私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ (はくびしん)
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エピソード1:折寺ウォーズ:風雲急を告げるは幼馴染と筋肉おじさん編
おでんの具だと何が好き?私は断然卵ですわ。大根も好きだけどね?選べってなったら卵なんだよね。所でおっさん誰やン?の巻


勢いでやった、後悔はしてない。あんまり。


「シンリンカムイだ!!」

 

不意にそんな声が聞こえてきた。

声につられて視線をあげれば、やたらとデカいトカゲ男と、手から木らしき物を生やしたタイツ男が見えた。

シンリンカムイとか言うのは職業ヒーローで、トカゲ男はきっと犯罪者なんだろうと予想。

 

この糞忙しい朝っぱらから駅前で暴れるのはマジで勘弁して欲しい所なので、どっちもさっさと去れと、割りと本気で思う。

 

 

そんな私は花も恥じらう女子中学生。

姓を緑谷、名を双虎(ふたこ)

何処にでもいる"個性"を持った、ナイスバデーでポニーテールな超弩級美少女である。

 

 

ぼやぁっと眺めていると近くいるおっさんが「おっ、嬢ちゃん随分と熱心に見てるな!」と声を掛けられた。

 

「は?いや、別に」

「隠すな隠すな!おれには分かるぜ!嬢ちゃんもヒーロー志望だろ!応援してるぜぇ!」

「はぁ」

 

勝手に納得するおっさんはどうでも良いが、ヒーロー志望というのは聞き捨てならない。心外過ぎる。

何故なら私はヒーローに憧れた事は欠片だってないのだから。

 

超人時代、きっと私みたいなのは少数派だろう。

大体の奴等が子供の時にヒーローの活躍する映像やらなんやらを見て憧れを抱く事だろう。

けれど私は違った。

初めて見たヒーローの姿は今もナンバーワンヒーローの・・・なんとかさんの救出映像だったが、見ててゾッとしたのを今も覚えている。

倒壊したビルに突っ込んでいくその行動に、私は狂気を感じて異常だと心底恐れた。だって普通は怖いものだろう。死ぬかも知れない所に突っ込むの。怪我したら痛い、これは真理だから。頭おかしいわってなるわ。

更に気になったのはそのヒーローが浮かべていた笑顔だ。これがまた気色悪かった。多分、ヒーローが笑顔でいることで周りに安心感を与えようとか、そんな感じなんだろうけど・・・・。それを差し引いても無理だわ。うん。

 

そんなヒーローに憧れないひねくれた子供を、気味悪がる事なく育ててくれた両親には感謝感激の雨霰だ。

年々デブっていく母の怠惰な所と、少ないお小遣い以外文句のつけようもない良い両親だと本当に思う。

よし、後で痩せるように母様の腹を揉んでやろう。父は・・・別にいいだろ。猫なで声で擦りつけばそれがご褒美だ。たとえそれが、ただでさえ少ない小遣いから金を出させる汚い手段だったとしても、だ。

 

 

そうこうしてる内にデカいチャンネーがトカゲ男に跳び蹴りを決め事件は終息した。

聞いた感じだと新人らしい。パイオツがワンダーランドになってるから人気でそう。

とか思ってたら、早速いかにもオタクらしき連中がパネェって言いながら写真とっていた。こわっ。

 

 

 

 

ベランのせいで電車が遅れました、という最終兵器な言い訳を搭載した私だったが、流石に3時限までサボったのは許されず放課後に反省文を山と書くことが決定。なんとか食い下がったが、十枚の反省文を書く事は確定されてしまい、腹いせに幼馴染の弁当を早弁してやった。旨かったとだけは言っておこう。

 

 

そんな事をすれば、ただでさえ切れた幼馴染は更におブチ切れなされて突っ掛かってくる訳なのだが、まぁ何も用事なくても突っ掛かってくる奴なので、それはそれと言うわけで。

 

「くらぁ!!糞ビッチ!!てめぇ、何俺の弁当食ってやがんだァァァ!!」

「そらきた」

 

振り返ればそこには我が幼馴染が額に血管を浮かび上がらせて凄い形相をしていた。

彼の名前は爆豪勝己。幼稚園児以来の腐れ縁を持った、ちょっとクレイジーな幼馴染である。

 

「腹いせがしたくて、御馳走でした」

「なんでそれが俺の弁当を食い散らかす理由になんだっていってんだよ!!ああん!?ぶっ殺すぞてめぇ!!」

「おっ?なんだやるか?おら、掛かってこいよ。久し振りに拳で語り合ってやろうじゃないか。ん?」

「死ねこらぁ!!」

 

爆発の個性を上手く使った高速の拳。

普通の人間なら当たるだろうが、こいつの癖を知ってる私から言わせれば蝿が止まるようなしょっぱい攻撃である。

 

私は母譲りの"引き寄せる"個性で拳の着弾位置をずらし、空振りしたそこを見計らいクロスカウンターを顔面へと放る。

拳を顔面で受け止めた幼馴染は机やら椅子を巻き込み教室の床に背中を叩きつけた。

 

「きゃぁ!」

「うわっ!大丈夫か爆豪!」

 

幼馴染を心配したクラスメートが集まる様子を見て、彼等があとはどうとでもするだろうと放置した。

それにしてもらしくないな。爆豪は死ぬほど短気だけど、人前ではこういった荒事で個性を使う事なんてないのに。学校内だからある程度目を瞑ってくれる所もあるけど、ヒーロー志望の爆豪が個性の無断使用でパクられない心配をしない筈がないのだし。

 

昼飯を買いに購買にいこうと教室のドアに手を掛けた所で「待てこらぁ!」と幼馴染からの再びのラブコールが掛かる。うんざりしながら見ると足をガクガク揺らしながらも立ち上がって此方を睨みつけてきていた。

 

あらやだ。

爆豪きゅん、めっさタフネス。

 

睨みつけてくる幼馴染に違和感を感じて眺めていると、眉間にしわを寄せながら忌々しげに口を開いてきた。

 

「てめぇ、進路希望は何処にしたんだよ!!」

 

あんまりにもいきなりな言葉。

我が幼馴染が私の進路を気にするとは。

あれだな、明日槍が降るな。

 

「まだ決めてないけど、多分近場?」

「はぁ!?てめぇふざけるな!!この俺様に勝っておいて、んで糞雑魚共と群れようとしてんだぁ!!てめぇも雄英に来やがれ!!そこで完膚なきまでにぶっ倒してやるからよ!!」

 

どうやら我等が幼馴染は私が偏差値低い所にいく事が我慢ならないらしい。やたらと高いプライドも玉に瑕だよね。ほっとけば良いのに。倍率あがるんだよ?わかってるぅ?

 

「あほくさ。私はパスだわ」

「ああ!?待てこらぁ!!」

 

喚く幼馴染をクラスメートにポイして私は購買へと向かった。求めしジャムマーガリンパンと焼きそばパンがあったら良いな。メンチカツパンでも可。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、反省文という難敵を撲殺した私は、頑張ったご褒美としてコンビニおでんを摘まみながら下校していた。

 

するとドロドロのおっさんとエンカウントしてしまう。

おうまいがぁ。

 

「良いミノ発見」とかほざきながら接近してきたドロドロのおっさんは、あろう事か私のおでんに体液をぶちまけきた。しかもおっさんがぶつかってきたせいで、楽しみにしていたたった一つの卵が地面に落ちてしまう。

 

この瞬間、私はこの場限りにおいてボランになる覚悟を決め息を吸い込む。

 

そして飛び掛かってくるドロドロのおっさんに向けて、父譲り"火を吹く"個性で焼き尽くしてやった。焼き尽くしたと言ったが、それは気持ち的な問題でホントに焼き尽くした訳ではない。精々火傷の痛みでのたうち回り、気を失わせる程度の一撃だ。

 

卵の犠牲を考えれば慈悲ですらある。

殺していいならとっくに殺してるのだから。

 

倒れたドロドロのおっさんに余ったおでんの汁をぶちまけて追い討ちを掛けていると「君、ちょっと良いかな」と野太い声が掛かった。

視線を向ければガチムチのおっさんがいた。私の直感が、ホモだと告げる。

 

「私は女ですが」

 

危険を回避しようとそう口にしたが、ガチムチは首を傾げた。こいつまさかのバイか。

 

「いや、君がおでんの汁を掛けてるソイツなんだけどね、私が追っていたヴィランなんだ。身柄を拘束したいのだけれど、良いかな?」

「いいっすよ。別に━━━━ん?」

 

あれ、もしかしてこの人━━━

 

 

「あの第45回、国際ボディビルダー選手権特別グランプリに輝いた━━━」

「人違いだ!それは私ではないぞっ!」

 

人違いだったか。

こんな感じのガチムチだったんだけどな。あ、そう言えばあの人は禿げてたな。

 

「私がきた。こう言えば、分かるかな?」

 

私がきた?何処かで聞いた覚えがあるような・・・ないような。

 

思い出そうと悩んでいると「私も大概に有名人だと、思っていたんだがなぁ」と前置きを入れから歯を見せつける程の笑顔で言ってきた。

 

「オールマイト、それが私の名だ。お嬢さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが全ての始まりだった。

不本意ながらヒーローを目指す事になる、私の最悪の物語。

私のヒーローアカデミアの。

 

 

 



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スライム缶で遊べる年頃っていつなの?ちいちゃい子にあげると食べそうになるし、それなりに知能がついた頃渡しても汚ってなりますやん。いつ上げたらいい、この無駄に余ったスライム缶の巻き

後悔なんて、しない。(本当はしてる)


個性を人に向けて使った事を上手く処理してくれる代わりに、ドロドロのおっさんを箱詰めするという新手の誘拐の片棒を担ぐ事になった私は粛々とその任と向き合っていた。

 

ペットボトルを片手にドロドロのおっさんを下敷きで掬い見事なまでにしまっちゃう、しまっちゃう、しまっちゃうオジサンした。

 

よくよく考えればヒーローのお手伝いなんてまさに善良市民の仕事。やらない方がおかしい。善良市民の模範とも言える高潔な魂を持つ私は文句も言わずにやっちゃうのだ。

 

ああ、めんどくせぇ。帰りてぇ。

 

「しかし君、その歳で随分と個性を鍛えているみたいだね。ヒーロー志望かな?」

 

いきなりガチムチが話し掛けてきた。

私、困惑。止めて、ガチムチは好きになれないの。私どっちかって言えば細マッチョ派だから。

 

とかなんとか言って機嫌を損ねるのもなんで、取り敢えず話を合わせて話しておく。

 

「そうですね」

「そうか。君みたいな有望な若者がいてくれるなら、私も安心して後継を探せ━━━━んん!!いや、なんでもないぞ!HAHAHA!」

「そうですね」

「・・・しかしだな、あまり慢心してはいけないぞ。今回は上手くあしらえたが、次が上手くいくとも限らないからね。」

「そうですね」

「・・・それに個性を人に使うのも・・・」

「そうですね」

「うん!君はよく人に、人の話を聞かない子だと言われないかな?」

「そうですね」

「そうだろうね!おじさんジェネレーションギャップと言うものを犇々と感じるよ!」

 

話を合わせてやったのにガチムチは何か気に入らないのか、なんかほざいていた。聞いてなかったので分からなかったが、きっと可愛い男を紹介して欲しいとかそんなだろう。

これだからホモは。

 

それから自称ヒーローであるらしいオールマイトとか言うガチムチのおっさんと、ドロドロのおっさんをペットボトルにないないしていった。

全部を詰め終わる頃にはすっかり夕刻。暴れん坊なお殿様の再放送が終わる時間になってしまった。

まぁ、ガチムチと出会った時間から既に暴れん坊の終了のタイムリミットはあんまり無かったんだけど。

 

「さて、これから私はこれを警察に届けなくてはならないから、これでおいとまするよ」

「あ、そっすか」

「・・・・」

「?」

 

ドロドロが詰まったペットボトルをポッケに無理矢理しまい跳び去るのかと思えば、ガチムチのおっさんは何故か私の顔をガン見してきた。なんぞ。

母様の尊き遺伝子を引き継いでいる私が至極美人なのは知っているが、初めて会ったガチムチに見つめられて許す程寛大ではない。━━━なので、がんつけてやった。

 

「そんなに怖い顔しないでくれないかな。オジサン泣いちゃいそうだ」

「じゃぁ、なんすか。私、花も恥じらう女子中学生なんで、そんなに見つめられると110したくなるんですよ」

「怖い事をさらっと言う子だな!いやね、大した事では無いのだけど、サイン、本当にいらないのかい?」

 

サイン?

 

「生憎、借金の借用書は持ってませんけど」

「何にサインさせるつもりだい?まさか保証人じゃないよね?」

「それ以外に何処にサインさせると?」

「本当にさらっと怖い事言う子だね!オジサン君の将来が心配だよ!分かった!もう何も言うまいだね!それじゃ!」

 

そう捨て台詞を吐いたガチムチは勢いをつける為か膝を大きく曲げた。しゃがみこむような体勢になったその時、ガチムチの尻ポケットから財布が落ちそうになってるのが見えた。

気を利かせて教えてやろうと肩を掴んだその瞬間、私の視界は一面の青が広がっていた。

 

何が起きたのか、理解が及ばない。

けれど体はしっかり命の危機に対応しており、母様の引き寄せる力が私の手とガチムチの服をしっかりと繋げていた。

 

視界の中に空高くから見下ろした町並みが見えた時、全てを理解した私は腹の底から声をあげた。

 

「ガチムチ!!」

「━━━!?君、そんな所で何をしているんだ!?」

「あんたがいきなり飛ぶからだろ!!てか不時着しろ!!」

「いきなりそんな事言われて━━━oh、shit!!こんな時に!!」

 

突然煙をあげるガチムチ。

ガチムチの生態系には詳しくないけれど、それが普通でない事はよく分かる。このガチムチ、なんかヤバイ奴だ。手を離しても生きられそうなら、直ぐにでもそうしたい。

 

 

結局、そんな儚い私の願いは叶う事なく、煙を発するガチムチと適当なビルの屋上に不時着する事になった。

着地後直ぐに逃走をはかろうとしたが、ガチムチスチームで出口が分からず逃走を断念。

ガチムチスチームが落ち着くのを待つ事に。

 

「━━━━ん?」

 

すっかりガチムチスチームが落ち着いた後、出口を探して辺りを見渡していると、ヒョロガリのおっさんが視界に入った。ガチムチのおっさんは見当たらない。

 

「━━━しまったな。この姿を見られてしまうとは」

 

意味深な発言をするヒョロガリを放って出口を探す。

あ、このドアは開かない感じだ。

 

「出来れば君には━━━」

「あそこか?あーそーこーはー・・・開かない」

「━━━だは、個性でね・・・・ほら良くいるだろう?プールサイドで━━━」

「ここは?お、開いた開いた」

「━━君は人の話を本当に聞かないな!」

 

何故かヒョロガリが激おこプンプン丸と化した。

 

「少しは興味を持たないだろうか?自分で言うのもなんだけど、分厚い筋肉を持った男が骨と皮だけのような体になったんだよ?おかしくはないかな?」

「そうですね」

「それは君が聞いてない時の常套句じゃないか!どれだけ興味ないんだ君は」

 

そうは言っても興味がないんだもの。

ガチムチがヒョロガリにクラスチェンジしようが、ヒョロガリがガチムチにクラスチェンジしようが、私の人生には一ミクロン足りとも関わりがないし、どうでも良いんだもん。個性でしょ?OKOK。把握。

 

「じゃ、そういう事で」

「よーし分かった!よく分かった!オジサンは君に、じっくり教えなきゃいけないと言う事が!君には理解した上で口を噤んで貰わなきゃいけないという事がね!」

「うぇ」

 

それから暫くの間、ヒョロガリさんの半生の物語を聞くことになった。なんでもヒョロガリさんは正体不明で個性不明なオールマイトというナンバーワンヒーローらしく、なんか凄い人らしい。テレビやら広告やら関連商品やら出しまくってる、金持ちの有名人なのだとか。私は知らないけど。

 

それで戦い続けてきたヒョロガリさんのボデェは怪我で限界。自分の立場を引き継ぐ後継を探しているらしい。

 

全部の話を聞いた後、私は思った。

これは聞いたらあかんタイプの話やんと。

 

「これは聞いたらあかんタイプの話やん?」

 

思わず考えていた事を話すと、ヒョロガリさんは「興味の欠片も示さないで、よくそんな事が言えたね。すぐ忘れる癖に」と苦笑いしてきた。

まぁ、実際、明日には忘れてそうだしね。誰かに話す前に忘却待った無しですわ。

 

「━━━あ、そう言えば、さっき気づいたんだけどさ」

「ん?どうしたのかな?」

「ヒョロガリさん━━━おー、おーるまんって」

「オールマイトだよ。よくこの数分で忘れたね。オジサン、君が信じられないよ」

「オールマイトさんって、十年以上前、大災害の時に倒壊したビルやらなんやらから救助活動してませんでした?1,000人くらい助けたやつです」

「十年以上前・・・・ああ、覚えているよ。ネットに散々流されてたからね」

 

おお、やっぱり。なんか見覚えがあると思ってたんだよ。チクチクチクチク、私のトラウマスイッチが刺激される筈だ。

 

「私あれを見てたんですけど」

「HAHAHA、なんだか気恥ずかしいな。あの頃は━━」

「私あれを見て、心底ヒーローになりたくないなって、思いました」

「・・・・oh」

 

なんか驚いとる。

いや、まぁ、普通は尊敬とかする所かもだし、仕方ないけど。私はそうは思わないってだけだしね。

 

「━━私は倒壊したビルに突っ込む貴方の姿に恐怖しました。同じ人じゃない、化け物みたいに思いました。それが人間のフリをするのが、たまらなく怖かった。不気味だった。笑顔もきもかった」

「・・・そ、そうか。」

「そしてそれが人に誉められるのが、もっと分からなかった。自分の命を平気で危険に晒しているのに、それが正しいみたいに。皆が皆して誉める。誰も危ないだろって、そう怒らない。どうしてって、ずっと思ってました。力があるからとか、無いからとか、そんな事じゃなくて━━━」

 

ヒョロガリが少し真面目な顔してきた。

いや、別に真剣に悩みを話してるんじゃなくて、聞いてみたかったからそうしてるだけなんすよ?やめて、そんなマジな目で見るの。

 

「━━━えっと、まぁ、今となってはどうでも良い事なんですけど」

「え?どうでも良い事になっちゃったのかい?!これから核心に入りそうな雰囲気だったのに!?」

「いや、まぁ、ぶっちゃけ。それよりも聞きたいんですけど、ヒーローって━━━」

「━━━━ヒーローって?」

 

 

 

 

 

 

「年収いくらなんですか?」

「そういう雰囲気では無かった事だけはたしかだね」

 

 

その後、めっちゃ怒られた。

解せぬ。

 



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よく考えてから行動しなさいってよく言われるけど、よく考えた末に行動しても考えてから行動しなさいと言われるから、好きに生きるよ、良いよね?の巻

泣かない、あたい泣かない!


オールマイトとさよならバイバイした後、直ぐにお家に帰ろうとしたが母様よりお買い物の指令を受信。

逆らう事など出来ぬ私は、行き先Uターンで商店街へと向かった。

 

「牛乳~小麦粉~、バターにジャガイモ~木綿豆腐に~塩ゆでクラゲ~♪━━━って、母様何作る気なん?前半はシチューなのは分かるが、後半不穏過ぎる」

 

母様の謎のお買い物指令を復唱しながら商店街付近に到着。━━━が、商店街は普段と違い変に盛り上がっていた。

 

何事かと野次馬根性で禿げたおっさんの頭を台にして高みから覗いて見ると、鮮やかな爆発が見えた。

ややっ、祭りかや?

 

「おっさん、何事?祭り?」

「祭りに見えるかい?」

「見えなくなくもない」

「ヴィランが暴れているらしいよ。それとお嬢さん、頭を強く掴まないで。抜けちゃう」

 

おっさんの数少ない髪を抜くのは流石に可哀想なので降りておく。

 

しかし、どうしたもんか。

商店街で買い揃えるつもりだったのに。

 

「━━━━━!」

 

不意に聞き慣れたような声が聞こえた気がした。

振り返って見てみたが知り合いの姿はない。

━━━━いや、あった。ヒョロガリがいた。

 

「オール・・・オールさん、何してんすか?」

「!?き、君はさっきの・・・ていうか、名前もう忘れたんだね。オジサン君の将来が心配だよ」

「うっす。そんな事より、こんな所で何してんすか?お腹押さえてトイレですか?大きい方ですか?小さい方ですか?大きい方ですよね?」

「いや、トイレじゃなくてね。古傷がね」

「へぇ」

「興味を持とうか。聞いたんだから、人並みに興味を持とうか、ね?」

 

聞かれたそうにしてたから合わせただけなのに。これだよ。

大人って汚い。こういう大人にはならないようにしよう。

 

「なんだろう、凄く失礼な事を君が考えている気がする」

「気のせいっす。うっす」

「驚くほど信用出来ない」

 

軽口を叩きながらもお腹を痛そうに顔を歪めるオールさん。ちょっとかわいそすになってきた私は、そっと絆創膏をあげた。いらなさそうにしてたけど、「気持ちだけ貰っておくよ」と定番のお言葉を頂いた。感謝してないやつだ、これ。

 

「そんな事より、呼びました?」

「?呼んではいないよ。私はね」

「おっかしいなぁ。誰かに呼ばれた気がしたんだけどなぁ。そう言えばオールさんこんな所で何してんすか?拉致した人はけーさつに届けました?」

「うっ━━━。そ、それが、ね」

 

途端に暗い表情を見せるオールさんに嫌な予感を覚える。ここにいると余計な事に巻き込まれそうな気がして、さっさと別のスーパーへと向かおうとすると、聞きたくない声が聞こえてきた。

 

「なんて強力な個性だ!爆発が凄すぎて近づけない!!」

「中学生だってのに、なんたるタフネスだ!まだ意識がある!」

 

爆発、タフネス、中学生。

おおう?それって、もしかする?

 

人の隙間を縫って眺めて見れば、爆発しまくる中学生と、それにくっつくドロドロのおっさんの姿が見えた。

ホモは糞、はっきりわかんだね。

 

「中学生に手をだしちゃ駄目っしょ。あ、いや、かっちゃんの気持ちを聞いてないから何とも言えないか。両思いの可能性も微レ存」

「!?知ってるのかい!彼の事を!」

「幼馴染だし、知ってるっちゃ知ってる。けど、ホモだったのは今知った」

「彼の名誉の為に言っておこう、あれは襲われてるだけだから!!」

 

ホモではないと。公衆の面前でいちゃついてる訳ではないと。ほうほう。

 

「じゃぁ仕方ない」

「!ど、何処にいく気だいお嬢さん!そっちは━━」

 

スーパー行くのもありだけど、商店街だとポイントつくからね。仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 

「もう少しだけ耐えてくれ!直ぐに別のヒーローが応援に━━━━━」

「いやいや、中学生に酷過ぎるでしょ。虐待案件発生につき本庁に応援要求。被疑者はゴリラ、ゴリラです、どうぞー」

「━━━はぁ!?」

 

筋肉ゴリラの横を通り過ぎ様にディスり、私は一直線に幼馴染の元へ向かう。

 

「なんだあの子は!?危ないぞ!!」

「知り合いか?!無謀過ぎる!!」

「恋人か!」

 

「おう、一番最後の言った奴、顔覚えたからな。ヒーローとか関係ないから、殴りにいくから」

 

かっちゃんの彼女とかないわぁ。

顔は悪くはないけど、性格が糞だもんね。家庭内暴力発生確定するような奴とは、間違っても付き合わんわ。

誰か拾ってやってくれませんかね?

 

やべ、ゾランと目があった。

 

「!!てめぇ、さっきの!!!」

「あれぇ、覚えててくれた?それはサンキュ。こっちもやりたりなかったんだよ。卵の仇!!」

 

走りながらキュートでチャーミングが詰まった鞄を投げつける。上手いこと顔面に当たり怯んだ隙に懐へ踏み込み引き付ける個性でかっちゃんの引き抜きに掛かる。

 

すぼっ、と半泣きのかっちゃんが顔を出したので、日頃の鬱憤も込めてプギャーしてやる事にした。

 

「ちょー助けて欲しそうで笑える。助けたげよか?もち、ただじゃないよ、ん?」

「━━っ!!んなもんいるか!!!てめぇの事くらい、てめぇで出来るっつんだよ!!ぶっ殺すぞ!!」

「おう、その意気だ。フォローしてやるから、ぶちかましてやれ」

 

ドロドロのおっさんの顔面に目眩ましの炎をぶちかまし、引き付ける個性をフルパワー発動。かっちゃんの体をドロドロから引き抜いてやる。

ドロドロの吸着力侮り難し。頑張ったけど上半身までしか抜けない。

 

でも私のお仕事はあくまでフォローなので、これでお仕事はお仕舞いだ。

 

「かっ飛ばせぃ、かっちゃん」

「うるせぇ!糞ビッチ!!言われなくても、やるっつんだよ!!!おるぁ!!!」

 

我等がかっちゃんはやれば出来る子。

フルパワーの爆発は強烈で、まともに受けたドロドロのおっさんはかっちゃんの拘束を解いた。

 

ざまぁ、卵の仇じゃ。

 

そうほくそ笑みを浮かべていると、直ぐに体勢を立て直したドロドロのおっさんが私に向かってきた。

うら若き乙女の体を求めるとは、こいつバイか。

 

とっさに火を吹く個性で距離を取ろうとしたが、相手も学習したのか手らしき部分で防いできた。顔ならまだしも、手はあかんわ。覚悟決めたら受け止められるもんね。元より水と火で相性糞悪いし。

 

ドロまみれになる事を若干覚悟した所で、私の隣を凄い速さでガチムチが駆け抜けていった。ヒョロガリがクラスチェンジしたみたいだ。

 

「情けない・・・情けない!!助ける事に躊躇して、ヒーローを望まない女の子に、ヒーローを任せてしまうなんて!!」

 

せやな。

 

「プロはいつだって命懸け!!!!」

 

口から血を吐きながら振るった豪腕は突風を巻き起こした。まるで災害だ。周辺被害についてどう考えているのか、是非聞いてみたい。

あ、もち、ドロドロのおっさんは四散したよ。

 

「━━━っ、て、てめっ!!ちったぁスカート押さえるとかしやがれぇ!!!」

 

我等が幼馴染はオールさんの竜巻より、私のスカートに夢中のようだ。むっつりめが。

 

「よいよい。どうせ見せパンだから。なんなら好きに見るとよい」

「見るかボケぇ!!!」

 

ギャンギャン吠える幼馴染の声を聞きながら、荒れ果てた商店街に溜息。

これ、買い物出来るんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、ドロドロおっさんが無事に捕まって安心だねーさぁ帰ろうかーとなった所でゴリラヒーローに捕まった。

超お説教。まじアリエッティ。

あんまりにも理不尽過ぎるお説教に私ぶちきれ。おめぇがさっさと助ければ、私が余計な事しないですんだんだよ、ああん?中学生に何期待してんすか?馬鹿なんすか?脳みそまで筋肉なんすか?頑張れとかwもちっとましな言葉はかけられませんかねぇ?ええ?後、さっきから気になってたんすけど、ゴリラさんが近くにいると臭うんですけど。鼻が曲がる程臭うんですけど。ワキガですか?ワキガなんですかねぇ?

━━━と、人類らしくコミュニケーションをとっていると、泣かれてしまった。ちょち言い過ぎた、めんご。脳みそ筋肉は言い過ぎた。んな訳ないよね。皺がない脳みそなだけだよね。ワキガは事実だから訂正しない。

 

そう言えば爆豪きゅんは褒められてた。

超解せねぇ。爆豪きゅんも解せねぇもよう。

だよね。

 

 

 

 

説教ぱーちーでくたくたになった体を引き摺り、営業再開した商店街で頼まれた物を購入し帰宅。

早く帰らないと母様からボデーにキツいの貰うからダッシュ。

 

所がぎっちょんちょん。

私の行き先を遮る影発見。

なんぞ?と顔をしかめて見てみれば、ガチムチがそこにいた。

 

偶然かな?と思い通り過ぎようとすると「いや、君に用があるんだよ!?」と声が掛かる。

 

「私まだ中学生なんで、告白とかされても110しか出来ないんですけど」

「うん、どうして私が告白する感じになってるのかな?違うからね」

「だから、その、ごめんなさい」

「分かった!話を終わりにしたいだけだな、君は!!」

 

ツッコミを入れてきた所でガチムチは吐血して、ガチムチスチームと共にヒョロガリにクラスチェンジする。

命をはったツッコミに、少しだけ感心だ。

 

「それで、結局なんですか?」

「げほっ、げほぉあ!・・・ああ、済まない、少し聞きたい事があったんだ。と言うか、全然心配してくれないんだね」

「ダイジョーブデスカ」

「うん、この話は止めにしよう。それで聞きたいのだけど、緑谷少女、どうして彼を助けにいったんだい?」

 

どうしてって、まさかヒーロー様に聞かれるとは。

 

「そりゃ、知り合いですから助けるでしょ」

「君は言ったね。ヒーローが恐ろしい化け物に見えると」

「っすね」

「先程の君の行動はね、ヒーローそのものなんだよ。いや、本質と言ってもいい」

 

本質?

 

「そう不思議そうな顔をしないでくれ。君はどうしてと聞いたね。どうしてあの倒壊した危険なビルに、私が飛び込んでいけるのかと。それはね、あの時の君と同じ気持ちだったからさ。私は君より少しだけ世界が広いんだ。君が助けたくなるような、そんな人達が、私は少し多いだけなんだ。それが私と君との違い」

「はぁ」

「君は私の笑顔が気持ち悪いと言ったね。分かるよ。常に笑ってる敵がいたら、さしもの私も気色悪く思うだろう。でもね、これは自分の為の笑顔でもあるんだ」

 

ヒョロガリのいやに真剣な眼差しに嫌な予感を覚える。

 

「誰かを安心させる為に、敵へ余裕をアピールし圧力をかける為に、平和の象徴であるが為に。皆色々言うし、実際の所、そういった要素があることは否定しないさ。けれど、一番の理由はヒーローの重圧、そして身の内から沸く恐怖から己れを欺く為なのさ」

 

ぐっとヒョロガリが拳を握る。

見せんな、見せんな。分かったから。

 

「君なら、分かる筈さ。あの時、笑顔を浮かべて少年を助けにいった君ならっ」

 

えぇ・・・・。

あれは、爆豪きゅんを理由ありきでおちょくれるから、嬉々としていただけで、そんな恐怖がどうたらとか関係無いんですけど。

 

ぽん、と肩に手を置かれた。

セクハラ案件発生につき本庁応答願いますどうぞー。

 

「あの場の誰でもない、他人に関心がない、ヒーローを好きでない、面倒ごとを嫌い、それでも迷いもなく助けにいった君だったから!!私は動かされた!!トップヒーローは学生時代から逸話を残している…彼らの多くはこう結ぶ!!『考えるより先に体が動いていた』と!!君もそうだったんだろう!?君は誰よりも強く、立派な、本当のヒーローになれる!!だから━━━」

 

さっとヒョロガリが手を差し出してきた。

明らかな勧誘。

私は勉めて冷静に考えた。

 

「━━私の後継としてヒーローに」

「お断りします」

 

そしてちゃんと断った。

 

目をパチパチさせるヒョロガリさん。

私は念の為にもう一度言っておいた。

 

「お断りします」

 

 

 

 

花も恥じらう花より団子な女子中学生な私。

私は曖昧なんて許さない、サバサバ系女子。

やらないったら、やらないのである。

 



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遠足前になるとよく風邪ひく人いるじゃん?間が悪いにも程があるよね、かわいそす。うん?え?私はどうなのかって?決まって寝込んでたけどなんすか?の巻

たまに、ね、おれは疲れてるんだろうなって思うの。


ガチムチの勧誘事件が発生してから数日。

検査入院していた爆豪きゅんは病院から出てきてからも、毎日のように突っ掛かってきた。

 

やーい、やーい、ドロドロかっちゃん、涙目乙。

とか開幕で優しく挨拶してからというものずっとだ。

短気は損気。早く大人になれるといいね。

 

「━━━━緑谷!」

 

飽きもせず休み時間に突っ掛かってきた爆豪きゅんをからかって遊んでいると、担任がカムチャッカファイヤーしてきた。

心当たりが在りすぎて何を怒っているのか分からない。宿題を丸写ししたのがバレたのかもしれないし、担任の鞄にアオダイショウを入れた事かもしれない。もしくは、爆豪きゅんのテストの答案用紙の名前を自分のに変えてこっそり提出したのがバレたのかもしれない。

 

うん、分からん。

 

「何ですか?」

「胸に手を当てて考えてみろ」

「心当たりが多過ぎて分かりません」

「その辺りは後でじっくり聞かせて貰うとして、今はコレについてだ」

 

そう言って差し出してきたのは進路希望調査表だった。

しかも皆に見えるように晒すという罰ゲーム仕様。

おぅ、恥ずかしい。

 

「第一希望、玉の輿。出来れば細マッチョのイケメン、若社長を求む」

「乙女の夢ですから」

「第二希望、宝くじを当てて億万長者」

「人類の夢ですから」

「第三希望、ニート」

「若者の理想ですから」

 

パチンといわれなき暴力が頬っぺたを襲った。

痛いなり。

 

「先生、体罰じゃないんですか?訴えますよ、教育委員会に訴えますよ?」

「上等だ、緑谷。やってみろボケなす小娘が。お前みたいな甘ったれが被害者だと知れれば、酌量の余地ありで少し謹慎くらうだけで済みそうだからな。それでお前が心を入れ換えるなら本望だ。教師冥利につきるわ、ぼけぇ」

 

なんたる理不尽。

こいつ教師の皮を被った悪魔だな。

 

「兎に角だ、もう一度良く考えてから提出しなおせ」

「同じの出したら?」

「お前の親御さん呼んで三者面談してやる」

「Oh━━━そいつはいけねぇや」

 

こんな事で呼び出したら、ビンタ所じゃ済まないからな。ボデーの一発は当然として、コークスクリューブローによるハートブレイクショットは覚悟せねばならん。

 

渋々と受けとると担任は「ちゃんと考えろ」と念押ししてきた。

 

「ちゃんとって言われてもなぁ」

「こんな事を言うと贔屓してると思われるかも知れないが、緑谷、お前は地頭は良いんだ。少しは頑張ってみろ。その気になったら雄英だって夢じゃないんだぞ?」

「うへぇ。やですよ。頭いい高校なんていったら、真面目に勉強しなきゃならないじゃないですか。私は楽して生きたいんですよ」

「甘ったれんな。まぁ、よく考えろ。高校で人生が決まる訳ではないが、人生における一つの大きな分岐点である事には違いはないからな」

 

それだけ言い残すと担任は去っていった。

私はプリントを眺めながら、隣で飛び掛かる構えで律儀に止まっている爆豪きゅんに話しかけてみる事にした。

 

「なぁ、ドロロ」

「ぶっ殺されてぇのかてめぇはよぉ!!!」

「いちいち喚くなうっさい。それよか進路希望調査表さ、それっぽいの書いておきたいんだけど、適当な高校教えてくんない?」

「あぁん!?なんで俺様がんな事手伝わなきゃいけねぇんだよ!!」

 

あからさまに嫌な顔する爆豪きゅんに指を突きつけてやる。貴様に拒否する資格はないのだよ。

 

「こないだ助けたじゃん。ほら、借り一でしょ。今返せば利子無しで良いからさ」

「っがっ!あれはっ!━━━━っち!!貸せ!!速攻で爆殺してやるっつんだよ!!ごるぁぁぁぁ!!!」

 

プリントを爆殺されても困るんだけど。そう思いながら眺めていると案外普通に高校名を記入してくれる爆豪きゅん。きっとツンデレなんだと思う。

てか、おい、第一希望雄英になってんですけど。しかも、ヒーロー科になってんですけど。まてまて。

 

「おい、かっちゃん。第一希望さ━━━」

「るっせぇ!!ついでに届けてやるから、これで貸しはなしだぞこらぁぁぁぁぁぁ!!!」

「いやいや、まてまて、まてっつってんだろ!こらぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

それからかっちゃんと廊下でデッドヒートを繰り広げた私だったが、結局プリントを取り返す事は叶わなかった。提出したプリントを見た担任が、「喜ばしい事だな、親御さんに教えておいてやろう」と止めの一撃を放ってきたので、めでたく私は雄英にいく為に勉学に励む羽目になったのだった。

 

爆豪きゅんは、後で死ぬほど弄ってやろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

そうして半年。

私は糞忙しい日々を過ごす羽目になった。

 

そもそも雄英高校は国内最難関。死ぬほど頭がいい連中が集まる所だ。勉強をめちゃしないといけない。

しかも私がいくことになったのは、更に狭き門が備え付けられているヒーロー科。ここは勉強だけでなく、品性や体力も求められる。

 

勉強はやれば出来る子な私にとって苦ではないし、体力に関しては日頃から趣味で体を鍛えていたからあれだが、品性は完全アウト。学校側の推薦はまず取り消されるだろうと油断していたのだが、何故かOKされてしまう。

 

授業サボりまくりな私の糞みたいな内申で推薦が通った事が不思議過ぎて、担任を問い詰めてみるとあっさりと理由を教えてくれた。

何でも、雄英側のとある人物が特別入試枠を私にくれたのだとか。

余計な事をしやがって、と思ったのは内緒だ。あ、内緒ですよって、先生。止めて、母様に連絡しないで。ボデられちゃう、ボデられちゃうから。

 

 

そうして糞忙しい日々を過ごす私に、更なる不幸が降臨する。トレーニングの一環としてランニングしていると、たまにガチムチが現れるようになったのだ。

 

口を開けばヒーローがなんたら、ヒーローがどうたら。

止めて耳にタコが出来ちゃう。うるせぇで御座います。

しかもトレーニング方法にまで口を出してくる始末。

まじアリエッティ。

 

ヒョロガリモードになった隙をついて腹いせでボデーを食らわしてやったのは若気のいたりだと言うことで勘弁して欲しい所である。

めちゃ怒られたが。

 

 

そうしてなんやかんや過ごしていると、あっという間に時は過ぎていき入試間近。

母様の期待もあるので受かっておきたいが、こればっかりはやってみなきゃね?

残り少ない時間をらしくもなく勉学に捧げていると、母様より面白い入電があった。

 

爆豪きゅん、風邪でノックダウンしたってさ。

はっきり言おう、笑ったね。爆笑したね。爆豪きゅんの事だけに、爆笑したったね。

完璧超人も風邪には勝てなかったらしい。馬鹿は風邪をひかないというし、頭の良いあいつが風邪をひくのはおかしくな━━━━ん?まてよ、その理論でいくと私が馬鹿みたいじゃないか。うん、なしなし。

 

幸いな事に入試にはまだ日がある為、影響こそしないだろうがさぞ焦っておられる事だろう。

そう思って、お見舞いという名目を引っ提げて、茶化しに爆豪きゅん家にいった。

 

「はいはいはいっ~と。ん?あれぇ!久し振りじゃない!双虎ちゃん!いらっしゃい」

「ちゃわーす。光己さん、お久し振りでーす」

 

中学生になってからあまり遊びにきた事がなかったけれど、かっちゃん母の光己さんは快く家にあげてくれた。オヤツにケーキを持って来てくれるとの事なので、少し余計にかっちゃんを弄って帰ろうと思う所存。

 

小学生の時のノリでかっちゃんの部屋の扉を開けると、ベッドで横になっていたかっちゃんが面白いくらい驚いた顔してこっちを見てきた。あんまりにも面白かったのでパシャッてやった。

かっちゃん、ぶちギレである。

 

「てめぇ!何しにしがっぶほぉっ!!ごほぉっ!!」

「風邪っぴきの癖に叫ぶから」

「て、てめぇの!てめぇのせいだろっごほぉあっ!!」

 

咳は酷いようだけど、顔色は悪くない。

きっと明日にはけろっとしているだろうと予想。

うん、なんてベストタイミングで来たんだろうか、私は。ぐっじょぶ、私

 

かっちゃんが気だるげな顔で此方を睨み付けてくる。

まだ本調子ではないのか、ベッドから起き上がろうとしない。入試も近いから、自分で安静を選んでるのかも知れんな。

 

まぁ、そんな事はどうでも良いけど。

 

「・・・おい、てめぇ。さっきから、何部屋漁ってんだ、こら。」

「ええー?なにー?聞こえない~」

「聞こえねぇ訳ねぇぇぇだろうがよ!!二メートルも離れてねぇゴホッ!!」

「はいはい、落ち着け落ち着け。変な事はしないから。ただ、かっちゃんの女の趣味に興味があるだけだから」

「━━━はぁ!!?」

 

私がここに来た目的は幾つかあるが、最大の目的と言えばエロ本のチェックである。どんな趣味をしてるのか、実に楽しみだ。趣味を把握次第、からかいまくってやろうぞ。ふはは。

 

「やめろっ、てめ━━━ふがぁっ!?」

「はいはい。大人しくしてましょーねー」

 

風邪っぴきかっちゃんをササッと布団で簀巻きにしやる。口元もタオルでグルグル巻きにして準備完了。抵抗は許さぬのでござる。

身動きの取れないかっちゃんをほっぽってエロ本探索再開。どこかな、どこかな?

 

定番のベッドの下は無し。

クローゼットの底も無し。

タンスの中も無し。

ふむ。持ってないのか?

 

そう疑ってかっちゃんを見れば、目が泳いでいた。

これはあるな(確信)。

 

もしや現物派ではないのか?そう思ってかっちゃんのスマホを起動。かっちゃん、めちゃ目が泳いでいる。

これは当たりだな(確信)。

 

小癪にもパスワード形式でロックしていたが、なんて事はない。こちとら伊達に幼馴染はしていないのだ。心当たりのある数字を打ち込んでいく。生年月日、出席番号、身長、体重、両親の誕生日とかもあるか?

しかし、一向に開かない。ふむ。

 

かっちゃんの目を見てみる。

何気かっちゃんの目が一番正直だから、超ヒントになる。なんだ、じっと見てきて?

 

「まさか━━━」

 

そう思って私の誕生日を入れてみた。

うわっ、開きやがった、まじか。

これは盲点だった。こいつ、こういう日が来ることを見越して態とこんな真似を。他人のスマホロックの解除にまさか他人の誕生日が入ってるとは思わない。ましてそれを開けると予想される、私のが入ってるとは思わないだろう。

 

策士よのぉ、孔明!!

 

何がともあれロック解除出来たのでチェックを開始しよう。

 

「━━━お二人さん、オヤツ持ってきたわよ!入っても大丈夫かなぁ?ふふふ」

 

おっと、邪魔が入ったか。

流石にこの状態は何か言われそうなので、かっちゃんの拘束を解いてやる。すると拘束が解けた瞬間、光の速さに負けないような俊敏さで、スマホを取り返されてしまった。アルマジロの如くスマホを抱えて丸まり、亀のように布団に潜ったその姿は正に鉄壁。手出しが出来ない。

くっ、抜かったわ。孔明!!

 

「━━━はぁ。やむなし。あ、入っても大丈夫でーす」

「はいはーい、光己おばさん、青春真っ只中のお部屋にお邪魔しまーす━━って、勝己、あんた何してんの?」

「うるっせぇ!ババァ!!」

 

光己さんが首を傾げる。

そして私を見てきた。

 

私は肩をすくめ、分かりませんアピール。

光己さんも呆れた表情を浮かべた。

 

それからかっちゃんと特に話す事もなく、光己さんとケーキをツマミに女子会をして、適当な時間で帰った。

帰り際、「あんたが落ちても、向こうでちゃんと待っててやるから安心して風邪拗らせていいよ?」と発破をかけておいた。「うっるせぇ!」と元気な返事が返ってきたので大丈夫だろう。

 

 

 

 

しっかし、かっちゃんの女の子の好みってどんなのだったのか。後であいつの友人に聞いてやろっと。

 

 

 



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試験前に勉強やった?私は全然してないからヤバイかもーって奴に限って死ぬほど勉強してたりするのって何時まで定番なのよさ?の巻き

筆記の描写ないから、すげぇ迷ったわ。


はいはい。という訳でですね、やって来ました雄英高校入学試験日。朝からテンション下がりまくりんぐですよ、本当。

 

まぁでもですね。母様から応援された日にゃぁ、頑張らなきゃいけませんからねぇ。面倒臭いけどやりますよ、わたしゃ。

 

そうしてかっちゃんに引っ張って貰ってやって来た雄英高校。あれだね、私の場違い感ぱないわ。帰りたい。

 

「かっちゃんや、かっちゃんや」

「それで呼ぶなっつったろ!!ぶっ殺すぞこら!!」

「じゃぁ、爆豪少年」

「どんだけ上から目線で呼んでんだこらぁ!!」

 

なんだよ、何言っても駄目じゃないか。

プンスコだよ、わたしゃ。

 

「実はさ、さっき気づいたんだけど、私ってば鉛筆と消しゴム忘れてるっぽいんだよね。恵んでちょ?」

「ふざけてんのかてめぇはよ!!!」

 

おおっと、今日一番のぶちギレ。

朝からテンションMAXだなや、この子は。

 

しかし、そんな文句と罵倒を発しながらもちゃんと予備の鉛筆と消しゴムをくれるツンデレかっちゃん。なんと鉛筆削りまで貸してくれた。みみっちい事に関して、他の追随を許さないかっちゃんは流石である。

言葉使いさえ出来てれば、嫁に欲しいくらいだよ。ほんと。

 

かっちゃんとお喋り(一方的に)をしながら歩いていると、幸先の悪い事にコケてしまった。

あ、これは顔面コースですね、なーむーと思っていると突然の浮遊感と共に落下が止まった。

 

「━━━あ?」

 

かっちゃんの脅すような声に顔をあげて見ると、ミディアムボブの愛嬌のいい女の子がそこにいた。

 

「わ、私の"個性" ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起が悪いもんね!」

 

そう笑顔を向けてくる女の子はカワユス過ぎた。

あまりの女子力の高さに、私は雄英の恐ろしさを知る。

私程ではないが、このクラスがウジャウジャいるとか、流石雄英。感嘆だせぇ。

 

女の子はそれだけ言うと個性を解除してささっと試験会場へと入っていってしまった。

 

え、それだけだよ?それ以上は何もないよ。

そりゃそうでしょ。

 

「爆豪きゅん」

「ぶっ殺すぞ、てめぇ」

「ああいうタイプどうよ?」

「━━っ!!しっ、知るか!!ボケっ!死ね!!」

 

さっさと行ってしまう背中から思春期特有の芳ばしさを感じる。本来なら弄り倒す所なのだが、試験前にやるのは流石に可哀想なので放っておいてあげる事にする。

 

ま、どのみち、試験が終わったら弄り倒すのだけどね。遅かれ早かれの問題なんですぅ。

 

 

 

 

 

 

 

かっちゃん鉛筆でナンとかテストを乗りきった私は実技試験会場へとやってきていた。実技は街風の訓練場に散らばったヴィランロボットを破壊してポイントをゲッチュしていくリクリエーションである。

最低1ポイントでも手に入れておけば、それを理由に不合格にはならないらしいので適当に頑張りますか。

 

因みに今の格好は動きやすい服と言われていたので、タンクトップと迷彩柄のカーゴパンツに着替えている。学校指定のダサいジャージなんて着ないよ。わたしゃ。

 

運動している内に髪がほどけないようにポニーテールのヒモを締め直し準備していると、先程の縁起悪子の姿を発見した。

ただ待ってるのも暇なんで声を掛けてみようと思って近づこうとすると、「ちょっと良いかい?」と声が掛かった。

 

視線を向ければ好みではない真面目眼鏡がいたので、きっぱりと断っておいた。

 

「ごめんない。私好きな人がいるので」

「こ、告白しようとした訳じゃない!!」

 

焦りながらもキッチリつっ込んでくるその姿勢は嫌いではないが、男としてはやっぱり無理なのでもう一度断っておいた。

 

「ごめんない。考えてみたけど、無理」

「違うと、言っているんだが!!?」

 

ロボットのようにカクカクとつっ込んでくる眼鏡。

割りとしつこい系なのかも知れない。

周りからクスクスと笑い声が聞こえる。おいおい、公開処刑しちゃったか、めんご。

 

「僕が言いたいのは、何だねその格好は!ということだ!!」

「はぁ?」

「君の格好は、破廉恥極まりない!!大体なんだその、た、タンクトップ一枚という姿は!!ズボンはまともだが上は着込まなければいけない!き、君は、その胸も、その、大きいのだから!もっとちゃんとした物をだな!わ、わ、腋も、妄りに見せたりするのも、感心しない!!僕らはヒーローになるためにここに━━━」

 

ガミガミとお説教をかましてくる眼鏡。

なんだろう、何がそんなに気に食わないのだろうか。

腋がどうたらってのが、試験とどう関係してくるのか。確かにおっぱいには大きさ形共に自信はあるが。

はて、分からぬ。

 

「よく分かんないけど、どうしろと?」

「━━━よ、要するにだ!他の受験者を誘惑するような、破廉恥極まりない格好と、動きを止めたまえということだ!!」

 

ははん、さてはこいつ、童貞だな?

過敏に反応して初な奴よのう。可愛い可愛い。

 

とか言ったら発狂しそうだから言わないでおこ。

私も処女だから、そういう異性に対するあれこれは過敏に反応しちゃうし、気持ちも分かるもんね。

 

「んじゃさ、上着貸してよ」

「はっ!?」

「いや、さっき着てたでしょ?ジャージみたいなのさ。それ貸して。私他に服持ってきてないし」

 

そこまで言うなら責任を持って貰わねば。

ねぇ袖は振れないので御座いますからね。

私の言うことを理解してくれたのか、眼鏡はオロオロしながらも上着を貸してくれた。くんくん、ちょっと汗くせぇな。やだな、着るの。

 

にお、にお、と訳の分からない言葉を発する眼鏡に、大丈夫だとは思うが一応確認をとっておく。

 

「あのさ、これ着て試験受ける訳だけど、汚したり駄目にしたりしても文句言わないでよ?そっちが要求してきたんだからさ」

 

多分ボロボロにして返す事になるだろうからなあ。

試験内容的にも、免れえまい。

 

「も、も、もももも、勿論だとも!僕、僕こそ、済まない、無理を言ったようで」

「はぁ?いや、まぁ、うん。それで良いや。じゃ借りてくわ」

 

眼鏡の上着羽織っていると時間が来てしまった。

縁起悪子ちゃんと結局話せなかったなぁ。

まぁ、そんなに興味があるわけでもないんだけどもさ。

 

さてさて、確か実技は最低1ポイントでも取れば問答無用で不合格はなかったよな。適当にロボをボコって、高みの見物と洒落混みますかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢鱈声がでかい人の合図から始まった試験。始まって早々、雑魚ロボットを何体か叩き潰しておいた私は余裕で走り回る受験者を眺めた。

いや、だって終わってるからさ。なんやかんや26ポイントとったもんで。あ、いや、あれは高得点の奴だったらしいからもっといって・・・ま、いっか。テストでミスってる事はないし、余裕ですもんね。

 

ぼけぇ、と眺める事数分。

いよいよ時間切れになりそうな頃、目の前に巨大ロボットが現れた。

確かお邪魔ロボットで、倒してもポイントにならない奴だ。そのせいか、皆華麗にスルーしていく。

 

「ぬ?」

 

それまでサボっていたツケか、巨大ロボットの足元に見てはいけない系の物を発見してしまった。

疲労困憊で動けなくなっている、今にも踏み潰されそうな女の子。朝に出会った縁起悪子ちゃんだ。

 

誰もそれに気づいてないのか、助けようとしない。

いやまぁ、そもそも、試験のライバルを助けようとする方が奇特か。納得納得。

 

しかしまぁ、踏まれたら痛かろう。

 

「はぁ。面倒臭いなぁ」

 

こんなんで試験が終わったら、夕御飯が美味しく頂けないじゃないですか。だからまぁ、やむなしだよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ時間もないと言うのに、このタイミングでとはっ!」

「とか言いながら逃亡する敗残兵は銃殺刑です。隅っこ並んで奥歯をガタガタ言わせながら最後の時を迎えて下さいまっせー」

「はっ!?君はさっきの破廉恥女子!」

 

逃走する眼鏡を軽くディスりながらその横を通り過ぎ、巨大ロボットへと走ってく私。

おー、まい、くれいじー?いえす、まい、くれいじー!あーゆーおーけー?

 

ロボットさんに言葉責めは効かないだろうと思うので黙って走るらしくない私の姿に皆釘付け。いえーい、ピースピース・・・・こらぁ!反応しろこらぁ!!返せよ、最強にして最高、至宝の美を持つ私がピースしてんだぞ、おい!!かっちゃんばりに激しいの返してこい!!

 

そんな文句を心の中で発している内に、あっという間にロボットの足元に到着。下から見ると、また格別にでかく感じますなぁ。

 

「いっちょっ、派手にやりますかぁ!!」

 

息を大きく吸い込み意識を口の中に集中させ、そして一気に吐き出す。

 

口から飛び出たのは空の如く青い炎。

通常私が吐き出せるのは赤い温度の低い炎だが、準備時間があれば高温な青の炎を吐き出す事ができるのである。これテストに出るからなぁー。

 

炎を浴びた0ポイントロボの脚部の間接部分が融解する。

倒すことこそ出来なかったが、間接部分がぐちゃぐちゃになったロボの進行速度は格段に落ちた。時間を稼ぐだけのつもりだったのでこの上ない成功だ。

 

私はトロくなったデカブツに背を向け、縁起悪子を肩に担ぎ急いで撤退する。

鍛えてきた上腕二頭筋がうなるぜ。

 

「あ、あの、ありがと━━━」

「いいさ、いいさ。困った時はお互いサマーって言うじゃない?言うよね?言わなかったっけ?」

「え、あ、うん、言うと思うけど」

「じゃええやんて、なるやん」

「え、ええ、と、うん、そやね」

 

おお、ナチュラルに方言女子。

個性的ですね、狙ってんなこの子。

雄英ぱないわ。

 

 

ある程度撤退していくと、眼鏡が驚いた表情でこっちを見ていた。きっと走った時に揺れていた私のパイ乙を眺めていたのだろう。なんたる破廉恥。万死に値する。

それはそうと、おめぇ手が空いてるなら手伝えや。

 

ということで、縁起悪子を眼鏡に投げ飛ばした。

慌てながらもちゃんとお姫様だっこする眼鏡は、絶対に狙っていたに違いない。むっつりの変態野郎だろう(確定)。

 

「いきなり何を!?」

「喧しい。助けずに見捨てておいて。ヒーロー志望とか笑わせるな!わっはははっ!あ、笑っちゃった」

「くっ!!しかしそれはっ!」

 

今は私が話している時間。その間の口答えは何人足りとも許さない。

喧しい眼鏡野郎の眼鏡を素手でベタベタ触ってやる。「ぬぅわっ」と悲鳴が聞こえるが知ったことではない。

表も裏もべったりと指紋をつけてやった所で止めてやる。

 

「私は成り行きでここにいるけど、お前らはヒーローに成りたくてここにいるんだろ。だったら、ヒーローが何なのか良く考えとけ、バーーーーカ」

 

そうディスると、眼鏡が涙目になって俯いた。周囲で様子を窺っていた数人も俯いた。

 

流石にこれ以上追い討ちをかけるのは可哀想なので、眼鏡の肩をぽんと叩き労いの言葉を掛けてやる。

 

「お疲れさん」

「━━━━ッ!!!」

 

労い言葉を受けた眼鏡は何故か泣いた。

高校受験を受けにきた中学生とは思えないくらい、大号泣である。幼稚園児とか、赤ん坊とか、そのレベルの大号泣である。

 

周りからも啜り泣く声が聞こえる。

どうした、お前ら。

なんだ、この雰囲気、お通夜みたいじゃないか。

 

ほわい?

 

 

 

 

 

 

それから終了のサイレンが鳴るまで、眼鏡を含めた数名は泣きじゃくった。まるで、受験に落ちてしまった後のない中学生のように。

 

 

 

「わ、悪気が、ないのは、分かるんやけど、酷過ぎるよ」

 

 

そう告げて気絶した縁起悪子は理由を知ってたのかも知れないが、試験終わった今となってはどうでも良いので取り敢えず帰ろうと思う。

 

 

 

頑張ったご褒美に帰りにかっちゃんにタカろう。

バーゲンダッシュ、タカろう。

 



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腐れ縁って具体的に何処か腐れてんの?どこよ?あれか、繋がってる根っこ的なところ?違う?そこじゃない?んじゃ結局どこなんだよぉぉぉぉの巻き

もう、ゴールしても言いかなって、思う今日この頃。(当分生きる模様)


かっちゃんからバーゲンダッシュ10個タカった私の元に、今日はお手紙が届いた。なんぞ、なんぞと開封すると、円盤が入っていた。

 

「━━━なんだ、ゴミか」

 

そう言ってゴミ箱に投げ捨てると、一緒に開封していた母様から拳骨を頂戴する羽目になった。

痛いでござんす。

 

「どうみても合否判定の通知書でしょ!それを捨てるんじゃないの!!」

「おう、いえす、まいまざー。だってこれで合格してたら、私雄英に行かなきゃならないじゃん?」

「あんたの志望でしょうが」

「それはね、マリアナ海溝より深い理由が━━いや、何でもないですぅ。あけますぅ」

 

母様の鋭い睨みに負けて円盤を手にする。

すると円盤の中央部分が光だしガチムチの姿が立体映像として現れた。

 

「これはっ━━━━」

「双虎っ、あんたこれは━━━」

 

円盤の下に現れたガチムチ。

何か喋ってるけれど、マイクが下にあるのか凄く聞き取りずらい。ん?合格って聞こえた気がする。

 

「まいまざー、みず、いんこ。合格だってさ」

「合格は分かったから、今度はちゃんと表にして聞き直してあげなさい」

 

うぇ、面倒臭い。

 

「やんなさい」

「まむ!いえす、まむ!」

 

 

 

 

 

 

 

合格通知を聞き直した結果、私の推薦枠を用意したのが忌々しきガチムチであった事が判明。同時に、報復を決意する私。

 

因みに入試は無事に合格。順位までは分からなかったけど、結構いい順位っぽい。一番ではない。大事な事なのでもう一度言うよ、一番ではない。やったぁ。

 

一番でなんて碌なもんじゃない。いくのは名門中の名門、雄英高校だ。新入生代表とか面倒臭いの押し付けられるに決まってる。それは勘弁なのよさ。

 

それと、例の件について考えておいてくれとも言われた。母様がなんの事と訪ねてきたから、ナンパされたと言う事にしといた。

母様が般若のような顔で受話器をとっていたが、その後何が起きたかは知らない。逃げるように出掛けたからね。

 

 

そんな訳で爆豪宅に突撃。

無論用事は「合格通知きたぜ。お前は?不合格?ぷぎゃー」というやり取りをやりたくてだ。

まぁ、多分かっちゃんはナチュラルボーンな天才だから合格してるとは思うが。

 

「あら、あらら。また来てくれたの?いらっしゃい双虎ちゃん」

「ちゃわーす、光己さん。かっちゃんいます?」

 

ニヨニヨする光己さんにそう聞くと奥にいるとの事。何でも合格通知を確認すると直ぐに部屋に引きこもったのだと言う。

 

「何してんのかね、うちの息子は?」

「コスチューム考えてるんじゃないんですかね?私の所にもそういうの来たんで」

「コスチュームねぇ、旦那が聞いたら喜んでデザインしそう━━━━あら、さらっと合格発表?もうっ、余裕ね双虎ちゃんは!」

「私よりかっちゃんの方が余裕だったんじゃないですか?」

「うーん、そうでもなかったのよね。いつもは自信満々の癖して、やけに張りつめた感じ?合格発表を見たときは、柄にもなく嬉しそうにしてたわよ。ふふ、双虎ちゃんが合格したの聞いたら、今度はどんな顔するのかしらねぇー」

「さぁ、どうですかね?」

 

適当に光己さんと話してから小癪にも鍵を掛けてる部屋を腕力で抉じ開けて侵入。いつもながら間抜けな顔で驚くかっちゃんに、少し母性を擽られる。あうち。

 

「な、ななな、何勝手に入ってきてんだゴラぁ!!!つか、テメェ、鍵掛けてあったのをどうしてっ━━━ぶっ壊れてるじゃねぇかコラぁ!!!」

「喚くな、喚くな。それよか合格したんだって?おめでとう」

「━━っけ!たりめぇだろうが!!テメェこそ合格したのかよ!!」

「そりゃね。じゃなかったら来ないよ流石に」

 

そう言いながらそそっと接近して、かっちゃんが背中に隠した物を覗く。勿論かっちゃんが抵抗してくるので中々見れない。小癪なり。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだってば」

「ふざけんなっ!!テメェ!!何覗きにきてんだコラ!!帰れや!!!」

「よいではないか、よいではないか」

「よくねぇっつってんだろうが!!!」

 

思いの外抵抗が激しい。取れぬ。

いつもならそろそろ隙が出来る頃なんだが・・・今回割と本気で嫌がってる?

 

「━━━━ふぅ、分かった。分かりました。止めておくよ。帰る」

「━━けっ、そうしやがれ。良いか二度と━━」

 

馬鹿め、勿論それは、フェイクだ!!

隙を見せたその瞬間を狙い、かっちゃんの持つソレに飛び付く━━━━が、ここでアクシデント。

驚く事にかっちゃんは私の行動を読みきっており油断してなかった。

予想外な展開に私の素晴らしき体幹も許容範囲を軽く突破して、かっちゃんを巻き込んで思いっきり転んだ。ぐはぁ!!

 

・・・・んてな。

かっちゃんを然り気無くクッションにしたからダメージほぼ無し。私はこんな時でも完璧女子。

しかし、妙にかっちゃんが大人しい。いつもなら喚き散らしたり、爆発させてるのに。

 

そう思って視界を下げて見ると、顔面をパイ乙に埋もれさせた幼馴染(かっちゃん)の姿があった。わぁお。サービスし過ぎたな。

 

「かっちゃん?」

 

よっこしょと起き上がり、パイ乙から解放してあげる。

息が出来なかったのかなと思ったが、解放しても身動き一つしない。目の焦点があっていない所から気絶している模様。倒れた所の打ち所が悪かったかな。南無南無。

 

「起きろ、起きろかっちゃん。寝たら死ぬぞ」

 

そうやって顔面をペチペチしてると、目の焦点が段々とあってきて━━━━鼻血を爆発させた。

 

「うわっ!きたなっ!!」

「うるせぇ!!帰りやがれぇ!!!」

 

ドカンと一発威嚇爆発を受けた私は「くっ、覚えておけよ」と三下の台詞をはいてさっさとその部屋を後にした。向かう先は光己さんが寛いでいる居間である。

このまま一緒にいると鼻血まみれにされそうで、怖いかんね。今日の服は鼻血で濡らしていいほど安くないのだ。

 

「あ、鼻血拭き終わったら、ちょっと外に遊びにいこーよ。かっちゃんの奢りで」

「ふざけんなっ帰りやがれ!!!」

 

悪態をつくかっちゃんだが、多分付き合って遊んでくれるだろう。ツンデレの異名は伊達ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局なんのかんのと一緒に出掛けてくれたかっちゃんと街を散策。かっちゃんは光己さんにニヨニヨされながら見送られるのが気にくわないのか、ずっと不機嫌だ。

まぁ、奢ってくれるなら何でも良いけど。

 

「そう言えば、最近またよくつるむようになったね、私ら?」

「ああ?テメェが絡んでくるだけだろうが」

「いや、どっちかって言えばかっちゃんなんだけど」

「━━━━けっ!!」

 

反抗期なのか、かっちゃんは「けっ」しか言わない。

めんどくせぇぜ、反抗期ってやつはよぉ。

家の母様の前でやってみろ、ぐぅだかんな、ぐぅ。光己さんはなんやかんやで、かっちゃんには甘いからババァ呼びでも怒らないけどさ。こいつ甘え過ぎちゃうん?

 

しかし、そう言えばこの街でこうやって過ごせるのも後少しなのな。

雄英に行ったらあっちの友人とつるむようになるだろうし、こっちの街より雄英の近くのが遊び場多いし。

ふむ。ならば今の内に満喫しとくか。

 

かっちゃんの奢りで。

 

「よし、かっちゃん!まずは鯛焼きから行こうか!!」

「はぁ!?まずはって、もう既にたこ焼だのなんだの食った後じゃねぇかって、押すなコラぁ!!」

 

かっちゃんは怒る。呆れるぐらい怒る。

だが、なんやかんや断らない。

そして奢ってくれる。ありがとうかっちゃん。愛してるぜぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁ、死ぬほど奢らせた帰り道。

すっかり軽くなった財布と私を忌々しげに見つめてくるかっちゃんに親指を立てて見せる。

かっちゃんは軽くブチキレているようだが、流石に怒り疲れたのか溜息をつくだけだった。ほぅ、らしくない。

 

いつもなら━━━。

ふむ。

 

そうだな、いつもなら、そう言えるだけかっちゃんとは付き合いが長いんだな。

思えば幼稚園児からの付き合いだ。よくコイツと付き合っててグレなかったな、私は。

口を開けば死ねだの糞だのしか言わないし、俺様だし、横暴だし、プライドが馬鹿みたいに高いから負かすと大変だしで、どれだけ苦労したか。てか、コイツ良いとこあるのか?なくね?ああ、奢ってくれる所とか?

 

まぁ、そんなかっちゃんの鼻っ柱を折り続けてきたのは、何を隠そう私な訳だが。ふふふ。

全戦全勝だよ。当然でしょ。

ボコボコよ、ボコボコ。

 

そんな糞代表のかっちゃんが高校生か。

何だか感慨深い物があるな。うんうん。

大人に━━━はなってないなぁ。大人になれんのかな、コイツ。幼馴染ながら心配だ。

 

「かっちゃんや、かっちゃんや」

「んだよっ!」

「かっちゃんはさ、覚えてる?私と初めてあった頃」

 

私は覚えている。

近所の公園でヒーローごっこしていた、男の姿を。

糞生意気に子分にしてやるとかほざいてきたから、ボコボコにして泣かしてやった事を。

初めて個性使ってぶん殴ってやったから、凄く思い出に残ってる。

 

かっちゃんは舌打ちするだけで答えてくれないので、覚えているかどうかは微妙な所なのかも知れない。覚えてたら、突っ掛かってくるもんね。間違いなく。

 

そうそうに会わなくなるもんだと思ったけど、まさか高校まで一緒になるとはな。世の中分からないもんだ。

 

「かっちゃんや、かっちゃんや」

 

「んだよ!!さっきから、馴れ馴れしくかっちゃん、かっちゃん、呼びやがって━━━」

「また三年間よろしくね?」

「━━━っ!?ぬっ、く、あ━━━けっ!!」

 

けっ、にどれだけの万能性を見出だしているのだろうか。この爆発頭は。まったく。

 

いい加減にしないと、蹴るよ?男の象徴を蹴りあげるよ?ん?

 

 

いや、まぁ、良いけどさ。

今更だしね別に。

 

 

 

ふむ。

 

 

 

「私はあんまり興味ないけど、ヒーローに成れるように頑張ってね~」

「ああ!?テメェに言われるまでもねぇんだ!!つか、テメェもヒーロー科だろうが!!おいっ!!何バックレようとしてんだゴラぁ!!!」

 

 

 

 



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閑話なんて糞食らえとかいっておきながら、ちゃっかりやっちゃうその姿に痺れる憧れるぅの閑話の巻き

生きてるって、なんだろ。生きてるってなぁに?
はい。この答えが分かる人!お、よし、うんうん。お前らとは良い酒が飲めそうだ( *・ω・)ノ


俺様は天才だ。それは言うまでもない事実で、否定できない真実だ。

ところがだ、その天才である俺様の、道程の先を歩く糞女がいやがる。気に入らねぇ、糞女だ。

 

俺様の邪魔をするのは緑谷双虎。

幼稚園児だった頃からの幼馴染で、生意気にも二つの個性を持っていやがる。それは超人時代でも割と珍しい事で、普通は両親の個性は合わさった末の物になる筈なのに、双虎の個性は完全に二つに分かれて存在していた。

引き寄せる個性と火を吹く個性、その二つだ。

 

特に引き寄せる個性は厄介で、初めて会った時は拳を器用に外へと引き寄せ逸らされて空振り、逃げようと身を引いた所で引き寄せてパンチ。

結局、手も足も出せずにボコボコにされ、不本意にもあいつの母親に助けて貰った覚えがある。

 

子供の頃なんてのは単純で力がある奴が偉い。

ボコボコにされた俺に周りは冷たくなった。友達だと思ってた奴等からつま弾きにされた。それまでの横暴な態度を考えれば当然だったのかも知れないが、その時の俺様にはよく分からなくて、ただムシャクシャして、ただ苛ついてた。

 

そんな時決まって突っ掛かってくるのは双虎だった。

理由は様々。俺様が睨み付けてきたからとか、俺様が可哀想だったからとか、俺様が暇そうだったからとか。

理由にもならない、そんな理由でだ。

 

あいつに誘われていくと大抵は録でもない事になった。

森に入れば遭難するわ、川に飛び込めば海まで流されるわ、公園にいけば軽く戦争状態になるわ、街に連れ出されれば財布は決まって空になった。

俺様の苛つきはさらに加速していった。

 

ムカつく、ムカつく、ムカつく。

俺様から奪っておいて、俺様より強い癖に、なんで今更俺様に構うんだよ。

 

あいつに声をかけられる度、俺様はあいつに馬鹿にされてるような気がして苛ついてしょうがなかった。

 

 

そんなある日。

俺様はやはりあいつに付き合わされていた。

けれど、その日はいつもより最悪だった。

 

あいつに付き合わされて山に入った所で雨に降られた。

いつもより激しい夕立で、俺様達は適当な木の幹で雨宿りをしていた。

そんな時、あいつが言った。

 

「かっちゃんさ、ヒーローってすき?」

 

あまりにも唐突な質問に子供ながらに疑問を持ったが、特に嘘を教える理由も、黙ってる理由もなかった俺様は「あたりまえだろ」と答えた。すると何故か糞女は顔を曇らせた。

理由は分からなかったが、普段からムカついていた糞女がその顔を曇らせた事実に何とも言えない優越感を感じた俺様はヒーローについて口にした。

 

その頃の俺様は口を開けばオールマイトの話ばかりしていて、当然糞女に聞かせたのもオールマイトの話だった。

オールマイトが誰を倒したとか、誰を助けたとか、こうしたそうしたと、俺様は思い付く限り話した。

それは何時からか嫌がらせではなく、ただ好きな事を誰かに知ってもらいたくて語るだけになっていたのだが、その時の俺様は話す事に夢中で何もかも忘れていた。

 

そんな時、不意に「ピシャ」と光が走った。

 

その直後鳴り響いた轟音で、近くに雷が落ちた事を知って身震いしてしまった。それは糞女も同じで肩をびくつかせていた。馬鹿にしようと口を開きかけたが、それは遂に言葉にならなかった。隣にいた糞女が、いつもより酷く弱い女に見えたからだ。

 

いつもの俺様であれば普段の仕返しにと罵倒したのだろうが、その時の俺様は憧れのヒーローの話をした後で酷く興奮していた。だから、らしくないその言葉をあいつに言ったんだ。

 

「はははっ!おれさまがきた!!しんぱいすんな、おれさまがカミナリなんてやっつけてやるぜ!!」

 

そう言って雨の中へ飛び込もうとしたが、それは叶わなかった。糞女が俺様の服をつかんで止めたからだ。

折角人がいい気分でヒーローになろうとしている所に何をするのかと思ったが、俺様の服を掴む糞女の表情に反論の言葉はでなかった。

 

「だめだよ、だめ。かっちゃん、やめて。けがしちゃうよ。」

 

震える声で訴え掛けてくる糞女に、俺様は何をすれば良いのか分からなくなって棒立ちした。

そんな俺様の腕を両手でしっかりとつかんできた糞女はらしくなく涙を流して言った。

 

「ヒーローになんてなっちゃだめだよ。かっちゃん、しんじゃうよ。やだよ、わたし。かっちゃんがしんじゃうの。」

 

その言葉が悔しかったのか頭にきたのか、分からない。けれど、無性にそう言って泣く糞女の涙がみたくなくて、俺様はそれを口にした。

 

「だいじょうぶだぜ。おれさまはオールマイトみたいにぜったいかつヒーローになるんだからな!」

「ぜったい?けがしない?」

「ふん!ぜったいけがしない!オールマイトだってけがしないし、しんだりしないぜ!だからだいじょうぶなんだぜ!おれさまも、オールマイトみたいになるんだから!」

 

そう俺様が言うと糞女は少しだけ頬を緩めた。

それはまるで太陽みたいに暖かい笑顔だった。

 

 

俺様は約束する事にした。

 

あいつには伝えなかった、一方的な勝手な約束。

 

糞女にあんな事を言わせる二流のヒーローじゃなく、誰よりも強く格好いい、あいつを泣かせない最高のヒーローになる事を。

 

 

 



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シーズン2:ミッションIN雄英スクール:美少女だけど何か文句ありますか編
合理性をとことんまで突き詰めていったら、きっと全裸で一日を過ごすようになるんだろうなぁ。先生はほんまもんの変態ですねぇ?の巻き


さぁ!ストックが切れたぜ!ここからが本当の戦いだ!!


「双虎ぉ!!いつまで寝てんだい、この馬鹿娘!!」

「おっふぉ!!?お早うございますです母様!!」

 

怒鳴り声と共に放たれた抉り込むようなボデーブロー。お陰ですっきりかっちり目を覚ました私は緑谷双虎。花も恥じらう中学━━━あ、違った、今日から高校生だった。花も恥じらうイケイケ女子高生だ。

ひれ伏せ童貞共!!

 

そんなイケイケでナウでヤングでトレンディーな私は、今日から国内最高峰の国立高等学校『雄英高校』に通う事が決まっているのだが、初日からまさかのお寝坊さん。

初日から遅刻はまずいよ!との事で、ちょっと朝からパンをくわえて全力ダッシュ。不覚~不覚~。

 

「おや?もしかして双虎ちゃんかい?」

「はぁん!?」

 

不意に掛けられた声に双虎軽くぶち切れ。いけないいけない。可愛い女の子が、そんなんじゃダメダメ。

顔を作り直し笑顔でご挨拶。

 

「ちゃわーす━━━━って、かっちゃんパパ!おはよでござーます」

「お早う、双虎ちゃん。朝から元気だねぇ。30キロ近くも出てるよ、オリンピックでも目指してるのかい?」

 

かっちゃんパパは自分の運転する車の速度メーターを眺めながら冗談を言ってきた。かっちゃんパパは真面目で大人しそうな人だが意外とフランクなおじさんなのである。

 

「もう!オリンピックなんて古すぎますよ!!」

「ははは、確かにねぇ。いやぁ、でもね、個性がない時代は時速36キロくらいが最速だったらしいんだよ。その点、双虎ちゃんは素質ありそうだよね」

「ありがとーござまーす」

 

かっちゃんパパは忙しい人なのでこうして話すのは久しぶりだなぁ。ちょっち楽しい。こんな糞忙しい朝でなければ、お茶しながらお話出来るのにー。ううん、残念。

 

「それはそうと、双虎ちゃん」

「はいなんですか!」

「途中まで送っていこうかい?」

「ありがとーござまーす!!」

 

 

かっちゃんパパに途中(ほぼ雄英)まで送って貰った私は、電車で遅れてきたかっちゃんと合流し教室へと乗り込んだ。

 

かっちゃんは仕切りに私が遅刻しなかった事を怪しんでいたが、パパさんに送って貰った事を教えたら「あんのクソジジイ」と切れていた。どうしたどうした。反抗期か?どうどう。

 

教室の糞デカい扉を開き中へ入ると、既に登校していた生徒がいたらしく目があった。

しかし、挨拶がない。この私を前にして、挨拶がないのだ。許せぬ。しめてやろうか。

だが、だが!私はもう高校生!こんな事に目くじらを立てるような子供ではない。大人のレデェーなのである。呼び水はこちらから出してやろうではないか。

 

「おはよう!!童貞共!!随分イカ臭ぇけど、ちゃんと手洗ってっか!!」

 

ぐはっ!と誰かが膝をついた。いや、大半の男子生徒がダメージを受けているみたいだ。ていうか、今反応したら自らが童貞である事を晒していく事になるのだが、お前らそれで良いのか?私はその捨て身のスタイル、嫌いじゃないけど。

 

「━━━って、どうしたかっちゃん?」

 

何故か他の男子と同じ様に膝をついてるかっちゃん。

お前も潔いスタイルでいくのか?ん?

 

「てか、かっちゃんって、童貞だったのか。知らんかった」

「はぁぁ!?んなわ、わ、訳は・・・ねぇ訳でもねぇんだが・・・・・クソっ!死ね!!!」

「会話しようぜ、かっちゃん」

 

もしかしたら、かっちゃんは素人童貞だったのかもしれない。触れないでおいてやろ。

可哀想なかっちゃんの古傷を抉るほど鬼畜でも無いので視線を教室へと戻す。すると、入試の時にいたむっつり眼鏡がそこにいた。

 

「よ、むっつり。」

「!?あの時の破廉恥女子!!君も合格していたのか━━━いや、当然か。あの仕組みに気づいていた君なら」

「はぁ?よく分かんないけど、堪能したか?」

「堪能?なんの事だ」

「あの時、入試の時さパスした女の子いたじゃん。お姫様抱っこしたさ。あの子おっぱいとか結構あったし、他の所も超柔らかかったろ?おかずにしたんだろ、なぁ?」

「してない!!」

 

なんか教室の温度が下がった。冷房かな?

雄英なにやってんのー、まだ春だよ?まったく。

 

「最低ですわ」

「最低だね」

「さいてー」

 

「ちがっ!!僕は何も!」

 

言い訳しようと眼鏡が声あげていると、教室入り口からガタッと物音がした。何だろうと見てみると、顔を青くさせた縁起悪子がいた。

 

「えっ、うち、そんな━━━いやぁぁぁぁ!!」

「待ってくれぇ!!違うんだぁぁぁ!!」

 

廊下を悲鳴をあげて逃げていく縁起悪子と、それを個性すら使って追いかける眼鏡。最早、その図はストーカーとその被害者にしか見えない。もしくは通り魔的な何かかも知れない。

 

私は、収拾のつかないこの状況に静かに合掌した。

 

「南無」

 

「いや、大体お前が悪いんだろ」

 

「ん?」

 

合掌してたら突っ込まれてしまった。

こんな事をしてくるのは大体かっちゃんなのだが、声から違う人物である事が分かる。視線を向ければ紅白饅頭がいた。新築祝いかな?

 

「新築祝いでもしてんの?」

「俺の頭を見て言ってんなら、死ぬほど失礼な奴だな。お前」

「じゃぁ、引出物かな?」

「何も祝ってねぇからそこから離れろ。つか、これは生まれつきだ」

 

なんだ、ただの超人か。

納得、納得。

それにしても生まれつき紅白饅頭とか、こいつ超うけるな。ツッコミも冴えてるし━━━うん、面白い奴だ。

 

「私、緑谷双虎。宜しく」

「?轟焦凍だ」

 

手を差しだせば頭を傾げながらもガッチリ握手してくれるノリの良さ。天然さんっぽい所がまた面白い。いいな、コイツ。友達に欲しいな。

 

「今日から私とあんたはベストフレンド」

「ぐいぐい来るな、お前」

 

轟きゅんと友情を深めあってると、かっちゃんが爆発しながら割って入ってきた。

どうした反抗期!ここに極まれりか!

 

「テメェは、何馴れ馴れしくしてやがんだよ!!」

「俺に言うのか?」

「テメェ以外っ!誰に言うんだよ紅白野郎!!」

 

おおう、なんか知らんがかっちゃんが轟きゅんをライバル視してるみたいだ。あれかな?生理的に受け付けないのかな?んー?

 

まぁ、何はともあれ。

 

「アオハルしてんなぁ」

 

 

 

「あの方、この状況を見て本気で言ってますの?」

「あの子、超パンクだよね」

「皆アオハルしてんねー!」

 

 

暫くかっちゃんVS轟きゅんの熱き闘いを眺めていると、不意に教室扉が開いた。

そこには包帯でグルグル巻きにされた眼鏡と涙目の縁起悪子、それと目が死んでるボサボサ髪のおっさんがいた。

 

「はい。登校初日から女の子を追いかけ回す問題児が現れました。お前ら、クラスメートの暴走を止める事も出来ないのか?お陰で授業開始時間を五分遅れました。合理的でないね、お前ら」

 

全員が固まるその中で、私は浮かんだ言葉を口にした。

 

「俺は相澤消太。お前らのた━━━━」

「私アイズが不審者を発見!!スマホが近くにある奴は直ぐにイチイチキュー!!容疑者は高校生の男女を人質に教室に立て籠ろうとしてる模様!!きゃータスケテー」

 

私の合図でほぼ全員がスマホを手にした。

 

「待て、お前ら。馬鹿。止めろ。俺はお前らの担任だ。というか、イチイチキューだと救急車がきちまうだろうが。どうせならイチイチゼロしろ」

 

成る程。

私は言われた通りイチイチゼロした。

 

「そこの馬鹿、すぐ止めろ」

 

パッカーンと良い音がなり、私の知能指数が2下がった。

 

「いやだって、イチイチゼロしろって言うから」

「人のせいにすんな。馬鹿。少し考えれば分かるだろ」

「確かに。私が可愛いって事は世界の真理ではある事は間違いないですけど」

 

パッカーンと二度目の良い音がなった。

普通に痛かった。知能指数が4は堕ちた。

 

「色々言いたい事はあったが・・・気が削がれた。お前ら取り敢えず全員コレ着てグランドに出ろ。」

 

そう言って不審者担任が取り出したのはジャージ。

完全に私に手渡しに来てるのだが、不審者に物を貰う程馬鹿じゃない私は轟きゅんを前に出した。

 

「・・・・お」

「・・・どうも」

 

無事受け渡しに成功した不審者担任は私を一睨みした後クラス全体を見渡して口を開いた。

 

 

「もう、何でもいいからジャージに着替えてグランドに出ろ。五分後、グランドにいなかった奴は退学。特にそこのポニーテールは退学」

 

 

拝啓お母様。

私、この学校を卒業出来る自信がありんせんでありんす。

byふたこ。

 



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抜き打ちテストという畜生にも劣る行為を行う者達を私は許さない。せめて三日前にはテストがある事を教えないと、私は許さない!!PTAに訴えてやるぅ!の巻き

毎日更新してる人達は本当に人なのかね。ロボットだったりしない?え、しない?マジか(゜ロ゜)


「「「「「「個性把握テストぉ!?」」」」」」

 

コントのように皆の声が重なる。

え、私?私は普通にスマホってたから混ざってないよ。やるわけないじゃん。私芸人じゃないんだよ?あ、ちょ、先生待って、取り上げないでっ、十連ガチャが熱いんだって、今キャンペーン中で熱いんだって。 あ、この野郎、アプリ消しやがった!?ID控えてないんだぞぉぉぉぉ!!

 

アプリを消された私が悲しみに暮れていると、縁起悪子が「入学式!?ガイダンスは!?」と声をあげているのが聞こえた。

 

私は悲しみから立ち直り、縁起悪子に向き直る。

 

「ヒーローにな━━━━」

「馬鹿っ、縁起悪子の馬鹿ぁぁぁ!折角包帯先生がど忘れしてるんだから、教えないでぇ!!出たい?!校長の馬鹿みたいな長い話とか、よく分からない来賓のおっさんの話聞きたいの!?」

 

「そ、そう言われると、あんまし行きたくないかも」

 

パカパカーンと二つの良い音がなった。

痛みと共に私と縁起悪子の知能指数が3は減った。

包帯先生は気を取り直して「ヒーローになるならそんな悠長な時間はない」と改めて言い直した。

 

どんだけそれ言いたかったんだ、この人。

 

「雄英は自由な校風が売り文句━━━」

 

自由。

その言葉に私は真っ直ぐ手をあげた。

心底嫌そうな包帯先生の視線が私に突き刺さる。

 

「なんだ、緑谷・・・」

「自由とは、何処までも許されるのでしょうか!?」

「例えを言ってみろ」

「登校しなくても卒業させてくれますか!?」

「最低限学校に来ることは前提にしろ」

 

私は絶望した。

自由って言ったのに、登校する事を前提としなければいけないなんて、と。

 

だってこんなの詐欺だ。

自由って、自由の事なのに。

こんなの全然自由じゃない。

 

「先生の嘘つき」

「お前は社会を舐めすぎだ」

 

それから包帯先生の説明があれこれあったり、かっちゃんが個性を使ってボールを投げたりしてた。

なんかトータル成績最下位は除籍処分にするらしい。

 

へぇ。そうなんだ、へぇ。

ま、私普通に身体能力高いし、負ける気しないから関係ないけどね。

 

てか、これで除籍処分にされたらお母様は許してくれるだろうか・・・・あ、や、駄目だな。殴られる。ちゃんとやろ。

 

 

 

 

そんな訳で挑んだ個性把握テスト。

普通に挑んだ私は普通に良い成績で終わった。

真ん中よりは上くらいかなと思っていたけど、かっちゃんより一個下の四位の成績だった。

あと除籍処分はなかった、合理的虚偽だった。先生の嘘つきぃ。

 

私に勝ったかっちゃんは端から見てもご機嫌で、今まで見たことがないくらい嬉しそうだった。普通にやったら私に勝った事がないから、相当嬉しかったのだと思う。

 

不覚にもそのひっそりと喜ぶ姿が、ちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒だ。

ふふふ。仕方ない、今日は私が奢ってやろう。皆大好きうめぃ棒を。一本だけな。

 

それにしてもテストが終わって包帯先生が私の事をガン見してきたのは怖かったなぁ。あれは完全にエロの目だった。私が可愛いのは分かるけど、生徒に恋慕を抱くのは勘弁してもらいたいものだ。

 

まぁ、ファンクラブの開設は許す。

ふははは、上納金を捧げたまえぇ。

 

「なに気持ち悪ぃ薄ら笑い浮かべてんだ糞ビッチ!着替えて帰んぞおい!」

 

おっと。上納金で左うちわする妄想に浸ってたら、かっちゃんからラブコールをされちった。

まぁね。面倒な事は終わったし、さっさと帰るが吉だもんね。

 

でもさ、お前糞ビッチはないわ。

わたしゃプンスコだよ、プンスコ。

処女だかんね、私。清楚の塊、清浄の神であらせられる処女神だかんね、私。

そんな私を糞ビッチとは、この罪は重いぞ。

 

━━━うん、決めた。うめぃ棒は半分しかくれてやらない。食べかけで涎びちゃびちゃのやつをその悪口製造機にぶちこんでくれるわ。

 

「分かったよ、糞素人童貞!ちょっち待って!」

「てめぇ!?誰が素人童貞だこらぁ!?てめぇこら、糞ビッチ!!」

「ーん、だぁかぁらぁ、私は処女ってんだろボケぇ!!ビッチじゃねんだよボケぇ!見てみるか、見せつけてやろうか、あぁん?!燦然と輝く処女膜をよぉ!!」

「っば、馬鹿が!!見てたまるかぁごらぁ!!」

 

 

 

「うわぁ、凄い話しとるぅ・・・」

「な、なんと破廉恥なっ、ぐっ」

「すげぇー女だな、あいつ」

 

「アオハルだねー!」

「葉隠さん、それで全部説明出来ると思ったら大間違いですわ」

「いや、でもあの生き方はパンクだわ」

 

 

「妬ましいぃぃ」

 

(((峰田こぇぇ)))

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「相澤君のウソつき!」

 

校舎へと帰ろうとしていると、オールマイトにそう声を掛けられた。理由は分かる。俺の受け持つA組には、オールマイトが推薦した女生徒『緑谷双虎』が在籍している。

 

去年、俺がやった事を知って心配して見にきたのだろう。

どうしたのかと尋ねれば案の定、去年、俺が受け持ったクラスの話になった。全員を除籍処分にしたあの時の話だ。

 

「実はさ、心配で教室から覗いていたんだ。あの時君は彼女に退学を告げたね。あそこに微塵も嘘はなかった筈だ。君はあの時、彼女をゼロだと思ったんだろ?見込みゼロだと判断すれば迷わず切り捨てる、そんな男が前言撤回っ!それってさ!」

 

オールマイトの人指しが俺を差した。

 

「君もあの子に、可能性を感じたからだろう」

 

成績順から見れば、オールマイトのいうあの子は優秀だと言えた。今回のテストではほぼ個性なしであの成績だ。未来はあるだろう。

だが、ひとつだけ、俺には気にくわない所がある。

 

「・・・・・・随分と肩入れしてるんですね。流石に推薦しただけの事はある。でも先生としてどうなんですか?」

「うっ!?」

「確かに優秀でした。身体能力だけなら、クラスでもトップでしょう。個性を鍛えてあるなら尚更。ですが━━」

 

言葉の端々で感じる、ヒーローへの嫌悪感と不信感。彼女はオールマイトが望むであろうそれになる事を、欠片も望んでいない。

 

「━━━━俺は彼女を無理にヒーローにするつもりはありませんよ。彼女が望むのであれば、今すぐにでも普通科に落とします」

 

望まないでヒーローに成ること程危険な事はない。

覚悟がなければ、ヒーローなど務まる訳がない。

本来なら、その時点で落とすべきなのだろうが・・・どうもその気にもなれない。

 

魅せられた訳じゃない。

だが、そこまでヒーローに対して反発的な意思を持っている彼女がここに来た理由が知りたかった。

だからまだ━━━━。

 

 

「まだ、彼女自身思うことがあるのでしょう。俺はそれが定まるまで見守るつもりです。」

 

 

━━━なんのために、ここに留まるのか。その答えを聞くまでは、ゼロではないと思う事にした。

 

 



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大切なのは遅刻しなかったとか、遅刻したとかじゃない!そう!大切なのは登校したって事実でしょ?!だから、反省文なんて書かせないで!認めてっ、ここまで来た努力を!の巻き

勢いって大切(人生やけっぱち)


雄英高校の洗礼を受けた翌日。

普通に遅刻した私は職員室にて、包帯先生の前で正座させられていた。

 

「もう昼だが・・・。緑谷、何か言うことはあるか」

「はい、ありまぁす!」

 

私は指折り数えた。

 

「一つ、二つ、三つ、四つ・・・」

「多いな」

「五つ、六つ、七つ・・・」

「言い訳が増える程、俺の説教は長くなるぞ」

「寝坊しました!!」

 

背に腹は変えられないと羞恥に耐えて頭を下げると、「何を数えてたんだ、お前は」と包帯先生から溜め息を頂いた。許す感じかな?許す感じだよね?許してくれよぉ。

 

包帯先生は頭を掻いた後、私の頭にチョップを叩き込んできた。体罰ぅ!!と思ったけど余計な事を言うと更に長引きそうだし、チョップも手加減されていたので言わぬが吉とお口をチャック。

こういう時、やっぱり出来る女は違うよね。(自画自賛)

 

「・・・一応こっちにも連絡が来てる。痴漢にあったんだって?」

 

おっと、その話もきてんのか。

知ってたんならお人が悪いでやんす。

 

「そうなんすよ!痴漢が出やがりまして、あ、もち、全国百万人のJK代表として完膚なきまでにボコボコにしときました!!それはもう、雄英の誇りにかけて!!」

 

パッカーンと良い音がなり、私の完璧なポニーテールがその名が体を現すが如くぶるんと揺れた。

そして痛い。

 

「やり過ぎだ、馬鹿。痴漢した奴の腕を捻りあげた流れで脇固めに持っていく奴があるか。あとな、なんの関係もない乗客にレフリーの要求したり、乗客を煽って盛り上げようとしたり、乗客全員で合唱カウントするのも止めろ。・・・警察から今回は少し正義感が行き過ぎたとして多目に見るが、学校側から厳重注意をするようにとお達しがきてる。いいな。」

「はぁーい。さーせん」

「はぁ、まったく。お前な・・・」

 

再び溜め息をついた包帯先生は眉間の皺を指で伸ばしながら私を見た。完全に下心丸出しの厭らしい目だった。

 

━━━ので、近くにいた女の先生を引き寄せ盾にした。

 

「ちょ、いきなり何?」

「いえ、盾が必要だったので━━━はっ!」

 

引き寄せた先生をよく見ればボンキュボンの全身タイツという超絶級のエロの人だった。これは駄目だ、余計に見られてしまう。レズ絡みのエロを妄想される。

 

私は近くにあった誰かのコートを手にとり、エロ先生と一緒に被った。

 

「対スケベ視線緊急対策奥義、雄英二人羽織り!!」

 

ガッシーンという効果音がついた気がする。

というか、私が言った。

 

「え、えぇ?えぇ!?」

 

混乱する顔担当の先生に、私は言うべき事を伝える。

 

「先生!決め台詞!決め台詞ぅ!!」

「決め台詞?!えっと━━━━悪い子ちゃんはお仕置きよ!!」

 

「ミッドナイトさん、馬鹿の馬鹿な行動に付き合わないで下さい。つけ上がりますので」

 

 

その後、滅茶滅茶怒られた。

ミッドナイト先生とはマブダチになった。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言う訳だから、かっちゃんお昼を奢って」

「どういう訳だこらぁ!!一つ足りとも理解出来ねぇぞ、おい!!」

 

わんわんと喚く幼馴染かっちゃん。

食堂でもお構い無しのその態度に痺れる憧れるぅ。いや、やっぱり憧れないわ。頑張って考えて見たけど、無理だわ。うん。

 

「まぁまぁ、良いではないか良いではないか。白米に落ち着きたいんだ、私は」

「てめぇこら!押すなっ!俺様はもう昼飯買ってあんだよ!見ろ、あそこにっ━━━あっ、こらぁ!財布に触んな!!」

 

照れ屋さんのかっちゃんの財布からお札を一枚頂戴し、券売機へと差し込む。白米に落ち着きたい私は牛丼を選ぶと見せかけて、寿司を頼んだ。特上握り金千円ポッキリである。おーお買い得ー。

 

「おい、釣りだせ・・・てめぇ何全部使ってンだ!?」

「Oh~?ワタシニホンゴワカリマセーン。スシタベターイ」

「やっすい外人やってんじゃねぇぞ、てめぇ!!つーか、お前は母親から昼飯代毎回貰ってんだろ!!てめぇで出しやがれ!!」

「オ昼代~?アレハ~登校中二~シュークリーム二変ワリマシタ~」

「だったら昼は控えろや!!」

 

かっちゃんを引き連れながら食券を窓口に出すと、そう時間も掛からずカウンターにお寿司が出てきた。板に乗ってる本格派だ、とても美味しそう。

コックに「お米だよね」と親指を立てたら、「分かってるね、お米だよ」と返ってきた。やっぱり、時代はお米だった。

 

そのままかっちゃんの確保した席へと行くと、かっちゃんと向かい合う所に赤髪をツンツンさせた男臭い男の子がいた。

 

「よぉ!緑谷って言ったよな!すげぇな、爆豪相手にそんなとか!」

 

妙に馴れ馴れしいなコイツ。

何処と無く見覚えがあるが、はて。

 

「あ、この間ナンパしてきた━━━」

「ッザケンナ!てめぇ、こらぁ!!誰に断ってナンパしてんだぁぁぁらぁぁぁぁ!!」

 

「ちげぇよ!!やってねぇわ!緑谷も直ぐそうやって爆豪を煽るの止めろぉ!!」

 

かっちゃんに胸ぐら掴まれてガクガクされた赤髪はちょっと涙目で抗議してきた。どうやら、この間のナンパ野郎とは別人のようだ。ん、いや、そもそもナンパされて無かったな。━━━━てへぺろ。

 

 

「で、結局、誰?」

「うおぉ、まじか。ふざけてるのかと思ったらマジで覚えられてねぇ。いや、確かに自己紹介とかしてねぇけどさ。まぁいいや、おれは同じA組の切島鋭児郎。一応、個性把握テストで緑谷の五個下だったんだけど、覚えはねぇよな?」

「うん、全然」

「もちっと言葉選んでくれよ、流石のおれでも傷つくぜ」

 

がくっと項垂れる切島。

隙だらけだったので、カツ丼のカツを一切れ貰っておいた。

うまうま。

 

「で、何だって切島はかっちゃんと一緒メシしてんの?楽しい?ドM?」

「ドMじゃねぇーよ。んー、別に爆豪とメシ食うつもりは無かったんだけどよ、他に適当な席がなくてさ。知らねぇーやつと食うくらいなら、少しでも知ってるやつとって感じでこうなった」

「ふぅん、もの好きだねぇ」

 

私が切島と同じ状況になったら、間違いなく他の知らない人の所にいくわ。普通に。

だってかっちゃんだよ?あのいつも爆発してるかっちゃんだよ?避けるよ普通。扱い方分かんないもん。

 

そんな私はかっちゃんの隣にしれっと座り、早速お昼ご飯を頂くことにする。この豪華なお昼ご飯を見てると、授業一つも出てないけどなんか凄く頑張った気がする。

あれ、頑張ったのかな、私。

 

「かっちゃん、お茶欲しい」

「うっせぇ!黙って食えねぇのかてめぇは!!」

 

怒号をあげながら自分の為に買ったであろう炭酸ジュースの蓋をあけ、食堂に備え付けてある紙コップに半分ついでくれるかっちゃん。流石みみっちい事にかけて他の追随を許さない。全部奢らない所がかっちゃんらしい。

 

「これでも飲んでろクソがっ!!」

「お茶じゃないけど、我慢してやろう」

「何様なんだごらぁ!!」

 

「っかしいなぁ。爆豪が急にすげぇー良い奴に見えてきた」

 

なんかほざいてる切島。

取り敢えず眼科に行けと言いたい。

 

「━━━にしてもよ、緑谷何してたんだ今まで。午前中全部すっぽかしてたろ?」

「すっぽかしたとか、失礼な。ちょっと寝坊しただけだって」

「どんだけぐっすり寝てたんだよ」

「そんなに寝てないって。寝たのが・・・かっちゃんにイタ電した時だから、何時だっけ?」

 

「2時だろクソが!!」

 

「8時間きっかり」

「10時起床かよ、のんびりし過ぎだろ」

 

苦笑いを浮かべる切島を横目に、私はどのお寿司から食べていくか考える。マグロかサーモンか、それが問題だ。でもまぁ、これは排除しとくか。

 

「ほい、かっちゃん」

「━━ああん?あんだよ、もがっ!?」

 

牛丼にがっついてたかっちゃんを呼び、振り向いた所にかっぱ巻きを捩じ込んでやる。

かっぱ巻きを口に突っ込まれたかっちゃんは目を白黒させながらもそれを食い尽くした。私は死ぬほどきゅうりが嫌いなので、僕らのかっちゃんが好き嫌いしない良い子で本当に良かった。

思ったより美味しかったのか、おかわりを要求するようにメチャ私の顔を見てくるかっちゃん。なんだその顔、つばめか。可愛い(小並感)。

 

ふぅむ、仕方ないなぁ。

 

「ほい、かっちゃん」

「あ!?お、おお、もがっ」

 

折角お金を出したかっちゃんが一口しか食べられないのは可哀想。なのでかんぴょう巻きもあげた。別に嫌いじゃないけど好きでもないからあげた。

 

あとはー。

 

「ほい、かっちゃん」

「もがっ」

 

イクラもあげてやった。

きゅうりが乗ってたからね。

こんな物食えたもんじゃない、豚の餌にも劣る。

 

邪魔物を葬った後は楽しいお昼タイム。

好きな物から食べていくスタイルな私はマグロから口にした。うめぇー。なんだこれ、うめぇー。100円寿司とは格が違うな。

 

「緑谷達って仲いいな、本当」

 

なんか血迷ってる切島。

取り敢えず仲が良いという言葉を辞書で引いてこいと言いたい。

 

 

 

 

 

豪華なお昼ご飯に舌鼓を打った私はやり切った感と共に帰ろうとしたが、かっちゃんに捕まりあえなく教室へと連行された。

 

午後はヒーロー基礎学らしい。

なんだろ、すげぇ帰りたい。

 

 



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アメコミのヒーローってどうしてあんなにピチピチしたの着るのかね。私ならやだね、あんなの変態じゃないですか。え?私のスーツが?え?ピチピチなんだけど?おいおい、マジか?の巻き

忘れた頃にやってくるシリアスさんだよー!みんなーシリアスさんだよー!仲良くしてあげてくださーい!


「わーたーしーがー!!」

 

私はその声を聞いた瞬間走った。

恐らく開くであろう、黒板側の入り口へ。

 

「普通に━━━」

 

バチん。

開いた瞬間、閉じてやった。

そして流れるようにパクっておいた鍵で戸締まりする。

 

後に残ったのは、静寂。

 

 

私は皆へと振り返り一つの答えを伝える。

 

「今日のヒーロー基礎学、自習!!」

「いや!普通に授業するから!!」

 

普通に後ろのドアから入ってきた。

ちっ。

 

「なんでいきなり閉めちゃうかな緑谷少女!?先生びっくりしたよ!生涯でこれ程ないくらいにびっくりしたよ!心臓バクバクだよ、もう!」

「そのまま果てれば良かったのに」

「不吉過ぎる事を言わないでっ、おじさん耐えられないよ!」

 

オールさんと話してるとかっちゃんが凄い形相で睨んできた。私に怒ってるのかと思ったけど、どうにもオールさんを見てる気がする。

 

その時ふとかっちゃんがこのオールさんのファンだった事を思い出した。ああ、成る程。

 

「オールさん、オールさん」

「緑谷少女、わたしオールマイトなんだけど」

「サイン頂戴」

「えっ!?」

 

オールさんが滅茶苦茶びっくりしてる。

さっきの比じゃない程だ。どうした。

 

「え?サイン?わたしの?本当に?借金の借用書?」

「いえ、普通に紙とかで良いですよ。ノートは勿体ないんで、この期限切れのポイントカードの裏でお願いします。借用書はないし」

「借用書があったら、そこに書かせる気なのか・・・。しかし、もっとこう、良い紙なかったのかな?色紙とまではいかなくてもさ。それにしても急にどういう風の吹き回しなんだい?君がサインを欲しがるなんて」

 

ちょっと照れてるガチムチが気持ち悪かったので、二歩下がった。そしたらガチムチが捨てられた子犬みたいな顔をしたのでもう一歩ひいたら「分かった、そこまでにして」と泣きそうな顔になったので勘弁してあげる。

 

「えーと、実はですね、あそこでこっちを見てる子がいるじゃないですか?」

「ああ・・・ってあれはヘドロ事件の時の子じゃないか」

「あの子、ガチムチのガチファンなんですけど、性格があれなんで素直にサイン貰えないんですよ。だから、ほら、あんな凄い顔で」

「いや、あれは別の理由だと思うんだけど・・・」

 

ガチムチはかっちゃんの顔を見ながらそんな事を言った。おいおい、他の理由なんてないって。はっ、もしかしてホモ疑惑再燃!?愛してるガチムチと私が仲良さそうに話してるから、嫉妬の炎が燃え上がってるとか!?

きゃー禁断の花園が開園するぅー。

ここは幼馴染として一肌脱いじゃいますか!(割りと本気)

 

「・・・名前もいれる?」

「かっちゃんでお願いします。爆豪かっちゃんへって。愛してるってついでに入れて下さい」

「変わった名前だね。そして愛してるってのは君が言いなさい。絶対にわたしが伝えちゃいけないワードだ」

「ははは、心にもないことは言えませんよ」

「爆豪少年・・・」

 

改めて思うと爆豪かっちゃんって、変わった名前だなぁ。・・・あ、違った、かつきだった。漢字忘れたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーごほん。なんか色々と気が削がれちゃったけど、ヒーロー基礎学の時間だ!!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行うのがこの課目!!厳しいぞ!」

 

教壇前でムキムキしながら叫ぶオールさんに皆注目してる。私に背中をつつかれまくるかっちゃんも、この時ばかりは私を無視である。

 

いつまで無視していられるか、見物である。

 

「早速だが、今日はコレ!!戦闘訓練!!!」

 

「戦闘・・・・・・」

「訓練・・・!」

 

皆が驚く中、私はその手を弛めない。

段々とかっちゃんの首が私の方を向きそうになってる。

凄い面白い。本気で葛藤する人って初めて見たかもしれん。

 

「そしてそいつらに伴って・・・こちら!!」

 

教室の壁が動き始めた。

埋め込み式の収納boxになってるみたいで、なんか入ってる。カラクリ屋敷みたい。

これかくれんぼとかしたら、最高に面白いだろうな、この建物。

 

てか、かっちゃん耐えるなぁ。

 

「入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた・・・戦闘服(コスチューム)!!!」

「「「おおお!!!!」」」

 

「うぉぉぉぉぉぉ!?」

 

男達の熱い歓声より熱い、かっちゃんの大声が教室に響き渡った。瞬間的にオールさんより注目を集めるかっちゃん。スター性抜群だね。流石未来のすーぱーひーろー。

 

「何しやがんだ!?てめぇ!!」

「えぇぇー?何って別にー?」

「今、耳に何かしたろぉ!!」

「してない、してない。ふっ、てしただけだぉー」

「それを言ってんだよぉ、クソが!!!つか、それだけじゃねぇだろ!?」

「ぺろってしたこと?」

「それ以外何があんだ、この糞ビッチが!!!」

「誰が糞ビッチだぁ!!処女だっつってんだよ、私はぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

「━━━ん、どうした、瀬呂。そんな前屈みになって」

「いや、その、左の席がやべぇ。俺この学校に入って良かったわ、切島」

「・・・何を見たんだよ」

 

 

 

 

「はぁーい、いい加減にしようか!君達!おじさん、怒るときは怒るぞー!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

グラウンドβで待つこと暫く、着替えてきた生徒達がちらほらと見えてきた。

 

まだまだ服に着られてるヒヨコ達の姿に、わたしは昔の自分を思い出す。師に見いだされ、ヒーローの道を駆け出したあの青春の日々を。

 

「歳をとったのだな、わたしも。これ程までに、懐かしく思ってしまうなんてな」

 

あの頃は良かった。

しがらみも何もない。ただ、平和を願って走り続けるだけで良かった。背負うものは無かった。背負うだけの力が無かったから。

 

けれど今は違う。

師匠に力を譲り受け、その力で築いてきた。

積み上げてきた平和の石垣は、既に世界に影響を与えている。

 

わたしは自らの望んでいた平和の象徴になったのだ。

 

けして負ける事が出来ない、逃げる事すら出来ない。

もはや、わたしの敗北はつまるところ正義の敗北に等しい。

重圧に押し潰されそうになりながらも、それでも懸命に走り続けてきた。重たい荷を背負い、傷ついた体を引きずり、命を削って・・・・。

 

けれど、もうそれも限界にきている。

 

あのヘドロ事件の一件以来、わたしのマッスルフォーム時の継続時間は更に減ってしまった。このままヒーロー活動を続けていけば、その時間は更に減っていく事になるだろう。いつしか、変身すらままならなくなる。

 

だから、そうなる前に後継を見つけなくてはならない。

新たな平和の象徴足り得る、後継を。

 

出来ることなら背負わせたくない。

平和の象徴は一人の肩へ背負わせるにはあまりに重すぎる。

だがそれでも、平和の象徴を失わせる事だけは出来ない。

 

この世界はまだ平和の象徴を必要としているのだから。

 

「彼女しか、いないと思うのだがな・・・」

 

相澤君に言われて、いかに自分の視野が狭くなっていたか思い知った。確かに彼女は一度も望んでいない。そんな彼女にわたしは第二のわたしになるレールを敷いた。

それがどれだけ独り善がりだったか、考えれば考えるほど自分が嫌になる。

 

けれど、あの時、爆豪少年を助けに飛び出した、あの瞬間、わたしは確信したのだ。

 

彼女こそが、わたしの求めていた後継であると。

 

彼女は誰よりも恐れている。

個性があるこの世界を。

ヒーローが成立してしまう時代を。

 

だが、それでも、彼女は走った。

都合の良い個性を持っていたから、そうしたのではない。周りから称賛されたくてやったのではない。得られる見返りなんてありはしない。

 

目の前で苦しむ彼を、ただ助けたかったから走ったのだ。

 

自らが抱いている恐怖を圧し殺し、震える手足を振った。自らを奮い立たせる為に笑顔をつくり、少年を安心させる為に軽口を叩いた。

あるヒーローはふざけていると彼女に言ったが、冗談ではない。女子中学生というまだ幼さが残る子供が、大の大人、しかも犯罪者に立ち向かっていく事など冗談で行える訳がないのだから。

 

わたしだけが知っている━━━いや、もしかしたら、側にいた彼も気づいてるかも知れない。

あの場で誰よりもヴィランに恐怖していたのが、誰だったのか。

 

 

 

 

「━━━しかし、遅いなぁ」

 

考え事をしながら皆の到着を待っていたが、一人の姿が一向に現れない。

 

誰かって、緑谷少女しかいないだろう。

 

「えー、と、麗日少女」

「は、はい!」

 

緑谷少女と話していた彼女ならば何か分かるかも知れないと声を掛けた。

 

「緑谷少女はどうしたのかな?」

「えっ、あ、双虎ちゃんは今着替えてます!なんか手違いがあったみたいで『B系の服じゃないんですけどー』って文句言って帰ろうとしたんですけど、皆で説得して、いま頑張って着替えとります!」

「帰ろうとしたのか・・・。しかし、B系の服って。ヒーローとしてそれはどうなんだ」

 

緑谷少女、普段着を注文する感覚で要望を出したな。

まったく困ったものだ。

 

 

その時、グラウンドβへ向かってくる足音が聞こえてきた。その足取りの重さから緑谷少女だろうと思う。

 

音の方へと顔を向ければそこには、確かに緑谷少女の姿があった。

 

 

だが、わたしは、その姿に心臓を掴まれたような感覚に陥る。

魅力的だったからではない。

衣装の奇抜さに目を奪われた訳ではない。

 

 

 

 

何故ならそれは━━━

 

 

「・・・・・・お師匠っ!」

 

 

━━━わたしのお師匠『志村菜奈』のヒーロースーツによく似た服を着た、緑谷少女の姿があったから。

 

少しずつ違ってはいるが、遠目から見たそれは、お師匠の姿そのものだった。

 

脳裏に過るお師匠の姿と緑谷少女が嫌に被る。

 

「あ、そう言えば、先生」

 

麗日少女の声に正気を取り戻したわたしはなんとか返事を返す。

すると、麗日少女から一枚のカードが手渡された。

 

「さっき双虎ちゃんから預かってたんです。なんか、説明書とは別にスーツ入ってた箱の中にあったらしくて?」

「メッセージカード?」

 

カードにはただ一文が綴られていた。

 

『皆は一人の為に』

 

 

「━━━━!!!」

 

全身に鳥肌がたった。

最悪の光景が脳裏を過る。

なぜという思いが駆け巡り、直ぐに緑谷少女のスーツに目がいった。

 

「授業を一時中断する!!緑谷少女以外はその場で待機するように!!」

 

咄嗟に出たわたしの大声に生徒達が肩を揺らす。

不満が出てもおかしくないが、わたしの態度に何か感じたのか何も言わないでいてくれたようだ。

 

わたしは緑谷少女を両腕に抱えると直ぐ様校舎へと走った。

 

腕の中で緑谷少女が「痴漢」だの「変態」だの騒いでいるがそれどころではない。

もし奴からの贈り物であるなら、何が仕込まれててもおかしくない。

 

「なぜ、なぜ今更奴が出てくる━━━!」

 

わたしが倒した、いや、わたしが殺した。

ワンフォーオールと因縁を持つ災厄。

お師匠を殺した仇。

 

超人時代、最悪のヴィラン。

オールフォーワンの名が。

 



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シリアスのみの閑話なんて誰も求めていないんだよ!馬鹿!だから書かないと宣言しながらも書くシリアス閑話の巻き

シリアスさんがくるぞー!シリアスさんがすげぇー勢いで来てるぞー!くそっ、ヒロアカ、地味にシリアスがすげぇ生息しておる!かてへん!ナニコレ!


無機質な音が鳴り響く暗く淀んだ部屋の一室。

僕はお気に入りのレコードを聞きながら、椅子にもたれ掛かっていた。

 

点滴の刺さっている腕が疼く。

煩わしく思ったが、今のこの体ではそれを外す訳にもいかない。それすらも叶わない、脆弱な体なのだ。

彼に敗北した己れの不甲斐なさの結果であるこの姿。もう受け入れてはいるが、彼の事を思い出すとやはり気分の良いことではない。

 

カチャ。

 

そういう金属音と共に部屋に気配が一つ入ってきた。

感知した反応通りの人物であれば、彼だ。

 

「やぁ、ドクター。どうかな、調子は」

 

僕の言葉にドクターは眉をしかめた。

 

「それは皮肉かな、先生」

「とんでもない。僕はただドクターの体調を心配しただけさ。他意はないよ」

「だと良いんだがな。調子は相変わらずだ。まだ、先生の体を治すめどは立たんよ」

「なら、あれはどうしたかな?上手くいったかい?」

「ああ、あれか。混ざる前に死んだよ。前例があるとはいえ、無茶な話だ」

 

ドクターは近くにあった椅子に身を沈めた。

 

「個性を複数持たせる事は可能。が、そこからが上手くいかん。個性を混ぜ合わせる。言葉では簡単だが、これが中々どうにもな」

「だが、僕の弟は上手くやった」

「それが特別だった、と思いたいがな」

 

カルテを読んでいたドクターは溜息を落とす。

酷く疲れているように感じる。

 

「なら、諦めるかい?」

「馬鹿を言うな、先生。こんな面白い事、止められるものか。何より、この技術が確立出来れば私は━━━いや、この話は止めておくか。取らぬ狸のなんとやらというからなぁ」

「それは良かった。ドクターほどの協力者がいなくなると、僕も困ってしまうからね」

「言い寄るわ。怪我さえなければ、そうも思うまいよ」

 

乾いた笑い声をあげたドクターは何かを思い出したように表情を固めた。

 

「そういえば、アレは届けておいたぞ」

「ああ、忘れてたよ。無事に彼女の元に?」

「雄英も大した事はない。所詮はただの教育機関の一つだ。贈り物の一つも止められないのだからな」

「あそこに期待し過ぎてはいけないよ、ドクター。いやぁ、いまや何処もかしこも同じかな?酷く温く、酷く臭い。つまらない時代になった。」

「あんたが勝ってれば違ったか、先生?」

 

面白い事をいう。そんな事、当然だろう。

けれど現実はこの様。

もはやそれを口にする資格は僕にはない。

 

「例え話は嫌いなんだ。それは次代の彼に任せるよ。」

「その彼は上手くやれるのか?」

「やれるとも」

 

その為に育てた。

それだけの為に育てたのだから。

 

「彼は僕になる大切な大切な、僕の生徒だよ。必ず、僕になってくれるさ」

 

そして、オールマイトの作ったくだらない時代を終わらせてくれる。僕の全てを奪った彼から、今度は僕が全てを奪いさる。

 

「ふふふ、楽しみだなぁ」

 

僕は音楽を嗜んだ。

無惨に血の池に沈む彼の姿を想像しながら、苦悩に歪む彼の顔を想像しながら、みすぼらしく死んでいく彼の姿を想像しながら。

 

僕は音楽を嗜んだ。

彼を思って。

彼に選ばれた少女を思って。

 

 

 

 

 

「━━━プレゼント、喜んでくれたかなぁ。ねぇ、緑谷双虎ちゃん」

 

 



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分からない事が気になるお年頃だから多目に見て欲しい。透明さんにセクハラしても勘弁して欲しい。の巻き

息が切れるまで走る。それがおれさ!(そんなでもない)


最初のヒーロー基礎学中、オールマイトによって拉致られた私こと緑谷双虎は、検査がどうとかで着てたスーツを取り上げられたり、保健室で健康診断されたりしてて、結局授業に戻る事はなかった。

 

 

ヒーロー基礎学に出た人達はなんかペア組んで実践形式の戦闘訓練したみたい。轟きゅんとか活躍したらしい。かっちゃんはどうしたって?なんかサボって私の所にきたから、あいつも立派なバックレ野郎だ。

オールマイトと何か話してたみたいだけど、何を話してたのやら。どうせあれだろ、どのAV女優が良かったとか、そういう話だろ。これだから男は。

 

あ、帰りにかっちゃんにアイス奢って貰ったよ。

もち、ハーゲンダッシュ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな翌日。

 

目が覚めた私の目前にいたのは、不機嫌そうなかっちゃんだった。

あれ?おかしいな、乙女の部屋にかっちゃんがおる。おかしいな、あれ、おかしいな。折角の乙女の部屋なのに、かっちゃんがタンスを漁ってない。おかしいな。

あ、でもパンツは手にしてる。

 

「・・・ブラジャーもいる?」

「いるかぁっ!!てめぇの部屋でずっこけて、何に躓いたか確認したらてめぇのパンツだっただけだごらぁ!!」

「そんなにぱわー全開で言い訳しないでもいいよ。分かったから。それはあげる」

「何一つ分かってねぇだろぉがぁぁぁぁ!!」

 

かっちゃんは私の顔面にパンツを投げつけてきた。

洗ったやつだから石鹸の香りがする。

 

「で、結局何してんの?」

「見たら分かんだろぉ!迎えに来たんだよ!」

「迎えに?」

 

なんでかっちゃんが迎えに来たんだ?

ちょっと意味が分からない。

まぁ、別になんでも良いけど。

 

「━━━ぐぅ」

「二度寝しようとすんな!!さっさと起きやがれ!!」

 

かっちゃんは怒鳴りながら体を揺さぶってくる。

凄く二度寝しづらい。

うっぷ、吐きそう。

 

・・・やかぁしぃ!!

 

元気に騒ぐかっちゃんの頭を掴み、動けないように胸に抱き締める。突然の事で反応出来なかったのか、一瞬かっちゃんが完全に硬直した。

けれどそこはナチュラルボーン天才マン。直ぐに飛んでいた意識を取り戻し離れようと抵抗してきた。

 

「むごぉっ!?むごっ、ごっぉ!!」

「もぞもぞするなぁ。私今ノーブラなんだよ、ちょっとは遠慮しろぉ」

「もがぁっ!?」

 

ノーブラなのは本当だ。

肌着はきてるけど、たゆんたゆんである。

リアルパフパフにかっちゃん大興奮であろう。

 

かっちゃんはなんやかんや男女のこういうのに気を使う人なので、こう言えば大人しくなるのは目に見えていた。伊達に幼馴染はやってない。私を起こしたかったら、母様かクソ旨いシュークリームでも持ってくるが良いぞ。ふははは。

 

しっかし、ういやつよ。

この程度で抵抗出来ぬとは。

 

かっちゃんのチクチクする頭を撫でながらもう一眠りしようとしたが、不意にドアが開いた。

なんだろうとうっすら目を見開いたら、母様が凄い形相でこちらを見ていた。

 

「双虎、朝から何してるの?勝己君が起こしにいったから大丈夫かと思ったけど・・・あんた、ベッドに勝己君連れ込んでナニしようとしてるの?」

「ひぃっ!!」

 

私はかっちゃんを放り投げて土下座した。

 

「さーせんしたぁぁぁぁ!!」

「起こしにきた勝己君には?」

「さーせんでしたぁぁぁぁぁ!!」

 

かっちゃんにも土下座する私の肩に、ポンと手が置かれた。

見なくても分かる、怖いやつや。

 

「さっと着替えていきなさい」

「まむ!いえす、まむ!!」

 

「ふ、服に手ーかけんな糞ビッチ!!俺様が出るまで待ちやがれぇ!!」

 

うるせぇ!!こちとら母様に殺される五秒前なんだよ!あそこでもおっ立てて黙って見てろ!!

今更貴様に裸を見られたくらいで、どうともないわ、戯けぇぇぇぇ!

 

━━━と、思いながら上着を脱ごうとしたら母様からボデェにキツイ一発を貰った。

母様より「勝己君が出てくまで待ちなさい、馬鹿娘」と言われた。あんたが急がせたんやないかいと言いたい。

 

 

 

 

 

 

かっちゃんと一緒に登校すると、教室に入った所で皆に囲まれた。主に女の子達。

どうやら皆、私の事を心配していてくれたみたいだ。

 

大丈夫みんな、処女は散らされてない。散らされてないから。えっ?そんな心配は流石にしてない?なら、なんの心配してんの?え?乙女が連れ去られたら、そういう心配でしょ?違うの?━━で、あしどんは何故にピンクなの?誰かに虐められたの?え、ああ、なんだただの超人か。

 

「もうっ、双虎ちゃんはジョーダンがキツイよー。それは流石に心配ないよ!だって連れていったのオールマイトだったし」

 

縁起悪子もといお茶子が笑いながら言ってきた。

 

「そう?人は見掛けによらないじゃん?そんな人とは思いませんでしたーてのが、世の中には一杯あるんだよ?」

「そ、それはそうかも知れんけど」

「男はみんな狼。この間みたいに、しれっと痴漢されるかも知れないよ?」

「あう!そ、それは嫌やけど・・・」

 

「待て待て待て、待ちたまえ!!だから俺はそんな事してないと言っているだろう!!」

 

仲良くお茶子と話してると眼鏡が混ざってきた。

厭らしい視線がお茶子のお尻を襲う。なのでそれを教えてあげた。

 

すると「ひぃっ」と声をあげてお茶子が私の影に隠れる。よいよい、盾にすることを許す。

 

「そういう訳だ。お茶子にセクハラするなら━━━まず轟きゅんを倒してからにして貰おうか!!」

 

「そこは君じゃないのかね!?」

 

「俺を巻き込むなよ、緑谷」

 

二人が綺麗に突っ込んでくる。

トリオになれそうだ、私ら。

 

「一緒に芸人を目指そうか」

「君は本当にヒーロー志望なのかね!?」

 

違うけどな。

まぁ、芸人にもなる気はないけど。

 

「昨日から気になってたんだけど、緑谷ちゃんってオールマイトの知り合いなの!?凄く親しそうにしてたけど!」

 

透明ガールが元気に聞いてきた。

なんだこの子、おっぱいボインボインじゃぁないか。

確か、葉隠・・・透・・・明子ちゃん。

 

「答えたら一つお願い聞いてくれる?」

「え、お願い?良いよ!良いよ!私ができる事なら任せてよー!」

「知り合いっていうか、ストーカーなんだよね。はい教えた、じゃ触らせて貰うねぇー」

「ストーカー!?え、触るっ?ひゃっ」

 

教えてあげたので私は早速透明ガールの顔を両手で掴んだ。ふむふむ、ほっぺはプニプニのすべすべ。鼻は高いな、目は大きいかも?眉毛も整ってるし、前髪は目もとより上か・・・ふむふむ。

 

「あ、あの、緑谷ちゃん!?ちょ、あの」

「うん、大体分かった!透明ガールは芸能人の━━━」

「うわぁぁぁぁ!?やっ、止めてよ!恥ずかしい!!」

 

透明な手で口を押さえられてしまった。

どうやら透明ガールの羞恥は認識される所にあるらしい。

 

素顔を公表しない事を約束に解放された私は他の女子達と軽くコミュニケーションをとった後、次の獲物へと向かう。

 

「む、悪鬼の視線」

 

カラス頭が私の気配に気づきこちらを向いた。

手をワキワキさせてる私を見て、静かに身構えてきた。

こやつ、出来る。

 

「来るなっ、緑谷」

「やだね、行くね。俄然」

 

捕まえてハグハグしてやろうと駆け出したが、私の体が前に進まなくなった。何事かと思えば、体に包帯が巻き付いている。

こ、これはっ!

 

包帯の出所を探って視線を動かせば、しかめっ面の包帯先生がいた。めちゃ睨んでくる。

 

「緑谷。朝から面倒を起こすな」

「違うんです先生ぇ!!あの人が誘惑するんですぅ!私に撫でろって、餌をあげろって、お散歩しろって誘惑するんですぅ!!毎日お風呂にいれて洗ってあげないと病気になるって脅すんですぅ!!」

「クラスメートを飼い慣らそうとするな」

 

 

 

 

「風呂・・・く、悪しき誘惑!!」

 

「なんでちょっと喜んでんだよ」

「言うな、切島。俺にも分かる。な、尾白」

「!?瀬呂、なんで俺を!?」

 

「緑谷って大胆だなぁー。洗うってよ峰田」

「ぐぅぅぅ、オイラを洗ってくれよぉぉ」

 

 



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大きくなったら委員長になって眼鏡をかけて、みんなにいんちょーって呼ばれる立派な人になりたいです。の巻き

連続投稿やで、話が進まないけどな!!


包帯先生が来たことでフリータイムが終了し、皆飼い慣らされた犬のように自らの席に座っていく。

私は自由を信条とする為、壁に背を預けて自由を謳歌していたのだが、普通にチョップされた後、無理矢理席につかされた。

基本的人権のアレを発動してやるぅ!!と言ったら、「やってみろ」と冷静に返されてしまった。言われてやれたら苦労しないんだよ!プンスコぉぉぉぉ!!

 

 

 

まぁ、これ以上騒いでオコされるのも面倒なので大人しく席についた。何事も素直が一番。

 

包帯先生は私が席についた事を確認すると、プリントの束を教卓の上において話始めた。

 

「昨日の戦闘訓練、お疲れ。Vと成績は見させて貰った。最初ならあんなもんだ。これからも気を抜かないで取り組む事だ。一部の者は授業を受けられなかったようだが━━━ま、それに関してはこちらにも色々あってな。後で補習する。」

「補習、嫌です!」

「一時間の補習のつもりだったが、お前は二時間だ緑谷」

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

余計な事言うんじゃなかった!あまりに嫌だからつい反射的に言ってしまった!!

ええぃ、こうなったら━━━━━

 

「爆豪君が隠れてエロ本読んでます!!」

「━━がっ!?てめぇ!?」

 

「爆豪も二時間補習だ」

「はぁぁぁぁ!?」

 

かっちゃんは必死に抗議したが、包帯先生から「緑谷が二時間の時点でお前も同じに決まってるだろ。考えろ」とか言われて相手にもされなかった。

ざまぁ。

 

 

「けろっ、間違いなく面倒見係ね」

「双虎ちゃん自由やなぁ」

 

 

「私語を慎め」

 

 

「けろっ」

「はわっ」

 

 

ザワザワした空気が引き締まった所で包帯先生がさっきの話の続きをし始める。

 

「さて、HRの本題だ・・・。急で悪いが今日は君らに・・・」

 

空気に緊張が走る。

背中をつつかれたかっちゃんの額にも青筋が走る。

 

「学級委員長をきめてもらう」

 

「「「「「学校っぽいの来たーーーー!!!」」」」」

 

大声をあげたクラスメートの皆は元気よく手をあげる。

私が私がと、学級委員長の地位大人気だ。

因みにかっちゃんも手をあげてる。

 

なので、絶好のからかい時を見逃さない私は、迷わず脇を擽ってやった。凄い顔で睨まれた。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

またザワザワしていた空気が引き締まった。

かっちゃんの脇も締まり、私の手は拘束された。

 

「多をけん引する責任重大な仕事だぞ・・・!『やりたい者』が、やれるモノではないだろう!!」

 

そんな事を言い出したのはダッシュ眼鏡。

変態の口から出てるとは思えない真面目な言葉だ。

あと、かっちゃん、そろそろ腕を解放してよ。汗臭くなっちゃうから。私の白魚のような手が。

 

「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務・・・!民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら・・・」

 

ずぉぉっと聳え立つ眼鏡の手。

空を突かんとばかりに伸ばされたその手。

皆その手を眺めながら、眼鏡の次の言葉を待つ。

 

「これは投票で、決めるべき議案!!!」

 

「そびえ立ってんじゃねーか!!何故発案した!!!」

 

 

それから暫くワイのワイのやって、結局投票する事になった。その間もかっちゃんは私の手を拘束したままだった。私の白魚の手は汚されてしまった。

 

え?投票結果?百が二票の、かっちゃん二票で他一票で終わったよ。

同票だったから最後にじゃんけんして、勝ったかっちゃんがめでたく委員長に就任しました。ひゅーひゅーぱちぱちー!

 

・・・おう、だからそろそろ手を解放しろや!!おまんに入れたったろがい!!この爆発頭ぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

手が解放されてから真面目に授業を受ける事数時間。

 

目を覚ましたらお昼時だった。

ご飯食べなきゃ。

 

という訳で昨日と同じようにかっちゃんの背中を押しながら食堂に向かった。かっちゃんは頻りに「今日は奢らねぇ!!」と言っていたが、所詮ツンデレなので普通に奢って貰おうと思う。

何にしようか、二日連チャンでお寿司は流石に頼まない。牛、豚、カレー、らーめん、カツ、そうだ、カツ丼にしよう。昨日切島のをつまんだけど、旨かったもんね。うん、そうしよう。

 

 

 

無事にカツ丼を奢って貰った私はかっちゃんと席を探す。すると、お茶子と眼鏡が座ってる姿が見えた。隣の席が空いてるようなのでお邪魔する事に。

 

はろはろー。

 

「━━━ん?緑谷くん。」

「あ、双虎ちゃん!って、爆豪くんも一緒なんやね」

 

「あぁぁ?いちゃワリィってか?」

 

「あわわ、そういうんちゃうけど!」

 

お茶子を怖がらせるかっちゃんの頭を叩き、私はお茶子の隣に座った。かっちゃんは眼鏡の隣、私の向かいの所だ。

 

「お茶子何食べてんの、味見させてー」

「味見するほどのもんちゃうよ?味噌カツ定食です、どーん」

「私はカツどーん」

「あはは」

「あっはは」

 

「箸が転がっても笑う年頃とはよく言ったものだ。なぁ爆豪くん、君なら━━━」

「うるせぇ、黙って食えクソ眼鏡」

「本当に口が悪いな君は」

 

 

お茶子と話しながら食べていると眼鏡が本当は変態じゃなくてホモだった事が発覚した。だからお茶子は安心して一緒にご飯出来たらしい。

おいおい、そしたら今度はかっちゃんがピンチじゃねーか。隣にしちゃったよ。いや、でもまぁ、かっちゃんなら大丈夫か。なんとかするでしょ、自分で。

 

「それにしても爆豪くん、委員長おめでとう!でもぶっちゃけると私、飯田くんがなるもんだと思ってたよ!!」

 

笑顔のお茶子にそう言われ、かっちゃんが嫌悪感丸出しで睨み付けた。私のお茶子に何すんだと、かっちゃんの定食から生姜焼きを頂く。凄い睨まれた。

 

「━━━ちっ!なんだぁ、丸顔。俺じゃ力不足だってのか?」

「ちゃうよ!ただ、ほら、飯田くんやりたがってたし、眼鏡だし!!」

 

まぁ、眼鏡だしなぁ。

 

「あの時ホモだと知ってて、かっちゃんに捕まってなかったら、私も入れたかもなぁ。眼鏡だし」

 

「最初に訂正しておくホモじゃないぞ、俺は。それにしても君たちは、眼鏡をなんだと思っているんだ」

 

はぁ、と溜息をついたホモ眼鏡はオレンジジュースを口にした。美味しそうだったので、かっちゃんに奢ってアピールしたが、未開封の紙パックのお茶を渡された。今日はこの気分じゃないのに。ま、良いけど。

 

「やりたいと、相応しいか否かは別の話だ。勿論、眼鏡である事も別だ。投票という公平な手段で決まった以上、例えそれがたった一票差だとしても、僕はそれこそが正しい結果だったと思うよ」

 

なんだこの偉そうな眼鏡。

なんかしゃくだからレンズを触ってやった。

すると「やめろぉ僕の眼鏡に指紋をつけるなぁ」と抵抗してくる。弄りがいがあるなぁ。

 

「そういえば、飯田くんってちょいちょい僕って言うよね?もしかして坊ちゃん?」

 

お茶子の言葉に眼鏡が困った顔をした。

 

「そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだが・・・・はぁ。ああ、俺の家は代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男なんだ」

「つまり跡継ぎを気にしなくていいから、男に走ったと」

「だからホモではないと・・・言うだけ無駄だろうな。なんて澄んだ目で疑ってくるんだ、君は」

 

話を聞いていくと眼鏡はターボヒーローとかいうのの弟らしい。お茶子に聞くと結構有名なんだとか。

その事を眼鏡に聞いたら「それが、俺の兄さ!」とあからさまな態度を見せてくる。

 

ホモでブラコンだった。

きちぃーーぜぇ。

 

かっちゃんの貞操を気にしだしたその時、突然けたたましい音が鳴り響いた。

それは普段聞くことがないであろう、何かの危機を報せる警報だった。

 

がたっと立ち上がったかっちゃんは怖い顔をして私を見た。

 

「ちっ、おい!」

「私じゃないよ!!」

「疑ってねぇっつんだよ!!」

 

だったら驚かせるなぁ!そんな目で見られたら、小学校の時、あのボタン押した時の事を思い出しちゃうだろうがぁぁ!!

 



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はい、みんな慌てない!おかしを思い出して!!お菓子じゃないよ、おかしを思い出して!そうだよーおかしだよ、おかしを大切に避難するんだー!で、おかしってなんだっけ?の巻き

毎日投稿出来るわけないだろ!これはなっ、休みであって暇だから出来るんだ!!よって、明日は投稿しないかもしれないと思わせといて、また今夜するかもしれないと見せさせて(以降ループ)


誰もが一度はそれに誘惑されただろう。

大体廊下とかに配置されてる、赤いそれだ。そう、大体赤いランプと一緒に置いてある、それだ。

確かに、その誘惑に抗え切れずに押した事はある。あるさ。人間だもの。でも、反省してるの。私。もう反省し切っているの!母様の鬼のようなあの顔は、流石にもう見たくないの!本当だよ!押さないよ!

日頃の行いが少しだけやんちゃだから、私が疑われるのは分かる。私があなただったら、即通報してるもん。お前やろって。

 

でも聞いて!

それでも私は押してない!!

 

「しつけーんだよ!!分かったってんだろ馬鹿女!!」

 

命を懸けた私の訴えは見事にかっちゃんの心に響いた。

これで仮に私が本当にやったのだとしても、頑張って庇ってくれるだろう。え、なに、お茶子?え?やってないよ、やってないって。本当にやってないって!今回は!!

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは、すみやかに屋外へと避難して下さい。繰り返しますセキュリティ3が━━━━』

 

セキュリティ3?何いってんだ、これ?

意味が分からず首を捻っていると、かっちゃんが近くの生徒の首根っこつかんで脅して聞いてた。多分先輩だろうけど・・・おいおい、泣かすなよ。

 

「糞モブが言うには、校舎内に不審者が入ってきたって事らしい。おい、ふ・・・・・・『ニコ』俺から離れんな」

「おお、なつい渾名。暫く聞いてなかったね?」

「うるせぇっ死ね!!」

 

随分と懐かしい渾名だ。

いつ以来だったか?幼稚園の頃かな?

私がかっちゃん呼びしてくるのが気に入らなくて、頑張って考えてきた渾名だったな、確か。

割りと私が気に入ってそれで呼ぶように言ってたら、照れたのか直ぐに言わなくなったんだっけ?

よく覚えてたな・・・。

 

「━━━もしかして、心の中では呼んでた系?」

「っせぇ、呼んどらんわボケ!!!」

「じゃ、案外、双虎って普通に呼んでたりする?」

「っ!?し、しとらんわ!!てめぇは糞女で十分なんだよ!!!」

 

いやまぁ、どっちでも良いけどさ。

なんか無理矢理絞り出した気がしたから、聞いてみただけだしね。

それにしてもニコはなついな。

 

「あ、そだ、お茶子ニコって呼んでよ。私はお茶子って呼ぶから」

「ニコちゃん?良いね可愛い!━━━って私の呼び方なにも変わっとらん!?」

「お茶子よろしくー。あっはは」

「ニコちゃんよろしくー。あはは」

 

「女子二人、なぜ今和める!?避難するぞ!!」

 

眼鏡とかっちゃんの先導で避難していくと、出口が人だかりでえらい事になっていた。満員電車といい勝負しそうだ。きっと男達は今ここに飛び込めば、偶然を装っておっぱいだのお尻だのモミモミ天国なのだろう。私達と違って。私達はやられ損だよ。金払えよ。まったくもって割に合わない。━━━ん、待てよ、揉まれるくらいなら、こっちから揉んでやったら良いんじゃないか?金の玉とか、粗末棒とか。

 

「かっちゃんは揉まれるのどう?」

「意味わかんねぇ事聞いてくる時は、だいったい碌でもねぇ事なのは知ってんだよ、黙っとけ馬鹿!」

「んだとこらぁ」

 

この野郎一回パチパチパンチ食らわしたろか。

母様直伝のパチパチパンチ食らわしたろか。

 

シュッシュッとパチパチパンチの準備でシャドーしていると人混み第二波がやってきて飲み込まれた。お茶子と眼鏡が。あー、お茶子ー。おっぱい触られたら、手をこうっ!こう捻りあげて、こう足を崩して極めるんだよー!こうっだよ、こうっ!!

 

私はなんかかっちゃんに壁ドンされたお陰で人混みに揉まれなくて済んだ。大丈夫だ。かっちゃんバリアーの鉄壁感と安定性たるや。

形的に庇ってくれた感じだけど、やろうとしたやった事ではない筈なので感謝はしてやらない。不可抗力というやつだ。おお、顔近い。キスされそう。

 

「かっちゃん、かっちゃん」

「ああ?!んだよ!?今てめぇに構ってる余裕はねぇ!!」

「どさくさに紛れてキスしたら殺す」

「っ、は、はぁ!?しねぇぇっつんだよ!!?」

 

しねぇなら良いや。

私のファーストキスは重いのだよ。

貴様にくれてやる義理は欠片とてないのだ。

 

「それよか、これどうなんだろね?」

「しるかっ!!良いから黙ってろ!!いいかっ、ぜってぇ離れんな!!」

「離れたくても離れらんないんだってば」

 

かっちゃんのマジの目に見つめられのは辛いので後ろに視線を移してみる。壁ドンされたのが庭が見えるガラス張りの方で良かった。時間つぶせる。反対側だったら人混みか、白い壁か、ずっとかっちゃんの顔見なきゃいけない所だったよ。それってなんの罰ゲーム。

 

「ん?」

 

ふと見た庭にゾロゾロと歩く集団が見えた。

カメラだの、マイクだのが見える。

あれって・・・テレビ系?

 

「かっちゃんや、かっちゃんや」

「んだよっ!?」

「侵入者ってあれじゃね?」

「━━あ?!ちっ!朝の奴等かよ!!んどくせぇ!!」

 

そう登校中にみた、学校の玄関前にいた連中である。

無断で私の顔を全国ネットしようとしたので当然の権利として出演料を要求したのに、徐に避けて行きやがったあのただ撮り糞野郎達である。きゅうりにも劣る糞野郎達である。

 

しかも奴等、私とかっちゃんをカップル呼びしてきやがった。くぅぅぅぅってなったわ。くぅぅぅぅっって。

 

まぁ、それは取り合えずおいておこう。

 

「かっちゃんや。とりま原因は分かったし、委員長らしく働いてきなよ。私の事はほっといて良いからさ」

「はぁ!?んだよ、いきなり!」

「こういう時、人を纏めるのが委員長様の仕事でしょ?うちのクラスメートもチラホラ人混みに見えるしさ、格好よく治めて支持率アップを狙ってこーぜぇ」

 

かっちゃん自身分かってる事だろうけど、かっちゃんは人の上に立つ事に絶望的に向いてない。能力はあるんだけど、天才マン故の自信が先にたって人の話を聞けない傾向がある。そんなかっちゃんが委員長とかぶっちゃけ笑える。

 

けどまぁ、私としては、応援してあげようと思うのだ。

 

「ほら、かっちゃんってアレだからさ。直ぐにボロが出るじゃん?で反感買うでしょ?」

「アレってなんだ、ブッ飛ばすぞ」

「そういう時にさ、過去の実績があればリコールとかされにくくなるでしょ?ね?先行き不安な委員長様なんだから、活躍出来るとき活躍して、頼れる所見せてきなよ」

 

かっちゃんが委員長としてやってくには、それしかないだろうしね。

 

「・・・む、かっちゃん?」

 

直ぐに行くかと思ったら、下を向いたままかっちゃんは動かなかった。

動けないのはあるかも知れないけど、割りと鍛えてあるかっちゃんなら、このぐらいの人混みスイスイ泳いでいけると思う。なに、お腹痛いの?ぽんぽん痛いの?生理痛薬しかもってないけど、飲むかい?

 

生理痛薬片手に肩をぽんぽんすると、眉間にシワが寄りまくったかっちゃんの顔がこちらを見てきた。

 

「いかねぇ」

 

ただ一言、完全拒否である。

 

こ、この野郎。慈母の如く滲み出る私の優しさ故の助言を完全拒否するとは、なんてふてぇ野郎だ!!

 

・・・はぁ。

 

手の掛かる男だよ、まったく。かっちゃんプライド高いから、私のアイディアに乗っかるのが嫌なんだろうな。すげぇー苦悩してたみたいだし。素直に乗っとけばいいのにさ。余計な事言っちゃったなぁ、もう。

 

「そうかい。なら好きにすると良いさ」

「ああ、初めから、そうしてる」

 

 

それから少しして眼鏡がドアの上に張り付き、皆を上手い具合に鎮めて事は治まった。本来ならかっちゃんの仕事なのになぁ。

 

その後、結局かっちゃんは委員長様の座を眼鏡に押しつけてしまって、折角のかっちゃんフィーバーチャンスはおじゃんになった。

帰り際、どうして委員長様を蹴ったのかと聞くと、面倒臭かったとか。

 

おう、だったら最初からそうしろやっ!私の白魚が無駄にかっちゃん臭くなったろがい!くんくん、ほら!まだ臭い!かっちゃん臭が凄い!と怒ったらシュークリーム奢ってくれた。

 

 

 

許す!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

雄英が誇る鉄壁の守り。

その最初の一つである校門が、無惨にも瓦礫と化していた。

 

その惨状を見るにかなりの個性を持った者の仕業であることが分かる。

 

「ただのマスコミに『こんなこと』出来る?」

 

私の問いに集まった教師陣から返る言葉はない。

皆、何が起きているか理解してるのだ。

 

「そそのかした者がいるね・・・」

 

マスコミを先導し、騒ぎを起こす。

何が目的なのか。イタズラならそれで終わりだが━━━

 

「邪な者が入り込んだか━━━もしくは宣戦布告の腹づもりか」

 

私は砂のように崩れ去った鋼鉄の門をみた。

本来ならありない壊れ方をしたその門を。

 

「どちらにせよ、厳戒体制をしくよ。皆には一度、気を引き締め直して欲しい」

 

誰が、何のために。

そんな事は関係ない。

ここは未来を担う子供達の、ヒーローの卵達が育つ場所。誰であろうと、その邪魔をするものは許しておくわけにはいかない。

 

この私、根津の誇りにかけて。

 



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ゆーえすじぇい!ゆーえすじぇい!ゆーえすじぇい!ここ大阪じゃないけど、ゆーえすじぇい!!の巻き

やっちまったか。おれ。


警報騒ぎから暫く。

ヒーロー基礎学という訳わかめちゃんな授業以外は普通な授業を受けて順風満帆なスクールライフをエンジョイしてきた私、A組きってのスーパーアイドル緑谷双虎はUSJというテーマパークに向かうバスに乗っていた。

席順?眼鏡が煩かったけど無視して適当に乗ったよ!

 

「包帯先生!おやつ忘れました!途中でコンビニ寄って下さい!!」

「学校の敷地内にコンビニがあってたまるか。あと、授業中だ。持ってても食うな」

 

なんと冷たい塩対応!私の心はズタズタに傷ついたよ!これは慰謝料貰わないと!

 

文句を言おうと手をあげようとしたら、隣に座るお茶子に止められた。━━くっ、邪魔するな、お茶子!女には負けると分かっていてもやらねばならぬ時があるのだ!!

 

「あったとしても、今やないから!絶対!」

 

パツパツんスーツのお茶子に言われたのでは仕方ない。

今回は折れてやろう、包帯先生めが。

にしても、お茶子はえっちだなぁ。

 

「なんでそんなにピッタリフィット?えろじゃん」

「あわっ!?今更それ言うん?!あとエロやないもん!」

 

そうは言っても・・・。

ジロジロリンと頭の上から足の爪先まで見てみるが、おっぱいはメチャ盛り上がってるし、お尻はでてんとしてるし・・・・えろやん?

 

「これはっ、要望ちゃんと書いてなかったから、その、私の意思とはちゃうし・・・そ、そう言うニコちゃんかて、おっぱいえらい事になってるやん!ニコちゃんこそ、エロやろ!」

 

ははん?おいおい、何言ってんのお茶子は。

 

「元よりないすばでぇーな私が、男子からエロい目で見られない訳がないだろ!!平常運行、私!!」

「胸張って言うことちゃう!」

 

結局私のスーツは最初に間違って届いた奴を使ってる。

 

オールさんは良い顔しなかったが、これを着なかったらダサジャージなので嫌だ。

それに私が本来頼んでた奴は何かの手違いでそもそも作られてないみたいで待っててもこないし、検査した結果おかしな材料が含まれてた訳でもないし、性能もかなり良いみたいだしで何かと都合が良い。それに何よりお高い品物らしいから普通に欲しい。学校の備品扱いだから、流石に売れるとは思わないけど、使い古した奴なら寝巻きとして貰える可能性はある。結構いい着心地なのである。これ。

 

え?フィットする系のスーツは嫌じゃなかったかって?

まぁ、好みではないけど、百のヒーロースーツみたら些細な気がしたんだよね。なにあれ、ただのエロじゃん。

 

「ねぇねぇ、緑谷!麗日とばっか話してないで、私とも話そーよー!」

 

向かい側に座るピンク女子あしどんが元気に手を振ってアピッてくる。おいおい、私人気者かよ。来るもの拒まずな私は喜んでお相手する。

 

「いいよー!お話しよー!いえー」

「いえーい、お話しよー!」

 

そうして見つめあった私達だったが、特に話す事はなかった。なのでアルプス一万尺した。楽しかった(小並感)。

 

「・・・緑谷、動いてるバスの中で立つな。危ないだろ」

「大丈夫です、先生!私サンチンをマスターしてますので!!」

「お前のその構えは四股だ。男子共の目の毒だから止めろ」

 

おっと、間違えちゃったぜぇ。

これは四股だった。うっかり。

 

これ以上ふざけてると包帯先生からチョップを喰らいそうだったので元の席に戻った。すると、お茶子の反対側からついついと袖を引っ張られた。

 

視線を向ければカエルさんがいた。

そう言えば隣だった。

 

「けろっ。緑谷ちゃんあまり先生を刺激すると、また怒られちゃうわよ」

 

どうやら心配してケロたみたいだ。

何この子、めちゃええ子やん。あ、ええカエルやん。

 

「でもまぁ、大丈夫!私怒られてない方が珍しいくらいだし!!」

「それは胸を張って言っちゃ駄目な奴よ。緑谷ちゃん」

 

ち、ち、ち。それは違うなぁ、カエルちゃん。

若いうちはそういう無駄な自信が、未来を紡いでいくものなのだよ。

 

「それはそうと、緑谷ちゃんの個性って見たことないわ。どんな個性なの?」

「おおぅ、ぐいぐいくるねぇいカエルちゃん。そんなに知りたい?知りたい?」

「カエルちゃんじゃなくて、梅雨ちゃんと呼んで。興味はあるけど、言いたくないなら聞かないわ」

「私の個性はね、火を吹く個性と引き寄せる個性の二つだよ。良いでしょ?寝ながらリモコンとったりジュースとったり出来るんだよ」

「案外あっさりと言うのね・・・・・・二つ?」

 

 

 

「「「「二つ!!??」」」」

 

 

クラスメートの声が重なった。

なんぞ。

 

「マジかよ緑谷!普通一つだろ!しかもその個性だと、この間の個性把握テスト殆ど個性なしでやってんじゃねぇーの?!」

 

切島は勘がいいな。

 

「かっちゃんが走るときに、妨害で火を吹いたくらいだかんね」

「なんて事に使ってんだよ!?てか、それって自分の成績に関係ない使用法じゃねーか!」

 

離れた所に座るかっちゃんが舌打ちした。

してやられたあの時を思い出したのだろう。

油断大敵なんだぜ、かっちゃん。

 

がたっと、切島が椅子にもたれ掛かった。

 

「普通に、女子に負けてたのか・・・くそぉ」

「元気だして切島ちゃん。相手が悪かったわ」

 

そうだよ、相手が悪かったのだよ。

この世界で一番美しくてないすばでぇーで運動神経抜群の私と比べる事がまず間違ってる。悔い改めよー!

 

「にしても二つか。しかも一つは火を吹くなんて見栄えのいい個性。俺の硬化は対人じゃ強ぇけど、いかんせん地味なんだよなー」

「硬化ってあそこも硬化すんの?」

「言いづれぇ事もがんがん来るな、緑谷は。教えねぇよ」

「教えないって事は硬化すんだ。彼女を飽きさせない、魅惑のガチガチおち━━━━」

 

 

「ニコちゃん!ストップ!!言わせへんよー!!」

「駄目よ、緑谷ちゃん」

 

お茶子に口を押さえられた。

梅雨ちゃんにも押さえられた。

 

「何言ってんだよ緑谷・・・ん?」

「━━━オイラと替われよ、切島ぁぁぁ・・・・!」

「間違っても、お前とは替わらねぇわ」

 

 

 

 

下ネタ禁止を言い渡された私は渋々普通の話をする事にした。面白くもない、かっちゃんの恥ずかしい過去話だ。途中まで皆のワクワクする視線を受けながらそれなりに楽しく話していのだが、バレンタインデーの話になった途端かっちゃんが爆発しながら中断させにきた。

なんだよぉ!今おもしろい所だろ!かっちゃんが私に貰ったと勘違いしたチョコを突き返しにきた、さいっこうに面白い勘違いシーンだろうが!!

なに、顔伏せてんだ!今更恥ずかしがってんじゃねーぞ!!照れてんのか!照れてるんですかっ?!ねぇねぇ?!つーか、あの時はかっちゃんが悪いですよねぇ?貴方が義理チョコでも学校では渡すなって言うから、私、ちゃんと、放課後に貴方のお家に届けにいく予定だったのにさ!馬鹿ぁなんでぇすくぁぁぁぁ!?

 

え、なに、お茶子。

え?チョコ?あげてる、あげてる。毎年。普段奢って貰ってるから、こういう時くらいはね・・・?

どうした、お茶子。そんな顔赤くして。なんでもない?それなら良いけどさ?

 

 

 

 

「・・・俺、爆豪のこと、クソを下水で煮込んだような性格してる癖に可愛い幼馴染みとイチャイチャしてるクソ野郎だと思ってたけどよ・・・なんだその、苦労してんだな」

「・・・・・・んだっ、てめぇのそのボキャブラリーはよ。殺すぞ」

「爆豪の、こんな力のねぇ殺すぞ初めて聞いたわ」

 

 

 

 

 

 

「緑谷、それ以上騒いだら、補習喰らわすぞ」

「双虎ちゃん大人しくしてるにゃん!」

 

 



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あれれぇ?おかしいぞー。こんなところに知らないオジサンオバハ達がいるぞー?の巻き

社会の厳しさに咽びなき、せめてもの慰めに小説書いて楽しんでるみんなー、小説の続きに悩んでないかー?
文章力が足りない?アイディアが貧相?違う違う、そうじゃない。貴方に足りないのは━━━速さ!そう速さが足りない!!!万事速ければ大丈夫!!ストレイト・クーガーさんもそう言ってるから!さぁ、世界を縮めにいこう!!(錯乱)



「すっげぇーーー!!USJかよ!!」

 

切島や他の生徒達の驚きに満ちた声が響く。

大人しくおねんねしていた私はその声に起床し、大あくびかきながら窓の外を見た。そこにはいかにもテーマパークな大きな施設があった。

 

大人しくバスで爆睡し、目が覚めるとテーマパーク。

しかも僕らの遊園地、USJである。

こんなに幸せな事があって良いのだろうか。

あれ、大阪?ここは大阪?

 

気になって先生に迫ったら嫌な顔された。

美少女に迫られた反応じゃないだろ、こら!なんだ、男が良いのか!男が良いんだな!?このホモ野郎!!

 

「・・・はぁ。大阪じゃないから大人しくしてろ」

「はい、了解しました包帯先生!!お土産は帰りにですか!?」

「お土産屋はない。諦めろ」

 

そんなっ!?

 

「じゃぁ、私は、何を持ち帰れば・・・土?」

「甲子園でもない。大阪から離れろ」

「包~帯~先~生~!甲子園は大阪じゃなくて兵庫でぇす!阪神だからって間違えたんですねぇ、ぷぷー!」

 

スッパァーンと包帯先生の手が、私の頭をひっぱたいていった。痛いなんてもんじゃない、凄く痛かった。

 

「全員大人しく付いてこい。今日、君らの授業を見てくれるもう一人の先生を紹介する」

 

有無を言わさぬ包帯先生に、皆大人しくついていった。

私はかっちゃんにおんぶして貰った。いや、だって、頭ちょー痛いからさ。

痛くて動けないんだよぉ、本当なんだよぉ、信じてくれよぉ。

 

「うっせぇ、黙って掴まってろ」

「ん?ぎゅってして欲しいんか?このすけべぇー」

「ブッ飛ばすぞ!!」

 

 

 

「・・・あいつら、本当は付き合ってんじゃねぇのか」

「言うな切島。少しは尾白の気持ちも考えろよ」

「だから、なんで俺の名前が出てくるんだよ!?おい、瀬呂!」

 

 

 

 

 

 

 

 

包帯先生に案内されてついていくと、宇宙服みたいな服を着た新手の変態がいた。露出狂とは対極の位置にいるであろう着込狂である。

 

普段着からあれなのか?

変態やないか。

 

着込狂は変質者にも関わらず、皆の前に堂々と立つと後ろに広がるテーマパークを差して話し始めた。

 

「水難事故、土砂災害、火事・・・エトセトラ。あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も━━━━ウソの災害や事故ルーム!!」

 

皆が何かを心の中に浮かべている様子の中、いち早く正気に戻った私は着込狂に手をあげて見せる。

 

「!?え、えーと、そこの彼女、どうしたんだい?」

「そのエトセトラには、変質者との遭遇事故は想定してありますか!例えば着込狂相手とか!」

「着込狂!?なに、その新手の変質者?!ごめん、ちょっとそれは想定してないかなぁ」

「それは、自分が捕まりたくないか━━━━」

 

 

「緑谷、黙ってないと三者面談にかけるぞ」

 

 

「お話の腰を折ってしゃーせんしたー!!着込狂先生!!」

「い、いいよ。何か気になった事があればどんどん言い━━━って、着込狂って僕の事!?」

 

ショックを受けた着込狂は少し狼狽えはしたものの、なんとか立ち直り話の続きに戻った。伊達に変態はやってないということだろう。覚悟が違う。てか、包帯先生あれ捕まえなくて良いんですか?

 

「ニコちゃん、13号先生に失礼だよ!」

 

着込狂を疑いの眼差しで見てるとお茶子に突っ込まれた。

 

「だって、変じゃない?」

「そ、それは、あの格好は普段着やったらアレかもしれんけど、ヒーロースーツやから、あれは」

 

なんだ、そういう事なら早く教えてくれれば良いのに。着込狂かと思ったよ、私は。

 

「ていうか、ニコちゃんは13号先生知らんの?」

「知らんで」

「ふ、ふわっと、訛り真似しないでよ!恥ずかしいなぁもぉ。あんね、13号先生は災害救助で活躍してるヒーローなの。私好きで・・・えへへ」

「お茶子って、ああいう感じの人が好きなんだぁ」

「ちゃうよ!?ニコちゃんが頭の中で想像しとる事と、私が思ってる事、絶対ちゃうからね!?」

 

 

 

「なんだろう。分かってるけど、あそこまで否定されると辛いです先輩」

「いちいち緑谷って馬鹿が交ざってる馬鹿な話に付き合うな。馬鹿になるぞ」

「先輩、辛辣ですね」

「あいつにはな」

 

 

 

 

 

それから着込狂もといミスターサーティーンのあり難いお話は続いた。皆借りてきた猫みたいに大人しくお話を聞いてる。お茶子は軽く壊れてた。

 

しっかしミスターサーティーン、えらい個性持ってるなぁ。ブラックホールですってよ奥さん!ねぇ!やぁねぇ危なくって!ね、奥さん!━━━れ、先生?包帯先生?あの、この頭にセットされた手はなんでしょ━━━あでででででででで!?脳みそが出ちゃう!脳みそが出ちゃいますって先生ぇぇぇぇ!?

 

 

包帯先生のアイアンクローで私の体力はレッドゾーンに突入。このままでは授業を受けられませんとへこたれたが、今度は尻を蹴り飛ばされた。

 

この、セクハラ野郎!

 

「緑谷、授業の邪魔はするな」

「はぃーすんませんしたー」

 

ムカつきマッスルな私の頭の上に包帯先生が手を置いてきた。二撃目がくると身構えたけど、なんか頭を撫でられた。

 

「・・・あのぉ」

「お前は馬鹿だが、ただの馬鹿じゃない。そんなに心配しなくていい。今は普通に授業を受けろ。幸い俺は『止められる個性』だ。何かあれば俺が守る。ヒーローとしてじゃなく、教師としてだ。いいな?」

「はぁ」

 

意味深な事を言ってきた包帯先生。

謎である、クソ謎である。なに?セクハラの正当化?

許せぬ。まったくもって、許せぬよ。私は。

 

まぁ、これ以上逆らっても痛い目を見るだけだから、何もしないけどさ・・・しくしく。

 

 

 

 

 

「おやぁ?」

 

 

ふと振り返った先におかしな物を見た。

空中に浮かんだ黒い渦みたいな物。

何だろうと眺めていると、不意にその渦から覗いた目と視線があった。

 

「一かたまりになって動くな!!!」

 

包帯先生が突然大声をあげた。

皆のザワザワする音が聞こえてくる。

私は、渦から覗いた視線に釘付けになっていて、周りがどうなってるか分からない。

 

渦から覗いた目の人物はその姿を現した。

体中に手みたいなオブジェクトをつけたヒョロガリで、私ならボコボコに出来そうな貧弱スタイルなのに、どうしてか勝てそうな気がしない。寒気が止まらない。面白い筈なのに。笑えない━━いや、やっぱり面白いな、あれ。なんだあれ。わっはは。

 

 

その男に連なってゾロゾロとチンピラみたいなのが出てくるけど、私の視線はそのヒョロガリから離れなかった。離せなかった。あまりにも面白過ぎるから。なんだあれ。

 

 

「いつまでそこで見てる、緑谷!!下がってろ!!13号、生徒を守れ!!」

 

 

急に首根っこを掴まれた私は、そのまま放り投げられた。私は引き寄せる個性で上手いことバランスをとって着地する。

 

「おっ」

「おぅ?」

 

着地した途端変な声が聞こえてきたので後ろを向くと、両手を差し出したかっちゃんがいた。

 

どうした、かっちゃん。

なにその手。新手のギャグ?

 

「ははっ、ご愁傷様だ爆豪。何だアリャ?また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」

 

まだ状況を飲み込めていない切島の声が聞こえる。

それに対して包帯先生はゴーグルを着けながら口を開いた。

 

「動くな、あれは━━━━」

「ボブ!」

「━━━ヴィランだ!!!!」

 

僅かな静寂が流れた後、敵から目を離さないままの包帯先生より「三者面談だ」と無情な勧告を頂く。

うわぁぁぁぁ、つい、ついなんだよ!出来心なんだよぉ!悪気はない━━━事もないけど、三者面談はいやぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「13号に、イレイザーヘッドですか・・・。先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが・・・」

 

 

黒霧の言葉に苛つきを覚えながら、渡されたカリキュラムを思い出す。確かにあれにはオールマイトの名前があった。

 

「どこだよ・・・せっかくこんなに、大衆引き連れてきたのにさ・・・。オールマイト、平和の象徴がいないなんてさ・・・・」

 

ムカつくなぁ。

 

本当。

 

なんでいないかなぁ。

 

どうしたらくる?

 

なにをしたらくる?

 

ヒーローだもんなぁ。

 

ああ、きっと━━━

 

 

 

 

「子どもを殺せば来るのかな?」

 

 

 

 

だって教師だもんな。

 

オールマイトは。

 

ヒーローでさ、教師。

ならくるさ。

 

 

 

先生見ててくれよ。

 

 

 

俺が━━━

 

 

 

「オールマイトの正義が、いかに糞かって事、世間に知らしめてやる所をさァ」

 

 

 



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おい、そこの、そうお前だよ!ワープはいけないよ。あれは、青タヌキの領分だから。あれは未来の猫型タヌキの専売特許だからぁ!の巻き

お前の個性に、タヌキが泣いた!!


「ヴィラン!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

誰かがそう叫んだ。

私も思ったけど、態々言わんでもと思った。

そうお前だよ、切島ぁ。

 

「先生、侵入者用センサーは?!」

「もちろんありますが・・・」

 

今度は百とゴルゴがお話。

お前ら、本当に余裕だな。

電話とかしな?今こそイチイチゼロだよ?あれ、繋がんないな。電波立ってないとか、どんだけクソなんだよ、この建物。アンテナ工事しとけよ。

そうお前だよ、ゴルゴぉ。まったく。

 

おい、上鳴!お前だよお前!

ほら電気使える系だろ、連絡とれ連絡!なんか電波むりぽなんだよ。使えるだろ?ビリビリって。そうだよ、お前だよ、お前がやるんだよ。

 

「現れたのはここだけか、学校全体か・・・。何にせよ、センサーが反応しねぇなら、向こうにもそういうこと出来る個性がいるってことだな━━━━」

 

今度は轟きゅん?

君らね、本当に話すの好きね。

絶対にそんなことしてる場合じゃないからね。

ていうか、それ私いま言ったからね。聞いてないの?馬鹿なの?あ、天然さんだった。

 

「━━━バカだがアホじゃねぇ、これは━━━」

 

はいはい、落ち着きーみんな落ち着きー。おかしだよーみんな。おかしを大切にするんだよー。おい、眼鏡、委員長だろ、鎮めろクラスメートを。お前の仕事じゃろがい。

で、繋がった?上鳴?出来ない?電波妨害系がいるな、これ。ダメぽよだ。連絡、ダメぽよ。

 

もう避難しよーそうしよー。

 

避難する為に、混乱する皆を一列に並べるように眼鏡に命令しているとヴィランの様子を窺っていた包帯先生が叫んできた。

 

「13号避難開始!学校に━━━」

「ダメぽよです!電波がダメぽよです!」

「なら、上鳴の━━━」

「上鳴もダメぽよです!口だけナンパ野郎でした!」

「━━━━━━避難開始再開!!緑谷先導!!13号フォローしてやれ!!」

「いえっさっ!!」

 

「わ、分かりました先輩!」

 

逃げていいと言うのであれば喜んで逃げる。それが私。勝てぬ戦など頼まれてもやらぬのよ。

 

「そういう訳で、お前ら一列に並んでついてこーい!」

 

「緑谷ちゃんがかっこよく見えるわ」

「ほんまや、別人みたい」

「ぐっ、これが真のリーダーシップ!それに比べて僕は・・・!!」

 

「・・・自分が早く逃げてぇだけだろ、クソが」

 

黙れぇ、かっちゃん!!なにちっちゃい声でぼそってんだ、お前は!

皆が上手い具合に勘違いしてんだから、今だけはさせとけぇ!!足取りが遅くなるだろうが!!

いいか!私は一刻も早く逃げたいんだよぉ!

 

「だ、大丈夫やろか、相澤先生・・・」

 

私の後ろをついて着ていたお茶子が心配そうに言った。

ぱっと見、やばいヴィランは最初に見た手マンと、その後に出て来た黒筋肉くらいだ。ワープモヤモヤを出してる奴は個性は凄いけど、多分タイマンしたらボコボコに出来ると思うからそんなでもない。他にもヴィランいるけど、ただの雑魚だ。有象無象でしかない。

 

包帯先生は素で私より強いから、私が勝てる奴には苦労しないと思う。まず雑魚は歯牙にもかけない。モヤモヤも包帯先生の個性もあれば完封間違いなし。

けれど、問題は残りの二人だ。

 

あれは、底が見えない。

 

安心させる嘘をついた方が良いのだろうが、この場面で友達に嘘をつくのは好きくない。

 

「お茶子・・・多分、ダメぽよ」

「なんやろ、大丈夫な気がしてきた」

 

本当の事教えたのに安心されてしまった。

いやまぁ、逃げる事に集中してくれるなら、なんでも良いけどさ?うん。

 

「すげぇ・・・!相澤先生ってあんなに強かったのかよ!」

 

誰か包帯先生に振り返ったのか、そんな言葉が聞こえた。勿論そんな場合ではないので、注意するように眼鏡の尻を蹴りあげる。

 

「い、今は避難に集中するんだ!!皆!」

 

よく言った。眼鏡。

お前には来年も学級委員長をやる資格を与えてやろう。

 

 

 

 

 

 

「させませんよ」

 

 

出口付近までやって来たのに、黒モヤモヤが目の前に現れた。これだからワープ系は嫌いなんだ。チートめ!

青いタヌキー!誰か青いタヌキを呼んでー!未来の世界の猫型タヌキ呼んでー!どこでもいける系のドア持ってきてー!あれがないと勝てない系ー!!

 

てか、包帯先生こいつだけは抑えておいてよぉ!

 

「初めまして我々━━━」

 

いきなり自己紹介を始めたモヤモヤ。

私は直感する。

こいつ喧嘩トーシローだと。

 

先手必勝。

私は一か八か引き寄せる個性を発動する。

すると、モヤモヤが引き寄せられた。

つまり実態があると言うこと。らっきー。

 

驚くモヤモヤに向かって炎を吹き付ける。

溜めがなかったから火力は弱めだが、怯ませる事は出来た。

怯んだ隙に引き寄せる個性で引き付けながら、私も接近していく。

 

「なっ、にがっ!?」

 

未だ混乱が覚めない黒モヤモヤの首っぽい所目掛け、渾身のラリアットをかましてやった。

 

ラリアットを受けて空中を一回転する黒モヤモヤ。

碌に体勢を整えられなかった黒モヤモヤは、そのままびたーんと地面に叩きつけられた。

流れでついつい止めの肘打ちを打ち込んでしまったのはご愛敬である。

 

ピクピクと動く黒モヤモヤに、クラスメートは固まった。

 

「死んだ?」

「えげつねぇ」

「・・・・」

「必殺必死」

 

生きてるよ、きっと。

なんやかんや、私この技で人殺した事ないもん。

ないよ。本当にないって。疑うなって。やってないから、やってない・・・なんだその目は!

 

皆の誤解をといているとかっちゃんが側に来て頭を小突いてきた。ったぁ!この、野郎!乙女の顔をなんと心得る!

 

「━━無茶すんな、バカ女」

「無茶はしてないけど・・・」

「下がってろ、後は俺がやる」

 

別に無理はしてないんだけどなぁ。やれると思ったからやっただけで。凄い弱かったし。

もうあれだ、モヤシかと思ったわ。

 

「おい、爆豪!いちゃつくのは後にしてそのモヤ野郎どうにかした方が良いんじゃねぇか?」

「言われなくてもするわ、ボケ。この手の奴は━━━」

 

 

 

「油断、大敵ですね━━━━!」

 

 

黒モヤが、黒モヤモヤに包まれた。

直ぐにかっちゃんが爆破したけど距離をとられた。

 

逃げた所で引き寄せる個性を発動したけど、黒モヤモヤも学習したのかワープを使って効果範囲より外へと一気に逃げてしまう。この、青いタヌキ野郎!モヤシの癖に回復力はあるなぁおい!それともあれか?寝てたんか?あの一瞬で寝てたんか?どこかの射的と綾取り得意な眼鏡っ子もびっくりな早寝だな、おい!!

 

「子供とはいえ雄英生徒。金の卵達といった所でしょうか。改めまして、我々はヴィラン連合。せんえつながら、この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは、平和象徴オールマイトに息絶えて頂こうと思ってのことでして━━━━━」

 

なんだ、この黒モヤモヤ。

ガチムチに用があったのかよ。

ははん、さてはホモだな?傍迷惑な。

 

「ガチムチなら留守だぞー!サボりだぞー!」

「ええ、そのようで。本来ならここに━━━」

「か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!」

「オールマイトが━━━」

「はい、みんなも一緒に!か・え・れ!か・え・れ!」

「━━━━━う、あ」

 

帰れコールを一人熱唱していると、段々と声が集まってきた。流石にカリスマがEXを誇る私だ。先導の神であるな。

 

「「「「か・え・れ!か・え・れ!」」」」

 

なんて一体感、ちょっと気持ちよくなってきた。

はい、か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!

テンポを変えていこうか?ちょっとリズミカルにいこう!いえーい!

 

ん?あれぇ?なんか黒モヤモヤがプルプルしてきた?どうしたの?寒いの?冷え性なの?暖房つけてあげようか?

 

あ、これはヤバイやつだ。

 

 

「バカ女!いつまで馬鹿やってんだ!下がりやがれ!!」

 

 

 

「散らしてっ、殺すぅ!!!」

 

 

 

 

「━━━━━っ双虎!!」

 

 

 

私の視界は一瞬で真っ暗になった。

反省はした、後悔はしてない。

 



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水も滴る良い男なんて言うけど、そういうのは水も滴らなくても良い男なんだよ!!そんな水被れば希望があるみたいな、微妙な優しさに満ちた言葉を残すなぁ!!可哀想だろ!!信じた三枚目共が!の巻き

投稿ペースを誉められると、本当に困る。そんなに文章力ないんだよ、おれぁよ。
だからあれだよ、期待すんな。
次は、期待すんなよぉぉぉぉ!!

(このペースで完結までいったら、死ねる)



はぁい。国を傾けちゃうほど超絶美人、皆のスーパーアイドル、近い将来国民栄誉賞を貰う予定の緑谷双虎ちゃんです。きゃぴるーん!

 

色々あって私は今、大きめの水溜まりに浮かぶ船の上で遊覧中なの。風はなし、水面は静か。お魚さんは一杯。あっ、跳ねた。

これでジュースの一つでもあったら最高なんだけど、手元にあるのはブドウ頭のエロ小僧だけ。あ、お供のカエルちゃんもいるわ。うふふ。

 

「緑谷ちゃん、一人で微笑んでる場合じゃないわ」

 

いい気分で外を眺めているとカエルちゃんこと梅雨ちゃんが話し掛けてきた。足元でブドウが逃げようとしたので踏んでおく。ぐりぐり。

 

「はぁ、はぁ、緑谷ぁぁ!こんな事してる場合じゃねぇぇぇって!ありがとうございます!!」

「緑谷ちゃん、峰田ちゃんをそろそろ離してあげて。それよりも今はこの状況をどうするか考えましょう」

 

今の状況、実はとっても不味い。

何故なら船を囲むお魚さん達はただのお魚さん達ではなく、お魚さんのフリをしたただのチンピラなのだ。しかも水系が得意系の集まりだ。

 

上鳴がいれば感電を狙う所なんだが、いま手元にあるのはブドウとカエルとヨガ炎。あかん、相性最悪やで。どないしょ。手伸びないかな。伸びないな。

 

 

黒モヤから一転、気がついたら水溜まりの真上に放り出された私は梅雨ちゃんに助けられて船の上にいる。ブドウも巻き込まれたみたい。ブドウはこの状況にも関わらずセクハラしようとしてきたから踏みつけてあげた。啼けよ豚野郎とか言ったら凄い興奮してた。変態やないか。

 

「とりま、逃げるか、戦うか、殺すか。選ぶところから始めよっか」

「ヒーローを目指す者としても一市民としても、殺しちゃ駄目よ。緑谷ちゃん」

「事故ならしょうがない、てこと?」

「事故も駄目よ」

 

事故も駄目だった。

 

「船の燃料水に垂れ流して、全部燃やそうと思ったのに」

「しれっとそういう事を思い付く所が怖いわ。緑谷ちゃん、本当に過去に何かやってない?」

「その話まだ続ける?どれだけ疑ってるの?」

「そういう発言続けるからよ」

 

うーむ、そんな事言ってもなぁ。

陸にあがってくるなら話は別だけど、現状どうしようもないんだよな。

肉弾戦なら負ける気しないのにね。

 

「船の電子機器を水に放り込んで感電死狙い」

「感電までならまだしも、死は駄目よ」

「いや、だって、そんなに上手く調整出来ないよ?」

「それなら別の方法を考えましょ」

 

それってなんて無理ゲー。

前から思ってたけど、ヒーロー側ってすごく不利だよな。犯罪者集団は殺すも良し、逃げるも良し、人質をとるも良し。なんでもありで状況打開を望めるけど、ヒーローは無力化の一択だもんなぁ。

 

これだからヒーローは。

 

「ねぇ、緑谷ちゃん。あの人オールマイトを殺すって言ってたわ」

「ん?」

 

梅雨ちゃんがいきなりオールマイトの話をし始めた。

ファンなの?君もファンなのん?ならかっちゃんと仲良くしたげてよ。あの子友達いないから。あ、違うね、そんな感じじゃないね。どした。

 

「オールマイトの事、当たり前だけど誰でも知ってるわ。ヒーロー達も、私達も━━」

「私は知らなかったけど」

「話の腰を折らないで緑谷ちゃん。話は戻すけど、オールマイトの事誰もが知ってるの。それはヴィランもなのよ。誰よりも恐れている筈なのに、彼等ここに来たのよ。オールマイトがいると知った上で」

 

梅雨ちゃんが何を言いたいかわかった。

 

「あいつらは本当の馬鹿・・・!」

「殺す算段がついたんじゃないかって事よ」

 

そっちか。

どっちかだとは思ってたんだよー。

本当だよ?疑わないで。そんな目で疑わないでよぉ。

 

「ま、勝てる喧嘩しかしないからね、あの手の連中は」

「どっちかといったら、緑谷ちゃんはチンピラよりだものね。その辺りの気持ちは緑谷ちゃんの方が分かる筈よ」

「梅雨ちゃん本当は私の事嫌い?」

「思った事を何でも言っちゃうだけよ」

 

梅雨ちゃんと話してるとブドウが泣き出した。

 

「なに冷静に話してんだよバカかよぉ!オールマイトぶっ倒せるかもしれねー奴らなんだろ!だったら、倒すとかそういう事は止めて大人しくしてよーって!雄英のヒーローが直ぐに来てく━━━━ありがとうございます!!」

「峰田ちゃん締まらないわ」

 

ブドウを踏みつけながら考えてみる。

取り合えず大人しく待機するのは駄目だ。

時間が経てば水系のあいつらが有利になるだけ。一番良いのはフィールドをカエル、じゃなかった変える事なんだけど、逃げるにしても距離が遠すぎる。ブドウを捨てて私だけ梅雨ちゃんに運ばせるなら、いけない事もないけど流石に良心が・・・傷まないな。別に。

 

「ブドウ、このまま置いていっていい?」

「緑谷!?まじで!?置いてくの!?オイラの事!?」

「私一人なら岸まで梅雨ちゃんが届けられそうなんだよね。陸にさえ上がらせれば、まず間違いなくあいつらボコボコに出来るけど、どうよ?」

「オイラを見捨てんのかよ!?」

「見捨てる!」

「断言すんなよ!!?あ、ありがとうございます!!」

 

やかましいのでぐりぐりしてやる。

ブドウはこれをすると感謝するので、もうこれで良いと思う。

梅雨ちゃんに運ぶように視線を送ったら首を横に振られた。

 

「緑谷ちゃん、出来ないわ。峰田ちゃんを置いてはいけない」

「ちょっと置いとくだけだから、ちょっとだけだよ。本当にちょっとだけ、先っちょだけ」

「それは世界で一番信用出来ないやつよ」

 

意外と頑固な梅雨ちゃん。

ヒーローがどうたらとか、そういうことなのかも知れないし、性格的な話かも知れない。

でもね、二人とも分かってないのかも知れないけど、命懸かってるからね。今。

 

「瀬戸際なんだよ、梅雨ちゃん。生きるか死ぬか」

「分かってるわ。でも駄目よ」

「梅雨ちゃんは分かってないよ。今動かなかったら死ぬんだよ?どんなめに合わされるか分かんないんだよ?」

 

水場で有効なのは梅雨ちゃんのみ。

その梅雨ちゃんは戦闘能力が皆無。

唯一戦える私は水場では勝負にならない。

ブドウは使えない。

それなら、選べる選択肢はあってないような物なのに。

 

「それでも駄目よ。皆で生き残る事を考えるのよ」

 

死ぬほど頑固ちゃんだな、梅雨ちゃん。

ま、だからヒーローなんて職業を選ぶんだろうけど。

 

 

 

はぁ、なら仕方ない。

 

 

 

「じゃ、釣るか」

「釣る?」

「そ、釣る」

 

上手くいくか分からないけど、他に方法も無さそうだしねぇ。

 

「見せてやろう、私がグランダー双虎と呼ばれるが由縁をなっ!!」

「呼んだことないわ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

入学してからずっと緑谷双虎という生徒を見てきた。

容姿が綺麗だった事もあったけど、それよりどこか他とは違っていたから目についたの。

 

授業態度は最悪。

初日からお昼に登校するという大遅刻をかまし、基本的に授業中は寝てるか爆豪ちゃんにちょっかいをかけるかしてない。たまに真面目に教科書を見てるかと思えば、熱心に落書きしてたりする。

 

不真面目。

不良。

 

そういう言葉が似合う、そういう子だった。

 

でもその割には皆の輪の中にいたわ。

口は少し悪いけど誰に対しても気さくに話し掛けていくし、良い意味でも悪い意味でも人によって態度を変えない人だった。弄り度合いは変わるけど。

 

あまり話した事はなかったけど、今回の授業で機会があった私は話してみたの。想像通りの人だった。口は少し悪いけどけして悪い人じゃない。口は悪いけど。

 

 

 

 

だから、驚いた。

船の上で緑谷ちゃんに「峰田ちゃんを置いていく」って言われた時は。それまでの優しいイメージが砕け散って、私、軽蔑してしまった。緑谷ちゃんが状況を鑑みた上で言った事なのは分かるけど、どうしてもそれは出来なかった。だから言ったの「駄目よ」って「皆で生き残る事を考えるのよ」って。

 

子供じみた言葉だった。

それは言った私が一番良く分かってた。

状況は最悪で打てる手だって殆どない。

緑谷ちゃんの言葉は多分正しい。

私は緑谷ちゃんのようにアイディアの一つも出さないで、駄々を捏ねるだけ。最悪よ。

 

なのに、緑谷ちゃんは困ったように笑うだけ。

呆れもしなかった。私の言葉に。

 

そして緑谷ちゃんは言ってくれたの。

 

「釣るか」って。

 

意味は分からなかった。

でも、私の言葉を笑わないでくれたのはわかった。

状況を分かった上で、それでも皆で生き残る方法を考えてくれたんだって。

 

「その為にも、力貸して貰うよ、二人共」

 

そして緑谷ちゃんは私の力を信じてくれていた。

 

 

 

 

 

私、その時分かったの。

 

憧れたんだって。

 

ヒーローに成りたくて勉強を一杯したわ。

私は特別優れてなかったから他の事が手付かずになって、口下手な事もあって、どんどん孤立していったわ。ヒーローに成るために必要だった事だから後悔はない。色々あって大切な友達は出来たし。

 

でも、やっぱり寂しくは思ったの。

 

だから、雄英にきたら沢山友達を作ろうって、そう思ってたの。

 

 

だから、憧れたの。

私みたいに何かを手放さないで、皆といられた緑谷ちゃんに。

そして、少しだけ嫉妬していたの。

私みたいに努力しないで、当然のように私が欲しかったものを持ってる緑谷ちゃんに。

 

でもね、それも間違ってた。

緑谷ちゃんは努力する方向が違ってただけなのって。

ヒーローになるための努力とか、良い成績をとるための努力とか。そういうのじゃなくて。

 

緑谷ちゃんはきっと━━━━

 

 

 

 

「緑谷ちゃん、任せて。私に出来る事ならなんでも手伝うわ。━━━だから、皆で生き残りましょ」

 

私の言葉に緑谷ちゃんは笑顔を浮かべてくれた。

そして力強くサムズアップしてくれる。

 

「任せんしゃん!一人残らず、刈り取ってくれるわ!!わっははは!!」

「意識だけよ、刈り取っていいのは」

 

 



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首おいてけ、なぁ!なぁ、首おいてけよ!!大将首だろ、なぁ!え、違う?違うの?本当に?なぁーんだ、じゃ━━━━てなるわけないだろ!おいてけよ!首は首だろぉぉぉ!!の巻き

感想にオルガが生息してるやないか!
カッコつけよってからに!
止まるんじゃねーぞじゃねーぞ!!

更新はしないって、言ったでしょーがぁぁぁぁ!!
(体力ゲージレッドゾーン)


釣りを開始してから10分程だろうか。

船の上は大量のお魚さんで溢れ返っていた。

陸に打ち上げられた魚さん達は可哀想にびちびちと苦しそうにのた打ち回っている。

一思いにやるのが優しさかも知れない。

 

でも、双虎ちゃんはトドメを差したりしない。

何故なら良い子だから。サンタさんが毎年プレゼントを届けに来てくれるくらい、良い子だから。だから無闇矢鱈に攻撃とかしないのだ。

 

精々のた打ち回るといいわ。

生き地獄を見せてやるぅ。

 

「うわっ!緑谷!そっちに一人行ったぞ!!」

 

元気なお魚さんもといチンピラその一が重たい体を引き摺ってこっちに向かってくる。拘束が甘かったみたいだ。おやおや、元気だねぇ。

 

「クソガキがぁ!!」

 

私は針に掛かってる新たなお魚さんを水から引っこ抜き、向かってくる元気なお魚さんにシュートした。

釣りたての魚をやんちゃな魚にシュート!!超エキサイティング!!

 

よし、意識もぎ取ってやったぁ!ごらぁ!ざまぁ!

 

「緑谷ちゃん!前方一つ来るわ!」

 

高台から辺りを見渡す梅雨ちゃんから、お魚さんの追加報告。

 

私は前方へと向き直り、引き寄せる個性をフルスロットル発動する。直ぐに腕に引き寄せた反動が返ってくる。

固定した足と個性を発動してる腕が引きちぎれそうに引っ張られるが、気合いと根性と不屈の乙女力で踏ん張りきる。主に背筋。

 

「━━━━ぬぅおぉぉるぅぁあ!!」

 

水から引っこ抜くと、バランスを崩したチンピラがジタバタしながら勢い良く私に向かって飛んできた。だけど私は慌てない、何てってたってスーパーガール。

直ぐ様、命を刈り取るような形に腕を構え、飛んでくるチンピラの首目掛けて的確に叩きつける。

 

そう、大和撫子専用の必殺技、女子の嗜み、ラリアットである。

 

びたーんとチンピラが床に激突し、白目を向いて泡を噴いた。

見よ、この威力。

ぜひ我がクラスの女子全員に習得して貰いたい必殺技である。

 

 

「ブドウ!拘束!」

「わ、分かってるって!!」

 

 

横たわるチンピラにブドウが氷変わりに黒団子をつけまくってる間、私は大きく深呼吸して息を整える。

流石に連続フィッシングは堪える。

グランダー双虎でも堪える。

 

あの黒団子、食べられないのかな。

お腹減った。

 

「緑谷ちゃん!!ラスト四人!!左右から来るわ!!」

 

どうやら、チンピラがお船に乗りたいって自主的に向かってきてるみたいだ。

それなら、都合がいい。

本当に・・・。

 

 

同時に四人は駄目だろ!!

殺す気かぁ!!

普通の釣り師は大体一対一してるでしょう!?

 

 

「━━っそがぁ!!上等だよ!完璧無双系女子舐めんなよ!?纏めてっ、ぶっ潰してやんよぉぉぉぉ!!」

 

両の腕に渾身の力を込めて、私は引き寄せる個性を発動した━━━━

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

釣り作戦。

 

緑谷から最初に作戦を聞いたとき、オイラは正気を疑った。だってそれは、オイラと緑谷が前面に出た作戦だったから。

 

緑谷の作戦を簡単に説明すると二つ。

一つ目は、緑谷が引き寄せる個性でヴィランを水から引っこ抜くという事。

二つ目は、船にあげたヴィランをオイラが個性で拘束するという事。

 

前者は兎も角として、後者はオイラが矢面に立つ事になるから全力拒否した。だってそうだろ、拘束するって事は近づかなきゃいけなくて危ないし、それにもしかしたら恨まれるかも知れない。

 

拘束だけだったら蛙吹が出来るって言ったんだけど、拘束するにもロープみたいな物がないし、蛙吹には全体のフォローと動けない緑谷の代わりに目になる役割があるから駄目だって言われた。

ついでに、一番危ないだろうけど、やらなかったらやらなかったで魚の餌にするって言われた。あの目はマジだった。

 

それでも納得いかなくて文句を言ったんだけど、そうしたら緑谷は自分の個性について説明を始めた。

 

緑谷は二つの個性を持っている。

一つは火を噴く個性。もう一つは引き寄せる個性。

今回の作戦で使うのは引き寄せる個性らしいのだが、この個性も万能って訳ではないのだという。

 

個性で引寄せられるものは自分の体重以下の物のみらしい。それと言うのも引寄せられる物が自分より重いと、逆に自分の方が引き寄せられてしまうらしいのだ。それにそういった物に対する個性使用は体に掛かる負担が大きく、他の事に対応する余裕が無くなると言っていた。

 

引寄せられるデメリットは体を固定すれば問題はないが、体に掛かる負担はどうしようもない上、体を固定すればいざという時に対応に遅れる為、どうしてもフォロー要員が必要になってしまうのだと。

その点、蛙吹は冷静に物事を判断出来るし、舌を伸ばせば中距離からの援護も出来るとあって、フォロー要員としては最適なんだと。

 

 

だから、引き揚げたヴィランを拘束する事が出来るのは手が空いていて、拘束するのにうってつけの個性を持つオイラしかいなんだって。

 

 

脱ぎ捨てたマントをロープ変わりにして体を固定する緑谷を眺めながら、それでもオイラは気持ちが定まってなかった。

 

置いていかれなかったのは良かったけど、その代わりあのヴィラン達に向き合わなきゃいけないのは怖くて仕方がなかったんだ。想像するだけで手が震えた。

 

緑谷は余裕そうな顔で着々準備をしてる。

あいつは強いから、あんなに余裕なんだろうなって本気で思う。オイラみたいな弱い奴の気持ちなんて、少しも分からないんだろうなって。

 

そんな時だった、蛙吹が話し掛けてきたのは。

 

「峰田ちゃん、大丈夫?」

 

気休めの言葉だけど、やさぐれていた気持ちが少しだけ和らいだ気がした。

 

「大丈夫な訳ないだろ、でもオイラしかいないんだろ。じゃ、もうやるしかないじゃんか」

「そうね、峰田ちゃんがしっかりやってくれたら、私も助かるわ」

 

そう言ってくれる蛙吹の言葉は嬉しかった。

今まで頼りにされた事なんてなんてなかったから。

だから、ちょっといい気になって緑谷に対して愚痴を溢してしまった。

 

「いいよな、緑谷はさ。強い個性あるし、普通に強いし。オイラみたいな奴の気持ちなんて━━━」

「峰田ちゃん」

「━━っんだよ!?」

 

愚痴ったオイラに蛙吹は厳しい視線を送ってきた。

何がいけなかったのか分からなかったけど、その目を見て二の口は告げなかった。

 

「緑谷ちゃんはああ言ったけど、この作戦で一番危険なのは彼女なのよ?最初に敵とぶつかるのは緑谷ちゃんなんだから。個性の反動がどれくらいになるのか分からないけど、負担だって緑谷ちゃんが一番大きい」

「それは・・・でも、あいつはオイラと違って━━━」

「緑谷ちゃんは峰田ちゃんが思ってるような人じゃない。緑谷ちゃんは貴方が思うほど勇敢じゃないわ」

 

言葉がでなかった。

それは緑谷には縁遠い言葉過ぎたから。

 

「でも、あいつ現に黒いモヤのヴィランにだって殴り掛かっていったぞ!!」

「私も、あの時はそう思ってた。でもね、きっと違うの」

 

蛙吹は緑谷を見た。

 

「緑谷ちゃんも必死なのよ。必死で生き残ろうとしてるの。だから、あんな厳しい言葉が出てくるの。━━━今更になって思えば、緑谷ちゃんの言うとおり、緑谷ちゃんを連れて岸に辿り着く事が出来ていれば、形勢はこっちに傾いたと思うわ。緑谷ちゃんが強いのは見たでしょ?陸の上なら、これだけのヴィランに囲まれてもなんとか出来る自信があったんだと思う」

「でもそれじゃオイラが━━━」

「恐らくだけど、船に残った峰田ちゃんが後回しになる可能性は高かったわ。少なくとも、ヴィラン達は峰田ちゃんが水場で逃げ出せる能力が無いことは私が助けたせいでバレていたし、個性が分からないから警戒して近寄らなかったと思う。それよりも二人で逃げた私達を狙ってきた筈よ。一人は水場では足手まといだしね」

 

あの時の提案が見捨てた訳でない事を知って、オイラは驚いた。だって、あんな突き放すような言い方だったのに、生き残る可能性が高いものを選ばせようとしていたなんて思わなかったから。

でもそれならどうしてそう言ってくれなかったのかと思ったけど、それはあくまで可能性で確実ではない事を思い出して下手に口にしなかった事を知った。

 

「油断した一人二人のチンピラヴィランなら、峰田ちゃんの奇襲でどうにかなったでしょ。貴方の個性は強いもの」

「それは・・・多分」

「出来るわよ、峰田ちゃんなら。入試を突破出来たんだもの」

 

囲まれた今となっては、絵にかいた餅。でも、あの時ならまだ、出来た作戦。

負うリスクも少なくて、どちらかが助かる可能性が高くて、かつ出来るだけ安全な。

それをオイラが駄々を捏ねて台無しにした。

 

オイラは胸が締め付けられるような痛みに襲われた

 

「今度の作戦は一度でも誰かが崩れたら終わりなの。乗り切れば皆で生き残れるけど、一人でもミスすれば皆助からない。━━━それを、私が緑谷ちゃんにそれを選ばせたの」

「ちがっ、それはオイラがっ!」

「違わないのよ。私なの、無理を押し付けたのは。だから、峰田ちゃん力を貸して。私のせいで危険な選択をしなくちゃいけなくなった。その無理を緑谷ちゃんは叶えようとしてくれてる。だから、お願いよ峰田ちゃん。頑張ってくれる緑谷ちゃんの為に力を貸して、助けてあげて━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざぱぁんと、最後のヴィラン達が宙へと投げ出された。

四人同時に引き揚げた反動なのか、緑谷の腕はガクガクと震えている。

固定された足はうっすらと血が滲んでいて、どれだけ無理をしたのか嫌でも分かった。

 

ヴィランを倒そうと緑谷が頭をあげようとしていたのが目に入り、オイラは咄嗟に叫んでいた。

 

「━━後はっ!!オイラに任せろ!!」

 

怖かった。怖くて仕方なかった。

けれど、ボロボロにまでなって戦う緑谷の姿に、どうしようなく負けたくなかった。

ヒーローになりたくてここに来た訳じゃない、モテモテになりたくてカッコイイヒーローになりたかった。

 

だから、こんな美味しい場面で、女の緑谷にカッコイイ所を取られる訳にはいかなかった。

 

「グレープラッシュ!!!」

 

中学生の時からずっと考えてきた、オイラの必殺技。

 

オイラが投げたそれは、宙に浮いていたヴィラン達に引っ付き合わさり、一塊の大きな団子に変えた。

 

「ブドウ!褒めてつかわす!!」

 

妙に偉そうな緑谷の声が掛かり、オイラは恐怖で震えてた体を気合いで押さえつけて振り向き様にガッツポーズを見せて言ってやる。

 

「オイラだってな、やるときはやるんだよ!!」

 

 

この日、この時を、オイラはきっといつか思い返すだろう。

 

オイラが初めて、誰かのヒーローになった、この日を。

 

 



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脳みそ見えてんだけど、大丈夫ですか?頭蓋骨、何処に忘れて来たんですか?羊が沈黙する先生の所ですか?それ、食べられてますよ?の巻き

悩んだ。でも、ここかなぁ、てなった。


だぁるぅいいいぃぃぃと、叫んだ所で何も変わらないので、ブドウの顔を揉みくちゃにして気を紛らわせる私はA組二大巨頭の一人、水も滴る良い女、今をときめく美し過ぎる女子高生の緑谷双虎だにゃん。

 

今私は梅雨ちゃんに引っ張られて仰向けに流されている。

行き場のないブドウは私が抱えてる。

下手に自由にするとおかしな所触られそうなので拘束してるのだ。

 

「はぁ、はぁ、なにこれ、すごい、柔らかくて、これ、あふ・・・匂いが、もう・・・オイラ・・・もう死んでもいい」

 

おい、私のお腹の上で死ぬな。

なんか私が殺したみたいになるだろ。

死ぬなら離れた所で勝手に死ね。

おい、腕をそれ以上動かすな。もし上に動かしたら首をぽきってするからな。首をぽきってやるからな。嘘だと思うならやってみろ。後悔すら出来なくしてやるからな。

 

「緑谷ちゃん、もうすぐ岸につくわ」

 

梅雨ちゃんから足が着くところまで来たよ報告。

私はブドウを近くに捨て、自分の足で立つ。

あ、微妙にブドウが沈む深さだ。

 

「緑谷っ!あっぷ!こ、殺す気かよ!?」

「峰田ちゃん、泳げるようにした方がいいわよ」

「服着てっ、泳げねぇっ、ぷっ、だけだっての!!」

 

梅雨ちゃんがブドウを助けにいったので、私は先に進む。岸に上がろうと淵に手を掛けた所までは良かったのだが━━━━━目の前に包帯先生と交戦する手マンが見えて、私は陸に上がるのを止めた。

寧ろ肩まで水に浸かった。

 

嫌な予感しかしない。

私の生存本能がアラームを鳴らしまくっている。

あかんやつやでと、謎の関西人のおっさんが脳内に出てくる始末。誰やお前。

 

「緑谷ちゃん?」

 

私の様子に気づいた梅雨ちゃんがブドウを脇に挟んでやってきた。

 

「あれっ、相澤先生・・・!?」

「ここから上がるのは、様子見てからのが良いだろうねぇ」

 

「緑谷、程じゃないけど、カエルの方もけっこうあるじゃねぇか・・・へへへ」

 

たゆん、と梅雨ちゃんのパイ乙が揺れる。

何かに支えられて。

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

バシャバシャと梅雨ちゃんの隣で水飛沫があがり始めた。私は見ないフリしたけど、思ったより沈めてる時間が長いので軽く声を掛けた。けど軽くスルーされたので冥福を祈って包帯先生へと視線を戻した。

南無。

 

それにしても、やっぱり不味いな。

 

「緑谷ちゃん、私にはどうなってるか分からないの。こういう物を見るの初めてだから。相澤先生、大丈夫よね?」

 

梅雨ちゃんは勘が良い。

きっと場の流れや不穏な空気を感じて、目の前で何が起こってるか少しかも知れないけど分かってるのだ。

 

てか、隣でバシャバシャしてるの気になる。

大丈夫?そっちこそ大丈夫?なんか、必死にバシャバシャしてるけども。今にも死にそうな顔のブドウが時々水面から顔を出すけど。あれ?もしかして、中途半端に息吸わせてる?鬼?鬼なの梅雨ちゃん。梅雨ちゃん意外と怒るときは徹底するタイプ?

 

そんな事思ってる内に包帯先生達の戦いに変化が起きた。どうなってそうなったかは分からないけど、手マンとぶつかった後、包帯先生の右肘から皮膚が崩れ落ち赤い筋肉が剥き出しになった。出血は激しくないみたいだけど、死ぬほど痛そう。

 

「けろっ、相澤先生っ・・・!」

 

思わずブドウから手を放し、口元を押さえる梅雨ちゃん。

虫の息のブドウが浮かんでくる。

 

良かったな、ブドウ。

包帯先生に感謝しとけ。

二倍で感謝しとけ。

 

 

手マンから離れてから、包帯先生の戦いのリズムが変わった。痛みのせいか動きにキレがない。

ん、違うか━━それだけじゃない。

 

包帯先生が通ってきたであろう道には沢山のチンピラ達の姿があった。流石の私でも半分も相手にすれば息切れの一つもする。これは単純に体力が切れてきているのだ。

 

多分包帯先生は、一息つく暇もなく戦わされている。

包帯先生の隙をつくように動く、手マンの嫌らしい動きをみれば容易に想像できる。

あれ絶対糞野郎だ。ドブを煮詰めた系の、最大級のうんこ野郎だ。ウチのかっちゃんが可愛く見えるクラスの糞野郎だ。なんだあれ。本当に人?うんこなんじゃないの?

 

このまま放って置けば、包帯先生がやられる可能性は高い。時間をかければかける程、状況は悪くなる。助けにいくつもりはないけど、誰かが手を貸さないとマズイ事になるかも知れない。

 

「緑谷ちゃん、相澤先生は・・・!!」

「ダメぽよ」

「お茶子ちゃんみたいに騙せると思わないで・・・!」

 

騙したつもりないのに。

 

「助けに━━━」

「無理。私はこう見えて体力結構使ったし、何よりあの手マンは体力満タンでもタイマン張って勝てるかどうか分からない。個性が分からないから余計に駄目」

 

これは言わないけど、多分だけど手マンの個性は手に関係する物だとは思う。

包帯先生の肘打ちを受け止めた時に何かあったみたいだしね。手の内側に触れると発動する系か、指に触れると発動する系、もしくはもっと特別な条件があるか。

 

まぁ、何にせよ、かなり限定的な個性ではあるのは間違いない。自由自在に使えるなら、いくら個性を消せる包帯先生でも隙をつかれて殺されてる筈だから。

 

見た感じで分かるのはこれくらいだ。

勝機がないとは言わないけど、下手に希望を見せると助けに行きそうだから教えないけどさ。

 

「緑谷ちゃんがそう言うなら、そうなのね・・・。分かったわ、下手に手を出すと相澤先生の邪魔になりそうね。当初の予定通り、避難することを考えてましょう」

 

「うん、その方が━━━━っ!」

 

 

包帯先生の直ぐ側に脳みそが見える黒筋肉が現れた。

遠目から見てもそのヤバさには気づいていたが、近くで見て確信した。

ヤバイなんてもんじゃない、あれ。

 

まず気配がおかしい。

どんな人間でも感情が見えてくる。それは顔だったり態度だったりに自然と現れるもので、隠そうとしても早々隠せるものじゃない。

だけど、目の前にいる黒筋肉はそれを感じない。

生き物というよりは、ロボットとかを見てる気分だ。

 

包帯先生に敵意を剥き出しにする手マンとは正反対のヤバさ。

 

 

 

あれはきっと、息をするように人を殺せる。

 

 

「緑谷ちゃん・・・?」

 

 

「━━━っん?なに、梅雨ちゃん」

 

 

突然掛けられた声に、私はびっくりした。

死ぬほどびっくりした。

口から心臓が飛び出しそうになった。

 

お陰で嫌な汗が流れたった。

 

「私ね、まだまだ貴女の事知らないけど、それでも分かってきた事もあるの」

「なにを?」

「緑谷ちゃん、言わなくても分かるでしょ?誰よりも貴女自身が分かってる事よ」

 

 

 

 

ああ、もう。

 

梅雨ちゃんは本当に勘が良いなぁ。

 

 

 

「あのね、梅雨ちゃん。私はね・・・ヒーローになりたくない」

「そうなの?」

「そうなの、ちょーいや。だって大変そうだし、私は知らない誰かを助けるほどお人好しじゃないからね。そういうのは、そういうのが好きな人がやったら良いと思う。私は━━━━無理」

 

私は何処までも利己的だと思う。

かっちゃんが前に言ってたみたいな、どこにでも現れて誰でも救う、悪は絶対打ち倒す、そういう理想のヒーローに欠片も憧れない。

だって不思議に思う、それって楽しいのって。

 

分かってる。

楽しいからやってる訳じゃないこと。

誰かに頼まれたり、誰かに敬われたり、そういう事がしたくてやる訳じゃないこと。

 

それが私には理解出来ない。

私は私に関係ないことへ首を突っ込む気にはならない。

 

 

 

だから━━━━仕方ないよね?

 

 

 

「梅雨ちゃん、包帯先生と、とりま出来るだけ出口の近くにいけるように避難して!!ブドウ!しっかりエスコートすんだよ!!」

 

「緑谷ちゃん!!」

「緑谷!?」

 

 

仕方ない、仕方ないよなぁ。

 

放って置いたらきっと死ぬほど痛いだろうし、その惨状なんて見たくない。

そんなの見たら暫くお肉が食べられないじゃない。

 

かっちゃんに奢って貰う焼き肉は何時でも美味しく頂きたいのだ。

 

それに包帯先生には借りの一つでも作って、三者面談発言を撤回して貰わにゃならないかんね。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

一瞬だった。

 

 

 

妙な個性を使う白髪頭と代わるように現れた黒いヴィラン。

 

 

個性に警戒し目の力を発動した直後、僅かだが意識が飛んだ。

 

 

気がついたら頭と体に響く鈍い痛みと、赤くなった視界がそこにあった。頬に触れた地面の冷たさで自分が倒れている事に気づき、歯を食いしばって顔を上げれば、そこには黒いヴィランが悠然と立ちはだかっていた。

 

 

黒いヴィランの拳についた血を見て、初めて殴られたのだと知った。

 

 

それが一発なのか、二発なのか分からない。

 

ただ、それが何発であったにせよ、体に走る痛みが再び戦える体でない事を無情にも報せてきていた。

 

 

化け物。

 

 

力も速さも、体感すらさせて貰えない。

特級の化け物。

圧倒的なまでの強さ。

 

脳裏に過ったのは、ただの一度手合わせをした正義の象徴。オールマイトというナンバーワンヒーローの最強の力。

 

 

「脳無、やれ」

 

 

白髪頭の命令が下り、黒いヴィランの手がゆっくりと伸びてきた。

 

一思いに殴り殺してくれれば楽だったのだが、どうやらなぶり殺しにされるようだ。

これだからヒーローは辛い━━━が、好都合だ。

最も厄介なこいつら相手に、もう少し無駄な時間を使わせる事が出来るのだから。

 

 

あれからどれくらい時間がたったか。

恐らくあの黒モヤのヴィランが邪魔に入ったとしても、一人くらいは切り抜け最寄りの校舎に辿り着いている頃だ。

それが飯田なら、もっと早いだろう。

 

それなら、じきに助けがくる。

雄英の教師達はそこまで落ちぶれてはいない。

異常が伝われば十分と掛からずプロヒーロー達がここに乗り込んでくる。

 

そうなれば、後は大丈夫だろう。

 

だから、俺は耐えれば良い。

一分でも、一秒でも長く、こいつらに時間を使わせればいい。

後の事は、仲間が━━━

 

 

 

「━━━!?」

 

 

 

 

━━突然何かに引っ張られる感覚が体に走った。

 

それがどうして起きたのか直ぐに理解し、目を使おうとしたがダメージが大きかったせいで咄嗟に首すら回せなかった。

 

気がつけば体は宙を浮き、俺と入れ替わるように一人の生徒が目の前を通り過ぎていった。

 

 

あの時、俺は心底安心した。

こいつが誰よりも早く避難する事を前提に動いていたから。

こいつが率先して避難することを目的としていたから。

 

だから、俺は振り向かずに戦いに向かえた。

 

 

何故なら、俺が一番心配していたのが、この大馬鹿で、正にこの状況だからだ。

 

 

「ボロボロとか、ちょーウケます包帯先生。これであの時のはチャラにして下さいよ?」

 

 

戯れ言を口にする。

入試の時からそうだった。

こいつは不安を隠す時、必ずそれを口にする。

 

 

「緑谷ぁぁぁ!!」

 

 

真っ直ぐに走り去る緑谷の背中を見ながら、俺はあいつをヒーロー科から落とさなかった事を後悔した。

 

分かってた筈だ。

 

短い間だが、あいつを見ていく内に気づいた筈だ。

 

オールマイトがどうしてあいつの肩を持つのか、期待するのか理解した筈だ。

 

 

 

あいつは誰よりもヒーローに向いてない。

だが、誰よりもヒーローになれる奴なんだと。

 

 

 

恨みますよ、オールマイト。

あいつをこの世界に踏み込ませた事を。

 

 



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なにに使う手なんですか?ねぇねぇ、それなにに使う手なんですか?なにってナニですよね?ぷぎゃー!ちょーウケる!の巻き

USJ編もうすぐ終わりやで。多分、あと一二話。

あと感想くれる人達、毎回おおきにやで。
励みになりまする。


「━━━━はぁ?」

 

手マンが超絶美少女戦士である私、双虎ちゃんをその目にしたコメントはそれだけだった。あえて言おう、糞であると。

 

私を目の前にしたら、取り合えず五体投地じゃろがい。

その後に「ははぁ双虎様」とお祈りを捧げて、金品を供物として捧げるのが双虎教教義じゃろがい。

 

とは、まぁ、言った所で話が通じるとは思えないから何も言わないでおいてあげるけども。

はぁ、調子狂うなぁ。

 

 

手マン野郎は首をボリボリと掻きながら私をジロジロ見てきた。包帯先生なんて比べ物にならないくらい変態の目だ。ぞわぞわする。

 

「なに、お前。何処から出てきた?」

 

随分と難しい質問がきた。

詩的過ぎる。

なんて答えよう。

 

私は一生懸命考えた。

手マンとの初会話だ。ここで下手な事言ったら怒られるのは目に見えている。私は平和主義者だから、出来るだけ喧嘩とかしたくない。皆で笑い合える世界とか作りたい。

なので一生懸命考えて、考えて、考えて・・・・。

 

「人が何処から来たのか、真摯に答えようと思ったら、一晩では語り尽くせないのだけど、どうだろうか?」

「・・・そういう事は聞いてない」

 

そういう事は聞いてなかった。

 

「じゃぁ、右から?」

「右?」

 

手マンが私の言うところの右。つまり手マンにとっての左を向いた瞬間、隙だらけの右頬に引き寄せる個性を発動しながら左エルボーを叩き込んでやった。

反応はされたけど、引き寄せる個性での加速についてこれなかったのかモロヒットした。

ざまぁ。

 

「っつ、てめぇっ、ガキが!!」

「そのガキにやられてりゃ!世話ないね!!ぷぎゃー!!」

 

手マンの嫌らしい手が迫ってくる。

私は冷静に引き寄せる個性で着弾位置をずらし、カウンターを鳩尾へと放り込む。

包帯先生の時にガードされたからどうかと思ったけど、予想以上に上手くはいった。

 

多分でしかないが、煽ったお陰で冷静さをかいてる様に見える。

うん、どんどん煽ってやろう。

 

「ばーか、ばーか!」

「はぁ!?・・・なんだ、それ?もしかして、煽ってんのか?ちっ、これだからガキは━━━」

 

あ、駄目だ。冷静になられる。

くそぅ、かっちゃんならこれで怒るのにぃ!!

悪口って言うとなると難しいな!

 

うー!出てこない!

双虎ちゃんちょー良い子だから、人を貶める言葉が思い付かない!良い子だから!

 

「なんだよっ!ちょっとは怒ってくれても良いじゃん手マン!!」

「・・・・はぁ?」

「私良い子だから、悪口とかあんまり出てこないんだよ!手マンの怒りポイントとか知らんからね!?」

「・・・いや、お前なんて」

「うっせんだよ、手マン野郎!!さっきから、くっせぇんだよ!?プンプンするわ!何が?ナニだよ、イカ野郎!え?どの手でいじってんの?ねぇねぇ、どの手がお気に入りなの?気分によって装着するの?股間にぴったりフィットするの?きゃーやだ、変態!変態がいるわ!!ナニするのに、手をチェンジする、新手のオナニーマスターがいるわ、きゃー!!」

 

ガリッ、と何が抉れる音が聞こえた。

 

「お前、死ねよ」

 

首筋から血を流した手マンが、凄い目でこっちを見ていた。

 

怒った・・・怒った!

おんじー!!怒ったー!

手マンが怒ったーーー!!

 

これで━━━━

 

「脳無、やれ」

 

━━━そっちはあかん!!

 

煽り耐性ない奴だから、ぷっつんしたら自分で来ると思ったのに━━━逆に冷静になるタイプだったみたい。ヤバイ。

双虎にゃん、予想外だにゃん。

 

動きだしたらかわすのは無理。

それは包帯先生のを見て分かった。

だから、かわすなら初動で見切るしかない。

 

「っ!」

 

黒筋肉の腕が頭を掠めていった。

死ぬかと思った。

大振りだったから返しは遅いけど、このままなら二発目はかわせない。普通だったら。

 

 

「━━━なっ!?」

 

黒筋肉に足を引っ掛けて、引き寄せる個性をフルスロットルで発動する。そして私と黒筋肉の間にヒョロガリを挟み込むように位置とりしてやる。案の定、黒筋肉の腕がヒョロガリに当たる寸前で止まった。

びっくらこいているヒョロガリの背中に二発膝蹴りを入れて、即ダッシュする。

 

近くにいたら危ないけん。

 

距離をとってから振り向いたら手マンがこっち見てた。

見れば分かる、キレてる奴やん。

 

「おまっえ、なん、なんだよ!?」

 

聞かれたのであれば答えよう。

 

「よくきけ・・・・お前に聞かせる名前はねぇ!!」

「本当、なんなんだよ、お前っ!!!」

 

煽れば煽るほど、繊細さをかいてくれる手マン。

煽り耐性低すぎである。あいつ絶対あれだ、掲示板とかで一回煽られただけで馬鹿みたいに食いついてくる奴だ。絶対そうだ。大人のふりした小学生だ。

 

「脳無やれ!!」

 

引き寄せる個性をフルスロットルで発動して、黒筋肉へと飛ぶ。加速した黒筋肉と行き違い、上手い具合に接近した手マンに跳び蹴りをかまそうとしたけど、なんか手を構えてたから炎をプレゼントした。

燃えてた。ざまぁ。

 

「クソっ、ガキ!!」

 

凄いそれよく言われる。

こんなに良い子なのに、不思議!!

 

こっそり移動して黒筋肉との間に手マンがいるようにしてく。黒筋肉はかなり限定的な動きしかしないので、移動直線上に手マンがいればダッシュしてこないと思う。してきても、手マンの所で止まる。

黒筋肉は意外と目でちゃんと周りを見るし、音も聞いてる。でも頭は使ってない。生物だけどロボットよりの存在だと思う。命令されてちゃんと従ってるように見えるけど、多分そんなに細かい事は出来ない。

だから、セーフティーみたいなのがあると思ったら、本当にそうだった。

 

あれだけ速く動けてパワーが凄かったら、完全制御なんて難しい。命令者が最低限怪我しないように、そういう事が念頭に置かれてると思ってた。しかも使うのは小学生だし。安心設計乙。

 

反撃を開始させると厄介だから、この機会を逃さずこちらがどんどん攻めていこうと思う。一番ベストなのは、命令させる前に倒す事。手マンが思ったよりアホなので、黒筋肉の動きの隙をついてやっていくしかない。

 

私は息を大きく吸い込み、手マンに向かって吐き出した。

美少女JKに脈々と受け継がれる108の必殺技の一つ、火竜のファイアである。

 

「脳無」

 

手マンが一声掛けると黒筋肉が手マンの前へ盾になるように現れ、これを防いできた。ちょっと予想外。

多分基本的な動きの一つなのだろうけど厄介過ぎる。

 

「・・・・・・」

 

しかもダメージが殆んど通ってないときた。

違うか、幾らロボットみたいな奴とはいえ、今の高温を受けて平気な訳がない。

なら、多分━━━━。

 

そう思って目を凝らせば、見たくない物が見えた。

じゅくじゅくと火傷跡が消えていってる。

これで確定した、再生能力の類いを持ってる。

手マンが気兼ねなく盾にする訳だ。

 

「まぁ、あんまり関係ないんだけども」

 

引き寄せる個性で手マンを引っこ抜く。

手マンの体は黒筋肉の所で止まるけど、支えがない私はそのまま飛ぶように手マンへと近付ける。移動手段として考えた事はなかったけど、割りと便利な可能性ありあり。

 

黒筋肉に出してる命令は恐らく守る事。

近づく私にノーリアクションなのが、良い証拠。

木偶の坊になってる黒筋肉を踏み台にして、それを飛び越える。

 

黒筋肉に張り付くような姿勢でいる手マンに、渾身の思いを込めて炎を吐いた。

 

「ちっ!!脳無!!」

 

手マンを覆うように黒筋肉が動く。

本当、あれ厄介。

一言命令系に守る動きを入れるのはずるい。

 

胸くそ悪い話だけど、黒筋肉の設計者は多分頭が良い。

黒筋肉がどういう風に使われるか、よく分かってる。

 

面倒臭いことこの上なし。

 

覆い被さるように構える黒筋肉の腕の隙間を狙って追加ファイアしておく。嫌がらせ程度の火力だけど中から「っぁち!?」という悲鳴が聞こえてきたのでヨシとしよう。ざまぁ。

 

 

こんな事になるなら、さっきの船から燃料を少しでも持ってくれば良かった。上手く使えば、手マンくらいは倒せたかも知れない。

なんか、思った以上に手マンが弱い。

 

このまま上手いこと━━━━

 

 

「死柄木 弔」

 

 

━━━と思ったけど、あかん。

 

なんでこうもいらん事起こるかな。

リズムが崩れるわ、リズム天国いつまでたっても出来ないんですけど。

 

「━━━っち、黒霧、13号はやったのか」

 

あ、出てきた。黒かまくらから出てきた。頭がモシャモシャしてるけど大丈夫?軽くアフロってるけど大丈夫?

てか、ちょう物騒な話なんですけど。

え、死んだの?着込狂、死んだの?

 

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして・・・・一名逃げられました」

「・・・・・・・は?」

 

「ぷっ」

 

思わず笑ったら、二人にガン見された。

いや、だって、お前らが悪いんやないかい。

笑うわ、そんなの。大の大人がよってたかって、結局逃げられましたって。ぷってなるよ。それは。

ワタシ悪クナーイ。

 

「貴女、先程の━━━!!」

「ワタシ貴方知ラナーイ」

「まだフザケルか!!」

 

ふざけてんのは、どっちかと言ったらお前らだと思うけど。ヴィラン連合ってなに?かっこいいの?それかっこいいの?ねぇねぇ━━━

 

「脳無、やれ」

 

━━━それはアカン。

 

急いでそこら辺に落ちてるチンピラに引き寄せる個性を発動し、その場を飛ぶ。けど、スタミナ切れか引き寄せる力が不十分で速度が━━━

 

 

 

 

 

 

━━━ぐるんと視界が回った。

 

肩の痛みで、かわし切れなかったのが分かる。

直撃じゃない。だとしたら、多分死んでる。

 

「かすって、これとか━━━━」

 

馬鹿みたいだ。

本当に。

 

 

地面が見えて、天井が見えて、また地面が見えて。

 

 

目の前に真っ黒の塊が見えた━━━━━━

 

 

 

 

 



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だから、閑話はしないんだっていってるでしょ!!え?じゃぁこれは何かって?━━━閑話だね!な閑話の巻き

ちょっと外伝っぽい、かなぁ。でも仕方なし。


あの日、オールマイトから聞いていた。

 

あいつの話。

 

あいつが何に巻き込まれつつあるのかって、そういう話。

 

 

 

 

オールマイトは言っていた。

あいつの人柄を見て、ヒーローになれる人間だと見いだした事を。

そしてその為に一般入試を受けられるように推薦し、雄英へと導いた事を。

 

そしてそのせいで、オールマイトを恨むヴィランに目をつけられた可能性が高い事を。

 

 

 

 

ふざけるな。

そう思った。

 

 

「あいつに、背負わせるなよ!!」

 

 

あの時思わず叫んだ言葉は、本心だった。

 

 

誰よりもあいつを側で見てきたから分かるんだよ。

駄目なんだ、あいつに、そういう事をさせるのだけは。

あいつは馬鹿なんだ。

 

本当の馬鹿なんだからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆豪!!」

 

 

ムシャクシャしながら敵をぶっ潰してると、同じ所に飛ばされてきたクソ髪野郎が声を掛けてきた。

様子を見るために振り返れば、クソ髪野郎に任せておいた敵が全員地面に倒れているのが見えた。

 

「こっちは終わったぜっ!そっちも大丈夫だよな?よし、なら早く皆を助けに行こうぜ!俺らがここにいることからして、皆USJ内にいるだろうし!攻撃手段がすくねぇ奴等が心配だ!」

 

クソ髪は考えが馬鹿だが、頭は悪くねぇ。

モヤ野郎の発言も考慮してUSJ内に他の奴等がいると判断してるんだろう。

だが、その言葉には頷く訳にはいかねぇ。

 

「行きてぇなら、一人で行け。俺はあいつを探す━━」

「はぁ!!?」

 

糞髪を無視して行こうとしだが、肩を掴まれた。

 

「無理だろ!!いや、お前らが仲良いのは知ってるけどよ?!一人探す為にこのバカデカイ施設駆けずり回るのは利口じゃねぇーよ!それよか近くにいる奴等一人でも助けていって━━━」

「それじゃ、遅ぇんだよ!!」

「━━━っ、お、おう」

 

恐らくそれだと間に合わねぇ。

あいつは間違いなく、逃げねぇから。

あの時なら、黒モヤに散らされる前ならまだ、その可能性もあったんだが・・・。

 

俺様は一度深呼吸し気持ちを落ちつかせてから、クソ髪に説明してやった。

 

「━━━倒せるかどうかは問題じゃねぇ。元々オールマイトを殺しにきた連中だ。なら、黒モヤは俺達の分断の役割があったとして、それ以外は?各エリアに配置されたヴィランは生徒に相手させる為の連中。捨て駒。なら広場に、あそこに現れた連中は?最初にあそこでオールマイトに鉢合わせるつもりだったなら、あそこにヴィラン共の最高戦力が置かれてるのは間違いねぇ。クソ担任が一番危ねぇ所にいんだよ」

「マジかよ!相澤先生がか!━━━って、待てよ。さっきの探しにいくあいつって緑谷の事だろ?なんで相澤先生の話になんだ?」

「あの馬鹿女が、そういう所に飛び込んでいく大馬鹿だからだ」

「マジかよ」

 

昔からそうだ。死ぬほど間が悪い。

そして、いつもそういう面倒事に首を突っ込む。

何かと理由をつけて、軽口叩いて。

 

クソムカつく、そういう奴なんだよ。

 

 

 

「つーか」

 

 

俺様は背後から忍び寄る気配に鷲掴みにし、地面に叩きつけながら爆破する。

 

「俺ら生徒に充てられてんのがこんな三下なら、大概大丈夫だろ」

 

意識が途切れたヴィランを適当に捨てると、クソ髪の視線が気になった。

 

「お、う、なんかよ、爆豪ってそんな感じだったっけ?冷静つーか。・・もっとこう『ぶっ殺すぞ!』とか『あんだこらー!』みたいな爆発してる感じっつーか」

「んだとコラっ!!ブッ飛ばすぞクソ髪野郎!!」

「ああ、それだ!しっくりくる」

 

うんうんと納得するような仕草をするクソ髪に苛つく。

こいつと関わってるとリズムが崩れて仕方ない。

普通の奴は距離をとろうとするのに、こいつは、まるであいつのように近くにあろうとしやがる。

 

「分かったなら、好きに動きやがれ。俺はクソ担任が行った広場に向かう」

「・・・いや、決めた。俺はおめぇと行くぞ!爆豪!あそこに一番やべぇ奴がいるなら、相澤先生と協力してぶっ倒してやろうぜ。その方が皆の助けになる気がするしよ!!」

「ちっ、勝手にしやがれ」

 

壊れた籠手を捨て、残った籠手の調子を見る。

壊れている所は見受けられない。

 

「・・・一発はいけるか」

 

補習時に試し撃ちした、アレ。

威力は高いがその分溜めが長く撃てるようになるまで時間が掛かりすぎる事が難点ではあるが、今回のような連戦では話は別だ。

 

正に必殺の一撃。

 

撃ち時は見極めなきゃならねぇ。

 

 

 

「━━飛ばすぞ、ついて来れなかったら置いてくぞ。クソ髪野郎」

「おうよ!行こうぜ爆豪!!お姫さまを助けによ!!」

「ぶっっっっっ殺すぞ、てめぇぇぇ!!」

「わ、悪かったって!!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「━━━い」

 

 

 

「━━━━━━生」

 

 

 

 

「━━━━相澤先生!!」

 

 

 

ぼやけていた視界が晴れた。

 

「━━━んだ?」

 

ぼんやりとした意識のまま体を起こせば、痛みが走った。気を失う前、ヴィランと交戦していた事をなんとなしに思い出す。

自分の周りに見慣れた生徒の姿があった。

 

「━━蛙吹、峰田。お前ら、無事か?」

 

見かけから怪我は無いように見えたが、油断は出来ない。服についた汚れや傷を見れば、ヴィランと交戦したのは明らかだからだ。個性によっては、掠り傷でも致命傷になる事もある。

 

「けろっ。大丈夫です、相澤先生。私も峰田ちゃんも怪我はありません」

「それより!先生!緑谷がっ!!」

 

その名前を聞いてあの光景が甦った。

どうして忘れていられたのかと、己が信じられない。

━━━が、動揺してる時間はない。気を失っていたなら、あれから時間が経過している。少なくない時間、緑谷にあいつらの相手をさせた事になる。

 

「蛙吹、落ち着いて話せ。緑谷は今なにをしてる。ここはどれだけあの場所から離れてる」

「み、緑谷ちゃんは、今、相澤先生を殴った黒いヴィランと白髪頭のヴィランと立ち回ってます。今の所は上手くやってると。ば、場所は━━」

 

「そこの茂みを抜けた先っ!!やべぇんだよ!緑谷が!!」

 

USJの地形の大体は頭に入ってる。

周囲を軽く見れば、先程の交戦場所と五十メートルと離れていない事を直ぐに理解出来た。

 

右手を動かそうとしたが反応が鈍い。

左手はまともに動く、足も問題ない。体に走るうっすらとした痛みと、気だるさはどうしようもないが、動けない訳ではない。

 

後は意識か。

 

未だはっきりしない頭を動かす為、強制的に働いて貰う事にした。

 

 

「相澤先生!?」

「うわっ!?」

 

へし折った右の薬指から激痛が走る。

お陰で目が冴えてきた。

 

「気付けだ、気にするな。それに、どうせまともに動かない腕だ」

 

心配する二人にそう伝え、折れた指を包帯で軽く縛る。

本格的な治療は全部が片付いてからゆっくりやれば良い。間に合わせで十分過ぎる。

 

それよりも先にやることがある。

 

足に力を入れて立ち上がるが、予想以上に重い。

走れないとは言わないが、長時間の戦闘はまず不可能だと理解する。

そして動くと思っていた左腕。

改めて動かすと、違和感が大きい。本来の半分の握力も感じない。

 

「ざまぁ、ないな。これは」

 

助けにいく?

 

これで?

 

不可能だ。

 

嫌でも理解してしまう。

最早、助けに駆けつけていく事すらままならないという、情けない現状を。

 

その時、ふと二人の生徒に目がいった。

 

二人の持つ個性を思い出し。

そして、可能性の一つを思い付く。

 

 

「・・・お前らに少し頼みたい事がある。これは強制じゃ━━━」

 

 

「私、やります!!」

「緑谷の事だろ!?やるよ!だから、先生!!」

 

 

涙目で訴えてくる子供達に、心から守りきれなかった事を悔いる。━━が、今は感傷に浸っている時間はない。

 

「峰田、俺の捕縛布に、お前の個性で黒団子をつけろ。兎に角ありったけ頼む」

「そ、それは良いけど、そこら中にくっつくんじゃ・・・」

「この先の所だけでいい。お前のそれはお前自身には付かないんだったな?なら出来るだけ布と布がくっつかないように持っててくれ」

「出来るだけ・・・。わ、わかりました!」

 

 

「蛙吹、お前の舌は人を投げられる程度には強度があったな?俺ならどれだけの距離を投げられる」

「けろっ。そんなに強力ではないです。でも、先生だったら十メートル以上はいけると思います。あのそういう事ですか・・・?」

「ああ。そういう事だ」

 

 

蛙吹の理解の早さは助かる。

 

「でも、先生の体が・・・」

「プロになれば、こういう場面は幾らでもある。気にするな」

 

そう言葉を掛けたが顔は依然曇ったままだった。

慰めの言葉を知っていれば良かったのだが、生憎とそういうのは専門外だ。

 

「・・・まぁ、なんだ」

「けろ?」

「気にするなってのは、無理があったな。怪我人を送り出すのに、なんの抵抗も覚えない方が問題だ。━━けどな、聞いてくれ。俺は君らのヒーローとして先輩で、君らに未来を示す義務のある教師だ。その教師が働かないで、生徒が働いてる。それはおかしい事だろ。違うか?」

「それは、そうです。でも・・・」

「何一つ間違ってなんかいない。蛙吹、お前のいまの葛藤は正しい。だから、その上で頼まれて欲しい。俺に緑谷を助けさせてくれ。あいつも君らと同じ、俺が守らなきゃいけない生徒の一人なんだよ」

 

そう、頭を撫でると小さく蛙吹は頷いた。

 

「ありがとうな、蛙吹」

 

こいつはいつか立派なヒーローになる。

こういう葛藤を抱くのは、優しいからだ。

優し過ぎる気がしないでもないが、それでも俺の言葉に頷けたのなら不足はない。

 

 

「先生!こっちは付け終わったぜ!!」

 

峰田から準備が出来た事を聞き、俺は蛙吹を見た。

そこにあったのは決意に満ちた瞳。

上出来だ。

 

「相澤先生、いくわ!!」

 

ぐんっ、と体が引かれる。

 

「峰田!捕縛布はギリギリまで持ってろ!!いいな!!」

「まっ、ま、任せろってんだっ!!」

 

こいつも、少し変わった。

数日前とは少しだけ。

それも、良い方向に。

 

 

 

 

 

一際強く引かれた直後、蛙吹の舌から投げ出された。

速度はそこまで速くは無いが、その分高さがある。

茂みを悠々と越える高い位置。俯瞰的に緑谷と交戦する黒いヴィランの姿をその目に捉える。

 

このまま飛べば恐らく20メートル程は接近する事が出来る。が、ただのんびりと飛ぶつもりはない。黒いヴィランによって緑谷が跳ねる姿を見たからだ。

 

左手に渾身の力を込めて、黒いヴィランとその反対方向に向けて捕縛布を投げる。先に余計な物がついてるせいでコントロールにズレが生じるが、それも誤差の範囲。

 

頭にあたる投げた布は黒いヴィランの体に付着していき、反対方向に飛ばした尻にあたる布は地面へと張り付く。

 

上手いこと地面に縫い付ける事が出来たが、オールマイト並みの力に捕縛など役には立たない。峰田の個性の吸着力が予想より強力であったが、布の強度が持ちそうにない。

稼げる時間はほんの僅か。

 

だが、それだけあればいい。

 

飛ばされた勢いを殺さずに着地し、そのまま緑谷に向かって全力で駆ける。普段なら一息で辿り着ける距離が遠い。

 

ブチブチと、背後から布の引きちぎれる音が聞こえる。

もって、あと一呼吸━━━━━━━

 

 

 

 

「クソ担任!!!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

広場に駆けつけると、倒れた馬鹿女とクソ担任の姿が見えた。

 

その後ろにいる、黒い脳みそヴィランも。

 

 

籠手のアレで吹き飛ばそうと声を掛けようとしたが、違和感を覚えた。

 

 

黒い脳みそヴィランの体にまとわりつく、クソ担任の捕縛布が引きちぎれ掛かっている様子。

 

そのヴィランのズボンについた焼け焦げた跡。━━にも関わらず無傷のその体。

 

鼻に突き刺さる焼け焦げた肉の臭い。

 

 

 

そして、それらを統合して生まれた疑念。

 

 

 

馬鹿女は、双虎は、死ぬほど馬鹿だが、何も考えない馬鹿じゃない。

余計な事に首は突っ込むが、勝てない戦いは絶対にしない。

 

なら、勝ち筋があった筈だ。

捕縛布を引きちぎるパワーと、双虎の炎を受けてもピンピンしていられるこいつに対して。

 

「爆豪!はぇぇよ!敵はっ!?」

 

耳に届いた声に、俺は辺りに視線を飛ばした。

直ぐに目に入った。

 

 

そいつらの姿が。

 

 

 

「クソ担任!!」

 

 

 

籠手を構えて声をあげれば、クソ担任と目が合った。

そして同時に、視線がそこへと向いた。

 

 

「おいっ、爆豪!!そっちじゃ━━━」

「うるせぇ!黙ってろ!!!」

 

 

籠手を構えピンを引き抜く。

瞬間、肩に走る衝撃と共に、爆炎がうねりをあげて走った。

 

 

「━━━っ」

 

 

爆風が吹き荒れる。

爆音と共に埃が舞い、煙が立ち上る。

 

埃が晴れた先に、黒い脳みそヴィランと黒モヤ野郎と、おかしな白髪頭の姿があった。

黒い脳みそヴィランが一番ダメージを受けているように見える。その後ろに守られている二人も、動きの鈍さから何かしらダメージがあったことが分かる。

動きが鈍くなったのを確認し、直ぐ様盾になれそうなそいつに声を掛けた。

 

「クソ髪!!馬鹿女の前に立て!!」

「お、おう!てか、素直じゃねぇーな!」

 

黒モヤがいることで防げた筈だろうが、生憎こっちにはクソ担任がいた。

個性を消した状態なら、あれを防ぐ手立てはない。

たとえ盾が割り込んだとしても、爆炎は体を傷めつける。ざまぁねぇ。

 

 

ヴィランのクソ共の様子を見ていると、白髪頭の目が合ったあった。ドブ川みてぇな目をした、クソヴィランだ。

 

「最近のガキはみんなこうなのかよ・・・」

 

ちいせえ声にウンザリする。

クソガキかよ。

 

 

 

 

「うっせぇよ、クソ手マン野郎が!!黙って死んでろカスっ!!」

 

「お前ら、本当に死ねよ・・・!!」

 

お前が死ねよ、こらぁ!!

 



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死ぬにはいい日という言葉はあるけど、死ぬこと自体良いことじゃないから、それって結局良い日ではないよね?そうだよね?え?あ、そういう事ではない。成る程。の巻き

前回のあらすじ

かっちゃんに笑いの神が舞い降りた。

なんやかんやゆうても、あれが誤字だってみんなに認識されてるなら、かっちゃんも捨てたもんじゃないよねって、そう思いました、マル


時は戦国。

オリゴ糖の乱に始まった戦国乱世。

糖で糖を洗う甘味達の地獄の果てのこの時。

 

私、緑谷双虎は、若きシュークリーム将軍にかわり洋菓子家の全権を握り最後の戦に赴いていた。

 

シュガヶ原。

 

昨日のザラメのせいでわたあめに満ちた白の世界の中、私は静かにその時を待った。

 

「双虎殿!!エクレア殿と他に数名があんこ餅と交戦を開始!!我が軍、優勢にしてつかまつりそうろう!!」

 

ついにきたか、そう思った私はゆっくりと牛乳をあおった。淡白な味わい、低脂肪牛乳もたまには悪くない。基本的にココアが好きだけど、まぁ、これも悪くない。炭酸も好きだけど。お茶も好きだけど。

 

「全軍に伝令!!全軍突撃を開始せよ!!洋菓子家の力を、和菓子共に見せてやれ!!」

「ははぁ!!双虎殿!!」

 

軍を先に敷いたこちらが有利。

戦の準備など糖に終えている。

息をきらした愚物共に、勝機など一グラムとてないのだ。

 

ポテチをかじり、勝利を確信したその時。

慌てて駆け込んでくる足音が耳に届いた。

 

「双虎殿ぉぉぉ!!伝令、伝令にござりまする!!」

「何事!話せ!!」

「はっ!!謀反にござる!!かすてーら殿の謀反にござりまする!!謀反に気づいたスコーン殿がシュークリーム将軍を連れホールケーキ城に立て籠るも、オーブンに掛けられ、死期を悟った将軍は・・・!!ぐぅぅぅ!!」

 

かすてーらは以前より和菓子よりだったせいで随分と低い扱いを受けていたのは知っていた。だが、誰よりも洋菓子であることを誇りに思っていた忠臣の一人だった筈だ。その誇り高さ故に、シュークリーム将軍の近衛を任せていたほどなのだから。

 

「何故だ!!かすてーらは何故そんな真似をした!」

「一言、双虎殿に伝言がありますれば」

「なんだ!!」

「かすてーらとカステラは別物だから、と。和菓子として、進化してるからと」

「馬鹿なぁぁぁぁ!!」

 

あの大戯け、拐かされおったか!!

いや、一枚奴が上手だったという事であろう。

和菓子家の古狸、奈良饅頭の助が。

 

「双虎殿!シュークリーム将軍の死去が軍勢に伝わり、形勢に変化が!!我が軍押され始めました!!」

「なんだと!?馬鹿なっ!」

「双虎殿ぉ!!エクレア殿が討ち死に!!戦線が、崩れます!!」

 

計られたか、饅頭共が!!

 

「双虎殿!今すぐ撤退を!」

「馬鹿をいえ!私まで離れては兵子らに示しがつかん!!」

「そこを何とぞ!!シュークリーム将軍が亡くなられた今!洋菓子家を引っ張っていけるのは、双虎殿をおいて他ありませぬ!!御身さえ無事なれば、我ら散り散りになろうとも、その御身を洋菓子の灯火とし幾度でも集まり、幾度でも戦えまする!我らの旗印として、どうか!!」

「くっ、しかし!」

「双虎殿!どうか、どうか、我らの為に!洋菓子家の未来の為に!!」

 

私は選ばなければならない。

ここに討ち果てるのか。

それとも、生き延び明日の洋菓子を守っていくのか。

 

「双虎殿!!防衛拠点が破られもうした!!じきに敵の一陣が本営に到着いたしまする!!お早く!!」

 

じっと見つめてくる洋菓子達。

その目に宿る光を見て、私は今更になって迷っている自分を恥じた。

迷う理由などなかったのだと、思い知った。

 

「━━━貴様らに最後の奮闘を期待する!!サラダバー!!」

「「「サラダバー!!」」」

 

勇敢な戦友達に敬礼し、ミイラ号に股がる。

いつもなら相棒の爆号に乗るところなのだが、なんか今日はいない。ときおりゴラァとか、ブッコロスゾと鳴く変わった馬だが、その駿足はなによりも信頼に値する名馬なのだ。餌がきゅうりである事以外は特に不満のない相棒である。

 

手綱をとり腹を蹴れば、ミイラ号は駆け出してくれる。

 

「緑谷少女!!」

 

走りだしたその時、不意に背後から声が掛かった。

何事かと振り返ればガチムチがそこにいた。

 

ガチムチがおる。・・・お?

 

ガチムチって誰やん?

 

「私が、来た!!!」

 

とてもよく考えた。

それはとてもよく考えた。

そして思った。

 

ふむふむ。

 

「私は呼んでない!!!」

「おっふぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━緑谷」

 

ぼんやりとする意識のまま声を便りに視線を動かすと、黒い塊がそこにあった。なんかモジャモジャしてる。

妖怪かな?と思ったけど、よくよく見ると包帯のない包帯先生だった。包帯がないから包帯のない包帯先生ということだ。

ん?結局どういう事だ?

包帯がないなら包帯先生ではないけど、包帯先生は包帯先生だから、別に包帯がなくても包帯先生な訳で、でも包帯がなければ包帯先生とは言えないから、つまりそれは包帯がない包帯先生という事になるけど━━━

 

うん、意味分からん。

まぁ、包帯先生は包帯がなくても包帯先生という事でいいや。面倒臭い。

 

それにしても包帯先生の顔色は少しよくなってるみたいだけど、調子はまだまだ悪そうだ。

そんな包帯先生の顔を見てると、不意にある事が気になった。もしかしたら、知っているかもしれないので聞いてみようと思う。

 

「包帯先生・・・」

「なんだ?」

「シュークリーム将軍は?」

「夢の話なら後で聞いてやる」

 

夢だったのか。

あんなに楽しい世界、他にないのに。

ちょっと悲しくて涙が出てきた。

 

「シュークリームに埋もれて生きたい」

「直ぐに糖尿病になりそうだな」

 

冷静なツッコミに心が痛い。

お腹も減った。なんか肩痛い。

肩?なんで肩?・・・あ、肩か。

 

「そう言えば、私ピンチ系だったと思うんですけど、どうなりました?天国?」

「もし天国とやらにいってたとしたら、今頃シュークリームに埋もれてるんじゃないか?」

「確かに」

 

じゃ現実か。

まじか。

シュークリームなしか。

あ、いや、シュークリームオンリーは、それはそれでキツい。

 

ていうか、私もしかして包帯先生にお姫さまにされてる?運ばれてる?背中に当たってる温かいのとか、包帯先生の温もり?

うぇぇ、むりぃ。

 

「それより緑谷」

「はい?」

 

下ろしてくれないかなぁと思ってたら話し掛けられた。

なんぞ。

 

「さっきのは、起きてたのか?」

「はぁ?」

 

ちょっと意味が分からない。

第一回から第十五回まで開かれてる、私的美少女グランプリナンバーワンに輝いている美しすぎる生き女神の緑谷双虎でも意味が分からない。

 

え、セクハラ?

 

「いや、分からないならいい。だ、そうです。オールマイト。寝ぼけてただけです。いつまでもいじけてないで、こっちに来て下さい」

 

ガチムチ?と思って顔をあげてみると、ボロボロのガチムチがいた。なんかしょんぼりしてる。

 

ふと視線を横に逸らせば、しかめっ面のかっちゃんがいた。なんか、凄い顔で睨んでくる。

その隣にいる切島が苦笑いしてる。

 

なに?なんなの?

 

意味が分からないので辺りを見渡してみると、ボロボロの広場と縛り上げられたチンピラの姿があった。

手マンとか黒モヤとか黒筋肉がいない所を見ると、なんとかなったとは思うけど、過程が分からん。

 

「うーん、よく分かんないけど、私が頑張ったのは分かった」

「ああ、大分無茶をしたがな」

「無茶かぁ」

「そうだ無茶だ」

「無茶なのかぁ」

 

 

・・・なんか無性にお茶飲みたくなってきた。

いや、意味が違うのは分かるんだけど、無い無いって言われると逆に欲しくなっちゃうんじゃん?無茶、無茶ってさ。出せよ、茶ぐらいって思うじゃん?

 

「なぁ、緑谷」

「はい?なんですか?」

 

お茶くれんのん?

 

「お前は、これからどうしたい?」

 

さっきから意味が分からない。

脈絡が無さすぎる。

かっちゃんといい、ガチムチといい、包帯先生といい。

なに、その目。

 

私、頑張った系の人だよね?

褒めね?取り合えず、めちゃめちゃ褒めて褒めて、持て囃さない?何故に問いかけ?ご褒美にご飯奢ってくれても良いんだよ?焼き肉とか、お寿司とか。なんだったらピザでも良いよ。全部トッピングしたやつ。・・・やっぱり全部はないな。何事もバランスを考えねば・・・。

 

「緑谷」

「うえ?ああ、ピザはですね━━」

「ピザの話はしてない。これからどうしたいかって話だ」

 

どうしたいって言われてもなぁ。

ふとかっちゃんの顔を見ると、なんだか寂しそうな顔をしてた。捨てられた子犬みたいな顔だ。珍しい。

 

「━━━おい聞いてるか?」

「あ、はい。きいてまーす。どうしたいって話ですよね?えっとですね、取り合えずシャワー浴びたいです」

「そういう事じゃ━━━」

「それでですね、着替えて、帰って、ご飯食べたいですね。頑張ったので焼き肉したいです。そんで寝ます。それで━━━」

 

 

 

 

 

 

「━━━面倒臭いですけど、また学校きます。明日休みじゃないですし」

 

包帯先生が何故か目を見開いた。

そんなにか、そんなに私が真面目な事言うのがおかしいか?え?酷くない?

 

「良いのか?」

「いや、いいもなにも・・・普通に高校生なんですけど、私。てか、サボろうと思っても母様怖いし、かっちゃんが迎えに来ちゃいますし?逃げられない感じで・・・」

 

包帯先生の悲しげな目に嫌な予感が脳裏を過った。

それは中学時代担任の言われ続けてきた『退学』の二文字である。

 

「え!?もしかして退学!?そんなっ!補習幾らでもするんで勘弁して下さいよー!!母様に、高校くらいでろって言われてるんですぅ!やだぁー!堪忍してー!ボデられちゃう、ボデられちゃうからっ!!」

「落ち着け、緑谷。・・・それなら普通科ならどうだ。それなら母親にも、何も言われないだろ」

 

普通科?

あ、そういう話か。

 

「別にこのままで良いですよ?」

「お前はヒーローになりたくないんだろ?聞いたぞ」

「はい。ヒーローにはなりたくないですね。ごめん被ります。でも━━━」

 

 

 

 

 

 

『だいじょうぶだぜ。おれさまはオールマイトみたいにぜったいかつヒーローになるんだからな!』

 

 

そういって偉そうにして。

 

 

『ぜったいけがしない!━━━━だからだいじょうぶなんだぜ!』

 

 

無茶な事いって。

 

 

 

『おれさまがきた!』

 

 

 

自信満々に笑う。

 

 

 

 

『━━━━━っ双虎!!』

 

 

 

 

 

 

 

「━━━やりたい事はあるので」

 

 

 

私には私で。

支えてやらないといけない、大馬鹿がいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩、当然の権利としてかっちゃんに焼き肉奢って貰った。

特上の食べ放題だった。

 

旨かった。

 



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閑話はしないっていてるだろ、じょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!の閑話な巻き

とくに書くことなし!!


ヒーローを始めてから何年たったか。

振り返ると長いようで短いようで・・・何にせよあっという間の日々だった。

そのヒーローとしての生活の中で、幾つもの助けを呼ぶ声を聞いてきた。痛みに泣く声、苦しみに呻く声、悲しみにくれる声。様々な声を聞いてきた。

中にはわたしに怒りをぶつける声や不満をもらす声もあった。人の弱さを考えればそれも仕方ない。

 

それでも、あれほどまでに否定されたのは初めてだった。

 

 

 

『私は呼んでない』と。

 

 

 

「はぁ」

 

思わず溢れた溜息に、私の様子を見にきた塚内くんが眉を潜めた。

 

「どうしたんだいオールマイト。随分とらしくない溜息をついて」

「いや、少しね」

「ヴィランの事・・・ではなさそうだね。それは教師としてかい?」

 

流石に長い付き合いのある塚内くんだ。

まさか、こうも簡単に見抜かれるとは。

隠していても仕方がない事だからと、今日生徒に投げ掛けられた言葉について話した。

 

塚内くんは笑ってそれを受け流してしまう。

 

「笑い事ではないんだが・・・」

「ははは、いやぁ、それもそうか。ヒーローとしては人気の有無も、一つの問題なのだろうね。しかし、君がそんな事を気にするとはね」

「気にもする。今回の事が直接的にアノ件に関わっているか分からないが、少なくとも今回の事件には誰かの意図を感じる節があるんだ」

「彼女か、それを口にしたのは」

 

塚内くんは溜息をついた。

 

「後ろめたい気持ちは分かるけどね、いつまでもそれに囚われるのは良くないと思うよ」

「あれの出所は?」

「それは残念だがさっぱりだ。捜査を進めて分かったのは、分からないという事さ」

「つまりそれは・・・」

「それを行える組織、もしくはそれだけのツテを持った大物」

 

やはり、やつか。

オール・フォー・ワン。

 

「なぁ、オールマイト。彼女が君にとって特別なのは分かる。その理由については聞かない。何があったのかもね。けれどね、彼女は君を嫌ってる訳ではないと思うよ」

「それはないよ。わたしは彼女を巻き込んだ張本人だ。恨まれていない方がおかしい」

「君はどこか後ろ向きなんだよなぁ。ナンバーワンヒーロー、オールマイトの時ならあんなに明るいのにな。八木俊典さん?」

「それは、はは、悪かったね」

 

笑うと傷に響いた。

黒いヴィランによって穿たれた横腹の傷。

 

並みの力ではなかった。

それに加えて失った四肢を回復する再生能力、わたしの力すら吸収した衝撃吸収という強力な個性。複数の個性を持つという矛盾。謎はつきないが、それは調べてみれば分かる。

 

それよりも今は━━━

 

「塚内くん。わたしは、ここから離れた方が良いのだろうか・・・」

 

彼女の事を思えば、そうするべきだ。

今更意味があるのか分からないが、これ以上側にいてはそれこそ狙われる可能性がある。

今ならまだ、間に合うかも知れない。

 

そう思って口にしたが、意外にも塚内くんは首を振った。

 

「少し休むといい。考え過ぎだ」

「だが・・・」

「少なくとも、君はまだ彼女に何も伝えてないのだろう?なら、それが済んでからでいいと思うよ」

「伝える、こと?いや、わたしは伝えたよ」

「伝えていないさ。ヒーローとしても、教師としても」

 

塚内くんはわたしの肩に手を置いた。

 

「元々、反対だったんだ。君が教師になることは。ヴィランに目をつけられる可能性が高かったからね」

「ああ。その話は・・・」

「聞いてくれオールマイト。でもね、君のその悩む姿を見て、君が教師になったのもそう悪くない気がしてきたんだ」

「この姿が、かい?」

「ああ、その情けない姿がさ」

 

くくく、と笑う塚内くんにつられ、わたしも笑ってしまった。

 

「親は子供を育て、子供は親を育てていくと言うだろ?きっと教師も同じなんだよ」

「子供が教師をってことかい?」

「そういう事さ。随分と良い顔をしてるよ。久しぶりに見た君の顔がそれで良かった。生きてるって顔をしてる。お互い、子供達に笑われない大人になろうオールマイト」

「塚内くん」

 

子供に笑われない大人に、か。

 

「ありがとう塚内くん」

「よしてくれ、礼なんて」

 

後継のこと、彼女のこと。

もう少し考えてからで良いのかもしれない。

時間は確かにない。けれど焦って決めて良いことではきっとない。

 

少なくとも、お師匠なら・・・。

 

わたしは捜査に戻っていく塚内くんを見送り、再びベッドに身を沈めた。疲れた体を癒し、再び彼女と教師として会うために。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「先生、あれで良かったのか?折角、オールマイト用に調整した作品だったろう?」

 

弔との通信を切った後、ドクターが尋ねてきた。

彼も調整に付き合ったから、ある程度愛着があったのだろう。

 

「仕方ないさ。でもね、思ったより衰えてなかったのが分かった。収穫だよ、ドクター」

「衰えてなかった?そうか?」

「勿論。予想より、ずっとね」

 

てっきり彼女に譲渡してたのだと思っていただけに、あてが外れて肩透かしを食らった所はある。

けれど、それだけだ。

たいした話でもない。

 

「それよりも、彼女か・・・」

 

思っていたより、ずっと良い。

面白い個性の使い方をする。しかもナチュラルで個性を二つも持っている。

あの個性が欲しいとは思わないけど、あれを下地に脳無を作ったら面白そうだ。

しかし、まぁ、あれは研鑽故の技。脳無にしたところで、同じ動きが出きるとも思えないから・・・どうだろうか。

 

試したい気持ちはあるが、迂闊な事は出来ないな。

 

そうなったら彼が出張ってくる。

 

まだまだ弔は未熟。

近い将来、僕にかわる存在になるだろうが、それは未来の話。準備期間はまだ必要だ。

 

「・・・そう言えば先生、聞いたか?」

「何をだい?」

 

ドクターの声色に喜色が浮かんでいる。

なにか良いことがあったのかも知れない。

 

「最近巷を騒がせるヴィランの話だ」

「ヴィランの?あまり食指が動かないなぁ」

「そう言うな、先生。実はそやつな、血に関する個性を持っているらしい━━━━」

 

 

血に関する個性か。

 

 

 

「━━━成る程、それは少し、面白そうだ。名前は?」

 

 

 

「ああ、確か━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━ステインと」

 

 



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料理なんてしなくても死なないの!だってコンビニがあるからね!だから料理なんて覚えなくてもいいの、そういう時代なの。だから母様、料理を覚えるのはご勘弁願えないだろうか。の巻き

ハロハロ!みんな元気?おいらは元気!
みんなは毎日投稿なんてするなよ!
軽く、死ねるぜ(*ゝ`ω・)!


手マン襲撃の影響で、学校が臨時休校。

 

「やぁったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

これはサボりではない。

公式に学校がお休みなのだ。

休む事が正しい、そんな日なのだ。

手マン、ありがとう!!

 

解放感にフラメンコしていると、部屋がノックされた。

なんじゃろ?と扉をあけると、母様の真っ黒なドングリ目がそこにあった。

 

ひぃっ。

 

「御近所迷惑でしょ。朝から何騒いでるの・・・」

「違うんです、マザー!!だって学校がお休みなんですぅ!祝ってただけなんですぅ!」

 

がつ、とマザーハンドが頭を掴んだ。

ギリギリ締め上げるそれは、頭蓋骨が割れんばかりの力が込められてる。

 

「あだだだだだだ」

「学校がお休みで、どうして祝うの?馬鹿な事言ってないで、家事の一つでも手伝いなさい。料理とか」

「うぇぇぇぇ、いやぁぁぁぁぁ」

 

母様は酷い。

私が料理出来ない事を知ってるくせに、こんな仕打ちを平気でしてくる。人にはやって良いことと、やってはいけないことがあることを、きっと知らないに違いない。

鬼、悪魔、小豚!!

 

「━━━っだだだだだっ!?だ!!?」

「何か失礼な事考えたでしょ?」

「考えてませんんん!!あ、いや、小豚とか思ってごめんなさぁいいいい!!」

 

頑張って謝ると手が離された。

解放感から床に倒れる。

死ぬかと思った。

 

「はぁ。・・・こんなのの、何がいいんだろうね勝己君は」

「?かっちゃんがなに?」

「何でもないよ。それより来なさい。折角の機会なんだから、『馬鹿』でも出来る簡単な料理を教えてあげるから」

 

馬鹿を強調しないで欲しい。

うう、面倒臭い。

母様め、覚えておけ。

 

これ以上抵抗しても一つも良いことないと思うので大人しく母様に従い台所にいく。すると、台所に卵が置いてあった。

 

「母様。何をやらせるのん?」

「目玉焼きを作るのよ。簡単でしょ」

「馬鹿にするなぁぁぁぁ!!」

 

幾らなんでも母様は私を馬鹿にし過ぎである。

こんなの楽勝過ぎて、逆立ちしながらだって出来てしまう。━━あ、逆立ち出来ないや。

 

「ま、兎に角やってみなさい」

「はいはい。もう、母様は。幾らでも作っちゃうってのよ。なんなら、明日から朝ご飯は私が作ったげよっか?」

「いいからやってみなさい」

「はいはい」

 

私は卵をテーブルの端にぶつけヒビをいれる。

そして華麗に割って、フライパンの上に落とした。

フライパンの上で黄身と白身がプルプルと新鮮さを自己主張してる。

 

どやぁぁぁぁ。

 

 

「で?」

「ん?」

 

 

母様が何を言ってるのか分からない。

乗せたのに、上手くフライパンに乗せたのに。

黄身潰れてないやん、すごない?ねぇねぇ?

 

「で?」

 

全然、褒めてくれない。

なんだ、なんかミスったのか。

え?綺麗に乗ったよ?乗ったよね?乗ってないの?これ?

心配になったのでスプーンで掬って裏側を見てみた。

綺麗だった、傷ひとつない。

 

どやっ!と母様を見たが、顔が「で?」って顔してる。

 

「いつも食べてるやつは、どんな?」

「いつも、食べてるやつ?半熟とろり、美味しい」

「そういう事じゃなくて、この感じでお皿に乗ってるの?」

 

プルプルしてる。凄いプルプルしてる。

・・・言われて見れば、もっと固い感じな気がする。

 

「あ、火を通してなかった」

 

思わず溢した言葉に、母様の厳しい視線が突き刺さる。

痛い、凄い痛い。もう物理的に痛い気がする。

 

流石にコンロの使い方は分かるのでツマミを━━━

 

「っな」

 

━━━━ツマミがない、だと!?

 

 

「母様め!謀ったなぁ!!」

「コンロ買い換えたのは随分前よ」

 

く、くそぅ、そんな事言われたら、返す言葉がないじゃないか!!ずるい!!

 

しかし、そこは天才双虎ちゃん。

機械にはそこそこ強いと自負を持ってる私は落ち着いてそれに向き合う。そして文明の利器に頼る事にした。

 

「━━━もしもし、かっちゃん?」

『朝からなんだ、馬鹿━━━』

 

「人に頼るんじゃないの!!」

 

「━━ったぁ!?」

『━━っ!?お、おいっ、なにしてんだ!?ああ?!』

 

思いっきり頭を殴られた上スマホも取られた。

しかも母様は人の電話に勝手に出て、「ごめんなさいね、勝己君。お休みに」と軽く挨拶をして切ってしまった。なんたる横暴!許されぬ!こんなのプライバシーの侵害だ!!プンスコだぞ、母様!!

 

「なに見てんの、さっさと再開なさい」

「くぬぅぅぅぅ」

 

母様めぇぇぇぇ!!

こうなったら、目にもの見せてくれるわぁぁぁ!!

 

そうして始めたお料理戦争。

熾烈を極めたその戦いは天を貫き、雲を裂き、海を割った。母様は途中から韓ドラ見始めた。

 

そして開始から二時間して、私は漸く真実に辿り着いた。

 

「目玉焼きは一流料理だったんや」

 

「あんたがそこまで出来ないとは思わなかったわ」

 

焼け焦げた卵達の前で、私は泣き崩れた。

悲しかったというより、現実の厳しさに耐えられなかった。

 

だって知らないんだもん。

家庭科とか、普通にサボってたんだもん。

出来た頃に帰って、皆の貰ってたんだもん。

それで怒られたりしてたんだもん。

 

てか、母様は通信簿見てるじゃん?知ってるじゃん?

きたない!母様はきたない!可愛い娘を貶める為にこんな事するなんて、きたな過ぎる!!

 

「・・・はぁ。今から言った通りにやんなさい。そうしたら出来るから」

「そんな簡単に出来たら苦労なんてしないもん!」

「出来んのよ。まずはフライパンを温める所から始めなさい」

 

はぁ?フライパンを温めるぅ?

何いってんの?何も乗ってないフライパンを?温めるぅ?

 

「狂ったか、母様」

「狂ってんのはあんたの頭よ。ほら、始める」

 

それから母様の言うとおりやってみた。

5分くらいで出来た。

泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━という事があったので、慰めて欲しいと思った。主にアイスとかケーキとか奢って欲しいと思った」

「説明したふりしてんじゃねぇぞゴラァ!何一つ聞いてねぇからな!?」

 

かっちゃん家に行ったらかっちゃんが出てきた。

光己さんが出てくると思ったので少し誤算である。

まぁ、多分、最終的にかっちゃんの部屋には行ったと思うけども。

 

「昨日の今日だってのにっ、ちっ!!」

「まぁまぁ、お邪魔しまーす。光己さんはー?」

「今いねぇ━━って、おい!勝手に入ってんじゃねぇぇぇ!!」

 

怒鳴るかっちゃんをスルーしてお家に侵入。

さらっと台所の冷蔵庫開けて、さらっとジュースとマイコップを持って、さらっと居間のソファに寝転び、さらっとテレビをつけて録画してある映画鑑賞タイムに入る。

 

これ、こないだやってた奴だ。

かっちゃんパパが好きそうなやつだとは思ってたけど、やっぱりか。

 

「なに、俺以上に寛いでやがんだ、クソが!!」

「お構い無く」

「構うに決まってんだろ!!誰んちだと思ってんだゴラァ!!」

 

今日もかっちゃんは元気だなぁ。

なんか安心する。

あ。

 

「かっちゃんや、かっちゃんや」

「━━んだ、こら!!」

「良い子のかっちゃんにプレゼント」

「プレっ!?━━━━は、はっ、はぁ!?」

 

凄い怖い顔しながらも、ちゃんと手渡せば貰ってくれるかっちゃんは物を大事にする良い子だと思う。たまに爆破するから、完全に良い子ではないけど。

 

受けとったそれをマジマジと見つめるかっちゃんの顔は渋い。

 

「おい、なんだこりゃ」

「・・・・」

 

改めて考えると恥ずかしい。

タッパーに詰めて持ってきたそれは、私の中では一応目玉焼きなんだけど、かっちゃんからすると得体の知れない何かに見えるんだろうなぁ。

本物の目玉焼きを作れるようになった今の完璧女子な双虎ちゃんから見ても、まぁワケわからん物質だから言い訳のしようもないけど。

 

なんで持ってきたかって?忍びなかったんや。

二時間戦った証を捨ててしまうのが、忍びなかったんや。

でも自分で食べるのは遠慮願いたい。

 

だから、持ってきた。

はい、QED。

 

「おい、馬鹿女、こっちみろや」

「双虎にゃん、人語が分からないにゃん」

「百パーセント分かってるやつの返しだろぉがっ!!」

 

ゆさゆさと揺らしてくるかっちゃん。

酔うから止めろと言いたい。

言わないと終わらない気がするので大人しく白状する事にした。

 

「め、めだま、目玉焼き」

「・・・・・・」

 

かっちゃんの目がヤバイ。

なんだその人殺しそうな目は。

悪かったよぉ、失敗作渡して悪かったよぉ!

 

「・・・はぁ。さっき、電話越しで騒いでたやつか」

 

溜息吐かれた。

怒鳴られるかと思ったのに、溜息吐かれた!!

なにこれ、死ぬほどムカツクんだけど?!

 

殴ってやろうかなと思ってると、かっちゃんがタッパーの蓋を閉めた。

 

「━━━っは、んどくせぇ」

 

そしてそれだけ言うと、そのタッパー持って部屋に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

え、食うの?

 

持ってってたやつ、食うの?

 

 

 

いや、そのまま捨てるのが忍びなかったよ?

だから食わせようと思って持ってきたよ?

無理矢理ね?無理矢理。

 

なのに、え?食うの?

自分から食う感じなの?

食べれんの?それ?

 

なに?なにか悪いことしたの?

罰なの?

なにか悔い改めるような事したの?

懺悔?

 

 

 

かっちゃんの行動に複雑な気持ちになっていると、玄関の方から光己さんの声が聞こえてきた。

 

「あっれー!来てたのね、双虎ちゃん!ごめんねぇ、ちょっとお買い物いってて・・・ってどうしたの?」

 

なんか、光己さんに頬っぺたをプニプニされた。

 

「温かい。熱があるわけじゃないのよね?」

「熱?」

「なんか顔赤いわよ?」

 

え?う、うん?

んー、あれだ、なんだろ。

分からん。

 

「部屋が暑かったのかも」

「そんなにでもないと思うけど?まぁ、良いわ。さっき良いもの買ってきたのよ!じゃじゃーん、シュークリームーー!ほら、駅前に新しく出来た洋菓子店あったでしょ?いつも人が並んでる」

「おおー!知ってます知ってます!お高いやつですよねぇ!」

「そうなのよ!ちょっとお高いやつ!実はさ、ウチの旦那の知り合いがやってたお店みたいでね、今日はお願いして取り置きして貰ってたのよ!限定品のヤツ!」

「おおー!!」

 

いつも、いくと売り切れてるヤツ!

何度もかっちゃんに買いにいかせたけど、買えた事なくて諦めてたヤツ!!

 

「折角だから、これで一緒にお茶しましょ、ね」

「喜んでー!」

 

 

 

 

それから、光己さんとゆっくりお茶してから帰った。シュークリームは美味しかった。なんか母様の分まで貰ってしまったので、ちゃんと持って帰った。途中で食べる?ノンノン、バレたら後が怖いからや・ら・な・い。

 

帰り際、空のタッパーを渡してきたかっちゃんに「よくこんなゴミ持ってきたな」と言われたので、それは殴っておいた。

多分、私は悪くない。

 

 

と、思う。

 



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パート3:ベスト・ガール:私の夏休みを取り戻せ編
嵐を呼ぶ包帯先生が言うことにゃ、皆でお祭りらしいので、僕たち私たちはスポーツマンシップに乗っとり、正々堂々━━━何をしてでも勝ちに行くんで夜露死苦ぅ!の巻き


生きるって、こんな気持ちなんだろうな。

(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ.


いつものようにかっちゃんと登校すると、校門の所で切島にあった。切島は「よ!朝からお熱いな!結婚式は呼べよ!」と冗談をかましてしたので、無言で腹パンしてやった。

ほざけ、下郎が。

 

ん?どうしたかっちゃん。

なんで私の顔みない、おい。

どしたん。

 

 

 

馬鹿な事言った切島に説教しながら教室へいく。

A組の教室のドアをオープンすると、皆がワイワイしてた。こいつらいつもワイワイしてるな。

 

「あっ!ニコちゃんおはよ!」

「お茶子おはよー!一昨日ぶりー」

「ねぇー」

「ねぇー」

 

「さっきまでぶちギレてた奴とは思えねぇ変わりようだな。女って怖ぇぇ」

「てめぇが馬鹿なだけだろ」

 

お茶子と昨日の事を話してると、なんか顔を赤くしてイヤンイヤンしてた。どした、変な物でも食べたのか?お金が無いからって、道草をリアルに食べちゃ駄目だぞ。お茶子。

 

「いや、食べてへんよ。というか、その、ニコちゃん何も分からんの?」

「何が?」

「そ、それは私の口から言えんよ~・・・。そ、そういうんは、自分で気づかな意味ないと思うし」

「ふぅん?よく分かんないけど、分かった」

 

まぁ、この話は後にしよ。

 

「それより昨日はお茶子なにしてたん?」

「ええー?私?休みっていきなり言われてもやることなくて・・・その、寝てました」

「一日ずっと?」

「いや、ジョギングには出掛けたけど、他は、うん」

 

花の女子高生がそれで良いのか。

まぁ、お金がないなら仕方ないけどさ・・・。

 

「上鳴ー」

「ん?なんだよ緑谷ー。爆豪から俺に乗り換えか?」

「目を潰されたくなかったら、その達者な口を閉じろ」

「怖えぇぇよ!?なんだよ!」

「今日の帰りお茶子にご飯奢って」

 

「えぇ!?」

 

お茶子が凄く焦った顔してる。

 

「いや、俺は良いけど、麗日がすげぇー顔になってんぞ」

「照れ隠しだから」

 

「照れ隠しちゃうよ!いいよっ、そういう事はしないで~!」

 

お茶子の為を思って言ったのだけど、全力で拒否されてしまった。どんだけモテないんだ上鳴。普通奢るっていったら少しは心が傾くだろうに。即拒否とか。なんやかんやウチのクラスの女子相手に全滅してるだろ、こいつ。

可哀想になったので「どんまい」と優しく肩を叩いてやったら、「そっちのが傷つくわ」と返事が返ってきた。口答えする元気があってよろしい。

 

眼鏡が騒ぎだした頃、教室のドアがガラッと開いた。

部屋に入ってきたのは、僕らの包帯先生。いつかはそうなると思っていたが、ついに顔まで包帯に侵食されてしまっていた。可哀想に。

 

「お早う」

 

僕らの包帯先生は一言そう言うと、さっさと教壇についた。眼鏡が手を挙げたのが見えたので、その後頭部目掛けて消ゴムを投げといた。どうせ大した事言わないんだから、シャラップしとけ。

 

今日の包帯先生は下手に茶化すな。

泣きをみるぞ。

 

私の予想通り包帯先生は終始ぴりぴりしながら話始めた。

 

「ヴィランの一つ二つ退けて気を緩めるな。次の戦いがすぐそこまで迫ってる」

 

「戦い・・・!」

「戦い?」

「またヴィランがーーー!?」

 

皆がザワザワする中、優秀な双虎ちゃんはちょっと先回りしてスマホって調べてしまう。

すると記事の中に雄英が開催するイベントが特集されてた。

 

「ゆ━━━━」

「雄英体育祭があるって」

 

クラスに一陣の風が吹いた気がした。

え、なに?みー?ええ、私ですが?私が教えて差し上げましたが、なにか?━━━はっ!?スマホがっ!!くそっ、包帯先生!返せ!私のスマホを返せ!━━って、わぁ!!ちょっ、漁らないでっ!漁らないでっ!私のにゃんこフォルダを漁らないでぇぇ!その子達は私だけのアイドルにゃんだぁぁぁぁ!!返して頂けませんか、包帯先生ぇぇぇぇぇぇ!!!

 

泣きながら頼んだら返してくれた。

やってみるもんだ、グスン。

あ、でも後で猫フォルダは危険性の有無を確かめる為に全部コピーして寄越せって言われた。くそっ、私だけの路地裏アイドルなのに。

てか、危険性ってなんだ!

 

「━━━あー、馬鹿に邪魔されたが話を戻すぞ」

 

そうして包帯先生から説明された話は、要約すると体育祭やるよって話だった。チンピラのせいで警備が増えるとか、オリンピックよりでかい祭りだとか、プロヒーローのスカウトが見てるとか、なんかそんな話だった。

 

「時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ」

 

包帯先生は教壇に身を乗り出し、皆を強く睨んだ。

私の後ろの席から「あぅっ、やべ、ちびった」と声が聞こえてきたけど聞かなかった事にした。

峰田、もし私に触ったら命は無いものと思え。

 

「心してかかれ、以上━━━」

「はーい!」

 

包帯先生が私の目を見てきた。

信頼なんて欠片もない、純度百パーセントの疑いの眼差しだ。なんて失礼な目だ。返事をしただけなのに。

 

「緑谷、なんだ」

「え?いや、返事をしただけですけど・・・」

「・・・そうか。俺はてっきり、お前がまた馬鹿な事を言うのかと思った」

「失礼なぁ!!」

 

プンスコだよ、これは!!

サンタさんにもその良い子っぷりが知れ渡っている双虎ちゃんちに大して、クソ失礼ってもんだよ!!

私の事をなんだと思っているんだぁぁぁぁ!!

 

「悪かった」

「許しませんよ!私は許しませんともよ!せっかく頑張ろうとしてる生徒に向かって、包帯先生は何を向けましたか!そう、疑いの眼差し!!傷ついたぁ!これは傷ついたぁぁ!!思春期特有のガラスのハートが傷だらけーですよぉぉ!!」

「だから悪かった。すまん。━━しかし、俺としてはお前がこういったイベントに前向きなのが意外でな。侘びという訳でもないが、成績のリザルトによっては夏の補習日を減らして貰えるように掛け合ってやる」

「騙されませ━━━━うぇ?りぴーとあふたみー?」

「補習日を減らして貰えるように掛け合ってやる。リザルト次第でな」

 

 

夏休みを埋め尽くしていた憎き補習日達が、帳消しの助だと・・・!?

私は思わず立ち上がってしまった。

 

 

はっきり言おう、私は体育祭を、バックレる気満々だった。当日お腹が痛くなる予定だった。それが駄目ならアダムスキー円盤に浚われて一日行方不明になるつもりだった。

何故か?だって体育祭とか面倒臭いから。かったるいから。だから、バックレる気満々だったのだ。

 

だが、包帯先生のうっかり発言の揚げ足とって責め立てたら、たった一日の体育祭で成績を出せば私の夏休みが全部カムバックするという。

 

こんな、美味しい話はそうはない。

やらいでか。

 

「・・・・おい、緑谷」

 

「━━はっ!?はい!緑谷双虎!!雄英体育祭に誠心誠意、参加させて頂きます!!必ずや包帯先生がご納得頂ける成績を叩き出してご覧にいたしますれば!!補習の件何卒、何卒ご再考頂けるように切に願うばかりでありますです!!」

「日本語、滅茶苦茶だな。まぁ、気持ちは伝わった。頑張ってみろ」

「ははぁぁぁぁ!!」

 

私はこの日、雄英体育祭でナンバーワンになることを堅く誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「けろ、相澤先生、確約はしてないと思うのだけど・・・」

「しっ!梅雨ちゃん、しっやって!」

 

 

「私語は━━━」

 

 

「けろっ」

「あわっ」

 

 

 



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何も思い付かない時あるよね?そういう時って無理すれば無理するほど、ワケわからんくなるじゃん?だからさ、自然体でいいと思うの。ありのままをそこに出していけば良いとおもうの。そう、女子会するよ。の巻き

しょうゆうこと(明石家)


にゃんこ様を包帯先生に奉納したその放課後。

A組女子は私も含め、学校近くのファミレスで一同に介していた。

 

「えー今回の女子会幹事を務める、緑谷双虎と」

「副幹事を務める、芦戸三奈でーす。皆ジュースは行き届いてる?」

 

見渡してみれば、ちゃんと皆の手にコップが握られていた。よしよし。

 

「それでは2週間後の体育祭を前に━━━」

「女子による女子の為の女子だけの決起集会を兼ねた━━」

 

「「第一回、雄英高校一年A組女子会を始めます!」」

 

「いえーい」

「イエーイ!!」

 

お茶子と葉隠の元気な声が響いてきた。

他はやってくれない。悲しい。

 

「どした、どした!盛り上がっていこーぜぇ!!」

「そうだー!どうしたーみんなー!盛り上がっていこーよー!」

 

「あたしは盛り上がってるよーーー!!イエーイ!」

「「イエーイ!」」

 

あしどんと葉隠は私に乗ってくれるけど、他の女子達はイマイチ乗ってこない。お茶子にも少し羞恥を感じる。恥ずかしがり屋の集まりか。

 

そう思ってると梅雨ちゃんに袖を引っ張られた。

 

「私、正直こういう集まりに出たことないから、勝手がわからないの。盛り上がれなくてごめんなさいね、緑谷ちゃん」

「気にしないー!楽しければそれでいいのー!」

「けろっ、ありがとう緑谷ちゃん」

 

梅雨ちゃんと軽く絡んだ所で、女子会を開いた本題をあしどんにお願いした。

 

「━━って言うわけで、幹事に説明を任された、あしどんこと芦戸三奈が説明しちゃうよ!雄英の体育祭!皆もテレビとかで見て知ってると思うけど、上位入賞者は毎年男の子ばかり!体力とか精神面とか、何かと理由はあるけど女子の入賞者って毎回少ないよね?そこでっ!女子でも入賞者出来るんだぞって所を見せる為に、皆で一致団結して頑張ろーってする会だよー!!」

「「イエーイ!」」

「いえーい」

「けろっ」

 

口笛が出来たらぴゅーぴゅーしてみたいタイミングだ。

まぁ、出来ないから口で言ったけども。

 

「ですが、基本的に個人競技と伺ってますわ。協力して良いものなのでしょうか?」

「けろっ、それもそうね。本来の、個人の能力を競わせるという主旨からも離れてしまうし・・・」

 

お堅いお二人は会に否定的だ。

 

「まぁまぁ!それも含めて話し合うのが女子会だよー!盛り上がっていこー!!イエーイ!!」

 

葉隠めちゃ元気だなぁ。

見えないのにムードメーカーとかはこれいかに。

あ、いや、見えないからこそ、空気なのか。

 

「もったいないな。顔は芸能人の━━━」

「うわっ!!言わせないよ!?ていうか、まだ覚えてたの!?」

 

葉隠にまた口を押さえられてしまった。

見えないから余裕で不覚をとってしまうでござる。

 

なんやかんや、女子達とがっつり話すのは初めてな気がするので、どれからいこうか目移りしてしまう。

取り合えず近くにいた耳郎ちゃんにすり寄ってみた。

 

「うわっ!びっくりするじゃんか!緑谷、なに?」

「こうして話すの初めてな気がするから来た!お話ししよう、そうしよう!!」

「ぐいぐいくるな、本当に」

 

困ったような顔してても、本気で嫌がってる風ではない耳郎ちゃん。きっと素直じゃないだけなので、ガンガンいこうと思う。

 

「で、上鳴と上手くいってるのん?」

「っぶっ!!!?」

 

なんか吹いた。汚い。

 

「そういえば、よく話してるよねー。実際どうなの?」

 

ずいっとあしどんが混ざってきた。

 

「なんもないからっ!恋愛脳か!」

「「そっかぁー」」

「目が疑ったままだぞ、二人共!!」

 

ぎりぎりと忌々しげに見てくる耳郎ちゃん可愛い。

これは地味にモテる系ですわ。

 

「てか、そういう緑谷こそどうなのさ!?爆豪と━━」

「それ以上それを口にしたら、その耳たぶをハムハムするからね」

「ハムハム!?」

 

さっと、耳郎ちゃんは耳たぶを隠してしまった。

くそっ、隙を窺っていたというのに・・・。

耳郎ちゃんがとち狂った事いうから思わず拒否反応で言ってしもうたよ。くそう。

 

「あんたは最大級の危険人物だわ、私にとって」

「酷い」

「私の耳を触りたいってやつはいたけど、ハムハムしたいって言ったのはあんただけだから。一メートルより近づいたら攻撃するから」

「酷い」

 

犬でも扱うようにしっしされてしまった。

 

「・・・まぁ、でもさ、付き合うとか別の話で、面白い奴だとは思うよ?いや、付き合うとか別で。ほらアホだから見てて楽しいし」

「そしてそのままなし崩し的に・・・」

「割りとしつこいな、緑谷」

 

これ以上余計な事いうと怒られそうなので止めておく。何事もほどほどが肝心なのだ。

 

なので梅雨ちゃんと真面目な話をしてる百の所に首を物理的に突っ込んでみた。思ったより驚かれなかった。解せぬ。

 

「びっくりしますわ、いきなりなんですの緑谷さん」

「けろっ」

 

いや、びっくりした人の反応ちゃう。

まぁ、良いけども。

 

「真面目なお話してるから、つい」

「緑谷さんはもう少し真面目に生きるべきです」

「真面目に生きようとすると、もう一人の私が・・・くっ、やつめ!」

「まさか、多重人格━━━!?」

「あ、ごめん、大丈夫だから。冗談だよ」

 

百は真面目さん過ぎてからかいがいがない。

適当な事はあんまり言わないでおこっと。

 

「冗談でしたら、良いのですけど。本当に大丈夫ですか?うちに専属のお医者様がおりますの、よろしければ・・・」

「大丈夫だよー、ありがとー心配してくれて。でさ、真面目な話、男子に本気で勝つ気ある?」

「それは当然ですわ。ヒーローを目指す者として、生半可な順位は出せませんもの!」

 

やる気満々の百が胸を強調するように腕をよせて両手をグーにした。わざとやってる訳ではないと思うけど、エロい。

 

「けろっ。私もよ━━━━」

「そいう事なら私も!!」

 

梅雨ちゃん達と話してたらお茶子が交ざってきた。

なんかいつもより顔が怖い。うららかじゃない。

 

「皆っ、私頑張る!!必ず活躍して、それでプロにスカウトされてみせる!!」

「よく分かんないけどその意気だお茶子!!男子に目にもの見せてやるぞー!」

「おおおー!!」

 

「取り返すぞ、夏休みいぃぃぃぃぃ!!」

 

「それは緑谷さんだけですわ」

「それは緑谷ちゃんだけよ」

「緑谷ちゃんらしいよね」

 

「頑張るぞ、体育祭ーー!!」

「「「おおー」」」

 

 

それから暫く女子達でワイのワイのした。

途中で話すことが特になくなってきたら、かっちゃんの昔のやらかし話をしたら好評だった。意外とかっちゃんモテる?

また今度聞かせてと言われたのでネタ集めの為にもかっちゃんと遊ぼうと思った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

高校デビューをしてからここまで気合いで頑張ってきたけど、早くも挫けそうな自分がここにいた。

 

男、切島鋭児郎、もう限界。

 

重苦しい空気に顔をあげれば、男共のしかっめっ面がずらりと並んでる。なんでこうなったのかと、頭が痛い。

助けが欲しくて隣のやつを見てみたが━━━

 

「なぁ、爆豪」

「っるせぇ、殺すぞ」

 

━━━いや、少しは話しろよ。

はぁ、あんまり突っ込むと後が怖いから言わねぇけど。

そう思ってると上鳴が溜息をついてテーブルに突っ伏した。

 

「なんだってこんなムサイ所にいなきゃなんねんだよぉ。向かいのファミレスに交じりたい・・・」

「くそぅ、ファミレスではしゃぐ女子。訪れるうっかりパンチラ。とらぶるからのぱいタッチ。オイラの野望がぁぁぁ」

 

「いや、峰田だけはこっちな」

 

「なんでだよぉぉぉぉ!!」

 

危険過ぎんだろ。

こんな奴いたら。

 

「つーかよ、無理に集まってる必要なくね?もう解散しようぜ」

「そーだそーだ!!解散しろー!」

 

「元はと言えば、おめぇらが女子達の所に交ざろうとしたのが原因だろ」

 

女子達が体育祭に向けて女子会を開くと言い出したのがお昼前。それを聞いてた峰田と上鳴がこっそり参加しようと目論見を立てていたらしいのだが、うっかり緑谷にバレて━━━━こうしてクラスの男達全員が喫茶店に缶詰にされた。しかも俺は監視役みたいな事をさせられてる。因みに女子会が終わるまで解散は許さないと言われた。

 

「帰っていいか?」

「轟の気持ちは分かるけど、頼むからここにいてくれ。後で解散してたのがバレたら緑谷にガチで殴られる」

「どんな関係なんだ、お前ら」

 

それは俺が聞きたい。

 

「・・・なら、折角の機会。お互い雄英体育祭に向けて持ち得る情報を交換してはどうだ」

「常闇!」

 

「だよなぁ。別に俺ら仲良しグループとかでもねぇし。切島、幹事やってくれよ」

「瀬呂!」

 

「そうだよな。このまま無言で集まってるのも辛いし。女子達の真似して決起集会って事にしないか?」

「尾白!!」

 

それから辿々しくも、体育祭について話し合いをした。

有意義とまでは言えるものでもなかったが、俺の胃は痛まなかったのでそれで良いと思った。

 

気がついたら女子会は終わってた。

 

緑谷ぁ、終わったら連絡しろよぉぉ!!

 




トイレから戻った飯田

「そういう事なら、委員長である俺が、責任をもって幹事をしよう!」

「え、あ、うん、頼むわ」


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世の中の大体の事は、思ってたよりも大した事ではないものばかりだけど、だからといって期待するのを止めるのは精神衛生上宜しくないと思うので、それなりに期待しながら生きていこうと思います。の巻き

なんや、今日月曜日やなくて、日曜日やんけ(゜ロ゜)


学校が普通にお休みの日。

 

柄にもなく頑張る事を決めた私は運動出来る格好でかっちゃん家のインターホンを押した。

 

「かっちゃーーーん、遊びましょ━━━じゃなかった。特訓しましょー!」

 

そう呼び掛けるといつものように光己さんが玄関を開けてくれた。

 

「おはよー双虎ちゃん!今日は朝から早いわね!なになに~デート?」

「いえいえ。体育祭近いから体動かさなきゃなんですよ!それでかっちゃんに付き合って貰おうと思って」

「あら、それは残念。勝己ーー!!いそいそ準備してた事キャンセルして双虎ちゃんに付き合いなさーい!!」

 

 

 

「うっせぇぞ!!クソババ!!!!」

 

おおう。

かっちゃんは朝から元気な声だすなぁ。

 

元気さに感心してると、光己さんが笑顔で「ちょっと待っててね?」と家に戻っていった。

ちょっとがどれくらいか分からないので、用意していた運動してても落ちないお高いイヤホンで音楽聞いて待つ事にした。音質がね、違うんだよねぇ。全然。うん、多分ね。高かったんだぁ、これが。

 

 

 

少しして背もたれにしてた玄関が開きかっちゃんパパが現れた。イヤホンは勿論外す。良い子だからね。

 

「双虎ちゃんおはよう」

「おはようございまーす。かっちゃんパパ、今日は休みなんですか?」

「はは、そうなんだよ。最近休みもまともにとれなかったけど、仕事の方に漸く目処がついてね」

 

かっちゃんパパはなんやかんやと忙しい。

いる時はいるんだけど、いない時はほんとにいない。

ここ最近かっちゃん家にきても全然顔を見てなかった。

 

「今日は勝己とお出掛けかい?いやね、登山にいく時は大体一人で行ってたから珍しいなって・・・」

「登山?かっちゃん今日登山いくつもりだったんですか?」

「ああ、聞いてなかったのか。成る程」

 

かっちゃんはアクティブな男で、好きな事とか聞かれて登山とか言っちゃう人なのだ。中学の時、学校の行事で山登りを覚えてから稀に山登りするようになった事は聞いていたけど、出くわすのは初めてだ。

 

「最近いってなかったから随分と久しぶりで、その上に双虎ちゃんが来たっていうから、そういう事かと・・・」

「そういう事?」

「いや、こっちの話さ。━━あ、そうだ、もし勝己が駄目だったら私と光己とでお出掛けしないかい?ドライブにでもいこうと思ってたんだよ」

「おぉ、それは━━━あーでもなぁ、運動しなきゃなんだよなぁ~」

「そっか、それは残念だ。お昼はバイキングにいこうと思ってて・・・良かったらと思ってたんだけどね」

「バイキング!!」

 

なんという素敵イベント!

これは、これは、いかないのは逆に失礼なのでは?

ぶっちゃけ、体動かすのは放課後でも出来るし、てか既にやってるし、休みの日一日潰してやったからといって成果が出るものでもないし・・・。

 

「いやぁね。光己が好きそうなお店を見つけてね。有名ブランドのケーキが食べ放題のところで・・・あ、勿論他の物も品質に拘ってて━━と、誘惑するような事言っちゃ不味かったね。ごめんね」

「いえいえ。あ、でも、かっちゃんが駄目だったら行きます!」

「そっか。それは良かった。光己も喜ぶよ」

 

バイキングで何を食べるか考えていると、かっちゃんパパの後ろからしかめっ面のかっちゃんが現れてしまった。何となく、バイキングが遠退いた気がした。

 

「クソジジィ!!何してやがんだ、こらぁ!!引っ込んでろっ!!」

「おお、怖い怖い。ん?登山は止めないのかい?」

「━━っんで俺が馬鹿女の為に止めなきゃいけねぇんだよ!!着いてきたきゃ勝手についてくりゃ良いだろ!!」

「一緒にいくのか?でも双虎ちゃん登山する道具なんて持ってないだろ」

 

私、登山するのか。

やだな。面倒臭い。

てか、バイキングしたい。

 

「っせんだよ!!登山ってもルートがあんだよ!!馬鹿が死なねぇルートにすりゃいんだろうが!」

「ああ、成る程な。ハイキングみたいな。けどなぁ、春とはいえ山は寒いだろ?双虎ちゃんの格好で山歩きするのはなぁ」

「行きくれぇなら上着羽織ってりゃ問題ねぇだろ!!どうせ足が痛ぇだの文句つったれて、帰りはロープウェイとかになんだからよ!おらぁ!!」

 

顔面に上着を叩きつけられた。

痛い。何すんだこの野郎。

 

投げられたそれを手にとってみると、けっこうフカフカないいやつだった。多分登山用のやつだと思うけど・・・ナニコレ、欲しい。冬場、ちょっと出掛けるのに着るやつとかに欲しい。

お願いしたらくれないだろうか。くれるな。

 

結局かっちゃんと登山にいく事になった私は、光己さんとかっちゃんパパと今度バイキングにいく事を約束してかっちゃんと山に向かった。

元から運動するつもりだったから別に登山でもなんでも良いけど、いきなり過ぎる舵取りに双虎ちゃんはびっくりである。━━え、いや、いくよ?行くけどね?うん。

 

かっちゃんが登ろうとしていた山は電車を乗り継いで30分程した所にあった。登山初心者から中級者向けの山らしく、登山道はそんなに険しくなくて、なんなら帰りはロープウェイで帰ってこれるというお優しいお山様だそうだ。山道の掲示板調べ。

 

行き掛けに買ったスポドリを飲んだり休んだりしながら登る事三時間程、漸く頂上が見えたーと達成感たっぷりに背伸びしてたらロープウェイ乗り場が見えた。ぞろぞろと観光客が降りてくるロープウェイを眺めながら、何とも言えない気持ちになる。

本当、なんだろうこの気持ち・・・切ない?

 

「かっちゃん、ロープウェイ」

「ああ?んだ、もう帰りてぇのかよ」

「いやぁ、切ないと思って」

「・・・んなもんだ」

 

そっか、んなもんか。

 

その後、展望台の所にレストランがあるというので、お昼も近かった事もありご飯にする事にした。

勿論かっちゃんの奢りである。

 

「・・・旨いけど、切ない」

「だったら、食うな。ボケ」

「いや、食べるけどさぁ」

 

眺めのいいレストランでご飯を食べてると、本当に登山しにきたのか怪しく思えてきた。運動がてらと思ってたけど、なんだこれ。

動いてるより、まったりしてる時間のが長いんですけど。

 

私の思ってた登山と違う。

 

もっとこう、登山といったら断崖絶壁をピッケルぶっ刺してロープ張って、人差し指しか引っ掛からないような出っ張りを頼りにクライムしてく感じかと思ってたのに。途中で熊に出会って死闘したり、猪が襲ってきて返り討ちにして食べたり、そんな感じかと思ってたのに。

 

なんだこれ。

 

「さっきっから、なんだよ。文句があんなら言いやがれ、クソが」

 

外のせいか、かっちゃんが怒鳴らない。

悪口は言われるけど、これがまたしっくりこない。

なんか調子が狂う。

 

うーん、なんだろ。

 

「文句って程のことじゃないんだけどさ」

「あ?」

「なんか登山って感じがしないんだよね」

「はぁ?」

 

なんだろ、これ。

うーん、上手い表現方法が・・・ああ。

 

「そうだ、かっちゃん!これじゃデートだよ!登山デート!山登りっていったらこう過酷━━━」

「━━っごふっ!!!」

「かっちゃん!?」

 

気管支に変な物でも入ったのかかっちゃんが苦しそうに噎せた。なんか死にそうな程だ。あまりに苦しそうに噎せているので割りと本気で心配になった。

 

大丈夫かぁぁぁぁ!!

 

ゆさゆさ揺らしながら安否を確かめると「止めろや!!」と怒鳴られた。おおう、それでこそだかっちゃん!!もっとこう、火がついた爆竹みたいに行こうぜ!!なっ!

 

「クソが!!だ、誰がっ、てめぇなんかとデートするかっ!!勘違いしてんじゃねぇぞオルァ!!」

「してないんだけど・・・まぁ、いいや。でも、良かったじゃん?今度誰かとデートする時に使えるって分かったんだからさ」

「は、はぁぁぁぁぁ!?」

 

かっちゃんにそんな人が現れるとも思えないけどね。

どれだけ奇特なんだよって話だもん。

常に怒鳴ってて、爆発してて、ムードとかへったくれもない男だよ?誰が付き合うの?そんな人がいるなら教えて欲しいよ、わたしゃ。

 

「私もそういう人出来たら連れてきて貰おうっと。夜とか夜景綺麗そーだもんねぇ」

「━━━っ、ち!夢みてんじゃねぇぞゴラァ!!誰がてめぇみたいなっ、見掛けだけの馬鹿女と付き合うんだ!!んなもんいたら、正気を疑うわ!!」

「よく言った、爆発小僧。その喧嘩、買ってやる」

 

 

それから近くの空き地で、日が暮れるまで殴り合いの喧嘩をした。個性なしの喧嘩だったけど、ぎり私が勝った。正直、負けるかと思っただけに勝利の余韻が凄かった。

 

お土産を買ってから最終のロープウェイに乗って帰ると、結局夜景を見る羽目になってしまった。

かっちゃんとというのが不本意だが、まぁ、今回は良かろうと思う。勝ったから。負けてたら、こうは思えなかったよ。負けてたらね。

 

「かっちゃんや、かっちゃんや」

「っんだよ、クソが!!」

 

他にお客さんがいなかったせいか、かっちゃんがいつも通りに怒鳴ってくる。慣れてる私としてはこっちのが安心するので、それに文句は言わないでおく。

 

「そっちにいると見えないからこっち来なよ?ね?」

「・・・けっ」

 

クソ生意気にも無視してきたかっちゃんの頭を掴み、隣の席に無理矢理座らせてやる。

 

「ほら、見てみ?」

「っせ!ほら、見たろ!!離せや!!」

「見てないでしょ?ほれほれー」

「あがっ!?」

 

そっぽを向いてしまうかっちゃんの顔を無理矢理窓の外へセットし、私もそっちに顔を向ける。ふむ、綺麗な物は誰と見ても綺麗だなぁ。

 

「かっちゃんや、かっちゃんや」

「・・・んだよ」

 

 

「かっちゃんに彼女がいなくてさ、私も彼氏がいなくてさ、それでまた二人共暇だったらさ━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━また、こよーね」

 

 

 

「・・・気分がのったらな」

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

それからどうやって帰ったかは分からない。

ロープウェイでウトウトしてた事までは覚えているけど、そっからさっぱりだ。

 

母様からかっちゃんがおぶって連れてきた事は聞いたけど・・・よくあの距離を運んできたなと思う。

 

 

今度あったら褒めてやろ。

 

 



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遠足前に眠れない子はだーれだー?んー?・・・私だよ。なんだよ、悪いか、ああん?そうだよ、それで翌日寝坊するのが私だよ!の巻き

書きながら思ったんだけど、原作オールマイトは本当に何考えてデクくんに個性を渡したんだろうか・・・。
チャレンジャーというか、無謀というか。アニメのオールフォーワンの「資格もなしに」の部分で全力で頷いてもうたがな(;・ω・)



なんやかんやと雄英体育祭まで後一日まで迫った今日。

いつもと同じようにかっちゃんと食堂に向かってると、ガチムチに道を防がれた。

 

「緑谷少女・・・・・・」

 

オノマトペを付けたらゴゴゴゴとか付きそうな気配に、かっちゃんが身構え、私はかっちゃんの貞操の危機に警戒した。

 

やられる、そう思った。

かっちゃんが。

 

ところがガチムチはその大きい体を小さくし、包みを前に出してきた。

 

「ごはん・・・一緒に食べよ?」

 

「「・・・・・」」

 

かっちゃんがどう思ったのか分からない。

少なくとも私は本物だと思った。

しかもこの様子から察するに、ガチムチはガチムチの癖に受け。女役の可能性が高い。

 

かっちゃんの処女のピンチかと思ったら、素人童貞の方のピンチだったとは。二重トラップ過ぎる。怖い。

 

「かっちゃん、かっちゃん」

「・・・んだよ」

「頑張れ、良いことあるって」

「なにを慰めてんだてめぇはよっ!!!」

 

これからを思って慰めたら怒られた。

心配してやってると言うのに酷い。

そんな私達を見て、ガチムチが神妙な顔になった。

きっと、かっちゃんとどうやってイタスか考えてるに違いない。これだからホモは。

 

そんな私はかっちゃんの後ろにそっと回り盾にした。

最悪、かっちゃんは諦める所存。

 

「本当は緑谷少女だけに話があったんだけどね、仕方ないか。爆豪少年も来てくれないか?例の件で話があるんだ」

「━━は?例の件だ?」

「ああ。本当はもっと早くに伝えるべきだったんだがね、体育祭の準備で忙しくて・・・いや、これは言い訳だな。兎に角、少しでいい時間をくれないか?」

 

かっちゃんとガチムチが私を見てきた。

え、私が決める感じ?まじで?

君らがどうぐんずほぐれつしようが、君らの自由だよ?私を巻き込まないで欲しいな。

 

そうは言っても巻き込むき満々な二人に、どれだけ抵抗出来るというのか。か弱い乙女な双虎にゃんには無理やん。ね。

なので無駄な抵抗とは思いつつも一つだけ要求しようと思う。

 

「お弁当買ってくれたら良いですよ」

 

普通に買って貰えた。

焼き肉弁当貰えた。ジュース付きだった。

言ってみるもんだ。

 

 

 

 

ガチムチに連れられてやってきた仮眠室。

備え付けのベッドを見て、かっちゃんの貞操がいよいよレッドゾーンに達している事を知りその冥福を祈った。

安らかに眠れ、かっちゃん。

 

ソファに座ったガチムチはかっちゃんの前だと言うのにヒョロガリに戻りお茶を入れだした。隠してた感じだと思ってたんだけど、良いんだろうか?

 

「ん?ああ、実はこの間、そう最初のヒーロー基礎学の時に彼と色々あってね、私のこの姿については話してあるんだ。体の事も少しね」

 

かっちゃんの顔を見れば忌々しそうに視線を逸らしてきた。無言のうちに肯定するの上手だね。

 

「じゃ、お弁当を食べながらお話聞きます、どうぞ」

「え?うん、そのつもりではあったけど、普通私から言う感じじゃないか━━━」

「頂きまーす」

「━━━はい、召し上がれ。爆豪少年も座りなさい」

 

「ああ」

 

お弁当をモグモグしながら話を聞いた。

正直お弁当を食べるのに忙しくて半分くらい聞いてなかったけど、かっちゃんがガッツリ聞いていたので大丈夫だと思う。

私が聞いた感じだと、ガチムチモードの時間が短くなったとか、なんかそういう話だった。

 

「それで、なんだけど・・・って、緑谷少女。話聞いてた?」

「はい?大丈夫です、聞いてます聞いてます。ガチムチの時間が短くなったんですよね?」

「え?いや、他にも色々・・・爆豪少年、何かあったときは頼む」

 

「言われんでもそうするわ」

 

「そうか、君がいてくれて良かった」

 

纏まったみたいだ。

よく分からないけど。

 

「それで話は戻すんだけど、もう一度真剣に考えて欲しい。私の後継になる事を」

「━━━オールマイト!!」

 

かっちゃんが突然立ち上がった。

お弁当に埃が入るから勘弁して欲しい。

文句の一つも言おうと思ったけど、かっちゃんの顔を見たら言うに言えなかった。

あんまり見たことない顔だったから。

 

「俺ぁ、言ったよな!?」

「それは分かっているさ。私も出来ることなら、誰かに託すような真似はしたくない。だがね、必要なんだ。私がそうであったように、次代にも柱が必要なんだよ。この超人社会全体が平和でいる為にも、悪に絶対屈しない、絶対的なヒーローって奴がね」

「それなら俺が━━━」

「すまない。気持ちは嬉しいんだ、爆豪少年。でもね私は彼女をと、そう思っている」

 

二人が凄い顔で見つめあってる。

雰囲気が悪い。辛い。

 

双虎にゃん、こういう空気苦手。

真面目過ぎるのマヂムリ。

 

取り合えず私の話だと思うので怖い顔したかっちゃんを座らせて、代わりに私がオールさんと見つめあう事にした。

 

「えっと、お断りします!」

「うん、これに関する事だけはびっくりする程に反応良いね。どれだけ嫌なのかよく分かったよ。━━━でもね、お願いだ、少し考えて欲しい。私に残された時間は少ない。故に一刻も早く、次代の育成に取り掛かりたいんだ。それは誰でもいい訳じゃない。君だからお願いしているんだ。やはり私は君にこそ継いで貰いたい」

 

なんで私なんだろうか。

他の人、本当にいなんいだろうか。

 

「理由もなく言ってる訳じゃない。君の性格、内面を見て━━━━」

「それは言わなくても良いですよ。流石に私でも分かります。それに外見で決めてたら、それはそれで引きますし」

「あ、うん、そうだよね。ごめん」

「いや、謝らなくても良いですけど・・・」

 

また静かになった。嫌だなぁ。

これは、話さないと駄目なやつなんだろうなぁ。

でも、正直かっちゃんの前で話したくない奴なんだよね。

 

仕方ないか。

 

「かっちゃん、ジュースが飲みたい」

「・・・はぁ?」

「私は炭酸系を所望する。直ぐに買ってくるとよい」

「なんで俺が━━━」

「お願い、かっちゃん。ダッシュでいってきて?」

「お前な・・・はぁ、待ってろやクソが!!」

 

かっちゃんは呆れた顔をしたけど、分かってくれたのか部屋を出ていってくれた。多分マジでダッシュして戻ってくると思うので話すことを話してしまおうと思う。

 

「後継の話は、お断りします」

「・・・それはどちらも、という事で良いのかな?」

「はい」

 

正直にいえば、誰かに期待されるのは嫌じゃない。

私自身、自分が完璧美少女だと思ってるから、期待されて当たり前だと思う。

 

 

 

でも、これだけは頷けない。

 

 

 

「━━━私はオールマイトが考えているような人じゃありません。私は私の大切な人だけ助けられれば、それで良いんです。知り合いとか、友達とか、母様とか。それだけで良いんです」

 

 

「でも、オールマイトの後を継いだら、助けなくちゃいけませんよね。ずっと貴方が守ってきた沢山のもの。テレビで見てきました。嫌でも目につくので。私はそれがやりたくないんです」

 

 

「怪我するのは嫌です。痛いのは嫌です。でも、そんな事は我慢出来ます。そうじゃ、ないんです」

 

 

「考えてたんです、ずっと。どうして、あの時の姿がどうして怖かったのか。まだちゃんと分からなくて、ちゃんと言葉に出来ないけど・・・きっと怖かったんだと思います。皆に褒められる貴方が、誰にも怒られなかった事が。命懸けで危険に飛び込んだ貴方を、誰も心配しなかった事が」

 

 

「今なら少しだけ分かります。きっとあの時、オールマイトの知り合いとか友達とか家族とか、心配していたんだろうって事。でも、あの時私が見たものに、それはありませんでした」

 

 

「一人で笑う貴方が怖いです。私は貴方みたいになりたくありません。そんなに強くないんです。だから、ごめんなさい。私は少なくとも、貴方の思うヒーローにはなりません」

 

 

 

 

 

それから少しして、かっちゃんが炭酸を買ってきてくれたので、そのタイミングで部屋を出た。

午後は授業出るきにならなかったので、そのままバックレた。何故かかっちゃんも一緒にバックレてた。

 

なんやかんや良い子にしてるかっちゃんがバックレとか珍しい。

 

折角なので少し遊んで、それで帰った。

明日は一日中運動する日。

かっちゃんにイタ電する気にならんかった私は、何も考えずベッドに転がりこんで、そのまま眠った。

 

明日にはまた、いつものようにいられるよう。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

緑谷少女に改めて断られた私は、一人部屋の中で彼女の言葉を反芻していた。

 

「一人で笑う貴方が怖い、か」

 

そんな事を言われたのは初めてだった。

お師匠の受け売りで笑顔をつくり続けてきて、一度も面と向かったそう言われた事はなかった。恐らくヴィランには恐れられていたのだろうが、彼女が口にしたそれとは本質から違う。

 

彼女は理解しているのだろう。

私が成した事と、そしてそこにあった代償も。

幼いながら、私の笑顔の裏にあるものを何となしに感じ取っていたのだ。

 

「偉そうに、よくもまぁ、語ったものだ」

 

彼女に一度笑顔の意味を説いた事があった。

重圧に押し潰されんが為の、と。

正に彼女が恐れた、それとも気づかず。

 

誰でも背負える物ではない。

だからこそ、この年まで後継を決めあぐねてきた。

背負うに足る、相応しい人物を探して。

 

そして漸く見つけた彼女に、私はただ押し付けようとしていた。一つとして彼女を知らず。

 

 

 

愚かな。

 

 

 

 

望む望まざるとも、彼女が一度この力を、ワン・フォー・オールを身に付ければ、間違いなく使うだろう。

口ではああいうが、彼女は生粋のお人好しだ。出来ることが増えれば、それだけ無茶もするようになる。出来ないからこそ、現状で最善の行動をとってきた。事実、USJの一件では、彼女は誰よりも早く逃げる事を選択している。結果的に無謀にもヴィランに向かってしまったが、それまでの行動とあまりに違い過ぎるそれは咄嗟だったのだろうと思う。それこそ、彼女の持つ本質がそうさせたのだ。

 

 

彼女の個性を一見すると強個性に思われるが、それは彼女が使うからこそだ。研鑽し、能力を底上げし、頭を使い、そして漸く今の位置にいる。全ては努力故の現状。ならば、彼女がワン・フォー・オールを手にすればどうなるか考えるまでもない。研く。己の血肉になるまで、研きあげる。そして手にした力を使う。生来の気質と共に。

 

 

爆豪少年は誰よりも知っていたのだろう。

掛けられる期待に応えようとする彼女を。

言葉とは裏腹に、誰よりも命を懸けてしまう彼女を。

 

だからこそ、私に怒鳴り散らしたのだ。

背負わせるなと。

 

彼女は背負ってしまうから。

迷いもなく、後悔もなく、求められるそれを成そうとしてしまうから。

 

「教師失格だな」

 

歩み寄ろうとした矢先にこれだ。

私は教育者に向いていない。

それも絶望的に。

 

彼女の言葉が頭を過る。

出来ないと言わなかった彼女の言葉が。

そしてやりたくないと言った彼女の言葉が。

 

「私は呼んでいない・・・まさにそれじゃぁないか」

 

あの言葉にそんな深い意味はない。

そんな事はとうに知っている。

けれど、その言葉が胸に残り続けている。

 

 

 

「塚内くん、先生って大変だな」

 

 

彼女に伝えられる事が私にあるのだろうか。

それだけが、グルグルと頭の中で巡っていた。

 

 



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体育祭とか一体誰が得するの?止めよう?もうこんな吊し上げ。運動出来ない子が恥をかくだけだからね?ね?止めよう?違うよ?面倒臭いから言ってるんじゃないの。違っ、違うっていってんだろぉぉぉぉ!!の巻き

なんやなんや、毎日投稿してる自分がいる。
おれ、やれば出来る子やったんか。
自分の才能がおそロシア((((;゜Д゜)))


なんてなヽ(・∀・)ノ


包帯先生からお達しがあってから二週間。

それなりに頑張って準備してきた、私の晴れ舞台がついにやってきた。

夏休みを取り戻す、聖戦の開幕である。

 

え?昨日とテンションが違うって?

そりゃ、そうさ!だって寝たからね!!十時間!!

起きたときびっくりしたわ!

 

 

 

そんな私と違い、A組に設けられた控え室では、やる気と緊張が入り交じった複雑な顔した皆の姿があった。

私は元気なうえ余裕なので、かっちゃんに奢って貰ったスポドリ片手に屋台で買ってきたたこ焼きを食べていた・・・美味しかった。

 

「皆!準備は出来てるか!?もうじき入場━━━緑谷くん!!これから競技に参加するのだぞ!?飲食は控えたまえぇぇ!!」

「食べ終わったから大丈夫」

「食べ終わってたら、手遅れなんだが!?」

 

冷えたたこ焼きなんて食べられない。なので別に間違ってないと思うの。食べたいときに食べ、寝たいときに寝る。それが、生き物!!

いやぁ、でも青のりは抜いて貰って良かったわ。テレビに出るのに青のりついた歯は見せられないかんね。

 

騒いでる眼鏡の口に飴玉を突っ込み黙らせ、緊張してるであろうかっちゃんの肩をポンしてあげる。振り向いたかっちゃんのほっぺに私の人差し指が刺さる。

 

「・・・ぶっ殺すぞ」

 

はい、静かなぶっ殺すぞ頂きましたー!

かなり緊張しております、これ。

みんなー!普段クソ元気なかっちゃんが、柄にもなく緊張してるよーーー!!ほらぁ、茶化してあげて!待ってるよ、皆の事かっちゃん待ってるよーーー!!

ただただ、あがるようにしてあげてぇぇ!!

 

 

━━っいたっ!いたたた!ちょっ、ポニテ駄目っ!ポニテは反則でしょう!?引っ張らないでぇぇぇ!!・・・やめろってんだこの野郎!!

 

 

 

 

 

 

揉みくちゃにされた髪をお茶子と直していると、紅白饅頭こと轟きゅんが私の前にきた。

神妙な顔してる。トイレだろう。

 

「入り口出て左」

「・・・?あ、いや、トイレじゃねぇ」

 

「トイレじゃなかったんや」

 

お茶子もそう思ったのか。

私らきっと親友だな。

 

「正直、俺はお前ほどふざけた奴はいないと思ってる」

 

私は胸元のチャックを少し下ろし、腕捲りして臨戦態勢を整えた。

 

「喧嘩なら買うぞ・・・紅白饅頭」

「ニコちゃん落ち着いて!!話っ、最後まできこ!」

 

お茶子に窘められてしまっては殴りにはいけない。

何か言いたそうな轟きゅんに先を促してあげる。

 

「実力的に言えば、俺のが上だと思う」

 

まぁ、個性把握テストでも負けてるし、ヒーロー基礎学でも良い成績出してるし、それは間違いはないと思う。けど、今更なんでと思う。

 

不思議に思ってると轟きゅんが私の目を見てきた。

 

「でもな、お前に勝てるかどうかって聞かれたら、俺ははっきりと答えられない」

 

轟きゅんの目が重い気がした。

 

「お前は気絶した後だったから知らねぇとは思うけどな、その後あの黒いヴィランとは俺も戦った。つっても、直ぐにオールマイトが助けにきて殆んど戦ってないけどな。でもな、それでも分かった。少なくとも俺じゃ、お前と同じ時間戦って居られなかった、てな」

 

はっきりと口に出来ないけど、なんか追い詰められてるみたいな。そんな余裕のない目。

 

「お前には勝つぞ」

 

それだけ言うとさっさと出ていってしまった。

私は轟きゅんの言葉を心の中で反芻し、そして思った。

 

「・・・少年漫画展開きた」

「ニコちゃん、それ轟くんの前でゆうたらあかんよ?」

 

分かってるお茶子、これは私の胸にしまっておく。

言ったが最後、せっかくの熱い展開がこないで終わりそうだもんね。

 

「でもなぁ、これくらいは言ってあげれば良かったかな・・・」

「ん?」

「優勝するのは、私だからって」

 

何を背負っているか知らないけど、私だって負けられない。なんて言ったって、夏休みが掛かっているのだから。上位入賞すれば包帯先生もかなり譲歩してくれる筈だ。優勝すれば、きっと補習免除になるに違いない。

 

いえす!カムバック、マイ夏休み!!

 

「皆っ!宣言するよ!!私は勝って勝って勝ち上がって!!絶対に夏休みを取り戻す!!そしたら、皆で死ぬほど遊び倒そうーーー!!」

 

返事が返ってこない。

遊びたくないのか、こやつら。

 

「上鳴!!」

「おっ!?なんだよ!」

「遊びたくないのか!!海!山!プール!夏祭り!!」

「海、プール、夏祭り!!」

 

山を除いて凄い食いついてきた。

魂胆がまる見えなので、そこをついていく。

 

「私が優勝した暁には、A組皆で海にいく事を宣言する!!見たくないかっ、私らの水着姿を!!」

 

「なっ、緑谷、おまえっ・・・!」

「み、みてぇぇぇぞーー!!」

 

エロ小僧も交ざってきた。

こいつは連れてきたくないので、連絡網から外す事を決めた。今決めた。

 

「夏祭りも皆で行っちゃうぞ!!見たくないかっ、私らの浴衣姿を!!」

 

「「おおおーー!!」」

 

本当、こいつら仲良しな!

でもな、峰田、お前は連れていかない。

これは確定事項だ。

 

「よぉぉし!ならば、もう一度行くぞ!夏休みは死ぬほど遊び倒すぞー!!」

「「遊び倒すぞー!!」」

 

「皆で海に行っちゃうぞー!!」

「「海に行っちゃうぞー!!」」

 

「夏祭りにも行っちゃうぞー!!」

「「夏祭りにも行っちゃうぞー!!」」

 

「よし、ついてこい野郎共!!私がお前らに夜明け見せてやる!!」

「「一生ついてくぜ、緑谷ぁぁぁ!!」」

 

優勝は私が貰ったーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━ええ!?海いくん!?み、水着!?」

「けろっ、私は別に構わないけど・・・学校指定の水着しかないわ」

「私はパス。あの二人がいくなら余計」

「だよねー。ちょっとね?」

「ええーいいじゃんいこーよ!みんなで海ー!」

「それでしたら、我が家のプライベートビーチに女子だけで集まりませんか?お父様にお話しておきますので・・・」

 

「「「「「プライベートビーチ!?」」」」」

「は、はい。そうですけど・・・?え、なにか?」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「あんだけ緊張でガチガチだったのに、随分と弛んだな。固くなり過ぎんのもあれだけどよ、これは流石に弛み過ぎだろ。━━━てか、なんか女子達仲良くなったよな?やっぱこの間の女子会のせいなんかな?俺達は散々だったのに・・・」

「だぁってろ、クソ髪。ぶっ殺すぞ・・・!」

「今日はまた一段とキレてんな?」

 

不意にそんな会話が聞こえて、私は女子の皆と別れ爆豪くんと切島くんのも元へ向かった。朝から気になってる事があって、爆豪くんなら何か知っとるかも知れへんと思ったから。

 

「あの、ちょっとええかな?爆豪くん、切島くん」

「お、麗日!なんだ、珍しいな。どした?」

「えっとね、爆豪くんに聞きたい事があって・・・」

 

そう私が言うと、モノごっつい顔で睨まれた。

うう、相変わらず怖い顔しとるなぁ。

ニコちゃんと仲良いみたいだからまだ大丈夫やけど、普通に会ったら話し掛けられんと思うわ。

 

「んだ、丸顔」

 

あ、うん。

あとでニコちゃんに怒って貰お。

 

「それで、ニコちゃんの事なんだけど━━━」

「ああ!?」

「━━っわ!!?」

 

モノごっつい顔された。

これ絶対なんかあったやろ。

昨日二人して早引きしとるし、朝からニコちゃんの様子は変やし。

 

「━━━あのね、言いたくないんやったら、別に言わんでもええよ。ニコちゃんも教えてくれんし。でもね、もし私に力になれるような事があったら教えて欲しい。ニコちゃんはきっとなんもゆうてくれんやろうし、そういうは爆豪くんのが分かるやろ?」

「・・・・・・」

「正直、今日は私も人の事構ってる余裕なんてないよ。私にも夢はあるし、ヒーローになるチャンスだもん。相澤先生が最初にゆうたようにお友達ごっこしてる場合ちゃうんやって分かる。けどね、私はそんな簡単に割りきれん。競う相手かも知れんけど、ニコちゃんは友達やから。だからね・・・あーーんーー、なんてゆうたらいいんだろ?」

 

なんか恥ずかしなってきた。

なにゆうてんやろ、私。

 

「そ、それだけ、それじゃ━━━」

「丸顔」

「━━━ん!?な、なに!?」

 

振り向いて顔を見たら、爆豪くんはなんか凄く苛ついた顔していて、でも何か言いたげにしとった。

聞いたらまた反発されるかもしれんから、少し様子見した。そしたら、そっぽ向いたままやったけど口を開いてくれた。

 

「━━んか、あったら、言ってやる」

「あ、うん。ありがと」

 

ほんま、爆豪くんはニコちゃんに弱いなぁ。

なんか、少しだけやけど可愛く見えてきた。

 

こういう所がニコちゃん好きなんやろか?

 

こんな時にこんなん思うのはずれてんやろうけど、いつか私にもこういう人が現れたらええなって思う。

ちょっとニコちゃんが羨ましいわ。

 

 

 

 

 

いや、でも、爆豪くんみたいなんは嫌や。

 



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障害物競争って社会の縮図だと思うの。運で楽なルート歩めたり、人を蹴落として順位をあげれるし、何より強い奴が勝つじゃん?だからね、この勝負、究極完全体で産まれながらに勝ち組な私が貰った!!の巻き

怒られた(;・ω・)


紹介のアナウンスを受けて会場に出たら、みんな私の美貌に釘付けになった。これはサイン求められちゃうね。明日にはアイドルになっちゃうね。関連商品でちゃうね。濡れ手で粟だよ!わっはは!

 

へい!このわたくし様が手を振ってしんぜよう!手を振り返せ!野郎共!!ウェーーブ!! おー、本当にした。

 

「ニコちゃん、何してんの!?あかんから!」

「ウェーブさせるのが?規則的に?」

「いや、規則にはないかも知れんけど・・・」

 

お茶子にたしなめられては仕方ない。

ウェーブしてくれたノリのいい野郎どもにばいちゃして、私はA組の列に戻った。眼鏡にめちゃ怒られた。済まんかったって。あ、皆ーー私の為に眼鏡を怒らないたげてーー!この子、ホモだけどいい子なのー!ホモだけどー!

 

一部の男子と女子から眼鏡に変な歓声があがったのを確認した私は大人しく列に並んで待つことにした。━━のに、眼鏡にめちゃ怒られた。解せぬ。

 

 

それから他のクラスの生徒とか入ってきて、皆こっちを敵視してる感じで見てきた。有象無象に興味のない私は特になにもしない。まざーふぁっかーとかしてない。中指が立ってるように見える?気のせいだよ。ま・ぼ・ろ・し。

 

それからミッドナイト先生が出て来て、体育祭の説明とかあった。目があったから手を振ったら、ウインクが返ってきた。最近、体育祭関連で忙しそうにしてたから授業以外で会いにいってないけど、普通に元気そうだったので良かったと思う。しかし、相変わらず衣装がヤバイな。あの人、もう31なのに・・・お、なんか見られた。

 

「選手宣誓!!」

 

ミッドナイト先生の元気な声が響いてくる。

後ろから「18禁なのに高校にいていいものか」と常闇の声が聞こえてきた。それに返すように「いい」と変態小僧の声も。あいつはもう駄目だな。

 

「はい!静かにしなさい!!選手代表!!」

 

ミッドナイト先生の視線をおったら、かっちゃんがいた。

 

「1ーA、爆豪勝己!!」

 

無理やろ。

私は本気で思った。

 

「無理やろ」

「ニコちゃんがそれゆうたら、味方いなくなると思うんやけど」

「だって無理やろ」

「そ、それはそうかも、知れんけど」

 

ほら、お茶子もそう思うじゃん。

無理だって、かっちゃんにそういう事出来るわけないじゃん。

十中八九喧嘩売って終わりだよ?一緒に出掛ける時とかは周りに気を使って怒鳴ったりしないけど、基本的に悪口しか言わないとからね?この間、山にいった時とか・・・え、何?出掛けた話?あとで教えるよ。

 

「いや、でも仕方ねえよ緑谷。あいつ一応入試一位通過だったからな」

 

しょうゆ顔がなんか教えてくれた。

ありがとな、しょうゆ。

全然名前思い出せないけど。

 

壇上に上がっていくかっちゃんの後ろ姿ちょっと格好良く見えた。なんか背中が大きく見える。

黙ってれば少しはいけてるのに。勿体ない。

 

壇上に上がりきったかっちゃんはポケットに手を突っ込みながら「せんせー」と言った。

嫌な予感しかしない。

 

 

「俺が一位になる」

 

 

「絶対やると思った!!」

 

 

切島はこの言葉を予測していたみたいで思いっきりツッコミを入れた。まるで芸人のようだ。案外仲良いのね、君ら。私には何言うかまでは分からなかったよ。

 

ブーイングが上がる中、「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」と煽る始末。らしいっちゃ、らしいけども。

 

しかし、かっちゃんよ。

よくも言ってくれたな。

お前、私のさっきの宣言を聞いた上でそれを言ったんだよなぁ?ん?

 

壇上を降りてきて自分の位置に戻ろうとするかっちゃんの肩に、私は自分の肩をぶつけてやる。

軽く睨まれたが、今更この程度で怯む私ではない。がん飛ばし返してやった。

 

「私に、勝つ気だって事で良いんだよなぁ。勝つ気の勝己くぅん・・・!?」

「━━っせぇ。てめぇは、俺だけ見てりゃ良いんだよ」

 

かっちゃんからの宣戦布告を受け取った私は心に誓った。かっちゃんも紅白饅頭も、こってんぱんのボッコボコにして、海の藻屑に変えてやると。

 

 

 

 

 

 

 

続いてミッドナイト先生により最初の競技が発表された。電子掲示板にでかでかと現れた一文は『障害物競走』と書かれている。

 

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周、約4キロ」

 

4キロとか楽勝なんですが?

 

「我が校は自由さが売り文句!ウフフフ・・・。コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」

 

それは信用ならない言葉だ。

私は知っている。言うほど自由じゃない事を。

多分、この言葉で私みたいな善良な生徒を反則で落とすつもりなのだろう。どうせ、ボコボコにしたら駄目だーーー!ってあと出しで言われるに違いない。

汚い、大人は汚い。

 

ま、やるとしても、バレないようにやるけども。

 

「さぁさぁ、位置につきまくりなさい・・・カウント始めるわよ」

 

点灯してる三つの内の一つが光を落とした。

あと二つ。

 

周りの皆を見ると一様に緊張した顔だ。

忌々しいかっちゃんと紅白饅頭もあった。

こいつらは先に潰す。

 

また、ランプが消えた。

あと一つ。

 

 

 

 

 

最後のランプが消えた。

 

「スターーーーート!!!!」

 

全員が走り出すその瞬間、私は溜め込んだ息を一気に吹き散らした。

 

炎が渦をまく。

 

他生徒達の阿鼻叫喚の中、飛び出す影を見つける。

一人くらいは抜けると思っていたので想定内だ。

私は落ち着いて狙いを定め、引き寄せる個性をフルスロットル発動する。

 

射程ギリギリだったが、捉えた。

 

思いっきりそれを引っこ抜く。こちらに引き寄せられた人物と同じ速度で、支えのない私は一気にその人物の元へと飛ぶ。更に距離を稼ぐ為に、突然の事に反応できていないその人物を踏み台にし、先頭へと飛び出した。

 

「━━━っ、やっぱりお前かっ!!緑谷!!」

「ぶぁぁぁーーーはっはっー!!さらばだ、紅白饅頭!!精々私の可愛いお尻でも眺めながら、ゆっくりと追ってくるが良い!!」

 

紅白饅頭が人混みに落ちていく様を眺めながら、引き寄せる個性をフルスロットル発動する。前方に丁度良さげな木があったので上手い具合に更に飛べた。

 

紅白饅頭が他生徒妨害の為にやった氷の床を悠々と越えた私はそのまま勢いを殺さずダッシュする。

走りでは眼鏡以外に負ける気がしない。

 

「━━━って、これ!」

 

目の前にそれが現れた直後、そばのスピーカーから声が響いてきた。声の主は入試の時に滑りまくっていたラジオのおっちゃん。英語の先生だった人だ。

 

『さーて、実況してくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!』

『・・・無理矢理呼んだんだ━━━』

『━━━と!!こいつはスピィーディー!!もう障害物にぶつかる生徒がいるぜぇ!?』

『聞けよ』

 

 

・・・包帯先生も、なにしてんだろ。

 

 

『さぁ、いきなりの障害物!!まずは手始め!!』

 

 

 

『第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

 

 

 

ずらりと並ぶ入試のロボット。

まともに戦ったら死ぬほど時間が掛かる代物だ。

ま、戦わなければ良いだけなんだけど。

 

戦うのが面倒臭かった私は、普通に引き寄せる個性つかって上手いこと飛びかわし、普通に抜けた。

言うほどなんて事なかった。

 

 

『見せ場も作ってくれレディーーー!!!』

 

 

知らん。

 



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本当に困った時助けてくれるのは、きっと何気ない日々を共に生きてくれた君だと思う。助けて、私を。さ、この連帯保証人の所に名前を書くんだ!の巻き

明日は一話しかあげない。
これは確定事項だ。

確定事項だって、忙しいんだって。

き、期待されたって、応えてあげないんだからねっ!!


雑魚ロボットをさっさとかわした私は次の障害物までやってきた。

目の前にあるのは切り立った岩達とそこに掛けられたロープ。大袈裟な綱渡りのようだ。

 

 

途中でラジオのおっちゃんが『コースアウトしなければ何でもアリ』『残虐なチキンレース』と言っていたので、もし私を抜かそうとした輩がいたら半殺しにする気満々だったのが、意外とここに来るまで追走者はなかった。お陰で私のおてては、まっちろけである。

 

あと『各所にカメラロボが設置されて━━━』なんて話をしてたので探したらけっこう見つけたりした。取り合えず見つけたカメラには全部ピースしといた。

ファンサービスだよ。へけ!

 

 

 

『オイオイ!第一関門なんだって話だよ!んじゃさ、第二はどうさ!?』

『俺いるか・・・?』

『落ちたらアウト!!それが嫌なら這いずりな!!』

『聞けよ』

 

私はロープの上をダッシュした。

 

『ザ・フォール━━━って、そういう感じでゴーイング!?どんなバランスしてんだレディーーー!?』

 

切り立った地形も、頼りないロープも関係ない。

落ちなければどうという事はないのだよ!!

ふぁーーっははは!!!

 

『何気、身体能力が高いからな。あいつは。それに上手く個性を使ってバランスをとってる。そういう意味では優秀なんだ』

『授業見てるとそうは思えねーな。ほぼスリープしてっからな、緑谷は。そのくせ、問題出してもスラスラ答えやがるしYOー!!』

 

うるさいぞ!!この先生共めが!!個人情報垂れ流しすんじゃぁないよ!!

 

母様がっ見てるんだぞ!!

バレるだろっ、授業まともに受けてない事が!!

お願いします黙ってて下さいいぃぃぃぃ!!

 

全力ダッシュしていると声が聞こえてきた。

振り返って見れば、空を跳ねてこちらに向かってくるかっちゃんの姿があった。その後ろには猛追する紅白饅頭の姿もある。

追い付いてきおったか。小わっぱ共めが。

 

私は渡りきったロープを炎で焼き切り、手の届く範囲のロープも落としていった。

勿論全部は焼いてない。最短距離のルートに関わりそうなものだけだ。後方からくるお茶子やA組女子の為にも、ルートは残しておかねばならんからね。

 

しかしその妨害はあまり二人には意味がなかった。

かっちゃんは爆破で飛んでくるし、紅白饅頭は氷で道を作ってそこをダッシュしてくる。どちらもルート無視。私より最短距離を来てる。

 

・・・ずるい!!

 

私が飛ぼうとしたら引き寄せる個性をフルスロットル発動しなくてはならない。足場の数と一つ一つの距離を考えたら、渡りきる頃には腕が千切れる覚悟がいる。

やってられるか!!ボケぇ!!

 

「おっせぇぞ!!馬鹿女!!」

 

後ろから煽ってくるかっちゃん。

喧しいので、近くにあった競技を撮影してるカメラロボを引き寄せ、かっちゃんに投げつけてやった。

 

あ、当たった。

 

不時着したかっちゃん。

けっこうなダメージだったらしく呻いてる。

ふむ、これは。

 

 

 

 

私は近くにあるカメラロボを引き寄せ、紅白饅頭に投げつけた。かっちゃんの様子を見てたのか、簡単にかわす紅白饅頭。

 

それならばと、手当たり次第にあたりのカメラロボを引き寄せ、紅白饅頭に投げまくった。かっちゃんの時はそのまま投げたが、今度は軽く火をつけて投げてやった。間接部のオイルが燃える燃える。

軽い物なら幾らでもいけるから拾えるだけ拾って投げまくってやった。

君が立ち止まるまで、私は投げるのを止めない!

 

 

あ、当たった。

 

あ、落ちた。

ざまぁ。

 

 

『カメラが凄い勢いで消費されてってるぜ!?オイオイ!?レディーーー!!何でもアリだけど、障害物じゃない備品は程々にしてくれぇぇぇぇ!!』

『無駄だ、マイク。緑谷の目見てみろ。良い武器拾ったって顔してる』

『レディーーー!!頼むから、程々にしてくれぇぇぇぇ!!』

 

断る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人を打ちのめした私は更に走る。

独走。もう、完全独走である。

勝った、これは勝った!!

 

そう確信したその時、事件は起こった。

 

「━━━━っぐぅ!?」

 

『!?どうした緑谷ぁぁぁ!?急に止まったぁ?!』

 

最終関門を前に、私は足を止めざる得なくなった。

一歩足りとも進めない。

足が震える。

 

駄目だ、もう。

動けない。

 

私はその場に踞るしか無かった。

 

 

『ど、どうしたぁーー!?いや、本当にどうしたー!!体に不調か!?』

『緑谷!どうした!何処が痛む!』

『おぉっ!熱いぜミイラマン!!』

『茶化すな!!のいてろ!!』

『アゥッ!?』

 

近くによってくるカメラロボ。

私はそのロボのマイクに頑張って顔を寄せ、思いの丈を口にした。

 

「吐きそう」

 

『吐き気か!他にはっ━━』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食べたばっかなの・・・忘れてた。胃がきゅうきゅうする。頑張って走りすぎた、かも。気持ち悪い、出る・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大馬鹿野郎、そのまま予選落ちしろ』

 

「酷い!!うっぷ━━」

 

完璧美少女、緑谷双虎に吐くという選択肢はない。

アイドルよりアイドルな私はうんこだってしない。

だから、ここで吐いてすっきりなんて事は選べない。

 

襲ってくる吐き気と戦いながら、私は最後の関門を進んだ。もう苦しくて走れないから、歩くしか出来ない。

お腹もチャポチャポして気がする。スポドリの飲み過ぎも原因だと思う。二リットルはあかんかった。あ、トイレもいきたい。

 

最終関門である『びっくりするけど死なない地雷源』をとぼとぼ歩いていると、後ろから元気な声が近づいてきた。

 

振り返ればかっちゃんの姿があった。

眉間に皺を寄せ青筋を浮かべたかっちゃん。

何故だかその姿が、今はとても頼もしく見えた。

 

「うぇぇぇん!!かっちゃーーーん!!!」

「っは!?はぁ!?」

 

泣いて呼んだら私の所で止まってくれた。

流石かっちゃん。ありがとうかっちゃん。

そういうとこ好き。

 

「お腹が苦しいのぉ、チャポチャポしてるのぉ、吐きそうなのぉ、トイレもいきたいのぉ、おんぶしてぇ」

「ふざけてんのかぁ、てめぇはよ!?」

「ふざけてないもん!真面目にやってたもん!ここまで!!でも、うっぷ、限界で・・・」

「止めろや!!俺の肩を掴むな!!ごらぁ!!」

 

駄目だ、本当に吐く。

 

出たらすっきりするけど、色々終わる。

きっと勢い余ってあっちもすっきりする。

絶対あかん。

 

「うっ、ぷ。誰も、助けて、くれなくてぇ。包帯先生とか、予選落ちしろとか言うし・・・」

「そりゃ言われるだろぉが!!つか、そのまま落ちろや!!」

「かっちゃんまで、そんな事言わないでぇぇぇ!!うわぁぁぁん、皆がいじめるぅぅぅぅ!!訴えてやる!訴えてやる!!たこ焼きのおっちゃん訴えてやる!!」

「そいつだけは訴えんじゃねぇ!!」

 

『なんだろっ、ミイラマン。絶対緑谷がわりぃのに、可哀想に思えてきた。おかしいな、罪悪感がスゲー』

『騙されんな、馬鹿』

 

かっちゃんを逃がせば終わる。

そう思った私はかっちゃんの腕にしがみついた。

連れていかないと言うのなら、このまま道連れにしてやる。一人では絶対死なない。

 

すると後方が騒がしくなってきた。

かっちゃんの腕越しから覗けば紅白饅頭の姿が見えた。

もうじき最終関門に辿り着きそう。穴に落ちたと思ったのに、まだ生き残ってたのか・・・。

 

それに気づいたかっちゃんは今までで最高のしかめっ面を浮かべ、私を背中に背負った。

 

「しっかり掴まってろや糞ボケがっ!!!」

「うむ、苦しゅうない」

「何様なんだごらぁ!黙ってろボケ!!」

 

かっちゃん号に身を預けながら、私は口を押さえて目を瞑った。おんぶも揺れる。自分の足で動かない分楽だけど、苦しい事に変わりはないのだ。

 

『爆豪ぉぉぉぉぉ!!スゲーハンデ自分で背負ったぞ!?オイオイ!あれか!当て付けか!?助けなかったオレたちへの当て付けか!?』

『爆豪・・・ま、こうなるか』

 

アナウンスうるさい。

 

『おお!ここで轟一気に距離を詰めてく!!やっぱりハンデが効いてるのか、歩みが遅いぜ爆っ豪ぉぉぉ!!』

 

そんな声を聞いて、吐き気に耐えながら後方を見れば、直ぐそこに紅白饅頭がいた。今は食べ物の姿が浮かぶ物を見たくないので、忌々しくて仕方ない。

 

だから、紅白饅頭の後ろにある地雷を引っこ抜き上手いことぶつけてやろうと、そう思って個性を発動した。

 

 

 

そしたら、大きな爆発音と共に紅白饅頭がとんだ。

 

 

 

なんか連鎖爆発してエライことになっていった。

引き寄せる個性の調整が甘かったせいで、何個か同時に引っこ抜いちゃって、それが暴発したのが最初の原因みたいな気がしたが、それでも私のせいじゃないと思う。

こんな障害物を用意した大人達が悪い。

よって私は悪くない。全然。

 

ねっ、かっちゃん。

 

ねぇ、かっちゃん?かっちゃん?

何知らないフリしてんの?ねぇねぇ、かっちゃんや。

私ら仲間だろ?親友だろ?分かち合おうよ、痛みも、苦しみも、罪も。

 

「っざけんな!!一人で償ってろや!!」

 

突然の裏切りかっちゃん。

 

いつもなら、ここでボディブローの一つも入れてやるのだが、何分そんな元気は売り切れてる。

私はかっちゃんに体重を預けてゴールまで耐えた。

切実に思う、トイレいきたい。

 

 

 

 

最大の敵がいなくなったかっちゃんはそのまま一位通過。

かっちゃんに背負われた私は二位になった。

 

そしてかっちゃんに途中まで送って貰ったトイレで、アイドルを脱ぎ捨てた私はただの女子高生へと戻った。

 

敢えて言うなら、すっきりした。

 

 



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順位なんて一過性の物。そんな物で、君の人生は変わりはしない。だから大丈夫、笑って。笑顔を見せて。ね、そんなに怖い顔しないで、こっちこないで、堪忍して・・・私は悪くないでしょ!悪いのはあいつです!の巻き

言ったでしょ!今日は一話だけって!
もう!期待したって、本当にないんだからね!


ないんだよぉぉぉぉぉ!!


多分明日の一話よ( *・ω・)ノ


「ニコちゃんすごいねぇ!2位だってね見たよ!!」

 

トイレからすっきりさせて帰ってくると、お茶子が息を切らせてやってきた。お茶子と一緒に眼鏡もいる。なんか眼鏡が落ち込んでる。

 

「お茶子お疲れー。何位だった?」

「あはは、私16位・・・皆早いねぇ。私まだまだだ」

「16位なら十分早いでしょ?他にゴールしてない人いっぱいいるし」

「そう言って貰えるのは嬉しいんやけど、私もヒーロー目指しとるから、やっぱり・・・」

 

お茶子は向上心があるな。

がんばり屋さんだ。撫で撫でしてあげたい。

いや、するけど。

 

「っわ!なんなん!?なんで私撫でられてるん?!」

「いやぁ、可愛いなぁと思って」

「可愛い?!私が!?」

 

現状に満足しないのは良い傾向だとは思うけど、根を詰めすぎると碌な事にならない。

だから私はお茶子を慰めようと思う。

 

「大丈夫、お茶子。走る事に特化した個性持ってる癖に、先頭を走る私が影も形も見なかった人がいるから。それに比べたら、なんて事ないよ」

「緑谷くん!!それってもしかしなくても僕の事かい!?自分でも分かっているから余り責めないでくれないか!?」

「誰とは言わないけど」

「自白しているんだが!?」

 

喧しい眼鏡の口に飴玉を突っ込み黙らせ、私はお茶子とでかでかと掲げられた電子掲示板成績表を見た。

知らない名前が3位と4位の所にある。誰だろ。知らんなぁ。

 

あ、なんだよ眼鏡。5位じゃない。頑張ったね。

 

「はぁ、しかし緑谷くんに負けるとは思わなかった。何かするだろうと警戒はしていたが、開始直後の目眩ましを兼ねた妨害の炎には反応出来なかったよ。あれさえなければ・・・・いや、止めよう。今更だな。あの轟くんに勝てたのだ、満足せねば」

 

 

・・・・・・え、ん、うん?

 

掲示板の順位を見ていけば、6位の所に轟の名前があった。

 

ま、まぁ、なんだ。

うん、どんまい。

 

落ち込んでる気がしたので、お茶子達と別れて紅白饅頭の事を探した。そしたら順位表を見ながら立ち尽くす紅白饅頭がいた。なんか、凄く悪い事した気分だ。私は全然悪くないのに。

 

慰めようと思ったけど、何を言ったらいいか分からない。分からないけど、放っておくのもアレかと思って肩を叩いた。

 

「━━━っ?なんだっ」

 

紅白饅頭の頬っぺたに私の人差し指が刺さった。

双虎にゃんジョーク。

さ、笑うと良いよ。

 

「・・・・・・」

 

にこりともしない。

寧ろメチャメチャ冷たい視線を送られた。

双虎にゃんジョーク、理解されず。

悲しい。

 

「緑谷・・・いや、今はいい。お前が本気だろうと、ふざけてようと、負けたのは事実だ。けど、次は負けねぇ」

 

そういって立ち去ろうとする背中が寂しそうだったので、膝をカックンしてあげた。

双虎にゃんジョーク2。

さぁ、笑うと良いよ。

 

物凄い顔で睨まれた。

かっちゃんばりの熱い何かが入り雑じった、灼熱の視線がぶつけられる。

ナニコレ、あっつい!!

 

「緑谷・・・!さっきから、何がしてぇんだ!」

 

ついに怒鳴られてしまった。

なんやかんや、紅白饅頭に怒られたのは初めてだ。

すごく珍しい。

 

「いや、なんかさ。今日はからかいがいがあると思って?」

「はっ?言ってる意味が分からねぇぞ」

「今日の紅白饅頭、私は好きだよ?」

「・・・はっ?」

 

なにその顔?

本当に今日の紅白饅頭は面白いな。

 

「怒ったり、むきになったり、今みたいにポカンとしたりさ。普段ならしないでしょ?私の事も全然見ないしさ」

 

ベストフレンドに勝手になった日から、割りとちょっかいを掛けにいっていた。基本的に紅白饅頭はリアクションが薄いから私自身印象には残ってないけど、それでもかっちゃんの次くらいにはちょっかい掛けてると思う。

 

紅白饅頭は他の人と違ってからかっても怒らないし、やり過ぎても軽く謝れば許してくれるからね。

リアクションは面白くないけど、お手軽感があって止められなかったのだ。

 

今日はなんか違うみたいだけど、またそれも面白い。

余裕は無さそうだけど、そのお陰か本当に色々リアクションしてくれて楽しいし。

 

「━━━紅白饅頭がなに考えてるのか知らないけど、私も勝ちにいってるから。私、本気で夏休みを取り返しにいってるから。だから優勝狙ってるなら覚悟しといてね」

 

失われし我が夏休みが帰ってくるかも知れないのだ。こんなの、頑張るしかないだろう。

高校の夏休みなんてバイトしたり、友達とお買いものにいったり、映画見にいったり、海にいったり、キャンプいったり、やること一杯だろうが。こんなの逃せる訳がない。

バイクの免許も取っちゃおうかな・・・それは母様が許さなそうだなぁ。

 

「夏休み・・・お前、それでいいのか?」

「いいに決まってる。それ以外、私が体育祭に出る理由なんて、ミジンコ一個分もないからね!それがなかったらバックレてるから!」

「・・・はぁ。お前と話してると、調子が狂う」

 

溜息を吐いた紅白饅頭はいつもみたいな顔になった。

でもやっぱり違和感がある。

今日はなにかあるのかも知れない。

 

「緑谷。改めて言わせてくれ。お前には勝つ。俺は・・・どうしても俺の力を見せたい奴がいる。そいつに、俺の力を認めさせたい。だから、左の力なしで、優勝するつもりだ」

「片腕、片足とか、どんな舐めプ?もう使ってるじゃん?」

「あ、いや、左の個性って事だ」

 

ああ、そういう。

なんて、分かりづらい言い方するんだ。

まったくこれだから天然は。

 

「・・・おかしいか?」

「うん、分かりづらい」

「いや、言い方じゃなくてな」

 

ああ、そういう。

だから、分かりづらいんだってば。

 

「別に?良いんじゃないの。だからって手加減はしないけどさ」

「━━っ、ああ」

 

気のせいかも知れないけど、紅白饅頭が笑った気がした。ほんの少しだけど、朝の重い感じが軽くなった気もする。

 

 

 

「おいっ!!何してやがんだテメェ!!」

 

 

怒鳴り声と共に私と紅白饅頭との間にかっちゃんが割り込んできた。

さっきの事でまだイライラしてるのか、凄い顔で睨んでくる。

 

「もう、まだ怒ってるの?ごめんってば。お陰で助かりました、ありがとーございます」

「感謝なんざったりめぇだろうが!!ボケ!!そうじゃねぇ、紅白野郎!!テメェにいってんだ!!」

 

急に標的にされた紅白饅頭が不思議そうな顔した。

普段あんまり表情変わらないんだけど、今日は分かりやすい。

 

「俺か?」

「そうだ、テメェだよ!!糞ボケ!!さっきから、挑む相手間違えてんじゃねぇよ!!言ったろ、俺が一位になるってよ!!」

「開会式の時のだろ。聞いた」

「だったら、わざわざ言わせんじゃねぇよ!!テメェは俺がぶっ殺す!!そこの馬鹿じゃねぇ、俺だ!!そんで優勝すんのが、俺だ!!」

 

いや、優勝すんのは私だから。

何言ってんだこの爆発頭。

殴るぞ。

 

「ちっ、糞が!いくぞ、馬鹿女!!」

「わっ!?ちょっと!」

 

かっちゃんに腕を掴まれて引っ張られた。

物凄い強引に連れてかれ、紅白饅頭にばいばいする時間もなかった。

なんだ、連れションか!?私は女子だぞ!一人でいけ!!

 

「かっちゃん、なに?なんか用?」

「っせぇ。言ったろ、テメェは、俺だけ見てりゃ良いっつったろが」

「なにそれ、凄く生きづらそう」

「るっせぇ」

 

よく分からないまま、かっちゃんに引き摺られるように歩いてるといると、ミッドナイト先生の声で障害物競走が終了した事が知らされた。

 

それと同時に予選通過の条件と、本選にあがった者達の名前が電子掲示板に示される。

どうやら我がA組から脱落者はいないみたいだ。

 

 

壇上にあがったミッドナイト先生からマスコミだったり、負け犬達へのありがたいお言葉があった後、本選である第二種目の発表が始まる。

 

「さーて、第二種目よ!!私はもう知ってるけどーーー何かしら!?」

 

電子掲示板の文字がスロットみたいに回転する。

目で追ってたら気持ち悪くなった。

お茶子、託した。え、あんなの普通目で追わないって?普通って難しい。

 

「コレよ!!!!」

 

バーンという効果音と共に文字スロットが止まった。

表示されているのは『騎馬戦』の三文字。

 

私は隣にいたかっちゃんの肩を掴み、出来るだけ小さな声で提案した。

 

 

 

「馬っちゃん」

「誰が馬っちゃんだ、ごらぁ!」

 

 

Oh!

私の爆号はご機嫌ナナメのようだ。

餌あげなきゃだね!

 



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具足を持てぇぇ!!鬨をあげろ!!駆けるぞ、敵はあっちこっちにあり!!誰が敵なのかって?あっちもこっちも全員だよ!!の巻き

来週のヒロアカが気になって仕方ない。
エンデヴァァァァァァァ!!



「テメェとは組まねぇ」

 

ミッドナイト先生からの説明を受け、ポイントハチマキ争奪戦ということ知った私は戦いの方向性を決め再度かっちゃんに騎馬を組む提案をしたのだが、思いっきり拒否されてしまった。

嘘だと言ってよ、愛馬様!

 

利点を説明したり、色仕掛けを試してみたり、過去の恥ずかしいエピソードをばらすと脅したり、泣き落としを試してみたけど首を縦に振らせるには至らず、さっさと他のメンバーを探しにいかれてしまう。こんちくしょう。餌あげを怠った私が悪いとは思うが、こんな直前で裏切る事ないじゃないか。

 

・・・・・うし。

みんなー聞いてよー!かっちゃんはねぇーーーーうわっ!!危なっ!!なんだぁ、おい!聞き耳たててんじゃねーぞ!この裏切りボンバーマンが!!私の声大好きか!?ええ?!そんだけ離れててよく聞こえまちたねぇ!?ワンちゃんなんですかぁ?かっちゃんはご主人様の声を聞くと尻尾振って大喜びして庭駆け回るワンちゃんなんですかぁ?ああん?!

 

 

 

かっちゃんを一頻りからかい終えた後、騎馬探しを始めた私を絶望が襲う。

まさかの殆んどチーム決まってる。

 

な、なんだと・・・!?

 

騎馬候補だったかっちゃんが抜けた以上、牽制出来る能力をもつ奴が欲しかったのだが、大本命だった紅白饅頭も百も別のチームを結成していた。━━━てか、その二人同じチーム。しかもそのチームには他にも機動力になりそうな眼鏡や使い所は難しいけど全方位牽制が行える上鳴といったメンバーが揃っており、鉄壁の布陣と化していた。

 

私がかっちゃんと熾烈な戦いをしてる内に、あの紅白饅頭、美味しい所だけ持っていきやがった。なんて卑怯な奴だ。

 

悲しみにうちひしがれていると、背中をチョンチョンされた。なんだろうと思って振り向くと、そこにはベストフレンドなお茶子が手を振っていた。

 

「ニコちゃん、一緒にチーム組も!」

 

天使・・・!

私は地上に天使を見た。

 

「えっと、もしかしてチーム決まってた?それやったら・・・」

「お茶子ぉーーーー!!」

「わぁっ!?」

 

抱き上げられたお茶子が目を白黒させてるが、今だけは許して欲しい。この感激を表現するにはこれしかないのだ。

 

「お茶子ぉーーーー!!」

「あわわっ!!?う、うれしいん分かったから、ぐるぐる回さんといてぇぇぇ!!」

 

あはは、うふふー・・・・うぇ。

 

ちょっとやり過ぎて気持ち悪くなった私とお茶子は仲良く地面に四つん這いになった。何をしたとは言わない。天使なお茶子とアイドルたる私がそんな事するわけないので、何か見た人がいるなら幻想を見たのだろうと思う。

 

コンクリ先生ぇぇぇぇ!!

この辺綺麗にコンクリしてくださぁぁぁい!!

 

 

 

 

「さ、さぁ!ニコちゃん他のメンバーどうしよっか!」

 

さっきの事を完全に無かった事にしたお茶子。

いや、よくよく考えたら、さっきの事ってなんだろ?分からないなぁ。私には。

それよりチームを考えなきゃ。

 

「私の最初に決めてたメンバーはさ、かっちゃんとお茶子と切島だったんだよね」

「あ、私は入ってたんや」

「うん。お茶子に浮かして貰えば無敵じゃん。かっちゃんの爆破で空中の高速移動。かつ牽制も担当。切島には物理的な攻撃を全部請け負って貰って、私が空中という安全圏からみんなのハチマキをUFO式にさらってくつもりだったんだよね」

「よくそんなえぐい事ポンポン考えつくなぁ、ニコちゃんは」

「やめいやめい。照れる」

「まぁ、この場合は一応は褒めてるけども」

 

けれど当てが外れてしまった。

かっちゃんがいないと空中の機動力はゼロに近い。

私の個性で移動は可能だけど、そうなるとハチマキをとってる時間が無くなる。

 

「だからかっちゃんが駄目になった以上、地上にべたつきで徹底抗戦の布陣を考えたんだけど・・・」

「だけど?」

「切島はかっちゃんにとられるし、パワーと警戒力に定評のある阿修羅さんはブドウと梅雨ちゃんと組んじゃうし、牽制の要の紅白饅頭と百は別のチーム組んじゃうしで、どうしようかと」

「ニコちゃん、次から次によう考えるなぁ。・・・ちゅうか、阿修羅さんってもしかして障子くんの事なん?覚えよ。そろそろ皆の名前覚えよ」

「そのうち」

「これは覚えんほうのやつや」

 

しかしどうしよう。

ただ浮いただけじゃ意味がない。

浮くなら、どうにかして機動力を確保しなければならない。

 

「ウフフフ!!そういう事でしたら、私などどうでしょうか、2位の人!」

 

そう声を掛けてきたのはゴーグルをつけた変な女だった。なんとなく危ない臭いがしたので顔を逸らして無視したら、「無視しないで欲しいです!!」と顔を背けた方に回り込まれた。こわい。

 

お茶子が「あ、さっきの」とか言ってるから、まったく知らない人ではないみたいだけど、私は知らないからやだ。

 

「宗教は間に合ってます。私はシュークリーム教の敬虔な信徒なので。糖分な幸あれ」

「変わった宗教を信じているんですねぇ!ですが、それとこれとは別問題です!!機動力、お探しではありませんか!」

 

・・・ほほう?

 

「警戒力、牽制力!装備重量の都合上、全部とは行きませんが、どれかに特化すると言うのであれば、私のドッ可愛いベイビー達で補填いたしますよ!!どうですか、2位の人!!」

「ベイビーって?」

「私がつけてる道具達の事です!サポート科は自分が作った物で事前申請していれば幾らでも使用出来るのです!勿論、チームを組む以上、同チームの方に道具を使うのはありありです!確認済みです!」

 

ほほぅ。

 

「・・・名前を聞かせて貰おう」

「サポート科の発目 明です!」

 

ふむ、ふむふむ。

 

「私は勝利を望む。発目は何を望む」

「勝利など欠片も興味はありません!私は出来るだけ目立つ場所で、ベイビー達を大企業の皆様にお披露目することが目的なのです!なので先程1位の方に交渉しています!ですが見事に拒否されてしまい、それならば次点で目立っていた貴女にとそう思って来たのです!つまり、貴女と組み騎馬戦に望む事こそ目的!」

「勝つ気はないと?」

「ウフフフ!そこは勝ちにいかせて貰いますとも!!負けベイビーより、勝ちベイビーの方が印象が良いですからね!!」

 

私と発目は固い握手をかわした。

 

「お互いの利益の為に、蹴散らそう」

「こちらこそ」

 

 

「なんやろ、あかん二人を組ませた気がするなぁ」

 

 

二人の騎馬だと不安定なので、そこら辺にいた常闇を仲間に引き入れようとしたが、全力で逃げられてしまった。あんなに仲良かったのに、何故だ。

 

仕方がないので同じそこら辺にいた尾白を捕まえて四人チームを結成した。間に合わせの尾白が些か不安ではあるが、なんとかなるだろう。

 

期待してるぜ、ベイビー。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「しかし、意外だぜ。俺はてっきりあのまま緑谷と組むもんだと思ってたからなぁ」

 

チームを組んだ切島の言葉に私も思わず頷いた。

私もてっきりニコと組むもんだとばっかり思っていたから。ニコの話を聞けば聞くほど爆豪とニコはつき合ってるようなものだし、お互いがお互いの事をよく知ってるから、能力もそうだけど安定性も重視して組むと思ってた。

だから不思議に思う。

 

「ねぇねぇ。なんで私らなの?切島は分かるんだけどさ」

「それは俺も思った。正直、爆豪と仲良い切島はわかんだけど、俺と芦戸ってメンツがわかんねぇ。ぶっちゃけ、緑谷と組んだ方が勝算高くねぇか。個性的に」

 

瀬呂と一緒に聞いてみたら、しかめっ面の爆豪が苦虫を噛んだような顔で返してきた。

 

「・・・テメェらの言う通り、あいつと組めば俺は間違いなく勝てる。あいつの考えそうな事は分かる、丸顔で浮かして空中戦やる気だろ。俺を牽制と機動力、クソ髪を俺が防ぎ切れなかった攻撃の盾にして、その隙にあいつの個性で上からハチマキをぶんどる、そういう魂胆だろ」

 

想像したら悪魔的な強さになる気がした。

麗日の個性で空に飛び上がれば至近距離戦闘しか出来ない人達は迎え撃つ手立てがない。仮に遠距離攻撃が可能な人がいても、爆豪の超反応と爆発機動で簡単にかわされる。頑張って近づいても爆発で撥ね飛ばされる。更に頑張って爆発を乗り越えても切島が個性で止める。

そして、ニコの個性で一方的にハチマキだけを引き寄せられ取られる。

 

「うわぁ、ひどっ」

「想像したら打つ手ねぇな。しかも、爆豪がいるって事は1000万ポイント持ってる訳だしな。勝ち逃げも狙えるしで一石二鳥かよ」

「なんか俺の位置が一番辛くねぇか?」

 

個性的に仕方ないと思うので、切島の事は取り合えず横に置いて爆豪に耳を傾ける。

 

「でもな、それじゃ意味がねぇんだ。あいつに勝たせて貰うような、こんな糞みてぇな勝ち方、意味がねぇんだよ!!1位なるってのはそうじゃねぇ!!あいつに勝つってのはそうじゃねぇ!!」

 

爆豪の怒鳴り声に心臓がドキリと跳ねてしまう。

よくニコは爆豪と一緒にいられるなと、本当に思う。

心臓が持たないんだけども!

 

「━━━ムカつく話だが、あいつは俺がいなくても勝てる」

 

はっきりした物言いに切島が首を傾げた。

 

「そりゃ幾らなんでも過信し過ぎじゃねぇか?やってみねぇとわかんねぇだろ」

「馬鹿か、クソ髪。今回の競技に限っちゃ、あいつが一番やべぇに決まってんだろ。引き寄せる個性を視認する事が出来ねぇ以上、あいつの射程に入ってる間は常に警戒しなきゃならねぇ。気ー抜いたら、その時点でハチマキはねぇ」

「それは、ま、強力かもしんねぇけどさ。ほら、目線を追えば良いじゃねぇーか!他にもなんか攻略方法あっかもしんねぇぞ?」

「あいつは感覚で引き寄せる対象を選べんだよ。大体の位置と、引き寄せる物の形が頭に入ってりゃ、ほぼノーモーションで個性を発動してハチマキを取れる」

「うげぇ、マジかよ」

 

そうなると、確かに爆豪と組む理由が薄くなるな。

結局の所ニコと組んで勝つ為には攻撃について一切考える必要がなくて、とったハチマキを守る事だけ考えた編成にすれば良いんだから。それは爆豪が言ったように逃げても良いし、切島みたいな個性持ちを集めて守ってもいい。ハチマキはニコが一人で集められるから。

 

「俺がいなけりゃ、空中戦は止める。浮くだけじゃ意味がねぇからな。そうしたら地上戦を考える。盾になる奴等を集めてだ。牽制も考えてりゃ、紅白野郎と変態女辺りに声をかける。クソカラスはあいつにビビってるからチームにはならねぇ」

 

轟と・・・変態女?まさか、ヤオモモの事?

確かに格好はあれかも知れないけどさ・・・酷い。あとでニコに怒って貰お。

 

「それも駄目なら、嫌がらせに徹する。味方の機動力より敵の機動力を削ぐ事を第一に考えて作戦を練りやがる筈だ。しょうゆ顔、黒目、ブドウ辺りの搦め手が使える連中に声掛けてな」

 

黒目・・・それって、もしかしなくても私だよね?

そろそろ名前覚えて欲しいんだけどなぁ。黒目って、まぁ、そうなんだけどさ。

でも、ニコの事も名前で呼べてないし、単にそういうのが恥ずかしい人なのかも?後でニコに聞いてみよ。

 

━━━って、私がニコに選ばれたかも知れないの?

 

「私も?」

「俺も?」

 

「黒目は足止めと、騎馬の移動遅延。しょうゆ顔は捕縛と移動阻害、加えて中遠距離の敵に対して妨害攻撃が出来る。なら使わねぇ訳ねぇ。ブドウは個性だけ見りゃ使いようもあるが、あいつが敬遠するからチームはねぇ」

 

多分褒められてるんだろうけど、言い方が荒くてそんな気持ちになれないなぁ。

 

「よくまぁ考えんな━━━って待てよ。てことは何か?爆豪おまえ、緑谷が選びそうな俺らとチーム組んだって事は・・・」

 

瀬呂の言葉で漸く私も気づいた。

ニコが選びそうなメンバーは殆んど別で固まってる。

麗日はニコとチームを組んだみたいだけど、轟はヤオモモ達と組んでる。盾になる切島と空中機動の要の爆豪、それと搦め手が出来る私らは一つのチームになってる。

 

つまり、意外にもニコはあの個性を持っていながらフリーになってるという事だ。

 

機動力なし、防御力なし、攻撃力なし。

ニコにとって一番必要な者が、いない。

でも━━━

 

「━━━待って待って!でもそれっておかしくない?!絶対有利な個性持ってるのにそんな事ってある?!B組の人達に━━━」

「それはねぇ」

 

私の言葉を爆豪は一言で切ってきた。

 

「第一種目の結果見て、あいつを勝たせようとするやつがいるわけねぇ。やり過ぎなんだよ、あいつは」

 

その言葉を聞いて納得してしまった。

爆豪と轟は凄かった。この先競って勝てるかどうか分からないし、実際にそういう状況になればかなり分が悪いとは思う。

でも、まだ背中が見えた。

 

それに対してニコは背中すら見せなかった。

結果を見ればニコは2位だけど、事情を知った今となってはニコの方が相手としては怖い。

 

そんな人を勝たせたい人がここにいる訳がない。

皆プロになりたくて、1位になりたくてここにいるんだ。ましてや他クラス。邪魔に思う事はあっても味方になろうなんて思う人がいない。利用しようにも残しておくには危険過ぎるから、そういう目的の人も寄り付かない。

 

状況だけで言えば最悪。

勿論友達としてなら、助けてあげたいけど・・・。

 

「・・・一つだけ聞いて良い?爆豪はそれでもニコは勝てると、本気で思ってるの?」

「ったりめぇだろうが!!この程度で潰れんなら、とっくに俺がぶっ潰しとるわっ!!」

 

少しも迷わない。

凄いなぁ、こんなに信用されてるんだ。

 

「・・・酷いかも知んないけど、私は分かったよ。爆豪に任せるよ」

「良いのかよ芦戸?そこそこ仲良かったろ。聞く感じだと、けっこうえげつねぇぞ」

「遊びにきてる訳じゃないんだから、こういう時はあるよ。私ら皆、勝つ為にここに来てる。それはニコも同じだし、私も瀬呂も同じでしょ?」

 

そう言うと瀬呂は「まぁな」と呟いて頭を掻いた。

 

「どのみち、皆で仲良く勝ち上がれる訳じゃねぇし、仕方ねぇか。爆豪!嫌がらせだけで選んだ訳じゃねぇよな?」

「たりめぇだろうが、馬鹿が!!黒目は周囲の警戒、敵の騎馬を見つけしだい地面とかせ!時間稼ぎしろや!!しょうゆ顔はテープで敵の妨害、中遠距離からチマチマ攻撃してきやがる糞共をぶっ潰せ!!あと、俺が爆速で特攻かけたら拾え!!」

「飛ぶ気満々かよ、ありかよ?」

 

呆れた顔の瀬呂に切島が苦笑いした。

そんな切島に爆豪が睨みをきかせる。

 

「ヘラヘラ笑ってんじゃねぇ、クソ髪!!テメェは先頭で耐えろっ!俺が攻撃する時、テメェが一番爆発に近ぇ!!崩れたらぶっ殺す!!」

「おうっ!分かりやすい指示で助かるぜ!任せとけ、絶対ぇ倒れねぇ騎馬になってやるよ!!」

 

いきり立つ爆豪を騎手に私達は一つの騎馬になった。

ただ一つの目的の為に、この戦いを勝つ為に。

 

「やろうぜ皆!爆豪が緑谷に良いとこ見せてぇらしいからよ!!」

「そりゃ、頑張らねぇとな」

「恋だねぇ」

 

「るっせぇ!!ぶっ殺されたくなきゃ黙ってろ!!!クソがっ!!守らねぇぞ、テメェら!!馬鹿女もクソ紅白野郎も、全員ぶっ殺すぞ!!勝つぞゴラァ!!」

 

悪いけど、麗日、ニコ。

今回は私らが勝たせて貰うよ。こんな機会そうそうないしね。

 

後でアイス奢るから許してよね。

 



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よーい、ドンって言ったら走るんですよー?いいですねー?よーい・・・良いですか?よーい、はい、待って、よーいドンって言ったら、言ったらですよ?の巻き

はぁい!はくびしんだよ!
話が進むにつれて、書かなきゃいけない事が増えてきて、「おいおい、まじかよ」と思ってる、はくびしんだよ!!
紅白饅頭の話かくの、むりぃぃぃぃ!!


『さぁ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!!』

 

ワァと上がる歓声に大統領気分でいえすうぃーきゃんをしてると、騎馬の先頭に配置された尾白がこっちをみてきた。なにー?

 

「今更かも知んないけど、俺で良いのか?」

「本当に今更だなぁ。大丈夫、なんとかなる!!その為に装備も色々した訳だしな。あとは、かっちゃんばりのガッツを見せるだけだ!!尾白!!!」

「爆豪程のって、全然なんとかなる気しないんだけど・・・」

 

いまいちヤル気のかける尾白の尻尾をひっぱたき気合いを入れてあげる。痛くなかったみたいだけど驚いたのかピンと真っ直ぐに伸びた。ナニコレ面白い。

 

「よし、お茶子!!」

「うん!」

 

「発目!!」

「フフフ!!」

 

「類人猿最強生物兵器、尾白マックス!!!」

「俺だけ凄い改造されてる?!」

 

「目標は全員のハチマキ奪取なんでぇ、夜露死苦ぅ!」

「「夜露死苦ぅ!!」」

 

「大丈夫かなぁ、俺・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ラジオのおっちゃんの「スタート」の掛け声で始まった騎馬戦。予想通り、私達のチームはスルーされる所から始まった。

殆んどの騎馬がかっちゃん達の元に向かってる。小競り合いしてる騎馬もあるけど、どれもこれも私達の所には向かってこない。アナウンスもこっち完全無視だ。

 

「緑谷の予想通りになったな」

 

そう言った尾白は皆を眺めながら、どこかホッとしてるように見える。かっちゃんばりのガッツを求めたから緊張してたのだろうと思う。

まさか本気にするとは。

 

「2位の人、目立たないと困るんですが・・・」

 

発目の悲しそうな声が聞こえた。

取り合えず無視しといた。

私たち利益で繋がってるフレンドなので、慰める理由がないのだ。

 

「ニコちゃん、取り合えずはこれでええとして、ホンマに全部ハチマキを取るつもりなん?」

「取る。根こそぎ取る」

「頼もしい限りやけども・・・」

 

お茶子が少し心配そうな顔してる。

まぁ、皆が不安になるのは分かる。

これだけ蚊帳の外にされたら不安になるのは当たり前だ。けど、今はこれで良い。

 

忙しくなるのはこれからだから。

 

『やっぱり狙われまくる1000万!爆豪っ、集中砲火っ!!よくあれで取られてねぇなぁぁぁぁ!!』

 

頑張ってんなぁ、かっちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

少し眺めていると、かっちゃん達から離れこちらに向かってくる騎馬が見えた。見たことない人達だからB組の人達だろう。

 

「ほら、痺れを切らしたのがきたぞ。鴨だ鴨」

「本当に来た。緑谷って実は頭良いのか?」

「天才美少女高校生に決まってるだろ!」

「普段の姿を見てると、素直に頷けないな」

 

うだうだ言う尾白は放っておき、お茶子に合図を出す。

直ぐに皆の体にお茶子が触れ、体に掛かる重さが無くなった。

 

「飛ぶよ!」

 

背中のジェットパックから勢いよくガスが飛び出し、私達の騎馬は空を飛んだ。

 

「飛んだ!?サポート科のかっ!るおっ!?」

「ぶぅわっはははは!!さらばだ、B組のとっつぁぁぁぁぁん!!」

 

騎馬一つで飛び込んできたアホのハチマキを引き寄せて奪い取り、そのままもう一度ジェットパックで飛び飛距離を稼いで逃げる。

 

逃げてる最中、炎を吹き散らす嫌がらせもちゃんとやっておく。これが大切。これだけで追うことを躊躇させる効果がある。

 

「ニコちゃん着地するよ!」

 

発目の作ったエアクッションブーツでお茶子軟着陸する。見た感じ足元のダメージは少なく済んでると思う。お茶子に確認しないと分からないけど、恐らく二三度はさっきの大ジャンプを出来るだろう。

着地して辺りを警戒してると発目が鼻息荒く迫ってきた。

 

「どうですか、ベイビー達は!!可愛いでしょう!?」

「機械の可愛さなど知らん!!けど、いいね!」

「そうでしょうとも!!」

 

可愛くないのは別にいいのか。

 

「緑谷!!敵の位置と近くなったぞ!このままで良いのか!?」

 

尾白が周囲を見渡しながら聞いてきた。

 

「取り合えず、この『兎さんは月に行きたいんだよ』作戦のまま行こうか。ピョンピョン跳ねて、ブンブンぶんどっていこう」

「その作戦名って本気だったのか!」

 

そうこうしてる内に違うのが来た。

四足で走る獣系男子一人の、背中に男子が一人という鴨が来た。

 

「お茶子!!」

「うん、タッチしたよ!」

 

さっきと同じようにとジェットパックの推進力で空を飛び、敵騎馬を飛び越える。通り過ぎ様にハチマキを引き寄せ奪おうとしたが、敵がしっかり抑えていた。だが、手ぬるい。

 

「どうせ抑えるならっ、手にグルグル巻きにしとくんだったな!!」

 

不屈の乙女力で強引に引っ張れば敵の手元をすり抜けハチマキさんは私の手の中に収まった。

 

「2位の人、あれ使いますか!?」

「やりたまえ」

「了解しましたよー!!」

 

追いかけてこようとする二人組に、発目は銃を構えた。

勿論出るのは弾丸ではない。捕獲ネットだ。

発射されたそれは真っ直ぐ敵に飛ぶ。普通なら機動を読まれかわされるだろうが、そうはさせない。騎手に狙いを定め思いっきり引っこ抜く。お茶子の個性で体重はゼロだがジェットパックで加速された勢いがある。人を一人引っ張るくらいは余裕だ。

 

引き寄せられた人は自ら捕獲ネットに突っ込むようにぶつかり、見事に絡まった。ざまぁ。

 

「緑谷!!今ので飛距離落ちたぞ!混戦してる所に落ちる!!」

「分かってるって!尾白!私の足しっかり掴まえとけ!!飛ぶ!!」

 

足が固定されたのを確認してから引き寄せる個性をフルスロットル発動して飛ぶ。標的にしたサイドテール女子がバランスを崩したが足がしっかり固定されていたのか、こちらに飛んでくる様子はない。そのまま側まで飛んで、通り過ぎ様にハチマキを貰っておく。手が届きそうだったので物理的にとってやった。

 

普通なら騎馬同士がぶつかる所だが、今回に限りその心配はない。お茶子が付けてるエアクッションブーツのお陰でその辺の位置調整が出来るのだ。勿論これは事前に決めておいたからこそ出来る芸当。即興でこんなの出来る訳ないからね。

 

「着地するよ!!」

 

ブーツで落下衝撃を和らげ、地面に着地しお茶子が個性を切る。本来の体重が戻る感覚に慣れない。このままフワフワ生きていたい気持ちになる。

重力を味わいながら発目にサイドテール女子達に対するトリモチ爆弾の指示を出していると尾白がこっち見た。

 

「緑谷!ヒヤヒヤしたぞ!いきなり騎馬から飛ぶなよ!個性で寄せろって!」

「尾白の尻尾、案外しっかりついてるから行けると思ったんだよね。ほら素手で取った方が気持ちいいし?実際いけたし?」

「こっちの心臓が持たないんだよ!!すっぽ抜けると思った!」

 

オコである。

尾白、オコである。

 

「まぁまぁ、上手くいったから良いじゃん?」

「上手くいったから良いけど・・・失敗してたらどっか飛んでいったろ」

「その時は引き寄せる個性で飛んで戻ってくるし」

「それを出来るっていうんだから、緑谷は爆豪と張り合うだけはあるよな」

「完全無欠で豊穣の女神、双虎ちゃんだからね」

「はいはい、凄いよ」

 

さて、そろそろ注目も集まってくる頃。

どうしようかね。

 

「2位の人!なんか来ますよ!ゴツイ人!」

 

発目の声に振り返ると進撃のゴーレムがいた。

高校生以前に人がどうかすら怪しい。

 

「緑谷!!こっちもきた!さっきの奴だ!一番最初に飛び込んできた!」

「鴨か」

「そうだ、鴨だ!って、おかしな事言わせるなよ!?」

 

見るまでもない、なんか元気な声で「ポイント返せぇA組のぉぉ!!」とか聞こえる。本当にとっつぁんみたい。

 

「ニコちゃん!こっちもきてるよ!」

 

振り向けば阿修羅さんが最終形態でこっちに迫ってきていた。背中を隠すようにしてる所から、あそこにブドウと梅雨ちゃんが内蔵されているのだろう。厄介な。

 

その場所を見つめていると、腕の隙間から覗いた目と目があった。

 

「尾白ぉぉぉぉぉ!!裏切り者には死の鉄槌ぉぉぉぉ!!」

「俺!?そこはハチマキつけてる緑谷だろ!」

「うるせぇー!!羨ましいポジつきやがって!オイラと代われぇぇぇ!!」

 

ブドウの黒団子が尾白に向かって飛んでいく。

放って置いても良い気がしたけど、尾白の自由を奪われると後々面倒なので引き寄せる個性で軌道を外へと逸らし、当たりそうな奴は燃やしておく。

 

するとブドウの隣から舌が伸びてきた。

そうだろうと避ける準備をしていたので軽くかわして、そこへと視線を向けた。

予想通り梅雨ちゃんの目がこちらを覗いてきた。

 

「やるわね、緑谷ちゃん」

 

なにあれ、ちょっと楽しそう。

 

梅雨ちゃんの姿にほっこりしてると尾白に尻尾で揺らされた。どうしろっていう話だよね?分かる分かる。

 

「そろそろだと思うんだけどなぁ?」

 

かっちゃん達の所を見れば爆発と氷でえらい事になっていた。加えて電撃の光とか見える。戦ってる相手が悪いせいでかっちゃんがまだ飛んでない。

 

「爆豪はまだなんだろ!どうする!?飛ぶか!?」

「飛びたいけど、ジェットパックも無限に使える訳じゃないからね」

 

出来れば最後の五分間まで残したい。

 

「緑谷一騎来たぞ!」

 

振り向けばゴーレムがこっちに向かってきていた。

歩みの遅さに皆の気が抜けたのを感じ、尻尾をつねったのだが遅かった。

 

ゴーレムから噴出された液体がお茶子の足に掛かる。

接着剤みたいな物だったのか、お茶子が身動きを取れなくなった。

 

「目立ち過ぎなんだよ、A組━━」

 

頭に巻いてあったハチマキが抜ける感覚と同時に男の声が背中に掛けられた。

瞬間、尾白の尻尾に足を絡め、引き寄せる個性で後ろを通り過ぎた奴を引っこ抜く。

 

「━━━っわ」

 

間抜け声を出したそいつに、振り向き様に右エルボーを叩き込み、奪われたハチマキと首に下げてるハチマキを引き寄せる個性でぶんどる。二本持っていたようだが、一本取りのがした。後で奪うけども、取り合えず放っておく。

 

苦しそうにえづく知らない奴から周囲の奴等に視線を送り、取り合えず警告はしておく優しい私。

 

「私のに触ったら、殴る。全力で殴る。男も女も関係ない。殴る。死にたい奴から掛かってこい」

 

ガン飛ばしながら「ボキッ」と骨をならしたら、皆が一歩下がった。どうしたよぉ。こいよ。伊達にかっちゃんと拳骨でやりやってないんだよ、こっちはよぉ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニコちゃん、完全に悪役や」

「ウフフフ!!これは目立ちますねぇ!!」

「気持ちよく戦いたかったなぁ・・・はは」

 

 

『━━━っと!爆豪と轟の激戦に見とれてたら、えらい事になってるぜ!?制限時間半分過ぎて、B組チームのポイント殆んど取られてんぞぉぉぉ!?どうなってんだミイラマン!!』

『ちゃんと全部見てろ、馬鹿』

 

 



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踊る阿呆に見る阿呆、どうせ阿呆なら踊らにゃ損々!だから私は踊るのさ、あそれ!あそれ!それそれそれ!それ!の巻き

騎馬戦回書くの、死ぬほど疲れる件σ(´・д・`)


「騎馬戦の残り時間も僅かぁぁぁ!!生き残りを懸けて戦いの激しさは更にスーパーホットだぜぇ!!てか、囲まれてんのに緑谷強すぎだろ!!この競技だと無敵かよぉぉ!!」

 

隣で騒ぐマイクを横目に、俺は騎馬戦のフィールドへと視線をやった。マイクの言葉は正しくあり間違ってもいる。実際問題、緑谷双虎にとって今回の競技は有利であり、同時に的にされる不利な競技だったと言えるからだ。

 

ある程度距離を保ったままハチマキを引き寄せられる個性。発動瞬間は視認出来ず、ノーモーションで使用も可能。しかもその引き寄せる力は人を浮かせるだけの力強さがある。競技内での攻撃力で言えば断トツ。これほど今回に適した能力をもつ奴はいないだろう。

 

だが、その反面でハチマキが集まる以上それを守る防御能力が求められる。もしくはそれと同等の逃走手段が必須。

 

これは開始直後より、勝負後半に効いてくるリスクで、事実緑谷はB組を中心としたノーポイントのチームに囲まれている。

 

麗日の個性とサポート科の道具でなんとか逃げおおせていたが、その両方が同時に潰された。もはや勝機は見込めないだろう。

 

と、大体の者が思っていることだろう・・・。

 

「・・・なぁ、イレイザーヘッド。今更だけどよぉ、なんであいつはあれだけ出来て、補習なんてやってんだ?あいつ、絶対頭良い奴だろ」

「頭の良さにも種類があるんだろ」

 

マイクの視線の先にあるのは騎馬の足を潰されて尚、複数の騎馬相手に立ち回る緑谷の姿。

尾白の尻尾を起点に騎馬の上を縦横無尽に動き回り近寄る騎手の腕の一切を寄せ付けない。所か、味方騎馬に対する攻撃にも対応し、残りのハチマキを奪う余裕まで見せる始末だ。

 

その緑谷の動きに合わせて尻尾を動かしバランスを取れる尾白も、緑谷の無理な動きを個性でフォローする麗日も中々だが、やはりそれを実行してる緑谷が一番注目されるべきだろう。

 

類い稀なバトルセンスもそうだが、あの状況で倒すべき敵を的確に攻撃する冷静さは目を見張る物がある。USJであのヴィラン達と渡り合えたのは、運に頼るような偶然ではなく実力そのものだったということだ。

 

━━━━しかしだ。

 

「マイク、あと何分ある」

「おおぅ?!いきなりかよ!えーと、3分切ったな」

「3分・・・」

 

全力で動いている緑谷があと3分動けるとは思えない。

実力があろうが緑谷もまだ学生の一人でしかなく、体力も無尽蔵という訳ではない。加えて引き寄せる個性を現段階での最大出力使用を複数回行っている。終了の合図が出る前に、力尽きハチマキは奪われるだろう。

 

このままいけば、だが。

 

「お前がこの程度の事、予想していない訳がないな。なら、どうする」

 

 

 

 

 

「おおーと!ここで、爆豪ぶっ飛んだぁぁぁぁ!?」

 

マイクの声で視線を爆豪達に戻すと、騎馬から飛んだ爆豪が轟のハチマキを取る瞬間だった。取ったポイントは高くはない。いつの間にか爆豪の額から1000万のハチマキが見えず、現在のポイントを見れば爆豪チームと轟チームの得点が綺麗に入れ替わっていた。

恐らく先程の特攻は取られたポイントを取り返す為の行動だったのだろう。随分と無茶をする。

 

 

 

 

不意に歓声が上がった。

 

 

気になって視線を爆豪達から離せば、それが目に入った。一番の問題児の緑谷双虎の姿が。

 

「あいつ・・・最初からこれを狙ってたな」

 

そこにあったのは尾白の尻尾から伸びるワイヤーと、その先でフワフワと浮かぶ緑谷の姿。遠距離攻撃する生徒も見えるが、ジェットパックを巧みに操る緑谷に攻撃は空を切るばかり。

 

ミッドナイトを見れば、反則と取るかどうか迷っているようだった。

 

それはそうだ。

爆豪の行動にミッドナイトが許可を出している。

その上テクニカルであると、地面に足がついてないから大丈夫だと言い切った。

 

しかも憎たらしい事に緑谷は完全に離れていないと言わんばかりにワイヤーで騎馬と繋がっている。爆豪の時は完全に離れた状態で許可を出した以上、これに対して反則は取りづらい。

 

こうなってくると土台になってる騎馬を攻撃するべきなのだろうが、騎馬への悪質な崩し目的の攻撃は禁止されている。つまり騎馬を崩して緑谷の反則負けを狙う事は出来ない。

 

その用意周到さから、即興ではなく元より準備はしていたのだろう事が分かる。

自分からやらなかったのは、前例を作らせた後の方が認めさせ易いから以外に理由はない筈だ。

 

反則ギリギリ。

 

使った道具も個性も、ルールでさえ問題がない。

ミッドナイトの前例を盾に否定もさせない。

そもそもルールブックの中に、どれぐらいの時間騎馬から離れていてはいけないと厳密なルールが存在しない以上、緑谷のこれは立派な戦法の一つだ。

 

「いや、しかしまぁ━━━━」

 

会場にブーイングの嵐が起こった。

当然だ。こんな戦いを見せられれば、反感を買うに決まっている。

 

だが、それでも緑谷の動きに乱れはない。

勝つことに執着しての事か、もしくは何も考えていないのか。

どちらにせよ、勝負は終わったような物だ。

 

「マイク、残りは」

「ん?もうすぐ一分前だ。そろそろカウント始めるぜ。ミイラマンも一緒にやるか?!」

「勝手にやれ」

「ノリが悪いぜぇ、そんじゃカウントダウンいくぜぇ!!━━━ってオイオイ!!なんだぁ!?」

 

カウントダウンが始まるのかと思えばマイクの驚くような声が隣から響いてきた。

マイクが見つめる先を見れば、止まっていた緑谷達の騎馬が走り出している姿があった。麗日の足元を固定していた靴は脱ぎ捨てられている。

 

「━━━あの、馬鹿っ・・・!」

 

本当にあいつはふざけてるのか、本気なのか分からない。ただ一つ言える事があるとすれば、とんでもない大馬鹿野郎だってことだけだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「緑谷ぁ!!本当にやるのか!!このままいっても2位通過だぞ!?」

 

飛来物をかわしながらお空をお散歩していると、下から尾白の声が聞こえてきた。

安全を考えれば尾白の言葉は正しい。

でも、折角のお祭りなのだ。縮こまっては楽しくない。勿論勝ちにはいってるが、それとこれとはまた別の問題。

 

「もちっ!こんな面白い時に、黙って見てるなんて勿体ない!盛大に茶化しに行ってくるぜべいべー!」

「その気持ちになるのが分からない!」

 

空高くから見下ろす二つの騎馬。

氷と爆発が渦巻くそこに、最後のハチマキがある。

得点表を見たが現在ポイントを持っているのは三チームだけ。私と、かっちゃんと紅白饅頭の三チームだ。

他のハチマキは全部奪い取った。私が。

 

ハチマキ持ちのB組らしき奴が愚かにも私の個性を真似っこしてきたので、練度の差をハチマキを奪う事で見せつけ、その上で真っ向からボコボコにしてやった。気絶するまで殴った。

一人変な雰囲気が出てる面倒臭そうな奴がいたけど、そいつのも問答無用で取ってある。何故かブドウのポイントも持っていたのでラッキーだった。なんかほざいてたけど、取り合う理由がないので無視した。

 

「ニコちゃん!もうじき射程圏内だよ!!」

 

お茶子の方を見れば目的地に着く寸前の所まで来ていた。

 

「いや、いけるだけ行って!合図出すまで前進!!」

「うん!分かった!皆!!」

 

お茶子達が前へ進む速度があがる。

 

「2位の人ー!ジェットパックのガスの残りは大丈夫ですか!メーターで確認して針が赤でなければ最大出力で一発は保証しますけどー!」

 

言われた通りに確認すれば、胸元についているメーターは黄の赤の間を指していた。

 

「赤と黄ー!」

「ギリギリでぶちかませる筈です!やっちゃって下さい!!」

「あいさー!」

 

一発分を保証された所で掲示板の時間を確認すれば、残り30秒をきった所だった。私は下にいる尾白に準備の合図を送る。

 

「発目さん、足のこれって、どうやるんだっけ!?」

「思いっきり踏み込んで下さい!レッツスパイクです!!」

 

尾白が踏み込んだ瞬間、尾白の足元につけられていた金属の杭が地面に深々と突き刺さるのが見えた。

それを合図に全員が尾白の尻尾を支えるように掴む。

 

「ニコちゃん!合図頂戴ね!思いっきり引っ張るから!!」

「最大出力で引き上げますよ!だから、ドッ可愛いベイビーの勇姿、大企業の皆様に見せつけちゃって下さい!」

「こっちは任せろ!折角行くんだっ、全部持ってこい緑谷!!」

 

皆の声援を受けた私は、手元のスイッチを押した。

騎馬戦最後の大勝負へ向けた、それを。

 

「双虎、いっきまーす!!」

 

 



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調子に乗ると碌な事がありません。でも調子に乗ると楽しいので、乗れる時は乗りまくります!それが例え、後悔することになろうとも!の巻き

騎馬戦、おわりぃぃーー!


