戦場へ向かっていったスパルタクスと別れ、ネロとクローズへ変身した万丈は、群がりつく連合国ローマ兵士の大軍を掻き分け味方の隊の指揮官の元まで辿り着いた。

 

ネロ「よくぞ無事だった荊軻よ!」

 

荊軻と呼ばれた白装束を纏う美女は、ナイフを片手にこちらの様子を見た。

 

荊軻「ああ、援軍か。そちらの君は新しい客将か?」

 

クローズ「おう。仮面ライダークローズ、万丈龍我だ」

 

荊軻「私は荊軻。アサシンのサーヴァント…といえば分かるだろうか?今は君と同じネロ・クラウディウスの客将だ」

 

クローズと荊軻は軽い自己紹介を済ませ、すぐさま戦闘態勢へ戻る。

 

ネロ「うむ!ではこやつらを片付けて余のローマへ帰るぞ!」

 

ネロが剣を頭上高く掲げたその時、兵士たちがネロに応えようと自らを鼓舞するためにあげる声とは明らかに異なる、獣がごとき唸りが聞こえた。

 

「オオオオオオオォォォ!」

 

バーサーカー、ネロの伯父でもあるカリギュラが咆哮とともに、ネロのもとへ一直線に飛び込んできたのだ。

とてつもない脚力により弾丸のように飛んできたカリギュラに、ネロは行動が一瞬遅れ回避が中途半端になり、右肩に深い傷を負ってしまう。

 

ネロ「ぐっ…伯父上!」

 

カリギュラ「…捧げよその体、その命!貴様を…蹂躙してやる、余の手、余の足、余の全身で!おまえを…我が愛しき妹の子…ネロォォォォォォオオ!!」

 

クローズ「なんだ?前よりやばくなってないか?」

 

ネロ「………」

 

剣を強く握りしめる。

もはや覚悟を決めるしか道はない。

 

ネロ「貴様は…もはや我が伯父上ではない!貴様がこれ以上民を殺し、ローマを荒らすのならば…余が姪として、正しき皇帝として引導を渡してくれる!」

 

カリギュラが吠え、ネロの赤剣とぶつかる。

クローズがそのサポートに入ろうとした時だった。

 

「よう、案外早かったな」

 

クローズ「!」

 

黄金の兵士が、そこにはいた。

 

グリス「早速祭りといこうか!」

 

クローズ「くそ!やってやる!」

 

—————

 

ようやく山頂付近までたどり着いた戦兎の通信機が通知音を鳴らす。

 

ロマン「戦兎くん、万丈君の方にグリスが現れた!」

 

戦兎「なんだって…よし、急ごう!」

 

???「そうはさせまい。一体私がどれほど待ったと思っている」

 

ロマン「せ、戦兎君の近くにも反応が!いきなり現れたな…スタークか!?」

 

スターク「おおう、当たりだ。久しぶりだな戦兎ォ」

 

???「それだけではないがな」

 

スタークの隣に立つ深紅の男、なんだかやたらとふくよかなサーヴァントがいた。

スタークと並び立っているということは、戦兎の敵であろうか。

 

ブーディカ「間違いない。ガリアの戦場で一度だけ見たよ。あいつが連合国側のサーヴァントの一人だ」

 

戦兎「こんなところで…!」

 

スターク「お前たちがここに来るのはわかっていた。途中で逃げられちゃあかなわないからな。軍勢は連れてこられなかったが、セイバー一人の反応を消すことなら簡単だ」

 

戦兎(敵の斥候部隊とぶつかる程度のことはあると思ってたが…スタークのジャミング能力を考えられてなかった!俺の失敗だ!)

