【 あの子の話 】 (夜空 星月)
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プロローグ
第一話


真っ白な部屋の中、繋がれた鎖をジャラリと鳴らした。

 

 

ここに閉じ込められて、どれくらい経ったんだろう。

そんなことを考えながら、空腹を主張するように何度もなる腹に

気付かないふりをするため、震える手で本を取った。

 

 

義理の母である女王に美しいという理由で、妬み 嫌われていたお姫様。

そんなくだらない理由で国を追放され、殺されそうになった。

だけど、絶体絶命のピンチには絶対に王子様が現れるんだ。

 

それが定番、それが当たり前。 絵本の中の世界では。

 

 

 

ぐたり 体が床に倒れた。

気持ちが悪い…。吐きそうだ。

 

 

霞む景色の中、目の前で誰かが音もなくしゃがみこんだ気がした。

 

 

 

「生きたい?」

 

 

 

人の死をなんだと思ってるんだ、そう言いたくなってふと思う。

 

ああ、そっか。私、今 死にそうなんだ。

この部屋に閉じ込められて、随分経った。

その間に手首が細くなって、手錠がスカスカだ。

 

 

 

「ねぇ、もう一回聞くよ、生きたい?」

 

 

 

うるさいなぁ。

 

生きたいって言って生かしてくれるの?

ここにいるってことは、あなたもこの屋敷の住人のくせに

助けてくれるつもりなんて、ないくせに。

 

そう言おうとして、口を閉ざした。

もう 喋る気力もない。完全に閉ざした瞼の裏で 声がした。

 

 

 

「しょうがないなぁ」

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

目を覚ましたのは、真っ暗な世界だった。

 

立ってみるけど、自分が今立っているという実感がないような

歩いてみるけど、私が今歩いてるという感覚がないような、そんな世界。

 

 

 

「あ、目を覚ました?」

 

 

 

目の前にふわり 姿を現したのは、この世界とは

対照的な真っ白な人。

 

白い髪はサラサラとしていて、白いワイシャツに白いズボン。

覗く肌は折れてしまいそうなほどに細く、血の気がない。

でも瞳だけは金色だった。爛々と輝く金色。

 

 

 

「君、死んじゃったから連れてきたんだ」

 

 

 

死んじゃったらどこにも行けないだろう。

 

そう言いたかったけど、その前に一つ。

 

 

あ、私、死んだんだ。

 

 

 

「ここ、どこ?」

 

「ここは、死と生の狭間だよ。

僕の質問の途中で君が寝ちゃうから、連れてきたんだよ」

 

 

 

あっけらかんと言う男は訝しげな顔をしているだろう自分を見て

ケラケラと面白そうに笑ってる。そんなに面白いだろうか、私って。

 

死と生の狭間ってことは、私は今 現実世界では仮死状態なのだろうか。

…いや、でも さっき私のこと死んだって。…いや待て。その前に。

 

 

 

「あんたはだれ?」

 

「僕は…天使…かな?」

 

 

 

にっこり笑うと男はごそごそとポケットに手を突っ込むと

金色の輪っかを取り出した。それを頭の上に置くと“天使の輪”と呼ばれるそれができた。

 

肩をポンっと軽く叩けば、体をブルブル震わせた後 バサリと翼を出した。

 

 

 

「信じてくれた?」

 

「…まあ、ね」

 

「それでさっきの続き。

 

ねえ、君は生きたい?それともこのまま死にたい?」

 

 

 

その質問にさっきの疑問が頭によぎった。

 

 

 

「さっき死んじゃったから連れてきたって言ったけど、

死んじゃったなら私に“生きる”なんて選択肢ないはずじゃない」

 

「んー、まぁ確かに。君の“春日部 あずさ”として生きる選択肢はなくなった。

 

だけど、転生という選択肢が新たに増えた、とも考えられる。だろう?」

 

「転生?」

 

 

 

その言葉に にっこり 男…天使は笑った。

 

まるで よく聞いてくれた! とでも言うような満面の笑みで。

 

 

 

「そう!この世界にはあるルールが存在するんだ!

 

例えば 一つの世界で一つの命が失われた時、その世界に都合よく

新しい命が生まれる地は限らない。だから別の世界に新たな命を生まれさせる。

それがルールさ。

 

だけど、君が死んで 別の世界に新しく生まれるはずだった命が

何かの歪みでもっと別の世界に新しく生まれてしまったんだ。」

 

 

 

別の、世界…。つまりは パラレルワールド的な感じのやつだろうか。

 

難しくてよくわからないけれど、それはきっと大変なことなんだろう。

 

 

そして、この問いかけは…

 

 

 

「それって…拒否権がないんじゃないの」

 

「ご名答!僕は、生きたい?死にたい?なんて聞いたけど

実際君に拒否権なんてない。死にたいなんて言ったって、僕がダメーって言って

その世界に強制的に転生させるまでだよ。」

 

「…意地が悪い…天使様だね」

 

「フフ。ありがっとー!