「轟さん!ラスト30秒です!堪えて!」

 

八百万の声に焦りが浮かんだ。

飯田レシプロで1000万のハチマキを取る事は出来たが、それから始まった爆豪の怒濤の攻めに耐えきる余力が殆ど残って無かったからだ。

飯田はレシプロの反動で通常歩行のみ、上鳴は序盤での連続放電でキャパオーバー、八百万も体力と脂質の大半を消費済み。

それである以上、俺が堪えなければいけないのだが、それがあまりに難易度の高い事だった。

 

 

汗が爆発する爆豪の個性は、当然その汗の量により威力が増減する。つまりは体を動かせば動かす程、その威力が増すスロースターターな能力ということだ。

 

それは俺の冷やす個性とは真逆の特性。

俺の個性は初撃から最大出力を発揮出来る反面、使えば使う程威力が落ちる。更には個性発動時に起こる冷気で体温が低下し、それに伴って身体能力も著しく低下してしまう。

言うなれば、短期制圧型の個性という事だ。

 

正面からやり合えば、相性はけして悪くはない。

爆豪のエンジンが掛かる前に倒してしまえば良いのだから。だが、一度その機会を逃せば俺の勝機は限りなく薄くなる。そう今の状態が正にそれだ。

 

「舐めてっからだっ、紅白野郎!!」

 

爆撃と掌底の連打の中、爆豪の声が響いてきた。

声につられて視線を動かせば爆豪の火がつきそうなギラついた目が俺を見つめていた。

 

「勝つ!?ッザケンな!!半分しか使わねぇで、何寝言ほざいてやがる!!テメェみてぇな中途半端野郎に、出来る訳ねぇだろうがっ!!」

 

「なんだとっ・・・!」

 

爆豪の言葉に肌が、左が疼いた。

咄嗟に溢れ出ようとしたソレを抑えたが、完全には抑えきれず熱を帯びてしまったのが分かった。

 

「轟くん!それはっ━━」

「飯田、前向いてろ来るぞ・・・!」

 

間髪入れずに爆豪の右の掌底が飛んできた。

凍らせようとしたが、爆破され思うように止められない。

 

「っは!!左は使わねぇんじゃなかったのか!?アア!?だから中途半端野郎なんだ、テメェは!!」

 

爆豪の攻撃へ転ずる腕の回転が加速してきた。

始めの頃と比べものにならない速度と威力。

圧倒的なまでの手数の多さ。

 

嫌でも分かった。

それらが俺の防御を上回り始めてきた事を。

 

不意に爆豪の掌底がガードをすり抜け左肩を叩いた。爆音と共に衝撃が走る。前騎馬の飯田にも衝撃が届き、騎馬全体が揺れる。

 

「どうしたよ!!半端野郎!!勝つんじゃねぇのか!?半分でよぉ!!」

「てめぇ・・・!!」

 

腹が立った。

どうしようもなく、腹が立った。

元から言動の荒いこいつに良い印象はなかったが、左の事をついてくるこいつに言い知れない怒りが沸いていくのを感じた。

 

何も知らねぇくせに。

あいつの事も、母さんの事も、何も知らねぇくせに。

知ったような口を叩きやがって、と。

 

爆豪の攻撃を右手で受け止め凍らせる。

一瞬動きを止められたが、個性の使いすぎで氷結の性能が落ちていたのか爆破され簡単に逃げられた。

 

「威力落ちてんぞ!!ガス切れかよ!!」

 

爆豪の返しの一撃でガードが弾ける。

直後、爆撃ががら空きの腹にぶちこまれた。

胃がひっくり返るような一撃に、呼吸が止まる。

 

その間も爆豪は止まる事なく、体を弓のように引き絞った構えをとってきた。

今まで以上の一撃が来る事を瞬時に理解し、かわせない今の状態を考えて耐える為に歯を喰い縛った。

 

「全力も出せねぇクソ雑魚ならっ!あいつに関わんな!!俺もっ!!あいつもっ!!持てるもん、全部使ってっ!!それでもっ、足りねぇから血ヘド吐いて足掻いてんだっ!!それに勝つだぁ!?ッザケンなァ!!」

 

爆音が鳴る。

衝撃が空気を震わす。

 

加速された掌底が視界に入った。

 

「ナメクジ根性の半端野郎はっ!!黙って死んどけやぁ!!!!」

 

「轟さんっ!!」

 

爆豪の掌底が顔面に入る寸前、八百万の出した金属板が割り込んできた。掌底が叩きこまれた金属板は直後の爆破で吹き飛び防ぎ切れなかった爆風に煽られたが、必殺と思われる攻撃の直撃を免れただけで十分過ぎた。

 

「ちっ!!邪魔すんな!!変態女!!」

「へっ!?変態!?」

 

爆豪の言葉に八百万が動揺を見せた。

そしてその一瞬の隙を見計らったように、芦戸の溶解液が八百万の足元を溶かしてきた。注意しようとしたが爆豪の爆撃で声がかき消され、それも無駄に終る。

 

次の瞬間、八百万が足を滑らせ騎馬全体のバランスが崩れた。

 

「かみな━━━」

「させねぇよ!!!」

 

爆豪の爆撃が上鳴に放たれた。

突然の攻撃に上鳴が白目を剥く。

悪質な崩しは反則に当たるが、爆破の煙幕に隠れ判定がない。

 

「今度こそ、死ねや!!!」

「爆豪っ・・・!!!」

 

防御が間に合わないと思った俺は、気がつけばソレに手を伸ばしていた。

爆豪の首に下げられていたハチマキだ。

 

爆豪の首元ハチマキを取るのと同時に、爆豪の手の中に1000万ポイントのハチマキが握られる。

取り返そうと手を伸ばしたが、爆破で弾かれた。

 

「轟くん!!時間がっ!!」

 

飯田の声が響く。

 

『残り十五秒!!』

 

アナウンスの声が響く。

俺は━━━

 

 

 

 

 

 

 

「やほ!」

 

 

━━━爆豪に伸ばしかけた手を止めた。

 

視線が突然現れた緑谷に向く。

場違いなほど眩しい笑顔と、差し向けられた掌。

 

一瞬時が止まったかのような錯覚を覚え━━━間髪入れずに手元のハチマキを拳ごと凍らせた。

 

直後手元のハチマキが拳ごと引き寄せられた。

それは爆豪も同様で、その手に握られたハチマキが緑谷の方へ引かれているのが見えた。

 

「━━━っは!!すぐ調子に乗りやがる!!馬鹿が!」

 

爆豪がハチマキを爆発させた。威力を抑えたのか木っ端微塵にはならず、ボロボロのハチマキが手元に残る。

そしてその瞬間、強く引き寄せられていたハチマキが若干弱々しく垂れるのが見えた。

 

『10!!』

 

「テメェの個性の弱点なんざ、知ってんだよ!!瞬間的な形質の変化に弱ぇぇって事はよ!!」

 

俺にしてきた様に、緑谷に向かって爆豪が空を駆けた。

 

「っ!?引けぇい!者共━━っ!?」

「わりぃな!緑谷!!」

 

緑谷の肩に瀬呂のテープが張り付いていたのが見えた。

戻ろうとする緑谷の体がその場に止まる。

 

『5!!』

 

「双虎ぉっ!!」

「うわぁぁぁ!?こっちくんな変態!!」

 

『4!!』

 

爆豪の手が緑谷のハチマキに伸びた。

咄嗟に手を払おうとした緑谷だが、テープが張り付いてるせいかバランスが崩れていてまともに防御が出来ていない。

 

『3!!』

 

 

テープが強度の限界を超え音を立てて切れた。

それと同時に足元のワイヤーに引かれ、騎馬へと戻っていく緑谷の額にハチマキは無い。

騎馬へと引き戻される爆豪の手の中に、俺からとったハチマキ以外のもう一つが握られていた。

 

 

『2!!』

 

 

「━━━っそ!覚えとけよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

『1!!』

 

 

 

 

 

 

「━━━っ!!!!」

『TIME UP!!』

 

 

終了の瞬間、爆豪は手にしたハチマキを握り締めて、口許を僅かに歪ませた。

 

目に見えた喜びの感情はその一瞬だけ。

だが、それがいやに眩しく映った。

 

 

 

ただ守る事しか出来なかった俺とは違い、最後の最後まで戦う事を考え続けた爆豪。

 

その爆豪が恐らく最後に手にしたであろう何かが、ひどく羨ましく思えた。

 



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休憩時間に限って湧いてくる余計な事をしたくなる気持ちを圧し殺して仮眠を取ろうとすると、どうしても余計な事をしたくなるのはなんでだろうね?え?手に握ったスマホはなんだって、今まさになんだよ!の巻き

物間くんは悪くないや!悪いのは作者なんや!物間くんがよく分からない子だからって、好き勝手にやったからなんや!
だから、嫌わないであげてぇぇぇぇ((((;゜Д゜)))!


ロケット横バンジーでかっちゃんと紅白饅頭ぷぎゃーしてやろうぜ大作戦━━━━失敗。

 

私はその事実に打ちのめされ、控え室でふて寝した。

お茶子が心配そうにこっちを見てるが、今は返す言葉がない。流石に落ち込んでいる。

頑張った上での失敗はやはり堪える。

 

「ニコちゃん・・・取られたんは、取られたんけど。2位通過だよ?もう立ち直ろ?私も尾白くんも気にしてへんし。それに発目さんも『良いプレゼンになりましたー』って喜んどったし、ね?」

「しょんぼりん」

「・・・ニコちゃん、本当はそんなに落ち込んでへんやろ」

 

失礼な、とても落ち込んでいる。

お茶子なら分かってくれると思ったのに残念だ。

 

「お昼休憩なくなるよ?出店も混んでくるし、お昼買いにいくなら今いかんと━━━」

「お茶子!焼きそば買いにいこっ!!」

「うん、それでこそニコちゃんや」

 

お茶子とお買い物に行こうとすると梅雨ちゃんが声を掛けてきた。話を聞けば梅雨ちゃんもお昼を買いにいくそうだ。折角なので三人でお昼を買いに出掛ける。

 

 

「それにしても、緑谷ちゃん凄いわね。騎馬戦、轟ちゃんと爆豪ちゃんを除いたら全部のハチマキ持ってたんじゃない?」

「ふぁふぇ!」

「緑谷ちゃん、口に何か入れてる時は無理してお返事返してくれなくて良いわよ」

「ふぁふ!」

 

「結局そのまま返事しとる。あかんってば・・・あ、ほら、食べかすついとるーもぅ!女の子なんやから、ちゃんとせんとあかんよ!」

「ふぁふぃ」

 

三人でお喋りしながら楽しく歩いていると、B組の面々を見掛けた。私がボコボコにした物真似野郎と騎馬をしてた面白B組一味だ。

気さくな私は焼きそばをモキュモキュさせながら「ふぁ」と優しく挨拶した。

何故かメチャクチャ驚かれた。

 

「A組の緑谷!?なぜこんな所に!?」

「あれでもまだやり足り無かったってのかよ!?」

「物間!頼んだ!」

「円場!?ちょっ!押すなって!?」

 

どん、と押し出された物真似野郎が私の前にやってきた。物真似野郎は私の顔を見て、頬を引くつかせる。

しっつれいな。

 

物真似野郎は深呼吸を一つした後、皮肉げな笑みを浮かべてこっちを見てきた。

 

「ふっ。君のような肉体言語しか介さない野蛮人が同じヒーロー科で在籍してるなんて恥ずかしい限りだよ。クラスが別れてるのがせめてもの救いだね。しかし雄英も何を考えてこんな生徒を入れたのやら。理解に苦しむね。━━━ああ、そうだ。一ついいかい?今回は勝ちを譲ったけど、これが僕らの全てだと思わない事だ。たった一度ヴィランと対峙したくらいで偉そうにふんぞり返━━━っこほぉはっ!?」

「「「物間ーーー!!!」」」

 

悪口を言ってきたので喉をエイヤってしてやった。

多分喧嘩を売ってきたのだろうから、間違った返しではない筈だ。

喧嘩するときは大体こんなで始まるし。

 

「━━ん」

 

焼きそばを飲み込み、他の奴等の様子を見る。

まったく動きなし。

 

他のメンツが戦おうとしない以上、ボス格の物真似野郎を倒した私の勝ちだ。なので正当な報酬を求め掌を差し出した。

そしたら、なんかきょとんとされた。ん?

 

「?・・・迷惑料、渡す。OK?」

「「「普通にかつあげされた!?」」」

 

正当な報酬を要求したら断られた。

私の貴重な時間をつかって喧嘩相手をして差し上げたんだから、払うのは当然だと思うのだけども。

と、思ってたら、お茶子と梅雨ちゃんに肩ポンされた。

 

「それはあかん、ニコちゃん」

「緑谷ちゃん、駄目よ」

 

駄目だった。

 

「「「━━━っ、て、天使達がいる・・・!!」」」

 

やかましいわ。

そこに私も入ってるんだろうな。おい。

 

まぁ、なにがともあれ、二人に止められては仕方ない。

それなら普通の女子高生らしくいこう。

そう思って優しく提案してあげる。

 

「じゃぁ、奢って」

 

「結局金をむしりとる気だぞっ・・・!起きてくれ、物間ー!」

「こ、こぇ!女子こぇぇよぉ!うちの女子もこんなんなのかなぁ?!」

「夢見さしてくれぇぇぇ!!」

 

何故か膝をついたり、震えたりと芸人のようなリアクションをしてくる面白B組一味。

その姿に触発されたように、物真似野郎が立ち上がった。なんか小さい声で喉いたいとか言ってる。あれ、泣いてる?・・・ないな。大丈夫そうだ。目尻が赤いけど、大丈夫だろ。

 

「━━━━━ああ、嫌だ嫌だ。これだから言語を介さない野蛮人は嫌なんだ。なんだい栄えあるヒーロー科生徒がかつあげかい?信じられないね。優秀なA組ではそんな事を推奨してるのかい?後ろの二人も可愛い顔して何をしてるのか分かったものじゃないなぁ?ん、あれれ?ああ、ごめんごめん。よく見たらそんなに大した顔してないね。ひとりはもっさりしてるし、なんか全体的に太いなぁ。あれ?ひとりはよく見たらカエルじゃないか。女の子なのかなぁ、どちらかと言えばメス━━━」

 

「「「物間!?」」」

 

背後から変な気配がしたので振り返る。

そこには笑顔でゴーサインを出す二人がいた。

 

「ニコちゃん、ええんとちゃうかな?」

「庇ったのが間違ってたわ、緑谷ちゃん」

 

ゴーサインが出た。

 

「物間の馬鹿!容姿は駄目だろ!てか、俺のカエルちゃんに謝れ!!全力で謝れぇ!!」

「味方まで削りやがって!━━━っしね!!」

「お前の財布からだせよ!!クソ間!!」

 

 

「ええ!?なんで!?お前らが僕を盾にするからっ!えっ!?そういう事言えって事だろ!?頑張ったろ!?」

 

「「「やりすぎなんだよ!!」」」

 

「じゃぁお前らが言えよー!言ってみろよー!!あの暴力女、本当、いきなり手出してくるんだぞ!!僕だって怖いんだからな!?直球投げたら殴られるかもしれないから、ああやって変化球放るしか出来ないんだよ!あの恐怖が分かったやつから文句を言えよ!!」

 

本当なんだこいつら、ごちゃごちゃと。

なんでも良いから、出すものを出しなさいよ。

ちゃっちゃと。

 

喧嘩がただで出来ると思ってんのか?あれも時間と労力を沢山使うんだぞ。授業料払ったり、お詫びに奢ったり普通するだろ。かっちゃんは毎回するぞ。

というか、可愛い女の子に奢るのは男子高校生にとって至福の喜びだろうが、甘んじて受けろ。誉れだろ。

 

さぁ、遠慮なんていらない、好きに奢ると良い━━━こら、逃げんな!!私の個性から逃げられると思うなよ!!おまえらぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

それからなんやかんやあった後、私らは物間一味から快く奢って貰った沢山の食べ物の包みを抱え、これまた快く奢って貰ったクレープを三人でモキュモキュしながら賑わう出店周りを散策した。

 

すると仮設食堂の所で百達を見掛けた。

よく見るとなんかA組女子が集結してる。

はて?

 

「何してんの?」

「あっ、緑谷さん、ちょうど良い所に!」

 

話を聞くと包帯先生から、午後は女子全員で応援合戦をするらしい的な事を言われたそうだ。

・・・チアガールで。

 

大事な事なので二回言います、チアガールで。

マジか。

 

 

それで今はチア衣装を作る話をしていたのだとか・・・。

 

「バックれようかな・・・」

 

「逃がしませんわ!緑谷さん!」

「ウチらだけとか、ないから!」

 

右腕を百に、左腕を耳朗ちゃんに掴まれ━━━

 

「ニコちゃん逃がさんよー」

 

威嚇する熊みたいなポーズのお茶子に逃走ルートを抑えられ━━━

 

「頑張りましょ、緑谷ちゃん」

「あはは、まぁ、がんばろ?」

「やったりますかー!」

 

━━━━梅雨ちゃんとあしどん、葉隠に無情の肩ポンをされた。

 

「うぇぇ」

 

結論。

逃げられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっ、サイドテール女子」

「あ、A組の・・・緑谷だっけ?何してんの?」

 

大人しくサイズを測られていると、見たことあるサイドテールが目の前を通ったので声を掛けた。応援合戦するというのに着替えてないのが気になったのだ。

 

「応援合戦するんでしょ?チアで。B組はやらないの?」

「・・・え?応援合戦?で、チア!?はっ!?何それ!!聞いてないんだけど!!本当!?」

 

いや、知らないけども。

本当なんじゃないのかなぁ、知らないけど。

そもそも私が聞いた訳じゃないからね。

 

「百、本当?」

「ええ、確かに伺いました。相澤先生からの言伝てだと。合理的虚偽をよくお使いになられる先生ですけれど、こういったイベントで戯れ言はおっしゃらない方ですし・・・」

「だって」

 

「マジかー参ったなぁー。さっきブラド先生に会った時は何も言ってなかったのに・・・忘れてたのかな?というか、そもそも今から衣装とか揃えらんないし━━連絡して、皆集めて、それから着替えて・・・間に合わないよなぁ・・・」

 

頭を悩ませるサイドテールに、「でしたら━━」と百が口を開いた。

 

「━━━お時間もないようですし、私がお作りしますわ。デザイン自体は頭に入っていますから、サイズを教えて頂ければ、直ぐに複製可能です」

「良いの?少なくとも、今日は私ら敵だし・・・それに創造だっけ?その個性を使うのだって対価があるんでしょ?」

「ええ、勿論です。ですが、同じ学舎でヒーローを志す者同士、困った時はお互い様というものではありませんか?」

「・・・っか、そうだよね。ごめん、私ちょっと感じ悪かったかも。今から皆にサイズ聞いて見るから、その、頼める?」

「ええ、勿論です!お任せを!」

 

こうしてB組のチア衣装を作る事を引き受けた百は、恐らく過去最速の最高品質でチア衣装を産み出していった。ABで見分けがつくように赤と青で色分けし、デザインに変化までつける手の込みよう。絶好調な百。

多分頼られたのが嬉しかったのだと思う。顔見れば分かる。そういう顔してるもん。凄いはりきってたもんね。良かったね、百。

 

百が間に合わなければ着ずにすんだのに、とか、少しも思ってないよ。少しもね?うふふふー。

 

 

 

散らばっていたB組女子も集まり、AB女子が順番にどんどん更衣室に入って着替えていく。更衣室を出てきた皆はチアっチアである。全員チアっチアである。

よく恥ずかしげもなく着れるな皆、と素直な感想が頭に浮かぶ。

 

まぁ、そんな私もチアっチアなのだが。

 

おいおい、何この短いスカート。パンツ丸見えじゃん。反則だよ反則。今日は見せパン穿いてないってのに、どうすんのよコレ。

 

と、相談したら百が見せパンもくれた。

こういう優しさはノーセンキューしたい。

え、いや、はくよ?はくけどね?

 

はぁ。

 

 

 

 

 

・・・そういえば、かっちゃん見てないな。どこ行ってんだろ。

 

折角だから奢って貰おうとは思ったのになぁ。

代わりを見つけたから良いものを。

 

むぅー?

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「それでもお前は、俺が間違ってると思うか・・・?」

 

左を使わないと決めた経緯を一通り話した俺に、爆豪が不快そうに眉間へ皺を寄せた。

想像はつく『どうして俺に話したのか』そんな所だろう。

 

「半端野郎、んなこと━━━」

「悪い、爆豪。別に何か言って欲しかった訳じゃねぇ。ただ、聞いて欲しかっただけだ。答えが欲しい訳じゃねぇんだ。━━━俺も本気だって事、知ってて欲しくてな・・・」

 

答えはずっと前から決まってる。

だから、誰かに聞いて欲しかった。知って欲しかった。

それだけだった。

 

「お前は気にいらないだろうが、俺は右の力だけで勝ちにいく。さっき言ったように、別に舐めてる訳じゃねぇ」

「それが舐めてるっつってんだろぉが!!」

「舐めてねぇ。それしかねぇんだ。あの時、俺のここが醜いと悲しんでたお母さんに報いる、あの糞親父の積み上げてきた全てを否定出来る、それが出来るたった一つの方法なんだよ。━━━お前にとってくだらなくても、俺にとっては、それが全てなんだよ」

 

だから、爆豪。

これだけ、言わせてくれ。

 

「いつか俺は、右だけで糞親父を超えて、あのオールマイトを超えて、ナンバーワンヒーローになる。だからこんな所で躓く訳にはいかねぇ━━━」

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━お前にも勝つぞ、爆豪」

 

 

 

俺はお前みたいに、緑谷みたいにはなれない。

あんな眩しいモノにはなれない。

なる訳にはいかないんだよ。

 

 

 

そんな資格、もう持ってねぇから・・・。

 

 

 

だから、せめて勝たせて貰う。

 

何に換えても。

 



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漫画のトーナメントってありがちだけど好きなんだよね。分かってても燃えるというか、ね。まぁ、それが自分の事となると、話は別なんですけどね。の巻き

トーナメント戦が始まるそうですやでヽ(・∀・)ノ
燃えるよね、トーナメント。
ありがち過ぎるけど。


「いぇぇーーーーい!!」

「「「「「OH!YEAAA!!」」」」」

 

 

『何してんだ、緑谷』

 

 

昼休憩も終わり午後の部。

チア集団と化したA・B組女子と共に、本場のチアガールに雑ざって適当な振り付けで楽しく踊っていると、包帯先生からアナウンスがきた。

多分、恥ずかしがって踊らない他の生徒達に対して文句があるのだろう。

 

分かる。

 

ほら見ろっ!皆!怒られたぞ!耳朗ちゃん!恥ずかしがってないで!ほら顔あげて!いちにっいちにっ!

足あげてぇ!はい!はい!ポンポン振って!

そうだよ!良い感じだ!可愛いよお茶子!

良い腰つきだ、サイドテ!!踊り子になれるよ!

え?なに!?あしどんは大丈夫!そのままいこう!ダンスの種類完全に違うけど、そのままでいこう!

 

ん?なに、アメリカンガール?

んん?あいむどんとすぴーくじゃぱにーず!のんのん!ワカラナーイ!あ、立てば良いの?天辺に?いいの?乗る乗る!

 

ピラミッドの上に乗って良いと言うので、お茶子に軽くして貰って天辺に飛び乗った。

なんかこっちに合わせてくれるらしいので格好よくポーズを決めろ的な事を言われた━━━気がする。

 

━━ので、右手を大きく突き上げて左手を腰に当てて叫んでやった。

 

「へい!!!!」

「「「「YEAAAA!!」」」」

 

『おい、誰か、馬鹿をあそこから引き摺り降ろせ』

 

 

 

 

 

 

 

 

包帯先生やミッドナイト先生から話を聞いて判明した。

どうやらチアガールはブドウと上鳴の策略だったらしい。

 

それを聞いた百が酷く落ち込んでしまった。

可哀想なほど落ち込んでしまった。

もう掛ける言葉もない。どんまい。

 

てか、許すまじ。

ブドウと上鳴。

 

落ち込む百を皆に任せ、私は百に代わりB組の被害者代表に謝りにいった。

 

「という訳らしいから、サイドテごめんね」

「あー良いよ。今更だし。それにそっちも被害者でしょ?八百万だよね?気にしないで良いって言っといて。それにほら、お互い割りと楽しんだんじゃない?」

「まぁね。ピラミッドの上登れたし」

「それはあんただけだから・・・よくあの輪に交じって行く気になったな」

「呼ばれたからねぇ」

「呼ばれても普通いかないから」

 

そういって苦笑いするサイドテと取り合えずバイバイして皆の所に戻るとかっちゃんが凄い顔してこっち見てた。人を殺す目だ、そう思った。

 

「やほ、かっちゃん。どこ行ってたの?奢って貰おうとは思ってたのに」

「直ぐそれかよ!クソがっ!つか、なんだその格好はよ!!馬鹿かっ!!」

 

私は自分の服を見直した。

確かにスカートは短いし露出も多いけど、馬鹿な格好という程でもないと思うんだが・・・?かっちゃんのセンスは分からん。寧ろ普通に可愛くない?可愛いでしょ。いや、可愛い(確信)。

 

ちょっとポーズをとってみた。

うむ、これでいけてるやろ。

どやぁー。

 

かっちゃんに私の可愛さをみせつけてやったら、顔面に上着を叩きつけられた。

解せぬ。

 

「いつまでも馬鹿なかっこしてんじゃねぇ!!目障りだっ、ボケぇ!!」

「酷い」

 

目障りとか、こいつ乙女心をなんだと思ってるのか。

こう褒めるとか、褒めるとか、褒めるとかないのだろうか。普通に考えて。

ガラスハートの双虎にゃん、マジしょんぼりん。

 

大人しくかっちゃんから渡された上着を着込むと、いつもの「けっ」を頂いた。

はいはい、すいませんですねぇ。お目汚しでござんした、ござんしたぁー。

 

 

 

 

「爆豪のやつ、またナチュラルに上着渡すなぁ。不覚にもカッコよく見えちゃったよ」

「だねぇ。それを普通に着ちゃうニコちゃんも大概だよね!アオハルが吹き荒れてるよー!」

「わぁー!梅雨ちゃん!わぁーー!」

「気持ちは分かるから揺らさないで、お茶子ちゃん」

 

 

「ヤオモモー元気出してー面白い物が見れるよー」

「どうして私は・・・うぅ」

 

 

 

 

 

それからミッドナイト先生より個人戦最終種目の内容が発表された。

最終種目はトーナメント方式で行われる一対一の個性ありきのガチバトル。つまり喧嘩である。

 

勝ったな(確信)。

 

皆の話を聞いてると最終種目は毎年サシのやりあいらしい。切島と瀬呂がなんか熱く語ってた。

へぇ。

 

トーナメントの組み合わせを決めるのはくじ引き。

1位通過チームから順に引いていくとの事で、一番は騎手のかっちゃんだった。それから切島、瀬呂、あしどんの順番でくじが引かれていく。

 

次に2位通過チームである私らの番になった。

話し合いの結果、私、尾白、発目、お茶子の順番でくじを引く。「残り物には福がある!」と、お茶子は鼻息荒くくじを引いていた。その姿があまりに可愛いかったので、戻ってきたお茶子の頭を撫で撫でしたのは言うまでもない。

福、あるといいねぇ。

 

最後のチームである轟の所は、騎手の轟、眼鏡、百、上鳴の順番だった。百を悲しませた元凶の一人上鳴と目があったので、親指で首をかっ切るジェスチャーをしてあげた。凄くびびってた。

 

全員がくじを引き終わり、対戦相手の発表となった所でミッドナイト先生から負け犬達に嬉しい追加報告があった。トーナメント出場者追加の報告だ。

 

騎馬戦では元々上位4チームの勝ち抜けが約束されていたのだが、私が片っ端からハチマキを奪ってやったので4位は実質存在しなくなってしまった。ハチマキないやつら、皆4位だもんね。多いわ。

そんな訳で先生方で協議した結果、特例として2名をトーナメントに組み込む事が決定したという。

 

特別参加者はこの後のレクリエーションの成績上位2名から選出されるらしい。勿論、トーナメント出場の資格を持っているのは騎馬戦出場者のみだ。

 

 

「取り合えず、組はこうなりました!!」

 

 

ミッドナイト先生の掛け声と共に電子掲示板に表示された対戦組み合わせ表。私の名前は1位を暗示するかのように、一番左端にあった。しかも一回戦シード枠。勝ったな(確信)。

 

「ん?」

「あ!」

 

私の隣に尾白の名前があった。

 

「・・・一回勝っても緑谷か」

 

なんか凄く嫌そうな顔された。しつれいな。

尾白の対戦相手は空白となっている所から、レクリエーション次第なのだろう。

まぁ、なんにせよ、言うことは決まってる。

 

「私の優勝を阻むなら、容赦はしないからね。尻尾もぐぞ、こら」

「冗談抜きで本当にもがれそうなんだよなぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

お茶子も私同様別グループのシードだったのだが、二回戦でかっちゃんと当たりそうな予感ビンビンの所だったので福があったのかは分からない。

なくな、お茶子。きっと良いことあるから。

 

 



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サボってていいと言うのでサボりますが、それで本当に良いのでしょうか!?ねぇ、先生!問題は!問題は本当にないんでしょうか!?え、あ、はい、大人しくしときます!!の巻き

燃え尽きたぜ・・・真っ白にな・・・・・・・

ジョォォォォォォォォ(゜ロ゜)!!!

そんな気持ち、今。


事実上、敗者復活戦となった午後の部レクリエーション。騎馬戦敗退組はやる気と熱意にたぎっていた。

 

当然その中には我らがA組女子ーズもいるので応援しようとポンポンを持ってスタジアムの端の方で待機していたのだが、女子達から応援はしなくて良いとはっきり言われてしまった。何を仕出かすのか分からなくて気が気じゃないから、寧ろ大人しくしててくれた方がよっぽど応援になるから、だそうだ。

解せぬ。

 

まぁ、包帯先生にも呼び出されて「レクには参加せず最終種目開始まで大人しくしてろっ」とのお叱りを受けたのでそうするけどもさ。・・・するけどもさ。

 

本当に応援いらにゃんちゅー?

あ、はい。大人しくしときまーす。

ちぇっ。

 

 

 

やることが無くなった私は着替えるのも面倒臭かったのでかっちゃんの上着借りっぱのまま、用意された観客席で不貞腐れながら一人ポップコーンしてた。

ムシャクシャでムシャムシャである。ムシャムシャ・・・やはりポップコーンはキャラメルが至高。おかしいな・・・こんなに美味しいのにどうして世界は平和にならないのだろう、こんなに美味しいのに・・・。

糖分に幸あれ。

 

「緑谷さん、お隣宜しいかしら?」

「━━ん?おお、百。いいよー」

「お邪魔します」

 

一人感慨に耽ってると百が隣の席にやってきた。

さっきお昼前にお裾分けした、大量の食べ物を全部抱えて。

十中八九、脂質補給タイムだろう。

 

「レクでないの?あしどんもお茶子も、待つのも暇だからっていっちゃったけど」

「ええ、私は遠慮させて頂きました。本選までの間に、少しでも脂質を補給しませんといけませんから。衣装を作った事もそうですけど、騎馬戦では大分消耗してしまいまして・・・」

 

そう言われるとおっぱいのサイズが一回り小さくなってる気がする。

 

「そいっ」

「きゃ!?」

 

試しに揉んでみたら小さかった。

いや、それでも十分デカいんだけどさ?

 

「緑谷さん!?いきなりなんですの!?」

「いやぁ、おっぱいが小さくなってる気がして。そこも減るんだと思ってさ」

「ま、まぁ。バストを構成しているのは殆どが脂質ですし・・・必然的には、使い過ぎれば、まぁ」

「脂質とればまた大きくなるんだよね?いつも同じくらいのサイズだし。てか、個性使う度に増減すんのって大変じゃない?ブラとかどうしてんの?」

「そ、それは、その、既製品はあまり。出来るだけ伸縮性の高いものを自分で作ってますわ。それでもサイズが合わなくなりましたら、パットを幾つか盛って・・・って、何を言わせますの!?」

 

ガタッ、と後ろから音がした。

なんだろうと振り返れば、後ろの席で瀬呂と尾白が顔を背けた状態のまま前屈みになってた。

何がどうした、とは聞かないでおいてやろう。

 

「はっ!?瀬呂さんに尾白さん!?あ、その、い、今の話聞いてて━━━」

 

百の動揺する声に、瀬呂と尾白は顔をこちらに向けた。清々しい程に白々しい、晴れ晴れしさ溢れる笑顔がそこにはあった。

 

「おい、尾白。お前何か知ってるか?」

「え?いや、俺にはなんの事だか」

 

「そう、ですか。良かったです・・・」

 

百の安堵する顔を見て直感した。

きっと私達三人は同じ事を思っただろうと。

モモチョロ、と。

 

それから少しして二人の背筋が伸びた頃、私は改めて話し掛けた。

 

「てか、尾白。よく私の前にこれたな。フリフリさせよってからに、もいだろかー」

「もがないでくれよ。まだ戦ってもいないのに」

 

そしたら絶対私が有利になれるのに・・・。

そんな話をしてると、尾白の隣にいた瀬呂がニヤニヤしだした。

 

「もぐもがないって・・・なんだ、尾白。緑谷とそういう仲になったのか?爆豪おしのけて?」

「瀬呂、その冗談本気で止めろよ。面白くないからな。爆豪に代わって、俺が殴るからな」

「そ、そんなに怖い顔すんなよ!?どんだけ命の危機感じてんだよ?ジョーダン、ジョーダン」

 

尾白、かっちゃんに何かしたのか。

 

「それはそうと、緑谷が一人でいるとは思わなかったな。旦那どうした」

「旦那?」

「爆豪の事だよ。新妻様」

 

私は無言で瀬呂のファニーボーンにアッパーを叩き込んだ。割りと強めに。

痛みに転げ回る瀬呂の足を掴み、ささっと極める。最近仕入れた双虎にゃん108の必殺技、スコーピオンデスロックである。

 

「あだだだだだだ!!?タップ、タップ!!タップだってば!ちょっ、やめてっ!だ、誰かロープくれぇぇぇ!!」

 

「良かったじゃないか瀬呂。女子と触れあえて」

 

「ごめん、ごめんってば!!尾白っ!俺が悪かった!!だから助けてくれぇ!!!」

 

なんだ、尾白。こやつを助ける気か。

いい度胸だ!同じ技を掛けて貰えると思うなよ!!

お前にはもっとドギツイのを━━━あ、いいの?助けなくて?そっか。なら良いけど。

 

「尾白ぉぉぉぉぉ!!ヘルプぅ、ヘルプぅみー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある条件を対価に瀬呂を解放した私は、暇だったのでかっちゃんを探す事にした。そのまま皆の競技を見てても良かったんだけど、うずうずしたから止めておいた。

 

こういうイベントは始まるまでがクソつまらないけど、始まってしまうと楽しくていけない。それに自由参加とか、私を喜ばせにきてるとしか思えない仕様。

この世の全てをそこに置いてきたオジサンが、1位をくれてやると処刑台の上で囁いてる気がする。

 

まぁ、そんな甘い誘惑に乗っかったら最後、包帯先生にしこたま怒られるからやらないけどね。夏休みの件も白紙にされるかも知れないし。

 

 

 

 

道行く人に「不機嫌そうな爆発頭見ませんでしたか?」と聞いて回ったら直ぐに見つかった。何故か聞く度に暖かい目で見られて少し困惑したが、まぁ見つかったのだから特に文句はない。

 

ベンチでぼーとしてるかっちゃんの背後に忍び寄って、思いっきり抱きついてやる。かなりびっくりしたのか、「おおっ!?」と変な声出してきた。

 

「かっちゃん、なーにしてんのー!暇だから構ってーー」

「ああっ!?・・・っは、てめぇかよ。んだよ?」

「ん?いや、特に用はないけど?」

 

なんだろ、機嫌悪そ。

 

余計な事言うと無駄に怒鳴られる気がしたのでかっちゃんの隣にお口チャックしたまま座った。

なんか言いたげだけど、多分自分からは言わないだろうから聞いてあげようと思う。

優しいな私。女神だなきっと。

 

「どした?」

「んでもねぇ。つか、なんでてめぇは着替えてねぇんだよ。さっさと、上着返せや」

「ん?ああ、面倒臭くて。てか、これなら返すよ、普通に」

「着てろ、馬鹿」

 

返せと言ったり、着てろと言ったり。

お前は私をどうしたいんだ。

はぁ、まったく。

 

特にやる事もないのでかっちゃんと一緒にぼけーと空を眺めてたら、「おい」と声を掛けられた。視線を向ければ珍しく怒ってないかっちゃんと目があった。

 

「本当にどした?」

「大した事じゃねぇ。・・・昼、紅白野郎と話した」

「そうなんだ」

「ふざけた事抜かしやがった」

「そっか」

 

何を言われたか知らないけど、かっちゃんが悩む姿は珍しい。本当に。

こんな姿、もうずっと見てない。

 

「・・・それが気に食わなかったんだ?」

「ああ」

 

そう言ってそっぽ向いたかっちゃんを見て、でも怒れなかったんだろうな、と思う。自分でもどうしたら良いか分からなくて、だからこうして悩んでるんだろうと。

 

かっちゃんは口悪いし態度もあれだけど、ただ乱暴なだけじゃない。そうじゃなければ、私もこんなに長く一緒にいたりしない。

 

「・・・かっちゃん、膝貸してーー」

「は、はぁ!?」

 

狼狽えるかっちゃんの膝に無理矢理頭をおいた。

気持ちのいい陽気だからお昼寝したくなったのだ。

硬い膝だけど、まぁ贅沢は言うまいよ。

 

「お、おい、馬鹿っ、降りやがれ!」

「ふふっ、照れるな、照れるな」

「照れてねぇ!!」

 

そう怒鳴っても無理矢理どかそうとしたりしない。

どかそうとすればどかせるのに、本当に素直じゃない。

素直に鼻の下でも伸ばしてれば良いのだ。私ほどの美少女に膝枕なんて、そうそう出来ないんだから。

 

なんとかどかそうと揺すってくるかっちゃんの手を掴まえて、私はかっちゃんを見上げた。

 

「━━ねぇ、かっちゃん?」

「━━━ぁ?」

「私はね、かっちゃんの事好きだよ?」

「!!??っ、ぁっ!?は!?」

「人としてぇ」

「・・・・」

 

かっちゃんの間の抜けた顔が見えて思わず笑ってしまう。眉間にしわを寄せてないかっちゃんとか、違和感が凄い。

 

 

だから、いつも通りに戻してあげようと思う。

 

 

 

「かっちゃんは口悪いし━━━」

「てめぇに言われる筋合いはねぇ」

 

「態度がくそだし━━━━」

「人の事言えた義理かよ」

 

「何かと切れてて面倒臭いけどさ━━」

「うっせぇ」

 

 

 

 

「━━でもね、私はかっちゃん好きだよ」

 

 

 

 

 

 

「かっちゃんの強い言葉、好きだよ」

 

 

 

「かっちゃんのがむしゃらな所、好きだよ」

 

 

 

「メチャクチャだけど、聞いてるとね、見てるとね、頑張ろーって思えるんだぁ」

 

 

 

「だから大丈夫だよ」

 

 

 

「かっちゃんはかっちゃんのままで」

 

 

 

「頑張って言葉にしなくて大丈夫だよ。きっと大事なことは、ちゃんと伝わるから」

 

 

「いますぐじゃなくて、大丈夫だよ。轟はね、思ってるよりずっと強い人だから。ちゃんと気づける人だから。かっちゃんの気持ち、いつかちゃんと分かってくれるから」

 

 

かっちゃんの少しゴツゴツした手を触りながら、私は目を閉じた。

膝の暖かさとか、陽気のポカポカで、いい感じに眠たくなってきたから。

 

 

 

「━━だからね、大丈夫だよ」

 

 

 

「━━いつもみたいに自信満々に笑って、強い言葉で怒鳴って、思う通りにしてて」

 

 

 

 

 

「━━ちゃんと伝わるから」

 

 

 

 

 

 

「━━誰も分かってなくても、私はちゃんと分かってるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━ちゃんと聞いてるから、ちゃんと見てるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━だから大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━いつも、みたいに・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・好き勝手に言って、勝手に寝んな。てめぇのそういう所が、俺は嫌いなんだよ。双虎」

 

 



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喧嘩に勝つ最良の手段はいつだって、先手をうってボコボコにすることだぉ!コツ?コツはね、敵より早くボコボコにことだぉ!他?ないね!の巻き

前書きなんて、毎回毎回、そんな書けへんわ。
え、もう書いてるって━━━あ、ホンマや!!

それよか来週のヒロアカ、漫画もアニメもお休みってどういうことやねん!おれの、唯一の楽しみがぁぁぁぁ!!エンデヴァァァァ!!


気持ちよくお昼寝した私が目を覚ますと、鬼のような顔したかっちゃんと冷や汗をかいた切島の顔があった。

私の寝込みでも襲いにきて爆発系守護聖獣カツキングに阻まれたのかな?と思って聞いてみると、「そんなに命知らずじゃねぇわ!!」と怒られた。

 

なんでも最終種目が始まっても戻ってこない私達を探しにきてくれたのだとか。

なんだ、普通にイイヤツかよ。かっちゃん、仲良くするんだぞ。

 

スタジアムに戻りながら切島と話してると面白い話が出た。特別枠に滑り込んできた、二人の参加者の話だ。

 

「普通科?」

「そっ。一人は常闇があがってきたんだけどよ、もう一人ってのが普通科の奴だったんだよ。名前は確か・・・し、し、しん・・・そうっ!心操だ、心操!」

 

聞いた事ない名前だ。

誰だか知らん。

 

てっきりB組の誰が入ってくるのかと思ってた。

サイドテとか、妖怪髪の毛ツル女とか、なんやかんや物真似野郎とか。

 

「・・・緑谷、その顔だと全然覚えてねぇな」

「む?」

「心操って奴の事だよ。体育祭の話聞いた日あったろ?ほら、緑谷達が女子会して、俺達が緑谷に喫茶店に押し込まれた日」

「女子会したのは覚えてるけど、切島達を喫茶店に押し込んだのは知らないな」

「都合のいい記憶だけ残すなよ!!俺ら被害者一同は忘れてねぇからな!!」

 

切島がオコだ。

なんか知らないけど、私が悪い系にされてる。

 

「で?それがなんの関係あんの?」

「ぬるっと飛ばすなよ。まぁ、良いか。話進まねぇし」

 

詳しく話を聞いてくとなんとなく思い出してきた。

確かあの時、女子会にいこうとしたら廊下がジラン騒ぎを聞き付けた知らん生徒で一杯になってて、適当にあしらった気がする。

 

「あの時に最初にお前に声かけた奴いたろ?ヒーロー科に文句ありそうなさ。幻滅するとか、何とか言ってたやつ」

「いや、知らにゃい」

「可愛く言っても騙されないからな。いたんだよ、そこに」

 

いたらしい。

欠片も覚えてないけど。

 

「それが参加すんだ?個性は?」

「それ、聞くか?一応ライバルなんだけど、俺ら。まぁいいけどよ。聞かれた所で教えらんねぇし」

 

教えらんねぇ?

 

ふとかっちゃんを見ると私と同じ事を思ったみたいで眉間にしわを寄せていた。

だよねぇ。

 

切島の口振りから心操とやらは個性が不明のようだ。

覚えている限りのレクの内容を考えれば、無個性で上位に食い込むのは無理。だから何らかの個性は持っていて使ってはいるんだろうけど・・・これだけの衆人環視の中、未だにその尻尾を掴ませてないならかなり厄介な奴だという事になる。

 

目に見えて効果が現れない系は、面倒な場合が多いのだ。

 

「それが尾白とあたるの?それともあしどん?」

「尾白。芦戸とあたんのは常闇」

 

尾白かぁ。

個性使われる前に速攻したら勝てそうだけど、どうだろ。なんやかんや、尾白は甘い所があるからなぁ。

 

「んじゃま、試合終わる前に帰ろっか?見てみたいし」

「だな。もしかしたら俺と戦う相手かもしんねぇーし、しっかり観察しとかねぇーとな」

 

そう言って笑う切島の横で、かっちゃんが切島を殺さんばかりに睨んでた。

 

おう、切島よ。気を付けろ、隣に勝鬼さんがいるぞ。勝己じゃなくて、怒りで進化した勝鬼さんがいるぞ。

切島が心操と戦おうとしたら、第一回戦の相手である勝鬼さんに勝つのが大前提。それなのに勝鬼さんに一切触れずそれを言うって事は、『お前なんざ眼中にないぞ』ってお隣でギラギラしてる爆発妖怪に言ってるのと同義だぞ。

無駄に煽ると後が怖いぞ、キリシーマ。

 

ていうか、心操が切島にあたるとしたら決勝。

つまりは私が負ける事も前提なんだけど?

もしやあれか?私にも喧嘩売ってきてる?ん?

 

そこら辺をかっちゃんと切島に問い詰めたら、「悪かったってば!」と泣かれた。許した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタジアムに辿り着くと歓声が鳴り響いていた。

試合会場を見れば百と上鳴が挨拶を交わしてる姿がある。これから始まるみたいだ。

 

━━━うん、第一試合?

そりゃ、終わっとるじゃろ。

 

そう思って電子掲示板のトーナメント表を見れば、やっぱり尾白は負けていた。ほらね、そうだと思った。

 

 

 

百達の試合には興味あったけど、取り合えず確認するべき物を確認した私は更衣室へと向かった。もうじきかっちゃんも試合の準備とかで忙しくなるから、先に上着を返しておこうと思ったのだ。

 

二人を更衣室前に待たせ、私はパパっと更衣室でダサジャージに着替る。長々と借りてたかっちゃんの上着と違ってサイズぴったり、ダボつかなくて実に着やすい。正に私の為に用意された一品。ダサくても着やすさは抜群だ。

でも冷房の効いたロッカールームに仕舞ってあったからかジャージはちょっとヒンヤリしてて、温めずに着たからゾゾゾッてなった。これ、苦手。

 

世の中にはそのヒンヤリ感が好きだという人もいるみたいだけど、私にはその感覚は理解出来ない。

個人的に着替えは人肌くらいがベストと思う。

冬場はおこた温度がいい。

 

ふと脱いだ上着が気になって手にとってみた。

私のぬくさが残ったヌクヌク上着。

その温さに思わず顔を埋めた。

 

ぬくい・・・かっちゃんは良いなぁ。

このヒンヤリ感を味合わなくて済むんだから。

 

ヌクヌクしてると、少し癪な気分になってきた。

どうして私だけヒンヤリせねばいかんのだと。

なので、せめてもの抵抗として上着を冷房の前にさらしてやった。

さぁ、貴様もヒンヤリに背筋を震わせるといい!!

 

そうして手渡した上着だが、かっちゃんはそれを着ることなく肩掛けしやがった。

ヒンヤリ作戦失敗である。・・・返して欲しい、冷房にさらした五分間を。

 

心の中で勘のいいかっちゃんに舌打ちしてると、切島と目が合った。

 

「━━━緑谷、多分ちげぇぞ」

「?何が?」

 

え、何が?

 

 

 

 

 

 

 

着替え終えた私はかっちゃんと切島を引き連れて観客席を目指した。途中かっちゃんにジュースとお菓子を買って貰って観戦準備万端である。

そうしてA組に用意された観客席エリアまでいくと、食い入るように試合を見つめる皆の姿があった。

轟と瀬呂の姿は見えない。次の試合だから控え室で準備してるんだろうと思う。

 

「やほ、お茶子、梅雨ちゃん」

 

「あっ、ニコちゃん!どこいっとったん!?尾白くんの試合終わっちゃったよ!」

「探してたのよ、皆で」

 

「ごめんね、少しね。あ、尾白のはこの試合終わったら教えて」

「それはええけど・・・」

 

梅雨ちゃんの隣が空いていたのでそのまま座らせて貰い、かっちゃんから奢って貰ったジュースとお菓子を抱え試合観賞と洒落混む。

 

「どっちが優勢?って、聞くまでもないけど」

「けろっ。モモちゃんよ」

 

モモちゃん、だと・・・!?

梅雨ちゃんが、なんか仲良くなっとる!いつのまに!

・・・いや、今はまぁ良いか。

 

梅雨ちゃんから試合会場に視線を移せば、棒を武器にした見慣れない白い服を着た百と、逃げ回りながら電撃を放つ上鳴の姿があった。

 

上鳴の放つ電撃は幾度も百に当たるが、百はまったく動じないで追い掛けている。恐らく百の着てるあの白い服は絶縁効果があるんだろう。

 

電撃が通じない以上、上鳴が百に勝てる可能性はゼロに近い。もし勝機があるとすれば、電撃を警戒して絶縁服を着てる百をなんとか追い詰め、武器追加の動きを引き出すしかない。その際僅かに生まれる肌を露出する瞬間を狙って放電すれば、ワンチャンくらいはあるとは思う。

 

けど、それは、そもそもの地力が、百を上回ってないと出来ない芸当。

 

喧嘩慣れしてる私なら兎も角、上鳴みたいな個性に頼りきった戦闘スタイルを持つ奴に出来る訳がない。

よりにもよって百はもう武器持ってるし。

 

そう思って眺めてたら、上鳴が百に棒で殴られた。

結構なフルスイング。

痛そう。

 

それから少しして、上鳴が場外に叩き出されて試合は終了した。

 

ミッドナイト先生からその戦いへの意欲の高さを見込まれ、勝因を語るようにマイクを持たされた百はたった一言だけ語った。

 

 

 

「負けるわけにはいきませんでした。友達に捧げる贖罪でしたから!!」

 

 

 

うん、まだ背負ってたのか・・・。

 

 



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閑話なんて久しぶりや、いつ以来やろ。ひぃふぅみぃ・・・あれやな、言うほど前でもないな。の閑話の巻き

生きるって大変(´・ω・`)

あと、はよ、エンデヴァーの続きはよ。エンデヴァーの内面が書けないやろ。
あと、映画、はよ。体育祭終わったら、アレ挟んで、夏休みが来てまう、きてまうんや。
続き書けへんやろがい(;・ω・)

8月はやくこねぇーかなぁぁぁぁ(゜ロ゜)



『アレは貴様を超えるヒーローにする。そうするべく、つくった仔だ』

 

 

設けられた観客席に座りながら、私は昼休憩にエンデヴァーから聞いた話を思い出していた。

 

ヒーローランキング2。

フレイムヒーロー エンデヴァー。

 

ずっと私と共に一時代を戦ってきたヒーローだ。

その活躍ぶりはよく知っていて、私は誰よりも彼の実力を信頼していた。幾度も共に戦った。彼は私との共闘はよく拒んできたが、それでも必要とあれば必ず力を貸してくれる頼りになる存在だと思っていた。

 

だから私個人が彼に好かれていないのは分かっていても、私は彼をヒーローとして尊敬し認めていた。

 

だから、彼に聞いたのだ。

私には出来なかった事を成し遂げた彼に。

ヒーローを━━━いや、轟 焦凍という優秀な子供を育てたあげた、彼の教育方法を。

 

そして、漸く気づいた。

 

ずっと以前に、私が気づくべきだった物に。

 

 

 

 

彼が抱えてきた、灼熱の思いを。

ナンバーワンへの渇望。

燻り続けてきた末の執念。

 

自らの体を、思いを、心を。

持ち得る全てを焼き尽くしてもなお足りぬ。

ヒーローの頂という座への、異常なまでの執着。

 

 

「━━━追い込んできたのは、私か」

 

 

肩を並べていたと思っていた。

けれど彼は、一度もそうは思わなかったのだろう。

あの横顔を見て初めて知った。

 

私の功績が。

私の人気が。

ヒーローとして私が築きあげてきた何もかもが、彼を追い詰めていったのだと。

 

 

恐らく彼だけではない。

育つ筈だったヒーロー達が、何人もその足を止めただろう。私が築きあげてきた、それを見て。

 

目に見えて犯罪は減った。

笑顔は増えていった。

けれど、失っていった者達がいた。

 

それは倒すべき悪だけではない。

友になる筈だった存在まで、私は失っていたのだ。

 

シンボルが不必要だったとは思わない。

それは今も信じている。

だが、やり方があったのではないかと、今なら思う。

 

 

「エンデヴァー、君は━━━」

 

 

━━━彼に何を背負わせるつもりなんだ。

 

 

 

 

 

 

「━━オールマイトさん?何か言いました?」

 

思わず溢した言葉に、隣で観戦していた13号が不思議そうに首を傾げてきた。

いや、宇宙服的なヘルメット被ってて本当のところ首を傾げているのか分からないんだけども。

 

「いや、なんでもないよ。それより、さっきの試合は良かった。上鳴少年の速攻にきちんと対処した八百万少女の判断力と胆力には目を見張るものがあったね」

 

そう話を変えれば、13号は感慨深そうに「確かに」と口にした。

 

「そうですねぇ。あれほどの電光を前にして、よく恐れずに判断出来たと思います。多少取り乱してもおかしくはないと思ったのですが・・・いやはや、生徒達の成長は侮れません。やはり、若さゆえなのでしょうか」

 

若さゆえか・・・。

 

思い返せば、私の若い頃も大概だったな。

少なくとも、生徒達に偉そうに言える事はない。

どれもこれも無茶の上に出た結果ばかり。

 

「オールマイトさんも若い頃は?」

「ははっ、まぁね。少なくとも、彼等に誇れるような事はしてないさ。無茶ばかりでね。今でこそ褒められるが、昔はよく叱られたものさ」

「オールマイトさんが叱られる・・・?想像出来ないなぁ」

「おいおい、私だってヤングな時代があったんだぜ?叱られもするさ。まぁ、緑谷少女ほどでなかった事は胸を張って言えるけどね」

「それは、ははは。そうでしょうね。あの子は叱られてない方が珍しいですから。でも━━━」

 

言葉を区切った13号は会場へと視線を向けた。

その先にあったのはA組の観客席。

すぐ、何を見ているのか分かった。

 

「━━━僕は、あの子嫌いではないですよ」

 

意外な言葉に、私は言葉に詰まった。

正直教師陣からは良い評価を受けているとは思わなかったのだ。

 

すると黙った私を見て「あえ!?一生徒として、ですよ!!僕教師ですからね!!」と焦った弁解が出てきた。

 

「・・・あ、いや、そういう事を考えていた訳じゃないよ。ただ、意外に思ってね。ほら、彼女はよく授業の邪魔をしてるじゃないか。だから、どちらかと言えば嫌われてるものとばかり」

「ふふ、はっきり言いますねぇ。━━━まあ、そうですね。稀に、この子を何とか出来ないだろうか、と本気で思う事ありますよ」

「だろ?」

「ふふ、ええ。でもそれだけですから」

 

13号は顎付近に手をあて考えた後、人差し指を立てた。

 

「人柄、なんですかね。彼女の周りはいつも賑やかです。他の先生方はどうかは知りませんが、僕は一人くらいああいう子がいても良いと思いますよ。クラスも明るくなりますし」

「そう、かな」

「そうですよ。実際、ヒーロー科に在籍する生徒達は険悪とまでいかなくても、お互いをライバル視してギクシャクしたりするもんです。協調性は教えますが、それは馴れ合いをしろという訳ではないですからね。結局は商売敵。何度もぶつかるものです」

 

確かにそういうものだ。

これから社会に出ていく彼等に、夢以上に現実と向き合う方法を教えなくてはならない。

先達として、教師として。

 

「それなのに、彼女はよく笑ってます。周りもです。それを見て馬鹿だと思う人もいるかも知れません。何も考えていないだけだって。・・・でも僕はそうは思いません。あの日の彼女を見てれば、そうじゃない事が分かる筈です」

 

13号の指したソレに、私は恐怖に震える生徒達の姿が過った。

 

「彼女はちゃんと分かった上で、笑っていられるんです。僕はその強さが羨ましく、眩しいです」

「そうだろうか・・・」

「え?」

 

彼女は言っていた。

強くないのだと。

 

「一度じっくり話し合った事があったんだ」

「そうなんですねぇ」

「その時、彼女は確かに言ったんだよ。私は強くないのだと」

 

あの辛そうな顔を思い出す。

13号が何を言うのかと待っていると「そんなことですか」と呆気らかんとした答えが返ってきた。

私がどんな表情をしているか分からなかったが、13号の反応から相当に愉快な顔をしている事を察した。

 

「オールマイトさん、年頃の女の子の言葉を気にし過ぎですよ」

「そんな事はないと思うのだが・・・」

「気にし過ぎですよ。その言葉が本当だとしても、僕から見た彼女はやはり強い女子生徒ですよ?」

「それはどういう・・・?」

 

13号の言葉の意味が分からず不思議に思っていると、13号の隣から忍ぶような笑い声が聞こえてきた。

 

「スナイプさん!笑っちゃ駄目ですよ!」

「いや、済まない。天下のオールマイトが、女子生徒に振り回されてると思うと、ついな」

「全く!オールマイトさんは真剣なんですからね!」

「分かってるさ」

 

一頻り笑ったスナイプの目がこちらを向いた。

 

「オールマイトさん。彼女の言葉も、13号の言葉も、本当なんだという事ですよ」

「本当?」

「彼女が自分を強くないと思うのは間違っていないし、その彼女の姿を見て強さを感じる13号も間違っていないという事です。それは当然です、価値観がそもそも違うのだから」

 

私はそこで、漸く思い違いをしていた事に気づいた。

私は私の目で見たものすら疑ってしまっていたのだと。

 

「オールマイトさん。聞かせてくれないか。貴方が見た緑谷少女はどうだった?」

 

スナイプに言われ考えた。

 

「私は・・・ヒーローに相応しい子だと、そう思った。人の為に危険に飛び込める、優しい子だと」

「それで良いんですよ。人の内面なんて簡単には見えない。だから、最初は見たものを信じればいい。そして少しずつ彼等や彼女等と言葉を交わし知っていけば良い。オールマイトさんはその一歩目を踏んだ所なんですよ。それが彼女の全てじゃない」

 

スナイプの言葉は自然と私の中に染み込んでいった。

考えた事もなかった。結局私は、自分の事ばかりを見ていた。

13号はスナイプのその話を聞いて大きく頷いた。

 

「多感な年頃。間違った事も言うでしょう。歩み方が分からなくて迷う時があるでしょう」

 

「厳しい現実にまけて落ち込むこともあるでしょう。自分を見失って自暴になる時があるでしょう」

 

「オールマイトさん。そんな彼等彼女等を支えてあげるのが教師の役目なんですよ。教え導くなんて、大層な事しなくて良いんです。そうそう出来ませんから。・・・だから、せめて教えてあげるんです。僕達が見てきたモノを」

「私が見てきたモノを?」

 

「はい」と13号がうなづいた。

 

「教えてあげて下さい。一つでも。オールマイトさんが見てきたモノは、僕の言葉よりずっと意味がある筈です。だって貴方は、ここまで積み上げてきたじゃないですか」

 

そう言った13号の隣でスナイプが頬をかいた。

何処と無く照れ臭そうに見える。

 

「・・・こう言ってはなんですが、教員一年目の癖に一人で抱え込み過ぎですよ。ヒーローとしては尊敬しますが、教師としては半人前なんですから相談して下さい」

「はい!ヒーローとしてはまだまだですが、教師としてなら僕らは先輩ですから!任せて下さい!」

 

そう言ってくれる二人に、私は苦笑いが溢れてしまった。

 

 

「情けない所を見せてしまったな。恥ずかしい限りだ。頼むからここだけの話にしてくれないか?オールマイトが女子生徒一人教えられないと知られたら、お茶の間に顔が出せない」

 

「ふふふ、確かに!」

「それは違いないな」

 

おかしそうに笑う二人を眺めながら思った。

また見失ってしまう所だったと。

エンデヴァーの姿を見て反省したのはなんだったのかと。

 

こうして認めてくれる人達がいる。

私がやってきた事を間違ってないと言ってくれる人達がいる。

これも一つの答えだったのだ。

 

「彼女と話さなくてはいけないな」

 

もう、私の望みを伝える必要はない。

彼女はもう十分知っている。

だから、これからは、伝えていこう。

 

私の走ってきた道の話を。

彼女が思うような辛いだけでなかった、道の話を。

 

 

だが、今は━━━━━

 

 

 

 

『お待たせしました!!続きましては~こいつらだ!』

 

 

━━━不意にマイクの声が響き、私達は試合会場へと目を向けた。

そこにいたのは、私が今最も気にかけていた焦凍少年だった。

 

『優秀!!優秀なのに拭いきれぬその地味さは何だ!!ヒーロー科、瀬呂 範太!!』

 

瀬呂少年は顔をしかめた。

笑いどころというのは少し可哀想ではあるが、それに対した焦凍少年のクスリともしないどこか暗い表情が、脳裏に嫌な予感をよぎらせる。

 

『エンデヴァーを父親に持つサラブレットボーイ!!今回は成績イマイチだけど、実力は折紙つきだぜ!同じくヒーロー科、轟 焦凍!!』

 

歓声があがる中始まった試合。

動きがあったのはスタートを告げられた直後だった。

 

瀬呂少年の突然のテープによる捕縛。

そこから流れるように焦凍少年を振り回し場外を狙う。

それは素晴らしい動きだったと言える。

 

だが、私の視線はただ一点から離せなかった。

 

隣から聞こえる13号の驚きに満ちた声や、スナイプの感心するような声を聞きながら、私は焦凍少年の暗く淀んだ瞳から目が離せなかったのだ。

 

「━━━わりぃな」

 

口元の動きからその言葉を読んだ直後、異変は起きた。

 

一瞬で視界を覆い尽くす壁。

漂う冷気からそれが巨大な氷の塊である事を理解したのは、観客席から悲鳴が聞こえてからだった。

 

試合会場に巨大な氷柱。

そこに張り付くように凍らされている瀬呂少年。

その前に立つ無傷の焦凍少年。

 

圧勝だった。

 

会場に鳴り響く瀬呂少年に捧げられたドンマイコール。

それは笑いを誘うものだったろう。

現に私の耳にはそう言った声が聞こえてくる。

 

 

 

 

だと、言うのに。

 

焦凍少年の背中はあまりに寂し過ぎた。

 

瀬呂少年を捕らえている氷を左の炎で溶かす焦凍少年の横顔に、私は心の中で彼にもう一度問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

エンデヴァー。

君は彼に何を背負わせるつもりなのかと。

 

 



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トイレにある乙姫の音にびっくりしたのは私だけではないはずだ!あれって思いの外デカい音するよね!ん?だからどうしたって?どうもしないわ、このハゲ!の巻き

なんやかんや、今日も更新。
頑張るなぁ、俺。

こんなに頑張ってるなら、そろそろ衝撃のファーストブリッツくらい撃てへんやろか。

衝撃のぉぉぉぉ━━━━!!

(出なかった)


僕らの紅白饅頭が特大の氷を出したせいで会場は馬鹿にヒンヤリしてしまった。陽気に合わせて薄着をしてた人達は皆が皆温かい物を求めて売店にゴー。

私もそうしたかったのだが、それは出来なかった。

 

キンキンに冷えたジュースを飲んでた私にとって、その冷気の一撃はあまりに強力過ぎだのだ。

お腹のご機嫌はナナメ下どころか急降下、真っ逆さまである。

あの紅白饅頭は後で殴る。

 

私はグルグル鳴るお腹を押さえてお花摘みしにいった。

紅白饅頭への憎しみを抱えながら。

あの紅白饅頭は後で殴る。

 

 

 

「━━━━ふぅ、よい花摘であった」

 

憎しみ以外をスッキリさせてトイレを出ると、隣の男子便所からやたらとメラメラしたガチムチが現れた。

私は確信した、こいつはホモだと。

 

「━━━む?」

 

私に気づいたメラメラガチムチ。

訝しげにこちらを見てきた。

厭らしい目だった。

 

私は変態にあった時の最も正しい対処方法をとる事にした。こういう時にやることなんて決まっている。

ポケットから手早くスマホを出すとアドレス帳からその名前をクリックする。

 

「━━━━あ、包帯先生ですか?」

『・・・はぁ。どうした、緑谷。面倒ごとか?』

 

私はメラメラガチムチを頭の上から足先まで確認し、出来るだけ正確に包帯先生に伝える。

 

「私自身、こんな変な人見たことないんで、説明出来ないんですけど・・・」

『よく分からんが、だったら直ぐその場を離れろ』

「ガチムチでホモで黒タイツで放火魔なんですよ」

『・・・俺に電話してないで、直ぐ逃げろ馬鹿。何処だ、直ぐに近くのヒーローを向かわせる』

 

 

「おい、少女。その危ない会話を今すぐ止めろ。俺はヒーローだ」

 

ガチムチが自らをヒーローだとか言ってきた。

おいおい、嘘だろ?どう見ても燃えてる危ない黒タイツだよ?ホモじゃないの?変質者以外、なんだというの?

 

ホモの次の行動が分からず警戒していたのだが、隙をつかれてスマホをパクられた。通話中だというのに、なんて奴だ!マナーを知らないにもほどがある!!

 

「電話越しの誰か。誰だか知らんが、俺の声に聞き覚えはないか。エンデヴァーだ。馬鹿な真似はよせ」

『エンデヴァー?フレイムヒーローのエンデヴァーか?悪いがそれを鵜呑みにするほど我々は馬鹿ではないつもりでしてね。何か証明しては貰えませんか』

「ふん。なら、関係者用トイレAー2に人を寄越せ。その目で見れば文句もあるまい。それ以前に、監視カメラの画像を追えば分かるだろうが」

 

そう言ってメラメラガチムチは廊下を撮っていたと思われる監視カメラを見た。

 

それを見て私は思った。

監視カメラの位置を把握してるとか、この人絶対変な事する気だったに決まってるよ、と。

素直に思った。

 

『確認が取れました。うちの生徒がご迷惑をおかけしたようで。代わって貰えますか?』

「ふん」

 

メラメラガチムチに投げ渡されたスマホに、私はそっと耳を当てた。

 

『いい加減、有名ところのヒーローの顔くらい覚えろっ。大馬鹿。確かにエンデヴァーさんの顔はどちらかと言えばヴィラ━━━多少いかついが━━━』

 

「おい電話越しの貴様っ━━━」

 

『━━━れっきとしたヒーローだ。変質者の類いじゃない。いいな』

 

包帯先生も怪しいと思うんじゃないか。

やっぱり。

 

『━━まぁ、俺に電話した事は誉めておいてやる。よく警察に電話しなかった。成長したな、緑谷』

「いやぁ。えへへ」

 

珍しく包帯先生に褒められてしまった。

叱られてばかりだったから、地味に嬉しい。

変な事はするなと釘を刺され通話を切られたので、私はスマホをポッケにしまい観客席へと帰る事にした。

 

のだが、道をメラメラガチムチに遮られた。

 

「なんですか、ナンパですか?ロリコンですか?」

「そう邪険にしないで欲しいな。少し話がしたいだけさ。ヒーローとしてではない。轟焦凍の保護者としてな」

 

轟焦凍。

 

最初何を言ってるのか分からず、少し混乱した。

それでも少し考えれば理解出来た。

目の前の人が誰なのか。

 

「そう俺が━━━」

「紅白饅頭の養父さんですね?把握しました!」

「━━━そこでどうして実父が出てこない」

 

紅白饅頭の親とは思えないキレの良いツッコミ。

かっちゃんとはまた違った気持ちよさがある。

 

「いや、だって似てませんし?」

「似てるだろう・・・目元とかはよく」

「いや、全然似てませんよ。ちっとも、少しも、まったくもって」

「・・・ぬ、ぐぅ」

 

私の完全否定に、メラメラガチムチは言葉を詰まらせた。そこまで否定されると思っていなかったのだろう。

でも、私は本当の事しか言ってない。よって謝るつもりはない。

 

「・・・まぁ、良い。そんな事は些細な事だ」

 

まぁ、それで良いとご本人様が言うんですから?

ええ、勿論かまいませんけどね?うん。

 

「不躾な視線を平気でぶつけてくるな、君は」

「いやぁ、お褒めに預かり光栄です」

「褒めてはいない」

 

メラメラガチムチは溜息をつくと、私の目を見てきた。

正直嫌いな視線だ。厭らしいとは別の、品定めをするような、物を見るようなそんな視線。

 

警戒していると、メラメラガチムチの口角があがった。

 

「悪くはない、な。君の活躍は見させて貰ったよ。正に獅子奮迅の活躍。うちの焦凍とは大違いだ」

 

褒められている筈なのに癪に障る。

嫌な褒め方だ。

皮肉が籠ってても、包帯先生のがまだましだ。

 

「君も二つの個性を持っているんだろう。焦凍のそれとは少し違うかも知れんが、本質的なところはそう変わらない。実に君の戦い方は良い。考えつくされている。調子に乗る癖は直した方が良いだろうが、それをおいても素晴らしいものだった。二つの個性をきちんと使いこなせている━━━」

 

ニィっ、と。

メラメラガチムチが笑った。

 

「━━━是非とも、焦凍に見習わせたいくらいだ」

 

何を言いたいのか理解した。

この人が何をさせたいのか。

 

「で、なんですか?」

「あの子にとって、君はよい刺激になるだろう。同じように二つの個性を持ち、それを使いこなし戦う君の姿は。期待しているよ。君が焦凍の殻を破ってくれる、優秀な生徒である事を」

 

それだけ言うと私に背を向けて歩きだしたメラメラガチムチ。

 

「そいっ」

「━━っぐおっ!?」

 

私はその隙だらけの後頭部にドロップキックをお見舞いしてやった。

突然の攻撃にたたらを踏んだメラメラガチムチだったが、流石に現役ヒーローという事だけあって直ぐに体勢を整えこちらに身構えてきた。

目にはさっきは無かった殺気に近いものを感じる。

 

「小娘、なんのつもりだ・・・!」

「それはこっちの台詞だ、ハゲ」

「は、ハゲ!?俺はハゲとらん!!」

 

怒鳴るメラメラガチムチ、通称ハゲはその身を飾る炎を大きくした。

威嚇するかのような熱が頬に触れる。

 

このまま適当に煽っても良かったのだが、少々腹に据えかねるものがあったので、そのまま言っておこうと思う。

 

「ハゲてようが無かろうが、この際どうでも良い。このヅラハゲ」

「ハゲっ、何処を見て━━━」

「その空っぽの頭見てに決まってんでしょうが。何詰まってんの?カニ味噌?カニ味噌でも詰まってんの?茹でてやろうか!!」

 

言葉を詰まらせたハゲに言葉を返される前に続けた。

 

「私には分からないよ、紅白饅頭の気持ちは。なにも聞いてないから。でもね、分かるよ。苦しいんだって事くらい━━━」

 

それは、きっと言葉を交わしても分からないと思う。

形だけなら共感は出来るかも知れないけど、それだけだ。意味がない。

 

「・・・言いたい事はいっぱいあるけど、それを全部言ってたら疲れるし、第一あんたには理解出来ないと思うから言わないでおく」

「何をっ・・・!」

「でも、これだけは言っておくから━━━」

 

 

 

「━━━轟焦凍は、私が殴り飛ばしておいてあげる」

 

本気の本気で。

お腹を下された憎しみも込めて、渾身の力で。

 

 

 

 

「・・・そういうこと、らしいよ。子供達同士の事、大人が口を挟むのは野暮ってものだ。そうだろう、エンデヴァー」

 

嫌な声を聞いて振り返るとガチムチがいた。

ホモに挟まれるというアクシデントに私もう涙目。

厄日だと思う。お腹壊したり、虹を吐いたり。

 

ガチムチはハゲと私の間に割って入ってきた。

 

「オールマイト・・・!」

「感心しないな。うちの生徒に何をしようとしてるんだい?」

「・・・ちっ」

 

ガチムチの圧倒的ガチムチ力におされ、ハゲが背を向けた。逃げ帰るみたいだ、ざまぁ。

そのままいなくなるのを待っていると、その背中にガチムチが声をかけた。

 

「エンデヴァー。この子は私が見込んでここに連れてきた子だ。私の後継に育てようと思ってね」

「おほぅ!?何言ってんの、ガチムチ!?」

 

突然のガチムチの暴露に、冷や汗が吹き出た。

やらないと言ってるっていうのに!

 

「貴様が、後継だと?」

「私も人の子だからね。いつまでも現役ではいられない。当然考えるさ。でもね、私は少し考える事にしたよ」

「━━はぁ?」

 

ハゲの表情が歪んだ。

理解出来ないという顔。

っていうか、それは私もだけど。

 

「彼女がヒーローになるに相応しい子である考えは変わらない。けれどね、彼女には彼女の歩み方があると分かったからね」

 

ガチムチが私を見てきた。

昨日とは少し違う目で。

 

「難しいね、誰かを育てるというのは」

「さっきから何が言いたい?」

「別に大した話じゃないさ。同じ教育者として、愚痴を溢しただけ。それだけだよ」

「ふん、くだらん!!俺は行くぞ!!」

 

大股で廊下へと消えていったハゲを眺めながら、私はガチムチを横目で見た。

ガチムチは私の視線に気づくと返事をするように頷く。

 

「さっきの話は本当さ。後継の話は考え直すよ」

「止めたって言わないところが微妙なんですけど」

「それは、まぁ、少しくらい希望を持たせてくれてもいいだろう?やっぱり私は、君にこそ相応しいと思うからね。でも、もう言わないよ。君には君のやり方があるのだろう」

「ま、まぁ?」

 

そう言うと、ガチムチに頭を撫でられた。

 

「応援してるよ。緑谷少女」

「さいですか。てか、セクハラですよ」

「ははは、手厳しいな」

 

 

それからガチムチにセクハラの代償として大判焼きを奢って貰った。

皆の分も要求したら泣かれた。

 

それでも買わせたけど。

 

 



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負けワンコに構っている時間は私にはない!だから失せろ!ほら、骨やるから失せろ!なんだ、失せろと言ってるだろ!ほら、ボール投げてあげるから戻ってくるんじゃないぞ!とってこーい!の巻き

今日は更新しないと思っていただろう?
残念だったな!更新だ!
ふははははは!!ごふぁっ(゜ロ゜)

燃え尽きたぜぇ・・・。


はぁい、皆のスーパーハイグレードスペシャルアイドル緑谷双虎です。ハゲとの一悶着の後、観客席へ戻ってきた私が見たものは落ち込む尾白と、同じく落ち込む瀬呂だった。

元気出すように焼きたてホヤホヤの大判焼きを押し付け「元気だして、負けワンコ達(はぁと)」と声をかけたのだが、何故か泣かれた。そのせいでお茶子と梅雨ちゃんに軽く怒られた。解せぬ、可愛く言ったのに。

 

大判焼きを皆に配り終えた後は皆で試合観戦。

第三試合であるあしどんVS常闇を見守った。

途中までは大人しく見ていたのだが、常闇の圧勝という下馬評を覆したあしどんの熱い戦いで心がヒートになってしまう。

そのせいで我慢出来なくなった私は暇なB組女子達とポンポン持って応援した。包帯先生から怒られた。

 

結局試合は常闇の勝ちで終わったが、善戦したあしどんには沢山の拍手が送られた。きっと指名も来るだろう。良かったねぇ、あしどん。

 

 

第四試合は眼鏡VS発目。

内容はテレフォンショッピングだった。

ある意味発目が勝ったが、試合は眼鏡の勝ち。

そのあまりの試合の酷さに、瀬呂と尾白が心からの安堵を感じたのは眼鏡には言わないでおこうと思う。

この二人に同情されるとか、眼鏡が泣くわ。

あ、もしもし、発目?五番目のやつ頂戴。モニタしてあげるから、タダでおくれ。

 

 

第五試合はかっちゃんVS切島。

内容は一方的な爆破祭り、かっちゃんが勝った。

個性的な相性で短期決戦を挑んだ切島は間違いなく英断をしたと言える・・・けど、相手はあのかっちゃん。試合内容的に三枚くらい上手だった。

 

切島が勝つには時間をかけず懐に潜り込み、個性の強みを活かしてガチンコに持っていくしか無かったのだが、かっちゃんはその接近から許さなかったのだ。

エンジンを掛けておいたのか、初っぱなから特大の爆撃。その牽制を始まりに、中遠距離からの止まる事をしらない爆撃連発で切島は見事に完封された。

 

まぁ、ポンポン持って応援していた身としては?かっちゃんが勝って良かったんだけど・・・もうちょっと苦戦してくれても良いのにと思わずにはいられない。私は、こう、逆境に陥った所で、天上の女神たる私の声援を受けて覚醒して、新必殺技とか出して劇的に勝って欲しかったのだ。残念でならない。

 

━━━との事をお茶子に言ったら本気で嫌がられた。

 

「ニコちゃんが言うと洒落にならん。ホンマに覚醒しそうやもん。ちゅうか、ホンマに覚醒したとして・・・次戦うん、私やん。私、本気で嫌」

 

あ、そうだね。

めんご。

忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『お待たせしまくりましたぜ、エヴィバディー!!色々あったが!雄っ!!英っ!!体育祭っ!!一年の部、最終種目、第二回戦第一試合!!いよいよ始まるぜぇい!準備はOK!?俺はOKだぁっぜ、YEAAAAAA!!』

 

かっちゃんの荒らした試合会場をコンクリ先生が直した後、スタジアムにはラジオのおっちゃんの声が響き渡った。

 

『解説は相変わらずのクールガイ!!ミイラマンこと、イレイザーヘッドだぁー!!』

『俺、いるか。本当に━━━』

『さぁ、それじゃ選手の入場いっちゃうぜーー!!!』

『━━━きけよ』

 

包帯先生も大変だなぁ。

大人の厳しさを知った、春。

 

染々と包帯先生の苦労を思っていると、肩をちょんちょんされた。誰かって?勿論、隣の梅雨ちゃんだ。

 

「けろっ。緑谷ちゃん」

「どったの、梅雨ちゃんや」

「どったの、じゃないわ。二回戦第一試合って、緑谷ちゃんでしょ?いいのこんな所にいて」

 

・・・OH!そうだったにょ。

 

「てへぺろ!」

「てへぺろしとる場合ちゃうから!呼ばれる前にはよいって!!また相澤先生に怒られたいん!?」

 

『第一回戦をシードで通過!!障害物で断トツなのに二位通過!騎馬戦では手当たりしだいぶっ潰しておいて二位通過!!すげぇ記録と、馬鹿な記録が混同しまくりなダークホース!!今大会屈指のじゃじゃ馬娘え!!自称、最強無敵な超絶美少女!!ヒーロー科、緑谷双虎ぉぉぉ!!』

 

「誰が自称だぁ!!私はいたって最強無敵な超絶美少女だ、こらぁぁぁぁ!!」

「爆豪くんみたいに言うてる場合ちゃうから!!ほら、軽くするから、いって!!」

 

そう言ってお茶子がタッチしてきた。

お陰で私とってもカロリーヌ。

 

ひとっ飛びで試合会場のど真ん中へ天女の如く降り立つと、歓声が鳴り響き緑谷コールが起きた。

隠せない美少女オーラが吹き荒れたのだろう。

仕方なし。

 

私はミッドナイト先生に視線を送った。

マブダチなミッドナイト先生は直ぐにその視線の意味を直ぐに理解し、マイクを投げてくる。

私はそれを引き寄せる個性で華麗にキャッチ。

口元に近づけた。

 

「あげてこうかーー!!」

 

ワァァァァと歓声が一段と盛り上がった。

私のスターオーラが溢れまくっている。

流石産まれながらのスーパーアイドル、称えるがよい愚民共!!

 

「へいっ!ラジオ先生!ミュージックスタート!!」

『OK!それじゃ一曲、最高の奴を━━━だっ!?』

 

ラジオ先生の突然の悲鳴に会場が静まり返った。

私も思わず息を飲んだ。

察した。

 

『・・・緑谷、まだやるか』

「さっせん、したぁぁぁぁ!!!」

 

取り合えず土下寝したら『汚いから立て馬鹿』とお許しの言葉を頂けた。双虎にゃん、失敗だにゃん!━━━っぶねぇ。やばかった。包帯先生、ガチキレしてたよ。あれ。

 

 

 

会場がやんわりと暖かくなった頃あいを見計らい、ラジオ先生がもう一人の入場者の説明を始めた。

 

『誰がこいつがここにあがってくるのを予想出来た!?少なくとも、俺は予想外だったぜ!普通科、心操人使ぃぃぃ!!』

『短いな』

『ぶっちゃけ、よくわかんないぜこいつ!!』

『差別すんな』

 

会場から全身で歓声を浴びていると、「馬鹿面だな、あんた」というちゃちい挑発がきた。

言い返すのは簡単だったけど、こいつの事はみんなから聞いている。個性がどういう物かはっきりしないけど、こいつと相対したクラスメイトから事情を聞いて、言葉を交わしてから異変が起きた事は既に把握済み。

だから、話すつもりはない。

 

私の様子に気づいたのか、心操が顔を歪めた。

 

「━━━ちっ。やっぱり、騎馬戦の時に上がっておきたかったな。俺の個性は、タネが割れちまうと意味がねぇ」

 

そう悔しそうに言った心操に、私は少し同情した。

だから優しさを込めて━━━━人差し指を立てて頭につける。きょとんとする心操に向かってクルクルと指を回し、掌をパーにした。

 

双虎にゃん108の必殺技の一つ、お前の頭クルクルパーである。

 

数瞬の間をおいて、歯軋りする音が心操の方から聞こえてきた。冗談だったのに、思いっきり成功してしまった事実に双虎困惑。挑発に弱すぎるYO。

 

『そんじゃ早速始めて貰うぜ!!スタート!!』

 

ラジオ先生の声を合図に心操が駆け出してきた。

私を女と思って力押しにきたのかも知れない。

ふ、甘い、甘い、甘すぎる!ガトーショコラより甘い考えよ!!

 

私は向かってきた心操の顔面を右斜め下から拳で突き上げる。そう、右スマッシュである。

鈍い感触と共に心操の顔が痛みと衝撃で歪み、次の瞬間には背中から石畳に落ちた。

 

流石に一撃必殺とはいかず、鼻血を流しながら立ち上がる心操。私、ちょっと感心。根性あるじゃんね。

 

「くっそ、全然見えなかった!それが引き寄せる個性って奴かよ!良いよなぁ!!誂え向きの個性に生まれて!!あんたみたいな、顔と体しか魅力のない、馬鹿な人間だって、スターになれる!!」

 

よく分からない事を言いながら、心操は拳を掲げてフラフラになって向かってきた。全然脅威を感じないので、カウンターにラリアットしておく。

心操はまた石畳に背中を打ち付けた。

 

「━━━っそ!!くそっ!!こんな個性でさえなけりゃ!!俺は!!俺だって個性に恵まれてりゃこんなんじゃなかったんだ!!あんたみたいに恵まれたやつには、分からないだろうけどさ!!」

 

文句を言いながらフラフラになりながら立ち上がる心操の姿に、会場から何故かブーイングが起きた。

どうしたと思って周りを見渡せばおテレビなカメラとマイクが見えた。スクリーンに声ごと出ちゃってたみたいだ。

となれば心操の口の悪さにみんなオコなのだろうけど、なんでこの姿に何も思わないのか不思議だ。

 

「きけよ!ほら!これが俺だ!!こんな、こんなやり方でしか、あんたに勝てねぇ!!なのに、それも駄目って、どうすりゃ良いんだよ!!━━━言えよ!なんか、言えよ!!」

 

言ったら終わるので何も言わない。

代わりに手話を返しておいた。

 

「は、はぁ?手話なんてわかんねぇよ!!」

 

安心しろ。

私も分からん。

 

因みに気持ち的には、お前の母ちゃんデベソと送ってるつもりだ。

 

「くそ!馬鹿にしやがって!!」

 

伝わったやん。

ヤケクソ気味に向かってきた心操に、私は右脇腹へ回し蹴りをお見舞いし、体勢が崩れた所に左フックを顔面に叩き込み、ふらついた所に二度目の右スマッシュを叩き込む。

 

今度こそ効いたのか、心操の目が虚ろになる。

 

私はその隙を逃さず、心操の腕を掴み渾身の力を込めて場外へと投げ飛ばした。

 

空中をきりもみで飛んでいく心操。

私はきっと上手いこと着地して立ち向かってくるんだろうなと準備していたのだが、様子が変だった。

投げた心操からさっきまでのヤル気を感じなかったのだ。

 

不思議に思いながら見つめていると、地面に何度かバウンドしたと思ったら、呆気ないことにそのまま場外へと落ちていってしまった。

 

・・・おいおい。

私の見せ場は?

 

しん、と静まり返るスタジアム。

 

不意に視界の中に、私に手を向けるミッドナイト先生が入ってきた。

 

「緑谷さん、準決勝進出!!」

 

私の見せ場は!?

え、あれ、終わった!?終わった!?

本当に?本当に?れありー?

 

包帯先生にマイクで聞いたら『終わったから控え室に帰れ』と言われてしまった。

どうやら、私の初戦はそれで本当に終わったらしい。

 

え、ええ、えぇぇぇ・・・解せぬぅ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

『すげーな、心操!悪いことし放題じゃん』

 

誰でも悪用を最初に思い付く。

 

『私には使わないでねー』

 

そりゃそうだ、俺もそう思う。

 

『はは、よく言われるよ』

 

 

 

でも━━━━━━━

 

 

 

 

 

気がつくと熱気の冷めたスタジアムじゃなくて、静かな白い天井が見えた。クラクラする頭を擦りながら起き上がり辺りを見渡し、ここが医務室である事と負けた事を知った。

 

「おや、気づいたかい?」

 

声に顔をあげれば、リカバリーガールがそこにいた。

 

「は、はい」

「何処か痛い所はあるかい?結構強めに頭を打ち付けたみたいだからね。痺れとかは?」

 

自分の掌や足先の動かし、感覚を確かめる。

頭がクラクラする以外、問題はないような気がした。

 

「大丈夫です」

「そうかい。ま、何かあれば言うんだよ」

「はい、ありがとう御座います」

「おやおや、丁寧な言葉もちゃんと使える良い子じゃないか。あの子も怒る筈さね」

 

あの子という言葉に疑問が浮かんだ。

身に覚えは無かったから。

 

「あんたも、ヒーロー志望かい?」

「は、はい。一応」

「一応なんて括弧をつけなくて良いさね。夢があって結構だよ。頑張りな」

 

そう言われて心が痛んだ。

そんな実力も個性も持っていないから。

 

「そんな顔するもんじゃないよ。良い男が台無しさね」

「良い男ですか?はは、そんな事言われたのは初めてだな━━━━」

 

ポタっ、何かがシーツに落ちたのが見えた。

それは次々に頬から落ちてきていた。

手で触れてみて、漸く分かった。

それは、全部目から溢れでていたって事に。

 

「何処か痛い所があるのかい?」

 

リカバリーガールの声に目頭が熱くなっていった。

 

「違っ、違うんです。痛い所なんて、別に。ただ、俺も分からなくて、なんでこんな━━━」

 

考えていた訳じゃない。

ただ、不意に自分の口から何かが溢れでくる感覚がきて、それで気がついたら声に出していた。

 

「リカバリーガール。俺はヒーローにはなれませんよね」

 

リカバリーガールの暗い顔が見えた。

 

「個性も、こんなだし、弱いし、皆の前であんな事まで言って、でも、なりたかったんですよ。俺だって、ヒーローになりたかったんだ。でも、俺は、俺は━━━」

 

「あの子が言ってたよ、根性があるやつだってね」

 

再び出た言葉に、俺はリカバリーガールを見た。

 

「あんたは覚えてないかも知れないけど、あんたが担架で退場する時ね、酷いブーイングが飛んだらしいんだよ」

「それは・・・はは、仕方ないですよ。俺は。その」

「それに一番早く噛みついたのが、あんたと戦った緑谷だよ」

「っは、はぁ・・・?」

 

リカバリーガールは近くにあるテレビの電源を入れた。

録画していた映像を巻き戻し、あるところで再生を押した。それは丁度、俺が退場するシーンだった。

 

飛び交う罵声。

皆の好き勝手な言葉が、胸に突き刺さった。

辛かった、目指していたものと違いすぎる自分の姿を見るのが。

 

それでもリカバリーガールは俺の様子を窺いながらもじっとテレビ画面に視線を送り続ける。俺に見るように言うかのように。

 

『うるっさいわ!』

 

不意に緑谷の声が聞こえてきた。

カメラの映像が切り替わり、緑谷の姿が映し出される。

 

『ピーチクパーチク!!文句言っていいのは、私の本気の拳骨受けて立っていられる奴だけだ!!バーーカ!!お、やるのか!?やんのか、こらぁ!降りてこーい!私の見せ場をつくれこらぁ!』

 

凄い目茶苦茶な事言ってる緑谷に思わず笑いが溢れてしまった。正直、もっと良いこといってるのだと思っていた。リカバリーガールの様子を見て、勝手にそう思っていた。けれど、そこにいた緑谷は俺が体育祭で見てきた緑谷そのものだった。

 

『寧ろ褒めてやれぇ!私の本気の拳骨で起き上がってきたんだぞ!根性あるだろ!この私の超絶パンチに耐えたんだぞ!なにか、私のパンチが弱いと思ってんのか!?舐めんなぁ!━━━は、悪口?私も言ったわ!手話で!』

 

「あれ悪口のつもりだったのか・・・」

 

俺当たってたのか。

 

「ま、ここまでだね。この後CMが入ってる間にイレイザーヘッドに連れてかれたみたいでね」

「あいつ、馬鹿なんですかね」

「まぁ、馬鹿なんだろうね。でもね、わりとあんたの事は認めてるみたいだったよ。さっきも様子見にきたしね」

「様子、ですか?」

 

何をしにきたのだろうかとリカバリーガールの返答を待ったが、何故か返答が返ってこなかった。不思議に思ってると、呆れたような溜息と共に愚痴るように言った。

 

「なんでも『貧弱負け犬をディスりに来ました!』とさ。まったく言い方ってもんがあるだろうにさ。追い返しといてやったよ」

「それは、はは」

 

酷い。

そうとしか言えなかった。

でも、同情されるよりずっと嬉しかった。

わざわざそんな事を言って貰える関係でもなかったから。

 

「・・・それでもね、伝言を一つ預かっておいたよ。『体を鍛えてから出直せ、小僧』だってね。私にはね、あんたがヒーローになれるか分かりゃしないよ。・・・でも、覚えておきな。少なくとも一人、あんたがヒーローになれると思ってる子がいるのを」

 

続くリカバリーガールの言葉に、俺はまた目頭が熱くなった。

 

「あんたの本気、ちゃんと受け止めてくれる子もいるんだ。次、もっと頑張んな」

「・・・・・はい」

 

スタートラインはまだ見えない。

けれど、その日、その影が少しだけ見えたような気がした。

 



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辛いときのが多い人生だけど、その分やってくる幸せは格別です。だから、今は試練の時なのです。たえる時なのです。たえろ!たえろ!私!たえろぉぉぉ!頑張ったらきっと、あいつがアイス奢ってくれるぞ!の巻き

体育祭いよいよ終盤ですぅ。

長かったぜぇ(゜ロ゜)


実質の一試合目を終えた私は、控え室で暇をもて余していた。

 

暇をもて余してるなら外出すれば良いじゃないと思うだろうが、残念ながらそれは出来ない。包帯先生によって移動制限をされてしまったのだ。

私の動いていい範囲は精々がトイレとこの部屋の行き来くらい。途中にある控え室には立ち寄るなとの事。

立ち寄ったらどうなるんですかと聞いたら、一言「覚悟しておけ」と脅かされた。ブルブルである。

 

それでも暇なものは暇。

どうにか時間を潰そうと逆立ちの練習したり、アプリゲーしたり、今年の流行語大賞を予想したりしたのだが、直ぐに限界がきた。

なので素直に人を呼ぶ事にした。行ってはいけないと言われたが、人を来させてはいけないとは聞いてないからね。包帯先生、破れたり。

 

「あ、もしもし、かっちゃん?」

『試合前に掛けてくんじゃねぇ!!馬鹿か、てめぇはよ!!』

 

酷い。

傷ついたよ、私のハートは。

 

「それよりさ」

『無視すんじゃねぇ!!━━━で、なんだ!!』

「暇だから遊びにきて」

『━━━っざっけんなっ!!なんで試合前の俺が、てめぇの遊び相手になんなきゃいけねんだ、糞ボケがぁっ!!』

 

ギャンギャン吠えるかっちゃん。

それでも電話を切らない所はかっちゃんらしい。

文句言っても、ちゃんと聞いてくれる。ちょっと喧しいけど。

 

かっちゃんの負けドッグ的な鳴き声を聞きながら何を話そうかと考えていると、ドアがノックされた。

誰か激励にでも来たのかと思ったけど、今は紅白饅頭の試合最中。今大会一番の目玉とも言える紅白饅頭の戦いを見ないわけがない。となればクラスの誰かはない・・・と、言いたい所だけど一人心当たりがある。

 

「お茶子でしょ?いいよ」

『は?!丸顔━━━』

 

かっちゃんとの通話を切って待つと、いつもより暗い表情のお茶子が部屋に入ってきた。

 

「ごめん、いきなり。━━━れ?誰かと話しとったんちゃうん?」

「気にしないで良いよー。かっちゃんと電話してただけだから」

「あ、爆豪くんと。って、爆豪くんこんな時もニコちゃんに構うんやねぇ。もう、なんやろ・・・・付き合うてしまえばええのに」

 

お茶子の最後の方の言葉が聞き取れずリピート要請したけどあっさり拒否された。

何か聞き捨てならない事を言っていた気がするだけに、気になって仕方ない。でも、お茶子の顔を見て絶対に言わないんだろうなぁと思い、今回は諦める事にした。

次回はこうはいかんぞ、お茶子よ。

 

「━━━はぁ。ニコちゃんとこ来たのは間違った気ーするわ。そもそも、ニコちゃんは爆豪くんの味方やし」

 

おおう?

そんな事ないぞ、今はお茶子の味方だ。

味方アピールをするためにアルプス一万尺の構えをとれば、それに気づいたお茶子が手を取ってくれる。

 

一踊り終わる頃には、少しだけ顔に元気が戻っていた。

 

「あははっ!もうっ、ニコちゃん無理矢理過ぎるわ!でも、少し元気出てきた、ありがとぅ」

「ゆーあーうぇるかむ、お茶子。こんなんで良かったら百万回でもやったげるよ」

「百万回はええわ!腕もげてまうよ、てか、飽きるわ!」

 

クスクス笑うお茶子。

入ってきた時の暗さはもうない。

お茶子の様子を微笑ましく見ていると、お茶子が少し真剣な顔をしてきた。何か言おうとしてるので、お口チャックで見守る。

 

「・・・ねぇ、ニコちゃん。聞いて欲しい事があるの。ええ?」

「うん、聞くよ」

「あはは、即答て。・・・ありがと」

 

それから椅子に座ってお茶子の話を聞いた。

ヒーローを目指しているのはお金の為である事。

実家の仕事があまり上手くいってない事。

 

かっちゃんとの戦いの事。

 

 

「ニコちゃんに聞いて貰うんはちゃうと思ったんやけど・・・・・でも、やっぱりニコちゃんに聞いて貰いたかった。ごめん、こんな話して」

「いいよ、別に。暇してたし」

「ううん、ありがとぅ。本当に少しスッキリした」

 

そう言って大きく深呼吸したお茶子はゆっくりと立ち上がった。お茶子は天井を眺めながら、また口を開いた。

 

「今日な、一日ニコちゃんの事見て思った。ヒーローってこういう子がなるんやろなって」

「お茶子?」

「友達がそういうんになれるかも知れんのは嬉しいし、誇らしかったよ。でもね、少しだけ恥ずかしくなった」

 

横からだと見えないけど、お茶子の声が少しだけ震えてる気がした。

でも、それを指摘するつもりはない。

何か大切な事を言おうとしてるのに気づいたから。

 

「━━━私ね、私が恥ずかしかった。騎馬戦の時、勝つために頑張って策を考える姿とか、最後まで勝つことに必死になってたニコちゃん見て恥ずかしかった。何も考えてこんかった自分が。ニコちゃんに頼ってチーム組んだ事とか。全部」

 

「ヒーローになりたいんは、私やのに。私はあの時、頼ることしか考えてなかった」

 

ごめん、と小さく謝ったお茶子が目元を拭う。

実際お茶子の個性は猛威を振るったし、そんな事は全然ないんだけど、お茶子はそうは思えなかったみたいだ。

ここでそれを説明する事は出来るけど、お茶子が言ってる気持ちの問題は解決出来ないと思う。

だから、私からかける言葉はない。

 

今、私がしてあげられるのは、きっと聞いてあげる事。

そっと耳を傾ければお茶子の話はつづいた。

 

「私ね、子供の頃、ヒーローに憧れた。私が憧れたんは、戦うヒーローやなくて救助するヒーローやった。瓦礫とかあっという間にどかして、泣いてる人とかあっという間に助けてしまうん。だから私の個性がこの力だって知った時、凄く嬉しかった。私にもああいう風に誰かを助けれるって」

 

「勉強したよ、頑張って体も個性も鍛えたよ。でも分かってへんかった。ヒーローってなんなのか━━━」

 

お茶子の目が私を見た。

覚悟を決めた良い目だった。

 

「━━━私ね、ヒーローになりたい。ニコちゃんの隣にいても恥ずかしくない、そういうヒーローになりたい。だから、ごめん。私、爆豪くんに勝ってくるよ」

 

自信があって言ってる訳じゃない。

その証拠に顔はひきつってるし、手が少し震えてる。

味方なら心強いけど、敵としてのかっちゃんは私でも怖いから、その気持ちは痛いほど分かる。

 

だから、そのお茶子の姿は、素直に凄いと思った。

 

「━━かっちゃん強いよ?」

「ふふ、ほら、やっぱりニコちゃんは爆豪くんの味方や。でもありがと。今だけは私の味方でいてくれて」

 

そう言うとお茶子は親指を立てて言った。

 

「決勝で会おうぜ!」

 

私は同じように親指を立てて返した。

 

「かっちゃんが負けた時は私が慰めておいてあげるから、遠慮しないで勝っちゃえ!!私が許可する!!」

「うん、行ってくる!!」

 

 

 

 

 

 

 

空元気で部屋を出ていったお茶子を見送った私はスマホを手にし、もう一度かっちゃんの名前をタッチした。

二コールした所でかっちゃんの荒々しい声が聞こえてくる。

 

『てめぇ!!勝手に掛けて、勝手に切ってんじゃねぇぞ、ごらぁ!!』

「あー、うん。ごめんねぇ」

 

一言謝れば、かっちゃんの勢いが少し緩まる。

 

『━━けっ!で、丸顔がなんだってんだ、ああ!?手ー抜けって話なら聞かねぇからな!!』

「ううん、違うよ。ねぇ、かっちゃん」

『ああ!?』

「・・・本気で戦ってあげてね」

 

そうお願いすると、また『けっ』と言われた。

 

『━━言われんでもそうするわ。てめぇとちゃんとつるんでる奴が、普通な訳ねぇからな。油断はしねぇ、全力でぶっ殺してやる』

「うん、ありがと」

 

本気ならそれでいい。

かっちゃんは相手に合わせて戦える。

今のお茶子の実力じゃ、きっとそれなりの力しか見せないと思う。

意表をつければ、一度くらいかっちゃんを驚かせる事は出来るかも知れないけど、それでもそれが限界。

かっちゃんはそんなに甘くない。

 

勝てないとは言わないけど、本気のかっちゃん相手だとかなり分が悪いと思ってる。

 

 

 

電話を切ろうとしたら『おい』とかっちゃんに止められた。珍しいなと思って電話を切るのを止めて耳に当てなおす。

 

「どしたの?」

『━━っせぇ。・・・そんな顔で丸顔んとこ出んじゃねぇぞ』

 

不思議な事言うかっちゃんだ。

電話越しで顔なんて見える訳ないのに。

 

「いつのまにかテレビ電話してた?あはは」

『んなもん、見なくても分かるわ。馬鹿が。つれぇだけの電話なんざすんな。━━━ダチなんだろうが。余計な事考えねぇで、素直に心配だけしてろ』

 

 

「・・・うん。ありがとう、かっちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして試合の為に柔軟していた私の耳に、沢山の爆発音と沢山の声援が聞こえてきた。

そして、それを終わらせた大きな爆発音も。

 

私はお茶子がいつ来ても良いように顔を洗って待った。

結果がどっちでも笑って迎えられるように。

 



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殴り愛の喧嘩なので大丈夫です。愛がありますので、はい、何も問題はありません!はい!━━おし、いったな?無駄にしゃしゃり出やがって。よし改めていくぞ、私のアイスさんを食べた罪、死して償え!きぇぇ!の巻き

訃報)作者、いまだに青山くんの使い道を見つけられず


「二人、まだ始まっとらん?」

 

聞き覚えのある声に顔を向けると、目を腫らした麗日くんの姿があった。

そのあまりの変わりように、僕は驚きを隠せずそのまま思っていた事を口にしてしまう。

 

「目を潰されたのか!!!早くリカバリーガールの下へ!!」

 

僕の言葉に麗日くんは首を横に振った。

 

「行ったよ。コレはアレ、違う」

「違うのか!それはそうと、悔しかったな・・・」

 

彼女がどういった思いで爆豪くんに戦いを挑んだのかは分からない。それでもその試合の様子を見れば、どんな理由であれ彼女が本気で試合に挑んだのはよく分かる。

それだけに、彼女の敗退が残念に思えた。

 

けれど僕がそう声を掛けると、麗日くんは笑顔を見せた。

 

「はは、大丈夫!悔しくないって言ったら嘘になるけど、私には強い味方がおるから。また今度頑張るよ!次こそ爆豪くんにも勝つ!」

「そうか、強いな麗日くんは」

「ううん、そんな事ないよ。まだまだだよ、私は」

 

「━━━それより、そろそろ座ったらどうだ、麗日」

 

黙りこんで座っていた常闇くんが麗日くんに声を掛けた。いつも緑谷くんといる時は麗日くんに話し掛けるどころか近よりもしないので、何とも言えない光景に思える。

思わず、なんだこれ、と思ったのは許して欲しい。

 

常闇くんに誘われるがまま隣の空いている席に座った麗日くんに、常闇くんは続けた。

 

「今は悔恨より、この戦いを己れの糧とすべきだ」

「うん。せやね。あの氷結、ニコちゃんどないすんやろ・・・?」

 

二人の会話に納得した僕も試合会場へと視線を向けた。

これから始まるであろう、今回屈指の強者達の、激突を見るために。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『またまたお待たせしまくりやがりましたぜエヴリバーディ!!準決勝、いよいよ開幕だぜぇ!!遅れた理由は説明しなくても分かると思うがっ、全部ミスター爆豪が元気にハッスルしちまったせいだぜYEAAAAA!!』

『事実だが、もう少し言い方を考えろ』

『麗日をボンバっちまった結果だぜぇ!!』

『酷くするな、馬鹿』

 

言われ放題なかっちゃんに少し同情しながら入場口を出ると、大歓声が私を待っていた。

反対側のゲートに紅白饅頭が見える。

 

『今体育祭、両者トップクラスの成績!!そして、障害物、騎馬戦ともに、競技内でぶつかり続けてきた、正に因縁の対決!!ここに開戦するぜぇ!!』

 

紅白饅頭の様子を窺いながら戦いのリングにあがる。

相変わらず表情は暗い。けれどそれはただ暗いだけじゃない。冷静さを保ったまま頭をフル回転させられる厄介な状態だ。

気分が沈んでるだけのへっぽこなら、まだつけ入る隙があったのだけど・・・そうは上手くいかないみたいだ。

 

正直、まともにやって勝てる相手じゃない。

体術は私の方が少しだけ上だけど、個性の基本性能はあちらのが断然上。圧倒的な威力、攻撃範囲、発動速度。その全てが上だ。

楽には勝てない事は分かりきっている。

 

私は手札を数えながら試合場へと足を踏み入れた。

すると同じく試合場に入ってきた紅白饅頭が私を見てきた。

 

「来たな」

 

糞生意気にも強者の風を吹かせる紅白饅頭。

私は笑顔と一緒に右手を狐にしてパクパクしてみせた。

紅白饅頭は少し私の狐を見つめた後、困ったように眉を顰めた。

 

「すまん。分からないから、言葉に出してくれ」

 

そう言われてはしょうがない。

教えてあげよう。

 

「スカシテンジャネーゾ。饅頭ノ分際デ。喰イ殺スゾ、コノ野郎ーー(裏声)」

「思ったより酷いこと言ってるんだな」

「褒メルナ照レルー(裏声)」

「わりぃが、一切褒めてないぞ」

 

気が緩めば儲けものかと思ったけど、あてが外れた。

紅白饅頭は高い集中力を保ったままだ。

ま、こんな事でぶれるなら、こんなに頭を悩ませる事はないんだけどね。

 

「━━━ふぅ。さて、小細工はこの辺にしとくかな?あんたには、これ以上やっても意味なさそうだし。悪いけど、夏休みの糧になって貰うよ。紅白饅頭」

「先に謝っておく。緑谷、夏休み潰して悪いな。大人しく登校してくれ」

「その喧嘩買ってしんぜよう、紅白饅頭!」

 

 

『さぁ!まさしく両雄並び立ちっ!今っ!!』

 

ラジオ先生の声にミッドナイト先生が手を構えた。

試合開始の合図を報せるミッドナイト先生の右手が、高く高く掲げられる。

 

『緑谷VS轟!!!!』

 

静まり返るスタジアム。

高まる緊張。

紅白饅頭から伝わる威圧感。

 

私はその時を待って、息を吸い込んだ。

勝負は最初の瞬間から始まる。

 

『START!!!!』

 

その言葉と共に紅白饅頭の足元が氷ついた。

次の瞬間生まれた高速で迫る氷柱の群に、私は火炎を吹き散らす。

決勝がある事を考えて中規模の氷結しかないと踏んで火炎で対抗したのだが、その予想は見事にあたった。

火炎の熱に氷柱は割れ、そして溶ける。

 

初撃を止められた紅白饅頭に動揺はない。

私と同じ様に予想していたのだろう。

防ぐことを。

 

「油断しとけよ、馬鹿っ」

 

泣き言を言っても仕方ないけど、言わずにはいられない。

 

紅白饅頭は再び氷結を使い、氷柱の群を私に差し向ける。今度は火炎で対抗しない。目眩ましに広範囲に火炎を吐き、引き寄せる個性で飛んだ。

引き寄せる対象は紅白饅頭の側にある太く硬い氷柱。

太く硬い・・・なんかエロいな!

 

炎の壁を突き破ると、私の接近に目を見開く紅白饅頭の顔を発見。防御しようと右手を構えたがそうはさせない。引き寄せる個性で腕を引き寄せ、構えを無理矢理抉じ開ける。

 

「ぬぅっ、おりゃぁぁぁぁ!!」

 

紅白饅頭の防御を掻い潜り、黄金の右腕による必殺の首狩りラリアットをかます。

当たった、けど、感触が宜しくない。

視線を向ければ左手が私の攻撃を受け止めていた。

 

紅白饅頭の体勢は大きく崩れる。

ダメージは深くない。

なら、速攻。

 

紅白饅頭に叩きつけた腕を引き戻す。

その引き戻した勢いで回転。

鋭く小さく速く。

 

回転の速度を乗せた右の裏拳を顔面へと叩き込む。

鈍い感触と共に紅白饅頭の顔が後ろへと弾ける。

けれど、同時に足元にヒンヤリした物を感じた。

 

何が来るか予想出来た。

至近距離でこれはかわせない。

やるなら、同じく力押し。

 

紅白饅頭の足元から氷柱が剣山のように現れる。

規模はさっきより大きい。

けれど距離が近い。

氷が育つ前なら、まだ私の火炎で防げるレベル。

 

氷に向けて全力の火炎を吹く。

瞬間、熱と冷気の嵐が巻き起こった。

私の火炎と氷柱がぶつかる。

 

紅白饅頭の氷結は強力、一瞬でスタジアムを覆うレベルの氷柱を出せる。けれどその反面、持続性がない。

だから氷柱の出所を押さえて全力で火炎放射すれば━━━。

 

 

『今大会初だぜぇ!!轟の氷結を真正面から止めたのはYOっ!!魅せてくれるな緑谷ガール!!』

 

 

喧しいラジオ先生のお陰で意識がはっきりする。

息切れ寸前で頭がクラクラする。

止められたけど、直ぐには動けない。

 

対して紅白饅頭は白い息を少し吐くだけ。

元気にこちらへ駆けてくる姿が見えた。

 

━━━ん、接近?

 

 

『轟一気に攻勢!!鈍い動きの緑谷にアタックぅぅぅ!!』

 

 

ラジオ先生の言葉に違和感を感じた。

動きの鈍い私へ攻勢に出るのは間違ってない。

でも、この接近は他に手段がなければの話。

 

紅白饅頭の個性なら、距離を取り続け遠距離から氷柱連発するのが最も確実。一度防ぎ、一度かわしたけど、有効である事に変わらない。

なら、それを止める理由にはならない。

 

止めた理由がある。

態々距離を詰め、近距離戦闘しようとする理由が。

 

 

私に向けて紅白饅頭の腕が伸びてきた。

ギリギリ酸素は取り込めた、動ける。

体を捻り突き出された掌をかわす。

 

 

また違和感。

紅白饅頭の身体能力は高い。

なのに鈍ってた私が避けられた。

 

 

ふと、視界の中に少し青ざめた紅白饅頭の腕が見えた。

 

 

火炎で紅白饅頭の視界を防ぎ、一旦距離をとる。

分かった。

 

 

戦いを急いだ理由。

個性を使わなかった理由。

氷結の個性の弱点。

 

速攻ばかりの派手な戦闘をしてたのは、そうせざるを得なかったから。

そもそも紅白饅頭の性格を考えれば最初からおかしかったのだ。

そんな博打みたいな戦い方。

 

どうして強力な個性をもっていながら勝負を焦る。

余裕があるなら、もっと時間をかければいい。

そうだ、ないんだ余裕が。

 

 

氷結の弱さは━━━━

 

 

 

「見つけた」

 

 

 

確かめる為に、もう一度近距離戦闘を挑む。

私の動きに気づいた紅白饅頭が氷結を発動してくる━━が勢いが弱い。

火炎を噴けば簡単に氷柱を壊せる。

 

「ちっ!」

 

舌打ちが聞こえてきた。

嫌なんだな、接近されるの。

分かった、どんどんやろう。

 

引き寄せる個性で紅白饅頭を引っこ抜き、私も飛ぶ。

空中でぶつかる紅白饅頭の腹に渾身の右ストレートをぶちこんだ。

 

左手で防ごうとしたけど、さっきと同じ様に引き寄せる個性で抉じ開けてやったのでモロヒット。

紅白饅頭がえづく。

 

地面に着地する寸前、紅白饅頭から冷気を感じたので遠くの氷柱を対象に引き寄せる個性を発動し飛ぶ。

振り返ったらばかでかい氷柱が生えてた。

殺す気か!

 

 

『飛んだり跳ねたり大忙しだぜ緑谷ガール!!名前通りタイガーガールかと思ったけどラビットガールかな!?』

『虎もジャンプするだろ』

『じゃタイガーのまんまだぜぇ!』

 

 

やかしぃわ。

エンジェルだろうが、私は。

 

 

「━━━緑谷、やっぱり強いな、お前」

 

失礼な解説たちに敵意を送ってると、紅白饅頭が話掛けてきた。

 

「まぁね、私だから。これからゴッドガール双虎様と呼ぶとよい」

「楽しそうだな、お前は」

 

楽しかないわ。

ギリギリだっつーの。

 

「そういう紅白饅頭は苦しそうだねぇ?暖めてやろうか?」

「━━っち、目敏いな。気づかれるとは思ってたが、こんなに早いとは思わなかった」

「回復遅いくせにバンバン使うからでしょ。でもまぁ、もし騎馬戦でかっちゃんが削ってなかったら、こうはいかなかったと思うよ?」

 

その後の連戦も意味があったと思う。

瀬呂で無駄使いした特大攻撃。百との戦闘。

紅白饅頭は昼休憩で回復した力を使ったのだろう。

だからこうも早くに体に出たのだ。

 

このまま戦えば、恐らく私が押し勝てる。

けど、一つ気になる事があった。

 

「左は使わないの?」

「・・・・」

「それを使えば、多分だけど回復しないまでも動きの鈍さだけでもなんとかなるんじゃないの?」

 

この話題になると紅白饅頭は途端に暗くなる。

さっきまで少し高揚してたくらいなのに。

 

「使わねぇ」

「そっか」

 

これ以上は余計なことを言うつもりはない。

だから使わないと言うなら、このまま押し勝つだけ。

 

「後悔しないようにね!!」

「━━っ!なんでっ!」

 

紅白饅頭が氷結を使ってきた。

氷柱が押し寄せる波のように迫る。

規模の大きさから私の個性で押し切れると思い、火炎で対抗する。

 

「俺は後悔なんて、しねぇ!!」

 

力強い意思を感じる。

けど、氷結に勢いはない。

 

「俺は、右だけで、勝つ!!あいつをっ!」

 

どんな思いで左を封じてるか知らない。

聞くつもりもないから、紅白饅頭が話さない限りはずっと知らないままだろう。この先も。

 

「俺はっ!あいつを超える!!右だけで!!このお母さんの力でっ、ヒーローに━━━━!!」

 

言葉とは意思とは裏腹に、どんどん弱くなっていく紅白饅頭の冷気。

私はその冷気へと、今出来る最大火力の火炎を吐き出した。

 

 

砕け散る氷。

吹き荒れる炎。

 

その二つが紅白饅頭を吹き飛ばした。

 

紅白饅頭は倒れこそしなかったが、ダメージを負ったのか膝が落ちている。

顔色も良くない。

 

それだけ見れば頑張ってる奴に見えるのに、私はその姿が腹立たしくて仕方なかった。

 

 

「負けねぇ、俺はっ、勝って・・・!!ヒーローに!」

 

「なれないよ」

 

私自身言うつもりの無かった言葉が口を出ていった。

 

「な、んだ、緑谷、なんて言った!!」

「なれねぇっつったんだよ!このアンポンタン!!その癪に障るイケメン面、原型留めないくらいボコボコににしてやろうか!はぁん!?」

「━━━っな!?てめぇ!!」

 

なにかを言おうとした紅白饅頭の足を引き寄せる転ばせる。床に尻餅ついた紅白饅頭の見上げる視線が私に突き刺さった。

睨んでくるその視線に私は真っ直ぐ睨み返す。

 

「私はさ、あるヒーローに言ってやった事がある。笑顔がキモいですよって。その人はいつも本当に馬鹿みたいに笑っててさ、ずっと好きになれなかった。でもね、それも理由があってのキモさだったって知って、本当に少しだけどキモくなくなった・・・・いや、やっぱりキモいな。うん、今でもキモい」

 

どこかの誰かが傷ついたような気がしたが、きっと気のせいなので気にしない事にして続ける。

 

 

「・・・でもね、轟はそれ以下だよ。鏡見たことある?凄い顔してるよ、今」

 

 

その言葉に轟が自分の顔を触った。

 

「私がヒーローを語るなんておかしいけどさ、それでも言わせて貰う。どの面下げてヒーローになるつもりなの?轟のヒーローってなに?」

 

ゆっくりと立ち上がった轟の表情は見えない。

手に覆われた顔が、どうなってるのか見当もつかない。

でもどうでもいい。

 

「私に勝つって息巻いた事は許してあげる。個性を使わないってのも認めてあげる。でも、ヒーローになるって事を馬鹿にしたのは許さない」

 

心操は批難覚悟で暴言をはいて、へぼくその癖に何度も立ち上がった。

お茶子は怖いのに勇気を振り絞って、ボロボロになって意識を失うまで戦った。

他の皆だって変わらない。

 

何を背負ってるのかなんて関係ない。

どんな因縁があるかなんて興味もない。

それにどれだけの意味があるのかなんて聞きたくもない。

 

 

ただ、本気でふざけるなって、そう思う。

 

 

 

「人の夢を馬鹿にすんな!!」

 

 

引き寄せる個性で思いっきり引っ張った轟の顔面に、渾身の力を込めた右の拳を叩き込んだ。

 

鈍い感触と共に轟の体が浮き上がる。

そして踏ん張れなかった轟の体は石畳へと沈んだ。

 

 

 

 

そこには悲痛な顔で空を見上げる轟の姿があった。

 



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勝つだけが全てじゃないよ!他にも大切なことが世の中にはいっぱいあるんだよ!だから、もう頑張らなくて良い。休んでいい。そう、そのまま進んで・・・隙ありぃ!!ちっ、避けやがったか!私の糧になれぃ!の巻き

職場体験編がやってきてしまう。
どないしょ、なんも考えてねぇ(;・ω・)


「━━━なら、どうしろって言うんだよ」

 

 

不意に轟の口からそんな言葉が出た。

視界の中によろめきながら立ち上がる轟の姿。

その目に宿る光から、戦意はまだ無くなっていないように見える。

 

「この力で勝たねぇと、意味がねぇんだ。この力だけじゃねぇと、意味がねぇんだよ」

 

轟の酷く歪んだ顔が私を見た。

 

「お前に、何がわかんだよ!!」

 

そう言って向かってくる轟の動きは鈍い。

蝿が止まるようなレベルだ。

どれだけ意識があろうと怖くも何ともない。

 

構えられた拳に。

必死の形相に。

吐かれた啖呵に。

 

力を感じない。

 

 

 

『この特攻は━━━━ぶはっ!?なにSOON!?』

『少し黙ってろ。試合場付近の音声も切っとけ』

『はぁー!?』

 

 

 

轟から放たれた右のへぼパンチをかわし、カウンターに左フックを叩き込んだ。いっつぁ、クロスカウンター!いえー!

 

勿論、遠慮なしの顔面パンチである。

スカッとするぜ。

 

倒れようとする轟の体を引き寄せ、胸ぐらを掴む。

ダメージに朦朧とする轟の頭におまけのヘッドバットをお見舞いしておく。

鼻血を出した轟は大きくぐらつく。

 

そのまま放っておいてもダウンしただろうが、今は頗る私様の機嫌が宜しくない。

なので、心操の時にやった様に腕をつかんで投げ飛ばしてやった。

 

何度か地面をバウンドする轟。

しかし心操とは違い崩れていた体勢を整え、場外ぎりぎりで踏み止まってきた。

やっぱりイケメンは違うね。

 

恨みがましい目が私を見る。

もうずっとこの目だ、うんざりする。

 

「お前にっ、何がっ!!」

 

アホのオウムみたいに同じ言葉を繰り返す轟。

きっと馬鹿になってしまったのだろう。

殴り過ぎたことを心の中でちょびっと謝り、正直なところを口にした。

 

 

「知らん!!!!」

 

 

あんまりしつこいから言ってやったのだが、轟が予想以上に動揺した。こっちが驚くほど、動揺した。

 

どうした。

なんだそのきょとんとした顔。

写メってやろうか?そして拡散してやろうか?

何もおかしい事言ってなかろう。

 

「お前は私の兄弟か?それとも恋人?違うよね、いいとこ友達でしょ。親友でもなんでもない、ただの友達。その私がお前の事なんでも知ってると思ってんの?自惚れるなよ!烏滸がましいわ・・・このハゲ!!」

「は、ハゲ・・・?」

「そもそも、さ。ちゃんと知ってなきゃ、何も言っちゃ駄目なの?人の事なんて、知らない事の方が多いのにさ。そんなに共感して欲しいなら、知って貰える努力はした?してないでしょ?私は何にも聞いてないもん」

 

轟を苦しめてきた物の正体は知らない。

それが轟にとって大切な事なのは何となく分かる。

でも、だからどうしたって話だ。

 

「私は認めるって言ったでしょ。理由は知らないけど、使いたくないなら使わなくて良い、苦しいなら逃げて良いよ。私だって補習から逃げたい、夏休みを謳歌したい。だから今頑張ってる」

「それは違う気がするが・・・」

「違くない!一緒!!」

 

轟が「俺がおかしいのか・・・」と呟き始めた。

天然さんめ、やっと気がついたのか。

でも安心しろ、お前はずっとおかしい。今更だ。

 

「右しか使わなくていい。でも、さっきも言ったけど後悔しないようにね。━━━そのせいで助けられない人がいるかも知れない事」

「━━━!」

 

目を見開いた轟が息を飲んだ。

私の言いたい事が分かったのだろう。

 

「プロになればいいよ。右の力だけで。あんたの左の力があれば助けられたかもしれない人がいて、その人の為に悲しむ人がいて、その時あんたは胸張って言いな『仕方なかった』って」

「そんな、ことっ━━!」

「それが出来ないならやるな!!」

 

轟を引き寄せる個性で引きつけ、右の前蹴りで蹴り飛ばす。左手でガードされ足が僅かに凍るが関係ない。

思い切り踏み抜く。

 

「言い訳なんて出来ない!!そういう時、出来るか、出来ないしかないんだよ!!だからっ!私は、かっちゃんはっ!頑張ってきてんだよ!!」

 

よろめく轟へ引き寄せる個性で飛び、膝蹴りを顔面に叩き込む。今度は左手が間に合わなかったのか、右手だけの薄いガード。

威力を防ぎ切れなかったのか、指先から鮮血が跳ねる。

鼻血だと思う、ばっちい。

 

「ヒーローになるのが、ゴールじゃないんだよ!!」

 

轟の後ろにある氷柱目掛け引き寄せる個性をフルスロットル発動。もう一度加速をつける。

 

「いつまでもっ、どこ見てんだ!!バァーカ!!!」

 

通り過ぎ様にかました左ラリアット。

確かな手応えが腕に走り、轟の体が地面に叩きつけられた。

私は華麗に着地し、轟の様子を見る。

立とうとしてるのが見えた。

 

 

そういう所が、本当に腹が立つ。

 

 

ちゃんと分かってるくせに。

ちゃんと想ってるくせに。

 

 

「いまっ!なんの為に立とうとしてんのか少しは考えろ!!━━━━本気でこい、轟焦凍!!」

 

突然轟の体から炎が噴きあがった。

多少、火への耐性がある私ですら汗が吹き出る高温。

使わない使わない詐欺、ここに。

 

 

『これはーーーーー!?』

『轟・・・』

 

 

解説達が復活してきた。

はよ、弱点まで解説して。

 

「・・・緑谷、馬鹿だな、お前」

「はぁーん!?」

 

突然投げ掛けられた暴言に双虎プンスコ。

紅白饅頭如きが何を言うのか。

殴るぞ。

 

ほわたぁ、と構えると轟が笑みを浮かべた。

珍しい光景にびっくり双虎にゃん。

 

「黙ってれば、勝てたのによ。黙ってれば、勝手に潰れたのによ━━━━━本当馬鹿だよ、お前」

 

 

ほう、喧嘩をお売りで御座いますね、紅白饅頭様。

お買い上げいたしましょう?

 

「俺だって、ヒーローに・・・!━━━あの背中に憧れて、ここにきたんだよ!!」

 

半身を炎で包んだ轟が、その顔に笑顔を浮かべた。

さっきの自然な笑顔とは比べ物にならない、まだまだ格好つかないひきつった笑顔を。

 

「キモい」

「言ってろ」

 

拳を握りこむと、聞き覚えのあるハゲの声が聞こえてきた。ショートとか叫んでる。

どした、スマホでもイカれたのか。

 

まぁ、紅白饅頭のパパンの事なんて、どうでもいいから良いけども。

それよりも目の前の紅白饅頭が問題だ。

どんどん火力があがってく。

私のとは比べ物にならない。

 

「お前が、言ったんだからな、本気でこいってよ。どうなっても、知らねぇぞ」

「上等。ど真ん中ぶち抜いて、ぶっ倒してやる」

 

紅白饅頭の足元が氷で覆われる。

それと同時に右の火力があがっていく。

練り上げられる冷気と熱が、風を産み出していく。

 

半冷半燃の本領を初めて見た感じがする。

 

炎を出すのも冷気を出すのも、恐らく体に温度負荷がかかるタイプの個性。どちらか単体なら威力も制限されるし、発動後にインターバルを設けなければいけない。けれど二種類の特性がそれぞれの欠点を補いあっている現状下ではそれがない。高まる威力も桁違いだろう。

まともに受ければ命はない。

 

 

火炎での相討ち狙いは駄目。

差がありすぎる。

 

避ける?

攻撃範囲を考えれば無理だ。

 

 

「━━━ふぅ、試してみるか」

 

 

私の個性。

引き寄せる個性にずっと違和感を感じていた。

どうして私は掌だけしか物を引き寄せられないのかと。もう一つの対象は自由に選べるのにと。

切っ掛けはいつだったのか、もう思い出せない。

でも、それが違和感だった。

 

それから何度も試してきた。

でも一度も成功した事なんてなかった。

それでも、今ここで。

 

 

手をかざし、集中する。

深く呼吸する。

深く、深く。

 

 

 

『待てっ!轟!!』

 

 

包帯先生の声が響いた。

その瞬間、視界の端に赤い光が走り、熱気が嵐となって頬を通り過ぎていく。

 

「緑谷!!」

 

引き寄せる個性、最大出力。

対象、前方空間一帯、無差別。

対象、掌の前方二メートル地点。

非対象、私。

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

脳に走る焼き付くような痛みと共に、目の前に迫った炎が引き寄せ地点に集まっていくのが見えた。肌をなでる空気もそこへと向かっていく。

腕に掛かる負担はゼロに近い。

 

けど、その反面頭に掛かる負担が大き過ぎた。

頭痛なんて可愛いレベルじゃない。

頭の中でかっちゃんが暴れまくってるような気分だ。

端的に言って死にそう。

 

炎の勢いはまだ落ちない。

いま引き寄せる個性を切ったら死ぬからそれも出来ない。

 

思考力が落ちてるのが分かる。

目の前の炎が揺らぐのが見える。

息をするのが苦しい。

 

頭痛い━━━。

 

痛い━━。

 

痛い━。

 

痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った。真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者と!!』

 

 

不意に頭の中にラジオ先生の声が響いてきた。

 

 

『ヴィランよ こんな言葉を知ってるか!!?』

 

 

これは知らない。

知らないけど、この声は━━。

 

 

『更に向こうへ!!』

 

 

『更に向こうへ!!』

 

 

 

『更に』

 

 

 

『向こうへ』

 

 

 

「プルス、ウルトラぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

気合いと根性と、不屈の乙女力をフル動員する。

頭の中を這いずる痛みを蹴っ飛ばし、沸騰するような脳の熱を無視する。

全意識を目の前の対象地点へ向ける。

 

 

視界に映る集束し消えていく炎。

頭に宿る熱。

 

 

「━━━━!!」

 

 

誰かの声を聞いた所で視界は灰色に包まれて、瞼が落ちてきた。

どうしようもない眠気と共に。

 

 

 



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閑話をする度、大切な何かを失ってく感じがするの。だから、書かない!書かないんだってばYO!いや、結局必要だから書くんだけどね!の閑話の巻き

前回描写が足りんで皆に第四波動疑惑をかけらたり色々した、双虎の個性説明回はーじまるよー!!




まるで爆弾でも投下されたかのようなボロボロの試合場を眺めながら、俺はその威力の凄まじさをまじまじと感じていた。

 

緑谷がその個性を使って、轟の炎を圧縮して産み出した熱エネルギーの塊。緑谷のコントロールを離れ炸裂したその威力は、筆舌に尽くせぬほど強大なものだった。

あの時、セメントスが壁をつくり試合場の二人を守らなかったらと思うとゾッとする。

 

 

「イレイザー」

 

声に振り返ればミッドナイトの姿があった。

タイツは所々がボロボロのままで、あの騒ぎの処理に追われ着替えもままならなかった事を察した。

その忙しさの中で来たのは、やはりあの生徒の事を心配しての事だろう。

 

「緑谷のことなら心配はいりませんよ。ミッドナイトさん。今はリカバリーガールの治療を受けて寝てます。呑気なもんです」

「そう・・・」

「あまり気に病まんで下さい。あの時の判断は恐ろしく難しかった。それだけです。どちらも信念を持って戦っていましたから、近くでそれを聞いていたミッドナイトさんなら止められなくておかしくはありません。」

「それでも、あの時止めるべきだったわ」

 

本当に難しい判断だった。

俺は遠目で見ているからこそ、止めるように声をあげられたが、はたしてあいつらの言葉を側で聞いていたらどうしたか怪しい。内容は分からなくても、その表情を見ればどれだけ真剣に気持ちをぶつけ合っていたか想像出来るからだ。

 

「ねぇ、イレイザー。最後のあれはなんだったの?緑谷ちゃんの個性は引き寄せる個性だったわよね。炎なんかも対象に出来るなんて聞いてないわ」

 

それは俺も理解出来ていない。

これから調べてみないとなんとも言えないが、ただ一つ補習時に溢した緑谷の言葉が気に掛かってはいた。

 

「━━━以前、あいつ自身が言っていた事なんですが、引き寄せる個性で最も重要な要素は認識なんだそうです」

「認識?」

「個性発動対象への認識。物にたいしてきちんと認識してれば、引き寄せる出力は上がり受ける負荷も少ない。逆にその認識が疎かであれば出力は下がり掛かる負荷は大きくなる。騎馬戦の時、爆豪のハチマキを取り損ねたのはそれが理由だと思います」

 

物体の急激な変化。

脳内で認識した形とのズレが出力低下を招いた。

それだけ精密に対象設定をし、高出力で確実に引ったくる気だったのだろう。

 

となれば、今回はその逆だ。

 

「轟の時に行ったそれは、その逆。認識を最大限に拡大。対象をあやふやにして周囲の一切合切を引き寄せたという事でしょう。炎どころか空気も渦を巻いて集まっていったのが良い証拠だ。もしかしたら、炎を対象に出来なかったが故の苦肉の策だったのかもしれませんね」

「それって・・・大丈夫なの?ただでさえ集中力を必要とする個性なんでしょう?聞いてるとかなり繊細な個性に思えるけど」

「だから倒れたんじゃないかと。あいつにしても無茶をしたという事ですよ」

「無茶苦茶ね」

 

そう、無茶苦茶だ。

そしてその無茶が、恐らくあいつにとっての、次の段階への扉を開いた。

 

設定した点と点を引き寄せ合わせる力。

今までその点の一つを自らの掌にしか設定出来なかった緑谷が、別の位置に点を置く事に成功した。これは使いようによっては、強力な強みになるだろう。

 

そしてそれだけじゃない。点と点でしかなかった対象選択。それが今や点と面を引き寄せる事も可能になった。代償も少なくないが、発揮される出力も高い水準を保ったままというおまけ付きだ。

 

今回だけで言えば、その引き寄せる出力は炎という熱エネルギーを極小圧縮し爆弾に変え、空間をねじ曲げて見せるほど強力な物だった。

 

「しかし、まぁ、厄介な生徒を持った・・・」

 

思わず零れた言葉に、ミッドナイトが笑みを浮かべた。

 

「そんなに大変なら、今からでも担任代わりましょうか?」

 

悪い冗談だ。

今更、放って置ける訳がない。

問題はまだまだ山積み、これからが大切な時だ。

他人に任せておくには少々あいつらを知りすぎた。

 

「大丈夫ですよ、ミッドナイトさん。あいつらは俺が育てます。あいつらが自分達で道を違えない間は」

「そう。何かあったら言って頂戴。力になるわ」

「・・・あ、それなら近日中に一つ頼みがあります」

「頼み?」

 

俺にとって頭を悩ます、ヒーローになるに当たって欠かせないやらなければならない事がある。

 

「例の時期なんで、そろそろアレを決めないとと思ってまして」

「ああ、あれね。良いわよ、イレイザーにそこら辺のセンスは無さそうだし」

「助かります」

 

 

『HEY!HEY!HEY!イレイザーヘッド!!いつまでそこで油売ってんだYO!こっちにきて間を繋ぐの手伝えよなぁーー!!』

 

マイクの喧しい声が耳に響く。

隣でクスクスと笑うミッドナイトを一睨みし、俺は試合場を後にした。

 

 

不意に歓声が聞こえ、そこに視線を送ると修理されたスクリーンがあった。映し出されているのは最終種目のダイジェスト。それと、現在のトーナメントの状況だ。

 

 

「・・・惜しかったな、緑谷。もう一踏ん張りしてれば、優勝の可能性もあったとは思うんだが・・・ま、その順位で今回は満足しておけ」

 

スクリーンに映し出された決勝に進んだ緑谷双虎の文字と、その文字の上に重なる棄権の文字。

 

起きた緑谷がどんな暴走をみせるのか想像しながら、その対策を考えつつ俺は解説席へと帰った。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「邪魔だ、とは言わんのか」

 

 

掛けられた声に顔を向ければ、いつものように嫌な笑顔を見せる親父がいた。

 

 

「せっかくの引き分けを自分から棄権したのは頂けないが、ようやく子供じみた駄々を捨て炎熱を使ったな。まだまだベタ踏みで危なっかしい使い方だが、それはこれから学べばいい。よくやった」

 

 

いつもなら耳障りな声が遠くに聞こえた。

 

 

「これでお前は、俺の上位互換となった!誇れ!」

 

 

不思議といつもの苛立ちを感じなかった。

 

 

「卒業後は俺の下に来い!!俺が覇道を歩ませてやる!」

 

 

差し出された手に。

不遜に笑う親父の顔に。

今は怒りが湧いて来なかった。

 

嫌いである事に変わりはないが、態々手を払う気になれなかった。

 

親父の隣を通り過ぎ、医務室へと歩を進めた。

 

「焦凍!?お、おい、聞いてるのか!?」

 

追い掛けるように声が掛かる。

 

「焦凍!!」

 

 

その言葉に、戦いの中で俺の名前を呼んだあいつの言葉を思い出した。

 

 

『いまっ!なんの為に立とうとしてんのか少しは考えろ!!━━━━本気でこい、轟焦凍!!』

 

 

なんの為に。

 

ずっと忘れていた。

お母さんが笑って応援してくれた、その目標を。

その夢を。

 

「親父」

「ぬっ!?」

 

振り返り親父の顔を見れば、酷く弱く見えた。

いつも感じていたどす黒い物が見えてこない。

 

「俺はあんたが嫌いだ。この左の力も気に入らない。でも、俺は全部使ってヒーローになる」

「そ、そうだ!焦凍それでいい!お前は━━━」

「それで、オールマイトみたいなヒーローになる」

「━━━っはぁ!?」

 

言いたい事を言った俺は親父に背を向け、医務室へと歩きだそうとして━━━肩を掴まれた。

 

「オ、オオ、オっ、オールマイト!?よりにもよって、オールマイトだとぉ!?な、なぜそうなる!?お前は俺の息子だぞ!!」

「関係ねぇ」

「関係あるわ!!何故俺じゃ━━━」

「憧れたからだ」

「っ!!」

 

幼い頃見たオールマイトの姿。

誰をも笑顔で救っていくヒーローの姿。

お母さんと一緒に見た、夢の原点。

 

「あんたに憧れなかった。俺にとってあんたは、お母さんを傷つけた糞親父でしかねぇ。俺の夢は今も昔も、ずっとあの人だ」

 

そう言うと親父の顔は酷く歪んだ。

見たこともないような、形容し難いそれに。

 

「ヒーローになる。俺は」

 

もう二度と、あいつにあんな言葉を言われない。

誰よりも強くて、誰をも救う。

笑顔を守るヒーローに。

 

 

 

 

 

「もう、立ち止まってらんねぇんだ。離してくれ」

 

これから先、迷わない。

もう二度と手離さない。

お母さんが背中を押して、あいつに引っ張られて出てこれた、この夢の道を。

 



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閑話、閑話、また閑話!!どうして、こんなに閑話ばっかり!くそっ!体育祭めぇぇぇぇ!!の閑話の巻き

エンデヴァー愛がつきないよぉ。
語りたい、エンデヴァーの事を延々と語りたいぃ。
一話丸々語りたいぃ。

でも、引かれるから、語らない(゜ロ゜)!!!
でも語りたい( *・ω・)ノ!!
いや、最終的には語らないけどもヽ(・∀・)ノ!!


先生達の話し合いの結果、緑谷の棄権敗退が決定した事を聞いた俺は爆豪の下へ走った。

誰よりも先に緑谷を助けに飛び出した爆豪なら、あの戦いの結果を一番気にしてると思ったからだ。

 

緑谷の容態は爆豪自身医務室へ運んだ事を考えれば、俺より分かっているので取り合えずおいておいた。

もし何かあれば看病に行った麗日から連絡が来る事になってるけど、現状伝える事もない。寝言で「チャーシュー丼は丼物とは認めない」と魘されていたらしいが、これは伝えても混乱するだけだと思うので黙っておこうと思う。

 

 

 

 

「爆豪っ━━━━ひぃ!?」

 

そうして爆豪の控え室の扉を開いた所で、俺は心の底から後悔した。

 

部屋の中に貧乏性揺すりをしながら椅子に座り、壁を一心に見つめる般若のような顔をした爆豪の姿があったからだ。

 

「━━━んだ、クソかぁ・・・切島ぁ」

 

ギロリと睨まれた瞬間、心臓がバクバクと脈打ち、胃が子犬のような悲鳴をあげた気がした。

大人しく帰ろうとしたのだが「用もねぇのに来たのか、ああ?」と言われ針のムシロへとUターン。

俺は色んな覚悟を決めた。

 

「はぁ。あのな、緑谷な、棄権敗退決定だってよ」

「そうかよ」

「そうなんだよ。いや、そりゃさ、怪我の具合とか見ての決定ってのは分かるけどよ、まだ時間もあるし本人が起きるの待って━━━ってへ?それだけ?」

「ああ?それ伝えに来たんじゃねぇのか?」

 

人を殺しそうな目で爆豪に尋ね返されてしまった。

確かにそれを伝えに来たんだけど、なんか釈然としない。もっとこう『ふざけんなぁ!』とか『こんな優勝意味あるかー!』とか言うと・・・って俺、普通に爆豪が優勝すると思ってんのな。

わりぃ飯田。

 

しかし、なんか意外だな。

思ってたより冷静っつーか・・・。

そう思って爆豪の視線の先を追うと、見ていた物が壁でないことに気づいた。

 

爆豪が見ていたのは貴重品を仕舞える小型ロッカー。

入っているのは財布と・・・。

 

「・・・・・あのよ」

「・・・あん?用が済んだら帰れや」

「いや、なんつーか、その、怒んなよ?もしかして、俺が思ってるより緑谷の事心配してね?」

「するわけねぇだろ!!ごらぁ!!!ぶっ殺すぞてめぇ!!!」

 

ひぃっ!?メチャクチャ心配してんじゃねぇか、こいつ!!素直じゃねぇにもほどがあるだろ!!

他の事が手につかなくなるレベルで心配してんじゃねぇかよ!!

 

掌からボンボン音を鳴らしながら迫ってくる爆豪。

浮かべる表情は悪鬼そのものだった。

 

「落ち着けよ!!爆発さんたろう!!」

「誰が爆発さんたろうだ、ごらぁぁ!!」

「お前だよ!落ち着けってば!!試合控えてんだから無駄に力使うな!!優勝狙ってんだろ!?」

「・・・ちっ!!」

 

しかめっ面した爆豪は苛立ちながら椅子に戻った。

そしてやっぱり視線はそこを見つめていた。

 

「あのさ、そんなに心配なら電話なんて待ってねぇで、直接医務室行って来いって。試合はまだ始まんねぇしさ」

「━━るっせぇ」

「本当、素直じゃねぇなぁ。もう」

「そういう問題じゃねぇ」

 

ならどういう問題なんだ?

そう思って爆豪を見つめていると、面倒臭そうに頭をかいた爆豪が口を開いた。

 

「・・・本気でやらねぇと意味がねぇだろ」

「本気?」

「あいつが、あの馬鹿が、ぶっ倒れるまで本気でやってんだ。俺が本気で取りにいかなかったら、意味がねぇだろぉが!!馬鹿に構ってる時間はねぇんだよ!!」

「ああ。そういう━━━って、わっかりづれぇな、もう」

「文句あんのかこらぁ!!」

 

爆豪の言いたい事は何となく分かった。

緑谷の気持ちに応えたいって事だろ、要は。

俺だってさっきの試合見て熱くなった。本気でぶつかり合う二人見て、もっと頑張らねぇとってそう思った。

だから、それ見て爆豪が真剣になってる気持ちは分かる。俺が爆豪の所にいたら、同じように思うかもしんねぇ。

 

そう考えると今爆豪がこの場を動かないのも分かる。

試合前の時間は選手にとっちゃ大切な時間だ。精神統一したり、準備運動したり、戦略練ったり・・・やることは人によって違うけど、ようは勝つために準備する、そういう時間だ。

 

だからそれを看病に使うのは、本気で試合に挑もうとする奴のする事じゃない。だから緑谷の所には行かない━━━って事なんだろうけど、この状態じゃ逆効果だろと思わずにはいられない。

 

「それは、それ━━━って出来ねぇ?」

「うるせぇ!!だぁってろ、ボケ!!」

 

とりつく島なしかよ。

お前の場合、緑谷の様子見てる方がよっぽど精神安定するだろうに。

 

「てか、緑谷が決勝出れねぇ事には文句はねぇのな」

「あるか、ボケ。・・・今まであいつが個性で倒れた事はねぇ。なら、相当無茶したんだろ。休ませんのは当然だろうが。寧ろベッドに縛り付けとけ」

「お、おう」

 

急に素直になったな。

反応に困るわ。

 

「お前、本当、緑谷好きな」

「はぁん!?」

 

こういう事には素直じゃないのにな。

 

 

『準備が整ったZE!!野郎共ぉぉぉぉ!!試合会場にムーヴしやがれぇイェエ!』

 

 

控え室にマイク先生の声が響き渡り、爆豪がゆっくり立ち上がる。戦闘のスイッチが入ったのか、面構えが変わった。

こういうとこ見ると、こいつが偶然でここまで勝ち上がってきた訳じゃないのを痛感する。

 

控え室を出ようとする爆豪を呼び止め、俺は気持ちを込めて拳を前にやった。

どうせなら、託そうと思ったのだ。

 

「もってけ、俺の気持ちも!!勝ってこいよ!!」

 

そう言うと一つ舌打ちした後、俺の拳にパンチをくれてきた。割と強めの。個性を発動してなかったせいで、普通に痛かった。

痛がっていると大股で廊下に歩いていく爆豪が吼えた。

 

 

 

「てめぇに言われるまでもねぇ!」

 

 

 

 

「俺の優勝邪魔する奴はぁ、誰だろうと関係ねぇ!!」

 

 

 

 

「ぶっっっ殺す!!」

 

 

 

 

 

 

そう言って部屋を出ていった爆豪を見て、俺は心底不安になった。何故だか、とてもやらかす気がしたのだ。余計な火を点けたような気がしたのだ。

 

やる気がありすぎるような、そんな気が。

 

 

 

それから始まった事実上の最終試合。

結果は悲惨の一言に尽きた。

もう、試合場の跡形とかなくて、飯田ボロボロで、あれ?これって戦争だったってけ?ってなった。

ハウザーなんとかってのが、ヤバすぎた。

 

え?誰が勝ったって?

そりゃ、爆豪しかいねぇだろ。

てか、結果みる前から、レシプロかわしきった時点で確信してたわ。よく避けれたな、あれ。

 

ごめんな、飯田。

俺が余計なもんを、託したばっかりに。

本当、ごめん。

 

 

飯田が担架で運ばれるのを見ながら、爆豪制御装置の一日でも早い復活を祈っておいた。

 



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終止符をうつぞ!今回こそ!貴様の!その息の根を止めてやるぞ、閑話がぁぁぁ!!の閑話の巻き

ちょっとシリアスさんがくるよ!
ちょっとだけだから、ちょっと、ほんとに、ちょっとだけだから!ねっ!


テレビ画面に映された雄英体育祭のクライマックスシーン。一年の部で表彰台の最も高い所に立つのは、うちの子、爆豪勝己。 

 

本来二位にいる筈の双虎ちゃんの姿はない。

準決勝で個性を使い過ぎたせいで、寝込んでいるからだ。幸いな事に後遺症などの心配はなく、暫く眠ったら自分の足で帰ってこれる程度の症状らしい。

念のために学校から車を出してくれるとの事で、迎えにいくのは取り止めた。

 

オールマイトによる閉会式にて終わりを迎えた体育祭の光景を眺め終えた私は、もう一つのクライマックスへと視線を向けた。

 

「引子さーん!しっかりぃぃ!終わりましたよ!体育祭、終わりましたよー!」

「あわわ、わ、ふた、ふたこ、ふた、ふたた、ふたこがぁぁ」

 

私はそっとその場を立ち台所へ向かった。

取り合えずお茶でも入れようと思う。

 

 

 

 

今日は普段から付き合いのある緑谷さんも誘って、我が家で体育祭を観戦していた。

緑谷さんも一人で見るつもりだったとの事で、それなら無駄にデカいテレビがある我が家にと妻が誘ったらしい。

 

元々二人で仲良く観戦するつもりだったらしいのだが、私も丁度仕事が休みだったので参加させて貰っている。

お邪魔する代償として今日一日家事係に任命されたりしたが、まぁ、たまにはこういうのも悪くない。

 

緑谷さんは大人しくおっとりとした人で、気持ちの上がり下がりの激しいうちの妻とは正反対の人物だ。

一見すると合わなそうな二人なのだが、相性が良いのかよく一緒に出掛けているらしい。

最近だと何かのコンサートに行ったとか・・・。

 

まぁ、なんにせよ、友人が出来るのは良い事だ。

大人になるとそういった親しい者を作るのは難しい。

それを大人になってから見つけられた妻を私は少し羨ましく思う。

 

 

そうして始まった体育祭観戦。

それは当然始まった。

 

一年の部、第一種目障害物競走。

個性を使ったなんでもありの障害物競走でなんとも見応えのある競技だった。開始直後の攻防など一瞬だったが、手に汗握る開幕戦だったと言える。

緑谷さん以外にとっては。

 

緑谷さんはスタート直後、双虎ちゃんが火を吹く姿を見て卒倒した。なんでも人様の子供に怪我をさせたんじゃないかと、気をもんだらしい。

 

そういう競技だから大丈夫ですよ、と言うとなんとか元気を取り戻し観戦を再開したのだが、綱渡りにて双虎ちゃんが他選手妨害の為にカメラをぶん投げ始めた所で電撃に打たれたように倒れた。なんでもカメラの代金を考え、勝己や轟くん?に物をぶつけた事に対して、とても気をもんだらしい。

 

そういう競技ですから大丈夫ですよ、カメラの代金も請求されませんよ、男の子に怪我なんてつきものですよ寧ろ勲章ですよ、と頑張って説得すると、なんとか元気を取り戻し観戦を再開したのだが、双虎ちゃんが踞った所で涙を流しながら本気で泣いてしまった。とても心配したらしい。

 

その後、大したアクシデントでないことを知ると、掌を返したように怒り狂っていたけど。

 

 

 

 

紅茶を入れ居間に戻るとさっきより少しだけ顔色の良くなった緑谷さんと、その緑谷さんの背中を心配そうに擦る妻の姿があった。

 

「緑谷さん、お茶入れてきました」

「すみません、気をつかわせてしまって」

「いえいえ、その分、いつも勝己がお世話になってますから」

「それは、どちらかと言えばうちの馬鹿娘が・・・」

 

緑谷さんは大人しい人だけど、双虎ちゃんに関しては少々厳しい。

まぁ、双虎ちゃんのあの奔放さがそうさせると思うのだけども。

 

紅茶で一息入れた緑谷さんを横目に、私は録画した映像を巻き戻した。

ちゃんと録れていたか確認したかったのだけど、双虎ちゃんのシーンがたまたま映ってしまい、緑谷さんが再びソファーに沈んだ。

 

「あんた!!」

「ご、ごめんっ!?いや、わざとじゃないんだよ?それより緑谷さん大丈夫かい?」

「大丈夫だったら文句は言わないわよ」

 

視線を落とし緑谷さんの顔色を見てみると、見るからに顔色が悪かった。なんかふたふた言ってる。重症だった。

 

 

それから一人、録画した映像を私が確認し終えた頃、緑谷さんはヨロヨロしていたが立ち直っていた。

チビチビとお茶飲む姿がどこか小動物を思わせる物がある。緑谷さんの旦那さんは多分こういう所にやられたのではないかと思う。

 

ふぅと、一息つくと緑谷さんは暗い顔をした。

 

「今更ながら、雄英に行かせたのは失敗したのではないかと思ってしまいます」

 

緑谷さんの気持ちを考えればそれは頷ける。

大切に育ててきた子だ。それも女の子。

傷を負わせるような学校行事━━━━

 

「あんなにノビノビと個性使って!いつ誰を怪我させるかっ!!考えただけでも怖い!!」

 

━━━あ、うん。そっちかぁ。

 

「大丈夫よ、引子さん。そこら辺は、ほら、双虎ちゃん上手くやるわよ!中学の頃も上手くやってたじゃない!巷じゃ、折寺の裏番グリーンタイガーなんて呼ばれてても、悪いことはしてないし、実際何もなかった訳だし、ね?」

「上手くやれば良いと言うわけではないんです!ああーもう!あの子ときたら!!私、未だに折寺の中学生に挨拶されるんですよ!?」

「あはは、まぁまぁ」

 

妻に慰められた緑谷さんは怒らせていた肩を落とした。

そしてはぁ、と重い溜息をつく。

苦労してるのが目に見えてくるようだ。

 

「たまに、あの子は私が鋼の心臓を持ってると思ってるような気がするんです。なんていうか、私なら大丈夫でしょ?みたいな・・・」

「はは。どっちかっていうと、引子さんは心配性ですもんねぇ」

「そうなんです!光己さん!分かってくれますか!」

「分かります、分かります」

 

涙目で妻の手を握った緑谷さんは続ける。

 

「勝己くんと最初に会った時だって、どれだけ心臓がバクバクしたか!あの子、馬乗り!馬乗りになってボコボコにしてたんですよ!?もう私、あの光景を見たとき本当に死ぬかと思ったんですから!!」

「懐かしい話ですねぇ。あはは、あの時は驚いたなぁ。誰にやられたの?って聞いても全然教えてくれなくて。まぁ、子供の喧嘩だと思ったんでそこまで気にしませんでしたよ。まさか同い年の女の子にボコボコにされてたなんて思いませんでしたけど・・・」

「その節はすみませんでした」

「良いんですよぉ。それより暫くして、女の子家に連れ込んできた事の方がびっくりしましたよ。ちっちゃい頃の双虎ちゃん天使みたいに可愛くて、よくやった馬鹿息子って思いましたよ!」

「・・・見掛けだけは、ええ」

 

懐かしいなぁ。

初めて会った時『いつも子分がおせわになってます』とか言われたんだっけか。あれは笑ってしまったっけな。

 

「それからもご迷惑お掛けしっぱなしで・・・」

「捨ててあったボート乗って海まで流されてたのは笑いましたね」

「笑いごとじゃないですよ」

 

あの時は大変だったなぁ。

本当。

 

「あ、あとあれも!ほら、いつだったか。海浜公園に遊びにいった時、双虎ちゃんが落ちてた本持ってきて━━━━」

「「どうして男の人と男の人がくっついてるの?」」

 

「━━って、あははは!!あれはっ!ね、あはは!」

「恥ずかしい・・・」

 

双虎ちゃん多分覚えてないだろうな。

私はあの双虎ちゃんと隣で不思議そうに首を傾げてた勝己が忘れられないよ。

 

どうやって誤魔化したっけ?

 

「あれは光己が誤魔化したんだっけ?」

「あんたでしょ」

「そうだっけ?んー?」

 

あ、思い出した。

あの時双虎ちゃんにかっちゃんパパも男の人とくっつくのって聞かれて・・・・。

 

「こういうムキムキした人だけだよって教えたんだっけか・・・」

「あんた、全国の筋肉質な男達に謝りな」

「いやぁ、あはは」

 

あんな純粋な目で見られたら、ねぇ。

 

「あ、そうだ光己、この間貰った喫茶のサービス券あったろ?この後皆で少しお茶しに━━━」

「あ、誤魔化した」

 

妻よ、今は何も言わないで欲しい。

 

何か罪を背負わされそうに思った私は、二人の背中を押して車へと向かわせた。緑谷さんの気分転換にもなるだろうし、何かあった時そのまま車で向かえるから丁度良いと思ったのだ。

 

出掛ける準備をしながら、ふと先程見ていた体育祭で気になる場面を何となしに思い出した。

二位に双虎ちゃんがいないのは納得したが、もう一人三位の子が見当たらなかったのだ。

三位決定戦をしないので、本来なら表彰台に登るのは四人の筈なのだが、そこにあったのは二人のみ。

 

うちの勝己と轟くんだけだ。

 

「えーと、なんと言ったかな。ああ、飯田くん」

 

ご家族の都合でと先生は仰っていたが、うちの子が怪我をさせたからではないか?

そんな心配をしながら、私は車のキーを手にした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「!!あっ、ちょっと!廊下は走らないで━━━」

 

 

 

明日、体育祭だってな。

頑張れよ。

 

 

 

 

「は、はい!?あ、それでしたらこの先の━━━」

 

 

 

 

会場にはいけそうにないけど、応援してるからさ。

時間さえあればテレビとか見るし。

 

 

 

 

「天哉・・・!こっちよ、この━━━」

 

 

 

 

はは、そんなに緊張すんなよ。

大丈夫だって。

 

 

 

 

「あ、まだ駄目よ!マスクもしないで━━━」

 

 

 

 

 

天哉は頭も運動神経も、俺よりずっと上だからな。

一生懸命やればちゃんと結果出せるって。

 

 

 

 

 

「兄さんっ━━━━━!!!」

 

 

 

 

おう。

頑張れ、天哉━━━━━。

 

 

 

 

 

「━━と、ご家族の方ですか?先程、麻酔が切れて目覚められた所で━━━━━」

 

 

 

「━━━意識がまだ朦朧と━━━━」

 

 

 

「幸い命に別状は━━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

天哉が憧れるっつーことは俺、すげぇヒーローなのかもな。ハハ。

 

 

 

 

「━━━━あ、ああ、ああぁぁぁぁ!!あああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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君の懐が暖かいのは知ってる!さっ吐き出して貰うよ!━━━えっ!?私?私?!いや、なんで、え、お金持ってないの?本当に?じゃここの会計どうするの?え、私?いやぁぁぁぁ!の巻き

止めどきが分からなくて長くなっちまったぜ。
失敗したぁぁぁ(゜ロ゜)!!




「かっちゃーーーーん、遊びましょー!」

 

体育祭による振り替え休日一日目。

朝ご飯をさっさと食べ終えた私は爆豪邸を訪れていた。

時刻は朝8時、私にしては早すぎる訪問であった。

 

というのも、昨日早く寝過ぎたのが原因だ。

 

医務室で目を覚ました私が知ったのは、決勝に進出していながらも怪我の具合を考慮した先生から下された無情の判決。棄権敗退という厳し過ぎる現実。戦って負けるならまだしも、戦わず二位になった私は当然抗議した。包帯先生に。

 

それはもう全力で抗議した。

ベッドの上で怒りを表現する為にシャチホコしたり、包帯先生の顔を下から穴があくほど見つめたり、リカばぁのお茶菓子を人質にとったり、裏路地アイドル達の秘蔵写メを献上したりした。頑張った。

 

その結果、準優勝という結果に考慮した補習計画を考えるとの言質を頂くにいたり、私の目標は何とか達成する。

 

これでお茶子達と遊べるぜぇい!と看病に来ていたお茶子に親指たてたら、なんか悲しい顔されたけど。

あれはなんだったのか。うむ、分からぬ。

 

そんなこんなで家に帰ってきた私は、母様のお叱りをひらりとかわし、疲れた体を癒すために全力で寝た。

就寝開始時刻、なんと驚きの七時である。

 

それからぐっすり十二時間熟睡し、翌日七時に目を覚ました私は元気百倍な気分で朝から太陽におはようした。気持ちの良い朝だったので我慢出来なかったのだ。

 

そして当然のように、先に起きてた母様から「朝からうるさい!!」と捩じ込むようなぼでぇーを頂いた。痛いなんてもんじゃない。きいた。世界をみた。

正直、うちの母様はあの体育祭の誰よりも強いと思う。

 

 

 

そんなこんなで朝から元気が炸裂していた私は、朝から遊びにいっても怒らない人を脳内で探し━━━かっちゃんなら大丈夫だろっ、と甘い見通しでここに来たわけだ。

 

ピンポンを押してから少しして、「朝から元気だねぇ」とかっちゃんパパが現れた。ふむ、となると光己さんまだ寝てるな。しまったか。

私は声の音量を下げて挨拶する事にした。

 

「おはよーございます」

「うん、おはよう。勝己まだ寝てるけど、呼んでくるかい?」

「大丈夫です、私が突撃してきます。かっちゃんパパは光己さんとイチャイチャしてきて下さい」

「はは、お気遣いありがとう。でもね、寝起きの光己は怖いから止めておくよ」

 

光己さんは低血圧なので、寝起きが頗る悪い。

爆豪家と緑谷家でキャンプに行った時、寝起きの光己さんを見てショックを受けたのは今も記憶に新しい。いや、もう何年も前の話なんだけど。

 

でもな・・・いつもならこの時間って、光己さん普通に起きてる筈なのにな?

 

「もしかして光己さん、飲んだんですか?」

「よく分かるねぇ。ちょっと昨日・・・というか、もう今日なんだけど。三時頃まで飲んでてね。なんのかんのと言っても勝己が優勝したのが嬉しかったみたいで、つい羽目を外しちゃったんだよね」

 

そうなんだよなぁ。

私の優勝、かっちゃんがかっさらってったんだよなぁ。

これは断罪せねば。

 

「━━かっちゃんパパも飲んだんですか?」

「少しね。光己が酔うと色々大変だから、介抱する為に控えててねぇ」

「介抱・・・かっちゃんに弟か妹が出来ちゃう?」

 

恋愛ドラマとかを思い出しなから聞いて見ると、そっと肩に手を置かれた。

かっちゃんパパは凄く優しい顔をしてた。

 

「・・・双虎ちゃん。今度、美味しいケーキを買ってあげるよ」

「わーい!」

 

若いなぁ、かっちゃんパパも光己さんも。

うちのポヨポヨに聞かせてあげたい。

 

かっちゃんパパとバイバイした私はかっちゃんの部屋の扉を開きさっさと中へ。鍵はかっちゃんパパから貰っていたのでなんなく入れた。

セキュリティが甘いぜ、かっちゃん。

 

「むむむ?」

 

そっとベッドを覗き込むとおネムなかっちゃんを見つけた。眉間に皺が寄ってないレアかっちゃんだ。一枚パシャっておく。

 

なんだろ、こうして見ると可愛い。

ライオンの寝顔に通じる所がある。

ん?あ、それ、可愛くないな。

 

頬っぺたをツンツンしてみたけど、起きる気配はない。

かっちゃんは寝起きがいいほうなので、これで起きないという事はお疲れなのだろう。昨日はなんやかんや、全力だったもんね。

 

何もする事がないので、ぼーとかっちゃんの寝顔を眺めていると、なんだか羨ましくなってきた。

なんて気持ち良さそうに寝るんだこいつ。

ずるい。

 

かっちゃんのベッドを手で押してみると、凄くボヨンボヨンだった。スプリングがパネェ事になっていた。

ずるい、欲しい。

 

こうなってくると益々羨ましい。

なんでこいつ、私より良い寝床で熟睡してんだ。

私なんて、安物のベッドで十二時間も寝る羽目になったと言うのに!!

 

あまりに悔しかったので、かっちゃんが起きるまで私も寝ることにした。

 

かっちゃんを端に転がしスペースを作る。

最初は床に放ろうと考えたけど、流石にそれは可哀想だったので端で許してやろうと思う。

優しさカンストしてるな、私。

 

かっちゃんを端に追いやると、元々大きめのベッドという事もあってスペースは十分に確保出来た。

寝返り対策に筋トレで使ってると思われるダンベルをかっちゃんとの間に敷き詰め、かっちゃんの枕を借りて寝た。掛け布団も借りた。

 

やべぇ、枕も掛け布団フワフワやんけ。

これはずるい。

 

・・・ぐぅ。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ━━━じゃねぇ!!」

「うおっ!?」

 

ちゃぶ台でも返すように、思いっきりベッドの外に弾き出されてしまった。体勢が思うように取れず、尻が餅をついてしまう。

 

その衝撃、実に痛し。

なんか尻が割れた気がする。

 

「朝から何しに来たんだごらぁぁぁ!!」

 

かっちゃん朝から元気だなや。

ハイテンション過ぎるぜ。

 

「暇だったから、遊びにきたよ!」

「だったらせめて起こせや!!なに、しれっとベッドに潜り込んできてんだ!?ああ!?つか!枕もねぇし、掛け布団もねぇし!なに全部しれっと使ってんだてめぇはよ!!」

 

全部が不味かったのか。

 

「じゃ、ほら、枕は返す」

「掛け布団も返せや!!」

「それは、はは、嫌だ!」

「なんでだよ!!つか、拒否権あると思ってんじゃ━━━━」

 

 

ドン、とかっちゃんの部屋にデカい音が響いた。

 

 

私とかっちゃんは音の正体を察し、お互いの口を塞いだ。

 

「朝からうるさい、騒ぐなら他所でやりな・・・!」

 

地を這うような怒りに満ちた声に私は静かに敬礼を返し、かっちゃんの手を取って出掛けた。

普通に怖かった。

 

後は頼んだ、かっちゃんパパ!!

私達はあなたの勇姿を忘れない!!

 

 

 

 

 

寝起きのまま、半袖短パンなかっちゃん。

突然出掛けたのだから当然無一文。

つっかえねぇと思ったのは、ここだけの話。

 

だらしないかっちゃんと街をブラブラしてると、懐かしい所についた。

かっちゃんが人質デビューした商店街だ。

ちょっと感慨深い。

 

「てーか、あれから一年も経ったんだね。なつい」

「はぁ?何寝惚けたこと言ってんだ、てめぇは。買い物とかきてねぇのかよ」

「いや、それは来てるけどさ。そういう感じじゃなくてさ・・・てか、寝惚けてたのはかっちゃんでしょ。私はもうバリ起きよ、バリ起き。七時に起きた」

「バリ起きしてんなら、人のベッドに入ってくんな。ぶっ飛ばすぞ、こら」

 

それは、まぁ、そうなんだけど。

だって凄く気持ち良さそうにしてたから。

 

「・・・はぁ。何すんのか知らねぇけど、金持ってきてねぇぞ」

「ん?知ってるけど?━━━んー、じゃ今日は私が出すよ。たまにはさ」

「あ?ちっ。ったくよ、面倒くせぇな。なら一回帰って━━━はぁ?」

 

かっちゃんが目を見開いた。

なんか凄い顔してこっち見てくる。

なんだよぉ、その顔はぁ。

 

「誰だ、てめぇ・・・!」

 

そこまで言う!?

てか、戦闘態勢とんな!!

私をなんだと思ってるんだ、貴様ぁぁぁ!!

 

 

なんとかかっちゃんに私が本物である事を説明すると、今度は額に手をおいてきた。「熱は、ねぇな」じゃねぇぞ!こら!そんなにおかしいか、私が奢るのは!?

 

「おかしいに決まってんだろ。・・・何言ってやがんだ、てめぇは」

「そこまで言う?!」

「なら、今まで一度だって奢ったことあったか考えてみろや」

「うん?それは━━━━━」

 

・・・・う、うん?

おかしいな、一回くらいは合ったと思ったのに、全然思い出せない。

 

「━━あ、小三くらいの時いった夏祭りで、りんご飴を━━」

「━━落としたてめぇが、俺に奢らせたんだろうが」

 

うん?そうだったか。

 

「・・・それなら、小五の時に初詣いったじゃん?その時おみくじ━━」

「━━が、大吉が出ねぇって、てめぇが小遣い全部ぶっこんだあげく、俺に出させてやっと出たんだろうが」

 

おう?そうだったか。

 

「・・・中学ん時、修学旅行先で━━」

「━━買い食いしまくったてめぇが金ねぇからって、俺がてめぇのお土産代貸してやったんだろうが。つか、思い出したらてめぇまだ返してねぇじゃねぇか。返せや」

 

・・・ふむ。

 

「一回くらいあったでしょ!」

「思い返すと本当に一回もねぇんだよ!!」

 

 

双虎にゃん、うっかり!てへぺろ!

え?あ、はい、今日は奢るよ。

奢りますよー。

嘘じゃないってば!

 

 

それから特に行くところの無かった私とかっちゃんは取り合えず商店街にあるゲーセンにいった。

平日という事もあってお客さんが少なく、どこのゲームもやりたい放題出来る感じだった。

その分お金は掛かるけどねぇ。

 

小学生の頃、かっちゃんとやった格ゲーがおいてあったので久しぶりにやってみる事に。

当然勝つために一番強いキャラを選んだのだが、かっちゃんも私と同じ事を考えていたのか全く同じキャラを選んできた。しかも、裏技まで使用して能力強化までしてくる始末。

 

久しぶり、キレちまったよ。私は。

 

コンボを駆使してなんとか戦ったが、結局ぼろ負けした。一回も勝ち星をとれないストレート負け。

ほくそ笑むかっちゃんに、思わずリアルエルボーした私は悪くないと思う。

 

それがあまりに悔しかったので、カーレースゲームで勝負を挑んだのだが、普通に負けた。裏技とか、そんなの無しに、普通に強かった。

どや顔してきたかっちゃんに、思わずリアルキックした私は悪くないと思う。

 

それから色々やってみたのだが、その結果は惨たるもの。昨日勝ちを譲ってやったのだから、今日くらいは勝ちを譲ってくれても良かろうにぃ。

かっちゃんはクソである。

 

乙女心を解さぬ輩とゲーセンにいても仕方ないので、さっさとそこを後にし次にご飯を食べに行く事にした。最初はファミレスに行こうと思ってたのだが、何となくお寿司が食べたかったので回転する方のお寿司屋さんへと行った。勿論お財布に優しい100円均一の所である。

 

お昼時とはいえ、そこは平日。

入ってそう時間も掛からず席につく事が出来た。

テーブル席についた私は早速流れるお寿司達に目を向けた。

 

「おい、茶飲むのかよ」

「お願いしまーす」

 

流れるような手つきでお茶を用意してくれたかっちゃんに軽くありがとして、お寿司を眺める。

しかし流れてくるものは軍艦巻き、軍艦巻き、巻寿司。しかもそのどれもにキュウリの存在を見つけた。

・・・くそ日であった。

 

「頭おかしい、ここのお店」

「おかしいのはてめぇの頭だ。食えるもんねぇなら、さっさと注文しろや、馬鹿」

 

かっちゃんは信じられない事にキュウリが大好物。なので平気でそれらを食べ始めた。キュウリの得体のしれない青臭さが漂ってくる。人間の食べ物じゃない事を再確認した私は、私の前で平気でキュウリを食するかっちゃんの不幸を心から願った。

タンスの角に小指ぶつければいいのにぃ。

 

それにしても注文か・・・ふっ、浅はかなり。

確かに注文すれば直ぐに食べたい物は食べれる。けれどそれは敗北を意味する。

自然に流れている物をその日の気分によってとる、真の回転寿司マスターたる私はそんな風流じゃない事しないのである。

 

それから少し待って、漸くキュウリの呪縛から解き放たれた板前共が他の物を流し始めてくれた。

ちらりとかっちゃんの方を見ると馬鹿みたいに皿を積んでいた。少しは遠慮しろと言いたい。誰が払うと思ってるんだ。二皿で終わりにしとけ。私の小遣いの少なさ舐めんなよ。

 

言いたい事はいっぱいあるが、全部言っててもきりがないので私のお寿司に視線を向け直す。

じりじりとやってくるお寿司様。途中で誰かにかっさらわれながらも何とか生き残ったお寿司様。

サーモンだけか、しかしそれも良かろう。

 

待ちに待ったお寿司様にいよいよ手が届く所になって、目の前でかっちゃんにとられた。

 

「・・・・あぁ?」

「表にでろ、爆発小僧ぉ!」

 

第一次回転寿司戦争IN折寺、開戦の合図であった。

 

「・・・はぁ、面倒くせぇ。座ってろ馬鹿」

「なんだとぉ!!私のサーモンをとっておいて、なんだその態度は!!許さん!絶対許さん!!箱いっぱいのガリを口に突っ込んでやるぅ!」

 

ガリ箱を持って臨戦態勢をとると、かっちゃんがサーモンを差し出してきた。ふん!それでいいのだ!・・・けどな、かっちゃんや・・・。

 

「皿ごとくれて、良いんだよ」

「さっさと口開けや」

 

何故か箸でつかんだあーんの体勢であった。

流石の私もこれははずい。

 

「くっ!こうやって私に諦めさせるつもりか!」

「馬鹿な事言ってねぇで、さっさと食え。その手だと皿取れねぇだろ」

 

かっちゃんの視線が私の手を見た。

紅白饅頭との試合で頑張ったので、おててはちょっと火傷で負傷中なのである。ぐるぐる巻きの包帯がちょっとあれだが、痛み自体はあんまりない。

火傷跡が目立つのでつけているだけなのだ。

 

「痛くないよ?わりと。包帯のせいでちょっと動かしづらいけど・・・」

「いいから口開け」

 

聞く耳を持たないかっちゃん。

このまま意地をはっても仕方ないので口を開いといた。

今日初お寿司、ネタがちょっと凍り気味だったけど、まぁ良かろう。でもな・・・。

 

「わさびがきいてない」

「あ!?んだと、こら!━━ちっ、面倒くせぇな!!」

 

そんな事言いながらお寿司にわさびを足してくれる世話焼きかっちゃん。メイドさんになれるよ、この子。

 

お寿司モグモグしてると、かっちゃんの視線が手に向かってる事に気づいた。というか、今日はずっと見られてる気がする。

 

「・・・ん。大丈夫だよ、本当に痛くないし」

「跡はのこんだろ・・・」

「リカばぁが意地でも治すって」

「そうかよ」

 

それだけ言うとかっちゃんは流れるお寿司に目を向けた。相変わらずキュウリ多目の光景に私はうんざりするが、かっちゃんはじっとそれを見てた。

 

「━━━あのな、無理すんな。ちゃんと手治ったら相手してやる。今日の勝負はなしだ」

「・・・うん。分かった。そういう事にしとく」

 

その日は珍しく甲斐甲斐しくお世話してくれるかっちゃんに甘え、雛鳥の如くお寿司を頂いた。

楽っちゃ楽だった。

 

 

 

 

 

 

そして、会計で軽く泣いた。

 



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第四幕:沈黙の保須市:お前の血はなに味だ編
ジメジメする季節になりました、皆いかがお過ごしですか?洗濯物の乾きが遅い季節になりまして、わが家もすっかり生乾きの臭いに満ちております。そろそろ晴れてくれないと、ぶっ飛ばすぞ、太陽こら。の巻き。


エンデヴァーの勇姿に、我歓喜。
そして、終わり際に登場した荼毘に、我次回に期待す。


体育祭の疲れも癒えた二日後。

 

天気は生憎の雨模様。

花の香り漂う春も終わりを次げ、季節は洗濯物が乾かないジメジメ梅雨ちゃんを迎えようとしていた。

 

「あーゆーおーけー!!えびばでぃーーー!!」

 

「「「「yes!双虎ーーー!!」」」」

 

しかし、そんな陰鬱を吹き飛ばす熱気がここにあった。

電車内は熱狂に揺れ、鼓膜を震わすビートが魂を震わす。コンサート会場と化した電車内で、私はかっちゃんに肩車して貰いながらオーディエンスに応えた。

 

「のってるかい、べいべー!!」

 

「「「「yes!双虎ーーー!!」」」」

 

答え返してくれるオーディエンスに私は手をふり、スマホをマイク代わりに構えた。

 

「雨にも負けずー!風にも負けずー!今日も頑張ってる皆に贈るぜ、最高の一曲!緑谷双虎、歌います!『空にうた━━━━』」

「いつまで、人の頭の上でやってんだ!!てめぇはよ!!」

「━━にゃふ!?」

 

「「「「彼氏が怒ったぞー!!!」」」」

 

「ぶっ飛ばすぞ、クソモブ共!!!」

 

「「「「ヒューーー!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして電車でひとコンサートと終えた私は駅員の魔の手から逃げ切り、最近買った虎にゃんこなレインポンチョを着て学校への道のりを行った。

かっちゃんは普通のクソつまらない傘である。

センスを疑う。

 

「俺の方が疑うわ」

「はぁー?超可愛いでしょーが。拝め」

「拝むか、爆破すんぞ」

 

やってみろ、クソ野郎。

その時は戦争だ。

 

二人で登校してると同じ学校の奴等にやたらと顔を見られた。握手かサインをして欲しいのだと思った私は気さくに声を掛けるのだが、何故だか逃げられてしまう。

かっちゃんにどうしてだろ、と聞くと俺が知るかと言われてしまった。

なんじゃろ。

 

校門の前についた頃、後ろからバシャバシャと何かが駆けてくる足音が聞こえてきた。

音の正体へと振り向けば、カッパを着た眼鏡がダッシュしていた。長靴まで履くという強者っぷりである。

 

「何を呑気に歩いているんだ!!遅刻だぞ!おはよう緑谷くん!!爆豪くん!!」

 

かっちゃんに時間を確認して貰うと予鈴5分前だった。

 

「眼鏡の時計壊れてんじゃないの?5分前だけど」

「雄英生たるもの10分前行動が基本だろ!!」

「じゃ、眼鏡はもう失格じゃん。のんびりいこうよ」

 

無駄な努力をする眼鏡の襟首を掴むと、喉がしまったのか眼鏡が咳き込んだ。

 

「ふぐぅ、はっ!!い、いきなり止めてくれ。少しだが、見てはいけない河川を見てしまった気がする」

「?何いってん?ほら、それよりのんびりいこう。こうなったら5分遅れようが、一時間遅れようが変わらないからさ」

「それは全然違うと思うが・・・」

 

眼鏡にポンチョを自慢しながら校舎に入る。

眼鏡は一応は褒めてはくるのだが、心を感じないので0点評価である。

お世辞にも質ってあるよね。

 

教室内に入ると、皆体育祭の影響について話していた。

皆ジロジロと見られたらしい。あしどん超声かけられたらしい。可愛いからね。

それとは反対に、瀬呂は小学生からドンマイコールされたとこの事。可哀想だったからね。

 

梅雨ちゃんがそんな瀬呂に優しさからドンマイしたので、私もそれに乗ってドンマイしておいた。

凄いジト目で見られた。梅雨ちゃんとの差を知りたい今日この頃。

 

そうこうしてる内に鐘が鳴り包帯先生が「おはよう」と小さな声で挨拶しながら入ってきた。なんか顔に巻いてた包帯がとれ弱体化している。

まぁ、どうでも良いけど!

 

私は夏休みの件の進捗具合を聞くつもりで元気に挨拶を返した。

 

「おはようございます!!!」

「おはよう、無駄に元気だな緑谷」

「はい!!元気二百倍であります!!」

 

そう返事を返すと包帯先生が私をジト目で見てきた。

 

「聞いたぞ。朝から随分と楽しそうに登校してきたらしいじゃないか・・・」

 

はっ!流石に目敏い包帯先生だ!

もう気づいていたとは。

 

私は雨の季節の一張羅といって過言ではない、にゃんこポンチョを取りだし見せつけてやる。

包帯先生の目が僅かに見開いた。

 

「はっ!緑谷双虎!楽しく登校致しました!」

「・・・・」

「━━━む?」

 

何故だか嫌な予感がした。

包帯先生ならハンカチを噛み締めながら悔しがると思ったんだけど、全然そんな事ない。寧ろ目が厳しくなってる気がする。

 

「緑谷・・・電車」

「はっ!!?」

 

全てを察した私は静かに椅子に正座で着席し、静かにポンチョをしまった。

 

「後で職員室にこい」

「ひぃっ!!」

 

不味い!!

一人であんな所にいったら、地獄を見る事になる!!

ネチネチ説教されてしまうぅ!!

 

何とか逃げ場を探した私はしかめっ面したかっちゃんを目にした。

 

「そ、その場にはかっちゃんもおりました!!」

「なっ!?てめぇ!!」

 

「爆豪もこい」

「んでだぁっ!?」

 

よっしゃぁ!!

一人で逃げようとした罰じゃぁ!!

ぶぁぁっはははは!!

 

 

 

「爆豪くんも災難やね」

「けろ、でも面倒見る人がいないとね」

 

 

「私語は慎め」

 

 

「・・・」

「・・・けろ」

 

 

 

 

 

 

 

私とかっちゃんに死刑宣告と同等の判決を下した包帯先生は教卓に着いて話を始めた。なんでも今日のヒーロー情報学がちょっと特別なんだとか。

 

皆が緊張する中、一人絶望にうちひしがれ机につっぷしていると「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」とのお達しがきた。

 

皆が楽しげに騒ぎだす。

「夢膨らむヤツきたぁぁぁぁぁ!!」との声も聞こえてくる。

 

良かったな、お前ら。

この先私には、地獄しかやってこないと言うのに。

 

 

皆の上がり切ったテンションをばっさりと切り落とした包帯先生は更に話を進めた。プロからのドラフトがどうのと、2年3年がどうのと難しい話をしていた。

途中から聞いてなかったので分からないが、要は体育祭の結果を踏まえたプロヒーローからの指名が来てるらしい。

 

「ま、そういう訳だ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

黒板に映し出されるA組指名件数。

その内訳。

 

最も指名件数の多いのはかっちゃんだった。

二番目は轟で、三番目は私だ。

また負けた。今度は紅白饅頭にすら負けた。

くぅ。

 

「例年はもっとバラけるんだが、今回は三人に注目が偏った」

 

包帯先生のその言葉に「見る目ないよね、プロ」との戯れ言をほざいた奴がいた。命知らずがいたもんだなぁと視線をそこにやると初めて見る奴がいた。

 

あれ誰だ。

あんな奴いたの?

転校生?・・・停学してたのかな?

あ、いや、なんかいた気がする。

 

謎の金髪に目を奪われていると、瀬呂が私を見てきた。

 

「二位と三位が逆転してんじゃん。あれだな、日頃の行いの差だな」

 

・・・瀬呂、お前覚えておけよ。

包帯先生がこの場を離れた瞬間、貴様の命はそこで終わると思え。

 

そんな瀬呂とは対象的に尾白が首を傾げた。

 

「俺的に爆豪の結果が、一番納得出来ない・・・」

 

その言葉に切島、飯田以外の男性陣が頷いた。

 

「っんだと!!こらぁっ!!」

 

「だってなぁ~最後の飯田ん時とか酷かったし」

「麗日ぼこぼこはやっぱ印象悪りぃだろうしな」

「基本的に暴言だらけだったし・・・」

「顔怖かったもんな」

「悪鬼羅刹」

 

「ぶっ飛ばすぞ、てめぇら!!」

 

わいわいする男子陣とは正反対に、女子ーずはきゃぴきゃぴしてた。

なんか私を見てきゃぴきゃぴしてきた。

なんだよぉ。

 

 

「喧しい」

 

包帯先生の声で皆がしゅんとした。

 

「これを踏まえ・・・指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのにいってもらう。お前らは一足先に体験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練をしようってこった」

 

なるほど、それで一応のヒーロー名を決めとけって事か。

納得した私はかっちゃんの背中をつつく。

 

「んだよ、馬鹿女」

「かっちゃんのヒーロー名、私が決めてあげよっか」

「はぁ?」

 

顔を歪めたかっちゃんの耳に顔をよせる。

 

「爆発系ヒーロー爆裂伯爵ボンバーノ・・・!」

「ふざけろ、んでそんなダセェ名前にしなきゃなんねんだ」

「むぅ・・・?なら、かっちゃんならどうすんのさ」

 

そう聞くとどや顔のかっちゃんが口を開いた。

 

 

「爆殺王・・・!」

 

 

 

・・・ふむ、ふむ。

 

 

 

むぅ。

 

 

 

 

ふむ?ふむ・・・。

 

 

 

 

「ダセェ」

「表に出ろ、馬鹿女。戦争だ」

 

胸ぐらを掴み合いながら廊下に出ようとすると、包帯先生に普通に叱られた。

 

すんませんっしたぁぁぁ!!

 



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名は体を現すって言うのはさ、つまりゴリラがゴリラなのはゴリラゴリラゴリラであるみたいな事なのよ。うん?なんの話かって?あれだよ、ゴリラはゴリラゴリラゴリラだって話?あれ?の巻き

ソウルを捧げよ!!


第一次貴様のネーミングセンスのがクソだろ合戦を中断させられた私達は、言葉を出さずハンドサインだけでずっと互いを罵りあっていた。

 

かっちゃんがクソ生意気にマザーファッカーしてきやがった。やれるもんならやってみろや。うちの母様つえーかんな。ばーか。

 

「止めろ、緑谷、爆豪。いい加減にしろ。・・・ま、そういう訳だ。馬鹿達に邪魔されたが、君らには仮のヒーロー名を付けてもらう。まぁ仮だからと言って適当なもんを・・・」

 

「付けたら、地獄を見ちゃうわよ!!」

 

ハンドサインすら禁じられフラストレーションはマッハ。戦争し損ねた私とかっちゃんが互いを睨み合う中、包帯先生の話を遮って元気な声が聞こえてきた。

気になったので一時休戦にして視線を向ければ、心の友ミッドナイト先生の姿がそこにあった。

 

「この時の名が!世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」

 

相変わらずのエロ衣装。

今日もミッドナイト先生は決まってる。

それならば私も決めねばなるまい。

 

にゃんポンチョをささっと羽織り、手をあげて存在を全面にアピール。

 

直ぐに気づいてくれたミッドナイト先生が、私の姿を見て「可愛いわね!」とグッドサインを出してくれる。

流石に分かってる大人の女は違うね!分かってるね!

 

どや顔でかっちゃんを見たが、今度は普通にスルーしてきやがった。

許すまじ、爆豪勝己。

 

「緑谷、可愛いのは分かった。大人しくしてろ」

「はい!」

 

包帯先生にもお褒めの言葉を頂けたので大人しく座り直す。

私は聞き分けは良い子なのである。

 

「まぁ、そういう事だ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうの苦手なんでな。将来自分がどうなるのか、まだ曖昧な奴もいるだろう。そういう奴等は名を付けることでイメージが固まり、行動や考え方がそこに近づいてくこともある。仮とはいえ、おかしな名前は付けるな」

 

包帯先生は人差し指を立てた。

 

「『名が体を表す』ってことだ。オールマイトとか、いい例だろう。君らの目指すものを、その名に込めろ・・・以上だ。後はミッドナイトさん、お願いします」

「はいはーい。任されたわ。て言うか、人に名前を決めて貰った人がよく言うわ。聞いたわよ、マイクから」

「俺のは・・・まぁ、合ったから良いんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

包帯先生が寝袋inした所でミッドナイト先生が教卓に立ち、皆と楽しいお名前講座が始まった。昔のヒーロー名の例をあげたり、最近の流行の付け方とか、名前を付けるコツとか教えて貰う。

私的には助かったのだけど、周りの様子を見るに元から考えてあるみたいであんまり役立ててはいないみたい。まぁ、皆ヒーローになりたくてここに来てる訳だしね?うんうん。

 

しかし、どうするか。

いきなり名前とか言われても分からん。

あれか、なんか凄いって分かる奴がいいな。

私の美しさと可愛さと愛らしさと偉大さが一目で分かるような、そんな名前がいいな。

 

「デリシャスキュート双虎ちゃん」

「緑谷、もう少し捻れよ」

 

隣から苦笑いの瀬呂が見てきた。

 

「・・・黙れ、瀬呂ドンマイ」

「まるで名前みたいに呼ぶなよっ!凹むわ!」

 

難しい。

なんか違うな。

 

「ビューティフル双虎・ザッ・パーフェクト」

「緑谷、それじゃいまいちだと思うぜ。数字とか入れてった方がいいんじゃね。シャレてるぜ」

 

今度は後ろからブドウがしゃしゃり出てきた。

 

「・・・数字?」

「自分に関係ある数字を名前の頭とか後ろに付けるのって結構あるんだぜ。緑谷に関係ある数字なら、例えば・・・スリーサイズとか」

 

「肥やしにされたく無かったら黙ってろ。ブドウ」

「・・・ぶっ殺すぞ、くそブドウ」

 

「ば、爆豪は交ざってくんなよぉ!」

 

むむむ。

難しい。

 

「ゴッデス・フタコ」

「緑谷はなんになる気なんだよ」

 

今度は斜め前から耳郎ちゃんが割り込んできた。

皆して暇すぎだろ。自分は決まってるからって。

 

「じゃ、何か良い案頂戴よぉ」

「そういうのは自分で考えるから意味あるんでしょ。なんかないの?ほら、個性にかけるとかさ」

「個性に?」

 

引き寄せる個性・・・ひきよせー双虎!違うな。

もっとこう、なんだろ、こう・・・・む!

 

「引き寄せヒーロー、インコ!!」

「ん?よく分かんないけど良いんじゃない?インコって何から?引力とか?」

「いや、うちの母様の名前だけど」

「━━なんでだよっ!」

「え?引き寄せ個性って、母様の個性だから・・・」

「━━だとしても、なんでだよっ!止め止め!」

 

耳郎ちゃんに却下されてしまった。

折角しっくり来たのに。

 

「難しい・・・インコで良い気がする」

「あんたのお母さんが苦労するから、止めたげな!」

 

耳郎ちゃんはケチである。

しかしこうなってくるとますます難しい。

うんうん悩んでいると、ミッドナイト先生が来てくれた。

 

「お悩み中?少しも希望はないの、緑谷ちゃん」

「希望・・・むぅ。こう偉大さと優雅さと、美しさと可愛さと愛らしさが一目で分かるような、そんな名前が良いです」

「あら、素敵じゃない。でも全部が混じってると、一人の名前としては賑やか過ぎるわ。一つか二つかに絞ってみない?」

 

一つか二つか。

 

「じゃぁ、偉大さ可愛さで良いかなぁ」

「それなら昔の偉人の名前をヒントに考えてみてはどうかしら?少しアレンジすれば可愛さも出るわよ」

「おお、なるほど」

「ここに資料があるから、よく見て考えてみてね」

 

そう言って渡されたプリントには色んな人の名前が書かれていた。ヒントになりそうなのもチラホラある。

これなら大丈夫かも知れない。

 

「考えてみまーす」

「頑張ってねぇー」

 

ちょっと本気でやってみますかぁ!

 

 

 

 

 

 

「ニコちゃんが手玉にとられとる・・・!」

「ミッドナイト先生凄いわ」

「・・・前から言おうとは思っていたんだが、僕が間にいること忘れてやしないか、二人とも」

 

 

「はーい、無駄話はそこまで。考え終わってる子も自分の名前をもう一度確認しておきなさい。仮とはいえ、その名前が世に出るのよー」

 

 

「はーい」

「けろ」

「はっ、はい!・・・・」

 

 

 

 

 

 

それから色々考えて名前が纏まった私は、それを発表ボードに装飾多めで書き込んだ。

名前の回りに私のスター性を表現するため星、可愛さを表現するためのにゃんこがいる。偉大さを表現するために名前に絡み付くドラゴンも必須。

 

一生懸命書き込んでると、かっちゃんが覗いてきた。

 

「なに?」

「・・・おまえ、本当にそれにするつもりかよ」

「爆殺王の百倍マシだけど」

 

怒るかと思ったけど、かっちゃんは眉を顰めるだけ。

認めた訳ではなさそうだけど、評価してる感じでもない。

 

結局そのまま時間は流れ、ミッドナイト先生の提案で名前発表会が始まった。

一番初めに名前発表したのは、あの謎の金髪転校生だ。

 

「輝きヒーロー、『I can not stop twinkling.』」

 

まさかの外国人だった。

しかも短文みたいな名前━━━はっ、あれはヒーロー名か。本名なんて言うんだろ。ジョン?いや、マイケルか。

 

「短文!!!」

 

あ、誰かも私と同じ事を思ったみたい。

だよね。そうだよねぇ。

 

ミッドナイト先生はそんな外国人にもアドバイスしていた。日本語でのアドバイスだったけど。

彼は分かったのだろうか。

 

それに続いたあしどんは『エイリアンクイーン』と発表したけど、ミッドナイト先生はこれを却下。

私は良いと思ったんだけどなぁ。

 

あしどんの次は梅雨ちゃん。

発表されたヒーロー名は『フロッピー』。

ミッドナイト先生は勿論、クラス皆から称賛されていた。個人的にもフロッピーは可愛いと思うけど、さっきのエイリアンクイーンが認められなかった事が疑問だ。

何故だ。

 

 

続く切島は『烈怒頼雄斗』。

読み方はレッドライオットと言うらしい。

憧れのヒーロー名をリスペクトした物らしい。

良いんじゃないの?分からんけど。

 

それに続いて耳郎ちゃんの『イヤホン=ジャック』。

阿修羅さんの『テンタコル』。

瀬呂の『ドンマイ』。

 

「セロファン!緑谷!セロファンだから!見ろ!こっちを!!」

「・・・・・」

「無視すんなぁ!」

 

尾白の『テイルマン』。

お菓子くれる人の『シュガーマン』。

リベンジあしどんの『ピンキー』。

 

上鳴の━━━は聞き逃したので分からない。

多分『デンキー』とかそんなだろう。

 

葉隠の『インビジブルガール』はまんまじゃねぇーか、と思ったのは内緒だ。

 

百は『クリエティ』。

轟は『ショート』。名前らしい。

 

常闇、ブドウ、無口さんは分からない。

発表ボードに抜けがあって仕上げに集中してたのだ。

ごめんねぇ。

 

お茶子が発表しそうになったので仕上げを一旦止め、教卓へと耳を傾ければ『ウラビティ』という可愛い響きが聞こえてきた。ミッドナイト先生からシャレてる!とのお褒めの言葉。

良かったね、お茶子!

 

私を含めて発表してないのは残り三人。

おおとりを務めたい私はかっちゃん達に先を譲る。

すると眼鏡より先にかっちゃんが前に出た。

 

 

 

「爆殺王」

 

 

 

・・・私にダサいと言われたにも関わらず、小揺るぎもせず欠片も変更しないで発表したかっちゃん。

その呆れるまでの自信、嫌いじゃない。嫌いじゃないよ、かっちゃん。寧ろそういう所、好きだよ。

 

 

「そういうのは、やめた方が良いわね」

 

 

物の見事にミッドナイト先生から駄目だしくらってるけどさ。

 

 

「なんでだよ!!」

 

 

 

再考を言い渡されたかっちゃんを横目に、私は発表してない眼鏡を見た。さっさと出ろや、コラ。というアイコンタクトである。

けれど、眼鏡の様子が少し変だ。なんか悩んでる感じがする。名前を書くだけなのに、何をそんなに悩んでるのだろうか?

 

少しして眼鏡が教卓に立ち、それを発表した。

眼鏡が発表したのは『天哉』の二文字。

ミッドナイト先生いわく名前らしい。

 

少し視線をずらしてお茶子を見れば、心配そうに眼鏡を見てた。

 

ふむ、なんかあるんだろうな。

 

朝から変な感じしてたから、何かあるとは思ってたけど・・・男女のあれかな!?━━━違うかぁ。

 

 

眼鏡の事は取り合えずおいておいて、私はおおとりの仕事を務めるべく教卓へと向かった。

 

「どうかしら、緑谷ちゃん。良いの考え付いたかしら?」

「むふふ、勿論ですとも」

 

私は気持ちを込めて発表ボードを教卓においた。

 

「アルティメットオブにゃんこプリンセスヒーロー!!ラストエレガント双虎・ザ・キュート!!」

 

「言いたい事は色々あるけど・・・却下」

 

なんでぇ!!?

 

 

 

 

 

 

それから、かっちゃんと競うように名前を直しまくり、なんとか『ニコ』で勝利を得た。

かっちゃんが『爆殺卿』とかアホな事言ってくれて良かったぜぇ。

 

どうした、悔しいか?悔しいのんか?

ええ?なんとか言って下さいよぉ!取り敢えずついたヒーロー名が本名の人ぉ!!

 

 

━━━あっぶな!爆破すんな!こらっ!



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選びとれ、運命を!導きだせ、勝利への道筋を!!はぁぁぁぁ!!出ろっ!ゴールへのラストサイコロっ出ろや2━━━ぁぁぁ!ここで刻んできますか、そうですかぁ!の巻き

ちょっと昔、毎日投稿しとる奴みて、人ちゃうわと思ってたけど、こんなぼくでも出来るんやから、やれば出来るもんらしいで。

皆もやろうぜ(*ゝ`ω・)!
必要なのは、根気と熱意とほんの少しの諦めと、思いきりの良さだけ!
恥なんて投げ捨てていこうぜ!


授業終了後、職場体験場所を決める為にヒーロー事務所リストが手渡された。指名のあった人は指名事務所の中から、指名のなかった人は学校側が予め頼んでおいた事務所の中から選ぶようだ。

勿論、指名があった人でも、希望があるなら学校が頼んでおいた方にも行っていいらしい。出来るだけ指名してきた所から選んで欲しい的な事は言われたけども。

 

 

皆それぞれ自分が活躍出来る場を考えているようで、行く場所はそんなに悩まずに決まりそうな雰囲気。

さて、私はどうしようかね。

 

休み時間になり、暇潰しにリストをペラペラ眺めていると「ちょっといいか」と声を掛けられた。

視線をそこへと向ければ紅白饅頭の顔があった。

 

「・・・どったの?」

「ちょっとな、今いいか」

「いいけど?別に何もしてないし」

「そうか」

 

じーと黙りを決め込みこっちを見てくる紅白饅頭こと轟きゅん。

すっとぼけた表情なのに、どこかイケメン臭がする。

なんだろ、ちょっと癪だわ。

 

「・・・言いたい事あるなら、言っていいってば。何?」

「わりぃ。何から言うか考えてた。よく考えたら、緑谷にはその件について何も教えてなかった事思い出してな」

「ああー、それなら話したい所だけで良いよ?それとも全部話したい?聞くけど」

「・・・聞いては貰いたいとは思う。けど、今じゃなくて良い。俺自身、飲み込めてない所もあるしな。だから、先にこれだけ言わせてくれ」

 

そう言うと紅白饅頭は頭を下げてきた。

 

「ありがとう」

 

言葉から、本当に感謝してる事が分かる。

あの時の何がどうなって、紅白饅頭が頭を下げるに至ったかは知らないけど、それが私のお陰だと言うのであれば素直に受け取っておこうと思う。

 

「うん、あいよ」

「軽いな」

「私がしたのはそんな程度の事だってこと」

「・・・そうか。俺にはそれが、一番難しかったんだけどな」

 

言いたい事だけ言って去ろうとする紅白饅頭の背中に、私はふと思い付いた事を言ってみる事にした。

 

「轟ぃー」

「?どうした」

「連絡先交換しよー」

 

何故か紅白饅頭がきょとんとした。

 

「・・・いいのか?」

「?言ってる意味が分からん。いいに決まってるから聞いてるんだけど。て言うか、ベストフレンドなのに連絡先知らんとかどうなのよって話じゃんね。━━ん?スマホ持ってないの?」

「それは持ってる」

「ほら、貸して」

 

さっさと紅白饅頭からスマホを受け取り、連絡先のデータを交換して返した。

返した時もきょとんとしてた。

 

「今度はどったのよ」

「いや・・・なんでもない。俺はメールとか、あんまりしないぞ」

「いや、そういうのは期待してないけど?てか、メール打てんの?」

 

なんだその顔は。

打てないのか?打てないんだな?

 

「・・・人並みには打てる」

「打ってきてみんしゃい」

「・・・・」

 

だから、なんだその顔は。

打てないんだろ?あんまりやった事ないんだろ?

 

ぎこちない動きでメールを打つ紅白饅頭を眺める事1~2分。漸く初メールが届いた。

 

『轟焦凍。』

 

なんで名前打ってきたんだ、こいつ。

あれかな?初メールだから名前打ったのかな?

連絡先交換したって言ったのに。

てか、マルはいらん。

 

「・・・正直言うと、普段は電話くらいしか使わない。見るのは出来るんだが、返すのはな」

「うん?そっか。まぁ、困ってないなら、良いんじゃね」

「緑谷」

「ん?」

 

また沈黙が訪れた。

なんだって紅白饅頭は話し出すとテンポが死ぬほど悪いのか。

弄り放題だった、とっつき易い数日前の轟きゅんを返して!

 

「・・・緑谷が嫌じゃなければ、メールの練習相手になってくれないか?ヒーローやってくとしたら、最低限こういう物も使えないと仕事にならないと思っててな」

「練習相手?別に良いけど・・・私もマメな方じゃないし練習になるかなぁ・・・あ、そういう事なら皆とすればいいんじゃね?」

「皆・・・?」

 

首を傾げる紅白饅頭を放って、A組女子ーずに集合をかけた。全員近くにいたから直ぐに集合。紅白饅頭ごと私を取り囲む感じになる。

 

紅白饅頭、ちょっとビクッとした。

 

「どうかしましたの、緑谷さん?」

「ニコ呼んだー?お、轟と何してんのー?」

「はっ、まさかの三角関係!?」

「ホンマ!?あわわ、どうなってしまうんやろ・・・」

「葉隠ちゃん、冗談がキツいわ。お茶子ちゃんも簡単に信じちゃ駄目よ」

「本当だとしたら相当ヤバイ事になるだろうね。無駄に爆発してる爆豪が目に浮かぶ」

 

お喋りな女子に囲まれた紅白饅頭はフリーズした。

恐らく考える事を放棄したのだろう。

実に潔し。

 

私は固まってる紅白饅頭に代わり事情を説明した。

すると皆、連絡先交換するのも、練習するのも快くOKしてくれる。

 

反対に、峰田なら事情も聞かず断ったとも言っていた。

仕方ないね。

 

事情を聞いた中であしどんと葉隠が特に積極的で、早速今日の放課後にでも打ち方のいろはを伝授するとの事。絵文字とか顔文字とかの使い方とか教えるらしい。百もその講座に参加するとか。教わる方かい、と思ったけどそれは黙っておく。メール打てない百、可愛い。

 

しかしなぁ、紅白饅頭が絵文字なんてもの教わって、果たして使う日が来るのだろうか?

私は疑問である。

 

 

「━━━っせぇぞ、切島。自慢してんじゃ━━あっ?」

「そんなんじゃねぇって。でもよ、サインなんて言われたの初めてだから━━━ってなんだあれ?轟?何してんだあれ、女子に囲まれて」

「俺が知るかっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニコちゃん!ちょっとええ?」

 

その日の放課後帰ろうとしたらお茶子に呼び止められた。朝の件をこっぴどく怒られた後で部活に参加してる生徒以外いない時間帯だったので、声を掛けられてちょっとびっくり。今日はよく呼び止められる日だなや。

 

深刻そうな顔をしたお茶子にピンときた私は、同じくさっきまで怒られていたかっちゃんにコイコイする。

 

「んだよ」

「今お金どんくらい持ってる?私は20円」

「なんで高校生にまでなって、財布の中に20円しかねぇんだよ・・・。━━━今はそんなに持ってねぇ。5000円くれぇだったか」

 

思ったより残高に余裕があったので、ゆっくりお茶子の話を聞くためにも駅前の喫茶店に行く事にした。

勿論かっちゃんの奢りである。

 

終始かっちゃんは抵抗を見せたが、108の必殺技の一つ『一生のお願い』を使用すれば一ころだった。

かっちゃんは昔からこれに弱い。もう、何度目になるか分からんのにね。アホだな。

 

いつか悪い女に引っ掛からないか幼馴染として心配だなぁ━━と言ったら、なんかお茶子から凄いジト目で見られた。

わっつ?

 

喫茶店に入ってお茶子とお茶しながら話をすると、眼鏡の話になった。何でも眼鏡の兄貴がヒーロー活動中、輩に襲われたらしい。ニュースでも取り上げられるほどの事件だったらしく、結構重症らしい事と活動が見合せになってる事を知ったとか。

 

「そんでね、今日話聞いてみてんけど、大丈夫としかゆうてくれんくて・・・。大丈夫にはみえんし、どうしたらええかと思って」

「思いっきり、ビンタしてみるとか」

「そんなプロレスラーの気合い注入みたいなんはアカンと思うわ」

 

駄目か。

 

かっちゃんに良い方法はないか目で聞いてみたけど、面倒臭そうに鼻息を漏らした後口を開いた。

 

「大丈夫だってんだから放っときゃ良いだろがっ」

「そ、それはそうなんやけど・・・」

「何かすりゃ解決するほど、簡単な話でもねぇだろが。ちったぁ考えろや」

 

キツい言葉を発したかっちゃんのボディに母様直伝のブローを叩き込んでおく。

お茶子を虐めるなボケ、という私の気持ちである。

 

「・・・ま、かっちゃんの馬鹿は無視するとして、真面目な話、出来ることってそんなにないと思うよ?元気になるの急かしても仕方ないし。本人の気持ちが落ち着くのを待つのが一番だよ」

「それは、分かってるつもりなんやけど・・・。けどね、なんか、今だけは、放っておいたらいけない気がすんねん・・・」

「ふぅん?」

 

多少気にはなったけど、私はそこまで眼鏡になにかあるとは思えない。

色々と悩んでいるのは分かるけど。

 

けど眼鏡の友達として関係を築いてきたお茶子がそういうなら、何かあるのかもしれない。

気のせいと切ってしまえるほど、そういう時の女の勘は馬鹿に出来ないのだ。

 

「ふむ、分かった。じゃ、取り合えず私も注意して様子見とくよ。それで何かあったら、その時は気合い注入ビンタしよ」

「ビンタはあれやけど、ありがとうニコちゃん」

「ええよ、友達じゃない」

「ふふ、マネせんといてよー」

 

その後はお茶子と楽しくケーキを摘まみながらお茶して帰った。別れ際、お茶子の顔は少しだけ明るくなってたけど、やっぱり何処か暗くて少し凹む。

なんとかしてあげたいけど、こういうのは本人が受け入れる時間が必要だし、励ましたりするにもタイミングとかもあるし、簡単にはいかないんだよね。

 

 

 

その晩、早速紅白饅頭からメールがあった。

相変わらず固い文章だったけど、要はただのおやすみメールだった。

 

文の最後の顔文字にホッコリしたので寝る前に返しておく。

 

 

『轟、夜分遅くに悪かったの後に《( ・_・)ノΞ●~*》はないわー。手をあげてるけど、それ爆弾投げつけてる顔文字だからね?明日またあしどん先生と葉隠先生にしごかれるように!じゃ、おやすみー(*・ω・*)ノ』

 



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違う違う。私が面倒見られてるんじゃないの。私が面倒を見てるの。分かる?私がっ、面倒を、見てるの、OK?そうだよ、私だよ。━━━なんだってそんな目で私をみるのぉ!違うってば!の巻き

うぇーい。
職場体験編始まってきちゃたぜぇ(*´ω`*)
暗くなるだろうぬぅなぁ、やだぬぅぁ。
もう、あれだよ、ノンストレスで書ける平和が一番やで。


明日に休みを控えた週末。

 

誰もが明日の休みに思いを馳せ、重たいからだに鞭打ってもうひと頑張りする、そんな日。

 

そんな日の、私の放課後。

 

私は皆の前でダーツを手にしていた。

目の前には事務所リストを張り付けた的。

その的の脇を囲むように佇むクラスメート達。

掛かるコールは特になし。

 

そう私は今、皆大好きダーツで職場体験する事務所を選ぶ所なのである。

 

「ニコちゃん、もっと真剣に考えた方がええと思うけど・・・」

「作っておいてなんですけれど、麗日さんに同意ですわ」

 

お茶子達がやんわりと止めてくるが、止める訳にはいかない。これは仕方ないのだ。

もう随分と悩んだ。悩んだのだ。

でも決められなかったのだ。

 

どれも一緒に見えて仕方ないんだもん。

 

一応調べたさ、リストのヒーロー事務所の活動とか。

ちゃんと見たさ、経歴とかランキングとか。

でもね、見たけど、何が良いのか分からなかったんだよ。

 

元から興味が薄かった事もあって、もうさっぱりだった。皆一緒じゃないのん?ん?ってなった。

ヒーローって、そんなに細かく分類する物なの?ん?ってなった。

だから、もうこれで良いのだ。

 

・・・てか、もう悩んでる時間すらないのだ。今日がそれの提出期限なのだから。そして期限切れ直前のラスト放課後なのだから。

 

かっちゃんと同じ所から指名きてたら、それと同じでも良いかと思ったけど━━そんな事なかったし。

なんつったっけ、ベスト・・・ベスト、ジーパンマン?

 

取り合えず真剣さをお茶子に見せる為に、出来るだけ真剣な顔をしてお茶子の肩に手をおいた。

 

「お茶子、私は真剣に投げる。だから大丈夫」

「一つも大丈夫な所ないんやけど」

 

皆に見守られる中、ダーツを構えた私は魂をそこへと注ぎ込んだ。

 

そう、これは運命力を試される試練。

手を抜く事なんて出来やしない。

誰でもない、自分との戦い。

 

楽な所になるか、厳しい所になるか。

いざ、勝負!!

 

 

「砕け散れ、グングニル!!」

 

「砕いたらあかん!てか、ダーツ一発にどれだけ気持ち込めてん!?」

 

 

お茶子のツッコミと共に手元から放たれたダーツは真っ直ぐに飛んだ。

空気を切り裂き、音を置き去りにした━━━感じがするほど気持ちよく飛んだ。

 

そしてトン、と突き刺さる。

 

「梅雨ちゃん、かもん!」

「本当はちゃんと選んで貰いたいんだけど、これも悩んだ末に出した結果というなら仕方ないわね」

 

ダーツが突き刺さったリストを取り、梅雨ちゃんがそれに目を通し━━━何故か言葉を詰まらせた。

どうしたのかと見ていると、私以外の女子ーずに集合を掛けて協議が始まった。

 

そんなに微妙な所飛んだの!?

 

「・・・けろ。緑谷ちゃん、また大変そうな所を射ぬいたわね。そもそもこの事務所に選ばれていたのが驚きだわ」

「事務所の方もあれだけど、ここだと・・・でしょ?一緒にするのはどうだろ。少しマジくさいんだよねぇ」

「ニコちゃん、また凄いとこ射ぬくなぁ。持ってるわぁ、ある意味」

「━━というか、こんな凄い事務所に選ばれているのに本人にはまったく響かず、結果ダーツで決まるというのがなんとも言えませんわね」

「最近、緑谷は嵐そのものなんじゃないかなって思う時があるわ、あたし」

「ドッキドキだねーこれはっ!」

 

不穏な話し合いが聞こえる。

ど、何処に決まったの、私・・・!?

 

「うーーーかっちゃん!」

「ちっ、なんだって俺が・・・」

 

調べてくるようにかっちゃんにGOサインを出したら、文句を言いながらも女子ーずの囲みを破って見に行ってくれた。

そういう空気を読まないとこも良いよ!それでこそかっちゃんだ!!

 

 

「そんな事言ってしっかり行く爆豪。ナニあれ、面白い」

「刺激するなよ瀬呂・・・どうなっても助けないからな」

「いつもの事ながら、尻に敷かれまくってるな爆豪。ある意味で男っつーか。━━あれ、っかしな、なんか涙出てきた」

「幼馴染とイチャイチャと、く、妬ましい・・・!」

「ぶれねーな峰田。まぁ、気持ちはわかっけど。彼女とか欲しーなぁ」

 

「「「出来たらいいな・・・」」」

 

「「ちっとは心込めろ!」」

 

 

男子がガヤガヤするのを眺めながら結果報告を待っていると、かっちゃんが突如リストを爆破した。

 

何してやがんだぁ━━━てめぇはよぉ!!

 

「かっちゃん!!何しよっとじゃぁ!!プリント無くしたら、私が怒られるじゃんか!!てか、今から提出しなきゃいけないのにぃ!!」

「るっせぇ!!勝手に怒られてろや!!」

「なにぉぉぉ!!その時は貴様も道連れだ、おらぁ!」

 

虎の構えでかっちゃんと対峙していると、女子ーずが間に割って入ってきた。あしどんと葉隠、耳郎ちゃん三人かがりで連行されるかっちゃん。

反対に私の方にはお茶子と梅雨ちゃん、百がきた。

 

百が手のひらからさっきと同じプリントを個性で作ってくれて、一つの場所を指差してくる。

 

「緑谷さん、貴女が射ぬいたのはここですわ」

「しれっと、全部暗記しとるの凄い・・・」

「本当ね。でも今はそこじゃないわ、お茶子ちゃん」

 

指差された所を見ると何処かで聞いた事あるような名前があった。

 

「エンデヴァーヒーロー事務所?」

 

どこだっけ、ここ?

 

「エンデヴァーヒーロー事務所?本当か、緑谷」

 

首を傾げてたら紅白饅頭が交ざってくる。

そしてプリントを見て顔をしかめた。

 

「あの、クソ親父・・・」

 

おぅ、なんかヤバイオーラ出とる。こわっ。

紅白饅頭となんか関係あるの・・・・あっ、エンデヴァーってあの時のメラメラガチムチ、顔が似てない事に定評のある轟パパ、通称ハゲのことか。

なるほど、なるほど。

 

「轟もここなの?」

「あ、あぁ。・・・まぁな。あれでもランキング2位のヒーローだ。人間としてはあれだが、ヒーローとしてなら何か学べる事があると思ってな」

「そっか」

 

もう一回選び直すのもあれだし、一人ならまだしも紅白饅頭もいるなら別に良いか。

 

「うん、決めた。私もここにする。よろしく、轟」

「・・・良いのか?」

「?何に対するやつか知らないけど、良いから言ってるんだけど?色々とフォローよろ」

「分かった━━━━そういう事だ、爆豪」

 

おう、何故にかっちゃんに確認とった。

 

「っざけんなっ!!おい、馬鹿女!!てめぇは俺んとここいやっ!!」

「いや、指名来てないんだから、いけないんだってば」

「━━なっ、ぐっ、うぐぅ、ちっ!ならてめぇと俺の指名事務所の中で被ってる奴を━━━」

 

 

 

「━━━━わわっ、私が!!独特の姿勢で来た!!」

 

かっちゃんが怒鳴り声をあげると同時に、教室のドアが開きガチムチが現れた。

突然の事にクラスが静まり返る。

 

「あ、オールマイトや!」

 

お茶子の声にみんながやっとガチムチを認識してザワザワする。

 

「あ、驚かせてごめん。A組の少年少女。ちょっと良いかな?」

 

慌てた様子のガチムチが教室の中に入ってくると、かっちゃんが女子ーずの拘束から抜けだし、しかめっ面で私の前に出てきた。

ちょっ、邪魔。ガチムチが見えないんだけども。

 

「んだ、オールマイト。まさか、馬鹿女に用がある訳じゃねぇよな・・・!」

「え!?いや、え、うん。実はね、君に新たに指名が来てるんだ。爆豪少年。その事で、ちょっとね・・・なんか手違いがあったというか、うん。そのね、ちょっとおいで」

「はぁ?」

 

指名数一位のかっちゃんに今更な話だ。

それにかっちゃんはもう職場体験の事務所を決めてる。

そうこうしてる内にオールマイトの小脇に挟まれたかっちゃんは、教室から連行されていった。

 

「・・・ひとさらいって、ああいうのを言うのかな?」

「オールマイトも先生だ。大丈夫だろ」

 

紅白饅頭はそう言うけど、ガチムチはガチムチだしな。

男の子なんて大好物だろうし・・・かっちゃんのお尻が心配だな。

 

「ま、かっちゃんの無事は神のみぞ知るって事でおいておいて、取りあえずプリント提出してこよっかな」

「・・・それなら、俺も一緒に行くか?同じ所だし、何か言われるかもしんねぇからな」

「うん?まぁ、よろしくぅ?」

 

 

 

「きゃー!何か始まる予感ー!アオハルが吹き荒れてるよー!」

「ニコちゃんが、ニコちゃんが・・・あわわ、爆豪くん!どないしよ!」

「爆豪・・・荒れるだろうなぁ。こっちにとばっちりこないと良いけど」

「けろっ。耳郎ちゃん、爆豪ちゃんと席お隣だものね」

「心配ですわ、色々と」

「あはは、こうなったらなるようになれだよね?」

 

紅白饅頭とプリントを提出しにいったら、包帯先生に珍獣を見るかのような視線を向けられた。

なんか「爆豪とじゃないのか?」とか言われた。

 

おう、どういう意味なん?

さっきから。

 

紅白饅頭といい、包帯先生といい。

まるで私がかっちゃんに面倒見られてるかのようじゃないか!!しっつれいなぁ!

 

プンスコだよ、あたしゃ!!

プンスコぉぉぉ!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「おいっ!放しやがれ!オールマイト!!」

 

 

暴れる爆豪少年を小脇に抱えながら、思わず溢れそうになる溜息を飲み込む。

 

「すまない、爆豪少年。これも、私の不手際でな。出来れば、私の手で処理したかったんだが、先方がもう、なんか、凄いやる気で・・・」

「━━っ?なんの話だ」

 

 

 

 

 

始まりは今日のお昼。

胃を摘出してしまった私に食事の時間はあまり必要ない。基本的に消化がよく栄養価の高いゼリーを流し込み、余った時間を読書に充てるのが日課だったのだが、その日はそうならなかった。

 

「あ、爆豪くんに指名来てますよ」

 

そんなセメントスの言葉を聞いて、私は読み掛けの『すごいバカでも先生になれる!教育者に大切な108の法則』を閉じて、セメントスが眺めるパソコンを覗いた。

 

「聞いた事ない名前ですね」

「ん?何処だい」

「ここですよ。届いたのは一昨日だったみたいなんですが、爆豪少年の指名が多かったから見逃してたんですね」

「まぁ、時期がズレれれば漏れてしまうのも仕方ないさ。しかし、競争の激しそうな爆豪少年に、遅れて指名を送ってくるなんて誰が━━━━」

 

セメントスが指すそこの名前を見て、息が止まった。

あの懐かしき青春の日々がフラッシュバックし、その体験を思い出した体が震えに襲われる。

 

「ど、どうしたんですか、オールマイト」

「いや、すまない。少し、昔を思い出して」

「見たことないくらい怯えて見えるんですが、もしかしてこの事務所をご存じなんですか?」

「事務所というか、この事務所を経営してるヒーロー。私の先生だった人でね」

「オールマイトの?!それは雄英の━━━」

 

そこまで言ってセメントスが首を傾げた。

 

「━━━いや、それにしては聞いた事のない名前ですね。グラントリノ?」

「この人が先生だったのは一年だけだったからね。知ってる人の方が少ないさ」

「そういう事ですか」

 

 

冷や汗を流しながら昔を思い出して話してると、携帯電話が鳴り始めた。嫌な予感しかしない。

 

「オールマイト、鳴ってますよ」

「う、うん。ちょっと出てくるよ」

 

廊下に出てけたたましく鳴る携帯電話の画面を確認すれば、予想していた名前がそこにあった。

無い筈の胃のチクチクとする痛みに耐えながら画面をタッチすれば、元気な老人の声が響いてくる。

 

「おう、俊典!元気にしてたか!相変わらず無茶してるそうじゃないか、ええ?聞いたぞ、後継を決める気になったんだってな」

 

遠慮のない言葉に、また無い胃が痛んだ。

 

「お、お久しぶりです。グラントリノ。お元気そうで何よりです。その話は誰に・・・」

「おう?なんだ、覚えてたのか、俺を?はははっ!ちっとも連絡寄越さねぇから、すっかり忘れてやがんのかと思ってたぞ!後継の話はナイトアイの坊主からだ。随分と納得してねぇみたいだったな。俺からも文句言えとよ。ま、そんな話はどうでもいい。それでな、見たぞ体育祭。あいつだろ。面白い奴見つけたじゃねぇか 」

 

グラントリノには見当がついたようで、一気に捲し立てるように言ってきた。

 

「ま、まぁ。逸材ではあるのですが、まだ心の準備が出来てないと言いますか、その、性格や本人の気持ちを尊重する事にしまして、考え直してる所で・・・」

「あ?聞こえねぇな?わりぃな、最近耳が遠くてな。なんだって?」

 

私は少し息を吸い込み、声を張り上げて返す。

 

「ですから━━━」

「ああ、それでな、見たぞ体育祭!あいつだろ、面白い奴見つけたじゃねぇか俊典!」

「━━━それはさっき聞きました!ですから━━」

「俺に預けろ!アレはまだ渡しちゃいねぇみてぇだが、いずれ渡すんだろ。なら、徹底的に鍛えて下地を万全にしてやるよ」

「━━━いや、ですから!」

「俺の個性と近しいもん持ってるしな!鍛えがいがあるってもんだ!」

「グラントリノ!聞いてますか!?」

 

どんどん進んでいく話に悲鳴をあげたが、グラントリノは笑うばかりで全然聞いてる様子がない。

弱りきっていたのだが、話の流れにおかしな所があるのに気づけた。私は新たな嫌な予感に襲われながら、それを尋ねてみる。

 

「あの!グラントリノ!先程近しい個性と聞いたのですが!彼女は!」

「はぁぁ?何、ワケ分からん事言っとるんだ、お前は。いきなり誰の話してだ。ありゃどうみても男だろうが。体がぶっ壊れてんのは知ってるが、ついに頭までイカれたか?ん?━━━いや、おめぇは割と最初からイカれてたな。あの志村からお墨付き貰ってたもんなぁ!はははっ!」

 

更に膨らむ嫌な予感。

なにか大きな勘違いがそこにある気がした。

 

「あのですね!グラントリノ!」

「おう、そんじゃ待ってんぞ!しっかり俺んとこ呼べよ!あの━━━━爆豪って跳ねっ返りをよ!」

 

違うっ!

そっちじゃない!

 

そう叫ぼうとしたのだが、直ぐに電話が切れてしまう。

何度かかけ直してみたものの全然繋がらない。

グラントリノの事務所の電話は昔ながらの黒電話。留守電すら存在しない。

 

 

「・・・どうしよう」

 

 

 

 

 

 

結局、私は爆豪少年に事情を話し、なんとかこの話を引き受けて貰えないか説得する事にした。

グラントリノはヒーローとして優秀で学ぶ事はきっと多い。一流のヒーローになりたい彼にも悪い話では・・・きっと悪い話ではない筈なのだ。

 

そうして拐うように爆豪少年を連れてきたのだが、既に後悔に心は満ちていた。

だって、小脇に抱えた爆豪少年の目が反抗心に満ち満ちているんだもん。どうしよう。

 

爆豪少年を説得する為の言葉を考えながら、ゆっくりと話を出来る場所を探して、私は廊下を進んだ。



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誰にだって間違いはある。だからそれを責めてはいけない。明日は我が身。寛容な気持ちで許しを与えるのだ。・・・うん?そうだよ、だから許せ!あれがお前のもんだとは知らなかったのだ!御馳走様でした!の巻き

眠い・・・疲れた・・・(´・ω・`)
あ、あれが、るーべんすの絵・・・?

言うほど、ええもんちゃうがな・・・がくっ・・・・・。

・・・絵画より、漫画絵のが好きやで・・・がく。


ガタンガタンと揺れる電車の中、私は紅白饅頭と隣の席に腰掛け、反対側に座るおっさんのバーコードを見つめていた。おっさんがバーコードの乱れを気にしてたりするが、それは関係ない。目の前にあるからただ見てるだけなのだ。直すな、直すな。

 

イケメンとの隣合わせ。人によっては月9とか少女漫画とかにある甘い空気が漂わせる人もいるかも知れないがここにそれは一切ない。寧ろ犯人見つけた刑事ドラマのような一触即発しそうな緊迫した雰囲気だけが漂っていた。

どうしてかと言えば、それはもう完全に私が原因だ。

訳あってこうなっている。

 

どこか戸惑う紅白饅頭を他所に、私はマグマのように煮えたぎる感情を外に出さないように心掛けながら、朝のクソかっちゃんの顔を思い出していた。

 

「次あったら、ぶっ飛ばす・・・」

「さっきから言葉と感情が、隠せないレベルで身の内から溢れてるぞ。緑谷」

 

流石の天然記念物な紅白饅頭でも私の気持ちが分かるのか、そっと駅の売店で買った飴を差し出してきた。

怒ってる時に甘いものは良い。とても心が和む。

いいよ、紅白饅頭。その気遣い、流石エリートだ。

 

貰ったそれを口に放り、一舐めすることなく噛み砕いてやった。憎しみを込めて。

そしてやっぱり腹は膨れないし、イライラも依然治まらない。

多分一袋全部食べきったとしても、まだイライラしてると思う。

 

それでも甘い物をくれた事は感謝している。

だから感謝の言葉を返しておいた。

 

「ごち」

「・・・ああ、気にすんな。少しはマシになったか?」

「次あったら、ぶん殴りまくってやる」

「一つも改善されてねぇな」

 

治まらぬ怒りを覚えながら、朝のかっちゃんを思い出す。

ムカつくの一言しか浮かばない。

 

「ふん」

 

もう知らぬ、あんなやつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

包帯先生に希望体験先のプリントを提出してから暫く。

漸く職場体験、当日となった。

 

 

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするな」

 

「はーい!!」

「あいあいさー!」

 

「返事は伸ばすな、『はい』だ芦戸。緑谷、元気があるのは結構だが、返事くらいまともにしろ」

 

コスチュームを持った雄英一年A組一同と私は駅構内で包帯先生から注意を受けていた。皆それぞれ行く場所が違うため、包帯先生が今回の事で皆にネチネチ説教出来るのはこれが最後の時間だ。そのせいか、かなりの気合いを感じる。

 

 

なんか凄く視線を感じるけど、気のせいだろう。

あの、包帯先生あんまし見ないで。

 

 

包帯先生のありがたい話を聞いていると道行く人から雄英の子だと手を振られる。どうせ手を振るなら体育祭一位のかっちゃんが嬉しかろうと、かっちゃんの手首を掴み無理矢理手を振り返してあげると倍くらいになって返ってきたりした。

 

意外と人気あんのね、かっちゃん。

 

 

 

「・・・はなせやっ」

 

 

 

ぺしっと、雑に手を離された。

いつもなら睨んできたり罵倒くらいされるのに、今日も何もない。

離されて、それで終わりだ。

 

 

この所かっちゃんはずっとこう。

何処かそっけないというかなんというか、暑苦しいまでのいつものやつがない。

 

「怒ってんの?」

「なんで俺が怒らなきゃなんねんだ、ボケ」

 

怒ってないっていうのに、ずっとこんな態度をとってくる。

かっちゃんがそっけなくなったのは職場体験場所を決めてからだ。休み明けにはもうこうなってて、ご機嫌とりに色々やったけど全然駄目。

何かあったのは分かるけど、何も言ってくれなくてこれだから、正直なんなんだこいつと思わずにはいられない。

 

 

むぅ、気に入らぬぅ。

 

 

イライラしながらかっちゃんを見てると肩をつつかれた。顔をそちらに向ければ、梅雨ちゃんが少し焦った様子で別の場所を指差している。

 

なんじゃろと思ってそこへと向けば、髪の毛がワサァってなってる包帯先生がいた。

 

 

「聞いてるのか、緑谷ァ」

「はっ、はい!聞いておりました!」

「今の話は大体お前に聞かせるつもりで言ったんだが・・・聞いてたんなら、ちゃんと理解出来たという事で良いな? 」

 

はい、と言ったら地獄を見る気がした。

はい、と言わなくても地獄を見る気がするけども。

 

私は明確な答えを出す事を避け、曖昧に理解してますけど?といった視線を包帯先生に返す。

すると包帯先生は溜息をついた後「轟、今回はお前がなんとかしろ」とまるで紅白饅頭が私の世話係であるかのような事を言ってきた。

 

温厚な双虎にゃんも、これにはご立腹だよ。

 

「出来る限りは」

 

紅白饅頭も紅白饅頭で返事するんじゃないよ!

この野郎共!

 

「━━━はぁ。まぁいい。いいかお前ら、くれぐれも、先方に失礼のないようにな。じゃぁ行け」

 

説教をし終えて満足したのか包帯先生からGOサインが出た。皆それぞれの場所へ向かい歩を進める。

そんな中、相変わらずお茶子が眼鏡を心配そうに見てたので一緒に声を掛ける事にした。

 

「眼鏡!」

 

そう声を掛けるとゆっくりと歩んでいた足が止まった。

その背中に、お茶子が声をあげる。

 

「飯田くん!横から色々言われんの嫌かもしれんけど、これだけ覚えておいてな!何かあったらゆうてきて!私、話ぐらいしか聞けんし、何か力になれるとは思えんけど、話すだけで楽になるときもあるやろし・・・」

 

尻窄みなお茶子の言葉に、眼鏡は振り返って「ああ」と力のない笑顔を返してきた。

それはいつもの眼鏡とは思えない、酷く頼りなくて弱々しい物で、お茶子はそれを見て心配そうに顔を歪める。

 

それでもその立ち去る背中に掛ける言葉がなかったのか、お茶子はただ俯いて私の手を握ってきた━━━ので、ポケットから朝買っておいたカロリーをメイトするアレを取りだし、力一杯眼鏡の後頭部に投げ込んでやる。

 

スコーンと良い音が鳴った。

 

びっくりするお茶子と、眼鏡がずり落ちた眼鏡の視線が私に突き刺さる。

 

「ニコちゃん!?」

「った、な、いきなり何をっ!」

 

「喧しいわ。お茶子がこう言ってんだから『分かりました、慎んでご連絡差し上げます』くらい言え。何格好つけてんの、そんなにイケメンでもない癖に」

 

眼鏡が眼鏡をかけ直した。

 

「いや、格好をつけたとか、そうでは・・・」

「つけてる、つけてる。ほら、見てみ。お茶子もつられてシリアス顔になってんじゃん。死ぬほど似合わないのに」

 

「ニコちゃん!それはあんまりや!」

 

お茶子が頬を膨らまして怒ってきた。

そうだよ、お茶子はそうじゃなくちゃね、可愛いよ。

私はプンスコお茶子をなだめながら、眼鏡に視線を戻した。

眼鏡は少しだけ固さが抜けた顔に戻っていた。

 

「━━━何かあったら言いなよ。私もお茶子もちゃんと話聞いてあげるから」

「それは・・・」

「言いたくないのは分かってる。でもね、だから私らの勝手な気持ちも聞いといて。心配してる。あんたが思ってるよりずっと・・・お茶子が」

 

「私だけなん!?」

 

いや、まぁ、他にも何人かは気づいてるとは思うけど、流石にお茶子ほど心配してる人はいないと思うよ?なんやかんや皆の認識はしっかり者の眼鏡委員長だし。

あたふたするお茶子の頭を撫でながら、私は話を続けた。

 

「何を考えて何をしようとあんたの勝手だけど、そんな顔してれば心配する人がいるって事忘れないでよ。それとも、そんなの少しも関係ないって?」

「・・・そんな、事はない。だが、僕は━━━━」

 

それだけ言うと眼鏡は逃げるように行ってしまった。

お茶子の気持ちの一欠片でも分かってれば良いのだけど。

 

「・・・ニコちゃん、ありがと」

「なんも、してやれてないよ?」

「ふふ、そうかもしれんね。でもね、ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

お茶子達と別れた私は待たせてある紅白饅頭と合流した。相変わらずのボーっとした顔である。

 

待たせたかなと思ってごめんねしたけど、コンビニで買い物する時間が欲しかったらしく、丁度良かったと相変わらずのボーっとした顔で言ってきた。

本当、何考えてんだろ、こいつ。

 

自分達が乗る路線を目指して歩いていると、かっちゃんを見掛けた。丁度改札を通る所だったので全力で声を掛けた。すると「うっせぇぞ馬鹿女!」といつものテンションの返事が返ってくる。

 

最近何をいっても軽く流されていたので、その反応はちょっと嬉しかった。

かっちゃんはこうでなくてはね。

 

「一人寂しくどこ行くのー?なんなら私もついてってあげよっか?」

 

折角返してくれたのでサービス気分でそう言うと、もの凄い怖い顔で睨んできた。

思わず私でもびっくりするレベルのそれで。

 

「━━━絶対ぇついてくんな!」

 

拒絶するような言葉を吐いたかっちゃんはそのまま改札を抜け人混みに消えていった。

 

あろう事か一回も振り返る事なく。

 

それ以上何も言わず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

爆豪の姿が消えていった方を眺めたまま、何も言わず黙りこくっている緑谷の姿が心配になった。

 

 

「緑谷・・・大丈夫か?」

 

 

思わずそう声を掛けた俺だったが、直ぐに後悔した。

そんな事を聞かなくても、大丈夫でない事が手に取るように分かる表情をしていたからだ。

 

頬を膨らませた緑谷。

それは子供がやるような可愛い物ではなく、頬に怒りでも詰まっているかのような迫力に満ちたものだった。

眉間によったしわ、目の鋭さ、漂わせる剣呑な雰囲気。

何をとっても分かりやすく怒っていた。

 

どうしてこんなに怒っているのか、俺には分からない。

 

長い付き合いのある爆豪の拒絶が効いたのか。

それとも暫く放置気味にされてたストレスがここにきて爆発したのか。

あるいはその両方か。

それとももっと別な理由か。

 

兎に角、緑谷は怒っていた。

 

 

 

「なに、あれぇぇ!!むっ、かつくぅぅぅぅ!!!!」

 

 

 

そうしてこれから1週間、この緑谷と共に過ごす事を考えて少しだけ頭が痛くなった。

 

覚えておけ、爆豪。

 



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この壺とか、お高いんでしょう?え、そんなにするの?え、本当に?へぇーそんなに。ふぅん・・・あのさ、もしかしてトイレの前に置いてあった奴も?あ、そうなんだ、へぇー。え、ううん?な、何もしてないよ?の巻き

まぢむり、疲れた。
暑いし、しんどいし、眠い。
夏きらい(´・ω・`)

助けてヒーローマーン!!(混乱)
キラキラ回るルーレットで、運命の瞬間じゃすのぅしてまいうぇいして、始めてよぉぉぉ!!(錯乱)


電車を降りて十五分くらい歩いた頃。

エンデヴァーヒーロー事務所という看板が掛けられた立派なビルが目の前に現れた。

 

私は轟に買って貰った沢山のお菓子の袋を抱えながら、そのビルを見上げた。ホクホク気分に浸らせてくれた、胸に抱えたお菓子の山。買って貰った当初は凄く嬉しかったが、それが轟にとって端金だったのかも知れないと思うと何とも言えない気分になる。

まぁ、ありがとはするけどもさ。

 

「緑谷、いつまでも見上げてないで入るぞ」

「む?あいよー」

 

何処かの黒い影のような返事を返した私は轟の後を追って中へと入る。中は外装以上にお高そうな作りになっていて、置かれているインテリアはどれも一等品。床はワックスでテッカテカで、綺麗な受付のお姉さんまでいた。

分かります、オフィスラブですね。

 

「昼ドラが始まりそうな予感」

「?そうだな。あと一・二時間もしたら飯時だからな」

「いや、そうじゃ無いんだけども」

 

受付のお姉さんに話をすると、社長であるエンデヴァーが既に部屋でお待ちだという。寧ろ迎えにこいよと思ったけど、多分息子の前で格好つけたかったのだろうと予想。うちのパパもそうだけど、どこのパパも子供の前ではええ格好しいなのかね?

 

エレベータを上がり最上階へ。

そのフロアにも綺麗なお姉さんがいる受付があって、また軽く手続きする。

中々辿り着かないな、おい。

 

そうして色々な事をやった後、豪華そうな扉の前まで案内された。

 

「ととろきぃ」

「なんだ、その気の抜けた呼び方」

「ふざけて呼んでみただけ。そうじゃなくてさ、ここ本当にあんたのパパさんの所なんだよね?」

「パパっつうと違和感が凄いけどな。そうなる」

 

ぶっちゃけ心配になってきたのだ。

何しろ私、ここの社長であり轟のパパであるハゲに一回ドロップキックかましてるからね。

今日ここに呼ばれたのって、過去の因縁の清算をつける為だったりしないよね?ね?

 

「何かあったら助けて」

「クソ親父とはいえ、流石に学生に手を出すようなクズ野郎だとは思いたくないんだが・・・まぁ、何かあったら助ける。心配すんな」

 

おう、任せたぞ息子ぉ。

 

轟がドアをノックすると「入れ」と偉そうな声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。間違いなくドロップキックかましてやったハゲだろう。

 

ドアを開けて中へと入ると、高級そうなテーブルに肘をを置き、両手を組みながらこちらを見つめるハゲの姿があった。

 

「よく来たな、焦凍。それと緑谷双虎くん。歓迎しよう、我がエンデヴァーヒーロー事務所にようこそ」

 

ハゲは立ち上がりこっちに近づいてきた。

 

「緑谷双虎くん。体育祭での活躍、全て見させて貰った。素晴らしい結果だったよ。準優勝おめでとう、と言っていいかな?」

「どーもー、ざっす」

「相変わらず口の利き方がなっていないな君は。まぁ、良い。そんな口が叩けるのも今の内だけだ。今回、焦凍と君には、真のプロの姿というものを見せてあげよう。そして知ると良い、君達が目指すプロの高さというものを」

 

ハゲはそれだけ言うと「さっそく着替えて貰おう」とセクハラ発言してきた。

 

私は法律に従ってスマホでイチイチゼロを入力する。

 

「まて、緑谷。コールするな」

 

コールしようとした所で轟に止められてしまった。

止めるな轟ぃ、変態が目の前にいるのだ。

 

「だって、ここで着替えろって」

「流石にクソ親父でもそれはねぇ。おい、親父。更衣室は何処にあるんだ?」

 

「んん?なんだ聞いてないのか。二階に、お前達の寝泊まりする部屋を空けて━━━━おい、待て。緑谷双虎。まさか貴様、また通報しようとしたのではあるまいな?!」

 

ハゲが顔をしかめて聞いてきたので、素直に頷いておいた。

 

「だって、ここで着替えろっていうから」

「誰もここで着替えろとは言っとらん!!以前も思ったが、君は私をなんだと思ってる!!」

「ハゲ」

「は━━━━っ、ハゲてはいないと言ってるだろ!!見ろ!これを!頭皮から生えてるだろう!!」

 

ぐいっと近づけられた頭。

言われた通り顔を寄せて覗けば、頭皮から生えてるように見える。けど最近の植毛技術は高いから、見ただけでは本物かどうかなんて私には分からない。抜いてみたら分かりやすいと思うんだけど・・・ん?

 

「あ、白髪」

「ったぁぁぁ!!貴様いきなり何をする!」

「白髪抜いてあげたんですよ。ほら、感謝して。感謝」

 

抜いたそれを渡すとハゲは更に怒り狂った。

 

「明らかに白髪以外の物が交じってるだろう!!・・・って、白髪すらないではないか!!」

「あっれれぇー落ちたのかなぁー?オカシイなぁー」

「貴様ァ・・・!!」

 

プルプルと震えたハゲは顔を真っ赤にした。

多分怒ってる系だとは思うけど、轟の予想通り何もしてこない。学生だから気を使ってるのかもしれない。

なら、遠慮しなくてもいいか。

 

「ねぇねぇ」

「ねぇねぇとはなんだ!ねぇねぇとは!目上に対する態度ではなかろうが!仮にも世話になる身であるなら、もっとこう、しおらしく出来んのか!」

「歓迎するんでしょ?歓迎会しないの?」

「歓迎会などしてたまるか!!」

 

私は驚いた。

仮にも一流の事務所を経営してるヒーロー様が、そんな事を言うとは思わなかったのだ。

 

「歓迎会も出来ないなんて・・・しょぼ」

「なにぃ!?歓迎会が出来ない訳ではない!しないと言ってるのだ!!そもそも体験する━━」

「しょぼ。ここは普通大人の財力を見せつけて高い食べ物並べてさ『ははっこれが一流というものさ』って煽るくらいするでしょ。ワインとか片手にさ。あーしょぼ。うわーしょぼ。噂でナンバー2とか聞いたけど、こんなもんかー。ガチムチでもクラスの皆に奢ったっていうのになぁ」

「ガチムチ?ガチ・・・オールマイトの事か!?貴様ァ、言わせておけばぁぁぁ!!」

 

怒鳴り声をあげたハゲはスマホを取り出すと何処かへと電話を掛けた。

 

「おい!!今すぐありったけの食い物を用意しろ!!3階の会議室を空けておけ!!職場体験にきた焦凍と小娘の歓迎会をする!!━━なに?グッズ開発の会議中だと?後にしろ!今すぐやる必要はなかろうが!!それよりも会議室を空けてパーティが出来るようにテーブルを並べなおせ!!早くしろ!なに!?飲み物だ!?適当に見繕え!いちいち聞くな!一等品を適当に買っておけ!食い物もそうだ!!」

 

なんかやってくれるみたいだ。

言ってみるもんだね。

 

それにしても・・・。

 

「三人でやるの?しょぼ」

「━━勤務中以外のサイドキックを全員呼べ!!休日出勤手当ては出してやる!直ぐにこいと言っとけ!!事務の奴等も呼べ!」

 

「ビンゴ大会はしないの?」

「━━昔なにかの時、ビンゴ大会をしたろう!道具を用意しておけ!!賞品は倉庫に幾らでもあるだろ!!適当に持ってこい!!」

 

「隠し芸とか見たいなぁ」

「━━今から呼ぶサイドキック達に伝えろ!一人一芸するように━━━━て、調子にのるな小娘!!俺に何を言わせる!!」

 

ぼやいてただけで、何も言わせてないわ。

勝手に言ってただけの癖にぃ。

 

「小娘ぇ!良いかぁ !これから二時間後に、貴様が度肝を抜くような一流が故の一流たる歓迎会を見せつけてくれる!!精々、驚きのあまり腰を抜かさぬように覚悟しておくんだな!!着替えて待っていろ!!」

「ここで着替えんの?」

「これから秘書に案内させる待機室でやれ!!」

 

それだけ言うと大股でハゲが部屋を出ていった。

隣にいた轟がいつも以上にぽかんとしてる。

 

「どした?」

「いや、あんな親父初めて見てな。あんな顔もするんだなと」

「私と初めて会った時もあんなだったけど」

「本当か?俺の見てきた親父はなんだったんだ・・・」

 

それは知らん。

 

「けどさ、多分、轟の見てきた物が全部じゃないとは思うよ?事務所経営するってそんなに簡単じゃないからね」

 

人は色んな面を持ってる。

そう簡単に白だの黒だの割りきれるもんじゃない。

ここまで成功してる人なら、きっと尚更だ。

 

「・・・緑谷、俺は何を見てきたんだろうな」

「さぁ。でもさ、今まで轟が見てきたのは轟が見たかったものでしょ」

「俺が?」

 

きっと誰もがそうだと思う。

私もきっとそうだ。

 

見たいものしか見なくて、見たくないものから自然と目を離してる。

轟みたいに見逃してる物が、私にもきっとある。

 

「焦らなくても大丈夫。これから一つ一つ知っていけば良いよ。今まで気づけなかったものをさ」

「そう、だな。・・・今更焦る必要はないな」

 

それから少しして秘書が来て、待機室に案内された。

用意された部屋はこじんまりとしてるけど中々良い部屋だった。流石にトイレとかお風呂はなかったけど、ベッドあり。荷物置き用のロッカーあり。テレビとソファーありと、豪華な感じだった。思わず、おおーと言葉が出てしまう。

 

ベッドは職員の仮眠用らしくて高いものではないとの事だったが、触ったら私の使ってるベッドよりフカフカだった。

ええやつやん、欲しい。

 

ただ、部屋の鍵が壊れていたらしく、着替え中を紅白饅頭に覗かれるという事件が発生したので星は一つである。

 

え?紅白饅頭がどうしたのかって?

そら、もう、あれよ。

ね!

 



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閑話かぁ・・・主人公だけで話作れないとか、あかんやろぅ。もうこんな閑話しない。ぼくはしないぞ。と言いながらやっぱりやるよ。の閑話の巻き

クーラーに甘やかされる日々。
これではいけないと扇風機オンリーにしたけど、三十分で諦めた私はカブトムシ。

何言ってんだ、おれは(;・ω・)


『八木俊典?』

『面白い奴だよ。イカれてる』

 

そいつはいつも俺を困らせた。

 

『そいつが言うにはさ、いわく・・・犯罪が減らないのは国民の拠り所がないからだと』

『拠り所ね・・・』

 

背負うもんが大きくて、立ってるのがやっとだってのに、そのくせ誰よりも笑ってやがる。

 

『この国には今、柱がないんだって。だから自分がその柱になるんだって』

 

辛いとか、苦しいとか、口には碌にだしゃしねぇ。

そのくせ質のわりぃことに、本当の限界まで頑張っちまう。

 

『私思うんだよ。きっと私は、あいつと会うためにここまで来たんだって。私では変えられなかったこの時代をさ、・・・曇った皆の顔を笑顔に変えてくれる、そう思わせてくれるあいつと会うためにさ』

 

だからずっと側にいてやりたかった。

少しでもあいつの理想に近づけるように、少しでも支えてやりたかった。

 

『なぁ、もし私になんかあったら、あいつの事頼むな』

 

けれど、結局俺の掌の中にゃ、何も残りゃしなかった。

 

『グラントリノ』

 

何も━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーー、こりゃ、また随分と懐かしい夢みたもんだ」

 

てっきりお迎えが来たのかと思ったぐらい安らかな夢だった。枯れ木みてぇな爺いの身が今はうれしい。でなきゃ、この年になって餓鬼みてぇに頬を濡らしてたやもしれねぇ。

 

重い体を持ち上げて伸びをすれば、バキバキと何処かしらが音を立てた。

体が固くていけねぇ。

 

枕元のヒーロースーツを手にとり着替える。

最近は手まで震えてきやがって、ファスナー一つあげるのに苦労する。

 

正直、着替えるのも楽じゃねぇや。

 

 

引退を考えた事はある。

それは一度や二度じゃねぇ。

若い時にあった筋肉はもうねぇし、身長もだいぶ縮んじまった。体は鉛みてぇに重てぇし、ちっと動けば息だって碌に続かねぇ。全盛期の半分も力を出せれば御の字。そんな日がもうずっと続いてる。

けれど止めれなかった。

 

それしか生き方を知らねぇのもあったが、それよりなによりあいつの残した馬鹿が気掛かりだった。

 

『頼むな』

 

あいつのたった一つの願い。

もう何処にもいないあいつに出来る、俺が出来る唯一を、俺はまだ手放す気になれなかった。

 

「それでもなぁ、頑張り過ぎだろうがよ、俺」

 

幾つになると思ってんだかな。

なぁ、志村。

 

もう潮時じゃねぇのかよ。

 

「・・・っと、いけねぇや。歳食うとこんな事ばっかり考えちまうな。湿っぽくていけねぇ。飯食って準備しとかねぇと・・・・準備?」

 

あー何だったか?

なんか用事があった気がするが。

はて?

 

暫く考えてみたがちっともそれは思い出せねぇ。

何かあったのは分かるんだが、それだけだ。

考えても仕方ねぇと取り合えず寝室を抜け、飯を食うために一階に降りると冷蔵庫に貼られた一枚のメモが目に入った。

 

そこにあったのは職場体験の四文字。

 

「━━━あぁ、そういや今日だったな。最近は本当に駄目だな。わけぇ頃はボケ老人なんざ馬鹿にしてたもんだが・・・これは確かに笑えんわなぁ」

 

自分がなるとも思ってなかったしなぁ。

そもそも、こんなに長生きする予定でもなかった。

適当なところでゴミみてぇに死ぬもんだと、ずっとそう思ってたからな。

 

しかし、今になって誰かを教えるか。

我ながらど阿呆だわな。

 

けどよ、あの姿みたら一言くらい掛けたくなっちまうだろうがよ。

俺と同じ様に、足掻くあの餓鬼みたらよ。

 

 

 

何となしにつけたテレビに映り込んだ、雄英体育祭の映像。特にやることのなかった俺はそれをたい焼き片手に眺めてた。

 

やはり三年の部の連中は群を抜いた活躍してて、今年も世間賑わすのはこいつらかと思ったんだが、画面はいきなり一年の部を映しやがった。

一年の部なんてひよこもひよこ。未熟でつまらん連中しかいないと思ってたんだか、中々どうして久々に手に汗握っちまう戦いがそこにあった。

 

 

一年の部でもっとも注目されていたヒーローランキングナンバー2のエンデヴァーの息子、轟焦凍。個性の強力さもあって今年の優勝候補だったのだが、その餓鬼をぶち抜いて障害物競走のトップに躍りでたのは緑谷双虎という聞いた事のない一人の小娘だった。

これが中々曲者で個性の使い方が並外れて上手く、その上戦闘勘も頭抜けてやがった。妨害するのも息をするようにしやがって、周りをよく見て考える奴だってのも分かる。

 

面白れぇと素直に思った。

 

そしてそう思ったのと同時にあることを思い出して、そして気づいた。

今年の一年の中にオールマイトが後継として選んだ餓鬼がいる事を、恐らくこの緑谷双虎ってのがあいつの選んだ後継だって事を。

 

けど、それより俺の目を奪ったのはその後方を走っていた餓鬼。眉間にしわ寄せて怒鳴り声をあげて進む、爆豪とかいう餓鬼の姿だった。

そのがむしゃらさが、前をゆく緑谷を追う視線が、俺に何かを告げていた。

 

気がつきゃ俺は最後までその姿に見いっちまってた。

 

体育祭を見終えると、ネットから体育祭の映像を見返した。爆豪の表情、言動、行動。何度も見返していく内に嫌でも気づいた、こいつが抱える緑谷双虎に対する特別な感情に。

 

それはネットにあげられてたような、惚れた腫れたなんて安っぽい言葉で説明出来るような単純なもんじゃない。恐らく言葉なんぞじゃ言い表せられない。

募り続けてきたそれは、酷く分かりにくく、理解されがたい。そしてきっと、本人もちゃんと分かってねぇ。

 

けど、俺には分かった。

同じものを抱き続けてきた俺には、はっきりと。

 

翌日になって学校側に指名のメールを書いた。

一位になった男をただ待つのも馬鹿らしく思い、オールマイトの馬鹿に電話してやる。

 

冗談で耳が遠いふりして、爆豪が後継候補と勘違いしてる発言をすりゃ分かりやすく狼狽えていやがった。

そのまま電話切れば、訂正しようとしたのか電話が掛かりまくった。勿論出ねぇ。

 

最近ちっとも連絡してきやがらねぇあいつにはいい薬になるだろうと、電話の線をぶち抜いておいた。

 

郵送で職場体験先に選ばれた事を知ったのは、それから数日後の事だった。

 

 

 

 

 

 

「さてと、さっさと飯食って、やんちゃ坊主を迎えてやらにゃぁな」

 

なぁ、爆豪。

俺はおめぇが何考えて、何がしてぇかよく分かるよ。

俺も昔はお前と同じところに立ってたからよ。

 

だからよ、教えてやる。

 

俺が気づいた事。

俺が手に入れたもん。

俺が届かなかったそれを。

 

何を見なきゃいけねぇのか。

何を考えなきゃいけねぇのか。

何をしなきゃいけねぇのか。

 

一から十まで。

十から百まで。

 

全部が全部、叩き込んでやる。

だからよ、さっさとこい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬほどゲロ吐かしてやるからよ。

爆発小僧。

 




◇おまけぇー( *・ω・)ノ



かっちゃん「おらっ!入るぞクソが━━━」バン


グラントリノ「・・・・」_(¦3」∠)


かっちゃん「━━おっ・・・はぁぁぁぁ?!」


グラントリノ「・・・・」_(¦3」∠)


かっちゃん「・・・・お、おい。━━━ちっ、んだ。と、取り合えず、救急か?あ、いや、警察が先か?いや、まてよ、まだ近くにヴィランがいやがるか?なら、ヒーロー事務所に・・・」


グラントリノ「生きとる!」


かっちゃん「ふざけてんじゃねぇぞ、こらぁぁぁ!!」



その後色々あってめっちゃゲロ吐いた。

かっちゃんが。


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お仕事のお時間ですわよ!さぁさぁ起きてくださいまし!起きて仕事にいくざます!!いくざます!私の為に生活費を今日も頑張って稼いでくるざます!の巻き

ぎりだった


エンデヴァー事務所のサイドキックと職員皆に、ふれーふれーって何度も言わせた歓迎会の翌日。

 

朝早くからハゲに呼び出されてた私はヒーロースーツに着替え社長室へと向った。途中歓迎会に参加していたサイドキック達を見掛けたので手を振ったら、皆快く返してくれた。社長と違って愛想が良い。楽しかったよね、昨日のぱーてー。今度またやろーねー。

ノーノックで社長室に入ると同じくヒーロースーツを着た轟と尊大な態度で椅子に座るハゲが向かい合ってるのが視界の中に入った。

 

・・・喧嘩すんのかな?

 

私に気づいた轟が「よぉ」と軽く挨拶してきたので同じ様に返しておく。

 

「・・・俺にはないのか」

 

ハゲがなんか言ってる。

多分私じゃなくて轟に言ってると思うんだけど、轟は何処吹く風とそれをスルー。欠片も反応しない。

可哀想になったので「はよ」っとハゲに挨拶しといた。

 

「・・・うむ」

 

うむ、じゃねぇーよ。

おはよう御座いますだろうが。

もしくはフランクにおはようくらいは言えや。グッドモーニングでも可。

まったく、このコミュ障が。

 

そんなだから轟に無視されんだからな。

馬鹿、馬鹿ハゲ。

その髪の毛全部引っこ抜いてやろうか。

 

「・・・何か良からぬ事を考えているだろう、緑谷双虎」

「ずぅぇん、ずぅぇん」

「これほど白々しい者を、俺は未だかつて見たことがないわ」

 

そう言って溜息をついたハゲは椅子に深くもたれ掛かった。

 

「貴様のそのふざけた態度に付き合ってると、こちらのリズムが崩れる。何も言わず話を聞け」

「・・・・」

「・・・返事くらいはしろ」

「はーい」

 

私の言葉に満足したハゲは手を組んで話を始めた。

 

「お前達を職場体験させるに至って、最低限のルールを設ける。一つ、ヒーロー活動中に俺の監視下から離れる事を禁ずる。これはお前達の身を守る為のルールだ、必ず守るように」

 

まぁ、職場体験で受け入れた生徒を怪我させたり死なせちゃったりしたら大変だもんね。

 

「二つ、ヒーロー活動中に私の指示は遵守すること。交戦、避難、救出。ヒーロー活動中にはこれらに関わる事になる。当然、私についてくる以上お前達の目の前でこれらが起こる。だが、私の指示なしでそれらの活動に参加する事は控えろ。どの行動をとるにしても、お前達は経験と知識が足りない。下手に手を出して場を混乱させるようなマネはするな」

 

基本的になんでもそうだけど、素人が下手に手を出して事態を悪化させる事は往々にしてありえる話。

別段おかしくはない。

 

「三つ、先程あげた二つを遵守した結果、己の身が危ういと感じた場合、特例として撤退する事を許可する。それに伴う個性使用であればそれも許可する。私がついていて、そんな事は到底あり得ないが、何事も例外は存在する。その場合は私を気にせず走れ・・・。以上、その三つだ。何か質問はあるか?」

 

ハゲの言葉に轟は特に反応を示さなかったので、代わりに手をあげておく。

ハゲが見るからに嫌そうな顔をした。

 

「・・・なんだ、緑谷双虎」

「大体分かりました。要は大人しく後ろから俺の活躍を見てなさいよ?って事ですよね?それは楽だから別に良いんですけど、三つめの自己判断での撤退って本当にこっちに丸投げなんですか?」

「ふん。それくらい判断出来ないのでは、この先はプロとして生き残れん。そもそも、お前達の実力の高さは把握している。それが出来ると思うからこそ、そう言うのだ。俺は愚図に割いてやる時間は持たん主義でな」

 

なるほど。

それはそれは。

 

「焦凍も理解したな」

「ああ」

 

轟が返事を返したら見るからに顔が明るくなった。

口角とか僅かに上がってる。

ま、普通の人が見たら分からないレベルだけどね。

 

完璧ラブリー美少女戦士双虎にゃんに見抜けぬ物などないのだ。

 

心の中で自画自賛してると、ハゲの社長デスクにおいてある電話が鳴り出した。如何にも緊急っぽいコール音に嫌な予感がする。

 

ハゲはその受話器をとり耳に当てる。

そして二言三言話すと受話器を元の場所へとおいた。

 

「幸先の良い事だ。これほど早く、仕事が舞い込んでくるとはな。焦凍、緑谷双虎、準備しろ。有意義な職場体験の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

それからハゲに連れられた私らは実際の現場を見ることになった。ハゲに誂えた出動車輛に乗り込み、東へ西へと大忙しに大移動。途中昼休憩に寄ったコンビニ、糖分を求めた私の為に寄ったクレープ屋以外は、何処も寄り道もせず働き通した。

 

サイドキックの人に聞いたら、流石に毎日これではないと言っていた。悪い意味で当たり日らしい。

 

一日ハゲの働きを見て改めて思ったのは、このハゲは仕事出来るハゲだなということ。

今日の相手は町中のチンピラに毛が生えた程度の連中。ハゲも全力を見せた訳ではないだろうけど、その実力は嫌と言うほど分かった。

 

個性の強力さもあったけど、素のフィジカルの高さも並みではなかった。間違いなく私が見てきた連中の中でもトップクラスだと思う。まともにやったら大抵の奴はまず勝てないだろう。搦め手を使えばなんとかなるかも知れないが・・・それはハゲが脳筋野郎だった場合の話。

 

ハゲは状況把握の早さ、判断力の高さ、圧倒的な経験値を活かした予測とそれに対した行動力を持ち合わせている。

それを考慮すれば、ハゲのナンバー2という肩書きは伊達でないのは間違いない。

 

加えてサイドキックの力を十全に引き出す指揮者としての能力もあって、なんでこのハゲ2位なんだろうと普通に不思議に思った。

 

正直、今のガチムチより、すげえーのではないか?

素直にそう言ってみたら最初は「嫌味か?」とかぼやいていたけど、本心からだと言うと目に見えて機嫌が良くなった。

 

チョロ親父、ここに。

 

これならいけると思って何処かボーっとする轟にステーキと呟かせれば、夕御飯は事務所近くにある行きつけのステーキ屋で頂く事になった。

機嫌が良かったのか「好きに選べ」とか言うので、遠慮なく一番高いものを選んだけど、そこそこの物に変えられていた。解せぬぅ。

まぁ、それでも旨かったけど。

 

 

 

その夜、轟が訪ねてきた。

流石に一度目の仕打ちが堪えたのか、今度はノックした後私の返事を聞くまで大人しくしていた。

 

「わりぃな、遅くに」

「いいよ、別に。何かしてた訳じゃないし」

 

立って話すのも何かと思ってソファーに座るように促してやれば「長い話じゃねぇから、このままで良い」との事。

 

次の言葉を待っていると、轟はゆっくり続けた。

 

「お前から見て、親父はどうだった?」

 

抽象的な聞き方でなんて言ったら良いか少し悩んだ。

轟が聞きたい事が分からなくて首を傾げれば、轟は眉を下げて言った。

 

「━━━わりぃ。やっぱり、もう少し時間をくれ」

 

それからソファーに座った轟からハゲとの確執と、その原因となったお母さんの話を聞いた。私との戦いを切っ掛けに、長年話すことも出来なかったお母さんとも話しあった事も。

 

重い話に、双虎にゃんぐろっきー。

ぐぇ。

 

反対に全部話し終えた轟は何処かすっきりした顔で私を見つめてきた。

 

「それで、もう一度聞かせてくれ。緑谷。お前から見て、親父はどんな奴に映った」

 

漸く言葉の意味を理解出来た私は、お世辞抜きでその言葉をはいた。

 

「ヒーロー。何年もナンバー2を維持してきた、凄い人」

 

その言葉を聞いた轟は「そうか」と小さく呟く。

立ち上がろうとする轟に、私は更に続けた。

 

「でもね、ヒーローとしてじゃなくてって言うなら、轟とどうしていけば良いか分からなくて、悩んでるおっさんに見えたよ」

 

人柄なんてまだ分からない。

でも少なくとも、轟との関係をどうにかしようとしてるのは見えた。

 

「・・・そうか。俺は・・・まだ分からない。あいつは許せない事をした。そして俺はそれを許せそうにない。けど、今日の親父の姿見て迷った」

 

「あいつは俺が思ってるよりずっとヒーローで、あいつに助けられた人がいることを知ったから」

 

「今まで見てた親父が、全部じゃないのは分かったつもりだ」

 

それだけ言うと今度こそ轟は立ち上がった。

 

「難しいな、人を知るってのは」

「そりゃ、私も分からない事あるし。そうじゃなきゃ、かっちゃんとも喧嘩しないよ」

「確かにな・・・でもお前らは・・・いや、なんでもない」

「?」

 

 

 

 

そうして二日目を終えた私はベッドに横になり、スマホを開いた。

 

皆から今日一日で起きた事の報告がたくさんきてた。

でも、未だにかっちゃんからはメールの一つもない。

 

「謝ってくれても、いいのにさ・・・」

 

皆に返事を済ませ、その日はかっちゃんにイタ電することなく眠った。

ちょっと寂しかったのは内緒だ。

 



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普段乱暴な奴が急に優しくなってきた時、思った以上に好い人に見えた時は確実に映画版○○○アン効果が発生している時なので、油断することなく復讐パンチをお見舞いするんだよ?の巻き

ほんのりシリアス系(´・ω・`)


職場体験を始めて三日目の朝。

寝惚け眼で歯を磨いていたら秘書さんが迎えにきた。

ハゲが呼んでいるとの事。

 

時間を確認したら、昨日聞いていた出発時間より30分は早い。ヒーローなんて職業やってれば時間なんて関係ないのは分かるけど、学生様の私達を巻き込まないで欲しいと思ってしまう。寝かせて。大人になったら嫌でも働かなきゃいけないんだから、今だけは寝かせてよぉ。

 

 

 

「━━そういう訳だから寝かせてよぉ」

「社会人を舐めるな、緑谷双虎」

 

正直に思った事をハゲに言ったら、普通に諭されてしまった。諭されなきゃいけない側のやつに言われるとは、なんだろ少しむきゃつく。

ハゲのくせにぃ。

 

少しして轟がやってきた。

相変わらずハゲをスルー。

昨日の夜の会話が嘘のような塩対応である。

 

そんな轟に寂しそうな雰囲気を出したハゲだったが、私のジト目に気づくとコホンと一つ咳き込み本題について話始めた。

 

「ヒーロー殺しを追い、保須へと入る」

 

何でもハゲは最近巷を騒がせるヒーロー殺しについてサイドキック達に調べさせていたらしい。そしてそれから知り得た情報を元にプロファイリングし、次の出現場所を割り出したという。

 

以前より保須市に一時的な活動許可をとっていたらしく、昨日その許可もいよいよおりたらしい。

 

「ヒーロー殺しは近年稀に見る厄介なヴィランだ。本来ならヒーロー免許も持たない学生を連れていくような案件ではない。・・・だが、お前達は連れていく」

 

少し意外だ。

過保護そうなイメージがあったから。

 

そう思って眺めていると、ハゲがやたらと真剣な目でこちらを見てきた。

 

「お前達はいずれプロになるだろう。既にサイドキックレベルの実力を持つお前達ならば、大した苦もなくな。ならば、多少の危険はあるやも知れんが、その目で見るべきであろう。そして、しかと学んでおくが良い。本物の悪と対峙するという事の意味を」

 

その言葉にどんな気持ちが込められているか分からないけど、それを聞いた轟はハゲの言葉に応えるように掌を握った。

 

こうしてサイドキック二人を補佐として付ける事を新たな条件に加えられた私達は、ヒーロー殺し逮捕の為にハゲと共に保須市へと向かう。

 

移動中ハゲの生え際を覗いたり、轟の髪の毛をサイドキックのお姉さんと三つ編みにして遊んだり、今週キャンペーンしてるアプリの十連ガチャひいたりしてると、スマホが鳴った。

なんじゃろかと確認すれば、お茶子からメッセが送られている。

 

『飯田くんからなんか連絡ない?』

 

三日前の別れ際の様子を思い出した私は取り合えずお茶子に電話しておいた。

 

「━━━━お茶子?もしー」

『━━ニコちゃん!あ、ご、ごめん。ニコちゃんかて職場体験で忙しいのに、あんな変なメッセ送ってもうて』

 

電話に出たお茶子の声は酷く沈んでいた。

 

「どしたん?眼鏡となんかあった?」

『特別なんかあった訳じゃないんだけど、あれからあんまりメッセの返事してくれんで・・・。忙しいだけならええんやけど、なんか心配で』

 

お茶子の心配は分かる。

あの時の眼鏡の余裕のなさを見てれば当然だと思う。

 

『それで、ニコちゃんの所にはなんかない?』

「ないなぁ。ごめんね」

『ええよ。私こそごめん。ううー、誰かなんか聞いてる人おらんかなぁ。男の子って同じ男の子とかに、こういう事相談したりするもんやろか?』

 

かっちゃんを見てるとないような気がする。

でもまぁ、皆が皆かっちゃんみたいに生きてるわけないと思うし。

 

「眼鏡と同じ所に行ってる人とかいないの?」

『確か保須やろ?保須ってそんな有名なヒーローおらんし、行ってる人おらんとちゃうかな。近くなら━━━』

「━━━保須?」

 

もしかして、もしかする?

 

「保須ってさ、保存の保と、さんづくりと百と貝を足して二で割ったような感じの字書く?」

『多分そうやと思う?・・・ニコちゃんも聞いてたん?』

「聞いてない。私のとこさ、ヒーロー殺しとかいうのを取っ捕まえに保須にいくんだよね」

『えっ!ニコちゃん、保須にいくん!?それにヒーロー殺しって保須におるの!?』

 

慌てたようなお茶子の声が響いてきた。

何か焦ってるように聞こえる。

 

そんなお茶子の声が漏れたのか、隣に座ってる轟が目を見開き、目の前に座ってるハゲから睨まれた。

 

これ内緒系だったみたい。

 

「あ、ごめんちゃ。これオフレコで」

『あ、うん!それは、うん、そうする!ってそうじゃないよ、ニコちゃん!ヒーロー殺しって、飯田くんのお兄さん怪我させた人や!もしかして飯田くん、ヒーロー殺しを追ってそこに行ったんじゃ・・・!!』

 

お茶子の言葉に眼鏡の顔が脳裏に浮かぶ。

覇気のない、暗くて思い詰めたような、そんな顔を。

 

「あの、馬鹿眼鏡・・・・っ」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

『何を考えて何をしようとあんたの勝手だけど、そんな顔してれば心配する人がいるって事忘れないでよ』

 

あの日から、彼女の言葉が胸の中に残り続けていた。

友人である麗日くんと共に、心配そうに僕を見る二人の顔も。

 

『私怨で動くのは止めた方がいいよ』

 

諭すように声を掛けてくれたマニュアルさんの姿も。

けれど、ならばどうすれば良い。

 

『天哉、昨日言おうか迷ってたん・・・だけどな、足の感覚がねえんだ』

 

そう辛そうに語る兄さんに。

 

『ヒーローインゲニウムは多分・・・ここでおし・・・まいだ』

 

絶え絶えに語る兄さんに。

 

『俺だって・・・嫌だよ・・・だからさ・・・お前が良いなら・・・』

 

僕が抱いたこの感情は。

 

 

 

 

『いやー従えるっつか・・・逆だよ父さん。俺一人じゃまだ何も出来ないからさ。支えてもらってんの。その分俺もしっかり働いて返さねぇとさ』

 

困ったように笑う兄さんに。

 

『俺はあんまセンスとか優れたもんないけどさ・・・。ヒーローなんて肩書き背負ってんだもん。自分の働きがたくさんの人間の為になるのは・・・嬉しいよ』

 

真っ直ぐに父さんを見つめる兄さんに。

 

僕が抱いた、あの憧れは。

 

 

 

 

許さない。

僕はお前を、許さない。

許せる訳がない。

 

僕の憧れを壊した奴を。

僕の大切な兄さんの夢を壊した奴を。

 

『ニュースをご覧の皆様はお気をつけ下さい。血のように紅い巻物と全身に携帯した刃物が特徴です。ヒーロー殺しステイン。現在被害者はヒーロー資格を持つ者のみですが、見掛けましたら接触することなく速やかに通報をお願いします。非常に危険です。繰り返します━━』

 

ヒーロー殺し、ステイン。

 

「すまない、麗日くん。緑谷くん。マニュアルさん。それでも僕は━━━━」

 

 

 

 

お前を倒す。

兄さんの名に、インゲニウムの名において。

 

 



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さぁ、お前達、面白くもない閑話の時間だ!なに?嫌だと!そうか!お願いですから読んであげて下さいよぉ!な閑話の巻き

暑くて仕方ないんだよぉぉぉぉ!!
調子がでねぇぜぇ!!
太陽の馬鹿野郎ぅぅぅ(゜ロ゜)!!


ヒーローになるのが夢だった。

テレビに映る、オールマイトのようなヒーローになるのが夢だった。

 

 

『私がきた!━━━』

 

 

金も名誉も名声も関係なく、ただ誰かを救う、オールマイトのような、人の為にあるヒーローになるのが夢だった。

 

 

『私がき━━━━』

 

 

 

現実に蔓延る、真実を知るまでは。

 

 

『私が━━━━━』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━ここで宜しいでしょうか、ヒーロー殺し・・・いや、ステイン」

 

ワープゲートの男に言われ辺りを見渡す。

見慣れたビル街や道路を確認すれば、確かに俺の知る保須市である事が分かる。

 

「違いはない。ここでいい」

「それは良かった。貴方も今は協力者。何かあればご連絡下さい。幾らでも足をお貸ししますよ」

 

そう言って笑うワープゲートの真意など見え透いている。

ただより高い物はない、つまりはそう言う事だ。

 

「ハァ、その対価に何をやらせるつもりだ。つまらん交渉はするな。気に入ればやる、気に入らねばやらん。それだけだ」

「考えて頂けるだけで結構ですよ。光栄です、ステイン」

 

ワープゲートから視線を外し、何処へと向かうか考えていると足音と共にワープゲートから死柄木が「保須市って・・・思いの外栄えてるな」と呟きながら現れた。

 

何処を見ているか分からない男は俺を見た。

何をするのかと問うように。

その表情にあの時みた片鱗はない。

 

「ハァ。・・・この街を正す。それにはまだ犠牲が要る」

 

そう言うと分からないと言うように死柄木が首を傾げた。

 

「先程仰っていた『やるべき事』というやつですか?」

 

それに比べワープゲートは物わかりがいい。

既に俺が何をするのか見当がついているのだろう。

そもそも、俺がヴィラン連合に興味を持ったのはコイツを見たからだ。

 

「おまえは話が分かる奴だな」

「滅相も御座いません」

 

ワープゲートに掛けた言葉に「いちいち角立てるなオィ」と死柄木のぼやきが聞こえたが、構う理由がなかった為無視して話を進めた。理解のあるワープゲートなら、俺のなすべき事が分かると思ったからだ。

 

「ヒーローとは、偉業を成した者にのみ許される『称号』。多すぎるんだよ・・・英雄気取りの拝金主義者が!」

 

そう言えばワープゲートは黙ったまま俺を見つめ、死柄木はつまらなそうに首を掻いた。

 

ワープゲートならばと思ったが、少し難しかったようだ。そもそも立場も目指す場所も違う相手。少し理解されたからと、欲張り過ぎたかも知れない。

 

まぁ、元より、簡単に理解されるとは思っていない。

世界は酷く歪で、正しさを知らぬ者が遥かに多い。

目の前にいるヴィランの二人もそうであるし、眼下に蠢く群衆もまた同じだ。

 

だからこそ、誰かが示さなければならない。

その身を、命を、名誉を犠牲にし。

堕ちた世界に、不変の正しさを。

 

「この世が自らの誤りに気付くまで、俺は現れ続ける」

 

二人をその場に置き去りにし、俺は再び都市の影へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

表をゆく者達の喧騒を聞きながら、薄暗がりの影の中を息を殺し進む。

この影は歪みを呼び、歪み達は闇を作り出す。

幼き日、ヒーローを志していた頃はこの場所を酷く嫌悪していた。いつか、俺の手で終わらせようとも。

 

今となっては笑えもしない話だが。

 

ヒーローを粛正し続けた対価に日の光を浴びる権利を失った今の俺にとって、この闇だけがたった一つの居場所なのだから。

 

 

喧騒を聞きながら、俺はかつての俺を思い出した。

理想に燃えていた、あの懐かしき灼熱の時。

 

心で訴えた、社会の歪さを。

魂で叫んだ、真のヒーローの姿を。

 

だが、声が枯れるほど叫んでも、魂が磨り減るほど嘆いても、誰も応えてはくれなかった。

言葉では誰も分かってくれなかった。

 

何故だ。

どうして。

 

いつも考えていた。

どうすれば分かって貰えるのか。

どうすれば皆気づいてくれるのか。

 

そうして何日も考え、そして俺は気づいた。

痛みのない経験に、人は鈍感であると。

 

革命の裏には常に血が流れてきた。

その血が多ければ多いほど、それを乗り越えた人々は大きな事を成し遂げてきた。

 

そうだ。

俺に足りなかったのは、犠牲だ。

五体満足で語る痛みになんの意味があるのかと。

平穏無事に暮らす人間の言葉にどれだけの重みがあるのかと。

 

だから、俺は剣をとった。

世に蔓延る悪を切り殺した。

ヒーローを歪める偽物共を切り殺した。

殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。

殺し続けた。

 

代償は軽くなかった。

戦いの中で顔の面は原型を失い、身体は隙間がないほど傷でおおわれた。

名前も過去も名誉も、持っていた全て、何もかも失った。

 

だが、その代わり得た対価は確かな物だった。

あるものは言った、俺が犯罪者を抑止すると。

あるものは言った、ヒーローが正しさを知ると。

 

それは対価と比べれば微々たる成果。

褒められたものではない、僅かな報酬。

なれど、ただ声を上げていた時とは比べ物にならないほど、世界を変えていった事も事実だった。

 

ならば、これで良い。

俺一人の犠牲で世界が目を覚ませば、それだけで良い。

真のヒーローがそこにあれば、それで良い。

 

日が降り始め、街中の影がその闇を深めていく。

じき、影を生きる者達の朝が来る。

影に生きる者達の目覚めが始まる。

 

鼓動が、息遣いが、蠢く。

 

 

 

 

何処からともなく声が聞こえた。

緊張感の欠片もない、若い男の声が。

 

そこを物陰から覗けば、一人の男がいた。

服装からヒーローである事が分かる。

 

拝金主義者の紛い物か、もしくは俺が望んだヒーローに相応しい存在か。

 

「・・・・試してやろう」

 

力なき正義に意味はない。

理想なき力に価値はない。

 

力を持ち、理想を掲げる。

対価を望まず、名声を求めず、他が為に命を懸ける、悪に屈しない強き者だけがヒーローだ。

 

お前にその肩書きが相応しいか、俺に答えを示せ。

ヒーロー。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ステイン・・・やはり彼だったか。懐かしいね」

 

僕の呟きにドクターは顎を擦った。

 

「先生、嫌みかね。はぁ、まさかあの彼だったとは・・・変われば変わるものだな。以前の彼とは大違いだ」

 

ドクターは彼を変わったと思っているようだ。

確かに姿形は大きく変わったが、私からすれば彼はそう変わった訳でないと思っている。

 

その考えも、その思想も、その行動も。

いずれも以前の彼のままだ。

 

「━━ただ、そうだな。以前より面白い男にはなったかな?」

「先生、何か言ったか?」

「いや、こっちの話さ。ドクター」

 

以前の彼から感じられなかった物を感じた。

僕の好みの気配だ。

悪くはない。

 

敵に回るなら一思いに殺してしまおうと思っていたが、幸いな事に彼は弔と共に歩む事を約束している。

それなら問題はない。弔にはこれを機会に存分に学んで貰うとしよう。

 

彼に足りないそれを。

 

「しかし乱暴なやり方だな、先生。彼は本当に育つかね?いまだ言動から子供が抜けきらぬ。癇癪を起こし、考えも浅はか。今回も、なんの考えもなく腹が立つからという理由で、折角の脳無を三体も出す羽目になった。・・・頃合いではないかね。そろそろ、別の者に目を向けるべきではないか?」

「ははっ。ドクターの言うことは尤もだね。でもまぁ、もう少し長い目で見てやってくれよ。これからだよ、彼は」

 

彼の歪みは本物だ。

彼以外に後継に座るに相応しい者はいない。

僕になるためには経験が足りない。

 

 

 

けれど、そうだな。

一人心当たりがない事もない。

 

僕はドクターに貰った一枚の写真を手に取った。

目の見えない僕にも分かるように凹凸のついた、一枚の写真だ。

指でその写真に描かれた人物の表情をなぞりながら、思った事をそのまま口にする。

 

「もし君が、その道を踏み外す事があれば、僕は喜んで歓迎するよ」

 

そうしたら、彼はどんな顔をするのだろうか。

導くべき君が、彼ではなく僕の下に来てしまったら。

守るべきだった者と、拳を交えなければならなくなったら。

 

 

 

「それも悪くないなぁ。ねぇ、━━━━━」

 

僕の呟きは誰の耳に響く事なく宙に溶けていった。

 



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迷っても間違っても大丈夫。気づいた時にやり直せば、それで良いよ。前向きに行こうよ、ね?━━━え、うん?何かしたのかって?ええ?疑うとか酷くない?違うって!本当に何もしてないからぁ!今回はぁ!の巻き

アイスの美味しい季節ですね。
お陰で食べ過ぎて、お腹がポチャポチャしてきました。

あははっ。

ダイエットしねぇとなぁ・・・(´・ω・`)



立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。

国を傾けるのなんてお茶の子さいさいな儚く美しい珠玉の超絶美少女、美しいという言葉の体現者であるそんな私は、緑谷双虎15歳、皆大好き美人過ぎる女子高生だ。

 

ドキドキワクワクの職場体験、今日は遠くに出張活動。向かう先は保須市っていう、微妙に栄えた街なの!

でもでも、ハゲの車で保須についたまでは良かったんだけど、そこからがさぁ大変!なんと保須には、野生の脳味噌丸だし生物が生息していたのだ!しかも三体!

 

世紀の大発見に双虎にゃん写メ連写。

 

急いでブログにあげねば!うひょーアクセス爆上がりー!・・・ん?よく考えたら、面倒臭くてブログなんてそもそもやってなかった。

━━━うわ、じゃいらね。

 

「一応残しとけ」

 

消そうとしたら地味に轟に止められたので、一応残しておく事にした。けーさつさんに高値で買い取って貰えるのかも知れんしね。

あったま良いね、流石エリートは違うぜぇ。

 

「まさか、以前雄英に現れた化物の仲間か・・・!」

 

ハゲが窓の外に見える脳味噌生物を見て舌打ちした。

あれの厄介さについて何処まで知ってるか分からないが、何かしら情報を得てるように見える。

 

やっぱりこのハゲ、仕事だけは出来るな。

仕事だけは。

 

あ、やべ。なんか睨まれた。

目は口ほどに物を言うと言うしな、目逸らしとこ。

 

「口から漏れてるぞ、緑谷」

「OH!れありー?」

 

「白々しいコントをするな!」

 

鋭いツッコミを入れたハゲはサイドキック達に指示を出し始めた。民間人の避難誘導を優先しつつ、脳味噌生物の捕縛をするようだ。

サイドキックのお姉さんは残るのかと思ったのだが、ハゲが俺一人で十分だと言うので避難誘導する為にドナドナされていった。「ショートくぅぅぅん」という捨て台詞で私ではなく轟狙いだった事が発覚。ハゲの形相から、後で灸が据えられることだろう。

南無。

 

「焦凍!緑谷双虎!お前達は俺の後をついてこい!オールマイトなど目ではない、最高峰の捕物を見せてやる!!」

 

そう言って脳味噌生物に向かって歩き出すハゲを横目に、私はポケットから発目から貰っておいた秘密兵器を取り出す。電源を入れれば小さいモニターの中に光の点がついた。

 

「緑谷、何してんだ」

 

私の様子を隣で見てたのか、轟が声を掛けてきた。

こやつになら教えても良かろう。

 

「発目のベイビー第35子『泳がせて捕まえろ追跡くんβ』だけど?」

「発目って体育祭の時のサポート科か?」

「そっ。体育祭から私のサポートアイテム開発に付き合って貰ったり、作ったベイビーのモニターになったり、色々しててね。これもその一つ」

 

私のヒーロースーツは最初に貰ったやつをベースにしてるけど、付属してるアイテムはいまや殆どが発目作のやつだ。私専用の装備満載である。

 

「てか、名前すごいな。なんの道具か直ぐに分かったぞ。それで何を追い掛けてんだ」

「眼鏡。こんな事もあろうかと、発目に頼んで発信器を仕込んでもらってましたー」

「飯田か?」

「そっ」

 

何かやらかしそうな顔してたので、変な事しようとした時に直ぐに殴りにいけるよう、眼鏡のヒーロースーツに発信器を埋め込んでおいたのだ。

 

これがあれば百キロ先からでも居場所が手にとるように分かる。トイレにいようと、お姉ちゃんと楽しくお酒が飲めるお店にいようと、エッチなお店に入ってようと、直ぐに居場所を割り出せる。

プライベートなんて欠片もなくなる優れものなのだ。

むっつり眼鏡、貴様のお楽しみを邪魔してくれようぞ。

 

「━━━ま、そんな訳だから、私はハゲの約束を守って撤退するから。よろしく」

「まて、どんな訳だ」

「最初に言われたでしょ?自分で危ないと思ったら逃げとけって。それをするからって話」

「・・・それで偶然、飯田の所に撤退しに行く気だったんだな。よくそういう事をポンポン考えつくな。今すぐじゃなきゃいけないのか?」

 

轟の言葉は間違ってない。

こんな状況だ。優先すべきは目の前の脳味噌生物だろう。

 

「私もそう思ったんだけどね━━━眼鏡のいく方角がさ、今の騒ぎが起きてる方向とは逆だったんだよね。今は進んだ先でワチャワチャ動いてる」

「どういう事だ」

「さぁね。でも、こんな状況で一向に騒ぎのある方向に行こうとしてないなら、考えられるのは避難誘導してるのか救出活動してるのか━━━何かと交戦しているのかくらいしか考えられないと思うけど?」

「・・・!」

 

せせこましく狭い範囲を動き回る反応を見れば、避難や救出活動をしてるようには思えない。

となれば、何かと交戦している可能性のが大きい。

眼鏡のいる方向から騒ぎが起こってないのを考えると、派手に動いてる脳味噌生物が相手とは考えられない。

 

なら、多分、そういう事だ。

 

「━━━━━最悪の場合、相手はヒーロー殺し『ステイツ』・・・」

「飯田を国と戦わせるな。ステインだ、ステイン」

「そうとも言う」

「そうとしか言わない」

 

呆れたように眉を潜めた轟は「分かった」と一言言うと、ハゲへと声をあげた。

 

「親父、友だちに何かあったみたいだ。俺は緑谷とそっちにいく。後で位置情報送るから、そっちが済むか、手の空いたプロがいたら応援頼む」

「はぁぁぁぁ!?どういう事だ、焦凍!!?」

「友だちがピンチかもしれねぇって話だ。━━あんたなら、すぐ解決出来んだろ。応援頼む」

 

追跡くんの反応に従い道を曲がった私に轟もついてきた。轟がついてきたのも意外だったが、私が被る筈だった泥を被った事も意外だった。

こういう事をする奴だと思ってなかったから。

 

「まてぇ!今サイドキックを━━━焦凍ぉぉぉぉ!!」

 

「いいの?叫んでるけど」

「放っておけ。それより、反応は何処にある」

 

背中にかかるハゲの声を無視してモニターに視線を落とし確認する。

反応が間違ってなければ、私なら5分と掛からない場所だ。

 

「このまま東に向かって、二つ目の交差点過ぎた所にある路地入ったとこ」

「分かった、急ぐぞ」

「言われなくても━━━てか、ちょっと先行ってくる!」

 

モニターを轟に預け、私は引き寄せる個性で低いビルの屋上へと飛ぶ。

最近特訓の末、地面だとか壁だとかを対象にしても出力が安定してきたので、こんな事も出来るようになったのだ。

流石、私様だよね!

 

「緑谷!!先行くな!!」

 

私は轟の声に任せとけとガッツポーズを返し、眼鏡のいる方向へと向けて引き寄せる個性を発動した。

 

馬鹿な事してる眼鏡の横っ面を叩きにいくために。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

鼻先を通りすぎる斬撃。

踊るように揺れる赤い巻物。

 

それはまるで風を相手にしてるかのような、掴み所のない動きだった。

 

「ハァ・・・未熟。相手をするのも馬鹿らしい」

 

溜息と共に吐かれた言葉に、僕の中にあった燻っていた感情に熱さが加わる。

 

「馬鹿らしいっ、だと!!何が、馬鹿らしいんだ!!犯罪者ぁぁぁ!!」

 

刃を潜り抜け蹴りあげた。

けれど手応えがない。

またかわされたのが分かる。

 

「インゲニウム━━━ハァ、兄弟か━━━」

 

頭上から掛かる声に脳が熱くなる。

その名前を語られる事すら許せない。

 

「お前がっ、兄の名を語るな!!」

 

そう顔を上げれば、ステインの金属に覆われたブーツが視界に入った。振り下ろされるそれが、酷く遅く見える。

 

「奴は伝聞の為、生かした。おまえは・・・その価値すらない」

 

鈍い衝撃と刺さるような痛みが腕に走った。

思わずステインから目がはなれ、体勢まで崩れる。

 

その直後、後頭部に衝撃が走った。

 

「弱いな」

 

気がつけば体は地面へと叩きつけられ、無傷だった反対の腕に刃が突き立てられる。

痛みに意識が飛びそうになったが、身の内から湧き上がる感情がそれを阻止した。

 

「おまえも、おまえの兄も弱い・・・贋物だからだ」

 

ステインから吐かれた言葉に熱くなっていた脳が更に沸騰した。

 

「黙れ、悪党・・・!!」

 

何が分かる。

 

「脊髄損傷で下半身麻痺だそうだ・・・!もうっ!ヒーロー活動はかなわないそうだ!!」

 

ベッドの上で僕に笑う兄さんが忘れられない。

無理して笑う兄さんがどんな気持ちなのか。

考えただけで、気が狂いそうだった。

 

「兄さんは、多くの人を助けて導いてきたっ!立派なヒーローなんだ!!」

 

ずっと見てきたんだ、応援してきたんだ。

誰かの為に、頑張る兄さんの姿を。

 

「おまえが潰していい理由なんて、ないんだ・・・!」

 

誰かの為になる事を、うれしいと笑える。

そういう人なんだっ。

 

「僕のヒーローだ・・・僕に夢を抱かせてくれたっ、立派なヒーローだったんだ!!!」

 

それをおまえがっ、おまえがぁ!!

 

「殺してやる━━━!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつを━━━まずは助けろよ」

 

突然のステインの言葉に、僕は今まで忘れていたヒーローの姿を思い出した。僕がステインに気づく切っ掛けになった、最初にステインと交戦し、そしてやられたヒーローの姿を。

 

「自らを顧みず、他を救い出せ。己の為に力を振るうな」

 

脳裏に兄さんの姿が過った。

誰かの為に頑張る、兄さんの姿が。

 

「目先の憎しみにとらわれ、私欲を満たそうとなど・・・ヒーローから最も遠い行いだ・・・ハァ」

 

誰かの為になる事を、うれしいと笑う兄さんが。

 

 

 

 

 

 

「だから、死ぬんだ」

 

背筋に悪寒が走ったかと思えば、体が急に動かなくなった。

理由は分からない。

けれど、今だ身動きをしない先にやられたヒーローの事を考えれば、ステインの個性である可能性が高い。

 

ならば、もう何も出来ない。

 

目の前に仇がいるというのに、こんな事を言わせてしまって、僕はもう━━━━。

 

 

「じゃぁな。正しき社会への供物」

 

 

ふざけるな。

何が供物だ。

何が正しき社会だ。

 

「黙れっ・・・黙れ!!何を言ったっておまえはっ、兄を傷つけた犯罪者だ!!」

 

 

振り下ろされる刃が━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━っ!!?なんだっ!?」

 

 

━━━━突然、刃が宙を舞った。まるで何かに釣り上げられるように。

直後、その光景に覚えのあった僕の脳裏に、彼女の姿が浮かんだ。

 

 

 

 

僕を心配していると、そう言ってくれた彼女の姿が。

 

 

 

 

ステインの顔が歪んだ。

真上から振り下ろされた彼女の拳によって。

 

ふらついたステインの顔面に、続けて放った彼女の回し蹴りが突き刺さる。

蹴りの衝撃に転がるよう地面を滑っていくステイン。

 

そんなステインに彼女は中指を立てた。

 

 

「私の手下その1になにしてくれてんだ、ああん?」

 

 

ヒーローとは程遠い言動。

彼女はこんな時でも彼女のままだった。

不良で不真面目なトラブルメーカー。

A組きっての問題児。

 

 

けれど僕は、その彼女の背中に、ずっと遠くになってしまった兄さんの影を見た気がした。

 

 

彼女は笑って僕を見る。

いつもの屈託ない笑顔で。

 

「やほ。眼鏡、生きてるか・・・・眼鏡っ!?」

 

返事を返そうとしたが、彼女は地面に落ちてる割れた眼鏡の前で跪いた。

そして悔しそうに地面を叩き言う。

 

「遅かったか・・・!!」

 

 

「よくこんな時にボケられたものだな!!」

 

 

思わず突っ込んだ僕は悪くないと思う。



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悲劇を目撃せし君よ!狼狽える事なかれ!そこにありし本当の光景を考えるのだ!よく、考えるのだ!そう、よくよく考えたら、眼鏡は人間じゃない!よって、別段大変な事は起きてませんからぁ!の巻き

ホークスがえらいことになってますけど、ダイジョブなんですかねぇ?ねぇ(´・ω・`)?

ホリー!救いはあるんだよねぇぇえ?!
ねぇぇえ!?


銃刀法違反してそうな輩をぶん殴り、ついでに蹴り飛ばした私が見たのは無惨な姿で地面に横たわる眼鏡だった。

 

フレームは歪み、レンズの片方は割れ、もう片方はヒビが入っている。

 

私は直感した、もう助からないと。

 

 

「遅かったか・・・!!」

 

「よくこんな時にボケられたものだな!!」

 

元気なツッコミが返ってきたのでボケはその辺で止めて、倒れながらこちらを窺っている輩に意識を向けた。油断の一つもしてくれれば御の字だったけど、そう甘くも無さそうだ。

 

初見という事もあって引き寄せる個性で上手くガード抉じ開けてボコれたけど、この分だと二度目は通じないと思う。

 

こういう手合は頭は悪いけど勘が良い。

理屈ではなく、体に染み込んだ経験とか、本能に近い何かで私の動きを読んでくる筈だ。

 

ぼろ雑巾から目を離さず、体勢を立て直す。

近くに倒れている眼鏡が動こうとしない。視界の端に映るインディアンも。

 

「眼鏡のない眼鏡」

「いや、もうそうなったら素直に飯田とでも呼んでくれ。もうこのさい委員長とかで構わないから」

「そんな事はどうでもいいから。そんな大した怪我に見えないんだけど、動けないわけ?ぶっちゃけ、あれとガチンコしたくないんですけど。逃げたいんですけど。乙女の肌に切り傷とか、堪りませんわ」

 

考えただけでゾッとする。

痛いの駄目、絶対。

紙で指切っただけで駄目なのに、刃物でスパーとか気を失うわ。

 

「す、すまない。身体を動かせない・・・。斬りつけられてから、奴の個性じゃないかと思うんだが・・・」

 

ニュースだと刃物に毒物だとか、もしくは斬る事で発動する個性だとか言ってたっけか?

何にせよ、無傷で勝利は難しい以上戦いは避けたい。

 

「・・・緑谷くん、手を出さないでくれ。これは僕の━━━━」

「うるさいわっ」

「━━━った!?蹴った?緑谷くん、今蹴ったのかい?!」

 

なんかほざこうとしたので蹴って黙らせようとしたら、逆にヒートアップしてしまった。

上手くいかないね、世の中。

 

「はぁ、うるさいなぁ。得意分野の障害物競走ですら私に負けた小物なんだから、大人しく助けられてなさいっての」

「こ、小物・・・・!?」

「出来もしない事はやらない。これ常識。どうしてもやりたいなら出来るまで鍛えるか、出来るように策を考えな。どっちも出来なかったあんたに、文句言う資格はないの。プークスクスだよ、プークスクス」

「プークスクス・・・!?」

 

復讐すんな、なんて聖人みたいな事、私は言わない。

世の中強いばかりではない。

そうしなきゃ前に進めない人だっているから。

 

でもまぁ、だからって認めてやる気もないけど。

 

私の目の黒い内は恨まれたって邪魔してやる。

友だちが、知り合いが、家族が、そんな事して捕まったりしたら、明日のご飯が美味しく頂けないからね。

 

「・・・ハァ、それは、仲間にかける言葉にしては辛辣だな。が、悪くはない」

 

そう言うとボロ雑巾がゆっくりと体を起こした。

まったくダメージがないというわけでは無さそうだけど、継続戦闘にあまり支障はきたしてなさそうに見える。

 

思ったより鍛えてる。

なら、多分個性に頼るタイプじゃない。

戦闘の主軸は肉体能力。武器を使うならそれに準じた技術。見た感じだと刃物系。主な武器は日本刀、ナイフ。投擲用の投げナイフも見える。

面倒、厄介だ。

 

「よく、見てるな・・・お前は。そこの男達とは違うな。強い。だが、まだ未熟」

 

ボロ雑巾は側に落ちてる刀を足で掬い上げると、右手に握り締めた。

 

「━━娘、俺はそいつらを殺す義務がある。そいつらはヒーロー社会の癌、粛正対象だ。それを邪魔立てするなら当然、ぶつかる。━━━━つまりは、弱い方が淘汰されるわけだが・・・さぁ、どうする」

 

何言ってんだ、こいつ。

 

「殺す義務ってなに?そんなに偉いわけ?」

「ハァ・・・お前に理解出来るとは思えんが━━━」

「え、難しい話?じゃ、良いよ。お口チャックで。ニコちゃん難しい話分からんばい」

「・・・貴様ァ」

 

長い話なんてご勘弁なのだ・・・あ、やっぱ聞いとけば良かった。

轟が来るまでの時間稼ぎになったのになぁ。

 

でもまぁ、仕方ないよね。

こんな奴に偉そうに言われるのは癪だし。

 

「何を言ったって、あんたは犯罪者でしかないでしょ」

「なに・・・?」

「どれだけ大層な理由があるか知らないけどね、あんたなんかよりずっと飯田の方が正しいよ。粛正対象?なにそれ、笑うわ」

 

ちゃんちゃらおかしい。

自分だって好き勝手に暴れてるだけだってのにさ。

 

「人殺して平気な面してるあんたなんかより、ずっと優しくて、ずっと良い奴だよ。兄貴の為に怒れて、兄貴の為に戦える」

「それが愚かなのだ。ヒーローとは━━━」

「ヒーロー語るなよ、犯罪者。あんたに分かるわけないでしょ。粛正なんてくだらない方法しか選べなかった、弱虫毛虫のあんたなんかにさ」

 

その瞬間、ボロ雑巾の気配が変わった。

体の重心が前に沈むのが見える。

くるっ。

 

「もういい、黙れっ」

 

引き寄せる個性でその場を飛び退ける。

目の前に真一文字に刃が通った。

反応が遅れていれば腹を切り裂かれている所だ。

 

「ハァ・・・!速い、な。だが、それだぎゃ━━━ふっぐ!?」

 

のんびり喋っていたボロ雑巾の下顎を引き寄せ舌を噛ませてやる。

ざまぁないぜぇ。

 

どさくさ紛れて引き寄せといた首の巻物を引っ張れば簡単に体勢が崩れた。

 

ボロ雑巾に引き寄せ個性をフルスロットル発動。

宙をかっ飛び、いっきに接近する。

 

「━━━ハァ!!やるっ、が甘い!」

「甘いのはあんたでしょうがっ!!」

 

刀を振ろうとする腕と、ボロ雑巾の足元のコンクリを対象に引き寄せ個性を発動。

瞬間、"刀を持つ腕とコンクリとが引き合い"火花があがるほど激しくぶつかる。

体育祭以降使えるようになった私の超秘、本来掌に引き寄せてしまう点をねじ曲げ、別の対象同士を引き合わせる事が出来るのだ。使える回数は限られてるけど、使い時さえ間違えなければ大きなアドバンテージを得る事が出来る。

今みたいに。

 

驚きを浮かべたボロ雑巾の顔面に、渾身の力を込めてかかと落としを喰らわせてやる。

 

ニコちゃん108の必殺技。

前方宙返りの勢いを全て乗せた必殺の踵落とし。

ニコちゃんハンマーである。

 

当たれば一撃。

その自信はあったけど、現実は中々厳しかった。

 

降り下ろした足に鈍い感触はあったけど、そこ感じたのはとどめには程遠いモノ。

信じられない事だけど、逸らされた。

 

あの、崩れた体勢から。

 

 

 

 

「━━━━━捕まえたぞ」

 

 

 

 

視界の中にこちらを見つめるボロ雑巾と、その手に握られた光る刃を見た。

咄嗟に引き寄せる個性を発動し飛び退く。

数本の髪の毛が切り裂かれたけど、それだけ。

直撃なし。

 

 

「いや、捕まえた・・・・!」

 

 

ぼろ雑巾の掴むナイフについた赤いもの。

血のようななにかが見える。

 

その時になって私は肩の僅かな痛みに気がついた。

視線をそこへと向ければ、小さな切り傷があった。

 

ナイフについた血に、それに舌を這わせようとするぼろ雑巾に━━━嫌な予感を覚えた。

全身に鳥肌が立つ。

 

 

私は自分の勘を信じ、フルスロットルでボロ雑巾の手元にあるナイフを引き寄せた。

出力調整もコントロールもなく引き寄せたせいで、引き寄せたナイフで掌が切れる。赤い血が飛び散るのが見える。半端なく痛い。

 

けれど、私の行動を見たボロ雑巾の様子を見て、勘があたっていた事が分かった。

 

理解した。

ボロ雑巾の個性。

発動には対象となる血液を、経口摂取する事が条件。

恐らくその効果は、体の自由を奪うもの。

 

なるほど、刃物を武器にする訳だ。

 

 

「━━━ならっ!!」

 

 

おもいきり息を吸い込む。

身構えるボロ雑巾に向かって、止まる事を知らない乙女力を込めて火を吹き付けてやった。

 

溜めが足らなかったせいで火力が弱い。

直撃したがダメージは薄い。

精々が服を焦がした程度だ。

 

それならばと、もう一度火を吹き付けたけど、今度は難なくかわされた。

それも前進されながら。

 

「・・・ハァ、惜しかったな・・・!もう気づいたのか!やはり、よく見ているなァ・・・!!良い」

 

忌々しげに呟くボロ雑巾に、さっきの予感が間違ってなかった事を改めて知る。

頑張って良かったと思うけど、状況は最悪だ。

 

引き寄せる個性で飛んだけど、それよりぼろ雑巾の刀が僅かに早い。

刀の切っ先が二の腕をなぞった。

 

再びボロ雑巾の手の中に、私の血が落ちる。

 

「言動に問題はある━━━が、おまえは生かす価値がある」

 

ボロ雑巾の舌が刀の上を這う。

血を求めるように。

 

「少し大人しくしていろ、直ぐに終わる・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先に行くなって、言ったろ!緑谷!!」

 

 

怒鳴り声と共に灼熱と極寒が走る。

ボロ雑巾はそれを寸での所でかわし、逃げるように距離を取った。

 

運の良いことに、刀についていた血は上手い具合灼熱へ溶けていったのが見えた。

 

でかした、紅白饅頭!!

 

「━━━━っ轟くん!どうして、君まで!!」

 

飯田の言葉に轟が一瞥したが、直ぐに私を見てきた。

なんか私を見つめる轟の眉間に皺が寄ってる。

 

「・・・前は分からなかった。俺は見てるようで、周りの事何も見てなかったみたいだからよ。だから、ようやく分かった。爆豪がなんで、あんななのか・・・」

 

なんだろう、おかしいな。

こっちに歩いてくる轟の背中にかっちゃんが見える。

ぼやっと王子の背中に爆炎が見える。

 

「俺が言えた義理じゃないけどな。緑谷お前、今回の件が終わったら説教するからな」

「なんでっ!?」

「自分の胸に手を当てて考えてみろ」

 

言われた通りに手を当てて考えてみた。

どうしよう、心当たりが多過ぎて、何を怒られてるのか全然分からない。・・・轟の現代文の教科書の詩に、官能小説の一文書き込んでおいたあれかな?世界史の教科書に乗ってる偉人の写真を、全員髭面にした事かな?

ううん、分からん。

 

「━━━まぁ、いい。それもちゃんと無事に帰ってからだ。兎に角、親父に場所は伝えといた、直に応援がくる」

 

轟は周囲へと氷結を放った。

ボロ雑巾に向かうのは鋭い氷柱。

倒れていたヒーローと飯田、私の足元に現れた氷は滑り台のようになり、私達三人を轟の下へと転がす。

 

轟は側に来た私の頭を乱暴に撫でると、ボロ雑巾から庇うように私を含めた三人の前に立った。

 

「緑谷、手、平気か」

「もち。こんなの包帯でちょちょいのちょいよ」

 

ポーチから包帯取りだし締めるように掌を巻けば、溢れ出ていた血が止まった。

痛みはあるけど、まだ戦える。

 

「・・・よし。なら、今度こそ二人で守るぞ」

 

あー、置いてった事がオコだったみたいだ。

 

今更ご機嫌とりやっても仕方ないけど、このまま放置しておくのも怖かった私は、素直に轟の言葉に頷いておいた。

 

ふぅ。

帰った後が怖いんだぜ。

 

 

 

 

大丈夫だよねぇ?

 



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見ないフリして、知らないフリして、聞かないフリしてさっさと立ち去れぇ!!お前が見たのは、そう、幻だから!!こんな、あれだよ!一時の迷いだから!多感なお年頃特有のあれだから!見ないであげてぇ!の巻き

誰得の眼鏡回だよ|||ω・)ジー

さぁ、歓喜せよ( ノ*・ω・)ノ!


視界の中で炎が空気を焼いて、氷が周囲を冷やし地面を走っていく。

怒声と共に宙を駆ける友の姿も。

 

熱と冷気が渦巻き、友の姿が交差するその中で、鈍い光を放つ刃が飛び交う。

 

刃は一切の躊躇なく友の命を脅かし、赤い鮮血を周囲に散らしていく。

 

 

「どうしてっ・・・!」

 

 

そんな言葉が出た。

思わず、考えてもみない、言葉が。

こんな時になって、僕はやっと分かった。

 

心に沸き上がる感情。

怒りなんかではない。

もうそこにあるのは、ただ、ただの後悔。

 

「何故・・・」

 

君達が戦う。

 

「二人とも、何故だ・・・」

 

僕の身勝手に付き合う。

 

「やめてくれよ・・・!」

 

僕の代わりに傷ついていく。

それは僕が負うべき物なのに━━!

 

「兄さんの名をっ、継いだんだ。━━僕がやらなきゃ、そいつは僕が・・・!」

 

もう見たくないんだ。

兄さんみたいに壊される人を見るのは。

 

 

 

 

必死に投げ掛けた言葉に、轟くんが僅かにこちらを見た。

 

「━━━継いだのか、おかしいな」

 

返ってきた言葉は、疑問だった。

 

轟くんの足元から巨大な氷柱が現れる。

ヒーロー殺しを狙った一撃だったが、容易くかわされてしまう。

 

「俺が見たことあるインゲニウムは、そんな顔じゃなかったけどな。お前んちも裏じゃ色々あるんだな」

 

そう言うと、轟くんはヒーロー殺しに肉薄する緑谷くんの援護をするために炎を放った。直撃こそしなかったが、その炎は確実にヒーロー殺しの身を焦がしていく。

すかさず、炎に気を取られたヒーロー殺しの横っ面へ緑谷くんの拳が振り抜かれる。

 

「━━━あいつに、緑谷に、言われた事だ。鏡見たことあるかってよ。どの面下げて、ヒーローになる気だってよ」

 

炎と氷で援護を続けながら、轟くんは続ける。

 

「俺は━━━━忘れてたよ。ずっと。なんでヒーロー目指したのか、どうしてあんなクソ親父の言うこと聞いてまで、辛い特訓に耐えてまで、ヒーローを目指したのかを。ずっと忘れてたんだ・・・!俺は!」

 

炎を裂いて現れたナイフが轟くんの腕に突き刺さる。

けれど轟くんは歯を食い縛り炎を噴出し続けた。

 

「もうっ、分かってんだろ!!飯田!!」

 

分かってる。

もう、分かってる。

けど、僕は道を間違えた。

 

あいつの言うとおり、僕はヒーロー失格だ。

兄の名前を受け継いだのに、僕がしたことはただの復讐。誰も助けやしない。

笑顔を守ってきた兄の名を、汚すだけの愚行。

どうして今更、それが言える。

 

 

「━━━緑谷!!」

 

 

言い淀んでいた僕の耳に、轟くんの悲鳴のような声が聞こえた。

顔をあげると、力なく空中から落ちる緑谷くんの姿があった。

 

「だいっ、じょうぶ!!けど、やられた!」

 

それが何を意味してるのか、轟くんも僕も直ぐに察した。ヒーロー殺しの個性を受けたという事だ。

 

ヒーロー殺しの動きを抑えていた緑谷くんの脱落は、こちらへの接近を許す切っ掛けになる。

どうしてか緑谷くんはヒーロー殺しから、殺すには惜しいと評価されている。ならば、たとえ動けなかったとしても殺される可能性は極めて低い。

 

けど、轟くんは違う。

ヒーロー殺しは残忍な犯罪者だ。

邪魔するなら子供でも平気で殺す。

僕に殺気を向けたように。

 

「━━━━━やめてっ、くれ!逃げてくれ、僕はいい、僕は・・・もう」

 

君だけでもいい、生きて欲しい。

こんな僕の為に、道を間違えた僕に、犠牲にならずに。

どうか━━━━━━。

 

「やめて欲しけりゃ立て!!!」

 

なのにどうして、君はそこにいるんだ。

どうして、そんなに、期待するように声をあげるんだ。

 

「なりてぇもん、ちゃんと見ろ!!」

 

轟くんが作った氷壁を切り裂き、ヒーロー殺しの姿が現れた。不気味に笑う、憎いヒーロー殺しの姿が。

 

「俺もっ!緑谷もっ!諦めてやれねぇぞ!!絶対だ!!だからっ、立て!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃、僕にとってヒーローは当たり前の存在だった。

僕の一家は皆ヒーローだった。

両親もヒーロー。両親の両親、つまり祖父母もヒーロー。歳の離れた兄もヒーローになった。

だから、僕がヒーローになるのは当たり前で、当然の事なんだと思っていた。

 

ヒーローになるために勉強し体を鍛えていく内に、僕はヒーローという物がなんなのか唐突に疑問に思った。

当たり前過ぎて気づかなかったのだ、ヒーローという物が何の為に何をしなくちゃいけない人なのか、知らなかった事に。

 

疑問を疑問のまま放置出来なかった僕は兄にヒーロー活動を見させて欲しいとお願いした。口で説明されるより、目で見た方がずっと参考になると思ったのだ。

そんな僕に兄は頭をかきながら笑っていた。「参考になるとは思えないぞ」なんて言って。

 

でもそれが、僕の始まりだった。

 

胸が熱くなった。

危険に飛び込んでいき、華麗に人を助ける兄さんの姿に。

思わず拳を握り締めた。

悪党を前に恐れる事なく立ち向かう勇敢な兄の姿に。

 

僕は兄にヒーローというものを教えて貰った。

僕の理想は兄さんになった。

 

 

そんな兄さんがいつか言っていた言葉がある。

迷子を見かけたら迷子センターへ手をひいてやれる。そういう人間が一番かっこいいと。

当時の僕には分からなかったけど、今なら分かる。

 

『何かあったらゆうてきて!』

 

『心配してる。あんたが思うよりずっと━━━』

 

『やめて欲しけりゃ立て!』

 

彼女達が、彼等がそうだったんだ。

ずっと側にいたのに気づかなかった。

兄が目指していたものは、特別なものなんかじゃなかった。

当たり前の中にあったんだ。

 

『ヒーローが何なのかよく考えとけ、バーーーーカ』

 

そうだ僕は何も分かっちゃいなかった。

入学式から何も変わっちゃいなかった。

目の前の事だけ・・・自分の事だけしか、見てなかった。

 

ヒーロー殺しの言うとおりだ。

 

僕は彼女達とは違う。

どうしようもない未熟者だ。

足元にも及ばない。

 

けれど、だからと言って、このまま終わる訳にはいかないんだ。

 

僕には相応しくはない。

けれど、相応しくなくても僕には義務がある。

義務があるんだ、ヒーロー殺し。

掛けられた期待に応える義務が。

 

兄の言葉を嘘にしてしまわないように。

二人の傷を無意味にしないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟くんに迫る刃が見えた。

命を切り落とす、殺意を乗せた一撃。

避けなければ死んでしまう、そういう一撃。

 

僕はそれを眺めながら集中した。

震える手足に、重い体に力を込めた。

折れそうになる心に、魂に火を灯した。

 

ありったけの思いを込めて。

エンジンにエネルギーを注ぎ込んだ。

全てはその為に。

 

「おぉぉっ、おおお!!おおおぉぉぉ!!!!」

 

立ち上がれ。

今、ここで。

 

ヒーローがどうのじゃない。

僕の後ろめたさも、間違った過去も関係ない。

ここで彼女達に応えなければ、僕は一生後悔してしまう。

今ここで立たなければ、二度と━━━━

 

 

 

「レシプロっ━━━━━!!!」

 

 

━━━君達に、兄に、追い付けなくなってしまう。

 

 

炎が噴き上がる排気筒。

加速する体。

流れる景色。

耳に響く風切り音。

 

体が、足が、僕の意思を汲む。

 

 

「━━━━バースト!!!」

 

 

弧を描いた足が、ヒーロー殺しの凶刃を真っ向からへし折った。

 

驚愕を浮かべるヒーロー殺しへ、追撃の回し蹴りを打ち込む。ガードされたが、しっかりと遠くへと蹴り飛ばす事は出来た。

 

よろめくヒーロー殺しに速攻をかける余裕は見てとれない。

それは今の僕には十分過ぎる結果だった。

 

 

 

 

「ああっ、なんて事!飯田がぁぁ!」

 

緑谷くんの悲痛な声に視線を下げれば、僕の足元に踏みつけられた僕の眼鏡があった。

こんな時に何をと思ったが、地面に横たわりながら僕を見上げる緑谷くんの目に、はっとさせられた。

 

気づかなかった。

君はそんな目で僕を見ていたのか。

ずっと・・・。

 

「緑谷、馬鹿なこと━━━」

 

緑谷くんを叱ろうとする轟くんを手で制し、僕は彼女の顔を見て返した。心を込めて。

 

「━━こんな時にボケないでくれ。飯田は、飯田天哉は僕だ。君は眼鏡を、なんだと思っているんだ」

 

僕の返しに緑谷くんの笑顔が返ってきた。

 

「あはは。つまんない返し!10点!」

「何点満点なんだ、それ」

 

轟くんと緑谷くんが言葉を交わす姿を横目に、僕は今は噛み締めた。

生きている事を、立ち上がれた事を。

 

 

 

 

「ハァ・・・、感化されたか。だが、無駄だ」

 

不意にヒーロー殺しの声が聞こえた。

そこへと視線を向ければ、折れた刀を手にしたヒーロー殺しの姿がある。

 

「取り繕おうとも、人間の本質はそう易々と変わらない。おまえは私欲を優先させる、贋物にしかならない・・・!英雄を歪ませる、社会の癌だ。誰かが正さねばならないんだ」

 

さっきよりずっと素直に聞けた。

そうだ、僕は紛い物だ。

ヒーローに憧れていただけの、ただの子供だった。

 

「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳貸すな」

 

そう庇ってくれる轟くんの言葉はうれしい。

確かに極端な言い方だ・・・けれども、本質的な所は間違っていない。

 

「いや、言うとおりさ。僕にヒーローを名乗る資格など・・・ない」

 

ただそれでも。

 

「折れるわけにはいかない」

 

もう、受け取ってしまったから。

兄さんや、君達から沢山。

それに僕は応えなくちゃいけない。

 

「俺が折れれば、インゲニウムが死んでしまう」

 

沢山の気持ちを受け取ってきた、その名が。

誰かを勇気づけてきた、その名が。

僕の憧れた、その名が。

 

「論外」

 

論外で結構だ。

どうせ僕にはどちらの肩書きも相応しくない。

 

けれど、それでも名乗ろうと思う。

分不相応でも情けなくても。

 

何故ならそれはもう、僕の名なのだから。

 

 

「聞け、ヒーロー殺し!」

 

 

それは沢山の人達に親しまれた━━

 

 

「僕は、最高に立派な兄さんの、ヒーローの弟だ!!」

 

 

━━━愛されてきた━━━

 

 

「兄に代わりおまえを止めに来た!!」

 

 

━━━僕が憧れた━━━

 

 

「僕の名前を生涯忘れるな!!」

 

 

 

 

━━最高にかっこいい、兄さんに託された名だ。

 

 

 

 

「インゲニウム!!お前を倒す、ヒーローの名だ!!」

 

 

 

 

今度こそ誓おう。

兄に、緑谷くんに、轟くんに。

この名を愛してきた全ての人に。

 

僕はヒーローになる。

この名に相応しい、兄さんのような誰よりも立派なヒーローに。

 

そして今度こそお前を止める。

兄と同じ、一人のヒーローとして。



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間違っていても行き着く所までいったら綺麗に見えるから不思議。例えば、ほら、見てよ私が研きまくった泥団子。凄くね?ピカピカよピカピカ。なんだろ、ちょっと良くね?買わね?五千円でいいよ!の巻き

毎回毎回、書くことなんてないよ!

眼鏡の最後の活躍ポイント
もうすぐ終わりだぉ(*ゝ`ω・)


私と代わるようにのーれんず飯田が加わり、ボロ雑巾ことヒーロー殺しとの熱き戦いは、より過激な物に変わっていった。

 

のーれんず飯田のキックが雲を切り裂き、だぶるどらごん轟が炎と氷の嵐を起こし、ボロ雑巾殺しが音すら置き去りにした斬撃を放った。

 

天変地異に揺れる路地裏。

私はその光景を横目にダラケていた。

 

いや、違うんだよ?

だってね、動けないの。

全然動けないの。

仕方ないの。

 

働きたくないでござる的な、それじゃないんだよ?

・・・帰りたいなぁ、甘いもの食べたいなぁ。

 

「お、おい、そこのお嬢ちゃん!聞こえてたら返事してくれよ!おい!」

 

ダラケていると、見えない方向から声が掛かってきた。

多分最初に倒れていたインディアンだろう。

てか、さっさと復活した飯田と違って、この人全然復活する兆し見せないな。

 

ははぁん、さてはサボってるな。

 

「・・・分かる」

「何を!?何が分かるの!?あ、もしかしてサボってると思ってる!?俺が!!違うからね、動けないんだって、本当にさ!」

「言葉にせずとも良いわ。ワシはなにも言わんよ。ふぉほほほっ」

「なんか悟った仙人みたいになってる!やめてっ、本当に!分かってるアピしないで!」

 

あんまりにも喧しいので、引き寄せる個性を上手く使って反対にゴロンする。

そんな私にインディアンのジト目が突き刺さる。

 

「君、案外余裕だね。その動き個性だろ。上手く使うね」

「どういたしまして。じゃ」

「反対に向こうとしないでっ!ちょっ、こな、あっ!完全に反対向きやがった━━あぁ!もういい!こっち向かなくて良いからそのまま話を聞いてくれ!」

 

二人の激戦に顔を向け直したけど、インディアンはお構いなしに話を続けてきた。

 

「さっきから動きを見てて分かった!ヒーロー殺しの狙いは俺と白アーマーだ!!お嬢ちゃんと紅白少年は命まで狙われてない!!いや、紅白少年は微妙かも?……と、兎に角、均衡保っていられる内に逃げるように伝えろ!!」

「だってぇー」

「伝える気全然ないなぁ!!」

 

伝えた所で退くような奴らじゃないしね。

無駄な事はしない主義の私にそれをしろと言うのは酷と言うものだにょ。

 

それに私も割と忙しい。

 

「ちょっと聞けって━━━━」

「シャラップインディアン。ルート66に帰さすぞ」

「インディアンじゃないから!」

 

 

「━━っかんないかな!?瀬戸際なんだよ!なんでも良いから黙ってて!!集中出来ない!!」

「あ、はい、すいません」

 

インディアンを黙らせ荒ぶる気持ちを落ち着かせる。

直ぐに頭が冷えてきて、個性に集中出来るようになった。

 

こういう時私は自分の個性がこれで良かったと思う。

私の個性は基本的に手足を動かす必要性がない。

そうした方が楽なのでそうしてるだけで、本質的には頭さえ働けば十分なのだ。

 

こうなった以上私がするべきは阻害のみ。

攻撃の一切を切り捨て、そこのみに集中する。

 

動きを封じる必要はない。

ほんの僅かでも制限させればいい。

動きの初動に合わせて手足や道具、衣服を引き寄せる。

 

剣を振り下ろす瞬間、懐から武器を抜こうとする瞬間、駆けようとする瞬間、飛び上がろうとする瞬間。

意識が飯田や轟に集中する瞬間を狙って。

 

動きの出端にちょっかい掛けられれば面白くもないし、リズムが崩れる。いつも通りの動きが出来ない。

掛かる負荷に対応しようとしても、その掛かる負荷はマチマチで対応しようにもやはり出来ない。

 

その僅かなストレスは少しずつ大きくなっていって集中力と体力を確実に奪う。行き着く所まで、つまりは感覚まで狂いだしたらこちらの物だ。

 

 

 

「ぐっ!!!」

 

壁を足場にしようとしたボロ雑巾が体勢を崩した。

引き寄せた足が、本来踏むべきだった場所からずり落ちたせいだ。

 

その隙を逃さず、飯田が壁を駆け上がった。

轟に冷やさせて準備していた、再びのレシプロで加速する。

 

ボロ雑巾が飯田に気づき身構えたけど、そうはさせない。

 

引き寄せる個性でボロ雑巾の首を私へと向けさせる。

忌々しげな視線が、私の姿を捉える。

 

「ざまぁ」

 

「━━━━ぁ!!」

 

なにかを言おうとしたボロ雑巾の脇腹にレシプロで限界まで加速した蹴りが叩き込まれた。

こちらにまで聞こえてくる鈍い音が、止めの一撃だった事を知らせる。

 

 

 

 

━━なのに、嫌な予感がした。

どうしようもなく、嫌な予感がしたのだ。

 

 

 

その様子を見て轟も腕を構えていた。

どちらかと言えば捕らえる為の右手ではなく、攻撃する為の左手を。

 

「まだだ!!飯田!!」

 

声に反応した飯田が顔を逸らす。

その瞬間、顔のあった場所を刃の一閃が走る。

 

「たたみかけろ!!」

 

轟の声にもう一度蹴りあげようとするが、それより早くボロ雑巾から放たれたナイフが飯田の体に突き刺さる。

ボロ雑巾は体勢を崩した飯田から目を離し、轟を見た。

一目で分かるほど殺意に満ちたその目で。

 

「粛清っ、せねば!!」

 

飯田を足場のように蹴り、ボロ雑巾が空を駆けた。

真っ直ぐに轟に向かう。

距離を取ろうと轟は炎を放つが、ボロ雑巾はそれを物ともせずに突っ込んでいく。

 

「正しき、社会の為に!!」

 

轟の足元からボロ雑巾を止めるように氷壁が姿を現すが、それも一瞬の時間稼ぎにしかならない。

一呼吸もなくこま切れになる。

 

「全てはっ!!正しきっ!!社会の為に!!」

 

ボロ雑巾の目に映るそれは、殺意だけだった。

他の意思なんて欠片も存在しない。

何処まで歪んでいるのに、透明さすら感じる、何処までも歪みきった漆黒の殺意。

 

 

 

 

 

 

「━━━っ緑谷!!?」

 

 

人間やれば出来るもんで、フルスロットルの力で轟を引っこ抜く事が出来た。

余裕があれば壁だの何だのに向かって引っ張ってやれたけど、生憎咄嗟に対象に出来たのは使い慣れた掌だけ。

私の体と、轟の体が宙で交差する。

 

私と逆方向へと飛んでいく轟に、何処か見覚えがあった。何時だったと思い出して、直ぐにそれがUSJだった事を思い出す。

あの時も確かこうした。

 

「緑谷くん!!」

 

飯田の声が聞こえた。

焦ったような声だ。

きっと私が切られると思っているんだろう。

普通、そう思う。 普通は。

 

私は眼前に迫る刃を見ながら、歯を食い縛った。

来るであろう衝撃に備えて。

 

 

死が過る最中。

 

 

限界まで高まった集中力は時の進みを遅くした。

 

 

思考が回転していく。

 

 

 

今まで感じた事のない、速度で。

 

 

 

 

そして、その時の中で、私は見た。

 

 

 

 

間延びしていく時の中で、私は確かに見た。

 

 

 

 

 

ボロ雑巾の刃が、その場に止まる瞬間を━━━━。

 

 

 

 

 

鈍い感触が頭に響いた。

私の頭がボロ雑巾の顔面にぶつかったのだ。

後ろへと大きくよろめくボロ雑巾を見ながら、私は勢いを殺せず地面を転がる。あちこち痛い。ぐるぐる転がって気持ち悪い。

 

信じていた。

私の事を殺さないと。

 

信じていた。

こいつは言ってる事メチャクチャだけど、自分で口にした事は意地でも守るクソ野郎だと。

 

歪みきってる筈なのに、何処までも真っ直ぐだった、その目を見た瞬間から。

 

 

「━━━がっ、はっ、ぐぅ、にを!粛清っ、せねばっ!!正さねばっ!」

 

 

よろめきながらも未だ崩れないボロ雑巾。

何がこいつにここまでさせるか分からないけど、肉体的なダメージで止まらない事は理解した。

こういう手合は、意識を刈り取るまで終わらない。

 

 

「━━━っ!」

 

 

不意に手足の感覚が戻った気がした。

試しに動かせば力が入る。

ならば、やれることをやるだけ。

 

止めをさそうと立ち上がり━━━━視界の中に入ってきた光景を見て、間髪入れず横になった。

それはまるで浜に打ち上げられたアザラシのように。

 

うん?どうしてかって。

いやぁ、見ちゃったからさ。

 

何故かは知らないけど、どうしてそうなったのか知らないけど。

 

来る筈のない嵐がきたのを。

 

 

 

 

 

 

「爆速ターボ━━━━最高出力F1」

 

 

 

 

 

 

爆音と共に金髪のミサイルが突っ込んできた。

ミサイルが直撃したボロ雑巾は数十回の小規模な爆発を繰り返しながら勢い良く吹き飛んでいく。

 

最後には壁にめり込みぐったりしたが、ミサイルさんに慈悲はなく、そこに止めの一撃をぶちこんで完全に意識をぶったぎってきた。

今度こそ戦闘不能に見える。

ていうか、死んだように見える。

 

 

唖然とする轟と飯田。

最早言葉すらないだろう。

 

弱っていたとはいえ、あれだけ苦しめられたボロ雑巾を瞬殺されたのだ。

これは仕方ない。

 

 

 

 

「・・・・・おい、馬鹿女」

 

 

 

 

こっそりその場を離れようとしていたら声を掛けられた。声色から怒ってるのが嫌でも分かる。

あれだ、振り返りたくない。

 

・・・ん、待てよ?

 

そもそもなんで、コイツがこんな怒ってるんだ・・・。

よくよく考えたら、私が怒る理由はあっても、コイツに怒られる理由はないじゃないか・・・・!

 

そうだ、怒りたいのは私の方だ!このやろうがっ!!

忘れてないぞ、あの時の態度!!!

 

 

「おい」

 

 

━━とは思うけど、そういう雰囲気じゃないよね。

分かります。双虎にゃんは空気を読める小悪魔系美少女。ひと一倍そういうのは分かるのんです。

 

 

だからまぁ、穏便に済ませる為、私が取るべき行動は一つ。

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん!さらだバー!!」

「なんで逃げてんだ、ごらぁぁぁぁ!!!」

「鏡みてこい、ばーか!」

「んだとこらぁぁぁ!!」

 

 

 

結局、戦い終えたばかりのクタクタな私に勝ち目がある訳もなく、逃走を図って私が捕まるまで5秒と掛からなかったよ。

 

あははは・・・くっ、無念でござる。



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劇的な終わりがある訳じゃないのが人生だから、こんな終わり方があっても良いよね?地味かもしれないけど、運命だったんだよ。諦めてさっさと負け犬の遠吠えでもすると良い!!ふぁーははは!の巻き

次回、職場体験編クライマックスです( *・ω・)ノ

これにて眼鏡の出番も激減!
次彼に会えるのはいつになるのか!
こうご期待です。


超絶美少女にして小悪魔系ヒロインである私、緑谷双虎は現在かっちゃんに捕まっている。

理由は分からない。分からないんだけど、兎に角捕まっている。猫掴みで。

 

轟と飯田が発目印のニコちゃんロープでボロ雑巾を縛りあげている間も、猫掴みの刑は執行された。私に出来る事はない。借りてきた猫の如く静かに過ごすのみである。━━━しっかし、こうして猫掴みされるのはいつ以来かなぁ・・・中学の時、西折寺の四天王倒した時以来かな?あの時も凄い怒られたもんなぁ。

 

猫掴みの刑も少し楽しみ始めた頃、轟がなんか凄い顔でこっちを見てる事に気がついた。いや、顔はあんまり変わらないんだけどオーラ的なのが、なんか凄かった。

 

「・・・な、なに?」

「?なんでもないが」

 

なんでもない雰囲気じゃないんだけども。

するとかっちゃんもソレに気づいたのか、轟を強く睨んだ。

 

「俺のだ。てぇー出すな、紅白野郎」

「?ああ、知ってる」

 

知ってるってなんだ、おい。

いつから私はかっちゃんの物になっとんじゃ。

そこんとこ詳しく。

 

ついでに、のーれんず飯田からは生暖かい視線向けられた。

なんだその目は!説明しんしゃい!こらぁ!!

・・・インディアンこらぁ!見えてんだからな!なんだその目は!この穀潰しが!

 

 

 

 

ようやく動けるようになったインディアンにヒーロー殺しを任せ、轟と飯田を連れてかっちゃんに引きずられる様に表通りに出る。

すると丁度こちらに向かっているっぽいプロヒーローを見掛けた。ちっちゃいお爺ちゃんヒーローだ。

マスコット的な可愛さを感じた私は手を振ってみた。

 

「爆発小僧ぉ!!!おめぇっ、勝手にすっとんでくなってったろ!!!」

「んだクソジジィ!!」

 

お爺ちゃんのキックがかっちゃんの顔面に入った。

手加減されてたのか、あんまりかっちゃんは痛そうにしてない。ま、そのおかげで猫掴みの刑を逃れられたので言うことはないけど。

 

「さっきのえれぇ爆発音。おめぇ、あれほど使うなっていったアレ使いやがったな!調整あめぇんだぞ、誰か死んだらどうするつもりだ!」

「っるせぇ!俺が!んなミスすっかよ!!」

「減らず口叩くんじゃねぇ、殻付きヒヨコが!!」

 

かっちゃんに言いたい放題していたお爺ちゃんの視線が、不意に私の方へ向いた。

 

「━━━あ?お、おめぇ緑谷だな?」

 

どうやら私の事を知ってるみたいだ。

散々おテレビで活躍したから仕方ないね。

 

「サインいります?」

「いらん。・・・ふむ、顔はテレビで見るよか美人じゃねぇか。肝もしっかりしてやがる。悪くねぇな。小僧が躍起になんのも仕方ねぇか」

 

「なってねぇ!!!」

 

話の流れはイマイチ分からないけど、取りあえず褒められた事にありがとしておけば「ほぅ、礼儀も知ってるのか」と感嘆の声をあげてきた。

失礼な。私をなんだと思ってるんだ。これくらいお茶の子さいさいよぉ!さいさいさいよぉ!

 

そうこうしてる内に応援のヒーローが集まってきた。

どれもこれも知らない奴ばかりだ。

こんなに居たんだと思うと同時に、誰やん?って本気で思ったのは内緒。

 

聞けばヒーロー達はハゲから要請を受けてきたらしい。

脳味噌野郎共で忙しいってのに、よくこれだけ送り込んできたな。仕事だけは出来るハゲだね、本当。

 

 

 

 

「二人とも、僕のせいで傷を負わせた。本当に済まなかった・・・何も・・・見えなく・・・なって・・・」

 

空気が弛み始めたのが切っ掛けになったのか、飯田が項垂れてしまう。ひくひくしてるから泣いてるのかも知れない。可哀想に。周りにいたヒーローも気を使って話し掛けない。

 

私は優しい気持ちでそっと飯田の顔をとれるようにスマホを捩じ込み、そっとシャッターをきった。

パシャりと光が溢れる。

 

「み、緑谷くん?!」

 

慌てる飯田に撮った写真を見せる。

見事に格好悪い飯田の顔がそこにあった。

 

「お茶子に無事だよメールしなくちゃ」

「その顔を見ても安心しないのではないかな!?というか、止めてくれ!流石の僕でも恥ずかしい!」

「大丈夫だよ、お茶子なら受け止めてくれる」

「ソレが、余計に嫌なんだが!?」

 

また元気が戻った飯田に轟が肩ぽんした。

 

「しっかりしてくれよ。委員長だろ」

「何となくだが、このタイミングでの言葉ではないだろう!?いつから温めていたんだい!?」

「学校ん時だな。職場体験前日・・・」

「大分前じゃないか!それは使えないさ!」

 

「るせぇぞ眼鏡!!」

「ば、爆豪くん!?ご、ごめん!それと助けてくれてありがとう!」

「っるせぇってんだろがっ!!」

 

すっかり涙が引っ込んだ飯田。

相変わらず手足がカクカク動いて面白い。

どうなってんだあれ。

 

あまりに変で心の中で笑ってると、お爺ちゃんが怒号をあげた。

 

「伏せろ!!」

 

全員の顔が空を向いた。

私も少し遅れて空を見上げたら、羽根つき脳味噌野郎そこにいた。

 

「ヴィラン!!あれはっ、エンデヴァーさんが・・・!」

 

プロの声が耳に響いた瞬間体が浮いた。

がっしりと掴まれた。

何故か私が。

 

 

 

「緑谷くん!!」

 

 

 

飯田の声が聞こえてきて、ようやく私の灰色の頭脳が動き始める。

唸れニコちゃんブレイン!!

 

なんて言ってたら、羽根つきが急にバランスを崩した。

軌道まで予測して反撃のタイミングを窺ってきたのにあんまりだ。

 

誰だっ!

 

「━━━わっ!?」

 

振り返った先にいたのは、まさかのボロ雑巾だった。

それで理解した、ボロ雑巾の個性のせいだって事を。

 

ボロ雑巾は一瞬で羽根つきの頭にナイフを突き立て、その命を刈り取った。そこに一切の躊躇はない。

こいつが本気で私に向かって来なかった事に、改めて安堵を覚える。ガチでやってたら、たとえ勝てたとしてもこんな軽い怪我では済まなかった筈だから。

 

ボロ雑巾は羽根つきと共に地面に着陸すると、抱えていた私を地面に置き、呟いた。

 

「偽物が蔓延る、この社会も」

 

 

「徒に力を振りまく犯罪者も」

 

 

 

「粛清対象だ・・・」

 

 

 

 

「全ては、正しき、社会の為に」

 

 

突然の事に反応出来なかったかっちゃん達。

同様にヒーロー達もどするべきかとざわめく。

 

「何故一塊で突っ立っている!!?」

 

浮き足だっていた雰囲気をかき消したのは、炎をメラメラさせているハゲだった。

もうあっちの脳味噌倒したのか。

本当に仕事だけは出来るな!

 

「なんだ、この状況は!?こっちに、一人逃げたハズだが、それはどうした!!━━━あぁ!?」

 

「エンデヴァーさん!あちらはもう!?」

 

「多少手荒になってしまったがな!」

 

ハゲの視線が私を捉えた。

 

「して、あの男は・・・まさかヒーロー殺し?!━━━む、小娘も一緒だと!?人質か!!ははっ、悪手よ!!小娘!自分の身くらい自分で守れ!!」

 

遠くに見えるハゲの腕が赤く光だした。

距離が離れているのに、熱すら感じる赤。

 

あの野郎!私ごと焼く気だ!

短い言葉だったけど、何をさせたいか分かった。

私に体育祭のアレをやれって言いたいのだ。

無茶苦茶言ってくれる。出来ないとは言わないけど、まだまだコントロール不足な所があるのに。

 

けど、このまま人質扱いってのは癪過ぎるから━━━ま、仕方ないか。

火力調整もしてくれるだろうし、なんとかなるさ。

 

 

くるであろう炎に身構えていたが、「待て、轟!!」というお爺ちゃんの言葉で緊張が走った。

 

 

それはお爺ちゃんの言葉が切っ掛けに見えるけど、実際はそうじゃない。

ヒーロー殺しの浮かべていた表情に、焼けつくような執念の瞳に、背筋が凍るような雰囲気に気圧されたのだ。

 

「エンデヴァー・・・偽物・・・!!」

 

ズルッ、と引きずるように歩く。

脅威なんて感じるような歩き方じゃないのに、誰もが息を飲んでいる。

 

「正さねば━━━━誰かが・・・血に染まらねば・・・!」

 

荒い息遣いが、もうヒーロー殺しが虫の息である事を伝えてくる。

なのに、そいつから溢れるそれは、獲物を前にした獅子のような暴力を体言したかのような激しい物だった。

 

「英雄を取り戻さねば!!」

 

ハゲですら、その圧力に足を引いた。

 

 

「来い」

 

 

 

「来てみろ、贋物ども」

 

 

 

 

「俺を殺していいのは、オールマイトだけだ!!」

 

 

 

 

・・・・・・。

 

 

 

 

 

・・・・ん?

 

 

 

 

 

・・・・んん?

 

 

「いや、ガチムチは人殺さない系でしょ」

「━━━ぶはっ!?」

 

思わずビンタでツッコミ入れたら、びっくりするくらい効いた。一気に死にそうになった。

 

ヒーロー殺しの焦点の合わない視線が私を見てくる。

何かを問うような、そんな視線。

特に返事を返す義務を感じなかった私は、頑張ってジャンプしてヒーロー殺しの頭を両足で挟む。

 

「ニコちゃん108の必殺技、投げっぱなしフランケンシュタイナー!!」

 

叩きつけたら死ぬ気がしたので、バク宙しながら投げ飛ばしてやった。

地面に体を何度も打ち付け転がるヒーロー殺し。

勢いが死にコンクリに転がったヒーロー殺しは完全に気を失っていた。

 

一応呼吸があるか確認したら、僅かだけどちゃんとしてる。

 

安堵した私は取り合えず皆にガッツポーズを見せた。

 

 

 

 

 

 

そうしたら、凄いガチ切れされた。

本当にびっくりするくらい、ガチ切れされた。

 

何故だぁ!一人くらい褒めてくれても良いだろう!!

頑張ったのに!私頑張ったのにぃ!

くそっ、お前ら、みんな嫌いだぁぁぁ!!

 



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薄味の病院食だけじゃ気分滅入っちゃうよ!え?最近はそんなに悪くないって?知らん!私の所は駄目なの!だからお菓子くらい許してよぉ!え、昨日の晩御飯?ポテチでしたけど?なにか?あ、取り上げないでぇ!の巻き

映画公開まであと僅か。
良かった、間に合いそうだ。

別に映画版のお話は作らないけど、日程とか知りたいもんね!夏休みの描写がなにかあれば、良いなぁ(*´ω`*)


私の活躍によって保須が平和になった翌日。

ボロ雑巾との死闘で怪我した私は、轟や眼鏡達と一緒に保須総合病院に入院していた。

 

どこにいってもアイドル気質な私は病院でも大人気。

名声とお菓子を欲しいまま悠々自適なベッド生活を満喫している━━━━と言いたい所だが、現実は非情の一言に尽きるものだった。

 

「やだぁ!やめてぇ!取らないでぇ!」

 

白い悪魔達によって奪われていくお菓子達。

三人かがりで羽交い締めにされてる私に出来る事は精々嘆く事だけ。無惨な搾取。無慈悲な強奪。

山と積まれたお菓子は徐々にその姿を消していく。

 

「取らないでぇ、ではありません!緑谷さん!!貴女ね!昨日からパクパクパク!!お菓子ばっかり食べて!ご飯なら三食ちゃんと出てるでしょ!それで我慢なさい!!」

「ああーもう!ベッド食べかすだらけにして!」

「今朝回収した筈なのに、なんでまたこんなに!?おらぁ!男共!餌あげんじゃないわよ!」

 

私を取り押さえる白い悪魔が一斉に吠えてきた。

 

「病院食はいやぁ!味気ないもん、美味しくないもん!あんなの、ジジババの食べもんでしょ!」

 

私の必死の訴えに、三人の中で最も力強く押さえてくるボス格の白い悪魔が鬼の形相をした。

 

「栄養管理の為に色々あるのよ!美味しさは求めてないんだから仕方ないでしょうが!!てかね、私達に文句言わないでくれるぅ!?毎回、毎回!こっちだってね、こんなもん食ってる奴の気がしれんわ!」

「先輩!!それは言っちゃ駄目ですよ!!看護師ですよ、看護師!そこらへんはもっとオブラートに包んで下さい!!」

「・・・私は結構好きだけどなぁ」

 

「「黙ってなさい味音痴」」

「酷い!!」

 

白い悪魔達のコントに気を取られていると、目の前にあったお菓子の山、その最後の板チョコが回収される。

食べきれない程あったお菓子は全て白い悪魔の手に落ちてしまった。

 

「先輩~。回収終わりましたぁ~」

 

間延びした白い悪魔の声。

私はこの悪魔が回収係りであった事に感謝し、嵐が通り過ぎるの待つ。

 

「・・・はぁん?」

 

するとそんな私の様子に何か気づいたのか、ボス悪魔の目が光った。

 

「・・・緑谷さん、嫌に大人しいわね」

「え?そ、そんな事ないにょ?ちょ、なに言ってるかわからにゃい。やめてー、おたすけー」

 

「・・・・」

「・・・・」

 

ボス悪魔はベッドの周囲を見渡した後、枕を見た。

 

「枕の中を確認しなさい!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

無情に開かれた枕カバー。

クッションの代わりに詰め込んでいたお菓子達がバラバラベッドに落ちる。

 

「━━━回収!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!鬼ぃ、悪魔ぁ!厚化粧!」

「魂ごと回収してやりましょうか!?ああん!?大人は化粧しないと駄目なのよ!毛穴とか、肌荒れとか、若いときは大丈夫でも目立つようになるんだから!あんたも覚悟しときなさい!若い内だけだからね!こんなに・・・・はっ!?」

 

私のほっぺを触ったボス悪魔が目を見開いた。

驚愕といった顔だ。

 

「あ、あなた、この肌・・・まさか、すっぴんじゃないわよね・・・?」

 

「すっぴん!?」

「え、これで!?」

 

取り押さえたきた悪魔達の迫力が凄く、あまりに怖かったので正直に頷いておく。

すると、ボス悪魔がベッドに突っ伏した。

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「私の二時間と変わらないなんてぇ!!」

「若いとき、なんでもっとちゃんとしとかなかったかなぁ!わたしぃぃ!!」

 

魂の慟哭だった。

 

「あはは、大変ですねぇ~。私、若いからまだ分かりませんけど~」

 

その瞬間、六個の殺意を帯びた光が間延び悪魔に突き刺さるのを察した。

間延び悪魔の死期を悟った私は、お菓子を彼女に全部あげる事を約束しその旅路を見送る。

馬鹿な奴。雉も鳴かねば撃たれまいに・・・。

 

達者でな!

 

 

「女ってのは大変だな」

「僕らにはさっぱりだな」

 

 

 

 

 

 

 

白い悪魔達が去った後、轟に隠させておいたお菓子を食べていると、眼鏡と轟が昨日の事件について話し始めた。

また眼鏡が謝ってる。動かせる片腕をまたカクカク動かしてる。傷の具合から左腕を固定されてなければ、きっと両腕をカクカクさせた事だろう。

本当、なんだろうあの動き。

 

「緑谷、これも食うか?」

 

モクモク食べてたら轟がお菓子が入ってそうな袋を差し出してきた。

預けてたやつじゃない。

となるとこいつの持ち物って事になるけど・・・こいつも持ってたのか。

 

・・・あ、ハゲの献上品かな?なんか貰ってたよな。

 

「いいの?」

「ああ。別に甘いものは好きじゃないからな」

「そっか」

 

ありがたく受けとったけど、中身が煎餅とかだった。

和風・・・!

 

「・・・しょっぱいやつだけど、大体。寧ろ甘い物がない・・・あ、塩饅頭がある。ん?塩ヨウカン?」

「そうなのか。中身見てなかったから、分からなかった」

「ねぇ、本当に良いの?しょっぱいやつなら食べれるんでしょ?てか、ハゲって轟の好みとか知ってるんだねぇ」

「たまたまだろ。それに甘い物も食べれない事ないぞ。特別好きじゃないだけで」

 

たまたまでこのチョイスはないわ。

それとね、その言い方する人に甘いものは送らないわ。

 

これ以上言って仕方ないので、その話をそこまでにしておく。一人で食べるのも味気ないので、お煎餅を適当に割って眼鏡と轟に配った。

 

眼鏡は苦笑いしながら受け取ってくれたけど、轟は首を横に振った。「一回あげたもんだしな」との事。

なにこいつ面倒くせぇ。

 

無視して口に突っ込んでやれば、普通に食べた。

なんかポワポワしたオーラが見える。

そんなに好きだったのか醤油煎餅。

 

「もう一個食べる?」

「・・・わりぃな、頼む」

 

「頼む、じゃねぇ!!何してんだこらぁぁぁ!!」

 

雛への餌付け気分で煎餅をあげてたら、かっちゃんが怒鳴り声をあげて現れた。

今日も元気におブチキレである。

 

「かっちゃんも食べる?ニンニク煎餅とかってのあるよ?これ多分辛いよ。好きでしょ、辛いやつ」

「ああ?・・・ちっ、寄越せや!」

 

照れ隠ししながらも一応欲しがったので、ちゃんと分けてあげる。しかも割ってない丸々一枚。勿論袋からも出してない新品。優しいな私。まるで天使だな。

 

なのに、かっちゃんは微妙な顔した。

 

「どした?」

「・・・んでもねぇよ、クソが」

 

煎餅を受け取ったかっちゃんはしかめっ面のままガリガリし食し始める。表情はあれだけど、結構好みだったっぽいな。サービスでもう一枚手渡しておく。

 

てか、ありがとうくらい言えやぁ。

まったくもう。

 

「煎餅か、俺にも一枚くんねぇか」

 

かっちゃんに煎餅を献上してたら、お爺ちゃんがそんな事言いながら部屋に入ってきた。昨日のかっちゃん蹴ったお爺ちゃんだ。

 

「あ、ミニじいちゃん。何煎餅が良い?濡れ煎餅にしとく?」

「ははっ、いや、かてぇの頼む。煎餅はかたくねぇとな。ありがとよ。まぁ、でもなんだ、その前に話があってな・・・おう、入ってくれ。丁度全員いるからよ」

 

そう言うとパッとしない水色スーツの男とガタイの良いスーツを着た犬が部屋に入ってきた。

 

なんか真剣な話が始まりそうだったので、轟に約束の煎餅を一枚投げ渡し、さっさとイヤホンを耳に押し込んで寝る事に━━━しようとしたけど、あっさりかっちゃんに耳に詰めたイヤホンを取られ阻止される。

くそぅ。

 

 

「あー、いいか?こちら、保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」

「掛けたままで結構だワン」

 

語尾にワンってつけてくるとは。

キャラつけ?

 

それからワンさんからお説教を貰った。

長くて分かりにくかったけど、要は資格のない人が個性で怪我させちゃ駄目でしょ!という話だった。

せやな。

 

話を聞いてる内にボロ雑巾が個性攻撃によって重症である話になり、轟が「じゃぁ、どうせぃちゅうんじゃボケぇ!そんなら助けんで見殺ししたらええん言うんかいな!」と怒鳴ったり「結果オーライなら、規則ガン無視でええんちゅうかいな?あかんでぇ、それは」とワンさんが嗜めたりした。

え?関西弁ではなかったよ?脳内補正(はぁと)。

 

結局、事件を公表しない事と、私達の身柄を預かっていたヒーローが罰則を受ける事を条件に、私らがやったことは揉み消される事になった。

 

「前途ある若者の偉大なる過ちに、ケチをつけさせたくないんだワン!?」とのこと。

 

警察さんがそれでいいと言うなら、私から言うことない。形だけの選択肢に、素直に了解しておく。

 

ただし、私がボロ雑巾へ行った止めに関しては画像が出回ってしまい、どうやっても揉み消す事が出来なかったそうだ。人質という状況からの行動だったので、一応は正当防衛として終わりそうだとか。

 

ついでに一つ。

表彰はしないとのこと。

 

頑張ったのにぃ!

 

ワンさんからオフレコの「ありがとう」を貰い、この件は取り敢えずの終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

色々と忙しそうなワンさんとヒーロー一行が部屋を出ていった後、ワンさんの話し方に思う事があった私は、私のベッドの隣で丸椅子を占領してるかっちゃんに提案してみる事にした。

 

「・・かっちゃん、かっちゃん」

「んだ、馬鹿女」

「かっちゃんも語尾にボム、とかつけてみない?可愛いと思うボム」

「なんでてめぇが早速使ってんだ。つか、やるか馬鹿」

 

断られたボム。

 

「緑谷、それでいくと俺は何がつくんだ?」

 

何故か轟が興味を示してきた。

どした、こいつ。

 

「轟はなんだろ?メラとかヒエとか言っとけば?」

「メラ、ヒエ?・・・こうか━━━メラヒエ」

「そんな呪文みたいに言うもんじゃないと思うけど」

 

語尾につけないと駄目だろ、せめて。

放って置くのも可哀想だったので、眼鏡にも提案してあげた。

 

「眼鏡はメガとかガネとかメガネとか言っとけば良いと思うよ?」

「はぁ・・・眼鏡が戻った瞬間から、また眼鏡呼ばわりとは。正直これを機会に普通に名前を呼んでくれると思っていたんだが・・・いや、まぁいいか。些細な事メガネ」

 

何気それっぽく使いおったわ、こやつ。

眼鏡の使い方を見て、轟が分かったって顔した。

絶対に分かってないだろうけど、やりたそうにしてるのでやらせてあげる。

 

「分かったメラヒエ。こういう感じだなメラヒエ?」

「うん?ああ、うん。良いんじゃね」

 

「轟くん、さっきから緑谷くんに騙されてるぞ!」

 

その後、眼鏡に説得された轟は語尾を付けるのを止めてしまった。

 

学校まで気づかなかったら面白かったのに。

残念だ。

 



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だってだってなんだもん!やらないと、いけないんだもん!閑話しないと、駄目なんだもん!の閑話の巻き

おかーさぁーん!シリアスさんがまたきたよー!またお土産持ってきてるよー!カニだって、おかーさぁーーん!

え、なに、赤くなってんの?おかあさんは、もう!
早くお鍋の準備してきてよ!こっちは任せて!

・・・最近、おかあさんはよく笑ってます。お父さんの事でずっと落ち込んでたのが嘘みたい。
・・・おかあさん泣かせたら、許しませんよシリアスさん。

次回予告

第6話シリアスさん、転勤。



(;・ω・)何書いてんねんやろか、ぼくは


連続殺人犯ヒーロー殺しステインの逮捕。

それはお茶の間を大きく賑わせた。

 

超人社会の中で指折りの犯罪者の一人である彼の逮捕、話題になって当然なのかも知れないが、それは必要以上な盛り上がりを見せていた。━━━というのも、その逮捕のされ方があまりにインパクトがありすぎたのだ。

 

今も動画サイト内を調べれば出てくる、問題のステイン逮捕の瞬間。見つけたそれをクリックすれば、咆哮するヒーロー殺しと彼女の姿が映される。

 

『ニコちゃん108の必殺技、投げっぱなしフランケンシュタイナー!!』

 

流れるような動きでヒーロー殺しにプロレス技を仕掛ける緑谷少女。恐れられた殺人犯の呆気ない最後。

それらが人々の関心を集めてしまった。

 

「これは・・・褒めるべきか、叱るべきか」

 

パソコンを眺めていた私の手は、気がつけば頭を抑えていた。

私も若い頃には、これと似たような事はしていた。

その度に無茶をするなと師匠には怒られたものだ。

そんな私が何を言ったらいいのか。

 

「難しいなぁ」

 

ネットの評価は賛否両論。

やりすぎだと騒ぐ者も入れば、良くやったと手放しで褒める者もいる。どちらともとれない言葉でその場を濁す者も。

これでは参考にもならない。

 

どうするべきかを悩んでいると、電話が鳴った。着信をみれば見たことのない電話番号。なんとなく無い筈の胃が激しく痛んだ。

 

恐る恐る通話ボタンをタッチすれば、相変わらず元気な老人の声が聞こえてきた。

 

 

『おう、俊典!出やがったなこの野郎!』

 

ううん、キリキリする。

 

「こ、これは、グラントリノ。ご無沙汰しております。その今回は爆豪少年が━━━」

『おう?ああ、かまいやしねぇよ。あげた功績が功績だ。けっこうな情状酌量あって、俺が負うのは減給と半年間の教育権剥奪程度だ。どうせ趣味でやってるようなヒーロー業だ、大した影響もねぇよ』

「そ、そうですか・・・お眼鏡には適いましたか、彼は」

『まぁな。爆発小僧なら問題ねぇだろ。あれぁ、俺が思ってるよか賢い餓鬼だったぞ。何より戦闘に関しちゃ天賦の才がありやがる。切っ掛けはくれてやった。後は本人の気持ちと、実戦と訓練しだいだぁな。━━━それより緑谷双虎の方だ!大馬鹿野郎!』

 

その名前に心臓が縮み上がった。

 

「は、はい、彼女が何か・・・あ、いえ、ネットのup画像は見ましたが・・・」

『後継に据えるつもりなら、もっとしっかり指導しやがれ!!物の見事にてめぇの若い頃だろうが!おめぇ、自分の時、俺がしこたま怒ってやったの忘れてやがるな!?馬鹿タレが!てめぇの失敗そのままやらしたら、てめぇが指導してる意味ねぇだろうが!』

「そ、それは、はい、申し訳ありません。私の指導不足で・・・て、え?」

 

グラントリノの言葉に違和感を覚えた。

何故なら、グラントリノは彼女を後継だと口にしている。

 

「何故それを・・・!?」

『・・・おめぇ、俺がボケ老人か何かだと思ってやがるな?分からねぇ訳ねぇだろ。舐めんなよ』

「しかしこの間は・・・」

『からかっただけだ!!』

 

お人が悪い。

なにもそんな事でからかわなくて良いのに。

あの時の悪い意味でのドキドキを返して欲しい。

 

『まぁ、今更説教しても仕方ねぇか。しかしな、緑谷双虎。面白い奴見つけてきたな。多少危うい所はあるが、 間違いなく逸材だろうよ。おめぇの後を継がせるのに、あれ以上の適任はいねぇかもな。聞いた話が大半だが、その精神性、判断の能力の高さ、類い稀な身体能力、周囲に与える好影響、個性の扱いも同世代では群抜いてるだろうよ』

 

会った時間は短いだろうに、私より彼女を理解していそうなグラントリノの言葉に申し訳なくなる。

 

『けどな、俺が一番気になんのは、あの時のあいつが動いた事だ。俊典よ』

「あの時、ですか?」

『そうだ。お前ならまだしもな。あの時、あいつだけがヒーロー殺しに立ちはだかった。あの時、あいつだけがな』

 

そう言われ漸くその映像が頭を過った。

ヒーロー殺しに止めを差した、あの映像だ。

 

「ヒーロー殺しの、ですか」

『ああ、そうだ。実際に相見えた時間は数分もないが、それでも戦慄させられた』

 

想像は出来ない。

私の中のグラントリノは圧倒的なまでに強者で、常に傲岸不遜に暴力を振るう先生だったから。

 

「グラントリノともあろう者を戦慄させるとは・・・。しかし、もうお縄になったのに何が・・・」

『察しがわりいな、てめぇは。緑谷ならピンときてたろうによ。そこは似てねぇな。・・・俺が気圧されたのは恐らく強い思想・・・あるいは強迫観念からくる威圧だ。誉めそやす訳じゃねぇが、俊典お前が持つ平和の象徴観念と同質のソレだよ』

 

私と同じと言われ、テレビ越しの存在だったヒーロー殺しの正体が見えたような気がした。間違った思想にせよ、私と同質だというなら、それは最早狂気と言っていい。

私自身、私の抱くそれがまともとは思ってはいない。

 

『安い話”カリスマ“っつー奴だ。ネットに流れる画像は大分お間抜けに見えるだろうが、分かる奴には分かるだろうよ。あいつの異常性がな。━━━そうなってくるとな、あいつが動けた事は普通か?』

「━━━っ!?は、それはっ」

 

グラントリノに言われるまで、私も気づかなかった。

私もただの視聴者の一人として、彼女の活躍ばかりに目を奪われていた。ヒーロー殺しなど、二の次にしか見ていない。

 

『あの時、誰よりもヒーロー殺しの側にいたあいつが、誰よりも早く対峙するのは当たり前か?誰よりもその圧迫感を感じたであろう、誰よりも死の恐怖を感じたであろう緑谷双虎が、経験豊富なナンバー2や俺を差し置いて、得体のしれねぇヒーロー殺しに立ち向かったのは当然か?違うだろ、なぁ俊典よ』

 

鈍感などといった理由ではない。

彼女の側にいた時感じた雰囲気、彼女とかわした言葉を考えれば、彼女がそうでない事はよく分かる。

 

『おめぇ、あいつを何処で見つけてきた。あいつは何知ってる。分かってるだろうが、普通じゃねぇぞ。おめぇみてぇな平和馬鹿ならまだしも、あいつは考える事が出来る奴だ。リスクもな。━━━なら、ちゃんと理由がある。あいつがそれでも動けた理由が』

「動ける理由・・・」

『ちゃんと見てやれ。いいな?』

「はい」

 

まったくもって頼りない先生だな、わたしは。

こんな事にも気づけないとは。

 

何が褒めようか、叱ろうか、か。

それ以上にやることは山積みじゃないか。

 

『・・・まぁ、取り敢えず緑谷の事はお前に任せる。もう余計なことぁ言わねぇよ。それとは別件でな、気になる事がある』

「は、はい。気になる事ですか?」

『ヴィラン連合だ』

 

ニュースにあったそれは把握している。

USJを襲撃した同様の者が保須を襲った事。ヴィラン連合とヒーロー殺しの関係性が話題になっていた事。

 

『繋がりが示唆される状況。ヒーロー殺しのカリスマに気づき、それにつられた連中は、間違いなくその足跡を追うぞ。辿り着くのは今まで見向きもされなかったチーマー集団、ヴィラン連合。嫌な流れだ。バラバラだった悪意が集まっていく。一夜にしてヴィラン連合は今をときめく犯罪集団だ━━━ここまで言えば分かるだろ。この外堀埋めて、己の思惑通りに状況を動かそうという、クソみてぇなやり方をよ』

 

忘れもしない、奴の得意なやり方だ。

生きているかも知れないとは思っていた。

あの怪我でよもやとも思わない事もないが、ここまで状況証拠が出てくれば信じざるを得ない。

 

『俺の盟友であり、おめぇの師・・・先代ワン・フォー・オール所有者“志村”を殺し、お前の腹に穴をあけた男』

 

『オール・フォー・ワンが、あいつが再び動き始めたとみていい』

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『ニコちゃん108の必殺技、投げっぱなしフランケンシュタイナー!!』

 

年端もいかない子供に論破され、投げ飛ばされるヒーロー殺しの姿に僕は思わず笑ってしまった。

これほど痛快だったのはいつ以来だろうか。

まったくもって彼女は面白い。

 

画像を見返しているとドクターが訝しげにこちらを見ている事に気づいた。

 

「どうしたのかな、ドクター」

「嫌に楽しそうだったのでね。興味深かっただけだ。それほど面白いかね?」

「ふふ、そうだねぇ。退屈を紛らわせるには十分かな」

 

今の世の中はつまらな過ぎる。

勝手に崩れていくヒーローの姿も、憎きオールマイトの活躍も僕の心を満たしてはくれない。

どれも予定調和過ぎるのだ。なるべくしてなる。面白くもない。

 

その点彼女は違う。

ビックリ箱のように、毎回僕を楽しませてくれる。

 

思わず溢れた再びの笑みに、ドクターが眉を顰めたのを感じた。

 

「のんきに笑ってる場合かね。また、先生の自慢の生徒殿がやらかしているのだがね」

「ん?ああ、許してくれよ、ドクター。失敗もまた経験せねば成長は望めないよ。必要経費だよ。また一つ、彼は成長したさ」

「そうだと良いんだがな」

 

深くはかれた溜息。

そろそろ、ドクターにもご褒美をあげないといけない時期かも知れないな。ただでさえ、彼に任せてる仕事は多いのだから。

 

「ドクター、たまには息抜きに食事にでもいこうか?」

「冗談もほどほどにしてくれ。何が楽しくて先生といかねばならん。それなら人形でも置いておいた方がましだ」

「酷いなぁ。さしもの僕でも傷つくよ?」

「傷ついとるやつはそんな事言わん」

 

それもそうだ。

 

「━━━ああ、先生。頼まれてた映像の加工は終えて、もう各所に流しておいてあるぞ。もう止められんだろうよ」

「ふふふ。ありがとう、ドクター。・・・さて、お膳立ては済ませた。後は彼の仕事だ」

「どうなる事だかな・・・はぁ」

 

聞いた話では既にいくつかの大物が動き始めている。

闇のブローカーを始め、なりを潜めていたネームド、密かに注目を集め始めた新鋭のヴィラン達。

散らばっていた悪意が一つの道標に従い、彼の下へと集っていく。

 

更なる破壊を求めて。

更なる悲劇を求めて。

更なる血を求めて。

 

「“プルス・ケイオス”だよ、死柄木弔。君の真価を見せてくれ」

 

君ならそれを背負える。

歪みきった君なら、この僕の代わりに。

さぁ、魅せてくれ。

 

可愛い僕の生徒。

 

目を覆いたくなるような、世界を。

退屈のない、世界を。

 

この僕に。

 



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暑さで脳がいい感じに湯だってしまい、いいサブタイトルが思い付きません。なので適当につけます、サブタイトル『狂愛の徒』な閑話の巻き

かえるちゃん「太平洋沿岸に巨大な陰気反応よ」
もちゃこ「パターン青!使━━━シリアスや!!

ふたにゃん指令「うむ、きたか。━━ととろきりょん!かっちゃりおん!発進!!シリアスを殲滅せよ!」

ととろきりょん「分かった」
かっちゃりおん「っざけんな!何やらせてやがんだ!ごらぁぁ!!」



「ふんふーん、ふん、ふんふふーん」

 

昔、お友達に聞かれた事を思い出します。

 

『━━ちゃんは、何色が好き?』

 

小さい頃だったから頑張って考えました。

いつだって真剣なのです。

 

「あっ、ああ、やめてっ、やめてくれよぉ!」

 

沢山悩んで悩んで、思いました。

 

『私は赤が好きです』

 

赤が素敵だと思うのです。

だって赤は血の色です。皆に流れてる、生きてるって証の色です。怪我をすると溢れる血は素敵だと思うのです。生きてるって気がするので好きです。

 

だから、私はお手伝いをしてあげるのです。

素敵な色に着飾るお手伝い。

 

相手も素敵になって、私も幸せになって、皆幸せになれる。

 

「なんでこんな事するんだよ!!」

 

不意に着飾ってあげていた男の子の声が聞こえてきました。不思議に思ったようです。それもそうかも知れません。普通の人はナイフを人に刺したりしませんから。

うん、教えてあげましょう。好きな人にはちゃんと知っていてもらいたいですからね。

 

「好きだからです」

 

貴方の事が好きなのです。

 

「優しくしてくれる所が好きです。お洒落な所が好きです。お話を聞いてくれる所が好きです。笑う顔が好きです。面白い冗談をいう所が好きです。触りかたが好きです。撫でてくれる所が好きです。私を見てくれる所が好きです。気にかけてくれる所が好きです。友達が多い所が好きです。こまめに連絡してくれる所が好きです。名前を可愛く呼んでくれる所が好きです。考え方が好きです。声が好きです。目の色が好きです。少しクセのある髪が好きです。焼けた肌が好きです。見た目より逞しい体が好きです。耳の形が好きです。大きな掌が好きです。柔らかな唇が好きです。」

 

こんな言葉で表せられない程、貴方が好きなのです。

 

「好きです、好きなんです。私は貴方が大好きです。もう、寝ても覚めても貴方の事を考えちゃう。いつも側にいたいです。離れたくないです。一緒になりたいです。好きです。沢山幸せになりたいです。貴方も私のこと好きだって言ってくれたじゃないですか。やったぁ、両思いです。好き同士ですね。なら、良いじゃないですか。私の側にいてください。ずっと近くで」

 

だからもっと好きにさせて下さい。

私を貴方に夢中にさせて下さい。

 

「私は思うのです。赤って素敵ですよね?血の臭いのする人ってとてもそそられますよね?だから、沢山、沢山、着飾りましょう?私が好きな物は貴方も好きですよね?だって好き同士ですね?分かり合えるって素敵ですね。素敵です、ふふふ!」

「っひぃっ!?やめっ、ふぇっ!!!」

 

ナイフが肉を抉る感触。

飛び散る赤。

むせかえる鉄の香り。

彼の悲鳴のBGMも合間って、とてもロマンチックです。

 

あ、でも声はあまりいけませんね。

前に声を聞いて邪魔しにきた人がいましたから。

生きにくい世の中です。

 

私達はこんなにお互いを好き合ってるのに。

彼の口の中にハンカチを詰め込んであげれば、くぐもった声だけになりました。苦しいかも知れないけれど、我慢して欲しいものです。

 

んー、でも、これも素敵です。

可愛い声です。

 

「ああ、好きです、好きです。とても好きです。いい臭い。ゾクゾクしちゃいます。私、もっと貴方を好きになります」

 

うーうー言って何を言ってるのか分かりません。

でも、きっと喜んでいるに決まってます。

こんなに素敵な色になったんですから。

 

「知ってますか?人って沢山血が流れてるけど、ちゃんと場所を選んで刺せば、思ってるよりずっと死なないんですよ。安心して下さい。私はちゃんと知ってますから。だから、少しでも長く私と、沢山、沢山、いいことしましょう?ドロドロになって、好き合いましょう?」

 

ああ、好きです。

彼の怯えた目が、好きです。

鉄の香りに混じる尿の臭いも素敵です。

いいですね、本当にいいです。

 

突き刺して、突き刺して、突き刺して。

赤くなってく彼。鉄の香りがする彼。

どんどん素敵になっていきます。

 

どれだけそうしていたのか、気がついたら彼は酷く弱々しくなってしまいました。

弱くなった目の光。あるかないか分からないうなり声。抵抗としようと強ばってた体は力が抜けてます。

 

そろそろ時間ですね。

 

悲しい事です。

楽しい時間はいつもあっという間に終わってしまいます。もっと好き合いたかったのに。もっと熱くなりたかったのに。残念です。

 

血の滴る彼の首もとを舐めれば、濃厚な命の味がしました。生きている味です。

 

近くで力なく私を見る彼に、安心するように声をかけてあげました。きっと優しい彼の事ですから、心配している筈ですからね。

 

「━━━大丈夫ですよ?貴方が死んでも、私が貴方になりますから。貴方がいなくなっても、私が代わりにいますから」

 

彼の喉が動きました。

 

「貴方の事は覚えました。沢山見ましたから。沢山話しましたから。沢山一緒の時間を過ごしましたから。だから大丈夫です。沢山ちゅうちゅうしてあげます。いつでも貴方になれるように。沢山持ってる貴方、優しい貴方なら心配ですよね?貴方がいなくなって悲しむ人の事。大丈夫ですよ、私が貴方になりますから。だから安心して死んでください。貴方のお友だちは私のお友だちです」

 

そう言ってあげると、彼が目を見開いた。

きっと私の言葉に感動してしまったのでしょう。

うなり声が聞こえます。

 

「安心して下さい。貴方の代わりに沢山好きになってあげます。貴方にしてあげたみたいに、沢山の好きをあげます。沢山、沢山、沢山」

 

だから、もう良いですよ?