 

セイバー「それではいくとしよう。黄金剣もたまには振るってやらねばな!」

 

戦兎「悪いけど急いでるんだ…さっさと通らせてもらうぞ!変身!」

 

 



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皇帝カリギュラの狂気

新年明けましておめでとうございます。

先日予約していたcsm Vバックルが届きました。
人生初のCSMだったんですが…完成度がすごい!何万も払った価値があるというものです。
年に一回、こういう高い買い物があってもいいかもしれませんね。


カリギュラ「ネロォォォォォ!!」

 

ネロ「ぐっ…いささか不味いな」

 

カリギュラのやむことのない猛攻にネロは苦しまされていた。

右肩を負傷したため力が入らず、思ったように動けない。

 

荊軻「そこだ!」

 

荊軻のナイフがカリギュラの頬をかすめる。

 

カリギュラ「ォォオオオ!」

 

荊軻「ぐっ…がぁっ!?」

 

カリギュラの拳を受け止めるが、その膂力に荊軻は耐え切れず、力負けしてしまう。

大きな筋力ステータスの差の前に倒れた荊軻に、カリギュラの容赦ない一撃が迫る。

 

ネロ「はっ!」

 

割って入ったネロの一閃がカリギュラの拳を斬り、血しぶきが上がった。

その間に体勢を整えた荊軻が、好機とみてナイフを突きつけながら突進する。

しかし斬られた痛みなど全く感じないかのように、カリギュラは血まみれの拳を荊軻に叩きつけ突進の勢いを殺した。

 

荊軻「がはっ…!」

 

みぞおちに強烈な打撃を受けた荊軻は痛みに何とか耐えながらバックステップし、ナイフを投げつけた。ナイフはカリギュラの傷ついた拳を貫き、血塗られた手をより一層どす黒い紅で染め上げる。

カリギュラが再び咆哮をあげる。

その様子に、荊軻は少し呆れ気味に笑みを浮かべた。

 

ネロ「むぅ…」

 

荊軻「まさしくバーサーカー、だな。さて…」

 

 

グリス「あっちは盛り上がってるな。こっちも負けてられねぇなぁっ!」

 

クローズ「ちっ…馬鹿力が!」

 

一方少し離れた場所でクローズとグリスがお互いの力をぶつけ合っていた。

その勢いに、巻き込まれることを恐れた兵士たちが距離を取り、戦場にはぽっかりと闘技場のような空間が生み出された。

戦いの中で、グリスは小さな違和感を感じる。

 

グリス(なんだこいつ…昨日より少しだが、確実に強くなっている…ビルドとの訓練?戦いの中での成長?いや、どちらにせよこの成長速度は…)

 

クローズ「油断してんじゃねえ!」

 

「ヒッパレー!」「スマッシュヒット!」

 

グリス「まずい!」

 

刀身に蒼い炎を纏ったビートクローザーがグリスの黄金のボディに傷をつける。

火花を散らした身体を手で抑えながら後方へよろける。

 

グリス(規格外だ…!)

 

クローズ「よっしゃー!やっと一発!」

 

グリス「はぁ…調子乗ってんじゃねえぞコラ」

 

グリスはだらりと下げた片腕に、一瞬でビルドの分身体を消し去った武器、ツインブレイカーを構えた。

クローズもビートクローザーを両手でしっかりと握りなおした。

固い装甲覆われた肌に、汗が流れた。

 

グリス「ここからが本当の祭りだ!」

 

————————

 

ビルド「はぁ!ふん!」

 

海賊と電車の力を操るビルドの攻撃をスタークは苦も無く躱し、的確に攻撃を与えていく。

ビルドは完全にスタークに翻弄されていた。

 

ビルド(攻撃を完全に読まれてるな…だったら…)

 

「天空の暴れん坊!ホークガトリング!イエーイ!」

 

「10!」「20!」「30!」「40!」「50!」「60!」

 

60もの鷹が空を舞う。そのすべてが一斉にスタークに襲い掛かった。

スタークはいくらかを撃ち落とすが、全て消すことはかなわず残ったエネルギー弾を全身に浴びた。

 

スターク「フッフッフッフ…確かに攻撃の手が読めたところでよけれなければ意味はないな」

 

しかしスタークはまだまだ余裕のある態度を見せる。

 

「70!」「80!」「90!」「100!フルバレット!」

 

スターク「そう何度も同じ手が効くかよ!」

 