 

てことで、準備はいい?」

 

 

 

そのしてやったり とした顔をじとりと睨んだ。

 

 

 

「準備もなにも、するものがないでしょ」

 

「いや、心の準備とか」

 

「あ、確かに」

 

「まぁ、ないならいいや。てことで、ドーン!」

 

 

 

 

感覚のなかった床がスッとなくなったような気がした。

 

下を向けば、空洞ができている。

…あれ、やだこれ。嘘これ。

 

 

 

 

「いってらっしゃーい!」

 

「ぁ、悪魔ァァァァ!!!」

 

「違うよ、天使だよ」

 

 

 

私はそのまま 落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「あ、まずい。忘れてた。

 

 

あずさちゃーん、言うの忘れてたけど 君には特別______

 

聞こえてないか。ま、あの子なら大丈夫だろうね」

 

 

 

ふぅ、と一息ついた男は、どこから現れたのか時計を見て

声を上げた。

 

 

 

「ドラマの再放送始まる!」

 

 

 

 

ピ、と押されたテレビに映った

 

 

 

【 あの子の話 】

 

 

 

さてはて、どんな物語なのでしょう。



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第二話

 

 

 

「まりちゃーん?まりちゃーん

父上、母上。まりちゃんまだ起きないの?」

 

 

 

蜂蜜色の髪をした可愛らしい女の子が、同じく蜂蜜色をした

女の子の顔を覗き込んでそう言った。

 

それに困ったように両親らしき2人が笑いながら女の子の頭を撫でた。

 

 

 

緋鞠(ひまり)はね、今 一生懸命に起きようと頑張ってるの。

急かしちゃダメよ。きっともうすぐ目を覚ましてくれるわ」

 

「そうだね。僕たちがゆっくり待っていてやらないと。

あまり急かしちゃ、緋鞠は拗ねてしまう。そういう子だからね」

 

 

 

その言葉に女の子はにっこりと笑顔を浮かべると、「うん!」

と元気よく頷き また緋鞠と呼ばれた女の子の顔を覗き込んだ。

 

 

 

「私、いつまでも待っててあげるからね。

だから、絶対、目を覚ましてね。まりちゃん」

 

 

 

頭を優しく優しく撫でる。

 

ああ、この 緋鞠 という女の子は愛されているんだな。

待たせてちゃ可哀想だ。この子も、この子の両親も。

 

 

 

「…この子が目を覚ましたら、立派なお姉ちゃんになるんだよ。

 

 

_______ミツバ。」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

この子の名前はミツバ。ミツバって言うんだ。

綺麗な名前。とても可愛らしくてすごく似合ってる。

 

ふと、ミツバちゃんと目があった気がした。

それはミツバちゃんも同じなようで、両親の着物の裾を

掴み軽く引っ張りながら私を指差した。

 

 

 

「見て!父上、母上!あそこ、あそこにまりちゃんがいたの!」

 

「緋鞠が?

…そうか。じゃあそろそろ戻ってきてくれるのかもしれないね。」

 

「もしかしたら、ただ単に迷子になっていただけかもしれませんよ。

この子、まだこんなに小さいんだもの。

…こんなに目が覚めないなんてことある、はずが…ない…」

 

 

 

目を潤ませながらそう言う母らしき人物は、私の方を見た。

けれど目が合っていないとわかる。私が瞳に映っていない。

 

 

 

「…緋鞠。そろそろ起きてちょうだい。あなたの弟が、もうすぐ、生まれるのよ」

 

 

 

私は自分の体を見た。緋鞠と呼ばれた女の子と全く同じ容姿。

 

 

そこで、はたと気付く。私が、緋鞠なんだ。

 

私が今日から 緋鞠として生きていこう。

 

 

 

布団の上で固く目を閉ざした女の子へ手を伸ばせば、引き寄せられるように

その体へと入って行った。暖かい、これが人の温もりというものだろうか。

 

そっと目を閉じれば どこからか声が聞こえた。

 

 

 

『わたしのかぞくをよろしくね。すぐうまれてくる、おとうとのことも。』

 

 

 

ああ、あなたが緋鞠ちゃんなんだね。

私をずっと待っていてくれたの。あなたがもうここにいられないから。

 