おやすみなさい。

大好きな貴方。

 

振り下ろしたナイフが、彼の胸に突き刺さりました。

あばらを抜けて、赤が沢山詰まってる心臓へと。

 

 

 

 

 

 

 

『俺を殺していいのは、オールマイトだけだ!!』

 

数日前からお気に入りになった、素敵なステ様の声をイヤホンで聞きながら彼の血を貰っていると、その音に雑音が混じってきた。片方のイヤホンを外して耳を澄ませば、通路の奥から足音が聞こえてきます。

 

カツカツ・・・高いお靴の音ですね。

きっと大人の男の人です。

 

見られると面倒なので、私は隠れて隙を伺う事にします。

 

少し待っていると、煙草を咥えたおじ様がやってきました。直ぐに分かりました。お友だちですね。

 

「━━━あー、こりゃまた派手にやったもんだな。近くにいるだろう、トガヒミコちゃん?通報なんて野暮なマネはしねぇから、出て来てお話しようじゃないか━━」

「お話は好きです!しましょう、お話!」

 

おじ様の首筋にナイフを当ててあげれば、両手があがりました。降参の合図です。

 

「おっと、早速後ろ取られたか。噂なんてあてになんねぇな。おじさん困っちまう」

「それがお話ですか?」

「まぁ、まぁ、落ち着いてくれよ。お楽しみの邪魔したのは悪かった。君に楽しいお仕事を紹介してあげたくってな。ほら、トガヒミコちゃんはお金ないだろ?」

 

お金はそうですね。

あんまりないです。

でも困ってもないです。

 

「なくても大丈夫、なんて言わないでくれよ。あった方がいいよお金。こういう遊び続けるなら、お金がかかるよ?」

 

遊びと言われ少しムカついてしまいます。

これは遊びなんかではないのですから。

 

「・・・いままで、そんな事ありませんでしたよ?」

「そりゃ、まだ警察もヒーローも碌に動いてねぇからな。本格的に動き始めたら、誰かのフォロー無しじゃ好きな事もできなくなっちまうよ?良いのかい?楽しくもない追いかけっこで時間潰して、君のしたい事ちゃんと出来なくても?いやだろ?俺ならいやだね」

 

それは嫌ですね。

私はもっと沢山の人と好き合いたいです。

今はステ様が一番ですけど。

 

「お話聞きます。なんですか?」

「はは、ありがとよ。━━━まぁ、お金関係なしに、もしかしたら興味持ってくれるかも知れないけど」

「?」

 

なんの事かと思ってると、おじさんが教えてくれました。

 

「おじさんね、わるーい知り合いがいるんだ。その知り合いがね、人手を探してるみたいなんだよね」

「人手ですか?」

「そっ。その知り合いってのが、今話題になってるヒーロー殺しが所属してた組織なんだけど・・・」

「━━━ステ様の!」

「おう?いい食いつきだな」

 

それはとても良いこと聞きました。

お金も貰える上に、ステ様と同じ場所にいけるなんて。

今は捕まっていますけど、もしかしたらステ様に会える機会もあるかも知れません。

 

これは素敵な事です。

やっぱり世界は素敵です。

少し生きにくいけど、こんなに沢山幸せな事があるのですから。

 

「おじ様!おじ様!私、そこに行きたいです!連れていって下さい!」

 

私のお願いにおじ様が頷いてくれます。

 

「分かった、分かった。少し落ち着いてくれ。条件とか色々お話しようか」

「難しい事は分かりません!いい感じにして下さい!」

「いい感じね・・・。おじさんは人が頗る良いからちゃんとしてあげるけど、そういう事は自分で考えなきゃ駄目よ」

「おじ様イイ人ですね!私、少し好きになっちゃいました!」

「それは困るなぁ、はは」

 

直ぐに連れていく訳にもいかないみたいで、日時等が決まり次第おじ様が連絡してくれる事になりました。

連絡先を交換し終えたおじ様は動かなくなった彼を見ます。なんでしょうか?

 

「・・・サービスで後片付けのお手伝いしてあげるけどどうだい?」

「大丈夫です。まだ沢山ちゅうちゅうしてあげないといけませんし、お別れはちゃんと二人きりでしたいのです」

「そうかい?なんだったら、全部終わった後で人よこすけど?」

 

終わった後なら・・・ありがたいですね。

 

「それじゃお願いします!終わった後で連絡すれば良いですか?」

「そうしてくれ。あーーついでに人払いもしといてあげるよ。折角紹介出来る子が捕まるのは、宜しくないからねぇ」

 

それだけ言うとおじ様は通路の影に消えていきました。

 

人払いしてくれるという言葉も嘘ではなかったみたいで、周囲から人の気配が遠ざかったような気がします。

 

イヤホンを着け直し、ステ様の素敵な声に耳を傾けながら彼から血を啜らせて貰う。

温かい命の味。

 

これが私の中で溶けて混じり、私はようやく彼になれる。大好きな彼と、私は同じになれる。私達はもう二人じゃない。一人だ。なんて素敵。

 

 

「はぁ、濡れちゃいます。本当に素敵」

 

 

会いたいな、ステ様。

知りたいな、ステ様。

話したいな、ステ様。

 

どんな顔するかな。

どんな事言うかな。

 

血の似合う貴方。

素敵な香りがしそうな貴方。

 

「きっと好きになってくれるよね?私がこんなに好きなんだから」

 

そして、私と一つに━━。

 

 

『━━━ニコちゃん━━━必殺━━』

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

設定を間違えたのか、例の子の声が聞こえてきました。

同じように血の似合う可愛い子。

なのにどうしてか、いまいち好きになれない子。

 

別にステ様を捕まえたからが理由ではないです。

でもなんとなく、好きでないのです。

 

「不思議です」

 

私はもう一度かかるそれを設定しなおし、ステ様の素敵な声に耳を傾けました。

そしてゆっくり、彼との最後の時間を過ごします。

 

ゆっくりと。

 



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さぁ、今日もサブタイトルの時間だ。本編よりしんどいサブタイトルの時間だ。なんでこうもここがしんどいのか。センスねぇな、わしは。『誤りし過去と訪れた平穏』の閑話の巻き

皆のSAN値が下がったと思うので、お口直しするよ。
皆大好き、エンデヴァー( *・ω・)ノ

ひゅーひゅー(ノ´∀`*)

次回、本編やるよ


慌ただしくも忙しい一週間の職場体験が終わった翌日、我がエンデヴァーヒーロー事務所には以前の静けさが戻っていた。

粛々と執り行われる事務。サイドキック達にも無駄な動きはない。いつも通りの朝。

 

だと言うのに、俺はその風景に何処と無く物足りなさを感じていた。

 

思えば一週間前、受け入れ初日から随分と賑やかだった。事の発端は実にくだらない事。無視すれば良かろうに、あの時の俺はどうかしていた。小娘の口車にまんまと乗せられ、あのような無駄な催し物を・・・。

 

お陰で無駄な出費はかさみ、当分は何をする余裕もない。如何にトップクラスの事務所とはいえ、急な出費はよろしくはないのだ。

 

「・・・・・」

 

だが、そうだな。

あの娘を呼んだ事に後悔はない。

 

いつ以来だったか。

焦凍の緩んだ顔を見たのは。

 

 

 

 

 

 

 

妻を病院へ預けた日からずっと分かっていた。

妻が怯えた顔をしていた理由も、息子の瞳に憎しみが籠っていた理由も、遠くからこちらを眺める子供達の寂しげな視線の理由も。

けれど気づいた時にはもう、取り返しがつかない状況になっていた。何もかも、俺の手元から転がり落ちていた。

 

どうしてこうなったのか。

それは考えるまでもない、俺のせいだ。

見えて無かったのだ、何も。

 

ただ一つ、オールマイトという存在にとりつかれ、ナンバーワンの称号にただ焦がれた。

追い掛けても届かない事実に焦燥した。

届かない事を悟り絶望した。

 

そして、俺は━━━━。

 

 

『いやぁぁぁぁ!!ああっ!!焦凍っ!!焦凍、がっ!あああ、ああああ!!いやぁ!!ごめん、なさい、焦凍!しょうと!ごめんなさい、ごめんなさっ、ごめんなさい!』

 

病院へと送った息子を思い、泣きじゃくる妻の顔を今も思い出す。

直接その瞬間は見てなくても、それが妻の望んでいた結果でない事は痛いほど分かった。

 

窪んだ目が、こけた頬が、合わぬ視線が、彼女が限界であることを俺に伝えてきていた。

どうしてそうなるまで気づけなかったのか、いまでも分からない。誰が見ても、異常であることが分かった筈なのに。

 

 

それからずっと、息子を、焦凍をナンバーワンヒーローにする為に育ててきた。

息子から向けられる視線の意味を理解しながら、それでも素知らぬ顔で過酷な道を与えてきた。

 

止めることは出来なかった。

妻を犠牲にした以上、結果を出さなければと思った。

優しさを見せる事すら彼女への裏切りに思え、それまで以上に厳しく指導した。

 

 

本当にやるべき事を考えもせず。

 

 

その結果、成長した息子が選んだのは、俺が挫折した道だった。自らの体を傷つける、蕀の道。俺を個性婚へと走らせた、理由そのもの。

 

説得しようにも、俺の声は届かなかった。

世界を恨むような目で個性訓練を続ける息子に、何をさせるべきか分からなかった。

 

あの時の妻の顔を思い出しながら、俺はまた間違えた事に気づいた。

 

 

 

 

 

 

不意にドアがノックされた。

緊急時は内線電話を鳴らすように命令している。ノックの意味は書類等の確認作業への合図だ。

 

一言中へと入るよう促せば、秘書の一人が頭を下げて入ってきた。

 

「失礼致します、所長。以前タイアップを図った企業より、新製品のCM依頼がきております。打ち合わせの日程確認を行いたいのですが、今宜しいでしょうか」

「構わんから呼んだ。・・・コーヒーのやつか」

「はい、コーヒーのやつです。今度はスーパーブラックだそうです」

「スーパーブラックか・・・なんだそれは」

「ブラックの濃いめという事ではないでしょうか?よく分かりません。その点については打ち合わせでご確認下さい 」

 

そう言うと秘書は書類をテーブルへと置いた。

手に取ってみれば、確かにスーパーブラックとなっている。なんだ、スーパーブラックって。聞いたことないぞ。

 

「大人の苦味・・・濃ければ良いというものでもなかろう。缶コーヒーに言うべきではないが、コクや香りに重点をおいてだな・・・」

「それは私に仰られても・・・」

「それにだ、何故こうも、渋い依頼ばかりくる。もっとこう、ないのか」

「所長のイメージを考えれば、妥当ではないかと。世間一般的にも、所長のイメージはストイックで渋い、いぶし銀が光るヒーローですから」

「う、ぬぅぅ・・・」

 

オールマイトばかりを追いかけてきた弊害がここにもあったか・・・いや、こればかりはそういう仕事を選んできた俺の問題だな。

 

結婚したての頃は新婚ヒーローとして、子供が出来た頃は子育てヒーローとして番組に呼ばれたりしていたな。それらに付随する関連商品もそれなりにあった。

 

・・・今では、そういった関連の物は数える程しかないが。

 

「━━━はぁ。まぁ、いい。細かい話は後で聞くとしよう。日程の確認だったな、話せ。聞いてから決める」

「はい、畏まりました。それでは━━━━所長?」

 

説明を始めるかと思えば、秘書が止まった。

何事かと思えば不思議そうな顔でこちらを見てきていた。

 

「・・・なんだ」

「いえ、いつもなら聞いた後は、任せると一言で終わりでしたので」

「・・・そうだったか?」

「はい。・・・なんだか、最近お変わりになられましたね?何かありましたか?」

 

何か・・・か。

何も無かったとは流石に言えないな。

話すつもりもないが。

 

何も話さなかった俺を見て、秘書は周囲を見渡した。

 

「━━━なんだか、随分と事務所が静かになりましたね。以前は当たり前でしたけど、今では違和感が凄いです。職場体験中はあんなに賑やかでしたから」

「そうだな・・・」

「私、所長が人に振り回される姿、初めて見ました。他の皆も言いませんが、大分驚かれていましたよ?」

「・・・そうなのか」

「いつも渋い顔されていますし、必要以上に話しませんから自然と・・・。そうですね、融通のきかない昔気質な職人みたいな━━━そんな固い感じですかね?」

 

俺は部下にもこう思われていたのか。

いや、以前から気づいてはいたが。

避けられてすらいる節があったからな。

 

「彼女を息子さんのサイドキックにと考えているんですか?」

「そんな噂が流れているのか」

「はい。サイドキック達の間では。━━━ゆくゆく息子さんのお嫁さんに迎えるつもりだとも」

「誰だっ!そんな事言っているのは!奴を嫁にだと!?ふざけるな!!誰があんな馬鹿に息子を任せるか!!」

 

一番考えたくない話だ。

あんな馬鹿が家族になるなど、考えただけでもおぞましい。オールマイトの後継であることも忌々しいが、それ以前に一個人として俺が受け付けん。

なんだあいつは、本当に。目上の者をなんだと思っているのか。ハゲハゲと、ハゲとらんと言ってるというのに・・・本当にハゲて・・・ないではないか!

 

「・・・・・その割にはお部屋の件もありましたし・・・」

「なにぃ?部屋がなんだ!?」

「・・・えっ?違うんですか?」

「なんの話だ!」

 

そういうと秘書が顔を逸らし、天井の角を見た。

全然こちらに目を合わせようとしない。

嫌な予感しかしない。

 

「話せ」

「い、いえ、その・・・彼女の泊まってた部屋なんですけど、鍵が壊れてまして」

「・・・鍵が?本当か?」

「はい。以前より、報告申し上げておりました。なので、態々彼女にその部屋を使わせるのは、その、息子さんに対する父親の行き過ぎた━━━男になっちゃえよサインかと」

 

「・・・・」

「・・・・」

 

 

秘書の話を頭の中で精査し、そして話の流れを理解し、その瞬間冷や汗が噴出した。

人間本当に追い詰められたときは、本当にこうなるのだと初めて知った。

 

「なっ、何もしてなかろうな!!?責任をとらねばならぬようなマネは!!」

「は、はい!それは間違いなく!皆と代わり番こに隣の部屋で聞き耳をたてていましたので!」

「お前達、妙に帰りが遅いと思ったらそんな事していたのか!!」

「あ、勿論その時間帯はサービスです。残業代はつけておりません」

「あったり前だ、馬鹿者が!!!!」

 

そんな事に残業代をつけていたら、減給してやったわ。

というか、そんな危ない事になっていたと知ったら、直ぐに部屋を替えさせたわ!

 

確かに、息子に道を示してくれた事に感謝はしているが、それとこれとは別。まったくの別なのだ。

今回呼んだのも、息子が変に意固地にならず職場体験にとり組めるよう、比較的息子に良い影響を与える奴を━━━まて。まてまて。

帰り際、小娘を見る息子の雰囲気が妙ではなかったか。

 

・・・まさか、な。

 

 

「おい」

「は、はい!なんでしょうか所長」

「お前から見て、息子は、よもや、あの小娘に、その、ほれ・・・・・男女の仲を求めているように見えたか」

 

秘書はあごに手を当て考え始めた。

うーんという声が聞こえてくる。

 

そして数分悩んだ末、はっきりと言った。

 

「わかりません」

 

この秘書の人を見る目は確かだ。

その秘書が分からないと言うのであれば、何も問題はない。

 

ふぅ、驚かせおって。

 

「気になる相手くらいには思ってるかも知れませんけど、現状はまだかと思います。まぁ、聞いた話ですと双虎ちゃん彼氏みたいな人がいるみたいなので、それに触発されて気づいちゃう可能性は限りなく高いかと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょぉぉぉぉぉぉとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

早まるな!!

早まるんじゃないぞ!!

お前にはちゃんと、相応しい嫁を見繕ってやる!!

だから、早まるんじゃないぞぉぉぉぉ!!

そいつは駄目だぁぁぁ!!

 

息子の目を覚まさせる為に学校へ行こうとしたが、事務所にいたサイドキックと職員全員に全力で止められ阻止された。

 

はなせぇぇぇぇ!!

 

結局その日は外出すらままならなかった。




サイド轟姉


冬美「はい、もしもし?どうしたのお父さん。私これから授業が━━━━ええ!?焦凍に女!?なに?!何が!?えっ!?落ち着いてお父さん!!」


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シリーズ5:ポヨポヨマンマ・ミーア:あたい大女優になる編
あと五分、とか言っちゃう奴はいつか遅刻するからな。覚えとけ。少なくとも私は寝坊した!遅刻も!お陰で今日も私の目覚まし時計が暴力を振るってくるんだからな!━━あっ、やめて、母様!いたっ、いたい!の巻き


明日、ヒロアカの映画がやるよぉぉぉぉ!!
ゼロ巻的なの貰えるらしいから、楽しみやでぇ!オールマイトの過去話が読めるて!ほんまやろか!ふぅー!

え?観に行くけど?
仕事なんて放り出して、観に行くけど?
いやっふーーー O(≧∇≦)O

ま、本当は色々あって、偶然休みになっただけなんだけども。偶然すげぇ。


「・・・なんでてめぇは、いつまで経っても、自分で起きるってのを覚えねぇんだ。こら」

 

長かったような短かったような、ある意味充実していた職場体験が終わった翌日。一週間ぶりの自分のベッドでの睡眠を堪能した私が朝イチで見たのは、いつもながらに不機嫌な幼馴染様の顔だった。

 

一週間前のあれはなんだったのか、と思うくらいいつも通りな顔。なんだかそれが少し癪だ。私の中では、まだ釈然としない物があるというのに。

 

なに勝手に解決してんだ、こいつ。

むきゃつく。

 

ぼーとする頭でかっちゃんの顔を見ていると、なんだかうとうとしてきた。むきゃつく事はむきゃつくけど、いつもの顔はやっぱり安心してしまう。許してくれそう感が凄い。

 

轟だったらこうはならないもんなぁ。

あいつ起こす時、目が怖かったもん。

一発で起きたよね。

 

「・・・すやぁ」

「すやぁ、じゃねぇ!!さっさと起きろや!遅刻すんだろうが!!」

 

心地よさに負け目を瞑ったら凄い揺さぶられた。

ゆさゆさ地獄である。

うえっ、朝からはやめろぉ。

 

 

朝ご飯を食べる為に治らなかった寝癖をぴょんぴょんさせながら居間に向かうと、そこにはコーヒーを飲むかっちゃんパパの姿があった。

 

「あ、おはよう双虎ちゃん」

「はよざぃまーす。なんでかっちゃんパパが朝から・・・不倫?」

「ははっ、こんなオジサン相手じゃ引子さんが可哀想だよ」

「そんな事ないと思いますけど?かっちゃんパパ若いし。母様と違ってだらしない体してな━━━━おふっ!?」

 

いつの間にか懐に踏み込んでいた母様から、捩じ込むような一撃が放たれた。右脇腹に突き刺さるブロー。呼吸が止まる。

 

「朝から馬鹿な事言ってんじゃないの!!ぶん殴るわよ!!」

 

もう、殴ってますやんけ。

とか言ったら追加で殴られそうだったので、全力で畏まっておく。

 

朝ご飯を食べながら話を聞くと、ヒーロー殺しの一件ですっかり有名人にクラスアップした私を心配して、かっちゃんパパが送り迎えしてくれるみたい。

 

取り敢えず一週間様子見して、マスコミ関係が落ち着くようだったら以前の電車通学に戻そうって話だった。

そこまで聞いて、そう言えば昨日、母様がそんな話をしていたなぁと思い出した。

素直にそう言ったら、フルスイングビンタされた。

 

し、仕方ないじゃんか!

昨日は疲れてたんだからぁ!

あ、はい、ごめんなさい!!

 

そんな訳でかっちゃん共々お車で登校。

かっちゃんパパに職場体験での私の勇姿を余すことなく伝え終わる頃、一週間ぶりとなる懐かしの雄英高校に辿り着いた。

予想通り、マスコミ関係者が待ち構えていた。

 

車を降りると間髪なく囲まれたけど、そこはかっちゃんパパが盾になってくれた。圧倒的な大人力を発揮するかっちゃんパパに、マスコミ陣たじたじ。

 

つぇー、かっちゃんパパ。普通にかっこいい。

いないのが当たり前になってきた、単身赴任ナウな父とトレードしたいと本気で思う今日この頃。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなあって教室に行けば、早速職場体験での経験談を話しあう皆と、変なポーズをとったお茶子がお出迎えしてきた。拳法とか使いそう。

 

「コォォォォーーー・・・、おはよう、ニコちゃん」

「はよー。もしかして必殺技とか撃ってくる?」

「コォォォォーーーうたないよぉーー」

 

撃ってきそう。

 

すっかり何かにとりつかれたお茶子を取り敢えず放置して、わいわいしてる女子ーズの下にいく。

直ぐに梅雨ちゃんが気づいてくれて、けろっと手を振ってくれた。

 

「おはよう、緑谷ちゃん。大変だったわね」

「はよー!ニコー!元気そうで良かったよー!」

「おはよ緑谷。ニュース見たよ。メールで知ってたけど、本当に大丈夫だったの?」

 

「もち!」

 

心配してくれる皆に大丈夫な事をアピールする。

袖をまくってカチカチに育った二の腕を見せつければ、呆れたような笑顔が返ってきた。

 

「それよか、百はどしたの?」

 

女子ーズの輪から離れ、一人暗い顔で椅子に座る百の姿が気になった。

どしたの、あれ。

 

「・・・いや、まぁ、そっちも気になるだろうけど、先に麗日の事気にしなって」

「連絡ずっとしてたから・・・知ってるし」

「あんなになってるって?」

 

耳郎ちゃんに言われて改めてお茶子を見る。

バトルヒーローとかいうおっさんの所で近接の基本を習ってるのは聞いていたけど、流石にああなってるとは思わなかった。

電話越しの口調が、武人っぽくなってるのは気づいていたけども。我、とか言った時あったもんな。

 

「・・・耳郎ちゃんはどこいってたんだっけ?」

「誤魔化すな、誤魔化すな。気持ちは分かるけど」

「時間だけが、解決させる事もあるから・・・」

「諦めんなってば。麗日を正気に出来んのなんて、あんたくらいしかいないでしょーが。怖いから、早く何とかしてよ」

 

怖いと思ってるのは、耳郎ちゃんだけじゃないからね?

私もぶっちゃけ怖いんだよ。

なにあれ、必殺技撃ってきそう。

 

お茶子をどうしようかと悩んでると、シュバシュバ正拳を打ち出すお茶子を見て上鳴とブドウがヒソヒソ話してるのが目にはいった。悪口でも言ってるのかと耳を澄ましたけど、そんな事全然なかった。普通に怯えてた。

 

「たった一週間で変化がすげぇな・・・」

「変化?違うぜ上鳴。女ってのは・・・元々悪魔のような本性を隠し持ってんのさ!!」

「Mt.レディの所で何見た」

 

ブドウの顔見て私も気になった。

何見たの、女狂いのお前がそんなになるとか。

 

「まーでも職場体験さ、俺は割と楽しかったけどな。チヤホヤされてさ。てか、一番変化っつーか、大変だったのは轟達だろ」

 

そう言って上鳴の視線がいつの間にか席に収まってた轟と、その側に立っていた眼鏡に向く。

ついでに私も見られた。

 

するとA組有数のお調子者である瀬呂が、いつものように余計な事を言うために首を突っ込んできた。

何となく爆破される気がする。

 

「そうそう、ヒーロー殺し!!見たぜ、緑谷のとどめ動画!」

「お、それ俺も見た!てか、見ててヒヤヒヤしたぜ。緑谷、無茶し過ぎだろ」

 

瀬呂が元気にそう言うと、切島も首を突っ込んできた。

なんだろ、爆破される気がする。

 

「そう言えば、なんでか近くに爆豪がいたな。あれなんでだ?爆豪に聞いても教えてくれなくてよ」

「はぁん?何言ってんだ、切島。そりゃ、嫁のピンチなんだから旦那様が近くにいるのは当たり前だろ」

「いや、まぁ、そう言われっと違和感ねぇんだけどさ。一応職場体験中だったしよ━━━」

 

話し合う二人の頭にゴツい掌が乗っかった。

言うまでもない、かっちゃんである。

 

「楽しそうな話してんなァ━━━ああ!?ちっと、来いやァ!!」

 

「いやぁぁぁ!!緑谷!爆豪嫁!助けてぇ!」

「腹括れ、瀬呂。ちっと行ってくるわ」

 

それから教室の角で爆発音がしたけど、きっと気のせいなんだと思う。焦げ臭い?気のせいなんだと思う。

 

騒ぎを聞き付けゾロゾロ皆集まってきた。

皆ヒーロー殺しの一件は気になってるみたいだ。

ハゲがヒーロー殺しと戦ってる事になってたせいか、とどめを刺した私より轟に質問が集中した。

轟のパパだからね、ハゲ。

 

助けられた、という言葉に少し引っ掛かりを覚えていそうだったけど、特におかしな発言もなく淡々と説明していく轟。その愛想のない姿は相変わらずの苦笑い物だったけど、体育祭前と比べると全然変わっていて、何処と無く明るい感じがした。良かった、良かった。暗い顔してるよりずっといいもんね。

 

・・・・しかしな、ちょいちょい私の顔色を見てきたのは、何だったんだろうか。気になる。

 

 

皆の話は進んでいって、不意に尾白がヒーロー殺しとヴィラン連合について話し出した。

 

「ニュースでヴィラン連合とも繋がってたって聞いた。正直ゾッとしたよ。もし、あんな恐ろしい奴がUSJに来てたらと思うとさ」

 

そんな言葉に上鳴が「でもさぁ」と呟く。

 

「動画とか見たけど、緑谷がぶっ飛ばす前に叫んでたじゃん?ヒーローがーとか。確かに怖かったけど、なんつーか、一本気っつーか、執念っつーか。かっこよくね?とか思っちゃ━━━」

「しゃらっぷ、うぇーい」

「━━ったい!」

 

眼鏡の変なスイッチが入るとあれかと思って、上鳴のお口を暴力で阻止しておく。眼鏡の様子を見れば、そうでもなかったのでほっとする。

 

「・・・ありがとう、緑谷くん。けれど、そんなに気にしないでくれ。僕の━━━俺の中で決着はつけたつもりだ。確かに信念の男ではあった。クールだと言う人がいるのも、今では理解出来る。それほどの物が、奴にはあった」

 

眼鏡は一度視線を落として一息つく。

気持ちを切り替えるように。

 

「けれどな、上鳴くん。ヒーローを目指すものであれば、奴を肯定してはいけない。どれだけ崇高な信念を持っていようとも、『粛清』という暴力的な手段を選んだ瞬間から、他人の心を信じられなくなった瞬間から、奴の言葉に信念に正しさなど欠片もありはしないのだから━━━」

 

眼鏡の腕がビシィと突きだされた。

 

「━━━ヒーローはそれでも人を信じ、そして救う!僕の兄がそうであったように!そこに貴賤などありはしないのだ!押し付ける正義など、あってよい訳がない!」

 

腕を突きつけられた上鳴が変な汗かいてる。

分かるよ、そんなにガチのあれじゃなかったんでしょ?

でもね、間が悪いわ。そうなるわ。

甘んじてお説教されると良いよ。

 

それから始業ギリギリまでヒーロー論を語られた上鳴は、最後には泣きながら謝っていた。

 

 

 

 

 

後で延長戦もあるらしい。

上鳴、南無。

 



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ご指名頂きました。あなただけの女神にゃんだお!早速だけど、何か食べない?ん、まずは飲み物から先だって?畏まりました、直ぐに適当な物を。へい、ボーイ!一番高いボトル十本開けてこい!巻き

映画の感想。
耳郎ちゃんが可愛かった。
ゼロ巻、ふぉーーー!!
オールマイト、ふぉーーー!!

双虎にも行かせられるな。
いや、行かせないけども。

━━━の以上だ!気になる方は映画館へゴー( *・ω・)ノ


一週間ぶりの大体の授業を、睡眠学習で乗り切った午後。

こちらも一週間ぶりとなるヒーロー基礎学の時間がやってきた。

当然授業を担当するのは、今日も今日とて人気さめやらぬ、雄英教師きっての筋肉男ガチムチである。

 

「ハイ、私が来た━━━てな感じでやっていくわけだけどもね、ハイ。ヒーロー基礎学ね!久し振りだ少年少女!元気か!?」

 

一週間のブランクがあったせいか、やる気だけは人一倍ある筈のガチムチの掴みも何処かヌルっとしている。エンターテイナー双虎にゃんとしては看過出来ない気のたるみようだ。

わざわざヒーロースーツに着替えた私の苦労と頑張りを返して欲しい。

 

ま、でもそこはスーパーアイドル双虎にゃん。目くじら立てたりとかしない慈愛の女神。

恨み言は取り敢えずの心の中にし舞い込んで、優しさからガチムチの高い肩をポンしてあげた。

 

「まだ一学期だよ、ガチムチ!そんなんでどうするのぉ!掴みは大切にしていかないと!」

「そんな芸人みたいに言わないで、緑谷少女・・・いや、でもそうだな。私もエンターテイナー。授業一つとってもそうでなくてはな。━━━━はーはっはっはっはー!!一週間ぶりのヒーロー基礎学の時間!!私が━━━」

「で?何すんの?」

「━━━言わせてくれぇ!せめて、来た!くらい言わせてくれぇ!」

 

ずっこけたガチムチからそうお願いされてしまえば、私も頷かざるを得ない。プライベートで死ぬほど迷惑掛けられてるけど、何気に授業では色々お世話になってる。

だから出来る限り力になってあげようと思う。

 

義理堅い私は恩返ししてあげちゃう清く正しい子なのだ。その上、天上の女神とみまごう美貌を持ってるとか、やばいな私。天使過ぎるな。

 

「はい、皆聞いて下さーい。さっきのはナシ、さっきのはナシです。もう一回決めにいきまーす。ガチムチが決めるまで、お口チャックしててねぇ。・・・はいどうぞ」

「やれないよ!?そんな空気じゃ言えないからね!?」

 

ええ、言わないのぉ?

不思議に思って首を傾げたら、ガチムチの眉間に皺が寄った。

 

「うん、今確信したよ!わざとやってるね、君!!午前中の授業寝てたと聞いて嫌な予感してたけど、まさか溜めた元気、ここで全部使う気じゃないだろうね?!」

「OH?日本語、難シクテ、ワタシワカラナーイ」

「君、生まれも育ちも百パーセントの日本人だろ!?よくそれが言えたね!?オジサン君の将来が心配だよ!」

 

 

 

 

 

「・・・緑谷ちゃん、キレッキレね」

「ほんまやね。寝てた分の元気、全力投球してまうんやないかな。いつにもましてテンション高いし」

「朝から変なテンションだった麗日が言える事じゃないけどね」

 

「じ、耳郎ちゃん!それは言わんといてぇ!!」

 

 

 

 

そんなこんなで始まったヒーロー基礎学。

その授業内容は救助訓練レースだった。

 

運動場γという工業地帯みたいな所を使って、誰が一番に目的地にいけるか競争するのだという。

全員で一斉にやるのかと思ったけど、5人1組で分かれてやるらしい。

 

勿論建物の被害は最小限に、だそうだ。

直接は言わなかったが、主にかっちゃんが言われてるみたいだった。

 

しかめっ面するかっちゃんに、ハンドサインでざまぁしてあげれば、忌々しげな視線が返ってきた。

負け犬の遠吠えが如きそれに返す物はない。

普段の行いの悪さのせいよ。まっこともって、ざまぁである。

 

「緑谷少女、君もだ」

「なん、だとぉ・・・!?」

 

名指しだと!?

こ、この野郎・・・!

 

案の定、かっちゃんからざまぁのハンドサインが返ってきた。

きぃーーー!!

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「耳郎さん、お隣失礼致しますわ」

 

組分けと説明も終わり、第一グループの出走を監視モニターで待っているとヤオモモが側に座ってきた。

朝から元気がなくて心配してたけど、少し元気を取り戻したように見える。

 

敢えてそれに触れて気分を沈めるのもアレかと思って、掛ける言葉を考えながらモニターに視線を戻す。

そこには準備運動する五人の姿があった。特に緑谷の姿が目についた。

 

「・・・ヤオモモさ、誰が一番だと思う?私的にはやっぱ緑谷か、瀬呂だと思うんだけど」

「どうでしょうか。障害物の多さを考えれば、それを無視して上空から攻められるお二人が有利であるのは分かりますが」

 

ウチらの話を聞いていた男達が一番予想を始めた。やっぱり、二人の名前が出てる。

 

「はぁ?馬鹿女だろぉが」

「お、おう。そうだな」

 

相変わらず変な所で素直だな。爆豪。

その調子で本人に言えば、付き合ったりしそうなのに。

てか、どれだけ信頼してんのさ。

 

「爆豪くんはそうゆうけど、私は飯田くんな気がするなあ。ニコちゃんも凄いけど」

「私も飯田ちゃんだと思うわ」

 

麗日と蛙吹の言葉に爆豪が片眉をあげた。

絶対になんか言うな。

 

「はぁ?クソ眼鏡が━━━」

「━━緑谷だろ」

 

爆豪の言葉を遮るように、轟が割り込んできた。

まさかの展開に、芦戸から『轟が緑谷にアオハルしてんじゃないの』疑惑論を語られていた女子一同が、分かりやすく驚いた。

かくいうウチも驚きを隠せない。

まじか。

 

「障害物が多いから飯田は不利だろ。あいつの個性、速度は出る反面、それに反比例して小回りが利かなくなる。直線的に行けねぇし、視界の悪い中なら余計に時間くうだろ。最短行ったとしても直線的に攻められる緑谷に追い付けるとは思わねぇ」

 

その理論でいくと、瀬呂もなんだけど・・・。

ひと欠片も触れなかったな、瀬呂の事。

 

「まてよ、轟。けどよ、瀬呂だってそれ出来んだろ?」

 

空気を読まない切島の言葉に、女子達の中で緊張が走った。どう答えるのか、気になったんだろう。

いや、ウチもそうだけども。

 

待っていると、少し考えた轟が口を開く。

 

「瀬呂か・・・分からねぇ。比べようにも、あいつの個性、間近で見たのは体育祭の時だけだったからな」

 

普通・・・だと!?

期待はずれな言葉に女子達が分かり易く盛り下がった。

 

「俺が知ってるのは、緑谷の事だけだ」

 

うわぁぁぁ!?

いきなりフルスロットルした!?

 

期待通りな言葉に女子達が分かり易く盛り上がった。

麗日の目が怖いくらい見開いてる。首折れてんじゃないの?くらいの角度で轟を見てる。

怖いわ。

 

「はぁぁぁぁ!?てめぇが馬鹿女の何知ってるっつんだ、こらぁぁぁぁ!!!」

 

飛び火した!!

うわぁ、修羅場!修羅場が!

まじか!

 

物凄い勢いで興奮したヤオモモに体を揺すられたけど、取り敢えずそれは放って二人の様子を見る。

鼻がつくんじゃないかと思うほど轟に近寄った爆豪が睨みを利かせているけど、それに対する轟は全然動じない。

 

「何とか、言えや。ああん!?」

「何とか?何怒ってんのかしんねぇけど、一応職場体験で一緒にヒーロー活動体験してんだ。知っててもおかしくねぇだろ。個性の事」

「・・・・はぁ?」

 

・・・あれ、雲行きが怪しい。

普通ここは「文句あんのか?」くらい言って睨みあったりしないの?あれか、それともリアルって、こんなもんなのかな?

 

いや、そんな事ないな。

隣にいるヤオモモも麗日達も、鈍い男子達ですら渋い顔してる。

多分おかしいのは轟の方だ。

 

よっぽど予想外の言葉だったのか、爆豪だってどうしたらいいか分からないみたいだし。

 

「個性の、事だけか・・・」

「?他に何かあるのか・・・?」

「・・・なんも、ねぇわ」

 

あ、なんか終わった。

何も解決しないまま、なんか終わった。

 

気まずい空気が流れる中、最初のグループの障害物競争が始まった。

結果はクラスでも予想人気の高かった緑谷が一位、ついで瀬呂が二位。その後は尾白、飯田、芦戸の順だった。

 

正直、緑谷は圧倒的だった。

クラスでもトップの成績を修める二人が勝つと予想したのは当然に思えた。

 

本来、リスクでしかない体重以上の物を引き寄せようとすると自分が引き寄せられてしまう力を巧みに操り、障害物の上を自由自在に飛び回る姿は、空を飛ぶ個性でも持ってるのかと邪推するレベルだった。

同系統の使い方をしていた瀬呂に、妨害とか一切なしで一分以上の差をつけるというのは凄い。

 

普段のあいつを知ってる身からすると、何とも言えない気持ちにもなるけど・・・

 

少しして競争を終えた緑谷がモニターのある場所に帰ってきた。ドヤ顔で。

 

そんな緑谷に対して、相変わらず素直に称賛出来ない爆豪が悪態をついてた。それに対して頬を膨らませ抗議する緑谷を微笑ましく見てると━━━ふと、ある音を聞いた。

それは固いものを擦り合わせる音だった。

 

何だろうと思って視線をそこにやれば、轟がいつもの表情のまま歯軋りしていた。いつも表情のままだ。

そしてそんな顔を見て察せれないほど鈍くないウチは、隣で「・・・耳郎さん、あれは」と呟くヤオモモに向け首を横に振っておく。

 

「ヤオモモ、ウチらはなにも見なかった。いいね」

 

人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやらと言うしね。うん。余計なことは言わないでおこ。

 

それが恋なのか、それとも親しい友人をとられたせいなのかは知らないけど、間違いなく面倒な事になる案件、嫉妬からくる物だと思うので、きっちりかっちり放置したウチ達は障害物競争をしにスタート地点へと向かう。

 

緑谷、なんていうか、頑張れ。

ウチは応援してる。



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覗いても良いのは覗かれてもいいと覚悟を決めた、そういう奴だけだ!━━━と言いたい所だけど、本当にそんな奴がいたら露出狂な上、覗き魔という業を背負ってる最強の変態なので出てこないでお願いします!の巻き

映画の話をやるか、どうかで悩んどる。
どしよか。でもな、まだ上映期間中やろし。
ネタバレはあかんよな。

うん決めた、超簡単にダイジェストするわ!
話が見えないくらいにね!


「それにしてもさ、ニコ凄いよね!」

 

伝説的でエレガントで断トツな成績を残した、ヒーロー基礎学の授業終了後。

皆と更衣室で着替えていると、半裸のあしどんが話しかけてきた。こうして見ると、えっちな体してるな、あしどんは。

 

「エロいわ、あしどん」

「いきなりなんで!?てかさ、それを言ったらニコも大概なんだけど」

 

そう言われて同じく半裸な体を見返す。

ふむ、ヒーロー科の過酷な授業のせいでついた傷以外は綺麗なピチピチお肌。百ほどでは無いとはいえ、ふくよかなお胸様。勿論、形も良好。腰をきゅっと締まってるし、お尻もでか過ぎず小さ過ぎず程好いサイズ。

 

ふむ。

我ながら、自慢のパーフェクトぼでぇだ。

 

「まぁね、エロくてごめんねぇ!」

「うわっ、少しも謙遜しない!」

「謙遜する所など、ない!」

 

自信満々にそう言うと、お茶子が苦笑いしてきた。

 

「自分でゆうてまう所がニコちゃんらしいなぁ。でもほんま綺麗やね。背も高いし、スタイルもええんやから、モデルとかも出来そう」

「モデルかぁ・・・・出来ないとは思わないけど、やだなぁ」

 

少し考えてみて正直な所を話すと、お茶子は驚いた顔してきた。

 

「そうなん?喜んでやりそうやのに。体育祭の時とか、凄かったやん」

「お茶子が私をどう思ってるのか、よーーーく分かった。まったく」

「えーーー?えへへっ」

 

笑って誤魔化そうとするお茶子を捕まえてみっちり教えてあげる。

 

あれはお祭りだから良かったのだったと。

写真撮られるのも、テレビに映っちゃうのも不可抗力みたいな気持ちだったと。

 

モデルとなると写真を撮られるのが目的になる。

その為だけに時間を費やす事になる。

 

ポーズとったり、着替えたり、化粧し直したり、場所を移動したり。そういうのをカメラのおっさんだったり、スポンサーだったりから命令されて、あれやこれを忙しくする事になるのだ。

なんて面倒臭い。やってやれない。

 

そういうのは目立ってないと死んじゃう輩にやらせれば良いのだ。私は慎んでパスである━━━との事を熱く語ったら、お茶子は渋い顔してた。

 

「モデルも大変なんやなぁ・・」

 

「そうなんですのよ!大変ですの!」

 

「ええ!?えっ!?百ちゃんなんなん!?」

 

何故か覚醒した百に捕まったお茶子。

絡むと面倒な事になりそうだったので、私は慎んで放置する事にした。助けを求める声が聞こえたけど、気のせいでしょ。

 

そうしてお茶子から視線を外すと、今度は何か言いたげな梅雨ちゃんと目が合った。

 

「・・・どしたの?」

「けろっ。緑谷ちゃんも経験あるのかしら?知ってるような口振りだったけど」

「知ってると言えば知ってるかなぁ。昔ね、小学生の頃、かっちゃんパパの知り合いに頼まれて子供服のモデルした事あってさ。結構しんどかったんだよね」

「そうなの?凄いわね」

「凄くはないない。安売りチラシの端っこに、ちょこっーと載っただけだし」

 

あの時はしんどかった。本当に。

本当なら一枚撮って終わりだった筈なのに、カメラマンの兄ちゃんがノリノリになっちゃって、何回も着替えさせられた上、しこたまポーズを取らされたもんな。

 

そのくせ使った写真は最初の一枚だけとか。

もうね、まじかってなったわ。

 

━━━ん?そう言えば、あのカメラマンの兄ちゃん、写真撮り終った後どうしたんだろうか?

・・・確か、迎えにきた光己さんとかっちゃんパパが徐にカメラマンの兄ちゃんの肩をつかんで部屋の角に・・・んん、いまいち思い出せん。帰りに、高いお鮨奢って貰った事しか思い出せん。うにの甘さと大トロの脂身の甘さしか思い出せん。

旨かったな、あれは。

 

「でもさ、でもさ、チラシに載るのも凄いでしょ!私はそんな経験ないもん!」

「そうだよ!羨ましいよー!私なんて透明だから、写真なんて全然撮って貰えないし!宙に浮く、服だけ写真!いっつぁ、ホラー!」

「━━ううん、葉隠!ツッコミづらいわー!」

「あたー!あははー」

 

あしどんと葉隠の即興コントを梅雨ちゃんと眺めてたら「皆、ちょっといい?」と耳郎ちゃんから声が掛かった。

少し固いその言葉に、何事かと全員の視線が耳郎ちゃんに集まる。

 

「隣、男子が・・・ていうか、峰田がなんか言ってる」

 

峰田。

 

その名前に女子達の間に緊張が走った。

 

「耳郎ちゃん、いきなりどうしたの?」

「峰田くんがどないなん?」

 

お茶子と梅雨ちゃんの言葉に対し、耳郎ちゃんは口許に人差し指を当てて静かにするようにと伝えてきた。

耳郎ちゃんはイヤホンを壁に当てている所から、壁の向こうにいるであろう男子達の話を聞いてるようだ。

 

「穴?皆こっちの壁の所、どっかに穴が空いてない?」

 

言われてた皆で探してみると、直ぐに見つかった。

壁の所にポツンと穴が空いてる。

 

「響香ちゃん、これがどうしたの?」

 

葉隠が穴を覗きこむと、耳郎ちゃんが額に手を当てて言う。

 

「いや、隣を考えれば分かるでしょ。それ覗き穴」

「な、なんだってー!私の裸が見られちゃう!」

「ヒーロースーツがほぼ全裸のくせして、よく言うな」

「あたー!これは一本とられたよ!」

 

葉隠は楽しそうに生きるな、本当に。

ま、それはそうと許せんな。

私らの裸をただで見ようとは。

 

「有料化せねば」

「いや、覗かせる方向で進めんなっての。第一そのお金どうやって回収して、誰が使うのさ」

「かっちゃんに集めさせる。そんで、皆でカラオケとかいこうか」

「普通にいけば良いじゃん。やだよ、ウチは。裸見られた代償がカラオケとか。安い」

 

まぁね。

私も割に合わないと思うわ。

 

「それでどうする?様子見て、覗いた瞬間に炎吹こうか?」

「いや、悪いのは向こうだけど、それは目が死ぬから止めてやんなよ」

「引き寄せる個性で目だけ穴に・・・」

「怖いわ!てか、余計な事しないでヤオモモに・・・・・・っ━━━!!?」

 

突然耳郎ちゃんがイヤホンを穴に突き刺した。

穴から僅かに悲鳴が聞こえる。

 

「やった?」

「え、あ、うん。・・・やっちゃった」

 

どうやら、覗いた馬鹿を始末したらしい。

誰かなんて誰も聞かない。

そんな奴、二人しか知らないから。

 

「突き刺した?」

「つ、突き刺した」

「爆音は?」

「ぶ、ぶちかました」

 

ほうほう。成る程。

それは・・・。

 

「どんまい」

「ちょっ!なにその諦めた顔!緑谷にやられると凄い傷つくんだけど!」

「なにおう!?」

 

耳郎ちゃんめ!

それはどういう意味だぁ!!

優しさから声を掛けてあげればぁ!!

 

「そういう、なんか、やらかしたーってのは緑谷の役目でしょ!」

「ほう、耳郎ちゃん。言ってくれるにゃぁ。その喧嘩、最安値で買ってしんぜようぞ!」

「普段の行いを省みてみてから言え!」

 

竜虎相討つ感じな雰囲気の中、それを引き裂くように百が間に割って入ってきた。

 

「そこまでですわ!お二人が喧嘩なさっても意味が無いでしょう。それより原因をさっさと塞いでしまいましょう。宜しいですわね!!」

 

妙にリーダー的な風を吹かせる百。

今日は本当に慌ただしいな。

落ち込んでたり、覚醒したり、リーダーシップとったり。情緒不安定過ぎる。

 

本当に何があったの?

 

取り敢えずの百の言葉に頷いた私達は、壁を直し始めた百から離れ事情を聞かされたであろうお茶子の下へと向かった。

 

疲れた様子のお茶子から話を聞けば、今回の職場体験でヒーローらしい事を一切出来なかったばかりか、テレビCMに不本意ながら出てしまったのだと。

 

体育祭で轟に完敗した事を気にしてた節があったから、職場体験で何も結果を出せなかったのが余程堪えたのだろうと思う。

選んだ事務所が悪かったとはいえ、なんとも言えない感じだ。

 

穴を塞ぐ百を優しい目で見てると、「あのさ」と耳郎ちゃんが声を掛けてきた。

 

「取り敢えず、さっきのはごめん。言い過ぎた。それでも、い、いきなり話変わるんだけどさ・・・そのさ、ウチって、女として駄目な感じ?」

 

本当にいきなりどした。

幾らなんでも、脈絡が無さすぎYO。

でも、何か理由があるのは、その表情から分かる。

 

「や、なんでもない!忘れて!」

「忘れないけど・・・絶対」

「緑谷、たまに人の気持ちを考えなさいって怒られたりしない?」

「全然、寧ろ良い子過ぎるから、寧ろ、そっちの心配されてる。将来が心配だって」

「絶対、あんたが思ってる感じじゃないよ。それ」

 

なんの事だか、さっぱりですな。

それにしても耳郎ちゃんの女っぷりかぁ。

 

「私は普通に良いと思うけど?」

「普通にって、それ良い評価なわけ?ま、でもありがと」

 

困ったように笑う耳郎ちゃんを見て、お茶子達も乗ってきた。繰り返されるクラス女子全員からのベタ褒め。とってつけたような褒め言葉もあったし、途中から可愛いの連呼祭りになってたけど、どうやら耳郎ちゃんも満更でも無さそうで「そうかな?」と嬉しそうにしてた。

 

ここぞとばかりに写真撮影の許可を取ったり、耳たぶを触らせてくれる事を約束させたりしたのは愛嬌として許して欲しい。

 

 

 

耳郎ちゃん可愛い祭りを終えた私達はさっさと着替えて更衣室を後にした。

廊下に出ると、少し焦げ臭い、壁に氷で張りつけにされた峰田を発見する。

 

全てを察した私達は包帯先生に事の全てを報告し教室へと帰った。

上鳴は、今回は、無罪だった。

 



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遊ぶことだけ考えてる訳じゃないよ?宿題を楽に終わらせる方法とか、授業をやってる風に休む方法とか。遊びにいくまでの道中いかに体力を使わず、次の遊びに力を注ぎ込めるか考えてるよ。偉くね、私!の巻き

原作でも職場体験後からテスト期間まで、謎の空白の期間があるから、その間にいっぱい学校日常編やったるぞ、こらぁぁぁ!!

と意気込んでみたものの、難しいなぁ!なにこれぇ!なんも思いつかん!ぐぁぁぁ(゜ロ゜;


学校に通う生徒達にとって三大楽しみと言えば、当然『昼休み』『休み時間』『放課後』である。

最早議論の余地もない事実だと思うのだが、たまに勉強がーとか、部活がーとかいう人がいる。個人の好みもあるので否定はしないが、私は断固たる決意のもと言いたい。

 

それでもその三つこそが、学校の全てであると!

 

そんな訳で、三大楽しみの一つ放課後を全力全開で楽しむ為に、私はA組女子ーずに召集を掛けていた。

 

集まった女子ーずを前に、A組女子会ボスあしどんが腰に手を当て声を張る。

 

「番号ーーー!」

 

元気よく私が「いち!」と口火を切ればお茶子達が続いた。

 

「はい!にや!」

「けろっ、さん」

「はい。よんですわ」

「はいはいはいー!ごぉぉぉーーーー!!」

「・・・・・」

 

景気の良い6が聞けると思ったのに、最後の耳郎ちゃんが返事を返してくれない。

どした。

 

期待の眼差しで見つめていると、諦めたような溜息とともに照れながら口を開いた。

 

「はぁ、・・・ろっく」

 

「ろっくー!ぎゅいぃーん!」

「ロックー!べーんべーん!」

「耳郎ちゃんの為にある言葉ー!きゅおきゅおきゅいーーん!」

 

「「「イエス!ロックンロール!」」」

 

パシパシパシ、と三回良い音が鳴った。

あしどんと葉隠、私の可愛いほっぺにイヤホンビンタの衝撃が走る。痛いであった。

 

「うるさいわっ!馬鹿スリー!!だから言いたくなかったんだよ!・・・で、葉隠!そのポーズはお琴だから!」

「わぁお!これは失敬だよ!」

 

6と耳郎ちゃんっぽいロックを掛けてあげたのに、耳郎ちゃんはプンスコみたいだ。

何が気に入らないとというのか。

 

「あしどんさんや。怖いわねー、これがキレやすい現代っ子の姿なのかしらねぇー」

「そだね、これが現代っ子のありのままの姿なんだろうね。嘆かわしいね、私の若い頃は・・・ね、葉隠?」

「嘆かわしいねー。もっとカルシウムとった方が良いね。あとは・・・カルシウムとか、カルシウムとかとった方が良いね」

 

「「「ねぇーーー」」」

 

「おい現代っ子共。くっだらないコントしてないで、話進めな。帰るよ」

 

本格的に耳郎ちゃんが痺れをきらしそうなので、あしどんに巻きでの合図を送れば、直ぐに話を再開してくれた。

 

職場体験も無事に終わったので、情報交換も兼ねて女子会しとこうかというのが今回の主旨だ。

本当の所、息抜きに遊びたい気持ちしかないけど、それを全面に出すと真面目組の梅雨ちゃんとか百が来てくれないかもしれないので、そういう事になっている。

 

え?お茶子は真面目組じゃないのかって?

それは大丈夫。だいぶ私色に染まってきたから、ノリは良いのだ。

 

そんな訳で、皆で雄英校の最寄り駅から隣駅まで行った所にある複合アミューズメントパークのボウリング場にやってきた。

 

梅雨ちゃんが弟達のお夕飯作らないといけないらしくワンゲームしか出来ないのが残念だけど、それはまぁ仕方ないので気にしない。

それならば、遊べる時間を全力で楽しむだけなのだ。

 

え?男子達はどうしたって?

知らん。そこら辺にいるんじゃね?

奴等も打ち上げ的なのやるって言ってたし。

 

 

 

 

カウンターでさっさと手続きを済ませ、ブーツを借りてレーンに行く。途中、飲み物とお菓子を買うのも忘れない。

 

レーンに行く途中、梅雨ちゃんと百が周りをキョロキョロしていたのでどうしたのか聞けば、二人ともボウリングの経験はないとの事。百は兎も角、梅雨ちゃんは意外だ。

 

「けろっ。うちの中学校、子供だけでボウリング場とかゲームセンターに行くの禁止していたのよ。勿論、勝手に行く人もいたけど」

 

うちの中学も禁止こそしなかったけど、あまり良い顔はしなかったなぁ。

 

「親とかは?」

「うちの両親出張とか多くて、基本的に休みの日が合わないの。たまに合うこともあったけど、ちゃんと休んでいて貰いたかったから・・・」

 

そう言ってはにかむ梅雨ちゃんは、何処か後光が射していた。可愛すぎる健気梅雨ちゃん。溢れでるナチュラルな良い子オーラに、私の心が浄化されていく。

周りで聞き耳を立ててた女子ーずも、顔を手で覆ったり目頭を押さえてたりした。

効いてる。何かに効いてる。

 

「正直ね、私羨ましかったわ。校則を破るのは良くない事だけど、皆で楽しそうに遊びに行くの。校則なんてなければ━━なんて思った事あったわ。でも結局は、勉強が忙しかったし、家の事しなくちゃいけないから、行けなかったとは思うのだけど」

 

寂しげな梅雨ちゃんの横顔に、通りすがりの兄ちゃんが心臓を撃ち抜かれた。

無差別健気砲、大盤振る舞いである。

 

「だからね、私今日とても嬉しいの。皆とこうして来れて。憧れてたから。私のせいで少ししか遊べなくなってしまったのは悪いとは思っているんだけど・・・本当に嬉しくて━━━っけ、けろ!?」

 

「あしどん隊長!危険生物兵器、捕らえました!」

「ニコ隊員、よくやった!被害者を増やさない為にも、レーンに即行連行せよ!葉隠!先導!」

「お任せ!!」

 

「けろっ!?け、けろ!?」

 

このまま放っておくと道すがらの野郎を全滅させかねないので、お姫様抱っこで梅雨ちゃん即連行した。

はいはい、こっち見んな、男共。

 

━━━蹴散らすぞ。

 

 

 

 

レーンに着くと、皆荷物を置いて玉選びに向かった。

全員で行くと荷物が危ないので、私と百は居残り。

次の順番を待つ。

 

お茶子に連れられて梅雨ちゃんが慎重に玉を選んでる姿を見てると、百が話しかけてきた。

 

「ボウリング・・・噂では聞いてましたが、玉で棒を倒す遊びなんですのよね?聞くだけだと、お金を払ってまでやる人の気持ちが分かりませんでしたが・・・こうして見てみると楽しそうにみえますわ」

 

玉と棒、か。

なんか百が言うと卑猥に聞こえるな。

不思議だ。

 

「緑谷さんはご経験が?」

「そんな大層なもんじゃないけど、ボチボチかな。小さい頃とか、かっちゃん家とうちの家族で良く行ってたし、中学の頃も友達とかと一緒に行ってたかな?」

「そうなんですか・・・と言うか、そこにも爆豪さんが出てきますのね」

「うん?まぁね。よく競ってやってたなぁ」

 

かっちゃん基本天才マンだから、玉投げるの凄い上手いんだよね。私も自分でそこそこ上手いとは思うけど、かっちゃんには全然及ばなかった記憶がある。

 

普通にやったらまず勝てなかったから、引き寄せる個性で邪魔しまくってやったけど。

 

「緑谷さん、少し良いですか?」

 

感慨に耽ってたら、百が真剣な顔してこっちを見てきた。取り敢えず頷いておくと、安心した顔で少しずつ語り始めた。

 

USJでの事。

体育祭の事。

ヒーロー基礎学での訓練の事。

職場体験の事。

 

それらで思うような結果を出せなかった事に、思うところがあったらしい。

 

私から見れば、個性把握テストは断トツの一位だし、勉強もクラス一出来るしで凄いと思うんだけど、百はそう思えないみたいだ。

 

どうにも推薦入試で入ってきた事が、ネックになっているように見える。

 

「私のような者ではなく、緑谷さんのような方が━━━」

「あ、それはない」

「━━えっ?」

 

私に何かをおっ被せようとしてきたので止めておく。

そんな大層なもの、私には似合わない。

 

「そんな事ないよ。百で良いよ、寧ろ百が良いよ」

「それは、あの、どういう・・・」

 

「ふったりともー!お待たせー!代わるよ!」

 

百の声を遮るようにあしどんが来た。

手にしてるのは可愛いピンクボール。

保護色、と思ったのは内緒だ。

 

「さ、いこいこ!百!玉選びだ!!」

「えっ!?ちょっと、緑谷さん!せめてさっきの言葉の意味を!」

「内緒ー!」

「そんな!」

 

何でも教えてたら成長しない。そういうのは自分で気づく事が大切なのだ。だからここは、心を鬼に放置の方向でいく。

 

けして、面倒臭いからとかではない━━━ないのだ。

 

 

無難に私らしい玉を選びレーンに帰ると、モニターに名前が打ち込まれていた。多分あしどん辺りがやったんだと思うけど・・・なんじゃあれは。

 

特に燦然と輝く『カッチャンノヨメ』という、先頭の名前が凄く気になった。

 

ベンチに座る皆の顔を見れば、全員が全員で目を逸らしてきた。梅雨ちゃんまでもが目を逸らしてきた。

悪ノリでこうしたのは分かる。分かるけどな、オマエラァ・・・。

 

「あしどん?どういう意味かなぁ?」

「うえっ!?いきなり私を疑わないでよ!違うって!これは葉隠が!」

 

あしどんがそう言うと、葉隠の浮いた服がビクリと動いた。

 

「違っ、違うんだよ!?その、ちょっと悪のりで入れてみて、楽しい感じになって、それで直そうとしたんだよ?でも、間違えて・・・ほら、皆のも変でしょ!私なんて『シュウチシン・ヲ・トリモドセ』だよ!?ね!名前欄ぎりぎりまでせめた酷いやつだよ!」

「それは本当の事じゃん」

「本当の事じゃないやい!個性を上手く使おうとしたら、そうなったのぉー!」

 

プンスコしてきたけど、何も怖くない。

寧ろ私の方がずっとプンスコだから。

葉隠を絞めようとしたけど、皆に止められた。

 

「お、落ち着いて、ニコちゃん!ほら、別に、ここだけのあれやし!誰も見てへんし!ね!」

「そうだよ、ニコ!気にすることないよ!こんなの!ただの悪ふざけだしー?」

「そうそう!緑谷気にしすぎだって!こんなの━━ぷっ」

 

ほほぅ?!

笑ったな、耳郎ちゃん!!

 

「あ、ごめん、ごめん!だって、ここまでしっくり来るのは他にないかなって、さ。ぷっ、ははは!」

 

楽しそうに笑う耳郎ちゃん。

私のイライラは見事にマックスに達する。

 

「耳郎ちゃん!言い残すことは、ないかー!」

「うわっ!こっちきた!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、ボウリングはしませんの?お時間がなくなってしまいますわ。ねぇ、蛙吹さん」

「・・・でもこういうのも悪くないわ。だって、これもお友達同士でしか出来ない事でしょ?」

「そう、ですわね・・・ええ、そうですとも。フフ」

「ケロケロ♪」

 




同所別階
げーせんエリア


かっちゃん「・・・くそがっ!!」

どかーん

教え殺される人「荒れてんなぁ。パンチングマシーン壊れんじゃねぇの・・・うわっ、三百キロ越えた。あれ結構シビアなやつなのによ」
うぇーい「緑谷にちょっかいかけたら、もれなくあれがついてくるのか。こぇー。つか、不機嫌過ぎんだろ」
ギャップの男「そりゃ態々同じところに打ち上げきてんのに、緑谷に合流だけ拒否られたからな。・・・てか、峰田は何とってんだ?」


ブドウ「見たら分かるだろ、ヌイグルミだっつの!これ、最近女子に人気なんだってよ・・・フヘヘ」
地味尾「びっくりする程ブレずに下心だけなんだな。あれだけ相澤先生に絞られたってのに」
お口チャック「(・ω・ )・・・!!ヾ(・ω・*)シ~~!!!」


中二病「闇より深き混沌への誘い、失楽園コンボ━━━あっ」
阿修羅さん「悪いな、常闇。静かに俺のエアリアルコンボの前に沈んでく━━━っ!?」
お菓子くれるホモ「いや、手いっぱい出すのはズルいだろ、人外コンボえぐ・・・って、よく見たら常闇もダークシャドーつかってんじゃねぇよ!!お前ら普通にやれ!普通に!」


眼鏡「皆!バラバラに動いてはいけない!!雄英生徒として規律のある行動をだな!!━━こらぁ!爆豪くん!!機械に当たるのは止めたまぇぇぇ!!」

みらーぼーる「こんな場所でも、僕のキラメキは止まらないね!」


紅白饅頭(ひまだ、かえりてぇ)


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親の心子知らずなんて言われるけど、案外分かる事もあるよね?言葉を尽くさなくてもさ。てかさ、洗う前に気づくでしょ。ぽっけにティッシュがあってもさ。だから私は悪くありませーーん!母様のせいですぅ!の巻き

そんな訳で!
小説版エピ、授業参観編始まるよー(*ゝ`ω・)

気になる方は書店にごー!
面白さは保証しないから、よろしくー!


じとじとじめじめな季節も中盤を向かえ始めた今日この頃。今日も今日とてかっちゃんパパに送られて、私は現在進行形で登校中であった。

窓から見える景色はいつも通りの静かな通学ルート。すっかり落ち着きを取り戻したそこにカメラとかマイクとか持った人はいない。

 

そう、予想に反してマスコミは落ち着いたのだ。

 

良くも悪くも超人社会。

起こる出来事は毎日奇想天外な事ばかり、皆の関心を集めるニュースには事欠かない騒がしい時代だ。

一時期爆上げだった私の知名度も、今ではアイドルヒーローグループの不祥事に食われてしまい、マスコミさんの姿もすっかり鳴りを潜めてしまった。

 

 

嬉しいのは嬉しいのだが、何となく負けた気分で釈然としない物はあるけど・・・まぁよかろう。近くでざわざわされるよりはマシだもんね。

 

 

車に揺られながら風景を見ていたら、不意に運転するかっちゃんパパが欠伸をするのが見えた。

朝からの長距離運転は疲れるのだろう。

 

お疲れ気味なかっちゃんパパの肩を椅子越しにトントンしてあげると、なんか隣に座ってたかっちゃんが驚いた顔した。なに、その顔。槍でも降ってきた?

 

「おまっ、馬鹿女、てめぇ、何してやがる」

「なんで片言?肩を叩いてるだけでしょ。なに?」

「誰だ、てめぇ!」

「なんでよ!?」

 

そんなかっちゃんの反応を見て、かっちゃんパパが困ったように笑った。

 

「はは、そんなにおかしくないよ。勝己。双虎ちゃん気が向いた時、肩揉んでくれたりするよ?」

「はぁ!?そんなっ、見たことねぇぞ!!」

「そりゃ、勝己がいない時くらいだからね。双虎ちゃんが私に構ってくれるのは。双虎ちゃん勝己がいるとそっちに構いっぱなしだし・・・なんかまた上手くなったね。引子さんにやってあげてるのかな?」

 

別に私が構ってる訳じゃなくて、向こうから絡んでくるから相手してるだけなんだけどな・・・。

 

「━━母様にはやってあげてるというより、やらされますね。無理矢理ですよ、無理矢理。━━あ、でも最近オイルマッサージはしてあげたかな?いやぁー楽しかったなぁ。アザラシみたいに転がった母様のあの格好!うぷぷ!もう思いっきりポヨポヨのお腹をたぷたぷして、ぺちぺちしてやりましたよ!」

「なんか光己が聞いたら喜びそうな話だなぁ」

「オイルは光己さん提供ですよ?」

「あ、もうやってたのか」

 

光己さんのはポヨポヨが少なくて、そういった意味では楽しくなかったな。すべすべお肌は触ってておおーと思ったけど。

それに比べて、うちのポヨポヨは。

 

「━━それはそうと、送り迎えもう大丈夫ですよ?昨日打ち上げしましたけど、全然マスコミ来なかったですし」

「びっくりしたよ。まさかその日の内に、学校以外に迎えに行くことになるとは思わなかったからね。━━まぁ、そうは言ってもまだ世間はあの話題を忘れてないんだ。何かあっても面白くない。せめて一週間だけは送り迎えさせてくれない?」

 

送り迎えは楽だから嬉しいんだけど・・・。

 

「大変くないですか?」

 

そう聞くとかっちゃんパパはニッコリした。

 

「全然さ。━━━確かにね、疲れないと言ったら嘘になるよ?でもね、少し疲れるだけで子供達が少しでも安心して過ごせるようになるなら、そんな苦労は苦労でないのさ。血は繋がってないけど、双虎ちゃんの事は娘のように思ってるからね。そんな君が笑っていてくれるなら、こんなものはなんて事はないよ」

「そういうもんなんですか?」

「そういうもんなんだと思うよ。勿論、それは双虎ちゃんのお母さんである引子さんも同じだよ。いや、引子さんの方がずっとね」

 

母様が・・・?

 

「基本アザラシみたいに寝っ転がってますけど?」

「ううん、引子さんの苦労が忍ばれるなぁ・・・」

 

母様の苦労?

 

不思議な単語に首を傾げていると、相も変わらずな雄英校舎が視界の中に入ってきた。

校門前に降ろされた私はかっちゃんパパに手を振って、かっちゃんと校舎へと入る。

今日も一日、忙しない学校生活を満喫する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日も一日割と楽しく過ごした私は、帰りのHRが始まるのを席について大人しく待っていた。

 

学校という楔から解き放たれる瞬間を待つ私の耳に、今日のヒーロー基礎学について語り合うクラスメートの声が聞こえる。

今日はヘリを使ったダイナミックな救助訓練だったので、皆何処か浮き足だった感じで楽しげな雰囲気だ。

これなら遊びに誘っても皆のるな。

よしよし。

 

 

勝利を確信した私の耳に、教室の開く音が響いてきた。

すると一斉に教室が静まり返る。

 

「━━━嫌に静かだな」

 

静かなのは良いことだろうに、包帯先生は眉間に皺を寄せた。そして何故か私を疑いの眼差しで見つめてきた。

純度200%の疑いの眼差しだった。

 

「何か企んでるなら、止めておけ」

「差別ー!!差別ぅぅぅー!!なんで私が大人しくしてると、直ぐに疑うんですかぁ!!酷い!!包帯先生の畜生好き!!猫畜生好き!!」

 

頑張って抗議すると包帯先生は「・・・悪かった」とさらっと一言謝り教卓についた。なんか納得いかない謝り方だったけど、ここで騒いで呼び出されてもあれなので大人しく座る。

 

「・・・えー、取り敢えずヒーロー基礎学での救助訓練おつかれ。それでだ、いきなりなんだが、君らに一つ連絡事項がある」

 

包帯先生の言葉に眼鏡が勢いよく手を挙げた。

 

「連絡事項ですか!?それはいったいどのような事なのでしょうか!!」

「それを今から伝えるんだ。飯田少し静かにしてろ」

「はい!話の腰を折ってしまい、申し訳ありません!!」

「だから静かに━━━はぁ、まぁ良い、話を戻すぞ。それでだ、再来週・・・・授業参観を行います」

 

教室に「授業参観!?」と皆の声が響き、私はあまりの事に包帯先生の正気を疑った。切島の「雄英も授業参観なんてすんだなぁ」とか間の抜けた声が聞こえてきたけど、そんなのは無視だ。無視。

 

「今からその件についてのプリントを配る。プリントは必ず保護者に渡すよう━━━━━」

「包帯先生ぇぇぇぇ!!」

 

手を挙げて私の存在をアピールすれば、うんざりしたような包帯先生の視線が私に刺さった。文句を言われたり怒られたりするかも知れないが、今はそれどころではない。ここで撤回させなければ、私の命が終る。

 

「なんだ、緑谷・・・」

「授業参観についてお話が!!!大事なっ!大事なお話が!!」

「・・・言ってみろ」

 

聞いてくれるみたいなので、気持ちを込めて全力で話す。

 

「この時期に授業参観とか如何なものでしょうか!?USJでの事件!未だに事件解決にむけて進展のない様子!!もしかして首謀者はおろか、情報の漏れたルートすらはっきりとしてないんじゃないですか!?その時期に部外者、ひいてはその事件での被害者である生徒の保護者を内部にいれ、もし最悪な事が起こった場合、学校への信頼は地に落ちてしまうのでないでしょうか!!雄英の失脚により起こる、ヒーロー社会への不信!!その影響力の高さは甘く見るべきではないと思います!!それは学校だけの為ではなく、社会全体にとってよろしくない話だと愚考します!!ここは、最悪を想定して授業参観中止をするべきでないでしょうか!!」

「緑谷・・・おまえ」

 

包帯先生から厳しめの視線が返ってきた。

絶対怒られるけど、ここで引く訳にはいかない。

何故なら母様が学校に来ると言うことは、もう命に関わるからだ。

 

どうしてって?そりゃ、母様が学校に来たら皆と顔を合わせる事になるでしょ?そして皆、学校での私の様子を教えちゃうでしょ?それは先生も同じだ。そうして私の普段の態度を知った母様が、私に何をするかなんて想像に難くない。

 

おおぅっ!想像するだけで怖い!!怖いよぉ!

阻止せねばっ!

 

真剣な顔で包帯先生を見つめていると「ガチ過ぎんだろ、緑谷・・・」という声が隣からしてきた。

見なくても分かる、瀬呂のやつである。

 

「どんだけ授業参観したくないんだよ」

「うるっさいわドンマイ!」

「ひ、酷いっ!いつまでそれ言われんだよ!」

 

邪魔する瀬呂を切って捨て、包帯先生に再び真剣な目を向けた。

 

「・・・はぁ、駄目だ。もうこれは決定した事だ」

「そんなっ!!」

 

私を切って捨てた包帯先生は、授業参観について話を始めた。

その授業内容は感謝の手紙を書いて、それを全員の前で朗読するという恥ずかしさで悶え死ぬような、そんな地獄のような授業らしい。

なんでもヒーローになると感謝される事が多くなるから、そういった感謝がどのような気持ちのもと行われるかを考え、それを受けとる心構えを作れってことらしいんだけど・・・・ぐはっ、考えただけで身震いするっ。やだっ!やりたくない!

 

既にばっくれたい気持ちで一杯だが、ばっくれようにもその授業には母様が見に来てしまう。つまり逃げたが最後、授業態度の良し悪し関係なしに絞められるという事だ。

 

私、詰んだ・・・!!

 

 

「ま、そういう訳だ。再来週までに各自手紙を用意し、きちっと保護者の方々へ感謝を示せる準備をしておくように・・・以上だ」

 

 

包帯先生の死刑宣告を受けた私は、かっちゃんの背中にその身を預け安らかな眠りについた。

目が覚めた時、全てが夢であったらいいな、とそう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

「夢の訳あるか、馬鹿」

「いやぁぁぁぁ!!!かっちゃんの馬鹿ぁぁ!!!」

 

 




ふたにゃん「━━━━」わーわー
かっちゃん「━━━━」わーわー



ヤオモモ「またですの?お二人とも本当に仲が宜しいですわね・・・。ね、轟さん?」

ととろき「・・・・おう」ゴゴゴゴ

ヤオモモ(な、なにか見えますわ・・・!?)


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文章の基本は起承転結!起、でこう、あれして!承、で起のやつをぐりっと!転、であれをゴロンして!結、でまとめる!そういう事ですよね!お茶子先生!あれっ、お茶子先生?何処にいくの、ちょ、逃げないで!の巻き

最近クロコダイルの足を買ったよ。
勿論食用だよ。

さて、どうしようか・・・・(;・ω・)
誰か食べ方教えてくれ(切実)


死刑宣告を受けた翌日。

休み時間という貴重過ぎる癒しの時を使い、私は一枚の紙とにらめっこする羽目になっていた。

 

事の発端は言うまでもなく昨日、包帯先生が告げた授業参観だ。授業参観を中止に持っていけなくなった以上、母様が学校に来ること、私の普段を知るのは確定事項。つまりは、怒られる事は必然。

 

━━であるなら、私に出来る事はそう多くない。素直に謝るか、授業参観で良いところを見せて、母様が知るであろうあれこれをうやむやにするしかない。

その為には授業内容である感謝の手紙とやらを完璧に仕上げ、教室を感動の渦に落とすクラスの大作が必要になるのだが、これがまた死ぬほど難しかった。

 

だってね、作文の評価なんて小学生の頃からギリギリ可を貰えるレベルなんだよ?私。

荷が重すぎるぅぅよぉぉぉ。

 

プリントを渡さず知らぬ存ぜぬを貫こうとも思ったけど・・・・かっちゃんの存在がある。かっちゃんが光己さんにプリントを渡した時点で、母様に知れるのは時間の問題。なら、この方法は一番の悪手。そんな事すれば何かしらの理由があって学校に来てほしくない事を、自ら母様にばらすような物。理由を問いつめられて、授業参観前に絞められるのは目に見えている。

 

詰んだ・・・!

 

 

 

「ニコちゃん、どんだけ必死なん・・・顔えらい事なっとるよ?」

 

内容について悩んでいたらお茶子が声を掛けてきた。

お茶子は授業参観に思う所がないみたいで、割と能天気な感じだ。手紙も早々に書いたみたいで、余裕が体から滲み出てる。

羨ましぃ。

 

「お茶子はいいよ。私はこの手紙の良し悪しで、母様から何をされるか分からないんだよ・・・ひぃっ」

「普段から真面目にしとったら、そんなんならんかったやん・・・。もう、仕方ないなぁ。手紙書くの手伝ったげる」

「え!本当!ありがとー!!全米が涙するようなのお願い!!」

「私にワールドクラスの結果求めんといてよ・・・!ちょっとした手直しくらいしかせんからね」

 

お茶子が紙を覗き込み現在文に目を通す。

ふむふむと読んでいたお茶子が段々と渋い顔になっていく。

 

「どう?私的には、読書感想文で銀賞狙える感じに仕上がったと思うんだけど?」

「えぇ!?ほんまにそう思ってるん?!」

 

予想に反したお茶子のリアクションに嫌な予感を覚える。な、なんだよぉ。

 

「いや、その、気持ちは伝わるというか、ニコちゃんらしいというか、うん、感情的ではあるかな。独創的でもあるし、うん」

 

んん?それは、なんだ、褒められてるのか?

じっとお茶子の顔を見つめていると、顔を逸らされた。

お茶子が女子ーずに召集かけてる。

 

教室にいた耳郎ちゃん、梅雨ちゃん、百が不思議そうにこちらに来た。

 

「どーしたの、麗日」

「何かあったの、お茶子ちゃん?」

「どうしましたの?」

 

集まった女子ーずにお茶子は私の書きかけの手紙を見せた。別に恥ずかしい所もない手紙だ。誰に見せてもいいけど・・・・いや、ちょっと恥ずかしいな。いや、普通に恥ずかしいな。照れる。見ないで、駄文を見ないで。見ないでぇぇぇ!!

 

私の手紙を見た面々が、やはりお茶子同様に顔を曇らせていく。・・・ちょ、いい加減にしようか。言いたい事あるなら、言おうよ!気になるんだよ!

 

私の視線に気づいた梅雨ちゃん以外の二人が目を逸らしてきた。

 

「・・・個性的でよろしいかと」

「まぁ、緑谷らしい文っちゃ文じゃない。ウチも作文とか得意じゃないし、人の事言えないわ・・・・」

 

良い評価を貰えてる気がしない言葉の数々。

最後の頼みと、思ったことを何でも言っちゃう梅雨ちゃんに視線を向けると困ったように首を傾げた。

 

「けろっ。この間、私の妹が母に書いたお手紙より、酷いと思うわ」

「六歳に、負けた・・・だと?!ぐはっ!!?」

 

「あわわっ、ニコちゃーーん!!」

 

梅雨ちゃんの必殺技が私のハートを貫いた。

クリティカルな一撃に、起き上がっているのすら困難になり机に突っ伏した。咄嗟にお茶子が支えてくれなかったら、机を頭突きで叩き割っていただろう。

あと関係ないけど、足も生まれたての小鹿みたいに震えてたりする。

 

「ご、ごめんなさい。でも、正直に伝えないと、意味がないと思って・・・けろ」

 

申し訳なさそうにする梅雨ちゃんに心配しなくていいことを伝え、私は再び手紙へと向き合う。

もう絶望しか見えないけど、それでも止める訳にはいかない。お小遣いがなくなるのも、お夕飯にキュウリが混入されるのも、家事手伝いを義務化されるのも、ガチャ課金を禁止されるのも嫌なのだから。

 

皆から慰めだったり応援だったりの優しい言葉を掛けられ、色んな感情で泣きながら書き直していると、不意に大きな影が私の手元を覆った。

何だろうかと見上げれば、眼鏡が私の前に立っている。

 

「緑谷くん、少し良いだろうか?」

 

全然良くなかったけど、このまま思い詰めたままに書いても良くないかと思い、気分転換も兼ねて話を聞くことにした。

 

話をうながせば、四枚の遊園地のチケットが目の前に突きつけられた。

 

「この間の・・・ネイティブさんを覚えているかい?」

「ネイティブ?誰?」

「ヒーロー殺しの時・・・その、エンデヴァーが助けたヒーローがいただろう。緑谷くんがインディアンと呼んでいたヒーローの方だ」

「ああ、インディアン・・・!」

 

あの役立たずか。

私らが頑張ってる間ずっと寝っ転がってた、キングオブサボり魔か。

 

「お礼だそうでな。兄さんの事務所づてに俺の下に届いたんだ」

「なんで飯田くんの所に?エンデヴァーが解決したんなら、轟くんの所ちゃうの?」

 

お茶子のつっこみに、眼鏡が汗をかいた。

アホだこいつ、言い訳下手なくせに中途半端な嘘つくから。

本当の所を教えられない以上仕方ないけど、それにしても言い様はあったと思うんだけどなぁ。

 

ほっとくとボロ出しそうなのでフォローしてあげる。

 

「━━━ああ、お茶子。あのね、私らも救助に協力したんだよね。後で私らが学生なの知って、余計に気を使ったんじゃないかな?それでだと思う」

「そうなん?」

「チケットを眼鏡に渡したのもさ、最初に救助に向かったのが眼鏡だったからだと思うよ」

「おお、そうやったん!やるね!飯田くん!流石委員長!」

 

「あ、ああ。いや、それほどでも」

 

私のお陰でなんとか切り抜けた眼鏡は、ほっと一息つくと私に視線を戻した。

 

「それでだ、丁度四枚ある事だし、救助に協力してくれた皆でいこうと思って誘いにきたんだ━━━━あ、轟くん!!丁度良いところに!!少しこちらへ来てくれないか!」

「飯田・・・?なんだ」

 

教室に戻ってきた轟を呼びつけ、眼鏡は私にしたように説明する。説明を受けてる轟は何処と無く興味なさそう。

 

「━━━という訳なんだ。どうだろうか、丁度四枚ある。俺、轟くん、爆豪くん、緑谷くんと、四人でいかないか?楽しいと思うのだが」

「・・・いつ行くんだ」

 

乗ってきた、だと!?

あんなに興味なさそうだったのに!?

実はメルヘン好きなのか?

しかしな、それはそうと・・・・。

 

「チケットの期限が来週までなんだ。だから、来週の日曜日はどうかと思っていたんだが・・・」

「ちょっといい、眼鏡」

「ん?どうかしたかい、緑谷くん?」

「私、パスで」

 

そう私が言うと皆の時が止まった。

突然の周りのリアクションに、逆に私が戸惑う。

なに?何事!?

 

「緑谷さんが、遊園地を断るなんて・・・!?」

「病気か!?緑谷!はっ、もしかして、この小学生以下の作文はその病気のせいじゃ・・・!」

「ニコちゃん!あれほど、面白そうだからとか変な理由で、おかしなもんは食うたらあかんゆうたのに!!」

 

「どうした、緑谷くん!!頭をっ、頭を何処かに打ったのか!?」

 

お前らぁ、私をなんだと思ってるんだ!!

そんなに変か!私が遊園地に行かないのは、そんなに変か!!くぉらぁぁぁ!!

 

一人プンスコしてたら、轟が「何か用事でもあんのか?」と普通に聞いてきた。

この中で誰より正しい反応だと思うので、ちゃんと返してあげる。

 

「いや、用事はないんだけど、男三人と遊園地とかやだし」

 

そう素直に言うと、眼鏡が少し落ち込んだように見えた。

 

「い、いやなのか」

「やでしょ。逆に聞くけどさ、私がお茶子と梅雨ちゃんと遊園地いく予定しててさ、最後の一人として眼鏡が誘われたらくる?」

「・・・少し考えてしまうな」

「そういう事」

 

納得したのか、眼鏡が肩を落とした。

たまに思うんだけど、段々とこいつの中で私が女でなくなってる気がする。最初はハレンチがどうのって言ってたけど、最近全然言わないもんね。

 

そんな眼鏡をよそに、轟が尋ねてきた。

 

「緑谷なら、それでも来そうだったんだけどな。アトラクションとか好きじゃないか?」

「好きだよ?アトラクション系は。並ぶのはやだけど、待ってる時間で一緒に来た人達とお喋りすれば楽しいしね━━━━ああ、でも日曜日ってのもちょっとあれかなぁ。絶対混むもん」

「確かにな・・・」

 

そう言って頷いた轟は眼鏡に視線を向けた。

 

「━━わりぃ、飯田。日曜日はお母さんの所にお見舞いにいくから、俺もいけねぇ」

「なんと!?そ、そうなのか!」

 

轟もいかないのか。

それならついでに教えておこうかな。

 

「多分だけど、かっちゃんはいかないと思うよ。好きじゃないし、騒がしい所」

「なんと!?それでは誰もいかないんじゃないか!ネイティブさんのお気持ちを無駄にする事に・・・うむむ」

 

そんな事言ってもな。

 

「お茶子とかいけば?」

「私はいいよ。お金ないし。梅雨ちゃんはどう?」

「日曜日はちょっと。弟達の面倒みないといけないから。・・・耳郎ちゃんはどうかしら?」

「ええ?うーん、パスかな。人混み嫌いなんだよ。ヤオモモいけば?」

「私ですか?遊園地ですと、お母様とお父様に許可を頂かないといけませんし・・・。それにお母様は兎も角、お父様があまり良い顔しませんので」

 

取り敢えず、ここにいる人達全滅、と。

苦悩する眼鏡は「どうすれば」と言いながら去っていった。流石に全滅するとは思ってなかったんだろう。インディアンの気持ちは、どうなるのか。こうご期待だ。

 

眼鏡との話も終え手紙の作成に戻ろうとしたら、いつまでも立ち去らない轟が気になった。

なんで、こいつ、まだここにいるの?

 

そう思って目だけで見上げると、轟が口を開いた。

 

 

 

「緑谷、来週の日曜日。暇だったら、俺に付き合ってくれねぇか?」

 

 

 

・・・?

 

 

OH?

 

 

・・・・ほわっつ?

 




ととろき「付き合ってくれねぇか?」
ふたにゃん「?」


もちゃこ(わぁぁぁぁぁぁ!!!!)ブンブンブン!
かえるちゃん「痛いわ、お茶子ちゃん。揺らさないで」


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思うだけでは駄目。言葉でしか伝わらない事もきっとあるよね。だからね、頑張って伝えていこうと思うんだ。━━━バァァァァーーーカ!!足の小指をタンスの角にぶつけて粉々に骨折しろぉ!!の巻き

ワニ肉への反響つおかった(;・ω・)

皆、意外と色んなもん食うてんやねぇ。

沢山のご教授、ありがとやでー( *・ω・)ノ


轟と轟母は少し微妙な関係だ。

今でこそ轟母が入院してる病院へお見舞いに行くようになったけど、何年もの間会う事はおろか一切の連絡をしなかった関係だったらしい。

 

そうなったのも理由があって、事の発端は轟の幼少期にある。

 

轟が5歳を過ぎた頃、轟母は糞ハゲのせいで精神的に大分やられてしまっていて、ひょんな事から轟に手をあげてしまったのだと。轟が言うには、はずみのような物だったらしい。

でもそれは、轟の顔に一生消える事のないだろう火傷の痕を残す程のものになり、轟母はその負い目から精神を更に病み、まともな生活を歩めない状態になってしまったのだという。

 

それ以来、轟母は病院へと隔離され、現在に到るまで療養生活を強いられている━━━というのが私の聞いた話だ。

 

何かしら面倒な物を抱えているんだろうなとは思っていたけど、ここまで重たい物だとは思わなかった。私の人生において、聞いて後悔した話ベストスリーに入る重い話である。

 

うへぇ。

 

 

「━━━そんな轟母が私に会ってみたいと言うのだけど・・・どうしようか?」

『っんで、それをこのタイミングでしてきやがんだ!!こらぁ!!昼間に妙な雰囲気してると思いやぁ・・・つか、昼間に幾らでも時間あったろうが!!2時過ぎだぞ!!てめぇと違って暇じゃねぇんだよぁ!それ以前に、そういうのはよそに喋るんじゃねぇ!!』

 

時刻は土曜日、深夜2時。

電話越しに今夜も元気な怒号が響いてくる。

なんか、めちゃ怒ってる。

 

「誰にでも話すわけないでしょ。近い事は知ってそうだからさ・・・それに、こういう話するのなんて、かっちゃんだけだもん」

『だもん、じゃねぇんだよ!!そういうのは黙っとけ馬鹿が!!』

 

最近聞き分けが良くなったと思っていたけど、やっぱりかっちゃんはかっちゃんみたいだ。うるさい。

 

がーがー吠えるかっちゃんの声を聞きながら、抱き寄せたヌイグルミをもふもふし待っていると、少し落ち着いたのか『それで、なんだ・・・』と優しげな声が返ってきた。聞く気になったみたい。

 

「会いに行った方が良いかなぁ?」

『・・・それはてめぇが決めろや。何、迷ってんだ、ああ?』

「迷ってる訳じゃないけど、私が会いに行く意味あるのかなぁって。轟はさ、私に感謝してるみたいだから、きっと良い感じに私の事伝えてると思━━━いや、私は本当に良い女なんだけどさ」

『自分で言ってたら世話ねぇわ』

 

そうは言っても仕方ないよね。

事実だもんね。それは。

 

「・・・でもね、少なくともさ、私はあの時、たいした事したつもりはないんだよね━━━━」

 

私はあの時、轟に何かしてやるつもりはなかった。

かっちゃんに言ったみたいに、本人が自分で気づくのを待つつもりだった。何か大きな間違いをする前に声を掛けてあげるくらいのつもりはあったけど・・・少なくともあの時に何かしてあげるつもりは全然だったのだ。

 

あの時私がやったのは、ムカついたからぶん殴るとか、そういう短慮からの行動だ。結果的には轟にとってプラスに働いたのかも知れないけど、一歩間違えたら轟が気づくチャンスすら潰していたかも知れない。

 

「━━━もし、それが理由でさ、呼ばれてるなら行かない方が良いのかなぁって。変に期待とかされてたら、あれかなぁってさ。私はそんなに轟の事考えてなかったし」

 

釣り合ってないと思うのだ。

轟の気持ちとか、轟母の気持ちとかと。

私の気持ちが、全然。

 

あの時私が考えていたのは、ずっと別の事だったから。

 

ベッドの上でゴロゴロして返事を待ってると溜息が聞こえてきた。

 

『紅白野郎も、お前に何か期待してる訳じゃねぇ。あいつが感謝してんのも、あいつの勝手だろ。てめぇが気にかける理由はねぇだろうが』

「そうかなぁ・・・」

『はぁ・・・行きたくねぇ訳じゃねぇんだろ』

 

行きたくない訳ではない。

轟がようやく歩み寄ってきてくれたから応えたいとは思ってる。

ベストフレンドを名乗る身としては、挨拶くらいしときたいとは思ってる。

 

「うん」

『んなら、いきゃぁ良いだろうが』

「良いんだ、行っても?」

『はぁ?』

 

少しだけど止められると思ってた。

多分だけど、かっちゃんは轟の事嫌いだと思うし。

前も仲良くしてたら、ブチキレられたもんね。

 

職場体験から何処と無くすっきりして見えたのは、精神的に成長してたからなのかも知れない。私の知らない所でってのが、ちょっとむかつく。

 

「━━ううん、なんでもない。話聞いてくれてありがと」

『はぁ、たく。・・・・で、いつ行くんだ』

「うん?来週の日曜日」

 

電話が突然無音になった。

間違って切っちゃったのかと思って画面を見たけど、通話中になってる。

はて?

 

「・・・かっちゃん?」

『来週は駄目だ』

「・・・?何が?」

『用事がある』

「そっか?うん?」

 

なんだろう、話が噛み合ってない気がする。

 

「ごめん、かっちゃん。何言ってるか分かんない」

『はぁ?行けねぇって話だろ』

「誰が?」

『俺以外、誰がいやがる?』

 

ううん?

 

「かっちゃんもくるの?」

『はぁ?そういう話だろうが』

 

なんでそうなったのか分からないけど、かっちゃんはそのつもりだったみたいだ。私はそんなつもりはなかったんだけど。

普通に轟と行くつもりだった。

 

その旨を話したら全力で止められた。

絶対行くなとの事。

 

その言い方が完全に命令口調だったので、私の中に怒りとムカツキを司るイラァー神が降臨する。

きさん、なんば言いよっとかぁぁぁぁ!!

 

結局、母様が怒鳴りこんでくるまでの間一時間。

私とかっちゃんは持ちうる全ての罵詈雑言を駆使して戦った。母様に邪魔されてしまったので勝敗はつかなかったけど、私的には百二十パーセント勝ちだと思ってる。

 

思ってるぅぅぅぅ!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

土曜日の朝。

私の目を覚まさせたのは、けたたましい電話のコール音だった。

寝ぼけ眼を擦りながら出てみると、酷く興奮したニコちゃんの声が聞こえてくる。

話を聞けば昨日の夜、というかつい数時間前、爆豪くんとやり合ったみたい。寝て起きたらまたその怒りが再燃したとかなんとか・・・。

 

「そう・・・なん?」

『そうなの!!まぁあ!でも勝ったけどね!!勝ったんだけどね!!だから良いんだけどさ!』

 

全然良くなさそう。

何をそんなに怒ってるのか聞いていると、轟くんの事がどうのと言うより、爆豪くんがニコちゃんに自分の用事について何も教えんかった事が一番許せないみたい。

 

そういえばと、職場体験の時もそんな事があって怒ってたのを思い出す。

 

『自分はさ!何処に行くのも勝手なのにさ!!おかしくない!!?私はさ!別に!行く気はないんだけどさ!でもさ何処に行くくらいは教えてくれてもいいんじゃないかなって思うんだよね!ね!』

「せやねぇ・・・うんうん、せやせや」

『今日も明日も、なんかそこに行くみたいで!!折角だからついてこうとしたら、また怒鳴るんだよ!!関係ないってさ!!何なのあいつぅぅぅぅ!!いやさ、関係ないよ!確かにさ!かっちゃんもかっちゃんで、色々ある事くらい分かるよ!でもさ、だったらさ、私も自由にしてて良くない!?ねぇ!』

「うんうん、せやねー。せやせや」

『あったまきた!!なんか、思い出したらムカつきまくってきた!お茶子ん家、今から行くからよろしく!!話聞いて!!』

「うえっ!?ちょ、え、ほんま!?」

 

本当かどうか確認しようとしたら電話が切れてしまった。かけ直そうかと思うたけど、藪から蛇になりそうやったので止めておく。

 

それよりと、爆豪くんの番号をプッシュした。

 

何度かとコール音。

不機嫌そうな『おう』という声とともに繋がる。

 

「あー、爆豪くん?おはよ」

『ああ?んだ、丸顔。朝から電話なんざしてくんじゃねぇ。切るぞ』

「もしかして電車?」

『ちっ、んだっつんだ。・・・今改札出た所だ』

 

時間はまだ八時。

平日の学校の時ならまだしも、休みの日にしては早い時間から電車を乗り降りしている所から、本当に何か用事があって出歩いとるのが分かった。

 

「電話してても平気やったら聞いてくれへん?」

『だから、話せってってんだろが』

「ニコちゃんとまた喧嘩したやろ」

『・・・は、だったら、っんだっつんだ』

 

少し動揺が見えた。

喧嘩したこと自体は悪いと思ってるみたいや。

これでけろっとしとったら、電話ぶちきって着信拒否する所なので、そうならなくて安心する。

 

「怒っとったよ」

『・・・・』

「私が言わんでも分かるでしょ。私より付き合い長いもんね。・・・じゃれあいの喧嘩やったら、私もなんも言わんけど━━これはちゃうやろ」

 

最近の二人の喧嘩。

今までと毛色が変わってきている事には気づいとった。

最初は勘違いかと思ったけど・・・ニコちゃんの様子を見て、爆豪くんの様子を見て、今ではちゃんと確信しとる。

 

「私はそんなに鋭い方ちゃうけど、それでも爆豪くんがニコちゃん大切に思っとる事くらい知っとる。なぁ、今爆豪くんのしとる事、ニコちゃんに教えてあげられんの?」

『・・・・・・うっせ』

 

子供みたいな言葉に、流石の私もカチンときた。

 

「そんなんやったら!轟くんに持ってかれるで!!あほ!!」

『なっ!!?紅白野郎は関係ねぇだろぉが!!』

「関係あるわ!!爆豪くんと違ぅて、轟くんは言葉にする大切さ、ちゃんと知っとるわ!!」

『んなっ、ことっ』

「なんも言わんでも分かって貰おうなんて甘い!!」

 

だから、私は声に出した。

 

「分かる事もあるかも知れん。━━けど、言わんと分からん事ばっかりやろ!」

 

だから、私は声に出したんや。

でも、届かんかった。

 

「━━それでも、伝わらん事だってあるんや!」

 

あの時、ニコちゃんのお陰で飯田くんに言葉を伝えられた。けど、結局飯田くんはあの場所で、あのヴィランと対峙していた。それが何を意味してるのか、分からん程お子様でもないつもりや。

 

ニコちゃんも、轟くんも、飯田くんも、爆豪くんも、あの事件について碌に話してくれんかった。

ようやく聞き出したそれも、嘘なんは直ぐに分かった。

 

本当の話を聞かなきゃいけないと思った。

知らなければいけないと思ったから。

私がしなきゃいけないこと、友達が背負ってるかもしれんと思ったから。

 

でも、ニコちゃんはそんな私に笑ってくれた。

何でもないって、大丈夫だって言ってくれた。

私の為に、嘘をついてくれた。

 

だから私は━━━

 

「爆豪くん、一つだけはっきりさせておくからね。私は、ニコちゃんの味方や。ニコちゃんが笑っていられるなら、それが間違った事でない限り、何処に行ったって応援する。全力で」

 

 

「そうして格好だけつけたいなら、いつまでもつけとったらええ。でもね、そんな爆豪くんの隣でニコちゃんが悲しむようになったら、その時は私が意地でも引き離すから」

 

 

「ニコちゃんの事、本当に大切にしたいんやったら、ちゃんと話し合って。ちゃんと爆豪くんの気持ち伝えて。それが出けんのやったら、私はもう爆豪くんの事、応援せんから」

 

 

━━━そう言うと爆豪くんは静かになった。

でもその静けさが、了承した物でない事はなんとなく分かった。

 

『━━━てめぇに、何が分かりやがる』

 

呟くように、けれどはっきりとした声が聞こえた。

どんな気持ちが込められているのか知らないけど、簡単に言えるような事じゃないのは分かった。

 

切れた電話を見ながら思う。

二人の間にある何か。

私に出来ることがなんなのか。

 

直ぐに答えは出せんとは思うけど、それでも考えていこうと思った。

 

それが、これからの私に最初に出来る、たった一つの事だと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーンと鳴った玄関へと行く。

待っているだけなのにドアの向こうはもう賑やかだった。ガサガサ音がなってる。きっとお菓子とかジュースとか、色々買ってきたんやろうと思う。

 

「お茶子ー!遊びましょー!」

 

元気な声に、私は笑顔を浮かべてドアを開いた。

 

「いらっしゃい!迷わんでようこれたね、ニコちゃん!」

 

大切な友達を迎え入れる為に。

 



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喧嘩するほど仲がいいというけれど、本気で喧嘩したことあればそうじゃ無いことくらい分かるよね?だってほら見て、私の手、貴方の事を殴りたくて、こんなに、震えてる!おらぁ!顔出せや!の巻き

疲れたァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
時間がねぇぇぇぇぇ!!!

ふぅ。
ああ、すっきりした(*´ー`*)

コメ返せなくてすわんやで。


日本全国津々浦々、何処を探してもナンバーワンである事が揺らがない美人過ぎる私は、皆の女神スーパーオフィサーエージェント緑谷双虎。花も恥じらう15歳、話題沸騰中な雄英高校の現役女子高生だ。

 

道を歩けば手を振られ、笑顔を向ければ黄色い悲鳴があがり、商店で買い物すればおまけを貰えるのは当たり前、ポイントだっていつでも三倍ブースト。

 

ガチャ爆死率の高さ以外ベリーイージーな人生を送るエンジェルな私は今、その人生において最大にして最悪の糞野郎と相対していた。

 

「何見てんだよ、爆発小僧・・・!」

「てめぇが見てんだろうが、馬鹿女ァ・・・!」

 

睨み合う私達の周りにピリピリとした空気が走る。

そこそこ混んでいる朝の電車内にも関わらず、私達の周りは一メートルくらい謎の空白地帯が存在していて誰も近寄ってこない。たまに人が紛れ込んでくるけど、直ぐに何処かへと行ってしまう。

それもこれも、私の前にいる爆発小僧が近寄り難い空気を出しているのが原因だ。なんて傍迷惑なやつ。足の親指の爪割れろ。

 

電車が緊急停車し、乗客全員が停車の揺れにバランスを崩す。かっちゃんも例に漏れずバランスを崩し、私の肩にその無駄に鍛えられた体をぶつけてきた。

 

「いったいでしょうが、ボケ。何処に目つけてんの?目玉働いてますか?それともなに?目玉の代わりに、ガラス玉でも入ってるんですかぁ?その二つの赤い奴、ガラス玉ですかぁ?・・・てか、触るな。雪のように白く美しい、私の自慢のピチピチお肌が汚れるでしょうが。はげさすぞ、この爆発頭」

「るっせぇぞ馬鹿女。てめぇがどけば済む話だろうが。てめぇのトロ臭さ棚上げして、寝惚けた事ほざいてんじゃねぇよ。━━そもそも自慢出来る程、なにが立派なんだ。俺にはなにも見えねぇなぁ・・・」

 

『お客様にお知らせ致します。ただいま◇◇◇駅、○○○駅区間の踏み切り内にて、ヴィランによるトラブルが発生致しまし━━━━』

 

アナウンスを合図に、私達は互いの胸ぐらを掴みあげた。

 

「上等だよ、買ってやるよ。通常価格で、そのやっすい喧嘩買ってやるよ。その節穴引っこ抜いて見通し良くしてやろうじゃん?ワタシヤサシイー」

「んだと、こらァ。やれるもんならやってみろや馬鹿女。五秒でぶちのめしてやる・・・!!」

 

『━━ええ、続いてお知らせ致します。車両内で喧嘩をしてる例の雄英バカップルに告ぐ。止めなさい、羨ましい』

 

「「誰がバカップルだぁ!!」」

 

 

 

かっちゃんパパによる送り迎え期間が終わった私は、以前のように電車通学の日々を送っていた。

そう。土曜日の一件以来、不倶戴天の敵と化したかっちゃんと、以前のように。

 

本当の所は一緒に登校するなんて御免被る。

だって斬って捨ててやるくらいに憎たらしいし、ぶっちゃけ顔も見たくない。脛とか蹴ってやりたい。飲み物に練りわさびとか入れてやりたい・・・話が逸れた。

兎に角、一緒に登校なんてしたくない。

 

けれど、一人で登校すると母様とか光己さんとかかっちゃんパパが心配するから、ムカつくけどこうして我慢してかっちゃんと一緒に登校してるのだ。我慢して。

そう、我慢して。私がね!

 

それなのに、朝から晩まで、この態度・・・。

ムカつく、超ムカつく。

超、超、超ぉぉぉーーームカつく。

 

 

周りに宥められて喧嘩せずに駅を降りると、かっちゃんは足早に私の前を歩き出す。

何となくその姿にムカついてかっちゃんを抜かせば、かっちゃんが無言で抜き返してきた。

 

「・・・なに?」

「はぁん?何がだよ・・・」

 

かっちゃんの目と私の目があった。

 

「・・・・」

「・・・・」

 

見つめあって数秒。

どちらともなく、私達は走り出していた。

 

「てめぇっ!!なに、走ってやがる!!」

「うっさいわ!!なに!?かっちゃんこそどうしたの!?なに走ってんの!?青春したいの?馬鹿じゃないの!!ねぇねぇ、恥ずかしくないの?恥ずかしくないの?」

「うるっせぇ!!恥ずかしいのはてめぇだろぅが!!スカートで走ってんじゃねぇ!!なに見せびらかしてんだ!!痴女かてめぇはよ!!」

「残念でしたぁ!!見せパンですぅ!!パンツじゃありませーん!!見せても大丈夫なやつだから、恥ずかしくありませーん!痴女じゃありませーん!そんな事も分からないんですかぁ!?これだから素人童貞は!!」

「誰が素人童貞だ、こらぁぁぁぁ!!」

 

デッドヒートの結果、校門を潜った瞬間はほぼ同時。

腹の立つことに決着はつかなかった。

かっちゃんめ、オリンピックも夢じゃない私の足についてくるとは小癪なりぃ。

 

靴箱で上履きに履き替え教室に行こうとしたら、また私はかっちゃんに抜かされた。

第二レースが始まったのは言うまでもない。

 

そして廊下を全力疾走していたのを包帯先生に見つかって、しこたま怒られたのも言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が言うのもなんやけど、そろそろ仲直りせぇへん?」

 

心安らぐお昼の時間。

食堂にてカツ丼にがっついていると、お茶子が口許にお米をつけた間抜けな顔で言ってきた。

目が真剣なだけに、凄く間抜けだった。

 

「お茶子。お米、ついてる。ここ」

「えっ!・・・ホンマや、あ、ありがと。うわぁぁー。私、今決めた感じやったのに、は、恥ずかしいぃ」

 

恥ずかしさから顔を隠すお茶子をよそに、その隣に座っていたあしどんが箸を向けてきた。

なんか唐揚げがついてる。

 

「そうだよニコ!いい加減仲直りしな!授業中も休み時間も、ずっとイガイガして!やきもきする!月曜からずっと・・・もう、一週間も終わるよ!」

 

あしどんがそう言うと、一緒にご飯を食べていた女子ーずが続いた。

 

「そうよ。何があったか、詳しくは知らないけど、爆豪ちゃんと仲直りした方が良いわ」

「そうだよー。二人がじゃれあってないのは見てて辛いよ。アオハルしてよー」

「そうですわ、緑谷さん。授業の妨げになるような行為、もうお止めください。例の夏休みの件も白紙になってしまいますわ」

「緑谷が一言謝れば全部丸く収まりそうじゃん。言っちゃいなって。爆豪、死ぬほどあんたに甘いから。一発だって」

 

おおぅ、皆して私を責めてくる。

それは、まぁ、授業中騒いだのは悪かったとは思うけど、でもそれは、かっちゃんが悪いのであって・・・と言った所で邪魔したことに変わりはないかぁ。はぁ。

 

「・・・でも、私は悪くないもん」

 

正直な気持ちを言うと、皆不思議な物を見る顔になって、それから話を聞いてくれる感じになった。

 

いつもなら脚色したり多少の嘘も交えて面白おかしく話す所なんだけど、そんな気分にならなかった私はあった事をそのまま話した。

 

最近かっちゃんが私に隠し事してる事とか、ヒーロー基礎学とかでやたらと邪魔してくる事とか、轟と話してると怒鳴ってくる事とか、轟母に会いにいくっていったら止められた事とか。

兎に角思い付いた事を、そのまま伝えた。

 

すると、女子ーずの表情は微妙な物になった。

 

「・・・ううん。なんてゆうか、爆豪くんは不器用過ぎるわ」

「ヒーロー基礎学のはあれでしょ?あれは、だってね、仕方ないっていうか・・・」

「けろっ。邪魔された扱いだったのね・・・不憫だわ」

 

おおぅ?不憫?

そんな話はしてないんだけど。

お茶子と耳郎ちゃんと梅雨ちゃんの不思議な会話に首を傾げていると、別の方からの不思議な会話が聞こえてきた。

 

「轟関連は・・・だってねぇ」

「私もそういった事にはあまり鋭くありませんが、それでも分かりますもの。警戒なさるのは当然のように思いますわ」

「ま、はっきりさせない爆豪くんが一番悪いんだけどね!」

 

葉隠の言葉に百とあしどんが顔を見合わせ、そして深い溜息をついた。

 

「葉隠、それは言っちゃ駄目なやつだ」

「それが出来てたら、こうはなりませんわね」

「ね?でしょ?」

 

なんだろか、皆それぞれ納得してる感じがする。

私悪くないのに・・・え?悪いの?私が悪いの?

 

気になって聞いてみたら、別に私は悪くないとの言葉を貰った。とはいえ、まったく非がないと言うわけでもないとも。

納得はいかなかったけど、皆からそう言われてしまえば私から言える事はない。事情を話した上でそう言われるなら、私にも悪い所があったのかも知れない。

 

・・・なんやかんや、ないとは思うけど。

 

 

 

 

それからも、私を交えた女子ーず達の話し合いは続き・・・・最終的には、次の女子会で食べたいお菓子がシュークリームに決まって終わった。

皆シュークリーム大好きだったみたいだ。

 

百の粋な計らいで今度の女子会に持ち込まれるであろう、八百万家御贔屓のシュークリーム。濃厚な味わいがある二種のクリーム。それを包むパイはサクサクのホロホロ。一口、それを口にすれば、天にも昇るほどの旨味が口一杯に広がるのだという。

 

今からとても楽しみである。

 

 

 

 

 

・・・あれ、何か、大切な事を忘れているような?あれ?

 



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もう閑話のタイトル思い付かないから、今日も今日とて適当につけるよ。『個人面談だよ、英雄出動』の閑話の巻き

オールマイトがーーーー閑話回に来たァ!!



「個人面談?」

 

相澤くんの突然の言葉に私は驚いた。

この時期やることは多い。授業参観の準備もそうだが、期末テストと期末試験の準備だってしなきゃいけない。正直別の事にかまけている時間はないというのに、態々時間を削るような行為をしようとするのは彼らしくないと思ったからだ。

 

「合理的が口癖の君が、またどうしたんだい?」

「合理があろうとなかろうと、必要であるならば実行する。当然の事でしょう。とはいえ、俺は担任としてやることが多いので、比較的『暇』なオールマイト『先生』にお願いしたいのですが、宜しいですか?」

 

なんだか言葉のはしはしに棘を感じる。

言いたい事が分かるだけに、ちょっと泣きそうだ。

マッスルフォームの時間が短くなって、最近ますます生徒達への指導が出来てないのは、私が一番分かってる事。

 

実際は書類を作ったり、提出物の管理をしたり、校長の話を聞いたり、色々とやることがあって完全に暇じゃないけど、こう言われたら頷くしかないのも悲しい私の現状だ。

 

私が頷くと相澤くんは一枚のプリントを手渡してきた。

手元にしたそれに視線を落とせば、彼の名前があった。

 

「爆豪少年・・・か」

「思うところがあったなら、それです」

 

確かに、最近の爆豪少年の姿には少し思う所があった。

ヒーロー基礎学でしか見てないが、最近の彼はいき過ぎていたから目についていたのだ。

 

「体育祭以降、かな?それまで以上に緑谷少女へ・・・その、なんて言うかな、過敏になったというか・・・」

「過保護、で十分です。いや、それ以前も過保護ではありましたが、程度というものを弁えていました」

 

溜息をついた相澤くんが続ける。

 

「入学当初より見てきた個人的な見解にはなりますが、爆豪は緑谷に対して劣等感を抱いていた節があります」

「劣等感、かい?似合わないな」

「それは俺も思います。━━ま、実際はそんな簡単な言葉で片付くような物でもないのかも知れませんが・・・。兎に角、それに近い感情を緑谷に抱いていた筈です。その事に対する焦燥や卑屈になっていた部分は授業態度や普段の姿から見てとれましたし、体育祭の騎馬戦で緑谷からハチマキを奪取した際分かりやすく喜んでいたのを見れば、そこまで的外れではないでしょう」

 

相変わらず、相澤くんはよく見てるな。

私普通に見てたよ。もう、観客の気分だった。

・・・恥ずかしい。

 

「・・・ん、しかし、それならもう大丈夫なんじゃないかな?劣等感から脱して━━━いや、そうか」

「ええ、騎馬戦での勝利、体育祭での優勝、加えて例の件での逮捕協力。それらの実績は、それまで抱えていた劣等感を払拭するに足り得る物だったのでしょう。それで自信を持って良い方向に進んでくれれば良かったのですが・・・・」

 

爆豪少年は確かな実績をつみ、今まで無かった自信を手にした。その自信という物はヒーローにならずとも社会に出る上で強い武器ではあるが、使い方を誤れば己すら傷つける諸刃の刃そのものでもある。

 

「自信が過信に、そして傲慢にか」

「あれぐらいの歳の頃には、誰にでもある事ですがね。本来なら爆豪程の才能があれば、ずっと以前にそうなっていてもおかしくない筈なんですが━━━そうはならなかった」

「良くも悪くも、緑谷少女が彼の前にいたのか」

「そういう事です」

 

こういう話を聞く度に彼女がその気になってくれれば、とそう思わずにはいられない。

現実は彼女は拒否の姿勢を崩さないが、やはり相応しいと思うから。

 

「個人面談の結果次第で、例の件オールマイトに一任しようと考えてますので、そのつもりで」

「ああ、そうか・・・心苦しいなぁ」

「そこは切り替えてやって下さい。いずれ彼等彼女等が社会に出た時、その経験は大きな武器になります。中途半端が一番為になりませんからね」

「はははっ、勿論だとも。やる以上は手を抜かないさ」

 

去っていく相澤くんの背中を見送り、私はプリントに書かれた面談対象となっている爆豪少年の名前に視線を落とした。

 

中々に気むずかしい子だ。

どう話したものか。

 

緑谷少女の話を出す━━━のは宜しくないだろうしなぁ。あの頃の少年は色恋だとかに過敏だし。

 

ふふ、しかし若いなぁ。

私が学生だった頃は時代が時代だったから、そういった事はあまり興味を持てなかったけど・・・それでも気になる子の一人二人いたものだ。なんと言ったかな?彼女は確か━━━━。

 

「━━━と、オールマイト。一つ伝える事を忘れていました」

「うわっ!?びっくりした!え、どうしたんだい、相澤くん?!」

「・・・何をそんなに慌てているんです?それよりも一つ伝え忘れていた事言いますよ。爆豪の自信の一つから『思ったより拗れちまった。なんとかしとけ、俊典』と」

 

・・・・・・・。

 

全てを理解した私は頭を抱えた。

 

「グラントリノ・・・それは、ないでしょう」

「週2で通ってるようですね」

「教育権剥奪されたって言ってたのに・・・」

「まぁ、公式な物でもないでしょうから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が━━━━お昼ご飯を携えて来た!」

 

お昼休み。

色々と話す内容を考えた私はA組の教室の扉を開いた。

殆どの生徒が食堂に行っているのか教室はがらんとしており、そこには爆豪少年の姿もなかった。

 

「・・・?オールマイトが何故この黄昏し祝福の時に」

「常闇少年!こんにちは!爆豪少年に少し話があって来たのだが━━━この様子だといないようだね?何処に行ったか分かるかな?」

「爆豪であれば、この時間は常に━━━そう言えば、最近は緑谷と共にいなかったな」

 

常闇少年の側で食事をとっていた障子少年が複製腕の口をこちらに向けた。

 

「オールマイト。爆豪なら切島らと共に中庭にいる筈だ。切島が購買でパンを買っていくと言ってたからな」

「そう言えば、そんな事を言っていたな・・・」

 

教室の二人に手を振り、私は中庭へと向かった。

途中多数の生徒に取り囲まれそうになるも、時間もあまりないのでスマイルと小粋なジョークで乗り切り中庭へのドアを開けた。

 

緑の芝生が敷かれたそこには小さい噴水を中心にベンチが並び、その周りを囲むように木々や茂みが見える。芝生で寝転ぶ者、ベンチにて友人と会話を楽しむ者、木陰で読書を楽しむ者など、それぞれのやり方で昼時を楽しむ生徒達の姿があった。

 

梅雨の中にあって、なかなかよい天候の今日。

日差しを浴びにくる者が多かったのか、中庭は盛況な様子。爆豪少年を探し見渡せば、直ぐに発見出来た。

なにせ、この麗らかな天候の下で、どんよりとした空気を漂わせていたのはそこだけだったから。

 

茂みに隠れたそこを覗けば、見るからに機嫌が悪そうな爆豪少年を中心とした切島少年達の姿があった。

 

「・・・なぁ、爆豪。何が原因か知らねぇけど、もう仲直りしろよ。もうなんつーかさ、見ててもどかしいっつーかよ。なんだろ、恥ずかしいからよ」

「・・・っせ、黙ってろ。爆殺すんぞ」

「おう、やれるもんならやってみろ。俺の硬化舐めんなよ。てか、そういうのが駄目なんだかんな?もうちょっと素直になってよー、こう、なんつーの?ああ!駄目だ!上手く言葉にならねぇ!こういう時、頭いいやつとか近くにいたらなぁ」

 

切島少年がぼやくと隣に座っていた瀬呂少年が焼きそばパンをくわえながら話し出す。

 

「ほっほふぇ、ほっほふぇ・・・。ふぁふふぁふぇ」

「瀬呂、口に物入れながら話すな」

 

尾白少年に嗜められ、瀬呂少年は口にあるそれを飲み込み話を再開する。

 

「言うだけ無駄だっつの。こいつの脳みそは鋼より固い何かで出来てんだからよ。柔軟性にとんだそんな事できっかよ。━━尾白先生ならもっと上手くやりそうだな。はい、お手本」

「どんな無茶ぶりだよ!って、切島も期待の目で見るなよ!・・・・まあ、俺なら素直に謝るけど?・・・コホン。その、わ、悪かったな、みど・・・馬鹿女。いつも素直になれないけど、本当はお前の事━━」

「はい、尾白先生のしょぱい物真似のお手本見させて貰ったし、爆豪リピートアフタミー」

「━━━わ、悪かったな!似てなくて!てか恥ずかしい思いしてや━━」

 

「んなだっせぇ事、誰がやるか!!死ね!!」

 

ダサいと切り捨てられた尾白少年が深く落ち込む。

尾白少年は全然悪くないので、そんなに落ち込まないで欲しい。

 

「爆豪がそれでいいならいいけどよ・・・マジな話仲直りしといた方が良いぞ?最近、轟と緑谷やけに仲良いじゃんか。今んとこなんもねぇけど、何が切っ掛けで面倒な事になっか分かんねぇぞ」

「まぁ、緑谷死ぬほどそういう方面鈍いから、当分は何もなさそうだけどな。そこんとこ、尾白先生はどう思う?」

「好きにしろよ・・・どうせ俺なんか・・・・・・仲直りでもなんでもさっさとやれよ。爆発馬鹿」

 

「尾白がきれた・・・!」

「尾白先生がきれた・・・!」

 

皆の言葉に爆豪少年は居心地が悪そうだ。

けれど、その意思に変わりはなさそうに見える。

何を口にするか見ていれば・・・。

 

「・・・るせっ、ほっとけ糞が」

 

うん、拗れてる。

凄く、拗れてる。

 

グラントリノ、何してくれたんですか。

 

・・・・はぁ。放って置いて大丈夫、とはいかなさそうだ。ここは私も腹を括るしかないか。

 

「私が━━━━茂みを突き破り来た!!!」

 

「「「うわっ!!??」」」

 

突然の私の登場に爆豪少年以外の生徒達が驚愕する。

それに反して驚きの少ない爆豪少年は、恐らく私の存在に気づいていたのだろう。

 

グラントリノが才能があるといい、そして好んで研ぎ澄ましただけの事はある。

これは自信を持っても仕方ないか。

 

「楽しい休み時間に水を差して済まない。少し爆豪くんに教師として用事があってね」

「ああん?んだ、オールマイト」

 

私を睨む爆豪少年に、大人の威厳全開で伝える。

伸ばした手に思いを込めて。

彼を見つめる瞳に力を込めて。

 

 

「来て貰おう、爆豪少年!個人面談の時間だ!!」

 



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はーい、今日もなんとなく閑話のサブタイをつけてくよー『英雄と卵』の閑話の巻き

前書きにかくこと無くなってきたぁ!
おいらの引き出し、もうからっぽよ!

どないしよー(/≧◇≦\)



今夜、ワニ肉焼くで。


個人面談の為に仮眠室へと連れてきた爆豪少年は、特に何か言うこともなく大人しくソファーへと腰を落とした。

 

こうして面と向かって話すのは何度めになるか・・・彼とはこうして話してばかりだ。

もっと普通の教師として接してやりたいとは思うが、中々上手くはいかないな。

 

お茶を用意しようとした私に爆豪少年は手を翳し制止してくる。お茶はいらないから話を進めろということだろう。

ぶっちゃけ私が欲しかったのだが、いや、まぁ、我慢しよう。

 

爆豪少年の対面に座り、私はことの本題に触れた。

今回呼び出したその理由について。

 

「今回の個人面談。頭の回る君なら分かるのじゃないかな?だから何も言わずに来たのだろう?」

「・・・・」

 

何も返事はないが、その表情から理解はしているようだ。それならば何故と思わなくもないが、感情というものは時に手がつけられない怪物だ。分かっていても止まれない時もある。

 

「今回君を呼んだのは最近の君の行動についてだ。最近の君の緑谷少女に対する態度は少々度が過ぎている。特にヒーロー基礎学での君の行動は顕著だ。不必要に彼女を庇いすぎだ。それで防げた怪我があるのは事実だが、その大半が彼女の行動を著しく制限させてしまっている。分かるね、邪魔しているんだ」

 

その言葉に爆豪少年は眉間の皺を深くした。

自覚はあるようで何よりだ。

 

「あげれば切りはないが・・・例を一つあげるなら、つい先日行ったチーム対抗の模擬戦闘だ。君は作戦を無視してまで彼女を庇いに行ったね。状況から見て彼女一人でも十分対処出来た筈だ。無傷とまではいかなかったも知れないが、それでも君が与えられていた役割を捨ててまで庇うほどの事じゃない」

 

一人の男として、と考えれば好ましい行動ではあった。

だが、ヒーローとしては褒めるわけにはいかない。

 

「訓練だから良かったものの、あれが実戦であれば君の穴が新たな危険を呼んだ可能性もある。ヒーローを目指すのであれば、あれは絶対にやってはいけない事だ。常にクレバーにだ。そうでなければヒーローは務まらない」

「分かってるわ・・・もういいか」

 

分かっていると言った彼の顔を見て、嘘はついていないのが分かる。もっとも、その言葉に従うかは別だろう。

分かっていても止められないとなれば、もうそれは理性ではなく感情の問題なのだろう。

 

説得で済めば良かったが、そうはいかないらしい。

 

私は冷蔵庫に閉まってある私のスポーツドリンクを二本手にし、一本を彼の前においた。お茶を入れてるとその間に逃げられそうだったので、これはその代役だ。

 

「んの、つもりだ。オールマイト。話終ったんだろ」

「まぁまぁ、そう言わずに。ここからは説教は無しだ。飲み物を飲みながら少しお話しよう。オフレコというやつさ」

「・・・ちっ」

 

忌々しそうに舌打ちした爆豪少年はドリンクを手にした。

 

私は爆豪少年がドリンクへ意識が集中してる間に、冷蔵庫脇に置いておいたメモを手にした。これは、こんな時の為に作っておいた『すごいバカでも先生になれる!教育者に大切な108の法則』で特に勉強になると思った一節をメモした名言カンニングペーパーだ。

 

あら不思議。これさえあれば新米教師でしかない私も、今から一流教師に早変わり・・・だったらいいんだけど。

・・・いや、大丈夫だ。出来るさ。やるんだ、八木俊典!頑張れ、私!!

 

「オールマイト?何してんだ」

「━━━っ!?ん??いや、何でもないさ。少しボーッとしててね!体の調子があまり良くなくてね!HAHAHA!」

「・・・だったら寝てろや」

「ぬぐっ!?いや、まぁ、私も教師。そう易々と学校を休むわけにはいかないのさ!」

 

危なかった。

そう言えば、怪我のことは彼にも教えていたんだった。

体の調子が悪いなんて言えば心配されるのは道理だな。

 

しかし、相変わらず素直でないな。

 

こうして人の心配は出来ると言うのに、その言葉の荒さで大分損をしている事だろう。優しさの形も人それぞれなのだろうが、これは何ともなぁ。

 

メモを自分だけに見えるように持ち、先程の同じように爆豪少年の前へと座る。

そして手元のメモを確認した。

 

『生徒の顔色を窺うことなかれ。されど、生徒が興味を示さない会話は最低限避けよ。理解される努力はすべし』

 

成る程。

そうなると、やはりヒーローに関しての話・・・。

 

「━━━えっと、そうだ、最近グラントリノの所で戦闘訓練をしていると聞いたんだが、どうかなその調子は?」

「はぁ?どうもこうもねぇ。別に普通だ」

「普通か。ほら、前に言ったろ?私もお世話になったと。私もあの方に若い頃よく戦闘訓練して頂いてたんだ。だから気になってね」

 

そう言うと少し興味が湧いたのか、爆豪少年の目が私を見た。前に緑谷少女から、爆豪少年は私のファンであると聞いていたから、興味を持つかと思ったけど・・・。

これは思った以上に有効なのかも知れない。

 

「よく殴られたよ。もう、あれだ、ボコボコというやつさ。私も若かった。あの頃は自分の力に振り回されてばかりでずっと弱かった。器用に動くグラントリノに翻弄されまくったね」

「あんたにも、そんな時期あったのかよ」

「そりゃね。最初からナンバーワンヒーローという訳じゃないさ。私も一つ一つ積み上げてきたんだよ。気が遠くなるほど努力して戦って、気がついた時にはここにいた」

「オールマイトも・・・」

 

うんうん。

少年らしい顔も出来るじゃないか。

 

それから爆豪少年が興味を持ちそうな全盛期の頃やアメリカでのデビュー当時の話をした。これからヒーローになる彼にとって、興味はつきない話題だろう。

話題が進むにつれ少しずつ緊張が解け、爆豪少年の顔に余裕が戻っていく。

 

爆豪少年の顔色と残り時間を確認し、もう一度あの話に踏み込めるとふんだ私は、再度その話に触れる事にした。

 

話の切り出しについてメモがあった筈だと、爆豪少年から少し目を逸らし、手元にあるメモを確認する。

 

『否定よりまず肯定を。正すのはそれからでも遅くはない』

 

うん、成る程。

 

「・・・さて、色々話したけどね、私にも君と同じように若い頃はあった。だからね、爆豪少年の気持ちは分かる。私もね、君と同じような時期があったんだ」

 

私の話の質が変わったのを察して、爆豪少年の顔から先程までの表情が消えた。早かったかと思わないでもないが、時間もない。

 

「だからね━━━」

「オールマイト。なにか言いてぇなら、あんたの言葉で言ってくれ」

 

私の言葉を遮るように、爆豪少年が声を掛けてきた。

見抜かれていた事を恥ずかしく思うより、爆豪少年のその真剣な表情に情けなく思った。

だから、本音を口にすることにした。

 

「━━━爆豪少年。ならば言わせて貰う。君は何がそんなに怖いんだ。何がそんなに気にいらない。君を突き動かすのは、恋だの友情だのではないだろ。私には分かる。君はある意味で、彼女以上に何かに恐怖している。そして憤っている。それはなんだ?」

 

ずっと感じていた。

表情には表れなくても、言葉に出さなくても。

私はずっとそれを助け、ずっとそれと戦ってきたのだ。

 

「・・・ガキの頃から、助けんのはあいつだった」

 

呟いた言葉は酷く弱かった。

普段欠片も見せないそれが、私の目の前に落ちた。

 

「ずっと、そうだった。あいつは馬鹿だからよ。いつも、誰かを助けようとしやがる」

 

 

 

「理由なんざ、ついでみてぇなもんだ。何を言ったって、あいつはそういう奴なんだよ。いつも誰かの為に戦ってやがる。止めたって聞かねぇ」

 

 

 

「俺は、いつも、間に合わねぇ・・・」

 

 

 

「俺はいつも、間に合わなかったんだよ。オールマイト」

 

 

 

「馬鹿やるあいつを、俺は、後から知るんだ。後から見るんだよ。あいつがビビりだって、俺は知ってんのによ━━━━」

 

 

爆豪少年の拳がテーブルを叩いた。

苛立ち、焦り、悔しさ。

表情を見なくても、それが分かった。

 

「決めたんだよ、俺は!!ナンバーワンヒーローに、あんた、みたいになるってよ!!けどっ!!助けんのは、いつも俺じゃねぇ!!あいつなんだよ!!」

 

 

「守ってやんなきゃなんねぇのに!!そうするって、てめぇで決めたのに!!俺はっ、いつもそうだ!!間に合わねぇ!!守られた時すらあんのによ!!」

 

 

「紅白野郎ん時もそうだ!!俺が気づいてたのに、結局俺は何も出来てねぇ!あいつにやらせちまった!あいつに助けさせたんだよ!!ヒーロー殺しの時だってそうだ!!」

 

 

爆豪少年は立ち上がった。

浮かべたその表情は怒り。

他人にはではない、己に対してだ。

 

「あんたに何言われようと、俺は止めねぇ。やっと届くようになったんだ、やっと・・・!」

「爆豪少年━━━!!」

「文句は言わさねぇ!USJん時も、ヒーロー殺しん時も、あいつが生きてたのは運が良かっただけだ!!ほんの少しのボタンのかけ違えで、あいつは死んでんだ!!」

 

相澤くんの予想はある意味で当たっていたが、その本質は別の所にあったようだ。

ただの劣等感などではない。

 

自信を持ったから?

過信してしまったから?

違う。

 

燻らせてきた思いは、ただ一重に━━━

 

 

「俺はヒーローになんだよ!!邪魔すんな!!」

 

 

駆けるように部屋を出ていった爆豪少年の後ろ姿を見ながら、私は眉間を指で摘まんだ。

 

ここまで拗れているとは思わなかった。

長い付き合いがあれば、それだけ抱く感情は複雑になっていくものだが・・・ここまでとは。

仲良しに見えていたが、お互い見ている物も感じていた物も別だったようだ。

 

彼女は言った。

自分の周りの者を助けられれば良いと。

 

彼も彼女と同じように彼女を思っているのに、どうしてここまで違うのか。

守りたい者同士なのに、どうしてこうも目線が違うのか。

 

 

「・・・これは話し合いどうこうで導ける物ではないな」

 

 

お互い向き合わなければ話にならない。

どちらかではない。

どちらもだ。

 

 

「となると、やはりそうなるか。荒療治にはなるが仕方あるまい」

 

 

私は相澤くんに報告に行くために部屋を出た。

直ぐに伝えなくてならないから。

 

彼に、私が━━━━出ると。

 



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弱ってる時は甘い物!だから沢山お土産買ってきたよ!カステラでしょ、チョコでしょ━━え、なに?安っぽいって?そりゃ、スーパーで安売りしてた切り落とし品とかだし!何?文句でも?質より量でしょうが!!の巻き

轟のターンがきたぜ( *・ω・)ノ

歓喜せよぉー(ノ*´ω`*)ノ


かっちゃんと仲直りしないまま結局日曜日。

私は一人待ち合わせ場所に向かっていた。

ガタガタ揺れる電車の中で不意にガラスに映る私は・・・なんか、ちょっと疲れて見える。

 

あれからイタ電してないせいで、どうも調子が悪い。

具体的にいうと、寝起きが悪かったり、肌艶が悪かったり、ご飯が美味しくなかったり、そんな感じだ。

 

むむ、無性にイタ電したくてたまらない。二時頃イタ電したくてたまらない。もう今からでもいいから、意味のない電話したい。

 

でも、ここでイタ電してしまえば、きっとなぁなぁになる。いつもなら別に良いけど、何となく今回は嫌なので、かっちゃんが土下座しながらシュークリームを献上してこない限りは許さない所存なのだ。ケーキつけたら、殴るのもチャラにしていい。ホールのみだけど。

 

て言うか、その分寝てるのに体調悪いとはこれいかに。

くそぅ、くそかっちゃんめ。

 

昨日やったガチャが爆死したのも、昨日母様に朝から晩までお買い物付き合わされたのも、昨日のお昼に母様に奢って貰ったハンバーガーに抜いた筈のピクルスが入ってたのも、お気に入りのCD踏み割ったのも、包帯先生に叱られたのも、着ようと思ってた服に虫食いがあったのも、皆かっちゃんのせいだ。

 

「はぁ」

 

とは思っても、そうやって文句の言える奴は側にいない。それが、少しだけ寂しい・・・かも知れない。いや、やっぱり、そんな事ないな。せいせいする。いちいち怒鳴るから耳が痛いもんね。うんうん。

 

・・・はぁ。

 

思えば、こうしてかっちゃんと険悪になったのは中学に入りたての頃以来だったな。

あの時は確か・・・ああ、落ちてるエロ本をかっちゃんの机に差し込んでおいた時か。あれは流石に私が謝ったっけ。

いや、その日の内に手荷物検査あるとは思わないじゃない?ねぇ?

 

「行くとこあるって言ってたけど、今頃何処にいんだろ・・・」

 

流れる景色を見ながら、何となくそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせの駅につくと、普段着の轟がいた。

肩掛けのバックと腕時計以外の装飾はなく、薄手の黒の上着、白のシャツとジーパンでシンプルにまとめた感じだ。らしいっちゃ、らしい。

 

手を上げて挨拶すれば、「おう」といつもながらやる気のない返事が返ってきた。

 

「遅れるかと思ったけど、大丈夫だったな」

「ぬぅなにぃ?私が寝坊するとでも?」

「いや。普通に迷うと思った。初めて来る場所だろうしな」

 

まぁ、それは分かる。

スマホのナビ様がいなかったら、迷ってる自信はある。

 

「それにしても、普段そういうの着るんだな?」

 

そう言われて私は自分の姿を見直した。

今日はよそ様と会うのでちょっとお洒落にしている。

とは言ってもそんなに沢山服持ってるわけではないので、タンスの底で眠ってた白のワンピに、タンスの住人と化していたデニムシャツを合わせた適当コーデだけど。・・・バッグなんか、お気にってだけでにゃんこ柄のリュックしてる始末。コーデも糞もないよね。

 

ま、それでも可愛く仕上がっちゃう訳だけども!

 

「可愛かろう?」

「・・・ああ。イメージと違うけどな」

 

おお?素直に褒めたのは得点高いぞ、天然王子。

しかし、イメージとな?

 

「私のイメージってどんな?」

「パーカーとか着てそうだと、思ってな」

「うん、まぁ、着てるけど」

 

つい昨日母様と買い物中、にゃんこポンチョ買った所で、にゃんこパーカー買ったばっかりだし。

私のにゃんこグッズがいま熱いんだよね。

いい店見つけたぜぇ。後でかっちゃんを連れていかねば━━━後で。

 

轟と適当にお喋りしながら歩いて、バスに乗って暫く。

轟母の入院してる病院についた。

大きめの病院で外装は小綺麗。

なんかお高い臭いがする。

 

轟母が入ってる病棟はやっぱり少し特別みたいで、色々と手続きが多かった。殆んど轟にやって貰ったので大変ではなかったけど。

 

それよりも看護師のおばさんに何度も顔を見られたり、ナースステーションにいた全員の看護師に顔見られたりしたのが何だったのか聞きたい。

あれか、セキュリティー的な、あれか?うん?

 

手続きも済んで轟についていく。

のんびりとした歩みが、ある病室の前で止まった。

見れば轟冷というプレートがついてる。

 

「ここ?」

「ああ。話してあるけど、取り敢えず俺から入る。呼んだら入ってきてくれ」

「うん、了解」

 

私の返事を聞いた轟はドアをノックし、中へと入っていった。

 

待ってる間スマホの画面を使って髪型とかをセットし直しておく。あまり崩れてはいない。てか、ポニーだし。そうそう崩れないけども。

てか、あれだな。改めてみると私、超可愛い。なんだこれ、天使じゃないか。これはヤバイな。これは来る途中、何人か落としてるな。間違いない。

 

憐れな子羊達に黙祷を捧げていると轟に名前を呼ばれた。入ってきて良いぞの合図だ。

 

ノックを一つと失礼しますの一声を掛けてドアを開ける。ドアを開いた先には轟と、白っぽい髪の綺麗な女の人がいた。母様と違って痩せていた。

 

私の視線にその人が笑顔を返してくる。

 

「初めまして、緑谷双虎ちゃん。お話し、焦凍から聞いてるわ。私は轟焦凍の・・・・」

「お母さんだ」

「・・・ありがとう、焦凍。轟焦凍の母、轟冷です。今日は遠い所、会いに来てくれてありがとう。何もない所だけど、ゆっくりしていって頂戴ね」

 

轟母の穏やかな表情を見て、隣で分かりづらい笑みを浮かべる轟を見て、私も笑顔を返しておく。

堅苦しくしなくて良さそうなら、いつも通りするだけだ。

 

「初めまして!私、紅白━━━轟焦凍くんのベストフレンドやってます、緑谷双虎です!学校では軽くアイドル的存在です!にゃは!」

 

「まぁ、アイドルさんなのねぇ」

「お母さん、冗談だから」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

焦凍が病院にお見舞いに来るようになってから、度々その名前を聞いていた。

焦凍がここに来る決心をつける切っ掛けになった、その子の名前を。

 

緑谷双虎。

 

虎という漢字から、もしかしたら男の子なのかも知れないなんて思った事もあったけど、今日目の前に現れた子は可愛い女の子だった。

 

少しびっくりしたけど、それよりもびっくりしたのは彼女を見る焦凍の横顔。

 

とても優しい顔をしてる。

勿論優しいだけじゃない、私には見せない男の子の顔。

 

こういう顔を見ると、この子の時間がどれだけ進んでしまったのかを感じる。焦凍達と家族として一緒に過ごせなかった事に、胸が痛くなる。

それは自分の弱さのせい。文句は言えない。

 

けれど、どうしても思ってしまう。

あの時、どうして踏み止まれなかったかと。

 

そうしたら、きっと苦しい事ばかりじゃなかった。

焦凍だけじゃない、あの子達の成長もきっと見れた。学校でどんな事をしたとか、好きな子が出来たとか・・・沢山楽しい時間があった筈なのに。

それなのに、私は━━━━。

 

「レーちゃん、レーちゃん」

 

気がつくと私の顔を覗き込むように、不思議そうな顔した双虎ちゃんがいた。

 

「どうしたの?」

「あっ、やっぱり聞いてない!レーちゃん轟そっくり!ポヤポヤし過ぎですよー!ま、いっか。それよりほらほら、見て見て。爆笑ですよ!紅白饅頭が無表情でくしゃみしてる所」

「器用な事出来るのね、焦凍」

 

「おい、緑谷。ちょっとこっちこい」

 

焦凍に猫みたいに掴まれて部屋の端っこ行く双虎ちゃん。焦凍の影からこっちを見て、親指をぐっと立ててくる。

 

どういう意味か考えていると、直ぐ側のテーブルからガヤガヤとした音が聞こえてきた。ふと目を向ければ、双虎ちゃんのスマホに映像が流れている。

先生には禁止されているけど少しならと思い手にとって見てみる。そこには学校での焦凍の姿があった。

 

双虎ちゃんの元気な声。

あいそのない焦凍の声。

さっき言われた画像だったみたいで、本当に焦凍が無表情でくしゃみしていた。

画像から流れてくる楽しげな笑い声に、私も思わず笑ってしまう。

 

「━━━な、お母さん!それ」

 

焦凍が少し焦った様子で戻ってきた。

スマホを持っているせいか、それとも画像を見てしまったせいか分からないけれど、見たことのない焦凍の姿に笑いが溢れてしまう。

 

「見た見た?!爆笑ですよね!」

「緑谷━━━!!」

「うわっ!?紅白饅頭が怒った!!」

「当たり前だ!携帯は駄目だっていったろ!」

「携帯じゃなくて、ネット情報得られる電子機器全般が駄目なんでしょ?でもさ、紅白饅頭の画像だけなら良くない?レーちゃんもみたいよ、きっと。ねぇーレーちゃん?」

「そのレーちゃんも止めろ」

「えぇーーレーちゃんが良いっていうからぁ」

 

双虎ちゃんの助けを求める目が私に向いた。

焦凍はそれとは逆の目。

ふふ、どうしようかしら。

 

「━━━良いわよ、レーちゃんで。なんだか歳まで若返った気分になるもの。それと、他にもあるなら焦凍の姿みてみたいわ」

 

私がそう言うと、焦凍が眉間に皺を寄せて双虎ちゃんを見た。それを見て、双虎ちゃんは鬼の首でもとったかのような余裕の笑みを浮かべる。

 

焦凍をハエでも追い払うように押し退け、双虎ちゃんは私の前にきてスマホを指差した。

 

「他にも色々ありますけど、良かったらそれあげますから後でゆっくり見てください。紅白饅頭の画像入れといたんで」

「え、それは良いわよ。高いんでしょ、これ。それに私には━━━」

「さっき言いそびれてたんですけど、それスマホじゃないです。嘘スマホなんですよ」

「嘘スマホ?」

 

私の疑問を口にすると、双虎ちゃんはそれを私の手の中からとっていじり始めた。

そして画面を見せてくる。

 

「・・・冬美のスマホと違って、なんかシンプルねぇ。アイコン、っていうんでしょ?このマークの所。冬美のは一杯あったわ」

「実はこれ、タッチできませーん」

「あ、本当」

 

何でも双虎ちゃんが言うには友人といったゲームセンターで手に入れたパチモノで、メモリーカードに入った画像とか音楽しか再生出来ない物らしい。

 

「最初これをUFOキャッチーで落とした時、死ぬほど喜んだのに・・・とんだ食わせ物でした。むかつくから腹いせにぶっ壊そうとしましたけど、頑張ってとったからそれも出来なくて・・・使おうとするとあの悪夢が甦るし・・・どうしようかと」

「そうなの?でも、ただで貰うような物じゃないわ」

 

断ろうとしたけど、双虎ちゃんはそれを私の手に握らせてきた。

 

「今日お土産持ってきてないんで、それで一つ手を打って下さい!ご勘弁を!」

 

お願いにもならないお願い。

けれど双虎ちゃんの表情を見れば、もうそれ以上断れなかった。

頷いた私に双虎ちゃんの笑い声が聞こえてくる。イタズラが成功したような、子供のような笑い声が。

 

「いらない物押し付けた訳じゃ、ないんだな?」

「━━━━さぁ、今日はいい天気だねぇ」

「誤魔化しかたくらい考えておけ」

 

焦凍に掴まって怒られる双虎ちゃんを横目に、手にしたそれを動かしてみた。

ボタンを動かすと焦凍の姿が沢山あった。

どれも同じ様な顔。

 

でも、私の知らない顔ばかり。

私の知りたかった姿ばかり。

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

そっと心の中で彼女に伝えた。心を込めて。

きっと面と向かっては受け取ってくれないから。

私にとって特別でも、彼女にとってこれは特別じゃないから。

 

私にもそうであって欲しくて。

態々、こんな渡し方をしたのだろうから。

 

 

 

 

 

私はそれを胸に抱え、二人の姿を見た。

楽しそうに話す、その二人の姿を。

 

そして唐突に思った。

 

「その紅白饅頭というのは、焦凍の学校での渾名なの?」

「はい!そうです!皆呼んでます!」

 

「しれっと嘘つくな。お母さん、冗談だから」

 

ふふ、分かってるわ。焦凍。

 

ふふふ。

 



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はいはい、閑話の時間だよ『六月に降る夕時雨』の閑話巻き

わにな、うん、あれだ、筋張ってた。
鶏肉とはなんか、違うわ。


うん、結論。
食えなくはないけど、もう一回食おうとは思わない。
そんな味やったで。

普通に牛肉買うわ。


「あーーー!ちょっと、待ってっ!乗ります乗ります!!乗りますってば!!」

 

全力疾走しながら手を振った私に気づいて、出発仕掛けていたバスが停まる。プシューという音と共に開いた扉。

慌てて駆け込むと運転手のおじさんに「危ないよ」と優しくお説教されてしまう。

 

申し訳ない気持ちと共に空いてる席について自分の時計を見た。

 

「着く頃には五時過ぎちゃうかなぁ。はぁ、まいったなぁ」

 

本当なら焦凍と一緒にお見舞いにいく筈だった。

噂の緑谷さんの顔も見れると楽しみにしていたのに、こんな日に限って作っていた書類に不備を見つけて、一日掛かりで直す羽目になるなんて思わなかった。

明日の提出だからやらない訳にはいかないし・・・はぁ。

 

「帰っちゃったかなぁ、緑谷さん」

 

 

 

 

バスに揺られる事暫く。

お母さんの入院してる病院へと着いた。

流石に病院内は走る訳にはいかず、早足でお母さんの病室へと向かった。

いつものナースステーションに着くと、直ぐに看護師さん達に捕まった。

 

「冬美さん!今日、焦凍くん彼女連れてきたわよ!!」

 

か、彼女!?

いつの間にそんな、人が!?

それより緑谷さんを連れてくるんじゃなかったの?!

 

「こう、ポニーテールのー」

「モデルさんみたいなの!綺麗だったわよ!」

「おっぱいもあったわね」

「あらあら、焦凍くんも男の子ねぇ」

「緑・・・なんとかさんとか、なんとか?」

 

そこまで聞いて誰の事か分かった。

 

「もしかして、緑谷双虎さんって子じゃありませんでした?」

 

私の言葉に看護師達が確かめるように見つめ合い、皆で頷いてきた。やっぱり。

 

「冬美さんもご存知だったのねぇ」

「ええ、まぁ。とはいえは弟から話を聞くばかりで、実際に会った事はなかったんですけど・・・」

「そうだったのね」

 

看護師さん達は私があまり詳しく知らないと察したのか、さっさと仕事に戻っていった。

残った受付の看護師さんに手続きをしてもらいながら話を聞くと、緑谷さんはもう帰ってしまったみたいで残念に思った。焦凍が遅くなるといけないからと、日が暮れる前に付き添って帰ったらしい。

 

弟、紳士な事出来るのね。

お姉ちゃん、初めて知ったわ。

 

「それにしても元気な子だったわよ。冷さんもいつになく嬉しそうに笑ってたし・・・彼女じゃないなんて勿体ないわねぇ。あら、ごめんなさいね。おばさんの独り言だから気にしないで」

「い、いえ。それより、母がですか?」

 

母は感情をあまり顔に出さない人だ。

どちらかと言えば内向的で、だからこそ苦しくても限界まで何も言えなくて、最後には病院に入る事にもなった。

 

そんな母が、傍目から見ても嬉しそうにしていた。

それは多分滅多に見られない姿だ。

 

「あの顔は・・・冬美さんが来たての頃よくしてたわね。あー、勿論、冬美さんが来るのは今でも嬉しいと思うわよ?でもね、人は良くも悪くも慣れるものだからね」

「あ、いえ、気にしてません。そうですか、母が」

 

手続きを済ませて母の部屋に着くと、聞きなれない音が聞こえてきた。それは母のでない、人の声。

 

母の部屋にはパソコンどころか携帯も、テレビやラジオすらない。そういったものから父の姿や声が聞こえただけで、最初の頃パニックになっていたからそういう処置になってると聞いている。

だから、母以外の声が聞こえてくるのは面会がない以上、有り得ない話なのだ。音楽の可能性もなくもないけど、母はクラッシックみたいな物を好むからそれもない。

 

「お母さん、入るよ?」

 

そう一声掛けて戸を開けるとスマホのような物を楽しげに見つめる母の姿があった。

集中していたのか直ぐに私に気づかなかった母だったけど、何かを察したのかこちらを見た。

 

「・・・あら、冬美。また来てくれたのね」

 

そう言って笑う母の顔はいつもより柔らかかった。

 

「それ、大丈夫なの?」

「ふふ、私もスマホ始めたの」

「始めたって、でも」

 

何とかして取り上げようとしたけど、そんな私を見て母はおかしそうにクスクス笑った。

 

「嘘。これね、再生機なのよ。メモリーカードに入ってる物しか見れないの。ちゃんと先生にも許可を貰って、良いって言って貰えたわ」

「再生機?」

「貴女も見てみる?」

 

そっと差し出されたそれに視線を落とす。

そこには何処かの教室と焦凍の姿があった。

それも、随分と間抜けな姿の。

 

なんか、チョンマゲ作られてた。

可愛いシュシュまで付けられて。

しかも、焦凍何故か為されるままで、その上無表情。

 

なにこれ・・・。

 

「イジメ・・・!?」

「でも楽しそうよ?」

「撮ってる人はね!?」

「そんな事ないわよ?とっても楽しそう」

「そう!?」

 

どう見ても、イジメにしか見えないんだけど!?

私のクラスでもそういうのがボチボチ顔を出してきて、いよいよ大変だから分かるんだよ!

 

けれど、母にはそれが楽しそうに見えるみたいで嬉しそうに笑っている。

 

「冬美。あの子、随分と変わったのね」

「え、ああ、うん。お母さんが最後に会ったのはずっと前だしね」

「昔はよく笑って、よく泣く子だったのに。今はどちらも見えにくくなってしまって」

「そう、だね・・・」

 

焦凍の顔から感情が薄れていったのは、母がいなくなってからだ。それまで当たり前のように浮かべていた笑顔も泣き顔も、私は見なくなってしまった。ただひたすら、父を憎むような目で見るばかりで。

 

「でもね、あの子もまた変わったみたいなの。冬美が話すような、そんな子じゃなくなったの」

「え・・・?」

「母親として、私は失格だけどね、ちゃんと分かる。ここに映ってる焦凍が楽しそうなのは。こんな事言える立場じゃないけど、ちゃんと見てあげて冬美。今あの子の側にいられるのは、あの子の事ちゃんと分かってあげられるのは、ずっと支えてた貴女なんだから」

 

そう言われてもう一度画像を見た。

じっと見て、そして気づいた。

目が違っていた。仕草も、声も、見れば見るほど、聞けば聞くほど、以前とは比べ物にならないくらい明るくなっていた。

 

反応は薄いし、凄く分かりにくいけど、確かに焦凍は楽しそうに笑っていた。

 

「━━━━っ、あぁ」

 

頬に熱いものが、伝った。

それは次から次へと止まらなくて。

視界がぼやけていった。

 

「冬美、おいで」

 

そっと包まれた温もりに、もっと涙は零れていった。

ずっと、不安だった。苦しかった。悲しかった。悔しかった。

姉として、あの子に何もしてやれない事。

お母さんの、苦しさに気づいてあげられなかった事。

違う、気づいていないふりしていた事。

 

ずっと後悔してた。

 

見てるだけで、何もしなかった事。

子供だったからと皆慰めてくれる。

けれど、それは違う。

 

子供にだって出来た事はある筈だ。

立ち向かうなんて事じゃなくていい、声をあげるだけでも良かった。

誰かに助けを求める事だって。

 

でも私は、何もしなかった。

全部が終わるまで、見ていただけ。

 

「ごめんなさい・・・!お母さん、私っ、あの、時なにも、出来なくてっ!怖くて、でも、わかってて、なのに、私はっ・・・!」

 

思ったように言葉が出ていかない。

声が枯れた訳じゃないのに、声が掠れてしまう。

もう、涙で前が見えない。

 

そんな私の頭を母の少し冷たい手が撫でた。

優しく、労るように。

 

「いいの。貴女が謝ることなんて何にもない。それよりも、頑張ってくれてありがとう。沢山、頑張ってくれてありがとう。・・・こんな私じゃ、皆の支えになってあげられない。だから、あの子達の事、あの人の事、これからもお願いね」

「うん・・・、うん」

「ごめんね、冬美。貴女ばかりにお願いして。辛いこと沢山させて。ごめんね」

 

それからどれくらいそうしていたのか、気がついたら面会終了のアナウンスが流れ始めていた。

急かされるように部屋を出ると、「待って」と声が掛かった。

 

「━━どうしたの、お母さん」

「こっちにきて」

 

言われるまま母の側にいくと、手を引っ張られた。

しゃがめと言っている感じに、私は言われるとおり腰を落とした。

 

すると母が私のおでこに自分のおでこをつけてきた。

ひんやりとしてる。

 

「おまじない」

「おまじない?」

「そう。これからの貴女に沢山の幸せがありますようにって。昔読んだ小説にそんなのがあったの」

「信じてるんだ、お母さん可愛い」

「ふふ。気を付けて帰ってね。またね」

 

母と別れた私はバスに乗り込み帰路についた。

いつも見る夜景に変わりはないのに、何処かその日は明るく見えて家に帰るのが少し楽しみだった。

 

「お嬢さん、今日は随分と良い顔してるね」

 

声に振り返ると、最近この時間いつも同じ場所に座ってるお婆さんがいた。

 

「こんばんは、お見舞い、ですか?」

「爺さんが煩くてね。あれが欲しい、これが欲しい。しまいにゃ私に泊まれとさ。嫌だって言ってやったんだよ。さっさと、退院しやがれってねぇ」

「お元気そうで何よりですね」

「そういうあんたは、ずっと暗い顔してたろ。少しはよくなったのかい?」

 

そんなに深刻な顔をしていたのかと、少し恥ずかしくなる。自分では大丈夫と思っていただけに、受けた衝撃は大きかった。

 

「あまり、その詳しい事は━━━」

「いいさね、いいさね。そんな事に興味はないよ。ただね、良い若いのがつまらない顔してたから、気になってただけさ。その調子なら、大丈夫だったんだね。良かったよ」

 

お婆さんの言葉に母の顔と弟の顔を思い出して、私は笑顔で答えた。

 

「はい。きっと、もう大丈夫です」

 

家に帰るころには、きっと9時過ぎだ。

焦凍と父が、言葉にはしないかもしれないけど、きっと心配して待っている。

二人のその姿を想像しながら、私は夜景を眺めた。

少し明るくなった、その夜景を。

 



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アフリカの雨乞いの的中率って知ってる?百パーセントなんだって。雨乞いってマジなんだね!ならきっと、私にも出来る!なせばなる!嵐を━━え、あれは降るまでやってるの?まじで?じゃ、無理じゃん。の巻き

書けたから投稿しといた。

人間やれば出来るわな(*´ω`*)


轟母と会ってから数日。

運命の日が目前に迫ってきた私の心境は穏やかな物ではなかった。

 

教室の一角を制圧して設置した祭壇。

古代アラシオコシマス文明が残した技術を元に作られたそれは、マスと清い男子を捧げることで雨の神様フラスンジャーを呼び出し、大雨洪水を起こすと言われている。

 

生け贄であるブドウとマスを祭壇に置き、私は神社とかで宮司が持ってそうな階段みたいな紙がついた棒を振った。

 

「嵐をぉぉぉぉぉ、起こしたまえぇぇぇぇ!!!」

 

一声では流石に反応はなかった。

当然だ、古代アラシオコシマス文明でも雨乞いは三日三晩行ったとされている。しかし、今の私にそれは出来ない。もう時間は今日しかないのだ。今日願いを聞き届けて貰い、明日を嵐にせねばならんのだ。

悪しき学校行事、授業参観を阻止する為に。

 

仕方がないので、もう二人清い男子を捧げる。

丁度近くにいた瀬呂と轟を捕まえ、祭壇へと捧げる。

生憎高くてマスは一匹しか買えなかったので、代わりにシシャモを捧げる。

 

思いを込めて、私は宮司が持ってそうなそれを強く振った。一心に振りまくった。

 

「嵐をぉぉぉぉぉ!!!起こしたまえぇぇぇぇ!!!」

 

やはり反応がない。

仕方ない、こうなったらクラス中の男を━━━。

 

「いつまで馬鹿な事やってるんだ、お前は」

 

パッカーーン、と良い音が鳴った。

痛みと共に知能指数が6は減った。

めちゃ痛い。

 

振り向くと呆れた顔でこちらを眺めるクラスメートと、完全に怒り心頭の包帯先生がいた。

 

「ひいっ!」

「ひいっ、じゃない。何してるんだ、お前は。というか、よくこんな物をここに持ってきたな・・・」

 

祭壇は結構おっきい。

知り合いの知り合いの親戚のお兄さんから貰ったまでは良かったのだけれど、置く場所がなくて困って学校に送りつけておいたのだ。ガチムチの着払いで。

今朝いつもより早く来て設置するつもりだったんだけど、やっぱりかっちゃんとの登校を強いられ、いつもより少しだけしか早く来れなかった。

 

不思議そうなガチムチから積み荷を貰って、HR前に設置して儀式の前座まで済ませるつもりだったんだけど・・・結果はこれだ。包帯先生が来るまでに間に合わなかった。せめてかっちゃんが手伝ってくれれば・・・くそぅ。

 

包帯先生は生け贄の祭壇に置かれたマスとししゃもを見つめ━━━━そっと同じように生け贄に捧げられてる三人の清い男達を嫌そうに見た。

 

「・・・・お前らも、何してるんだ」

 

「それはオイラが聞きたいぜ!せっかく朝拾ったお宝本の整理してたのによ!」

「椅子に座ってたら急に。理由は分かりません。取り敢えず清いかと言われたので、経験はないと答えたらこうなりました」

「くそー皆見るなー!俺は清くねぇー!童貞じゃねぇー!け、経験豊富だー!」

 

「さっぱり分からん。取り敢えず直ぐに片付けろ、緑谷。それと遊んでた男三人も協力しろ」

 

男達から非難がとんだ。

俺は悪くないと、俺は清くないと濡れ衣だと。

そんな騒ぐ男達に包帯先生は指を突きつけた。

 

「簡単に捕まるお前達にも原因はある。もしこれがヴィランに捕まったのだと考えれば、お前達は無駄に被害を大きくする人質になったんだ。これを一つ教訓としておけ」

 

「そんなぁ!!オイラ悪くないのに!!」

「そうっすよ!酷い!!清くないのに!濡れ衣なのに!」

 

「瀬呂の経験の有無についてはコメントを差し控える。━━━が、峰田、取り敢えずお前が持ってきたお宝本というやつは没収だ。“ヒーロー”を目指す“健全”な高校生には必要ない。焼却炉で焼いといてやる。出せ」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!オイラのお宝本がぁぁぁぁ!!」

 

祭壇の後片付けをしてる間、包帯先生から明日の授業参観について説明があった。いきなり手紙を読むわけじゃなくて、先に個性を使った訓練の様子を見せるらしい。

ちょっと希望が見えてきた。

 

「・・・にしてもよ、何なんだよ、この祭壇。本当どっから持ってきたんだ?」

 

不思議そうな瀬呂。

私は優しいから教えてあげる。

 

「知り合いの知り合いの親戚のお兄さんから」

「取り敢えず、その知り合いとは縁切れ。個人的にこんなもん持ってたら絶対やばい奴だ。組織ならもっとだ」

「大丈夫、連絡取ろうと思っても中々取れない奴だし。今回もダメ元で連絡したらたまたま上手くいっただけだからさ」

「なんでもいいから、その知り合いのアドはブラックリストに叩き込んでおけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HRが終わり皆が授業の準備を始めようとした頃、包帯先生に突然呼ばれた。祭壇を綺麗に片付けた後だったので、今度は何事かと色々やった事を思い出して言い訳を考える。

 

━━━駄目だ、やったイタズラが多過ぎて、皆目見当がつかん。

 

破れかぶれで包帯先生の所にいくと、話があると別室に呼ばれた。

何処にいくのかと包帯先生についていくとオールマイトの行きつけと化してる仮眠室に辿り着く。扉を開けたそこには1時限が授業でない教師陣が雁首を揃えていた。

 

「ハァイ!よく来たわね、緑谷さん」

 

マブダチのミッドナイト先生が気軽な挨拶をしてきたので、私も気軽に挨拶を返しておく。なんだか空気が軽い。

これは・・・怒られないやつだ。

 

「緑谷、朝の事はまだ忘れてないぞ」

「ひぃっ!!」

 

調子に乗ったら、やられる!!

 

空気を読むことに定評のある私は即座にそこへと溶け込んだ。もう気分は一教師である。

私を交えて先生達は話を始めた。

 

面倒臭い部分を取っ払って聞くと、明日の授業参観で保護者を人質にしてヴィラン退治を兼ねた救助訓練をするのだという。お手紙は読まないのかと聞いたら、あれは親御さんを意識させて人質にした時に動揺を深める為だけに行ったらしい。

 

・・・・おいっ!!

 

「頑張ってお手紙書いたのにぃ!!!」

 

駄作かも知れないけど、皆と協力して心血注いだ一作が仕上がったのだ!全米は泣かなくても、日本全国が号泣する物がやっとつくれたというのに!!━━━え、本当だよ!?大丈夫、大丈夫だって。お茶子も遠い目だったけど言ってたもん!耳郎ちゃんだって、百だって、そっぽ向いてたけど、大丈夫だって言ってたもん!

 

梅雨ちゃんだけあしどんと葉隠に全力で口押さえられてたけども!!

 

「まぁまぁ、落ち着いて緑谷さん。お手紙だって朗読しなくても後で渡せば無駄にはならないでしょ?親御さん喜ぶわよ」

 

ミッドナイト先生に宥められては仕方ない。

大人しく座り直して、憎しみを込めた目で包帯先生を見つめた。軽く無視された。解せぬ。

 

それから先生達の話は更に続いた。

そして私が呼ばれた理由も分かった。

私は保護者達の動きを抑制する人質になるみたいだ。

 

当初は保護者に事情を説明し、生徒達になんの連絡も無しに行うつもりだったらしいのだが・・・私がそれらを見抜くと判断した包帯先生が授業参観内容を大きく見直したみたい。

 

「そこでだ、先にも言ったが緑谷、お前には人質としてこちら側の役者になって貰う」

「ええーただでぇすかぁ?双虎にゃんお口のチャックのしかたが下手くそでぇ、もしかしたら不意に何かが零れて落ちてしまいそー━━━」

 

 

「テストの結果しだいだが、夏休みの件がほぼ決定する━━━今の所お前の休みは三日程しか増えてないが、どうする」

 

 

「これも社会勉強の内だと思って精進致します!!」

「清々しい程に良い返事だ」

 

悪魔の契約を交わした私は、包帯先生から告げられる当日のスケジュールを頭に叩き込んだ。間違える訳にはいかないから、死ぬ気と書いてマジで覚えた。

 

何せ行けそうな夏祭りとか調べて予定調整してたりとか、プライベードビーチが確保出来るので女子ーず全員で行く話とか、耳郎ちゃん達と夏のロックフェス行く話とか、ほぼほぼ予定が埋まっているのだ。

今更行けないとかない。

 

というか、私の夏休み三日しか増えて無かったのか!

いや、何も聞かなかったけど、まじか!

私の夏休み、三日だけか!!やっべぇーな!!

 

もう、あれだ、かっちゃんに構ってる余裕ねぇーわ!!

 

 

 

話は一通りまとまり、私は役割を確認した後教室に帰った。丁度授業中だったのだが、授業をしてた先生は事情を知っているのか何も言わずに着席するように言ってきた。

 

大人しく席に座るとこっちを振り返ってたかっちゃんと目が合う。言わなくても分かる。どうしたんだって顔。心配してるって、そういう顔だ。

 

喧嘩中という事が頭に過って返す言葉が思い付かなかった。でも、放っておくのもなんかなぁと思いジェスチャーだけ返しておく。

 

大丈夫だって。

 

そうしたら、かっちゃんは眉間の皺を深くしたけど、授業を受ける為に前を向いた。ノートに書き込み始めたのかカリカリというシャーペンを走らせる音が聞こえる。

 

それに続いて私も釣られるようにペンを手にし、その授業にのぞんだ。

いつもならイタズラしてるであろう、イタズラ時のかっちゃんの背中を見ながら。

 



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皆覚悟して!奴等がここに、あれが始まるよ!ある時はベッド下に隠したテスト用紙を、ある時は勉強机の底に封印したご機嫌で書いた日記帳を白日の元に曝す、希代の悪魔達の祭典!保護者達による授業参観が!の巻き

昨日は頑張り過ぎたわ(;・ω・)

これからは一日一話くらいにしとくでぇ( *・ω・)ノ

だかん、期待すんなってばよ!


悪魔の契約をかわした翌日。

寝ぼけ眼の私の前で、母様がおニューのスーツを着てクルクル回ってる。妖精ならまだしも、アザラシのクルクルダンスにどれだけの価値があるのか。鼻先にボールでも投げれば少しはましか。

 

そんな事を考えていると、母様が私を見てきた。

 

「どうかしら?何処か変じゃない?」

 

起きてから何度目になるか分からないほど投げ掛けられた質問。

私は欠伸をかきながらそれを指摘した。

 

「お腹のタプタプ以外は大丈夫じゃないの?」

「ちぇすと!!」

「ふん!」

 

流石に朝から十発近く貰ってれば防げる。

腕を十字に構えるクロスアームブロックで、母様必殺のリバーブローの一撃を芯で捉える。

甘いわ!何度も何度も!そう━━━。

 

「甘い!!」

「ぐふぉっ!?」

 

返す右手で的確に脇腹を突かれた。

内蔵へのダメージが蓄積していく。

この母親、私をヤル気か!?

 

膝をついた私に母様は鼻息を漏らした。

 

「まったくあんたって子は!親に向かって!」

「は、母様だって、実の子供に向かって、パンチしてる癖に・・・」

「口答えしないの!それより学校では恥ずかしい真似しないのよ!後から爆豪さん家と一緒に行くけど・・・大丈夫よね?」

「大丈夫よねって、どんな聞き方?大丈夫に決まってるでしょ!」

 

私が胸を張って言うと、母様の怪訝そうな眼差しが突き刺さった。

 

「中学の授業参観の時。私が不良に囲まれて土下座されたのは大丈夫な事なの?」

「だ、大丈夫でしゃ!!」

「でしゃって何?それと小学の時、先生方に泣きつかれたのも大丈夫な事?」

「・・・・・でしゃ」

「でしゃは日本語じゃないわよ」

 

そんな事もあった。

でも、それはあくまであれだけだ。

他におかしい事なんてひとつもない。ないよ。

 

「はぁ、まぁ良いわ。ちゃんとしときなさいね。もし・・・」

「OKOK!!もしはないぜ、母様!」

「それなら良いんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

それから少ししてかっちゃんが迎えにきたので、一旦母様と別れた私は学校へと向かった。相変わらずかっちゃんとは険悪だけど、流石に喧嘩始めの頃のような激しいものはない。無言で足を踏み合うだけだ。

 

・・・あ、ぬぅ、くそっ!小癪なり!!

 

軽くタップダンス戦争しながら学校へ着くと、いつもより緊張した皆がいた。

中でもガチガチになってるお茶子が気になったので、声を掛けることにした。

 

「おはー、お茶子ー。良い感じで緊張してんねぇ」

「あ、ニコちゃんおはよー。いやぁ、えへへ。うちお父ちゃんくんねんけど、なんかエライ張りきっとって・・・うう、なんか変な事せんとええけど」

「お茶子パパかーどんなだろ」

「えぇー普通だよぉ。期待されてもなんも面白い事ないよ」

 

そう言われると気になる。

頭の中で勝手にお茶子パパの筋肉モリモリな豪傑姿を想像していると、アナウンスが流れた。

 

『1年A組、緑谷双虎。1年A組、緑谷双虎。放送を聞いてたら直ぐに職員室に来なさい』

 

クラスメートの視線が私に集まる。

完全に疑いの眼差しだ。

おおいっ!

 

「何したん?素直に謝った方がええよ?」

「お茶子まで!?酷い!何かした体で話さないでよぉー!」

 

「いや、普段の行いが悪いからでしょ」

「ぬぅあにぃー!?」

 

耳郎ちゃんの言葉を切っ掛けに、皆して私を悪者扱い。仕舞いには早く謝ってきなさいコール。

てか、誰も事情を聞きに来ない。解せぬぅ。

 

「皆、待て。緑谷にもなんか事情があんのかもしんねぇだろ」

 

皆の無慈悲さにちょっと泣きそうになっていると、紅白饅頭が皆の視線から守るように出てきた。

流石ベストフレンド、頼りになるぅ!信じてくれんのはお前だけだよぉー!持つべきものは紅白饅頭だよね!

 

ベストフレンド紅白は私に向き直りそっと言った。

 

「・・・何があったかは知らねぇけど、困った事があったら言え」

「おおぃ!困った事ある前提か!?」

 

この野郎、ぬか喜びさせやがってぇ!!

結局疑ってんじゃぁないのよぉ!

 

「・・・いや、そうじゃねぇ。ただ━━━」

「庇ってんじゃねぇよ、紅白野郎。馬鹿女が何かしたに決まってんだろ。うっせぇから、とっとと行けや」

 

紅白饅頭の言葉を遮るように、それまで無視していたかっちゃんが文句を垂れてきた。

決めつけるような言葉に、私の可愛いおでこに血管が浮く。殴り飛ばしてやろうかな?というお茶目な気持ちと共に。

 

腕捲りしてかっちゃんに近づこうとすると、紅白饅頭に肩を掴まれて止められた。

そして私に代わり紅白饅頭がかっちゃんに近づく。

 

「━━━━爆豪」

「あぁ?んだ、クソ半分」

「いい加減、その態度止めろ」

 

紅白饅頭の突然の発言に、教室の時が止まった。

たださえ切れやすいかっちゃんに、喧嘩を売るような真っ向から対立するような発言をしたのだ。分からなくはない。

 

「あぁ!?んだ、文句でもあんのかよ!!」

「文句はもう言ってるだろ。その態度止めろ」

「てめぇ・・・」

 

怒りを露にしたかっちゃんが立ち上がり、紅白饅頭にがんを飛ばす。雰囲気的にいつ殴りに行ってもおかしくない感じだ。

なのに、紅白饅頭はまったく身構えない。殴られると思ってないのか、はたまたその体勢からでも対応出来るのか。結局の所、その辺りはさっぱりだけど、兎にも角にも紅白饅頭にかっちゃんからの攻撃に備える準備は見受けられない。

 

睨み合う二人。

クラスメートの緊張はマックスに。

私のちょっかい掛けたい気持ちもマックスに。

 

一触即発の空気の中、紅白饅頭が何かを言い掛けた瞬間、教室のドアが勢いよく開かれた。

 

全員の注目が一瞬にしてそこへと集中する。

当然私もそこを見たのだか、そこには見てはいけないものがあった。

 

そう━━━━。

 

「緑谷、放送聞いてないのか・・・!!」

 

そこには髪の毛を逆立て怒る、包帯先生がいたのだから。

包帯先生を前に私のおみ足がガクガクと揺れる。包帯先生から滲み出る怒りのオーラに恐怖パラメーターが限界を振り切ったのだ。

もう、あれだ、ヤバイ。

 

「いやぁぁぁぁぁ!!締められるぅぅぅ!!廊下に二時間くらい正座させられるぅぅぅぅ!!膝の上に重石を積まれるぅぅぅ!!」

「それは拷問だ。誰がやるか、馬鹿。良いから来いっ。それと、お前ら時間までにちゃんとヒーロースーツに着替えておけ。間に合わなかったやつは・・・覚悟しておけ」

 

私の体を包帯でギチギチに締め上げた包帯先生は、引きずるように私を連行し始めた。

そこに慈悲はなかった。

 

教室を少し離れた所で、包帯先生は私を締め上げていた包帯を解いた。なぜ解放されたのか疑問に思って首を傾げていると「演技じゃなかったのか・・・」と溜息をつかれた。

 

「放送を流しても一向に職員室にこないから、何かあったのかと思えば・・・何をしてるんだお前は」

「えぇ?あ、えっと、説教は?」

「しない。いつまで勘違いしてる。はぁ、もういいさっさと来い。保護者がそろそろ学校に入る頃だ。更衣室でミッドナイトさんが待機してる。行って準備しろ」

 

そこまで言われて包帯先生が一芝居打ったことに気づいた。迅速に私を連れ出す為にああしたのだと。

 

「・・・拗れてるとは思っていたが、また面倒な事になったな」

 

ふと包帯先生が何か呟いた。

小さい声だったのでよく聞き取れなかったが、疲れているのは目に見えて分かる。

よくわからないけど、大人って大変そう。

 

「あ、包帯先生、包帯先生」

「なんだ、緑谷」

「最近ですね、裏路地アイドル達に新メンバーが加わったんですよ」

 

スマホを開いてその画像を画面に映す。

包帯先生はそれを覗いて「ほう」と声をあげた。

 

「子猫か・・・何処かで見たことあるな」

「ほら、前に見せたじゃないですか!ミケ子とクロノスケの子供なんですよぉ!」

「よくその二匹の子供だと分かるな」

 

確かに、どれがどれの子なんて普通は分からない。

けれど私にはこの目で見た真実があるのだ。

 

「だって、二匹がくっついてるの見ましたし」

「そういう話はよそでするな、いいな」

 

軽くお説教された私は画像を包帯先生に献上した後、ミッドナイト先生が待つ更衣室へと向かった。

 

美少女JKにして雄英のスーパーアイドル、高校生最高峰の歌姫にしてハリウッド女優すらたじろぐ産まれながらの演技の申し子。

天才という名を欲しいままにした私緑谷双虎が、本当の演技ってやつを見せてやるぜぇぇぇ!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「・・・けっ、興醒めだ。行くぞ切島」

「お、おう。と、ちょっと待てよ、おい爆豪!」

 

緑谷さんがいなくなって暫くして、爆豪さんはヒーロースーツが入ったバッグを肩に背負い教室を出ていきました。

それを追いかけるように切島さんもバッグを抱えて教室の外に。

 

 

残ったのはなんとも言えない気まずい空気。

副委員長としてどうにかしようと思いましたが、どうしていいか分からず、何となしに瀬呂さんを見つめてしまいます。

 

すると私の視線に気づいた瀬呂さんが頭を掻きました。

 

「・・・い、いやぁ、それにしても、あれだな。爆豪は少しやり過ぎだよなぁ!な、尾白!」

「瀬呂、困った時俺を引き合いに出すなよ。何とか出来ると思うなよ」

「そんな事言うなよー。俺とお前の仲じゃんか!」

「俺、瀬呂に裏切られてばっかだと思うんだけど」

 

クラスの空気を和ませようとしたのか瀬呂さんが軽い口ぶりで尾白さんに話し掛けました。尾白さんも空気の悪さをなんとかしようとしたのか、同じ様に軽い口ぶりで返します。

 

それのお陰かどうかは分かりませんが、クラスの空気は少しだけ明るい物に変わっていきます。

 

ほっと一息ついていると、渦中の轟さんに芦戸さん達がワラワラと集まり始めました。

何をするのか、もう何となく分かります。

 

「ねぇねぇ、轟!!さっきのってそういう事!?」

「うわぁぁぁ!!ヤバイよぉぉぉ!!吹き荒れてるよぉぉぉ!ピンク色の何かが、吹き荒れてるよぉぉぉ!」

「葉隠!少しは落ち着きな!━━でもさ、さっきのって轟参戦って事で良いの?いや、ウチはそんなに興味ないんだけどさ。うん」

 

そういう事に興味があるのは悪いとは言いませんが少し不躾過ぎます。というか、まさか耳郎さんまでこうなるとは思いませんでした・・・。

 

あまりに見てられなかったので止めに入る事にしました。

 

「こほん。皆さん、少し落ち着いて下さい」

 

「あ、ヤオモモもきた。おいでおいでー」

「本当だ。やっぱりきた」

「ヤオモモはむっつりだからね」

 

誰がむっつりですか!!?

まったく、もう。

 

「轟さんが困ってらっしゃいます!こういう事は、そう問い詰めるべきではありませんわ!エチケットですわよ!」

 

私がそう言うとブーブー文句言いながら皆さん離れていきました。

この後着替えもしなければなりませんから、皆さん引き際はちゃんと分かってらっしゃるので説得が楽です。

 

それとは別に少し離れた所から穴が空くほど轟さんを見つめてくる麗日さんが気になりますが、あれは放っておきましょう。触らぬ神に祟りなしと言いますし。

 

一人になった轟さんは爆豪さんが出ていった扉を眺め動こうとしません。このままだと着替える時間もなくなってしまいます。

 

ふぅ、世話が焼けますわね。

 

「轟さん?そろそろお着替えしませんと・・・」

「ん?ああ、わりぃな」

 

そう返事を返してくれましたが、轟さんの視線は扉を見つめたまま。何か思うところがあるのでしょうか?

 

轟さんの様子を窺っていると、不意に横に引き絞られていた轟さんの口が開きました。

 

「━━━お前まで、間違える事ねぇだろが」

 

それがどういった意味なのか分かりませんでしたが、その横顔は寂しそうで、どこか歯痒そうに見えました。

きっと二人にしか分からない何かがあるのでしょう。

 

二人にしか・・・。

 

 

・・・・・・。

 

 

ちょ、ちょっと、聞いてもよろしいでしょうか?

 

あ、い、いえいえ、いけませんわ!

やっぱり、そんな事はやるべきではありませんわね!

うんうん!

 

何より、はしたないですもの!

 

 

 

 

 

 

いや、でも、ちょっとだけなら・・・・。

 

 

「ヤオモモーいくよー」

「むっつりしてると、遅れるよー」

 

「む、むむむ、むっつりしてませんわ!!」

 



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やるときは全力で!楽しむ時も全力で!!やり過ぎなんて気にしない!!それが私のポリシーよ!━━━え、包帯先生がこっちに来てる?よしっ!皆、謝る準備をするんだ!!全力だぞ!!ジャンピング土下座だぞ!の巻き

もう、前書き、書かなくても、いいよね?

ゴールしても、いいよね?


う、うん、ありがと(´ω` )スヤァ


職員更衣室に着いた私を待っていたのは、メイク道具をばっちり準備したミッドナイト先生と面白ギミックを用意した発目の二人だった。

 

私が二人に軽く挨拶すると、目を血走らせた発目が私に向かってきた。相変わらずの、地面を滑るような特殊走法。どうやってるのか本気で気になる。というか、教えて欲しい。

 

「緑谷さん!!毎回毎回、私のドッ可愛いベイビーのモニターありがとう御座います!!貴重なご意見を沢山頂き、改良が捗って捗って仕方ありませんよ!!お陰でぶっちゃけ寝る暇ないです!私!!かれこれ36時間ほど起きてます!!今日は日頃の感謝も込めた、とびっきりのベイビー用意しておきましたよ!!」

 

発目は私の手を掴むとブンブン振り回すように握手してくる。基本テンション高めの私ですらついてけないハイテンション発目。私は為されるがまま腕を振り回され続けた。

 

痛い、お手手取れそう。

 

「発目さん、その辺りで止めて頂戴。メイクしてる時間がなくなっちゃうわ」

「はい!了解です!発目明!己の役目がくるまで待機してます!!」

 

ミッドナイト先生のお陰でようやく解放された。

お手手がジンジンしてきたからベストタイミングである。これ以上ブンブンされてたら、きっと私のか弱いお手手が銀河の彼方に飛んでいってしまった事だろう。

 

・・・にしても、人って眠らないとああなるのか。勉強になった。

 

「さ、緑谷さん!ちゃっちゃと仕上げちゃうわよ!飛びっきりのやられ顔!」

「うっす!お願いするっす!ボッコボコな感じでお願いするっす!!」

 

 

 

今日の人質大作戦が決まってから、私は己が役目をまっとうする為、関係各所に協力を要請していた。

ミッドナイト先生しかり、発目明しかり、今はここにいないがガチムチとかもそうだったりする。

発目の参加は少し渋い顔されたが、私がどうしてもとお願いし「既に話したけど?」という事で何とかOKを貰えた。というか、仲間に入れるしかなかったんだけどね。

 

そして、怒られたのは言うまでもない。

 

今回のドッキリヴィラン退治&保護者救助作戦において、私の役目は保護者達の行動抑制。私が人質になってる画像を保護者達に見せて、人質がいるんだぞーお前らが大人しくしないと、大変な事になるぞーという感じの事をやるとのこと。

 

当初はただ縄で捕らえられてる姿を撮るみたいだったのだが、リアルを追求したい私はメイクする事とギミックを仕掛ける事を提案した。

包帯先生は渋い顔してたけど、ミッドナイト先生とガチムチが乗り気になり、そこにラジオ先生も悪のりし、多数決の上、本決まりになり現在に至る。

 

時間がない中、話し合い色々と練った結果、ミッドナイト先生によるメイクでボロボロ感を演出し、発目のベイビーを幾つか使って怪我を演出する事になった。頭から血糊が飛び出したり、義手的な物を使って骨折してる風にしたりとか、そんなだ。

 

私の初案では首が飛んだり、四肢が破裂したり、内蔵的な何かがはみ出したりする予定だったのだが、予算的にも技術的にも、時間的にも、倫理的にもアウトだったのでそれは無くなった。

くっ、やりたかった。

 

そんな事考えてる内にミッドナイト先生のメイクが終わった。確認してと言われて確認したら、思ったよりやられている感じだった。

 

しかし、な・・・うむ。

 

「それでも可愛い私!」

「凄い自信ね、緑谷さん。私ね、貴女のそういう所好きよ」

 

次に発目のベイビーの装着を始める。

取り付けるのは骨折風にするための義手と、血糊が飛び出すパイプと、刺さってる風になる玩具ナイフ。

 

「極めつけはこのベイビーですよ!!」

 

発目が最後に取り出したのは銃とガチムチがモチーフのペッツ容器。発目は容器からペッツ的な何かを取り出し、それを床においた。

 

「行きますよ!!レッツベイビー!!」

 

発目がペッツに向けて引き金を引くと、パァンという音と共に破裂し血飛沫が飛ぶ。

 

「おおー!流石、発目ー!一日でよく仕上げたな!!」

「いえいえ、余ってたペイント弾を少し改良しただけなので、そう大変でもありませんでした。たった五時間程で完成しましたよ。この黒いペッツは粘着面を下に張り付けて下さい。逆だと炸裂した時、怪我はしませんが地味に痛いですよ。これを見て貰えば分かると思いますけど」

 

そう言って発目は服を捲って腹を見せた。

そこには何ヵ所か赤くなってる部分があり、確かに痛そうに見える。

 

「自分でやったのか・・・・」

「他に誰もいませんでしたし。何事も体験してからこそですよ。用法を守って貰えば衝撃は然程ありません。ド派手に撃たれちゃって下さい!」

 

銃とガチムチペッツを私に手渡すと、発目は崩れるように地面に倒れた。寸での所で支えたので、頭は床にぶつけてない。

 

どうしたのかと顔を見れば、呼吸も絶え絶えに朦朧としていた。

 

「は、発目ぇぇぇ!!」

「か、かふゅー、かふゅー・・・ど、どうやら、私はここまでのようです!最後まで、私のドッ可愛いベイビー達の勇姿を見守りたかったのですが・・・ヤバイです!眠気が、はは!!なるほど!!人は限界に達するとこうなるのですね!!勉強になりました!ありがとう御座います眠気!」

「発目・・・・」

 

よく分からない事を叫ぶ発目。

私はそんな発目の手を握りしめた。

 

「・・・もう、良いよ。もう頑張らなくて良い。ゆっくり、お休み」

「そ、そう、させて貰います。い、いやぁ、良い経験になりました・・・。普段は、ヒーローのサポートアイテムを作ることに念頭をおいてますので、こういったお遊び品を作る機会は中々ありませんから・・・新し、い・・・発見しまくりで、興奮で目が・・・冴えま・・・・・・・ぐぅ」

「は、発目ぇぇぇぇ・・・!!」

 

発目は燃え尽きるように眠った。

それはそれは安らかに・・・・いや、そうは見えないな。なんで目開いたまま寝てるの?これ大丈夫だよね?目を瞑る余裕もなかったの?死ぬの?保健室直行?

 

発目の処遇についてどうするか悩んでると、溜息をついたミッドナイト先生が肩を叩いてきた。

 

「緑谷さん。取り敢えず発目さんはこっちで預かるから。緑谷さんはこのまま撮影場所まで行ってくれる?さっき連絡が来てね、もう廊下にセメントスが迎えに来てるみたいなの」

「あ、了解です」

 

発目をミッドナイト先生に預け廊下に出る。

そこには言われた通り台車を押したコンクリ先生がいた。

 

「さ、行こうか緑谷さん。姿が見えるといけないから、中に入って」

「ういーす」

 

大人しく台車の上におかれたBOXへと入り、目的地に着くのを待━━━と、不意に思った。

 

「コンクリ先生」

「どうしたんだい、緑谷さん」

「態々こんな面倒臭い移動しなくても、着替えとかメイクとか、全部撮影場所ですれば良かったんじゃないすかね?」

 

ガラガラと台車のタイヤが鳴る。

 

「・・・それを誰一人気づかなかったんだねぇ」

「いやまぁ、バタバタしてましたし」

「そうだねぇ。時間がないって憤慨してた、イレイザーヘッドに教えてあげたかったなぁ」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

娘から遅れる事一時間と少し。

私は光己さんと娘達が通う雄英高校に着いていた。

セキュリティが思った以上に凄くて、門を抜けるまで沢山の検査があった。学校内は色々と機密があるらしく、残念な事に撮影は禁止。あの人に伝える為には口頭で説明するしかないので、私は娘の活躍を見逃すまいと気合いを入れ直す。

 

というか、活躍だけなら良いけど・・・。

 

少し不安になった私の肩に、ポンと何かが触れた。

視線をそこへと移せば、光己さんが笑顔を浮かべてこちらを見ていた。

 

「肩の力入れすぎですよ!大丈夫ですってば。双虎ちゃんなら」

「そ、そうでしょうか。活躍する姿より、何かやらかす姿しか想像出来ないんですけど」

「あはは、まぁ、それはそれでらしいですけど。良くも悪くも、双虎ちゃんは良いところ見せようと張り切り過ぎますからねぇ」

 

小学生の時からそうなのだが、双虎はこういったイベントを心底嫌う癖に、いざ始まると人一倍張り切って何かをしようとする。それで成功するなら良いのだけど、まともに成功したのは数える程しかない。

 

故に、私は朝から憂鬱だったのだ。

 

はっきり言って、今朝の娘は怪しすぎた。

何かを隠してる気配がプンプンしていた。

怪しく思ってそれを尋ねればおかしな事ばかり口走り、最終的は悪口に逃げるという徹底した怪しさぶり。今朝だけで一週間分のタプタプ弄りをしてきたのだ、疑うなと言う方が無理と言うもの。

授業参観へ流れそうな話題を見極め、やたらと話を逸らしてきたのも、もう分かっている。

 

今朝、ちょっとパンチし過ぎたのは反省している。流石にボディを攻めすぎたとは思う。

けど、今も治まらない胸騒ぎや何となく間違っていない気がするのも確かで、私は言い知れない心配で一杯だった。

 

光己さんと校門を抜けると他の親御さん達の姿が見えた。軽く自己紹介しながらよその親御さん達に挨拶していると、ほがらかに笑う一人の男性がこちらへと向かってくる。

 

「おはよう御座います。緑谷さんのお母様。わたし、お茶子の━━ああ、麗日お茶子の父です。いつも娘がお世話になっとります」

 

差し出された手に、私も手を差し出す。

 

「ああ、娘から窺ってます。お茶子ちゃんとは仲良くさせて貰ってるようで。あの子の事ですから、きっとご迷惑ばかりお掛けてしているとは思いますが━━━」

「いえいえ、とんでもない。仲良うして貰って、ほんまありがたいんですわ。━━━こっちに知り合いもおらんと、最初のうちは心配しとりましたが、双虎ちゃんと仲良うなってからたまにしてくる電話が明るうなりまして・・・。ほんま感謝しとります。どうか、これからも仲良うしたって下さい」

 

下げられた頭に、私も同じ様に下げ返した。

 

「いえ、こちらこそ」

 

それから他愛ない世間話を三人でしていると、慌ただしい足音が聞こえてきた。

視線を向ければ白い髪に赤いメッシュが入った若い女の人が息を切らせて走ってきている。

その人は私達の側まで走ってきて、そして止まった。

 

俯いて肩で息をしている。

よっぽど全力で走ったのだろう、酷く苦しそう。

 

「す、す、すみ、ません。バスが、事故で遅れてしまって・・・も、もしかして、お待たせ、してますか?」

 

尋ねるような声に光己が口を開いた。

 

「大丈夫ですよ。まだ何も。私達も迎えの人を待ってる所ですから」

「よ、良かったー。あ、すみません、失礼な事をっ」

「良いです良いです。親御さんって訳では無さそうですけど、どちらの?」

「あ、はい!私、その轟焦凍の姉で、轟冬美と申します」

 

轟、という名字に保護者達の視線が集まった。

それはそうだ。何せ轟さんの娘と言えば、世間的にも有名なヒーロー、エンデヴァーの娘さんという事になる。

私も少し驚きだ。

 

ここにいる保護者達は皆が皆、子供達がヒーローになることを応援している。故に、少しでもヒーローについて知ろうとしてるだろう。実際、ここに集まった保護者さん達の会話は大体がヒーローについての話し合いだ。かく言う私も先程そういう話をしていた。

 

その中にその現役ヒーローを親に持つ娘さんが現れればどうなるか・・・・当然、そうなる。

 

「わ、わわっ!?」

 

保護者さん達に囲まれた轟さん。

実際のヒーローについてあれこれと質問攻めにされ始めた。

あわあわする轟さんを眺めながら、私と光己さん、麗日さんは苦笑いを浮かべる。

 

「ありゃぁ、大変ですわな。気になるんは分かりますけど」

「まぁ、仕方ないですけどね。私も後で聞きにいこ」

「もう、光己さんまで・・・」

 

暫く質問攻めにされた後、解放された轟さんがヨロヨロしながらこちらに来た。質問しようと腕捲りしそうな光己さんにストップを掛け、どうするのか見守る。

 

「あ、あのー、皆さんから緑谷さんがこちらにと窺ったのですが・・・」

 

申し訳なさそうな声で呼ばれた自分の名前。

何故私なのかと疑問に思い━━━唐突に体育祭での障害物競走やバトルトーナメントでの娘と轟くんの様子を思い出した。

 

ふぐぅ、胃が痛いっ!

 

「わ、私ですが・・・」

 

黙ってる訳にはいかないと声をあげると、轟さんが予想に反した笑顔を浮かべて迫ってきた。

 

「この間は本当にありがとう御座います!!母からもよく言っといて欲しいと!!ああ、会えて良かった!!あ、これ、つまらない物ですがどうぞ!!」

 

よく分からないまま手提げ袋を渡された。

隙間から中を覗けば、有名ブランドの包み紙が目に入る。以前お歳暮に送ろうとして、値段見て諦めたやつだ・・・・娘よ、何をしたの?!

 

「い、頂けまけん!こんなお高い物!」

「そう言わずに、ご遠慮なさらず是非貰って下さい。寧ろ、こんなつまらない物しか用意出来ずに申し訳なくて・・・・」

「つまらない物なんて、そんな!十二分過ぎます!!」

「それでしたら是非!ご家族でどうぞ!」

 

押し付けられた手提げ袋。

雰囲気的に返す事も出来ずに、取り敢えず暫くは持つ事にしておいた。

どうしてなのかと疑問を乗せた視線を向ければ、轟さんは少しだけ寂しい顔になる。

 

「・・・この間の日曜日、緑谷さんがうちの母のお見舞いに来て下さいまして」

「うちの馬鹿娘がですか?!何かご迷惑を・・・」

「いえいえ、とんでもないです!母はとても喜んでました!!お見舞いの品まで貰ってしまって・・・これはそのほんのお返しです」

 

お見舞いの品?

あの子にそんなお小遣い残ってたかしら・・・?

 

まさか、使わない物適当にあげたんじゃないでしょうね・・・。

 

「今後とも焦凍共々仲良くして頂けるとありがたいと思ってます。どうぞ、よろしくお願いします」

「あ、はい、こちらこそ」

 

轟さんと握手を交わすと、後ろから変なオーラを感じた。見れば光己さんが目を真ん丸にして轟さんを見ていた。どうしたのかしら。

 

それから光己さんは轟さんと仲良さそうに肩を組み、少し離れた所に話しながら行ってしまった。

麗日さんも他の親御さんの下へ挨拶しに。

 

一人になった私はさっきの出来事を思い出した。

いつも馬鹿な事をする娘が褒められる、不思議な経験を。

 

それは嬉しく思う反面、少しだけ寂しい物だった。

 

子供の頃からずっと側にいた娘。

馬鹿な事はするけど、その分可愛かったお馬鹿な娘。

 

そんな娘が知らない誰かに認められているという事実は、娘の世界が少しずつ広がってる証明で喜ばしい事の筈だ。そうやって人は大人になっていく。

 

なのに、どうしても素直に喜んであげられなかった。

 

いつまでも子供ではない。

それは分かってはいるつもりだった。

けれど、そんな覚悟なんてまだ出来てなかった。

 

ヒーロー科に入る。

そう言ったあの娘に少しの安堵と、何故か覚えた寂しさ。

 

私はきっと心の何処かで、まだ━━━

 

 

 

 

それから少しして案内の先生らしき人がきた。

黒いマスクをしていて顔がよく分からないけど、ヒーローが先生なのだから変わった格好もおかしくはない。

 

他の親御さん達も同様の疑問を持ちつつもその案内に従って移動を開始する。

 

生徒達の訓練を見るために演習へ向かうバスに乗り込み始めた頃、不意に誰かが呟いたのが聞こえた。

 

「あんなヒーロー、先生にいたか?」

 

 

 

不意にガン、と金属を叩く音が響いた。

驚いて顔をあげると、先生だと思っていたその人物が、優しそうな雰囲気を暗いものへとガラリと変え、リモコンのような物を持って佇んでいた。

 

「皆サン、今日ハ雄英高校、ヒーロー科ノ授業参観ニオ越シ頂キ誠ニアリガトウゴザイマス。歓迎致シマス保護者ノ皆様。伺イタイコトハ山トアルト思イマスガ、マズハ此方ヲゴ覧下サイ━━━━」

 

機械的な声を出すその人物がリモコンのボタンをひとつ押す。

すると、バスに備え付けられていたテレビ画面に映像が映し出された。

 

画像は最初少し荒れたが、徐々にそれがなんなのか見えていく。

 

「━━━━━っ!!」

 

誰かが息を飲むのが分かった。

隣に座っていた光己さんも、動揺から肩を揺らす。

そしてそれは、私も。

 

画面に映ったのは娘の映像。

目を覆いたくなるような、無惨な姿の。

 

「━━━画面ヲ見テ頂ケレバ分カル通リ・・・エッ!?アレッ!?ン?!アレッ?!ドウシテコンナニ酷イ事ニ!?ココマデヤルカイ!?」

 

「なにゆうてんねん!おどれらがしたんやろが!!」

 

向かいに座ってた麗日さんが怒鳴り声をあげた。

でもそれだけ。

その映像を見させられた理由がわかるこそ、誰も動かなかった。

 

黒マスクは一度咳払いしこちらを見た。

 

「ス、少シ手違イハアッタガ、ソウイウ事ダ。サァ始メヨウ。楽シイ授業参観ノ始マリダ!!」

 



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毎度お馴染みになってまいりました、適当サブタイ付けのお時間です。『卵達への試練』の閑話の巻き

授業参観編、思ったより長くなってもうた。
おかしいな、予定だと、もう終わってたのにな。
なげぇぇぇ。

人生って儘ならないもんだね(*ゝ`ω・)

てか、前書きかいてるやないか、ぼく。


『演習場Bへ集合』

 

突然クラス全員に送られてきた相澤先生からのメール。

ある種の違和感を持ちながらも、俺達は演習場へと向かう事になった。

 

「緑谷さん、まだお帰りになりませんわね・・・」

 

八百万の言葉通り、そこに緑谷の姿はない。

呼び出されたまま戻って来ていないのだ。

何かあった可能性はあるが、それが何かまでは分からない。何か知ってそうな爆豪や麗日が何も言わない所を見るに、急用の類いである可能性は高いが。

 

「けろっ。相澤先生が戻って来ない所を見ると、それと関係があるのかも知れないわね」

「さぼってないのでしたら、それで良いのですが」

 

八百万達の会話が本当なら良いのだが、何となく嫌な予感がした。

 

「轟くん、歩きながらで構わない聞いてくれ」

 

不意に飯田が神妙な顔つきで話し掛けてきた。

 

「どうした、飯田」

「集合場所の変更についてだ。少し妙だと思わないか?相澤先生は確かに無駄を嫌う方だが、最低限必要な事は伝える方だ。しかしメールは場所の変更を伝える一文のみ。急な変更であれば、その理由について述べると思うのだが」

「生徒に言えねぇ理由があるのかも知れねぇぞ」

「それなら尚更だ。通常通り予定を遂行出来ないのであれば、それこそ授業参観自体の見直しすらありえるだろう?」

 

飯田に言われて改めて思う。

妙だと。

 

移動する他のクラスメートを見れば、やはり何人かは怪訝そうな顔をしている。

なんのかんのと頭のキレる爆豪を始め、八百万や蛙吹、障子が何処と無く漂う嫌な雰囲気を察しているように見えた。

 

「一応警戒しとけ。USJの事もある」

「もう一度あれが起こると?授業参観という事を考えれば、以前とは比にならないセキュリティーレベルに設定していると思うが・・・」

「そのセキュリティーも、前回完全に突破されたろ。時間制限はあったみてぇだが、一度出来たならニ度目がねぇとはいえねぇだろ。・・・緑谷の言葉を鵜呑みにするつもりはねぇが、もしあいつが前に言ってた通り、USJ事件で碌に調査が進んでねぇなら、前回と同じかそれに近い方法で侵入する可能性もある」

 

俺がそう言うと飯田は頷いた。

 

「ああ、確かにそう言ってたな。クラスの殆どが冗談だと思っているようだったが、嫌に真に迫った言葉だったのを覚えてる。彼女の事だ。何かしら当たりをつけての発言なのだろう。・・・常々思うが、彼女は生き方を改めた方が良くないだろうか」

「それは俺も思う・・・けどな」

 

俺が今こうしていられるのは━━━そういうアイツのお陰だからな。

言葉には出さなかったが、飯田には分かったようで何も言わず、ただ苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

倒壊したビル群風の造りになっている演習場Bに着くと、あまりにガランとしていた。

普通の訓練の時でさえ機材やらなにやらが置かれているというのに、あまりに物が無さすぎたのだ。

特に今日は授業参観という部外者を招きいれて行う特殊な授業。何も無いのは違和感しか感じない。

 

何か起きている可能性を感じ始めた頃、破裂するような音が周囲に響いた。

視線をそこへ向ければ、黒いマスクをしたガタイの良い男の姿が目に映る。

 

「雄英高校ヒーロー科、1年A組ノ諸君。御機嫌ヨウ。皆オ待チカネ、授業参観ノ時間ダ」

 

機械によって変えられた声は無機質で、異様な雰囲気を醸し出していた。

その雰囲気に圧されたのか、何人か後ずさる。

 

「オット、逃ゲルノハ止シタ方ガ良イ。君達ノソノ選択ニハ大キナ代償ガ伴ウコトニナルゾ?」

 

黒マスクはそう言うと、右手を持ち上げるような仕草をした。

すると地響きと共に地面が割れ、何かが迫り上がってくる。大きな音と共に地上に現れたのは、黒色の檻とその中へ入れられている保護者らしき人達。目を凝らせば姉の姿も見えた。

 

「━━━━はっ、お父ちゃん!!」

 

麗日の言葉を皮切りに全員が捕らえられている人物が自らの為に学校へ来た保護者である事を理解し、ただならぬ緊張感が皆を支配した。

 

助けに飛び出そうとする者もいたが、冷静に状況を把握してる者達によってその足も止められる。

 

「分カッテ貰エテ何ヨリダ。流石ハ雄英高校ヒーロー科生徒」

「何が分かって貰えてだ!!てめぇ、相澤先生どうしやがった!!」

 

男の軽口に切島が怒鳴り声をあげる。

俺達は皆、担任である相澤先生からのメールでここに来ている。状況から考えれば分かる事ではあるが、直情的な切島には理解していても聞かずには入られなかったようだ。

 

「彼ニハ退場シテ貰ッタ。今頃瓦礫ノ下ダロウサ」

 

女子達の誰かが圧し殺した悲鳴をあげる。

様子を見れば、信じる者信じない者は半々くらいだ。

最悪の状況を想定した俺はそこまで悲観しなかったが、さっきの言葉だけで折れかけた者もいるだろう。それほどまで、相澤先生への信頼は厚い。USJでの勇姿はまだ皆の記憶に新しいのだから。

 

そこまで分かってそう言ったのなら、目の前のヴィランはかなり厄介な存在になる。俺達と担任の関係性を調べ、効果的に配した情報を公開した。

それが何を意味するか・・・・。

 

「全員敵から目ぇ逸らすな!!」

 

咄嗟にあげた声にどれだけのクラスメートが顔をあげるか分からねぇが、それでも何もしないよりはマシに思えた。

黒マスクのヴィランはそんな俺達を見て、愉快そうに笑い声をあげてくる。

 

「HAHAHA!ソウコナクテハナ!ヒーローノ卵達!!マズハ自己紹介ト行コウ!!私ハ・・・・スーパーヴィラン!!!昨今ノヒーローヲ真ニ憂ウ者ダ!!」

 

その言葉に合わせ男の背後からゾロゾロと黒タイツの怪しい奴等が現れた。姉の入っている檻の方にも、同様の奴等が見張りとして姿を見せる。

 

「我々ハ憂イテイル!昨今ノヒーローノ脆弱サニ!ヒーローニ敗北ハ許サレナイ!何故ナラヒーロートハ、安心ヲ与エル者デナクテハナラナイカラダ!最近ソレヲ理解セズヒーローニナルモノガ多イ。タダノ職業ノ一ツトシテ、何ノ覚悟モナクヒーローヲ名乗ル者バカリ!私ハソンナ世界ニ、憤ッテイルノダ!!」

 

妙なポーズを決め叫ぶヴィラン。

何処と無くオールマイトがしそうなようなポーズに、オールマイトシンパだったヒーロー殺しの顔がちらつく。

感化された者、という可能性が出てきた。

 

「━━━━故ニ今日ハ君達ヲテストスル事ニシタ!!全国デモ有数ノヒーローノ卵デアル君達ガ、次代ニ相応シイヒーローニ成レルカ、ソノ、テストヲナ!!」

 

「━━でしたら!人質など取る必要はありませんわ!!強さを測りたいと仰るのでしたら、お好きなように試せば宜しいでしょう!!私達は逃げも隠れも致しません!!」

「関係のない人質を解放したまえ!!罪が重くなるだけだぞ!!」

 

八百万と飯田の言葉に、スーパーヴィランを名乗った男が大きな笑い声をあげた。

 

「イヤ、ソウイウ分ケニハイカナイ!何故ナラ、ソレモテストノ内ダカラネ!!トウ!」

 

スーパーヴィランが跳躍する。

常人では有り得ない高さに。

そして、ようやく気がついた。

もう一つ、気づかなければならなかった者に。

 

「━━━━━っで、てめぇが!!」

 

爆豪の絞り出すような声。

俺と同じ様にそれを見つけたらしい。

 

スーパーヴィランが跳躍して降り立ったビルの屋上。

そこには今朝まで元気だったクラスメート、俺とお母さんを繋げてくれた緑谷の姿があった。

 

距離があって分かりずらいが、鉄骨に縛りあげられた緑谷の項垂れたまま動かない様子や服に染み付いた赤い染み、あらぬ方向へと曲がった腕を見れば無事であるようには見えなかった。

 

理解した直後、俺の中に灯ったそれが急激に加熱していくのが分かった。体育祭の時ともヒーロー殺しの時とも違う、どちらかと言えばかつて親父に向けていたような、あの纏わりつくような淀んだ感情。怒り。

 

「サァ始メヨウ!!卵達!!ドチラデモ好キナ方ヲ救イタマエ!!私ハ、君達ガ選択シタ一方ノ救出ヲ認メル!!タダシ!選バナカッタ方ノ命ノ保証ハナイゾ!!悩メ卵達!シンキングタイムダ!!」

 

再びスーパーヴィランが手を持ち上げる仕草をした。

直後、俺達全員を覆うように石の壁が迫り上がる。その光景に熱くなっていた頭が僅かに冷えた。

 

「んだよ!!これ!!まるで、セメントス先生みてぇじゃねぇかよ!!」

 

切島の声を聞いている間も石の壁は延び続け、ついにはドーム型の石壁に俺達は閉じ込められた。

 

閉じ込められてから暫しの静寂が訪れる。

状況を把握出来ないものが、理解するために頭を働かせているのだ。

そして理解した者が声をあげ始めた。

 

「っべぇよ!!なんだよあれ!!なんであんなの入ってきてんだよ!!セキュリティー仕事しろよ!!」

「うわぁぁぁぁ!!最悪だぜ!!何だってオイラ達ばっかりこういう目に遭うんだよぉーー!!」

 

上鳴と峰田の嘆きがドームに木霊する。

その直後、闇に包まれていたドームが明るく照らされた。そこにあったのはランプを手にした八百万と、ロボットみたいに腕を動かす飯田の姿が浮かんだ。

 

「落ち着きたまえ!!二人とも!!取り乱してどうなる!それよりも、人質をどうするか考えるべきだ!!」

「い、いえ!飯田さん、先に救助を呼びませんと!試しましたがスマホの電波が立ちません!上鳴さん個性を使って連絡を!」

 

「あ、そ、そうだな!待ってろ試してみる!!」

 

飯田達が動き始めたが、まだクラス全員がという訳ではない。親や緑谷のあの姿を見て、動揺したまま動けない者が多い。

 

「と、轟くん!」

 

震える声に振り返れば、今にも泣きそうな麗日がいた。

麗日は緑谷と仲が良かった。そうなるのもおかしくはない。

麗日の姿を見ていると、俺の中の熱がまた下がっていくのを感じた。取り乱す人間をみると逆に冷静になるというが、初めて理解出来た気がする。

 

「ニコちゃん、平気やろか・・・ホンマに相澤先生がヤられたんやったら、もしかして━━━」

「大丈夫、とは言ってやれねぇ。けどな、確認するまで何も分からねぇだろ。諦めんのは早ぇ」

「そ、そうやね・・・ごめん」

 

麗日と話してる間、他にも冷静さを保ったままの奴等が取り乱す奴等のフォローし始める姿が見えた。

 

そんなクラスメート達を見て、不意に一人放っておくと不味い奴がいた事を思い出す。俺の直ぐ後ろで絞るような声をあげたそいつを。

 

「━━━━━━爆豪っ、落ち着け!!」

 

慌てて制止する為に声をあげて振り返る━━━が、振り返った先にいた爆豪は一点を見つめたまま身動き一つしていなかった。その横顔は見たことのないほど怒りに満ちていたが、不思議と目だけは冷静さを保ったままに見えた。

 

「耳たぶ女!!」

 

爆豪の脅すような声に耳郎の肩が大きく揺れる。

 

「っんだよ!いきなりデカい声出すなってば!」

「っせぇ!!周囲の音聞け!!敵の正確な数と位置割り出せや!!」

「っ!?わ、分かった、やってみる!」

「他の奴等は黙ってろ!!」

 

鬼気迫る爆豪の声に全員が固まる。

少しして壁からイヤホンを外した耳郎が敵の数を告げた。敵の数はスーパーヴィランを除いて十二人。スーパーヴィランが降り立ったビル内に三人。ビルを囲むように五人。保護者達の周囲に四人だという。

 

「ぶっちゃけ、個性で隠れてる奴までは分かんないよ。飛んでる奴とか、特殊な移動法がある奴とかもね。ある程度近ければ、心音だったりとか別の音で何とか把握出来るけど今の状態じゃ無理。それに野外だから余計にね。室内だったら話は違うんだけど」

 

話を聞いた爆豪は目を瞑った。

 

「敵の武装、覚えてる奴いるか・・・」

 

その言葉に皆が皆自分が見たものを告げる。

あげられたそれはどれもまともな武器ではなく、ヴィラン連合に近いチーマー集団である可能性が出てきた。

ただ、そのチーマー集団に雄英のセキュリティーを突破できるかという問題も顔を出す。そして誰もがそこにいきつく。そのチグハグさが、前回の連合と同様なのだと。

 

爆豪もそれを察したのか、一つ舌打ちを鳴らす。

 

「・・・チームを分ける。救助2、陽動1、避難路確保1の4チームだ」

 

突然の爆豪の提案にクラスが静まりかえる。

 

「救助に透明女、ポニテ、ブドウ、モブ筋肉、尻尾、瀬呂、切島、カエル、眼鏡、常闇。陽動に俺、耳たぶ、麗日、アホ面。避難路確保にタコ野郎、芦戸、無口、紅白野郎。今から動き説明すんぞ、聞けボケ・・・」

「いや、ちょっと待てー!!」

 

流れるように説明に移ろうとする爆豪に切島が驚愕の顔と共に声をあげた。

 

「んだ、時間がねぇ黙ってろや」

「いやいや、黙っていられるかよ!なにトントン拍子で話進めてんだ!何も決まってねぇぞ!!勝手に話進めんなって!それに救出前提っての待て!つかよ、下手に動かねぇ方が良いだろ!救助要請優先で動こうぜ!気持ちはわかっけどよ!」

 

切島の言葉に何人か賛成を示した。

こんな状態なら意見も分かれる。

 

「けろ、そうね。下手に動かない方が犯人を刺激しないでしょうし」

「そうですわ!ここは救助を待つべきです!」

 

「っせぇ、ボケ」

 

反対の声に暴言を吐いた爆豪は続けた。

 

「あの糞ヴィランの言葉が何処まで本当なのかは別にして、あの糞ヴィラン達に時間がねぇのは事実だ。USJの時、てめぇらはわかったろ。雄英のセキュリティーは糞じゃねぇ。止められたとしても、別のセキュリティーが動く。そうなりゃ、USJより校舎に近ぇここなら直ぐに救助がくるだろ」

「だったらよ!!」

「それを理解した上で、今回の奴等が入ってきてる可能性が高ぇっていってんだ。ボケが」

 

それから爆豪が話した見解は、概ね俺が抱いていた物と近い物だった。

USJ同様警報を鳴らす事なく、大勢のヴィランを侵入させ、電波の妨害まで行っている。

目的こそ違うが、手口に似たような点が多い。

 

「何も知らねぇやつが、ここまで上手く入れるかよ。おまけに、ご丁寧に設備の使い方まで把握してやがる。あの檻は持ち込まれたもんじゃねぇ。どう考えても施設の設備だろが」

「まじかよ・・・」

「テストなんて、ほざいてやがったな。あの糞ヴィランはよ。ならよ、その糞テスト、選択以外にも見てる部分があってもおかしくねぇだろ」

 

爆豪の言葉に飯田が神妙に頷く。

 

「それが、時間か・・・・確かにありうるな。どれだけ迅速に行動に移せるかもヒーローとして必要な資質。ある程度時間が過ぎればペナルティとし━━━━ん、待て、そうなると、閉じ込めたのは本当に考えさせる為なのか?!馬鹿な!」

「ふざけた事にな。耳たぶ女、動きはねぇか」

 

爆豪の声に耳郎は首を横に振った。

 

「何考えてるか知らねぇが、そっちがその気なら乗ってやるだけだ。死ぬほど裏かいてな。━━━糞親も、馬鹿女も助ける。糞ヴィランは全員ぶちのめす。時間がねぇ、やる気のねぇ奴は失せろ。チーム組み直す」

 

いつになく冷静な爆豪の言葉に、誰ともなく頷いた。

その目に光を灯して。

 

「━━━皆。キラメキ隠せない、僕の事忘れていないか?凄くナチュラルに、忘れてないかい?」

「っせぇ、すみで黙って死んでろ。カス」

「すみでっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なら、滅茶苦茶言って突っ込むと思ったんだけどな」

 

作戦の概要が説明された後、一人準備する爆豪に俺は声を掛けた。

陽動チームの爆豪はここに残る事になるが、避難路確保チームの俺は直にここを離れる。最悪を想定してるつもりはないが、作戦が始まる前に少し話しておきたい事があった。

 

話し掛けた俺に、爆豪は僅かに視線を向け舌打ちした。

 

「・・・っせ、ボケカス。喚いて何か変わんなら、そうしてるわ」

「そりゃ、そうだけどな」

 

それでも爆豪はそうすると思ってた。

緑谷が爆豪にとって、そういうやつだと思っていたから。

俺の視線に何かを思う事があったのか、爆豪は渋い顔で続けた。

 

「・・・分かってんだよ。俺がガキみてぇな事やってんのは。てめぇがほざく理由も」

「・・・爆豪?」

「けどな、それで引いてたら、馬鹿女を守れねぇだろうが」

 

守る為ならそうなんだろう。

きっと間違っていない。

 

けど、俺はお前達の関係をそう思わない。

 

「あいつは、お前の後ろじゃなくて、隣が良いんだろ」

「・・・・あぁ?」

「俺はずっと、そのつもりでお前らの事、見てきたつもりだったんだけどな」

 

だから、それを羨ましく思ったし、俺もそうなりたいと思って緑谷と接してきた。

 

体育祭の頃から・・・いや、その前からずっと。

他の奴等がどう見てるのか分からないけど、少なくとも俺は爆豪達をそう見てきた。

 

「体育祭、色々あったけどな。俺に進む道を気づかせてくれたのは、“お前ら”だと思ってる」

「何言ってやがる、俺はなんもしてねぇだろ」

「騎馬戦。お前にぶっ飛ばされた事、俺は忘れてねぇぞ」

 

それだけは伝えておきたかった。

これから何があるか分からねぇ以上、悔いだけは残したくなかった。

 

ただ一言。

ずっと言えなかった、言いそびれてた、この言葉を。

 

「ありがとな、爆豪」

 

目を丸くして驚く爆豪を背に俺は俺のやるべき事をやるために歩き出した。

誰も彼も救って、またいつもの日常に帰るために。

 



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さぁ皆!おかしを実践する時だよ!!おかしを大切に避難するんだ!!いいね?おかしだよ!お菓子じゃないよ!!え?覚えたのかって?たりまえよ!お、お菓子を!か、抱えない!し!し、し、し、知らん!の巻き

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『A組生徒、幾つかの班に分かれ囲いから脱出を始めた模様だZE!レスキュー2組、避難路確保1組、残った連中はデコイかぁ?ま、兎に角順調だぜイェァァーーー!!』

 

マイクからの有線回線での連絡を受けながら、私は胸を撫で下ろす。

最初の段階をクリアしたという事は、日頃の指導に意味があったという事に他ならない。

このままドームに閉じ籠るような事もなく、無謀なアタックを仕掛ける事もなく、冷静にかつ慎重に行動を開始出来て本当に良かった。今学期の通信簿は良い点あげないと。

 

動き始めたという生徒達の動きは、こちらからでは動きが見えない。

ちゃんと死角を考えて移動出来てる証拠だ。

ますますもって素晴らしい。

 

「ガチムチ、ガチムチ。今見えてない系でしょ?飽きてきたんだけど、これ取っても良い?」

 

動き始めた生徒達を思っていると、鉄骨に縛られた風でそこに寄りかかるだけの緑谷少女が気だるそうに尋ねてきた。

 

私はボイスチェンジーの電源をオフにし、緑谷少女へと顔を向ける。

 

「いや、勿論ダメだけど。というか、さっきのさっきまでノリノリで演技してたのに、集中力切れるの早すぎないかな?」

「ガチムチと違って若いんですぅ。じっとしてると死んじゃうんですぅ」

「そんな寂しいと死んじゃうウサギみたいに言われても・・・」

「ええぇぇぇ・・・・じゃぁ、ログボだけでも貰わせて下さいよ」

 

そう言うと緑谷少女は体を縛ってる風の縄アクセを落とさないようにごそごそと身動ぎする。器用にポケットからスマホを取り出し、生徒達からどうあっても見えないであろう死角で弄り始めた。

 

「緊張感ゼロだね」

「そうは言ってもやる事ないし」

「やる事ないだろうけどもさ」

 

これが訓練だと分かっているのは教師を除けば緑谷少女のみ。

保護者にしても生徒にしても、これはリアル以外の何物でもなく、今から行われる救出作戦も含め、皆命懸けの気分であろう。

 

だと言うのに・・・・。

 

 

「うわっ、ここもジャミングされてる。うわぁ、まじか」

「・・・絶対に見せられないなぁ。」

 

私の呟きに緑谷少女は不思議そうに首を傾げた。

 

「はっ?いや、見られたら終るんですから、そりゃそうでしょ」

「いや、そうなんだけど、そうじゃないと言うか」

 

ちょっとずれてるぞ、緑谷少女。

そんな事を思ってるとスマホを見つめていた緑谷少女の視線が私に向いた。

 

「それはそうと、あれはなくないですか?スーパーヴィランって。もちょっとなんかあったでしょう」

 

緑谷少女の言葉の暴力が私を襲う。

元々考えていた名前を忘れ咄嗟に名乗った名前ではあるが、割と良い感じだと思っていただけに心にくるものがある。

 

「でも、その、良くないかな?」

「小学生だってもっとマシな名前つけますよ。━━━後、HAHAHAとか笑って、ばれないと思ってんですか?体型も相俟って、まんまじゃないですか。ポーズとかもまんまだし。ぶっちゃけ、私と捕まってる保護者で意識散漫にしてなかったら、速攻バレましたよ」

「ああ、うん、ご、ごめんね」

「あんなんで騙されるのは、紅白饅頭くらいですよ」

 

ごめんね、焦凍少年。

私のミスが原因で、なんか、君まで扱き下ろさせて。

 

「それはそうと、さっき渡した銃上手く使って下さいよ?お腹と肩の所にポイント仕掛け付けといたんで」

「それ、本当にやるのかい?なんだか、助けに来た子にトラウマ植え付けそうなんだけど。先生、使いたくないなぁ」

「えぇぇぇ・・・折角用意したのに」

 

そもそも折角用意したからといって、全部使えば良いという事もないと思うんだけど。

 

「━━━と言うかね、緑谷少女、既にやり過ぎだよ。なに、その義手。精巧過ぎるよ。思ってたのと3倍くらい精巧過ぎるよ。メイクだって、どれだけ気合いいれたの?予定よりボコボコ過ぎるからね?」

「発目が聞いたら喜びそう。てかですね、発案は私ですけど、ギミックとかメイクとか、全部私がやった訳じゃないんで、責められても困りまーす」

 

それは、そうだろうけど。

ミッドナイト先生もこういう事好きだからなぁ。

相澤くんが側にいれば大丈夫だっただろうに。

 

「まぁ、何にせよ、銃を使うにしても、よく考えてからだ。使わない前提で行くからね?」

 

私がそう言うと、緑谷少女は分かり易くむくれた。

さて、このお転婆少女を助けにくるのは誰になるのか・・・。

 

願わくば、彼女に“あの事”を教えられる人物であれば良いのだけれど。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか、助けにきました」

 

檻に閉じ込められて歯痒い時間を過ごすこと暫く。

不意に女の子の小さい声が聞こえてきよった。

 

周囲を見渡してみても、その声に相応しい人物は見受けられん。そもそも、皆自分の子供の安否を心配し、誰かを気づかうような余裕のある人がおらん。いや、爆豪さんとこは双虎ちゃんの心配しとったか。

 

「麗日さん。何か聞こえませんでしたか、けろ」

 

隣に座っていた蛙吹梅雨ちゃんのお父さんである蛙吹頑馬さんが話し掛けてきた。

どうやら、俺と同じもんを聞いたようや。

 

「蛙吹さんもですか?」

「ええ、助けにきました、と」

 

コンコンと石をぶつけるような音が鳴った。

視線をそこへと向ければ、宙に浮いた小石が目につく。

その様子を見て、お茶子と同じクラスに透明の子がおったのを思い出した。

俺は出来るだけ小さい声で返す。

 

「もしかして、葉隠ちゃんちゃうかな?」

「あ、はい。そうです、葉隠透です。その喋り方、お茶子ちゃんのお父さんですか?」

「はは、当たりや。それよか、助けにきた言うたな。その様子やとみんな無事なんやな?」

「はい、大丈夫です。誰も怪我してません。お茶子ちゃんはいまドームの中にいますけど・・・ほら、あっちに」

 

葉隠ちゃんの石の動きを追って視線を向ければ、建物の陰に何人かの生徒の姿が見え隠れしとる。

助けにきた言うのは冗談でも何でもなく、本気で行動しとるとゆう事。

しかしそうなると、俺らも簡単に「はい」そうですかとは言えん。

 

「一人、捕まっとる子がおるやろ。今もビルの屋上におる。あの子はどないするつもりや?」

「大丈夫です。今別のチームが向かってますので」

「協力出来る事あらへんか?」

「えっ?い、いや、その・・・」

 

無理を言うてるんは分かっとる。

きちんと訓練受けてる子らと違って、俺らはど素人の一般人。体力に自信があろうと、やるべき事が分からん奴にやらせる事なんてないやろ。

大人しく避難してもろうた方が、いるより何倍も役に立つっちゅうもんや。

 

「・・・無理言うてんのは、分かってんねんけどな。俺らも親や。子供が頑張ってんのに何もせえぇへんいうんが、我慢ならんねや」

「麗日さん」

「分かっとります。蛙吹さん。少し考えてくれるだけでええ。そんでも避難してくれた方がええ言うんやったらそうする。経験は君らのが遥かに上や。それに従うで」

 

俺の言葉に葉隠ちゃんは考えてくれた。

せやけど返ってきた言葉はNOやった。

 

「・・・気持ちが分かるなんて言えません。でも、私達も双虎ちゃんの事、絶対助けるつもりです。だから信じて下さい。皆ちゃんと訓練して、ちゃんとやるべき事をやってます。皆、ちゃんとヒーローになりたくて沢山勉強してきました。まだ一学期もいないけど・・・でも」

「もう、ええよ。悪い事聞いてもうて堪忍な」

 

厳しい話やけど、これが現実ちゅう事やろ。

いるよりもいない方が、力になれる。

それだけ分かれば十分や。

 

「他の親御さん達には俺らが話通しとく。どないしたらええ?」

「は、はい。えっとですね、合図がもうすぐある筈なんです。それに合わせて双虎ちゃんの所と、ここに救出チームがアタック掛けます」

「大丈夫なんか?」

「大丈夫です。信じて下さい」

 

透明やから目があったのかどうかは分からんけど、何となくその真剣な雰囲気だけは伝わった。

それから葉隠ちゃんは皆の下へと帰り、俺らは行動を開始した。いまだ状況を飲み込めない他の親御さんに救出に子供達が動き始めた事。じきにおこる作戦に協力する事。

 

どの親御さんもあまり文句を言わずに首を縦に振ってくれた。ここにいる誰もヒーローを目指す子供を持つ親として、多少の覚悟はあったんやろうと思う。

けど、ただ一人だけ、緑谷さんだけは首を縦に振ってくれんかった。

 

「あの子が救出されるまで、私は残ります」

「引子さん。そんな事言わないで避難しましょう?私らがいると、子供達の邪魔になりますから」

「私を置いていって貰って結構です。邪魔になると言うなら、いない物と思って先に避難をお願いします」

 

寄り添ってる爆豪さんの言葉も受け入れん。

気持ちは確かに分かるけど、それに頷く訳には、もっといかん。

 

「緑谷さん。俺も親です。気持ちは痛いほど分かります。せやけど、それが子供達の動きを悪うする事があるんです。あの子達は優しい子や。皆ヒーローを目指すだけの事はあって、人を見捨てるなんてでけしません。他を気にして何かミスをして、それが娘さん救出の失敗に繋がらんとも分かりません。結果的に、俺達がおらん方が救出成功の可能性が高なるんですわ。どうか一緒に」

 

理性的に納得して貰おう思うてそう言うたが、やはり緑谷さんは首を縦に振ってくれん。

するとそんな様子を見てた轟さんも緑谷さんの側へと寄っていった。

 

「麗日さん、ここは私らが話しておきますから」

「他の人達をお願いします」

 

男の説得ではここまでかと、女性二人に緑谷さんを任せ、俺は避難する準備を始めた。

 

しかし、そう言うてもやることは少ない。

精々が慌てないようにだとか、子供達の指示に従う事を言い聞かせるだけ。

何もしないよりはマシかも知れんが、やはり歯痒い。

 

「麗日さん」

 

状況を苦々しい気持ちと共に眺めてると、戻ってきた蛙吹さんが声を掛けてきた。

なんやろうかと思うとると、他の誰にも聞かれんような小声で語り掛けてくる。

 

「可能性の話なんですが、これ演習かなにかなのではないですかね?」

「・・・え?どない言う事ですか?」

「けろ。いえね、気になっていたんです。人質になって暫くしますが、犯人達あまりに私らを丁寧に扱い過ぎではないですかね?」

 

言われてみれば、バスからここに移されるまで、隙を見て抵抗しようとした人もいたが、拘束されただけで暴力を振るわれてない。一発くらい殴られても良いような気もする。

 

「人質を効果的に大人しくさせるなら、そういった事も上手く使うべきでしょう。なにより、犯人達は既に緑谷さんにそういった事をしているじゃないですか。見せしめとして」

「言われて見ればそうですねぇ。暴力を一つの手段としてる連中にしては、いやに平和的ですわな」

「短慮を起こしたどこかの馬鹿が、という見解もありますが、それにしては私達を見張る彼等は統率され過ぎている。ここまで徹底しているのに、見張りの誰かだけが、というのは無理があるかと」

 

蛙吹さんに言われて考えてみれば、どんどん引っ掛かる所が出てきた。

そもそもあのヴィランの言葉から妙だった。

確かに気配だけなら恐ろしい物があったが、その話してる内容というのは、そう、言うなれば━━━。

 

「授業参観にきたこと、歓迎しとりましたね。皮肉やと思うとりましたが・・・あれ、もしかして普通に歓迎しとったんですかね?」

「けろっ。緑谷さんの姿に黒マスクの人も驚いてましたしね」

「子供達に言うとった台詞も・・・」

「テストって言ってましたしね。状況的に、まぁ、あれではありますけど」

 

そう思うと一気に色々と胡散臭く見えてきた。

あの黒マスクヴィラン。何処かで見たことすらある気がしてきた。

 

「あのガタイ・・・オールマイトとか、あんなもんやあらしませんでしたか?」

「そう言われると、そんな気もしてきますね。けれど、個性が・・・」

「いや、それこそ、近くであの体育祭の先生が隠れてるんちゃいますかね?」

「ありえますね」

 

俺と蛙吹さんは静かに遠くに見える黒マスクを見た。

よく見えなかったのだが、黒マスクは双虎ちゃんが縛られた方向を見て、何か話しているように見えた気がした。リアクションとってるように見えた気がした。

 

「・・・取り敢えず、子供らも頑張ってますし。このまま知らない事にしときますか。あ、誰かにもう話しとりますかね?」

「いえ、まさか。可能性だけの話ですから。下手に希望を与えて、もし間違ってたらと思うと、とてもとても」

 

 

それから少しして、蛙吹さんと共に黒マスクの動きから怪しさを新たに見つけた頃、コンコンと音が鳴った。

 

振り向けばさっきと同様に石が浮いとる。

 

「準備出来ました。もう直ぐ合図がきます。そうしたら、私達が見張りを倒して檻を開けます。あとは指示に従って避難開始して下さい」

 

真剣な声と雰囲気。

緩んでいた気持ちに少し緊張感が戻る。

まだ、演習であると決まった訳ではない。

 

「おおきに」

 

全員に準備をするように伝え、準備を済ませたその時。

大きな爆発音と共に周囲一体に砂埃が吹き荒れた。

視界が最悪なその中で、複数のうめき声が周囲から起こり、そしてガシャンという音と共に檻の扉が開かれる。

 

「皆さん、お待たせいたしました!!先導は私、八百万 百が務めます!どうぞこちらから着いてきて下さいませ!!」

 

そうして、慌ただしく。

子供達による救出作戦が始まった。

 




(*>ω<*)ー!

教えて~ととろきせんせい!

Q、どうしてととろきせんせいには、微妙なフラグしかたたないの?アオハルじゃなくて、アホハルなの?

A、・・・おれはわるくねぇ。あれだからな、おれと轟とは違うから。天然じゃないから。別枠だから。おれはフラグビンビンだから。ととろきのフラグはビンビンだからな(真顔)

( *・ω・)ノおしまーい!!!


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いつの間にかお盆終わっとるやないかい!くそぉぉぉ仕事のやつめぇ!八つ当たりぎみに名前をつけてやるぜーな『卵達の救出戦』の閑話の巻き

諸君、私は小説みたいなものを書くのが好きだ。
諸君、私は小説みたいなものを書くのが好きだ。

諸君、私は小説みたいなものを書くのが大好きだ!!


でも、たまには休みたいぃ(( ;∀;))!

でも、書きたいぃ( ;∀;)!!

でも、休みたいぃ( ;∀;)!!

ううん、複雑(*ゝ`ω・)!!


緑谷ちゃん救出チームである私、飯田ちゃん、常闇ちゃん、瀬呂ちゃん、尾白ちゃん五人は、ビルへの侵入を試みていた。

 

 

爆豪ちゃんが立てた作戦はそう難しくはない。

簡単に言ってしまえば爆豪ちゃんが囮となり、敵の注目が爆豪ちゃんに注目してる間に救出し、迅速に脱出する━━というシンプルな物。

 

救出チームは二つ分けられ、それぞれを人質の側に密かに配置する事になっている。

迅速に制圧出来る近接戦闘や拘束に秀でた救出チームを保護者達に、救出後の逃走を考え移動能力の高い人達を緑谷ちゃんの救出チームにといった具合よ。

私はその個性故に緑谷ちゃんの救出チームになっているわ。

 

 

轟ちゃんが避難路確保を確認した時点で爆豪ちゃんがドームを爆破させ敵の注目を集める。

敵の注目が人質から僅かにそれたその時を見計らい、私達救出チームが敵へとアタックをかける。勿論、戦闘よりも救出を優先する事になっているの。

 

 

「僕が道を切り開く。後続の皆、緑谷くんを頼む!」

 

 

飯田ちゃんが物陰から飛び出し、一直線に見張りの男へと駆ける。

出し惜しみなしのレシプロバースト。

一瞬で接近した飯田ちゃんは見張りの男を蹴り飛ばした。一撃だった。

直ぐ様別の見張りに向かう飯田ちゃんを横目に、私は常闇ちゃんと走る。

 

「蛙吹、行くぞ!!」

「けろっ、勿論よ!」

 

常闇ちゃんはダークシャドウちゃんを、私は舌を使ってがら空きになってる窓を通り抜け、ビル二階の内部へと入り込む。

 

敵の位置は耳郎ちゃんに教えて貰ってる。

 

最初に教えられた場所にまだいるかは分からないけど、暫くヴィラン達の様子を窺っていた耳郎ちゃんが言うには敵の配置に乱れがないとも聞いてる。今ならまだ当初の予定通りバレずに侵入出来る可能性は高い。

 

窓を抜けたそこにヴィランの姿はなかった。

 

二人で周囲を確認し、安全を確保した所で下にいる三人に合図を送る。ここからは別行動。逃走ルートを三人に作って貰わないといけないから。

 

ビル内部にいるヴィランの数は変わってなければ三人。

内一人は一階。二階から上に向かえる以上、気にするのは残った二人だけ。その二人は最上階から一つ下のフロアにいる。

 

一階にいるヴィランとビルの外を見張るヴィランは、中間距離で拘束力に長けた瀬呂ちゃんと、近接格闘が得意な尾白ちゃん、今はエンストで戦えないけれど直に復活する飯田ちゃんに任せ、私達は先へ。

 

ダークシャドウちゃんを先頭に進んでると、先に次のフロアを確認したダークシャドウちゃんが首を振った。 

 

「見張リガ降リテキテルゼ。シカモ二人」

「運が良い、と言っておくか。人質の所に向かわれたら厄介だった。蛙吹、俺の後ろから逸れるな」

「けろっ、了解よ」

 

階段をあがりきった所で前方から掛けてくる見張り達の姿が見えた。

 

「ダークシャドウ!!」

「アイヨ!!」

 

常闇ちゃんの一声が掛けられた瞬間、ダークシャドウちゃんが一気に加速する。一瞬で距離を詰められた見張り二人はダークシャドウちゃんの両腕に殴り飛ばされて壁に叩きつけられた。

 

叩きつけられた見張りの二人が立ち上がる様子はない。

 

「弱すぎるな」

「悪い事ではないけれど・・・」

 

既に屋上階まで二フロア。

助けを呼ばれる事なく敵の排除が出来た事は喜ぶべき事。

けれど、どうにも腑に落ちない。

 

「・・・だが、迷ってる時間はないな。先に進むぞ」

「注意して。なんだか嫌な感じがするわ」

「そのつもりだ」

 

警戒しつつ階段を上がっていく。

耳郎ちゃんが調べた時と変わらないのか、上階からはヴィランらしき気配はない。

 

順調と言う他ない状況。

だと言うのに、私の中に嫌な予感が募っていった。

 

屋上出口付近に辿り着いた所で、常闇ちゃんが「合図だ」と小さい声で呟く。

常闇ちゃんの視線を追ってみれば、崩れた壁の向こうに上鳴ちゃんが出したであろう電気の光が見えた。

 

「間の短い光が二回・・・轟ちゃんと、切島ちゃんの所の準備が出来たのね」

「後はここだけだ。ダークシャドウ、様子を見ろ」

 

屋上への入口の前、物陰から隠れながら常闇ちゃんはダークシャドウちゃんを走らせる。

器用に影から影へ姿を隠しながら、ダークシャドウちゃんは首を伸ばし辺りの確認していく。

 

そして、ダークシャドウちゃんが何かを見つけた。

 

「━━━━耳郎が確認した通りの位置。ヴィランも同じだ。それなら、蛙吹」

「二点から、ね。分かったわ。合図は私が」

「頼む」

 

近くの窓を開け、下の見張りに見つからない死角を伝って屋上へと向かう。

屋上に後は一歩という所で、私は一度深呼吸する。

上った先に緑谷ちゃんがいる。

そして、それを捕らえているヴィランも。

 

救出チャンスは一度きり。

もしその瞬間を間違えれば、追い詰められたヴィランが緑谷ちゃんに何をするか分からない。

 

私は再度深呼吸し、私達の合図を待っている耳郎ちゃんに向けて壁を叩いた。準備完了の合図。授業で教わったモールス信号。

 

直後、ドームの方に三回連続で閃光が走った。

私は爆発に備えて壁に体を押し付ける。

 

 

 

 

耳をつんざくような爆発音。

爆風が砂埃を巻き上げて吹き荒れる。

 

 

 

 

私はそれに乗じて屋上に。

緑谷ちゃんの下へと走った。

予定通り常闇ちゃんも屋上に入ってきてる。

私より目立つ為に、その個性を存分に使って。

 

爆発によって混乱するヴィラン。

突然常闇ちゃんが音を立てて現れれば視線はそこに釘づけになる。

でもそれは一瞬。

直ぐに人質を盾にされるだろう。

 

時間はない。

ロープを切るために百ちゃんに作って貰ったナイフを手に、いつでも使えるよう白刃を抜いた━━━。

 

「当然、ソウ来ルヨネ?」

 

目の前に大きな影が見えた。

視線を上げればスーパーヴィランの視線は私を捉えていた。

 

「な、んでっ━━━!」

「爆発直後、混乱スルヴィランヲ二点カラ攻メル。悪クハナイ。━━━ガ、少々詰メガ甘イゾ!ドウセナラ、常闇━━━カラス少年二、私ヲ攻メサセルベキダッタナ!コレデハ陽動デアル事ガ、バレバレダ!!」

 

スーパーヴィランが後ろへと腕を引き絞った。

 

「不味いっ、蛙吹!!ダークシャドウ!!」

「ガッテンダ!!」

 

「スーパーヴィランーーー!!スマッシュ!!!」

 

ダークシャドウちゃんが私を覆うように庇った瞬間、周囲を豪風が襲う。拳の一振り。直撃していないにも関わらず、その余波はコンクリートの地面を砕き、私達をビルの外へと吹き飛ばした。

私と常闇ちゃん、ダークシャドウちゃんの体が地面に向け落ちていく。

 

「けろっ!!」

 

咄嗟に舌を伸ばし剥き出しになった鉄骨にしがみつく。

 

「蛙吹!」

「大丈夫よ!そのまま、掴まってて!」

 

落ちる振り子のようにビルに迫る私達の体。

このままだとビルの側面にただ叩きつけられるだけ。

だから舌の力を振り絞って位置を調整し、なんとか開いてる窓へと体を滑り込ませる。

 

ビル内に転がるように戻ってきた私達は直ぐ様次の行動に移った。本当は直ぐにでも助けに戻りたかったけど、それは感情の問題。理性的な判断ではない。

だから、最悪を想定して決められた、その合図を外に向けて放った。

 

赤い煙が昇る発煙筒。

 

作戦失敗をさす、それを。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「赤い煙・・・!?そんなっ!」

 

決められていた合図。

念のために全員に渡されていたそれは、作戦失敗をさす物。煙が上がったのはニコちゃんが捕まってたビル外部。

つまりはそういう事。

 

脳裏に最悪が過った。

その光景を想像して、吐き気が込み上げてくる。

 

「大丈夫かよ、麗日!」

 

心配そうにこちらに駆けてくる上鳴くんが見えたけど、返す言葉が思い付かない。どうしようという思いだけが、ぐるぐると頭の中を巡ってく。

 

そんな時、不意に頭に衝撃が走った。

一瞬何が起きたか分からなかったけど、顔を上げたら手刀と鬼のような顔した爆豪くんがおった。

強い瞳が、私を見つめとった。

 

「プランBだ、浮かせ丸顔」

 

もしもの時、爆豪くんが言っていたもう一つの作戦。

もう作戦とも言えないそれを、爆豪くんは迷わず選択した。

内心私より心配してるだろうに、そんなの微塵も見せず、ただ前だけを見て。

 

いつか、ニコちゃんか言ってた事を思い出した。

楽しそうに私に爆豪くんの事を語る、ニコちゃんの姿を。

 

「耳たぶ、敵の残りは」

「あんたの爆音で分かんなくなった。けど、その後来た皆からの連絡だと、あのスーパーなんちゃら以外は排除出来たと思う。他に隠れてたりしなければだけど」

「警戒だけはしとけや」

「了解。予定通り、私らは避難始めるよ。後任せる」

 

耳郎ちゃんを一瞥した爆豪くんは私に掌を差し出した。

触れってことなんやと思う。

さっさと浮かせと。

 

私は自分の掌に沢山の気持ちを乗せて、爆豪くんの手を叩いた。

 

「爆豪くん・・・ニコちゃんの事宜しくな。絶対、絶対、助けて・・・!」

 

ニコちゃんが言うとった。

爆豪くんは頭は良いけど馬鹿なんやって。

 

爆豪くんはどれだけ大変でも、どれだけ辛くても。

逃げる事を知らない、諦める事を知らない。

大馬鹿なんやって。

 

私の言葉に爆豪くんは凶悪な笑みを浮かべる。

ヒーローとは思えんような。

でも、どこか頼もしいそれを。

 

「頼まれる筋合いなんざあるか!んなもん、たりめぇだろうがボケ!!」

 

そう言って背を向けた爆豪くんは一人飛んだ。

ニコちゃんがおる、その場所に向かって。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「赤い煙・・・!まさかっ!」

 

俺らを先導しとった八百万ちゃんが驚きの声をあげた。

顔色を見ればそれが宜しくない事を指しとるのが直ぐに分かる。

 

「どないしたんや・・・?」

 

そう尋ねてみると、見るからに狼狽えた。

 

「な、なんでもありません!お気になさらず!皆さんはどうかこのまま避難を!!」

 

どう見ても非常事態って感じやな。

救出チームを分けた言うとった所をみると、双虎ちゃんの方に向かわせたチームが失敗した、とかそんな所やろ。

 

これがただの演習やったら、そない大した問題でもない。せやけどそうでなかった場合、それは最悪を意味する。だからこそ、八百万ちゃんが動揺しているのだろうし。

 

しかし、立派なもんやな。

仲間の危機を知りつつも、俺らを避難させる為に前を向く。心配する気持ち圧し殺して、最善を尽くそうとする。そんな重圧を背負って、なおも取り乱さずに先導し続ける。

本当に立派や。

 

護衛に周りにいる子もそれは同じやけど、彼女はこのチームの指揮を任されてる筈。

ならその重圧はもっと重いもんやろ。

 

ヒーロー科っちゅうんわ、えらい所やな。

こんな子ばっかりおるんやろか。

 

「少しだけ、娘が心配になってきました」

 

不意に隣を進んどった蛙吹さんが小さい声で話し掛けてきた。

なぜ小さい声かといえば、演習であることを確信してきてるせいで俺達の会話が軽くなってきたせいや。他の人と温度差があり過ぎるんで、話すときはこうして声を圧し殺して話すようにしとる。

 

「こんなに優秀な子達の中で、上手くやれているのか」

「それは、俺も同じです。お茶子は優しい子なんやけど、その分抜けた所がある子おやさかい」

「うちの子も優しい子なんですが、人と話すのが少し。喋れない訳ではないんですが、結構物を言う子なので」

「御互い変わりませんな」

「そうですね、けろ。しかし、こんな話を私達がしてると聞いたら怒るでしょうね。余計なお世話だと」

「確かに、言えますね」

 

そんな会話をしとる時やった。

 

「すみません!止まって下さい!」

 

全員の足が止まる。

そして視線はそこへと集まった。

突然声をあげた、轟さんへと。

 

「どないしたんですか?」

「いないんです!緑谷さんが!!」

 

言われて辺りを見渡すと確かに姿がない。

殆ど一緒にいた爆豪さんに目をやれば、首を横に振った。

 

「さっきまで首根っこ掴まえてたんですけど、少し目を離したら何処かに・・・」

「さっき、一瞬止まった時だとは思うんですけど」

 

八百万ちゃんが煙見て足を止めた、あの時。

確かに全員が足を止めて、視線がそこへと集まった。

時間にして本当に一分にも満たない時間。

 

その間に緑谷さんの姿が見えなくなったという。

 

「麗日さん、まさか」

「まぁ、まさかやと思います」

 

蛙吹さんの言葉に俺は双虎ちゃんが捕らえられてたビルを見た。砂埃が凄くて緑谷さんの姿は見えない。

 

けれど、必死に走る緑谷さんの姿が、俺には見えた気がした。

 



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終わりよければ全て良しと言うけれど、そういう時って結局は何処かに不満を残して終る事が多いよね?だから終わりよりも過程を大事にしていきたい訳ですよ。だからね、ほら、頑張った私を怒らないでぇぇ。の巻き

今日は投稿しないと、あ、思ったか!?

正直、間に合わないと、おれは、思ったけども!!

今回、死ぬほどごちゃごちゃしてるから、先に、謝っておく。ごめん(*ゝ`ω・)!!


酷い物を見た。

それに尽きる事が私の目の前で起きた。

私は私から不自然なまでに目を合わさないガチムチの背中を見た。

そして言ってあげる。

 

「すーぱーびぃらんーすまーっしゅ!」

 

ガチムチの肩が跳ねた。

 

「す~ぱ~びぃらん~すま~~~っしゅ!」

「分カッタ!分カッタカラ!!止メテ!安直ナ技名デ悪カッタヨ!!ゴメンネ!」

 

私の名演技を台無しにする失態。

本当に一歩間違えたら、即終了レベルの失態だ。

謝れば済むという問題ではない。

 

双虎!今回という今回は、激おこプンプンなんちゃらかんちゃらなんだらぁー!

 

「私がここまでお膳立てしたのに、救出する前に終了とかありえます?メイクして、ギミック取り付けて、友達を騙すような真似をして、お手紙まで書いて頑張ったのに・・・・結果、ガチムチのミスでバレ終了とか、ありえますぅ?口調も変えないし、ポーズだって普段のガチムチだし━━━だから、小学生でも気づくって言ってんじゃないですか?聞いてませんでした?それになんですか?ちょいちょい掛ける優しさ溢れる言葉。悪党なら悪党らしく、『人質の女の腹かっさばかれて、内臓バラ売りされたくなかったら、大人しく言うことを聞くだがやー!』くらい言えないんですか?馬鹿なのん?ねぇ、禿げるのん?ハゲ2なのん?」

「怖イ事サラット言ウネ?!ソシテ、イツニナク辛辣!!オジサン、ガチデ泣イチャイソウダヨ!」

「泣けば許されると、本気で思ってますぅ?ハゲて下さい」

「君ハ弱イ者ニトコトン強イナ!オジサン君ノ将来ガ割ト心配ダヨ!」

 

まったく。

 

「・・・それにしても、梅雨ちゃん達吹き飛ばして、どうするんですか?助けさせて終わりだったのに」

「ウーン。マァネ。シカシネ、コレモ訓練ノ一環ダカラネ。簡単ニクリアサレテモ教訓ニナラナイダロウ?」

 

一理はあるかも知れないけど、あれを見て再度アタックを仕掛ける人はいないと思うんだけど・・・。

 

そこら辺は考えてんのかな?

 

「ソレシニテモ、イヤァー優秀優秀。チャント避難シテルネ!日頃ノ教育ノ賜物ダネ!HAHAHA!」

 

考えてないな、多分。

ガチムチはヒーローとしては優秀なのかも知れないけど、教師としては本当に駄目だな。入学前からの付き合いだけど、ミジンコ二匹分くらいしか成長してない。

大人として大丈夫なのかな?

 

そもそも、この演習色んな所に不備がある。

挙げていったらキリがないから言わないけど・・・いや、本当に挙げてったらキリがないんだってば。幾らあんのか分からないもん。

ガチムチの地が出ちゃってる糞演技もさることながら、手下ヴィラン役のへっぽこさ加減も無理のあるシチュエーションも、もう何もかもが学園祭のお遊戯レベルを出てない。それでも全体的になんか上手くいってるのは、絶対に私のお陰だと思う。

 

どれだけ幼稚でどれだけ適合性がなくても、暴力を振るわれた人質がいるという事実は、見ている人に否応なく緊張感を与える。主犯が言葉だけ割とまともな事を言っていれば、そのチグハグさが余計に見ている人を不安にさせる。

事実、そういった歪み加減を見て、皆このふざけたスーパーヴィランを犯罪者だと思って真面目に取り組んでいるのだ。

 

しかしなぁ・・・。

 

「かっちゃんくらいは見抜くと思ったのにな・・・」

 

 

「君ガココニイナケレバ、ソウダッタカモ知レナイネ」

 

 

ふと呟いた言葉に、ガチムチが言葉を返してきた。

 

「君ハ優秀ダヨ。ケレドネ優秀ダカラコソ、見テイナイ物ガアル」

「はぁ・・・そうですか?」

「ソウダトモ。私ガ君ニ・・・教エラレタヨウニネ」

 

それだけ言うとガチムチの視線はドームの方を向けられた。ガチムチの視線を追うとこちらに真っ直ぐ向かってくるかっちゃんの姿が見える。

 

「分カッテイルト思ウガ、君ハ人質。彼ヘノ助力ハ禁止ダゾ!」

「━━━しないよ。当たり前でしょ」

 

分かってるっての、まったく。

 

「・・・ソウカ、ソレナラ良イ。ナラバ、ヨク見テイルトイイ。誰カノ為ニ戦ウ、ヒーロー足ラントスル者ノ姿ヲ!!」

 

そう言って構えたガチムチに爆炎が空気を焼きながら迫る。普通の人からすれば脅威だが、ガチムチにはそよ風と変わらないだろう。

現に焦りの色は欠片もない。

 

ガチムチは迫る爆炎に向け、拳の一振りを放つ。

放たれた豪拳は空気を巻き込み爆風を生み出す。

生み出された爆風は、目前に迫った爆炎を容易く霧散させた。

 

爆炎が晴れた先には鬼の形相をしていたかっちゃんの姿が見えた。いつもより、ずっと鬼気迫る顔をした、かっちゃんの姿が━━━━。

 

「クソヴィラン!!面ァ、貸せやぁぁぁ!!」

 

「来イヨ、ヒーロー!!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

爆豪少年が現れて、僅かだが緑谷少女の気配が変わった。

良く見てなければ気づけない程、僅かな違いでしかないが確かに変わった。

 

彼にとって彼女が特別であるように、また彼女にとって彼は特別だという事なのだろう。

その関わり方がどうであれ、表情を変えさせるだけの力がある。

 

現に爆豪少年を見る彼女の目は、それを物語っている。

やはり、彼だったか。

 

「ごらぁぁぁぁ!!余所見なんざ、してんじゃねぇぞ!!」

 

繰り返される激しい爆撃の連打。

入試をヴィラン撃破ポイントだけで突破しただけの事はある。流石に優秀か。

 

しかし、青い。

 

「若イ!!嫌イデハ、ナイガネ!!」

 

軽く払えば爆豪少年が体勢を崩す。

そこに蹴りを放てば爆豪少年の体がビルの外へと吹き飛んだ。

 

その爆豪少年を見て、緑谷少女の顔が心配そうに歪む。

普段ならそう気にならない筈だ。笑顔すら見せるだろう。軽口も叩く筈だ。

 

でもそれは、彼を信用しているからじゃない。

その彼の隣にいるからだろう?

 

君なら助けるだろう。

迷う事もなく飛び込むだろう。

彼と共に戦う事を選ぶだろう。

 

それが君には出来る。

いや、それを出来るようにしたのだろう。

 

努力してきたは何の為だ。

ただひたすらに前を向いてきたのは何の為だ。

恐れを乗り越え、それでも歩むことを止めなかったのは何の為だ。

 

誰かを救うため?

夢があるから?

違う。

 

 

君は恐れたんだ。

ただ見守る事を。

 

 

「っざ、けんなぁぁ!!」

 

 

戻ってきた爆豪少年に拳を叩きつける。

勿論手加減はしたが、自らの爆破による加速のせいで倍以上の威力になっている事だろう。

拳を受けた爆豪少年の顔色を見れば分かる。

 

苦しむ爆豪少年を投げ飛ばし、そっと緑谷少女を見る。

そこには想像した通りの緑谷少女がいた。

 

緑谷少女、君は、本当の意味で誰も信用していない。

君は恐怖を乗り越える為に、他人ではなく己にそれを求めた。強くあればと。

勿論それは間違ってはいない。

事実だ。

 

けれどそれは、私が歩んできた道そのものなんだよ。

君が恐れた、私の道なのだ。

私は自らが間違ってるとは思わない。

けどな、君は私の道を追うな。

 

君には君の道があるのだろう。

この道はあまりに孤独だ。

君は一人になるな。

 

君が私のそれに気づいたように。

君ももっと周りを見る事を学びなさい。

君が無理をする度、いま君が感じているものを周りに与えているんだと気づきなさい。

爆豪少年がどうして君にここまで固執するのか、理解しなさい。

 

全部君が、私に教えてくれた事なんだぞ。

 

 

「私ガ君ニ送ル、レッスンソノ1ダ!!」

 

 

本当に誰かを思うのであれば、君はもっと自分を大切にする事を覚えなさい。

 

 

「スーパーヴィランーーー、す、す、スカッシュ!!」

 

 

拳が起こした爆風に揉まれ、悔しそうに顔を歪める爆豪少年に。

それを歯痒そうな表情で、掌を握る緑谷少女に。

 

 

 

 

私はその少年少女の姿に、心から願う。

 

 

 

 

 

 

 

君達の道の先に、私がいない事を━━━。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

体が重い。

息が苦しい。

心臓が張り裂けそうに痛い。

 

でも足は止まらなかった。

 

 

私は馬鹿だと思う。

きっと正しいのは、光己さんや麗日さん達の方。

私がいたら邪魔になることくらい、言われなくても分かってる。

きっとこういうのが、テレビとかで後ろ指さされる、どうしようもない奴の行動なんだと、そう分かってる。

 

でも、私の足は止まらなかった。

止められなかった。

 

だって私には分からないから。

光己さん達みたいに、大丈夫だって言える気持ちが。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてあの子が笑った日を覚えてる。

 

初めてあの子が喋った日を覚えてる。

 

初めてあの子が立った日を、歩いた日を覚えてる。

 

叱った日も、イタズラした日も、我が儘言った日も、プレゼントをくれた日も。

 

全部ちゃんと覚えてる。

 

私の初めては全部あの子がくれたから。

 

 

 

 

小さい頃のあの子はずっと大人しくて、あまり笑わない子だった。一人遊びが好きで、部屋の中でも外でもいつも一人きり。幼稚園に行ってもそれは変わらなくて、迎えに行くといつも角で一人遊ぶ姿をみた。

 

不安だった。

聞いてた話と違くて、私は沢山悩んで考えて色んな事を試した。少しでもあの子が、他の子と同じように出来るようにって。

けれど、あの子は全然変わらなくて、他の子と違うあの子を見て、何度も夫に泣きついていた。

 

いま思えば怖かったのかも知れない。

普通の子と違うあの子が。

 

いまならそれがあの子の個性だと胸を張って言えるけれど、あの頃の私にはそれが酷く恐ろしく見えて、どうしたらいいか分からなかった。

 

育児に悩んでいたそんな時、あの子を公園に連れ出した事があった。どうしてそうしたのか分からない。他の子の真似でもさせようと思ったのか、それとも私自身が部屋で一人で遊ぶあの子を見ていられなかったのか。

今はもう思い出せない。

 

けれど、その日だった。

何もかも変わったのは。

 

「や、やめ、ろっ!こ、の!ふばっ!!?」

 

少し目を離した隙にいなくなった娘を探していた私の目に入ったのは、一人の少年を馬乗りで殴り付ける娘の姿だった。

 

びっくりした。本当に。

心臓が口から飛び出るという気持ちを、私は初めて知った。

 

急いで少年から娘を引き剥がし、私を不思議そうに見上げる娘を叱った。本当なら少年に謝るのが先だったのだけど、その時は気が動転していて兎に角にも、娘を叱らなくてはと思っていたのだ。

 

叱られた事のなかった娘は私の怒鳴り声に一瞬きょとんとしたけど、直ぐに意味が分かったのか初めて大声で泣きだした。赤ん坊の頃しか聞かなかった、本当に大きな泣き声で。

 

そして気がついた。

大粒の涙を浮かべながら辿々しい言葉で謝ってくる娘の姿を見て、やっと。

 

何をそんなに恐れていたのかと。

この子の何がそんなに違うのだと。

 

そっと抱き締めたあの子の体温がいつもよりずっと温かくて、私はその温もりを感じながら泣きわめくあの子と一緒に沢山泣いた。涙がかれるまで、沢山。

 

 

 

それからはあっという間だった気がする。

殴り飛ばしてた子と何故か仲良くなったあの子は、その子を引き連れてあっちへこっちへ行くようになった。少し前まで大人しかった事が嘘みたいに、目を離すととんでもない事ばかりするようにも。

その度に叱るけど反省するのは叱った後少しだけ。全然へこたれなくて、結局また何処かで大暴れ。

 

だからよく苦労してる?なんて聞かれるけど、そんな事当たり前。当然でしょう。そもそも苦労しない親なんて、いる訳ないじゃない。

皆色んな事を悩んで、一生懸命育てるの。苦労するのなんて決まってる。それが子育て。

 

でもね、今の私なら胸を張って言える。

そんな事ないって。

 

だってね、それよりもずっと沢山のモノ貰ってるから。

形になんか出来ないし、誰かに分かって貰えるようなモノでもないけど━━━確かに両手なんかじゃ抱えきれないほど沢山のモノを貰っているの。

 

 

だから━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を切らして階段をあがった先に、黒いマスクのヴィランの姿が見えた。

直ぐ隣にあの子の姿も。

 

そしてあの子を助けようとする、ボロボロの勝己くんの姿も。

 

良かったと思う。

正直私一人じゃ何も出来なかったと思うから。

あの子になら、任せて大丈夫だと思えるから。

 

私を見つけ驚く勝己くんに、目で合図を送った。

簡単な合図。

ただ娘の方を見つめただけの。

 

けれど、勝己くんにはその意味が分かったのか、一瞬悩んだみたいに見えたけど、直ぐに真剣な目で見返してきてくれた。

 

 

恐らく私に出来る最後の親としての仕事。

拳にありったけの力を込める。

悔いを残さないように。

 

「━━━っ!?アレ、何故ココニ!?」

 

ヴィランが私に気づいた。

けれどもう遅い。

もう手が届く。

 

引き寄せる個性でヴィランを引き寄せながら、拳を振り抜いた。何もかも込めた、渾身の力で。

あまり手応えはなかったけど、当たり所が良かったのかヴィランの体が前屈みになる。どうしてだか、煙も昇ってる。

 

「母様!?」

 

娘の声が聞こえた。

少しだけ振り返って見れば、顔は酷かったけど元気そうに見える。流石にあっちこっちで無茶するだけあって頑丈。わが娘ながら呆れる。

 

何かを伝えたかったけど、上手く言葉が見つからない。

言いたい事は本当に山とあるけど。

 

けれど、そうだ。

一つだけ伝えるなら。

 

 

 

 

 

「貴女の母親で本当に良かった。ありがとうね双虎」

 

 

 

 

 

ヴィランの足を持って、全体重を掛けながら思い切り力を込めて押し込む。体勢が崩れていた事もあって、私でもその巨体を押すことが出来た。

 

「アッ、チョット待ッテ、緑谷少女ノオ母サン!!今、本当ニ不味イカラ!?時間ガっ!!」

「貴方に!!お母さん呼ばわりされる筋合いはないわよ!!うちの娘にちょっかい掛けた事!!地獄で後悔させてやるからね!!」

「本気ダネ!!コレ!!ア、不味ッ━━━!!?」

 

 

ヴィランの姿が消え、直ぐに私の体も浮遊感に包まれた。

 

 

遠くなる空を見た私は、目を瞑った。

ただあの子の事を━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

「母様!!!」

 

 

その声に思わず瞑っていた目を開けた。

そこには居る筈のない娘の姿。

 

「あん、た!!なんで!」

「大丈夫!!大丈夫だから!!」

 

そう言って笑顔を浮かべ手を伸ばす娘。

引き付けられるように、体が娘の下へと浮く。

私の体を抱き締めるように抱えた娘は、もう一度呟くように言った。

 

「━━━━大丈夫だから」

 

僅かに震える体、声に。

安心感はない。

 

けれど━━━━。

 

 

 

 

『大丈夫、怖くないわよ。こんなのただのテレビじゃない。ヒーロー特集が終わったら直ぐにあなたの大好きなの始まるわよ?ほら、お天気かいじゅうみないの?がおー』

 

『こわいもん。や。ちがうのにして』

 

『それで前に見逃して泣いたじゃないの。ほら、お母さんと一緒なら大丈夫。ね?おいで』

 

『まこと?』

 

『ふふ、なにそれ?今度は何処で覚えてきたの?まことまこと。ほらおいで。大丈夫』

 

『だいじょーぶくないぃ』

 

『大丈夫。大丈夫だから━━━』

 

 

そっか。

もうそれは、貴女が言う言葉なのね。

 

「うん、分かったわ━━━」

 

私は娘の体を抱き締めて、そっと目を瞑った。

大きくなった娘の体の、確かな温もりを感じながら。

 



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私は全然悪くないんだけど、何故だか代償を払わなくちゃいけなくなった。あれかな?連帯保証的なあれかな?おかしいなぁ、何もサインしてないのに。おかしいなぁ・・・助けて、幼馴染。きゅうりあげるから。の巻き

最近ロングホープ・フィリアがお気にで馬鹿みたいに聞いとります。ループでガンガン聞いてます。
だから、鼻唄も歌っちゃうよね、ふいにね。


ま、そのくせ全然歌詞覚えてないけど。
ふんふんしか言ってないよね(*´ー`*)


人質になろうとその美貌に揺らぎなし。

彼氏いない歴イコール年齢の清く正しい穢れなき天使な私は雄英高校1年ヒーロー科、緑谷双虎15歳。

 

誰もが羨む美少女高校生な私は今、母様の前でジャパンオリジナルポーズDOGEZAを披露していた。

 

・・・・ガチムチと一緒に。

 

「この度はご心配お掛けしまして・・・」

「まことに申し訳御座いませんでしたーー!!」

 

 

 

 

演習無視で母様を空中キャッチした私は、かっちゃんからの合図を下で待っていた梅雨ちゃん達にあっさり助けられた。何でも再度アタックを仕掛ける為に準備していたという。

そんな事とは露知らず乙女力を振り絞ろうとしていた私は、そのあっさりな救出劇には盛大に肩透かしをくらう形となった。

 

ほっと一息つくのもつかの間、私の腕の中で母様が眠るように気絶している事が判明。心配する皆を置き去りに保健室へとダッシュ。母様が起きるまで付き添う事になった。

 

遅れてきたガチムチから他の保護者や生徒達に今回の演習の話をして一時期荒れた事や包帯先生から皆が駄目だしを食らった事、皆が私に向け「覚悟しておけ」という怖い事を言っていた事を知らされたりした。

私は悪くないのにぃ。

 

そんな話をしていると母様が目を覚ました。

第一声が私を心配する言葉で、罪悪感がバシバシ刺激された私はガチムチと謝ることにして━━━━━今のDOGEZAに至るわけだ。

 

 

「当たり前だよ!!だからあたしゃ反対だったんだ!!こんな試すような真似をして!親の気持ちをなんだと思ってんだい!!」

 

私達の声を聞いて一緒に看病していたりかばーが怒鳴り声をあげた。プンスコーである。これはプンスコを越える怒り、プンスコーである。

まぁ、主にガチムチが矛先なので黙っておく。

 

「オールマイト!!あんたね!人の気持ちが分からないにも程があるよ!直しな!!」

「は、はい。今回は、本当に申し訳なく。少々配慮が足りませんで・・・」

「少々どころじゃないさ!!全然足りないよ!!人によっちゃ持つ気持ちも違うけどね、でもね大体の親ってのはね、子供の為なら平気で命くらい懸けるもんなんだよ!!母親なら尚更さ!!━━━腹痛めて産んだ子はね、自分の分身も同じなんだ。特別なんだよ。男のあんたに分かれというのも難しいかも知れないけど・・・」

「はい。その辺は難しく・・・」

「自分で言うんじゃないよ!!いっそ女にでもなって子供の一人や二人産んでみたらいいのさ!!そしたらよぉーーく分かるだろうさ!!」

「は、はぃ!申し訳御座いません!!」

 

怒られるガチムチを横目にちょっと想像してみた。

女になって、夫を作って、お腹を膨らませたガチムチの凶悪な姿を。

 

「地獄絵図・・・」

「緑谷少女、君が何を想像したか教えてくれないかな?凄く嫌な予感がするのだけど」

 

旦那役にハゲを想像したせいで、紅白饅頭みたいな髪の毛したゴツい顔した赤ん坊も想像してしまい吐き気すらする。これは酷い。

 

紅白饅頭に腹違いの兄弟が・・・・うわぁ。

 

「緑谷双虎!あんたもだよ!!」

「は、はいぃ!!」

 

急に呼ばれて心臓が飛び上がった。

死ぬかと思った。

 

「予定だとそこまで酷い格好にならない筈じゃなかったかい!!他の先生らにも注意はしたけどね━━━━特に!積極的に参加したミッドナイトとマイクの馬鹿にはキツーーーク言い聞かせたけどね!!発案者はあんただろ!!反省しな!!」

「はいぃぃぃ!!ごめんなさいぃ!!全部ガチムチが悪いけど、ごめんなさいぃ!!」

 

「さらっと私を盾にしないで!?そんな主犯みたいな」

 

私の言葉に反射的にガチムチが反応したけど、そういうノリに慣れてないりかばーは烈火の如く怒り出した。

 

「あんたが一番の主犯だろ!!大馬鹿たれ!!まだ反省出来てないってんなら、知り合いの所でそのぶら下がったもんとっちまうかい!?」

「は、はい!そうでした!企画は私でした!申し訳御座いませんでした!!」

「まったく!!」

 

一通り怒り散らしたりかばーは母様の診察を始める。

体温を計ったり、脈を見たり色々だ。

全部調べ終わったのか最後に母様の顔色を見て「大事なさそうだね」と安堵の息をはく。

 

「疲れたんだろうさ。今日は美味しいものでも食べて、ゆっくり休むんだよ。やる事はそこのじゃじゃ馬にでも任せてね?」

 

そう言って笑うりかばーに母様が困ったように笑う。

 

「それが出来たらありがたいんですけどね・・・逆に気疲れしそうなので」

 

りかばーのジト目が私を見つめた。

 

「あんた、何にも出来ないのかい。高校生にもなって」

「で、出来ますぅーー!目玉焼きとか作れるしぃ!洗濯だってどのボタン押せばいいかとか、お風呂掃除とか普通に出来ますぅーー!!」

「誰にでも出来そうな事ばっかりあげるんじゃないよ。恥ずかしい」

「ぐぅふっ」

 

痛い、心が痛い!

目玉焼きとか、あれだぞ、凄く難しいんだからね!洗濯機だって、ちゃんと設定しないと回らないんだから!!お風呂掃除だって、洗剤を間違えるとちゃんと汚れが落ちないんだよぉぉー!?

りかばーは知らないだろうけど!!けどぉ!?

 

・・・ぐぁぁぁ!知ってそう!

 

私の様子を見てたりかばーが徐に重い溜息をついてきた。言われなくてもわかる、落胆してるやつやん!このぅ!

 

「苦労してるね、あんたも」

 

りかばーにそう投げ掛けられた母様は、私の顔を見て何も言わずに笑った。

 

「・・・取り合えず、親を騙した悪ーーい子にはお仕置きしようと思います」

 

お仕置き・・・だと?

 

「双虎、あんたこれから一週間、夕飯にきゅうりの和え物出すから残さず食べるのよ?良いわね?」

 

なん、だと・・・!?

突然の死刑宣告に体が、声が、魂が震える。

 

「う、嘘だよね?母様?ぷりちぃーでお茶目な嘘だよね?あれ?可愛いなぁ、今日の母様━━━」

「返事は?」

 

母様の笑ってない目。

有無を言わさぬその雰囲気。

退路が断たれた事を知った。

 

これ以上無駄な抵抗をすれば、被害が拡大する事は目に見えている。

私がとれる手段は最早一つしかない。

 

「は、はい・・・・」

「返事したわね?ちゃんと食べるのよ。こっそり棄てたり、勝己くんにあげるような事があったら、その分日にちが伸びていくから覚悟しなさいね」

 

うわぁぁぁぁぁ!!

 

心の中で絶叫した私はガチムチを恨んだ。

これまで色々あったけど、今日という日ほど恨んだ事はないほど恨んだ。恨みまくった。

この恨み晴らさずおくべきかぁ!

 

 

取り敢えず今は母様達がいて手が出せないけど・・・明日、脛だけは蹴ってやろうと思う。思いっきり。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

緑谷双虎が部屋を出た後、残ったオールマイトは再び緑谷の母親に深々と頭を下げた。

 

「本日は多大なご心労お掛けしました事、誠に申し訳御座いませんでした・・・」

 

さっきまでの軽い雰囲気が抜けた重い言葉。

あの子がいた事で建前として私も叱ったけど、この男はちゃんと今回の事を分かってる。確かに少し頭の足りない男だけど、そこまで馬鹿じゃない。

 

それにこの子にとっちゃ母親ってのは、特別だろうからねぇ。

 

頭を下げるオールマイトに緑谷の母親は「いいえ」と首を振る。

 

「私が早とちりしただけですから。怪我もしてませんし、あの子も無事ならそれで。それに大人しくしていれば、こうも騒ぎにはならなかったでしょう。こちらこそ、申し訳御座いませんでした」

「いえ、そのような事は」

「・・・先程の娘にしていた話。実は聞いていました。保護者の方の中には、今回のこれが演習であると気づいた人達もいらっしゃったんですよね?私ったら一人で・・・恥ずかしい限りです」

 

そう言った緑谷の母親は恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

私はその姿を眺めながら感心する。

寝起きだってのによく冷静に聞けたもんだと。

緑谷双虎の頭の回転の早さは、母親譲りなのかも知れないねぇ。

 

「━━━ですが、今回の件は」

 

何かを言い掛けたオールマイトに掌が翳された。

制止を求める緑谷の母親の掌が。

 

「大丈夫だと、あの子が言いました」

「緑谷少女がですか・・・?」

「はい。私はあの子の言葉を信じます。だからこの話はここでお仕舞いにして下さい。これからもどうか、あの子がヒーローになれるその日まで、ご指導ご鞭撻の方、宜しくお願い致します」

 

下げられた頭に、オールマイトも頭を下げた。

 

「沢山ご迷惑をお掛けするとは思いますが・・・」

「あ、いえ、そんな事は・・・あは、アハハハ!!」

 

誤魔化すのが下手な男だこと・・・。

本当に、この男はヒーロー以外からっきしだねぇ。

ふと時間を見るとオールマイトの次の予定が迫っている事に気がついて声を掛けてやる。

すると大慌てで部屋の外へと飛び出していった。

 

部屋に残った緑谷の母親は崩れるようにベッドに倒れる。気をはって疲れたのだろうさね。ナンバーワンヒーローと分かってから肩があがってたからね。

 

「そのまま少し休んでからいきな。ちょうどベッドも空いてるしね」

「あ、いえ、そんな。直ぐに行きますから」

「遠慮するんじゃないよ。知り合いと一緒に来たんだろう?その人が来るまで、大人しくしときな。年寄りの言う事は聞いとくもんだよ」

「そ、それでは、お言葉に甘えさせて貰います」

 

そう言って眠りについた緑谷の母親を眺め、ふとあの時の自分の言葉を思い出した。

 

「大変だって、言わなかったねぇ━━━ふふ、良い親持ったじゃないさ、緑谷双虎。もちっと孝行してやんないと罰があたるよ。まったく・・・」

 

 



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夏もあと少しで終わり。もう一踏ん張りして乗り切るぜって感じで今日もサブタイつけてくよ『先生達の後片付け』の閑話の巻き

これにて授業参観編終わりー!!
長かったー!めちゃ、長かったー!!
小説へんなんて書くもんじゃないな!書くこと多すぎるわ(;・ω・)

本当なら色々蛇足しなきゃいけないけど、ぐどくなりそうだからしない( *・ω・)ノ

ふわっとまとめといたから、
これで勘弁して下さい((((;゜Д゜)))


「ブラド先生!さようなら!!」

「おう!また明日な!」

 

そう言って元気に帰っていく生徒を眺めながら俺は今日のB組の授業参観風景を振り返った。

A組と違い保護者に知らせた例年通りの救助演習。結果は良好と言えた。各生徒達が各々の個性をきちんと把握し、効率的にかつ能動的に救助活動を行えた。厳しめの採点をしたつもりだが、それでも五点満点でいうなら四点は固い。素晴らしい限りだ。

 

物間のやつも随分と明るい顔で帰っていったし、拳藤のやつもクラス委員として自信がついた事だろう。哲哲などはやる気が空回りしていたが、それも他の生徒がキチンとフォロー出来たしな。うむ、問題ない。

 

職員室に戻る途中、中庭で楽しげに集まるA組生徒を見た。

その様子からA組も滞りなかったのかと一瞬思ったが、よくよく見ると楽しげだと思ったのは気のせいで、何やら雰囲気が剣呑だった。

気になって眺めていると、A組生徒達の中心に正座する女生徒の姿が見え、すわ虐めか!?と思ったのだが・・・どうにもそうでもないように見えた。というのも会話の内容が聞こえてきたのだ。

 

「ニコちゃん、随分と楽しそうに騙してくれたんやね」

「やられたよー。私すっかり騙されたー」

「けろ。先生に頼まれたからとはいえ、限度があるわ」

「どれだけ私が気をもんだかお分かりですか!?緑谷さん!!」

「本気モードで全裸までさらした私の立場は!?」

「いや、葉隠。あんたのはいつもの事でしょ。緑谷さ、取り敢えず爆豪にだけはちゃんと謝っておきなよ」

 

女子の声が大きいようだが、他にも男子の文句の声も聞こえる。

 

・・・多分、悪いのは中心の生徒だな。

よく見たらあの問題児じゃないか。

なら問題ないか。

 

さーせんという小さい声とガミガミネチネチと続けられる説教を背に、俺は職員室へと急いだ。

職員室につくと自分の席で黙々と何かに目を通すイレイザーの姿を見かけた。先程のA組生徒達の様子を思い出し、授業参観について聞こうと近づけばその顔色の悪さが目についた。

 

「また酷い顔してるな、イレイザー」

 

そう声を掛けると、幽鬼のような顔でファイルを眺めていたイレイザーが視線をあげた。

 

「・・・・ブラドか。なんだ、何か用か」

「用という程の事もないのだが、その顔を見たら少し気になってな。そんなに大変だったのか、授業参観」

 

授業参観の単語を聞いた途端、分かりやすく嫌な顔をした。相当堪える事があったのだろう。

 

「・・・そういうお前の方は、随分といい結果だったらしいな」

「ん?いや、まぁな。特に問題もなかったし、救助もヴィラン退治の方も順調そのものだったしなぁ。ふふふ、お前の所にも負けとらんぞ!うちの生徒達はな!」

 

USJ以来何処か差を付けられ気味で、体育祭でもA組ばかり活躍していた事を随分と気にしてる連中がいたからな。今回の結果はさぞ励みになった事だろう。

ここらで何かしら実績をくれてやらねば腐ってしまう所だったし、実にいいタイミングでの行事だったと言える。少なくとも俺達には。

 

イレイザーにはそうではなかったようだが。

 

「うちも、例年通りやれば良かったんだ。そうすれば、こう無駄な事をせずに済んだと・・・・」

 

おおぅ。

イレイザーの後ろに般若が見える。

 

「そんなにか?」

「そんなにだ」

 

一も二もなく返された言葉には怒りが満ちていた。

ストレスが凄い事になってるな、これ。

後で飲みにでも連れてってやらねば。

 

「リアル志向にしただけだろ?そんなに違う物か?」

「保護者への説明がない分、安全面は最大限考慮しなければならない。現場の準備は細心の注意を払い、殆どの建造物に補強を施した。ヴィラン役を務めるエキストラとの綿密な打ち合わせ。都合三度は行った。生徒達の個性や性格を考慮して動きを想定、その行動をシミュレートした。その際不具合を起こす可能性のある要素を排除し、更にシミュレート。これは何度やったか分からん。加えて、事後処理についても準備しなければならん。保護者に説明するためにプリントの作成。理解をえるためにも実際の現場での資料を探し比較資料を作った。他には生徒達の行動の採点。注意点を洗う必要もある。改善点はなるべく早くに直させた方がいい。それに生徒達へのケアの事もある。一部の生徒にはショックもあるだろうからな。USJでの時もそうだったが、そういった者は出来るだけ早めに見つけカウンセリングにかける必要がある。それはお前も分かる事だろ。必要によっては除籍も検討しなければならん事項だ。外せん」

 

予想以上に頭が痛くなる話だった。

期末テストの作成や期末試験の打ち合わせもあるというか、こいつこんな事してたのか。

そりゃ、顔色も悪くなる。

 

「・・・ま、まぁ、終わった事だ━━━」

「━━━それだけならまだ良い。思いの外、保護者達から好評でな。是非とも来年もやるべきだと、そう声をあげる方もいてな。・・・特に八百万のご夫人がな」

 

八百万・・・それは、なんとも。

 

「いやらしい話だが、確か八百万家は・・・」

「分かってるなら言うな。校長からも今回の授業参観についてはレポートをまとめるように言われた。来年度の為に、手引きをまとめて欲しいともな」

「お、おう。そうか。まぁ、今後やるようなら、確かに今回の資料は良い比較になるな。うん」

 

俺の言葉に重い溜息が返ってきた。

やりたくないオーラが目に見えるようだ。

それにしても、今回の件に関してはオールマイトが中心で動いていた筈だが・・・なぜこいつは一人なのだ?

 

俺の視線の意味に気づいたのか、再び大きく重い溜息が返ってきた。

 

「あの人には、あの人の仕事があるという事だ」

 

椅子にもたれ掛かったイレイザーは目薬を差しながら続ける。

 

「批判は覚悟していたんだがな・・・オールマイトが出た途端、綺麗に治まった。仁徳なんだろうな。俺はあの人はあまり好かんが・・・ヒーローとしては尊敬に値する人だと改めて思ったよ」

「イレイザーが誉めるのは珍しいな。特にオールマイトとは相性が悪かったろ」

「まぁな。だが、それとこれとは別だ。・・・ヒーローってのは、ああいう人を言うんだろうな。ただの一声で、姿を見せるだけで、その名前だけで、たちどころに人を笑顔に変える。安心感を与える。当然、ヴィランなら真逆な訳だが・・・」

 

今あるヒーロー達にとって、オールマイトは理想形と言っていいだろう。

それほどに支持を集めている。

 

「犯罪発生率6パーセント。世界的な平均基準20パーセントを大きく下回っているのは、間違いなくそのオールマイトのお陰でもある訳だからな。正に平和の象徴という訳だ。うんうん。うちの生徒達にもファンは多い」

「そうだ。だからこそ、あの人は危惧している。これからの、オールマイトのいない次代をな」

 

イレイザーの言葉には己の耳を疑った。

いずれはある事だろうが、それまで現実味など欠片も感じていなかったからだ。

そんな話を、今オールマイトの身近にいる者が口にする意味を分からない訳がない。

 

「なにかあったのか!?また時間が!?」

「今はまだ現状維持だ。そういう話じゃない。・・・あの人はこれからを見てるんだろうって話だ。だからこそ、今回こんな真似をしたんだってな」

「どういう意味だ?」

 

難しい話じゃない。

そう言ってイレイザーはファイルに視線を落とした。

ファイルの資料を眺めながら、ぽつりぽつりとイレイザーは語る。

 

「これからヒーローになる者達には、恐らく今以上の危険がまとわりつく。それはオールマイトの弱体化に伴ってより明確に世間に現れる筈だ。これまで以上に、ヒーローにも、そしてそれを支える人達にも、それ相応の覚悟が必要になる。━━━だから自らが育てている生徒達に、それに関わる保護者達に、今回の件で知って欲しかったんだろ」

「それは・・・そうなのだろうが。しかし、そんなに直ぐになるものか?」

「なるさ。今の平和はたった一人の存在で成り立っている危うい状況だ。オールマイトがいなくなっただけで、直ぐに前時代に巻き戻る。だから必要なんだ。新たな象徴が必要はどうかは別として、これからのヒーローにはその時代を生きる覚悟と力がな」

「覚悟と力が・・・」

 

一朝一夕でつく物ではないな。

ただ力を与える事は容易に出来るだろう。本人の意思さえあれば鍛えてやるだけだ。多少の時間があれば良い。

 

だが、覚悟となる意識は別だ。

 

それは良き経験と良き教えを授け、慎重に根気よく伝えていかなければいけない。一度違えてしまえば修正は難しく、簡単に変わるものではないからこそ、より時間を掛けてしっかりと。

 

そう考えると、一時の成果で喜ばすのは間違っていたかも知れん。

B組にもA組のようにより実戦に近い形でやるべきだったか。

 

「次回はうちもそうするか?」

「そう上手くいくとも思えんぞ。今回上手くいったのは偶然が重なっただけだ。オールマイトに落ち度があったとはいえ、実際、保護者の中には演習であると気づいた方もいたからな」

「まだまだ課題は多そうだな」

「ああ」

 

それを考えていくのが我々雄英教師の仕事。

生徒達を一端のヒーローにする為には、泣き言を言っては入られないか。

 

しかし━━━━

 

「・・・いまだ除籍なし。随分と気に入ってるんだな。今の生徒達は」

 

イレイザーの除籍癖は教師達なら皆が知ってる。

だからここまで一度も除籍を口にしない事が随分と噂になっていた。加えて、ここまで自分が苦労してまで生徒の為に動いてる姿は稀だ。

 

「そんな事はないだろう」

「あるさ。ここまでお前がやる気になってるのは、正直初めて見るぞ。今回の事だって本気で嫌なら断れただろ。オールマイトが主体とはいえ、半分はお前の責任で行ってるんだ。お前も必要だと、そう思ったんだろ?」

「・・・」

 

イレイザーは手元のファイルを捲った。

誤魔化しているのがみえみえだ。

 

朝から目付きの悪さ全開で時間がないと掛けずり回っていた。やる気のない男のする事じゃない。

どれだけ文句を言おうと、こうしてここで仕事をしてるのがいい証拠だ。

 

「・・・・がらじゃないけどな」

「ん?」

 

ファイルを眺めたままイレイザーが呟いた。

 

「━━━━あいつらが、一端のヒーローに成れればいいとは、思ってるさ・・・勿論それは、あいつらが望んでればのは話だがな」

 

最後に余計な物をつけるあたりがらしいな。

まったく、こいつは。

素直じゃないイレイザーの背中をパンと叩き、俺も返しておいた。

 

「そうだな。俺もだ」

 

願わくば、可愛い教え子達が俺達の手元を離れていった時、立派なヒーローである事を━━━だな。

 

 

 

 

 

 

「それはそうと、お前のとこの生徒が中庭で問題児を説教してたぞ。放っておいて大丈夫か?無視してきた俺が言うのもなんだが」

「いい薬だ、放っておけ」

 



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ナンバー6:50回目の…どころじゃないマジゲンカ:優しくしないと泣いちゃうぞ編
楽しい楽しいお食事会ー!何食べて良いの!?好きなの食べて良いの!?やったぁーー!・・・ええ、はい、分かってますとも。嫌いな物は外れないんですよね?はは。なにかっ!アレを誤魔化せる物を食べねば!の巻き


一応今回から期末編になりまーす。
まっ、前回と同じ日にちだし、そのまま続きみたいんなんだけどもね。

一応ね。うん(*´ω`*)


授業参観を終えたその夜。

親子水入らずの地獄の晩餐会が開かれる━━━と思っていたのだが、光己さんの主催でのお食事会が開かれる事になり、私は何気にきゅうりという名の悪魔を初日から回避出来そうな感じになっていた。

 

食事会の場所は和食レストランらしいので、望み薄だが・・・洋食にしてよぉ。

 

母様と待ち合わせ場所にいくと光己さんとかっちゃんが先にいた。

 

「引子さん、双虎ちゃん。こっちこっち!さっきぶり~」

 

楽しそうに手を振る光己さんに母様は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「今日は親子共々ご迷惑をお掛けしまして・・・」

「いいんですよ~!可愛い一人娘の為なんですから、無茶の一つや二つ!それよりうちの馬鹿が不甲斐なくてごめんなさいねぇ。みすみす人が飛び降りんの見て、なに呆けてんだってね、ねぇ」

 

パァンとかっちゃんの頭が叩かれた。

かっちゃんの鋭い視線が光己さんに向く。

 

「んだと、ババァ!!」

「ほんとこの子ったら口ばっかで、もう。恥ずかしい限りで・・・」

 

そう言って光己さんは再びかっちゃんの頭をスパンキングする。良い音だな。

 

スパンキングされっぱなしなかっちゃんは不機嫌そうに私を見た。何か言いたそうに見える。

 

「どした?」

「━━━んでもねぇわ!糞がっ!」

 

結局垂れたのはそんな言葉だけ。

当然、隣にいた光己さんにスパンキングされた。

まるで打楽器のようである。

 

そんなかっちゃんは結局何も言わず、鼻息だけ漏らして店に向かって歩き出した。

 

「━━━あ、ちょっと待ちなさい勝己。もう一組くんのよ」

「はぁ?っんの話だ?」

 

光己さんの言葉にかっちゃんが眉間に皺を寄せ、不思議そうな顔をした。正直私も同じ気持ちだ。いつも通り緑谷家と爆豪家だけの食事会だと思ってたから。

誰来るん?切島んち?お茶子んち?

 

来る人を予想していると「遅れてすいませんー!」と若い女の人の声が聞こえた。聞き覚えのない声に振り返ってみると、白っぽい髪に赤っぽいメッシュが入った、何処かで見たことのある女の人がいた。

 

「すみません!ここら辺ってあまり土地勘がなくて」

「良いのよ。それよりごめんなさいね。態々こっち来て貰って」

「いえいえ。そんな事ありませんよ。今夜はお誘いして頂きありがとう御座いました。父も参加するつもりだったんですけど、急に出動が掛かっちゃいまして・・・」

「あら、そうなのね。少しお話を聞かせて貰いたかったのに残念だわ。ま、その辺は冬美ちゃんに聞こうかしらね?」

「私でお答え出来る事であれば・・・お手柔らかにお願いします。あはは」

 

随分と光己さんと仲良さそう。

誰のお母さんだろ?てか、なんか見たことある気がする。

 

「緑谷」

 

二人の会話を眺めていると、今度は聞き覚えのある声を聞いた。ぼやっとした、あいつの声だ。

視線をそこへと向ければ、放課後ガチ説教をかましてきた轟がいた。

 

私は静かに身構える。

セカンド説教の恐れがあるからだ。

 

「・・・何してんだ?」

「いや、まぁ、ね。それよりもあんたこそ何してんの?」

「爆豪のお母さんに姉さんが誘われてな。それで来た」

「へぇ、ふぅん」

 

授業参観の時仲良くなったのか。

会話する二人の様子を見ると、どっかの部活の先輩後輩みたいな雰囲気があった。いつの間にか母様もその輪に加わり、平均年齢がちょっと高いかしましガールズ結成。

なんか、凄く話長くなりそうな予感。

 

暇になったので私は轟にちょっかいを掛ける事にした。

 

「それにしても、こういうの来るんだ?意外」

「別に嫌いな訳じゃない。・・・機会がなかったから、来たことないけどな」

「だから意外だって言ってんだっての」

 

数秒固まった後、轟は「ああ、確かにな」と呟いてその会話が終了した。膨らませる努力をしろと、私は言いたい。

 

「轟ってこういう所でなに━━━」

「━━━に、俺を無視してやがる!!こらぁ!!」

 

それまで呆けてたかっちゃんが復活した。

元気よく轟に詰め寄っていく。

 

「お前、学校以外でも変わらないな」

「っせぇわ!!てめぇも大差ねぇだろうが!!すかしてんじゃねぇぞ、ごら!!」

「すかしてるつもりはねぇんだけどな・・・?」

「そういうのが、すかんしてんだっつんだよ!!そもそも俺はなっ、てめぇみてぇなのが一番嫌ぇーなんだよ!うだうだしやがってよナメクジ野郎が━━━」

 

微妙に噛み合ってないけど、二人の会話は私の分からない方向へ一気に加速していく。

すっかりおいてけぼりの私は本格的に暇になった。

 

私の暇潰し要員・・・。

 

仕方がないのでスマホゲームでガチャった。

十連したのにまさかのスーパーレアなし。レアしか出なかったか。

まっこと、くそであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして母様達の話が一段落つき、騒ぐかっちゃん達を制した光己さんに続き私達はレストランに入った。光己さんが予約してくれた事もあって席には直ぐつけた。

待たなくていいのは、ありがたい事なり。

 

長テーブルを中心にした片側三人ずつの座席。

片側を保護者組、もう片側がお子様組だ。

かっちゃんと轟は隣り合わせにすると喧嘩するので、私を真ん中にして座る事になった。

 

それに合わせたのか、向かい合う所にはそれぞれの保護者が座る。

 

店員さんに持ってきて貰ったメニューを手に食べる物を考えてると、不意に轟が見てるページが目についた。

 

「もしかして、そば好き?」

「・・・ああ」

「ふぅん」

 

そばか・・・たまには私も食べてみようかなぁ。麺類なんて最近だとラーメンくらいしか食べてないもんね。

でも、そばかぁ・・・正直食べた気にならないんだよなぁ。それに今はカツ丼とか食べたい気分。そばセットもあるけど、そんなに食べたくないしい・・・あっ、そうだ。

 

「ねぇねぇ轟。大盛り頼んでよ」

「大盛り?なんでだ」

「シェアしよって話。私もそば食べたいんだけど、がっつりそばって気分じゃないんだよね。一口くらいで良いの。ね、ほら、私もカツ一切れあげるからさ」

「そういう事か。別にい━━━━」

 

パン、と隣で大きな音がした。

見ればかっちゃんがメニューを挟むように手を合掌していた。勢いよく閉じたのは察した。

 

「本格四川風激辛蕎麦、大盛り」

 

さっきから危険なページを見てると思ったら、凄いの選んできたな。ネタ系のあれかと思ったのに、まさか目の前で選ぶ人がいるとは。

まぁ、辛いの好きだしね。かっちゃん。

 

「決まって良かったねぇ。でさ、轟どう━━━」

 

轟にさっきの話を聞こうとしたら、かっちゃんに肩を掴まれた。

なんか凄い顔してる。

 

「俺が、大盛り頼むったろ」

「うん?ああ、聞いてたよ。好きだもんね、辛いの」

「一口だろ。分けてやる」

「ううん、いらない」

「んだとこらっ!!!」

 

慎んで断ったら凄い剣幕で詰め寄られた。

近い、近い!なんだよぉ!止めろよぉ!えっちぃ!

 

「俺がっ!てめっ、気を利かせてやったんだろうが!察しろや!!」

「だってかっちゃんの選んだの激辛のじゃん!!冷たいめんつゆお蕎麦が良い、私は!━━てか本格四川とか、絶対くそ辛いじゃん!!しかも煮込みじゃん!やだぁ!私はそんなの食べたくなぃ!私はかっちゃんみたいに馬鹿舌じゃないの!!」

「はぁぁ!?誰の舌が馬鹿だこらぁ!!」

「かっちゃんですぅ!!きゅうりが好きな所も引っくるめて、人間止めてるんじゃないですかぁ!?止めて触らないで!きゅうりが移る!」

「移るかこらぁ!!」

 

かっちゃんに脅されてると轟が間に入ってきた。

 

「止めろ、爆豪。嫌がってんだろ」

「っせぇわ!!んだ、てめぇは!こいつを甘やかすんじゃねぇ!!」

「?・・・それはお前だろ」

「ぬ、ぐぅ、あ、甘やかしてねぇ!!どこに目つけてんだ、てめぇはよ!」

「?どうみても甘やかしてんだろ?」

 

結局口論の末、轟からちょっとお蕎麦を貰える約束をかわし、それを食べるなら俺のも食えとかっちゃんから激辛蕎麦も食べるように約束させられた。

 

く、くそう。

なんでこうなった、私は冷たいお蕎麦をツルツルしたかっただけなのにぃ!!

 

 

「うちの息子は駄目ねぇ。女心を分かってないわ」

「うちの馬鹿娘がごめんなさいね、冬美さん」

「いえいえ、そんな事。それより焦凍のあんな姿見れて嬉しいです。あんな顔もするのねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激辛蕎麦を食べさせられた事ときゅうりのお新香を食べさせられた事以外、特に悪いこともなく食事会を終えたその夜。

 

私はいつもの時間にかっちゃんに電話した。

何か言うことはなかったけど、イタ電にそもそも理由なんてあるわけないから気にせずコール。

 

二度のコール音が鳴った後、かっちゃんの声が聞こえてきた。相変わらずオコだった。オコが落ち着くまでのんびり待てば、いつもの『で、なんだ』が聞こえてくる。

 

「別に?」

『本当にてめぇは・・・まぁ、いい』

 

なんだか変な感じだ。

暫くこうしてなかったから違和感が凄い。

いつもの私ならどうしてだろうか━━とか考えてみたけど、どうも上手く思いだせない。だから、本当に大した事は話してないんだろうなと、改めて思ったりする。

 

『・・・用がねぇなら切るぞ』

「うん、じゃ一つだけ」

『あ?』

 

 

 

 

 

 

 

「━━━かっちゃんの舌、やっぱり狂ってるわ」

『んだと、こらぁ!!!』

 

それから少しだけ言い争いをして、一区切りついた所で電話を切った。それはいつものやり取り。暫くぶりだから楽しかったけど、今はそうしたかった訳じゃない。

 

切った後、昼間皆に怒られた事を思い出して思わず溜息が出る。

 

「・・・謝るとか、まじむり」

 

あの時のかっちゃんの顔を思い出すと、どうにも謝れなかった。なんか気恥ずかしい感じがするのだ。せめて説教でもしてくれたら、勢いで謝れるのに。

 

かっちゃん、何も言わなかったからなぁ。

 

「・・・明日。うん、明日、頑張ろ」

 

いつまでも悩んでいても仕方ないのでそのまま眠った。

その日は久しぶりにゆっくり眠れた。

 



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もうすぐ夏休みーやったぁー泳ぐぞーお祭るぞ━━━え?はい?まだ何か?え、期末?期末の、テスト?あーはいはい、あれね。うん、知ってました。忘れる訳ないじゃないですかー。いやだなーもー・・・まじか。の巻き

何かと忙しゅうて、感想に返しこめ出来んでごめんやで。

ちゃんと読ませて頂いております。
励みになります、ありがとやでー( *・ω・)ノ


「全く勉強してねぇーー!!」

「あはははー」

 

授業参観翌日の休み時間。

ぼやぁとかっちゃんの背中に指でへのへのもへじを書き続けていると上鳴の悲鳴が聞こえた。

何言ってるのかと耳を傾ければ、あしどんの乾いた笑い声も聞こえる。

どしたよ、二人して。

 

不思議に思ってると隣の瀬呂と、その前に座る耳郎ちゃんが溜息をついた。

 

「期末テストねぇ・・・参ったな、俺も全然勉強してねぇ」

「確かに。うちも少しヤバイかも」

 

二人の会話を聞いてやっと理解した。

朝のHRの時、包帯先生が言ってた期末テストの事か、と。

私的には余裕過ぎてすっかり忘れてたのだ。

そういえばあの二人って・・・。

 

「・・・あ、中間下位コンビか」

 

私の呟きに上鳴が心臓辺りを押さえて喚いた。

 

「うわぁぁぁ!!言葉には気を付けろ緑谷!!少しの刺激で泣いちゃうくらい追い詰められてんだぞ!!俺らは!!」

「あはははー」

 

取り合えず、上鳴よりあしどんのが重症っぽいんですけど。・・・てか、あしどん、そんなに?

 

「期末テストかぁーどないしよー。私もそんなに自信ないなぁー」

「けろっ。色々あったものね。体育祭、職場体験、授業参観。常闇ちゃんは大丈夫?」

「・・・確かに、あまり勉強時間はとれていないな」

 

なんじゃろ。

最近、梅雨ちゃんの交遊関係が拡大してる気がする。

前は男子とそこまでだったのに。

というか、私が近づくといまだに逃げてく常闇と仲良くなっているだと?羨ましい。私も常闇の頭ワサワサしたい。

 

「━━━っ悪しき誘惑、この気配は!緑谷かやめろ!」

 

ばっと身構えられた。

止めるもなにも、まだ何もしてないのに。

酷い。

 

皆でわちゃわちゃ騒いでるとふぅーとわざとらしい溜息が吐かれた。そこを見ればブドウが椅子に偉そうな態度でふんぞり返っていた。

 

「演習試験もあるのが、辛ぇとこだよな」

 

上鳴とあしどんの目が据わった。

 

「あんたは同族だと思ったのにぃ!!」

「お前みたいな奴はバカではじめて愛嬌出るんだろうが・・・!そこそこ出来やがって、どこに需要あんだよ・・・!」

 

「世界かな・・・」

 

世界か。

需要があるならたぶん、南米の秘境とか、南極大陸の奥地とか、砂漠の果てとか、謎の海底神殿とか、地中深くの地底人の王国とかだろうな。

ワールドワイドだな、ブドウは。

 

ぼやっと二人を見てると、二人の視線が私に向かってきたのに気づいた。

 

「てか、緑谷!お前こっち側だろ!何高みの見物してんだよぉ!!お前もこちゃきて、絶望に涙しやがれぇ!!」

「そうだよーニコー。おいでーこっちにおいでー」

 

何あれ。

行ったらどうなるのよ。

それにちょっと楽しそう。

 

それにしてもなんでこんなに二人が荒れてんだろ?

赤点出せば、そりゃあれだろうけどさ。

不思議に思った私はかっちゃんに聞いてみる事にした。

 

「かっちゃん、かっちゃん」

「なんだ・・・つぅか、さっきからやってる背中のそれ止めやがれ。何人書き込む気だ、こら」

「まぁまぁ。それよか期末駄目だとなんかあんの?」

「はぁ?てめぇまた聞いてねぇのか」

「うん?」

 

面倒臭そうにこっちを見たかっちゃんが何か言おうと口を開いたその時、「緑谷」と後ろから声が掛かった。

視線を向ければやっぱり轟がいた。

 

「赤点とると、林間合宿行けねぇらしいぞ」

「林間合宿?」

「そこから聞いてねぇのか・・・夏に━━」

 

何か説明してくれそうな雰囲気。

大人しく聞いてると肩を掴まれた。

振り返るとかっちゃんがめちゃ睨んできてる。

 

「ごらぁ!!紅白野郎!!てめぇ、でしゃばってんじゃねぇぞ!!馬鹿女は俺に聞いてんだよ!!つか、馬鹿女てめぇ、聞いといて誰見てんじゃボケ!」

「別にどっちが教えても同じだろ」

「っせぇわ!!やんのかてめぇはよ!」

 

またかっちゃん達が不毛な争いを始めたので暇そうな眼鏡を呼んで事情を聞いた。なんでも今回の期末で赤点をとると、夏に開かれる林間合宿に行けず学校で補習を受ける事になるらしい。え、なんて地獄それ?

 

「緑谷くんは大丈夫なのか?授業中、寝てばかりだが」

「うん?まぁね。かっちゃんいるし」

「理由になってないと思うのだが・・・あ、緑谷くん後ろに」

 

眼鏡と話してるといつの間にか近寄ってきてた下位コンビに捕まった。突然の事に背中がぞわる。びっくりした。

 

「ひひひ!ひでぇじゃねぇか緑谷!無視するなんてよぉ」

「ふへへ!そうだよ、ニコー!私ら仲間じゃんかぁー」

 

まるでなんかのウイルスに感染したB級映画の登場人物みたいな台詞だな。それで仲間をゾンビにしてくんですね?分かります。

 

まぁ、面白そうだから仲間になっても良いけどね?

でもなぁ・・・・。

 

「私、中間2位だし?」

 

その言葉には教室にいた人達の視線が集まった。

驚愕するもの、疑うもの、呆けるもの。

浮かべる表情はそれぞれ違うけど、大体の人が私に釘付けである。

 

「何・・・言ってんの?ニコ?頭大丈夫?」

 

あしどん、それは酷くね?

 

「病院連れてかねぇーと・・・」

 

上鳴、お前、ぶん殴るぞ?

 

殆どの連中が疑いの眼差しを送る中、耳郎ちゃんが「本当だよ」と呟き、その声にお茶子も頷く。

 

「うち、前回の中間ん時テスト結果見させて貰ったから知ってたけど・・・緑谷マジで中間2位。寝てんのに」

「私もテスト結果比べっこしたから知っとるよ。ほんまの事や。遊んどんのに」

 

「二人とも、本当は私の事嫌い?ねぇ?ねぇねぇ?」

 

二人の話を聞いて、あしどんと上鳴が慟哭しながら床に四つん這いになる。まるで世界に絶望したパニック系B級映画のモブのようである。

 

「緑谷の癖にぃぃぃぃ!!」

「ニコの裏切りものぉぉぉぉぉ!!」

 

うん?ええっと、なんかごめんねぇ。

完璧美人でごめんねぇ。

 

 

その後絶望し慟哭する二人を見かねた百が、二人に勉強を教える事になった。二人がそれに乗っかると、耳郎ちゃん、瀬呂、尾白も便乗していく。

耳郎ちゃんに私が教えてあげよっかと聞いたのだが、すげなく断られる。何故だ。中間2位なんすけど。

 

いや、まぁ、今聞かれても分からないかも知んないけどもさ。

 

百の「イイデストモー」という可愛い言葉を聞きながら、喧嘩するかっちゃんの所に行く。いつものヤツをお願いする為である。

いつの間にか喧嘩を止めにインしてる切島を轟の方へと押し退け、かっちゃんの前へと出た。

 

「かっちゃん、かっちゃん」

「あ!?っんだ!!今━━━」

「テスト勉また付き合ってぇー」

 

いつも通り上目使いでお願いすると、顔をしかめたかっちゃんが盛大に舌打ちする。

 

「ちっ、日曜空けとけや!!」

「ほーい。またかっちゃん家行けば良い?」

 

私達の会話を聞いた轟と切島が目を見開いた。

今度の驚愕の眼差しはかっちゃんに向けられている。

 

「爆豪が、勉強を教える?」

 

不思議そうに呟く轟。

まるでUMAを発見したような顔であった。

そこまで?そこまでなのん?かっちゃんのイメージって。

隣にいた切島のポカンとあいた口が、ある意味ですべてを物語ってる気がした。

 

「しかも彼女呼んで家勉とか・・・羨ましい━━━じゃねぇ、出来んのか?」

「出来るわ!!教え殺してやろうか、ああん!?」

「いや、頼めんなら頼むわ。俺もやべぇーからなぁ」

 

なんか切島も来るらしい。

そうなると隣でぼーとしてるお坊っちゃまが不憫だな。

 

「轟も来れば?捗るよ?実際、私2位になったし・・・あ、日曜は無理か。レーちゃんとこ行くんでしょ?」

「毎週行ってる訳じゃないから大丈夫だ。それにテスト前だからな。その日は一日、自分で勉強するつもりだった。・・・分かった、俺も行く」

「だってーーー」

 

「紅白野郎は来んじゃねぇ!!!」

 

轟の参加に案の定なリアクションを返すかっちゃん。

かっちゃんの体は8割のツンデレで構成されているので、代わりに真実を知る者である私からOKを出しておいた。OKを出した私に轟は「良いのか?」と仕切りに聞いてきたけど、あれは何なんだろうか。良いと言ってるのにね?不思議。

 

 

 

 

 

 

その日のお昼。

久しぶりに女子ーずではなくかっちゃんと食堂でご飯を食べていると、同じテーブルで一緒に食べていた眼鏡がテストの話をしてきた。

それに続いて同じテーブルでお昼してるお茶子や梅雨ちゃんも不安そうに期末の事について口にする。

 

「結局、期末試験って何すんだろ。ね、かっちゃん?」

「俺が知るか・・・って、てめぇ、何勝手に俺の生姜焼きとってやがんだ!返せや!」

「一枚だけじゃん。もう。・・・はい、お新香と交換。大好きなきゅうりだよぉ」

「きゅうりだけ寄越すんじゃねぇ!!」

 

そんな文句言ってもきゅうりをおかずにご飯食べれるかっちゃん。人間止めてるな、今日も。

生姜焼きをモグモグしていると、轟が鯖の味噌煮が乗った皿を差し出してきた。切り分けたのか、ちょうど半分くらいに見える。

なにこれ?

 

「いるか?」

「ううん、いらない。鯖の気分じゃないもん」

「そうか」

 

断ると鯖のお皿が戻っていった。

なんだったのか、今のは。

轟お腹いっぱいだったのか?

 

 

 

 

「梅雨ちゃん、今の見た?爆豪くんの。めちゃ勝ち誇っとった」

「見ちゃったわ、お茶子ちゃん。ドヤ顔だったわ。ね、切島ちゃん」

「ああ。見ちゃったわ・・・」

 

 

 

 

皆で駄弁りながらのんびりご飯を食べていると、いつかの物真似男と面白三人組を見つけた。

何となく手を振ってみると物真似男と面白三人組は少し内輪揉めした後、やっぱり物真似男を突き出してきた。

 

生け贄か何かかな?

 

私を前にした物真似男は微妙に体を震わせながら見下すように顎を上げてくる。

 

「相変わらずの馬鹿面だね、A組━━━━待って、緑谷、待って、まだ待って!せめて最後まで言わせて」

 

フォークを手にした私に何故かめちゃ怯えてくる。

何もしてないのに。

常闇といいこいつといい、私を何だと思ってるんだ。

 

私が何もしない事が分かると、物真似男は分かりやすくホッとして話を再開した。

 

「君ら、ヒーロー殺しに遭遇したんだってね。ネットで見たよ。ご活躍だったねぇ。━━━しかし、体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくよね。A組って。ただ、その注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引き付ける的なものだよね?」

 

物真似男の言葉に何人かがムッとした。

私はそんな事より物真似男のお昼に目がいった。

なにあれ、美味しそう。フランス料理的なかな?

 

「あー怖い!いつか君たちが呼ぶトラブルに━━━ふあっ!!」

 

「「「物間ーーー!!?」」」

 

テーブルにあったこしょうを目に振り掛けてやれば、物真似男はうめき声をあげて踞った。料理を落としそうになったのでキャッチしておいてあげる。

気になっていたそれに鼻を近づけ嗅いでみれば、美味しそうな匂いが鼻をついた。

 

これは贅沢なやつだな。いけない。

こんなのばかり若いうちから食べてたら、痛風になってしまう。助けてやらねば。

 

私は轟からさっきの鯖の味噌煮を貰い、そっと物真似男の料理と交換してあげた。勿論、優しさからである。感謝はいらない。

 

「物間!!またあんたはA組にちょっかい掛けて━━━って、もうやられてる?あ、緑谷じゃん」

「あ、サイドテ。ちゃお」

 

物真似男を回収に来たっぽいサイドテ。

私は物真似男が手にしてた料理が乗っていたトレーをサイドテに渡し、ついでに物真似男も回収して貰う。

 

その場を直ぐに立ち去ろうとしたサイドテだったが、何かを思い出したようにこちらに振り返った。

 

「━━━さっきさ、あんたら期末の話してたでしょ?あれね、入試の時みたいな対ロボットの実戦演習らしいよ」

 

意外なリークに皆が興味深そうにサイドテを見つめる。

正直、私は親切が遠慮される前にさっさとご飯を食べたい所なのだが、サイドテの視線が明らかに私を見てるのでそれが出来ない。

今サイドテの注目がトレーと私が手にした料理にないから何も言われないが、迂闊に動けば私の親切が発覚して遠慮されるかも知れない。

 

私はなに食わぬ顔でサイドテに笑顔を返した。

何故か不審がられた。

 

「なんて顔で見てくんのよ。本当だからね、さっきの話。先輩に知り合いがいて聞いたの━━━ちょっとズルかも知んないけどさ」

「へぇ」

「ははっ、あんたは本当、こういう事に興味ないね」

 

 

「バカなのかい、拳藤。せっかくのアドバンテージを・・・」

 

苦笑いするサイドテの手元、粗大ゴミのように持たれた物真似男から恨みがましい声が聞こえてきた。

ブツブツと呪いの言葉のようである。

 

「・・・憎い」

 

呪いの言葉であった。

 

最終的にはサイドテによって首筋に『憎くはないっつーのチョップ』され意識を失った物真似男は、静かに連行されていった。鯖の味噌煮を持って。その後の彼がどうなったのか、それは誰にも分からない。

 

ま、それはおいておいて。

無事に親切が成功した私は物真似男から譲り受けた料理を口に運ぶ。それは今まで食べた事のない味覚の新境地であり、新鮮な味わいだった。

 

そして全てを食べ終えた私の中には一つの真理が残った。

そう。

 

 

 

 

 

 

 

「カツ丼とか、焼き肉とかのが好きかなぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「フランス料理は駄目なのか、緑谷は」

「馬鹿女にフランス料理が分かるわけねぇだろ、けっ」

 

 

「二人ともそこちゃう!もっと前の所が問題や!」

「鮮やか過ぎる手口に注意すんの忘れてたぜ・・・」

「緑谷ちゃん、本当に昔、悪いことしてないのかしら?」

「はっ!僕としたことが!不正を見逃してしまった!」

 




前回の中間成績ぃー

1ヤオモモ
2ふたにゃん
3眼鏡
4かっちゃん
5ととろき
6かえるちゃん
7耳郎ちゃん
8尻尾
9ブドウ
10阿修羅
11お口ちゃっく
12お菓子
13もちゃこ
14中二
15切島
16はだか
17どんまい
18いい加減存在が怪しくなってきた青山
19あしどん
20うぃーい

2位に双虎が割り込んでる以外は原作と一緒やで。

切島「俺だけ普通だ・・・」
耳郎「いや、うちもだから」

青山(僕だけ、根本的に違う・・・!)


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お勉強の時間ざます!お勉強とはテストで良い点数をとる為にやるものではないざます!将来の自分の未来を切り開く為に!夢があるなら夢の為に!そういうものざます!だから、私はやらなくて良くね?の巻き

さんたさぁぁぁん!!

良い子にしてるからぁ、精神と時の部屋頂戴よぉ!!
仙豆も一緒にお願いしまぁーす( *・ω・)ノ!


「かっちゃーーーーん!お勉強しましょーーーそうしましょーーー!」

 

期末テスト前、最後の週末の休み。

私はパーカーとショーパンという簡単な格好と勉強道具を詰めたトートバッグを提げて、いつものようにかっちゃん家に来ていた。

 

これまたいつもと同じようにインターホンを押すと、そう待つ事なく扉が開いた。何故か光己さんではなく、かっちゃんがいきなり出て来てびっくりしたけど。

 

「はよー」

「朝からうっせんだよ、馬鹿女。静かに入って来れねぇのか、てめぇは・・・」

 

文句を言うかっちゃんだが、その格好はすっかりよそ行きようの物で、いかにも準備万端な感じだった。もしかしたらワクワクして玄関で待機してたのかも知れない。・・・いや、ないか。たまたまでしょ。

 

「準備おけ?時間早いけどいこーよ」

「バッグ持ってくっから、ちっと待っとけや。」

 

 

 

 

 

期末テスト前に急遽開かれる事になった今日の勉強会。

二人きりでやるならかっちゃん家と相場が決まってたんだけど、今日は切島と轟も参加するとあって別の場所でやる事になったので朝からお出掛け。

 

お勉強会をやる場所についてかっちゃんも含めた男連中に特に希望がないから、学校近くの喫茶店に私が決めた。

 

いつものようにかっちゃんと電車に揺られる事40分弱。

駅に着くと切島と轟が改札を抜けた所で待っていた。

 

「おっす!緑谷、爆豪!」

「よぉ」

 

元気に手を振る切島の隣で轟は軽く手をあげる。

挨拶くらい元気に出来ないもんかなと思いながら、私も手を振り返しておいた。

 

「はよー。集合時間より早くない?」

「まぁな。なんか学校近くに来ると思ったら、なんか普段みたいに早起きしちまってよ。んで、家でダラダラしてんのもあれかと思ってきちまった」

「ふぅん」

 

そう呆気らかんに笑う切島から轟に視線を移すと、俺の番かってハッとした顔した。

こいつ寝ぼけてんのかな?

 

「・・・特に理由はねぇ」

「まぁ、何かあると思って聞いてる訳じゃないけどさ」

 

それにしてもだと思うけど。

 

そんな轟にかっちゃんがしかめっ面で近寄っていった。

肩で風を切って歩くその様は、いちゃもんつけにいく不良のようである。

近寄られた轟は不思議そうだ。

噛み合ってないなぁ。

 

「んで、てめぇは来てやがんだ、ああ?」

「緑谷に誘われたからな」

「来んなっつったろが!!」

「・・・?それもツンデレってやつなのか?」

「っんな訳あるか!!馬鹿女の馬鹿移されてんじゃねぇ!!」

 

おい、かっちゃん。

おい、かっちゃんよ。

誰が馬鹿だと?貴様。ツンデレとしてなら、まだしも。貴様、おい。こら。

 

二人のやり取りを眺めてると切島が呆れたように溜息をつく。

 

「休みの日でもやんのかよ・・・元気だな、あいつら」

「ねぇー。その元気を別の所に使えば良いのにね?」

「そうだな━━━あ、いや。それはそれで、面倒な事になりそうだからな。てか、緑谷が言うなよ」

「?」

 

それから暫く二人のじゃれ合いを眺めていたが、なんか長引きそうだったので切島と手分けして二人を止め、さっさと喫茶店へと向かった。

 

駅から出て十分と少し。

私達は学校近くにあるホームセンターの脇にひっそりと佇む蔦に覆われた一軒屋に着いた。

窓から覗くにゃんこが私を歓迎してるのか手を振ってる━━━ように見える。

 

「緑谷・・・ここ、本当に喫茶店なのか?」

「家じゃねぇのか?」

 

切島と轟が疑わしそうな目で私を見てくる。

まぁ!しっつれいな奴等ですこと!

 

「あんたらねーここは━━━━」

 

 

 

「おや、双虎ちゃんじゃないかい?いらっしゃい」

 

二人に教えてやろうとした所でお店のおじいちゃんが現れた。手にしたホウキと塵取りを見れば掃除しようとしてるのが分かる。

 

「はよーござまーす!」

「おはよう。来るって聞いてたけど、随分と早かったねぇ。双虎ちゃん達が来る前に、玄関を綺麗にしとこうと思ったんだけど遅かったかぁ」

「手伝います?」

「いいよ、いいよ。老い先短い爺さんには、こんなでもいい運動になるんだよ。それより、中に入りなさいね。お勉強するんだろう?」

 

おじいちゃんに続いて玄関に入ると切島と轟が感心したような声をあげた。

その気持ち分からなくはない。

 

外から見ると普通の家にしか見えないけど、中はちゃんとしたカフェになってる。そのギャップに驚くのは分からなくはない。

最初は私も驚いたしね。

 

おじいちゃんに案内され角のテーブルに着いた。

唯一仕切りのある場所で、こういう時には持ってこいの場所だ。

 

メニューを見せたけど切島も轟もどれが良いか分からないと言うので、適当にオススメ紅茶がついたケーキセットを頼む。かっちゃんだけコーヒーのセットにしてた。

紅茶の準備をしにおじいちゃんがカウンターに向かった所で、切島が小声で話し掛けてきた。

 

「おい、緑谷。だ、大丈夫なのか、ここ。高かったりすんじゃねぇの?」

「普通だって。ケーキセットで千円。コーヒー紅茶のみほー」

「ドリンクバーみたいに言うなって!絶対おかわりあのじいちゃんに頼む系だろ!?気使うわ!」

「えぇー普通に淹れてくれるよ?ね、かっちゃん」

 

かっちゃんは無言で頷く。

 

「つーか、うっせぇぞ、切島。場所考えろや」

「━━━お前っ?!お前なぁ!!くそー!こう!くそーー!なんかしんねぇけど、すげぇムカつく!」

 

切島とかっちゃんのやり取りを見てると膝の上に温かい物が乗ってきた。視線を落とせばこの店のアイドルにゃんこアールが丸くなってる。

 

そっと撫でればアールの円らなおめめが私を見てきた。

可愛い過ぎるので喉も擦ってあげる。

ゴロゴロという鳴き声がまた可愛い。

 

「猫・・・そういえば、今日の緑谷も猫だな」

 

不意に轟が私のパーカーを見てきた。

今日はこの間買ったにゃんこパーカーを着てきたのだ。

かっちゃんがノーリアクションだったから、気づいて貰えて地味に嬉しい。

 

「ふふん、可愛かろう?」

「ああ、似合ってるな」

 

轟が柔らかく笑った。

いつも無表情だから珍しい。

最近笑うようになったけど、それでもこうして笑うのはごく稀なので実にレアだ。レーちゃんの為に写メとけば良かったかなぁー。

 

「「!?」」

 

━━とか思ってると、そんな轟を見て私以上にかっちゃんと切島が驚いてた。なんだその顔。

 

「・・・轟も笑うんだな。俺初めて━━━」

「俺も気づいとったわ!!調子に乗んなこらぁ!!」

「爆豪はそっちかよ!?」

 

かっちゃんの言葉に轟は困った顔する。

そりゃ、そうだと思う。

だってね、そんな事言われても、そっかとしか思わないもんね。

 

いきり立つかっちゃんを切島と落ち着かせていると、おじいちゃんが紅茶を持ってきてくれた。

良い香りが鼻腔を擽る。

 

「賑やかで楽しそうだね。お待たせしちゃったかねぇ?」

 

話しながらもおじいちゃんはその手を止めず、そっと皆の前に紅茶を置いていく。ぶっちゃけ紅茶の味とか分からないけど、これが良いものなのは何となく分かる。

 

「良い匂い。おじいちゃん、お高いやつ?」

「ふふ。分かるのかい?まぁ、お高いと言うよりは、手に入りづらいといった方が良いかなぁ。生産量が少なくてね。ゴールドティップスインペリアルっていう茶葉なんだけどね?お湯を注いだ時の香り高さと、茶葉の独特の渋みが━━━とあまりひけらかす物でもないかな。兎に角、最近の中では一番のオススメだよ」

 

紅茶の香りを嗅いでると、コトリと私の所に角砂糖とミルクが置かれた。

 

「双虎ちゃんはお砂糖とミルクだったね?他の子はどうかな?オススメとしては一度飲んでみて貰った方が良いとは思うのだけど・・・」

 

おじいちゃんの視線が轟と切島に向けられる。

切島と轟は最初はそのままで試してみるといい、かっちゃんは相変わらずブラックで飲むみたいだ。

 

おじいちゃんがカウンターに行くと、切島がまた小声で話し掛けてきた。

 

「おい、緑谷。おまっ、本当、どうやってここ知ったんだよ。なんか親しそうだしよ」

「別に?帰りに猫追っ掛けてたらここについてさ。そんで触らせて貰おうと思って声掛けたら・・・なんか仲良くなった。最近忙しかったから、来なかったけど」

「お前、コミュ力すげぇな・・・」

 

飲み物を飲んで一息ついた所で、ようやく勉強会が始まった。切島が数学が分からないというので、私もそれに便乗して数学から勉強を始める。

轟は数学に問題がないらしく、古典からやるみたい。

 

かっちゃんティーチャーによる勉強会が始まって10分を過ぎた頃。二次関数あたりを聞いてた切島がうめき声をあげた。

 

「爆豪、ここなんだけどよ・・・」

「ああ?だから言ったろ。普通にやりゃいいんだっつったろ。ここは、この公式使ってガッとやりゃいいんだよ」

「ガッとってなんだよ!?おおよそ数学で出てくる言葉じゃねぇぞ!」

「ああん?んだてめぇは!ガッとはガッとだろうが!」

 

かっちゃんが私に切島が見てたページを見せてきた。

そしてそのページの一ヶ所を指差す。

 

「おい、馬鹿女!この問題見ろや!」

「うん?見たよ、で?」

「ここの公式使って、ガッやりゃ分かんだろぉが!!」

「ええ?いや、分からないから・・・」

「ああ!?ここをバーっとやんだよ!したら、ガッて出来んだろ」

「・・・うん?ああー、それなら」

 

「はぁ!!?」

 

切島が驚愕の声をあげた。

今日は切島驚いてばっかな気がするな。

ドヤ顔で切島を見るかっちゃんに轟が怪訝そうにな表情を浮かべる。

 

「緑谷、問題少し見せてくれるか?」

「はいよ」

 

ペラペラと捲った轟は、問題が書いてあるページを開きかっちゃんに見せた。

 

「爆豪、この問題分かるか?」

「舐めてんのか!さっきのと変わんねぇだろうが!左のページに乗ってる公式つかって、ザッとやんだよ!!」

「緑谷、分かるか?」

 

そう言われて問題を見てみる。

かっちゃんの言葉をヒントにやってみたら普通に答えが出た。轟にそれを言えば何かを考え始めた。

 

「━━━切島、分からない所あるなら、教えるぞ」

「まじか、轟ぃ!!」

 

「はぁん!?」

 

今度はかっちゃんが怒鳴った。

 

「んで、てめぇがしゃしゃってんだ!俺が教え殺すんだよそいつは!!」

「いや。お前だと無理だろ。考え方が根本的に違うからな。まだ俺の方が切島の考え方が分かる」

「っせぇわ!!いいからてめぇは━━━」

「爆豪は緑谷を教えてやれ。その方が効率良さそうだ」

 

轟の提案にかっちゃんは言葉を詰まらせる。

そして、眉間に皺を寄せながら悩み始めた。

見たこともないくらい悩み始めた。

 

少しして、轟を睨むように見つめていたかっちゃんが、私の方をチラ見してから口を開く。

 

「何企んでやがる」

「?勉強会なんだろ。効率良くやった方が良いだろ。多分だが、緑谷は俺が教えるより爆豪の方が良い。感覚が似かよってんだろ」

「・・・けっ!」

「?」

 

結局かっちゃんティーチャーは私に付きっきりになり、轟は切島のティーチャーへとジョブチェンジした。

昼食もおじいちゃんに適当な物を作って貰い、なんやかんやと夕方まで喫茶店に居座り勉強会を続けた。

 

そして一日頑張った私は、自らの学力がバージョンアップしたのを感じるまでになった。

今なら、全国模試でも勝てる気がする!

今だけなら!

 

帰り際、轟が紅茶に興味を持ったらしく、紅茶の淹れ方をおじいちゃんに教わり、今日飲んでた茶葉を分けて貰っていた。なんでもレーちゃんに淹れてあげたいらしい。

 

そんな轟の背中を見ながら、切島がぽつりと呟く。

 

 

 

「なぁ、緑谷」

 

「ん?」

 

「もう、何かなぁ。轟でも良くね?」

 

「いや、何が?」

 

 

 

 

 

 

「良いわけあるかこらぁ!!クソ髪が!!」

「うわっ!?怖いっ!」

 



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テストに続いて試験とは、私達をどれだけ苦しめれば気が済むんですか。これはもうあれですよ。あーこれはあれですね、これはあれですよ。うん。シュークリーム奢って貰わないと許せませんね!の巻き

気がつけば90話越えとったわ。
ようやるな、自分。

終わる頃には何話になんだろね。
想像すると、背中ゾクゾクするわい。

週刊で絵かいて話作ってる原作ほりーすげぇなぁ、って改めて思ったわ(*´ー`*)


かっちゃんティーチャーを雇いいれてから一週間。

順調に学力を上げ続けた私は、その勢いのまま期末テストに挑んだ。受けた感じだと余裕。テスト後かっちゃんと問題用紙を片手に答え合わせしたら概ね大丈夫そうだった。ん?切島?切島はギリギリっぽい。

 

ヤオモモに教えられ隊の例の下位コンビはというと、テスト終了時に踊っているくらいなので大丈夫だったのだろうと思う。いやまぁ・・・答え合わせを始めたら段々暗くなっていったけどもね。

頑張れあしどん。上鳴は知らん。

 

あ、因みに、轟には勝ったと思う。

 

 

 

 

 

そんなこんなで皆ドキドキの期末試験当日。

私達はそれぞれヒーロースーツに着替えて校内にあるバス停前に集合していた。

 

「━━━ニコちゃん、最初の頃と比べるとスーツ大分変わったね?私とかそのままやのに」

 

先生達をスマホしながら待っていた私に、お茶子は興味深そうな視線を向けてきた。

 

「この足のヤツとか、なんなん?」

「ああ、これ?体育祭の時さ尾白が体固定するのに使ったスパイクあったでしょ。それ」

「ああ、そんなんあったね。ん?でもさ、サイズ小さくない?」

「小さくして貰った。あと重量も軽めにね━━━」

 

前回の職場体験を元に私のスーツや装備は発目と一緒に色々弄ってある。ペロリストを縛った捕縛用のロープはそのままだけど、他の装備は改良したり追加しているのだ。このブーツなんかは本日初実装。頼むことは頼んでたんだけど、材料の問題で開発が遅れていてようやく一昨日に完成したばかりの物だったりする。

 

私のその話を聞いたお茶子は眉をハの字に下げた。

 

「大丈夫なん?初めて使うもんで」

「大丈夫、大丈夫。こいつの試作品は試してるからさ。発目から調整した部分についても注意と説明あったし」

「口頭の説明で分かるもんなんかなぁ、そういうの・・・」

 

なんか納得いかなそうなお茶子。

なんとなしに見てたらスーツが気になった。

 

「お茶子は改良しないの?」

「え、私?え、と、ううん・・・。そういうんがありなんは聞いてんねんけど、具体的に何をしたらいいか分からんくて」

「お茶子は救助中心で行くんでしょ?救護品とかロープ系とか準備しとけば良いんじゃないの?」

「救護品は分かるけど、ロープ?」

「ほら、救助者とか浮かせてさ、ロープ繋げて風船みたいに運べるじゃん」

 

お茶子はその様子を想像し、困った顔した。

 

「どうやろ・・・救助者って怪我とかしとるから、そういう雑な移動はなぁ」

「ま、例えだからさ。そんな感じで考えてけば良いって話。あれがやりたいから、これがやりたいからってのをまとめてさ、じゃぁそれをするならこれが必要だよね?これはいらないよね?って感じで増やしたり減らしたり、元からあるやつを改良してけば良いんだって」

「成る程なぁ~ニコちゃんはよう考えんなぁ~」

 

感心したようなお茶子の声に、周りにいた人達も同じ様に声をあげた。A組の皆は何故かそこら辺に手を付けないから不思議に思ってたけど・・・この様子だと考えてなかったのが大半なんだろうなぁ。

 

実際スーツに改良加えてるのは私を含めてかっちゃんと轟の三人だけだもんね。

轟とかは炎を使うようになったから体温調整に使ってた装備を変えてるし、かっちゃんも移動速度を上げる為にブーツに改良施してたりする。

 

プロだって装備変更は当たり前。

それはプロとしてベストを尽くすための必要な処置。

なら本気でプロを目指す学生もそうするのは当然なのに、皆にはその意識が抜け落ちてるから不思議。

あれかな、ヒーローはずっと同じ服着てないと駄目とか思ってんのかな?拘りがあるなら、それもやむ無しかも知れないねぇ。

 

「改良はやっぱり考えんといかんね。難しいけど、考えてみるわ」

 

そう言って鼻息を荒く両手を握り締めるお茶子が、あんっーーーまりにも可愛かったのでめちゃ頭を撫でてあげた。撫でられて照れるお茶子が可愛かったので写メしたら、それは普通に怒られた。謝ったけど反省はしてない。写メも消してない。保存しといた。

 

 

 

 

 

それから少しして、皆がスーツ改良について熱の籠った話をし始めた頃、期末試験をやるために先生達が私達の前に現れた。そう先生達が。

 

その時点で私は嫌な予感しかしなかった。

あしどんや上鳴みたいに『ロボット相手でしょ?らくしょー』とは思えなかった。

まぁ、あしどんの「花火!カレー!」には大いに賛成だけど。

 

私の不安は案の定的中。

包帯先生の包帯の中から出てきたねずみー校長によって告げられた『内容変更』の言葉にクラスメートがどよめく。

 

ねずみー校長は包帯先生から降りると校長らしく偉そうにお話を始めた。

 

なんでも、近年ヴィラン活性化の傾向があり、これからのヒーローとなる者は今まで以上にヴィランと対峙する可能性が出てきたらしい。

それ故に対ヴィランを見据えた対人戦闘訓練が必要であるのだという。

 

「従来のロボでは肝心な対人戦闘能力が計れない。プログラムで動くロボと、感情で動く人間。どちらが厄介かなんて、君達もよく分かるだろう?━━━だからこれからは対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!」

 

校長の手が横並びになった先生達を指す。

 

「というわけで、今回諸君らにはこれから、二人一組でここにいる教師一人と戦闘を行って貰う!」

 

ほらきた。

面倒なやつだ。

ほら、きた。

 

お茶子の緊張した「先生方と・・・!?」という呟きが嫌でも現実を突きつけてくる。止めて、お茶子。繰り返さないで。うわぁ、ってなる。気分が。

 

校長の隣にいた包帯先生が一歩前に進み、クラスメートを一瞥する。私だけ長く見られた気がするけど、気のせいだと思いたい。

あ、また、見たな!?何!?なんなの!!

 

包帯先生は私から目を離すと口を開いた。

 

「・・・尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度・・・その他諸々を踏まえて独断で組ませて貰ったから発表していくぞ」

 

包帯先生の視線が轟と百に向けられた。

 

「まずは轟と、八百万がチームで━━━」

 

口元の包帯を引き下げ、包帯先生はニッと笑う。

 

「━━━俺とだ」

 

次に包帯先生の視線は私に向いた。

 

「そして緑谷と」

 

 

 

 

 

 

「相澤くん」

 

 

包帯先生の言葉を遮るようにガチムチが割り込んできた。その表情や声を聞いて、いよいよ私の中にある嫌な予感センサーが警告音を鳴らし始める。

やばいやつだ、これ。

 

包帯先生から役目を譲られたガチムチは私を見た。

そして、隣にいたかっちゃんも。

 

「緑谷少女。そして爆豪少年がチームだ」

 

ガチムチが拳を握る。

私達を見下ろしながら。

 

「相手は、私がする」

 

嫌な予感センサーが限界を振り切った私は、直ぐに行動に移った。そういうのは早い方に限るから。

大きく手をあげてねずみー校長を見つめる。するとねずみー校長は首を傾げながらも「どうかしたかい?」と尋ねてくれた。

なので、大きな声で言ってやった。

 

 

「チェェェェェェェェンジィィ!!!!」

 

 

私のあげた大声は校舎に跳ね返り、木霊となって当たりに響く。クラスメートの視線が、先生達の━━特に包帯先生の厳しい視線が私に突き刺さる。

ねずみー校長は少しだけ考える素振りを見せた後、親指を立てて言った。

 

「ノーチェンジさ!!」

「そこをなんとか!!チーズあげるから!!」

「チーズ・・・」

 

頑張って食い下がるとねずみー校長はもう一度考える素振りを見せてくれる。そしてまた親指を立てた。

 

「勿論、ノーチェンジさ!!むしろ、全然考え直そうとしてない、ノー考慮さ!!チーズは特別好きでもないしね」

 

おちょくってんじゃないよ!

このねずみ野郎ぉぅ!!!

 

ねずみー校長の悪質な手口に憎しみを込めて睨むと、ねずみー校長はガチムチみたいに陽気な笑い声をあげながら近づいてきた。

そして肩にポンと手をおくと囁くように告げた。

 

「━━━何より、あのオールマイトたっての希望。変える訳がないのさ。しっかりと教わってくるといい。ナンバーワンヒーローのご教授だよ」

 

その表情から━━━いや、顔は毛に覆われたねずみだから分からないけど、その声の真剣さで察した。多分、ねずみー校長はガチムチの事情について他の人より一つ詳しい所にいる。個性についてまで知ってるか分からないけど。

 

校長に視線をやるとウィンクされた。

不覚にも、ちょっと可愛かった。

 

「さぁ、相澤くん!生徒達に試験の説明の続き頼むよ!」

 

そう言って去っていくねずみー校長から、私はガチムチを見た。私にチェンジと言われた事がショックだったのか、大きい体を小さくしてションボリしてる。

見ようによっては可愛く見えるのかもしれないけど、今の私には羊の皮を被った凶暴なビッグフットにしか見えない。よって慰めてやる気は欠片もおきない。

 

先生としてガチムチは間違いなくポンコツだが、ヒーローとしては別だ。ガチムチは圧倒的なまでに強い。それは授業中のちょっとした動きや素振りを見て嫌というほど知っている。

 

そして、小細工が通用しないタイプの強さである事も。

 

 

「はぁ・・・林間合宿、いけんのかな。私」

 

 

ガチムチのションボリする姿を眺めながら、重くて長い溜息が私の口から溢れていった。



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はいさい!サブタイつけの時間が来たよ!『試練を与える者と試練に挑む者』の閑話の巻き

いらっしゃっせー!!
閑話回お待ちどうさまー( *・ω・)ノ

あつあつだよー出来立てのホヤホヤだよー

え?頼んだのは本編?
アオハルのトッピング付きで?
ほほう。

今日は諦めてやで(*ゝ`ω・)!



相澤くんからA組の皆が説明を受け終わった後、私は緑谷少女・爆豪少年と共にバスで試験会場となっている演習場に向かっていた。

 

ヒソヒソと聞こえる声に振り向けば、緑谷少女と爆豪少年がバスの最後尾で何やら話し合っている。話し合いはあまり芳しく進んでいないのか、かなり抑えた話し声でだけど時折怒鳴り声が聞こえてくる。

 

二人の仲が戻ったと聞いていたけど、やっぱり表面上だけで肝心な部分は以前のままのようだ。

 

・・・いや、少しだけだが、緑谷少女が押され気味か。

 

それが前回の授業参観での負い目からか、はたまた爆豪少年の気持ちに寄り沿ったが故なのかは分からないけど、止まっていた物が動き始めた事は分かる。

後は良い方向に導くだけなんだけど・・・。

 

「だからぁ!!それは私が━━━!!」

「っせぇ!!てめぇはさっさと逃げりゃいいんだよ、ボケ!!」

 

・・・ううん。

 

試験的に問題なかったけど、緑谷少女にせがまれて試験内容を先に教えたのは失敗だったかなぁ。いや、行くまでの間、時間を無駄にするのもあれだし、作戦立てる時間とか作らせてあげたかったし、それに二人の関係がどうなってるか確認したかったし・・・ね。うん。

 

それに、相澤くんに任せろって言っちゃったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━組の采配についてなんだけど、緑谷少女と爆豪少年を任せてくれないかな?」

 

期末試験についての会議中。

私の提案に相澤くんは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「何故、と聞いても?」

「あ、いや、なんて言うかな?前回の授業参観のフォローというか、そのー、ね?」

「そんな理由で許可を出せるとでも?」

「・・・ご、ごめん」

 

上手く言葉に出来なかった私に氷のような相澤くんの視線が刺さる。痛い、凄く痛い。心がっ。

そんな私に同じく会議に参加していた先生方が声をあげた。

 

「YOーーー!そんな怖い顔すんなってのイレイザーヘッド!!考えなしにそーゆー事言う人じゃないのは知ってんだろーがーYO」

「話ハ最後マデ聞クベキダロウ。ソノ為ノ、会議ダ」

「そうよ、イレイザー。生徒達が大切なのは分かるけど、オールマイトに厳しくしても仕方ないでしょ?」

 

庇ってくれる皆にちょっと感動する。

こういう仲間感ってあまり関わりがないから嬉しい。

なんやかんや、私のヒーロー活動って単独が多いし、それに頼られる事はあっても助けられるってあまり経験がないから新鮮だ。

 

「ですが、曖昧な理由では━━━」

「相澤くん。いいかな?」

 

皆の発言に眉を顰めた相澤くんを校長が制した。

渋々といった様子で引き下がった相澤くんに代わり、校長が小さく咳払いして口を開いた。

 

「オールマイトに尋ねたいのさ。それは君のプライベートな理由からの選出なのかな?」

 

プライベートと言えばそうだ。

緑谷少女も爆豪少年も、私の個人的問題に関わりがある。だからこそ放っておけないという所もあるけど━━━けれど、そうだな。今回のそれは教師としての意味合いが強いかな。

 

「丸っきりないとは言えません。ですが今回は、あくまでいち教師として、悩めるあの子達に道を指し示したいと思っています」

 

本心からの言葉を口にすると、校長は大きく頷く。

 

「それならば問題ないのさ!」

「校長・・・!」

「相澤くん、そう目くじらを立てるものじゃないさ!何より元より、あの子らはオールマイトに任せるつもりだったんじゃないかな?」

 

校長の言葉に私は相澤くんを見た。

相澤くんは不服そうに視線を逸らし、忌々しそうにそれを口にしていった。

 

「・・・えぇ、まぁ。元より、あいつらを抑えられるような人は貴方をおいて他にないでしょうから。入試に始まり体育祭や授業で好成績を修める爆豪に関しては言うに及ばず、緑谷の個性の応用力、それを使いこなす発想力と頭の回転の早さには目を見張るものがあります。どちらもムラはありますが、最大限のパフォーマンスを発揮した日には俺でも抑える自信はありません」

 

相澤くんの言葉に同意なのか、他の先生方から反論の声はあがらない。

 

「ハンデもなく最悪を想定しても、というならやりようはありますが、これはあくまで試験。あの子はヴィランじゃない。それらのリスクなしに相手出来るのは貴方だけなんですよ、オールマイト」

 

だからこそ━━━と相澤くんが続けた。

 

「貴方に聞きたい。あの子らを任せていいですか、と」

 

真剣な目が私を見つめた。

相澤くんは言葉にこそ出さないが、生徒達の事を誰よりも考えている。時に無慈悲な言葉も言うが、それはあくまで優しさからくるもの。前年度の除籍についても、その後の生徒達の受け入れ先をきちんと世話している。時折、その生徒達の様子を受け入れ先から確認しているのも私は知ってる。

 

人に厳しい彼は、誰よりも自分に厳しい。

だからこそ、こうして責任を持って私に言うのだ。

ならば返す言葉は決まっている。

 

「━━━任せて貰おう。私が出る」

 

気持ちを込めて相澤くんの目を見返す。

それから暫し視線を交わしあった後、諦めたように相澤くんが視線を逸らした。

 

「であれば、お任せします。あの子らの課題は連携です。どちらも己を前に出し過ぎるきらいがある。緑谷はUSJでの行動やヒーロー殺しの一件を鑑みて。爆豪は最近の姿を見てれば言う必要はないですね」

「ああ、うん。そうだね」

「わかってるとは思いますが、課題内容は伝えないようにお願いします。それと━━━」

 

それから暫く相澤くんのお小言は続いた。

最終的には校長が間に入ってくれて終わったけれど、あれを最後まで聞いていたらどれほどの時間になっただろうか。考えたらちょっと怖かった。

 

 

・・・あの時のお小言、本当長かったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だとこら!!!馬鹿女、てめぇ、もっぺん言ってみろや!!!」

 

思い出に耽っていると、急にバス最後尾から怒鳴り声が聞こえてきた。視線をそこに移せば、胸ぐらを掴みあう緑谷少女と爆豪少年の姿があった。

 

あうち!

 

「だぁかぁらぁ~、脳味噌の代わりにホイップクリームでも詰まってんじゃないんですかぁ?そんなんで出し抜けるほどガチムチが馬鹿じゃない事くらい、普通に考えたらわかんでしょーが!!ガチムチは基本ポンコツだけど、戦闘に関しちゃヤバイ筋肉でしょーが!」

 

「知ったことか!!俺がぶっ潰すんだよ!!ポンコツだろうが、ナンバーワンだろうが関係あるか!!俺の前に立ちはだかるなら、誰だろうとぶっ殺して前に行く!!そんだけなんだよ!!だから、てめぇは尻尾巻いて逃げてりゃいいんだボケが!!」

 

ヒートアップした緑谷少女と爆豪少年の顔が近づく。

一瞬キスでもしちゃうのかと思ってびっくりして顔を隠してしまった。

 

思い直してそっと覗きこめば、そんなピンク色の光景は一切なかった。

そこにあるのは互いのおでこをぶつけ合い、人を殺しそうな目で見つめ合うヤンキーな二人の姿。ピンクよりも、殺伐とした真っ赤な背景が似合いそうな光景だった。

 

何とかしなければと思った私は考えた。

とても、とても考えた。

手元には何もない。あるのはこの身一つ。

 

それで場を和ませる為には━━━ジョーク!だが、雰囲気的に怒鳴られそうだ。止めておこう。またチェンジって言われるのは、正直辛い。

 

考えた末、一つ思い付いた。

道具もなく簡単に出来、殺伐とした気持ちを和ませるそれを。

 

「緑谷少女、爆豪少年!」

 

「「はぁぁ!?」」

 

「しりとりとか、してみないかい!子供の頃を思い出して━━━━━」

 

「「黙ってろ、ポンコツ!!!」」

 

酷いっ!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

遠ざかっていく緑谷達が乗ったバス眺めていると、不意に肩を叩かれた。

振り返ると不安そうな八百万の顔が近くにある。

 

「どうした、八百万」

「あ、いえ。・・・ただ、少しお話をと思いまして。二人一組での戦闘ですので、連携をとる為にも互いの情報を交換しておいた方が良いかと」

「そういう事か。分かった」

 

八百万に促されて話を始める。

八百万に体育祭以降大きな変化はなく、話すのは大体俺の左についてだった。現在の最高温度、攻撃範囲、炎放出に掛かる時間。それに伴い変えた装備についてなど、その他諸々も含めた全部を話す。

 

すると何故だか八百万の表情が陰った。

 

「轟さんは変わりましたね。体育祭から、また一つ強く。私なんて入学から大して変わりませんのに」

「そうか?あんま変わんねぇと思うけどな。左を使う気になっただけだ」

「・・・それは、轟さんにとって簡単な決断ではなかったでしょう?」

 

八百万の言葉に少しだけ驚いた。

 

「どうして、そう思う?」

「最近のお顔を見ていれば嫌でも分かりますわ。明るくなられましたもの・・・でも、私が気づいたのは、明るくなってからです」

 

そう言った八百万は肩を落とした。

落胆する所があったようには思えなかったが、何か八百万なりに落ち込む要素があったのだろう。

緑谷から女には愚痴を言いたいだけの時があると聞いてるので、余計な事は言わずに耳を傾けた。

 

「緑谷さんなら、良かったですわね・・・」

「・・・?何言ってんだ?」

「ペアの相手ですわ。私なんかより、緑谷さんと組んだ方が轟さんは良い成績を残せた筈ですもの・・・」

「?」

 

俯いていく八百万の姿を見ながら考えた。

緑谷と組みたいか組みたくないかと言われれば、組みたいと答えるかも知れないが、それとこれとは別の話だ。

これはあくまで試験。なら、こうして振り分けられたのにも理由がある。良い成績を残すのも大切だが、それより俺達は何かを相澤先生に見せなきゃならない筈だ。

 

「八百万、取り合えず聞いてくれ」

 

余計な事かも知れないが、一言だけ。

 

「これは俺とお前の試験だ。あいつは関係ない」

 

俺の言葉を聞いた八百万が俯いていた顔をあげる。

 

「なんでそんなに自信がねぇのか知らねぇけど、俺はおまえを頼る気でいるぞ。俺より頭良いだろ。作戦だとかは任せるつもりだ」

「え?は?えっ?えぇぇぇ!?わ、わたくしがですかぁ!?それは轟さんがやった方が宜しいのでは!?実戦経験もありますし!」

「実戦経験積んでも、頭自体は良くなったりしないだろ。効率はよくなるかもしんねぇけど」

 

混乱する八百万の肩を一つ叩く。

少しだけ冷静さが顔に出てきた。

 

「クラス委員決めるとき、おまえ二票だったろ。一票は俺が入れた。そういう事に長けた奴だと思ったからだ」

「あの、時の・・・?」

「何も思い付かないなら俺も考える。━━けど、おまえならなんか思い付くだろ。俺よりずっと凄い事を」

 

両肩を掴みじっと目を合わせて話せば、分かってくれたのか八百万が首を縦に振りまくってきた。

何故だか少し顔が赤い。

 

いつまでも女の体に触るのは良くないと思い手を離せば、八百万は少し呆けた後両手で顔を覆った。

風邪だったりしねぇと良いが・・・いや、流石にこんな短時間で悪化する風邪はねぇか?

 

それから少しして、顔色が戻った八百万が俺を恨めしそうに見てきた。

どうしたのかと尋ねれば━━━━。

 

「どこで、その、こう言った凶悪な技を・・・?」

 

凶悪な技?

 

意味は分からなかったが、自分が八百万にやった事を振り返って、多分こうして面と向かって話す事をさすのだろうと当たりをつけて返す。

 

「━━あいつのお陰で話さねぇとわかんねぇ事があるって分かったからな。出来るだけ言葉にするようにしたんだ。得意じゃねぇから、あれだけどな」

 

そう言うと八百万はそっぽを向いた。

 

「・・・緑谷さん、よく靡きませんわね」

「?靡く?」

「な、何でもありませんわ!それより出来るだけ作戦を考えておきましょう!フォーメーション、緊急時の対応、話す事は沢山ありますもの!!」

 

元気になった八百万を見ながら、ふとバスの最後尾で爆豪と話し合う元気な緑谷の姿を思い出した。

 

・・・ペアか。

 

「━━━悪くなかったかもな」

「何か仰りまして?轟さん?」

「何でもねぇ」

 

 




轟達のバス、最前列席

包帯先生「・・・・・・」

ととろき「」イケメーン
やおもも「」キャー

包帯先生(俺の出番なさそうだな)


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あいつを説得する方法ってある?優しくしても駄目。理屈を捏ねても駄目。泣き落としても駄目。はぁ、分からん。あとは色仕掛けくらい・・・っても相手がなぁ。え?効くからやってみろ?まっさかー。どうしよ。の巻き

百話を越えたら、良いことある気がする。

きっと、空から親方とか降ってくるに違いない。
大変だぁ!シーター!空から親方が!!

よし、頑張るぞ( *・ω・)ノ



かっちゃんと怒鳴りあいながらバスで進む事暫く。

私達は演習場の一つであるビル街を模したその場所に辿り着いた。

 

バスを降りると早速ガチムチからルールについて再度の説明が始まる。

 

一、制限時間は30分。

二、勝利条件は『用意されたハンドカフスを対戦教師にかける』『どちらか一人が決められた出口からステージの脱出』である。尚、決められた場所以外から脱出した場合はその時点で終了。試験は内容に関わらず失格である。

三、制限時間を過ぎる。もしくは戦闘続行が不可能であると判断が下された場合、その時点で試験終了である。この場合、試験内容によって成績がつけられる。勝利条件を満たしていない以上、合格判定はなし。

四、対戦教師はハンデとして自らの約半分の重量がある重りを装着する。因みに重りのデザインは発目である。

 

バスに乗る前と同じ説明をしたガチムチは、不敵な笑みを浮かべて続ける。

 

「勝ちにこいよ、お二人さん」

 

その目や顔を見て、目の前の筋肉ヒーローがマジになってる事に気づいた私は早速布石を打つことにした。

 

「笑顔がきもい」

「ふぐぅ!!な、いきなり、なに!?緑谷少女!?」

「汗臭い、てか独特の臭さがある。これ加齢臭?うわっ、きつ。これだからおっさんは。離れて、半径20メートルは離れて」

「えぇ!!そ、そうかな?!誰にも言われた事な━━」

 

そっと掌で鼻を隠せば、ガチムチがショックを受けた。

本来なら追い討ちを掛けるところなのだが、あえて放置する。この方が効くと思うので。

 

案の定ガチムチはしょぼんとした。色々自分で考えて始め、勝手に落ち込んでいるんだろう。

前々から思っていた事だが、ガチムチは変な所で繊細過ぎる。よくヒーローやれてるなと、真面目に思う。

 

・・・まぁ、それっていうのはつまり、そういう事なんだろうけど。

 

落ち込むガチムチをおいてスタート地点へと向かう。

振り返りガチムチを見れば戦意が欠けてるように見える。その見掛けだけは。

 

「それで止まってくれれば、苦労しないんだけどなぁ」

 

 

 

 

 

 

スタート地点へと向かう途中、どうすべきか改めて考える。はっきり言って策をこうじてどうこう出来る相手だとは思えないけど、それを何とかしないと話にならない。

 

ガチムチの個性は単純な力の塊。

それだけ聞けばなんて事のない個性に思えるが、その力は極限といえるほど鍛えられ常識を逸脱した性能を発揮する。拳一振りで天気を変え、地面を蹴ればビルより高く飛び上がれる。聞いた話だとUSJの時の脳みそヴィランはガチムチのパンチを受けて雲に届くほど打ち上げられたとか。例をあげて思うけど、やっぱりおかしいわ。

 

ハンデに体重の半分相当の重りがついてるが、それがどれだけの効果があるのか。体重と同等の重りをつけたって関係なしっぽいのに。

 

そうなると真っ向からぶつかるのは悪手。

上手く煙に巻いて逃げるに限るけど・・・それも一人でやったら意味がない。

 

やっぱりかっちゃんか。

 

「━━かっちゃん、かっちゃん」

 

声を掛ければしかめっ面のかっちゃんが振り向いた。

顔を見ればもう何となく分かった。

これは前言撤回しないな、と。

 

それでも勝ち筋はそこにしかない。

だから考えていた事を伝える事にした。

 

私が伝えたのはバスの中の時と同じもの。

作戦はそう難しいものじゃない。二面奇襲を仕掛け混乱した所でかっちゃんが離脱。出口に向かう。残った私はかっちゃんから貰っておいた汗を使って爆破も組み合わせて戦う。かっちゃんの存在を偽装する。

爆破による煙があるとはいえ、いつまでも誤魔化せないと思う。ガチムチには煙を消し飛ばすパンチがある。けど少しの間ならガチムチにかっちゃんがそこに残ってると思わせる事は出来るだろう。それが五分だか一分だか分からないけど、ある程度走ればヒーロー殺しの時につかった爆速ターボがある。流石のガチムチでも視界の悪い中ひとっ飛びで正確にかっちゃんの元にいけるとは思えない。

その僅かなラグさえあれば、間違いなくかっちゃんは脱出ゲートを潜れるだろう。

 

一通り説明し終えると、かっちゃんは迷う素振りもなくそっぽを向き「やらねぇ」とほざいてきた。

 

この野郎ぅ・・・!

人が頑張って作戦考えたのにぃ!!

 

「じゃぁ!かっちゃんが作戦考えてよ!!ぶっ倒すとか言わないでよねぇ・・・?」

「っせぇわ!!ぶっ倒すっつってんだろ!!!てめぇは端っこで縮こまってろや!!」

「ぶっ倒すって何?まさか真正面からぶつかるつもりじゃないでしょーね?アホなの?死ぬの?かっちゃんが強いのは認めるけど、授業参観の時散々やられたじゃん。勝てないのは分かってんでしょ。だからさ━━━」

「っせってんだよ!!ボケっ!!てめぇは大人しく守られてろや!!」

 

あまりの物言いに私の堪忍袋の緒も切れた。

幾ら90%の思いやりで出来てる優しく慈愛に満ち満ちてる穏やかな気性をもつ私でも、この物言いは我慢ならない。これはあれだ、プンスコだぞこらぁぁぁぁ!!

 

「大人しく守られてろって何ですかぁ!!?試験なんですけどぉ!!何もしないで受かれってか!!アホか!!そりゃ楽して受かるなら文句はないけど、そんな簡単に出来る訳ないでしょ!!だから頑張って色々考えてあげてんでしょ!!何、それとも作戦とか意味が分からない系?!何、高校生になったら馬鹿になったの!?ええ!?」

「誰が馬鹿だ!!てめぇが一番の馬鹿だろうが!!なんで俺がてめぇおいて逃げなきゃなんねんだ!!ふざけんな!!逃げんならてめぇが勝手に逃げやがれ!!それが出来ねぇってんなら邪魔だから端っこで隠れてろってんだよ!!分かんねぇのか脳たりん!!」

 

脳たりん、だと!?

言うに事欠いて脳たりんだとぉ!!

 

「私の何処が脳たりんだぁ!!天才という名を欲しいままにする、万人に一人の逸材、超絶天才美少女たる私!緑谷双虎の何処が脳たりんだ!!このボンバーヘッド馬鹿!!脳みそに爆薬詰まってるような思考してる癖に、調子こいてほざくんじゃぁないよ!!」

「誰の頭の中が爆薬だぁこらぁ!!!」

「かっちゃんの頭の中ですぅ!!そのボンバーヘッドの中身の事ですっ!!それパカッってやったら、爆弾工場とか入ってんじゃないの!?今日も稼働中ですかぁ!?ねぇねぇ!」

 

煽るように頭を覗いてやれば、かっちゃんのおでこに青筋が浮いた。

 

「喧嘩売ってんのかてめぇはよ!?ああ!?今すぐ買ってやんぞ!!」

「上等!!掛かってこいよ、爆発小僧!!ガチムチの前にぶっ飛ばしてやんよぉ!!」

 

 

 

 

『皆、位置についたね』

 

 

 

 

 

突然鳴り響いた放送。

喧嘩を始める寸前だった私は、冷水をぶっかけられたかのように頭が一気に冷えた。

それはかっちゃんも同じだったのか、もう私を見てない。全神経を周囲に向けてる。

 

『それじゃ今から雄英高1年、期末テストを始めるよ!』

 

私も周囲を見た。

スタート地点は見通しの良い二車線のど真ん中。

このままここに居続けるのは得策じゃない。開始直後に取り敢えず身を隠せる場所がないか探す。

 

『レディィィ━━━━』

 

何とか数ヶ所当たりをつけた私は、それを伝える為にかっちゃんの腕を引っ張った。

 

「かっちゃん!取り合えず喧嘩中止!始まったらあそこに隠れるよ!!作戦は後で━━━」

「っせぇ!!逃げねぇったろが!!」

「馬鹿のひとつ覚えみたいに!かっちゃんだって分かってんでしょ!!真正面からじゃ勝てないのは!」

 

理屈で説得しようとしたけど、かっちゃんは私の手を振り払った。

 

「うるっせぇ!!!真正面から勝たねぇと意味がねぇんだよ!!オールマイトに!!ナンバーワンヒーローに!!じゃねぇと━━━━」

 

一瞬かっちゃんの視線が私を見た。

 

怒鳴っていたのに怒ってた筈なのに。

そこに怒りはなかった。

 

あったのは、授業参観の時に見たあの目。

私が謝れなかった理由。

 

 

『━━━ゴォ!!!』

 

 

遠ざかってくかっちゃんに、なんて声を掛けたら良いか分からない。

だってかっちゃんがこうしてるのは、多分私のせいだ。

 

授業参観が終わってから考えてた。

有り得ない話だって思って、見ないようにしながら。

テスト期間中だって事もあって、考えるのすら止めた。

でも、もう無理だ。

 

分かってしまった。

理解してしまった。

 

だってあの目は━━━。

 

 

 

 

 

けたたましい音と共に風が吹き荒れた。

コンクリートの道路が粘土のようにめくり上がり、周囲を囲むように並ぶビルの窓ガラスが割れていく。近くにあった歩道橋など中央部分が跡形もなく吹き飛んでいる。

 

何が起きたのか一瞬で理解した。

それには覚えがあったから。

かっちゃんと私を助けた、あの時の。

 

「街への被害などクソくらえだ」

 

豪風が起きた先。

砂埃の向こうから声が響く。

 

「試験なんだと考えてると、痛い目みるぞ」

 

砂埃を割いて、それは現れた。

 

「私はヴィランだ、ヒーローよ。真心込めて、掛かってこい!!!」

 

ポンコツ教師にしてランキングトップに君臨する、ナンバーワンヒーロー。

 

 

 

 

 

 

 

「ガチムチ・・・・・・!!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・緑谷少女、そこはオールマイトと呼んでくれないかな?」

 




◇( ・_・)ノΞ●~*

おしえて!ととろきせんせい!☆リベンジ☆

Q:やおももさんとふらぐがたったって、ほんとうですか?

A:まぁ、俺ってばイケメンだから。フルポテ発揮したら、ま、おかしくはないね( *・ω・)

・・・あ、違うの!みろりや!きいて!これは違う!違うのぉぉぉ!


おしまーい( *・ω・)ノ


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向き合う物が大きければ、誰でも迷うし立ち止まる。それでも譲れない物がある者だけが、前に進む事が出来る。だから私は進む・・・体重計なんて怖くない!好きなだけ、食べてやるぞ!ケーキバイキング万歳!の巻き

店長!シリアスさんご来店です!

ポイントカードめちゃ持ってます!
なんか居座る気まんまんなんですけどーー!




「行くぞ、ヒーロー!!」

 

掛け声と共に駆け出すガチムチ。

身に纏う雰囲気はあのヒーロー殺し以上の圧倒的なまでの威圧感。改めて思う。教師としてのガチムチはポンコツもポンコツだけど、ヒーローとしてなら別格だと。

 

ハンデなんて意味がありますか?なんてレベルの速度で迫るガチムチの姿に、真正面からの戦闘は避けるべきだと思い、未だ逃げる素振りのないかっちゃんに向け声をあげた。

 

「かっちゃ━━━━っ」

「黙ってろや!!」

 

かっちゃんの怒鳴り声に言葉が詰まった。

さっきの顔や目を思い出して、なんて言えばいいか分からなくなる。

 

どうしようかと悩んでる内に、かっちゃんとガチムチの距離は手が届くところまで来てしまう。

 

「正面からとは舐められた物だ!!」

「っせぇ!!それぁな━━━━」

 

両手を前に突き出したかっちゃんの姿を見て、何をするのか直ぐに察した。最近使えるようになったアレだ。

私は目を瞑りそれに構える。

 

「━━━これを見てからほざけや!!!」

 

カッと、目も眩むような光が周囲を覆った。

スタングレネードと名付けた敵の無力化を図った技。

ガチムチは攻撃の意図に気づかずまともにそれを受けた。

 

その隙を逃すかっちゃんではない。

直ぐ様ガチムチに肉薄する。

かっちゃんの位置を予測してガチムチが手を伸ばすが、その行動を予測していたかっちゃんはかわし切った。

 

懐に潜り込んだかっちゃんの手がバチバチと音を立てる。

 

「ぶっ飛べや!!」

 

爆速ターボで加速。

その勢いをそのまま乗せた掌底がガチムチの腹部に突き刺さる。くぐもったガチムチの声に答えるように、掌底から爆撃が放たれた。

 

必殺とは言わなくてもかなりの一撃。

にも関わらず、ガチムチの体勢は崩れない。

それどころかガチムチの目がかっちゃんを捉えていた。

 

スタングレネードが直撃したなら有り得ない。

あまりも回復が早すぎる。

つまりは直撃はしていないということ。

 

私は引き寄せる個性でガチムチに向かって飛び、目眩ましに炎を噴いた。

直ぐに反応し顔を覆ったガチムチに、渾身の力を込めて飛び蹴りをかます。

 

ニコちゃん108の必殺技の一つ。

ライダー的ミサイルキックである。

 

顔面に叩き込んだつもりだったが、腕でガードされた。

流石に先生として私の行動を見てる訳じゃないなと、少しだけ感心する。

そして同時に、この野郎ぉとも。

 

私の動きに合わせてかっちゃんが二撃目をガチムチに叩き込む。チャンスだというのに掌底から放たれる爆撃がさっきより弱い気がする。一瞬、かっちゃんが私を見た所から、私を気にして威力を下げたのは分かった。

文句を言ってやりたい所だけど、言葉にならなかった。あの目を思い出すとどうしても。

 

「━━━手を抜いて、勝てると思われてるとはな!心外だぞ、爆豪少年!!」

 

復活したガチムチがかっちゃんの腕を掴み、力任せに振り回す。そして私に目掛けて投げ飛ばしてきた。避けようと思ったけど、飛んできたかっちゃんの様子を見て受け止める事を選んだ。

 

かっちゃんの体とガチムチの体に対して引き寄せる個性を発動する。フルスロットルで発動すると飛んでいってしまうのでそこそこの力で速度を弛めるだけ。

スパイクを使い体を固定し、乙女力をフル動員して身構え━━━かっちゃんを受け止めた。

 

勢いを殺しておいたお陰で大した苦もない。

飛ばされた速度そのままなら、砲撃も良いところだったけど。・・・というか、生徒相手になんてもんかますのか!あのクソガチムチ!

 

抱えたかっちゃんに声を掛ける。

混濁していた意識が戻り、かっちゃんの目が私を見た。

直ぐに状況を理解したかっちゃんは転がるように私から離れる。

 

「っに、してんだ!てめぇは!!」

「なっ!!危ないと思って受け止めてあげたんでしょうが!!感謝くらい言えないの!?」

「頼んでねぇ!!」

 

それは頼まれてないけど!

くそっ!殴り飛ばしたい!!

けど、今はそんな事してる場合じゃないから!見逃してやるけど!こにやろうめぇ!!

 

「兎に角、一旦引こう!ぶつかって分かったでしょう!まともにやったら駄目って!隙をつけばチャンスはある!」

「勝手に引きやがれ!!」

「私一人引いても意味ないの!!個別でウロウロしてたらそれこそ鴨でしょ!!一人で相手出来る人じゃないんだから!二人で━━━」

 

 

「━━━邪魔なんだよ!!てめぇが!!!!」

 

 

私の言葉を遮るようにかっちゃんの怒鳴り声響く。

拒絶以外、何物でもないそれが。

 

「目障りなんだよ!!気が散るんだよ!!てめぇがウロウロしてると!!」

 

 

「馬鹿面下げてついてくんなや!!ピーピー喚くな!!うっとうしいんだよ、ボケ!!」

 

 

「てめぇの力なんか、いらねぇんだよ!!」

 

 

そう言ってガチムチに向かって走り出すかっちゃん。

掛ける言葉が見つからなくて、私はそれを見送るしか出来なかった。

どうするべきか分からなくて、何も出来なかった。

 

かっちゃんの言葉が頭の中でまだ響いていた。

グルグルとずっと回っていた。

その顔とその声が。

ずっと。

 

 

『━━━邪魔なんだよ!!てめぇが!!!!』

 

 

気がつけば私の足は、かっちゃんの背中が見える反対方向へと駆け出していた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

荒療治である事は分かっていた。

本来なら少しずつ自覚させ、成長を促す方が良いと分かっていた。

それでもこの手段をとったのは、奴が動き出している事を知ったからだ。

 

時間がない。

いつなんどき、何が起こるか分からない。

その時になってその綻びが弱点にならぬように、克服させたかったのだが━━━結果は最悪に終わった。

 

爆豪少年から離れていく緑谷少女の背中を見ながら、私は溜息が溢れ落ちるのを耐える。

何故、こうなってしまうのか。

 

「これで、良いんだな。爆豪少年?」

 

そう尋ねれば、爆豪少年はその顔を歪めた。

吐いた言葉に後悔はあるのだろう。

けれど、その瞳は真っ直ぐ私を見つめている。

 

彼を追い込んだのは、ある意味で私だ。

 

緑谷少女を私の事情に巻き込み、それを爆豪少年は知った。爆豪少年は緑谷少女にそれを伝える事を拒み、代わりに自分が守るとそう言った。

だから任せてきた。何よりも覚悟を決めた男の言葉だ。聞いてやりたかった。

 

考えるべきだった。

爆豪少年が背負う物の大きさを。

私と同等の敵より彼女を守るという事が、爆豪少年にとってどれほど困難で、どれほど厳しい現実なのかを。

 

楽観視していた、私の甘さ。

その結果がこれだ。

 

「君を責めるつもりはない。それも一つの答えだ。かつて私の師だったお方も、危険に巻き込まぬ為、我が子をヒーローである己から遠ざけた」

 

けれどな、爆豪少年。

私は君達が共に歩む姿が見たかった。

 

孤独ではなく、友と歩む姿を。

私が選べなかった、その道を歩む姿を。

 

「もう一度尋ねる。後悔はないんだな・・・?」

 

爆豪少年から返る言葉は無かった。

燃えるような瞳が私を見つめるだけ。

ただそれは、あまりに十分過ぎる答えだった。

 

「ならば、良い」

 

私の言葉を聞いた直後、爆豪少年が走った。

爆速ターボと呼ばれる加速を使わなかったことに疑問が浮かんだが、直ぐにその理由も分かった。

溜めだ。

 

加速に使う力すら溜めたのだ。

 

「消し飛べやぁぁ!!!」

 

爆豪少年が掌を突き出す。

一瞬光が走ったかと思えば、紅蓮の爆炎が辺り一面を巻き込み私に迫る。

流石にまともに当たると痛いのでスマッシュを放ち爆炎を蹴散らす。

 

すると爆炎の先に籠手を構えた爆豪少年の姿が見えた。

私の背中に寒気が走る。

 

爆豪少年が籠手のトリガーに刺さるピンを引き抜く。

さっきの光とは比べ物にならない輝きと共に灼熱が吹き荒れた。

 

地面を抉るように殴り飛ばし、土の壁を作り受け止める。かわすことも出来たが、気持ちの籠ったそれをかわすのは気が咎めた。

それ以外にも拳圧で返す事は出来たのだが、下手に返して爆豪少年にあの灼熱が返ると怪我をさせてしまうから却下だ。あくまで試験。不用意に怪我をさせるべきはない。

 

しかし、やはり爆豪少年のセンスは抜群だな。

籠手に仕込まれたそれを理解していなければ、間違いなく不意を打たれただろう。

 

「━━━私には通じないがな!!!」

 

灼熱が治まった後、直ぐ様拳を振り抜く。

爆破によって生まれた煙が晴れ、隠れていた景色が目に映る。

━━が、爆豪少年の姿がない

 

直後、頭上から小さな爆発音を聞いた。

咄嗟に視線を向ければ、爆豪少年の掌が目前まで迫っていた。

 

「死ねやぁ!!!」

 

爆撃が私を襲った。

恐らく今日一番の高火力。

爆撃の重みに体が地面に沈む、ガードに構えた腕が焼け痛みが走る。

籠手の一撃すら囮にした必殺。

 

三段構えとは、正直恐れいった。

並みのヴィランでは相手になるまい。

相澤くんの言葉が今更になって響く。

 

これは確かに、他の先生方には任せられんな!!