スタークが巨大な蛇を顕現させる。蛇はあっというまに鷹を飲み込み、ビルドの必殺技を無効化してしまった。

ビルドにはスタークのマスクの下の醜悪な笑顔が容易に想像できた。

 

 

黄金の剣がブーディカに向かって振り下ろされる。

ブーディカは片手で構えた盾でそれを弾き、己の剣を深紅の男に振るった。

しかしセイバーは身体を捻り、斬撃がわずかに当たらない位置へ移動する。

空を切ったブーディカの剣は主の身体を無防備な状態へと晒す。

 

マシュ「させません!」

 

マシュが振りかぶった盾を思い切り薙ぎ払い、剣を巻き込みながらセイバーの身体を弾き飛ばした。

セイバーはその太い身体からは想像もできない俊敏な動きで体勢を整える。

はぁ、とため息を漏らすセイバー。その顔には憂鬱そうな表情が浮かんでいた。

 

セイバー「ふうむ。こんなものか。本来は名将たる私ではあるが黄金剣にこうも対抗できるとは…だが私も聖杯を欲する身でな。貴様らにくれてやるつもりはない。いい加減本気を出そう」

 

ブーディカ「本気だって!?」

 

信じられない、と驚愕の表情を浮かべるブーディカとマシュ。

そう。彼は二人を追い詰めるほどの強烈な剣戟を見せておいて今まで本気ではなかったのだ。いうなれば、ただの肩慣らし。

 

セイバー「ゆくぞ。我が名はガイウス・ユリウス・カエサル。貴様らが将、ネロ・クラウディウスを破り、聖杯を手にするものだ」

 

————————

 

ちょうど同刻、ネロには勝機が見えてきていた。

カリギュラの動きが明らかに鈍ってきている。ついには、その場でうずくまるようになった。

 

荊軻「私の暗器に仕込んだ毒がようやく回ってきたようだな。霊基が少し弄られていたせいか効果が現れるのが遅れたみたいだったが…これで終わりだ」

 

虫の息となったカリギュラにとどめを刺そうと逆手でナイフを構える。

 

カリギュラ「余の…」

 

ネロ「…?」

 

カリギュラ「余の振る舞いは…運命である!」

 

ネロ「…まだ立ち上がるか!」

 

ネロが驚嘆する。カリギュラのおぞましさすら感じさせる、激しい執念、狂気に。

背筋が凍る感覚がネロに走る。

————恐怖している?この余が?

頭を振ってあり得ない感情を必死に払い落とす。

相手は毒に侵された死に体。こちらが敗北する道理などない。そう自分に言い聞かせる。

だがこびりついた「恐れ」は、そう簡単に剥がすことはできない。

一歩、一歩と近づく恐怖。先ほどのような烈しい動きではなく、漫然と、蝕むように。

 

「そこまでだ」

 

その時、先の戦場でカリギュラとともに軍を連れていたコウモリ男——ナイトローグが姿を現した。

 

ナイトローグ「撤退だ」

 

こちらなど気にする様子も見せず、スチームガンから発せられた煙に紛れ蜃気楼のように二人の男が消えていった。

 

荊軻「ちっ…取り逃がしたか」

 

 

クローズ「うおおお!」

 

グリス「まだまだぁ!」

 

ツインブレイカーを使うグリスに翻弄されつつも、クローズは持ち前の根性で食らいつく。

 

「シングル!シングルブレイク!」

 

「ヒッパレー!」「スマッシュヒット!」

 

お互いの武器を使った必殺技がぶつかり合う。

その衝撃波に、十分に距離をとったと思っている兵士たちが巻き込まれる。

爆発の後、立っていたのは。

 

やはり、グリスだった。

 

グリス「前よりはましだったぜ。だが、今度こそ終わりだ」

 

変身を強制解除された万丈の息の根を今度こそ止めようと、金色の兵士はドライバーに手をかける。

 

「スクラップフィニッシュ!」

 

必殺のキックが万丈の身体すら残さず葬り去ろうとした瞬間。

 

スパルタクス「雄々々々々々々々!!」

 