任せておいて。

正直、子供っぽくはできないかもしれないけど

私は私なりに、あなたの分まで思う存分 生きさせてもらうよ。

 

沖田緋鞠 として。

 



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第三話



沖田緋鞠 の容姿をご説明します


蜂蜜色の髪に赤い瞳。
顔は総悟寄りなので、見た目総子ちゃんです。
肌が夜兎と同じくらい白く、日光アレルギーです。


ミツバさんの年齢がはっきりとしてないので、
5歳差ということにしようと思います。

現時点だと、緋鞠ちゃんは3歳なので
ミツバさんは8歳歳です。





私が 沖田緋鞠 として目を覚ました日は私の誕生日だった。

 

3歳の誕生日を迎えるその日、目を覚まさない私を囲んで

息を吹きロウソクの炎を消す相手が眠っている誕生日会をしようと

していたところで、私は目を覚ました。

 

 

皆、驚いたように目を見開かせていたが

ポロポロと溢れるように涙を流し始め、私に泣きついて号泣していた。

 

 

 

「父さ、ん…母さん…」

 

 

 

久しぶりに声を出したからか、声がひどく掠れた。

 

でもそんな声すら愛おしいというように母は、ありがとう、ありがとう

と何度も繰り返して 笑っていた。父も静かに微笑みながら

よかった。と小さく呟き母の背を撫でていた。

 

 

 

「まりちゃん!今日はまりちゃんの誕生日よ。一緒にケーキ食べましょ!」

 

「……ぅん!」

 

 

 

目を腫らして、それでもケーキのことは忘れずに

真っ赤なリンゴのような色をした毒々しい色のケーキを見せた

ミツバ…姉さんを見て顔が無意識に引きつった。

 

その時にふと思った。

そういえば 銀魂 ってアニメにミツバって人出てたな。

凄い綺麗な容姿で、体が弱くて。沖田総悟の姉だったと思う。

 

 

 

「んん〜っ!絶妙な辛さね!ほら、まりちゃん。あーん」

 

 

 

とてつもなく辛いものが大好きだった気がする。

 

私の苗字も確かに沖田だし、私 やっぱり銀魂の世界に来ちゃったのかな

あんまり慌てずに、冷静にそう捉えることができた。

 

 

 

後から聞けば、私は2歳の誕生日を迎えた1ヶ月後に階段から落ちて

運悪く頭をぶつけてしまったらしい。しかも当たりどころの悪く、

いつ目がさめるかわからなかったようで。

 

うちは貧乏というわけではないらしいが、私と姉さん、

そしてこれから生まれてくるだろう弟のためのお金が必要。

そのため入院という形ができなかったらしい。両親は謝ってくれたが

むしろ私のせいでお金がなくなったりしたらと思うとゾッとする。

 

私のために誰かが不幸になるのかもしれないと考えると、

そうしてくれて逆に感謝してしまうほどだ。

 

 

 

「母さん、お腹随分大きいんだね。いつ産まれてくるの?」

 

「ふふ。そうね、…そろそろ生まれてくるんじゃないかしら。」

 

 

 

……そういえば、沖田総悟の誕生日って7月8日だった気がする。

今日が7月2日だから……あれ。産まれてくるの、もうそろそろじゃない?

 

 

 

「名前はもう決めてあるの?」

 

「それは秘密なんだって、まりちゃん」

 

 

 

両親の代わりに答えた姉さん。姉さんも気になっていたようで、

何度も聞いたらしいのだが、「秘密」と言って教えてくれないらしい。

 

でももう決めてあるのだろう。そしてその名前が 総悟 だ。

なんか私だけ知ってるって姉さんに申し訳ないな。

 

 

 

「ねえ、まりちゃん。弟くん、私に懐いてくれなかったらどうしよう」

 

「それだけは大丈夫。安心して、姉さん」

 

「そうかな?……あのね、まりちゃん。さっきから気になってたんだけど」

 

 

 

姉さんは話を唐突に切り替えて私の顔を覗き込んだ。

そしてジィーと見つめる。

 

 

 

「なんだかまりちゃん、寝ている間に大人っぽくなったね。

もっと昔は我儘とか言うし、結構泣き虫だったのに。成長したんだね〜」

 

「……」

 

 

 

よしよし。頭を撫でられた。

 

ホント、ごめんなさい。姉さん。



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第四話

 

 

 

時間の流れとは早いもので、7月8日が来てしまった。

 

でも1週間違いのようなものだし、流れが早いという

わけではないのかもしれないけど。

 

 

 

「ねぇね、まりちゃん。」

 

「なに?姉さん」

 