 

爆撃に耐えきり直ぐに反撃に移る。

爆豪少年に向け拳を振り上げた。

しかし、この一撃は空を切った。

 

避けられた事より、その動きに目がいった。

足裏から吹き出す爆風。空中を跳ねるように移動するそれはまるで師の盟友、グラントリノの動きその物だったのだ。

ブーツを変えたのは気づいていたが、まさかこういう仕掛けがあるとは思わなかった。

 

流石にグラントリノ程の機動力はないとは思うが、三次元的な動きを自在に操るのであれば厄介さはまた一段と上がる。

 

「化けるとは思っていたが、ここまでとは・・・いや、しかし━━━」

 

それでも、まだ青い。

一つ一つの動きに粗がある。

付け入る隙が目につく。

 

強くはなった、格段に。

だが、それでもまだ。

まだ、だ。

 

「一人で私に挑むなど、三年は早い!!」

 

学校を卒業する頃まで順調に成長していけば、私がハンデなしでもそれなりに戦えるようになるだろう。

十年もすれば、ヒーローランキングに名を連ねるヒーローになるだろう。

 

だが、それは先の話。

 

まだ足りない。

経験が、力が、速さが。

何もかも足りない。

 

「デトロイトぉぉぉ━━━━」

 

爆豪少年が身構えた。

やはりグラントリノと違い空中移動には大きな制限があるようだ。かわさないのが良い証拠だ。

 

「━━━スマッシュ!!!」

 

拳圧が起こした爆風が爆豪少年を襲う。

爆風に巻き込まれ爆豪少年は切りもみしながら空中を飛んだ。それでも今度は意識までは失わなかったのか、地面に落ちる前に体勢を調え着地する。

 

だが、流石にノーダメージとはいかなかったようで体が大きくふらついている。

 

立てない彼に私は歩みよった。

もはや駆ける必要すらない。

 

「入学から僅か三ヶ月と少し。短い期間でよくぞここまで鍛えた。入学当初と比べれば段違いだ。誇っていい。君は強い」

 

立ち上がれない爆豪少年は視線だけをこちらに向けた。

 

「っせぇ!!何処がっ、強ぇんだ!!平気な面しやがって、どの口がほざきやがる!!」

「同学年・・・いや、雄英高在校生の中でも間違いなくトップクラスだよ。単純な戦闘能力だけで言えばね。私と比べるのはナンセンスとしか言えない。何故なら君と私に与えられた時間には大きな開きがある。君より遥かに努力し経験を積んだ私と、まだプロにすらなれてない学生の君とでは力の差があって当然だ」

 

その言葉で納得してくれればいいが、それが出来たらここにはいないのだろう。

案の定、爆豪少年は舌打ちを返してきた。

 

「それじゃ足りねぇだろぉが!!あんたより強くねぇと、意味がねぇだろうが!!」

 

吼える彼が何を思ってそれを吐くのか。

少し分かったつもりだが、私では理解仕切れない。

 

「決めたんだって、言ったろ!!もう曲げねぇ!!俺は、守るんだよ!!あの馬鹿を!!ヒーローに、あいつに約束したっ、ナンバーワンヒーローになんだよ!!」

 

でもそれが、彼にとってどうしても譲れない事なのは、もう分かっている。

本当は変わって欲しかったが仕方ない。

 

「━━━本当のヒーローに!!」

 

ならば、せめて全力で相手をしよう。

君の気持ちに全力で応えよう。

心を込めて。

 

拳を振り上げて、私は最後にもう一度だけ尋ねた。

 

「後悔はないんだな?」

 

答えはない。

返ってきたのはやはりあの瞳。

 

「残念だ━━━━━」

 

答えを聞いた私は拳を振り抜こうと力を込めた━━━が、迫る風切り音に拳を止めた。

 

それは真横から。

視線を向ければビルの隙間を縫うように真っ直ぐにこちらに飛んでくる物がみえる。

 

 

そうだよな。

君はそういう子だ。

 

「戻ってくると、そう思っていた!!緑谷少女!!だが甘い!真っ直ぐに向かってくるとは!速度があろうと━━━」

 

拳を構えそちらを向く。

迎えうつために。

 

「デトロイトぉぉぉ━━━お?」

 

影から飛び出してきたのは緑谷少女のマントがつけられた人形。チェーン店においてあるような、そんな宣伝用の人形だった。

しかもそれは私にぶつかる事なく目の前に落ちる。

 

 

 

 

 

その直後、後頭部に衝撃が走った。

完全に虚をつかれた一撃。

目がチカチカする。

 

「これは、おまけ!!!」

 

チカチカする視界が炎に包まれた。

視界は封じられたが音は聞こえる。

炎の先から重たい何かを引きずるような、その音が。

 

炎を消し飛ばし視界が回復した頃には、二人の姿は何処にもなかった。

 

「ふふ、まだ終わらないか・・・ああ、そうだな。そうこなくては。緑谷少女、爆豪少年」

 

私は彼女達を迎え討つ為に出口へと向かった。

最後の決着をつける為に。



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それは、あいつとわたしの、二人のおなはし。の巻き

はくび神「かっちゃんよ、君にかけた『一人称俺様化』の呪いを解いてあげよう」
かっちゃん「まじか!?キャラのかき分けはいいのか、クソびしん!」
はくび神「このシリアスに、俺様は笑っちゃうからね。特別さ」
かっちゃん「そんな理由かよ!!こらぁ!」


そんな訳で呪いが解けるよ。
(恐らく今回限定)



最初に俺がそれに気づいたのは、幼稚園の時。

あいつとつるむようになって暫くした頃だ。

 

何処かの馬鹿が遊具を占拠して、そのせいで遊べないどっかのガキがべそかいてる。図体のデカさや腕力の強さで差がつく幼稚園では、よく見るような光景だった。

あいつは掴んでた俺の手を離して、そこへと向かっていった。理由は『わたしがあそこであそびたいから』だったか。兎に角あいつは馬鹿を蹴散らして、気がつけばべそかいてたガキと遊んでやがった。

 

それが多分、最初だった。

 

勝手に約束してからは、その姿がもっとよく目につくようになった。それは些細な事が多かった。自分より小さいガキから玩具を取り上げた馬鹿を殴り飛ばしたり、転んで泣くガキをあやしてたり、いじめなんざくだらない事してる馬鹿共の所に割って入り逆に馬鹿共を悪口でいびり倒したり・・・そうした理由は本当に様々で身勝手なもんばかり。暴力的な解決もあったから褒められたもんじゃねぇ。けれど、どれも誰かを助ける為のもんだった。

どうしてそこまで助けるという行為に別の理由を立てたかは分からない。けど、そうせずにはいられない奴なのだということは嫌でも理解していった。

 

その頃の俺はその姿をなんとなしに見ているだけだった。俺にとってそれは当たり前だと思ってたから、あいつがなんでそんな事するか分からなかった。

弱い奴が泣かされんのも、馬鹿にされんのも、いじめられんのも。そいつが弱いのが悪いと思ってた。だから助けなかったし、気にしなかった。悔しかったら努力すればいい。今より強くなって、自分で見返せばいい。それが出来ないなら、そのままつまんねぇ人生歩きゃいい。

そう思ってたから。

 

でもある時気づいた。

あいつの姿を見て、あいつの周りに集まる連中の顔を見て、ようやく気づいた。

 

ただ強ければいいと思っていた自分が、どんだけちっぽけだったのかって事を。

守ってやる筈だったやつの方が、俺よりずっと誰かを守ってた事を。

ヒーローに相応しいかって事を。

 

そして必然的にそれにも気づいた。

誰かを助けるあいつが、誰よりも傷ついていってる事を。

守るって決めた俺が、それに気づく事もなく、何もしなかった事を。

 

 

それに気づいたのは、あいつと出会ってからずっと経った後だった。

あいつが一人で駆け出して、俺が後からそれを知るようになるのが、当たり前で当然と思えるくらい後になって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━かっちゃん!!」

 

朦朧としていた意識がはっきりしていく。

聞き慣れた声に顔をあげれば、やっぱりあいつの顔があった。温かさに目を向ければ、情けなく肩を貸されていた。

 

振り払おうとしたが、思うように力がでない。

オールマイトにぶつけられた拳圧の一撃。

空中できりもみに吹き飛ばされたのは、体よりも脳に効いていた。

 

「放せやっ・・・」

 

ようやく絞り出した声にあいつは視線すら向けなかった。

 

されるがまま引きずられビルの室内へと連れ込まれた。

演習場内の建物は一部を除いてハリボテと思えるくらい中身がない。そこもその例外に外れる事なく、何もない場所だった。

 

俺を床においたあいつは足早に階段を駆け上がっていく。恐らくオールマイトの様子を確認しにいったんだろう。馬鹿の癖にやたら頭が回る奴だから間違いねぇ。

 

少しすればあいつが戻ってきた。

 

「取り敢えず近くにはいない。ガチムチの性格だから、細々建物を調べるとは思えない。多分、出口付近に陣取ってると思う」

 

的確な言葉にイラついた。

あいつの分析は間違った事じゃねぇ。

けど、さっきの俺の言葉が無視されたような気がして、気に入らなかった。

 

未だ動かしずらい体を持ち上げて座る。

そしてそれが口から溢れてった。

 

「なんで、戻ってきてんだ。てめぇは」

 

思わず出た言葉にあいつの肩が揺れた。

酷い事を言ってる自覚はある。

本来なら感謝すらしなきゃなんねぇ場面だった。

でも、俺の口は止まらなかった。

 

「邪魔なんだよ。うろつくな」

 

てめぇで側に呼んどいて、俺は何を言ってんだ。

今更過ぎんだろが。

 

「めざわりなんだって、言ったろ」

 

こんなつもりじゃなかった。

今度こそ守ってやるんだってよ、そう思ってた。

 

「気が散るんだよ」

 

けどよ、駄目なんだよ。

俺じゃ無理なんだよ。

 

「てめぇがいると、調子が狂うんだよ」

 

俺はてめぇが言う程強くねぇんだ。

言葉も態度も、それしか出来なかったからだ。

てめぇに好きだなんて言ってもらえるほど、立派じゃねぇんだ。

俺は━━━━━━

 

 

 

 

「俺の前から、失せ━━━━っ!!?」

 

 

 

 

右頬に衝撃が走った。

座ってた体が浮き上がり床を転がる。

何をされたか一瞬分からなかったが、視線をあげて直ぐに分かった。

 

そこにあいつの拳骨があったから。

 

何をすんだと声をあげようとしたが出なかった。

拳の先にある、あいつの顔を見ちまったから。

あいつは自分の顔を乱暴に手でふき、口をひらいた。

 

「私はかっちゃんに守られて生きるつもりはない!!」

 

そんな事は言われなくても知ってる。

何よりそれは、俺が勝手に決めた事だ。

目の前のこいつには関係ねぇ。

 

「・・・でも、心配掛けたの悪かったと思ってる。だからごめんなさい」

 

なのに、あいつはそう言って頭を下げた。

冗談やからかってる訳じゃないのは見れば分かる。

こいつは本気で俺に謝ってきてた。

 

「そんなに心配掛けるなんて思わなかった。だってかっちゃんだけは、ただ大丈夫かって言わなかったから。かっちゃんはいつも、呆れた顔して馬鹿にしてきて、怒鳴り散らしながら頭叩いてきて・・・隣にいてくれたから。だから信じてくれるんだって思ってた」

 

あいつの顔は見えない。

俯いちまったから。

 

「でも、かっちゃんの頑張る姿見て、母様を見て分かった。信じてても、分かってても、心配しない訳ないって。だって大切だから。大切なものが傷だらけになるのは、辛くて苦しいって。それで思い出した。私がそうだった事」

 

「どうして今更って思う。きっと私も自分の事ばっかりだったんだと思う」

 

「轟とか、飯田に偉そうにいって、そんな資格ないのに、私だって全然だった・・・」

 

 

そっと顔をあげたあいつの顔は涙で濡れていた。

それはずっと前に見た、あの勝手に約束した時のような、不安に満ちた一番見たくなかった物だった。

 

「・・・謝る。許してくれるまで、ちゃんと謝る。もう無茶しないから。気に入らないんだったら、もうヒーロー科だって止めてもいいから。だから━━━━」

 

ボロボロ落ちる涙が、すすり泣く声が、くしゃくしゃになった泣き顔が。

耳に響いて、目に映った。

 

 

 

 

「━━━━邪魔って言わないでよ、かっちゃん」

 

 

 

 

 

そうしてやっと思い出した。

あいつの弱さを。

 

びびりだって事。

苦手な事が沢山ある奴だって事。

どうしようもない奴だって事。

 

 

 

 

そういう顔させない為に、ヒーローになりたかった事。

 

 

 

『爆発小僧。おめぇな、ちと気張りすぎだ』

 

グラントリノの言葉が今更になって頭に響いてきた。

 

『守りてぇ気持ちは分かる。おれぁな、てめぇのそういう真っ直ぐで馬鹿な所が気に入ってんだからな。けどなぁ、今出来る事は焦っても増えやしねぇ。経験、練度、自信。そういうもんの積み重ねがよ、強さってもんになんだ』

 

あの時、気に入らなかった言葉。

誤魔化してるんだと思った。俺の弱さを。

 

『だから、心だけは間違うな。強さは後からついてくる。おめぇなら間違いなく一流になれる。きっと守りてぇもん守れるようになる。だから、忘れんな。なんの為に、誰の為に、何をしてぇのか。何になりてぇのか』

 

『それさえ間違わなきゃ、おめぇはきっと、おめぇの求めるヒーローってもんになれる。それまではな、周りに頼れ。俺が若い頃と違ってそれが出来る環境だ。使いまくってやれ』

 

『そんで最後は、おめぇが守れ。━━━守りたいもんがあんだろが。おめぇはよ』

 

 

 

 

くそったれだ、俺は。

 

 

 

 

俺は思いっきりてめぇの顔面をぶん殴ってやった。

自分殴るなんてやった事ねぇから、盛大に口ん中ぶちきれた。血がダラダラ落ちやがる。

 

馬鹿女はそんな俺に驚いていた。

余程驚いたのか、涙もすっかり止まってやがる。

 

「・・・かっちゃん?」

 

キョトンとするそいつの顔を見ていられなくて、俺は馬鹿女を引き寄せ肩に抱いた。

あいつの温かさを感じながら、俺は何をしたかったかもう一度考えた。

 

オールマイトに勝つ事が必要なのか。

今すぐ誰よりも強くなる事が必要なのか。

それはこいつを傷つけてまで、手に入れなきゃなんねぇもんなのか。

 

それは考えるまでもなかった。

 

「━━━出来ねぇ事、口にすんな馬鹿が。・・・悪かった。俺が」

 

そっと吐いた俺の言葉に、肩に押し付けといたあいつの頭が頷くように動いた。

そしてその直ぐ後に、ボディに捩じ込むような一撃が突き刺さった。思わず潰れたカエルみたいな変な声が出る。ボディへの一撃の威力が重く、思わず片膝が落ちた。

 

「そうでしょう!!そうでしょうとも!!私は一切悪くない!!私が悪いわけがない!!全部大体、かっちゃんが悪い!!━━てか、なにいきなり抱いてくんだ、このセクハラ野郎ぅ!!天誅だぞ、おおん!?」

 

痛みに耐えて顔をあげれば、目尻に赤さは残っているがいつもみたいなムカツク顔してあいつがいた。見下すような目がうっとうしい。

 

それでも、その方がずっとましだった。

 

「てめぇ!いきなり、何しやがるこらぁ!!」

「うるっさいわ!散々私の事いらないとか邪魔だとかほざきやがって!!その癖やられそうになってるし━━━笑うわ!!バーカ、バーカ!」

「んだと!!?てめぇ、言わせておけば!!」

 

怒りと気合いと根性で立ち上がり、馬鹿女を真正面から睨み付ける。

馬鹿女も同様に鋭い視線を返してきた。

 

「喧嘩売ってんなら、今すぐ買ってやんぞ。馬鹿女」

「おう?やんのか、私とやるってか?!上等だ━━━と言いたい所だけど」

 

馬鹿女の視線が外に向けられた。

視線の先は壁だが、馬鹿女が本当に見ている先がそこでない事はわかっている。

 

「喧嘩の前に、片付けなきゃなんない事があるでしょ?」

「けっ、面倒臭ぇ。五分でぶちのめすぞ」

「またそういう事言う」

「うっせぇ。出来っだろうが」

 

そう言って馬鹿女を見れば、見るからに悪そうな笑みを浮かべた。それはさっきとは比べ物にならないほど、嬉しそうに見えた。

 

「かっちゃんが、ちゃんと手を貸してくれるなら。なんか考えるけど?」

 

楽しげに語られた言葉に轟の言葉を思い出した。

 

『あいつは、お前の後ろじゃなくて、隣が良いんだろ』

 

納得は出来ねぇ。

それをさせたくないから、俺は力が欲しかった。

けど、馬鹿の顔見ているとそうは言えなかった。

それにまだ言う資格がねぇ。

 

まだ、足らねぇ。

オールマイトの言うとおりだ。

足らねぇんだ。

 

俺にはようやく隣に並べる程度の力しかねぇ。

 

一人で守るなんて、言ってやれねぇんだ。

今こいつを守る為に、誰かの力借りなきゃいけねぇ事は痛いほど分かった。

 

だからせめてその時まで━━━こいつの隣で。

 

「手なんざ幾らでも貸してやる。ぶっ潰すぞ、双虎」

 

その悔しさも歯痒さも、俺は噛み締める。

今日じゃない、明日の為に糧にする。

いつか胸張ってその言葉が言えるまで、この気持ちも言葉も二度と外に出さねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもな。

それでもな。

いつかその時がきて。

 

それでもお前が俺の隣が良いって言うなら。

その時は居させてやる。

 

お前が馬鹿やっても、無茶やって、守ってやる。

こんなやり方じゃねぇ。

 

ちゃんと、笑っていられるように。

 

 



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勝つ為なら手段は選ばない!宣言するぞ!私はお前の嫌な事しかしない!!食べ物には嫌いなものを練り込んで、寝込みには延々隣で黒板を引っ掻いてくれる!そら!手始めだ、引っ掻いてやるぞ━━耳がぁぁぁ!の巻き

百話越えたどーー!!
だからと言って、特別な力は身に付かなかったぞぉー!
特に良いことも、なかったぞー!

でも、そこそこ楽しいからいいや( *・ω・)ノ

読んでくれてる皆、ありがとやで。
これからも宜しくや。


『残り時間、あと五分さね』

 

スピーカーから流れるリカバリーガールの声に、私も手元の時計を確認した。確かに残り時間は五分切っている。時間を確認したあと直ぐに辺りを確認するが、見えるのは私の拳でボロボロになった道路と建物だけ。人影はない。

 

「ただの一度も襲撃なし・・・これは少し予想外だったかな」

 

緑谷少女や爆豪少年の性格を考えれば早い内に襲撃してくると思っていただけに、内心では驚き、どこか落胆していた。

 

鉄は熱い内に叩けというが・・・この場合は少し違うか?いやしかし、やはり私を攻めるのであれば、爆豪少年が頑張りを見せた直後他ならないだろう。

受けたダメージ。立ち上る煙幕。戦いに高揚し思慮に余裕がなくなった状態ならば、正に攻め時だろう。

 

しかし、緑谷少女達は姿を現さなかった。

その気配すらも。

 

まさかとは思うが、また拗れたのか・・・。

 

「だとすると、少し不味いなぁ・・・」

 

仲直りとまではいかなくても、あの行動で何かしら変わったのではないかと思っていた。

いや、思いたかったというのが本音か。

 

彼女達に関係性を改めさせるのが一番ではあったが、少しでも歩み寄ればそれでも良いと思っていた。

それだけに、関係が壊れてしまうというのは少し・・・というか、とても宜しくない。

教師としてと、いち大人としてもだ。

 

二人の関係へ余計な茶々を入れたのではないかと後悔し始めた頃、私の耳に女性の泣き声が聞こえてきた。

聞き覚えのある声。

 

そう、緑谷少女の声だ。

 

声に視線を移せば建物の影から緑谷少女の姿が見えた。

顔を覆いとぼとぼとこちらに向かって歩いてくる。

どう見ても上手くいかなかった感じだ。

 

「ガチムチぃぃぃ、かっちゃんがぁぁぁ」

 

どうしよう。

試験中ではあるけど、本当にどうしよう。

思わず抱き止めそうになったが、流石にそういう訳にはいかない。試験中であることもそうだが、教師としてもどうかと思う。普段の緑谷少女ならセクハラと叫ぶに違いないし。

 

どうしようかと迷っていると、こちらに歩いてくる緑谷の手元からキラキラと光る滴が地面に落ちていくのが見えた。どう見ても号泣だった。

 

罪悪感で胸が押し潰されそうだ。

 

「ガチムチぃぃぃ」

「緑谷少女!分かった!話しは後でちゃんと聞く!取り敢えず今は試験中だからね!そこで止まろうか!」

 

私の制止の声が聞こえないのか、緑谷少女は尚も歩いてくる。顔を覆った手元から、涙がこぼれ落ちていく。

胸が痛い、凄く痛い。

 

すすり泣く声に可哀想になり、緑谷少女にそっと手を伸ばした。

その時、演習場に置いてあるスピーカーからひび割れ音と共に怒鳴り声が響いてきた。

 

『このバカたれ!!オールマイト!!今は試験中だよ!!!』

 

リカバリーガールの声に呆けていると、トンと私の胸に緑谷少女の頭がぶつかった。余程泣いていたのか、緑谷少女がぶつかったそこが冷たく濡れる。

 

「緑谷少女━━━」

「━━━いやいや。りかばぁ、それは反則でしょ」

 

小さな声が聞こえた。

さっきまで泣いていたとは思えない、酷く冷静でしっかりした緑谷少女の声が。

 

「痛い所は、ついていかないとね?」

 

そっと、緑谷少女の顔から掌が離れる。

その下に隠れていた緑谷少女の顔は満点の笑顔だった。

 

やられたと思った直後、緑谷少女の遥か背後に爆炎があがった。視線を向ければ爆豪少年が地面を爆破する姿が見える。

一瞬疑問が頭に浮かんだが、直ぐに理解した。

爆豪少年が放った爆炎を起点に、私に向かって連鎖的に爆発していく地面を見れば嫌でも。

 

先程緑谷少女が流していたのは涙ではない。

どうやったかは知らないが、落としていたのは爆豪少年の汗だ。

その証拠に爆炎が走っているのは、緑谷少女が歩いてきたその道だけ。

 

気がつけば緑谷少女はビルの方へと飛び去り、残ったのは私に向かって大蛇のように迫る爆炎のみ。

当たった所でどうという事もないと言いたい所だが、先程緑谷少女に胸の所を何かで濡らされている。恐らくこれも爆豪少年の汗だろう。

点々と落としていたあの量でこの爆発。濡れた範囲を考えれば楽観視して良いものではない。

 

飛んでかわそうかと思ったが、それは大きなロスだ。

爆豪少年の爆速ターボ、緑谷少女の引き寄せる個性での空中移動の速度を考えれば、十分にゲートを潜る余裕を与える事になってしまう。

 

なので、私に選べたのは、それだった。

 

「真っ向から、捩じ伏せる!!」

 

拳を振り抜く。

拳圧は私に迫っていた爆炎と共に、爆発の連鎖産み出していた地面ごと消し飛ばした。

 

爆豪少年の位置を確認するために起点となったそこへと視線を向ける。

 

「オールマイト!!!」

 

視線を向けた先には、怒号をあげ駆ける爆豪少年の姿が目に映った。

構えていたその籠手も。

 

「また真正面からとは!!二度も同じ手が通じると思わぬ事だ!!」

 

今日二度目となる灼熱が吹き荒れた。

先程と同じように地面を抉り土の壁を作ろうとしたが━━━作れない事に直ぐに気づいた。

直前で吹き飛ばしたせいで、地面は既に捲り上がってしまっている。位置を変えれば可能だが、そのステップを踏む余裕がない。重りがなければと思うが、そんな泣き言を言うわけにはいかない。

 

抉り飛ばした先を更に抉る事も出来るが、それはやるわけにはいかない。それをやる為には、ある程度本気を出さねばならないからだ。

相対する爆豪少年を大怪我させてしまう可能性が非常に高い。勿論それは怪我が前提の試験でもやり過ぎのレベルだ。

 

ならば━━━。

 

「カロライナァスマッシュ!!」

 

クロスチョップの風圧で灼熱を切り裂く。

四つに裂かれた爆炎が私の横を通りすぎていく。

 

 

コン。

 

 

爆豪少年の攻撃を防ぎきった私の耳に、不意にそんな音が聞こえた。音は私の後ろから聞こえる。

振り向きそれを確認すれば、ピンの抜かれた手榴弾がそこにあった。

 

急速に冷えていく思考。

積み重なった事実が答えを告げた。

 

演技をして近づいた緑谷少女。

体に付着した爆豪少年の汗。

地面に伝う爆炎。

声をあげて駆ける爆豪少年。

 

それはなんの為に。

 

「━━━成る程、これか緑谷少女・・・!!」

 

今までの緑谷少女なら、私に爆豪少年の汗を染み込ませた直後、自身の火を吹く個性で爆破させただろう。それが一番隙もなく確実にダメージを与えられる方法だった。仮に倒せなかったとしても隙はつくれる。その時間は爆豪少年がゲートを突破する程度の余裕を生んだ筈だ。

だがそれは、自身の身すら犠牲にした特攻。諸刃の刃的な手段。褒められる事のない選択。

 

だが今回は違う。

これは己の身の安全も考慮した上で、確実に私に爆撃を当てる為に考え出されたそれだ。

 

態々あんな派手な連鎖爆発を見せたのは視覚的な脅威を必要以上にアピールする為。幾十と爆発するそれは、胸に染みた爆豪少年の汗を嫌でも意識させる。

そしてその事に意識を集中してしまえば、目の前の緑谷少女の行動に対して対応が遅れる。流石に腕にハンドカフスを付けられる程の隙は与えないが、殺気もなく離れていくものに反応出来ない。

 

一連の流れはただ勝つだけではない。

犠牲なく、かつ確実に。

与えられた条件や私の性格までの利用して、私に勝つためだけに練り上げられた物だ。

 

時間ギリギリまで粘られたのも問題だった。

マッスルフォーム発動限界は目前。

ここでまた必殺技を放とう物なら、確実に試験中の維持は不可能。体力を使い果たす。

 

故に必殺技未満の拳圧で手榴弾を排除する事が最も好ましいが━━━━それでは間に合わないのだ。その為の余裕がない。

 

「やってくれるな、緑谷少女!!君はっ━━━」

 

人が嫌がる事をやらせたら、ピカイチだな!!

 

 

 

手榴弾が炸裂し、爆炎が私の体を包む。

そして直ぐに、二度目の爆発音が衝撃と共に辺りに響いた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

手榴弾のしょっぱい爆発音の後、直ぐに続いた大きな爆発音が鼓膜を更に揺らした。

視線を向ければ爆煙が立ち上っている。

 

それを確認した私はかっちゃんと一緒に駆け出す。

ある確信と共に。

 

「んんんんっ、あああ!!まだだ!!少年少女!!」

 

怒号と共に爆煙が吹き飛ばされる。

そこには胸の部分がはだけたガチムチの姿が見えた。

予想通り力を温存する方を選んだようだ。

 

「かっちゃん!やっぱりだよ!」

「言われんでも分かるわ!!」

 

時間や今日のガチムチの振るった技の数々を考えれば、ガチムチに残されたのは必殺技が一撃程度。

こうなったら二手に分かれて的を絞らせず、ゲート通過を狙った方が良い━━━けど。

 

かっちゃんに視線を遅ればやる気満々っていう顔をしていた。

 

「やっぱり止めない!?って言ったら聞いてくれる!?」

「ここまで疲弊させて、それでも勝てねぇなら!!プロなんざ目指せるか!!」

「それでも、ガチムチはガチムチだよ!!」

「っせぇ!!問答なんざすんな!!出来んのか出来ねぇのか!どっちだ!」

 

そう言われてしまえば、もう答えは決まってる。

ガチムチのハンデの影響。

残りの体力。

 

「多分、二発分あれば!!」

「なら押し込むぞ!!合わせろ双虎!!」

 

かっちゃんが爆破で高く飛び上がる。

そして更に爆発で加速しながら、弾丸のような回転を加えていく。

 

私はかっちゃんが頑張って燃料を溜めた籠手キャノンの照準をガチムチに合わせ、かっちゃんの準備が終わる瞬間を待つ。

 

私たちの様子にガチムチが割り込む様子は見てとれない。余裕がないのが分かる。

幾らポンコツなガチムチだって、見え見えの必殺技を真正面から受け止めるほどお人好しじゃない。試験である事を考えた元気なガチムチなら、間違いなく妨害の一つや二つしてくる。

 

「双虎!!」

 

かっちゃんから合図がきた。

私はガチムチに向けた籠手キャノンのピンを引き抜く。

 

肩に、体全体に。

発射の反動が、衝撃が走る。

骨や筋肉が軋む。

 

灼熱の爆炎が空気を焼きながらガチムチに迫る。

 

「ハウザーァァァッ、インパクトッォ!!!」

 

かっちゃんの掌にから放たれた回転を加えられた爆炎が、私の放った灼熱を巻き込んでいく。

火力は更に高く、勢いは更に加速する。

 

現状で出来る、私達の最高の威力の攻撃。

 

迎え撃つガチムチは笑顔を浮かべた。

 

「嬉しいじゃぁないか!!信じてくれるか、私を!!!なら、見せよう!!本調子ではないが!!私の力を!!━━━デトロイトスマッシュ!!!」

 

引き絞られたガチムチの拳が振り抜かれた。

 

全力で放った私とかっちゃんの一撃が一瞬で霧散する。

近くにあったビルが半壊し、拳から生まれた爆風が轟音と共に街並みを崩していく。

 

私は一瞬だけスパイクで踏みとどまれたんだけど、飛んできたかっちゃんにぶつかってあえなく飛ばされた。

試験が終わった時、かっちゃんを4回は殴ってやる事を決意する。

 

嵐のような風が治まった後、節々の痛みと煙たさに耐えながら顔をあげるとガリヒョロなガチムチがいた。

 

「残り時間一分を切った所さ」

「際ですか」

「見た感じ二人とも動けないようだね?」

 

頑張って辺りを見渡せば気絶したのか、ピクリともしないかっちゃんの姿が見えた。

 

「このまま何もしなければ私の勝ちだ。けれどね、こうして私は戦う姿ですらいられなくなった」

 

どっしりとヒョロガリなガチムチが私の前に座り、そっと両腕を差し出した。そこには最初に取り付けていた重りが無くなっている。

 

「最後の瞬間、力み過ぎて重りのベルトが外れてしまった。これはルール違反だ。━━━だから、君達の勝ちだ」

 

そう言って笑うガチムチ。

そんなガチムチの言葉にかっちゃんの顰めっ面が過った。

 

「かっちゃんなら、納得しなさそう」

「確かにな・・・ククク」

 

一頻り笑ったガチムチは真剣な顔になって、そっと尋ねてきた。いつか聞いたそれを。

 

「この力が欲しくないか?君ならきっと正しく使える」

 

 

「これは誰かの為にと紡がれてきた力だ。君のような子にこそ、相応しい力だ」

 

 

「私のように救わなくてもいい。平和の象徴でなくていい。君のやり方で歩んで構わない」

 

 

「だから、緑谷少女。私の後を継いでくれないか」

 

そっと伸ばされた手。

私はそれに手を伸ばした。

 

 

 

カチリ。

 

 

 

そんな音と共にヒョロガリなガチムチの腕に、それはお洒落なハンドカフスが装着された。

 

きょとんとするヒョロガリムチに笑顔を返しておく。

 

「し・つ・こ・い♪」

 

私の答えにヒョロガリムチが大声あげて笑った。

とても楽しそうに。

 

 

 

 

『報告だよ。条件達成。爆豪・緑谷チーム』

 

 

りかばぁの放送が演習場に響き渡った。

私達の勝利を告げるそれが。



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さぁ、私の胸に飛び込んでおいで!頭撫で撫でして慰めてあげるよ!━━━あ、勿論ただじゃないよ?一撫でシュークリーム一つで手を打とうじゃないか。駅前のアレだよ?さ、おいで!・・て、あれ、こないのー?の巻き

映画の話いる?

メリッサだけは後でちょろっと出すつもりだったけど、いる(*´ー`*)?
本編送らせてまで、いるぅ(*´ー`*)?


期末試験終了後。

怪我の手当てをする為、りかばぁの出張保健室に行くと先にクリアしていた轟達の姿があった。

大分先に終わったのか治療も終え、りかばぁとモニターを見てる。・・・ガチムチばれてないよね?いや、私が気にする事じゃないけども。

 

「轟、百。おつー」

 

片手をあげて軽く声を掛けると轟は相変わらずの無表情で、百は笑顔で返事を返してくれた。

 

「緑谷さん、お疲れ様です。条件達成おめでとうございます」

「いやぁ、えへへ。・・・もしかして見てた?」

「はい。思ったより早く終わりましたので、皆さんの姿を拝見させて頂いてました。勿論緑谷さん達も。━━ですが、オールマイトの最後の一撃の後カメラが故障してしまったようでクリアの瞬間は見逃してしまいました。どのようにお勝ちに?」

 

りかばぁに視線を送ると口元に人差し指を置いた後、しっしっと手を振られた。

こっち見ないで余計な事も言うなって事だろうと思う。

さすばぁ、抜かりがないぜ。あ、でも、さっきのガチムチへの助言の借りは忘れてないから・・・ないから!

 

「━━ま、色々あったにょ。取り敢えず先に休ませてぇ。かっちゃん重くて」

「あ、ごめんなさい。・・・と、爆豪さん大丈夫ですの?さっきからピクリともしませんけど」

「ああ、これ?大丈夫、大丈夫。ちょっとガチムチのパンチの余波を良い感じで受けちゃって、空中でスムージーになるんじゃないか位シェイクされただけだから」

「だとしたら、大丈夫ではありませんわ」

 

そう、私は今かっちゃんをおんぶしてる。

ガチムチに任せようにもヒョロガリにジョブチェンジしちゃったし、ロボに任せるのも何だかなぁと思ってこうなった。━━━それにかっちゃんが目を覚ました時、色々と説明する役が必要だし、そういった意味でも私が側にいた方が都合が良いし・・・まぁ、ついでみたいな?うん。

まったく世話が焼ける幼馴染だじぇ。

 

私の背中に顔を預けたかっちゃんを、百が珍しいものを見るように覗きこんでくる。相当珍しかったのか、凄い見られてる。多分眉間の皺とかないのが違和感あるんだろうな。

あしどんとかなら写メ撮りそうな顔だもんね。

分からんではない。

 

かっちゃんを近くにあったベッドに捨てて、空いてるベッドに私も寝転ぶ。りかばぁに診察され始めたかっちゃんをぼやぁと眺めながら今日という日を思い返せば、溜まっていた疲れがどっと肩に押し寄せてきた。流石に疲れた。かっちゃん程でもないけど。すげーしんどい。

対して寝心地の良くない簡易ベッドでゴロゴロしてると轟が飲み物を持ってきてくれた。

 

「最後のラッシュ、凄かったな。作戦勝ちって所か?」

 

私は頑張って起き上がり、差し出されたそれを貰う。

そっと口をつけて見ればお茶だった。

スポドリが良かった。

 

「そうでもないって、運が良かっただけ。それに大体かっちゃんのお陰だしね。最後のラッシュだって、私は合わせただけで大したことしてないよ」

 

私が立てた作戦には幾つか欠点がある。

その最たる物が時間だった。

作戦に必要不可欠だった『かっちゃん汁』を調達する時間だ。

 

あの作戦で使う汗の量はかなりの物だった。籠手キャノン一つのフルチャージ分と導火線であり囮である偽装涙分。加えてガチムチを倒せるレベルの爆発を起こす、かける分の汗。かっちゃんが元よりチャージしていた使わない手榴弾から汗を抽出しても、それでもかなりの量が足りなかった。

 

ガチムチが早い段階で攻めてきたら、犠牲なしには勝てなかっただろう。

 

「そうなのか?」

「作戦に使用する分のかっちゃん汁・・・かっちゃんが頑張ってモモあげして汗を作らなかったら無理だった。話にならなかったと思う」

 

作戦開始時間ギリギリまで汗を作る為、私の提案通りモモあげしてたかっちゃんの勇姿は、今も瞼の裏に焼き付いてる。

そんな風に感慨に耽ってると、轟の不思議そうな声が聞こえてきた。

 

「途中からしか見てないからな、どういった経緯でああなったか知らないんだが・・・見てて不思議に思った事がある。なんでモモあげだったんだ。他にもあっただろう」

 

なんてつまらない事言うんだ、この紅白饅頭は。

そんなの決まってるだろう。

 

「一番絵面が面白いから!!」

「良かった。ちゃんと緑谷だった」

 

どういう意味だ、のらぁ!!

 

 

 

 

 

 

それからりかばぁに軽く治療された後、轟達の試験内容聞いたり、とっておきのオペレーションの解説受けたり、百から「轟さんとはお付き合いなさいませんの?勿体ない!」とガチトーンで聞かれたり色々してると、疲れきったお茶子達が帰って来た。

私がやっほーと声を掛けるとお茶子がダッシュしてきて、その勢いのまま抱き着かれた。

 

「ニコちゃぁぁぁぁん!!」

「うぇ!?どした、どした。どうどう。落ち着くんやで、お茶子」

「ふわっとした関西弁も今は許すから、ちょっとこのまままでいさせてぇぇ!!頭とか撫でてぇぇぇ!!」

 

私の胸の中で咆哮するお茶子から視線を外し、出入り口にいた外国人を見た。外国人は私の視線に気づいて、変なポーズを取ってくる。なんだ、あいつ。喧嘩売ってんのかな?

 

頭を撫で撫でする事暫く、復活したお茶子が顔をあげた。良い笑顔だった。

 

「すっきりした、もう大丈夫!」

「よく分かんないけど、大丈夫ならいいや」

 

落ち着いたお茶子から事情を聞くと、外国人のアオヤマが『なんなん!?』って事しかしなくて凄く疲れたらしい。ストレスマッハだったらしい。相性って大切だよね。うん。・・・しかし、お茶子が『なんなん!?』って言っちゃうレベルの『なんなん?』が何なのか凄く気になる。お茶子が言いたくなさそうだから、聞かないけどさ。

なんなん?アオヤーマ?

 

「てか、ニコちゃん。抱き着いた時、めちゃええ匂いしたんやけど、期末試験受けてきたんだよね?」

「めっちゃ受けてきたで。てか、ええ匂いする?汗臭くない?」

「これが産まれもった女性力の差か・・・神さんが憎い」

 

なんか神様が憎まれた。

 

そのまま他の人も待ってようかと思ったけど、お茶子を交え女子三人でお喋りしてたらりかばぁにモニタールームから追い出された。五月蝿いとのこと。

 

そもそも治療する為の場所だし、お喋りする所じゃないから仕方ないけどね。

 

「はぁ、私大丈夫やろか」

 

出張保健室から出て少し、お茶子が重たい溜息をついた。経過報告の放送で、お茶子達が条件達成したのを聞いていた私は不思議に思った。

はて、何が不安なのか。

 

「条件達成したんでしょ?」

「したのは、したんやけど・・・」

 

チラリとお茶子が百を見た。

百は申し訳なさそうに頷く。

 

「確かに。あの内容ですと、少々」

「はぁぁぁ、そだよねぇぇぇ」

 

ガクーと項垂れたお茶子の頭を撫でながら、百にお茶子の試験内容を聞いてみた。こざーと説明を受けた私は、すべてを察しお茶子の頭を抱き締めてあげた。

 

「お土産は買ってくるよ!」

「大丈夫ってゆーてよ!!そこは!!」

 

そんな事言ってもな。

限りなく不合格臭いもん。

 

 

「あ、緑谷だ!おーい!」

 

 

涙目でプンスコするお茶子を宥めてると、喋らない岩っっぽい奴にお姫様抱っこされた耳郎ちゃんがやってきた。

その後ろに梅雨ちゃん達の姿も。

 

私とお茶子はまるで合図でもあったかのようにスマホを手にした。

そしてこちらに手を振る耳郎ちゃんに向け、これまた合図でもあったかのようにパシャる。

 

連続フラッシュ。

乱れフラッシュ。

 

最初フラッシュの眩しさで不思議そうに頸を傾げていた耳郎ちゃんだったが、自分の格好を思い出したのか顔を真っ赤にさせた。

 

「うわっ!?止めろってば!!これはそういうのじゃないからー!!ちょっとプレゼントマイクの音攻撃で、その!頭がクラクラするから、それで口田が!!」

 

「あらやだ聞いたぁ?お茶子ー。耳郎ちゃん照れるぅ」

「そうやね、テレテレや。ごちそうさまやね。三奈ちゃんに送ったらな」

「せやな」

 

「違うって言ってんでしょーが!!こらぁっ!てか、芦戸は止めろぉ!!本気で!!」

 

無慈悲に送信ボタンを押す。

すると数十秒後に返信が返ってきた。

百から聞いた話だとあしどん達は条件は不達成。映像を見た感じだと深く落ち込んでいたという。

そんなあしどんが、どんな返事を返してきたか・・・。

 

気になって確認ボタンを押すと、そこには絵文字満載の楽しそうな文が返ってきていた。それはそれは楽しそうな、踊るような文が。ムードメーカーなあしどんらしい、スマホ越しだというのに笑顔すら幻視してしまう楽しい色鮮やかな文が。

 

私とお茶子を手を打ち合わせ、友情を確かめ合うように手を握り合わせる。女の友情だって素晴らしい。だってこんなに人を幸せに出来る。

 

「友の笑顔を救ったね、お茶子」

「せやね、ニコちゃん」

 

「うちの笑顔も救えコラぁぁぁぁ!!」

 

その後、耳郎ちゃんの元に、あしどんからの大量のメールが届いたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで無事期末試験も終わり、皆とさよならバイバイした私はかっちゃんと帰っていた。

 

いつもと同じよう隣に並んで帰ってるけど、今日は少しだけ違う所がある。ふと視線を落とせば、私の手を握るかっちゃんの手が見えた。

勿論これは握りたくて握ってる訳じゃない。

これは仕方なくなのだ。

 

「はなせや」

 

声に視線をあげれば顰めっ面のかっちゃんがいた。

 

「じゃぁ、大人しく迎えに来て貰えば良かったじゃん」

「・・・一人で帰れるわ」

「そんなフラフラで帰れる訳ないでしょ?だからこうして私が付き添う事になったんだし」

 

タフネスに定評のあるかっちゃんも今日ばかりはフラフラ。ガチムチとガチンコしたり、汗溜める為に体を動かし続けたり、りかばぁの矢鱈と体力使う治療受けてたり・・・やった事を考えれば今こうして立ってる事のほうが不自然だ。

 

意地っ張りも程ほどにしないと死ぬぞ、かっちゃん。

 

「それにさ、今更でしょ。もうすぐ貴方の家に着きますけどぉ?」

「だからだろうが。もう大丈夫だっつんだよ」

 

そう言って私の手を振り払おうしてくる。

かっちゃんの腕にいまいち力が入ってないので、ブラブラするだけで終わる。なんかこの構図、手を繋いで帰る子供みたい。幼稚園児みたい。

 

そんな事を思ってると、たまたま向いから歩いてくる小さいお子様カップルに「おててつないでるー!いっしょだねー!」と手を振られた。

 

かっちゃんの抵抗が更に強くなった。

勿論ブラブラしただけで終わる。

無駄な抵抗パート2。

 

「そんなにやなの?」

「っせぇわ、ボケ」

 

仕方ないので手を離してやるとやっぱりふらつく。

私がその様子をじっと見つめてやると、そっぽ向いて誤魔化してきた。騙されると思うなよ。

 

「かっちゃん、手」

 

暗に支えてやるから手をだせやと言ってみたが、かっちゃんは両手をポケットに突っ込みふらつきながら歩き出した。無視しやがったなこの野郎と、メラッと怒りの炎が燃え上がりそうになったけど頑張って耐えた。言っても病人みたいなもの。暴力は駄目だ。

 

なので仕方なしにかっちゃんの腕に自分の腕を差し込む。ぎょっとしたかっちゃんが振り払おうとしたので、その腕をぎゅっと胸の所で抱え込んでやった。

 

「おまっ!?や、止めろやっ!」

「知らなーい。もう知らなーい。大人しく手掴んでないかっちゃんが悪ーい。━━あんまり動かさないでよ?こそばゆい。まぁ、私のお胸様を堪能したいなら、話は別だけどね?」

 

そう言ってやれば、かっちゃんは大人しくなった。

相変わらずこういうのに弱いなぁ。

本当に素人童貞なのか?

 

「かっちゃん実は童貞?」

「誰が童貞だこら!!」

 

やっぱり違うんだ。

誰とやったんだろ。

同級生とかじゃ、ないよね?

 

 

むーーー・・・・。

 

 

それからかっちゃん家に着くまで、かっちゃんの初体験について追求しまくったけど結局何も教えてくれなかった。ついでにファーストキスについても聞いたけど、そっちも空振りに終わった。

 

これはいよいよ、かっちゃんの中学の時の友達に聞かないといけませんね。

覚悟しろかっちゃん!今に暴き立ててやるかなぁ!!ふははは!

 



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一つ終れば次の何かがやってくる。二つ終ればその次の何かがやってくる。そんな何かの為に毎回頑張ってる私はもうくたくただよ。━━え、あ、今眠いのはそれとは全然関係ないけどね。ふぁあ・・・ぐぅ。の巻き

そんなに需要がなさそうなので、映画編はやらなーい!

後で気が向いたらやるかも知れんけど、今回は流れでちょっと触れるだけにしとくわ(*´ω`*)


期末試験も無事に終わった翌日。

可愛いの代名詞たる私は今日も今日とてかっちゃんに起こされてしっかり登校中。

電車に揺られながら何度目になるか分からない欠伸をかいた私は、隣にいるかっちゃんの肩を借りてウトウトさせて貰う。ちょっと嫌な顔されたけど、くたくたなので勘弁して欲しい所だ。

 

どうしてそんなに疲れてるかというと、前日色々あったのだ。

 

前日、私は久しぶりに地元の友達と連絡をとった。

当然なんとなく連絡をとった訳じゃない。かっちゃんのアノ話を聞こうとしたのだ。まぁ、気がついたら別の話で盛り上がってて、その件のがついでみたいになってたけど。

 

久しぶりに連絡をとったその子は、中学の時と比べると大分垢抜けてる感じだった。声のトーンから軽かった。ちゃっかり彼氏なんかが出来ちゃってて、なおかつやっちゃったらしい。

全然羨ましくないんだけど、やっぱりそういう流れの話になったので、経験者の話に耳を貸してみた。するとやっぱり、最初は地獄のように痛いらしい。それはそれは、痛いらしい。なんだったら、焼けた鉄の棒を突っ込まれるクラスの痛みらしい。

 

勿論そんな言葉を真に受ける私ではない。賢いからね。私は。騙されない。ちゃんと知ってるし?保健体育で習ったし?幾らなんでもね、焼けた鉄の棒はない。ないよ。あはは。いってもちゃんとそれをする部分だからね?間違った使い方じゃないもんね。ないよ、あはは。

 

 

━━━もう暫くはフリーでいいやと思ったけど。

 

 

まぁ、そんな話をしながらも、当初の予定であったかっちゃんの初体験についても一応調査しておいた。丁度その友達がかっちゃんの友達とも付き合いのある奴なので、私の代わりに問い詰めて貰った。

 

けれど、どんなに追い詰めてもかっちゃんの友達から聞けたのは、一言『察して』という言葉だけだったみたい。

私には分からなかったけど、友達はその言葉の意味に気づいたみたいで『ははーん』とか言ってた。何が分かったのか聞いても中々教えてくれなくて、最終的には『あんたが一番知ってるでしょうが』との事を言われた。

 

友達との電話を切った後、ジョギングしながら、お風呂に入りながら、夕飯を食べながら、テレビを見ながら、お布団に入りながら考えたけど全然分からなかった。私が知ってるって誰だ?ってなった。

いっその事、かっちゃんに聞いちゃおっかな?とも思ったけど、前日に軽くあしらわれてるので無駄に終わる可能性が高いし、下手に警戒されて教えてくれなくなりそうなので我慢せざるを得なかった。

それで結局、その事が気になり過ぎて寝れなくて、今こうなってると言うわけなのだ。

 

よく考えたら、かっちゃんのせいじゃないか。

なら肩くらい貸すべきだな。うん。

 

 

・・・ぐぅ。

 

 

 

「」

 

 

「━━━っ」

 

 

「━━━━━━双虎」

 

聞き慣れた声に重たい瞼を開けてみる。

すると、かっちゃんが不機嫌そうに見下ろしていた。

ふと気がついたけど、なんか目線が高くなってる気がする。

 

「・・・おっきくなった?」

「・・・はぁぁっ!?何処で、な、何言ってんだてめぇは!!?寝ぼけてんのか!?次着くぞごらっ!!」

 

そう言われて今いる所を確認する。

入り口付近のモニターに私達が降りる駅の名前が出ていた。教えられた通りに次みたいだ。

 

「ふぁぁーーあふ・・・本当だ」

「分かったら寄り掛かるの止めろや」

「ふぁーい」

 

・・・ぐう。

 

「寝るんじゃねぇ!!」

「いたっ」

 

ゴスっと、頭に衝撃が走った。

知能指数が減る程では無かったけど地味に痛い。

痛みに顔をあげれば構えられた手刀と、やっぱり目線の高くなったかっちゃんの顔があった。

 

自分の頭の天辺に手を置き、かっちゃんの方へと高さを変えないように動かす。とん、と手が当たったのは前に比べた時よりずっと下。

 

「ほら、おっきくなってる。ね?」

 

そう教えてあげると、かっちゃんが顰めっ面になった。

 

「・・・知っとるわ」

「教えてくれても良いのに」

「何だって教えんだ?大きくなりましたってか?あ?アホか」

 

そう言われると、確かにアホっぽい。

幼馴染だからといって背が伸びた報告は普通しないか。私もおっぱい大きくなりましたとは報告しなかったし・・・いや、したな。自慢しにいったな。スポブラから普通のブラジャーに進化した時、二時間くらい自慢してやったな。

 

まぁ、別になんでもいいか。

 

そんなこんなで電車を降りる時、何故だか盛大に「はぜろ」との大合唱を貰った。

ほら、かっちゃん。はぜてやれ。ファンがいるよ、ファンが。そっちじゃない?じゃぁ、どっちよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かっちゃんと一緒に教室に入ると、暗い顔した四人のクラスメートがお出迎えしてきた。

試験、駄目だった組の、四人━━━略してSD4の面々である。

 

他のクラスメート達はこのSD4の扱いについてどうすべきか決めあぐねているようで、誰も声を掛けない。何でも言っちゃう梅雨ちゃんですら、その雰囲気に何も言えずに心配そうに見るばかり。今回ばかりは、委員長と副委員長も無力だった。

 

そんな中、四人を慰めようと同じく駄目臭い、勇者ドンマイこと瀬呂が立ち上がる。

 

「ま、そんな落ち込む事ねぇって。な?条件達成しなくてもよ、もしかしたら別の所で評価とかされてるかもしんねぇじゃん?」

 

瀬呂の言葉に上鳴が顔をあげた。

絶望の表情だった。

 

「別の所ってなんだよ・・・俺達、ほぼ何も出来ずに終わったんだけど。基本的に逃げ回ってただけなんだけど。校長の居場所どころか、出口すら見つけられなかったんだけど。何処を評価されんだよ。気休めみたいな言葉で希望を見せようとするなよコンチクショー!!待ってるのは補習地獄だ!!貴様の偏差値を数えろバカー!!」

 

上鳴から放たれた平和のピース。

目潰しが勇者ドンマイを襲う。

クリティカル、勇者ドンマイは倒れた。

 

「いてぇ!!何すんだ、上鳴この野郎!人が慰めてやってんのに!てかな!俺も不安なんだよ!峰田のお陰でクリアしたけど、俺ほぼ寝てただけで終わってんの!何一つしてないの!これで合格とか貰える気しねーんだって!!」

「知るかぁ!!それでもクリアペアだろこの野郎ー!!同情するなら、なんか色々くれ!!可愛い彼女とかくれ!!」

「落ち着けよ、峰田みたいな事いってんぞ」

 

馬鹿な男達は放っておいて、あしどんの所へ向かった。

私がいくと他の女子ーずも重い腰をあげてくる。

そして、私の後ろに並んだ。

 

・・・私を盾にするな。

 

鉄壁じゃないんだぞ。

私だって、怖いんだぞ。

話し掛けるの。

 

耳郎ちゃんのスキャンダルで一時期元気を取り戻していたあしどんだったけど、もうその笑顔は何処にも見受けられない。

 

「あしどん?」

「ニコ、皆・・・土産話っ、ひぐ、楽しみに・・・うぅ、してるっ・・・がら!」

 

駄目だ、重症だ。

 

「えまーじぇんしー!ふぉーめーしょんコイバナモード!!」

 

私の合図と共に女子ーずが頷き、あしどんを加えて輪を作る。いつもなら率先して話し始めるあしどんが泣いてるので、私から話す事になった。

昨日仕入れたネタもあるので丁度良かった気もしない。

 

当然話したのはかっちゃんの訳分からん話ではなく、彼氏ありの友達の話。あっち系の話になると、キャーキャー言いながらも皆興味深々といった様子だった。

あしどんも涙目ながらではあったけど葉隠とグイグイきた。お茶子はむっつりだった。

 

痛いらしい事については百に辞書を引いて貰ったけど、個人差があって痛い人は痛いらしいとの事しか分からなかった。でも焼けた鉄の棒はないのでは?との事。

そうだと思ってたよ、私は。

 

あと、耳郎ちゃんと梅雨ちゃんは恥ずかしそうにしてた。あの二人思ったより純情ちゃんだったみたい。

 

 

 

 

 

あしどんの元気を少しだけ取り戻してからちょっと。

予鈴が鳴り終えたと同時に包帯先生がやってきた。

小脇になんかの資料が抱えられてる。

 

軽い挨拶を済ませた包帯先生は早速期末試験の結果について話始めた。

 

 

「残念ながら赤点が出た・・・従って━━━」

 

 

SD4の面々に緊張が走る。

耳に息をかけられたかっちゃんの額に青筋が走る。

 

 

「━━━━林間合宿は全員で行きます」

 

 

「「「「どんでんがえしきたぁ!!!!」」」」

 

 

SD4が魂の叫びを響かせる。

私のおでこにはデコピンの衝撃が響く。

いったい。

 

「静かにしろ。━━えー筆記の方は赤点ゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤・・・あと瀬呂が赤点だ」

 

静かにぶった切られた瀬呂が机に突っ伏す。

なんか小さい声で「ですよね。クリアしたら合格とは言ってなかったもんな」と呟いてる。

 

私の所では勝たないと駄目って言われたのに。

まぁ、教師力ポンコツなガチムチの事だから、間違えてたんだろうと思うけど。

 

包帯先生の説明によって試験はクリアの事実より、こっそり与えていた課題とどう向き合うかを見るようにしてたらしい。もしかしたら、私とかっちゃんはちゃんと協力するかを見られてたのかも。

 

包帯先生の話を聞いて尾白が「本気で叩き潰すと仰っていたのは」と疑問を口にすれば、「追い込むため」だとの回答が返ってきた。そら、そやろな。他に理由ないもん。

 

「━━ま、そもそもだ。林間合宿は強化合宿。赤点取った奴こそここで力をつけてもらわにゃならん。つまりは、合理的虚偽ってやつさ」

 

「「「「ゴーリテキキョギー!!!!」」」」

 

うるっさ、SD4うるっさ。

元気になったなぁ、本当に。

あ、瀬呂が雑ざった。

SD5だね。

 

そんなSD5を横目に眼鏡がいらないチャチャを突っ込んだ。信頼がどうとか言ってる。

そのせいかどうかは分からないけど、包帯先生の鋭い視線がSD5の面々に向けられた。

 

「━━━全部が嘘ってわけじゃない。赤点は赤点だ。いまはしゃいでる連中には、林間合宿中別途に補習時間をもうけてる。ぶっちゃけ、学校に残って補習するよりキツイからな。覚悟しとけ」

 

SD5の顔が死んだ。

分かりやすいくらい暗い。

あしどん、頑張れ。

 

「━━で、だ。林間合宿のしおりを配る前に、緑谷」

 

林間合宿の話をしながらかっちゃんと戯れると、急に名前を呼ばれた。

なんじゃろと顔をあげるとSD5に向けていたような視線がこちらに突き付けられていた。

嫌な予感しかしない。

 

「な、なんで御座いますでしょうか。お代官様」

「誰がお代官様だ。・・・テスト結果に問題はなかった。実技も概ね問題はない。体育祭の結果もそこに加味した上、先生方でお前の処遇について協議していたのだが昨日その結論がようやく出た。夏休みの件だが━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━補習免除が決定した」

 

 

「どんでんがえしきたぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

思わずかっちゃんに抱きついた私は、その興奮を伝えたくてガクガク揺らしてやった。

めちゃ睨まれたけど、そんな事はどうでもいい。

後で唐辛子煎餅奢ってあげちゃうから許せぇ。

 

ふぁぁぁぁーはぁっはーーー!!!

 

「かっちゃぁぁぁぁぁん!!ふぁぁぁっはっーー!」

「何語喋ってんだ、おい!!つか、止めろや!揺らすなボケ!離れろゴラァ!!頭をグリグリ押し付けんな!!いてぇだろうが!!」

「いぇぇぇぇはっほぉっーー!!」

「幾らなんでも歓喜し過ぎだろ!!普通に授業受けてるやつは普通に貰える休みだぞ!?おい馬鹿聞け!!」

 

この世の春を謳歌してたら、急に背筋が寒くなる。

びっくりして視線を原因と思われる場所に向けると、怒りに満ちた包帯先生の目が見つめていた。

 

「緑谷。今すぐ静かにしろ・・・でないと」

 

私は直ぐ様かっちゃんの掌も使って口を押さえた。

掌の四枚重ね。声が漏れることなし。

私の姿を見た包帯先生は溜息をついた後、鋭い視線と共に口を開く。

 

「・・・正直に言えば、補習したいのは山々なんだが、先生方も暇じゃなくてな。今回は見送る事にした。代わりに、課題は出す。林間合宿の時に提出しろ。もしやってなかったら━━━━━その時は一学年の間、毎週の日曜日を補習日にしてやる。分かったな?」

 

ぞっとする提案に首を全力で縦に振っておいた。

あれはマジな目だ。怖い。

 

それから林間合宿について色々説明があった。

レクについて聞いたら、お前は遊ぶ事しか考えてないのかとキツイご指摘を受けた。是非もないけど、言ったら怒られそうなので笑顔だけ返しておいた。めちゃ睨まれた。

 

少しの夏休みを挟んだのちの一週間の林間合宿。

なんやかんや今から楽しみだ。

ワクワクしながらしおりを眺めてると、ふとある一文に気がついた。買わないといけないやつを見つけたのだ。

 

「━━━かっちゃん、かっちゃん」

「んだ。っせぇぞ」

「明日買い物いこうよ」

「はぁ?・・・ちっ、なに買うんだよ」

 

私はしおりを開きながら、その一文を指差して見せる。

 

「水着。サイズ的に去年の無理だし。選ぶの手伝ってよ?かっちゃんセンス良いしさ」

「・・・はぁ?んで、俺が水着なんざえら・・・ぶ・・・・っ!!?はっ、はぁぁぁぁ!!?」

 

 

 

「どうしたん!?爆豪くん!?」

「けろ、また緑谷ちゃんが何かしたのね」

 

そのかっちゃんの大声を切っ掛けに、あれよあれよと話は進み、明日の休みA組みんなで買い物にいく事が決まったのだった。

 

 



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今日もてきとうーに閑話サブタイを決めていくコーナー「Shadow Walkers」の閑話の巻き

大体原作と一緒なシリアスかいだぉ。

こいつら死ぬほど扱いづれぇ(;・ω・)


「死柄木弔。丁度手が空いてますが・・・何かお入れしますか?」

 

そう声を掛けたのは、カウンターで一人グラスを拭き終えた黒霧という先生が俺につけた男だ。有能な個性を持っている奴ではあるが何かと隙の多い奴でもあり、代わりさえいれば常々殺してやりたいと思っている奴でもある。こうしていらない世話を焼こうとする所など、尚も鬱陶しい。

 

「いらない。そういう気分じゃぁない」

「そうですか。それならば構いませんが」

 

黒霧はそう言うと、カウンターに置いてある酒の在庫を確認し始めた。並んでいるのは殆んどがダミーだが、極一部は黒霧の趣味で本物も置いてある。特に左奥、ダミーの陰に置いてあるウィスキーはお気に入りで、暇があればボトルを磨いている様子を見かける。

 

暇なら恐らくそれを手にとる筈だが、今日の黒霧にその様子はない。━━━となると、この後何かあるのだろう。先生はこいつとだけは連絡を取ってる節があるから、それに類する何かだ。

 

ここ一ヶ月近く、先生からのコンタクトが極端に減った。たまに会話する機会はあっても、忙しいからと話せるのは数分。何か始めてるのは分かるが、その内容についていまだ語られていない。

先の二度の失敗で信用を失った可能性もあるが・・・どうも見捨てられたとは思えない。

 

俺には先生が試している気がしてならない。

 

「・・・癪に障るなぁ、くそが」

 

幾ら先生とはいえ腹が立つ。

俺がそういうのが嫌いな事を知っているだろうに、何故こんな真似をするのか。

 

ムカつく。

 

ムカつく。

 

ムカつく。

 

がりっ、と掻いた首から痛みが走り、温い物が指に触れた。

その指を目の前に翳せば赤い血が付着してた。

 

何となく舐めとってみれば、濃い鉄の味がした。

あの時と同じ、鉄の味が・・・。

 

俺は先生から渡された一枚の写真をポケットから取り出した。そこに写るのはUSJで俺を邪魔した糞餓鬼。体育祭の時に撮られたそれは、ドヤ顔でこちらにピースをしてる間抜けな絵面だった。

 

こんな奴が・・・。

 

「ちっ」

 

その時を思い出してイラついた。

少なくともあいつの邪魔さえなければ、イレイザーヘッドは殺せてた。今後の襲撃時、あの厄介な存在に気を使う事がなかったのかと思うと、それを邪魔したあの糞餓鬼は殺しても殺し足りないほどに憎い。

 

思えば、あの役立たずのヒーロー殺しを止めたのもこいつらだ。

 

怪我まで負って味方に引き入れたと言うのに、偉そうな事をほざいてたくせに、呆気なくその日に奴は捕まりやがった。

おまけに俺達が放った脳無達は、その間抜けなヒーロー殺しのついで扱い。あの糞ったれな先輩様の矜持を滅茶苦茶にしてやるつもりだったというのに、結果は事件を盛りたてただけ。

 

むかつく。

 

どうして、こうも上手くいかない。

どうして、こんな糞餓鬼程度に邪魔される。

どうして、俺があいつより軽く見られる。

 

むかつく。

 

むかつく。

 

むかつく。

 

俺と先生と、何が違う。

 

「死柄木弔。あまり首を掻きすぎぬ方が良いですよ」

「うるさい、黙れ。殺すぞ」

「程々に、と。先生からも言伝を預かっています」

 

黒霧の口から出た言葉に、思わず殺気が漏れる。

 

「その先生は、なにしてんだよ・・・。どうして、何も俺に言わない・・・!」

「詳しくは私も伺っておりません。私は貴方の補佐をと頼まれているだけで・・・」

 

その物言いに腹が立ち、ぶっ殺してやろうと手を伸ばしたが、霧に隠された首に触れる寸前でワープを使ってかわされた。

黒霧が小さく溜息をついてくる。

 

「癇癪も程々に。よく考えて下さい、死柄木弔。私にはまだ利用価値があるでしょう。殺すのは考え直して下さいませんか?」

「正論言えば納得するとでも思ってんのか・・・?ぶっ殺す。ワープとけよ」

「落ち着いて下さい、死柄木弔。貴方がすべきなのは、オールマイトを殺す事ではありませんか?少なくとも、私ではない━━━」

 

 

 

「━━━━黙れよ。次喋ったら、本当に殺す・・・」

 

 

 

そう言って睨めば、口を告ぐんだ黒霧はワープを解いた。あまりに素直な行動に毒気を抜かれた気分になる。

殺すにしても興が削がれた。

 

「殺らないので?」

「うるさい。もういい。気分じゃない」

 

椅子に座り直し、もう一度写真を見た。

 

そして一つ思い出した。

俺にこれを渡した時の先生の態度。

愉快そうな先生の、その言葉を。

 

『面白い子さ。きっと君も気に入るよ』

 

 

 

「こんな奴の何が、先生に目をつけさせた」

 

どうして、これを俺に渡した。

何故、こいつだ。

あの時の先生の言葉にどんな意味がある。

俺は何を知らないでいる。

 

 

先生から全て教わった。

この社会の歪さも。

救いようのなさも。

 

先生から全て貰った。

戦う力も。

駒も居場所も。

 

俺は今、先生に及ばずとも多くの権限を持っている。

それは使いようによっては、都市の一つくらい焼け野原に出来る力だ。

 

けれど、現実的にそれは出来ないだろう。

先生なら兎も角、俺では使いこなせない。

使い方は知っているのに、それでも出来ない。

俺と先生とでは、あまりに違う結果になる筈だ。

 

つまりそれは、教わった事以外。

俺と先生の間に何かがあるということ。

 

「何が、足りない。先生・・・」

 

 

 

 

 

 

「死柄木さん」

 

不意に掛けられた男の声に視線を移す。

バーの入り口の所に、煙草をくわえた中年の男がいた。

見覚えのある顔。以前、チンピラを集めた時に何人か引っ張ってきた奴だ。

 

中年は俺の視線に気づくと、くわえてた煙草を手に持ち替え口元をひきつらせるようにして笑う。

 

「こっちじゃ連日あんたらの話で持ちきりだぜ。何かでけぇ事が始まるんじゃねぇかってさ。出来るなら、一枚噛ませて貰いたいもんなんだがねぇ」

 

目敏いそいつに見つかる前に、手元の写真を塵に変える。先生がこいつの事について何か語ったのは俺だけ。なら、他の連中にその情報を漏らす気はない。

 

「で、そいつらは?」

 

中年の後ろに二人の人影が見える。

俺の言葉に反応して、人影だったそいつらは歩き出す。

部屋に入ってきたのは若い男女。

 

「生で見ると・・・気色悪ィなァ」

 

そう言ったのは火傷の痕が目立つ長身の男。

もう一人はあの糞餓鬼と同い年程の女で、女は俺を見るなり興奮したように腕を振った。

 

「うわぁ手の人!ステ様の仲間だよね!?ねぇ!?」

 

女はニカッと笑うとあっけらかんに言った。

 

「私も入れてよ!ヴィラン連合!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

前もって連絡を受けていた時間。

以前より協力関係を築いていたブローカーが私達の前に訪れた。その時間に狂いはない。やはり、その道のプロという事だろう。普段の飄々とした態度からは考えられない真面目な仕事ぶりだ。

 

私は手にしていたファイルをしまい、死柄木へと視線を送った。死柄木は何も言うことなく、その二人の様子を窺っている。

 

ヒーロー殺しの件が失敗に終わったが、あの方は死柄木を叱責する事はなかった。

あの方が死柄木に与えたのは軽い慰めと時間だけ。接触を限りなく減らし、授業にとる時間はおろか助言する事もなかった。後で確認をとれば、死柄木には己で考える時間が必要なのだと言っていた。それは言葉で伝えられるような事ではなく、己で導きださなければいけないもので、私も助言する事を禁じられている。

考えろとだけ伝えるのも、何とも歯痒いものがある。

 

あの方のお言葉を疑う訳ではないが、素行や考え方に幼稚な部分が目立つこの男が、本当にあの方に成り代わる存在なのか、私はまだ確証を持てないでいる。

 

・・・だが、そうだ。

最近の彼は多少見られたものになってきたように思う。

まだまだ危なっかしいが、ヒーロー殺しの一件以来、一人で考える時間が増えて以来、何処と無くあの方と同じものを感じる時があるのだ。

 

先程の心臓を鷲掴みにされるような冷えた声。

あれなど、まさにあの方と同質のもの。

思わず見とれてしまった。

 

何かが変わりつつある。

死柄木弔という男の何かが。

 

「・・・・・黒霧、こいつらトバせ。俺の大嫌いなもんがセットで来やがった。餓鬼と礼儀知らず。目障りだ」

 

ようやく口を開いた死柄木の言葉は拒絶。

どうやらお眼鏡には適わなかったようだ。

 

死柄木の言葉を受けた二人の様子は微妙なもの。

女性は不思議そうに首を傾げ、男は死柄木を品定めするように見ている。

 

ブローカーに視線をやれば肩を竦めた。

その態度から、実力に問題がある訳ではないようだ。

もしそうならトバす事も考えたが━━━これは死柄木に考え直して貰う必要がある。

 

「まぁまぁ・・・せっかくご足労いただいたのですから、話だけでも伺いましょう。死柄木弔」

 

そう言えば見るからに不機嫌そうな視線が死柄木から向けられた。

 

「それに、あの大物ブローカーである彼からの紹介。戦力的には間違いはないハズです」

 

確認するように視線を飛ばすとブローカーはくわえてた煙草を手に持ち替え「手数料だけは頼むよ」と念を押してくる。

 

「━━━━んまぁ、紹介だけでも聞いときなよ。死柄木さん。割と面白い二人だからさ」

 

ブローカーは女性を指差し説明を始めた。

 

「まず、こちらの可愛い女子高生。名も顔もしっかりメディアが守ってくれちゃってるが、連続失血死事件の容疑者として追われてる」

 

ニュースは毎日確認している。

確かに最近、そういった事件があったのも覚えがあった。

ブローカーに紹介された女性は笑顔を浮かべて話始める。

 

「トガです。トガヒミコ。生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔くん!」

 

その可愛い口から出たのは、いい感じに頭の中身が沸騰した発言だった。そっと死柄木を見ると、案の定不機嫌そうに首を掻いている。

気に入らなかったようですね。

 

「意味が分からん。破綻者かよ」

 

そう言った点では、貴方もそう変わりませんが。

まぁ、それを言ったら最後、それこそ殺されかねませんから言いませんが。

 

「会話は一応成り立つ。きっと役に立つよ。で、次。こちらの彼は目立った罪は犯してないが、ヒーロー殺しの思想にえらく固執してる」

 

ヒーロー殺しという言葉に、死柄木弔の肩が揺れた。

 

そんな死柄木をよそに紹介された男はブローカーに対して不満を口にした。女性の仕上がり具合に不信感を抱いたのだろう。確かに、ヒーロー殺しの思想とはかけ離れた存在ではある。

そんな男の様子に死柄木が呆れたような声をあげた。

 

「おいおい。その破綻JKすら出来ることがおまえは出来てない。まず名乗れ。大人だろ」

 

死柄木弔の言葉に、男の鋭い視線が返す。

 

「・・・今は『荼毘』で通してる」

「通すな、本名だ」

「出すべき時になったら出すさ。とにかく━━━ヒーロー殺しの意志は俺が全うする」

 

今度こそ、死柄木から殺気が溢れた。

私に向けた物など鼻で笑える程の、圧倒的圧力を持った殺気が。

 

「聞いてないことは言わないでいいんだ」

 

立ち上がるその姿に、あのお方の姿が重なる。

 

「どいつもこいつも、ステイン、ステインと・・・」

「いけない、死柄木━━━」

 

咄嗟に声をかけたが、もう聞いていなかった。

その目に宿った明確な殺意。

私は直ぐ様個性を発動する。

 

「駄目だ、おまえら」

 

死柄木の手が伸びる。

荼毘と名乗った男とトガヒミコと名乗った少女も、殺意に応えるように動く。ブローカーが見つけてきただけの事はある。いい反応だ。

 

今は感心してる時間ではないが━━。

 

死柄木達の前にワープゲートを作った。

それぞれの殺意を込めた腕がワープゲートを潜り、明後日の方向へと伸びる。

 

「落ち着いて下さい。死柄木弔」

 

助言は禁じられていたが、流石にこれは放っておけない。ブローカーとの今後の関係を考えれば、紹介された二人を傷つけるのは不味い。

 

「あなたが望むままを行うのなら、組織の拡大は必須。━━━違いますか?」

 

手を伸ばしたまま、死柄木は二人を見つめたまま動かない。

 

「奇しくも、注目されている今がその拡大チャンス。排斥ではなく、受容を。死柄木弔」

 

納得のいかなそうな死柄木に近づき、そっと耳元で囁く。彼らに聞かれる訳にはいかない、その言葉を。

 

「利用しなければ、全てを・・・・。彼の残した"思想"も全て・・・」

 

私がそう言うと「うるさい」と一言を残し、死柄木は部屋を出ていった。その背中には迷いと苛立ちが見えた。先程感じた、あの方の姿は見えない。

 

死柄木が去った後、ブローカーが首を掻いた。

 

「取引先にとやかく言いたくはないが・・・若いね。若すぎるよ。おたくのボスくん。きょーいく行き届いてないんじゃないの黒霧さん?うちも信用があるからさ。言わんでも分かると思うけど、せっかく紹介した人間殺されちゃたまらないのよ。関係考えちゃうなぁ~」

「申し訳ありません」

「チンピラのクズ達とはいえ、以前紹介したあいつら使い潰してくれちゃったの・・・・忘れてないからね。今回はちと色つけてくれよ」

「勿論です。今後ともよろしくお願いいたします」

 

そう頭を下げるとブローカーはカウンターに資料をおいた。

 

「何人かピックアップしといた。希望があれば連絡はつけておくよ」

「ご丁寧にどうも」

「目を通したらそのまま焼いてくれ。お持ち帰りやコピーは厳禁だよ」

 

私達の会話に紹介された二人が視線を向けてきた。

言葉にせずとも伝わる、何が言いたいのかは。

その懐疑的な目を見れば聞くまでもない。

 

「・・・返答は後日でもよろしいでしょうか?彼も自分がどうすべきか分かっているハズだ」

 

私に答えられる事はない。

結局は彼が決める。

そうあの方が決めたのだから。

 

そこに異論などある訳もない。

 

「分かっているからこそ、何も言わずに出ていったのです。オールマイト、ヒーロー殺し・・・もう二度鼻を折られた」

 

彼は変わる。

 

「必ず導き出すでしょう。あなた方も、自分自身も納得するお返事を・・・」

 

立ち去った死柄木の背中を思いながら、私は手元の資料に目を落とした。

これから始まるであろう嵐に耐えうる存在を、味方に引き入れる為に。

 

 

 



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大人数で出掛けると決まって喧嘩する人がいるけど、あれはどうにか出来ないもんかね?空気をさ、考えようよ。空気をさ楽しく━━━ってこら!!おまっ、それは私の食前オヤツだこの野郎!の巻き

あげないと、今日こそあげないと、思っていたか!

俺はちょっと無理かなって、思ってた!

なんか、間に合ったけども( *・ω・)ノ


「ニコちゃーーん!おはよ!」

 

期末試験明けのお休み日。

かっちゃんをお供に木椰区の駅を訪れると、待ち合わせ場所で元気に手を振るお茶子を見つけた。お茶子の側にはあしどん達女子ーずやA組の童貞共の姿もある。

 

「はよ、お茶子。皆」

「おはよ!今日もニコちゃんはニコちゃんやな、シンプルなのに可愛いわ。私ももうちょっと頑張れば良かったなぁ」

 

お茶子の格好を見ると確かに手抜きだった。

Tシャツにショーパン。

タイツもいつも穿いてるやつだ。

 

「うん、そだね。手抜きファッションだ」

「す、少しはオブラートに包んでよ!ニコちゃん!」

 

お茶子からジト目を向けられてしまった。

本当の事とはいえ、もう少しフォローしとくべきだったか。

 

「超、似合ってる」

「手抜きファッションやって言うてんのに!?もうーー!私も分かっとるから、そんな意地悪言わんといてよ~!!」

 

ぽかぽかしてくる可愛いお茶子を撫で撫でしてると、あしどんと葉隠がこっちにきた。面白い物を見つけたみたいな顔してる。

 

「はぁい!そこのカップル!アオハル吹かせまくってるねぇ!!見せつけてくれるじゃないの!ひゅーひゅー」

「おでーと気分なのかなぁ~?随分と洒落てるじゃぁないのぉ?オシャレ番長なミナミナがオシャレチェックしちゃうよー!」

 

葉隠に絡まれたかっちゃんは不機嫌に顔を歪ませる。

分かりやすい事この上なしだな、かっちゃん。

てか、カップルは止めろ。

まじで。

 

私の方にきたあしどんはというと、オシャレ番長としてオシャレチェックの為にジロジロ服を見てきた。

 

「ふむふむ。今日はシンプルに攻めてきたね。デニムシャツに白のショーパン。靴は白と黒ツートンのスニーカー。インナーは・・・また凶悪な」

「ふつーのタンクトップだけど?」

「これ、このままなら大丈夫だけど、屈んだら100パー谷間見えるでしょ。ニコ、アウトー」

 

 

 

「谷まァ━━━ぃたぁっん!!?」

 

何処からともなく━━━という訳でもなく童貞共の方から、誰かの悲鳴とパァンという何かを叩く音が聞こえてきた。

 

視線を向けると阿修羅さんの複腕に捕らえられる、頬を腫らしたブドウの姿が見えた。その姿に欠片も同情出来なかったのは、奴の日頃の行いの悪さ故だろう。

・・・あ、梅雨ちゃん。おつかれーっす。

 

「相変わらずだね、あいつは」

「ねぇー、見境ない無さすぎ。私らもさっき絡まれた。ちょー見られたもん。まっ、その時も、梅雨ちゃんの舌ビンタが炸裂した訳だけどね」

 

「・・・私は何も言われてないけど」

 

私とあしどんの会話に、いつの間にか側にきていた耳郎ちゃんが交ざってきた。しかも、死んだ魚の目でこちらをガン見してくる。

 

「私は何も言われてないけど」

 

そう淡々と話す耳郎ちゃん。

私は口を閉じてあしどんにアイコンタクトする。

首を横に振られた。やりたくないと。

寧ろ私にやれと視線を返してくる。

 

ふざけるなよ、私だって嫌だわ。

 

褒め褒め大作戦は以前やったから駄目。

寧ろその時のあれこれで写真撮ったり耳たぶ触ったりしたせいで警戒されている。

 

私には手に負えないと、周りを見ると上鳴のアホ面が目についた。

 

「へい、上鳴!へい、上鳴!」

「お、おう?どうした、緑谷?」

 

ヘラヘラ近づいてくる上鳴の肩に手を回し、耳郎ちゃんに見えないよう背中を向ける。

 

「お、おふ!?な、何だよ緑谷!おまえにはバクゴーというものが、て、ちょ、駄目!本当、無理!おれ、そういうの、駄目ぇ!いきなりとか駄目だから!ムードとか、いる人だから!」

「訳分かんない事言ってると、ぶら下がってるの取るよ」

「ひいっ!!?取るの!?」

 

股間を両手で押さえて震える上鳴に、親指で耳郎ちゃんを指差して見せる。上鳴は指先を視線でおって耳郎ちゃんを見て、またこっちを見てきた。

 

「え?耳郎がなに?」

「可愛いでしょ?」

「ん?まぁ、普通に」

 

きょとんとする上鳴の口から出たのは意外にも褒め言葉。ふむ、中々見る目がありおるわ。こやつめ。

 

「なら、褒めてこい。ブドウの馬鹿のせいでショボくれてるから、死ぬほど褒めてこい」

「被害に遭わないならそれに越したことねぇーじゃねぇーか。ああ、いや、女心は難しいからなぁ。てか、緑谷がやれば良いじゃんか」

「私は前科があるから警戒されるの」

「何したんだよ・・・はぁ、しゃーねぇーなー。後でなんか奢れよ」

 

文句を言いながらも上鳴は耳郎の元に向かった。

ブドウと近しいものがある上鳴だけど、基本アホでナンパ野郎なだけで悪い奴ではないし、口も回るから上手くやるだろう。ヘタレだから何か変な事する心配もないし。

━━で、かっちゃん。後で上鳴になんか奢ってやって。え?良いじゃん別に。ほら、うめい棒でも良いからさ。やなの?さっき貰ったティッシュとかでも良いよ。それじゃ。

 

耳郎ちゃんが上鳴の褒め殺しでニヤつきが押さえられなくなり、ファッション番長にかっちゃんが絡まれだした頃、轟と切島が合流し全員が揃った。

皆ににこやかに挨拶していた切島だったが、私を見つけると小さく驚きの声をあげてきた。

 

「緑谷が可愛く見える!」

 

ビンタしてやった。

腰の入ったビンタをしてやった。

 

「・・・冗談だっての」

「冗談でも許さぬ。お詫びに甘味を所望する」

「そういうのは爆豪にせがめよなぁ・・・」

 

涙目で頬をおさえる切島を見ていると、その隣で相変わらずぬぼーっとしてる轟と目があった。軽く手をあげて挨拶すれば、無表情のままだったけど返事は返してくれた。

 

「はよ、轟。昨日学校の帰りにレーちゃんとこ寄ったんでしょ?元気そうだった?メール無かったから気になってたんだよね」

「ああ、昨日メールしなくて悪かった。色々あって返せなかった。お母さんは大丈夫だ。お前によろしく言っといてくれって、伝言預かってる」

「そかそか」

 

轟は毎週休みの日はレーちゃんの所に行ってる。

体育祭以降は職場体験や期末試験前以外ではほぼ行ってる超絶マザコン、それが轟なのだ。

だから葉隠が皆でお買い物と言った時、正直轟はこないのだと思っていた。そういう騒がしいのは好きそうじゃないし、なによりレーちゃんを優先すると思ったから。

 

うん?何が言いたいかって?

なんか、違和感凄いなって話だよ。

 

そんな事を考えてると、ふと轟の視線が気になった。

 

「どした?」

「いや、今日も可愛いなと思ってな」

 

前にも言われた気がするな、それ。

 

「轟さ、それ言えばいいと思ってるでしょ?」

「?そんな事ないけどな。そう思ったから言っただけだ」

「ほほう、なら何処が可愛いかゆーてみぃー!」

 

私がそう言うと轟は顎に手をあて考え始めた。

勿論軽い気持ちで言った。冗談みたいなものだ。なのにそれを受けた轟の目は真剣な物に、雰囲気も真面目な物になってしまった。周りも轟が漂わせるその空気を感じて静まり返り始める。

 

「轟?紅白饅頭?轟焦凍さん?あのさ、そこまで考えなくていいから・・・」

「少し言葉をまとめる。待っててくれ。ちゃんと言う」

 

私の言葉に、轟はそれはそれは真剣な顔で返してきた。

 

ちゃんとは言うなぁ!そこはふわっとしとけぇ!

お前っ、皆めっちゃ見てるからね!?さしもの私も恥ずかしいわ!私も羞恥心とかあるんだからね!?可愛い自覚はあるけど、こんな公衆の面前でガチで褒められたくないんだよ!!ほら、葉隠とかスマホのマイクこっち向けて━━━あ、あしどんまできた!こっちはカメラ回してきてるし!終わった!私、終わったぁー!

 

轟の天然力にガクブルしてると肩を掴まれた。

力強くごつい、よく知ってる掌。

振り返ってみればやっぱりかっちゃんがいた。

 

「かっちゃん助けてぇぇ!!轟が全力で辱しめてくるぅ!!怖いよぉぉ!!その純粋さが怖いよぉぉ!!」

「っせぇわ!!馬鹿が!!退けや!!」

 

乱暴な口調だったけど、さっと私を後ろに隠してくれた。流石かっちゃん。やる時はやってくれるぜ!

 

「━━━ん、爆豪?緑谷はどうした」

「どうしたじゃねぇ!!どんだけ真剣に考えてんだ、馬鹿か!!天然拗らせんのも大概にしやがれ!!空気ちった読めや!!」

「空気、読む?何言ってんだ、爆豪」

「なんでそこで引っ掛かんだよ!!そこじゃねぇだろぉが!!」

 

 

 

 

 

「びっくりするほど、爆豪くんにブーメランする言葉や」

「けろっ、本当ね。普段の爆豪ちゃんに今の言葉聞かせてあげたいわ」

「そう言うだろうと思って録音してるよー」

「録画もねー」

 

「轟さんも爆豪さんも、社交性が足りませんわね」

「ヤオモモ。それもそこそこブーメランしてる」

「!?え、ええ!?私もですか!?あんな感じに皆さんの目に映ってらっしゃるんですか!?ちょっ、耳郎さん、目を合わせて━━━━」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

爆豪と轟がわちゃわちゃする事暫く。

なんとか騒ぎを終息させる事が出来た俺達A組一同は、目的地である木椰区ショッピングモールに向かう無料バスに乗った。

 

流石に休みの日。無料という事もあってバスは酷く混んでいて、座るなんて考えられない状態だった。その中でも運よく座れた奴もいるんだけど・・・・。

 

そっとそこへと視線をやると、椅子に座る緑谷とそれを囲むように立つ爆豪と轟の姿が見えた。異様なオーラを出す二人の間には隙間が存在してしまってる。このくそ混んでる時、本当それを止めて欲しい。

 

バスが止まった勢いで人混みが揺れる。

どん、と俺の背中にも人がぶつかってきた。

なんか感触が柔らかい。もしかして、女子?

 

期待を込めてチラっと振り返ると、さっき死ぬほど褒めておいた耳郎の顔があった。

 

「すいません━━━って、上鳴か。謝って損した」

「損したとか言うな!そこは普通に謝ったり、感謝とかしろよ」

 

俺の言葉に耳郎は鼻で笑ってきた。

この野郎、という思いが心の奥底から沸き上がってくる。

 

「いやだってね。あれだけ情熱的に褒めた女の子がぶつかってきたなら、ご褒美も良いところでしょ?」

「あれは緑谷が━━━━あ」

 

うっかり溢した言葉に背筋が氷る。

やっちまったという思いが、頭の中を駆け巡った。

これはバラしたらいけないタイプの話だ。

 

冷や汗を流しながら耳郎の顔を見ると、呆れた顔していたけど怒っている様子は見てとれない。

 

「やっぱりね。はぁ、緑谷め。やってくれたな」

「ええと、知ってた?」

「あのさ、普通に考えて普段特に褒めてこないやつがさ、急に近づいてきて褒め倒してきたら不審に思うでしょ。何企んでるのかと思ったら・・・まったく。というか、なんか相談してんの丸見えだから」

 

それはそうか。

 

「あんたも災難だったね。おつかれ」

「はぁ、緊張して損した。本当はそんなに気にしてなかったりする?」

「全然。私にはそういうの合わないし。あれはからかっただけ。昨日散々ダル絡みしてきた芦戸と、私を売った緑谷に対するふくしゅー」

「おいおい、仲良くしろよ。女の子同士って難しいって聞くけど、同じヒーロー目指す仲間なんだからさ」

 

肘打ちが脇腹に刺さった。

 

「分かってるっての。余計なお世話。てかね、これでも結構仲良くやってる方だと思うよ?」

「ってぇなもう・・・そうなのか?」

「そうだよ。もっと陰険だよー。女ってのはさ」

 

そう言って耳郎は溜息をついた。

 

「前の学校では結構そういうのがあってさ。私もちょっと標的になった事あるし」

 

耳郎の言葉に耳を疑った。

イメージだと全然そんな感じになるやつじゃないから。

なんて言ったら良いか分からないまま耳郎を見てると、苦笑いが返ってきた。

そしてどこか遠くを見ながら続けた。

 

「ほら、私さ、趣味が音楽系じゃん?それもさポップスとかよりロックとか。割とマイナーな方が好きだしさ。アイドル系とか、流行ってる曲とか別に好きじゃないし、なんつーかさ普通の女子とは気が合わなかったんだよね。でさ、そういうの詳しかったり興味あるのはどっちかって言ったら男子じゃん?だからね話す相手とか男子が多くてさ。そういうのって目立つんだ。女の中だとさ・・・で、気がついたらハブられてた」

 

笑うよねぇと呟いた耳郎の横顔に笑顔はなかった。

それがなんか悲しくて思わず「大丈夫か?」と聞いてしまっていた。

声に反応した耳郎がこちらを見て、俺の顔を見てギョっとした。

 

「なんで、馬鹿っ!男の癖に泣くな!拭きな、ほら!」

 

意味も分からずハンカチを受けとり、目元に当ててみると湿っていた。まじで泣いてた。

 

「~~~あのね!別にね、友達がいなかった訳じゃないからね!どんなの想像してるか知らないけど、ちゃんと分かってくれるやつはいたし、結局それだってほんの少しだけで終わったの!」

「そうなのかぁ、良かったなぁ」

「なに、その保護者みたいな面。むかつく」

 

憤慨する耳郎からボディを小突かれまくる。

あんまり痛くないけど、地味にダメージが溜まってる気がする。あ、いや、痛くなってきた。

 

『ご乗車ありがとう御座いました。次は終点、木椰区ショッピングモール前~、木椰区ショッピングモール前~』

 

放送が流れると耳郎の攻撃も止まった。

恐る恐る視線を向ければ、どこか不満そうな顔をしてる。

 

「━━━はぁ、いいやもう。だからさ、仲良くやってるから大丈夫って話。分かった?」

「はい、それはもう。てかさ、それじゃやっぱり緑谷くらい目立つとさ、そういうのもあんのかなぁ?」

「・・・まぁ、あるんじゃないの?うちのクラスだと無さげだけど・・・。それにあの能天気な姿見てるとなぁ・・・・」

 

耳郎と俺は何となしに緑谷を見た。

さっきより混沌とするそこで、緑谷は楽しそうにお菓子をくわえてる。それがどこか子供っぽくて、バスの中で食べるんじゃありません!と保護者みたいに注意したくなった。

 

「あれは、ねぇ・・・」

「なぁ」

 

それから少ししてバスが止まり、人混みがぞろぞろと出口に向かって動き出した。通路にいた俺達もそれに続く。そしてそんな時なのに、俺は少し前に思ったそれを思い出した。

 

「あのさ、耳郎」

「は?なに?降りてから━━━」

「緑谷に唆されたのは本当だけどよ、可愛いって言ったのは嘘じゃないからな?」

 

耳郎の首が折れるんじゃないくらいに傾げられた。

しかも見たことの無いものを見るような、そんな目で見てくる。

 

「そういうのはもう良いんだけど・・・」

「いや、マジだって。俺そういう嘘つけねーから。そんな器用に嘘つけねえーよ。緑谷みたいに。俺自分が馬鹿なの知ってるし」

「いや、あんたが馬鹿なのは知ってるけど━━━って、は?それって、じゃあの時の・・・」

 

 

 

バスを降りてから何故か顔真っ赤の耳郎にイヤホンで攻撃された。

理由は分からないけど、怒らせたのは理解した。

 

女の子って難しい。

いつになったら俺にも可愛い彼女が出来るのか。

教えてドブ川の奇跡、爆豪さん。

 



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水着ってよくよく考えたら下着と同じレベルでは肌見せてるじゃん?なのになんで、そこまで恥ずかしくないのかね?あれだよね、たぶん、私ら騙されてるよね?の巻き

そろそろ時間がなくなってきたぜ(;・ω・)

毎日投稿はそろそろ限界かもしらん。
おとしたら、すまんやで( *・ω・)ノ


バスで揺られて少し。私達A組一同は木椰区ショッピングモールへと辿り着いた。

流石にテレビとかで取り上げられる巨大ショッピングモールだけあって、お客さんは馬鹿みたいにいた。

日曜だからって来すぎだ。半分帰れ。

 

「緑谷、さっきのだけどな・・・」

「しつこいわ!もういいっての!かっちゃんバリア!」

 

駅前での話を蒸し返そうとする紅白饅頭にかっちゃんを押し付ける。効果はあったようで、紅白饅頭が口を閉じた。

 

「・・・見てんじゃねぇぞ、クソ紅白」

「・・・俺も別に、お前のこと見たかった訳じゃねぇ」

 

そう言って微妙な雰囲気で見つめ合う二人をそのまま放っておき、ぱーてぃぴーぽーに「うぇーい」と絡まれるお茶子の所へいった。鬱陶しいぱーてぃぴーぽーを『あぁん!?』と指ポキで追い払う。舐めるんじゃないんだよ?ん?

 

散っていったぱーてぃぴーぽーを横目にお茶子に親指を立てて見せれば何故だか溜息をつかれた。

 

「ニコちゃん貫禄ありすぎや」

「いやぁ、えへへ。それほどでも」

「どっちかと言えば褒めてへんよ」

 

褒められてなかった。

にゃんだとぉ。

 

「━━━ま、別にいいけど。それでさ、お茶子は何買い物すんの?一緒に水着いく?見せっこする?」

「全然へこたれへんな、ニコちゃんは。・・・んーー水着は去年のまだ着れると思うからええかな?」

「ええぇぇぇ・・・・見せっこしようよぉ」

「うーん・・・」

 

お茶子のプニプニのほっぺたをつつきながらお願いしてみたけど、あまり良い顔はしてくれない。

 

「・・・見せっこはええけど、爆豪くんも来るんやろ?」

「まぁ、かっちゃんに選んで貰うつもりだからね。それは来るさ」

「こんな言うのは違うかも知れんけど、彼氏でもない人に水着選んで貰うんは抵抗ないん?」

「?」

 

抵抗?かっちゃんに?

そんな事は考えた事はなかった私は考えてみた。

 

今まで服を買いにいく時はかなりの頻度で連れ回してる。かっちゃんは結構多才で服のセンスも抜群なのだ。だからアドバイス貰ったり選んで貰うのが割と当たり前で、事実ずっとそうしてきた。流石に下着を買うときは一緒には行かないけど、服買うときは大体かっちゃんがいた。荷物持ちとしても有能だし、連れていかないなんて勿体ない。

 

だから一緒にいかないという選択は、なんかピンとこない。ないな。

 

「・・・ないかなぁ?」

「ほんまか」

 

お茶子が信じられない物を見る目で見てきた。

なんだか、心に突き刺さる視線だ。

 

「彼氏とか出来たらどうするん?爆豪くんに彼女出来たりとか・・・」

「それは、まぁ・・・ううん。駄目だよね?」

「まぁ、普通は嫌やろ」

 

そう言われると少しあれな気もする。

 

「その時は止める・・・と思う。あ、二人きりじゃなければOKくない?」

「・・・爆豪くんはニコちゃん甘やかし過ぎや。まったく」

 

お茶子のジト目がかっちゃんに向けられた。

紅白饅頭とガン飛ばし合うかっちゃんだったけど、何かに気づいたのか肩を震わせこっちを見てきた。

 

「━━━んだ、丸顔」

「責任とらな、ぐぅで殴ったる」

「いきなり、っんの話だこら!!」

 

 

 

 

 

一緒にショッピングモールに来たA組一同だったけど、その買い物の目的は全員バラバラ。当然行き先もバラバラなので、それぞれ自分の買うものを求めて解散する事になった。

 

私とかっちゃん、それとお茶子と轟は水着を求めて。

百と耳郎ちゃん、それと梅雨ちゃんはキャリーバッグを求めて。

上鳴と眼鏡、それとあしどんと葉隠は靴を求めて。

怪しい発言をしていたブドウは阿修羅さんに連行されていった。常闇と喋らない奴も。

余った他の童貞共、切島、尾白、ドンマイ、お菓子くれる人、外国人は一緒に適当に回るらしい。

 

 

 

 

 

無料で配られてる地図を片手に歩くこと少し。

早速一件目の水着屋を見つけた。

ショーウィンドーに並ぶ物を見れば、悪くない感じがする。

 

「ここは?いくない?」

 

そうかっちゃんに聞けば顰めっ面してきた。

 

「メンズだぞ、そこ」

「そだよ?轟の買うの、ね?」

 

かっちゃんの隣にいる僕らの紅白饅頭の顔を見れば、コクりと頷き返してきた。

 

「わりぃな。俺のからで」

 

かっちゃんは私の水着を選ぶ為に、お茶子は見せっこする為に。じゃぁ紅白饅頭は?というと、この男は普通に水着を買いについてきたのである。

何でもスクール水着しか持ってないらしく、今回のしおりに書いてあった水着がスクール水着以外の物を着た方がよい事を知ったので、思いきって買うことにしたのだと。

因みに何処でそれを知ったかというと、しおりを見たお姉さんとお母さんに言われたそうだ。マザコンにしてシスコンとは。業が深いぜ。

 

そんな訳で早速見つけたメンズの水着屋に入ることにした。中に入るとお茶子は興味深そうに辺りを見渡す。まぁ、私もこういう所に来たことないからめちゃ見渡したけども。

 

「男子ってこういう所で買うんやね」

「ねぇー。初めて来た」

「爆豪くんと来たことないん?」

「ないない。かっちゃん、いつも私が試着してる間にさっさと自分の分買っちゃうんだもん」

「そうなんか」

 

お茶子と一緒になって適当に並ぶ水着を見ていくと、かっちゃんに似合いそうな水着を見つけた。赤色の生地に黒い炎の模様。格好いい。かっちゃんはシンプルな物を好むけど、これくらいの模様だったら嫌がらない気がする。

 

「何見てるん?・・・爆豪くんに?」

「うん。どうかな?かっくいくない?」

「まぁ、似合いそうではあるかなぁ。でも爆豪くんは水着買わないやろ?どうせなら轟くんの選んでやったらええのに」

 

それは、そうなんだけども。

そっと紅白饅頭を見れば、変な柄のパンツを手にしていた。あ、かっちゃんが我慢出来なくて戻させた。しかも選んであげてる。━━━あ、断った。そんなにその変な柄が良いの?

 

「爆豪くんが、轟くんの選んどる・・・!?」

「珍しい・・・」

「天変地異レベルや!!そんな、ようしらっとしてられんね!?」

 

かっちゃんって皆にそういう風に思われてんのか。

日頃の行いの悪さが招いてる事ではあるけど、ちょっとだけ可哀想になってきたな。ちょっとフォローしてあげよかな?

 

「天変地異レベルではないよ。流石に」

「そ、そう?」

「口は悪いし、態度悪いし、面倒臭いほどひねくれてるけど、結構面倒見いいよ?」

「それはニコちゃん限定やと思っとった・・・」

 

昔からそうなんだけど、言葉や態度とは裏腹にかっちゃんは世話焼きな所がある。基本自分にも人にも厳しいスタンスを取ってるから簡単に手を貸したりしないけど、本当にどうにもならない時は手を貸してくれたりする。最近で言えば切島に勉強を教えようとしてたし━━まぁ、つまり切島は勉強に関してどうにもならないと思われてたって事なんだけど。ま、それはいいか。

 

大抵の人がその口の悪さが原因で逃げていっちゃうけど、少しだけ見方をかえれば悪いだけの人じゃないのだ。

 

「まぁ、実際のとこ外面最悪だから、そう思われるのは自業自得ではあるんだけどさ。・・・だから、珍しいんだよね。ああやってかっちゃんと真正面から向き合える人って」

 

かっちゃんと面と向かって話せる人は少ない。

切島とかは大丈夫だけど、私が知ってる限りだと片手程度しかいないのが現実。最近はお茶子も耐性が出来てきたみたいに見えるけど・・・。

 

そんな事を考えてると、お茶子が顔を覗き込んできた。

訝しむような視線。なんじゃろ?

 

「嬉しそうな顔して・・・はぁ、もう、勝ち目ないんとちゃうかな、これは。轟くんは泣くしかないかなぁ」

「泣く?ほわい?」

「あーーーニコちゃんは気にせんでええから」

 

気になるぅ。

その言い方気になるぅ。

 

 

「だからぁ!それは止めろって言ってんだろ!!馬鹿!!脳みそ沸いてんのか!?てめぇはよ!!」

「・・・唐草、良いだろ?」

「せめて和式の唐草は止めろや!!こっちの洋式系にしろ馬鹿!!てめぇ見てぇなクソダサが近くいると、こっちまで馬鹿だと思われんだろぉが!!」

「・・・それは、ないな」

「良いから、頷いとけや!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分にも及ぶ水着合戦。

最終的に私の鶴の一声でかっちゃんが選んだやつを買うことになり、この戦争は終戦を迎えた。

 

時間を掛けすぎたお詫びとして、紅白饅頭がクレープを奢ってくれたのでお茶子と食べ歩きした。ちょっと下品ではあるけど、これもこういう所の醍醐味だと思うので、そこら辺は目をつぶって貰う事にしよう。見るなよ。どっかの誰かさん共。

 

クレープを食べ終わった後は何件か水着屋を回り、可愛い水着が置いてある店を見つけたので突撃した。

何着か適当に選び鏡の前で合わせていると、ポケットに手を突っ込んだかっちゃんが見にきた。

 

「・・・決まったかよ」

「まだー、てか、これとかどう?」

「っ!?馬鹿っ、お前、いきなり見せんな!!」

 

いや、水着選びに着てるんだからさ。

そのまま待ってるとかっちゃんが眉間の皺を深くさせた。

 

「・・・そこに掛けてある奴にしとけ」

 

そう指差した所にあったのはホルターネックタイプのビキニだった。かっちゃんぽい、装飾の少ない白い水着だ。

 

「かっちゃんモノトーン好きだよねぇ」

「っせぇわ。気にいんねぇなら別のにしろや」

 

悪態をつくとかっちゃんは店を出ていってしまった。女性水着の専門店は流石にかっちゃんも居づらかったか。

私はかっちゃんに選んで貰った物を鏡の前で合わせてみた。似合うとは思う。思うけど、ちょっと大人っぽ過ぎる気がしないでもない。

でも、私も高校生だ。こういうのも良いかもしれない。

 

「どう?決まったニコちゃ━━━━おおぅ。えちぃ」

 

色々持ってきたお茶子が私の手にした水着を見て唸った。

 

「似合わないかなぁ?」

「似合うだろうけど・・・これ、何人落ちるんやろ。兵器やん、もう」

「私をなんだと思ってるのか。そこんとこはっきりさせようか?うん?」

 

失礼なお茶子のほっぺをビヨンビヨンしてると、紅白饅頭が水着を手にしてきた。持ってきたそれは、パレオ系の奴とワンピース系のやつだった。二つとも可愛い系だ。

 

「それ、轟が選んだの?」

「いや、麗日に持たされた」

 

意外に思って聞いたらお茶子センスだった。

そうだよね、さっき唐草模様のパンツに固執してた奴にしては良いセンスだと思ったよ。

 

轟は近くにそれを置いて「決まったら呼んでくれ」と店を出ていった。理由はかっちゃん同様なんだと思う。

 

「色々持ってきたけど、やっぱりニコちゃんはビキニタイプのがええと思うよ?おっぱいあるし」

「だよねぇ。フリルとかないほうが良いかな?」

「私は欲しいところだけどねぇ」

 

お茶子もそこそこあるんだから、どんどん見せていけば良いのに。勿体ない。

 

「お茶子こっちのパンツにフリルついてる奴着よっか」

「やっぱり私も着るのか」

「見せっこする約束!」

「もう、分かっとるってば━━━」

 

 

◇◇◇

 

 

緑谷が水着を買い終えるの待つ為に店内から出ると、不良みたいに座る爆豪を見つけた。せっかくここまで一緒に来たのだ。バラバラに待つこともないかと思い、爆豪の隣で待つ事にする。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

何となく間違ったのは分かった。

何故ならさっきから、離れろと言わんばかりの嫌悪的な気配を感じる。空気を読むという事が、今なんとなく分かった。

 

このまま黙って隣にいるのはあれかと思い「爆豪」と声を掛けたら睨まれた。まぁ、それはいつもの事なので気にせず話し掛ける。

 

「さっきはありがとな」

「感謝される筋合いはねぇ」

「俺はセンスがないらしくてな。姉さんにも一人で服買いにいくなって言われてた」

「勝手にベラベラ喋んな、ボケ。ぶっ飛ばすぞ」

 

ぶっきら棒な言葉。

俺の事が嫌いなのが犇々伝わってくる。

俺はこいつの事そんなに嫌いじゃないんだが・・・。

 

掛ける言葉を探してるとさっきの二人の様子が思い浮かんだ。楽しそうに水着を選び合う、二人の姿が。

 

「いつもああなのか?」

「・・・ああ?」

 

少し不思議そうな顔をしたが、俺の言葉の意味に気づいたのか、爆豪の視線が一瞬緑谷がいる店を見た。

分かったのならと、俺は話を続ける。

 

「もっと早く、お前らと会いたかった」

「ふざけんな」

「そうしたら、俺もあいつの選んでやれたかもしんねぇからな」

 

爆豪と同じように緑谷と仲良く出来たらいい、とそういう意味でいったのだが、爆豪は見るからに怒り狂っていた。最初俺の言葉を聞いたら爆豪がきょとんとしていたので変な事を言ったのは自覚したが、ここまで怒らせる物だとは思わなかった。

 

「ふざけんなってめぇ!!誰が選ばせるか!!調子のんじゃねーぞ!!ごら!!!」

「?調子には乗ってないぞ。選んでねぇ。分からねぇからな」

「ズレてんだよ!!馬鹿!!普通━━━━」

「普通?」

 

爆豪から出たその言葉が気になった。

俺は自分がズレているのは何となく分かっている。それが緑谷と大きくズレている事も。

だから爆豪が語る普通に興味があったのだが、爆豪は顔を強くしかめた後その言葉を濁してしまった。

 

 

暫くお互い何も言わずにぼぅーとしてると、爆豪のスマホが鳴った。爆豪はスマホを見て、画面をタッチする。

すると聞き慣れた元気な声が響いてきた。

 

『着替えた!きてきて!』

「アホみてぇな事言ってんじゃねぇー」

 

爆豪は直ぐに切れたスマホをポケットに滑り込ませ店に戻る。口では文句を言っても、こういう所があるからこいつは面白い。

男女の買い物というものをいまいち分かってない俺はそういうものかと爆豪に付いて店内に戻った。そうしたらじろっと見られた。入った後になんだが、付いていったら駄目だったのかもしれない。

 

試着室のある場所を見れば、締め切られたカーテンから顔を出す緑谷を見つけた。

なにやら楽しそうに手招きしてる。

 

試着室の側までいくと緑谷は顔を引っ込ませ、自分でドラムロールしている。隣の試着室からも小さいドラムロールが聞こえる。麗日が緑谷に付き合わされてるのは分かった。なんか楽しそうだ。

 

「じゃじゃーん!どうだー!」

 

ばっと開けられた先に爆豪が選んでいた水着を着こなした緑谷がいた。どう言ったら良いか分からなかったけど、ただただ目が離せなかった。

 

緑谷と爆豪が何か会話してるのがうっすらと聞こえてくるがよく聞き取れない。緑谷の姿が目について、正直それどころじゃなかった。

 

どれくらい眺めていたのか。

気がついたら緑谷との間に割り込むように爆豪の顔が入ってきた。直ぐに分かった、怒っているのは。

 

「・・・どうした?」

「普段ボケてる癖に、こういう時だけマトモになってんじゃねぇぞ!!!てめぇ!!」

「・・・?」

「なんで分かんねぇって面してやがんだ!!喧嘩売ってんのか!!」

 

よく分からないまま爆豪に襟首を掴まれ揺らされる。

首がガクガクして痛い。クラクラもする。

けれど鬼の形相の爆豪を前にしながらも、俺の頭はさっきの事で一杯だった。変な感覚だ。こういうのは感じた事がない。ふわふわした感じだ。

 

「爆豪・・・」

「ああ!?んだ、ボケ!!」

「・・・この気持ちは、なんだろうな?」

「知るか!!死ね!!」

 

爆豪に揺らされながら、長いようで短い15年の記憶の中から、俺はそれに似合う言葉を探していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━いや、私も見よう!!着替え損やないか!」

「お茶子、超可愛い!」

「ありがとうニコちゃん!愛してる!ニコちゃんも可愛いよ!」

 



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世の中は不条理の塊。まったくもってクソです。例えば、良いですか?このUFOキャッチャー。腕の力が、ほら、ね?出口付近で極端に弱いでしょ?はい、これが不条理です。店員さん!アーム壊れてるよぉ!の巻き

ここまで頑張ってきたんだから、そろそろ撃滅のセカンドブリットが撃てるかと思ったけど、撃滅どころか衝撃すら撃てんかった。

まだ、まだか・・・(*´ー`*)

あ、今回シリアスさんが訪問してきます。


すっかり買うものも買って暇になった私達は、集合時間になるまで適当に時間潰しをしていた。まぁ、基本うぃんどーショッピングである。

 

お茶子もいたので洋服店を色々見て回り、気に入ったものがあれば着てみたり着せてみたり。お金に余裕がなかったので買うことはなかったけど、お茶子と楽しい時間を過ごせた。かっちゃん達もなんやかんやと言ってたけど、二人で色々見てるようだった。また友達が増えたのか、良かったねぇかっちゃん。

 

他にも小物店でアクセとかインテリア見たり、スポーツ店でトレーニングウェアとかウェイトリスト見たり、ヒーローのファンショップで関連グッズ見たり色々した。ファンショップにてお茶子が着込み卿のグッズを買うか10分以上頭を抱えて悩んでいたのは、見なかった事にしたけど・・・。

 

さらに時間は進み、そろそろ集合場所に向かわなければならない時間になったのだが、私達はショッピングモールに存在する『そこ』で熱くたぎっていた。

 

 

 

 

「熱くなれよぉぉぉぉぉ!!!」

 

乙女力全開で気合いをいれて叫ぶ。

私の目の前で頼りない腕に支えられた目付きの悪いにゃんこがフラフラと揺れる。出口まで後少し、というところで腕からにゃんこが滑り落ち、出口付近にある壁にバウンドして元ある場所へと帰っていった。

 

空の腕が出口の上で開閉する。

まるで私を嘲笑うかのように。

 

ユーフォーキャッチャーの分際でっ!!

 

私は静かに拳を握り締め、構えた。

機械に舐められて、生きていけるものか。

 

「ニコちゃん108の必殺技っ!!極楽浄土直行拳━━━った!?」

 

必殺技を放とうとしたら頭をスパンと叩かれた。

凄く痛かった。知能指数が3は減った。

痛い所を擦りながら振り返ると、こちらを睨むかっちゃんの姿が視界に入る。

 

「馬鹿が!!機械に当たんな!!」

「だってこいつが~!!」

 

指差した方へ視線を送ると、私を馬鹿にするように『残念、また来てね』と電子的な声で言われた。ムカついた。その機器はクレーンに電光掲示板が貼ってあって絵文字みたいな顔が浮かんでいるのだが、その顔がまたむかつくポイントだった。

お金を入れるまえはニコニコしていて、動かし始めるといかにも頑張るぞって顔をする。そこまでは良い。このクレーン野郎、物を落とした時驚くような顔をするのだが、それがメチャクチャ腹立つ顔してるのだ。(´°c_,°`)って顔だ、(´°c_,°`)って顔してくるのだ。お前が落としたんじゃろがい!!なんだ、その顔は!!

 

「あ、まだやっとる」

 

声に気づいて視線を向けると、お茶子と紅白饅頭が戻ってきた所だった。

 

「はい、ニコちゃんミルクティー」

「ありがと」

「飲みながらやったらあかんよ」

 

そのまま飲みながら続けようと思ってたら叱られてしまった。先に釘を刺されるようになるとは。やりおるわ、お茶子め。

 

怒られるのは嫌なので、大人しく近くにあった備え付けのベンチに座り気力と英気を養う。

私の隣にお茶子が座り買ってきたお茶に口をつけた。

 

「━━はぁ。やっぱりお茶やね。日本人の心が入っとる」

「そうなの?じゃ紅茶は?」

「・・・イギリス人の心が入っとるやないの?知らんけど」

「烏龍茶は?」

「そら、中国人の心や」

 

なるほど。

 

「その理論でいくとアメリカ人とかどうすんの?」

「コーラやな!」

 

お茶繋がり消し飛ばしおったか。

でもしっくりくるな。分かる。

 

「何馬鹿な会話してんだてめぇらは。恥ずかしいから止めろや」

 

お茶子と楽しく話してたらかっちゃんが割って入ってきた。相変わらずのツンデレ。仲間に入りたいなら入りたいって言えば良いのに。

 

「まぁ、いいや。ほら、かっちゃんも何時までも立ってないで座りなよ。ほらほら」

 

ポンポンと隣を叩くとかっちゃんはそっぽ向いた。

 

「っせぇ。それ飲んだら行くからな。さっさと飲めや」

「はいはい」

 

買ってきて貰ったそれを飲んでいると、ふと紅白饅頭がいない事に気づいた。さっきまでお茶子と一緒にいたのに、その姿が何処にもない。かっちゃんの手に同じように飲み物があるから持ってきたのは持ってきたのだろうけど・・・何処行った?

 

「お茶子、轟何処行ったか知ってる?」

「轟くん?あれ、さっきまで一緒におったのに・・・あ、おったよ。ほら」

 

お茶子に教えられてそこを見れば、私がやっていたユーフォーキャッチャーの前に佇む轟の姿があった。

まさか、やるきか?

 

じーとお茶子と様子を窺って見る。

動かない。全然動かない。

やろうとしてるのは何となく伝わってくるんだけど、動きが一切ない・・・そもそも生きてるよね?

 

「やらんのかな?」

「やるんじゃないの?」

「でもピクリともせんよ」

「せやな」

 

通り掛かる人達がユーフォーキャッチャーの前で動かない紅白饅頭を不審そうに見てくる。フォローしようもない程おかしいので仕方ないけど、あんまり見ないであげて欲しい。

 

あ、動いた。

財布を手にして・・・千円を━━━入らないよ!

そんなの入れる所ないから!

 

紅白饅頭は不思議そうに首を傾げ、千円の入れ口を探し始めた。その機器は電子マネーでも出来るタイプ。外付けされた機器に対して千円をどうにか入れようとしてる。考えてっ、入らないよ。そこには。

 

「近くに両替機あるのに・・・気づかんもんやろか」

「事実気づかないからね」

 

少しして千円が使えない事に気づいた様子の紅白饅頭。次にその機器を見つめ始めた。そして財布からカードを取り出す。

 

お茶子とおおっ!と感嘆の声を出したのだが、直ぐに落胆の声に変わった。

 

取り出したのはクレジットカードだった。

財布からチラリと見える電子マネーカードが泣いているような気がする。

 

勿論対応してないカードに反応する訳もなく、機器に読み込まれないその様子に紅白饅頭は首を傾げる。遂にはカードを使うのを諦めて財布に戻した。またチラリと見えた電子マネーカードが泣いてるような気がする。

 

「どうして気づかんの?あれって使えるマネーカードのマークとか描いてあるやろ?」

「なんでだろね」

 

そんな紅白饅頭の悲しい背中を眺めてると、かっちゃんが近づいていってるのが見えた。

何をするのかと思えばぶっきら棒な動きだったけど両替機を指差したり、コイン入れる所だったりボタンを指差したりしてる。終いには自分でやってみせた。

 

「・・・なんやろ、不思議な光景や。さっきの水着の件が無かったら、驚いたんやろけど」

「ね?面倒見良いでしょ?」

「表情が鬼みたいやなかったら、素直に頷けんのになぁ。私は嫌や。あの顔でガツガツ教えられるの」

 

まぁ、この楽しげな雰囲気の中で、ピッタンピッタン教え込まれるのはアレかも知れないけど・・・。

 

「しっかし、またどういう風の吹き回しなんだろね?轟がユーフォーキャッチャーとか・・・プッ。似合わないなぁ、あはは」

「まぁ、轟くんも色々あるんやろ」

 

スマホを開いて時間を確認すると、集合場所に行く時間が迫っていた。

 

「さってと、ちょっとお花摘みにいってきまーす」

「あ、それなら私もいくわ」

 

それならとかっちゃん達に荷物を預け、お茶子と一緒にトイレへと向かった。

思ったより混んでなくてそう並ばずに入れた。

 

色々スッキリさせて外でお茶子を待った。

私より遅く入ったからもうちょっと掛かりそう。

のんびり外の風景を眺め時間を潰してると、それが目に入った。

 

 

「━━━━━あ」

 

 

視界に入ったそれに目がいった。

人混みの中に紛れるように進む、それが。

 

私はスマホを開きながらそこへと向かった。

ここに相応しくない、その背中を追って。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『信念なき殺意に、何の意義がある』

 

ヒーロー殺しの言葉を思い出しながら、俺はそこを進んだ。ヒーロー殺しの信念なんて欠片もない、バカ面を下げたくだらない人間の群れの中を。

 

御大層な事並べていた。

社会の為だと、正しさの為だと。

信念ゆえに殺すのだと。

 

で、その結果がこれか?

 

見てみろよヒーロー殺し。

大多数の人間は対岸の火事と━━いや、そうとすら思っちゃいないぞ。どこで誰が、どういう思いで人を殺そうがこいつらはヘラヘラ笑ってる。

 

誰もお前の事なんざ、知ったこっちゃないってよ。

笑えるよ、本当に。

 

「うっわ、これ良いのかよ・・・!」

「ヒーロー殺しだ!ぜってー問題になるっしょコレ」

 

間の抜けた声に視線を向ければ、ヒーロー殺しのコスチュームを模した商品を手に取る餓鬼共の姿が目に入った。マスクを被り写真を撮っている。

 

あの日から、こういう物が目につくようになった。

ヒーロー殺しの信念も欠片もないそこで、あいつの名前が、姿が残り続けてる。俺達ではなくて、あいつだけが。

 

訪ねてきたあいつらもそうだ。

どちらも口にしたのはヒーロー殺し。

俺達なんざ、だしでしかない。

 

なんでだ。

なんでお前にはシンパが生まれる。

何なんだ?

 

俺だって壊した。

壊しまくってやった。

先生に教えられて、壊しまくってやった。

お前より、俺の方がずっと経験を積んでる。

なのに、どうして俺じゃない。

 

同じだろう。

俺も、お前も。

結局、気に入らないものを壊していただけだろう?

 

「先生ぇ、俺には何が足らない」

 

何が。

 

「違う━━━」

 

 

 

 

ピタッ、と背中に冷たい物が当たった。

その硬さから金属である事が分かる。

誰に襲われているのか分からないが恨みを買う事はしてる。その内の誰かなのだろうということは直ぐに察しがついた。

 

「━━━━はぁ、何処の誰だか」

 

「何処の誰だかなんて連れないなぁ。私とあんたの仲じゃん━━━━顔面のアクセ忘れてるんじゃない?」

 

その話し方、声で。

俺はそこにいるのが誰か察した。

 

「ヒーロー目指してんじゃないの、お前。そんな物騒な物持ってて良いわけ?緑谷双虎」

 

近くの店のガラスを見れば、反射する風景の中にUSJで見た、体育祭で見た、先生に与えられた写真で見た、そいつの姿があった。

 

「ハロハロ?覚えてくれてたんだ。超迷惑。忘れてくんない?」

 

そう言って笑うそいつの目は、俺ですら背筋が寒くなる程に欠片も笑っていなかった。



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そんな目で見てくるなよぉ、意地悪したくなるぅ。あれだ、物凄く陰湿な悪戯したくなるだろうがぁ。抹茶アイスの抹茶部分を練りわさびと入れ換えるとか、なんかそういう感じの事がしたくなるぅ。やっていい?の巻き

眠たい、疲れた。
明日から、頑張る・・・(+.+)(-.-)(__)..zzZZ


「そのまま真っ直ぐ。あ、余所見はしないようにね?」

 

緑谷双虎に誘導されるまま、俺は人混みを歩いた。

間の抜けたような声に従うのは我慢ならないが、状況が状況だ。余計な事は言わず従う。

 

ただ、それでも馬鹿正直に従うつもりはない。

歩きながら後ろのそいつにバレないよう、出来るうる限りの行動を行う。

と言っても監視された状況。下手には動けない。

 

出来るのは精々状況を把握する為に、情報を集める事くらいだ。

 

手始めに背中に突きつけられた物を道行く所にあるガラスや鏡を使い確認しようとした━━━が、どうも巧みに隠していて見えない。形状や持ち方。対処する為にも一つでも情報が多い方がいいのだが、中々に嫌らしい事をする。

 

当たってる感触からナイフのような鋭さがあるもので無いことは分かっている。それならば安全ではないかと言いたいが、それが言えないのが今の社会だ。手に入れようと思えば、大抵の物を手に入れる事は出来る。スタンガン程度であれば良いが、もっと強力な武器も存在する。やはり見るまでは油断出来ない。

 

「どこに連れてくつもりだよ」

 

ある程度周囲の状況と、後ろについた緑谷双虎の様子を把握した俺は声をかけた。言葉の揺さぶりに掛かるとは思えないが。しかし、駄目元ではあったが思いの他効いたのか、僅かに背中に当てられたそれが揺れる。

 

「答える必要ある?」

「・・・そりゃあな。俺も行き先は気になる」

 

俺も馬鹿じゃない。

少しずつ人混みの少ない場所に向かっているのは気づいてる。ただそれが、背中に突きつけたそれを使う為なのか、こいつの仲間がてぐすね引いて待っている場所に行く為なのか判断がつかない。

だが、このまま言いなりに動く事は悪手でしかない。

 

直接的な言葉を避け、俺は辺りを目だけで見渡しながら言葉を掛ける。

 

「なぁ、妙だと思わないか」

 

背中に当てられた揺れを感じながら歩く。

返事が返ってこないが、そのまま続けた。

 

「どいつもこいつも、ヘラヘラヘラヘラ。おかしくないか?いつ誰が個性を振りかざしてもおかしくないのに、何でこいつら笑って群れてる?」

「法だってあるし、モラルもあるからでしょ」

 

返事が返ってきた。

 

「ああ、そうだな。個々人のモラルが前提だ。けどな、それってさ『するわけねぇ』と思い込んでるだけだろ。実際どうだよ。皆が守るのか?そんな訳ねぇよな?だってのに、なんだってこいつら、揃いも揃ってバカ面下げていられるんだろうな?笑えてこねぇ?」

「全然。そんな事で笑えるなんて幸せだね?どんな風に景色見えてるの?全部ピンクいろ?それこそ笑える」

 

言葉とは裏腹に、押し付けるそれが揺れる。

 

俺はその揺れを感じながら、勘違いしていた可能性に思い至る。さっきこいつの目を見た時、俺はこちら側に近い奴の者だと思った。・・・けど、違う。

こちら側に足を踏み込んでいる割りには、あまりにもやり方が温い。

 

まず脅すなんて事はしない。

余程の理由がなければ、最初の一撃を優先する。

急所にさえ当たらなければ殺さずに動きを制限させられる。これを逃す手はない。目立つ事を嫌った。ない理由ではないが、違和感を感じる。

なら、どうして。

 

「なぁ、なんで声をかけた」

「はぁ?」

「不意打ちかますチャンスを棒に振って、なにがしたかったのかって話だ」

「・・・ああ、そういう話?私はあんたと違って犯罪者じゃないもん。出来れば穏便に済ませたい派なの。━━てか、私がそのつもりで近づけば気づいたでしょ」

 

気づいたかも知れないな。

けど、それよりだ。

穏便にというのは妙に思った。

 

それなら顔を出さずに尾行でも何でもすればいい。安全な所から通報すれば、こうして態々自らの身を危険に晒すようなマネをする必要はない。

殊勝な考えで犯罪者を野放しに出来なかったとか、そういう馬鹿みたいな理由でそうしたのなら納得は出来なくても理解は出来る。不合理も人の性だ。

けど、それとも違う。

 

そうする理由。

深く考え過ぎるな。

こいつは複雑に見えるがシンプルだ。

 

こいつは・・・そうだ。

 

初めて会った時からそうだった。

こいつは軽口をよく叩く。

けど、その目はいつも笑ってない。USJの時もそうだ。

 

あれは怒りや冷酷さだったりから来るものだと思っていたが━━━少し違うな。

こいつの場合は、そう。

 

「━━━そんなに俺の事、怖いのか」

「・・・は?なに?冗談?笑えないけど?馬鹿なの?死ぬの?手アクセつけてないと馬鹿4割増しなの?」

 

軽い口調。挑発するような。

けど、その手は正直だ。

 

「少しだけ、お前を好きになれる気がするよ。健気だな、ほんと。何がお前にそうさせるんだ。なぁ」

「さっきから━━━」

「なぁ、お前は何をぶっ壊してやったら、俺の事ぶっ殺す気になるんだ?偽善者」

 

瞬間、雰囲気が変わった。

初めから感じていたのは気のせいではなかった。

どうしてこうもチグハグなのかは知らないが・・・先生が面白いと言った理由が分かった。

 

そっと視線を後ろに向ければ、さっき見せた目が俺を見つめていた。

 

「そう怖い顔するなよ━━━ぶっ壊したくなるだろ」

 

俺は前に視線を戻しながら辺りを見る。

やはりだ、さっきより人が少なくなってきてる。

それも不自然なまでに。

 

歩むペースを落とすと背中に強く何かを当てられた。

けれど進む必要はない。足を止める。

当てられてるそれは、恐らく殺傷能力が低い物。

例えば、鍵。ペン。アクセサリー。

そういう類い。

 

こいつは俺を殺すつもりはない。

少なくとも今は。

 

「なぁ、俺はさ、まぁ、大体何でも気に入らないんだけどさ。今一番腹が立つのはヒーロー殺しさ。ニュースとかでもなんでも良いけどさ、知ってるよな?」

 

言葉は返ってこない。

けど、背中に触れるそれの揺れだけで十分。

 

「ムカツクんだよ、あいつ。俺と同じ事やってるのに、まるでダークヒーロー気取りでさ。社会の為に?は?何言ってんの?気に入らない奴、ぶっ殺しただけじゃん」

 

人の気配が遠い。

攻撃射程内には、もう俺の後ろにいる緑谷双虎のみ。

 

「なのにさ、誰も俺を見ないんだよ。同じように人をぶっ殺したヒーロー殺しが持て囃されて、なんで俺は名前すらあがらない。やってる事は同じだろう。何が違う」

 

━━━先生と。

 

「もっと殺せば良いのか?なら誰を壊せば、誰を殺せば、何を消せば良い?教えてくれよ」

 

どうしたら、俺を見る。

 

「ムカツクんだよなぁ。なにもかもさ。どいつもこいつも。ヘラヘラ、ヘラヘラ、ヘラヘラとさ」

 

まるで、俺がいないみたいじゃないか。

まるで、俺に何も起きなかったみたいじゃないか。

まるで、俺が見たものが嘘みたいじゃないか。

 

フザケルナ。

 

フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ━━━!!!!!

 

何一つ。

何一つも変わっちゃいない。

俺の手元には何一つ残ってないんだから。

 

あの赤く染まった手も。

ただ一つ残った手も。

差し伸べられた手も。

 

なにも、何一つも。

俺のそれは変わってない。

 

「誰だよ、誰がこんなクソみたいな世界にしたのは」

 

俺を否定するな。

 

「誰が、あのクソ共にあんな顔させる」

 

俺はここにいる。

 

「ヘラヘラ、ヘラヘラ笑うなよ」

 

俺を忘れるな。

 

 

 

 

「なぁ、教えてくれよ、緑谷双虎。誰が━━━━」

 

 

 

 

視線を向けた先、白い靴底が見えた。

個性で塵に変えてやるつもりだったが腕があがらない。

目の前にいる女の個性である事は直ぐに理解し、首だけを捻って白の一閃をかわす。

 

隙だらけになったそいつのもう一つの軸足を狙い、全体重をかけた足払いを放つ。

当たる寸前、その軸足が浮いた。

 

かわされた。

その直後腕への負担が消えた。

個性が解除されたのだろう。

 

腕から視線をあげたが、そこに身構える緑谷双虎の姿はなかった。見えたのは俺に背を向けて走る、情けない緑谷双虎の姿。

 

直ぐに追い掛けようとしたが、足が動かなかった。

視線を落とせば黒い塊が足裏にへばりついている。

 

「チクショー!!緑谷!!お前ぇ!これでオイラがしょっぴかれたら、恨むからなぁ!!おっぱいの一つも触らせろぉぉぉ!!」

 

叫び声に視線を向ければ、A組の資料に載っていた捕縛系の個性を持つチンチクリンの姿が建物の物陰に見えた。

 

「手マン!!何教えて貰いたいか知らないけど、一つだけ教えといてあげる!!━━━━って誰が教えるか!!バーカバーカ!ぶっ壊したくなるだろうが?中二も大概にしろー!!笑うの耐える私の身にもなれよぉ!!わはは!頭沸いてんじゃないのプギャーーーー!!!」

 

そう言って緑谷双虎が走り去った先に見たことのある男がいた。雄英体育祭の一年の部優勝者、爆豪勝己。

それだけじゃない。辺りをよくよく見返してみれば、見た事ある顔触れがそこにいた。エンデヴァーの息子の姿もある。

 

爆発音が鳴り、俺はそこへと視線を向けた。

 

「生憎、個性の無断使用は禁じられてっからよ。てめぇを直接ぶっ飛ばしてやれねぇが、それでも出来る事はあんだよ」

「そうだ!そうだ!スデゴロとかな!」

「黙ってろ馬鹿女!!」

 

遠くからサイレンの音が聞こえる。

通報されていたという事だろう。

やけに喋るとは思っていたが時間潰しか。

 

どうするか考えていると、爆豪が火花を散らしながら凄んできた。無断使用だとしても、俺を止める為なら個性を使うとアピールするように。

そしてそれは、恐らく本気だろう。

 

「直、警察とヒーローが駆けつけんぞ。てめぇらが一番ビビってる、オールマイトも含めてなァ!!」

 

気に入らない名前だ。

けれど、良いこと聞いた。

流石に単独で相手出来る奴じゃない。

 

俺は手を地面につけ個性を発動した。

音を立てて地面が崩れていく。

散歩する場所の地形くらいは把握している。

ここからなら、下水道に降りれる。

 

驚く餓鬼共。何人か捕縛しようと動いたが、結局誰も手を出してくる者はいなかった。元々、そのつもりだったのかも知れない。

その中でただ一人驚く事もせず油断なく俺を見つめる緑谷双虎を見ながら、俺は地下の闇へと体を沈めた。

 

「━━━また会おう、緑谷双虎」

 

一瞬で霧散したあの気配。

俺は演技とは思っていない。

 

「今度は邪魔の入らない所でゆっくり話をしよう。お互い気味の悪い笑顔を外して━━━━」

 

闇へと沈みきる寸前、緑谷双虎の瞳は確かにあの時と同じ色に輝いていた。思い出すと笑ってしまうくらい背筋が寒くなった、あの時の同じようなその色に。

 

 



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褒めてくれてええんやで?ご飯奢ってくれたり、ほら、遊びに連れてってくれもええんやで?━━うん、その手を降ろそうか。なんでそんな怖い顔してるの?怒らないでよ!褒めてよ!頑張ったでしょ!いやぁー!の巻き

これでようやく期末試験編おわりやで。
ちょっも終わりまでシリアスですまんな( *・ω・)ノ

次回から漸く短い夏休み編開幕。
終業式だったりとか、まだちょいやらないかん事あるから、いきなり夏休みにはならんけども。
そんで、映画の都合で夏休み、本当に短いけども。

実際何日あんのかなぁ。
描写的に一週間・・・あるかなぁ。ない気がする。
いや、ある事にしよう。そうしよう。




狭い個室の中。

白い壁に覆われたそこで、私は安っぽい椅子に座らされていた。テーブルを挟んだ向こう側にはネクタイを締めた男の人が一人。

 

その男の人は資料を眺めながらウンウンと頷く。

 

「・・・言いたい事は色々あるけど、取り敢えずそうだね。ここは大人としてこう言っておこう。━━━なんて無茶をするんだ大馬鹿者!!ってね」

 

そういって笑ったのはガチムチの自称お友達である塚内くん。通称ツカッチー。警察のオジサンだ。

 

そうここはお警察様のお城、警察署である。

今回の件で最も手マンの情報を知る私は、警察さん家でお話する事になってしまったのだ。他の皆はその場で帰された。かっちゃんも付いてくると食い下がったけど、ツカッチーはそれを断り帰していた。今ごろお家にいることだろう。

 

そして今私がいるのはドラマの刑事さんが犯人を追い詰める取調室。窓に格子とかついてたり、鏡があったり・・・しない。電気スタンドとか、湯飲みとか、カツ丼とかあったり・・・しない。

ちょっとワクワクした私の気持ちを返して欲しい。

 

「・・・ツカッチー」

「ツカッチー・・・初めて言われたよ。君、あんまり反省してないね?それでどうしたのかな?」

「自腹きるんで、カツ丼をお願いします」

「お腹減ったのかい?」

 

ツカッチーは不思議そうに首を傾げた後、「ああ」と合点がいったという顔をした。

 

「ここ取調室だもんね?ごめんね、気がつかなかった。と言うより、別に取り調べしてる訳じゃないんだから、普通に言ってくれれば軽食の一つも出したのに」

「いや、別にお腹減ってません。そういう事ならお菓子が良いです」

「・・・ああ、取り調べ受けたかったのか。ドラマみたいな。もしかして、電気スタンドで顔とか照らされたかった?」

「わ、私はやってない!!ってやりたかったです」

 

私がそう言うとツカッチーは大爆笑してきた。

なんて失礼なやつだ。乙女の純情を笑い者にするとは。

許さんぜよ。

 

「━━━はぁーまったく。君は仕方ないな。それにしてもよく考えた物だ。立場的に誉める訳にはいかないけど、君達が迅速に動いてくれたから特に被害もなく、その上多くの情報が集まった。彼の素顔と個性について詳しい映像は今後の捜査参考になるよ」

「でしょ?誉めて誉めて。奢ってくれてもいいよ?」

「調子に乗らない。・・・いや、でもまぁ。彼と接触する前。感知系個性を持つお友達に協力をあおいで事前に単独である事を調べたり、警備と連繋してお客さんの誘導したり。よくまぁやるよ。君がヒーロー資格を持っていれば手放しに感謝していたよ」

 

手マンを見掛けた時、本当は直ぐ向かおうと思ったんだけど、かっちゃんの姿を思い出した私は直ぐに連絡した。かっちゃんとの相談の結果、今回の計画が練られた。私が接触する前、阿修羅さんや耳郎ちゃんといった感知系の個性や、動物を操り探索できるお口チャックの個性で周辺を捜査。他に不審な行動をとっている者がいないか、悪巧みをしていないか、手マンが単独なのかを調べた。結果一人だったので次の作戦に。

 

当初は遠目からそのまま監視大作戦だけだったのだけど、手マンに勘づかれないように行っていた客の誘導が上手くいかず、警察なりヒーローが到着した時、手マンが人質とったりとかして被害が出そうだったので、予備作戦であった客払いを済ませた場所に力業で移動させる大作戦を決行するに至った。

 

かっちゃんからせめて二人でと言われたけど、戦力差がありすぎると手マンがリスク関係なしに暴れそうだったので、あえて一人で誘導した。表面上は。実は近くにマッパ葉隠が不測の事態に備えて待機してたりしてた。

そんな私達の作戦は思った通り手マンに深読みさせた。お陰で私の誘導に面白いくらいに手マンが動く動く。

正直笑いが止まらなかったなり。

 

移動中、手マンの意識はほぼ私に釘づけだったので、こっそり通りに忍ばせておいた盗撮隊には気づかず、顔写真だったり、声だったり、映像だったりを撮り放題祭り。もうあれだ、お天道様の下で歩けないな。

 

最終的に逃げられたけど、かなりの情報は得られたと思う。

 

「・・・これはね、あくまで個人としての言葉だと思ってくれ。協力に感謝するよ緑谷さん。でもね、危ないマネはよしてくれ。確かに怪我人はでなかったけど、君が飛び込んでは意味がない。君を心配する者達の為にも、避けられる危険は避けなさい。まだ君は誰かを助ける義務のない一般人だ。ヒーローの卵であったとしてもね」

 

それはもう分かってる。

かっちゃんや母様に教えられた。

素直に頭を下げると、ツカッチーに頭を撫でられた。

 

「さ、そろそろ迎えがくる時間だ。長々と話をさせて済まなかったね。帰ろうか」

 

部屋を出ると手マンがいなくなった後、直ぐに駆けつけたガチムチがそこにいた。

すっかりヒロョガリモードでベンチに腰掛けていたガチムチは私の顔を見ると立ち上がりこちらに向かってきた。

 

「ガチムチー」

「緑谷少女!!」

 

聞いたことのないガチムチの怒鳴り声に心臓がビックってした。びっくりした。

 

「君はまったく!どうして私の到着を待てなかった!!そんなに信用されないか私は!!」

「別にそういう訳じゃないけど・・・」

「ならば待ちなさい!!態々危険に飛び込むようなマネをして!どれだけ私の肝が冷えたか!!」

 

そういうガチムチの目は母様と同じだった。

なんだか物凄く悪い事した気分になる。

顔を合わせるのがちょっと気まずくなって顔を伏せると、ガチムチの手があがったのを感じた。チョップ、もしくは拳骨でも来るかと思って身構えたけど、いつまでたっても衝撃がこない。

ちょっとだけ顔をあげて様子を見ようかとしたら、ポンと頭に手を置かれた。

 

「━━━けどね、一人で頑張ろうとせず、私や友達に頼ってくれたのは嬉しかった。危ない事をしたのは許せないが、いち教師として君の成長は喜ばしく思うよ。本当に無事で良かった」

 

ガチムチはそう言って頭を撫でてきた。

ツカッチーといいガチムチといい何なのか。

女子の頭に触れるのはそれだけで大罪だぞ。

 

文句の一つも言いたかったけど、撫でてくるその手が優しくて止めろと言うのに躊躇を覚えた。それに心配させたのは分かってる。

 

だからこそばゆい物を感じながらガチムチの気が済むまで撫でさせてあげる事にした。

後でこの撫で撫で分は奢って貰おうと思う。

 

 

それから少して、母様が爆豪家の皆も引き連れてやってきた。かっちゃんパパの車で来たんだろう。てか、かっちゃんもいた。

母様は警察職員に案内され私の前までやってくると、ボディへ一発。加えてアイアンクローで頭を潰しに掛かってきた。愛情たっぷりに包容でもしてくるのかと思っていただけに、油断していた私は全攻撃クリティカルヒットである。

 

警察職員が止めに入ってくれたお陰でコンボは繋がらなかったけど、危うくダウン取られる所まで追い詰められた。こんなピンチはいつ以来だっか・・・怖かった。

 

何とか落ち着きを取り戻した母様に猫掴みされた私は、ツカッチーとガチムチにさよならバイバイしその場を後にした。帰り道、母様だけではなく爆豪家みんなにやんわり怒られたのはちょっと予想外だった。誉めてくれると思ってたかっちゃんパパにさえ、「駄目だよ?」と怒られたのは衝撃でちゃんと謝っておいた。

 

因みに隣の席に座るかっちゃんは何も言ってこない。

珍しい事にただ黙って外を眺めているだけ。

いつもなら何か言ってくるのに、今日はなにも言ってこない━━━━けど。

 

視線を落とした先。

私の手に重ねるようかっちゃんの手がある。

重ねられた部分が温い。それはなんか心地よくて、凄く安心出来た。気のせいかも知れないけど、かっちゃんの気持ちが分かるような気もした。

 

そっと、かっちゃんの肩に頭を預ける。

 

「心配かけてごめんね。・・・でも、信じてくれてありがと」

「っせぇ。たまたま上手くいったくらいで調子のんな。次はやらねぇぞ」

 

少し疲れた私はそのままかっちゃんの肩を借りて眠った。

昼間に感じた、嫌な気持ちを忘れて。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

警察とヒーローの連中を振り切って黒霧のバーに帰ると、テレビを眺めていた黒霧が俺を見て驚くような素振りを見せた。

 

「死柄木弔!!心配しましたよ、問題はありませんでしたか?」

「だからこうしてここにいるんだろ。つけられてない。そんなヘマするかよ・・・」

 

カウンター前のいつもの席に座り、飲み物を一つ頼む。

黒霧は困惑を隠せないままコップをテーブルに置いた。

 

「テレビは貴方の事で持ちきりです。素顔について報道されてませんが・・・」

「時間の問題だな。あの女が手抜かりする筈もない。多分バレてるだろ。まぁ、別にいい。外に出ることなんて殆どないしな」

 

注がれたそれを飲み干し、カウンターに肘をついた。

 

「それより、この間のあいつらに連絡しろ。使ってやる」

「それは、本当ですか?」

「嘘つく理由なんてないだろ」

 

そう俺が言うと黒霧はブローカーへと連絡を取り始めた。俺はその様子からニュースへと視線を向ける。

 

『ヴィラン連合』

 

画面に映ったその文字を眺めながら、俺は何をするべきか考えた。これから何をどうする為に、何をしなくちゃいけないのか。そういう事だ。

 

連絡を終えた黒霧は俺の前に酒とツマミのつもりかナッツが盛られた皿をおいた。

俺はあまりアルコールが好きではない。

先生に教えられ嗜めない事もないけど、どうも好きになれなかった。

 

「なんのつもりだよ」

「あまりアルコールがお好きでない事は承知しておりますが、景気づけというものです」

「景気づけね・・・」

 

グラスを手に取り口をつけた。

甘ったるさと独特の辛味が喉を焼く。

飲めたものではない。

 

「死柄木弔。お顔を見れば分かります。何かお決まりになったのでしょう」

 

同じ色の酒が入ったグラスを手にした黒霧が、俺に興味深そうな視線をぶつけてくる。むかつく視線。思わずぶっ殺したくなるが、その気持ちは心の底へと沈めておいた。利用するべきだ。こいつも、そしてあのムカつくヒーロー殺しも。

 

「オールマイトを━━━━」

「違う」

 

否定の言葉に黒霧が固まる。

恐らく俺がオールマイトを殺す算段でもつけたのだと思ったのだろう。だが、それは違う。

 

「では何を・・・」

「オールマイトは殺す。それは変わらない。けど、それがゴールじゃない」

 

ようやく分かったのだ。

俺が本当にやらなくちゃいけない事を。

 

「俺が壊さないといけないのは、この社会に蔓延る安穏とした空気。平和の象徴に支えられた、腐ったこの社会制度そのものだ」

 

オールマイトは殺す。

他のヒーローも殺す。

邪魔する奴は、全員殺す。

 

安穏と笑うあいつらがその表情を失うまで、支えになる全てをこの手で壊す。そして知らしめる。ヒーローという存在の脆弱さ。いかに頼りない存在が、お前達の支えであったのかを。

 

そして俺を忘れようとしていた社会に、俺を刻み付ける。

先生のように。

 

「黒霧、人を集めろ。有象無象はいらない。個性も頭の中もとびきりの奴だけでいい」

「━━━はい。承知致しました、死柄木弔」

 

景気づけにもう一度グラスに口をつけた。

やはり口に合わない。

 

「黒霧、水」

「そこはそのままでないと格好がつきませんよ」

「格好をつける必要はないだろ。結果だけが全てだ。泥臭かろうが、恥辱にまみれてようが関係ない。最後そこに、バカ面してた連中の悲嘆にくれる顔があればいい」

 

俺がそう言うと黒霧は冷蔵庫から水を取り出した。

何も言わず俺のグラスへとそれを注ぎ入れる。

注がれたそれらはついには溢れ、テーブルを、床を濡らしていった。

 

「この一杯のように、変えていきましょう。我々の手で。貴方が望む世界へと」

 

アルコールも碌に残っていないそれを手に飲み干した。

さっきまであった甘ったるさも辛さもない。

面白味もない一杯。

 

だがそれは俺がねじまげたが故の結果。

 

「楽しみだな。何が残るだろうな。俺が歩んだ先、何が残るんだろうなぁ・・・くくく、くははは!!なぁ、オールマイト!ヒーロー殺し!」

 

可哀想な連中を思い、俺は笑った。

気が済むまで、いつまでも。

いつまでも。

 



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代償を支払う時がきたようだな。覚悟せよ、貴様が思うより高くつくぞ!さぁ、悔い改め、たこ焼きを!8個入りのたこ焼きを奢りなさい!掛けるソースを変えて、二日に渡って奢るのです!奢るのですぅ!の巻き

なんて回だ!

書き終わった時、純粋にそう思った。
疲れてんな、わし(´・ω・`)



アイドルよりもアイドルな美しく気高い私は、雄英高校最高の美貌の持ち主、緑谷双虎15歳。高嶺の花と呼ばれ慣れた言わずと知れたスーパーアイドルだ。勿論処女である。聖なる存在だ。魔とか祓える。

 

彼氏いない歴=年齢な清く正しい私は今日も今日とてかっちゃんと学校に登校した━━━━━までは良かったんだけど、それからがよろしく無かった。学校につくなり包帯先生に捕まり昨日の事についてこってり絞られた。あ、勿論かっちゃんもだ。二人でそれはもう、こってりと。もう絞れないんじゃないかなぁっと思うくらい絞られた。もうあれだ、だしとか取れそう。

 

ツカッチーとガチムチから言われたような事に加えて、作戦の不備や問題点についてもネチネチネチネチネチネチ祭り。止めて、私のライフはもうゼロよ!仕方ないじゃん!私だってそこら辺は分かってたよ!でも、時間とかも無かったし、見失うといけない中で頑張ってやったんだよぉ!褒めてよぉ!包帯先生のばかぁ!

 

・・・なんて、言ったら説教がエクセレントなレベルに達しそうなので甘んじて受ける。大人しく聞いてるのが一番の近道。しかし長いな、いつもの三倍は長いな。あれ、おかしいな。ちょっと涙が出てきた。包帯先生、今日はいつにもまして説教がエグいっす。私、ガチで泣いちゃうっす。

 

よくかっちゃん平気だなや。

メンタル化物か。

 

最終的に涙目でごめんなさいすると、「もうするな」と溜息を吐いた包帯先生は説教を止めてくれた。

後、教室への帰り際一口サイズのチョコ貰えた。

一人一個ずつ。しかも割と高級なやつだ。

 

多分同僚の先生に貰ったやつで、食べきれなくてくれたとか、そんなだとは思う。包帯先生はあんまりこういうの食べてる姿みないから、自分で買ったとは思えないし。本命としては心の友ミッドナイト先生かな?

 

しかし、こんなんで私の機嫌が直ると思ったら大間違いだぞと言いたい。まったく。

 

━━━えへへ、んまい。

 

かっちゃんはチョコとかあんまり好きじゃない。そうなると当然かっちゃんが貰った分はいらないやつだ。つまりは私の物。

かっちゃんが貰った分のチョコも食べながらホクホクした気分で教室に帰ると、昨日警察さんのお城にいった事について皆に聞かれた。聞かれた事と処分について大した事ではなかった事を知ると、皆の興味は警察署の内部に向けられた。

 

当然取り調べ室の話も出てくる。

皆ドラマのイメージで鏡の事とか格子が嵌められた窓とか、顔を照らす電気スタンドとか、話してる途中に出てくるお茶とか、カツ丼とかに興味深々である。

 

分かった、分かったから押さないの。教えるから。ね?え?迎え?取り調べ室は?後でいいの?そう?迎えはかっちゃんパパの車に乗ってきた母様が━━━え?かっちゃんいたよ?帰りは隣。何か言われなかった?全然。あ、でも肩は貸してくれたよ?・・・ちょ、なんでそんなに楽しそうなの?あしどん?スクープってなに?そんなんスクープになんの?朝とか大体肩貸して貰って・・・え?詳しく?う、うん?良いけど・・・?

 

困惑しながらもいつもの登校について話してると、あっという間に朝のフリータイムが終了。包帯先生が召喚される時間になった。

 

殆ど予鈴と同時に現れた包帯先生はいつも通り出席をとり昨日の事件についての話になった。私が怒られた事は抜きにして、クラス全員が怒られた。ネチネチ祭りレベルではなかったけど、みんなションボリンである。

こんなんで凹んでたら、包帯先生のガチ説教耐えられないぞ。みんな。

 

「・・・とまぁ、こんな事があった以上、こちらも以前通りに林間合宿をやる訳にはいかないって話でな。・・・例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」

 

クラスの皆から非難が飛び交う。

私的には中止が妥当だとは思っているので、あれを見ても皆はまだまだ平和ボケしてるんだなぁと少し心配に思う。こんなことで大丈夫か、皆よ。

 

ここにいる人の中で何人があの場で戦うつもりがあったのか。かっちゃんは手マンが戦う事を選ぶようなら間違いなく交戦したと思う。完全にやる気で体を構えていたから間違いない。それに紅白饅頭もそうだ。最初作戦に反対した眼鏡、お茶子も大丈夫だったと思う。

でも他は、少し意識が違ってたように思うのだ。

 

もしあの場で、手マンが誰かを本気で殺しに掛かったとき、何人が対抗出来たのか。考えるだけで背筋が寒くなる。勿論そこも考慮して配置はしたんだけども。

 

先生の話も終わり朝のホームルームは終了。

皆次の授業の準備を始めた。

大体寝て終るとは思うんだけど、一応私も準備する。見かけだけでもね?うん。

 

そうすると肩を叩かれた。

何だろうと振り返ると、息の荒いブドウの顔があった。

 

「み、緑谷ぁ・・・約束したよなぁ」

「は?」

「おっぱい揉ませるってよぉ」

 

そんな約束はしてないな。

記憶にない。

なに言ってんだこいつ。

 

「してない。脳に蛆でも湧いてんの?」

「湧いてねぇよ!あの手のヴィラン個性で足止めした時言ったろ!」

 

そう言われて思い返すと、そんな事勝手にほざいてた気がする。

 

「勝手にほざいてただけでしょ?それにしょっぴかれてもいないじゃん。私はある意味でしょっぴかれたけど」

「厳重注意は受けたんだよぉ!!頑張ったんだから報酬の一つも寄越せぇ!」

 

私達の話してる内容が聞こえたのか皆が集まってきた。

特に女子ーずが眉間に皺を寄せてる。かっちゃんは今トイレにいっていないけど、いたら眉間に皺寄せーずが結成された事だろう。ナニソレ見てみたい。

 

「峰田ちゃん、あれは皆で決めた事でしょ?そんな事言っちゃ駄目よ」

「そうだよ峰田ーさいっていだよ」

 

梅雨ちゃんとあしどんの言葉に、集まった皆が頷く。

 

「うっせぇーーー!!オイラはあの手のヴィランに顔まじまじ見られたんだぞ!どんだけこえーか!分かる奴から文句言えーー!頑張った報酬求めて何が悪い!!」

 

まぁ、頑張ったのは頑張ったか。

ビビりの癖に葉隠の次に前に出てたもんな。

 

「━━━はぁ、仕方ないな。今回だけだよ?」

「まじかよ、緑谷ぁぁぁ!!」

 

「ちょっ!?ニコちゃん!?」

「緑谷くん!?」

 

焦った声をあげたお茶子に肩を掴まれた。眼鏡も寄ってきた。他の女子ーずにも安売りしてはいけないと言われ迫られる。

私はそんな皆に大丈夫であると言って、ブドウに視線を戻した。

 

「その代わり条件三つをつけるよ。それでいいなら━━━」

「おうよ!その条件守るぜ!」

「聞く前にOKしない方が良いでしょ。ま、あんたが良いなら良いけどさ?」

 

 

 

 

 

それから時間は経ち、お昼。

ついにその時は訪れた。

 

お昼になると皆教室から出ていって、残るのなんて何時もは数える程しかいないけど今日は満員御礼。全員が固唾を飲んで見守っている。

特に女子ーずは何かあれば介入する気満々といった様子だ。

 

「うぇっへへへ、ヨダレがとまんねぇぜ」

 

そう言ってマジでヨダレを垂らすブドウは犯罪者にしか見えなかった。物凄く優し目で見ても、どこをどうきっても犯罪者だった。

 

「大丈夫なん?ニコちゃん」

「大丈夫、大丈夫」

 

心配するお茶子に親指を立てて、私はいよいよその準備に取り掛かった。

 

私が提示した条件は宣言通り三つ。

一つは触るのは胸ではなくお尻であること、もう一つは恥ずかしいから目隠ししてやること、最後の一つはジャージの上から触るものとすることの三つだ。

 

ジャージと胸でない事に峰田は食い下がったけど、お尻ならお昼の間撫で放題と言うと簡単に了承した。目隠しについては寧ろ興奮すると息を荒くしてる。こいつは終わってるな。

 

お昼の間はずっとというエロの権化のブドウに、阿修羅さんの手によって黒いアイマスクが付けられる。

阿修羅さんが「止めるなら、ここだぞ峰田」と優しくアドバイスしてる。ま、全然きくつもりはなさそうだけど。

 

「じゃ、手前に伸ばして。こっちから触らせるから、変に動かさないでよ。他の所触ったらその時点で終わりだから」

「分かってるっての!はよ!!はよぉぉぉぉ!!」

 

興奮して騒ぐブドウを横目に、私は奴を呼び出した。

体育祭の時、私に借りを作った憐れな小羊を。

とぼとぼと私の方にくる小羊は、私と同じ様にジャージ姿である。

 

小羊は涙目で私を見てきた。

 

「・・・なぁ、マジか緑谷」

 

蚊の鳴くような声に、私は笑顔を返しておいた。

 

「やれ、瀬呂」

 

私は一言も、私のを触らせるとは言ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆で食堂でご飯して教室に帰って来ると、まだブドウは瀬呂の尻を撫で回していた。

 

「ふぉぉぉぉぉぉぉ!!やべぇ!!なんか、やべぇよ!!なんか興奮が治まらないぜぇ!!背徳感が!うぉぉぉぉ!」

 

私はそっと瀬呂に近づき購買で買ってきたパンを食べさせた。瀬呂は泣きながらクリームパンを貪る。あんまりにも可哀想だったので、このパンは奢ってあげようと思う。ま、元々かっちゃんが買った奴だし。懐痛まないし。

 

「なんだよ!泣いてんのか!?緑谷も女の子なんだなぁ!」

「え?まぁ、女の子ですけど?」

「うおっ、いきなり喋んなよ!びっくりすんだろ」

「ああ、ごめんごめん。そのままどうぞ」

 

教室の片隅にいる二人を置いて、私は自分の席に座った。ゾロゾロと皆が集まってくる。

 

珍しい事に常闇まできた。

 

「緑谷。混沌招きし悪夢も終演の時だ。罪は購われた。二人の地獄を終わらせてやれ」

 

地獄って、瀬呂は兎も角としてブドウは楽しそうじゃんね?ねぇーみんなぁー?

同意を求めるように周囲に視線を飛ばすと、阿修羅さんが首を横に振った。

 

「流石にあれは憐れだ」

 

阿修羅さんの隣でお口チャックも涙ながらに頷いてきた。

 

「緑谷。瀬呂は、友達なんだ。助けてやってくれ」

 

真剣な尾白に頭を下げられ、眼鏡も「気の毒だ」と賛成を示してくる。女子ーずはもう十分だと、許すべきだと言ってきた。まぁ、お茶子は微妙な顔してた。

 

「かっちゃんはどう思う?」

「放っとけ。一生やらせてろ」

 

かっちゃんに慈悲はなかった。

 

「轟は━━━」

「?良いんじゃねぇか?同意してんなら」

 

それで良いのか、紅白饅頭。

私が言うのもなんだけど、瀬呂はそういう意味では同意してないと思う。

 

そんな事言ってる間にも時間は過ぎていく。

いよいよ休み時間も終るその頃、私はアイマスクをとって全てを終わらせる事にした。

 

引き寄せる個性でブドウのアイマスクを引っ張りとる。

急に視界が明るくなったブドウは軽く悲鳴をあげた後、光に慣れた目で自らの手元を見て固まった。

悲鳴を聞いた瀬呂は、涙に濡れた目でブドウを見つめる。

 

「へ、へへへ・・・。峰田、いい夢見れたかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

その日、謎の奇声を聞いたという雄英生が多数現れた。

声を聞いた職員がかけつけるも異常はなく、声の発生源となったと思われるA組教室内にいた生徒達も分からないの一点張りで事件は迷宮入りとなる。

 

その後、雄英高校七不思議に新たな一説が加わった。

 

まっ昼間。

お昼時が終わろうとするその時、どこからともなく奇声が聞こえるのだと。そしてそれを聞いたものは、見るも無惨な姿へと変わってしまうのだと。

 

かつて唯一の被害者になってしまったある生徒のように。白目を剥き、泡をふき、生死の境をさ迷うのだという。

救われる方法はただ一つ。

 

謙虚に生きよと。

 



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歌うとき小指をあげる人ってどんな気持ちで持ち上げてるの?あれにはどんな意図があるの?あれやるとどう変わるの?ねぇねぇ?ねぇってば。教えてよ、五円チョコあげるから。の巻き

前回ははっちゃけ過ぎた。

反省はしてる(´・ω・`)

後悔はしてない(*ゝ`ω・)!


クラスメイトに惨劇が起きたその日の放課後。

私を含めた女子ーずは百の号令の下、カラオケ店へとやって来ていた。

そう第三回、雄英高校一年A組女子会の開幕である。

 

「はい!それじゃ今回はヤオモモ幹事で女子会始めるよーー!!皆ーグラスは持ったかー!」

 

「「「いえぇーーーい!!」」」

 

あしどんの掛け声に私と葉隠、ニューウェーブお茶子の元気な声が個室に木霊する。最初こそ恥ずかしがってたけど、今やすっかりお茶子は私らの仲間だ。これからはカルテットと呼んで貰おう。

 

百と耳郎ちゃんは相変わらず。

梅雨ちゃんは交ざろうとしてるけど、ちょっと恥ずかしそう。ナニアレ可愛い。

 

軽く乾杯した後、あしどんは早速歌おうとしたのだが百に止められた。

 

「歌う前に、お話があります━━━というより、ちょっとお話があると言っただけで、何故こんな場所に・・・皆さんお時間がなかろうと、少し話したら直ぐに解散する筈でしたのに」

 

頭が痛いのか、百は額に押さえて溜息をついた。

私は早速歌いたいものを決めたのでマイクを手に取ったのだが、梅雨ちゃんは早めに帰ると言っていたのを思い出した。

 

「━━━あ、そだ。梅雨ちゃんから歌おうか。一番時間ないし」

「緑谷さん、マイクを置いてくださいと言っているのです!」

 

百のシャウトに私はマイクを取り敢えず置いた。

代わりにリモコンは持ったけど・・・えっ、ちょ、リモコンくらい良いでしょぉ。あ、マイクまで!マイクは置いとけばいいでしょ!?もぅ、けちぃー。

 

私からマイクとリモコンを奪った百だったが、急に音楽が鳴り始めて肩をビクつかせた。マイク片手に慌てる百はモニター画面を見て更にオロオロした。ごりっごりのラブソングだった。皆は百が歌うと完全に勘違いをしているみたいで『やっちゃえ百!』と言わんばかりにやんややんやと言い始めた。

まぁ、私は葉隠がそっとマイクを置く姿をみたので、犯人があいつなの知ってるんだけど。てか、私が怒られたのにしれっと歌う気だったのが凄い・・・。

 

「わ、私、こんなの入れて、その使い方も分かりませんし・・・!」

「ヤオモモーー!!」

「ひゅーひゅー」

 

あしどんは兎も角、葉隠は鬼だな。

ひゅーひゅーではないからね。

まぁ、私も口笛風にひゅーひゅーしといた。

 

百は皆の歓声に応えるように、流れるメロディーにそって頑張って歌い始めた。最初は拙かったけど、直ぐに歌のテンポを理解して聞ける物になり、最終的には普通に上手かった。前々から百はハイスペックだとは思ってたけど、まさかここまでとは。歌も上手いとか。

 

採点モードではなかったので得点はでなかったけど、きっと90点くらいは行った事だろう。皆の拍手がその証拠だ。

 

「二曲目誰いくー?」

「葉隠さん!誰いくーではありませんわ!お話をさせて下さいませー!!!」

 

結局二曲目はお預けにして百のお話が始まった。

なんでも百パパのお仕事の関係でI・エキスポからプレオープンから参加出来る招待状が贈られてきたらしく、そのチケットが二枚余っているので一緒に来ないか?というお話だった。

なんでも近々I・アイランドとかいう人工の移動島が日本にやってきて、なんか祭りをするらしい。

 

「どうでしょうか。ご興味は━━━」

 

百が言い終わる前にあしどんと葉隠が勢いよく手をあげた。行く気満々の顔してる。顔の見えない葉隠はその動きから分かる。

 

「いくいくー!私いくー!!」

「ヤオモモーー!!私をエキスポに連れてってー!」

 

ノリノリな二人を見て他の女子達も興味からか、おずおずと手をあげ始めた。お茶子は勿論、梅雨ちゃんと耳郎ちゃんもだ。

 

「━━━やはりそうなりますわね。でしたら・・・あの、緑谷さんは?」

「え?私?私はいいや」

「えぇ!?いいんですか?!」

 

断ると百は意外な物を見る目で見てきた。

私が百にどう思われているのかよく分かった。

 

「あのね、お祭りならなんでも行く訳じゃないからね?」

「そ、そうなんですの?」

「音フェスとか夏祭りとはいくけど、そういうのはちょっとねぇ。なんか頭使いそう」

「まぁ、個性やヒーローアイテムの研究成果を展示した博覧会ではありますけど、そう頭を使ったりするものではありませんわよ?アトラクションもありますし」

「って言われてもなぁ・・・」

 

研究とか言われると行く気なくなる。

 

「無理にとは言いませんが・・・」

「いいよ、私は。皆で決めて」

 

私がそう言うと百が眉を下げた。

もしかしたら皆でワイワイやりたかったのかも知れない。だったらごめんねぇ。

 

そうして私抜きで始まった二枚のチケットを巡る話し合い。どうするか話し合う皆は真剣そのものだった。

とてもじゃないけど、歌うような雰囲気でなかった。

 

なので私は隣の部屋に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「漢のォォォォオブザシップ!!てめぇがアレをぉ取ったれぇ━━━」

 

「入るぜ、童貞共!!音痴響かせてっかー!」

 

「━━いやぁぁぁ!?み、緑谷ぁぁぁぁ!?」

 

部屋に入ると切島が熱唱してた。

演歌とか知らないから正直上手いか分からないけど、気持ちよく歌ってるのだけは分かった。

いいね、お前ら。

 

「次は私に歌わせろーー!」

「いきなりなんだよ!?女子会やってんじゃねぇのか!?」

「女子会はある意味続行してるけど、チケット争奪戦が始まっちゃったからさ。かっちゃん、デュエしよ!」

 

端っこで暇そうにしてるかっちゃんにそう言うと、「ちっ」と一つ舌打ちした後リモコンを指差してきた。付き合ってくれるみたいだ。

 

歌うのかよっ、という上鳴の驚く声が聞こえるから、今日は歌うつもりなかったのかも知れない。

 

リモコンを手に取ってなんとなしに部屋の中を見渡すと何人かの姿が見えない。ブドウとか阿修羅さんとか・・・瀬呂と尾白もいない。

 

「また皆で来てんのかと思ったのに」

「いや、途中までは来てたんだけどよ。・・・峰田は傷を癒すとかでエロ本拾いにいった。川原に」

「爆発すればいいのに」

「やめろ、お前の保護者が本当に爆破しちゃうだろ」

 

・・・いやだって、ねぇ。女の敵じゃん。

 

「それで阿修羅さんとか尾白とかは。あと目覚めたかもしれない瀬呂は?」

「瀬呂の名誉の為に言っとくぞ。目覚めてねぇから。まぁ、あんな事あった後だから流石に瀬呂は体調・・・つーか心がな。だから尾白と帰った。男怖いとかいって震えてたんだけど、なんか尾白の事は大丈夫みたいだからさ」

 

目覚めてんじゃないの、それ。

大丈夫?尾白の尾白、瀬呂にinされない?

 

「阿修羅さんは?」

「障子の事だよな?歌知らないからって普通に帰った。つーか、青山のことナチュラルに忘れてんだろ。青山も帰ったぞ。まぁ、あいつは群れるの好きそうじゃないからなぁ」

 

阿修羅さん、特に理由がなかった。

てか、外国人の事はすっかり忘れてたよ。

 

「ふぅん、てか、歌わなくていいの?」

「はっ、しまった!つい緑谷に乗せられ━━━━って終わってんじゃねぇーか!」

 

歌いきれなかった切島をよそに、次の曲が流れ始めた。

どこかで聞いた事のある洋楽系の奴だ。

誰が歌うのかと思えば、常闇がマイクを手にしていた。

 

「緑谷。歌詞が見えない。横に」

「ほいほい」

 

流れ出した曲と共に、妙に発音のいい常闇の歌唱タイムが始まった。英語は割と得意そうだとは思ってたけど、まさか歌えるレベルだとは思わなかった。

努力出来る中2だったか、常闇。

 

あれ、さっきもこんな事思ったような・・・。

 

常闇の歌を聞きながらリモコンを手にする。

かっちゃんが乗り気なのでバラード系は避けてテンション高めの奴にしておいた。

 

曲を決め終えた頃、何となく視線を感じて顔をあげるとぼーと見つめてくる紅白饅頭と視線があった。

 

「なに?」

「爆豪と歌うのか?」

「うん?まぁ」

 

爆豪家と一緒に行くと一回は歌う。

割といつもの事だ。

そんな私の話を聞いた紅白饅頭は顎に手をあて、何かを考え始めた。

 

「轟も一緒に歌う?」

「いや、歌とか分からないからいい」

「そっ?それなら、いいけど・・・」

「ただ、な・・・」

 

何かを言い掛けて、紅白饅頭は口を噤んだ。

言葉を待っていると常闇の曲が終わり、私の入れた曲が流れ始めた。子供の頃に流行り、散々かっちゃんから鼻唄を聞かされたコンビのプロヒーローが歌ってるやつである。

なので取り敢えず話は後にして、私はマイクを手に取った。

 

「かっちゃん、今日はどっち歌う?」

「どっちでも好きにしろ。みっともねぇから音外すなよ」

「はいはーい、了解でーす」

 

思ったよりノリノリみたいだったので、目立つ方をかっちゃんに譲ってあげる。この曲自体はデュオ曲なので、どっちでも問題ないので基本的にその時の気分で交換こしてる。

 

まぁ、仮にデュエットだとしても交換こしたと思うけど。

 

「━━あ、かっちゃん!採点!」

「っせぇ、入れたっつんだよ」

「流石かっちゃん!」

 

中学の頃に叩き出した96点、今回こそ越えるぅ。

燃えろぉ、私の魂ぃぃぃぃぃぃ!!

 

 

「これで付き合ってねぇってんだから、世の中分からねぇよな?上鳴よ」

「マジか。あ、いや、切島の事疑ってる訳じゃねぇーけどな。まだ付き合ってなかったのか・・・って思ってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魂の97点を叩き出し概ね満足した私は、上鳴の微妙な歌を聞いてから女子会やってる部屋に帰った。するとこちらも、熱唱祭りになってた。

 

「あ、おかえりニコちゃん。隣からでも聞こえとったよ。上手やった~。こっちでも歌ってよー」

「それほどでもぉ?ふふん━━━━で、なにこれ。チケットはどうなったの?」

 

お茶子に事情を聞くと何でも折角カラオケ店にいるのだからと、歌の得点で勝負を決する事になったみたい。

因みに残り二人の状況でお茶子は一位。葉隠は二位。梅雨ちゃんは三位だそうだ。ずばり、梅雨ちゃんの敗因は恥ずかしがった所である。

 

そして今現在歌ってるあしどんだが・・・・。

 

「いぇーーーい!」

 

間奏部分でノリノリなダンスをかましてる。

楽しくなっちゃったのか、サビが始まっても歌そっちのけで踊りつくしてる。

これは勝てそうにないな。

 

あしどんは無事最下位得点で終わり、おおとりの耳郎ちゃんが出てきた。

 

何を歌うのかなぁと思ってると、聞き慣れた曲が流れてくる。

 

「あ、これ聞いた事ある。私の母ちゃんが歌っとったなぁ」

「お茶子んとこも?私の母様も」

 

私達の話を聞いて他の女子ーずも集まってきた。

 

「うちのお父さん、この曲のレコード持ってるよ」

「三奈ちゃん本当ー?言ってもそこまで古くないでしょ?」

「よく分かんないけど、記念かなんかで出たんだって。レコード聞く機械なんて持ってないのにさ、態々この機械まで買ってきたんだよ。すっごい自慢された」

 

「けろっ。私も聞いた事あるわ」

「私もありますわ」

 

割とメジャーな曲だったらしく、皆との会話は弾んだ。それと同時に、耳郎ちゃんにしては意外なチョイスだなぁとも思った。

 

私の視線に気づくと耳郎ちゃんは照れたように笑う。

 

「いや、まぁね?ちょっと古い曲だし、流行り系の曲なんだけどさ・・・なんかさ、好きなんだよね。気持ちっていうのかな、拙いんだけどその歌詞一つ一つにさ気持ちが籠ってるっていうか、なんかそんな感じがするんだよね」

 

へぇーとしか言えないのでいつもの三人で「へぇー」と言っといたら、「あんたらに話した私が馬鹿だった」と呆れた顔された。

 

でもそれもほんの少しだけ。

直ぐに楽しそうに笑って耳郎ちゃんは歌い始めた。

歌詞の気持ちをなぞるように丁寧に、それでいて耳郎ちゃん自身の気持ちを込めるように力強く。

皆そんな耳郎ちゃんの歌に聞き入っていた。

 

歌いきった耳郎ちゃんは点数を見て「あちゃー」と呟く。画面に出てた「81点」は葉隠より下だったからだ。

 

「気持ち込めすぎた。たはは、音程外しまくり」

 

少し照れながらそう言った耳郎ちゃん。

私は皆に相談してから、その言葉を告げた。

 

「チケット争奪戦、優勝耳郎ちゃん!!」

「はぁ?何言ってんの緑谷」

 

ポカンとする耳郎ちゃんは不思議そうに私を見た後、同意を求めようと皆の顔を見渡し、そして肩をびくつかせた。

 

不覚にも泣かされた私達の目には、涙が浮かんでいたから。あ、葉隠は分からないけど。ハンカチで目元を拭ってるけど、果てしなく胡散臭い。

 

「な、なんで皆して!?え、なに!?」

「良い歌だったよぉ、録音しとけば良かったぁ」

「やめろ、芦戸!まじで!」

 

ここに誰よりも感動してる様子のあしどんの発言に、耳郎ちゃんは本気で焦り駆け寄った。録音されるのは嫌らしい。

そんなあしどんと耳郎ちゃんに葉隠がスマホ片手に近づく。

 

「大丈夫、三奈ちゃん。途中からだけど、録っといた。後で送るね!」

「葉隠!消せぇぇぇ!!」

「うわぁっ!?」

 

耳郎にスマホを取られそうになった葉隠は速攻で部屋からトンズラ。追い掛けるように耳郎ちゃんも飛び出していく。

 

そんな耳郎ちゃん達を見送ったお茶子は私に呟くように言ってくる。

 

「アレを差し置いて優勝は出来んって。そこまで図太くないもん」

「まぁ、そうだろうね。私ですらちょっと躊躇う」

「ちょっとしか躊躇わない所が、ニコちゃんらしいわ」

 

こうしてチケット争奪戦は耳郎ちゃん優勝、二位はお茶子となり、I・エキスポ行きの二人が決定。誰も異論なしとの事。

その後は採点なんて気にせず皆で色々歌って楽しく過ごし、適当な所で解散したのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

━━━後に、このI・エキスポの舞台となるI・アイランドで起きたとある出来事に、私も深く関わる事になるのだが・・・それはまたの機会に。

 

 

それは彼女と出会って、彼女と共に戦った。

まだ語れない、私達の物語。



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授業とかでもそうなんだけど難しい話系はどうして眠たくなるんだろうか。不思議だよね?気がついたらころっと寝てるもんね。つまり先生、何が言いたいかと言いますとね、これは仕方なかったんです。許して。の巻き

今日も今日とて投稿ー投稿ー(*´ω`*)

明日もきっと投稿ー投稿ー(*´ω`*)

明後日も━━━明後日は分からないよぉ(*ゝ`ω・)?駄目かもしれぃじゃない?ねぇ?


雄英高校での長い1学期もいよいよ残り2日を迎えた今日この頃。今期最後のヒーロー基礎学を終えた私の元にガチムチが現れた。

 

真剣な顔で話があると言ってきたガチムチに、かっちゃんは分かりやすく顰めっ面。話の内容はなんとなく察したので変な話を聞くのはお断りしたい所だけど・・・流石にもう目を瞑れる段階でない事も察しているので大人しくついていく事にした。

 

いつもの仮眠室。

かっちゃんと私は備え付けのソファに座り、テーブルを挟んだ対面には一人用のソファにガチムチが腰掛ける。

前パイプ椅子だった気がするのに、いつの間に用意したのか。いよいよ、ガチムチの私室みたいになってきたな。ここ。

 

これまた当たり前の様に冷蔵庫から取り出された麦茶を飲みながら、ガチムチの話を待った。

 

「そうだな・・・君にはずっと黙っていた事だから、何処から話そうか・・・」

 

小さく呟かれたガチムチの言葉。

隣に座るかっちゃんが身を固くしたのが分かった。

だから聞こえるように言ってあげる。

 

「大丈夫」

 

かっちゃんは私の目を見た後、何も言わずにガチムチに視線を戻した。それにどんな意味があったのか、きっとこの先も分からないと思う。かっちゃんはそういう事は教えてくれない人だから。

 

でも、教えられなくもそれで良い。

守ろうとしてくれた事。

守ってくれていた事。

 

それだけは、もう分かってるから。

 

私もかっちゃんと同じようにガチムチに視線を戻す。

するとガチムチが困ったように笑った。

 

「君達には敵わないな・・・。緑谷少女、それと爆豪少年にも改めて聞いて欲しい。私と奴の話を━━━━」

 

 

 

 

そうしてガチムチの話は始まった。

それはとても長い話だった。真剣に聞こうと思っていた私が思わずウトウトする程、長くて退屈なお話でもあった。難しい所は大体聞いてなかったのだけど、概要は何となく分かった。

 

なんか『おーるふぉーわん』とか言うヤバイやつに目を付けられてるらしい。・・・私が。

 

「取り敢えず言いたい━━━何してくれてんのぉ!!」

 

そう言って残念な子を見るようにガチムチに視線を向けると、ガチムチは申し訳無さそうに頭を下げた。

 

「いや、本当にすまない。私がちゃんと奴を捕まえてさえいれば・・・というか、なんか軽いね?ちゃんと話分かったかな?大体船を漕いでたけど」

「しっつれいな!それは確かに!話の合間合間、ちょっとウトウトしたけど!それだけですぅぅ!聞いてましたぁぁぁ!」

「それは・・・大丈夫かなぁ?なんか先生凄く不安だよ」

 

溜息をついたガチムチは麦茶を飲んだ。

 

「まぁ、聞いていたなら良いか。君は要領の良い子だ。しつこく言わなくても分かるだろうからね。先にも言ったように、君に報せない代わりとして、事情を知ってる爆豪少年にボディーガードを頼んでいたんだ。何かあった時、私に連絡をいれる事を条件にね」

 

違和感はあったのだ。

確かにかっちゃんは何かと私に構ってはくれるけど、朝迎えにきたり送ってくれたりと、そういう事をするやつじゃなかった。実際中学の時だって、基本的にバラバラに登下校してた。いや、まぁ、たまにはそういう日もあったけども。

 

しかし、何かあるとは思ってはいたけど、こういう事だとは思わなかったなぁ。てっきり、それまでの己の所業を悔い改めて、あんな事してんのかとばっかり・・・。

 

かっちゃんに視線を送ると顔を背けられた。

黙っていた事にちょっと罪悪感とか感じてるのかも知れない。

 

「さて、どうして今更になってこんな話をしたかというとね・・・捜査の結果から、奴が暗躍してる可能性がいよいよ現実味を帯びてきたからなんだ。先日の死柄木の件で私が懸念したのは、死柄木本人よりその背後にいると思われるオール・フォー・ワンの存在だった」

 

どうりで変に焦ってると思った。

手マンは厄介なヴィランだけど、ガチムチが慌てるような相手じゃないからおかしいとは思っていたのだ。

 

「君に報せずに終わりにしようと思っていた。けれどそうも言っていられない状況だ。いまだ奴は姿を現さず、その痕跡も不確かなまま。情けない話だが、今の状況ではUSJ同様に後手に回る可能性が大きい。だからね、君自身にも気を付けて欲しいんだ」

「私も戦う覚悟をって話ですか?」

「違うよ。それはあくまで私の仕事だ。君は自分の事だけ━━━いや、そうだな。君と君の大切な者の事だけ考えなさい」

 

ガチムチは真剣な顔で言ってきた。

 

「オール・フォー・ワン。超常黎明期、社会がまだ変化に対応しきれてない頃より裏社会に君臨する、正真正銘の化け物だ。個性を他者から奪い、他者に与えることの出来る非常に稀有な個性を持つ奴は、人々から多くの個性を奪い、同時にその圧倒的な力をもって多くの人々を傷つけた。君が対峙した脳無など、やつが生み出した悲劇の一つだ」

 

脳裏に脳みそ丸見えなアホ面が甦る。

 

「・・・平和を願う人々の長きに渡る戦いの果て、私の師を含め多くの犠牲があった。その上で漸く私が倒した━━━のだと思っていた。けれど、それは違った。私は奴を倒す機会があったにも関わらず、奴を逃していた。これは私の落ち度。君達が背負う物ではない・・・奴は必ず私が倒す」

 

ガチムチの目が私を見つめた。

力強い決意の火が灯った、その目で。

じっとそれを見てるとガチムチが苦笑いを浮かべた。柔らかい、いつものガチムチらしい笑いだ。

 

「だからね、覚えておいて欲しかった。この先何があろうと安心していて欲しいと。どんな事になろうと、必ず私が君達を守ると。何があっても助け出すと」

 

ガチムチの言葉は本気だろう。

そこは疑うつもりはない。

けど、必ず守るというのであれば、話は別だ。

 

「駄目だったらどうします?」

 

そう尋ねるとガチムチが眉を顰めた。

 

「いや、絶対に━━━」

「いや、そういう気持ちとかはどうでも良いんで。現実的に駄目だった時の話をしましょうよ。いつも近くにいる訳じゃないんだから、間に合わないパターンもあるじゃないですか?怪我とかしたら守ったとは言えませんよね?」

「厳しいな、君は・・・」

 

申し訳無さそうにするガチムチ。

私は駄目だった時の事を考える。

 

「取り敢えず・・・そうですねぇ。1回1焼き肉で手を打ちます」

「うん、分かった。1回1焼き肉で・・・・1焼き肉ってなに?」

「失敗したごとに、高級焼き肉店で食べ放題を奢って貰います」

 

そう伝えるとガチムチは可笑しそうに笑った。

 

「ははは、それは、私が助ける事前提なんだね?信用してくれるのかい、君は」

「そう言ったんじゃないんですか?そもそも守るのと助けるのは別ですよね?守れなかったから、助けがいるんじゃないですか?てか、助けて貰わないと私も困りますし?まぁ、安心して下さいよ。ガチムチが来るまで意地でも生き残っておきますから」

「━━それは心強いな。しかし、自分で言ってて気づかなかった。言われてみればそうだね?それじゃ約束しよう。私が守り切れず君が傷ついたりした時は、焼き肉を奢ろう。まぁ、その時のお財布事情もあるから、直ぐにとはいかないかも知れないけどね」

 

私は近くにある備品のメモ帳を手にし、さらっとそれを書き込んでガチムチの前に出した。

きょとんとするガチムチは紙に書かれた一文を見て、そしてまた笑った。

 

「ふふ、まさか、君に本当にサインさせられる日が来るとは思わなかったな」

「借金の保証人のがいいですか?」

「まさか。さ、書いたよ」

 

差し出されたそれに、オールマイトの名前が書き込まれた。小癪にも有名人風のサインだ。

 

「最新版さ」

「本名にしてくださいよ」

「手厳しいなぁ・・・ファンでなくても、大抵喜んでくれるのに」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

緑谷少女と爆豪少年が部屋を出た後、私は椅子に持たれ掛かった。もっと辛辣な言葉を掛けられると思っていただけに、緑谷少女のあっけらかんとしたその態度を受け、張り詰めていた力がすっかり抜けてしまった。

 

「・・・信じてくれるか」

 

彼女は誰よりも守る事の難しさを知っている。

そうしたくて力を身に付けてきたのだから、人一倍その事を考えてきたのだろう。

 

「守るというのは・・・そうだな、難しい」

 

彼女の言うとおりだ。

守るにも色々とあるが物理的に守る為には、特別な力でもない限り大前提として側にいなければならない。

そしてそれが出来ない以上、その言葉はあまりに無責任と言えよう。

 

「塚内くん、私は彼女に何かを伝えられてるのだろうか・・・?」

 

考えれば考える程、私は彼女に教えられてるような気がする。先生としてどれだけ彼女の力になれているのか甚だ疑問だ。今日もまた、こうして教えられている。

 

情けない限りだ。

けれど━━━。

 

 

『約束ですよ?』

 

 

帰り際、彼女はそう言った。

いつもの屈託ない笑顔で。

 

「・・・少しはマシになれたでしょうか、お師匠」

 

私の呟きに答える人はいない。

けれど、何となく『まだまだだな』と笑うお師匠の顔が頭に浮かんだ。

緑谷少女と同じ様に、よく晴れた日の太陽の如く眩しくて暖かだったあの人の笑顔が。

 



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駄洒落をナチュラルに会話にぶっ込める人はある意味凄いとは思うんだよ。いや、だからといってそんな奴が目の前にいたら、間違いなくスルーするんだけどね?の巻き

次回から漸く夏休み編や

長かったで(*´ω`*)



「やぁ、皆元気にしてるかな。校長な私は今日も好調さ!」

 

最強につまらない言葉から始まったのは雄英高校1学期最後のイベントにして最高の居眠りポイント。

終業式における我らがネズミー校長のお話だ。

 

そしてそれは、私にとって今学期最大の敵との開戦の合図でもあった。長きに渡る、私の戦いの。

 

 

 

 

 

 

 

校長のお話し。

それは就寝時間がイコールな、眠るのが当たり前の時間だ。

何故なら大体において校長の話は内容がないようぉ、な物だからだ。

稀にためになる話をする人もいるが、そんなのは一握り。大体決まった事を時事ネタを交ぜて言うだけで、定型文の集まりでしかない。一回でも聞いておけば十分なレベルの話だ。

 

そしてそれはウチの校長にも言える事で、授業だと割と真面目に話すのに、こういう時に限ってツマラナイ駄洒落をぶちこんでくる駄洒落系校長という凶悪な愉快犯と化す。襲ってくる眠気はまさに究極。意識を保つのがやっというレベルの口撃を放ってくる。

 

なので私はあの手この手を使って回避し続けてきた。時に音楽聞いたり、スマホ弄ったり、読書したり、いっそバックレたり。

事実今日もバックレるつもりだったのだが・・・結果として今回は大人しく列に並んでいる。というのも、逃げようとしたら包帯先生に捕縛され、ついでに「夏休みいらないのか?」と割と本気トーンで言われたのでどうする事も出来なかったのだ。スマホは取り上げられた。

 

大人は本当に汚いなり。

夏休みくれるって言ったじゃないですかぁ。

 

さっきの発言で1学年から3学年生徒までほぼ全員が凍りつく中、ネズミー校長は手応えありと言わんばかりの顔で話を続ける。

 

「今期は皆さんにとって特別な学期となったでしょう。施設内へのヴィラン襲撃を始め、多くの問題が本校に訪れました━━━━ん?マイクの調子が悪いな、音ズレるなぁ」

 

ネズミー校長の二発目の口撃。途端に私の体は静かにスリープモードへと以降した。これは最早私の意思は介在していない、反射による行動。

止めようのない眠気に、前に立つかっちゃんに凭れ掛かった。

 

「おい、馬鹿。開始一分もしねぇ内から寝ようとすんじゃねぇ」

 

声を殺して注意してくるかっちゃん。

今はその声すら子守唄に聞こえる私は、目を瞑りかっちゃんから聞こえる心音をBGMに意識を沈める。

すやぁ・・・。

 

「すやぁ、じゃねぇ!」

「ったぁ!?」

 

オデコにデコピンを叩き込まれ、私の意識は辛うじて現世に戻ってきた。可愛いおでこが赤くなってないかちょっぴり心配だが、今は起こしてくれた事に感謝すべきだろう。ありがとかっちゃん。そして、覚えておけよ。このおでこの痛み、きっちり返してやるからな。

 

痛むおでこを擦りながら、私は元の位置へと戻りネズミー校長の話を聞く事を再開する。

 

「昨今、歴史上稀に見る犯罪者ステイン氏の逮捕がありましたね。本校に在籍するオールマイトの活躍によりこの国は平和を取り戻しましたが、未だこの超常時代は不安定な世の中。さきの事件の犯人のように個性をもて余す者は多く、またそれは危険が身近にある事も意味しています。常に注意深く、軽率な行動は控えるようにして下さい」

 

おふざけのないお話。

これはこれで地味に体力が削られる。

一瞬成りを潜めていた眠気が『さっきぶり』と手を振ってくる幻が見えた。

 

「一ヶ月以上の長期休暇。羽目を外す気持ちも分かりますが、雄英校生である事を忘れず学生らしい行動をとるようにお願いします━━━━そうそう、忘れるといけないのでこれも一つ。最近、学生による水難事故がありましたね。川で溺れたというものです。これは他人事ではありません。暑くなるにつれてそういった水辺へのレジャーをする者がいる事でしょう。行くなとは言いません。ですが、十分注意はするように。海にしろ川にしろ、事故が起きてしまえば楽しい休みに水を差すことになります。水難事故だけに」

 

長い前ぶりの後、溜め込まれた一発の口撃が眠気様の背中を押した。襲いかかる眠気に負けて、後ろに立つ百に寄り掛かった。おっぱい枕フカフカに頭がフィット。

本来なら私の後ろは峰田だけど、色々とアレだからあいつは先頭に立たされている。こういう時、私の直ぐ後は百なのだ。

 

「み、緑谷さん!?どうかなさいまして?!」

 

焦る百の声を聞きながら、再びのすやぁ・・・。

 

「・・・・」

「いたたたたたた」

 

眠ろうとしたら頬っぺたをつねられた。

百の無言の見下ろし睨みが怖い。

そっと体勢を立て直すと、百が頬っぺたから手を離してくれた。

 

「ご、ごめんなさい」

「ええ、許します。ですから、キチンと校長先生のお話をお聞き下さい」

 

聞いたらまた寝ちゃうんだけど。

そう思ったけど、百がめちゃ睨んでくるから何も言えず、大人しく前を向いた。ふと時間を確認すると校長のは話が始まって5分経過している事が分かった。

校長の話は大体20分。後、15分・・・!

 

長いなぁ・・・!

 

スマホで弄れるなら時間潰しも楽なんだけど、そう思ってチラッと職員が並ぶそこを見る。案の定怒髪天を衝きそうな包帯先生がこっちを見てた。

 

・・・て、もう怒ってますやん。

 

やばい、寝てたの見られた?いやいや、そんな訳ないよね。こんな遠くから・・・いや、もう、これは見られたと思って良いだろう。だって怒ってるもん。激怒だもん。ヤバイよあれ。私このイベ終わったら廊下に五時間くらい立たされるんじゃないの?水の入ったバケツ持たされるんじゃないの?・・・まぁ、今までやらされた事ないけどさ。

 

じっと包帯先生を見てると口が動いた。

賢い私は授業で習った読唇術を思いだし、何を言ってるか直ぐに察する。

 

『シュウギョウシキオワッタラ・カクゴシトケ・ミドリヤ』

 

成る程、成る程。

これは本格的にオコですね。

分かります。

 

でも誰に対してかは・・・・名指し!?

 

あまりの事にかっちゃんに聞いて貰いたくて、背中をトントンしまくる。なのに全然こっち向いてくれない。うわぁ!ヤバイよ!もっと怒った!!━━━あ、またなんか言ってる。

 

「うわぁぁ、かっちゃんかっちゃん!やばい!怒ってる、包帯先生がマジで怒ってるぅ!」

「っせぇ、背中叩くな」

「『バクゴウモカクゴシトケ』って!」

「っんでだ!?」

 

思わずこっちを振り向いたかっちゃん。

その様子に包帯先生が眉を吊り上げる。あちゃー。

かっちゃんは私の顔色が変わったのを見て、私と同じ所に視線を向けた。そしてゲンナリした顔をする。

 

「てめぇ、ふざけんな。何巻き込んでんだ、こら」

「またまたぁ」

「何がまたまただ、こら」

 

静かにぶちきれたかっちゃんがコメカミをグリグリしてくる。痛い、めちゃ痛い。目がさえる。

 

「━━━ちっ、後少しだ。なんとか耐えやがれボケ」

 

そういって私から手を離したかっちゃんは再び前を向いた。態度はあれだけど話を聞こうとするその姿勢は良い子ちゃんそのもの。普段不良みたいな態度の癖に、こういう時優等生過ぎるよ。かっちゃん。

 

大人しく前を見ると、校長の話が丁度昔話に入った所で迷走してる状況だった。そっと見渡してみれば、私以外にもウトウトし始めた奴等が現れている。

 

長ったるい話を眠気と闘いながら頑張って聞いてると、ネズミー校長は何かに気づいたようにハッとした。

 

「私が若い頃は━━━━と、少し話が逸れ過ぎたかな。恥ずかしい。つい熱チュウしてしまった。いつもそうなんだけど、私はネズミ時代の話するとどうしても熱チュウしてしまう所があってね。話をチュウ断してすまない。以降チュウ意するよ。ネズミだけに」

 

・・・・・・はっ!?危ない!気を失うかと思ったわ。

 

てか、チュウチュウうるっさいんだよ!!

つまんないんだよ!寝るかと思ったわ!!

いや、一瞬寝たわ!

 

ぐぅぅぅ、しかし効いたなぁ。

まるで母様のボディブローのようだ。

いや、あれは速効性アリだったっけか。

どっちにせよ、ネズミーめぇぇぇぇ。

 

「緑谷、だっけ?大丈夫・・・?」

 

聞き慣れない声に顔を向けるとB組の女子がこっちを見てた。手の位置がお化けっぽい子だ。話した事はない。

 

「・・・あ、いきなりごめん。・・・私、柳レイ子。物間がアレだから勘違いされるかも知れないけど・・・別になにかしようって訳じゃないの。ただ、さっきからフラフラしてたから気になって・・・」

 

なんか心配してくれたみたいだ。

気持ちが嬉しかったのでサムズアップして返事をしておく。

 

「ありがと。心配してくれてサンクス。でも大丈夫だから」

「大丈夫なら・・・良いけど」

 

「柳、緑谷の事はほっといて前見とけ」

 

お化けっ子と話してるとB組最後尾にいる目付きの悪い奴が割り込んできた。名前は知らない。見たことない。誰だろ。

 

「鱗。でも、体調悪そうだったから」

「ブラド先生に怒られんぞ」

 

お化けっ子と話しているのだからB組なのは間違いなだろうけど・・・?不思議に思って首をかしげてみると、目付きの悪い奴がムッとした。

 

「おまっ、忘れてんのかよ!?俺の事!体育祭の時、戦ったろ!」

「体育祭・・・いた?」

「こ、このやろう・・・!欠片も覚えてねぇ」

 

だって知らんもん。

 

「・・・・ああ、小学生の時、隣町に引っ越した」

「体育祭って言ってますけど!?ちっ、ほら!あれだ、お前らに、その、捕縛網に捕まえられた━━━って、このやろう、全然心当たりねぇって顔しやがって!」

 

頑張って考えて、ふと思い出した。

 

「毛むくじゃらの上に乗ってた奴?発目にやられた?」

「うぐっ、そ、そうだよ」

 

漸く思い出してすっきりした私は校長のつまらない話を聞く為に前を向いたのだが━━━「おい」と呼び止めるような声が掛かってきた。さっきの目付き悪い奴なのは分かるけど、私的に用はないので放っておく。

 

「なんでそっち向いた。話は終わってないぞ」

 

無駄話はいけない。

百からの視線も鋭くなってきたので、振り向かずに黙っておく。

 

「おい、緑谷。いいか、よく聞いとけ。あの時は俺も宍田も負けたけどな、二度目はねぇ。次に戦う時があったら覚悟しとけよ。今度勝つのは俺達━━━━がっ」

 

突然止まった声。

気になってちょっと覗いてみると、赤いヒーロースーツを着たB組の担任が目付き悪い奴をアイアンクローしていた。

 

「━━━校長先生のお話し中だ。鱗。他所のクラスに何ちょっかい掛けてんだ、お前は。話がある、ちょっとこい」

 

引き摺られるように連れてかれた目付き悪い奴の冥福をお化けっ子と祈り、私は校長のつまらない話に今度こそ戻る。

それからの校長の話も大概につまらなかったけど、私は何とか乗り切った。途中何度も記憶が飛んでて、何度もかっちゃんの背中で居眠り未遂したけど。

 

「さて、もう時間だね。長々と話してしまってすまなかったね。そろそろ幕引きとしよう」

 

「色々と言ったけれど、今学期はいつもより多くの出来事が起きた時だった。それを受け私達教師陣は多くを学び、また生徒諸君も普段は体験出来ぬ貴重な経験をした事だろう」

 

「今回の経験で多くの者は前進し、中には後退してしまった者もいたかも知れない━━━が、焦る事はないさ。それは一時。これから長い人生の中でまた多くを学び、今期の経験は必ず力に変わる筈さ」

 

「超常時代を生きる若者達、よく今期を頑張り尽くした。一ヶ月と少しの夏休み、体を休めるもよし、多いに遊ぶもよし、学ぶも鍛えるもよし。自分が納得するやり方で満喫し、二学期という新な戦いに備えて欲しい。それで最後は言葉で締めるとしよう」

 

 

「明日を生きてく君達へ『Plus Ultra』さ!!」

 

 

ネズミー校長の声に続くようにプルスウルトラの声があがった。

主に2・3年生の声で1年はまだ慣れてない感じがする。私?私は勿論言ったよ。全力だよ。だってこれ言ったら終わりだからね。

 

そうしてネズミー校長の話は終わり、終業式は終わりを迎えた。

 

無事居眠りせずに乗り切った私だったが、その後包帯先生にしこたま怒られたのは言うまでもない。

かっちゃんと一緒に・・・・!

 



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ステージ7:スタンド・バイ・ニコ:私達の短い夏休み編
夏休みの宿題を最後にやるやつは基本駄目なやつ。だってね、そういう奴に限って最終日だけじゃ終わらない類いの課題を忘れてるでしょ?絵日記だとか、観察日記だとか、自由研究だとかさ。私は忘れてたもん。の巻き


なんとか更新したったぜぇ(;・ω・)
間に合わないかとおもた。

このギリギリ感がたまんねぇな(*´ω`*)


待ちに待った夏休み初日。

早速遊ぶぞ!っと言いたい所だが、美しく賢しい私はこの日あえて不安の種を潰すため、宿題片手に爆豪さん家を訪れていた。

 

「かっちゃーーーーん!宿題しましょーーー!」

 

元気よくそう声を掛けると、笑顔の光己さんが玄関を開いてくれた。

 

「いらっしゃーい、双虎ちゃん!相変わらず朝から元気ねぇ!」

「おはよございまーす。光己さんも元気ですねぇ・・・て、なんか今日お肌ツヤツヤしてません?」

「おほほ、分かるぅ?流石に双虎ちゃんは目が利くわねぇ。乳液替えてみたのよ。知り合い紹介された物なんだけど、これがまた結構良くてねぇ。帰りに化粧水とセットの試供品あげるから、引子さんと使ってみて頂戴よ」

「母様に?・・・ぷ」

 

思わず鏡の前でポヨポヨの頬っぺたをぺちぺちする母様の姿と、顔だけツヤツヤになったアザラシな母様の姿を想像して笑ってしまう。

やばい、超面白い。

 

「ツヤツヤアザラシ・・・ぷっ、くくく」

「双虎ちゃんも懲りないわね・・・そういう所はうちの馬鹿とよく似てるわ。━━━あ、まさかうちの馬鹿が悪影響を・・・?」

 

光己さんと少し話した後、私はかっちゃんの部屋に向かった。寝てるのかと思ってそっとドアを開けたけど、テーブルの前に腰掛け宿題に勤しむかっちゃんと目があう。流石宿題は最初にやっておく派のかーつきくん。悪戯出来ぬではあーりませんか。

 

「おはよ。起きてたんだ?」

「てめぇと一緒にすんじゃねぇ。こちとら、七時には起きとるわ」

 

それじゃ悪戯は出来ないか。

なにせ私が起きたのは八時過ぎだもんね。

それなら仕方ないとかっちゃんの前に座り、大人しく宿題を拡げた。補習回避分の宿題もあるから、かっちゃんのおおよそ倍の宿題がテーブルに並ぶ。

 

「無言で進めんな」

「そーいう訳だから」

「どーいう訳だ、こら。言葉にしろ・・・はぁ、騒ぐなよ」

 

最初は睨んでたかっちゃんだったけど、私に帰る気がないのを察したのか溜息をついて自分の宿題に取り掛かる。私もそれに続いて宿題を始めた。

 

途中分からない所をかっちゃんに聞きながら進め、宿題を片付けていく。基本的に教科書を参考にすれば分かる問題ばかりなのでそう難しくはない。後は時間と集中力、それとおてての痛みの問題だけだ。

あ、肩も凝るわ。うん。

 

黙々と勉強に励み、気がつけば時刻はお昼に。

コンビニでも行こうかと考えていると、光己さんがお昼を持ってきてくれた。

ニヨニヨしながら光己さんが持ってきたのは二種類のスパゲティ。片方はカルボナーラなんだけど、もう一つが危険な香りを漂わせるミートスパゲティっぽいなにか。何故なにかなのかというと、ミートの中に輪切りにされた大量の唐辛子を見たからだ。

それはミートスパゲティという名の皮を被った、得体のしれない何かだったのである。

 

かっちゃんはそれを迷う事なく選び、何も言わずにそれを口にした。旨いとも不味いとも言わない。黙々と食べるだけ。

 

その姿を横目にカルボナーラを食べていると光己さんが「よくあんなもん食えるわ」と笑っていた。こっちとしては全然笑えないんだけど。狂気の産物だからね。

 

光己さん辛い物嫌いだから、多分味見とか一切してないんだろうなと思う。昔かっちゃんパパとかっちゃん用に激辛カレー作ってる光己さんに聞いた事があるのだが、辛い料理を作るときは味見なしで適当に作ってると言っていた。その時も「よくこんなもん食えるわ」と大爆笑していたのを覚えてる。

 

いや、まぁ、辛い物突っ込む前は味見してる姿はみるんだけどね?うん。

 

 

 

お昼を食べ終えるとまた私らは宿題に戻った。

出来れば今日中に終わらせて、残りの夏休みを全部遊びたい。実際はトレーニングもしなきゃだから、丸々全部が遊びに使える訳でもないんだけども。

 

宿題も三分の一を終えた頃、ふと昨日の百からの連絡を思い出した私はそれを口にした。

 

「明後日さー」

「・・・ああ?」

「予報だと晴れでしょ?」

「予報だ?・・・天気か」

「そー。海行くから空けといてねー」

 

カリカリという文字を書く音が響いていたのだが、それが急に止まった。

 

「・・・はぁ?」

 

不思議そうなかっちゃんの声。

手を止めて視線を向ければ、怪訝そうなかっちゃんの視線があった。

 

「海だ?」

「そう、海。百がねぇ、百パパに頼んで別荘のプライベートビーチを押さえてくれたの。元々女子ーずだけで一泊二日の予定で行くつもりだったんだけどさ、やっぱり海だと変な奴出るでしょ?盾役が欲しくってさぁ」

「・・・プライベートビーチなんだろ?」

「所有地ってだけで囲ったりしてる訳じゃないから、変な奴が紛れる事もあるってさ」

「面倒くせぇ・・・」

 

ああ、うん、やっぱりか。

何となくそう言うとは思ってた。

 

「嫌なら良いけど。一応他にも頼んであるし」

「あ?他だ?」

「うん?そうだけど?轟とか尾白とか切島とか・・・生きてたら瀬呂も来ると思うけど」

「・・・」

 

私がそう言うとかっちゃんの眉間に皺が寄った。

轟の名前を出すと直ぐこれだ。相変わらずかっちゃんは轟の事嫌いだなぁ。

 

「行かないなら━━━」

「行かねぇとは言ってねぇ」

 

それだけ言うとかっちゃんはまた勉強を再開した。

カリカリという音が鳴り始める。

 

「じゃ、水着と着替え持ってきて。他は全部あっちにあるから要らないってさ」

「・・・時間は」

「学校行くくらいの時間出発で良いんじゃない?場所はまだ揉めてるから決まってから連絡する」

「明後日行くのにまだ揉めてんのかよ、馬鹿か」

「だって百が『全員ご自宅にいらっしゃって下さいませ!迎えに行きますわ!』って強情なんだもん。流石に気を使うでしょ」

「・・・面倒くせぇな」

 

百ときたら予定が決まった時からそんな事言ってるのだ。気合い入りすぎてこっちが気を使う。

 

「取り敢えず適当な駅で集まる予定だけど・・・まぁ、後はあしどんの説得しだいだから。それまで待ってて」

「ああ」

 

それからは特に何もなかった。

ただ宿題を終わらせる為に黙々とペンを走らせるだけ。

かっちゃんも特に何も言わず、私と同じように宿題を進めていった。

 

日がすっかり暮れる頃、私は漸く夏休みの宿題をやり終えた。後は補習回避分が丸々残っているのだが、流石にやる気はでない。

 

「かっちゃん、やって」

「知るか、てめぇがやる分だろうが」

 

かっちゃんは夏休みの宿題を終らせた後、悠々自適に読書しながら筋トレを開始していた。あれだけの問題という名の活字と向き合った後、よくまた読書なんてこと出来るなと思う。かっちゃんは頭が可笑しい。

 

「なに読んでんの?」

「さっさと再開しろ、ボケ」

「教えてくれないとやる気でない・・・」

 

かっちゃんは呆れたような溜息を吐いた後、本のカバーを外した。そこに見えたのはヒーロー資格に関するテキスト。私のやる気は轟沈する。

 

「エロ本じゃないのか・・・がっかりした」

「なんでてめぇの前でエロ本読まなきゃなんねんだ。ふざけんな馬鹿。馬鹿な事言ってねぇで再開しろや。今日中に終わらせんだろ」

「そうだけど・・・そのつもりだけど・・・やる気が湧いてこない」

 

明日やろう!とは思えない。

もう明日からは遊びたいのだから。

朝はお昼に起きて、夜は夜更かしして、テレビとか漫画でも読みながら自堕落に生きたいのだから。

 

だから今日なのだ。

今日、そう今日だけ頑張る。

それが大事なのである。

 

「・・・っうっし!やるぞ!頑張れ私!」

「・・・・んだよ」

「応援してよ」

 

もう一声欲しくてじっとかっちゃんを見つめると、面倒臭そうに頭を掻いてから口を開いてきた。

 

「気張れや、馬鹿」

 

言い方はあれだったけど、少しだけ元気は出た。主にこいつ殴りてぇっていう負の感情からではあったけど。

そんなのもあって、私はなんとかやる気と不屈の乙女力を振り絞り、再びカリカリ地獄に身を投じた。その地獄に終止符を打ち、夏休みという天国をその手にする為に。

 

心の中で某有名ボクシング映画のテーマソングを鳴らしながら再開した私のペンは止まる事なく、カリカリ音を掻き鳴らし続けた。途中気分が乗ってきて「生卵二つ持ってきて!今ならいける気がする」とかっちゃんに言ったら「腹壊すから止めとけ」と注意された。腹など壊す物かよ!日本の生卵の衛生さといったら、世界でもトップクラスなんだからなぁ!!━━ってテレビで言ってたような言ってなかったような!!

 

 

それからかっちゃん家で夕飯まで頂き、私は猶も勉強を進めた。段々と意地になってきた。絶対に終わらせる。そして勝ち取って見せるのだ。まっさらな夏休みを。

 

 

そうして勉強すること暫く。

ふと気がつくとかっちゃんがいなかった。

何処に行ったのかと思ったけど、よく考えたらついさっきに風呂に入ってくるとかなんとか言ってたのを思い出した。

 

息抜きに背筋をピンすると、勉強机の上に乗ってるかっちゃんのスマホが目に入る。そして同時に中学の頃、必死にスマホを隠したかっちゃんの姿を思い出した。

 

私はそっとドアを開けて廊下を確認する。

人の気配がない事をよく確認した後、かっちゃんのスマホを手にロック解除を試みた。かっちゃんはアホなのか、ロックの番号は以前と一緒で私の誕生日のままだった。

 

解除した後、そう言えば今年は誕生日プレゼント何も貰ってない事を思い出す。別にあげる義務がある訳ではないけど、毎年何かしらくれたりあげたりしてる。何もなかったのは今年が初めてかもしれない。

 

まぁ、母様とか光己さんとか、お茶子とかから色々貰ったし、別に構わないんだけど。

 

スマホのアプリはあんまり入れてないのかガランとしてる。私なんてゲームアプリだらけだというのに、えらい違いようだ。何が楽しくてスマホ使ってんだろうか、こいつ。

 

そんな事を思いながら画像フォルダをタッチする。

すると懐かしい写真がそこに映った。

 

「おお、中学ん時のだ」

 

そこにあったのは中学の頃、教室で一緒に撮られた写真。写真を撮った友達が写りが良かったと胸を張って送ってきた物で、私のスマホにも入ってるけど貰った時以来まともに見てないので懐かしい。

 

改めて見て思ったけど、この写真は本当によく撮れてる。伊達に「あたいカメラマンになるよ!」と豪語していた写真オタクが撮っただけの事はある。加工とかしてあるのかな?

 

窓から差し込む光の感じとか、カーテンが風に揺れる感じとか、あとは私の超絶美人っぷりとか相俟って幻想的な感じがする。八割私で持ってる写真と言えるけど、何にせよドラマとか漫画のワンシーンみたいだ。それだけにかっちゃんの顰めっ面が目につく。なんだこいつ、少しは嬉しそうにしろよな。

 

他にも何かないかと調べてくと結構あった。

かっちゃん自身写真撮ったりしないのか、構図的に人から撮られた物ばっかりだったけどそれなりの枚数がある。

 

「なついなぁ」

 

どれも基本的に顰めっ面。

たまに笑ってる顔もあったけど、悪人顔でウケる。

ずらーと見てくと、ふとあることに気づいた。

 

結構私と写ってるのが多い?

 

写真の何処に私がいる気がする。

いない時もあるけど、割と出現率が高い。

まぁ、一緒にいる事も多かったってのもあるかもだけど。

 

そう思ってぼんやり眺めていると一枚の写真で手が止まった。それだけ構図が違っていたのである。

 

「・・・うわぁ」

 

あったのは中学の頃、休み時間かなんかで爆睡する私のお間抜けな姿だった。いつ撮られたのか分からない。けどその時の席の関係とか構図から考えて、かっちゃんが撮った物なのは間違いなかった。

 

嫌がらせかなぁとも思ったけど、一度もこの写真を見せられて笑われた記憶はない。それならなんでだろうと凄く疑問だ。後でからかう為にとっておいて忘れてた━━━ううん、なきにしもあらず。

 

こんなもの消去と思って弄ったけど、ロックが掛かってて消せない。これも私の誕生日か?と思ってやったけど、流石に違った。

 

消せなかった事は不服に思いながらも、そろそろかっちゃんのスマホを弄るのに飽きてきた私は、それをきちんと元の位置に戻し次の面白いアイテムを探した。

 

そうして何となしに机を漁ってると、引き出しを開けた所で思わず手が止まる。

 

「お、おお!?」

 

そこには可愛くラッピングされた如何にもプレゼント用の何かがあった。

似合わなっ!!と思わず叫びそうになったが、なんとか飲み込む。大声を出せば流石に勘づかれる。

 

そっと手にとって振ってみるとカチカチ音が聞こえる。

貴金属っぽい。アクセ系かもしれん。

・・・似合わなっ!

 

「だ、誰にあげるんだろう・・・」

 

一瞬私かと思ったけど、誕生日は過ぎてるのでそれはない。箱にプレゼント相手の名前とかないかと調べたけど、書いてあるわけなかった。

 

取り敢えず写メだけ撮っておくかと思った所で、廊下から足音が聞こえてきた。その音の感じからかっちゃんである事を瞬時に察した私はそれを引き出しの中にinして、急いで初期配置に戻る。

 

座った直後、ドアが開き少し湿ったかっちゃんが帰って来た。

 

「うぉかえりぃ!!」

「あ?ああ、んだ、いきなり。つか、まだ居たのか。遅くなる前に帰れや。残りも大して残ってねぇだろ」

 

私の宿題を手にしたかっちゃんはそれをパラパラと捲る。

 

「この間、テスト前に教えてやった事が大半だ。どうしても出来なった所だけ連絡しやがれや」

「えぇ、でもさぁ」

「でも、くそもねぇ。支度しろや」

 

 

 

 

結局少しの宿題を残し、私はかっちゃんに送られて帰る事になった。

帰宅後、帰り際に光己さんから預かった例のブツは母様に無事に渡し、軽くシャワーを浴びてスッキリしてから残りの宿題を終わらせる為、勉強机に座り直す。

 

かっちゃんに言われた通り宿題は難しくなくて、思ったより早く終わりそうだった。

 

ぼやぁと宿題をやってると、かっちゃんの引き出しで見つけたアレが何だったのか気になってきた。

別に誰にあげようと構わないのだけど、誰にあげるつもりなのか。

 

誰かと付き合うかっちゃんを想像したら、あの日、体育祭前に登山した時にかっちゃんと一緒に見た夜景を思い出した。

 

 

「行けなくなる前に、行っとこうかなぁ・・・」

 

 

そう声に出してみると、何だかそれは少しだけ寂しいような気がした。



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みんな大好き眼鏡回のサブタイをサラッとつけてこうと思います『いつもと違う夏休み』の閑話の巻き

この更新速度、そろそろラディカル・グッドスピードに目覚めても良いのでは無かろうか。

言いたい!
速さが足りない!って言いたい!
(*´ω`*)


夏休み初日。

 

多くの学生が気を緩める日ではあるが、僕はいつも通りに起床し朝のトレーニングを済ませた。こういう時こそリズムを崩さず規則正しく過ごす事こそ肝要。ヒーローを目指す者として堕落した生活など以ての他だと思うからだ。

 

トレーニングの後はシャワーで汗を流し、母さんが用意してくれた朝ご飯を頂く。

 

「天哉。今日ね、天晴の所にいくけれど・・・本当に来ないの?」

 

食事中、母さんにそう尋ねられた。

行きたくない訳ではない。けれど、この間の一件もあってまだ顔を合わせづらかった。

 

それに今日は彼に相談を持ち掛けられている。

先に約束した彼を優先するべきだろう。

 

「申し訳ありません、母さん。約束があるんです・・・友達との」

「そう、それなら・・・仕方ないわね。先生のお話を聞く事になっているから帰りは遅くなると思うわ。お夕飯までには帰るつもりだけど、お昼は大丈夫?」

「心配しないで下さい。お昼はその友達と済ませる予定です━━━勿論、門限までには帰ってきます!!」

「ふふ、そう。なら、お夕飯作って待ってるわね。遅くなっても良いのよ?」

「いえ!門限までには!」

 

母さんは兄さんの一件以来、かなり神経質になっている。それは兄さんに対してだけでなく僕に対してもそうだった。僕の帰りが少しでも遅くなると、不安そうに玄関で待っている姿を幾度も見ている。

 

僕達家族についたその傷は深く、まだ癒えてはいないのだ。

 

「いってらっしゃい」

 

準備を済ませ玄関を出ようとすると、そう母さんに声を掛けられた。洗い物の途中だったのか濡れた手をエプロンで拭いている。

その姿に慌ててこちらに来たのが分かった。

見送る、ただこれだけの事が、今の母さんにとって特別なのだろう。

 

いってきます、と口にしようとしたが、脳裏に浮かんだソレが思わず口から出ていった。

 

「━━━兄さんに、今度会いにいくと伝えて下さい」

 

僕の言葉に母さんは嬉しそうに笑った。

 

「・・・えぇ、勿論よ。きっと天晴も喜ぶわ」

「いってきます」

 

まだ顔を見せる事は出来ない。

それは今も思っている。

 

でも、そうだ。

彼女達に教えられたんだ。

それではいけない事を。

 

次に兄さんと会った時、何を話そうか考えながら、僕は玄関の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

電車を乗り継ぎ待ち合わせの場所に向かう。

雄英校の最寄り駅であり、待ち合わせ場所であるそこに辿り着くと、改札を抜けた先の所で彼の姿が見えた。

 

「轟くん!」

 

僕の声に轟くんがいつもの無表情で「おぉ」と小さく返事を返してくる。

 

「今日は悪ぃな、飯田」

 

表情こそ変わらないが、その声から申し訳なさが滲み出ている。恩人としてもそうだが、一人の友人としてもそんな顔をして欲しくない。

僕は出来るだけ明るく声を掛ける事にした。

 

「いや、気にしないでくれ。相談相手に選んで貰えて、友として嬉しく思う。それより話というのは━━━と、どんな話にせよこんな所で話す事ではないか」

 

電話でも出来たというのに、轟くんはそうしなかった。

つまり面と向かってちゃんと話したい事があるということだ。大切な事に決まっている。

 

「何処かゆっくりと・・・喫茶店などが良いかな?」

 

と言ったものの、喫茶店など碌に知らない。

チェーン系のレストランなどであれば何件か思いつくが、真剣な話をする場として相応しいかといえば首を傾げてしまうような場所だ。ここは真剣な話をする為にも、場所にも気を配った方が良いだろう。

さてどうしようかと悩んでいると、轟くんが「一軒、知ってるぞ」と呟いた。

 

轟くんが態々口にする場所だ。

きっと話すのに良い空間なのだろう。

轟くんの感覚を信じ、僕は肯定をした。

 

 

それから少し歩き一軒の民家らしき場所に辿り着いた。

玄関には掃き掃除するご老人が一人。

 

「轟くん、ここは民家ではないか?」

「俺も初めて来た時はそう思った」

 

それだけ言うと轟くんはご老人の元へと向かった。

 

「お早うございます」

「ん?おやおや、双虎ちゃんのお友達じゃないか。確か・・・・ああ、そうだ、轟焦凍くんだったね」

「この間はありがとう御座いました。お母さん━━━母も喜んでくれました。茶葉を分けてくれた事、感謝を伝えておいて欲しいとも」

「どういたしまして。それにしても、そうか・・・紅茶、喜んで貰えたか。そりゃ良かったねぇ」

「はい」

 

ご老人と何処か楽しそうに話す轟くん。

何だか珍しい姿だ。

少し離れた所から轟くんの様子を眺めていると、ご老人がこちらを見た。

 

「こちらは・・・お友達かな?」

「はい。飯田っていう、俺の友達です」

「そうかい、今日は二人で来てくれたんだね」

 

轟くんから話を聞いたご老人は、柔らかい笑顔を浮かべ僕を見る。

 

「いらっしゃい、飯田くん。今日はよく来てくれたね」

「ほ、本日はお邪魔させて頂きます!!」

「はっはっは、幾らでもお邪魔しておくれ。趣味でやってるような店で、大した物は出せないけどねぇ」

 

軽い挨拶をかわした後、ご老人に案内され轟くんと共に玄関を潜る。すると飴色の木工品が並ぶ味のある店内が目に映った。

 

「ほぉ、これは━━━」

 

思わず感嘆の声を漏らした僕に、轟くんの頬が僅かではあるが弛んだ。人の機微に疎い僕でも分かるくらいに、とても嬉しそうに。

 

ご老人に促されるまま端のテーブルにつき、僕は轟くんの勧めもあって紅茶がセットである物を頼んだ。セットメニューを頼むと飲み物のお代わりが自由らしい。割高なイメージもあったが、それならば妥当かと納得する。

 

少し間が空いた後、ご老人が二つのティーカップを持ってきた。コトリと目の前に置かれたカップから何とも言えない香りが漂い鼻孔を刺激する。

 

「これは何という紅茶なのでしょうか?」

 

思わず尋ねるとご老人は困ったように笑った。

 

「企業秘密さ━━━━なんてね。実はね、最近ブレンドという物を覚えてね。見よう見まねでやっていてみたものの、歳のせいか何を入れたのか分からなくなってしまってねぇ・・・」

「そうなのですか?それにしては良い香りですが・・・」

「味は保証するよ。私も飲んだからね。でもまぁ、合わなかったら淹れ直すから言ってね」

 

一口試しに口に含んでみれば、何とも複雑な味わいだった。紅茶の事はよく分からないが、苦味がくどいような気がする。

 

「少し、苦いような気もしますが・・・俺は嫌いではありません」

「気にいってくれたなら何よりだ。━━━うーん、アッサムかなぁ。となると少し蒸らし過ぎ・・・たのかな?うーん」

 

老人は顎に手を当てながらブツブツとぼやきカウンターの奥へと姿を消していった。

 

「この間のよりくどいな」

 

対面に座る轟くんは相変わらずの表情で呟く。

しかし別段嫌いという訳でもないらしい。

ただただ興味深そうにしている。

 

「そんなに違うのかい?」

「ん?あぁ。茶葉が変わると全然違うんだな」

「材料が違うのだろうか?」

「さぁな。玉露と煎茶みたいなもんか?」

「八百万くんが居れば分かるのだろうが・・・」

 

二人でそんな話をしながら淹れられた紅茶を飲む。

少し落ち着いてから、僕は今日呼ばれた本題について尋ねる事にした。

 

「それで、今日はどうしたんだい?相談なんて。君らしくない・・・と言い切っていいのか少し迷う所ではあるが━━━━君は誰かに弱味を見せたがらない人じゃないか?」

「そうか?・・・まぁ、そういう事、あんまり周りに言わなかったしな。仕方ねぇか」

 

ふっ、と息を吐いた轟くんは続けた。

 

「・・・飯田、お前、こう、握られるみたいに、こう、胸が苦しくなったりしたことねぇか?」

「・・・胸が?」

「ああ」

 

真剣な轟くんの言葉に脳裏に様々なイメージが飛び交う。特に病気に関して。

 

「他に症状はないのかい?」

「他に・・・頭がぼーとしたりか?」

「頭が!?」

 

知識の中から該当する病気を探す。

けれどピンとくる物はない。

そもそも僕もそこまで病気に関して知識がある訳ではない。

 

「ほ、他には!?今は大丈夫なのかい!?」

「今は大丈夫だ。他・・・?少しだが、体が熱くなるような感じもする、か?」

「体温上昇!?」

 

これはいよいよではないか!と思って救急車を呼ぶ為にスマホを手にしたが、僕のセットメニューであるホットサンドを持ったご老人に止められた。

 

「ご老人!どうか止めないで頂きたいっ━━━」

「いやね、悪いとは思ってたんだけど聞いてしまってね。飯田くん、ちょっと待っててくれないかな?」

「しかしご老人!」

 

ご老人は僕に大人しくするように伝えて、轟くんを見つめた。

 

「もしかしてだけど、それは誰かが側にいる時ではないかな?」

「誰か・・・?」

「そう。例えば、そうだね。その誰かを見ていると、自然と心臓が早く脈打ったり、目を離せなくなったり。そういう事さ」

「・・・!」

 

轟くんの顔色が変わった。

心当たりがあったのだろう。

狼狽える轟くんをよそに、ご老人は続けた。

 

「もしかして、急にその子の事を意識し始めたりしたのじゃないかな?」

「あ、あぁ、でもなんで・・・」

「若いっていいなぁ、ははは」

 

ご老人は何か分かったみたいで笑い声をあげた。

話の流れを聞いていた僕も、もしかしてとある事が思い浮かぶ。そんな僕の顔を見て、ご老人は手にしていたホットサンドをテーブルに置いて笑顔でその場を後にしていった。後は僕に任せるつもりなのだろう。

 

ご老人が去った後、轟くんに視線を戻し間違いがないか確認してみる。

 

「轟くん。一つだけ確認したいのだが・・・さっきいった症状は突発的に起こる訳ではなく、誰かを意識するとなる物なのかい?」

「言われて見ればそうかもしれねぇ・・・緑谷が何かしてんのか?」

 

僕は別の意味で頭痛を覚えた。

よりにもよって緑谷くんかと。

男女の事に関しても鋭い訳でもない僕にでさえ、彼女が難攻不落の城である事が分かる。本人の恐ろしいまでの鈍さもそうだが、それより何より側にいるものが凶悪過ぎるのだ。

 

「本気かい、轟くん。いや、まぁ、応援はするが・・・」

「なんの話だ・・・?」

 

そう不思議そうに首を傾げる轟くん。

本来こういう物は自分で気づいた方が良いのかも知れないが、友として何も助言しないのも違うと思うのでそれを口にした。

 

「轟くん。緑谷くんの事、好きなんじゃないかな?」

「?まぁな。緑谷の事は好きだが」

「そうではなくてだな、女性として、異性として好きなのではないかな?という事だ」

 

轟くんの時が止まった。

何処か遠くを見つめたまま、ピクリとも動かない。

頭の中でどんな考えが巡っているか分からないが、それは長い熟考だった。

 

紅茶を嗜みながら待つこと三杯目。

漸く轟くんのスイッチが入った。

どこかぎこちない動きで僕を見つめてくる。

 

「飯田」

「うん、どうかしたかい」

「明後日、緑谷達に誘われて海に行くんだが」

 

それについては僕も知っている。

麗日くんに誘われたが、母さんの件もあって断った話だからだ。

 

「僕は行かないが・・・もしかして轟くんは行くのかい?」

「ああ。緑谷が来てくれたら助かると言ってたからな」

「ええ、ああ、うん、そうかぁ」

 

自覚するまでもなく、すっかり落とされるじゃないか。

轟くんそんな事になってたのか。

確かに思い返すと緑谷くんの肩を持つ事が多くなってたなぁとは思うが・・・。

 

そんな轟くんは左手で顔を覆い俯いた。

 

「どう顔を合わせればいいか分からねぇ・・・」

「・・・・そうか」

 

僕だって分からないよ。

恋なんてしたことないからね。

というかね、轟くん。人選ミスだよ。

僕には荷が重い。

 

「海って・・・やっぱり水着か?」

「釣りが目的なら大丈夫だろうけど、十中八九泳ぎに行くのだろう?」

「ああ、水着持ってこいって言われてる」

「それなら、泳ぐだろうな」

 

「何処を見たら大丈夫だ。髪の毛か」

 

もう水着の想像しているのかな。

きっと轟くんの頭の中には水着姿の緑谷くんがいるのだろうなぁ。僕にはちっとも浮かばないが。

 

それから何時間も轟くんのぼやきを聞く事になった。

簡単に言ってしまえば「どうしよう」といったものだ。

僕には明確な答えが出せそうにないので話を聞く事に徹した。

 

その夜、轟くんによる長きに渡る「どうしよう」攻撃を受けた僕は麗日くんに連絡をした。

 

「━━━あ、麗日くん」

『飯田くん?どないしたん、こんな時間に珍しいねぇ』

「いや、大した事ではないのだが、明後日の海の件、僕も参加出来ないだろうか?」

『え?まぁ、大丈夫やと思うけど・・・いきなりどないしたん?』

 

麗日の言葉で情けない様子でどうしようと呟く轟くんの姿が脳裏に浮かんだ。勿論それを口にするつもりはない。これは男同士の話だ。

 

「大した理由はないさ。ただ委員長として、友として責務を果たすべきだと、そう思ってね」

『あはは、何それへんなの。分かった取り敢えず百ちゃんに連絡とっとくわ。集合場所とか、後で連絡するね』

 

切られたスマホをポケットにしまい、僕は母さんに報告するために部屋を出た。母さんの事を考えれば行くべきではないだろう。側にいて安心させてやるべきだ。

しかし、しかしだ。一人の男として、悩める友を見捨てる訳にもいかないのだ。

 

僕は胸に抱いた思いと共に、母さんがいる居間への扉を開いた。

 

友を助けに海に行ってきます。

その一言を言う為に。

 



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旅行の日に限って寝坊するタイプな私。努力が実ったのか、やっと起きれたよ!まだ出発まで三十分もある。ふふ、これは自慢せねば。あ、もしもし早起きできた・・・え、旅行は明日?の巻き

森羅天征えぇぇぇぇ!!

・・・ふぅ、まだ出なかったか(;・ω・)

かめはめ波も駄目、波動拳も駄目、ラディカルグッドスピードも衝撃のファーストブリットも駄目。

いつになったら必殺技を使えるようになるのか。
誰か、チャクラの練りかたから教えてくれ。



予報通りの雲一つない晴天の日。

見上げれば夏特有の陽射しが眩しい。

朝のニュースだと今日は30度を越える真夏日だとかなんとか。海に行くにはいい感じの熱さだ。

 

「おい、双虎。あんまはしゃぐな、餓鬼じゃねぇんだ」

 

私のキャリーバッグを引いたかっちゃんはのそのそと歩きながら文句を言ってきた。私はプチオコである。何を言うか、かっちゃんよ。郷には入れば・・・なんとかって言うじゃないか!こういうはしゃぎ時にはしゃがなくて、いつはしゃぐとというのか!!

 

私は一旦かっちゃんの元まで戻り、ポケットに突っ込まれた手を引いて目的地へと急いだ。

 

「お、おい馬鹿!引っ張るんじゃねぇ!あぶねぇだろが!つか、てめぇの荷物矢鱈と重ぇんだよ!何入れてんだ!!」

「レディーの荷物を重いとかいうなぁ!軽いだろ、羽のように!てか、それおニューなんだから、傷つけたらパンチするからね!」

「だったら引っ張るんじゃねぇよ!」

 

かっちゃんと騒ぎながら駅までの道のりを行く。

いつも長く感じる道のりが、今日はやけに短く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

電車を乗り継ぎ30分。

待ち合わせ場所へと辿り着いた。

予定時間より早くついたのに殆どのメンバーが集合している。楽しそうにお喋りしてる女子ーずが目についた私は早速交ざりに行った。

 

「はよー!いい天気になったねぇ、ふぅーー!」

「あ、ニコ!おっはよーふぅーー!」

「ふぅーー!!」

 

「止めな馬鹿スリー。・・・つか、人前でよくそれができんな、あんたらは」

 

あしどん達とよく分からない挨拶をしたら耳郎ちゃんから冷たい言葉を頂いた。傷ついた。心ない言葉に傷ついた。

 

「酷い!耳郎ちゃん!私達は二日ぶりの再会に喜んだだけなのに!」

「そうだよ、ニコの言うとおりだよ!響香は酷いよ!喜びを言葉にしただけなのに、そんな否定しなくても良いのに!」

 

葉隠の言葉を待っていると、葉隠はヤレヤレというポーズをとってきた。

 

「いやぁ、響香ちゃんの言うとおり、恥ずかしい奴等だよ。ニコやんと三奈ちゃんは」

 

「「まさかの裏切り葉隠ぇ!!」

「いつも味方になると思ったら、大間違いだよ!!ふははは!!ねぇ!響香ちゃん」

 

そう言って葉隠は耳郎ちゃんを見たけど、耳郎ちゃんは目を逸らしてきた。

なので葉隠はそっと私たちの肩を掴み頷く。

 

「「「ふぅーー!!」」」

 

「つまらんコントすんな馬鹿スリー」

 

耳郎ちゃんから冷たい眼差しとツッコミを頂いた所で、「緑谷ー」という聞き慣れた声が耳に届いた。視線を向けると尾白が手を振ってきた。

 

「おはよう。相変わらず朝から元気だな」

「ったぼうよ!遊ぶと分かってて元気の出ない程インドアっ子ではないのよ!」

「ごめん、緑谷からはインドアさは欠片も見えないから。根っからのアウトドア派だろ」

「そうとも言う!」

 

尾白と話してると最近側にいる事が多かった瀬呂がいないのが気になった。

 

「瀬呂はどしたの?」

「うん、ああ。瀬呂ね。遅れてくるって・・・あ、話を噂すればだ」

 

尾白の見た方向に視線をやると、阿修羅さんに担がれた瀬呂が見えた。なんで阿修羅さんがとも思ったけど、阿修羅さんなら大丈夫なので気にしない事にする。

尾白はそんな阿修羅さん達の元へと向かう。ついでなので私もついてく。

 

「おはよう、障子。今日は悪かったね」

 

尾白がそう言うと阿修羅さんは首を横に振った。

 

「気にするな、尾白。もののついでだ」

「はなせぇぇぇ!障子ぃぃぃぃ!俺は行かないぃぃぃ!」

 

めちゃ抵抗してるやん。

 

「尾白、瀬呂行くの?」

「うん?行くよ?だからここにいるんだろ」

 

何故だか尾白の目が笑ってない。

それ以上聞くのもなんだかなぁと思って、私は尾白達と離れかっちゃんの所に戻った。かっちゃんは切島と何か真剣に話してるようだったんだけど、私が行くと話すのを止めてしまう。

 

何話してたのか。

超気になるんですけども。

 

かっちゃん達と喋りながら少し待つと、「おはよー」という可愛い声と共にお茶子がやってきた。轟と眼鏡の男二人を引き連れて。

お茶子がハーレムを築いてる事に若干驚きながらも、私達女子ーずはいたって普通の挨拶を返す。

 

「はよ、お茶子ー!どっちが本命?ちゅーしたー?」

「初でーとはいつ?麗日ー」

「アオハルしてるねぇーふぅーー!」

「まじか、麗日」

 

「なんっ━━━━でやねん!!」

 

渾身のツッコミが返ってきた。

やねんが駅前に木霊する。

 

「時間的に被るから一緒にきただけや!そんなんちゃうから!それに━━━いや、これはあかんか━━━てか、どうせ爆豪くんと一緒に来てるニコちゃんにだけは言われたないわ!!」

 

なんでやねん。

 

「ほほぅ、その様子。麗日氏、何か面白い情報をお持ちですな?どうですかな、葉隠氏」

「まことその通りですな、三奈氏。これは詳しくお話して頂きませんと、いけませんな」

 

眼鏡をかけ直す仕草をしたあしどんと葉隠が荒ぶるお茶子を囲む。私も交ざろうとしたのだが、眼鏡に声を掛けられた事でタイミングを逃す。

 

まぁ、お茶子には後で聞けばいいので、そのまま眼鏡達の方へと意識を向ける事にした。

 

「はよ、眼鏡」

「ああ、おはよう緑谷くん。今日は晴れて良かったな」

「ねぇー。折角の海だし、晴れてくんないとね?━━━んで、轟もはよ!」

 

優しさが天元突破してる私は、何故か眼鏡の後ろに隠れるようにいた紅白饅頭にも挨拶してあげる。あまりの己の女神っぷり、私は私に惚れそうである━━━なんて思ったのもつかの間。何も返してこない轟の反応に、私は首を傾げた。

 

「どしたの?」

 

顔を覗き込むと、轟が身を固めた。

まるで蛇に睨まれたカエルのようである。

カエルは梅雨ちゃんのアイデンティティーだから、出来れば控えて貰いたい。

 

「と、轟くん!挨拶だ」

「あ、ああ。大丈夫だ・・・分かってる」

 

戸惑うような眼鏡の声に、紅白饅頭は深呼吸を何度かした後よろよろと動き出した。

 

「お、おは、━━━━おう」

「おはようと言うだけだぞ!?本気かい、轟くん!?」

「わりぃ」

 

よく分からないけど、紅白饅頭は調子が悪いらしい。

 

「無理してこなくても良かったのに。帰っても大丈夫だよ?かっちゃんもいるし。何故だか知らないけど、阿修羅さんもいるし 」

「いや!!それには及ばないとも!緑谷くん!!轟くんはそう、寝起きで、多分、きっと、寝ぼけているんだと思う!そうだろ、轟くん!?」

 

「・・・?いや、寝ぼけてはい━━━━」

 

何か言おうとした紅白饅頭の口を眼鏡は押さえた。

 

「轟くーーんんんん!顔を洗いにいこう!そうすれば目も冴えるさ!それがいい!では、緑谷くん!僕たちは少しトイレに行かせて貰うよ!!何かあったらスマホに電話してくれたまえ!!」

 

そう言って紅白饅頭を引き摺るように連れていった眼鏡は必死そのもので、何かを隠している事は嫌でも分かった。聞き出してみたい所だけど、話の内容によって面倒な事になるかも知れない。なので、取り敢えずは放っておく事にする。触らぬが仏?だっけ?ともいうし?ん、違うか?知らぬ仏に祟りなしだっけか?ん?

 

更に待つこと十分程。

 

待ち合わせ場所に一台の大型バスが止まった。

観光用とは違い何処と無く高級感が漂うそれに、集合していた私達は嫌な予感を覚える。

 

「・・・なぁ、これってさ」

 

切島が何かを口にしようとした時、不意にバスの窓が開かれた。そしてそこには、やっぱり見慣れた人物の顔があった。

 

「お早う御座います、皆さん!お迎えに上がりましたわ!」

 

とても元気そうで、とても嬉しそうに笑う、私達のヤオモモが。

 

 

 

 

 

 

 

百に促されて中に入ると思った以上にブルジョアだった。対面式に並べられた椅子は高級感たっぷりで手で押してみるとフッカフカだった。肌触りの良さから、本革の可能性あり。その中心に置かれた重厚感溢れる黒の長テーブルなんて誰が見ても分かる高いやつだった。テーブルの各所に盛り込まれた金細工が怖い。天井に提げられたシャンデリアがキラキラと光を乱反射させ、物凄く落ち着かない空気を出してくださる。BGMなのかほんのりと流れるクラシック的な音楽もあって、更に落ち着かない感じだ。

 

そしてその中でポツンと座る、高級感に怯える梅雨ちゃんの可哀想なこと可哀想なこと。

 

私は怯える梅雨を抱き締めにいく。

ぎゅっとすると「こ、怖かったわ」と半泣きだった。

安心して、もう一人にしない!

 

梅雨ちゃんは割と百ん家と近かったので、先に合流してこちらに来る手筈だったのだ。それがまさか、こんな悲劇を生むとは思わなかった。ごめん、梅雨ちゃん!一人でこんな高級品に囲ませて!!・・・まあ、帰りにまた一人になるとは思うんだけど。

 

そんな私達の様子を見て百はとても不思議そう。

百に説明してあげたい所だけど、分かり合えないような気がする。だからなんでもないと誤魔化しておいた。

 

皆戸惑いながらも適当に席に座る。

私はそのまま梅雨ちゃんの隣に座り、梅雨ちゃんを挟んだ反対側にはお茶子が座った。高級感から梅雨ちゃんを守るディフェンスフォーメーションだ。

 

あ、私のもう一つの隣はかっちゃんが腰掛けた。

流れから女子が座ると思ってけど、まぁ、なんでも良いけどね?うん。

 

全員が座るのを確認するとバスがゆっくりと走り出し、それと同時にバス後部にあった謎の扉が開き、そこから執事っぽい人が現れた。

 

「お早う御座います、お嬢様のご友人の方々。私、八百万家の執事を務めさせて頂いております内村と申します。芦戸様、耳郎様、尾白様、瀬呂様につきましては先日ぶりでこざいますね」

 

どんな関係だろうかと思ったが、よくよくメンバーの考えてみると百先生による勉強会に参加した面々である事に気づいた。案の定、挨拶された面々は頭を下げてる。

 

「本日はお嬢様にお付き合い頂き、誠にありがとう御座います。昔からお嬢様は人と上手く関われず、ご友人もあまりいらっしゃいませんでした。それがこのように沢山のご学友と共にお出掛けになる日がこようとは。私、皆様に深き感謝を━━━━」

「じいや!恥ずかしいからお止めなさい!もう!それよりも皆さんにお飲み物の用意を」

「━━━と、そうですな。色々とご用意させて頂きました。こちらメニューとなっております。どうぞ」

 

執事さんから配られた高級感溢れる革張りのメニュー。

中身より、外装の値段から気になる。

しかも態々人数分用意されてる。

 

ここまで幾ら掛かってるのか知りたい。

 

梅雨ちゃんの隣に座るお茶子がメニューを手に停止した。

梅雨ちゃんは何とかメニューを開いたけど、その中身を見て完全に固まった。

何が書いてあんのこれ。呪いの言葉?ねぇ?

 

開くと呪われそうなので見ないで執事さんにコーラを頼んでおく。私の注文に快く頷く執事さんの様子を見て、かっちゃんと眼鏡、それと轟以外全員がコーラをチョイス。私の後に続くんじゃないよ、こら。

 

そんな中かっちゃんはコーヒー。轟はお茶。眼鏡はオレンジジュースを選んだ。

眼鏡はそろそろ血液がオレンジになるじゃないだろうか。

 

全員の手に飲み物が渡った頃、あしどんはコップを掲げて声をあげた。あしどんの順応性たるや、もうなれたのか生き生きとした表情である。

 

「これから海に着くまで二時間!楽しくいこー!!カンパーイ!!」

 

疎らに上がったコップが打ち合わされる。

私を含めこの乗りにのっかれたのは一部だけ。

けど、空気はさっきより明るくなった。

 

「ヤオモモ!カラオケしよ!!あるよね!?」

「か、カラオケですか?どうでしょう、じいや?」

 

執事のウッチーが百の質問に肯定するように頷く。

 

「勿論あります。こんな事もあろうかと、準備しておきました。最新型を」

「まぁ、それは良かった!芦戸さん!あるそうですわ!」

 

あしどんは一瞬微妙な顔をしたけど直ぐに持ち直し、「いいね!」と元気な声をだして私の方を見てきた。ほほう、協力要請ですね?盛り上げ隊ですね?分かります。

 

「やったろじゃないの!!マイクプリーズ!」

「よし!それでこそニコだ!」

 

執事さんからマイクを貰い、クルクルと掌で回す。

 

「へい!ボーイズアンドガール!耳の穴かっぽじってよく聞くがよい!妖精と謳われし我等の美声を!」

「OKニコー!御機嫌ないつものやったげて!」

「イェー!聞きたいか私の武勇伝!」

 

「それは歌ちゃう━━━で、古いわ!」

 

 

 

 

お茶子のツッコミと共に始まったカラオケ大会。

二時間後、漫才トリオ馬鹿スリーWithお茶子のお笑いライブで締められる事を、ここいる誰もが欠片も予想していなかった。

 

「葉隠!いつものやったげて!」

「いぇー!聞きたいか私の武勇伝!!」

 

「ニコちゃん!ボケ増やさんといて!!」

 



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女の子に油断は大敵なの!いつ何が起こるか分からないんだから、ちゃんと準備しないとね!死角には常に気を張って、不意打ちしてきた馬鹿に必殺の一撃を放てるように構えを━━━え?それは違う!?なにが!?の巻き

トカレフ マカロフ チェレンコフ~(*´ω`*)

ヘッケラーコックで見敵必殺~(*´ω`*)

スミスウェッソ━━━おっと、もうこんな時間だ。歌ってる場合じゃねぇやな。

さ、今日もぬるりと始まるぜ。


バスの旅が始まっておよそ二時間弱。

アンコールを受けて馬鹿スリーWithお茶子の即興ネタを披露しようとしたその時、窓を見たあしどんが目を見開いて指を差した。

 

「海だーー!!」

 

あしどんに釣られて視線を窓に向けると、目的地である真っ青な海が視界の中には入ってきた。

晴天の空の下、太陽の光を反射する海が矢鱈と眩しく映る。

 

「ヤオモモ!海に直行しようよ!!」

 

予定だと宿泊先に荷物を届けてから海に行くことになっていたのだが、あしどんは我慢出来なかったみたいだ。

 

「ふふふ、そんなに焦らなくても海は逃げませんわ。それに別荘は本当に海の側にありますから、荷物を置いてからでも十分遊ぶ時間は確保出来ます。お着替えの事もありますし、やはり一度は別荘の方へと行きましょう?」

「ううぅん、それじゃ仕方ないかぁ。じゃぁさ!ついたら直ぐ荷物置いて、直ぐ着替えよ!ね!」

「分かりました。ですから落ち着いて下さい」

 

楽しそうに笑う二人を眺めてると裾を引っ張られた。

視線を向ければ梅雨ちゃんが私の服を掴んでた。

なんじゃろか。

 

「どしたの?」

「けろっ。別に大した事じゃないの。緑谷ちゃんってどんな水着着るのかと思って」

「む?別に教えても良いんだけど・・・またいきなりだね?」

「正直海を見るまで、ここに来た理由を忘れてたわ」

 

どんだけショック受けてたの、梅雨ちゃんや。

いやまぁ、私も一人でこの高級感溢れるバスに放り込まれたら、ちょっとは気を使うと思うけどさ。

 

「まぁいいか。私はこの間買ったやつ着るよ。白のビキニ。ホルターネックのやつ」

「ビキニ・・・緑谷ちゃんには似合いそうね」

「梅雨ちゃんも似合うと思うけど。結構あるもんねぇ」

 

指でつんつんしてみれば梅雨ちゃんのおっぱいはポヨポヨと揺れる。感触がとても良かったので、私はそのままポヨポヨを味わう事にした。最初はされるがままの梅雨ちゃんだったけど次第に顔を赤くさせていき、最終的にはガードされた。

 

残念、もっとポヨポヨしたかったのにぃ。

 

「何をするの、緑谷ちゃん。びっくりしたわ」

「びっくりさせてメンゴ。代わりに私の触る?」

「何故だか不毛な争いが始まりそうだから止めておくわ。それに復讐は何も生まないもの」

「哲学だね」

 

「ニコちゃんは哲学をなんやと思うとるんや」

 

今日キレッキレのお茶子にツッコまれては私もお手上げだ。大人しく引き下がっておく。触らぬお茶子にツッコミなしだもんね・・・あれ、なんだ、このしっくりくる感じ。私は何かを忘れてるような・・・まぁいいか。

 

「それはそうと、お茶子はどんなの着るの?この間買わなかったでしょ?」

「え?私?中学の頃買ったやつで、フリルのついた花柄の黄色っぽいワンピだけど」

「えぇぇ、それってこの間聞いてたやつでしょ?なんだってそんな子供っぽいの・・・だったらこの前のビキニ着れば良いのにぃ」

「ええの!私にはまだ早いっちゅうか・・・その、そういうのは見せたい人が出来てからでええと思うし」

「眼鏡に見せれば?」

「なんでや。飯田くんに見せてもしゃーないやん」

 

だっ、そうです。眼鏡。

慈愛を込めて眼鏡に視線を送ったけど、こっちの話を聞いてなかったのか不思議そうな顔してる。

 

「どうかしたかい、緑谷くん?」

「んん?いや、別にぃ?」

 

やっぱりお茶子とは何も無いのだろうか。

前々からその仲のよさから疑っていたけど、ここまで反応ないと違う気がする。友情なのかな、本気で。

 

眼鏡の不思議そうな顔を見て考えてると、隣に座る紅白饅頭と目があった。朝より顔色が良さそうなので海も行けるだろう。一緒に遊ぼうね!とサムズアップしたら、何故だか目を逸らされた。解せぬ。

 

と言うか、気のせいかと思ってたけど、なんか朝から無視されてない私?

 

「ねぇねぇ、かっちゃん」

「・・・んだ、っせぇぞ」

 

寝こけてたかっちゃんを叩きおこすと、不機嫌そうに眉をひそめた。何となくその皺を指でぐいっと伸ばしてやれば、凄い顔で睨んできた。

ちょっとしたお茶目じゃんか!許せよぉ!

 

「それよりさ」

「それよりで済ますな━━━で、んだっつんだ?」

「なんか紅白饅頭に無視されるんだけど、なんか知らない?」

「俺に聞くな・・・つか、なんで俺に聞くんだ。クソ眼鏡にでも聞けや」

 

それはそうなんだろうけどさ。

 

「眼鏡は紅白饅頭側についてるっぽいから、聞いても教えてくれそうにないんだもん」

「・・・なら、俺はもっと知らねぇだろ」

「仲良くないもんねぇ」

 

言われてみればそうなんだけど、何となく知ってそうな気がしたんだよね。

紅白饅頭を見てみれば、また目を逸らされた。

 

「地味に傷つくんですけど・・・かっちゃん、慰めて」

「んで、俺が━━━━━何しろってんだ、おら」

「あーーーー、別に考えてなかった。かっちゃんなりにやってみて。大丈夫、どんなにかっちゃんが慰め下手でも引かないから!多分!」

 

胸を張ってそう伝えると溜息をつかれた。

しっつれいなやっちゃで。

 

それでもどう慰めるのか楽しみに待ってると、ワシワシと頭を撫でられた。無骨な手、乱暴な手つき。百点満点中五十点くらいだろうか?うーん、いまいち。

 

「最近、頭をよく撫でられる気がするなぁ・・・かっちゃんで三人目」

「あ?誰に撫でさせてんだてめぇはよ」

「ツカッチーとガチムチ」

「・・・この間の時だろ。叱られにいって、なんで頭撫でられる流れになんだよ」

 

それは私に聞かれても?

かっちゃんにワシワシと撫でられてると、ガタンと大きな音が鳴った。音の方を見れば紅白饅頭がこちらを見て立ち上がっている。

 

ほわい、何事?

 

隣に座る眼鏡が紅白饅頭の体を掴みなんとか座らせようとしてるけど、紅白饅頭は座る気配なくじっとこちらを見たまま動かない。

 

何故だか紅白饅頭の背後に変なオーラが━━━いや、威嚇してる紅白カラーの犬が見える。

 

「轟くん!急にアグレッシブ過ぎるぞ!落ち着きたまえ!いや、確かに、もう少し積極的になった方が良いのではないかと言ったが!」

「大丈夫だ」

「大丈夫ではなさそうだから言っているのだが!?」

 

なにやってんだろうか、さっきから。

何となしにかっちゃんを見ると怪訝そうな顔をしてた。

煩いのが気に入らないのかとも思ったけど、そうでもなさそうだ。うむ?何だろうか?男同士で伝わる事・・・エロい事かな?これだから男は。

 

 

「お茶子ちゃん、もしかして轟ちゃん・・・」

「梅雨ちゃん、言わぬが花って知っとる?」

「けろっ、理解したわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くしてバスは屋敷の前についた。

そこは思ったよりブルジョアな屋敷で、別荘である事を疑いたくなるような立派な建物だった。気になって執事さんに聞いてみると、元々百パパの知り合いの自宅だったらしい。サーフィンを趣味としてる百パパの知り合いが『すぐに海に行ける家が欲しい!』と自宅として建てたようなのだが、入居三ヶ月で飽きて百パパに格安で譲った物なんだとか。

 

格安って幾らですかと聞いたら、軽く億の話をされたので聞かなかった事にした。お金持ち怖い。

 

執事のウッチーに案内されて中に入ると、数人のメイドさんが控えており凄く丁寧な挨拶された。百が慌てた様子でプリプリしながら詰め寄っていたので、八百万家のメイドさんなのだろうと思う。

 

そのままメイドさん達に案内され部屋に。

屋敷の大きさから一人一部屋かと思ったら女子ーずは全員同じ部屋だった。明らかに移動した形跡のあるベッド達。ちらっと百を見ると、不安そうな顔で皆の顔色を窺っていた。

 

そんなに同じ部屋が良かったとですか?とか問い詰めて困らせてみたい気持ちになったけど、今日の所は黙っておく事にする。あしどんや葉隠も同じ気持ちなのか、私に目配せして深く頷いてきた。

 

そうだよね、あしどん、葉隠。

忘れた頃に掘り返した方が、ずっと面白くなりそうだもんね。それまで温めておかないとね。

 

 

あ、男共は知らん。

執事さんに連れてかれたから。

 

 

 

荷物を置いた私達は海に行くために着替え始める。

あしどんは濃いめの紫色の三角ビキニ。肌の色も映えてエロかった。

葉隠は水玉のタンキニ。ヒーロースーツより服の面積が増えるとはこれ如何に。

百はまさかのパレオ。なんでも最近おしりまわりが気になるらしく、隠したくてそれにしたらしい。━━━それよりも、はち切れんばかりの胸を気にした方が良いと言いたい。

 

「━━━で、お茶子はマジでそれ?」

 

私の視線の先には予告通りのワンピを着るお茶子の姿があった。全然高校生っぽさがない。おっぱいがあるからギリ中校生だけど、もしこれがなかったら小学生レベルの色気しかない。

 

「え、ええやん。というか、これしかあらへんし」

 

それは尤もなんだけど。

 

あしどん達に視線をやると私と同じ気持ちだったのか、深い、それは深い溜息をついた。

 

「なんなん!?もう皆して!そんなんゆーても、これしかないんやからしゃーないやないの!」

 

プリプリ怒るお茶子にそっと援軍が寄り添う。

そう、もう二人のダサ子達、スクール水着みたいな物を着る梅雨ちゃんと耳郎ちゃんである。

 

「良いじゃんか、別に。誰に見せる訳でもないし」

「けろ。私もお茶子ちゃんはそのままで良いと思うわ」

 

「梅雨ちゃん、耳郎ちゃん!」

 

感極まったのかお茶子は二人を抱き締めた。

そしてこちらにドヤ顔を見せてくる。

そんなに勝ち誇られても・・・。

 

「そうは言ってもさ、麗日。それはキツイってば。中坊みたいだもん」

 

あしどんの言葉にお茶子の肩が跳ねた。

 

「別にビキニ着ろとかは言わないけど、そのデザインはキツイよ。お茶子ちゃん。高校生で」

 

葉隠の言葉にまたお茶子の肩が跳ねた。

 

百は焦った様子であしどん達とお茶子達を交互に見ながらオロオロしてる。それでも何とかしようと思ったのか、意を決したように口を開いた。

 

「けっ、喧嘩はお止め下さい!良いじゃないですか、水着は好きな物を着れば良いのですから!麗日さんはよく似合ってらっしゃいますわ!自信を持って下さいまし!!」

 

おっと、止めを刺しに来たのか。

 

百の言葉を受けお茶子が崩れ落ちる。

よく似合ってるという言葉が効いたのだろう。

気持ちの良いくらい止めの言葉だったもんね。

 

梅雨ちゃんと耳郎ちゃんに支えられたお茶子は虚ろな目で天井を眺めた。敗者の目だった。

 

「わ、私かて、この感じ見れば、ば、場違いなんくらいは分かる・・・けど、しゃーないやん。これしかないねんもん」

「お茶子ちゃん、しっかりして」

「諦めるなって、麗日!年相応だから!おかしくないって!」

 

後は頼んだぜ、と格好よく真っ白に燃え尽きたお茶子。

皆は完全敗北を認めたお茶子から耳郎ちゃんへと視線を移す。耳郎ちゃんの肩が跳ねた。

 

「正直、梅雨ちゃんはらしいからアリだと思うんだよね。でも、耳郎ちゃんのそれはないね。ね、あしどん」

「ねー。てか、響香は恥ずかしがって本命持ってこなかっただけでしょ。あ、梅雨ちゃんはOK。それはファッションだと思うよ」

 

私とあしどんの言葉に耳郎ちゃんの肩が跳ね、梅雨ちゃんの頬がほんのり桃色に染まる。

その様子を見てた葉隠が胸を張った。

 

「梅雨ちゃんは似合ってるけど、響香ちゃんはないね!着替えた方が良いよ!」

「少しは遠慮しろ!葉隠えぇ!!」

「うわぁ!?なんで私だけ!?」

 

狭い部屋の中で始まった追いかけっこを他所に、梅雨ちゃんが私達の方へと近づいてきた。

 

「緑谷ちゃん、芦戸ちゃん。・・・その、本当に私は大丈夫かしら?」

 

梅雨ちゃんの言葉に私とあしどんはアイコンタクトする。

 

「「超カァイイ」」

「け、けろぉ・・・」

 

ちょっと嬉しそうな梅雨ちゃんが頬っぺたを赤くさせもじもじし始めた。照れてるのかな?可愛い。

 

それから直ぐ、私達の騒ぎを聞き付けたのかメイドさんがやってきた。

百が騒ぎの事情を話せば「そんな事ですか?でしたら良いものが」と部屋の中にはあるドアを開いた。衣装部屋と教えられていたそこを。

 

開かれたそこを覗くと、中には大量の水着が並んでいた。サイズもデザインも選り取りみどり。選びたい放題だ。

 

「これ、どうなさったの?」

「今回の件を聞いた奥様が、百様の為にとご用意なされました」

「まぁ、お母様ったら。そういう時は私の個性でどうとでもすると言いましたのに・・・」

「私共も失礼を承知でそのように伝えたのですが・・・どうしてもと」

「まったく、お母様は・・・ですけれど、丁度良かったですわね」

 

百は耳郎ちゃんとお茶子に水着の事を説明した。

母親の厚意で用意された物である事、それ故に使わないのは用意してくれた母親に悪いと思う事、二人に似合う水着があるので是非着て欲しい事。

 

思いやりと優しさによる百の提案に二人は頷かざるを得なくなり、渋々ではあったが水着を着替える事になった。

そう、着替える事になったのである。

 

「さぁ、耳郎さん!麗日さん!水着を選びましょう!お手伝いしますわ!」

 

「百さんが、お手伝いなさるなら、私もお手伝いしますわ!おほほほ!」

「あらあら!ニコさんがそうおっしゃるなら、私もお手伝いしますわ!!ホホホ!」

「三奈ちゃんとニコやんがそう言うなら、私も一肌脱いじゃうよぉぉ!!ふぅーー!」

「けろ」

 

 

 

 

「━━━麗日。ウチは腹括ったよ」

「━━━奇遇やな。私もや、耳郎ちゃん」

 

 

この後、皆で二人を着せ替え人形の如くあれこれ着せて、揉みくちゃにしたのは言うまでもない。



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夏といえば海!海といえばスイカに花火に、焼きとうもろこしにかき氷!いやっふぅー!ん?どうした!え?スイカがない!なんだと!・・・それなら仕方ないか、我が幼馴染よ、スイカ役は任せた!の巻き

今日こそは駄目だと思ったが、なんとかなったで御座る(*´ω`*)。

ま、いうても、予定より話進んでねぇでやんすけども。


青い海、白い砂浜、頬を撫でる潮風とギンギンに輝く太陽。それと、ふわりと浮かんだカラフルなボール。

 

「はぁぁぁぁ!!ニコちゃん108の必殺技!!」

 

夏の定番をこれでもかと詰め込んだそこで、私は渾身の力を以て空に浮かんだボールに、振りかぶったその手を叩きつけた。

 

「エクセレントスーパーギャラクシーメガトンライトニングスペシャルストロンガーアトミックバーンスパイク!!」

 

ボールは高速回転しながら真っ直ぐに落ちる。

狙いを定めたように、つんつん赤髪くんの顔面に向かって。

 

「ごっぱっ!!?」

 

物の見事に顔面で受けきった赤髪は地に伏せ、ボールは明後日のほうへと飛んでいく。フォローに走った地味顔の努力虚しく、ボールは砂を弾いた。

 

「ゲームセット。勝者、緑谷さんチーム」

 

終了をつげる百の声に、私は同じチームメイトお茶子と手を打ち合わせる。いえーい。

 

「緑谷ぁ!ちっとは手加減しろよ!なんだよ最後のスパイク!?軽く走馬灯見えたぞ!」

 

お茶子と勝利の余韻に浸っていると、切島が文句垂れてきた。賭けビーチバレーなのだから、本気でやって何が悪いというのか。

 

「勝負事は本気でやんないと面白くないでしょ?それよか負けたんだからジュースととうもろこし買ってこーい」

「くそぅ、ぐうの音もでねぇ」

 

とぼとぼと隣の砂浜にある海の家へ買い出しにいった、二人の負け犬の背中を眺めながら私は思った。

焼きそばも欲しいなと。

 

「負け犬ぅぅぅ!!焼きそばも買ってきてぇぇぇ!」

「負け犬とかいうなぁ!!・・・・てか焼きそばもかよ!少しは遠慮しろぅ!」

 

負け犬達に手を振りながら思う。

海いいねぇ!と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お茶子と耳郎ちゃんの水着選びに熱中する事一時間。

ようやく二人を着替えさせた私らは砂浜に向かった。

砂浜に辿り着くと、丁度男連中が用意しておいた浮き輪とかを膨らませている所だった。

 

「おまたー」

 

私の声に作業してた男連中の手が止まり、こちらに振り返る。

私達の姿を見て男子達が固まったのが分かった。そしてその視線の先に何があるかも。

チラッと後ろの女子ーずを見れば私でも目がいくものがある。ビキニに着替えさせたられたお茶子を始め、あしどん、百、私を含めた四人の強調されし胸の谷間ははっきり言って凶器だろう。宝剣、童貞殺しだ。

 

勿論他の女子ーずも良い感じではある。

梅雨ちゃんは独特のエロチックさがあるし、チューブトップタイプの水着を着させられた耳郎ちゃんは肩ヒモが無いせいか肩のラインが矢鱈とセクシーだし━━━━あ、いや、葉隠はどうだろう。私は良いと思うけども、水着が浮いてるようにしか見えないから・・・・まぁ人によるよね?

 

 

 

男子の視線に気づいたお茶子がそっと胸を隠す中、あしどんがズンズンと男連中に近寄っていく。

童貞達には刺激が強かったのか酷く狼狽えている。

 

「待たせてごめんねー!さっ、遊ぼ遊ぼ!」

 

そう無邪気に笑うあしどんのおっぱいが動きと共に揺れる。面白いくらい男連中の視線がつられて動く。

なにあれ、超面白い。

 

ぎこちない男連中も交えて遊び始めたあしどん達を他所に、私は早速かっちゃんの元に向かった。

パラソルの下でレジャーシートを敷き横になってたかっちゃんは、私を見かけると面倒臭そうな顔をしながらも体を起こした。

 

「ほらほら、みてみて!どうよ!」

「・・・そもそも俺が選んだやつだろうが。つか、一回見たわ」

 

それはそうなんだけども。

そこはそうじゃないでしょ。

 

「分かってないなぁ、かっちゃんは!海で見るのと、試着室で見るのは違うでしょーが!このギンギラギンの太陽の下で見る良さってのがあるでしょ!」

「どこで見ても変わんねぇわ」

 

そう言うとかっちゃんはそっぽを向いてしまった。

一言くらい褒めてくれると思ったので少し残念。

 

「ま、いっか。それよりオイル塗ってぇー」

「あ?ああ、面倒臭せぇな。ほら貸せ・・・・はぁ!?オイルだ!?」

 

私からサンオイルを渡されたかっちゃんは目を見開いた。どうせツッコむなら渡される前にして欲しい。心臓に悪いわ。この流れはやりますよの流れでしょ。

 

「丸顔にでも頼めや!」

「まぁまぁ」

「まぁまぁじゃねぇ!━━━っぶは!!」

 

返されたオイルをかっちゃんの顔面に押し付け、私はかっちゃんの隣でうつ伏せになる。やり易いようにヒモも外しておく。

 

「っ!おまっ、なにいそいそ準備してやがんだ!?やんねぇぞ!こら!」

「まぁまぁ、そこを何とか」

「まぁまぁとか言っとけば、俺がやると思ったら大間違いだからな!!てめぇ!」

 

中々やってくれない、強情な。

中学の頃はもっとすんなりやってくれたのに。

 

「やってよぉー。かっちゃんにやって貰うと、なんか良い感じなんだもん。光己さんにやって貰った時ほどじゃないけど、日焼け跡酷くならないんだよね」

「あぁ?なんだそりゃ・・・あ?まて、どっかで聞いた━━━ババァか。まさかババァみてぇな効果まであんのか・・・?」

 

じっと自分の掌を見て嫌そうな顔するかっちゃん。

かっちゃん的には美容効果とか微妙らしい。

こっちとしては羨ましい限りなのに。本当にあったらの話だけど。

 

「まぁ、そんな訳でさ、やってやって」

「━━━はぁ、今回だけだからな」

 

そう言うとかっちゃんはオイルを手に馴染ませ始めた。

いきなりぶっかけられるかと思ってたけど、こういう所は相変わらず丁寧なんだなぁと改めてかっちゃんの完璧っぷりに感心する。

 

「おい、触るぞ」

 

驚かさない為か、かっちゃんが声を掛けてくる。

私がそれに頷くとほんのり人肌に温められたオイルがそっと塗られ始めた。

 

かっちゃんの手は朝と変わらずゴツゴツだけど、その触り方は優しいのになっていて嫌いではない。寧ろちょっと心地好い。腰の上辺りから塗り始められたそれは段々と上に向かっていく。

 

「ひぅっ、ぅん」

 

背筋を撫でられのがくすぐったくて、思わず変な声が漏れてしまう。それと同時にかっちゃんの手が止まった。

どうしたのかと思ってちょっと顔を向ければ、かっちゃんが空を眺めていた。

 

「どしたの?」

「・・・っせぇ。んでもねぇわ」

「?そう?」

 

何でもないならと顔を楽な方向に向け直す。

するとかっちゃんの手がまた動き始めた。

かっちゃんの手つきはエロくないんだけど、どうも肩甲骨辺りはくすぐったくて仕方ない。変な声が出そうになる。てか、何回か出してしまった。その度にかっちゃんが手を止めるので、中々終わらなくて本当にまいった。くすぐったくて仕方ないから一思いにやって欲しいのに。

 

「━━━終わったぞ」

 

長きに渡るくすぐり地獄が終わり、かっちゃんの手が離れた。解放された私は起き上がろうとしたんだけど、何故だか背中を押されて倒された。

触れた感触からかっちゃんが押し倒してきたのは分かるけど、何だってんだいこらー。

 

「ヒモ縛れ、馬鹿が!」

「あ、忘れてた」

 

オイル塗って貰う為に解いてたんだった。

早速寝転んだまま直そうとしたけど上手くいかない。縛れるは縛れるけど、ぐちゃっとしてしまう。気に入らぬ。

なので近くいる手の空いてる人を使う事にした。

 

「縛ってぇ」

「てめぇでやれや!!」

 

今日一番の怒鳴り声。

かっちゃんはこんな時でも元気だねぇ。

でもそんなに全力で断られても困る。何故なら私はヒモを縛る程度のことに労力を割きたくないからだ。今の私は遊ぶこと以外、少しも頑張りたくないのだ。

 

上目遣いでお願いすればなんとかなるだろ、と思っていると「緑谷」と声が掛かった。視線をそこへと向けると紅白饅頭の姿があった。

 

「・・・・」

 

無言の紅白饅頭からは何か得体の知れないオーラが出ていた。何となく困ってる私を助けにきてくれたのは分かるけど、そこまで気を張るようなピンチではないし、何よりこっちを見る目が怖かったので本気でご遠慮願いたい。

 

「何か━━━」

「おら、縛ったぞ」

 

紅白饅頭が何か言おうとしたが、かっちゃんの声に遮られてそれも聞こえなくなる。

ぎゅっと縛られたヒモの感触にほっとした。

 

紅白饅頭を見るとちょっとシュンとしてる。

・・・ああ、うん、ありがとね。

気持ちだけは受け取っておく。

 

私はかっちゃんが塗ってくれなかった部分にサンオイルを塗りこみ、ビーチバレーし始めた皆の元に戻った。

 

かっちゃんも誘ったけど「面倒臭せぇ」との事で断られ、一応紅白饅頭の事も誘ったけど「わりぃ、今はいい」との事で断られた。

水着美少女の誘いを断るとは、なんて贅沢な奴等だろうか。

 

ふたこにゃん、久方ぶりのぷんすこぉぉぉぉである。

この怒り、何処にぶつけてくれようかぁぁぁ!

 

すると程よく目の前にボールが飛んできた。

ので、大きく手を振りかぶり━━━━。

 

「割り込みスパイク!!」

 

「━━ぶがっ!?」

 

「瀬呂!?」

 

 

 

 

◇━◇

 

 

 

 

皆の元に向かった緑谷を眺めながら、何をしてるのかと自分が情けなくなり溜息が溢れた。

 

意識する前と同じように普通に振る舞う。

それだけの事なのに、当たり前に出来ていたことが今は無理だった。

 

飯田に色々と相談に乗ってもらい、あまつさえ協力までさせてしまっているのに、話す所か若干引かれるという状況。本当に何をしてるのか。

 

俺は行き場のない気持ちと共に爆豪の隣に腰掛けた。

 

「・・・んで、俺の隣に座ってんだ。てめぇは」

「わりぃ・・・少しこのまま居させてくれ」

「わりぃと思ってんなら、失せろや」

 

そう荒い言葉で責めてくるが、爆豪が暴力を振るってくる事はなかった。ただ人を殺さんばかりの視線をぶつけてくるだけで。

 

「優しいな、おまえは」

「気持ちわりぃ事言ってんなボケ!!!本気でぶっ飛ばすぞ!!」

 

殺気を感じた。

これは多分本気のやつだ。

何か不味い事を言ってしまったようだ。

 

反省した俺は口を閉じ、海を眺める事にした。

波の音がどこか心地よかった。

朝から感じていたモヤモヤとした何かが、うっすらと晴れていく気分になる。

 

暫くぼーっとした後、何となしにに爆豪に尋ねてみる気になった。

 

「爆豪」

「・・・話し掛けんな」

「お前、緑谷の事好きだよな?」

「━━━ぶっ!?」

 

丁度飲み物を口にしていた爆豪が噴き出す。

変に気管に入ったのか噎せかえり、そして酷く咳き込んだ。

驚かせてしまったようだ。

 

少し悪いとは思ったが気になったそれを忘れられない為、そのままこちらを睨む爆豪に続けた。

 

「少し前までな、俺はお前らが仲の良い幼馴染なんだと思ってた。向ける好意とか、家族に向けるみたいなもんだと」

「・・・・・・」

「けどな、ようやく自分の気持ちが分かって気がついた。お前が緑谷に向けてるのが、そうじゃねぇって事」

 

それだけに思う。

よくこいつは平気な顔してあいつに接してられるなって。

 

「俺には出来ねぇ・・・どうしても、色々気になっちまうからよ」

 

そう溢した言葉に、隣から溜息が漏れた。

 

「━━━━別に、簡単な訳じゃねぇ。けどな、あいつが━━━━」

 

そこから先の言葉はなかった。

ただ、ばつの悪そうな爆豪の顔をみれば、何を言おうとしたのかは分かる。

 

 

「はぁぁぁぁ!!ニコちゃん108の必殺技!!」

 

 

ビーチバレーしてた皆の方から緑谷の元気な声が響いてきた。矢鱈と長い必殺技名を叫びボールを叩く緑谷は本当に楽しそうで、見ているこちらも楽しくなってくる。

 

「気持ちを伝えるのは大切だと思う。そのお陰で、俺はお母さんとまた話せた。・・・けどよ、それだけじゃ駄目なんだろうな」

「俺に言うな。ぶっ飛ばすぞ」

 

楽しそうにはしゃぐ緑谷から海に視線を戻し、俺は大きく息を吐いた。そしてまた大きく息を吸い込む。

上擦っていた気持ちを抑える為に。

 

「少し楽になった。━━━爆豪、行くか」

「はぁ?何言ってんだ、てめぇ」

「お前が別にいいなら、俺は一人でいくぞ?」

「・・・ああ?」

 

そう言うと爆豪は顰めっ面で立ち上がり俺の前を進んだ。ポケットに手を突っ込み、いつものように。

 

「素直じゃねぇな・・・」

 

爆豪の態度に呆れながら、俺もその背中に続いた。

緑谷達の所へ向かって。



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忙しくても手を抜かないでそれなりに頑張ってサブタイつけるよ「ビリビリボーイのドキドキエクスペリエンス」の閑話巻き

最近お時間がうまくとれないでやんす。
感想に返事出来んですまんな( ;∀;)

明日まとめて返すんで、堪忍やで。

感想励みになります、ありがと( *・ω・)ノ


青い海、白い砂浜、耳に響くキャピキャピしてる女子の声と暑っ苦しく輝く太陽。それと傍らにはナンパして引っ掻けた可愛い女の子━━━━の筈だったのだが、目の前に広がる光景はそんな考えが吹き飛ぶような暑苦しいまでの人の群れ。群れ。群れ。

 

あっちを見ても人、こっちを見ても人。そっちを見ても人。それもアベックだらけだ。

 

「ここが現世の地獄か・・・」

 

日焼けや暑さへの完全防備を施した常闇が小さく呟く。

内蔵型冷気ファンの動く音がホォンホォンと煩い。

 

「何処で買ったんだよ・・・」

「原生林生い茂る密林の異界にコンタクトし、我が血を以て呼び出した、と言っておこう」

「原生林?密林?コンタクト・・・ん?密林・・・なんだ通販じゃねぇか」

 

「違う、ネットショッピングだ」と訂正する常闇から視線を逸らし、この人混みの中でも女の子を舐めるように見つめる峰田を見た。

その姿を見るだけで果てしなく虚しくなる。

 

「なぁ、峰田。もう無理くね?」

「はぁ!?何言ってんだ!上鳴!これからが勝負時じゃねぇーかぁ!!お昼時!!お腹を空かせた女子を、この右手に持った焼きそばと!左手に持ったラムネで攻略すんだよぉ!!」

「いや、もうそれが無理あるっての。悲しくなってきたぜ、俺」

 

今日俺達は夏の海にナンパしにきていた。

何故かと言えば、クラスの女子達が海に行くという話をしていたのを聞いたのが切っ掛けだ。

 

女子達はナンパ対策として男子も連れてくみたいで何人かに声を掛けているようだった。だけど俺と峰田のみには一言どころか何も無かったのだ。空気ブレイカー青山や無口こと口田の如しな二人にすら声を掛けているというのにだ。

それが無性に気に入らなくて「仲間外れ反対!」と声をあげてみたのだが、企画者の一人である緑谷に「で?」と怖い顔で見られて終わった。隣にいた峰田の「やべぇ、ちびった」という情けない呟きを聞きながら、普段の行いなんだろうなぁと少しだけ反省したけど・・・まぁそれはそれだ。やっぱり悔しい。

 

そのまま何もしないのは我慢ならなかった俺達は、こうして常闇を巻き込んで、女子達を見返す為にナンパして彼女の一人でも━━━と意気込んで来たのだが、釣果は見事にゼロだった。

 

朝からナンパし続け数時間。

面白いくらいに誰も引っ掛からない。

声を掛ければ逃げられ、話を聞いて貰えるかなぁと思えば彼氏らしき奴に絡まれ、チャンスかなぁと思って女子についていけば監視員に捕まり事務所に連れてかれた。要注意された。

 

もうメンタルボロボロだった。

メンタルヘルスして貰いたい。

 

「常闇ぃぃぃ!お前も手伝えよぉ!じゃねぇと、可愛い女の子捕まえても紹介してやらねぇぞ!!」

「手伝わん。紹介もいらん」

「何しにきたんだよ!?」

「お前達が何かやらかさないか監視しに来た」

 

常闇の奴、監視しに来てたのか。

どうりで何もしないで後ろからじっと見てる訳だ。

すごい納得。

 

「━━━くぅ!常闇のあほぉ!少しくらい手伝ってくれても良いだろぉぉ!オイラは!オイラは!水着の女の子の揺れるおっぱいとか、太陽に照らされた柔肌とか見て、そんでイチャイチャしたいんだよぉぉぉぉ!!」

「慟哭するな、恥ずかしい」

 

二人の話を聞いてると酷く萎えてきた俺はフロートボート手に海に向かった。

 

「ん?おい、上鳴!何処に行くんだよ!本当に諦めんのかよ!」

「・・・いや、やっぱさっきの無し。諦めねぇーよ。でもちっと休憩しよーぜ。流石に朝から声かけまくって疲れたしよ。時間ずらして再チャレしようぜ」

「━━━ちっ!!仕方ねぇな。一時間休憩だ、上鳴。ほら、持ってけよ!」

 

そう言って手渡されたのはさっきのラムネ。

まだキンキンに冷えてた。夏のくそ暑い時に飲むと、また格別に上手いだよな。これが。

とはいえ、これで釣られてくれんなら、どんだけ楽かって話なんだよなぁ。

 

「ま、さんきゅー貰っとく。んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

「おう、一時間後にちゃんと戻ってこいよ!休んだ後はガンガンナンパすっからな!!」

「分かってるっつーの!今日こそ彼女ゲットすんぞ!峰田!!」

「ったぼうよ!!」

 

一旦峰田と別れた俺はフロートボートに乗って海を進む。こうして海の上から砂浜を見ると、あれだけ暑苦しく感じた人混みも夏の風物詩として見れば悪くないように思う。

 

戻ると思うと憂鬱だけど。

 

程よく人がいない所までいき、適当な場所で横になってみた。波に揺られるのは良い感じだ。疲れてたせいか眠くなる・・・。

 

「・・・いや、寝たら死ぬな」

 

寝たら何処に流されるか分からない。

冷静になった俺は取り敢えず起きておく事にした。

そのままぼんやりと空を眺めるもの良いが、やはり海に来たのだからと泳いでみる。

 

・・・虚しい。

 

「・・・くはっ!駄目だぁ!!これは、あれだ!!峰田の言うとおり、全然楽しくない!」

 

せめて傍らに彼女でもいればあれなのだろうが、なんだこれ、全然楽しくない。息抜きどころか、今まで受けてた所とは違う所にダメージ受けてる気がする。

これならまだ峰田とフラれてる方がマシだ。

 

「ってもなぁ。峰田もどっかいっちまったし・・・いまから合流するのは難しいよな?」

 

生憎スマホは常闇に預けてある。

水中対応のプラスチックの財布は持っているから買ったりなんだりは困らないけど、一人で食ったり飲んだりするのは寂しい。

 

峰田から貰ったラムネに口をつけてぼんやりしていると、少しだけ沖の方へ流されてしまった。まだ大丈夫だけど、放っておくと遭難しかねない。驚いて戻ろうとして浜辺に視線を向ければ矢鱈と空いてる浜辺が視界に入った。俺達がいた浜辺から岩場を挟んだ更に奥の方。ガラガラの浜辺がある。なんでだ?と思ってると、朝来たとき私有地の看板があったのを思い出した。

 

「ああ、それでか」

 

岩場の向こう全部が私有地なのかと納得する。

どんな人がいるだろうかと岸に近づきながら見てると、何人か若い男女が遊んでる様子が見えてきた。随分と楽しげだ。それに何より、距離が離れてるといるのにはっきり分かってしまう、動きに合わせて揺れる大きなバストに目がいった。中でも白の水着をきてる女子の動きは激しく、眺めてるだけで俺の上鳴がこんにちはしてくる程に良いものだった。

でもその女子だけでなく、その近くにあるパレオの女子も凄かった。隠された足がチラチラ見えるのが物凄くエッチで、その上おっぱいも揺れるものだから、俺の上鳴さんはご機嫌なまま。

その近くで胸を隠す女子の恥じらいもまた良かった。肌がピンクといった少し変わった女子もいたけど、うちのクラスにもピンクはいる。この時代、肌の色でどうこう言うのは非常に物知らずといえる、勿論いけた。旧タイプのスクール水着みたいなのを着る女子もいた。それも良かった。独特のエロスがある。

 

それだけに、周りにいる男連中を酷く疎ましく思う。

こっちにこないかな。電気流してやるのに。

 

下心と嫉妬を入り混ぜながら更に眺めていると、一人の女子がそのグループから離れていくのが見えた。

胸はあんまりだけど、肩が丸出しになったセクシーな水着女子だ。あれをなんて言うんだっけか、峰田ならわかんのになぁ。チューブ、チューブ、チューブトッポブラ?違うな。

 

セクシー女子はグループの連中から離れ泳ぎ始めた。

そのまま近くにあった岩場へと向かい、波に打たれていた一つの岩場に乗りあげ腰掛けた。

 

髪についた水を振り払い、長くない髪をかきあげる姿が矢鱈とエロくて、俺の上鳴は元気絶好調である。俺はセクシー女子を放っておく男連中の様子を窺った後、ナンパしにいく事にした。

俺なんかでは落とせないレベルの子なのは分かるけど、こうもお膳立てされたらやらねば男がすたる。ていうか、お近づきになりたい。

 

フロートボートに乗ったまま少しずつ接近し、海を眺めるその女子の背中に気合いを入れてから話し掛ける。

 

「そこの綺麗なお姉さん!一人で暇してない!一緒に遊ばない!?」

 

少し声が上擦ってしまった。

やばい恥ずかしい。

 

童貞丸出しな言葉に笑われるかなぁと心配していたそんな俺の耳に、「うわっ」という驚くような声が聞こえてきた。

 

どうしたのかと視線あげると、何処かで見たような顔が俺を見てた。

 

「何処の馬鹿が入り込んできたのかと思ったら・・・よりにもよって、なんであんたがいんのよ。上鳴」

 

名前を呼ばれた。

名乗った筈はないのに。

以前会ったことがあるのかと、マジマジ目の前の女子を見つめれば━━━━目の前の女子が誰か分かった。

 

「もしかして、雄英高校一年ヒーロー科、耳郎響香さんじゃないですか?」

「ぷっ、なにそれ。どんだけ慎重なのよ。そうですよ、その耳郎響香さんだよ。上鳴電気さん?」

 

クスっと笑う耳郎が凄く色っぽく見えた。

その水着のせいか行動の一つ一つがなんか大人っぽくて、とても綺麗だった。思わず見蕩れてると耳郎が困惑したような顔をした。

 

「あのさ、そんなにジロジロ見られると流石に照れるんだけど?」

「わ、わりぃ!そんなつもりじゃねぇんだって!ただ━━」

「ああ、良いって。自分でもさ似合ってないと思うし。物珍しさは分かる。皆悪のりしてさ━━━はぁ・・・。つまんないの見せてごめんね」

 

そう苦笑いする耳郎に、思わず声が出た。

 

「そんな事ねぇーって!その、なんつーか!超きれーだわ!可愛いとかじゃねぇけど、取り敢えず、今日はすげぇーきれーだわ!」

「・・・っ、止めなってば、そういう慰めとか━━━って、ばっ、馬鹿っ!そういう事、簡単に言うな!」

 

イヤホンでビンタされた。

何故怒られたのか分からない。

おかしい、誉めたのに。

 

顔を真っ赤にさせた耳郎はそっぽを向いた。

よく見れば耳まで真っ赤だ。

 

・・・まさか熱中症とかじゃないよな?

 

「だるかったり、喉が渇いてたりしてね?」

「・・・はぁ?まぁ、喉は渇いてるけど」

 

ほらな、そうだと思った。

飲み掛けだけど無いよりはマシかとラムネを差し出した。いい加減、ちょっと温い。

 

耳郎は不思議そうな顔をしたものの、俺の手からラムネを取ると普通に口をつけた。良かった、良かった。これで少しはマシに・・・・。

 

「・・・あれ、これって間接キス」

「ぶっ!!」

 

思わず言ってしまった言葉に耳郎が噴き出した。

なんか小さい声で「なんでウチが爆豪みたいな事を」とか呟いてる。憎しみが隠ってる気がする。

 

「ごほっ、あ、あー、ん。━━━馬鹿上鳴!いきなり変な事言うな!」

「わ、わりい。あんま気にしないと思ったから。俺とかそんなに気にしないし・・・」

「気にしないなら余計に言うなし!私も気にならないけど、いきなりそんな事言われたら変に意識するでしょーが!!」

「えぇ、ああ、ごめんってば」

 

爆豪並みの迫力で怒鳴り散らしてくる耳郎に平謝りする。平身低頭が効いたのか、直ぐに耳郎は落ち着きを取り戻した。

 

「はぁ、もう良い。あんたに怒ってると、果てしなく自分が馬鹿に思えてくるし」

「おい、耳郎。おい耳郎さんや。酷くない?」

「だったらちっとはその馬鹿な所直せ」

 

言われて直んなら、とっくに直してるっての。

そう言おうとしたけど、それより早く耳郎が口を開いた。

 

「ま、そうしたらさ。上鳴きっとモテるよ。ウチが保証してあげる」

 

潮風に髪を靡かせて、歯を見せて笑う耳郎に俺の心臓は大きく高鳴った。いつもの違う雰囲気がそうさせたのか、こういうシチュエーションがそうさせたのか分からないけど、その時、俺は耳郎から目が離せなくなった。

 

「あのさ、耳郎━━━━━」

 

 

 

 

 

 

「上鳴ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

馬鹿デカい声が浜辺から響いてきた。

視線を向ければ赤髪の男にしがみつく峰田の姿が見えた。

 

 

「見つけたぞぉぉぉぉ!!オイラ達の楽園ぉぉぉぉ!!」

「離せっ、て!お前連れ帰ったら、マジで緑谷に何言われっかわかんねぇだろ!!」

 

 

 

よく見たら赤髪は切島だった。

その様子を見て、耳郎が可笑しそうに笑う。

さっきとは違う子供みたいな可愛い笑顔だ。

 

「━━━はぁ、バレちゃったか。てか、あんたら豪運だね。海水浴場でも色々あるのに、よくピンポイントできたもんだよ」

「て、なると、峰田の嗅覚って馬鹿になんねぇんだな」

「やっぱり峰田か」

 

何とも言えない顔でそう言った耳郎は眉をひそめた後、騒いでいる峰田達を指差した。

 

「フォローしてあげなよ。向こうから監視員来てるからさ」

「まじか!?俺らさっき注意受けてんだよ!!やべぇ!━━━━と、耳郎も乗ってくか?!」

「ウチはもう少しここでのんびりしてくから良いよ」

 

ヒラヒラと手を振る耳郎を背に、俺は峰田達の元に向かった。

 

何となく気になって振り返ってみると、海を眺める耳郎の横顔があって、それはいつもよりずっと大人っぽく見えた。

 



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海岸沿いで花火をやる不届き者につぐ、後片付けをしなさい。じゃないと、私みたいな善良な市民がゴミを踏んで怪我します。てか、しました。なので、こんど見掛けたら尻の穴にロケット花火突っ込むんで宜しく。の巻き

夏休みへん、なげぇ。
ま、でも、本編はいったら、シリアスなげぇし。

今のうち楽しんでおくで(*ゝ`ω・)


初日の海を程ほどに遊んだ、その日の夜。

お屋敷で八百万家専属シェフにより振る舞われたご馳走をこれでもかと堪能した私達は、浜辺に打ち立てられた十字架のモニュメントの前で花火の準備をいそいそと行っていた。

 

海ときたらやっぱり花火。

あしどんと私の希望で始まった小さな花火大会。

準備する皆の顔は楽しそうだ。

 

「うわぁぁぁん!解放してくれよぉぉぉ!!もう何もしねぇぇぇよぉぉぉぉ━━━━━タブン━━━━━オイラも花火したいよぉぉぉ!!女子と花火したいよぉぉぉ!!」

 

泣きわめくモニュメントを前に誰一人そちらに顔を向けず、本当に楽しそうに準備してる。

 

「緑谷ちゃんが買い出しにいったのよね?爆豪ちゃん達と。これって何なの?」

 

買ってきた花火を地面に広げる梅雨ちゃんが、黒い円筒形の塊を手にして不思議そうに首を傾げる。

 

「ヘビ玉」

「けろっ?ヘビ玉?」

「火を点けると、こう、にょきにょきーって黒い奴が出てくるの」

「?」

 

私の説明では分からなかったのか、梅雨ちゃんの頭の上に疑問符が浮かぶ。まぁでも、これ以上の説明とか私も無理だし。つい懐かしくて買ったけど、私もヘビ玉が何なのか、何のためにあるものなのか、ぶっちゃけ分からないから仕方ないよね。

 

小学生の頃やった悪戯を思い出すなぁ。

 

昔の思い出に浸ってると肩を叩かれた。

振り向けば眉を下げた上鳴、その後ろに似たような顔した男子ーずがいた。

 

「どしたの?」

「いや、こんな事言うのはあれなんだけさ、いや、峰田の奴が悪いんだけどさ、そろそろ降ろしてやってくんね?」

 

上鳴の後ろにいた男子ーずの一人、切島が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「この通りだぜ、緑谷。確かによ、峰田はあれだったけどよ、そろそろ勘弁してやってくれ。飯もなしでずっとこのままなんだ、反省したって。ほら、俺達もちゃんと見張るからよ」

 

切島がそう言うと尾白と阿修羅さん、常闇も頷く。

けれど眼鏡や紅白饅頭は賛成していないみたいだ。かっちゃんは相変わらずブドウの処遇に無関心だし。

━━━あ、それとあいつも。

 

「良いんじゃねぇか、もう少し反省させとけばよ」

 

そんな声があがったのは男子ーずと反対側、女子ーずに混ざり花火を準備するその男から。

女子に囲まれ楽しそうに頬を弛める、ドンマイこと瀬呂である。

 

「なっ!瀬呂!お前なっ!」

「切島くーん、そうは言ってもさぁ、峰田が女子達にセクハラ紛いの━━━いや、セクハラしたのは事実じゃないか。彼女達が安心して過ごす為にも、紳士である俺は賛成出来ないなぁ」

「だからそれは俺らが━━━」

「抑えられなかったから、こうなってるのだけど?寧ろ、この処置は女子達からの優しさだよ?通報されてもおかしくないんだから。寧ろ感謝しないとな?」

 

瀬呂の言うとおり、ブドウの行動は目に余るものだった。

見つかってしまったものは仕方ないと一緒に遊ぶことになったのだが、ブドウは予想以上にブドウでどスケベ過ぎたのだ。

ビーチバレーをやれば躊躇いもなくおっぱいガン見。水の掛け合いが始まれば厭らしい目付きで変な所ばかりに水を掛けてくる。スイカ割りすれば目隠ししたのを良いことに、分からない体を装って女子に突撃。海に入れば潜って近寄ってくるし、浜辺で横になればサンオイル片手に鼻息MAXで迫ってくる。

 

他にもあげたらキリがない。

予想以上にブドウはクソだった。

 

だからこそ、比較的穏和な梅雨ちゃんやこういう事に反対する事の多い百が、今のブドウの処遇に対して意見するどころか目も合わせないのだから。

相当オコである事が分かる。

 

それとは反対に瀬呂は女子ーずにチヤホヤされた筆頭だった。例の一件で落ち込むその姿に同情したのか、女子ーずは何かと瀬呂の世話を焼いたのだ。あしどんにサンオイル塗って貰ったり、疲れて休んでいれば百が飲み物もってったり・・・他にも色々。

 

女子ーずに砂で埋められながら、幸せそうに笑う瀬呂の姿はまだ記憶に新しい。

 

「峰田くん、これは自業自得なのだよ。大人しく罪を償いなさい」

「瀬呂、この野郎!!試験誰のお陰でクリア出来たのか忘れた訳じゃないよな!!?」

「あははっ!それこそ関係ないな!なんたって俺は赤点だったからさー!」

「はっ!?そうだった、お前だけ赤点になったんだった!!」

 

楽しそうに峰田を弄り始めた瀬呂を放っておき、私達女子ーず一同は準備を進めた。

 

 

それから少しして、モニュメントはモニュメントのまま花火大会が始まった。開会式と称してあしどんが打ち上げ花火の導火線に火を点ける。

 

パシュッという音共に光が打ち上がり、空に小さな花を咲かせる。

 

「ショボッ」

 

思わず溢れた私の言葉。

誰とも知れずに笑い声があがる。

 

「それじゃ後は、好きにやっちゃおー!」

 

あしどんの掛け声と共に皆がそれぞれの花火を手に火を点ける。火薬の焼ける臭いと共に光の粒が溢れ出し、薄暗い海岸を照らしていく。

 

私も禁じ手とされた二刀流の封印を解き、闇夜を切り裂く花火マスターとしての技を披露する。

秘技、二刀流回転花火舞!!

 

「っぶねぇ!!緑谷!!こっち火花飛んできたぞ!」

 

切島に普通に怒られた。

それならばと龍虎の構えから始まる二刀流奥義を披露しようとしたが、かっちゃんに一本取られてしまったので不発に終わる。

 

「返してよぉ、奥義がぁー」

「返すか。あぶねぇだろ、振り回すな。前みてぇに残しておいた花火一斉引火させてぇのか馬鹿」

「うぅぅぅ」

 

一斉発火って、かっちゃんはいつの事言ってるのか。

あんなの小学生の時、一回こっきりだけだ。早々ミスする分けないじゃないか。

いや、まぁ、あの時は大変な騒ぎになったけども。

 

「大人しくやんねぇと、やらせねぇぞ」

「うぅぅぅぅ・・・クソかっちゃん」

「んだと、こら」

 

思いっきり睨まれてしまった。

おお、怖い怖い。

 

手持ち花火の火が消えたので燃えかすを水バケツに突っ込み、次の物を手にする。

さっき梅雨ちゃんが眺めてたヘビ玉だ。

 

私はそれに火を点け、さっと男連中の所にアンダースローしておく。丁度良く男連中の真ん前に落ちたヘビ玉から黒いにょきにょきが現れる。突然の事に男連中は驚きの声をあげた。

 

私はすかさずネズミ花火も投げつける。

シュパパパと地面をグルグル回る花火に、男子連中は更に混乱の渦に叩き込まれる。

 

私の悪戯花火がその勢いをなくしていくと、落ち着いた男子連中は私を見てきた。まるで犯人である事を決めつけるような、そんな目つきだ。ちゃんと見てない癖になんて失礼なんでしょう!ま、やったの私だけど。

 

「緑谷ぁ~~!」

「違ウヨ、ボクジャナーイ」

「なんで片言!?幾らなんでも胡散臭過ぎるだろ!?」

 

疑いの眼差しから逃げる為、かっちゃんの後ろに隠れた。かっちゃんが凄く不服そう。

 

「爆豪ぉぉ、お前、ちゃんと面倒みろよ。さっきからよぉ」

「っせぇぞ、クソ髪。てめぇらに隙があっからだろぉが」

「なんか凄い目茶苦茶な事言ってきた!?」

 

良い感じに二人が話し始め隙が出来たので、切島達をかっちゃんに任せて女子ーずの所に向かう。

あしどんや葉隠は私と似たようなもんだったけど、百や耳郎ちゃんは派手に花火を振ってたりしなかった。楽しそうである事は変わらないけど、楽しみ方は全然違うみたい。

 

私は梅雨ちゃんとのんびり花火をしてるお茶子の元に向かった。

 

「やほ!」

「あ、ニコちゃん。こっちで振り回したりせんといてよ」

「あれ、見られてた?」

「そら目立つもん。見ようとしなくても見てまうよ」

 

そう苦笑いしたお茶子は火の点いてない一本の花火を差し出してくる。差し出されたそれを手にすると、お茶子が自分の持っていた花火で火を点けてくれた。

 

「皆楽しそうやねぇ、来て良かった」

 

お茶子の言葉に梅雨ちゃんが「そうね」と呟く。

 

「ねぇー。私は何故か怒られたけど、来て良かったとは思うよ。うんうん」

 

「怒られたのは自業自得やんか」

「けろっ、本当ね」

 

はしゃぐあしどんや葉隠達をぼやーっと眺めていると、気がつけば手元の光が消えた。

花火の火薬が尽きたみたい。

 

新しい花火を取りに行く事もなく、少し暗くなったそこで暗い海を眺めた。

潮風にお茶子の髪が揺れてる。

 

「━━━入学する前はさ、私こんな所まで来て、こんな風に友達と海眺めるとは思わなかった」

 

そっと呟かれたお茶子の言葉。

私も梅雨ちゃんも何も言わないまま耳を傾ける。

 

「雄英が厳しいのは知っとったし、それに一人暮らしせないかんしで、不安のが大きかった。でもヒーローになるなら、ここだってそう思っとったから、勉強も生活も頑張らなって・・・」

 

「・・・それやのに、ふふ、おかしいんだよね。今は毎日が楽しい。いつの間にかずっとこうしていられたらなぁって思うようになっとった」

 

「これからきっと、もっと大変になる。沢山やらなならん事が増えて挫ける人がいるかも知れん。事情があって何処かにいかなならん人が出るかも知れん。皆が皆残って卒業して、皆ヒーローなんて、そんなに上手く行くわけない・・・」

 

「━━━でもね、思うねん。また来年も、こうやって皆と海に来れたらなぁって」

 

 

 

 

 

 

 

「けろっ、口田ちゃん、砂藤ちゃん、青山ちゃん抜きで?」

「それは私も言うて気づいた。言わんといて、恥ずかしい」

 

私は完全に忘れてた。

お願い誰も気づかないで、恥ずかしい。

 

 

 

 

 

それから暫く、モニュメントからブドウが解放された頃。私達は花火の締めである線香花火を手にしていた。

そして始まる誰が一番最後まで残るか勝負。

特に賭けてる物はないが、皆ムキになって参加。

 

勿論私もガチで勝ちにいってる。

 

始まった戦い。

最初に手を打ってきたのは葉隠だった。

 

「私、今、ノーブラ」

 

静かな告白。

尾白とブドウが火の玉を落とした。

 

「くっそぅ!!やられたぁ!!よく考えたら、葉隠なんて裸がデフォみたいなもんなのにぃぃ!!全然なにも、得ねぇのにぃ!」

「・・・・く、こんな手に不覚をとるなんて」

 

「あっははは!!どうだ!私のさく━━━━」

 

ポトリと、葉隠の線香花火から火の玉が落ちる。

 

「うわぁぁぁぁ!!私のどっ可愛いべいびー!!」

「ぶっ!?ちょっ、透ちゃんずるいわ!!」

 

お茶子の線香花火から火の玉が落ちていった。

葉隠の猛威に一挙に四人脱落である。

本人も含めて。

 

葉隠が黙り込むと、パチパチという音だけが残る。

誰も何も言わない。波の音がやけに耳に響く。

 

ポトリと、瀬呂の線香花火から火の玉が落ちた。

なんの笑い所もない、ただの脱落。

 

「ドンマイ」

「やめろぉ緑谷!!いまのドンマイは駄目だろ!傷つくだろ!!」

 

パチパチという音だけの空間。

次に仕掛けてきたのは意外にも梅雨ちゃんだった。

私に視線を送ってきた梅雨ちゃんはそっと口を開く。

 

「ゲコッ」

 

切島の手が大きく揺れた。

突然の口癖のチェンジに、何人かツボに入ったようでプルプルしてる。

 

私は平気だ。

この程度、私にとって児戯に等しい。

 

「・・・カエルぴょこぴょこ、みぴょこぴょこ。合わせてぴょこぴょこ━━みぴょこぴょこ」

 

「むぴょこだろうが!!ばかぁ!!上鳴か!」

 

切島の線香花火から火の玉が落ちた。

ついでに上鳴、耳郎ちゃんも脱落。

 

この静かな空気と、静かにしなきゃならないという雰囲気が、変な流れを生み出しているのは明白。普段ならこんな下らないことで笑うのは有り得ない。

それは脱落した三人にも言える事だし、私にも言える事。

 

え?うん。

むぴょこが馬鹿みたいに効いた。

腹捩れるかと思った。

 

「切島ぁ!どういう意味だ!!さっきの上鳴かって、どういう意味だぁ!」

「いや、悪かったって。でもお前この間普通に足し算間違えてたから、つい」

「言うなぁ!!」

 

「ぷっ、上鳴!あんた、足し算も出来ないの!?くくっ」

 

「やめろぉ!耳郎!あれはケアレスミスだ!そんな毎回間違えるみたいな━━━━」

「こないだの数学、少なくとも三ヶ所足し算ミスしてたろ。サービス問題のとこで」

「それを言うなといってるんだ、切島くぅぅん!!」

 

「くふふ、はっ、ちょ、止めて、死ぬ」

 

「んで、どんだけ笑ってるのかなぁ!?耳郎さぁぁん!?」

 

三人のコントに常闇とあしどんが線香花火の火を落とす。

 

「あっ」

 

空気が少しずつ落ち着き始めた時、眼鏡の火の玉が落ちる。それにならうように百のも落ちた。

 

そろそろ落ちやすい時間帯。

ここからは僅かな揺れも禁物となる。

全員が黙る中、そっと阿修羅さんの複製腕から口が延びてきた。

 

「東京特許ときゃきょきゅっ━━!!」

 

突然の早口言葉。

梅雨ちゃんの真似をしたのかは分からないが、全員くすりともしない。脱落組は口を抑えて震えていたけど。

 

「━━━ぐっ」

 

阿修羅さんがその状況に膝をついた。

柄にもなく仕掛けた事もそうだけど、その上更に滑ったという感覚が精神力を削ったのだろう。

勿論、握られた線香花火から火の玉が落ちる。

 

「け、けろっ」

 

その姿に梅雨ちゃんが震えた。

そして落ちる火の玉。

 

残ったのはかっちゃんと轟。

そして私。

 

私は改めて二人の手元のソレを見る。

私のと比べると大分小さい火の玉。

簡単には落ちなさそう。

 

このまま持久戦に持ち込んでしまえば、大きく育った火の玉を抱える私が不利。つまり、勝つためにはなんらか仕掛けなければいけない。

 

しかし、どうすれば二人の動揺を誘えるのか分からない。並大抵の事では揺らがない強い精神力をもつ二人だ。うむむ。

 

ここは二人がというより、誰もが驚く物が良いだろう。

誰もが、誰もが?なんだろ?

 

あ、それでいこう。

 

「かっちゃん、轟」

 

私の声に二人の視線が集まった。

二人の聞く準備が整った所を確認したので、それを口に出してみる。

 

 

 

 

 

 

「あのね、できちゃった」

 

 

 

 

 

ほぼ二人同時に火の玉を落とした。

 

「よっしゃぁ━━━━っわ!?」

 

「体、大丈夫か緑谷?!爆豪っ、お前━━━!!」

「違うわ!!んな目で見てくんじゃねぇ!!おい馬鹿女!!誰だ!!相手は誰だこらぁぁぁぁ!!」

 

勝ちの余韻に浸る間もなく二人に詰め寄られた。

私の勝利の証が地面に落ちる。

この野郎!

 

「はぁ?何━━━」

 

「俺の知ってる奴か!?ああん!?呼べ!!ぶっ飛ばしてやる!!呼べこらぁ!!」

「落ち着け、爆豪。お前がそんなだと、緑谷が何も言えねぇだろ。━━━━緑谷、大丈夫だから━━タブン━━何もしないから相手の名前を教えてくれ。・・・それより病院が先か」

 

おおぅ?

 

おう?

 

おおぅ!?

 

もしかして、マジだと思われてる!?

 

「ないない!!あれはそういう奴じゃないから!!いないから相手とか!勝つための方便というか、ね!ごめん忘れてぇ!!」

 

「相手がいないだぁ!?どういう事だこらぁ!!まさか━━━━くそ、ヴィランかぁ!!」

「爆豪、落ち着け。緑谷、相手の人相を出来るだけ正確に教えてくれ。少し話し合いしてくる」

 

「ちょ、ヘルプ!ヘルプみー!!お茶子ー!!」

 

 

 

 

 

「ニコちゃんにはええ薬やな。放っとこ」

「けろっ、一瞬ヒヤッとしたわ」

「アホだね、ニコは」

「私は二人の内どっちなんだろってなったよ」

 

「あんなんで騙される方も騙される方━━━━」

 

「じぃや!!大変なんです!!友達が!!妊娠してるみたいでっ、病院を!良い病院を!!」

「ストップ!ヤオモモ落ち着けぇ!!スマホをおいてウチの顔を見ろぉ!」

 

 

 

 

 

その後、皆にメチャメチャ怒られた。

 

by ふたこ

 

 



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海岸沿いで花火をやる不届き者につぐ、後片付けをしなさい。じゃないと、私みたいな善良な市民がゴミを踏んで怪我します。てか、しました。なので、こんど見掛けたら尻の穴にロケット花火突っ込むんで宜しく。EX巻

前話のおまけやで( *・ω・)ノ

蛇足ともいう!


皆にメチャメチャ怒られた翌日。

浜辺で遊ぶ皆をパラソルの下からぼやっと眺めていると、紅白饅頭がラムネ二本を片手に現れた。昨日は大体おかしな奴だった紅白饅頭も、今は普通の紅白饅頭に戻ってるようで安心する。後ろに立たれた時は一瞬ひやっとしたけど。

 

「隣良いか?」

「別に良いけど・・・遊んでこないの?」

「元からこういうのは苦手だからな。もう十分だ」

 

それだけ言うと轟は隣に腰掛けた。

微妙に離れて座ったせいでパラソルからはみ出してしまってる。休みにきたなら陰に入れば良かろうに。

 

「もうちょっとこっち来れば?」

「いや、ここで良い」

「頭めちゃ照らされるけど・・・暑くないの?」

「大丈夫だ。個性で冷やせる」

 

そういう問題じゃないと思うけど。

まぁ、本人が良いと言うなら煩く言うつもりはない。

紅白饅頭から然り気無く渡されたラムネを口にしながら、またぼんやり海を眺める事にした。

 

「・・・緑谷はいかないのか?」

「いくけど、ちょっときゅーけーちゅう。後二時間も遊んだら帰りでしょ?らすイチに全てを懸ける為に温存してんの」

「緑谷の全力か・・・嫌な予感しかしねぇな」

 

この野郎、最近言うようになったじゃないか。

どの口がほざきやがるのかなぁん?と生意気な事を言った野郎へ視線を送れば、随分と優しい顔で皆を見つめる轟の横顔があった。

 

学校で初めてこいつを見掛けた時と比べると、また随分変わったぁと改めて思う。

 

「━━━轟さ、今楽しい?」

 

何となくそう聞くと、紅白饅頭は一瞬きょとんとした後、柔らかい笑みを浮かべて笑った。

 

「ああ、たぶんな」

「そっか」

 

それから暫く紅白饅頭とぼんやり海を眺め、休みにきた眼鏡と入れ替わるように私は皆の元に戻った。最後の一時間を遊び尽くす為に。

 

 

 

◇◇◇

 

 

緑谷と替わるように俺の隣へ座った飯田は、額にかいた汗を拭き溜息を吐いた。

 

「爆豪くんを抑えるのは大変だったよ」

 

遠目から見てもその大変さは見てとれた。

酷な事を頼んでしまったと、少しだけ申し訳なくなる。

 

「そうか、悪かったな。飯田」

 

謝罪の言葉に飯田が眉を下げた。

 

「いや、愚痴ったつもりではなくてだな・・・それより上手く話せたかい?」

「上手くかは分からねぇ・・・。昔からそういうのは得意じゃねぇから。けど、ちゃんと話せたと思う」

 

そう言うと飯田は安堵の息を吐く。

心配してくれていたのが伝わる。

 

「ありがとな」

 

自然と溢れた言葉に飯田は首を横に振った。

 

「大した事はしていない、構わないとも・・・・それにしても、彼女は元気だな」

 

飯田の視線の先には砂浜を駆ける緑谷の姿があった。

先程の一時間に懸けるという言葉は嘘ではなかったのだろう。全力さが垣間見える。

 

「恋愛の事は分からない。だが、彼女が相手だと苦労すると思うぞ、轟くん」

「苦労か・・・別に構わねぇな。そこん所は」

 

自分が苦労するくらいなら幾らでも耐えられる。

でも、それが逆なら、あいつが苦しむなら、俺はその原因を許せそうにない。

それが俺自身だとしたら、尚更。

 

お母さんの姿がふと思い浮かんだ。

一人で抱え込んで、苦しそうに辛そうに泣く、お母さんの姿が。

 

「あいつが笑ってられるなら、それで良い」

 

そう言うと飯田が苦笑いを浮かべた。

 

「恋愛は難しいんだな。俺には分からん」

「その内わかんだろ。俺でも、そうなったんだからな」

「ははっ、それを自分で言うのかい?」

 

飯田の笑い声、それと少し遠くから聞こえる緑谷の楽しそうな声。

 

俺はその声を聞きながら、疲れた体を癒すために目を瞑った。

 



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はい、仰向けに寝っころがりましょう。そしたら両手を大きく広げてグルグルー、足はばた足ー。大きく息を吸って━━━母様ぁ!!買って買って買って!!買ってくんなきゃ、帰んなっ━━置いてった、だと?!の巻き

(*´ー`*)あれだけだと、今日はあれだけだと、思ったか・・・!?

残念!あれは、あれは・・・あれもあれだ!!


無事に海イベを消化し終えた数日後。

私は次のイベの為、母様と光己さんと一緒に隣街のデパートへと買い物に来ていた。

 

目的の一つであるバーゲンセールを制した二人に続き、次の目的地へと向かう。

勝ち取った大量の戦利品を背負って。

 

私は日頃から鍛えてるのでなんて事ないけど、母様と光己さんは少しだけ辛そうに見える。安いからと張り切って買いすぎた感が否めない所だけど、二人の顔にそういった意味での後悔は欠片もないので余計な事は言わない。

 

「━━━ぉっもーい!!やっぱり勝己のやつも連れてくるべきだったかしら?・・・ってそんな訳にはいかないわよねぇ」

 

荷物を両肩に乗せた光己さんが溜息混じりに呟いた。

そしてチラリと私を見るとにやりと笑う。

 

「双虎ちゃんにしては珍しいわよねぇ~。あの子に買い物を知られたくないなんて」

「えへへ、まぁ」

 

今日私は今度の夏祭りの為、浴衣を買いに来たのである。中学の頃の奴もまだ着れるんだけど、高校生になったし、それにあの件もあったから新調しにきたのだ。

 

私は忘れない、あの水着への素っ気ないくそ反応を!!完璧スーパー美少女たる私の水着姿を間近で見ながら、あの反応は許せない!!もうあんな素っ気ない反応させてなるものか!私の可愛さにひれ伏せさせてやるのだ!!褒めさせてくれるぅぅぅ!!

 

心の中で闘志を燃やしてると母様に頭を叩かれた。

地味に痛いでござる。

頭を擦りながら母様を見れば、追加で叩く気満々のなのかまだ拳が上がってる。

 

「なんで叩くのぅ?母様のおこんりぼ」

「邪心が見えたのよ」

 

邪心がってマジか。

ただでさえ母様は強いのに、いつからそんな特殊能力まで使えるようになったの?万能なの?万能超人なの?怖いよ、うちの母様は何処まで成長していくの?・・・てか、その内、私の学校での所業、ばれたりすんじゃね?透視されんじゃね?━━━━怖いよぉ!

 

母様に怯えてたら光己さんが取り成してくれた。

下げられた母様の拳に、心の底からホッとする。

 

感謝の気持ちから「私、光己さんの子供になる!」って言ってみたら二人に微妙な顔された。特に母様は何とも言えない顔になった。

なに、その顔?

 

 

 

 

 

 

荷物の重さにえっちらして少し、次の目的地である喫茶店へと辿り着いた。当所は来る予定では無かったのだが、光己さんが是非というので来る事になった場所だ。

光己さんが勧めるだけあってお客さんはそこそこいて、座るまで少し待つ事になった。

 

待っている間メニューを渡されたので三人で目を通す。

そこには光己さんがお勧めしてたパンケーキの写真が載っていた。俗にスフレパンケーキと呼ばれるフワッフワのやつだ。

 

「これが噂の・・・」

 

私の隣のアザラシが喉を鳴らした。

痩せない理由をあれこれ言ってるが、母様がポヨポヨなのはそこら辺が原因だと思う。ま、言ったら殴られるから、言わないけども。

 

「最近取り扱うお店増えたけど、ここのは美味しいのよー。ちょっとお値段高いけど、食べたら絶対納得するわよ。ふわふわしっとりな生地、卵のコクとメイプルシロップの上質な甘さが口の中でほどけていくの。堪らないわよ」

 

光己さんの言葉にポヨポヨがまた喉を鳴らした。

きっと母様は当分痩せないだろう。

 

「確かトッピングも出来るって言ってたわね?あ、ほら、下の所に書いてある。一律100円なのねぇ。前は何もつけなかったけど・・・ホイップは流石に甘いわよね?果物系足してみようかしら」

 

隣のポヨポヨアザラシの喉の音が煩い。

全部反応してるよ、この人。全部乗せる気だよ。

ここに来る前、「今ダイエットしてるからぁ~、双虎のちょっとだけ味見させて貰うだけにするわ」とか遠慮していた人とは思えないよ。

 

その後私達の順番がやってきて、案内された席に座るやいなや、いの一番にメニューを読み上げたのはやっぱり母様だった。

ダイエットは明日からするそうだ。

 

 

 

 

 

パンケーキを楽しんでから暫く。

母様達と若者向けの店舗が並ぶエリアにやってくると、夏祭りフェアの看板と共に浴衣を着たマネキン達が視界に入ってきた。

 

「まーた色々あるわねぇ」

 

光己さんは感心したような声をあげ、マネキンが着てる浴衣に触れた。

 

「前に買いに来た時は、フリル付いたのが流行ってましたっけ?あれはあれで可愛いかったですけど、私はこーいう普通のが良いと思うんだけど・・・どうです引子さんこれなんて?」

「良いですねぇ。私もやっぱりこういうシンプルな物の方が・・・」

 

私の買い物なんですけど?

私の意見も聞いてよぉ!

 

いや、まぁ、母様が出すんだけども!

 

「双虎━━━━」

「はいはい!私はねぇー」

「荷物持ってて頂戴」

 

母様めぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

文句を言いたい所だけど、ここはグッと我慢しとく。

スポンサーである母様のヘソを曲げたら浴衣を買って貰えない。買って貰えないと、かっちゃんを驚かせられない。膝まづかせられない。私の計画丸潰れ。

 

くぅぅ、頑張れ私ぃ!

 

大人しく二人の荷物を背負い、楽しげに浴衣を選ぶ二人の後に続いた。次々と候補を手にしていく二人の様子を窺いながら、私も私なりに良いものがないか探しておく。

 

キョロキョロしながら二人についていくと、帽子から白い髪を覗かせる女性と目があった。何処かで見たことあるな?と思ってたら、その女性がハッとした表情をした後早足でこちらに向かってくる。

誰だっけかと思い出してる内に手を握られた。

 

「こんにちは双虎さん!奇遇ね、こんな所で。浴衣買いに来たのかな?あ、この間は焦凍がお世話になったみたいで、本当にありがとう。あの子ったら帰って来たら双虎さんの話ばかりしてて━━━━あ!もしかして、私の事分からない?」

 

女性は帽子を取り私に顔を見せてきた。

帽子の下は赤いメッシュが目立つ白い髪、優しい目と掛けられた眼鏡を見て思い出す。

 

「轟姉さん!」

「うぅん、名前を覚えてなかったかぁ」

 

轟姉さんの声を聞いて先に進んでた二人が戻ってきた。

そしてその轟姉さんを見ると「まぁまぁ」と声をあげる。

 

「奇遇ね、冬美ちゃん!」

「本当、奇遇。今日はどうしたの冬美さん。やっぱり浴衣かしら?」

 

「御無沙汰してます。私は、まぁ、その、買う気は無いんですけど・・・」

 

モジモジする轟姉さんの反応に二人の目が光った気がする。あれは、獲物を見つけた時の目だ。

 

「あらあら、もしかして?」

「もしかするのかしら?」

 

「はっ!ち、違いますよ!デートするとか、そういうのじゃないですから!ただ高校の頃の友達とですね、久し振りに夏祭りにいこうかーなんて話になって、その、だからですね、浴衣を・・・」

 

話を聞いて二人が目の輝きを弱める。

興味が薄れたみたいだけど、それでも完全に獲物から除外されないらしい。南無。

 

それから案の定捕まった轟姉さんも合流して浴衣選びが再開した。最初轟姉さんは浴衣を買うのを止めようとしていた事を伝えていたけど、「勿体ない」「若いんだから大丈夫」などといった言葉で捲し立てられ、私同様着せ替え人形になった。

 

「これなんて良いんじゃないのかしら?」の一言でお着替え。「やっぱりこっちが良いわね」と言われればその前に着たものに着替えさせられる。そしてまた新しい浴衣を持ってきて、あーでもないこーでもないと揉めるのだ。

 

私はこういう空気を昔から味わってるから平気だけど、轟姉さんにはキツかったらしく目が死んだ魚みたいになってた。

楽しげに浴衣を選ぶ二人を眺めながら、轟姉さんが疲れた顔で口を開いた。

 

「世のお母さんって、皆こんな風にパワフルなのかな・・・」

「どうなんですかね?でも、バーゲンセールに参加してたオバチャン達は皆あんな感じでしたけど」

 

あれは正に戦場だった。

女の関ヶ原だった。

 

「だとしたら、私はお母さんになる自信はないかなぁ」

「私もそー思います」

「だよねぇ~あはは」

「あはは」

 

乾いた笑い声をあげた轟姉さんにそのまま笑い返すと、優しい笑顔が返ってきた。

 

「双虎ちゃーん、冬美ちゃーん、次はこれ着てみて!ほら、これこれ!」

 

声の方向を見ればまた色々と持ってきた二人の姿が見える。それを見た轟姉さんが私に助けを求めるような視線を向けてきたけど、それはスルーしておいた。

私も自分の戦場で戦わねばならない。

 

さらばだ、戦友。

武運を祈る。

 

とか何とか言って、私の浴衣はその後母様が持ってきた浴衣に即決定した。白い下地に淡い緑の撫子が描かれたやつだ。流石母様、分かってるね!

 

その後、私が母様達に交ざって轟姉さんを着せ替え人形にしたのは言うまでもない。

ナニコレ、超楽しい。

 

「双虎さん、私、やっぱり浴衣いらないから、引子さん達にこと━━━」

「断る!」

「えっ、ちょ、断らないでっぇ・・・!」

 

それから数時間。

轟姉は弄ばれ続け、最終的は一着の浴衣を購入して帰っていった。

その夜、轟姉さんの事が気になって轟にメールで聞いてみたら、「お母さんは凄い」と謎の伝言を残し眠ったそうだ。

 

南無。



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美を求めるのは女の性。故に私もそれに従い美しくなる為、この体を磨きあげてみせる━━━あれれ、おかしいなぁ?磨く所がないぞぅ?最初から至宝級だぞぅ?の巻き

サブタイトルのネタが尽きてきたこの頃。
もう普通のタイトルにしようかなと思うこの頃。

でもやっぱりそれはやだなと思うこの頃。

がんばるもん( *・ω・)ノ


磨く前からダイヤモンド。

美しさの結晶的な存在である私は雄英高校一年生、緑谷双虎16歳。

ついこの間、誕生日がやってきたピカピカでピチピチな穢れを知らない超弩級美少女だ。

誕生日プレゼントは現金のみで向こう一ヶ月は受け付け予定の私は、夏祭り当日というその日、少しの緊張と共に行きつけの美容院を訪れていた。

 

「緑谷さんは~今日は~例の彼氏くんとデートですか?羨ましいですねぇ・・・ハゼレバイイノニ」

「いや、その例のがかっちゃんの事だとしたら、やつは彼氏じゃないですから・・・てか、なんか最後に呪いの言葉吐きませんでした?」

 

私の指摘にお姉さんは表情一つ変えないで、尚も楽しそうに髪を弄る。

 

「あら?照れ隠し?ふふ、隠さなくてもいいのに。あんなに━━イチャイチャ━━仲良くしてる癖に~。お姉さん、そんな嘘に騙されないんだから!・・・バクハツシサンシタライイノニ」

「さっきっからちょいちょい、捨て台詞みたいに呪い吐かないでくれます?!違うって言ってるじゃん!」

「なに!?当て付け!?この間振られた私への当て付け!?ほんと、はぜれば良いのにぃ!!」

「普通に言えば許されるとか、そういうのもないですからね!?ていうか、私の話を聞けぇ!」

 

今日は浴衣にあう髪型にして貰いにきたのだけど、運悪くお姉さんが振られた直後みたいで、面倒くさい絡みをしてきた。死ぬほど面倒くさい。

 

「良いなぁ!良いなぁ!緑谷さんは彼氏と一緒に夏祭りデート!それに比べて私はっ?はっ!仕事ですよ!こうして髪を結ってる訳ですよ!へっ!やってやれませんわぁ!!」

「やってよってば!?私お客様なんですけどぉ!?」

「何が悲しくて人の応援ばっかりしなきゃなんないのよ!元はと言えば━━━━あ、私悪くないや!!聞いてよぉ緑谷さん!彼ったらねぇ!」

「髪を結ってってば!?それは後で聞くからさ!間に合わなくなるじゃん!」

 

私の言葉にお姉さんは時間を確認してテヘペロしてきた。おい、28歳。そろそろキツい年頃でしょうが。

 

「いっけね、それもそうね。それより髪型どうしようか?いつもみたいに上げちゃう?それとも下ろしてみる?」

「それを相談する為に来てるんですけ━━━いいや、文句言う体力が勿体ない。えっとね、着てるのに合わせてぇ」

「着てるのにねぇ・・・」

 

お姉さんは一通り私の姿を眺めた後、髪型のカタログを取り出す。

 

「定番だけど、シニヨンとか良いんじゃないの?緑谷さん髪長いし、可愛く纏めてみちゃう?」

「シニヨンかぁ・・・でも、いつもと変わんなくない?」

「あらあら、いつもと違う感じにしたいの?・・・サカリツイテンジャナイヨ」

 

だからボソッと呪いの言葉を吐くなってよぅ!

背筋がぞわってするでしょーが!

まったくもう。

 

ジロッと見てやればお姉さんが肩を竦めた。

そのオーバーアクションと浮かべた表情がむかつく。

 

「こほん、えーとね、シニヨンっていっても色々あるし、雰囲気は変わると思うわよ?流しても良いけど、やっぱり浴衣っていったら首筋のラインを見せた方が綺麗に見えるの」

「そっかぁ、じゃぁそれで良いや。後はお姉さんに任せる」

「簡単に決めるわね。ま、こっちは楽で良いけど」

 

お姉さんは慣れた手つきで髪をとかし束ね始めた。流石に勤続年数五年生。普通に上手であっという間に結っていく。

 

「前髪は流すとして、他は軽く巻いとこうか?」

「巻くの?」

「すこーしよ。全体的にふわっと仕上げようと思ってねぇ。そうしたらもっと可愛くなると思うわよ。━━━それに、あんまり普段のイメージから変えすぎるのもあれなんでしょ?」

「え?うーん、まぁ」

「そうだと思った」

 

お姉さんは幾つかカタログの写真を見せ、大体の完成像を教えてくれる。特に問題もなかったのでそれで進めて貰った。

 

「それにしても難しいわよねぇ、女って」

「いきなりどした、女の子28年目」

「緑谷さん、どつくわよ。━━━いやね、髪型変えたいっていっても、まるっきり変えたくないないとか、男には分からないだろうなってねぇ。前カレがそうだったんだけど、髪切っても気づかないのよ、全然」

 

かっちゃんは気づきそうだけど。

まぁ、でも言われた事はないかなぁ。

 

「正直ね、髪型変えてみたいって聞いて驚いたわよ。いつも同じ髪型だし、なにか拘りがあるのは分かるからねぇ。やっぱり彼は特別な訳だ?」

「そーでもないと思うけど・・・」

「どーでも良いやつの為に美容院にきてまで髪型セットしないわよ」

 

そう言われると何をしてるのか不思議な気分になってきた。今更ながらなんでこんな事してるのだろうか、私は。まぁ、かといってキャンセルするつもりもないんだけど。どうせなら可愛く仕上げて貰いたい。

 

「━━━ねぇ、緑谷さん。ポニーにしてるのって、もしかして彼氏の好み?」

「だから彼氏じゃ・・・はぁ、もういいや。どうせ聞いてくれないし。そんなじゃないですよ?これは・・・・・・んん?」

 

そう言えばポニーにし始めたのっていつからなんだろ。

思い返すと小学生低学年くらいの時は色々な髪型にしてた気がする。

 

髪を結われながら思い出していくと、ふと思い出した。

 

「確か━━━━あれ?」

 

かっちゃんじゃね。

 

「どうしたの?」

「え?あ。いや?ん?いやぁ?ええぇ?」

「本当にどうしたの?」

「のーこめんとで」

 

思い出した、というよりなんで今まで忘却してたのか。

そう言えばそうだった。

 

『けっ、い、良いんじゃねぇの。知らねぇけど』

 

ポニーにした時、初めてかっちゃんが褒めてくれたんだったか。普段悪口とか生意気な事しか言わないのに、急に褒められたから嬉しくて・・・ガキか私は。やばい、超恥ずかしいんですけど。

 

事実は少し違うけど、大まかな所は後ろの失恋モンスターの言うとおりになんですけど。ヤバイんですけど。

 

ふと鏡を見た。

いつもと違う髪型。

ちっちゃい頃のかっちゃんの顔が頭に浮かんだ。その直ぐ後に、今のかっちゃんの顔も。

 

「・・・可愛いかなぁ、これ」

「ん?どうした、どうした。若者。可愛いから大丈夫よ。馬鹿男メロメロよメロメロ。彼氏くんもいちころでしょ。顔だけは良いんだから」

「そうかなぁ・・・?って顔だけって言わなかった?28歳こら」

 

またテヘペロした28歳から目を逸らし鏡をみた。

そこに映るのは普段と違う姿。

急に変えて、かっちゃんに笑われないだろうか。

いや、可愛いのは分かるんだけど。私超弩級美少女だし?うん。何をしてても可愛いし、美しいし?うん。

 

・・・・・・・。

 

でも相手はかっちゃんだしなぁ。

常識とか蹴飛ばしてきそう。

 

「褒めてくれたらいいなぁ・・・」

「・・・これが男のいる女と私の乙女力の差か。私には一生その言葉は出ないわ」

「・・・へ?ああ、いやいや、彼氏じゃないし」

「彼氏くん不憫ねぇ」

 

 

 

 

 

 

それから数十分。

髪を綺麗に結って貰い外に出ると、今日のお祭りに付き添ってくれるお茶子が目を輝かせて待っていた。

お茶子は私の髪型を見ると「おぉ」と感嘆の声をあげる。

 

「可愛く仕上がったねぇ!━━って、それこの間あげたゴム?」

「そう、折角だからつけて貰っちゃった」

 

今の髪型を作るのに幾つか髪留めゴムを使っているのだけど、その内の一本はお茶子から誕生日プレゼントで貰ったやつである。だんでたいがーとかいうヒマワリモチーフの虎のキャラクターで、腑抜けた顔が可愛いやつなのだ。

 

「気持ちは嬉しいんやけど・・・合わないんちゃうかなぁ?私ももっとちゃうの買うとけば良かった」

「いいの、いいの。そういう気分なんだから。それに可愛いよ、これ?」

「ふふ、そう?まぁ、本人が喜んでくれてんならええか」

 

そう笑うお茶子の姿を眺めた。

また随分と気の抜けたファッション。

最近になって気がついたけど、お茶子は割と男らしい所がある。部屋の感じとか、男子への態度とか、眼鏡と熱い友情かましてる所とか、正にそうだ。

 

「かといって半袖短パンはなしでしょ」

「え、ええやん!別段変やないやろ?普通でええの!それにしゃーないやん!だって浴衣とか着ると思わなかったから、実家から持ってきてへんねんもん!」

「浴衣着ろとは言わないけど・・・もっと何かあったんじゃないかなぁと、思わなくもない」

「ええの!・・・洗濯とか面倒やし」

 

本音が溢れてるぞ、お茶子。

 

待ち合わせ時間まで少しあった為、私達は近くの公園で休む事にした。公園前には夏祭りにいくのか浴衣姿の人が何人も通るが見える。

 

そんな光景をぼんやり眺めながら飲み物片手に話しているとクラスメイト達の話になった。

 

「はぁーでも残念やったね。皆来れれば良かったのに」

「まぁ、そうはいっても、いつもいつも時間が合う訳じゃないしねぇ」

「そら、そうやけど」

 

そう、今日の夏祭り、A組の参加者は私を含めて四人だけなのだ。あしどんは地元の友達と遊びに夢の国。葉隠も中学の時の友達と動物園。百は家の関係でパーチーに出なくちゃいけないらしくお高いホテルにinしてるとか。梅雨ちゃんは弟達の面倒をみないといけないので無理。耳郎ちゃんも家族関係で用事があっていけない。

男連中がどうなってるか知らないけど、取り敢えず来るのはかっちゃんと轟だけだ。

 

「飯田くんも来てくれたら良かったんやけど・・・」

 

お茶子の呟きに私の鋭い恋愛センサーが警報を鳴らす。

これはきましたわー。

 

「ほほう?気になっちゃうお年頃?」

「ニコちゃんが何を考えてるか何となく分かるけど、それやないよ。全然ちゃう。はぁ、一人でなんとか出来るやろか・・・」

 

何をするんだろ、お茶子。

 

お茶子の動向が気にしてると、突然手提げから爆撃音が響いてきた。かっちゃんからの電話だ。普段は別の曲にしてるけど、今日は夏祭りという騒がしい場所にいくので元気な着信音に変えておいたのだ。

 

「なんなん!?」

「電話、かっちゃんから」

「まんまやないの!?」

 

お茶子のツッコミを聞きながら電話に出ると、こちらからも元気な声が響いてきた。

 

『こらぁぁ!!てめぇ、何処にいやがる!』

 

時間を見れば待ち合わせ時間五分前だ。

まだ大丈夫な筈なのになんなのか。

 

「っさいなぁ。もう着くから待っててよ」

『はよこいや!いつまでも、アホ紅白と待たせんじゃねぇ!!』

 

そっちか。

我慢出来なかったの、そっちか。

 

『爆豪、それ緑谷に繋がってんのか?』

 

かっちゃんの声に紛れて紅白饅頭の声が聞こえてきた。

 

『っせぇわ!!勝手に反応してんじゃねぇ!!寄るな!!ぶっ飛ばすぞ!!』

『緑谷、慌てなくていい。ゆっくりこい』

『てめぇ!?なに勝手に話してんだ!!おい!』

 

わちゃわちゃと何か聞こえた後、電話がぷっつり切れた。

なんとなしに隣のお茶子を見れば苦笑いしてる。

 

「出来るだけ、はよいってあげよっか?」

「そうだねぇ、いこか」

 

少しだけ小走りで、私達は待ち合わせ場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 



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こんなの貰ったって!全然嬉しくないんだからね!こんな安っぽいもので、靡くような女じゃないんだから!え?オマケにりんご飴もつける?それはさっき食べたから、マジでイヤ。たこ焼き持ってこーい!の巻き

( *・ω・)ノ

短い夏休み編、たぶんここで終わりや。
いっこ閑話はさんで、いよいよ林間合宿スタートするで。
原作一切関係なしの話、付きおうてくれてさんくすすやで。


祭り囃子を耳にしながら、私とお茶子は人で賑わう神社への道を進んだ。掻き分けるという程ではない人混みを縫うようにトットコする。━━━けど思ったより人がいて思うように進めない。待ち合わせ時間、微妙に間に合わなそう。

 

浴衣に合わせて履いた下駄が石畳とぶつかりカランカランと音を立てる。煩いこともあれなんだけど、凄く走りにくくて仕方ない。履きなれてないこともあって、ちょっと擦れた感じもある。痛くないけど、そのうち痛くなりそ。

 

調子にのって履き物まで揃えなきゃ良かったなぁ。

下駄走りずらい、もうサンダル欲しい。

 

泣き言言った所でどうにもならないので我慢して待ち合わせ場所にいくと、今日も今日とて元気に喧嘩するかっちゃん達の姿があった。通行人にめちゃ写メられてる。

 

「かっちゃん、轟!」

 

そう手を振って声をかけると、二人の視線がこちらを向いた。

 

「ごめんね、ちょっと遅れて。こんなに混んでると思わなくてさ・・・」

 

例年と違ってちょっとしたイベントがある事は母様から聞いてる。だから混むかもしれないとは思ったけど、ここまでとは流石に思わなかった。1.5倍はいると思う・・・いや、正確な所は知らないけどさ。

 

可愛く謝ってうやむやにしようとしたけど、期待していた二人からの『許す』という返事がない。気になって下げた頭を持ち上げ様子を窺ったら━━━━二人とも何故か固まっていた。

 

すわっ、ゴーゴンかな!?と、周囲を見渡してみたけどそんな奴はいなかった。おおん?

 

「かっちゃん?轟?どした?」

 

もう一度声を掛けると二人ともハッとしたような顔をした。

そして次に、かっちゃんから顰めっ面と「けっ」との返事を貰う。

 

「おっせぇぞ!てめぇは時間も守れねぇのか!」

「いや、だから、ごめんて━━━」

 

言いたいだけ文句を垂れたかっちゃんはそっぽを向く。この野郎・・・美少女の中の美少女、ベスト美少女たる私が謝ってるんだから許せよなぁ。・・・はぁ。

 

そんなかっちゃんとは反対に轟は柔らかい表情を浮かべてくれた。

 

「気にするな。それより、慌ててきて転んだりしてねぇか?」

「あはは、なにそれ。子供じゃないんだからさ」

「そうか、良かった」

 

かっちゃん、こういう感じだよ?学んで、こういう感じ。美少女がね、謝ってるの。頭を下げてるの。だから許せよ。二秒で許せよ。

 

じっとかっちゃんを見てやったけど、完全に無視してきた。後で殴る事を心に決める。

 

「それより、緑谷━━━」

 

ムカつきMAXでかっちゃんを見てたら轟が何か言いたげに声をかけてきた。なんじゃろと振り向けば、なんだか熱っぽい色違いの目と視線がぶつかる。

 

 

「━━━━浴衣、よく似合ってる。綺麗だ」

 

 

綺麗だとか可愛いとか、ぶっちゃけよく言われるけど、轟から言われたそれは凄くムズムズした。

真っ直ぐに見てくる轟の目がこそばゆかったので、近くのお茶子を間に挟んでおく。

 

「ニコちゃん。褒められたのが恥ずかしいからて、盾にせんといてよ」

「?麗日も似合ってるぞ・・・?」

「ほう?轟くん、なにかな、喧嘩売りに来てたりする?買おうか?」

 

 

 

 

 

 

お茶子の姉御が轟に女心について説教し終えた所で、私達はそう長くない階段を上り屋台が並ぶ境内へと入った。

 

境内に並ぶ出店は毎年同じなのだが、今年は少し多いような気がする。隙間なくギュウギュウといった感じだ。

それに伴ってか人も沢山いるように思う。

 

「祭りなんて、子供の時以来だな」

 

ぼそっとそんな言葉を溢した轟に、お茶子は首を傾げる。

 

「友達とかと、一緒に行かへんかったの?」

「なかったな。・・・誘われた事もあったと思うが、行く気にならなかったしな」

 

まぁ、お祭りに行くようなタイプに見えないし、納得は出来るけどね。うんうん。

 

「━━それじゃ、今日はよく来たね?あれかなぁ?美少女双虎にゃんに会いたくなっちゃったのかな?ふふ!」

「ああ、まぁな」

「ふふーふー!正直なやつよ!ういうい!よーし、気分がいいからりんご飴奢っちゃうぞー!・・・かっちゃんが」

 

「てめぇで買えや!!」

 

文句を言うかっちゃんの手をとっていつものオジサンの所にいく。声をかければヤクザ顔でりんご飴を補充してたオジサンがヤクザスマイルを返してくれる。

 

「今年もきたな、じゃじゃ馬。今日は随分とめかしこんで来たじゃねぇか?色気づきやがってよ。たく。おう、坊主!ちゃんと手綱握っとけ」

「きたよー、ってそれはどういう意味だ」

「そういう意味だよ。ほれ、2本だろ。300円にまけといてやる」

 

かっちゃんは顰めっ面で財布から300円を取りだしオジサンに渡した。私はそれと同時にさっと差し出された2本のりんご飴を受けとる。

 

いつもならこれで足りるけど、今日ちょっと足りない。

 

「後2本ちょーだいよ」

「あ?んだ、今日はダチと一緒か。んじゃもう300円」

 

本来1本300円の所、4本買って600円か。

オジサン今年は大奮発だな。

 

「今年は良いことでもあったの?」

「ああ?いや、別にねぇな・・・ああ、祝い代わりだ。雄英行ったんだろ、お前ら?頑張ってたの見たぞ」

「ああ、そういう事か。━━それじゃいっそタダにしてよ」

「図々しいにも程があらぁな、金払って散れ」

 

しっしっと犬のように追い払われてしまった。

安くしてくれた以上文句はないのでお茶子達の元にりんご飴を持って帰る。

 

私達の様子を見てた人達が便乗しようとして「2本だな、600円。文句あんのか、ああん?」との無情の言葉を叩きつけられたのは見なかった事にしておいた。

世の中は理不尽なものなのだ。少年達。

 

買ってきたそれを二人に手渡すと嬉しそうにしてくれた。甘いものあんまり好きじゃないと言ってた轟も大切に食べるとの事。大切にしなくていいから、腐る前にさっさと食えよ、あほ饅頭。

 

それから四人で屋台をブラブラする。

毎年来てるせいか殆ど顔見知りで、雄英体育祭の話をしてはオマケしてくれた。元々その美貌のおかげでオマケして貰ってたけど、今年は例年よりオマケが豪華だった。

 

かっちゃんと轟の手が食べ物を入れた袋で塞がる頃、私はこれまたいきつけである射的屋に辿り着いた。挨拶しようと覗いてみると、今年は髭面のおっちゃんではなく若いあんちゃんが店番してる。

 

「━━━?あ、ど、どうかした?もしかしてやってく?!」

 

あんちゃんが私に気づいて尋ねてきた。

何となくあんちゃんの雰囲気がおっちゃんと違いやる気が削がれたので断ったのだが、お茶子と私の一回分をタダにしてくれるというのでやることにした。

 

「あ、や、やり方分かるかなぁ?」

「大丈夫」

 

コルク玉を銃口にギュッと詰め込み、私は台に肘を乗せ構えた。

 

「狙い目はね━━━━」

 

パァン、という音と共に狙った人形が台から落ちる。

我が腕前に鈍りなし。

 

「上手だねぇ。でもそうそう━━━━」

 

パァン、という音と共に狙ったお菓子が台から落ちる。

あんちゃん、ちょっとどこうか。邪魔だ。

 

 

 

「すげぇな、緑谷」

「・・・ここいらで屋台出す奴に、『荒し双虎』をしらねぇやつはいねぇからな」

「ニコちゃん、なにしてん?」

 

 

 

お茶子に教えながら景品を落としまくっていると、顔を青くさせたあんちゃんの後ろの方から身震いするような覇気を感じた。

 

「━━━きたな、じゃじゃ馬」

「おっちゃん・・・!」

 

髭面のおっちゃんが私に向けニヤリと笑い、あんちゃんにアイアンクローをかます。

 

「━━━で、なんだ、この様はぁ!!てめぇは店番も出来ねぇのか!?」

「やってたって、この子が凄すぎんだっての!なんで落とせんの?!あれをさ!」

「馬鹿野郎!泣き言ほざくなぁ!それを上手くやんのが、てめぇの仕事だろうが!」

 

おっちゃんはあんちゃんを投げ捨てると、私の前に立ちはだかった。

 

「じゃじゃ馬、今年はもう落とさせねぇぞ」

「いや、今年も勝たせて貰うよ」

「上等だ。やれるもんならやってみな!!」

 

賞品台に携帯ゲーム機が置かれた。

しかも最新のやつだ。

 

「オヤジ!それは見せ物だって!」

「うるせぇ!!男にはな!やらなきゃなんねぇ勝負ってもんがあるんだ!!見とけぇ!!」

 

私は少ないお小遣いからコルク弾を追加購入する。

こればかりはかっちゃんのお金でやる訳にはいかない。

これはおっちゃんと私の真剣勝負なのだ。

 

「じゃじゃ馬・・・貴様にPS○を落とされたあの日から、俺はいつか貴様に吠え面をかかせたいと、そう思って生きてきた」

「あのPS○は母様のDVDプレイヤーになってるよ。ブルーレイが再生出来ないって、この間意味もなく叩かれてた。物理的に。コンロ使える癖に、母様わりと機械音痴だから・・・」

「畜生ぅが!!PS○!!俺が情けないばかりにぃ」

 

私は静かに銃を構える。

その姿を見て、おっちゃんが腕を組んだ。

 

「もう、これ以上は勝たせん!!今日の為に用意した、この鉄壁の守りにて貴様をうつ!!」

 

おっちゃんの掛け声と同時に景品棚が変形していく。

ゲーム機がベルトコンベアのような物に運ばれていき、一番奥にセットされた。そしてそこまでの道程を遮るように扇のような物をもったロボットの手が何本も現れる。

 

「これこそが!俺達、東日本射的クラブ会が総力を懸けて作り上げた、対じゃじゃ馬決戦兵器『絶対とらせないもん君36号』だ!!とれるもんなら、とって見やがれ!!」

「そうこなくっちゃね!!うっしゃぁ!燃えてきたぁ!!」

 

こうして私達の熱い戦いの火蓋が、今切られたのだった。

 

 

 

「絶対アホや!」

「珍しくまともな事言うなや、丸顔」

「すげぇな」

 

 

 

意気込んではみたものの、決戦自体は十分程度で終わった。勿論今年も私の勝利で終わりだ。かっちゃんの手に新たに提げられたゲーム機の入った袋がその証拠。

 

おっちゃんから「来年こそ、貴様を討つ!」との言葉を貰いに、私達はその場を後にした。

 

その勝利を手始めに他の屋台も寄っていった。

輪投げ、ヨーヨー釣り、金魚掬い。

尽く勝利を重ね、かっちゃんの手荷物はどんどん増えていく。一応獲った景品から厳選はしてるんだけど、それでもかなりの量になってしまった。

ごめんね、かっちゃん。んで、さんきゅー。

 

あ、金魚はいらないから全部返した。

 

一通り遊び終えた後は、境内に設置された飲食コーナーにいく。テーブルと椅子が適当に並べられた場所で、使用は自由なので毎回ありがたく使わせて貰ってる。食べ歩きもいいけど、お好み焼きとか焼きそばとかは座ってのんびり食べたいからね。

 

空いてそうなテーブルに適当につき、買ってきたそれを広げる。思ったより沢山買ってたみたいで、並べたら凄い事になった。多っ。

 

「また凄い量。全部は無理やろ」

「確かにね。余りそうだから、被ってるのお茶子持ち帰っていいよ?」

「え?!ええの!?━━━あ、いや、ええよ」

 

そんな気持ちよく食いついてきて、どの口が遠慮を口にするのか。

 

「そうはいっても、これ全部食べきらないでしょ。全部開けてもね?ほら、無駄になっちゃうしさ?」

「ま、まぁ、そうかもしれんけど・・・」

 

チラッとお茶子が男二人を見る。

かっちゃんは「好きにしろや」と興味なさそうに、轟は「俺は持って帰っても誰も食わねぇしな」との事。

それならばと、お茶子は二つの袋に食べ物を入れていった。ホクホク顔だ。超可愛い。

 

お茶子が持ち帰らない物をテキトーにあけ、皆で分けながら食べていく。食べながら思ったのは、オマケ貰い過ぎたなという事。可愛いというのも考えものだね!ね!

 

「せや、イベントがあるゆーとったけど、あれなんなん?」

 

口周りのソースを拭ったお茶子が思い出したように尋ねてきた。事実、今思い出したのだろうと思う。

 

「花火やるんだって」

「花火って・・・花火?」

「そうそう。空に打ち上げるやつ」

 

去年・・・というか、もうずっと花火やってない。

というのも、私が小学生くらいの頃、夏祭りの花火で事故があったらしい。そのせいで夏祭りの花火はずっと中止してきたらしいのだけど、今年になって復活する事になったとかなんとか。

まぁ、今年だけで終わる可能性もあるらしいけど。

 

「へぇ、そしたら私ええタイミングで来たんやなぁ」

「なくても楽しいけどね?」

「そら、あんだけ自由にやっとったら楽しいわ」

 

ふと、男二人を見ると相変わらず席が遠い。

また喧嘩してるのかと思ったけど、そうでもなさそう。

 

「爆豪。たこ焼き、食うか?」

「構うな、ぶっ飛ばすぞ。つか、勝手に食ってろ」

「掛かってるソースが辛くてな。好きじゃねぇ」

「っせぇわ!じゃ置いとけや!!」

 

ん、いや、大丈夫そうだ。

仲良いわ。

 

 

 

それからお喋りしながらご飯を済ませ、花火を見るために場所とりに向かう事になった。

といっても、何処が見やすいのかと分からない。

何せ数年ぶりの花火。他の人達も同じなのかウロウロ場所探ししてる。

 

どうしようかと思ってると手を引かれた。

掴まれる筈のない手に少しだけびっくりしたけど、さっき荷物の大半を処理したのを思いだし、片手が空いたのかと遅まきながら気づく。

 

「━━で、どしたの、かっちゃん?」

「こっち来い、多分前と変わんねぇ」

 

かっちゃんに連れられて行くと、子供の頃よく来ていた遊び場についた。懐かしさに辺りを見渡すと、子供の頃つけたキズが木の幹についてたりする。

 

林の中にあるその場所は何故だか開けた空間になっていて、相変わらず空がよく見える場所だった。

 

「花火があがんなら、向こうだろ。あっち見てろや」

 

それだけ言うとかっちゃんは何も言わず、ただ遠くの空を見つめた。

私もかっちゃんにつられて空を眺める。

 

「━━━ああ、と、そうだ!飲み物!私飲み物買ってるね!時間まだあるし!一人だと持ってこれないからー、あ、轟くん付きおうてくれる?」

「?ああ、別に良いぞ。緑谷、何飲む?爆豪は炭酸でいいか?」

 

「なんで俺だけ決まってんだ、こらぁ!!」

 

そんな文句を言いながら、かっちゃんはコーラを頼んだ。私はラムネを頼んでおく。てか、私も一緒に行こうとしたけど、お茶子に足を指差され止められた。

休めとの事。

 

飲み物を買いに行った二人を見おくると、かっちゃんがポケットからハンカチを取り出して地面に放った。頭がおかしくなったのかな?と思ったら「座れ」と脅された。紳士の皮を被った暴君かな?

 

「ふふ、ま、ありがと」

「けっ」

 

遠慮してヘソを曲げられてもメンドイので大人しく座っておいた。足も痛かったし、正直言うと助かる。

どかっと、かっちゃんも隣に座ってきた。勢いが良すぎたのか荷物が音をたてる。ゲーム機壊れてないと良いけど。

 

そのまま特に話す事もなくぼーっと空を眺めてると、ふいに空が光った。眩しさをこらえて見た先に光の花が咲いていた。

 

少し遅れて聞こえてくるドーンという花火の音。

懐かしい気がする。

 

「━━━おい」

 

かっちゃんの声が聞こえたので視線を向けると、凄く何か言いたげな顔をしたかっちゃんがいた。

なに?と聞きたかったけど、そうしたら変に意地になって黙る気がしたので何も言わないで待つ。

 

少しして、二つ目の花火の音が鳴る。

パラパラと光が落ちる音も。

 

「━━━━ほらよ」

 

ようやく出た言葉。

それと差し出されたそれに目がいく。

この間見た、かっちゃんの机にしまってあった物だから。

 

「渡せなかったの?」

「はぁ?なんの話だ。━━━いま、だから渡してんだろが」

 

そう照れ臭そうに頭をかくかっちゃんの姿に、これが私への誕生日プレゼントであることに気づかされた。

 

「ぷっ、似合わない」

「っせぇ!いらねぇなら捨てろや!」

 

乱暴に押し付けられたそれ。

私はその箱を指でなぞった。

 

「開けてもいい?」

 

かっちゃんは何も言わなかったけど、小さく頷いてくれた。

包みをとって開けてみる。包みの下の箱は包みと違ってシンプルなモノトーンで、なんだかかっちゃんぽい。

そのまま箱を開いてみると銀色のブレスレットが入っていた。

 

手にとって見てみる。

チェーンタイプのブレスレットは装飾が少ないシンプルな物で、唯一ついてるリングのチャームも内側に私の名前が彫ってあるだけの物だった。

 

「これ高かったんじゃないの?」

「ああ?・・・知るか」

「かっちゃんが知らなかったら誰が知ってるの。まぁ、良いけどさ」

 

早速つけてみると、やはり私と思うくらい似合ってた。

かっちゃんに見せびらかして見たら、そっぽ向かれた。

ういやつ、ういやつ。

 

「ありがと、大切にする」

「・・・ああ」

 

 

 

 

 

「ニコちゃーん!」

 

花火に負けないようなお茶子の大声が聞こえてきた。

振り返ると私のラムネが振られていた。

手だけにしてよぉ!

 

そんな事を思ってると、また空に大きな光の花が咲いた。ドーンという大きな音も。

 

パラパラと光が落ちる音も。

 

 

「浴衣、似合ってんじゃねぇのか。しらねぇけど」

 

 

そして、ひねくれたかっちゃんの声も。

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ、でしょ?」

 

 

 

また空に花火があがった。

 

 



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ノリと勢いでつけたサブタイ『特別の始まり』閑話の巻き

映画編のどーにゅーになるやで。
え?愛で地球を救わないかって?
救わないで。

それはね、原作にないからとか、そんな理由じゃなくて、愛がなかったからやらない。


「オールマイト、やはり今回林間合宿。君の参加は認められないさ」

 

校長から告げられた言葉に、私は憤りを覚えた。

 

「しかし、あのような事件に首を突っ込んだ以上、彼等にヴィラン連合な何かしらが接触する可能性もあり得ます。相手の戦力が大きいとはいいませんが、脳無と呼ばれたヴィランのように逸脱した力を持つ者がいるのも事実。やはり私が出ねば━━━━!!」

 

子供達が短い夏休みに入り、私達教師陣は夏の林間合宿について話をまとめていた。そして今日校長に告げられたそれは、私が認める事の出来ない決であった。

林間合宿にて、私の参加を認めないという、決である。

 

校長は私の話に首を振る。

拒絶するように、横に。

 

「出来ないよ、オールマイト。相手方の目的ははっきりしないけど言動を考えれば、その中に君の存在が含まれている事は明白。そして私達は、君こそが狙われているのだと思っているからね」

 

校長の話は間違ってはいない。

私が教師として入る以前、ヴィランの襲撃などただの一つもなかった。つまりはそういう事。

 

「生徒達の安全を考慮するなら、君を外すことが最も有効性が高いと私達は判断した。もどかしい気持ちは理解するが、頷いてくれないかな?」

「しかし・・・!!」

「勿論、安全確保には万全を尽くすさ。君だけがヒーローという訳じゃないんだ。どうか信じて欲しい」

 

分かってはいるのだ。

校長の話に一理がある事も。

 

けれど、頷けなかった。

 

「・・・・・」

「オールマイト。気持ちが分かる、とは言わないさ。けれどね、全てを救う事が出来ないのは君が一番分かっている事だろう?これから先、ずっと君が彼等を守り続けるのかい?現実的に考えてそれは出来ない筈だ」

「それは、分かっています」

「・・・それでも納得出来ない、そういう事だね?はぁ、君は強情だよ。でもね、今回は納得して欲しい。生徒達の為にも、君自身の為にも」

 

溜息をついた校長はそこで話を切り上げた。

そして会議は終わり、林間合宿は私の不参加が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室を終えてから少し。

私は一人中庭で溜息を溢した。

 

「守ると言ったのだが、中々上手くいかないものだ」

 

USJでは手遅れ寸前。

ヒーロー殺しの時は蚊帳の外。

ショッピングモールでは間に合わず。

今回何が起こると決まった訳ではないが、もし何か起こるとしたら居合わせる事すら出来ない。

 

「私ってば、本当、もぅ・・・」

 

おかしいな、こんな筈ではなかったのだけど。

まぁ、そうは言っても今回は校長の言葉に一理ある。

一連の事件は私を中心に起こっているのだから、私が離れるのが一番なのだろう・・・なのだろうけどなぁ。

 

「・・・ん?」

 

不意に胸元から着信音が流れてきた。

『電話がきた!』という私がとある企画で録音した有料の着信ボイスである。因みにお値段は100円だ。

 

着信の名前を見ると、彼女の名前が表示されていた。

何かあったのかと電話に出れば大きな声が鼓膜に響いてきた。

 

『ひぃぃぃぃぃぃまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

キンキンする耳から電話を離し、耳鳴りが治まるのを待つ。びっくりした。凄くびっくりした。二つの意味で。

取り敢えず何もなさそうなのでホッとしたが・・・。

 

耳鳴りが治まった所で電話に耳を当てなおす。

 

「・・・緑谷少女。どうかしたのかい?と聞いた方が良いかな?もう用件はわかっちゃったんだけど」

『私の用件が分かるんですか!?きゃーー変態ーーー!!ガチムチのストーカーー!!どこから監視してるんですか!?訴えてやるぅぅぅぅ!!』

「監視もストーカーもしてないよ。だって、さっきの一言が全部だろう?」

『分からないじゃないですか!聞くまで!!そういう決めつけが子供の教育にどれだけ悪影響を与えるか、分かりますか!?決めつけダメ、絶対!!』

 

緑谷少女の言葉は間違ってはいない。

何事も決めつけて行動することは良くない事だ。

だが、今回に関しては決めつけてもいい気がする。

 

「それじゃ、どうしたのかな?」

 

念のためにそう聞いてみる。

すると、緑谷少女は待ってましたと言わんばかりに声をあげた。

 

『超、暇なんですけど!』

 

うん、そうだと思ったよ。

それ以外ないもんねぇ。

 

「私にどうしろと言うんだい?一応、私も仕事をしてるんだけど」

『えぇ!?先生なのに、仕事してるんですか!?夏休みなのに!?』

「そうだよ。色々とやらなければならない事があるんだ。先生って意外と大変なんだよ」

『えぇぇぇ、ガチムチが暇なら買い物にいこうと思ったのにぃ・・・ガチムチの奢りで』

「人のお金を宛にしないの」

 

ぶーたれる緑谷少女の声にさっきまでモヤモヤしていた物が晴れるような気がしてくる。悩んでいたのが馬鹿みたいだ。

 

「友達と遊びにいけば良いじゃないか?」

『はぁ・・・それが出来れば良いですけど、皆、なんだっけ?えき、えき・・・えきぽん?とかいうのに行くみたいで、その準備とかで忙しいって』

「えきぽん?」

 

えきぽんって何だろうか・・・?

えきぽん、えきぽん・・・えき、ぽ・・・もしかしてエキスポの事じゃないよね?いや、そう言えば、今年はIアイランドが日本海域でエキスポを開くって聞いていたな。

 

「もしかしてエキスポの事かな?」

『えぇー?そんなんだっけ?えきぽんだった気がする』

「君の何がえきぽんを推させるの?エキスポだよきっと。友達ってA組の子達だろ?ヒーローを目指すものなら、今回のエキスポは外せないイベントだろうからね。個性についての研究発表、最新技術で作られたヒーローアイテムの展示。他にも色々あるよ」

『へぇぇーー』

「興味なさそうだなぁ・・・あ、そう言えば、一昨日爆豪少年もヒーローコスを取りに来ていたよ?島内では個性使用も可能だし、ヒーローコスの着用も許されているからね」

『あー、それならそうかも』

 

どうやら納得してくれたみたいだ。

それにしても緑谷少女の口ぶりからだと、前回の体育祭優勝者にエキスポの招待があった事を知らなかった訳ではないらしい。ならば、何故彼女は爆豪少年と共にいかなかったのだろう。

 

「爆豪少年といかなかったのかい?」

『んー?誘われたけど、めんどいから断った。だってえきぽん頭使いそうなんだもん。勉強きらーい』

「ははは、とても期末の筆記テストでクラス三位になった子とは思えないな」

『一位狙ったんだけどねぇ』

 

普段碌に授業受けてないで三位なら、十分凄いと思うんだけどなぁ。というか、一位狙ってたのか。

 

『はぁーーー、こんな暇になるなら行っとけば良かった。今ごろ皆でえきぽんかぁ』

「いや、えきぽん自体はまだ始まっていないよ。プレオープンも明日からだしね。島内は他にも観光施設あるし、それ目当てで前のりしてるんじゃないかな?」

『そうなんだ?てか、えきぽんって何?エキスポじゃないの?』

「のってあげれば、これだ。まったく君は・・・」

 

それから緑谷少女と他愛のない話をし、私の休み時間は終わりを迎えた。

 

 

 

 

残した仕事を片付けに職員室に戻り自分の席につく。

書類整理の為スリープ状態のパソコンを起動させると、メール通知に目が留まった。履歴を見ると一昨日にきていた事が分かる。色々忙しくて見逃していたらしい。

 

私のメールアドレスを知ってるものは少ない。

だから塚内かな?と思いながらメールをクリックすると、懐かしい名前がそこに載っていた。

 

「メリッサ・・・また懐かしいなぁ」

 

そこにあったのはアメリカで活動していた時代、相棒であった男の愛娘の名前だった。

最後に見た彼女の姿を思い、思わず笑みが溢れる。

 

「そうか、もう高校生になるのか。早いものだな時間というのは・・・」

 

メールの内容に目を通すとメリッサの近況の報告が綴られていた。Iアイランドで学校に通っている事。ヒーローアイテムの作成を行っている事。

それと、相棒であり親友であるメリッサの父親、デイブの事も。

 

『招待状を送るので、パパに会いに来て』

 

その一文で今朝届いていた封筒を思い出した。

 

「あれか!?えーと確か・・・鞄に」

 

出掛け前に見つけ後で見ようと鞄に突っ込んでいたそれを探してみる。すると書類に埋もれそれが見つかった。幸いな事に折れ曲がったりはしていない。

 

封を解いて中身を見れば、女の子特有の可愛らしい文字で綴られたメッセージカードと二枚のチケットが入っていた。

 

「うん?二枚?『Please come☆important people』か。・・・塚内くんでも誘ってみようかな」

 

無理かな。

塚内くん忙しいし。

 

「一人で行くのもなぁ・・・」

 

少しだけ相澤くんの顔が浮かんだけど、断られる事は目に見えてるし、何より相澤くんと出掛ける程親しくないし。

 

その時、ふとさっき暇だと電話を寄越してきた緑谷少女の顔が浮かんだ。

そして『行っとけば良かった』という後悔の言葉も。

 

彼女であれば体の事情も知ってるし、そこそこ親しい間柄だ。出掛けるのに誘われるくらいであれば問題も・・・。

 

そうは言っても男女だからなぁ。

親御さんがまず許さないか。

 

それでも他に誘う人もいなかった私は電話を手に取った。よっぽど暇なのかワンコール出た緑谷少女は声を踊らせて『どうしたんですかー!?暇なんですかー?!』と訊ねてくる。

 

「いやね、今、知り合いからエキスポのチケットを貰ったんだ。爆豪少年達の行ってる、Iアイランドのやつさ。出発は明日の朝でかなり急になっちゃうんだけど、行ってみ━━━━」

『いくーーーー!!準備してくる!明日ね!明日!りょーかいしましたー!!緑谷双虎三等兵、準備して参ります!!あっ、あれだよね!航空機でいくんでしょ!?朝ご飯は空港のレストランとか!?奢り!?やっほーー!あ、でねでね、かっちゃんが言ってたんだけど━━━━』

 

大声が聞こえる電話から耳を離し、私は誘って大丈夫だったのかなぁと少しだけ後悔した。

やけにやる気に満ちた声に、何か起きそうな気してたまらなかったのだ。

 

まぁ、それでも、その楽しそうな声を聞いてると笑みが溢れてしまう。

 

「ヒーローコスは私が用意しておくよ。親御さんにはちゃんと伝えておくようにね」

『はいはーい!迎えはー?』

「え?いるの?」

 

 

 

 

 

そうしてドタバタしながら始まった私の休暇。

懐かしい旧友と過ごすよい休みになると、その時の私は信じていた━━━━━。

 

 




今回はどにゅーのみで終わりやで。
映画版はまたこんどや( *・ω・)ノ


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セレクト8:ダーティーニコー:それをお前がいうな編
暑いと泣き言をいった所で涼しくならない。けど、エラ・イヒトは言った。心頭を滅却すれば火もまた涼しいと。かぁぁぁつ!!・・・・いや、やっぱり無理だわ。誰かキンキンに冷えたアイス頂戴。の巻き


はい、という訳でですね、林間編です。
うわぁぁぁぁぁ、逃れられないシリアスがぁ!
書いてると気分の重くなる、シリアスがぁぁぁ!!
やるけどもね。

やだぁぁぁ!!イチャイチャさせたいぃ!(本音)
アオハルだけさせたぃぃぃ!(本望)


日差しが眩しい夏真っ盛りのその日。

最近ちこっとした面倒事を片付けたりなんだりしてお疲れ気味な私は、重い荷物を背負って雄英高校を訪れていた。

世間の学生達は全力で休みを謳歌してる最中だというのに、だ。

 

何が悲しくて夏休みの真っ只中学校に来なければならないのか・・・まだ答えは出ない。

私はギラギラに輝く太陽を見上げながら、その答えを青い空に探した。

 

「帰りたい」

「馬鹿な事ぼやいてねぇではよ来いや」

 

そう言ってかっちゃんはノシノシと先を進む。

 

「荷物持とうかとか、聞いても良いよ?」

「もう持ってんだろがっ!!俺の!背中にあんのは!てめぇの荷物だろうが!!提出課題ぐらいてめぇで持てや!!」

 

その提出課題が地味に重いんだもん。

紙の束って量あると重いよね?なんかね?

それにくそ暑いしで、荷物持つやる気も出ませんよぉ。

 

「アイスぅーー」

「んなもんあるか!!だぁってあるけや!!」

 

かっちゃんに叱られながら歩いていくと、バス乗り場に二台の大型バスが止まっていた。百の用意したバスと違って全体的にショボい。きっと最後尾に謎の扉とかないのだろうな。

 

集合場所には既にA組の面々が揃っていて、B組の物真似野郎がちょうど絡んでいる所だった。

 

「あははは!!聞いたよ!!A組、補習いるんだって!?つまり赤点取った人がいるってことだよね!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀はハズなのにぃ!?あれれれれれれぇ!?」

 

相変わらず楽しそうな奴だな。

あいつの目には世界がどう映ってるんだろ。

面白そうなので様子を窺っていたら、調子にのって更に続けた。

 

「ねぇねぇ!!もしかしてその赤点って、あの暴力の権化な緑の人も入ってるのかな!?あははは!!頭馬鹿で体力馬鹿とか、もうゴリラの仲間なんじゃないかな?あれれれぇ!?もしかしてピッタリなんじゃない?!話も通じな━━━━っぶひぃ!!?」

「「「物間ぁぁぁぁ!?」」」

 

思いっきりボディにかましてやった。

母様直伝の捩じ込むようなリバーブローを。

幾ら私が寛容な人間とはいえ、ゴリラは許さん。

断固として。

 

地に伏した物真似野郎を何度か足蹴した後、B組男子に向けて投げ飛ばしておいた。毛むくじゃらの人が上手いことキャッチしてくれる。

 

「ちょ、いや、確かに物間氏にも問題はありましたが、あんまりではありませんか?!」

「はぁ???」

「い、いえ!なんでもありませんぞ!しかと、物間氏に注意を促しておきますぞ!!」

 

ちょっとお話しあいをする為に視線を送ると、ビシッと了解を示してくれた毛むくじゃら。なので毛むくじゃらにそのまま馬鹿を任せる。

 

すると、困った顔したサイドテが手を振りながら駆け寄ってきた。

 

「ごめんな!うちの物間が迷惑みたいで!」

「ん?いいよ、別に。もう制裁したし」

「その手間かけさせてごめんって話。いつも悪いね」

 

そうサイドテが笑うとその後ろにいたB組女子ーずが顔を覗かせた。その中にはこの間校長の話を聞いていた時に心配してくれたお化けっ子もいて、申し訳なさげに軽く頭を下げてくる。

 

「うっす、A組。体育祭じゃなんやかんやあったけど、まぁ、よろしくね」

「ん」

 

サイドテとお化けっ子に続くようにB組女子ーずが声を掛けてきた。一応チアやった時に喋ったけど、それ以来なので不思議な感じがする。

 

折角の機会なのでB組女子と取り敢えずメアド交換しておいた。何があるか分からないからね、うん。後で遊ぼうね。合同女子会とかしようね。ねー。

 

無事にメアド交換を終え戻ってくると、うちの不穏分子であるブドウが涎を垂らして待っていた━━━ので、包帯先生に告げ口しておく。性犯罪者になりかけのちっさいアホがいますと。

 

その後ブドウがどうなったか知らない。

分かる事と言えば、バスに乗った時ブドウの席が包帯先生の隣だったことくらいである。

南無、安らかに眠れ。

 

 

 

 

ブドウ以外のバスの席は割とテキトーだ。

いや当初は眼鏡が仕切ろうとしてたところを、私がモロに無視して座ったら皆自由席になっただけなんだけども。

私は一番後ろをお茶子と梅雨ちゃんとで占拠。

すぐ前の席にかっちゃんと常闇、紅白饅頭と眼鏡が座る。他の女子ーずは二人組で前の方にバラけた。

 

バスが動き出すと誰ともしらず曲を流そうと言い始めた。

包帯先生が許す筈ないと思ったけど、呆れた顔して見てるだけで何も言わない。

それじゃぁ歌っても良いのかな?と思ったけど、マイクを要求したら凄い恐い顔で睨まれた。それはNGだそうだ。ずるい、私だけに怒るとか。大人はずるい。差別YO。

 

あんまりにも暇だったので、前の席のかっちゃんにちょっかいを掛ける事にした。

 

「かっちゃん、かっちゃん」

 

反応がない、無視されたようだ。

今度はかっちゃんの椅子を殴りながら声を掛ける。

やはり駄目だ、断固として無視する気だ。

 

朝から随分と眠たそうにしてたから、睡眠を優先したいのだろうがそうはさせない。何故なら、逆に私の目が冴えちゃったからだ。

呑気に一人だけで眠ろうなんて、そうは問屋が卸さないぜぇ!

 

「どるるるるーどるるるるー!!風の夜にぃ!馬を駆りぃぃ!駆けぃぃりゆくぅぅ者ぉありぃぃぃ!腕ぇにぃ童帯びぃゆるをぉ!しっかぁぁぁとばかりぃ抱きぃけぇりぃ!!」

 

歌いながら椅子の上から覗いてみると、かっちゃんは顔にハンドタオルを置いて知らないフリをしてた。

 

「ぼんばーぼうやぁ!なぜ、顔を隠すか?!」

 

そっとハンドタオルを取れば、青筋を立てたまま目を瞑るかっちゃんの顔があった。

隣の常闇は何故か私にちょっとソワソワしてる。

じっと目を見ると嘴的な口を開いた。

 

「ズィィースト ファーターァ ドゥゥー デン エァルケーニヒ ニヒトォ。デン エルレンケーニヒッィ ミット クローン ウント シュヴァイフッ!」

 

何だと!?

こいつ、まさか━━━━同士だというのか!

中学の頃、音楽の授業で聞いたこの変な歌が妙に気に入り、思わず覚えてしまった族の一人だと言うのか!

生憎私は日本語訳でしか歌えないが・・・常闇の目はそれでいいと言っている。

ならば、遠慮などせんよ!

 

「坊やぁぁ!それはぁ、狭霧じゃぁぁ!!」

 

私と常闇はアイコンタクトする。

そこから私達に言葉はいらなかった。

魔王部分をダークシャドウに任せて、更に歌い続けた。

そして私達は一番盛り上げるそこでたどり着く。

 

「おとうーさん!おとうーさん!!」

「マイン ファータァー!!マイン ファータァー!!」

 

「なんで魔王大合唱してやがんだ!!っせぇ!!」

 

かっちゃんに常闇共々メチャ怒られた。

怒られてる最中ちらっと常闇を見たら、グッと立った親指が向けられていた。良い歌だったと、褒めてくれたのだろう。

入学したての頃、ワシャワシャしようとして逃げられていらい常闇とは上手くいってなかったが、これを機に仲良くなれたらな、と思う。そしてワシャワシャさせてくれたら良いなとも。

そんな打算も込めてお前のも良かったぜと、私も親指を立て返したら━━その親指をかっちゃんに見つかり、反省不十分と判断されたのかギリギリと握り締め上げられた。

 

たたたたたたた!! いたいっ!いたいよ!かっちゃん!それ、いたい!!馬鹿力!!馬鹿っ!おっおおお!?やめてっ!やめてってば!!

反省してますってば!あっ、たった!ご、ごめんなさぃいいいーーー!!

 

 

かっちゃんに怒られてから暫く。

皆の喧騒を聞きながらボーッと外を眺めてると、不意にスマホがブルブルっとする。なんじゃろかと見てみれば、あの子からメールが来ていた。

 

最近とある事件に関わった時に出来た新しい友人。

メリッサ・シールドから。

 

メールをタッチして開封する。

どうやら私が話していた事を覚えていたらしく、夏合宿頑張れとのメッセージが書いてあった。

それと、皆によろしくとも。

 

なので隣のお茶子に声を掛けた。

 

「?どないしたん?」

「メリッサからメール。合宿頑張れってさ」

 

私が教えるとお茶子がスマホを覗き込んできた。

そして嬉しそうに笑う。

 

「元気そうで良かった。あんな事あったし、どうなったか気になっとったから・・・あっ」

 

うっかり溢した自分の言葉にお茶子は冷や汗を流す。

一応あの件は口外を禁止されている為、話すわけにはいないのだ。そんな焦るお茶子に、梅雨ちゃんは首を横に振った。

 

「安心してお茶子ちゃん。余計な詮索はしないわ。あの日何かあった事くらい、何となく分かるもの。メリッサさんって、緑谷ちゃんやお茶子ちゃんを見送りにきてくれた人よね?」

「そ、そう。メリッサさん。色々あって、本当に大変で・・・ごめん。その内容はいえへんねんけど」

「気にしないでお茶子ちゃん。それより、メリッサさん元気そうで良かったわね?」

「うん、ほんまに良かった」

 

二人の会話を聞きながら、私は返信のメールを送る。

元気でやっている事、お茶子が口を滑らせかけた事、かっちゃんと相変わらずな事。

 

長くなった文を見て━━ふと、ある事が頭に浮かんだ。

だからメールの最後にある一文を加える。

そして━━━━━。

 

「かっちゃん!」

「あぁ?」

 

振り向いたかっちゃんの顔に自分の顔も寄せて、パシャりと写真を一枚撮った。

 

いきなり近くに寄られてびっくりしたのか、かっちゃんが私を押し退けてくる。その押された勢いのまま椅子にもたれ込み、送信ボタンをタッチした。

 

「いきなり何すんだ!?こら!!」

「青いな・・・」

「っせぇぞ!!カラス頭!!」

 

「爆豪くん!幾らなんでもカラス頭は酷いぞ!」

 

荒らげたかっちゃんの声に反応して、眼鏡も声をあげる。そんな眼鏡の言葉に前の席の方からも「そうだー爆豪はもっとちゃんと名前覚えろー!」とあしどんの声が聞こえてきた。飛び火したみたい。

 

かっちゃんのあだ名の付け方に文句ある組VSかっちゃんというハンデありまくりな戦いが勃発するのを横目に見ながら、私は送信完了の文字を確認する。

 

元気に賑わうクラスの喧騒を聞きながら、メリッサがいるであろう東を見てみた。見えたのは立ち上る雲と青い空。緑が増え住居が減った辺鄙な大地。

 

海のずっと先。

今日もそこで頑張る、彼女を思った。

友達の彼女を。

 

 

「またいつか、ね。メリッサ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

不意に鳴った電子音。

 

ポケットからソレを取り出して見れば、日本の友人から返信が返ってきていた。

タッチして中身に目を通せば、近況の報告と合宿への愚痴が綴られていた。

あれからそう経ってもいないのに、友人の毎日はよほど色んな事があるらしい。近況の報告が随分と長い。

 

「ふふふ、楽しそう」

 

メールを最後まで見ていくと、その一文が目に止まった。

 

『またいつか、ヒーロー』

 

その言葉に過るのは、友人に言ったその言葉。

覚えていてくれたのかという嬉しい気持ちと、なんだか気恥ずかしい気持ちが胸に溢れる。

 

「ヒーローか。・・・私にはまだ、早いよ。ニコ」

 

スクロールしていった先、写真が添付されていた。

バスの中で楽しそうに彼と笑う友人の写真が。

 

そっと窓から外を眺めた。

ここよりずっと西、海を越えた向こう。

日本という島国にいる、友人を思いながら。

 

 

 

「またね、ヒーロー」

 

 



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にゃんこは可愛がりすぎてはいけない。撫で撫でも程々じゃないと嫌われちゃうからね。え?それなら離せって?あはは、がきんちょはにゃんこじゃないからね!てか、何言ってんだ、このこのー、うりうりーー!の巻き

今号のジャンプにて発覚。
B組のきのこちゃん、思ったより可愛いノコ。
次回の活躍、気になるノコ。

いや、語尾のノコは違和感しかねぇな。
なんだってあんな話しずらい語尾を・・・。
いや、可愛いんだけども。


バスの旅が始まって一時間。

 

私達A組ーずを乗せたバスは見張らしのいい空き地に止まった。ちょっとした展望台のようなそこには車が一台止まっているだけで何も置いてない。てっきりトイレ休憩が何かかと思っていただけに、その止まった意図に疑問を持った。ブドウなんて股間を押さえてWC捜索に首をキョロキョロしてる。

 

「・・・つか何ここ。パーキングじゃなくね?」

 

切島ののんびりした言葉。

何を呑気にと思わずにいられない。

私は最大限警戒する。

包帯先生の動きに。

 

無駄を嫌う合理主義者な我等が包帯先生が、意味もなくこんな場所で止まる訳がない。考えられる最悪は━━━目の前の見張らしのいい景色。

 

いきなり森に放り込まれて、サバイバルとかやらせられないよね?

 

こんな時の為に火打ち石と16徳マルチツールは携帯してる。山に行くということでとあるジャングルで買ったやつだ。

ぶっちゃけ、火を吹けるから火打ち石買う意味無いんだけど・・・とあるサバイバーのネット画像を見たら買わずにはいられなかった。チャッチャッて火を付けたい。虫食べるのはのーせんきゅーだけど。

 

ウーマン・VS・ワイルド!!

配信しちゃおっかな!!