間に走りこんだスパルタクスが全身でキックを受け止めたのだ。

激しく火花が散る。やがてグリスは推進力を失い、足をつかんだスパルタクスがその体を放り投げた。

キックを受け止め切ったスパルタクスは何事もなかったかのように微笑みを浮かべている。

 

グリス「なんてやろ…っ!」

 

つぶやく暇もなく、突然の直感がグリスの身体を前へと飛び込ませた。

 

「■■■ ■■■■■■■■!」

 

大きな叫び声とともに巨大な槍がさっきまでグリスの立っていた場所に落とされる。朱槍は地面に巨大な穴をあけていた。

 

クローズ「バーサーカー…ネロの言ってた呂布か!」

 

グリス「バーサーカーが2体もか。…これでいい。これでこそ俺が満たされる!」

 

ナイトローグ「待て」

 

興奮した様子を見せたグリス。しかし両者がぶつかる直前、そこへナイトローグが現れ、グリスに撤退を促した。

 

グリス「チッ…」

 

舌打ちをするも、特に反抗せずグリスはヘリコプターボトルをドライバーに挿して、その能力で逃走していった。

支えを失った連合国軍は流れるように瓦解していき、ひとまずの勝利を収めたのだった。

 

—————

 

セイバー「私は見た!私は来た!ならば次は勝つだけのこと!

黄の死(クロケア・モース)』!」

 

セイバーの黄金剣が光に包まれ、いくつもの斬撃を生みブーディカを襲った。

黄の死————自動的に初撃が命中し、成功した幸運判定の数だけ相手に追加攻撃を与えることのできる強烈なセイバーの宝具。抜いたが最後、金色の斬撃が敵を死に追いやる。

 

ロマン「反応が弱くなってきている…それ以上は危険だ!」

 

なんとか耐えきったブーディカだが、思うように体を動かすことができない。

 

マシュ「っ…!はぁぁぁぁ!」

 

マシュの突進をゆうによけ、セイバーが再び宝具を発動させようと剣を構える。

 

マシュ「しまっ…」

 

セイバー「『黄の死(クロケア・モース)』!」

 

黄金剣がマシュの身体を引き裂こうと迫りくる、その時。

 

ブーディカ「『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』!」

 

二頭立ての戦車、ブーディカの宝具がマシュを猛撃から守った。

無数に現れたブリタニア守護の象徴は、マシュを庇うようにセイバーの前に立ちはだかる。

 

ブーディカ「はぁぁぁぁ!」

 

剣と剣がぶつかり合う。

ブーディカは瀕死の状態だ。しかし、その目は未だ炎を燃やしている。

 

セイバー「こうも食らいつくとはな。それほどまでにその少女を守る理由があるのか?」

 

ブーディカ「ある」

 

一切の言い淀みもなく、ブーディカは即答する。

 

ブーディカ「人理のため…それも理由の一つだけど。かつてのブリタニアの女王として、彼女を守る。それが私の役割、私の力の意味だから!」

 

セイバー「そうか……ならば私の剣の前に散るしかなかろう」

 

セイバーの黄金剣が再び光を放つ。

ブーディカはなお逃避の素振りすら見せず。

 

マシュ「ブーディカさん!待って…」

 

マシュが止めようとするが、彼女を取り囲むチャリオットが邪魔をする。

 

ブーディカ「忘れないで、マシュ。君の力は守る力。人理を、君のマスターを」

 

セイバー「『黄の死(クロケア・モース)』!」

 

ブーディカ「女神アンドラスタよ…加護を!」

 

マシュ「ブーディカさん!」

 

黄金剣は自動的にブーディカの方へ吸い寄せられる。

ブーディカは正面からそれを受け止めた。

 

ブーディカ「ぐ…ううううう!!!