 

 

手に持っていたのか赤いあやとりだった。

それをこちらに見せてニコリと笑った。

 

 

 

「一緒に遊ぼう!きっとお母さん、まだかかると思うから」

 

 

 

ボーとしていた私が暇そうに見えたのだろうか。

きっと気を使ってくれたんだろう。

 

優しげに細められる目を見て、心が温かくなった。

 

姉さんは指を動かして、しばらく経つと

私の目の前のスッと出した。

 

 

 

「これ、ホウキ」

 

「うわ…すごい!こんなあっという間に」

 

「えへへ。まりちゃんにも教えてあげる」

 

 

 

結構手伝ってもらったけれど、なんとかできたあやとりのホウキ。

それに感激して、姉さんの方へ手を持っていき見せた。

 

 

 

「上手上手!あやとりもっと練習すればもっと上手になるね!」

 

「うん!姉さん、他にも教えて」

 

「もちろん」

 

 

 

その他に ゴム や 指ぬき 橋、亀、飛行機。2人あやとり

なんかも教えてもらって。全て覚えられたわけじゃないけど

結構覚えることができた。

 

 

 

「実はね。まりちゃんが眠ってる間に、一緒に遊べるように

あやとり一杯覚えたの」

 

 

 

少し照れ臭そうに言う姉さんに、抱きついた。

 

 

 

「ありがと、姉さん。次は私と一緒に一杯覚えて

弟くんに教えてあげられるようにしよう!」

 

「…そうね。うん!」

 

 

 

そう言って顔を見合わせて笑った時、オギャーオギャーと

赤ちゃん特有の泣き声が聞こえた。

 

きょとんと顔を見合わせたまま、数秒

お母さんに付き添っていたお父さんは、体を震わせながら

分娩室から出てきた。

 

 

 

「生まれたよ。…お前たちの弟が。」

 

「ほ、ほんと?」

 

「入ってもいい?」

 

 

 

中に入れば涙を流しながら、赤ちゃんを抱く

お母さんの姿だった。

 

こちらに気づくと綺麗に微笑み、

 

 

 

「あなたたちの弟、

 

名前は 沖田総悟 よ。」

 

 

 

そう言って見せてきた。

 

さすがにまだ持てないから、と下で父さんが支えながら

2人で一緒に持った。

 

小さくて、潰れてしまいそう。

 

 

…あれ、なんでだろう…泣きそう…?

 

 

 

「どうかした?まりちゃん」

 

 

 

「……っ」

 

 

 

どうしよ、まるでコップから水が溢れ出すように、色んな感情が

湧き上がる。抑えようにもブレーキが効かなくて、涙が零れそうだ。

 

 

 

「ごめん、私ちょっとウンコ行ってくる!

父さん、落とさないように気をつけてね」

 

 

 

泣きそうなのがバレたくなかったから慌ててお父さんに返した。

軽く小走りで走った背後から「ウンコなんて下品な子と言うんじゃありません!」

という声が聞こえたけど、母さんも思いっきり大声で言ってるよね?

というのは無視したほうがいいんだろうか。

 

 

 

「…っぅ」

 

 

 

赤ちゃんを抱っこしたのは初めてだけど、赤ちゃんを見て泣きそうに

なったことなんて今まで一度もないなんでこんなに胸が締め付けられるんだろう。

 

ただただ、今は胸が苦しくて切ない。

 

 

 

「(…いや、本当はわかってる。)」

 

 

 

生まれたばかりの赤ちゃんを抱いて、命の尊さと自分の醜さを感じた。

さっきから前世の私が脳裏にちらついてしょうがないから。

 

 

 

母が一生懸命お腹を痛めて産んでくれたのに、

死にたいと強く願っていた私。

母の最初で最後の望みを自ら拒否した私。

 

 

 

こんな自分が大嫌いで仕方がなかった。

 

 

 

「どうかしたの?まりちゃん」

 

 

 

気がついたら体が暖かさに包まれていた。

 

ぽんぽん、と背中を優しく撫でながら

 

 

 

「なんで泣いてるのか、話してくれない?」

 

 

 

姉さんは優しい。

話してほしいけど無理には話さなくていい、っていう気持ちが

深く伝わってくる。でも、こんな理由…いくら姉さんでも

話せるわけない。今の幸せを壊したくない。

 

 

 

「そーごを、抱っこしたら、…ひっく。急に涙が

止まらなくなっちゃった…!」

 

 

 

私は身勝手だ。「拒絶されたくない」から話せない。

前世の醜い私を知られたくないから。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

反応を見せない姉さんに戸惑っていると遠くから総悟を抱いた

母さんと父さんが来た。

 