 

「ね!かっちゃん!」

「何がだ・・・?」

 

かっちゃんにはこの冒険心が分からないらしい。

残念ボーイめが。

 

 

 

「よーう、イレイザー!!」

 

 

不意にあがった声に、包帯先生が頭を下げた。

 

「ご無沙汰してます」

 

包帯先生が頭を下げた方へと視線をやると、ネココスした二人の女性の姿がそこにあった。

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

シュバッと、赤色ネココス女性が腰を落とし両腕を横へと突き出す。

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

シュビッと、水色ネココス女性が片足をあげて猫っぽい構えで手を上げる。

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

ビシッ、と二人のポーズが重なる。

特撮ヒーローなら背後で爆発が起こるような場面だろう。なんか楽しそう。交ざりたい。

 

そんな二人の背後に子供の姿が見えた。

子供の頃のかっちゃんみたいな、目付きの鋭い生意気そうな子どもが。

何処と無く赤色ネココスと似てるから、子供かなんかだろうな。

 

気になったけど、他の人達はその事に何も言わないみたいなので私も口を閉じておいた。目があったから手は振っといたけど。・・・あ、こら、がきんちょ。そっぽ向いてんじゃねーよ。振り返せ!全力で!!子供らしく・・・本当、かっちゃんみたいだな。

 

 

「今回お世話になるプロヒーロー。『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

包帯先生から説明され、梅雨ちゃんが何かに気づいたような顔をした。

 

「けろっ、大した事じゃないわ。以前テレビで見たことのある人達だったから」

「そうなの?」

「確か、四人で構成された山岳救助を中心に活動してるヒーローチームだった筈よ。結構ベテランだった筈だけど・・・10年以上だったと思うわ」

 

「心は18ぃ!!」

 

梅雨ちゃんと私の間に割り込むように、水色ネココスが入ってきた。凄い形相してる。

水色ネココスはネコグローブを私達二人の顔面に押し付け「心は?」とドスの利いた声で確認させてきた。

 

怯えた梅雨ちゃんの「18」が聞こえる。

 

解放された梅雨ちゃんを横目に私は計算してみた。

多分高校出るまではヒーロー活動をしてない筈。

なら、10年来のベテランとなると自然そうなる。

 

「心は18、体はアラサー。その名もプッシーキャッツ」

「いにゃぁぁぁぁぁぁ!!言わないでぇぇぇ!」

 

水色ネココスが膝から崩れた。

ちょっと泣いてる。

私は優しさから、そっと肩に手をおいた。

 

「大丈夫。泣かなくて大丈夫ですって。歳は誰でもとるんですから。OKOK」

「そう、そうかなぁ!?今からでも大丈夫かなぁ!?結婚出来るかなぁ!?」

「大丈夫じゃないですか。・・・知らないけど」

「中途半端に慰めないでぇ!!確信持って言ってよ!」

 

アラサーでも結婚出来るとは思うけど、ぶっちゃけこんなコスして山の中でポーズとっちゃう人がまともな人と結婚出来るとは思えない。てか、いま彼氏いなそうな時点でかなり危ういと思うけど。

 

「ねぇ!誰か紹介してよぉぉぉ!!若くてイケメンで将来有望そうな、そんな男教えてよぉぉぉ!!」

 

こら、結婚できねぇわ。

無理だわ。

 

「聞こえてるんですけどぉぉ!?うわぁぁぁん!憎い!若い子が憎いぃぃぃ!!」

 

あ、声に出てたにゃ。ごめんにゃ。

水色ネココスを泣かせてたら、赤色ネココスが困った顔してこっちにきた。

 

「ピクシーボブ。なにしてんの。子供相手に」

「うえぇぇぇぇん!マンダレイ!聞いてよ!この子が言っちゃいけない事をいったぁぁぁ!!結婚出来ないとか!!言う!?普通!面と向かって!?」

「そんな風に絡んでたら言われるわよ、まったく」

 

呆れたように溜息をついた赤色ネココスは私に軽く頭を下げた。

 

「ごめんね、迷惑かけて。私はマンダレイ。で、こっちがピクシーボブ。この子、婚期逃してて、ちょっとね」

「婚期逃したとか言うなぁ!私はこれからだぁ!」

「あーうん、そうだね」

 

水色ネココスはあれだけど、赤色ネココスは流石に余裕が違うな。人妻子持ちはやっぱり強い。

 

「紹介してあげれば良いじゃないですか。旦那さんの友達とかでも?」

「旦那?いや、私も・・・あ、もしかして私子持ちに見えた?あはは、あの子の事よね?違うのよ。あれは従甥でね・・・洸太!こっち来て挨拶しな。合宿中一緒なんだから」

 

赤色ネココスの手招きにがきんちょは顰めっ面でこちらに来た。益々ちっちゃい頃のかっちゃんだな。その刺々しさとかそっくり。

 

「よろしくね?」

 

頭を撫でようとしたら払われた。

めちゃ睨んでくる。

どんだけかっちゃんなんだ、こいつは。

 

「ヒーローになりたい連中とつるむ気はねぇ━━━━ふべっ!?」

「もぅぉぉ!なにこいつーーー!超かっちゃんなんですけどー!」

 

懐かない猫感に思わずキュンとした私は、生意気ながきんちょをぎゅっとしてやった。固まるがきんちょの頭を帽子越しに撫で撫でしてやると、凄い抵抗してくる。

それもまた可愛くてぎゅっとしてやった。

 

本当、ちっちゃい頃のかっちゃんを思い出すなぁ。

 

同年代としてはクソ可愛くもないクソガキだったけど、なんでかっちゃんが光己さんに猫ッ可愛がりされていたのか今何となく分かった。

確かに、これは可愛い。

 

「はなっ、せよ!この!痴女かよ!!」

「生意気な事言う口はーこれかなぁー?」

「いででででででで!?」

 

生意気な事を口言うを引っ張ってやる。

幾ら可愛いとはいえ悪口は許さん。

誰が痴女だ、誰が。

 

私が可愛がってるとA組女子ーずの面々が集まってきた。皆もがきんちょに興味深々だったみたいで、めちゃほっぺをつつきまくる。がきんちょの顔がどんどん赤くなっていく。照れてんのか、一丁前に。

 

「あはは!本当だ、ミニ爆豪だね!これは!」

「爆豪くんもこれくらいちっちゃっかったら可愛いのにー!」

「ほんまやね。こんくらいやったら、暖かい目で見れんのになぁ」

 

がきんちょをこねくり回す馬鹿スリーwithお茶子とは違い、梅雨ちゃん達は少し離れた所から見てきた。

 

「けろっ、その辺で止めてあげて緑谷ちゃん。可哀想よ」

「そうですわ。緑谷さん」

「一応そんなんでも男なんだからさ、考慮してやんな」

 

三人に言われてがきんちょを見てみると、目の端に涙を浮かべちょっと泣きそうになっていた。

泣くのを我慢する姿とか、本当かっちゃん。

 

可哀想だったので離してやれば、しゅぱぱぱっと走って逃げていった。猫みたい。可愛い。

さっと、赤色ネココスの後ろに隠れると凄い睨んできた。

 

「お前っ!!嫌いだっ!!」

 

おおう、嫌われてしまった。

残念無念、また来週━━━じゃ駄目だな。帰っちゃうもん、来週は。また明日だね。

 

がきんちょとバイバイしてると頭をスパンキングされた。痛い。知能指数が5は減った。振り向けばやはり包帯先生がいる。修羅な顔してた。

 

「いつまでも何やってる・・・!」

「っさっせんしたぁぁぁ!!」

 

 

 

 

皆が話を聞く体勢になった所で、赤色ネココスことマンダレイから説明が始まる。なんでもここら一帯はプッシーキャッツの所有地らしい。30歳そこそこで随分と広い土地持ってるもんだと、ちょっと尊敬。四人で共有だとはいえ凄い。やっぱ、ヒーローって儲かるのかね。

 

ガチムチはすかんぴんなのに。

 

「それで、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

 

指差された方向を見れば、はるか彼方に山が見えた。

切島や瀬呂が思わずあげた「遠っ!!」という言葉に完全同意である。

 

ざわつく皆を他所に、嫌な予感を覚えた私は包帯先生の立ち位置、それとバスの配置を改めて確認する。

そして確信した。

 

生徒達の位置がこの見張らしいい高台から、落としやすい位置に誘導されている事に。

 

「今はAM9:30。早ければ12時前後かしらん」

 

その言葉に皆がぞっとした顔をした。

切島やあしどんがバスに戻ろうと声をあげる。

けど、遅い。

 

「12時半までに辿り着けなかったキティは、お昼抜きね」

 

水色ネココスが地面に手を置く。

瞬間、地面が波打つのが見える。

その光景を前にした私達の耳に、包帯先生の声が聞こえてきた。

 

「悪いね、諸君。合宿はもう始まってる」

 

急激に盛り上がった土の波が逃げ惑う皆を飲み込んでいく。自然災害。そう思わせる程の圧倒的な個性。

土砂はうねりをあげながら、悲鳴と共に皆を崖の下へと運んでいった。

 

「皆━━━━」

 

私は一人、バスの上から皆の無事を願い、そして見送る。気づくのが遅れて誰かを抱えて逃げられなかった私だけど、自分までとか間抜けな事はしない。引き寄せる個性で即行逃げた。お茶子くらいは助けたかったけど、時間なくてダメぽよだった。

 

「・・・緑谷」

 

下から掛かる声に視線を向ければ、包帯先生がジト目で見ていた。

 

「なんですか?」

「取り敢えず、その判断力の早さ、行動力の高さは褒めておいてやる」

 

おお、包帯先生に褒められた。

珍しい事もあるもんだにゃ。

 

「それはどうも~。まぁ、私も成長してるって事ですよ。もっと褒めてくれても良いですよぉ?」

 

胸を張って自慢する━━━━と、目を離した僅かな隙に腕と足に包帯が絡まった。

そっと包帯先生に視線を戻せば包帯が握りしめられていた。

 

「いやぁ!!いやぁぁぁぁ!!包帯先生の意地悪ぅぅぅぅ!!頑張って回避したんだから、良いじゃん!!私は免除で良いじゃん!!」

「喧しい、お前も行ってこい。合宿舐めんな」

「うわぁぁぁぁぁぁん!!包帯先生の鬼ぃぃ!悪魔ぁぁぁ!むっつりスケベぇぇぇ!!」

 

包帯先生の個性のせいで私の引き寄せる個性が発動しない。碌に掴む物のないバスの屋根。私の体はズルズルと引っ張られてしまう。

 

なんたる剛力ぃ!くそっ!普段面倒臭がりで横になってばっかの癖に、無駄に力ありすぎぃぃぃ!!

 

「お前も、行ってこい!!」

「っおおおわぁ!?」

 

一気に引っ張られ、崖へ向かって投げ飛ばされた。

個性が使えないから戻れない。

 

空中でバランスを崩してると、今度は土の波に襲われる。そして皆と同じように崖下へと引きずり落とされた。

 

 

「私有地につき"個性"の使用は自由だよ!」

 

 

マンダレイの声が聞こえてくる。

 

 

「今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!」

 

 

落ちる先、森が見えた。

樹海と言って差し支えのない、緑の群れ。

 

 

「この・・・"魔獣の森"を抜けて!!」

 

 

嬉々としたその声に、私はぷっつんプリン。

だから一応言い返しておく。

 

 

「覚えてっ、覚えておけよぉぉぉぉ!!この三十路共ぉぉぉぉぉ!!帰ったら、そのネタで死ぬほど弄ってやるからなぁぁぁぁ!!」

 

 

土の勢いが増した。

くそぅ。

 



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で、ででで、でんでん!今日の舞台はとある山中。自然豊富な土地で食べ物も飲み物も豊富。ですがここ、魔獣とかいう危険動物がいるんです。今日はそんな魔獣達に囲まれた森で━━━あ、撮影の邪魔しないでよ!の巻き

セェェェェェフ!!
毎日更新疲れたばい。
でもな、これ一回途切れたら癖になるからな。
きっと、段々次の更新が遅れてって、最後は更新しなくなるからな。

そんな気がするから、頑張るもん(*´ω`*)



紅蓮に燃える復讐心。

私の頑張りをノーカウントにした、憎き三十路達への止めどない怒り。

奈落の底に落とされた私は、心の中で復讐を誓い立ち上がった。

 

「この恨み晴らさでおくべきかぁぁぁぁぁ!!皆っ!復讐だ!!三十路達に復讐しにいくよぉ!!立ておらぁ!!」

 

私はまだ土に下半身埋まってるかっちゃんに往復ビンタをかまし発破をかけてあげる。するとかっちゃんは青筋立てながら土から這い出てくれた。

 

「よし!それでこそだ!!かっちゃん!爆豪勝己くぅん!!あの三十路達にっ!!あの結婚適齢期共にっ!目にもの━━━あだだだだだだだだだだだ!!?」

 

いつもなら怒鳴り声をあげるかっちゃんが無言でアイアンクローしてきた。頭が割れるように痛い。黙っているから大人しく私の言葉を受け入れたのかと思ったら、とんだ誤算だった。この野郎。

 

てか、やめてっ!痛い!脳みそ出ちゃう!!

 

「言いてぇ事は色々あるが・・・まぁ、取り敢えず置いとく。それよか先にやることあっからな・・・おい、クソ眼鏡!!さっさと全員纏めやがれ!!個性使用許可が降りた以上、何かあんぞ準備しろや!!」

 

「わ、分かった!!皆!集まってくれ!!状況を確認する!!」

 

きびきびと動き出した皆。

これまでの授業の成果か、事が起こると行動は割と早い。理想は事が起こる前に反応する事だけど、今これが出来れば上出来な気がする。

 

それはそうと━━━もう手を離してよぉぉぉぉ!!いったいんですけど!?超痛っいんですけどぉ!!?割れちゃう!美少女の可愛いお頭が、ぱっくりいっちゃうからぁ!!ああん!死ぬぅ!

 

私が苦しみもがいている間にも眼鏡達は行動を続けた。

これからの行動の為に状況を確認し合っているようだ。

ていうか、一人くらいはこっちを助けてよ!轟!眼鏡!「峰田くんがいない!」とかどうでも良いよ!ブドウならさっき森ん中に股間押さえて走ってったわ!ナニしにいったわ!

 

「うわぁぁぁ!!出たぁ!!」

 

ブドウの悲鳴が聞こえた。

視線をそこへと向ければブドウが土色の四足の獣みたいな奴に襲われそうになっていた。

 

「マジュウだーーーー!!?」

 

上鳴と瀬呂の息のあった叫びを聞きながら、私は掴む力が弱くなったかっちゃんの手から脱出しブドウと魔獣の観察をする。そして幾つかの事が分かった。

 

咄嗟に放った喋らないくんの声が効かなかった事。

生物にしては無機質過ぎる事。

殺気の類いを感じない事。

体格通りに遅い事。

 

股間あたりの色が変わった、ブドウのズボンの事。

 

「かっちゃん!」

「言われんでもやるわ!」

「違う!ブドウの股間の所!!」

「見てやんな!!」

 

かっちゃんは掌を構える。

爆速ターボの構えだ。

 

何をやるか分かった察した私は息を吸い込めるだけ吸い込み、かっちゃんのタイミングに合わせ魔獣に向け引き寄せる個性を発動させた。

 

「爆速ターボ!!」

 

高速で接近するかっちゃん。

続くように私も飛んだ━━━けど、それより早くかっちゃんの後に続いた二つの影が見えた。

眼鏡と轟の二人が。

 

「散れや!!」

 

かっちゃんの爆撃で魔獣の体が大きく削れる。

けれど本日最初の攻撃。汗が足りず威力がいまいち。

致命傷にならなかったようで、反対に迎撃の右足が振り上げられた。

 

「爆豪くん!!頭を下げてくれ!!」

 

その声にかっちゃんが膝を落とした。

直後かっちゃんの頭の上を眼鏡が通り抜ける。

 

「おおおっ!!」

 

加速した蹴りが魔獣の右足を付け根から抉り飛ばす。

魔獣はバランスを崩し大きくふらついた。

そこへ狙いすましたように氷の柱が襲う。氷はすぐにその規模を広げていき魔獣の動きを完全に押さえ込んだ。

 

ナイスだ轟ぃ!褒めてつかわす!

今息止めてるから碌に喋れないけど!!

 

「んぃんんぅ、んんんんぃー!!」

「何言ってるかわかんねぇな。いけ、緑谷」

 

限界まで溜め込み、時間をかけて練りあげた、必殺のそれを魔獣に向けて放った。

 

ニコちゃん108の必殺技。

ニコちゃんブレス派生『ニコちゃん砲』改━━━『ブルーキャノン』(かっちゃん命名)。

 

放たれたそれは灼熱、完全燃焼を指す蒼。蒼炎。

熱気を孕んだ蒼は空気を焼き進む。

そしてその蒼は魔獣の体に深く食い込み、その体を身の内から焼き尽くしていった。

 

ぐずぐすに焼け落ちていく魔獣を見て、私は自分の勘が当たっていた事を確信する。目の前の魔獣がなんらかの個性によって産み出された物で、ある程度のダメージを与えると自壊する類いの物である事を。

 

謎は全て解けたと、私は三人に向け渾身のガッツポーズを見せた。すると眼鏡がダッシュしてきた。

 

「緑谷くん!!森の中で炎を使うなんて、何を考えているんだい!!」

「うぇ!?まぁまぁ、落ち着いてよ。調整したし?それに━━━━」

「そういう問題ではない!!燃え広がる可能性も考慮したまえと言っているんだ!!だからこそ、轟くんは炎を使わなかったのだぞ!!幸い轟くんの氷結があるから消火も可能だが、だからと言って無闇に燃やしていいかというとそうではない!自然を悪戯に壊してはならない!そうだろ!それに何より、ここはプッシーキャッツの皆様の私有地!!幾ら個性使用の許可を受けていても多少なりとも配慮するべきだろう!違うかい!?」

 

肩を掴まれめちゃガクガクされた。

頭がくわんくわんする。

手加減ぷりーず。

 

気持ち悪くなってきた所で轟が眼鏡を止め、私はガクガク地獄からようやく解放された。気持ち悪いでござる。

おぇぇ。

 

いや、スーパーアイドルな私が夢もきぼーもない事をするわけない。そう、吐かないよ?吐けないし?仮に吐いたとしてもキラキラした何かだし?え?前に?体育祭で?なんのことだか分かりませんなぁ・・・。

 

「飯田、その辺にしてやってくれ」

「しかしだな!」

「緑谷が考えなしにやる訳ねぇ」

 

轟は流石に気づいたみたいで燻る魔獣の残骸を指差した。眼鏡はそれを見てハッとした顔をする。

 

「燃え広がっていない・・・?これだけ引火しやすい物が側にあるのに?」

「多分、体育祭の時、俺の炎にやった事の応用だ」

 

轟の言うとおり燃え広がらないように工夫はしていた。

体育祭の時に使った指定空間への炎の引き寄せ。今回は指定先が実体のある魔獣であった為、そこまで難易度は高くなかった。空間指定なんてワケわからん事さえしなければ、炎を引き寄せること自体そう難しくはない。感覚はもう覚えている。

 

眼鏡がびっくりしていると、無言のかっちゃんがこっちに来た。やや、あまりの私の進化っぷりに褒めちゃうのかな?崇めちゃうのかな?と思っていると、徐に頭ひっぱたかれた。痛い。

 

「何するのーいきなりー!」

「っせぇわ、馬鹿。出来る事増えたら言いやがれっつったろうが。時間がなかったなんざ言わさねぇぞ。昨日イタ電掛けた時もそうだが、幾らでも時間あったろうが。いつからだ」

「・・・昨日かっちゃんに電話掛けた後!━━━━じゃないです。ごめんなさい、嘘つきました。こ、この間、Iアイランドから帰ってから、やったら出来た?みたいな」

「なら時間はあった訳だな」

 

それだけ言うとかっちゃんは私の両方のこめかみに拳を当て━━━━グリグリしてきた。

 

「あだだだだだ!!やめへ、馬鹿力ぁぁぁ!!」

「っせぇぇぇわ!!突発の技だと連携出来ねぇから教えろっつったろうがぁ!!てめぇはいつになったら覚えんだ!!ああ!?」

「サプライズしたかったんだもん!!どやぁってやりたかったんだもん!!」

「だもんじゃねぇ!!!」

 

それから少しかっちゃんのお説教を受けた後、皆と合流した私達は森を進んだ。妨害の魔獣が多かった物の、連携して事に当たれば大した事のない雑魚だったのでサクサク進む。ただ森が思った以上に森々していた為、前に進めない進めない。

 

お昼前に着ける筈のゴールは、一向に見えてこなかった。

魔獣退治が一段落ついた頃、眼鏡が時間を確認し首を横に振る。

 

 

「皆っ!聞いてくれ!!たった今12時半を過ぎた!!お昼抜き決定だ!!」

 

 

無情の報告。

お腹ペコペコーな連中が膝から崩れ落ちる。

 

私?私は大丈夫。

こんな事もあろうかとお菓子ポーチも装備してる。

サバイバルするんじゃないかと思って、しっかり用意しているのだよ。ふふふ。

 

「ついては、手持ちに食料や飲料を持っている物がいれば皆の為に提出して欲しい。分配し分け合いたいと思う。勿論、きちんと記録をつけ、今回の合宿が終わりしだい返却する事を約束する!」

 

眼鏡の声にポーチに伸びた手が止まる。

ふと両隣を見ると右のかっちゃん、左のお茶子が私のポーチをガン見していた。

 

ちゃうねん。

 

「そういう事なら返却とか別にいいよ。助け合いは大事だもんね。ほい、●ッキーあるよー」

「私も飴ちゃんあるよー」

 

あしどんと葉隠が元気にお菓子を眼鏡に渡す。

それに続いて手持ちのあるものがどんどんと眼鏡に食べ物や飲み物を渡していった。

 

「ニコちゃん、それ」

「ちゃうねん」

 

「おい、双虎」

「ちゃうねんて」

 

ジリジリと歩み寄ってくる邪神の使い達。

私はポーチを抱えて後ろに下がる━━━が、直ぐに後ろに行けなくなった。木が邪魔していたのだ。

 

「いや、いやぁ!この子達は、私の大切な子達なのぉ!お金で買えない━━いや、買ったんだけど。そうじゃなくてお金で買えないプライスレスがあるのぉ!!」

 

頑張って抵抗したももの、二人によって全部取り上げられた。いやぁぁぁぁ!!やめてぇぇぇ!!その子を取らないでぇぇぇぇ!生きがいなの!!私の最後の希望なのぉ!!私のキャベツ●郎ーー!!

 

悲しみにくれていたら、後でかっちゃんがケーキバイキング連れていってくれると約束してくれた。

 

・・・・なら、いいや!

 

 

 

皆でお菓子を分けあった私達はほんの少し休憩を済ませ、合宿場に向けてまた歩き出した。

日暮れまでに着けば良いけどなぁ・・・。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

生徒達が森に入って少し、俺は今後の予定について改めてマンダレイさんに確認をとった。改めて予定の流れをみると厳しい日程。状況が逼迫してるからとはいえ、生徒達にはかなりの負担がかかってしまうのは何とも言えない。

 

そんな予定にマンダレイも眉を寄せた。

 

「しかし無茶苦茶なスケジュールだね、イレイザー」

 

その言葉に俺は同意せざるをえない。

納得するのは別として、無理をさせているのは承知の上だ。

 

「まぁ、通常2年前期から"修得予定のモノ"を前倒しで取らせるつもりで来たので、どうしても無茶は出ます」

 

それでも必要だった。

この状況では。

 

「緊急時における"個性"行使の限定許可証。ヒーロー活動認可資格。その"仮免"。ヴィランが活性化し始めた今、彼等にも自衛の術が必要だ」

 

今年の一年は何かと問題に巻き込まれる。

それが不運か不幸中の幸いなのかは判断に迷う所だが、未だに大きな怪我をした者なく事を終えている。しかし、このままではいずれ無力であったが為にヴィランの手に掛かる者も出てくるだろう。

特にA組きっての問題児は雄英を巡る問題に対し皆勤賞と来てる。この間のショッピングモールでは自ら首を突っ込む始末だ。もう遅かれ早かれというもの。

 

「見所は、あるんだがなぁ・・・」

 

如何せん癖が強すぎるからな、あいつは。

 

合宿先で色々と準備もある。

張り切るピクシーボブにこの場を任せ、俺はマンダレイ達と共に合宿先へと向かった。

 

合宿場に向かう途中、ふいに不貞腐れるように一番後ろの席に座った洸太くんが気になった。視線を送ればつまらなそうに外を眺めている。

 

「気になる?」

 

マンダレイの言葉に「いいえ」と答える方が良いのだろう。余計な事は言わぬ方が良いのは何処でも同じだ。

だが、あの目がどうしても気になっていた。

 

憎むようで、それでいて正反対な想いの乗った、子供が見せるにはあまりに複雑なその目が。

 

「聞いていた以上に、拗れてますね」

「流石に先生やってる奴は鋭いね。分かる?」

「良いことではないですが・・・恨むだけなら、多少は楽だったとは思いますが」

「そうだね」

 

あの目を見れば、ヒーローという存在を強く憎んでいる事は分かる。そしてそれ以上に、彼にとってヒーローという物がどれだけ特別なのかも。

 

両親がヴィランに害された子供が合宿に同伴するのは聞いていた。多少風当たりが強い事は覚悟していたが・・・。

 

「難しいですね」

 

思わず出た言葉にマンダレイが「難しくしたのは、私らなんだ」と悲しげに口にした。

 

「あの子にはさ、ただ純粋に悲しむ時間が必要だったんだと思う。現実を受け入れる為の、時間がさ。でも、周りが、あたしら大人が、あの子にその時間をあげなかったんだ」

 

「残されたあの子の気持ちも考えないで、皆があの子の両親を誉め称えた。無駄じゃなかって、立派だったんだって、悲しむような事じゃないんだって。私もさ、あの子を元気づけたくて、言っちゃった。━━━それは確かに思いやりだとか、優しさだったのかも知れないけど・・・違うんだよね。あの子にとってなんの慰めにもならない言葉なんだって、最近気づいた」

 

「あの子が望んでたのは英雄じゃない。たった二人の両親なんだから」

 

そう寂しげに語ったマンダレイに掛ける言葉は思いつかなかった。元より気の利いた台詞など吐ける人間ではない。

 

「━━━━ごめんね、辛気臭い話して。でもありがとう、少し気が楽になった」

「いえ、俺は何も」

「相変わらず、不真面目なのに真面目だねぇ。あんたは」

 

それから暫くバスの旅は続いた。

揺られながら少年の事をぼんやりと考えた。

別にどうこうしようと思った訳じゃない。

 

ただどうしようもなく、突き付けられた現実に、ヒーローの一人として歯痒さを覚えていた。

 



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この恨み晴らさでおくべきかぁ!え?復讐なんて何も生まない。やるべきじゃない?バカ野郎!何か生みたいなら工作するわ!これはな!これは!私がスッキリしたいからやるんだよぉぉ!の巻き

おまた、おまた( *・ω・)ノ

ふぅー今日もなんとか間に合ったぜぇ!
やっぱり、あれだね、この投稿した後の、やりきった感が堪らないね(*´ω`*)

飯が旨い(*ゝ`ω・)



長きに渡る激闘。

その道のりはあまり遠く、多くの者が絶望から膝を折る苦難の旅であった。

けれどその度に私達は支え合い、肩を並べ進んだ。

時に手を貸し、時に肩を貸し、時に励まし・・・時にはお茶目な悪戯で気を紛らわせたり。

悪戯については何故か怒られたけど。

 

そうやって暗黒の森を進むこと7時間。

 

私達はついに辿り着いた。

帰るべき合宿場というなの楽園へと。

 

 

「やーーーっと来たにゃん」

 

 

聞こえたその声に重いからだを引きずりながら顔をあげる。そこには出発前にみた三十路ネココス達の姿があった。

 

私は余っている全エネルギーを使い、皆へと声を掛ける。

 

「皆ぁぁぁぁぁ!!今こそふくしゅーの時である!!決起せよ!決起せよ!決起せよぉぉぉ!!旗を掲げ叫ぶのだ!!悪しき三十路共に鉄槌をぉぉぉ!!」

 

肩をびくつかせたネココス達。

私はそれを見ながら百に無理して作って貰った『三十路討伐連合』の旗を掲げ突撃する。その途中かっちゃんが背中に乗れと言わんばかりに手招きしてくるので、喜んで我が愛馬『爆号』に騎乗し突撃を命じた。

 

━━がしかし、皆の足取りが重い。

今回ばかりはかっちゃんの足も取りも━━━━。

 

「どした!!爆号!!元気だせよぉ!!突撃だよぉ!!と・つ・げ・き!!」

「喧しい、大人しくおぶさってろ」

「ぬぅぅぅぅ!!走ってよぉぉぉぉ!!」

 

肩を掴んで体を揺すってせがむ。

けれどかっちゃんは冷たい反応しか返してこない。

私は愕然である。

 

それならばと紅白饅頭に目をやったけど、普通に首を横に振られた。

 

な、なんだってぇぇぇぇ!?

 

「・・・かっちゃん、下ろしていいよ」

「その後どうする気だ」

「一人でも三十路を討伐する」

「離せるか、馬鹿」

 

ぎゅうっと足が完全固定された。

こ、こやつめ!!いやに大人しくおぶってくれたと思えば、全ては私を捕らえる為だったとでも言うのか!?

はなせぇぇぇい!!このぉぉぉ!!くそっ、憎き三十路共がそこにいるのにぃぃぃ!!

 

「・・・ば、爆、爆豪くん。ニコちゃん、離したらあかんよ」

「言われんでも分かっとるわ」

 

お茶子までだと!?

━━━━━━まさか!!

 

そう思って皆の顔を見た。

予想通り皆の顔に復讐心は欠片も見えない。

どころか、人によっては安堵の表情すら浮かべている。

 

抜かったわ!!

 

なんでそんな簡単に諦められるんだ!熱くなれよ!ふくしゅーしようよ!鞄に蛇のオモチャとか入れようよ!夜中に枕元でお経をエンドレスで流してやろうよ!三十路ネタで顔真っ赤にさせようよぉ!!僕たち私たちの7日間戦争始めようよぉ!!━━━と必死に訴えたけど、皆に疲れた顔された。

 

「あははは、元気だねぇ君は」

「ねこねこねこ、体力お化けだねぇ。まぁ、それをおぶっている彼のがその上を行くけど」

 

楽しそうに笑うネココス達にかっちーん。

何を笑っているのだ!このにゃんこババァ共ぉ!

 

皆が頼りにならないならと一人でもやる。

そう思って頑張って脱出しようとしたけど、かっちゃんの馬鹿力から抜けられない。いつの間にこんなに力つけてんだコイツぅぅぅぅ。

 

「はなせぇぇぇ!」

「ふぐっ!!おまっ、やめろや!!」

 

こうなったら落とすしかないと旗を投げ捨て、空いた両手で首を締め上げる。

けれどぎゅうっと本気で締めたつもりでも、いまいち力が入らない為にくっついただけに終わってしまう。体力を使い過ぎたせいで絞め落とす力も残ってないらしい。

くちおしやぁぁぁ。

 

 

「ごふぅっ!!ぐぅぅ」

「うわっ、ピクシーボブ!?」

 

 

突然そんな声と共に水色ネココスが膝をついた。

その表情をみれば何かしらダメージを受けたのが分かる。外傷がないから精神的なものだとは思うけど・・・実際は何が効いたのか分からない。

 

「これが若さ━━━悔しいぃ、マンダレイ!どうして私は学生じゃないの!!あの時ぃ、あの時大人しく告白を受けていればぁぁぁぁぁ!!━━━今から返事しても大丈夫かな?」

「頭を冷やしなさい?それに彼はこの間結婚したでしょ」

「うぐぁぁぁぁ!!」

 

二人の話の流れは見えない。

けど、水色ネココスが苦しんでいるのだけは分かった。実に可哀想。実に憐れ。

 

まぁ、取り敢えずこれだけは言っておこう━━━━ざまぁ━━━ったぁ!?あれぇ!?包帯先生!?何故に!?いつの間に・・・最初からここに?居たっ、いたたたた!?頬っぺたつねらないれぇぇぇぇぇぇ!

 

 

 

 

 

 

 

結局、かっちゃんの背中から脱出出来なかった私はおぶさったまま話を聞くことになった。赤色ネココス、マンダレイの言うことにゃ三時間は自分達ならという話で元よりこんなもんだと思っていたらしい。その時点でこのおばはんとか思ったけど、文句言おうとしたらかっちゃんに太ももつねられたので黙っておいた。痛い。

 

話はマンダレイから水色ネココスことピクシーボブに移る。ピクシーボブ曰く、最初に飛び出していった四人、私やかっちゃん、紅白饅頭や眼鏡は優秀であるとの評価を受けた。私だけ人間性に問題アリと言われたけど。

勿論喧嘩を買いにいったけど、かっちゃんに太ももつねられたので止めておいた。同じところばっかり・・・痛いんだよぉ。

 

婚期がアレなピクシーボブに紅白饅頭と眼鏡がツバつけられてる姿を"うわぁ"と思いながら見ていると、隅っこにいるミニかっちゃんこと洸太を見つけた。

手を振るとそっぽ向かれた。

 

「かっちゃん、かっちゃん」

「んだよ。また面倒な事じゃねぇだろうな」

「私をなんだと思ってんの?大丈夫、面倒な事じゃないから。あの子捕まえるの手伝って」

「面倒事以外のなにものでもねぇーじゃねぇか」

 

もろに拒否されてしまった。

なんでや、かっちゃん。

 

「先っちょだけ?ね?」

「捕まえるののに先っちょもクソもあるか。放っておいてやれや」

「えぇ、でもさぁ」

 

かっちゃんと話してる内に洸太はさっさと建物の中に入っていってしまった。こっちを少しも見ようとしない姿に、少しだけ寂しく思う。

 

「━━━はぁ、兎に角、今は止めとけ。もっと嫌われんぞ」

「・・・うーん、仕方ないかぁ」

 

もっと仲良くしたかったんだけどねぇ。

 

 

 

 

 

 

ネココス二人の話も終えた後、包帯先生の指示を受けバスから荷物を下ろして私達は早速用意された部屋に行く。女子部屋として用意されたそこは、七人寝るのに程よい広さの和室。畳の匂いがいい感じな場所だった。

私は誰よりも先に端っこに陣取る。普段なら真ん中をチョイスする私だが、何故だかこういう時は部屋の端を取りたくなるのだ。

 

私の隣にお茶子が荷物を置き、その隣に梅雨ちゃんが荷物を置いた。私の枕側になる向かいには百が荷物を置く。百の隣には耳郎ちゃん、あしどんと順番に並び、それじゃぁと言って葉隠は三人と三人で分かれている間、皆のど真ん中に寝そべった。

 

「足、どっちに向ける気?」

 

あしどんの問い掛けに、葉隠は私と百を見てきた。

 

「そっち、って言ったら、怒る?」

「足つぼ押す」

「ひぃ!!ニコやんのつぼ押し!!!」

 

葉隠が震えた。

 

「それじゃ三奈ちゃんの方━━━」

「擽っても良いなら・・・」

「ひぃっ、どっちにも悪戯かましてくる子がスタンバってる!?」

 

結局葉隠はあしどんの隣に荷物を置いた。

やれば良かったのに、ど真ん中。

ね、耳郎ちゃん?

 

そう耳郎に視線を送るとイヤホンをくねらせた。

何気、耳郎ちゃんもノリノリだったみたいだ。

命拾いしたな葉隠。

 

部屋に荷物を置いた後は直ぐに食事らしいので皆で食堂へと向かった。遅れると飯抜きだと言っていたので、ちょっと早足。

 

食堂へと着くとB組連中の姿も見えた。

私らと同じくまだ女子達しかいないようだ。

何となしに見てたらサイドテと目があったので手を振っておく。

 

「お、緑谷達も来たのか!お疲れ!」

「おっつー。そっちもボチボチ?」

「儲かりまっかーって?はは。いやぁ、参ったよ。崖下ったり、魔獣倒したり、森突っ切ったり・・・あんたらも同じ?」

「まぁ、大体一緒じゃないの?私らも大変だったよ。ブドウは漏らすし、三十路は適齢期で焦ってるし、おやつは取られるし━━━あ、でも後でケーキバイキングになるんだったら得したかな?」

「いや、苦労した事、一つも一致してないんだけど。ていうか、ケーキバイキングってなに?」

 

サイドテと話してるとうちの童貞共が来たのでばいちゃして自分達が座る場所にもどる。

それから程なくしてB組の童貞共も現れ、いよいよ夕御飯タイム。

 

並べられた料理の前で皆がお腹を鳴らす中、腕を組んだやけに風格あるムキムキ男が現れる。

 

「B組諸君は知っているだろうが、改めて自己紹介させて貰う!!我はプッシーキャットが一人、虎!!一週間、貴様らを鍛える者の一人だ!!よく覚えておけぃ!!実の所もう一人いるが、今は所用で外している、それは後程紹介しよう━━━まぁ、何はともあれ、初日を乗り越えた貴様らに褒美を与える!心して心行くまで食すがよい!!」

 

バン、と空気が震えるほどの勢いある合掌。

全員の肩がびっくりして揺れる。

 

「手を合わせよ!!少年少女達!!我に合わせて血肉に変わる食材達に感謝の言葉を示せぇ!!いただきます!!!!」

 

その声に皆が手を合わせ声をあげた。

「いただきます」と。

 

そうして始まった夕食、それは戦場であった。

おかわりの声が飛び交い、おかずの奪い合いが各所で勃発。醜い争いがそこら中で蔓延する。

助け合いしてた連中がいまや敵とは、なんとも皮肉だ。

 

ここまで皆が荒れるのはお昼を抜きにした影響もあったかも知れないけど、個性をフルに使った事が一番の原因だと思う。特に百とお菓子くんは個性使用にもろ影響するタイプ。碌に必要な食べ物を摂取せず個性を使ったせいで、今その失った分を取り返さんと凄い勢いで食べてる。

 

リアクション的に切島とか上鳴とかのが食べてるように見えるけど、淡々と山盛りのご飯と大量の唐揚げを飲み込むように食べている百には絶対勝てないだろう。

 

「おい、双虎」

「ん?」

 

声を掛けられたのでそこへと視線を移す。

するとかっちゃんがマッシュポテトが入ったお碗を手にしていた。

 

「いらない」

 

それ、きゅうりinしてる。

私は見たから知ってる。

騙されない。

 

「きゅうりなら抜いといた。これで食えんだろが」

 

見ればかっちゃんの前にあるお碗の中に、抜かれたきゅうり達が顔を覗かせていた。

わざわざ抜いてくれたみたいだ。

 

「本当に全部取れてる?」

「ねぇよ。肉ばっか食ってねぇで野菜も食え、ボケ」

「まぁ、うん。ありがと」

「けっ!」

 

マッシュポテトを受けとると、何か視線を感じた。

そこへと顔を向ければ、向かい側に座ってたお茶子と目が合う。

 

「どした?」

「いやぁ・・・なんでも。また爆豪くんが甘やかしとると思っただけや」

 

お茶子の言葉にかっちゃんが顔を真っ赤にして吠えた。

 

「誰が甘やかしてるっつんだ、こら!丸顔!!」

「爆豪くん以外いないが?」

「っせぞ、クソ眼鏡!!てめぇには聞いてねぇ!!」

 

食べるのに忙しい私は仲良く話し始めたかっちゃん達を放っておき、貰ったマッシュポテトを見た。

信じてない訳ではないんだけど、一応マッシュポテトの中身を確認しておく。あったらヤなので。

すると、ほんの少し、ちっちゃい欠片が二つほど残っていた。

ほら見ろ、これだ。

 

これだからきゅうり好きな奴は・・・。

 

私はそれを箸で掴む。

本当は触りたくもないけど、そこは我慢する。

 

「かっちゃん」

「あ!?んだ・・・・あ?」

 

差し出されたきゅうりの欠片に、かっちゃんはポカンとした。

 

「あーん」

 

丁度良い感じに開いていたので、そのまま口にきゅうりを捩じ込んでおく。かっちゃんは口の中に置かれたきゅうりをポカンとしながらも咀嚼して飲み込んだ。

 

「おう?」

 

なんか周りが静かになったので見渡してみる。

目の前に眼鏡を筆頭にその隣に座るお茶子と梅雨ちゃんも完全停止していた。

 

というか、A組が全員こちらガン見で止まっていた。

 

そんな中、それまで沈黙を守っていたかっちゃんの口から「はぁ?」という気の抜けた声が聞こえてくる。

 

「はぁ?・・・・はぁぁぁ?はぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

いや「はぁ」じゃなくて、「あーん」だってば。

三段活用か、おい。

よく分からないかっちゃんを眺めてたら、袖を引っ張られた。見れば鼻息の荒いブドウの姿がある。

 

「緑谷、マジかよ・・・オイラにもしろよ、あーん」

「いや、しないわ。確かにもう一個処理したいきゅうりという名の悪魔がいるけど・・・天地がひっくり返ってもしないわ。地球に迫る隕石をあんたが命懸けでぶっ壊してくる対価として要求されても、しないわ」

「なんでよぉぉぉぉ!!どんだけやなんだよぉぉぉぉ!!」

 

だってねぇ・・・。

 

四つん這いで慟哭するブドウを眺めてると、ガタッと紅白饅頭が立ち上がった。

なんか凄く嫌な予感がする。

 

私は残ったきゅうりの欠片を取り、先程と同じようにかっちゃんに突っ込もうとしたけど━━━顔を俯かせてプルプルするかっちゃんに入れられそうにも無かった。

こちらに歩いてくる紅白饅頭の姿が見えた。

嫌な予感しかしない。

 

その時、荷物を抱えた洸太きゅんが、私の直ぐ後ろを通る。

 

「洸太きゅん!良いところにきた!!」

「?あんだよ━━━」

「あーんだよ!!」

 

こちらを向いて生意気な言葉を吐こうとした口に、最後のきゅうりを捩じ込んだ。

洸太きゅんは目を白黒させながらも突っ込まれたきゅうりを飲み込み━━━━そして放心する。

 

その様子にもしかして私と同族だったのかと思い、声を掛けてみた。

もし同族なら素直に謝ろうと思ったのだ。

 

「洸太きゅん?大丈夫?仲間?」

 

大丈夫かなぁ?と顔色を見ようとしたら、またしゅぱぱぱっと逃げられた。

前と同じようにマンダレイの後ろに隠れ、思いっきり睨み付けてくる。

 

「おまっ、お前っ!!本当っ、嫌いだ!!!」

 

おう!?嫌われちまったぜぇ!?

やっぱり同族だったか!

 

洸太きゅんはそのまま逃走。

追いかけようとしたけど、それはお茶子に止められた。

今はそっとしておけとの事。

 

大人しく椅子に座り直すと背後に気配を感じた。

見なくても分かる、あいつやん。

 

「緑谷、俺が━━━━」

「いや、大丈夫。間に合ってる。間に合った」

「━━━そうか」

 

洸太きゅん、ごめんな。

そんで、さんきゅー。

 

なんか、死ぬほど恥ずかしい事を回避出来たような気がする。マジでさんきゅー。

 

 



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ここの温泉、聞きました奥さん?肩凝り腰痛によく効くんですって━━━━はっ、ごめんなさい、私ったら。奥さんだなんてごめんなさいね。相手もいないのにぃぃいでででで!暴力反対!!の巻き

書いてたら、温泉に行きたくなった(;・∀・)

いきてぇなぁ、温泉。


夕御飯という名の戦場を後にした私達A組女子ーずが次に目指したのは温泉という名のパラダイスだった。

山奥にある施設。正直ドラム風呂程度を想像していただけに興奮マックスである。

 

よもや、学校の合宿で温泉に浸かれるとはな!

正直雄英来て良かったと、今ほど思った事はない・・・え?いや、そんな訳ないよ?ジョーダンだってば、あはは。本当はお茶子達と出会えた事が一番さ!本当だよ?疑わないで!そんな目で見ないでぇぇぇ!!

 

そんなこんなでさっさと入浴セットを準備して皆でお風呂に向かうと、同じように入浴セットを持った童貞達に遭遇した。かっちゃんと轟の姿はない。

 

「やや、あんたらも?」

 

私の声に切島が手をあげた。

 

「おう!まぁな。今日は流石に疲れたしよ、さっさと風呂入って寝るに限るわ」

「それには同意だわ。てか、かっちゃん達は?」

「ああ、ちっと遅れるってよ。それで待ってたん・・・あ、来た来た」

 

切島と話してると遅れてきた轟と話すかっちゃんの姿が目に入った。普通に話してる・・・珍しい。

物珍しさからじっと見つめていると、かっちゃんと目が合った。

 

「おっすー」

「・・・あ?んで、てめぇが?女子は時間ずれてんじゃねぇのかよ」

「ずれてないみたいだよ?」

「あぁ?」

 

怪訝そうなかっちゃんをよそに、轟が片手をあげた。

 

「緑谷達も風呂か?」

「まぁね」

 

ふと轟の手元を見ると、着替えらしき甚兵衛が抱えられていた。基本的に寝巻きに指定はなかったけど、またモロに和だなぁ。

 

「パジャマ?」

「まぁな。どうせなら落ち着く格好をと思ってな・・・変か?」

 

変かと言われれば別に?

ちょっと想像してみたけど、おかしくはない。

しっくりくる感じだ。

 

というか、割と和服似合うのかも。

頭の中でちょっと想像・・・馬鹿殿みたいなちょんまげした紅白饅頭の和装。多分良いとこの跡取り息子。のぼーっとした顔して刀を腰に提げて歩く紅白饅頭、そこに御付きの眼鏡がついて回ってて・・・。

 

「ぷっ」

 

御付きの眼鏡に『若っ!』とかいって注意される姿が浮かんで、思わず笑ってしまう。

 

「何かおかしかったか?」

「ふふ、ごめん、ちょっと想像しちゃって」

「よく分からねぇが・・・良かった。お前が楽しそうで」

 

そう言うと紅白饅頭は柔らかい笑顔を向けてきた。

最近よくこういう顔をするんだけど、どうにもこの顔で見られると背中がむず痒い。

顔を合わせるのがちょっとあれなので視線を逸らしておく。すると不機嫌そうなかっちゃんが視界に入った。

 

そして、さっき紅白饅頭にしてた事をかっちゃんで想像してしまう。

 

━━━うん、絶対チンピラだ。派手な羽織着てる姿が容易に浮かぶ。賭博場とかに絶対いる。それも時代劇なら主人公にばっさりいかれるタイプの輩だよ。

 

「━━━ぷっ、あははは、うけるぅー!」

「人の顔見て勝手にウケてんじゃねぇぞ、こら」

 

女子ーずが不思議そうにしてたので、私が想像した事を教えたらかっちゃん見て皆顔を附せてプルプルする。紅白饅頭のやつも教えると、耳郎ちゃんが吹き出していた。

 

「おい、さっきからなんだ!!」

「皆逃げろー!かっちゃんの助がご乱心だぞー!えっちな事されるぞー!」

「するかボケぇ!!あ、こら、待ちやがれ!!」

 

逃げるように皆で女子風呂の暖簾を潜る。

オコなかっちゃんでも理性はしっかりしてるようで、脱衣場内までは追い掛けて来なかった。

暖簾越しに吠えてるけど、それは無視しておく。

 

備え付けの籠に脱いだ服を置いて、お風呂セット片手に温泉への戸を引く。むあっとする熱気と共に目の前に現れたのは、石造りの本格的な温泉だった。

 

思わず感嘆の声が漏れてしまう。

これは凄いにゃー。

 

「ほんまの温泉や!あ、後で、入浴料とか取られんやろか・・・」

 

隣にいたお茶子から悲しい呟きが聞こえてくる。

流石にそれはないでしょ。

ないよね?

 

「けろ・・・合宿だから期待してなかったけれど、雄英ってやっぱり凄いのね。お夕飯も美味しかったし、お風呂も凄いし、お部屋もちゃんとしてたもの。それに明日からは実技訓練を行うと聞いてるわ。それ相応の場所がある筈よ。普通の学校なら、ここまでの環境は揃ってないでしょうね」

「ねぇー。頑張って雄英入って良かったわぁ」

 

そんな二人の後に百がきた。

百は興味深そうに温泉を見つめキョトンとする。

 

「少し、狭いですわね?まぁ、学校の合宿場ですし、そう考えればおかしくはありませんが・・・」

 

その言葉に百以外の全員が固まる。

嫌みかな?とも思ったけど、百の顔を見れば本気で言っているのが分かった。ガチだった。

 

「・・・な、なにか?私、何か間違った事を?」

 

不安そうな百、悪気は欠片も見えない。

私達は百が傷つかないよう細心の注意を払い、出来るだけ優しく伝える事に。

 

説明を始めて五分後。

そこには顔を両手で塞ぎ踞る百の姿があった。

うん、強く生きるんだよ。百。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・私ったら、恥ずかしい限りですわ」

 

体もすっかり洗い終わり、皆がお湯に浸かり始めた頃。

百は重い溜息と共にそんな事を言った。

 

「どした、百。おっぱいまた大きくなった?」

「なんでですの?!そういう話はしてませんわ、緑谷さん!」

「おっぱい大きいのを下品と恥じらう、昔ながらの大和撫子的なあれかと」

「緑谷さん、授業は碌に聞いてませんのに、なんでそういう事は知ってますの?」

「時代劇好きだし?」

「緑谷さんの趣味は、相変わらず脈絡ありませんわね」

 

相撲も嫌いじゃないしねぇ。

あんまり詳しくないけど。

どすこーーい!

 

「━━で、どしたの?」

「いえ、その、自分の価値観がこれほど皆さんとズレているなんて思わなくて・・・それで、私ったら、はぁ」

「そういう事ね。気にしなくて良いのに」

「そうは言いますが・・・」

 

百の表情は少し暗い。

気にするような事じゃないんだけどね。

なにより今更だし。

 

「まぁ、そりゃあさ?ご飯とか一緒にいくとき、割り勘なのに馬鹿高いもの頼まれたら『うわぁ』って思うよ?」

「そ、そんな事はしません!ちゃんと━━━」

「あはは。例えだってば、例え」

「━━━もう!」

 

プリプリ怒る百は私に膨れっ面を見せてきた。

こういう顔をみると大分私らに毒されてきたのが分かる。その顔が面白くて笑ってると、もっと怒った顔になっていった。

 

「緑谷さん!」

「ごめんってば。でもさ、やっぱり気にしなくて大丈夫だって。無理して直さなくてもさ。私らそういう百が好きだし?」

 

皆の顔を見てみれば、私の言葉に否定的な表情を見せる人はいなかった。百はその皆の様子に頬を赤らめる。

 

「人なんて皆違うしさ、それも百らしさって事で良いじゃん。そういう百に教えて貰う事もあるし、逆もあるだろうしね。ちょっと話違うけど、この間は百のお陰で海もいけたし?━━━それにさ、皆が皆一緒じゃつまんないでしょ?だから大丈夫だよ?」

「・・・はぁ、緑谷さんはこういう時ばかりズルいですわ。普段はお馬鹿さんなのに」

「なんだとぅ!?」

 

百は自分の顔を軽く叩く。

そして皆の顔を見た。

 

「皆さん、あの、先程はご不快な思いを━━━━」

 

「もう、水臭いなぁ!態々何言うつもり、ヤオモモ。気にしない気にしない!寧ろいつもありがとね!」

「困った事があったら葉隠お姉さんに言うんだよ!」

「ヤオモモ、葉隠が勉強も教えるってさ」

「っうぇ!?響香ちゃん意地悪ー!」

 

「ご不快な思いはしとらんから平気だよー。凄いなぁーって思うただけやし」

「けろっ、そうね。というより、百ちゃんの知ってる温泉の話聞きたいわ。どんな所なの?」

 

皆の言葉に百は最初は困ったような顔をしてたけど、直ぐに表情を緩めた。

 

「ふふふ、皆さん一辺に話されても、私分かりませんわ。聖徳太子ではありませんのよ?」

 

そう楽しそうに話し始めた百の様子を微笑ましく眺めていると、隣の男子風呂から聞き慣れた変態の声が聞こえてきた。

 

よく聞き取れなかったけど「求められてる」とか何とか・・・何言ってんだ、あの変態。

 

壁に耳を当てて見たけど聞こえない。

ノックして確認してみれば、反響音が聞こえた。

壁の向こうが空洞になってるのが分かる。

男子風呂との間の仕切りは一枚の壁だけだと思ったけど、どうやら二枚らしい。

 

耳郎ちゃんに聞いて貰おうかなぁと思ってると、眼鏡の怒鳴り声が聞こえてきた。明らかにブドウを注意してる内容だ。

 

それは他の皆にも聞こえたらしく、女子ーず全員が警戒態勢を取ってる。

 

「壁とは越える為にある!!Plus Ultra!!!」

 

騒ぐ男子達、構える女子達。

私は静かに桶キャノン(水入り)を用意。

 

全員の緊張が限界まで高まったその時。

見たことある赤い帽子が壁から生えてきた。

後ろ姿から洸太きゅんである事が分かる。

 

洸太きゅんはそのまま男子風呂を見下ろしながら、何かを押すように左手を突きだした。

 

「ヒーロー以前に、ヒトのあれこれから学び直せ」

「くそガキィィィィィィィィ!!?」

 

男子風呂の方でドッパーンと音が鳴る。

その直ぐ後、爆発音と冷気が空へ立ち上った。

色々と察した私はブドウの冥福を取り敢えず祈っておく。

 

「ありがと洸太くーん!」

 

変態の始末を請け負った洸太きゅんにあしどんが親指を立てて声を掛けた。声に何となく振り返った洸太きゅんは、私達の姿を見て酷く驚き大きく仰け反る。

きっと百のおっぱいのせいだと思う。

 

百のおっぱいのせいでバランスを崩した洸太きゅん。

男子風呂の方に落ちそうになっていたので、私は引き寄せる個性で洸太きゅんを軽く引き寄せ落ちないようにした。

バランスをとる時間になればーと思ったけど、洸太きゅんは何故か立ち直らない。ぐったりしてる。

 

そのまま引き寄せてキャッチしようと思ったけど、それより早く梅雨ちゃんの舌が洸太きゅんを掴まえる。

そして梅雨ちゃんはぐったりした洸太きゅんをそのままゆっくり石畳の上に置いた。

 

私は直ぐに側にいって息と脈を確認する。

うん、生きとる。

 

「百、動かして大丈夫かな?」

「何処かにぶつけた様子はありませんでしたし、大丈夫だと思います」

「んじゃ、取り敢えずマンダレイとこ運んでおこっか?持病とかで倒れたんだとしたらヤバイし」

「ええ、直ぐに準備しますわ」

 

私と百は皆と別れ洸太きゅんをマンダレイの所に運ぶ事に。皆付いてくると言ったのだが、皆でいっても仕方ないのでゆっくり風呂に入って置くように言っとく。

寧ろ、この後来るであろうB組女子達にブドウというヤバイやつが生息してる事を伝えるよう伝言を頼んでおいた。

 

これ大事。

 

 

髪を乾かしてる時間は無いので、さっさと体だけ拭いて着替える。雑に拭いたせいで着替えが全体的にしっとりである。

水も滴る美少女、ここに。

 

そんなこんなで洸太きゅんをマンダレイの元にお届け。

マンダレイは洸太きゅんを診察し、失神してるだけで大した事ないのを教えてくれた。

良かった、良かった。

 

眠る洸太きゅんの頬っぺたをツンツンして遊んでるとピクシーボブがお茶を持ってやってきた。

私達の分もあるのかカップが四つだ。

 

何故か威嚇してくるピクシーボブを無視して、持ってきて貰ったお茶を飲んだ。緑茶か。普通。

 

それから適当に世間話していると洸太きゅんの話になった。どうやら洸太きゅんはヒーローが嫌いであり、ちょっと訳ありのようだ。デリケートな話だから詳しくは聞かないでおいたけど、二人の表情を見れば何か重い話だという事は分かった。

 

「━━━━もしかしたら、ヒーロー目指してる君達に当たる事があるかも知れないけど、その時は許してあげて欲しい。虫のいい話なんだけどさ」

 

そう寂しげな顔をするマンダレイ。

百は静かに頷いた。

 

「やだ」

 

私は断るけど。

 

マンダレイとピクシーボブ、それと百が微妙な顔をした。言いたい事は分かるけど、それとこれとは別だ。

 

「私はやられたらやり返す主義なので」

「緑谷さん・・・!」

「事情は知りたいとは思いませんし、変に踏み込むつもりはありません。だから私は同情しません。間違ってたら間違ってるって叱ります。正しかったらそうだねって頷いてあげます。それは駄目ですか?」

 

そう尋ねるとマンダレイは首を横に振った。

 

「そうだね。本当はそれが一番だよね」

「マンダレイ」

 

マンダレイの様子にピクシーボブが心配そうな顔をする。マンダレイはピクシーボブに「大丈夫」と一言いうと、私に視線を戻した。

 

「でもね、そんなに簡単な問題じゃないの。お願い、どうかこの子を責めないであげて。この子がこうなったのは、私達大人のせいなの。文句は幾らでも私が受けるから」

 

頭を下げたマンダレイは何だか弱々しく見えた。

とてもじゃないけど、三十路ネタでおちょくって良いとは思えない状態だ。流石に私も気を使う。

 

「緑谷さん・・・」

 

説得するような百の声に、私の口から溜息が溢れる。

 

「はぁ、やですってば。私は洸太きゅんと仲良くしたいんで。そういうのは"ちゃんとした大人"に言って下さいよ━━━━━さ、いこ百。洸太きゅんは大丈夫みたいだし」

 

言いたい事言い切った私は百を誘って部屋出る事にした。百は少し渋ったけど、私の顔を見ると頷いてくれる。

 

部屋を出るとき呼び止められた。

勿論それは華麗にスルーしておく。話長くなりそうだし、それに聞くだけ無駄だと思うし。

 

部屋に帰る途中、百が尋ねてきた。

どうしてそんなに怖い顔をしてるのかと。

私は自分の顔を触り確認してみる。

 

ふむ、少し強ばってる?

 

「よし、もう大丈夫」

「ですけど・・・」

「心配かけてごめんね、たはは」

 

別に怒ってた訳じゃ━━━いや、少しは怒ってたかも知れない。

 

最初に見たとき洸太はかっちゃんに似てると思った。

でも接してみて全然違う事を知った。

かっちゃんと違ってあの子は━━━━。

 

 

「はぁ・・・さて、どうしたもんかなぁ」

 

 

私は明日からはどうやって洸太きゅんと仲良くなっていこうか考えながら、百と二人部屋へ向かった。



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予想外の事が起こるとフリーズする人がいるけど、それはいけない。直ぐに早く次の手を考え行動に移すのだ。さもないと、私みたいに捕まるぞ・・・勘弁して先生。いや、まじで、無理っす。補習とか。の巻き

7つの玉を集めると出てくる緑のニョロニョロに夏休みくれとお願いする夢を見たよ。

夢があんのかねぇのか
分からん夢だったにゃぁ(;・∀・)




「━━━━ニコちゃん、ニコちゃん」

 

鼓膜を揺らす心地良い音に瞼を開けると、いつものかっちゃんの顔ではなく、眠たそうなお茶子の顔がそこにあった。

 

「・・・」

「あ、起きた。ニコちゃん・・・ふぁぁ~~はふ。ニコちゃん朝や。着替えて玄関前集合やって・・・聞いとる?」

「・・・ぐぅ」

 

ぺちん、と頬っぺたを叩かれた。

 

「ぐぅ・・・やないよ。私かて眠いんやから、さっさと起きー」

「返事ガナイ、タダノ屍ノヨウダ」

「・・・ほう、意地でも寝る気か。ニコちゃん」

 

お茶子の冷めた声を聞きながら、私は再び目を閉じた。

 

 

 

 

次に謎の浮遊感で目を覚ますと、いつの間にか着替えさせられ、宿舎の廊下を風船の如くお茶子に引っ張られていた。寝起きでテンションが上がらない私とはいえ、これは恥ずかしく思う・・・いや、なんじゃろ悪くにゃいな。このフワフワ感、嫌いじゃない。

 

「んー風船の気持ちってこんなか」

「あ、起きた」

「おはよー」

 

お茶子は個性を解除しようとしたんだけど、もう少しフワフワ感を味わいたかったので目的地までお願いしておく。

お茶子は微妙な顔したけど、今回だけは連れていってくれるみたいだ。

 

途中童貞共と合流し目的地である宿舎前へ。

玄関を抜けると包帯先生の姿が見えた。

包帯先生はぞろぞろと集まった私らを見て「お早う、諸君」と一声呟く。皆寝起きでボーッとしてるのか、まともに返事を返す人がいない。私はそんな皆に代わり「おはざーす」と元気に返しておいた。なんか微妙な顔されたけど。

 

「━━━はぁ、麗日」

「あ、はい。解除」

 

浮遊感が失われ私の体は地面に落ちる。

引き寄せる個性で上手い具合にバランスをとった私は華麗にその場へ着地。きっと新体操選手もびっくりなナイスな着地であろう。十点!

 

「次、その気の抜けた状態で集合するような事があれば、お前も補習させるからな。緑谷」

 

な、なんだと・・・!赤点じゃないのにぃ!!

 

「さて、馬鹿の事は取り敢えずおいておくぞ。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる"仮免"の取得」

 

皆が息を飲む。

私はあくびを飲みこんだ。

今あくびしたら絶対怒られるから、頑張って飲みこんだ。絶対怒られるもん。

 

「具体的になりつつある敵意。立ち向かう為の準備だ、心して臨むように━━━━という訳で爆豪。こいつを投げてみろ」

 

そういうと包帯先生は個性テストの時に使った玉をかっちゃんへ放った。それをなんなくキャッチしたかっちゃんは顔を眉間にしわを寄せる。

 

「試そうってのか、ああ?」

「前回の・・・入学式直後の記録は705,2m。どれだけ伸びているか・・・やってみろ」

 

包帯先生にそう言われたかっちゃんは腕を回し始めた。

その姿に皆から期待の声が掛かる。一キロとかいくのでは?なんて声も聞こえる。

 

かっちゃんはただ前を向いて構えた。

 

「くたばれ!!!」

 

爆発と共に空に放られた玉。

ぐんぐんと飛んで直ぐに見えなくなった。

それから少しして包帯先生の手元にある機械が鳴る。

私の記憶が間違ってなければ、テストの時と同じ距離を測る機械だった筈だ。

 

手元のそれを確認した包帯先生は目を見開いた。

悩んだ素振りを見せたが溜息をついて見せてくる。

 

「・・・802,1m」

 

「おお!!すげぇ爆豪!100mも伸びてんじゃんか!」

 

自分の事のように喜ぶ切島に、かっちゃんは照れ隠しからか顔をそっぽに向ける。

私はそんなかっちゃんより、包帯先生の顰めっ面が気になるんだけど。あれ、思ってたんとちゃうって顔なんだけど。

あれかなぁ、「ほら、そんなに伸びてないよ。お前ら。頑張らなきゃ駄目だよ?」ってやりたかったんだろうか・・・となると、今回の合宿って個性を伸ばす感じか?

 

「常闇。前回みたいに個性使って投げてみろ」

 

あ、やっぱり。

ここで肉体能力に依存するお菓子とかを選ばないのがいい証拠だ。絶対そうだ。

 

案の定、テストの時と変わらない記録を出した常闇。

包帯先生は安堵の息を吐き話始めた。

 

「ま、そういう訳だ。爆豪は、まぁ、あれだが、ここにいる大半の者が個性的に成長していない。約三ヶ月、様々な経験を経て確かに君らは成長したが、それはあくまで精神面や技術面。あとは多少の体力的な成長がメイン」

 

人差し指を立てた包帯はニッと悪人面で笑う。

 

「今日から君らの"個性"を伸ばす。死ぬほどキツいが、くれぐれも・・・死なないように━━━━」

 

決まった!って感じなので、拍手しといた。

途中かっちゃんがやらかしてしまったけど、概ね包帯先生の希望通り。無事に終わった事を良かったねぇと思う。

 

すると包帯先生からジロリと見られた。

 

「緑谷、お前は個性に関してかなり優秀な部類に入る。三ヶ月前と比べ出力もかなりあがっているようだしな。だから━━━━お前には特別キツい訓練をしてやろう。地獄を見せてやるから、覚悟しておけ」

 

ひぃぃぃ!!

ごめん、ごめんなさい!!

自分、調子に乗ってました!いい気になってました!まじですんませんしたぁぁぁ!!

 

そう全力で謝ったけど包帯先生から告げられたのは「覚悟しておけ」とのお言葉のみ。私は「終わったな」と空を仰ぎ見た。

その空はやけに青く見えた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

強化訓練が始まって30分程。

阿鼻叫喚につつまれたそこへ、B組生徒を連れたブラドが顔を見せた。

 

「よぅ、やってるなイレイザー。てか、本当に30分繰り上げしてんだな。ははは、生徒達も大変だ」

「まぁな」

 

そう話してる間に、B組生徒が訓練の様子を眺め顔を青くさせていく。「かわいがり」なんて声も聞こえてくるが、間違ってはいないだろう。

 

ブラドは俺から生徒達に向き直り状況の説明を始めた。

 

「許容上限のある発動型は上限の底上げ。異形型・その他複合型は"個性"に由来する器官・部位の更なる鍛練。通常であれば肉体の成長に合わせて行うが・・・」

「まぁ、時間がないんでな。B組も早くしろ」

 

いい淀むブラドに代わり生徒達に伝えておく。

ブラドから感謝をつげるような視線を向けられたが、大した事でもなく手を払っておいた。

 

そうしてる間に生徒達の中に疑問を口にする者が現れた。40人という人数、それに伴う多種多様な個性。それをたった6名で管理出来るのかと。

当然の疑問だ。本来なら難しい。

 

今回に限り、その心配はないが。

なにせあの四人がいる。

 

「そうなの!あちきら四位一体!」

 

その声に生徒達の視線が集まる。

今回の合宿のキーマンであるネコを思わせるコスチュームを着た四人へと。

 

「煌めく眼でロックオン!!」

 

「猫の手手助けやって来る!!」

 

「どこからともなく、やって来る・・・」

 

「キュートにキャットにスティンガー!!」

 

それぞれポーズをとる四人は息を合わせ、それを口にした。昨日顔を見せなかった黄色のコスチュームをきたラグドール、茶色のコスチュームをきた虎も合わせた完全バージョンの登場文句を。

 

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」

 

相変わらず子供受けしそうなポーズ。

ヒーローとしてある意味間違ってはいないのだが、俺には一生出来ないなとその姿勢に少しだけ尊敬する。合理的ではないが。

 

その姿にB組生徒は遠い目。

いい大人の全力のポーズに言葉が出ないらしい。

 

それから程なくしてB組生徒はプッシーキャッツの面々から訓練について説明を受け始めた。頃合いを見計らうようにブラドが俺の元にやってくる。

 

「さて、後はあいつら次第だ。━━━にしても、朝から飛ばすなイレイザー。もう何人かグロッキーじゃないか」

 

ブラドの言葉に俺は改めて訓練に勤しむ生徒達を見る。これだけ全力かつ持続的に個性発動する事は早々ないだろう。故に溜まる疲労やそれに伴う苦痛は普段とは違うもの。案の定、顔色が悪い者が多い。特に持続力の低い麗日、青山、切島、上鳴辺りはブラドの言葉通り。

 

まぁ、そうでもない者もいるが。

「くっそがぁぁぁぁぁ!!!」

 

湯から手を上げた爆豪が空に爆撃を放つ。

その爆発の威力は視覚的な面から言えば訓練始め頃と比べ衰えてを見せていない。どころか段々とその威力を上げているように見える。

 

そしてもう一人。

他の奴等から離れた所で訓練する、飛び交う石の群の中で炎をはき続ける緑谷。あいつも訓練始め頃から疲れを見せない。

 

俺の視線を追ったのか、ブラドが不思議に唸る

 

「ん?おい、イレイザー、あれ何やってんだ?」

「引き寄せる個性及び火を吹く個性の強化だ」

「そりゃ分かるが、そうじゃなくてな」

「面倒だな・・・」

 

緑谷が始めた訓練は至ってシンプル。

火を吹く個性は見たままなので、引き寄せる個性の強化法についてのみ語る事にした。やっている事は単純。空中に浮かせた石を更に引き寄せる個性で宙に跳ばし、落ちないようにそれを繰り返す。それだけだ。尤も一つでは物足りないと、今では五つの石を体の回りで跳ねさせている訳だが。

 

「訳だがって・・・お前簡単に言うな。あんなもん、同じ個性持ってたって真似出来る類いのもんじゃないぞ。高い空間把握能力、石の軌道を予測する物理演算力の高さ、加えて他の個性まで使ってるなら思考力もそれ相応に必要だ。とても脳みそ一個で足りるような動きじゃないぞ。どうなってる」

「そうだな」

 

元より優れているとは思っていた。

だが、ここまでとは予想していなかった。

校長のハイスペック程ではないにしろ、かなり高い水準の脳力を持っているといえる。

 

暫くブラドは黙って眺めていたが、ふいに口を開いた。

 

「なぁ、イレイザー」

「なんだ」

「あいつ、頭良いんじゃないか」

「そうだな」

「なら、なんであんな馬鹿なんだ」

 

俺は空を仰ぎ見た。

やけに高い青い、その空を。

羽ばたく鳥が見える。

たゆたう雲も。

 

 

 

 

 

「・・・頭の働く、馬鹿なんだろ」

「諦めんなよ」

 

 



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疲れた体を癒すのは美味しいご飯とだらっとする時間。━━そして魂揺さぶるビーファイトだよね!構えろ!お前の魂を込めて!はい、みんな一緒に!ビィィィファイト!!の巻き

漫画だと石の壁とか平気で壊しちゃう、ちょーつおいビー●マン。
現実だとコロコロ転がるのが関の山の全然つおくないビー●マンだけど、どうにか空中を飛ばせないか試行錯誤して練習したものです。

練習結果?
怒られたよ。察して。


個性成長訓練を始めて十時間と半。

途中食事休憩を二回挟んだものの、基本的に個性をぶっ続けて使った皆は歩く屍と化していた。

かく言う私も治まらない頭痛に悩まされながら、生まれたての子羊の様に足ガクガクである。━━━え?足使う事あったかって?個性訓練が思ったより楽だったから、スクワットしたり腿あげしたりしてたらね、それがね、思いの外ね・・・五時間前の私の馬鹿ぁ!

 

もはや宿舎に帰る元気もない私は、いつもの背中に背負われる事を迷わず選択。今は愛馬爆号の背中に持たれかかったまま、押し寄せる頭痛と戦っていた。

 

「いつも、すまないねぇ」

「どこのババァだ、てめぇは」

 

希代の悪タレなかっちゃんはこんな時も口悪い。

少しは労ってくれても良かろうものを。

まぁ、背負ってくれているのだから、そこは感謝だけども。たまにはお礼してあげようかねぇ。

 

確かポケットに・・・お?

 

「・・・飴ちゃんあげようねぇ」

「だから何処のババァなんだ、てめぇは・・・んで、これは飴じゃねぇ。ビー玉だろうが・・・つか、なんでビー玉持ってんだ」

「昨日寝る前に入れといたの・・・洸太きゅんと遊ぼうかと思って」

「聞き方が悪かったな。なんで高校生にもなって、ビー玉持ち歩いてんだ。てめぇは」

 

かっちゃんが不思議な事を聞いてきた。

そんな事決まってるのに。

 

私はポケットのそれを見せつけてやった。

小学生の時に玩具屋のおじさんから(格安で)受け継がれた、ゴリゴリにチューンアップを施した限定ビー●マンを。

 

「だって、いつビーファイト申し込まれるか分からないからね!」

「見たことねぇわ、ビーファイトしてるやつ。━━━つか、なんかポケットが膨らんでると思ったら何入れてんだ。てめぇは」

 

分からないじゃない!

確かに私もこれまでビーファイターに会った事はない。けど、明日もしかしたら会えるかもしれないじゃない!ビーファイトを挑まれるかも知れないじゃない!真のビーファイターに!!カブトとかクワガタじゃない、ビー●マン持ったビーファイターに!!

 

そう熱を持って話すと「あのクソ重いバッグの中身見せろ、馬鹿」と言われた。

 

断る、見せないぃ!!

絶対怒るから!!

 

 

 

 

 

 

そんな話をしながら数分。

宿舎に辿り着くとピクシーボブとラグドールが待ち構えていた。ラグドールは私を見るとにゃーとポーズをとってくる。勿論にゃーと返しといた。

 

にゃーし終えると、今度はお茶子と視線が合った。

 

「・・・それ、なんなん?」

「いや、知らないけど」

「よう返したな、ニコちゃん」

 

なんかね、ノリでね。うん。

私、あの人と仲良くなれると思う。

ぶっちゃけ一目見たときから思ってたけど。

 

A組・B組全員が宿舎前に集合するのを見計らい、プッシーキャッツな二人が案内を始めた。大人しくついて行くと、沢山のテーブルが置かれた炊事場へと辿り着く。

そして目につくテーブルに乗せられた山盛りの食材、食器、調理器具。

 

うん、嫌な予感しかしない。

 

嫌な気配をびんびんに感じているとピクシーボブが食材を指差す。

 

「さぁ、昨日言ったね『世話焼くのは今日だけ』って!!」

 

ピクシーボブの隣、ラグドールが激しく荒ぶりながら続けた。

 

「己で食う飯くらい、己でつくれ!!カレー!!」

 

生徒側から抗議の声はあがらない。

小さく返事をするだけだ。

 

勿論私は抗議の声をあげようとしたんだけど、かっちゃんに太腿つねられたので止めといた。何故に分かるんだ、かっちゃん。昨日も疑問に思ってたけど、なんで分かるの?エスパー?

 

楽しそうにこちらを茶化してくるラグドールに親近感を覚えていると、眼鏡が何かに気づいたようでブツブツ言い始めた。救助の一環で飯炊きする事もあるかも・・・らしい。

 

・・・まじか。

 

 

 

 

そんなこんなで眼鏡を中心にお夕飯作りが始まった。

私はその天才的な味覚を期待され、あっちこっちを手伝った後で味見係りに就任。

頑張る皆を温かい目で見守る事に。

 

・・・うん?違うよ?邪魔だから追い出されたとか、そういうのじゃないから。指とか切ってないし?血塗れの野菜?洗ったから大丈夫。この絆創膏?気がついたらついてたの。だから私じゃないよ、違うよ。お米とか研いだし。いや、まぁ、半分排水口に流したけど。

 

・・・何かやらせて下さい。

 

やることを失った私は一人テーブルでビーファイトする事にした。カレーの箱とか合ったから、それを的にしてパシュンパシュンする。一分で飽きた。超つまんない。一人でやるもんじゃないな。

 

「轟ー!こっちも火ぃちょーだい」

 

あしどんの声が聞こえる。

火なら私も使えるじゃろがい!

そう思って視線を送ると目を逸らされた。

こんにゃろめぇい!

 

ドンマイのアホがかっちゃんに火点けをお願いしてる姿も見てしまう。見事に薪を爆発四散させるかっちゃん。言わんこっちゃない。

 

だから、私に頼めよ!!

そう思いを込めて視線を送ると目を逸らされた。

この野郎ぅ・・・!!

 

やることないか探すと、これから火を点けそうな百と目が合う。百ならきっと、そう思って視線を送ると微笑みが返ってきた。

 

「皆さん!人の手を煩わせてばかりでは火の起こし方も学べませんよ」

 

そう言ってチャッカマンらしき物を出す百。

私に笑顔を見せながらカチッ、と火を点けた。

 

そんなの出すくらいなら、私にやらせろ!!

百が一番質悪いんですけどぉぉぉぉ!!なんの笑顔だったの!?嫌味!?嫌がらせ!?

もう言ってやれ!耳郎ちゃん!そんなん出すくらいなら、私に頼めよと!!なに首横に振ってんの!?縦に振ってよぉーーー!

 

いっその事、轟の仕事を奪ってやろうかと思ったけど、柔らかい表情で火を点ける姿を見てると気が引けた。あんなに嫌っていた炎を、ようやく誰かの為に使えるようになったのだ。それを邪魔するのはあまりに忍びない。

 

暇過ぎて苔が生えそうだなぁと考え始めた頃、お手伝いする洸太きゅんを発見した。

えっちらおっちら、頑張って荷物を運ぶ洸太きゅん。

頑張りやさんな洸太きゅん。

 

うん、決めた、洸太きゅんと遊ぼう。

 

味見係りを近くにいたサイドテに託し、私はビーファイターとしての証を片手に洸太きゅんの元にダッシュ。昨日の件もあって逃げられると思っているので、最初からハントしていくスタイルでいく。

 

案の定私に気づいた洸太きゅんは逃げようとしたけど、そんな事は勿論させない。引き寄せる個性で洸太きゅんの軽い体をこちらに飛ばし、がっちりキャッチした。

キャッチした洸太きゅんから、なんかお日様の匂いがする。嫌いじゃない匂いだ。

 

「離せっ、よ!!何だってつんだ!!おい!」

「うん?いやぁ、暇だったからさ。ご飯が出来るまでおねーさんと遊ぼうー!洸太きゅん!」

「ふざけんな!俺はヒーロー目指すような連中とはつるまねぇ!!」

「なら大丈夫だ。遊ぼう!」

「はぁ?!」

 

喚く洸太きゅんと一緒にテーブルに戻り、私の相棒を渡す。限定品だから丁重に扱う事も忘れず伝える。

やり方と即席で作ったバトルルールを説明し、いざ開戦。ゲーム内容は至って簡単。私の陣地に立てた五つの的を制限時間以内に全部倒したら洸太きゅんの勝ち。私はそれを割り箸と紙で作ったブロッカー人形を使い、制限時間内守りきったら勝ち。そういう遊びだ。

 

「なんだよ、こんなの・・・今時こんなのやってるやつ・・・てか、なんでこんなの持ってんだよ。高校生じゃないのかよ」

「さぁ、こい!!私を打ち倒してみろぉ!!」

「んで、どんだけやる気なんだよ!子供か!!」

 

文句を言いながらもビーファイトと掛け声をかければビー玉を発射してきた。しかし絞め打ちがいまいちで威力がない。軟弱な玉はブロッカー人形で跳ね返してやる。

勢いよく跳ね返ったビー玉が洸太きゅんの頬をかすっていった。

 

「あっぶな!なんだよそれ!紙だろ!なんでそんなに激しく返ってくんだよ!」

「紙だけど、何枚も重ねてあるし。しっかし、貧弱よのぉ。こわっぱめが。これだと一つも的を倒せなくて終わるかなぁ?威勢がいいのはお口だけかなぁ?」

「くっ!!んだと!」

 

本能かどうか、洸太きゅんは知らずに絞め打ちを身に付けた。鋭い一発が的に迫る。

しかし、そこは大人の双虎にゃん。付け焼き刃など効かないとばかりに弾き返してやる。今度は近くに置いてある余ったナベにぶつかった。

 

「ぬぅぅぅーーー!なんだよ!子供相手に本気になんなよ!!今のはスルーしとくとこだろ!」

「自分で言ってたら世話ないねぇ!!私は意味もなく負けるのが嫌いなんだよ!だから、勝つ!相手が子供でも耄碌してるおじいちゃんでも、たとえ人語を喋っちゃう天然記念物的な天才ネズミが相手でも、手加減なんてものはしない!!全力で叩き潰す!!」

「どんだけ本気なんだよ!てか、天才ネズミってなんだ!?」

 

それから段々と要領を覚えていった洸太きゅんの攻勢は中々に厄介で、五つある内の二つの的がやられた。周りに置かれた物を使ったリフレクトショットは反則だと言いたい。尤も途中から引き寄せる個性をこっそり使ってバトルしたので、それ以上的が倒される事はなかったが・・・ふぅ、強敵であった。

 

「つーか!個性使ったろ!お前!!さっき変な曲がり方したぞ!!」

「ほわい?ワタシ、ニホンゴ、ワカラナーイ」

「分かってたろさっき!!」

 

洸太きゅんは怒りから私の相棒を叩きつけようとしたので「壊したら弁償」と伝えておく。すると意外と冷静なのかそっとテーブルに相棒を置いた。

そしてキッと私を睨んでくる。

 

「そんなにひけらかしたいかよ、力」

「力?ああ、個性の事?━━んじゃ次からなしにしよ。今回は私の勝ちだけど。今回は、私の勝ちだけども」

「どんだけ勝ちに執着してんだよ!子供相手だぞ!つか、もうやんねぇから!!バーカバーカ!!気持ち悪いんだよ、お前ら!個性伸ばすとか張り切ってさ!!いい気になんなよ!」

 

敗者らしい捨て台詞を吐いた洸太きゅんは、いつの間にか来ていたマンダレイの元へ真っ直ぐに駆けていった。そしていつものようにマンダレイの後ろに隠れると睨んでくる。

 

「この・・・頭パー子!!」

「誰の頭がパーだ、こらぁぁぁぁ!!」

 

泣くまで追い回してやった。

普通にマンダレイに怒られた。

私も泣いた。

 

 

 

 

 

 

そして、その後のお夕飯タイム。

瀬呂ドンマイのデリカシーのない言葉のせいで百も泣いた。何を言われたかは・・・言わないでおく。百の為にも。

 




教えて!ふたにゃん先生!!

Q:けっきょく、ドンマイくんはモモちゃんになにをいったの?

A:百の名誉の為にも言えないなぁ。〇〇〇みてぇ、って言われたんだけど・・・言えないなぁ、やっぱり。まぁ、それでも敢えて、敢えていうなら、そうだね。うん。百の創造物は━━━●んこじゃないよ━━━って事かな(*ゝ`ω・)

もちゃこ「ニコちゃん、全部ゆーとるのと同じや」

A:Oh!れありー?


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悪ぃ子はいねがー悪ぃ子はいねがー!うん?包丁代わりに手に持ってる瓶?よく聞いた!これはビネガー!そうです、そういう事です!悪ぃ子はビネガー!あ、すいません。つまらない事いって。お、怒らんといて。の巻き

シリアス「ちわーす、シリアスでーす。お届け物お持ちしましたー」
はくびしん「はいはい、待ってくださいね。今ハンコを━━━貴様っ!!逃げろ!ギャグ!!狩殺され━━ぎゃーーー!!」
ギャグ「はくびしん!!くそっ、はくびしんの敵、いずれ!!」

シリアス「ふはははは!!我が世の春がきたーー!」

はい、そんな茶番とともにシリアスです。
すまんな。



ぐぅぅぅと、お腹から音が聞こえてきた。

お昼から今まで何も食べてないから、凄くお腹が空いた。パー子さえいなかったら今頃夕御飯を食べていたかと思うと、あの能天気な顔を思い出して腹が立つ。

 

パー子から逃げ切って暫く。

僕はひみつきちで時間を潰していた。

少し前まで個性訓練をしてたけど、お腹が減ってやる気が出ないからもう止めた。パパがそういう時はちゃんと休んだ方が良いって、そう言ってたから。

 

本当は直ぐに帰りたかったけど、炊事場にまだ明かりがついてた。ひみつきちは高台にあるから、合宿場がよく見える。今帰ったらパー子がいると思うから、まだ帰る訳にはいかない。

見つかったら絶対弄られるし。

 

またぐぅぅぅと、音が鳴る。

お腹減った。

パー子許すまじ。

 

・・・でも、なんか久しぶりな気がする。

パパとママ、それとあいつ以外の事で、こんなに考えたのは。

 

「そう言えば、パー子、何も言わなかったなぁ・・・」

 

もしかしたら何も知らなかったのかも知れない。

でも、何となく知ってて言わなかったような気がする。どうしてなのかは、分からないけど。

 

皆聞いてきた、パパとママの事。

それでいつも同じ事を言う。

立派だって、偉いんだって。だから、僕には胸を張っていろって。泣くことないんだって。

 

そう、勝手な事ばっかり。

 

「パパ、ママ」

 

僕にはもう、誰もいないのに。

 

「いやだよ」

 

褒められなくていい。

 

「パパ」

 

また肩車して欲しい。

 

「ママ」

 

また一緒におやつを作りたい。

 

ただいまって、遅くなってごめんって。

帰ってきて欲しい。

 

そう考えるのはダメな事なの?

 

 

 

 

 

 

『洸太』

 

その日、パパとママの帰りを待っていた僕の前に現れたのは、悲しそうな顔をした親戚のマンダレイだった。

パパとママについていったヒーローイベントで何度か顔を合わせていたから、僕にとっては身近な人だったけど、いきなり訪ねてくる人でもなくて少し不思議に思った。

 

そうしてる内によく分からないまま抱き締められて、よく分からないまま病院に連れてかれた。

そして、そこで僕は見た。

 

ベッドに眠るパパとママを。

啜り泣くような声が聞こえた。

僕じゃなくて、周りの人の。

 

見たことある人が沢山いた。

パパとママの仕事を手伝ってるおじさん達。

事務所にいくとお菓子をくれたお姉さん達。

皆がパパとママを見て、泣いていた。

 

最初は分からなかったけど、少しして分かった。

いつもと違う青ざめた肌、生々しい傷跡、少しも動かないその様子を見て。テレビで何度も見た、ヒーローの死んじゃったっていうお話。

そしたら目から涙が出て来て、いつもは怒られても直ぐに止まるのに、その日はずっと止まらなくて、不思議だった。

 

『こ、洸太!大丈夫だから!私が━━━━━』

 

マンダレイの声が聞こえて、体が温かくなった。

また抱き締められたんだって分かった。

なのに、僕は寒くて仕方なかった。

 

寒くて、怖くて。

 

目の前が真っ暗になって、それで━━━━。

 

 

 

 

『洸太』

 

 

 

 

優しい声が聞こえた。

頭を何か温かいものが撫でてる。

てのひらだって、直ぐに分かった。

だっていつも、眠れない時ママがそうしてくれていたから。

 

でも、ずっとこうしてなかった気がする。

いつからだった、ちゃんと覚えてない。

だって、あの日もその前の日も、パパもママもお仕事で忙しくて、僕の知らない時に帰ってきたから。いつも面倒を見てくれてたおばさんが教えてくれなかったら、僕はいつ帰ってきたのかも分からなかったと思う。

 

「ママ」

 

そっとてのひらに触ると、優しく掴んでくれた。

そしてポンポンと胸の所をゆっくり叩いてくれる。

 

『怖くないよ、大丈夫』

 

昔してくれたみたいにポンポンとてのひらが落ちる。

それは心地よくて、ウトウトしてしまう。

 

『やーれん、そーらん、そーらん━━━』

 

なんか聞き覚えのない歌が聞こえてきた。

なんだろうこれ。

いつもの歌じゃない。

 

『沖の鴎に潮どき問えばぁーわたしゃ立つ鳥ぃ波に聞け、チョイヤサッエエヤンサノ、ドッコイショー』

 

なんだろうこれ。

眠れないんだけど。

こぶしっていうんだっけ?パパがこんな歌うたってたような・・・。

 

『はぁぁぁぁードッコイショードッコイショー!!』

 

 

 

 

 

「妙にいい声で歌うなぁぁぁ!!」

 

声をあげた瞬間、はっとした。

眠ってたんだって何となく分かった。

 

目の前の景色が変わった。

そこにあったのは病院でもママでもなくて、きょとんとしたパー子の顔。

 

「おぅ?起きちゃったか、甘えん坊」

 

パー子はそう言うとポンポンと胸の所を叩いてきた。

状況が分からなくて周りを見ると、パー子に膝枕されて寝てた事が分かった・・・分かってしまった。

嫌な予感がしてパー子を見ると、ニッと厭らしい笑顔が返ってくる。

 

「ママじゃなくて、ごめんねぇ?ぷふっ」

 

うわぁぁぁぁぁぁ!!?

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?

 

顔が凄く熱い。

見なくても赤くなってるのが分かる。

 

起き上がって離れようとしたけど、直ぐに捕まって今度はパー子の膝の上に座らされた。がっちり掴まれて身動きが取れない。背中に何か柔らかい物がぶつかってて、なんかいい匂いもする・・・。

 

━━━は!?パー子だぞ!?しっかりしろ!

 

「な、離せよ!なんで、お前が!!」

「んー?ああ、ご飯も食べないでふらついてるって聞いたから、お夕飯持ってきてあげたの」

 

そう言われてパー子達が作ってたカレーを思い出した。

別に食べる気はなかったけど、あのいい匂いを思い出すと持ってきたっていった物が気になった。

 

「・・・なんだよ、カレーか」

「いや、おにぎり。握ってきた」

「なんで素直にカレー持ってこないんだよ!!」

「大丈夫、大丈夫。具はカレーだから」

「だから素直に持ってこいよ!」

 

差し出されたそれは本当におにぎり。

それも見るからに固そうな。

パー子はおにぎりを包んであるラップを剥がす。

 

「はい、あーん。口開いてぇー」

「いらねぇよ!!」

「まぁ、まぁ」

 

パー子は馬鹿力で口元に押し付けてきた。

その強さにおにぎりが口の中へと捩じ込まれる。

予想通りめちゃめちゃ固い。そして中身が本当にカレーだった。正直に言うとカレーは美味しいけど・・・ご飯の固さが目立って美味しく感じない。

 

「うまい?」

「どうやったら、こんなくそ不味いもん作れんだよ」

「ツンデレ?」

「食ってみろよ!!」

 

パー子は僕の言うとおり一かじりして、顔をしかめた。「固っ」とか文句垂れてる。

 

「おにぎりって難しいんだねぇ。おっかしいなぁ」

「おかしいのはお前の頭だろ。本当馬鹿だろ、お前。どうやったら、そんな固いおにぎり作れんだよ」

 

パー子はおにぎりをラップで包み直すと、また僕を抱き締めてきた。

それも何とか抜け出そうとしたけど、パー子の腕力は並みではなくて全然抜けられない。暫く頑張ったけど、どうしてもダメだったので僕は色々と諦めた。

 

僕が逃げるのを諦めるとパー子が僕の頭の上に顎を置いてきた。地味に重い。

 

「こんな所で寝てると猪にかじられちゃうぞ?アホなのかな?洸太きゅんは━━━━アホなのかなぁ?」

「二回も言うな。別に寝たくて寝たんじゃない」

「まぁ、そりゃそうか。今日もお手伝い頑張ってたもんねぇ。偉い偉い。私が洸太きゅんくらいの時は、ずっと遊んでたから、本当そう思うよ」

 

パー子が掴んだ僕の手をもにゅもにゅ触ってくる。

くすぐったいし、なんか恥ずかしい。

止めろって言おうと思ったけど、なんか倍くらいの文句になって返ってきそうだから止めておいた。

それより、どうしてパー子がここにいるか気になる。

 

「ここにどうやって来たんだ・・・マンダレイにも教えてないのに」

「んー?そこはね、うちのびっくりどっきり同級生が力を貸してくれたのよ。友達の友達に鼻が利くやつがいてね、ちょっと洸太きゅんの匂いを追って貰ったの。ああ、その毛むくじゃらは帰しておいたから大丈夫。ひみつきちに来たのは私だけ」

 

毛むくじゃらと聞いて一人の姿が頭に浮かんだ。

昼間虎にしごかれていた奴等の中にそんな奴がいた気がしたから。

 

「個性かよ」

「個性だよ・・・個性は嫌い?」

 

パー子の声にふざけてる様子はない。

ちゃんと聞いてきてるのが分かる。

 

「嫌いだ」

「そっか、なら私と一緒だ」

「はぁ?」

 

意外な言葉に振り返ると、優しい目をしたパー子の顔があった。パー子は姿勢を正して話す。

 

「私は怖いもん、個性。殆どの人が持ってるけど、どれもバラバラ。くだらない物もあるけど、人を傷つける物も沢山あるでしょ?それを誰が持っているか分からない。だから、私は嫌いだし怖いよ?ね、一緒」

「じゃ、なんで━━━なんで、ヒーローなんて目指すんだよ」

 

嘘をついてるようには見えなかった。

だから余計に気になった。

本気でそう言えるなら、どうしてって。

 

少し考えた後、パー子はそっと口を開く。

 

「私は別にヒーローになりたい訳じゃないよ?ヒーローというか、個性使用の許可書が欲しいだけー」

「なんでそんなの・・・」

「守りたい人がいるんだぁ」

 

そう言いながらパー子が頭を撫でてきた。

ママみたいに優しく。

 

「母様、友達、知り合い。私はね、沢山を守る気はない。守れる気もしないし。だからね、せめて私の手の届く、私の大切な人達を守りたいの。その為にはね、どうしても力がいる。個性は怖くても、個性しか守ってくれないから止める訳にはいかない」

「そんなの、ヒーローに任せておけばいいじゃん━━━」

 

死ぬことが立派だって言う、僕のパパやママみたいなヒーロー達に━━━そう言おうとして胸が苦しくなった。

そんな事言うつもりなんてないのに、そんな事嫌なのに、当たり前みたいにみんなが言うそれを言いそうになってる。それが堪らなく嫌だった。

 

嫌な気持ちになってたらパー子がぎゅっと抱き締めてきた。

 

「━━そうだねぇ。でもね、私は見てるだけじゃいられなかったんだ。誰かに任せるのも真っ平ごめんだって思った。見守るのも・・・出来なかった」

 

「だからね、私はここにいるの」

 

背中が温かかった。

パー子の心臓の音が聞こえてくる。

 

「━━それじゃ答えにならないかな?」

 

少しの嘘もない言葉。

何を返していいか分からなかった。

納得なんてしないけど、でも否定も出来なかった。

何も言えないまま時間だけが過ぎていく。

 

パー子の温かさを感じていたら、何となくその言葉が頭に浮かんできた。

言うつもりなんてなかった言葉。

 

「僕のパパとママ、ヒーローだったんだ」

 

パー子は何も言わない。

ただ黙って僕に凭れかかってきた。

それが聞いてるよと言われてるみたいで、僕はそのまま続けた。

 

「ヴィランに殺された。でも人を助けたんだって。お礼も言われた。皆から凄いって言われた━━━でも、嫌だった」

 

分からなかった。

 

「凄くなくて良かった」

 

何が凄いの?

 

「褒められなくて良かった」

 

何が立派なの?

 

「お礼なんて言って欲しくない」

 

なんで感謝なんてするの?

 

 

「パパもママも死んじゃったのに・・・おかしいよ」

 

 

おかしい。

 

おかしいんだよ、みんな。

 

いかれてる。

 

みんな、みんな、みんな。

みんなおかしいんだよ・・・。

 

「━━━━何が凄いんだよ、どこが立派なんだよ。死んじゃったのに・・・!褒めるなよ!!僕はっ、もう、何も言って貰えないのに!!なんで、お礼なんて言うんだよ!!死んじゃったのに!!死んじゃったんだよ!!なんで、なにがそんなに嬉しいんだよ!!」

 

だってそれじゃ、当たり前みたい。

正しいみたい。

 

「僕は死んでほしくなかったのに!!みんな、それで良いって言うんだ!!ヒーローだからって!なんだよそれ!!ヒーローじゃない!!死んじゃったのは━━━」

 

知らない、みんななんて知らない。

だって、二人は僕の━━━

 

「━━━━僕のパパとママなのに」

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ、洸太」

 

 

 

 

パー子の声が聞こえた。

優しい声が。

 

「洸太は間違ってない」

 

ぎゅっと、手が握られた。

 

「洸太はおかしくないよ」

 

それが温かくて、あの時みたいに涙が出てきた。

 

「だから、悲しくていいよ」

 

みんなが立派だって言うのに?

 

「だから、泣いても大丈夫だよ」

 

みんなに褒められたのに?

 

「だから、沢山、沢山、文句言っていいよ。嫌だって言っていいよ。ちゃんと聞いてあげるから。ちゃんと私が聞いてあげるから━━━━」

 

気がついたら声がもれていた。

僕自身なにを言ってるのか、分からないくらい沢山。

気持ちもぐちゃぐちゃで。

 

でも、パー子は黙って聞いてくれた。

ずっと、抱き締めてくれた。

ずっと。

 

『洸太、あんたのパパとママ・・・ウォーターホースはね、確かにあんたを遺して逝ってしまった。でもね、そのおかげで守られた命が確かにあるんだ』

 

わかってる。

 

『あんたもいつかきっと出会う時がくる。そしたら分かる』

 

わかってるんだ。

 

『命をとしてあんたを救う』

 

パパとママがなにをしたのか。

 

『あんたにとっての━━━━』

 

聞いたから、みんなから沢山。

パパとママが命がけで人を助けた事。

沢山、助けた事。

 

それで沢山の人が幸せだって事。

 

わかってるんだ。

ヒーローとして、パパとママがどれだけ凄い事したかなんて。

お葬式と時、沢山の人が来てくれた。

みんな悲しんでくれた。

だから、わかってるんだ。

 

 

でも、じゃぁ僕は・・・?

 

 

そんなつもりでみんなが僕にパパとママの事教えてくれたんじゃない事、ちゃんと分かってる。

でも、どうしても思っちゃう。

 

だって、僕は一人ぼっちになっちゃったから。

みんなパパもママもいるのに、僕は一人だから。

 

「いやだっ!パパ!ママ!ぼくは、いやだっ、いやだよぉ!おおきくなったら、いっしょに仕事するって、約束したのに!なんでっ━━━なんでっ!」

 

ヒーローじゃなくていい。

 

「こんどの休み、たくさん遊んでくれるって言ったのに!!」

 

ヒーローじゃなくていいんだ。

 

「いい子にしてたら、早く帰ってくれるって言ったのに!!」

 

ヒーローなんかじゃなくて良かったんだ。

 

「パパぁ、ママぁ・・・・」

 

僕は、僕はただ━━━。

 

 

「会いたいよ」

 

 

おかえりって、そう言いたかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「疼く・・・疼くぞ・・・・、早く行こうぜ!」

 

せっかちな声が耳に響いた。

新入りの一人のそいつは確かに腕は立つが、頭のネジが何処かにいっちまったイカれ野郎だ。あの人の矜持に従うならぶっ殺しておくべきなんだろうが・・・今は俺も"あいつ"の部下の一人。無闇に殺すのは道理に反する。

 

「まだ尚早。それに派手なことはしなくていいって言ってなかった?━━━ね、荼毘」

 

妙ちきりんなマスクを被ったガキが制止を促し、俺に尋ねてきた。

だが、その言葉は恐らく保身からくるもの。

忠義なんてもの欠片も感じない。

 

まぁ、かく言う俺も、そいつらと大差ないが。

 

「ああ、急にボス面始めやがってな」

 

馬鹿共から視線をそこへと落とす。

山奥の森の中、一つだけ明かりが灯ったそこへと。

その景色を見るとあいつの言葉を思い出す。

自信満々に語る、あいつの言葉を。

 

 

『これは始まりだ、荼毘』

 

「・・・今回はあくまで狼煙だ」

 

『ここから全てが始まる』

 

「虚にまみれた英雄たちが」

 

『お前が、その一手を打て』

 

 

「地に堕ちる」

 

 

『堕落しきった社会の、その歯車をぶち壊す。その最初の一手をな』

 

 

「その輝かしい未来の為のな」

 

 

風が鳴る。

 

開戦を待ちきれないと、騒ぐように。

 

 



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ぜんたーい、止まれ!良いか、我々はここに試合をしに来たのではない!勝利しにきたのだ!勝利とはなんだ!勝利とは敵を打ち倒す事以外何物でもない!目につく全てを打ち倒せ!よし!皆枕を投げるんだよぉ!の巻き

グサッ

シリアス「・・・え?うそ、なんで」バッタリ

はくびしん「いつから、おれが殺られたと、錯覚していた」

ギャグ「はい、そういう訳で、我が世の春が戻ってきました」


茶番ごめんやで。



泣きつかれて寝てしまった洸太きゅんをマンダレイの所へ運んで少し。風呂を終えた私は一人女子部屋に向かい歩いていた。

 

洸太きゅんといちゃこらしてたら入浴指定時間を余裕でぶち抜いてしまい、今夜は汗臭いまま寝る覚悟を決めてたんだけど・・・洸太きゅんの事もあってマンダレイから特別に入浴許可が下りた。それじゃぁお構い無くーとただっ広いお風呂独り占めした私は一人風呂をすっかり堪能。元気もちょっと回復。

 

帰り際、女子風呂を出て少しいった所にゴミのように捨て置かれたブドウの成れの果てが気になったけど・・・『まぁ、ブドウだからなぁ』と考えると割とどうでも良いので放っておいた。どうせ覗きをしたとか、そんなだと思うし。

 

部屋に向かってる途中。

ちょうど玄関前ロビーの所に辿り着くと切島の姿を見掛けた。時刻を見れば補習時間中の筈、切島が出歩いてるわけない時間。

 

「補習組、なにしてんの?」

「おわっ、緑谷!お前こそ、どこ行ってたんだよ!片付けもしねぇで!相澤先生すげー怒ってたぞ」

「色々ー、てか包帯先生怒ってたってマジ?」

「マジだっての」

 

今晩は会わないようにしないと・・・。

 

「それはそうと、何してんの?補習は?」

「ああ、ちっとな。ほら、さっきマンダレイからよ、明日晩飯さ肉じゃがって言われたろ?それで豚肉にすっか牛肉にすっかって話あったじゃん」

「うん?あったっけ?」

「本当、緑谷は興味ねぇことガン無視な。あったんだよ」

 

切島の話を簡単に纏めると、明日の肉じゃがの肉の種類を決めるために男達が血肉沸き踊る戦いを繰り広げているらしい。

 

「・・・あのさ、どっちでも良くない?肉貰えないってんなら話は変わるけど」

「ああ、ま、そうなんだけどよ・・・」

「肉は肉じゃん?」

「そう言われたらなんも言えねぇーじゃねーか」

 

その様子を見るに切島もそこまで拘りがある訳でもないようだ。多分周りのノリに合わせた結果だろうと思う。つまらん事してんな、男子は。女子部屋に突撃するチャレンジャーくらいいないもんかね。ブドウを除く。

 

「てか、急がなくて良いの?補習」

「あ、やべ、ま、そういう事だ!じゃぁな!」

 

そう走り去っていく切島を見送った後、それを追いかけるように物真似野郎が同じように走ってきた。何処か上機嫌な物真似野郎。私を見て緊急停止する。

 

━━━━いや、踵を返して全力で逃走を図ってきた。

 

別に何もする気はなかったけど、そこまで反応されたら気になる。だからそこらの手すりに掴まり、全力で引っこ抜いてやった。宙を浮いた物真似野郎。成すすべもなく、私の前に転がる。

 

「ひぃぃぃ!!な、なんだよぉ!?僕が何したっていうんだよ!!」

「それは私の台詞なんだけど。人の顔見て逃げるとか、捕まって然るべきでしょ?何したの、白状せい」

 

私がそう言うと物真似野郎は目を逸らした。

これは何かあるな、と私の乙女的な勘が働く。

なので物真似野郎をそのまま女子部屋に拉致して、ゆっくり話を聞くことにした。

 

私から逃げようともがく物真似野郎の手足をバスタオルでささっと固定し連行。まるで散歩を嫌がる犬のように抵抗する物真似野郎。抵抗されるのが予想以上にめんどーだったので、時折引き寄せる個性で壁に打ち付け怯ませながら女子部屋までの道をいく。

それでも流石はヒーロー科の生徒。部屋まで後少しの所で上手いこと逃げられてしまう。

 

まぁ、正直言うと運ぶのが面倒になって逃がしたんだけど。

 

「ただいまー」

 

そう我がA組女子部屋に帰ると、何故だかサイドテ達の姿があった。B組女子ーずが三人も?はて?不思議に思ってるとお茶子が笑顔で出迎えてくれる。

 

「おかえりー。一人風呂どうやった?」

「良かったよ。泳いでやった」

「あはは、ニコちゃんらしいなぁーまったくもう」

 

サイドテの事が気になってお茶子に尋ねてみると、どうやらブドウ注意報が役にたったのでそのお礼をしにきたらしい。それで流れで女子会をする事になって今に至ると。成る程、成る程、把握。さっきの成れの果ての意味も分かった。いや、最初から分かってはいたけど。

 

勿論暇だったので私も女子会に参加。

お菓子を中心に輪になってるそこへ適当に割り込み話に交ざる。

 

どうやら恋バナしようと皆であれこれ言ってたらしいんだけど、どいつもこいつもそういった経験が乏しく、悲しい事に妄想の話をしているようだった。

マジか、君ら・・・。

 

「揃いも揃って・・・うわぁ」

 

思わずそう溢すとあしどんと葉隠が合わせたように抗議の態勢をとってきた。

 

「何その顔!?むきー!じゃニコなんか話してよ!!恋バナー!!」

「そうだよ!ニコやんもなんか話してよ!エッチなのも可!!」

 

エッチという言葉にB組の頭に棘生えた奴と百が激しく反応した。

 

「い、いけませんわ!!婚前交渉なんて!!破廉恥ですわ!!そういう事はきちんと結婚してからでないと・・・ですがまぁ━━━」

「結婚以外には男性と女性が一緒になることは、神の呪いなしにはすまされない罪深き事。あってはいけない事です・・・ですけれど━━━」

 

「「━━━取り敢えずお話を聞いてから」」

 

興味深々か。

いや、まぁ、今時の子が全然興味示さなかったら、それはそれなんだけども。

 

しかしいきなりエッチな話と言われてもピンとこない。そもそも男子と付き合った事ないし。

それに言っても私自身処女。清らかこの上ない神聖な存在。中学の友達は変態という名の淑女、真性のオナニーマスターだったけど私的にはそういう話はない。

ま、あいつの話で良いかな。

 

「大した話じゃないけど、・・・てか、恋バナと言っていいか怪しい話ではあるんだけど、それでもいい?」

 

そう尋ねると皆不思議そうにしていたが頷いた。

なので中学の友達である某U・Kさんの体験談を話す事にした。

 

U・Kさんは趣味で写真をよくとる。

というか個性が"写真"とかいうこれまた変わった物だったので、あっちでパシャパシャこっちでパシャパシャと矢鱈と撮りまくる写真にとりつかれた変態だった。そんな個性があるのに「画質が!」「味がない!」とか言って昔ながらのフィルム式の一眼レフを買う程の、変態の中でもやばい猛者だった。

 

「緑谷、いきなり恋じゃなくて、濃い奴が出てきたんだけど・・・なんの話」

「いや、まだ話し始めた所だから、耳郎ちゃん。聞いて聞いて」

 

そんなU・Kさんにも恋が訪れた。

相手は一つ上のサッカー部の先輩。取り立ててイケメンではなかったけど、サッカーが上手くて人当たりのいい所がマニアな女子には人気の人だった。

 

「おお!定番!!」

 

あしどんの目がキラキラする。

葉隠は顔は見えないけど、多分似たような顔してると思う。他の皆も興味ありそう。

 

需要があるならと私は続けた。

U・Kの話を。

 

運動する人物をうまく写真に撮るために練習していた時、サッカーする先輩に一目惚れしたのが切っ掛けである事。

中々声を掛けられなくて写真だけをおさめる毎日を過ごした事。

溜まる写真を前に溜息ばかりついていた事。

写真でオナニーした事。

 

話を進めるにつれてみんなが興奮から鼻息を荒くしていく。百とか棘子とかそわそわしまくってる。

だが、そんな中、サイドテだけは顔を青くさせていた。

ほほう、気づいたか。

 

「ねぇ、緑谷。それさ・・・」

 

言い掛けたサイドテにストップをかけ、私は話を続けた。

 

ついに告白しようとラブレター片手に下駄箱にいった事。

恥ずかしくてラブレターを置けず、取り敢えずと靴を写真におさめた事。

いっそ直接告白してしまえと部室に乗り込んだ事。

そして、その先輩のタオルを見つけて、被写体として家に持ち帰った事。

 

写真に囲まれながらタオルでめっちゃオナニーした事。

 

「ストーカーの話じゃないの!!」

 

サイドテのツッコミに全員がハッとする。

 

「恋じゃないわ!それは変だわ!」

「上手いこと言うね、サイドテ。そいつも言ってた、恋と変は似てるって」

「似てないわ!!似ててたまるか!!」

 

まぁ、そこまで話したら最後まで話さないと━━そう思って私は最後まで話した。先輩のロッカーを物色した事、先輩の家を突き止めた事、誕生日にケーキを送りつけた事・・・etc。

もう途中から分かるぐらい皆怯えていた。時折オナニーの話もぶちこんだけど、効果は薄かったみたいで震えてる。最初、この話を聞いたとき私も震えたから気持ちは分かるけど。

 

「それでね、最後は告白してね。でも駄目だった・・・」

「普通に告白してないだろ、それ」

 

サイドテは勘がいいな。

 

「これまで撮ってきた写真を持参して、これだけ好きですって」

「もうホラーでしょ、それは!!」

「中には数枚自撮りのオナニー写真が交じってて超焦ったとかなんとか」

「そいつはただのヤバイ奴でしょーが!!」

 

ヤバイ奴ちゃぁ、ヤバイ奴だった。

その後は私が改心させて、トップギアに入ってた変態指数を二段階くらい下げてやったんだったけか。

いやぁ懐かしい。

 

話し終えると何人かは震えたまま。

サイドテからは「なにを聞かせてくれてんのよ」とお叱りの言葉を貰った。だってね、恋とエッチな事が混じった話なんてあいつくらいしかないし。

 

「そいつの初体験の話する?」

「続きがあんのかよ。やめやめ、どうせ碌でもないんでしょ」

「相手も写真が趣味の変態で、撮り合いながら愛し合ったとか、そんなだよ?」

「碌でも無さすぎるから・・・てか、変態増えてるし」

 

変態達の話をし終えると、お茶子からかっちゃんの話を聞かれた。恋バナしてる最中だというのにだ。不思議には思ったけど皆興味深々みたいなので、つまらない話なんだけどなぁと話す事に。

 

といっても取り立てて話す事もない。

バレンタインデーの話とか、遊園地いった話とか、修学旅行いった話とか、誕生日のお祝いした話とか。そんなのばかりだ。

 

話してる最中誕生日に貰ったアレを思い出して、バッグにしまってあるそれを取り出して見せてみる。

すると、皆今日一のキラキラした目をしてきた。

 

「うわぁぁぁぁ、さっきの話なんやったんや。ほんま」

「ニコの体験が想像以上に恋バナなんですけど」

「ニコやん、アオハル過ぎるよ」

「最初からそっち話せよ」

「けろっ、さっきの話はただただ怖かったわ」

「ですわね」

 

A組女子ーずから辛辣な言葉を頂いてる間、私のブレスレットを手にしたサイドテが感嘆の声をあげる。

 

「うわぁ、すご、名前入ってる」

「これはなんと・・・見事な刻印で。清いお心を感じます」

「ん」

 

それからも適当にかっちゃんの話をしてるとドタドタする足音が聞こえてきた。方向からいって男子部屋の方からだ。

 

「なんだろ」

「せやね」

 

一瞬不思議に思ったけど、そう言えば明日の肉の件で男子達が戦っている事を思い出した。皆にその事を伝えると呆れた顔をする。特にサイドテが「補習のくせになにしてんだか」と重い溜息をついた。

 

「サイドテさ、明日の肉どっちが良い?」

「いや、どっちでも良いから」

「だよねぇ」

 

他のB組女子ーずも特に拘りはないようで、そこら辺は男子が勝手に話を進めているらしい。

因みに、物真似野郎はB組でたった一人しかいない補習組だとか。本当、何してんだあいつ。

 

男子達の方へと耳を傾けると大分騒いでるのが聞こえてくる。それなりの戦いをしてるらしい。

放っておいてもいいのだが・・・。

 

「ねぇ、サイドテ」

「ん?」

「先生らに見つかる前にさ、両成敗しにいかない?肉は女子総取りで」

 

私の提案にサイドテは考え━━━そして親指を立てた。

 

「賛成。っても、今あいつらが何してるか知らないけどさ。割り込める奴なら良いけど」

「こんだけ騒いでんだから、あれでしょ」

「あれ?」

 

私は枕を手にとった。

 

「定番だもんね」

「ああ、成る程ね」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「死ねやこらぁぁぁぁ!!」

 

「ははは!相変わらず乱暴だなぁA組生徒は!」

 

 

目の前で悪化していく枕投げに、僕は頭を抱えたくなった。最初は枕を投げ合っていただけなのに、もう個性使い放題の無法戦闘に成り果てている。

 

なんとか止めようとしたが、どちらもヒートアップしていて歯止めが利かない。

 

よりにもよって、こんな時冷静なタイプだと思っていた轟くんまですっかりこの場の空気に溶け込むとは思わなかった。それも誤算だった。

 

「というか、皆、お肉の事、すっかり忘れてやしないだろうか・・・」

 

腕相撲大会をしてる時に決着がつけばと今更ながら思う。

どうすべきか、と悩んでいると不意に背後の襖が開いた。何事かと振り返れば、それはそれは楽しそうに笑う長い髪を艶めかせる綺麗な女性が━━━━と思ったら髪を縛ってない緑谷くんだった。そしてその背後には、同じく笑顔を浮かべた女子達の姿が。

 

「総員構え!!男共を殲滅せよ!!!」

 

その言葉を皮切りに女子達が枕を投げ始めた。

突然の女子達の出現にA・B組共に瞬く間に討ち取られていく。

 

「あっ、物間!!あんたなんでまたここにいんの!!補習はどうしたっ!!!」

「うわぁ!!?拳藤!!へぶっ!!」

 

「拳藤!?ぬぅお!なんで拳藤が!!」

「鉄哲!!あんたは止めないと駄目でしょーが!!」

「おふっ!!」

 

拳藤くんのミサイルのような枕に二人が瞬殺。

他のB組男子も小大くんと塩崎くんにやられていく。

 

そしてそれはA組男子も同じく。

 

「喰らえ!!ニコちゃん108の必殺技!ニコちゃん枕バリスタ!!」

「はぁ!?双虎!!てめぇなん━━━ふぺ!!」

 

「緑谷・・・!」

「枕を相手の顔面にシュー!!超エキサイティーーング!!」

「おうっ」

 

爆豪くんも轟くんも緑谷くんに弱すぎるぞ!!

さっきまでその程度の速度の枕避けていただろう!

特に轟くん、見とれすぎだ!!ガン見じゃないか!

 

他の男子達も軒並瞬殺され、戦場は静寂に包まれた。

残るのは虚しさと寂しさだけ。

 

男子達を殲滅させた女子達は吐き捨てるように「肉は女子の総取りとする、以上!」と告げ去っていった。補習組の物間くんも拳藤くんが持ち帰っていく。

 

嵐が過ぎ去った跡地。

残ったのは散らかった布団と枕。

それと敗北者。

 

ここに勝者はいない。

 

 

「戦いとはかくも、虚しいものだな。皆・・・」

 

 

同意の言葉はあがらなかったが、皆いそいそと片付けを始めた。まるでそれが、敗北者の役割だとでも言うように。

 

 

それから少しして、ブラド先生と相澤先生が鬼の形相で部屋にきた事は言うまでもない。

全員等しく怒られた━━━いや、勿論男子だけだが。

 



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言いたい事は分かります。それを日常的に食べている人がいることは認めます。いるんでしょう。でもそれでも言います。だからそれは食べ物じゃないと言ってるでしょー!それはタイヤのゴムなんだよ!の巻き

シリアスが迫ってきてるなぁ。
やべーな。


色々あった二日目の夜も終わり、迎えた三日目の昼。

 

その日も朝から訓練に次ぐ訓練祭り。

美貌とちょこっと体力に自信のある私でもクラっとするくらいヘビィな訓練メニュー。それまで何とか堪えていた私の頑張りパラメーターも、いよいよ限界を迎えんとしていた。

 

「包帯先生ぇぇぇぇ!!もう、むりぃぃぃぃ!!」

 

私の声に補習組を指導していた包帯先生がこちらへと顔を向ける。

 

「石の数を減らせと言ったろ馬鹿。六つも七つも飛ばすんじゃない」

 

確かに今私の周りには七つのニコちゃんストーンが飛び交っている。伝説のあれにあやかってそれぞれ数字も書き込んでたりする、最早お気に入りの訓練アイテムだ。

減らせば楽なのは分かる、分かるんだけど・・・。

 

「あたい!昨日の自分に負けたくないのぉぉぉ!!」

「じゃぁ、ずっとやってろ」

「酷い!!こう、上手く誘導して!!先生じゃん!」

「はぁ、飴くれてやる・・・休め」

 

私は全ての石を落とした。

そして包帯先生の元へとダッシュする。

呆れ顔の包帯先生の前に辿り着き、さっと手を伸ばすと本当に飴をくれた。

 

「あざーす!!」

「飴が欲しかっただけだな、お前」

「まっさかー頂きまーす」

 

訓練二日目。

出された課題よりちょっぴり多目に石を飛ばしてたら、なんか知らないけど飴をくれたのだ。しかもその飴の美味しさといったらなかった。具体的にどうとは言えないけど、すごい旨かったのだ。

 

「ん?なんか昨日のと違くないですか?」

 

貰ったそれに違和感。

昨日のは宝石みたいに綺麗な鼈甲色だったのに、今日のはなんか黒い。しかもどす黒い。食べちゃいけない色してる。

 

「昨日のも元々貰い物だからな。あれは誰だったか・・・ミッドナイトさんかマイクだとは思うが。まぁ、なんでもいい」

「全然良くないんですけど・・・」

 

ラジオ先生だった場合、かなり危険な気がする。

マブダチのミッドナイト先生なら好みとかも知ってるし、センスのあるお菓子屋とか紹介されたから信用出来る。昨日のあれもミッドナイト先生からというなら納得だ。

けど、ラジオ先生である場合は信用ゼロといっていい。

何故なら、ラジオ先生は確かに包帯先生の友達だけど、その付き合い方は悪友そのもの。悪戯でワケわからない物を渡してる可能性が非常に高い。

 

「名前とか分からないんですか?」

「名前・・・ん?待て、確かそれはマイクからだったな。サルミアッキだ」

 

私は個性が届く範囲にいたかっちゃんの口目掛けて、その飴を躊躇する事なく引き寄せる個性で飛ばした。

唸りをあげながら宙をかけた飴はかっちゃんの口にINする。あまりに一瞬の事。何が起きてるか把握出来なかったかっちゃんは目を丸くしたけど、直ぐに口に含まれてる物の味を感じ苦しそうにえづいた。

 

「緑谷・・・食べ物を粗末に扱うな」

「包帯先生!!舌馬鹿なんじゃないですか!!?あんなもん食いもんじゃないですからねぇぇぇ!!タイヤですよ、タイヤ!!」

「誰が舌馬鹿だ。旨いだろ、サルミアッキ」

 

まじか、この人マジか!!

マジで言ってるのか!!

 

昔かっちゃんパパが同僚から北欧のお土産としてサルミアッキを貰った事があった。当時からお菓子大好きだった私は当然初めて見るそれに興味津々。止められたもののなんとか分けて貰って食べた事がある。・・・だから知っている。あれは食べ物じゃなくて、タイヤのゴムなのだと。誰がなんと言おうと、あれはタイヤのゴムなのだと言うことを。

 

本気で言ってるのか確かめる為にじぃっと見つめていたら、何を思ったのか包帯先生は溜息をつきながらポケットから第二のサルミアッキを取り出し━━━━また私の掌の上に乗せてきた。

 

「もうやらんぞ」

 

私は迷う事なく個性がギリギリ届く範囲にいる轟の口目掛けて、引き寄せる個性を使って飴を飛ばした。

唸りをあげて宙を舞う飴は轟の口にINする。

 

そしてやっぱりえづいた。

 

「緑谷・・・」

「いやいや!見てくださいよ!!包帯先生!!ほら!二人ともえづいてんじゃないですか!!まっずいんすよ!!それ!!人間の食い物じゃないですよ、それ!!」

「人間の食い物に決まってるだろ。北欧では定番のお菓子だぞ」

「北欧じゃないですもぉぉん!ここ日本ですもぉぉん!」

 

全力で否定すると包帯先生はまた溜息をついた。

そして「十分休憩したら再開しろ」といって補習組の元に戻っていく。

 

のんびり休憩しながら皆を眺めていると、お茶子と外国人が包帯先生に絡まれ出した。耳を澄ませてみれば、お茶子達は赤点ギリギリだったそうだ。びっくりするお茶子可愛い。

 

「━━とまぁ、麗日と青山に言ったが、他の皆も気を抜くなよ。ダラダラやるな」

 

周囲に聞こえるように包帯先生が声を張った。

大事な事を伝えようとしてるのは察したので、囃し立てずに黙って眺めておく。

 

「何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗をかいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ」

 

原点・・・ねぇ。

 

休憩を満喫する為に横に寝転ぶ。

今日も陽射しが強い。凄く眩しい。

日焼け止め塗ってるけど、何処まで効果あるか。

 

そんな事をぼんやり考えながら包帯先生に言われた事を頭の中でもリピートしてると、「ねこねこねこ」という無理在りすぎる口癖を聞いた。

 

起き上がってそこへと視線を向ければいきおくれ━━━ピクシーボブがそこにいた。

 

「皆頑張るねぇ~!そんな皆に朗報だよ!今日の晩はねぇ・・・クラス対抗胆試しを決行するよ!しっかり訓練した後はしっかり楽しい事がある!そう!ザッ、アメとムチ!」

 

頑張った後のご褒美、確かに必要だ。

適度にそういうイベントぶっこんでいかないと、草臥れてシオシオんなっちゃうもんね。

 

ピクシーボブみたいに。

 

「なんか言った、緑谷さん!!?ねぇ!!なんか言ったでしょ!!ねぇ!!!」

 

うわっ、こわっ。

思っただけで、何も言ってないのに。

エスパーにゃ?

 

てきとーに「何も言ってないにょ?」と言うとかなり怪訝そうな顔してきたけど納得したのか私から視線を外してくれた。日に日に荒んできてるピクシーボブに合掌。

 

「・・・まぁ、ちょっと話は逸れたけど、そういう訳!!今は全力で励むのだぁ!!!」

 

取り直したピクシーボブの号令にイエッサの返事が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練終了後、また再びの悪夢の時間がやってきた。

そうお夕飯作りの時間である。

 

またいらない子扱いされるのかと思っていたら、今日は百から火付け係りを任命された。まさかの大抜擢に双虎にゃん大興奮。やる気120パーセントUP。

 

何ならキャンプファイヤー並みの凄いやつを用意しようかと材料を集めに森に行こうとしたんだけど━━━それは止められた。竈に火を用意すればいいとの事。

なんとつまらん。

 

遠くからかっちゃんの包丁捌きを褒めるお茶子の声を聞きながら、私は面白味のない薪を竈に並べる。

なんてつまらん作業。

 

キャンプファイヤー良いじゃんね?キャンプファイヤーで煮たら良いじゃんね?ね?

 

「緑谷、それ積みすぎだ」

 

声に振り返ってみると轟がいた。

なんか鍋持ってる。

 

「轟は何してんの、遊び?鍋に水いれる遊び?」

「聞いた事ねぇ遊びだな。汁物作るのに使う水運んでんだ」

「そっか。で、どうよ、この並べは!ペキカンじゃない?」

「だから積みすぎだって言ったろ。面白くしようとすんな」

 

そう言うと轟は鍋を置いて私のピラミッド型に並べた薪を崩してきた。なんてやつ。

 

「見損なった!!私はお前を心底見損なった!!」

「薪並べ直しただけで、こうも見損なわれるとは流石に思わなかったな。でもな、こうしねぇと金網おけねぇだろ」

「百にピラミッド型でおっけーな金網作って貰えば良いじゃん」

「そんなの作っていつ使うんだ。無駄になんだから八百万に変な事させんな」

 

黙々と並べ直す轟はあまりに冷たい。

きっとこやつには、芸術というものは当分分からないのだろう。残念なやつだ。

 

「・・・それはそうと、昨日は何処に行ってたんだ?」

 

脈絡のない言葉。

だけどそれが何を指しているのか直ぐに分かった。

何せ昨日帰ってから皆に同じ事を聞かれてるから。

 

「教えたいのは山々なんだけど、洸太きゅんのプライバシーに関わるからねぇ」

「コウタ?・・・ああ、爆豪みたいな子供か」

「それかっちゃんに言ったら怒られるよ?」

「大丈夫だ。もう怒鳴られた」

 

いや、それは大丈夫とは言わない。

 

轟は私の視線を軽くスルーした。

そして薪を積み始める。

 

「・・・また、ちょっかい掛けにいったのか。俺ん時みたいに」

「ちょっかいって。なんか人聞き悪いなぁ、その言い方。まるで私が悪戯しにいったみたいな」

「そうは言ってねぇ。けど、本当の事だろ。お前は頼まれてもいねぇのに直ぐ首突っこむ。無神経というか、遠慮がねぇというか」

「あ、もしかして喧嘩売ってる?」

「そうじゃねぇ」

 

轟は手を止めて私の目を見てきた。

じっと、いつもみたいな真剣な目で。

 

「・・・ふぅ。いや、どうせ言っても聞かねぇんだろうから、余計な事は言わないでおく。━━━けどな、これだけは覚えておいてくれ、俺はお前の味方だからな。困ったら呼んでくれ、力になるからよ」

「ぷっ、何それ?」

「覚えてくれてりゃいい、今は」

 

そう言い切ると轟は残りをさっさと積んで去っていった━━━━鍋を忘れて。

 

「轟ぃー鍋ぇぇぇーー!!」

「わりぃ」

 

お前は何をしに来たんじゃー。

まったく。

 

 

轟が去った後、積み終わったそれに火を点け私のお仕事は取り敢えず終了。

後は消えないように様子を見ながら火の番をするだけだ。

 

皆がワイワイとやってる姿を何となしに眺めていると洸太きゅんの姿がない事に気づいた。

訓練の時、少しも顔を見せないから何処かで仕事でも手伝っているのかと思っていたけど・・・まさかね。

 

「緑谷さん」

 

声の方へと視線をやるとマンダレイがいた。

探るような視線に洸太の事かな?と予想。

試しに「洸太きゅんですか?」と尋ねて見れば、少し驚いた顔を見せた後苦笑いを浮かべた。

 

「うん、まぁ。その様子だと見てない・・・よね?」

「マンダレイに預けた後はどうしたんですか?」

「ああ、別に行方不明とかじゃないのよ?行き先は知ってるの。いつもの場所だとは思うんだけど・・・様子が少し変だったから、それで緑谷さんが何か知らないかと思ってね」

 

ふぅ、と息を吐いたマンダレイの横顔はどこか心配そう。火の番をのんびり眺めているとマンダレイが私の顔をじろりんちょしてくる。

 

「なんですか?」

「ううん、別にね。ま、知らないなら構わないわ。ごめんね時間とらせて」

 

そう言って立ち去ろうとしたマンダレイだったけど、何かを思い出したように振り返ってきた。

 

「改めて言わせて、昨日は洸太のことありがとうね」

「どー致しまして?」

 

私の言葉に満足したのかマンダレイは去っていった。

何処と無く足取り軽く。

 

 

 

 

 

 

「ニコちゃん!火は大丈夫ーー?そろそろ鍋持ってくけどーー!」

「かもーーん!燃やし尽くしてやんよー!」

「尽くさんといて」

 

 



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胆試し系の定番といえばこんにゃく様。紐で吊るして相手の首筋にしゅーとしてひえってね!でもあれって最初はしこたま驚くけど、物に気づいた途端生臭さとの戦いになるよね。の巻き

コンコン

コンコン

はくびしん((((;゜Д゜)))
ギャグ((((;゜Д゜)))

コンコン

━━━開けて下さいよ。ぼくです、シリアスです。もうすぐ、出番なんですよね?ねぇ?

段々と迫りくるやーつ(*´ω`*)


男子達が肉なし肉じゃがを悲しみと虚しさと共に食し、女子達はお肉多めじゃがを太るーという嘆きと共に食した夕飯後。ぱっぱと片付けを済ませた私達はプッシーキャッツの四人の前に集合していた。

 

━━━というのも、昼間にピクシーボブが言ってたイベント、クラス対抗胆試しをやる為だ。

 

「肝を試す時間だー!!」

 

あしどんが笑顔と共に声をあげる。

突き上げた拳に嬉しさが宿ってる。

他の補習組も皆嬉しそうだ。

 

何のかんのと合宿で一番大変な思いをしてるのは補習組。こんな時くらいはしゃいでも良い気はする。・・・いや、元はと言えば赤点とった補習組の面々が悪いんだけども。それは言わぬがなんちゃやらというものだし。

 

だけど、私的には包帯先生の動きが気になった。

これからイベントに参加しようって感じが少しもしないのだ。なにかを考えてる感じ。

そんな事思ってると包帯先生がプッシーキャッツの前に出てきた。嫌な予感しかしない。

 

「その前に大変心苦しいが補習連中は・・・」

 

あしどん達、補習組の視線が包帯先生へと釘付けになる。この不穏な空気に今更ながらではあるが気づいたみたいだ。

 

「これから俺と補習授業だ」

 

 

 

 

 

「ウソだろ!!!!!!」

 

あまりの出来事にあしどん包帯先生にため口。

もはや恥も外聞もなしだ。

 

よっぽど楽しみにしていたのだろう。

目を見開いたまま完全に固まっている。

このまま石化するんじゃなかろうか。

 

石化しそうなあしどんを含め、逃げようとした補習組全員の体に瞬時に巻かれる包帯。

絶望が足音を鳴らし始めたようである。

 

「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってしまったので、こっちで削る」

 

「うわぁぁ堪忍してくれぇぇぇ!!試させてくれぇぇぇぇ!!」

 

何故か「ニコぉぉぉぉぉぉぉ」とあしどんが助けを求めてきてるが、勿論スルーしておく。・・・いや、まぁ、確かにね、この面子の中で包帯先生に何かしら出来るとしたら私だよ?リスク度外視で手段を選ばないで何とかしようとしたら、ミジンコ5匹分くらいの可能性はあるよ?でもね、いやだ、すまんな。失敗する可能性のが遥かに高いし、下手に首を突っ込んで巻き込まれたくないの。補習とか言われるやん。

 

だから甘んじて補習してね、あしどん。

君の分も楽しんでくるよ。

南無。

 

泣き叫びながら運ばれていくあしどん達を見送った私らはプッシーキャッツからの追加説明を受ける。クラス対抗の胆試しなんてどうやるのかと思ったら、どうやらA・Bに分かれて脅かす側と胆試しする側を交互にやってく感じらしい。つまりは生徒によるセルフ胆試し大会と言うことだ。

胆試しのルート、脅かす側のルール、勝敗の決定法。

細かいルールも色々あったが、要はお化け役の時に相手組の面子を死ぬほど驚かせて、こっちが胆試しする時に驚かなければ勝ちと言うことだ。

分かりやすいね。

 

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」━━━とのプッシーキャッツのお言葉もあるので、精々沢山漏らさせてやる事にしよう。

 

さっそくA・B組で分かれ行動を始める。

脅かし役のサイドテから「覚悟しとけ、緑谷」と宣戦布告されたので「上等!そっちこそ覚悟しとけ、脱糞させてやるからね!!」と言ったら「脱糞レベルのは勘弁して」とお願いされた。一応分かったとは言っておいたけど・・・まぁ、やるけども。

 

B組が森に入った後、残ったA組で組み合わせを決める事に。かっちゃんと組もうとしたんだけど、くじ引きでやるらしいので大人しくそれに従う。かっちゃんとなら漏らす心配ないから安心して回れたんだけど━━━まぁ、仕方ないね。

 

くじ引きの順番はじゃんけんで勝った順となり、熾烈な争いの果ていまいち振る舞わなかった私は六番目となった。

 

順番を待って引いた番号は三番。

相手は誰だろうかと探せば葉隠だった。

 

「おお!相方はニコやんか!よろしくねー!」

「よろー。お化け屋敷とか大丈夫系?」

「程々かな?普通に驚くと思うよー。ニコやんは?」

「別に大丈夫。お化け屋敷とか、基本的に笑った記憶しかないし」

「そんな楽しい場所ではないと思うけど・・・」

 

葉隠の様子からこれなら大丈夫かなぁと思っていると、突然悲鳴が聞こえた。見ればくじを片手に耳郎ちゃんが震えている。

 

「どったのよ、耳郎ちゃん?」

 

何となしに尋ねると耳郎ちゃんが振り向いた。

振り向いた耳郎ちゃんの顔色は真っ青で、目が死んだ魚みたいになっていた。

その顔にちょっとぞっとする。

 

「み、みど、緑谷・・・」

「お、おう、どした」

「私、一人なんだけど」

 

手にした番号を見れば8番。

補習組を抜いた人数を考えれば、確かに一人はペアなしの筈だ。念のために引き終わった全員に確認をとってみれば、他に8番はいないようで耳郎ちゃんが単独戦士である事が確定する。

 

「いやぁぁぁぁぁ!!無理だからぁっ!!ムリムリムリムリ!!私はいかないからね!!」

 

耳郎ちゃんはそう叫びながら側にいた眼鏡と喋らないくんを盾に首を横に振りまくる。

どんだけ行きたくないんだ、耳郎ちゃん。

 

「マジで無理だから!!マジで!!一人とか!!」

 

取り乱す耳郎ちゃんを見かねて眼鏡が動いた。

 

「おっ、落ち着きたまえ、耳郎くん。所詮は生徒同士の化かしあい。そう大した物では━━━━」

「はぁぁぁぁ!!?なんの保証があんの!?本物出ない保証は!?そういう事やってると本物が寄ってくるって言うじゃん!!ねぇ、保証は!?とりつかれたら祓ってくれんの!?」

 

とりつかれる事も視野に入ってんのか。

 

「そんな非科学的な事、あり得ないと思うが・・・」

「じゃぁ!いない事を証明してよ!!」

「いや、それも出来ないが・・・」

 

胸ぐらを掴まれて揺すられる眼鏡。

そろそろ限界そうなので助けにいく事にした。

 

「耳郎ちゃん、耳郎ちゃん。証明とか保証とかは無理だけど、一人じゃなきゃ行ける?」

「み、緑谷・・・!」

 

凄いキラキラした視線。

どんだけ嫌だったんだ、耳郎ちゃん。

なんだよ、可愛いじゃないか。

 

丁度審判役のいきおく・・・ピクシーボブが近くにいたのでペアチェンジOKか確認しておく。様子を見てたピクシーボブもあまりに可哀想だからとチェンジOKにしてくれた。ただし、一回限りとすると。

 

そんな訳でチェンジOKな人を募集すると、かっちゃん、眼鏡、梅雨ちゃんが名乗りをあげた。百とかこういう時に名乗りをあげそうだと思っていたんだけど、意外と名乗りをあげなかった。らしくないなと百を見たら顔を背けられた。怖いのか、一人は。

 

「で、どう?」

「どうって言われても・・・」

 

耳郎ちゃんは勢いで決めず、名乗りをあげた面子のペアを確認し始める。かっちゃんの相手は轟。相手としては大丈夫そうだけど・・・。

 

「あいつ、いざとなったら平然と緑谷の所いきそうだから無理」

「なんじゃそら」

「兎に角、無理」

 

よく分からない理由で却下されたかっちゃん。

ペアの轟の顔を見て眉間の皺を深くしていく。

 

「・・・それなら逆は?轟を一人にして、かっちゃんとペア」

「やだよ、普通に」

 

「んだと、こらぁ!!何、普通に拒否してんだ耳たぶ!!!」

 

怒鳴るかっちゃんを落ち着かせて次に向かう。

次に耳郎ちゃんが見たのは眼鏡のペアである喋らないくん。数秒眺めた後、首を横に振った。

 

「口田は頼りにならなさそうだから、無理」

 

喋らないくんが胸を押さえて膝をついた。

どうした、そんなにショックでござる?

 

最後に余った梅雨ちゃんのペアであるお茶子。

お茶子と少し話した耳郎ちゃんは戻ってきて首を横に振った。

 

「同類だった、駄目だ。麗日から蛙吹はとれない」

 

そうか、お茶子も怖いの駄目なやつだったか。

 

しかし、そうなるといよいよ誰もいない。

他の人も漏らしたくないのかペアを崩す様子は見られない。ふむふむ。これは、まぁ、うーん、仕方ないか。

 

「葉隠ー、ペアがクソザコになるけどOK祭り?」

 

私の声に葉隠はサムズアップした・・・気がする。

いや、見えんわ。

 

「ニコやんOK祭り!耳郎ちゃんの可愛い姿見てくるぜぇ!!」

 

葉隠からOKが出たのでそれを伝えようと耳郎ちゃんへ視線を戻すと、めちゃキラキラした目で見られた。

 

「━━━━ま、そんな訳で耳郎ちゃんチェンジね。葉隠とペアってよ」

「緑谷・・・!」

 

感極まった感じの耳郎ちゃんにギュッとされた。

ささやかなお胸様の感触が涙を誘う。

 

「私、あんたの事勘違いしてた!!あんたは良い馬鹿だ!!」

「・・・耳郎ちゃん一人で胆試しさせるぞ?」

 

軽く飛ばした半分本気の言葉も今は全然聞いておらず、耳郎ちゃんは感謝の言葉を何度か言った後、葉隠の元へと作戦会議にいった。お化け屋敷系に作戦とか必要なのか甚だ疑問だけど、何も言わずに見守っておく。

面白くなりそうだし。

 

喜ぶ耳郎ちゃんを眺めていると、お茶子達が心配そうにこっちにきた。

 

「大丈夫、ニコちゃん?一人で回るの」

「考えたの。やっぱり幾ら私有地内とはいえ、女の子一人で夜の道は危ないわ。どうにかお願いして三人で回れるようにしましょ?」

 

二人の優しさはありがたいんだけど━━━。

 

「━━━ふふん。実は一人当てがあるのだよ諸君」

 

「「あて?」」

 

一人で胆試ししても面白くない。それはあったり前の事。だから、もし私があぶれるような時があれば、きゃつめを誘って参加出来ないかマンダレイ辺りに聞くつもりだったのだ。

 

 

 

 

 

「私のにゅーかまーフレンズ、洸太きゅんという当てがね!!」

 

 



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男の子というのはね、どれだけ小さくて小動物みたいな顔していても男は男らしいので、あんまり可愛い可愛い言っちゃ駄目らしいよ?え?いや、私は言うけどね。だって可愛いんだもーん。の巻き

しーん

はくびしん「・・・いない?もういった?」
ギャグ「いないっぽい?」


シリアス「よかったね?」シレッ


はくびしん「(°Д°)」
ギャグ「(°Д°)」

襲来だお。


マンダレイから許可をとって少し。

私は洸太きゅんを失禁レベルの胆試しに誘う為、崖上にある例のひみつきち目指して一人森を歩いていた。

 

マンダレイからは簡単にOKを貰ったものの、まだ帰って来ていない洸太きゅんと一緒に行くのは物理的に無理。まずは会場にきて貰わないと話にならない。

それでこうしてお迎えに向かっているという訳なのである。

 

マンダレイにはテレパスないし持たせてあるスマホで伝えておこうかと言われたけど、それは断っておいた。下手に私の動きを知って逃げられてもアレだからだ。

何となく逃げる気がするのだ、なんかね。

まずはハントしなきゃ。

 

しっかし、マンダレイがひみつきちの場所知らずとか、マジかー。保護者としてどーなのか。

・・・いや、まあ、私も小さい頃、ひみつきちの一つや二つや三つはあったし、母様達にばれる度に新拠点作ってたからな。ああいうのはバレたら駄目な物だ。基本的に。・・・そうなると、やっぱり仕事のある大人には把握しきれんか。仕方ないか、うんうん。

 

まぁあ!ひみつきちマスターたる私なら、いとも簡単に見つけられるけどね!小細工など私には通じない!!ふはは!

 

 

昨日、獣太郎が通った獣道を進み、ちょっと見上げればひみつきちが見える位置まで辿り着いた。このまま普通に道を通っていけばひみつきちにつけるが、入り口には小癪にも鳴子的な物が置かれてる。作りがちゃっちいから少し気を張れば見つけられるし、簡単にかわせるのだけど・・・わざわざ避けるというのもひみつきちマスターとしての矜持が刺激されるというもの。

 

なので、通常ルートガン無視で崖を上る事にした。

 

引き寄せる個性で体を引っこ抜く。

私の体は大した負担もなく宙へと飛んだ。

 

こうして改めて使うと出力が上がってるのを実感する。

入学する前では、正直ここまで簡単に出来なかった。

実際中学の時はドロドロな犯罪者からかっちゃん一人引っこ抜くのですらヒイコラしてたのだ。なのに今なら一息で引っこ抜く自信がある程。

 

切り立った崖を引き寄せる個性で伝うよう一気に崖上へ登る。

そうして崖上へ上がると、風景でも眺めていたらしい膝を抱えた洸太きゅんと視線があった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

死ぬほど驚いた洸太きゅんは一気に後退り。

そして勢い余って壁に追突する。

見た感じ頭をぶつけたみたい。

 

「大丈夫?」

「っっうう、だ、大丈夫に見えんのかよ!?ていうか、どっから来てんだよ!!いきなりは止めろ、びっくりするだろ!!」

 

洸太きゅんは頭を擦りながら、かっちゃんばりに怒鳴ってきた。こういう所はかっちゃんっぽいんだけどね?

ういうい、頭撫でちゃろか。

 

「なんだよ、何しに来たんだよ・・・」

「ん?ああ、ちょっとね。胆試しのお誘い。行こ、ね?」

「胆試し・・・?ああ、マンダレイが言ってたお前らがやるやつか。ふん!んな子供騙しなやつに参加なんかするかよ!勝手にやってろ!」

 

私は洸太きゅんの脇に手を突っ込み持ち上げる。

すると洸太きゅんが嫌な顔をした。

 

「なんだよ・・・」

「行こ、ね?」

「パー子、最初からおれの話聞く気ねぇな」

 

私は笑顔で返事をしとく。

 

「━━強制かよ!!おまっ、子供相手にどんだけ大人気ないんだよ!!普通、自分より小さい子供が、その、こういうの嫌がったら、なんかあるだろ!諦めるとか!」

「あ、れ、おかしいな・・・声が、遅れて、聞こえてくるよ?」

「それ耳の異常を知らせるやつじゃねーから!!せめて聞こえないフリしろよ!」

 

そう言われればそんな気もする。

だから洸太きゅんの言うとおりお口をチャック。

聞こえないフリしながら連行を開始。

 

なのに洸太きゅんから「本当に聞こえないフリすんな!!」と怒鳴られた。理不尽。

 

「おまっ!・・・・く、分かった!分かったから無言で運ぶな!!一回下ろせ!」

「・・・逃げない?」

「逃げたってどうせ捕まえてくんだろ。もういい、お前にまともな事言っても駄目なのは分かった。行く準備するから離せ」

 

目を見れば嘘をついてる様子はない。

一緒にきてくれるならと下ろせば、ポテポテ歩きながらひみつきちの洞穴へと入っていく。

そう時間も掛からず洸太きゅんはネコのキャラクターが描かれたリュックサックを背に戻ってきた。

 

「なにそれ?可愛い」

「うるさい・・・。別に、好きで使ってる訳じゃない。マンダレイが持たせてきて。弁当とか、水筒とか、その入れるのに使っただけで」

 

そう言うと洸太きゅんは俯いた。

暗がりで見えずらかったけど、少し顔が赤くなってた気がする。

 

「お、おれのは!もっとカッコイイのあるし!だから、これは違うっていうか・・・」

 

その姿を見てると何だかちっちゃい頃のかっちゃんを思い出してきた。

 

幼稚園の頃、遠足だったか何だかの時だったか。

遠足の中で三大楽しみの一つ、ワクワクのお昼時間。

皆が期待と共にバッグからお弁当を取り出す中、可愛いお弁当を片手に固まるかっちゃんを私は発見した。それはそれは、めちゃ可愛いお弁当箱だったのを覚えてる。

あの時かっちゃんが私に凄い言い訳してきて、最終的に「俺のじゃねーし!」とか言ってぶん投げたから、勿体ないと思って私が食べておいてやったんだっけか。

あれは旨い弁当だった。アスパラの肉巻きとか、超旨かった。

 

洸太きゅんの様子を見てると、あのかっちゃんが被る。

可愛い物ってそんなにアレなのかな。

背伸びしたいお年頃?

 

「似合ってるけど?」

「似合ってねぇ!!」

 

折角褒めたのにぃ。

つれないなぁ洸太きゅんは。

 

「それにしても、一日中ここに居たんだって?何してたの?」

「な、なんだって良いだろ!?おれの、勝手だ。ていうか、今更聞くなよ・・・・・・まぁ、いいや。パー子はパーだもんな」

「誰の何がパーだって?ん?てーかね、パー子パー子って呼ぶけど、私には双虎って死ぬほどぷりちーな名前があるんだからね?」

「ふた、こ・・・?ふぅん、変な名前」

 

このがきゃぁ。

 

大人の私は勿論これを見逃さない。

なので悪いお口を引っ張ってお仕置きしてあげる。

これは優しさだ。大人になって苦労しないようにという、先達者としての教育なのである。かっちゃんみたいになったらいかんよ。

 

「━━━━ん?」

 

不意に嫌な臭いが鼻をついた。

視線をそこへと向ければ、森の中に煙が立ち上っているのが見えた。木々の隙間から青白い炎も。

よくよく目を凝らしてみれば、色違いの煙も見える。

 

方角と距離から胆試しの場所と近い事は直ぐに分かったので、洸太きゅんから手を離し、代わりにスマホを取り出して包帯先生にコールする。

 

ツーコールの後、スマホ越しから包帯先生の疲れた声が聞こえた。

 

『どうした、緑谷。つまらない━━━』

「超山火事起きてます」

 

その一声で電話越しでも包帯先生の雰囲気が変わったのを感じる。切り替えが早くて助かるね。

 

『場所は?』

「場所は合宿玄関を出て10時方向。正確な距離は分からないんですけど、胆試しルートに近い可能性があります。あと、その近くで妙な煙が立ち上ってます。暗がりで色は分かりませんけど、紫っぽい?ような気が━━━━」

 

 

 

《━━━━皆!!!》

 

 

 

頭の中に突然声が響いてきた。

マンダレイの個性テレパスの言葉が頭に過る。

 

《ヴィラン二名襲来!!他にもいる可能性アリ!動ける者は直ちに施設へ!!会敵しても決して交戦せず、撤退を!!》

 

マンダレイの声が途切れたのを見計らい、包帯先生が怒鳴るように声をあげた。

 

『聞いたな、緑谷。何処にいるか知らんが直ぐに宿舎に戻れ。近くに誰かいるなら先導してやれ』

「洸太きゅんしかいないんですけど。他は良いんですか?」

『洸太くんが?なんでまた・・・はぁ、まぁ良い。洸太くんを連れて宿舎に急げ。間違っても余計な真似はするな』

 

そこでスマホはぶっつり切れた。

きっと補習組の世話を焼き始めたのだろうと思う。

 

「洸太、聞いた?そういう訳だから━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

「見晴らしの良いとこを探して来てみれば━━━おいおい、いきなりビンゴか?ああ?ボーナスか、ええおい」

 

 

洸太きゅんに声を掛けようと振り返ると、頭まですっぽりフードを被った、見るからに不審者なでかい黒マントがいた。

フードの下にクソダサイ仮面が見える。

 

 

「そっちのガキは資料にねぇなぁ。俺の仮面と違って帽子のセンスは中々イカスが、まぁ用はねぇ。それよりおまえだ、おまえ」

 

私の側にいた洸太きゅんを一瞥した不審者は、今度は私に人指し指を向けてきた。

視線が向けられた瞬間から背筋がゾクゾクする。

間違いなく特級にヤバイやつだ。

 

包帯先生には余計な真似はするなと言われたけど━━━。

 

「━━━なに?私が美少女なのは分かるけど、手を出すのは駄目でしょ。犯罪だよ、犯罪。許されざる罪だよ。━━━てか、人に指差すなってお母さんに教わんなかった?ダサマスク」

「はっ!ダサマスクか!奇遇だな、俺もそう思ってた。・・・はぁ、いいねぇ。そういう威勢のイイヤツとノリのイイヤツは好きだぜ、俺はよ」

 

そう言うとダサマスクはその仮面を外す。

顔面左側に深い傷痕を残した男の顔が露になった。

その目がその表情が、私の全身を粟立たせる。

 

楽しげに笑顔を浮かべたその男は続けた。

 

「確認させてくれよ、なぁ。おまえ、名前はなんつーんだ?」

 

言葉の端々から男の興味が私に集中してるのが分かる。しかもそれは趣味や趣向の話ではなく、何か意図を感じるもの。

その理由や背景は見えないけど、もし目の前の男がマンダレイの言っていた襲撃者の一人だとすれば、今回の襲撃もまた明確な目的があって行われてる可能性が高い。

 

そしてそれは幸いな事に、洸太きゅんには関係がないらしい。

なら、やることは決まってる。

 

私は側にいた洸太きゅんを引き寄せ、目の前のダサマスクに聞かれないようにそっと伝えとく。

施設へ逃げるようにと。

 

「やめ━━━━」

 

何か言いかけた洸太きゅんを引き寄せる個性で崖下へと飛ばす。そのまま落としたら死んじゃうから、勿論適度にこちらへ引き寄せ、落下速度を殺してあげるサービスも忘れない。

 

その私の様子を見ていたダサマスクが口笛を吹いた。

 

「ひゅー、流石にヒーローの卵ってか?気がきくなぁ、 おい。俺にもサービスしてくれよ」

 

「うっさいわ。さっきの質問答えてやる義務もないんだけど、私は体の半分が優しさと思いやりで出来てるから教えてあげる━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━なんて言うと思ったか!!バアァァァァァァァァカ!!ダサマスクに答える名前はぬぅあい!!!スーツと花束持って出直してこぉぉーーい!!」

 

 

私の言葉を聞いたダサマスクが大声で笑う。

本当に楽しそうに、その狂気に満ちた顔を歪ませて。

 

「はっはっ!!聞いてた通り、特大の馬鹿じゃねぇか!!良いぜ!!そういうの、嫌いじゃねぇぇぇぇ!!俺ァ、巷じゃ"血狂い"マスキュラーなんて呼ばれてる、しがねぇただの雇われヴィランだ!!なぁに、安心しな!!骨の十本や二十本へし折るかもしんねぇけど、殺しゃしねぇからよ!!短い間かもしんねーけど、宜しくなぁ!"緑谷双虎"ちゃんよぉ!!!」

 

 

男の腕が膨れ上がった。

歪に、異様に、吐き気がするような殺気と共に。

 



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こんな所までシリアスが『開戦ヲ告ゲル』の閑話の巻き

シリアス(*´ω`*)

はくびしん「全然帰る気ねぇな」
ギャグ「めちゃ居座る気だな」

シリアス退去予定、いまだ未定。


胆試しが始まっておよそ10分程。

俺と爆豪は何人かの脅かし役と遭遇しつつも、特に大きなリアクションをする事なくルートを進んでいた。

爆豪は胆試しが始まってから頗る機嫌が悪く、時折脅かし役に当たろうとするので抑えるのが大変だった。

 

「くそっが!んだって、てめぇと歩かにゃなんねんだ、死ね!!」

「くじなんだから仕方ねぇだろ」

 

最初は何に怒ってるか分からなかったが、たまに吐き捨てる言葉を聞いて爆豪が何に苛ついてるのかは察しがついた。━━━というより、こいつが心を乱してる時は大体緑谷関連なので分かりやすいだけなんだが。

そう考えると、今回の爆豪の行動には少し違和感を覚えた。

 

「・・・爆豪」

「んだ、クソ紅白!!ぶっ殺すぞ!!喋るんじゃねぇ!!」

「お前、今回は何も言わないんだな」

 

俺の言葉に爆豪が顔をしかめた。

言葉の意味が分かったのだろう。

 

俺は緑谷が洸太という子供を気に掛けているのが気になっていた。俺の時と比べても、それはかなり積極的な姿勢で、その元々の関係性の希薄さも相俟っていやに目についていた。そういう奴だと言われればそうなんだが・・・何故だか必要以上に距離をつめている気がしたのだ。

だからあいつに忠告しようと声を掛けたし、もし何か不都合がおきた時は助けを求めるように伝えた。後は本人次第ではあるが、少なくとも手はうった。

 

これまでの爆豪なら何かしら言葉を掛けてもいいと思ったのだが、その事に関して爆豪は未だ何も言っていない。

 

忌々しそうに俺を睨んだ爆豪は前へと向いた。

 

「っせぇ。余計なお世話だ、クソ紅白。どうせ言っても聞かねぇんだ。言っても仕方ねぇだろぉがよ」

「そうかもしんねぇけどな・・・」

「そもそも、あいつが距離測り違えるかよ。馬鹿だけどな、考えなしで動くやつじゃねぇ。なら、あいつが泣きついてくるまで放っときゃ良いんだよ、ボケ」

 

相変わらず口は悪かったがその言葉が信頼からくる物なのが分かり・・・正直少しだけ驚いた。仲が良かったのは知っているし、二人の距離については入学してから何となしに見てきたから知っている。だからこそ、余計に。

 

「変わったな、お前」

「あぁ?んだ、いきなり」

 

不思議そうな表情を浮かべる爆豪の顔を見て、もしかしたらこいつ自身分かってはいないのかも知れないと思った。指摘した所で認める事もないだろうし、伝えた所で何か変わることもないので何も言わないでおくが。

 

「・・・ん?」

 

不意に少し前の爆豪の姿が頭を過った。

体育祭の時、職場体験の時、緑谷に突っ掛かっていくその姿を。

そしてその姿に自分が重なるような気がした。

 

「・・・ああ、そういう事か」

「あ?何がだ、クソ紅白」

「いや、少しな。お前の気持ちが分かっただけだ」

「てめぇなんぞに分かられて堪るか、死ね」

 

前に分かったつもりだったんだが・・・成る程これは、ああして強い言葉を言いたくなるのも頷ける。

 

「・・・お前も苦労してんだな。あの時は、悪かったな」

「何を謝ってんだてめぇは。分かったような事言ってんじゃねぇ、本気でぶっ飛ばすぞ━━━━おい、クソ紅白」

 

緊張の隠った張りつめた声。

俺は足を止めた。

爆豪の顔を見れば怪訝そうな顔をしている。

 

「どうした?」

「妙な臭いがしやがる。焦げくせぇ」

 

言われて周囲の臭いを気にすれば何処か焦げ臭さが漂っている事に気づいた。どこから漂ってきているかは分からないが、空を覆う木々の隙間に目を凝らしてみれば、黒煙が立ち上っているのが視界に入る。

 

「爆豪、山火事かもしんねぇ。煙が━━━」

「口元押さえろクソ紅白!!火事じゃねぇ!!」

 

焦りが混じった声に、咄嗟に口元を押さえる。

爆豪の視線の先へと視線を移せば、何か燃えて起きる煙とは違う妙な色をした煙が立ち込めていた。

 

そしてその視線の先に倒れたB組の生徒も。

 

「爆豪警戒頼む」

「さっさと行けや。あの妙なもん吸うな」

 

出来るだけ呼吸を押さえながら近づき、倒れた奴の脈と呼吸を確認。外傷が見当たらず、明らかに呼吸に異変が起きているようなので背中に背負い爆豪の元へと戻った。本来なら倒れた人間を無闇矢鱈に動かすものではないが、ガスが原因なら置いておく方が不味い事になる可能性が高い。

 

《━━━━皆!!!》

 

爆豪と森の出口に向かって歩き始めた頃。

頭の中に声が響いてきた。プッシーキャッツのマンダレイの声だ。

 

《ヴィラン二名襲来!!他にもいる可能性アリ!動ける者は直ちに施設へ!!会敵しても決して交戦せず、撤退を!!》

 

マンダレイの言葉を聞いた爆豪が顔を歪める。

恐らく俺も同じような顔をしてるだろう。

だが、今はまず、自分達の身を守るのが先だ。

 

「━━━このガスもヴィランの仕業か。他の奴らも心配だが仕方ねぇ。ゴール地点避けて施設に向かうぞ。ここは中間地点にいたラグドールに任せよう」

「指図してんじゃねぇ・・・!?」

 

歩いていた爆豪の足が止まった。

爆豪の視線を追えば地面に膝をつく人影がある。

合宿期間中、ただの一度も見た事もない、それが。

 

「おい、俺らの前、誰だった・・・!?」

 

その焦った声に、恐らく俺と同じ物に気づいた事を察する。

その人影の前に腕が見えたのだ。

血の滴る、切り落とされた人間の腕が。

 

 

 

「きれいだ、きれいだよ」

 

 

 

「ダメだ、仕事だ」

 

 

 

「見とれてた、ああ、いけない」

 

 

 

弱々しい呟くような声。

けれど、その声には異様さが宿っていた。

俺はその声を聞きながら、爆豪の疑問に口を開く。

 

「常闇と・・・障子・・・!!」

 

人影が立ち上がる。

ゆらりと。

 

その後ろ姿に力は感じない━━━なのに、身の毛がよだつような悪寒が背中を這いずり回って仕方ない。

 

 

「きれいな肉面」

 

 

「ああ、もう、誘惑するなよ」

 

 

「仕事しなきゃ」

 

 

振り返った奴の姿はまた異様。

口だけを露出させた変わったマスク、体は拘束具で縛りあげられ腕も碌に動かせないような状態。

どう好意的に見ても、味方には見えない。

 

一言で言うなら異常者が相応しいような奴だ。

 

「交戦すんなだぁ・・・!?」

 

爆豪が眉間のしわを深くさせ、両手を構えた。

それは戦闘態勢をとった時の爆豪の構え。

 

「何処に目ぇーつけてんだ、あのクソプロ共!!なぶり殺されろってか、ああ!?」

 

マスクの人物から刃が伸びてきた。

口から飛び出したそれは枝分かれするように増えていき、数十本の刃となり爆豪に迫る。

爆豪はそれを後ろに飛び退いてかわし、ヴィランを一瞥した。

 

「クソ紅白手貸せや!!速攻でぶっ殺すぞ!!」

「交戦すんなって言われたろ!」

「っせぇ!!見たらわかんだろうが!!んな甘いこと通じる奴かよ!!何をするにしても、隙つくんねぇとどうにもなんねぇだろうが!!」

 

それは確かにそうなんだがな。

はぁ、仕方ねぇ。

 

「ぶっ殺すのはなしだぞ。━━━というか、爆豪、お前ならわかってるよな?」

「ああん!?いちいちうっせぇわ!ならぶっ潰しゃいいんだろうが!!」

「・・・そういう事じゃねぇ。まぁ、お前なら大丈夫か。余計な事言ったな、わりぃ」

 

 

短いやり取りを交わした俺と爆豪は、そのヴィランを前に構えた━━━━━。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

ヴィラン連合"開闢行動隊"、作戦開始時間から暫く。

ぼんやりとソレを眺めていると、全員を送り出してきた黒霧がドアを開き戻ってきた。

 

「ただいま帰りました、死柄木弔」

 

その言葉に俺は軽く手をあげ返事を返しておく。

小さい事だが、この小さなアクション一つで今後の黒霧の行動が変わるなら気にかける必要がある。

判断に悩んだ時、俺の利益の為、迷う事なく首を括るようになって貰わなければならない。

 

先生のように人を操るには恐怖だけでは駄目だ。

押し付けるだけでは、人は動かない。

 

救いを与え利益を与え、理解と共感を示し、それ相応の親愛を得なくてはならない。虫酸の走る話ではあるが、それこそが人を動かす鍵。なら、多少の不快感は我慢し、得るべきを得られるよう動くのが理というもの。

 

目的をただの目標で終わらせない為にも。

 

「・・・本当に彼らのみで大丈夫でしょうか?」

 

掛けられた言葉の意味は分かる。

黒霧が何を懸念しているのかも。

けれどそれは、問題にすらならない事だ。

 

「うん、問題ない。荼毘あたりが上手く纏めるだろ・・・それに、俺の出る幕じゃない」

「荼毘ですか・・・彼も謎の多い方ですが、信用出来ますか?」

「あのヒーロー殺し様のシンパだ。それも随分と熱心な。━━━なら、素性は兎も角として、一度決まった事を反故にするタイプの輩じゃない。それに納得した上で参加したんだ。ベストを尽くすだろうさ」

 

俺の言葉を聞いた黒霧が「ほぉ」と感嘆するような声を漏らした。それがどういう意味の元出された物なのか分からないが、悪い物でない事だけは分かる。

 

「━━━以前、貴方はオールマイト殺しをゲームだと仰った」

「そうだな・・・」

「ならば、この作戦もまた、そうなのですか?」

 

黒霧の言葉に俺を試すような意図が含まれている事は直ぐ察した。以前の俺ならぶち殺している所だろうが、今は不思議とそういう気持ちは起きない。

 

「・・・そうだな、けど今は少し違う」

「違う、とは?」

「ゲームで言うなら、今まではRPGだったんだ。装備だけ万端で・・・レベル1のままラスボスに挑んでた。でもな、やるべきはそうじゃなかった。SLGこそやるべきだったんだよ」

 

個人で勝つ必要はない。

どうであれ、最後に俺が勝てばいい。

 

「俺はプレイヤーであるべきで、使えるコマ使って格上を切り崩していく・・・それで良かったんだ。切り崩し方は自由。直接的もしくは間接的にでも邪魔者を排除していくのも良いし、搦め手を使って身動きを封じても良い。話し合って味方に引き入れても良いし、なんなら無視したって良い━━━━━得るべきは過程じゃぁない。結果さ」

 

倒す敵は多い。

一つ一つしらみ潰しにするにはあまりに多すぎる。

だから、自称善良な方々にお力添えして頂く。

 

その為にも、あいつらには精々活躍して貰わねばならない。

 

「開闢行動隊。奴等は成功しても、失敗してもいい。大事なのは、そこに来たって事だ。その事実がヒーローを脅かす。最初の楔だ」

「捨て駒ですか・・・?」

「バカ言え。俺がそんな薄情者に見えるか?奴らの強さは本物だよ。向いてる方向はバラバラだが、頼れる仲間さ」

 

そう言うと、黒霧が押し殺すように笑った。

 

「それは申し訳御座いません。その様には見えなかったので」

 

こいつは良くも悪くも俺をよく分かっている。

先生の真似事をしているのは察しているのだろう。

こちらも初めからそう簡単に落ちる奴だとは思っていない。こいつはまだ先生側の人間。先生の言葉一つでいつでも敵になる、そういう奴だというのは分かりきっている。

 

━━━とはいえ、面白くないものは面白くないが。

 

「━━━十分か、黒霧」

 

そう黒霧の笑い声を遮ると、黒霧は大きく頷いた。

 

「ええ、これ以上なく。私のつまらない質問にお答え頂きありがとう御座います。さて、時間もあります。何か淹れますか?」

「てきとーになんか作れ」

「かしこまりました、死柄木弔」

 

いそいそと準備を始めた黒霧から視線を外し、再び手元のソレを眺めた。

 

 

 

今回招待する、ゲストが写った写真を。

 

 

 

「今度はゆっくり話をしよう。そう、言ったよなぁ。なぁ、緑谷双虎」

 

 



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この世で男が膨らませて良いのは浮き輪とパン生地だけだ!!誰が腕やら足やらを膨らませといった!!この筋肉フェチのど変態野郎がぁ!え?他にも?あるんだけど?よく分からん!それも取ってしまえ!の巻き

シリアス「超、活躍、わたし。はくびしん、結婚しよ」

はくびしん「お付き合いからお願いします」
ギャグ「!?なによ!浮気!?」

はくびしん「!?ち、違うんだ!つい!」
ギャグ「つい!?」

ごめんやで、今日もシリアスなんや。



眼前に膨れ上がった赤い塊が見えた。

束ねられた繊維が何十本も集まったようなそれは、ダサマスクの動きに合わせて伸縮し、その異様な見た目に反する事ない得体の知れない破壊力を目の前に叩きつけてきた。

 

視界の中、大地に刻まれた幾十もの傷痕が映る。

それを作り出したダサマスクも。

 

「ははっ!速ぇな!!初撃をかわしたのもそうだがっ、俺の速度にここまでついてこれたのは、てめぇが初めてだぜ!!」

 

そうがなったダサマスクは膝を曲げた。

脚部の筋肉が膨れ上がるのが見える。

ダサマスクの視線、体の向き、姿勢から飛び込んでくるルートを予測。

安全地帯に向けて、思いきり体を引っこ抜く。

 

風切り音が鳴る。

振り抜かれた豪腕が鼻先を通り過ぎる。

 

ダサマスクは勢いを圧し殺せず、そのまま岩壁へと拳を叩きつけた。轟音が鳴り、粉塵が舞う。深々と岩肌に突き刺さる腕が見える。

普通なら自滅物の凄惨たる結果だが、ダサマスクにダメージは見られない。余裕の笑みを浮かべたまま突き刺さった腕を横に動かし、チーズのように岩肌をくり抜き腕を脱出させてくる。

 

それは直撃した時の破壊力を嫌でも脳裏に過らせた。

 

「いまいちテンションあがんねぇな。なぁ、一発くらい当たっとこうぜ?ヒーローだろ?なぁ?そうしたらよ、もっとノレんだよなぁ」

「うっさいわ。そんなに当てたかったら、自分の腹でもパンチしてろ。そんで勝手に自滅しろ。ドMハゲ」

「ぶわっははは!!今度はドMハゲかよ!よくまぁ、色々思い付くなぁ、お前!!いや、面白ぇよ本当!!はははは!!」

 

腕を回しながらそう言うダサマスク。

恐らく言葉に嘘はない。

本当にノレてないのだと思う。

 

気分屋の人間はそういう些細な理由で本気を出さない。━━━というより、出せない。本当にこの手の連中は気分で動いているのだ。利益や理性、論理的な理由は一切なく、気の持ちようで力を十全に発揮しないのである。

 

・・・私も似たような時があるので分かる。超分かる。一人で勉強とか、マジで無理ぽよだもん。あれはノレない。

 

「━━━ボーッとしてる余裕があるなんてなぁ、心外だぜ、俺ァっよ!!」

 

飛び込んでこようとするダサマスクの前へ炎を吹く。

溜めなしの目眩まし。

威力はない。

 

引き寄せる個性で横に飛ぶ。

 

もしダサマスクが何の考えなしに突っ込んだら崖下にまっ逆さま。洸太がまだ近くにいる可能性がある以上、それは望ましくはないけど━━━━問題はないと思う。

 

その豪脚をもって地面を蹴ったのか、けたたましい轟音が鳴る。音が聞こえた瞬間には炎を突き破りダサマスクが現れるが━━━その目は予想通り私の姿を捉えていた。

 

「ははっ!だよなっ!!」

 

空中で体の向きを強引に変えたダサマスクは、崖っぷちぎりぎりでに踏みとどまった。

そして、一瞬の迷いもなく私に飛び込む。

 

けれど、それは私も読んでいた事。

 

さっきダサマスクが突っ込んだ壁に向け体を引っこ抜く。ダサマスクの攻撃範囲から離脱。

 

加えて飛び込んでくるダサマスクの顔面と足下の地面を対象に引き寄せる個性をフルスロットル発動。空中でまともに動けないダサマスクの間抜けな面を、思いきり地面に叩きつけてやる。地面を容易く抉る驚異的な踏み込み、そこから生まれる加速と破壊力が全てダサマスクの顔面に集中。けたたましい音を鳴らし、地面を抉り飛ばしながら顔面をもみじおろしする姿は正直トラウマ物である。

 

「━━━っ!!」

 

流石に死んだかな?と心配したけど、ダサマスクは直ぐに起き上がってきた。削れたと思った顔面も赤い繊維が覆って守っている。

 

「・・・個性が二つだっては聞いてたけど、それよりなにより上手いなぁ、お前。ああ?使い方だよ、使い方。本当に学生か?どう?つーの?それに入ってるぜ」

 

顔を覆っていた赤い繊維を体の中に戻し、ダサマスクは首を鳴らした。赤い繊維の下の顔はほぼ無傷。余裕は崩れない。

 

「どうなってんのそれ?筋肉みたいに見えるけど」

「ぷっ、ははは!聞くか普通よ!?でもまぁ良いぜ!面白いもんでねぇけど教えてやるよ!俺ばっか知ってんのはフェアじゃねぇもんなぁ!!ははははは!!」

 

ダサマスクは腕を前に突き出した。

腕が膨れ上がり出し、ついには皮膚が耐えきれなくなったかの様に裂ける。そしてそこから赤い繊維が溢れ出していく。蠢きながら腕に絡みつき、脈打つように躍動する。

 

「俺の個性"筋肉増強"。言葉の通り、筋肉を増やして強化する、それだけの個性だ。見ての通り増やし過ぎっと皮下から飛び出ちまうデメリットもある━━━ま、それだけだな。他には特にねぇ。本当にそれだけの個性なんだよ。なぁ、面白くねぇだろ?」

 

そう言って笑うダサマスクに少なからず苛立ちを覚える。ダサマスクは笑ってそれだけと言うが、それこそが死ぬほど厄介なのだから。

単純な強化系の個性、それは単純であるが故にあらゆる場面で力を発揮する万能性のある個性だ。勿論鍛えが足りなかったり、個性使用に関するデメリットが大きかったり、個性自体の出力が低ければ話は変わるが━━━平均的に見ても強化系個性が強個性である事に変わりはない。

 

「そう怖い顔で睨むなよなァ。俺こうみえて繊細だからよぉ、傷ついちまうぜぇ!!」

 

ダサマスクが地面を叩いた。

粉塵が巻き起こり、蜘蛛の巣状のひび割れが私の足下まで届く。

 

ギアが上がったのを感じ、私は引き寄せる個性と脚の筋肉をフル動員してその場を飛び退く。

 

飛び退いた直後、大きな影が私のいた場所を通り抜ける。

粉塵が吹き飛ばされ、拳を振り抜いた様子のダサマスクがそこに見えた。

 

「これもかわすか!!面白ぇ!!けどな━━━━」

 

片腕だけだき巻き付いて筋肉が両腕を包む。

ダサマスクの目の色が変わる。

 

「━━━そろそろ、血ぐらい見せろやぁ!!!!」

 

爆発的な加速。

一気に距離を詰められる。

引き寄せる個性で更に飛び退き、攻撃の射程外へ。

 

けど、ダサマスクは岩壁を豪腕で掴み、腕力に言わせて体を引っこ抜く。空中を更に加速。開いた距離を詰めてきた。

 

「まずはァ、一発!!」

 

振りかぶったダサマスク。

私は振り抜かれるより速く力一杯引き寄せた。

自分の体をダサマスクの頭へと。

 

急速に加速する体は飛ぶ。

ダサマスクの攻撃射程内、その不可侵たる奥へと。

 

拳の打ち所を見失い目を見開いたダサマスク。

引き寄せる個性を拳とダサマスクの顔面に発動。

全身の体重を乗せ、限界まで加速させた拳を間抜け面へと叩きつける。

 

感触はいまいち。

確かに当たったけど、やはり増強させた筋肉が盾になっていた。だが、無駄ではない。顔面への攻撃に面喰らったダサマスクが失速したから。

 

そのまま引き寄せる個性で側の岩壁に飛ぶ。

壁に着地した後は引き寄せる個性を発動し続ける。長い時間は無理だけど、少しの間は張り付いていられる。

そのまま落ちていくダサマスクへ視線を移し、限界まで溜めた炎を吹き付けた。

 

灼熱の蒼炎がうねりをあげて落ちる。

 

「━━━はっ!!すげぇじゃねぇかよ!!」

 

そう笑ったダサマスクが炎に包まれた。

火だるまのまま地面に落ち、周囲へと火の粉を散らす。

本来なら人に使うような火力じゃなかった。

けど、確信する。

 

この程度、足止めが良いところだと。

 

「はははっ!!っちぃなぁ!!」

 

火の塊から赤い腕が生えたかと思えば、豪風が吹き荒れダサマスクを焼いていた炎が消し飛んだ。

多少の火傷は見えるけど、致命傷とは程遠いらしい。

元気そう。

 

そのまま壁に張り付いてもいられないので個性を切る。

着地後を狙われる可能性も考慮してダサマスクから目を離さないようにする。

 

予想に反してダサマスクは私が着地するまで何もしなかった。ただ、楽しそうに笑うだけで。

 

着地して態勢を整えると、ダサマスクが嬉しそうに口を開いた。

 

「つぇーよ、お前。パワーはねぇが、その分速ぇ。それより何より、その判断力と行動力、失敗した時の切り替えの早さ。一級品だ。本当に面白ぇ━━━だからよ、止めだ」

 

ダサマスクは左目を掴み、その目を取り出した。

やや、スプラッターかな!と思ったけど血は出ていない。よく見れば変な目だなぁと思っていたそれは義眼だったようだ。道理で視線が動かない訳だ。

 

「手加減は止めだ、止め」

 

ダサマスクは取り外したそれを地面に捨て、左手をポケットに突っ込む。

そしてなにかを探すようにガチャガチャと探り始めた。

 

「殺さねぇように加減してたけどよ。でもよ、大丈夫だよな、お前ならよ」

 

ボロボロとポケットから義眼が落ちていく。

どれも模様だったり飾りだったりが騒がしい奴ばかり。なんかファッション義眼らしい。

 

おしゃれ義眼とかコア過ぎるよ。

何処で売ってんの、あれ。

 

・・・は!しまった!そんな事気にしてる場合じゃなかった!

あんまりにもツッコミ要素満載だったからつい!

 

視線を落ちてる義眼からダサマスクに戻す。

すると丁度一つの義眼を目に嵌める所だった。

 

「本気の義眼だ・・・やろうぜ、緑谷ァ!!」

 

腕だけを覆っていた筋肉が全身を包む。

唯一肌を露出させた顔面もその殆どが筋肉の鎧に覆われていた。

 

一見すると肉団子みたいな不格好な姿。

いつもなら笑っている所だけど、その時は全身が震えた。そして頭の中を嫌な予感が何度も過っていく。

 

 

 

 

 

地面が爆発した。

咄嗟に高い所の岩肌へと体を引っこいた私は、宙を跳びながらそれを見下ろす。

 

ダサマスクが拳を叩きつけたそこには大きなひび割れが起こり、安全だった足場は大きく崩れ崖下へと落ちていく。その様子に洸太の事が頭を過るが、あれから大分時間が経っている。子供の足でもとっくに施設についてる程に。

 

だから、直ぐに思慮を切り替える。

目の前の化け物へと。

そしてダサマスクの視線が私の視線と交差した。

 

「そこか、緑谷ァ!!!」

 

一息すらつかず、ダサマスクは私に向かって真っ直ぐ飛ぶ。引き寄せる個性で体を引っこ抜き攻撃範囲から避けたけど、その突進の余波に吹き飛ばされた。視界が回る。轟音が聞こえる。

 

何とか着地し顔をあげれば、 壁に拳を突き刺すダサマスクが見えた。さっきの比じゃない。肩まで深々とめり込んでいる。そして筋肉を増強し過ぎたのか、筋肉が詰まっちゃって最初の時のように直ぐに復帰できなくなってた。なにあれ、超ザマァ。

 

恐ろしい程の超パワー、圧倒的なダッシュ力、筋繊維による防御力。

まともに戦ったら勝ちはないだろう。

なら、まともに戦わなければ良いだけの事。

 

見張らしいいここで戦う必要はない。

幸いな事に少しいけば視界を塞ぐ木々がある。身を隠しながら持久戦に持ち込めば、如何にも燃費の悪そうなダサマスク、勝機はまだまだあるだろう。

いざとなれば隠れて逃げてしまうのもアリだ。プロ様を巻き込んで戦っても良いのだ。

 

 

 

 

━━━そう思ってた。

 

 

 

 

少なくとも自分の後ろを見るまでは。

 

 

「━━━━っ、なんで!?」

 

 

森への最短の道。

このひみつきちの入り口に当たるそこに赤い帽子を被った子供の姿を見てしまった。

 

時間は稼いだ、逃げ切れるだけの。

本来ならとっくに保護されてる筈だ。

なのに、まだそこに洸太の姿が見えた。

 

思わず怒鳴り散りそうになったけど、結局その声は出なかった。

洸太の浮かべていた表情が見えてしまったから。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃにし、心配そうにこちらを見つめるその顔が。

 

 

 

 

 

ガラガラと石か何かが崩れるような音が聞こえる。

軋むような音も、男の荒い息遣いも。

 

「よそ見すんなよ!なぁ!俺と遊ぼうぜ!!」

 

ダサマスクが踏み込む音が聞こえた瞬間、私は飛んだ。

多くを選べる余裕はない。

選択は選べて一つ。

 

私は腕を伸ばした。

馬鹿でお人好しな、人一倍優しいその子に━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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少年誌のピンチ時の覚醒とか好きじゃない。なんかさ、ご都合過ぎない?いや、分かるよ?積み重ねあっての事だし?でもねぇ・・・とか言ってたのが懐かしいなぁ。仕方ないわ、あれは、なる時はなるもん。の巻き

『聞いたでしょ?洸太、施設に逃げて』

 

いつも軽口を叩いていたパー子が短く、真剣に僕へそう言った。意味が分からなかった訳じゃない。僕がいると邪魔になるんだって、すぐ分かった。

 

けど、僕は男の顔が頭から離れなかった。

怖かったけど、それ以上に頭が熱くなった。

お腹の所がぎゅうってどうしようもなくなった。

 

だってお面の下にあったのは、パパとママを殺した犯人の顔だったから。

 

だから僕は━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

「おーーい、どうした、もう終わりか?なぁ?もう一踏ん張りしてみよーぜ、なぁ!」

 

そう言ったその男は地面に横になったまま動かないパー子を蹴り飛ばした。地面を滑っていくパー子はうめき声もあげない。泥で汚れた顔も、変わらない。

男に撥ね飛ばされた後からずっと。

 

男はパー子に向かって歩く。

ゆっくり。

 

「あれ、もう一回やってみよーぜ。なぁ。すげぇ引っ張られた。なんだあれ。俺のMAXの突進、完璧じゃねぇとはいえあんだけ減速させたのは初めてでよ、なぁ、試してみようぜ?なぁ、聞いてっかよ━━━えぇ、おい、ボロ雑巾」

 

男の足がパー子の頭を踏みしめる。

見るからに痛そうなのに、やっぱりパー子は表情を変えない。目を瞑ったまま、ぐったりしたまま。

 

「・・・・あぁ、んだ、つまんねぇな。折角ノッテ来たのによ。まぁ、ぶっ殺す訳にもいかねぇしな。かまいやしねぇか」

 

そう言った男はパー子を小突くように蹴った後、ぐったりしたままのパー子を肩に背負った。何処かへと歩き出そうとする男の背中。

その時になって、僕はやっと体が動くようになった。

 

「やめろぉ!!!」

 

振り絞った声が、男の足を止めた。

男は振り返り怪訝そうにこちらを眺める。

そして「ああ、そういう事か」と呟いた。

 

「妙だとは思ってたんだ。それまで直撃だけ避けてたこいつが、態々真っ正面からぶつかってくるなんてよ。策があんのかと思いやゴリゴリの力押し。やるにしたって手は幾らでもありそうだってのによぉ。・・・卵っつっても、流石ヒーロー様だな」

 

カラカラと笑う男は僕を見下ろす。

楽しそうに。

 

「ありがとよ、正直助かったぜ。逃げ足速そうだから、森に逃げ込まれたらまじぃなとは思ってたんだ。こいつの足止めてくれて、マジありがとな。坊主」

 

男の言葉に胸が苦しくなった。

 

「だからよ、お前は見逃してやるよ。お家に帰んな。言っとくけど、特別も特別だぜ?俺はよ、差別しねぇ主義だからな。女も男も餓鬼も、みーんなちゃんとぶっ殺してやってんだ。普段だったら、お前みたいな餓鬼捻り殺してんだけど、まぁ、今は気分が良いからよ」

 

殺すっていう言葉にパパとママの顔が浮かんだ。

そして目の前のパー子の、楽しそうに笑う顔も。

 

「うるさいっ!!何が、気分だ!!そうやって、僕のパパも、ママも、殺したのか・・・!!パー子離せよ!!」

「あ?パパとママだぁ?知らねぇよ、なんだそれ?」

「ウォーターホース!!わ、忘れたなんて言わさない!!僕のパパとママだ!!」

 

僕の言葉を聞いて男がきょとんとした。

そして何かを思い出したように「ああ」と声を漏らし僕に向き直る。

 

「マジかよ、ヒーローの子供かよ?しかもあいつらか。なんだよ運命的じゃねぇの━━━」

 

男が空いた手で顔の左側を触る。

傷ついたそこを。

 

「ウォーターホース。この俺の左目を義眼にした、あの二人だ━━━━ははっ、世間はせめぇな、おい」

 

そう笑う男にどうしようなくムカついた。

言葉に少しの悪気も感じないから。

 

「なんだ、あれか、それで戻ってきたのか?ふくしゅーとか、そういう奴か?おい?なぁ、おい?・・・感心しないぜ、そーいうの。ヒーローの子供らしく、健全にいこう、な!」

 

一瞬何を言われたか分からなかったけど、直ぐに分かった。そうしたら頭が一気に熱くなって叫んでた。

 

「な、何が!!なんで、お前にそんな事っ!!お前のせいで!!お前みたいなのがいるから!!」

 

男は呆れたように溜息をついた。

 

「よくないぜ、責任転嫁はよ。まるで俺が悪者みてぇじゃねぇか。確かにぶっ殺したけどよ、ありゃぁ、お互い同意の元にやった事なんだぜ?俺はぶっ殺したかった。で、あの二人はそれを止めたがってた。意見が違えばよ、そりゃぶつかるしかねぇよな?その結果があれってだけの事なんだよ、分かるか?なぁ?」

 

「だからよ、この眼のこと、俺は恨んでねぇぞ?仕方ねぇよ。お互いやりてぇことやった結果さ」

 

「恨むなんてのはお門違いってやつさ。もし悪いやつがいるなら、それは俺じゃねぇ・・・・」

 

男が僕に向かって歩いてきた。

ゆっくり、少しずつ。

 

「悪いのはな、出来もしねぇことをやりたがった━━━」

 

男の腕に赤い線が沢山つく。

パー子を倒した時、体についてた物だ。

それが何かは分からなかったけど、それが個性なのは分かった。ニュースで見た、増強型の個性。

 

「━━━━てめぇのパパとママさ」

 

振り上げられた拳。

僕は咄嗟に横に飛んだ。

 

大きな音が鳴った。

起き上がってそこを見れば地面が割れてる。

パー子が、パパとママが、何と戦っていたのか。

その時になってやっと分かった。

 

「━━━━だ」

 

僕は大馬鹿だ。

 

「━━と、おいおい、急に動くなよ。一思いにぶっ殺してやろうと思ったのによ。良い機会じゃねぇか、パパとママに会いにいっちまおうぜ。ま、片道キップだけどな・・・・!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

迫ってくる男に個性で水を飛ばした。

水は男の体に張り付く赤い物にあたり弾けてしまう。

男の足は少しも止まらない。

 

少しだけど岩も壊せるのに、少しも通じなかった。

 

思うように立てなくて這って逃げたけど直ぐに捕まった。背中を踏まれて身動きがとれなくなる。

 

「選ばせてやる。このまま踏み殺されるのと、お前のパパとママみたいに殴り殺されるのと、どっちが良い?」

 

いやだ。

 

「シンキングタイム~5秒もあれば決まるか?」

 

いやだ。

 

「おい、答えろよ」

 

いやだ。

 

「なぁ!」

 

 

 

 

「助けて━━━━」

 

 

 

 

 

何故だか急に体が軽くなった。

振り返れば男が仰向けに倒れている。

 

そしてその隣。

 

ゆっくり起き上がる人影が見えた。

震える足で、揺れる体で、荒い呼吸で、歯を食い縛りながら傷だらけの顔をあげる━━━

 

 

 

「・・・私の、洸太きゅんに、何してくれてんだよ。ぶちのめすぞ、クソホモ野郎」

 

 

 

━━━パー子の姿が。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

不思議な感覚だった。

目の前がぐらついたと思えば、空を眺めていた。

起き上がろうにも直ぐには起き上がれず、俺の肩から落ちたであろう緑谷が、視界の端で立ち上がるのを呆然と眺めるしか出来なかった。

 

何が起きた?

 

理解する間もなく、緑谷の足が俺の横顔を蹴り飛ばしてくる。個性の発動が上手くいかずモロに当たった。口の中が切れたのか、鉄の味が舌を這う。

 

ふらつきながら餓鬼の元に歩く緑谷の背中に、思わず声をかけた。

 

「待てよ、おい。お前だろ、何しやがった?」

 

投げ掛けた言葉に返ってくる物はなかった。

緑谷はただ俺に背を向け進み、餓鬼を起き上がらせ腕に抱き締める。

 

餓鬼の嗚咽を聞きながら、俺は考えた。

早急に答えを出さないと不味い予感がしたからだ。

雰囲気が変わった。僅かだが。

 

恐らく今の緑谷は俺と同じ、スイッチが入ってやがる。それも相当やばいスイッチが。

 

あの目だ。

僅かに俺に向けられた視線。

それが全てを物語っていた。

 

死柄木が目をつけた理由がようやく分かった。

あれは━━━俺達側の人間だ。

 

「ははっ、俄然、やる気になったぜ」

 

指に力を込めれば普段より幾分か鈍いが動かせた。

転がるように体勢をうつ伏せにし、全身に力を込める。

かなり重く鈍く感じるが立ち上がれた。

 

ふと緑谷に視線を向けると、酷く冷めた目とかち合う。

まるで物でも見るような、そんな冷めた目だ。

 

「━━━野暮な事は聞かねぇ。抵抗すんだろ?なら、やろうぜ。とことんやろう、な」

「っさいわ。禿げろ」

 

口でなんと言おうと冷静を取り繕うと、冷めてる癖にやる気満々なその目を見れば分かる。たまに見るそれ━━━怒りだ。それもかつて向けられた物の中で一二を争うレベルの憤怒。背筋がゾクゾクして堪らない。

 

段々と戻ってきた感覚。

今出来る最大限を足に込める。

 

「じゃ、再開と━━━━━っ!!?」

 

気がつくと地面が目の前にあった。

踏み込んだ筈の足は空をきる。

混乱してる間に俺は顔面から地面に落ちた。

 

なんだ、こりゃ?

 

体が起き上がらない、さっきと同じ感覚だ。

いや、正確には起き上がろうとはしてる。

それが不思議なまでに上手くいっていないだけ。

 

足音が聞こえてきた。

何とか首を持ち上げれば、こちらへと駆けてくる緑谷の姿があった。

 

全身の筋肉を増強、瞬時に鎧を作り出す。

どうにも上手く個性が発動出来ず、鎧はかなり薄い。

緑谷はそんな俺に思いきり蹴りを放った。

まるでサッカーボールでも蹴るように。

 

衝撃が顔面に響き体が宙に浮く。

蹴りの威力で飛んだのかと一瞬錯覚するが、背中を引っ張られるような感覚にそれが間違いである事を知る。

 

岩壁まで吹き飛ばされ、背中が強く叩きつけられた。

衝撃の重さはそこまでじゃない。

どっちかといえば、顔面を蹴飛ばされたほうがダメージはでかい。

 

くらつく視界、その中にこちらへ追撃する緑谷が見えた。迎撃の為に体に力を込める━━━がやはり上手く個性が働かない。というより、体が言うことを利かない。

 

結局また緑谷の攻撃を受け止める事になった。

引き寄せる個性で限界まで加速した、緑谷の渾身の飛び蹴りは容易く俺の肋骨をへし折ってくる。

 

痛いと思える攻撃はいつ以来だったろうか。

思わず過去が脳裏を過っていく。

そしてその時、何が頭の中でハマった。

 

思い出したのだ。

まだ餓鬼だった頃、似たような経験があった事。

それが何を原因としていたのかを。

 

「くぉぉぉぉらっ!!」

 

出来る限り筋肉を増強させた腕で振り回す。

緑谷の反応は早く直ぐ様飛び退いていく。

だが、それで良い。

 

時間を稼げれば。

 

筋肉増強。

普段強化しない目の筋肉を強化し、筋繊維を頭の中へと潜り込ませる。傷ついたら一発で終る器官だらけの場所。出来うる限り慎重に。

筋繊維から伝わる触覚を頼りに、俺は脳を筋繊維で覆った。

 

次の瞬間、その筋繊維から固いものに何度もぶつかるような感触が伝わってくる。そして視界が僅かにぐらつく。

ビンゴ。

 

「出来たとしてもやるかよ・・・!加減一つで人が死ぬぞ、おい。ヒーロー様よ!!」

 

そう声をあげれば緑谷が怪訝そうな顔をした。

俺が対応した事に驚きは見せない。

どちらかと言えば、そうなると思っていたような顔だ。

 

緑谷がやった事は至極簡単。

引き寄せる個性とやらで、脳みそを引き寄せ頭蓋にぶつけてやがった。それも、ただ強くぶつけた訳じゃない。前後左右小刻みに引き寄せ、脳を揺らした。脳震盪を起こさせてやがったのだ。

 

その事実に体が震えた。

実質それは命を握られていたという事他ならない。

筋繊維で覆う前、何時でも俺を殺せたのだ。

 

それに簡単とは言ったが、それはあくまで理論上。

少しでも失敗すれば脳震盪は起こせない上、下手をうてば即死するような技だ。それをこいつは眉一つ動かさずやった。それも戦闘中に僅かな狂いもなく。

 

化け物━━━そういう言葉が頭を過った。

 

「死柄木よぉ、こいつは駄目だ━━━」

 

━━━こいつは生かしておいたら駄目だ。

 

捕獲から排除に考えを切り替える。

 

今ならまだ殺せる。

手に負えなくなる前に、殺せる。

楽しみだ云々言ってる場合じゃねぇ。

 

ここで確実に。

 

筋肉増強。

限界まで増幅させる。

 

やることは一つ。

反応出来ない速度で、最強をぶち当てる。

後先は考えねぇ、それだけをやる。

 

膨れ上がった筋肉の隙間から緑谷の位置を改めて確認━━━したが、そこにはもう緑谷の姿はなかった。餓鬼の姿も。

 

狭い視界の中、緑谷の姿を探す━━━がいない。

 

カラっ。

 

そういう音が聞こえた。

 

顔をあげれば壁に張り付く緑谷、それとその背中に背負われた餓鬼の姿があった。緑谷の口は何かを溜め込んだように大きく膨らんでいる。見覚えがあった。炎を出すときのモーション。

 

「今更、炎か!!効かねぇっつんだよ!!」

 

緑谷の炎は火力が弱ぇ。

エンデヴァークラスの火力ならまじぃが、あれなら耐えられる。それに今は限界まで筋肉を増強してる。盾が厚い。

 

そうこうしてる内に緑谷の口から炎が放たれた。

けれど、それはさっきの青い炎じゃなかった。

見たこともない、真紅。赤より更に鮮烈な赤、真紅の炎だった。

 

嫌な予感が頭を過る。

全身の細胞が避けろと叫ぶ。

だが無理だ。

 

限界まで筋肉を増強させた、小回りがきかねぇ。

解除するにも時間が掛かる。

何より今のこの増強させた筋肉にはスタミナを全部注ぎ込んじまってる。これで仕留めねぇとやられるのは俺の方だ。

 

耐えるしかねぇ。

歯を食い縛る。

くるであろう痛みに備え。

 

「ぐぁっ、あああっ!!?」

 

それは一瞬。

落ちてきた真紅は容易く俺の筋繊維を貫き、俺の肉体を、左肩を焼いた。鼻に焼け焦げた臭いがつく。痺れるような痛みが身体中に響いていく。

 

だが、耐えきった━━━そう思っていた。

 

直後違和感を感じた。

貫かれたそこが異様なまでに熱い。

痛みは当たり前だが、それとは何か違う。

視線をそこへとやれば、真紅の炎が燻っていた。

 

いや、正確にはぶつかった瞬間周囲に散っていた炎が、傷口に集まっていたのだ。

振り払おうと体を揺らしたが効果はない。

炎はまるで意思があるようにそこへと移動していく。

 

炎は傷口を更に焼き、そして内側から体を焼く。

絶叫しそうな痛みが身体中に走る。

数十秒もしない内、肩の付け根に落ちたそれは左腕から自由を焼き殺した。

 

痛みに耐え顔をあげれば緑谷の口がまた大きく膨らんでいる。またそれが来る。

 

俺の突進を警戒した緑谷に隙らしい隙が見られない。

一撃で仕留めることを諦め、増強させた筋繊維を多少減らし軽くする。先の攻撃を避けられるよう。

 

再び緑谷の口から炎が放たれる。

二度目はない。

 

カウンターを狙らう為、その場を飛び退き━━━━俺は目を疑った。炎が俺を追ってきていたのだ。それは生き物のように宙をうねり、真っ直ぐこちらに向かってくる。引き寄せる個性という言葉が頭を過る。

確かに体育祭の映像を見せられ炎を集めている姿は見ていたが、これは明らかに違っていた。

 

画像のそれはお世辞にも完璧とはいえない物。

辛うじてそう出来ている。そういう類いの物だった。

だから脅威を感じなかったし警戒もしてなかった。

 

「くそがっ!!!」

 

飛び退き宙に浮いていた俺に避ける手段はなく、灼熱の真紅が右肩を貫いてく。

何とか着地したが痛みに悶える間もなく、突き抜けた真紅は弧を描くように宙を舞い戻り、今度は右足を貫き、そのまま左足まで貫いていった。

 

「がぁぁぁぁっ!!」

 

貫かれたそこが熱い。もはや立っていられなかった。

痛みにのたうち悶えながら、何故こうも容易く貫かれたのかやっと分かった。高温である事は勿論だが、炎が殆ど散らなかったのだ。それは高圧水流のように、圧縮し洗練された炎。しかもその炎はどうにも狙った場所に落とせるらしい。

 

散らない高温の炎。

誘導性能もあり、加えて炎の移動速度は極めて速い。

盾を貫いてくるこいつを、どう攻略すれば良いか考えつかねぇ。

そもそも、あれを頭に落とされりゃそれだけで終わりだ。痛みに悶えながら視線をあげれば、直ぐ側に緑谷の姿があった。餓鬼の姿はねぇ。恐らく何処かに置いたんだろう。

 

「━━━っ、おい、おい、こんなの持ってんなら、言えよな。ずるいぜ」

 

痛みに堪えてそう言えば、緑谷はつまらそうな顔をした。そして足を大きく振りかぶる。

 

「やっかましいわ。ずるいも何も、私だってこれが二度目なんだよ」

 

二度目。

たった二度目でこれか。

 

「化け物だな、お前」

「誰が化け物だ」

 

振り子のように弧を描き落とされた足先が見えた。

鋭く速い腰の入った振り。

 

「私はただの超絶美少女、産まれながらのスーパーアイドル緑谷双虎ちゃんだ。よーく覚えとけ、ダサマスク!!」

 

頭に衝撃が走り、意識が遠くなっていく。

朦朧とする意識の中、ふとそれが気になった。

どうでもいいそれが。

 

「ダサ・・・マス・・・ク・・・って、俺、もう、ずっと被って・・・ねぇだろ。いつ、まで・・・・」

 

 

 

「お前の渾名はこれから一生ダサマスクだ。メディアに流してやる。ざまぁ」

 

 

 

 

「たまん・・・ねぇな、おい━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シリアス「おいおい、兄弟。こいつは、なんの真似だ?」ジュウコウムケラレー

はくびしん「兄弟、言わんでも分かるだろう?長い付き合いだ」シガーチョコプカー

シリアス「用済みって事か・・・先に地獄で待ってるぜ、兄弟」フッ

はくびしん「向こうについたら挨拶に行くぜ兄弟」カチャリ


パァン


ギャグ「珍しく前書きしないと思ったら、後書きで本編よりシリアスしてんじゃぁないよ!!」

はくびしん「てってれー」ドッキリ
シリアス「てってれー」ダイセイコウ

ギャグ「んで仲良しか!」

茶番ごめんやで。
シリアスすぎてやってられん。


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お説教はすればいいと言うものではないと思います!先生!何事もタイミングというか、ね!そういう物があるから!何も私だけが悪い訳じゃ━━━あ、はい、すいませんでした。反省はしてます。の巻き

あっぶねぇぇぇぇぇぇ!!せぇぇぇぇふ!!




ダサマスクをボッコボコにし髪の毛を全部焼き払った後、洸太きゅんを背負った私は宿舎に向かって走っていた。正直体はボロボロ。今すぐにでも寝転びたい気持ちで一杯だけど、流石に今はそうも言ってられない。

頑張れ、頑張れ、頑張れよぉ!私ぃ!君なら出来るってぇ!!━━━いや、無理かなぁ!!

 

ちょっと挫けそうになってると、背中にグリグリと洸太きゅんが頭を押し付けてきた。

 

「ごめんっ、ごめんなさい!僕が、ちゃんと、ひっぐっ、にげっ、逃げなかったから・・・!」

 

おおう、また泣き出したのお坊ちゃん。

止めてよね、背中でしくしくするの。

ああああああ、背中がぁぁぁ、ぐしぐししないでぇぇぇぇぇ・・・まったくもう!

 

「ああ、泣かない泣かない!さっきも言ったでしょ!大丈夫だから!ね!」

「で、でもっ、けが、が・・・!!」

「怪我なんてしょっちゅーしてんの!最近はしてないけど、割とかっちゃん・・・頭ボハァってなってて目付き悪い奴いたでしょ?あれとガチンコの殴りあいの喧嘩してんだから!ぐぅだから、ぐぅ!」

 

そう言ってあげると、洸太きゅんは泣くのを止めた。

ひっくひっく言ってるから、まだ完全に泣き止んだ訳じゃないみたいだけど。

 

「・・・殴り、あい?」

「そう、ガチンコよ!あ、もち私の全勝だけどね!」

「・・・・・・」

「ん?どした?」

 

元気に泣きじゃくっていた洸太きゅんだったけど、今度は急に黙り込んでしまった。

どうしたのかと思えば、肩に置かれていた手が強くしがみついてくる。

 

「お、おれっ!いまは、無理だけど・・・大きくなったら、その、パ、パー子の事、助けるから・・・!」

「助ける・・・?あータッグマッチ的な?」

「タッグマッチ?た、たぶん!」

 

今はちびっ子だけど、大きくなったら多少はマシになるかな?どうだろ、かっちゃんバリ天才だからなぁー。

━━てか、待てよ。洸太きゅんがマシになるまで、そもそも私はかっちゃんと喧嘩してるのかな?え、何年後?一年・・・はあるわけないし。三・・・四年?いやいや、十年?その頃、私は確実に二十歳は越えた大人だと思うんだけども・・・まぁ、いっか。味方は多い方が良いし。

 

「まぁ、期待しないで待ってるよ。そん時は一緒にボコボコにしよ!」

「う、うん!」

 

よく分からないけど元気になったなら結構。

そのまま走っていると宿舎が見えてきた。

 

「パー子!あそこ!」

 

洸太きゅんの声を聞いて視線をそこに移せば、マジダッシュする包帯先生が見えた。

 

「先生ーーー!!」

 

そう声を張り上げれば、包帯先生がこちらを見て目を見開いた。そして直ぐ眉間にしわを寄せ、今度はこっちにダッシュしてきた。あれはオコの顔だ!怖いもん!

 

「大馬鹿がぁ!!戦闘したな、お前!」

 

「洸太きゅん!双虎にゃん、緊急援護要請!包帯先生を攻撃せよ!!」

「え!?い、いいのか!?」

 

洸太きゅんが悩んでいる間、ものの見事に接近されてしまう。そして頭にチョップ入れられた。軽くだったけど。

 

「お前は本当に言うことを聞かない奴だ!!夏休みをくれてやったのは間違いだったようだなぁ!!!状況が状況だ!戦闘は百歩譲って、安全を確認したら電話での連絡も出来た筈だ!!なぜしなかった!言い訳があるならいってみろ!!」

「ひぃっ!!違うんですよ!いや、違くないんですけど?違うんですよ!電話はその、戦闘中にくしゃりといきまして・・・で、画面が割れちゃって、その、電源ははいるんですけど、タッチ出来なくてー。だから、まぁ、違うんですよ!」

「何がどう違━━━━」

 

「僕が!!」

 

洸太きゅんの声に包帯先生が言葉を止めた。

少し振り返って洸太きゅんの顔を見れば、泣き顔を引っ込めて男の子っぽい顔してた。可愛いというよりはかっこ可愛い的な。

 

「━━━はぁ、良い。洸太くん、分かった。緑谷、説教は後だ。お前はこのまま宿舎にいけ。補習室分かるな?そこに行け。俺はこのままマンダレイの所に行く」

「戦闘許可でも出して貰うんですか?」

「お前は本当に・・・そういう事だ。実際に戦闘してどう思った?手短でいい」

 

どうと言われてもなぁー?

 

「やばたん?」

「手短にとは言ったがな、頭の悪い回答しろとは言ってないぞ━━━ったく、こんなんで分かるとはな。はぁ、自分が情けなくなる」

 

なんか納得したみたいな包帯先生。

何故だか深い溜息をついてきた。

このやろう。

 

その後、包帯先生と別れ際、ヴィラン連中の狙いが生徒の拉致、もしくは殺害かもしれない事を伝える事も忘れないでやっておく。ふふん、やっぱり出来る女は違うね。流石、私!!

 

包帯先生と別れたら洸太きゅんと宿舎へゴー。

ガヤガヤしてる扉を開くと全員では無いけど補習組以外にも何人か見えた。眼鏡達も見かけたけど、かっちゃん達の姿はなかった。お茶子も梅雨ちゃん達も。

 

「緑谷!それに洸太くんか!━━━ん?どうしたその怪我は!!」

 

入り口付近にいたB組の先生が私に気づき、酷く焦った様子で近づいてきた。結局包帯先生と同じようなやり取りをさせられ、双虎ちゃんの体力パラメーターは更に低下。クタクタでやんす。休ませてちょ。

 

先に避難してた眼鏡にも色々絡まれ、ようやっと休める頃にはマンダレイのテレパスが頭に響いてきた。

 

《A組B組総員━━━━━プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!》

 

その内容に補習室にいた皆がざわつく。

言葉の指す意味を重く受け止めているのだろう。

そしてマンダレイの言葉は続く。

 

《尚、ヴィランの狙いに生徒の拉致、もしくは害そうとする動きあり!!戦闘を避けられぬ場合、この二点を頭に十分に注意を!!》

 

続けられた言葉に切島や眼鏡、あしどん達が、戻って来てない皆の為に援護しにいこうと声をあげ始める。けど、扉付近で敵の襲撃に備えてるB組先生は首を縦に振らない。伝言に関してあくまで自衛の為であると言い聞かせていく。切島達の気持ちは分かるけど、ここはB組先生の通りだから何も言わないでおく。

 

「緑谷!お前からも何か言えよ!爆豪の事心配じゃねぇのかよ!!」

 

ぼやっと怪我の治療をしながら待ってると切島が突っ掛かってきた。鬼気迫る雰囲気に、治療を手伝ってくれてた洸太きゅんがびっくりして肩を揺らす。

 

「うるさいなぁ、洸太きゅんがびっくりするでしょーが」

「あ、わりぃ。で、でもよ!まだ爆豪達も戻って来てねぇんだぜ!!良いのかよお前も!」

「心配する気持ちは分かるけど、現状どうしようも無いでしょ?相手の総戦力は不明だし、少なくとも私が相手した奴は━━━━」

 

 

「全員ドアから離れろ!!」

 

B組先生の急な怒鳴り声。

私は洸太きゅんを抱えて切島を盾にした。

反射的に切島が硬化する。

 

あしどんを抱えてとんだB組先生の背後。

ドアを突き破り炎が溢れ出す。

炎が晴れた先には身体中に火傷のような痕が残った妙な男の姿があった。

 

「さっきやられてたヴィラン!!?」

 

咄嗟に叫んだブドウの言葉の意味は分からない。

けど、それが敵であるなら私がやることは変わらない。

 

引き寄せる個性でそのまま近くの壁へ、フルスロットル発動して叩きつける。火傷ヴィランの顔が歪む。

すかさずB組先生が壁にめり込み気味の火傷ヴィランに肉薄し、赤い血みたいなもので体を固定、動けなくする。

 

物真似野郎が「操血」と言ったので、血そのものみたいだ。貧血にならないのかな、あれ。

 

様子をなんとなしに眺めてると火傷ヴィランが何か話し始めた。小難しい話に、双虎ちゃんちょっとウトウト。合宿とさっきの戦闘のお蔭で眠さ倍増。ちょっと洸太きゅんの肩を借りる・・・・スヤァ━━━は!いけないいけない!流石に今寝たら駄目な気がするよ!頑張れ私!

 

頑張って話を聞いてると、信頼が~とか、杜撰な~とか言ってる。生徒を犯罪集団に奪われる~とかもほざいてたので、目的判明。アホだね、あいつ。言っちゃったよ、自分で。まぁ、嘘でなければだけど。

 

切島達はアホだから見事に挑発みたいなその言葉に乗っかったけど、私は特に何も思わず話を聞いた。

するとヴィランが私を見て口元を歪めた。嘲笑するように。

 

「随分と余裕だな、お前━━━━━誰が狙われてるのかも知らないで」

 

含むように笑うその姿に嫌な物を覚える。

 

「なんて言ったっけな、ああ、そうだ、爆豪とか言ったか━━━━━」

 

 

 

 

 

その言葉を最後に、ヴィランは何も言わなくなった。

正確には何も言える状態じゃなくなったのだ。

部屋へ飛び込んできた包帯先生に顔面を蹴り飛ばされてしまったから。

 

「イレイザーヘッド!」

「無駄だブラド。こいつは煽るだけで情報ださねぇよ」

 

包帯でぎちぎちに締め上げた火傷ヴィランに包帯先生は足踏み体操体操。ヴィランの体は泥へと変わる。

 

「これはっ!ニセモノか、しかしこいつ確か炎を!」

「ああ、俺も見た。どういう原理か知らんが、厄介な奴だ。警戒してくれ」

 

 

二人の話を聞きながら、私の頭の中ではさっきの言葉が木霊してしていた。あげられたかっちゃんの名前。勿論煽りの為、もしくは混乱を招く為の可能性は高い。どうにも嘘臭かったから。

 

でも、もし本当だとしたら・・・それなりの戦力が導入されてる事になる。体育祭で力がバレてる、かっちゃんの元に。

 

「パ、パー子・・・!」

 

不意にズボンを洸太きゅんに掴まれた。

何を言いたいのかなんて、その目を見れば直ぐに分かった。けど、そういう訳にはいかない。

 

「洸太きゅん、ちょっと様子見てくる」

「お前、ダメだ!怪我してんだぞ!まだっ」

 

心配そうに顔を歪める洸太きゅんをぎゅっとしてあげる。

 

「心配してくれてありがと、でも、大丈夫。私はヒーローじゃないから」

「え、ヒーロー、じゃない・・・?」

「そうヒーローじゃないの。だから命を懸けて誰かを助けたりしない。私は出来る事しかしないの。危なくなったら直ぐに逃げちゃうの。だから大丈夫。必ず元気で戻ってくるから」

 

 

ヴィランの言葉は嘘かも知れない。

でも、もし本当だとしたら、ここで何もしなかったら、きっと私はこの先私を許せない。

 

 

 

 

 

「だからね、守りにいかせて。私の大切な人が、まだあそこにいるんだ━━━━」

 



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ぴゅーーーい!かもん!我がセカンド馬、レッドライオン号ぉぉぉ!!今こそお前の力を見せてやれ!いまは亡き我が愛馬爆号の仇をとってやるのだぁ!!━━━え、愛馬生きてるでしょって?・・・てへ!の巻き

シリアスが続きっぱなしだと疲れる。
そんな訳で今回は生き抜き回なのかもしれない。
かも、知れない。


拘束野郎と戦い始めて暫く。

戦闘許可が降りたのは良かったが、事態はあまり好転していなかった。

それというのも拘束野郎の個性が思った以上に厄介だったからだ。

 

「爆豪!!」

 

クソ紅白の指示に従い後ろに下がれば、氷の壁が目の前に現れ拘束野郎から伸ばされた歯の刃を食い止めた。

腹の立つ話だが拘束野郎の歯の個性と、俺の個性との相性は最悪。一定距離を保ったまま手数のある攻撃が出来る拘束野郎と比べて、俺は中遠距離の攻撃は単発しか出来ない。加えて周りが木々に囲まれている為、迂闊に使うわけにもいかないときてる。

どうにも痒い所に手が伸びない、そんな腹の立つ戦いだ。

 

「不用意に突っ込むんじゃねぇ」

「るっせぇわ!!」

 

氷の壁を避け拘束野郎に向かって駆けようとしたが、氷の壁に止められた刃から俺の進行を妨害するように枝分かれの刃が飛び出してきた。反応は出来たが、体を逸らすのが遅れ前髪数本が宙に散る。

 

その様子を見たクソ紅白が氷柱で拘束野郎を牽制。

拘束野郎は個性を引っ込め飛び退いた。

 

「地形と個性の使い方がうめぇ」

 

態々クソ紅白がそんな事をほざきやがった。

んな事、言われんでもわかってると言うのにだ。

俺は全ての元凶へと視線を向けた。

 

伸びる歯をまるで手足のように使い闊歩するそいつを。

 

「見るからにザコのひょろガリのくせしやがって、んの野郎・・・!」

 

文句は出るが、その戦い方は目を見張るものがあった。

経験や練度、踏んだ場数の違いをまざまざと見せつけられてる気分だ。オールマイトと闘う前なら、クソジジィと会ってなかったら、無茶苦茶やるしかなかったくれぇの差がある。

 

だが、今の俺なら突破口が見える。

 

「おい、クソ紅白。てめぇ氷はどこまで扱えんだ」

「なんだ、いきなり?」

「良いから答えろや。てめぇは馬鹿の一つ覚えみてぇに、ただの氷しかだせねぇのか。それとも、ある程度は氷の質、形、変えられんのか」

 

視線を向ければクソ紅白は少し考えた後「厚さと形なら、ある程度は」と真剣な目で言ってきた。

それを聞ければ十分。

 

頭ん中にグラントリノの教えが過る。

 

『プロの世界に出りゃぁ、いつも万全で戦える訳じゃぁねぇ。環境が、地形が、時間が、空気が、果ては自然が敵になる時がある。だからな、よく考えておけ爆発小僧。そういう不利な時にこそ勝てるように。その無駄に働くおつむ使ってよぉ』

 

「上等だっつんだよ・・・!!」

 

見てやがれグラントリノ。

オールマイト。

 

俺は先に進むぞ。

こいつをぶちのめして━━━先に。

 

「一回しか言わねぇぞ!!クソ紅白!!聞いとけやぁ!!」

「爆豪。声がでけぇ、作戦なら静かに話せ」

「るっせぇ!黙って聞いとれや!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「はいよーーー!!レッドライオン号!!」

 

秘術『先生トイレ』でこっそり宿舎を抜け出した私は、そこら辺でテキトーに捕まえた野良馬に股がり、一人と一頭で森を駆けていた。

赤いツンツンヘッドを手綱にし、もっと速く走れと腹を蹴る。馬は嘶き、更に加速した。

 

「いや待て緑谷!!誰が馬だ!!んで、レッドライオン号って何!?微妙にヒーローネームに被るから止めろぉ!!」

 

おやおや、このお馬さんお喋りなさる。

それになんか文句言ってるな。

餌かな?餌が足りなかったのかな?

 

「ごめんね、レッドライオン号。今は食べ物持ってないの。そこら辺になってる変な色の果実とか、丸々太った虫とか、1UPしそうなキノコならあるけど・・・どう?」

「いや、いらねぇわ!撫でんな撫でんな!てか食べ物要求してねぇーわ!!んで、碌なもん食わそうとしねぇな!お前は!!」

「えへへ」

「なんで照れたの!?」

 

レッドライオン号とそんな話をしてると爆発音が聞こえた。手綱をとるまでもなくレッドライオン号は体の向きをそこへと向け加速する。

 

「━━緑谷、ありがとな」

 

急にお礼を言われて双虎にゃん混乱。

いきなりどうしたのかな?この駄馬は。

 

「ん?どした、外を走れて楽しいのかな?暫く小屋に入れっぱなしだったから」

「馬ネタを引っ張るなよ!どんだけだ!どんだけ俺を馬にしときたいの!?流石に泣くぜ!!」

 

泣くの?まじで?

じーと顔を覗けば「信じんな!」とツッコミされた。

 

「そうじゃねぇよ・・・その、俺がついてくんの許してくれてありがとなって話だ」

「そういう話?いや、助かったよ?私的にもさ。ぶっちゃけもう一回走る元気はなかったから、どうしようかと思ってたもん」

「はは、それでよくもう一回外に抜け出したな。お前やっぱりすげぇよ」

 

話しながら走るのキツそうだから止めればいいのに、息を切らしながらもレッドライオン号は続けた。

 

「俺さ、正直迷ってたんだ。先生に止められて、ヴィラン見てビビった!━━━けど、お前みたら、マジで恥ずかしくなった!お前行くって決めたら全然迷わねぇの!ボロボロなのによ!」

「褒められるような事してる覚えはないけど?手のひらクルンクルンさせてるし?」

「まぁ、そうだな。でもそれもちゃんと考えた上でだろ?流されてそうしてんじゃねぇ。・・・だからよ、そういうの自分で考えて、動かなきゃいけない時にちゃんと動ける奴ってのは凄いと思うんだよ。俺はさ」

 

染々そう言ったレッドライオン号。

何か言った方が良いのか悩んだけど、特に思い付かなかったのでカチカチのハードヘアを撫でといた。

手触り最悪だからすぐ止めたけど。

 

「・・・緑谷、頼むからそういうの爆豪の前ではやんなよ。俺は死にたくねぇ。おんぶしてんのだってアレなのによ」

「何が?」

「・・・いや、何でもねぇ。俺が犠牲になりゃ良いだけの事だしなぁ、ははは」

 

それから暫くレッドライオン号を走らせていると人影が見えてきた。かっちゃん達の所に着くにしては早いかな?と思って目を凝らせばお茶子と梅雨ちゃんだった。

そしてその二人に対峙する犯罪者臭プンプンさせた女子高生的なのも見えた。

 

「レッドライオン号!!硬化してあっちの変なのに突撃ぃ!!」

「いいのか!?敵なのか分かんなくねぇか!?」

「敵に決まってんでしょ!!お茶子達の顔見て分かんないかな!?腕も怪我してるっぽいし!」

「目良すぎだろ!そんなにくっきり見えねぇわ!!でも分かった。信じんぞ!!」

 

切島が硬化したのを確認し、私は引き寄せる個性を発動させる。てきとーに二本の木を対象にし、パチンコの要領で思いきり飛ぶ。

犯罪者臭プンプンさせた女子高生はこっちに気づき避けようとしたけど、そうはさせないのが出来る女の双虎ちゃん。引き寄せる個性で女子高生の体をこちらに引っこ抜く。下手に抵抗されてもあれなので、手足は引っこ抜いた反対方向に引き寄せ自由も奪ってあげる。

 

「わっわわ!?」

 

可愛いらしい声が聞こえたけど関係ない。

お茶子の敵なら殲滅あるのみ。

 

ニコちゃん108の必殺技。

レッドライオン号騎乗中のスペシャルバージョン。

 

「暴走レッドライオン号、悪夢の人身接触事故!!」

 

鈍い音と共に女子高生が空を舞った。

鋼鉄並みに固くなってる切島が高速でぶつかったのだ。普通に痛い事だろう・・・痛いで済むかな?

 

地面にどっちゃりと落ちる女子高生を確認しながら、レッドライオン号を引き寄せる個性で減速させてゆっくり止める。いきなり止めたら反動がつおいからね。

 

一瞬きょとんとしてたお茶子達。

直ぐ私達に気づいて、緊張で強張っていたその顔を破顔させた。

 

「ニコちゃん!それに切島くん!良かった!二人とも無事やったんや━━━ってなんで切島くん?」

 

首を傾げたお茶子をよそに、梅雨ちゃんも口を開いた。

 

「けろっ、助かったわ。どうして切島ちゃんがいるのか気になるけど、今はそれどころじゃ無いものね。避難しましょう・・・と言いたい所なんだけど、あれ大丈夫かしら」

 

梅雨ちゃんの視線の先を追えばぐったりと倒れてる女子高生の姿が。ピクピクしてるから死んではなさそう。

 

「取り敢えず、切島は後で署に出頭するとして、何かで縛っておく?」

「縛れる物がないわ」

「あ、それやったら、あの子の装備使えんかな?ヒモみたいなのあったし」

 

「━━━まてまて!何でしれっと俺が出頭する話で纏まってんの!?出頭するの!?俺だけ!?」

 

切島の焦った声に、お茶子と梅雨ちゃんの視線が私に向けられる。

 

「状況を考えれば、ニコちゃんも行った方がええかな?」

「けろっ。付き添った方が良いわね。ちゃんと正当防衛だった事伝えて貰わないと」

「そだね、分かった。ちゃんと切島の無実を証明してくるよ」

 

「なんで全部おっかぶせようとしてんの!?マジで言ってる!?ねぇ!?どっちかって言うと、悪いの緑谷だろ!!」

 

切島の事は取り敢えずおいておいて、私は二人に事情を話した。かっちゃんが狙われてるかも知れないという話だ。

状況から考えてかなり胡散臭いけど、もし本当ならガチガチに策を練られてる可能性があり、かっちゃんが危ないかも知れない事を伝える。

 

その話してる間、棒立ちで話したりなんて無駄な事は勿論しない。話しながら倒れてる女子高生の装備を全部拝借。尚且つ装備の一つであるチューブを使って木に縛り上げておく。お茶子に頼んで女子高生の顔写メをとっておくのも忘れない。

 

「状況は理解したわ。それなら、私達も緑谷ちゃんと行くわ。良いかしらお茶子ちゃん?」

「うん!勿論!皆で固まって動いた方が出来る事多いし!それに安全だしね!」

 

まさか賛成されるとは思わず、びっくりである。

優等生っぽい梅雨ちゃんなら絶対止めると思ってた。

 

「ん?良いの?梅雨ちゃんだったら施設に向かうと思ったのに」

「そうね、それが一番なのかも知れないわね。けれど、緑谷ちゃんは爆豪ちゃんの所に行くんでしょ?ヴィランが集まってるかも知れない場所に、その怪我で」

 

心配そうな梅雨ちゃんの視線と目があった。

 

「本当なら力づくでも止めたいのだけど━━━」

「待ってくれ、梅雨ちゃん!緑谷は・・・!」

「切島ちゃん、少し静かにして」

「お、おう」

 

割り込んだ切島を一刀に切り伏せ、梅雨ちゃんは続けた。

 

「━━━━本当は止めたいけど、でも、緑谷ちゃんは絶対に行くんでしょ?それこそ、私達を押し退けても。違うかしら?」

「まっさかー。大丈夫、押し退けないよ?」

「押し退ける必要もないのね?」

 

えっおう。

梅雨ちゃんは勘が良すぎるね。

 

「実力に開きがあるのは分かってるわ。緑谷ちゃん一人でも出来る事が多いのも。一人の方がかえって良いことがあるのも」

 

「でもね、それでも一緒に行かせて頂戴。そして私にも見極めさせて欲しいの。その必要があるのか、どうか」

 

その言葉の意味が分からないほど、私もお馬鹿さんではない。多分梅雨ちゃんは私が思ってるより私の事を見てるんだと思う。もしもの時、私がどう動くか。

多分ここにいる誰より。

 

「私ね、初めて梅雨ちゃんを見た時、仲良くなれるか微妙かなって思ってた。すごい優等生っぽかったから」

「奇遇ね、私もよ。緑谷ちゃん、凄く不真面目なんですもの」

 

梅雨ちゃんが笑顔を見せてくれた。

つられて笑い返していると、赤いツンツン髪が揺れてるのが見えた。

 

「・・・おーい、そろそろ、いこーぜ」

 

馬が待ちきれないみたい。急がねば。

そういう訳でお茶子の個性で皆を軽くし、切島━━━またの名をレッドライオン号に騎乗。

騎馬一、騎手三という前代未聞の騎馬モードである。

 

「飛びます!」

「またかよ!?てか、また個性使って大丈夫なのか?疲れてんだろ?」

「大丈夫ー!」

 

全快とはいかないまでも大分回復してる。

レッドライオン号の背中で少しでも休めたのが大きかったみたい。無理は禁物だけど、まだいける。

 

「緑谷ちゃん、飛ぶなら私が舌で飛ばすわ。緑谷ちゃんは着地の際に個性を使って」

「そう?じゃ、お任せするね」

「けろっ」

 

切島に硬化の個性を準備させてから、梅雨ちゃんの舌による原始的投擲で空へ飛んだ。

氷が連なり、爆発音がするそこへ向けて━━━━。

 

 

 



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気がつけば大分逞しくなっていたみたいだけど、まだまだ私が格上なので今後ともお世話を焼いちゃいたいと思います。なので対価を下さい。うん。お寿司でいいよ、回らないやつ。の巻き

林間学校編も終盤。
なんか、あっと言う間だったにゃぁ。

シリアスとじゃれたり、ギャグと戯れたり、アオハルと密会したり、忙しい章やったで。ふぅ(*´ω`*)



ガヤガヤと賑やかな四人組が去った後。

私は掛けていた個性を解除し己の体積を減らします。

そうすれば体を縛り上げていたチューブがたわみ簡単に抜け出す事が出来ました。隠しておいたナイフを手にすれば完璧です。

 

「ふふふー死ぬかと思いました。怖いですねぇー。同い年くらいなのに、あんなに強いなんて。ヒーロー志望の子ってみんなあんなの、なんですかねぇ?」

 

赤い髪の子に当たる瞬間、私は今の姿に似通った子に変身しました。

私より体格の大きい子だったお陰で体を覆うドロドロはちょっぴり多目。それが上手いこと緩衝材になってくれて、生身に通る筈の衝突のダメージが少しだけど緩和されました。お陰で今もこうして立って入られます。

あのドロドロも捨てたもんじゃないですね。

 

備えあれば憂いなしです。

おお、ちょっと賢いかもです、私。

偉い子ちゃんです、流石のトガちゃんですね。

 

━━まぁ、完全に防げた訳ではないので、回復まで少し時間は欲しい所ではありますけど?

 

「・・・それにしても聞いた事ある声でしたねぇー?うーん?」

 

あ、そう言えば、あの子がいる筈ですね。

ステ様を倒した、あの何処と無くムカツク子。

一度思い出せばさっきの声が誰だったのか見当がつきました。直ぐにあの映像とさっき見かけた彼女の姿が頭の中で重なります。なるほど、あの子ですね。

 

「弱っていたとはいえー、ステ様を倒したんですから、強くても仕方ないですねぇー。失敗、失敗。弔くん怒らないと良いですけど」

 

でも━━━。

 

視線を落とせば草むらに小さな注射器があります。あの子の血がちゃんと入ったそれが。

手にとって見れば、とても少ないですけど、少しの間なら変身出来る量が入ってます。

 

「全然気づきませんでしたねぇ~」

 

私はそういう時が人にあるのを知ってます。

とても傷ついた時、とても頑張った時、とても興奮してる時、人は痛みや疲れに気づかない時があるのです。そういう時は注意力もとても落ちます。その証拠に私が変わってる事なんて少しも疑わなかった。マスクや装備はそのままでしたけど、服なんて二重になってるのに。教えられた情報通りなら、まず間違いなく不自然な事に気づいた筈なんですけどね。ふふ、おかしいですねぇ。

 

ならきっと頑張ったんですねぇ。

とても、とても、とっても。

 

「あとどれくらいですかね?」

 

 

元気でいられるのは。

 

 

『トガ、聞こえてたら返事をしろ』

 

 

いきなりの声にトガびっくりです!

もしもしくらい欲しい所なのです。

でりかしーがないですね。

 

「聞こえてます、なんですか火傷くん」

『荼毘だ・・・まぁ、いい。それよりお前が向かった付近、例の女は行かなかったか?』

「おおーとってもたいむりーです!火傷く・・・荼毘くんストーカーさんだったりしますか?」

『なに言ってんだ、お前』

 

不思議に思って聞いてみたら溜息気味な言葉が返ってきました。荼毘くんは時折私にこうやってきます。

まったく失礼ですね。

 

『森で緑谷が捕捉出来ない。宿舎に帰ってる可能性を考えて俺を送ってる。俺なら、まず間違いなくあいつにアレを伝えてる━━━そうなりゃ、恐らくあいつは動く。こっちに出てくる筈だ。一番喧しい所目掛けてな』

「ああ、あの爆発くんですね?なるほど。どうりで直ぐに行っちゃった訳ですね。ついてます」

『通っていったのか・・・』

「はい、通っていきましたよ!!」

 

ブチッと通信が切られてしまいました。

これまたいきなりだから、トガびっくりです。

 

「ふむ、荼毘くん達が向かったなら、そろそろお開きですね。帰りましょう」

 

そこら辺にぶん投げられた装備を着直します。

あいにく武器だけは赤いツンツンくんに壊されてしまって使い物になりませんが、まぁ一応持ち帰るとしましょう。何かに使えるかも知れませんし。

 

「ふんふんふーん、ふん、ふん、ふふん」

 

それにしても可愛かったですね。

お茶子ちゃんに、梅雨ちゃん。

とっても良い子達でした、とても仲良くしてました。

素敵ですね、お友達。

 

羨ましいですね。

 

「━━━どちらに、譲って貰いましょうか?」

 

素敵なお友達。

沢山が良いですね。

良いです、とても良いです。

どっちが良いかな、お茶子?梅雨ちゃん?

それとも、あの子になってしましょうか?そうしたら、どちらともお友達ですね。

 

「素敵ですね、とっても素敵。弔くんにお願いしましょうか?」

 

体はズキズキしますけど心はとても楽しいです。

踊るような気持ちで私は集合場所に向かいました。

今夜はとてもよく眠れそうです。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

クモみてぇに動く拘束野郎を牽制してると、紅白野郎が名前を呼んできた。視線を少しそこへとやれば、幾つか氷柱が立てられていた。

 

「ちゃんと出来てんだろうなぁ!!」

「問題ねぇ、っても、こんな事俺もやった事ねぇから、何処まで有効かわかんねぇぞ・・・!」

「んなもん、分かっとるわ!!どけや!!」

 

爆破で紅白野郎のが用意した氷柱の元に飛ぶ。

見た目にはいまいち分かりずらかったが、それまでの物と違うのは何となく分かった。俺は手に納めてたソレを紅白野郎に渡し、次の準備に取り掛からせる。

 

ソレを投げて寄越した俺に紅白野郎が批難がましい目を向けてきやがった。

 

「危ないだろ、爆豪」

「危なくねぇわ!火がなきゃ爆発なんざしねぇ!」

「そこら中にお前が散らした火の粉があるだろ」

「っせぇ!さっさと次の準備しろや!一気にやんぞ!!こらぁ!!」

 

紅白野郎が次の準備を始めたの切っ掛けに、俺は氷柱の一つに触れた。

 

「死ねやぁ!!」

 

爆発と共に氷柱が砕け氷の礫が弾ける。

ショットガンの弾のように四散し飛ぶそれは、拘束野郎の防御を掻い潜り体へと降り注ぐ。

 

何発か当たったが見た目によるダメージはねぇ。

俺は直ぐ様二本目の氷柱も同様に爆破し、氷の弾丸による追撃を加える。また数発その体にめり込み、今度は僅かに苦しげな声を漏らさせた。

 

俺が紅白野郎に作らせたのは弾丸とその発射台。

一発限りの使い捨て固定散弾銃だ。

牽制用みてぇな固ぇだけの氷じゃこうはならねぇ。強度自体もそうだが、形作りから考えて作らねぇと上手く弾けねぇし、弾ける前に俺の爆破で解かしちまう。

やれとは言ったが、ぶっつけでこれなら十分だ。

 

「にく、肉面、みせて」

 

拘束野郎の面からは分からねぇが、かなりこの攻撃にうっとうしさを感じてやがる。

その証拠に野郎の動きにムラが出始めやがった。

 

動きを阻害される、リズムに割り込まれる。

その苦痛は手に取るように分かる。

それがどれだけウゼェか、俺はあいつに死ぬほど見させられてんだ。

 

「人の嫌がる事は、率先してやりましょうってな!!死ねぇやぁ!!」

 

タイミングを見計らいながら氷柱を使う。

拘束野郎が防御に専念し始め、攻撃はますます通りにくくなったがそれでいい。時間を稼ぐのが仕事だ。

残弾数が2発になった所で氷の壁が俺の前に現れた。準備が完了したって合図。

 

視線を向ければ歪な氷塊があった。

 

「爆豪、準備出来たぞ!!」

 

その紅白野郎の声に拘束野郎が壁を乗り越えてくる。

そして氷壁の上に立った拘束野郎は、真っ直ぐに氷塊を攻撃してきた。

一瞬にして削り取られていく氷塊を見ながら、俺は足元の氷の中で光るソレを爆破した━━━。

 

「あほぅが!!」

 

直後、爆発は爆発を呼び連鎖していく。

拘束野郎が足場にしていた氷壁も砕け散り、氷壁に仕込んでおいたソレにも引火。側にいた拘束野郎も巻き込み爆発が起きる。

 

やった事は単純な思慮の誘導。

端から紅白野郎の個性で仕留めるつもりはねぇ。

あいつに任せたのは最初の氷柱と、俺の汗が染み込んだ爆弾を拘束野郎に気づかれねぇように撒くこと、それと目立つ囮を作る事だけだ。

 

氷塊はあいつを引っ張り出す囮でしかねぇ。

警戒するように散々氷柱を使ってやれば、あの馬鹿はものの見事に引っ掛かりやがった。何も仕掛けのねぇ氷塊に釘付けになった。

油断しなけりゃ、いい気にならなけりゃ、多少はマシだったんだろうが、それは負けた言い訳にはならねぇ戯れ言。やれるときにやらねぇ奴は、ただのクソ雑魚でしかねぇ。

 

「爆速ターボ!!」

 

一気に加速し真下に潜り込む。

爆発音を聞いた拘束野郎が煙幕に撒かれながらも周囲へ刃をつき出す。だが、真下には一つの刃も来なかった。この期に及んで拘束野郎が警戒したのは、氷による攻撃。ただの一度も当たらなかった俺の攻撃は僅かすら意識してなかった。

 

腹は立つが、文句を言うつもりはねぇ。

文句は拳骨で叩きつけりゃ良い。

 

爆発ターボ、最高出力F1━━━━。

 

真上に向かっての急加速。

流石に気づいた拘束野郎が枝分かれの刃で妨害してくる。だが全然当たる気がしねぇ。欠片も。

足場の悪さ、爆発のダメージ、煙幕による塞がれた視界。それら様々な要因で混乱する思考。

 

絡み付いた条件に足を取られ、焦りだけで放たれたそれに脅威を感じない。

 

「くたばれやぁ!!」

 

木々より高い位置にいるそいつに、現状最高火力を込めた右の掌底を叩きつける。

直後、爆炎が噴き上がり拘束野郎を吹き飛ばす。

伸ばしては歯の刃が砕け散り、拘束具や黒服の一部も崩れ落ち、拘束野郎は白目を剥き地へと落ちていく。

 

もしもの時に備えホバリングしながら様子を見ていると、矢鱈と喧しい声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「かっちゃぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 

 

まさかと思って視線を向ければ腕を拡げた馬鹿が見えた。避けようかと思ったが、その接近速度はあまりにも速く気がつけば抱きつかれていた。

ほぼタックルだった。

 

「っぐ!!?」

 

あまりの破壊力に思わずそんな声が漏れてしまう。バランスは何とか保ったが、もし馬鹿が声もあげずに突っ込んできていたら撃墜されていたかもしんねぇ。

 

だが文句は出なかった。

馬鹿が相変わらずどうしようもねぇ馬鹿だったからだ。

 

「かっちゃん、良かった」

 

そう言って抱きついて離さねぇ双虎の手は少しだけ震えていた。傷だらけの体を見れば、どれだけ無茶をしてきたのか嫌でも分かる。

 

「・・・良くねぇわ、アホ。大人しく避難しとけや」

 

そっと頭を撫でてやれば、嬉しそうな顔を見せてきた。

昔どっかで見た、その顔を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁ!!ニコちゃん!!こっち無視せんといてぇぇぇ!!着地させてよぉ!」

「けろーー」

「勝手に射出してくなよ!緑谷のアホぉぉぉぉ!!」

 

双虎から少し遅れてごちゃごちゃした人の塊が飛んできた。まぁ、そっちは受け止めてやる義理がねぇから避けたが。

 

 

「爆豪くんのアホぉぉぉぉ!」

「けろーー」

「爆豪の馬鹿ぁぁぁ!」

 

 

うるせぇ、てめぇらでどうにかしやがれ。

 



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予定より上手く行き過ぎている時は大体途中であかんくなるから、そろそろ身代わりくんを用意しておこうかなって思うの。はい、一身代わりチョコバー一本ぽっきり!やりたい人、あーつまれー!!。の巻き

すまんな、明日から忙しくなるけん。
毎日更新はここらが打ち止めや。
書きあがりしだいあげてくさかい、次回はのんびり待ってやで。


かっちゃん達の無事を確認した私は、次に状況の確認を行った。そして分かった事は差し向けられた敵は一人のみで、それ以降接触してきた敵はいないとの事だった。

 

この時点で火傷っさんの言葉がかなり疑わしくなった。混乱させる為、嫌がらせの為、注意をそらす為。なんの為にあの言葉を吐いたのか、他にも色々な可能性が思い付くけど、どれも決め手に欠けるので何とも言えない。

だからかっちゃんと話し合った結果、下手に予想せず何が起きても対応出きるようフラットに構えておく事になった。

 

ダサマスクの言葉を信じるなら生徒を拐うのが本命っぽいけど・・・あれもどうだか。

途中から絶対殺しに来てたしねぇ。

 

しかし・・・かっちゃんと話してる間、轟の視線に気になる物があったけど、あれもなんなんだか。

どしたの、轟?ん?んん?

 

「━━━それはそうとお前。その怪我、また無茶しやがったな」

「うぉっ!?まさかのお説教タイム!?」

「してやりてぇ所だが・・・生憎んな事やってる場合じゃねぇ。だからな━━━」

 

パチン、とオデコを指で弾かれた。

かっちゃんの本気デコピン、威力は言うまでもない必殺級。私は確信する。今デコピンを受けた場所に穴が空いたと。

 

「ぐぅぬぅぅぅぅあああぁぁぁぁ」

「きたねぇ苦痛の声あげてんじゃねぇ。今はこれで勘弁してやる」

「まだ、おやりになるんですかぁ?!」

「帰ったらな」

 

猛烈に帰りたくなくなってきたな。

比較的庇ってくれる轟に視線を向けたけど、今回は助けてくれる様子はなかった。何故だか目も逸らされてしまう。何故だ、まいべすとふれんど!

 

そうこうしてると周囲の様子を窺いに行った三人組が戻ってきた。その表情を見れば特に成果はなさそう。

 

━━━え?さっき見捨てなかったかって?

助けたよ、お茶子と梅雨ちゃんは。引き寄せて減速させて着陸させたよ。

 

・・・・切島は、まぁ、ね!

 

「緑谷!取り敢えずこっちは問題ねぇ!」

「敵の姿もないし、近くに要救助者も見当たらんかったよ」

 

切島とお茶子がそう声をあげる。

梅雨ちゃんはと言えば、何かを気にして辺りを見回していた。

 

「梅雨ちゃん、どしたの?」

「けろっ、なんだか嫌な感じがするのよ。上手く言葉には出来ないのだけど・・・見られてるみたいな」

 

ただの心配性からくる言葉だったら良いのだけど、生憎それは私も感じてたりする。

ここに来てからどうにも居心地が悪かったのだ。

 

梅雨ちゃんの言葉を聞いて切島が顔をしかめた。

 

「マジかよ?あ、いや、疑ってんじゃねぇけどよ、俺はそんなの全然感じなかったから━━━」

「切島なら仕方ないね」

「━━━おい。どういう意味だ、緑谷」

 

そのままの意味だ、レッドライオン号。

お世辞にも切島は頭使う奴じゃないし、そういうのに鈍いから気づかなくても仕方ない━━━それ以上でもそれ以下でもない、そういう事だ。

いちいち教えてやらないけども。

 

不満そうな切島はおいておいて、かっちゃんに視線を向ければ頷いてきた。どうやらかっちゃんも何か違和感を感じてたみたい。

 

「カエル女の勘が当たってるか知らねぇが、ここまで騒いでて誰もこねぇのは腑に落ちねぇ。ヴィラン共だけじゃねぇ、クソプロ連中も含めてだ。双虎の話通りなら、クソ担任はクソプロと合流してる。テレパス飛んだのが証拠だ。それからかなり時間が立ってるが、俺達の所にも、丸顔ん所にも助けはきてねぇ。そうだな?━━━なら恐らく妨害してる奴がいる」

「おぉ、久々のクール爆豪」

「うっせぇ、クソ髪。俺はいつでもクールだろうが、ぶっ殺すぞ」

「そういうとこな」

 

無駄口を叩いた切島を一瞥し、かっちゃんは続けた。

 

「クソ担任に加えてクソプロを妨害するとなりゃ、それなりの用意がいる。USJん時みてぇな規格外の化け物か、有象無象集めて時間稼ぎか━━━この際方法は何でも構わねえ。兎に角、そういう計画を立てて、尚且つ実行出来る頭を持った奴がいるって事だ」

 

そこまで聞いて、かっちゃんが何を言いたいのか全員が気づいた。皆プロヒーローとしての包帯先生の実力はよく分かっている。プッシーキャッツのそれはこの合宿中に肌で知っている。だからこそ、そこに思い至るのだ。

どんな形であれ、包帯先生とプッシーキャッツを出し抜くヴィラン達が、ここにいるという事実に。

 

「二度は言わねぇ。いいか、これから宿舎に向けて双虎が通ってきた道で撤退する。その際、些細な事でも何か見つけりゃ声あげろ。警戒心を最大限にあげとけ。何か起こる事を大前提に移動しろ、良いな?」

 

皆が緊張から喉を鳴らす中、轟だけは「いいか?」と声をあげる。

 

「撤退する際、緑谷の配置について少し意見があるんだが━━━つっても、爆豪ならもう懸念してんだろうが」

「分かってんなら黙っとれや」

「悪かった。一応確認しておきたか━━━━」

 

轟の言葉を遮るように地鳴りが響いた。

そこへと視線を向ければ木々を凪ぎ払いながら、砂埃を巻き上げながら、何かが真っ直ぐこちらに向かってきている━━━嵐のような激しさを持って。

 

「━━━━爆豪!!轟!!どちらでも良い!!光をっ!!止めてくれ!!」

 

聞き覚えのある声に視線を向ければ、嵐の如きその前を阿修羅さんがダッシュしていた。普段クールな阿修羅さんに似つかわしくない酷く焦った声。珍しくて思わず二度見してしまう。

 

すると、阿修羅さんが何に追われているのかに気づいた。僅かに拓けた木々の隙間から、巨大な黒い化け物が顔を覗かせたのだ。

 

「ダークシャドウちゃんよ!!」

 

梅雨ちゃんが悲鳴のような声をあげれば、かっちゃんと轟が構えた。頼まれていないけど勿論私も。

 

「暴レ足リネェゾ!!邪魔スンナァァァァ!!!」

 

ビリビリと響くダークシャドウの絶叫を聞きながら、私は炎を吹くために大きく息を吸い込み━━━━━その声を聞いた。

 

 

直ぐ後ろ。

 

 

 

背後からかけられた。

 

 

 

あまりにも場違いなソレを。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、楽しいショーも幕引きの時間だ。お姫様」

 

 

 

 

 

あまりに軽い声。

敵意の一つも感じない抜けた声。

けれど、はっきりと感じた。

 

私達とは違う、異質な雰囲気を。

 

 

 

背中に何かが触れた瞬間、視界が闇に包まれた。

一欠片の光もない、闇に。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

手にしたソレを手に俺は宙を舞う。

エンターテイナーとして最高の舞台。

化け物が退治され、お姫様は本来あるべき場所へと帰る。

クライマックスでの自分の活躍に胸が踊る。

 

枝を伝い更に上へ。

木の天辺についた俺は視線を落とした。

呆然と見上げる事しか出来ない、憐れな憐れなナイト達へと。

 

「レディース&ジェントルメン━━━と言うには、些か幼い少年少女達!!今宵はMr.コンプレスの世紀のマジックショーへようこそ!!」

 

そう声をあげれば、死柄木から忠告されていた通り爆発頭の少年、爆豪くんが動いた。

 

「んだてめぇは!!何しやがった!!」

 

何しやがった。

この言葉は正直驚きだ。

 

実際俺の声に反応したのはターゲットだった緑谷双虎のみ。他の連中の視線は確かに影を操る彼に向いていた筈だ。彼女を圧縮し手に納めたのも、誰にも見られていないのは俺が一番知っている事実。

━━━にも関わらず、彼は既に状況を理解し、確信すらしてる様子。側にいない彼女の事も。そしてその状況を作った犯人が俺である事も。

 

頭の回転が恐ろしく早い。

やはり影の個性を持つ彼を引っ張ってきて正解だったようだ。

警戒心を全開にした彼等から彼女を奪うのは、骨が折れると思っていたんだ。

 

俺は余裕を取り繕い帽子を被り直す。

マジシャンは常に冷静でなくてはいけない。

 

「いやぁ、あまりに隙だらけだったもんでさぁ~つい、俺のマジックで貰っちゃったよ」

 

そう手にした珠を見せ語り掛けると、爆発頭の少年が手元を小さく何度も爆発させる。威嚇するようなそれに少し腰が引ける。戦闘能力皆無な俺にとって、ここにいる彼等は脅威過ぎる。マスキュラーやムーンフィッシュのようなゴリゴリの武闘派と違い、俺は優しい優しい平和主義者。よってたかって虐められたらたまったものではない。

 

「どういう個性か知らねぇが、さっさと返せや!!」

 

乱暴な言葉だ。

まるで彼女を自分の物であるかのような・・・いや、まぁ、おじさんも経験それなりにあるし?彼がどんなつもりでそう言ってるのか、分からない事もないんだけどね?くくく。

 

「返せとは・・・エゴイストだねぇ、爆豪くん。それじゃ女の子に嫌われるよ?」

「っせぇわ!!関係ねぇ!!」

 

若いなぁ、本当に。

 

遠慮なしの爆撃。

足場にしてた木が根本から倒れていく。

 

「随分と乱暴だなぁ、ヒーローの卵達。俺は、ただ彼女をディナーに招待したいだけだぜ?」

 

直ぐに飛び次の足場へ━━━と思ったけど、そこには俺の行き先を塞ぐように氷柱が現れた。

 

誰がやったかなんて見るまでもない。

エンデヴァーの息子轟くんだ。

ふと視線を落とせばまるで仕留めたような顔。

 

そうはいかない。

 

「悪いね俺ぁ、逃げ足と欺くことだけが、取り柄でよ!」

 

冷静に氷柱を見れば、表面に凹凸が多い事に気づく。

持っていた杖をその凹凸に嵌め、腕力と体のバネを使い棒高跳びの要領で飛び越える。歳のせいか背骨がバキバキと不吉な音がする。おじさんなのに頑張ってるなぁ、と染々と思ってしまう。

 

俺の様子に轟くんの表情が変わったのが見えた。

やはりこう時は胸が踊る。愉快極まりない。

人を驚かせてのエンターテイナーだ。

 

奇術師はそうあれかしと、だ。

 

轟くんの追撃が放たれる。

さっきより遥かに規模の大きい氷柱が、まるで波のように押し寄せる。とても恐ろしい光景だ。だが、これは頂けない攻撃。俺にではなく、君達にとって。

何せこの攻撃は俺を死角に潜り込ませてしまうし、何より仲間である爆豪くんの最短ルートを潰してしまう。

 

熱くなるのは大変結構。

それも若さ故。

けれど、それだけでは駄目だ。

 

迂闊に皮膚が氷に触れようものなら、一瞬で氷づけにされるだろう。靴なら多少はましだろうが、最悪を想定するなら出来るだけ触れない方がいい。故に接触面積が最も小さい杖を足としてステップを踏ませて貰う。

さっきもそうだけど、先端に緩衝材としてスプリング入れといて良かったと本気で思う。伝わる衝撃ハンパじゃないもんね。

普通の棒でやったら肩外れてるわ。これ。

 

死角に潜り込んだ所で個性を使って氷を圧縮。

二つの珠を作りポケットへ、中にしまっていた珠は口の中へとしまう。これを奪われるような事があれば多少は見込みありだが、そうはならないだろう。

 

所詮はヒーローごっこする子供達。

詰めの甘さは確認済みだ。

 

回収地点を一度確認し、俺は耳につけたそれのボタンを押す。

 

「開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後5分以内に"回収地点"へ向かえ!」

 

返事はないが、これで全員が動き始めた筈だ。

後は、彼等を撒くだけ━━━━っ!!

 

振り向けば直ぐ側に拳を構える爆豪くんがいた。

ほぼ無音だった為に驚いたが、こういう修羅場は何度も乗り越えている。備えはある。

 

妨害用に圧縮しておいた珠を彼に投げつける。

個性の力から解放されたそれは土塊へと変わり爆豪くんを襲うが、やはり容易く爆破されてしまう。

だが、これが思った以上に効果があった。

 

爆豪くんはあろう事か自らの爆破の反動で後ろへと大きく飛んでいったのだ。開いた距離を眺めながらどうしてか考えれば、先程の集団の中に麗日さんという重力を操作する少女がいる事を思い出した。

 

「成る程、彼女の個性で、か」

 

無音で近づいた方法が分かった。

爆豪くん十八番の爆破による移動ではなく、無重力を利用したより原始的な投擲などによる移動。幸いな事に腕力のありそうな少年も、カエルの個性を持った彼女もいる。

 

「麗日ァ!!個性解けや!!後は、俺でやる!!」

 

その声を切っ掛けに爆豪くんが重力に従い落ちる。

氷の足場に降りた爆豪くんは俺の位置を確認すると、ボンボンと掌を爆破させて笑う。

 

「逃げられると、思ってんじゃねぇぞ。クソ仮面」

 

まったく、そのまま彼女の個性でアホみたいに飛んでくれてれば、やりようもあったと言うのに・・・。

 

「こりゃ、骨が折れそうだね」

 

おじさんにはちと荷が重いぜ。

誰か助けてくれよ。

 



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暫く空いてからのーーー『煌めきを胸に』の閑話の巻き

大分あいた上、坊ちゃんですまんな。
明日一話分は約束するけど、その先は未定や。

仕事つおい(;・ω・)


森に異変が起きてから暫く、僕の耳には沢山の音が聞こえていた。森が焼ける無機質な音だけじゃない、生きた音、皆の戦うその音が。

 

何かが崩れる音、地鳴りや爆発音、誰かの怒鳴り声。

それを聞いてれば嫌でも分かる。

皆が戦ってる事は。

 

あの時と同じように。

僕が何も出来なかったあの時のように。

皆がまた戦っているのだ。

 

『僕は何処にいたと思う!?』

 

自分でも思う、なんて情けない言葉なのかと。

だってあの時、僕は何もしなかったから。

ただ隠れて、ただ小さくなって、時間が過ぎるのを待っていただけだから。

 

そうならない為に努力したのに。

それが悔しくて今日まで堪えてきたのに。

僕の体は震えるばかりで何も応えてくれない。

 

『青山さん、このお二人を施設へ運んで下さい!!』

 

そう言ってB組の生徒と一緒に他の生徒達を助けに走った八百万さん。僕はただ遠ざかっていく背中を見ていることしか出来なかった。意識を失ったクラスメートを任されたから?誰かが残らないといけないから?

違う、僕は逃げたんだ。

戦う事から、また。

 

軋むような痛みが胸に広がっていく。

膝を抱えた腕に知らず知らず力が篭っていく。

 

居たたまれない気持ちを晴らしたくて、僕は側に倒れる二人の様子を窺った。本当は僕が逃がさなくてはいけなかった、その二人を。

 

八百万さんの作ったガスマスクのお陰か、呼吸の仕方に悪化してる様子はない。透明な彼女は酷く分かりにくいけど、隣にいる耳郎さんの顔色もずっと良くなっていた。僅かばかり安堵の溜息を漏らした僕の耳に、突然それは聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「おい荼毘、無線聞いたか!?」

 

 

 

 

茂みを掻き分けるような音と共に響いてきた場違いに明るい声。僕は物影からそっと声の方を覗き、そして後悔した。

そこにあったのは味方とは思えない異様な雰囲気を放つ全身をタイツに包んだ男と、火傷痕の目立つ黒いロングコートの男の二人組。僕が二人を連れて逃げていれば、会うことがなかった筈の存在だった。

 

「テンション上がるぜ!Mr.コンプレスが早くも成功だってよ!遅ぇっつんだよなぁ!?眠くなってきちゃったよ」

「━━━そう言うな。よくやってくれてる。後はここに戻ってくるのを待つだけだ」

 

男達の場違いな話し声が聞こえる。

何処か楽しげで、何処か不穏なそれが。

そして同時に僕に後悔の波が押し寄せる。

 

「予定じゃここは炎とガスの壁で見つかりにくいハズだったんだがな━━━━ガスが晴れちまってら。予定通りにはいかねぇもんだな」

「そりゃそうさ!予定通りだぜ」

 

ガスが晴れたという言葉。

僕の目は周囲へ向く。

 

男達の言うとおり視界をふさいでいたガスが殆んど見当たらない。残ってるそれもき消えかかってるように見えた。

 

ガスが晴れた・・・つまりそれは誰かがヴィランを倒したという事。

戦っているのだ、僕がこうして小さくなってる今も。

 

覗いていた僕の目が、冷めた目をしたロングコートの男と合った。背筋に悪寒が走る。その目を見て分かった。言葉が通じるような相手じゃないこと。

 

動けなかった。

側に行動出来ない二人がいるのに。

逃げる事も、戦う事も選べなかった。

 

情けない、情けない。

ヒーローを目指していた筈なのに。

誰よりも輝きたくて、頑張ってきたのに。

 

また僕は彼女に、彼に━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国立雄英高等学校。

多くのトップヒーローを輩出した、 言わずと知れた国内有数のヒーロー科有する学校。

僕は300倍という入試倍率を抜け、目標であったヒーロー科へ入る事が出来た。

 

個性と向き合うようになってから、自然と抱いていったヒーローへの憧れ。それを叶える場所なんだと、僕が輝ける場所なんだと・・・その時は、信じて疑う事がなく合格通知を握り締めていた。

 

そこで僕が何を知ることになるかなんて、少しも考える事なく。

 

 

 

『おはよう!!童貞共!!随分イカ臭ぇけど、ちゃんと手洗ってっか!!』

 

 

 

入学初日。

皆がどこか浮き足だって見えたそんな時、卑猥な言葉で空気をぶち壊す彼女が現れた。

彼女は下品な言葉とは裏腹に、非常に整った顔立ちをしていた。緑がかった髪は艶めかしく、瞳はエメラルドのように輝き、そこにいるだけで光って見える人物だった。

 

素直に綺麗な人だなと思い、同時にそんな彼女に僕はライバル心を覚えた。見目の良さも、自然と視線を集めてしまう煌めきも、僕と変わらないと思ったからだ。

初めてのライバルの登場に気分のあがった僕は、思いきって彼女に声を掛けようとしたけど、一緒にいた目付きの悪い幼馴染に睨まれそれは止めておいた。

 

結局声を掛けられぬまま心のライバルとして意識してからは、事あるごとに自分と比べた。個性テストや授業態度、成績や普段の様子。

そしてその度に勝手に思っていた。

自分の方が彼女よりずっと優雅で煌めいていると。

 

そんな時だった、あの事件が起きたのは。

ヴィラン連合によるUSJ襲撃事件。

多くのクラスメートが戦った、その日だ。

 

初めてヴィランと言うものを見て、僕の足は震えるばかりで全然動かなかった。練習通りにやるだけなのに、ヴィラン達の暴力的な言葉を聞くと身がすくんでしまった。試験ですら出来ていた事なのに、何一つ出来なかった。

 

僕は一人戦う尾白くんを眺める事しか出来なかった。

 

 

違う。

そうじゃないんだ。

僕が悪い訳じゃない。

 

 

心の中で沢山の言い訳が浮かんだ。

いきなりで気持ちの整理が出来なかったから、まだ碌に訓練を受けていなかったから、プロでもないただの学生だから。 

 

それは間違った事ではなかったと思う。

客観的にみれば、訓練も碌に受けてない人間が誰かと戦うなんて事出来る訳がない。仕方がない事だと、思っていた。彼女の・・・緑谷双虎の話を聞くまでは。

 

ライバルだと思っていた彼女は誰よりも戦っていた。

普段の態度とは裏腹に、クラスメートを助け、先生を助け、ヴィランを倒していた。恐ろしくて強いヴィランと戦い、オールマイトが来るまでの時間を稼いだとも聞いた。

 

それは凄い事だったのだろう。

実際にそれを見ていたクラスメートの反応を知れば、先生の様子をみれば、教えられるまでもなく分かった。

 

けれど、それまで抱いていた勘違い。自分の方が優れてるという意思が、その事実を飲み込む邪魔をした。

僕は彼女に、僕の持っていない物を持つ彼女に、僕の理想を体現した彼女に、ただ嫉妬する事しか出来なかったのだ。

同じだと勝手に思っていた彼女に。

 

だから以前より多くの時間を努力に費やした。

彼女に負けないように。

個性の強化も、勉強も、体も鍛えた。

 

けれど現実は僕に厳しい事実をつきつけるのだけだった。僕と彼女の間に横たわる、その差を。

 

体育祭で、授業の最中で、職場体験で。

彼女の成した結果が、彼女への集まる視線が、彼女へ掛かる声が、それらを無遠慮に僕に伝えてきていた。

ヒーローとして彼女が、僕の何十歩も、何百歩も先を歩いているのだと。

 

個性を十全に扱うセンスに。

恵まれた身体能力に。

人と笑い合う彼女に。

 

僕は何かを抱いた。

言葉に出来ない何か。

 

どうして、彼女だけが。

どうして、僕は。

どうして。

 

 

『君、彼女と仲が良いんだろ』

 

 

期末試験、緑谷双虎の条件クリアが放送された時。

僕は嬉しそうに笑う彼女に声を掛けた。

不思議そうにしながらも肯定した彼女に、僕は。

 

 

『オールマイトの試験をクリアするなんて凄いね━━━』

 

 

僕は。

 

 

『━━でも、本当にちゃんとクリアしたのかな』

 

 

僕は。

 

 

『だって彼女って━━━━━━』

 

 

その時なんて言ったのか、正確に覚えていない。

溜まっていた何かが抑えられなくて、僕はそれをただ吐き出していただけで、彼女の曇る顔も、胸に走る嫌な痛みも、何も分からなくて━━━━━━気がついた時にはこれ以上ない程怒った様子の彼女の顔と、頬に走る痛みがあるだけだったから。

 

『━━━━━叩いた事は謝るわ。ごめん。・・・なんでそんな事言うんか知らんし、理由なんて聞きたくないから言わんでええよ。けど、今度言ったら、私は許さんから!』

 

告げられた言葉に、その表情に。

僕は返す言葉がなかった。

自分の為だけに傷つける言葉を吐いた僕と、誰かを思って怒鳴った彼女と、どちらが正しいかなんて考えるまでもなかったから。

 

試験が終わってから、僕は初めて自分からクラスメートである常闇くんに声を掛けた。彼を選んだ事に理由はない。たまたま側にいたからだ。何を言って貰いたかったのか、はたまた聞いて欲しかったのか・・・それはもうわからない。

不思議そうにしながらも僕の話を聞いてくれた常闇くんは『また難儀な道を選ぶな』と笑っていた。

 

『笑ったのは悪かった。・・・だがな、緑谷に何か言う必要などないと思うぞ。俺も特別付き合いがある訳ではないが、その程度の事気にもかけないだろう。言った所できょとんとされるのが落ちだ』

 

『それにな、そういう気持ちを抱くなという事の方が無理があるというもの。俺達は皆、同じ頂を目指す者。で、あれば人の才に嫉妬するのも、劣等感を抱くのも、愉悦に浸るのもまた当然。人との繋がりには、人の数だけ形がある。それだけの事だ』

 

『青山。お前にとって緑谷がライバルだと、そう思うなら、それで良いと思うぞ。思う存分挑み、悩み、試行錯誤すればいい。━━━そして挑み疲れたら誰でもいいし、俺でもいいから声を掛けてくれ。愚痴くらいならいつでも聞こう。何故なら、俺達は運命によって引き合わされたクラスメートなのだからな』

『ディスティニーッテコッタナ!』

 

常闇くんはダークシャドウと共にポーズを決めてそう言った。その姿が少しだけ滑稽ではあったけど、まっすぐに僕を見つめる二人に、僕はもう一度立ち上がる勇気を貰った。

今度こそ、僕は━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい荼毘!そういやどうでもいいことだがよ!」

 

陽気な声があがり、ロングコートの男の足が止まった。

僅かだけど、安堵を覚えてしまう。

こんな時だというのに。

 

「脳無って奴、呼ばなくていいのか!?お前の声にのみ反応するとか言ってたろ!?とても大事なことだろ!!」

 

脳無という言葉に体が震えた。

USJの惨状を思い出してしまう。

 

「━━━ああ、いけねぇ。何の為に戦闘に加わんなかったって話だな」

「感謝しな、土下座しろ」

 

そっと覗くとロングコートの男が首に手を当てていた。

通信機のような物があるのか、男はそこに手を当てたまま口を開く。

 

「死柄木から貰った、俺仕様の怪物━━━一人くらいは殺してるかな?」

 

誇張のそれを感じない言葉。

そしてそれはつまり、誰かを殺せる戦力がある事を意味している。

 

助けに走った彼女の姿が、勇敢に戦う彼女の姿が、人の為に怒れる彼女の姿が、励ましてくれた彼の姿が、クラスメートの姿が僕の頭を過っていく。

 

A組の皆と多くを語り合わなかった。

僕が望んでしていた事だから、そこに思う所はない。

けれど、ずっと見てきた。

 

皆がどんな気持ちで頑張っているのか。

その背中が、僕は・・・・。

 

 

 

 

「やらなくちゃ・・・・僕が・・・!」

 

 

 

 

 

怖くてたまらない。

今だって震えは止まらない。

すぐにでも逃げたい。

 

でも━━━━━もう、嫌だ。

 

言い訳するのも、誰かに当たるのも。

だってそんなの美しくない、煌めけない。

僕の目指したそれは、そんなくだらない物じゃないんだ。

 

だから戦う。

今度こそ、僕は戦う。

そして追い付くんだ。

 

 

ヒーローへの道を歩き出した、皆の同じ所へ。

 

 

僕は息を殺し彼らを覗いた。

彼等と戦う為に。

 

 



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そんな訳でテキトーにサブタイつけるわ『追走ヒーロー』の閑話巻き

間に合わなかった、ぜ(;・ω・)

ねる。

あとで、書き直す・・・かもな。
ぐぅ。


空に大きな爆発音が鳴り響く中、私は梅雨ちゃん達と一緒に夜の森を駆けていた。

 

「梅雨ちゃん!段々音と離れていってへん!?本当に大丈夫なん!?」

「そうだぜ、梅雨ちゃん!!」

 

私の声に後ろを走っていた切島くんも同じように不安を口にした。言葉にはしないけど、常闇くんも障子くんも同じような顔をしている。

そんな私達に前を走る梅雨ちゃんが少しだけ顔を向けた。その顔に確信するような物はない。

そこにあったのは私達と同じ、不安に満ちた表情。

 

「問題ない・・・と断言は出来ないわ。けれど、あの時、爆豪ちゃんの考えた予想が正しければ、これも誘導の一つの筈よ」

 

その言葉に轟くんが「ああ」と同意の声をあげる。

 

「こっちの個性が把握されてる。なら対策も練ってるだろう。俺の個性が避けられたのが良い証拠だ。━━━それにだ、戦う事を苦手だと口にするような奴が、わざわざ姿を現したんなら、それなりの理由、もしくは何かしらの逃走手段は残してるに違いねぇ。まともに追い掛けてどうこうなる相手じゃねぇって事だ」

 

前を走る轟くんの表情は見えないけど、その声の硬さを聞けばどれだけニコちゃんを心配しているのか分かる。

それでも取り乱さずに前を向いているのだ。

自分の勘、仲間の出した、その答えを信じて。

 

私はまた前を向いた。

今更どうこう言っても始まらないから。

最初にそう思ったように、信じ続けるしかないのだ。

投げられた、その賽を。

 

「ニコちゃん、待ってて。絶対に━━━」

 

私は腕を大きく振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟くんが巨大な氷柱で追撃した直後。

追い掛けようとした私達に向かって、爆豪くんは口を開いた。

 

『追い掛けんな!!意味がねぇ!!』

 

突然の拒絶の言葉に私は爆豪くんがいつもの癇癪を起こしたのかと思い、頭が沸騰するような怒りを覚えたのだけれど、その表情を見てそれが勘違いである事は分かった。怒りや焦りを滲ませながらも冷静に努めようとする、その複雑な顔を見れば。

 

その顔のお陰かどうかは分からんけど、不思議と私の気持ちは落ち着き、その後の爆豪くんの話をすんなり聞くことが出来た。

 

爆豪くんから伝えられた話は二つ。

爆豪くんがニコちゃんを拐った仮面を追い掛ける事。私達が敵の逃走ルートになってると思われる、ワープ系個性を持つ人物を排除する事の二つだった。

 

私に文句はなかったんやけど、そこに常闇くんが食い付いていった。どうしてかなんて考えるまでもなかった。直前の失態のせいや。焦ったその顔を見ればいやでも分かった。

 

『待て!俺の責任だ!!俺にも━━━』

『っせぇ!!クソカラス!!個性まともに使えねぇんだ、黙ってろ!!』

 

悲痛な表情で気持ちを訴えた常闇くんやったけど、爆豪くんは歯牙にも掛けんかった。それ所か、かなりきつい言葉を突きつける始末。

そのあまりに強い言葉に障子くんが止めに入ろうとしたけど、爆豪くんはそれを振りきって常闇くんに詰めよっていった。真剣さが宿した、その顔のまま。

 

『良いか!聞け!てめぇと俺の相性は最悪だ!!俺が追い掛ける以上、てめぇは十全に戦えねぇ!!なら、てめぇか俺か、どっちかが行くかしかねぇんだ!!てめぇが夜でも関係なしにまともに個性使えんなら話くれぇ聞いてやるが、今のてめぇには出来ねぇだろ!!ああ!?』

『・・・尤もだ。気持ちを優先して済まない』

 

悔しそうに言葉を噛み締める常闇くん。

せやけど落ち込んでいられたのは一瞬だけやった。

爆豪くんが常闇くんの胸ぐらを掴みあげてもうたから。

 

『萎縮してんじゃねぇ!!やることがねぇ訳じゃねぇぞ!!ボケが!!クソ紅白と動け!!あの馬鹿の補助がありゃそれなりに戦えんだろぅが!!ぶっ潰しとけ、ごら!!』

 

それはあまりに厳しく荒い、せやけど優しい言葉やった。少し呆けたけど、直ぐにその意味に気づいた常闇くんが大きく頷いたのを切っ掛けに、私達は一気に動き出した。ニコちゃんを助ける為に。

 

飛び出してった爆豪くんを他所に梅雨ちゃんを中心に私達は考えた。敵の言動や状況を考慮し、何処に敵が出口を用意するか。

 

結論が出るまでそう時間は掛からんかった。

ある程度挙げられた意見を聞いた梅雨ちゃんが、早々にある場所を口にしたからや。

 

梅雨ちゃんが差したのは山火事が起きた場所と、ガスが溜まっていた場所の狭間。ニコちゃんから聞いたヴィランの話。爆豪くんが飛び出した後、仮面ヴィランが口にした五分という制限時間。

それらを統合した時、この状況で最も可能性のあるとされる場所がそこだというのだ。

 

『散らばったヴィランが五分という短い時間で集合出来る場所。それもある程度安全が確保されているとなると、何かしら障害物があって目につかず、尚且つ距離が近い筈よ。炎もガスも、恐らくヴィランが用意した仕掛け。なら━━━━』

 

その梅雨ちゃんの言葉に反論のなかった私達は、直ぐにそこへと駆けた。少しずつ離れていく爆発音を聞きながら、不安を胸に抱えながら、それでもそこへと。

 

 

 

 

 

 

暫く皆で走っていると光が空に走った。

見覚えがあったのか常闇くんが驚きから声をあげる。

 

「青山だ!!」

 

常闇くんの声に隣を並走していた障子くんが頷く。

よく見れば複腕から目と耳が光の放たれた方向へと向いとる。

 

「青山以外に二人の男・・・いや、加えてもう一人、女だが聞きなれない声━━━━っ!!不味い、挟み撃ちに遭うぞ!」

 

珍しく酷く焦った声をあげた障子くんに、切島くんが拳を打ち合わせた。

 

「っしやぁ!!そういう事なら━━━だよな!!皆!!」

「言うに及ばず!!」

 

切島くんの言葉に常闇くんが声をあげた。

他の皆も気持ちは同じなのか、決意に満ちた表情を浮かべとる。そしてその表情から、何をするのか分かってしまった。

 

「麗日!!梅雨ちゃん!!頼む!!」

 

そう言って差し出された掌達。

これからやろうとしてる事を考えたら止めるべきなのかも知れんけど━━━私はその掌達を自らの手で打ち付けた。

 

「ごめん、皆!任せてもうて!」

「気にすんな、麗日!!適材適所って奴だぜ!!」

 

切島くんを始めとした男子達が浮かぶ。

梅雨ちゃんはそんな男子達を纏めて舌に巻く。

そして大きく腰を落とし、体に捻りを加えた。

 

 

 

「直ぐに追い掛けるわ・・・!!」

 

 

 

風切り音が鳴り、男子達が空を飛んだ。

大きく、高く、早く。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「大丈夫だな!荼毘!怪我は深い!どうにもならないぜ!!」

 

耳に響く陽気な声を聞き、腕から流れ落ちる血を眺めていると、自らの迂闊さを思って溜息が溢れた。

誰かが覗いている事に気づいてはいたが、まさか牙を剥いてくるタイプの敵だとは思っていなかったのだ。震えるだけの臆病ものかと思えば、存外ヒーローらしい事も出来るらしい。

 

俺へ攻撃を仕掛けてきた男に目を向けると、大きくその肩を揺らした。

 

「攻撃されたからには、無視する訳にはいかないよな?ヒーローさんよ。取り敢えず、死ぬ覚悟は出来てんだよな?」

 

泳ぐ視線に脅威は感じない。

やはり子供。

炎を出せば見るからに怯える。

 

「荼毘!こんな奴相手にすんのか?マジかよイカれてるぜ!正直言って、最高だぜ!!」

 

どうやらトゥワイスも俺と同じ事を考えているらしい。

こんな雑魚、相手をするまでもないと。

 

ヒーロー殺しの思想。

その事を考えれば、目の前のこいつは社会のガンでしかない。殺すべき対象と言える。

だが、どうにもやる気になれない。

 

食指が動かない程、目の前の男は弱いのだ。

 

どうしようかと考えていると、草むらを割って歩く足音が聞こえてきた。視線を向ければ、男の背後にトガの姿が見える。

トガは怪訝そうに男を見た後、直ぐに興味を失い俺に手を振ってきた。

 

「ただいま帰りましたー。皆さん、まだですか?」

 

トガは男の存在を完全にスルーして、俺へ声を掛けてくる。男は突然現れたトガに酷く怯えたが、それは取り越し苦労も良いところだろう。

何故ならトガはと言えば、何も感じてないのか最初に男を少し見て以来、欠片も意識を割こうとしていないのだ。

 

「・・・イカれ女。何か気になんねぇのか。お前は?」

「何か気になる?あ、それよりごめんなさいです。血、一人分だけです。それも少しだけです」

 

「一人!?最低三人はって言われてなかった!?」

 

トガの言葉にトゥワイスが抗議の声をあげた。

だが、トガは相変わらずの様子で「仕方ない」と答える。

 

「相手が強かったのです。ステ様を倒した人ですから。あーあ、あの子さえいなければ、お友だちが出来そうだったのにぃ」

「お友だち!?てか、それ俺!?ごめん、ムリ!」

「仁くんは、もうお友だちですよ?」

「マジかよ!気がついてた!!」

 

脈絡のない頭の痛くなる会話。

聞いてるとうんざりしてきた。

 

「うるせぇな、黙って・・・・!」

 

 

 

 

 

 

二つの音が耳に響く。

どちらも上からだが、音の質が明らかに違う。

 

「青山!!」

 

一つは複数人。

声の質から子供だと分かる。

 

けれどもう一つは━━━━違う。

 

「荼毘ぃ!!どけどけぇぇぇ!!」

 

本来一人でここに来るであろう男の焦った声。

それと耳に響く爆発音。

意味する所は、それだ。

 

 

 

「厄介なのに追い付かれたな、Mr.」

 

 

 

大きな音と共にMr.が降りてきた。

面倒な男達を引き連れて。

 

「歓迎しねぇぞ、爆発頭━━━━」

 

俺の言葉に影の一つが頭をあげる。

その顔には悪魔のような笑みが浮かんでいた。

ヒーローらしからぬ、そういう笑みが。

 



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鳴かぬなら、鳴くまで殴ろう、ホトトギス!・・・え?違うの?鳴かぬなら、鳴くまでパンチ・・・違う?パンチが?じゃぁキック?そういう事じゃない?あ、分かった!鳴くまで爆破ホトトギス!の巻き

はぁ、はぁ、はぁ・・・すまねぇ。
今日の分の奴等は、なんとか、倒したんだが・・・ぐはっ、明日からちょっと空きそうだぜ・・・がくっ。

感想の反応遅くてごめんやで(ボソッ)


「あかまきまき、あおまきまき、きまきまき・・・なんか違うな。となりの客はよく客くうやつだ。ん?客くうのか?」

 

 

 

「ぶーん、次回予告だぶーん!次回のトランスフォ●マーはメガト●ン様大活躍だぶーん!!え?来週はラット●が主人公?残念だぶーん!」

 

 

 

「ヤス、犯人は・・・この中にいる!じっちゃんの名にかけて!!ばばーん!」

 

 

 

「奴はとんでも無いものを盗んでいきました・・・あなたの・・・あなたの?あなたの・・・?・・・警部殿!物色された形跡はありましたが、気のせいのようです!」

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

「うーん、暇だ・・・!!」

 

真っ暗闇の中、私は心の底から思った。

背中を痴漢された直後、おかしな空間に押し込まれたと思ったら直ぐに暗くなって、かと思えば天地のあれやこれやが怪しくなって、もう双虎にゃんマジで訳わかめちゃん。超ストレス。神に愛されてる私がそうなる訳がないけれど、気持ち的には禿げそうな気分。

 

だから下手に動かず救助を待ってたけど、どうもそこらへん期待出来そうにないみたいなので、自力で脱出出来ないか調べる事にした・・・ていうか、じっとしてるのも飽きた。

 

とは言え立った私がちょっと手を伸ばして届く程度の空間しかないから調べがいは全然ない。ちょっとペタペタすれば終わりだった。それで分かったのは玉みたいな物に入れられてるって事と、出口っぽい物はないって事。それと、自分を覆ってるそれが、中々頑丈であるという事。

本気でファイアすれば破れなくもなさそうだけど、密閉された空間で炎出すとか自殺も良いところなので止めておく。

 

「しっかし、何なんだろ、ここ?」

 

僅かだけど聞き覚えのある爆発音だったり、おはようの挨拶よりよく聞く怒鳴り声が聞こえてるから、まったくの別空間ではなく何らかの個性で私だけが隔離空間に捕まってるのは分かったけど・・・情報が足りないから、それ以上は何とも言えない。

 

何となしに丸壁をノックしてもしもししたけど、返事は返ってこない。

本気キックをかましたけど足が痛くなるだけ。

奥さん!開けて下さい奥さん!警察です!と迫真の演技をしてみたけど、やっぱり意味がなかった。

ふむ・・・。

 

 

私は考えた。

とても、とても考えた。

どうすれば出られるのか。

 

で、ある程度考えて思った。

押して駄目なら引いて見ようかと。

 

私の個性は認識する事で初めて発動出来る。

分からないものは引けないけど、分かるものなら話は別。射程内であれば、何となく位置が分かれば、あとは感覚で引っこ抜ける。

 

目を瞑り意識を集中。

僅かに聞こえるその音を追う。

時折手に掛かる感覚から、かっちゃんが側にいるのが分かる。そして目標であるかっちゃんがあっちこっち動きまくってるのも。

 

狙いが定まらないから止まれボケ━━━と言いたい所だけど、私が移動してる可能性もあるから仮に外に出られたとしてもそれは言わない。間違いなく不毛な争いになるもんね。喧嘩良くない。面倒臭い。

 

仕方がないので私から合わせる事にした。

かっちゃんの動きをシミュレートしながら追い掛けてみる。予想通りなら直ぐにでも引き寄せられた筈なのに、どうにも掴み損ねてしまう。そうなってくると、かっちゃんだけに原因がある訳ではないという事になる。

恐らく私自身も移動してるのだろう。それもかなり厄介な運び手によって。

 

まぁ、天才たる私に不可能はないけどね。

 

それまでのかっちゃんの動きから、運び手の動きを予想━━━なんだろ、めちゃ頑張ってる感が凄い。がむしゃらに逃げてる感じがする。読みづらい。

 

それでも何とか動きの癖を割り出し、かっちゃんが飛び込んでくるであろうタイミングに合わせ、思いきり引っこ抜く━━━が、失敗。

かっちゃんを引き寄せた感覚はあるし、私を包んでる玉的な何かが動いたような気はするけど、壁か何かに阻まれた感じがする。

 

なんのこれしきと、二度目のチャレンジ。

思いきり引っこ抜いたけど、また何かに阻まれた。

 

それから何度か引っこ抜いてみたけど、結果はあまりよろしくない。感触はあるんだけど、何かに阻まれる感じがあってどうにもならない。箱詰めかな?小さくなってる可能性もあるかも?うむむ。

あと、引っこ抜く度に聞こえる、苦しそうなうめき声みたいなのが気になる。本当、外で何が起きんてんだろうか・・・。

 

手慰めに感触を頼りに引っこ抜く。

やっぱり何に阻まれたけど、今度は違和感を覚えた。

壁に触れてみるとヒビが入ってる。

 

ノックしてもしもししたけどヒビ割れは大きくならない。衝撃か何かで入ったヒビではないらしい。

 

試しにもう一度引っこ抜いてみる。

ヒビが増えた。

 

「・・・・・・ふむ」

 

相変わらず外の様子は分からないけど、引っこ抜く事に意味はあるらしい。

それならとタイミングを合わせてフルスロットルで引っこ抜く。

 

すると光が見えた━━━かと思えば、丸壁のヒビが一気に全体へと広がっていくのも見える。

おお、不吉。

 

 

 

 

 

 

 

ヤバイかなぁと思っていると、突然景色が変わった。

 

「双虎!!」

 

視界が拓けたと思えば夜の森が目に映る。

響いた声に顔を向ければかっちゃんの姿。

それとその背後に轟達と対峙する火傷顔とタイツ男、加えてさっき倒しておいた筈のJKの姿も見える。

 

だから引き寄せる個性で敵っぽい奴等の足を引っこ抜いとく。バランスを崩した敵っぽい連中が轟達からキツイ一発を平等に貰う。痛そう。

 

「━━っとんだじゃじゃ馬だな、お嬢さん。おじさん、歯が砕けちゃう所だったよ」

 

呻くような声が背中に掛かった。

視線をそこへ向ければシルクハットを被った男が口許を押さえて苦しそうにしてる。

 

見た感じ敵なのでシルクハットおじさんの顔面に引き寄せる個性を使った高速膝キックをお見舞いしておく。回避しようとしたけど、もちろんそんな暇は与えない。

 

瞬殺王ニコちゃん、ここに爆誕。

 

そうこうしてるとかっちゃんが側に来た。

その様子を見れば心配してくれたのが分かる。

まぁ、でも取り敢えず━━━。

 

「状況説明よろ」

「てめぇが捕まる、追い掛ける、敵集合、ぼこる」

「OK把握」

 

よく知らない人はボコって宜しいと、そういう事ですね。分かります。

 

「緑谷!!爆豪!!」

 

轟の声に振り向けばいつかの脳みそ丸見え男がいた。

背中から何本もの腕。しかも本来手がある場所に武器を生やすという人間離れした異様な格好。

 

取り敢えずかっちゃんと自分の体を後ろに引っこ抜き距離をとる。降り下ろされた脳みそ丸見え男の攻撃が空を切った。

隙をついてかっちゃんが爆撃をかますけど、ダメージはいまいち通ってない━━━けど、回復する様子がない。

 

「かっちゃん!!」

「言わんでも、分かっとるわ!!」

 

掌を敵に翳したかっちゃん。

私も息を吸い込む。

 

ニコちゃん108の必殺技━━━━━。

 

 

 

「━━━っ!!?」

 

 

 

炎を吹こうとした直後、頭痛が走った。

何とか絞り出したけど、出そうとした紅炎とはかけ離れた物。オレンジ色の低火力の炎。

 

私の炎は目眩まし程度の威力しか発揮しなかったけど、次にかっちゃんが叩き込んだ爆撃の威力が高く、何とか後退させる事が出来た。かっちゃんは私を一瞥した後、轟達の方を見た。

 

「金髪!馬鹿女についてろ!!下手に離れんな!!」

 

それだけ言うとかっちゃんは爆速ターボで脳みそ丸見え太郎に追撃しにいった。

 

流石天才かっちゃん。

切り替えが鬼のように早い。

即行で戦力外通告してくるとか。

 

合宿の疲労が溜まってるのは自覚していた。

ダサマスクに付き合ったせいで消耗してるのも。

切島とか、さっきの空間でなんとか体力回復を図ってはいたけど、やっぱり無理があったらしい。

実際完全に休んでた訳でもないから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。

 

「だ、大丈夫かい・・・!?」

 

かっちゃんに呼ばれた転校生がこっちにきた。

日本の高校に通うだけあって日本語ペラペラである。

ちょびっつ羨ましい。

 

「おーけーおーけー。あいむふぁいんせんきゅーだYO」

 

私の素晴らしい英語を聞いて転校生がその顔に困惑を浮かべる。発音が良すぎたのかも知れない。

 

敵にちょっかいを掛けながらかっちゃん達の様子を眺めていると、森の中からお茶子達が現れた。

お茶子達は私に気づくと混戦する中を突っ切り駆けつけてきてくれる。勿論無謀に突っ込んだ訳じゃない。ちゃんと周りの様子を見て隙をついてだ。

 

まぁ、その行動が格好いい事に変わりはないけど。

お茶子まじ男前、惚れる。

 

「大丈夫ニコちゃん!!」

「ふぁいんせんきゅー」

「なんで英語なんや!」

 

こんな時だっていうのにキチンとツッコミ。

もうあれだ。結婚しよ、お茶子。

 

「お茶子ちゃん、のんびりしてる時間はないわ。直ぐに撤退するわよ。その様子だと、走るのは無理ね?」

「あ、うぅ、ごめん、つい。━━ニコちゃん取り敢えず私の背中にっ!」

 

さっと私の前で背中を向けて膝をついたお茶子。

男前過ぎる行動に胸がきゅんとする。

格好いいよぉ、お茶子ぉ。

 

そんなお茶子に向かって転校生が口を開いた。

 

「あの、僕が・・・」

「青山くん、気持ちはありがと。せやけど、私なら個性で軽く出来るから大丈夫や。それに攻撃手段持っとる青山くんは身軽な方がええ。だからそっちをお願い!」

「あ、うん」

 

話がまとまった所でお茶子の背中に乗ろうとすると、それが目についた。

 

お茶子達が現れた方向。

帰りの道を遮るように現れた黒モヤ。

USJで見たそれ。

 

 

「黒霧!!時間過ぎてるぞ!!どういうつもりだ!!死柄木の指示か!?」

 

 

火傷顔の怒声が響いた。

その声に黒いモヤに浮かぶ二つの光が揺れる。

 

 

「申し訳ありません。こちらの様子を知ったあの方が、自ら彼女を迎えにいくと仰りまして━━━━━」

「━━━ああ、黒霧。後は僕が自分で言うよ」

 

 

黒モヤの後から聞こえた声に息が止まる。

 

 

「邪魔してすまない、皆。こうして会うのは初めてだね。僕だよ、弔の先生さ」

 

 

その声に吐き気がする。

 

 

「本当は弔に全部任せるつもりだったんだけど・・・どうにも雲行きが怪しいと言うじゃないか。僕個人としても彼女とは話してみたくてね。これを逃すと次の機会がいつになるか分からないと思って・・・手伝いにきたんだよ」

 

 

黒いモヤから黒いマスクを被ったスーツ姿の男が現れた。瞬間、空気が重くなった。手マンに感じた嫌な気配が、子供騙しだと思えるくらい淀んだ何かが周囲を漂う。

 

胃がひっくり返るような刺激に耐えながら周囲を見れば、殆んどの人が顔を青くさせたまま震えてる。

かっちゃんですら息を飲んでた。

 

 

「やぁ、双虎ちゃん。迎えにきたよ」

 

 

伸ばされた手に寒気が止まらない。

逃げようと思うのに体が動こうとしない。

 

 

「これだと少しつまらないなぁ。ああ、ここは彼にあやかって見ようかな?ねぇ、双虎ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕がきた」

 

 



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臭い物にはどんどん蓋していこうね。どんどん蓋して釘打って、接着剤流して、セメントで埋めて、ビルを建てちゃおうね!60階クラスの!!これで安心・・・ちょ、なにしてんのぅ!漏れてんですけど!!の巻き

「ふふっ・・・いやぁ気恥ずかしいものがあるね、この台詞は。僕には合いそうもないから余計かな。けれどさ、ほら、こういうものは少しキザ臭いくらいが丁度良いだろう?黒霧、どうだったかな?個人的には格好がついたと思うんだけど」

 

 

音が消えたかのように静まりかえるその場所で、場違いなほど楽しげな声が響く。

纏う雰囲気とはかけ離れた、踊るようなその声が。

 

 

「はい・・・私にはその辺りの事はなんとも」

「真面目でつまらない返事だ。君は少しユーモアに欠けるな」

「申し訳ありません。以後は━━━」

「ははは、冗談だよ。冗談。そんなに畏まらなくていいさ。それが君だ、それでこその君さ。"個性"を大切にしなさい。━━━━さてと」

 

 

男の視線が周囲を見渡す。

敵味方関係なく、その視線に肩が揺れた。

そしてそれは、私も例外ではない。

 

 

「ヴィラン連合の諸君、邪魔して本当に済まなかった。言いたい事はあるだろうけど、取り敢えずは飲み込んでくれないかな?そして、ここは僕に任せて欲しい」

 

 

男の視線は私達以外に向いている。

隙をつくなら今なのだけど足が動かない。

個性を使おうにも頭痛が激しくて難しい。

 

 

「無論、無理には言わないよ。文句があれば言葉でも、言葉以外で語って貰って結構。僕は良識ある大人で、君達の特別な言語には理解があるつもりだからね」

 

 

からかうような言葉に火傷顔が首を横に振る。

 

 

「・・・いや、あんたに言うことはない」

「そうかい?残念だ。一昔前なら、随分と手荒い挨拶をされた物なのだが・・・時代なのかなぁ━━━」

 

 

言葉が途切れた瞬間、空気が一段と重くなった。

寒気が襲い鳥肌が立つ。締め付けられるような痛みが心臓に走る。酸味のあるそれが胃から込み上げてくる。

私は何とか耐えたけど、かけられた重圧に耐え切れなかった転校生が地面に嘔吐した。普段なら文句の一つも言ってるけど、今はそんな事言う気は起きない。

それも仕方ないと思うから。

 

顔を蒼白させる火傷顔に男は続けた。

その身からおどろおどろしい何かを吐き出しながら。

 

「━━━━本当に、随分とくだらない時代にしてくれた物だよ。オールマイトは。今更ね、僕が言える事でもないけれど・・・ヘドが出るよ。本当に、本当にね━━━━」

 

言葉を言い切ろうとしたその瞬間、男の周囲を覆うように巨大な氷柱が現れた。

止まっていた時間が動き出す。

 

「全員走れ!!」

 

轟の怒号に全員がほぼ同時に動いた。

森に近い阿修羅さん達は森に、かっちゃんは爆速ターボでこちらに向かってくる。

お茶子は側にいた梅雨ちゃんと転校生に触れ空へと放り投げた。

 

「ニコちゃん!!手をっ!!」

 

伸ばされたお茶子の手に触れようとしたけど、その間に黒い何かが割って入ってきた。

それは赤い光の筋を這わせた、得体の知れない黒い触手。

 

 

「それは困るなぁ、お嬢さん」

 

 

ガラガラと何かが崩れる音に紛れ、緊張感のない声が聞こえる。視線をやれば飴細工のように砕かれた氷柱の残骸と、人差し指から触手を伸ばし無傷で立ち尽くす男の姿があった。

 

「僕に一人で帰れと言うのかい?それは、あんまりじゃないかなぁ」

 

男の残りの指先から四本の触手が伸びる。

矢のごとく放たれたそれを避ければお茶子との距離が大きく開いてしまった。

 

「双虎!!」

 

声に視線を向ければ掌を構えるかっちゃんの姿があった。咄嗟に地面に伏せれば、かっちゃんから放たれた爆炎が触手を吹き飛ばしながら頭上を掠めていく。

 

触手を吹き飛ばしたかっちゃんは私と男の間に滑り込んできた。

 

「麗日ァ!!馬鹿連れていけや!!」

 

振り向きもしないで怒鳴るかっちゃんに少しだけ怒りがわいた。けれど文句は言えない。それは当然の事だから。碌に走れもせず、頭痛で碌に個性も使えない。

今の私はいるだけで邪魔になる。

 

けど━━━━━。

 

 

「ニコちゃん!」

 

 

お茶子に掴まれて体が軽くなる。

そして宙に浮くその体をお茶子に引かれた。

 

 

「お茶子・・・!」

「気持ちが分かるとは言わへんよ!けど、行こう!ここにいてっ、今ニコちゃんに出来ることはないやろ!」

 

 

遠さがるかっちゃんの背中に視線をやると、それを遮るように氷の壁がせりあがった。

敵の間を抜けてかっちゃんの元へと走る轟の姿も見える。

 

 

「ははっ、格好良いなぁ。子供のままごと程度かと思ったけど、存外立派にヒーローしてるじゃないか。けれどね━━━━━」

 

 

男の声が響く。

そこに焦りはない。

 

 

「━━━━僕の相手をするには、早すぎるね」

 

 

大きな爆発音が響く。

 

 

「まだまだ、経験が足りない」

 

 

氷の砕ける音が響く。

 

 

「そもそもの実力も足りない」

 

 

かっちゃんの喉が張り裂けんばかりの怒号が。

轟のらしくない咆哮が。

響く。

 

 

「君達では力不足だ」

 

 

なのに、その声は最初の頃となんら変わらない。

酷く落ち着いた、男のその声は。

 

 

「力の伴わない正義を、この僕に掲げるな━━━━━目障りだよ」

 

 

その声に、最悪が頭を過る。

頭に走る痛みがこれ以上ないほど叫んでいた。

 

 

「かっちゃん!!逃げっ━━━━━━」

 

 

耳をつんざくような音が私の声をかき消し響く。

瞬間、視界に捉えていた景色が流線のように流れる。

 

 

空気を切り裂く轟音が。

 

 

木の軋むような音が。

 

 

砕ける音が。

 

 

お茶子の悲鳴が聞こえる。

 

 

そして何処かに打ち付けたような痛みが走り、視界が暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「双虎ちゃん」

 

声に目を開ければ男が側に立っていた。

ボロボロになった地面と薙ぎ倒され木々、それと倒れてるかっちゃんの姿が見えた。

 

「ようやく静かになったよ。これでゆっくりお話が出来る」

 

頭痛がする。

頭が割れるような。

 

「ああ、大丈夫。心配しないで欲しい。まだ、誰も殺してないよ。君の大切なお友達は」

 

声が頭に響く。

それが痛くて痛くて仕方ない。

 

「さっきからどうしたんだい?頭が痛いのかな?」

 

そっと男に頭を触れらた。

寒気がする。吐き気がする。気持ちが悪い。

直ぐに払いのけたけど、体が酷くだるい。

頭痛がもっと強くなってく。

 

 

『君は賢いなぁ』

 

 

何かが、頭を過っていった。

痛みの中を、何かが。

 

 

「無理はいけないよ、体は大切にしないとね」

「━━━っさい。どの口で・・・言ってんだって話」

「はは、手厳しいな」

 

 

割れるような痛みに紛れ、声が聞こえる。

 

 

『その歳で、自分がどうすべきか、ちゃんと分かってる。偉い偉い』

 

 

覚えもない、その声も。

 

 

「正直驚いたよ。あの時の君が、ここまでの才能を持ってるとは思わなかった」

「あの・・・時?つっ!」

 

痛い。

声が響く度。

 

 

『でも惜しいな、君は賢いだけで面白味に欠ける』

 

 

痛い。

何かが頭を過る度。

 

 

「これならもっと早く、お友達になっておきたかったよ。でもまぁ、仕方がないよねぇ。あの頃の君には、本当に何も無かったんだから」

 

 

頭痛が止まらない。

 

 

『噛みついてくるくらい元気があれば、僕がお友達になってあげたのに。まぁ、それは言っても仕方ないか。人の生き方をどうこう言える程、僕も偉くないし・・・君の生き方を尊重するよ』

 

 

頭の中が引っ掻き回されてるかのように。

痛くて痛くてたまらない。

 

 

『いつまでもそうしているといいよ』

 

 

 

『頭を下げて、小さくなって』

 

 

 

『僕の目につかないよう、日陰の中を歩いて生きなさい』

 

 

 

『そうしたら、きっと二度と会うこともないさ。まぁそれも、君の気が変わるまでだとは思うけどね。それまで、さようなら━━━━』

 

 

 

目が自然と男の顔へ向いた。

排気筒の取り付けられた黒いマスクに見覚えはない。

けど、その立ち姿が頭の中で過る影が━━━━

 

 

「懐かしい顔だ。確かあの時も、そんな顔をしていたね『小さなお嬢さん(リトルレディー)』」

 

 

━━━過った言葉が、男と重なった。

 

 

 

「━━━っああ」

 

 

 

今更になって思い出した。

 

 

 

「ああぁっ・・・はっ、はぁ、は、あっ」

 

 

 

違う、考えないようにしていただけ。

ずっと。

 

 

 

「いや、いやいやっ、いや、ごめんなさいっ」

 

 

 

 

『何をするにも原点を常に意識しとけ』

 

 

 

 

だって、それは私の━━━━━

 

 

 

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさ、ごめんっ、なさい」

 

 

 

 

 

━━━━原点(オリジン)だから。

 

 

 

 

 

「謝らなくていいよ。君のお陰で楽しい時間を過ごせたからね。さぁ、行こうか。今度こそ、手をとってくれるだろう。この僕の手を・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん、かっちゃん、かっちゃん━━━━かっちゃんってばぁ!!」

「うるせぇ!!んだよ馬鹿!!」

 

振り向いた先で、あいつが長い髪を揺らしながら、いつもみたいに笑ってた。

何か企んでるのかと思って様子をみれば、手を後ろに組んでやがった。案の定の行動で溜息が出る。

 

「あぁぁぁ!!溜息するなぁ!!まだ何もしてないのにぃ!!」

「何しやがる気なんだ馬鹿。さっさと手出せや」

「はっ!しまった、謀ったな!!」

「謀るまでもねぇだろ」

 

睨んでやれば馬鹿はフルスイングで蜻蛉を投げ飛ばした。「逃げるんだ、松五郎!!」だの叫んで。

 

「何する気だったんだよ、てめぇは」

「言ったら怒るから言わない」

「怒られんのやなら、最初からやんなや!」

 

思わず構えた拳に双虎はニヤニヤしたまま「おっ、やろうってか!おう!?」と挑発的な態度をとってくる。全然懲りた様子は見えない。

いっそ本気で殴ってやろうかと思ったが、クソババァにしこたま怒鳴られる未来が頭を過り止めておく。

拳を下ろした俺に双虎は不思議そうに首を傾げた。

 

「やんないの?」

「なんでてめぇのがやる気なんだよ。やんねぇ」

「えぇぇーつまんなーい」

「うるせぇ、女とやれっか、馬鹿」

 

そう言うと更に不思議そうな顔をした。

 

「みつきさんに怒られたりしたの?」

 

脳裏に腰の入ったクソババァのビンタが過った。

 

「う、うるせぇ!とにかくやんねぇ!」

「はいはい、また今度ねー。ぷっ、ははは!かっちゃんびびったー」

「なっ!びびってねぇ!つか、今度もやらねぇー!」

 

笑い声をあげた双虎は楽しそうに俺を抜かしていく。

横を通り過ぎていった双虎の髪が煌めきながら風に流れていく。何故だかそれが目についてそのまま見つめていると、振り向いた双虎と目があってしまった。

 

「どしたの?髪になんかついてる?」

「な、なんもついてねぇ!邪魔くせぇと思っただけだ!!ばぁぁぁか!!」

 

思わず出た言葉に双虎は髪をいじりながら呆れた顔をしてきた。むかつく表情だが、こっちから言える言葉は思い付かない。双虎に言うつもりはねぇが、今のに関しては自分が悪いのは自覚してる。

 

「邪魔くさいとか・・・クラスの女子に言ったら泣くからね?気をつけなよ。うーん、でも確かに伸びたよなぁ。シャンプー大変だし・・・短くしてみようかなぁ?ねぇ、かっち━━━」

「縛ればいいだろうが!!」

「わっ」

 

双虎の突然の言葉に心臓が止まる思いがした。軽く流されると思っていただけに、本当にびっくりした。

思い立ってから行動に移すまで双虎は早い。もしこれで突発的に散髪にでもいかれたら、クソババァは言うに及ばずクソジジィも敵に回す可能性がある。別にびびってる訳ではねぇが、小遣いをこれ以上減らされるのは不味い。双虎にたかられたら一回で終わる。本当に不味い。

 

それに、双虎は髪が長い方がいいと思うから。

 

「縛るねぇ?この間ツインテにしたら微妙な顔したじゃん?」

「あ、あれは・・・その、色々あったんだよ!」

「ツインテに何があったの・・・?」

 

双虎は勘がいい。

下手に話すと直ぐに気づく。

 

どうにか誤魔化そうと思って考え、不意に最近クソジジィが見てた映画を思い出した。正確に言えば、映画に出てたヒロインの髪型だ。

 

「頭の後ろで縛るのあるだろ!!」

「ちょっ、いきなり怒鳴らないでよ。耳痛いなぁ。後ろで縛るの?ポニー?」

「名前なんざ知るか!」

 

腑に落ちない顔をしながらも、双虎は髪を後ろに纏め俺に見せてきた。柔らかく揺れるキラキラした髪と普段みえないうなじが目につき、見ていると妙な気分になった。

 

「こんなの?」

「あっ、お、ああ、そうなんじゃねぇの」

「そうなんじゃねぇのって・・・はぁ、もう」

 

少し寂しげな顔が目について、気がつけば俺の口は開いていた。

 

「だ、だいじょ・・・だろ」

「ん?なんか言った?」

「~~~っ!けっ、い、良いんじゃねぇの。知らねぇけど」

 

最初はポカンとしてたが、理解すると共に双虎の顔は段々と嬉しそうに緩んでいって「そっかぁ」と見たこともないくらい嬉しそうな声をあげた。

 

それが何だか照れ臭くて、俺は双虎から目を逸らした。

それ以上掛ける言葉がなくて黙って一緒に帰った。

 

 

「かっちゃん」

 

 

気がつけばもうあいつの家の前で。

いつものように見送ろうとした俺が見たのは━━━。

 

 

「ばいばい」

 

 

酷く悲しそうな、あいつの顔だった。

 

その時のあいつは馬鹿みたいに笑ってた筈なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆豪!!」

 

 

頭痛が走った。

うっすらと見える景色にクソ担任の顔が浮かぶ。

 

「━━━!爆豪、分かるか、これが何本に見える」

 

翳された三本の指を見て、それをそのまま口にすれば安堵の息を吐きやがった。

 

首を動かし辺りを見渡せば救助にきたらしい人間がチラホラ見える。

情けない話だが、助かったのだと何処か安心しちまった。

 

「爆豪。体が辛いのは分かるが、ここで何があったか話してくれないか。切島達からお前らが最後に残ったと聞いたんだが、他の奴等はまだ意識が戻ってなくてな」

「他の奴等・・・」

 

クソ担任の言葉にあいつの顔が浮かんだ。

 

「あいつは━━━━」

 

 

「落ち着いて聞け、爆豪」

 

 

俺の言葉を遮ったクソ担任は眉間のしわを深くさせた。

それが何を意味しているか、分かりたくなくても頭が先に理解してしまった。

 

 

「緑谷は、まだ見つかってない」

 

 

周りから音が消えたような気がした。

 

 

「━━━━━━━」

 

 

クソ担任が何かを言ってるのは分かる。

だが、言葉が入ってこねぇ。

 

 

何も。

 

 

何、一つも。

 

 




暗くて、ごめんねぇぇぇぇぇ(;・∀・)!!
あと、更新遅めでごめんねぇぇぇぇぇ!!

時間がなかったんちゃうで、悩んだんや。
この話かくの、死ぬほど悩んだんや。
難産だっただけやで。

アオハル求めてる奴等、すまんな!


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アクト9:スーパーガチムチマン:私の強さに貴様が泣いた編
シリアスが続いて、マジすまんな。こんな気持ちを込めて名付けます。『teacher and student』の閑話の巻き


たまの休みに部屋にこもって朝から執筆活動中。
いや、それはそれで有意義なんだけど、たまには日の光を全力で浴びにいかないと駄目な気がしてならないだよね(;・∀・)

いや、今日は部屋から出ないけども。


久しぶりの外出日から日付が一つ変わる頃、一仕事終えた僕が自室に帰ってくると、モニタに通信記録が残っていた。

宛先は生徒である弔から。

 

「弔・・・ふふ、せっかちだなぁ」

 

通信内容の予想はついたので直ぐに折り返せば、不機嫌を隠さない弔の声が聞こえてきた。

 

「やぁ、弔。どうかしたのかい?」

『あいつはどうした』

 

碌に挨拶もなく掛けられた言葉に、明確な怒りが見える。いつもの弔なら絶対にしない反応だ。面白い。彼が誰かに執着するなんて、オールマイト以来だろう。

 

「こちらで元気にしているよ。今はね、治療を施した所さ」

『先生、あいつをこっちに寄越せ』

「おいおい、これはまた随分と乱暴な言い方だね。別に媚びる必要はないけれど、最低限の礼節は知るべきだ。教えただろう?」

『礼節は知ってる。けど、先に裏切ったのはあんただろ、先生』

 

裏切った、ね。

君からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。盲信するだけの子供かと思ってたけど、考えるという事をようやく覚えたんだね。素晴らしい成長だ。一人立ちも直ぐそこなのだろう。

 

これも、彼女のお陰だったりするのかなぁ。

だとしたら面白いな、本当に。

 

「裏切ったなんて人聞きが悪い。僕は少し手伝ってあげただけさ。僕は君の保護者なんだ。だからこそ作戦の成否を心配して、ついつい手を出してしまっただけなんだよ。悪かったね。お友達にもそう伝えて欲しいな」

『あんたのそういう取り繕った話を聞く気はない。俺も馬鹿じゃない。いいから、あいつを寄越せ』

「それは出来ないよ。まだ容態が安定してなくてね。君も不本意だろう?痛々しい彼女をそのままにするのは。違うかな、ん?」

 

ガン、と画面越しから何かを叩くような音がした。

 

『いいから寄越せ。殺すぞ』

 

その声に込められた物に、僕は思わず身震いしてしまった。画面越しからでも伝わるそれが、死柄木弔という男の成長を如実に物語っているからだ。

 

我が子のように育ててきた次代の僕たりえる男。

それがようやく形になり始めているという事実が、この僕をこれ以上なく歓喜させる。頼もしい限りだ。

 

━━けれど、まだ足りない。

 

「交渉としては、殺すでは弱いな。君が僕を殺せる可能性がどれほどあるかな?」

『一人、俺の仲間が消えた。あんたには心当たりがあるだろ。警察に捕まっただの、つまらない嘘はつくなよ。裏はとってある』

「素晴らしいよ、弔。彼はね、僕が保護した。今からでも返そうか?四肢をやられてるから、使い道は限られるだろうけど・・・」

『ついでに頭がいかれてんだろ。あんたが使えない奴をいつまでもそのままにしておく訳がない。違うか?』

「ふふっ。いいや、その通りだよ。満点の解答だ」

 

流石に僕が教え込んできた事はあるかな。

普段の態度は別として、やはり弔は優秀。求められれば、それに応えるだけの実力がある。

 

「それで・・・どうしようかな?僕はまだ、彼女を君に渡すつもりはないんだけど━━なんなら本当に殺し合ってみるかい?」

『いいや、やっぱり止めておく。あんたとやると、殺せたとしても後が面倒そうだ。黒霧も使いもんにならなくなるだろうしな』

「そうかい?それならどうするんだい?」

 

少しの間が空いた後、弔はいった。

 

『約束しろ、先生。あいつに手を加えない事を。それとあんたがやろうとしてることをさっさと済ませて、あいつを俺に寄越す事』

「それだけで良いのかい?」

『いや、こっちから二人送る。そいつをあいつに付けろ。勿論、その二人にも危害は与えるな。俺のコマだ』

「監視かい?いい気分はしないな。そこは信用して欲しいかな?」

『今のあんたを信用するつもりはない』

「悲しいなぁ━━━さて、具体的にはいつまでに済ませろっていうんだい?まぁ、希望を聞いた所で、保証は出来かねるけどね?」

『今日中』

 

足下をみるな、随分と。

まぁ、僕の実力を知っているからこそか。

 

「一週間は欲しいかな?」

『駄目だ、伸ばして二日。あんたなら、一日で十分過ぎるだろ』

「分かった、なら三日でどうかな?勿論ただでとは言わないよ。玩具を一つあげよう」

『駄目だ、二日。玩具は必要ない。二日目の24時前。日付が変わる前。それがあんたにあいつを預けられる最長期限だ』

「嫌だと言ったらどうする?」

『あんたに教えられた事を、一から十まであんたにするだけだ』

 

僕に教わった事、その全てを、か。

面白いなぁ、そこまで言わせるのか。

君は彼女に何を見たんだい、弔。

 

聞きたいけれど、きっと教えてはくれないだろうな。

君は僕とよく似てる。

 

「・・・ふぅ。負けたよ、弔。分かった、それで良いよ。それで、ナイト達は直ぐにくるのかな?」

『10分後、黒霧を使ってそっちに送る』

「分かった。急だからね、歓迎会の準備が出来ない事は、君から二人に伝えておいてくれよ?」

『━━━ちっ』

 

乱暴に切られた通信。

僕は弔の消えたモニタのチャンネルを変え、施設にいる彼に繋げた。

 

「聞こえるかな、ドクター」

『ん?先生か、どうした。準備に忙しいんだが』

「予定変更だ。弔がお怒りでね、彼女に手を加えられなくなった。彼女のデータはどこまで取れたかな?」

 

僕の声にガシャンとけたたましい音が鳴り響いた。

準備していた何やらを落としたのだろう。

 

『何?また、あの子供か・・・!!まったく、これがどれ程の事なのか理解していないのか!嘆かわしい!!分かるか先生!!有史以来、初だ!個性が世に発現してからただの一度も成功しなかった、未だに母胎のみが起こせる奇跡!!個性の融合!!その神秘を補助装置もなしに、それも意思で行える被検体が目の前にいるんだぞ!!その上、彼女はナチュラルだ!!それなのに、手を出すなと!ふざけている!!ええ!?分かるか先生!!私のこの気持ちが!!』

 

酷く興奮したドクターの声にこれは骨が折れるなと思わず笑ってしまう。

 

「有史以来初ではないさ。僕の弟も成功したよ」

『はっ!そうだな!そうだったさ!で?!それはどんな原理で、どうやって起こった!?分かるのか先生!!分かるまい!もう被検体の亡骸も残っていない!!だからこそ、手掛かりすら掴めず、研究は何年も進まなかった!!何年無駄にしたか、忘れてやいまいな!!』

「そう熱くならないでくれよ」

『これが熱くならずにいられるか!!先生!あのガキを殺せ!!もう必要あるまい!!この被検体がいれば━━━っひ!?』

 

何か言ったつもりはなかったんだけど、伝わるものは伝わるらしいな。

 

「言葉はよく考えて、選んで使った方がいい。そうだろう、ドクター。それで誰をどうするって?」

『━━━━っまない。失言だった。少し興奮していて』

「分かってくれれば良いよ。それにね、彼はいずれ僕の椅子に座る男だ。気にいられて損はないさ。なぁに、何処へなりと手放す訳じゃない。結果的に彼女が弔の手元に残るなら、そう悪くない話だろ?研究の機会は幾らでもある」

 

暫くの沈黙の後、『分かった』とドクターの小さい呟きが聞こえた。

 

『治療した際、必要なデータの殆どは入手しておいた・・・投薬実験は・・・無理なのだろうな。反応データが欲しかったのだが。生体チップを埋め込むのも・・・駄目なんだろうな。はぁ、口惜しいな」

「知識もあるし、あれでいて勘の良い子だ。気づかれる可能性がある事は止めておいた方がいいね。弔に追い掛け回されるのは嫌だろう?」

『あれでも先生の生徒だからな、ご遠慮願う』

 

力ない乾いた笑い声が聞こえてくる。

悪いとは思うけど、この程度は飲んで貰わないと困る。

ここにいるということは、そういう事なのだから。

 

「さて、話を変えよう。弔から二日間の猶予を貰ったんだ」

『二日間?なんの時間だ、それは』

「別に?弔の成長が嬉しくてね、少しお遊びをしたんだ。交渉の真似事の結果さ」

『また無駄な事を・・・こうなった以上さっさと渡してしまえば良かろう。ここには機密も多い』

「ふふ、まぁ、良いじゃないか。彼女ともゆっくり話す時間が━━━ああ、そうだ。良いことを考えた。あれを仕上げよう、ドクター」

 

あの時拾っておいた男が脳裏に浮かぶ。

 

『うむ、ポテンシャルは中々だったからな。面白い物が作れるだろうが・・・』

「弔はいらないと言ったんだけどね、どうせ渡すなら玩具もつけてあげようと思うんだ」

『また金の掛かる玩具だな。はぁ、わしはあの娘のデータを纏めたい。あまり手伝わんぞ』

「良いよ。その代わり部屋を一室あけて欲しいな」

『それなら、奴をおいたそこをそのまま使えば良い。他に必要な物は?』

「ないかな」

 

通信を切ろうとするドクターへ、念の為にあの部屋を秘匿するように告げ僕はモニタのチャンネルを一つ変えた。

 

僕に目はない。彼に、オールマイトに潰されてしまったから。色々な個性を駆使して目の代わりをさせているけど、モニタなどの映像とは相性が悪く殆ど見えない。

だけど、僕の目には彼女の姿が見える気がした。

 

ベッドに横たわる彼女の姿が。

 

「おやすみ、双虎ちゃん。よい夢を」

 

モニタを消した僕は部屋を出た。

弔のお友達、ナイト達を出迎える為に。

 



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はいはい、昨日間に合わなかったもう一話のサブタイをパパっとつけてあげちゃうよ『先生と生徒』の閑話の巻き

すまんな、昨日は間に合わなかった。寝落ちしちゃったんだぜ(´・ω・`)

明日の更新はないけん、すまんな。
話が進まんなぁ・・・くぅ。


半身浴を終えた私が何気なく出た一本の電話。

届いたそれは、最悪の報だった。

 

雄英高校ヒーロー科で毎年恒例となっていた合宿を狙って起きた、ヴィラン連合による二度目の襲撃事件。

合宿に参加していた一年ヒーロー科の生徒40名。その内意識不明の重体15名。重・軽傷者13名。無傷ですんだのは僅か11名。

 

そして行方不明者1名。

 

同行していたプロヒーロー達も無傷ではなく、6名の内一人は頭を強く打たれ重体。もう一人は大量の血痕を残し行方不明となっていた。

 

その一方で、ヴィラン側にも2名の逮捕者はあった。

一人はガスを操る個性を持つ少年、もう一人は脱獄囚であった歯の個性を持つ男だ。

 

ある少年の証言によればもう一人逮捕者がいた筈なのだが、その男もまた大量の血痕と共に荒れ果てた地より姿を消していたそうだ。

 

 

そしてそれが、私の元に届いたものの全てだった。

行方不明者━━━私が守ると、助けると約束した少女の足取りは、何処にも残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは君に謝罪する、オールマイト。君が正しかった」

 

職員が一同に介する会議室で根津校長が私に頭を下げた。その謝罪がどれ程の意味を持つのか理解する皆が、思わず息をのむ。

 

「謝罪など・・・あの時は、私もそれが正しいと」

「いや、甘かったのさ。私も、ここにいる皆も。敵への認識がね。ヴィラン活性化の恐れ?馬鹿馬鹿しい限りだよ。見当外れさ。奴等は既に戦争を始めていた、ヒーロー社会を壊す戦争をさ」

 

戦争という言葉に他の教師陣が顔を引きつらせた。

比較的平和な時代を生きる若い世代のヒーロー達にとって、戦争と言い換えれる程のそれは未知の領域。

緊張するなというのが無理というものだろう。

 

そんな教師陣の中、ミッドナイトが軽く手をあげる。

 

「お気持ちはお察しします、根津校長先生。ですが、認識できたとして防げていたかどうかは別ではないかと・・・最近では組織だった犯罪は殆どありませんでしたし」

 

その声に「そこだぜ、ミッドナイト」とプレゼントマイクが続く。

 

「要は知らず知らずの内に平和ボケしてたんだ、俺ら。備える時間があるっつー認識だった時点でよ」

 

その言葉に返るものはなかった。

あるのはただ沈黙のみ。

 

少しの沈黙が過ぎた後、校長によって会議は再開された。メディアへの対応、今後の方針、疑われる内通者の件。正直そんな事を話し合っている場合でないと思ってはいた。今すぐにでも彼女を探していくべきだとも。

 

だが、それはあくまで感情の話。

 

本気で彼女を助けるつもりなのであれば、なんの手掛かりもなしに飛び出すなど出来る訳がない。敵に動きを知られれば警戒され、一度警戒されてしまえばそれだけ助けられるチャンスを削る事になる。

 

私が足掻いてどうにもでなるのなら幾らでも足掻こう。

だが、今はそうするべきではない。

そうだろう、緑谷少女。

 

今はただ━━━

 

『ガチムチが来るまで意地でも生き残っておきますから』

 

━━━あの時の君の言葉を、今も捜査を続ける塚内くん達を信じよう。

 

様々な話が進む最中、私が決意を新たにしているとポケットに納められていたソレが震え出した。

 

『でーんーわーがー来た!』

 

重苦しい会議室の中で私の着信音が響く。

皆の視線が私に集まるのが分かる。

・・・申し訳ない。

 

「会議中ですよ、オールマイトーーー電源切っておきましょーよ」

「す、すまない。マイク」

 

会議中のここで鳴らしておく訳にはいかないと思い、取り敢えず電源を落とそうとスマホを手にし━━━そこに映る待ち望んでいた友人の名前に手を止めた。

 

皆に一言断り部屋を出た私は直ぐに通話ボタンを押した。聞こえたのはいつもの友人の声。

 

『色々と忙しい所済まない。早速で悪いが話したい事がある。時間はあるかな?』

「無論だとも。頼む」

『ありがとう。恐らく君も気になってる事だろうから、それから話そうか。まだ彼女の足取りは掴めていない』

「そうか・・・教えてくれてありがとう。それで?これだけではないのだろう」

『ははっ、こういう時の君は冴えてるな。ああ、続きがある。ヴィラン連合の居場所、突き止められるかもしれない』

 

彼の言葉に、私の何かが燃え上がる。

私が私である為の、ヒーローとしての何かが。

 

『まだ情報を精査している段階で詳しい事は話せないが、恐らく君達ヒーローの協力も取り付けた大規模な作戦になると思う。色々と決まり次第追加の連絡はさせて貰うが・・・君もそのつもりでいてくれ』

 

まだ、彼女がいると決まった訳ではない。

 

『・・・・オールマイト?』

 

だがこれは、間違いなく好機だ。

 

「私は、素晴らしい友を持った・・・塚内くん、ありがとう」

『やめてくれ。まだ何もしていない・・・これからだ、オールマイト。今度こそ、大人の役目を果たそう』

「ああ、そうだな。奴等に言ってやらねばな・・・私が、反撃に、来たってね・・・!!」

 

そして彼女に言ってやらねばならん。

私が、来たと。

 

『あ、そうだ。それともう一つあったんだ。生徒の事でね』

「ん?生徒の、事?」

『ああ、実は━━━━━━』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔しくさってんじゃねぇぞ!!」

 

塚内くんから連絡を貰った翌日。

生徒達が入院している病院へお見舞いに行くと、予想通り彼が入室している部屋から怒号が鳴り響いていた。昨日、"彼女"の後にでも無理をしてでも様子を見に行けば良かったと、少し後悔してしまう。

 

そっと覗けば妙に体格の良い看護婦に取り押さえられる彼の姿がそこにあった。お見舞いにきていたのか、軽傷で済んでいた生徒達の姿もある。

 

「爆豪くん!!いい加減にしないと鎖で縛り上げますからね!!というか、どうやってこれを抜けたの貴方!!素直に尊敬しちゃうわ!!私と一緒に柔道しましょう!世界を狙えますよ!」

「っせぇ!!クソゴリラ!!野生に帰れや!!」

「ゴリラだなんて!!まぁ!!彼以外で初めて言われたわ!!誘惑しないで!」

「頬を染めんな!!欠片も褒めてねぇだろが!!」

 

うわぁ。

 

思わず爆豪少年から視線を外すとボロボロになった拘束具を手にした看護師さん達が目に入った。

 

「これって雄英から借りた拘束具ですよね?頑丈そーなのに、よくこんな物から・・・ていうか、今更ですけど看護師長。怪我人相手にこんなのつけて良いんですか?親御さんから許可は貰ってるって聞いてますけど・・・」

「医療に携わるものの一人として、どんな理由があるにせよ、あんな怪我をしてる彼を外に出すわけにはいかないわ。止められる方法が他にあるなら、それでも構わないのだけど、現状は仕方ないわね。━━━まぁ、安心なさい。何かあったら私が責任をとるわ」

「看護師長・・・!伊達に医院長と黒い噂があった訳じゃないんですね!私、看護師長がこの病院辞めるまで一生ついてきます!」

「シャラップ、お馬鹿」

 

こっちもこっちで怖い会話してるなぁ。

病院ってこんな場所だったかな、おかしいなぁ。

 

「一回落ち着け爆豪!!な!!話が━━━」

「っせぇ!!クソ髪!!引き千切んぞごら!!」

「何をだ!?」

 

切島少年を一言で切伏せた爆豪少年に轟少年が近づいていった。そして徐に殴り付けた。びっくりして思わず声が出そうになった。雰囲気的に私が交ざるとややこしい事になりそうだから、なんとか耐えたけど。

 

「━━━っめぇ!!」

「ようやくこっちを見たな、爆豪」

「・・・!?」

 

爆豪少年が顔をしかめた。

轟少年の顔はこちらから見えないが、爆豪少年の表情を見れば大体の予想はつく。

 

彼女の側にいた彼等が何を思ったのか。

きっと、私にも推し量れるものではないだろう。

 

「取り敢えず、こいつは俺達が見てます。だから看護師の方には下がってて貰えませんか。話があるんです。こいつと。ここにいる皆と」

 

轟少年の言葉に看護師の方々が渋々といった様子でそれを了承。部屋を出ていった。

 

当然部屋の前にいた私は彼女達に見つかったのだが、凄く心配そうな顔をされて「お大事に」と言われてしまう。・・・トゥルーフォームだから仕方ないが、なんだろう。この気持ちは。

 

閉じられた部屋の前で耳を済ませていると轟少年と切島少年の声が聞こえてきた。それは昨日、私達と八百万少女の会話を聞いてしまったという内容。

迂闊過ぎたかと後悔が募る。

 

「つまり、それは、八百万くんに受信デバイスを創って貰い・・・発信機がついているであろうヴィランを追うと。そういう事かい?」

 

確認するような飯田少年。

その声は段々と荒々しい物へと変わった。

 

「それはプロに任せる案件だ!!俺達の出ていい舞台ではないんだ馬鹿者!!」

「んな事分かってんだよ!轟も、爆豪も、俺だってよ!」

「いや、分かってない!!切島くん!これがどれ程の方々に迷惑をかける行為なのか!!」

「分かってる!でもよ、俺がっ、俺があいつを連れ出したんだよ!!」

「━━━っ!!」

 

悲痛な声に飯田少年の声が止まった。

 

「あいつは、もう、あの時、まともに動けなかった!!走れる余力もなかった!!俺が連れてったんだよ!!止めなきゃいけねぇのに!!俺が連れてったんだ!!自分の勝手な判断でっ、感情だけで突っ走って、勝手にピンチになってよ!」

 

「誰かを助けるのがヒーローだろ!!俺は、助けなきゃいけねぇやつを、守らなきゃなんねぇやつを頼っちまった!考えりゃ分かった筈なのに!俺は自分の気持ちの為に、あいつを・・・!」

 

「ちゃんと分かってる!飯田が正しいのも!けどよ!ここで止まったら!俺は、俺は一生てめぇが許せねぇ!!胸はって生きられねぇ!!だから━━━━」

 

咆哮が鳴りやんだ。

どうしたのかと思っていると、「落ち着け、切島」という声が聞こえてきた。

障子少年の声だ。

 

「俺もその場にいた。全部理解出来る訳ではないが、後悔する気持ちは俺にもある。あの時、俺が常闇を止められていれば、ああいう結果が無かったかも知れない」

「・・・済まない」

 

障子少年の後に常闇少年の声が続いた。

 

「そもそも俺がもっと個性を巧みに使えていれば、爆豪達があいつと戦う事もなかった。相性に加え夜というアドバンテージが俺にある以上、勝率も高かっただろう。あんな形で利用される事も・・・」

「常闇、その点はあまり気に病むな。かも知れないという可能性だけの話だ」

「そうだが・・・」

 

 

 

「良いかしら? 」

 

静かになったそこへ蛙吹少女の声が響いた。

 

「ショックなのは皆一緒なのよ。貴方達だけじゃないわ。起きた事のショックが大きすぎて、皆まだ受け止めきれていないの。・・・だからこそ、こんな時だからこそ、冷静になりましょう。理性で考えるの」

 

「貴方達がやろうとしてることは、きっと間違ってはいないわ。人としても、ヒーローとしても。でもね、この国にはルールがあるの。そのルールを守った上で戦うからこそヒーローなのよ。もしルールを破って力を行使するなら、その行為はヴィランのそれと同じなのよ」

 

個性に関する法は未だ不完全ではある。

そのせいで歯痒く思う所も多々あるが、それを守っているからこそヒーローはヒーローでいられる。

 

蛙吹少女の言葉は間違ってはいないだろうが・・・。

 

 

 

「なら、俺はヒーローじゃなくて構わねぇ」

 

 

 

迷いのないその言葉が耳に響いた。

聞き慣れた彼の声だ。

 

 

「ごちゃごちゃ喧しいんだよ、てめぇら。人の病室でよ」

 

 

「ルールがどうだ、発信機がどうだ・・・知るかよ。んなもんあろうが無かろうが、行くことは決まってんだ」

 

 

 

「何とでも言えや。勝手によ」

 

 

 

「俺はあいつのヒーローになれりゃ、それで良い」

 

 

 

その言葉を最後に部屋の中から音が消えた。

どれ程の覚悟で彼がそれを言ったのか。

その場にいた彼等には、分かったのだろう。

 

『私は私の大切な人だけ助けられれば、それで良いんです。知り合いとか、友達とか、母様とか。それだけで良いんです』

 

そして私の頭の中を彼女の姿が過った。

真っ直ぐに私の目を見て話す彼女が。

 

 

少しして、私は静まり返る部屋のドアをノックした。

 

 

そう間もあかず扉が開き、まだ怪我が治りきらない麗日少女が顔を出した。

 

「あ、あの・・・ここは」

「私は八木俊典と言って、オールマイトのマネージャーでね」

 

名刺を渡すと麗日少女は目を丸くした。

こうしてマネージャーとして顔を出したのは初めてだから疑われているのだろう。

 

「・・・何処かであったような?」

「きっ、気のせいじゃないかな!?あ、それでね、爆豪少年にオールマイトから言伝があって来たんだけど・・・取り込み中かな?」

 

私がそう言うと麗日少女は爆豪少年へと視線を向けた。

それに気づいた爆豪少年は首を傾げたが、隣にいた私の姿を見て目を見開く。

 

「オールマイト・・・」

「━━━っのマネージャーの八木俊典です!爆豪少年冗談がキツいなぁーHAHAHA!!」

 

「流石マネージャーだな。超オールマイトっぽいぜ」

 

峰田くん、嫌な所で鋭いな。

・・・あ、いや、皆そんな感じだ。演技に自信はないけれど、子供達にも通じないとは。

 

 

 

 

 

何とか誤魔化して彼等を帰した後、彼と二人きりになった私はそこらにあった適当な椅子に腰を下ろした。

そんな私を爆豪少年が睨んでくる。

 

「何しにきたんだよ」

「お見舞いに、ね」

 

私の言葉を聞いて爆豪少年が眉間に皺を寄せる。

けれど怒鳴り散らしたりはしてこなかった。

本当は怒りをぶつけたいだろうに・・・。

 

「━━━けれどね、君に話したい事が出来た」

「はぁ?今更何があんだよ。あいつの話じゃねえんだろ」

「ああ、違う」

 

 

 

 

 

 

 

「私の個性の話だ」

 

 

 

 

 

 

不思議そうな顔をした爆豪少年に私は私の秘密を話した。

ワン・フォー・オールという個性の特性。その誕生。経緯。これまでの私の戦いの話を。

 

全てを聞いた爆豪少年は苦虫を噛んだような顔をした。

 

 

「━━━んで、俺に話したんだよ」

 

「君に託そうと思うからだ」

 

 

私は髪の毛の一本を引き抜き、彼の掌へと乗せた。

 

 

「さっきの話を聞いていたよ。彼女のヒーローになりたいという言葉を」

「・・・・・・ちっ」

「その言葉を聞いてね、今の君になら、その力を渡しても良い。そう思ったんだ」

 

 

彼は私の目を見てきた。

真剣に。

 

 

「私の体、正直ボロボロだ。いつ限界がくるのか、私にも分からない。明日かも知れないし、もしかしたら今日かも知れない。無理をしたツケだ、仕方ないと思ってる」

 

 

「ただね、一つだけ心残りがあるんだ。この個性が無くなってしまう事さ。お師匠から、先代達から受け継いできた、皆の幸せを願い託されてきた希望の火が、ここで消えてしまう事が私には耐えられないんだ」

 

 

「だからもし、私が道半ばで倒れる事があったら、この力を紡いで欲しい。希望の火を。君が背負わなくてもいい。君が相応しいと思う人間に渡すだけでも良い。お願い出来ないかな・・・?」

 

 

私の言葉を聞いた爆豪少年は掌を握りしめた。

返ってくる言葉は無かった。俯いてしまった彼の表情が見えない以上、どう思っているのかは分からない。

 

ただ、その拳が堅く締められている事だけは見てとれた。

 

「今夜、私はヴィラン連合の拠点と思われる場所にいく。警察と合同の作戦だ」

 

爆豪少年の肩が揺れた。

 

「今更信用して待っていろとは言わない。君が名誉も命も持てるもの全てを懸けて、それでもと言うのであれば戦いなさい。私が全ての責任を負う」

「・・・良いのかよ」

「本来止めるべきなのだろうね。きっと私はヒーローとしても教師としても間違っている。けれどね、伝えるべきは全て伝えた。後は君が答えを出す番だ」

 

伝えるべきは伝えた。

私の思いも、力も、何もかも。

 

 

 

 

「・・・それでは、私はいくよ」

 

 

 

 

背を向けた私に爆豪少年は何も言わなかった。

扉を閉めた所でスマホの電源を入れると、手にしたソレが震え出した。

何ともタイミングの良いことだ。

 

通話ボタンを押せば友の声が響いてくる。

 

『オールマイト、電源でも落としていたのかい?学校にも連絡したんだが・・・今何処に?』

「ちょっと野暮用でね。直ぐに行くよ、塚内くん」

『いや、時間に来てくれれば良いさ。連絡がとれないから・・・いや、君に限ってあり得ないとは思ったんだが』

「ふふ、心配してくれたんだろ?ありがとう」

『・・・こうも素直に言われると、照れるもんだな。君、毎回こんな事言われてるのかい?』

「当然とは言わないけど、まぁ、ヒーローだからね」

 

他愛ない話を済ませた私は再び歩き出した。

戦場になるであろう、そこへ向かって。

 



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サブタイトルに悩んだけど、でもまぁ、これで良いよね?『囚われの御姫様と血濡れの御姫様』の閑話の巻き

皆、暗くてめんごやで。
やる前から分かってたけど、シリアスの滞在期間最長だな。思ってたより長く感じるでござる。この章。

イイ気になるなよ、シリアスぅ。
その内、シリアルにしてやるかならなぁ(怨)


いや、まぁ、自分でやっといてなんだけども( ・ω・)


嫌な感じの淀んだ空気が漂う中、私は弔くんに貰った新しいナイフの感触を確かめます。

 

右に一振り、左に一振り。

手を持ち変えてもう一振り。

風切り音がとても綺麗。

 

長さも丁度程よく、軽くて良いですね。悪くはないです。

個人的にはもう少し重くても良いですけど・・・まぁ、その分綺麗な刃ですから文句は言わないでおきましょう。ありがとう弔くん。トガはご機嫌です。

 

刃を眺めてると、なにか視線を感じます。

気になって視線をそこへ向けるとマグ姉さんが私をジッと見ていました。

 

「貴女余裕ねぇ・・・よくこんな訳分からない場所でそんな物振り回せるわ」

「そんな物ではないです。ナイフですよ」

「そういう話をしてるんじゃないんだけどね」

 

まぁ、マグ姉さんの心配は分からなくはないです。

弔くんにお願いされてきたこの場所、とても居心地が悪い場所です。部屋もそうですけど、廊下の至る所から人の視線を感じます。まとわりつくようなものです。窓のひとつもないのに。

正直ムカつきますね。

 

「・・・まぁ、弔くんが安全は保証するって言ってましたし、大丈夫だと思いますよ?」

「それも信用ならないのよねぇ。保証するのが出迎えたあの胡散臭いのなんでしょ?、死柄木の先生とは聞いてるけど、なんか気味悪かったわ」

 

ぶるりとマグ姉さんが怖がります。

体はおっきいのに可愛いです。

 

「まぁ、確かに?死柄木の事は・・・嫌いじゃないわよ?短い間とはいえ、信用はしてるわ。私をちゃんとレディー扱いしてくれるし、いや当然なんだけど。それによく見たら可愛い顔してるしね。好みじゃないけど」

「弔くんはべびーふぇいすですからね」

「・・・誰の受け売りよ?」

「みすたーです」

「コンプレスは・・・余計な事ばかり教えて。先に常識を教えなさいっての━━━」

 

溜息をつくマグ姉さんを見ながら、私は弔くんの事を考えます。数日の留守をへて、人が変わったような雰囲気を放つようになった弔くんの事を。

 

最初は不安のが大きかったです。

面倒なら殺しておこうかなっと思いました。

けど、今はそのつもりはありません。

 

『お前らに頼みたい事がある』

 

落ち着き払った口調なのに、言葉に含まれた何かに体が震えました。

淀んでいるのに、何故か澄んで見える血のような赤の瞳は見ていて飽きません。

殺気を纏った時のその立ち姿は、ステ様のように何かを感じさせてくれます。

 

「・・・フフっ。面白い事、沢山出来そうですね」

 

そっと溢した言葉に「ちょっと」と声が掛かりました。

マグ姉さんです。

 

「聞いてるの?今良いところなのに」

「全然聞いてませんでした。なんですか?」

「もぅ!死柄木が私に『女の監視なら、女を行かせるのが当然だろ』ってスピナーに言い放った所よ!きゅんとしちゃったわ、わたしぃ!好みじゃないけどー!」

「そういえば、スピナーくんも来たがってましたね」

 

ステ様が救った者の顔が見たいとかなんとか。

写真で幾らでも見たのにおかしなスピナーくんです。

 

「・・・でもあれね、私ちょっと同情しちゃうわ」

「何がですか?」

「彼女の事よ」

 

そっと向けられた視線の先。

締め切られた部屋の入り口があります。

あの女が入ってる部屋です。

 

「敵とはいえ、ちょっとね。いきなりこんな胡散臭い所に連れられて、何もないせっまい部屋に押し込まれて・・・。そりゃ、心の一つ二つも病むわよね。さっき食事を届けにいったとき、彼女部屋の角で小さくなってたわ。こう、胸の所で掌をぎゅーってしながら。声を掛けても全然反応しないの。ほらそこにあるのがその余りよ」

 

指差された所を見るとすっかり冷めたお料理があります。でもまだ美味しそうな匂いがします。

 

「はぁ、そうですか」

「そうですかって貴女ね・・・」

 

マグ姉は勘違いしてますね。

 

「大丈夫だと思いますよ?」

「大丈夫なわけないでしょ。あの子の映像資料見てないの?」

「だから大丈夫だって言ってるんですよ?」

「はぁ?」

 

私は扉についた小窓を覗きます。

薄暗がりの中にあの女が見えます。最初にきた時から変わりはなく、黒いワンピースに身を包んだ女は隅の方で膝を抱えてました。マグ姉の言うとおり、胸の所で掌を握ってます。

 

暫く覗いていると、ほんの僅かですけど視線があったような気がしました。

 

「油断しては駄目です。あれは獣と一緒ですから。もしかしたら、獣よりも酷いかも知れませんけど」

「そうは見えなかったけど・・・」

「トガの女の勘がそう言ってるのです」

 

そう教えてあげるとマグ姉が顎に手を当てました。

そしてそっと小窓を覗きます。

 

「・・・何も感じないわ」

「マグ姉は女の子歴が私より短いですからね。もう少ししたら分かります」

「そういうものなの?なら、女磨かなくっちゃいけないわね」

 

そう言って小窓から離れたマグ姉はトイレに出掛けました。私は一人彼女を監視続行です。

 

はぁ、やっぱり気に入りませんね。

好きになれません。

 

「弔くんは、あの女をどうしたいんですかね」

 

少し考えて見ましたけど、やっぱり分かりません。

あれですかね、トラとかライオンとかを飼いたいと思う人と同じですかね?・・・うーん、分かりませんね。猫ちゃんならまだ可愛いと思いますけど。

 

まぁ、良いナイフくれた弔くんのお願いですから?やれと言われれば、多少の不満は飲み込んでやりますけど。

 

「・・・それにしても暇ですね。お腹も減りました」

 

監視するのも飽きたので適当に腰かけます。

どうせ内側からは開けられません。

 

彼女が食べなかったご飯を貰おうかなぁーと思いましたけど、切ったお肉から変な臭いがしたので止めました。

毒ではなさそうですけど嫌な感じがします。

 

「ほら、やっぱりです」

 

私はあの女が口にしなかったご飯をポイして、弔くんに貰った携帯食を食べる事にしました。

ゼリーではお腹が膨らみませんけど仕方ありません。

変なの食べるよりはずっとマシですから。

 

口にしたゼリーはいまいちでした。

弔くんはいつもこんな感じの物ばかり食べてますけど、よく平気ですね。私はお肉とか食べたいです。生が一番好きですけど、今は焼いたお肉食べたいですね。

 

「はぁーお仕事終わったら、焼き肉でも奢って貰いましょうか。こんなに頑張ってお仕事してますからね、きっと沢山奢ってくれますね。ふふ」

 

仕事の後の楽しみを想像して待ってると、足音が聞こえてきました。マグ姉の物ではありません。男の人です。

音の方を見ていると廊下の角から弔くんの先生さんが出てきました。

 

「やぁ、トガヒミコちゃん、だったかな?お仕事お疲れ様」

「はい、凄く疲れてます」

 

軽くあげられた手にそう手を振り返せば、笑い声が返ってきました。

 

「はははっ、なんか新鮮だな。君みたいな子は周りにいなくてね」

「私の周りにも先生さんみたいな人はいませんでしたよ。先生さんは凄く変ですからね」

「そうかな?自分じゃ分からないなぁ」

 

自分の手足を見ながら笑う先生さん。

ふと床に置かれた料理を見ました。

 

「あれ、食べなかったのかい?彼女」

「マグ姉があげたらしいですけど、食べなかったみたいですよ」

「そっか、残念だな。友人が手によりを掛けたんだけどなぁ。ふふふ」

 

よりを掛けるからですよ、とは思いましたけど別に言う必要はありませんね。その顔を見れば、あの女が食べない事は当たり前だと思ってるみたいですし。

 

先生さんは料理をツマミあげ、興味なさげに皿に戻しました。

 

「ドクターも諦めが悪いなぁ。さて、部屋を開けてくれないかな」

「駄目です。弔くんから先生さんに会わせる時は二人で対応しろと言われてますから。マグ姉が戻ってくるまで待ってて下さい」

「随分と警戒するなぁ。大丈夫だよ━━━と言った所で、入らせてはくれないか。思ったより弔と仲良くしてくれるみたいで安心したよ。その調子で頼むよ」

 

その気になれば通れるのでしょうけど、そのつもりはないようです。弔くんとの力関係は分かりませんけど、先生さんは弔くんを蔑ろにするつもりはないようですね。

マグ姉を待っていると、先生さんが声を掛けてきました。

 

「君は、この世界をどう思う?」

 

なんの話でしょう。

分からなかったので先生さんを見てると困ったような乾いた笑い声をあげます。

 

「ははっ、少し言い方が悪かったかな。今の社会、君は息苦しさを感じないかい?」

 

何を聞きたいのでしょう。

黙って見てると先生さんは楽しそうに続けました。

 

「警戒されちゃったかな。ふふ、賢い子は好きだよ」

「賢いと言われたのは初めてです」

「そうなのかい?賢さにも色々あるだろうにね」

 

先生さんは壁を見ました。

 

「勉強が出来るだけの頭を持つ奴なんて、そう大したものではないさ。そういう連中にはね、幾らでも替えがいる。━━━だからね、君たちのような人間こそが世界には必要なのさ」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだとも。弔や君、彼女のような、ね」

 

彼女というのが誰をさしてるのか。

分かりたくありませんでしたが、私には分かりました。

 

 

 

「あーら、お取り込み中かしら?」

 

 

 

声に視線を向ければマグ姉の姿がありました。

その姿を見てある事が気になります。

 

「そう言えば、おトイレはどっちを使ったんですか?」

「なんでそんな事聞くのよ・・・当然、女子トイレに決まってるでしょ!やーねー・・・誰の受け売りよ」

「心は女の子でも体は男の子だからって、みすたーが言ってました」

 

パキポキとマグ姉が拳をならします。

なんか怒ってるみたいです。

 

「本当に余計な事しか教えないわね。コンプレスぅ」

「みすたーは物知りですからね」

「忘れなさい!!あんなヘタレの教えは!!」

 

 

「さて、揃ったようだし良いかな?」

 

マグ姉と話してると先生さんが交ざってきました。

話の流れが分からないマグ姉が首を傾げます。

 

「何をする気なのかしら?事と次第によっては許可出来ないわね」

「なぁに、少し彼女に見せたい物があってね」

「見せたい物?なによ、それ。先に見せて貰えるかしら」

 

手を伸ばしたマグ姉に先生さんは首を横に振りました。

 

「勘違いさせて悪いね。ここにある物ではないんだ。少々、持ち運びに手間が掛かるものでね。彼女をそこに招待したい」

「あの子一人でというなら了承しかねるわね。死柄木から頼まれてるのよ。あの子の身の安全を」

「分かっているとも。だから、君達も招待する。是非一緒に来てくれ」

 

マグ姉が私を見てきました。

先生さんがかなり我慢してるのが分かるので、同意の為に頷いておきます。

 

「・・・良いわ。けれど、おかしな動きをした時は」

「君が僕を止めると━━━━?」

 

背筋が一気に冷えました。

マグ姉も同じです。顔色が悪いです。

 

「面白くない冗談だ」

「わ、分かってるわよ。止められるとは思ってないわ。ただ、死柄木に連絡するだけよ」

 

絞り出したマグ姉の言葉に威圧が消えました。

 

「ははっ、それは困る。弔に嫌われる訳にはいかないからね。精々大人しくしてるよ。・・・ただ、これだけは勘違いしないで欲しいな。君達が止めてるんじゃない。僕が弔のお願いを聞いて"止めてあげて"いるんだ。いいね?」

「・・・勿論よ」

 

それだけ言うとマグ姉が部屋のドアを開けました。

私達の後に続いた先生さんは両手を大きく広げます。

何処かみすたーみたいです。

 

「双虎ちゃん。良い子にしてたみたいで安心したよ。お説教なんて柄でもない事をしないですんだ」

 

返ってくる言葉はありません。

けれど、雰囲気が変わりました。ほんの少しだけですけど。他の二人を見れば、分かってないように思います。

 

「ふふ、君を弔に引き渡す前に、見せたい物があってね。来てくれるかな?」

 

先生さんの差し出した手に、あの女は触りません。

けれど、俯いたまま震える足で立ち上がりました。

 

「さぁ、行こうか」

 

歩き出した先生さんに続いてあの女も続きます。

そして私の横を通りすぎる時、それが見えました。

 

「・・・はぁ、やっぱり見てられないわね」

「そうですか?」

 

私の言葉にマグ姉が溜息をつきました。

そして特になにを言うでもなく、先生さんの後に続いていきます。置いてかれると不味いので私も続きます。

 

三人の背中を追い掛けていると、あの女の後ろ姿が目につきました。震える手足、青い顔、覚束ない足どり。それは情けない限りの物です。

 

でもそれなのに、あの目だけは変わりませんでした。

 

 

「━━━ふぅ、弔くんは趣味が悪いですね」

 

 

どんな理由であれ、あんな女を手元に置きたがっているんですからね。

 

 



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普通に忙しくて書いてる時間ねぇ。早く暇になって欲しいものだよね。そんな気持ちを込めてサブタイつけます『反撃の狼煙』の閑話の巻き━━━と見せ掛けてからの私だ。の巻き

シリアス「あれ、おかしいな、なんか、体が・・・な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!」テマッカー

ギャグ「シリアス!」ウデガシィ
はくびしん「シリアス!」アシガシィ
シリアル「にいさん!」アタマガシィ

シリアス「死にたくねぇよ・・・つか、皆して変な所持ちすぎじゃね?・・・あれ?皆どうしたの?なんでそんな、怖いかおしてててて、ちょっ、捻らないで!なんでそん━━たたたっ、ま、曲がらないから!そんなに!あ、あれかな!?もしかしてあれかな!?ごめん!や、やり過ぎたのは分かってる!でもっ、でも!!僕が頑張らないと成立しなかったじゃないすか!!━━━━━━━━━━アッーーーー!!!」

シリアスの残機、あと・・・。



黒霧にワープゲートを開かせ、僕達はそこへと辿り着いた。うっすらと照らされたそこに見えるのは機材の数々。それとチューブに繋がれた何十個もの長方形の鋼鉄のケース。

 

「・・・なんなの、ここ」

 

僕の後ろを歩いていたマグネが声をあげた。

ナンセンスな質問、実に愚問だ。

 

「僕の玩具箱さ」

「玩具箱・・・?」

 

疑問符が浮かんでる様子のマグネと違い、彼女達は僕の言葉の意味を理解したようだ。さとい子達だ。弔にあげるのが少しだけ惜しくなる。

 

「玩具箱って何なのよ」

「覗いて見たら良い。大丈夫、彼らは大人しくて良い子達だからね」

 

僕の言葉にマグネは不思議そうにしながらも箱の上から覗き、飛び退けるように体を後退させた。余程驚いたのだろう、狼狽えているのが手に取るように分かる。

 

「ちょっ、何なのよこれ!まさか、全部そうなの!?ニュースで見たわよ、これ脳無とかいう化け物でしょ!まさかここ、脳無の・・・!?」

「そうだよ。ここは脳無達の母胎さ」

 

勿論これが全てという訳ではない。

ここにあるのはほんの一部。それもミドルレンジクラスの駄作しか保管してない場所だ。

 

それを彼女達に伝えるつもりはないが・・・その様子を見るとそこまで疑う余裕はなさそうだ。

 

「・・・さ、行こう。見せたいのはこの先にあるんだ」

 

少し歩いた先、彼女に見せたかったそれへと辿り着いた。大きめの布が被さったそれに、弔のお友達は視線を向ける。

 

肝心の彼女は俯いたままだ。

 

僕は彼女の顎にそっと手をあて、ゆっくりと上げる。

怯えながらも光の消えていない真っ直ぐな瞳が、僕を見つめた。弱々しく、さりとて強さの滲む良い瞳だ。

 

「君は見るべきだ。いや寧ろ、君だけは、ね」

 

被さったそれを取り払い彼女へと見せる。

すると彼女が目を見開いた。

理解が早い。

 

彼女が理解するのと同時に、弔のお友達が息を飲むのが聞こえた。特にマグネの動揺が大きい。

どうやら彼女は、人並みの常識を持つ人物らしい。

 

「━━━どういうつもりかしら?随分と悪趣味な物を見せてくれるわね・・・!」

 

荒らげた声に怒りを感じた。

恐らく、こんな男でも仲間とでも思っていたんだろう。おめでたい頭を持っているなと、そう思わずにいられない。

自分が何処に足を踏み入れているのか、彼女はまだ分かってないらしい。

 

「悪趣味なんてとんでもない。これは彼の希望だったんだよ?僕は夢を叶えてあげただけさ」

 

三人の視線の先にあるのは円柱のガラスケース。

液体に満たされたそこには、脳が剥き出しになった片目の脳無が一体浮かんでいる。ここにある、ただ一つのハイエンドクラスの脳無だ。━━━とはいえ調整ミスでミドルレンジに限りなく近い駄作でもある。

きちんと時間をかけて仕上げれば面白い物になったのだろうが、何分急ぎで作ったせいで思っていた以上に品質が落ちてしまった。

 

玩具としてなら、上出来といえるが。

 

「双虎ちゃん、彼はね、君のせいでこうなったんだ。分かるかい?」

 

コンっ、と手の甲でガラスを叩けば半覚醒状態の彼がピクリと反応を示す。

 

「僕はね、頼まれたんだ。四肢を焼き尽くされた、彼に。偶然助けた僕に、彼は泣いて頼んできたよ。もう一度歩ける足と、もう一度戦える腕が欲しいってね」

 

双虎ちゃんの瞳が揺れる。

 

「可哀想だった。胸を打たれた。━━━だからね、こうして彼に手を施してあげたんだ。歩けるように、戦えるように。まぁ、少しだけ不幸な事があって、彼は物を考えられなくなっちゃったけど」

 

胸の所に置いてある手が強く握られる。

 

「ああ、でも自業自得かも知れないね。彼は沢山の人を不幸にした。きっと五体満足でいたら、今も誰かを傷つけたかも知れない。良かった、良かった。双虎ちゃんは正しい事をしたんだ。本当に良かったよ。傷つけられた皆が感謝するね」

 

彼女の鼓動が早くなるのが分かる。

体温が上昇するのも。

 

 

「ありがとうって━━━━」

 

 

その瞬間、彼女から溢れる物が変わった。

怯えの色を残したままだが、確かに戦う者の気配へと。

強い瞳が僕を見つめる。

 

 

ああ、やっぱり君はいいな。

 

 

大抵の者は道を間違える。

とるに足らないような些細な事を切っ掛けにして、人は容易く信念やモラルをねじ曲げ捨て去ってしまう。

楽な方へと流れるのが人の常であるなら、それはあまりに当たり前の事で論じるまでもない事実だ。

 

だからこそ、緑谷双虎のような存在は稀有と言える。

 

僕ら側に立つ才能と気質を持ちながら、光の差す道を選び続ける彼女という存在は。

 

「どうしたのかな?双虎ちゃん。良いことをしたんだ、笑った方が良い。君は笑顔が良く似合う」

 

本来歩むべき道を踏み外した理由は、きっと僕だったのだろう。

 

けれど、今そこに居続けるのは、君の意思がさせる事だ。君は今、仕方がなかったと笑わなかった。君はこの状態でまだ、これが正しくないと怒る事が出来る。

 

その手に握った装飾品が理由かな?

それともあのふくよかなお母様が理由かな?

はたまた身に付けた才能が理由かな?

二日という時間を与えられ、冷静になれたからかな?

 

それがなんであれ、君はまた抗った。

恐怖に立ち向かい己の性と立ち向かい、健気にもそこに立ち、そして歩んだ。

素晴らしいことだ。

 

「緑谷双虎ちゃん、僕は君をいとおしく思うよ」

 

本当に心の底から思う。

 

そして同時に、この上なく不快に思うよ。

あの子によく似た瞳を持つ君が。

 

思わずその細い首に手を伸ばし、捻り切りたくなる程に━━━━━。

 

 

 

「━━━っ!!なによっ!!?」

「わっ、わわ!なんです!?」

 

 

 

突然大きな音と共に地面が揺れ、監視の二人が悲鳴をあげる。状況を確認しようと知覚機能の出力をあげた瞬間、目の前が僅かにぐらついた。

 

そしてその直後、仮面越しに衝撃が走る。

引き戻される彼女の足を僅かに捉えたが、直ぐにカーテンのように広がる熱の塊が現れ視界を遮ってしまう。

 

「ははっ、まったく。悪い子だ」

 

炎を空気ごと弾き飛ばす。

追尾機能も有ったようだが、ある程度小さく散らしてしまえば効力も切れるようで空間に霧散していく。

 

だが、炎の先に彼女の姿はない。

ならば━━━━。

 

そう思って来た道を見れば、飛び去る彼女の背中とこちらに向かって飛ぶ機材の数々が見えた。

 

「彼が手こずる訳だ」

 

飛び込んでくる機材を蹴散らしながら思う。

中々に目敏いと。

 

ここに来るまでの間、ただ黙ってついてきた訳ではないらしい。きちんと武器になりそうな物を把握していたようだ。

 

いや何より、あの騒ぎに対し躊躇いもなく行動した事実を誉めるべきか。騒ぎが起こるのがわかっていた━━━というより、信じていたといった所だろうか。でなければあの速さで逃げる訳がない。

 

そして僕が対策している事を前提としていながら、脳への干渉を止めない所もまた小賢しい所だ。

実際、それさえなければ体に馴染んでいない"あの個性"も使えただろうから、馬鹿にも出来ない━━━━

 

「ばぁぁぁか!ばぁぁぁか!ばぁぁぁぁか!!変態ハゲのロリコン腐れスーツ狂変質者ぁ!!何日おんなじスーツきてんだよ!ノーセンスか!いい歳こいて馬鹿の一つ覚えに同じスーツ着て何っ!?怖いの!?服のセンスを晒すのが怖いの!?勝負出来ない男とか、カッコ悪いんですけどぉぉ!!ネーミングセンスクソなのに自信満々に言っちゃうかっちゃんの13倍ダサイんですけど!!そもそもいい歳こいてそうなのに僕僕煩いわ!!坊っちゃんか!お坊っちゃん様か!!もしかしてブリーフ穿いてます!?ダっサイんですけどぉ!!━━て言うか、ご飯くらいちゃんとだせや!!餓死させるつもりか!!育ち盛り舐めんな!!水だけまともとか、馬鹿なんじゃないのぉ!!もう頼まれたって来てやらないからなぁ!!この服は貰うけど!!ブランド物御馳走です!ざーす!!ネトオクに出させて貰います!!けどなぁ、ベタベタ触ってきた事はツカッチーとガチムチに言いつけてやるから!!覚悟しとけ性犯罪者!!言っとくけどツカッチーは兎も角、ガチムチはマジだからな!マジでマジだから!●●●に●●●を突っ込まれて死ぬほど●●●●させられるからぁ!!ざまぁ!!」

 

 

━━━まったくもって愉快極まりないな。

 

 

というか、オールマイトは同性愛者だったのか。

道理で長い間独り身な訳だ・・・なんてね。

 

そういう類いの事は調べはついてる。

だからまず彼女の勘違いだろう。

だろうが・・・まさか、本当にあるのかい?

 

「・・・ふぅ。それにしても、助かる見込みが出た途端これだ。現金だな、彼女は。弔の手に余るだろうが・・・まぁ、そこは自分自身で学んで貰うとするか」

 

 

遊びはそこまでだ。

 

対象を設定。

個性を発動━━━━。

 

不意に胸元からアラームが鳴り、僕は個性の発動を止めた。鳴り出したそれは弔の使っているアジトに、何か異常が起きた事を告げてくれるモノ。

 

マスクについてる無線機に触れれば、黒霧の切羽詰まった声が響いてきた。

そこに紛れて、虫酸の走る彼の声も。

 

「・・・脳無、来なさい」

 

僕の声にガラスケースを突き破り脳無が隣へと立つ。

軽く触れ様子を見たが、やはり完成とはほど遠い存在だ。

これで何処まで彼を止めれるかは分からないが、僕が万全でない以上ある程度は削って貰わねばならない。

ここに来るであろう、彼を。

 

「さて、先ずは、こちらのお客様からもてなさねばならないかな」

 

足を踏み出した僕に弔のお友達が立ち塞がるように立った。マグネの下がった腕が目につく。恐らく、彼女に突破された際、何らかの攻撃を受けたのだろう。

それに対してトガヒミコは服に小さい焦げがあるのみ。戦闘要員として優秀なのは、やはり彼女の方らしい。

 

「すまない、今君達に構っている時間がないんだ」

「状況の説明くらいして欲しいものね。何が起きたのよ?」

 

二人の様子を見て引く気がないのが分かった僕は、優しくその事を伝える事にした。

 

「なんの事はないさ。僕らはヴィラン。なら訪ねてくるのは当然彼らさ━━━━ヒーロー達のお出ましだよ」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『どーもぉ、ピザーラ神野です』

 

テレビでマスコミに集られる雄英の教師を眺めていると、ノックと共にそんな間抜けな声が部屋に響いた。

 

「・・・おい、誰だ」

 

何処の間抜けがと今いる奴等を見れば、心当たりがありそうな顔をしている者はいない。俺に見られてスピナーの肩が揺れたが、そういった類いの動揺ではないので除外。あれはただ小心なだけだ。

 

空気を読んだ黒霧がドアへと向かったその瞬間、轟音が鳴り響き壁が吹き飛ぶ。

そして立ち上る埃と瓦礫の中に、赤青黄三色で彩られた影が見えた。

 

「━━━おまっ、え・・・!」

 

それが誰か理解した直後、その影の後ろから伸びてきた木の枝に体が締め付けられる。そこにいた全員が同じように。

 

自らを捕らえている物の正体に気づき荼毘が動きを見せるが、黄色い衣装に身を包んだ老人の一撃に意識を刈り取られる。

 

「はやるなよ━━━炎小僧」

 

滑るように部屋に着地した老人は部屋を見渡して口を開く。

 

「思ったよりすくねぇな、ヴィラン連合。伊口秀一、分倍河原仁、迫圧紘━━━それと引石健磁、渡我被身子だったか。二人はどうした、えぇ?」

 

名前を呼ばれた連中が肩を揺らす。

それに対し三色を身に纏う侵入者は、自分達の存在を誇示するように胸をはり立ち上がった。

 

「ヴィラン達よ、我々がきた・・・!!」

 

平和の象徴。

ヒーロー社会のシンボル。

 

「オールマイトッ!!」

 

俺が殺すべき、その男が。




更新遅くてごめんね(*ゝ`ω・)

あのね、きいて、言い訳を。
まじで忙しいの。

取り敢えず、徹夜してくるね!


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へい!そこの、なんか、こう、なんとも言えないジーパンの人!!まともな人には見えな・・・七三具合に人の良さが滲み出てるジーパンの人!!取り敢えず助けろ下さい!!え?八二だって?どっちでもいいわ!の巻き

気がついたら65万字もかいてんねんな。自分。
ぼくはぁ、アホやなぁ(*´ω`*)

んで、今週のエンデヴァー可愛い。
なにあれ。




最近クレオパトラを降すレベルに進化した唯一無二の最強美少女な私は、緑谷双虎16歳。言わずと知れた折寺の生き女神である。

最近幼馴染みに自撮り映像つきでSNSする事がマイブームな私は今、得体の知れない工場を全力疾走していた。

 

もうあれだ、マジもんの全力疾走。

生まれて初めてレベルの疾走。

心臓バクバクの息ハァハァである。

 

息苦しいよぉ、双虎ちゃん、体力には自信あったけど、そんなの関係なしに苦しいよぉ。

短距離100の世界新出しちゃいそうだよぉ。

そのまま報道関係者にインタビューされちゃうよぉ。

CMとかに引っ張りだこにあって、よく分からないアイドルとかと熱愛報道されちゃうよぉ。きっと「ノーコメントで」「事務所を通して下さい」とかマイクに向かって言っちゃうよぉ。

 

━━━はっ!そんな事言ってる場合じゃなかった!!

 

ふと振り返って見ると、黒マスクの姿はない。

ぶっちゃけ逃げ切れたとは思えないので、遊ばれてる事山のごとしだと予想。

 

だけど逃げるという選択以外は選べない。

少しでも確率をあげるなら、これは間違いなく最善手の筈だから。

 

相手がただのボンクラなら仲間になったふりして施設の重要書類とかデータ引っこ抜いて、発目の楽しいパソコン教室で教わったブラクラかまして、警察に通報してから力技で脱出とかしてるけど、黒マスクにはそれは駄目だ。何が駄目って、まず仲間になりますなんて言った日にはその時点で改造されかねない危険性がある。「君の為だから、ね?」とか善意を全面に押し出して平気で言いそう。

強行脱出とかもそもそも無理。強いもん、絶対止められる。

パソコンも見た感じセキリュティーヤバそうだから下手に弄れない。無理無理。

 

だから、アホの手マンに引き渡された後か、もしくは誰かが救助にきた時だけが、逃げるチャンスだとは思ってた。

 

「これで助けに来たのが、ガチムチなら良いんだけど・・・」

 

嫌な予感が頭を過った私は手首の所でカチャカチャとなるそれに目を向けた。あの日、肝だめし当日、女子会に参加出来なかった残りのB組女子に自慢したくて、そっとポケットに忍ばせておいたかっちゃんブレスレット。

 

今にして思えば、あのダサマスクとの戦闘中よく落とさなかったと心底思う。あれだけ派手に動いておいて、よくぞ落ちなかったよ。うん、まじで。私の短パンのポッケ強い。

 

まぁ尤も、捕まった後でブレスレットが今も私の手元にあるのが、あの黒マスクの気紛れだと思うと微妙な気分になる。

 

実際の所は分からない。状況から考えてそうじゃないかなって話。

私が知ってるのは目が覚めた時にはワケわからん部屋に寝てて、クソ高そうなワンピ着せられてて、枕元に髪どめとかブレスレットとかその日に身に付けてた物が置いてあったのを見ただけだから。黒マスクはその事に関して何にも言ってきてないし・・・まぁ、きっと碌でもない理由で渡してきてるとは思うけど。

 

少し撫でてみるとブレスレットはやっぱり少しだけ傷がついてた。歪んでる気もする。あの戦闘の最中ポケットにあったんだから当然かも知れない。壊れなかっただけ御の字だと思う。

 

大切にすると言った手前、ボロボロにしまった事に思う所はある。悪かったなぁと。

でも、あの時持ち出した事に後悔はない。

 

 

「━━━ありがとう、かっちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マジダッシュで通路の角をドリフトしながら曲がると、脳みそ野郎の保管所の所に人影が見えた。

無残に破壊された壁、そこにあるジャイアントねーちゃん。

何処かで見たような気がするそれに私は目一杯の大声をあげた。

 

「へるっ、へるぷみーーーー!!黒マスクをつけた年中無休で黒スーツ着込む、全身も腹の中も真っ黒くろすけな変質者に追い掛けられてるのぉ!!」

 

全部言い切った所で、ジャイアントねーちゃんの前にある人影が目についた。そして失敗した事を知る。

そこにいたのは脳みそ丸見え野郎を鷲掴むスーツ姿のシャチ人間。ヤクザ。

首筋までジーパンですっぽり包んだジーパン狂。変態。

裸の女の人を拐おうとする猫耳つけた筋肉ムキムキのおっさん。何処かで見たような見てないような・・・ないな!

それはどう見ても、総合的に考えても、堅気では無かった。

 

「やっべっ!!カチコミ系か!!しくった!!」

 

全身の筋肉とバネをフル動員して急ブレーキ。

別方向へと体の向きを変える。

引き寄せる個性で別の脱出候補である窓に向けて体を引っこ抜━━━━こうとしたけど、私の体はそれより早くジーパンマンの方へと引っ張り込まれた。なんか体も拘束されてる。

 

気がつけばジーパンマンに抱っこされてた。

 

「すまない。あまりに機敏に逃げようとするからヴィランかと思ったんだ。君は━━━━」

「きゃぁぁぁぁぁ!!いやぁぁぁぁぁ!!犯されるぅぅぅぅぅ!!変な所を執拗に触ってくるぅぅぅぅ!」

「あっ、違う!!そんな事はしないとも!!」

 

隙が出来た所で頭突きを喰らわせる。

地味に効いたっぽく、ジーパンマンがふらつく。

 

バランスを崩した所でジーパンマンの腕から何とか脱出し地面に着地。腕の拘束が緩くなったので止めにアッパーを放ったけど、今度はシャチヤクザに拳を止められてしまった。あうち。

 

「落ち着け。我々はヒーローだ。緑谷双虎」

「・・・ヤクザじゃなくて?」

「ヴィランよりヴィランらしいなんて呼ばれる事もあるが、歴としたヒーローだ。私も、彼もな。と言うより、ヒーロー科でありながらナンバー4を知らないとはな」

 

シャチヤクザの視線を追うと、鼻を押さえたジーパンマンと目が合う。そしてジーパンマンは涙目で頷いてきた。

 

「あ、ああ。誤解させた事はすまなく思う。私はベストジーニスト。ヒーローだ」

「それならそうと言ってくれれば良いのに・・・」

「それより早く君の頭突きがきたんだが」

 

そう言えば、あの時なんか言おうとしてたな。

 

「でも、拘束してくるから・・・」

「言い訳をするつもりはないが、あれだけ早く逃げ出す者を怪しくないと思うだろうか?君が私達に声を掛けてから君が次の行動をとるまで、一秒もなかったんだが」

 

・・・・・ふむ。

 

「まぁ、それより」

「それよりではないのだが」

 

喧しいジーパンはスルーしてシャチヤクザへと視線を向ける。するとシャチヤクザは「話を聞こう」と言ってくれた。話が早くて助かる。

 

シャチヤクザにボス系の性犯罪者がいる事と強い脳みそ野郎がいる事、それと知っている限りの施設の構造を伝えた。途中ジーパンマンか口を挟みそうにしてたが、話がややこしくなるから控えて貰う。

 

「━━━と、取り敢えずそんなとこ」

「ああ、今はそれで十分だ。後の詳しい話は警察にでも聞かせてやってくれ。━━━虎!いつまでそこで狼狽えている!!ラグドールと緑谷双虎を連れ先に行け!!それと向こうの連中にも連絡を!!」

 

シャチヤクザの声に裸の女の人を抱える、猫耳をつけた筋肉ムキムキのおっさんがこっちを見てくる。うわって思ったけど、良く良く見たら合宿の時のおっさんだった。

ほっ、なら大丈夫・・・大丈夫ばないな。状況あんまり変わってないもんな。

 

「す、すまぬ。ギャングオルカ。緑谷女子、こちらへ。外に警察も控えている」

 

ちょっと近寄るのがあれだけど警察もいるならと猫耳ムキムキの所へ━━━行こうとしたら嫌な足音を聞いた。

部屋にぶちこまれている時、散々聞いた事のある硬質なコツコツという響きだ。

 

「何処に行くんだい、双虎ちゃん?連れないなぁ、黙って行こうとするなんて」

 

視線を向けた先、薄暗がりの中に黒マスクの姿があった。

 

「きゃぁぁ!!変態きたぁぁ!!ヤクザぁぁぁ!!」

「ヤクザではないと言っただろう!!」

 

私の声にシャチヤクザとジーパンマンが同時に動き出す。ジーパンマンは手を翳し、シャチヤクザはその巨体に似合わない加速で接近していく。

 

ジーパンマンの個性はよく分からないけど、その様子から服を操ってるように思う。ギチギチに締められたボンレスハムな黒マスクと、さっき自分がされた感覚からそんな気がする。

 

「ちょっ、ベストジーニストさん!またいきなり!」

「今度は問題ない!!奴は敵だ!!ギャングオルカ!!」

 

ジャイアントねーちゃんになじられたジーパンマンが怒鳴り声をあげ、シャチヤクザは応えるように拳を振りあげる。

 

「オオォォッ!!」

 

拳がぶつかり鈍い音が鳴り響く。

けど、苦痛の声をあげたのはシャチヤクザの方だった。

 

「ナんだ、これはっ!?」

 

シャチヤクザは血に濡れた拳を懐に抱え後退りする。

対する黒マスクは傷一つもなく、体は拘束されたままの姿だった。

 

「・・・衝撃反転、という個性でね。どうかな、君の本気の一撃を、その身に受けた感覚は。勉強になったろう?普段君が、誰に何をしているのか━━━━さて、今度はこっちの番だ」

 

余裕すら滲むその姿に背筋が寒くなる。

どうしようもなく嫌な予感がする。

 

黒マスクが手を翳した。

翳された腕は風船のように膨らむ。

 

得体の知れない何かをそこに感じ、妨害しようと黒マスクの脳に引き寄せる個性を発動━━━したけど、手の感触が鈍い。対策されてるのは把握してたけど、さっきより頑丈になってるとか反則だと言いたい。

仕方がないので腕が天井に向くよう、全力で引き寄せる個性をフルスロットル発動する。

 

 

「━━━ッ!!」

 

 

その瞬間、ジーパンマンに引き寄せられた時のように体が飛んだ。 視線を向ければ必死の形相のジーパンマンの横顔が見えた。

 

 

 

次の瞬間、暴風が吹き荒れる。

黒マスクの腕から放たれたソレは地面をまくりあげ、直線上にある何もかも巻き込んで破壊していく。

その圧倒的なまでの破壊力は、ガチムチが一度見せた必殺技と重なって見えた。

 

でも、これで三度目だ。

 

一度目、ガチムチにぶちかまされた。

二度目、黒マスクにぶちかまされた。

 

どちらもなすすべなく吹き飛ばされるだけに終わったけど、そう何度もやられる程私は凡人ではない。回転する視界の中、暴風に耐えている支えになりそうな物を見つけ引き寄せる個性を発動。回転の勢いを減速させる。

減速させた後は足裏と地面に引き寄せる個性を発動。

不屈の乙女力で引き寄せ着地、手のひらと地面にも引き寄せる個性を使い吸着させ体を限界まで伏せる。

 

豪風が背中を通り過ぎていく。

ワンピースが風に煽られ暴れる。

きっとネトオク無理なレベルでビリビリだろう。

くそぅ。

 

何とか耐えきり顔をあげると、工場が跡形も無くなっていた。黒マスクが腕を向けていた先、直線上数百メートルに渡って地面が深く抉り飛ばされ、工場近くにあったであろう建物はドミノ倒しのように崩れ落ちている。

 

助けにきたであろうヒーロー達の姿は見えない。

漠然と抱いていたガチムチがいない事への不安は、最悪の形で的中していた。

 

「せっかく弔が自分で考え、自分で導き始めたんだ。野暮な真似はしないで欲しいものだね」

 

この場の雰囲気とそぐわない軽い口調。

声に視線を向ければ宙に浮いた黒マスクの姿。

 

「さて、まずは、ささやかではあるが援軍を送ろうかな」

 

黒マスクが手を広げると、地面に散らばっていた脳みそ野郎共が泥みたいな物に飲み込まれて消えていった。言葉の意味がそのままなら、ワープ系の個性である事が分かる。

 

「次は、弔達を出迎えようか━━━━おや?」

 

黒マスクが手元を見た。

視線を追えば黒マスクのスーツが腕を締め上げているように見えるから。ふと視線を落とせばボロボロになりながらも立ち上がる、ジーパンマンの姿があった。

 

「驚いた。思ったより頑丈だね、ナンバー4。そのタフネスが、僕の攻撃を最後まで避けなかった理由かな?」

「頑丈か・・・そう見えるか、ヴィラン」

「ははっ、いやぁ。満身創痍といった所かなぁ?それでも致命傷は避けた。流石だよ。僕は双虎ちゃん以外、消し飛ばすつもりだったんだ」

 

黒マスクの手がパチパチと打ち合う。

 

「皆の衣服を操り瞬時に攻撃範囲の外へと寄せた。判断力、技術・・・並みの神経じゃない。━━━まぁ、尤も君一人が特別という訳でもないようだけどね。ねぇ、双虎ちゃん」

 

名前を呼ばれてぞくりとした。

こちらを振り向きもしないのに、見られている気がする。

 

「発射角度、僅かだけどずらされた。驚いたよ。想定通りなら、十分耐えきれた筈だからね。真似事レベルとはいえ君もヒーローの道を歩く者。余計に備えておくべきだったと反省してるよ」

 

黒マスクがジーパンマンにむけて腕を構えた。

掛けられた拘束なんてないかのように、滑らかに。

引き寄せる個性で腕を地面に引っ張ったけど微動だにしない。

 

「二度目はないようにするさ」

 

腕から二発目が放たれた直後、シャチヤクザがジーパンマンの前に滑り込む。

そして、耳をつんざくような音を放った。

 

放たれたそれらはぶつかり霧散する。

 

「空気の弾丸か。厄介な攻撃だ。だが、溜めがなければ俺でも防げるぞ。ヴィラン・・・!!」

「ははっ、まったく。本当に余計な事ばかりする連中だ。これだから君達は嫌いなんだ」

 

大きな音と共に地面が揺れる。

振り返ればボロボロのジャイアントねーちゃんがいた。

足元に猫耳おっさんとか他のヒーローの姿もある。

 

「ベストジーニストさん!一言くらい、声かけて下さいよ!!死ぬかと思いましたよ!頭打ちましたよ!」

「そんな・・・時間は、なかったろう」

 

言い合う姿に黒マスクは深い溜息をついた。

 

「少し早いが仕方ない。おいで脳無」

 

その声に反応してか、黒マスクが現れた闇の奥から片目の脳みそ丸見え野郎が現れた。

見開かれた目に正気の色はない。

 

「確か君は、気分で義眼を変えていたんだったね?ほら、僕からのプレゼントだ。それを付けて遊んできなさい」

 

黒マスクから渡されたソレを本来左目があったであろう場所に差し込み、脳みそ丸見え野郎は咆哮をあげた。獣のようなそれに人であった頃の面影はない。

 

「ア、ソ・・・ボウ・・・・アソボウ!!」

 

義眼を差し込んだそいつは体から赤い繊維を溢れ出させた。触手のように蠢くそれは体に絡み付き力強く脈動する。

 

『俺の個性"筋肉増強"。言葉の通り、筋肉を増やして強化する、それだけの個性だ』

 

腹の立つやつだった。

洸太きゅん泣かすうんこ野郎だった。

マスクのセンスがクソな奴だった。

 

『化け物だな、お前』

 

けど、こんな姿にされて良い訳はない。

クソはクソだけど、人間だった。

 

「あんたが化け物になって、どうすんのよ。ダサマスク」

 

咆哮が響く。

化け物に成り果てたそいつの。

強く荒々しく、けれど意思の籠ってない悲しいだけの咆哮が。

 



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可笑しいなっ!もういい感じに終わってる筈なんだけど、まだここか!うーん!可笑しいなぁぁ!『英雄の条件』の閑話の巻き

当初の予定だと、とっくに原作に追い付いてる筈なのに、何故こうなったのか。
うむむ、話つくりって難しいネ!