約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)』!」

 

ブーディカの剣に巨大な魔力が纏いつく。

 

セイバー「なに!?」

 

ブーディカ「ここまで近ければよけられる心配もない!はあぁぁぁ!!」

 

かの騎士王の聖剣と同じ、勝利の名を冠するブーディカ第二の宝具。

だがその勝利は約束されるわけではない、完全ならざる願いの剣。

しかし————だからこそ。

 

剣から発射された複数の魔力塊はセイバーを撃ち抜き、ブーディカの身体とともに消滅していった。

 

マシュ「そん、な…」

 

セイバー「ぐぅ…ここまでか」

 

多大なダメージを負ったセイバーの身体にも消滅が始まっていた。

 

セイバー「……女神の加護を受けたかつての女王よ。貴様の勇気そしてその強さ。実に…実に美しかったぞ。貴様もだ、そこのデミ・サーヴァント」

 

マシュ「…」

 

セイバー「私を討ち取った褒美だ。一つ教えてやろう。聖杯は我が連合帝国首都にて宮廷魔術師を務める男が所有している。名は……レフといったか」

 

ロマン「レフ・ライノールか!」

 

セイバー「さて、貴様らはその手に聖杯を勝ち取れるか。貴様らが皇帝は、あの御方を目にした時どんな顔をするのか。実に楽しみだ。……さあ進め。賽は投げられた」

 

不敵な笑みの後に、一瞬愁いを帯びた顔を浮かべると、セイバーの身体は完全に消滅した。

 

 

スターク「セイバーがやられたか。まあサーヴァント一体を削ったことでよしとしよう。……戦兎ォ! こいつはご褒美だ。使え」

 

スタークが6本のフルボトルを戦兎に投げつける。突如渡されたボトルに気を取られていると、スタークの姿はすでになかった。戦兎が変身を解く。

 

戦兎「確実に俺を倒せるチャンスだったのに…相変わらず何が目的なんだ…?」

 

————————

 

連合国ローマ首都、その城内。

赤い蝋燭の炎が、二人の顔を薄暗く照らす。

 

ナイトローグ「なぜあの場で撤退を促した」

 

レフ「決まっているだろう。奴にはまだ使い道がある。…最高のな」

 

不気味な笑みを浮かべたレフの目線の先に、全身を魔術で拘束されたカリギュラの姿があった。

 

————————

 

本来の目的である霊脈の確保を終え、ようやくの思いでネロの館までたどり着いた。

 

ネロ「そうか…ブーディカが…」

 

報告をすまし、夕食を終え休息をとっている時だった。

兵士が飛び込んできたのだ。

 

兵士「申し上げます!敵将カリギュラがこの首都ローマに接近中!敵影はひとつ!単騎と思われます!」

 

ネロ「なに!?たった一人だと!?」

 

荊軻「ともかく行くぞ。普通の兵士たちでは奴の相手はできん」

 

 

陽動の場合も考え、ネロ、戦兎、荊軻の3人のみでカリギュラを迎え撃つ。

治療を施したのかカリギュラの身体からは昼間の傷など見えなかった。

 

ネロ「ここで終わりだカリギュラよ!その首…余自らが討ち取ろう!」

 

ネロは気丈にふるまう。しかし、剣を握るその手は震えていた。

 

カリギュラ「ささ、げよ…」

 

鬼気迫るように叫ぶカリギュラ。もはやそこには、破壊と殺戮の意思以外何もない。

 

カリギュラ「捧げよその命、その魂…貴様の…全てをォ!!」

 

月光がカリギュラを不気味に照らす。

 

荊軻「!させるかっ…!」

 

カリギュラ「『我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)ァァァァ!!」

 

ロマン「宝具だ!下がって!」

 

月に吼える。

それに呼応するかのように、一層輝きを増した月の光が、カリギュラを止めようと飛び込んだ荊軻の身体を包み込んだ。

 

ネロ「荊軻!」

 

光の繭が解ける。荊軻は傷一つ負っていない。

 

ネロ「ぶ、無事だったか…」

 

荊軻「……」

 

ネロ「荊軻…?」

 

荊軻「がああああ!!!」

 

荊軻がナイフをネロに向け襲いかかった。

その目には、カリギュラと同じ、狂気の炎が灯っている。

 

ネロ「け、荊軻!どうしたというのだ!」

 

月の祝福——カリギュラの宝具は、荊軻の心を、霊基を、その狂気で黒く冒した。

 

 



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