て、あれ。総悟がすっごく泣いてる。

 

 

 

「さっきから泣き止まないの。

 

緋鞠、おねーちゃんになるんだから、泣き止ませてくれない?」

 

 

「ええ!?なんで私!」

 

「下で支えてあげるから、持ってみな」

 

 

 

父さんに下で支えてもらっている中、そっと抱き上げれば

嘘のように泣いていたのがピタッと止まった。

 

 

 

「うふふ。やっぱりおねーちゃんのとこが一番安心するみたいね?」

 

「これからは総悟を守ってあげないとな。…姉として」

 

「ふふ。ええもちろん!」

 

 

「わかった。

 

 

私、守るよ」

 

 

 

 

私は、君を守る



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第五話

「そうちゃん、可愛いねぇ…。そう思わない?まりちゃん」

 

「ん?そうだね。まるで女の子みたい」

 

 

 

アニメや漫画で見た時から思ってたけど、やっぱり総悟は女顔だ。

まだ小さく赤ちゃんなのも理由だろうけど、色素の薄い茶色い髪に

白い肌。くりっとした瞳。このまま育ったら完全に女の子の出来上がりだ。

 

 

 

「あ、でも まりちゃんの赤ちゃんの頃も可愛かったよ?」

 

「あはは、ありがとう。でも姉さんの赤ちゃんの頃も可愛かったんだろうね」

 

「そうかなぁ。でもまりちゃんとそうちゃんには負けるよ」

 

 

 

にこっとまるで天使のような笑みを見せた姉さんは、優しく総悟の頰を突いた。

 

私はふと疑問に思ったことを聞いてみることにする。

 

 

 

「なんで姉さんは私や総悟のことをちゃん付けで呼ぶの?」

 

「あっ、…ごめんなさい。嫌だった?」

 

「ううん、嫌じゃない。寧ろ嬉しいよ。でも、どうしてかなぁって。」

 

 

 

一瞬曇った姉さんの顔は、みるみる明るくなって

さっきよりも可愛い女神のような笑みを浮かべて話した。

 

 

 

「私ね、まりちゃんが生まれる前から『私はこれからお姉ちゃんになるんだ』って

ずっと思ってたの。お姉ちゃんらしくしないとって。

 

その時に、まりちゃんを皆が緋鞠って呼ぶのを聞いて

お姉ちゃんだけの呼び方が欲しいなぁって思って、考え付いたのが『まりちゃん』

 

そうちゃんも同じ意味。まりちゃんだけちゃん付けはかわいそうでしょう?」

 

 

 

優しく笑ってそう言った姉さん。

まだ幼いその顔が数年後の大人になった時の姉さんの姿に重なって見えた。

可憐で綺麗な私の、私と総悟の姉さんは こんなに幼くても私と総悟の姉さんなんだ。

 

 

 

「そうだわ!まりちゃんもそうちゃんの自分だけの呼び方考えてみたら?きっと喜ぶよ!」

 

「私だけの呼び方…?」

 

 

 

私だけの呼び方、かぁ。

 

そー…そー………思いつかない。

 

 

 

「じゃあ無難にそうくんでいいや」

 

「えー、そんな適当に。」

 

「だって ずっと総悟って呼んでたから、あんまり思いつかないんだよ」

 

「……それもそっか」

 

 

 

少し笑って薄く生えた総悟…そうくんの髪を撫でた姉さん。

 

その表情は母にも姉にも見えて…、そして、姉さんとそうくんが遠くに見えた。

私はこの世界に元々存在しないはずの人間。異質なんだ。

 

 

何か、変わったりしないだろうか。いい意味でも、悪い意味でも。

私はずっと拒んでいたその現実を今受け止めた。

私はこの世界に存在してはいけない人間。

これ以上、この主要キャラクターやそれ以外に関わればなにかが

変わってしまう気がしてならないんだ。

ただでさえ、沖田姉弟の“いないはずの姉、妹”になってしまったんだ。

 

私って…この世界に生まれても良かったんだろうか。

 

私って…ここに存在していい存在なのだろうか。

 

 

 

 

「……ちゃ、………ま、ちゃ………まりちゃん!!」

 

「っっ!……なに?」

 

「大丈夫?顔が真っ青よ。…体調でも悪い?」

 

「だ、大丈夫」

 

「…無理しないで。」

 

「…うん」

 

「何かあったら、すぐ言うのよ?」

 

 

「……

 

 

うん」

 

 

 

 

 

 

ごめん、姉さん。

 

 

その約束は、守れる気がしないや。

 



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