空気を震わせる大きな音が響いてきた。

ビル街の先、逃げ惑う人の波が押し寄せてくるその方向、目的地であるその場所から。

 

「爆発の人!!反応消えました!!反対方向、おおよそ5㎞先です!!━━━━━おや?この方向は確か・・・」

 

人混みの騒ぎを物ともしない大きな声が響く。

そっと視線を向ければモニタを手にしたサポート科の発目くんの姿が目に入る。

 

「━━━と、反対方向!?本当かい!?」

「勿論本当です!!眼鏡の人!!━━━あ、やっぱり!少し前のSNSに挙げられた情報なんですけど、この近くに警察がやけにウロウロしてる場所があるとの事だったんです!!きっともう一つの奇襲ポイントですね!!あ、ちなみにですね、その情報を電脳空間から拾ったのは私の第126子である━━━━」

「爆豪くん!!」

 

前を走る爆豪くんにそう声をかければ「黙って走れや!!」と取りつく島もない言葉が返ってきた。

 

「爆豪!!良いのかよ!!」

「そうですわ!!」

 

僕に賛同するよう切島くんと八百万くんも声をあげるが、爆豪くんは脇目も振らずに駆けていく。

そんな爆豪の背中に轟くんが口を開いた。

 

「爆豪、何か確証でもあんのか?」

「んなもん、あるわけねぇだろがボケが!!勘だ、勘!!あの馬鹿はくそウルセェ所にいるって相場が決まってんだよ!!」

 

あまりに迷いのない返事に「そうか」と何故か轟くんが納得してしまった。

そうかではないが。

 

「そもそもっ、その受信機が追ってんのは脳みそ丸出しのクソヴィランだろうが!!なら反応追った所で、クソヴィランしかいねぇ!!それになっ、クソヴィランが別の場所に飛ばされてまだ騒ぎが続いてんなら、当たりは多分こっちだ・・・!!」

 

成る程そうか・・・はっ、僕も轟と同じじゃないか。

 

「だがな、爆豪く━━━━━」

「ですが、爆発の人!少なくとも私達はそれを目印に走ってきてます!!方針転換するのであれば、皆から意見を聞くべきではないですか?」

 

遠慮のない発目くんの声が響く。

僕が言いたい事、全部言われてしまった。

だがその言葉にも爆豪くんは足を止めない。

 

「るっせぇ!!文句あんならついてくんなや!!端からてめぇらに期待してねぇ!!つーか、勝手についてきといて何ほざいとんじゃ!!」

「他は兎も角として、私は爆発の人に頼まれて来たのですが!!それに私がついていかないと目的地がわからなくなると思います!!」

「分かるわ!!地図なんざ一回見りゃ十分だろうが!!」

 

喧嘩しながらも走る二人を眺めていると、直ぐ後ろを走る切島くんが声を掛けてきた。

 

「なぁ、あれはどういう関係なんだと思う?」

「どうもこうも、緑谷くん繋がりだろうな」

「だよなぁ」

 

不思議な関係を築く二人に何とも言えない気持ちを抱えながら、僕はここに来ることを決めた数時間前をなんとなしに思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪くんのお見舞いにいったその日の夜。

 

轟くん達が気になった僕は病院へと向かった。

夜間外出など両親の心配を考えると胸が痛くなったが、危険な事へと足を踏み入れようとする二人の事を考えるといてもたってもいられなかった。

 

病院前に辿り着くと案の定轟くんと切島くんの姿があった。

そしてそこには、あろうことか八百万くんと爆豪くんの姿もある。

 

「どうしてだ・・・!!君達までっ!!」

 

抑えきれない気持ちと共に彼等へ近づこうとすると、思いきり何かが背中へとぶつかってきた。何とか受け身をとったものの、背中に走った衝撃はけっして軽くなく呻き声が漏れてしまう。

 

「おや!?こんな所に人がふらついてますね!!病院は目の前ですよ!頑張って下さい!!」

 

しれっと先を行こうとするその人物に驚いた。

惚けている様子はない。本気で僕にぶつかった事を自覚してないのだ。その事実に気づき、二度驚いた。

 

「待ちたまえ!!せめて一言謝罪をいれるべきではなかろうか!?君がぶつかったんだぞ!」

「はい?私がですか?気のせいでは?」

「気のせいでは絶対ない!君は何を考えて━━━━」

 

顔をあげるとまた驚いた。

そこに見えたのはサポート科の発目くんだったのだ。

矢鱈と大きな荷物がその大きくない背中に背負われている。

 

「発目くんではないか!何故ここに!?」

「?自己紹介した覚えはないのですが・・・?」

「覚えていないのか!?体育祭で━━━」

「あ、そんな前の事覚えてないです」

「そんなに前でもないのだが!?」

 

思わず声を荒らげてしまうと、皆がこちらに気づき視線を向けてきた。怒るつもりだったのだが、今はもうそんな気分になれない。視線が痛い

 

「飯田・・・」

 

バツが悪そうに切島くんが目を逸らした。

他の皆も似たような反応をする。

僕が怒るまでもなく、いけない事をしている自覚はちゃんとあるようだ。

 

「皆の━━━━━」

「あ、爆発の人ーーー!!お待たせしましたぁ!!色々と使えそうな物を持ってきましたよ!!というより、この間のブーツの具合は如何ですか!?改良点があれば早目に伝えて下さいよ!!ガスの噴出口はまだまだ調整が必要ですから!あ、特にカートリッジ類は消耗品ですから、容器に異変があれば壊れた理由と使用回数など分かる限りの事をレポート用紙に纏めて即行で持ってきてきて下さい!!そく改良してお渡ししますから!!」

 

捲し立てるように喋る発目くんは、僕の存在を忘れたかのように爆豪くんの元へと向かった。

あまりの無視具合に、自分がここにあるのか少しだけ不安になる。

 

「轟くん、僕は・・・」

「どうした、飯田」

「良かった」

「?取り敢えず、わりぃ。お前の気持ち無駄にしちまって。でも聞いてくれ━━━━」

 

発目くんのお陰で冷静になれた僕は改めて皆の話を聞く事にした。爆豪くんや轟くんにとって緑谷くんは特別だ。僕にとっても恩人の一人で特別だ。そんな緑谷くんが今敵の手中にいるかもしれない以上、心配する気持ちは分からなくはない。

 

轟くん達が考えていたのは、戦闘を視野にいれない救出作戦。勿論、個性の使用もしないとのことだった。

確かに法にも規則にも触れない。

だが、現実的でないし、仮に出来たとしても褒められた事でもない。

 

とてもじゃないが、頷けなかった。

 

そんな僕に爆豪くんが口を開いた。

 

「何勝手ほざいてんだ。俺は使うぞ、個性━━━」

「爆豪!!お前はちょっと黙ってろ!!」

 

切島くんが口を抑えたがしっかり聞こえてしまった。

他の皆は兎も角としても、爆豪くんだけは連れていけないと心の底から思う。

 

どうするべきか考えていると、目の前に奇妙な棒が突きつけられていた。

それを手にしているのは発目くんだ。

 

「スタンガン警棒です」

「スタンガン警棒・・・?」

「個性を使ったらアウトですから、色々と持ってきました。どれも販売許可が降りている、既製品ばかりです。戦闘以外で使用する道具であれば、幾つか自分のベイビー達もいますが」

 

このご時世、個性使用をきつく罰する反面こういった護身道具の所持について寛容になってきている。発目くんが手にした警棒のような物もあれば、催涙スプレーなど割と簡単に手に入ってしまう。━━━とはいえ、手放しに許容される物かと言えばそれもまた違う。

 

言い淀んだ僕の態度に思う所があったのか、発目くんが真剣な顔でこちらを見てきた。

 

「言いたい事は理解してるつもりです。武器を持つという事の意味。これでも私はサポート科です。まだまだ半人前のペーペーですが、ここにいる誰よりもそういった事とは向き合ってきたつもりです」

 

「道具は人を選べません。使い手次第で誰かを助けますし、人を簡単に傷つけてしまいます。殺してしまう事も。その事を忘れた事なんてありません。だから私は、そのつもりでずっと携わってきました。それでも私は、私達作り手は作るんです。作り続けるんです。それぞれの想いを抱えて、そうなりますようにと願いを込めて」

 

「少なくとも私はずっと、自分の作った子供達が誰かの笑顔を守ってくれるよう、願いを込めてきました」

 

さっと警棒の持ち手を向けられた。

発目くんの手は電流が流れるであろう棒の部分に触れたままだ。

 

「法や規則以前に、心が受け入れられないのであれば、そのまま電源を入れて下さい。少なくとも私は止められます。私も覚悟をしてここに来てます。簡単には止まれません━━━━━━━大切な友人が、助けを待ってるかも知れないんですから」

 

他の皆を見れば爆豪くん以外全員が同じような表情を浮かべていた。仮にここで発目くん一人止めた所で、皆は行くつもりなのだろう。

 

「・・・それらの装備は、あくまで自衛目的なのだな」

「当然です。・・・まぁ、性能面や耐久力から考えて、実戦の主要武器として扱うのは無理だとは思いますが」

「いや、そういう専門的な話ではなくてな・・・いや、その事はおいておこう。話が進まない」

 

納得は出来ない。

法には触れてなくても、これは多くの人に迷惑がかかる行為でしかないからだ。成功すればいいとか、そういう類いの話でもない。

ここはやはりオールマイトや他のプロを信じ待つ事こそが一番なのだ。

 

それになにより、爆豪くんが目に宿している光が気になる。覚悟を決めた、重く静かな火を灯したその目が。

彼はまず間違いなく、その時がきたら個性を使ってしまうだろう。敵に対して、躊躇う事もなく。

 

「爆豪くん、本当に良いのかい。今回の件が公になれば、君のヒーローへの道は閉ざされるかもしれない」

 

爆豪くんは僕に背を向けて歩き出した。

 

「るっせぇわ・・・行くぞ、クソギーク」

「あっ、はい勿論です!!━━━と、その前におっぱいの人、少し受信機を拝借させて下さい!」

 

「おっぱいの人っ!?」

 

発目くんに質問攻めにされている八百万くんの姿を眺めていると、轟くんが側へときた。

申し訳なさそうな顔が目に入る。

 

「わりぃな、飯田」

「いいさ・・・僕も同行する」

「良いのか?」

 

愚問だな、轟くん。

 

「良くないさ。全然ね。けれど、君達は行くのだろう?意地でも。なら、僕も行く。君達が過ちをおかさないように見張らせて貰う。そして、その時がきたら僕が止める」

 

先に歩き出した爆豪くん達の背中を追い掛け、僕たちも歩き出した。

彼女が待っているかも知れない、その場所に向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━っ!!?」

 

数時間前の事を思い出していると、突然何かが爆発するような音が鳴り響いた。

それも目指している方向からだ。

 

「なんだよ、今の!?爆発!?」

 

人々の悲鳴が飛び交う中、切島くんの驚きに満ちた声が聞こえる。

そして目の前には立ち上る煙と、崩れたビルの残骸が転がっていた。

 

「嫌な予感がするな・・・」

 

轟くんの呟きに言葉を返す人はいない。

けれど、ただ一人だけ、その言葉に反応するように加速した者がいた。

 

「爆豪さんっ・・・!!」

 

微塵の迷いなくそこへと走る背中に、僅かに兄の姿が重なる。誰よりも早く、人を助ける為に駆けた兄の姿と。

 

「ヒーロー、か」

 

今のご時世では誰にも認められないかも知れない。

法を守り戦う、それが今のヒーローなのだから。

けれど、僕は思う。

 

きっとヒーローという言葉は、彼らのような者達から産まれたのだろうなと。

 

誰かを救う為に、己の不利を省みず。

誰かを救う為に、躊躇わず。

誰かを救う為に、それ以上の理由を求めない。

 

爆豪くん、轟くん。

僕を助けてくれた君達を犯罪者などにはしない。

絶対に。

 

「彼一人だと無茶しかねない!轟くん!先に行かせて貰う!」

「分かった、頼む・・・!」

 

僕は爆豪くんを追い掛けて足を踏み出した。

彼が間違いを犯す前に、止められるよう。

彼にヒーローとしての道を残せるよう。

 

「ウォッチメン飯田として!!」

「飯田、頼むから気が抜けるような事言うな」

「すまない轟くん!!━━━うぉぉぉぉ!!」

 

 

 

「眼鏡の人燃えてますね!」

「うん、まぁ、いつもは、もっとちゃんとしてんだけどな・・・」

「ウォッチウーメンも、その、あんな感じにした方が宜しいでしょうか・・・」

 

「八百万はそのままでいてくれ、頼むから」

 




おまけぇぇ(*´ω`*)

おまけのあらすじ!!
目的地付近に辿り着いたニコちゃん救出し隊一行。
救出を成功率させる為には、できる限り密かに動く必要があった。しかし、テレビで顔ばれしてる彼等にはそれが難しい。彼等は考えた。隠密に動くためにはどうすれば良いのか・・・そして思い付く、必殺の秘策ッ!!悪魔的発想ッ!!いや、もはや悪魔そのものッ。
それはつまり変装ッ!!それもニンジャの如し最強の変装ッ!!

彼等は向かう。国内有数の有名ディスカウントショップへと・・・!!
いまこそ多々買え、愛する友の為に・・・!!

ドンドンドン●ンキー●ンキーホーテー

やおもも「完璧な変装ですわ!!」キャバジョー

ととろき「そうか」ホストー

眼鏡「チャンネーイルヨォォ!」ヨビコミー

切島「みんな割とノリノリで買うのな」チンピラー




かっちゃん「けっ、くっだらねぇ!」ワカガシラー

Ms.はつめ「おや、爆発の人!さっきの信号機みたいなカラーリングのコスプレヒーロースーツは止めたんですね!!」ツナギー

かっちゃん「うるせぇぇぇ!!!!つか、てめぇは色変えただけじゃねぇか!舐めてんのか!」ヤクザァァァーーー!!


やおもも(・・・俺がきたっ、とか言うのでしょうか)
眼鏡(・・・それは目立つな。止めてくれて良かった)
切島(あいつ地味にオールマイトファンだしな)

ととろき(信号機・・・?ヒーロー、ああ・・・・)

ととろき「買い直してくる」

一同「「!?」」」


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私のオリジンを教えてやろう!!のり弁当、から揚げ弁当、焼き肉弁当、幕の内弁当、生姜焼き弁当、ハンバーグ弁当、とんかつ弁当!!後は知らない!!え、そっちじゃない?あぁ、なる。なら忘れてよし!の巻き

おまた( *・ω・)ノ

え?待ってなき?
そうかぁ・・・それは、まぁ!良かろうて!

そもそも自分がやりたくて、勝手にやってる訳ですからなぁぁぁぁ(ふっきれ)!こんなもん、公開オ●ニーですやん!一緒ですやん!

ああぁぁぁぁ!なんだろ!今なら撃てる気がする!
ストレスを右手と左手に集中!!

はぁぁぁぁぁぁどぅけぇぇぇぇぇぇん!!
無理かぁ!!寝る!!



赤い塊が空を裂いて跳ぶ。

音を置き去りするような目にも留まらない速度で跳ぶそれは、腕を十字に構えたシャチヤクザへとぶつかる。

くぐもった声と何かが潰れるような音や堅い物が割れるような甲高い音が響き、踏ん張っていた足を放り出してシャチヤクザはビルの瓦礫へと突き刺さった。

 

「ギャングオルカ!!」

 

ジーパンマンの声が響く。

けど返るものはない。

そこにあるのはぐったりと動かなくなったシャチ人間の姿だけ。

 

「よそ見はいけないよ、ナンバー4」

 

まとわりつくような嫌な声が聞こえ、次に爆発音とジーパンマンの呻き声が聞こえてくる。

ジーパンマンの様子が気になったけど、こっちはこっちでギリギリで見ていられない。嫌な予感は止まらないけど、そっちを気にしていたら目の前の化け物への対処が間に合わなくなる。今は信じるしかない。

 

そうこうしてる内にダサマスクが吼えた。

シャチヤクザを倒した事を喜んでいるように見える。

USJの時みたいに何も考えない奴と違うのかもしれない。違和感は感じていたけど、今ので確信した。感情がある。

 

「がきんちょ!!あんたは逃げなさい!!学生らしく、帰って勉強してきな!!」

 

巨人女ことなんとかデカレディが拳を振り下ろす。

地響きが巻き起こる必殺の一撃。

だけど攻撃されたダサマスクは赤い繊維を束ねた腕でそれを受け止めている。

 

「っ!?嘘でしょ!?」

 

驚愕の声があがった直後、デカレディの拳が大きく弾き返される。バランスを崩したデカレディの顔面に向けてダサマスクが地面を蹴り飛ばし空を駆ける。

腕が大きく膨らむ。私に使った時が子供騙しだと思えるほど、禍々しく巨大に。

 

デカレディは舌打ちと共に体を小さく変え、ダサマスクの突進をかわした。けど、それで終わらなかった。

 

「!!?はぁっ!?」

 

ダサマスクは空間を殴り飛ばし、その勢いを殺したのだ。ガチムチ程ではないけど、確かに空中で止まった。

そして空間をもう一度殴り飛ばし、小さくなったデカレディの脳天目掛け跳んでくる。

 

一度小さくなったデカレディに、もう一度大きくなる仕草は見られない。疲労からか、個性使用のリスクなのかは分からないけど、そのまま放っておけば十中八九無事では済まない。

デカレディが戦えていたのは巨大化による肉体的アドバンテージがあって。

 

引き寄せる個性でデカレディを引っこ抜く。

デカレディの体は宙を舞い、私の足元へと飛んできた。

ダサマスクは何もない地面へと拳を突きだし、爆音や地鳴りと共に粉塵に飲み込まれる。

 

「帰って良いですか?」

「皮肉ってんじゃないわよ」

 

ブスッとしたデカレディ。

軽く体を見たけど大きな怪我はないように見える。

息の荒さや額に浮かぶ汗の量を見ると、もう一度はきつそうだけど。

 

「もう無理ポヨ?」

「はっ!誰が!!プロ舐めんじゃないわよ、高校生」

 

デカレディは体を起こし、大きく深呼吸する。

数回の深呼吸の後「ふん」という空手家みたいな気張り声を発し構えをとると、再び巨大化した。

 

それとほぼ同時に立ち上っていた煙が吹き飛び、ダサマスクの姿が見えるようになる。

獲物を見つけたダサマスクが咆哮をあげる。

 

「あんたに頼むのは筋違いなんだけどさ!!倒れてる連中、戦いに巻き込まれないよう離してくんない!?」

「やっといたけど?まぁ、はじっこに寄せただけだけど」

 

レベル的に戦闘に参加とかむりーと思ってたので、そういう雑務的な事はやっておいた。優秀な自分が怖い。んで、シャチ重かった。

その私の言葉にデカレディは親指をたてる。

 

「よくやった、後でおねーさんがパフェ奢ってあげるわ!!超都会的な、馬鹿みたいに盛った奴!!」

 

デカレディの蹴りがダサマスクの体にぶつかる。

電車の線路のような跡を作りながら、ダサマスクは地面を滑るように吹き飛ばされた。

 

「この程度でっ、死ぬようなたまじゃないわよね!!キャニオンカノン!!」

 

怒声と共に放たれた追撃の跳び蹴り。

ダサマスクの体は回転しながら瓦礫へと吹き飛ぶ。

だけど、シャチヤクザみたいに突き刺さるような事はなかった。団子のように筋繊維で体を覆ったダサマスクは、まるでゴムボールのように跳ね返りデカレディへと迫る。

 

破裂するような音。

痛々しい鈍い音。

 

崩れた落ちたデカレディの奥に、腕を振りきったダサマスクの姿が現れる。

 

私と目が合った瞬間、ダサマスクは宙を跳んだ。

空間を殴り飛ばした勢いで。

 

引き寄せる個性で軌道をずらし、通り過ぎ様に紅炎をぶつける。焦げるような臭いが鼻をつく。

 

「━━━っぐ!!」

 

痛みが走り、意識がとんだ。

暗い空が見える。

 

急いで立ち上がり視線をそこに向ければ、肩が赤くなってる。通り過ぎ様に攻撃したのは私だけではなかったみたいだ。

 

「アソッ、ボウ・・・」

 

声に目を向ける。

ダサマスクは涎を垂らしながらこちらを見ていた。

紅炎をぶつけた腕には焦げ痕が残っていたけど、直ぐに内側から肉が盛り上がり治っていく。

 

「化け物になっちゃったんだね、あんたは。本当に・・・」

 

ダサマスクが膝を曲げたのを見計らい体を横へと引っこ抜く。同時に意識を失った感じのデカレディ(標準)もはじに飛ばしておく。直後ダサマスクが私のいた場所へ拳を叩き込み、地面が蜘蛛の巣状に割れる。

 

飛びながら紅炎を細かく吹く。

弾丸のように飛ぶ炎はダサマスクの体に当たる。

ダメージはあるけど、それ以上に回復が早い。

 

「脳無」

 

聞きたくない声が聞こえた瞬間、ダサマスクの動きが変わった。僅かに感じていた感情が見えなくなり、機械のように私に向かってくる。

 

避けようとしたけど、出来なかった。

急に殴られたような衝撃が後頭部を走り、意識がぶれてしまったから。

 

気がついた時には首を締められる苦しさや痛み、ダサマスクの顔が見えた。

 

「流石に手こずらせてくれる。群れると厄介なのは、昔から変わらないね。━━━脳無」

 

首に掛かっていた力が少しだけ弱まった。

苦しい事に変わらないけど、何とか視線を動かす余裕が出来た。さっきから聞こえる声に目を向ければ、空に佇む無傷の黒マスクがいた。

 

黒マスクに向かっていったヒーローはジーパンマンを合わせて三人。けれど今は倒れたジーパンマンの姿しか見えない。

 

「見てくれ、双虎ちゃん。この無様なヒーローの姿を。これが現実だよ。君が恐れていた現実だ。そうだろう?」

 

黒マスクの真下。

黒い液体が空間から湧き上がる。

一ヶ所じゃない、何ヵ所も。

 

「僕達はまだここにいる」

 

黒い液体から手マンの姿が現れた。

他の液体からも黒モヤやこの間見た、襲撃してきた連中も。

 

 

「君はまだ夢を見るかい?」

 

 

その言葉がどんな意味で掛けられたのか。

黒マスクの性格の悪さを考えれば直ぐに見当がつく。

けど、私の答えはあの時から変わらない。

 

あの時から。

ずっと。

 

 

 

『おれさまがきた!!』

 

 

 

ずっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物心がつく頃。

私には人より優れてる自覚があった。

同年代の連中と比べてずっと体は動いたし、両親が首を傾げるような事も私には直ぐ理解出来た。

何より、周りの大人の反応を見ていれば、私がどれだけ周りの者と違うのか嫌でも分かった。

 

私が人よりずっと優れていて、そしてそれがあまり望まれるような事でないことも。

 

気づいた時にはそれまで近くにいた人達から遠巻きに見られるようになった。そして母様も私から距離をとるようになっていた。笑った顔を見ることも少なくなって、それを寂しくは思ったけど、仕方ないという気持ちのが大きくて言葉は出なかった。

 

私は人と違うのだから、仕方ないと。

 

でもそれも直ぐに変わった。

どうして私がそんな目で見られなければならないのかと、そう思ったから。

 

切っ掛けは忘れてしまった。

でもいつ思いついたのか分からないその思いは、いつしか当たり前のように頭の中を巡るようになっていた。

自分の方が出来るのに、自分の方が賢いのに。

 

私が特別なのに。

 

そんな思いがグルグルグルグル、ずっと。

 

 

 

そんな頃だった。

私の世界が一変したのは。

 

 

 

個性が発現する時期になり、病院へ個性検査を受けにいった私は、その日黒い服を着た化け物を見た。

検査に飽きて病院内を探検していた時、偶然入ったやけに暗い廊下にそれは佇んでいた。一目で分かった。それが触れてはいけない者であることは。咄嗟に目を合わさないように頭を下げたけど、私に気づいた化け物は笑い声をあげながら頭を撫でてきた。

 

悲鳴が漏れそうになったけど、それは飲み込んだ。

それをしたら最後、殺されると思ったから。

男は私の頭を撫でながら、優しいのに背筋が寒くなるような声で語りかけてきた。

 

『君は賢いなぁ━━━━』

 

永遠にも思える時間。

吐き気と零れそうになる涙をこらえ、気が遠くなり始めた頃。

 

足音と共に通路の奥、影に支配されたそこから老人の声が聞こえてきた。

 

『先生、どうかしたか』

 

その言葉に男の手が離れた。

 

『いやぁ、面白い子がいたから、ついね。彼女は?』

『・・・ん?知らんな。ワシの所に情報が来てない以上、個性発現もまだな子供だろう。それより急いでくれないか。例の検体について伝えたい事があるのだ。面白い事になった』

『ああ、分かってるさ。そう急かさないでくれよ』

 

そういって去っていった男は振り返る事はなかった。

結局私は頭を撫でられ、言葉を投げ掛けられただけで何もされなかった。

それだけだった。

 

けれどそれは、確かに変えていった。

私の世界を。

 

その日から家にいる時間が増えた。

以前頭を巡っていた物はすっかり消えて、頭に過るのは廊下で会った男の言葉。会いさえしなければ、そういう言葉。だから何もしなかった。何も考えないで、じっとしていた。

 

でも、いつまでもそうしてはいられなかった。

母様に外へ連れ出されたから。

 

嫌だったけど、母様の表情を見れば嫌だとは言えなかった。思い詰めた暗い顔。もうずっとそれ以外の顔を見たことがなかった。自分のせいなのは知っていた。

でも、どうしたらいいかなんて分からなかった。特別だと思っていた私はあの男が言うように賢いだけの子供で、自分が思っていたよりずっと何も出来なかったから。

 

公園について他の子の真似をしてブランコに座った。

母様はベンチに座ってどこか遠くを見てる。

楽しくないけど、そうした方がいい気がしてブランコを揺らした。

 

 

『おい、おまえ!!』

 

ブランコを漕ぎ始めてどれくらい経ったのか、突然声が掛けられた。振り向いて見れば金髪のツンツン頭が偉そうに腕を組んでた。

不思議に思っていると金髪のツンツンが大きく口を開いた。

 

『みないかおだな!なまえをいえ!』

 

その頭の悪そうな言葉にうんざりした。

だから無視したけど、そいつはブランコを止めてきて、ぎろっと睨んでくる。

 

『なまえをいえ!それともなまえもいえないばかなのか?』

 

少しだけムカついて『みどりやふたこ』と名前を教えると『へんななまえだな!』と言われた。

ムカッとした。

 

『おれさまはばくごーかつきっつーんだ!おまえこぶんにしてやるぜ!』

『はぁ?』

 

思わず溢れた私の声に、そいつは変なポーズをとって叫んできた。

何処かで聞いた事があるような、それを。

 

『おれさまがきた!!』

 

自信満々の顔。

それが何故か気に入らなかった。

 

『なに?』

『んだよ!しらねぇーのかよ!おーるまいとだろ!ひーろー!きょうからおまえは、ばくごーひーろーだんのこぶんにしてやる。ほら、おまえもやれ』

『やらない』

 

無視してブランコを揺らすと、また止められた。

 

『なんだよ!おれさまがなかまにいれてやるっていってんだろ!ひーろーだんだぞ!』

『ひーろーとか、ばかじゃないの?あんたみたいなのがなれるわけないじゃん』

『ああん!?んだと!おまえがきめるな!おまえがわかるわけないだろ━━━ぶへっ!?』

 

その言葉を切っ掛けに思いきり殴ってやった。

何も知らないくせに声だけ大きいそいつに腹が立った。

沢山叩いた。初めて個性を使った。

 

そう時間も経たない内、母様が駆け付けてきて聞いた事ないような怒鳴り声で怒られた。目はつり上がってて、大声で耳は痛くて、腕を掴む手が強くて思わず震えた。

それはとても怖かった。怖かったけど、でもそれ以上に、何故か嬉しくて仕方なかった。

 

泣いていたら母様も泣いて、よく分からないまま沢山母様と泣いた。抱き締められて、頭を撫でられて、それが心地よくてまた泣いた。

そうしたら少しだけ、私は怖くなくなった。

 

 

少し日が経って、私はまた公園にいった。

怖くてしかたなかったけど、母様からあいつを見かけたら謝るように言われてたからだ。

 

そしたら直ぐに見つかった。

一人で遊んでる姿を。

 

思いきって声を掛けたら『てめぇ!やんのか!』と構えられた。喧嘩なんてする気はなかったし、お洋服を汚すと母様にしこたま怒られると思ったから『このまえはごめんね』と謝っておいた。

そうしたら、構えたぐーを暫くプルプルさせた後、『けっ』という捨て台詞と共にポケットにしまってしまう。

 

なんだかこの前と対応が違ってて、思わずそう聞いてしまった。

 

『きょうはひーろーだんしないの?』

 

そう聞いたらそいつはこっちを睨んできた。

でも何も言わない。

 

『あのへんなポーズしないの?』

 

この間の変なポーズを真似してみれば、そいつは歯軋りしながらバッと構えてきた。

私のテキトーなポーズと違って、ちゃんとした変なポーズだ。

 

『おれさまがきた!!━━━━こうやんだよ!ばかおんな!!』

『へぇーへんなの』

『なっ!?おま、おまえがやらせたんだろ!!』

『へーんなのー』

『おまえっ!!』

 

本当の事を言ったら鬼の形相で追い掛けてきた。

体力には自信があったから走って逃げて、結局そいつがフラフラの限界になるまで逃げ切ってやった。

 

荒く息をするそいつを何となくおちょくろうと思ったけど、以前聞いた名前を思い出せず聞いてみた。そいつはこっちを睨みながら『ばくごーかつき』と教えてくれた。人の事言えるほど普通じゃないじゃんと思いながら、その名前を覚えようとしたけど、どうも覚えづらかった。

 

だから、そう呼んだ。

 

『じゃぁ、かっちゃん』

『んでだ!!ばくごーかつきだっていったろ!!このみ、みどりや、ふ、ふふ、ふたこ』

『だれそれ?かっちゃん』

『かっちゃんいうな!!こらぁ!!』

 

かっちゃんは凄く短気で、からかうと直ぐに怒った。

鬼の形相で追い掛けてくるなんて日常茶飯事。大体追い掛けられてたような気がする。

でも嫌じゃなかった。だってかっちゃんは私を変な目で見なかったから。初めて会った時からずっと。かっちゃんは私を見てくれたから。

 

そうしていたら、また少しだけ怖くなくなった。

 

 

 

 

何かとかっちゃんと遊ぶようになって暫く。

ふとある時私はずっと気になっていた事を聞いた。

 

ヒーローになりたいのかって。

 

それは私にとってあの化け物と戦う事と同義で、とても選べない選択だった。だから友達になったかっちゃんに、そんな事をして欲しくなかった。殺されてしまう姿が頭に浮かんでしまうから。

 

そうしたら、かっちゃんは大きな声で言ってくれた。

初めて会った時と同じような自信満々な顔で。

 

『だいじょうぶだぜ。おれさまはオールマイトみたいにぜったいかつヒーローになるんだからな!』

 

それでも信用出来なくて聞いた。

 

『ぜったい?けがしない?』

 

そうしたら、かっちゃんは鼻息を荒くして、胸を張って言ってくれた。

 

『ふん!ぜったいけがしない!オールマイトだってけがしないし、しんだりしないぜ!だからだいじょうぶなんだぜ!おれさまも、オールマイトみたいになるんだから!』

 

子供の言葉、信用なんて出来ない。

・・・筈なのに、それが、その言葉が、私には心強かった。

 

だって知っていたから。

自信満々な笑顔も、何回負かしても参ったって言わない根性も、真っ直ぐで熱い赤い瞳も。

かっちゃんが一度も諦めなかった事も。

 

だから思ったんだ、私が支えようって。

私には出来ない顔で、真っ直ぐに夢を語るかっちゃんを応援しようって。

 

そう思ったんだ。

 

それが━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━夢なんて、みない。でも信じてる」

 

 

吐いた言葉に黒マスクの指が僅かに跳ねた。

 

 

「信じる?何をだい」

 

 

そんな事決まってる。

 

 

「私のヒーロー」

 

 

その言葉に黒マスクは口を閉じた。

 

 

「もう怖くない、もう泣かない。ちゃんと思い出せたから、私の本当のオリジン」

 

 

「私は戦うの━━━━私の大切な物の為に」

 

 

首を絞める力が強くなった。

ダサマスクのギラついた目が視界に映る。

肩を揺らして笑い声をあげる黒マスクも。

 

 

「ははっ、面白いよ。本当に━━━━愉快極まりない。緑谷双虎ちゃん」

 

 

首が絞まってく。

個性を使って腕力も使って抵抗する。

でもそれでも強く絞まってく。

 

 

「躾が大変そうだ、君は。弔には過ぎた玩具だ」

 

 

視界がボヤけていった。

息が苦しい。

 

 

「少しお休み。後でまた話そう━━━━ゆっくりと」

 

 

 

音も聞こえなくなって━━━。

 

 

 

 

 

 

「━━━━━ぞ、ごらぁ!!」

 

 

聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、ダサマスクの顔に何かがぶつかって弾かれた。そうしたら首の苦しさが無くなって、体に浮遊感を感じて、温かい物に支えられた。

 

ボヤけた目で見れば、いつもの顔があった。

 

「・・・かっちゃん」

 

名前を呼んだら頭を撫でられた。

ゴツくて荒い不器用な触り方。

よく知ってる、その手で。

 

「ああ、俺様がきた」

 

かっちゃんは笑った。

あの日みたいに、何処までも自信満々に。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ははは!!楽しいな、今夜は。なんだい、爆豪くん。オールマイトの真似事かな?」

 

僕の声に爆豪くんは目付きを鋭くした。

漏れる殺気に少しだけ体が疼く。

ただの子供と侮れない、覚悟を感じる。

 

「覚悟を決めてきたか。悪くないね。でも、それでも足りないよ」

 

悲しいかな、現実はそう甘くはない。

覚悟を決めようと実力が足らぬ以上、現実は変わらない。彼はまた奪われるだけだ。

 

「君は━━━━━」

「てめぇに勝てるとは思ってねぇ」

 

予想外の言葉。

どうやら冷静さは持っているらしい。

では何故と疑問が浮かぶ。

 

「俺じゃ、てめぇに勝てねぇ。それは一回戦ってむかつく程分かった。まだ俺じゃ足りねぇ。━━━━━だから、今は戦える奴に任せんだよ」

 

ああ、成る程。

 

「そういう事か━━━脳無」

 

拠点のあった方向へと脳無を立たせれば、その直後爆風が襲ってきた。

見るまでもない、彼だ。

 

「遅かったじゃないか」

 

脳無が殴り飛ばされる。

脳無の陰から現れた彼が、僕に拳を叩きつけてくる。

 

「全てを返してもらうぞ、オール・フォー・ワン!!」

 

伸ばされた拳を止める。

受け止めた感触から威力の衰えを感じるが、それでも僕を殺しうる力は依然健在なのは変わらないらしい。

 

「また僕を殺すか、オールマイト」

 

まったくもって、愉快な日だ。



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リアル怪獣決戦じゃん!パネェ!超パネェ!・・・見てよあれ、まじヤバくね?あふっ!ちょっ、揺らさないで!うえっぷする!観光気分止めます!マジで!写メ止めます!お抱えのお荷物は揺れ厳禁ですからぁ!の巻き

投稿遅れてすまんにゃ(*ゝ`ω・)

待っててくれた人達に続きの提供させて頂きやす。

期待外れだったらごめんねぇぇぇ!!


ガチムチと黒マスクがぶつかり、突風が吹き荒れる。

数瞬拮抗した力と力は、ほぼ同時に両者の体を大きく後退させた。

 

「随分と遅かったじゃないか、オールマイト。脳無達を送り込んでからゆうに五分は経過しているよ。あの程度の脳無に手間取る訳はないだろうし・・・どこで道草を食ってきたんだい?」

 

からかうような黒マスクの声。

ガチムチの筋肉が応えるように隆起する。

 

「それはお互い様だろう、オール・フォー・ワン。こんな所に"まだ"いるなんて、私が来るのを待ってたのか?コソコソ影を逃げ回っていた割に、随分とのんびりしているじゃないか。それになんだ、その趣味の悪い工業地帯で被るようなマスクは。脳を飛ばされて、また一段とセンスが悪くなったな!」

「言うじゃないか、ユーモア溢れる返事ありがとう・・・!」

 

言葉を言い切ると同時に二人の手から不可視の何かが放たれ衝突、再び風が吹き荒れる。

 

「オールマイト!」

 

かっちゃんの怒鳴り声にガチムチはこちらを見る事なく親指を立てた。

 

「二人とも、もう大丈夫!!私がきた!!」

「━━━━良いんだな!?」

「ははっ、私も歳をとったな!!心配されるようになるなんてな!!━━━大丈夫、君は緑谷少女を連れて行け!!奴は絶対に通さん!!私の命にかえてもな!!」

 

私を掴むかっちゃんのが強く絞まる。

顔を見上げれば言葉に感情がそこに滲んでる。

そこまできて、かっちゃんが何をしようとしてるのか分かった。

 

「ま、待って、待って!かっちゃん!私なら大丈夫だからっ!そりゃ、あの黒マスクとは戦えるとは思わないけど━━━━」

「ってせぇ!ヘロヘロの癖にほざいてじゃねぇぞ!!黙って掴まってろ!!」

 

かっちゃんが走り出すと同時、そのかっちゃんの足元へ銀色の光が突き刺さる。地面から生えるそれをよく見れば小さめのナイフだった。

 

「その子を連れていかれるのは困るのです。弔くんに怒られてしまいますからね」

 

妙に癪に障るその声が聞こえてきて、視線をそこへとやれば物陰からアホ面のキバ子がこっちを眺めていた。

向こうも私の視線に気づいたのか、嫌そうに顔をしかめた。私の顔を見ておきながらだ。むきゃつく。

 

キバ子の顔をイライラしながら見てると体が引き寄せられる感覚が走った。なのでそれとは反対方向に体を引き寄せる。かっちゃんも違和感を感じたのか、体をぎゅっと抱き寄せてきた。

 

「あら、やだ。見せつけてくれるじゃない?妬けちゃうわ。それにしても貴女と私の個性、相性最悪ね。全然引き付けられないなんて、やんなっちゃうわ」

 

キバ子の隣へ、瓦礫の陰からオカマスクが現れた。

オカマはこんな時もオカマだった。

 

まぁ、そんな事より・・・何見てんのキバ子ぉ。

なんだその目は。

 

「天使より天使な天上天下最上の至宝たる可愛い私の顔みて、何故顔しかめてん?━━━このブぅっス!!」

「トガはブスではありません。寧ろ通りすがった百人中百人が振り返るほど普通に可愛いです。目玉の代わりにガラス玉でも突っ込んでいるんですか?━━━このブス」

 

「「・・・・」」

 

キバ子と目が合った。

目は口ほどになんとやらと言うけど、それがよく分かった。初めて見かけた時から何となく気に食わない奴だとは思ってたけど━━━━。

 

「かっちゃん!!爆撃執行、承認!!」

「マグ姐!!死なない程度に切つけましょう!」

 

「やってられっか、ボケ」

「本当、この子のこと嫌いね。貴女」

 

かっちゃんとオカマスクが身構えた瞬間、間を割り込むように氷の壁がせりあがった。

 

「爆豪くん!!こっちだ!!」

 

突然掛かった声に顔を向けると、氷の壁で覆われた道の先に見慣れた連中の姿が見えた。眼鏡、轟、百、切島━━━━それと何故か発目の姿も。

 

「緑谷さん!!助けに来ましたよ!!」

 

元気な声をあげて手を振ってくる発目。私はそれが放つあまりの違和感に目が離せない。

なにあれ。

 

「かっちゃん、かっちゃん。何故に発目」

「ああん?い、色々あったんだよ」

 

色々あったとしても、なにあれ。

違和感が凄い。

何を対価にここにきてんの?支払は誰持ちですか?かっちゃんですか?そうですか。むしってもいいけど、私に奢る分は残るようによろ。

 

そうこうしてる内、かっちゃんは私を抱えたまま皆と合流。事前に話し合っていたのか陣形を組んでさっさと移動し始めた。

 

「・・・っは!かっちゃん!逃げる感じになってる!?」

「何処をどう見たら戦う感じになんだ、ボケ!おい、クソ紅白!追手撒けたか!」

 

「分からねぇ。少なくとも氷の破壊音は聞こえねぇが・・・・障子か耳郎辺りがいりゃ、ちゃんと把握出来たんだけどな」

 

悔しそうに呟く轟の背後、突然轟音が鳴り響く。

振り返れば氷の壁が砕け散っており、腕をこちらに向けた黒マスクが見えた。

 

「弔、道は拓いてあげたよ。後は自分でやるといい。元より君の望みだろ? 」

 

 

砕けた氷の粒が雨のように降る、その先。

身を寄せ会う人影が見えた。

 

 

「反発破局、夜逃げ砲っ!!」

 

 

怒号に視線を落とせば、シルクハットを被った仮面の怪しい奴が宙を飛んできた。

どうやったから分からないけど、ようは人間大砲である。凄いチャレンジャーである。

 

「八百万!!」

「ええ、轟さん!お任せを!!皆さん目を瞑って下さい!!」

 

迫るそれに百がスプレーみたいな物を投げる。

直後、目も眩むような閃光が周囲を照らした。

瞼閉じた上で手で顔を覆ったのに、それでも眩しく感じるとかヤバイ。

 

「うぉっ!?」

 

野太い悲鳴のような声が聞こえる。

突然の事にシルクハット仮面が空中でバランスを崩したのか、何かにぶつかったっぽく派手な音を立てた。

けれど、ただではやられなかったようだ。

 

僅かだけど音が聞こえたのだ。

シルクハット仮面の情けない嘆きに混じった、何かを投げるようなそんな音を。

 

 

「━━━━後はあんた次第だ、死柄木」

 

 

弾けるような音が鳴り、目の前に手マンが現れた。

私を閉じ込めた個性でシルクハット仮面が手マンを運んだんだろう。面倒臭い個性だとは思ってたけど、本当に面倒臭い事をしてくれる。

 

「これだから、餓鬼は嫌いなんだ━━━━さっさと死ね」

「奇遇だなぁ!!おい!!俺もてめぇみてぇな脳みそ沸いてる奴はでぇきれぇなんだよ!!ぶっ飛べや!!」

 

二人が掌を構え臨戦態勢のままぶつかる━━━かと思ったら背後から射出された白い何かが手マンの顔面に張り付いた。手マンはそれを取ろうとしたけど、スライムみたいなそれは手マンの顔面にピッタリフィットしてて、思うように取れず動きが鈍る。

 

「爆豪くん!!」

 

眼鏡の声にかっちゃんは横へステップして手マンをかわし、後ろを走ってきた眼鏡がかっちゃんに代わり飛び蹴りをかました。

 

瓦礫にダイブした手マン。

後続の発目が何かをメモしながら、捨てられたゴミみたいなそれを踏んづけていく。

まさかのスルー。

 

援護する気満々だった私の気持ちも考えて欲しい。

 

「とりもちは地味ですが、やはり実戦でも効果ありですね。しかし、弾の速度は仕方ないにしても精度の悪さがネックですかね?後は重量の軽減、使用後の除去法でしょうか?ああ、でも射程距離もいまいちですね。緑谷さん!どうですか!?以前開発したベイビーの改良版なのですが━━━━」

「まぁ、落ち着けぃ。んで、それはさっさとお仕舞い。それまだ使用許可とってない、お外で使ってはいけない奴でしょ?」

「━━━と、そうでしたね!氷の壁で外部からは見えませんし、今ならいけると思いまして!!つい!!いやぁ、いいデータが取れました!!ありがとうございます!それでですね、改良版のベイビーの件なのですが━━━━」

「帰ったらいっぱい聞いてあげるから、今はお口をチャック。OK?」

「OKです!!」

 

発目を黙らせた後、皆から何故か感心するような視線を向けられたりしながら、私はかっちゃんに抱っこされた状態のまま連行。

氷の道を抜けた私たちはついに大通りに出た。

避難する人達が駆けずり回るそこへかっちゃんは強引に混ざっていく。

 

「追手は!」

「今んとこいねぇ、でも油断すんな爆豪。しっかり見えなかったが、USJん時のワープ個性持ちがいた気がする」

「んなもん、分かってるわ!!」

 

そんな風に怒鳴り声をあげながらかっちゃん達は進む。

因に、 人混みに紛れてからも私はずっと抱っこされたままだ。逃げようとしても強く抱き締められてて身動き出来ないし、かっちゃんの顔を見てると逃げるのが悪い気がして大人しくしてた。・・・けど、いい加減周りの人の視線が気になるので降ろして欲しい。地味に恥ずかしい。見んな、見んなってば━━━なんだぁ!ニヤニヤしてんじゃないよ!!なんのニヤニヤだぁ!!

 

「かっちゃん、かっちゃん」

「るせぇ」

 

こ、この野郎っ・・・!

いや、怒鳴っては駄目だ。

こうして助けに来てくれた訳だし・・・流石にね、私もその、ね。うん。落ち着くんだ、私。

 

色々飲み込んだ私はもう一度かっちゃんに話し掛けてみる事にした。

 

「そろそろ、降ろして欲しいんだけど・・・」

「あぁ?・・・我慢しろ、ボケ」

「いや、周りの人がさ、見てるし?」

 

そう言うとかっちゃんが周りの人に向かってがんを飛ばした。周囲の温度が急激に下がるのを感じる。

ありがとう。気持ちはね、嬉しいよ。うん。でもね、そういう事でもないんだよ、かっちゃん。

 

てか、余計に注目されとるやろがい。

 

この結果に対して非難の視線を送ると、かっちゃんが睨んできた。

 

「・・・合宿ん時よりずっと軽りぃ。まともに飯も食ってねぇんだろ。今だけは大人しく言うこと聞いとけ」

 

ドキッとした。

心臓がぎゅっと掴まれたような感じだ。

 

「・・・・かっちゃん、乙女の体重勝手に計るなし」

「計ってねぇだろ。持った感じ、何となくで言ってんだ」

「何となくでも覚えておくなし」

「無茶言うなボケ」

 

かっちゃんに体重を把握されてるとか・・・。

うわぁ、やばい、はずい。

なんだこれ。

 

あまりの恥ずかしさに顔を押さえてると、百がかっちゃんに「デリカシーですよ、爆豪さん」と怒ってくれた。え?発目?あいつはメモ書いてたよ。サポートアイテムのアイディアが出たとか何とか言って。本当に何しにきたの、この子?

 

暫く進んでいくと大きめの交差点で立ち往生してしまった。それこそ身動きがとれない程の人混みである。

どうしてそうなってるのか、理由は簡単。

近くのビルに取りついている、巨大なモニターが原因だ。もっと言うなら、そこに映されたリアルタイムのニュース映像が原因だった。

 

皆が足を止め見上げるそこで、私もそれを見た。

 

「ガチムチ・・・!!」

 

映像は揺れが激しくてちゃんとは見えない。

映像から見て取れる事は多くはないけど、壮絶な戦いが繰り広げられているのだけは分かる。

 

「ジジィ・・・」

 

画面に黄色い影が飛ぶ。

遠目からで見辛いけど、かっちゃんが反応した所からヒーロー殺しの時にいた煎餅お爺ちゃんだと分かった。

二つの影が黒影へとぶつかる。

 

『ご覧頂けるでしょうか!!神野区上空からお送り致しておりますこの映像を!!この悪夢のような光景を!!突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました!』

 

ボロボロになった街の映像が流れた。

 

『現在オールマイト氏が元凶と思われるヴィランと交戦している模様です!!なお、この惨状、オールマイト氏が交戦しているヴィランたった一人によって行われたとの情報もありっ!━━━あっ!脳無です!!皆さん!保須市で目撃された怪人の姿が、いま!!これは、何がどうなって━━━━』

 

戦うガチムチの姿が見えた。

ガチムチの姿に周りから小さな歓声があがる。

皆、ガチムチを信じているんだろう。それだけの実績があるのだから当然かもしれない。

 

なのに、私はその姿が不安でしかなかった。

大丈夫だと言って親指を立てたガチムチの背中が、やけに遠く感じたから。勘でしかなかったけど、一人置いていっては駄目な気がしたから。

 

『━━━ああっ!!掴まって!!揺れ━━━』

 

酷く映像が揺れた。

映されたヘリコプターの機内。

黒の空、巻き起こる粉塵、悲鳴。

 

漸く落ち着いたカメラ映像に映ったのは、ボロボロになったガチムチの姿。

 

『━━━━これは』

 

そこにいた誰もが声を出さなかった。

 

『何が・・・え?み、見えますでしょうか、皆さん』

 

実況していたアナウンサーが言葉に詰まりながら続けた。自分の目を疑うように、辿々しく。

 

『オールマイトが・・・しぼんでしまってます・・・?か、カメラ!あれはっ、何が、ちゃんと撮れてるか!?』

 

 

感じていた、嫌なものを。

 

 

ガチムチの背中に感じた、それが。

 

 

頭の中で過っていった。

 

 

 

「━━━━かっちゃん」

 

 

 

私の声にかっちゃんが私に視線を落とす。

 

 

「・・・・お願いがあるの」

 

 

 

そう言うとかっちゃんは私の目を見た。

そして呆れたように溜息をつく。

 

「言い出したら、てめぇは聞かねぇからな━━━んな泣きそうな顔すんな。何がしてぇんだ」

 

助けにいけたら、それがきっと一番良い。

けど、私にはその力がない。

体力が万全でも、きっと対した事は出来ない。出来る事なんて限られてる。

 

その上で探したソレで、何が変わるか分からない。

意味なんてないのかも知れない。

でも今動かなかったら、きっと私は後悔する。

 

今日という日を。

ずっと。

 

 

だから━━━━━

 

 

「ありがとう、かっちゃん」

 

 

━━━まだ、このまま帰る訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伝えたいことがあるの、オールマイトに」

 

 

 




おまけ◇◇◇━━━━━逃走中

かっちゃん「はっ、はっ、はっ━━━ちっ!うぜぇな人混みはよ!!」フタニャン ユサユサ

ととろき「・・・・重そうだな、代わるか?」

かっちゃん「誰が代わるかボケ!!てめぇは後ろ警戒しとけや!!」

ふたにゃん「誰が重そうだああん!?こら!!」

やおもも(轟さん、デリカシーです)

眼鏡「轟くん、女性に重いと言ってはいけない!」
ととろき「そうなのか」ガクシュー

やおもも(飯田さん、デリカシーです)

Ms.はつめ「うひょーー!きました、きました!!これはきましたよぉぉぉぉ!!」

やおもも(デリカシーとか以前の問題ですわ)


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言葉にしないと分からない事がやたらと多いので、思いきって吟じます!頑張った私はお腹がとても減ったからぁ~ご褒美に美味しい物が食べたぃ~ぃ~!!さぁ、奢れぇぇぇぇ~~!あると思います!の巻き

一体いつから、本日Am6:00に更新されたと思ったら削除されている、と錯覚していた。
あれは、あれだ・・・そう、それだ。それなのだ。
つまりは、そういう事だ。

・・・・卍ッ解!!(ヤケクソ)


はい、そんな訳で改稿版やで( *・ω・)ノ

朝は中途半端に出しちゃってごめんねぇ!!
納得出来なかったので、ちょっと手直ししたで!
まぁ、いうても前のやつと大体一緒だけどね(*ゝ`ω・)



『皆が笑って暮らせる世の中にしたいです』

 

そうお師匠に伝えると、お師匠はいつものように笑った。不敵に、楽しそうに。

そしていかれてると口にしながら、お師匠は真っ直ぐに私の目を見てきた。私の夢を認めてくれてるかのように。 

 

私は嬉しくて、もう一度心の中で呟いた。

その言葉を。

 

 

私のオリジンとなるその言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははっ!流石ヒーロー!ナンバー1!オールマイトだ!・・・頼まれもしないのに、よく守ってくれる。自分の身も顧みずに。━━━いやぁ、本当に、お笑いだよ!!」

 

オールフォーワンの声を聞き、私は視線だけを僅かに背後に向ける。そこにはビルの瓦礫に紛れた女性の姿が見えた。無事とは言いがたいが、先ほどより怪我が悪化していない様子に胸を撫で下ろす。 

 

再び空に浮かぶ奴へ視線を向ければ、楽しそうに笑い声をあげながら手を大きく広げた。

 

「頬はこけ、目は窪み!!貧相なトップヒーローだ。恥じるなよ?それが本当のキミなんだろう?」

 

その言葉に返す言葉はない。

事実だ。

 

「ヒーローは大変だね、オールマイト。君達は・・・いやぁ、君は、守る者があまりにも多い。例えば今君が守った彼女、例えば先に僕達と戦って使い物にならなくなった同僚、例えば背を見せて逃げる教え子達。ああ、可哀想に。君にそんな枷さえなければ、今の僕程度、簡単に勝てたろうに━━━━━まぁ、そのお陰で無事弔達を逃がせたのだから、キミのその無駄な正義感には感謝しているけどね」

 

感謝とは、面白くない戯れ言をいう。

そう思って睨みつければ奴は肩を竦めた。

 

「まったく・・・思い出すよ。あの時の君を。忌々しい限りだ━━━おや?」

 

瓦礫の崩れる音に視線を向ければ、先ほど倒した筈の脳無が這いずるようにこちらに向かってきている。

手足はあらぬ方向へと曲がり、身体を覆っていた筋繊維は力をなくしただ引き摺り、血を吐きながら血を撒き散らしながら、それでも僅かな生気を宿した目で何かを求めるように。

 

 

その目は、確かに人間の目だった。

 

 

「もう動けないかと思ったけど、存外頑丈だな。これは勿体無い事をしたかもしれないね。ちゃんと調整してあげれば、面白い物になったろうに━━━━残念だよ」

 

それだけ言うとオール・フォー・ワンは私に放ったようなソレを脳無へと叩きつけた。脳無の目から生気が失せ、自らの流した血だまりへと沈む。

 

それはまるで、ゴミでも処分するような自然な手つきだった。

それを脳が理解した瞬間、血が熱くたぎっていくのを感じた。

 

 

「何故、貴様が、殺す!!仲間ではないのか!!」

「君が熱くなるなよ、オールマイト。作った者の責任として不良品を処分しただけさ。折角与えた力もまともに使いこなせない、所詮はガラクタだよ。━━━それとも君には、これが人間に見えるのかい?冗談はよしてくれ。自分で考える事も出来ない、ただの個性の入れ物。人の言うことを聞くだけの、人形だよ。これはね」

「人だ!!彼もまた、人間だ!!貴様には彼の目が見えなかったのか!!」

「目?はは、面白い事言うな。理解に苦しむよ、ヒーロー。どんな目をしていようと、もうあれはガラクタ以外何物でもないさ。僕が保証する。改造してあげた、僕が」

 

 

人を人と思わない。

奴は平然とそれを口にする。

だから私はそれが許せない。

 

「━━━オール・フォー・ワン!!」

 

力を振り絞りマッスルフォームへと変わる。

僅かなインターバルではあったが、回復した。

まだ戦える。

 

「怖いなぁ、君は・・・!!」

 

オール・フォー・ワンは倒れふした彼女へと掌を向けた。彼女に逃げる余裕は見られない。

私は彼女の前で構えた。

 

 

「なんだい、逃げないでいてくれるのかい?流石ヒーロー、サービス精神旺盛だな。オールマイト」

 

 

オール・フォー・ワンの掌が空気を弾く。

飛ばされた不可視のそれに合わせ拳を振り抜けば、弾かれた空気同士がぶつかり爆風が周辺一体に吹き荒れた。

追撃しようと振り抜いた拳と逆の拳を構えたが、そこから放つことは出来なかった。

軋むような痛みが、それを止めたのだ。

 

「本当によく守るな、君は」

 

私を嘲るように、何が楽しいのか奴は笑い声をあげた

 

「何を言いたい!!」

「彼は守らなかったのに、ね」

「━━━彼?」

 

オール・フォー・ワンは自らの顔に手を当てた。

 

「彼だよ・・・死柄木弔。旧名を志村転弧。先代ワン・フォー・オール継承者、志村菜奈の孫である彼をさ」

 

心臓が跳ねた。

 

「君が嫌がる事を、ずぅっと考えてた」

 

その言葉が意味するものを、私は知っている。

目の前の男がどんな手段を使ってくる奴なのか。

私は、知っている。

 

だから、理解した。

お師匠の家族に起きた、悲劇を。

 

「君と弔が会う機会をつくった。君は弔を下したね。何も知らず、勝ち誇った笑顔で」

「ウソを・・・」

 

漸く絞り出した声に「事実さ」という答えが返ってきた。

 

「僕のやりそうなことだ、そうだろ?君はそういう僕を倒したんじゃないか━━━━あれ?おかしいな、オールマイト」

 

ぐいっと、オール・フォー・ワンが自らの頬に手を当て、持ち上げる仕草をした。

お師匠のそれと重なる、それを。

 

「笑顔はどうした?」

 

 

 

『人を助けるって、つまり、その人は怖い思いをしたってことだ』

 

 

 

「いつもの笑顔だよ、オールマイト」

 

 

 

『命だけじゃなくて心も助けてこそ真のヒーローだと私は思う━━━』

 

 

 

「君の師匠の教えだろう?」

 

 

 

『━━━だから、どんだけ恐くても「自分は大丈夫だ」って笑うんだ。世の中笑ってる奴が一番強いからな』

 

 

 

頬に指を当て笑う、お師匠の姿が頭を過った。

 

「き、きさ、まっ・・・・!!」

「ははっ、やはり楽しいな・・・!良い顔だ。一欠片でも奪えただろうか。君から」

 

息子の幸せを願い、離れる事を選んだお師匠の悲しげな顔も言葉を今も覚えている。

家族の幸せを願い戦うお師匠の背中を覚えている。

 

私は知っていたのに。

それなのに何も知らずに。

 

私は、彼等を・・・!!

 

 

 

 

「━━━━いで」

 

 

 

 

声が聞こえた。

 

 

 

 

「オールマイト、お願い、助けて」

 

 

 

 

か細い助けを求める声が。

 

『オールマイト、後は頼んだ!』

 

後悔が渦巻いていたそこへ、またお師匠の姿が浮かんだ。最後まで戦い続けた、お師匠の姿だ。

 

 

「・・・・お嬢さん、もちろんさ」

 

 

私は止まってはいけない。

まだ、ここじゃない。

約束したのだ、お師匠に。

 

「ああ、多いよ、ヒーローは・・・!守るものが多いんだよオール・フォー・ワン!!」

 

平和の象徴になるのだと。

皆が笑って暮らせる世の中にするのだと。

だから。

 

「━━━だから、負けないんだよ」

 

見上げた私に奴は笑い声をあげるのを止めた。

そして掌をこちらへと向けてくる。

 

「・・・面白くないな」

 

オール・フォー・ワンの腕が膨らんだ。

 

「なら、精々守ってみるといい。死ぬまで━━━」

 

弾かれた空気の塊に拳を振り抜く。

渾身の力を込めたが打ち消す事しか出来ない。

全盛期ならばと、思わず愚痴が溢れそうになる。

 

次々と放たれるそれに拳を合わせる。

オール・フォー・ワンも本調子ではないのだろう。

必殺という程のものはない。打ち消せる。

 

だがそれでも、体力の消費は私の方が上らしい。

徐々に身体が押され始めた。

 

「僕はね、オールマイト。君が憎い」

 

爆発するような風の音に混ざり、奴の声が聞こえてきた。

 

「僕から何もかも奪った君が、憎いんだ。心から。だからね、出来るだけ惨たらしく死んで欲しいんだよ。何もかも奪われて、絶望しながら死んで欲しいんだよ。あの女みたいに」

 

呟くような、その声が。

 

「まずは、その力を奪おうか」

 

オール・フォー・ワンの両腕が大きく膨らんだ。

禍々しい物を漂わせながら、見たこともない程に。

 

「━━━━避けろ!!オールマイト!!そいつは受け止めんなぁ!!」

 

 

怒鳴り声が聞こえる。

しゃがれた声、グラントリノの声だ。

遠くから響くその声に助けにくる余裕は感じ取れない。

である以上、避ける訳にはいかない。

 

ヒーローとして。 

 

「こいっ!!!オール・フォー・ワン!!」

「ああ。言われずとも、そうするさ・・・!」

 

奴の攻撃に備えたその時、紅蓮の炎が奴を襲った。

オール・フォー・ワンは私への攻撃を止め、腕の一振りで炎を振り払う。

炎があがったそこへと視線を向ければ、頼もしい男の姿があった。

 

 

「なんだ貴様・・・」

 

 

烈火を纏う男。

 

 

 

「その姿は何だ、オールマイトォ!!!」

 

 

 

フレイムヒーロー、エンデヴァー。

 

 

 

「なんだ、そのっ、情けない背中は!!!」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『━━━━ああ、エンデヴァーが今、現場に現れました!!見てください、カッコいい!!あ、他のヒーロー達も続々と!!ああ!!炎がっ!やれぇエンデヴァーァァァ!!出すのか!出すのか!赫灼熱拳!!━━━出したぁぁぁ!!え!?あっ!申し訳御座いません!少し熱くなり過ぎました。あ、いまエッジショットが交戦を始めました・・・』

 

「このリポーター、どんだけエンデヴァー好きなんだよ。エッジショットとの落差ひでぇ」

 

私の手にしたポータブルテレビから流れていく音を聞きながら、先頭で階段を駆け上がる切島が呆れたように呟く。私も「ね」と同意しておく。

ガチムチの時とハゲの時、それ以外を説明する時の熱量に差がありすぎるのだ。しっかりしろぃ、プロだろうがYOと言いたい所である。

 

心の中で超頷いていると、そんな切島の様子を見ていた轟の眉が下がった。

 

「・・・わりぃ」

「いや、轟なんも悪くねぇし。てか、何故謝った」

「いや、なんかクソ野郎が迷惑かけてる気がしてな。・・・家族とは思いたくねぇけど、一応血は繋がってるから・・・その、な。わりぃ」

「や、やめろぉ!!複雑そうな家庭環境を背にして謝るなぁ!!俺どんな顔していいかわかんねぇから!」

 

苦悩する切島だったけど、直ぐ後ろを駆けていた我が愛馬爆号が尻を蹴りあげた事でそのお悩みタイムも強制終了。

代わりに抗議の視線がこっちに向いた。

 

「爆豪!!痛い以前に危ないだろ!?階段だぞ!?」

「るっせぇ!!チンタラ走ってんじゃねぇ!!クソ紅白!!てめぇも面倒臭ぇこと言ってんじゃねぇぞ!!帰ってからやれや!!」

 

「そうだな、悪かった」

 

かっちゃんに抱っこされたままの私はテレビから一旦目を離し、壁に描かれた番号を確認する。描かれていたのは8階の文字。

 

「かっちゃん次、屋上!」

「切島!!ドアあったらぶっ壊せ!!」

 

かっちゃんの怒鳴り声に切島がガッツポーズを見せた。

 

「おっしゃぁ!任せておけ・・・なんて言うか!!もっと穏便に開く事をかんがえろぉ!あるだろ!非常事態の時に開くようの、鍵的な━━━」

「大丈夫です!!」

 

切島の声を遮るように発目が声をあげた。

かっちゃんの肩越しから覗けば、いつもの半笑いの顔で工具を見せつけていた。怪しげな道具満載である。

 

「どんなドアだろうと開けます!!チョロいです!」

「ナチュラルな犯罪者っぽいんですけど!?大丈夫!?なぁ緑谷!!これ、大丈夫!?お前友達なんだよな!?」

 

私はもう一度発目を見た。

キラキラした目で楽しそうに笑う発目を。

そして確信する。

 

「トモダチ、ダイジョーブ、ワルイコトシナイヨ」

「目を合わせてリピートしてみろよぉ!!」

 

ごめんね、それは無理。

 

階段を上がり続けRの文字が見えると、かっちゃんに「双虎」と名前を呼ばれた。最近当たり前になってきたけど、こうして改まって聞くとむず痒い気もする。

まぁ、嫌な訳ではないけど・・・。

 

「━━━あ、えっと、何かっちゃん?」

「・・・準備は俺らがやる。お前は何を言うかだけ、ちゃんと考えてろ。いいな」

「・・・・うん、ありがとう」

 

そっと視線を落としテレビを見れば、ガチムチの姿があった。・・・ついでに元気に炎を放出するハゲの姿も見えたけど、そっちは置いておく。

 

遠目から映されるガチムチに感じる物はない。

けれど、あの時感じた不安はまだ胸の所に張り付いたままだった。

 

「屋上見えたぞ!!」

 

切島の声に顔をあげる。

ドアが見えた。

 

私は心の中で言葉を探した。

 

伝えなきゃいけない言葉を。

私が伝えたい言葉を。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「━━━━煩わしい」

 

 

 

 

 

 

 

轟音が鳴り、地響きが起こり、風が吹き荒れる。

その場にいた全てが遠く弾き飛ばされた。

私と奴以外の全てが。

 

 

空に浮かぶ奴は私を見下ろした。

悠然と。

 

 

「精神の話はよして、現実の話をしよう」

 

 

奴の腕が歪に膨らむ。

 

「筋骨発条化、瞬発力×4、膂力増強×3、増殖、肥大化、鋲、エアウォーク、搶骨」

 

体積は徐々に増えていき、服を引き裂き尚も巨大化していく。ついには奴の身の丈に迫る程の巨腕へと変わった。 

 

「折角、僕と君の久しぶりの戦いだというのに。無粋な連中だ。そうは思わないか?」

 

その異様な姿はかつて全盛期だった頃の奴と、少しだけ重なって見えた。

身体がかつての戦いを思いだし震える。

 

「衝撃波では体力を削るだけで確実性がない。確実に殺す為に、今の僕が掛け合わせられる、最強・最適の個性たちで━━━━君を殴る。邪魔が入る前に決着をつけよう、オールマイト・・・!!」

 

らしくない言葉だ、だが理由は分かる。

奴も余裕がないのだ。

 

私も奴も元々万全でない。

その状態で戦った。私は脳無達と、奴はここにいたヒーロー達と。そしてぶつかった、お互い限界が側にある事をしりながら。

最早、どちらも満身創痍といっても良い。

 

そしてこれは私とって望んでもない展開だ。

ならば、私がとる手段は一つだけ。

 

「オール・フォー・ワン!!」

 

真っ向から捩じ伏せる。

私の全てを込めた一撃で。

 

「━━━結局、君は誰にも継がせなかった。愚かな事だ。こうなる事を知っておきながら。今日を以て君を、その力を、僕が殺す」

 

奴が私を目掛け飛ぶ。

弾丸のように、鋭く、速く。

 

「それとも彼女に託したかい?あの弱くて頼りない、臆病なだけの彼女に。期待するだけ無駄だよ。彼女は器じゃない。彼女はきっと辿る、僕と同じ道を。先生としても、君の負けだ」

 

巨拳が引き絞られる。

 

「何も残せない事を、悔やみながら死ぬと良いよ。オールマイト・・・!」

 

放たれた拳に、渾身の拳を叩きつけた。

 

「衝撃反転」

 

呟くような声が聞こえた瞬間、腕に衝撃が走る。

骨が折れるような音が鳴り、腕がグシャグシャに歪む。

力を込めなんとか腕は戻したが隙をつかれて一気に押し込まれた。

 

踏み込んだ足が地面を抉りながら滑るように後退していく。全身が軋み、全身に痛みが走る。

 

だが、危機を目の前にしながら、私の心は酷く落ち着いていた。

 

「━━━見当違いさ、オール・フォー・ワン!!何もかもな!!」

「おかしくっ、なったかい?この状況に」

「違うさ!!何も、おかしくなってやしない!!」

 

ようやく分かったんだ。

私がやるべき事を。

 

「託すまでもない!!彼女は既に持っていた!!」

 

誰よりも優しい彼女に、私は教えられた。

 

「お前は何も分かっていない!彼女の強さを!!彼女を支えてくれる友人達を!!」

 

誰かと笑う彼女に、私は教えられた。

 

「彼女は歩む!!ヒーローとしてではないかも知れないが!!きっと!!何処かで泣いている誰かを、幸せにする道をっ!!」

 

 

その為に━━━━━お前だけは残しやしない。

 

 

「オール・フォー・ワン、お前には付き合って貰うぞ!!地獄の底まで!!」

「それは素敵なお誘いだ・・・やってみるといい。出来るのならね」

 

 

この命に替えても。

 

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

命を燃やす、何も残さない程に。

明日を生きる彼女達の為に。

この場で持てる全てを出し尽くす。

 

私が終わらせるのだ。

この男を、この長く続いた因果を━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「やああぁぁぁーーーーーっ!!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、いる筈のない彼女の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「きいいぃぃぃーーーーーっ!!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲高いノイズ混じりの大きな声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「にいいぃぃぃーーーーーっ!!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の声が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「くうううぅぅぅーーーーーーー!!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉にあの時の笑顔が過った。

悪戯っ子のように楽しそうに笑う彼女の。

その太陽みたいな笑顔が。

 

 

 

 

 

「━━━━どうしようもないな、私は」

 

 

 

 

 

また、勝手に決めつける所だった。

約束までしたというのに。

 

 

━━━滑っていた足が、止まった。

 

 

瞬間、腕にかかる負担が一気に高まる。

すかさず押し込まれた腕のワン・フォー・オールを解除。身体を捻り巨腕をかわしながら力に抗わず受け流す。

そしてがら空きの懐へ、踏み込む。

 

『正面からはまず有効打にならん!虚をつくしかねぇ』

 

グラントリノの言葉に従い、死角から左拳を叩きつける。

 

「らしくない、小細工だ。誰の影響かな━━━浅い」

 

それは当然だ。

これはお前の注意を逸らす為だけの、餌でしかないのだから。

 

私に攻撃しようと左腕に力を溜める奴を見ながら、全エネルギーを右腕に乗せる。

巨腕に隠れた私の腕、奴は気がつけない。

 

「!」

 

オール・フォー・ワンの顔が、巨腕の陰から現れた私の右腕を見た。

だが、今さらだ。

 

もう拳は加速し始めている。

 

「お前と死ぬわけにいかなくなった━━━━彼女が待っている」

 

全身のバネを使い更に加速。

拳に全体重を乗せる。

 

 

「UNITED STATES OF━━━━━━」

 

 

奴の顔面に━━━━

 

 

 

 

 

「誤算だった、君がこんなに抗うなんてね」

 

 

 

 

 

━━━━叩きつける。

 

 

 

 

 

「SMAASH!!!」

 

 

 

 

 

 

生きて、帰る。

彼女の元へ。

かわした約束を、果たす為に。

 

「これは、高くつきそうだ━━━━ありがとう、緑谷少女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拳の余波で巻きあがった風もやみ、更地と化したそこで私は拳を突き上げた。

 

この姿が彼女へ届くように、そう思いを込めて。

高く。

 



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あらしのよる、から大分経ってからやってきたのは、お土産をもった二匹の狼と、可愛いワンコと━━━━鬼神だった件。おいおい、まじか。の巻き

あれ、いつぶり?一週間ぶり?
おくれてごめんねぇぇぇ(;・∀・)!
心の底から、ごめんねぇぇぇ!

もうね、そういう事だよね(*ゝ`ω・)


嵐のような一夜が明けて数日。

黒いマスクから解放された私は、新たな敵"白い悪魔達"によって身柄を捕らえられていた。

 

「どこ行った!!あの馬鹿娘ぇ!!」

 

直ぐ側から聞こえる怒鳴り声に怯えながら、私は息を殺しお饅頭を食す。甘くて旨い。モクモクしながらじっとしてると、ツカツカと早歩きする音が聞こえてきた。

 

「婦長!!こっちの売店にはいませんでした!!顔も見せてないようです!!」

「まったく!!なんだってこう、立て続けに厄介な子ばかりくるのかな!!━━━取り敢えず出入り口は固めてあるわ!しらみ潰しに探すわよ!」

「はい、婦長!!見つけたら、目の前でケン●ッキーしてやりましょう!」

「お馬鹿!患者を煽ろうとしないの!」

 

いかにも怒ってますという足音が去った後、私はベッドの下から顔を出して周りを確認する。敵影なし。思いきって廊下を覗けば遠くに怒りのオーラを纏いながら歩く悪魔達の姿が見えた。

 

「━━━ふぅ、ヤレヤレだぜぇ」

 

そっと額の汗と口元の饅頭カスを拭き取っていると、枯れた手とそこに乗ったお煎餅が視界に入ってきた。

視線をちょっとあげると、ついさっきベッドの下に匿ってくれたお婆ちゃんのニコニコした笑顔と目が合う。

 

「お煎餅、好きかい?」

「好きぃー!!」

 

好意に甘えてお煎餅を貰い、早速モグモグ。

甘しょっぱい、旨い。

お腹が少しずつ幸せになっていく。

なんかお婆ちゃんに頭撫でられた。

 

口の中がパサパサしてきたなぁと思ってると、お婆ちゃんのお見舞いにきてたオッチャンが紙パックのお茶をくれた。当然貰う。

ありがたくゴクゴクしてると、オッチャンが自分のダンディーな髭を触りながら口を開いた。

 

「それにしても、お嬢ちゃんはなにしたんだい?婦長さん優しい人で怒った時なんて━━━━あったね、トヨさん。あれだ、この間の」

「そうさねぇ、この間も怒ってたねぇ・・・いつだっけねぇ。やだよ、歳はとるもんじゃないね」

「ああ、確か患者が脱走しようとしたとかなんとか。お嬢ちゃんもその口かい?悪い事言わないから大人しくしておきな」

 

 

「━━ぷはっ。えぇ、別に何もしてないですよ?」

 

お腹が減ったから売店にいこうとしたんだけど、なんか止められて、むきゃついたからフェイントかけてぶち抜いただけだし。

 

あ、お婆ちゃんお煎餅ありが━━━え、どら焼きもくれるの?あざーす。モグモグ。

 

『━━━次のニュースです。神野区で起きた事件について、警察より新たな発表がありました。先日11時に神野警察署にて行われた記者会見では━━━』

 

不意にテレビの音が聞こえてきた。

振り向くとお婆ちゃんの向かいのおばさんが隣の患者とテレビを見てた。

 

「またヴィラン。最近多いわねぇ、ねぇジェシー」

「ホントデェス。コワイデェス」

 

因みにおばさんのお隣さんは身長2メートルのゴリラと熊を足して二で割ったような欧米人である。腕とか丸太みたいである。

鏡を見て出直すといいよ(黒マスク風味)。

 

『━━━事件について、今後も新たな情報が入り次第お伝え致します。今日のクイックニュース、次はこの一週間で話題になったニュースを振り返る、ウィークリートピックスのお時間です。今週はどんな話題がランキングに入るのでしょうか』

『ランキング~クイッククイック!今週のトップトピックは突然神野に響き渡った、焼きに━━━』

 

今週のトップトピックはー?

ん?神野??

 

「見つけたァ!!あっ!?貴女っ、先生から許可がおりるまで食べちゃ駄目って言ったでしょぉ!!!」

「・・・ごふっ!」

 

びっくりしてお茶が変な気管に入った。

振り返ってみれば下っぱの白い悪魔がいた。

下っぱの声に釣られてか、廊下から駆けてくる足音も聞こえ始める。やばい。

 

 

 

「にんっ!」

 

 

 

出入口は下っぱに押さえられて駄目。故に仕方がないと窓から脱出する事にした。

運の良いことにそう遠くない所にいい感じの木がある。

ぴょんと飛んで、ぐいっと引っこ抜けば脱出可能。

まぁ、個性使って逃げると後が怖いんだけど・・・あの駆けてくる足音の方が今は怖い。

 

さっと窓へダッシュすると焦るような下っぱの声が聞こえてきた。勿論応えてやらない。さらばだ。

窓を開け足をかけ━━━━た所で、それが視界に入った。

 

「何してんだ、馬鹿」

 

呆れ顔で見上げてくる、ポケットに手を突っ込んだかっちゃん。

 

「元気そうだな、緑谷」

 

いつもながら眠そうな顔した、大きめの紙袋を手にさげた轟。

 

「ニコちゃん!!」

 

元気そうに笑顔で手を振る、我がベストフレンドお茶子。

 

 

 

 

 

「・・・双虎、そんな所であんた、何してんの?」

 

 

 

 

 

そして大きめの荷物を肩がけした般若。

世界に私という尊すぎる存在を産み出した、ある意味私より偉大な母様である。

 

おかしいな。

いつもは愛らしさすら感じるぽっちゃりシルエットが、今はどう好意的に見ても鬼神にしか見えない。丸いのに。ポヨポヨなのに。おかしいなぁ、オーラがどす黒いなぁ。

 

「━━━捕まえたァ!!!」

「うひゃぅ!?」

 

あまりの迫力に動けないでいると、いつの間にか迫っていた白い悪魔達に身柄を拘束された。まさかの四人がかりである。流石の私も動けない。

その様子を見た母様が目を見開く。そう、怒りのどんぐり目である。

 

「これから検診だっていうのに・・・。何をしたのか、部屋に帰ったらじっくり聞かせて貰うから、覚悟しておきなさい」

 

吐き出された低い声に、思わず背筋が伸びた。

 

「これは違うんですぅ!」

「返事は・・・・?」

「か、かしこまりぃぃぃぃ!!ごめんなさい!!」

 

それから直ぐ、部屋に乗り込んできた母様にお説教されたのは言うまでもない。ガチでしょんぼりん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、双虎ちゃん明日退院ね」

 

母様よりありがたいお説教を貰って、お茶子と感動の再会を果たして、かっちゃんと轟からお土産を頂いて少し。

検診にやってきた担当医から、気軽に退院を告げられた。

 

「本気とかいて、マジで?」

「そうね、マジマジ。胃腸の方も大丈夫そうだから、ご飯も普通に食べて良いよ。あぁ、でも重たいのはまだ控えてね。確実にもたれるよ。もう一度入院したいのなら、それでも構わないけど」

「胃腸薬下さい」

「食べないという選択肢はないの?」

 

そんな選択肢はない。

肉食女子な双虎ちゃん、退院祝いは肉と決めている。寿司でも可。

胸をはってそう言おうとしたけど、母様に頭ひっぱたかれた。いたい。

 

あ、お茶子!何その可哀想なものを見る目は!?

かっちゃんは・・・まぁ、良いとして。お茶子は味方してよぉ!!無条件でタッグパートナー務めてよぉ!

んで、轟もその生暖かい目止めて!!お母さんか!!

 

そんな私の様子を見てか、担当医は呆れた顔をしてカルテを覗いた。隣の看護師さんも似たような顔してる。

こ、こにょやろう共をぉ。

 

「・・・はぁ、それじゃ一応二日分の薬は出しておこうか。だからと言って食べ過ぎは禁物だからね。節制を心掛けるように。良いね?」

「退院祝いで焼き肉に行くことになってるんですけど」

「うん?聞いてた?僕の話、聞いてた?」

 

じと目で見てくる担当医から目を逸らせば、溜息混じりの「まったく」という言葉が聞こえてきた。

 

「彼氏くんとお友達も、目を光らせておいてね」

 

その言葉にお茶子と母様が目を見開いてこっちを見てきた。なんだその目は。私もびっくりしてるんだから、その「いつの間に」とか呟くの止めて。「光己さんになんて言ったら」とかも止めて。

 

簡単に信じるんじゃないよぉ!

 

「せんせー、かっちゃんは別に━━━━」

「誰も爆豪くんがどうとは言ってないけど・・・そっか、双虎ちゃんは爆豪くんの方が良いのかぁ。ま、趣味は人それぞれだしねぇ」

 

イヤらしい笑みを浮かべた担当医に、冷静沈着が売りの私の心が怒りでムカ着火ファイヤー。

 

誰の好みがっ、口を開いたら悪口しか言わない、DV予備軍のかっちゃんだぁ!!奢ってくれる所くらいしか良いところないんだぞ!!こいつは!!なのに━━━この野郎!!このすかし顔ぉ!!明日のおてんとう様を見れると思うなよ!!

 

「そもそも、私の趣味は普通だぁ!!イケメンで金を持ってて、休みの日に朝から晩までダラダラしてても怒らなくて、遊ぼって言ったら面倒くさがらずに構ってくれて、掃除も洗濯も進んでやってくれて、オヤツもご飯もかいがいしく用意してくれるっ、そんな優しい人が好みじゃこらぁ!!課金させてくれたら尚良し!!」

 

「この子はまったく・・・はぁ」

「ニコちゃん・・・・はぁ」

 

溜息をつかなくてもよくなくない!?

え!?だって、これ女の子の夢でしょ!?

答えてよぉ!母様、お茶子ぉ!

 

「━━━ていうか、かっちゃんも黙ってんじゃないよぉ!!!なんか言ってやれぇい!!」

「・・・ああ?んなことすっかよ、面倒くせぇ。つか、干物くせぇこと言ってんじゃねぇ」

「んだとこの野郎!!誰が干物女だこらあ!!」

 

あまりの塩対応、あまりの暴言にイラッとして掴み掛かったら簡単にいなされた。

この野郎、生意気に小手先ばかり上手くなっていきおってからに!!

 

かっちゃんと争ってると、轟が間に割って入ってきた。

イラッとして見るとなんかこっち見てくる。

 

「洗濯と掃除、それと料理だな。分かった」

「・・・・ほわい?」

 

「しゃしゃってんじゃねぇぞ!!クソ紅白!!」

 

怒鳴り声をあげたかっちゃん。

轟の胸ぐらを掴みあげ廊下へと出ていった。

きっと親友同士で話がおるのだろう。

 

はっ・・・ちゃっかり逃げられた!

逃がすかぁ!

 

「まだ話は終わってないぞ、かっちゃんこらぁ!!」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

ニコちゃんが廊下へとダッシュしてしまって少し。

がらんとした部屋の中で担当医の先生が苦笑を浮かべてニコちゃんのお母さんへと視線を送る。

 

「・・・・まぁ、あれだけ元気なら大丈夫でしょうけど、何かあったら直ぐに病院に来て下さいね。緑谷さん」

「は、はぃ、ありがとうございます。それとうちの馬鹿が色々と申し訳ありません」

「あぁ、まぁ、ははっ。お気になさらず。あれはあれで、悪いことばかりでもないので」

 

そう言うと担当医の先生は隣の看護師さんへと視線を向ける。看護師さんは一度頷くと、ニコちゃんのお母さんと退院の手続きについて話し始めた。

 

ここにいても邪魔になるかなと思って居場所を探してると、担当医の先生と目があった。

 

「双虎ちゃんのお友達・・・で良いのかな?」

「あっ、はい!麗日お茶子です!ニコちゃんがお世話になってます!━━━って、これはちゃうか」

「いや、あはは。しっかりしてそうなお友達がいて良かった」

 

笑い声をあげた先生は続ける。

 

「双虎ちゃんの事、よく見ていてあげてね。あの子きっと無理をするだろうから」

 

普段の姿を嫌と言うほど知ってるから、そんな言葉に思わず苦笑いが溢れてまう。ニコちゃん、こんな事言われるなんて、病院で何をしてるんやろか。

 

「そんなに不安そうな顔しなくて良いよ。悪いことをしてる訳じゃないからね」

「あ、いや、そ、そういう訳ちゃうんで━━━違うんです」

「そうかい?ふふ、彼女は良い友人を持ったなぁ。こうして当たり前のように心配してくれる人達がいる。少し羨ましく思うよ」

「羨ましく、ですか?」

 

「まぁね」と先生がカルテに視線を落とした。

 

「彼女ね、あまりご飯食べようとしなかったんだ。胃が荒れてるのもあったけど・・・どちらかと言えば精神的なものからくる食欲不振でね」

「え、でも、いま・・・」

「君達が来ると知ったら直ぐに動いたみたいだよ。その時対応した看護師から聞いたんだ。気を持ち直してくれたのは嬉しいことではあるけど、担当医としては他の方法をとって欲しかったかなぁ」

 

さっきの言葉が頭を過った。

確認するように先生に視線を向けると困ったような笑顔を見せてくれた。

 

「ね、困った子だろう?」

「そう、かも知れませんね」

 

それだけ聞くと、担当医の先生は看護師さんに一声かけて部屋を出ていった。

 

 

私は話し合うニコちゃんのお母さん達の話をぼんやり聞きながら、あの日を思い出した。爆豪くん達がニコちゃんを助けに走った、あの日だ。

 

あの日、私は爆豪くん達と行けんかった。

 

それが間違ってるとも、今も思わん。

飯田くんが言ったようにプロに任せるべきだと、心から思っとる。より確実に助ける為にも。誰も欠けずに迎えられるようにも。

帰ってきたニコちゃんが、笑顔でいられるようにも。

 

それが良いと、思った。

 

けれど、少しだけ後悔しとった。

テレビの映像を見て、少し映ったニコちゃんの姿を見て、なんで私はそこにいないんだろうって思った。

 

「友達・・・か」

 

私はまだ、そう言って貰える資格があるのやろか。

ニコちゃんは何も言わんかった。いつもみたいに笑って受け入れてくれた。

 

でも━━━━。

 

 

「お茶子ーーー!!」

 

突然響いてきた声に窓の外を覗けば、ニコちゃんが中庭で手を振っていた。ニコちゃんの後ろにはまだ睨み合ってる二人の姿も見える。

 

「どないしたんーー?」

「かっちゃんと轟が売店で奢ってくれるってーーー!買って欲しいものないーーー!?母様にも聞いてーー!」

 

言われた通り聞いてみようかと振り返れば、ニコちゃんのお母さんが額に指を当てて溜息をついていた。重い溜息だった。

 

「ニコちゃんーーー、私もニコちゃんのお母さんもーーーー何もいら━━━━」

「甘いものともち買って帰るねぇぇーーー!!」

「あっ、ちょ!?ニコちゃんーーー!ニコちゃんーーー!!いらんから!いらんからねぇぇぇ!!?」

 

聞いたくせに碌に返事も聞かず、ニコちゃんは二人を引き連れて売店のある方へと走り去っていってしまった。

いらないという言葉はきっと届いてへんのやろ。

まったくニコちゃんは。

 

ふと部屋に視線を戻すと看護師さんの姿はなくて、ベッド周りを掃除してるニコちゃんのお母さんと目があった。思わず二人で苦笑いしてしまう。

 

「ごめんなさいね、うちの馬鹿が」

「いえ。私こそ止められんで申し訳ないです」

「ふふふ、そんな事ないわ。いつもあのお馬鹿の面倒みてくれてありがとう。嫌じゃなければ、これからも仲良くしてあげてね」

「━━━━あ」

 

掛けられた声に返事が返せなかった。

そんな私を見てニコちゃんのお母さんが笑顔を浮かべた。

 

「あの子ね、貴女がお見舞いに来るって聞いて楽しそうにしてたわ」

「ニコちゃんが・・・」

「色々とあるのかも知れないけど、難しく考え過ぎても良くないわよ。私がそうだったもの。・・・あ、でもね、うちの馬鹿みたいな何も考えてないのは駄目よ。お手本にしないでね?」

 

相変わらずニコちゃんのお母さんはニコちゃんに厳しい。

 

「馬鹿なんてそんな、ニコちゃんは・・・」

「お馬鹿よ、お馬鹿。だからね、ちゃんと言ってあげて。お茶子ちゃんの気持ち。大丈夫━━━」

 

 

「━━━それがどんな言葉でも、あの子はきっと受け止めるから」

 

 

私は、また返事を返せなかった。

でも、それでもなんとか頷いてみせたら、優しい笑い声が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お茶子ぉぉーーー!!もちが売ってなかったから、雪見だい━━━━━」

「うわぁぁぁぁん!!ニコちゃんーーー!!」

「うわっ!!?何事!?そんなにもちが良かったの!?かっちゃん、轟ぃ!!ひとっ走り買いにいってぇぇぇ!!一つ一つが袋詰めされてる、越後製●のやつ買ってきてぇぇぇ!!」

「もちのことで泣いとるわけちゃうから!うわぁぁぁぁん!ごめんねぇぇぇ!!」

 

 



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忙しいなんて言い訳にもならないので、言わない!!口が裂けても、絶対に言わないもん!カッコ悪いから、仕事が忙しいなんて、絶対言わないもん!!って愚痴を溢しながらサブタイつけたよ『二人の先生』の閑話の巻き

壁|∀・)チラリ


壁|∀・)ジーーー


壁|>>>( ・∀・)_□


壁|=3 □`パカ


シリアス「あいるびーばっく!!」デデンデンデデン



『気持ちはさ、嬉しいんだ。けどな、俊典━━━あの子の事はそっとしてあげて欲しいんだ』

 

 

『血なまぐさいここじゃなくて、あの子には普通の生活させてやりたいんだよ。危険のない所で。普通に遊んで、勉強して、誰かを好きになって。そうやってさ幸せに━━━━』

 

 

 

 

 

 

「━━━オールマイト、聞いてたかい?」

 

思慮に耽っていると友達の声が耳に響いてきた。

真っ白な天井から声の方へ顔を向けると、困ったような表情を浮かべる塚内くんと、杖をついたグラントリノの姿が視界に入る。

 

オール・フォー・ワンを牢へと叩き込んだ、神野区の悪夢と呼ばれる事件から四日。

私はとある病院に入院させられていた。

厳重警戒された病室で落ち着かない毎日を過ごしていたが、今日は二人が事件の進展について話しにきてくれていたのだが・・・会話の最中に聞いたお師匠の名前に、つい昔の思い出に浸ってしまって会話を聞き逃してしまったようだ。

 

「聞いとらんかったな、俊典ぃ」

 

低い声が病室に響く。

青筋をたてたグラントリノは、徐に手にした杖を弄ぶ。

今にも殴りかかってきそうな雰囲気に、冷や汗が額に浮かんでしまう。青春時代のトラウマが甦る。怖い。

 

グラントリノの迫力に怯えていると、塚内くんが間に入ってくれた。

 

「まぁ、まぁ。落ち着いて下さい、グラントリノ。漸く容態も落ち着いてきたとはいえ、彼はまだ安静にしなければいけない身ですから。しかたありませんよ」

「んなぁ事は百も承知よ。しかしなぁ━━━」

「それにですね、彼の友人としても、警察官の一人としても、グラントリノがしようとする"ソレ"をただ見過ごす訳にはいきませんしね」

「━━━たく、おめぇはこいつに甘ぇな」

 

溜息をついたグラントリノは杖に顎を乗せる。

不満そうな目つきのままだが、何かするような事はなさそうだ。

私は感謝をこめて塚内くんにウィンクしたのだが、何故かひきつった笑みが返ってきた。

 

「しかしな、志村の孫・・・・か。忘れた訳じゃねぇが、今になってその名前が出てくるとはな」

 

グラントリノの瞳に陰りが浮かぶ。

後悔の色がそこに滲んでいた。

 

「約束さえなけりゃ、なんつーつまんねぇ言い訳が浮かんじまうのは歳食ったせいなんだろうなぁ。かもだの、たらだのよぉ。未練がましいったらねぇやな。無かった未来考えてよぉ」

「故人との約束が逆に・・・やるせないな」

 

塚内くんの言葉に、寂しげに笑うお師匠の顔が脳裏に浮かんだ。

 

「グラントリノ、私は━━━」

「んな目で見てくんじゃねぇ、馬鹿タレ」

「━━━った!?」

 

頭を思いきり杖でひっぱたかれた。

ジンジンとした痛みが頭に残る。

 

直ぐ塚内くんがグラントリノを押さえこんでくれたおかげで追撃はされなかったが、しごかれた時を思い出して体が震えてしまう。怖い。

 

「えぇい鬱陶しい。しがみつくんじゃねぇ塚内。ちと小突いただけだろうが」

「止めますよ!今、オールマイトがどんな━━━」

「だからだろうが!!」

 

塚内くんに一瞥したグラントリノの視線が、私に戻ってきた。

 

「俊典、おめぇまだ自分の体がどうなってんのか、ちゃんと自覚がねぇな。限界だよ。ヒーローとして、お前は終わったんだ」

 

医者に言われた言葉が頭を過る。

復帰は望めないという、その宣告が。

 

「ですが、まだ━━━」

「まだ個性を使える。聞いたよ、それもな。医者の予想が正しけりゃ、持続時間五分あるかないかっつーやつだろ。出力の次第によっちゃ十分は持ちそうか?まぁ、そうだな。それでも救える奴はいるだろうよ」

「━━━はい、ですから━━━」

「そうして無理して戦って、勝手に死ぬのがお前の仕事か?お前の目指した、平和の象徴がするべきことか?」

 

返す言葉は見つからなかった。

 

「俊典。理解しろ。お前の肉体はな、もう限界なんだよ。命削って無理すりゃ戦える、誰かを救えもする。けどな、それは本当に、残り少ない命削ってでもお前がやることなのか?お前がしなきゃいけねぇ事なのか?━━━━あの時、お前が踏みとどまったのは、何の為だ?」

 

最後の言葉に心臓が跳ねた。

驚きを隠しながらグラントリノの目を見れば、確信したような意思の籠った瞳がある。

 

「叱ってやろうと思ったんだがな・・・けどそりゃ、あの嬢ちゃんに任せる。お前に踏みとどまらせた、あの嬢ちゃんに」

「グラントリノ・・・」

「情けねぇ声だすな、馬鹿タレ。お前はもう、先生だろうが。導いてやれ、少しでも。そして教えてやれ。あんな姿じゃねぇぞ。お前が目指したヒーローってやつをだ」

 

ドン、とグラントリノの拳が胸を叩いた。

 

「死柄木弔の件は俺と塚内で行ってく。お前はお前のするべき事をしろ。ヒーローのオールマイトとしてじゃねぇ、一人の先生としてだ。言っとくがな、お前がこれからしなきゃなんねぇ事ぁよ、思ってるよか楽な役目じゃねぇぞ。覚悟しとけ━━━」

 

俺も手を焼いたんだからな━━━そう続けたグラントリノは不敵に笑う。

甦るのは私を厳しくも優しく━━━はなかった。危うくよい思い出にする所だった。グラントリノは厳しく更に厳しく、ただただ厳しかった。

 

ああいう風にはならないようにしよう、と私は心を新にする。

 

「━━━えぇ、もしかしたら、私にとってはヒーローより大変な事かも知れませんから」

「お前は指導者に死ぬほど向いてねぇからな」

「そこまではっきり言わないでください。私もさすがに落ち込みます」

「落ち込め、落ち込め。そうやって指導者も一端になんだよ」

 

その言葉が本当なら、私もグラントリノを悩ました事があるのだろう。きっと、あのお師匠も。

まったくもって耳の痛い話だ。

 

「・・・しかしまぁ、ありゃ手が掛かるぞ。俊典」

「は、はい?なんの事ですか?」

「なんの事ってな、お前・・・お前の生徒達の話だ。ビルの屋上にばかでかいスピーカー置き逃げした、大馬鹿連中のな。よく叱っとけ」

 

「苦労したよ、波風立てないように処理をするのは。よく叱っておいてくれ。オールマイト」

 

「は、はははは・・・・」

 

誉めなくてはいけない。

叱らなければならない。

感謝しなくてはならない。

 

彼女に。

彼等に。

彼女等に。

 

今度会った時、初めになんと言うべきか。

私は答えを探して窓から空を眺めた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

監視カメラが出す機械の無機質な音。

通気孔から響く空気の通り抜ける音。

命を繋ぐ生命維持装置の動作する音。

 

聞こえるのはそれだけだ。

あまりの静けさに自身の心臓の音がいやに大きく聞こえる。

 

「━━━ふぅ、少し退屈だなぁ」

 

そう呟き少し身動ぎすれば、あちらこちらに取り付けられた銃がカチャカチャと音を立てながら、その銃口を僕に向けてくる。

 

おお、怖い怖い。

 

「おいおい、体をかくのも駄目なのかい?」

 

返ってくる言葉はない。

人権についてどう考えているか、是非聞いてみたかったのだがお話はしてくれないらしい。

残念だ。会話さえ出来れば、幾らでも時間を潰せただろうに。

 

ここで僕に出来る事は何もない。

なにせ24時間体制で姿や声は勿論、脳波すらも見張られてるのだ。身動ぎ一つで先ほどのレベルの警戒。迂闊に個性を使おうとすれば、間違いなくけたたましい音と共に僕は蜂の巣にされる事だろう。

警告なしとなるのは間違いない。

 

尤も、それで僕が死ぬのかといえば、そうでもないのだが・・・痛いことは痛いしね。ふふふ。

 

それにしても・・・弔には驚かされたなぁ。

あんなクドイ真似をして"わざ"と彼女を見逃した事もそうだが、この僕に向かってあんな事言うなんて。

 

あの時、弔は確かに"それ"を口にした。

決別の眼差しと共に。

 

彼に与えた僕への不信感。

幾度にも分けて、じっくり植え付けた。

そのお陰か、彼は急速に考える力を身に付ける事が出来た。

 

芽生えた自我は根を伸ばす。

僕が作ってあげた下地に深く広く。

彼はもう、僕の代わりではない。

彼はもう、彼自身だ。

 

二度のお膳立ては彼の中に生まれた誇りを深く傷つけたらしい。故に受け取らなかった。千載一遇のチャンスを前に、彼はその機会を投げた。自らの意思で。

 

以前の彼なら考えられない行動。

まったくもって、面白い。

 

僕が他人に感謝する日がくるとは思わなかったよ。

ありがとう、双虎ちゃん。

弔は、君のお陰でまた一つ強くなった。

 

 

 

 

弔、君は戦い続けろ。

自らの意思で。

 

与えた知識を、与えた技術を振るえ。

思うがまま我が儘に、殺し、壊し、奪え。

 

君にもう先生はいらない。

君に導く者はいらない。

君はもう、己の道を歩く者だ。

 

『先生、あんたには感謝してる━━━━━でも、それだけだ』

 

弔、僕の可愛い生徒。

 

『俺は、あんたにはならない』

 

手塩にかけた、僕足りえる大切な存在。

 

 

 

 

 

『俺は━━━━━━━死柄木弔だ』

 

 

 

 

 

思う存分にこの時代に生きろ。

その名を世界に刻め。

 

 

 

 

次は君だ。

 

 



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10頁目:ニコちゃんボールZ:エースストライカーは私の物よ編
夏休みなんて色々やるのは最初だけ、ダレテきたらやることは一緒一緒。休みが長過ぎるのも考え物だよねと言いながらも永遠に続けば良いのになと思わずにいられない夏休み。の巻き


壁|ω・`)


やべっ、結構な人待っとるやん(;・∀・)
お、遅れてごめんやで。


「家庭訪問?」

 

白い悪魔達の巣窟から脱出した翌日。

のっそり昼に起きた私は母様に居間に呼び出され、そんな死刑宣告にも似た言葉を告げられていた。

 

家庭訪問。

 

それは学校の先生が親と会い、ありとあらゆる所業を告げ口する、学校行事における三大クソイベントの一つである。

 

「家庭訪問?」

 

確認するように聞いてみると「だからそう言ってるでしょ」と睨まれた。

 

「・・・家庭訪問?」

「何回聞くの!」

「いたいっ!!」

 

信じられなくてもう一回聞いたら拳骨をくらう。

割れちゃう、頭割れちゃうぅぅぅ!退院直後なのに、全然手加減してくれないとか、母様は鬼だ!いたい!

 

「よっぽど聞かれたくない事があるのね、あんた」

 

心臓がドキンと跳び跳ねる。

痛みなんて一瞬で消え去った。

何故ばれた!?・・・・・・かっちゃんか!

 

「・・・勝己くんからは何も聞いてないわよ」

「うおっ!!何故に分かった!?エスパー!?」

「あんたの考えてる事くらい分かるわよ。はぁ、まったく。それよりも今からちょっと買い物に行ってくるけど、私が帰ってくるまでにちゃんと着替えておくのよ。良いわね?」

 

母様はビシッと私の可愛すぎるパジャマを指差す。胸の所で歪むにゃんこにもし意思があったのなら、その迫力に情けない鳴き声と共にお漏らししている事だろう。それくらい迫力があった。

そんないつもの四倍はキツイ視線に私はシュバッと敬礼を返す。

 

何処か疑うような視線を送った母様が出掛け、私はいよいよ準備を始め━━━━る前に朝ご飯を食べようか。もうお昼ご飯だけども。うん。

 

最近休みの日は母様が朝ご飯を作ってくれない。夏休みに入ってからはほぼ毎日スルーされてたりする。やってくれたのは合宿に行く朝くらい。

あまりにひもじくて、やってくれない理由を聞いたら、将来の為の修行だからつべこべ言わずにやれと切り捨てられた。

 

流石に退院あけの初日くらい作ってくれるのではないかと淡い期待を抱きテーブルを見に行ったけど、そこには何もなかった。無だった。炊飯器に白飯しかなかった。絶望である。

 

とはいえ流石に私も慣れた。

お米があるなら大丈夫。

おかずだけ作ればいいのだから。

 

なので白飯を茶碗に盛り、冷蔵庫を覗く。

お肉のパックとか野菜━━━は見なかった事にして他を探す。私の強い味方冷凍食品━━━は冷凍庫からお留守だった。楽するなとのメッセージカード発見。くそう。

それならばと、食器棚の引き出しに閉まってあるふりかけを━━━━と思ったけど、ふりかけもお留守だった。味のりもなかった。レトルトカレーもなかった。そして再びのメッセージカード発見。内容はさっきと同じ。くそぅ。

ついでにカップラーメンも留守中だった。

 

仕方がないので引き続き冷蔵庫を探索。

するとツナ缶と納豆、卵が目にはいる。どうしようか。少し悩んだけど納豆を手にした。今日の朝ご飯は納豆ご飯だ。早速蓋を開け混ぜ混ぜ━━━━━し始めたのだが、チャイムがピンポーンっと間抜けな音を出したので行動中断。納豆を練る手を止める。

 

なんじゃろかと、ドアスコープを覗くとお隣の小三女子がいた。中学の頃は登校ルートが一緒だったりしてよく顔を合わせていたけど、最近は全然顔を見なかった。懐かしい顔だ。

 

「はよはよ。どうしたん、ちみっこ?」

「あっ!いた!!おねぇちゃん!退院おめでとう!」

 

そう言ってちみっこは四つ葉のクローバーを渡してきた。

 

「おう?ありがと、良いの?これ結構レアじゃん」

「良いの!お見舞いだから・・・でも本当はね、お花持ってきたかったの。でもね、今月のおこづかいはでーとで使っちゃったから・・・・ごめんね」

 

小三女子、私より進んでる。

おかしいな、ちょっと前までおままごととか付き合った記憶があるのに。え?彼氏いるんですか?

いや、まぁ、良いか。

 

「いいよ、こういうのは気持ちだからね。ありがと。それにしてもよく私が帰ってきたって分かったね?お母さんにでも聞いたの?」

「ううん、違うよ。朝からおねぇちゃんママのおっきな声が聞こえてきたから。ふたこーーー!!って」

 

あらやだ、恥ずかしい。

うちの母様ったら。

 

「━━━あっ!そうだ!おねぇちゃんにお客さん来てるよ!さっきね、下であったの!」

 

そう言ってちみっこは自分の後ろを見た。

けどそこには何もいない。

さっきから、ずっと誰もいない。

 

え、お化け?

 

ちみっこは辺りをキョロキョロ見渡し、階段のある方を見て「いた!」と声をあげた。声につられて視線を向けてみると、何処かで見たような赤い帽子が物陰から覗いていた。

 

「こっちこっち!こーたくん!」

 

こーた。

何処かで聞いたような名前だなぁと思って眺めてると、物陰からひょっこり目つきの悪い子供が出てきた。

その目つきの悪さに、ようやくピンとくる。

 

「こーたん、こーたんじゃないか!」

「こ、洸太だ!出水洸太!誰がこーたんだ!!」

「あぁ、それそれ、洸太きゅん」

「洸太きゅんでもねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

ちみっこはデートに行くというので玄関でお別れ。

遠い所やってきた洸太きゅんにはご飯をご馳走してあげる事にした。え?何をご馳走するのかって?決まってるじゃんか。

 

「はい、納豆ご飯」

「納豆、ご飯」

 

目の前に置かれたどんぶりに洸太きゅんは釘付け。

きっとご飯に掛かる納豆の練り具合に感動しているのだろう。よいよい、十分に感嘆せよ。

 

「・・・ご馳走するって、これ?」

「そだけど。あ、薬味いる?からし入れる?」

「薬味は別にいらない・・・えっと、頂きます」

 

ちゃんと頂きますした洸太きゅんは何処か不服そうにご飯を食べ始めた。どうやら納豆の気分ではなかったようだ。卵かけご飯にしてあげれば良かったか。

 

そんな事を思いながら納豆ご飯を掻き込む。

久しぶりのお米は上手い。やっぱりお粥とは違うね。

退院後は食べ過ぎなければ何でも大丈夫な筈なのに、母様はお粥とかうどんしか作ってくれなかったら・・・はぁ、お米は日本人の魂なんだなぁ。

 

感動に浸ってご飯を食べてると、あまり箸の進んでない洸太きゅんの顔が視界に入った。

 

「・・・無理して食べなくても良いよ?余ったら私が食べとくし」

「!?だ、大丈夫だ!食うよ!」

「そう?無理しなくて良いからね?」

 

よく分からないけど食欲が出てきたみたいで良かった。沢山食べて大きくなるんだよー。

 

それから少しして、ご飯も食べ終えぷっくりお腹が膨れた洸太きゅんに気になってる事を聞くことにした。

 

「それにしても、今日はどうしたん?マンダレイの姿もないし・・・・家出?」

「い、家出じゃない。その、マンダレイから、聞いてて、でも、プッシーキャッツの皆も大変で、お見舞い行けなかったから━━━」

 

どうやらお見舞いに来てくれたらしい。

ごにょごにょ話す洸太きゅんを眺めていると電話が鳴った。固定電話が鳴るのはいつ以来か。

・・・・詐欺かな?

 

何がともあれ取り敢えず電話に出てみると「あっ!!もしもし!!」っと焦った女性の声が聞こえてきた。

その声に記憶の片隅においておいたその言葉が過る。

 

「煌めく眼でぇーー」

『ロックオン!━━━って何を言わせるのよ!はぁ、変わらないわね緑谷さん。まずは、そうね退院おめでとう。良かったわ元気そうで』

 

やっぱり声の主はマンダレイだった。

 

『あれから私達も色々あって・・・お見舞いも行けずにごめんなさい。合宿の時、偉そうな事言っておきながら━━━』

「あ、そういうのはもうお腹一杯なんで、用件お願いします。洸太きゅんならいますよ?」

『えぇ・・・そ、そう?あ、用件ね、用件は・・・・洸太いるの!?』

 

それから詳しく聞いてみると洸太きゅんが家出同然でこっちに来た事が分かった。マンダレイからは運賃すら出ておらず、洸太きゅんはお小遣いでここまでやって来たようだ。中々の行動派だ。洸太きゅん曰く、スマホがあればなんとかなる、だそうだ。

私の住所を知っていたのは、お礼の手紙を書くためにマンダレイ経由で包帯先生から聞いたのを覚えていたらしい。

 

『ごめんなさいね。ここ最近ずっとそわそわしてるから、何かするんじゃないかと思って目を光らせてたつもりだったんだけど・・・・遊びに行ったっきり戻ってこないと思ったら、まさかバスと電車乗り継いで一人で緑谷さんの所まで行くとは思わなかったわ』

「その割には電話してきたじゃないですか?」

『ほら、合宿の時仲良かったし、何か聞いてないかと思って駄目元で掛けたのよ。まさかいるとは・・・恋するナントカはーっていうけど、あれって女だけじゃないのね・・・・』

「ん?鯉?」

『ああ、気にしないで、こっちの話だから。━━━あ、ちょっと洸太に代わってくれる?』

 

電話越しに母様に似た嫌な気配を感じた私は、隣で同じく嫌そうな顔した洸太きゅんと無理矢理電話を代わる。洸太きゅんが出た途端重く威圧的な声が漏れてきたので、ちょっと離れておく。

 

助けを求める顔した洸太きゅんに頑張れとガッツポーズを見せ、私はクーラーの効いた居間へと戻った。

さぁ、甲子園見ようかな。

 

 

 

即行で甲子園を見るのに飽きたので、代わりに母様が録り溜めしといたドラマをお煎餅ボリボリさせながら寝転んで見ていると半泣きの洸太きゅんが帰還する。

めちゃ怒られたようだ。

 

内容を聞くと無断で遠出した事を一番怒られたみたい。

 

なので元気づけてあげようと私の武勇伝を教えてあげた。かっちゃんとボートで海に行った事、近くの山に二日間遭難した事、トラックの荷台に乗り込んで九州の端っこの漁港についた事、学校行事の遠足でうっかりはぐれ私とかっちゃんだけが三県離れたキャンプ場に辿り着いてしまった事などなど。

 

話を聞いた洸太きゅんは一言だけ返してきた。

 

「パー子、お前は本気でお母さんに謝れ」

 

何故に。

 

 

 

 

それから洸太きゅんとゲームして遊んでると、母様が帰還してきた。家庭訪問の為にケーキを買ってきたようだ。提げた袋から箱が見える。

 

帰ってきた当初、パジャマのままの私を般若のような顔で見てきた母様だったけど、私の隣にいた洸太きゅんを見て直ぐににこやかな顔になる。

 

あまりの変わり身の速さに、洸太きゅんは更に怯えた。

 

「あ、あの、こんにちは」

「はい、こんにちは。見たことないけれど、何処の子かしら?近所じゃないわよね?」

「あの、お、おれ・・・僕、出水洸太って、その、言います」

「そう洸太くんって言うのね。私は双虎のお母さんで、緑谷引子って言うの。よろしくね」

「は、はい!」

 

洸太きゅんの背筋伸びっぱなしなんですけど。

妙な光景をぼんやり見てると、音を置き去りにするような速さで母様の手が伸びてきた。

虚をつかれた私に避ける余裕はなく、物の見事にアイアンクローされる。

 

「何処から連れてきたのかしら?拐ってきた訳じゃないわよね?」

「いたたたたたたたた!!違います!!違うんです!!違いますで御座います!!あっちから来たんですぅ!!いたたた!!」

「あっちからってどっちから来たの?そんな野良猫みたいに言わないの。で、何処から拐ってきたの?」

「全然信じてないじゃん!?」

 

助けてぇぇぇぇぇ!誰か、助けてぇぇぇぇぇ!!

誰か怒れる母様に事情を説明してあげてぇぇぇぇ!!

心の中で祈っていると「あのっ」と洸太きゅんの声が聞こえてきた。

 

「僕っ、合宿の時、パー子に助けて貰ったんだ!!」

 

洸太きゅんの声に母様の掌から力が抜けた。

解放された私の体は力なく横たわる。

元気でない。もう、無理ポヨ。

 

「合宿の時・・・・そう、貴方もあそこにいたのね。怪我はない?大丈夫?」

 

ぐったりしながら母様達の方へ視線を向けてると、頷いてる洸太きゅんが見えた。

 

「僕っ、ずっと、皆にいやな事、言ってきて、でも、パー子は助けてくれて、だからちゃんと謝りたくて、ありがとうって言いたくて、勝手に、来ました」

 

洸太きゅんの目がウルウルしてる。

 

「パー子が、拐われたのも聞いてて、僕もっ、あの時怖かったから、心配で、どうしても顔が見たくて、ごめんなさいっ、パー子のこと怒らないでっ」

 

洸太きゅんの泣きじゃくりながらの説得に、母様の目がこっちを見た。どうやらもう怒ってないようだ。

 

「ふぅーーーー仕方ないわね。分かりました。双虎、取り敢えずお説教は終わりにします。それでこの子のお母さんは?」

「夕方くらいに迎えに来るって言ってました」

「そう」

 

母様は洸太きゅんの顔を拭くと笑顔を浮かべた。

 

「おやつにしましょうか、ね?」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「━━━━そんな事があったんですか」

「すみません。折角いらして下さったのに、うちの馬鹿が・・・」

 

日が暮れ始めた頃、家庭訪問の為に緑谷少女のお宅に行くと大の字で寝てる緑谷少女の姿があった。緑谷少女のお母さんに話を聞くと、少し前まで件の事件で助けた少年が遊びに来ていたらしい。厳密にはお見舞いらしいのだが、この様子を見れば少年の訪問が彼女にとってどう映ったのか分かると言うもの。

 

とはいえ、家庭訪問の時くらいしっかりしてて欲しかったな。緑谷少女、君を交えないと出来ない話が結構あるんだよ?

 

それに、地味に再会を楽しみにしていたんだけどな。

 

まぁ、そんな事思った所で、遊び疲れて寝てる緑谷少女はお母さんの声にも反応しない程の熟睡ぶりでどうにもならない。

仕方がないと諦めて告げるべき用件だけ告げる事にした。

 

「改めまして━━━この度は、お預かりしてるお子さんを守りきれず、誠に申し訳ございませんでした」

 

私は手を床につき、出来る限り気持ちを込めて頭を下げた。

先に相澤君が同じ事をしているだろうが関係はない。

これは教師としてと言うよりは、私個人としてのもの。彼女を安易に後継と選び、事件に巻き込んでしまった事への謝罪。

 

あれほどまでに大切にしている一人娘をここまで危険に晒されたのだ。許される道理などなく、突きつけられる言葉に覚悟していた。寮の件の答えを保留にしている所から、その内心は想像がつくそれを。

 

だが、一向にそれは私の耳に響かなかった。

 

 

 

「ニュース、拝見しました」

 

 

 

そっと呟かれた言葉は予想していない物。

思わず顔をあげれば緑谷少女のお母さんは不安な眼差しを向けてきていた。

 

「一人の一般市民として、娘を助けて頂いた親として感謝しています」

「いえ、私は━━━━━」

「ヒーローとして当然の事をしたと、そう言うんですか?」

 

瞳が揺れる。

 

「そのご活躍も、その後の記者会見も拝見しました。お体の調子が大分良くないと、聞いてます。無期限の活動休止だそうですね」

 

緑谷少女のお母さんから出たそれに、言葉は返せなかった。迂闊に返せなかったのだ。体の事は兎も角、メディアへ発表した無期限の活動休止は、あくまで建前でしかないからだ。

 

本来なら引退を表明したい所ではあるが、様々な方面から待ったが掛かった。特にヒーロー協会からの強い要請があり、私のいなくなった後の準備を整えるまで、後一年は引退表明は控えてくれと言われている。

 

私が何も言えず固まっていると、言葉は更に続いた。

 

「あの子を、これ以上、雄英高校に通わせる事は嫌です。本当は、入学が決まった時から不安でした。そして今回、こんな事件が起きた。貴方のような一流のヒーローがいても、あんなにも傷つくような事件が起きる所で、何かあったらと思うと気が気じゃありません。私は━━━━━」

 

 

 

 

 

「━━━━娘に、別の高校への編入を薦めるつもりでした」

 

 

 

 

それは、きっと、親として当然の結論なのだろう。

そこに部外者である私に口を挟む余地はない。

だから、私はただ頷くべきだ。

そうですかと。

 

 

 

 

だが、それでも納得できないのは、何故なのだろうか。

こんなにも悔しく思うのは、何故なのだろうか。

 

 

 

 

「申し訳ございません、言葉を━━━━」

「ですが、今日、あの子の姿を見て、止めました」

 

 

 

 

被せられた言葉に下がっていた視線があがった。

再び捉えたその瞳はまだ不安の色が残っている。

けれど、覚悟を決めた強い光が見えた。

 

「授業参観の時、私は言いましたよね。あの子を信じると。━━━━でも、本当の所はそうじゃなかった。信じきれていませんでした。貴方の事も、雄英高校も、娘の事でさえ。・・・貴方は、娘を信じてくれていたんですね?私が無事を祈っている間、少しも諦めずにあの子を」

 

「あの子が言っていました。大丈夫だったって。絶対に助けに来てくれる人達がいるからって。全然怖くなかったって、そう笑ってました」

 

 

緑谷少女のお母さんはそっと手を床についた。

 

 

「どうかあの子に、あの子らしく生きる為の術を教えてあげて下さい。洸太君と楽しそうに遊ぶあの子を見て、あの子の生きる場所がそこにあるのだと、今日知りました」

 

「きっと何処に行っても、あの子は沢山無茶をします。あの子はきっと、戦うのでしょうから。また、誰かの為に。━━━だから、あの子が信じる貴方に、教えて頂きたいんです。あの子を信じてくれる貴方に、お願いしたいんです」

 

「あの子を、どうか━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、この命に━━━━━━いえ、生きて、必ず教えます。私の全てを。約束、します」

 

 

 



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どうしてそんなに大きくなっちゃったんですかと聞かれればっ!なんでやろなぁーと答えるのが世の情け!引っ越し業界の未来を守る為!真心と頑張ってやってきたからよを貫く!アリさ━━━はっ!?なんだ夢か。の巻き

最近感想に返信出来んですまんな。
でもいつも読まさせては頂いとります。
ほんま励みになっとります、心からサンキューやで。

もうな、色々あってなぁ・・・。

次回も遅くなりそ、ごめんね(´・ω・`)シュン



ギンギラギンの太陽が高くあがった正午。

むせ返るような暑さをクーラーの冷気で誤魔化しながら車に揺られる私は、見慣れた風景が流れていく窓を眺めつつ、それを口ずさんでいた。

 

「じゅうごーーでねぇやぁーはーよめにいきーー、おさとーのたよりもーたえはーてーたー」

「・・・・双虎ちゃん、そんな悲しげな声で歌わないで。おじさん、ちょっとUターンしたくなるから」

 

隣で運転するかっちゃんパパが困ったように言った。

かっちゃんパパには悪いが、これは言わずにはいられないのだ。今だけは我慢して貰いたい。

 

だって気持ちに収まりがつかない。

私はまだ、全然納得してないのだから。

 

 

 

 

それは二日前の夜の事。

うっかり家庭訪問を寝過ごした私が母様より告げられたのは、おうち退去命令という驚愕のモノ。母様がこっそりとっておいた頂き物のバームクーヘンを食べた事がバレたのかと思って謝ったけど━━━そうではなかった。それはそれで怒られたが。

聞けば二度の襲撃を重く見た雄英が、生徒達の安全を考慮して全寮制へと変えると言い出したそうだ。そして母様はそれに賛成し、私を寮に叩き込む方針なんだとか。

 

私はまっこともってプンスコした。

勝手に決めた事もそうだが、寮とはいえ独り暮しなんてしたくなかったからだ。

 

独り暮し、それは全部自分でやらなくてはいけない苦痛な暮らし。洗濯は勿論、ご飯も自分で作らなくてはいけないし、朝だって起こしてくれる人がいない。疲れて帰ってきてもお風呂沸いてない。冷蔵庫が勝手に補充されない。トイレットペーパーだって、電球だって、自分で買ってこなくてはいけないのだ。

 

私は力強く抗議した。

嫌だ!と。

 

けれど、母様の意思は予想以上に固く、全然聞く耳を持ってくれなかった。味方が欲しくて久しぶりに父にもSNSしたけど、返ってきた反応は『双虎が連絡くれるなんて、パパ嬉しいなぁ。感激(*≧∀≦*)』と空気の読めない事をほざいてきたので既読スルーしておいた。

その後何かメッセが送られてきたけど見てない。

既読スルーするのも面倒臭い。

 

そうしている内にあっという間に話が進み、母様に服とかを日用品とか段ボールに突っ込まれ、引っ越し業者が現れたかと思えば段ボールは勿論のことベッドとか机とか運び始めて、私自身は母様の協力者の一人であるかっちゃんパパの車へ叩き込まれていた。

それが今に至る全てである。

 

 

あ、ゲーム機どうなったかな。

運ばれてたらいいなぁ。

 

 

「双虎ちゃん、お昼まだだったよね。何か食べていかないかい?」

 

 

憂鬱な気持ちのままボンヤリ外を眺めていると、かっちゃんパパが声を掛けてきた。

きっと私を慰めてくれようとしてくれてるのだろう。

かっちゃんパパは優しいなぁ。かっちゃんもこういう所見習った方が良いと思う。

 

「ありがとうございます。でも、お茶子が待ってるみたいなんで・・・・」

「そうか、お友達が━━━なら、テイクアウト出来る物にしようか。通り道に色々あるから皆の分も買っていこう」

「・・・・良いんですか?」

 

悪い気がしてそう聞くと、かっちゃんパパは笑顔を返してくれた。

 

「勿論だよ。ああ、でも少し手加減して貰えると嬉しい━━━━━」

「流石かっちゃんパパ!!太っ腹ぁ!ひゅーひゅー!よっ、お大尽!あ、もしもしーお茶子?お昼何食べたいー?皆にも聞いてー、かっちゃんパパがお昼奢ってくれるってー!テイクアウトで持ってけるやつね?ええ?ハンバーガーとか、フライドチキンとか?え?食べちゃった?そう言えば時間も時間かぁ・・・じゃオヤツ買って貰う?ドーナッツとかは?」

「━━━━あ、うん。良かったよ、元気になったみたいで・・・・足りるかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に車に揺れれる事30分程。

私は漸く雄英高校へと辿り着いた。

かっちゃんパパに買って貰ったお土産を抱えて校門の所まで行くと、笑顔のお茶子が出迎えてくれた。

 

「ニコちゃーん!」

「お茶子ーー!」

 

お茶子が手を広げて駆けてきたので受け止めようとしたけど、手に荷物を抱えてる事を思い出し踏みとどまった。危ない、折角買って貰った物をぐしゃってしまう所だった。

お茶子も私が荷物を抱えてるのが見えたのか、動きがピタッと止まる。

 

二人でどうしようか考えてると、お茶子の後ろからきた梅雨ちゃんが「持ってるわ」と手を出してくれた。

なので、梅雨ちゃんにお土産を預け感動の再会を再開した。

 

お茶子ぉぉぉぉ!!会いたかったぞーー!

いや、この間病院で会ったけどもーー!

 

勿論その後、お茶子に荷物を持って貰って梅雨ちゃんともハグした。

 

 

梅雨ちゃぁぁぁぁぁん!!会いたかったぞーー!

 

 

感動のハグを済ませると梅雨ちゃんから引っ越しのトラックが先に来てる事を教えて貰った。既に荷物は部屋へ運びいれてあり、後はレイアウトするだけとの事も。

三人でかっちゃんパパにお土産の件をありがとうして、私は皆が待つ寮へと向かう。

 

案内されてついた所は結構立派な建物でお高そうな所だった。ハイツアライアンスとか名前まで付いてるらしい。

 

玄関を潜るとA組の女子ーズの姿があった。

いつものように軽く挨拶すると駆け寄ってくる。

嫌な予感を覚えた私は直ぐに持っていたお土産をお茶子にパスしておく。

 

「ニコーーー!!」

「ニコやーん!!」

「━━━━ふんっ!!」

 

あしどんと葉隠からタックル気味に抱き着かれたけど、そこは気合と不屈の乙女力で耐え抱き締め返しておく。

気持ちは受け取ったぁぁぁ!ナイスタックル!!

 

「こら、芦戸、葉隠。緑谷はまだ病み上がりなんだから飛び付くんじゃないの」

 

冷静な声に視線をやれば耳郎ちゃんがいた。

 

「やっほ、耳郎ちゃん」

「やほ。なんだ、思ったより元気そうじゃん。手伝うからさっさと引っ越しやっちゃおう・・・・よって、何?」

 

耳郎ちゃんの視線があしどんと葉隠を見つめる。

なんだろうかと二人に目をやると、二人が耳元に口を寄せてきた。

 

「ニコ親分、今クールっぽく振る舞ってるけど、響香のやつさ結構心配しまくりだったよ」

「ニコ閣下!響香ちゃんが事あるごとに『緑谷どうしてるかな?』とか『緑谷からなんか連絡あった?』とか皆に聞いてる姿を確認しております!」

 

「ちょ、何言ってっ・・・!!!」

 

耳郎ちゃんの顔がみるみる内に赤くなっていく。

実はお茶子からそういう話は聞いてたんだけど・・・ふむ。ここは知らないふりしておこうかな?面白そう。

 

何食わぬ顔で耳郎ちゃんを見て「心配してくれてありがと」と言うと、照れ臭そうな顔で目を逸らされた。

耳郎ちゃんは可愛いなぁ。

 

生暖かい視線が耳郎ちゃんに集まりだした頃、パンパンと乾いた音が鳴った。音の方へ視線を向ければ手を合わせた百がいる。

 

「はい、皆さん。騒ぐのはその辺にして下さい。時間は有限。やるべき事をやってしまいましょう」

 

そんな百にあしどんと葉隠が「冷たいー」とかブーブーと文句を垂れたけど、百に動じる様子はなく反対に目付きを鋭くさせた。

 

「仮免許試験が目前に迫ってる今!遊んでる時間は一分一秒とてありません!!特にっ、芦戸さん!合宿でどうして補習を受ける事になったのか、お忘れなら教えて差し上げますが!」

「ご、ごめんなさい・・・!」

 

即行で謝ったあしどんの姿を見て、百は満足したのか力強く頷く。

 

「分かって頂ければ構いません。別に緑谷さんのお手伝いをする事も、無事を喜ぶ事も駄目だとは言ってません。ですが━━━━━」

「あーはいはい、ヤオモモその辺にしてやって。始めよ、始めよ」

「━━━━あっ、ちょっと、耳郎さん!?まだお話が、あ、あの、緑谷さん!退院おめでとう御座います!ご無事で何よっ、お、押さないで下さい!」

 

お説教を始めようとした百の背中を耳郎ちゃんが押して連行。百によるお叱りタイムは強制終了した。

危ない所を助けられたあしどんは冷や汗を拭い、遠くなる耳郎ちゃんの背中を拝んだ。「茶化してごめん」とか「ありがたやー」とか聞こえる。

 

「それじゃ、私たちも行きましょうか。緑谷ちゃん」

「そだねーいこっか」

 

それから皆に手伝って貰って部屋を整え始めた。

元々憂鬱な引っ越しだったけど、皆でワイワイやってると悪くない気がしてく。お茶子の個性でベッドも机も楽チンに移動出来るから、皆であーでもないこーでもないとレイアウトし放題だし。

散々言い合いし移動を繰り返したあげく、結局引っ越し業者が最初に置いた場所にそれらが収まったのは、おかしくて皆で笑った。

 

レイアウトが決まった所でかっちゃんパパが奢ってくれたドーナッツでオヤツタイム。百は片付けを済ませようと言ってきたけど、ドーナッツを口に入れればあっさり陥落。それからは紅茶を供に美味しそうに頬張っていた。特にポン●リングの食感がお気にめしたようで「さぞ名のあるパティシエが作っているのでしょう」と目をキラキラさせ褒める褒める。

皆の生暖かい視線が百に注ぎ込まれたのは言うまでもない。

 

オヤツタイムが終われば部屋の片付けを続行。

段ボールの数を数えればそんなに多くなく、これなら直ぐ終わるかな━━━━と思えばそんなことなかった。何せ段ボールの中身は魔窟。手を止めるような代物がわんさかあるのだから。

 

「おお、懐かしい」

 

中学の頃着ていたジャージが出てきたりして、思わず見てしまう。最近寝巻きとしても着てないからどうなってたのかと思えば、ちゃんととってあったのか。

というか、母様め、結構適当に詰めたな?

 

段ボールを開ける度、私を含め誰かの手が止まるから中々作業は進まず時間だけが・・・・ん?どした、お茶子。ああ、それね、それはあれだ、小学ん時にかっちゃんに貰ったやつだ。誕生日プレゼントだったっけ?いや?ホワイトデーのお返しだったっけか?結構抱き心地が良くて、今でもたまに抱き枕にしてて━━━うん、あ、それそれ。むっ?・・・・何あしどん?あ、中学の卒アルじゃん。ええ?見て良いよ、別に。あーかっちゃんね、そこの━━━━━━━━。

 

そんなこんなで引っ越しが終わったのは、カラスが帰宅し始める夕陽が眩しい頃。

仮免許にむけて特訓していた男連中も帰ってくる時間だった。

 

疲れた顔して戻ってきた男連中は私の顔をみると駆け寄ってきて、女子ーズと同じように声を掛けてきた。こちらも心配してくれたらしい。

お見舞いに来たかっちゃんと轟には軽く挨拶されるくらいで特別何も言われなかった。まぁ、昨日の夜もかっちゃんと轟とは電話で話してたし、お見舞いの時にも色々話したし、今更特別言うこともないだろうしね。

 

その後は何故か外国人から激しく謝られたりしたが、あれは何なんだろうか?よく分からないけど気持ちは伝わったので許しておく。

 

それから私がいない間に起きた部屋王の話だったりとか、包帯先生のお叱りだったりとか、仮免許試験の話だったりとかを聞いた。

部屋王は参加したかったので、第二回をその内企画したいと思う。皆の部屋が汚れ出すあたりに。

 

そうしてると時間はあっという間に過ぎて━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばんわー、入れてちょ」

「入れてちょ、じゃねぇー馬鹿」

 

皆が部屋に帰った後。

こそっとかっちゃんの部屋に訪れた私に、かっちゃんは眉間に皺を寄せてそう言ってきた。

 

「部屋王の時部屋見せなかったらしいじゃん。ほら、私に見せよ」

「見せるか、ボケ」

「まぁまぁ」

「まぁまぁじゃねぇんだよ。そもそも夜に男の部屋には━━━━ごらぁ!入ってくんじゃねぇ!!」

 

かっちゃんを押し退けて部屋に入る。

ぱっと見渡してみたけど面白い物がない部屋だった。

というか、少し狭くなっただけで、いつものかっちゃん部屋そのもの。新鮮味すらない。

双虎にゃんガックリ。

 

「・・・普通なんかあるでしょ?」

「あるわけねぇだろ。俺が落ち着かねぇ部屋にしてどうすんだ。アホか。てめぇの部屋だって実家ん時と大差ねぇだろうが、ああ?」

 

むむ、そう言われればそうかも。

てか、見てない癖によく分かるな。

 

ベッドは相変わらずフカフカで私は思わず寝転んだ。

包み込まれるような優しいスプリング感、心の底から私のベッドと交換して欲しいと思う。

何となく枕を引き寄せて抱き締めると、なんか凄い良い匂いがする。これもいつものかっちゃん枕あるあるだ。

毎回思うけど、なんの匂いなんだろうか。

 

ベッドを堪能してると戸締りしたかっちゃんが部屋に戻ってきた。

 

「おまっ、また人のベッドに・・・ちったぁ・・・・はぁ。いや、てか何しに来たんだよ?」

「別にぃーーー・・・・」

「良いから言えや」

 

ボスっと、かっちゃんがベッドに座った。

 

「どうせくだらねぇ事考えてんだろうが。意味わかんねぇ事する前に言えや。面倒臭ぇ」

 

面倒臭いなら聞かなければ良いのに。

少しそう思ったけど、言うのは止めておいた。

だって聞いて欲しかったから。

 

かっちゃんに。

 

 

 

「私さぁ、家出るつもりなかったんだよねぇ」

 

 

 

「そりゃぁさ、大人になったら、仕事とか大学とか結婚とか、理由があって離れる事もあるかも知れないとは思ってたよ━━━━でも、まだ先の話だと思ってた」

 

 

 

「それにさ、そういう時が来たら、出来るだけ実家から通える場所とか、近い所選んでさ・・・まぁ、うん。そう思ってたんだぁ」

 

 

 

そう言うとかっちゃんは「そうか」とだけ答えた。

もう少し何かないだろうかと思うけど、かっちゃんにそれを期待するのは間違いなので言わないでおく。

聞いてくれるだけありがたいというやつだ。

 

少しボーッとしてたら頭を撫でられた。

相変わらず乱暴な手つき。

でも何処か優しかった。

 

「━━━━━大丈夫だ」

 

呟くような小さな声が聞こえる。

視線を向ければ、いつもと違う落ち着いた色合いの瞳が私を見つめていた。

 

「・・・そうかなぁ」

「んな心配すんな。大丈夫だ」

 

落ち着いた声に何故だか凄く安心した。

 

「そっかぁ」

 

かっちゃんに撫でられながら目を瞑ると、眠気と共にふと幼稚園の頃思い出す。

お昼寝の時間、私に布団を乱暴に被せてきて『ねむれーねむれー』と忌々しげな顔でお腹ポンポンする、そのちびっ子かっちゃんの姿を。

別に手つきが優しかったりした訳じゃないけど私はアレに弱くて、どんなに元気百倍でも直ぐに眠ってしまったものだ。

 

そんな事を思いながら、私は少しずつ薄れていた意識を手離した。

昔から変わらない、掌から伝わるかっちゃんの温かさを感じながら。

 

 



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分かります。現状、不利である事は。物的証拠なくても状況証拠はあるし、何より、仲は、まぁ?良いですし?疑われるのは心外だけど、それは仕方ないと思うし。でも信じて下さい!それでも私はいたしてない!の巻き

お久しぶりーやでぇヽ(*´□`*)ノフゥゥ

はい、恥ずかしながら生きてました。
年末の糞忙しさに風前の灯火ですが、生きておりました!!我輩は帰って来たぞ、ジョ●ョォォォォォ!!

待っててくれた人、ごめんやで。
そいで、ありがとうやでぇ(*´ω`*)



「どうして正座させられているのか・・・・分かるな、緑谷?」

 

私の前で仁王立ちする包帯先生は、地を這うような低い声でそう言った。漂うオコの雰囲気。髪を逆立て腕を組み見下ろすその様は、母様を怒らせた時に匹敵しかねない迫力があった。

 

「緑谷、聞いてるのか・・・?」

「さっ、さぁーいえすさーーー!!」

「返事は『はい』だ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

引っ越し翌日。

絹を裂くような男の悲鳴を聞き目を覚ました所から、その全ては始まった。

 

「ばばばばっ、ばく、爆豪の馬鹿野郎ぅっ!!おまっ!いつかはやるとは思ってたけど!おまっ、これは不味いだろ!?あわわわわっ!?」

 

寝ぼけ眼を擦りながら喧しい奴へ視線を向けると、そこには部屋の入り口で狼狽える切島の姿があった。

れでぃーの部屋に勝手に入るとは何事かと思ったけど・・・よく考えたら昨日帰った記憶がない。辺りを見渡しながら自分の部屋でない事を再確認すれば、自ずと自分が何処にいるのか分かった。ここはかっちゃんの部屋だ。何故かかっちゃんの姿は見えないけど、かっちゃんの部屋だ。

 

そうだ、ここ、かっちゃんの部屋だ。

 

嫌な汗が背中を流れると同時に、切島と目があった。

空気が緊張し、静寂が訪れる。

 

「切し━━━━━」

「見てない!!俺は何も見てないからぁあ!!緑谷が爆豪の部屋で寝てる姿なんて、全然見てないからぁ!!」

 

そう言って廊下に走り出そうとする切島。

勿論行かせない、引っこ抜いて部屋に引き摺り込む。

それでも出ようと抵抗する切島の顔面を地面と引き寄せ合わせ固定。私も自分の体を引っこ抜き切島の元へ行く。

 

「言わないからっ!!誰にも言わないから!!ちょっ、緑谷っ、止めてっ!消さないでっ!!」

「消さないわ。私をなんだと思ってんの?」

 

変な事を口走りそうな切島を一回落ち着かせて、その後でゆっくりO☆HA☆NA☆SI☆AIでもしようかと思ったんだけど・・・・直ぐに慌ただしい足音が聞こえてきてしまった。

急いで扉を閉めようとしたんだけど、それは失敗に終わった。既に扉に手が掛けられていたのだ。見覚えのある、逞しい沢山の手が。

 

「大丈夫かっ、切島!!爆豪!!」

 

聞き慣れない怒号と共に、阿修羅の兄貴が部屋に入り込んできた。その様子から二人の心配をして飛び込んできたのは分かる。分かるけど・・・・今はマジで勘弁してほしかった。

 

阿修羅さんは私と切島を見て固まり━━━━少ししたらそっと部屋を出た。何をしてるのか覗くと、部屋の表札を確認していた。そうして暫く表札と私達を交互に見た後、顎に手を当てる首を傾げた。

 

「分からん」

 

ああ、うん。

分かられなくて良かった。

 

そうこうしてる内に他階の男子共が集まり、ついには女子ーズまで集まってきて場は混沌とした。

取り敢えず部屋から共有スペースに連行され、ソファ座らされた私に待っていたのは更なる混沌であった。

 

眼鏡とお茶子から不純異性交遊は駄目だと説教が始まり、それを想像したと思われるブドウは鼻血を噴出させ白目を剥き、顔を赤くさせた童貞共からは目を逸らされ、恋愛番長なあしどんと葉隠からは初体験の感想を聞かれ、急に膝をついた轟は百に介抱された。

唯一冷静だった梅雨ちゃんと耳郎ちゃんは遠目から様子を窺っていたけど。止めて、二人とも。止めるの手伝って。

 

暫くすると息を切らしたかっちゃんが帰っていた。

首に掛かったタオルを見れば朝のランニングにでも行っていたのであろう事は察した。こんな時までストイックに頑張らずとも、と言いたい。

 

最初かっちゃんはその集まりに首を傾げていたけど、お茶子がダッシュで駆け寄り「ニコちゃんに手出したらしいねぇ!!説明せんかい!!おおん?!」と胸ぐらを掴まれた所でハッとした。遅い。

 

かっちゃんは仕切りに無実を訴えた。

私が勝手にやってきて話し相手にされた事。私が寝てしまってから部屋を出ている事。行く場所がなかった為、共有スペースで時間を潰した事。朝に着替えとタオルだけ取りに戻った事などなど、沢山の理由を口にした。

が、お茶子は聞き入れず「しらじらしぃわ!」とまるで関西人のようなツッコミをみせる。いつもの四倍くらい、お茶子はたぎっていた。

 

そんな騒ぎをしていれば、当然寮の管理を任されている包帯先生がやってくる。

そして行われる事情聴取。

 

全てが明らかになった時、私は正座させられていた。

勿論かっちゃんと。

 

 

 

 

 

 

かっちゃんをこってり絞った後、包帯先生は次の獲物である私へと視線を移し話始めた。

そう、OSEKKYOタイムである。

 

「まず、何を怒られているのか分かるか?」

 

低い包帯先生の声に頷く。

 

「かっちゃんの部屋で寝たことです」

「それ以前の問題だ、馬鹿タレが。そもそも夜間に異性の部屋に行くな。なんの為に男女で住むところを分けてると思ってる。お前らが親密な関係を築いているのは知っているが最低限分別はつけろ」

「先生!その親密な関係というものに、些か誤解があると思います!!訂正を━━━━」

 

スパンと良い音が鳴った。

久し振りの一撃、知能指数が6は減った。

 

「認めん。話の腰を折るな。お前が爆豪と男女の関係だろうと、幼馴染だろうと、親友だろうと、義理の兄妹であろうと、仮に婚約者であったとしても関係ない」

 

「・・・・男女の・・・・婚約者・・・・ぐっ」

 

その言葉に、また轟が呻き声をあげて膝をついた。

そしてまた百が介抱してた。「しっかりして下さい」とか「例え話ですわ」とか聞こえる。よく見たら今度は眼鏡も一緒に介抱してるみたいで「しっかりするんだぁ!」とか友情が迸っていた。

 

「おい、緑谷。話は終わってないぞ」

「あ、すいっません」

 

怒られたので包帯先生への向き直ると、包帯先生は続けた。

 

「━━━━で、だ。お前らがどんな関係であろうとだ、ここは学校の敷地内でお前は一生徒でしかない。故に一学生として、学生らしい付き合いを心掛けろ。風紀を乱すような事はするな」

「風紀は乱してません!」

「著しく乱したから、今説教されてるんだ。少しは考えろ、馬鹿が」

「それは誤解です!先生ぇ!!誤解です!!誤解なんです!!違うんです!!!私とかっちゃんは風紀を乱すようなこと起こしてません!これからも絶対に、百パーセント、起こしません!!シュークリームの神に誓います!!」

 

そう頑張って伝えると包帯先生はチラッとかっちゃんを見た。

一瞬だったが、なんか可哀想な物を見る目だった。

 

「爆豪・・・・お前には情状酌量の余地があると思っている。故に今回はおとがめ無しにするが、以後は気を付けろ」

「・・・・・うす」

 

なんだとぉ!!?おとがめ無しだとぉ!?

びっくりしてると包帯先生の視線がこっちを向いた。

 

「・・・・お前は今日から一週間、トレーニング後共同スペースの掃除を命じる。いいか、サボるな」

「なんでぇ!!?かっちゃんは!?かっちゃんも悪いのに!!包帯先生ぇ!!」

「・・・・爆豪、お前に任せる」

 

逃げるなよと気持ちを込めてかっちゃんを見る。

するとかっちゃんは深い、それは深い溜息を吐いた後、顔を片手で覆いながら「俺もやります」と言った。

 

あったり前だぁ!!私だけにやらせる気か!!

逃げようったってそうは行かないんだからな!!

かっちゃんめがぁ!ふははははは!!!

 

 

 

 

 

 

「相澤先生、俺もやります」

「轟、お前は手伝うな」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「はぁ、まったくあの馬鹿は・・・・」

 

生徒達をトレーニングルームへ送った後、二学期に向けた書類を整理していると思わず愚痴が溢れた。

 

一週間ぶりに再会した生徒にかける言葉が説教だとは、流石に思っていなかった。

本来なら謝罪するつもりですらいたのだ。

 

護ってやれなくて、済まなかったと。

 

それが自己満足である事は百も承知しているし、そういった事は言葉ではなく態度で見せなければいけない事も分かっている。

何より、生徒達にそう教えてきたのは俺だ。

 

「情けない限りだ・・・・はぁ、歳はとるもんじゃないな」

 

コン、と手元に湯飲みが置かれた。

そっと隣を見ればマイクが満面の笑みを浮かべていた。

そんな気を回すのはミッドナイトか13号辺りかと思っただけに、余計に嫌な物を見た気分になる。

 

「・・・・なんだ、マイク」

「おっさんくさい溜息が聞こえてきたぜ、フレンズ。ここはいっちょっ、俺に相談してくれても良いんだぜ?寧ろカマンっ!イェェ!」

「お前にだけは話さん。俺の知り合いの中で、お前ほど口の軽い男も知らんからな」

 

その言葉にマイクが首を傾げた。

 

「イレイザー、お前言うほど知り合いいなくねぇ?」

「・・・・余計なお世話だ。それで、何しにきた」

「おっと、本題忘れる所だったぜ。これな」

 

マイクから手渡されたプリントを見れば、オールマイト快気祝い会という大きな文字とデフォルメされたオールマイトの絵が描かれていた。裏を見れば日程や店、参加者の名前が書かれている。何故か自分の名前も。

 

「おい、俺は参加すると言った覚えはないぞ」

「どうせ聞いたら参加しねぇって言うんだろ?そーはさせねぇーぜ!お前は強制参加だ!オシャレしてきな!」

「そんな事してる時間がないと言ってるんだ。仮免まで時間がない。ただでさえマスコミ関係の処理で仕事が遅れてる。やる事は幾らでも━━━━」

 

ドサッ、と目の前に紙の束を置かれた。

嫌な予感を覚えながらそれを手にとれば、本来俺が用意しなければならなかった書類が揃っていた。

 

「これで少なくとも一日は猶予出来たろ?言いたい事、あったら聞くぜ?んんーー?」

「・・・・・・はぁ、お前はまた勝手に・・・・昔から変わらないな。後で校長にどやされても知らんぞ」

「HAHAHA、そんときはそんときだろ。つーか、変わらないのはお前もだぜ。クソ真面目。放っておくと、直ぐ人の輪からleaveしちまう。よく見てる俺様に感謝しろYO!」

「するか」

 

そう返すとマイクは俺の肩を軽く叩き笑う。

いつもながら鬱陶しい。

 

「まっ、イレイザー。そんなに思い詰めんなよ」

 

そしてこういう所も、だ。

 

「・・・・態々慰めにきたのか?」

「ジョーダンきついぜ。俺が男慰めるような柄かよ?ちょっと茶化しにきただけだぜ」

「それならもう済んだろ」

「まぁな」

 

それだけ言うとマイクは背を向けた。

 

「こいよ、イレイザー。んで、デビューしたての頃みてぇにパーっと馬鹿みたいに飲もうぜ。死ぬほど愚痴言ってよ、アホみたいに騒いでよ」

「馬鹿みたいに飲むのも、アホみたいに騒ぐのも、お前だけだろ」

「HAHAッ!確かに!こりゃぁ、ワンスティック取られたぜ!」

 

一頻り笑った後、マイクは続けた。

 

「ま、なんだ、取り敢えずよ、反省は程ほどにしとけよ。今の所、俺達に出来る全部の手は打ったんだ。あとはどしっと構えて時間待ちよ。となりゃ、今は無事だった事を素直に祝おうぜ。━━━その方がお前んとこの生徒も喜ぶだろ」

「・・・・お前に説教をかまされる日がくるとはな」

「んな大層なもんかよ。さっきも言ったろ。茶化しにきたんだよ、俺は。んじゃ、楽しみにしてるぜイレイザー」

 

 

こいつの喧しい所は好きになれん。

 

 

『おいおい、聞いたぜ。名前決めてないって!?よし、じゃぁイレイザーヘッドだ!』

 

 

だが、変わらないのだろうな。

この関係も、この繋がりも。

 

俺にはきっと、あんな名前、一生思い付けなかっただろうから。

 

 

 

「・・・顔を出すだけだ」

「いや、しっかり飲んでけYO!!逃がさねぇーからなぁ!!」

 

 




今後とも遅れそうなので、先に謝罪しておきますやで。

すまんなぁ(´・ω・`)ショボン


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てぃーでぃーえる!てぃーでぃーえる!ここ東京でも千葉でもないけど、てぃーでぃーえる!━━━━なんだ、凄いデジャヴ!前にもやった気がする!え?やってた?ほんまかいな━━━ほんまや!の巻き

なんとか一話ぶちこめた(*´ー`*)

待っててくれた人達にはありがとう。
そしてお待たせしましたやで。

よし、僕は寝るで。
おやすみ。


TDL。

 

それは僕達私達の楽園、夢の国をさす言葉。

 

TDL。

 

それは大人も童心に返れる、希望の言葉。

 

TDL。

 

それは━━━━━某テーマパークの事である。

 

 

 

 

私がいない間、色んな話が進んでいた事は知っている。

かっちゃんやお茶子達から聞いてたし、包帯先生からも改めて聞いたから、ヒーローの仮免許試験が間近にある事も、それに向けて残りの夏休み返上で特訓している事も、ちゃんと分かっている。

 

本当は夏休みを謳歌したい。

心の底から遊び尽くしたいと思っている。

だから本音を言えばやりたくない。

 

でも、仕方ないのだ。ヒーロー科に在籍しているからという理由もあるけど、それ以上にやりたくない事の先に、やりたい事があるのだから。

 

だから、あたい頑張る!とか、そう思っていたのだ。

 

なのに、それだ。

その矢先だ。

私がそれを聞いたのは。

 

『これからTDLに向かう。お前には一から説明する必要があるからついてこい』

 

包帯先生から告げられたまさかの遊びの誘い。

これから特訓が始まると思っていただけに、それ嬉しさはまた特別なものだった。

 

病み上がりの私を思って、こんなサプライズを用意してくれたのか、と。感動した。

凄く感動したのだ。

 

何に乗ろうか、何をお土産に買おうか、誰と一緒に回ろうか。ファストパスはかっちゃんに任せようとか。轟にポップコーン買って貰おうとか。

 

そう色々考えていたのだ。

 

なのに━━━━。

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!!くそっ、くそぅ、くそおおおぉぅぅぅぅ!!」

 

 

 

 

今私の目の前にあるのはコンクリートで作られた荒れた足場と、この糞暑い季節なのに相変わらずトレンチコートを着たお化け先生の分身。

 

TDLって言ったのに━━━━!

 

「ニコちゃん108の必殺技ァ!!ルージュブレス派系ッッッッッ煉獄火祭り地獄inTDLぅ!!!」

 

「マッ、緑谷、チョ待ッッッッッアアア!?」

 

周囲に放った12の紅炎が軌跡を描きながら一斉にお化け先生の分身体に集まりその身体を焼き尽くしていく。その間3秒。私はまた一つ悲しみ故に強くなれた。こんな強さはいらないけど。

 

というか、やってられない。

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!!包帯先生の嘘つきぃぃぃぃぃぃ!!TDLって、TDLって言ったのにぃぃぃぃ!!トレーニング、ダイニング、ルーム?馬鹿かっ!訴えられろ!何処がっ、TDLだ!!何処がTDLなのぉぉぉぉ!!かっむばっく、私のドキドキいいいいい!!」

 

一人悲しみから慟哭していると、またお化け先生がきた。何体目だろうか。

 

「名称ニツイテハ、ソノ、スマナイ。妙ナ期待ヲサセテシマッテ。後デコノ建物ノ名称ニツイテ、校長ニ変更ヲ提案シテオクカラ、何トカ矛ヲ納メテクレ」

「お願いっします・・・うぅぅ、こんな悲しみ、私だけで十分ですぅ。あと、USJについても、抗議します。ワクワクを返して」

「ス、スマナイ。校長ニ伝エテオコウ」

 

お化け先生と話していると、いきなり後頭部をひっぱたかれた。何事かと思ってみれば、ジト目のかっちゃんがそこにいた。

 

「ったいなぁ。なに?」

「なに?じゃねぇ、ボケ。さっきから火の粉が飛んできてあぶねぇんだよ。ちったぁ、火力抑えやがれ」

「私の隣でやるからじゃん」

「お前が寄ってきたんだろうが!」

 

ばっ、とかっちゃんが私の最初の立ち位置を指差した。

Oh・・・・!言われて見ればいつの間に。

 

「ジリジリ、ジリジリ、こっちきてんじゃねぇぞゴラァ!!気づかねぇとでも思ってんのか!?八つ当たりしてくんじゃねぇ!」

「・・・・・お化け先生!もう一度お願いします!必殺技のコツがっ、掴めそうなんです!!」

「白々しいことほざいてんじゃねぇ!!こっち見ろこらぁ!!」

 

怒り狂うかっちゃんから個性も使って即逃走。

元の位置に戻り振り返ってみれば、忌々しそうにこちらを見つめるかっちゃんの姿が。少しの間睨んできたけど、渋々といった様子で特訓に戻っていった。

 

危なかった。

しばかれる所だった。

 

「はい、お化け先生。続きやろ」

「ハァ、緑谷、オ前トイウモノハ・・・楽シソウデ何ヨリダ」

 

TDLで出された私達への課題は、最低二つの必殺技の創作。もしくは既存の必殺技の強化。私は既に108も必殺技があるので、今更一つ二つ増えた所でぶっちゃけ意味がない。

なのでこれまで試せなかった技の練習と、その強化に勤しむ事にした。

 

勿論これらは来るべき仮免許試験の為の特訓だ。

恐らく雄英体育祭の映像から私達への対策をたてられているだろう。何かしらの強みがなければ簡単に策に嵌められて終わる事は請け合いというもの。

 

包帯先生はあえてこの事を言わなかったみたいだけど。

 

「ソレニシテモ━━━━」

 

お化け先生の回し蹴りが喉を掠めていく。

咄嗟に身体を引かなければ狩られていただろう。

流石にプロは違う。

 

「━━━病ミ上ガリデ、ヨクココマデ動ケルモノダ」

 

回し蹴りの回転を止めず、お化け先生は更に一回転。

その速度を更に増した回し蹴りが飛び込んでくる。

狙いは腹部。腕を割り込ませながら、お化け先生の足を回転方向と反対に引き寄せる。

 

鈍い衝撃が腕に走る。

完全には止められなかったけど、威力は大分殺せた。

反撃する余力が残ってる。

 

「防イダカ、良イ反応ダ」

 

体勢の悪いお化け先生頭部を引き寄せる個性で揺らす。

僅かなぐらつきを確認したら、一気に踏み込み━━━━自分の拳とお化け先生を引き寄せ合わせる。

今出来る最大出力で。

 

ニコちゃん108の必殺技。

ニコちゃん印20連ガチャパンチ━━SR無しの悲しみVer。

 

「スカスカスカスカスカスカスカスカスカァァァ!」

「ゴフッ!?アダダダダ!?」

 

お化け先生の腹部に拳を突き刺し、直ぐに引き寄せ個性で引き抜く。そしてまた、引き寄せる個性でお化け先生の腹へと拳を叩き込む。それを繰り返すだけだ。ただし、出力全開でだが。

おかげで腕への負担が半端ではなく、今の所20連が限界だ。いつかは100連をしたいと思っているが、いつになるのやら。

 

全部綺麗に叩き込めば、お化け先生が消えかかる。

放っておいても消えるだろうが、折角なので普段やれない技を試しておこうと思う。

 

ニコちゃん108の必殺技。

ニコちゃん砲派生━━━━━━━ニコ玉。

 

両手を腰だめに、空気を思いきり吸い込む。

限界ギリギリまで吸い込む。

 

「んんーーー(ニコーーー)」

 

頭の中でイメージする。

掌にエネルギーが集まるイメージを。

 

「ふぁんーーー(ちゃんーーー)」

 

限界まで火力を練り上げた炎を吐き出す。

圧縮し極限まで火力をあげた紅炎の弾。

腕を突きだしながら、引き寄せる個性で紅炎弾をお化け先生に目掛けて飛ばす。

 

「はーーーーーーーッ!!!」

 

飛び出していった紅炎弾はお化け先生にぶつかると大爆発。半径十メートルすべてを焼き払い、周囲に灼熱の波動を撒き散らした。

なんか地面溶けてるように見える。

 

因みに、熱かったので私は即刻逃げたよ。

あっつい!なにこれ!

 

 

私の必殺技は中々の必殺技だったらしく、遠巻きにこっちを見てたA組メンバーが野次馬してきた。

 

「なんなん!?ニコちゃん、今の音!?」

 

爆発の音を聞き付けてマイベストフレンドお茶子が駆けてくる。顔を見れば驚かせてしまったのが分かった。少しだけ申し訳なく思う。

 

「いやぁ、ごめん。思ったより凄いの出ちゃった。テヘペロ」

「テヘペロゆーとる場合ちゃうからね?凄すぎるわ。なんやったん今の。体大丈夫なん?」

 

心配そうなお茶子の視線を受けて、取り敢えず自分の身体を見てみた。特に大きな怪我はないけれど、ヒーロースーツが所どころ焦げてしまってる。一応耐火性らしいんだけど、この分だと持たなさそう。

反対に耐火性能をあげておいた手袋は大丈夫みたいだけど。

 

「体は大丈夫そ。でもスーツがちょっとねぇ」

「あ、焦げて穴空いとる」

 

 

「━━━ナラバ改良ヲシタ方ガ良イナ」

 

 

お茶子と話してるとお化け先生が側にいた。

多分、お茶子の訓練に付き合ってた方だ。

 

「緑谷、オ前ガコスヲ幾度カ改良シテイルノハ聞イテイル。ダガソレハ装備ガ中心ダロウ?コスハ初メニ受ケ取ッタ物ノママダト聞イテイル」

「いいやつだって聞いたので」

「素材ハナ。ダガ、ドンナ物デモ使エバ劣化スル。何ヨリ、今ノオ前ニ合ワナケレバ意味ガナイ」

 

そうかも知れないけど・・・結構愛着があるんだよなぁ。

 

「フム・・・アマリ乗リ気デナイノハ分カルガ、ソノ様デハ仕方アルマイ。修繕シテ使ウノモ構ワナイガ、一度話ダケデモ専門家ニ聞イテキナサイ。丁度今日ノ訓練モ終ワリノ時間ダ。サポート科ニ友人ガイルノダロウ?」

「発目のことですか?あれ?でも、あいつ謹慎だったんじゃ・・・」

 

お茶子から道具を勝手に持ち出した件と使った件でかなりキツいお灸を据えられたと聞いていた。

確認の為にお茶子を見れば頷いてくる。

 

「謹慎ハ一昨日マデダ。パワーローダーカラ聞イタ話、謹慎ガ解ケタ翌日カラトイレト食事以外ノ理由デ外出スル事ナク、工房ニ入リ浸ッテイルソウダ」

 

狂気やん。

流石に行きたくない。

 

はぁ、でもなぁ・・・あいつほどこっちの要望聞いてくれるサポートもいないしな。

ううん。

 

「取り敢えず話だけでも聞いてきます」

「アア、ソウシナサイ。ソレト麗日。友人ヲ心配スル気持チハ分カッテヤルガ、訓練ヲ疎カニスルホド、今ノオ前ニ余裕ガアルトハ思ワナイ事ダ。良イナ」

 

「あっ、す、すみません」

 

それから程なくして終了時間の鐘が鳴り、A組メンバーの訓練は終了。TDLでの訓練を終えた後は自主練にいくものや用事を済ませに出掛けるものと各自はバラバラに去っていく。

私はかっちゃんとお茶子、それと装備を改良したいという眼鏡と轟を引き連れてサポート科が活動してる工房へ向かった。

 

工房が近づくと大量の機械を動かすようなけたたましい音が響いてきた。もう嫌な予感しかしない。

 

「ニコちゃん、仲良いんだよね?」

「いや、仲良いというか、上手く付き合ってはいるつもりだけど・・・」

「助けにくるくらいだから、凄い仲良いんとちゃうの?」

 

仲良い・・・・どうだろ。

winwinな関係だとは思うけど。

というか、あの時あいつが助けにきた事が、未だに信じられないんだけど。

 

「まぁ、いいや。取り敢えず話だけ━━━━━」

 

お茶子に振り返ったその瞬間、目と鼻の先に見えた扉が爆散した。

咄嗟にお茶子は引き寄せる個性で物影に飛ばし━━━━

 

「っ!?」

 

━━━痛みを覚悟したけど、やってきたのは少し固い感触。覆い被さるようにきたそれに、私は押し倒された。

次の瞬間、突風が吹きあれ辺りに煙が充満する。

 

少しじっとしていると、煙が晴れていき周囲の様子が見えるようになった。壊れた扉、立ち込める煙、焦げ臭さ。それと目の前にかっちゃん。守ってくれたみたい。

 

一応感謝しておこうかと思ったんだけど、ふと違和感を感じて視線を顔から下に動かしてみる。

するとかっちゃんの手が私の胸をぎゅうと掴んでいるのが見えた。

 

かっちゃんも私に釣られて視線を下に。

自分の手の位置を見て、フリーズした。

 

 

 

「「・・・・・」」

 

 

 

えっと、ええぇっと・・・・。

 

 

 

うん・・・・えっ?

 

 

 

なんだこれ。

 

 

 

早くどかして貰いたいのに、声が出てこない。

 

 

 

 

あ、あれっなんか、こう・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

あぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや!!緑谷さんではないですか!!お久しぶりですね!!」

 

聞き慣れた声が聞こえた瞬間、脳が急速に動き出した。

かっちゃんと天井に引き寄せる個性を発動。

思いっきり吹っ飛ばす。

 

天井に背中を打ち付けたかっちゃんは苦痛の声をあげ、直ぐに落ちてきた。勿論避ける。私が避ければ当然かっちゃんは地面にぶつかった。カエルが潰れたような情けない声が聞こえてくる。少し心配になったけど、まぁ、大丈夫そうだ。

 

取り敢えずかっちゃんをスルーして振り向けば、顔も服も汚した発目がそこにいた。

 

「?何をしているんですか?あ、それより聞いて下さい!緑谷さん!面白い物を考えたんです。いましがた試作品を作っていたのですが失敗してしまいまして!それでですね、是非ともご意見をお聞きしたいと思いまして━━━━━ああ、そちらも何かご依頼ですよね?分かっておりますとも。そちらも直ぐに手をつけますから、兎に角今は中にどうぞ。いやぁ、やはり作るのは堪りませんね。謹慎中はアイディアを形にする時間が貰えずヤキモキしましたが、こうして実際に手を動かしていると改めて思います。作るって素敵です。想像していた物を実物に変えていくのは楽しくて仕方ありません。これぞ、発明の醍醐味ってやつですね。あっ!それでですね先日頂いたデータを元に装備品の改良品を幾つか作りましたので、そちらも是非試してみて下さい!スパイクの軽量化と━━━━━━」

「長い、長い。落ち着け発目・・・・ああ、でも、今はありがとう」

「━━━━はい?よく分かりませんが、お役に立てて何よりです。さ、中にどうぞ。顔が赤いですね?今日は暑くなると言ってましたからね。では冷たいものお出ししますよ。何が良いですか?水かスポーツドリンクか栄養ドリンクしかありませんが」

 

喧しい発目の話を聞きながら、促されるまま私は部屋に入った。なんか色々忘れてる気がするし、考えなくちゃいけない事があった気がするけど、暫くは何も考えたくないので忘れておく。

 

まずはお水頂戴。発目。

 



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友人とは気がついたらなっている物で、誰かにお願いされてなるような物ではないんだよ?そして、たまに、稀に、気がついたら周りから勝手に友人にされてる事もあるんだよ。友人らしいよ、あんたと私。の巻き

お待ちいたしやしたー最新話のお届けやでぇ。
お口に合うか分かりやせんが、どうかこれで一つ。

年末の忙しさにヘロヘロな、我はくびしん。
今日の今日まで頑張って働いてきた我の、クリスマス当日の予定は当然ーーーなし(゜ロ゜)クワッ!!!



ふっ、売れ残りのケーキでも買うて、食うかや・・・・一人でなっ!!な、泣かないもん!涙なんて、でないもん(´;ω;`)!



「最低やな、爆豪くん」

「爆豪くん、素直に謝罪したまえ」

「爆豪・・・・世の中にはやって良い事と、やっちゃいけねぇ事がある。知ってるか?」

 

「っせぇ!!事故だってんだろうが!!捲し立ててくんじゃねぇぞ!!クソ雑魚共が!!」

 

背後でかっちゃんが三人から言葉責めを受けている中、私は出された水をチビチビ飲みながらコスチュームについてあれこれと説明した。

 

今のコスチュームがお気に入りである事。

今の状態だと新技が使えなくて困ってる事。

咄嗟に放てる捕縛系武器が欲しい事。

ファン●ル的なバトル装備が欲しい事。

キック力をあげたいので、なんか、こう、ガガンってなるブーツが欲しい事。

全部踏まえた上で今の軽さと装備強度を維持する事などなどだ。

 

発目は私のコスチュームと装備を見ながら「フムフム」「ナルホド」とか頷き、暫く考えた後で机を両手で叩いて立ち上がった。

 

「相変わらずえげつない注文してきますね!!緑谷さん!鬼クライアントっぷりは変わりませんね!━━━ですが、良いでしょう!!やりますとも!!ワクワクしてきました!しかしですね、色々と問題だらけなので少々お時間を頂きたいです」

「問題?具体的にはー?」

「コスチューム生地の改良は問題ありません。この生地であれば特殊加工を加える事が出来る筈ですからね。ですので、そちらは修繕して依頼をかけておきます。━━━問題はファン●ル的なバトル装備における開発資金と技術的な面ですかね。恐らく緑谷さんが考えているのは追従するような臨機応変に動く浮遊機械でしょうから。はっきり言って設備的に難しいですし、何より私の手には余ります。それと装備強度と重量の維持についてですが・・・現在使っている物でも、重量を抑えた上で強度を限界まであげた物なんです。最近Iアイランドで発表された合金が手に入れば良いのですが・・・コネがありませんからね。これも難しいです。あ、他は幾つか類似する試作品がありますので、それらを改良すれば直ぐに出来ますよ」

 

流石にメカファン●ルは無理があったかぁ。

まぁ、駄目元で言っただけだしな。

 

「まぁ、後者は出来るだけで良いよ。その上で駄目っぽかったらまた言うから、それから考えよ。Iアイランドの合金かぁ・・・メリッサに聞いてみるかな?━━━━ああ、それとファン●ルの方はそんなに複雑じゃなくて良いから作って。基本的に個性で動かすから・・・・今のグローブ並みの耐熱性と、人にぶつけても壊れない頑丈さ、それと発信器入れて『泳がせて捕まえろ追跡くんβ』と連動させてくれれば良いからさ」

「成る程。やりたい事は分かりました。それなら時間も然程掛からず出来ますよ。ムフフフッ、楽しくなってきましたよぉ!!━━━━はっ!!そうです!!捕縛系の装備なのですが、個性で射出を行うのはどうですか!?そうなれば射出機の無駄な重さもありませんし、装備重量が軽くなるのであれば持てる弾数も無理なく増やせます。それに構造が簡単であれば射出する弾にもバリエーションを持たせる事も出来ますよ。最近投擲タイプの消火剤も手にいれた所ですので━━━」

 

 

 

「・・・・くけけけ、発目」

 

 

 

不意に発目の言葉を遮るように、低い男の声が響いてきた。視線を向ければ、こちらを睨むショベルカー先生の姿がある。

 

「友人との再会を喜ぶのは良い。仕事を引き受けても良い。話を弾ませるのも良い。というか、何でも良い。全部見逃してやる。━━━━だからまずは片付けろ。出禁にするぞ」

 

オコだった。

完全なるオコだった。

 

私は発目のアホの頭を引き寄せ、声のトーンを一つ落として話す。

 

「今度は何したの、アホ」

「別に何もしてませんが?開発くらいしか」

「だったら怒られないでしょうが」

「・・・・?ああ、そう言えば、さっき・・・・なにか言ってましたね。片付けろとか、部屋を汚したままにするなとか。あはははっ、部屋なんて片した所で直ぐに散らかるというのに、何を言ってるんですかね?そんな時間があったら次を開発しないと時間が勿体ないじゃないですかね?あははは!」

「いや、あははは、じゃないから。それやん」

 

こいつ、相変わらずショベルカー先生の事スルーしてたな。自由か。まったく。

このまま放置しておくとショベルカー先生に怒られて発目の手が止まりそうだし・・・・仕方ないか。

背に腹は替えられない。

 

「かっちゃ━━━━」

「ああ?」

「━━━━━・・・・・眼鏡っ!」

 

「・・・・ん!?僕かっ!?ええっ、僕か!?本当に!?轟くんではなく!?」

 

掌でコイコイすれば眼鏡は何故か轟をチラチラ見ながらこっちに来た。何その申し訳なさそうな顔。何事?いや、何でも良いけどさ。

 

事情を説明すると眼鏡はOKしてくれた。

眼鏡から他の皆にも聞いたが手伝ってくれるそうだ。え?かっちゃんが頷くわけない?何言ってるんですかね、かっちゃんは強制だよ。決まってるじゃんね。

当然、片付けはタダではやらない。今回の装備改良の対価でやるのだ。私の分は勿論、皆の分も。いや、かっちゃんはタダ働きだけど。

 

眼鏡は発目が被る条件に関してだけ難色を示したが、当の本人である発目がOKを出したので言葉を飲み込んだ。というか、発目の嬉しそうな顔を見て何も言えなくなったが正確な所だけど。

発目からすれば片付けなんて否生産的な行動を取るくらいなら、ブラック企業も真っ青なアイテム開発を行っている方が天国なので頷かない筈がないのだ。笑顔は当然。

 

「君が友人かどうかと聞かれ、首を捻っていた訳が分かったような気がする」

 

片付け中、私の隣を通った眼鏡が呟いていった。

まったくもってそう思うので「せやな」とだけ返し、また片付けを始めた。

なんか、長くなりそう。

 

それから暫く、片付けにも終わりが見えた頃。

ショベルカー先生が盛大な溜息をついた。

思わず足を止めてそっちを見ると、疲れた顔のショベルカー先生と目が合う。

 

「毎度毎度・・・緑谷、あまり発目を甘やかすな」

「はぁ・・・・・」

 

そっと発目を見れば、不気味な笑い声をあげながら気が狂ったように機械を弄り倒している。

凄い楽しそう。

 

「あいつにも社会性は必要だ。最低限の分別もな。好きな事を伸ばすのは悪いとは思わん。そもそも、それが雄英の校訓だからな━━━━だがな、だからと言ってそれだけを学ばせるのが学校ではないのだ」

「はぁ」

「あいつは間違いなく天才だ。今でこそ俺のフォローが必要だが、それも時間と経験の問題。直ぐに教える事が無くなるだろう。プロの世界に足を踏み入れるのは、そう遅くない話だ。━━━それ故に、あいつには学んで貰わなければならんのだ。賢い大人に良いように利用されぬよう、自身の権利を守れるだけの知識をな」

 

うん、確かに必要だと思う。

ブラック企業でも設備だけ揃えれば喜んで働きそうだもんなぁ。

 

「お前はあいつの唯一といっていい友人だ。それも手綱を握れる程にな」

「友人ですか・・・んん?どうですかね?」

「端から見るとな━━━━麗日、お前から見てどうだ」

 

ショベルカー先生に声を掛けられたお茶子は少し考えた後、コクコクと頷いた。

マジかと思ってかっちゃん━━━━は止めて轟━━━━も止めて眼鏡を見れば「いや、僕は違うと思うぞ。君らの関係はクライアントと請け負い業者だ」とこっちに賛成してくれた。

ほらな。

 

どやっとショベルカー先生を見つめたけど・・・ショベルカー先生は軽く無視して口を開いた。

 

「・・・ま、お前もいずれプロになるのだろう?それなら、これから世話にもなる事もある筈だ。あいつが潰れればお前にも損だろう。上手く誘導しておいてくれ」

「私は調教師ではないんですけど・・・」

「似たようなものだろ。仲良くやれ」

 

 

ショベルカー先生との話も片付けも済ませ、一通り皆のコスチュームについて相談が終わった頃。

立て掛けてあるだけのドアがノック音が響いた。

 

ショベルカー先生が様子を見に行き━━━直ぐに戻ってきたかと思うと、なんか私が手招きされた。

不思議に思って入り口へ向かうと、ここ最近見なかった姿があった。

 

痩けた頬に痩せた体、触角みたいな髪型、草臥れた金髪、影の落ちた骸骨みたいな顔。

それと見掛けとは不釣り合いな、強い意思の光が灯った瞳。

 

「やぁ、緑谷少━━━━」

「ガリガリ!」

「━━━女・・・いや、うん、そうなんだけどね?」

「あ、間違えた。ガチムチ」

「変な気を使わないで、先生泣いちゃいそうだ」

 

物悲しそうにそう言った後、乾いた笑い声をあげたガチムチは何処か照れ臭そうに頬をかいて続けた。

 

「はぁ、君には敵わないな。私は。・・・・色々考えていたんだけど、お陰で全部飛んでしまったよ」

「色々・・・・焼き肉の件ですか?」

「ぷっ、はは。いや、違うよ。勿論、その事も忘れてはいないけどね」

 

私の目をじっと見たガチムチは、この間のように頭を撫でてきた。

 

「セクハラですけど?」

「ははは、訴えないで貰えるとありがたいかな?・・・・でも、そうだな。こうしてまた、君を撫でられて良かった」

「そうですか」

 

なんやかんやとガチムチには助けて貰った身だ。セクハラではあるけど・・・まぁ、振り払わないでおこう。

ガチムチからの何処かむず痒くなるような視線に耐えて撫でさせてやってると、小さくガチムチの口が動くのが見えた。

 

声は聞こえて来なかったけど、優秀な私はその動きだけで察した。

 

そして察しただけに、ちょっと気恥ずかしい。

しれっと何を言ってるのか。

 

 

 

だって━━━━お礼を言うのは、私の方。

 

 

 

「━━━緑谷少女?」

 

 

 

でも、それは言わないでおこうと思う。

ガチムチがあえて言わなかったのだから。

だから私も。

 

 

「約束だけは守って下さいね。何でも良いですけど」

 

 

皮肉を込めてそう言うと、ガチムチは困ったように笑った。そして返すように口を開く。

 

「━━━あぁ。勿論、守るさ。これからも、きっと」

 

私は目を瞑ってガチムチの言葉を聞いた。

心の籠った、その言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・それで、焼き肉はいつ行きますか?」

「そ、そうだなぁ。取り敢えず今夜は用事があって無理かなぁ?━━━というか、切り替え早いなぁ。ははは」

「用事って何ですか?」

「・・・・・・・あれ、なんだろう。不味い事言った気がするなぁ」

 




◇◇おまけぇ◇◇◇

ジャンプ4,5号
━僕のヒーローアカデミアー
211話閲覧中

ガチムチ「私の個性、えらい事になってる!?なにこれ!?え、なにこれ!?」

ふたにゃん「・・・おじさんの髪の毛なんて食べるから」
かっちゃん「そら、腹も壊すわな」

エッ!ワタシノセイナノ!?フタリトモ、チョッ、コッチミテ!ウソダトイッテ!

もちゃこ「私、めちゃヒロインしとるやん」


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◇EX話◇せいなるよるにやってくるのは、おとうさんではなくサンタさん!これはかくていじこうだ!の巻き

特別編。
クリスマスへの憎しみを作文力に回した結果、なんか生まれたよ。

くそやな、クリスマスは((( ̄皿 ̄井)


「なぁなぁ、かっちゃん。サンタさんいねぇって知ってる?」

 

小学校も冬休みに入った今、最近またつるむようになってダチと公園で遊んでいると、誰かがそう声を掛けてきた。

何をいきなりとも思ったが、今日は12月24日だった事を思い出した。世間ではクリスマスイブという日で、クソババァから早く帰って来るように言われていた事も。

だからだろう、そいつがそんな事を聞いてきたのは。

 

「ふん、当たり前だろ。サンタなんているわけねぇだろ」

「でもじゃぁさ、プレゼントはどうなんの?」

「そういうのは親がやんだよ。親の知り合いとか・・・あ、でもな、よーろっぱ?には本物がいるみてぇだけどな」

「よーろっぱにいんの!?すげえ、かっちゃん!」

 

くだらない話を適当に切り上げ帰ろうかと思っていると、やたらと喧しい足音が聞こえてきた。

嵐のようにやってきたそれは、公園の入り口に滑るようにやってきて俺を見つけて大きな口を開いた。

 

「みつけた!!かっちゃん!!」

 

「やっべぇ!!?みどりやだ!!」

「うわっぁぁぁ!!」

「かっちゃんにげよう!!」

 

まとわりつく連中を蹴っ飛ばして「いいからいけや」と言ってやれば、モブ共は一目散に逃げていった。

心配する素振りの一つもねぇ。

 

だったら、端から余計な事してねぇで逃げろやとも思うが・・・・別にどうでもいい事だから放っておく。

それより、面倒な奴がそこにいるからだ。

 

「なにしてんの?ひとりで。またはぶられたの?だっせ・・・・あ、それよりかっちゃん!帰るよ!クリスマスパーティーするよ!!」

「うっせ、知ってるわ。今から帰る所だったんだよ。つか、いっぺんに話すな。わけわかんねぇだろ」

「すごいんだよ!!肉だよ!かっちゃん!肉ぅ!!とり!バード!しかもにわとりじゃないよ!━━━しちみめんちょうだよ!みつきさんが買ってくれたの!!すごくない!?しちみめんちょう!」

 

七面鳥って言いたいのは分かったのでそこには突っ込まない。絶対に面倒臭い返答が返ってくる。ただでさえクリスマスパーティーなんざガキみてぇな事したくねぇのに、これより疲れるのはごめんだ。

 

「うるせぇわ。おくれていくと、めんどくせぇからいくぞ」

「かっちゃん、しちみめんちょういらない?いらないよね?その分ちょーだい。うん、ありがとう」

「やらねぇよ!つか、うちの親が買ったやつだろ!!ちょーしのんなよてめぇ!!」

 

いらねぇとは、言ってねぇだろうが!!

ごらぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

夕暮れの街を照らした始めたイルミネーションを横目に、イルミネーションを見ようと止まる馬鹿を引きずって帰宅する。やっとの事で辿り着いた家の玄関を開けると、ババアがババアらしくねぇ格好してた。

赤と白が良く目立つサンタ服だ。しかもスカートというふざけたオマケつき。

 

「きもっ━━━━」

 

思わずそう言ってしまうと、ババアの手が伸びるのより早く、クソジジイの手が口を塞ぐように掴んできた。

いつものんびりした目してる癖に、今日はやけに鋭さが滲んでる。

 

「勝己、駄目だろう?そんな事言っちゃ・・・」

 

ババアと違って頭を締め付けてくるような事はない。

けれど、その視線の鋭さだけはババアが怒り狂ってる時並みの迫力を感じた。

隣の馬鹿は何も感じてないのか、呑気に首を傾げてるが。

 

「双虎ちゃん、光己の格好はどうかな?」

「うん?・・・・うーん、いいね!カワイイ!」

「ははは、私もそう思うよ。光己は何を着ても似合うなぁ」

 

「そ、そう?ふふふ、私も捨てたもんじゃないわねぇ」

 

ババアは嬉しそうにクルクル回ると台所へと戻っていった。双虎の馬鹿もつられて追い掛けていく。

残った俺にクソジジイはそっと耳打ちしてきた。

 

「良いかい、勝己。世の中にはね、これだけは言ってはいけない言葉という物があるんだよ?よく覚えておきなさい」

「んだよ、それ」

「大人になると分かる事さ。さ、双虎ちゃんと遊んでくると良い」

「いや、遊ばねぇし」

 

取り敢えず、今日限定ではあるが『きもい』という言葉は封印する事をこころに決め、さっさと手を洗いにいく。洗わねぇとババアがクソ煩いからな。

 

手洗いうがいをささっと済ませ居間にいくと、双虎の母親である引子さんがパーティーの準備をしている所だった。引子さんは俺の姿を見ると笑顔を見せた。

 

「勝己くん今晩は。お邪魔してるわね」

「ちわっす」

「もうすぐ準備も終わるからテレビでも見て待っててね?━━━ああ、それとうちの馬鹿がまた迷惑かけたでしょう。いつもごめんなさいね。まったく手伝いを頼んだ筈なのに、急に飛び出して行っちゃうんだから。何を考えているのか━━━━あ、ごめんなさいね。いきなりこんな話しちゃって」

「別に・・・」

 

あの馬鹿は嫌いだが、双虎の母親は嫌いではない。

というか、俺もその苦労が分かるから、なんか仲間のような気がしているくらいだ。

 

言う通り大人しくしてると、引子さんからメロディ音が流れてきた。聞き覚えのある音だったので、双虎の父親が連絡してきたのは分かった。

携帯を開いた引子さんは顔をしかめた後、小さく溜息をつく。そうか、来ねぇのは察した。

 

俺が言うことでもねぇが、そろそろ双虎の中から父親の存在が消えているんじゃねぇだろうかと思ってる。

ここ最近あいつの話の中で、父親の名前を聞いた覚えがねぇからだ。大丈夫なのか、あいつの父親。

 

それから直ぐ料理を持ったババアとヨダレを垂らしながらケーキの箱を持ってきた双虎がやってきた。料理を並べながら引子さんが双虎に父親がこない事を伝えてるみたいだが、双虎の視線はケーキと七面鳥に釘付けでまったく聞いてなさそうに見えた。

 

というか、事実欠片も聞いてねぇんだろう。

ついでに興味もねぇんだろう。

 

・・・なんだ、この気持ちは。

 

分からない気持ちにやきもきしてると料理がテーブルに並び終わった。書斎で仕事をすると言っていたクソジジイも戻れば1日早いクリスマスパーティーが始まる。

 

乾杯後、双虎は迷う事なく切り分けられた七面鳥に手を伸ばした。目をキラキラさせながら見つめ、大きく口を開いてかぶりつく。咀嚼しながら段々と笑みが深くなっていき、口の中の物を飲み込むと花が咲くように笑った。

 

「ぼーのぉー」

「べんきょう出来ねぇくせに、どこからそういうの知ってくんだ。てめぇは」

「うるさいなぁ~。わたしはべんきょう出来ないんじゃないの。しないだけぇ」

 

それが嘘なら鼻で笑ってやるんだが、こいつは案外やれば出来やがる。だから余計に質が悪い。

馬鹿を放って七面鳥のを口に含むと、食べた事のない美味しさが口の中に広がった。

 

「・・・んだこれ、うめぇ」

「でしょー!ぼーのしたれしたれ!」

「ぼーのはしねぇ」

 

珍しく酒を飲み合う大人三人を横目に料理を頬張っていると、双虎が袖を引っ張ってきた。何事かと思えば手招きしてやがる。

 

「・・・んだよ」

「耳貸してよ、ほら」

「はぁ・・・」

 

双虎の目を見て絶対に引かない事を察した俺は、面倒臭かったが耳を貸してやった。

すると、そっと双虎が呟く。

 

「サンタさんのプレゼント、何にした?」

 

俺はちょっと考えた。

言葉の意味を。

 

「どういういみだ」

「どういういみって?そのまんまじゃん。サンタさんに何たのんだの?おしえてよ。わたしPS●」

「・・・・・」

 

双虎の目を見ながら考えた。

双虎のいやにキラキラした目の意味を。

 

「・・・?もしかしてたのんでないの?あ、かっちゃんには来ないか。あんなたいどばっかりとってるもんね!ごめんねぇ!なんか!━━━ふっ、かっちゃんもバカだなぁ。12月だけでもいい子にしてないと~。サンタさんなんてチョロいからね、1ヶ月もお手伝いしてればプレゼントくれるのに~ざんねんだねぇ~」

 

そして分かった。

あの時のクソジジイの言葉の意味を。

 

だが、生憎俺はこいつと仲良しこよしの友人をやってるつもりはない。親が仲が良いからこうなってるだけ。

つまりそういう事だ。

 

「はっ、バカだな。サンタなんかいるわけないだろ」

 

俺の言葉に双虎がきょとんとした。

 

「プレゼントはな、親がはこんでんだよ」

 

少しでもショックを受ければ。

そう思ったのだが、双虎は俺の言葉を鼻で笑った。

 

「母さまがプレゼントくれるわけないじゃん」

 

いや、引子さんは間違いなくくれるだろ。

何言ってんだ、こいつ。

それに仮に引子さんがくれなくても、間違いなく溺愛してるあの父親がいる。

 

「父親もいるだろうが・・・・」

「チチオヤ・・・・?ああ、お父さんのこと?いないんだから、くれるわけないじゃん」

「いないわけではないだろ」

「えぇ・・・ずっといないけど?今どこにいるんだっけ?がいこくなのは知ってるけど。まぁ、なんでも良いけど、さっき今年も帰れないって聞いたし」

 

当然だというような双虎の表情に、何故だか少し胸が痛くなる。なんだこの気持ちは。

 

「わたしも友達から聞いたけど、うちに関してはれーがいだから。そういうのないから。サンタさんこないと、プレゼントないから。━━━かっちゃんは母さまの怒りっぷり知らないからそう言うんだよ。良いよね、みつきさんは優しくてさ。私なんて、ぐうで殴られるからね!この間も、ちょーーーっとだけ遠くさんぽしただけなのに、こう、ごちーんってやられたからね。いたかったなぁ」

 

ちょっとってお前、県二つ跨いだ先まで行ってたろ。

俺まで1日中探し回る羽目になってんだぞ。

 

「あの時、言われたもんね。サンタさんに一年あったことぜんぶおしえるぞって。あれはピンチだった。ヤバかった。あんなに怒られてるのばれたら、プレゼントもらえないからね。よかったよ、母さまとめられて」

「・・・・ああ、そうか」

 

もう言葉が出ねぇ。

 

ケーキを幸せそうに頬張り始めた双虎を見て思った。

もう暫くそういう事にしておいてやろうと。

多分こいつの元には、今年もサンタが来る事になるんだろうから。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「眠ったかな?」

 

私の言葉に背後でプレゼントを抱える二人が頷いた。

 

「大丈夫よ。二人とも食べた後はよく眠るでしょ」

「うちの馬鹿は一度眠ったら余程の事がなければ起きませんから、心配しなくても大丈夫ですよ。それより勝己くんの方が━━━━」

「勝己も大概鈍いんで、全然大丈夫ですよ」

 

話が長引きそうだったので、そっと口元に人差し指を当てて見せる。そうすると二人が苦笑いを浮かべて口を閉じた。

 

それから音を立てないように扉を開け、中へとは入る。

部屋の中で聞こえるのは静かな二つの寝息だけ。

どうやらちゃんと眠っているようだ。

 

勝己のベッドを覗けば、仲良く布団にくるまった二人の姿があった。━━━いや、正確には勝己の体は布団から半分出てしまっているけど。

 

「こうして大人しく眠っていてくれると、可愛いだけなんですけどね」

 

溜息交じりの緑谷さんの言葉に、思わず苦笑が溢れてしまう。

 

「まぁまぁ、今はそういうのは忘れましょう」

「そう、ですね。はぁ、まったく・・・それにしても、こんな物欲しがって・・・女の子なのに・・・・」

 

緑谷さんが抱えているのは双虎ちゃんのリクエスト通りのゲーム機。素直に買ってあげてしまう所を見ると、緑谷さんがどれだけ双虎ちゃんを可愛いがっているのか見てとれる。日頃厳しくしているからこその甘やかしなのかも知れないけれど。

 

「良いじゃないですか。ちゃんとお願いしてくれるだけ。うちなんてスレちゃって『プレゼントなんていらねぇ、ガキじゃねぇんだ』なんて言う始末なんですよ?」

「勝己くん大人ですね」

「ガキですよ、クソガキ。イキッテるだけですから。貰えるんだから、素直に欲しい物言えばいいんですよぉ。まったく可愛げがない」

 

光己が抱えているのはいつか買い物に出掛けた時、勝己が物欲しそうに眺めていたオールマイトの限定パーカーだ。サイズは少し大きめだけど、きっと喜ぶ事だろう。顔には出さないかも知れないけど。

 

「さ、プレゼント置いて行きましょうか?」

 

二人からプレゼントを受け取り、それぞれの枕元へと置く。寝相に可愛いげがあれば、朝起きたらプレゼントが一番に目につくだろう。

 

寝息を立てる二人に布団を被せ直し、私たちは部屋を出た。

 

 

「━━━さて、今夜の仕事も終わったし、飲み直しますか?」

「貴方は寝てて良いわよ?明日は運転して貰わないといけないしね。私は緑谷さんと、もう少し飲むから」

「ええ?!そうなんですか!?あ、いえ、飲めない訳ではないんですけど・・・」

 

緑谷さんが無理をしているのであれば止めようと思ったけれど、その表情はどちらかと言えば私に遠慮してるように見えた。げこな私に気を使っているのだろう。

光己を見れば任せろと言わんばかりにウィンクしてくる。

 

なので私は先に眠らせて貰う事にした。

女二人で、というのもたまには必要だろう。

男がいては出来ない話もある。

 

翌日の予定を考えながら床につき、目を閉じた。

遊園地のイルミネーション混んでいなければ良いが、そんな淡い思いを抱えながら。

 




読んでくれた皆に、メリークルシミマス━━━あ、間違えた。

メリークリスマスやで。


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のまのましてるかぁ!いえーい!のまのましてるかぁぁ!いえーい!のまのましてるのかああぁぁ!!いえーい!!これより第一回、雄英のまのま祭りやっちゃうよ!!の巻き

明けましておめでとう御座いますやで( *・ω・)ノ

年始から小説書きとか、寂しい限りやなわいは。
あれ、おかしいな、目から汗が・・・・。

唯一の救いは帰れる実家があるくらいか。
よし、モチくって寝るで。


時刻はPM6時30分。

群青と朱が混ざり合う空の下。

雄英高校の近く、ひっそりとした路地裏にある居酒屋『三猿』に小さな灯りが灯る。大人達が集うには少しばかり早いその時間だけど、店の中は景気の良さげな声が響いていた。

 

「本日はオールマイト退院祝い兼、一学期お疲れ様でした会にお集まり頂きありがとう御座います。僭越ではありますが、乾杯の音頭は私13号が務めさせて頂きます。皆さーんコップは持ちましたかー?」

 

「いぇーい!」

 

「「いぇーい!!」」

 

貰ったコップを高く掲げ『いぇい』すると、比較的ノリの良いラジオ先生とミッドナイト先生が『いぇい』返ししてくれた。良いね。そういうノリは素敵だよね。

 

「はい、皆さん準備万端という事で。では早速、乾杯の音頭を取らさせて頂きますね。カンパ━━━━」

 

「・・・・待て、13号。俺はまだ納得してないぞ」

 

冷めた声に全員の視線がそこへと集まる。

声をあげたのは僕と私と皆の包帯先生だった。

それも珍しく全身タイツじゃない。普通の服着てるバージョンだ。レアである。

 

「先輩、あの、何が?」

「言わんでもわかるだろうが」

 

動揺混じりの着込み伯爵の反応に、ノリの悪さに定評のある包帯先生はビシッとかっちゃんとお茶子、それと轟と眼鏡を指差して続けた。

 

「こいつらが、参加している事に、だ」

 

私はそっと隣を見た。

綺麗に並ぶかっちゃん以下友人達を。

 

「だってさ、皆残念だったね」

「てめぇも言われてんだよ」

「なにおう!?」

 

私まで排除しようとは何事かと、包帯先生に視線を送った━━━━けど、怖かったのでガチムチに視線を送る。

すると凄い苦い顔をしてきた。まるで説得に失敗したかのような顔だ。任せろと、言っていたのに。

 

「ガチムチ!!」

「━━━緑谷、先生をつけろ」

「はい!包帯先生!!━━━ガチムチ先生!どういう事ですか!?焼き肉延期する代わりに、今日の飲み会で焼き鳥食べ放題を約束してくれたのに!!ここまで来て食べないで帰れと言うんですか!?夕飯食べて来てないのに!酷い!!ホッケとわんこはまぐりは嘘だったんですか!!?」

 

私の声にガチムチは乾いた笑い声をあげる。

 

「まぁ、好きに食べて良いとは言ったけど、食べ放題とまでは約束した覚えはないんだけどなぁ・・・・あ、いや、食べたかったら頼んでも良いよ。そんな顔しないで」

「やったぁぁぁ!!ふぅーー!」

 

喜びに歓喜したら、今度はガチムチに包帯先生から鋭い視線が飛ぶ。

 

「オールマイト」

「ご、ごめん。でもね、相澤くん。彼女も今回は、本当に頑張ったから・・・ね?それに飲ませたりしないし・・・」

「頑張ったのは認めます。飲まないのも当たり前です。ですが、それとこれとは話が別でしょう。生徒と飲み屋にいく教師が何処にいるんですか?以前から思っていた事ではありますが、貴方は━━━━」

 

お説教か始まりそうな雰囲気にミッドナイト先生が立ち上がる。

 

「はいはいはい!!止め止め!楽しい席が台無しになるでしょう!イレイザーもオールマイトも止め!ほらっ、13号、乾杯っ!」

「はっ、はい!カンパーい!!」

 

「「「「「カンパーイ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡る事数時間前。

焼き肉を渋るガチムチから聞き出したどうしても外せない用事の内容は、ガチムチの退院祝いにかこつけた先生達の飲み会だった。

私は生まれついてのエンターテイナー、皆のアイドル緑谷双虎。そんな話を聞けば当然行かない訳にはいかない。ミッドナイト先生が行くと言うなら、益々以て行かない訳にはいかない。寧ろ待っているに違いない。

よし、サプライズしなくちゃ。

 

そんな訳でガチムチを説得し、皆でワイワイ付いてきて今に至るわけなのである。

 

「おっちゃん!わんこはまぐり!私、わんこはまぐりぃー!!お茶子もやる?!わんこはまぐり!」

「私はええよ」

「わんこはまぐり、いっちょうぷりーず!!」

 

始めこそ包帯先生が良い顔をしなかったが、始まってしまえばこちらの物で、私は大人達の影で思う存分飲み会を満喫していた。

 

はまぐりを待ちながら焼き肉を頬張っていると、前に座っていた轟と視線があった。

 

「・・・はまぐり好きなのか?」

「いや、別に?特別好きではないかな。━━━ただ、前に父が自慢してたから、ちょっと気になってたのはあるけど・・・ていうか、父め。いつになったらカニ食べ放題連れてってくれるんだ」

「そうか。カニ残念だったな」

 

それだけ聞くと轟は眼鏡の方へと向いた。

話の区切りとしてイマイチだったのでてっきり続きがあるのかと思ったけど・・・どうも違うらしい。話終わりらしい。

相変わらずだなぁと眺めているとお茶子が声を掛けてきた。

 

「それはそうと、ホンマにええの?その、なんてゆーか、色々と。お金の事もそうやけど、先生とこういう形で食事会とか、あかん気がするんやけど」

「ええ?なんで?大丈夫でしょ?厳密には小料理屋だっていうし。ガチムチもOKって言ったし」

「あれは言わせたって、言うんやと思うけど」

 

不安そうなお茶子を安心させる為ガチムチに再確認しようとしたけど、なんか酔った包帯先生に捕まっているので止めておく。

こっちまで絡まれたら面倒臭そうだし、お説教されそうだし。触らぬ包帯先生に説教なしだからね。

 

「ハァイ!皆飲んでるかしら?!」

 

ガチムチと包帯先生を眺めていたら頬を赤らめたミッドナイト先生が現れた。酒臭い。

 

「ミッドナイト先生、私が飲んでたら流石に不味いと思いますけど」

「あははは!それもそうね!飲んでないようで何よりだわ。っと、爆豪くんちょっと隣開けてね?はい、どーん」

 

「あ?━━━っが!?」

 

ミッドナイト先生のお尻で押し出されたかっちゃんは、変な声をあげながら呑兵衛達の魔窟へと押し出される。そしてあっという間に酔っ払い達の群れの中へと沈んでいった。

 

空いた場所には当然のように、どっしりとミッドナイト先生が腰を下ろす。

 

「ふふん。それより緑谷さん、貴女何処まで進んでるの?」

 

ミッドナイト先生の楽しげな視線が私を見てる。

何の事か分からなくてお茶子を見たら、心当たりがあったのか思案顔だった。なんか「あかん感じになってきた」とか言ってる。

 

「何処までって、何が何処までなんですか?ミッドナイト先生」

「だーめっ、折角の楽しい会でそんな他人行儀な呼び方は。(ねむり)ちゃんって呼んで」

「うっす。じゃぁ、ねむりちゃん先生。何の話ですか?」

「何って、爆豪くんとの事よ」

 

一瞬何を言われてるのか分からず、きょとんとしてしまう。周りの喧騒を聞きながらねむりちゃんの言葉を反芻し、漸く言葉の意味を理解した。つまりはそういう事だ。

 

「あの、ねむりちゃん先生。かっちゃんとはただの幼馴染で・・・・」

「えぇぇー?だってこの間お泊まりしたんでしょ?」

「お泊まりはしたけど、でもあれは━━━━ふぁ!?」

 

説明しようとしたら、ねむりちゃん先生に背後に回られ、がっしりおっぱい鷲掴みにされた。

しかも滅茶苦茶揉んでくる。

 

「貴女ねぇ、こーんな立派なもの揺らしてさ、男の子の部屋に一晩お泊まりして何もないは嘘でしょ?」

「あっ、ひょっ!?ひゃっ、うひっ、くすぐったいってば!ちょっ、ねむりちゃん先生!?」

「ねぇねぇ、本当の所はどうなの?本番はないにしても、ちゅーくらいはしたんでしょ?」

「にゃはははっ!?ちゅ!?ちゅー!?してにゃい!からひゃははは!!ちょっ、お茶子ぉぉぉ!助けてぇ!」

 

何とかお茶子に救出要請したが、そっと目を逸らされた。こういう時、なんのかんのと助け船を出してくれるかっちゃんはまだ大人達に揉みくちゃにされてる。

結局酔っ払いのねむりちゃん先生を止める者はおらず、おっぱい揉み揉み地獄は続いた。

 

「ねぇねぇ、どうなの?デートとか、普段はどうしてるの?前にSNSで噂になってたけど、地元デートはしてるんでしょ?ご飯行ったり、ゲームセンターに行ったり、夏祭りも一緒に行ったらしいじゃない」

「えぇ!?いや、あれはデートじゃ━━んっ!?あっ、駄目だって、ねむりちゃん先生!そこはあかん!そこはあかん!」

「ふふふっ、麗日さんみたいになってるわよ?何処があかんのかなぁ?」

 

この酔っ払いめ、全然止める気ないな。

 

擽ったさに身を捩りながらどうすれば良いか考えていると、目の前に座る轟と目があった。渾身の気持ちを込めて助けて視線を送ると機動戦士トドロキンが立ち上がってくれる。

 

「ミッドナイト先生、そろそろ━━━」

 

トドロキンが制止の声を掛ける瞬間。

ねむりちゃん先生におっぱいぎゅっと持ち上げられた。ジャージにおっぱいの形がくっきり浮かぶ。

 

「それにしても緑谷さん、良いもの持ってるわね。ぽよんぽよんよ。それに張りもあるし、グラビアアイドル顔負けね」

「━━━━っ!!!」

 

「轟くん!?だ、大丈夫かい?!」

 

揺れるおっぱいに視線をやった機動戦士トドロキンは、急に顔を背け踞ってしまった。

眼鏡が慌てた様子で介抱に向かったが、どうも撃沈したみたいだ。畳に赤い点々が見える。

 

色々と言いたい事はあるけど、取り敢えずこれだけ。

なんたる役立たず。

 

「あら?悩殺しちゃった?やるわね、緑谷さん」

「私のせいにしないで下さいよ。ねむりちゃん先生のせいじゃん」

 

おっぱいを揉むのも飽きたのか、轟の惨状を見たねむりちゃん先生は漸く手を離してくれた。

 

「いやぁー久しぶりに良いもの触らせて貰ったわ。若さって良いわね」

「お金取りますよぉ」

「あら、有料なの?それじゃぁね、帰りにアイス買ってあげるわ」

 

安いなぁとは思ったけど、夕飯も奢って貰ってる形だから文句は言わないでおいた。まぁ、出来るだけ高いアイスは買って貰おうとは思うけど。

 

「でもねぇ、緑谷さん。悪い事は言わないけど、貴女はもう少しちゃんと周りの事見てあげなさい」

 

少しだけ真面目なその声に、私は視線を向けた。

ねむりちゃん先生の横顔は少し寂しげで、何かを思い出してるみたいに見える。

 

「私も学生の頃は沢山恋愛したけど・・・やっぱね、愛するより愛してくれる人を探すべきだったと思うのよ」

「はぁ」

「それはね、今の生活に満足はしてるわよ?ヒーローは夢だったし、教師の仕事も遣り甲斐はあるし。でもね、どうしても思ってしまうの。あの時、彼の手をとっていたらどうなったかって・・・・」

「はぁ」

 

ねむりちゃん先生が染々話し始めて少した所で、わんこはまぐり一杯目がやってきた。なのでお茶子をねむりちゃん先生の所へスライドさせ、私は至福のはまぐりタイムに移行する。お茶子が救出要請してくるけど、さっきの恨みがあるので無視しておく。

 

おっちゃん、はまぐりおかわりぃ!!

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

飲み会が始まってニ時間。

お酒の飲めない私は混沌とした飲み会の惨状を眺めながら、相澤くんに説教されていた。

 

「大体ですね、貴方は本当に、教師というものを・・・・」

「相澤くん、それ私じゃないよ?」

 

とは言っても相澤くんはずっと店の飾りの達磨に話し掛けていて、説教とも思えないほど同じ言葉を繰り返してるだけなのだけど。

 

「?オールマイト、妙な話し方をしますね。声が遠い」

「オールマイトは君の後ろにいるよ」

「またご冗談を」

 

あーうん。もう駄目だね。

飲み始めにマイクが相澤くんはお酒に弱いと言っていたけど、まさかここまでとは思わなかった。

 

取り敢えず水でも飲ませようかと思い、店員さんを呼ぶ為に手をあげた。けれど、場は既にそういう雰囲気ではなく、ノリノリな彼女によってカラオケ場に変わっていた。

 

そう、私が連れてきてしまった緑谷少女である。

 

「メイクッ、マイッ、ストーリー!!僕がぁゆいつー、僕でーあるー為のーーー!」

 

歓声を浴びながらマイク片手に歌う彼女は、とても楽しそうにその美声を披露している。山のようにはまぐりを食べた後とは思えない元気ぶりだ。はち切れそうと呻いたあれは何だったのか。いや、寧ろお腹一杯まで食べたからあの元気なのかも知れない。

 

「オールマイト」

 

声に振り返ると爆豪少年がいた。

随分と皆に前日の件でからかわれたのか、服装とか髪型とかちょっとボロボロになっている。

ぼんやりとしか聞いてなかったが、可哀想に。

 

そんな爆豪少年は何も言わず隣に胡座をかいて座った。

 

「その、災難だったね・・・・」

「あんた程じゃねぇ」

 

こっち見てたのか・・・・。

いや、まぁ、途中までは大変だったけど。

 

「えっと、何か飲むかい?」

「いらねぇ」

 

こ、言葉が続かないなぁ。

何も言えずぼやーっと横目に緑谷少女を見ていると、飲み物を口にした爆豪少年が口を開いた。

 

「俺は、あんたを越える」

 

短い言葉ではあったが、それは思いの籠った言葉だった。

 

「そうか」

「だから、それまで大人しくしてろや」

 

・・・ふふ、大人しくか。

相変わらず優しさが見えにくい。

 

どう答えるのが正しいか考えたが━━━━考えた所で良い考えが思い浮かばなかったので、素直に気持ちを伝える事にした。

 

「ありがとう、期待しているよ」

「けっ」

 

これから先、爆豪少年があの力を継ぐつもりがあるのか分からない。だがその表情を見れば、彼の手の中に私達の意志が込められたあれが、しっかりと握られているのだろう事は分かる。

 

ならば、後は信じ見守ろう。

後の時代を生きる彼や彼女を。

これからはヒーローとしてではなく、一人の教師として。

 

「爆豪少年、私は━━━━」

「━━━━ガロロッ!!何故、飲み屋に生徒ガァファ!!ガルゥオオオオ!!」

 

突然店の中に獣のような声が響いた。

視線を向ければ入口の所にハウンドドッグを始め、B組の担任であるブラドキングやエクトプラズマの姿もあった。

 

「生徒ガ居ルトハ聞イテナイゾ━━━━ソレモ、ヨリニモヨッテ緑谷達カ」

「んん?おぉ、本当だ。いつもの騒がせA組チームか。何がどうしたんだ━━━━って、お、おい!イレイザー、達磨と向き合ってどうした!?」

 

予定では来ない筈の三人が訪れ、ミッドナイトの鬼カクテルでグロッキーだったマイクが重そうな頭をあげた。

 

「━━━━あぁ、頭痛ぇ。って、おいおい、ゲスト呼んだ覚えはナッシングだぜ?誰が呼んだんだ?」

「僕でぇーーす!僕が呼びましたぁ!」

 

ピョン、と13号が手をあげる。

 

「折角の機会ですから、皆さんとトコトン語りたいと思いまして!!さぁさぁ、こちらにハウンドドッグさん!!ああ、皆さん最初はビールで良いですよね?マスタァァァ!生三つでぇぇ!!」

「イヤ、明日モ朝ガ早イカラ━━━━」

「それとホッケ二つにモツ煮二つお願いしまぁぁす!え?何ですか、エクトプラズマさん!?俺は大ジョッキ!?すいませぇぇぇん!!生一つ大ジョッキでぇぇぇぇ!!」

「13号ッ!オイ!マテマテ!」

 

相澤くんになじられてオドオドしていた最初の彼はもう何処にもいないらしい。

酔いって凄い。

 

「おっしゃぁーー!!人も増えて盛り上がった所で、二曲目行っちゃうよ!!ねむりちゃん先生ぇかもぉん!!」

「OK!やっちゃうわよ!緑谷さん!男は狼だってこと、言いふらしてやるわよ!」

「さー!いえすまむ!」

 

楽しげな前奏が流れ始め、お叱りムードは綺麗に行方不明になり、また混沌とした何かが再開された。

きっと今夜はずっとこんな感じなのだろう。

 

とはいえ、流石に生徒達を最後まで付き合わせる訳にはいかない。

 

「━━━━爆豪少年、私が適当な所で区切ってみせるから、緑谷少女を頼むよ」

「・・・・おう」

 

 

 

 

 

 

結局、緑谷少女を回収するまで後一時間を有し、死ぬほど疲れる事になるのは、この時の私も爆豪少年も━━━━誰も知らない。



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私にはーーーどうしても好きになれない物があるーーーーー!それはぁ、テストぉ、試験ん、発表会ぃ!天才だから、別に苦労はしないけどぉ!苦労とかしないけどぉ!なんか嫌いぃ!!あると思いまぁす!!の巻き

やほ、はくびしんだよ( *・ω・)ノ

皆、もち喉に詰まらせてないかな?大丈夫かな?
あれね、洒落にならんけんよう噛んでくうんやで。

最近めっきり感想にお返事出来んですまんな。
毎度楽しく読まさせてもろうてますが、お返事までの余裕がちょっと足りんねん。体力もやしですまなんだぁ(´・ω・`)



高校生になって初めての夏。

それは一言で言うならば、激動の時であった。

 

怒涛の如く押し寄せたハッピータイム。

皆でバスでワイワイしながらいったプライベートビーチ。因縁の戦いに勝ち越し、ついでに誕プレ貰った夏祭り。Iアイランドへの楽しいプチ海外旅行。先生達とのカラオケ大会。わんこはまぐり。耳郎ちゃんとこっそりいった音フェス。梅雨ちゃん姉弟ズといったプール。A組女子ーズで乗り込み食べた、北海道フェアの濃厚アイスクリーム。お茶子のおもちパーティー。馬鹿スリーwithお茶子で飛び入り参戦したお笑いGP━━三回戦敗退。

 

そしてそれと同じくらい怒涛の如く押し寄せたアクシデント。

宿題。課題。母様からの執拗な家事要求。ゴロゴロに対する母様の妨害キック。母様に占領されしテレビから流れる韓ドラ祭り。母様からのマッサージ要請。夏イベ用ガチャ40連爆死。突然の引っ越し。慣れぬ独り暮らし。募る不安、溜まる洗濯物、散らかったままの部屋。消灯時間という強制睡眠要求。夏の暑さでセーブデータが飛んだプレステ●。誤って踏んづけて割ってしまった、かっちゃんから借りたCD。まさかの課金禁止令。過酷な夏期訓練。押し付けられた掃除当番。ガチムチの体調不良を原因にした、奢り焼き肉無期限延期報告。包帯先生からのOSEKKYO━━━━━━━あ、それとヴィラン騒動。

 

本当に色々あった。

・・・色々あったなぁ。

 

そうして迎えた仮免許試験当日。

二時間程の移動時間を経て辿り着いたのは試験会場『国立多古場競技場』。そこには私たちと同じ様に試験を目的とした人々に溢れかえっていた。

眼鏡に先導されバスから降りた皆は、その光景にそれぞれ緊張を口にする。

 

そんな中私は━━━━絶賛スマホゲームのイベ消化中であった。

 

唸る。私の指が、心が唸る。

石を溜め、後一回だけガチャを回せと唸りをあげる。

延長された夏イベをクリアし、初のSSRを手に入れよと、神様も仏様も母様も三沢光●様もタイガーな二代目様も、きっとそう言っている、に違いない。

 

だから熱くなるのだ、緑谷双虎。

心を燃やし挑むのだ、緑谷双虎。

 

「頑張れ私!止まるんじゃねぇぞおおぉぉぉ!!」

「いつまでスマホ弄ってるんだ、大馬鹿」

「━━━━ぃったい!?」

 

後一ステージクリアという所で包帯先生に頭をひっぱたかれた。意識外からの痛烈な突っ込みはめちゃ痛かった。効いた。知能指数8は減った。

 

痛みに悶絶してると、いつの間にか私のスマホは包帯先生の手のひらの上に。

あまりの早業にふたにゃんびっくり。

 

「包帯先生返してぇ!後5分だけだから、いや、後3分だけだからぁ!!」

「5分でも3分でも同じだ。これは試験終了まで俺が預かっておく」

「なん、だと・・・!?」

 

私は絶望した。

天才の中の天才たる私はちゃんと覚えていたのだ。

出発前に配られた今日の日程表を。

 

そこにはこう書かれていた。

試験終了予定時刻、午後4時半と。

 

私は訴えた。本当に一瞬で終わる事なのだと。14時にメンテが始まったら全てが終わってしまう事を。初めてのSSR入手チャンスなのだと。イベクリアの報酬で石も手に入れば、ガチャでもうワンちゃんもあるのだと。あれもそれも出発前にウザ絡みしてきた物真似太郎が悪いから、あいつに全ての罪の贖罪をさせて良いからと。

 

そう気持ちを込めて頑張って伝えると、包帯先生はいつもの無表情でこう返してきた。

 

「知らん」

 

無情な言葉に「後生だからぁ!!」とお願いしたが、包帯先生は私のスマホをポケットにしまい「後生はもっと別の機会に使え」と試験会場に向けて歩き出してしまった。返す気が微塵も見えない。

 

地面に突っ伏して項垂れていると、包帯先生の足音が止まった。

 

「あーー、一つ言い忘れた。馬鹿のせいで気が緩んだ奴がいるかも知れないが、それは今改めろ。これから君らは、君らより訓練期間の長い生徒達と競わなければならない。重ねた経験も、鍛えた体も、磨きあげた技術も、君らより長く年月をかけ身につけた生徒達だ」

 

 

「━━━だが、俺は君らが特別劣っているとは思っていない。全てではないが、俺達雄英教師は出来うる限りの技と知恵を与え、体づくりに尽力を重ねてきた。不本意ではあるが、君らは一足先にヴィランとの交戦した経験もある」

 

 

「この試験に合格し仮免許を取得出来れば、君ら志望者は晴れてヒヨッ子。セミプロへと孵化できる。━━━━頑張ってこい」

 

 

皆が大きな声で返事するのが聞こえる。

私にはそんな元気残ってないのでやらないけど。

 

「ニコちゃん、置いてかれるよ?」

 

涙がちょちょぎれそうになっていると、お茶子が慰めるように声を掛けてきた。からっとした笑顔を見せてあげたいけど、今はマジ無理ぽよ。マジつらたん。

 

「気持ちは分かる━━━とは言えんけど、気持ち切り換えてやらんと。仮免許試験、一発で合格するんやろ?伝説残すんやろ?」

「せやけど・・・・」

「ニコちゃん、言うほど落ち込んでへんやろ」

 

疑いの眼差しを向けてくるお茶子から目を逸らすと、こっちに歩いてくるかっちゃんと目が合う。

生意気にも、なんか呆れた顔してくる。

 

「おい、馬鹿女。いつまで道の真ん中で丸まってんだ。どけや、邪魔だ」

「うっさい、はげろかっちゃん」

「んだと、こら」

 

落ち込んでる可愛い過ぎる女の子に、なんて声をかけるのか。本当駄目だな。かっちゃんは本当駄目だな。そういう所だよ。そういう所。

だからお前は彼女も出来ないで、まだ素人童貞なんだよ。ざまぁ。

 

そう馬鹿にしてやったが、それでもまだなんか言ってくるかっちゃんにムカッとしたので、取り敢えずスネを一回ひっぱ叩いておいた。

 

「緑谷、俺のスマホ使うか?」

 

スッと目の前にスマホが差し出された。

顔をあげたら直ぐ側に轟と百がいた。

轟は相変わらずの無表情だけど、今だけは仏様のような後光が差して見える。

 

「ありがと。気持ちだけは貰っておく。でもいいや。ゲームID控えてないから、スマホ変えてもアクセス出来ないし。意味ないし」

「そうか・・・・悪かった、力になれなくて。今度は覚えておく」

「それは助か・・・・いや、いやいや。他人が普通に知ってたらIDの意味ないから」

「ああ、それもそうだな━━━━」

 

 

 

 

 

 

「どおぉしたですかあああぁぁぁ!!?お腹でも痛いんですかああああぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

突然馬鹿デカイ声が響いてきた。

視線をそこへと向ければドタドタと駆けてくる、笑顔全開な大男の姿が見える。

 

大男はスライディングで私と轟の間に滑りこみ、手を差し出してきた。

 

「どうぞっス!!手を貸します!!」

「はぁ、どうも」

 

嫌な感じがしなかったので手を取ると、変な浮遊感と共に引き上げられた。

 

「薬とか持ってないんですけど!!大丈夫っですか!!」

「大丈夫。てか、別にお腹痛い訳じゃないから。ちょっと世界に絶望してただけで」

「世界に絶望ですか!!よく分かんないっすけど、壮大っスね!!」

 

邪気のない目で壮大とか言われるとちょっと照れる。

夏イベやりたいだけだし。

 

「でも、まぁあ?世界を救っちゃう途中だから?壮大っちゃ壮大だよね。夏イベは世界の海を救っちゃう話だし?」

「世界を救うんすか!!すげぇっス!!自分凄い人と━━って雄英高校の緑谷双虎さんじゃないですか!!自分雄英高校大好きっス!!だから体育祭見てました!!格好良かったっス!!サイン貰っても良いですか!!」

「サイン?私の?・・・ふふん、仕方ないなぁ~」

 

いつも持ち歩いてるマイマジックを取り出した所で、かっちゃんに頭叩かれた。痛い。

 

「何すんのぉ!?」

「何すんのぉ、じゃねぇ。敵といつまでくっちゃべってんだ。馬鹿が。制服見てみろ」

 

かっちゃんに言われて見てみれば、被っていた帽子にデザインされたSの文字が見えた。

 

「・・・・・これは!・・・かっちゃん、なに?」

「わかんねぇのかよ。士傑高校。西の雄英なんざ呼ばれる、難関校の一つだ」

 

流石みみっちい事に他の追随を許さないかっちゃん。

ライバルになりそうな奴等の事はちゃんと調べてるらしい。他にも知ってそう。

 

「自分、士傑高校ヒーロー科一年、夜嵐イナサって言います!!緑谷双虎さん、雄英高校の皆さん!!今日は競いあえるようでとても光栄っス!!どうぞ、よろしくお願い致しまっス!!!」

 

夜嵐と名乗った大男は物凄い勢いでお辞儀した。

その勢いときたら地面に頭を叩きつけ、地面にひびが入る程だった。

 

私は察した。

天才が故に察した。

こいつ馬鹿だと。

 

夜嵐の声とお辞儀で周囲から注目が集まる。

有名な高校なのか、ザワザワしながら士傑と雄英の言葉が飛び交う。

 

そんな中、夜嵐と同じような制服を着た連中がゾロゾロと現れた。

その内の一人が「イナサ」と夜嵐を呼ぶ。

 

「あっ!!先輩!!呼ばれたんで、自分はこれで!!」

「サインは?」

「はっ!!忘れてたっス!!このメモ帳にお願いします!!」

 

ささっと可愛いサインを書いてあげれば、夜嵐は笑顔全開で帰っていった。

なんかめちゃ手振ってくる。

 

あーはいはい、ぷるすうるとらー。

 

笑顔馬鹿な夜嵐が去っていくと包帯先生が戻ってきた。

そして私の頭に徐にチョップをくれると、夜嵐を見ながら口を開く。

 

「・・・夜嵐イナサ、か。またいやなのと同じ会場になったな」

 

呟いた言葉に葉隠が反応した。

 

「先生、知ってる人ですか?」

「別に知り合いという訳じゃない」

 

一度言葉を区切り、包帯先生は続ける。

 

「夜嵐イナサ。昨年度・・・つまりおまえらの年の推薦入試をトップの成績で合格した━━━━にも拘わらず、何故か入学を辞退した男だ」

「推薦入試のトップ・・・!?あっ、でもそれって・・・・」

 

二人の会話を聞き、皆の視線が推薦組に向かう。

私も何となしに轟を見てみた。

パッと見いつもと変わらないのだけど、轟の雰囲気が変な感じになってる。

 

「・・・何かあった?」

「いや、別に」

 

そう言う割にはピリピリした物を感じる。

でもそれ以上何も言う気がなさそうなので、余計な事は言わないでおいた。面倒臭いし。

 

「でも変なやつだな。雄英好きって言ってた割に、入学蹴るってよくわかんねぇな」

「ねー変なの。瀬呂ならおこぼれでも飛び付くのに」

「ああ、俺なら迷いなく・・・・っておい、芦戸。今凄い失礼な事言わなかった?ねぇ?ねぇ、芦戸さん?」

「ヲォ?ワターシニホンゴワカリマセーン」

 

即席芸人コンビが誕生した所で「イレイザー」と包帯先生を呼ぶ声が響いてきた。

見ればカラフルな色合いの服を着た女の人がいた。

 

見るからに包帯先生が嫌な顔をする。

 

「テレビや体育祭で姿は見てたけど、こうして直で会うのは久し振りだな!!」

「・・・・ジョーク」

 

二人を眺めていたら突然私の中で雷が走った。

何か面白い事が始まると、女の直感が告げていた。

だからこんな時の為に用意しておいたカメラとボイスレコーダーの電源を入れて構える。

 

するとジョークと呼ばれた女の人が己れの事を指差し、満面の笑みを浮かべながら言った。

 

「結婚しようぜ」

 

その時、包帯先生の止まっていた恋の歯車が、音を立てて動き出した。

 

「るるるーるるるるーー次回『繋がる気持ち』お楽しみ」

 

 

 

 

 

「緑谷、勝手に予告するな」

「ぶっは!!繋がっちゃうのかよ、うける!」

 



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聞いてあげてよ!言葉じゃない、そこに含まれるパッションを!!そしたら分かる、貴方の事どれだけ好きなのか!!ほら、あんなアマゾンの鳥みたいなキテレツな格好して求愛してるじゃない!結婚したげてよー!の巻き

お久しぶりーやで( *・ω・)ノ

お待た?お待た人いる?
いたら済まんかったな。筆が中々進まんもんでよ。
もうね、面白いくらい仮免編筆が乗らん。
我びっくり。

仕事の忙しさより、そっちのが問題やわ。
構想はあるんだけどね、うん、どないしようか。

あーーー、もう何も考えず、イチャイチャさせたい。



スマイルヒーロー『Ms.ジョーク』。

個性は『爆笑』。

年齢28歳、独身。

 

近くの人を強制的に笑わせて思考・行動を鈍らせ、その隙をついてヴィランを物理的にボッコボコにする肉体派ヒーロー。現在傑物学園にて教鞭を握る教師でもある━━━━━━眼鏡によるWi●i調べ。

 

一時期、包帯先生が所属していた事務所とジョーク先生の所属していた事務所が近く、助け助けられを繰り返すうちに相思相愛の仲になった━━━━ジョーク先生情報。

 

そう、ジョーク先生とは。

包帯先生の、奥さんになる人である。

 

 

 

 

 

「タタタターン!タタタターン!タタタタン、タタタタン、タタタタン、タタタタン━━━━タタタターーン!ターーン!タン、タン、タン、タン!ターーン、ターーン、タ━━━━━ったぁ!!」

「アカペラで結婚行進曲を歌うな」

 

思いっきり頭叩かれた。

痛いなんてもんじゃない、知能指数が10は減った。

 

というか、体罰が問題視されてる昨今、ここまで気持ちよく叩いてくる包帯先生はどうなのだろうか。そろそろ教育委員会に訴えるべきでは無いのだろうか。偉い人に怒られるべきでは無いだろうか。

具体的に言えば、叱れれば良いのに・・・!三時間くらい正座させられれば良いのに・・・!!私みたいにぃ!!

 

包帯先生に恨みを込めた視線を送ったら、その隣にいたジョーク先生と目があった。ジョーク先生は何かを堪えていたようだが、私を見ると爆笑し始めた。

 

「ブハッハハハハハ!!面白い生徒がいるな、イレイザー!体育祭の時から変わった子だとは思ってたけど・・・・良いね!!気に入った!!プロになったらうちの事務所きな!!笑い絶えない最高の仕事出来るよ!!」

「すいません!私には既にバカスリーWithお茶子という帰る場所があるのでぇ!!お断りしまぁす!!」

「タハーーー!!フラレちゃったよ!!ウケる!!」

 

「あれぇ、私完全に組み込まれとる!?」

 

取り敢えず、お茶子はおいておいて。

また爆笑したジョーク先生に視線を戻すと、包帯先生の肩に手を置いて良い笑顔を浮かべていた。

 

「よしっ!そういう事だから、今から行進しちゃうかイレイザー!!」

「してたまるか。どんな流れだ」

「ブハッ!またフラレちゃったよ!!あたしフラれ過ぎだろっ!!」

 

大爆笑したジョーク先生に包帯先生は深い溜息をつく。一見すると嫌そうな顔してるが、恐らく照れ隠しだろう。きっと、本当はちゅーとかしたいのだろう。イチャイチャしたいのだろう。デートとか申し込みたいのだろう。結婚したいのだろう。

 

私には分かる。女子力53万の私には分かるのだ。女子力が高まり過ぎて、もう女神へレベルアップしてるといっても過言ではない私には分かってしまうのだ。

 

確かに包帯先生には恨みがある。

数え切れない程、一杯ある。

スマホを取り上げたり、ゲームアプリ消してきたり、秘蔵のネココレクション画像を強奪してきたり、夏休み潰すとか言ってきたり、ちょっと遅刻しただけで怒ってきたり、掃除当番させてきたり━━━━本当に一杯ある。

 

だけど、これとそれとは別だ。

人の恋路にとやかく言うほど、野暮ではないのだ。

幸せになれるなら、なるのが一番!それでちょっと性格丸くなってくれればなお良し!!

 

だから「応援してますぜ、兄貴ぃ!」と熱い視線を送ったけど、それは無視された。

へこたれないけども。私の為にも幸せになって貰わねばならない。あと、スマホ返して貰わねばならない。

 

「包帯先生!!女の子は冗談でも、どうでも良い相手に結婚しようなんて事は言いません!!ジョーク先生は割とマジめに包帯先生の事好きなんです!応えてあげて下さい!!公衆の面前でプロポーズですよ!どれだけの覚悟で言ったのか!汲んであげて!包帯先生汲んであげて、結婚しちゃって!家庭持って丸くなって、思いっきり腑抜けて下さい!!甘やかして!私を!!」

 

「最後の方に本音が出てるぞ、緑谷」

 

「私の事はどうでも良いんです!!包帯先生!ウケるとか言ってますけど、内心ズタズタですよ!ジョーダンって事にして傷つかないようにしてるんですよ!そんなに強い人じゃないんです!だから責任とって結婚してあげて!後返してスマホを!」

 

「だから最後の方に本音が出てるぞ、緑谷」

 

「私の事はどうでも良いんです!スマホ返して!ほら!ジョーク先生からも何か言ってやって下さいよ!!スマホ返してあげてって!」

 

「本音を隠さなくなってきたな、お前」

 

包帯先生から視線を外し援護射撃を期待してジョーク先生を見ると、顔を赤くしてそっぽを向きプルプルしていた。

包帯先生もその姿を見て、声と表情を失う。

 

「そ、そんなんじゃないから・・・・全部、ジョーダンだから・・・・こっち見ないで」

「・・・・・そうか」

 

・・・・・。

 

「タタタターン!━━━━ったぁ!?」

 

無言で包帯先生に叩かれた。

それまでの比じゃないくらいの威力で叩かれた。

目の前がチカチカした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━それでジョーク、お前がいるという事は」

「あ、ああ、そ、そそ、そ、そうだよ!・・・・おいで皆!雄英だよ!」

 

ジョーク先生の声にぞろぞろと生徒らしき集団がやってきた。

 

「傑物学園高校二年二組。私が受け持つ、可愛い自慢の生徒達さ━━━━━それとさっきのはジョーダンだからな」

「分かってる」

 

その生徒達は雄英という名前を口にしながらヒソヒソ話し珍しそうに眺めていたけど、そのうちの一人が薄ら寒い笑顔を浮かべこちらに向かい歩いてきた。

 

「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね!特に神野事件を中心で経験した緑谷さん━━━━」

 

握手しようとしたのか手が伸びてきた。

思いっきり叩き落としてやったが。

 

「━━━━━と、はは。手厳しいな」

「そう?一応これでも、相手は選んでるけど?私はファンには優しい超絶美少女高校生だからね。サインしてあげようか?━━━━顔に」

 

笑顔と共にマイマジックを手にすると、エセ爽やかが苦笑を浮かべ顔を横に振った。

 

「いや、それは遠慮しておくよ。これから俺達は試験に挑むライバル同士。流石に競争相手のサインを顔に残しておく訳にはいかないからね」

「遠慮なんてしなくて良いよ。サインが顔にある程度、別に困るような事もないでしょ。ほら顔出しな?誰が見ても分かるように、私のファンだって証拠、顔に刻んじゃおうよ?体育祭もちゃんと見てくれたんでしょ?大ファンじゃん。記念にさぁ」

 

エセ爽やかは笑みを深めた。

目は相変わらず、欠片も笑ってないが。

 

「━━━気持ちだけ受け取っておくよ、緑谷さん」

 

そう言うとエセ爽やかは全然笑ってない目でウインクしてきた。

勿論受け取ったりしない、眼鏡でガードしておく。

 

他のクラスメイトが傑物の連中とペチャクチャし始めると包帯先生からこれから行われる説明会の為にコスへ着替えるように言われた。傑物と別れ更衣室へ向かっていると、お茶子が怪訝そうな顔で近づいてくる。

 

「ニコちゃん、あんな態度取ったらあかんよ。ライバルになる人かも知れんけど、礼儀正しくてええ人やったよ?」

「お茶子のおっぱいめちゃ見てたのに?」

「えぇ!?嘘っ、本当!?」

「舐めるように見てたよ」

「舐めるように!?」

 

お茶子が分かりやすく顔を青ざめさせた。

なんか懐かしい表情、入学したての頃思い出す。

皆忘れてるだろうけど。

 

「うぐっ、僕は違うっ、僕は無実だ」

 

あ、いや、いた。

もう一人だけ。

 

「待て待て、誤魔化すな緑谷。あの人はそんな事してなかったぞ・・・・してなかったよな?いや、してなかった!てか、普通に無礼過ぎだったからな!」

「Oh、キリシマボーイ・・・・」

「なんでちょっと発音良いんだ」

 

もう一人がっつり騙されてる奴がいたようだ。

他にもまだお祭り気分の奴らが目につく。

私もがっつりお祭り気分だが、知っててやってるのと、知らないでそうしてるのは意味が違う。

 

教えてあげようかも思ったけど、本来教える筈の包帯先生が黙りを決め込んでいる。

さて、どうすんべぇか。

 

取り敢えず、切島の肩に手を置き顔を下に伏せた。

 

「んーー反省」

「・・・それは日光のお猿さんに任せておけよ」

 

テキトーに切島のお説教を受け流した後、一応かっちゃんに聞いてみる事にした。

 

「━━━━っという事で、どう思う?かっちゃん」

「━━━の部分言えや。・・・はぁ、まぁ、大体想像はつくけどな。放っとけ」

 

なんやかんや好きにしろや、とか言うかと思っていたのに教えるの反対されてしまった。

ちょっと驚き。

 

「良いの?」

「良いもクソもあるか。教えた所で何か変わる訳じゃねぇ。雄英なんざクソ目立つ名門選んだ時点で、ここの誰も最初からんなこと言われるまでもねぇんだよ。後は、それに見合った実力があんのか、覚悟があんのか、運があんのか━━━━それだけだ」

「・・・・それじゃ普通にかっちゃん落ちそうなんだけど」

「どういう意味だ、こら」

 

一番大事な人間性がさっぱり欠けてるもん。

言ったらショック受けそうだから、態々言わないけどさ。

 

哀れみと共に両手で口を押さえジッと見つめていると、かっちゃんがメチャ睨んできた。その熱い視線から、まるで言いたい事がバレているかのようだ。

 

「なんつー目で見てきてんだ、てめぇは。喧嘩うってんのか、ごらっ」

「喧嘩なんて滅相もない、落ちた時どうやって茶化して、その後どう慰めようか考えてただけだから」

「余計に質がわりぃわ!!」

 

それから男女分かれて更衣室に入り着替え始める。

ニューコスに袖を通していると、装備の一つから紙が落ちた。拾い上げて見てみるとミミズがのたくったような文字が書き込まれていた。きっと発目が寝ぼけながら書いたのだろう。

 

色々ぐちゃぐちゃで何書いてあるのか分からなかったけど、何を伝えようとしてるのかは察しがついた。

書いてあったのは、今朝方まで調整していた装備の使用方法とその注意点だった。

 

「ここで頑張ってとか、そういう事書いてくれたら友達って堂々と言えるのになぁ・・・はぁ、まったく」

 

あいつらしいと言えば、そうなんだけど。

 

最後の装備を装着し、私は皆の元に向かった。

今頃死んだように眠っているであろうお馬鹿な友人に、どんな土産話を持ってかえってやるか考えながら。

 



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睡眠が大切だって気づくのは大体手遅れになってからだから、今の内いっぱい寝とくんだぞ━━って親戚のオジサンが染々言ってました。だから私は寝ます。今っ!え?駄目?の巻き

おひさー( *・ω・)ノ

大分間あいてしまったですが、もうね、どうにもならん。書くペース上がらんし、書く時間ねーし。
はははっ、すまんな。

去年は一日に一投稿なんて事、よく出来てたな。
今は本当そう思いますやで。

あの頃はいかれてたんや。
これが本来の僕や。うん。


ささっと着替えも終わり皆で説明会の会場にやってきた私が見たものは、同じく仮免許を取りにきた受講者の姿だった。

イケイケな雰囲気なら茶化して乗せて祭りにする所なのだが、流石に今日はそういう雰囲気ではないので止めておく。ピリピリし過ぎて怖いナリ。

 

とはいえ、ただ待ってるのもアレなので、おニューのヒーロースーツの自慢をする事にした。主に初期から殆ど装備の変わらない、ノーセンスなかっちゃんに。

 

「見よ!!これぞ、ニュー私っ!!最強無敵美少女ヒーローニコちゃんの進化した姿だぁ!!」

 

真紅のマントをバサッとはためかせ、クロムメッキの小手がついた腕をズバッとやって、渾身の決め顔でビシッとポーズを取ればお茶子達が感嘆の声と共に拍手してくれた。

うむっ、よきにはからえ!

 

かっちゃんにめちゃドヤってやろうと顔をあげると、かっちゃんの隣にいたアホ面してる上鳴と目があった。

 

「━━━っても、緑谷のコス訓練の時に見たけどな」

「しゃらっぷ!!アホビリビリ!発目の事ナンパしてこっぴどくフラれた事言いふらすぞ!!」

「今まさに言いふらしていらっしゃるのですが!?」

「お茶誘ってティーバッグ渡された奴が━━━なんだってぇ!?」

「止めてぇ!心を抉っていかないでぇ!!」

 

しれっと粋じゃない事を言った上鳴は成敗。

女子ーズからサイテー呼ばわりされ始めた上鳴は放っておき、今度こそかっちゃんにドヤってやった。

 

スーツこそ加工しているとはいえお古だが、その他の装備は殆どが新品の新作だ。ブーツやポーチ、このはためくマントも以前より改良を施した発目による特注品である。首にぶら下がるゴーグルは開発が間に合わなかったので、今はただのお洒落だが。

 

かっちゃんには特に自慢したかった新しく装着した小手をカチャカチャして見せてやる。

どうだ、格好良いだろう?ここをね、こうすると━━━はい、格好いい!欲しい?貸して欲しい?あーげなーいー!ドヤァサ!!

 

「アホか」

「っんだとこの野郎!!」

 

私の何処がアホだぁ!!アホって言ったヤツが一番アホなんだから!!バーカ、バーカ!アーホ!!・・・うん?あぁ、ありがと轟。うん、そうだよね、格好いいよね!知ってる!━━━━━━あーあ!こうやって素直に褒めてくれればさっ!それで終わったというのにさ!久しぶりに切れちまったよ、わたしゃ!!皆聞いてぇぇぇぇ!!かっちゃんはねぇぇぇぇ!!幼稚園の時、お昼寝の時間で一回だけ漏らし━━━━っぶなっ!!ナニすんだこらぁぁぁ!!やんのかこらぁ!!日本地図一緒に誤魔化してあげた事ばらすか・・・・あっ、止めてっ。あれは違うでしょ?あれはちょっとあれだもん!北海道に憧れただけで、私は漏らしてないもん!違うっ!あれはっ、あれは違っ、いやぁぁぁぁぁぁ!!お茶子、かっちゃんがいじめるぅぅぅ!!

 

 

 

 

かっちゃんにいたく心を傷つけられた私がお茶子に頭撫でられながら、梅雨ちゃんに膝枕され癒されていると、キーンとした音が鳴った。マイクを使ってるとたまに鳴る、耳に痛いあれだ。

 

音の方へと視線を向けると、酷く疲れた顔したおっちゃんが壇上へとあがっていた。

 

「えー・・・ではアレ、仮免のヤツを、やります。あー・・・僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。よろしく」

 

よろしくという言葉に誰も返さない。

優し過ぎて気のきく私は「よろしくーー!好きな睡眠二度寝ーー!」とちゃんと返しておいたが。

 

「・・・あー、一人凄い元気な子がいますねぇ。元気ですねぇ。若いって良いですねぇ。僕も二度寝は好きです・・・・もうずっとやれてませんが。・・・・ああ、眠りたいなぁ・・・・仕事が忙しくてっ、ろくに眠れなくてっ、それもこれも、人手がいないから・・・・眠りたい」

 

その素直な吐露に、私のハートがいたく揺さぶられる。

その気持ち超分かる、と。

 

「はいはいはーーい!私も早く帰ってゴロゴロしたいでぇぇぇす!!」

「何処の誰かは分かりませんが、度々お返事ありがとうございます。僕も・・・・そう、思います」

 

そう弱々しい笑顔が返えしてくれた同志目良っちを心の中で応援してると、別の所から元気な声が聞こえてきた。

 

「はい!!自分もっ、寝るのは好きッス!!試験終わったら爆睡出来るよう、全力で頑張りまッス!!」

「はい、また何処の誰かさん、ありがとうございます。ですが、そろそろ本題に戻りたいので、お返事は大丈夫ですよ・・・・長引くと、寝られる時間減りますし」

 

そう言えばそうな。

そう思った私は言われた通りお口チャックする。

目の下に熊を繁殖させた同志目良っちは静かになった会場を眺めて━━━続けた。

 

「えぇ、色々とずれてしまいましたが━━━━━ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

 

会場が僅かにざわめく。

 

「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降ヒーローのあり方に疑問を呈する向きも少なくありません。まぁ・・・一個人としては・・・・動機がどうであれ、命懸けで人助けしている人に何も求めるな、は現代社会において無慈悲な話だと思う訳ですが・・・」

 

ちょっと隣を見てみた。

色々求めまくってそうな、かっちゃんを見てみた。

穴があくまで見てやった。

 

「・・・ぶっ飛ばすぞ」

「キャーコワイー」

「本当にぶっ飛ばすぞ」

 

これ以上見つめているとマジで殴ってきそうなので、視線を目良っちへと戻す。

 

ひゅーひゅー目良っちー!かっこいいーー!

 

「はい、声援、ありがとうございます。・・・ですが、次うるさくしたら、追い出しますよー・・・。えー、とにかく、対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助・敵ヴィラン退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決までの時間は今、ヒくくらい迅速になってます。君たちは仮免許を取得しその激流の中に身を投じる。そのスピードについて行けない者はハッキリ言って厳しい。よって試されるのはスピード」

 

スピード。

私は走る事が得意なのに走りメインな障害物競争でしょっぱい順位をとった眼鏡を見た。

穴があくまで見てやった。

 

「緑谷くん、前を見たまえ。前を」

「眼鏡、あんまり気負っちゃ駄目だからね?自然体でいこう。大丈夫、皆そんなに期待してないから。スピードなんて気にしないで、眼鏡なりに頑張れば良いんだよぉ?」

「・・・人を煽らせたら天下一だな君は」

「いやぁぁ、へへ」

「なんで嬉しそうにするんだ!?褒めていないからな!?」

 

続く「条件達成者は先着100名とします」との説明を聞いた所で話聞くの飽きたからスリープモードに移行、それからは夢うつつでやり過ごした。起きたら説明会が終わったのかざわざわしてるので、お茶子にそれとなく聞いたら呆れた顔された。

 

「ニコちゃんは基本的にアホなんやなぁって、こういう時心底思うわ」

「なにおぅ!」

 

係りの人から試験に必要な道具を貰いながら、私はお茶子から試験内容を教えて貰った。何でも受験者は体の何処にでも良いからマトを三つ張り付けて、それにボールを当て合うゲームをするらしい。

自分のマト三つが敵のボールに当てられれてしまえば失格。自分が失格になる前に、誰か二人の所持するマトをスリーアウトにして失格させれば合格なんだとか。因みにスリーアウト目、つまり止めの一撃を取ればそれで良いらしい。つまり、手柄横取りOKという事。

 

・・・・うん、これは勝ったな。

 

「ニコちゃん、そこは止めといた方がええと思うけど」

 

余裕綽々にマトを付けていたら、お茶子から注意を受けてしまった。何処か変な所ある?とポーズを決めて目で訴えたら「誤魔化されへん」とツッコミされてしまう。

 

そんなにおかしいだろうかと、私は体を見下ろした。

視界に入ってくるのは染め直した深緑の綺麗なスーツ。それと胸の先端の所につけた二つのマトと、お腹よりちょっと下につけたマト。

 

「・・・当てにくいでしょ?」

「かもしれんけども」

 

こんな所嬉々として狙ってきたら、いかに弱肉強食な試験中とはいえ投げたそいつはモラルを疑われ兼ねない。周りにどんな目で見られる事か。きっと、皆そんな変態を許さないだろう。

そうこれは、人の心理を利用した鉄壁防御ポイントなのだ。

 

「緑谷、止めといた方が良いと思うよ」

 

お茶子に有用性を説明していると、耳郎ちゃんが声を掛けてきた。面白味のない所についたマトが目につく。

寧ろその付け方はどうなのかと言おうとしたのだけど、耳郎ちゃんが自分の後ろを指差すのでそっちへと視線を向けて━━━━━げんなりした。

 

「はぁ、はぁ、合法・・・・合法で狙える・・・」

「ば、バカ野郎。峰田、仲間・・・・だぞ・・・仲間・・・・でも、一発くらいなら・・・」

 

そこには涎を垂らす小さい変態と、フラれるのが日課みたいになってるアホな思春期小僧がいた。

 

「・・・・緑谷、あんたの作戦には一つ欠点がある」

 

人差し指をビシッと突きつけ、耳郎ちゃんは口を開いた。

 

「ああ、いうヤツ、割といる!!」

 

いるーーー、いるーーーー、いるーーーーー。

 

耳郎の言葉が山彦する中。

小さかったが、それは聞こえた。

 

幾つかの舌打ちする、それが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「耳郎ちゃん・・・わたしべつのとこにつけゆ」

「そうしな」

 

また舌打ちが聞こえた。

 

こっ、怖い、ここ怖い。

こいつら、ヒーロー目指してんじゃないの!?

怖いよ、モラルなきこの時代が怖い!

 

 

「助けて、包帯先生ぇ!!」

 

 

そっとここにはいない先生に助けを求めたら「後で説教だ」とキレの良いツッコミが返ってきた━━━気がした。ここに包帯先生はいない。よって聞こえる筈がない。という事で取り敢えず聞かなかった事にしておく。

 

よーし、双虎にゃん頑張っちゃうぞー!

 

「それでは、試験開始十分前になりましたので、試験会場へ案内します━━━━━」

 

そんな弱々しい目良っちの声と共に天井が真っ二つに割れ━━━━その光景が目の前に広がった。

 

「━━━何処で戦っても・・・何処へ逃げても・・・何処へ隠れても自由です。皆さんのプロへの道、その第一歩、知恵と勇気と運を尽くし、頑張って踏みしめて下さい」

 

屋内の筈のそこには、太陽の光が差し込む荒れ果てた岩場が広がっていた。

よく見れば岩山はあるし、少し離れた所には場違い感漂う工場やビル群、途中で途切れてる陸橋や何処にでもありそうな商店街とか、そんな建物が乱雑に並んでいる。

でも外ではない。よく見渡せばドーム場の壁がこの場所を囲っているのが見える。観客席もあるし・・・・ひっ!?包帯先生がいた!!こっち見てる?見てない━━━いや、見てる!!めちゃ不機嫌そうに見てる!!

 

ど、どど、どうやらここが、試験会場という事らしい。

 

「━━━では健闘を祈ります」

 

それぞれが、それぞれの思いを乗せた仮免許試験。

そのスタートが目前に迫ってきていた。

 

「お花摘、今からじゃ無理かな・・・」

 

突然の尿意と共に。

 

「だから着替える前にゆーたのに・・・・」

「アホだな」

「ニコがアホなのは知ってた」

「ニコやんはアホ。私はこの説を強く押します!」

「緑谷さん・・・はぁ」

「ごめんなさい、緑谷ちゃん。擁護出来ないわ」

 

しょ、しょーがないじゃんかぁ!!

あの時は大丈夫だったんだもん!

 

それにこれは包帯先生が・・・くそぅー!

やったらぁーなぁ!

一抜けして、駆け込んでくれるわぁぁ!!

 

いやっ、何処にとは言わないけど!!



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さぁ、戦いの火蓋は切って落とされた。皆であれを言おう!始まりのぉー鐘がなるなり法隆寺ぃー・・・・ん?何か違う気がする?の巻き

反省なんてしない(*´ω`*)

ずっとそう、決めてきたじゃない。
ねぇ。



んな事より、ヒロアカが烈火の炎みたいになってるやん。どゆこと。


「・・・・・イレイザーあのさ・・・あ、いや。やっぱり、なんでもない」

「・・・・そうか」

 

生徒達を送り出し、会場の観客席に移動してから暫く。

妙に大人しいジョークと試験会場を眺めていると、会場の中央にあった箱形の建物が開き、受験者達の姿が現れた。つい先程、うち一番の問題児の声が響いていたから察しはついていたが・・・・あの馬鹿。

 

「あとで説教だな」

「せ、説教っ?わ、悪い、それは確かにな、冗談でいう事じゃないのは、分かってたけど・・・でもな、聞いてくれ、そいうのはさ、こう、しらふでとか無理というか」

「ジョーク。分かったから、それ以上何も言うな」

「えっ、う、うん・・・・・・はっ!わっ、分かった!!言わない!」

 

何を分かったのか知らないが、静かにしてくれるならそれで良い。前々からこいつの冗談には辟易させられていた。その一言で言葉を飲み込んでくれるなら、面倒でなくて良い。これからもそうであってくれれば━━━

 

「・・・・っ!?」

 

━━━背中がぞくりした。

 

違和感に目をやれば頬を赤らめたジョークの姿があった。何故かこちらをチラチラと覗いてくる。

時折目につくやけに熱っぽい視線に、また悪寒が走っていく。

 

本能がこのまま放置したら不味いと言っていた。

 

「・・・・なんだ?」

「いや、なんでも・・・・お、お前に任せる」

 

何を任せる気だ、ジョーク。

そう言おうとしたのだが、試験開始まで残り五分を報せるアナウンスに言葉を遮られた。

タイミングを逃すと次が少々面倒だ。一先ずジョークの事はおいておき、俺は会場へと視線を向けた。

 

うちの生徒達はその殆どが固まっていた。

爆豪と轟はその個性の関係からか早々に動きを見せ、轟は単独で工場エリアに、爆豪はよくつるんでいる切島と上鳴を引き連れ中規模のビルが建ち並ぶエリアへと向かっている。

一番懸念していた馬鹿はと言えば、会場のど真ん中で偉そうにふんぞり返っていた。

 

「・・・・あの、馬鹿」

「ん?何を見て・・・ああ、さっきの子か。あれは、また随分と目立つ所にいるな。なぁ、今更かも知れないけど、やっぱり教えてやっておいた方が良かったんじゃないか?あの事」

 

そう言ったジョークの顔には笑顔は浮かんでなかった。

やんわりと細められた目や下げられた眉から、ただ純粋に心配しているのが伝わってくる。

 

「必要ない。特にあいつに関しては」

「そうか?でも、ありゃ、鴨にされるぞ。・・・・二十人。今回のイレイザーが引き連れてきた生徒達の数だ。いまだに一人も除籍してないってんなら、気にいってんだろ?違うか?」

 

気にいっている、とは言えない。

実際、問題児だらけのクラスで気に入らない所の方が多いだろう。

物静かなくらいが丁度良いと思っている俺にとって、あそこは少し騒がし過ぎる。

 

ただそれでも、可能性はあるとは思っている。

プロになれる、ヒーローになれる可能性がある事だけは認めてやっているつもりだ。

こいつに答えてやる義務はないが。

 

「別に」

「顔に出てるぞ。照れんなよ、ププッ」

「黙れ」

 

一人クスクス笑ったジョークは会場へと視線を向け、そっと続けた。

 

「雄英潰し━━━可愛い生徒達ならさ、言ってあげれば良いのに。見込みがあるなら尚更。今年も間違いなく起こるよ」

「だろうな・・・」

 

雄英高校に在籍するヒーロー科生徒は他校に比べ、プロヒーローになる為の機会をより多く得る事が出来る。潤沢な資金からくる機材や設備、現役プロヒーローによる適切な講習、数十年を掛けて築かれた豊富な人脈、結果に裏付けされた効果的なカリキュラム。それは過去雄英から輩出されたプロヒーロー達の活躍によって積み上げられた確かな実績と信頼からくる物で、この学校生徒になったが故に得られる特権。

だが、その特権も良い所ばかりではない。特権を得るということはそれだけの人の視線を集める。掛かる期待は大きく、要求される技術も当然高い。雄英体育祭など最たるもので、あれは雄英が持つ特権に対する、応えなければならない多くの人が抱く期待への返しだ。どれだけこちらの生徒が情報という一点で不利になろうとも、開催しなければならない。

 

だがそれは、当たり前の事。

 

「何かを得ようとする者は、それ相応の何かを必要とする」

「━━━んっ?」

 

思わず溢した言葉に、ジョークが少し抜けた声をあげた。先程とは違う視線を感じる。

 

「あいつらが並のヒーローで良いなら、それも良かったんだろうな。あれもこれも伝えてやったんだろう。赤子でも扱うように。だが、あいつらは知った上でここを選んだ。全国でも屈指の雄英高校ヒーロー科をだ。あいつらに目指す場所があるなら━━━━」

 

馬鹿の周りに残った連中が集まり出している。

恐らく最初から何か仕掛けるつもりなのだろう。

状況を把握した上で、不利を知った上で。

 

「━━━━ここは乗り越えなければいけない。自分達の力で。プロを目指すなら、より高みを目指すのであれば尚更だ」

 

見せてみろ、お前ら。

短い間とはいえこの約五ヶ月、これまで何を目指して、何を考えて、何をしてきたのか。

ここにいる節穴共に。

 

「理不尽を覆していくのがヒーロー。そもそもプロになれば個性を曝すのは前提条件。ジョーク、悪いがウチは他より少し先を見据えてる」

 

 

 

『試験開始一分前』

 

 

 

アナウンスの声が響いた。

緊張が周囲に漂い始める中、ジョークはまた笑い声をあげた。いつものように、楽しそうに。

 

 

「━━━━━はぁーあ、こりゃ、当分振り向いてくれそうにないな。ちょっとは期待したんだけど・・・・なぁ、イレイザー。気づいてないかも知れないけどさ、お前今、凄い楽しそうな顔してるからな?」

 

 

思ってもない言葉に思わず顔を触った。

触れた感じだけで言えば、いつもと変わりがあるとは思えない。だがジョークの様子を見れば、からかっているだけというのも・・・・。

 

『試験開始十秒前』

 

「・・・・いつもの冗談か?」

 

アナウンスに釣られてそう聞いたが、ジョークは何も言わず会場へと視線を戻した。開始のカウントが進む中、尚も黙るジョークから俺も試験会場へと視線を戻す。

 

「本当だよ、ちょっと妬ける」

「・・・・そうか」

 

 

 

『START!!』

 

 

アナウンスに紛れてジョークの方から何か聞こえたような気がしたが、俺はそのままウチの連中を見た。

夢への新たな一歩を踏み出した、その姿を。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『試験開始五分前です』

 

 

そのアナウンスが流れると一気に緊張感が高まった。

側にいるお茶子とか分かりやすく顔を強ばらせている。安心させる為に顎の下をゴロゴロさせていると、ブドウがマントを引っ張ってきた。

 

「お、おい、緑谷!マジで大丈夫なんだろうなぁ!」

「大丈夫!多分!!」

「それは大丈夫って言わなくねぇか!?━━━ぺぇふぁっ!ありがとうございます!」

 

喚くブドウに軽くビンタして、私は周りを見渡す。

予想通り他の受験者がこちらの様子を窺っているのが見えた。恐らくこのまま開始直後に攻めてくるだろう。

 

結局こういう試験が始まる事になって、私は状況を皆に説明し協力体制をとることにした。雰囲気やら状況を考えて大体気づいてたり嫌な予感を感じてたみたいだけど、やっぱり何人かはびっくりしてた。具体的に誰とは言わないけど・・・・ブドウとか、葉隠とか、あしどんとか。

 

かっちゃんと轟が協力してくれればもっと色々策もあって楽出来たかも知れないんだけど、あの二人早々に別行動を始めてしまった。

 

かっちゃんは「お前のおこぼれに預かれるか、ボケぇ」と━━━━後で殴ってやろうと思う。

轟は「今の俺が通用するのか試してくる」だそうだ━━━━ええ、ああ、うん、頑張れぇ。

 

ついでに切島と上鳴がかっちゃんの事が心配だったみたいで一緒に行ってしまって、A組メンバー計四人不在の状態だ。轟には誰もついてかなかったのかって?眼鏡が死ぬほど悩んでたよ。最終的に「委員長としての義務がぁ」とか言って残ったけど。

 

そんなこんなで残った十六人。

私はこのメンツを以てある目標を立てる事にした。

試験を突破するのは当然。私は1位から16位までのクリア順位をウチでぶん取っちゃおうと思っているのだ。勿論それはやるからには勝つ、とかではない。そんな気持ちもゼロではないけど、真の目的は別にある。

そう、私の目的は完璧にクラスの指揮をとり、多大な功績を築きあげ、包帯先生にめちゃ褒められ、ご褒美にスマホを返して貰っちゃおうというものだ。

 

そしてそして、今回こそ手に入れるのだ。

私の初めてのSR。

 

物欲センサーにより阻まれ早一年。

ニューシリーズに移行してから、一度として手に入らなかったSR。前作でも二体くらいSRがあったのに、本当に今回は一体も手に入らなかった。今シリーズURとかもあるのに。噂だと今度GR(ゴッドレア)とかいうのも出るとか聞いたし。

 

・・・まぁ、他のゲームに比べ育成要素が強いゲームだから、ぶっちゃけコモンとか、アンコモンのキャラとかでも十分強く出来るし、Rとかでも育てればSRにだってひけをとったりしない凄い子に出来る。そもそもRとかは育て易くてお手軽なのだ。限界まで育てたRプラスとか、超強いし。なんならRプラスの強化のメンテとかこないかなぁとか思ってるし・・・・・SR欲しいなぁぁぁぁぁ!!いっても、SR普通に強いからなぁぁぁぁ!!強化なんてなしで、普通に育てるだけでRプラスボコボコだからね!欲しいなぁぁぁぁ!!欲をかけばURも欲しいなぁぁぁぁ!!あれって都市伝説じゃないのかなぁ!運営が仕組んでる罠だったりしないかなぁ!!うわああああぁぁぁぁ!!

 

「何一人で悶絶してんの、ニコ」

「ニコやん、絶対に別の事考えてるね」

「ですわね」

「けろっ。━━━というか、いい加減お茶子ちゃんをゴロゴロするの止めてあげて。しまらない顔になってきてるわ。響香ちゃん」

「はいよ、やめいアホたれ」

 

『試験開始一分前』

 

お茶子の喉を撫でていた手を耳郎ちゃんにぺしられ、耳にアナウンスが響き私はハッとする。

そんな事考えてる場合じゃなかったのを思い出したからだ。今は何より、先にお花摘みにいかねばならなかった。そっとお腹に触れるとけたたましくグルグルと音が鳴っている。うん、絶不調。うける。

 

やばい、気づいたら余計に苦しくなってきた。

あ、ヤバい、ふぐぅぅぅぅ!!

 

「緑谷のやつ今度は急に内股になってガクガクしだしたぞ・・・大丈夫なのか、あいつ。おれ怖い。尾白、面倒みてこいよ。彼氏だろ」

「瀬呂、あれでも女の子だからあんまり見てやるな。というか、誰が彼氏だ。爆豪に聞かれたらどうするんだ。お前、本当そういうの止めろ。本当に止めろよ。そろそろ正中線にかますからな」

「闇よりの誘い、それは人が背負いし抗えぬ運命」

「常闇、それどういう意味だ?」

 

男共の馬鹿な話をぼんやり聞いていると、やたらとキラキラした外国人のアオヤーマが視界に入ってきた。ヒーローコスがスッゴいキラキラしてる。目に痛い。

 

「緑谷くん!」

「ど、どうしたMr.アオヤーマ。出来れば叫ばないで。響く、何処にとは言わないけど」

「ウィ!」

 

ビシッ、とポーズを決めたアオヤーマ。

うぃ、が何かは分からないけど見事な叫びだった。そしてきっと、私の言葉はつゆほどにも聞いてないのだろう。この野郎。

そんなアオヤーマは歯を光らせながら続けた。

 

「君に、届いたとは到底言えない。僕はまだまだ未熟さ。けれど、今日きっと君に見せるよ。僕がライバルである証をさ☆!」

 

・・・・うん?ライバル?

何を言ってるんだろう、アオヤーマは。

 

『試験開始十秒前』

 

そのアナウンスに全員が構えた。

カウントが一つずつ進む中、私はアオヤーマの言葉の意味を考えた。無視しても良かったけど何か返して欲しそうな顔してるし、流石にスルーは可哀想に思ったから。

 

『5』

 

カウントが進む。

 

『4』

 

一つ。

 

『3』

 

また一つと。

 

『2』

 

・・・・。

 

『1』

 

「よく分かんないけど、やったれやーぃ」

「ダコール!!」

 

『START!!』

 

テキトーな私の言葉と共に、第一次試験は始まった。



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必ず殺すとかいて必殺技。けれど最近の必殺技は大抵食らっても死なないよね。よし、そんな皆には、私が本物を見せてやりましょう!男を死に至らしめる禁断の必殺技。このゴールドボールクラッシャーを!の巻き

おっす、おいらがきた(*´ω`*)

絶賛スランプ中につき、更新遅れ気味。
どうか容赦されたし。

にん。


先に行われた試験の説明。

私はその説明の全部を聞いて無かったが、この試験で求められてる事を理解出来てると思っている。

 

目良っちはわざと煽るような言葉を吐いていた。

実例をあげて速さを求め、第一次試験の合格者数を"先着"という言葉をつけて更に焦らせた。加えて告げられた参加人数より遥かに少ない合格者数は、本来味方である者同士の間に疑心暗鬼を抱かせるようになる。

 

出し抜く奴がいるのではないかと。

 

それは試験が始まればより顕著になっていく。

誰かがアウトを取れば、合格者数が増えれば、自分の的が少なくなれば━━━━目良っちの煽りの言葉が呪いになって焦りから視界は狭まる。埋まっていく合格者の席が余裕を奪って正常な判断が出来なくなる。

 

そして何かの弾みに一度拗れれば最後、立て直しは不可能なものへと変わる。

最悪、味方すら敵になるのだ。

 

だから最も正しい戦い方は、時間や少ない合格者数に惑わされる事なく無理に攻めず━━━味方と足並みを揃えつつ、より多くの情報を集め、戦略的に戦うという物。それが最も確実で、高確率で多くの合格者数を出す方法。

 

だけど、それをやるつもりはない。

あまりにも普通過ぎるから。

 

 

 

 

スタートのアナウンスが鳴り響いた直後。

一斉に私達に向かって攻撃が始まった。

それは予想通り。

 

「百!!準備は!」

「大丈夫です!!思い切りどうぞ!!」

 

確認したいけどそこは信用する。

百は咄嗟の時に迷う事があるけど、決まった事をやらせれば誰よりも早く正確にやってくれる。

 

「何をっ!思い切りやるのかな!!緑谷双虎ちゃん!!」

 

声に視線を向ければエセ爽やかがボールを振りかぶってる姿が目に入る。最初から信用してなかったけど、本当に気持ちが良いくらいにやってくれる。

しかもまだ、何か企んでる気がする。

 

「まぁ、良いや。関係ない」

 

腰のホルスターからそれを手にした。

発目の第162子、直径五センチ、特殊な合金によって作られたボール型の兵器『ベイビースター』。

 

個性を活かす為に作った秘密兵器。

私の個性は対象の形状変化に弱い。加えて対象への理解度が低ければ引き寄せる力も弱く、出力をあげようとすれば負担が大きくなってしまう。

私の個性を最大限に活かす為には、対象への理解度をあげるしかないのだ。

 

だからこそ作って貰った。

中・遠距離にて個性の起点となれる、形状変化を気にせず使える頑強なそれを。

 

個性も使って力一杯空へ投げ飛ばす。

敵のボールが効果範囲に入るまで待ち、引き寄せる力を発動。轟に使った時のように対象を設定せず、全方位に向けての無差別に。

 

「ニコちゃん108の必殺技、『吸引力の落ちないただ一つのお星さま。人呼んでダイ●ンスター』ッ!!」

「ニコちゃん!そのやたらと長くて、色々危ない名前はあかんゆーたやんか!?」

 

多少頭痛がしたけど、空間に対象設定した時より負担が明らかに少ない。それにボールやら空気やら小石やら一気に集まっていく様子、感覚からかなり強く引き寄せられてるのが分かる。

私、絶好調━━━お腹以外は。

 

けれど流石に全部は無理で、数多くのボールがこちらに向かってきてた。

まぁ、各自頑張って貰おう。

 

こっちはこっちで、やる事がある。

 

「煌めけっ、僕っ☆!!」

 

あ、やってる。

位置的に全然見えないけど。

まぁ頑張れぇ。

 

最低限ボールをかわしながら腕に力を込める。

 

「百っ、パァス!」

 

私はボールに包まれたベイビースターに掛けた力をそのままに、引き寄せる個性を重ねるように発動。あまりやらない二重発動に若干ブレが出るが、問題なほどではない。些細な程度。

不屈の乙女力で引っこ抜き、百が用意しているであろうそこへ目掛け、ボール付きベイビースターを引き落とす。

 

大きな音とくぐもった声。

それと「OKです」という百の声が聞こえた。

 

「ブドウ、瀬呂っ!準備は!」

 

「問題ねぇ!」

「オイラもだ!!やっちまえ緑谷!!」

 

ゴーサインを聞いて後ろに手を伸ばせば、柔い感触が掌に落ちる。

 

「ニコちゃん、ええよ!!」

「ほいきたぁ!!」

 

体が浮遊感に包まれた所で、前方にいる敵目掛け引き寄せる個性を発動。体を引っこ抜き、一気にその距離を詰める。

 

「なっ、はぇ!?━━ぐぇっ!!?」

 

間抜けな顔した雑魚の顔面に飛び蹴りを叩き込めば、蹴りを食らった雑魚の助が大きくよろめいた。けれど見た目より効いてないだろう。速度はあるけど体重がない事でダメージは軽いのだ。

もっとも、僅かな隙を作れれば、それで十分なのだが。

 

試験ボールと敵の的に引き寄せる個性を発動。

何処に的を設置しようが、見えてる場所ならなんの問題もない。速攻で一人目を仕留める。

 

「ちっ!おい、逃がすな!!」

 

経験値の高さか、直ぐに周りの連中が動き出す。

連携を取られても面倒なので炎で牽制。

敵さんの和をきちっと乱しておいてからベイビースターを二つずつ手にし、引き寄せる個性で体を引っこ抜きもう一度空中に飛んだ。

 

空中から見下ろし敵の位置を確認。

敵の的の位置を記憶。

次の行動を予測。

 

「お茶子!!」

 

合図を送れば体が重くなり、手にしたソレも重さを取り戻した。

それと同時にとっておきのそれを放つ。

 

 

 

ニコちゃん108の必殺技━━━Extra。

 

『ニコニコ・メテオール』を。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「真堂!!何か来るぞっ!

「分かってる、全員下がれ!!」

 

毎試験行われ、ある種の伝統となりつつある『雄英潰し』という現象。仮免許試験を受ける上で知らない者はいないだろう。ある者は噂で、ある者は経験者から、ある者は自らを鍛え導く教師からそれを耳にする。

かくいうオレもその一人。

 

ジョーク先生に伝えられたそれを元に作戦を立てた。

雄英生徒へ集まるヘイトを利用し、漁夫の利をつく確実で被害の少ない戦法を選んだ。狙いは間違っていなかったと、今でも思っている。

 

周りを誘導し、雄英に視線を集めさせた。

予想通りに雄英潰しが始まった。

けれど、想定通り進んだのはそこまで。

 

多少手間取ると思っていた集中砲火はただの一人の個性でほぼ完封。本来弾くなりかわすなりすれば散らばり、移動の邪魔になる敵から投擲されたボールも、控えていた女生徒が網に捕らえてしまいアクシデントは期待出来ない。

僅かに彼女達へと飛んだ攻撃も仲間達によって叩き落とされている。

 

ある意味そこまでは多少のズレはあっても想定内だったが━━━━あまりにも雄英の動きにブレがなさ過ぎるのが痛い。雄英潰しを事前に知っていたとしても、実際の光景を目にすれば多少は動揺するものだ。こちらもそれを期待した。━━━にも関わらず、この対応力。これは数ヶ月の訓練で身に付くものじゃない。

 

「伊達に、実戦は経験してないって事か」

 

実戦に勝る経験はなしって事なのだろう。

勿論望んで得た物ではないのだろうが、それでも羨ましい限りだ。

 

そして、もう一つ。

雄英がブレなかった理由。

 

「厄介だな、本当に━━━━彼女は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走っていると酷く鈍い音が背後から聞こえてきた。

それは一度では終わらず立て続けに何度も響く。

土砂降りの雨のように激しく。

 

嫌な予感しかしないが振り返ってる余裕はない。

 

「ヨーくん!」

 

声に視線を向ければ、岩陰から顔を覗かせた中瓶の姿が見える。滑り込むようにそこへと隠れると、真壁と投擲の姿もあった。安全を確認してようやく後ろを振り返ってみれば━━━━想像していたより恐ろしい事が起きていた。

 

さっきまで自分がいた空間に鈍い銀の流線が走っていた。高速で動くそれは幾つもの光の軌跡を描きながら宙を踊るように舞い、そこにいた受験者達の体へと鈍い音をたてながらぶつかっていく。人の体にめり込んだそれは止まる事なく直ぐ様別の受験者に向かい、同じようにその者の体へとめり込み鈍い音を響かせる。

 

暴力を体現する何かが吹き荒れるそこに、いつの間にか朱が混じり、赤い光が倒れた受験者の体に灯っていく。更に観察していると黒い塊と白いヒモのような物が暴風へ紛れていき、嵐を飛び交う礫の如く正体不明のそれが受験者を襲っていく。

何が起きているのか分からないが、何かに襲われた受験者が地面に伏したままの様子を見ると、行ったら最後なのだろう事は分かる。

 

「・・・・ヨーくん、取り敢えずの目的は達したし、もう雄英狙うの止めない?」

 

中瓶がそう言うのも理解出来る。

流石に俺もあれは相手したくない。

投擲も無言のまま頷く。

 

「真堂とある意味意気投合してたから嫌な予感してたが、多分あれはもっと性格悪いと思うぞ」

 

真壁が言ってる言葉の意味が分からず視線を向ければ、自分の顔と股間を指差した。

 

「見てると分かる。さっきからあの銀色の奴な、その二ヶ所しか狙ってない」

 

投擲が身震いした。

 

「俺でもやらない」

 

投擲は優しい奴だからな・・・俺なら多分やる。

同じ男として多少心は痛むが、勝つ方法がないなら致し方ない。喜んでやるだろう。

そう思っていると、怯える男達を見た中瓶が首を傾げた。

 

「顔面は分かるけど、あれってそんなに痛いの?昔からよく聞くけどさ」

 

真壁と投擲が俺を見てきた。

そのアイコンタクトに含まれた物を理解した俺は、同意を示す為に頷いておく。異論などある筈もない。

 

「勿論痛いさ。でもね━━━━」

 

「「「━━━━女には分からない」」」

 

俺達の心からの言葉を聞いた中瓶は「ふぅん?」とまた首を傾げたが、納得してくれたのかそれ以上何も聞いて来なかった。

 

『━━━っと、早速一人目の通過者が現れましたね。これからどんどん来そうです』

 

通過者を告げる大きなアナウンスが鳴り響く。

普通であれば誰がと多少は気になるだろうが、この岩陰に隠れる俺達にそれはない。

 

『━━━あ、続いて二人、三人、四人・・・・多いですね。落ち着くまで待ちましょうか』

 

何故なら岩陰から覗いたそこに、倒れた受験者の残りの的をボールで押しまくる雄英生徒が見えるからだ。

 

『あーーーーー、あっ、はい。えっと、計十六人通過です。残り八十四枠、皆さん頑張って下さいね・・・・・早いなぁ』

 

会場に響くアナウンスを聞きながら、覗いていた先に耳を傾ける。そこから通過者である事を示す小さなアナウンスを耳にすれば、抱いていた考えは確信に変わった。

 

雄英生徒十六人がこの試験を通過し、同時に未だ通過出来ていない残りの四人が孤立したこと。

 

雄英体育祭一年の部にて優勝した男、爆豪勝己。

プロヒーローエンデヴァーの息子、轟焦凍。

他二人を含めた四人が、別行動を取っているのは把握している。確かに強く優秀な連中だ。自信を持つのも分かる。

しかし、ことこの試験においては、その自信が慢心が仇となる。

 

「どうする、真堂」

 

真壁の声に少し考える。

狙い目であるのは間違いない。

情報は使い方次第。

 

「取り敢えず、仕切り直していこうか」

 

まずは、この空気から壊していく。

有象無象の彼らには、まだちゃんと踊って貰わなければならない。

 

震伝動地。

 

雄英が残した受験者達の足元を狙い、最大震度で地面を叩き割った。おさまりかけていた混乱がぶり返す。一部では疑心暗鬼からか、それまで協力関係にあった者達と戦い始めてる所すらある。

 

焦る事はない、悲観する事はない。

戦いはまだ、始まったばかりなのだから。

俺達は俺達の勝ち方を見つければ良い。

 

「さぁ皆、上手くやろう。全員で勝ち上がる為に」



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ほめたげてぇー、ほめたげてぇーー、ほーーーめたげてぇーーわたーーーしを!ったぁ!?叩いた!?なんで!?褒めてよぉ!伸びる子だからぁ!の巻き

大分遅れてもうたが、あぷやで(*´ω`*)

クロムチカッコいいなぁ。


「ふおぉーーーとぅわあぁーいーーーせんせーーーー!!」

 

色々とすっきりした後、控え室を抜けた私は観客席にいた包帯先生の元に向かった。満点の笑顔で手を振り駆け寄る超絶美少女な私に、包帯先生は一瞥し額に手を当て感嘆の溜息を溢す。その気持ち、分かる。照れるよね。可愛いもんね、私。

 

どやさぁ!

 

「包帯先生!緑谷双虎!ただいまA組15人と共に、第一次試験無事とっぱぁ致しました!!しかも最速で、しかもしかも大体私のお陰です!!褒めて下さい!!手放しで!!」

「・・・・ああ、頑張ったな。さぁ、褒めたぞ。馬鹿なことやってないで、さっさと控え室に戻れ」

「ええぇぇぇ!?全然褒めてないですよぉ!!」

 

なんだ今の軽い褒め言葉!?

わたしゃびっくりだよ!!

大活躍したのに!!

 

「先生ぇ!!何ですか、そのテキトーな感じ!傷つきました!私はとても傷つきましたけどぉ!!」

「喧しい。分かった、よくやった。ほら、控え室に戻れ」

「全然分かってないぃ!何ですかその、面倒臭い人を前にしたような態度は!!」

「そこまで分かってるなら戻れ」

 

冷たいだと!?めちゃ頑張ったのに!

おかしい、ていうか、スマホ返してくれない!

何故だ!?

 

原因を探して先生の周囲を見ると、包帯先生の隣にジョーク先生が座っていた。苦笑いを浮かべてこっちを見る様子に乙女センサーがピンと反応する。

 

イチャイチャされておりましたか。

そうですか。

 

ジョーク先生に静かに敬礼すると包帯先生の手元から何かが飛んできた。天才ぶりを遺憾無く発揮してナイスキャッチすれば、見慣れた携帯端末スマホがそこにあった。虎にゃんこなストラップが揺れてる。

 

「それやるから戻れ」

「っざあぁぁぁすっ!!」

「試験中にやってみろ、解体してやるからな」

 

そんな言葉を聞いて私は口をチャックし、そっとポケットにしまった。

そして綺麗に一礼し、そっとその場を後にする。

そんな私に包帯先生は目を細め、そっと捕まえてきた。

 

違うんです!やらないです!もしかしたら勝手に電源が入ってとあるアプリが起動して五分くらい稼働するかも知れないんですけど、それだけですから!!取らないでぇ!分かりましたぁ!試験終了までやりませんからぁ!!えっ、や、約束?いや、それは・・・・あっ!し、します!!約束します!!

 

「はははっ、期待する生徒・・・ねぇ」

「黙れ、ジョーク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とかスマホを奪取して控え室に戻ると出掛ける前よりガヤガヤしてた。見ればうちのクラスメンバー以外の人の姿がある。

 

人混みを避けながら進んで行くと、試験場出入口の前にお茶子と眼鏡の姿があった。

本当よく一緒にいるな、あの二人は。まじで出来てぇるぅぅ?

 

「お茶子ーどんなー?かっちゃんきた?」

「あっ、ニコちゃん。おかえり。爆豪くんはまだきてへんよ。轟くんはさっき来たけど・・・なんか忍者と戦ってきたんだって!ニン!」

「そっかぁ・・・・忍者?」

 

忍者ってなんだ。忍者って忍者?にんじやとかじゃなくて、ニンジャーサンとかじゃなくて?

なにそれ、超気になる。

 

戦った轟に話を聞くのが一番かなぁと、周りを見渡したけど見つからない。一人ウロウロしながら探してると、突然現れた黒い壁とぶつかった。私の可愛いお鼻が痛みを訴えてくる。

 

「━━━ったいなぁ、どこ見て・・・・」

 

痛みに堪えて立ちはだかる壁を見上げれば、試験前にあった士傑高校の坊主頭だった。

名前は確か『アザラシ』とかいうやつだ。

 

「はっ!緑谷さんじゃないっすか!!すみません、自分少しよそ見してたっス!!」

「あーーいーよ。アザラシ。私もちょい不注意だったしさ」

「ありがとうございます!!あっ、でも自分、アザラシじゃなくて、夜嵐ッス!!」

 

かなりの馬鹿だと思ったけど、それ以上に強そうだったからここに居ても違和感は感じない。それにしてもゴテゴテした衣装だな。着るの面倒臭そう。

 

まぁ、それはどうでも良いからおいておいて。

私は親指を自分に向け立て、渾身のドヤ顔を見せてやった。

 

「ちなみに、私いち抜け!」

「本当ッスか!?すげぇ!!体育祭の時から凄い人だと思ってましたけど、本当に凄いッス!!雄英は対策を取られるのが当たり前っ、上位入賞者で人より多く個性を見せてるのに、それを物ともしないでトップ通過!!本当凄いッス!!尊敬するッス!!プロ間違いないッスね!!サイン貰って良かったス!!」

 

夜嵐のベタ褒めに私は頷く。

正しくそうだからね。

よいよい、もっと褒めよ。

 

「ちなみに、自分は17番だったッス!!」

「あ、それね、16番までウチの総取り。大体私のお蔭」

「スゲーッス!!!緑谷さんも、雄英の皆もカッコいいぃ!!」

「まぁぁぁねぇ!!━━━━ああ、でも全員じゃないってのが少し心残りではあるんだけど」

「いや、十分凄いッスよ!!俺、自分の事しか考えてませんでしたッスもん!!」

 

なんて気持ちの良いやつだ。こいつが雄英にいたら、さぞ良い馬になった事だろうな。惜しい。

ん?そう言えばこいつ・・・・。

 

謝快活な返事をする夜嵐を見てると、ふと包帯先生の言葉が頭を過った。推薦入試トップの成績を叩き出しながら、何故か別の高校にいったその事が。

 

「ねぇ、夜嵐ってさ推薦入試組でしょ?トップの成績を出して蹴ったって聞いたけど、なんでなん?」

「━━━っ、それは・・・」

 

言い淀んだ夜嵐の目が何かを見た。

視線をそこへと移せば探していた轟の姿がある。

同時にあの妙な雰囲気の轟を思い出した。

 

「・・・もしかして轟となんかあった?言いたくないなら別に良いけど」

「すみません。人に言うような事じゃないんで」

「そっ。じゃぁ、この話はお仕舞いね。たださ、一言だけ良い?━━━轟は私のベストフレンドだからさ。そういう目で見るの止めてくれる?普通にムカつくから」

 

そう伝えると夜嵐が目を見開いた。

まるで信じられないとでも言うような反応だ。

私としては轟を見るあんたの目の方がどうかと言いたいくらいなんだけど。

 

「ベストフレンドなんスか?轟と?」

「会った初日からベストフレンドやってるけど?なに、文句ある?」

「・・・いや、普通にスゲーと思ってるだけッス。あの轟と、ベストフレンド。・・・・・いや、マジスゲーッス。緑谷さん、本当尊敬するッス━━━━けど、悪い事言わないんで、付き合い考えた方が良いッス」

 

夜嵐の目付きがイヤに鋭くなった。

雰囲気もピリピリし始めてる。

 

「いつか緑谷さんの足引っ張る事になるッスよ」

 

それだけ言うと夜嵐は同じ制服を着た連中の元に向かい、その人の輪の中に消えていった。

後頭部にミサイルキックをお見舞いしてやろうかと思ったけど、それは見送っておく。一応試験中だし。

 

「━━━━ふぅ、まぁ良いか」

 

夜嵐の事は一旦放り投げて轟の元へ向かった。

轟は私を見つけると手を上げる。

 

「忍者ってなに?!」

「いきなりきたな。そんな気はしてたが」

 

相変わらず無表情なつれないあん畜生に話を聞くと、どうやら忍者は忍者でも、忍者風のコスを着ただけの連中で、忍術とか出来ない忍者だったらしい。

私はがっかりだよ。

 

「緑谷、さっきあいつと何話してたんだ」

 

忍者の話に一段落つくと、轟にそんな事を聞かれた。

最初はなんの事か分からなかったけど、さっきと言われて思い当たるのなんて夜嵐くらいしかいない。夜嵐の事かと聞き返せば轟は頷いた。

 

「んーーー、特に大した話はしてないけど。私の実力をこれでもかと自慢してきただけだしね」

「そうか」

「と言うか、私からも聞きたいんだけど、アザラシと何かあった?凄い目であんたの事見てたけど」

「アザラシ?そんな名前だったかあいつ。何もないと思うが・・・正直あの頃の事はあまり覚えてなくてな」

 

そう言うと轟はあの時と同じような空気を出した。

 

「推薦入試の頃・・・・俺は親父に復讐する事ばかりで、それだけの事しか考えてなかった。だから、本当に覚えてないんだ。八百万の事もクラスに入るまで碌に知らなかった」

 

言われて思い出した。

そう言えば最初の頃、轟はいつもこんな空気を漂わせていたなぁ、と。

最近はずっとゆるキャラみたいな感じだから勘違いするけど、轟はどちらかと言えばクールボーイだった。

今はゆるキャラだけど。

 

「今は・・・・緑谷達のお蔭で、少しは周りが見えるようになった。飯田達クラスの連中と話すようになった。俺の見てるものだけが、本当じゃない事も知った。お母さんの気持ちを知ることが出来た。━━━だから思うんだ。推薦入試って聞いて、覚えてないあいつを見てると・・・・」

 

轟の視線は士傑の連中を見た。

 

「・・・・どうしてもっと早く、そう出来なかったんだろうなってな。━━━━━そうしたら、俺はあいつを知っていた筈なんだ」

 

そっと轟の手が握り込まれた。

いつもの無表情だけど、少しだけ悔しそうに見える。

 

「轟って、友達いっぱい欲しい系だっけ?」

「いや、そういう訳じゃない。ただ、あいつに振り回されてヒーローになりたい理由忘れてたみたいに、あいつの事もその一つだったんじゃないかと思ってな」

「また小難しい事考えてるなぁー楽しい?」

「楽しくはないな」

 

なら止めれば良いのに。

 

 

 

 

『ハイ、えーーーー、ここで一気に8名通過来ましたーーー!残席は10名です』

 

 

 

 

 

不意に流れたアナウンスに全員の視線が出入口を見た。

私と轟もつられて見ると、出入り口から入ってくるエセ爽やかの姿があった。

 

エセ爽やかは私を見つけると笑顔を見てせ近づいてくる。

 

「やぁ、緑谷さん!一次試験突破おめでとう!一位抜けだよね?見てたよ、流石だ」

「見てたんだ。やっぱりファンじゃん。今からでもサインしてあげようか?随分時間掛かったみたいだし、一次試験一位抜けしたご利益に満ち溢れた私のサイン、二次試験の験担ぎで書いて上げるよ?特別にタダで」

 

優しさからそう伝えると、エセ爽やかは「遠慮しておくよ」と掌をヒラヒラさせた。

 

「それに、俺より験担ぎが必要な人がいるから、そっちにサインしてあげて欲しいな」

「はぁ?」

「もしかしたら、験担ぎする必要も、なくなるかも知れないけどね?」

「はぁ?」

 

そう言ったエセ爽やかは通り過ぎていった後、お茶子と眼鏡がやってきた。

何処か焦ったような様子で。

 

「緑谷さん」

 

声に振り返ると、笑顔を浮かべたエセ爽やかの姿があった。

 

「君が早々に抜けてくれて助かったよ。爆豪くん、一次試験突破出来ると良いね」

 

嫌味の籠った言葉に私は確信する。

こいつ絶対性格悪いなと。



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◇EX話◇いいおったなこぞう!どぎもをぬいてくれるぅ!きさまに、ほんとうのちょこをくれてくれるわぁ!!の巻き

カカオなんて滅びれば良いのに(*´ω`*)
そんなバレンタインデー回。


テレビで流れる再放送のドラマを聞きながら洗濯物を取り込んでいると、元気な声と共に馬鹿娘が帰ってきた。

「おかえりぃ」と声を掛けたけど、馬鹿娘は碌に返事も返さずドカドカと部屋の中に駆け込んでくる。

そしてランドセルも下ろさず「母様ぁ!!」と怒鳴り声をあげてきた。

 

何事かと思って様子をみれば、頬がパンパンに膨らんでる。自分は怒っているんだと、全力で教えてきてるようで可愛く思えてしまう。

見当はついていたけど、笑いを堪えて聞くと娘は地団駄しながら「かっちゃんがぁぁ!!」と憤慨する。

 

事情を詳しく聞けば、今年のバレンタインデーのチョコの事で勝己くんに色々言われたみたい。勝己くんもお年頃なのか、手作りに興味があるようだ。

うちの馬鹿娘にお願いするのは、少々高望みな気はしないではないけど・・・・まぁ仕方ない。

 

「むかつくぅ!!私のおこづかいで買ってあげてるのにぃ!!むきぃぃぃ!!なんだあいつぅ!!」

「ふふ、それじゃぁ作ってみる?お母さんも手伝ってあげるから」

 

そう提案すると娘は露骨に嫌そうな顔をした。

きっと面倒臭い気持ちの方が勝ってしまったんだろう。

我が娘ながら凄い分かりやすい。

 

「でもぉ、時間ないしぃー?ていうかぁー、手作りとかー重いっていうかー?義理としてなくなくなくなぁーい?」

「何処でそういうの学んでくるんだか・・・はぁー、まぁでもやりたくないなら仕方ないわね。残念。きっと勝己くんのこと驚かせられるのに。そうしたら、暫くは双虎に頭が上がらないかも知れないわねぇー。ホワイトデーのお返しも沢山返ってくるかも知れないし、ちょっと頑張るだけで、出きるのにねぇー。残念、残念」

「頭があがらない、つまり言いなり・・・・お返し、いっぱい・・・ちょっとだけ、頑張る」

 

ちょっとメリットを提示してあげると真剣な顔で悩み始めた。うちの娘は馬鹿だけど、頭が空っぽな訳じゃない。暫くウンウン悩んだ後、娘は「ほんとうに時間掛からない?」と確認してきた。簡単な事しかやるつもりがなかったので頷いてあげると、娘は「じゃぁ、やる」と神妙な顔つきで頷いた。

 

洗濯物を取り込んだ後、旦那の為に用意しておいたチョコを引っ張り出し、調理器具をもってリビングに行く。

娘はこれから調理するチョコを見てお腹を鳴らした。

我が娘ながら食い意地はってる。

 

「食べちゃ駄目よ」

「わっ、わかってるし!」

 

早速娘に大きめの板チョコと器を渡してあげる。

 

「?どうするの?」

「最初はね、こうして割って小さくしてくの」

「ふぅん?」

 

私の真似した娘の手で、板チョコは小さく細かくなっていく。途中何度か欲に負けそうになってたけど、見つめてやれば顰めっ面で作業に戻ってた。

 

「・・・母様、毎回こんな事してるの」

「毎回ってあなた・・・年に一回だけよ?そんなに苦労でもないわよ」

 

娘は「そうかなぁー面倒臭いー」とぶーたれる。

そういう割には毎年勝己くんにチョコをあげるんだから、人の気持ちというのは分からないものだなぁと思う。本当に面倒なら渡さなければそれで終わりなのに・・・・まったく素直じゃない。うちの子は。

 

ある程度細かくした所で、今度はそれを温めた生クリームも足して湯煎に掛け溶かしていく。

簡単な作業なので娘に任せ、私は夕飯作りを始めた。

 

暫くするとぶーたれていた娘が文句を言うのを止め、褒めて欲しそうに器を持ってやってきた。見ればチョコがドロドロに溶けている。溶かしておいたバターを入れてやって、また混ぜるように言えば露骨に嫌そうな顔をした。もう終わると思ってたんだろう。浅はかな。

 

それからまた少し。

ボールを取ってきた犬みたいな顔した娘が差し出す器を覗けば、ムラなく混ざったチョコがあった。

期待するような視線に頷けば、娘は強くガッツポーズをとった。どれだけやりたくなかったのか。まったく。

 

「後は型に入れるだけでしょ?なんの型が良いと思う?ここはネコにしとこうか!」

「型?別に良いけど、生チョコだから取り外す時に手間掛かるわよ?普通に用意してあげたトレーに出しちゃいなさいよ。後で切ってココアパウダー掛ければ様になるから」

「えぇ・・・・でも、型やりたい」

「そういう面倒は良いのね、あなた」

 

昔娘のおやつ作りで買ったシリコンの型を出してあげれば、娘は目をキラキラして型を持っていってしまった。

出来上がった後、娘が泣きを見る事になりそうだけど、本人たっての希望なので放っておく事にした。

 

夕飯を作り終えた頃、娘がウキウキした顔で冷蔵庫にチョコを入れていたけど・・・・どうなる事やら。

 

 

数時間後、娘は案の定シリコンの型を手に四苦八苦していた。

 

「剥がれないぃぃ、なんでぇぇぇ」

 

だから言ったのに。

そんな言葉を心の中で呟きながら、私はトレーからチョコを取り出し、均等に切り分けてからココアパウダーをまぶした。後は袋に詰めて終わり。

 

「母様ぁ!!取れないんだけどぉ!!」

「だから言ったでしょう」

「このままあげても大丈夫かなぁ!?」

「早々に諦めるんじゃないの」

 

仕方ないので一度冷凍してから取り出す方法を教えてあげれば、直ぐ冷凍室に叩き込んだ。

指示に対する迷いのない動きに、この子料理出来るのかしらとちょっと心配になった。人の話を鵜呑みにし過ぎる辺り怖い。

 

確かに家庭科の成績は悪かったけど・・・。

 

冷蔵庫の前でソワソワして待つ娘の側にいき、何とはなしに聞いて見た。

 

「双虎、料理のさしすせそって分かるわよね」

「料理のさしすせそ?何言ってるの母様。それくらい知ってるって。調味料でしょ!」

「あらっ、知ってるのね。そうよね」

 

良かったわ、ウチの娘もそこまで馬鹿じゃなかったか。

 

 

それから一時間程。

凍りついたチョコを上手く型から取り出した娘は仕上げを済ませ袋に詰めた。改心の出来だったのか、作ったそれを誇らしげに高く翳してる。

 

「もう二度と作らない!!」

 

そして変な決意も決めたようだ。

勝己くん、来年はまた市販品になるみたいよ。

 

「━━━そう言えば母様のはどうするの?宅配?今から?」

「宅配はしないわよ」

「じゃぁどうすんの?」

「んーーーー内緒」

「なにそれ?」

 

チョコは直接渡すつもりだ。

何せ、その日は漸く休みを取れたお父さんが帰ってくる日。バレンタインデーになんて狙ったのかと聞いたけど、本当にたまたまらしい。

娘の驚く顔が見たいからって、あの人が言うから黙ってる・・・けど、正直、娘がお父さんの思い通りな反応するとは思えないんだけどね。

 

「よーし、かっちゃんめぇ!!見てろよ!!私のチョコでぇ、ぎゃふんって言わせてやる!目指せっ!ホワイトデーのお返しっ、十倍ーーー!!」

「馬鹿な事言ってないで片付けするわよ」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、バレンタインデーを迎えた日。

娘がどうやってチョコを渡したのかは分からない。

けれど光己さんから勝己くんが大切そうにチョコを抱えて持って帰ってきた事は聞けたので、渡せたのは渡せたらしい。

 

「━━━━━けっ!」

 

こたつから顰めっ面で顔を出す娘の姿を見てると、無事に渡せたかどうかは怪しい所だけど。

 

不意にチャイムが鳴った。

聞き覚えのある声も。

娘がきょとんとする中、私はエプロンで手を拭いて玄関に向かった。

 

おかえりを、伝える為に。



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久しぶりなのに閑話回。なんか、待ってる人に殴られそうだけど、それでもおれはやるよ!『それは私の暇潰し』の閑話の巻き

遅れてすまぬ。
切腹するから堪忍なっ!

( ´Д`)・;'.、カハッ



「爆豪ぉ!!やべぇぞ!残り枠十席切ったぞ!!」

 

アナウンスが響き、切島が情けない声をあげる。

ついでに電気馬鹿もウェイウェイほざき始めたが、正直糞うるせぇ口を黙らせる時間もねぇ。

 

「雄英とったぁ!!」

 

横から飛び込んでくる声に合わせ、爆破で加速させた裏拳を振り抜く。鈍い感触が拳に走る。短い悲鳴を聞いてると、つんざくような音がそれをかき消した。

反射的に身を翻せば、ミサイルのような何かと、掌みてぇな何かが肩を掠めていく。軌道を読み射出されたであろう方向に向け爆撃を放てば甲高い悲鳴が二つ響いた。

 

「爆豪!!」

 

耳にいてぇ声に視線を向ければ、士傑の生肉野郎が気色のわりぃ肉片飛ばしてる姿が視界に入る。一回ぶちのめしてやったダメージは残ってるように見えるが、攻撃に乱れがねぇ以上気は抜けねぇ。

 

「切島ァ!!カバー!!アホ面ァ牽制!!」

 

「おおっ!?お、おう!!任せとけぇ!!」

「牽制って何すんのぉ!?ええぃ、近づいたら感電させんぞこの野郎共ぉーー!!」

 

背後に回してた意識を前方に集中。

慎重に狙いを定め、A・Pショットを放つ。

爆炎が消え去った後に向かってくる肉片はない。

 

━━━━が、違和感を感じた。

言葉に出来ない、何かを。

 

直感に従い、そこへ向けて蹴り抜いた。

掠るような感触と「反応はやっ」という小さな呟きが鼓膜を揺らす。

 

振り返って見れば、胸糞悪い顔があった。

 

「はぁい。凄いね、爆豪くん。気配殺すのとか、これでも結構自信あったんだよ?私さ」

「っせぇわ!!さっきから邪魔しくさりやがって!!んだてめぇはよ!!」

 

俺の言葉に士傑の糞女が口元を三日月に歪める。

腹が立つ事にその顔は悪戯が成功した時、あいつが見せる物に良く似ていた。

 

「だから言ったでしょ?士傑高校、現見ケミィ。君に興味があるだけの、可愛い女子高校生だよ」

「可愛いだぁ!?てめぇのその面の、何処にんな要素があんだよ!!ぶっ殺すぞごらぁ!!」

「きゃぁ、こわーい。ふふふっ」

 

そいつは酷く冷めた目でそう言った。

始めから変わらない、その目で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一次試験が始まって暫く。

邪魔してきた士傑の肉野郎をぶちのめそうとしたその時、そいつは現れた。

 

ライダースーツのような衣装に身を包んだ士傑の帽子を被った女。見覚えがあった。会場前で士傑と遭遇した時、先頭をきって歩いていた内の一人。

 

女は音もなく気配もなく突然現れ、肉野郎に止めをさそうとした俺と切島を蹴りばした。攻撃は恐ろしく速く、同時に馬鹿みたいに軽かった。

微塵も戦う気のない攻撃。

 

見え見えの時間稼ぎだったが、まんまとしてやられた。

肉野郎は物陰に隠され、追撃しようとしたアホ面のポインターもナイフで容易く切り裂かれゴミに変わった。

 

「初めましてーーーで良いのかなぁ?さっき入り口前で会ったけど、自己紹介まではしてないよね。私は士傑高校二年、現見ケミィ。クラスメイトの危機に参上してみましたー?━━━━━なんて、嘘。あなたとお話したくて来ちゃった。爆豪くん」

 

感情の込もってない目で発せられたその言葉に、馬鹿二人の視線がこっちに向いた。

随分と腹の立つ顔して。

 

「見てんじゃねぇ、カス共」

 

「良かった。爆豪は爆豪だった」

「いうて緑谷にぞっこんだからな、こいつ━━━ったぁ!!爆豪さん!?何!?なんで蹴ったの!?」

「そりゃ蹴られるだろ」

 

余計な事をほざいた馬鹿は放って、目の前の士傑の女を見た。細い体に、柔和な顔に、腑抜けた気配。強さはけして感じない。

 

━━━だってぇのに、底が知れねぇ。

 

オールマイトとAFOとの戦いを見てから、ちったぁ目が肥えてきた自負はあった。それでもこいつからは何も感じない。最低でもそいつに勝てるかどうかくれぇは分かるもんだが、こいつを相手にするとそれが見えなくなる。

 

気持ちが悪い、それがそいつに抱いた最初の印象。

様子を窺ってると、女はクスクス笑い始めた。

 

「思ったより慎重。もっと短絡的な人かと思ってた。思慮深い子は嫌いじゃないかな?」

 

欠片も気持ちの込もってない言葉に背筋がゾクリとする。

 

「でも、残念。今は攻め時だったよ。爆豪勝己くん」

「あぁ?」

 

ザリっと、砂を踏むような音が聞こえた。

音の正体を確認する為に視線だけで見渡せば、俺達と同じように肉野郎の個性から復活してく、その連中の姿が見える。

 

「爆豪っ!!その人だけに構ってる暇ねぇぞ!!」

「ふぁぁっ!?や、やべぇよ!爆豪!囲まれるっ!」

 

馬鹿達の声に気を取られてると女の姿が消えた。

逃げたのか隠れたのか、兎に角近くに気配を感じない。

放っておくにはリスキーだが・・・・。

 

「いたぞ!!雄英高校の爆豪くんだ!!」

 

馬鹿デカイ声が俺達のいる陸橋の下から聞こえてきた。

陸橋の視界は道を囲むように置かれたバリケードで見えなくなっている。その上でこちらを確認出来るとすれば、そういった個性を持つ奴がいるか━━━戦闘の影響から壊れた壁の隙間。声の発生源も考えれば後者。

 

声の視線をそこへと向ければ、会場前で双虎に絡んでやがったエセ爽やか野郎がボールを手に叫んでいた。

 

「雄英校の、それも体育祭の優勝者である爆豪くんが残ってるなんて、俺はなんて運が良いんだ!他の雄英生は早々に一次試験を突破してしまって、挑戦すらさせても貰えなかったんだ!!雄英高校という頂の高さ、今度こそ確かめさせて貰うよ!!」

 

その言葉に思わず舌打ちした。

隣で聞いてた切島とアホ面はまともに受け取ったみてぇだが、エセ爽やかの言葉は連中を焚き付ける道具でしかねぇからだ。証拠にそれまで意識が散漫だった連中がもうこっちを見てやがる。

 

集まる視線に込められた物は様々。

嫉妬や憎悪が大半だが、馬鹿正直に煽られた奴は挑戦心と熱意が込もってやがる。

 

こうなった以上、一旦身を隠すのも手だろうが━━気に入らねぇ。俺の性分じゃねぇし、今の状況じゃ勝率が低い。何よりエセ爽やか野郎の言葉が本当なら、双虎のやつが俺より先に抜けた事になる。それも恐らく、クラスの大半の奴引き連れてだ。

 

「━━━ちっ!切島ァ!!アホ面ァ!!死ぬ気でついて来い!!一秒も気抜くなぁ!!」

「おう!でもどうすんだ、これ!」

 

今試験、あいつの個性の優位性を考えれば、その結果はなんらおかしくねぇもんだ。攻撃中の隙さえカバーが入りゃ、今試験においてあれだけ有利なやつもいないだろう。

それと競う程、俺も馬鹿じゃねぇ・・・・が、それはそれだ。

 

これ以上あいつに遅れを取るなんざ、気に入らねぇ。

 

「全員っ、俺がぶちのめすッ!!てめぇらは、俺のおこぼれに預かってさっさとクリアしやがれ!!」

 

「熱い作戦だな!!チキショー!!」

「失敗したぁ!!爆豪なんて放っておけば良かった!!緑谷ーーー!!たーすけてぇーーー!!」

 

アホ面の声が響くとほぼ同時。

雑魚共との交戦が始まった。

 

 

 

交戦を始めて暫く。

予想していた以上の物量に無傷とまではいかなかったが、残り十席のアナウンスが鳴る頃には全員が一つずつ勝ち点を手にしていた。

 

戦場はもう既に混沌としている。

雄英に拘って攻める連中も少なくなり、どいつもこいつも形振り構わなくなってきた。同士討ちすら始まっている始末だ。

 

その隙をつけば残り一つ勝ち点を握るには容易い。

残りの席が少なかろうと何とか滑り込める。

 

そう思っていたが、またあの女が水を差してきた。

 

「っそが!!」

 

爆破で加速させた拳が空を切る。

分かっていたが、フェイント無しだと掠りもしない。

反応の早さはピカイチ。反射神経からくるもんじゃねぇ。勘に頼った事前察知。人より獣がイメージさせられる。

 

大きく飛び退いたそいつは体をくねらせて笑った。

 

「カッコいいー!超反応!ここまで手こずると思わなかったよ。爆豪くん」

「っせぇわ!!さっさと散れや!!」

 

蛇の如く這いずるよう移動するそいつにA・Pショット・オートカノンを放つが、乱射した不規則な爆撃すらかわしてきやがった。それどころか、逆に撃った隙をつかれて接近された。

 

爆撃をぶちかまそうと腕を振るったが、直撃する前にいなされた。帽子は消し飛ばしてやったが、クリーンヒットには程遠い。ダメージはない。

 

「━━━ばぁっ」

 

懐に潜り込んできた女は、笑顔と共にそれを突きだす。

鋭利な光を放つそれが頬を掠っていく。

痛みが走り、血が飛び散る。

 

痛みを無視し、近づいたそいつの顔面に頭突きをかませば、くぐもった声と鼻血が吹き上がった。

僅かに揺れた体に爆撃をぶちこもうとしたが、寸前の飛び退かれる。

 

「━━━った。女の子の顔面に攻撃とか、容赦無さすぎ。それでもヒーロー志望?ヴィランの方が性に合ってるんじゃない?」

「黙れやカスッ!女だろうが何だろうが、ヴィランなら関係ねぇだろうが。ぶちのめして、ふんじばっちまえば、それで終わりだ。舐めてんじゃねぇぞ、ごらぁ」

「ヒーロー志望の生徒の言葉とは思えないなぁーー。まぁ、でも、ネジ曲がってても、ちゃんと芯がある人は嫌いじゃないかな?あの女が妙に執着してるから気になってたけど・・・・少しは分かるかも」

 

明確には分からねぇが、あの女という単語に嫌な物を感じた。そいつの目を見れば、あの目がまたあった。

薄気味わりぃ、その目が。

 

「それより、てめぇは何なんだ。ポイント取りにきたのは最初だけ。挑発くせぇ台詞も、何かに誘導する為じゃねぇ。━━━━そもそも勝つ気がねぇだろ、てめぇ」

 

戦っている間も感じていた。

本格的になった今でも、目の前のこいつにやる気がない事を。俺とは別のもん見てる事も。

恐らくこれは、遊んでやがる。

 

「結局てめぇは、何がしてぇんだ」

 

 

 

 

『残り五席━━━━さぁ、ラストスパートです皆さん。頑張ってください』

 

 

 

 

間の抜けたアナウンスが鳴り響く。

切島とアホ面の試験突破の報告を告げる声も。

そんな中、目の前のそいつは笑顔を浮かべた。

 

「別に、ただの暇潰しぃー」

 

そう言うと女はボールを放った。

ボールは狙ったように倒れた受験者のターゲットにぶつかり、1次予選突破を告げる声が女から響く。

 

「今は準備の時とか言われてぇー、でも、それって暇でしょ?だから暇潰しにきたの。思いつきだよね。でも楽しかったぁー。沢山遊んでくれてありがとう。もう少し愛想良かったらもっとサービスしてあげたんだけど━━━━」

 

「━━━くっ、ケミィ!!そこを退け!!」

 

女の言葉を遮るように、さっきの肉野郎が駆けてきていた。遠距離攻撃しかしねぇ奴が突っ込んできた事に違和感を感じたが、そいつの後ろを見れば別の奴等に追われてきたのが分かり理解する。

タネがばれちまえば、援護もいない状況下、この手の奴等に選べる選択肢は少ない。突っ込んできたのも苦肉の策だろう。

 

「お前だけはっ、お前のような物だけはっ!!ヒーローにっふぁ!?なぁぶぁ!?」

 

女の隣を通り過ぎようとした肉野郎が宙を舞う。

一瞬だったが女が肉野郎のバランスを崩し、直後押し飛ばしたように見えた。

しどろもどろになって飛んでくる肉野郎の最後のターゲットにボールを叩き込めば、俺の体につけたターゲットから合格を告げるアナウンスが鳴る。

 

「遊んでくれたお礼」

「仲間じゃねぇのかよ」

「ふふっ、良いの。別に━━━」

 

冷めた目でそう言うと、女は掌をヒラヒラさせながら去っていった。

そしてまた忽然と消えて行く。

音も、気配もなく。

 

 

『100人!!今埋まり!!終了!です!ッハーー!!これより残念ながら、脱落してしまった皆さんの撤収に移ります』

 



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Sレアの重さを知っている物だけが、イベクリア報酬のSレアを笑いなさい。中堅以上のプレーヤーは皆持ってるとか、ガチャ出Sレアより性能が低いとか、言うんじゃないよぉ!!ぐぅでいくからね!!の巻き

仮免編も後半や、もうひと踏ん張りしよか。
映画の話やりたいけん(*´ω`*)


「水着きたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

抑えきれない衝動にかられスマホをポチった私は、遂に念願のイベントクリア報酬であるSレアキャラを手にいれた。アイテムボックスを開くとSレアキャラが光の演出で現れる。

 

 

「ニコちゃん」

 

 

限界まで育てたレアプラスなあの子は、可愛らしい水着を着込むラブリーチャーミングでキャワワな最強戦士になって帰ってきてくれた。これ程喜ばしい事はない。こんなに嬉しかったのはいつ以来だろうか。

 

 

「緑谷」

 

 

溜め込んでいたアイテムをフル放出。

レベルを即行でマックスまで引き上げる。直ぐに上限までいったけど、限界突破アイテムも揃えてある。限界を解放して更にレベルをあげる。みるみる内にレアプラスの限界レベルを越え、ついに都市伝説だと思っていたマックス値に達する。

 

 

「緑谷くん」

 

 

この日の為に、いつかSレアが来てくれた時の為に、コツコツ頑張って経験値アイテム集めてて良かった。マジで良かった。包帯先生に一回アプリ消された時は、マジで終わったと思ったけど・・・・バックアップって素敵。パスワードメモってて良かった。

 

 

「おい、馬鹿女」

 

 

よーし、早速戦場に繰り出しちゃうぞー!

せっかくの初陣、一番難しいクエスト・・・いや、敢えて肩慣らしの初期クエスト━━━━━━。

 

スパーンと良い音が私の頭の所で鳴った。

音の割には衝撃が少ない。

知能指数は一も減らなかった。

 

「通路遮んな、邪魔くせぇ。つか何スマホ弄くり倒しとんだ、てめぇは。叩き割られてぇのか」

 

聞きなれた暴言に視線を向けると仏頂面のかっちゃんがいた。割とボロめな格好を見ると苦戦したみたい。普段でかい口叩く癖にざまぁである。私の手を払うからよ。たわけめが。

 

「腹立つ顔しやがって・・・・んだ、こら」

「べぇつぅにぃぃ・・・・良かったねぇぇ、一次試験突破出来て。私はてっっっっっきり、三人揃って来年受験しましょう組かと思ってたから。━━━まさかね、まさかねぇ、あれだけ憎まれ口叩いた人が一番ビリっけつで一次試験突破するとか思わなかったからさ?下手したら、私より早いかなぁなんて思わなくもなかったけど、まさかこの様とは。・・・・・・・ぷっぷぷーー!あっ、もしかして、逆に?逆に狙ったの?ラス1狙った?おおとり狙っちゃったの?ねぇねぇぇ?」

「このっ・・・悪かったなぁ、クソが。大体誰の・・・・ちっ!んでもねぇわ。けっ!」

 

何がけっ!だ。まったく。

こっちがけっ!だよ。

ん?

 

かっちゃんが通り過ぎた後、その背後にいる三人の姿が目に入った。何か言いたげな顔をしたお茶子、轟、眼鏡。なんやかんやと一緒にいる事の多い仲良しトリオがめちゃ見てきてる。その近くには、生暖かい目をしたクラスメイトの姿も。

 

なんだよぉ・・・。

 

「ソワソワしてたんは誰やったんだか。まぁ、ニコちゃんがそれでええなら、私はなんも言わんけども・・・・ニコちゃんも大概拗らせとるよね」

「・・・・君も素直じゃないな、緑谷くん。はぁ、まぁ良いが。それよりスマホはしまいたまえ、まだまだ試験中だ。今回は大目に見て相澤先生には報告しないでおくから、もうやっては駄目だぞ。━━━まぁ、もう誤魔化す必要もないだろうから大丈夫だと思うが」

「飯田くんのフォロースキルが上がっとる・・・!」

「一回見逃しただけで!?前の僕はなんだと思われていたんだぃ!?」

「えぇーー真面目な委員長?」

「んっ、んんんっ、そのつもりではあるが!なんだ、このモヤっとするものは!?」

 

楽しく漫才を始めた二人から轟が離れていった。

何処に行くのかと思えば顰めっ面で飲み物を飲み始めたかっちゃんの所に向かってる。

最近よく話してるけど、あれはたまたま近くにいた時とかばかりだ。自分から行くなんてのは、まだまだ珍しい部類に入る行動。

 

「爆豪」

「━━━あぁ?んだ、こら、半分野郎。辛気クセぇ面見せんな。寄んなボケ、爆殺すんぞ」

「爆殺は駄目だろ。ヒーロー目指すなら・・・・それより、爆豪にしては随分時間掛かったな。何かあったのか?」

 

そんな轟の言葉に「そうなんだよ!轟ぃ!」と切島と上鳴が首を突っ込んできた。

二人ともコスがボロボロになってて、その大変さはぼんやりと伝わってくる。

 

「お肉先輩がよ━━━━ってもわかんねぇか。士傑高校の人がさ、間引きであるとかなんとかって絡んできてよ・・・・それでうっかり爆豪と俺は個性くらって動けなくされてさ」

「まぁーああ!そこは俺がこうっ、ビリっと解決したんだけどなっ!この新アイテムをバシッっと使ってさぁ!!」

「本当、あん時は助かったぜ。━━でな、上鳴のお陰で士傑先輩の個性が解けて反撃ってなったんだけど、直ぐ別の士傑の人から邪魔が入ってよ。そんで途中から傑物高校の爽やか先輩が、他校の連中引き連れてきちゃって、もうゴチャゴチャの大混戦。四方八方から攻められまくりよ。爆豪いなかったら終わってたわ」

 

切島の言葉にかっちゃんが悪態をつきながら、照れ臭そうにそっぽ向いた。

分かりやすいなぁ。

 

「まぁ、そもそも、爆豪に付いていかなかったら、そんな事にもなってないんだけどな。緑谷と一緒にいた峰田から、『ちょーらくしょーだったぜぇー』とか聞いたし」

 

上鳴の呟きにかっちゃんが無言のまま、鬼のような形相で睨んだ。

分かりやすいなぁ。

 

話を聞いた轟は士傑という言葉に何やら思案顔。

さっきの・・・なんだっけぇ。何とからし・・・何らし。何らしだったっけ。まぁ、良いや。

入試の件があったからか、アザラシ(仮)を轟は随分と気に掛けてるみたい。あんな目で見られてたら、気にするなって方があれかも知れないけど。

 

「雄英の皆さん、少し良いかな?」

 

ぼんやり轟のぼーっとした横顔を見ていたら、士傑の毛むくじゃらが話し掛けてきた。ずっと何だろうかと思ってたけど、ここにいるという事は同じ受験者だったみたいだ。

 

士傑高校の応援団所属のマスコットかと思ってたよ。私は。

 

毛むくじゃらは人混みを掻き分け、かっちゃんの前に立った。

 

「初めまして爆豪勝己くん。士傑高校ヒーロー科二年、毛原長昌という者だ。うちの肉倉が随分と迷惑を掛けたみたいで、是非その件については謝罪させて貰いたい。済まなかったね」

 

毛原パイセンはそう言うと頭を下げた。

かっちゃんはふんぞり返ったままだけど。

 

「はっ、んな事態々言いにきたんかよ。士傑の連中はよっぽど暇らしいなぁ。なぁ、先輩」

 

相変わらずのかっちゃんの悪態に、毛原パイセンは小さな笑い声をあげた。

 

「ははは、元より準備万端だからね。この程度の時間で何が変わる訳でもないさ。━━━それより君達と遺恨を残す方が問題だと、私は思ってるよ。これから先、長い付き合いになる君達とは、良好な協力関係を築いていきたいと思っているからね」

「長い付き合いね・・・・もうプロにでもなった気でいんのかよ?ああ?」

「なるつもりさ。校章を背負う以前に、私達はその誰しもがヒーローに憧れてここにいる。迷惑を掛けてしまった肉倉も含め、多少見ている先は違うかも知れないが、その気概は変わらないよ。君と同じさ、爆豪勝己くん」

「っは、そうかよ」

 

毛むくじゃらの言葉につまらなそうに短く返したかっちゃんはそっぽを向き━━━━ある一点を見て止まった。気になって目線を追えば、士傑の妙にエロい女子がいる。ぼんやりだけど朝見た気がする。

 

エロい女子はかっちゃんと目が合うと笑顔で手を振った。それも妙に生々しい感じのやつだ。

 

「・・・・?うちのケミィと知り合いだったのか」

「・・・ちげぇわ、んでもねぇ」

「そうかい?」

 

毛むくじゃらパイセンは誤魔化せても、私は誤魔化されない。今確実に嘘ついたのが見てて分かった。

誤魔化すかっちゃんを見てると、切島と上鳴の声が聞こえてきた。さっきの~とか、興味が~とか。

 

「ねぇねぇ、切島。上鳴。なんの話?」

 

かっちゃんに春が来た。

それは、まぁ、別にどうでも良い。

良かった良かった。大変良かったねぇ。祝福してあげよう?おめでとぉぉ。

 

「ん?いやな、さっきの試験の時さ、爆豪が━━━ひぃえ」

「おい、上鳴っバカっ━━━ひぃえ」

 

実際問題、私達が一抜けして?かっちゃん達に、本当に少しだけ、僅かに、ちょこっと、ほんのり、負担を掛けた事は?まぁあ、気に掛けてはいない事もないけど。少しはね?あれかなぁってさ?思わなくもなかった訳だけどさ?少しね。本当に少しちょびっとさ。

元をただせば、かっちゃんが悪いんだけど・・・・私になんの責もないかと言えば、それは違うとは思うよ。うん。

 

「?ニコちゃん、どないした━━━━ひぃ!?」

「どうした麗日くん。ん、緑谷くんがどうか━━━!?」

 

別に心配していた訳ではないよ。かっちゃんの実力を考えれば、別に普通に出来る事だし。そもそも、ほんのりでも、私が?疑う訳ではないけど?もしかしても思ったりさ?うん。それ自体が間違ってただけの事でさ。

 

「・・・・?どうした麗日、飯田。緑谷が・・・また凄い顔してるな。どうした?腹でも痛いのか?」

「べ、つ、にぃ」

「そうか?そういう顔じゃないんだが・・・・分かった。そういう事にしておく」

 

そう、別にだ。

轟に言った通り、別にっ、どうもっ、思ってない。

 

人が心配してやってる時に女といちゃついてたのか糞エロ猿とか、いちゃついてる暇があるならさっさと勝ち抜けしてこいよ万年頭爆発野郎とか、あんないけ好かない雰囲気の女にホイホイされるとか目ん玉腐ってんじゃないのかあのボンバーヘッドとか・・・・そんな事全然思ってない。全然。ちっとも。

 

腰についたベイビースターのホルスターの止め金を外し、引き寄せる個性を発動。怪我しない程度の威力でかっちゃんの脛にぶつけてやる。

くぐもった声をあげ踞るかっちゃんの姿を見ながらベイビースターを回収していると、控え室に設置されたモニターから目良っちの声が響いてきた。

 

『えー第一次試験を突破された100人の皆さん。これ、ご覧下さい』

 

皆の注目がモニターに映し出された映像に集まる━━隙を狙ってかっちゃんのもう片方の脛目掛け、ベイビースターを射出。ぶつかったら直ぐに回収。

 

そんな事してる内に大きな爆発音が聞こえてきた。

モニターを見ればさっきまでいた試験会場がボッコンボッコンに壊れてる。

 

『次の試験でラストになります。皆さんこれからこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』

 

 

バイ、スタンダー。

 

 

 

成る程、バイスタンダー。

 

 

 

バイスタンダーね。

 

 

 

あーはいはい。

 

 

 

いえす、バイスタンダー!

 

 

 

オーケーオーケー、バイスタンダー。

 

 

 

・・・・。

 

 

 

「━━━お茶子!」

「ん?何ニコちゃん」

 

 

 

私はそっとお茶子の耳元に口を寄せた。

そして一言だけ告げる。

 

「バイスタンダーって、なに?」

 

お茶子は残念な子を見る目でこっちを見てきた。

 

「ニコちゃんがヒーローになるのは疑ってないんやけど、こういう時堪らなく不安やわ。授業でやったでしょ?英語で救急現場に居合わせた人のことや」

「あーーそれね。なるなる。━━━━日本語で言えば良いじゃんか!目良っちぃ!」

「そうかもしれんけども」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━っ、さっきから脛狙ってきやがってんのは、誰だこらぁ!!喧嘩売ってんのかおらぁ!!出てこいやぁ!!」




◇おまけ◇
一次試験終了時

包帯先生「・・・爆豪が最後・・・ん、爆豪が?爆豪がか?そうか、爆豪が・・・・」

ジョーク(マジで狼狽えてる)


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責任の取り方にも色々あると思うけど・・・私は思うんだ。お金以上の責任の取り方なんてないよねって!さぁ、払え!!試験終わるまでに、きっちりかっちり、沢山払えぇ!の巻き

来週のヒロアカが楽しみで、夜しか寝れなそうや。
なに、あの鼻の人、すき(*´ω`*)



『えーと、はい、ご覧頂けている通り、意図的にではありますが作らせて頂きました被災現場です。ここでは一般市民としてではなく、仮免許を取得した者として━━━どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

 

映し出された光景は息を飲む程リアルな光景だった。

何せその光景は、あの日見た神野区を彷彿とさせる物だったから。ヒーロー協会にとっても、あの日は余程特別だったという事なんだろう。

となるとやっぱり、今ヒーロー協会が求める物は突出した力をもった英雄ではなく、群として動く事が出来る協調性のある凡夫。勿論才能も能力もあるに越した事は無いのだろうけど。

 

ふとかっちゃんを見ると私と同じ気持ちなのか、息を飲んでモニターを眺めていた━━━━━ので、ベイビースターを脛目掛けて飛ばしてやる。しかし、何度もやってたせいか受け止められてしまった。手にしたそれを見て、かっちゃんの鋭い視線がこっちを向く。

 

「やっぱりてめぇか!!こらぁ!!その前のもてめぇだな!!おいっ!!」

「はぁ?何の事?ちょっと何言ってるか分からないなぁーんんー?」

「これが証拠だろうが!!ああん!?てめぇ自慢してやがったよなぁ!?こいつに使われてる金属がぁよぉ!Iアイランド輸入の特殊合金だってなぁ!んな珍しいもんそこいらにあって堪るかぁ!発明馬鹿の刻印もあんぞ、おい!何とか言ってみろやぁ!!」

 

ちっ、自慢するんじゃなかった。

 

私はホルスターを触る。

そしていかにも今気づきましたという顔をしてやった。

 

「あれれれれぇ?おかしいなぁ、ここにあった弾が、一個なくなっちゃてるなぁー。参ったなぁー。地味にお高いのにぃー」

「白々しぃわぁ!!騙せると思うなよ、ごらぁ!!」

「っぶな!」

 

投げ返されたベイビースターを引き寄せる個性でキャッチ。手にバチィンと当たってめちゃ痛い。反応が遅れていたら顔面直撃コースだったので掴めて良かった。

 

てか、乙女の顔面狙うとは何事か!!

 

「顔面狙うとか頭おかしぃんじゃないのぉ!?顔とか怪我して傷跡とか残ったらどうすんのぉー!?お嫁さんに行けないんですけどぉ!!責任とれんの!?おい、言ってみろ爆発頭ァ!責任取れるんですかぁ!?」

「るっせぇわ!!その癖平気であっちこっち殴り込みに行くのは何処のどいつだぁ!!ああん!?何回てめぇの面倒事に巻き込まれたと思ってんだ!!舐めんじゃねぇぞ!!」

「それはそれですぅー!必要に応じて臨機応変に生きた結果ですぅーー!自己責任でやってるんだから、悪くないじゃん別にぃ!!てーか、話逸らして責任から逃れようとしないでくださぁーい!おらぁ!言ってみろぉ!責任とれんのかごらぁ!!」

 

ハンドサインでふぁっきゅーしてやると、かっちゃんが指をボッキンボッキン鳴らしてきた。

 

「上等だこらぁ!責任の一つや二つとってやるわぁ!!」

「こっちがごめん被るわ!!」

「んだとこらぁ!!」

 

 

 

「「「きゃーーー!」」」

「ニコちゃんさらっと流したけど、えらい事言ったなぁ爆豪くん」

「もうこれ、そういうあれよね。けろっ」

「・・・あたし、不覚にもきゅんとしちゃった」

 

「嫁の貰い手なら━━━」

「待て、轟くん!!そういうノリで行くと碌な事にならないぞ!!」

 

『あのですねぇー控え室の元気な方々ー。説明が聞こえなくなるので、喧嘩は一旦置いておいて貰えませんかぁ。僕の睡眠時間が着々と減っておりますので』

 

・・・マイクとかカメラとか仕込まれてるんだろうか。

 

何となしに周りを見ると、妙に楽し気な女子ーズ、眼鏡に羽交い締めにされた轟、その他のウチの男子共は勿論、受験者の視線が集まっている。

 

かっちゃんに視線を向けると無言のまま歯軋りした。けれどこれ以上やり合うつもりはないっぽい。受験者を敵に回すのも宜しくないし、協会に睨まれたら事だもんね。お互い。

どちらともなく頷きあい、取り敢えず冷戦に移行。二人でモニターに視線を向ける。

 

『・・・はい、ありがとうございます。えーとですね、画面を見て貰いますと━━━━━』

 

かっちゃんにガン飛ばしながら話を聞くと、ふっく?とかいう採点もするエキストラの人がいるから、それを救助していってね。その様子を見て外部からもポイントの採点するから・・・・という事らしい。

 

合格判定を貰えるポイント不明。

そもそも救助を行うとどれだけポイントが貰えるかも不明。見ているポイントも不明。

ここまで不明だとポイント配分とかは無理そう。

 

まぁ、試験の流れを見れば、集団として動く能力を重視して見てはいるんだろうけど。

 

「・・・・かっちゃん、次は協力してよね」

「あっ?んだウゼェ・・・ちっ、やりゃぁ良いんだろ。やりゃぁよ」

 

かっちゃんから協力するという言質をとり、私達雄英一年A組ーズは5人一組で救助チームを組む事にした。普段からお互いの個性は見ている。時間は10分しかないけど、わりとすんなりチームに分かれた。

 

私を中心とした、お茶子、阿修羅さん、葉隠、アオヤーマの救助第1チーム。

かっちゃんを中心とした、切島、瀬呂、耳郎ちゃん、お菓子の人の救助第2チーム。

轟を中心とした、眼鏡、梅雨ちゃん、喋らない人、ブドウの救助第3チーム。

 

百を中心とした、あしどん、上鳴、常闇、尾白の第4チームは避難場所の確保と怪我人の応急救護に当たって貰う。

 

念の為に"ある特定状況下限定"の緊急フォーメーションも考えたけど・・・・それは使うかどうか。試験作ってるやつが性格悪くなければないとは思う。

 

時間一杯まで各チームで打ち合わせ。

それぞれの役割を再確認。

行き当たりばったりでは効率悪いからね。

 

「僕は煌めいても?」

「え?ああ、うん。瓦礫の隙間とか照らせば良いんじゃない?知らないけど」

「メルシィ!今度こそ輝いて見せるよ☆」

 

アオヤーマは輝くらしい。

よく分からないけど。

 

 

 

突然ジリリリとばかでかい音が鳴り始めた。

その直後、目良っちのちょっとやる気な声が響く。

 

『ヴィランによる大規模破壊が発生!規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!』

 

一次試験の時のよう、控え室が音を立てて開いてく。

無駄に金掛かってるぅ。

 

『道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う━━━━━」

 

全員が駆け出す為に用意を始める。

阿修羅さんも予定通り、役目を果たす為身構えた。

 

『一人でも多くの命を救いだすこと!!!START!』

 

始まった直後、駆け出す他の受験者を尻目に私達は待機。それぞれのチームにて情報収集の役割を持つ皆から動き出す。

ウチのチームなら阿修羅さんだ。

 

「緑谷。担当方向、探知可能範囲に十名確認。内五名は声が籠ってる。恐らく瓦礫の下だ、どうする」

「他の受験者は?」

「早い連中がかなり進んでる。が、三ヶ所見逃しがあるようだ」

「そこから行くよ、近い所から案内よろしく。じゃ皆、お先に」

 

お茶子にチームメイトの重力を消して貰い、引き寄せる個性で一気に飛ぶ。阿修羅さんの案内に従って進めば瓦礫の下に倒れたふっくの人がいた。

 

「ニコちゃん、瓦礫浮かそうか?」

「その前に瓦礫の状態とふっくの人の容態を確認。瓦礫はお茶子と葉隠宜しく。阿修羅丸は待機、情報収集継続。アオヤーマはこっち手伝って」

 

「ああ、了解だ。緑谷・・・・阿修羅丸!?」

「ダコールッ!」

 

早速のヘソビーム射出で瓦礫の影が照らされる。

光に気づいたふっくの人が弱々しくこちらを見た。

 

「助けにきましたよー、ふっくの人ー。もうちょっと待ってて下さいねー、ふっくの人ー」

「・・・フックの人って言わないでね。ただの救助を待つ怪我人だと思ってやって」

「アイアイっ、了解でーす。それより分かる範囲で良いので、どんな状態なのか教えて貰えますか?痛い所は何処って設定ですか?」

「そうなんだけどね、うん。お願いだから設定って言わないで。・・・・イタタタッ、足がっ、足がぁ!!助けてくれぇ!!」

 

足が挟まれてる設定なのが分かり、一言掛けてから一旦外へと出る。丁度お茶子と葉隠が帰ってきて、瓦礫の状態についても分かった。ついでに百から避難場所の確保が出来た合図があった事も。

幸いな事に瓦礫はどかしても大丈夫そうだったので、阿修羅さんの複腕と私の引き寄せる個性で一部の瓦礫を固定して、お茶子の個性でどんどん瓦礫をどかしちゃう。瓦礫から引っ張り出したふっくの人は足の怪我以外に頭も打った設定が存在していたみたいなので、お茶子の個性で浮かして葉隠に百が待ってる避難所まで連れていって貰った。

 

葉隠が避難所に向かってる間に次の目的地へ。

道すがら面倒見れる範囲で軽傷者設定のふっくの人も拾っていく。面倒見切れない分はそこいらの受験者にパス。出来るだけ放置はしない方向で動く。

 

さっきと同様、瓦礫に挟まれた人を発見したらアオヤーマのヘソビームで照らし、ふっくの人の容態と瓦礫の状態を確認。救助作業に移行する。

そうこうしていると葉隠から救助者搬送の合図がピカッと光った。お茶子は個性を一旦解除して、再び救助作業に戻り、今度は瓦礫をポイポイして貰う。

 

アオヤーマの光を目印に戻ってきた葉隠には道すがら拾った軽傷者設定のふっくの人と、重軽傷者設定のふっくの人の避難所への護送をお願いする。

 

その単純作業を淡々と繰り返していく。

慌てず、騒がず、確実に。

そうして何回か救助をしていると、次の目的地へ向かう途中、阿修羅さんが神妙な顔で呟いた。

 

「順調ではあるが、これで良いのか?」

 

阿修羅さんの心配が分からない訳ではない。

少し淡々と助け過ぎた気はする。ドラマがない。

でも、効率を考えれば間違えてはないと思うのも本当だ。

 

「阿修羅丸はヒーローになりたいんだねぇ」

 

そう呟くと阿修羅さんは「もしかして、それがヒーロー名だと思ってたりするか?」と眉間にしわを寄せた。

え、ちがうの?阿修羅さんのヒーロー名は阿修羅丸でしょ?

 

「・・・テンタコルだ。まぁ良い。・・・それより、それはどういう意味だ?」

「そのまんまの意味。映画とか、漫画とか、ゲームとか。ドラマチックに人を助ける、そういうヒーローの事」

「・・・・そうだな。そうなれたらとは思う」

 

話を聞いていたアオヤーマも「僕も☆」と煌めいてきた。お茶子も眩しそうに目を細めながら「そやね」と頷く。

 

「憧れる気持ちは否定しないけど、そればっかり見てたら駄目だよ。きっと助けられる側は、そんな所見てないから。少なくとも、私はそうだったよ」

 

誰かに手を差し伸べて貰える事。

それがどれだけ安心出来て、どれだけ必要なのか。

私はあの日の、あの時の、あの手の感触も、胸に広がった温かさも覚えてる。

 

「どんな形でも良いと思う。地味でも、かっこ悪くても、口が悪くても。━━━━助けにきたって事が、一番大切だと思うからさ」

 

そっとお茶子に視線を送ると小さく頷いた。

アオヤーマもシュンとする。

 

「・・・馬鹿な事を聞いた。許せ、緑谷」

「別に良いよ、阿修羅丸」

 

私の言葉に阿修羅さんは複腕の口を近づけてきた。

 

「そこは直してくれ。俺は阿修羅丸じゃない」

「阿修羅丸・テンタコルスタイル」

「いや、付け足すな」

 

阿修羅さんと楽しくお喋りしてると轟音が響いてきた。

けたたましい爆発音、何かを破壊するような激しい音と振動。視線を向ければ砂埃が舞いあがり、視界が死ぬほど悪くなってる場所が見える。

 

「阿修羅丸!」

「だからテンタコルだと・・・はぁ、まったく・・・任せろ━━━━っ!!?これはっ!緑谷っ、お前の予想通りだ!」

 

砂埃が内側から吹き飛ばされ、そこに黒光りするシャチっぽい大男が現れた。それも怪しい衣装に身を包んだ、手下みたいな連中も引き連れてだ。

 

 

「ヒーロー協会は、そうとう性格が悪いらしいぞ」

 

 

脳裏に浮かぶのはあの日。

少しだけ一緒に戦った、あの姿。

 

 

 

『ヴィランが姿を現し追撃を開始!』

 

 

 

流れるアナウンスを聞きながら、私は装備の具合をチェックする。悠然と佇むその男と相対するなら、隙は少しも見せられないから。

 

 

 

『現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ救助を続行して下さい』

 

 

 

様子を窺ってるとシャチが歩き出した。

マントのようなそれを、大きくはためかせながら。

その姿に戸惑う者は多い。

 

 

 

 

 

え、いや、ウチは予想してたけど。

 

 

 

 

 

「よーし、アオヤーマ!!鴨ネギならぬ、シャチがポイント持ってやってきた!合図よろしくぅ!!」

「ウィ!━━━届け、僕の煌めきシグナル!!」

 

アオヤーマから空高く放たれた光は、円を描くようにゆっくりと大きく動き、空に光の軌跡を浮かび上がらせる。

それは召集の合図。

ヒーロー協会の性格の悪さを考慮して用意しておいた、対敵用特別チームを結成する為の。



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はい、はい、そんな訳で閑話の時間だよぉーーー!!『歩み始めた少年の忘れ物』の閑話の巻き

(;・ω・)ムムムッ!
次回もまさかの閑話の予感ッッッ!?
おかしいなぁ!


「っ、皆さんっ来ます!!」

 

救助活動をしていると、情報収集をしていた口田が突然大声をあげた。聞き慣れない声に少し戸惑ったが、それよりもその直後に起きた爆発に全員の視線が集中する。

 

立ち上る埃で姿は見えないが、口田の指示に従った鳥達が何かを発見したかのように、埃が舞うその場所の上空を飛び交っている。

 

「口田ちゃん。来たって、そういう事なの?」

 

口田は口を閉じたまま首を縦に振る。

緑谷の勘が当たったという事だ。

 

それから大して時間が経たぬうち、空に向けて光の柱があがり、大きく円を描くように動いた。

散らばった俺達に、次の行動を促すように。

 

 

 

 

『念の為に、妨害対象が現れた時のフォーメーションも考えとこうと思うんだけど』

 

二次試験が始まる前。

話し合いが一区切りついた頃、緑谷はそう言った。

これから行われるのは救助演習。額面通り受けとるなら、それは必要のない備え。だが、それを言ったのはあの緑谷だ。こういった場面で、考えなしにそういう事口にするような奴じゃない。

どうしてかと八百万が尋ねれば、緑谷は顎に手を当てて唸った。

 

『んーー勘というか、何となくね。いやぁさ、なんか簡単な気がしてさ。一次試験の時みたいな性格の悪さっていうの?ああいう感じが薄いんだよね。まぁ、同じ人が試験内容決めてる訳じゃないかも知れないけどさ』

『もし一次試験と同様の方が、もしくはそういったテーマの下試験が組まれてるとすれば、緑谷さんはどうなると思いますか?』

『そりゃ、十中八九妨害の為に何かしら突っ込んでくるでしょ。私なら中盤過ぎた頃にやるかな?もしくはふっくの人がある一定数減ったタイミング。流石に何が来るのかは分からないけどね。受験者の人数と安全面を考えれば、ある程度戦闘能力を持った連中が来るとは思うけど』

 

勘と言いながら緑谷の口調には迷いがなかった。

確信しないまでも、ある程度は予想がついているんだろう。そして緑谷から滲み出る自信と余裕さは、皆を頷かせるには十分過ぎた。

 

そうして決まったのは何かしらの要因から救助行動の妨害が発生した場合、それに対処する特別チームを編成するという事だった。敵対勢力の撃退ではなく、救助活動に対する妨害行為を阻害する為に作られたチーム。求められるのは速さと対応力。加えて演習はあくまで救助だという事実もあれば、自ずとチームの形は見えてくる。

 

『チームは少数精鋭。私とかっちゃん、それと轟の三人でいく』

 

最少人数で、最速で、最大の結果を。

緑谷の出した答えに否と口にするやつはいなかった。

俺と、爆豪も合わせて。

 

 

 

 

「えーっと、つーことは、俺達は救助一旦中止。集合の後に再編成したチームで活動って事で良いんだよな?」

「そういう事になるわね」

「で、でもよぉ、他の受験者とかみたいに、どんどん救助してった方が良くねぇか?どんな採点されてるか知らねぇーけどさぁ、やっぱり多く救助した方が得点高いだろ?他の受験者の先輩とかを手伝ってさ。集まってる時間とか勿体ねぇよ」

 

峰田の言葉には焦りが滲んでいるが、その言葉自体に間違いはない。一理は確かにある。ある側面を考えなければだが。

 

案の定、蛙水も強い否定はせず「そうね」と頷いた。

 

「でも、それをやるには私達の経験が足りないわ。試験を受ける前、相澤先生も言っていたけど他の受験者と違って私達は明らかに経験が足りないの。連携を組もうにも足並みが揃わない。足を引っ張ってしまう。お互いにとって良くない事よ━━━士傑高校の人の行動の速さを見たでしょ。私達では救助ヘリの発着場を設けるなんて考え、咄嗟に浮かばないわ」

「そ、それはそうかもしんねぇーけどさぁ」

「それならいっそ、他グループとは必要最低限の連携に留め、理解しあえる人と組んで動いた方がずっと効率が良いわ。峰田ちゃんの焦る気持ちも分かるけど、今だってちゃんと救助出来てるから大丈夫よ」

「・・・・そ、そうだよな」

 

納得した様子の峰田から俺に。

力強い蛙水の視線が向く。

 

「そういう事だから、轟ちゃんは先に行って。轟ちゃんには轟ちゃんの役目があるでしょ。私達は飯田ちゃんと合流してから向かうわ」

「・・・・ああ、わりぃな。ここは任せた」

「けろっ、任せられたわ」

 

自信に満ちた言葉を背に、三人を置いて俺は予定通り目的地へと向かう。

一次試験の影響でまともに走れる状態じゃないのもあるが牽制の要として出来るだけ早く来るようにも言われている為、氷結の個性も使い道なき道を進む。

今出来る最速で、最短距離を、真っ直ぐ。

 

『頼りにしてるからね、マイベストフレンド!』

 

遠目に緑谷の姿が見えて、ふと二次試験開始前に掛けられた言葉が頭を過った。頼ろうとしてくれた、その緑谷の言葉が。

 

これまで緑谷を見てきて分かった事だが、緑谷は感覚的に動いてるように見えて、その実はそこにある情報を分析し予測して動いてる事の方が多い。戦闘訓練なんかでペアを組んだ後よくよく話を聞いてみれば、突飛な行動も計算の上成り立ってる事がよくあった。

 

コンマ数秒の中で、緑谷は物事を考える。

誰よりも早く、誰より多くの事を。

そして結論を見つけ行動する。

 

たった一人で。

 

USJの時も、ヒーロー殺しの時も、合宿の時も。

あいつはいつも一人で走っていく。

脇目もふらず。 

 

そんなあいつが━━━面と向かって頼ってきた。

期待してると声を掛けてきた。

それは余裕あっての事なのだろうが、俺はそれが単純に嬉しいと思った。

 

だから、応えてやりたいと思う。

漸く掛けられた、その期待に━━━━。

 

「━━━━っ!?」

 

 

━━━━突然大きな耳鳴りが聞こえた。

振り返れば砂埃は消え、傑物高校の真堂と名乗った受験者が敵と対峙している姿━━━いや、正確には対峙した後の姿があった。崩れ落ちる真堂の影の奥、赤い瞳が爛々と輝く。

 

そこにいたのはヒーローランキングNo.10。

緑谷の救出時居合わせたプロヒーロー。

ギャングオルカ。

 

「この実力差で殿一人・・・?なめられたものだ・・・!」

 

低い重い、落胆が混じる声が聞こえる。

ギャングオルカの影から現れた仮面の連中が瓦礫を踏み締め、あたりに散っていく姿が見える。

 

だが、それより耳に目についた物があった。

 

対応仕切れず留まってしまった他の受験者。

避難が遅れ取り残された救助対象者。

以前の俺ならきっと、目につかなかった━━━人達の姿。

 

 

「━━━━わりぃ、緑谷」

 

 

たとえ演習だったとしても放っておけない。

お前が思い出させてくれた理想は、お前に伝えた俺の夢は、ここで誰かを見捨てるような奴じゃない。

 

 

本物のヒーローに━━━そうだろ。

 

 

移動に割いていた力を足に集中。

溜めた力を一気に放出、氷柱の波をギャングオルカと仮面の集団に向けぶっ放す。

完全に不意討ちだったが氷があげる轟音に気づかれ、直撃寸前で対応された。ギャングオルカ周辺、けたたましい音と共に氷が砕かれてるのが見える。

 

それでもそのまま氷結の個性を使い続ければ、良い時間稼ぎにはなりそうだ。足が止まっている。

 

「今の内に、救助対象者の避難をっ・・・!」

 

声を張り上げれば立ち止まっていた受験者が動き出す。流石に俺達より多くの経験を積んでいるのか、一度動き出すと迅速に事を進めてくれる。救助対象者は直ぐに避難所へと運ばれていった。

 

「この氷は━━━━ああ、貴様か」

 

去っていく救助対象者から視線をそこへと移せば、氷の壁隙間から覗く赤い瞳と目があう。

 

「神野以来か・・・・ふん、まだ青いなっ」

 

一際大きな音が響いた。

耳をつんざくような甲高い爆音。

氷の壁が円状に大きく砕け散り、こちらに少しずつ近づいてるギャングオルカ達の姿が覗く。

 

流石に手加減してどうにかなる相手ではないらしい。

 

氷結の出力を更にあげ氷柱の規模を更に拡大。

そびえるそれを一気に押し出す。

今度は手応えがあった。爆音は響いているが遠い。厚みのある氷の壁を越えてはいない。

 

左に炎を灯しながら体温調整しつつ出力を維持。

体力の消費が激しく長くは持たないが、少しでも時間を稼げれば良い。

これだけ派手にやっていれば、直ぐ緑谷達が加勢にくる。

 

 

「っ!」

 

 

突然風が舞い上がった。

咄嗟に見上げれば、空に風を纏った男の姿がある。

俺を険しい顔で見ていた男の━━━。

 

「ふぅきィィィィィ飛べぇええっっ!!!」

 

氷を巻き込みながら吹き荒れる豪風。

それはギャングオルカ達の体を大きく後退させる。

その身についた傷を見れば、多少ではあるがダメージを受けているように思えた。

 

「ヴィラン乱入とか!!!!」

 

マントをはためかせたそいつは、ゆっくりとその高度を下げてくる。無骨な装備をから風を吐き出しながら。

 

「なかなか熱い展開にしてくれるじゃないっスか!!」

 

見上げていると目があった。

何故だか睨まれてしまう。

なんだ。

 

「あんたに、遅れをとるなんてな・・・・!」

 

怒りすら籠った声と眉間に寄った深いしわ。

爆豪とは違った何かを感じる。

 

明確な敵意や憎悪・・・感じるのはその辺りだ。

覚えてねぇが、試験の時やはり何かやっちまったらしい。━━━とはいえ、今はおちおち話してる時間もねぇが。

 

「名前は忘れたが、士傑高校の。相手が相手だ。少しの間で良い、フォローに回ってくれ。頼む」

 

男からの返事がない。

ただ、さっき見た個性の練度を考えれば、即席でも合わせられるだろう。精度の高さ、地力の強さは間違いない。

そう思い炎を放出したが━━━ほぼ同時に放たれた風に誘われ大きく逸れていってしまった。

 

「何で炎だ!!熱で風が浮くんだよ!!」

 

さっきまで氷結使ってりゃそう思うのも無理はねぇ。

そいつが言うように、これは俺が悪かった。

普段訓練で緑谷と爆豪なら当たり前に合わせてくるから、そう出来ると完全に勘違いしてた。

 

普通は分からねぇ。

他のクラスのやつらみてぇに、言葉にしねぇと。

 

「━━━悪い、氷結は使い過ぎたせいでガス切れだ。暫く炎中心になっちまう。上手く合わせてくれ」

「っな、なんでっ!あんたが!!今更そんな事言うんだよ!!」

 

妙な言葉に視線を向けると、その目は何処かで見た色に染まっていた。そして同時に俺は理解した。どうしてこんなにも、こいつの事が気になっていたのか。どうしてこんなにも、こいつを見てると胸がざわつくのか。

 

 

「あんたはっ、そんな奴じゃないだろ!!」

 

 

それは俺が一番知ってる目だ。

 

 

「あんたは、エンデヴァーの、あいつの息子だろ!!」

 

 

忘れる訳がない。

 

 

「今更っ、今更ヒーロー面してんじゃねぇよ!!ヒーローはあんたらみたいな親子が、あんたらみたいな目した奴等が、なっていいもんじゃねぇんだよ!!ヒーローは熱いもんなんだ!!熱い心がっ、人に希望とか感動とかを与える!伝える!!」

 

 

それはずっと、俺がしていた目。

親父に向け続けてきた。

その目だ。

 

 

『やぁった、勝ったぞ!!でも次はわかんないな!あんた凄いな!』

 

 

俺は本当に、何も見てなかったんだな。

どうしてこんな顔にさせるまで、忘れていられたんだろう。

 

 

『あんたってエンデヴァーの子どもかなんか!?凄いな!』

 

 

手を差し伸べてくれてた奴の事。

笑いかけてくれた奴の事。

 

『邪魔だ』

 

そんな心ない言葉で切り捨てた事も。

 

 

 

 

「俺はァ、あんたら親子の、ヒーローだけは認める訳にはいかないスよぉ!!」

 

 

 



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はい、そんなこんなで、また閑話だよ。『北風小僧の小さな傷』の閑話巻き

次回二次試験クライマックス・・・・だったら良いなぁ(*´ω`*)


俺ってやつは昔から恐れを知らないタチだった。

 

『はやくてかっけぇ・・・好きだこのムシ!』

『きゃぁぁぁぁ!?先生ぇ!!イナサくんが!!』

『━━━なに触ってんだイナサァ!?』

 

廊下の隅で地面を走る黒い虫。

それを手にした俺に皆は肩を揺らして悲鳴をあげた。

でも俺には、艶光が眩しくて速くてカッコいい虫にしか思えなかった。

 

『すげぇでけぇかっけぇ・・・この犬好きだ!』

『グルルルルルゥ』

『あぶねぇよ!イナサ!噛まれんぞ!!』

 

近所の家に飼われてる大きな犬。

近づこうとしたら全力で皆に止められた。

俺には体が大きくて逞しくて、強くてカッコいい犬にしか思えなかった。

 

どれもこれも、俺のお気に入りだった。

俺のお気に入りに対して皆は色々言ってきたが、俺からすれば勿体ないとおもうのだ。悪い所はあるかも知れないが、それ以上にカッコいい所だらけだ。虫も、犬も、みんな。知れば知るほど、カッコいいと思える。それぞれにそれぞれのカッコよさがあるものだ。

 

そしてそのお気に入りの中でも一番のお気に入りがあった。心から熱狂する、お気に入り。

 

 

『ヴィラン!!そこまでだ!!』

 

 

それがヒーローだった。

目の前のピンチに全霊をかけて挑む。

その強さは人に希望を与える。その熱き闘志は熱と感動を与える。

 

俺はそんなヒーロー達の背中に憧れた。

そんな姿に思いを馳せた。

いつかは俺も熱いヒーローに。

 

 

だから嫌いだった。

 

 

『邪魔だ』

 

 

掛けられた拒絶する言葉で。

振り払われた手で。

怒りに染まった冷たい目で。

 

俺のヒーロー像を壊した。

あの日の、あのヒーローが。

 

 

 

 

 

それから時が経って中三の冬。

俺は憧れだった雄英高校の門をくぐった。

推薦入試の試験を受ける為。

 

そこにいた受験者達に、心が熱くたぎった。

日本一のヒーロー校、雄英高校。

集まってくるのはとびきり。

合格すれば待っているのは日本一熱い高校生活。

 

ワクワクする気持ちは、どうしても押さえられなかった。

 

筆記試験も終わり、プロヒーローであるプレゼントマイクの説明を受けて挑む実技試験。試験内容は雄英の施設を使ったマラソン。個性使用の許可も受け、心は更にたぎった。熱い展開だと。

 

実技は全力でやる。当然だ。

出し惜しみはしない。

次の面接の事を一旦忘れてスタート地点につく。

 

ふと、そこへ目がいった。

朝入口近くで会った鋭い目をした奴。

 

『邪魔だ』

 

ぶつかった俺に冷たくそう言った奴だ。

記憶が正しければきっと、あのヒーローの息子。

噂には聞いていたし、何よりあの目はよく似ていた。

 

嫌な感じだ━━━それがそいつに抱いた素直な感想。

 

レースが始まるとそいつは誰よりも速かった。

氷を重ねての独特の移動。体を滑らせるならまだしも、作った氷で体を無理やり押し出すような特殊な移動方。

個性の出力と耐久力、空気抵抗を受けても崩れない体幹、最短のルートを選び続ける頭の回転の速さ、それを行い続ける高い集中力。

 

目は気に入らないけれど、素直に凄いと思った。激アツな実力だ。

けれど不思議と、その背中に心は熱くならなかった。

感じるのは寒々とした何か。

多分合格するのだろうと思うと、気に入らないと思ってしまう。

 

でも、とも思う。

悪い所ばかり見るなんてどうかしてると。

 

生き物だ。ましてや人だ。気持ち一つで表情も変わる。なら勘違いも間違いもあるし、きっと俺が好きになれるところもある筈。これまでと同じだ。見つければ良い。ちゃんと話そう。友達になれば、きっと気にならなくなる。

 

まずは視界に入ろう。

その為にも全力で。

そう思い風で背中を押し出し、駆けた。

 

全力で駆けたレースは僅差で俺が勝った。

試験だった事なんて半分飛んでて、ただ凄い奴に勝てた事実が純粋に嬉しかった。ギリギリの結果。熱い戦いだったから。

 

『やぁった、勝ったぞ!!でも次はわかんないな!あんた凄いな!』

 

思わずあげてしまった声。

見つめた先のそいつは━━━俺を見てなかった。

間違いなく熱かった筈なのに。

 

『━━━あんたってエンデヴァーの子どもかなんか!?凄いな!』

 

続けて掛けた言葉に、漸くそいつの目は俺を見た。

それは一瞬だけだったけど、確かにそいつは俺を見た。

酷く冷たい、あの時見たその目で。

 

『黙れ。試験なんだから合格すればそれでいい。別にお前と勝負してるつもりもねぇ』

 

それはあの時と同じだった。

 

『邪魔だ』

 

あのヒーローと。

俺が一番嫌いなヒーローと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャングオルカへと叩きつけた風に炎が潜り込む。

熱を帯びた豪風の威力は格段にあがり、ギャングオルカの肌を焼いていった。苦痛に満ちたくぐもった声が聞こえる。

 

「っち、またっ!!」

 

視線を落とすと轟と目があった。こちらの様子を窺うような視線を感じる。

その目に含まれた意思に気づけないほど鈍くはない。それなりに訓練を受けてきた。

 

だから余計に癪に障る。

 

「━━━好きに動け、フォローする」

「黙れよっ!!だれが、あんた何かのっ!!」

 

気に入らない、なんだその目は。

お前はそんな奴じゃないだろ。

そんな目で見てくる奴じゃないだろ。

 

風を放つ度、轟は合わせてくる。

決して俺の邪魔をしないように、的確に。

風に含まれた熱は攻撃の威力をあげていく。

 

それは才能が成せる技術ではない事は気づいてる。

誰かと戦う事を理解してなければ絶対に出来ない事。それこそ何回も何十回も、繰り返し繰り返し訓練を受けなければ。個性を手足より精密に扱うのに、誰かと連携をとるのに、どれだけ苦労と努力を重ねたか考えれば分かる。俺がそうだった。

 

だからこそ、癪に障る。

気に入らない。

 

 

 

「っく━━━なんで、あんたがっ!!」

 

 

 

久しぶりに見た轟は、笑っていた。

俺を否定した癖に。

それが当たり前みたいに。

 

そんなの、認められる訳がない。

認める訳にはいかない。

 

そうじゃなきゃ俺は━━━━━なんなんだよ。

 

逃げたんだ、俺は。

自分の弱さが認められなかった。自分の中に沸き上がった感情と向き合えなかった。熱くない物が、一番嫌いな物が溜まっていくのが耐えきれなかった。

 

お前の言葉や目に胸を張れなかった。声を掛けられなった━━━あれだけ憧れて努力して、なのにその目を見たら、何も言えなかった。何も。俺も同じだったから。あんなにも嫌いだった筈の物に、俺も。

俺は、俺も裏切ったんだ。

 

ヒーローは熱くなくちゃいけないのに。

 

逃げて、誤魔化して、知らないふりをして。

でもやっぱり夢は諦められなくて。

だから士傑高校に入った。努力した、誰よりも。朝も昼も夜も、ヒーローになる為だけに努力した。

 

俺は間違っていないんだと、そう言いたかった。

いつかプロの世界で、お前に伝えたかった。

ヒーローの熱さを。俺は違うんだと。

 

なのに。

 

なんでお前は、もう一人でヘラヘラ笑っているんだよ。

なんでお前だけ、勝手に前に進んでるんだよ。

なんでお前が、そんな顔するんだよ。

 

お前が、お前らが否定したのに。

俺を、俺の夢を、俺のヒーローを。

ふざけるな。

 

 

「ふざけるなぁぁ!!━━━━っぐぁっ!?」

 

 

目の前がぐらついた。

視界が二重にぼやける。

頭痛で意識が朦朧とする。

 

視界の端にギャングオルカの姿が見えた。

こちらに鋭い視線と目が合う。

攻撃の気配が━━━。

 

慌てて姿勢を戻そうとしたが、何かが体にぶつかった。

体についた灰色の何かは急速に固まっていく。体が動かしずらくなる。体が酷く重くなる。

 

「着弾ンーー!!シャチョーと我々の連携プレイよ!!」

「受験者全員ガチゴチに固めてやる!!」

 

ギャングオルカの近くにいる仮面達からそんな声が聞こえてきた。気を取られているとコントロールが乱れた。

 

灼熱を孕んだ風が落ちる。

 

「━━━━━っ!!」

 

視線の先、風の向かう先に人の姿が見えた。

避ける余裕は見えない。俺がずらさないと。

そう思って力を込めたけど、意識が薄れて上手くいかない。威力を増した風が逸れず、止まらない。

 

脳裏に最悪が過っていく。

ヒーローを目指す者が出すには、ほど遠い結果。

俺の憧れから遠い姿。

 

「お、れ、はっ、何でっ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「何をっ!!」」

 

 

怒鳴り声が響き、竜巻のようなそこから幾ばくかの風を削り炎を引き剥がす。宙に散っていく炎は、空中に飛ぶ球体へと集まりその身を眩しく光らせる。

叩きつける豪風は視界一杯に広がった茶色の草原が受け止め、倒れていた受験者に落ちぬよう外へと力を押し流ていく。

 

 

「━━してんだ、アザラシぃ!!エサ抜くぞ!」

「━━━しているんだっ!!イナサァァァァ!!」

 

 

体が強く引き寄せられる。

引き寄せられる先には茶色の━━━毛が待ち構えていた。ボフンと音がなりそうな柔らかい衝撃。落ちないようにか、体に茶色の毛が絡まっていく。

 

その大量の毛は、その個性はよく知っている。

 

「せ、んぱい━━━━っがぁ!?」

 

感謝を伝えようとしたら固い衝撃が頭に走った。

恐らく拳骨、目がチカチカする。そのまえのギャングオルカの攻撃もあって更にクラクラする。

 

「モジャモジャ、私らこのままいくからね?躾しといてよね」

「うむ、君達は先に行ってくれ」

 

聞き覚えのある女子の声と先輩の声。

その間にも戦いは続いているのか、爆発音や怒鳴り声が聞こえてくる。視界が茶色一色に染まってて見えないが、その激しさは伝わってくる。

 

「・・・はぁ、まったく!!妙な雰囲気だなとおもえば、馬鹿者が!!聞こえたぞ!!ヒーロー足らんとする者が、こと救助現場で私情を挟むな!!貴様っ、これまで何を学んできた!!」

「じっ、自分はっ━━━!」

「言い訳なぞ聞かん!!大馬鹿者が!!演習もまともに出来ん者が、本物の現場で何が出来るか!!喧嘩がしたくてここに来たのか貴様はァ!!━━━━熱いヒーローになるのではなかったのか!!その為の、仮免許試験であろうが!!」

 

その言葉に声が詰まった。

いつか先輩に語った夢の話。

俺の話。

 

「迷うこと、悩むこと、挫折すること、間違うこと。構わん。幾らでもしなさい、お前はまだ一年坊主だ。時はまだある、焦るな。それらはな、更なる成長を促す肥やしだ・・・だが、今は救う事だけ考えろ。忘れたのか。お前を送り出したのは勝つ為じゃない。救う為の時間稼ぎだ」

 

「それを、何故お前に任せたか分かるか?トップクラスのヒーローの妨害という危機的状況。何故、お前に任せたか。信頼したからだ。お前の努力を、志を、力を。確かに短い間ではあったが、この数ヶ月を私達は見てきたからだ」

 

「何を焦ることがある、何を恐れることがある。私達はお前を見てきたぞ。お前はお前の目指す者へと、ちゃんと向かっている。胸を張り、堂々としていろ。お前にはその力があるのだ━━━━忘れるな、イナサ。お前はヒーローになるのだろう?誰よりも熱いヒーローに」

 

言い聞かせるような先輩の声に視界が滲んだ。

どうしようもなく、熱く。

 

「・・・・はい」

「分かれば良い。さて、どのような基準によって採点がついているのか分からんが・・・イナサ、恐らくお前の採点は散々たる物になっているだろう。合格も難しい」

「はい、それは」

「故に、点数稼ぎにもう一働き行くぞ」

「はっ━━━えっ!?」

 

一言伝えるや否や、先輩は背中にオレを括りつけた。

茶色に染まっていた視界が晴れ、戦っている他の受験者達の姿が目に入ってくる。

 

「その目で見たままの光景にて、お前が為すべき事をしろ。一切の私情を捨て、客観的に見て判断しろ。必要が必要であるために動け━━━出来ぬとは言わさんぞ、レップウ!!」

 

何も解決なんてしていない。

俺はまだ、何も出来てない。

何もかもそのまま。

 

 

けれど、この言葉に返す物は、きっとそれしかない。

 

 

「はいッッッス!!!」

 

 

腹の底から叫んだその言葉に、先輩は何も言わず戦場となっている其処へ走り出した。どうしようもなく情けない、俺を背負ったまま。力強く。



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ゲームでも何でもそうだけど、最後の止めだけ持っていくような奴は友達ではありません。ただの報復対象です。まぁ、そういう訳だ友よ。面に出ろ、性根を叩き治してやる。止めは私がさすと言ったよなぁ!の巻き

こんなにがっつりヴィラン編が来るとは・・・楽しみやで。
ドクターの正体教えてくれたらええなぁ(*´ー`*)


召集を掛けてから少し。

かっちゃんが合流したのを切っ掛けに、先走り野郎な轟が戦ってる場所へ駆けつけると━━━━アザラシが事故起こしそうになっていた。

 

 

「「何をっ━━━」」

 

 

思わず声をあげると、低い声とハモった。

横目で見れば瓦礫の陰からモジャモジャなパイセンが駆け出してくる。お互いの目が合う。

一瞬のアイコンタクトだったけど、十分過ぎる程伝わった。

 

「━━してんだ、アザラシぃ!!エサ抜くぞ!」

 

即座にベイビースターを射出。

ベイビースターを起点にして、風と炎を対象に引き寄せる個性を最大出力の発動。渦となって落ちるそれから破壊力を削り取る。

 

「━━━しているんだっ!!イナサァァァァ!!」

 

削りきれなかった豪風はモジャモジャパイセンがきっちり受け止めた。モジャモジャの壁、つよい。パイセンかっけーす。

 

 

「双虎ぉ!!先行くぞ!!」

 

 

落ちてくるアザラシの回収を手伝っていると、立ち止まった私の横をかっちゃんが通り過ぎてく。私としてもかっちゃんには先に行って轟に加勢して貰いたい所だからなんの問題もない。だからそのまま見送った。普段は口と態度の悪い爆発野郎だけど、こういう時は本当頼りになるなぁ。サスカツ。

 

モジャモジャベッドにアザラシを叩きつけた後、アザラシの事はそのままモジャモジャパイセンに任せ、私も爆発音が鳴り響くそこへと体を引っこ抜く。

 

 

近づくとまたえらい光景になってた。

 

 

ひび割れや隆起によってガタガタに崩れた地面。その上をヴィラン役の仮面の男達は、地面を這いずり回る炎の蛇に追われ逃げ惑っている。炎によって分断された者には恵みの雨のように爆発物が降り注ぎ、吹き飛ばされては荒れた地面に転がされていく。

 

爆炎が支配する阿鼻叫喚のその地は、さながら現世の地獄だった。

ヒーロー志望の少年達の仕業とは思えない鬼畜ワールドだった。━━━まぁ、その少年というのは主にかっちゃんと轟の事だけど。地割れ?地割れは知らん。

 

 

「チャチョー!これやべぇっ━━━━ぶぁは!?」

「おおぅ!?おい、大丈━━━━びょは!!」

 

 

いや、まぁ、私も参加するけどね。

 

目の前にいた二人の仮面ヴィランをベイビースターで意識を刈り取り、かっちゃんが暴れる中心地へと飛ぶ。

邪魔な仮面ヴィランを何体か狩り進むと、直ぐにシャチマフィアの姿が見えてき━━━━━━うぅん?

 

そこには確かにシャチマフィアがいた。

それと相対するかっちゃんも。

それは良い予想済みだ。

 

けれど、なんか見慣れない・・・一応見覚えのある奴の姿も一緒にあった。

 

 

「━━━っち!!おらァ、クソアマ!!邪魔なんだよ!!散れや!!」

「あははっ、そんなに邪険にしないでよ~。上手く合わせてるでしょ?」

「っせぇ!!いちいち、てめぇは動きが気持ち悪りぃんだよ!!」

 

士傑のあのエロ女だ。

かっちゃんも悪態はついてるけど、動きに無駄があるようには見えない。寧ろ上手く連携が取れてると言っても良い。私程でないにしろ、下手したら轟より上手いかも知れない。

 

そんなレベルの連携。

当たり前だが、そんな事即興で出来る訳がない。

一度戦っただけで、出来る訳がない。

つまりはそういう事だ。

 

 

 

 

「━━━━ふぅ、まったくかっちゃんは」

 

 

 

 

試験中に逢い引きなんて、ぶっ飛ばすぞ☆!

 

最大出力で体を引っこ抜き、空中を加速。

両足を真っ直ぐ伸ばし二人の連携の間をぶち抜いて、シャチマフィアに渾身のドロップキックをかます。

放った渾身の一撃は、二人に意識を割きすぎたシャチマフィアの隙を完全についたのか顔面にクリーンヒットした。大きく体勢が崩れる。

 

「なぁに、いちゃついてんだコラァ!!他所でやれや!!他所で!!はげろ!!」

「はぁ!?誰が何処でいちゃついてんだっつんだ!?ゴラァ!!何処に目つけてんだてめぇは!!」

 

この野郎、まだ誤魔化すつもりかぁ!!

 

「緑谷双虎っ、か!?ふっ、相変わらずのじゃじゃ馬っぷりだ━━━━━ぬおっ!?」

 

こっちに視線を向けたシャチマフィアの隙をついて、かっちゃんが爆撃を叩き込む。

 

「ここに二つ!ついてますけど!?見えませんかぁー?!かっちゃんは節穴ですかぁ!?目玉はお留守なんですかぁー?!もしもーし!!」

 

かっちゃんに向いた意識の隙をついて、ガガンってなるパンチをシャチマフィアの横っ面に叩き込む。

その攻撃にかっちゃんもすかさず爆撃で追撃してくる。

 

「もしもしは耳だろうが、馬鹿が!!つか見えまくりだわボケ!!じゃぁ、頭だな!!てめぇがイカれてんのはよ!!落としたネジ拾ってこいや!!北九州まで!!」

 

北っ、九州っ・・・ふぐぅ!こいつっ、人が言われたら嫌な事を平然と!最低だな!本当最低だな!!あん時、母様にどんだけ怒られたと思ってんだ!!トラウマなんだぞ!!この野郎!!

 

「試験中に━━━喧嘩っ、とは━━━━と注意したいがっ!!ええぃっ、良い連携だ馬鹿共がァ!!!」

 

甲高い音と共に衝撃波が飛んできた。

私とかっちゃんの体が後ろへと弾かれる。

ヴィランと戦ってる姿を見てたから分かっていたけど、この至近距離でこれはズルい。吹き飛ばす威力は然程危険ではないけど、頭にクラっとくるのがヤバい。引き寄せる個性が安定しなくなる。共闘してた時から思ってたけど、このシャチマフィア相性最悪だ。

 

ふらついたこっちにシャチマフィアが拳を振り上げる。

衝撃に備えてガードを上げた━━━━けど攻撃はこなかった。

 

「━━━っ!!ぬうぅっ!!」

「っとー、完全に後ろとったのに。プロは怖いねぇー。謎の超反応。どうやって感知してんの~?」

 

あのエロ女がシャチマフィアの注意を逸らしたからだ。

背後からの奇襲もさることながら、それまで気づかせなかった技術は目を見張る物がある。ムカつくけど。

私ですら、エロ女の位置を間違えてた。

 

「かっちゃん!!」

「っせぇ!!やんぞ!!」

 

エロ女の動きに合わせて、シャチマフィアに攻撃を叩き込む。ガードされたけどエロ女からの攻撃は入った。くぐもった声が聞こえる。

 

エロ女もこちらに合わせるつもりがあるのか目が合う。そう長くないアイコンタクト。何とはなしに腹立ったけど、言いたい事は何となく分かった。

かっちゃんと合わせるのは慣れっこ。見なくても出来る。だから、エロ女の動きだけ見て合わせていく。

 

エロ女に注意が向く隙をついて攻撃する。

こちらに意識が向けば弱点ついてそうな炎とベイビースターで撹乱しつつ視線を誘導、かっちゃんとエロ女の攻撃の隙を作る。

釈然としないものがあるが、エロ女に合わせるのは難しくなかった。妙に噛み合うのだ。

 

「━━━ペース上げますよ、アホ女」

 

カチンとする言葉と同時、エロ女のテンポが上がった。

エロ女がかっちゃんを軸にしているみたいなので、私もそれに合わせていく。本当に腹が立つほど噛み合う。手の届かない所に手が届く感じ。

 

けど、やっぱりムカつく。

 

かっちゃんの爆撃で生まれた隙をついて、シャチマフィアの懐に潜り込むとエロ女も同じタイミングで突っ込んで来ていた。エロ女も嫌そうな表情を浮かべている。

どうやら気持ちまで一緒らしい。

 

私はそのまま引き寄せる個性を使い、全力で拳を振り抜く。息でも合わせたように、エロ女も脚を振り上げた。

鈍い感触が走り、鈍い音が鳴る。

シャチマフィアはたたらを踏んだ。

 

「━━━━ふっ、良い攻撃をするじゃないか。受験生っ!!少し、火が付いたぞ」

 

ゾクリとした寒気に引き寄せる個性を発動。

勘に従ってその場にいた全員を引き寄せ、シャチマフィアから距離を作る。体一つ分離れた所で、また甲高い音が鼓膜を揺らした。それもさっきより大きい。体が飛ばされる。咄嗟に耳を塞いだけど、それでもクラクラする。

 

コントロールが利かない個性は直ぐに解除。

個性なしの自力で着地。体勢は少し崩れたけど、倒れる事なくできた。流石出来る女な私は違う。さすわた。━━━まぁ、他の二人も問題なく着地していったけども。

 

ふと見るとシャチマフィアから威圧的な雰囲気が漂っている。火が付いたとの言葉は冗談ではないらしい。

さてどうしようかと思ってると、波のように押し寄せる氷柱がシャチマフィアの背後から迫った。気づいたシャチマフィアはそれを額から放つ衝撃波で粉砕。

氷が粒となり宙に舞う。

 

その奥にはこっちに駆けてくる轟。

雑魚担当がお仕事終えたようだ。

 

「雄英生徒!!少しばかり見せ場を譲って貰うぞ!!」

 

怒鳴り声に視線を向ければモジャモジャが走ってきてる。背中にアザラシの姿もある。

 

「かっちゃん!!」

「っち!!顎で使ってんじゃねぇぞ!!」

 

そう良いながらかっちゃんは手を前へと構えた。

轟がかっちゃんの姿を見て顔を手で覆い、それを見たモジャモジャ達も視界を塞ぐようにモジャモジャを展開する。

 

カッ、と光が一瞬で周囲を満たす。

そしてシャチマフィアの呻くような声が聞こえてくる。

その隙にかっちゃんの首根っこを掴み、体を一気に引っこ抜く。シャチマフィアとの距離を更にあける。

 

なんか鳥を締めたような声が聞こえたけど、それはスルーして轟に合図を送った。

しめちゃえYO、と。

 

頷いた轟の体から炎が噴き上がる。

アザラシから風が巻き起こる。

 

「━━━━ぬっ、これは・・・!」

 

シャチマフィアの視界が戻ったとほぼ同時、二人の攻撃は放たれた。

 

轟の空気をも焼き焦がす炎、アザラシの嵐のような風。

放たれた二つはお互いを飲み込んで渦を描く。

火力を更に上げ、風力を加速させながら。

 

私はちょっと離れた所から、かっちゃんとその光景を眺めた。巻き上がる炎と風の嵐を。それに閉じ込められるシャチマフィアを。

 

頬を撫でる熱風を感じながら思う。

 

もうこれ、火災旋風とか呼ばれる災害じゃんね、とか。普通に酷い、とか。ヒーローの所業じゃないね、とかも。

 

「・・・・ヒーローに成る為に人の足を引っ張り、人を騙し、人を殴り、人を蹴り、人を焼く。かっちゃん、哲学だね」

「哲学ではねぇな」

 

そうこうしてる内にアナウンスが流れた。

用意された救助者が全員救出された事を告げる物。

つまりは二次試験終了の━━━━━━いや、長かった仮免許試験の終了を告げる、その合図が。



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茶化したりしないぉ!ぼくはそんなことしないぉ!ほんと、ほんと!ほんとのホトトギスだぉ!だから教えてよぉー、ねっ?ねっ?えっ?驚くほど信用出来ない。・・・へぇ、それはよい目をお持ちで。の巻き

割と悩んだ結果・・・こうなりましたっ!
(゜ロ゜)クワワッ!


試験結果発表。

 

それは万国共通ありとあらゆる試験受験者にとって、天国と地獄の分かれ目を告げる、世界終末のセブンズトランペットの音そのものである。

その音を聞きしある者は歓びの声を、ある者は嘆きの声を口にする。そこに一切の慈悲はない。己が出した結果を、他者によって突きつけられた結果を、あるがまま受け止め飲み込むしか答えはないのだから。

 

そしてその日、その場所、その時間で。

また一つの喜劇とも言える悲劇とも言える。

運命の結果発表が行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、名前あった」

 

はい、まぁね。色々言いましたけどね。

私は普通に合格しましたよって。

あたりきしゃりきよー。

 

そりゃぁね、頑張ったもんね。押さえる所押さえましたもん。はい、狙いましたよ?何か?ふふん。

 

採点基準について明確な内容は聞いてなかったけど、それまでの流れを見れば協会が何を考えてるのかは何となく分かる。協会は兎に角、協調性が比較的あって、そこそこ使える手駒が欲しいのだ。

それはつまり、増える犯罪者に対してガチムチのような象徴を立て抑制するのではなく、ヒーローの頭数を増やして数で対応する人海戦術を選んだという事。

 

だから、授業でやった事を普通にやってれば大丈夫だとは思ってた。役割を完全に割り振って動いた理由はそれだ。実際救助に向かう事なく避難場所の確保、避難誘導や救助の手当てといったどちらかというと裏方になった百チームの面々が、全員合格してるのが良い証拠。

おめでとー、百ー。

 

あっ、かっちゃんの名前あった。

切島から聞いた感じだと、中々にクレイジーな救助してたって言ってたから、これは駄目かなぁと思ってたんだけど・・・・救助即行切り上げで、戦闘班に交ざったのが良かったのかなぁ。あれなら採点下がらないし。

ふと隣を見るとドヤ顔のかっちゃんがいた。

 

「・・・良かったね。シャチマフィアきて」

「どういう意味だ、ああん?」

「そういう意味だ、こらぁ」

 

パッと見た感じウチに落ちた奴いなさそう。

お茶子も眼鏡も・・・・おぉ、轟の名前もあった。

・・・んん?

 

ぼやーっと眺めているとアザラシの文字がない事に気づいた。他所の学校の奴とはいえ、私の可愛いファンだから気になって探したらこれだ。

五十音順になっているから直ぐに見つけられる筈なんだけど、何度見てもアの行になくイの行になってしまう。眼鏡の飯田になってしまう。あしどんと梅雨ちゃんはあったけども。

 

「やっぱり駄目だったかぁ・・・・アザラシ」

「・・・一応言っとくが、アで探したら一生見つかんねぇからな」

「え?うん?まぁ、見つからなかったけども」

「そうだろうな」

 

かっちゃんの憐れむような謎の視線に首を傾げていると目良っちの声が響いていた。

 

『えー全員ご確認いただけたでしょうか?続きましてプリントをお配りします。採点内容が記載されてますので、しっかり目を通しておいて下さい』

 

黒服の人に配られるそれを、側にいたかっちゃんと貰いにいく。貰ってる最中も採点について目良っちから追加の説明を聞いて、減点方式で採点してる事が分かった。マックス100点の合格ボーダーライン50点だそうだ。

 

黒服のおじさんから貰った紙を覗くと、90点という高得点がそこに刻まれていた。さすわた、と心から思う。

目立った注意点も特になく、迅速で適切な行動にはハナマルを貰えていた。じゃぁ何が駄目かと言えば、かっちゃんのせいだった。かっちゃんと無駄話してしまった事と、ふっくの人をふっくの人と呼んだのが駄目だったらしい。不真面目さを感じるとの事。

 

くそぅ、なんでやん。

かっちゃんの事は兎も角、ふっくの人については本当の事言っただけなのにぃ。

 

ただ何故か手書きで『それを差し引いても良い連携だった。今後も精進を続けよ』とお褒めの言葉が書き込まれていた。可愛い字で。・・・多分だけど、シャチマフィアな気がする。入院してる時貰った、シャチマフィアのお見舞いについてたメッセージカードの字だもん。

 

「━━━ん?おかえり、かっちゃん。何点だった?」

 

採点内容を頭からまた見直していると、かっちゃんがプリント片手に戻ってきた。どうにも表情が渋いのでどうだったか聞いたらそっぽを向いてくる。

そんな姿を見てると、私の悪戯心に火が灯った。

 

「っせぇ。んでも良いだろ」

「まぁ、合格したならね何でも一緒だろうけどさ。私ギリだったよ。危なかったぁ~」

 

私がそう言うとかっちゃんが怪訝そうな顔をした。

うん?嘘はついてないよ。誰も合格ギリとはいってない。90点代ギリギリだったよって、そう言ってるだけだ。あはは。

「あ?ギリだぁ?」

「そうギリギリ。結構採点厳しかったのかもね。で、かっちゃんは?」

「・・・・ちっ、ほらよ」

 

さっと差し出されたそれを見ると、かっちゃんは51点だった。まさかの滑り込み。ほんまもんのギリ。

これには、流石の私も笑えない。書かれてる注意点は大体救助対象に対する態度の悪さが目立っている感じだ。まさしくクレイジーな救助だったようだ。

あ、またシャチマフィアが褒めてる。なんで手書き。

 

そんな点数を叩き出したかっちゃんは、入れ換わりで渡した私の点数表を見て凍りついてる。暫くフリーズした後、錆び付いたロボみたいにこっちを見てきた。見開かれた目には淀んだ何かが宿ってる。怖い。

 

ごめんね、本当に。マジで。

 

「今度、ご飯奢るから・・・・」

「何慰めにきてんだてめぇは!!ざけんなゴラァ!!さっさとそれ返せや!!」

「ごめんそれは、ちょっと。ほら、光己さんに見せないと」

「何写メ撮る準備しとんだ!!!止めろゴラァ!!!」

 

みんなぁーーーー!!聞いてよぉーーーー!!かっちゃんがねぇ!!リアルにドイヒーな点数を━━━━っぶなぁ!?危ない!何で蹴るの!?避けなかったらおしりパーンなんですけど!?乙女のお尻を何だと思ってんだァ!!この野郎!!

 

『━━━とまぁ、今回合格点数に届かなかった方々にも補習を受けて貰う事で・・・・・・すいません。ちょっと、お二人さん。お静かに願えますか?本当に仲が良いですねぇー。僕もですね、何百人もの受験者を覚える程、記憶力の良い訳ではありませんが━━流石に覚えましたよ。爆豪さん、緑谷さん。合格を取り消されたくなかったら、少し静かにしていて下さいね』

 

私とかっちゃんは振り上げた拳をそっと下ろし、お口チャックで壇上に上がる目良っちへ視線を送った。しっかりと互いの足を踏みながら。

 

『━━━・・・はい、まぁ、結構です。爆豪さん、緑谷さん。次はありませんからね。では先程の話を━━━━』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがたい目良っちのお言葉で締め括られた仮免許試験。さっさと帰ろうと会場を後にしてバスに乗り込もうとしたけど、包帯先生に捕まって正座させられた。勿論、かっちゃんと。

もうね、慣れたから叱られるのは良いけど、帰ってからでも良くない?恥ずかしいんですけど。公衆の面前で恥ずかしいんですけど。助けてお茶子。

 

チラッと視線をお茶子に送ると、さっと目を逸らされた。おっと、ウラギリィ。

ならばとベストフレンズの紅白饅頭ことショート様に視線を送ると、アザラシに絡まれていた。なんか変な空気が漂ってる。

 

「・・・緑谷、よそ見するとは良い度胸だ」

「あっ、すんまっせん。不穏なコンビがいたので」

「不穏?なにを━━━━」

 

 

「ごめん!!嫌な態度とって、お前に迷惑を掛けた!!」

 

 

アザラシは凄い勢いで頭を下げ、その勢いのまま地面に頭をぶつける。凄い激突音が辺りに響く。

あまりの光景にネチネチ叱っていた包帯先生が思わず固まって言葉を止める。周囲にいた受験帰りの人達も

固まる。

 

そんな中、轟はいつものノボーっとした表情のままゆっくり口を開いた。

 

「・・・・・気にするな。それにそれを言うなら、お互い様だ。入試ん時、俺こそ態度悪くて悪かったな。・・・せっかく話し掛けてくれたのによ」

 

轟の言葉を聞くとアザラシが頭をあげた。

分かりやすく唖然としてる。

渾身のポカン顔だ。

 

ポカンVSノボー。

何あれ、面白い。

 

「・・・・変わったな、轟」

「そう、かもな。雄英に行かなかったら、あいつらと会ってなかったら、きっとお前とこんな話してねぇと思う」

「それは・・・多分俺もだ。士傑に行かなかったら、先輩に叱られなかったら、まだお前は気に食わないだけの奴だったと思う」

 

曲げていた腰をあげ、アザラシは胸を張った。

 

「正直、まだお前の事は好かん。━━━でも、お前の事を知りたいと思った。友達になってくれ、轟」

「友達は別に良いが、俺もお前の事はあんまり好きじゃないぞ」

「お互い様だな!」

「・・・ああ、そうだな」

 

よく分からない会話が終わり、二人はがっちりと熱い握手を交わした。

なんだあれ、変な友情が生まれとる。

 

ふと包帯先生を見ると眉間を指で揉んでいた。

ついでに気も揉んでる事だろう。

お疲れ様です。うっす。

 

「イナサ、帰るぞ」

 

そんなモジャモジャパイセンの声が聞こえると、アザラシは元気よく返事を返し走っていた。それも器用に、こっちに手を振りながら━━━━━

 

「またなー!!轟ー!!俺のアドレス●●●●●●●だ!!駄目だったら電話くれ!!電話番号は●●●━●●●●━●●●●だ!!後で連絡くれ!!」

 

━━━━ついでに公衆の面前で個人情報も大公開しながら。将来が心配だなぁ、サイン一号。

 

 

 

「・・・それにしても、あのエロ女いなかったな」

 

 

遠ざかってく士傑の背中を見てると、ふとそんな事に気がついた。だからと言ってどうという事もないのだけど・・・何故か気になった。

 

「むっ?」

 

エロ女の事を思い返しているとスマホが震えた。

包帯先生の意識が轟に向かってるを確認してからコソッと見てみるとメッセージが入ってる。

 

珍しいことに、ガチムチから━━━━━。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

一足先に試験会場を出ると、日はすっかり傾き夕刻を迎えていた。街並みは赤く照らされまるで血塗られたよう。建物と建物の影には表の赤と相反するように、深い闇が差し込みつつある。それは何処かノスタルジックで、私はそこにある独特の雰囲気を楽しみながら、二色に染まる街を歩んだ。

 

手にしたビンの中身を眺めながら歩いていると、ポケットにしまっていたスマホが震え出す。取り出して画面を見れば見慣れた人物の名前が浮かんでいる。

 

だから通話ボタンを押そうとしたのだが━━━そのままでは彼を驚かしてしまう事を思いだし、掛けられた魔法を、個性を解いた。

 

長い茶色の髪が、白い柔らかそうな肌が、指先を彩っていた爪が、誘うような厚い唇が、体から泥のように落ちていく。

変わらないのは頭に被せた黒い帽子だけ。彼女から拝借してきた、士傑高指定のその帽子だけ。

 

 

『━━━━やっとつながった!どこで何をしてる!?』

 

 

スマホから流れる声を聞きながら、私は私に戻ります。

他の誰でもない、私だけの私に。

 

 

『トガ!!』

 

 

そう、私は渡我被身子。

ただの、普通の、可愛い女の子。

今はヴィラン連合でお仕事してる、良い子な働き者。

 

「━━━素敵な遊びをしていました」

 

返した私の言葉に、通話先から憤りを感じます。

みすたーが少しオコです。

 

『定時連絡は怠るなよ!一人捕まれば全員が危ないんだ!』

「大丈夫なんです。私は今まで見つからず生きてきたので━━━━まぁ、一人厄介なのに目をつけられましたけど」

 

流石に気づいていたとは思いません。気づいていれば、あの性格悪い女が何もしない訳ありません。この程度で済んでる以上、そういう事でしょう。

ですが、あのままいたら面倒な事になっていた可能性も高いと言えます。態度や言動を見れば、確証こそなかったかも知れませんが、何かしら不信感を抱いていたのも間違いないでしょうし。

 

『おっ、おい!それって大丈夫なのか!?』

「大丈夫ですよ。追求される前に振り切ってきましたので・・・・それより面白い物を手に入れましたよ」

 

手に持ったそれは街灯に照され、ビンの中で赤い光を放ちます。綺麗な、綺麗な、とっても綺麗なルビーのような赤。

 

「爆豪くんの血を手に入れました。うふふ!」

 

あの女を引っ掻き回すには、きっとこれ以上の物も無いでしょう。どうやって使うか、今から楽しみで仕方ありません。胸がドキドキのワクワクです。

 

思わず鼻歌を歌っていると、はっと気づきます。

私、今、絶賛お電話中でした。

 

「・・・・あっと、それでどのようなご用件ですか?これから帰るつもりですけど」

 

投げ掛けた言葉に溜息が返ってきます。

 

『トガちゃんは本当っっっと、マイペースだね。楽しそうで何よりさ。それでね、用件っていうが召集ってやつね。帰ってくる予定なら余計なお世話だったみたいだけど。・・・どうにもトゥワイスが面白い話を持ってきたらしいんだよ』

「仁くんがですか?」

『せっかく気分盛り上げようしてるのに・・・本名言ったら駄目だぜ、トガちゃん』

「仁くんは仁くんですから」

『うーん、そうね。分かった、それで良いよ、もう』

 

用件も聞き終わり通話ボタンを切ります。

後に残るのはひっそりと静まり返った暗い街並み。

私は皆の元に向かう為、夜が呼んだ暗いそこへ体を沈ませました。

 

誰にも見られないように。

そうっと。

 

 

 

 

 

 

 

 



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業火に身を焼かれる気分はどうだ豚共!!貴様らの運命は既に喫した!!身を焦がし、油を燃やし、芳ばしい香りを醸し出すが良い!!━━━焼き奉行!そろそろピートロ行けますか!?ありがとーございまーす!の巻き

時がたつのはぇよぉ・・・もう四月じゃねぇか。
それはそうと、冬のヒロアカ楽しみ。
どんな話になんねんやろか。ifより過去話とか見てみたいなぁ。いや、なんでも見るけどさ!


『焼き肉』それは平たく言うのであれば、お肉を焼く行為を指す言葉である。しかして我が日本国において、焼き肉と言えばただお肉を焼く行為に留まらぬ、料理として確立された奥深さが存在するのだ。

 

ホットプレートやフライパン、鉄板や網と焼き肉は使用する道具から始まる。勿論、お肉によって変えるのがベストではあるのだが、個人的にはカリッと仕上がる網焼きがベストと言える。

あの油が程よく飛びさっぱりとしながらも、お肉の甘味が凝縮された味わいといったらない。鉄板より網、それが私。

 

そしてお肉、そうお肉である。

牛一つとってもカルビ、ロース、ハラミ、サガリ、ホルモン、レバー、タン、ハツなどといった数多くの部位が存在する。それぞれコクや味わい、食感に違いがあり、同じ牛といっても味のバリエーションは果てしない。

豚も鳥も、それは同様だ。食べたいな、骨付きカルビにピートロ。

 

そして極めつけはタレだ。お肉の美味しさをより一層引き立たせる、あのタレ達だ。塩やゆず胡椒といった味付けもあるが、やはりタレだ。タレなのだ。

ポピュラーな醤油ベースにしたタレを始め、塩ダレ、味噌ダレ、ゴマダレなどなど。特に醤油ダレから派生した亜種醤油ダレは多く、一口に醤油ダレといっても配合される調味料によって複雑に変化する為、その味わいは容易に想像出来る物ではないのだ。店舗によって千差万別、無限の海、つまりは宇宙を思わせる可能性がそこにあったりする。

加えて薬味まで入れ始めたら、もう堪らない。天才の私をもってしても、その味のバリエーションの前にはただただ焼き肉の神に感謝するしかないくらいだ。

 

焼き肉。

 

それは可能性の海を開拓する勇者達が集う場所。

それは宇宙の縮図、小さなビッグバン会場。

それは現代のセフィロトツリー。

それが焼き肉なのである。

 

ん?で、結局何が言いたいんだって?

ガチムチが奢ってるんだってさ!焼き肉を!!

やっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

 

 

「やっ・きっ・にっ・くぅ~!やっ・きっ・にっ・くぅ~!やっきにっくを、焼きにいく~!お肉の美味しさギュウギュウに~カルビ~、ロース~、ハラミに骨付きカルビ~~!網の上でトントン踊る~豚バラ~、タン塩~、ピートロ~、ホルモン~~」

 

 

 

鼻腔を擽る香ばしい匂いに誘われ、鼓膜を揺らすジュウジュウパチパチというお肉の焼ける音に気持ちを踊らせ、箸でリズムをとって歌っていると、「こほん」という声が聞こえてきた。

視線を声の聞こえてきた上座の方へと移せば、ガチムチと目があった。メニューも見終わったみたいで、さっきまで開いてたそれが()()()へと渡されてる。

 

「楽しそうなのは、うん、本当に良かったと思うんだけど・・・箸を打ち合わせるのは感心しないよ。緑谷少女」

 

優しい叱咤に私は大人しく箸を置く。ここでヘソを曲げられて奢らないと言われてもやだからだ。

ふたこにゃん、いい子にしてるにゃん。

 

「━━━━どんどんやいてぇ~、どんどんやいてぇ~、あなたのハツに~火がつくまでぇ~」

「あ、まだ続くんだね」

 

歌がサビに入った所で個室のドアがノックされた。

「失礼します」と一声掛かった後、ゆっくりと戸が開き店員さんが現れる。手にしたお盆には頼んだ飲み物が乗っていた。

 

「お待たせしました。ウーロン茶とコーラ━━━━」

 

ガチムチの所にウーロン茶が置かれ、私の前にはコーラが置かれる。

 

「━━━━三つと、冷茶、紅茶、オレンジジュース二つ、エナジードリンクになります」

 

トントントン、と他の飲み物もテーブルに置かれた。

直接()()の注文を受けた店員さんなので、きちんとそれぞれ注文した()()()前に置いてってくれる。ちゃんと覚えてるとは、出来る店員さんだな。

 

「では、ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼び下さい。どうぞごゆっくり」

 

パタンと戸が閉じた所で、ガチムチが一つ咳払いした。

それからウーロン茶を手に持ち()()()()()()

 

「━━━えっとね、そうだね、色々言いたい事はあるけど、みんな仮免許試験合格おめでとう!!かんぱーい!」

 

その言葉にガチムチが手にしたグラス抜いた、計八つのグラスが掲げられた。私、かっちゃん、お茶子、轟、飯田、百、切島、発目の八つのグラスが。

 

「さぁ、遠慮はいらないよ若人達よ!じゃんじゃん食べなさい!今日は私の奢りさ!!HAHAHAHAHAHA!!━━━━はぁ」

 

大きな笑い声の後の小さな溜息。皆はワチャワチャしながらメニューを見始めて気づいてないけど。私?私は気づいてるさ!視野の広きこと灯台の如しだからね。

そして私の前、テーブルを挟んだ向こうにいるかっちゃんも気づいてる。

 

だから、こっちへ助けを求めてる目で見つめるガチムチの事も・・・・うん!見なかった!私は何も見なかった!!かっちゃんは見てるでしょ!対応してよ、ほらぁ!助けたげな!!

 

私は大体のことをかっちゃんに任せメニューを開いた。

何食べようかなっ!と考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことは二時間前、仮免許試験の会場を出た所まで遡る。

全ての始まりはガチムチから送られた、一通のメールから始まった。

 

包帯先生から私らの仮免許合格を聞いたのか、ガチムチからおめでとうメール届いた。なので『ガチムチ先生のたまのもですー』とテキトーに返すと『賜物ね』と指摘のお言葉を受けてしまった。━━━本来ならそれで終わり。何気ない会話でしかないそれで。しかし、その時返ってきたのは、指摘のお言葉だけではなかった。そう、その文はこう続いたのだ。

 

『お祝いにご飯でも行こうか?例の約束の件もあるし、焼き肉なんてどうかな?』と。

 

正直いって期待してなかった。ガチムチが不義理だからとか、そういうネガティブな考えからじゃない。常識的にあかんやろと思っていたからだ。

約束したとはいっても教師と生徒がご飯食べにいくとか、宜しいとは決して言えない筈。実際、飲み会の席でさえ微妙な顔されたのだ。期待なんて出来る訳がない。

 

予想外のハッピーな出来事ににやつきが隠せずにいると━━━━お茶子にソッコーバレた。バスに乗って五分くらいでゲロさせられた。正直、お茶子は基本のほほんとしてるから大丈夫だと油断してた。世間話してたら、もうね、気がついたらね、はかされていた。誘導尋問怖い。

 

相手がガチムチとはいえ男女二人。しかも先生という立場のある人との食事とあって、お茶子が良い顔しなかった。なので、それならばとお茶子も巻き込む事に。お茶子を説得し事後承諾でガチムチに連絡をとると『そういう事なら仕方ないね(笑)』と許してくれた。

 

そうこうしてると、今度は百と発目にバレた。

寮を出ようとしてる所を捕まった。百は今試験の反省会をしようとして、発目は開発したアイテムの感想が欲しくて私を探していたらしい。

一人がOKなら二人も三人も変わるまい、とその二人をあの手この手で説得し、すっかり巻き込み約束の場所へ。

 

すると、約束の場所にはガチムチだけでなくかっちゃんもいた。それだけじゃない、轟とか飯田とか切島とかも。事情を聞いたら・・・・大体私と同じだった。というかガチムチは元より、かっちゃんと私に奢るつもりだったらしい。

 

 

 

 

 

そして、この混沌とした今に至る。

そういう訳なのだー。

あっはははー。

 

何気、お茶子以外が救出メンバーっていうね。

なんの因果かなぁ。

 

「かっちゃん、カルビとピートロおかわり」

「ああ?っんどくせーなぁ」

 

そう良いながらもピンポンを押す世話焼きかっちゃん。その流れるような動きに皆が釣られて視線を向けた。

 

「あ、爆豪。俺もカルビ食いてぇ!カルビ二皿な!それとご飯も! 」

「それやったら私もっ!ご飯大盛追加で!」

「爆発の人!!今ビビッと来ました!!メモ帳じゃ足りません!紙とペン下さい!!今凄いアイテムが書けそうです!!これはキマシタよーーー!!」

「爆豪くん、僕はオレンジジュースをお願い出来ないかな?」

 

「っせぇ!!聞きとれっかボケ!!店員きたら、てめぇらで言えや!!━━━あと発明馬鹿は死んでろ!!」

 

「発明馬鹿!!?それはなんとも奇遇ですね!!私も中々に発明馬鹿ですよ!是非とも一度お話を━━━」

「何を探してんだ!!てめぇの事だろうが!!他にいて堪るかっ!」

 

苛烈なツッコミが響いた後、轟がかっちゃんを呼んだ。忌々しげに睨みながらも「んだよ」と一応聞く態勢をとるかっちゃんに、轟はメニューを広げて見せる。

 

「ハチノスって書いてあんだが、焼き肉なのに虫の巣も焼くのか?」

「んな訳あるかボケ。ハチノスってのは、牛の胃の事言うんだよ。確か二番目だったか?ちっ、くっだんねえこと━━━んで俺に聞いた!?なついてくんな、ぶっ飛ばすぞ!!」

「胃なのか・・・・そんなのも食べるんだな。焼き肉なんて来たことなかったから知らなかった。ありがとな、爆豪」

「しれっと感謝してんじゃねぇぞ、ごらぁ!!」

 

かっちゃんの勇姿を眺めてると「緑谷さん」と百の声が聞こえてきた。見ればトングを持ってオロオロしてる。

 

「どしたの?」

「私、こういうのは初めてで・・・その、お肉はどの辺りで食べれば良いんでしょうか?」

 

百がせっせとひっくり返してた場所を見れば、網の上でカリッカリに干されてる何かを見つけた。焦げ付かせずに、よくここまで焼いたなと心の中で感心。修行を積めば焼き奉行になれるであろう。

取り敢えず「ピークは過ぎてる」と教えて上げれば、百は急いで取り皿へとお肉を載せた。百、可愛い。

 

少しして店員がやってきた。

手にしたお盆には追加注文していたお肉皿と野菜盛り合わせ、それと飲み物がある。

━━━というか、さっきから同じ店員さんしかこないな。これあれかな、プライバシーの配慮されてるのかな。ガチムチいるのに全然店が騒がしくなんないし。まぁ、ガチムチが店を指定した時点でそこら辺は分かっていた事ではあるけど。

 

そんな風に考えてる間、かっちゃんは注文品を受けとると、なんやかんやさっき皆に言われた追加注文を伝え、店員から貰ったそれを配り始める。流れるような動き。かっちゃんは本当にかっちゃんだなぁ。

私の前には先に頼んでいたタン塩とホルモンがやってきた。お茶子と山分けの奴だ。というか、何も言わないのによく覚えてたな。さすかつ。

 

「ニコちゃん、取り敢えずホルモンから焼いとこ?時間掛かるし」

「せやな」

「せやせや」

 

ホルモンを網の上に置くとお肉の焼ける音が鳴る。

二人でその姿にワクワクしながら置いていくと、かっちゃんがトング片手に割り込んできた。

 

「馬鹿が、ホルモンは端に寄せろ。中心だと火が通る前に焦げ付くだろうが」

「サンキュー、かつき`Sキッチン」

「分けわかんねぇ呼び方してんじゃねぇ。ほら、皿貸せや」

 

さっさと皿を取り上げたかっちゃんはホルモンをちゃっちゃと並べてく。実に綺麗な配置。かっちゃんはマジかっちゃん。

 

放っておくとそのままタン塩も焼き始めてくれた。

本当かっちゃん。

 

「・・・・至れり尽くせりやね」

「だしょー?」

「分かってはいたけど、爆豪くんがやっぱり一番甘やかしとる犯人やったか・・・」

「ほわい?甘やかす?」

「あ、ニコちゃん気にせんといて。こっちの話」

 

「おらぁ!くっちゃべってんじゃねぇ!タン塩焼けたぞ、とれやぁ!!」

 

促されるままタン塩をとり、取り皿の上でレモン汁を掛ける。焼き立てなのでジュワジュワと音が鳴る。レモンの爽やかで酸味を感じさせるそれとお肉の甘く香ばしいそれが見事にコラボレーション。美味しい匂いとなって鼻腔を擽っていく。

 

口に含めばレモンの爽やかな酸味が舌をさっぱりさせる。タンを噛み締めればコリっとした食感が口を喜ばせ、染みでた肉の甘みが満足感を与えてくれる。

堪らずご飯も頬張れば、ここに来て良かったと━━━心の底から思えた。旨いなぁ。

 

「爆豪、俺のカルビも焼いてくれよ」

「てめぇのスペース空いてんだろ!勝手にやれや!」

「俺には冷てぇな、焼き奉行・・・いや、別に良いけどさ」

 

冷たくされる切島は放っておいて、もう一つのコンロを囲む四人を見てみた。

 

「・・・飯田」

「うむ、轟くん!その豚は焼けたぞ!大丈夫だ!って━━━発目くん!さっきから食べないで何をしてるんだい!?君は!」

「おっと!?眼鏡の人何をするんですか!?邪魔をしないで下さい!今良いのが降りてきてるんですよ!」

 

基本的には僕らの眼鏡くんが仕切ってるみたいだけど、発目に気を取られて大変混沌してらっしゃる。━━あ、見かねたガチムチがついに焼き始めた。ずっと子供を見守る大人スタンスだったのに。

 

「緑谷さん、緑谷さん!これ、これどうですか?」

「緑谷さぁぁぁぁん!!見てくださいこれぇ!!この間のフットパーツのですねぇ!!改良案なんですけど!!」

 

「百、良い焼き加減だ!グッド!!熱々を食べちゃいな!!━━━発目、良い改良案だ!グッド!!ご飯食べてもっと良い案だそうな!!」

 

「「はい、緑谷さん!」」

 

二人がモグモグし始めるのを見届け、自分の取り皿を見るとカルビが積まれていた。

 

「緑谷、グッドだぜ!」

 

切島から熱い友情のこもったイイねサイン。

私もイイねサインを返す。

ありがたく頂━━━。

 

「━━━焼きが足んねぇ」

「爆豪ぉぉぉ、俺の友情を焼き直すんじゃねぇ!!」

 

━━━けんかった。

焼き足りないんじゃしょうがないよね。

 

「爆豪くん大変やなぁ・・・」

「まぁ、好きでやってる訳だし?多少はね?」

「まぁ、好きでやってるんやろな。好きで」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫く焼き肉して、焼き肉して、焼き肉して少し。ちょっとお花摘み部屋ですっきりしてから出ると、ガチムチが丁度男子トイレから出てきた。

 

「おっ、と、緑谷少女か。君も━━━━と聞くのは流石に失礼だね。ごめんね」

「いえいえ、良いですよ別に。ハゲより全然マシですよ。ハゲなんて厭らしい目で見てきましたからね」

「い、厭らしい目?!緑谷少女、そういう人と会ったら戦わず、直ぐに通報するんだよ?」

「りょでーす」

 

ガチムチとお約束した所で、向かう先は同じなので一緒に帰る事にした。ガチムチの足取りは重い。けれど、退院したての頃よりずっとしっかりしてる。

 

「・・・・今日はやってくれたね、緑谷少女」

「ワタシ、ニホンゴワカリマセン」

「今さっきペラペラ喋ってたよね!?」

 

かっちゃんばりのツッコミをしたガチムチ。

めちゃジト目で見てくるけどスルーしとく。これは認めたら負けのやつだから。うん。

すると諦めたのか溜息が聞こえてきた。

 

「はぁ、まったく君ときたら・・・ふふ、仕方ない子だよ。本当に」

「どういう意味ですか?」

「そういう意味だよ」

 

そう言ったガチムチの横顔は何処か楽しそうに笑っていた。初めて会った時浮かべていたような嘘っぽい物じゃない、本当に楽しそうな柔らかい笑顔。

 

それから少し歩き部屋の前へとついた。

中に入ろうと戸に手を掛けた所で「緑谷少女」と呼ばれる。後ろへと振り返ると真剣な顔をしたガチムチがいた。

 

「こんな場で言う事ではないんだろうけど、改めて言わせて欲しい。ありがとう。君のお陰で、私は今ここにいる」

 

堅苦しい言葉に、ちょっと返事が返しづらい。

結局私は、私の為にしか動いてないから。ガチムチみたいに見返りなくとか、正義の心とか、平和の為とか━━━そんな真っ直ぐな目で言われる事を、してる覚えはないから。

 

「良いですよ、別に。それにこれから奢って貰いますし?寧ろ得したというか・・・」

 

誤魔化す言葉は直ぐに出てくる。

真剣なのは昔から少し苦手だから。慣れてる。

でも━━━━その目をしたこの人には、伝えようと思った。

 

「・・・助けにきてくれて、嬉しかったです。安心しました。本当に」

 

目を丸くするこのガチムチに。

命を懸けて駆けつけてくれたこの人に。

 

 

 

「ちょーかっこ良かったです」

 

 

 

信じてくれた、このヒーローに。

 

 

 

「ありがとうございます、オールマイト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君には、敵わないなぁ・・・・あぁ、どういたしまして」

 

 

 

 

それから一時間。

八人分の焼き肉代が安い筈もなく、ガチムチが半泣きで会計したのは言うまでもない。

 

可哀想に・・・・ん?下手な約束するか・・・ら?

ワ、リ、カ、ン?え?なに?お茶子、ワリカン?ワリカンって何?眼鏡?なに?ワリカン?え、それニホンゴ?嘘っだぁー、私聞いた事ないよー。あはははっ・・・・・いやぁぁぁぁぁ!!取らないで、私の財布取らないでぇ!! かっちゃん!助けっ、あぁぁぁ!かっちゃんこら!何よそ見して、轟っ!え、轟が肩代わりしてくれ━━ないんかい!この野郎!ぬか喜びさせやがって!はぁ!?百まで!?切島ぁ、貴様もか!!くそぉぉぉぉぉ!!

助けて発目ぇぇぇぇ!!━━━って一人で帰るなぁーーー!!この発明馬鹿ァ!!



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思ったより長文になってもうた『彼の歩んだ道』の閑話の巻き

前半と後半で分ければ良かった。
そんな気持ち(´・ω・`)

次回から、多分映画編。
やくざ編は暫し待てぇい。


時折思う事がある。

私の歩んできた道が正しかったのどうか。

私の成した事は間違ってなかったのか。

 

そしてそれはその度に。

自身で答えを出し続けてきた。

 

そしてまた、私は思う。

私は正しかったのか、どうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ後期が始まるだろう?もう始まっているのかな?ははは、済まないね。ここだと、どうにも外の事が分からないんだよ」

 

深い地の底。

ガラス一枚隔てたそこから、軽口が響く

 

「教育に専念するものだと思っていたが・・・今更僕に何を求める?オールマイト」

 

その身の自由は限りなく制限され、常人であれば気が狂うほどの監視体制を受け、身動ぎ一つで銃口を向けられる厳戒体制を受け━━━━その男は尚も笑い、尚も酷く軽い言葉を吐く。

 

私が戦い続けてきたその男。

 

「ケジメをつけるだけさ━━━━オール・フォー・ワン」

 

その言葉に男は頬を吊り上げる。

それがまるで愉快だというように。

 

「ここは窮屈だよ、オールマイト。例えば背中が痒くなり背もたれに身体を擦る━━━すると途端にそこかしこの銃口がこちらを向く。バイタルサインに加えて脳波まで常にチェックされているんだ。『個性』を発動しようと考えた時点で既に命を握られている」

 

饒舌な語りに焦りは見えない。

何処までも奴は変わらない。

 

「地下深くに収監され、幾層ものセキュリティに覆われ・・・徹底的にイレギュラーを排除する。世間はギリシャ神話になぞらえて・・・ここを"タルタロス"と呼ぶ。━━━奈落を表す神の名だよ。はははっ、さすがの僕も神への反逆となると一苦労するだろう」

「━━━いいや、出られないんだよ」

 

余裕の奴の言葉に、思わず対抗するようにそれが口から出ていった。奴は表情を崩さず、笑顔を張り付けたまま続ける。

 

「そういうことにしておこう。それで?何を求めてる?何も世間話をしにきた訳ではないんだろう?」

 

見透かすような言葉。

知らずの内、拳に力が篭る。

 

「グラントリノは?独断か?その未練がましいコスチュームは何だ?君まさか、まだヒーローやってる訳じゃないだろうな?━━━ああ、幸い君はまだ、誰にも託してなかったか。なら、まだ少し、辛うじては戦えるのかな?となると、協会から待ったでも掛かったか?あはははっ、これは、中々愉快だな!協会はまだ、君の名を盾にするつもりか!この期に及んで、まだ!」

「よく喋るな」

「察してくれよ!久々に会話が成り立つんだぜ?お喋りにもなるさ。聞かせてくれ、オールマイト。協会は君にどれだけ要求したんだい?僕の見立てでは最低一年、可能であれば三年。どうだい?当たってるかい?」

 

化け物と呼ばれた男は、この地の底でも何も変わらなかった。あれだけの苦労と犠牲の果てに捕らえて、奴はまだ奴のまま笑う。

 

突然ブザー音が鳴った。

見上げれば奴の部屋の上部についたランプが点滅していた。

 

『囚人、貴様が自由に話す時間ではない。警告一だ』

 

硬質な声が響き、奴は溜息をついた。

 

「だ、そうだ。質問があるのだろう?」

 

奴に促されてというのは癪に障るが時間もない。

そのまま頭の中にある彼の名を告げた。

 

「死柄木は今どこにいる?」

「知らない━━━これで良いかな?君のと違い、彼は僕の手を離れてる」

 

考える間もない返答。

元より予想していたのだろう。

だが、それでも良い。分かっていた事だ。

 

「貴様は何がしたい、何がしたかった。人の世の理を越え、その身を保ち、生き永らえながら・・・その全てを搾取し、支配し、人を弄ぶことに費やして・・・何を為そうとした」

 

先生を殺して、多くの人を泣かせた。

多くの人の人生を狂わせた。

どんな理由があったのかは分からない。たとえ聞いたとして理解出来るとも思えない。

 

それでも聞きたかった。

自分が何と戦っていたのか。

それを知る為に。

 

万感の思いと共に吐き出した言葉に、奴は呆れたような声を漏らす。そこには望んだものはなかった。

 

「生産性のない話題だな━━━━私は僕とは違う。そして僕は私とは違う。それが答えだよ、オールマイト。理解出来ない人間というものは必ずいるものさ。君の目の前にいる僕こそが、君にとってのそれさ」

 

「本質は・・・きっと同じなんだけどね。僕も君も。しかし根本が違うんだよ。君が正義のヒーローに憧れたように、僕は悪の魔王に憧れた━━━シンプルだろ?」

 

「理想を抱き、体現出来る力を持っていた。永遠に理想の中を生きれるなら、その為の努力は惜しまない━━━といった所かな?まぁ、もっとも、全部君に奪われてしまったけどね。はっはっは!どうだ、笑うといいオールマイト!はははっ!」

 

笑い声が漏れた。

自嘲するような━━ではない。

何処までも楽しげなものだ。

 

「━━でもね、今では感謝しているよ。僕は君のお陰で、弔に出会えたんだから」

「オール・フォー・ワン!!貴様っ!!」

 

気がつけば立ち上がっていた。

握り締めた拳から痺れるような痛みが響く。

指の隙間から滴っていく熱を感じる。

 

『オールマイト、警告です。次に同じような事があれば、面会時間内であろうと、その時点で終了させて貰います。━━━残り三分です。どうか冷静に』

 

「時間は有限だよ、オールマイト。座ると良い。話の続きをしよう」

 

沸騰する怒りを抑え込み、椅子に掛け直す。

眼前の奴へと改めて視線を向ける。

やるべき事をやる為に。

 

「さて、時間もない。どうやら君は僕に対話を求めているようだし・・・ちょっと語ろうか」

「何を、いや━━━話せ」

「ああ、僕のつまらない話を聞いてくれ。この世界がどうなっていくのか、僕なりに考えてみたんだ━━━」

 

そうして語られたのは、奴が知る筈のない外の事。

メディアの動きや世論の流れ。ヒーロー協会の対応。日陰に潜む闇に生きる者達の動向予測、組織化の予見。

奴は今起きているそれを、さも見てきたかのように当然と口にした。

 

「━━━そうなると、弔達は暫く潜伏を続けるんじゃないかなァ・・・・台頭する組織を見極める為にね。僕の影響が及ばないとなれば、当然この期に勢力を広げたい連中が手を伸ばす。ヴィラン同士の抗争も頻発するだろうね」

 

言葉を切った奴は僅かに身体を前へと傾けた。

銃口が一斉に奴へと向き、警戒音が鳴り響く。

空気が張りつめる中それでも尚、奴は世間話のように続けた。

 

「皮肉じゃないか、ナンバーワンヒーロー。誰かを救いたいと身を粉にして戦ってきた君が、君こそが、この混沌とした時を呼び寄せた。これから先上がる嘆きの全ては、君から始まるんだ━━━今更、僕のせいだなんて言うなよ?機会はあった。これは君の弱さが招いた事さ」

 

『速やかに体勢を戻せ!囚人!!』

 

「今後君は人を救う事叶わず、自身が原因で増加するヴィラン共を指を咥えて眺めるしか出来ず、無力に打ちひしがれながら余生を過ごすと思うんだが・・・教えてくれないか」

 

『警告二つだ!!もう一度だけ言う、体勢を戻せ囚人!!』

 

部屋に鳴り響く警戒アラーム。

スピーカーから流れる看守の怒鳴り声。

物々しく音が満ちるそこで、その声は決して大きくないにも関わらず、酷くよく聞こえた。

 

 

「どんな気分なんだ?ヒーロー」

 

 

呟くような、奴のその声だけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━オールマイト」

 

聞き慣れた声に、私はハッとした。

流れる風景が視界に入り、エンジン音が鼓膜を揺らす。

自分が何処にいるのか思いだし慌てて視線を向ければ、怪訝そうな表情を浮かべながらハンドルを握る塚内くんがいた。

 

「大丈夫かい?車に乗ってから、大分ぼーっとしていたけど」

「ああ、済まない。心配してくれてありがとう。少し考え事をしていてね、身体は何ともないよ」

「それなら良いんだが・・・無理だけはしないでくれよ。これは一人の友人としてのお願いだ。聞き入れてくれるとありがたいかな?」

「ははっ、勿論だとも」

 

私の返事を聞くと塚内くんは頬を僅かに緩めた。

それは随分と久しぶりな表情だ。

 

最近は私自身心配を掛けていたし、何よりヴィラン連合について進展がなく、大分根をつめていた様子だったから気にはなっていたのだ。もっとも私がそれを言うと、自分こそ身体を気をつけろと叱られてしまうので口にはしなかったが。

 

「それにしても、今日は悪かったね」

 

ふと塚内くんから謝罪が掛けられた。

面会は寧ろこちらからお願いした事。何を言うのだろうと不思議に思ってると、塚内くんはこちらへ軽く視線を送り苦笑を浮かべた。

 

「彼女達、今日が仮免許試験だろう?本当は君も同行する筈だったと聞いてるよ。済まなかった。タルタロスは手続きが恐ろしく面倒でさ━━━日程が思ったようにはいかなくてね」

「いや、感謝しているよ。大分無理をさせただろう?ありがとう塚内くん」

「そう言って貰えて何よりさ。それでどうだった」

 

その言葉に期待の色は見えない。

塚内くんも奴が簡単に口を割るとは思ってないのだろう。その予想は正しく、そして少しだけ申し訳ない。

 

「情報の類いに期待していたなら・・・すまない」

「まぁ、簡単にはいかないさ。気にしないでくれ。こちらも専門家を引き連れて彼の尋問を行ったけど、碌な話は聞けなかった。じっくりやるよ・・・・それより君の方だ。少しは気持ちにケリがついたかい?」

「・・・・・あぁ、多少はね」

「その様子だと、まだ心残りがありそうだな。オールマイト。重ねて言うけど、頼むから無理だけはしないでくれよ」

 

悪戯っ子のように念押しされながら叱られていると、ポケットにしまっていたスマホが震えた。取り出して画面を覗けば相澤くんからメールが届いていた。

 

「緊急かい?」

「いや、相澤くんからだ。すまない、少し良いかな?」

「少しと言わずゆっくりやってくれ。僕は運転っていう大事な仕事もあるからね」

「はははっ、それは大事だ。安全運転で頼むよ」

 

手紙のアイコンをタッチし、相澤くんから届いたメールを開封する。そこには『A組生徒20名。仮免許試験合格しました。』と簡素な一文があった。効率を考えた━━━というよりは面倒で用件だけ書いた感じだ。相澤くんらしい。

 

「緑谷少女・・・そうか、合格したか」

「お、それは朗報だね」

「ああ、本当に」

 

彼女が合格を逃すとは思わなかった。

日頃の訓練を見ていればこそ、彼女の実力はよく分かっている。サイドキッカーとしてなら既に十二分に、プロとしても恐らく問題なく活動出来るだろう。事務的な事に足を取られそうではあるけど。

 

けれど、そんな彼女でも絶対ではない。

だから合格という二文字を見れた事は、彼女を教育する者の一人として素直に嬉しく思えた。

 

「塚内くん。こういう時は、何かやった方が良いのかな?」

「それは、まぁ、その方が本人も喜ぶだろうけど・・・オールマイトは教師だろ?一生徒の為に何かやるのは不味いんじゃないかな」

「あっ、確かに・・・」

 

とはいえ何もしない訳にもいかない━━━というよりは、何かしてあげたいが正しいか。彼女が頑張ってきたのを、ずっと見てきた身としては。

あれこれと考えていると隣から笑い声が聞こえてきた。

 

「はははっ、そんなに悩む事でもないだろ。まぁ、プライベートとして祝う分には良いんじゃないか。例の爆豪少年も誘ってご飯でもいってくるのはどうだい?」

「ああ、それなら・・・って、最初に教師として、なんて言い始めたのは塚内くんじゃないか」

「はははっ、ごめん。少し意地が悪かったよ」

 

それから塚内と相談し、幾つか知り合いの店を当たって貰った。トゥルーフォームが世間に知られてしまった以上、以前の様に気軽に店にはいけない。私が言うのもなんだが、大変な騒ぎになってしまうだろうから。だから事前に店側に色々と準備して貰う必要がある。

そうして幾つか連絡をとった後、一件のお店と話がついた。それも彼女が希望していた焼き肉店。少し高めらしいが・・・そこは仕方ない。

 

店が決まった所で彼女達に連絡をつけた。

爆豪少年に連絡しておけば問題ないかと思ったけど・・・少し心配だったので緑谷少女にも別に連絡をしておく。するとそう時間も掛からず、二人と約束を結ぶ事が出来た。

 

彼女達と会う事を楽しみに帰り━━━━━。

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん!もういける!?もういける!?」

「っせぇ!!ピートロはもちっと待ってろ!!タン塩でも食っとけや!!おいっ!丸顔!そこのホルモンさっさと食えや!!焦げ付くだろうが!!」

「あ、ほんまや。━━━あっ、爆豪くん。爆豪くんご飯食わんねんやったら頂戴。後で頼み直しておくから。ありがとー」

「爆豪ー!!ほれ、カルビ焼けたぜ!焼くの忙しくて食ってねぇだろ!口開け口開け!」

 

「っせぇクソ髪!!誰がてめぇのおこぼれなんぞ貰うか!散れ!で、丸顔てめぇ!勝手に人の飯とってんじゃねぇぞ!!ぶっ飛ばすぞ!!━━━ピートロは早ぇってんだろうが!!双虎ぉ!!触んじゃねぇ!また腹壊してぇのか馬鹿が!!」

「ぬぅーん」

「ぬぅーんじゃねぇ、馬鹿!!」

 

荒れ狂う爆豪少年と愉快な仲間達スリー。

緑谷少女は相変わらず爆豪少年に甘やかされてるようだ。

 

「飯田、こんな感じか?」

「ああ、待ってくれ!轟くん!そんなに一遍には駄目だ!!食べられる分だけにした方が良い!!無駄に焦げ付くだけだ!この皿に少し戻して━━━━」

「ご飯おかわり下さーーい!!何か閃きそうなんです!!急ぎでお願いします!栄養が!栄養が足りないんです!!これ焼けてますか?焼けてますね!頂きます!!」

「あっ、発目さん!それは私のです!!あ、ぁぁ、やっと焼けましたのにぃ・・・・」

 

「━━━こらぁぁぁぁ!!発目くん自由過ぎるぞ!!争いを生まぬ為、お肉は自分で育てた物を食べる事と先に決めただろう!!」

「飯田」

「な、なんだい!?あぁ、そうだね!そんな感じだ!!轟くん!!」

 

こちらの四人も中々の修羅場だ。

特に飯田少年に掛かる心労は大きかろう。

 

肉を巡る少年少女達の喧騒を聞きながら、どうしてこうなったのだろうと改めて思った。予定していたのは、三人で行う細やかなお祝い。緑谷少女が大人しくする訳ないから、多少は賑やかな食事になるだろうと・・・そう思っていたのだけど・・・・ははは・・・・幾らになるのかなぁ。

 

皆の食べっぷりを眺めていると、ちょっと背筋が寒くなる。流石に払えない訳ではないけれど、日頃節制を心掛けている身としては、何とも言えない物があるのだ。

 

でも・・・・まぁ、良いかな。

何よりここから見える景色は君らしさの結晶。これが君の為の会であるなら、きっとこの景色は君が築いた物で、君に相応しい場所だから。

 

沢山の人に囲まれ、世話を焼かれ、笑い合える。皆が皆好きに自分らしく振る舞える。それは簡単なようであってとても難しい事で、自然と人にそうさせるのは君の力なのだろう。

 

「・・・・さて、八百万少女、そろそろ私が焼こう!」

「えっ、い、いえ!私の事は気にせず、オールマイトは・・・」

「なぁに、私の事は気にしなくていいよ。歳をとるとね、焼き肉は胃に結構堪えるもので・・・もう十分食べたからね。それよりほら、食べ盛りの若人なんだ、遠慮なんてしないでジャンジャン食べなさい」

「は、はい!ありがとうございます!」

 

それから暫く焼き係に徹した。

八百万少女は思った以上に良く食べたので、肉の皿は面白いように重なっていき━━━いや、まぁ、特に理由もないのだけど、不覚にも目頭が熱くなってしまった。カラシかな。ん?爆豪少年?どうかしたのかい?ああ、おしぼりね。ありがとう。本当に。

 

八百万少女達の食事が一段落ついた頃。

私は掛かってきた電話の為に少しだけ席を外した。

部屋を出てトイレの個室へと入る。そして通話ボタンを押せば怒鳴り声が響いてきた。グラントリノだ。

 

『俊典!!!塚内の馬鹿から聞いたぞ!!てめぇ!何勝手に面会なんていってやがる!!碌に戦えねぇポンコツがいつまで関わる気だ!!まだ分かってねぇなら、これから締めに行くかぁ!?ああ!?』

「す、すみません・・・ですが、どうしても私自身ケジメをつけたく・・・」

『知るかぁ!!てめぇの役目はもう教師だろうが!!お前のケジメはあの日終わったんだよ!!』

「・・・・はい。そうですね。ですが、どうしても」

 

聞きたい事があった。

伝えたい事があった。

奴にこそ。

 

『・・・はぁ、たくよぉ。おめぇも頑固だなぁ。疑っちゃいねぇが、念の為に聞くぞ。大丈夫なんだな?』

「はい。私のヒーローとしての役目は終えました。これからは教師として生きるつもりです。・・・奴に言われました。私のせいでこうなったのだと」

『あぁ、そういう見方もあるだろうなぁ。奴がいなくなって今やどこもお祭り騒ぎだ。急な変化ってのはな、どうしたって何処かで綻びをうんじまう。それが正しかろうと間違ってようとな。━━━だがな、お前は間違ってなんかいねぇぞ、俊典。俺が保証してやる』

「・・・はい。ご心配お掛けして申し訳ありませんでした」

 

私の謝罪を聞くとグラントリノは「そこは感謝しとけ馬鹿たれが」と乱暴に電話をきってしまった。相変わらず手厳しい人だが、こうして連絡をとってくる辺り優しい人だと改めて思う。

 

スマホをポケットにしまい洗面所の前を通ると、少しばかり疲れた顔をした自分が鏡に映り込んでいた。

 

「流石に、この顔では戻れないな・・・」

 

顔を洗いながら、私はあの時奴に掛けた言葉を思い出す。

 

『━━━どんな気分か。それは情けない限りさ、オール・フォー・ワン。私は彼女らに平和な世界を渡せなかった。だが、一つだけ貴様に伝えておく・・・私だけがヒーローじゃぁない。今も戦ってる友がいる。これから戦おうと立ち上がる者達がいる。私が紡いできた思いは、まだそこにあるぞ』

 

ケジメとして伝えたかった。

 

『私はこれから教師として育てていく。ヒーロー足らんとする子供達に、平和を願う子供達に、明日を戦う力を与えて見せる』

 

決意を込めた、それ。

 

『以前貴様は言ったな。私に惨たらしく死んで欲しいと。絶望に顔を歪ませて消えて欲しいと━━━━━私は生きるぞ。生きて導き続ける。死柄木にも、誰にもっ、私を殺させやしない。貴様がこれから先どんなシナリオを残していようと、思い通りにはさせない』

 

結局奴を何も知る事は出来なかった。

これから先も知る事はないのかも知れない。

だが、きっとそれで良い。

 

これはケジメなのだから。

奴との因縁などという物にではない。

これは私が今の私を受け入れる為の物。

 

 

『どんな気分なんだ?ヒーロー』

 

 

なのに、何故、こんなにも私は━━━━。

 

 

 

「おっ、ガチムチ?」

 

 

 

 

顔を洗い気持ちを入れ替えトイレの外へと出ると、聞き慣れた彼女の声が掛かった。見れば濡れた手をブルブルと震わせている、女子としては些か雑な緑谷少女の姿があった。

 

その姿に私と同じ様にトイレにきたのかと━━━つい口に出しそうになったが、女性に聞くことではない事に気づき言葉を止めた。続いて出た私の謝罪の言葉に、緑谷少女は大丈夫だと言ってくれた。寧ろもっと酷い奴がいたとも教えてくれる。

勿論、それは全然大丈夫な話ではないので、以後しっかり通報するように忠告しておいたが。

 

緑谷少女と話しながら部屋へと帰る。

相変わらずの彼女の言葉は何故だか心地好かった。

のらりくらりと口にするそれが、私に日常を思い出させてくれる。何時からか忘れていた、当たり前の世界を。

 

部屋に着いた時、戸に手を掛ける彼女を見て。

私は自分でも気づかぬ内、彼女の名前を呼んでいた。

言うつもりはなかった。それは言葉でなく行動で返す物だと思っていたから。

 

だが、気づいた時にはそれが口から出ていた。

あの時私に思い出させてくれた事への、世界に止めさせてくれた事への━━その感謝の言葉を。

 

彼女は困ったように笑い軽く言葉で答える。

けれど直ぐに言葉を詰まらせた。

私の目を見て。

 

 

「・・・助けにきてくれて、嬉しかったです。安心しました。本当に」

 

 

少しの間を置いて返ってきたのは、同じ感謝の言葉だった。柄にもない言葉に目を丸くすると、彼女は少しだけ困ったように眉を下げる。

 

 

けれど、しっかりと私の目を見つめ続けた。

 

 

「ちょーかっこ良かったです」

 

 

恥ずかしげに紡がれた嘘偽りのない、飾りすらない言葉。

 

 

 

 

「ありがとうございます、オールマイト」

 

 

 

 

時折思う事がある。

 

 

私の歩んできた道が正しかったのかどうか。

 

 

私の成した事は間違ってなかったのか。

 

 

 

そしてそれはその度に。

 

 

自身で答えを出し続けてきた。

 

 

 

その答えだけは、他人に委ねるべき物ではないからだ。

 

 

それだけは己で背負う業だからだ。

 

 

 

 

「君には、敵わないなぁ」

 

 

 

 

けれど、どうにも。

 

 

君の笑顔は、君の声は。

 

 

私に良く響く。

 

 

 

 

「・・・・あぁ、どういたしまして」

 

 

 

全てが正しかったとは言えないだろう。

私もそこまで出来た人間ではない。

ただの人間なのだ。

 

それでもいつか誰かに聞かれたら。

迷いなく答えようと思う。

 

私は私が信じる、正しいと思える選択をしてきたのだと。

君の先生として胸を張って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます!お会計がですが九万二千八百円になります。お支払は現金ですか?カードになさいますか?」

「━━━はぁ、えっ、か、カードに、え?申し訳ない、お会計は、あの間違いは・・・・」

「・・・ん?あっ、申し訳ございません!計算に不備っ、本当に申し訳ございません!!」

「い、いや、別にいいさそれで・・・」

「はい!デザートのアイス分が入ってませんでしたので、計九万七千三百五十円になります」

 

・・・・私は、私は早まったのかもしれない。

 

え?何だい?ワリカン?

HAHAHA、何を心配してるんだい大丈夫さ!ああ、勿論大丈夫さ!!現金の持ち合わせはないけれど、カードがあるからね!無理してないかって?HAHAHA!面白い事いうな、飯田少年!八百万少女!これでも私、ナンバーワンヒーローをやっていたんだぜ!屁でもないさ!!

 

さぁ、カードでお支払だ!!

HAHAHA、HAHAHA、HAHAHAHAHAHA!!

 

 

・・・・はぁ。



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ムービーズⅠ:がちえもん・ニコちゃんのIアイランド冒険記:取り敢えずグーパンな!編
それじゃぁ、はーじめーるよーの「英雄の片翼」プロローグの巻き


遅ればせながら、映画編はーじまーるよーぉ。
需要の程は、分からないがっ(゜ロ゜)!!


二羽の鷲がその大きな翼を広げ、空を舞っていた。

それは力強く、雄々しく、何処までも自由で。

青さしか取り柄のない大空の中、一際目立っていた。

 

見上げたそれらは直ぐ景色に溶け込み消えていったが、それが幻ではない事も、それがきっと空の何処かで翼をはためかせている事も、私は知っている。

 

私は見たのだ。

何にも染まらず、何にも囚われず、何にも負けず。

己が意思のまま空を飛ぶ、その二つの影を。

 

 

 

 

 

 

 

飽きもせず輝く太陽の光を浴びながら、乾いた風を切って愛車を走らせる。もう時刻は午前中だというのに、派手な看板とヤシの木が目印のメインストリートには、夜の浮わついた雰囲気が残っていた。

 

「デイヴ、間に合いそうかい?」

 

風景を眺めながらハンドルを握っていると、隣に座った彼が不安そうな声をあげる。彼は図体の割には繊細な所がある。初めてあった時はもっと豪胆に見えたものだが、今では見慣れた姿だ。

 

「ノープロブレム、見たら分かるだろう?夜こそ馬鹿みたいに混むけどね・・・今は見ての通り飛ばし放題さ。何なら、タイムトラベルに挑戦しようか?ハハハッ」

「おいおい、安全運転で頼むよ。ヒーローが速度違反で捕まる訳にはいかない━━━━」

 

彼の言葉を遮るように、突然大きな爆発音が鳴り響いた。防衛機能が働いたマシンは直ぐ様強化ガラスを展開。運転席をすっぽりと覆う。

 

遅れてやってきた爆風が砂埃を巻き込みながら、ビル街を吹き抜けていく。

突き抜けたその音と爆風はガラス張りのビルと行き交う人々に悲鳴をあげさせる。

 

「デイヴ!シェルターを開いてくれ!」

 

運転席を守っている強化ガラスを叩き、彼が音が鳴り響いた方向を睨みつける。これからの予定など、もうすっかり飛んでしまっているらしい。

 

「まったく、お前は・・・トシっ!分かってるとは思うが、次遅刻したら単位はないぞ!!」

「単位が怖くて、ヒーローは務まらないさ!!」

「ははっ、よく言う!!さっさと片付けてこい!!余裕はあまりないからな!!」

「ああ!!」

 

強化ガラスを解除すると同時、彼が座席を蹴り飛ばし空へと飛び出す。そしてあっという間に、立ち上がった砂埃に体を潜り込ませその姿を消した。

 

ハンドルの前に取り付けられたパネルを操作し、トシのスーツに取り付けたセンサーの行方を追う。相変わらず本気の彼の移動速度は凄まじく、一瞬だというのにかなりの距離を引き離されていた。

 

「ったく!!ついていく、こっちの身にもなってくれよ!!」

 

ギアを引き上げ、アクセルを踏み込む。

同時にナビゲーションシステムも始動させ、システムが導き出したルートに向けハンドルを回す。

 

エンジンとタイヤが悲鳴をあげる。

体に掛かるGで手足が軋む。

だが、泣き言は言っていられない。

 

「馬鹿な友人がっ、待っているだろうからな!!」

 

幾つかのビルを通り過ぎた所で、何台もの車が立ち往生してるそこに彼の姿を見つけた。通り抜けられそうにないと判断したのか、ナビゲーションシステムがジャンプの要請をしてくる。承認のボタンを押せば車体が障害物の車も、目標の彼も飛び越えた。

 

「先行し過ぎだ、トシ!」

 

私の姿にトシが焦りが滲んでいた表情を引き締めた。

 

「逃げられた、追ってくれデイヴ!」

 

トシはそう言いながらマシンに飛び乗り、行儀よくシートベルトを締める。こんな時にも真面目でなくても良いだろうと、思わず苦笑いしてしまう。

 

「相変わらず、考えるより先に体が動くヤツだ」

 

だが、仕方ない。

私はそんなトシに魅せられたのだから。

 

システムを起動させれば、先に飛ばしておいたカメラから敵の位置がパネルに浮かび上がる。すかさずナビゲーションシステムも起動。ルート検索を済ませる。

 

「ちゃんと掴まってろ、トシ。飛ばすぞ」

 

一気にアクセルを踏み込むと、軋むような音が機体からあがる。タイヤが、エンジンが、マフラーが。応えるように吼え、マシンが一気に加速する。

 

掛け値なしのフルスロットル。

一昔前ならとっくにタイムトラベルしてる速度だ。

 

「━━━っお、と!?お、おい!大丈夫か、この速度!」

「どういう意味での確認だ?監視ドローンからのデータ送信も解析も、オールグリーンだ。システムは良好に働いてる。ここから先の障害物は自動でかわしてくれるから問題な━━━まさか、この後に及んで法定速度の話じゃないだろうな!」

「いや、しかしだなっ、これは危なくないか?なんキロ出てるんだい?」

「キロ?おいおい、まだ日本仕様かトシ。マイルだ、マイル。それにな、私から言わせれば、車よりずっと危ないくせに、法定速度常にぶっち切りのトシに言われたくないな」

「HAHAHAHA・・・・そう言わないでくれよ。デイヴ」

 

ルートに従いドリフト利かせて交差点を曲がれば、ビル街を駆け回るヴィランの姿を見つけた。

ヴィランはこちらを見つけると、ロケット弾を二発打ち込んでくる。トシが迎撃しようとベルトに手を掛けたが、それは制しておいた。舐めて貰っては困る。

 

パネルに浮かんだアイコンをタッチすれば、マシンから砲台が顔を出し迎撃用砲弾を射出させた。砲弾はロケット弾とぶつかる寸前で割れ、幾つものバブルを周囲に展開させる。

 

バブルはロケット弾と接触すると、その中に砲弾を閉じ込める。閉じ込められたそれは直ぐに爆発したが、バブルは想定通りの役割を果たし、爆風も破片も外に漏らさず無力化した。

 

その様子にトシが口笛を吹き、ヴィランが何かを喚く。

 

「いつの間にこんな物を?」

「ちょっと前にな━━━っと?」

 

道路を走っていたヴィランはビルの壁に飛び付き、そのまま駆けあがり始めた。立体的に動いて車の追跡をかわすつもりなのだろう。それは確かに有効なのだろうが、生憎こちらは監視ドローンを飛ばしている。見失う事はまずない。残念な事だ。

 

とはいえ時間もない今、そうして逃げられるのは厄介極まりないのだが。被害が増えていくのも好ましくない。

 

「トシ、カレッジに遅れちまう。とっとと終わらせよう!」

「そのつもりだ、デイヴ!!」

 

そう言うとトシはボンネットに登り━━━先程飛び出した時とは比べ物にならない速度で空へと駆け上がっていった。余程強く蹴っていったのか反動でマシンがスピンする。だが自動制御が直ぐに働き、マシンはドリフトしながらも態勢を立て直し、ヴィランに向けて走り出してくれる。

 

だが、トシとヴィランの姿は目視出来ない。

既にビルを挟んだ向こうで戦ってるらしく、爆発やら爆風やらを肌や耳で感じられるだけだ。

モニターを見ながらアクセルを踏み込み、ハンドルを回す。反応だけ見れば直ぐ近くに来ている。

 

「いや、こっちに来てるのか」

 

モニターの反応に合わせ顔をあげると、空高く飛び上がったトシの姿が見えた。そこに飛び掛からんと地面を蹴り飛ばしたヴィラン達の姿も合わせて。

 

笑顔を浮かべるトシの姿にサポートの必要性を感じなかった私は、マシンを緊急停止させ彼の勇姿を見守った。

 

「行け!」

 

思わず出た言葉。

握った拳。

 

トシはそれに応えてくれるように拳を振り落とす。

その名前を叫びながら。

 

「カリフォルニアスマァッーーーシュ!!」

 

回転で勢いをつけた拳がヴィランの頭へと放たれる。

その衝撃と破壊力は凄まじく、放たれたそのたった一撃で、それまで起きた爆発よりはるかに大きな音と風が辺り一面を嵐となって吹き荒らしていく。衝撃により空高くへと舞い上がった土埃の中にはヴィラン達が持っていたらしいドル札も交じって、さながらドル札の雨が降ってるかのようだ。

 

さぞ回収には手間が掛かる事だろう。

そう、他人事のように考えていると、近くから疑問の声が上がった。彼は誰なのかと。

 

「HAHAHAHAHA!」

 

聞こえる高らかな笑い声に、皆の視線がトシに集まっていく。ある者は驚愕を、ある者は褒め称え、ある者は憧れを口にしながら。

 

「━━━━彼は日本から来た留学生さ。ヒーロー名は、オールマイト」

 

私が口にした言葉に、皆が呟く。

彼の、友人の、トシの、ヒーローの名前を。

 

「いずれ・・・・いや、近い将来必ず・・・・"平和の象徴"となる男だ・・・・」

 

続けて口にした言葉。

もう聞いてる者はいなかった。

けれど、それで良い。

 

今は、まだ。

 

 

 

 

 

 

「━━━━ありがとう、デイヴ。君が作ったスーツのおかげで、ケガで遅刻せずにすんだ!」

 

警察への報告も終わり、早々に現場を離れた私とトシは再び学校に向けて走り出していた。

そんな中、助手席に座った彼はガッツポーズと共に屈託ない笑顔を浮かべて見せてきた。先程までヴィランと戦っていたとは思えない無邪気さに呆れずにはいられない。

 

「急ごう。これ以上遅刻したら二人とも単位が━━━」

 

 

 

『SFO UA857便でハイジャック発生・・・・繰り返す、SFO UA857便でハイジャック発生・・・・』

 

 

 

不意にパネルから流れた通信に、背筋が冷えた。

 

「デイヴ!」

「ムチャだ」

 

これから向かえば遅刻は確実。

単位を落とすが冗談で済まなくなる。

既に何度も便宜を図り取りなしてる所もあって、次があるのかすら怪しい。

 

だと言うのに、トシの目は真剣そのもので、ここで引き下がる気がないのは目に見えて分かってしまった。それほど長い付き合いではないが、この友人の行動はもう大体理解出来ている。仮に相棒の私が行かなくても、一人でトシは飛び出して行くのだろう。

 

「━━━━助けずには居られない、か」

 

溢した言葉にトシは嬉しそうに笑った。

その笑顔に私は苦笑いを返し、パネルを操作した。

行き先は通信の案内があった、そこだ。

 

「行こう、デイヴ!」

「ああ!」

 

パネルを更に操作、オートモービルを飛行モードへと移行させる。単位は絶望的だが、このモードならハイジャック現場には直ぐ到着出来るだろう。

 

「しかし、難儀だな。ヒーローってヤツは・・・!」

「HAHAHAHA!済まない、デイヴ!そういう生き物なのさ!今日のランチは私が奢るよ!」

 

高らかに告げられた言葉。

あまりにも能天気な言葉に、私は少しだけ悪戯心が湧いてしまう。

 

「おっ、言ったなトシ!ストリートにあるスシバー、今から楽しみにしてるよ!!」

「お、おい!?スシバーは止めてくれよ!?」

「はははっ、冗談だよ!トシが金を持ってないのは知ってるさ!ホットドッグで勘弁してあげよう?」

「それは馬鹿にし過ぎだぞ、デイヴ!ハンバーガーぐらいなら奢れるとも!」

「あんまり変わらないだろ、それ」

 

そんな馬鹿な話をしながらアクセルを踏み込めば、オートモービルは空へと飛び上がった。

風を切り裂いて。

高く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━んん、ここは・・・」

 

甲高い電子音に、私は眠っていた事を思い出した。

瞼を開けたそこに映るのは、テーブルに積み上げられた書類、数え切れない機械の部品、冷めたコーヒー、娘との写真。そこは、いつもの研究室。

 

今も鳴り響くスマホを手に取り画面をタッチすれば、いとおしい娘の声が聞こえてきた。

 

『グッドモーニングっ!パパ!』

「ああ、グッドモーニング。昨日は帰れなくて悪かったね。ご飯無駄にしてしまったろ。思ったより調整が長引いてしまってね・・・」

『ううん、大丈夫よ。気にしないでパパ。それよりパパこそ体の方大丈夫?もう何日も帰れてないもの。ご飯ちゃんと食べてるの?』

「大丈夫・・・・とは流石に言えないかな。ここの所ずっと籠りきりで・・・あまり。それに寝不足だろうな。随分と懐かしい夢を見てしまった。・・・・けれどね、もう終わったよ。取り敢えず一区切りついた。何とかエキスポに間に合いそうだ」

『そう、それは良かったわ!ふふ!それじゃ私、これからうーんと忙しくなるから・・・だから、またねパパ』

「ああ、また今夜」

 

慌ただしく電話が切れ、部屋にはまた静寂が帰ってきた。鳴り響くのは断続的な機械音だけ。

 

「忙しくなるから、か・・・聞いた覚えはないんだが、エキスポで何かやるのかな。アカデミーの方の準備は終わってると聞いたんだが」

 

娘の言葉を思い出しながら私は支度を始めた。

僅かに残した後片付けを済ませる為に。



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母様ーお土産何が良い?この前みたいに饅頭とかで━━━饅頭以外?饅頭飽きた?ええーあーふーん。えっ?試しに何を買う気か言ってみろ?木刀とかペナントとか?何その可哀想なものを見る目は!?の巻き

125話)ノリと勢いでつけたサブタイ『特別の始まり』閑話の巻き、からの続きのお話になりますやで。
ごめんな、ごちゃってしてもうて( *・ωく)ノ


「おおーー!!ちょーーーー海ぃーーーー!!」

 

百人居れば百人が、千人居れば千人が、万人居たら万人振り返る。エレンガントでナイスバデーな見返らなくても超絶美少女。現世に舞い降りた天使。サイツヨにしてサイカワな私は緑谷双虎。一応ヒーロー志望な現役の雄英女子高生だ。

 

汚い大人達との激闘の末、ようやく勝ち取った自由な夏休みも後僅かと迫った今日この頃。

ガチムチのとある誘いを受け、眠い目を擦りながら朝早くから荷物を引っ提げタクシーへと乗り込んだ私は今━━━━太平洋上空を飛行機でかっ飛んでいた。絶賛でんじゃーぞーんにイントゥーしていた。やっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

 

窓から見えるサファイアブルーの景色を写メっていると、隣から品のないイビキが聞こえてくる。振り返って見ればガチムチが鼻提灯を膨らませていた。

 

ほほう、ここで雰囲気ぶち壊してきますか。

そうですか、そうですか。

 

私は膨らんだそれとガチムチの顔面に引き寄せる個性を発動。思いっきり引っこ抜いてやる。

 

「わぁお!?えっ、な、何が!?━━━あぁ・・・」

 

顔面に鼻提灯をぶつけられたガチムチは酷く驚いたけど、私の顔を見ると納得した顔をする。まるで犯人だと決めつけるかの如しだ。しっつれいなぁ。

 

「何ですかその顔!?何でも悪い事は私ですか!?そうやって決めつけて!!そうですか、そうなんですか!はぁぁぁぁぁーー!傷ついたぁ!!はぁぁぁぁ、傷ついたぁぁぁぁ!!乙女心が複雑骨折したぁぁぁ!!」

「ご、ごめん!そんなつもりじゃ━━━━」

「いやまぁ、私がやったんですけど」

「━━━やっぱり君じゃないか!?」

 

一通りガチムチをからかった後、私はガチムチから貰ったえきぽんのパンフに改めて目を通した。概要は何となく分かったけど、やっぱり興味があんまり湧かない。アトラクションあったり、皆がいるのが分かってるから楽しみだけど・・・・。

 

最新鋭のヒーローアイテムとか言われても、正直ピンとこない所があるんだよね。まぁ、これからの私に関わってくるかも知れないけど、結局それもあの変態メカオタクと相談して決める事だし・・・・というか、原理とか工法なんかは全部任せっきりで関わってないしね。私が使ってるアイテムとかも、何がどうなってるのかなんて殆んど分からん。何となくでは分かってるけど。

 

それに、この個性学の研究発表とか・・・その文だけで・・・ぐがっ、ね、眠気が襲ってく・・・くるレベルだし・・・・ぐぅぅ━━━━はっ!危ない危ない。寝る所だった。

 

「━━━ふぁーあ、はふっ・・・。それはそうと、ガチムチって今回なんで呼ばれたんですか?まぁ、ガチムチは有名人だから、お呼ばれ自体はおかしくはないですけど」

「ん?HAHAHAHA、いや、実はね、Iアイランドには渡米中相棒だった友人・・・親友がいるんだ。Iアイランドは気軽にこれる場所ではないし、それに休暇もたまっていたからね、それならと思いきって会いにきたんだよ。今回は本当にプライベートなのさ」

「へぇぇー、ガチムチの親友・・・」

 

ほわっと浮かんだのは筋肉モリモリのおじさん。

白い歯を煌めかせ、ビキニパンツが良く似合う、黒光りするボディービルダー的な。

そして二人は親友。親友とはそう・・・・。

 

「・・・・うわぁ」

「緑谷少女。多分だけど、君の想像してるのは違うと思うよ」

「え、絡まないの?こう、こんな感じで」

「絡まないよ!?何その卑猥な指の動きは!?」

 

綺麗なガチムチのツッコミが決まった所で、ピンポーンっという音が鳴った。

 

『えー、当機はまもなくI・アイランドへの着陸態勢に入ります。繰り返します。当機はまもなく━━━』

 

そのアナウンスを聞いて窓の外を眺めると、メカメカしぃ大きな島がそこに見えた。

 

「あれがI・アイランドか・・・」

 

I・アイランド。

一万人以上の科学者たちが住む、学術人工移動都市。

タルタロス並みのセキリュティに守られた、どの国にも属さない海に浮かぶ人工島━━━━か。うーん。

 

「━━━ん?」

 

視界の端っこ、キョロキョロするガチムチの姿が映った。どうしたのかと見ていれば、ガチムチがいつもの筋肉モリモリモードに変身する。ダボついた服がピッチリしてた。むさい。

 

「いきなりどうしたんですか?」

「ついたら直ぐに入国審査だからね。何処に人の目があるか分からない以上、さっきの姿がオールマイトであると知られる訳にはいかないのさ」

「ああ、なる」

 

搭乗の時のガチムチの姿を思いだす。

言われて見れば出国審査する時もそんなだった。

そのままぼやーっとガチムチを眺めていると、徐に服を脱ぎ始めた。事案発生かと思いスマホを構えたけど、服の下に現れたのはヒーロースーツ。

取り敢えず通報は止めておいた。命拾いしたな、ガチムチぃ。

 

「・・・さぁ、君も着替え・・・って、そのスマホはなんだい?」

「何でもないでーす」

「それなら良いけど・・・・ああ、それより君も早く着替えると良い。もうすぐ着いてしまうからね。トイレの側に更衣室があったから━━━━」

「ヒーロースーツ持ってないんで無理です」

 

私の言葉にガチムチが固まった。

 

「え、朝渡したよね?」

「渡されましたよ?今頃貨物室の中だと思いますけど」

「・・・・・なんで預けちゃうのぉ」

 

離陸準備が始まった飛行機の中で、やんわりと粛々とガチムチに教えられた。何の為に態々ヒーローコス持ち出しの申請をしてきたのか、何の為に朝渡しておいたのか。そんな内容を淡々と。

 

分かったよ、分かったってば。

ごめんだってば。

着いたら直ぐに着替えるってば。

だから、ごめんだってば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ううむ、迷った!」

 

飛行機から降り、入国審査も済ませて暫く。

ヒーローコスに着替えて待ち合わせ場所へ向かったのだけど・・・なんやかんやあってすっかり道に迷っていた。空港広い。

 

やはりお土産コーナーは帰りに見るべきだったか。

まんじゅうとか、ペナントとか、木刀とか後にすれば良かった。

 

「ガチムチ怒ってるだろうなぁー、なんか約束の時間がどうのとか言ってたし・・・・ペナントで許してくれないかな?」

 

なんなら、まんじゅうあげても良いけどね。

食べ終わる前にガチムチに会えればだけども。

 

「━━っと、あだっ!」

 

ガチムチを探して歩いてると、うっかり人にぶつかってしまった。もろ鼻打った。めっちゃ痛い。急所当たった。

痛みに堪えて顔をあげれば、厳つい顔したおっさんがそこにいた。まんじゅうをシャツに食わせた、明らかに堅気じゃない雰囲気のおっさんが。

・・・わぁお。

 

「・・・あ?ああ!?お、おい!てめぇ、クソガキ!なにしやがる!?あ、て、てめぇ、何だって食べ歩いてんだ!?ああ!?空港内は飲食禁止してんだろうが!!見えねぇのか!あの看板がよぉ!!」

 

ばっと、おっさんが指差した所には確かにそんな案内が貼ってあった。わぁお。ほんまや。これは流石に私が悪いわ。

 

「さーせんした、マイケル。これあげるから許して、美味しいよ」

「誰がマイケルだ!━━━って、これ、てめぇがぶつけてきたヤツじゃねぇか!!食えるかんなもん!!ムカムカするわ!!」

 

ペナントを手にすると「んなもんもいらねぇわ!!」と間髪いれず拒否されてしまった。ならばと、木刀に触れようとしたけど、触る前に「いらねぇよ!!」と先回りにツッコミされてしまう。

 

おっさんが元気にいきり立っていると、不意に「おい」と高圧的な声がおっさんの後ろから響いてきた。おっさんの顔が見るからに強張る。おっさんを避けて声のした方向を覗いて見れば、堅気じゃないおっさん達が群れを作っていた。おっさんはおっさんではなく、おっさんズだったらしい。

 

その中でも妙に目立つおっさんがいた。

如何にもボス的な雰囲気を漂わせた、顔に傷のある赤髪のおっさんだ。赤髪のおっさんは重々しく口を開いた。

 

「ソキル、俺を煩わせるな」

「わ、分かってる。悪かったよ」

 

「そうだぞ、ソキル。反省しろ」

「あぁ、本当に悪か・・・・って、気軽に呼んでじゃねぇ、クソガキ!!ぶっ殺すぞ、てめぇ!!」

 

またいきり立ったおっさんだけど、直ぐに今の状況を思い出したみたいで顔を青くさせた。そしてそのままの表情で振り返り━━━赤髪のおっさんに睨まれシュンとした。

 

「ソキル、どんまいな」

「誰の、せいだと、思ってんだ・・・くそっ」

 

流石に三度目は引っかかる事なく、おっさんはおっさんズの元に戻っていく。そしてそのおっさんと入れ代わるように、赤髪のおっさんが近くへと寄ってきた。

 

「うちの部下が失礼な真似をして済まない。お嬢さん。部下も仕事の事で少々緊張しているようでね・・・気がたっていたんだ。出来れば穏便に済ませてくれると助かるのだが」

「いえいえ、こちらこそ前を見てなくてスミマセン。まぁ、ここはお互い様という事で」

 

私がそう言って手を差し出すと、おっさんは一瞬考える素振りを見せたけど、直ぐに笑みを浮かべて手を伸ばしてきた。

 

「お仕事、上手く行くと良いですね」

「ああ、ありがとう。お嬢さんはバケーションかな?楽しめると良いね」

 

模範みたいな、実に友好的な握手が交わされる。

 

「・・・いや、てめぇが全面的に悪いんだろうが」

「「黙ってろ、ソキル」」

「ボス!?何でそいつと息あってんですか!?」

 

その後、ソキルを軽く締めた赤髪のおっさんは、私を一瞥してからおっさんズと共に人混みへ消えていった。

 

「・・・何もないと良いけど」

 

私はこんな楽しげな雰囲気の所まできて、上司のおっさんに睨まれる可哀想な部下おっさん達の幸せを願い合掌しておいた。頑張れよ、おっさんズ。

━━━あと、ソキルもな。

 

「さてとーガチムチは何処かなぁーーーあっ、丁度良い所に丁度良いものがあるじゃない!」

 

そのままブラブラしてる訳にもいかないので、私は側にあったインフォメーションへと駆け込んだ。

掌に残る嫌な感覚を一旦忘れて。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「━━━━ボス、さっきはすまねぇ」

 

人混みを抜け、集合場所へついて少し。

他のメンバーを待っていると、その声が掛かった。

 

俺は掌から視線を外し背後に突っ立っていたソキルを見た。先程の血が昇っていた時と違い、ソキルの表情からは反省と怯えが見える。直情的な男ではあるが、最低限の理性は備えてる男だ。今更ではあるが、自分がどれほどの失態を犯したのか理解したのだろう。

 

そう、今更。

 

「二度目はないぞ。気を引き締め直せ」

「ああ、もうやらねぇ━━━━っぐぅ!?」

 

馬鹿の首根っこを掴みあげ、近くにある壁へ叩きつけてやる。そのまま馬鹿の首に握力を掛ければ、軋むような音が指先から伝わってきた。

 

「なぁ、おい。おい、ソキルよ。何当たり前みてぇに返事してんだ。てめぇは馬鹿なのか、ああ?俺を怒らせてぇのか?なぁ、てめぇは、いつでも二度目があると思ってんのか?ああ?」

「ちげっ、ちげぇよっ、ボス!ただっ!」

「ただなんだ?なぁ、この馬鹿がっ!」

 

腹を蹴り飛ばせば、馬鹿が苦悶の表情を浮かべた。

 

「てめぇが何処で馬鹿やろうが、何処で死のうが知った事じゃねぇがな・・・俺の邪魔だけはするんじゃねぇよ。もう一度だけ言うぞ、俺を煩わせるな」

「わ、わりいっ、ほ、ほんと、本当に、悪いと」

「━━━はっ」

 

手を離せば馬鹿が地面に崩れ落ちる。

苦しそうに咳き込む馬鹿の目が俺を見つめた。

怯えの色を滲ませた、その目で。

 

「くだらねぇ」

 

馬鹿を見るのも飽きた俺は、エキスポに賑わうI・アイランドの街並みへと視線を向けた。どっちも大概なクソみたいな景色だが邪魔をしてこない分、害にもならない能天気な連中を眺めている方がまだ精神的にマシだ。

 

ぼんやりとソイツらを眺めていると、不意にそいつの姿を思い出した。馬鹿面してヘラヘラしてる連中とは違う、妙な雰囲気を纏ったガキの姿を。

 

掌に残る感覚は、今も嫌に警戒心を煽ってきやがる。

 

 

 

「・・・ボス」

 

 

 

声に振り向けば、別ルートから侵入させていた連中の姿があった。時刻を見れば定刻通りの時間。欠けている人間はいない。

 

「━━━ふん、上出来だ。馬鹿共」

 

手に残ったその感覚を一旦頭の角に置いた俺は、スマホを取り出し例の番号をタッチした。

滞りなく、計画を計画通りに進める為に。



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ピピッピーー!はいはい、止まらずにお進み下さい!お客様どうか触れず騒がず眺めずお通り下さいませませ!こちら天然のロリコンで御座います!大変危険なロリコンで御座います!逃げて!え?誤解?どこが!?の巻き

今週のヒロアカ感想。
とがちゃんはやっぱりサイコ可愛い。


インフォメーションのおねーさんの案内に従い、待ち合わせ場所に向かってトットコトコトコ。

 

エキスポ会場となっているそこで、建ち並ぶ近未来的なパビリオンやら、ウォーターアトラクションっぽい所に浮かぶ水の文字やら、音楽に合わせて音符が出現する謎の建物やら眺めつつ・・・美味しそうな香りが漂う売店の誘惑に堪えて目的地へ辿り着くと、信じられない光景がそこに広がっていた。

 

「マイトおじさまー!」

 

顔に沢山のキスマークを付け、厭らしい笑みを浮かべるガチムチ。

そしてそのガチムチの首に腕を回して抱き着き、楽しげな声をあげる二十歳未満そうな金髪女子。

 

「OH!メリッサ!大きくなったなぁ!HAHAHA!」

 

おっと、早速のセクハラ。公然でのセクハラ。堂々たるセクハラァァ。

どうやら大きさの変化が分かる間柄らしい。つまりはそういう事だよね。もうね、母様の名に掛けなくても分かります。真実はいつも一つ二つ三つですよ。灰色の脳細胞が唸りをあげてますよ。あれですね。そう、犯罪ですね。

 

「タイホーーーー!!!」

 

続けて口笛風にぴゅーっと言ってやれば、ガチムチと金髪ガールの視線がこっちに向いた。金髪ガールとアイコンタクトするが反応が鈍い。全然気持ちが伝わってない。あっ、もしかして禁断の両思い系か?だとしても駄目だ。犯罪だから。

なので最善の注意を払い、金髪ガールが怪我しないよう━━━━こちらに一気に引っこ抜く。個性で。そうここは、個性使用OKの都市だからぁ。

 

地面に刺したブーツのアンカーパイルの効き目は抜群で、体は飛ばず金髪ガールだけ上手く引き寄せられた。腕の負担は相変わらずだけど、いちいち体を押さえる物を探さなくて良いのは本当っ、楽ぅぅ。

ありがと発目ぇ、またご利用させて頂きます。勿論ただで。

 

金髪ガールをキャッチした後は後ろに隠し、ガチムチから視線を外さないままスマホで皆の味方にコール。

キョトンとするガチムチの顔を眺めながら待つと、3コールした所で繋がった。

 

「あ、もしもし、警察ですか?ガチムチが未成年とCしちゃってるみたいなんですけど」

「緑谷少女っ!?!?」

 

焦った様子のガチムチが疾風の如く私のスマホを奪っていく。直ぐ様引き寄せる個性を使ったけど、ガチムチの握力に阻まれ取り返せない。ジャンプして物理的に取り返そうとしたが、華麗にかわされた。

 

「ちょっ!ガチムチぃ!このっ、変態ィ!!返せぇぇぇぇ!!私のぉぉぉ!!ふぬぅおおお!!」

「人聞きの悪い事は言わないでくれないかな!?くっ、敵に回すと、厄介な個性だなっ!君は本当っ!というか、無駄に戦闘センスも高過ぎるなっ!ああ、もしもし?!今の電話なのですが━━━━」

 

『さっきから何をやってるんだい、双虎ちゃん。・・・ん?オールマイトか?』

 

「塚内くんかぁ!!良かったぁぁ!!」

 

必死の攻防の末、いつの間にかハンズフリーになったスマホからツカッチーの声が響いてきた。相手がツカッチーだと気づくとガチムチは分かりやすく安堵の息を漏らす。

そして完全に誤解で話を持ってこうとしてるので、思い切り息を吸い込んで━━━━。

 

「騙されないで下さいぃ!!ツカッチー!!ガチムチは今っ!未成年にキスマークつけさせながら厭らしい笑み浮かべて、おっぱいのサイズ確認してました!!揉んでます!!黒です!!」

『えぇ!?』

 

電話越しに驚愕の声が響く。

ガチムチが冷や汗を流し、金髪ガールがきょとんする。

 

「違うっ!誤解だ!!聞いてくれ、塚内くん!彼女は親友の娘で━━━」

「親友の娘に手を出したんですか!?はぁぁぁぁー!!怖ぁ!怖ぁぁぁぁぁー!!引くわぁぁぁぁぁ!!鬼畜外道のロリコン野郎だわぁぁぁぁ!!みなさぁぁぁぁん!聞いてくださぁぁぁい!!」

「━━━違うってば!!緑谷少女も聞いてくれないかなぁ!?!?」

 

『・・・・楽しそうだね、二人共』

「マイトおじさま、なんか楽しそう」

 

「「楽しくはない!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熱いスマホ争奪戦、四人での話し合い、ニコちゃんジャッジメントを経て、一応ガチムチに無罪判決が降りて暫く。

 

簡単に自己紹介を済ませた私と金髪ガールことメリッサ・シールドは、ガチムチに奢って貰ったアイスクリーム片手に、適当な世間話をしながらガチムチの親友であるメリッサパパの元へと向かっていた。

 

「へぇー、それじゃミドリヤさんって、マイトおじさまの生徒さんなのね。凄いわ!マイトおじさまの学校って、日本だと有名な所なんでしょ?ヒーロー科なら、もっと倍率って高いんじゃないの?」

「いやぁーそれほどでもあるけども。はっはっはっ、良いよ、良いよ。褒めて、もっと褒めて、さぁ褒めてぇー」

 

そう胸を張るとメリッサが拍手しながらヤンヤヤンヤしてくれる。ヤヴァイ、スゴイ気持ちいい。この感じ。最近はお小言が一番で二番に説教、三四に心配されたり反省させられたりして、五に褒められるくらいの塩梅ばっかりだったから・・・・この手放しで褒められるこの、あれ、なんか、凄い良い。荒んでいた心が浄化されそう。

 

少しでも「鈍いな、こいつ」とか思ってごめんちゃ。

メリッサにゃん、そのままの君で大きくなってね。

 

「メリッサ、緑谷少女をあまり褒めそやさないでくれ。直ぐに調子に乗るから」

 

折角人がいい気分でいると、ガチムチのそんな声が聞こえてきた。振り返って睨んでやったけど、ガチムチの表情は変わらない。反省の色なく、呆れたような顔してる。空気読めないガチムチである。この野郎め。

 

しかし、メリッサは違った。

 

「そう?でも凄いわ。勘違いだったとはいえ、さっきの対応は鮮やかだったもの。瞬間的な空間把握能力。その情報から次の動きを見切る予測能力。予測した情報を元に作戦を立て実行する頭の回転の早さ、それを実行する決断力と胆力。救出者を気遣った上で最も早く救出を行える、絶妙な個性の操作能力。装備の使い方にも無駄はなかったし・・・私には真似できない事ばかり、やっぱり凄いわ!」

「まぁぁぁぁぁねぇぇぇ!!美少女な上、ないすばでーで、尚且つ天才だからね!ナチュラルボーンだから!もっと褒めてよろし!よろしぃーよ!はっはっはっはぁー!」

 

「・・・・はぁ、爆豪くんもこういう気持ちだったのだろうか。彼が怒ってばかりなのも、少し分かった気がするよ」

 

そっと、また背後からガチムチが何か言った気がするけど、まぁスルーしとく。どうせ碌な話じゃないから。アイス美味しいなぁ。

 

「・・・それにしても、シールドってなんか聞いた事ある気がする。メリッサのパパって有名人だったりする?ゲーム作ってる?」

「ゲームは・・・直接は作ってないと思うわ。パパの技術が関わってる事はあるかも知れないけどね。ゲーム好きなの?」

「好き好き。最近はもっぱらスマホゲーばっかだけどね。ガチャが熱いんだな、これが。まぁでも、基本、私は据え置き派だから。うちのP●3とかまだまだ現役。2のソフトも出来る奴だよ、凄くない?でもさぁ、そろそろ4が欲しいんだよね。高くてあれだけど・・・・・メリッサパパの知り合いに、ゲーム会社の人とかいない?」

 

スッパーンっと、頭が叩かれた。

凄い痛・・・・くない。なんか音が凄いだけだった。知能指数は下がらなかった。アイスも無事・・・いや、無事じゃなかった。コーン上が綺麗に落ちてる。もうコーンしか残ってない。

振り向くまでもないけど、恨みを込めて背後に視線をやれば、何とも言えない顔したガチムチがいた。

 

「・・・ガチムチぃ」

「あ、ごめ・・・・いやいや、それはこっちの台詞なのだけども。何を言うつもりだったんだい?君は」

「えぇ?社員割的なあれで、安く売ってくれないかなぁっーーて」

「よく会ったばかりの人にそれを言おうと思ったね。清々しいくらいに図々しいよ。少しは自重しようね」

「ええぇぇぇぇぇーー、使えるつては使ってなんぼでしょぉぉぉ」

 

そんなやり取りをしてるとメリッサがクスクス笑いだす。どうしたのかとメリッサを見れば、その視線に気づいたメリッサが口を押さえ声を堪えた。

 

「ご、ごめんなさいっ、ちょっとおかしくて」

「ほら、ガチムチ。言われてる」

「いや、私だけじゃないと思うよ?」

 

他に誰かいるのかと辺りを見渡してみたけど、特にそれらしき人はいない。首を傾げて見せると、メリッサがまた楽しそうに笑いだした。

 

中々笑い終わらないメリッサからガチムチに視線を向け肩を竦めて見せると、「いや、だから君も原因だからね?」と優しく諭された。メリッサが余計に笑った。おおぅ、何故に。・・・・ガチムチ、コーンいる?いらない?左様か。もしゃもしゃ。

 

少しして笑い終えたメリッサは改めてメリッサパパについて教えてくれた。メリッサパパはデヴィッド・シールドという人でノーベル個性賞を受賞した事もある、個性研究の分野で最先端をつっ走る有名な博士らしい。個性に関係する発明品を数多く生み出し、ガチムチのヒーローコスチュームなんかも作った人なのだとか。

 

そう言われて見れば、テレビかなんかでシールド博士って名前を聞いた事がある気がする。

顔は全然出てこないけど。

スマホ作った人かな?って聞いたら、それは違うと言われてしまった。違ったか。

 

そんな話を聞いてると、もしかしてエキスポにもなんか関わってる?って話になった。するとメリッサの目がキラキラし出す。おっと、地雷を踏み抜いたようですよ。ガチムチ助けろ下さい。

 

「エキスポにはパパの発明品も沢山展示してあるの。向こうに見えるパビリオンなんか、殆んどパパの発明品が関わってるんだから。ミドリヤさんが良ければ、マイトおじさまを案内した後になるけど案内しましょうか?」

 

ずずぃっとメリッサに迫られた。凄いキラキラした目をしてる。遊んで貰えると期待する子犬みたいな目だ。

ついでに、どこかあの発明狂を思い出す。

 

「えーーー・・・・面白いならいく、かも?」

「面白いわよ!私が保証する!パパの発明品って、すっごいんだから!ミドリヤさんもきっと楽しめるわ!」

「えーーーーーーあっ、そーだー、その前に、私は前のりしてるであろう、友達を探すという重大な使命があったのだったー。いやぁ残念━━━」

「お友達を探すのね?それも任せて!立ち入り禁止の場所以外なら何処でも案内してあげる。伊達にここで暮らしてないもの、安心して」

 

あうちっ。断りづらくて言葉を濁したら、ほぼ行く感じになってしまった。

頭使イソウ、パビリオン、コワイ。勉強、コワイ。ヤダヨォ。遊ビタイ。何モ考エズ食べ歩キシタイ。ドウセアトラクションダッテ、乗ッテル最中ニ難シイ話始メルンデショ?私知ッテルノ。ヤダヨォ。

 

止めて欲しくてガチムチを見たけど、肝心のガチムチは笑顔を浮かべるだけ。止める気配なし。

 

「はははっ、良いよ。行ってくるといい。どのみち私はデイヴとはつもる話もあるしね。メリッサと楽しんでくると良い」

 

おっと、余計な事を。

この筋肉の塊野郎めが。

 

「よしっ、決まりね。それじゃ少し急ぎましょう。まずはパパに飛びきりのサプライズしなくっちゃ!」

 

そう言うとメリッサは溶けかけのアイスをパクパクと食べきり、私の手を引いて駆け出した。

子供みたいな楽しそうな笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「サプライズ、なんか手伝おうか?」

「緑谷少女、何もしないように」

「うぃ」



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うふふふー、待って、そんなに急いだら転んじゃうわ。ゆっくり行きましょう?ね、お願いだからがっつり説明始めないで?まだ入り口でしょ?ね?あっ、ちょっ、やめっ、やめろぉぉ!頭がパンクしちゃうからぁ!の巻き

まぢむりぽよ(;・ω・)ツカレタ


「再会の感動に打ち震えながらっ!!」

 

その言葉と共に全身の筋肉を躍動させながらそこへと駆け込んだガチムチは、ババッと筋肉を見せつけるボディービルダーが如きポーズを取る。

 

「有名人との出会いに胸を高鳴らせながら!!」

 

それに続いて私もマントをはためかせながら駆け込み、ズバッと中学生時考案であるオリジナルの決めポーズ"猛け狂う虎のポーズ"を決めた。

 

 

「「私達がっぁぁぁぁ!!」」

 

 

声が、意思が。

血を滾らせるような熱さを持って。

ぴったりとシンクロする。

 

 

「「きたぁぁ!!」」

 

 

効果音をつけるなら『ドバーン』という感じに決まったそれに、返ってくる物は無かった。訪れたのは静寂。無言。無音。圧倒的、石に染み入る静けさや。

そこにいた無言三人衆、メリッサ、メリッサパパ、知らないオッサンから突き刺さる視線が痛い。

 

私は両手を天井に向け高く翳し、ジャキッとクロスさせそれを叫んだ。

 

「・・・・今のは、なっっっっっっしぃ!!リメイクぷりーず!!」

「それは無理があると思うのだけど!?・・・あとそれを言うならリテイクだと思うよ」

 

「トシ・・・・オールマイト・・・・・・!?オールマイト!?」

「えっ、ほ、本物!?」

 

 

 

 

 

メリッサに手を引かれるがまま駆ける事少し。

私達は見掛けた中でも一番目立つタワーへとやって来た。入り口から敷かれたセキュリティ包囲網をメリッサの顔パスで堂々と突破し、メリッサパパの研究室へと辿り着いた私達は、メリッサに乗せられて何も知らないメリッサパパへのサプライズを敢行━━━━えっ?結果?結果は聞かないで欲しい。言うまでもないからね。

 

「━━━HAHAHAHA!わざわざ会いにきてやったぜ、デイヴ!」

「おっ!?おいっ、トシっ、勘弁してくれ!今年で、何歳になると思ってるんだ?!トシっ、くっ、フフっ、ハハハ」

 

全てを無かった事にしたガチムチは、優しそうな目付きの眼鏡のおじさんなメリッサパパを持ち上げ一回転。二回転。三回転。

それにはメリッサパパも顔を固めていられず、困惑しつつも何処か楽しげな表情を浮かべた。

 

「どう、驚いた?」

 

ガチムチから解放されたメリッサパパに、メリッサが褒めて貰いたそうな顔で近づく。そんなメリッサにメリッサパパは笑顔を返した。

 

「あぁ、驚いたとも・・・・可愛いお嬢さんもいたから余計にね?」

 

メリッサパパの視線がこっちを向いた。

取り敢えず手を振っておく。

あっ、振り返してくれた。

 

そうしてからメリッサパパはガチムチへと視線を戻し口を開いた。

 

「トシ、聞いてないぞ。子供が出来たなら一言くらい教えてくれれば良いだろ。君にも事情があったのは分かるが、こんなに大きくなってからなんて・・・友人の幸せくらい祝わせてくれよ」

 

・・・・・?・・・子供?!

子供!?ガチムチ子供いたの!?まじか!?ホモじゃなかったの!?結婚してたん!?ええええええ━━━━え?あれ、メリッサパパこっち見てね?見てるね。うん?あ、また手を振ってきた。ははは、はーいニコちゃんでーす。スーパーウルトラデラックス可愛いアイドル系美少女、緑谷双虎でーす。

 

「そうか、フタコちゃんと言うのか。サプライズありがとう。私はデヴィッド・シールド。聞いたのだろうと思うがメリッサの父だ。━━━それにしても可愛いらしい名前だ。トシにしては良いセンスじゃないか。君は昔から、そこら辺のセンスは壊滅的だったからね」

 

うん?ガチムチが名前?私の?うん?何故に?・・・・はっ!?え、えぇぇぇぇ!?私ってガチムチの子供なの!?え、ガチムチ、母様とデキてたの!?ひさし(単身赴任)って何者!?再婚相手的な!?ドロドロじゃん、うちの家庭!!そりゃ、帰ってこないわ!!

 

さっとガチムチを見ると、凄い勢いでガチムチが首を横に振った。メチャクチャ振った。

 

「デイヴ!な、何か勘違いしてないか?!」

「・・・勘違い?何か勘違いするような事があったか?・・・・え、まさか、奥さんって訳じゃ・・・」

「勿論違うさ!何をどうしたらそうなるのかな!?そうではなくてな、彼女が私の子供だと思ってるなら、それは勘違いだって話さ。彼女は私の子供ではないからね?」

「それは・・・じゃぁ、奥さんの連れ子とかそういう話か?」

「いや違うよ!?全然違うよ!?━━━━あー緑谷少女、その疑うような目を止めようか!!君がそうじゃない事を一番知ってるよね!?」

 

ガチムチの熱い説明により、私はやっぱり単身赴任(ひさし)の娘である事が分かった・・・・本当に?そっか、良かった。次あった時どんな顔すれば良いか分からなかったからね。少しでも疑ってごめんね、ひさし。今度帰ってきたら、肩揉んでやろ。

 

 

 

「━━━━━それじゃ、改めて自己紹介しておこうかな。デヴィッド・シールド。この研究室の室長を任されてる者だ。それで奥で片付けをしてくれているのがサム。助手として研究を支えてくれてるビジネスパートーナーさ。今日は娘のサプライズに付き合ってくれてありがとう。サム共々楽しませて貰ったよ」

 

誤解が解けるとメリッサパパは笑顔を浮かべて、改めてそう自己紹介してきた。目には目を歯には歯を、と私的には思うのでちゃんと挨拶する事にした。

 

「初めまして。ガチムチの付き添いで日本から来ました、雄英高校一年ヒーロー科の緑谷双虎です。先程は詰まらないネタを披露して申し訳ありませんでした。リベンジの機会を与えて頂けたら幸いです」

 

そう私が言い切るとガチムチが「ちょっ!?」という驚きの声をあげた。

 

「何を言ってるのかな!?君は!?私はもうやらないよ!?やらないからね!?」

「からの~?」

「やらないよ!!」

 

ガチムチのツッコミが炸裂すると、メリッサパパは少しキョトンとしたあと笑い声をあげた。

 

「はははっ、散々人を振り回していた君がっ、人に振り回されるようになってるとはな。これはっ、くくくっ、中々に滑稽だ、ははは」

「笑いごとではないんだぞ・・・君も彼女と付き合えば分かる。大変なんだからな?」

 

この野郎、私の前でよくそれを言ったな!

包帯先生に言いつけてやる!

後で!・・・・いや、なんか、今掛けたら怒られる気がするから。何となく。

 

ガチムチの言葉を受け、メリッサパパは肩を竦める。

 

「いや、あれくらいじゃないと、どんな理由であれ君の隣は務まらないさ。元相棒の私が保証するよ」

「そう言われてしまうと、弱いな・・・」

「ははは、相変わらずしおらしさが似合わないな。君は。それにしても、一緒に連れてきたくらいだ。彼女には相当目を掛けているんだな?」

 

ガチムチの視線が私を捉えた。

なんか物言いたげな視線だ。

 

視線がすごく気になったので両手でキツネを作り、コンっ!ってやったら生暖かい視線が返ってきた。ムカついたのでメリッサにもやって貰い四匹のコンっ!をしてやる━━━━と、メリッサパパも丁度こっちを見てきた。私達の四匹のキツネが視線に晒される。

 

「・・・まぁ、色んな意味で目が離せない子ではあるんだけども」

「・・・何となく分かるような気がするよ」

 

生暖かいメリッサパパの視線に、メリッサは頬を赤く染めた。私は鋼の精神力があるので大丈夫。さっき滑った事に比べれば、なんて事ないさぁ!!

 

 

 

 

 

それから暫く再会を噛み締めあった大人組だったけど、小難しい顔して二人きりで話す事があるというので解散。私は予定通りメリッサにエキスポ会場へと連行され、部屋の隅にこっそり生息していたメリッサパパの同僚Mr.サム氏も追い出された。部屋に入った時に見たけど、すっかり忘れてたよ。Mr.サムこんちゃー、そしてさいならぁー。

ん?抵抗?する暇も無かったんだぜ。

というか、もしかしてさっきのコンさせたの、ちょっと怒ってない?怒って・・・ない。そうですか。

本当に?

 

プレオープンにも関わらず沢山の人で賑わうエキスポ会場を、引き摺られるように移動する事暫く。

メリッサが一押しするパビリオンへと辿り着いた。

 

丸みのあるガラス張りのパビリオン内へと入ると、沢山のヒーローアイテムが展示されている。

どれもこれもなんか凄そう。

 

「ミドリヤさん見て見て!この多目的ビークル!飛行能力はもとより、水中行動も可能なの!ほら!」

 

メリッサの指し示す方向には丸っぽい飛行機的な何かがあった。近くにモニターがあって実際に飛行してたり、水中潜ったりする映像とかが流れてる。展示物の側にいたお客が「凄いっ!」とか感嘆の声をあげてる。

 

乗り物にはあんまり興味ない系な私だけど、これは流石に面白感知センサーがピコピコ反応する。運転難しそうだけど、一回だけならぶん回してみたい感じ。

かっちゃんプロになったら買わないかな。一回で良いから貸して欲しい。

 

「・・・スパイ映画に出てきそう。おいくら万円?」

「万円?日本の通貨だったかしら?うーん、どうかしらね。完成品ではあるんだけど、一般販売するにはコストが掛かりすぎるみたいなの。聞いてる話だと材料費だけでも相当すると思うし、何よりビークルを組み立てる技術者が少ないし、パーツ製造に掛かる時間も膨大なのもネックなのよね。兎に角手間が掛かるみたいなの・・・・そうなってくると、もうお金の問題でもないんだけど、でも、それでもあえて値段をつけるなら、まずは純粋な材料費を算出しな━━━━」

 

やだっ、難しい話し始めた。怖いっ、ノータイムでお勉強タイムキタコレ。頭パァンってなるからヤメテ。

それにこれ絶対あれでしょ?開発費とか聞いたら怖いやつでしょ?心臓に悪いやつでしょ?

なおやだー。

 

「えーっと、あーーー、アレナンダロナァー?」

「━━━━ん?どれ?あー、あれはね最新式の潜水スーツよ。深海七〇〇〇メートルにまで耐えられるの。あの潜水スーツが開発されるまで、海洋調査で主力だった潜水スーツが最高深度五六〇〇メートルだった事を考えれば、あれがどれだけ革新的な発明品なのか分かるでしょう?従来の200㎏近い潜水スーツと比べて重量も極めて軽く、スタンダード装備なら総重量なんとたったの50㎏。フル装備でも120㎏しかいかないの。潜水最高時間、驚異の85時間。装着者の心音や体温といったバイタルを常に確認していて、装着者の体調に合わせた状態を保つ事も可能。分かりやすい物で言えば体温調整や酸素濃度の調整など自動で━━━━」

 

おっとと、こっちも地雷!!

 

「んーーー!アレナンダロナァー!?」

「ん、あれね!あれはね━━━━━━━」

 

流石にオススメスポット!何処を向いてもガンガン来ますね!・・・じゃないよぉ!本当にっ、ちょっとはブレーキ踏んでよぉ!手加減して下さいよぉ!!頭パァンなる、頭がパァンなるぅ!詰め込み教育良くない!

 

段々と薄々と何となく分かっていたけど、メリッサは純粋で可愛い顔してて良い子だ。でも中身がアレと大体一緒だ。雄英高校サポート科のアレこと、発目のアホと一緒なのだ。━━━━━いや、身綺麗にして口調も優しいし、一見まともそうに見えるだけ、ギャップのせいか余計にヤヴァく見えるかもしれない。

控えめにいって魔王だもんね。

 

私はメリッサの話を聞きながら、素早くメッセージを打ち込んだ。SNSの情報から予測した、恐らく近くにいるであろう心の友達に向けて。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『ジロケテ』

 

 

 

I・エキスポ、プレオープンその日。

カラオケによって勝ち取った招待チケットを手に前日からI・アイランドへやってきていた私達は、朝早くからホテルを出掛け、エキスポ会場にてパンフ片手にパビリオンを回っていた。

 

お昼も過ぎて「そろそろオヤツ休憩にしようかー」っとなった頃、突然そんな謎のメッセージが耳郎ちゃんの元へ送られてきた。

 

「・・・何なのでしょうか?緑谷さん」

「緑谷のやつ、何が言いたいんだ?」

 

そう、ニコちゃんから。

 

首を傾げる二人はそのままに、私もメッセージを見る為に耳郎ちゃんのスマホを覗く。

書かれとんのはやっぱり『ジロケテ』の四文字だけ。

 

何かの暗号かとも思うたんやけど、どうもそうでもない気がする。ニコちゃんは自分が知っとる普段使わんような技術を直ぐ教えたがるので・・・見事に教え込まれた私はすっかりニコちゃんの使う暗号を把握しとる。なので、そういうのは直ぐに分かるんやけど・・・なんやろ。これは。

 

「耳郎ちゃん、助けてやったりして」

「そうだとしたら略し過ぎて分からないから」

 

そう言われても他には思いつかんなぁ。

普段からメッセージとかメールとか碌に打たない人やから、これも意味もなくやっとる訳ちゃうのは分かるんやけど、意味が本当に全然分からん。

 

「もうさ、爆豪探してさ、これ見せれば良くない?」

 

耳郎ちゃんの言葉に私は何とも言えん気持ちになる。

それは百ちゃんも同じやったみたいで、ななめ45°に顔をあげて遠い目しとる。

 

「・・・・体育祭の優勝者として、招待されているのは緑谷さんから聞いていましたけど、まさか同じホテルだとは思いませんでしたわ」

「普通にびっくりしたよなぁ・・・ウチ思わずローストビーフ落としたもんな」

 

百ちゃんに続いて耳郎ちゃんまで遠い目になってもうた。まぁ、それも仕方ない気はする。

まさかホテルが一緒で夕飯のバイキングで隣のテーブルにつくとは思わんかったもん。あれは普通にびっくりしたわ。

 

「今頃何処にいるのでしょうか?」

「向こうから聞き慣れた爆音聞こえてきたから、大体の場所分かるけど」

 

爆豪くんにはプライバシーないんやなって。

 

ニコちゃん係を迎えに行こうか、と話がまとまり始めた頃、また耳郎ちゃんのスマホが電子音を鳴らした。

画面をタッチした耳郎ちゃんは片眉をあげる。

 

「居場所分かった、ほらこれ」

 

見せられたのは私達が行かんかったパビリオン。

帰りのついでに寄ろうとしとった所や。

 

「・・・えっ?緑谷さん、いらしてるんですか?」

「みたいだね。さっきのジロケテの答え合わせもきたよ。『なんで助けにこないのぉぉぉぉぉ!!』だってさ。麗日の予想通りだったみたい」

「ニコちゃん・・・そら分からんよ」

 

思わず溢れた言葉に、二人のジトっとした視線が突き刺さる。なんか居心地悪い。そんな見んといて。

そんな爆豪くんに向ける目で見んといてよぉ!私は爆豪とちゃうもん!!そら、友達やけども!やけどもぉ!!

 

そんなこんなでパビリオンに向かうと、金髪のお姉さんにヒーローアイテムを懇切丁寧に説明される、目の死んだニコちゃんがいた。

 

取り敢えず、助けた。



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誰だ!誰だ!誰だぁぁぁぁ!空に爆音鳴らすのは!折寺中ー出身!爆発頭のかっち━━━━っぶな!?何すんの!?歌ってただけなのに!!の巻き

思うように進まん、今日この頃。
映画版って色々詰まってたんやなぁって。


救援要請を受けたお茶子達に救出されて暫く。

私達はパビリオンから程近いカフェにて、三時のお紅茶を頂いていた。冷たいやつ。

 

数々のサポートアイテム開発し個性学に多大な貢献をしてるメリッサパパの娘さんという事に加え、メリッサ自身もヒーローのサポートアイテム開発を学んでいるという事もあって、ヒーロー志望な女子ーズ達との相性は悪くなく会話は思った以上に弾んでいた。

 

「へぇ~、ジロウさん達、プロヒーローと一緒にヒーロー活動したことあるんだ!」

「お手伝レベルだけどね。基本的には訓練やパトロールくらいで・・ですけど・・・あ、でもうちらと違って緑谷はヴィラン逮捕に協力してましたよ。一時期ネットで話題になってたんですけど知りませんか?ステインってヴィランなんですけど」

「ケイゴなんて良いのよ、普通に話して。それにしてもステイン・・・ステイ・・・・・あっ!それ知ってるわ!確か職業体験の女の子の話でしょう!ヴィランを投げ飛ばした!ジュードーガールでしょ!あれってミドリヤさんなんだ!凄い!」

「テキトーな伝わり方してるなぁ・・・けどなんだろ、その変な伝わり方、緑谷らしいと言えば緑谷らしい」

 

呆れた視線をこちらに送る耳郎ちゃんの隣で、百が深い溜息を吐けばメリッサが首を傾げる。

 

「どうしたの?」

「いえ、緑谷さんに比べて私ときたら・・・と思いまして。私、ヒーロー活動どころか、なぜかテレビCMに出演するハメになりまして・・・我ながら何をやっているか・・・」

「そんな事ないわよ、テレビCMって凄いわ。普通じゃ出来ない事よ。とっても素敵!」

 

そしてお勉強タイムに心を病んだ私はと言えば、耳郎ちゃんと百とメリッサが和気あいあいと話す姿を眺めながら・・・・お茶子に甘やかされていた。

具体的にはお紅茶にミルク入れて貰ったり、シロップ入れて貰ったり、かき混ぜて貰ったり、ストローさして貰ったり、口元に近づけて貰ったりとかだ。

 

うむ、くるしゅうないでござる。

 

そうこうしてると店員さんがパンケーキを持ってきてくれた。疲れた脳を癒すには何より糖分だよね。ありがとー店員はん。頭の中でサポートアイテムの情報が交通渋滞起こしてたから、本当助かるです。

さぁさぁ、整理しちゃうよぉー。

 

「━━━はい、ニコちゃんパンケーキきたよー」

「あーーーん」

「えぇ?自分で・・・・はぁ、もう仕方ないなぁ。今日だけやからね。はい、あーん」

 

なんやかんや切ったパンケーキを口に運んでくれるお茶子の優しさに心を癒されながら、かしましガールを眺めつつまったりしてると━━━ふと、何かを感じた。

 

違和感を感じるままそこへ振り返えれば、見慣れた金髪頭とマリモを頭に生やしたちびっこの姿が見える。よくよく見てみると、その見慣れた金髪とマリモはウェイターの衣装を身に纏っていた。

 

「━━━ミドリヤさん、どうかしたの?」

 

そんな声に顔を戻すと、メリッサが不思議そうな表情でこちらを見てる。耳郎ちゃん達も同じ様な顔だ。

 

「何すっかり甘やかされきってんの、あんたは。全然こっちの話聞いてなかったでしょ。━━━てか麗日も程ほどにしな。クセがつくよ」

「最近の麗日さんは、なんだか爆豪さんに近い物を感じますものね」

「いやいやいや!ちゃうよ!?そんなんちゃうからね!?」

 

「フォークを置いてから、それを言おうか」

「ですわね」

 

「ちゃっ、ちゃうもん!あーー、そうっ!ニコちゃんなんかあったん!?」

 

何処か焦った様子のお茶子が誤魔化すように私に話題を振ってきたので、気づいたそれに指を差して教えておく。

 

「ん?いや、あそこに見慣れた連中がいたから」

 

指した指につられて耳郎ちゃんがさっとそっちを見た。そしてそれに気づくと顔をしかめる。

耳郎ちゃんの反応に向こうも気づいたようで、飲み物のお代わりと共にその二人がやってきた。

 

「お待たせしました~ってな!」

 

「えっ、上鳴さん?」

「あっ、上鳴くんや」

「げぇぇ、上鳴ぃ」

「ゴー、ハウス、アホ面」

 

「最後のっ!おい、最後の二人ぃ!酷くね!?特に緑谷ぁぁ!!」

 

私と耳郎の言葉にビシッと上鳴がツッコミ入れると、上鳴の後ろからブドウがさらりと姿を現した。

お盆にドリンクを載せた様子で。

 

「ご注文品お届けにあがりました、お嬢様方。おいらが腕によりを掛けてお作りした、特製ドリン━━━」

 

何か言い始めたブドウに向かって私が指パッチンすれば、耳郎ちゃんが何処か遠い目で口を開いた。

 

「チェンジ」

 

「━━━んて目で言うんだよ!?疑うなよぉ!なんもしてねぇよぉ!!酷くね!?真面目に仕事して━━━」

「いや、峰田。こればっかりはお前が悪いわ。俺ですら疑うわ」

「なんだとぉ!?上鳴っ、この野郎ぅぅぅ!!!」

「うおわぁっ!?」

 

 

 

 

そうして醜い男達の争いが勃発した。

後々に雄英高校生の間に語り継がれる気がする、第一次童貞戦争inI・アイランドである。

 

私は面白くって見ていたのだけど、メリッサが心配そうにしたので引き寄せる個性で上鳴とブドウの頭をごっつんこさせて物理的に強制停止。

武力による制止はやっぱり文句言われたけど「キスさせなかっただけ恩情だろうが、ああん?それともお前らディープしたいのか、ああん?」って言ったら、男二人が抱き合ってガタガタしだした。ほら、恩情だろ。優しいだろ?私ってば天使ちゃんじゃんね?・・・ね、お茶子!お願い引かないで!やらないから!多分!

 

少しすると上鳴達と一緒にきた引率眼鏡も合流し、いよいよ学校みたいになってきたなぁーなんて思ってると━━━━それは空を伝って響いてきた。

 

空気を震わせる大きな爆発音だ。

 

「むっ、この音は」

 

眼鏡のその声に、私の中でやつの顔が浮かんだ。

 

「かっちゃんか」

「爆豪か、そういや切島と行くって言ってたな」

「爆豪のやつもきてんのかよ・・・まじかよ、やりづれぇぇ」

 

空を見上げて私に続く上鳴とブドウ。

それを見て女子ーズも空を遠い目で見上げた。

 

「せやね」

「さっきもそうだけど、何してんだろ」

「アトラクション巡りでもなさってるのかしら?確か個性を使用する物がありましたし・・・」

 

 

全員の心が一致した所で、メリッサが訝しげな顔で口を開いた。まるで何処かの、じっちゃんの名にかけそうな名探偵のように。

 

 

「雄英高校の話の中に度々出てくる、そのバクゴウさん。爆発音だけで特定されるなんて・・・・人気者なのね・・・・!」

 

 

そう、名探偵メリッサの推理が炸裂した。

その結果、無音と時折遠くから響く爆音がその場を支配したのは言うまでもない。

 

・・・一人くらいは味方してあげても、良いんだよ?

えっ?私?いや、私はしないけど。めんどい。

それに・・・心にもない事はあんまり言わない主義なんだ、私は。そう、あんまり。ん?そうだよ、かっちゃんの件は含まないよ・・・はぁ?彼女なのに?え、誰が?誰の?かっちゃんが?私の?いや、彼氏じゃないよ?おい、誰だ、誰が勝手にかっちゃんを私の彼氏にしたん?メリッサになに吹き込んでん?おおん?━━━いや、違うって、照れ隠しとかじゃ、ちがっ、違━━━━。

 

 

 

━━━私はそんなに趣味悪くないぃぃぃぃ!!

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

夏の日射しが眩しい、晴天のその日。

 

I・エキスポのアトラクションの一つ『ヴィラン・アタック』が行われてる会場で俺は、空を爆炎と共に駆けながら、次々にターゲットを爆砕する友人の姿を眺めていた。

 

『これはすご~い!クリアタイム、十五秒、トップです!』

 

司会の人の感嘆の声に、掌から黒煙を漂わせる爆豪は物足りなさそうに鼻を鳴らした。

俺のクリアタイムを十八秒も更新しといて、その態度はどーよ・・・と思わないでもないが、あれでいて楽しんでいるみたいだし、何より何処か誇らしげなので余計な事は言わないでおこうと思う。人それぞれ、楽しみかたは自由。そういう事にしとこ。深く突っ込むと、それはそれで面倒な事になりそうだし。

 

「おっす、お疲れ!凄かったぜ、トップだってな!」

 

帰ってきた爆豪にそう手をあげると、くだらないと言いたげに「けっ」といつもの言葉を発した。手は叩き合わせてくれなかったし態度はそっけないが、そろそろ俺にも分かるようになってきた。嬉しいんだな。うん。

 

「・・・てめぇは、てめぇでちったぁ頭使えや。切島ァ。ルートをちゃんとすりゃ五秒は縮められるだろうが」

「まじか!?五秒も!?どこから行くんだ!?」

「足らねぇ頭で考えろや、ボケ」

 

このツンデレ野郎!少しくらい教えてくれても良いだろうにっ!くそっ、五秒も・・・まじか!

 

ルートを考えつつ再挑戦について考えてると、司会の人のアナウンスが響き渡ってきた。

どうやら新しいチャレンジャーがきたらしい。

 

「・・・ああ?」

 

ふと、隣から地を這うような声が聞こえてきた。

何事かと視線を移せば爆豪が会場を睨み付けるように見ていた。その苛烈な視線に釣られて会場を見てみれば、紅白に染まった髪の・・・よく知ってる轟の姿があった。

 

ヒーロー関係者が多く招待されていると聞いてるし、それならヒーローの息子である轟がいること自体はなんら問題はないし、不思議でもない・・・・のだが、今はそういう事がどうとかではなく、その、ちょっと間が悪いとしか言えない。よりにもよって、このタイミングかぁ。

 

嫌な予感を覚えながら会場を見ていると、案の定轟は見事に最高タイムを更新してきた。まさかの十四秒。トップ更新である。うわぁー。

 

爆音と共に爆豪が会場へと飛んで行く。

止めようとしたけど一歩出遅れた。

やられた。

 

「ごらぁぁ!!てめぇ、なんでここにいやがる!!当て付けか!?ああん!?舐めんなっ!即行でてめぇの記録なんざぶち抜いてやるわ!!」

「ん?ああ、爆豪か。お前も来てたのか、相変わらず元気だな。俺は招待受けた親父の代理で・・・緑谷は一緒じゃないのか?」

「なっ、あっ、くっ・・・あんだぁこら!?てめぇに関係ねぇだろうが!?いなかったら、なんだ!喧嘩売ってんのか、ごら!!」

「?喧嘩は売ってないが・・・・いないのか?そうか。あいつが好きそうな露店があったから・・・教えてやろうかと思ってたんだが」

 

急いで会場へと戻ったら、ナチュラルに煽る感じになってる轟と、それに見事に踊らされる爆豪で混沌としていた。いつもながら噛み合ってないんだよなぁ。そろそろどっちかから空気読んだりしないんだろうか。しないだろうな。出来ないだろうな。知ってる。

 

「はいはい、ストップ!お前ら恥ずかしいから会場で騒ぐな!司会の人が困ってるだろうが!」

「ああん!?んだ、切島ァ!邪魔してんじゃねぇぞ!!殺すぞ!!どけやぁ!!」

「ああ、切島も来てたのか。緑谷みてないか?」

 

凄い、この二人。自分の用件しか言わない。聞く耳とか持つ気ないのかなぁー。ないんだろうなぁー。

というか、なんで轟は緑谷来てる体で話すの?来ない時だってあるだろ?その爆豪といつも一緒みたいなの言わないで!今だけ、マジで頼むから!

 

爆豪、I・エキスポの件で緑谷にフラれた後、俺んとこに来たんだぞ!?止めてくれよぉ!八つ当たりされる!

 

「・・・やっぱりてめぇ、喧嘩売ってきてんな」

「・・・いや?喧嘩は売ってないんだが?」

 

あまりに不穏な空気に、司会の人がチワワみたいになってしまった。そりゃ、最高タイムをポンポン叩き出すような強個性持ちが睨み合ってたら怖いよなぁ・・・俺は慣れたけど。

 

どうしようか・・・そう途方にくれたのも束の間。

その声が頭上から響いてきた。

 

「おっ、かっちゃぁーーーーん!おーーーい!あっ、紅白饅頭もいるじゃん!おーーーーい!」

 

その声に見上げれば観覧席の柵の所で、手を大きく振りながらチャームポイントのポニーテールを揺らす女子がいた。

 

「んで、てめぇがいんだ双虎!!」

「・・・緑谷」

 

そう、その女子は緑谷双虎。

同じ学校でヒーローを目指す仲間。

━━━で、爆豪からのI・エキスポの誘いを一刀両断した女子だ。それはもう見事な一太刀だった。

 

緑谷本人的には、遊びの誘いを断っただけなんだろうけど・・・・爆豪のあの落ち込みよう見てると、何かしようとしてたんじゃないかと思うんだよな・・・意外と、爆豪はロマンチストだからな。

 

「それにしても、なんで緑谷がいるんだか」

 

仲間との偶然の再会を素直に喜びながら、緑谷がどういった経緯で来たのかぁーとか、緑谷が来た以上荒れるんだろうなぁーとか、あれこれ心配しつつも手を振っておいた。

 

ついでに、取り敢えずこの二人は任せよう。

とかも思いながら。



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ヴィラン編面白いなぁーっていいつつ書いた「決意の言葉」な閑話の巻き

誰かっ、誰か!!誰か休みを下さい!!
もしくは六時間は寝かせて下さい!!

瞳を閉じて三時間はキツイ(´・ω・`)


緑谷少女と別れた後、デイヴと昔話に花を咲かせていられたのも少し。私は彼の勧めを受けラボで体の状態を調べて貰っていた。日本にいる際もこれらの診察は受けているし、内容が大きく変わるとも思えないが・・・それでも一縷の願いを込めてそこにいた。

叶うのであれば現役を後数年。せめて彼女達が一人前のヒーローとして表舞台に立つまで。

 

「どうかな、デイヴ」

 

尋ねた私の声に、デイヴは「焦らせないでくれ」と苦笑を浮かべた。それは昔から彼が見せる、懐かしい笑顔だった。

 

「君の悪い癖だ。大人になれば少しはと思ったが、せっかちなのは相変わらずか」

「そ、そんな事はないと、思う、のだが・・・・」

「そうやって何度私の静止を振り切って走り出したと思っているのやら・・・良い機会だ。覚えている限り口にして行こうか?さてさて、何時間必要になるかな?」

「ははっ。OK、勘弁してくれデイヴ。降参だ。君ほど記憶力がある訳ではないが身に覚えがありすぎる。申し訳なかった」

 

素直に謝罪を口にすれば「そこは感謝してくれよ」と楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「感謝といえば、メリッサには改めて言っておかなければな・・・・」

 

私がそう言えばデイヴは眉尻を下げ、少しだけ困ったような顔をする。デイヴとしても私の来訪は予想外だったのだろう。部屋にやってきた私を見て、驚愕を露にしたその顔が忘れられない。

 

「何か忙しそうにしていたのは気づいていたが、まさか君の事だったとは思わなかったよ。学校で研究発表の展示会をするのは聞いていたが、それの準備も大分前に終わっている筈だったしね・・・サプライズに喜んでいたメリッサに、まさか私がサプライズされるようになるとは思わなかった」

「奥さんに良く似て、素敵なレディーになったものだ」

「ああ、本当に・・・・」

 

少しだけ寂しげな目をしたデイヴだったが、すぐに悩むような素振りを見せた。どうしたのかと尋ねてみれば、「中身はすっかり私よりになってしまったのがなぁ・・・」と何とも言えない顔で呟かれ、思わず笑ってしまった。私としては目標を持って努力に励む彼女を立派だと思うが、男親としては複雑な物があるらしい。

 

「娘からボーイフレンドの話を聞いた事がないんだ・・・大丈夫だろうか」

「それは・・・えっと、聞きたいのかい?メリッサからボーイフレンドの話を?」

「正直に言えば聞きたくはないな、あまり。だがな、研究職は悪いとは言わないが・・・婚期を逃す事が多いからな。いや、何も結婚する事が全てではないのだが・・・だがな・・・・・カレッジ時代のジョーイを覚えているか?」

 

そう言われてみれば、デイヴの友人にそんな女の子がいたな・・・と思い出したが・・・。

 

「ジョーイ・・・ああ、まぁ・・・」

「少し前、良い相手はいないかと、打診が来た・・・」

「えぇ、あぁ、うん・・・・それは・・・」

 

私とデイヴはジョーイの幸せを願いながら、メリッサに良い相手が出来ると良いなぁと思いを馳せた。

少しだけ緑谷少女の顔を浮かんだけれど、彼女には引き取り手がいるので、その事について考えるのを止めた。彼女には余計なお節介でしかない。いや、メリッサの件もそうなのだろうが。

 

 

それから暫くして、私を取り囲んでいた装置が小さな電子音を鳴らした。どうやらデータを取り終えたらしい。

結果に期待したい所だったが、やはりそう上手くは行かないらしい。

視界の端に映っているデイヴの顔色が優れない。こちらからは見えないが、恐らく彼の目の前にあるモニターに宜しくない結果が表示されているのだろう。それが分からない程、彼と付き合いが短いつもりはない。

 

体を起こした私は、それを彼へ問いかけた。

 

「デイヴ、率直な感想を聞かせて欲しい。私は後何年戦える?」

 

吐き出した言葉にデイヴは一度こちらを見て、何かに悩むようそっと目を閉じた。

 

「・・・・・・個性数値に関しては・・・以前より低下はしているが、これまでのデータに基づけば後5年の猶予はあるだろう」

「5年か・・・・それは良かった。日本では━━━━」

「だが勘違いしないで欲しい。それは君が今の状態を維持した場合の話だ・・・!そしてそれは、君がヒーロー活動をしている限り・・・・・」

 

悔しさの滲んだ声が響いた。下を向いてしまった彼の表情は見えないが、モニターに触れる指の震えを見れば、どんな表情をしているかは見当がついた。

そしてその姿に、私は不謹慎ながら本当に良い友を持ったと、誇らしいと同時に嬉しく思ってしまった。

 

「━━━オール・フォー・ワンとの戦いで損傷を受けたのは理解している。それからの戦いの日々も。君がヒーローに拘る理由も私は知っている・・・だが、どうして・・・・」

 

こうなる前に、伝えてくれなかったのか。

デイヴは口をつぐんでしまったが、私にはそう聞こえた。

 

「すまない、デイヴ。心配を掛けてしまったな」

「・・・・いや、私の方こそすまない。一番傷つき、苦労しているのは、他でもない君だ。・・・少し取り乱した、本当にすまない」

 

そう言うとデイヴは側にあった椅子へと腰を下ろす。

ようやくあがった顔には愉快とは到底言えない、暗さの滲む複雑な感情が浮かんでいた。

 

その表情に掛ける言葉を見つけられずにいると、デイヴはゆっくりと口を開いた。

 

「このままでは、平和の象徴が失われてしまう。日本のヴィラン犯罪発生率を六パーセントで維持しているのは、ひとえに君がいるからだ。ほかの国が軒並み二十パーセントを超しているというのに・・・。君がアメリカに残ってくれればと何度思ったことか・・・・」

 

いつになく弱気な言葉に、私は純粋に驚いた。

少なくとも彼とコンビを組んで以来、一度として見なかった姿だからだ。奥さんを亡くした時でさえ、彼は涙をこらえ前を向いていた。娘の為にも、自分が平和を作るのだと・・・そう研究に励んでいたのだ。

 

だというのに、今の彼の顔には力が無かった。

 

「・・・・それほど悲観する必要はないさ。優秀なプロヒーローたちがいるし、私の教え子たちのように将来有望な若者たちもいる!君のようにサポートしてくれる方たちもいる!それにな、私だって、一日数時間はオールマイトとして活動できる━━━━」

「しかし、オール・フォー・ワンのようなヴィランが、どこかでまた現れる可能性も・・・」

「デイヴ」

 

彼の言葉を遮るように声を掛ければ、ようやく彼の目が私を捉えた。

 

「その時の為にも、私は平和の象徴を降りるつもりはないよ」

 

少しでも安心して欲しくて掛けた言葉に、デイヴは顔を足元へと向けた。表情は窺い知れない。

それから少しの間をおいて顔をあげたデイヴの顔には、迷いも後悔もない、強い決意の色が宿っていた。

 

「弱気な事を言って済まなかった。そうだな、君が頑張っているというのに、私がへこたれている場合ではないな━━━━覚悟は出来た、私も」

「そうこなくてはな、頼りにしているよ。友よ」

「あぁ、トシ」

 

 

 

 

検査を終えた後、検査の為に脱いでいたヒーローコスへ袖を通していると、デイヴからI・エキスポのレセプションパーティーの話を聞かされた。出来る限り人目を避けたかったのだが、どうにも私の参加を皆が期待しているらしく要請の連絡がデイヴの所へ来たようだ。

断るとデイヴの面子を潰す事にもなるで、借りの一つも返すつもりで了承すれば「借りを返すつもりなら、今回の件だけでは足りないからな?」と笑われてしまった。

 

「・・・・しかし、レセプションパーティーか」

「何か問題あるかい?体のことなら出来る限りフォローするつもりだが・・・」

「いや、連れの事を考えてね・・・」

 

いつもの緑谷少女の姿を頭に浮かべると、私は心配からお腹と頭が痛くなってきた。爆豪少年と合流しているならまだ安心出来るが・・・一人でいさせるのは色んな意味で怖いものがある。本当に、色んな意味で。

 

「何も、なければ良いのだけど・・・」

 

口にすると余計に心配になってくる。

取り敢えず爆豪少年にメールを入れた。返事は返ってこなったが、もしかしたら読むまでもないのかも知れない。何となくだけれど、彼女はもう彼の側にいる気がする。

 

パーティーへ出る準備をする為に部屋を出ると「トシ」と声が掛かった。振り返れば、中途半端に手を伸ばした友人の姿が目に入る。

 

「・・・どうした?」

「・・・・いや、何でもない。・・・会場で」

 

再会を約束する言葉を口にすると、デイヴは伸ばし掛けた手を胸元へ引き戻し、いつもの笑顔を浮かべた。

学生時代から変わらない、私の無茶に対して彼がいつも見せてくれた、仕方ないなと言わんばかりの笑顔を。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

彼を見送って直ぐ、私は自分のラボへと戻ってきていた。先程得た彼のデータを改めて確認し、そのデータを元に行っていたシミュレート結果に目を通した。今の段階ではまだ調整は不足を否めない結果ではあるが・・・そのシミュレート結果は、確かな可能性を示している。

 

『その時の為にも、私は平和の象徴を降りるつもりはないよ』

 

気安げに、胸を張っていう彼の姿が脳裏に浮かぶ。

医療に関して十分といえないまでも、多少の知識を持つ私でさえ目を疑うような重傷を負いながら、それでも任せろと笑う友人の姿が。

 

戦うというその言葉が真実なら、彼は間違いなく二年もまともに生きられない。いや、二年などと悠長な事は言っていられないだろう。彼の個性は体に大きな負担を掛ける。使い方次第では明日にも、次の瞬間にも命を落としてしまうかも知れない。

そしてそれを知ってもなお、己の言葉を真実にしてしまう彼だからこそ、私は完遂しなければならない。彼がもう一度羽ばたく為に。

 

新たに条件と調整を加え、再シミュレートを開始する。画面に現れたシミュレートの進行具合を示すパーセントゲージから目を離し、私は人工臓器と移植に関する論文を画面へとアップし読み進めていく。

 

個性については問題ない。

研究を進めていけば、直に私の発明品は彼を救ってくれる筈だ。だが彼には個性の減退を防ぐだけでは不十分。同時平行に彼の体も癒さなくては、根本的な解決にはなり得ない。

 

彼は生きなければならない。

何故なら彼はこの世界の光。

人を救い悪を倒し、人々の不安を晴らして沢山の笑顔を作り出していく━━━平和の象徴なのだ。

 

「ヒーローが必要なんだ。君がまだ、この世界に必要なんだ」

 

平和の象徴である君が。

オールマイトが。

 

脳裏に若かりし頃の彼の笑顔が浮かぶ。

初めて君を知った、君に救われたその日。君と歩んだ日々。君が教えてくれた夢を。

 

『ありがとう。俺はデヴィット・シールド。君は?』

『オールマイト。ヒーロー志望の学生さ』

 

━━━━あの眩しいくらいの笑顔も、伸ばした手に返された力強い掌も。

 

『最新素材で作った君専用のコスチュームだ。これで多少の無茶も出来る』

『いいね』

 

━━━━鏡の前でコスチュームにはしゃぐ君の姿も、共に笑い合った日々も。

 

『平和の象徴?』

『私が目指すのは、皆が笑って暮らせる世界。その世界を照らし続ける"平和の象徴"になりたいんだ』

 

━━━━夕日を眺めながら君が教えてくれた、途方もなく大きな夢の話も全て・・・・私は昨日の事のように覚えている。

 

 

「トシ、君は、私が必ず━━━━━」

 

 

私を救ってくれた君を。

私の光となってくれた君を。

この手で、きっと救ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━私の何を犠牲にしても。



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夢の話をしようよ。ねぇ、あの日聞かせてくれた夢の話をしよ。ほら、してよ、してみてよ。あれ顔赤いよ?照れてんの?ねぇ、照れてんの!?ねぇねぇ!っぶな!?はいっ!バーリア!!の巻き

もう、疲れたよ。
もう眠っても良いよね?

パトラッ━━━(。-ω-)zzz


『本日は十八時で閉園になります。ご来園ありがとうございました』

 

空が茜色に染まり始めた夕刻。

轟に奢って貰ったり、かっちゃんをからかったり、眼鏡の眼鏡に指紋つけたりして目一杯楽しんだ私は、有終の美を飾ろうと夕日を背にコーラを飲んでいた。

カフェの入り口でヘタレ込む、ボロ雑巾みたいな上鳴達を見下ろしながら。

 

「人間、ああは成りたくないものだ」

 

そう言ってまたストローを咥えれば、上鳴とブドウが憎しみのこもった視線を向けてくる。鼻で笑ってやれば、きぃーっと小さい声で喚いてきた。

 

「ミドリヤさん、友達にそういう事は・・・」

 

メリッサが申し訳なさそうに止めてくるが、私はそれをやんわり止める。止めてくるのを止める。なんだろ、この変なフレーズ。嫌いじゃない。

 

「大丈夫、大丈夫。案外これでこいつらは喜んでるから。━━━おらぁ、跪け下郎共ぉ!!貴様らの仕事ぶりにいたく感心なされた姫達から褒美の進呈じゃぁ!!」

 

袋詰めされたキャラメルポップコーンとチュロスをお茶子達女子ーズが見せれば、下半身に支配された二人は女子ーズの前へとダッシュ。そしてささっと地面へと膝をつき、迷う事なく頭を即行垂れた。その間、僅か二秒。あまりの必死さに、言うまでもなく女子ーズが若干引く。

 

しかし、そんな態度にも引くことなく、菩薩のような笑みを浮かべて近づく者もいた。優しきその者は自らが手にした物を上鳴達の手に置くと、力強く二人の肩を抱き寄せた。

 

「労働、よくがんばったな!上鳴くん!峰田くん!」

「いや、何で飯田だよっぉ!?」

「そこは女子の役目でしょーがぁ!!」

 

「レセプションパーティーの招待状だ!用意してくれたメリッサさんに感謝するんだぞ!二人とも!!」

「いや、だったらメリッサさんに渡させてくれよ!」

「てか、いつまで抱き締めてんの!?俺そっちの趣味ないからね!?」

 

アホ丸出しの男連中を指差して「ねっ?」とメリッサを見れば、少しきょとんとした後クスクス笑い始めた。

 

「雄英高校の皆って、いつもこんなに賑やかなの?少し前にいた・・・トトロキくん?がいた時も、凄く賑やかだったし」

 

そう言うとメリッサは少し離れた所から呆れ気味に眼鏡達を眺めるかっちゃん達を見た。視線の意味は言わなくても分かる。今でこそ落ち着いてるけど、轟が用事で抜けるまでは何かとワチャワチャしてたからなぁ。よくまぁ、毎回毎回争うネタが尽きないな。あの二人は。

 

「━━まぁ、うちのクラスは大体こんな。他の学年とかクラスとかは、どうなってるのか知らないけどねぇー」

「そうなんだ。・・・でも、なんか良いわね。楽しそう。私にも━━━━・・・うぅん、何でもない。素敵ね、ミドリヤさんのお友達」

 

そうして向けられた笑顔は、少しだけ寂しげに見えた。今日一日分だけしか知らないけど、メリッサは時折そんな顔をする。理由は分からないけど、心当たりがない訳でもない。何となしにそれを尋ねてみようかと思ったんだけど、いきなり頭パァーンされて言葉が喉の奥へと戻ってしまう。何事かと振り返れば、やっぱりかっちゃん。

 

「━━━━ったいなぁ!いきなり何すんのぉ!?馬鹿になったらどうすんの!!!」

「うるせぇ、最初からとびきりの馬鹿の癖して、今更何を心配してんだ。んな事より、さっさと帰って準備始めろや。レセプションのパーティーに出んだろ、てめぇは」

 

叩かれた事はムカッとしてるけど、かっちゃんは間違った事は言ってない。叩くとか、本当に糞だけども。

パーティー用の格好に着替えるとなると時間が結構掛かる。何せホテルに借りる所から始めなくてはならない。選ぶ時間もそうだし、着付ける時間も必要。なんて言ったってドレスコードだかんね。ドレスコード。私ドレス着るらしいですのことよ?やばいね。私の美少女っぷりに磨きが掛かっちゃうよ。あまりの美しさに見た人が石になるんじゃないかな。もうお金取ろうかな。

 

「あっ、そうだ。かっちゃん的にはどんなドレスが良いと思う?」

「あ?んで俺がてめぇのコーデ考えなきゃなんねぇんだ。好きにしろや、クソが」

「まぁ、好きにするけどさ?参考程度に聞きたかっただけ。轟は白とか漠然に言うしさ━━━━」

「淡い緑、露出すくねぇドレスにしやがれ。ヒールは低め。メイクもナチュラル心掛けろ。てめぇはただでさえ目立ちやがる、ヒラヒラしたのは止めろ」

「えっ?ん?うん?あいよ?」

 

急な掌返しと具体的な要求にちょっとドキリとした。てか、参考だっつってんのに、かっちゃんは厚かましいなぁ。なんだその『はい決定!』みたいな言い方。まぁ、でも轟のぼやぁっとしたアドバイスより悪くないな。今回は濃いめは止めて淡い色にしようとは思ってたし、ヒールも高いのとか苦手だし?分かってんじゃん的な気は・・・まぁしないでもないけど。

 

「んーー参考にする。ありがと」

「けっ!」

 

一つ候補が決まった所で漢字の漢とかいて男なキリシマンが手をあげた。何か言いたげだけど、やつのセンスは壊滅的なので視線を逸らしておく。

 

「いや、無視すんなよぉ!?露骨過ぎるだろ!」

「じゃぁ、はい、切島」

「その信用ゼロの視線向けんの止めろ。普通に傷つく。まぁ、アドバイスって訳じゃねぇーけど、爆豪は赤シャツに白い薔薇柄がアクセントが入った紺のベストだからな」

「へぇ、そうなんだ?また派手だねぇー」

 

確認をとろうとかっちゃんを見れば、何故か怪訝そうな顔をしてる。ほわい?

 

「・・・おい、切島。なんで俺が、んなもん着る事になってんだ?ああ?」

「何でって・・・なんも用意する気ねぇお前に代わって、俺がちゃんと準備してやったからに決まってんだろ?お前の趣味にバッチリヒットだろ!」

「余計な真似してんじゃねぇぞ、こらぁぁぁ!!」

「うぉっ!?」

 

ツンデレかっちゃんが照れ隠しで暴れてるのをよそに、女子ーズは全員集合で着るドレスの話を始める。被らない為にも打ち合わせは必須。その結果危うく百と私のドレスの色ががっつり被る所だった事が判明した。百なのに淡い緑のドレス着ようとしてた。百なのに。

熾烈な争い(じゃんけん)を制した私は予定通りに淡い緑を獲得、百は皆の勧めで燃えるような赤になった。かっちゃんと被るけど・・・まぁ、かっちゃんなんて目じゃなかろうから問題ないと思う。私的には胸元ばぁぁぁぁんって開いてて、ラメがどぉどぉぉーん入ったキラッキラのシャンパンゴールドを推したんだけど、それだけは嫌だと全力拒否された。なので代わりに、なるたけセクシーなのを選ぶように追加注文しといたけど。

頼んだ、お茶子、耳郎ちゃん。私の分も飾り立ててあげて。

 

待ち合わせ場所と時間を決め、いざ解散。

次は戦場(パーティー会場)で━━━━と別れてホテルに帰ろうとしていたのだけど、メリッサに呼び止められた。どうやらアトラクションを回ってた時に私がちらっと漏らした個性の話を覚えていたらしく、それについて見せたい物があるらしい。

 

炎を対象にした、引き寄せる個性の使用。

轟戦で行ったあの日以来、引き寄せる対象として炎を認識出来るようになっていた。出来る事が増えるのは良いことだ━━━と最初は喜んだけど、これが全然駄目だった。炎を対象にした時の出力の低さ、安定性のなさ、燃費の悪さ、脳への負担の大きさ。何をとってもイマイチで、実戦で使えるような代物ではなかったのだ。勿論練習はしてるけど、今日まで大した変化はなかった。無差別に引き寄せるなら、結果として出来なくはないけれど、あれはやりたい事とは違い過ぎるし。

 

そんな訳で、何かのヒントになればと、何処かの発明馬鹿みたいなギラギラした目のメリッサに同行。メリッサが通う学校にある、メリッサの専用ラボへとやって来た。

 

「散らかっててごめんなさい。ちょっとだけ待ってて」

 

そう言いながら部屋の奥へといくメリッサにつられ軽く見渡したけど、部屋は普通に綺麗だった。確かにテーブルというテーブルの上には道具やらノートが置きっぱなしだけど、それだって無駄な物は置かれてない気がする。これで散らかってるとか、私の部屋見たら発狂するんじゃなかろうか。三日に一度は母様が額に青筋たてながら掃除するレベルなんだけど。

同じサポート科の発目の活動拠点とか、業者が入らないとどうにもならないレベルなんだけども。月とすっぽんなんだけど。

 

「━━━━というか、学校から個室貰えるレベルなら、メリッサって成績的に上から数えた方が早い系でしょ?百と似たモノを感じるんですけど」

 

資料棚の上に並んだ盾やらトロフィーやらを指差して聞いてみれば、メリッサは棚を探しながら口を開いた。

 

「うーん、どうかしら?私はそんな事ないと思うけど。きっとモモさんの方が私より優秀よ」

「そう?普通の人は賞とか貰えないと思うけど」

「ええっとね、実はね、私そんなに成績良くなかったの。今でこそ賞を貰えたりする事もあるけど、最初はてんで駄目で・・・・だから一生懸命勉強したわ。どうしてもヒーローになりたかったから」

 

声から少しだけ元気がなくなった。

真っ直ぐ前を見てる目が、どこか寂しげにも見える。

何となく待っている気がしたので、それを一応聞いてみた。

 

「・・・どうしてプロヒーローを目指さないのって、聞いた方が良い?」

 

そう言うとメリッサが困ったように笑う。

探す手を止めることなく。

 

「何となく、ミドリヤさんには気づかれてる気がしてた。だってミドリヤさん、見てないようで人を良く見てる人だから━━━私ね、無個性なの」

 

その告白にはやっぱりかぁ、という感想しかない。

今日一日見てきたけど、そうじゃないかなぁとは思ってた。気づいた理由は色々あるけど・・・・一番はメリッサの話し方。個性と自分が別にあるみたいな、その話し方だった。

 

「五歳になっても個性が発現しないからお医者さんに、調べてもらったの。そしたら発現しないタイプだって診断されたわ」

「そっか、私は普通に出来たからなぁー」

「そうなんだ?ミドリヤさんは発現した時の事とか覚えてたりする?」

「覚えてるよ。かっちゃんの事ぶん殴った時だったから」

 

教えてあげたらメリッサが微妙な顔でこっちを見てきた。なんぞ?

 

「ミドリヤさん・・・私が言う事じゃないかも知れないけど、バクゴウくんに優しくしてあげてね?」

「えっ、なんで?!」

「ミドリヤさんって、バクゴウくんだけには鈍いわよね?少しは見てあげても良いのに・・・なんて。偉そうに言えるほど、私も経験なんてないんだけど。あっ、あった━━━━きゃっ!?」

 

ぼんやり眺めてたら高い棚を漁っていたメリッサがバランスを崩した。なので、引き寄せる個性でちょちょいと助けておく。と言っても、転ばないように体勢を整えてあげただけだけど。

 

「あっ、ありがとう。凄いわね、ミドリヤさん。今のって引き寄せる個性よね?・・・聞いてた感じだと、調整が難しそうな個性なのに、一瞬で、こんな正確に」

 

まぁ、外から見ると簡単に見えるんだろうな。

仕方ないけど。

 

「んーーーこれでも最初は苦労したんだけどね?出力は弱かったし、狙いをつけるの難しかったし、効果範囲は狭かったし、使うと凄く疲れるし、今ほど自由は利かなかったしで。高校入ってから個性的に成長期入ったのか、色々出来ること増えたけど━━━━中学の頃の私なら、メリッサの事引き寄せてキャッチするくらいしか出来なかったと思うよ?」

「あの一瞬で対象を選択して、引き寄せる個性発動させて、キャッチ出来るくらい引き寄せる力があって、それを考えつく余裕があるなら、それも十分凄いと思うけど・・・・あっ、これ、ふふふ、さっきと同じね?」

 

クスクスと笑うメリッサの顔には、さっきとは違う柔らかい笑みが浮かんでいた。

 

「子供の頃はね、マイトおじさまみたいになるんだって信じてた。パパにサポートアイテムを作って貰ってね、空だって海だってビューンって飛び越えて、沢山の人を助けてあげられるヒーローにって━━━それが私の最初の夢。だからね、私はミドリヤさんが羨ましい。そんなに凄い個性持ってるなんて、ズルいって、少しだけ思っちゃった。・・・でもそれだって、私と同じなのよね?沢山努力して、沢山頑張って、試行錯誤を繰り返して、ミドリヤさんがそこに居られるのは、きっと・・・・・━━━━━━私ね、今は別の夢があるの」

 

メリッサの視線は棚に並べられた写真へと向く。

色んな写真がある中で、メリッサの視線はメリッサパパを見つめていた。その目を見れば、メリッサが何を目標にしてるのか聞かなくても分かる。

なんとも、随分と高い目標だこと。

 

「まぁ、ガンバ。ノーベル個性学賞までの道のりは、めちゃ遠そうだけど」

「ふふっ、見ててね。今にパパより凄くなっちゃうんだから!そうだ、サイン貰っておく?プレミアついちゃうかも知れないわよ?」

「じゃぁ貰っておこっかな?証拠に写真もよろしく、あっ、名前はニコちゃんへで」

 

書いて貰った不恰好なサインと共にパシャリとやってから少し。とあるアイテムを貰った私は、レセプションパーティーの準備の為に、メリッサと共に学校を後にした。小走りで。

 

レセプションパーティーまで、残り・・・・あっ、止めた。止ぁぁぁめたぁぁぁ!数えるの止めたぁぁぁぁ!これからドレス選んで、着付けして、化粧ですよ!?アホらし。考えるのを放棄します!私は放棄しますよ!!てか、間に合わないよね!?メリッサ、間に合なかったら、一緒にジャパニーズゴメンナサイの土下座だかんね!!えっ、私が?何回もサインを書き直させるから?だって、普通に名前書いただけだと価値的にあれでしょ!?格好いいの欲しいじゃん!!



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何事もいきなり始まるもんなので、ある程度は諦めて行こうとは思っているけど、せめてご飯ぐらいは食べさせてくれませんかね?の巻き

弔くんめちゃかっけぇよぉ。荼毘もかっけぇしよぉ、トゥワイス可愛いしよぉ・・・なんなん、あれ。ヴィラン連合ええなぁ、ほんまえぇなぁ(;´Д`)ハァハァ


「へぇい、おまたー?」

 

メリッサと別れてから超特急で着替えて少し。

服装が乱れない程度のダッシュで、集合時間を余裕でぶち抜いて待ち合わせ場所のセントラルタワー七番ロビーへ辿り着くと、案の定眼鏡が絶好調でブチキレていた。

 

「緑谷くん!!君は、いや君達は団体行動をなんだと思っているんだ!!」

 

その言葉に周囲を見渡せば眼鏡の側にかっちゃん達とメリッサ以外全員が集合していた。

あうち。 

 

「いつもいつも君は━━━━━━緑谷くん、だよな?」

「はぁ?見れば分かるでしょ。どした、眼鏡指紋でベッタベタで見えないの?」

「ああ、緑谷くんだな・・・・」 

 

何処で判断したんだ、この眼鏡野郎。

というかなんだその目は。

童貞共、目を潰すぞ。

 

不躾な男連中の視線に自分の体を見直して見る。

悩んだあげく選んだパステルグリーンのキャミソールドレスは、着る前と同じように綺麗なままだ。軽く腰を回してスカートをチェックするけど、ヒラヒラ揺れるスカートに破れや汚れは見当たらない。珍しくハーフアップにした髪も触ってみた感じ乱れはない。ヒールも折ってない。

それでもあえて言うなら、肩を隠す為に巻いたストールがよれてしまってるくらいだろうか?

 

ストールの位置を直してから眼鏡をドヤ顔で見てやれば「やっぱり緑谷くんか、良かった」と何故か安心された。意味が分からん。

 

「ニコちゃん、そのドレスええね!可愛い!」

 

声に視線を向ければお茶子達が興味深そうにこっちを見ていた。そんなお茶子はスカートがフワッとした、ピンクの可愛いオフショルダードレス。耳郎ちゃんはAラインドレスにジャケットを羽織るという、ちょっとロックな感じで仕上がってる。かっこ可愛い的な?

百はといえば、胸元ががっつり開いた真っ赤なイブニングドレスに身を包んでいた。視線が合うと何処か恥ずかしそうにしてる。ヒーローコスがエロの体現者みたいな格好なのに、今更何が恥ずかしいのか。驚く程似合ってるよ、エロかわだ、百よ。

 

「お茶子も可愛いよー」

「えへへ、せやろか?」

「せやせや」

 

褒めるとお茶子は照れ臭そうに頭をかいた。

そんなお茶子をよそに耳郎ちゃんと百はドレスに興味津々で凄くジロジロ見てくる。あまりに熱心に見てくるので何かあるのかと、また軽く見直してみたけど変な所は見当たらない。

 

「・・・どしたん?」

「いやぁ・・・・別に?」

「深い意味はありませんわ、緑谷さん」

 

そんな事言いながらも、何か言いたげな二人は引き続きジロジロとドレスを見てくる。「ありませんわ」とか「ないね」とか呟いてるから、何か探してるのは間違いないけど、それが何なのかはさっぱりだ。

 

「ん?緑谷、このストールのさ、レースの柄ってなんなの?花だよね?」

 

ストールの?そう言われて見れば、スタッフさんが何か言ってた気がする。何だったっけ?世間話しながら選んでた時だよな?うぅん?

 

「何だったっけか?せん・・・せんと・・・・」

「もしかしてセントランサスでは!?」

「うぇっ!?えっ?いや、どうだったかなぁー?」

 

食い気味にきた百に圧されながら思い返してみると、その言葉とスタッフさんの言葉が頭の中で重なった。その事を伝えると百が目を輝かせる。

 

「セントランサスとはオミナエシ科ベニカノコソウ属の植物の事で、その総称です。日本では初夏に淡紅色や白色の香りの良い小花を散房花序つける、ベニカノコソウやウスベニカノコソウが観賞用として栽培されてる事が多いですわね。━━━そしてなにより、薔薇の宿根草としてもその名の知られた植物なのです!薔薇の強い主張を和らげ、尚且つ薔薇の美しさを際立たせる。薔薇と非常に相性のよい植物なのですわ!勿論それだけではありません、セントランサスの花━━━━」

 

熱弁し始めた百をお茶子達に任せ、ゲートに設置された時間を確認してみる。集合時間より遅れてる。そしてかっちゃんからは連絡がない。性格的に遅刻するなんてあり得ないんだけどな?とか思ってると、ふと気配を感じた。

 

「ん?」 

 

気配のする方へ視線をずらすと、こっちを見つめてる轟の姿が目に入る。無言のまま送られる、いやに力強い視線は居心地が良いとは言えず・・・私は眼鏡ガードする事にした。かっちゃんシールドにつぐ最強の盾、眼鏡バックラーよ!全ての災厄を祓いたまえ!!

 

「・・・轟くん、心中を察するが、そのままだと不審者だ。頑張って言葉にしてみてはどうだろうか」

「あっ、ああ・・・・緑谷、ドレスよく似合ってる。綺麗だ・・・その髪型も、可愛いと思う」

「僕越しに言わないでくれないだろうか・・・複雑な気分になるのだが」

 

おおっと、ドレスは当然として髪型も褒められてしまった。

何でも似合う超絶美人な私とはいえ、普段あんまりやらないやつだから少し心配してたんだ。だってこれ、母様ヘアーだしね。着替えるの手伝ってくれたスタッフがあんまりにもオススメするから、じゃぁ今回だけっとやってみただけなんだけど・・・そうか。可愛いか。そうかそうか。

 

「まぁね!可愛いこと子猫の如しな私だからね!基本どんな格好してても可愛いんだけどもさ!ふははは!ていうか、褒め称えたいなら最初からそう言えば良いのに~まったく!」

「・・・・いや、だから僕越しに話さないでくれ」

 

「そうだな・・・緑谷はどんな格好してても、緑谷だな。この間の浴衣━━━━」

「だから僕越しに話さないでくれないかな!?とてつもなく、いたたまれないんだが!?」

 

眼鏡バックラーがその機能を十全に果たしてる一方、背後から童貞兄弟の声が聞こえてきた。轟達と話すのを止めてちょっと聞き耳をたてれば、苦しげな声がそこから響いてくる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ぽっ、ポテンシャルはあるとは・・・・思ってたんだ。オイラ・・・おっぱい・・・生肌・・・緑谷しゅき・・・触りたい」

「落ち着け!!峰田!!気持ちは分からなくはねぇけど、でも全力で落ち着け!!中身がアレな上、保護者がやべぇのしかいねぇぞ!!尻の毛までむしられて、爆破されたり燃やされたりして、二秒くらいでハンバーグにされっぞ!!」

 

おいこら、糞童貞共。

控えめにいって、ぶっ飛ばすぞ。

 

上鳴とブドウの唇同士を断続的に引き寄せ、ある意味での地獄を見せてやっていると、パタパタと駆ける足音が聞こえてきた。かっちゃんかと思ったけど、それにしては足音が軽い。となると━━━━。

 

「ミドリヤさん達、まだここにいたの?パーティー始まってるわよ」

 

やっぱりメリッサだった。

メリッサは青と白のコントラストが綺麗なビスチェドレスだった。腰元についた白薔薇が可愛いくて、胸元が激しくエッチぃ。

 

メリッサの姿にキス寸前の童貞兄弟が激しく反応する。上鳴いわくどうにかなっちまいそうらしいので、どうにかなっちまえるように、きちんと引き寄せる個性でお手伝いしとく。お前らのファーストキスはここでやれな。なっ。

 

「待たせちゃったみたいで、ごめんなさい」

「いいの、いいの。私も今来た所だし、まだ来てないやつらもいるくらいだしさ。━━━━それにほら、パーティーの最初って決まって偉い人が喋ってるだけの、行かなくても良い時間じゃない?寧ろ話し終わるぐらいに合わせて行こうよ、ね?」

 

と、メリッサを慰めたら眼鏡に何とも言えない顔された。お茶子達にも残念な子を見るような目で見られる。

 

「目ぇ、覚めたぜ。上鳴。女は中身もだよな」

「峰田!分かってくれたか!」

 

馬鹿共はフルパワーで引き寄せてやった。

流石にここでファーストキスは可哀想なので、デコ同士にしてやったが。峰打ちにしといちゃる。次はないぞ。

 

馬鹿共を成敗した後、かっちゃんに何処ほっつき歩いてるのか聞こうとスマホを手にして━━━━気づいた。スマホが圏外になっている事に。少なくとも皆と合流する前は大丈夫だった。何せスマホで時間確認しながら走ってきたのだ。間違える訳がない。

 

念の為にかっちゃんから連絡が入ってないか一通り確認し、スマホの電源を入れ直して見る。再び電源のついたスマホにはやっぱり圏外の文字が浮かんだ。これが地元なら電波が悪いんだなぁで済むが、ここは科学技術の最先端の都市で、私達がいるこの場所は都市の中でもシンボル的なビルの筈。そんな場所で、こんな事が起こるなんて、物凄く違和感を感じる。

 

不思議に思って全員に確認して貰えば、全員が全員圏外という更なる謎事態発覚。なんだか嫌な予感するなぁと思ってると、警報音が鳴り響き始めた。それも完全にヤバげな警報。

 

『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました』

 

機械的な声が鳴り響くと同時。

誰かが息を飲む。

 

『I・アイランドは現時刻をもって厳重警戒モードに移行します。島内に住んでいる方は自宅または宿泊施設に。遠方からお越しの方は近くの指定避難施設に入り待機して下さい━━━尚、今から10分後以降の外出者は、警告なく身柄を拘束されます。くれぐれも外出は控えて下さい━━━━』

 

部屋から、廊下から、入り口から。

何かが動く音が聞こえてきた。

重く、固い、金属音が。

 

『━━━━また、主な主要施設は警備システムによって、強制的に封鎖します』

 

その声が響くやいなや私達が入ってきた入り口に、突然鋼鉄のシャッターが降りてきた。他の窓や通路にも似たようなシャッターが次々に降りていく。

 

皆が慌てふためく中、私はある事に気づいた。

この事態がなんにせよ次に予測されてしまう、その最悪の未来を。

 

「もしかして、パーティーのバイキング中止じゃ・・・・!?私のっ、ローストビーフっ!!」

「緑谷くん!?本気かい!?君、本気かい!?そういう事を言ってる場合ではないと思うんだが!!」

 

「大丈夫だ、緑谷。仮に中止になっても、今度俺が奢ってやる」

「轟くんまで!?君もすっかり毒されたな!!いや、悪い事ばかりでもないが!ないんだがな!!」

 

 

「飯田くん大変やな」

「麗日もさ、大分毒されたよね」

「そうですわね」

「ミドリヤさんって、本当に前向きね・・・」

 

「・・・・前向きっていうのか、あれ。なぁ上鳴」

「いやぁ、ちげぇーだろうな」

 



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あっちもこっちもどっちも、テロリストOh!・・・いや、ふざけてない。ふざけてないんだってば。現実を直視出来ないだけなんだってば。の巻き

どんどんヴィラン編おもしろくなってるけど、デクくん達あれに勝てるん?ヴィラン連合、思ってたんより十倍くらいやばいねんけど(;・ω・)


「うわっ、めっちゃテロリスト」

 

謎の警報騒ぎから暫く。

私達はメリッサの協力の下、非常階段や監視カメラの死角を縫いながら、レセプションパーティーの会場を見下ろせるフロアへと辿り着いていた。

 

そしてちょっと前に借りたメリッサ謹製の多機能ゴーグル越しに見下ろした、吹き抜けの先にあった光景は━━━━━武装集団に囲まれる紳士淑女とポンコツヒーロー達という残念極まりない光景という。

 

・・・・おおぅ、こいつらマジか。通信機器が全滅してる時点で嫌な予感はしてたけど・・・もうホント、もう・・・てか、ガチムチもちゃっかり捕まってるし。なにしてん?ナンバーワンヒーロー、マジでなにしてん?

いやね、メリッサが警報がおかしいって言うからね?すわっ、マジで私のローストビーフが危機すか!?って思ってきたよ?一応警戒してさ、監視カメラの死角縫ってきたよ?でもさ、あのスーパーデラックスすげー監獄タルタロスと同レベルのセキュリティがI・アイランドにあるって聞いてたからさ、いくら何でもねぇー?・・・・・・ーって、そしたらこれだよ。ホント、なにしてん?セキュリティ仕事しろYO。

 

「━━━━はぁーー、耳郎ちゃん、取り敢えず近くに人いる?」

 

心の中に湧き上がる文句を飲み込み、壁にイヤホンを突き刺す周囲を警戒してる耳郎ちゃんへ聞いてみる。耳郎ちゃんは耳に手を当てて目を瞑り━━━再び目を開けると同時に首を横へと振った。

 

「少なくともこの階にはいない・・・と思う。もっとずっと下。レセプションパーティーの会場だと思うけど、そこからなら人の声が聞こえる。小さくて聞き取りづらいけど。どうなってんの?パーティーしてるって感じじゃないけど」

「さっき言ったけど、めっちゃテロリスト。耳郎ちゃん、そのまま聞いといて。ガチムチの声だけ拾ってくれれば良いから」

「いや、説明になってないから・・・はぁ、いいよ。やって」

 

床にイヤホンを付けた耳郎ちゃんの姿を確認した後、スカートの下に手を突っ込み、太ももに装備したレッグポーチからそれを取り出した。私がそれを知ったのは販売中止からなん年も後・・・・・内心諦めていたそれを、偶然近所の駄菓子屋の隅っこで見つけた時の感動は忘れはしない。足りない分をかっちゃんに借りてまで買った私の相棒、規制前の超強力レーザーポインター!!レッドアレキサンダー!!マッッッックス!!

 

試しに壁へビッと光を飛ばせば、綺麗な丸い赤点がそこにつく。銃こそないけど、気分はさながら敵を狙うスナイパー。私の後ろに立つなっ、みたいな?

いやいやいや、最近のショボいやつとはやっぱり光が違うね!光がねぇ!!やっと使う機会がきたか!!ふぅぅぅぅ!!

 

「・・・・いや、ゴーグルもそうだけど、なんでドレス着てる癖にそんな色々持ってんの。パーティー何だと思ってんの、あんたは。てか、何そのスパイみたいなポーチ。まさか自前?」

「耳郎ちゃん、私はね・・・・面白いと思った物は、使う機会があったらいいなって、信じて身に付ける主義なの・・・・!」

「・・・・あんた、ネズミ取りみたいな仕掛けしてあるガムの玩具持ってたりしない?刃が引っ込むナイフとか。物が消える小箱とか」

「ガムの玩具はトランクにある。あとは家!」

「ウチがいうのはなんだけど、女子高生としてそれはどうよ」

 

耳郎ちゃんを軽くスルーしてレーザーをガチムチの見える位置に当てる。目に当たると失明しちゃうから、そこらへんは気をつけて。直ぐに光に気づいたガチムチがこちらに顔をあげ━━━なんか物凄い顔をした。えっ、分からない。どんな気持ち?それ、どんな気持ちなん?

 

耳郎ちゃんに視線を移すと真顔で「ヴィランを見てる時より、めちゃくちゃ動揺してる」と言われた。何でなーん。素直に喜んだらええやーん。貴方の生徒無事ですよー?ほわーーい?

 

取り敢えず耳郎ちゃんが聞いてる事をジェスチャーで伝えると、ガチムチは察しがついたみたいで口を開いた。

読唇術しながら耳郎ちゃんの通訳で改めて内容を確認し、状況はおおよそ掴めた。どうやらヴィランがタワーを占拠し、警備システムも掌握されてる模様。通信障害もその延長だろう。ヴィランの目的は不明。特別に名前を名乗ってはいないそうだ。

そして警備システムが掌握されてる以上、島中に配置された警備ロボットのコントロールも当然向こう側。つまりは島内全ての人達が人質状態で、ガチムチもそこにいるポンコツヒーロー達も抵抗出来なかったようだ。

あっ、あとついでにメリッサパパとその友達がどっかに連れてかれたらしい。

 

理由は分かったけど、しっかしなぁー。

いや、でも、そこは何とかしようよ。

プロでしょ、あなたた達。

 

「どうすんの、緑谷・・・?オールマイトは下手に動くなって言ってるみたいだけど・・・でもこれさ、放っておくと不味いんじゃないの?」

 

耳郎ちゃん冴えてるねぇ、私もそう思う。

通信障害まで起こせば、連絡の取れなくなった外部から間違いなく干渉が始まる。I・アイランドは科学的にかなり価値がありそうだから、これ程の異常が起きたなら遠くないうち近くの国からヒーローやら警察やらが群れで飛び込んでくるだろう。そうなったら大抵のヴィランは一網打尽。何を目的にしてたとしても、この手段はあまりにリスクが高過ぎる。

 

なら、理由がある。

これだけのリスクを払うだけの価値が。

 

「・・・・・一旦、皆と相談しよっか」

 

何をするにも、皆の言葉を聞く必要がある。

どんな手段を取るにせよ人手は必要になるし、どんな風に動くにせよタワー内部に詳しいメリッサの協力は必須になるからだ。

 

私の言葉を聞くと耳郎ちゃんは頷いた。

警戒しながら非常階段の方へと進む耳郎ちゃんの背中を見ながら、私はさっき見た武装集団の事について考えていた。全員ではないけど、私はそいつらの中の数人に見覚えがあったのだ。

 

空港で異様な空気を放っていた、あの連中。

特にあの赤髪は忘れない。

あと、ダメンズ・ソキルも。

 

「・・・・通報しとけば良かったか」

「なんか言った?」

「何でもなーい」

 

やはり乙女力マックスの私の勘は馬鹿に出来ないなぁ。神がかってるね。うんうん。

 

 

 

 

 

 

非常階段に戻ってから全員集合させて、しゃがんで出来るだけちいちゃくなりながら見てきた事を説明する。なんか小さい頃思い出すな、この感じ。

説明を一通り終えると、予想通り一同暗い表情を浮かべた。特に父親をヴィランに連れていかれた事を知ったメリッサは顔を真っ青にさせ、全然大丈夫じゃない感じで震えてる。

 

でも言わなきゃ良かったとは思わない。

勝手な考えだけど、私なら家族のピンチを知らない方が良かったなんて、絶対に思わないから。

まぁ、言い方は考えた方が良かったかもだけど。

 

「━━━それで、緑谷。どうするつもりだ」

 

誰よりも先に轟が尋ねてきた。

顔はいつもと同じ無表情だけど、その目には何処と無くやる気を感じる。

 

「ふむ、脱出が難しい以上、大人しくしてるのが一番安全かもね。ガチムチから聞いた話が本当なら、ヴィランには明確な目的がありそうだし、案外それを達成すれば大人しく帰るかも?」

 

轟は何処か不服そうだけど、百は「ありえますわね」と神妙な顔で頷く。

 

「ここまで綿密に計画を練ったヴィラン達です。不測の事態は望んでいないでしょう。下手に人質に手を出せば、引っ込みがつかなくなる事を知っている筈です。今回のレセプションパーティーには、財界に名の通ってる方もいらっしゃいますから・・・・」

 

そんなパーティーに招待されたの、私?

絶対マナー違反で追い出されるじゃんよ。

ナイフ左だっけ?

 

「えぇっーーと。じゃぁ、やっぱり、ニコちゃんの言う通り、大人しくしてた方がええかもって事?」

「そうですね。緑谷さんの見立て通り、明確に目的をもっている集団であれば、下手にヴィランを刺激することは悪手になるかも知れません。本来出ない負傷者すら出る可能性があります」

 

「八百万、俺らはヒーローを目指してる・・・・それなのに━━━━」

「轟さんの気持ちは分かりますが、ここは一旦冷静になって下さい。私達はまだヒーロー資格もない━━━」

 

言い争いになりそうだった二人の会話を遮るよう、眼鏡の手が二人の間に滑り込まされた。

 

「そこまでだ、轟くん!!ここはオールマイトの指示に従い、緑谷くんの案通り大人しく身を潜めるべきだ!!これは訓練ではないんだぞ!!下手に動けば人質はおろか、己自身の命を落とす可能性すらある!出来るだけ安全な場所を探し、避難するべきだ!!」

 

眼鏡の言葉に上鳴とブドウが「そうだ」と乗っかった。

 

「オールマイトだって捕まえるヴィランだぞ!オイラたちにどうこう出来る訳ねーだろぉ!!」

「飯田と峰田の言う通りだと思うぜ?ほら、別に直接救出とかしなくてもよ、何とか外部と連絡をとって救援を要請するとかさ?俺馬鹿だからわかんねーけど、他にも色々方法あるだろ。俺達が出来ること」

 

少しずつ、流れが避難へ傾き始める。

それは状況を考えればおかしくはないし、恥ずかしい話でもない。皆も別に助けに行きたくない訳ではないだろう。ここにいる全員・・・あっ、いや、私以外ちゃんとヒーローを目指してる。志があったり、誇りがあったりする筈なのだ。逃げるのはきっと本意ではない。

それでも直接的な行動を回避しようとするのは、皆自分の力量を正しく理解しているからこそだ。勇敢さと蛮勇は違うもの。

 

「私も、避難する事を推します」

 

皆が次の言葉を探してると、不意に絞り出すような声が聞こえた。皆視線が声の主へと集まり、それに応えるよう俯いていたメリッサの顔があがる。

顔色は依然として良くないけど、狼狽えてただけのさっきとは少しだけ違う雰囲気があった。

 

「さっき言ったように、脱出は難しいわ。だから、身を隠した方が良いと思う。このタワーには幾つかセーフルームがあるの。そこは通常のセキュリティから独立してるから、ヴィランに捕捉される可能性は低い筈よ。仮に発見されてもかなり頑丈なシェルターでもあるし・・・助けが来るまで待つことは可能だと思う。もしかしたら緊急時の連絡手段として、有線の通信機器があるかも知れないし・・・私が案内するわ。だから避難を」

 

メリッサの口から吐き出されたそれ。

その言葉の意味が分からない奴はここにいないだろう。

誰よりも駆け出したいメリッサが、そう言ってしまえば反論は出しづらい。

 

私としては意見が半分に割れた時点で、ガチムチの案を採用して大人しくしてよーぜコースを選らぶ気満々なんだけど・・・・でもねぇ?

 

「━━━━━耳郎ちゃん」

 

一声掛けると、それまで何処か遠くを見てた耳郎ちゃんがこっちを見た。まだ迷いは見えるけど、こっちもこっちで答えはもう決まってるっぽい感じがする。

 

「ロックに言っちゃいなよ、ゆー」

「・・・ははっ、アホ。でも、ありがと」

 

私から皆へ顔を向けた耳郎ちゃんは額に汗を浮かべながら、何処か緊張した様子でゆっくり口を開いた。

 

「ウチは、助けたい」

 

全員がその声に止まった。

 

「オールマイトの声を聞こうとした時・・・・聞こえたんだよ、声が。下にいる人達の声がさ。皆、すごく怖がってる。すごく不安なんだよ。状況なんて分かってなくて、皆怖くて不安でたまらないんだよ。━━━ちゃんと分かってる。何もしない方が良いかも知れない事もさ。ヒーロー資格のないウチらが、余計な事しない方が良いのもさ。でも、ウチは、あの声を、聞かなかった事にしたくない・・・・!」

 

そう言って耳郎ちゃんは私の目を見た。

目尻にうっすら涙が浮かんでて格好はついてないけど、それは力強くてクールな瞳だった。

 

「緑谷、お願い!自分の我が儘なのに、ごめんっ、ウチ何も思いつかないんだ・・・・だから━━━」

「仕方ないにゃぁー耳郎太ちゃんはー。良いよー、ふたえもん協力しちゃうよぉー」

「━━━緑谷、ありが・・・いや、耳郎太ちゃんって誰!?」

 

そこまでお願いされたなら仕方ない。

涙が引っ込んだ耳郎ちゃんを横目によっこいしょーっと立ち上がると、轟が何も言わずに続いた。

やる気ありすぎでしょ。

 

「みっ、緑谷くん!?なっ、んでっ、えっ、君は避難をする事に決めたんじゃないのかい!?」

「決めてはないけど?そういう選択もあるよねって話。そもそも、あいつらがどれだけ信用出来るんだか知れたもんじゃないし。何より主導権握らせっぱなしは、やっぱり不味いと思うしね」

「それは、そうだろうが・・・」

 

元より待ってるだけなんてアレだし。

 

「他にも食べ物の恨みがあるし、折角のバカンスめちゃくちゃにされた憎しみがあるし、それに勝算がない訳でもないし。━━━あとは、そうだなぁーー・・・・無茶しようとする友達は、放っておいてあげない派だし?」

「━━━━っ!それは・・・狡いぞ、緑谷くん」

 

眼鏡は顔を悔しそうに歪める。

狡い自覚はあるので舌だけ見せておいた。

耳に痛かろう、ははは。

 

「緑谷さん。勝算について、お話を聞いても?」

「ニコちゃん、何かあるなら聞かせて」

 

おっと勝ちの目があるかもと聞いたらこれだ。

流石、私につぐ乙女力の持ち主達。切り替え早いね。いいよ、いいよ。現金なこと大変結構、こけこっこーだよ。そうこなくっちゃ。

 

「あっ、上鳴とブドウは来ても来なくても良いよ」

 

「そういう言い方する!?行くっつーの!ここで逃げたら流石にダサすぎだろーがよ!峰田!ここは一丁、格好良いところメリッサさんに見せてやろうぜ!!」

「マジかよ、上鳴!?あ~~~っ、くそ!やけくそだぁ、このやろう!!上等だぜ!!ヴィランなんてボッコボコにして、黒団子にしてやるよ!!」

 

おや、なんかこっちもやる気になってる。

何故に?いや、来てくれるなら・・・まぁ、頭数に数えるけどさ。死ぬほどこき使ってやろ。

 

皆の姿にメリッサが目を丸くしてた。先程の悲壮な顔なんて何処か飛んでったみたいで、凄い間の抜けたポカン顔してる。

 

「━━━ね、私も驚きだよ。ちょっと案があるって言ったらこれだよ?皆してなんなんだろうね?せめて聞いてからでしょ。まったく」

「ミドリヤさん・・・」

「ちっ、ちっ、ちっー緑谷さんじゃーないんだなぁ」

 

私は結われた髪をほどき、いつものように一つにまとめる。軽く頭を振って具合を確めれば、やっぱり一番しっくりきた。

メリッサから借りたゴーグルもつければ、少しだけパーツは足りないけど戦闘準備は整う。

 

「ここからの私は緑谷双虎じゃない。ちょっとやんちゃな見知らぬ通りすがり、お節介番長ニコさんと呼ぶと良い」

 

「いや、なんなんそれ」

 

冷たいお茶子のツッコミが入るやいなや、皆して色々ツッコミが入ってきた。やれ番長感がないだとか、いつもの緑谷なんだけどとか、そもそも番長ってなんですか?とか、やっぱりその髪型可愛いなとか、爆豪が番長じゃないの?とか━━━━うるさぁぁぁぁい!私が番長だぁ!!かっちゃんでは断じてない!!あんなのと一緒にするな!私の人望舐めるなよぉ!!あと、轟!急に褒めるな!普通に照れる!!

 

ツッコミにツッコミ返してると、吹き出す音が聞こえた。視線を向ければメリッサが困ったように笑ってる。

 

「ごめん、なさい。あのね、ミドリヤさんに・・・・ニコさんに、お願いしたい事があるの」

「はいよ・・・といいたい所だけど、お願いはこっちからして良い?」

「えっ?」

 

私はメリッサの目を見ながら掌を差し出した。

少しだけ驚いた顔をしたけど、言いたい事は伝わったみたいだ。もう言う必要はないかもだけど・・・・一応伝えておく。

 

「私の作戦にはさ、どうしてもメリッサの知識が必要なの。悪いんだけど、力貸してくれる?メリッサパパの事は、今の私にはどうにも出来ないけど、メリッサの事は絶対に守るから━━━━あそこの童貞肉壁コンビが」

 

「緑谷!?聞こえるんだけど!?」

「オイラ達に何させる気だよ!?」

 

「命をとして・・・・」

 

「「勝手に命とされた!?」」

 

 

喚く二人を尻目に、メリッサは掌を握り返してきた。

 

「ごめんなさい、ニコさん。お願いは聞けないわ。━━━━私は、私の意思で行くの。手伝わせて」

「・・・メリッサって割と頑固系?」

「ふふっ、今更気づいたの?そうじゃなきゃ、アイテム開発なんてやってられないわよ」

「あー納得した」

 

それから皆に作戦を伝え、私達は行動を始めた。

私のローストビーフを・・・・いや、バイキングを叩き潰してくれた、その借りを返す為に。

 

えっ、それは私だけって?マジか。

皆普段からさぞ美味しいものを頂いているんですね!そうですか、そうですか!・・・・お茶子は私の味方だもんねー!ねー!お茶子ぉ!こっち見ろぉー!ダイエット方法は食わないって言った、あのハングリーさを滲ませながらこっち見ろぉ!!

 

 

 

 

ふぅ、てか、かっちゃん何処にいるんだろ。

ここに来てる気はするんだけど・・・・変な所でしゃしゃり出てこなければ良いけど(フラグ建設)。



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何をすれば良いのか分からない時は取り敢えず走ったらいいと思ったので、おもくそ走りましたが何か問題ありました?の巻き

シリアス「・・・俺の出番はいつやねん!!」
シリアル「基本、ここにはないで」
ギャグ「せやな」
アオハル「せやせや」


レセプション会場を占拠されて、一体どれ程の時間が経ったのか。会場は未だ銃器を手にした男達が当たり前のように闊歩し、狂気と恐怖の入り交じった沈黙に支配され続けていた。

 

マッスルフォームを維持し続けているせいか、体が異様なほどに重く、軋むような痛みが走り始めた。━━━だがそれは大して苦ではない。己の不甲斐なさにより沸き上がる止めどない怒り、それに呼応するように動き出そうとする体を押さえ付ける方が、ずっと辛く難しかった。

 

人質がいなければ。

セキュリティのコントロールを奪われてなければ。

言い訳は幾らでも浮かんでくるが、肝心な打開策は一つとして浮かんでこなかった。ヒーローを名乗っておきながら、なんと情けない事か。

 

まんまと友を連れ去られた。怯え震える市民に、悔しさに顔をしかめる仲間達に、手を差し伸べるどころか声すら掛けられない。辛うじて難を逃れた緑谷少女達に、無責任にも逃げろと伝える事しか出来ない。

 

何が、ヒーローか。

何の為に、これまで積み重ねてきたのか。

 

「━━━━!」

 

不意に目の前の床に赤い光の点がついた。

周りに悟られぬよう視線を天井へと向ければ、逃げた筈の緑谷少女の姿がある。なんか凄い手話的なものを見せて来るが、驚くほど意味が分からない。ヒーロー活動の一環として、完璧でないにしろ多少手話くらいは読み取れるつもりなのだが・・・・。

 

「緑谷少女、君、手話出来ないだろう・・・」

 

私の困惑の篭った呟きが伝わったのか、緑谷少女がヤレヤレといった様子で肩を竦めた。

いや、ヤレヤレはこっちの台詞なのだが。

 

緑谷少女は何かを考える素振り見せた後、何かを思い付いたように手をポンっと叩く。嫌な予感を覚えつつ眺めていると、徐に天井に向かって指差した。

 

次に両手を前に持ってきてカタカタと動かす。

何となくキーボードを叩いてる様子に見え、確認の為「パソコンか、それに関わることかい?」と呟いてみればそうだと言わんばかりに頷いてくる。

 

それからも身振り手振りで状況を伝えられ、頭を悩ませながら何とか理解したのだが・・・・その内容は決して喜ばしいものではなかった。

 

どうやら緑谷少女は上階にある管制室へ行き、警備システムのコントロールを取り返すつもりのようだったのだ。敵はただのチンピラとは訳が違う、統率のとれた武装集団。ヴィランというよりは兵士に近い者達だ。その危険性は言うまでもない。

 

声を上げようとしたが、敵の見回りが側にきてしまいそれも出来ない。必死に目で訴え掛けたが、緑谷少女は聞いてませんとアピールのつもりか、ツーンとそっぽを向いてしまう・・・・あの子は本当にっ!もう!

 

やきもきしてると、緑谷少女の隣にメリッサまで現れた。今度は心臓が口から出るかと思うほど、本当にびっくりした。一緒にいる可能性は考えていたが、まさかそこにいるとは思わなかったのだ。

 

見回りが遠ざかった所で、無茶をしないよう声を掛けようとして━━━━そのメリッサの真剣な眼差しに言葉がつまった。先程まで少しふざけていた節のある緑谷少女の瞳にも、強い決意の色が宿っている。

 

それは言葉より雄弁に、彼女達の覚悟が伝わってきた。

どうしてもか、と思いを込めて視線を向けた。

けれど伝えられるそれは変わらない。

 

それから間もなく、二人は姿を引っ込めてしまった。緑谷少女の茶目っ気たっぷりなウィンク一つ残して。

 

見通しのよくなった吹き抜けを見つめ思うのは、彼女達の瞳に宿った小さな希望の灯火。酷く弱く、頼りなく、けれど灼熱に燃える熱い瞳。

 

幼かったメリッサの姿が頭を過る。

デイヴのような『ヒーローを助ける、ヒーローになりたい』のだと笑う幼い彼女のそれが。

そしてヒーローに否定的な言葉を吐きながら、いつも誰よりも先に誰かの為に走り出す、大切な者の為に命を懸けられる、大馬鹿者の可愛い生徒の姿も。

 

教師としてヒーローとして、彼女達を褒める訳にはいかない━━━━━━だが、今の私に何が言えるというのか。私はまだ、何もしていない。ならば、偉そうに彼女達に説教するのは、私が私の為すべき事を果たし終わってからだ。

 

そうだろう緑谷少女、メリッサ・・・・!

 

彼女達が覚悟を決め戦うのであれば、私も泣き言はいってはられない。信じよう、耐え抜いて見せよう。

君達が活路を開く、その時まで。

 

・・・・そう言えば、近くに彼の姿は見えなかったのだが・・・いるんだよな?頼んだ筈だからいるとは思うのだけど。そもそも彼が彼女の側を離れるなんて・・・なんだろう、違和感が。あっ、そういえば、彼女随分と自由に・・・もしかして、いない・・・?はっ!!そう言えば、レセプションパーティーが始まる前、騒がしくなる前に顔を出すとかなんとか言って━━━そう言えば彼来てないな!!忘れてた!!えっ、なに、どこかで迷ってたりするの!?嘘っ!?爆豪少年!?

 

ばっ、爆豪少年っ!私は、なんて大変なことを!!

申し訳ない!頼む、一刻も早く合流を!!

何かやらかす前に!!!

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

背後から聞こえる悲鳴を無視しながら、私は次の目標に手を翳す。階段の先にある壁に狙いをすまし、手に渾身の力を込めて一気に引っこ抜けば、体が前方へとかっ飛ぶ。

ぶつかる前に次の階段上に見える壁に狙いをつけ、同じ要領で体を引っこ抜き更にかっ飛ぶ。

また後ろから悲鳴が聞こえてくる。

 

「ちょっと、五月蝿いんですけど!?見つかったらどーすんの!騒ぎたいなら、明日ジェットコースターに幾らでも付き合うから止めてくれません!?」

「ごめっ、ごめんなさっ、い!ニコさん!?でもっ、きゃぁ!?ひゃぁ!?」

 

「うひょぉぉぉぉぉぉ!!オイラきてるぅ━━━っぐへ!?あっぎゃぃ、頭っ、あっ、ちょ!!ぐがががががががが」

 

少しだけ後ろを見れば、私から伸びたヒモの先で数珠繋がりに引き回される皆の姿と、轟の氷の滑り台を楽しそうに逆スライダーしてるメリッサの姿が見えた。どうしてそうなったのか、ブドウはメリッサからヘッドロックかまされてる。

 

「轟っ!!お茶子っ!!まだいける!?」

 

視線を前へと戻し、体を引っこ抜きながら聞く。

私の直ぐ後ろで後続への氷のスライダー作りつつ引き回されてる轟から「問題ねぇ!進め!」と言われ、自分を含めた全員の重力を消しているお茶子からも多少苦しげではあったけど「大丈夫!」とのお言葉を貰った。

 

けれど、轟もお茶子も持久力はあまり長くない。特にお茶子はもう限界だろう。訓練の様子からそれは理解してる。一番後ろで逆スラをコントロールしてる百も限界だろうし、この先交戦する可能性がある以上無理は禁物だ。

 

切り良いところで休憩にしようかと考えてると、背後から耳郎ちゃんの「行き止まり!!音が籠ってる!!」という叫び声が響いてくる。

 

声に従い上階をよくよく見れば、がっつりシャッターが降りていた。楽しい電車ごっこも幕引きという事で、引き寄せる個性で体にブレーキを掛け止める。どれだけ速度が出ていても、重さ自体がなければそこまで負荷もない。余裕を持って止められる。

轟は自力で何とかなりそうなので放って置き、メリッサから順番に停止させていく。なんかウォータースライダーの係員の気分。立ち位置的に逆だけど。最後尾の百を回収した所でお茶子が重力を解除させ、出発してから初めて地面に降り立つ。やっぱり地面だよね。

 

「━━━━━はぁぁぁぁぁ!!死ぬかと思ったぁぁぁぁ!!緑谷はアホだアホだとは思ってたけど、ここまでアホだとは思わなかったわ!!」

 

上鳴が情けない声をあげながら四つん這いになると、似たり寄ったりの悲鳴が皆から上がった。お茶子はやっぱり無理がたたっていたのか、踊場の隅っこであられもない姿になってる。百と耳郎ちゃんが全力で隠してくれてる。優しみが深いな。

 

「ニコ、さん・・・凄いわね。皆にっ、はっ、はっ、い、色々聞いてたけど・・・あんな、っぷ、凄いわ」

「メリッサもお茶子んとこ行ってくれば?」

「あ、ありがと・・・うっ」

 

気絶したブドウをそっと床に捨てていったメリッサは、何も言わずお茶子の隣に行った。何をしに行ったのかって?聞くんじゃないよ。野暮ってものだよ。お花摘み的な、あれだよ。うん。

 

「━━━それはそうと、轟は大丈夫?」

 

チラッと様子を見れば、なんか湯気がもやっと出てた。

熱くなるやつで体温調整してるみたい。あれだけ使いたがらなかったのに、人間変われば変わるもんだ。

 

「俺の方は問題ねぇ、少し冷えただけだ。それより緑谷、お前の方こそ大丈夫か?」

「お茶子のお陰で負担なかったしねー。でも、流石にちょっと疲れたかな。ずっと集中してたからさ」

「肩貸すか?」

「そこまではいらなーい。のーせんきゅー」

 

切れていた呼吸を整え、作戦の内容をもう一度頭の中で復唱する。折角80階も駆け上がってきたのだ。ミスはしたくない。

 

私が立てた作戦はそんなに難しくない。

早い話がセキュリティの甘い場所を通って最上階へいき、テロリスト仕様になってるセキュリティシステムを再起動させる。たったそれだけだ。

 

まぁ本来、それをやるのが至難だったりする訳なんだけど・・・・まぁ、今回は敵がポカしてるので、そこまで難しくもないんだけどね。

 

メリッサから色々と話を聞いて分かったけど、テロリスト共はかなり甘い見通しでここに来たことが分かった。事前情報は殆んどなかったのか、監視システムはコントロール下においても、その扱い方がまるで分かってないように思う。私達が簡単にガチムチ達を見下ろせる場所につけたのなんて良い証拠だ。

 

このタワーのセキュリティは大きく分けて二つ。

一つは監視カメラやセンサーによる固定型のセキュリティ。もう一つは各種センサーと対人兵器を内蔵したロボットによる移動型のセキュリティだ。

 

本来はこの二つは組み込まれたコンピューター制御の下、複雑に連動して稼働してる筈だ。メリッサ曰く、ほぼ人の手が必要ない、自立稼働する完成されたシステムなんだとか。

そしてそんなセキュリティのレベルは世界を探しても最高峰に位置する高レベル。ドキュメンタリー番組で見たタルタロス通りのセキュリティだと言うなら、それこそアリんこ一匹通さぬ程の精度がある筈だ。

 

なら、どうして今私達が無事で暴れられるのかと言えば、それはもうテロリスト達がアホなんだとしか言えない。人質を確保する為にロボットを多く使ってしまったせいで、必要な場所に必要な警備がいなくなってしまってる。非常階段なんて、本当になんもなかった。

 

下手にコントロール出来てしまったせいで、逆に隙だらけになったよ。みたいな?はははっ、笑えないねぇ。

 

「でもなぁ・・・」

 

不安材料があるのだ。

 

テロリスト共がこうもポカする連中だとすると、これ確実に手引きした奴等がいる事になる。だってそうだろう?侵入者であるテロリスト共、コントロールするセキュリティシステムへの認識が甘すぎる。こんな事では、一番セキュリティが厳しい筈の管制室へ辿り着ける訳ないし、コントロールなんて夢のまた夢だ。

 

ガチムチから連れていかれた人の事は聞いてる。

一人はメリッサパパ、もう一人はメリッサパパの同僚ジョン・・・マイケルだったかな?いやジョンだな。電波が死んでる以上、テレビ電話で愉快な人質紹介はしないだろう。そもそもテロリスト共には時間がない。連れていくには、それ相応の理由がある。

 

どちらかに何かをやらせる為に、脅かす為に人質が必要だったのか?いや、それはもう足りてる。都市全ての人が人質だ。

 

メリッサパパかもしくはジョンの身柄そのものが必要で、片方は理由を掴ませない為の囮か?いや、それなら別の人を選んだ方が良い。二人は同僚で、同じ研究に取り組んでたらしいし。

 

それならどうしてか。

 

「・・・・・そうじゃなきゃ良いけどね」

「何かあったのか、緑谷?」

「うぅん。こっちの話」

 

暫しの休憩が終え出発しようとした頃、けたたましく爆音が鳴った。何事かと警戒したけど、周辺で何かあった様子はない。こんな時の索敵系女子!!っと耳郎ちゃんを見れば、周囲の音を拾っていた耳郎ちゃんが「うわっ」と声をあげる。

 

「な、何かあったのかよ・・・?」

「オイラもう分かったぜ」

「奇遇だな、僕もだ」

 

上鳴達のぼやきに、女子ーズも顔を見合わせる。

そして何もいわず肩を竦めた。

 

「ニコさん、もしかして・・・」

 

皆に続いたメリッサの呟き。

私も果てしなく嫌な予感がする。

 

「爆豪か?」

 

轟がいつもの無表情で呟くと、耳郎ちゃんは苦笑いを浮かべて頷いた。なんか知らないけど「めちゃ怒ってる」らしい。

はぁ、まったく。人が隠密してる時に、なんでそういう事するかね?かっちゃんは本当、何処まで行ってもかっちゃんな!人に迷惑掛ける事しかしない!まったく!幼馴染として恥ずかしい限りだよ!!えっ?ブーメラン?なんの話なん?



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原作がどんどんブラックになっとりますやんか。どないなってますのん。個人的には好きだけど、どうなりますのん?ってな感じで『予期せぬ闖入者』な閑話の巻き

ホークスばっかり、いじめんでほしかぁ。


気に入らねぇ。

すかした顔で簡単に俺の記録を抜きやがった、あのクソ紅白野郎の事が。

 

気に入らねぇぇ。

あの馬鹿迎えにいかなきゃなんねぇんだっつうのに、邪魔しやがる目の前のタコ共が。

 

気にっ入らねぇぇぇ・・・!!

そもそも、俺の誘い簡単に蹴り飛ばしたあいつがっ、俺以外の誘いをホイホイ受けて、ここにいる事がっ、何より━━━━━気に入らねぇ。

 

 

 

 

 

「くそっ、ガキっが!!チョコマカ逃げてんじゃねぇ━━━━ぶへぇっ!!?」

「っせぇわボケが!!モブ如きがっ!!俺の前に立ってんじゃねぇよ!!」

 

紫色の筋肉ダルマの顔面に爆撃を叩き込めば、聞くに堪えねぇ汚い悲鳴が響いた。よろめくクソ野郎の顔面へ追撃に蹴りを浴びせれば、鈍い音が鳴り血が飛び散る。飛沫した赤は広く細かく宙を飛び、ズボンの裾へ赤の斑点が作った。

 

「━━━ってめぇ!!誰に断って、汚してんだぁ!!ああん!?」

「はやっぶっ!?をっ!?」

 

爆破で加速させた拳を鳩尾へ叩き込む。

紫デブから苦痛の声があがり、体がくの字に折り曲がる。

叩いてくれと言わんばかりに顎が落ちてきた。

すかさず顎へ爆撃をぶちこみかち上げさせ、ガラ空きになった正中線にそって爆撃を叩き込む。焼け焦げた臭いが鼻をついたが、目視した紫デブの姿に大したダメージは見えない。

 

だが、それは予想済み。

 

相手はモロに身体能力強化系の個性持ち。見るからに厚い筋肉の鎧に、並の攻撃はきかねぇのは百も承知してる。端から一撃で仕留めるつもりは欠片もねぇ。

 

「死ねや、ごらぁ!!」

 

だからこそ的確に弱点へ、小さく鋭く、速く━━━━死ぬまでぶちこむ。

 

「っぶく!?なッッッッッ!!?」

 

可能な限り攻撃の回転をあげ、爆撃の雨を紫デブの体のど真ん中目掛け放つ。瞬発力に意識を向けている攻撃。一撃一撃は大した重さはない。だが、それも数を重ねれば話は変わる。雨が岩を穿つように、重ねたそれは、確実にぶち抜く。所詮は身体能力の延長。無敵な訳じゃねぇ。

 

「ガキ相手に、何を手こずってんだ!!お前は!!」

 

紫デブが白目を剥いた頃、爆破で作った煙幕を抜けてカマキリ野郎が迫ってきた。最初にぶちこんでやったダメージも多少は回復してるのか動きは速いままだ。ついでに馬鹿でかくなった、そいつの水掻きのはった掌も視界に入った。

眉間にしわを寄せ、俺にガン飛ばしてるカマキリ野郎に冷静さは感じねぇ。直ぐ側にあの馬鹿が来てるってのに、まるで気づいてる様子がない。

 

「切島ァ!!」

「おうさ!爆豪ォ!」

 

合図を出してやれば、身を隠してた切島がカマキリ野郎にタックルをかました。金属並みの硬度のある切島の高速タックル。モロに腹で受け止めたカマキリ野郎は苦悶の表情を浮かべる。何とかたたらを踏むだけで耐えたようだが━━━切島の馬鹿に両腕を捕らえられた。

 

「ぐっ!?なっ、いつの間に、離せ!!」

 

カマキリ野郎が腕を振ろうともがくが、振りほどく所かビクリともしない。体育祭の頃の雑魚腕力ならとっくに剥がされてるだろうが、今の切島なら時間を稼ぐ程度にはそれが出来るだろう。ついでに言えば、俺のハウザーインパクト一発くれぇ耐える、クソタフネスもだ。

 

「そのまま、しっかり抑えつけとけ!!切島ァ!!」

「おう!俺の事は気にせず、思いっきりぶちかませ爆豪!!」

「端からそうするつもりだ、死んでも離すな!!」

 

紫デブをカマキリ野郎目掛け爆撃で吹き飛ばし、爆破の反動を利用して空に飛ぶ。カマキリ野郎共に合わせ姿勢を維持しつつ、爆破で回転を加えながら加速。ぶちかます右の掌に汗を溜める。

 

「てっ、めぇ!仲間ごと!?やめっ━━━━」

「『榴弾砲・着弾』ッッッ!!」

 

回転を加えながら叩きつけるように放った、今の俺が出せる必殺の一撃。掌底から放たれた爆炎は渦を描きながら進む。地面を砕き、空気を焼き、爆風を撒き散らし━━━そこにいた紫デブとカマキリ野郎、切島も何もかも巻き込みながら。

 

立ち上った爆煙が散ると、床にボロボロになったヴィラン二人の姿が見えた。側には服の殆んどが焼け落ちた切島もいやがる。俺の視線に気づくと「よぉ!」と軽く返事しやがった。無事だろう事は分かってたが、ここまで無傷だと腹が立つ。

 

「しっかし、いきなりなんだったんだろうな?一体よ。さっきの警報となんか関係あんのか?警備の人達って訳じゃなさそうだもんな、この人達さ」

 

カマキリ野郎をそいつらの持っていたワイヤーで縛りあげていると、紫デブを任せていた切島のアホがぼやいてきた。

 

「いきなり個性使って襲ってくる警備なんざいるか、馬鹿が。この様子だと、セキュリティ辺りはヴィラン連中のコントロール下だな。さっきの警報も信用は出来ねぇ」

「ええっ!?マジか!?けどよ、タルタロスくれぇすげーセキュリティなんだろ!?ここはよ!あんのか、そんなことよ!」

「うるせぇ、ぶっ飛ばすぞ。凄かろうとなんだろうと、実際に俺らが襲われてんだろうが。・・・そもそも、セキュリティなんざ内側に穴がありゃ意味なんざねぇ。何処の誰だか知らねぇが、セキュリティが甘くなってるエキスポのどさくさに紛れて、余計な連中引き入れたんだろうよ」

「えぇ・・・・マジか。てか、よくそんなことポンポン思い付くな。マジか」

 

ぼやく馬鹿から目を離し、周囲の様子を改めて確認する。植物園のようなこの場所に、特別目につくような物は見当たらない。通路という通路への入り口がシャッターに覆われてるぐれぇだ。中央に位置するエレベーターも、今は動いてる様子は見えねぇが・・・こうなった以上、必ず追撃が来る筈だ。セキュリティロボか、こいつらと同じ連中か分からねぇが、何もねぇって事だけはないだろう。

 

「ちっ・・・・!」

 

いや、それより問題なのはあの馬鹿の事だ。

連絡がとれねぇが、間違いなく何かやってやがる筈だ。こういう時に大人しくしてる程に、分別弁える殊勝なやつだったら俺は苦労なんかしてねぇ。

 

「・・・・あのさ、悪い。俺が迷ったばっかりに。やっぱよ、緑谷のこと心配だよな?俺が余計な真似してなけりゃ、今頃皆と合流出来てたろうにさ・・・・」

「あ?はっ、一丁前に責任なんざ感じてんじゃねぇ。うざってぇ。てめぇを信じた俺が馬鹿だっただけだ。うだうだ言ってる暇あったら、そいつら端にまとめとけや」

「爆豪、それフォローしてるつもり?だとしたら、お前駄目だぞ。本当、駄目だぞ。そんなんだから、緑谷に恋愛対象にされないんだからな?」

「うるせぇ、爆殺されてぇのか」

 

念の為にスマホを確認したが、未だに電波は入ってこねぇ。最後に受け取った連絡は『遅刻確定、なぅ』というメッセとアホ面した猫のスタンプだけ。

 

「━━━━━爆豪!!なんか来たぞ!?」

 

馬鹿の声に視線を向ければ、開いたシャッターの先からセキュリティロボの群れが目につく。それと同時、エレベーターが起動する音が聞こえた。確認すれば下にさがってやがる。

 

「おいっ!切島ァ!さっきあの紫デブ共が来た時、エレベーターは最初上から降りてきたな!?」

「えっ!?あっ、えっと、確かそうだと思うぜ?最上階の表示があって、それが一回降りてきて、そんで上がってきたら二人が乗ってて・・・」

 

だとすれば、ヴィランは大きく分けて二ヶ所にたむろってる可能性が高い。一ヶ所は最上階、もう一つは今から表示される場所。この状況から考えれば、当たりは最上階だろう。もう一ヶ所は恐らくこのタワー内で最も厳重に抑えなければならない、多くの兵力が必要な場所。オールマイトを始め、多くのプロヒーローが集まっている筈のレセプション会場。こっちに回されたさっきの二人は、何かしら事を終え過剰戦力となった連中━━━だとすれば行き先は決まった。

 

「━━━━切島ァ!上に向かうぞ!!付いてこい!!」

「ええっ!?いきなり!?なんで!?てか、見えてる!?あのセキュリティロボ見える!?」

「見えとるわ!!掴まれ、ぶっ飛ぶぞ・・・・・!!」

 

慌てた様子で体にしがみついてきた馬鹿をそのままに、爆速ターボで一気にエレベーターを駆け上がり、天井近くに吊り下がっていた通路へ滑り込む。

背後を確認したがロボの付いてくる様子はない。通路に引っ込んだ所を見ると、別のルートから来るんだろうが。

 

「爆豪!取り敢えず説明から始めろ!どうするつもりだ!?」

 

通路を走り始めると、後ろを付いてくる切島が怒鳴り声をあげた。こいつは本当に察しが悪ぃ。

 

「最上階に殴り込みに行く。恐らく、ヴィラン連中があくせく何かしてやがるのはそこだ。それをぶっ潰す!!」

「はぁ!?待て待て!なんでそうなる!?この状況だと、人質とか、なんかそういうのあんじゃねぇの!?」

「あるだろうな、間違いなく。━━━だが、さっきのあいつらは、それを口にしなかった。実力行使で捕らえようとしやがった。だとすりゃ、俺達の素性が割れてねぇのか、知った上で餓鬼だと心底舐められてんのか・・・もしくは人質が俺達を縛れるもんじゃねぇ事を理解してるか、だ」

「はぁ?!人質って、えええ?言ってる意味が分からねぇんだけど・・・」

 

あくまで勘でしかねぇが、今回の件を考えた奴と末端で動いてる奴らは違う筈だ。目的は勿論、所属も思想も。

だからこそ、こんなチグハグな事しやがる。

 

シャッターを爆撃で吹き飛ばすと、通路の先にセキュリティロボが見えた。先程見た時より数は少ない。まだ集まりきってねぇんだろう。

なら進むのは今しかねぇ。

 

「はぐれんじゃねぇぞ」

「はぁーーーたくっ、お前らといると退屈しねぇぜ!後ろは任せとけ!!」

 

ガチンと拳を打ち合わせた切島を連れ、俺は上階へ向けて踏み出した。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「はぁ?植物プラントが突破された?」

 

他の部屋を確認し戻ってくると、コントロールルームに残した同僚達が難しい顔で不穏な報告をしてきた。

モニターに向かってる同僚に聞き返すと、そいつは静かに頷く。カチカチとマウスとキーボードを動かし、画面に監視カメラの映像が映る。

 

そこには白目を剥いた同僚二人の姿があった。

身動きがとれないよう、体はワイヤーで縛り上げられている。敵を捕らえる為に持たされた道具で自らが捕らわれてる姿は、何とも言えない間抜けな絵面だった。

 

「おいおい、なんだこの様は・・・・スキャミングミスったな、お前」

「・・・こちとら初めて扱うもんだぞ。キーがあるとは言え、タルタロスクラスのセキュリティ弄ってんだ。褒められる事はあっても、文句言われる筋合いはないね」

「ほぅ?ボスに同じ事言ってみろよ」

「それは言うなよ・・・くそ」

 

カタカタと、同僚が何かを打ち込むとモニターに映った画面が切り替わった。画面にはセキュリティロボを粉砕する二人の男が映っている。どちらも見覚えがない。事前の資料にいなかった以上、プロヒーローではない筈だ。

 

「誰なんだ、こいつらはよ」

「今出た。ヒーローの卵だ。日本のハイスクールに通う子供だ。ただ一人は、あの雄英体育祭で優勝してるみたいだな」

「はぁ、エリートって訳か。けっ、気に入らねぇな」

 

保護者に守って貰ってヒーローごっこって訳か。

いいご身分だこって、羨ましい限りだ。

選べなかった俺達と違って、本当に。

 

「ボスに連絡は?」

「とっくにしてる。何人か対応に向かった」

「レセプション会場も碌に人が残ってねぇだろ。大丈夫なのかよ。あのオールマイトまでいるだろうが」

「レセプション会場には他から回した。・・・・セキュリティシステムは掌握している。セキュリティロボが動かせる以上、ある程度はカバー出来るからな。何より、作戦の殆んどは終えてる。あとは時間の問題だ」

 

そう言われて時間を確認すれば、確かに予定の半分を過ぎている。そろそろ撤収の準備を始める必要があるだろう。

 

「あの馬鹿共はどうすんだ?迎えに行くなら・・・」

「ボスから連絡が来ている。あいつらはここに捨てていくそうだ。助けてやってる余裕がないっ、てな」

「━━そうかい。まっ、仕方ねぇか。てめぇの仕事も碌にこなせねぇような奴じゃぁな・・・」

 

淡々と語る同僚の言葉に、ボスの面影を見た。

知らずの内に握った拳が僅かに震える。

 

あの時のボスの目は忘れられねぇ。

背中に氷を突っ込まれたみてぇに寒気がし、体の芯から震えた。本気で殺されると思った。

首にはまだ、あの嫌な感触が残ってやがる。

 

それまでそれなりに経験を積んだ。

スラムじゃ負けた事は無かったし、ボスに拾われてからも多くの仕事をこなしてきた。個性は強くはねぇが、戦闘になっちまえばどんな奴だろうと勝てると、自信があった。なのに━━━━。

 

「ちっ、クソ・・・・見回りに戻る」

「ああ、しっかりな」

 

同僚に一言掛け廊下へと向かおうとしたその時。

不意にそれが目についた。

沢山の映像が映されたその中、一番端にある一つの画面に。

 

「おい、端のカメラ。何処のやつだ?」

「ん?端ってどれだ。番号でいえ、画面の端に映ってるだろ」

「小さくて分からねぇんだよ。えーっと、あーF180ーES0011Eか?」

 

カタカタと弾くような音が鳴った後、それが大きくモニターに映った。風力発電機と思われる複数のプロペラ、カラカラとそれが回る後ろに複数の人影が見えた。

明らかに逃げている様子のない、意思を持って動いている男女達が。

 

その内の一人が何かを見つけたように指を指した。

 

瞬間、ぞくりとする。

ボスに睨まれた時のように。

 

「おい!!ここ何階だ!!風力発電機っていやぁ、相当上だぞ!!セキュリティロボはどうした!?ああ!?」

「セキュリティロボは、殆んど下に回して、無いわけでもない、けど、あっ、かっ、階は、180階だ!」

「シャッター下ろせ!!止めろ!!乗り込んでくるぞ!!」

「おっ、落ち着けよ!乗り込んでくるって、お前、見るからに女子供じゃ・・・・迷ったのかも知れないだ・・・」

 

呑気な事をほざくそいつの胸ぐらを掴みあげる。

一体俺はどんな顔をしてるのか、俺の面を見たそいつが息を飲んだ。

 

「風力発電機のある階は、一般人は室入禁止になってた筈だ。ドレス着た女が出歩くか?それもこの非常時に!!ええ、おい!!」

「それっ、それは・・・」

「ましてあいつらは、俺達の監視の目を逃れてここにきてやがる!!それが、普通のガキ共の訳ねぇだろうが!!」

 

俺の言葉にそいつが目を見開いた。

手を離せばすぐにキーボードを叩き始める。

 

「取り敢えず待機させてるセキュリティロボを回す!!ボスにも━━━身元照会が済み次第・・・お、おい!ソキル!?」

 

慌てて対応を始めたそいつを背に、俺はそのまま廊下へ走り出した。勘に従って前へと。



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どうしようもない困難が迫った時、人の本質は出る・・・とか言うけどさ?私、めちゃくちゃ頑張ってるけど内心マジで家帰ってゴロゴロしたいと思ってんだけど、これはどうなるの?!私の本質ってなに!?ねこ!?

ヒロアカが始まった頃、まさか四期までアニメ化するとは思わんかったわ。嬉しかばい(*´ー`*)



かっちゃんを囮にして登りに登った180階。

一回、室外の連絡通路通るよ!というメリッサの言葉を受け、ちょっぴり夜景を期待していた私の視界に映ったのは━━━警戒音を鳴らしながら津波の如く押し寄せるモノアイの群れであった。そう、皆の警備ロボである。

 

「異議ありぃ!!」

 

ビシッと警備ロボへ指を突きつけると「やっとる場合ちゃうから!」とお茶子にマジツッコミされた。言わずにいれなかったのぉ!許してYO!

まぁ、予想通りではあるんだけど。

 

「ごめんっ!緑谷!見逃した!」

 

索敵を任せていた耳郎ちゃんが謝罪を口にした。

顔には明確な焦りと申し訳なさが滲んでる。

私としては監視カメラの僅かな稼働音や監視ロボの移動音を聞いて、ここまで回避し続けられたこと自体出来すぎだと思ってるんだけどね?連絡通路の状態聞いた時に、どうやっても無理ゲーとか思ったもん。風力発電機の爆音に加えて吹きっさらしじゃ風の音だって馬鹿にならないし、サポートアイテムなしの耳郎ちゃんじゃぁねぇ。・・・でも耳郎ちゃんは納得してないらしい。耳郎ちゃんパネェぜぇ。

 

「OKOK、寧ろ良くここまでスルー出来たもんだよ。上出来ぃー上出来ぃー。んじゃ、轟達よろしくぅ!」

「ああ、下がってろ」

 

そう言って格好良くネクタイを緩めた轟は、私の前へと踏み出す。続いて百や眼鏡、引き摺られるようにブドウも。

 

取り敢えずふざけるのを止めて戦闘班である四人を前にシフト。耳郎ちゃんと上鳴で周囲の様子を再確認。お茶子はメリッサの護衛に回ってもらう。

 

えっ、私は?

私は、超がついちゃう程の大天才だから、出来ることを出来るだけするんだよ。臨機応変にってことで。

 

轟達が警備ロボと衝突しはじめた音を聞きながら、メリッサから借りてる多機能ゴーグルを掛け電源を入れる。

最大倍率20倍の可変式電子マルチゴーグルは、熱線暗視に微光暗視も可能な優れもの。インターネットに繋いでいればゴーグルで捉えたモノについて即座に調べられる検索エンジンも搭載し、GPSナビも当然搭載。スマホと同期させれば電話もメールも出来て、ラジオとテレビが利用出来ちゃって、ついでにアプリゲームも出来ちゃう、凄いゴーグルなのだ。━━━まぁ、機能フル活用すると連続使用時間は十分と少し短いのが欠点と言えば欠点だけど。いやでも、待機だけなら三時間持つし。え、三時間しか?メリッサも失敗作だって嘆いてたからなぁー。

 

まぁ、欠点はこの際おいておこうか。

このゴーグルにはまだ便利機能がついている。

 

小さな起動音と共にゴーグルのレンズに様々なマークや数値が並ぶ。視線でメニュー画面を操作していけば『ターゲッティングシステム:ハウンド』の文字が浮かんだ。そのままシステム起動を承認すれば、視界に映っている目標に対して一斉に緑枠のロックオンサインが現れ、目標との正確な距離と高低差の数値も浮かぶ。

 

「━━━━っふん!」

 

ロックオンした警備ロボ達をフルスロットルの力で引き合わせクラッシュさせていく。全壊とはいかなかったけど、ボディーを凹ませたロボ達は挙動が明らかに鈍くなった。位置の正確性のお陰か、いつも以上に力が籠ってる気がする。

轟達の動きを見ながら、手に余りそうな警備ロボを確実に処理していく。ちょっと整理してやれば、優秀なヒーローの卵達は警備ロボを次々と蹴散らしてくれる。

楽で良いね、これ。

 

「緑谷、この階の警備ロボは多分これで終わり!上階はバタバタしてるけど、恐らく人しかいない!下の階が馬鹿みたいに煩いから、直ぐに警備ロボが押し寄せてくると思う!」

「緑谷ぁ!見てる感じだと最上階付近何も━━━!待て待て!何か飛んで来てる!海の方!ほら!ズームしろ!ズーーーム!!」

 

耳郎ちゃんはナイス!━━━で、馬鹿みなり!ここはI・アイランドのど真ん中にあるタワーだよ!?360度全部海だ!!馬鹿!!ばぁぁぁぁか!!本当、ばぁぁぁぁぁぁぁぁか!!

 

サポートを一旦止め、馬鹿の視線を追うと確かに夜空に迷彩柄のヘリが飛んでいる姿が見えた。武装こそ見えないけど、明らかに軍用の物に見える。

 

「馬鹿みなり!!例の必殺技だ!!ヘリを打ち落とせ!サンダーボルトエレクトリックレールガンZEROキャノン!!」

「ないない!そんな技ない!━━ていうか、爆豪のネーミングセンスよく馬鹿にしてるけど、緑谷も大概だからな!?」

 

ちっ!本当使えないやっちゃで!必殺技くらい、パッと撃てよ!切羽詰まってんの!こっちは!!

 

それにしてもどうするか。

逃走ルートであるヘリが来た以上、向こうの計画はいよいよ仕上げの段階だ。下手したら全部終わったのかも知れない。もう悠長な事はしてられない。計画が済んでしまえば人質に価値が無くなる。━━━もし、メリッサパパが純粋に人質として連れていかれたのなら、最悪が起こりうる可能性は高い。そうでなくても技術目的での誘拐もありうる。

 

「━━━━轟!ここ任せて良い!?」

 

そう声を張り上げると、轟は一瞬こっちを見て顔をしかめる。けれど、直ぐ警備ロボ達と向き直り、力強く最上階を指差した。

 

「無理だけはするな!直ぐに追い付く、行け!」

「話分かるぅー!行ってきます!」

 

最後っぺに手当たり次第、警備ロボ達をフルスロットルで引き合わせぶつけとく。壊れはしないけど、皆に多少の余裕は与えられるだろう。

 

そのままお茶子達の方へ向かうと、少し呆れたような顔でお茶子が掌を見せてきたので、素直にタッチしといた。お茶子も慣れたもんだなぁ。私が何をしたいか分かってるみたい。

 

「タイミングはニコちゃんに任せてええの?」

「ええで」

「ふわっと真似せんでよ。もうー」

 

私とお茶子のやり取りにメリッサが目を丸くしてる。

私はそんなメリッサの手を取り、お茶子の掌に触れさせた。私とメリッサの体がフワッとする。

 

「あっ、ニコさん!?何を・・・!?」

「鳥になってみようかなって?」

 

すっと、メリッサのアイディアを元に目指していた190階に位置する非常階段の入り口を指差せば、見るからに顔を青くさせた。分かりやすい。そうだよね、そういう反応になるよね。そこまで道ないもんね。

 

「しっかり掴まっててねぇー、うっかり離しちゃうとお星さまになっちゃうぞ☆」

「えぇ!?まっ、待って、まだ心の準備が━━━━━きやぁぁぁぁぁぁ!?」

 

メリッサの腕をがっつり掴んだまま、引き寄せる個性で体を思い切り引っこ抜く。ビル風に煽られて予想以上に流される空の旅路。腕にしがみつくメリッサはもう半泣きである。私でもちょっとビビるくらいだから、仕方ないけどね。ミスったら、マジお星さまになっちゃうなぁ。あははは、こわっ。

 

空間を対象に体を引き寄せ、飛ぶ方向を調整。

尚且つ加速し、警備ロボ達の茶々を振り切ってく。

十秒もしない内に非常口付近の壁が個性の射程内に入る。すかさず壁を対象に体を引き寄せつつ、着陸の為に減速も開始。一人なら慣れてるから緊急停止上等だけど、運動不足してそうなメリッサがいるからね。あくまで慎重に。

 

着陸と同時にお茶子へ合図を出せば体から軽さが消え、懐かしの地面が足裏に触れる。メリッサはヒールなので踵がカッツーンってなって悶絶した。ごめん、そこまで気を使えなかったわ。

 

「まぁ、なんだ、行こか」

「そ、それはそうなんだけど・・・第一声くらい心配してくれると思ってたわ」

「えぇ、じゃぁ、あーゆーおーけー?」

「・・・Don’t worry 心配してくれてありがとっ!」

 

ある意味元気になったメリッサと一緒に非常口を潜る。

そしてまた目にする非常階段。もう、いい加減見飽きた。あと10階もあるとかうんざりする。エレベーターかエスカレーター使いたい。

もう!完璧なプロポーション保ってんのに、太ももだけパンパンになったらどうしてくれるの!いや、登るけども!?気合いと根性と不屈の乙女力で登るけども!?

 

「━━━━っメリッサ、ストップ!!」

「ふぇ!?」

 

192階の踊場に踏み込んだ瞬間、嫌な気配を感じてメリッサを停止させる。メリッサが足を止めた直後、上階の手摺を越えて人影が降りてきた。

鋭利な光を携えた、人影が。

 

「━━ふっ!!」

 

勘に従って壁際へと体を引っこ抜く。

振り下ろされた光はスカートの端を切り裂き、それまで私のいた所に突き立てられた。金属の床に容易く突き刺さる様子から、相当に鋭いのが見てとれる。個性か武器かは不明だけど。

 

まぁ、何にせよ、一旦距離をとるに限る。

 

私が張り付いてる反対の壁に向かってその人影を引っこ抜く。一瞬体が浮き上がるけど、直ぐに両手から鋭利な何かを地面に突き刺し耐えてきた。反応があまりに早い。相当場数を踏んでる。

 

けれど、それは私も同じだ。

アホが耐えている間に溜めておいた僅かな呼吸を、一気に炎として吐き出す。吐き出したそれは火力自体低いけど相手を驚かすには十分だったらしく、その人影にバックステップさせた。

 

ようやく一息ついて人影をまじまじとみれば、何処か見覚えのあるドジっ子の姿がそこにあった。赤みがかった髪、目の下の変な模様、生意気そうな眼差し。

そして━━━━

 

「ソキル!」

「馴れ馴れしく呼んでんじゃねぇよ!クソガキ!!」

 

━━━そうこの悪態!短気さ!チョロさ!良いよね、弄りがいの塊だよ。ソキルくんは。

 

「じゃ、そきるんにしとく?」

「誰がそきるんだ!!こらぁ!!てめぇ舐めた事言ってっとマジで殺すぞ!!」

「いやーあはは。ソキルくんレセプション会場にいないから、何処に行ったのかと思ってたんだよー。あんまりの間抜けっぷりに、リーダーにハブられたかと思って心配してたんだけど・・・良かったね!仲間に入れて貰えて!」

「こっ、このクソガキがぁ!!」

 

顔を真っ赤にしたソキルくんは、その図体に似合わず一瞬で間合いを詰めてきた。個性を使用したようには見えない。恐らく身体能力による移動だ。純粋な身体能力の高さは私より上かも知れない。

 

「━━━シッ!!」

 

突き出される右をかわし、カウンターで横っ腹へ左蹴りぶちこむ。右腕の陰から狙い打ちした、引き寄せる個性で加速させた必殺の一撃。手応えならぬ足応えはあったけど、ソキルくんの顔色は殆んど変わらない。

 

「良い動きしやがるな━━━が、軽りぃ。所詮ガキか」

 

本人からも自己申告があった。

そんなに効いてないらしい。

だよねー。

 

返されるように放たれた蹴りをかわし、追撃に放たれた腕から生えてるっぽい刃をかわし、大人げないタックルもラリアットも組技もかわす。攻撃への回転が早くてどうにも手が出しずらい。調子づかせない為にも、カウンターぶちこんでおきたい所だけど、どうにも最初の一発以来警戒されてしまって中々隙がない。防戦一方ってやつだ。まぁ、避けるのに集中してれば余裕だけど・・・でも、勝てもしないからなぁ。

 

しゃーない、試してみるか。

 

ソキルくんを天井へと引っこ抜く。

咄嗟に床に刃を突き刺し耐えようとしたけど、それも向かう先が上なら意味がない。床から斜め後ろに天井へ向かって飛び、背中をしこたま強く打ち付けた。

苦悶の表情を浮かべるソキルくんを見ながら、私は息を吸い込み頭の天辺に一旦あげておいたゴーグルを再装着、そのまま電源を入れた。そしてレンズに映るメニューを操作、熱線暗視を開始する。

 

溜め込んだ炎を一気に吹き出す。

火力はさっきより上だけど、それでも目の前のソキルくんを仕留めるのは難しいだろう。青色に染まるまで溜め込めば話は別だけど、流石にそこまで時間は与えてくれるほど間抜けでもないと思う。━━━だから、ちょっと工夫だ。

 

吐き出した炎を対象に引き寄せる個性を発動。相手は勿論、皆の人気者ツンデレチョロいんソキルくん。

熱を視認しながらの個性発動は思ってた以上にやり易く、拡散していく筈の炎が急速に集まり始める。

引き寄せる力の出力をあげれば、炎はソキルくんへと加速しながら一本の熱線へと変わった。

 

「なっ!?お、おいっ、てめぇ!?」

 

悲鳴のような声に視線を向ければ、落ちてくるソキルくんの姿が見える。表情は分からない。今レンズ越しに見えるのは、温度によってカラフルに色づけされた何とも言えない景色だから。

 

ニコちゃん108の必殺技。

ニコちゃんブレス派生『ニコちゃん砲』。

━━━━弱火Ver.!!。

 

流星のようなそれは、ひりつくような熱風を周囲へ撒き散らしながら、白の軌跡を残しつつ宙を走る。

迷いなく真っ直ぐに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・少しでもニコさんの役に立てればって、その、ゴーグルをあげたけれど・・・・これは・・・」

「うわぁ・・・・」

 

ニコちゃん砲をぶっぱなして少し。

私とメリッサは髪の毛をチリチリに縮れさせ白目を剥き泡を吹き横になったまま動かないソキルと、鋼鉄の壁にぽっかり空いた大きくて綺麗な穴に呆けていた。

 

嫌な予感がして直撃する寸前で対象を壁に変えたけど・・・・当てなくて本当良かった。こんなもん喰らったら火葬場すらいかせられないよ。なにこれ、怖い。バターを溶かすようにとまではいかないけど、あっという間に壁に穴が空いてったもんね。なにこれ、ちょう怖い。放った私自身もびびってるんだから、放たれたソキルは本当に怖かったろうな。だからアンモニア臭いのは、許すよ。ソキルん。

 

この技危な過ぎるので封印かな?と思ってると、メリッサに肩を掴まれた。説教かと思い視線をそこへ向けると、目をキラキラさせたメリッサがいた。

わたし、このめ、しってる。

 

「ニコさん!凄いわ!!初めて使うサポートアイテムでここまで成果を出せるなんて!!視覚的情報が個性の精度に影響出やすいって聞いたけど、ゴーグル一つでここまで出力があがるなんて!そうよね!?緑谷さん!!これまでは炎を引き寄せるのに相当の集中力が必要だって言ってたけど、今は以前と比べてどれほど変化しているか分かるかしら!?あぁ、ゴーグル使用前の記録をとっていれば分かったかも知れないのに!はっ!そうだわ!視覚的情報以外、例えば聴覚や触覚から受ける情報もあれば━━━いえ!待って!違うわね!対象物への理解も必要だったわね。それなら━━━━」

 

私は思案し始めたメリッサをそっとおんぶし、何か言われる前に階段を駆け上がった。

えっ?あと8階もある上に、敵が出てくるかも知れないのに、そんなんで体力とか色々大丈夫かって?

 

大丈夫!メリッサの話全部聞くよりはマシ!!

よぉうし、ふたにゃん頑張っちゃうぞ!!

 

「━━━と思うの!!ニコさん、どうかしら!?」

「良いんじゃないかなぁ、知らんけど」

 

メリッサと発目を会わせたら、ビッグバンとか起こるんじゃなかろうか・・・。

階段を駆けあがりながら、私は雄英に巣くう変態発明家を思った。



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夫婦喧嘩は犬も食わないっていうけど、親子喧嘩はどうなんだろうね。似たようなもんだけど、犬は食うんだろうか?誰か教えて偉い人ぉー!の巻き

壁┃・ω・`)トーコーオクレテスマヌ





ソキルくんを撃退してから少し。

階段を駆けあがりながら、邪魔してくるヴィランを千切って投げー千切っては投げーを繰り返し、何とか無事に200階へと辿り着いた。目標まであと少し。気合い入れ直してふたこちゃん頑張っちゃうぞー!と意気込んで廊下を駆け出したのは少し前━━━━。

 

「・・・そんな・・・・ウソでしょ、パパ?」

「・・・・」

「ウソだと言って・・・」

「ウソではない・・・!私はっ・・・・!!」

 

━━━━そんな私は今、絶賛修羅場中のど真ん中であります。親子喧嘩なんてチャチなもんじゃないぜ・・・いや、親子喧嘩は親子喧嘩なんだけども。

 

制御ルームへ一直線に向かったまでは良かった。良かったんだよ?敵もいないし。監視カメラも極力ぶっ壊して進めてたし。良かったんだよ。順調。慣れないヒールで走ったせいか、多少足が痛む程度はダメージあったけどそれだけだった・・・・だったんだけど、その途中、開いてる部屋を見つけてしまったのだ。

 

私はね、無視しようとしたの。何はともあれ、セキュリティのコントロールを奪取する方を優先した方が良いと思って。早くガチムチ召喚したいし、ぶっちゃけ楽したかったから。━━━というか、もう当たり臭くて無視したかったの。

だってね、保管室って書いてある部屋ちょっと覗いたらさ、壁を埋め尽くすようにズラリと並ぶ何百もの金庫的な箱とさ、その部屋の中心でコンソールと向き合うメリッサパパの姿があるじゃないの。しかもさ、一心不乱にキーボードを叩くメリッサパパに脅されてる様子は見えないわけさ。監視カメラで監視されてたとしてもだよ?敵も近くにいないし、もう一人のメリッサパパの相棒のジェイソンなんてやる気満々で鼻息フガフガしながらコンソールのモニター眺めてるんだよ?もう、ふぁーってなったよね。もうこれ、そういう事ですやーんってさ。なるじゃんね?

 

だからメリッサを連れてさっさと制御ルーム行きたかったのに・・・・うっかり部屋の中見られちゃったんだよね。そしたらさ、ね。なるじゃん。メリッサはメリッサパパのこと心配してたから。入るじゃん。部屋に。

 

そしたらだよ、そしたらまたタイミング良く、メリッサパパがさ、研究品を取り返す為にヴィランを手引きしたことを仄めかすようなアホな言葉漏らすからさ!もう!馬鹿かって!やるなら完璧目指せよぉって!何処で誰が聞いてるか分からないんだよ?!

 

「こんなのおかしいわ・・・・・私の知ってるパパは、絶対そんなことしない!なのにっ、どうして・・・!どうして・・・・・」

 

そんで今である。

なぁにこれ、お腹痛い。

メリッサ泣かないで。

 

メリッサの背中をポンポンしてると、メリッサの言葉で苦しげに顔を歪めていたメリッサパパが躊躇しながらも、意を決したように口を開いた。

 

「・・・・オールマイトの為だ。お前達は知らないだろうが、彼の個性は、彼の体は、限界を迎えようとしている。このまま放っておけば、彼は・・・・」

 

絞りだされたその言葉は思いに満ちていた。

 

「だが、だがだ、私のこの装置があれば、少なくとも個性を、彼の全盛期に元に戻せる。いや、それ以上の能力を彼に与えることが出来る筈だ・・・!」

 

ジェイソンの持つ研究品の入ったケースを指差しながら、苦しげに、悲しげに、必死に、メリッサパパは語る。そうして吐き出される言葉にきっと嘘はないのだろう。

 

「ナンバーワンヒーローが・・・・・・平和の象徴が・・・・・・再び光を取り戻すことが出来る!また多くの人達を助けることが出来るんだ!!彼は、またヒーローとして戦える!!」

 

きっと、ガチムチの事が大好きなんだろう。

ガチムチの為に、ガチムチの事を思って。

何もかも捨てて、こんなに頑張っているんだろう。

 

「頼む、オールマイトにこの装置を渡させてくれ!作り直している時間はないんだ!そのあとでなら、私はどんな罰でも受ける覚悟も━━━━」

「はい、メリッサパパ。ストップ」

 

でも、そういう事言ってる場合じゃないから。

 

メリッサパパの言葉を遮り、何か言いたそうにしてるメリッサの口を塞ぐ。ちゃっかり逃げようとするジェイソンには引き寄せる個性で地面とキスして貰った。南無。

 

状況が飲み込めずきょとんとする二人をそのままに、引き寄せる個性で引っこ抜き、研究品入りのケースをキャッチする。少し中身を振ってみたけど、ちゃんと梱包されてるのか音はしない。開けてみようとしたけど、電子錠でがっつり閉じてある。ちゃんと入ってるのか中身を確認したい所だけど、まぁ仕方ないか。取り出したばっかみたいだし、大丈夫でしょ。ね。うん。

 

「メリッサパパに確認。茶番に付き合うって言った連中に、何処まで話しました?」

「えっ、茶番・・・いや、そうなんだが。すまないが話す訳にはいかない。君とメリッサをこれ以上巻き込む訳には━━━━」

「あぁ、そういうのは良いんでキリキリ答えて下さい。言わないとアックスボンバーかましますよ」

 

威圧感たっぷりにそう伝えれば、メリッサパパは少しシュンとしながらも話始めた。

 

「・・・計画は彼らと立てた。個人的な話と他の研究テーマを抜けば、殆どの情報は共有してるつもりだが━━━」

「じゃ、今回奪取するつもりだった研究品については?」

「━━━それは、詳しくは話していない。こちらにとって重要である旨は伝えてあるが、その程度の筈だ」

「筈だ?」

 

安心出来ない言葉にメリッサパパを凝視すると、メリッサパパの視線が倒れているジェイソンへと向く。

 

「基本的に、計画についてはサムに任せていた。キャストを集めたのも、そもそも彼だ。私はサムよりセキュリティに詳しかったから、計画案に多少口出しはしたが・・・・」

「じゃぁ、あいつらがこのケースの中身を知ってる可能性はあるんですね?」

「それは・・・サムに聞いてみない事には。ただ、逃亡先の斡旋も彼らがしてくれると聞いてるが」

 

これでほぼ決まりだろう。

メリッサパパは確かに茶番計画に加担してしまったけど首謀者ではない。ついでに言えば、白目剥いて床に転がってるジェイソン・・・・じゃなかったサムも違う。二人は乗せられただけだ。

 

「メリッサパパ黙って聞いて下さい。まず最初に、サムさんは恐らくこのケースの中身についてテロリスト共に話してます。ついでにいえば、研究品を茶番を引き受けた連中に売り渡すつもりです」

「なっ、そんな馬鹿な。彼は━━━━」

「サムさんがどいう人かは知りません。興味もありません。しゃらっぷして下さい。良いですか?リスクと見合わないんですよ。全然。茶番して貰うのに、報酬は幾ら払いましたか?それはI・アイランドを敵に回して、尚も見合う物ですか?茶番とはいえ、起こすのは犯罪ですよ?」

「━━━━━っ!い、いや、だが・・・・」

「茶番を引き受けた連中は、初めから研究品と貴方の身柄を押さえるつもりだった可能性が高い。ここまで協力させてしてしまえば、メリッサパパは逃げるに逃げられないでしょうし。・・・これがどれ程の物か知りませんけど、茶番を引き受けた連中にとって計画を実行するリスクと最低でもトントンになると思ってる筈です。そうでなければここまで派手に動く訳ありません」

 

そう教えるとメリッサパパは目を見開いた。

少し視野が狭くなっていたみたいだけど、元々頭のいい人だ。切っ掛けを与えれば直ぐに理解したっぽい。

 

「それでは、今ここを占拠している彼らは・・・」

「純度百パーセントの犯罪者だと思いますよ?余計な恨みをかわないように、人質を傷つけたりはする気ないみたいですけど」

「わ、私は、なんて事を・・・・!」

「はいはい、そういうのは後でして下さい。分かった所で一緒に逃げますよ。監視カメラオシャカにしてますから、直ぐに連中が来る━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その通りだ、博士」

 

 

背後から高圧的な声が聞こえた直後、乾いた破裂音が耳に響いた。メリッサパパの太ももから赤い飛沫が飛び、苦痛に満ちた声が鼓膜を揺らす。メリッサの悲鳴を聞きながら振り返れば、レセプション会場にいた赤髪の仮面テロリストが銃を構えていた。

 

テロリストが手にした銃に向け引き寄せる個性を発動。フルスロットルで引っこ抜く。彼方に飛んでいく銃を横目に、赤髪を床にキスさせてやろうとしたけど、そっちは上手く出来なかった。僅かに体をびくつかせるだけで終わる。よく見れば床から盛り上がった金属っぽいツルが体に巻き付いて固定してるのが見えた。

 

「・・・速いな、それに力もある。悪くない。流石に名門校のヒーロー候補なだけあるか。下で暴れてるやつも、そうだったか?」

「どうせ素性はバレてんでしょ、確認しなくても良くなくなーい?それでテロリスト先生ー、答え合わせはしてくれないの?」

「はははっ、先生か。俺にそんなくだらないジョーク言いやがったのはお前が初めてだ。お前みたいな馬鹿なら大歓迎だ。百点満点をくれてやるよ、ヒーローの卵・・・!」

 

そう言って赤髪が地面に触れれば、床が生き物のように波打ってきた。床に弾かれるよう宙に投げ出されると、その床が裂け触手みたいに襲ってくる。

 

「っふ!!」

 

引き寄せる個性で体を引っこ抜きかわしていく。

天井も壁も床も個性の射程内、物の配置は大体把握してる。何処に向かってだろうとモーションなしでぶっ飛べる。

触手をかわすと直ぐ別の触手が飛んでくる。

それも一本だけじゃない、何十本も。

けれど、見た目程脅威でもない。何十ものそれも一人が動かしている物だ。コントロールにも限界がある。

 

案の定大雑把な動きをする触手を体を引っこ抜きながらかわし観察を続ける。そうすれば見えてきた。動きの規則性。癖。ムラ。━━━ついでに攻撃出来る隙も。

息を限界まで吸い込み、触手をかわしながら接近。一気に炎の有効射程内まで踏み込む。

そして顔をしかめる赤髪に向かって、溜め込んだそれを一息に吐き出す。

 

ニコちゃん108の必殺技『ニコちゃん砲』。

 

吐き出された青の灼熱が熱風を巻き起こしながら飛ぶ。

彗星のような輝きを放ちながら。

その身に触れる空気を焼き尽くしながら。

 

青の一撃が衝突した瞬間、空気を揺らす爆発音が部屋に鳴り響く。

熱波と共に黒煙が周囲へ吹き荒れ、小さな悲鳴がメリッサ達の方から聞こえてくる。

 

普通なら、これで終わりだ。

けれど、こいつはソキルくんとは違う。

 

「っ!!」

 

嫌な予感に体を引っこ抜くと、私のいた所を突き刺すように黒煙の中身から金属の棒が飛び出してきた。

当たればあばら持っていかれそうな一撃を前に、思わず舌打ちが溢れる。攻撃を受けた直後なのに、集中力がまるで切れてない。慌てて攻撃したのではこうはならない、これは頭が冷えきってる奴の行動。

 

黒煙が落ち着くと、半分融解した金属の壁が見えてきた。 金属の壁は役目を終えたように崩れ、嘲笑するような笑みを浮かべた無傷の赤髪が姿を現す。

 

「流石に焦ったぞ。まさか餓鬼にここまで出来るとは思わなかったからな・・・・でもな、やっぱりてめぇは餓鬼だ」

「はぁ?」

「ヒーローなら、ちゃんと守らねぇとな」

「━━━━っ!メリッサっ・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い痛みが頭に走った。

 

 

 

 

 

 

何処遠くから聞こえる悲鳴を耳にしながら、私の体は床へと引き寄せられていく。

 

 

 

 

 

ぼやける視界の先。

赤髪がゆっくり口を開いて━━━━━

 

 

 

 

 

 

「お遊戯の時間は終わりだ、ヒーロー」

 

 

 

 

 

 

━━━━そんな言葉が耳に響いていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ニコさん!!」

 

私の側から聞こえる娘の悲鳴を聞きながら、金属の鞭に頭を打たれ床に崩れ落ちた彼女を見て、私は今更ながら己のした事を理解した。

 

オールマイトを理由に・・・いや、友人を、トシを言い訳にして何をしようとしていたのか。仮にこの計画が成功したとして、誰よりもヒーローである彼が受け入れる筈もない。ましてや喜ぶことなんて・・・あり得ない。そんなこと、私が誰よりも知っていた事だろうに。

 

私はヒーローに成りたかった。

だが私には個性という、一番必要な才能がなかった。

努力しても、努力しても、私の脆弱な個性は誰かを救う力など持ち得なかった。

絶望した運命を呪った。だかそれでもヒーローという夢は捨てられず、私はせめてヒーローの力に成りたくてサポートアイテムの開発者を目指した。

 

そして、彼に出会った。

 

相棒となった彼の圧倒的な活躍に胸が踊った。

私のアイテムを身に纏いヴィランと戦う彼の勇姿は、かつて私が抱いていた夢そのものだったからだ。

私は彼に、トシに、私の夢を見た。彼は私の憧れそのものだった。

 

だから、だから私は━━━━━彼に。

 

 

 

 

 

「博士、いつまでそうしてる。来て貰おう」

 

 

 

 

威圧的な声に視線をあげれば、ケースを手にしたウォルフラムの姿があった。浮かべた獰猛な笑みは彼の側でいつも見てきた、ヴィランが浮かべるそれだった。

 

何故、こうなるまで気づけなかったのか。

私は彼の隣で何を見てきたのか。

幾つもの後悔の言葉が頭を埋め尽くしていく。

 

呆然とするしか出来ない私の前に突然影が掛かった。

ウォルフラムと比べてあまりに華奢な青い影が。

 

「私のパパにっ、何をするつもり!」

 

聞き慣れた声に血の気が引いた。

誰かなんて考えるまでもなかった、ここにいるのは娘しかいないのだから。

 

「メリッサっ!いい、これは私の問題だ!!ウォルフラム!!頼む!!娘には・・・!!」

 

私の声が届く前に娘の体が横に飛んだ。

ウォルフラムの振り払った拳が目につく。

音を立てて地面を転がった娘の頬は赤く染まり、溢れた苦痛の声に頭が熱く滾った。

 

「止めろ!!娘に、私の娘に手を出すな!!」

「だったらちゃんと躾けときな。俺はな、身に掛かる火の粉を払っただけだ。正当防衛ってやつだ。それよりあんたには来て貰うぞ。装置の調整はあんたにしか出来ないらしいからな。断っても良いが、その時はそれなりの代償を払って貰う」

 

代償が何なのか、言葉にされなくても嫌でも分かる。

切り捨てられない以上、私に残された答えは一つしかないのだ。

 

「・・・・・わ、分かっている。協力する。だから頼む。娘には、手を出さないでくれ」

 

その言葉を聞くとウォルフラムは声をあげて笑った。

 

「ようこそ。楽しい楽しい、ヴィランの世界へ。案内は俺が務めよう。何処までも深く潜っていこうぜ、デヴィット・シールド博士」

 

そう言って差し出された手に、私は手を重ねた。

 

私に力を貸してくれた仲間達に。

私を支えてくれた亡き妻に。

私に夢を見せてくれた友に。

 

愛する娘に、己の愚かさを懺悔しながら。



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やりたい事を見つけたら取り敢えずやってみる主義なので、取り敢えずやってみるけど、大体思ってたんとちゃうってなるよね。えっ、例えば?えぇ、うん?うーん、ワゴン売りしてるゲームとか?の巻き

ちょっとだけ、早めに更新、自画自賛。
YDKに、またなりたいなぁ(字余り)。

いや、無理だけども。


「━━━━━っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━んっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━さんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニコさんっ!!」

 

 

甲高い声にハッとした。

頭に響く鈍い痛みを堪えながらぼやけた視線を動かせば、涙を浮かべたメリッサの顔が映った。メリッサの頬は赤くなってて、ドレスにも汚れが見えた。周囲を軽く見渡せばメリッサパパとあのテロリストの姿が見えなくて━━━━ぼんやりとする頭でも何が起きたのか、嫌でも分かった。

 

「━━━っそ・・・・!あのっ、クソ野郎・・・!」

 

やられた、ブラフかまされた。

冷静に考えれば、そんな事あり得ないのに。

だって、そんな暇与えたつもりはないのだから。

 

「ニコさん!大丈夫っ、私が分かる!?」

 

私に気がついたメリッサが顔を覗いてきた。

心配そうに見つめる目に胸が痛くなる。任せておけなんて言っておいてこの様。情けなくて仕方ない。

けれど、後悔は後だ。やらなきゃいけない事がある。

 

「私はっ、大丈夫。それより、メリッサパパは?」

 

そう尋ねるとメリッサが悲しげに顔を歪めた。

 

「パパは、あのヴィランに・・・ウォルフラムって呼ばれた人に連れて行かれて・・・・もうここには」

 

絞り出すように答えてくれたメリッサの瞳から大粒の涙が流れる。それは降りだした雨のように止めどなく、私の顔を濡らしていく。涙は酷く冷たかった。

 

「・・・ごめん、なさい。ごめんなさい、パパのせいで、こんな、ニコさんも、皆も、あんなに頑張ってくれたのに、傷つけてっ、パパの、せいで・・・!」

「・・・メリッサ」

 

メリッサがどんな気持ちなのか私には分からない。大好きな父親が罪を犯して、それが沢山の人を傷つけて・・・想像する事は出来るけど、きっと本当の意味でメリッサが涙を流す理由を理解は出来ない。

だから辿々しく溢される言葉を聞きながら、私は泣きじゃくるメリッサの腫れてない方の頬に手を伸ばして━━━━その柔らかそうな頬をびよんと引っ張ってあげた。

 

涙で滲んでいた瞳が私の目を見る。

 

「メリッサ、聞いて。時間はどれくらい経ってるの?」

「じっ、時間は、そんなに・・・・パパ達が部屋を出てから、5分も、経ってないと、思うけっ、けど」

「早く起こしてくれてありがとうっ・・・!」

 

気合いで体を起こせば何か嫌な痛みが全身に響いたけど、ヘタレてる時間はないのでそのまま根性で立ち上がる。ちょっと体がふらつくけど、一回気付けで顔をひっぱたけば痛みと共に意識がはっきりして、ふらついていた体が何とか止まった。足にも力が入る。

 

「最後まで守れなくてごめんなんだけど、メリッサはこれからセキュリティのコントロールを取り返しに行って。恐らくガラ空きだから。あいつら下手に被害者は増やすつもりはないだろうから、殺傷性のある罠もないと思うけど警戒はしてね。セキュリティを直すのに時間掛かりそうなら、先にアナウンスでもなんでも良いから、ガチムチに制御ルーム押さえた事を伝えて」

「えっ、ニコ、さん・・・?」

「私はこのまま屋上に向かう。メリッサパパとあのテロリストはヘリでI・アイランドを出ると━━」

 

不意にメリッサの手が私の腕を掴んだ。

動きかけていた足が止まる。

視線をそこへと向ければ必死な顔を

 

「だ、駄目っ!ニコさん、あなたまだ体が・・・!」

「だいじょーぶ、こう見えて頑丈だから。鉄パイプで頭ひっぱたかれたりとか、中坊の頃にもあったし慣れたもんよ。それに受け身はとったし」

「受け身って・・・・嘘つかないで!そんな風には見えなかった!あんなに強く打ち付けて、大丈夫な訳ないでしょ!もう良いからっ、仕方ないの、これはパパが━━━━パパがいけないの。だから、もう」

 

「メリッサ」

 

メリッサの言葉を遮るように声を掛ければ、少しずつ下がっていた視線が私を見る。赤く充血した目が、真っ直ぐに私を。

 

「メリッサみたいにヒーローに憧れてる人に言う事じゃ無いんだけどさ。・・・・私は、メリッサと違ってヒーローに憧れてないし、なりたいと思わなかった」

「ヒーローに・・・なりたく、ない・・・?でも」

「個性を使う資格が欲しいだけ」

 

私の腕を捕まえる手に、私は手を重ねた。

私を守ろうとしてくれるその手は温かった。

母様やかっちゃんの手みたいに。

 

「私は私の守りたい物の為に戦いたい。だから、大手をふって個性を使える権利が欲しかったの。もし他に方法があったら、私はここにいたのかは怪しいと思う」

 

「最初はね、守りたいものなんて少しだけだった。母様とか、かっちゃんとか・・・それだけで良かった。でもね、少しずつ変わっていった。最初はかっちゃんのパパとママ。それからよく話す同級生とか、よく行く美容院のお姉さんとか・・・色んな場所に行って、色んな人に会って、色んな事をして、本当に、少しずつ、少しだけ増えてさ━━━━」

 

「━━━━メリッサも、もうその一人なの」

 

重ねたメリッサの手を握る。

少しでも気持ちが伝わるように。

きっと言葉だけじゃ分からないから。

 

「行かせて、メリッサ。メリッサの守りたいもの、私に守らせて」

 

私の言葉に、メリッサの手が僅かに緩んだ。

そしてせっかく止まっていたモノが、瞳から溢れて頬を伝って床に落ちていく。

 

「私はっ、あなたに、そんなにして貰えるような、そんなこと、まだ何も・・・・」

「そんな寂しいこと言わんといてー。まだ出会ったばかりだけど、私はメリッサの事は友達だと思ってるし、これからも友達でいたいと思ってるし。━━━だから、また今度会う時は、笑って会いたいじゃん?じゃぁ、やるっきゃないでしょ!って・・・でも、本当ごめんね?格好つけて全部任せとけーとか言えなくてさ」

「そんなっ、そんなことない!・・・・ねぇ、ニコさん。私っ、私も、頑張るから、私もきっと、だから、だから、お願い━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━パパを、助けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は笑顔を返した。

今出来る精一杯の気持ちを込めて。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

ケースを肩に、部下に博士を連れさせ屋上へと上がると、予定通りヘリが喧しくプロペラを回していた。ヘリを警護をしている部下の二人は、俺の姿を確認するやいなや背筋を伸ばし敬礼して見せる。

 

「お待ちしておりました!」

「補給は既に済んでおります!」

 

手を上げて返事を返せば、機敏な動きで直立不動の姿へと変わる。教育が行き届いているようで何よりだ。

 

「船と連絡はついたのか」

「はっ!現在ポイントαにて待機中との事です!」

「遅刻魔の連中が定刻通り来たか。なんだ、明日は雪でも降るのか?」

「はははっ、ご冗談を。北半球は真夏ですよ。もしそうなったら、天気予報師がこぞって首を捻るでしょうな」

「よっぽど、コイツがお気に召したらしいな」

 

ケースをちらつかせれば、部下の目はそれに釘付けになった。予めブツについてこいつには話してある。目を奪われるなという方が酷だろう。

何せこれは個性学の権威デヴィット・シールドが造り上げた発明品。それもI・アイランド上層部が発表を見合わせる程の代物だ。

 

「個性を増幅させる装置・・・・これが」

「興味があるなら、付けてみるか?」

「い、いえ!そのようなことは!」

 

ケースを眺めていた部下は俺の言葉に背を伸ばした。

少し固い気もしねぇでもないが、これで頷くような馬鹿なら元よりいらねぇ。弁えているようで何よりだ。

 

足音を聞き背後に視線を向ければ、博士に肩を貸した部下が近くまで来ていた。博士の顔は俯いたまま、表情は伺い知れないが何かを企んでいる様子は見えない。出発前に一度脅しを掛けておくつもりだったが、この様子なら必要もあるまい。これから仲良くお仕事をするお友達だ。友好的に対応出来るなら、それに越したことはない。

 

「博士を乗せて差し上げろ。お客様だ、丁重にな」

 

敬礼する部下に博士を任せて、俺はヘリポートの端へ行く。視界に広がったのは色とりどりの光の海。人工島に相応しい人工的で無機質な光源達は、ここの騒ぎなどないように煌々と街を照らしていた。

 

「良い景色だ」

 

餓鬼の頃から、上ばかり眺めていた。

街を埋め尽くすビルは空に届きそうな程高く、そしてビルに入っていく連中は誰も彼もが綺麗な格好をしていた。生まれも育ちも、何処の誰が作った餓鬼かも知れない俺とは、何もかもが違う世界にいるのだと、俺はいつも奴等を眺めていた。

 

それが、どうだ。

一時的にとはいえ、今や俺が見下ろす側だ。

この景色は今、俺の足元にある。

 

直に俺の手元には数え切れない大金が転がり込んでくる。目の前の景色が当たり前に成る程の莫大な富だ。蔑むような目で見てきたあの連中は、今度は俺を見上げることになる。この俺を。スラムを彷徨い歩いていた、小汚ない餓鬼でしかなかった、溝鼠と馬鹿にされた、この俺を。

 

手を伸ばした。光の映るその景色に。

開いた掌を握り締めれば、何かを掴んだような気になった。手に入らないと思っていた、あの日見上げた時に見ていたソレを。

 

「もう直ぐだ、もう直ぐ」

 

俺のモノになる、全て。

この景色も。

この力も。

何もかも。

 

あんたも越えて、俺が━━━━。

 

 

 

 

不意にヘリポートがライトアップされた。

光源の操作は手動を除き制御ルームでしか操作は出来ない。屋上にそれらしき人影がない以上、導き出されるそれはセキュリティシステムが復旧したことをさす。

部下にもそれが分かったのか酷く慌てた様子でこちらに向かって大口を開いた。

 

「ボス!セキュリティがっ・・・・!」

「見れば分かる、セキュリティシステムが完全復旧する前に島を出るぞ」

「しかしっ、他の連中がっ」

「聞こえなかったか?セキュリティが復旧する前に、島を出る。変更はない。今すぐポイントαに受け入れ要請しておけ。俺達の到着と同時、直ぐ出られるように用意しとけとな」

 

念を押して伝えれば、部下は体を一度震わせた後ヘリに乗り込み出発の準備を始めた。仲間おもいは大変結構だ。時と場合を考えられるようなら、だが。

 

連絡をとり準備が済んだ所でヘリに乗り込むと、それとほぼ同時に大きな音と共に下階から繋がっている通路のドアが開いた。

視線をそこへと向ければ、綺麗な顔を怒りで歪ませた女の姿が見える。女は俺を確認するやいなや、真っ直ぐに駆け出してきた。

 

「ごらぁぁぁぁぁぁぁ!!何処行くつもりだ!!超絶スーパー天然ウルトラアルティメット天才美少女ニコちゃんがぁ!折角おじゃましに来てやってんだから、ほうじ茶と和菓子持って、お土産に洋菓子用意して出迎えろやぁぁぁぁぁ!!季節感無視してコートとか着ちゃってるイカれた服センスした陰険赤髪ミリオタ鉄仮面!!なにそれ流行ってんの!?場末のチンピラのがもちょっと格好いいわ!!ばぁぁぁか!!」

 

殺すつもりこそなかったが、それでも継続戦闘出来ない程度には痛めつけたつもりだった。まさかここまで元気に追いかけて来るとはな。拘束しておかなかったのは少し舐めすぎたか。

 

しかし、頑丈さに感嘆すべきか、呆れるべきか。

まったく、病気だな。

こいつらは。

 

「出せ」

「はっ!上昇開始します!」

 

ヘリポートを離れるヘリを見て、女は加速する。

俺の時に見せた個性による不自然な空中での加速。

弾かれるように速く高く空に飛び上がり、伸ばされた手が━━━━ヘリの足へと届いた。

 

けれど、それまでだ。

懐から抜いたもう一つの黒塗りのそれを、諦めの悪い女の頭に向けてやった。女は僅かに目を開き、眉間にしわを寄せる。

 

「確かにお前はヒーローだ。馬鹿だけどな」

 

トリガーに指を掛けた所で、それが目についた。

追い詰められた筈の女の、僅かにつり上がった頬が。

 

「駄目でしょ、ヴィランが獲物逃がしてちゃ」

 

その言葉に目の前の女の個性を思い出した。

念動力のような力を有する個性。

 

ヘリは搭乗口がどちらも開け放ったまま。

その個性を使えば━━━━━。

 

そう思って振り向いた先。

デヴィット・シールドの姿はあった。

発明品の入ったケースも変わらず。

 

「ボス!!」

 

叫び声が耳に響いた直後、痛みと共に視界がぶれた。

視界の端にヘリの中へ乗り込んだ女の姿が映る。

個性で止めようとしたが、コントロールが上手くいかず容易くかわされる。それ所か、俺の個性が部下の二人を凪ぎ払ってしまった。

 

「ぷっぷー、自分でやらかしてりゃ世話ないね」

 

挑発するような言葉と共に、シールドの体が女に担がれる。止めようと銃を構えるが、引き金を引く前に蹴り飛ばされた。

 

「卑怯でごめんね、でもさ私はっ、ヒーロー様じゃないからっ!!」

 

女の拳が顔面を貫いた。

仮面越しにも関わらず芯に響く腰の入った一撃。

視界が更にぶれ、意識が更に遠く━━━。

 

「ボス!!掴まってて下さい!!」

 

部下の声と同時にヘリが傾いた。

ケースは何とか押さえたが、女はシールドを担いだまま空へと投げ出される。

 

「━━━━━っが!!戻れっ!!シールドの身柄を押さえる!!女はぶち殺して構わん!!」

「はっ、はい!!直ぐに━━━━━ひっ、ぼ、ボス!!」

 

操縦席に座る部下が悲鳴をあげた。

コックピットへ乗り込み部下の視線の先を見れば、女とシールドを抱えた大男の姿を見つけた。金色の髪をした筋骨隆々の、笑顔を絶やさない大男。

 

「ちっ!もうお出ましか、オールマイト・・・!!」

 

大男は二人をヘリポートへ置くと直ぐ様飛び上がったきた。何処へでもない、俺達の方へ。

 

「ボス!!」

 

情けない声をあげる部下を無視し、ケースを無理やり抉じ開ける。出来れば未使用のまま売り渡したかったが仕方ない。有効に使わせて貰う事とする。

 

 

「テキサス━━━━」

 

 

拳を振りかぶる大男を見ながら━━━━

 

 

 

「━━━━━スマーーーッシュ!!」

 

 

 

━━━━俺は取り出したそれを頭へと取り付けた。



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第二形態とか第三形態とか、個人的にめちゃくちゃ冷めるから止めて下さーい。止めないと、お●の穴にロケット花火突っ込んでシュッボッてしますよ。の巻き

リ・デストロしゅき(*´ー`*)


「相変わらず、無茶をするな!君は!」

 

ヘリから振り落とされて直ぐ。

姿勢制御しようと身構えた所で聞き慣れた声が掛かった。視線をそこへ向ければ両手を広げて待ち構えるガチムチの姿があった。

 

慣性に任せて落下すればガチムチが見事にキャッチしてくれる。流石に人ばっかり助けてる人。凄い柔らかいキャッチ。衝撃が殆んど無かった。暑苦しかったけども。

 

「おっそーい!無駄に頑張っちゃったじゃないですかぁ!」

「HAHAHAっ、すまない!少々手こずった!メリッサから聞いて文字通り飛んできたのだが・・・流石に全盛期のようにはいかんな。情けない限りだ」

 

苦笑いを浮かべながら私とメリッサパパを地面に置き、ガチムチは再び空を睨みあげる。苦笑いはいつもの笑みに変わり、気配は一段と鋭くなった。ガチムチ戦闘モードにシークエンスである。よし、任せよ。

 

「さて、緑谷少女。デイヴを連れて下がっていてくれ。後は私の仕事だ・・・!」

 

こちらへと向き直るヘリの視線から庇うように、ガチムチが体を割り込ませる。元より任せる気満々だったので、がっつり背中に隠れるようにそそくさと移動━━━といきたかったのだけど、その姿を見てメリッサパパが動いてくれない。どうしたのかと顔を覗けば、苦しそうに顔を歪めながら口を開く所だった。

 

「トシっ、私は━━━」

「デイヴ、話は後でゆっくり聞かせて貰うよ。君の淹れてくれたコーヒーでも飲みながらね」

「━━━っ・・・はははっ、ああ、とびきりのをっ、淹れる、さっ。きっと、約束するっ」

 

メリッサパパの涙声な返事を背中で受け止めたガチムチは、息を吐きながら深く大きく膝を曲げる。そして矢が放たれるように空へ飛び上がった。

 

「テキサス━━━━」

 

腕を大きく背後へ引き絞りながら、ヘリに真っ直ぐに飛び込んでいく。ヘリの挙動から逃げようとしてるのが分かるけど、そんな猶予がある訳もなく、敢えなくガチムチの拳が振り抜かれた。

 

「━━━━━スマッーーーシュ!!」

 

目が覚めるような破裂音と共に爆風が吹き荒れる。

拳から放たれた拳圧は嵐となってヘリを巻き込み、空を駆る鋼鉄の塊はただのガラクタへと変わる━━━━━筈だった。

 

「━━━っ!?これはっ!」

 

ガチムチの目の前で、一度バラバラと崩れた筈の金属片達が急速に一ヶ所へと集まっていく。まるで金属片一つ一つに意思があるように、その動きに乱れはない。歪な球体と化した妖しく蠢く金属の艶めきの中には、ヘリに乗っていたテロリスト一味の姿が見え隠れするけれど、あの赤髪のテロリスト・・・面倒くさっ、略してアカテロっぽい奴の姿だけは見えなかった。

 

金属を中心に起きた突然の異常現象。アカテロの行方不明。ついでにメリッサパパの発明品があそこにあるのだとすれば、もう答えなんて出ているような物。

 

ガチムチに注意しようとしたその時、足元から小さな音が鳴った。甲高い地鳴りのような、硬い何かを力で無理や押し曲げるような音が。

 

「ごめんっ、メリッサパパ!!」

「えっ、ミドリヤさっ━━━━━ンンッッ!?」

 

咄嗟にメリッサパパの体を後ろへと引っこ抜いた。

瞬間、ついさっきまでメリッサパパが踏み締めていた筈の床がめくり上がり、夥しい金属の触手が溢れ出す。蠢くそれは私など見向きもせず、メリッサパパのいた場所でとぐろを巻いた。けれど手応えが無い事に気づくと、巻き上げていた体をばらし、ヘリの残骸と同じ様に球体へと集まってく。

 

「ん?ガチムチは?」

 

見上げた先、何故かガチムチの姿がなかった。

どうしたのかと見渡していると、馬鹿デカイ音が横から聞こえてきた。視線をそこへと向ければ床にめり込むガチムチの姿が。

 

「えっ、ちょっ、なにしてんですか?任せろっていったのに?」

「やっ、やんわり嗜めないでくれ!すまない、少し見誤った!」

 

そう言ったガチムチの両脇にはテロリストの手下ABCの姿がある。大方救出する隙をつかれて攻撃されたんだろうけど・・・それでも全員助けてる辺り、ナンバーワンヒーローの面目・・・目・・・・面目?もくめん?いやぁ、めんもく、めんもく・・・めんもくほにゃららといった所かっ・・・!

 

「ね!ガチムチ!」

「いや、何が『ね!』なのかさっぱりなのだがっ、緑谷少女っ!!」

 

警告するようなガチムチの声にその場を飛び退けば、巨大な鉄塊がそこへと落ちてきた。人一人を軽く押し潰せるサイズのそれからは殺気がプンプンしてる。方針を変えたらしい。

 

「大丈夫か、緑谷少女!」

「OKです。それより自分の心配して下さいよ、ちょっと湯気出てますけど」

「HAHAHA、痛い所をついてくれるな」

 

鉄塊を挟んだ先から聞こえる声に生返事を返しながら、私は空に浮かぶそれへと視線を向ける。金属の球体はヘリポートから伸びる金属の触手に支えられながら、タワーに付いていた金属品を集めまくって、歪に大きくなっていく。風力発電機、床の鉄板、ケーブル、外壁・・・それが金属なら見境なくだ。

 

膨らんだそれが急に割れた。

そこにいたのは金属を体に絡め、頭に妙ちきりんな物を取り付け、ヘンテコ鉄仮面を脱ぎ去り真っ赤に染った顔を晒すアカテロ。

顔に浮かべた頭悪そうな笑顔が、これ以上ないほど危ないオジサン感を漂わせてる。

 

「━━流石、デヴィット・シールドの作品。"個性"が活性化していくのが分かる・・・はははっ、良いぞこれは!いい装置だ!!」

 

完全にハイになっちゃって叫んでるそいつに「活性化しても、メリッサパパ取り逃がしてますけどね!ざっこー!」と言ってあげればめっちゃ睨まれた。あんまりにも鋭い睨みだったので、涙がちょちょぎれる前にゴーグル掛けといた。そんなに怒らなくても。本当の事ですやん。

 

「緑谷少女!挑発するようなことは━━━」

「時間稼ぐんで、あと宜しくお願いしますよ」

「━━━━っ、緑谷少女!?」

 

私が駆け出すと同時、アカテロが手を翳してくる。

それに反応するようにアカテロを包んでいた金属の球体から鉄柱が放たれた。軌道を読んでちょいとかわせば、アカテロが怒りを顔に浮かべた。

 

「ちょこまかっ、鬱陶しい!!オールマイトの前に、まずはてめぇからだ、小娘!!生きて帰れると思うな!!」

「はいはい、三流悪役の台詞ありがとうございまーす!フラグ建設ご苦労様です!アカテロ親方、麦茶の差し入れとかどうっすか?」

「くっ、そっ、ガキがぁぁぁ!!」

 

怒鳴り声と共に雨のように鉄柱が降り注ぐ。

速度、質量、数、どれをとっても人を一人殺すには十二分な攻撃。さっきの戦いの様子を考えれば、個性が活性化してるのは本当だろう。出力は桁違い。

 

けれど、雑過ぎる。

 

完全に力に振り回されてる。

単調な攻撃はどれも軌道が単純でかわしやすい。

これならさっきまでのアカテロの方が怖かったし、厄介だった。経験を生かし冷静に動いてくる、緻密や嫌らしさが滲む、さっきまでのアカテロの方が。

 

ゴーグルを起動させる。

ハウンドシステムで鉄柱の軌道を見極め、一つ一つ確実にかわす。焦らずに、冷静に、慎重に。極力個性は使わず、身体能力を中心で。

 

「こっ、の!!」

 

かわしたらかわした分だけ攻撃が激しくなるけど、頭に血が昇ってるのか雑さ加減はもっと増す。フェイントも交えて動けば、尚もかわしやすくなった。個性の射程範囲にいててくれれば、攻撃を加えてもっと楽だったろうに。惜しい━━━まぁ、やりようは他に幾らでもあるけどね。

 

「あれれれれれれれれれ?!おかしいなぁぁぁぁ!?私を仕留めるんじゃぁぁ、あーりませんのぅぅぅ?!腰が引けてるんじゃなぃいのぉぉぉ!?へい、ピッチャービビってる!へいへい!!あっ、チャック開いてるよ!チャック!きゃーーー!へんたぁぁぁい!!」

「なっ、ん━━━━」

 

額に青筋を浮かべながらも、なんやかんや気になったのかズボンを見下ろした。そんなアカテロの顔面目掛け、拾ったコンクリートの破片をシュート。引き寄せる個性で加速も付けたコンクリの弾丸は、狙いから少しだけ逸れたものの見事アカテロの体へ命中した。えっ、何処に?かっちゃんと喧嘩した時に攻撃して、割と本気で怒られた場所。それ以来男と戦う時大体狙う、ブラブラしてるそこ。

 

「ッッーーーーーーーーーァ!?」

 

声にならない叫びが響いた。

何となくガチムチもドン引きしてる気がする。

何となく股間押さえてる気がす・・・押さえてた。やっぱりね。そうだろね。かっちゃんの友達とかそうだったもん。

 

「こっ、んんっ、こ、のっ、このっ、ガキがぁぁぁ!!調子に乗るな!!」

 

挑発の言葉に乗ったアカテロが怒号を上げながら両腕を上げる。釣られて見上げれば、車すらペシャンコに出来そうな巨大な鉄塊が生成されていた。わぁおぉー。

まぁ、そんな特大攻撃も軌道がバレバレなら大した事もないけど。

 

手を翳されると同時、その大きさと見合わない速度で鉄塊が落ちてくる。百キロちょいは出てそう。あっ、出てない。ゴーグルのモニターに82って表示が出てる。この端っこのmphって何だろう。まぷは?

 

走ってかわすのは難しそうなので、引き寄せる個性で体を横へと引っこ抜き移動━━━━っ、およ?

スカッとした。個性が不発する時の感覚。視線をそこへとやれば、目標にしていたコンクリート片が綺麗さっぱりなくなっていた。

 

「・・・・・うえっ!?」

 

何時の間にと思ったけど、さっきアカテロが皆から金属を集めている時、見慣れたコンクリート片が僕らの鉄塊玉に粉々になりながら混ざってく姿を見た気がする。飛び出してる鉄柱の感じが似てるなぁとは思ったけど、マジか。いや、マジかではないが・・・!

 

 

「えっ、ちょ、タンマ!」

 

 

私の制止を鉄塊玉様はまさかの完全スルー。

仕方がないので別の目標に向け引き寄せる個性を発動しようとしたその時、親の声より聞いた爆音が真後ろから響いてきた。

 

直後、お腹回りに締め付けられるような痛みが走り、体が激しく振り回される。視界が流星のように流れて、何処か甘い匂いが鼻をついて━━━━━気がつくと鉄塊玉がヘリポートに墜落する様を少し離れた所で眺めていた。俵のように担がれつつ、手足をブラブラしながら・・・な!

 

「━━━━何で、てめぇはっ、いつもギリギリなんだよ。馬鹿女・・・・!」

 

姿勢を変えて声のした方を覗けば、眉間にシワを寄せたかっちゃんの顔が見えた。切島が用意したとかいう赤いスーツは所々汚れてたり擦り切れてたりしていて、如何にもかっちゃん!みたいになってる。馬子にも衣装的なのを期待していただけに、なんかがっかりである。

 

「よくお似合いで」

「あ?喧嘩売ってんのか」

「いやぁ、純粋に?」

「おう、喧嘩売ってんだな。この馬鹿が」

 

そう言って額に青筋を浮かべたかっちゃんは掌をバチバチさせ凄んでくる。お世辞にも堅気には見えない。良いところ街のチンピラである。もしくはヤクザ。

 

「ガキ共ォ!俺を無視たぁ、いいご身分だなぁ!!」

 

怒鳴りながら掌を空へと翳したアカテロに、かっちゃんが呆れた視線を向けた。

 

「てめぇこそ、何処見てんだ。猿でもわかんだろうが。こんな馬鹿より━━━━よっぽど面倒な奴が側にいる事くれぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━デトロイトスマッシュ!!」

 

 

 

 

 

忍び寄っていたガチムチの一撃。

タワーを見下ろしていた球体が轟音と共に大きく揺れる。拳を受けた場所からヒビが走り回り、積み木が崩れるようにバラバラと砕けていく。

 

けれど、まだ足りない。

 

かっちゃんに庇われた先にある光景。

球体に守られていたアカテロにまで、ガチムチの攻撃が届いてないのが見える。ガチムチも分かっているようで空中を蹴飛ばし、瓦礫を強引に押し退けアカテロへと飛び込んでいく。

 

「ちっ!サムめ・・・オールマイトは"個性"が減退してるだぁ?これの何処がっ、減退してやがるってんだ!」

 

怒号をあげながらアカテロが手を翳せば、砕けていく金属が再び集まり壁が出来ていく。ガチムチはお構い無しにそこへと突っ込み、構えていた拳を叩き込んだ。

 

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

拳の一発で分厚い金属の壁は砕け散る。

アカテロが直ぐに壁を再生させるが、ガチムチもまた拳の一発で粉砕していく。瞬く間にガチムチとアカテロの距離は縮まり、ついには壁の再生速度を超えて拳の射程内へと肉薄する。

 

「ここまでだ。観念しろ、ヴィラン!!」

「寝言は寝て言え、ヒーロー・・・・!!」

 

拒絶の言葉に、ガチムチの拳が振り抜かれた。

けれど耳に響いたのは空気が破裂するような、そんな乾いた音だけ。人を殴るような鈍い音も、苦痛の声も聞こえてこない。ゴーグルを掛けてよく見てみれば、アカテロがガチムチの拳を掌で受け止めていた。

 

「ッッッッ!?この力はっ・・・!まさかっ!!」

 

異様に膨れ上がる腕。

普通の人間にそんな真似出来る訳がない以上、それは筋力増強型の個性なんだろうけど・・・言い様のない違和感を感じた。私自身がそうであるように、二つ個性を持っている事は珍しいけれどおかしくはないと思う。

 

だけど、これは何かおかしい。

 

それまでのアカテロの言動。部下を統制する手腕。計画の立案。そこから予想出来る性格。個性の練度。戦闘の癖━━━━━これまで見てきた物と、あまりに合わない。違和感が凄い。まるで、そう、何処かの黒筋肉みたいなチグハグさ。

 

「ああ・・・・この強奪計画を練ってる時、あの方から連絡がきてな、是非とも協力したいとよ。何故かと聞いたら、あの方はこう言ったよ」

 

「『オールマイトの親友が悪に手を染めるというのなら、是が非でもそれを手伝いたい。その事実を知ったオールマイトの苦痛に歪む顔が見られないのが残念だけれどね・・・・』ってよ」

 

アカテロの言葉にガチムチの顔から怒りが滲んだ。

 

「・・・・オール・フォー・ワン!!」

「ぶっはははははっ!!そうだよ、あの方だ!!まさかその協力が、オールマイトと張り合える力たぁ、俺も驚きだよ!!そうだよ、あの方からの贈り物さ!!こいつはァ、最高だ!!」

 

笑い声と共に拳がガチムチに振り落とされた。

轟音と共に豪風を撒き散らす。

破壊の一撃が。



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第三形態になってもいい!もう良いよ!分かった、認める!第三形態さ認める!でもね、回復させて!お前だけ全回復とかあり得ないからね!!てか、形態変化するとき絶対その時間あるでしょ!の巻き

次の映画編っていつ頃の話になるんやろ。
気になるなる(´・ω・`)


「ハハハハハッ!本当に、最高だぜ!力が幾らでも湧いて来やがる!こいつと、この装置があればっ!俺はっ!ハハハハハッ!!」

 

高笑いが響くそこで、私の目はヘリポートの床に沈む、親友とも呼べる彼から離れなかった。

 

「かっちゃん!私がっ━━━」

「るせぇっ!てめぇはオールマイト連れて下がれ!!碌に体力残ってねぇならしゃしゃるな!俺がやる!!」

「━━━りょ!リオのカーニバルが霞むくらい目立ってきてよろしくぅ!」

「派手に過ぎるだろうが!馬鹿が!」

 

私の娘と変わらない子供達の、その駆け出す背中を視界の端に入れながら、私はただ彼を見る事しか出来なかった。彼に駆け寄ることも、彼に声を掛けることも・・・何も出来なかった。私に、今の私に、そんな資格があるとは思えなかったから。

 

彼の為に作り上げた。

彼にヒーローとして活躍して欲しくて。

彼の笑顔がより多くの人々の未来を照らしてくれる事を信じて。

 

それなのに、私の作り上げたそれは彼を傷つけた。

それは誰の目から見ても明らかで、私がした事を重く突きつけている。

 

そんな筈ではなかった。こんな筈ではなかった。こんな事の為に、私は研究した訳じゃない。けれど、結果はそこにある。傷ついた友の、苦し気な声、痛々しい姿に。私のなした全てが。

 

「すまない、すまない、すまない、すまないっ!違うっ、私は、違うんだ、トシ、私はこんなっ、望んでなんか、違う、すまないすまないっ、トシ━━━」

 

情けない声が口から漏れていく。

止めようのない言葉が。

 

今更こんな謝罪に意味があるとは思えない。無駄だ。口だけのそれに意味はない。ほんの一欠片でも意味があったとして、彼に届かない謝罪ではそれすらも・・・。言葉がいかに脆いものか、私は誰よりも知ってる。生き馬の目を抜く、サポートアイテム開発にこれまで携わってきたのだ。分からない筈もない。

 

それなのに、言葉が溢れて止まらない。

もっとすべき事が、ある筈なのに。

 

「━━━━っ!メリッサパパ!!避けて!!」

 

ミドリヤさんの声に視線が上がる。

私の視界の中にこちらへと真っ直ぐ飛び込んでくる鋼色の立方体が見えた。スクラップを固めたような歪な立方体だ。回転をはらんだそれは、空気を巻き込みながら激しく速く飛ぶ。まともにぶつかれば、命はないかも知れない。避ける時間はまだある。足は痛むが、立って歩けない程ではない。

 

けれど、不思議と体は動かなかった。

怖くない訳ではない。何か対処する方法がある訳でもないのに。それなのに・・・。

 

迫るそれを見ながら、私はその答えに気づいた。

私はきっと、もう━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパっ!!」

 

 

その声にハッとした。

霞みかがっていた視界が晴れるように、何処へと遠ざかっていた意識が戻ってきた。

 

動かなかった筈の体が動き始める。

数瞬まで全てを手離すつもりですらいたのに。

重くのし掛かる罪の意識は消えてはいない。彼に対する申し訳なさも、胸の痛みも何も消えてはいない。

 

けれど、私の足は動いた。

その声に背を押されるように。

 

 

同時に私の体の横を冷気が駆け抜けていき、氷柱が立方体を押し留めるように地面から立ち上がる。けたたましい音と共に氷の粒を周囲に飛び散らせながらも、氷柱は自らの役目を果たし鋼色のソレを確かに食い止める。

呆然とその光景を眺めていると、「下がっててください」という言葉と共に、ウォルフラムの視線から庇うよう紅白の髪を靡かせた少年が体を割り込ませてきた。

右腕から漂う冷気に、先程の私を守ってくれた氷柱の姿が脳裏を過っていく。こちらを確かめるように振り返った横顔には、その背中から受けた印象通りの幼さが滲んでいた。

 

「君は・・・・」

 

「おっしゃぁ!!そのまま頼むぜ!轟!!」

「俺が切島くんに合わせる!タイミングは任せるぞ!!」

 

私の声を遮るように二つの声が背後から響く。

風と共に私の横を駆け抜けていった二人の男の子達は、それぞれ腕や足を構えた。

 

「おおおおおおらぁ!!」

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

怒鳴り声と共に放たれた拳と蹴足が、鋼色のソレへと放たれた。鈍い音と共にバラバラとソレが砕け散り、ただのガラクタへと変わっていく。

 

声も出せず眺めていると、不意に後ろから強く抱き締められた。私がよく知る細い腕に。痛みを感じるほど強く。しっかりと。

 

「よかっ、た!パパ・・・!」

「メリッサ・・・・」

 

か細い声に罪悪感を感じた。

ほんの僅かでも、ただ自分が楽になりたくて、娘を悲しませる選択をしようとしていたのだ。そしてそれは、恐らく娘だけではない筈なのだから。

 

だが、後悔は今するべきではない。

駆けてくる足音に視線を向ければ、娘とそう変わらない子供達がそこにいた。

 

「メリッサさん!大丈夫!?」

「メリッサさん!!一人で行ったらあぶねーって!」

「轟ぃぃぃぃ!一人でなに、ヒーロームーヴしてんだ!そこはオイラの役目でしょ!何人垂らし込んだら気が済むんだ!この天然野郎!!」

「ヒーロームーヴ以前に、あんたはもっと下心を隠せ!アホ峰田!」

「皆さん!お喋りしてる時間はありませんよ!緑谷さん達の援護は轟さん達に任せ、私達は救助者を連れて下がります!いいですね!」

 

けれど、その動きはただの子供達ではなかった。

迅速に、的確に。必要な所に、必要な人間を。

瞬く間に彼ら彼女らは私やメリッサを守るように、先に駆け出した仲間達を助ける為に動いていく。

 

「メリッサ、彼らは・・・」

「ニコさん・・・ミドリヤさんの同級生。雄英高校の、オールマイトおじさまの生徒さん達」

「トシの・・・」

 

その言葉に、トシの言葉が過った。

 

『・・・・それほど悲観する必要はないさ。優秀なプロヒーローたちがいるし、私の教え子たちのように将来有望な若者たちもいる!』

 

目の前にある助けようとしてくれる子供達と、ウォルフラムと戦う子供達を・・・もう一度その目で見た。

誰かを救う為に最善の努力をし、誰かを守る為に体を張り、諦める事なく真っ直ぐに前を向き、ヴィランと真っ向から対峙する━━━━次代のヒーロー達の姿を。

 

不意にどさっと、私達の横を何かが落ちた。

警戒しつつ視線を向ければ、ボロボロになった友人の姿がそこにあった。

 

「いたたた、腕が引っこ抜けるかと思った。雑過ぎるぞ、緑谷少女。私が跳ばなかったらどうなっていたか・・・いや、助けて貰って文句は言えんが・・・・」

「トっ・・・オールマイト。無事か・・・?」

「デっ、デイヴ・・・・格好悪い所を見せてしまったかな?すまない、格好つけておいて」

 

そう苦笑いする彼に、私は笑みを返した。

 

「いや、お互い様さ。けれど、君は、オールマイトは、格好悪いまま終わらせないだろう?」

「当然さ、デイヴ。ヒーローとして、先生として、彼女達に見せなきゃいけない背中がある・・・!」

 

再び立ち上がる彼に、今も戦う子供達の背中に。

もう陰りは見えなかった。

 

ただ、ただ眩しくて━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「わりぃ、遅れた!」

 

ガチムチを気合いと根性と猛る乙女力でかっ飛ばして直ぐ、アカテロに氷柱を叩きつけながら轟が現れた。私としては「良く来た、手下一号!」って感じなんだけど、かっちゃんは何が気に入らないのか盛大に舌打ちする。

 

「っせぇぞ!!今更来て、何のようだ!!ああん!」

「そんだけ元気が残ってるなら、間に合ったみてぇだな・・・!」

 

喧嘩しながらも阿吽の呼吸で、氷結と爆撃で連携をしていく二人はきっと大の親友なんだろう。喧嘩するほど仲が良いというし。しかし、あの仲の良さ・・・もしかしたらもしかするかも知れない・・・・そうふたこにゃんは思った。

 

アカテロの気が逸れるタイミングを見計らって、引き寄せる個性を利用したコンクリショットでアカテロの股間とか顔面とか股間とか狙い撃ちしてると、続いてレッドキャニオンヘッド切島とシルバーフレーム眼鏡も加勢してきた。

 

接近戦は二人で足りているので、私と同じように隙作り係をお願いしたのだが微妙な顔された。なんでなん。立派なお仕事なのに。股間にシュートするだけの簡単なお仕事ですやん。えっ、それが駄目なの?じゃ、顔面だけで良いよ。目とか狙ってね。目とか。

 

「っく!!チクチク、チクチクッ!!てめぇ、このクソガキ!!鬱陶しいわ!!」

 

我慢の限界がきたのか、いよいよこっちに攻撃が放たれた。大雑把な鉄柱攻撃。動きを見極め引き寄せる個性でかっ飛び華麗に避ける。そのまま眼鏡の背中に騎乗して、再び嫌がらせを続行。はいよー!走れ、眼鏡号!!風のように!!

 

「緑谷くん!囮になるのは構わない!仲間の為に出来る事がそれなら、僕は精一杯務めを果たそう!!だがな、不本意なのだが!!物凄く、不本意なのだが!!その攻撃だけは何とかしてくれないかな!?」

「えぇー、でも一番アカテロが反応するし?てぃ!コンクリをあいつの股間にシュート!超エキサイティング!って、楽しいよ。やってみれば分かるよ」

「てぃ!ではないからな!?分かりたくもないし、僕の背でエキサイティングしないでくれ!」

「分かった分かった・・・・てぃっ!」

「いや、分かってないな!」

 

眼鏡に乗りながら嫌がらせをしていくと、攻撃は更に激しさを増していく。時折眼鏡の足だけではかわせない場面も出てくる程の猛攻だけど・・・・まぁ、私がそういう時かっ飛ばせば問題ない。どうしてもあかんって時は、そこら辺にいる切島盾にすれば良いし。━━━よって、全然問題ない。どしたどしたぁー、当たらん、当たらんよー!ノーコンピッチャー!内角だよ!内角せめてこいよぉ!ビビってんじゃないよー!ていうか、頭完全にプッツンしてるよね?これ。私のこと見すぎじゃん。

 

案の定、薄くなった防御を掻い潜り、豪火と爆撃がアカテロに叩き込まれる。汚い悲鳴と共に、アカテロを守っていた金属の盾が━━━いや、もうスクラップの盾といっていいそれがボロボロと崩れていく。どんどん薄くなる守りに(笑)。

 

「っそ!くそっ!!こんな、ガキ共に!!俺がっ!!オールマイトを倒したっ、俺が!!」

 

いや、倒してはないから。

私助けにいったから知ってるけど、あの筋肉ピンピンしてたよ?ダメージ自体はそんなだったよ?どっちかっていうと、時間制限の方が問題っぽかった系だもん。

 

まぁ、教えてやらんけども。

 

「ふざけやがって!!俺を!!俺をっ!!誰だと思ってやがる!!」

 

怒号と共に鉄柱の嵐が吹き荒れた。

狙いなんてつけてない。

タワーから吸い上げた金属をそのまま周囲にばら蒔くような、そんな手当たり次第の滅茶苦茶な攻撃。

 

離れていた私達は軌道自体が単純で避けられたけど、アカテロに肉薄していたかっちゃんと轟は話が別。

避ける時間もなく、その攻撃の波に飲まれていく。

 

「っ━━━━━!眼鏡!アカテロに突っ込んで!!」

「なっ、しかしあれでは!」

「お願いっ!!まだ間に合う!!」

 

スクラップの波から爆音が聞こえるし、氷柱が見えてる。恐らくまだ二人とも意識はあるし、抵抗する余力も残ってる。けれど、このまま放っておけば、抵抗出来なくなれば、スクラップの圧力に潰される可能性は高い。

だから、今━━━━。

 

「━━━おしっ!殿は、俺の役目だろ!!飯田、緑谷!!ついてこい!!」

 

私の声を聞いてさっき使い捨ての盾にした、ボロ雑巾みたいになった切島が駆け出す。私はその背中に、心の中でちょっと謝る。さっきは肉壁にしてすまん、って。

 

眼鏡は少し悩んだものの、攻撃の波を掻き分け走る切島の背中に足を踏み出した。

 

「攻撃が激し過ぎる!流石にヴィランまでは行けそうにないぞ!!どうするつもりだ!緑谷くん!」

「私の個性の射程内まででいい!そこまで行けばっ・・・私には108も必殺技があるからね!遠距離必殺技くらいパッパラーだよ!!」

「パッパラーが何かは分からんが、頼むぞ!」

 

遠距離技は少ないけれど、ある。

けれど、この攻撃の波を押し退けて届かせる物は恐らく一つだけだ。アカテロやソキルに放ったニコちゃん砲。それも最大火力。

 

息を限界まで吸い込み、溜める。

眼鏡にしがみ付きながら射程内へ入る瞬間を待った。

ついに構えていた腕に個性が反応するのを感じ、私は溜め込んだそれを一気に吐き出す。

 

ニコちゃん108の必殺技。

ニコちゃん砲、強火、完全燃焼バージョン。

 

アカテロへと真っ直ぐ飛ぶ蒼炎はスクラップを焼きつくしながら進む。嵐のようなそこを強烈な熱波と共に。

けれどそれも長くは続かなかった。次第にスクラップに身を削られて炎が小さくなっていってしまう。結局アカテロの目と鼻の先に辿りつく頃には小さな火花しか残らず、それもスクラップの波に飲み込まれていった。

 

距離を詰めれば、何とかなる。

後三メートルだけでも近づければ、アカテロの意識を攻撃からこちらに向けさせられる威力はある。

けど、足の止まった切島の様子を見てれば、これが限界なのだ。もう一歩先に進む事すら難しい。

 

距離が足りない。

どうしても。

 

押し退けるパワーがあれば話は違うけど、さっき放ったのが最高火力だ。訓練していけば、これ以上があるかも知れないけど、今はこれが最高。

 

考えろ。

 

 

 

考えろ。

 

 

 

考えろっ!

 

 

 

隙間を縫っていけるような小さなコンクリを飛ばす。

駄目だ。火花をかき消す程の攻撃。届く前に砕け散る。万が一届いたとして、どれ程の威力が出るのか。散々に加速を邪魔された攻撃に。

 

本体を直接引っこ抜く。

駄目だ。挑発の為に個性を見せすぎだ。対策されてる。金属で体は固定されてる。何より個性の効果範囲ギリギリ、誘導だけならまだしもダメージを与えられる程強く引き寄せられるかと言われれば無理だ。近づけない以上、これは出来ない。

 

アカテロの近くにある物を引き寄せる個性でぶつける。

駄目だ。近くにある物の殆どが金属。アカテロの個性の力を押し退けて引き寄せられると思えない。埋もれて何かあるかも知れないけど、物がはっきりしないと引き寄せようがない。問題外だ。

 

引き寄せる個性の射程範囲内ギリギリ。

誘導は出来る。邪魔さえなければ炎は届く。届けば必ず意識が逸れる威力がある。だからぶつけるなら、炎だ。

 

なら、考えろ。何が必要だ。

届かせるのに、何がいる。

火力は勿論だけど━━━違う。違うっ!火力じゃない!

 

必要なのは届くこと。

火力は足りてる。

届かせること。

 

それが、何よりも必要。

届かせる。

炎を。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はまた、大きく息を吸い込んだ。

限界の限界まで溜める。

 

「緑谷!そろそろやべぇ!」

 

イメージ。

イメージする。

完成体を、そこに。

 

「緑谷くん!切島くんがっ━━━!」

 

炎が散らばってしまうなら、散らばらないようにすれば良い。

それでも散らばるなら、集まれば問題ない。

届くまで、形を保てばそれで万々歳。

 

私の引き寄せる個性を、炎に乗せる。

具体的にどうすれば良いかなんて分からないけど、体が私の全部を覚えてる。炎の噴き方も、物を引き寄せるやり方も。どこに力をいれて、どこに何が必要なのか、感覚的に把握してる。私は、私を知っている。

 

 

 

狙いを定め、私は溜め込んだそれを吐き出した。

吐き出したそれは蒼くもない。でも赤と呼ぶにはあまりに赤く、それはきっと真紅と呼ぶ方が正しい色合いだった。

 

炎は飛ぶ、真っ直ぐに。

 

蒼炎より速く。

蒼炎より激しく。

蒼炎より苛烈に。

 

真紅は止まらない。

何度散り散りになっても、お互いがお互いを引き寄せ合う。眼前の障害を焼き払いながら、眼前の障害に砕かれながら、また身を寄せ合い再生し更に過熱しながら。

まるで一つの槍のように真紅は走る。

 

 

 

 

「━━━━っ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

私の放ったそれはスクラップの波を抜けた。

アカテロの体に、その肩に、確かに突き刺さる。

スクラップの波は力を無くしたように地面に落ちていき、轟音が響いて埃が周囲を覆う。

 

段々と遠くなるアカテロの悲鳴と、ぼやけていく視界の中。私の目はアカテロに飛んでいく黄色の人影を見た。

矢鱈とムキムキした、よく見る背中。

 

周囲から響くオールマイトコールを聞きながら。

私も精一杯力を込めてノッた。

 

「今度こそぉ、やってくれるかなぁぁぁぁ!?」

 

 

「いいともっ━━━━━プルスウルトラァァァァァ!」

 

渾身の拳が放たれた。

突風が吹き荒れ、人を殴ったとは思えない程の轟音が鳴る。拳を受けたと思われるアカテロは、空へと木の葉のように舞い上がっていく。

 

物音に視線を落とせば、爆発したり氷柱が突き出したりする瓦礫の山を見つけた。

私はその光景を眺めながら、静かに目を閉じる。

 

めちゃ疲れたんですけど。

 

そんな愚痴を溢しながら。




シリアス「俺の出番終わりって、本当?」
シリアル「えっ、うん、まぁ、多分」

シリアス「左様か・・・」
シリアル「左様じゃ」


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大切なことは言葉に出して伝えないと分からないと思う派なので、私は今日も明日も明後日も貴方に伝えます。さぁ、私を崇め奉り、練乳よりちょいと甘いくらいに甘やかしてよ。と!の巻き。

映画編、後一二話?なんか地味に長かった気がする。
まぁ、特に後悔はないんだけども(*´ω`*)


アカテロ乱心の変が敢えなく終わった翌日。

見晴らしのいいタワーから眺めた風景の中には、昨日とうって変わってガランとしたエキスポエリアがあった。エキスポ開催は翌日に持ち越しだそうだ。

 

こんな惨事が起きた後じゃ、開催は絶望的かな?なんて誰かが言っていたけど、私としては寧ろ開催だけはするでしょ、と思っていたので結果こうなったのは理解出来る。こういったイベント事は間違いなく政治的な意味合いを含んでる。I・エキスポはI・アイランドの権威や価値を示す絶好の機会で・・・平たく言うと諸外国やらスポンサーの面々にうちって凄いでしょ?だからもっとお金出してよ。あと何かあったら守ってね。あとでごいすーなもんあげるからさ━━━っていうお祭りだ。多額の準備資金も時間も掛かってるだろうし、是が非でもやらない訳にはいかない。ついでに面子が掛かってるだろうし。

 

「━━━━緑谷少女、聞いてるかい?」

 

ぼんやり外を眺めてると、私の寝た後の事を教えにきてくれたガチムチが不安そうな声をあげた。

 

「えっ、はいはい。聞いてますよ。お昼は皆とバーベキューなんですよね?タノシミダナー」

「えぇぇ、今の話の中で記憶に残るのがそれかい?他にも色々重要な話したのに・・・」

「?箝口令の事ですか?それについては予想ついてましたし。何よりも人に話して犯罪者になるのは勘弁なんで誰にも言いませんよ」

「それも見越してだったか・・・・本当に君は・・・ずる賢いというか、なんというか・・・」

「いや、天才で良いじゃないですか。失礼な」

 

公に事件はセキュリティーシステムのトラブルによるセキュリティロボの暴走事故として片がつけられるらしい。タワー内にいた事件関係者にはI・アイランド当局の用意したシナリオ(例の開発アイテムとメリッサパパがご乱心した件をすっかり消し飛ばしたバージョン)が説明され、その上で箝口令が敷かれたそうだ。

 

メリッサパパはというと、今現在はタワー内の医療施設で警察組織の監視を受けながら療養中。取り調べは一通り終わり面会許可も降りたらしいけど、今は絶賛メリッサが面会中らしく、ガチムチは気をつかってまだ会いにいってないんだとか。ただ、メリッサパパが何をしたのかは私が爆睡してる間に色々聞いたようなので、何も知らない訳ではないみたいだけど。

 

それで私とかかっちゃんとか、色々と頑張っちゃった連中の処分だけど・・・・個性を使ってテロリストと対峙したことは私も含めてしこたま怒られたものの、今回の件で私らがしょっぴかれる事もないし、公式な記録としても何か残ることはないそうだ━━━というか、タワーでの出来事は何も残さないそうだ。映像も音声も、文書による記録も。本当になにもかも。

 

まぁ、こんな事がどっかから漏れて公の場にでちゃうと、それこそ事件の発端となったメリッサパパのなんちゃら装置の話をしなきゃならないし、それこそI・アイランドが秘密にしておきたい話だろうし、ていうか世界的権威がテロリスト手引きしましたーなんて外聞悪過ぎるしね。言えるわけないよね。色んな意味で。マジで。

 

ガチムチはI・アイランド当局が私達の将来に汚点がつかないように、なんて粋な計らい風に言ってたけど実際はさ『お前らがやった事は罪に問わないでおいてあげるし、これから関わりも持たないよ!本当だよ?本当!!だからねぇ、その代わりにねぇ、全部黙っておいてね?I・アイランドおじさんとの約束だゾ!立派なヒーローになるんだゾ!』って事ですよね。はい、とてもよく分かりますぅ。破ったら終わるやつですね。はい、怖い。はい、怖いぃー。社会に出る前から、社会の闇を見せないでぇー。すこやかに育てないんですけどー。━━━てか、捕まった連中、本当に警察組織に捕らえられてんの?いる?留置場に?なんか別の所で拷問とか受けてない?寧ろ消されてない?果てしなく怖いんだけどぉぉーーー。

 

そんな風にI・アイランドおじさんとアカテロ達の事を考えてると、ガチムチがくそ重い溜息をついた。美少女の顔を見てなんて失礼な。熱に浮かれた溜息をつくが良い。いや、ガチムチにそれをつかれてもアレだけどさ。

 

「・・・・緑谷少女、今回は悪かったね。これは、恐らく私の愚かさが招いた事だ」

 

何を言うのかと思えば謝ってきましたよ。

どしたのガチムチ。

視線で先を促せば寂しそうな顔でガチムチは続けた。

 

「デイヴの抱えた不安に、私がもっと早く気づいていれば・・・こんな事にはならなかった筈だ。以前君は言ったね『一人で笑う貴方が怖い』と。どうやら私は・・・本当に一人で笑っていたらしい。彼の苦しみも、葛藤も気づかず・・・・何が親友か、本当に情けない話さ」

 

ガチムチはガリガリでちっさい体を更に小さくして、しょんぼりと項垂れてしまう。いい大人が子供にそんな話しないで欲しい・・・と言いたい所だけど、今回は本当にまいってそうなので慰めてあげるとしますか。なんていったって、双虎ちゃんの半分は優しさで出来てるからね。

 

「ガチムチ、なんていうか、その、ドンマイ」

「慰めてくれようとしてるのは何となく分かるんだけど、もう少しなんか無かったかな?」

「ジュース奢ったげるからさ、元気だしなよ。トシ」

「いや、誰がトシ・・・・いや、トシで間違ってはいないけど!デイヴからそう呼ばれてるけどもね?!」

 

ちょっとガチムチの元気が出てきたので、双虎ちゃんの小粋なジョークは終わりにしておく。私も、少し気持ちは分かるし。

 

「まぁ、おふざけはこの辺りに。実際の所、ガチムチには気づくチャンスはあったと思います。電話で話した時も、前に会っただろう時も、他にも一杯・・・でもやっぱり、それは難しい事で、仕方なかったと思いますよ」

「そうだろうか・・・私は、少なくとも私は、親友だと思っていたんだが」

「それを言うなら、私だってかっちゃんの気持ち分かってませんでしたし」

 

そう言うと、ガチムチは目を丸くした。

 

「ガチムチと違って、ほぼ毎日顔を合わせてますけど、呆れるくらい一緒に遊んできましたけど・・・でもやっぱり、知らない事は幾らでもあると思います」

 

「中学の頃とかは会わなかった訳じゃないけど、でも今よりずっと距離があった気がするし・・・進路の事でちょっかいかけられる前とか、本当に朝とか帰りとかに顔合わせるくらいで、だから、かっちゃんが割と本気で登山趣味にしてるとか知らなかったですし?うけますよねー登山趣味ですよ!中学生らしくねぇー、もっとあるだろうって」

 

「━━━━それに、乱暴ですけど、あんな風に守ってくれようとしてた事とか、私は知りませんでしたし・・・・・・・まっ、まぁ、人の気持ちって、きっと簡単に分かるようなもんじゃないんですよって話ですよ!おわり!」

 

なんかむず痒くなってきて話を終わらせると、ガチムチはうっすらと笑みを浮かべた。

 

「・・・・まぁ、そうか。そう言われると、もうそうだね、としか言えないかな。うん。君も爆豪くんの気持ちに気づかないしね。うん。仕方ないかぁ」

「そうですよ・・・・何だろう、少し馬鹿にされてる気が?━━━━ん?」

 

ガチムチと話してると廊下がバタバタと煩くなってきた。なんか聞き覚えのある怒鳴り声とか聞こえてくる。ガチムチに視線を戻せば苦笑いが返ってきた。

 

「君が目を覚ました事を教えたからね。仕方ないさ」

「お互い人気者は辛いですねー」

「HAHAHA、なら人気者の先輩としてアドバイスだ━━━━君が見せられる、最高の笑顔を皆に見せてやりなさい。それが私達が返せる、何よりのプレゼントさ」

 

ガチムチが言い終わると同時、慌ただしく扉が開いた。

 

「やかぁしぃわ!てめぇら、病室で騒ぐんじゃねぇ!どこだと思ってんだ、ごらぁ!」

「いや、爆豪くん!!君の方がずっと煩いぞ!それにクラスメートにその物言いは如何な━━━」

「まぁまぁ、飯田。爆豪も緑谷復活にちょっと興奮してるだけだからさ!なっ、勘弁してやれって。おっす、緑谷!元気そうだな」

「ニコちゃん!!体大丈夫!?いきなり爆睡して、そのまま起きひんから心配したよ!あっ、轟くんがお見舞いに甘い物買ってくれたよ」

「緑谷、シュークリーム買ってきたぞ」

「それなら私が紅茶を淹れますわね」

「ヤオモモ。紅茶より先に、一応緑谷の心配してあげなって」

 

I・アイランドにバイトで来てる二人と、絶賛親子愛確認中なメリッサを除いた皆がやってきて、さっきまで静かだった部屋は一気に賑やかになった。というか、煩いまである。まったくゾロゾロゾロゾロと、ここはラスボスの部屋ではないんですけど。寧ろ、アイドルの部屋なんですけど。

 

私は差し出されたシュークリームの箱を貰いつつ、ガチムチに言われた通り皆へ笑顔を返した。今出来る一番で、最高で、精一杯の笑顔を。

 

「・・・で、かっちゃんのお見舞いは?」

「ああ?んなもんあるか。どうせもう退院だろうが」

「なんだとぉぉぉ!?おまっ、この野郎!なんの為に微笑んでやったと思ってんだ!!笑顔返品しろぉ!!」

「むちゃくちゃ言ってんじゃねぇ、馬鹿。」

 

 

 

 

 

「HAHAHA、青春だなぁ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

嵐のような夜が終わって、私は漸くパパの隣にいた。

親子二人きりだったら良かったけど、残念な事に真っ白な病室の中には監視役のスーツを着た人達が残ってる。良い感情は浮かばないけれど、文句を言う気にはなれない。パパがした事を考えれば、私がこうして会うことが出来ること自体あり得ない筈だから。

 

「・・・メリッサ、すまない」

 

何度目か分からない言葉に、私はパパの手を握る。

子供の頃いつも大きいと思っていた手。

今は少しだけ小さく感じる。

 

でも、あの頃と何も変わらない大好きな手だ。

 

「一杯聞いたよ。大丈夫。私は大丈夫だから」

「あぁ、それも、一杯聞いてしまったな。ははは、情けないな。君にとって、自慢の出来る父でいるべきだったのにな」

「今でも尊敬してるわ。パパは世界一だもの。私ね、結婚するならパパみたいな人にするって、そう決めてるの」

 

その言葉にパパは困ったように笑う。

 

「それは、何とも・・・困ったな。私が言うのもなんだが、ここまでくるのに、それなりに大変だったのだが」

「あら、人柄だって大切よ?」

「ははっ、君の彼氏はさぞ苦労するだろうな。もし候補がいるなら、陰ながら応援させて貰うよ」

「そこは『私の娘と付き合いたければ、私を倒していけー』みたいな事言うんじゃないの?男親はそうだって描いてあったわ」

「何に影響されたのかな?当てようか。んー、以前トシからプレゼントされたマンガじゃないかな。よくラブロマンスを読んでいただろう?」

 

パパの自慢げな顔に思わず笑ってしまう。

私の笑顔を見て「違うのかい?」と不思議そうに首を傾げる。

 

「ラブロマンスは読んでたのはパパでしょ?難しい顔して『年頃の子はこういう物を読むのか』って唸ってたじゃない。私おかしくって、ふふ」

「あっ、いや、あれは、そのなんていうかな・・・はぁ、見られていたのか。参ったな」

「日本のラブロマンスは結構過激だからって聞いて、心配だったんでしょ。マイトおじさまと話してたものね」

「降参だ、メリッサ。君は随分と大人だったみたいだ。ガールではなく、レディーと呼ぶようにしよう。レディー・メリッサ」

「もぅっ、やめてよ、パパ。ふふ」

 

それからも、パパと何でもない話を沢山した。

暫く忙しくて話せなかった、意味なんて殆んどない無駄話。小さかった頃みたいにパパは一つ一つ、私の話を聞いて色んな言葉を返してくれた。時折変な所に引っ掛かりを覚えて個性学に絡めて話し出したり、パパはやっぱりパパらしくて話はいつまでも続いた。

 

気がつけば窓の外はオレンジ色に染まっていた。

監視役の人からも退出時間を伝えられ、時計の音が少し気になり始める。

 

あと何の話をしようか。

 

カチカチと鳴る時計の音に耳を傾けながら、私が次の言葉を探していると「メリッサ」とパパの声が部屋に響いた。視線をあげると、真剣な目をしたパパがそこにいた。

 

「メリッサ、君は・・・どうなりたい?」

 

言葉は少し足りなかったけど、でも言いたい事は分かった。

 

「私は・・・・ヒーローのサポートアイテム開発に携われる・・・そういう研究者になりたい」

「・・・そうか。それは今も変わらないのかい」

「うん」

 

頷いた私にパパは目を閉じた。

それから少しの間をおいてパパは目を見開き、私の目を真っ直ぐに見る。

 

「恐らくこれから、君は私の行いのせいで、とても不利な立場に立つだろう。ヒーローに、個性に、サポートアイテムに・・・私が関わっていた分野に君が関わろうとすれば、君の出した研究成果の内容に関わらず不当な評価を得る可能性がある。私の娘である君に、I・アイランド当局が良い顔をするとは思えない」

 

「それにI・アイランドは私が仕出かした事を全力で揉み消そうとするだろうが、聡い人達は私の今後の様子から今回の件に気づく者がいるだろう。極秘に開発は行っていたが、システム構築をする為に協力者は多くいた。そういった所から漏れる可能性はある。その結果、君には私が背負うべきだった不名誉がまとわりつくだろう」

 

「私が言える事ではない。そんな資格はとうに失っているだろう。こんな愚かな選択をしてしまった、その時に。だが、それでも、君の父親として、これだけは言わせてくれ」

 

「メリッサ。それでも君は、研究者を目指すか」

 

ずっと、考えていたんだろう。

マイトおじさまの為に名誉も富も信頼も、積み上げてきた何もかも捨てるつもりだったのに。

それでも考えていたのだろう。私のこれからの事を。

 

そしてきっと、全部準備があるのだろう。

 

「無理に、私を目指さなくて良い。君には、君の人生が、幸せがある。・・・君のお母さんの妹、叔母さんにあたる人と話はついている。私に何かあれば、娘の事を頼むと。気さくな人でね、その時は是非にと喜ばれてしまった。君は覚えてないだろうが、赤ん坊の君をよくあやしてくれたんだ。I・アイランドに入る事が決まってから、少しばかり疎遠になってしまったが確認はとってある・・・・場所は田舎だけれど━━━━」

「パパ」

 

私の声にパパの目が揺れた。

 

「私の夢はね、今も変わらない。子供の頃、パパに教えたままなの。ヒーローになりたいの。でも、マイトおじさまみたいな、現場で活躍するヒーローじゃない」

 

「マイトおじさまの為に、色んなアイテムを開発して沢山助けてきた・・・・パパみたいな、ヒーローを助けるヒーローになりたい」

 

「だから私はここで、研究者を目指すわ」

 

それが大変な道なのは分かってる。

私も馬鹿じゃない。

きっと辛い事だらけなんだと思う。

 

「・・・・そう、か。そうか・・・・そうか・・・・」

 

顔を抑えた指の隙間から、光が伝っていった。

 

「そうか・・・・すまな・・・違うな。きっと、これは違う。こんな言葉は、君に言うべきじゃないな」

 

顔から手を離したパパは、涙で滲む真っ赤になった目で私を見つめる。

 

「応援しているよ。メリッサ。ずっと、君の側で」

「うん、パパっ」

 

返事が少し歪んでしまった。

そうしたら視界が急にぼやけて。

頬を熱いものが伝っていった。

 

パパは私の頭をそっと胸に抱くと、昔のように頭を撫でてくれた。いつまでも、いつまでも。私の頬を伝うそれが、すっかり枯れてしまうまで。

 



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別れ際に悲しい話をするな!余計に悲しくなるだろ!じゃぁなんの話するのかって?ええっと、えぇぇぇ、じゃぁ、好きなおでんの具の話しようか。私ね、卵。断然、卵。の巻き

映画編は終わりー。
長々とお付き合い頂いてありがとー( *・ω・)ノ

おまけ閑話をもう一話あげるとは思うけど、まぁ、おまけは所詮おまけじゃけぇ。そっちはそっち。のーかんや。


「いつまで寝てやがる、このボケ」

 

不機嫌な声に目を開けると、そこには正しく不機嫌な顔をした我が幼馴染かっちゃんの姿があった。

寝ぼけ眼を擦りながら体を起こして、部屋を見渡してみる。家具の位置はそのまま、私のトランクケースは昨日置いた場所、テーブルにはお土産が山になってる。食べ散らかしたおやつの袋もゴミ箱からチラチラしてる。

うむ、間違いない。私の部屋だね。

 

誤ってかっちゃんの部屋で寝ちゃったのかと、一瞬ガチで勘違いしてしまった。めちゃ焦った。ガチムチとかに変な誤解とかされたらキツイからね。けどそうじゃないなら問題ない。

 

もう一度ベッドに体を預けた私はシルクのシーツに何度か頬擦りして感触を味わい、再び高級抱き枕をぎゅっとして目を瞑った。・・・・ぐぅ。

 

「起きろってんだろうが!!チェックアウト所か、とっくに昼まで過ぎてフライト時間なんだよ、この馬鹿が!!起きろや!!」

「あだっ!?」

 

女の子にするとは思えないチョップ。痛みと共に私の大切な知能指数が減っていく。きっと3は無くなった。馬鹿になったらどうすんの!?シンジラレナーィ!!

 

「女の子の頭、ポンポン叩いて!頭おかしいんじゃないの!?馬鹿なんじゃないの!?女の子には優しくしないといけないって、かっちゃんパパも言ってるじゃん!いつになったら覚えるの!?それともなに!?爆発する度記憶もポーンしてるの!?メモリーカード差してやろうか!!8MBのメモリーカード差してやろうか!!まったく!爆発するのは髪型だけにしてよ!!ボンバッちゃん!」

「誰がボンバッちゃんだごら!!帰りの便が同じ筈のてめぇがっ!いつまで経っても来やがらねぇから!!何してやがんのかと思えば・・・なんでてめぇ、昨日は五時から嫌がらせ電話する気力があって、出発の今日に限って寝てんだ!?オールマイトからの『私の手に負えないから起こしにきてくれ』なんてふざけた連絡で、んで俺が、空港からダッシュしなきゃなんねんだよ!!ふざけんな、ああん!?」

「勝手に走っといて文句言わないでくれますぅ!?競歩すれば良かったじゃん!?シュパシュパ歩けば良かったじゃん!?足腰はなんの為に鍛えてんの!?この為でしょ!!」

「少なくともこの為ではねぇよ!!ぶっ飛ばすぞ!!」

「ああん?!やんのか、のらーーー!!」

 

お互い睨み合いながら胸ぐらを掴みあった所で、廊下の方から「緑谷少女、爆豪少年、そろそろ出ないと不味いんだけど・・・」とガチムチの頼りない声が聞こえてきた。そう言われて時間を確認すれば、確かに争ってる時間は無さそう。

 

かっちゃんに視線を向ければ、考える事は一緒なのか目が合う。数秒のアイコンタクト。それからどちらともなく手を離した。

 

「ちっ、おい準備しろ」

「言われなくても・・・・帰ったらKO●2002で決着ね。逃げんなよ」

 

私のお土産をまとめ始めようとしていた、かっちゃんの手がピタリと止まった。チラッとこっちを見たかっちゃんの眉間には、ぐぐぐいっとシワを寄ってる。

 

「てめぇがハメ技しねぇならな」

「・・・・・ハメ技はする」

「なら、俺もやるからな」

「かっちゃんは駄目。あと、かっちゃんはキャラランダムだからね。選んじゃ駄目」

「んな理不尽な勝負あってたまるか」

 

かっちゃんに片付けを任せ、私はバスルームでシュパパパッと身支度。鏡でポニーテールの出来をばっちり確かめてから纏めた荷物をかっちゃんにライドさせ部屋を出発。数日過ごした高級ホテルにサヨナラグッバイ。あんなベッド、大人になったら買うんだーっと心に決めて、はいよー、爆号!空港まで進めぇ!

 

まだまだえきぽんで賑わう街を駆け抜けて少し、この島に来たとき最初に見た馬鹿デカイ空港に着いた。いや、着いたというより戻ってきたというか。ね。

 

空港の入り口を潜って直ぐ、待っていてくれたっぽい同じ飛行機組の皆の姿を発見。集結した女子~ズWith切島に手を振ればお茶子が少し怒り顔で「ニ~コ~ちゃ~ん~!!」と迫ってくる。おこやん。

 

「だから、昨日、あれっほど!無駄話も程ほどにして、はよ寝よういうたのにぃ!お昼一緒に食べる約束もすっぽかして!!それに、飛行機乗り遅れたらどないするつもりやったん!!」

「せやかて、お茶子」

「せやかても、しかしも、でもも、だっても、butもないの!ニコちゃんだけやのうて、オールマイトも困るんやからね!!帰りの飛行機代もただやないんよ!誰のチケットで来てるの!言うてみ!」

「へ、へいっしゅ!ガチムチです!」

 

「お茶子さん、随分心配してましたもの。怒るのは仕方ないですわ」

「けろっ、お茶子ちゃん、お母さんみたいね」

「ニコのお母さんとかぁ、大変そうーだぁねぇー」

「そうだぁねぇー三奈ばあさんやぁー」

「何ポジなの、バカ2」

 

「爆豪お疲れな!」

「っせぇ。疲れとらんわ」

 

ああ、あっちから陽気な会話が聞こえてくるのに!こ、怖い、こっちは怖いよ!空気が違う!お茶子怖い!!お金が絡むとほんと鬼のように怒るな、お茶子はっ!

前も買い物いった時とか、服買う時とかお菓子買う時とかは特別なんも言わないのに、蛇のオモチャ買おうとしたら「こんなん何に使うん?」「無駄遣いは感心せんよ?」「いや、絶対そんな使うことないて」「いらんて」「いや、いらん」「せやから買うないうてるやろ!!元あった所においてきー!」って滅茶苦茶怒られたもんな。あれ欲しかったのに。あのクネクネ感が良かったのにぃ。いや、まぁ、確かにそこまで欲しくもなかったけども。

 

お茶子のお説教熱が一段ヒートアップした所で、百と耳郎ちゃんがお茶子の肩をぐいっと引き寄せた。

 

「お茶子さん、緑谷さんを叱るのも程ほどに。私達もそろそろお時間ですから」

「そうそう。緑谷へのお説教は向こうついてから、しこたまやれば良いからさ。帰ろ帰ろ」

 

「ちょっ!二人共!まだ話は━━━━あっ・・・・」

 

抵抗しようとしてたお茶子の動きが止まった。

お茶子の視線の先へ顔を向ければ、息を切らして走ってくる人影が見えた。金色の髪を揺らして走る、I・アイランドで出来た友達の姿が。

「ニコさん・・・!」

「やほ、メリッサ」

 

メリッサは額に大粒の汗をかきながら私の元まで駆け込んできて、盛大に足をもつれさせてすっこけた。それはもう見事なこけっぷりで、メリッサのエンターテイナーとしての輝きを見た気がする。━━━━とまぁ、ふざけるのは程ほどにして、引き寄せる個性でぐいっとやってキャッチしてあげた。よしよし、いきが良いねぇ。

 

「ごっ、ごめんなさい!━━━ふふっ、でもまた助けられちゃったわね」

「そりゃ、助けるともさ。目の前で盛大におコケなさってくれたからねぇー。おっちょこちょいも程々にしないと、その内大怪我するよ?・・・・かっちゃんみたいにっ!」

 

「おい、こら。誰がおっちょこちょいだ。ぶん殴るぞ」

 

おっちょこちょいだろうがぁ!!タワーをグルグルさ迷ってたのは聞いたからな!!切島に!!いや、切島は自分が迷ったとか言いはってたけど!!信じない!私は信じない!!かっちゃんは変な所でいつもやらか━━━━いぎゃぁぁぁぁぁ!!アイアンくローはやめろぉぉぉぉ!!地味に握力鬼みたいなんだからっぁぁぁぁぁ!!でる!何かでちゃ、あっ、なんか良い匂いする。なにこれれれれれっ、だだだだ!!わかったっ!嗅がないっ!嗅がないからぁ!!

 

アイアンクローから逃れた後、私はメリッサと改めて向き合った。メリッサは頭を擦る私を見て凄く楽しそう。曇ってた顔で謝られたりするよりずっと良いから構わないけど・・・・ちょっと笑い過ぎじゃありませんこと?

 

「めぇぇるるるりぃっすわぁ?」

「ふふふっ、ごめ、ごめんなさい。でもおかしくって。ふふふ、ドレスと一緒で、よくお似合いよ。二人とも」

「んんんん?ドレスぅ?」

 

じっと見つめると漸くメリッサは口を押さえて笑うのを止めた。まだめちゃくちゃプスプス空気漏れてるけど。

もう、まったく。

 

呆れた視線を向けると、メリッサは私の目を真っ直ぐに見てきた。口元は弧を描いてるけど、さっきとは少し違う笑み。

 

「本当はね、言いたい事、沢山あったの。短い間だったけど楽しかったって・・・パパのこと助けてくれて感謝してるんだって・・・怪我をさせてごめんなさいって。他にも沢山。でも、でもねっ、ニコさんを見て分かったわ。私があなたに掛ける言葉」

 

メリッサは笑顔を見せてきた。

それまで見せてきた中でも、一番の笑顔を。

 

「ありがとう、ニコ。また会いましょうね!」

 

そう言って差し出された手に、私も掌を伸ばした。

触れあった掌がしっかりと握られる。

力強いそれには、メリッサの精一杯の気持ちが籠っていた。

 

慰めの言葉とか、一応色々と考えていたんだけど・・・どうやら無駄になったみたい。

私が考えてるよりずっと、メリッサは強かったみたいだから。

 

「メリッサ・・・今度は電池長持ちしさせた上で、全機能も超進化させた最強ゴーグル卸してね!格安で!」

 

返した言葉にメリッサは楽しそうに笑い声をあげた。

 

「良いわよ!ニコになら、特別価格で提供してあげる!ニコのおかげでデータが取れたし、きっと良いものが出来るわ!でも、その分しっかり宣伝してよね?ニコの宣伝不足で売れなかったら、在庫の山押し付けちゃうんだから!」

「在庫の山売った場合、私の取り分は?」

「2:8ね。ニコが2」

「メリッサ、意外とがめついなぁ。それ殆んど私が頑張るんだから4:6くらいにはしてよ」

「もう、慈善事業じゃないのよ?開発費だってあるし・・・じゃぁ3:7まで譲歩してあげる」

「3.5:6.5!ビター文まからん!」

「ニコ、人のこと言えないわよ?」

 

それからなんやかんや試作品のモニターを引き受ける事を約束したり、ゴーグルに欲しい追加システムの話したり、ゴーグルの調整役として発目を紹介したり・・・別れの会話にしては、風情もくそもへったくれもないいやに現実的なお話をがっつりした。周りはガチムチも含めて呆れてたけど、メリッサはやる気に満ちていて「9月には試作品を送るわ!」と意気込んでいたので、仮にこれが今生の別れだろうと本望だと思う。というか、私にセンチメンタルを求めないで。無理だから。そういうの。

 

空港のゲートを潜る時。

メリッサから大きな声を掛けられた。

少しも疑いもなく、私には似合わないそれを。

 

「じゃぁね!マイヒーロー!」

 

私はただ手を振り返した。

友達の言葉に。

精一杯に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ゴーグル売る時はガチで手伝ってね。かっちゃん」

「俺に頼むくらいなら、端から安請け合いすんな。大馬鹿が」

「まぁまぁ」

「まぁまぁじゃねぇわ」

 



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ヤクザ編どうしようか悩みながら書いた『The fourt eyes monster sings a miracle』の閑話の巻き

ヤクザ編、アニメやってから書こうかなぁ(´・ω・`)


長き人生の中、ワシは幾つか知った事がある。

人はどうしようもなく愚かで、酷く脆く、救いがたい存在ではある事。そしてその愚かで脆く救いがたい人は、時として人智を遥かに凌駕する奇跡を起こす事━━━世界はまだ、ワシを落胆させる程、退屈には出来ていないのだという事を。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はははっ、ははは、ははははははは!!」

 

流れる映像に笑いが止まらなかった。

初めは単なる個性移植者のサンプル映像、つまらない研究資料の一つになると思っていた。だがどうだ。ワシの目の前に広がるそれは。それこそ、これこそっ!ワシが求めていたモノだ。やはり人は、やはり人はっ、どこまでも愚かで、どこまでも救いがたく、そして━━━━かくも美しい奇跡を生み出す。ワシら科学に通ずるものでさえ及ばぬ人智のその向こうにあるそれを、理外の向こうにあるそれを。

 

『ぐああああああっ!?なっ、何がっ、起きてっ!?腕がっ!!俺の、腕がっ!焼けっ、やけて!!あああああああ!!』

 

モニターから流れる被験体の悲鳴すら、ワシを祝福せんとする福音に聞こえる。そうだ。お前のような有象無象が、どうこう出来る代物ではない。この奇跡の前では、こやつようなたかが個性一つ受け入れる事が精一杯な役立たずのジャンクは、形を残す事すら烏滸がましい。

 

ワシは映像を巻き戻し、それを見つめた。

 

荒いカメラの画像の中、一人の少女の姿が映る。

正に満身創痍といった様子の彼女は、何か意を決したように息を吸い込み構える。

 

そして、そしてだ。

これだ。

 

少女の口から吐き出されたのは、リチウムの炎色反応とよく似た深紅の炎。だが炎に秘められたそれは、リチウムが見せる安い光とは一線を画すモノ。灼熱と呼ぶに相応しいそれは、正に奇跡の産物なのだ。

 

吐き出された炎は人の肌を雑作もなく容易く焼き尽くし、鋼鉄すら一瞬で溶かし尽くす超高温。瞬間的な火力で言えば、あのエンデヴァーに匹敵するだろう。

だが、だ。だが、本来見るべき所はそこではない。

 

モニターをコマ送りにし、ワシはその奇跡に瞠目する。

金属片の波の物量を前に霧散し、驚異的かつ異常な速さで再び集まる深紅の炎の姿を。以前、彼女は似たような真似をした。全国区で放映された、その映像の中で。

 

彼女の個性は文字に起こせば他愛ないモノ。物を引き寄せる個性、それが彼女の力。されど、その個性はその文字にはない、一つの可能性に到達した。本来彼女の個性は己と指定した対象物の間に引力に似た力場を発生させるものだった。だが、彼女は、戦いの最中個性の対象物を、己から切り離す事に成功したのだ。

そしてその上で彼女は炎という、それまで対象にしてきた物質と比べて観測し難いプラズマに対し、空間が湾曲して見える程の出力で個性を発動した。

 

それはあまりに不安定な発動で、直後に操作不能に陥り集束したエネルギーが暴発したが、確かに彼女は一つ個性の極地へと足を踏み入れた。

 

そして彼女のそれは、今に繋がる。

 

「ははははっ、何度見ても、素晴らしい」

 

熱を視認できるサーモグラフィーへ画面を切り替えれば、それが如実にワシの目に映る。炎だけではない熱その物に意志があるように、彼女の放ったそれは常に集束し圧縮し続けている。光すらその身に留めようと、モニターに映る熱の流動は異常の一言に尽きた。

 

映像を正しく分析するならば、彼女の炎は対象物に引き寄せられているだけではなく、炎自身が熱を集束させる驚異的な引力を発動しているのだろう。

そう、炎その物が、だ。

 

体育祭の映像から分かる通り、あの個性は対象物の変成に極端に弱い。事実その出力低下は著しく、布切れ一枚引き寄せる事が出来なかった。つまり引き寄せる個性で、それは本来あり得ない事なのだ。

 

炎はあまりに歪で、集束の影響から常に変成し続けている。体育祭の時同様に引き寄せる対象を極限まで拡大させれば話は別だろうが、この炎に関していえば基本的に流動しているのは熱だけ。ここまで変成している炎を引き寄せ続けることなど、出来る訳もない。ならば、だ。ならば、何故こうも個性の力が働くのか。

 

答えは至ってシンプル。

 

吐き出された炎その物に、自らの放出する熱を集束する力があるからだ。そう、彼女は混ぜ合わせたのだ。自らの意思で、個性の特性を融合した。新たな力を、個性を、己で作り上げたのだ。

 

「ああ、素晴らしい」

 

これは奇跡だ。紛れもない、奇跡。

 

人為的に個性を融合した者は、未だかつて存在しない。

先生のように組み合わせて使う者はいたが、あくまでそれは組み合わせているだけだ。個性が反発しないようにバランスを取り、ただ同時に発動しているだけ。個性の融合とは天と地ほど違う、別の所業。

 

「欲しいな、欲しい」

 

この検体が欲しい。

もしこの現象を正確に解析出来れば、個性によって形成された社会がひっくり返る。個性の融合によって得られる物は、情報は、数知れないだろう。自由自在に新たな個性を作り出す事が出来るのは勿論、もしかすれば誰にもなし得なかった個性因子の解明すら可能かも知れない。

 

「あぁ、欲しい。欲しいなぁ、この検体がっ」

 

何度見ても、何度見ても。

ワシには理解出来ん、その奇跡の産物が。

 

手に入るのなら、出来る限り大切に保管し、ありとあらゆるデータを取ろう。頭の天辺から足の爪先まで、指一本一本まで、正確に計測しよう。採血し、そこに含まれる成分を分析しよう。可能なら解剖したい所だが、いやいや、それをするにしても一番最後にした方が無難だろうなぁ。個性使用時の肉体的な反応や個性因子の動きを見る必要がある。それならクローン体を作ってみるべきか。遺伝子情報が変わらなければ、ある程度の成果も・・・・いや、いや、個性因子は何とも気紛れだからな。

 

 

 

『随分とご機嫌じゃないか、ドクター』

 

 

 

モニターに目を奪われていると、聞きなれた先生の声がスピーカーから響いてきた。先生の個性については理解はあるが、よもやワシの部屋にまで感知が及んでいるとは思わずほんの僅かだが動揺してしまった。すると、先生が笑い声をあげる。

 

『そんなに驚くことないじゃぁないか、ドクター。僕は随分前から話し掛けていたんだよ?それに、知らずに僕の所に回線を繋げたのはドクターの方さ。手元を見ることをオススメするよ』

 

言われて手元へと視線を下ろせば、確かにワシ自身が先生の部屋に繋がる通信機の電源を入れていた。悪い癖だ。考えに夢中になると周りが見えなくなる。

 

「すまなかった、先生。面白いものを見つけてしまってな」

『ほぅ、ドクターが面白い・・・ね。それは随分興味をそそられる話だ。でもまぁ、その話は後に聞くとして、件の彼がどうなったか知りたい所なんだけど、そろそろ情報はあがってないかな?』

「それなら丁度良い。今その映像を見ていた所だ。直ぐ先生の部屋で鑑賞会と行こう。話したい事もある」

『そうか。楽しみにしているよ、ドクター』

 

楽しげな先生の声に、ワシは通信を切る手を止めた。

先生もそれに気づいたのか『どうかしたのかい?』と不思議そうに尋ねてくる。

 

「先生、一つだけ確認したい事があるのだが」

 

ワシの声に先生から伝わる雰囲気が変わった。

発言によっては、先生の不興を買う可能性もある。

だが、口にしないという選択は選べなかった。

 

「以前の、先生のお気に入りの事だが・・・・場合によってはワシが貰い受ける事は可能だろうか」

『んー?ドクターが異性に興味持つのは意外だなぁ。何か悪い物でも口にしたのかな?ははは。━━━しかし、随分おかしな事を聞くね。まるで彼女が僕の物みたいな語り口じゃないか』

「違うのかね?」

『違うとも。彼女は彼女だけのものさ。当然だろう?』

 

軽い口調で先生は詭弁を口する。

言葉通り受け取れば自由にしろと言っているのだろうが、これは間違いなく警告だろう。自分の玩具へと関心を向けた、ワシに向けての。余計な真似はするなと、そう言っているのだろう。

 

「先生、聞いてくれ。彼女は、もしかすれば先生の体を治す切っ掛けになるやもしれん」

『僕の体を?それは嬉しいな。けれど、本当はドクターが単に彼女を弄り回したいだけだろう?』

「それはっ、否定はせん。可能ならば生体データの全てを記録し、各種実験し、そのままサンプルとして保管したいくらいだ。だがな、先生にも利はあるであろう?体が治るのであれば、後継などという物に頭を悩ませる必要はない。再び、先生の時代が始まる」

 

ワシの言葉に静寂が訪れた。

少しの間を、されど先生にしては長い間を持って、先生の声が再び部屋に響く。否と。

 

『僕にも利はあるとは言ったけど、それはまだ可能性の話だろう?それもかなり低い可能性だ。それじゃ彼女を使い潰す理由には、些か足りないね。あまりに勿体ない』

「であれば、可能な限り現状を維持する。後遺症の出ない実験であれば問題もあるまい」

『そういう話ではないんだけどなぁ、ははは。まったくドクターは仕方ないね。機会があれば、考えておくよ』

 

先程の詭弁を嘘のように、先生はまるで彼女を所有物のように語る。こういう所が本当に恐ろしい。これに気づかず、一体何人の人間が・・・いやいや、あのような頭の回らぬ連中など何人いても意味などないか。検体として体を提供出来たのだ、寧ろ誉れであろう。

 

『━━━さて、ドクター。部屋で待っているから、出来るだけ早く頼むよ。ここ最近の唯一の楽しみなんだ』

「先生らしい、趣味の良い娯楽だな」

『ドクターには負けるさ』

 

そう言われてしまえば、ワシは笑うしかない。

人の事など言えた義理ではないからな。

 

「折角の鑑賞会なら、ポップコーンとコーラでも差し入れるか。先生」

『はははっ、そいつは良い提案だ。けれど、今日の所は遠慮しておくよ。僕は静かに鑑賞するのが好きでね。・・・しかし、ふふっ、ドクターが冗談を言うなんてどんな風の吹き回しだい?』

「なに、久方ぶりに良いものが見れたのでね。年甲斐もなく興奮しているだけじゃよ」

 

通信を切るとモニターの音が耳についた。

そこへと視線をやればオールマイトに拳を叩き込まれ、苦悶の表情と共に声にならない叫びをあげ落ちていく被験体の姿が見える。移植した個性と装置の反動か、被験体の体は著しく劣化していく。碌に調整もしてない以上、ある意味では当然の結果ではあるが、何ともつまらない結果になったものだと溜息が溢れる。

 

被験体の記録をまとめていると、ペタペタと床を叩く足音が聞こえてきた。振り返れば小さなそれがのそのそと歩いてくる姿がある。

 

「おお、おいでジョンちゃん」

 

手を伸ばせば小さなそれはワシの腕の中に飛び込んできた。軽く様子を確認したが、生体としての異常は今の所見受けられない。ジョンちゃんの個性の範囲の狭さに、若干の調整不足感を感じるが、それは追々で良かろう。慌てる事もない。

 

ジョンちゃんを床に戻し、残りの記録をまとめてからワシは部屋を出た。退屈している、先生の元へ向かって。



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十一期:仁義なきアウトレンジビヨンド:こいつら皆、遠距離攻撃しかしねぇな編
『声の届かぬ、その場所で』のプロローグな閑話の巻き


ヤクザ編、プロローグ始めました( ;∀;)
ちょち短くてすまんな。


もう随分と前、いつだったか分からないくらい前。

 

『━━━━』

 

私はその声を毎日聞いていた。

 

『━━━━』

 

それは優しくて、暖かくて。

 

『━━━━』

 

大好きな、声で━━━━でも。

 

 

 

『呪われているのよ!この子は!』

 

 

 

もう二度と、聞くことはないのだと。

私は知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━っ!」

 

腕に走った痛みに目が覚めた。

そこはいつもの私のお部屋で、もう誰もいなかった。

腕に巻き付いた沢山の包帯は新しくなっていて、今日はもうそれが終わった事を知った。

 

ズキズキするそこを擦ると、少しだけ痛くなくなる気がした。痛いのは嫌い。苦しくて辛いから。

 

ベッドから起き上がると、たまにお部屋にくるおじさんが置いていった玩具の箱が目についた。お部屋の隅に置かれたそれは、音もたてずにそこにじっとしてる。

おじさんは皆が好きな物だっていうけれど、私はそれを知らない。遊ばなくちゃいけないのは分かるけど、皆が見てるっていうテレビも、あの玩具が何をする物なのかも、私はそれを知らないから。

 

しーんとしたお部屋の中で、私は喉が乾いてベッドを降りた。玩具と同じようにお部屋の端っこ置かれた冷蔵庫の所へいってその扉を開ける。ごちゃごちゃになってる冷蔵庫の中を少し探すと、探してた赤いリンゴの絵が描いてある紙パックのジュースが見つかった。他にはないから、これが最後のやつだ。

 

ストローを差して吸い出すと、冷たくて甘いものが口の中いっぱいになる。甘いものは好き。嬉しくなるから。

最後のやつだから、全部は飲まないで半分くらい飲んだら冷蔵庫にしまう。これで次も飲める。

 

でも次に飲んじゃったらなくなっちゃう。探したけど、ほんとうにあれが最後だ。

それなら、その次も少し残そうかな?でも、あんまり残しておいても、臭くなっちゃうからダメだ。お腹が痛くなる。

 

おじさんにお願いしたら、もしかしたら持ってきてくれるかもしれない。だけど、おじさんはいつも怒ってて、いつも睨んできて怖いからあんまり話したくない。

 

私は冷蔵庫がちゃんと閉まったのか見て、それから近くの本棚から二つの本を取ってベッドに戻った。本を読むのに暗いのはダメだから、ベッドの近くある電気のボタンを押す。小さな灯りがついて、二つの本が光に照らされた。

 

もう何回も読んだ本だから少し汚れてる。

表紙をめくれば絵と文字が目に入った。

 

『エリはもうご本が読めるのか』

 

本を読んでると、ふと何かを思い出した。

何となく頭に触ると、なんだか不思議な気持ちになる。

誰もいないのに、そばに誰かがいる気がした。

 

「読めるよ。エリは、もうひとりで、ちゃんと」

 

そういっても何も返ってこなかった。お部屋はいつもと同じで静かなままで、暗がりの先には何もない。

けれど、なんでか少しだけ胸の所が暖かくて、私は読む事にした。

 

「これはね、アヒルって読むの。アヒルはね、鳥なの。お空を飛ぶんだけど、お池をすいすい泳げる鳥なの」

 

本に描いてある絵を指差す。

 

「それでね、こっちのね、この子はね、本当はアヒルの子じゃないの。私は最後まで読んだから知ってるんだ。卵がね、コロコロ転がって、それでお母さんの所から、別のお母さんの所にきちゃってね。そのまま温められて生まれたの。だから、皆がね、この子はアヒルの子じゃないのーっていうんだけど、それは本当なんだよ?」

 

ページをめくると、アヒルが皆から追い出されてる絵が描いてあった。

 

「これからね、この子はね、探しにいくの。本当のお母さんのこと。色んな所に行って、色んな人に聞いて。それで沢山探してるうちに、いつの間にか真っ白な白鳥になってて、一番最後はお母さんと会うの━━━あっ、リンゴのジュース。私も探しに行こうかなぁ。この子も出来たんだから、私も━━━」

 

何度も読んだから知ってる。

この子は今は寂しくても、お母さんに会える。

沢山探していれば、いつかは。

 

 

 

 

 

そうだ、私とは違って。

 

 

 

 

 

そう思ったら暖かくなってた所が、急に冷たくなった。側に感じてた何もなくなって、ページをめくる気分じゃなくなった私はそのまま本を閉じて近くの洋服タンスの上においた。

 

電気を消してベッドに戻ると、また腕がズキズキしてきた。シーツにくるまって腕を擦るけど、腕はどんどん痛くなって涙が出てきた。泣き虫だと怒られるから止めようとしたけど、どうしても出て来て、止まらなくて。私のベッドはどんどん冷たくなってく。

 

痛いのは仕方ないことなのに、泣いちゃダメなのに。

 

 

 

『これはお前の為でもあるんだ』

 

 

 

腕が痛い。

 

 

 

『お前の個性は危険過ぎる。呪われてるんだよ』

 

 

 

 

痛い。

 

 

 

 

『だから俺が管理してやらないと駄目なんだ』

 

 

 

 

 

痛い。

 

 

 

 

『お前みたいな、化け物は』

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・いたいっ、いたいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━まだ眠ってると思ったが、目が覚めてるな。エリ、こい。続きだ」



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助けを求める声が聞こえたら勿論助けるともさ。それが授業中だろうともね。だから、私が救援依頼出したら助けてね。この間スルーしたでしょ?プレイしてたのは知ってんだぞ!おいこら!の巻き

シリアス書いた反動だよね( ´∀`)


「━━━━━はぁっ!!戦友がっ!!私にっ!!助けを求めてる気がするぅ!!」

 

焼き肉祭りの余韻が心に残る、新学期初日。

ブルブルと震えるそれで目が覚めた私は、すかさずポケットからスマホを取り出した。画面に表示されるのは戦場の名前と助けを求めるメッセージ。流れるようにロックを解除。的確に画面を操作しアプリを起動させる。

 

アプリのタイトル画面が視界に入った直後。

オデコへの謎の衝撃と痛み、加えてスコーンという良い音が周囲に鳴り響いた。めちゃいったいっ。 知能指数が2は下がりましたよ。いったい。何投げた━━━チョークか、チョーク!?チョークの痛みじゃないんだけども!?

 

「緑谷、HR中にスマホを開くな・・・・というか、これから新学期初めての授業だと言うのにいきなり寝るとはどういう了見だ。大馬鹿者が」

 

ビシッとチョークで指差され思わずたじろいでしまう。

けれど、双虎ちゃんは負けない!私にもちゃんと言い訳があるのだ!

 

「ちっ、違うんです包帯先生!!思いの外ほか、クーラー効いてて寝やすかったとか、そういうのじゃないんです!!それに、これだって理由があるんです!秋イベ攻略するって言ってた戦友が救援依頼だして来てるんです!秋イベの限定キャラが推しだから、夏のバイト代全部突っ込む所存やって!あたいやるんやって!そんなあいつを、私が助けなくて誰が助けるんですか!」

「どこかの暇なやつが助けるだろ。スマホのデータをサルベージ出来ないレベルで消されたくなかったら、しまえ。二度は言わないからな」

「しゃーせんしたぁぁぁぁぁ!!」

 

敗北を受け入れた私は一礼の後、サシュッとスマホをポケットにIN。ジャンピング着席し、包帯先生の方へ体を向ける。怒ってはないのか包帯先生は私が自分の方を向いてるのを確認すると話し始めた。

 

「馬鹿のせいで話がそれたが・・・蛙吹と八百万から質問があったヒーローインターンについてだが、まぁ後日説明するつもりだったが丁度良い機会だ。先に伝えておく」

 

包帯先生の口から語られたのはネズミー校長が始業式の時にごにゃごにゃっと言ってたヒーローインターンの話。私は半分気を失ってたから知らないけど、皆それが気になって仕方なかったらしい。

包帯先生の言うことにゃ、ヒーローインターンとは平たく言うと校外でのヒーロー活動らしい。以前あった職場体験の本格版で、仮免許合格者はプロヒーローの所でバイト出来るようになるそうだ。因みに強制じゃないし、やらなかったからといって補習とかも当然なし。そもそも任意でやる事で、授業の一環とかでは無いんだって。━━━かっちゃんやるの?たい焼きじいちゃんとこ行くの?ねぇねぇ、かっちゃん。行くの?ねぇってば、かっちゃん。こっち向けや、かっちゃん。ねぇ、こら。おい、無視するな。泣くぞ。幼稚園児ばりに泣くぞ。分かった、よし、そのまま無視するなら背中に書くからね。指で何か書くよ。・・・分かった、般若心経書いてやる!

 

お茶子がインターンについて荒ぶってる姿をぼんやり眺めながら包帯先生の話を聞きつつ、かっちゃんの背中に指で般若心経書いて遊んでると、ふとある事が気になった。取り敢えず質問する為に真っ直ぐ手をあげる。包帯先生の嫌そうな視線が刺さる。そんな顔しなくても良いのに!酷い!

 

「・・・なんだ、緑谷」

「インターンのお給料は幾らですか!」

「お前は・・・まぁ、その指摘自体は悪くはないが。インターンはどちらにとっても慈善事業ではないからな。インターンで発生する賃金についてだが、基本的に各都道府県に於ける最低賃金以上となっているだけで、上限は特別決まってはいない」

「事務所によって違う系ですか?」

「そういう事だ」

 

成る程なぁー。行くならお金持ってそうな所かぁー。

私は可能な限り働きたくないから、そこら辺は関係ないんだけど・・・でも、まぁ、行くならおハゲの所が良いかなぁ。見栄っ張りだからそもそもの時給高そうだし。それに乗せ方は分かるから、交渉したら時給高くなりそうだし。

 

私は包帯先生の目を盗んで、かっちゃんこそっと話し掛けた。

 

「かっちゃんはたい焼きじいちゃんの所で、貧困に喘ぐと良いよ。私はブルジョアに生きる」

「ほざけ、ボケ・・・・あと背中に文字書くの止めろ。何書いてんだ、腹へってんのかてめぇは」

「はぁ?般若心経だけど?」

「般若心経にカルビだの、タン塩だと、ロースだの、トントロだのあるとは思えねぇ」

 

無かったっけ?はんにゃーはらみーって言わない?ハラミがあるなら、ロースもカルビもあるでしょ。ていうか、般若心経とかよく知らんし。ええやん、別に。

 

かっちゃんとじゃれてると、包帯先生はインターンについては教師の間で協議する事が残ってる為、後日また話をする時間を作ると言ってHRを終わりにした。体験談とか聞くことになるっぽい。

 

包帯先生と入れ替わりで入ってきたラジオ先生の元気な声を聞いた私はかっちゃんをからかうのを止めて、教科書を枕にして静かに机へ頭を預けた。

 

「ぐっない、べいべー」

 

すやぁー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐっないしてから数時間。

学校の唯一の楽しみであるお昼ご飯の時間。

前期同様に皆と学食でお昼を食べてると、不意にお茶子が神妙な顔で口を開いた。

 

「インターン、どっか受け入れて貰えんやろか」

 

ごはん粒を頬っぺたに付けてはいるけど、顔は真剣そのもので吐き出された言葉には重みがあった。そんなお茶子を見て私はごはん粒の事を教えるのを止めて、話の先を促した。

 

「前回の職場体験で、私は実感した。ヒーローになるっていう事が、どれだけ自分の考えてた物と違っとったのか・・・。訓練は勿論していかなあかんけど、私はヒーローがどんな物なのか、私にとってヒーローがどんな物なのか、改めて見つめ直す必要があると思うの」

「へぇーなるほどなぁー」

「その為には、やっぱり経験をつまなあかんと思う。実際の現場を見て、お仕事を手伝わさせて貰って・・・そうやって見えたもんが、私には必要やと思うんや」

「そっかーなるほどなぁー」

 

お茶子の話に頷いてると、横にいた梅雨ちゃんが「お茶子ちゃん、頬っぺたにご飯粒ついてるわ」と空気を読まず静かに指摘した。お茶子は梅雨ちゃんに指摘されたご飯粒を取り、そのまま顔を真っ赤にして俯く。はい、真剣顔は終了です。鬼やで、梅雨ちゃんは。

 

「それはそうと、皆割と行く気マンマンまん?」

「けろっ、私はインターンに興味あるわ。これから学校側の対応がどうなるか分からないけど、許可が降りるならお願いしたいわね」

 

お茶子同様に梅雨ちゃんもやる気らしい。

そんな梅雨ちゃんを見て切島が「俺もだぜ梅雨ちゃん!」とガッツポーズをとる。切島もやる気マンマンまんらしい。

 

そうなると眼鏡もかと思って顔を見たら、首を横に振った。

 

「僕としては今回インターンをするつもりはない。勿論、実際の現場で一人のプロとして仕事を経験する事は大切ではある。訓練とは違う生の現場で得られる経験は得難いものだろう。だが僕の場合はそれ以前の問題だ。基礎体力面の不安が大きい。今は少しでも鍛え、個性の出力を伸ばすべきだと思っている」

「へぇー・・・・で、轟は?」

「えっ、あ、あっさりし過ぎではないだろうか!?確かに、僕の話はそれで終わりではあるのだが・・・」

 

眼鏡を無視して轟に聞いてみたら、轟は少し考えた後「緑谷はどうだ?」と無表情で言う。心のままに「働きたくないでゴザル」って返したら「そうか」と言って蕎麦をすすり始めた。あんまり乗り気ではないらしい。

 

かっちゃんは聞くまでもなくたい焼きじいちゃんの所に行くだろうからスルー。なんか言いたげにしてたような気がしたけど、気のせいだよね?かっちゃんそういうキャラじゃないもんね。

 

「かっちゃん、儲けたら奢って?」

「てめぇはハイエナか何かか」

「失礼な!誰がハイエナだ!巷で美人過ぎる女子高生と噂になってるのは誰だと思ってるの!何を隠そう、私だよ!!」

「恥ずかしげもなくんな厚かましい台詞吐けんなら、ハイエナでも何でも構わねぇだろうが。てめぇの何処に、俺の言葉が失礼にあたる要素があんだ」

 

んだと、こらぁ!焼き肉定食の焼き肉だけ取るぞ!!貴様の配膳台、キャベツオンリーにしてやろうか!!

 

かっちゃんの焼き肉を奪う為に熱い戦いを繰り広げる事少し、高笑いが背後から聞こえてきた。どこの雛壇芸人かと思って振り返ると、今日も相変わらず元気な物真似野郎とその他B組ボーイズがいた。

 

「ハッハッハッハッ!定食一つを取り合うなんて、A組の暴力夫婦コンビは恥知らずな上に下品で意地汚いなぁ!これでヒーローの仮免許を取得してしまっているのだから、僕は正直恐怖すら感じるよ!栄えある雄英の品位、君達の愚ぅ━━━━へぶっ!?」

「「「物間ァァァァァ!?」」」

 

ムカつく顔面に胡椒を叩きつけてやったら思いの外クリーンヒットしたのか、物真似野郎は床にのたうち回った。売られた喧嘩は大体買う。やられたら八倍返しでやり返す。そして謝らない。それが私だから。

━━━ていうか、誰が夫婦だ。虎刈りにするぞ。

 

「ギャアギャア喧しい。虎刈りにすんぞ」

 

それ私の台詞や、かっちゃん。

 

「・・・物間くんは、相変わらずやな。始業式ん時大人しかったから、少しは落ち着いたんかと思ったんやけど」

「まぁ、あいつのクレイジーさは筋金入りだしな。うちの粗見つけて、嬉々として乗り込んで来たんだろ。楽しそうで何よりだな」

「けろっ。私、物間ちゃんのあの勇気だけは尊敬出来るわ」

「いや、これは勇気とは違うと思うのだが・・・」

 

皆が好き勝手に話してるとB組女子ーズがやってきた。そこには勿論物真似野郎の保護者サイドテがいて、例によって首チョップからの猫掴みをしていく。流れるような淀みのない動きで物真似野郎が鞄みたいに持たれた。

 

「ごめんね、いつも。そう言えばブラド先生から聞いたよ。A組も全員仮免合格なんだって?おめでとう」

「おー、せやで。全員合格ぅー。まぁ、かっちゃんマジでギリギリだったけど」

 

「・・・おいこら、何教えてんだてめぇ」

 

えぇーだっとぅぇー本当のこと・・・ちょ、怖い怖い!なに、オコなの!?そんなに!?でも本当のことやん!だってぇ!いやぁ、怖いぃ!そんなに怒らなくてもよくない!?

仕方ないのでぶちギレかっちゃんを轟でガード。戦えトドロキング!!君だけが頼りだ!!

 

何とかかっちゃんを轟に押し付けた私は、華麗にお話を続行する。

 

「はははっ、相変わらず仲良いね。あんたらは」

「これ仲良いって言って良いの?」

「仲良くなきゃこんな喧嘩もしないでしょ」

 

まぁ、そういう意味では仲悪くはないかなぁ。

 

「前期はお互い別々の授業だったけどさ、後期はクラス混同でやる授業もあるみたいだから、そん時は宜しくね。うちのが色々迷惑かけるかも知れないけどさ。はははっ・・・はぁ」

「あーーー、お疲れサイドテ。後期も宜しくね」

「ありがと。━━━━ねぇ、ふと思ったんだけど、私がサイドテール止めたらなんて呼ぶつもり?」

 

サイドテが、サイドテールを止める?

マジか。なんだろ、ん?んー?

 

「チョップウーマンとか?」

「拳藤一佳。名字でも名前でもどっちでも好きに呼んで良いから、その訳わかんないやつで呼ぶのは止めて。マジで」

「じゃぁ、イッチー?」

「はいよ、もうそれで良いよ」

 

呆れたようにそう言うと、B組女子ーズの一人ポニ子がイッチーの影から顔を覗かせる。ポニ子と割と仲良しで、この間も角を触らせて貰って━━━━。

 

「ニコちゃんさん、後期ィのクラストゥギャザージュギョー楽シミしテマス。ボコボコォに、ウチノメシテヤァりマス・・・ネ?」

 

おっと、ブチキレてる。

全然仲良くなかった━━━とか思ったら、イッチーがしかめっ面で目頭を押さえていた。

 

「ポニー、誰にそれ聞いたの?」

「ネイトさん、デス。友好ノ言葉、キキマシタ」

「変な言葉を教えるなっ!」

 

「━━━ぐえっ!!」

 

二発目のチョップを受け、物真似野郎がカエルが潰れるような声をあげる。可哀想とかはない。ただ、ただ、ざまぁである。

 

ん?イッチーどした。そんな、顔し・・・て。

いやぁぁぁぁぁぁぁ!!あだだだだだだ!頭が割れちゃう!!くそぅ!いつの間にか私のトドロキングを!!止めてっ、やめ、やぁぁぁぐぅぅぅぅあああああ!!

かっちゃんさん!すみませんでしたぁぁぁぁ!もう誰にも話しません!



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RPGのレベルってなんなのん?経験値を得るとレベルが上がって、突然強くなるとかリアルに考えるとめちゃ怖いんだけど。なにあれ、成長期の凄い版?巻き

頑張った(*´ω`*)


楽しい夏休みもすっかり終わり、眠りを誘うねずみー校長の話から後期が始まって翌日の夜。日課をさっさと済ませた私は、夏祭りの時に獲得したゲーム機とゲームソフトを持って、とある部屋に訪れていた。

 

「おし、かっちゃん!ゲームしようぜ!」

「前にしこたま怒られておいて、なんでてめぇは平然と男の部屋に入ってくんだ。こら」

 

部屋に入るとかっちゃんが不機嫌そうな顔をする。

筋トレでもしてたのか額に汗が浮かんでて何処か汗臭い。首に掛かったタオルで汗を拭うと、かっちゃんはテーブルに置いてあったスポーツドリンクを飲んだ。

 

「私の分は?」

「あるか、んなもん。・・・はぁ、冷蔵庫に入ってんの好きにしろや」

「さんきゅー」

 

許可を貰ったので早速冷蔵庫開けると、中には同じ銘柄のスポーツドリンクとコーヒーが並んでいた。凝り性なのは知ってるけど、ここまで来ると狂気だなぁ。まぁ、飲めれば何でも良いんだけど。

スポーツドリンクを一本貰った私は、ゲーム機をそのままかっちゃんのテレビと繋げる。HD●Iで。そう、HD●Iで!三色端子じゃないよ!HD●Iだよ!画像めちゃ綺麗になるやつ!かっちゃんの部屋のテレビは私のよりずっと大きい上に、めちゃ解像度?ていうの?それがゴイスーなやつだからゲームがメチャメチャ楽しいんだよぉ。すげぇ、すげぇよ・・・科学ってすげぇよぉ。あと数年したら電脳世界にダイブ出来るゲーム出ちゃうんじゃないの?欲しい。誕生日プレゼントでかっちゃん買ってくれないかな。

 

ベッドに腰掛けテレビの電源を入れるとバラエティー番組が映る。興味無いのでリモコンでゲームの出来る画面に切り換える。続いてゲームの電源を入れると、大きなテレビ画面にスタンバイ状態の映像が映った。さっさと画面に映ったアイコンを選択。ゲームソフトを起動させる。

 

「かっちゃん、お腹減ったんだけど」

「夕飯しこたま食ってただろうが、てめぇ・・・」

 

そう言いながらかっちゃんはまた溜息をつく。

そしてなんやかんやポテチを出してくれた。

ポテロン●の気分だったので要求したら、ポテチを取られそうになったので我慢しておく。でも割り箸は貰っておいた。ベタベタの手でコントローラを握る趣味はないからね。

 

前回のセーブデータを選択し、物語の続きを始める。

今日は次のボス戦の為にレベル上げをする予定だ。前回は適性レベルを見極めギリギリの戦いを演じてみたけど、今度のボスは圧倒的腕力でボコボコにしたい。

 

雑魚をひたすら狩ってると、髪を湿らせたかっちゃんが着替えて戻ってきた。シャワーを浴びてきたのか石鹸の匂いがする。

 

「人の部屋にまで来て、一人プレイ専用のゲームしてんじゃねぇよ」

「だって画面綺麗なんだもん。見やすいし、魔法のエフェクトかっちょいいし。それに最近のRPGってステとか会話の表記がちっさくて、画面小さいと余計に読みづらいんだよね」

「そういう事を言ってんじゃねぇ。おい、いま右奥ん所宝箱あったぞ」

「マジで?マジだ。見逃してた」

 

かっちゃんに言われて開けた宝箱の中身はゴミアイテムだった。なんだよ、無くてもよかったわ。文句を言ってやったら足を蹴られた。蹴り返しにいったら関節を決められ掛けた。危なかったぁ!?流石に片手間では勝てぬか!こやつめ!

 

雑魚を相手にひたすらコマンドを選択すること暫く。

隣に腰掛けてぼーっとテレビ画面を眺めるかっちゃんは何も言わない。時折スポーツドリンクを口にして、ちょっとこっちをチラ見してくるぐらいだ。

 

主人公のレベルが一つ上がった所で、かっちゃんが手にしてたスポーツドリンクをテーブルに音を立て置いた。

 

「・・・で、何だ」

「・・・何が?」

「面倒くせぇ問答すんな。また面倒くせぇ事になる前に、さっさと用済ませて出てけや」

 

相変わらずかっちゃんは勘が良い。

昔からそうだけど━━━というか、私がかっちゃんに頼り過ぎてるのかも知れない。最近は特にそうかも。なんやかんや助けられてる気がする。ま、私もその分助けてるけどね。とんとんだよね。

 

私はゲーム画面を眺めながら、待ってくれてるかっちゃんに話す事にした。ちょっとした事を。

 

「・・・かっちゃんはさ、今回のインターン行けたら行くんでしょ?」

「まぁな・・・つっても糞ジジィは例のアホ共追って忙しいらしいからな。行くなら別の所だ」

「そっかぁ・・・まぁ、そりゃそうだよねぇ。プロヒーロー目指すなら実際の現場は経験しておいた方が有利だしねぇ~」

 

そう言った私に「てめぇは、どうするつもりだ」と、かっちゃんが聞いてきた。それはぶっきらぼうだけど何処か優しい言葉で、私は思わず笑ってしまう。かっちゃんらしい。

 

「・・・私は、行かないと思うよ。この先の事は分からないけど、少なくとも今の私にはまだ早い話だと思ってる。この間の黒マスクの時も、実際何も出来なかったし・・・プロの世界の高さは知ったつもり」

「そうかよ」

「かっちゃんが半泣きで『お願いだよぉ!双虎ちゃぁぁぁん!寂しいから付いてきてよぉ!』って言ったら、付いていってあげない事もないけど」

「仮に俺がとち狂ってその台詞を吐いたとしても、てめぇが笑ってる姿しか浮かばねぇな・・・」

 

まぁ、大爆笑するとは思うけど。

付いていくかは別として。

 

「なんかさぁ、後期に入ってさぁ、一段と皆やる気じゃん?まぁ、仮免許取得出来て、夢が現実的になった影響だろうけど・・・・今日の授業も皆やたら暑苦しいかったし、お茶子とかもなんかメラメラしてんだよね」

「はっ、他の連中の事は知らねぇわ」

「そんな事言って、切島と色々話してたでしょ?夕飯前に共有スペースで楽しそうに。お茶子と聞いたんですけどぉ?」

「・・・・っせぇ」

 

あの時のかっちゃんはしかめっ面だけど楽しそうにしてた。他のクラスの皆も緊張とか不安とかはあっても、インターンについて前向きに考えてる事に変わりはなかった。それは乗り気じゃない轟もそうだし、イッチー達B組面子も同じ。

 

それが━━━━私には理解出来なかった。

 

プロヒーローの世界に足を踏み入れるという事をどうして前向きに考えられるのか。どうして手離して喜んでいられるのか。身に掛かる危険も責任も、以前よりずっと大きくなる。出来る事が増えるということ、資格を得るという事はそういう事だ。私自身そういったことに対して覚悟はしていたけど、黒マスクと対峙した今となってはあの程度の強さで息巻いてた自分が滑稽にしか思えない。

 

私はかっちゃんを守ることも、轟を援護してやることも、お茶子を助けることも何も出来なくて・・・助けて貰う事しか出来なかった。

 

「プロヒーローかぁ・・・・」

 

今更、それを目指す事を止めるつもりはない。

守る為にはこの戦う資格はやっぱり必要で、かっちゃんもやっぱりヒーローを目指して行くのだから。

 

ただ、今の私には・・・またあの世界に足を踏み入れる理由が見つからないのだ。私は、皆のようにヒーローに憧れてる訳じゃない。多分なりたいとも思ってない。I・アイランドでの別れの時、メリッサの声に、ヒーローという言葉にちゃんと返事を返せなかった。

私は今でも知らない人を助けたいとは思わないし、ガチムチみたいに平和の為にヴィランを倒す気にもなれないし、名声とかも割とどうでも良いと思ってる。私は私の大切な者だけを守れれば、それで良いと━━━━いや、お金は欲しいけど。唸るほど欲しいけど。黄金の山とか見たい。

でもそのお金も、今すぐに欲しい物ではない。

それこそ避けられる危険に身を晒してまで、どうしても欲しい物じゃないのだ。

 

私の漏らした呟きはゲームの音だけが響く部屋の中に消えていった。かっちゃんは特に何か言う事もなく、ゲームを眺め続けてる。

 

「ねぇ、かっちゃん」

「あ?」

「インターン行くなら近場にしてよ。暇な時とか、からかいに行くから」

「てめぇには住所どころか、事務所の名前も教えねぇよ。ボケ」

「ぶーーーけちー」

 

それからレベルを五つ上げ、その面のボスを倒しにいった。予想通り適性レベルは随分と超えてて、面白いくらい敵の攻撃がきかなかった。こっちの攻撃はというと、一発一発必殺技レベルである。勝ったな風呂入ってくるって開始数秒で言えるレベルだ。

 

ボスを物理の力で叩きのめした所で良い時間になったので、ゲームはそのままかっちゃんの部屋に置かせて貰って部屋に帰った。かっちゃんは持って帰れとか邪魔だとか文句言ってたけど、何度目になるか分からない一生のお願いをすればしかめっ面で承諾してくれる。さんきゅー、かっちゃん。また明日、世界を救いにくるぜ。

 

帰り際、かっちゃんからチョコアイスを貰った。

安いやつじゃない、高いやつだ。ハー●ンダッツだ。

よくわかんないけど、やったぁぁぁぁぁぁ!!明日も頂戴よ!今度はね、ストロベリーが良いなぁ!

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

『ミリオ、緑谷双虎という生徒を知っているか』

 

とある頼まれ事がいよいよ明日に迫ったその日の夜。

日課のトレーニングを終えた後、人気の少ない夜の訓練場で夜風を浴びながらスマホを耳にしていた俺は、お世話になっている師からその名前を聞いた。

 

流れ落ちる汗をタオルで拭いながら、名前を頭の中で反芻させる。何処かで聞いた覚えはある。何処だかは思い出せないが。

 

『今年の雄英体育祭、一年の部で随分と目立っていた女子生徒だ』

 

そう言われてやっと分かった。

クラスメイトが今年の一年の中に、頭のネジが二三本抜けてそうだけどハチャメチャに強い美少女がいると言ってた気がする。俺個人としてはその子の彼氏らしい爆発系の個性を使う男子生徒の方が気になっていたけど、確かに彼女の名前はそんなだった。

 

「直接会った事はありませんけど、その子なら噂に聞いた事はあります。強いらしいですね。テレビの録画に失敗して、一年と二年の映像は見てないんですけど、今年は粒揃いだったみたいで一年の部は凄く盛り上がったて聞いてます。実際、三年の会場にまで歓声は聞こえましたよ」

 

でも、それがどうしたのか。

そう聞こうとした俺の耳にその言葉が続いた。

 

『彼女はオールマイトが雄英高に推薦した人物だ』

「彼女が・・・・そういう事ですか」

 

その後の言葉は続かなかった。

けれど一年も付き合っていれば、その胸の内は察しがつく。何せ師は今も昔もオールマイトの大ファンだ。それにかつては相棒として戦った事もある人でもある。となれば、オールマイトが推薦する程の人物を気にしてるのは間違いないだろう。

 

「分かりました、サー。明日の郊外活動の説明会。機会があれば彼女と話してみます」

 

そう伝えると、師であるサーは短く返事を返した。

『その必要はない』とだけ。

意外な言葉には思わず拍子抜けする。

 

「えっ、あれ、必要ないんですか?サー?流れ的にー」

『必要ない。そう伝えたぞ、ミリオ。オールマイトが推薦した人物、どれ程のものかと思ったが・・・同じ学舎にいながらその程度の情報しか回ってこない人物なのであれば、お前が態々関わる価値はない。お前はお前のやるべき事に集中しろ。恐らく近日中に、例の件が進展する。以上だ。夜も遅い、早く体を休めろ』

「あ、はい。了解です、サー・・・」

 

切れてしまったスマホを暫く眺めた。

けれど何が変わることなく、電話の切れたスマホは静寂を保ったまま。再び音が鳴ることはなかった。

 

電話が切れる直前に感じた違和感が何だったのか。

本当の所は聞いておきたい所なのだが、一度ああ言ったサーが何か言ってくれる気もしないのも事実だ。とりあえずこの件は一旦頭の隅において、俺はスマホをポケットにしまい寮に帰る事にした。

 

夜空を見上げながら思うのは、明日の郊外活動の説明会。サーにはああ言われたけれど、オールマイトから推薦を受けたと聞いてしまえば個人的に興味が出てきたし、何より明日は俺の意思に関わらず顔を合わせられる絶好の機会。

 

「緑谷双虎ちゃんか・・・・どんな子なのかな」

 

噂に聞く彼女がどんな人物なのか。

俺は未だ見ぬ彼女に想いを馳せながら、星の光に照らされる夜の道を進んだ。



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はぁい!良い子の皆!元気かな?お姉さんは今日もちょー現金・・・じゃなかった元気!それじゃ今日もお姉さんとお約束しよう!腹パンは用法、用量を守って、程々にしようね!の巻き

POWERRRRRRRR( *・ω・)ノ!!
(最近感想に返事出来んですまんなぁぁぁぁ!!)


かっちゃんとゲームした翌日。

欠伸をかきながらLHRの時間に参加してると、包帯先生が何やら動きを見せた。

 

「今日のLHRはインターンの話をします」

 

焦らしもないド直球の台詞にクラスが盛り上がった。

教室のあちこちなら口笛とか歓声とかがあがる。

個人的には全然楽しい話ではないんだけど、お祭りには全力で乗っかってくのが私の流儀なのでフルスロットルで行く。ひゅーひゅー!!包帯先生かっこいいぃぃぃぃ!!やんややんやぁぁぁぁ!!いぇぇぇぇい!!えっ、ちが、違うんです!ふざけてないんです!皆に乗っかっただけなんですぅー!つまり、最初に祭りにした皆が悪いと思うのですぅー!だから、やるなら、皆も一緒にお願いします!!一人は嫌だ!!

 

必死の説得も虚しく、思いっきりひっぱたかれた。

皆は叩かれなかった。

なんでや。

 

「━━━えー話が逸れたが、君達のインターンがどうなるかは今日の協議結果次第だ。よって俺からその件について、この間伝えた以上のことを話すことはまだ出来ない。今日は君達に職場体験とインターンがどういった違いがあるのか、それを直に経験している人間から話を聞いてもらう」

 

そう言うと包帯先生は廊下へ向いて「入っておいで」と声を掛ける。すると足音が聞こえてきた。

 

「多忙な中、都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。特に緑谷」

「ははは!だってよ、緑谷!包帯先生に言われた通りちゃんと聞いてお━━━って私!?てか、名指し!?」

 

「綺麗なノリツッコミや」

「けろっ。二度見する所まで、完璧ね」

「僕を挟んで感想を言い合わないでくれ。二人共」

 

何故に私だけ!?ねぇ、かっちゃん!なんで!?なんでや!?なんで私だけなんや!?何無視してんの!?皆ぁぁぁ、かっちゃんが無視するんだけど━━━━こっちみて皆ぁ!目を逸らさないでくんない!?

 

「現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名、通称ビッグ3の皆だ」

 

包帯先生まで無視してきた!?

なんでや!ていうか、ビッグ3って何!?そのだっさい名前何!?雄英高のヒーロー科でトップスリーに入ると、そんなだっさい名前で一括りにされんの!?いや!あたい、そんなのいやよ!

 

「轟ぃ!なんか言ってよぉ!」

「俺はビッグ3悪くないと思うぞ」

「マジか。あと答えてくれてありがとう」

 

そうこうしてる間に教壇側のドアが開いた。

廊下から英語の教科書によく載ってるぱつ金でおめめ黒豆な人と、私には勝てずともそこそこ可愛い後ろ髪がウェーブな女子と、目付き死ぬほど悪い猫背のが入ってくる。

 

皆も興味津々でザワザワし始めた。

因みに包帯先生はそれを見ても怒らない。

さっきは私の事はひっぱたいたのに。

 

「それじゃ手短に自己紹介よろしいか?天喰(あまじき)から」

 

怒らないどころか進行してきた、だと!?

 

包帯先生に名前を呼ばれたと思われる目付き悪いのが、一際強くこっちを睨んできた。クラスの大半が息を飲んだみたいだけど、かっちゃんと轟辺りは何とも思ってない様子。包帯先生も溜息つきそうな雰囲気。隣に並ぶビッグ一味に至っては表情一つ変わらない。

 

まぁ、私も何とも思わないんだけどもね。

いや、だってねぇ?

 

「・・・・・・・駄目だ、ミリオ・・・波動(はどう)さん」

 

小さな声が目付き悪いパイセンから響いた。

 

「ジャガイモだと、思って臨んでも・・・頭部以外が人間のままで依然人間にしか見えない。どうしたらいい、言葉が・・・・出てこない・・・・頭が、真っ白だ・・・辛いっ・・・!」

 

くるっと後ろに振り返った目付き悪いパイセンは、体を震わせながら黒板に頭を預け━━━━そして切実にこう言った。

 

「帰りたい・・・・!」

 

ごっつ、わかりみ。

私もいつも思う。朝のHRが始まる前辺りから、いつも思ってるぅ。天ちゃんパイセンとは親友になれそう。

 

そんな同士の背中に尾白が声を掛けた。雄英のーだとか、ヒーロー科のーだとか、トップがーとか。けれど、目付き悪いことこの上無しな天ちゃんパイセンは壁に頭を預けたまま動かない。生まれたての小鹿のように震えてる。面白いくらいピクピクしてる。━━━私も弄りたい!かっちゃんに両手首を押さえつけられていなければっ!いたいっ!何もしないってば!よく両手纏めて掴めるな!無駄に掌おっきいんだから!くそぅ!

 

かっちゃんの握力に抗いながら教壇の方の様子を伺ってると、そんな天ちゃんパイセンの様子を見て隣にいた女子パイセンがポンっと手を打った。

 

「あっ、聞いて天喰くん!そういうのノミの心臓って言うんだって!ね!人間なのにね!不思議!」

 

まさかの味方からの追い討ち。

天ちゃんパイセンの雰囲気は更に暗くなった。

狙ってやったドS系パイセンかと思ったけど、様子を見てると違和感を感じる。あれは・・・。

 

「彼はノミの"天喰環(あまじき たまき)"それで私が"波動(はどう)ねじれ"。今日は"校外活動(インターン)"について皆にお話してほしいと頼まれて来ました」

 

笑顔でそう言ったねじれんパイセン。

そのままつまらない説明を始めるのかと思いきや、一番前に座る阿修羅の兄貴に熱い視線を向けた。

 

「けどしかし、ねぇねぇ所で、君は何でマスクを?風邪?オシャレ?」

「これは昔に・・・・」

「あら、あとあなた轟くんだよね!?ね!?何でそんなところ火傷したの!?」

 

話し掛けといて阿修羅の兄貴を完全スルー。

呆然とする阿修羅の兄貴を気にも留めず一番後ろに座ってる轟に話し掛ける。轟は突然の事に少しフリーズしたけど、すぐに再起動して何か言い掛けた所でねじれんパイセンは別の方向へと向いた。

 

あしどんの角に興味を持ち、ブドウのボールの散髪について興味を持ち、梅雨ちゃんのカエルの種類に興味を持ち、とにかくあっちこっちを見て不思議と目をキラキラさせる。上鳴は天然ぽくて可愛いとかとち狂ってるけど、あしどんが呟いたように幼稚園児って表現の方が的を得てる気がする。可愛いにしても子供を愛でる系の可愛いでしょ。あれは。

 

「ねぇねぇ、尾白くんは尻尾で体を支えられる?ねぇねぇ答えて気になるの」

「えっ、いや、あの、ち、近いっんですけど」

「それより尻尾は?尻尾はあなたのこと支えられるの?ねぇねぇ?」

 

背後でハァハァ喧しいブドウを引き寄せる個性で机と熱烈なキスさせてる間にも、ねじれんパイセンは無邪気に尾白に絡んでいく。取り敢えず、頑張れ尾白。

 

一向に始まらないインターンの経験談披露。

包帯先生も痺れを切らしたのか三人を鋭い視線で見つめる。「合理性に欠くね」という小さい呟きは、MG5(マジギレ五秒前)の合図だろう。

 

そんな言葉を聞いておめめ黒豆パイセンが額に汗を垂らしながら任せて欲しいと言う。今度は何を見せてくれるのか楽しみにしてると黒豆パイセンが「前途ーーー!?」と聞き耳をするように耳の側に手をやってこっちに体を傾けてきた。

 

教室はすっかり静まり返ったけど、私は天才が故に直ぐピンと来た。だから遠慮なく乗ってく。

かっちゃんの手を振り切ってぇっ━━━!

 

「━━━━多産!」

「多産かぁ!成る程、そうきたかーー!ハッハッハッ!けど、俺の滑り具合じゃ多難だねーーーっつってね!よぉし、ツカミは大失敗だ!返してくれた子、ありがとう!あと、前途多産なんて言葉はないから、テストに出たら気をつけてねー!」

 

元気よく笑う姿に中学の頃の英語の教科書を思い出す。

本当、よく似てるなぁ。モデル?てか、多産はないのか。はぁー。べんきょーになるわー

 

そんなおめめ黒豆パイセンの姿に皆がヒソヒソし始める。 私としては面白いからこのパイセン達好きだけど、インターンの話をするにしては雰囲気的に大分ズレる感じだから分からなくはない。

 

ヒソヒソする皆を見て黒豆パイセンが咳払いをした。

 

「まァ何が何やらって顔をしてるよね。必修てわけでもない校外活動の説明に突如現れた3年生だ。そりゃわけもないよね━━━━」

「はい!はい!!黒豆パイセン!はいはいはーいっ!」

「━━━はい、そこの元気な子!何かなぁ!?」

 

頑張って手をあげてたら、私の気持ちが届いたようで黒豆パイセンは話を促してくれる。なので遠慮なくいく。

 

「皆がザワザワしてるのは、パイセン達のキャラが濃すぎる上、インターンの話を欠片もしないからだと思います。3年生だとかどうとか、そういうのじゃないですよ。本題はよ、っす。うっす」

「えっ、そうなの!?そっちなの!?俺が滑ってたりとか、そっちが理由なの!?」

 

私の言葉にショックを受けた黒豆パイセンは大げなリアクションをとってみせる。死ぬほど胡散臭い。どうするのか見守ってると拳を突き上げた。

 

「よしっ!皆の気持ちは分かった!それじゃ早速、俺と戦ってみようよ!百聞は一見にしかずってね!インターンが君達に何を与えるのか、実戦の中で見せてあげるよ!」

「「「「え、えええぇぇぇぇー!?」」」」

 

突然の黒豆パイセンの提案にクラスはどよめく。

一つは単純な驚きからの声。もう一つは雄英のトップと戦える事による、脳筋連中の興奮からの声。かっちゃんも見事にその一人である。

黒豆パイセンは包帯先生にOKを取ろうとするが、そうはさせない。無視できないように、派手に手を上げて見せる。

 

「━━━と、はい、さっきから凄い元気のいい子!どうかしたかな!」

「汗かくの嫌だから、話でお願いします!」

 

真っ直ぐに目を見て伝える。

心を込めて。嫌だと。

すると、黒豆パイセンは力強く頷く。

 

「そうか!分かった!でも、実戦の中で見た方がずっと実感出来ると思うよ!どうかな!」

「嫌です!今日は替えの下着一着しか持ってきてないので、嫌です!話でお願いします!」

「よぉし、分かった!それじゃ、汗かく間もなく俺が勝ってあげるよ!それなら着替える必要もないよね!よし、決まり!」

「ちょいちょいちょい!決まってない!決まってなーい!黒豆パイセン!何も決まってなぁーい!」

 

結局多数決で実戦による説明会?が認められ、全員ジャージに着替えさせられて体育館γに連行。ほぼ強制的に黒豆パイセンと戦う事が決まった。割とマジで汗かきたくないので私のテンションが最低値。もう今日の後の楽しみはお昼ご飯と、放課後のかっちゃんの部屋で出来る大画面のゲームだけ・・・あと寝る前のかっちゃんへのイタ電くらいである。

 

「はぁーーーーーやってられんけん」

「何処の方言なん、ニコちゃん?」

「わからん県の方言だで」

 

テンションがた落ちしてる間にも黒豆パイセンと愉快な仲間達は実戦によるインターン説明会の話をどんどん進めてく。もはや説明会でない気がするけど。そんな中に皆も交じって色々話し合ってるけど、興味がないので殆んど聞いてなかった。なんか、なにかが、どうだかで、どうだから、こうたららしい。

 

「ニコちゃーん、もう元気出してよ。そんな嫌がらんでもええやろ?少し手合わせするだけやん。あくまで説明会の延長なんやし・・・・」

「・・・・お茶子マジで言ってる?」

「えっ?えっと、そ、そうやけど」

 

私は準備体操する黒豆パイセンを見た。

その目の真剣さ、入念な準備体操、既に始めてる位置取り。何より肌がヒリヒリするような、やる気ともいえる何かを私は感じて仕方ない。伊達に中学時代、そこらの不良と肉体言語でお話し合いしてきた訳じゃない。それが本気なのかどうなのかは、見れば何となく分かる。

 

あれは間違いなく本気でやる気だ。

 

それに問題なのはやる気より、服の上からでも分かる鍛えられた肉体。ポテンシャルの高さを物語るそれ。あれは一朝一夕で作られた物じゃない。それこそ毎日積み上げてきた戦う為の身体だ。どんな個性を使うのかは不明だけど、あれだけの身体を持っているなら、まず間違いなく接近戦を挑んでくるタイプ。こういうのが一番厄介。個性に頼らず、個性をあくまで武器の一つとして戦うやつは、本当に厄介なのだ。

 

他の二人なら、まだやりようはあったんだけどなぁ。

 

そうこうしてる内に切島達がいきり始めた。

ヴィランと戦った経験もあるし、仮免許試験も通ったし、まぁ気持ちは分からんくもない。

ただ、相手が悪い。

 

「そんな心配される程、俺らザコに見えますか・・・?」

 

吐き出された切島の言葉に、黒豆パイセンが笑う。

 

「うん。いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ?」

 

挑発的な言葉を受けて皆がザワッとした。

そして私のぷりちぃーな頭にも軽い衝撃が走る。

振り向かなくても分かる。かっちゃんだ。

 

「いつまで腑抜けてんだ。やる以上ぶち殺すぞ」

「私まで巻き込まないでくれます?適当にやられたふりする予定だったのに」

「あの野郎が見逃すと本気で思ってんのか」

 

むっ?言われなくても、それくらい分かってるし!

 

「ただの冗談で━━━━━━っす!!」

 

引き寄せる個性発動。

フルスロットルで黒豆パイセンを引き抜く。

支えのない私の体と黒豆パイセンの体が宙に飛ぶ。

 

突然の事に目を白黒させながら近づいてくる黒豆パイセンの顔面に向け、渾身のラリアットを振り抜く。

ニコちゃん108の必殺技━━━━!

 

「━━━━━━んんんっ!?」

 

当たったと思った瞬間、拍子抜けた感覚が腕を襲った。正確にはそこに走る筈の感覚が何も無かったんだけど。後ろを見れば無傷の黒豆パイセンが飛んで行く姿が見える。位置はかわせる場所じゃない。確かに首目掛けて振り抜いた。ならどうして。決まってる個性だ。形質変化か、形状変化。見た目が変わらず、手応えはまるでなかった。なら、なんらかの肉体の形質変化。

 

「驚いた、完璧な不意討ちだったよ!俺じゃなきゃかわせなかった!よし、俺も本気だしちゃうぞ!」

 

そう言って黒豆パイセンは皆の方へ飛んでいく。

嫌な予感ばりばり。

 

「かっちゃん!!」

「っせぇ!!見とったわ!!」

 

私の声に答えると同時、かっちゃん達が追撃を始める。けれど一つも当たらない。攻撃が体をすり抜けていくのが見える。結局全部かわしきり、黒豆パイセンはそのまま服を残して地面に潜っていった。

 

服を残して。

 

 

 

服を。

 

 

 

ふぁつ?

 

 

 

 

「まずは遠距離持ちからだよね!!」

 

 

 

そんな黒豆パイセンの声が、姿の消えた場所とは違う所から聞こえてきた。振り向けば裸の黒豆パイセンが悲鳴をあげる耳郎ちゃんを襲ってる。犯罪じゃー!と思ってる間に腹パンされて耳郎ちゃんが沈んだ。

 

「ワープした!!」

 

切島の声が聞こえたと同時、耳郎ちゃんの側にいた上鳴が腹パンで瞬殺される。すかさず周りにいた皆が攻撃するけど、私の時のようにやっぱり当たらない。

 

なら、個性はワープじゃない。

今の様子を見れば、あくまですり抜ける個性。

なら、あれは個性の性質的な面を利用して移動してる可能性が高い。

 

 

 

「おまえら、いい機会だ。しっかりもんでもらえ」

 

 

 

不意に包帯先生の声が響いてきた。

 

 

「その人、通形(とおがた)ミリオは、俺の知る限り最もNo.1に近い男だ。プロを含めてもな」

 

 

誰にも止められない黒豆パイセンは、耳郎ちゃん達の周囲にいた全員に腹パンしていく。防御してもすり抜け、攻撃してもすり抜け、隠れてもすり抜け、何処にて接近してひたすらに腹パン。腹パン。腹パン。

もはや腹パン工場の工場長である。怖い。

 

 

「POWERRRRRRRR!!!!」

 

 

倒れ伏した皆を背に、黒豆パイセンが高らかに吠える。

己の力を誇示するように強く。

猛々しく。

 

ほら、見ろ。

お話で終らせとけば、良かったでしょうが。

誰が止めんの?あの変態腹パン工場。



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今日は君達にボーナスがあると、工場長からのお達しです。喜んで下さい。逃げないの、並んで。よしっ、工場長ぉぉぉ!準備が出来ました!ボーナスの支給始めて下さ━━━ぐへぇっ!まさかの私から!?の巻き。

POWERRRRRRRRRRR!!
(毎日更新なんて出来るわけあらへんわ(泣き言))


「━━━━あとは、近接主体ばかりだよね」

 

ゆっくりと息を吐きながら。

株式会社腹パンの工場長黒豆パイセンは余裕綽々に言ってくる。本当、腹立つくらい余裕感。通報しようとも思ったけど、スマホはロッカールームなのでどうしようもなかった。通報したい。

 

「何したのかさっぱりわかんねぇ!!すり抜けただけでも強ェのに、ワープとか・・・!それってもう無敵じゃな━━━━」

「無敵じゃねぇ!!切島ァ!!てめぇの目ん玉は飾りか!!無敵なら態々身を隠す必要も、遠距離主体の連中を先に倒す理由もねぇだろうが!!」

 

かっちゃんの言葉を聞いて、轟が息を吐きながら冷気を体に漂わせ始める。

 

「つまり、条件さえ合えば、俺達の攻撃も普通に当たるって事だな。爆豪」

「てめぇには言ってねぇわ!!話し掛けてくんじゃねぇ!!ぶっ飛ばすぞ、ごら!!おい、分かったか!!馬鹿島ァ!!」

 

「お、おうっ!成る程、そういえば、そうか・・・!よっしゃ!!もう大丈夫だ!!個性のこととか細けぇことはわかんねぇから爆豪達頼むな!!━━━━俺がっ、時間稼ぐからよ!!」

 

焦りの消えた切島が硬化して拳をぶつけ合わせる。

ガチンと重い音と共に火花が散る。

それを見ていた黒豆パイセンが口笛を吹いた。

 

「熱いね!良いね!俺はそういうの好きだよ!探ってみなよ!」

 

そう言って駆け出した黒豆パイセンは、直ぐその体を地面に沈ませる。高速移動がくる。出てくる場所は不明。どこ狙いか黒豆パイセンの視線を追ったけど、流石に簡単には"次を"教えて貰えなかった。

なら、やることは一つ。

 

「全員ツーマンセル!!背中守れ!!」

 

私の声が響いたと同時、全員が側にいたやつと背中を合わせる。あのかっちゃんも状況が分かってるのか、渋い顔しながらもちゃんと轟と背中を合わせてる。

黒豆パイセンの攻撃の殆んどが背後の奇襲から始まってる。伊達に戦闘訓練はしてない。不意討ちでなければ、皆そう簡単には倒されない。

 

「━━━でもそれじゃ、君が余るね!」

 

背後から声が聞こえてきた。

予想通りの動きに合わせ、振り向き様に後ろ回し蹴りをかましてやる━━━けど、やっぱりすかされた。

 

「必殺!!!」

 

黒豆パイセンの手が足をすり抜け、真っ直ぐ伸びてくる。私の目を目掛けて。本来なら避ける攻撃。

けれど━━━━━まるで怖さがない。

 

「ブラインドタッチ目潰し!!」

 

目に指が刺さった。

だけど痛みはないし、感触もない。

完全にすり抜けている。

 

指の影から黒豆パイセンの動きを追えば、腰元から勢いよく振り上げられるアッパーが見えた。

 

引き寄せる個性発動。

直ぐ下に見える地面と、この目の前の拳。

出力は勿論フルスロットルで。

 

「━━━━━━っぐっ!?」

 

ぶつかる寸前、引き寄せる個性が実体化した拳を捉え、勢いよく地面へと叩きつけた。直ぐにすり抜けていったからそこまでダメージはないだろうけど、手傷は負わせられた。なら、十分。

 

炎で視界を塞いでから引き寄せる個性で離脱。

無言くんと背中を合わせる尾白の所へ飛び、そのまま肩にライドオン。姉弟合体、フタオジロリオンモードに移行する。行くぞ、姉弟!!

 

「いきなり何だ!?緑谷!?」

「オジロリオン!見える範囲全力警戒!違和感があったらそっこー声あげて!!」

「!・・・・わ、分かったっ!」

 

「無言くんもオジロリオンと同じ!目を増やして警戒!!耳郎ちゃんで無理なら、音じゃ位置は掴めない!」

「・・・・!」

 

一人余ってオロオロする切島には、顔へ引き寄せる個性発動。無理矢理、顔をこちらへ振り向かせる。

 

「切島はパイセン見失ったら即硬化!」

「お、おう!分かった!!」

「他はコンビ組んだやつと視界をカバーしながら隙を見つけて随時攻撃!カウンター狙いじゃなくてもOK!!ずっとすり抜けていられる訳じゃない!!タイマン避けて数で押しきれ!!後は、馬鹿じゃないんだから自分で考える事!!以上!!」

 

本当なら攻撃の隙をついて攻撃するのがベスト。

だけどさっきの様子だと対策はバッチリされてる。

それなら下手な付け焼き刃は逆効果。得意を押し付ける方がまだ建設的。そもそもの地力に差があるから、これもどれだけ持つか分からんけども━━━━。

 

「緑谷くん!何かそちらに━━━━」

 

眼鏡の警戒するような声が鼓膜を揺らす。

そしてそれとほぼ同時。

オジロリオンの「石だ!緑谷!」というその声も。

 

「フェイク!!警戒!!」

 

叫んだ瞬間、眼鏡とお茶子の短い悲鳴が聞こえた。

 

「居たぞ!緑谷!」

 

オジロリオンの声を聞きながら視線を向ければ、倒れていく眼鏡達と地面に沈む黒豆パイセンの姿が視界に入る。警戒しててもこれだ。やってられない。

 

「お、おい!大丈夫か飯田、麗日!」

 

そんなお茶子達の姿に、お菓子兄貴が葉隠から離れてふらっと近づこうとした。引き寄せる個性で葉隠の所まで飛ばしてやろうかと思ったけど━━━少し遅かった。その前に葉隠が黒豆パイセンに腹パンされる。

 

「仲間想い、大事だよね!ヒーローを目指すなら!でも━━━━━━」

 

地面に崩れ落ちる葉隠の隣で、黒豆パイセンも地面に沈む。音もなく一瞬で姿が消える。

そしてまた短い悲鳴が鼓膜を揺らした。

 

「━━━━時と、場合は考えなくちゃね!!」

 

お菓子の兄貴が崩れ落ち、黒豆パイセンの姿が現れる。裸で格好はつかないけど感じる威圧感は十二分。その姿にはヴィラン連中とは違った怖さに満ちてる。

てか、あの筋肉の塊を一発でノックダウンとか、どんなパンチ力してん?やだ、怖い。あたい受けたくない。帰りたい。

 

「ふむふむ、ひーふーみーよー・・・後六人か。思ったよりずっと手強いな。流石に修羅場は潜ってないか。よし、それならこっちも、もう少しギアを━━━」

 

言い終わる寸前、氷柱の波が黒豆パイセンを押し潰す。

当たったかは分からないけど、かっちゃんはそこ目掛け爆撃を叩き落とす。轟音が鳴り、氷の粒が周囲に飛び散る。

 

「やかぁしいわ!!マンガ面!!グダグダ言ってねぇで、さっさと死ねや!!」

 

ヒーロー目指してるやつの台詞とは思えない怒号を発しながら、追撃にもう一つ爆撃を落とす。再びの轟音。今度は氷だけじゃなくて、飛び交うそれに石の粒も混じる。けれど、爆撃でボコボコになったそこに、黒豆パイセンの姿はない。

 

目を凝らせば、かっちゃんの後ろに拳を構える黒豆パイセンがいた。

 

「凄い個性だ、でも振り回すだけじゃ当たらないよ!」

「奇襲なら━━━━黙ってやれや!!馬鹿が!!」

 

爆破で加速した裏拳が背後を振り払う。

私の回し蹴り同様すかされるけど、かっちゃんはそのまま爆破で更に回転。加えて連続で爆破、回転を加速させる。そしてその勢いのまま、接近したパイセンの顔面目掛け裏拳を振り抜く。

 

拳が起こす音にしてはエグい音が鳴り響いた。

ただし空を切る系の音だけど。

 

「ハッハッハッ!凄いパンチだ!1年目でこれなら、将来有望だね!」

 

軽い口調と共にまた黒豆パイセンが地面に沈む。

かっちゃんはすかさず地面を爆撃で抉り飛ばしたけど、やっぱり黒豆パイセンを捕捉出来ない。

 

「緑谷!何かないか!」

 

オジロリオンの叫びが聞こえてくるけど、答えに詰まる。何かあるならとっくにやってる。

現状、もうどうにもならない。

 

策を練るにしても今ある手駒が限定的過ぎるんだもん。

かっちゃんは個としては間違いなく強いけど言うことあんまり聞かないし、轟は大雑把な範囲攻撃は出来ても小技とか出来ないし、無言くんも室内だと個性対象が少なくてあれだし、切島は馬鹿だし、オジロリオンは自分の得意な戦闘技術の部分でパイセンに完全に負けてるし・・・・搦め手を得意とするメンバーを最初にやられたのがあまりに痛過ぎるぅ!くそ、あの黒豆パイセンめがぁぁぁぁ!!

 

「オジロリオン!」

「思いついたか!言ってくれ!」

「逃げてぇ!!全力で逃げてぇ!私がフォローするから!」

「分かった、兎に角走って・・・作戦、なんだよな?」

「いや、私が叩かれたくないから」

「作戦でも何でもなかった!」

 

ふざけてる?のんのん!本気!あれに勝つ方法とかないから!勝利条件が黒豆パイセンを戦闘不能なら、無理ポヨだから!

 

「━━━ぐっへ」

 

下からそんな声が聞こえ、オジロリオンが前屈みに崩れ落ちてく。オジロリオンの背中を守ってた無言くんも。嫌な予感がして下を見れば、地面から上半身だけを生やした黒豆パイセンがいた。オジロリオンの腹に突き刺さってた右腕がゆっくり引き抜かれる。

 

「逃げるのも間違いじゃない。そういう判断が出来ないとプロヒーローとして長生き出来ないからね!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!変態がちん●ん丸見えできたぁぁぁぁ!」

「えっ、あれえぇっ!?」

 

動揺した瞬間、引き寄せる個性を発動。

黒豆パイセンの顔面にパイセンの拳をフルスロットルで引き合わせる。当たる寸前で引き抜き寄せる個性がすかる感覚が走ったけど、パイセンの顔面はその自分の拳で歪んだ。

 

 

「見ぃつけたぁ」

 

 

思わず溢れた私の声に黒豆パイセンが目を見開く。

そして私の目に恐らく映ってるそれを見て、不適な笑みを返してきた。

 

「初戦闘中それを探り当てたのは、師以外じゃ君が初めてだよ・・・・!」

 

それだけ言うと黒豆パイセンが拳を構え直して地面から飛び出してきた。そしてそのまま私の腹目掛け拳を振り抜く。だけど簡単には当たってやらない。

 

体を背後に見える地面にフルスロットルで引き寄せ。

流石にノーモーションには反応出来ないみたいで、黒豆パイセンの拳が空を切っ━━━━!?

 

「惜しい。俺はまだ、飛び出しきってないよ」

 

途中で止まった拳と、地面に沈み込んだままの片足が見えた。黒豆パイセンのそれまでの言動と合わせ考えれば、直ぐそれに思い至った。その言葉が何を意味してるのか。

 

明後日の方向に飛ぶ筈の黒豆パイセンの体が、私の方向目掛け弾かれるように飛んでくる。

拳を構えたまま、しかも全裸で。

 

色んな意味で最悪のそれは。

 

 

 

 

「━━━━ぐぇ!?」

 

 

 

 

鈍い痛みと共に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギリギリちんちん見えないように努めたけど!!すみませんね女性陣!!とまァーーこんな感じだよね」

 

結局あの後、かっちゃん達もそれなりに健闘したものの見事に全員腹パンで沈められ、拳による説明会が終わった。タフネスかっちゃんはなんやかんや三発耐えたみたいだけど、今はグロッキーで一人倒れてる。下手に耐えるから・・・かっちゃん?大丈夫?かっちゃーん?駄目だ、返事がない屍のようだ。

 

というか、呆気らかんとしてる黒豆パイセンに言いたい。お前服脱いで腹パンしただけやんけ、と。犯罪だよ、犯罪。ツカッチーに報告だよ。

 

「俺の個性強かった?」

 

軽い口調に腹パン被害者の会の皆から非難の声があがる。強すぎるとか、ずるいとか、チート野郎とか、変態とか、変態とか、露出狂とか、粗チン野郎とか。心ない罵倒にショックを受けながら、黒豆パイセンは自分の個性である透過の話を始めた。

 

アホみたいに長い話で、興味なかったので殆んど右から左に流したけど、やっぱりパンチ食らう前に見た地面から弾き飛ばされたように見えたあれや、ワープのような高速移動は個性の特性を利用した特殊な移動方だったみたい。だと思ったよね。くそぉぅ。

 

それから苦労話というか服が脱げた話とかしてたんだけど、ありがたい話を聞くと眠くなる病が発症してウトウトしてしまった━━━ので聞いて無かった。

目が覚めた時には黒豆パイセンがテンション爆アゲで熱く語ってる所だった。

 

「長くなったけど、コレが手合わせの理由!言葉より"経験"で伝えたかった!インターンにおいて我々は『お客』ではなくて一人のサイドキック!プロと同列に扱われるんだよね!」

 

「それはとても恐ろしいよ。時には人の死にも立ち合う・・・・!けれど恐い想いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一級品の"経験"」

 

「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!恐くてもやるべきだと思うよ1年生!!」

 

それを聞いた皆は納得したように拍手する。

百は「話せば直ぐ終わりましたのに」と悪意なく皮肉ってたけど。うんうん、まったくもってせやな。多分、質問時間とか普通に設けられたよね。有益なお話聞けたよね。腹パンしなくても、全然すんだよね?腹パンしたかっただけでしょ?寧ろ?そういうのは、そういうお店でやってよね。マジで。

 

 

それから程なくしてチャイムの音が体育館に響き渡り、お腹への痛みを残しながらインターン説明会が終わった。帰り際、目があった黒豆パイセンは放っておいて天ちゃんパイセンとねじれんパイセンと連絡交換をお願いした。ねじれんパイセンは即行でOK、天ちゃんパイセンも「俺なんかの連絡先なんて、価値ないと思うけど」と渋りながらも教えてくれる。黒豆パイセンのはノーセンキューしておいた。アナタ、ハラニ、パンチシタカラ、キライ。イヤ。キシャァァァァ、コッチクルナァー!

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「無駄にケガさせるかと思ってたの、知らなかったでしょ!?でも全員がケガなしで偉いなぁと思ったの今」

 

1年生へのインターン説明会の帰り道。

俺達の隣を歩く楽しげな波動さんの言葉に、興奮気味にミリオが口を開いた。

 

「いやしかし、危なかったんだよね!ちんち━━━」

「誰か面白い子いた!?気になるの不思議。私はね、やっぱり、あしどんちゃんの角が気になる!ね、あれ不思議!ね!」

 

波動さんのお陰で最後まで聞こえなかったけど。

ミリオ、それは女の子に言っちゃ駄目なやつだからね。

後でちゃんと注意しておこう。

 

だけど今はそれよりもある事が気になった。

 

「・・・・ミリオは、随分と気に入ったみたいだね。あの子だろ、ミリオが気にしてたの」

 

俺の言葉にミリオは満面の笑みを浮かべた。

恐らく教室に入ってから━━いや、もっと前からミリオは誰かを気にしていた。それが誰かは聞かなかったし、ミリオ自身何も言わなかったから傍観してたけど、戦い始めて直ぐそれが誰だったのか気づいた。獲物を見つけた肉食獣のように、獰猛な笑みを浮かべ彼女を見つめるミリオを見れば。

 

事実、ミリオが気にするだけの事はあった。

彼女は全体的に未熟ではあったけど、初の顔合わせで今のミリオに一発でも攻撃を当てたのは、俺の知る限り一人もいない。

 

「噂には聞いてたけど吹っ飛んでるね!彼女!不意討ちの手際もそうだったけど、それよりなにより個性を見抜く目!行動を予測する分析力!目潰しに動じず反撃してくる胆力!作戦を組み立てる頭の回転の早さ!人を指揮する能力にその影響力の高さ!その上ユーモアだってある!・・・驚いたよ、あれで1年生なんだぜ!?負けてられないよな!環!」

「負けてられないのは・・・そうかも知れないけど、でも今のミリオには、勝てる人を探す方が難しいと思うよ・・・・」

「そんなことないさ!世界は広い!俺より凄いやつなんてゴロゴロいるって!相澤先生はああ言ってくれたけど、俺自身No.1なんて言われる器じゃぁないからね!━━━まぁ、それを目指してる事に、なんら変わりはないけれど」

 

ギラっと光が灯った瞳に傲慢さはない。

宿ったそれは、ただひたすらの灼熱の向上心。

ミリオは雄英のトップに立って尚、まだここが限界だとは欠片も思ってないのだろう。

 

「ふふふ、それにしても、サーが気に入りそうな子だったなぁ」

「・・・サー・ナイトアイが?」

「ああ、サーに良い報告が出来そうだよ!」

 

嬉しそうにそう言ったミリオの陰から、ニュッと波動さんが顔を出してきた。その表情は何処か不服そう。

 

「もー!二人で何を盛り上がってるの!私も交ぜて!リューキュウさんの話をすれば良いの?」

「・・・別に、インターン先のプロヒーローの話をしてたんじゃない━━━」

 

波動さんを止めようとしたら、ミリオがぐっと胸の所で力強く拳を握った。

 

「よし、波動さん!面白そうだからリューキュウさんの話聞くよ!」

「ミリオまで乗ったら収拾がつかなくなるから。それにのんびり話しながら帰る時間は━━━━━」

 

ミリオを止めようとしたら波動さんがこっちに身を乗り出してきた。

 

「それじゃこの間のインターンの時の話をするね!」

「・・・・うん、聞くよ」

 

結局止められなかった俺達は波動さんのとりとめのない話を聞きながら、波動さんの歩調に合わせて長い廊下を進んだ。チャイムの音が鳴るまでに教室に戻れなかったのは言うまでもない。



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『光に背を向けた先』の閑話の巻き

映画第二弾の情報、ちらほらきたね( ´∀`)キニナル


時計の針の音が聞こえるほど静かな部屋の中で、楽しげに語られる教え子のその声は、私の耳によく響いた。

 

『あのオールマイトが推薦した理由がよく分かりましたよ!確かに言動に多少不安はありますけど、彼女はきっとそれ以上にっ!熱い物を持ってます!良いヒーローになります!』

 

壁に掛けた時計に視線を向ければ、かれこれ十分以上の時間が過ぎているの知った。電話の向こうの彼はそんな事を露知らず尚も彼女を語ってく。

彼が見たそれを、私に伝える為に。

 

『身体的な能力も高いですが、何より分析力能力とそれを元に作戦を立てる頭の回転の早さが凄いんです!今日は先手をうつことで圧倒したんですが、手の内を知られた次はどうなるか!学習能力の高さも━━━━』

「ミリオ、そこまでで十分だ」

『━━━あっ、はい!スミマセン!話し過ぎました!この忙しい時に!』

「・・・いや、謝る必要はない。だが、私も忙しい。ミリオ、結論から聞かせなさい。私にどうして欲しい」

 

遮るように掛けた言葉にミリオが口を告ぐんだ。

そして少しの沈黙の後、ゆっくりと息を吐く音が聞こえてくる。なにか決意を固めるように。

 

『彼女をインターンで受け入れられませんか。相澤先生・・・緑谷さんの担任の先生には、許可を貰いました』

 

淀みなく告げられた言葉。

それが単なる思い付きで発された物でないことくらいは伝わってきた。

 

「理由を聞いて良いか」

『理由は二つあります。一つは、彼女に可能性を見たからです。誰よりも立派なヒーローになれると。俺はそれが見たいと思いました。だから、彼女に少しでも俺が身につけたそれを伝えられればって』

「分かった、もう一つは?」

『彼女に、危うさと不安を覚えたからです』

 

先程語られた言葉と正反対のもの。

けれどその言葉に違和感は覚えなかった。

私はそれを良く知っている。

 

『あくまでも勘でしかありませんが・・・このまま彼女がヒーローになった時、取り返しのつかない事が起こる気がするんです。彼女は俺のブラインドタッチ目潰しを避けませんでした。最初は胆力の高さに感心してたんです。でも、改めて考えるとおかしいな、と。俺の個性を知っていたとしても、目への攻撃は本能的に避けます。なのに、彼女は避けないどころか、反撃までしてきました』

 

『そしてそれを意識して行えるなら、いつか彼女は最良の結果の為に、当然のように犠牲を払う時がくると思うんです。それが他人なのか、自身なのか・・・それは分かりません。だけど、彼女はそれを咄嗟にでなく考えてから行う筈です。言い訳のきかない程に、己の意思で』

 

『だから・・・上手く、言えないんですが、その時がきた時に後悔するような選択をして欲しくないと言いますか・・・もっと選択肢を増やしておいてあげたいと言うか・・・・すみません、何て言ったら良いか思い付かなくて』

 

伝えられたミリオの言葉に嘘や虚飾は感じられなかった。本心から言っているのは間違いないだろう。━━━であれば、少なくともミリオの心を動かす何かがあったという事だ。私の指示に反する程の何か。

 

好きにやらせてみる、出来るのであればそれが一番に違いない。ミリオの成長の為にも、誰かを指導したという経験は大いに役に立つだろう。必要な事ではある。余裕さえあれば一言で許可も出せたが・・・時期が時期だ。今のミリオに何か負担を掛けるのは得策とは言えない。

 

そして何より私自身が、彼女を受け入れる事に納得出来ていない。

私の見いだしたミリオではなく、彼自身が後継と認めた彼女の事を。

 

それならばいっそ、お節介だと言って切り捨ててしまえばそれまでだが・・・。

 

ふと視界の中に彼の笑顔が映り込む。

壁に飾ったタペストリーの一枚、彼の十周年を記念して作られたそれに浮かぶ、眩しいまでの笑顔。

 

そして脳裏をかつての記憶が過っていった。

若く青い、私の光の日々が。

 

「・・・・・良いだろう。今度の休みに連れてきなさい」

『良いんですか!ありがとうございます!』

「ただし、実際にインターンとして受け入れるかは別の話だ。面接の結果によっては受け入れを拒否することもある。そして大前提として、彼女にその意思がなければ連れてこないように」

『はい、勿論です!それじゃ、長々とすみませんでした!!サーお疲れ様です!』

 

私を労った元気な声がぶつりと切れる。

静寂の戻った部屋の中で、私は手にしていたスマホをテーブルに置き、同じようにテーブルへ置かれていたコーヒーカップを手にした。口元にカップを近づければ、冷めきったように思っていたそれから、僅かな温もりを感じる。黒い波紋が広がるそれを口にすれば、生ぬるい苦味が口の中に広がっていった。

 

「教え子というものは、師に似る者なのだろうか・・・・」

 

ふと、私は部屋の脇に飾られた彼のグッズを見た。

どの彼も鍛え上げられた肉体と共に、ヒーローとして模範的な頼もしく力強い笑顔を浮かべている。趣味で集めたそれは、埃の一つも被っていない。かすかな傷もついていない。

 

本当の彼は、もうボロボロだというのに。

 

「オールマイト・・・・」

 

かつて私の誇りだったそれらに、もう輝きは見出だせない。今はただ色褪せた飾りにしか見えなかった。グッズショップを何軒も梯子し集めた缶バッジも、ファンイベントの抽選で貰ったサイン付きのポスターも、あれも、これも、それも、どれも・・・もう、私には、価値の分からない物に成り果ててしまった。

 

女々しくあれらの埃を払おうと、あれらをどれだけ大切にしようと━━━そこにはなんの意味もない。

本当に助けなければならない彼は目を逸らしたくなるほどボロボロで、今も傷つき無理を重ね続けている。

今は活動休止を発表し僅かな休息を得ているようだが・・・そしもどれだけ続くか。彼は必要とあれば止まらない。それは次代を支えるヒーローが現れるまでずっと変わらない。変わらないのだ。そういう男なのだから。

 

『私は誰ともチームを組むつもりはないんだ!すまないな、サー・ナイトアイ!』

 

今でもはっきりと覚えている。

笑顔でそう言った彼の姿を。

 

ファンとしてでなく同僚として掛けられた声が、どれだけ嬉しくどれだけ誇らしかったか。叫び出すほどに、打ち震えるほどに、涙が溢れるほどに・・・それは私にとって何よりの喜びだった。

 

彼とのチームの結成が決まった時、どれほど自らの幸運に、この世界に感謝したものか。同じ時に私を産んでくれた母に、育ててくれた父に感謝したものか。

 

それなのに、私は━━━━━━。

 

『これ以上ヒーロー活動を続けるなら、私はサポートしない・・・!出来ない・・・!!したくない・・・!!!』

 

━━━━彼を見捨てた。

 

支えねばならなかった彼を。

守らねばならなかった彼を。

自らの苦しさに負けて

 

 

 

握った拳から熱い何かが滴り落ちた時。

ドタドタと慌ただしい足音が部屋の外から響いてきた。

足音のリズムから恐らくバブルガールである事を察し、私は自らの手をハンカチで拭った。うっすらと残る傷痕からまた赤が滲むが問題はない。掌を見せる理由もなければ、バブルガールがそれに気づいたとしても性格的に態々尋ねることもないだろう。

 

「サー!!ホシに動きが・・・って今日もまたオールマイトグッズ鑑賞会ですか!地味でオタクって、救いようないですねオイ!」

 

ユーモアとはかけ離れた言葉ではあるが、これが努力を重ねた上での彼女の最大最高のユーモア。

努力に努める姿勢を見せている以上、もはや何も言うまい。

 

「報告は元気に一息で」

 

私の言葉を聞いてバブルガールが姿勢を正した。

 

「っはい!捜査中の指定敵団体の若頭ヴィラン名『オーバーホール』!あの『ヴィラン連合』と接触があったようです」

 

その言葉に私はテーブルに並べた資料へと視線を向けた。私達が抱えるある案件に関する資料の山に。

その中の一つ、一枚の写真がクリップされた資料が目についた。今現在、私が知る限り最も危険度の高い、どこまでも狡猾なヴィランの情報をまとめたそれが。

 

「オーバーホール・・・・ついに動いたか」



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『Conflicting darkness』な閑話の巻き

まさかの二話投稿。休みの日って、素晴らしい。


大事なのは自分が誰なのかよく知ることだ。

それを見失った俺だからこそ、誰より胸を張って言える。それは性格がとか、個性がとか、生まれがとか、生い立ちがとか・・・そういう単純な話じゃぁない。

 

単純な話さ。

 

恐らく人を作る上での根底、当たり前にあるそれだ。

寧ろ持ってねぇやつのが圧倒的に少ないだろう。

誰しも自分がなんなのか、誰に教えられるまでもなく、物心ついた頃にゃ大なり小なり持ってるもんだ。

 

持ってないさ。

 

勇気のあるやつ、臆病なやつ、お人好しなやつ、卑怯なやつ、乱暴なやつ、気弱なやつ。それを伝える言葉は幾らでもあって、きっと誰しもがそのどれかで、そのどれでもないんだろう。だが、きっと、誰しもが自分が何なのか答えるに違いない。根拠のない自信を持って。

 

根拠もあるさ。

 

けれどな、一度そいつを手放しちまうと途端に分からなくなる。それまで堅牢だと思ってた足元が崩れ落ち、自分が何処にいたのか、何処を見ているのか見失う。暗闇に落とされるように、視界の先には黒以外何も映らない。否定と肯定が頭を巡る。お前は誰なのか、そんな自問自答を繰り返す。呆れる程に延々と。

そうしていつか気づくのさ。

 

てめぇが、どうしようもなく。

狂っちまったって事に(狂ってないって事に)

あ?で、結局何が言いてぇのかって?

 

俺がてめぇのお友達だよって事さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見るからに不衛生だな。ここが拠点か?」

 

俺の背後を歩く男が不意にそう呟いた。

新人候補の癖に生意気なやつだ。大人しく付いてくるってのが礼儀ってもんだろうが。まぁ、俺達みたいなロクデナシが常識語るのもおかしな話ではあるが。

 

しかし、言われてみればひでぇ場所か。

雑木林の奥にひっそり佇むそこは、十年近く前に打ち捨てられた小さな工場。錆び付いたドアを開けばよく分からない資材が埃と一緒に積まれ、オイルだか何だか分からない液体が床に染みを作ってやがる。おまけに虫はいるわ、ネズミはいるわ、蛇はいるわと小動物のテーマパーク状態。お世辞にもパーティー会場とは言えねぇな。

前はシャレ乙なバーで楽しくやってた事を考えると、ここは確かにほんの少し見映えが悪いが━━━都会でも元気にドブネズミしてた事を考えりゃ、俺達にはよく似合ってると思えなくもないけどな。

 

「ああ!いきなり本拠地連れてくかよ。面接会場ってとこ」

「面接会場か・・・勘弁してくれよ。随分と埃っぽいな・・・病気になりそうだ」

「安心しろ、中の奴らはとっくに病気だ」

 

工場内を進んで少し、開けた場所に辿り着いた。

予定通り、死柄木を始め皆の姿がある。トガちゃん、コンプレス、マグ姉。面接官が勢揃いだ。

軽く手を上げればコンプレスが同じように手を上げて返事を返してくれた。

 

「話してみたら意外と良い奴でよ!!死柄木と話をさせろってよ!感じ悪いよな!!」

 

男を紹介すると死柄木がじっと男を見つめ、スッと息を吐いた。

 

「・・・・とんだ大物連れてきたな・・・トゥワイス」

 

大物という言葉に男を見れば、男は品定めするような目で皆を見た後「大物とは皮肉が効いてるな、ヴィラン連合」と軽く口を叩く。黙らせようかとも思ったが、肝心の死柄木は大して気にした様子もない。元より品性のあるお友達でないことも考え、ただの戯れ言だと放っておく事にする。

 

「何、大物って。有名人!?」

「"先生"に写真を見せてもらったことがある。いわゆるスジ者さ。『死穢八斎會』その若頭だ」

「極道!?やだ初めて見たわ危険な香り!」

 

死柄木とマグ姉の会話を聞いてトガちゃんが不思議そうに首を傾げる。少し考えた後、背の高い機材に腰掛けるコンプレスへ視線を向けた。

 

「私たちと何が違う人でしょう?」

「ん?そうか、最近の子はヤクザ屋さんってピンとこないかぁー。よーし、中卒のトガちゃんにおじさんが教えてあげよう」

 

そういうとコンプレスは指を鳴らす。

弾けるような音と共に、両の掌に銃とドスに似たナイフが現れた。コンプレスはそれを手元で遊ばせながら語る。

 

「昔はね、こーんな武器を持った裏社会を取り仕切る恐ーい団体が沢山あったんだ。でも、ヒーローが隆盛してからは摘発と解体が進み、オールマイトの登場で時代を終えた。シッポが掴まれなかった生き残りはヴィラン予備軍って扱いで監視されながら細々生きてんのさ。ハッキリいって時代遅れの天然記念物」

「天然記念物???ナイフなら私も持ってますよ?ヤクザ屋さんですか?」

「ハハハッ、そうだねー。でも刃物持ってればヤクザ屋さんって訳じゃぁないよ。結局、本質的な所にそう変わりはないから、あとは所属によって呼び方が変わる感じ。俺達はヴィラン連合に所属してるから、そのままヴィラン屋さんって所かな?」

「ふーん、なんとなく分かりました。トガはヴィラン屋さんですね」

 

納得した様子のトガちゃんが男に無邪気な視線を向ければ、男はつまらなそうに「まぁ、間違ってはいない」と呟く。馬鹿にされたわりには表情や態度に変化はない。キレた野郎かと思ってたが、こういう時に冷静でいられるのは何よりだ。まともなお話が出来る。

 

「それでその細々ライフの極道くんがなぜウチに?あなたもオールマイトが活動休止してハイになっちゃったタイプ?」

 

マグ姉の言葉に男は軽く首を横に振る。

 

「いや・・・・俺としては、オールマイトよりもオール・フォー・ワンの消失が大きい」

 

その言葉に死柄木の気配が僅かに変わる。

重く息苦しくなるような、それに。

男は気づいてる様子だったが気にせずに続けた。

 

「裏社会の全てを支配していたという闇の帝王・・・俺の世代じゃ都市伝説扱いだった。だが、老人たちは確信をもって畏れてた。死亡説が噂されても尚な。それが今回実体を現し・・・タルタロスへとブチ込まれた」

 

「つまり今は、日向も日陰も支配者がいない」

 

「じゃぁ次は、誰が支配者になるか?」

 

男が声を発する度に死柄木の機嫌は更に悪くなっていくが、死柄木は何も言わず男に先を促す。

するとそんな死柄木の姿に「宛が外れたな」と小さく呟くと、そのまま話を続けた。

 

「順当に考えれば、オール・フォー・ワンの後釜はお前だろう。━━━だが、お前の中にプランはあるか?目標を達する為の、明確なプランが」

 

「ヒーロー殺しステインを始め、快楽殺人のマスキュラー、脱獄死刑囚ムーンフィッシュ・・・どれも駒として一級品だがすぐに落としてるな?使い方が分からなかったか?」

 

「いかれた人間十余人もまともに操れない者が、あの怪物の後釜?名前に惹かれ集まる折角の駒が、先の連中と同じように、無駄に消費されるのは想像に難くない。なんとも勿体ない話だ」

 

男の言葉を静かに聞いていた死柄木は「それで、結局何が言いたい?」と返す。死柄木らしくない穏やかな口調に、背筋に寒気が走っていった。最近の死柄木はこういう時がある。得体の知れない、気配を発する時が。

 

「俺にはお前達と違ってプランがある。明確で確かな結果をもたらすプランだ。ただそれを遂行するには莫大な金が要る。時代遅れの小さなヤクザ者に投資しようなんて物好きは中々いなくてな。だから、お前達の名前が必要なんだ━━━━━俺の傘下に入れ。お前達を使ってみせよう。そして俺が、次の支配者になる」

 

男が言い切ると死柄木は乾いた笑い声をあげた。

脳裏にあの日見た、先生と呼ばれた男の姿が過る。

 

「夢のある話だ、是非頑張ってくれ。それじゃ話は終わっただろ?手ぶらで"帰す"のはあれだが、今はお前を喜ばせるような物が手元になくてな。出口はあっちだ」

 

出口へ向かって手を差し向けた死柄木に男が目を細める。纏う空気も鋭い物へと変わった。

 

「・・・俺の話を聞いてなかったのか」

「聞いていたさ。小学生が将来の夢を語る作文みたいに、夢の沢山詰まったお話だったな。それで?俺達とそれがなんの関係がある?ああ、心配するな。お前らの邪魔はしないさ。俺達の目の届かない隅の方で、俺達の邪魔にならないようにいそいそ企めばいい。好きにしてくれ━━━俺が、許可する」

「誰が、何を許可する・・・と?」

「お前がやりたいプランとやらの、許可だよ。聞いてなかったのか?」

 

その言葉を切っ掛けに殺気がそこに溢れた。

死柄木と男以外の全員が思わず戦闘態勢をとる程の、全身を針で刺されるような濃厚な殺意。吐き気すら込み上げるそこで、死柄木は肩を揺らしながら笑う。

 

「何を怒る必要があるんだ?"オーバーホール"。折角許可してやったのに」

「お前の許可を得る理由はない。お前は偶然目の前で空いた椅子に腰掛けただけの、ただの紛い物だろう。違うのか」

「そうだとして、お前と俺の肩書きが変わる訳でもないだろう?お前の欲しいヴィラン連合の名前は俺の物で、お前は碌に人も金も集められない死穢八斎會という落ちぶれたヤクザの一構成員でしかない。それが分からないなら、分不相応な夢なんて見ずに残飯でも漁ってろ。お前ら落ち目のヤクザ者にはお似合いだろ」

 

死柄木の言葉にオーバーホールは体から垂れ流す殺意を強め手袋を外した。その姿に俺は手首に収まってる武器の止め金に指を掛けたが━━━それより早く、オーバーホールの体が不自然な体勢で飛んだ。

 

「おいたは駄目よ、極道くん。これでもウチの大切なリーダーなんだから」

 

声の先にはマグ姉が磁石によく似た武器を構えていた。

マグ姉の個性が使われてる証拠に、オーバーホールの体に淡い光がまとわりついてる。オーバーホールは抵抗してるように見えるが、体はどんどんとマグ姉の元へと引き寄せられていく。

 

「勘違いしてるみたいだから言っておくわ。私達はね、誰かの下で使われる為に集まってるんじゃないの」

 

近づいていくオーバーホールの姿を見ながら。

 

「こないだ友達と会ってきたのよ。内気で恥ずかしがり屋だけど、私の素性を知っても尚、友達でいてくれた子。彼女が言ってたわ『常識という鎖に繋がれた人が、繋がれてない人を笑ってる』ってね」

 

マグ姉はゆっくり武器を振りかぶる。

 

「何にも縛られずに生きたくてここにいる。私達の居場所は私達が決めるわ!!それを邪魔しようってんなら、あんた死になさいよ!!」

 

そして怒号と共に武器が振り下ろされる。

鈍い音が鳴りオーバーホールの膝が折れる。

けれど、倒れはしなかった。

 

 

 

「先に手を出したのは、おまえらだ」

 

 

 

その声とほぼ同時だった。

マグ姉の上半身が弾け飛んだのは。

 

周囲に飛び散った赤い斑点、鼻につく鉄の臭いでようやく我に返った。音を立てて地面に崩れ落ちる、その下半身から目が離せなかった。

 

「待て、コンプレス!」

 

死柄木の声に顔を上げると、オーバーホールを押さえにいったコンプレスの姿が見えて━━━━━また、赤い飛沫が視界に入り込んできた。

 

「ってぇぇぇぇぇ!?」

 

地面に崩れ落ちたコンプレスの隣を死柄木が駆ける。

伸ばした掌は真っ直ぐオーバーホールへ向けられていた。

 

「━━━━盾っ!!」

 

オーバーホールの声に見知らぬ男が現れ、死柄木との間に体を割り込ませる。死柄木の個性は触れたそいつを瞬時に塵へと変え、オイルに汚れた地面へ新しい染みを作り出す。

 

「危ない所でしたよ、オーバーホール」

 

その言葉と共にオーバーホールの周りに仮面を着けた集団が現れた。ある者は壁を突き破り、ある者は天井から飛び込み、ある者は物陰から姿を見せる。

 

「待てっ、どこから!!尾行はされてなかった!」

「大方どいつかの個性だろう、頭冷やせトゥワイス」

 

頭を冷やせ?頭を冷やせだと?なんで、どうして、そんな事が言える。冷やせる筈がねぇ。死んだんだ。目の前で、マグ姉が。無くなっちまったんだ、コンプレスの腕が。今にも沸騰しちまいそうだってのに、それを、冷やせだと?死柄木!

 

声をあげようとしたが、死柄木の嫌に冷たい視線に言葉が出なかった。コンプレスのうめき声が聞こえ、死柄木のことはおいてそこへ駆け寄れば、傷口から赤い液体が止めどなく溢れているのが見えた。

 

「大丈夫か!?コンプレス!!」

 

声を掛けたが返事はなかった。

痛みのあまり気を失っているか、荒い呼吸を繰り返し呻くだけ。

 

「穏便に済ましたかったよ。ヴィラン連合。こうなると冷静な判断を欠く。そうだな戦力を削り合うのも不毛だし・・・ちょうど死体はお互いに一つ・・・キリも良い。頭を冷やして後日また話そう━━━━ああ、腕一本はまけてくれ」

 

腕一本をまけろ?

死体が一つ?

キリも良い?

不毛?

 

おい、おい、おい・・・。

何を言ってんだ。

こいつは・・・・!!

 

「てめェ!!!殺してやる!!!」

「弔くん、私刺せるよ。刺すね」

 

俺に続いてトガちゃんも武器を構えた。

後は曲がりなりにもボスである死柄木の言葉待ちだったんだが、死柄木は一言「駄目だ」と言いやがった。

 

「責任をとらせろ!!!死柄木!!」

 

怒鳴りつけたが死柄木はオーバーホールに視線を向けたまま動かない。その姿を見てオーバーホールは俺達に背を向けて出口を開いた。

 

「直ぐにとは言わないが、なるべく早めが良い。他の連中が勢いづく前に手を打ちたいからな。・・・それはあんた達も同じだろう。ヴィラン連合」

 

ヒュ、とオーバーホールから白い紙切れが投げられた。

それは死柄木の足元に落ちる。

 

「冷静になったら、電話してくれ」

 

それだけ言うとオーバーホールは仮面の集団を引き連れて工場の外へ出ていく。死柄木を無視して追い掛けたが、錆び付いたドアの向こうには薄暗い雑木林があるだけだった。



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モテる女ってのは、何も言わなくても男が寄ってきてしまうものなのだよ!そう、美少女の中の超絶美少女の私みたいな女にはね!・・・こっちみて。ほら、ねぇねぇ、こっち。美人はこっち。こっち、見ろごらぁ!の巻き

弔きゅんが、やばい。勝てる気がしない。


「やぁ!おはよう!良い朝だね、緑谷さん!一緒に学校まで行こう!」

 

お茶子にナニワチョップで叩き起こされて少し。

ジャムとバターをたっぷり塗った食パン咥えて寮の玄関を出ると、黒豆パイセンが高らかに挨拶してきた。隣のお茶子が説明して欲しそうな顔でこっちを見てくるけど、いや知らんし。私だって聞きたいわ。

 

取り敢えず昨日の事もあって好きくないので軽く会釈してかわそうとしたけど、ささっと回り込まれた。何?魔王からは逃げられない系なの?ファン?サインならイベントの時にしてよね。今の所イベントないけど。

 

「仕方ないにゃぁー、はいシャツ捲って」

「シャツ?これで良いかな?」

 

やっぱり私のあまりの神々しい奇跡的な美しさに見惚れてしまった一人のようで、サインが欲しさからかYシャツが躊躇いもなく捲られ柄物のTシャツが目に映る。隣で可愛らしい悲鳴をあげたお茶子をそのままに、鞄から取り出しサインペンでチャチャっとサインを書き込んであげた。ヒーロー科へいく事が決まってからずっと温めてきた、双虎ちゃんのにゃんこサイン。名前の隣に描いた猫の足跡がポイントである。

 

「名前入れます?」

「・・・あー、そういう事か!成る程!じゃぁ、折角だからお願いするよ!」

 

リクエスト通りに工場長へと書き込めば、それを見た黒豆パイセンは首を捻った。何捻っとんのじゃい。ゆーは腹パン工場の工場長じゃろがい。

 

「名前は多分覚えてないだろうから、昨日言ってた黒豆パイセンって書くのかと思ったんだけど・・・俺って工場長っぽいかな?」

「えっ?工場長じゃないんですか?昨日は生産ライン一人で担ってたじゃないですか」

「生産してたかなぁ・・・?あぁ、寒いギャグは凄い勢いで生産してたね!そういうことか!ハッハッハッハッ!自分で言っててなんだけど地味に傷つくね!これ!誰か上手いジョーダン教えてくれないかなぁ!ハッハッハッハッ!」

「え?はぁ、まぁ、それでも良いですけど」

 

それじゃ、と別れたつもりだったんだけど、歩き出すと黒豆パイセンも隣についてきた。またお茶子が説明して欲しそうな顔してるけど、だから私も知らないからね?本当だよ?なに疑ってん?ねぇ、こら。

 

「いやー良い朝だね!本当良い朝だ!コケコッコーって感じの朝だよね?」

「はぁ、コケコッコー?コケコッコーかは分かりませんけど、天気も良いで━━━━━」

「朝ごはん何食べた?俺は山盛りのご飯に納豆と卵をかけて食べたよ。あっ、お味噌汁はワカメのお味噌汁だったよ!あとおしんこ!早朝ランニングを終えた後のご飯はどうしてあんなに美味しんだろうね?」

「はぁ、どうしてですかね?私は朝弱いんで、早朝のランニングとかしたことな━━━」

「それは兎も角、緑谷さん。今度の休みの日空いてないかな?」

「━━━━話し掛けておいて、何一つ聞いてませんよね?黒豆パイセン」

 

ジト目で見れば黒豆パイセンはタハハーと笑う。隣のお茶子はなんかアワアワしてる。少し離れた所からは耳郎ちゃんを筆頭に女子ーズがキャーキャー騒いでる。なに?なんなの?ほわっつ?

 

━━━ん?そう言えば、さっき何か言わなかったか?休みの日?

 

少し考えて、改めて黒豆パイセンを見た。

私の視線に気づくとパイセンはめっちゃ良い笑顔を向けてくる。キラッキラだ、キラッキラ。ほう?これは、ほう?ほうほう・・・・・・いやぁ、モテるって辛いね!可愛いって罪だね!ごめんね、美人で!!でも残念。パイセンは私の好みではないのですよ。私は背が高くて、細マッチョで、イケメンで、お金持ちで、日がなゴロゴロしながらゲームしても怒らないで、三食ご飯作ってくれる人じゃないと無理だからぁ・・・・むぅ?

 

「黒豆パイセンって背大きいですよね?」

「ん?そうだね、緑谷さんよりはね?」

「ゴリマッチョって程でもないし・・・」

「無駄な筋肉をつけると動きが鈍るから、基本的に使う部位しか鍛えてないんだ」

「イケメン・・・ではないけど、まぁ愛嬌はあるかな?腹パンしてくるけど」

「ありがとう、なんだか照れるね。腹パンはごめんね」

 

ふむ?

 

「因みに今、お財布の中身が幾らか教えても━━━━いだだだだだだだだだだだだ!?にゃにごとぉっ!?」

 

お財布の話をした途端、頭が万力みたいな物で締め上げられた。痛みにこらえながら頭を締め付けるそれを確認すると、触り慣れた手が頭の上に乗っかってる。

 

「くぅぉっちゃん!?なんで、なんでアイアンクロー!?何故に!?」

「っせぇボケ。誰が、くぅぉっちゃんだ。朝っぱらから寝惚けたこと抜かしてんじゃねぇぞ」

 

不機嫌そうにそう言うと頭を締める力を強めてきた。

割れちゃいそうに痛いというか、もう割れてる気がする。ぱっくりいかれてる気がする。だって、そういう痛さだもん。鏡怖くてみれんわ!割れてない!?われて、いだだだだだだだだだだだだ!!そんな事言ってる場合じゃなかったぁ!!

 

「おい、先輩。クソ忙しい朝っぱらから、馬鹿にちょっかい掛けてんじゃねぇよ。誰が馬鹿やらかすこいつの後始末つけると思ってんだ」

「それもそうだ。ごめんね、緑谷さん。朝早くから畳み掛けるように。俺も少し気持ちが急いてしまったみたいだ。じゃ、今度はお昼休みにでもくるよ!」

「くんじゃねぇ━━━━━って、聞けやこら!!」

 

用件は済ませたと言わんばかりにかっちゃんの返事も聞かず、黒豆パイセンは嵐のように去っていった。かっちゃんの怒鳴り声をどういう風に受け取ったのか笑顔で手まで振ってくる始末。かっちゃんのアイアンクローの力が強まるからマジで止めて欲しい。いたいっ、いたいよぉぉぉぉ!八つ当たりしないでくんない?!ちょっ、見守ってる連中ぅ!!助けぇ、お助けぇぇぇ!なん、ちょっ、笑ってん!?こらぁぁぁぁ!!関節極めるかんな!上鳴ぃ!!

 

「なんで俺だけ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝からマジ切れアイアンクローを食らうという、悪夢のスタートきったその日。

 

「一年生の校外活動ですが、昨日協議した結果、校長をはじめ多くの先生が『やめとけ』という意見でした」

 

おおぅ、朝私を助けなかったからじゃぁ。

天罰じゃぁ、ざまぁぁにゃぁ。

 

包帯先生の言葉を聞いて愉悦からほくそ笑んでると、かっちゃんにバレて頬っぺたをつねられた。痛い。

そうこうしてると切島が残念そうな声をあげた。

 

「えーあんな説明会までして!?」

「でもよー、全寮制になった経緯考えたらそうなるか・・・」

「上鳴、ぼやきながら俺の尻尾撫でないでくれ。背筋がゾクゾクするんだよ。それ」

 

男連中がワチャワチャした所で包帯先生が「━━━が」っと鋭い声をあげてクラスが静まり返る。

 

「今の保護下方針では強いヒーローは育たないという意見もあり、方針として『インターン受け入れの実績が多い事務所に限り一年生の実施を許可する』という結論に至りました」

 

ふぅん?行く場所の制限はするけど、インターンの許可自体は出すのか。私はてっきり今回は見送るのかと思ってたんだけど・・・ちょっと宛が外れちゃったな。

 

それから少しインターンについて許可書の書き方だったり、必要書類の話だったりの説明があったりして朝のHRは終わった。次の授業にむけ準備しながらも、皆の口からはインターンの話題が止まらない。大半の人が前回職場体験した所に頼もうって流れみたいだ。

 

そんな話を聞いてるとふと思った。

・・・そう言えば私って、行く気になったらおハゲ雇ってくれんのかな?と。いや、働く気はないけどね?でもお給料とかどうなるの?とか気になるじゃん?

 

別に働く気になった訳じゃない。依然としてやる気ゼロ。ただおハゲからどれくらいのレベルだと思われてるのか、それがちょっと気になって轟の所へ行って聞いてみた。そしてたら「どうだろうな?俺は糞親父じゃないからな」と首を傾げられた。ただそれに続いて「インターンの噂聞いたのか、こんなのは届いたけどな」とスマホを見せてくる。

 

そこにはおハゲから轟に送られた数件のメッセージが入っていた。『焦凍、爆豪少年も連れてインターンに来い』とか『お前達に頂に最も近いプロの仕事を見せてやる』とか『給料はサイドキックと同じとする』とか『既読スルーするな』とか『焦凍!』とか『返事をしろ、焦凍』とか━━━━━━『緑谷双虎は絶対に連れてくるな』とかだ。

 

・・・・・ん。ふむ。

 

「あのホモ野郎!!どういうつもりどぅぉぁぁぁぁ!!なんで、行った事のある私じゃなくて!かっちゃん誘ってんの!?てか、なに名指しで私ハブってんだ!!あの、あのハゲ野郎ぉぉぉぉぉ!!拡散してやる!!実はヅラでハゲでしたって、世界各国に広めてやるぅ!!」

「庇う訳じゃねぇが、程ほどにしてくれ。何となく、それは姉さん達が苦労する気がする」

「むむむむぅ。じゃぁ、スマホ貸して」

「・・・・?ああ」

 

借りたスマホでおハゲにメッセージを返してやった。『はげろ』と一文だけ。

そしたら即行で既読ついて短いメッセージが鬼のように返ってきたけど、メッセージを見る事もなくおハゲのメッセだけ着信音も何も表示しないように設定し直してアプリを閉じてやった。

 

はげたら良いんだ、あんなオッサンは。

 

「まぁ、おハゲの事は置いておいて、それかっちゃんに話した?」

「・・・いや、まだだ。正直、俺自身あんまりな。ナンバーワンを目指すなら、あいつから指導を受けるのも、そう悪い手じゃないとは思うんだが・・・・」

 

轟はそもそもおハゲの事が嫌いだもんねぇ。

そうでなくても暑苦しいし、声無駄にでかいし、直ぐに怒鳴るし・・・あれと四六時中一緒にいると疲れるもんなぁ━━━━でも、プロの世界を経験するなら、あそこ以上はないと思うんだけどさ。それになんやかんや奢ってくれるし。

 

「何騒いでんだ、てめぇは」

 

不意に後ろから声を掛けられた。

授業の準備を終えたかっちゃんである。

早い!もう宿題のプリントまでテーブルに用意してる、だと!・・・・やばい、宿題やってなかった。ま、良いか。

 

「それはそうとさ、かっちゃん」

「あ?」

「おハゲからインターン来ないかって誘われてるみたいだよ?」

「・・・・いや、誰だよ」

 

本気で困惑したかっちゃんに轟が「うちの糞親父だ」と言えば、困惑した顔がより困惑した。分かる、意味が分からんって顔だ。私もなんでおハゲがかっちゃんを誘おうとしてるのか分からないもん。

 

そんなかっちゃんに轟が口を開いた。

 

「・・・・性格はあれだが、ヒーローとしては一流だ。調べていないからはっきり言えないが・・・流石に、相澤先生の言う条件はクリアしてると思う。・・・お前が行くなら、連絡はしておくぞ」

「あ?ふざけてんのか、誰がてめぇの世話になんざなるか!爆散されてぇのか!?ああ!?」

「嫌なら別に良いんだが・・・お前は俺と違って、親父に思う事もないだろ。どういう理由かは知らねぇが、あいつがヒーローとしてお前に声を掛けたんたら、それなりに理由がある筈だ。もし上を目指すなら悪い話じゃないだろ」

 

轟の言葉にかっちゃんが珍しく言葉をつぐんだ。

体育祭の前とかだったら、かっちゃんが怒鳴り散らして終わっただろうに・・・・仲良くなったなぁー。この二人。親友かな?

 

「・・・まぁ、考えておいてくれ。俺は・・・まだ決められないが」

「・・・・・ちっ!」

 

舌打ちするとかっちゃんは席に戻っていった。

あの様子だとなんやかんやおハゲの所に行きそう。かっちゃんは目敏いというか、チャンスは見逃さない人だからね。

 

「━━━━しっかし、何だってかっちゃんはOKで私はNGなんだか?何かしたっけ?」

 

おハゲの謎のメッセージについて考えてると、スマホがブルブルと震えた。何事かと思って画面を見れば、電話が掛かってきた事を教えるマークとおハゲの名前が映ってる。しつこく鳴るので電話に出ると『貴様ァ!!』と怒鳴り声が聞こえてきた。

 

『貴様だな!!焦凍のスマホでメッセージを返してきたのは!!返信がようやく返って━━━━いや!普段から当たり前のように返ってはくるが!!』

「おハゲ、既読スルーされてるの知ってるから。ぬか喜びしたんだよね?おつ」

『このっ、見たなら分かるな!貴様は出禁だ!!間違っても私の事務所にはくるな!!来たとしても門前払いしてやるからな!良いな!!分かったな━━━━━ぐっ、こ、お前らっ、━━━━━あっ!もしもしお電話代わりました!ニコちゃーんお姉ちゃんだよー!覚えてるー?一緒にカラオケした!サイドキックの!インターン待ってるからねー!━━━━はいはい!お電話代わりましたよっと。さっきのアホとコンビ組んでるお兄さんだよー!元気してた?やほー覚えてるかなぁ?まぁ、焦凍くんと一緒にきな!皆も待って━━━━ッッッッッッ』

 

サイドキックの皆の声が聞こえてきたと思ったら、今度は激しく電話が切れた。電話を切ったのは間違いなくおハゲだろう。職場体験の時からそうだけど、あそこはアットホームだなぁ、本当。最初は私達がいるせいか堅苦しい感じだったけど、直ぐ化けの皮剥がれたもんね。なんであんな職場作れてる癖に、おハゲ奥さんと上手くいってないんだか?不思議ぃ。

 

そうこうしてる内に一限目の担当であるコンクリート先生がやってきた。なのでスマホをポケットにinして、委員長の号令に従って起立。そんで礼して着席して、教科書を盾に夢の中へダイブした。

・・・・・ぐぅ。

 




おまけ。冬美さんサイド。

「えっ?緑谷さんをインターンで?良いんじゃない?焦凍も喜びそうだし」
『━━━━━━━━!!!!!!』
「・・・なんでそんなに怒ってるの、お父さん?」


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はぁ?お昼ご飯がそのゼリー一袋?おばか!そんなんだから、あなたモヤシなのよ!日本人ならお米じゃろがい!えっ、パン派?そんなん知らん!!お米食ってなんぼでしょうが!!米を食え、米を!!の巻き

気がつけば8月も終わり。まじか。


「緑谷さん!今度の休み、インターンに行こう!」

「えっ、嫌です」

 

学校で唯一の楽しみであるお昼休み。

皆と和気あいあいとカキフライ定食を食していると、約束通り本当にやってきた黒豆パイセンにそんな事を言われた。休みの日の予定なんて聞いてきたから、てっきりそういう事かと思ったのに・・・・マジか。マジかこの人。マジか。

 

「そう言わずに考えてみてよ。緑谷さんなら俺がお世話になってるサー・・・・って言っても分からないかな?プロヒーローも許可を出してくれると思うんだ。緑谷さんにとっても悪い経験にはならないだろうし、お給料も結構良いよ」

「お給料も・・・いやいや、行きませんよ。働きたくないので。ていうか、朝の時も最初にそれを言って下さいよ。即行で断ったのに」

 

それを聞いて黒豆パイセンは眉を下げた。

 

「そうか・・・まぁ、時間はまだあるから、気が変わったら教えて欲しい」

「気は変わりませんよ。大人になったら嫌でも働かなくちゃいけないのに、何だって学生の内からお仕事させようとするんですかね?まったく」

「はははっ、ごめんね」

 

そう言うと黒豆パイセンは私の前で割り箸を割った。そしてそのまま熱々のラーメンをハフハフしながら美味しそうに啜る。気持ちよく麺を啜りきったパイセンはレンゲでスープを飲みほっと息を吐く。

 

「やっぱりラーメンは醤油だよね!いや味噌も塩も、勿論とんこつだって好きなんだけどね?俺、ラーメン全般好きだから。でも、何も考えないで手が出るのは醤油なんだよ」

 

そう感想を言うと、またスープを飲み、メンマを齧り、湯気の漂う熱々の麺を啜ってく。私はズルズルと啜られる油でキラキラするその麺を眺めながら、思った事を口に出してみる事にした。

 

「いや、普通に気まずいっ!!」

「ん?」

 

黒豆パイセンは不思議そうな顔でラーメンを尚も啜る。

スープまで飲み始めた。ていうか、チャーシュー美味しそう・・・じゃ、なくてっ!

 

「何っ『きょとん?』としてるんですか?えっ、おかしいの私の方?!お茶子!おかしいの私!?普通さ、ここは『邪魔したね』って的な事言って去らない!?去るよね!?私だって去るよ?!ラーメンは啜らないし、ラーメン好きな事話し出さないよ!?」

 

隣へ振り向けば、お茶子は「そやねー」と少し困った顔になる。パイセンに気を使って言えないだけで、これはもう同意した顔なんですけどもっ!お茶子の隣の梅雨ちゃんも似たような顔で「けろぉ・・・」と言葉を濁してる。はい同意二つです!更に同意を求めて反対側へ振り返ってみれば、かっちゃんがパイセンを睨みつけたままアホみたいに真っ赤っかな担々麺を啜ってる。また糞辛そうなの食べてる。唐辛子って感じの臭いが凄い。かっちゃんは本当に舌馬鹿だな。地獄食ってるようなもんじゃん。

 

それでいつも前に座ってる轟は斜め前、かっちゃんの真ん前に移動してる。あっちはあっちで全然気にしない。かっちゃんに睨まれててても、隣でラーメン啜ってるパイセンがいても、平気な顔で当たり前のように天ぷら蕎麦啜ってる。ちょっとは気にして欲しい━━━というか、こういう時こそ私の前を確保してよぉ!前はそんなんじゃなかったでしょ!空気読めるようになってからにぃ!ていうか、その海老天うまそうなんですけど!今度海老天食べようっと!

 

「綺麗に追い出された眼鏡と切島は、まぁ良いとして・・・」

 

「ひでぇな、おい!緑谷!」

「食事中に立つのは感心しないな、切島くん」

 

私はもう一人のイレギュラーへ視線を向けた。普段こんな所にいないレアキャラもレアキャラ。八人掛けのテーブルにも関わらず眼鏡と切島が追い出される羽目になった原因。最後の二枠を奪っていった、そいつに。

 

そいつは私が見てる事に気づくと、口にしていた携帯食のゼリーの容器を握り潰し中身を一気に喉の奥へ流し込んだ。そしてテーブルに両手を勢いよくつくと、立ち上がり満面の笑みで話掛けてくる。

 

「緑谷さん!話終わりました!?終わりましたよね!よかった。それじゃ早速以前頼まれていたベイビースターの改良品についてご説明させて貰いますね!ああ、改良品の実物は検査から戻ってきたら直ぐ渡しますので、今日は取り敢えずこちらの資料に目を通して下さい!」

 

そう言うと発目は素早く隣の椅子の上に載せておいた糞重そうなバッグから書類を取り出し渡してくる。私がそれを受け取ると、書類の指差しながら説明を始めた。

 

「改良版は以前の物より若干耐久力は落ちますが、内部に収納空間を設けました。これにより内部カートリッジを変更し、用途に合わせた特殊弾が使用可能になります。現在検査を通った物はクモの巣形のネットが飛び出す捕縛弾、催涙ガスの入ったガス弾、発信器の入った追跡弾の三種類です。閃光弾に関してですが、審査で材料に問題があると却下されてしまいました。それについてはまた別の手段を考えますのでお待ち下さい。外装に関していえば、ご希望通りベイビースターの形状に飾りを足して8タイプの動物形に変更しておきました。ポップな仕上がりにしてますから見た目はヒーローの道具として申し分ないかと思いますが、飾りにギミックはありませんし、空気抵抗を考えるとデメリットの方が大きいです。無駄な装飾だと思うんですけど本当に必要ですか?」

「えーいるでしょ。可愛いじゃん」

「緑谷さんがそう言うなら別に構いませんが━━━あっ、それとですね。例の新装備についてなんですが、試作品8号が仕上がりました。調整する必要があるので、今日の帰りにうちのラボにきて貰えますか?」

 

特別用事もないので調整の件にOKを出すと「以上です!では!」と資料を片付け始めた。ゼリーを流し込んだだけで立ち去る気満々である。こいつこれだけの為に来たのか。んで、お昼ご飯を何だと思ってんだか。

 

「ちょいちょい、お昼それで終わり?味気無さすぎるでしょ」

「いえ!問題ありません!他の必要な栄養素はサプリメントで摂取していますので!ラボに帰ったら栄養ドリンクと飲みます!」

 

何処が大丈夫なのか聞いてみたい。

私なら発狂するよね、そんなの。

 

「飲みます、じゃないからね?食べるもん食べないと倒れるでしょ。ほら口開けな、カキフライ一個あげるから」

「いえいえ!お気になさらずに!過剰な食事は消化器官にエネルギーを持っていかれ脳が鈍りますのでこの辺りでちょうど良いんです!ご心配なく!開発は遅れさせませ━━━━━ふごぉ!!」

 

喧しい口目掛けカキフライを引き寄せる個性でぶちこんでおいた。カキフライを飲み物のように飲み込んだ発目が珍しく少し驚いた顔する。そのまま引き寄せる個性で椅子に座るよう体を引っこ抜いてやれば、くぐもった声と共に発目が椅子の上に戻った。

 

「目の下に隈作ってフラフラしてるやつが調整したアイテムとか、欠片も信用出来ないからね?ビジネスパートナーとして命令。ご飯食べて寝ろ」

「しかしですね!時間は待ってはくれません!刻一刻と私の中で沸き上がる━━━━ふごぉ!!」

 

口答えしてきたので切島の唐揚げを口にぶちこんでやった。なんか切島が「お、おれの!」とか騒いでるけど、それはスルーしておく。丁度良いの他に無かったの。めんご。

 

「はいはい、文句言わない。あんまり聞き分けないと、もうテスターしてあげないからね」

「なっ!それは・・・・!?」

 

発目は不服そうな顔をしてるけど、テスターの話を聞いて百面相してから渋々と椅子に座った。

 

「それでよし。どうせお金も持ってきてないだろうし、今日の所はかっちゃんが奢ったげるから、今度からはちゃんとしなよ」

「・・・・分かりました。今度は・・・無駄に思えますけど、そうします。無駄に思えますけど」

「二回も無駄言うなし」

 

 

 

 

「━━━━いや、待てや。なんでナチュラルに俺が奢る事になってんだ。ごら」

 

いや、だって、私はお金ないもん。

恵まれない子猫達にオヤツあげたり、ゲームソフト買ったりしてたら何もなくなっちゃってさ。次のお小遣いの日がくるまで、お昼ご飯以外はアイス一本も買えないんだよね。あっはっはっはっ。

 

不機嫌そうなかっちゃんに本日二回目の一生のお願いすれば奢ってはくれなかったけど、なんやかんやお昼代として千円を貸してくれた(返済日不明)。かっちゃんからの千円を私から受け取った発目は適当にランチを買ってきて席に戻るなり不服そうにご飯を食べて始める。食べるペースの早さにさっさと帰りたい様子が見てとれる。

どんだけ開発したいんだと様子を伺っていたら、不意に顔をあげた発目と目が合った。

 

「・・・・カキフライのお返しではないですが、ハンバーグ少し食べますか」

「いいの?じゃ貰う。さんきゅー」

 

お言葉に甘えてハンバーグの切れっぱしを貰う。

口に含むとまだ熱々な肉汁が掛けられたソースと混ざり合いながら口の中に広がっていった。うまうまな所にご飯をかきこめばお口の中が更に幸せになった。ご飯がとってもススムくんなお味である。やっぱり日本人はお米だよね。

 

「・・・・俺の唐揚げ」

「・・・・切島くん。僕のアジフライで良ければ、少し食べるかい?」

「い、飯田!?マジでか!?」

 

別のテーブルで友情フラグが立ったような気がした所で、目の前に席についてた黒豆パイセンが「気持ちいい食べっぷりだね」と陽気な声で言ってきた。乙女の食事シーンをガン見とか変態か!と軽く睨めば、手招きしてるのが見えた。何だろうかと不審に思い首を傾げると、黒豆パイセンが箸でラーメンに乗った煮卵を指した。

 

「緑谷さん、煮卵って好き?」

「えぇ?まぁ、コンビニのおでんとかでは、必ず頼む程度には」

「じゃぁ、俺の煮卵あげるよ。ご飯中に変な話しちゃったお詫びにさ」

「えぇ!マジすか!あざっす!」

 

良いというなら貰う。私の辞書に遠慮という文字はない。あざーすっていって終わりである。ただより恐い物はないけれど、一旦あげると言った上でそれが何の対価なのか明確なら迷うまでもない。

さっと煮卵をキャッチしようと箸を伸ばすと、横から箸がやってきて私の箸をガシッと掴んだ。箸と箸を合わせるとはなんて罰当たりなっと箸が伸びてきた方向へ振り返らば、鬼のような顔したかっちゃんの顔があった。

 

「な、何故にっ?かっちゃん別に煮卵好きでも・・・はっ!!貴様っ、貴様もか!煮卵の魔力に、ついに!かっちゃん!煮卵は渡さぬ!渡さぬぞ!」

「・・・・煮卵だな?」

「えっ?」

 

私の睨みを軽く流したかっちゃんは、レンゲで担々麺の上に載ったソレを掬い上げた。美味しそうな醤油色ではなく、マグマのように真っ赤に染まったソレを。ランチを配膳してくれたおばちゃんが笑いながらかっちゃんの担々麺に入れたオマケ、ランチなんたら料理長が面白半分で作って食堂スタッフが誰一人食べられなかったとか聞いた激辛煮卵を。

 

「ほらよ」

 

ゆっくり近づいてくるソレからは危険な香りがする。

もはや食べ物の臭いではない。数十キロの唐辛子を集めて握り固めた塊!みたいな、そんな感じのヤバい臭いがする。

 

「いっ、いらない!」

 

拒否したけどレンゲは関係なしに迫ってくる。

箸を放って両手で止めようとしたけど、馬鹿力が凄くて全然止まらない。最近体つきゴツくなったなぁとは思ってたけど、今かっちゃんの腕に込められたそれは私の予想を遥かに越えたパワーだった。何こいつぅ!?マジで!?

 

目と鼻の先まできたソレに死ぬほど焦ってると、丁度大口をあけた切島が目に入った。咄嗟に引き寄せる個性で煮卵を引っこ抜けば、邪悪な赤い塊は弾丸みたいに回転しながらレンゲを飛び出す。そしてもう一つの対象である切島の口の中にシュートされた。

 

「━━━━━ごふぁっ!?なっ、ん、だ・・・・ぐぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?おうぇぇぇぇぇぇぇぇ!!かっ、きゃれぇっ!?ひゅぇ!?かぁぁぁぁぁぁ!!」

「切島くん!?」

 

のたうち回る切島を横に息をつけば、かっちゃんが不機嫌そうに舌打ちした。舌打ちしたいのはこっちだけど、下手に舌打ちするとあの得体の知れないスープとか口に突っ込まれそうだから余計な事は言わないでおく。恐いっ。

スープの辛さを想像して思わず震えると、前から笑い声が聞こえてきた。

 

「ハッハッハッハッ!君たちはご飯の時でも楽しそうだね。どんな時でも笑えるのは良いことだ。でも食べ物で遊んではいけないよ?それで煮卵はどうする?」

「すみませんしたぁ・・・えー、あー、煮卵はー、今はちょっと良いです。口の中が辛くなりそうで。うぇ」

「そっか、アハッハッハッハッ」

 

楽しそうに笑う黒豆パイセンの隣。

大人しく蕎麦を啜ってた轟と目が合う。

轟は蕎麦の上に載った海老天と私を何度か見たあと、それを小皿に載せスッと差し出してきた。

 

言葉は無かったけどその優しい顔に察する。

きっとかっちゃんに虐められた私を見かねてくれたのだ。分かる。今なら轟の気持ちが分かる。轟お兄ちゃぁん。

 

心の底からベストブレンズにしてお兄ちゃんである轟の優しさに感謝して小皿を手に取る。けれど、一瞬目を放した隙に海老天はそこから消えていた。何が起こったのか分からず呆けてると、隣からバリバリと小気味良い音が聞こえる。

 

そっと視線をそこへ向ければ、海老天を咥えたかっちゃんがいた。かっちゃんは海老天を咀嚼し終えると「はっ、んな大したもんでもねぇな」と吐き捨てる。

そんな姿を見てから数秒の間をおいて、私の中で戦いのゴングが鳴り響いた。

 

「・・・・・おう、さっきからこの野郎。久し振りに切れちまったよ。校舎裏に来いや。爆発頭」

「おう、上等だ。ボケが。こっちもどっかの馬鹿のせいでストレス溜まってんだ」

 

それからお互い胸ぐらを掴み合い、メンチをきりながら校舎裏まで行ったのだが、喧嘩を始める前に包帯先生に見つかって正座をさせられた。トイレ以外、授業中も休み時間も関係なしで放課後まで正座させられた。

足が死ぬほど痺れたのは言うでもない。

 

という訳で、包帯先生ぇぇぇぇ!寮までおぶって下さい!!あっ、違う!今日は発目の所にいかないと、そういう訳で包帯先生!サポート科の実習棟までお願いします!えっ?自分でいけ?這ってでもいけ?そんなせっしょうぉうなぁあぁぁぁぁー!



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食べ物系って大体普通のやつが一番美味しいんだけど、メニューの端っこに載ってるいかにもなやつに心引かれるのは仕方ないと思うの。いや、私は選ばないけどね。代わりに冒険してきちゃいなよ、ゆー。の巻き

原作弔くんがリーダーしてて嬉しい、今日この頃。


「緑谷さん!これから暇なら、一緒に買い食いしに行こうよ!美味しいたい焼き屋さん知ってるんだ!」

 

そう言って教室のドアを開いたのは、ここ最近常連さんである黒豆パイセン。時計の針は既に放課後の時間を指し示していて、今さっき包帯先生が帰りのHRを終わらせた所。微妙な顔で黒豆パイセンを見てる包帯先生以外、もうすっかり慣れた皆は気軽に黒豆パイセンに挨拶して帰ってく。

 

「緑谷さん、どうかな?」

「・・・・はぁ。まぁ、暇ですし・・・奢りなら良いですけど?」

「よし!じゃ行こう!そこのチョコクリームと、醤油豚骨風ラーメンたい焼きっていうのが奇抜だけど美味しいらしいんだよ!クラスメイトが言ってた!」

「いや、そこはチョコクリームだけで良いです。何ですか、そのラーメンたい焼きって。見えてる地雷じゃないですか」

「そうかなぁ?いやいや、でもこういう物って名前だけじゃ分からないものだからね」

「分かりますよ。それは幾らなんでも」

 

黒豆パイセンと話してると仲間になりたそうにしてるあしどんと葉隠が見えた。なので黒豆パイセンに他にも誘っていいか聞けば悩む事なくOKしてくれた。ふとっぱらなパイセンの心意気を無駄にしない為に女子ーズ全員に声掛けすれば、インターン関連の用事があるお茶子と梅雨ちゃん以外は来る事になった。男子?男子は知らん。

 

「男の子達も行きたい人はいないかな!?」

 

あっ、自分で誘ってる。

お財布に幾ら入ってんだろ?大丈夫なん?もしやお金持ち?

 

インターンの話を断ってから今日までの、この一週間。黒豆パイセンはやたらと絡んできた。休み時間に会えば気さくに話し掛けてきて、声も届かなそうな所で偶然目が合えば全力で手を振られ、放課後になれば何処かに出掛けようと誘ってくる。最初こそ何処にでも現れるパイセンを皆も怪しい者を見る目付きで眺めていた。けど、邪気を感じさせない爽やかな笑顔を振り撒きながら、寒いギャグを連発する間抜けを晒し続けるパイセンの姿に警戒心を抱き続けるのは無理というもので・・・今では来るのが普通みたいな感じで皆接してる。包帯先生より溶け込んでる感すらある。

 

ツッコミはこの一週間の間でパプアニューギニアの辺りまで全部ぶっ飛んでいってしまったのだろうなぁ。

 

「━━━緑谷さん!聞いてる?男の子達も何人か来たいって子がいてね。彼らも一緒に・・・あっ、爆豪くんも一緒に行こう!たい焼き食べよう!」

「ああん!?行かねぇわ!つか、当たり前な面して入ってくんなや!帰れや先輩よぉ!」

「ハッハッハッハッ!爆豪くんはやっぱり手厳しいなぁ!」

 

あっ、一人は残ってた。さすかつ。

そんな機敏にツッコミを入れたかっちゃんに轟が近づいてく。

 

「爆豪、行くぞ。書類にサインして貰うんだろ」

「やかぁしいわ!行くからちと待っとけや!!」

 

書類という言葉にかっちゃんを見れば、居心地悪そうにそっぽを向いてきた。あれだけ轟に啖呵切っておいて、結局私をのけ者におハゲの所に行くみたいだから、気まずいのも当然か。でもまぁ、かっちゃんがこの数日の間、私のすべらない小話も聞かず上の空で悩んでたのは知ってるから・・・何かいうつもりはないけどね。私のすべらない、すんばらしい小話を聞かなかった事には文句あるけども。

 

「おハゲのところ?」

「・・・だったら文句あんのか、ああ?」

「文句は無いけどさ・・・まぁ、頑張れ。応援してる」

「!?・・・・お、おう?」

 

普通に応援したら物凄い妙な目で見られた。

なんなん?なんて目で見てきてん?なにが「変なもんでも食ったのか?」なん?んんん?もしかして喧嘩売ってる?買っちゃろか?貯めたポイントカードきって買っちゃろか?私にだってからかって良い時とそうじゃない時を判断出来る分別くらいあるわぃ。こんにゃろ。

 

かっちゃんにメンチ切ってると「緑谷もくるか?」と轟が聞いてきた。最近、轟のお兄ちゃんムーヴが強い。双虎にゃんその優しさに、胸の所がちょっとホワっとしちゃったぜ。

 

「━━━だからといって、行かないけども」

「?そうか。・・・親父が言った事を気にしてるなら、そこら辺は心配しなくて良いぞ。事務所としては、緑谷の受け入れに関して前向きらしいからな。サインは俺が書かせる」

 

キリッとした顔でそう言う轟の顔はやたら格好良く見えた。その面構えは、もう完全に私のうぉにぃちゃんである。いや、あんちゃんかも知れない。

しかし、ナチュラルイケメンなだけあってボーッとしてないだけで雰囲気がめちゃくちゃ変わるなぁ。普通にイケメン。いつもこの顔ならモテるだろうに・・・・いや、今でもキャーキャー言われてたか。一緒に食堂行くと般若の顔で睨んでくる女子のオンパレードだし。あれ地味に怖いんだよね。

 

取り敢えず元より行く気はないし、お気持ちだけ貰って断っておく。すると「俺個人としては、一緒に行きたかったんだけどな」とか何とか可愛い事言ってきたので、褒美にチロ●チョコを進呈してあげた。よきに計らえ。

 

かっちゃん達を見送ってから黒豆パイセンを先頭に出発。包帯先生の「馬鹿な真似はするなよ」という見送りの言葉を背に私達は女子ーズ(ridお茶子・梅雨ちゃん)と瀬呂・尾白・常闇の三人をお供に学校を旅立った。

 

皆でスイーツの話をしながら歩くこと十分ちょい。

学校の直ぐ近くの大きな公園の中、噴水のある広場に目的のたい焼き屋の車を発見した。ちゃんと営業中である。メニューが書いてある看板を黒豆パイセンと女子ーズの面々で覗けば、オススメにチョコクリームの絵が載ってる。なんかトッピングも出来るらしく、アイスクリームとかホイップクリームとか載せられるらしい。全部載せの写真とか載ってるけど絵面が凄い。横にされたたい焼きにクリームとかチョコフレークとか果物とかアホみたいに盛られてる。もうたい焼きである意味がない捨て身スタイルである。甘い物は好きだけど・・・うぇ、想像しただけで口の中が甘い。私、何事も程々だと思うの。

 

「おぉ~全部盛りっ・・・・!」

「葉隠、それは止めときな。通形先輩のお財布の為にも、自分の為にも。流石にこんなに食べれないでしょ」

「!?・・・そっ、そうですよね!えぇ、勿論!そうですとも!芦戸さんの言うとおりです!葉隠さん、お夕飯も近いんですから!」

「・・・・ヤオモモ、普通にこれにしようとしてたでしょ?しっかし、なにこれ。見てるだけで口の中甘くなってくるんだけど」

 

皆の言葉を聞いて男連中も覗いてきた。

そして総じて微妙な顔をする。

 

「白亜の悪夢っ」

「女子でも無理なら、俺なら死ぬな。・・・尾白、地味男から勇者にジョブチェンジ出来るチャンスだぞ」

「ミスタードンマイこそ勇者チャンスだぞ。汚名返上の為に頑張ればいいよ、瀬呂」

 

「尾白くぅん、言うじゃなぁーいのぅ?」

「瀬呂こそ面白い冗談だったよ。ははは」

 

「一触即発、混沌の訪れ・・・か」

 

よく分からんけど・・・まぁ、楽しそうだから放っておく。

 

そんな間にも黒豆パイセンはカウンターからこっちを眺めていた店員のおっさんに注文を始めた。

 

「醤油豚骨風ラーメンたい焼き人数分お願いします!」

「おう、兄ちゃん!冒険者だねぇ!五百円まけちゃる!」

「ありがとう御座います!!」

 

まてまてまてまてまてまてまて。

まて、おい。こら。良い顔でサムズアップをするな。その立てた親指へし折るぞ。

 

説得の結果、女子はチョコクリームになり、男連中は醤油豚骨風ラーメンになった。瀬呂と尾白はそこに自腹で全部盛りを敢行。今は出来上がったそれを、体をガタガタ震わせながら食べてる。大量のホイップクリームが気持ち悪くなってきたのか。醤油豚骨と甘い物がミスマッチ過ぎたのか。ほんま、あほやで。

 

「はぁ、愚かな。白亜の悪夢を自ら召喚するとは」

 

さっきも聞いた。常闇ン、それなに?ホイップクリームのこと?

アホ連中を横目に公園のベンチでのんびりたい焼きを頬張ってると、豚骨臭いたい焼きを持った黒豆パイセンが隣に座った。さっきまで座ってたあしどんと葉隠はジュース買いにいっていないし、直ぐ誰か座る訳じゃないから空いてるけど・・・・豚骨臭いし離れて欲しい。チョコクリームの味がぶれる。

 

軽く視線でどくように訴えたけど、黒豆パイセンはそんな事を気にせずたい焼きにかぶりつく。豚骨の臭いが更に強くなった。なに、いやがらせ?

 

「・・・・うん!なんかべちゃっとしてるね!」

「それってどういうあれですか?」

「一言で言うなら不思議な味だね!豚骨っぽいけど、なんかよく分からない味!」

「そーですか。良かったですね」

「いやーこんな感じとは。ハッハッハッハッ!まいったね!」

 

それは不味いと言ってるのと同じですやん。

黒豆パイセンはそれでも美味しそうにたい焼きを食べきり、ふぅと息をつきながらベンチに背を預けた。その食べっぷりに少し美味しいのか?と思ったけど、常闇んが普通の醤油豚骨たい焼きに顔をしかめていたのでただの錯覚のようだ。危ない、騙される所だった。

 

「一週間、付きまとってごめんね。それと俺に付き合ってくれてありがとう。緑谷さん」

 

不意にそんな声が聞こえた。

視線を向ければ黒豆パイセンは少しだけ真剣な顔で空を眺めながめている。

 

「良いですよ、別に。美少女に生まれた宿命みたいなものなんで。・・・それに、先輩はあれから一度もインターンの話しなかったじゃないですか」

 

黒豆パイセンはこの一週間、本当にアホみたいに絡んできた。だけど、あの日以来インターンの事は言ってこなかった。ただ話し掛けてきて世間話したり、遊びに誘ってきたり、手を振ってきたり、挨拶してきたり━━━それだけだ。教室にやってくるのは少し『うわぁ』とは思ったけど。

 

「インターンは嫌だって言ってたからね」

「それは確かに言いましたけど・・・それじゃ何しにきてるか分からなくないですか?先輩、どんな理由があるのか分かりませんけど、私をインターンに誘いにきたんですよね?」

「そうだよ。でも、強要させたい訳じゃないし、君に嫌な思いさせたい訳でもなかったから。まぁ、仕方ないかなって」

 

仕方ないで勧誘終わらせたのか、この人。

本当になんで私の所に通ってたんだか。

 

「前から思ってましたけど、先輩って結構アホですよね?」

「ハッハッハッハッ、それはよく言われる。もっと器用に生きられたら、いい返事も聞けたのかも知れないけど・・・俺はどうもそういうのは苦手でさ」

 

そう言って真剣だった横顔に苦笑いが浮かぶ。

 

「でもね、そこで諦める事も出来なかったんだ。どうしても緑谷さんにはインターンにきて欲しかったから。気が変わってくれないかなって、そんな事を思いながら話し掛けてた」

「結果は散々だったみたいですけどねぇー」

 

皮肉を言ったつもりなんだけど、黒豆パイセンは何故か楽しそうな笑った。

 

「いやいや、そんな事ないさ。楽しかったよ、良い時間を過ごせた。緑谷さんの周りは毎日賑やかで、見ていて飽きなかった」

「そうですか?」

「少なくとも、俺が見てる間はね」

 

そう言われても特別何かあった覚えはない。

黒豆パイセンがいてもいなくても大体あんなものだ。

何が面白かったのか考えてると男連中のうめき声が聞こえてきた。見ればホイップクリームを口の周りにつけたアホ二人が、未だに白い山が載ったたい焼きを手に項垂れてる。見かねた百が嬉々として向かっていった所を見れば、あのホワイトデビルの寿命も風前の灯火だろうなぁ。

 

「ハッハッハッハッ、ほらね?」

「いや、あれはあいつらがアホなだけで、私のせいではないんですけど」

「そうかも知れないね。でも君がいないと、皆はそもそもここにいないと思うけどな?」

「いや、男連中誘ったのは先輩ですが?」

「ハッハッハッハッ!口では敵わないな!降参だよ」

 

一頻り笑った後、黒豆パイセンはまた真剣な眼差しをこっちに向けた。

 

「緑谷さん、これを最後にする。サー・ナイトアイの所へインターンにきてみない」

「行かないですよ・・・って言いたい所なんですけど、断る前に理由聞いても良いですか?」

「深い理由はないかな。俺が緑谷さんを気に入ったから!それだけ!」

 

気に入ったって所に嘘はなさそう。

たけど、"それだけ"は少し嘘が混じってる気がする。

目をじっと見つめれば黒豆パイセンは困ったように眉を下げる。それから少し葛藤した後、諦めたように溜息をつくと口を開いた

 

「・・・そうだね、それだけは流石に嘘かな。緑谷さんの姿に不安を覚えたからだよ。目潰しの攻撃、避けれたのに避けなかったよね?」

「避けなくても大丈夫だと思ったので」

「それでも普通の人は避けるよ。まして攻撃へ意識は割けない。緑谷さんは俺の動きを追っていたよね。あの瞬間、俺はぞくりとしたよ。指の隙間から目があった時。単純に凄いと思った。オールマイトが推薦するだけあるって熱くなった」

 

そう言う割に、黒豆パイセンの顔に高揚感は見えない。

代わりに私を見つめる瞳に映ってるのは、少しかっちゃんが浮かべるモノに似てる気がした。

 

「緑谷さん、君はいつかヒーローになると思う。きっと俺より強くなれる。きっとそれは沢山の人を助ける。君が守りたいものを守れると思う。━━━けれど、いつか君は何かを犠牲にする。自分の意思で。君は極限の中でその選択が出来る人だ」

 

「だから、俺は教えたいと思った。気に入った後輩がいつか不幸に見舞われた時、自分を守れる手段を一つでも増やしたいと思った。その為には訓練じゃなく、実戦の中で伝えるのが一番だと思ったんだ。少なくとも俺は、インターンの経験で強くなれたから」

 

「どうか考えて欲しい。君自身の為に。君を支えてくれる人達の為に。いつか君に救われた誰かの為に。俺は笑顔に囲まれてヒーローを続ける、君が見たい」

 

今度の言葉に嘘は見えない。きっと本心からの言葉だろう。何を企んでるのかと身構えていたのに、すっかり拍子抜けだ。まさか打算も何もない、ただのお節介だとは思わなかったけど。

 

言われてる事は分かる。私のことは、私が一番知ってる。きっと私は、そういう選択をする時が来ると思う。きっとその時、後悔なんてしないだろう。きっとそれが、最良だったっと胸を張って言える筈だから。

でもそれはきっと、私にとってだけの最良なのだ。

 

実力が伴えば、選択肢はずっと増える。

今まで選べなかったそれも。

 

「・・・そこまで分かってるなら、止めたりしないんですか?」

「緑谷さんの人生は緑谷さんの物だからね。それに止めたって君は止まらないだろう。そういう人だ。違うかな?」

「まぁ、そうかも知れないですね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・明日の休み、何処に行けば良いんですか?」

 

ぼんやり空を眺めて考えた後、そう口にすれば黒豆パイセンが目を輝かせた。なので勘違いしないようにそれだけはしっかり伝えておく。

 

「取り敢えず、先輩の紹介したい人を見に行くだけですからね?仮に向こうから許可が降りても・・・多分やらないと思いますし。後、帰りにラーメン奢って下さい。チャーシューと味たま追加で」

「いいよ!いいよ!来てくれるだけでも!サーに伝えておくよ!よぉーーし!そうと決まれば準備しなくちゃね!!行ってくるよ!」

「いや、準備って何を?それより歩いてる行ける場所じゃないんですよね?そのヒーロー事務所って。電車でいくなら━━━━━━って何処に行くのーーん!?黒豆パイセェェェェェェン!!ちょ、集合場所とか、時間とか、色々決める事があると思うんですけどぉ!?ちょ、マジか、あの人!」

 

それから暫くして、取っ捕まえた黒豆パイセンにラリアット食らわせたけど、その事について反省はしてない。

やつがわるい。まる。



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取り敢えず、犯罪みたら110。悪いやつみても110。女の子をくすぐってるオッサンがいる?意味わからん。プレイ?プレイなん?でもまぁ、君がそう思うなら、圧倒的に110!の巻き

何度読み返してみても・・・それはあかんやろ。
そう思ってしまったで、サーよ。


何かと賑やかだった一週間が終わり、迎えた週末のその日。お茶子の目覚ましビンタで早起きした私は休みの日にも関わらず制服に袖を通して、朝早くから黒豆パイセンと電車に揺られていた。

 

ガタンガタンと音が響く車内。平日よりずっと人がいないそこで、私が思う事はただ一つ。

 

「黒豆パイセン」

「ん?どうかしたかな?」

「帰りたいっす」

「うん、直ぐ着くからもう少し頑張って!」

 

だって、皆お休みムードじゃぁぁぁぁん!?

なんで私これからバイトの面接みたいなのにいかないといけないの!?おかしくない!?学生の本分は?お勉強だよぉ?!もう、これ、殆どお仕事じゃぬぅぁい!えっ!?あなたいつも授業中寝てるでしょって?そそそそそ、そんなことないけど?あれは、集中力あげる為に瞑想してるだけだから!びっくりするほど聞いてるから!覚えてないけども!━━━━しかし、このお休みムードを目にするのは本当につらいな。別に混んでる電車が好きな訳ではないけど、周りが休んでる時に忙しなく働くのってなんかあれだ。つらい。つらぽよ。あれ、なんか涙出てきた。

 

「あれ、泣いてるの!?そんなにインターン嫌なの!?ご、ごめんね?誘って」

「違うんですっ、インターンがというか・・・皆が遊んでる時に自分だけ仕事的な何かをするのが心底嫌なだけなんです!何故に私だけ!皆も吐くほど働いたら良いのに!働けよ!月月火水木金金でしょ!?」

「わぁ、すごい、びっくりするほど自分本位だ。ハッハッハッハッ」

 

黒豆パイセンの楽しそうに笑い声をあげた。それとほぼ同時に車内へアナウンスが鳴り響く。次の駅の到着を報せるそれだ。流れたそれは私達の目的地の名前で、確認する為に黒豆パイセンを見れば頷いてくる。

 

「駅を降りたら直ぐだよ、緑谷さん」

 

どうやらもうすぐその時はくるらしい。

私は重い溜息を吐きながら窓の外を眺めた。

見知らぬ街並みが流れていくそこを見てると、ふと昨日の事を思い出す。苦々しい顔をしながらも止めないでくれた幼馴染の姿を。

 

「かっちゃん、大丈夫かな・・・」

 

前日、かっちゃんの部屋に乗り込んで黒豆パイセンとの話をすると、文句こそ言わなかったけど本当に嫌そうな顔をした。気にくわない態度ではあったけど、それが心配からきてるのが分かって文句は言う気にはならなかった。

 

『・・・なんかあったら、直ぐ連絡入れろや』

 

他にも色々言いたげだったけど、結局かっちゃんはそれだけしか言わなかった。それから不機嫌そうに冷蔵庫からシュークリーム引っ張り出しきたと思ったら、私の前にそれを置いて『食って帰れ。準備あんだろうが』とふて寝してしまった。その寝転んで見せた背中がどこか嬉しくて、ちょっと悪戯しちゃったのは仕方ないと思う。

 

私より早く出発したかっちゃん達に会う事はなかったけど、一言くらいは何か言ってあげたかったかな?メッセは送っておいたけどさ。今頃おハゲの所にはついてる頃かなぁー。んで、カバン開けたら怒るだろぉーなぁー。あはは。

 

「━━━うん、頑張れ。かっちゃん」

「?何か言ったかい?」

「いえいえ、何でもないっすー。そう言えば今日のラーメンってどこで食べるんですか?チャーシュー美味しい所が良いんですけど」

「ハッハッハッハッ!もうご飯の話か!気が早いね、緑谷さんは。任せておいて、美味しい所に連れていくよ!」

 

 

電車を降りてから少し、黒豆パイセンの言うとおり直ぐ目的地の事務所に辿り着いた。流石におハゲの所と比べるとちっさいビルだったけど、小さくてもビルを借りれるなら十分大きい事務所だろうな。こうなるとお給料に期待出来そう。━━━まあ、お給料貰うには働かないといけない訳で、働く気のない私には関係ないことではあるけど・・・・。

 

「いこう、緑谷さん。こっちが入口だよ」

「はいはーい」

 

ビルの中へ足を踏み入れてから、黒豆パイセンは紹介しようとしてるプロヒーローについて教えてきた。名前はサー・クロコ・・・・サー・ナイトアイ。七三のサラリーマンみたいな格好したヒーローらしい。元オールマイトのサイドキックでユーモアを大切にしてるんだとか。

 

「テレビだともっとストイックな感じなんだけどね。意外とお笑い番組とか好きで、ユーモアの研究してたりするよ。あっ、そうだ、サーと会ったら話し終わるまでに必ず一回はサーを笑わせるようにしてね」

「はぁ?笑わせる?」

「そうしないと門前払いされちゃうから」

 

えぇぇ・・・・なにそれ、お笑いの芸能事務所なの?ここ?ヒーローが芸能人と似たようなことやるのは知ってるけど・・・・うーん?マジか。

 

「そんな事、いきなり言われてもなぁ」

「ごめんね、急に。やっぱり難しい━━━」

「ピンのネタなんて、数えるくらいしかないですよ?あんまりウケなかったやつ。どうせなら黒豆パイセンとのコンビネタやらせて下さい」

「━━━訳でもないんだね。よし、きた!喜んで協力するよ!」

 

別に門前払いとかされても良い。働かなくていいならそれだけだ。一つ確認したい事はあったけど、それは黒豆パイセンから聞けば良い。でもこっちのネタがつまらないで追い出されるのは話が違う。癪である。ちょー癪。私を誰だと思ってるのかって話だ。生まれながらのエンターテイナー、歌って踊れておまけに漫才だって出来ちゃう世紀の美少女とは何を隠そう私の事だ。笑いが所望というなら是非とも笑わせてしんぜようではないか。

 

お茶子達と研鑽したネタを黒豆パイセンと打ち合わせ。

何度か軽く合わせた後、私達は即席漫才コンビ"タイガー&ボブ"を結成しサー・クロコ・・・んんんっの所へ向かう。戦争を止めてみせるっ!

 

「やつを笑わせて、私は先にいく!!ねぇ、ボブ!!目指せイッポンッッッ!!」

「ハッハッハッハッ、おぉー」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

自らの事務所にてヴィラン連合と死穢八斎會の追加報告を聞いた、その直ぐ後のこと。私は少し引いたレバーから手を離した。

 

「イヒャヒャヒャヒャ!ちょっ、サーっ!勘弁しっ、ヒャヒャヒャ!むりぃ!ほんと、もう、むりですっへひゃぁ!」

 

絶え間なく笑い声をあげるバブルガールは反省を示す言葉をその口から紡ぐ。しかしこれで何度目になるか考えれば、口からの反省だけでは明らかに足りない。暴力的な行為はあまり好かない事ではあるが、教育の仕方にはこうして体で覚えさせた方が身に付く事もある。私は心を鬼にして手元のレバーを引き、彼女を捕らえるくすぐりマシーン(通称TICKLE・HELL)の出力をあげた。

 

「バブルガール・・・常々、私は教えているな。元気とユーモアのない社会に未来はないと」

「はっひぃ!もひろん!!聞いてみゃすぅ!!アッ、ヒャッ、ヒャヒャ!」

「ならば何故学ばないのか。今の報告のどこに、ユーモアがあったのか答えてみなさい」

「はひぃっ、い、いや!いやいや!ユーモア混ぜる話じゃなかったじゃないですか!?かなりエグい話だったんですけど!?」

 

口答えしたのに合わせレバーを更に引けば、バブルガールの笑い声はそれに合わせ大きくなった。・・・まったく、見込みはあるのだが中々飲み込みが悪い。

 

「だからこそユーモアが必要なのだ。かのナンバーワンヒーロー、オールマイトはどんな時でも笑顔とユーモアを忘れなかった。どんな凄惨な現場でも、人々に笑顔と希望を与え続けた。ヒーローにとってのユーモアとは、単純に人を楽しませ笑わせるだけではなく、傷ついた心を癒し勇気づけるものでもあるのだ。分かるか?」

「あびゃ、あひゃっ、は、はひ!分かりました!!すごい、分かりましたぁ!!だから!止めて!止めて下さいよっ!!」

「ならば、一つ何か言ってみなさい。私がクスリとでもきたならば、装置を止めよう」

「むりむりむりむりむり!!ひゃはっ、ひゃ、めっ、滅多にっ、笑わないくせにぃ!!くっ、くそぅぅぅぅ!!誰かっ、私にっ、いひひひひっ!笑いのっ、神ををを!」

 

脇腹を高速でくすぐられ続けるバブルガールはその顔を百面相させながら唸り━━━━そして目を見開いた。

 

「こばっ、一つぅ!小話をば!!」

 

この状況で小話とはいい度胸だ。このような雑な前フリで私を笑わせるつもりとは。

しかし、その心意気は確かに受けとった。手助けはしてやろう。

 

私はバブルガールの心意気に応える為にスーツのボタンを外し、片側を勢いよく広げシャツをはだけさせながら手を差し出す。彼女が言いやすいように。

 

「OK!COME ON BUBBLE GIRL!!YEAAAAAAAH!!」

「ぶっはっ!!止めてっ、止めて下さいよ!ばっ、ばっかじゃないですか!?なんで、ひゃひゃ、なんで、サーが笑わせにきてるんですか!?真顔で、それはっ、ずるっいひゃひゃひゃ!!」

 

私は楽しそうに笑うバブルガールを暫し観察した後、静かにレバーを引いた。悲鳴のような笑い声があがったそんな時、不意に入口のドアが開く音が聞こえた。振り返ってみれば、ポニーテールを揺らす女子高生と何故かシャツを片側だけはだけさせたミリオの姿があった。

 

「「・・・・・」」

 

様子を見るにすぐに察した。

彼女こそがミリオの言っていた紹介したい者なのだろう。あのオールマイトが推薦した、次期ワンフォーオールの担い手として選んだ少女。

 

どう声を掛けるべきか悩んでいると彼女が私と自らの隣にいるミリオの姿を何度か確認し、真一文字に閉じていた口を開いた。

 

「・・・・・うわぁ」

 

嫌悪の籠った視線と共に、そんな声が聞こえてきた。

目には明らかな侮蔑が見てとれる。いい大人が向けられるものではない。変態や犯罪者を見るような目だ。

 

「い、いや!違うんだよ!?緑谷さん!サーはね」

「えっ?いやいやいや、えっ?いやいや、えぇぇぇないわぁぁぁぁぁ。あっすいません、ちょっと電話良いですか?」

「えっ?電話?うん、急ぎなら・・・まぁ、仕方ないね。良いけれど」

 

スリーコールくらいだろうか、彼女が耳につけたスマートフォンから男の声が聞こえてきた。怒鳴りつけるような乱暴な声である。しかしそんな声に気も留めず、少女は話を続ける。

 

「もしもし、かっちゃん。やばいとこにきちゃった。助けて」

「助け求めちゃったよ!」

「ついでに警察とガチムチにも連絡して」

「ちょっと待って!ちょっと、待って!!本当に!電話代わって良いかな!?お願いだから!!━━━あっ、もしもし!爆豪くん!?大丈夫!犯罪とかないから!本当に!通報はちょっと待って!お願いだから!」

 

少女からスマートフォンを借りたミリオが電話相手に理由を説明してる間、少女はこっちにひたすら侮蔑の視線を向けてくる。完全に変質者に向けるものだ。顔が整っているせいか、細められた眼差しが余計に冷く感じる。寒気がする程だ。ヒーローになってから様々な視線に晒されてきたが、流石にこれは堪えるものがある。

 

少女は私を警戒しながら通り過ぎていきバブルガールを捕らえてるマシーンの側へいった。そして少しマシーンを観察した後、スイッチであるレバーを停止位置におく。

 

「だ、だれか、しらひゃい、けど、たす、たすかったぁぁ・・・あり、がと、う、ねぇ」

「いえいえ、大丈夫ですか?直ぐ警察きますからね」

「けっ?けいさつ?な、なんで?」

 

少女はバブルガールと少し話した後、こっちをゴミを見る目で見てきた。

 

「鍵とか、持ってます?これの」

「・・・・鍵は、ない。装置の横に解除ボタンがある」

「ふぅん?」

 

少女はこちらをチラチラ見ながら、マシーンの解除ボタンを押しバブルガールを解放した。崩れ落ちるバブルガールをそのまま背負うと入口に向かっていく。

 

「あれ!?緑谷さん!?何処いくの!?えっ、帰るの!?」

 

ミリオの声に少女が振り返ってきた。

そしてやはりこちらを見る目は大概だった。

虫けらを見てるかのようだ。

 

「・・・・お笑いが厳しい世界なのは分かります。誰かを笑わせるのは、一筋縄ではいかないでしょう。テレビ見てて、心底思いました。文化祭で初めて友人と漫才コンビを組んだ時、痛いほど知りました。それこそ頭をしぼってネタを考えて、血反吐を吐くほどネタ合わせして、そうやって努力しないと駄目なんでしょう━━━けど、こんな乱暴なやり方、私は見過ごせませんよ。こんなもので、笑いが分かるわけないですからね!」

 

「笑いっていうのは、私達漫才師が心からお客を笑わせる為に!楽しんで貰う為に!自分の楽しい物を詰め込んで詰め込んで!それを誰かに伝える為に、心血を注いでお話を作って表現して!魂を燃やしてやるものでしょう!一発芸だって!コントだって!そこは変わらない!誰かを笑わせる!その気持ちが一番大切なんですよ!ハートですよ!ハート!」

 

「私は私のやり方でてっぺんとってやりますよ。貴方達が忘れてしまった、古くさいやり方で!彼女と!!それではお世話になりました!!」

 

バタン、と扉がしまった。

彼女達は部屋に残っていない。

私は彼女の背中が消えていった扉を眺めながら、自らのしてきた事を考えた。私は一体何をしてきたのか。人を笑わせる為に、こんな安い装置を使ってまでっ!使って・・・・。

 

 

「・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・?」

 

 

 

ふと顔を上げると、呆然とするミリオの顔が視界に入ってきた。ミリオは私を見て何とも言えない顔をしてる。そんなミリオを見ていると、ふとそれが過った。

 

「・・・ミリオ、彼女を止めにいってくれないか。色々誤解はあったが、取り敢えずこれだけは伝えて欲しい。━━━ここはまず、お笑いの芸能事務所ではない事を・・・!」

「はい、取り敢えずそれだけは伝えておきます!」

 

それから数十分後。疑いの眼差しを浮かべながら、110の表示が浮かぶスマホを持って戻ってきた彼女に、我が事務所の方針をいの一番に話したことは言うまでもない。ついでに通報はよしてくれ、という事も。



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えー?あれは事務所の方針にそった行為で、あくまで如何わしい理由から行われている物ではない。だから誤解しないように?ふむふむ、成る程成る程。うん、誤解ではなくない?の巻き

かっちゃんはやっぱりかっちゃんだった。


とある県の、とある町の、とある国道に面した場所ににょっきり聳え立つとあるビル。駅の賑わいが聞こえる小ぢんまりしたそのビルの一室にて、私は御茶請けのお菓子を頬張りながら、事務所の事情とやらについて必死になって話す大人二人を眺めていた。

 

一通り聞いた感じだと七三のサラリーマンは黒豆パイセンの言ってたヒーローで、拷問を受けていたのはサイドキックの人らしい。事情は把握したけど、だからといって私のやる気は依然急な用事で出掛けたまま戻ってこない。帰宅はいつになるのやら。はぁ、もう帰りたい。・・・・・さて、これ、どうしてくれるんやろ。休みの日にわざわざ出てきたのにさ?ん?まさか、交通費くらい出るよね?ね?ねぇ?

 

私の軽く恨みのこもった視線に気づいたのか、肌が水色のおねえさんがアワアワしながら動き始めた。

 

「・・・・・えーっと、それじゃ誤解も解けた所で改めまして!サー・ナイトアイヒーロー事務所へようこそ!私はサイドキックをやらせて貰ってるバブルガール!それでこっちの七三がぁ━━━━?」

「この事務所の所長を務める、サー・ナイトアイだ」

 

カチャリと、眼鏡を直しながら七三が言った。

せっかくバブルなガールねえさんが空気を変えようとおちゃらけながら言ったのに、ユーモアがどうたら言ってた人間が全然雰囲気に乗ろうとしない。お陰で空気が重い。一気に氷点下。なんだ、この人。

 

「あの、良いですか?セクハラの人」

「セクハラなどしていない」

「じゃぁ、パワハラの人」

「パワハラは・・・・して、いない」

 

心当たりあるんじゃねぇーかぁー。

 

ジト目で見てるとブルっちがひきつった笑みと共に、額に汗を浮かべながら割り込んできた。

 

「はい!はい!ねっ!まぁね!えーーーーえっと、それで・・・・えぇっと?」

「雄英高校のアイドル系天才美少女・緑谷双虎でーす。黒豆パイセンに誘われてきましたー。好きなものはシュークリーム、それと焼き肉とお寿司。嫌いなものはきゅうりです。お寿司のかっぱ巻きと軍艦巻きに載ってるきゅうりは滅びれば良いと思います」

 

憎しみを込めて心からそう言うと、ブルっちが楽しそうに噴き出した。

 

「ぷぁっ、あははは!はーい、了解っ!きゅうり嫌いな双虎さんね?よろしくね。そうだ、この後お昼一緒にいこうか?お寿司。ほら、丁度良い時間だしさ。遠慮しなくて良いのよ。助けてくれたお礼!ね!」

「回らないやつ・・・!?」

「ふふふ!残念っ、超回るやつ!私の安月給舐めんなよぉ!」

 

どや顔で給料の安さを語る姿に少し笑ってしまう。

捨て身で笑わせにくる姿勢は嫌いじゃない。七三と違って中々話し上手だし、こっちは仲良くやれそ━━━━━

 

「バブルガール、私はきちんと適正額を支払っていると思うが?散財が過ぎるのではないか?」

 

━━━━おぉう。おまっ。

 

また少し和んだ空気がお亡くなりになった。

どんどん冷めていく空気の中、七三はそれにまったく気づく様子はなく、偉そうに手を組んだ姿勢のまま動かない。んでやっぱり真顔。流石のブルっちもこれには怒りを禁じ得なかったみたいで、ひきつった笑みの中に小さく青筋を浮かばせる。

 

「・・・・・ごめんね、わざとではないの。サーは真面目なだけなの。悪い人じゃないの・・・これでも」

「わざとじゃなくてこれとか・・・・そら、ガチムチともコンビ解散になりますよ」

 

ガタっと、何かが動いた音がしたけど無視しとく。

七三がどんな顔してようが、「君になにがっ」とか意味深な事言ってようが無視しとく。だってめんどい。

そうこうしてると私と七三とブルっちを落ち着きなくキョロキョロ眺めていた黒豆パイセンが景気よく手を叩いた。静かな部屋にパァンと乾いた音が響く。

 

「えーーーー、こほん!サー!それで本題なんですが、緑谷さんのインターンについて・・・」

「受け入れるつもりはない。お引き取り願う」

「ええぇぇぇーー!?即答!?まっ、待って下さい。まだ何も、あの、もう少し話しをしてから決めても━━━」

 

「はぁ?誰もインターンお願いしますなんて言ってませんけど?ちょっと聞きたい事はあったけど、それは黒豆パイセンに聞く事にしますし?自意識過剰も大概にしてくれませんか、坊主にしてラインいれますよ」

「ええぇぇぇーー!?こっちも!?というか、なんでそんなに挑発的なの!?そ、それは、確かにサーもサーだったけど、緑谷さんもね!ほら、ね!分かるでしょ?」

 

分かりませんが?何か?

第一さっきから七三の出ていけオーラがすごいんだよ。もう交渉の余地もないくらい嫌われてるじゃん。恨みの一つや二つ買うくらい元気ハツラツに生きてきたけれど、この人に関しては初対面ですけども?なんなの?むかつく。嫉妬?嫉妬なの?私が可愛いから嫉妬してんの?

 

あたふたする黒豆パイセンを横目に七三を見れば、七三の眉間に皺が寄る。

 

「第一に、君のその態度はなんだ。目上の者に対して軽々しく声をかけ、あげく失礼な視線を向ける。ヒーローを目指す者の態度ではないだろう。仮免許試験を受けたと聞いたが、どこの仮免許試験を受けたのだ?私の知るこの国の試験は、君のような者に合格を与えるほど寛容ではなかった筈だが?」

 

OK、喧嘩ね。買った(はぁと)。

 

「すいまっせーん。でもぉー、私もぉー、犯罪者予備軍がぁー、目の前にいるからぁー、怖くてぇー、緊張してるっていうかぁー?」

「・・・・なに?」

「やっだなぁージョークですよ。ジョーク。そもそもユーモアがどうとか言ってましたけど、一番ユーモアないのは七三じゃないんですかぁ?まだ、滑り芸でも積極的にネタ披露してる黒豆パイセンのがましですよ。お手本見せて下さいよぉ、大パイッセェェン?」

 

顎を少しあげて煽れば、めちゃくちゃ睨んできた。

少しだけぞくりとしたけれど、ガチムチとか黒マスクの威圧感を知ってる身としてはそこまでだ。とはいえ、現状は私より一枚も二枚も上手な相手。一応ヒーローなんて肩書きもってるから大丈夫だろうけど、警戒だけはしておく。

 

引き寄せる個性をいつでも使えるよう構えてると、七三が立ち上がった。そしてこちらに背を向け「手本だな」と小さく呟いてきた。何すんのかと様子を窺っていれば、七三が何かカチャカチャ始める。

 

「まっ、まさか!サーそれは!駄目です!止めて下さい!それはっ、それはあまりにも・・・・あまりにもです!」

「サー!まさか、あの時俺に見せてくれた・・・!」

 

「静まれ、お前たちは見ていろ」

 

なんか身内でやり始めた。

なに?新●劇?新●劇なの?定番のネタなの?身内ネタなんて基本寒いだけだよ?大丈夫?怪我しない?果てしなく不安なんですけど。

 

そうしてカチャカチャする事少し。

二人がネタの内容を思い出して笑いを堪えるような仕草を見せ始めた頃、七三の手が止まった。

 

「サー・ナイトアイのちょこっとモノマネ。オールマイトデビュー十周年記念番組『カメラが追った英雄の軌跡~笑顔の理由~』内で、路上インタビュー中ファンの子供に押し掛けられた時のオールマイトの反応」

 

そんな長ったらしい言葉と共に七三が振り返った。

二人が小さく噴き出し、私の目の前にどっかで見たアメリカンな笑顔が現れた。

 

「HAHAHAHA!!困った坊やだ!私の個性が━━━」

「あっ、すいません。元ネタ知らないと駄目なやつは止めて下さい。分からないんで」

「━━━━そうか」

 

私の声を聞くと顔がすっと元に戻った。

寧ろどうやってその顔作ったのか気になる。

声とかもちょっと似てるかも知れないけど、やっぱり分からんし・・・・・あと、私の後ろで、死んだ顔した二人が微妙に気になるな。いや、ごめんってば。だって知らないんだもの。仕方ないじゃん。

 

「・・・・・サー・ナイトアイのちょこっとモノマネ」

「あの、ナンバーワンヒーローさん以外でお願いします。私それ分かんないんで」

「・・・・」

 

何となくまたガチムチのモノマネネタやりそうな気がして言ってみたら、七三の動きがピタッと止まった。身動ぎ一つしない。まさか、持ちネタ全部同じ人のモノマネ?いや、流石にないか。ないよね。うん。

 

御茶請けを頬張りながら待ってると、七三が後ろに腕を組んで背中を向けた。ピンと伸びた背筋にはうちの真面目と眼鏡だけが取り柄の委員長の姿が重なる。ユーモアはまだ見えない。

 

「━━━━━━我が事務所は、現在重大な案件を抱えている。これは機密性の高い案件で、当然部外者の君にもその内容を伝える事は出来ない」

「あっ、誤魔化すつもりでしょ!ねぇ!七三こら!」

「仕事も佳境に差し掛かった今、これからはもっと慎重に動く必要がある。君の事は、個人的に気に入ってはいないのも事実だが・・・・たとえ君でなくとも、仮免許取り立ての新人を雇う余裕は私達にはない。そういう事だ」

「雇うとか雇わないとか、そういうのはどーーでも良いんですよぉ!それより、お手本は!?オ・テ・ホ・ン!オ・テ・ホ・ン!」

「以上だ」

 

終わりにしやがった、この野郎ぅ!

 

文句言ってやろうとしたら焦り顔のブルっちに捕まった。なかなか力強かったけど、私を止められる程じゃない。こちとら握力ゴリラっちゃんとぐぅーでやり合ってるのだ。この程度、抜け出すなんて栓抜きなこと━━━━っほぉぉああ!?なっ、強っ!急に力強っ!ここにもゴリラがいたぁ!ブルっちまじゴリラ!

 

ブルっちに手こずってると、七三が使ってたデスクの上にある電話が突然鳴った。ツーコールにて電話をとった七三は険しい表情で電話越しの人と話して・・・目を見開く。

 

「彼が、か・・・・そうか、通して構わない」

 

何が来たのかと一旦ブルっちから逃げるのを保留にして様子を窺うと、電話を切ってからさして時間も掛からず、部屋がノックされた。コンコンと。七三が入室の許可を出すと、締め切られていたドアが開いて、それが目についた。

 

ファンキーなばかでかサングラスだ。

 

それから痩せこけた頬、萎びれた金髪、ひょろりと伸びた背が順番に目に映る。ブカブカとした大きめの服を着たその人はコホコホと咳を吐きながら、部屋の中に入ってきた。

 

「・・・久しぶりだね。ナイトアイ」

 

そう言ってサングラスを外すと、見慣れたガチムチの顔があった。まさかの、ガチムチ参戦。双虎にゃんびっくり。

元コンビだっていうし、偶然きたのかなぁーとか思ってるとガチムチがこっちを見てきた。そしてツカツカ近づいてきて、チョップをお見舞いしてくる。痛っ━━━くはないな。ぬるい。そっと視線を上げてガチムチを見ると、呆れたような視線と目が合う。

 

「爆豪少年から通形少年に同行して事務所にくる事は聞いていたけど、なんでこうなるかな?緑谷少女」

「何がですか?」

「ちょっと前に爆豪少年から『面倒な事になる前に何とかしろや』って電話が掛かってきてね。今度は何をしたんだい?」

 

おっと失礼な話だな。それじゃまるで、私がよくやらかす問題児みたいじゃぁないか。プンプンのムカムカのプンスコまるだよ!そりゃね、その美貌で多くの人を惑わしちゃう小悪魔系けどさ!可愛くってごめんね!・・・えっ、なに、その疑いの眼差し?まさかマジで疑ってない!?うっそぉぉ!?こんな天才で性格もスタイル良い子、世界中探したってそうはいないよぉ!?━━━なっ、目を逸らさんといてぇ!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

爆豪少年から連絡を受けて暫く。

私は彼女が向かったというヒーロー事務所へやって来ていた。私の元コンビだったヒーロー、サー・ナイトアイの事務所だ。

 

いったい、何年ぶりか・・・・。

電話で話した事はあったが、彼とはあれから一度も顔を合わせた事がない。仕事は確かに忙しかったが、会いにこようとすれば幾らでも時間はあった。会えなかったのはひとえに、合わせる顔が無かったからだ。

 

頭に過るのは決別したあの日。

私は私の意志を貫く為に、彼から差し出された手を振り払った。優しさや思いやりに満ちたその手を。あの日の病室の廊下、振り返った時に見えた苦痛に満ちた彼の表情は忘れていない。だからといって、自分が間違った選択をしたとは思わない。払った代償は少なくはなかったが、お陰で救えた命も平和もあったのだから。━━━とはいえ、彼の手を振り払ったことに変わりはなく、彼女という切っ掛けが無ければずっと足を運べなかっただろう。本当に彼女は何をするか分からない。まさか、その足で皆で回転寿司に行くことになるとは思わなかったし。本当に、予想外が過ぎる。

 

 

「・・・・・体は、大丈夫ですか。オールマイト」

 

 

ふいに聞こえた彼の声に、私は視線を向けた。

彼は険しい表情のままレーンを流れるお寿司の皿を眺めていて、少しもこちらを見ようとはしない。けれど、その言葉がどんな思いで告げられたのかくらいは察する事は出来た。彼女に教えられた今ならよく分かる。

 

「ありがとう、心配してくれて。けれど大丈夫だ。安心して欲しい」

「いえ、それならば良いんです。それならば・・・」

 

それだけ言うとナイトアイはマグロの皿を手に取って静かに食べ始める。私もそれに続いてお茶を口にした。

するとそれとほぼ同時くらい、私達から少し離れたカウンター席から楽しそうな声が響いてきた。

 

「黒豆パイセン、特選海鮮ラーメンってありますよ?ほら。頼みましょうか?」

「えっ、いや、ラーメンは好きだけどね?でも、お寿司屋なら素直にお寿司食べたいんだけど・・・」

「何言ってるんですか!?パイセンのラーメン愛はそんなものだったんですか!?朝昼晩三食ラーメンが理想って言ったのは嘘だったんですか!?」

「そんな脂っこい宣言してないと思うよ!?ていうか、緑谷さんが食べてみたいだけだよね!?なにその小鉢!?どっから用意したの?!」

「ソンナコトナイヨ。ワタシ、オススメ、オシエルダケ。ニホンゴムズカシ」

 

「あはははっ!双虎さんめちゃ外人!似てる!」

「バブルガール!?というか似てる!?何に似てるんですか!?」

「それよりルミリオン、ちょっと頼んでみてよ。私も味見したいし」

「えっ、ええぇ・・・それじゃ、まぁ、良いですけど」

 

最近の回転寿司って本当に何でもあるな。

ラーメンを頼まされてる通形少年の姿を見ながら染々思ってると「オールマイト」と声を掛けられた。

 

「なんだい?ナイトアイ」

「・・・何故、彼女なんだ」

 

そう言って私に向けられた彼の眼差しは、言葉にするにはあまりにも複雑な色で染まっていた。

 

「ミリオなら、きっと貴方の後を継げる。彼には人を笑顔にする力も、貴方のように敵を倒せる力も、正義に燃える心もある。きっと良いヒーローになる。ナンバーワンだって夢じゃない。それなのに、何故・・・・彼女なんだ」

 

周りに聞こえぬような小さな呟きには、憤りや怒りが詰まっていた。テーブルの上に置かれた震える拳から、胸の内に押し込めた激情が見えた。あの決別の日と同じように。

 

だから、私は言葉を探すのを止めた。

 

「彼女の背中に、未来を見たからさ」

「・・・・未来」

 

多くを語った所できっと伝わらない。

人伝に聞くだけなら私は彼女を後継になんて事は思わなかった筈だから。

 

「ナイトアイ、君にもいつか分かる。どうして彼女を選んだのか。君になら」

 

続けた言葉にナイトアイは沈黙した。それから楽しそうにラーメンを取り分ける彼女達を眺めた後、「貴方が言うのであれば、機会を与えます」と何処か不服そうに言う。私はそれを聞いて少し嬉しく思ったが、一つ大きな問題がある事に気づいた。

 

聞いた話、そもそも彼女、インターンする気ないんだよね。うん。

 

機会を与えるとか与えないとか依然に、彼女ここに半分遊びにきた感じだと思うんだけど・・・・とか思ってる間にナイトアイが書類を書き始めた。なんか判子も押してる。

 

「ミリオから預かっていたインターンの受け入れに関する書類です。雄英の教師であるオールマイトにお渡しします。インターンの日時については折り返し連絡しますので・・・・では」

「あっ、いや、ではでなくて━━━」

 

私の制止も空しく、ナイトアイはバブルガールにお金を渡すと颯爽と帰っていった。食べたお寿司は三皿だけ。コンビ時代もストイックさがよく目についていたけど、まさかここまで磨きが掛かっていようとは。

 

私は渡された書類とお寿司を頬張る彼女を見ながら、どうしたものかと本気で悩む。一人の友人として、オールフォーワンに関わる者の一人として、ナイトアイには分かって欲しい。けれど、緑谷少女はインターンに行くつもりゼロだし。寧ろよく今日見学にきたなってくらいなのに。ああぁ、本当、どうしよ、これ。



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いいの、そういうのはやりたい人だけやれば。私?私はそれなりに頑張ってるし?テストも良い感じだし?問題ないしぃ・・・えっ、ごめん、えっ?そゆ事は早くいってよぉ!ガリえもん!!!の巻き

やべぉ、原作がエンデヴァーおじさんの所にぃ。エンデヴァーおじさんの所にぃぃぃ・・・・おいらのエンデヴァーおじさんの所にぃぃ((((;゜Д゜)))。

いや、まぁ、エンデヴァー掘り下げは、ちょっと嬉しいことでもあるけども(*´ω`*)


久しぶりに回転寿司で豪遊した帰り道。

幸せという物を染々と噛み締めていると、私はガチムチからとんでもない書類を手渡された。

 

「インターンの許可証じゃないでくぅわぁ!!」

 

くわぁ、くわぁ、くわぁと、私のセイレーンもかくもやというスーパー美声が響く。便乗して乗り込んだ、ガチムチを迎えにきた送迎車の中で。

ガチムチは耳に突っ込んでいた指を抜き、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「・・・・その、ごめんね。なんか、その、断る空気じゃなくて」

「空気とか読まないで下さいよ!断るのに空気とか関係ないですから!ガチムチは初めてあったオジサンに誘われて、空気を読んでワケわからん宗教に入信しますか!?怪しい名刺を差し出す芸能プロダクションのスカウトと、空気を読んで所属契約しますか!しないでしょ!!そこはバッサリ断って下さい!大人でしょ!一人暮らし始めたばっかの大学生じゃないんですよ!?」

「もっともなんだけど、君に言われるとなんとも言えない気持ちになるな。なんでだろう」

 

何処と無く納得してなさそうなガチムチはスマホを取り出すとサササッと操作する。そうして何かが画面に映ると私に見せてきた。

 

「明日の出勤時間と仕事内容、その他諸々の雇用規約とか保険の話とか・・・まぁ、インターンの契約についての連絡が今さっききたんだ。少し目を通してくれないかな?勿論、緑谷少女が行きたくないのは分かってるから、無理にとは言わないけど・・・でもね、考えるだけ考えて欲しいんだ」

「えぇぇぇーーー、めんどくさいんですけどぉ」

「・・・・帰りにコンビニでシュークリーム買ってあげるから」

「仕方にゃいにゃぁー、ガリえもんはぁー。ホイップ入ってるやつ買って下さいねぇー」

「現金だなぁ、もう」

 

渡されたスマホに視線を落とすと、そこにはインターン生の仕事内容や契約に関する事がびっしり書いてあった。怪我した時の補償とかも思ったよりしっかりしてる。仕事内容は学校や皆から聞いてたヒーローそのものって感じだ。平時はパトロールで、事件事故が起きた場合は一般人の避難誘導や救助活動、ヴィラン逮捕の協力などなどがお仕事。ヴィランを逮捕出来れば特別手当ても出すらしい。勤務の時間は基本八時間労働で、仕事の影響で帰宅時間が伸びた場合は残業代もあり。交通費も事務所全負担。今日の交通費も出るみたい。

 

と、軽く流し読みした後━━━━それに気づいた。

そう、それは、基本給の部分である。

 

「えっ、こんなにっ・・・・!?」

 

自分の目を疑いもう一度見た。そこには私のお小遣い(課金分を除く)四ヶ月分の数字が日当として刻まれている。それは、業務の中で命を懸けるかも知れないと考えるとあまりにも安い金額だけど・・・・でも、保険料とか諸々差っ引かれてこれなら、やっぱり高いと言って良い額な気がする。

 

お昼代は流石に自分持ちだけど、交通費はしっかり事務所持ちなので、そっちの出費は一切なし。更に、悪党をボコればボーナスまで貰えちゃうときたもんだ。ヒーローの仮免許ぱねぇす。こんなに簡単に稼げちゃうんだね。すげぇ、すげぇよぉ、ヒーローすげぇよぉ。流石に国家資格か。仮免許でもこの稼ぎようよ。ふふふふ。

 

「いやー、でもなぁーやっぱり私には少し早いと思うしぃー?はい、やりまぁす!とは言えないですねぇーふへへ。あっ、因みに相場としてはどうなんですか?これ高い方なんですか?あっ、かっちゃんにも聞いてみよ!おハゲは見栄っぱりだから、結構いい金額にしてそうだし・・・ふへへ、来週はかっちゃんの奢りで焼き肉かなぁ」

「忙しないね、君は」

 

かっちゃんにメッセを送った後、頃合いを見計らってたガチムチが給料について話してくれた。ガチムチのデビューした時代はあまりヒーローに肯定的でなかった為、今より平均的に給料は安かったそうだ。保険やらなにやらこみこみでこの金額なら高い方ではないかな、らしい。

 

「ナイトアイはヒーローとしてメディアへあまり顔出ししない分、そういった方面では儲かってはいないんだけど・・・ヒーロー同士のマッチアップの仲介をしたり、警察から情報分析の依頼を受けたり、主に裏方の仕事では名が知れてるヒーローなんだ。あとは個人的に株をやってるみたいで、結構儲けてるみたいだよ?」

「へぇ、カブ。カブかぁ。あれで農家だったんですか、へぇ。私も大人になったらカブ畑作ろ」

「・・・緑谷少女はたまに凄いアホになるね。というか、今何も考えてないのかな?ナイトアイのことそんなに興味無い?」

 

そんな事をガチムチが真顔で聞いてきた。

少し双虎にゃんびっくり。あまりにも今更な質問だったから。

 

「まぁ、全然無いですけど・・・」

「無いのか・・・・そうかぁ」

 

寧ろあれで興味持ってという方が無理というものだ。ユーモアユーモア言う割には自分で面白い所を見せない。変な機械でサイドキックにセクハラ&パワハラ。態度も口調もトゲトゲしくって、その上息がつまりそうな雰囲気を出す。髪型が七三。あと、何となく好きじゃない。

ある意味では興味が出たけど、それも確実に悪い方面のみ。それも、知らないなら知らないでいいかなぁっ、てレベルだ。

 

「少し黒豆パイセンの戦い方のことで聞きたい事はありましたけど・・・あの調子だと教えてくれなさそうですし。もうお給料以外、興味の欠片も無いですね」

「曲がりなりにもヒーロー免許取ろうとしてるんだから、他所では言っちゃ駄目だよ?それにしても、君が聞きたいことか・・・珍しいね。誰かに教えを請おうとするのは」

「まぁ、その方が効率が良いと思ったんで・・・無駄に終わりましたけど。ガチムチって黒豆パイセンの戦い方って見ました?」

 

私の言葉にガチムチは「一応資料には目を通したよ」と短く返した。

 

「個性も、個性の扱い方も素晴らしいけれど、それ以上にその冷静かつ迅速で的確な動きに目がいったよ。状況を正しく把握し、何をするべきか考え即座に答えを導き出し、それにそって正確に体を動かす。基本的な事ではあるけれど、実戦でそれを行える者は非常に少ない。恐らくナイトアイが徹底的に叩き込んだのだろうね。彼は個性がら人の動きを読む能力に長けているから」

「個性がら?なんの個性なんですか?」

「少しは調べなかったの?普通に検索すると出てくるのに・・・いや、まぁ良いけれど。彼の個性は未来予知さ。文字通り、彼には未来が見える」

「へぇ、未来予知・・・宝くじとか当て放題ですね。良いなぁ」

 

思わず願望が口から溢れるとガチムチが微妙な目で見てきた。ついでにそれまで無言でハンドルを握っていた運転手の人も「良いですね、未来予知。夢が広がる」と話に交じってきた。

 

「運転手さんの個性はなんなんですか?私個性二つ持ちです。良いでしょう?」

「流石、雄英のヒーロー科の生徒さん。羨ましいねぇ。僕の個性はね、右手がプラスドライバーになる個性さ。特訓したらマイナスにも出来たし、よく分からないドライバーにも出来たよ。あとサイズ変更も」

「工作系の仕事すれば良かったのにぃー」

「個性が発現した時は、漠然と時計職人になるって思ってたよ。いやぁ、人生って分からないね。まさかオールマイトや、未来のスーパーアイドルを送り迎えする人間になってるとは思わなかったよ」

「スーパーアイドルなんて、えへへ。そうですけど」

 

「謙遜するどころか、なんて良い笑顔で返事を返すんだ。緑谷少女」

 

それから学校につくまでの間、雄英高の専属ドライバーになるまでの運転手さんの波瀾万丈な人生について聞いた。時計職人を目指して町の時計屋に弟子入りしたり、友人の頼みを聞いて廃部寸前の野球部で甲子園目指したり、柔道少女を助けたのを切っ掛けに裏柔道界と戦ったり、知り合いの所有する島で不可解な殺人現場に遭遇したり・・・・。思ってたより波瀾万丈な話に、私よりガチムチが目を丸くして聞き入ってた。「はぁー」とか言って感心してるけど、ガチムチの人生も大概でしょうに。

 

あと、そんな帰り道の途中かっちゃんから『てめぇにいうか、ボケ』とのムカつく返事も貰った。気を良くした運転手の人にドーナッツを買って貰ったんだけど、やつには分けてやらんと決めた。━━━えっ、シュークリーム?シュークリームも勿論買って貰ったよ。ガチムチに。けど、これは私のだ。私のオヤツだ。つまり誰にもやらんってこと。

 

 

 

 

 

そんなこんなで学校につくと、ガチムチからお茶に誘われた。時間も時間なので帰ろうとしたけど、真面目な話らしくガチムチの縄張りである仮眠室に直行。テーブルを挟んで向き合う事に。

出されたお茶を啜りながらシュークリーム片手に話を聞くと、七三の所へインターンに行ってくれないかって話だった。

 

「通形ミリオ。彼はね、ナイトアイが見出だしたワンフォーオールの後継者候補なんだ」

 

ガチムチが以前コンビを組んでいた七三は、数少ないワンフォの秘密を知る一人で、コンビを解散してからも後継者候補を探していてくれたそうだ。それで一年と少し前、私を後継者とすることを勝手に七三に報告したらしいんだけど、そこでひと悶着あったとか。

 

「君のことを話したら、すごく怒られてね。中学生の、それも女の子に継がせるべきものではないと。考え直せと」

「えっ、まぁ、そうですね。私もそう思います」

「改めて考えてみると、私もそう思うよ。体のこともあって焦っていたんだろうね、私も。急ぎ過ぎていた。けれど、その時の私は君に継がせるべきだと思ってたんだ。だから、私は彼が後継者候補として名前をあげていた通形少年の件を・・・断った」

 

話を聞いてあの態度の理由に納得いった。道理で矢鱈と睨まれる訳だ。気に入ってないと口にしたのを聞いたけど、あれは実際にあった私に対する事だけじゃなくて、この件の事も含まれているんだろう。

 

「それじゃ、どうせ私はワンフォはいりませんし、今からでも黒豆パイセンに継がせれば良くないですか?実力はあると思いますけど」

「いや、今日の彼を見てはっきり分かったよ。彼はね、私の後継ではなくナイトアイの後継だ。きっと通形少年自身も、私の後継者の席は望まないだろう」

「まぁ、黒豆パイセン、七三大好きですもんね」

「ははは、そうだろう?だからそういう意味でも、私は彼を後継者には選べない」

 

そんなに長く七三の事は聞いてないけど、黒豆パイセンが七三にどんな感情を抱いているのかは察せた。何せヒーローの事を一所懸命に話す、ちっちゃい頃のかっちゃんと同じように目をキラキラさせながら七三の事を話すのだ。分からない方がどうかしてる。

 

ただ一通り聞いてやっぱり分からない事がある。どうして私がインターンに行かないといけないのか、って話だ。そのまま聞いてみたらガリガリな顔に笑みを浮かべて、七三に自慢したいのだと言った。

 

「君の努力も君の才能も、私は見てきた。まだ通形少年には届かなくとも、君自身が設けた基準に実力が達していなくとも、君の力はプロとして十分活躍出来るものだと私は確信している。だから、ナイトアイに見せてやりたいのさ。私が選んだ生徒の力をね。『ナイトアイ、君は間違っていない。けれど、私も間違えていない。彼女は立派なヒーローになれるんだ』ってね」

 

「・・・・それとね、緑谷少女に少しでも安全に経験を積んで貰いたいからってのもあるかな?ナイトアイはそこら辺の人の調整は上手いし、無理な仕事はさせないだろうから。通形少年も含め、それなりにインターン受け入れの実績もある。どうだろう?」

 

どうだろうと言われても、ふぅんと思うのが関の山だ。だって行きたくないんだもん。仕事したくないんだもん。休みの日ぐーたらしてたいんだもん。すりーだもん、アウッッッ!・・・・だけど、まぁ、経験が必要なのは分かるし、あのいけ好かない七三の鼻を明かしたい気持ちもある。つり上がった眉毛をしょんぼり下げさせながら、『私めの目は節穴でしたで候う!』って頭をグィングィン下げて欲しい。

 

でも、やっぱりなぁ・・・・。

 

「━━━━━━━━━━なぁ・・・・残念だよ」

 

リスクとメリットについて考えてるとボソッとガチムチが何か言った。聞き取れなかったので耳に手を当て澄ましてみる。わんもあ、ぷりーず。

 

「一月だけでも頑張ってくれたら、冬休みに緑谷少女の補習計画をたててる相澤くんに、私から一言言ってあげるんだけどなぁ・・・・残念だよって」

 

冬休み、補習計画・・・・?ほわっつ?

じっと、ガチムチを見るとガチムチはどこか遠い目をしてお茶を啜り始めた。

 

「これは一人言なんだけど、緑谷少女の授業態度がここ最近また悪くなってきたから、冬休みは全部補習にしようかって・・・・職員会議前に相澤くんがぼやいてたんだ。実際どうなるか分からないけど、次の職員会議ではその話題もあが━━━━━」

「自由!ガチムチ!校風に自由がどうとかってありますけど!?」

 

側の本棚にあった『雄英の歩み』とかいう糞つまらなそうな資料を手にガチムチに抗議したが、「自由と無法はまた別ものだからね」と諭すように言ってきた。つまり、言い訳は聞かないと。成る程。ひいては、私の冬休みという名の自由の翼は、今包帯先生によってへし折られる寸前ということか。成る程成る程━━━━━━。

 

「ガチムチ先生!!なんかぁー私ぃー急にぃ、ちょーインターン行きたくなったっていうかぁー行こうかなぁってーいうかぁ━━━━━行きますッッッ・・・!」

「本当に現金なんだから、君は」

「で、約束ですよ!!」

「うんうん。これに懲りたら、君も授業中出来るだけ眠らないようにするんだよ?」

「それは保証しかねますけど!」

 

必要書類にパパパっとサインした私は、憐れむような悲しき視線をぶつけてくるガチムチを背に、ドーナッツを抱えて即行でとんずらした。

 

助けてかっちゃん!お茶子!!補習させられる!冬休み一杯、クリスマスも正月もなしに補習させられるぅぅぅ!!いやぁぁぁぁ!!







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失敗する時は失敗する、大切なのは失敗した後どうするかだよ?一つの失敗に泣かないで、立ち止まらないで!顔をあげて足を踏み出せば、きっと昨日より強くなれる。と偉い人も言ってるから、寝坊くらい許せ!の巻き

シリアス大歓喜のヤクザ編、本格始動(*´ω`*)


立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、浮かべる笑顔は向日葵が如く、基本的には薔薇だよね!な私は名門雄英高等学校きっての天才美少女『緑谷双虎』、花も恥じらう16歳の現役女子高生☆!

命短し恋せよ乙女ってことで、勉強に遊びに恋に大忙しの毎日を過ごしてる私の元へ、いつものように新しい朝がきた。やったね!

 

窓から差し込む太陽の光を一杯に浴びた私は空の高さを煽り見る。見上げた空は澄み渡る青空。小鳥達が楽しそうに歌いながら飛んでいく。なんていい天気。綺麗な秋晴れね。今日はきっと良いことあるわ。うふふ。

 

暫く日向ぼっこしてから、私は枕元で充電していたスマホを手にとってサササッと操作。アプリの一つを開いてボタンをタッチして、そっと耳に当てた。

 

 

 

 

「お早うございます。今起きました!」

 

 

 

 

元気な挨拶に電話の向こうから黒豆パイセンが慌てた様子の声が響いてくる。私もびっくりしたから分かる。時計見てふぉあ!?ってなったよね!わかりみ!

 

『今起きたの?!今!?本当に今なの!?』

「はぁぁい!今起きました!マジで!私まだ布団の中ですけど!隣にはとらじろういますけど?あっははは!」

『あっはははではないよ!?ていうか、とらじろうってなに!?』

 

時刻は既に8時半を過ぎた所。本来なら七三の所で朝のミーティングとか受けてる時間なんだけど、私は自室の布団の上にいた。寮の自室のクーラーの風を直接浴びない絶妙な位置にセットした、相も変わらず安っぽいマイ布団の上にいた。抱き枕と一緒に。

 

やっちゃったよね!もうね!あはは!お茶子の言うとおり、直ぐに寝るんだったぁぁぁぁ!いやでも、仕方ないよね!?かっちゃんが寝る前に喧嘩売ってくるからさぁ!馬鹿とかアホとか言いたい放題!むきぃぃぃぃ!そもそもガチムチと包帯先生が陰湿なのが一番いけないのに!!いや、分かってるよ!?寝ちゃった私も少しは悪いさぁ!でもさ、言い方ってあるよね!なんか、こう、マイルドに言えるでしょ!?誰の脳みそにしわがないだぁ!しわあるわぁ!見たことないけども!

 

怒りも一時だけ。これからの事を考えて色々諦めて笑ってると、電話越しから早速七三の小言が聞こえてきた。何を言ってるか分からないけど、ネチネチしてるから絶対小言だ。黒豆パイセンも乾いた笑い声あげてるし。取り敢えず聞くとただでさえ頭痛が痛い頭が悪化しそうなのでスルーしといて話を続けた。

 

「えーと、で、クビですか?二度寝してもOK?」

『いや、二度寝しないで。大丈夫だから。取り敢えず今日の仕事場はこの間の事務所じゃないから、そこに直接集合ってことにしよう。仕事の内容はメールするから来る途中で読んでおいてね。着く時間が分かったら教えて・・・・・二度寝しないでね?』

「りょでーす」

『二度寝しないでね』

「うわぁい、 全然信用してなーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A組のインターンいけなかった組と朝ごはんを食べて暫く。チーターのように雄々しく走ったり、緊急事態ってことにして個性でかっ飛んだり、電車に揺られつつ仕事内容確認しながら何とか集合場所である街へついた。着替えはしてる時間がなかったので普通に私服。ヒーロースーツはリュックサックの中だ。

 

集合場所にきてスマホを確認すると、ちょうど待ち合わせの時間。けれど周りを見渡してみても黒豆パイセンの姿は見えない。黒豆パイセンが時間を遅れるとは思わなかったから、『遅刻するとは何事だぁぁぁぁぁー!!』とメッセを送ったら『緑谷さんにだけは言われたくないよ(;・ω・)』とお茶目なメッセが返ってきた。轟よりやりおる。事情を聞いたら電車が遅れてるみたい。

それならばと黒豆パイセンがつく前に着替えにいって良いかを聞けば、『いいよ。集合場所で待ってるから着替えてきて』とのこと。なので近場で着替えられそうな場所を探すことにした。

 

駅前だけあって店は多い。トイレとか借りてやるなら何処でも出来るだろう。けれどだ、いざ着替えるとなると中々に問題なのだ。なにせ私は、ヒーロースーツ着ちゃうと超有名人だから。以前のペロリストの一件以来、動画を見たとか言ってサイン求めてくる人がよくいる。普段はあんまり気づかれないけど、誰かが気づくと途端に集まってしまうのである。そもそも美少女だから仕方ないけど、やっぱり避けられる面倒は避けたいのが本音。今日は全自動人避け兵器のかっちゃんもいないし・・・。

 

取り敢えず駅から少し離れて人通りの少ない近場のコンビニに寄った。しかし残念ながらトイレは絶賛故障中。仕方なしに母様から前借りしたおこづかいで漫画とジュース、それとシュークリーム・・・といきたかったけど無かったので代わりにエクレアを購入し、次の宛を探して外に━━━━━むむむ?

 

「ナァー」

 

コンビニを出てすぐ。愛らしい声に視線を向ければ、コンビニの脇道から猫が顔を出していた。首輪はなし。野良猫だ。しかも毛がフッサフッサの猫。いつもなら放っておく。流石にやることをすっぽかして野良猫と戯れるほどお馬鹿ではない。━━━━しかし、その猫はまさかのアメリカンカールだったのだ。そう、アメリカンカール。長いフサフサの尻尾と垂れた耳が特徴的な、あの血統書つきの猫。雄英高にゃんこ大好きクラブ会長の私は一目でビビっときた。伊達に猫を追い掛け回してない。

 

素早くポケットから猫の棒オヤツを取り出す。

目の前でゆっくりちらつかせれば、猫が視線をそれを追い始める。その隙にスマホを構えて写真のアプリをタッチしたところ、私の動きに気づいた野良アメリカンカールがしゅぱっと路地裏に駆け込んでく。

 

非常事態なので個性でしゅばって追い掛ければ、逃走中の野良アメリカンカールを眼下に捉えられた。華麗に逃走する野良アメリカンカールを写メりながら追い掛けていると小さな足音が聞こえてくる。それは段々とこっちにきてるみたいで━━━━━。

 

「━━━━━っ!?」

 

突然通路の陰から白っぽい子が出て来た。

野良アメリカンカールに驚いて転びそうになってるので、引き寄せる個性でぐいっと引っこ抜いて腕の中に抱き止める。なんか思ったより軽くて拍子抜け。空中を飛びながら白っぽい子が駆けてきた通路を見たけど、誰か人の気配は見えない。てっきりその様子から何かに追われてるのかと思ったのに。まぁ、こんな路地裏に子供がいるのはあれなので、そのまま大通りに向けて体を引っこ抜く。

 

「あっ、の・・・・」

「あーごめんね。驚かせて。ロリコンにでも追い掛けられるのかと思ってさ?大丈夫だからしっかり掴まっててね。それより、ほら、こっち見てごらん」

「こっ、こっち?ふぇ!?」

 

パシャっと写真を取ると白っぽい子が目を丸くする。

大通りに着地してからスマホを見せれば白っぽい子が不思議そうに首を傾げた。

 

「・・・・?ね、こ?」

「ギリでツーショット!珍しいんだよ、この野良はさ。アメリカンカールっていって、普通は飼い猫しかいないの。高いんだよ、めちゃ高。野良アメリカンカールなんて私初めてみたよ。逃げ猫かな?何にせよ、私らついてるねぇー」

「つい、てる・・・?」

 

そうして白っぽい子はまた首を傾げた。

とても不思議そうに。

 

見た目の割にはのんびりした子だなぁと思ってると、白っぽい子からぐぅぅと間の抜けた音が聞こえてきた。少しきょとんとしていたけど、その子が自分が出した音だと気づくと、顔を赤くさせて少し恥ずかしそうに手をもじもじする。その仕草が可愛かったので頭を撫でくり回したくなったけど、手をあげた瞬間体が強張ったのが見えたので止めておいた。無理にやることじゃない。手に巻き付いてる包帯、落ち着きがない怯えた視線。極端に私の動きに肩をびくつかせる様子や小さく震える手足を見れば━━━それなりの理由があるのは分かるから。

 

代わりに腰を落として白っぽい子に視線を合わせる。

少しびくつかれたけど、頭を撫でようとした時よりは大丈夫そうでじっとこっちの目を見返してくる。

 

「初めまして。おねえさんはね、緑谷双虎っていうの。あなたのお名前は?」

「・・・・・な、まえ・・・・」

「ちゃんと言えたらオヤツとジュースを進呈しちゃうぞー。ついでに漫画もつけちゃる。どうじゃ」

 

ビニール袋から紙パックのジュースとエクレアを見せれば、白っぽい子の目がそれに釘付けになった。それから意を決したように口を開いて教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え、えり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今にも消え入りそうな。

本当に小さな声で。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

緑谷さんにとって初日の仕事となる今日、サーから与えられた任務はパトロールと監視。監視対象は『死穢八斎會』という小さな指定敵団体。最近妙な動きをみせるかれらの尻尾を掴む為、ナイトアイ事務所は以前より秘密裏に捜査していた。今でこそ小さな団体とはいえ、以前はそれなりに力を持っていた組織であり、当然油断出来る相手ではない。

 

そんな奴等を相手にする可能性もあって、サーは直接緑谷さんに注意を促したり仕事内容を説明するつもりだったんだろうけど・・・・緑谷さんが思いっきり寝坊したから、それは俺の仕事になってしまった。あの何ともいえないサーの顔は忘れられないよ。後でちゃんと謝って貰わないとなぁ。

 

電車の遅延で遅れ目的地について暫く。

待ち合わせ場所で待機してると緑谷さんからメッセージが届いた。アプリを開いて見てみれば『迷子うさぎゲットだぜぃ( *・ω・)ノ』『絶賛ヒーロー活動中なぅ☆』というメッセージと、緑谷さんと小さな女の子がクレープを食べながら一緒にピースしてる写真が表示される。人助けしてるのは良いことだとは思うけど、せめて合流だけはして欲しかったなぁ。

 

「それにしても・・・・」

 

写真に映った子供は格好が妙だった。

入院患者が着るような、飾り気のない無地のワンピース。袖や裾から覗く手足には肌が見えなくなるほど包帯が巻かれて、椅子に腰かけてるその子の足には靴すら無かった。緑谷さんがそういう事に気づかない訳がない。となれば警察に届ければ終わるそれをまだ行わず、態々写真を送ってきたのは、この子の処遇について判断を仰いでいるのかも知れない。

 

手足のそれに事件性がないのなら・・・例えば写真の子の年頃を考えれば、個性の発現による怪我の影響でそうしてる可能性もある。それとも単なる事故による怪我でそうしてる事だってある。━━━けれど、俺の脳裏にはあまり良いものは浮かんでこない。ニコリともせずにピースする彼女に、陰鬱とした陰が見えて仕方なかったからだ。とはいえ、俺の独断で保護する訳にもいかないが。

 

「取り敢えず、俺が判断するのは不味いかな。一度━━━━」

「すみません、少し良いですか?」

 

サーの電話番号に触れようとしたその時、背後から男の声が掛かった。その瞬間全身から冷や汗が噴き上がる。その声には聞き覚えがあったからだ。

 

「ヒーローの方ですよね。この辺ではあまり見ませんが」

 

サーに渡された数々の資料。その中にあったとある映像に同じ声が流れたのを記憶している。それは現在の死穢八斎會の中でも中心人物である、ある男を映した物だった。

 

「今見ていた写真の事で、お尋ねしたい事があるのですが・・・・お時間宜しいですか?」

 

振り返った先には鋭い二つの眼光がこちらを見ていた。

その眼光の持ち主は口元を隠すように嘴形のマスクをつけていた。黒のシャツによく映える白いネクタイを締め、その上からファーのついたカーキ色のアウターを羽織っている。格好こそ脳裏に過る映像と少し違っていたが、見間違うことなんてあり得ない。それは『オーバーホール』と呼ばれるヴィラン、ナイトアイが再三に渡って接触するなと告げていた死穢八斎會の治崎廻だった。

 

治崎は愛想笑いを浮かべて近づいてきた。敵意はほんの僅かも感じないが、警戒しているのはヒシヒシ伝わってくる。俺は直ぐに頭を切り替え、口を開いた。

 

「こんにちは、いい天気ですね!俺みたいなひよっこで答えられる事があれば喜んで。その素敵なマスク、確か八斎會の方ですよね?」

 

そう笑顔で返すと治崎は僅かに目を細める。

緊張が高まるのを肌に感じる。

 

「えぇ、マスクは気になさらず。空気の汚れに敏感なもので・・・・それより、先程の写真の件なのですが見せて頂いても?」

「申し訳ありません。一応ヒーローとしての仕事に関する写真でして。プライバシーの問題もありますし、部外者の方には━━━━」

「ええ、勿論。ヒーローの方の、大切なお仕事の邪魔をするつもりはありませんよ。ただ、今の写真に写っていたのが身内かも知れなかったので」

「身内・・・・ですか?」

 

俺の言葉に一つ頷き、治崎は続ける。

 

「ちょっと目を離した隙に迷子になった、うちの娘と似ていたんです。先程の写真の子、頭のこの辺りに角がありませんでしたか?ウェーブの掛かった長い白髪。私の不注意から怪我をさせてしまって手足に包帯が巻いてあります。どうですか、確認して頂けませんか?」

 

先程見た女の子の姿を思い浮かべれば、治崎の口にした特徴は一致していた。彼女が身内かどうかは別として、何らかの関わりがある可能性はある。

だが一つ腑に落ちない事があった。

 

「その様子だと、そうなんですね。いやぁ、随分と探しましたが、見つからなくて心配していたんです。まさかヒーローの方に保護して貰えてるとは思いませんでした」

 

欠片の感情も込もってないように聞こえる、治崎のその声が事だ。心配していると口にしながら、治崎の口はただ淡々と言葉を告げているだけ。喜びもなければ安堵もない。探したと言いながら必死さも焦燥もなかった。俺の視界に入ったのは薄ら寒い笑顔だけ。

 

「ありがとうございます。これであの子を迎えにいける」

 

そう言って頭を軽く下げた姿に、やはり俺は何も感じなかった。何一つも。



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遊ぶ時は遊ぶと決めてるので、私は例え何があろうと今は遊ぶぞ!パイセンよぉぉぉぉ!!━━━えっ、これ?これはね、何処かで忙しなく仕事してる知り合いへの宣言だよ。気にしないで、どうせ聞こえてないし。の巻き

ヤクザ編つらぽよ。


天気が悪くなってきた事を理由に、これ幸いと大型のショッピングモールを訪れてから暫く。諸々の買い物を終えた私達は、パイセンからの連絡を待っている間、懸命に時間潰しという業務に勤しんでいた。

 

 

『はいラストー、捕食者のポーズだよ!』

 

 

機械が発した無茶ぶりな言葉に、隣のエリちゃんは慌てて変なポーズを取った。色々あっただろうに、何故に鶴の構え。まぁ、私がいれといて何だけど、捕食者のポーズっていきなり言われたら混乱もするよね。もっと可愛い言い方なかったのか?と思いつつ、両手を顔の横にセットしてガオーしとく。私の姿をみてエリちゃんはハッとした顔をしてカメラにガオーした。ちょーうぃ。

 

『3,2,1!』

 

パシャと音が鳴り、最後の写真が取り終る。

撮影が終わったことに気づくとエリちゃん胸を撫でおろし見るからにほっとするけど、直ぐ落書きタイムのお知らせがきてアワアワし始めた。

 

「落ち着くのじゃ、エリよ。隣のブースへ移動するぞぃ、付いて参れ」

「う、うん・・・・!」

 

先導して隣のブースへ。

映し出された写真を適当に選択し、やり方を教えながら落書きしていけば、それを真似してエリちゃんもおずおずと落書きしていく。けれどやっぱりこういう事には慣れてないのか、落書きの仕方がおしとやか過ぎた。私の体に触れないように、写真の隅っこばかりに星やら花やらをスタンプするだけ。

 

「ふっ。甘いぜ、エリりん。こういうのは、こうするのだ!」

「えっ・・・」

 

きょとんとするエリちゃんの前で、私のご尊顔にお手本としてダンディーな髭とか額に肉とか描いて見せる。やるならやる。それが大事。こういうのははっちゃけたもん勝ちなのだ。

いやぁしかし、これだけ描いてもまだ美人ときたものだ。私って、ごいすーだなぁ。

 

そこそこに落書きし『どやぁ』とエリちゃんを見たら、消しゴムで私の顔の落書きを一所懸命に消し始めた。何故かちょっと半泣きだった。そういうノリは好きじゃないみたい。ごめんよ、なんか。

仕方ないので可愛くデコって終わりにしておく。笑いまったくなしの、無難な置きにいった感が悲しいけど。捕食者の所だけはネコ髭とネコ耳をかいた。これだけは譲れない。

 

そうして出来上がったプリはエリちゃんと半分こ。

今は貼る場所がないのでさっさとバッグにしまってると、エリちゃんが半分こしたそれを手に何か言いたげにこっち見てるのが視界に入った。

 

「あ、あの、みどりやさん・・・」

「緑谷さんは止めい。エリちゃんに言われると背中がムズムズする。気軽に双虎とか、双虎お姉ちゃーんとか、ふたねえーとか呼ぶが良い。あっ、ニコでも良いよ」

「・・・ふ、ふたこさん」

「ほほぅ、どうしてもさんをつけると。エリちゃん中々の頑固者だな」

 

まぁ、良いけど。

 

「それでどしたん?」

 

改めて尋ねるとエリちゃんは両手で握り締めたプリをずいっと差し出してきた。早速プリを交換したいのかと思って財布からかっちゃんがどアップで映ってる魔除けプリを取り出したけど、思い切り首を横に振られた。

地味にご利益あるのに。

 

「よし、じゃあね、夏休みにB組女子ーズ・・・っても分からないか。えっとね、私の持ってる中でも結構なレアプリを交換しんぜよう。イッチーっていってね~」

「そ、そうじゃ、なく、て・・・・お金、ないから」

 

そう言ってまたしょんぼりするエリちゃん。

エリちゃんこの歳でかなりの気いつかいなのか、クレープを買ってあげた時もこんな感じだった。勿体ないお化けが出るぞ作戦で食べさせたけど。

私の子供の頃はそれが本当の意味でただな事を確認して、貰えるもんはなんでも貰ったものだけど・・・じぇねれーしょんきゃっぷ?ぎゃっぷ?を感じるなぁ。

 

「うーん、そっか。いらないかぁ。喜んで貰えると思ったのになぁ・・・・そっかぁ・・・」

 

わざとらしく項垂れてみれば、エリちゃんが焦った様子で手足をパタパタさせた。

 

「いっ、いらなくないよ。ほしいけど、でも、ふたこさんのお金でやったやつだから」

「それじゃこうしよう。これは二人で撮ったやつだから、お金も半分こ。その分の支払いは出世払いで良いよ」

「しゅっせばらい?」

 

きょとんとするエリちゃんの前で屈んで目を合わせれば、赤いルビーみたいな瞳に私の顔が映り込んだ。

 

「大人になってからで良いよってこと。クレープの事も気にしてるなら、それもそういう事にしよ。エクレアも、ジュースも、サンダルも。漫画は・・・読んでないからなし━━━━どうよ?ニコニコふたにゃんローンは金利0パーセントの安心で安全な運営をしております。今ご利用のお客様にはなんと!先着一名様にインターン限定版のニコのサインも付けちゃおう!」

「よく分からないけど、なんかすごい・・・・うん、しゅっせばらいにする。お名前と判子、いる?」

「のん、いらない。覚えとく、覚えていられるまで」

 

覚えてるつもりはないけど、ていうか普通に直ぐ忘れそう。あっははは、しかし名前と判子かぁ・・・子供ってこういう事何処で覚えてくるんだろう?謎だ。

 

それからまた暫くエリちゃんとゲーセンで遊んでると、ポケットに忍ばせたスマホが鳴り始めた。テンションあげあげな音楽に混じる不協和音、聞き慣れないその音楽は黒豆パイセンからの電話を報せるものだ。通話ボタンを押して耳に添えれば『緑谷さん!?』という黒豆パイセンの声が聞こえてくる。

 

「はいはい、皆のスーパーアイドル、緑谷双虎です。どうしたんですか?」

『えっ!?なに、聞こえないんだけど!?どこにいるの今!?で、何してるの!?』

「だからぁ!はいはい!皆のぉ!スーパー!アイドルぅ!緑谷!双虎ですけども!?どうしたんですかぁ!?」

 

そう返した瞬間、足元が僅かに狂いbadの文字が目の前のモニターに浮かんだ。ピッカピカに光ってた機械が通常状態へと戻り、画面端のコンボ数がリセットされる。後ろにいたギャラリーと隣で眺めていたエリちゃんから「あぁぁぁーー」という落胆の声が響いてきた。だよね、あと少しだったのに。

 

『今の声なに!?本当に何処にいるの!?あとこの煩い音楽なに!?ていうか、俺のメール見てくれた!?』

「えっ!?何ですか!?聞こえないんですけども!?それより何か分かりました!?もう直ぐオヤツの時間になっちゃいそうなんですけど!?七三の所に預けるんですか!?サツさんですか!?それとも私が定時あがりでそのまま連れ帰れって事ですか!?帰りますよ!もう!」

『駄目だよ!連れ帰ったら!!メール送ったの見てないの!?親御さんが━━━━』

 

『もう一曲、遊べるダン!』

 

「よっしゃぁ!次こそパーフェクト狙いにいっちゃうんで、ギャラリーの皆応援よろしくぅ!」

「がっ、がんばれー!」

「「「「イェーーーーー!!!」」」」

 

『よっしゃぁ!じゃぁないからね!?後ろの人達も煽らないで!!その子、そういうので凄く調子に乗るタイプの子だから━━━って、緑谷さん!?あ、緑谷さん!こら!また、何か始めたでしょ!!聞こえてるからね!!そっちの騒がしいの、聞こえるんだからね!?聞いて、お願いだから!!』

 

もうひとダンスしてからダンスダンスの達人V5にてパーフェクトを叩き出してから電話を掛け直すと、どうやらエリちゃんの親御さんが待ってるらしい。何時間も。何度もメールしたとか言われたけど、全然気づかなかった。言われてみれば、クレープを食べた後一回もスマホ見てない。やっちゃっちゃ。

 

━━━えっ?そもそも合流する事を一番に考えないかって?なに言ってるんですか!目の前に心身共々傷ついてそうな子供がいるんですよ!?そういう時こそ、一番に考えるのは子供の事でしょ!正義の心で凍った心を溶かす為に全力で相手をするのがヒーローじゃないんですか!時間がなんですか!仕事がなんですか!合流がなんですか!事務的に処理すればそれで終わりですか!?人任せで良いんですか!?見損ないました!七三のことはこれからもセクパワハラ野郎として嫌悪の眼差しで見つめることにします!!それが嫌だったら、今回のは経費で落として下さいありがとうございます!!ちっ、違いますぅ!私が遊びたかった訳じゃありませぇぇぇん!

 

疑いの声を振り切って、通話停止ボタンをタッチ。

メールの内容を確認してからスマホをポケットへ華麗にinしてると、心配そうにしてるエリちゃんと目が合う。

 

「━━━━━という訳で、エリちゃんの親御さんがこっちに迎えにくるそうです」

「おやご、さん・・・・・・まま・・・」

「あっ、それは聞いてなかった。どうだろ聞いてみる?残念、パパでした!ってくるかもよ?」

「ぱぱっ・・・・」

 

目を見開いたエリちゃんは少しだけ嬉しそうにして、直ぐに表情を曇らせて俯いた。笑ってはくれないものの、ようやくそれなりに元気になってくれたのに、またしょんぼりしてしまうとは。家庭環境が気になる。冗談抜きで。

 

今しがた確認したメールの内容はあまりに素っ気なさ過ぎた。私が送ったメッセに対して碌な返答がきてない。『親御さんが見つかった』『合流したい』という答えにもなってない返答だけ。電話でも最低限の情報しか与えて来なかった。そこに親御さんとやらがいるなら、エリちゃんと電話で会話するくらい選択肢としてあっただろうに。黒豆パイセンはかなり目敏い。私やかっちゃん並み、いや恐らくそれよりずっと上のレベルで。それなら私が写真を送った意味も、警察に届けなかった意味も気づいた筈だ。その上でメールでも、電話でも一切それに触れてないなら・・・・それなりの理由がある。

何よりエリちゃん自身、自分の事を話したがらない辺り地雷臭がプンプンなんだけども。

 

さて、何が迎えにくるのやら━━━━。

 

「ふたこさん」

 

考えに耽ってると、エリちゃんの声が聞こえてきた。

視線を落とすと指をモジモジさせながら地面を見つめるエリちゃんの姿が目に入る。

 

「なになに?」

「ママ、迎えに、きてくれる・・・のかな」

 

小さな呟きがやけに耳に響いた。

 

「どうかなぁー?エリちゃんママは会った事ないからなぁ。まぁ、うちの母様ならこういう時は腕捲りしながらくると思うけどね。絶対地を這うような声で『双虎ぉぉぉ!』って怒鳴り込んでくるよね。エリちゃんママもそんな感じ?」

 

私の言葉にエリちゃんは首を横に振る。

 

「・・・・分からない。ママのこと、あんまり覚えてないから。ずっと、会ってないから」

「そっか・・・」

「でも・・・・・来てくれたら、良いなぁ」

 

自分の指を見つめながらエリちゃんの言葉には淡い希望があった。漸く話してくれたそれは、本来普通で当たり前の事なのに、まるでそれが夢や幻みたいに考えてるように聞こえる。それだけ聞けばこの子がどんな環境で生きてきたのか、ある程度予想はつく。

 

「━━━よしよし、んじゃま、エリちゃん。親御さんが迎えにくるまで暇だからオヤツ買って待ってよう」

「オヤツ・・・・ジュース、も?」

「勿論、ジュースも買っちゃおう。何が良い?」

「あの、りんご、のジュースが良い」

「OK、OK、ご要望のままにエリ姫様」

 

小さな手を引きながら、私はお菓子を買いに歩き出す。これから私がやるべきことを考えながら。

 

まぁ、何がともあれ、その親御さんとやらにはじっくりOHANASIAIをしようとは思うが。

よぅし、手甲嵌めなくっちゃネ!

 

 

 

 

大量のオヤツと七三と書かれた領収書を手に、待ち合わせ場所となってるショッピングモールの広場に戻ると、黒豆パイセンと見るからにカタギじゃない輩がいた。嘴みたいなマスクを付けて、目付きが矢鱈と悪い輩だ。エリちゃんが私の服の裾を掴み恐怖で顔を歪めたので、即Uターンを決めたんだけど「エリ」という声が掛かってきてエリちゃんの足が止まる。

 

「探したんだぞ、何処に行ってたんだ」

 

男の軽い口調が聞こえると、エリちゃんの体が小刻みに震えた。なので常識的に判断してエリちゃんを輩から隠すように抱き締めて、原因へ思いっきりガン飛ばしながら掌を前に突き出し『止まれや、ボケが』と言外に伝える。足を止めた輩に私は満面の笑みを返した。

 

「こっ●倶楽部熟読してから出直せ、ボケなす」

 

空気が一際冷めた気がする。



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いや、どんなに素がイケメンでもだよ?嘴みたいなアホマスクつけて、ハロウィンでもないのにどうどうと街を往来をするような奴は、変態だから。それは揺らがないから。だから逮捕して下さい警察の人。の巻き

襲いかかるシリアス、抗う術はあるのだろうか。
あったらいいな(他人事)


「これは随分と口の悪いお嬢さんだ。ヒーローがそういった言葉づかいをするのは感心しませんね」

 

背筋が凍りそうな視線を向けた嘴だったけど、直ぐに頭を切り替えたのか吐いた言葉はトゲつきではあっても軽い物になっていた。周りの賑やかな雰囲気にギリギリ溶け込んでるレベル。ただ、依然としてエリちゃんが怯えてることに変わりないし、探られたくない腹があるのガン見えなので前言撤回しないけどね。

 

それにしても、視界の端で黒豆パイセンのジェスチャーが喧しいな。分かってます。分かってますって。上手くやります。

 

「口が悪くてすみません。でも、私ヒーローじゃないのでそこをどうこう言われても・・・。一応仮免許は取得しましたけど、資格があれば就職に有利かな?程度でとってるので、ヒーローだからとか独自のヒーロー論持ち出されても困るので止めて下さい。お答えし兼ねます━━━それにどう考えても怪しさ満点な格好してるパパさんが悪いと思うんですけど・・・・あくまで一般人として言わせて貰いますけれど、どう軽く見積もってもチンピラですよ」

 

やんわりとだから私悪くないよね?というと嘴の額に青筋が浮かんだ。一瞬だけど。あと、黒豆パイセンが卒倒しそうな顔してる。小さいおめめが限界まで見開いてる。怖い。

 

「ご忠告いたみいります。以後気を付けるようにしますよ。では━━━━」

「のん!下がってください、警察呼びますよ」

 

警察の言葉に嘴の伸ばそうとした手が止まる。

 

「警察ですか?穏やかではないですね。何か?」

 

何かって、お前ぇ・・・・。

 

視線を落とした先、私の腕の中のエリちゃんは明らかに震えてる。尋常で無いほどに。声を聞く度に私を掴む手に力が籠るし、何より小さな声だけど嘴に対して拒否するような言葉を呟いてる。少しでも嘴になついてる様子があればそれで良いけど、これで返すとか頭おかしいでしょ。

 

「この子が怖がってますので。それ以上近づいたら本気で警察に電話しますよ。知り合いにデカがいますから。あと現役の炎使うハゲヒーローもいるんで」

「・・・・・怖がっているのは迷子になる前、少し厳しめに叱ったからですよ。我が儘をいったのでね」

「だとしても、この怖がり方はおかしいでしょう。目見えてますか?頭大丈夫ですか?学生じゃないんですから、常識で考えてください。頭良さそうなのは見かけだけですか?━━━━━━そもそもこんなダサイ服着せて出掛けて、その上で一人にするのもあれですよ。靴もはかせてないし、髪もボサボサだし・・・櫛でとかすとか出来ないんですか?櫛くらい買えるでしょ、よさげなシャツ買えるんだから。ぶきっちょでそれも出来ないんですか?何が出来るんですか?ネクタイ自分でしめられてます?ていうか、そのヘンテコマスクなんですか?格好いいと思ってます?もしかして?ぷぷーっ!ダサマスクっていういかした渾名はどっかのマッソーに付けちゃったので、付けてあげませんからねぇ!?」

 

うっかり文句が出ちゃった所で、指をバッテンした黒豆パイセンが嘴の背後に見えたのでお口を一旦チャック。眉毛がヒクヒクしてる嘴に言わなきゃいけない言葉を探してから、改めてそれを口にした。

 

「・・・・・えーと、まずは、なんだろ?嘴さん、証拠見せて下さい。証拠。エリちゃんの親である証拠。身分を証明出来るものから提示お願いします。免許証、保険証、何でも良いですよ。はよ」

 

そう言って手を出してみたけど、嘴はその手を無視して自分の背後に控えてた黒豆パイセンへと視線を向けた。黒豆パイセンはその視線に頷くとこちらへとくる。

 

「それに関してなんだけど俺が確認させて貰ったよ。ただ事情は複雑らしくてね・・・・」

 

黒豆パイセンはエリちゃんを見ると説明を止めた。

何となく察したので説明しなくていいと伝えようとしたけど、その声は嘴の「養子ですよ。まだ手続きは終わってませんが」という言葉に遮られた。

 

「そちらのヒーローの方には一度説明させて貰ったのですが・・・私には恩人、いえ、実の父親のように慕わせて頂いた上司がおりまして。その上司には疎遠になっていた娘が一人いたのですが・・・・その娘さんが何を思ったのか、ある日突然やってきてその子を、エリを"捨てていったんですよ"━━━━━」

 

吐き捨てられた言葉に、賑やかだった周りの音が消え、腕の中のエリちゃんが肩を大きく揺らすのを感じた。

 

「━━━━当初はそのまま上司が育てる筈だったのですが、その肝心の上司が体を壊し子供の相手が出来る状態ではなくなってしまったんです。調べてみれば出生記録すら出されていない子だと分かり、それで一度は仕方なく施設に預けることを検討しましたが・・・しかしその娘さんとは個人的に面識もありますし、何よりお世話になった上司の意思を汲み取りたいと思いまして、私がエリの父親代わりとして預かる事になりました。ですので、親子としての時間は短く、何かとすれ違いがありこのような事に・・・お恥ずかしい話です」

 

そうニッコリ笑う姿は不気味の一言に尽きた。随分な言い訳だなとは思うけど、不思議と言葉に嘘を感じられない。演技なら見抜くまではいかなくても違和感ぐらい気づけるのに。証拠の確認をした黒豆パイセンが何も言ってこないのだから、完全に口から出任せを話してる訳ではないのかも。何処まで本心だかはおいておいて。

あとしれっと捨てた発言した所に性格の悪さを感じるな。デリカシーのなさに私は激おこプンプン丸よ。殴っていいなら抉るように打つべしってるよね。

 

「本当に恥ずかしい話ですね」

「えぇ、本当に。あぁ、証拠という程のものでもありませんが、この子の戸籍等の手続きをしている弁護士から書類を送らせますか?口頭で問題なければ、そちらのヒーローの方と同じように、電話で説明させる事も出来ると思いますが」

 

ショッピングモールの喧騒を聞きながら考える。

そしてどうしても『現状エリちゃんを保護するのは難しい』という答えにいきついてしまう。そこまで法律に詳しくはないけど、ここから先は多分私が不利だ。仮に警察が来たとしても、弁護士とやらが法律を盾に横槍入れきてうやうむやにされる気がする。

何より1日だけ一緒に過ごした私の証言と、事実上父親同然の立場を有してる嘴の証言とでは、そもそも私の方が信用されない可能性が高い。仮に弁護士の横槍もなく、警察に私が信用されたとしても、それでも保護するのには足りない。嘴が限りなく黒に近いグレーでも、それ相応の証拠がなければ警察は介入出来ないと思う━━━━特番の『警察26時間、声なき声を聞け!子供達のSOS!!』でもそんな感じだったし。家庭内暴力を受けてる子供を保護するまでめちゃくちゃ手順踏んでた。

 

しかも相手は体の80%が陰湿成分で出来てそうなインテリ系の嘴チンピラ。話して分かったけれど、恐らくこいつは簡単に尻尾を出さないタイプの厄介者。ここまで挑発してるのに、殆んど感情が読めない。たまにアホみたいに怒るけど。いっそ殴ってでもきてくれたら楽だったんだけど・・・こいつ絶対一線を越える気ないと思う。

 

「聞いてますか?そろそろエリを返して頂きたいのですが?」

 

ヒーローとしての権限を使って保護する。

私では無理だけど七三まで巻き込めば出来なくはない。ただそうなると一つ気になる事がある。恐らく私が送った写真である程度察しのついた黒豆パイセンが、何故あの七三に連絡してる様子がないのか?ずっと無視してたけど、黒豆パイセンはこんなエリちゃんを見ながらも、私に退くように伝えてくる。正義感が強そうなパイセンが?それはあまりにおかしい。ガチムチとまではいかなくても、黒豆パイセンは相当ヒーロー野郎だ。

 

なら、それなりの理由がある。

例えば目の前の男が、七三がぼやいていた"教えられない仕事"に関係ある人物である・・・・とか。

 

七三が本当に秘密裏に動いているなら、関係者であるこいつの事をヒーローとしての立場から刺激したくない筈だ。だとすれば、黒豆パイセンは七三のことも口にすらしてない可能性がある。そうなってくると当然協力は見込めない。私も迂闊にそれを口にする訳にもいかない。どれだけ今後に影響あるのか分からない。どんな規模で、何を追っているのか。ことと次第によっては取り返しがつかない事もある。今のこれでさえ、狂わせてる可能性がある。

 

 

でも、だ━━━━━━━。

 

 

「っ!ふっ、ふたこ、さん」

「大丈夫、そのままくっついててね」

 

 

━━━━━ここでこの子を見捨てたら、私は今晩のご飯を美味しく食べれる気がしない。

 

 

ぎゅっと抱き締める力を強めれば、子供特有の熱いくらいの体温が服の上からでも伝わってくる。

震えも、荒くなった吐息も。

 

私の様子を見て嘴が目を細めた。

 

「・・・・どうするつもりでしょうか?」

「どうするつもりだと思います?」

 

胡散臭い愛想笑いに笑顔を返せば、嘴から殺気が漏れた。垂れ流されるドロドロした濃厚な殺気に思わず指先が反応する。咄嗟に個性を使う衝動を抑えこんだから良いものの、引き寄せる個性でうっかり地面にキスさせる所だった。危ない危ない。

しかし黒マスク程ではないにしても、ダサマスク並みのヤバい雰囲気を発するな。この嘴。平然と隠せる分、こっちの方が遥かに質が悪いけど。

 

 

「緑谷さん━━━━━━━っ!」

 

 

黒豆パイセンの制止の声が詰まるのとほぼ同時、周囲から嫌な気配を感じた。嘴を警戒しながら周囲を確認すれば、ここを囲むように配置された何人ものチンピラの姿が視界に映る。しかも、その内の何人かは雰囲気が嘴と似通ったものを漂わせてた。怪しい怪しいとは思ってたけど、ただのチンピラって訳でもないらしい。

それに、これだけ人の多い所なら大丈夫かと思ってたけど━━━━どうやらその宛も外れたみたい。気づけば人通りは酷く少なくなってる。

 

嘴へ視線を戻すと嘴が笑みを浮かべながら、自らの手を覆う手袋にそっと指を掛けた。

 

「もう十分でしょう。くだらない話し合いは。これ以上はお互いの為にならない・・・・それくらいは分かりますよね?安い正義感で家族のことに首を突っ込まないでくださいよ。お嬢さん」

 

そう言うと嘴はエリちゃんへ視線を向ける。

 

「我が儘はその辺りにしよう。私も悪かったよ。なぁ、仲直りしよう━━━━━分かるだろ、エリ?」

 

その言葉と同時にエリちゃんが腕の中から抜け、嘴に向けて駆け出す。直ぐ個性で引き戻そうとしたけど、黒豆パイセンに視界を遮られタイミングを逃した。黒豆パイセンを押し退けてもう一度エリちゃんの姿を捉えた時には、嘴がその小さな手を握り締めていた。

 

「ご迷惑をおかけしました。では」

 

そう言って立ち去る二人に向け足を踏み出すと、黒豆パイセンに肩を掴まれた。視線を向ければ申し訳なさそうに首を横に振られる。

 

二人の姿が人混みに消えた頃、周りを囲むように展開していたチンピラ達も姿が消える。暫くして嫌な気配が感じられなくなり、静かになっていたそこに本来の喧騒が戻り始めるとようやく黒豆パイセンが手を離した。

 

「・・・いこう、緑谷さん。まずはサーの指示を仰ごう」

 

何処か元気のない声を出しスマホを手に歩き出した黒豆パイセンの背中を眺めながら、私はバッグから取り出したソレ━━━━メリッサ・発目合作ベイビー試作第一号、多機能ゴーグル『ホークアイ』シルバーeditionの電源を入れた。

 

 

 

「いやぁ、持つべきものは友達だよね」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『バブルガール、すみません。治崎と接触してしまいました。言い訳にもなりませんが、治崎の関係者を保護してしまい・・・・』

 

何事かと電話に出ると、ルミリオンはとんでもない事を口にした。隠れてる最中だというのに変な声が思わず漏れてしまう。そんな私を見てサーが不機嫌そうな視線を向けてくるがそれどころではない。

 

「サー、ルミリオンが、治崎と接触したそうです」

「・・・・・!状況の確認を急げ。ただし慌てさせるな」

「あいさー、了解しております」

 

スマホを改めて耳につけ、私はサーの指示通り話の先を促す。ゆっくり落ち着いた声で聞き返せば、僅かにだけどルミリオンの声に安定感が戻る。

結果、ルミリオンの口から元気なく語られたそれは最悪とは言いがたくとも、それまで以上に治崎を警戒させる行為に他ならなかった。緑谷さんが思いっきりかましたそうだ。

 

『すみません。俺の力不足で』

 

いつもの彼と違いあまりに覇気のない声。ただ一度の失敗でそこまで思い詰める事はない、そう言いたいけれど、それはそれだけ今の状況を正しく理解している事の裏返しでもある。簡単に心配はないとはいえない。

 

出会いはあくまで偶然。

与えた情報は少なく、逆に得た情報もある。

けれどそれが対価として釣り合うかと言われれば難しい所だ。

これは本当に些細な遭遇ではあったけれど、これを切っ掛けにヒーローの私達が嗅ぎ回っている事を勘づかれでもすれば、これまでの調査が無に帰す可能性もある。

捕らえられたヴィラン達が野放しになる事の意味、そこから生まれるかも知れない被害者のことを考えれば、その声色も仕方ない。私にも似たような経験がある。その時はサーや他のヒーローのお陰で大きな被害は出なかったけれど、いつもがそうなるとは限らない。未然に防げるのに越したことはないのだから。

 

事情を一通り聞き終わり、ルミリオン達に起きた事をサーに話せば、僅かな思慮の後に真一文字に閉じていたサーの口が開く。

 

「一旦合流する。撤収準備を始めろ」

 

即決に下された言葉はあまりにも短い。

けれどその即決さこそが何よりも二人の安否を気づかっている事を示していて、険しい横顔にも優しさが見える気がした。

 

「・・・・どうした、返事は」

「あっ、は、はい!すみません!了解です!」

 

サーを見ている事がバレてギロリと睨まれた。

反省の声と共にスマホをもう一度耳につけると、ルミリオンから電話越しに心配されてしまう。年上なのに情けない。

 

「━━━あーっとね、兎に角話は分かったわ。サーと私が行くまで待っててね。確認なんだけど、二人とも怪我はないのよね?」

『はい、そういった事は。俺も緑谷さんも無事です。緑谷さんからも声をき━━━━緑谷さん?あれ、何処いっちゃったんだろ・・・・』

 

どうやら緑谷さんはそこにいないらしい。

せめて無事である事を確認したかったんだけど。

お手洗いだろうか?それならルミリオンに探させるのもあれか。

 

 

「まぁ、良いわ。直ぐ行くから、緑谷さんと合流したらそのまま待機して」

『はい、了解です━━━━━』

 

 

そうして呑気な考えで電話を切った時、私は知るよしもなかったのだ。その時彼女が何処で何をしているのかを。電話直後に入った、一件のメッセージの事を。

彼女が、緑谷双虎という女の子が、どれだけやんちゃで、これまでどれだけのトラブルを起こしてきた・・・嵐のような娘であったかを。

 

その時はまだ。



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あまりのシリアスっぷりで胃もたれしそうになりながら書く『小さな約束』閑話の巻き

シリアス「我は欲するがまま、欲するまでよ。この我が暗黒の天下でな・・・・フハハハハハハ!!」

ギャグ「フラグ乙。目に見える敗北の予感」
アオハル「フラグ乙、泣くなよ。エンディングまで」

シリアス「はい、そこーーーー!フラグとか言わない!不吉この上ないから言わなぁぁぁぁい!」

シリアル「不吉の塊がなんかゆうておるわ」


淡い灯りに照らされた薄暗がりの中。

俺は乾いた足音を追い掛けながら、エリを抱え直し目の前の背中に向け口を開いた。オーバーホール、治崎廻へ。

 

「最近ヒーローの連中が嗅ぎ回っているそうですが、あの娘その仲間ですかね?」

 

足音だけが反響する静寂の世界で、俺の声はよく響いた。エリは誰の話をしているのか気づいたのか不安そうな顔で俺を見るが、何か言葉を吐くこともなくただ俯く。面倒がなくて良いことではあるが、この辛気くさい態度はあまり好みではない。こっちまで腐りそうだ。多少なりとも反抗でもしてくれれば面白みもあるのだが・・・まぁ、境遇を考えれば仕方もないことか。

廻はといえば振り向きもせず「ヒーロー気取りのただの馬鹿だ」と吐き捨てた。

 

「そりゃまったくその通りですが。まぁ、あそこまであからさまに敵対するのは、これまでの手口と違い過ぎますし・・・・流石に考え過ぎでしょうね」

「病気だよ、どいつもこいつも。馬鹿は無意味に力を振るい、個性に自惚れる奴らは分相応を弁えない。何者にでも、なれると思ってる。あの小娘みたいにな」

「だからこそ、でしょ。オーバーホール」

「ふん・・・・・クロノ、風呂の用意をしろ」

 

風呂という単語に思わず仮面のしたで笑ってしまう。

吐く言葉も鋭く、簡単に人を殺すようになったが、こういう所は昔から全然変わらない。潔癖症の廻にとって今回の外出はさぞストレスだったことだろう。予定していた時間より遥かに長く外界にその身を置いていたのだ。荒々しい言葉遣いが何よりもそれを証明している。しかし一介のヤクザの若頭が超がつく程の綺麗好きとは・・・中々に愉快な話だ。まぁ、その質のせいで笑えないやつもいるが。

 

例えば、そうだな━━━━

 

「す、すんません若頭!!」

 

━━━━こいつとか、か。

 

声に視線を向けるとエリの世話係だった男の姿がそこに見えた。この男の杜撰な管理のせいで今回エリを外へと放してしまい、廻に手間をかけさせる事になった。廻の性格を知っていればこそ、それが何を意味するのかよく分かっている事だろう。こんなに早く謝罪にやってきたのが何よりの証拠だ。仮面を被っていて表情は見えないが、震えた声を聞けばどんな表情を浮かべているのか容易に想像がつく。さぞ恐ろしい事だろうな。

 

「ちょっと目を離したスキに、そのガキが逃走しやがって・・・・!次はこんな事しやせん!しっかりその娘に、てめぇの立場ってもんを教えてやりますよ!」

 

しかし、こいつも間が悪い。謝るにしても今は駄目だ。

何処かの善良な一般市民のお陰で、廻は今、最高に機嫌が悪いのだから。

 

廻は無言のまま歩を進めていく。

そして男の隣を通りすぎ様、一瞬で手袋を脱ぎ捨て、払うように謝罪を口にするそいつへ触れた。

 

「だから若頭!俺に━━━━━━」

 

バシャッ、という音と共に男が赤い液体へ変わり、廊下の壁と床を鮮やかに染め上げる。静寂の世界に鉄の臭いが満ち溢れ、ただでさえ息苦しい薄暗がりの廊下がよりいっそうの重さに支配されていった。尤も、俺によってはよく見る光景だが。

 

「掃除もだ」

「へい」

 

部下に無線で連絡をつけ廻の後に続く。

そうして俺達が辿り着いたのはいつものラボだ。

ドアを開けば消毒液の臭いが鼻をつく。

 

「クロノ」

 

廻の言葉に頷き抱えていたエリを下ろせば、それまで気にも留めなかったエリの腕の中にある紙袋が目に入った。これからの作業で邪魔になる事を考え、エリからそれを取りあげる。紙袋は思っていた以上に重く、袋を握れば硬い感触が指に触れた。

 

「かっ、かえし、て・・・」

 

囁くような声が聞こえると同時、廻が「どうした」と尋ねてきた。

 

「いえ、少し・・・」

 

紙袋を開くと菓子の入った小袋が三つ。それとメタリックな輝きを放つ球体が入っていた。球体は動物をモチーフにした、随分と可愛らしい形をした物。ただ用途は分からない。玩具の類いではあるのだろうが・・・・。

 

「何でしょうかね?」

「貸せ」

 

球体を廻に渡すと一瞬でバラバラと崩れ、直ぐ様元の形へと戻った。手には球体と小さな紙切れが一枚。紙切れに目を通した廻は鼻で笑い、それらを俺に放り投げてくる。

 

「なんです?番号・・・・これは携帯番号ですかね。ああ、そういえば虐待を疑ってる感じでしたっけ。あれでいて色々と考えてるもんですね。遠目から見ている分にはただの阿呆かと思いましたが、中々どうして抜け目のない」

「こうしてバレていては意味もないがな。くだらない。安い正義感だ。処分しておけ」

 

 

 

「っ、やっ━━━━」

 

 

 

ゴミ箱に手を向けようとすると、小さな悲鳴が聞こえた。見れば珍しく生きた目をしたエリの顔がある。廻は不機嫌そうに顔を歪めたが、これはそう悪い傾向でもない。

 

「エリ、これが欲しいか?」

「クロノ」

「まぁ、待って下さいよ。お叱りは後で━━━━それでエリ、これが欲しいか?」

 

俺の問い掛けに恐る恐るといった様子でエリが頷く。

 

「それならこれは条件付きでお前にやろう。オーバーホールの仕事を手伝ってる限り、これはお前の物だ。けれどもしお前が手伝いをさぼったり、今日のように逃げようとしたら取り上げる。もしかしたら、壊しちゃうかも知れないなぁ。その事は、お前もよく知っているだろう?」

 

一瞬顔を苦しげに歪めたものの、エリは小さく肯定を示すよう頷いた。球体を紙袋に入れその手に握らせてやれば、エリはそれらを大事そうに胸の所へ抱え込んだ。

 

「クロノ、勝手な真似をするな」

「少しは頭冷やしてくださいよ。らしくない。ただの飴と鞭じゃないですか。たまには飴もくれてやらないと。良いじゃないですか、こんな物で積極的に頑張ってくれるって言うんですから━━━━━それにヴィラン連合の返事によっちゃ早く事態は動くんです。今は最小の労力で最大の成果を、ですよ。全ては計画の為に。頭冷えましたか?」

「・・・好きにしろ。加減は間違えるな。情を移すような事は━━━」

「ははっ、そりゃ勿論。別に俺もこれを人間とは思ってませんし」

 

大人しくなったエリの包帯をといてソレの準備を始める。すると今度は小さな足音が廊下から響いてきた。重々しい機械音が鳴りドアが開けば、オーバーホールの部下である印の仮面を付けた赤ん坊のように小柄な男、死穢八斎會の本部長ミミックがそこにいた。

その手には携帯電話が握られている。

 

「オーバーホール、電話」

 

そう言うとミミックは携帯電話を差し出してきた。

 

「ヴィラン連合、死柄木からだ。この前の返事を聞かせてやる・・・と」

 

その言葉を受け廻は手にした道具をテーブルに置き直し、作業の為に脱いだ上着へもう一度袖を通した。

 

「クロノ、エリを部屋に戻しておけ。まずはヴィラン連合と話をつける。こい、ミミック」

 

それだけ言い残すと、廻は携帯を手にミミックを伴って廊下へと歩き出した。残された俺は準備しかけていた器材の残りを片付け、命令通りエリを部屋へと連れていく。エリは随分と先程の球体が気にいってるようで、移動中ですら指でそれを撫でていた。飴の効力は暫くはきくだろう。

 

部屋にエリを押し込め、見張りと交代して帰る時。

ふと、それを思い出した。たいした事ではない。それはほんの小さな違和感。

 

「そういえば、エリは、あんなサンダル持っていたか?」

 

知っていそうな面倒見係りの男は死んでいる。

他の連中にいたってはエリの所持品に興味を持つ事もない。となれば現状知っている人間はいないという事だ。そう考えると考えるだけ馬鹿らしく思い、俺はそのまま部屋を後にした。

 

 

◇◇◇

 

 

綺麗。

 

わたしの手の中にあるそれは、とても綺麗だった。

わたしの顔が映り込むくらい磨き込まれていて、撫でるととってもツルツルしてる。腕を伸ばして天井に翳して見れば、部屋の灯りを反射したそれがキラキラと光った。まるでお月様みたい。

 

ふたこさんがくれた物。

友達の印にって、わたしが貰った物。

いっぱいある中から選んでいいよって言われて、いっぱい悩んで決めた可愛いトラさんのボール。ウサギさんも良かったけど、でも、これが一番ふたこさんみたいだったから。

 

『がおー、今日からよろしくだがおー』

 

眺めていたら手渡しされた時の、あのふたこさんの変なモノマネを思い出す。トラさんならもっと怖い声出すのに、ふたこさんは変な声でがおがお言っていた。全然違うって言ったら、今度は動物園に確めに行こうって言ってくれて・・・・。

 

「がおー」

 

違う、もっと怖い声だ。

昔、あんまり覚えてないけど、ママとパパと見たトラさんはもっと怖い声だった。

 

「がおー」

 

違う。

 

「がおー」

 

違う。

 

 

「がおー・・・・・」

 

 

違う。

 

 

 

 

「・・・・どんな、声だったんだろう」

 

 

 

 

覚えてると思ってたのに、わたしもふたこさんと変わらなかった。ふたこさんみたいにがおがおって言ってる。でもきっと、ふたこさんよりはトラさんだ。だって、ふたこさんのトラさんは、本当に変な声だったから。

 

ぼーっとしてるとお腹が鳴った。

ふたこさんとクレープを食べてから何も食べてない。ボールを枕の所へおいて、テーブルの上に置いておいた紙袋を開いた。そこにはしゅっせばらいで、ふたこさんと買ったお菓子が三つも入ってる。きっとどれも美味しい。だってふたこさんがそう教えてくれた。

 

わたしは飴が一杯入った袋を取り出した。

切り口を裂いて袋を開けると、透明な包みに入った色んな色の飴があった。赤いのも、オレンジのも、黄色いのも、緑のも皆ある。

 

包み開けて赤い飴を口に入れた。

口に中に甘い味が広がる。コロコロ口の中で転がすと、色んな所が甘くなっていって嬉しくなる。

 

「おいしぃ・・・・」

 

ふたこさんが教えてくれた。そうやって口にすると、もっと美味しくなるよって。きっとそれは本当で、きっと嘘じゃない。だって、あの時、一緒に食べたクレープは美味しかったから。

 

それなのに、あんまり美味しくなかった。

口の中が甘いのでいっぱいなのに。

 

目の所が熱くなって、目の前がぼやけた。

ほっぺたの上を冷たい物が流れていって、手にぽたぽた落ちてく。

腕は痛くないのに、今日は嫌なことまだされてないのに・・・・胸の所が、きゅぅって痛くなった。

 

どうして、あの時、ふたこさんから離れてしまったんだろう。大丈夫って、言ってくれたのに。約束したのに、また遊ぼうって。しゅっせばらいしないといけないのに。きっと、ふたこさんは怒ってる。きっと、わたしのこと嫌いになっちゃった。ママみたいに。悪い子だから。わたしが━━━━。

 

 

 

 

『━━━━━』

 

 

 

 

小さな音が聞こえた。

 

 

 

 

『━━━━━』

 

 

 

 

また、聞こえた。

 

 

 

『━━━っん━━━━━る』

 

 

 

耳を澄ませると、また聞こえた。

ゆっくりそこへ近づいていくと、それが目についた。

ふたこさんが選んでくれた、花柄の入った白いサンダル。手にして耳に近づけると、聞こえた。

 

『電波━━━いに、悪い━━━━』

 

途切れ途切れだけど、聞こえた。

 

「・・・ふた、こさん?」

『━━━っお、出てくれた。やほやほ、エリちゃん。エリちゃんの頼れるスーパーアイドルにして、アトミックなベストフレンズ双虎お姉ちゃんだよ』

 

わたしが聞きたかった、もう聞けないと思ってた声。

 

『いやぁ、ごめんねぇ。サンダルフォンで。他に仕込む所なくてさ~。いや、でも、サンダルフォンってなんか響き格好良くない?電気とか出しそう』

 

暗くて静かな部屋の中で、その声だけがわたしの耳に響いた。

 

『はっ、そうだ。無駄話してる時間なかった。さっきからね、ちょいちょい試しに繋いで確認してたから大丈夫だと思うけど、近くに嘴つけたチンピラ達いないよね?監視カメラとかある?あったらバレないように布団被って欲しいかな?流石にバレると面倒だから・・・・エリちゃん?』

 

でも思ってた声と、少し違くて。

 

『エリちゃーん。おーい。ありぃ?また電波悪い?』

 

そんな訳ないのに。

わたしは悪い子なのに。

呪われてる子なのに。

 

『エリちゃん、聞いてるー?聞いてたらうんとかすんとか言ってぇ。無視とか辛ぽよだからさぁー泣いちゃうよ?私、泣いちゃうよ?』

 

ふたこさんの声は、優しくて暖かいままだった。

聞いてるとふわふわしてぽかぽかする。

笑って話し掛けてくれた時と一緒。

 

「━━━━ご、ごめん、ごめんなさいっ」

 

目の前が見えなくなった。

さっきだって見辛かったくらいなのに、直ぐそばにあるサンダルも滲んで。もう何も。

 

「ごめっ、ん、なさいっ、はっ、はな、なれぢゃっで。く、くっ、くっついててって、言われたのにっ」

 

声が思うように出なかった。

たくさん謝りたいのに、喉に何かつっかえてるみたいに。変な声だけが漏れて。

 

「怖いめにっ、あわ、せちゃって、ごめんな、さいっ、わたしが、わがまま言ったせいで、迷惑をっ、かけて、ごめっ、なさい。嫌いにっ、ならないでっ━━━」

『大丈夫、嫌いになんてならないよ』

 

優しく声が聞こえた。

わたしは悪い子なのに。

おかしいことなのに。

 

「・・・・うっ、ぁ」

 

あの人が言ってた、わたしが不幸にするって。だからママもパパもいないんだって。だから痛いことしなくちゃいけないんだって。悪い子だから。悪いことした分、良いことしないと駄目だから。だって、悪い子のままじゃ、ママもパパも迎えにきてくれないから。

 

「・・・・ぇ」

 

でも、もう嫌だ。

 

「・・・・あ、ぇ」

 

腕が痛い、どっちもずっと痛い。

 

胸の所がきゅって、痛い。

 

痛いんだ。ずっと。

 

 

 

ふたこさんと遊びたい。

 

約束したこと、ちゃんとしたい。

 

お外に出て、またクレープ食べたい。

 

また、一緒に。

 

 

 

 

「・・・・たす、助けてっ、ふたこさ、ん。助けて」

 

 

 

 

『あいよ。助けるよ、約束する』

 

 

 

 

絞り出した声に、ふたこさんは直ぐそう言った。

それが当たり前みたいに。

 

だからびっくりした後、わたしは教えてあげた。ここは危ない場所だって。こなくていいんだって。助けて欲しいけど、ふたこさんに怪我して欲しくないって。

そうしたらふたこさんは笑い声をあげた。

 

『OKOK、大丈夫。分かってるよ。だからね、酷いことをいうようだけど直ぐには無理なの。思った以上に屋敷の警備やばくてさ。屋根まではこれたんだけど・・・こっからがねぇ。無理に入るとしても私一人だと正直キツイ。仮に入れても出るのがちょっとなぁ・・・』

 

『だから、あともう少しだけ待ってくれる?もうほんの少しだけ。準備を整えてくるから。私もエリちゃんも怪我をしないで外に出る為の、その準備を』

 

『でももし、どうしても辛くて仕方なかったら、サンダル思いっきり壁とか床に叩きつけて。中に仕込んだ機械はね、壊れると私の元に連絡が入るようになってるから。そしたら、直ぐに助けにいく。何がなんでも、絶対に。それも約束・・・・どうかな?』

 

優しい声に、わたしは返事を返した。

精一杯の気持ちを込めて。



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自分が悪くない時は意地でも謝らない。自分が悪い時もなんやかんや謝らない。ていうか、私が悪い時なんて全然ないよね。それが、私だけどなんかある?うん?正座?ここで?私が?いやだ!!の巻き

オーバーホールがいつの間にかオーバーオールになってたみたいだから直した。色んな所がオーバーオールだった。ちょっとシュールで笑えた。反省はしてる。

反省はしてる。(正直、こいつ腹立つから滑稽極まりないこの名前のままでも良いような気がしたけど、久々のシリアスの晴れ舞台だから仕方なしに直したのは内緒)

シリアス「なんか、おっそろしい副音声が聞こえる」


「ふぁぁぁぁぁぁぁぁ!?えぇぇぇぇぇぇ!?ちょ、えっ!?女の子に発信器と通信機つけて!?それを頼りに治崎達の後を追い掛けて!?ついでに屋敷に乗り込んで!?虐待受けてるっぽい女の子とお話してきましたって!?しかも私に連絡済みって、嘘でしょそんな訳ないじゃないのっておおおおおお!!?本当だっ!?全然気づかなかっ・・・・ちっ、違うんです!サー!そんな目で見ないで下さいよ!知っててスルーした訳じゃないんですって!本当に!今知りましたから!今知りましたからぁ!!」

 

時刻はうっかり20時過ぎ。門限見事にぶっちぎりなあうちな時間。七三の事務所に帰って一通りエリちゃんとの事を説明すると、バブっちが狂喜乱舞のフィーバータイムに突入した。やだ、すごい楽しそう。リアクションの神様おりてますやん。コンビ組んでお笑いの天下取りにいきたいよね。

 

そんな元気一杯なバブっちと対称的に七三は厳しい視線を送ってくる。籠った感情はきっと、怒りなんだろう。めちゃオコだ。

 

「君は、自分が何をしたのか、理解しているのか?」

「お花摘みにいった流れで、ちょっと遠くをパトロールして、そのついでに可愛い友達と話してきただけじゃないですか?何か?」

「君の浅慮で、何もかもが無駄になる所だったと言っているんだ!!何故ミリオの指示を待たなかった!!何故勝手に行動した!!君の行動によって捕らえられる機会をふいにし、それによってどれだけの人間が犠牲になるのか!!それを考えたのかと聞いている!!緑谷双虎!!」

 

いきなりの怒号に思わず耳に指を突っ込む。

そうしたらただでさえ怒りに歪んでいた七三の眉間に、より深いシワが寄った。隣で様子を窺ってる黒豆パイセンとバブっちがアワアワと私と七三を見比べてくる。

 

「もう、良い━━━━出ていけ。君をこれ以上雇うつもりはない」

「サー!緑谷さんはっ!彼女はただ、治崎が連れていた、あの子の事を」

「それがどうした。ただ一人を救い、百人の人間を不幸にするか?ミリオ、分かっているだろう。志だけでは助けられる程世の中は甘くはない」

「それは・・・そうです、が」

 

「じゃぁ、見捨てるんですか?」

 

言い淀んだ黒豆パイセンの代わり、そう聞いたら七三に強く睨まれた。

 

「そういう事ですよね?目の前に困ってるやつがいて、そいつが不幸になって百人幸せになれるなら、そいつを見捨てるんですよね」

「・・・・・そうだ。私は選べる程強くはない。より多くを救う為に、小を切り捨てる」

「ご立派なヒーロー様ですねぇ。私とは合いそうにないので喜んで帰ります。それじゃ黒豆パイセンも帰りましょう。もう学校の食堂間に合わない時間ですし、帰りにラーメン奢って下さいよ」

 

そう黒豆パイセンに言うと険しい顔で見られた。

何か変な事言ったかと思い返してみるけど、特に思い当たる事もない。不思議に思ってると、「それで良いの!?」と聞かれた。別に仕事したくてきた訳じゃないし、元々冬休みを人質に取られたから来ただけだと言ったら黒豆パイセンは顔を手で覆って「頭痛がする」と一言呟く。さようですか。

 

「せめて、自分の気持ちで来て欲しかった・・・・いや、そうじゃなくてね。あの子の事は、もう良いの?そんな簡単に終わりにして、後悔はしない?」

「・・・・はぁ?後悔?しないですけど」

「彼女の為に君が怒ったのは嘘だったのかい?助けようと、手を伸ばしたのは気紛れだったのかい?違うでしょ、緑谷さん」

 

ムワッとする熱気の籠った言葉に漸く分かった。

黒豆パイセンが何を言いたくて、何を勘違いしてるのか。私は一言も、そんな事言ってないのに。

 

「あの、黒豆パイセン」

「緑谷さん、俺は見ていたよ。あの時、君が治崎に食って掛かったのは演技なんかじゃない。ましてや気紛れなんかじゃない。君は本心から彼女の━━━」

「いやいや、聞いて下さいよ。別に諦めた訳じゃないですから。エリちゃんは助けにいきますよ」

 

私の言葉に黒豆パイセンが円らな目を更に丸くさせる。

 

「えつ、いや、でも、帰るって・・・・」

「帰りますよ?七三の所なんてやってられないんで。少しは話の分かる所探して勝手にやりますよ。丁度動かしやすいハゲが知り合いにいますし、なんやかんや雇ってくれると思うので。嘴のやってる事知ったら、七三よりは良い反応すると思うんですよねぇ」

 

エリちゃん一人の証言だけじゃ、ヒーローにしろ警察にしろ動かすには説得力が足りない。とはいえ、エリちゃんの言葉を裏付けする何か証拠が見つかれば、多少強行だろうと動かざるを得ない話でもある。内容が内容だから、つかっちー辺りに聞かせれば少しはマシな返答が出ると思うし。

 

何を食べようか考えつつ扉に手を掛けた所で、「待ちなさい」と七三の制止を求める声が掛かった。それを聞いた私は黒豆パイセンの手を引きながら、そのまま扉を開けて外に出た。放って置けば自動で閉まる扉なので、手を離せば何事もなくバタンと閉まる。

 

「・・・・・それで、何ラーメン食べます?気分的には味噌ラーメンの野菜と油マシマシのチャーシュートッピングでいきたいんですけど」

「そうだね、俺は醤油のチャーシューメンかな。トッピングは別に・・・いや、待ってあげて!!今、サーが待ってって言ったよね!?あれ、幻聴かな?いや幻聴じゃないよ!」

 

華麗なノリツッコミに希望が見えたので拍手しといた。やんや、やんや。黒豆パイセン、ボケはあれだけどそっちはいけるよ。鍛えてこ、パイセンはそっちでいこ。えっ?本当にかって?本当本当、マジマジ。パイセン才能ありますよ。ツッコミの。ボケてる場合じゃないですよ。練習しましょう。今日から。はい、123!はい、123!腕の角度が甘い!こうっ!こうきたら、こう!ズビシッて感じで!そう!そうですよ!いいよ、キテる!

 

ツッコミの練習をしてると扉が勢い良く開いた。

びっくりして二人で振り向くと、七三じゃなくてバブっちがいた。

 

「いや、そこは━━━」

 

「━━━━━━七三でしょ!」

 

二人で綺麗に分担しながらツッコむと、バブっちが勢いよく綺麗に腕をズビシッと振り抜いた。

 

「いや、ツッコミたいのはこっちだから!ていうか、ミリオくんまで何してるのかなぁ!?」

「はっ!!」

 

何かに気づいた黒豆パイセンが申し訳なさそうにバブっちの隣へと帰ってく。なんと、あっさり敵に寝返りおったわ。こやつめ。

黒豆パイセンをじと目で見てるとバブっちが口を開いた。

 

「スルーしないであげて、サーはあれでいて繊細なんだから!元々説教とかしないタイプなの!だけど立場とかあるから仕方なくやってるの!!説教した後、一人でこっそり落ち込んでたりするの!そういう優しい人なの!今回怒ったのだって、緑谷さんのこと心配してる所もあるんだよ!?察してあげて!緑谷さんそういうの得意でしょ!」

「あっ、はい、すみません」

「分かったならまず部屋に戻って!はい!ほら!」

 

手招きされるがまま部屋に戻ると、窓の外を眺める哀愁漂う七三の背中があった。少し、ほんの少し、スマホの傷防止フィルムの厚さくらい悪い気がして・・・・。

 

「あの、なんか、すみませんした。心配かけたみたいで」

「・・・・いや、私も言い過ぎた。プロヒーローとして認める訳にはいかないが・・・人道的に君は間違ってはいない」

 

お互い謝ると何とも言えない空気になった。

なにこれ、辛い。辛ぽよも言えない、こんな部屋の中じゃ。ぽいずん。

 

「あー、はいはい。まずは向き合いましょう。サー聞きたい事があるんですよね?そうですよね?」

「・・・・・ああ」

「コーヒー用意しますね。良いですね?」

「・・・・ああ」

 

七三のコーヒーを用意するついでに私も聞かれたので、カフェオレを頼んでおく。飲み物がくるのを待って、私は改めて話を聞かれた。カフェオレを飲みながらエリちゃんから聞いた事を伝えれば、七三達は難しい顔をする。

 

「あの子が・・・・まさかっ・・・」

「酷い、そんな事っ・・・・!」

「特異な個性。それを宿す少女の人体を材料に作った、何か・・・・いや、正確には人体に宿る個性を利用した道具か。どちらにせよ、まともではないが」

 

「まっ、エリちゃんが聞いてた事が、そのまま全部本当ならですけどね。多少聞き間違いもあれば、大事な所が抜けてるかも知れませんから」

 

エリちゃんと約束した後、エリちゃんの現状や保護者扱いになってる嘴の事について少し聞いた。

その結果、嘴の変態野郎がエリちゃんから定期的に血液を抜いてる事が分かった。しかも限界まで抜くと嘴の個性で無理矢理体を治されて、何度もそれを繰り返しやらされるのだと。まずこの時点で、嘴のキン●マを蹴りあげて子孫を残せないようにする事を決めたよね。

それで話を戻して、抜いた血液はどうするの?って話なんだけど・・・それは嘴が怪しい研究して、何か武器を作ったっぽい。流石にエリちゃんもそこは詳しく知らなかったけど、嘴が楽しげに個性がどうとか破壊がどうとか言ってた事や、最近は以前よりいっぱい血を抜かれると教えてくれた。この時点で、嘴の尻に鉄パイプ刺すことを決めたよね。二度とまともにウ●コ出来ないようにしてやるよね。

 

「状況から考えれば、研究は何かしら形になった。生産体制に入り、その分の血液を必要としている。それが妥当な所か。センチピーダーから裏稼業団体の接触が増えたと聞いたが・・・無関係とは思えんな」

「もしそれが本当なら、出来るだけ早く保護してあげないと・・・・サー」

「分かってる。バブル。だが、情だけで動く訳にはいかない。下手に動いて逃げられれば、エリちゃんを救えない所か治崎が手掛けた物が世に出回ってしまう可能性がある。それが何か分からないが、子供の体を材料にして作る物が良いものである筈もない。それだけは阻止しなければならない」

 

二人の話を聞いてると、なんか協力してくれそうな感じ。はっきり切り捨てるって言ったくせに、この七三結構親身に考えてくれてる。気がついたら少女がエリちゃん呼びに変わってるし。もしかしてツンデレ?

じっと見てると、七三が私の視線に気づいて目を逸らした。ツンデレだ。絶対ツンデレだ。

 

心の中で七三(ツンデレ)を付けてると、バブっちが苦笑いしながら口を開いた。

 

「あー、えーっとね。緑谷さん。そういう訳で、他所にはいかないで。ここでちゃんと対応するから。私もサーも、その子の境遇を許してる訳ではないの。だけどエリちゃんを保護するのも、明らかになってない犯罪で治崎を捕まえるのも難しい事だってのは理解して。その為に準備が必要なのは・・・・緑谷さんなら分かるでしょ?」

「まぁ・・・それは」

「一から準備してる時間なんてないでしょ?今も苦しんでる人がいる。早く助けてあげないと。証拠集めも人手集めも、緑谷さんが思ってるより時間が必要よ。その点私達は随分前から治崎周辺を探ってる。情報は多い、実績のあるサーなら人手を集めるのに苦労もしない。エリちゃんを助けたいなら、私達を利用する方がずっと効率的でしょ。しかも調査に参加すればお給料も貰えるし、悪くないと思わない?」

 

それは尤もだ。今からおハゲを説得したとしても、この件に首を突っ込むには調査から始めないといけない。有能なサイドキッカーは多くても、情報集めは地道に行うものでやっぱりそれなりに時間が掛かる。元から情報があるなら、その方がずっと良い。お給料の交渉もしなくて良いし・・・。

 

「バブル、私はまだ・・・」

「誤魔化すなら、さっきのことバラしますよ」

「・・・・・」

 

ジト目でバブっちに見られた七三(ツンデレ)は居ずまいを正すと手を伸ばしてきた。まるで握手を求めるみたいに。

 

「もう少しだけ、君を見てみたい。それが私の率直な思いだ。君が嫌ならば強要はしない」

 

ここで拒否しておハゲの所にいって、どれだけ時間が掛かるのか。冷静に計算すればするほど、合理的に考えれば考えるほど、元から情報を持っていて人手も集められる七三の手を取らない理由はない。早くエリちゃんを助けるなら、この人の手を取った方が良い。

ただ、一つだけそれが気になった。

 

「手をとる前に、聞いておきたい事があるんですけど、良いですか?」

「・・・・なんだ」

「七三はなんでヒーローになったんですか?」

 

私の質問に七三は少し考えてから呟くように言った。

 

「どうしようもなく、焦がれたからだ。誰かの為に戦う、そんなヒーローの背中に」

 

そう言う七三の目を見てなんか何となく納得した。

だってそれは私がよく知ってるやつだ。

差し出された掌を握れば、軽く握り返された。

 

「かっちゃんと話合いそうですね」

「かっちゃんとは誰だ」

「爆殺卿です」

「ヴィランか」

「似たようなものです」

 

 

 

 

「かっちゃんって、爆豪くんのことだよね!?緑谷さん!ヴィラン呼ばわりは酷いよ!あの子言動はあれだけど良い子だからね!」



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お話があると先生がいってきた時は、最大最高威力の爆弾を投げつけられる時だと思ってるんですけど・・・今回は?あっ、やっぱり。よし、聞きたくないので言わないで下さい。い、いやだ!聞かせないで!の巻き

映画の情報がどんどん出てきたにゃぁ。
どんなんねんやろ。


初めてのアルバイトを無事済ませた翌日。

欠伸をかきながらかっちゃんにおぶられつつ学校へと行くと、朝からA組の面々に取り囲まれた。私が人気者で人を引き寄せる神々しき存在であるとしても『おっとぉ?』的な勢いでだ。

 

何となく集まった連中の顔を見れば予想はしていたものの、その理由聞くとやっぱりインターンについて聞きたかったらしい。同じインターン組のお茶子達は私より帰りが早くその日の内に事情聴取されたみたいだけど、私が寮についたのは門限を余裕でぶち抜き消灯時間も過ぎた頃。寮に着くなり待っていた包帯先生に軽く説教され、部屋に戻ったのはそこから遅くなって11時過ぎだ。当然皆と話す機会もない。私だけがぐんを抜いて帰宅時間が遅れたのも相まって、皆の期待感が高まっているらしかった。

 

とは言っても今回は守秘義務が多くて話せる事もなく。私は期待に目を輝かせる皆にその旨を伝え、話せる範囲つまりはラーメンの話をした。黒豆パイセンの奢りで食べたラーメンは行列も出来ない普通のラーメン屋のラーメンだった。店構えはぱっとしないし、店内も平均的なラーメン屋って感じだったし、メニューにも特別な興味を引くような名前はなかっ━━━━超絶灼熱地獄激辛ラーメン(タバスコ練り込み麺は一声かけて下さい)はやけに目についたけど・・・まぁ、全体的には普通につきた。しかしあの味噌ラーメンは良かった。その素朴ながらもスープに込められた飽きさせない複雑なコク、あの味わいは旨いといって然るべきものだった。スープの絡んだ黄金の縮れ麺にどれだけ胸が踊ったか。最初は野菜てんこ盛りのこってり味噌が食べたかったのに!とも思ったけど、いやはやとんでもない。チャーシュー、煮卵、メンマ、ネギ、もやし。それぞれが程よく載せられたスタンダード中のスタンダードな味噌ラーメン。しかしそここそが、ラーメンの真髄。まさにシンプルイズザベストなんだよ。旨い物っていうのは、過度に盛らなくても旨い!いや、寧ろ盛りすぎは厳禁!バランスだよね!バランス!

 

熱くそう語ると瀬呂・尾白・上鳴・あしどん・葉隠の五人組はお腹を鳴らした。そして教室の窓から高い空を眺めながら「週末はラーメンだな」と固い約束する。なのでその店のサービス券あげた。麺大盛無料、楽しんでこい。はっぴーらーめんらいふ。

 

「・・・・いえ、ラーメンも大変魅力的ですが、肝心のインターンのお話を聞かせて下さい。緑谷さん」

「ヤオモモの言うとおり、しれっと話題を逸らすな。緑谷。守秘義務は分かるけど、もう少し話せる事もあるでしょ?」

 

おっと、勘の鋭い子が二人もおる。

やりおるわ、こやつらめ。

 

ってもな、実際話せる事もないんだよなぁ。

私の話って殆んどエリちゃんが関わってくるし、そのエリちゃんの事に関しては七三から口止めされてるから。相手が相手だけに、今回の件はこそこそしないといけない事が多すぎるのだ。皆を信用してない訳ではないけど、何処から情報が漏れるかも知らんし話すのはちょっとなぁなんだよね。

 

「いや、めんご。話したいのは山々なんだけど、やっぱり無理なんだよね」

 

そう言って軽く頭を下げると耳郎ちゃんと百は仕方なしと納得する仕草を見せた。インターン組のお茶子と梅雨ちゃんは私の大変さを知って何とも言えない声をあげる。

 

「けろっ、緑谷ちゃん初日から大変ね」

「私達は特に何もなかったから、仕事の説明を受けてパトロールだけだったもんね。何もない事はええ事やけど・・・・」

「そうね。不謹慎だけれど、少し残念だったわね。パトロールが大切なお仕事なのは分かっているけれど、そういう仕事を期待しなかったっていったら嘘になるもの」

 

二人の話に周りの皆も納得した様子で頷く。

 

「━━━そう言えば、かっちゃんもそこそこ遅れたんでしょ。矢鱈とボロボロだし、何かあったんじゃないの?」

 

お茶子と一緒に叩き起こしにきた時から気にはなってたけど、かっちゃんの顔や捲り上げた袖の下に覗く腕には絆創膏やら包帯やらが張り付いてた。目に見える所に青アザやら小さなかすり傷もあって、何かあった事は明白。しかも同じ所にいった轟も似たような感じなら、インターンで何かあったのは間違いない。

 

昨日は帰ってメールもイタ電もしないで即行寝たから、インターンの事はまだかっちゃん達に聞いてないんだよね。私も。

 

私がそう尋ねると前に座っていたかっちゃんが面倒臭そうな動きと共に振り返る。その顔には相変わらず不機嫌を誤魔化すことなく伝えてくる眉間の深いシワがあった。

 

「・・・なんもねぇわ」

「なんもない顔じゃないじゃん?」

「っせぇ、なんもねぇつっんだよ」

 

答える気がなさそうなので似たような格好してる轟へ視線を送れば、目の合った轟がコクンと小さく頷く。

 

「いつもはもっと忙しいらしいが、俺達の行ったタイミングじゃ大した事件はなかった。パトロールもなければ、出動もなしだ。これは糞親父と手合わせして出来たもんで、俺達もインターンらしいインターンはしてないから話せる事は殆んどないぞ」

 

轟が淡々とそう言うと皆が沸き立った。インターンの話としてはあれだけど、手合わせしたその相手は一応現役No.2ヒーロー。私は別に何とも思わない。あのおハゲと手合わせとかしんどそうとか思うくらい。だけどヒーロー好きの皆からすれば、それだけで話題に十分こと足りる内容だ。だから盛り上がるのは当然なんだけど・・・肝心の轟はピンときてない顔してる。本当、嫌いだな。おハゲのこと。

 

かっちゃんはと言えば、おハゲとの手合わせを思い出したのか苦虫を噛み潰したような顔でグルグル喉を鳴らしてる。体から溢れる不機嫌オーラに、側にいた切島達が音も立てずにそっと離れてく。何されるか分かったもんじゃないもんね。分かる。もうただの狂犬ですものな。

しかし、この様子だと相当ボコられたんだろうな。それも一方的に。かっちゃんプライドだけはエベレストより高いけど、それと同時に冷静に戦力分析出来る人だ。ドロップキックかました私にも分かったんだから、おハゲとの戦力差は少し戦えばかっちゃんにも痛い程分かる筈。負けても仕方ないのは察しても、それでも尚こんな状態になるなら、面白いくらいボコられた以外ないだろう。可哀想にぃー。

 

「まぁ・・・どんまい、かっちゃん」

 

同情から哀れなイラかつの頭を撫でてやる。

相変わらずチクチクしてて手触り悪し。

一瞬呆けたかっちゃんだったけど、何度か撫で撫でしてると眉間のシワを更に深くして手を弾いてきた。

 

「てっ、てめぇっ、んだそのムカつく面は!喧嘩売ってんのか!?ああん!?どんまいはそこの醤油顔にでも言っとけや!!」

「・・・・おい、爆豪。それは俺が傷つくぞ。激しく傷つくぞ。泣いちゃうぞ」

「勝手に泣けや、ボケ!!死ね!!」

「ストレートに酷いっ!」

 

尾白に慰められる瀬呂、皆に取り囲まれる轟、不機嫌オーラを周囲に放ちまくるイラかつ、ラーメンに思いを馳せるあしどん達━━━━━からスマホへ視線を落とした私は、今日も今日とて日課のログボ巡りを始めた。包帯先生がくる前に回り切らねば。忙しいなぁ、忙しいぃー。えっ、なに、お茶子。収拾つけなくて良いのか?何が?えっ、私が?何故に?い、嫌だ!無理だって!あんな混沌としてるもんどうにかなるわけないじゃん!いや!むりぃ!むりぃぃぃぃ!

 

━━━━はっ!えっ、包帯先生!?違っ、私のせいじゃないし!本当ですって!なんで疑いの眼差しを向けてくるんですか!?そういうのが生徒を非行に走らせるんですよ!?傷つくんですけども!?いや!いかない!そっちにはいかない!どうせ叱るんでしょ!いやぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忙しない午前中を終えて、迎えたお昼休み。

かっちゃんに寿司を奢って貰うべく食堂に向かってると、ガリガリなガチムチが気さくに話し掛けてきた。嫌な予感がして回避しようとしたけど「冬休み」と小さく呟かれ大人しくついていく事に・・・・・勿論かっちゃんも。一人で楽しくお寿司なんぞ、許さぬ。

 

そうしていつもの部屋でテーブル挟んで座り向き合うと、ガチムチは焼き肉弁当と淹れたばかりのお茶を二人分出してニッコリ笑った。

 

「話は聞いたよ・・・・・・」

 

その言葉に嫌な汗が噴き上がる。

そもそも遅刻から始まった昨日の事を改めて振り返れば、客観的に見ると怒られる要素は幾らでもある。それが如何に不可抗力が故の結果だったとしても、現場にいなかったガチムチからすれば、それはそれで、これはこれ程度のもの。つまりそれを七三に聞いた上で、こうして呼ばれたとなれば理由は考えるまでもない。そういう事だ。

 

テーブルの陰でかっちゃんの服の裾をそっと引っ張る。

届け、私の無言のSOS!フォローしろ、この野郎!幼馴染でしょ!分かるでしょ!と━━━━しかしぃ、かっちゃんは気づかない。横目で確認したら、まさかのきょとん。でも段々と顔色が呆れたような表情になって、思い切り溜息を吐かれた。いや、SOSを出したのは私ではあるけども。けどもさ・・・お前ぇぇ。

 

「━━━━はぁ、何したか知らねぇが、面倒臭ぇさっさと謝れ」

「ちょっ!何かした前提で話さないでくれますぅ!?私は至って普通にアルバイトしただけですけど!?それを何!何も聞いてないくせに、もう完全に私が何かしたとか決めつけて話題を先回りしないで下さいぃぃぃ!」

「じゃぁ、何をしたのか客観的に言ってみろや。出来るもんならな」

「オ仕事、シタヨ!本当、コレ、本当の話ヨ!」

「碌に内容話せねぇ上に、片言になるレベルで何かやらかしてんじゃねぇか」

 

さっと視線を逸らそうとしたけど、顔を掴まれてそっぽ向けない。両の頬っぺたがかっちゃんハンドに押し潰され、私の麗しのお顔がタコみたいになってしまう。息をするとぷひゅーとか変な音が漏れる。脱出しようにもかっちゃんが馬鹿力過ぎて身動きが取れず、ぷひゅーという情けない音をあげるしか出来ない。乙女の顔に、なんてやつだ。この野郎ぅ。

 

「爆豪少年、違うよ。離してあげて。今日は緑谷少女を説教する為に呼んだ訳ではないんだ」

「ああ?説教じゃねぇーならなんだよ。オールマイト」

 

他に何があるのかと言わんばかりの言い種で、かっちゃんが少し剣呑な雰囲気を出す。するとガチムチはお茶で少し口を潤してから口を開いた。

 

「相澤先生から聞いたよ。緑谷少女、今日の放課後から訓練場の使用許可申請出してるだろ?通形少年と戦闘訓練をするとか」

「・・・・あっ?」

 

かっちゃんが片眉を上げてる様子を横目に眺めつつ、話を頭の中で整理し直すと漸くピンときた。きっと例の件だ、と。

 

「ガチムチが責任者やるんですか?」

「相澤くんが忙しくてね。口頭になってしまうけど、多少なりとも指導もさせて貰うよ。宜しくね」

 

昨日、七三の事務所に暫く厄介になる事を決めたついで、私は黒豆パイセンの先を読む戦い方について、指導したと思われる七三から話を聞いた。聞く前からあれは経験が物をいう技術だとは思ってはいた。口で教えられた所で、何か身に付く類いのものではないと。

案の定コツらしきものはなく、七三からはただひたすら多種多様な人物との対人戦闘訓練をこなす事だと、ありがたぁーーーいアドバイスを貰う事になった。

 

それで話自体は終わりだったのだが、側にいた黒豆パイセンが対人戦闘訓練の相手をすると言い出してきた。七三も他人への指導は良い経験になるとか言って━━━でっ、気がついたら放課後に戦闘訓練する事が決まっていた。正直そんなに乗り気ではないんだけど・・・どうせ暇だし・・・エリちゃん関連の情報集めも、七三達がしっかりやってくれるって言ってたし・・・・それにこれからの事を考えれば、個性を交えた上での戦闘経験は今以上に必要だしね。

 

しかし、昨日は説教からの流れで、包帯先生に訓練場の件をお願いした時は難しい顔されたけど・・・・特に問題もなく訓練場が使用出来そうで良かった。

 

「・・・・まぁ、宜しくお願いします」

「ああ、こちらこそ。いやぁ、それにしても君がやる気になってくれて本当に嬉しいよ。近接戦闘においては私もそれなりに自信があるから、そっちのアドバイスは期待しててね」

「そこら辺だけは本当に凄いですもんね、ガチムチは。本当、そこら辺だけは」

「HAHAHA・・・・・本当の事かも知れないけど、そこら辺だけって言うの止めてくれないかな。お願いだから」

 

 

「━━━━━━おい」

 

 

ガチムチと話してると、不意に酷く不機嫌そうな声が隣から聞こえてきた。チラッとそこを見れば機嫌が最高潮に悪いかっちゃんの姿がある。・・・何故に?お昼食べ損ねたから?それは私だってキレたいわい!お寿司の筈だったのにぃ!よもや焼き肉弁当になるとは!いや、焼き肉弁当も嫌いではないけども!!

 

「どういう事だ、こら。俺は何も聞いてねぇぞ」

「そりゃ、まだ言ってなかったし。━━━という訳で、かっちゃんも放課後訓練しよ。良いでしょ?」

「あっ?・・・・おっ、おう」

 

最初からかっちゃんも誘う気だったし、何より誘って欲しそうだったので普通にOKしとく。━━━━と言うか、暇そうなやつは皆誘うつもりだったので、別にそこら辺は全然問題ない。サンドバッ・・・・・練習相手は幾らいても良いのだ。新装備の具合も確かめたいし、個性の技も調整したいし、やりたい事は幾らでもある。

 

OKを貰ったかっちゃんは何か酷く動揺していて、何とも言えないぎこちない動きで弁当を食べ始めた。

その様子をぼんやり眺めながら、かっちゃんに続いてご飯を食べ始めるとガチムチがそっと耳元に顔を近づけてくる。何事かと耳に手を当てて聞く用意をすれば、小さな呟きが鼓膜を揺らした。

 

「・・・・緑谷少女、わざとやってるの?」

「・・・・・・わざと?」

「あっ、いや、何でもないよ。程々にしてあげてね」

「程々に?よく分かりませんけど、まぁはい」

 

それから直ぐ、話題はインターンの事に移った。

どんな仕事をしたのか?とか、七三とは上手くやってるのか?とか、これから七三の下でインターンを継続していくのか?とか。なんかそんなんだ。守秘義務ばかりで碌に話せる事がなかったけど、ダンスゲームでパーフェクト出した事だけ証拠の動画と共に教えといた。どやぁ。

 

沸き上がるギャラリーとパーフェクトを祝ってる姿が流れる映像を見てガチムチは一言だけ「インターンに行ったんだよね?」と怪訝そうな顔で聞いてきたので、私は力強く頷いておいた。これもちゃんとした業務やったんやで。遊びではなかったんやで。ほんまやて。嘘ちゃうねん。そんな二人して疑いの眼差しで見んといてよ。あっ、確認の電話はしないで!七三は忙しいから!本当、忙しいから!!迷惑になるよ!本当に!!ね!!あっ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、説教されました。

よもや一日の内に二度も説教されるとは・・・。

うん、厄日!!



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特訓回は人気とれないらしいけれど、私は内容が納得出来て面白いなら全然評価しちゃうよね。えっ、つまり何が言いたいのか?面白くて辛くなくてでも為にはなる、そんな特訓がしたいです・・・!パイセンっ!の巻き

ヒロアカの最新映画の敵ナイン、まさかの達磨じいちゃんの・・・っとこれ以上は言えねぇ。今見れる予告でほぼ確定してるけど、言えねぇなぁ。

ていうか、最近やべぇ情報ばっかり出て来て、続き書くの怖いんだけど(;・ω・)


疲れていてもぶぅ垂れていても、月下に照らされる一輪の白百合が如く愛らしく美しい私は雄英高校きっての人気グループ・アイドル系美少女お笑いユニット『お茶子withバカスリー』のポニテリーダーこと緑谷双虎。現在16歳の現役バリバリイケイケのJKだ。

 

基本品行方正な良い子ちゃんで通ってる私だけど、昨日のちょっとしたやんちゃがたたって、今日一日は皆にお説教されてマジブルー。マージマジ、マジか。お昼ご飯はお寿司から焼き肉弁当になるし、放課後は戦闘訓練しないといけないとだし・・・・はぁ、踏んだり蹴ったりだわ!本当に厄日!いやになっちゃう!

 

そんな訳で放課後、授業が終わって真っ直ぐ訓練場に来たんだけど━━━━━━

 

 

 

 

 

「POWERRRRRRRRRRR!!」

「━━━━っっらぁ!!勝ち誇ってんじゃねぇ!!まだ、終わってねぇぞ!!ごらぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━わぁ、思ったより戦場。

 

 

例の如く腹パンされたかっちゃんだけど、攻撃パターンを記憶したのかその対応力もその耐性も以前より段違いに上がっていて、一瞬の硬直のみで直ぐ様爆破による迎撃を開始。訓練場に爆風が吹き荒れ、耳をつんざくような爆音が響く。

 

訓練を開始する前は整地された綺麗なフィールドも、かっちゃんの爆撃でクレーターだらけ。私も多少はやんちゃしたけど、大体はかっちゃんが原因である。よって、私は悪くない。掃除は全部かっちゃんに任せよ。うん。いや、しかし、元気だなぁ。昨日ボコボコにされた筈だろうに・・・。

 

「わぁ、爆豪少年・・・・・わぁ・・・・わぁ」

 

隣で何処か遠い目をしながら呟くガチムチの後ろ姿に、優しさの塊といっても過言ではない私は少しだけ同情する。するけど、これはあくまで責任者の役目からのこと。なので私は余計な事は言わず、お口は引き続きチャックしとく。

 

「・・・・ミリオ、楽しそうだな・・・・やり過ぎないと良いけど・・・あっ、だ、大丈夫かな」

「本当!訓練ってこと忘れてそうね!楽しそう!」

 

そう呟いたのは、黒豆パイセンと一緒に来た天ちゃんパイセンとねじれんパイセン。つい先程、ちょっと私の相手して貰った二人はジュース片手に呑気に観戦モード。いや、天ちゃんパイセンはガチムチ側かな。もう、気にしたら負けなのに。だってこれね、もうね、手遅れじゃぁんねぇ。あと、私と一緒に頑張った切島はそこら辺で白目剥いて捨てられてる。ねじれんパイセンつえかった。あはは。

 

悪夢でしかない後片付けの事を考えつつぼやーっとしてると、目の前にスポーツドリンクが顔を出した。何処からやってきたのか出元を見れば、いつの間にか買い物から戻ってきた轟とお茶子達がいる。

 

「おっつー、でも・・・これタピタピちゃうで」

「わりぃ・・・タピタピって名前のは、無かった」

「そっか、タピタピは無かったか。それなら仕方ないでござるな」

 

そこまでタピりたかった訳でもないから別に良いけどさ・・・・いや、でもあったと思うんだけどな?タピオカティー。

しょんぼりする轟からドリンクを受けとってると、遅れてやってきたお茶子と梅雨ちゃんが凄いジト目で見てきた。

 

「やっぱりニコちゃんか。轟くんに変なもん頼んだんわ。自販機の前でめちゃくちゃ困ってたよ?あかんよ、ちゃんと教えんと」

「轟ちゃんにあんまり意地悪しちゃ駄目よ。緑谷ちゃん」

 

「えぇ・・・・別に意地悪したつもりはないんだけども。あのさ、轟さ、タピオカ知ってるよね?」

 

ジト目二人から指摘を受けたので轟に問い掛けて見る。

すると轟は難しい顔で「タピオカ・・・?」と呟いた。そして考える人のように動かなくなる。

あっ、はい。知らんね、これは。えぇ、マジか。かっちゃんでも知ってるのに。

 

「あれだよ?あの、半透明の粒々したやつ」

「半透明の粒々したや、やつ・・・?飲み物じゃないのか?」

「飲み物というか、タピオカは飲み物に入ってる物なの。んで味は、まぁ、特にはないんだけど・・・噛むともちもちしてて、なんか美味しいやつ」

「噛むともちもち、美味しい・・・・もちか?」

 

もちと聞いたもちマスターお茶子が「あれはもちちゃうよ」とかなり強めに否定し、轟は「そうか」と頷く。けれど、結局タピオカについて理解出来なかったようで、タピオカと小さな声で呟きながら首を捻る。

 

「今度、一緒にタピりにいこっか」

「ああ・・・タピル?タピオカじゃないのか?」

「えっ?そうだよ。タピタピ」

「???」

 

初めて掛け算習った小学生みたいな顔になったのでこの話は一旦終わりにし、私は買ってきて貰ったスポーツドリンクに口をつけた。汗かいた時にはスポドリだよね。寧ろタピタピ買ってこなくて良かったよ。うんうん。

 

「━━━それにしても、思ったより皆こなかったねぇ」

 

そう言いながら、パイセン達にジュースを配り終えたお茶子が隣に座り込む。

 

「インターンの受け入れ探しだっけ?あしどん達」

「そう言っとったね。でもまぁ、目の前の惨状が一番の理由やと思うけども・・・派手にやっとんなぁ爆豪くん。これ最後に片付けするんだよね?」

「かっちゃんにやらしとけば良いよ。ピタピタやらせたら良いよ。私はやだ」

 

私がそう言えばお茶子が苦笑いを浮かべた。

否定しない辺り、お茶子の心の内が透けるようである。ですよねぇー。大体かっちゃんだもんね。この荒れよう。

 

「そういう訳にもいかないでしょ?皆で申請を出して使っているんだもの。それに爆豪ちゃんだけだと片付かないと思うわ」

 

白目剥いてる切島を世話を焼きながら、私達の話を聞いてた梅雨ちゃんは戦場を見ながら呟くように言う。それにもまったく同意で私とお茶子は乾いた笑い声をあげた。ですよねー。何故私はかっちゃんを誘ってしまったのか。いや、誘わないと後が煩そうだし、それに戦闘訓練の相手としては良い相手ではあるんだけどね。うん。

 

「・・・・くっ、クリムゾンライオット!お、俺はっ━━━うえっ!?梅雨ちゃん!?」

「そうね、どちらかと言われれば梅雨ちゃんよ」

 

そうこうしてる間に無事蘇生した切島だけど、今度は別の事で気を失いそうになってる。顔を真っ赤にさせて・・・ふっ、所詮は童貞か。膝枕程度で軟弱なやつよ。

 

「切島ちゃん、強く体を打っていたけれど大丈夫かしら?」

「お、おうさ!それは大丈夫、だけど・・・・あ、あの、いや、なんていうか━━━━━おっ、おっしゃぁ!!轟ぃ!!もう一戦頼むぜぇぇぇぇ!!」

「あっ、行く前にせめて水分補給だけでもしていって。これ先輩方からの奢りだから、お礼も━━━」

「先輩方、あざぁぁぁぁぁす!!」

 

切島は梅雨ちゃんからスポーツドリンク貰うとその場で直ぐに飲み干し、のんびりしていた轟と二人の戦いを見ながらソワソワしてた天ちゃんパイセンも連れて、爆音鳴り響く戦場へと慌ただしく戻っていった。天ちゃんパイセンは戦いたくてソワソワしてた訳じゃないからお手柔らかにねー。聞こえてないだろうけどーー。がんばえーー紅白饅頭ーー。天ちゃんパイセーーン。

 

天ちゃんパイセンが望まぬまま爆撃地帯に巻き込まれて直ぐ。解放されし自由人、ねじれんが満面の笑みで近寄ってきた。果てしなく嫌な予感しかしないけど、あれを止めたりかわしたりするのは至難を極める。なのでさっさと諦め構えといた。さっ、ばっちこーい。

 

「ねぇねぇ!ニコりん!横から見てたけど、さっきの凄かった!ボールがビュンビュンって、まるで竜巻の中を飛んでるみたいにぐるぐるしてて!ニコりんの個性って引き寄せる個性でしょ!?どうして私みたいにぐいいーーんて動かせたの!?どうして?!」

「んーーー?あれは引き寄せの応用ですけど・・・説明すると割と面倒な感じになりますよ?本当に聞きます?」

「大丈夫!教えて!」

 

やってる事は大した事じゃない。

あれはある動作の反復でしかないから。

 

私の個性は正確には設定した対象を引き寄せる物ではなく、設定した対象二つを引き寄せ合わせる力だ。だから力が働いた時、質量の小さい方が一方的に引き寄せられてしまうし、質量が同等に近ければ対象二つが互いに引き寄せられる事になる。ただそれも例外があって、空間を座標においた場合のみ、対象としたもう一つの物が一方的に設定した座標へ引き寄せられる事になるのだ。ボールを自在に操ったのはそれの応用。一つの対象をボールに固定し、動かしたい場所をもう一つの対象として設定し引き寄せる。そうすればボールは指定した場所へ飛ぶ。やってる事はそれだけで、私はそれを繰り返しているだけに過ぎないのである。

 

「━━━ただですね、座標を対象にすると脳への負担が大きくなるみたいなんで、あまり質量の大きい物とかは・・・・」

「難しい話ね。でも、何となく分かったわ。私には分からないって事が!」

 

堂々と胸を張って理解を諦めたねじれん。

それはそれは良い顔で笑った。

頑張って説明した身としては徒労感がぱない。

 

「それよりねぇねぇ!もう一つ聞きたい事があるの!聞いてもいい!?」

「え?はぁ、別に良いですけど」

「緑谷さんって誰と付き合ってるの!?」

 

あまりに突然の意味不明な質問に、私の時が止まる。

こんな感覚いつ以来だろうか・・・・ちょっと、本気で、意味がワカランばい。誰とって誰と?

意味分からないねぇって同意が欲しくて隣のお茶子を見ると、真ん丸に見開いた目でガン見してきていた。なんなのその反応!?怖いんだけど!?はっ、梅雨ちゃんも見てる!?なに!?なんなの!?

 

「爆豪くんでしょ、轟くんでしょ、切島くんでしょ、尾白くんでしょ、眼鏡くんでしょ!私が見てただけでも凄く仲良くしてたもの。それで誰なの?」

「いやいや、指折り数えないで下さいよ。なんでその面子なんですか。私にも選ぶ権利があると思うんですけど」

「嫌なの?良いじゃない!爆豪くんも轟くんも格好いいもの!」

 

 

「早速三人脱落させられとる」

「というか、飯田ちゃんは名前すら覚えられてないのね。悲しいわ━━━」

 

 

「ねぇ、どうなの!?やっぱり爆豪くんなの!?」

 

呑気に話す二人の声を遮りねじれんがずいっと近寄ってくる。圧がぱない。

 

「ないです!ないですってば!かっちゃんはない!轟は・・・・まぁ、百万歩譲って考えたら優良物件な気はしないでもないですけど、レイちゃんは兎も角ハゲが親にいるしなぁ・・・・あれもなぁ・・・。でもかっちゃんはもっとないですよ。ドMでもなければあんなの選びませんってば。ちょっとした事で、すーぐ怒鳴ってくるんですよ?」

「でもでも、爆豪くんはきっとニコりんの事好きよ?ラブよ。あれよ、そう、ツンデレ!そうよ、きっとそう!だってニコりん以外にはドライだもの!間違いないわ!」

 

いや、ツンデレまでは分かるけど・・・・。

 

「ええぇぇぇ・・・・ないと思いますよ。友達とは思ってますけど・・・いや、だってですよ?バカとかアホとか平気で言ってきますよ?直ぐ怒鳴るし、暴力振るうし、昔から喧嘩売られるのも買うのもしょっちゅうだったんですから。その度殴りあいですよ、本気のグーの。自慢じゃないですけど、出会ってから今もずっとそんなですからね?そんな事あり得ます?」

「そういう愛情表現なのよ!きっと!」

「じゃぁ、余計にやですよ。いっ、やっ。私バカとかアホとか言われるより、普通に愛とか囁かれたいですもん」

 

「乙女ね、緑谷ちゃん。でも気持ちは分かるわ」

「愛、愛かぁ・・・爆豪くんは、いつになったら言えるんやろか・・・・うぅん・・・・・無理かなぁ」

 

かっちゃんが愛を囁く・・・・うひょぅわ!怖いっ!想像しただけでゾクゾクするぅ!怖い!下手なホラー映画より怖い!

 

 

 

「━━━━━っぐぅ!?」

「あっ、あれ!?爆豪くん!?急にどうしたの!?避けられたでしょ!?今のは!?」

「んっ、んでも、ねぇ、くそが・・・・!」

 

 

 

あっ、なんかやられてる。

来てからずっと戦い通しだし、流石に疲れが出てたかな?そろそろ交代かなぁ。

 

「それじゃ、そろそろ私も戻ろっかな?ねじれんパイセン、一回お願い出来ます?」

「勿論!私も一回ニコりんと戦って見たかったし!パイセンとして胸を貸しちゃうから、ドーンと全力で来て良いからね?」

「うぃーす、ドーンといきまーす」

 

かっちゃん達とバトンタッチして、私もまた訓練場へ。

それから暫く相手を交代しながら戦闘訓練を繰り返し、ガチムチのアドバイス聞いたり、休憩したりしていって八時前には片付けして解散の運びとなった。

流石に特別何が身に付く事はなかったけど、こういう物は日々の積み重ねが大事なので、結果を焦るつもりはない。その時が来るまでに、何か一つ身になれば良いのだ。実際少しは勉強にもなったし、装備の調整についても改善案を思い付いた。その上訓練で怪我もなしときたもんだ。いやぁ有能だね。努力家だね。━━━━だから、その努力と有能さを認めて内申点とかあげておいても良いんだよ?ガチムチ先生?テスト免除とかどうかなぁ?あっ、はい、駄目か。あー、はいはい。ですよねぇー。これ、包帯先生には内緒でお願いします。

 

寮に帰る途中、かっちゃんから「てめぇはドラマの見すぎだ、ボケ」と何故か罵られたので、「っせぇ!素人童貞が!!ヒーローニュースしか見ない輩が、イキッテんじゃねぇよ!」と返してやったら拳が飛んできた。

ほら!これですよ!これ!見ました!?奥さん!いやね、こんなのが未来のヒーローですのよ!怖いわぁ!私怖いわぁ~━━━━っぶな!ごらぁ!ご飯前とはいえ、ぼでぇ狙いは止めろ!出ちゃうでしょ!スポドリが出ちゃうでしょぉ!

 

おらぁ(マジパンチ)!!

 



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原因は分からないけど、申し訳ない顔してごめんねしとけば良いんですよ。言ったもん勝ちです。いつまでもウジウジしてないで謝ってきてくださいよ。どっちが悪いとかいいから、ほら。はよ。良い大人でしょ。の巻き

ヤクザ編のアニメが始まったり、ヒロアカの映画情報が出てきたり、原作死柄木がやべーことになったり。忙しいな、ヒロアカ界隈は。

新設定出ないといいなぁ!


「緑谷!決まった!決まったぜ!」

 

放課後の訓練も慣れてきた週末。

訓練場に向かって見慣れた廊下をかっちゃん達訓練組と歩いていると、包帯先生から呼び出しを喰らっていた切島が廊下マジダッシュで追い掛けてきた。

 

「どしたん?説教大丈夫だった?」

「おう!そりゃ鬼みてぇに怒ってよ・・・・って、呼び出し=説教じゃねぇから!緑谷と一緒にすんな!」

「なんだとこの野郎ぅ!そんないつも私が説教されてるみたいな!!むきぃぃぃぃぃ!こうなったら、トドロキング!!私を馬鹿にしたあのツンツン頭をカチンコチンにしてやるのだ!!」

 

ズビィっと切島を指差し轟へ視線を送ったが、「いや、しねぇぞ」と普通に断られた。

くそぅ、反抗期か!

 

「じゃぁかっちゃん!!」

「やるか、馬鹿。それより切島、何はしゃいでんだ。っんどくせぇからさっさと話して散れや」

 

スルーした、だと!?酷い!

 

ささくれた心をお茶子に慰められている間、かっちゃんに促された切島は自身に起きた事を教えてきた。

 

「インターン!決まったんだよ!俺もさ!さっきインターン先から連絡きてよ!取り敢えず一回来てみろってさ!!今度の休みから俺もインターンだぜ!」

「あっ?何とかカインドとかいうのは駄目だったんじゃねぇのかよ」

「フォースカインドさんな。何とかカインドとか失礼過ぎるだろ。・・・いやさ、天喰先輩にお願いしてたんだよ。インターン先に受け入れの余裕がありそうだって言ってたからさ。天喰先輩あんまり乗り気じゃなかったから期待してなかったんだけどよ、なんかインターン先のヒーローに連絡とってくれてたっぽくてさ。これでやっと、爆豪達に追い付けるぜ!」

 

ニコニコしながら話す切島に、かっちゃんはいつもの「けっ」を口にした。腹立たしいとかつまらないとでも言いたげな反応だけど、その口元は何処か笑ってるように見える。切島のインターンが決まって嬉しいみたい。相変わらず素直じゃないな。

 

「インターン行くくらいではしゃいでんじゃねぇよ。馬鹿島が。精々━━━━」

「良かったな。切島。本当は俺ん所に余裕があったら良かったんだけどな。うちの糞親父がもう受け入れねぇって言うからよ」

「━━━━ごらぁ!!てめぇ、紅白野郎!!俺の言葉遮ってんじゃねぇよ!!インターン時にも言ったけどな、俺はてめぇとなれ━━━━━」

 

「おっー!いたいた!」

「おーい、爆豪ー!おーい!」

 

再びかっちゃんの言葉を遮るように声が掛かった。

ブチりと嫌な音がかっちゃんからする。

錆び付いたロボットみたいにかっちゃんが振り返った先にはインターンの場所を探して忙しくしてたクラスの皆がいた。全員という訳ではないけど、大体揃ってる。いないのだーれだ?誰だろ。眼鏡?

 

かっちゃんの地雷を綺麗に踏み抜いた瀬呂と上鳴は、それは良い笑顔で近づいてくる。かっちゃんの様子に気づいてないらしい。二人の後ろにいるあしどんとかは冷や汗流して恐る恐る近づいてるっていうのに・・・アホだな。

 

教えてやろうかな?と思ってると不意にスマホが震えた。開いてみれば、予想通りのものが画面に映り込んでいる。

 

「爆豪、俺達もさ、今日から訓練参加するぜ!仲間入れてくれよ!頼むぜ!」

「いやいやまいったね。時期が悪いみたいでさ、インターン全然決まらなくってよ。もう待ってても駄目っぽいから、今回は諦めて有意義に過ごそうぜって、なってよ。な、皆?」

 

そう言って二人が後ろの皆に同意を求め視線を向けると、妙に開いた物理的な間隔にやっとこさ気づき眉を顰める。「参加、だな?」という怒りの滲んだかっちゃんの声が投げ掛けられ、漸く状況を理解し二人は顔を青ざめさせた。

 

「・・・・あ、あの、あっ、そうだ瀬呂!俺達やることあったよな!」

「!?あっ、そうだった!忘れてた!!そういえば俺達ってば特別に先生から課題だされてたっけな!そういう訳だから爆豪!俺達━━━━」

 

バチっと、かっちゃんの掌で光が弾ける。

瞬間二人が開いてた口を閉じた。

 

「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと訓練場いけや。顔の原形分からねぇくれぇにボコボコにしてやるからよ」

「「ひぃぃぃっ!!」」

 

泣きべそかきながら暗い表情で訓練場へ二人。

それを追って皆もゾロゾロと続いてく。ただ、怒らせた二人と違って訓練について楽しげに色々話しながらだ。

かっちゃんはそれを歯軋りしながら見送った後、スマホを弄ってる私を見てきた。何か言いたげに。

 

「大丈夫・・・そんなに心配しなくても。ちゃんと分かってるから」

「なら、いい。━━━━けどな、もしその時が来たら俺には教えろ。いいな」

「・・・・・うん、ありがとね」

 

そう笑顔を返すと、かっちゃんはつまらなそうに鼻を鳴らした。いつものように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練を始めて少し。

 

「そう言えば、ガチムチって何で七三とギクシャクしてんですか?」

 

合流したインターン断念組相手に暴れるかっちゃんの姿をぼんやり眺めながら、私はスポドリ片手にふと気になったそれを聞いてみた。七三の事務所にいってからずっと気になってはいたんだけど、エリちゃんの事とか色々あってすっかり忘れてた。・・・正直どうでも良いことでもあるけど、それが原因でいつまでも七三に睨まれるのは気に食わないから解決出来るならしときたいのだ。

 

私にそんな事聞かれるとは思ってなかったのか、隣で腰掛けていたガチムチは飲んでいたお茶を盛大に噴き出した。きちゃないので少し離れておく。

 

「ごっほっ!ごほごほっ!ぶっほぉっ・・・!!━━━━えっ!?えっ、あ、えぇっ!?あ、その、ナイトアイから何か聞いたのかい?」

「聞いてはないですけど、訳ありなのは態度とか見てれば分かりますよ。この間の後継者の件以外で何かあるじゃないですか?面倒臭いんで仲直りしてくださいよ。━━━で、私の給料あげるように交渉して下さい」

 

はっきりそう伝えるとガチムチが困ったように笑った。

そして「まず、給料のお願いはしないからね」と断ってから話し始める。

 

「・・・・・しかし、こんなに簡単に見抜かれるとはね。君より大人のつもりなんだけどなぁ・・・私は自分が情けなくなるよ」

「情けないのは知ってるんで、理由はよ。私にも迷惑掛かってるんですよ?はよ」

「はははは、ごめんね。あんまり面白くない話だから、君に教えるつもりはなかったけど・・・迷惑掛けてるんじゃ仕方ないか。私もいつまでも、このままにするのは良くないと思うし」

 

そうしてガチムチが教えてくれたのはまだ七三がコンビだった頃の話。ガチムチと七三コンビはそこそこ上手くやってたそうだけど、ある大怪我を負った時に今後の活動について意見が分かれて大喧嘩したそうだ。ガチムチは現役続行、七三は意外にも引退を勧めたらしい。

 

「彼はね、個性を使って私の未来を予知した。結果は凄惨たるものらしくてね・・・そうなる前に引退して欲しいと言われたよ。新たな人生を歩んで欲しいと。素直に嬉しかったよ、心配してくれたのは。けれど、私も辞める訳にはいかなかった。平和の象徴として、やるべき事が幾らでもあったからね」

「えぇ・・・辞めれば良かったのに。意外となんとかなると思いますよ?ガチムチいなくても。後釜なら、ほら、ハゲとかもいますし。そもそも飽和とか言われるレベルでヒーロー余ってるじゃないですか」

 

思った事を伝えるとガチムチは微妙な顔をした。

僅かに流れる静寂にかっちゃんの怒鳴り声とインターン断念組の悲鳴が響いてくる。

 

「そ、そうだね。人に頼らなさ過ぎたと、今はそう思ってるよ。反省もしてる。もっと後進達に機会を与え育てるべきだったと。でもね、当時の私にとって━━━━」

「ていうか、仮に私がガチムチの誘いで後継者OKしてたら、私にその役目をパスするつもりだったんですか?そのまんま。引退勧められるレベルの怪我して続行しなきゃならないとか・・・ちょっと鬼畜過ぎません?嫌ですよ。普通に」

「━━━━━ごめんね。なんか、本当にごめんね。正直そこまで深く考えてなかったというか、焦っていたというか・・・うん。本当に、ごめん」

 

しょんぼりするガチムチはその後もボソボソと事情を説明してくれた。喧嘩別れしてからガチムチはヒーロー活動を続け、同時に後継者候補を探したそうだ。それで私に目をつけて、それをウキウキしながら七三に報告したらしい。ガチムチなりに自分の為に引退を勧めてくれた優しい友人へ、精一杯の気をきかせたつもりだったんだろう。

 

けれど、そこで第二次大喧嘩勃発。

割と常識人らしい七三は、『中学生のっ、しかも女の子に平和の象徴を継がせる!?務まる訳がない!!何を考えてるんだ!!』ってぶちギレられたそうだ。以前も聞いたけど大いに同意なので、今度七三と会うときはシュークリームお土産に買ってこうと思う。

 

「それでまぁ、結局またこじれてしまってね。細々と取り合っていた連絡もこなくなってしまった。・・・・風の噂でナイトアイが以前から私の後継者候補にどうかと名前を挙げていた彼を・・・通形少年を、自ら育成し始めたのを聞いてはいたんだけど」

「・・・ガチムチ愛されてますね。同性婚とか私は差別しませんよ」

「あっ、愛?いや、そういうのじゃないから・・・・ないよね?」

 

取り敢えずガチムチと七三の確執は分かった。

七三は喧嘩別れした後も、まだ後継者の件に関して諦めてはいないんだろう。ガチムチを少しでも早く隠居させる為に、黒豆パイセンを育てて次代の平和の象徴にするつもりなのだ。

だからこそ、ガチムチ自身に後継者候補だと言われる私が気に食わないんだろう。気持ちは分かる。私だって可愛がってた野良猫をぽっと出の人間に拐われて、微妙に手の届きそうな所でイチャイチャされたら恨む。ずっとは恨まないよ。猫が幸せそうなら涙を飲んでお別れジャーキーする。幸せそうじゃなかったら?それはね、もうね、うん━━━━っんね!!

 

「━━━━ふぅん。話は分かりました。んじゃ、取り敢えず七三にごめんねしてこの話終わりにしましょうよ」

「いや、そんな簡単には・・・子供の喧嘩じゃないんだから」

「難しく考えるから、難しくなっちゃうんですよ。きっと、子供の喧嘩もガチムチ達の喧嘩も、本質はそんなに変わらないと思いますよ?嫌いで嫌いで、もう顔も見たくない!って訳じゃないなら、さっさと謝るなりなんなりして仲直りした方が建設的だと思いますけどね?ヒーローなんて仕事してるんですから・・・」

 

その言葉の続きを言うつもりはない。態々言わなくてもヒーローとして誰よりも戦ってきたガチムチなら、私に言われるまでもなく知ってる筈だから。

案の定、ガチムチは苦笑いを浮かべて私から訓練場へと視線を逸らした。

 

「・・・あぁ、そうだね。まったくもって耳が痛いよ。今度彼の仕事が落ち着いてから、ゆっくりお茶しながら話すとするさ。しかし君に言われるとはなぁ・・・ふふふ」

「何ですか?私に言われると何ですか??言ってごらんなさい。せぃ」

「自分の胸に手を当てて考えてごらん」

「セクハラですか?」

 

見事過ぎる返しをしたつもりだったけど、予想に反してガチムチは私の言葉を聞いても焦らなかった。それどころかむず痒くなる視線と共に不敵な笑みを返してくる。いつもなら必死になって弁明とかしそうなのに・・・思わず居心地悪くて体を少し引くと、勝ったと言わんばかりに笑ってくる。

 

「ぬぅ・・・何ですか?」

「いや、何でもないよ。ああ、そうだ。授業を受け持っている先生方から、緑谷少女の授業態度も大分良くなったって聞いたよ。まだ船を漕いでる時もあるみたいだけど、一応授業中は教科書とノートを開いてるって。セメントスとマイクがそれは良い顔で褒めてたよ」

「・・・・えっ、は、え?あの、私が言うのも何ですけど、もしかして先生達みんなして私に喧嘩売ってきてます?」

「そう思うなら、普段の行いを改める事だよ。相澤くんが本気で心配してたよ。インターンで何かあったんじゃないかって。相澤くんに相談されたの私初めてだよ。それでどういう風の吹き回しなんだい?」

 

色々と言いたい事はあるけど、それは止めといた。

何となくだけど、今日のガチムチは手強いと思うのだ。全部突っ込んでいったらかなり疲れる気がする。━━━というか、まぁ、この数日ずっとこの感じなんだよな。何というか勘が矢鱈といいと言うか、よく私の動きを見てると言うか・・・・休んだお陰で、体の調子が戻ってきたのかな?これまでアホみたいに働いてたし。こっちとしては指導が的確で助かるけどさ。

 

「━━━━それで?」

「・・・はぁ、言えば良いんでしょ。言えば」

 

ポケットにしまっていたスマホを取り出してガチムチへと見せた。不思議そうな顔をしたガチムチの前でアプリの一つを起動させれば、HOUNDの文字が浮かび上がり直ぐ様地図が表示される。操作を続ければ地図に赤いマークが点灯し、座標位置の数値が表示される。受信ログを追えば、つい先程変わらぬ位置から反応があったのが分かる。

 

「これは・・・・」

 

それを見て七三から話を聞いてたガチムチはハッとした。これが何か分かったんだろう。

そうだこれは、紛れもなくあの子が戦ってる証。

 

 

「私の言葉を信じて、今も戦ってる子がいます」

 

 

寂しくて辛い場所だけのそこで。

たった一人で。

 

 

「耐えてくれてる、待ってくれてる子が」

 

 

いつでも呼んで良いと言ったのに。

あの子は、律儀にまだ待ってくれている。

私が迎えに行くのを。

 

 

「だったら、応えない訳にはいかないじゃないですか。何が役に立つか分からないし、出来る事はやっておきたいんですよ」

 

 

装備を一つでも、技を一つでも、知識を一つでも━━━私はその時が来るまでに身に付けたい。

私に出来ることなんてそれしかないから。

 

あんな接触をしてしまった以上、私が捜査活動する訳にはいかない。恐らく私の素性はもう割れてる。体育祭やペロリストの事件であれだけ顔を晒してしまったのだ。嘴野郎のような頭を使うタイプのヴィランが、自分達にとっての厄介者を把握してない訳がない。あの時点で気づかず餓鬼だなんだと舐め腐っていたとしても、それに必ず気づくだろうし、雄英の後ろ楯を持つ私を警戒する。そして必ず、私の動向を追ってくる。

 

その中で私が大したおとがめもなく自由に動き回っている事が知れたら、嘴野郎に余計な警戒心を与えてしまう事になる。それは七三達の動きを大きく阻害させ、結果救出をより遅れさせる事になる。最悪、あの子の救出の機会を失うことだってあるかも知れない。

 

だからこうして校内にいる事こそが、私に出来る事でやるべき事。監視もそう長くは続かない。動きがないと分かったら人手は必ず別に回される。エリちゃんから聞いた話が本当なら事は既に動き始めていて、人手は幾らあっても足らないのだから。

だから私が動くのはそれから。少なくとも、敵の動きを把握してる七三達から許可が降りてからだ。

 

ただそれでも、もしあの子が私を呼ぶのなら話も変わるけれど。

 

「・・・・緑谷少女」

「?何ですか?」

 

声に視線を上げると同時、頭がワシワシと撫でられた。

細いけれど強さを感じる大きな手は少し乱暴で、せっかく整ってる髪型が少し崩れてしまう。

むっとして顔をあげると、ガチムチの笑顔があった。

 

「ナイトアイに話したい事が増えた。早く仲直り出来るように頑張るよ。ありがとう、緑谷少女」

「何ですか、それ━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはぁぁぁぁぁぁ!!もう無理!もう無理!」

「馬鹿野郎!上鳴ぃ!前見ろ!前!!爆豪から目を離すんじゃねぇ!!一瞬で持ってかれるぞぉ━━━━ぷぁ!?」

「瀬呂ぉぉぉぉぉぉ!!みっ、緑谷すわぁん!!助けてぇぇぇぇぇぇ!!彼氏押さえてぇぇぇぇ!!」

 

なんか悲鳴聞こえる気がするけど、彼女ではないから放っとこうか。うん。



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『The price of pain』の閑話の巻き

ヤクザ編のOPちゅき。元気になれる。
ED?EDはエリちゃんが可愛かった。あと、改めてオーバーホールはコンテンパンにしようと思った。まる。


ヴィラン連合と電話でやり取りしてから三日後。

再び交渉場を設けた俺達は、交渉相手であるヴィラン連合の中心人物『死柄木弔』の到着をある地下室の中で待っていた。部屋にいるのは俺とクロノ、それと今回の件を仕切っているオーバーホール。部屋には無機質な時計の針の音と、俺が勘定している札束が擦れ合う乾いた音が木霊していた。

 

交渉の場にと用意したのは関東近辺に幾つもある隠し拠点の一つ。その中でも抗争が起きた時の避難所として作られたここは、他の拠点とは違いそれなりの備えがある。防音対策は当然とし、敵対組織からの狙撃を防ぐ為に窓は存在しない。外部から見れば幾つか窓が存在してるものの、それはあくまでダミーであり外から見えるブラインドの下には何もない。襲撃対策としてライフル射撃にすら耐える強化ドア、対戦車兵器を基準とした防壁。家具の殆んども防弾性になっている。防壁の強度は数字の上でしか知らないが、防弾効果は間違いなくいつカチコミ入れられてもこの部屋なら問題はないだろう。

そしてそれらはオーバーホールが個性を使い、作り直す過程で強化補強した物だ。金が無かった故の対処でもあるが、元より金があったとしても人を信用しないオーバーホールなら自分が調べ納得するまで作り直す可能性が高いだろうから、結果は大して変わらなかったかも知れないが。

 

他にもガスによる攻撃に備えて空気清浄機も・・・・いや、あれは、空気清浄機はオーバーホールの趣味か。一応は研究室に置いてあった物であったし、それなりに効果はあるだろうが良い所埃取りくらいにしか思ってないだろうな。オーバーホールもそこまであれに期待はしてないんだろう。なんやかんや外さないマスクを見れば、その気持ちはよく分かる。

 

慎重で潔癖━━━━特に潔癖はドがつく程で、以前無断でオーバーホールの私物に素手で触れた馬鹿は蹴り殺されかけた。俺達が止めなかったら、あの馬鹿は今頃魚の餌か木の肥料にでもなっていたかも知れない。普段が温厚に見える分そう言った稀に見せる暴力性が危険視され、組の中でさえオーバーホールを悪く言うものがいる。だが・・・俺はそれが間違いである事を知っている。

 

目の前のこいつは時に苛烈だ。

だが、それにも理由がある。なんの意味もなく突然そうする訳ではない。潔癖なんてもんは性格だから直しようもないし、以前蹴り殺されかけた馬鹿はその性格を知った上でやらかした。オーバーホールの怒りはもっともなのだ。誰でも自分のパーソナルスペースを越えられ勝手をされれば怒るものだ。

 

そして、こいつが苛烈になるもう一つの理由。

それも俺からすれば当然で、この八斎會に身をおいているなら、誰しもがそうであるべきだとも思っている。

 

『入中、廻の勉強の面倒見てやってくれねぇか。確かおめぇ、算数得意だったろ』

 

親父のあの言葉が無ければ、俺は一生気づかなかっただろう。オーバーホール・・・治崎という男がどういうやつなのか。

 

『へぃ、オヤジがそう言うんでしたら。一応俺も大学までは出てやすので小坊の勉強程度でしたら問題ありやせん。━━━ですが、手伝いてぇっつんだったら、幾つか餓鬼でも出来る事もありますぜ?実際の仕事みせりゃ、生意気な口も叩けなくなると思いやすが』

『そうなってくれりゃ良いがな。あいつは妙に大人びた所があっからなぁ。友達が出来たなんざとんと聞かねぇし・・・・はぁ、喧嘩ばっかりしやがって。たくよぉ。まっ、兎に角だ。廻にゃ勉強させろ。それも嫌なら、友達作って遊びでも行ってこいとも言っとけ。餓鬼が組の為にあくせく働いてるなんざ世間様にしれたら、うちの看板にケチがつく。いいな?』

『へぃ、畏まりやした。治崎には俺からしっかり伝えときやす』

 

あの時、オヤジの命令に頭を下げた時。

俺はオーバーホールの事を、面倒事ばかり起こす問題児程度にしか思ってなかった。

オヤジが少しだけ口にした、その喧嘩の理由をオーバーホールの口から聞くまでは━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

『━━━━━本部長、きました』

 

少し昔のことを思い出していると、不意に部下の声が聞こえてきた。ヴィラン連合を迎えに入り口に待機させていた若衆の一人だ。俺は紙幣を数えるのを止め、イヤホンに集中する。

 

「何処で誰かに聞かれるかもしれねぇ。本部長は止めろ馬鹿。ミミックでいい。それで尾行はないな」

『はい、言われた通りに、途中何度か車を乗り換えてます。ダミーの車は予定通り各所に向けて移動中。今現在確認出来ている所、どの車も尾行されてはないとの事です』

「以前の会合は嗅ぎ付けられた。ヴィラン連合は目立つ、最後まで細心の注意を払え。いいな」

『へい。このまま案内します。ここからですと、到着は三十分程度掛かるかと』

 

部下との通信を終え、直ぐ様オーバーホールへ合図を送る。それを確認したオーバーホールは静かに立ち上がり予定していたソファへ腰を下ろした。俺もオーバーホールの護衛の為に側に腰掛ける。

 

「それじゃ、オーバーホール。俺はちょいと迎えに行ってきやす。幹部の誰も行かないってのは、奴さんにも面白くないでしょうから」

「・・・・ああ」

 

オーバーホールの返事を受け、クロノが部屋を出ていく。これからヴィラン連合との交渉が始まる。恐らく今回を逃せば協力体制を築くのは難しくなるだろう。ヒーローか警察かは定かではないが、今うちの組は監視されてる可能性が高い。チャンスはそう何度もないのだ。

だから交渉に向けて緊張するのは理解出来る。

 

だがしかし、どうもオーバーホールの表情が解せなかった。

 

「おい、オーバーホール。そいつはどんな面だ」

「・・・・いや。クロノはああ言ったが、恐らくその程度で臍を曲げるような奴ではないと思っただけだ」

「あぁ?事前の情報じゃ癇癪持ちの餓鬼だって聞いてたが?」

「俺もそう聞いていたが・・・・どうも違うらしい。以前の顔合わせで分かっていた事だが、頭はそこそこに回ると考えていいだろう。少し面倒になる可能性があるな。今回の交渉は」

「条件のことか・・・・ちっ、知恵をつける前に繋ぎたかった所だったな」

「仕方ない。こればかりは時期が悪かった」

 

時期もそうだがオールフォーワンの件も問題だった。ヴィラン連合に接触しようにも、どうやって知り得たのか老人共はあの男の影を察して幾度も俺達の邪魔をしていた。名を口にする事も、僅かにでも関わる事すらならぬと。やつが刑務所に叩きこまれてから老人達の妨害も止みやっと動き出す事が出来たが・・・その頃には警察の締め付けによって少なかったしのぎは更に少なく、例の件への資金を捻出するのでやっとの状態。

ヴィラン連合というビッグネームと接触するのはあまりにリスクが高く、会う為にもそれなりの準備が必要だった。金と人と時間、そのどれもが。それ故に接触すること叶わず、現状が最短だったとすら言える。

 

「それにだ、前情報自体が餌だった可能性もある。今更それを嘆いた所で現状が変わる訳でもなし。上手く転がすしかない」

「はぁ、餓鬼相手に接待か。頭のいてぇ話だ」

 

それからヴィラン連合との交渉について最後の打ち合わせを行う。元より決まっていた事の確認。五分もせずに終え、後はただひたすら待った。

 

到着予定時刻ほぼ丁度、部屋の扉が開いた。

視線を向ければそこにはクロノと死柄木の姿があった。

黒のロングコートを羽織った死柄木は相も変わらず顔面に手のマスクを付けた妙な出で立ちで、挨拶も無しに部屋の中を不躾に見回す姿はとても交渉の場に相応しいとは言えない様子。思わず怒鳴り散らしそうになったが、交渉を仕切るオーバーホールが視線で俺を制してきたので何とか口を告ぐんだ。

 

「殺風景な事務所だな、若頭」

「ゴチャついたレイアウトは好みじゃないんだ」

「あんたの趣味って訳か。あの地下の妙に入り組んだ通路も含めて・・・いい趣味してるな。丁度手頃なアジトが欲しかったんだ。あんたにでも頼もうか」

「勿論、金と時間を頂ければ期待に応えるとも。うちも手広くやっているからね。━━━とはいえ、先ずは電話の件を済ませてからにしないか。死柄木 弔」

「はっ・・・・まぁ、いいか」

 

軽い皮肉でのやり取りを交わしてから、死柄木は俺達の対面にあるソファへと腰を下ろした。尊大な態度でドサッと勢い良くだ。

 

オーバーホールから目配せを受け、この件について予定通り俺から話し始める。

 

「でだ、先日の電話の件、本当なんだろうね?条件次第でウチに与するというのは」

「都合の良い解釈するな」

 

呆れたようにそう言うと、死柄木はテーブルへと足を乗せた。不機嫌を示すようにオーバーホールが目を細める。

 

「そっちは計画とやらの為にヴィラン連合の名が欲しい。俺達は勢力を拡大したい。お互いニーズは合致しているワケだろ」

「足を下ろせ。テーブルが汚れる」

「『下ろしてくれないか?』と言えよ。若頭。本来頭を下げる立場だろ」

 

苛立ちの混じるオーバーホールの声を聞きながら、死柄木は淀みなく言葉を続ける。

 

「まず"傘下"にはならん。俺達は俺達の好きなように動く。五分・・・・所謂提携って形なら協力してやるよ」

「それが条件か・・・」

「そしてもう1つ、お前の言っていた"計画"。その内容を聞かせろ。自然な条件だ。名を貸すメリットがあるのか検討したい」

 

言う言葉は比較的まともだ。

それが不機嫌さを隠しもしないオーバーホールの前でなければ。

 

「尤も━━━━」

 

そう言いながら死柄木がロングコートの内ポケットへ手を差し込む。瞬間、オーバーホールから合図が送られ、俺とクロノはほぼ同時に行動を開始する。個性を使い体を変化。体の一部を大きな腕へと変えた。

そして俺がその巨大な腕で死柄木の胸ぐらを掴み上げ、クロノが後頭部へ銃を押し付ける。

 

「調子にのるなよ。自由が過ぎるでしょう色々」

「さっきから何様だチンピラがあ!!!」

 

俺の怒声とクロノの怒りを孕んだ静かな声に死柄木は怯えの色も見せず、俺達の様子を伺うように冷めた視線を送ってきて━━━━━思わず、俺は掴む力を緩めてしまった。そこに敵意があれば良かった。それは自然な事だ。だが、死柄木の目は嫌に静かで、感情がまるで見えない得体のしれないものだった。気づいた瞬間から背筋が酷く寒い。

 

「そっちが何様だ?これから仲良くやろうってのに、俺達とお前達じゃぁ失った物が釣り合ってないよなぁ。ザコヤクザの使い捨て前提の肉壁と『ヴィラン連合』のオカマ━━━━その命は等価値じゃないぞ。加えて、プラス腕一本分だ。この程度の譲歩も出来ないなら、この話はここで終わりだ」

「・・・・・クロノ、ミミック下がれ。折角前向きに検討してくれたんだ」

 

オーバーホールの声に、どちらともなく武器を納めた。

予定と違い死柄木が態度を変える様子はない。怒りもしなければ恐れもしない。それどころか俺達の様子を見て笑い声をあげてきた。嘲笑うかのように。

 

「何が面白い・・・」

「何がって・・・こんな餓鬼の為にしっかりお遊戯の用意してくれたんだろ?今日日のヤクザ者っては随分と世知辛いらしい。ヴィランの予備団体なんて馬鹿にされる訳だ」

 

吐き出された言葉に部屋の雰囲気が一気に冷え込む。

演技ではない本物の殺意が空気に混じる。

だが、死柄木はそんな空気をものともせずに懐からソレを取り出して話を続けた。小さな針のついたソレを。

 

「お互いくだらない駆け引きはなしだ。治崎 廻。興味が出てきた、計画とやらを聞かせろ。これが関係しているんだろ?撃たれたMr.コンプレスは暫く"個性"が使えなくなった。これから何をするつもりだ」

 

僅かな静寂が流れた後、オーバーホールは呟くように言った。

 

「理を壊す・・・・この"個性"社会の、な」

 

 

 

 

 

 

 

俺は計画について話し始めたオーバーホールの姿に、あの日の幼かった治崎の姿を重ね、思い出していた。こいつに付いていくと決めた、忘れもしないあの日を。

目の前で狂人が如き言葉を吐く、オーバーホールの目的、その先にあるその思いを。

 

何かが大きく動き出す。

聞こえる筈のない、その音を聞きながら。

 



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おまけ:とあるパシャ子の賑やかなハロウィーンな巻き

すまん、ハロウィンのおまけ回や。しかもモブ視点のおまけ回や。
とち狂ってて、すまん。

どうしてもやりたかったんや(*´ω`*)コウカイナシ


「いえす!はっぴぃーはろうぃぃぃぃぃぃん!!」

 

中学生になって初めての年の10月31日。俗にいうハロウィンの日。

友人に誘われて彼女の家へ訪れれば、黒のトンガリ帽子と黒のワンピースを身に纏った友人が無邪気な笑顔と共に元気一杯で出迎えてくれた。少し化粧もしてるのか、美人といって差し支えない顔はより磨きが掛かってる。もはや、芸能人とかモデルといっても通じるレベルだ。本気だして一体何を落とすつもりなのか。

 

取り敢えず出会い頭に一枚写真を撮り、いつものように「よっ」と挨拶しておく。するとそれに応えるように元気良くポーズを取ってきた。耳に手を当てたホーガ●ポーズ。ホーガ●ポーズだよね?前に言ってたし・・・あっ、称賛しろってか。

 

「もう!焦れったいぬぅわぁ!どうよ!ちょー似合うっしょ!ねぇねぇ、どうよ!」

「あーーはいはい、可愛い可愛い。分かったから変なポーズ取らないの、台無しになるわよー」

「ふふ、パシャ子。分かってないなぁ~、台無しなんてなるものかよ。私はいつだってキャワイイ。そう、こんなポーズを取ってもね!!」

 

バッと鶴の構えを取る友人。

まぁ、言われた通り可愛いは可愛いが・・・それ以上にアホに見えた。私はまごうことなきアホを取り敢えず手元のカメラで写真に収めておく。後で馬鹿にしよう。

 

「それはそうと、今日は随分と気合い入れてるね。子供会の手伝いで近所回るだけでしょ?」

「ふふふ、分かってないなあ。お菓子の量って相手のさじ加減でしょ?やっぱりあげる方もさ、全力でトリトリしてる方にお菓子あげたくなるじゃん。そういうこと━━━━で、つまり!パシャ子!なんだその気合いの籠ってない仮装は!シーツ被っただけって、こらぁぁぁぁ!」

 

いや、まぁ、シーツだけど。

でも一応目を描いたり装飾だって付けている。

最低限はやってると思うのだ。お化けだよ、お化け。

 

けれど友人はお気に召さなかったらしく、随分とご立腹の様子。しかしトリトリって・・・いや、トリックオアトリートの略なのは分かるけどさ。

荒ぶる友人の話をぼんやり聞いてやり過ごしてると、直ぐに友人のお母さんが顔を見せた。友人は母親から鋭い眼光を向けられ即座に固まる。それこそ蛇に睨まれた蛙のように。

 

「何玄関先で騒いでんの。近所迷惑でしょうが・・・あら、いらっしゃい。ユーちゃん迎えにきてくれたのね。ごめんなさいね、いつもいつも」

「いえ、どうせ暇でしたので。それにこれとは好きで付き合ってますので、気にしないで下さい」

 

これは本当。小学校からアホさ加減は見慣れてる。

知った上で面白いから結局あれこれ付き合ってるのだ。

でなければ、こんなトラブルメーカーと一緒にはいない。

 

「これ!?いま、これ呼ばわりしなかった!?ねぇ!」

「今、ユーちゃんと私が話してるの・・・見えなかったかしら、双虎?」

「はっ、はぃ!!母様!!」

 

シュバッと、一瞬で友人━━双虎は直立不動の姿勢へ。

流石に、天才で美少女で暴走特急な友人にとって数少ない弱点の一つ。中学に進学してもその効力は未だ衰え知らずらしい。引子おばさん相変わらず凄いな。

 

それから少し友人の家でお茶してから、子供会の手伝いをする為に集合場所へ向かった。友人が背負った大きな籠を目にし、楽しげな鼻歌を聞きながら歩くこと少し、集合場所となっている公園に小学生がゾロゾロと集まってる姿を見つけた。思い思いの仮装に身を包んだその子達は楽しそうにお喋りしたり駆け回ってたりする。

私達が近づくと何人か知り合いの子が気づいて、以前と同じ笑顔で駆け寄ってきた。

 

「ユーちゃん!ふたちゃん!」

 

飛び付くようにくっついてきた下級生に友人がホーガ●ポーズをする。察しの良い子が「可愛い!」とか「綺麗!」と言うと一気に調子が最高潮になった。

ちょろすぎて不安を覚える。いや、勘は矢鱈良いし、大丈夫だとは思うけど。

 

そんな友人を見て素直になれないお年頃な男の子が舌打ちをした。あっ、と思ってると男の子がそのまま口を開く。

 

「化粧とか、ババァじゃん」

 

それは恥ずかしさを誤魔化す小さな呟きだった。

けれど友人の耳にはちゃんと届いたそうで、寒気のする笑顔で少年を見つめたかと思うと、その隙だらけの頬をぎゅぅと横に引っ張る。

 

「あんだと、この野郎・・・?誰がババァだ、誰が」

「あででででで!!んだよ、ババァはババァだろ!!」

「よーし、よく言った。貴様には地獄すら生温い。私が押さえてるから、今の内やっておしまいお前達!!」

 

そんなアホ満載な言葉に友人を慕ってる女の子達がワラワラよってくる。手には何も持ってないけれど、ワキワキと動くその様子を見れば何をするのか理解出来た。

少年もそれを理解したようで、何とか友人から離れようと暴れ始める。・・・・だが、無駄。伊達に男子と殴り合う日常を送ってる訳でない友人の腕力から逃れる事は出来ず━━━━程なく少年の笑い声が公園に響いていった。割としつこく。

 

取り敢えず少年の勇姿と大人げない友人の姿を写真に収め、私はハロウィンイベントの最後の打ち合わせの為、子供会の保護者達の元へ向かった。

 

「やっ、ひゃめろぉぉぉ!!」

「ふははは!泣け!喚け!己の愚かさを恨みながら!」

「くっ、くしょぉぉぉぉぉ!!まじょ、おんにゃ、ひゃめろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

中学生になったというのに、相変わらず馬鹿な友人を横目に見ながら。

 

「━━━━ぷっ、まったく」

 

 

 

 

 

 

 

 

「トリックオアトリート!!」

「「「「トリックオアトリート!」」」」

「どっちかと言うと、お菓子欲しいです!」

「「「「お菓子欲しいです!」」」」

 

元気な声でお菓子を要求して回る友人と子供達の姿を写真に収めながら歩く事暫く。予定の半分を終えた今現在、友人の籠には沢山のお菓子が積まれていた。小さい子達よりずっと多くだ。

元々子供会の呼び掛けに応えてくれた家々だから、お菓子を渡してくれるのは当然なんだけど・・・それにしても友人は貰い過ぎな気がする。私もおこぼれでそこそこ貰えたけど倍くらい差があるのだ。

 

不思議に思ってると一人のお爺さんが「双虎ちゃんに悪戯されるのは怖いからねぇ」とニコニコしながらお菓子を渡してる姿を見て察した。

お供えだったか、あれ。

 

そんな事を露知らず「化粧したかいがあったな!」と満面の笑みを浮かべる友人は幸せそうなので、真実は胸の内にしまっておこうと思う。

 

友人の幸せそうな横顔を写真に収めていると、カメラのレンズ越しに見慣れた顔が映った。爆発したような金髪頭。喧嘩ごしの鋭い目付き。ポケットに手を突っ込み肩を揺らして歩く姿は威圧感たっぷりで━━━━。

 

「かっちゃんがいたぞぉぉぉ!!取り囲めぇぇぇ!!」

「━━━━ああ!?んだ、てめぇら!?」

 

━━━━不良にしか見えない男の子、友人の幼馴染でもある爆豪勝己くんはあっという間に友人と子供達に囲まれた。不憫に思う。予想出来る未来、お菓子もぎ取られる姿を思って。

 

「トリックオアトリート!!お菓子くれないと悪戯するぞ!!机の中に蛇入れたり、お昼前にお弁当を空にしたり、下駄箱に偽ラブレター大量に入れるぞ!!」

「てめぇか!!人様の弁当空にしやがったのは!!クラスのどいつも何も話しやがらねぇから、どうせてめぇだろうとは思ってたが・・・・つか、あの糞手紙もてめぇか!!何処かラブレターだ、ごら!!不幸の手紙だろうが!!」

 

そういえばそんな事してたなぁ。

証拠写真は家にある気がする。

苦笑いしながら生暖かい目で悪戯にせいを出す友人を見守る皆の姿が脳裏に過る。

 

「おかし!おかし!かっちゃん、おかし!」

「かっちゃん!おれヒーローチョコ欲しい!!」

「おれも!!」

 

「っせぇ!かっちゃんかっちゃん喧しいぞ!!糞餓鬼共ぉ!!馬鹿に便乗してくんじゃねぇ!!蹴散らすぞ!!」

 

荒い言葉使いだが周りにいる子供達はさして気にした様子はない。すっかり友人に毒された子供達には通じないらしい。そんな子供達の様子を睨みつけていた爆豪は不意に私を見てくる。何とかしろ、って言われてる気がする。

 

「おい、ごらぁ!!モブ顔てめぇ、すかした顔で見てんじゃねぇ!!何の為に馬鹿と一緒にいんだ!!止めろや!!」

「えぇっ・・・別に私ストッパー枠でもないし、それにそういうのは爆豪の役目でしょ」

「んなぁ訳あってたまるか!!」

 

本人はそう言うが、少なくとも小学校から付き合いがある連中にはそれが共通認識なんだけど・・・いや、余計なことは言わないでおくか。どうせ否定されるだけだし。

 

そうこうしてる内に爆豪は完全に追い詰められていった。少し離れた所から見つめてた保護者は、やっぱり生暖かい目で見守ってる。流石、ご近所さん。耐性半端ない。

 

「だぁぁぁぁぁぁ!!糞が!!っせぇ!離れろや!!菓子渡しゃぁ良いんだな!?面倒くせぇ、くれてやっから寄るな!」

 

あっさりと陥落した爆豪に歓声があがる。

爆豪のお小遣いがどの程度あるのか知らないが、今月分は間違いなく飛ぶだろうなと、ちょっと可哀想に思う。

取り敢えず情けない姿をカメラに収めておく。

 

「・・・おい、パシャパシャすんじゃねぇ」

「学校じゃ撮れないから、つい」

 

思わずまたパシャりとしてしまう。

するときつく睨まれた。

 

「何が面白ぇんだ、お前はよ。昔っから」

「ははは、ごめんごめん。━━━━後で、撮った写真送るからさ。ね?」

「なっ、んなもんいるか!!ボケが!!」

 

苛立ち混じりに爆豪はそう吐き捨てるけど、チラチラとこっちを見る姿に葛藤を感じる。

欲しいんだろうな、うん。意地でも言わないだろうけど。

 

「━━━━━なに話してんの?ほら、お菓子。はよ」

「ったく、黙ってろ馬鹿」

 

友人に側に寄られ、爆豪は少し慌てた様子で近所のスーパーに向けて歩き始める。その後を追い掛ける友人と子供達・・・それと保護者達。仮装もあって百鬼夜行のようである。何も仮装してないのに、しっくりくるな爆豪。何処か忠犬臭いし、狼男とか?ふふ。

 

しかし、誰もこの寄り道に文句言わないな。

いつもこんなん何だろうか。

我が友人の周りは。

 

「・・・ふふ、飽きないなぁ」

 

シャッターを切ったのも友人が初めてだった。

叔父さんと同じように写真の個性を持っていたのに、私にはそれを原像する能力がなかった。瞳というレンズに映した映像を頭の中でしか残せない、そんな欠陥個性。

それでも写真を撮るのは好きだった。人には見せられなくても、頭の中で素敵な景色をいつでも見れたから。優れてなくても、私はそれだけで良かった。

 

『どう、どう!今のかっこ良かったしょ!アングル的にこう、こう!ほら!こうさ!背中語ってない!?へへっ、燃えたろ・・・?ほらぁ!どうどう!?』

 

何処かの誰かさんが、目をキラキラさせて撮れた写真についてアホみたいに聞いてこなかったら・・・きっと今でも変わらなかったと思う。

 

あの時初めて、誰かに見せたいと思った。

私が見えてる景色を。

 

カメラを構えてレンズの向こうを覗く。

喧嘩しながら歩く楽しげな二人を視界に収め、瞳に宿る個性と共にカメラのシャッターを押した。

カシャリ、と。

 

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん、私アイスが良い。ハーゲン●ッツが良い」

「ふざけんじゃねぇ馬鹿」




パシャ子の名前間違えてた(;・ω・)
直しといたで。すまんな。


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なんか悶々とするぅ、胸の所がぁ悶々ってするぅ。なにこの気持ち初めて。もしかして、これって・・・・・・・怒り?えっ、この場合甘酸っぱい系じゃないのって?んな訳ないじゃん。相手いないし。いないし。の巻き

シリアス辛い。苦しいぃ。書きたくないぃ。



放課後特訓という汗臭い日が続くこと暫く。

漸く私が七三に召集されたのは、切島が初インターンの活躍でネットを賑わせた三日後の事だった。

 

平日の召集なので当然授業に出る時間はない。学業成績を考えて断る事も出来るのだが、エリちゃんが待ってる事を思えばそんな選択出来る訳もなく、わたしは断腸の思いでお休みを決意。諸々の書類を渋い顔する包帯先生へ提出。しかめっ面のかっちゃんに見守られながら荷物をまとめ━━━━平日の昼間っから堂々と学校を出た。大手を振って。

 

授業に出なくて良いとか、堂々とサボれるとか。

そういう気持ちは少しもない。

ほんと、少しもない。

マジで。

 

やっほーーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、奇遇だよなぁ。同じ日に召集だもんな」

 

学校を出発してから暫く。

電車で揺られていると近くに座っていた切島がそんな事を呟いた。私の両隣に座るお茶子と梅雨ちゃんも似たような気持ちなのか同意を口にする。私もせやな、言うとくかな。せやな。

 

「本当だな」

「けっ!」

 

そう私達に続いたのは私の前で立ってる、ぼーっと面の紅白饅頭としかめっ面のかっちゃん。おハゲの事務所に行くなら正反対に行かないといけない筈なのに・・・・これ、もう奇遇ではすまないでしょ。

 

七三はそれなりに準備が必要だと言っていた。その内容について詳しくは教えて貰えなかったけれど、状況を考えれば大体の予想は付く。一つは嘴達の犯罪の証拠集め。一つは警察への根回し。一つは抵抗が予想される連中を叩きのめす為の戦力集め、といった所だろう。

それなら、恐らくこれはそういう事。

 

かっちゃんと梅雨ちゃん辺りは勘づいてるかな?

あっ、目があった。ね、梅雨ちゃん。うんうん。

だよねー。

 

しかし、お茶子達は兎も角、アホみたいに忙しいおハゲが来るのは少し意外かな。仕事は幾らでもあるみたいなのに人の仕事に出張るなんて・・・何考えてんだか・・・・あ、いや、どうせ轟の事だろうな。良くも悪くも、あのおハゲは轟中心だから。

 

「それにしても、いつもそうやって並んでおハゲの所に行ってたの?仲良くなったね」

 

何となく気になって聞くと、かっちゃんが眉間のシワを深くする。流石、我らがかっちゃんである。清々しいまでに不機嫌を隠さない。

ただ、まぁ、轟は何とも思ってなさそうだけど。

 

「ふざけろっ!誰が仲良くだ!!こいつが勝手について来やがるだけだ!!金魚の糞みてぇに━━━━」

「あぁ、別々に行く理由もねぇからな。・・・緑谷は通形先輩とは別で行ってるのか?同じ事務所なんだろ」

「━━━てめぇは、勝手に、話を進めてんじゃねぇよ!!」

 

かっちゃんの怒りの鉄拳が轟の顔面へ。

サラッとかわした轟は何事も無かったかのように私に視線を向け直す。自然に。

 

「そっ、私は現地集合ってなってる。黒豆パイセンめちゃ早起きでさ・・・出発時間合わせるのとかキツくて」

「緑谷は朝弱い方だからな」

「そんなにでもないと思うけど・・・・どうだろ?」

 

いつも起こしてくれるかっちゃんに確認を取れば、額に青筋立てながら「寝覚め糞雑魚だろうが」と吐き捨ててきた。むきゃつくわぁ、こいつぅ。

 

皆と駄弁りながらそのまま電車の旅をして━━━で、やっぱり同じ所で降りた。そして駅から出て同じ方向に歩き出し、同じ建物の前で足を止める。

 

「お、緑谷さん!」

「わっ、やっほー!皆ー!」

 

着いたら着いたで、ビッグ3なパイセン達と合流。

もうね、疑いようもないよね。

チラッと黒豆パイセンに視線を向ければ、力強く頷き返してくる。何故かねじれんパイセンも良い顔で頷いてくる。あっちは何も分かってないな。私の二つのおめめがそう言ってる気がする。いや、間違いない。

 

全員纏まってビルに入り、言われた階へと向かった。

簡易の受付を通り部屋に入れば、大きめな室内にヒーローがずらっと並んでいる。お茶子と梅雨ちゃんがお世話になってると言ってたドラゴン姐さん、切島から聞いてた関西の太っちょマン、ペロリストの時に会ったジェット爺ちゃん、七三事務所ーズに・・・・ん?んんん!?

 

面子を確認してたら何か見てはいけないものを見てしまった。幻覚の類いなのは間違いないので首を振って、目頭もよく揉んでおく。疲れが出てるね。これは。

そしてまたパッとそこを見てみれば━━━━こっちをガン見する包帯先生がいた。

 

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!うそうそ!いやぁ、ね?いやいや、そんなね。ね。・・・・いるいる!いるやん!いやいや、授業とか、あっ、い、いやぁぁぁぁああああああああああ!!えっ?うぇおいやぁぁぁぁぁあああ!!やぁぁぁぁぁあああああ!!

 

「なんだ、緑谷。俺がいると、何か不味い事でもあるのか?」

「滅相も御座いません!!拙者っ!何もっ!言っておりませんで御座るます!!ごゆるりとどうぞ!!」

「お前に言われるまでもない・・・問題だけは起こすなよ」

「ははぁぁぁぁぁ!!」

 

スチャっと敬礼を返せば、満足したのか鋭い視線が別方向へと向けられる。心臓に悪い。なんで先生まできとんねん。あかんやろ、あかんでしょ?ねぇ、お茶子ぉ、あかんよねぇ?え、丁度良かった?どういう意味!?

 

悪い意味で心臓が高鳴らせてると、「緑谷双虎!?」という驚愕に満ちた怒鳴り声が響いてきた。声の感じから誰か分かってるけど、一応確認すれば紙コップのコーヒーを手にしたおハゲがいた。口元からコーヒーが零れてる。きちゃない。

 

「き、貴様っ!どうやってここを嗅ぎ付けた!?」

 

犬かなんかか、私は・・・・とツッコミを入れたいけど、包帯先生の目があるし。うぬぬ。

 

「まぁ、ご冗談を。私、サードライアイさんに呼んで頂き、こちらに参った次第で御座いまして・・・何もエン・・・エン・・・え◎%〓※@*ω$ψЮさんの後を追い掛けてきた訳では御座いませんことよ。おほほほ」

「そんな奇妙な発音を求める名ではないわ!!エンデヴァーだ!戯け!その程度も覚えられんのか貴様は!!いや、態とか!態とだな!!貴様!!━━━━━はぁ、しかし、サードライアイ?聞かん名だな。何処の新人だ、こんな馬鹿を雇ったのは。ったく。それと、なんだ、その気持ち悪い話し方は。悪い物でも拾い食いしたのか?ん?」

 

・・・この野郎ぅ、後でぶっ飛ばす。

 

笑顔で決意を固めてるとおハゲの所のサイドキックの人達が顔を見せた。手を振られたので包帯先生に目をつけられない程度に返しておく。やほやほー。えっ?どうして来なかったのって?いやぁ、なんかぁ、何処かの誰かがぁ、邪魔したからみたいなぁ?いや、誰とは言わないんだけど。

 

おハゲがサイドキックにジト目で追い詰められてるのを他所に、緊張した面持ちのバブっちから号令が掛かった。どうやらいよいよ始まるらしい。

バブっちへ皆の視線が集まると、側にいた七三が背筋を伸ばし一歩前へと出る。

 

「本日はお忙しい中、私共の呼び掛けに応えお集まり頂き、誠にありがとう御座います。感謝の言葉もありません」

 

「あなた方に提供して頂いた情報のおかげで調査が大幅に進みました。これより以前よりお話していた指定ヴィラン団体・死穢八斎會の件についての情報共有━━━」

 

「━━━━及び、首謀ヴィラン・オーバーホール逮捕を主とした協力要請、その内容について詳しくご説明させて頂きます。本日は宜しくお願いします」

 

 

 

 

 

 

よく通る声が部屋に響いてから暫く。

バブっちを司会、謎のムカデの人をその補佐につけ協議は始まった。

 

七三達の事務所はある事件を切っ掛けに嘴の怪しい動きを察し調査を開始。調べて直ぐに不審な金の動きや、他組織への接触が見られたらしい。更に詳しく調べていくとヴィラン連合である手下Aと接触したのを確認したとか。

 

その話になると、ジェット爺ちゃんが顔をしかめ声をあげた。

 

「連合の接触っては、こいつが初めてか?」

「あっ、えっと・・・・」

「バブル、それは私が。申し訳ありません、グラントリノ。こちらではそれ以前にヴィラン連合が接触していたのかは・・・」

 

「まっ、だろうな。わりぃな、話遮っちまって。続けてくれや」

 

バブっちがパニくるとすかさず側にいたムカデの人が割って入ってきた。華麗なフォローに先輩味がある。チラッと側に座る黒豆パイセンに視線を向けると、「センチピーダー、うちの事務所のサイドキックだよ」と教えてくれた。成る程、あれがラストメンバーかぁ。七三よりキャラ立ってるなぁ。へぇ。

 

「えーこのような過程があり!『HN』で皆さんに協力を求めた訳で」

「そこは飛ばしていいよ」

「うん!・・・・じゃなかった、はい!」

 

緊張してんなぁーバブっち。

辿々しい説明をぼんやり聞いてると、南米ラッパーなヒーロー(多分)がゴチャゴチャ言い始めた。お茶子達がねじれんパイセンとHNがどうたらと話してたのが気になったらしい。子供邪魔じゃね?的な感じっぽい。━━━━ん?私ですか?えっ、HN?さっき話してたやつですか?いや、知らないですけど・・・・興味?無いですね。ムカデさんも飛ばして良いって言うし、大した事じゃないんでしょ。後で気が向いたらググります。気が向いたら。

 

グイグイ世話をやこうとする黒豆パイセンを押し退けお茶を啜ってれば、切島の所の太っちょマンが元気良く立ち上がった。お腹がボヨンと揺れる。

 

「ピリピリすんなや、ロックロック!そないな所ツッコんどったら、それこそ話が終わらんやろが!それにや、今回の件の大お手柄なスーパー重要参考人こそ、うちで世話しとる雄英の環と切島くんやで!」

 

ばっと手を差し向けられ切島が困惑を顔に浮かべる。

話の流れを見ればこの間の活躍が関係してそうだけど、心当たりとか無いんだろうか。その隣の天ちゃんパイセンは心当たりがあるのか自分の掌を見ながら何とも言えない顔をしてる。

 

「話させてもらう前に━━━━取り敢えず、初対面の方も多い思いますんで!ファットガムです!宜しくね!」

「「丸くてカワイイ・・・」」

「お!アメやろーな!当たりはファットガムオススメ、関西限定販売のたこ焼き味や!」

 

お茶子と梅雨ちゃんの呟きに局地的な飴な雨が降る。

たこ焼き味は兎も角、色とりどりの飴の包みの中には高級感漂う物も見えた。ので。

 

「ひゅーひゅーーー!!かっぁわいいいいい!!」

「おーー!おおきにーー!元気なお嬢ちゃん!!俺もまだまだ捨てたもんやないな!ほれ、アメ・・・・あっ、しもた。切らしてもうた」

「でぇぇぇぶ!!でぇぇぇぇぇぇぇぶ!!」

「ひどない!?その掌返しは!?」

 

スパン、と良い音が響く。

痛みと同時に私の知能指数が減った所で、太っちょマンは真面目な顔に戻り話しを再開した。━━━んで、私の隣の席、黒豆パイセンとは反対側へ包帯先生がついた。背筋が伸びた。

 

「まぁ、話を戻しますわ。知っとる人は知っとるかも知れませんが、俺は一時期個性に作用する薬物、主にブースト辺りの取り締まりをしとりました。せやから、それ関係の薬物はそれなりに色々と知っとるつもりです。せやけど先日の烈怒頼雄斗デビュー戦、今まで見たことない種類のモンがうちの環に撃ち込まれた。それが"個性"を壊す"クスリ"」

 

部屋が一気にざわついた。

個性ありきのヒーローにとって死活問題だ。

当然の反応だろう。

 

隣にいた黒豆パイセンもじっとはしていられず、直ぐ天ちゃんパイセンの安否を確認する。

結果は無事との事で、証拠として個性で変化させた牛の蹄を見せられ安堵の溜息を吐く。

 

「見てもろたら分かるとは思いますが、こいつは時間を掛ければ自然治癒します。あくまで効果は一過性のもの。せやけど、問題はその原理や。こいつは個性の大本"個性因子"そのものを傷つけるんですわ。今回はこうして回復しとりますが、クスリの濃度やら何やらが調整出来るモンなら・・・個性を完全に消すことも可能かもしれんのです」

 

太っちょマンはそう言うと包帯先生を見た。

視線を受けた包帯先生は首を横に振る。

 

「俺の抹消とはちょっと違いますね。俺の個性はあくまで個性因子に働きかけ、一時的に停止させているだけだ。抑制してるだけで、攻撃してる訳じゃない。個性の発動を止めれば、対象は個性として力を発揮する」

「まっ、つまり似て非なるもの、ちゅうわけですわ。危険性に関してもご理解頂けかと思います」

 

「━━━ふん。個性を壊すか。それで、当然解析はしたのだろうな」

 

太っちょマンの言葉に続いて偉そうなおハゲの声が響く。妙な緊張感にバブっちが変な声をあげたけど、太っちょマンは大して気にした様子もなく手を大きく広げる。

 

「当然、色々ツテつこぉて調べました。せやけど、撃たれた環の体は個性因子が傷ついとる以外異常なし。使われた特殊弾はバラバラ、クスリの一滴も残ってりゃしまへん。それを発射した銃も特別な仕掛けもない。ホンマお手上げでしたわ━━━切島くんが、特殊弾を確保してくれへんかったら」

「へぇ・・・・俺が・・・・俺が!?」

「おう、せやで。だからお手柄ゆーとるやろ。まだ自覚しとらんかったんか、君。何んもヴィラン倒すことばっかりがお手柄やないんやで。ぼーっとしとらんと、シャキッとせぇや」

「うっ、うっす!」

 

切島が姿勢を正すのを確認すると、太っちょマンは満足そうに頷いてくる続ける。

 

「そんで調べた結果、ムッチャ気色悪いモンが出てきた・・・・人の血ぃや細胞や」

 

吐き出された言葉に空気が凍る。

察しの悪い切島は相変わらずポカンとしてるけど、他の面々も大体の事情が分かったらしい。お茶子と梅雨ちゃんなんか顔色が極端に悪い。かっちゃんも轟も苦々しい顔をしてる。

 

私は事前にエリちゃん本人から聞いていたから、正直そこまで衝撃はない。

衝撃は、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

あの糞嘴まつげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

今度会ったらすかした横っ面にシャイニングウィザードぶちかまして、エルボーで顔面粉砕して、毛穴という毛穴からかっちゃんの爆液流し込んで、毛根という毛根死滅させてやっからなぁぁぁぁぁ!!きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

ふぅ!すっきりしたぁ!!

 

あっ、どうぞ。

協議始めてどうぞ!!

うるさくしてすいませんでした!!どうぞ!!



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珍しく難しい話を聞いても寝ずに頑張ってるのに、そこの縮れたラーメン頭に被ったラッパーがイチャモンつけてくるんだけど、どうしたら正解だと思う?埋める?極める?やっぱり埋める?いや、削ごうか。の巻き

七三事務所の面々を中心とした協議は進み、今回の件に関わる情報共有は一先ず終了した。

集められた情報で分かった事は切島が手に入れたクスリの出所が、死穢八斎會と繋がりのある組織であった事。

更に死穢八斎會と繋がりのある別組織が関わった事件の中に、今回同様の効果をもたらす特殊弾の使用が確認された事━━━━━後はクスリの中に入ってた謎のDNAと、エリちゃんのDNAが一致した事とか。

 

えっ?何時の間にエリちゃんのDNAなんて用意したのって?黒豆パイセンの連絡待ってる間に済ませたよね。髪の毛とか爪とか諸々貰っておいた。何が役に立つか分からなかったけど、取り敢えず身元だけはハッキリさせておこうかなって━━━ていうかね、包帯グルグル巻きで病人服みたいなの着てて、明らかに不穏な空気が流してる子供だよ?頭撫でようとすると不自然なまでにびくつくし、親の話をしようとしたら震えるんだよ?そのままにする訳ないよね。勘を働かせるまでもなく、やれる事は全部やりましたとも(ニッコリ)。

 

本格的に七三の事務所にお世話になる事を決めてから、私は持ち得るそれを全部七三に渡しておいた。エリちゃんとの無線内容を記録したメモリースティックも含めて、全部。何とも言えない顔でこちらを見る七三事務所の面々が忘れられないござる。

・・・・まぁ、せっかく色々集めても、肝心の身元が分からなかったのは計算外だったけど。公的機関で個性の検査でも受けてれば、色々分かっただろうに。まさか出生届もないとか。

 

━━━とはいえ、私の提出した証拠品は結果的に調査を大きく進めたらしく、公的機関各所との連携も早くついて嘴の逮捕状やら何やらの準備も殆ど終わってるとの事だった。後は屋敷に逮捕状片手に突撃するだけなんだって。

ここに集まった面子も捜査協力ではなく、あくまで逮捕協力の呼び掛けで集まったヒーローなんだそうだ。

 

「突入の日時に関しては警察との最終調整を済ませてから決定的となりますが━━━━恐らくは二三日の間に行われるものとなります。その為の準備をお願いしたい。尚、今回の件の目標はオーバーホール『治崎廻』、及び違法薬物製造・売買関係者の逮捕ですが・・・・特殊弾の原料とされている可能性が高い『エリ』と呼ばれる少女の保護を優先事項として頭に入れて頂きたい」

 

そう七三が話し終えると鼻息荒く太っちょマンが立ち上がる。肩を回しながらフンフンする姿は、見るからにやる気満々といった感じだ。

 

「言われるまでもないわ!苦しんで泣いてる子助けんと何がヒーローや!!よっしゃ、ナイトアイ!!準備がてら飯食ってくるわ!!行くで、環、切島くん!」

「待てよ、ファットガム」

「おっ、なんや!ロックロック!お前もきたいんか!?ええで!!駅前んとこに知り合いの知り合いからオススメやっちゅーて聞いとるお好み焼き屋があんねん!一緒に行こやないか!!」

「ちげぇよ、本当に待て。肩を組むな、暑苦しい」

 

一瞬で組まれた腕を外し、今にもラップを歌い出しそうなファンキーラッパーがこちらを見てきた。ちょっと前にこのラッパー『私らがエリちゃん保護してれば終わりだったじゃん?なにしてん?』とかディスってきたので、碌でもない事を言う前に睨んでおいた。生え際を重点的に睨んでおいた。はげろっ、と念を込めながら。

効果の程は不明だけど、ラッパーは身体を震わせてから不思議そうな顔で辺りを見渡した後話始める。

 

「まぁ、薬物ばら撒いてる野郎の逮捕協力はするぜ。子供の保護に関しても賛成だ。けどよ、聞いてる感じだとその子ってのは若頭にとっちゃ隠しておきたかった"核"なんだろ?それが何らかのトラブルで外に出ちまってだ。あまつさえガキんちょヒーローに見られちまった。その上、そこのガキは余計に刺激までしちまってる」

 

ジロっと見られたのでそっと中指を立て━━━ようとした所、包帯先生の掌が私の手に覆い被さる。ちょっとドキっとしてると鈍い音と共に拳に激痛が走った。万力で締め付けられてるかのような鬼の如きその握力に、乙女の涙がちょちょぎれる。

 

「素直に本拠地に置いとくか?俺なら置かない。攻めいるにしてもその子が『いませんでした』じゃ話にならねぇぞ。何処にいるのか特定出来てんのか?まさか、そこのガキの発信器とやらを盲信して突っ込む訳じゃねぇよな」

「ロックロック、そないな意地の悪い言い方せんでもええやろ。資料見るなり、発信器はちゃんとしたもんや。これやったら誰が仕掛けてもちゃーんと使えるで。それに発信器は向こうさんも気づいとらんみたいやし、罠っちゅうこともないと思うで」

「遊びじゃねぇんだぞ。ファットガム。今回の件は取り逃せば被害は大きく拡大する。確実性が必要なんだよ。信用出来ねぇ情報で俺は動く気はねぇぞ」

 

ラッパーの言葉にドラゴン姐さんも頷いた。

 

「確かに。どうなのナイトアイ」

 

他の何人かもそれが気になってるのか七三に視線を向ける。七三は一瞬私を見てから、ヒーロー達へと視線を戻して口を開いた。

 

「既に八斎會と繋がりのある組織、及び八斎會の所有する物件について警察関係者に協力を扇ぎ監視を行っています。報告に間違いが無ければ、我が事務所の緑谷双虎が彼女の居場所を特定してから、八斎會が少女を移送させた可能性は限りなく低いと思われます。時間をこれ以上掛けすぎた場合どうなるか分かりませんが、現況では今も八斎會の屋敷にいる可能性が非常に高いと踏んでいます」

「おいおい"思われます"だ?そんな不確定なもんを信用しろ━━━」

「確かに懸念される事の可能性はゼロとは言えません。事実、一度八斎會には不審な動きはありました。確認した限りでは警察から少女の姿は無かったとの事でしたが、それでも方法がないとは言えない。手段を選ばなければ子供一人移動させるのは難しくはない━━━━ですが、私が調べてきた治崎という男ならば、重要人物ほど手元におく可能性が高い。そしてその治崎はまだ屋敷の中に身を置いている。私はそれこそが彼女の居場所を示す証拠だと思っています」

 

迷いのない七三の言葉にラッパーが口ごもる。

 

「これは私情や希望的観測ではなく一人のプロとして、これまでの情報を客観的視点から精査したプロファイリングです。信じて頂きたい」

 

そう言い切るとこれまで黙って聞いてたおハゲが鼻息を漏らし椅子にふんぞり返った。

 

「一人のプロとして、簡単に吐いて良い言葉ではないな。貴様の仕事ぶりに関しては話を聞いている。地味ながらそれなりに仕事は出来るそうだな・・・・その言葉に責任は持てるのだろうな。サーナイトアイ」

「今回の件においての責任は全て私が持ちます。協力を願えますか、エンデヴァー」

 

七三の言葉を聞いたおハゲは獰猛な笑みを浮かべた。

それはヒーローというより完全に悪党の顔。一言で言うならかっちゃんだった。ヒーローかどうかは別として、凄みだけならガチムチにも負けない迫力がある気がする。

 

「ふん、誰に物を言っている。是非もないわ。ヴィランは捕まえる。市民は救う。それがヒーローたる者の義務だろう」

 

そう吐き捨てる姿は中々様になっていた。

焚き付けられたヒーロー達もチラホラ見える。

パラッパラッパーもその一人で椅子の背もたれに寄り掛かって格好つけた笑みを浮かべてた。仕方ねぇか、とか言いそう。

 

「あんたにそう言われちゃ、仕方ねぇか・・・」

 

あっ、本当に言った。マジか。

映画の中でそこそこ活躍してからやられる主人公の仲間みたいな事言った。フラグじゃない、これ?

 

まぁ私としては、おハゲが轟の前で良い格好つけたかったのが透けて見えてアレだったんだけどね。轟は轟で、得体の知れないものを見る目でおハゲの事見てるしさ・・・・なんだろ。上手くいかないもんだなぁ。

まぁ、それもこれも、こんな親子関係を築いてきたおハゲが全面的に悪いとは思うんだけどもさ。あれから轟の雰囲気は随分変わったけど、この二人の間にある溝はまだまだ深いらしい。

 

「んーーーざまぁ」

「聞こえているぞ、緑谷双虎ぉ!!何がざまぁだ!!何が!!もう一度言ってみろぉ!!」

 

その言い方は原因知ってるやつじゃん。

心当たりあるなら聞かないで欲しい。

大人げって知ってるぅ?

 

ベロをチラ見せしておハゲを茶化してると、無言の内に放たれたアイアンクローが私を襲った。音もなく訪れた闇と痛みに、アイドルらしからぬ汚い悲鳴が漏れてしま━━━━━━つほぉぉぉぉ!?いたいっ!冗談じゃなく痛い!目がチカチカするぅぅぅぅぅぅ!!いたたたたたたたたたた!!かっちゃんタスケテ!!この先生暴力振るってくるぅ!!割と強めの!!へるぷぅぅぅぅ!

 

痛みからサンズリバーが瞼の裏側に映り始めた頃、包帯先生はなに食わぬ顔で七三に質問を始めた。七三の個性で予知して、引き出した未来の情報を元に対策しちゃおうぜ、らしい。

良い案のような気がしたけど、七三は何故か首を縦に振らなかった。

 

「・・・・出来ない」とか、なんとか。

 

それから七三の口から事情の説明があった。

長々と話されたそれをコンパクトにギュッとすると、人の死ぬ予知がトラウマだから本当にやばたんの時とか、本当に必要だと思った時とか、未来に絶対の自信がある時でないとやだぽんって事らしい。やだぽんなら仕方ない。私もやだぽんってなったら、意地でもやらないぽん。

 

そういう対応に思う所がない訳ではない。

だけどウダウダ期の轟と違って、七三はその辺りの覚悟はばっちりそうだし、なんやかんや個性の使い時まで間違える人にも思えなかったから放っておこうと思う。

何より、迂闊なツッコミ入れて私を掴まえて離さないアイアンクローがより強力になったら怖いしね。いい加減離して欲しいなぁ。包帯先生、もしかして協議終わるまでこれですか?あ、いえ、不都合はないです。全然、はい。もーまんたいです。ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

大まかな話が一通り終わると大人組は細かい調整なりなんなりするとの事で協議を続行。学生組は解放され、今後の作戦に関わるのかどうか、よく考えるようにと言われた。私は速攻で参加表明したけど、ドラゴン姐さんから何とも言えない顔で「よく考えてみて」と念を押して言われた。何故に。

あっ、あとアイアンクローからも解放された。

 

大人組の協議を終わるの待つ為、施設内のエントランスにあるテーブルで大人しく待機してるとお茶子達にエリちゃんの事を聞かれた。こうなった以上教えない理由もないのでインターンで出会った経緯、嘴まつげとの接触した事、ヤクザ屋さんの屋敷に単独潜入してエリちゃんとコンタクトとった事、その後七三と軽く喧嘩した事とかとかをさらっと話しておいた。

 

━━━そしたらお茶子、梅雨ちゃん、切島にマジで怒られた。その怒りようといったらなんのって。さながら飛び掛かろうとするライオンが如しで、テーブル越しなのに思わず身体を引くレベル。

 

「そりゃ、緑谷!お前が悪いわ!!ちゃんとサーナイトアイに謝ったか!?謝ってねぇだろ!合宿の時から思ってたけど、お前ちっとは爆豪のこととか考えろよ!」

「なんでニコちゃんは後先考えんの!!無鉄砲にも程があるやろ!!アホや、アホやと思ってたけど、大事な所ではちゃんとしとると思ってたのに・・・・ただのアホやないか!!アホぅ!」

「ケロっ、相手にその気が無かったから良かったけれど、一歩間違えれば街中で戦闘になっていた可能性もあったわ。一般の方への被害もそうだけど、緑谷ちゃんはもっと自分を大切にする事を覚えた方が良いと思うの。お友達としての提案よ」

 

世間話程度の気分で話したと言うのに、みんなの反応は思った以上であまりの剣幕にタピれない。折角時間潰しにささっと買ってきたのに、なんかストロー咥えるとお茶子にペシィってされる。やめて、叩かないで。あたい、タピりたいの。叩かないで。

 

パイセンズに助けを求めて視線を送るけど、優しげな視線を送るだけで何もしてこない。それでも見つめていたら黒豆パイセンからは良い笑顔を、ねじれんパイセンからはウインクを、天ちゃんパイセンからは小さい声で「ごめん」との謝罪を貰った。

はい、ポンコツスリーぃ。

 

それならばとかっちゃん達にも視線を送ったけど、こっちもこっちで呆れたような顔で見てくる。

でも目を潤ませて見つめ返せば重い溜息をつきながらだけど「ピーチクパーチク喧しいわ。ボケ共。こいつが馬鹿でアホなのは今に始まった事じゃねぇだろうが・・・あとクソ髪、てめぇは覚悟しとけ」、と相変わらずの口の悪さで間に割って入ってくれる。若干フォローなのかどうなのか怪しい感じだったけど、結果的にお茶子達が詰め寄るのを止めてくれたので良しとしといた。何故か命のカウントダウンが始まって震える切島はスルーしとく。

 

しかしいやはや、流石ツンデレマスター。やる時はやってくれるぜ。かっちゃんのそういう所、私は好きだぞ。さんきゅーかっつ!・・・それにしても、かっちゃんってば本当ちょろいよなぁ。こんなんで騙されるとか、ワキがショートケーキより甘いぜぇ。女の涙なんて大体嘘なのに。

ふぅ、仕方ない。いつか悪い女に引っ掛かりそうになったら教えてやるとしますか。幼馴染のよしみで。感謝しろ、かっちゃん。かっちゃんの未来は明るいぞ。私のお蔭で。

 

優しさを込めて笑顔を送ったら怪訝そうな顔で「今度は何企んでんだ、話せ馬鹿」との返しを頂いた。

なので、テーブルの下で脛蹴っ飛ばしてやる。

 

「━━━━っ、てめぇ、いきなり何しやがる・・・!」

「黙らっしゃい!思いやりに満ちた私の顔を見て、クソ失礼なこと言うからでしょーが!寧ろ!私のすんばらしぃ笑顔にケチつけて、この程度で済ませたことを感謝せよぉーーーー!」

「おまっ・・・・元はと言やぁ、てめぇが軽率な真似したからだろうが馬鹿が!いつになったら、てめぇの皺のねぇ脳みそは反省出来るようになんだ?ああん!?何かあったら連絡しろっつったよなぁ!!肝心な時に連絡しねぇのはどういうつもりだ!?覚えてねぇのか、このニワトリ頭が!!」

「なぬぅ!?皺の・・・ない、脳、みそ?・・・ニワトリ頭ぁぁぁぁぁ!?言わせておけば、爆発頭の素人童貞野郎!!」

「誰が素人童貞だ、ボケが!!」

 

それから暫くの間、かっちゃんと拳による心の対話を試みてると、協議を終えた包帯先生がやってきて包帯ぐるんぐるん巻きにされた上に吊るされるの刑に処された。大人しくしないと参加させてくれないというので、取り敢えず全力でかっちゃんに罪を擦り付け謝っておいた。

 

反省はしてます。後悔はしてないけど・・・あ、後悔もしてます。はい。でもまぁ、あれがこれでそれがそうだから、全部かっちゃんが悪いんですけどね!えぇ、でも一応というか・・・・・あっ、はい。いえ、何でもありません。反省してます。本気の殴り合いの喧嘩ダメ、絶対。

 





ふたにゃんVSかっちゃんのBGM達

ととろき「素人、童貞・・・・?そういや、前にも聞いたな。素人、童貞・・・ん?童貞の素人?どういう意味だ」
もちゃこ「轟くん、そこは注目する所ちゃうと思うなぁ」

けろちゃん「・・・切島ちゃん、素人童貞ってなんなの?緑谷ちゃんがたまに言うけれど」
切島「えっ!?あっ、いや、その、なんて、いうか、一応、お、男になった、ていうか・・・・?天喰先輩!!」



天ちゃん「えっ、お、俺・・・?!いや、俺は・・・ミリオ」
ボブ「よし、任せろ環!素人童貞っていうのは━━━」
ねじれん「ねぇねぇ、何だか緑谷さんの見てたら私もタピりたくなってきちゃった!買いにいきましょ!」


おわりぃぃぃぃぃ!!!


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覚悟完了したので突撃しますけど、おまんら覚悟出来とるとや?そう、なら、今しなさい!十秒以内に!10987654321、ゼロぉ!!はいアウト!!の巻き

とうやくんの話、めちゃ重そうやん。おまっ、こんな重そうなもん後において置かないで。下手したらおかんのより酷くなりそうやん。ほんと、エンデヴァーはエンデヴァーだな。もう。そういうとこだぞ☆!


アイアンクローの悪夢から翌日の夜。

かっちゃんの部屋にてB組のれいちんから借りたホラーゲームで敵を無心のまま殴り倒していると、不意にスマホから必殺する人が出てきそうな曲が鳴り響いた。

 

私はコントローラを放り出し、素早くローリングして充電器に差さりっぱなしになってるそれをキャッチ。かっちゃんが文句言う前に、これまた素早く画面を操作し、目的のそれを表示させる。

 

「・・・おい、馬鹿双虎。せめぇ部屋ん中でバタバタすんな。それで?」

「体力全回復のお知らせだった・・・かっちゃん回っといて」

 

さっと差し出せばかっちゃんは渋い顔しながらも、なんやかんやアプリを起動してイベクエを回し始めてくれた。

 

「パスするくれぇならやんじゃねぇよ。ったく。そもそもなんで同じ曲にしとくんだよ。ややこしいだろうが」

「いや、これもこれで大事だし・・・」

「色々言いてぇが・・・・だとしても、今だけは変えとけや」

 

あれからまだ一日。早期に動くといっても、流石に昨日の今日で何か動くとも思ってない。当日は現場近くに通行規制も敷きそれなりの規模のガサ入れになるらしいから、関係各所と打ち合わせしなきゃいけない事は幾らでもある筈だ。あのヒーロー達との打ち合わせも、それの一つだったに違いない。

 

だからこうしてバタバタしても仕方ないのは分かるんだけど・・・・どうにも落ち着かないんだよなぁ。

 

「ああぁぁぁぁぁぁーーーー」

 

ゲームに戻る気力がでなくて、私は側にあったクッションに顔を埋めてうめき声をあげてみた。

特に意味はないけど。

 

「あああぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ」

「・・・・」

「あっ、ああああっ、ぁぁぁあああっあぅあ」

「・・・・・・」

「ああああああああああああっ━━━━たぁ!?」

 

突然のお尻への痛みに振り返れば、かっちゃんの踵がめり込んでいた。乙女のお尻になんたる無礼者。しかもそれが超絶天才美少女である私の神々しいお尻様である事を考えれば、もう無礼者では済まされないギルティ。許すまじ。

 

「貴様ぁ・・・私のプリチーなお尻に踵落としとは。覚悟は出来てるんでしょーねぇ?シチュー掻き回しの上、打ち水、ポ●モン刑ものだかんな。この無礼者めが」

「てめぇは俺に何をさせてぇんだ」

 

呆れたように言うと、尚もゲジゲジお尻を蹴ってきた。

腹立ったので脛目掛けて蹴りを入れてやる。

しかし、不発・・・・!当たる寸前で足を浮かされ、難なくかわされた━━━ので、そのまま下半身を持上げ、腰を捻って回転。勢いそのままにカポエィラキックをかっちゃんの太腿に叩き込んでおく。あしどん師匠から教わったブレイクダンスがこんな所で火を吹くとは・・・・よし!

 

流石にそこまでやるとは思ってなかったのか、クリーンヒットしたかっちゃんがうめき声をあげた。

ざまぁである。

 

「無駄な技能っ、身につけやがって・・・・!」

「無駄ではない!こうして役に立ってる!ありがとう、あしどん!」

「あのっ、黒目女・・・!余計なもん、馬鹿に覚えさせやがって」

 

そうこうしてるとかっちゃんの部屋のドアがノックされた。誰か呼んだのかとかっちゃんに目で聞いてみると、心当たりがないのか首を捻っていた。そのまま二人で様子を伺ってると、もう一度ノック音。

 

「爆豪、いるか?」

「おっす!爆豪!ちっと話しようぜ!」

 

ドアの向こうから響いてきたのは落ち着いた声と賑やかな声。直ぐに二人の顔が頭に浮かぶ。無表情なのと、暑苦しいのだ。

 

「良いぜ、開いてるから入ってきな。話しよーぜ。くそ髪、紅白饅頭」

「誰の真似だ、こら」

「胸に手を当てて考えてみるんだぜ、こら」

 

かっちゃんの物真似して声を掛けると、ドアの向こうから切島の狼狽える声が聞こえてきた。

なんかブツブツ言ってる。

 

「━━━ん、いるな。爆豪。やっぱり緑谷も一緒だったのか」

「えぇっ!?轟!?おまっ、駄目だろ!この空気は入っちゃ駄目なやつ!駄目なやつだから!そうだろ、爆豪!!」

 

「ぶっ飛ばすぞ、クソ髪」

 

かっちゃんの悪態に切島が「素直じゃねぇーなぁー本当によぉ!」と嘆いてる間に、轟が当たり前のように入ってきてテーブルの所にコンビニ袋を置いて腰掛けた。なんか良い匂いがする。中華まん?

 

じっと袋を見つめれば、轟がその袋から取り出した肉まんを私の方へ差し出してくる。その眼差しは兄貴みに満ちた優しげなものだった。滲み出るあんちゃん感に胸がほわほわする。あんちゅわん。

 

「わりぃ、緑谷。お前いるって知らなかったから買ってなくてな。俺の肉まんで勘弁してくれ」

「・・・ゆるす。あんちゃん、次はピザまん買ってきて」

「あんちゃん・・・ピザまんか、分かった」

 

妙にキラキラした目で頷く轟は放っておき、貰ったホカホカの肉まんにパクつきながら改めてやってきた二人の話を聞くと、どうやら私と同じように落ち着かなかったそうだ。それでその気持ちを分かってくれる話し相手が欲しくて、ウロウロしてたら廊下でばったり遭遇。そのまま何やかんや話聞いてくれるかっちゃんの部屋にきたらしい。正直、私以外からも話し相手認定されてるとは思わなかったので驚きを隠せない。

 

「・・・・でもなぁ、いや、よく考えれば分かる事だったんだよな。いるよな、緑谷。わりぃ、邪魔して」

「気にするな切島。いちいち気にしてたら話す機会はないぞ。最近は一緒にいない時を探す方が難しいからな」

「えっ、そうなの?マジで?もう、そんな感じなの?」

 

「おい、馬鹿共。その話今すぐやめねぇと口縫い合わせんぞ」

 

二人の糞失礼な話を遮るように、二つのコップがテーブルへ乱暴に置かれた。慣れっこなのか特に気にせず、二人はコップへ各々が買ってきた飲み物を注ぐ。本当に慣れた手つきだ。私がいない間もこうやって流されたり、部屋を占領されてたのかも知れない・・・ああ、なんて可哀想なかっちゃん。少し来る頻度下げてあげようかな。最近ゲームしに来っぱなしだし。

 

かっちゃんを憐れんでいると切島がしんみり話し始めた。

 

「━━━まぁ、それでよ、いよいよ明日か明後日だろ?突入。実際どうなるかわかんねぇけど、あんなやべーことしてる連中の本拠地なら戦いになる可能性はたけぇ・・・・ぶるってる訳じゃねぇけど、少しな」

 

そう言って鼻の頭を擦る切島にはいつにもまして不安が見てとれた。かっちゃんもそれに気づいたみたい。何か言いたい事はあるみたいだけど、まだ口を開く気はないらしい。

 

「実際よ、俺はお前らと違ってすげぇ技とかある訳じゃねぇし、緑谷みてぇに個性をすげぇ使い方出来る訳でもねぇ。だからっていって梅雨ちゃんみてぇに頭が回る訳でもねぇ。この間はさ、ファットガムには褒められたけど・・・あれは相性が良かっただけなんだよ。しかもファットガムがいなかったら、きっとヴィランは取り逃がしてた。だから、そんな俺なんかいて役に立つのかなってさ」

「切島・・・・」

「あっ、ちげぇぞ。轟。止めたいって訳じゃねぇんだ。それは違う。俺だってあんな話聞いて知らねぇフリも、何もしねぇなんてのも選べねぇし選ぶつもりもねぇ。エリちゃんの事は助けてやりてぇし、やべー薬作ってるヴィランは許せねぇんだ。だから、そういうんじゃねぇんだ・・・・ねぇんだけどさ━━━━」

 

顔が下がった切島の様子に、かっちゃんが鼻をつまらなさげに鳴らした。弾かれるように顔をあげた切島とかっちゃんの目がしっかり合う。

 

「っだらねぇ事言ってる暇あったら、一秒でも多く個性鍛えてろや。猪馬鹿が。そのすげぇ技とやら何度も止めておいて今更何ほざいてんだ」

「そ、そりゃ、訓練だったしよ・・・・」

「訓練もクソもあるか、止めた事に変わりはねぇだろ。んで、てめぇが小細工出来ねぇクソ雑魚なのは、今に始まった事じゃねぇだろうが。うだうだすんじゃねぇ、うざってぇ。硬くなって突っ込むのがてめぇの役目だ。敵の前だろうが、仲間の前だろうがな」

 

そう言われて切島はっとした顔になる。

 

「何度も言わすなや。倒れねぇってのは、それだけでクソ強ぇんだよ。USJでのオールマイトの戦う姿、もう忘れたンか。てめぇは」

「忘れてねぇ、忘れられっかよ」

「だったら、それをやれや。てめぇは俺の本気をぶちこんで、それでも倒れねぇクソ壁だろうが」

 

言いたい事は言ったとばかりに話を打ち切る。

そのまま切島がせっせと用意してたお茶を飲み干し、私のスマホでイベクエ回しを再開した。軽快な指捌きに思う。体力が無くなるまで、あと十分。多分。

 

「・・・・クソ壁、な・・・ちっとは言い方ってあんだろ。まったく」

 

そう言いながら切島は何処か照れ臭そうに頭を掻く。

言ったかっちゃんも多分照れ臭いのか、スマホを覗き込む表情は何とも言えないもの。若干悪戯心がウズウズしたけど、たまには良い格好させてあげようと放置することにした。優しさが他の追随を許さないレベルだよね。さすわた。

 

「爆豪、どうかしたのかそのか━━━━」

「おっと、轟ング。可愛い過ぎる妹と謎々しようか。パンはパンでも食べられなくて気持ちよくなれる重いパンはなーんだ?」

「食べられなくて、重い・・・・フランスパンか」

「ぶぶーー!残念!てか、普通に間違えてきたかぁー、あんちゅわんマジかー。正解はガチムチの腹パンだぉー」

「・・・・?パンじゃないのか?」

「?だから腹パンでしょ?」

「それはパンなのか?」

「???」

 

微妙に噛み合わずお互い首を傾げあってると、私のスマホが元気よく鳴り響いた。

それもまた、あの必殺しそうな曲。

 

けれど、今度は少し違った。

殆ど同時に他のスマホも鳴り響いたのだ。

かっちゃんのも、轟のも、切島のも。

 

「かっちゃん」

 

声を掛けると直ぐにスマホが手渡された。

アプリを閉じてメールを確認すると、七三から決行日と私達の事務所の受け持つ仕事について事細かく記載されている。パッと見、それは事務的な内容。けれど何となくだけど、その味気ない文章に七三の意気込みみたいな物を感じた。

 

「例の件の決行日と仕事内容について、クソ親父・・・エンデヴァーから送られてきた。お前らもか?」

「俺も来たぜ、轟。ファットガムさんからだけど。爆豪のやつもそうか?」

「けっ、状況考えたらそうだろうが。いちいち確認すんじゃねぇよ」

 

この三人も同じ様な内容がきたらしい。

それならお茶子達も今頃メールなりメッセージなり受け取ってる頃かも知れない。

 

「明後日・・・・」

 

作戦決行日は明後日。

近隣の通勤時間に目処が立つ頃合いを見計らっての突入になるらしい。私の役目は邸内への案内。可能なら突入前にエリちゃんと連絡し、位置を特定する事も仕事の内だ。事前にエリちゃんから地下通路の事は聞いて地図も作成してるから、場所さえ聞ければ一直線に行ける。

まぁ、エリちゃんの記憶に間違いなく、あのウンコまつげ嘴が対策してなければ━━━の話でもあるけど。

ただこれは言い出すとキリがない話でもある。どれだけ集めても情報は過去の物。参考にするのは兎も角、信用を置きすぎて良いものじゃない。結局は出たとこ勝負なのだ。こういうものは。

 

 

 

それから少しして、私を含めたヤクザの屋敷突撃部隊が寮のエントランスに集合していた。その中に戸惑いを顔に浮かべる者はいない。全員が全員、覚悟の決まった良い顔をしている。

 

私は握り拳を掲げた。

 

「━━━━ふぅ、よし。皆、明日は準備出来る最終日!けれど、今更慌てることはない!対人訓練をし、装備を新調し、連携の訓練を重ねた!出来る準備は全てやったのだから!あとは本番気合いを入れてやるだけ!」

 

私の言葉にお茶子達が頷く。

かっちゃんは半目で見てくる。

 

「恐れることなかれ!怯えることなかれ!我々は研鑽を重ねた!最早我が軍に勝るものなし!故に━━━━━明日は装備を整えたら街に繰り出して!!男共の奢りで美味しいもの食べて戦勝祝いしちゃうぞぉー!!!」

 

「おおーーー!って、なるか!奢りの部分とか、大仕事前日にはっちゃけようとする部分とか、賛成出来るか!マジで前日くらい大人しくしとけ!相澤先生に見つかったらお前締められるぞ!?」

「緑谷ちゃん。前日くらいゆっくり休みましょう?また朝起きられないわよ」

「せやねぇー」

「緑谷、祝いは帰ったらやれば良いだろ。その時は俺が好きな物奢ってやる」

 

 

「━━━ですって、かっちゃん参謀!思った以上に反対されました!!それでも私は美味しい物は食べたい!人の金で食べたい!何か包帯先生を回避出来て、轟と切島の財布を開かせ、お茶子達が納得して付いてきてくれる良い案はない!?せい!!」

 

「準備したら直ぐ寝ろ。どうせ起きられねぇんだ」

 

あっさり裏切りおったわ、こやつぅぅぅぅ!

 

 

 

 

 

 

 

こうして明日はゆっくりする事が決まったのであったとさ。くそぅ・・・・。かなしみ。



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決戦前夜だからといって何かあると思うなよ!人生って割と味気ない感じだからね!そんなもんよ!宴とか、死亡フラグ立てまくりのお話合いとかな━━━えっ、もしかして、あれが死亡フラグ?いやいや、え?の巻き

これ、今年中には終わらんなぁ(;・ω・)


「爆豪、放課後職員室にこい」

 

帰りのHRが終わると同時、包帯先生はいつもの何考えてるか分からない表情でそれを言った。かっちゃんは「あっ?」とドスの利いた声で動きを止め━━━━何故か私を見てくる。なにその目。何かしたろ的な。意味わかんないだけどー。

 

「何したんだ、てめぇ」

「はい、意味わかんなーい。特に理由もなく疑わないで貰えますぅー?ねー包帯先生ぇー?かっちゃんですよね?かっちゃんの事お呼びなんですよね?かっちゃんがやらかしたんですよね?!」

「てめぇと一緒にすんな、馬鹿。第一、俺だけじゃねぇーからな」

 

そう言ってかっちゃんは教室を軽く見渡す。

何を見てるのか釣られて見てみれば、ほぼ全員が私の事を見つめていた。またかと呆れたような視線、残念な子に向けられる慈悲に満ちた視線、悲しげな視線、馬鹿にした視線━━━━兎に角皆が見てた。

さっと、体をその場から移動しても視線は私に付いてくる。近くのカーテンに身を隠し、数秒置いてからまた顔を出して見てもまだ視線がこっちに向いていた。何だってんだ、こりゃぁ。

 

「えぇっ、おかしいおかしい!私じゃないから!そっ、えっ!かっちゃんだよ!?呼ばれたのかっちゃんだけでしょ!?それでなんで私!?」

 

思わずそんな言葉が口から漏れると、眼鏡が眼鏡を指でクイクイしながら口を開いた。

 

「・・・いや、そうは言ってもな。爆豪くんは、まぁ、なんだ、殆ど君の保護者というか」

「かっちゃんが私の保護者!?私が保護者じゃなくて!?」

「それは図々しいにも程があると思うぞ。緑谷くん」

「図々しいにも程がある!?」

 

さっとお茶子を見ると頷かれた。

近くの梅雨ちゃんを見ても頷かれる。

望みを掛けて女子ーズの面々を見て回ったけど、例外なく全力で頷き返された。なんでなん!?

 

「いやさ、そりゃぁね?流石に幼馴染というか・・・ニコが爆豪の手綱握ってる時もあると思うよ?割とさ」

「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ、黒目」

 

「でもねぇ、その分ニコやんは普段から爆豪にリードに繋がれてる感あるからなぁ。なんていうのかな、自分を猫と勘違いしてる虎と、そんな虎を嬉々として甘やかす飼い主的な」

「目ん玉腐ってんのか、透明」

 

「まぁ、リード云々は兎も角さ、実際呼び出されんのは大概緑谷でしょ?で、その後とばっちりくって説教くらうのは爆豪。━━━━で、これもさ、同じような事が起きすぎて、もうお家芸みたいな所あるじゃん」

「誰がお家芸だ。耳たぶ、コラ」

 

「これまでの事を鑑みるに、緑谷さんが保護者というのは無理がありますわ。納得いかないと言うのであれば、反省し改める事をオススメします。━━━まぁ、正直、爆豪さんも普段の態度がそれなりなので、実際比べると大差はないとは思いますが」

「一緒にしてんじゃねぇ、痴女」

「痴女ではありません!あれは、私の個性を活かす上でベストを目指した結果であり!趣味嗜好を理由に好き好んでそうした訳ではありませんわ!!訂正してください!爆豪さん!聞いていらっしゃいますか!?」

 

かっちゃんに言い募る百を横目に包帯先生を見れば、疲れたような溜息を吐かれた。止めて、そういうの地味に傷つくやつ。

 

「話の内容を教えるつもりはないが・・・取り敢えずだ。緑谷、お前が思ってる類いの話じゃない。人の不幸を喜ぶな、馬鹿者」

「ソンナワケ、ナイジャナイデスカー」

「白々しい。今すぐ止めないと、お前も職員室に来て貰うぞ」

「すみませんでした」

 

連行されるかっちゃんを見送り、私は翌日の準備の一環としてお茶子達と発目の元に向かった。装備のメンテナンスを頼んであるのでその確認、問題があれば再調整して貰う為である。

 

いつもの部屋に辿り着くと、相変わらずの元気過ぎる爆発音が響いていた。自重というものを何時になったら覚えるのか。あいつは。ね、お茶子・・・・なに、その目は?なんなの?何が言いたいの?なによ!もう!

 

お茶子のジト目から逃げるように部屋に入れば、漫画みたいに黒焦げになってるアホの姿が目に入った。声を掛けながら指で頬をつついてみれば目がカッと見開く。

 

「誰かと思えば緑谷さんではないですか!!今日はモニターの依頼はしていないと思いますが!!あっ、新しい装備の発注ですか!?良いですとも、是非聞かせてください!!」

「早い早い、まだ何も言ってないでしょーが。そうじゃなくてメンテナンス頼んでた装備受け取りにきたの。終わってるんでしょ?」

「あぁ、そちらでしたか。はい、勿論です。既に先生より許可も受けましたので、いつでも受け取りOKですよ。今お持ちします」

 

テキパキと動き出した発目をよそに、梅雨ちゃんが不思議そうに首を傾げる。

 

「装備のメンテナンスって、企業がやってるんじゃないの?」

「最初はそうだったけど、発目と知り合ってからはずっと発目に任せてるよ。私は。なんやかんや融通利くし」

「けろっ、ヒーローアイテムって作るのにも資格が必要でしょ?発目ちゃんって私達と同級生なのだから、その資格もないんじゃないのかしら。実践で使用して大丈夫なの?」

 

梅雨ちゃんが不安気にそう言うと「問題ありません」と言いながら発目がアイテム一式を持って帰ってきた。

アイテムは見た感じピカピカの新品同様。メンテナンスというより改修したんじゃないかぐらいに仕上がってる。

 

「おっしゃる通り、私は資格を持ってません。なので、正式に校外で使用する場合は先生を通して、公的機関から使用許可を受ける事になってます。私が緑谷さんの為に作ったアイテムは全部申請が通ってるので問題ありません。メンテナンスに関しても、資格を持ってる先生に確認して貰っていますし」

「けろっ、そうだったのね。何も知らないで失礼な言い方してごめんなさい。勉強になったわ。ありがとう発目ちゃん」

「いえいえ、お気になさらず!全然気にしてませんし、なにより覚えていられるとも思えませんし!」

「それはどうなのかしら・・・・」

 

梅雨ちゃん達の話を聞きながらピカピカになったアイテムを手にとって見てみた。流石に発明狂いの発目作だけな事もあって隅々まで行き届いてる。装着して試してみても問題らしい問題が見当たらない。ゴーグルに関して言えば、バッテリーが前回より小さくなってるまである。

 

「ゴーグル軽くて良いんだけど、バッテリー容量は変わってるの?」

「バッテリー容量は前回と殆んど変わりません。機能を限定して使って頂ければ連続使用二時間。各種センサーをフルに使うと三十分ですね。ただ、バッテリーを交換式にしましたので、補助バッテリーと切り替えて貰えれば倍の時間はいけます。今回は長丁場の仕事になる可能性があると聞いてますので、どうぞこちらも」

 

そう言って手渡されたのは発目印とメリッサ印が刻まれた小型のバッテリー。試しにゴーグルに付け替えてみれば、さっとワンタッチで換えられた。戦闘中でもこれは使えそう。

 

「いやぁー!ですが!メリッサさんは凄いですね!バッテリーの改修案がこんな奇抜な方法とは思いませんでした!Iアイランドで研究してるだけあります!私は目から鱗が止まりませんでしたよ!良いですか、緑谷さん!このバッテリーの機構なんですが以前のバッテリーと違い━━━━━」

「あっ、そうだ。ねぇ、発目。前に頼んだベビースターのカートリッジって作れた?」

「━━━━はい!そちらもですね、もう用意してあります。ノウハウは元からありましたし、中身を変えるだけだったので難しくはありませんでした。箱に入ってるそれが簡易充填器で、こちらカートリッジです。爆豪さんの手榴弾の充填器とも互換性があるので、側にいるならそちらを活用して頂いた方が効率的ですよ。あと、カートリッジは爆発に耐える為に強度あげた関係で重くなってます」

「そっか、さんきゅ」

 

爆発属性ゲットだぜぇ。

これであの嘴まつげを銀河の彼方まで吹き飛ばせる。

試しにベビースターに装着して宙を飛ばしてみると、話に聞いてた通り少し重い。問題になる程でもないけど。

 

「爆豪ちゃんありきの専用の装備、ね。━━━ねぇ、お茶子ちゃん。これ何処まで本気なのかしら」

「何処までも本気なんやろなぁ・・・そういう意味では。爆豪くんの苦労が目に浮かぶわ」

「時間の問題かしらね」

「せやろねぇ」

 

何か後ろから聞こえる。何が時間の問題なのか。

コソコソ何話してんの、あの二人?

気になるぅ。

 

えっ、ブーツについて?はいはい、何か仕様変えたの?はぁ、材料を?ふぅん、まぁ、取り敢えず履いてみるからそれからでも良い?はいはい、聞いてるよー。

 

 

 

 

 

 

 

「明日は仕事だと聞きました。気をつけていってきて下さい」

 

装備を一通り確認した後、発目とお茶休憩してると妙に真剣な顔でそんな事を言われた。基本的に人道から二三歩外れてる発目が心配を口にするのは珍しく、一緒に聞いてたお茶子と梅雨ちゃんは信じられないものを見る目で発目を見た。気持ちは分かる。

 

「どういう風の吹き回し?」

「どういう?特別何もありませんが。ただ、メンテナンスするに当たって『今回のメンテナンスは念入りに』と先生から聞いてましたので。それで何かあるのではないかと・・・おっと、これは極秘扱いでした。すみません」

「あーいや、大丈夫。ここにいるのはそれに参加する人だけだし」

 

そう教えると発目は「成る程!」と納得し、栄養ドリンクとスポドリ・それと各種ドリンクをちゃんぽんさせた謎の液体で喉を潤した。

 

「あっ、爆豪さんは参加されないんですか?装備のメンテナンス依頼は入ってましたけど」

「目敏いなぁ・・・・いや、かっちゃんも一緒に行くよ。今日あんたの所にも来ると思う」

「汗の吸収効率をあげる改修案がありましたので丁度良かった。メリッサさんと協議した結果ですね、面白い素材が提案されまして。今回は間に合いませんでしたが、次の改修では試してみたいと思ってたんですよ。早く来ませんかね━━━━あっ、話が逸れましたね。そういう事で、明日はお気をつけて」

「うん、まぁ、ありがと?」

「いえいえ。無事に帰って頂けたらそれだけで」

 

なんだろ、大した事言われてないのにムズムズする。

どうも座りが悪い気分を味わってると、発目が申し訳なさそうに少し眉を下げた。

 

「何か変でしたか・・・?」

「ん?いや、変というか・・・変じゃない事が変というか。ほら、普段変なやつが変なのは普通だけど、変なやつが普通な事したら変でしょ?そんな感じ」

 

「・・・いや、そのまんまやん」

「けろっ、嘘偽りなしのドストレートね」

 

二人の華麗なツッコミを聞き、発目は不思議そうに首を捻った。自覚なしか、こいつ。

 

「よく分かりませんが、私の気持ちが伝わってるなら、それで構いません。昔から人の気持ちというものは共感し難い所がありますし。教えられてもよく分からないんですよ。そもそもあんまり興味ありませんから、聞かされてもあれなんですが」

「あんたねぇ・・・はぁ、でもメリッサとは上手くやってそうで良かったよ。メリッサもアイテム馬鹿な所あるからもしかしてとも思ってたけど」

「メリッサさんは素晴らしいですよ!私とは違いプログラミングに長けた方で、ゴーグルの制御コンピューターのプログラミングは本当に素晴らしかったです!しかもそのコンピューターは極限まで無駄を削ぎ落とした超軽量タイプのもの!それでいて機能は従来の多機能ゴーグルを凌ぐ作りになってるのです!解析した所、バグすら利用して作業効率をあげている部分もありまして!いや、凄いです!私は用途に応じた特化型がメインですが、メリッサさんは多機能に着目し万能性のある━━━━━」

 

それから発目先生によるありがたいアイテム製作講義に付き合わされた。なんやかんや用事を終えたかっちゃんと合流する時間まで付き合わされて、太陽はすっかり地平線の彼方へどっぷり。出掛ける時間を失ってしまった。せめてお茶子達と喫茶店とかでケーキと紅茶お供にのんびり過ごしたかったんだけど・・・まぁ、仕方ないか。今度エリちゃんも交ぜてやるさ。

 

そのままかっちゃんの調整に付き合って、発目に見送られて四人で寮へと帰った。「気をつけて下さいねー」と口にしながら見送る発目に、隣にいたかっちゃんが目を見開いたのは言うまでもない。似合わないもんね。分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、明日の作戦に参加する一年ズ皆からメッセがあった。明日頑張りましょうとか、エリちゃん助けようぜとか、無茶し過ぎないようになとか、一人で突っ走らんようにねとかとか。

ビッグ3のパイセン達からも同じ様なメッセがきて、その中でも黒豆パイセンのは一際熱量の籠ってた。見てるだけでムワァってする。寝る前なのに暑苦しくしないでほしぃ。

 

━━━それと、珍しくかっちゃんからも。

 

『俺がいる事を忘れんな』

 

だってさ。

 

「もう少し、何かないもんかね・・・ふふ」

 

素直に頼れって言ってくれても良いのに。

言われたら言われたらで、ぞっとするとは思うけど。だってねぇ、気持ちは嬉しいけど、やっぱり柄じゃないからさ。

 

メッセの表示されたスマホを胸に、相変わらずのぺちゃんこな布団へ倒れ込んだ。見上げた先に電灯から伸びるネコキャラのついた電源ヒモと、面白みのない白い天井が目に映る。空いた右手でヒモにネコパンチしながら、私は明日を思った。忙しくなるであろう、明日を。

 

ぼんやりしてると、電話が掛かってきた。

かっちゃんかなと思えば、ガチムチからだった。

 

「はいはい、こんな時間にどうしたんですか?」

『あっ、出てくれた。ごめんね、こんな時間に。本当は昼間の内に話しにいくつもりだったんだけど、ちょっと忙しくて・・・・明日、いよいよだろ?それでね』

「あぁ、ガチムチもですか?」

『HAHAHA、その様子だと、もう色々と声を掛けられた後かな?』

「皆して大袈裟なんですよ。普通にインターン行ってくるだけなのに」

 

発目も、ガチムチも、メッセをくれた皆も。

私はいつもと何も変わらない。

やりたい事をやりにいくだけ、それだけなのだ。

 

『緑谷少女、色々と伝えたい事はあるが・・・あまりくどく言っても意味はないだろうから、私からも一言だけ言わせて欲しい』

「ん、なんですか?」

『頑張れ、応援している!』

 

飾り気のないその言葉に、思わず笑みが溢れた。

言葉が頭の中に浸透してくとおかしくなってきて、耐えきれなくて声をあげて笑ってしまう。

そうしたら電話の向こうからも釣られたのか笑い声が聞こえてくるようになって、二人で暫く笑い声をあげた。

 

「ふっ、ふふっ、あっ、ありがとうございます。なんか元気でました」

『そうか、それなら良かった。明日は早いんだろう?もう寝なさい。おやすみ緑谷少女』

「はーい、おやすみなさーい」

 

電話を切った後、皆にメッセを返してから枕を抱いてさっさと目を瞑った。明日の為に。今も待ってくれている、あの子の為に。



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キラキラハートが真っ赤に燃える!畜生倒せと震えて唸る!赤い血潮と青い血潮に義理と人情捩じ込んで!魅せてくれるわ、爆裂道!!私の幼馴染を誰だと思って━━━えっ、YOUベンチなの!?まじで!?の巻き

シリアス「賽は投げられたァ!」

ギャグ「イキイキしとるなぁ」
シリアル「いつまで持つかなぁ」


「バーニング!」

「いえす、バーニング!」

 

時刻は朝8時00分。場所、警察署の駐車場。

かっちゃんの背中に装備された私の前に現れたのは、髪の毛を炎のように揺らす一人の女性ヒーロー。

 

「元気そうだね、緑谷双虎!いや、今はニコって言った方が良いわね!今日はよろしく!」

 

そう言ってハツラツとした笑顔を浮かべたのは、エンデヴァー事務所のサイドキックの一人。カラオケ大会でデュオった事もある、やたらハイテンション女性ヒーロー。バーニンこと、ウサ姐さんであった。

 

「おはよう、緑谷。遅刻しなかったな」

「嫌みかッッッ!!貴様ッッッ!」

「?・・・・いや?そんな事ねぇぞ。良かったな、爆豪が気づいて」

 

 

あと、ナチュラルに煽りよる天然紅白饅頭であった。

この野郎ぅぅ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡る事小一時間前、八斎會への突入作戦決行日。

前日いつもより早く寝て、目覚ましも沢山かけ、枕元に着替えを用意して、尚且つ十秒チャージで二時間キープ出来る朝食も添えて━━━━出来る努力に努力を重ねた私が寝起きに見たのは、鬼の形相をするかっちゃんと起床予定時刻より遅れた時間をさす時計であった。

世の中はまったくもって無慈悲である。

 

遅刻する訳にはいかないので直ぐ様着替え、先にいったお茶子達を追い掛けて出発。自慢の健脚で走りきり、何とか時間に間に合う電車に乗り込んだ。それからは突如迫ってきた睡魔に負け、何度目になるか分からない一生のお願いで愛馬かっちゃんに乗馬。目的地につくまでの間、いつもの背中で惰眠を貪りながら集合場所へと辿り着いたのである。

 

で、集合場所である警察署には会議に出てたヒーローと警官隊がゾロゾロいた訳なんだけど・・・見つけた轟の側に何故だか目立つことこの上なしなファイヤーおハゲがおらず、おハゲの事務所でサイドキックしてるウサ姐さんがいた。相変わらず景気よく燃えてる。色々と。

取り敢えず元気よく挨拶されたから、かっちゃんの背中から降りて全力で返事を返したけど、なんでこの人いるんだろ?はて?

 

「あははは!相変わらず威勢は最高だね!!皆から元気にしてるか様子見てきてくれって頼まれてたけど・・・・その様子だと聞くまでもないか!わははっ!」

「ウサ姐も元気そーだねぇー」

「ったり前よぉ!しかし、そのウサ姐ってなんなの?前は聞きそびれたけどさ」

「バーニィーだから」

 

名前がそれっぽいんだよね。

気風と見掛けは燃えてるライオンそのものだけど。女子に向かってライオンはないし、バー姐もババァ扱いしてるみたいだし・・・間をとった結果だよね。

不思議そうな顔をするウサ姐に見えるよう、自分の頭に両手をつけてうさうさアピールしてみれば、ウサ姐も気づいたみたいでハッとする。

 

「あぁ、成る程。バーニィーね・・・・てか、あたしはバーニンよ。バーニン!━━━まっ、別に良いけどね!好きに呼びねぇい!ニコ吉!」

 

ニコ吉・・・!?ま、良いけど。

好きに呼んだらんかぁい!ニコ吉です、いぇぃい!!

 

軽い挨拶をかわし改めてウサ姐に話を聞くと、どうやらあのおハゲ遅刻してくるらしい。あれだけ格好つけておいて遅刻してくるらしい。まぁ、別事件に引っ張られて到着が遅れるだけで、何処かでやんちゃしてるとかではないみたいだけど。やんちゃしてたらもいでる所だった。何がとは言わない。

しかし、最近忙しいのは聞いてたけど、ここまでとは。

 

それでおハゲ来るまでの代理、及びインターン生の監督役としてサイドキックの中で手の空いてたウサ姐がやってきたそうだ。当然ウサ姐とおハゲとでは実力差は大きく離れてて、本来おハゲに与えられた役割をこなせる筈もない。なのでウサ姐をリーダーとしたかっちゃんと轟チームは地下突入組から急遽変更。地上制圧組になるそうだ。

私としては納得したけど、かっちゃんと轟は納得してないみたいで顔をしかめてる。

 

「・・・・・っち」

「どうにかなりませんか、バーニン」

 

「いやぁー、気持ちは分かる!けど、こればっかりはどうにもね!所長なら兎も角、あたしじゃ室内での戦闘能力は随分落ちるし、何より仲間の邪魔をしかねない。人手に多少余裕がある以上、無理な配置で動くより得意を活かして仕事した方が効率的にも良いし・・・まぁ、何も見学しろって訳じゃないから、出来る事ちゃんとやれば良いのよ!」

 

そうテンション高めにウサ姐が言うけど、二人の表情は変わらない。全然納得してない顔だ。

 

「んなもん、何とでも出来るわ。過保護してんじゃねぇ、地下いかせろや。どう考えても敵の主力はそっちだろうが」

「炎熱に関しては指摘された通りです。けど、氷結に限定すればかなり細かくコントロール利きます。何か出来る筈です。本来のチームでいかせて貰えませんか」

 

「いや、だからね?もう決まった事な訳よ!そりゃ今回みたいな大きな仕事は早々ないし、張り切る気持ちは分かるわよ!でも自分の役割をきちんと果たすってのもヒーローとして・・・・ちょっ、いや、だからもう決まった事で・・・だかっ、駄目だ・・・・ちょ、近い!迫ってくんな!話聞け!青春ボーイズ!!ええぃ、だからぁ━━━━━━━」

 

諦めの悪い血気盛んな二人がウサ姐に迫る姿を横目に、周囲を改めて確認すればジェット爺ちゃんの姿もない。今作戦の指揮をとっている警察と七三が特に慌ててる様子もないから、それなりに事情あっていないんだろうとは思う。戦力低下が著しいぃなー、もう。仕方ないけど。

 

その後はかっちゃん達を捨て置いて黒豆パイセン達と合流。改めて自分達の役割を確認し、警察の人から渡された八斎會の構成員リストをチェック。仕事の事で包帯先生と最後の打ち合わせもした。

その後は警察のありがたいお話があったけど・・・・まぁ、そこはね。うん。ね。あれだよ、仕方ないね。全部妖怪のせいだから━━━━違うんです、包帯先生!違うんですよ!本当に!!これはっ、あれが、それで、あれだっただけで、そうじゃないんです!寝てないです!瞑想してたんです!本当に!えっ、妖怪!?よ、妖怪とか関係ないです!やだなぁ、あははは!いっつぁ、ニコジョーク!いぇーい!

 

よっしゃぁ、頑張るぞぉぉぉ!!

皆ぁぁぁぁ!!

うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

 

すんまんせしたぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公衆の面前でお説教を受けてから暫く。

時刻は8時25分。

場所は━━━━おヤクザ様の本邸。

 

他の面子より僅かに早くこっそり侵入した私と包帯先生は建物の陰で今作戦において最初の仕事をしていた。

包帯先生はその場所につくと「これだけの監視がある中、一人でよくここにくる気になったな。ニコ」と、褒めてそうで褒めてない寧ろ怒ってるお小言を頂いた。さーせん。

 

包帯先生に警戒を任せゴーグルの機能を使い彼女の持つ通信機にアクセスすれば、掠れた音がイヤホンを通して響いてくる。通信機の周囲から特別音はない。

 

なので「にゃーん」と何度か合図を口にしてみる。

すると、ガタガタと慌ただしく何かが音を立てて、荒い息づかいと共にそれが聞こえてきた。

 

『━━━ふたこ、さん?』

 

小さな声はあの時と変わりなく。

私の鼓膜を揺らした。

これで最後の憂いは消えた。

 

 

彼女はまだ、そこにいる。

 

 

包帯先生に視線で合図を送りながら、マイクへ口を近づけた。伝えたかったそれを、あの子にちゃんと伝わるように。

 

 

「お待たせ、エリちゃん。待ってて、今迎えにいく」

 

 

返事は直ぐに返ってこなかった。

響いてくるのはエリちゃんの泣きじゃくる声。

屋敷の入口が騒がしくなり始めた頃、か細い震えの混じった声で一言だけ返ってきた。

 

『・・・・う"ん"っ』って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし、エリちゃん迎えにいくついでに、フルぼっこしにいこうか。覚悟しとけ、嘴まつげ。無駄にプラプラしてるそれもぎ取って、明日から楽しい楽しい女の子生活始めさせてやるからなぁー。あはは。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

八斎會本部、時刻AM8:30。

一つの報せを聞いた俺は身支度を整え、いつもの湿り気の混じる薄暗がりの地下廊下を歩いていた。

 

バタバタと騒がしい地上の屋敷と違って、ここに響いてくるのは俺の足音と静かな空調音だけ。静寂は好みではあるが、漂うそれはやはり不快極まりなかった。マスク越しにも鼻をつくカビ臭さ。掃除も換気もそれなりにしてるつもりだが、老朽化した水道パイプが天井に通っているせいかここは湿気が高い。そうなるのは必然ではある、それにいつもここは何かが腐ったような臭いが混じる。恐らくは下水道からだろうが・・・・まぁ、原因はどうあれ最悪といえる。

 

だが、こんな場所でないと出来ない事がある。名を捨て、姿を隠し、こんな所に沈まなければ出来ない事が━━━━━━。

 

 

 

 

 

「━━━━親父」

 

辿り着いたその部屋には、一人の老人が横たわっていた。八斎會の組長にして、俺の親父であるその人だ。

部屋には心拍を測る計器や呼吸器を始め、人間の生命を維持する機械が集められている。どれ一つにも不備はなく、あの日から今日まで何一つ変わらず、正確に適切に正常に作動している。親父の体に取り付けられた夥しい管に異常がないか確認し、俺はそれらに触れないようシワだらけになった手に触れた。

 

「悪い。少し、騒がしくなる・・・・」

 

俺の声に返事は返ってこない。

耳に響くのは親父の心臓が動いている事を知らせる電子音と、指に伝わる弱々しい脈動のみ。

けれどそれで十分だった。

 

生きてさえいてくれれば良い。

いずれ俺がこの手で直せば良いのだから。

 

「もう少しだけ、待っていてくれ。俺が━━━━━」

 

この人はこんな所で終わって良い人じゃない。

この人はそうあるべき人間なのだ。

俺とは違う。

 

 

「━━━━あんたに相応しい椅子を、用意するまで」

 

 

親父の様子を窺っていると、ポケットにしまっていた携帯が震えた。コール画面をタッチし耳に当てれば、クロノスの声が響いてくる。

 

『オーバーホール聞こえてやすか?確認が取れました。ヒーロー共、数分もしない内に乗り込んできやす。機材の搬出はやはり難しいかと』

「例のサンプルと資料だけ持ち運べ。機材は一ヶ所にまとめておけ、俺が処分する」

『勿体ない話でやすね。了解、分かりやした。それとエリはどうしやすか?』

「そのまま置いておけ。包囲の穴が分かり次第、俺が連れていく」

『分かりやした。引き続き監視から報告させやす。後は合流してから話しやしょう』

 

通話の切れたスマホをしまい、親父を一目確認してから部屋を出た。

 

 

 

 

 

「病人共・・・・・」

 

 

 

 

 

足音が、空調の音が耳に響く。

いつもより大きく、はっきりと。

耳障りな程に。

 

 

 

 

 

「大局を見ようともしない、サル共・・・・・」

 

 

 

 

 

腹が立つ。虫酸が走る。

 

 

 

 

 

 

「どいつも、こいつも・・・・!」

 

 

 

 

 

 

怒りで頭がおかしくなる程に。



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んどらぁー!っすぞこらー!っでんじゃねーぞ!!ザッケンナコラー!!ん?なに?えっ、今の何だったのかって?ヤクザ語の練習中。の巻き

ギャグ「おいも戦うでごわす」
シリアス「いや、帰ってくれ」切実

アオハル「我輩も戦うで候う」
シリアス「本当に帰って、お願い」切実


時刻8時30分丁度、けたたましい轟音が響いた。

ヤクザの奇襲によって門の残骸と警官隊が吹き飛び、幸先悪すぎる八斎會突入作戦は始まった。

 

「あっ?なんじゃてめぇ━━━━」

「何処の餓鬼だ。勝手に━━━━」

 

門の前で始まった馬鹿騒ぎを横目に、忍んでいた茂みからやっほーした私は━━━━。

 

「ニコちゃん108の必殺技ァーーーーー」

 

━━━━構えた両の拳と近くでたむろっていた男達の顔面に引き寄せる個性をフルスロットルで発動。対象の男達と支えのない私の体が、弾かれるように宙を舞い急速に接近。そのまま態勢の整わず慌てる男達の首もとへ、渾身の力を込めて二の腕で叩きつけてやった。

 

「「━━━━ぶっへえ!?」」

 

ラリアットの一撃で男達は三回転半宙を回り、白目を剥いて地面へと落ちる。起き上がる気配がない事を確認して、私は玄関に向けて歩みを戻した。

 

「ちわーす!エリちゃんのお友だちのニコでーす!今日は遊ぶ約束してたんですけどぉー、なんかぁー待ち合わせ場所にこなくてぇー、だから迎えにきちゃいましたぁーー!案内お願いしまーすぅ♡!」

 

可愛らしさ満点で挨拶すると、まだまだ元気満々な厳つい顔した組員連中は少しの間ポカンとした後、眉を吊り上げて怒号を吐いてきた。

 

「てめぇ!!餓鬼がぁ!!」

「ザッケンナコラァーー!!」

「何処の鉄砲玉だごらぁぁっ!!カチコミ決めて無事で帰れると思うなぁ!!あああ!?」

 

武器を手にしたり個性を発動し始めたりと、無抵抗を決め込むやつはいない。臨戦態勢バリバリ。

なので、こちらも腰元のホルダーに手を掛けた。

 

「上等じゃぁ!!掛かってこんかい!!こらぁ!!こちとら桜田門がバックじゃいごらぁ!!」

 

桜田門の言葉にほぼ全員の体が硬直する。

私はその隙にホルダーの留め具を解放。ベビースターを引き寄せる個性でフルスロットル射出。近場のヤクザの顔面にぶち当て意識を刈り取る。命中したベビースターには直ぐ様別の標的へとフルスロットルで引き寄せ。淡々とそれを繰り返す。何度も。

そこにいる連中が、ただ一人も立ち上がらなくなるまで。

 

 

ニコちゃん108の必殺技━━━Extra。

 

『ニコニコ・メテオール』。

 

 

ベビースターの生み出す銀の軌跡が吹き荒れて十秒程。それはそこにいた連中から意識を根こそぎ刈り取った。ぐったりと地面に伏せる連中の姿に、反撃する余力のあるやつは見えない。中にはやり過ぎた感のいなめないボロボロ過ぎるやつもいたけど・・・・。

 

「てへぺろ!━━━ったぁ!?」

「てへぺろで済むか」

 

スッパァンと頭を叩かれた。

こんな時なのに割と強めだった。

痛い、知能値数が6は下がった。

 

痛みをこらえながら視線をそこへと向ければ、布で縛りあげたおヤクザを引き摺る包帯先生。私が対応出来なかったおヤクザを処してくれたらしい。ありがとうしたいけど、なんか見るからにお説教モードなのでお口チャックしとく。

 

「やり過ぎだ。その上、勧告もなしに攻撃するな」

「あぁ、まぁ、ですけどぉ・・・」

「言い訳はいい注意しろ。焦る気持ちは分かるが、抵抗の意思を示す連中だけ相手しろ。出来ないとは言わせないぞ、ニコ」

「・・・・りょでーす」

「返事はキビキビしろ。はい、だ」

「はい!!」

 

そうこうしてると玄関突入組がやってきた。

七三や黒豆パイセン達を始め、かっちゃん達や切島達もいた。けど、お茶子達の姿が見えない。合流してきたかっちゃんに軽く聞いたら門の所で暴れてるヴィランを相手してるらしい。無事だと良いけど・・・あっ、警察の方々こっちでーす!警察の人ーー!犯罪者一杯でーす!回収お願いしまーす!はい、なんか、いきなり襲ってきました!せーとーぼーえーですぅ!

 

 

 

「ノックしてもしもーし!!」

 

 

 

心を入れ換えた私は合流した皆の先頭を駆け、懇切丁寧を心掛けながら━━━━飛び蹴りで屋敷へダイナミック突入。私達の来訪を歓迎するように虎の剥製がお出迎え。なにこれ可愛い。

 

土足でお邪魔する事に申し訳なく思いつつ、お出迎えしてくれた虎の剥製とツーショットを自撮りし、時折出てくるおヤクザさんと拳で楽しいOHANASIAI。包帯先生のありがたいお言葉通り、抵抗しようとする連中のみ相手していく。ザッケンナコラー!だよ!

 

しかし相手の抵抗が激しい。

負ける気はしないけど、息つく暇もない。

いちいち相手してる私が悪いけどさ。

 

予定より後ろの位置で息を整えながら走ってると怒号が前から聞こえてくる。

 

「怪しい素振りどころやなかったな!!」

「俺ァだいぶ不安になってきたぜオイ!始まったら進むしかねえがよ!!」

 

太っちょマンとファンキーモンキーの言葉に天ちゃんパイセンがなんか言ってるけど、声ちっちゃくて聞こえてこない。ボソボソ聞こえる。それに応えて警察の人も何か言ってるけど、全然聞こえてこない。何だってぇ!?え、スイーツが、糖質で、何だってぇ?!あっ、なんか切島吼えてない!?なに!?なんなの!?交ぜて!私を交ぜろぉ!!

 

「かっちゃん!前で、何言ってるの!?聞こえる!?気になるんだけど!!いいお店の話!?私知ってる!?」

「少なくともスイーツの話はしてねぇわ!!馬鹿!!抵抗すんなゴラァァ!!」

 

抵抗の意思を示すおヤクザに爆裂パンチをかまし、かっちゃんは隣に駆け込んできた。

 

「そろそろ俺は抜けるからな!!てめぇ、無茶だけはすんじゃねぇぞ!!全員叩き潰して直ぐ行く!!良いなぁ!!」

「あいあい!かっちゃんこそ油断して掘られたりしないようにね!流石に私も慰め方が分からないから!!」

「何の心配してんだ!!この特級馬鹿が!!」

 

そんな話をしてると分かれ道が視界に映る。

かっちゃんはそれを見て忌々しげに舌打ちすると、ずいっと拳を突き出してきた。

 

「先に行って待ってる。援護よろ」

「秒だ、ボケ」

 

私達は軽く拳をぶつけ合わせ別方向へと駆けた。

私は七三達と一緒に地下室を目指して。

かっちゃん達は本邸の更に内部を目指して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かっちゃん達と別れてから少し。

七三の制止を求める声を受けて、ある掛け軸の前で全員の足が止まる。手早くそこに置いてあった花瓶を横へずらし、七三は板敷きに手を押し当てる。

 

「この下に隠し通路を開く仕掛けがある。板敷きを決まった順番に押さえれば━━━━」

 

ガチリという音が聞こえると同時。

掛け軸の掛けてある壁が音を立てて横へとずれていく。

ちょっとだけ忍者屋敷のようでワクワクした。悪の秘密基地感たまらないんですけど。

 

ていうか、なんでこんな事知ってん?ん?

 

黒豆パイセンに教えて欲しそうな視線を向ければ、私達が待機してる間に偶然エリちゃんをお世話してるお間抜けな組員を捕まえ、予知の力で地下室の入り方やら構造やらをある程度知ることが出来たそうだ。そう言われると朝渡された資料の地図に追加事項が書かれてた気がする。あれか、なるなる。

 

しかし、この時期にそんな情報漏らすとか・・・本当間抜けじゃのう、嘴まつげ。

 

 

「━━━━━バブルガール!!」

 

 

隠し扉が開ききろうとした時。

ムカデさんが強い口調でバブっちの名前を呼ぶ。

すかさず構えたバブっちの前におヤクザが怒鳴り声をあげながら突っ込んできた。

 

「一人頼む!」

 

スーツから覗くムカデさんのムカデ手足が伸びる。

二人のおヤクザは抵抗する間もなく、ムカデな腕に巻き付きつかれ拘束された。特別虫嫌いでもないけど、流石に見てるとゾクゾクする。

残った一人はバブっちに泡で目潰しされた後、関節を綺麗に極められて仕留められた。

流石にプロ。一瞬だった。

 

まぁ、私でも出来ますけどね!天才でごめんね!

 

「追ってこないよう大人しくさせます!先行って下さいすぐ合流します!」

 

バブっちの声に止まっていた足が再び駆け出す。

七三を追い掛ける形で地下室へと続く階段を降りていって直ぐ、予定ルートが壁で防がれていた。騒ぐ連中をスルーしてゴーグルを装着。発信器の場所を探せば、やはり壁の向こうから反応がある。地図上でも通路は存在してる。何より目の前壁の至るところに、模様のような不自然なひびが見える。コンクリ先生が個性を使った時、創造物に出来るものと似たようなひびだ。

 

「サー!俺が━━━━」

 

黒豆パイセンを追い越し、七三達を追い越し。

誰よりも前へ、ブーツに仕込んだスパイクを起動させながら力一杯踏み込む。

 

「レッドなんとかッッッッ!!!全力硬化ァッッ!!」

「はっ、れっ、えっ・・・・お、おう!!」

 

一番力の籠る腕と切島を対象に、引き寄せる個性をフルスロットルで発動。気合いと根性と腕力と、天下無双の乙女力で一気に引っこ抜く。

 

ニコちゃん108の必殺技、special。

『吃驚仰天人間カタパルト━━━切島Ver』。

 

硬化した切島が空気を切り裂き飛ぶ。

狙ってる壁と切島にも引き寄せる個性を使う。

更に加速した切島弾丸に鋭さが宿る。

 

激しい衝突音が響く。

思ったよりずっと脆かったらしく、壁は切島のたった一撃であっさりと砕け散った。

そして壁の先にはエリちゃんの情報通り通路が見える。

 

「━━━━よし!ストライクッッ!」

「よし!ではねぇーよ!?びっくりしたぁぁぁぁ!いきなり人を投げ飛ばすなよ!?人を何だと思ってるの!?」

「人は人、切島は切島じゃん。ははは、うける」

「ははは・・・うけないわ!!てか、俺ってなんなの!?何扱い!?何枠!?」

 

切島が抗議の声をあげた瞬間、通路が粘土みたいに歪んだ。個性による妨害なのは間違いないけど、覚えてる限り資料の中にそんな事を出来るやつはいなかった。

 

「道がうねって変わってく!!これは、治崎じゃねぇ・・・逸脱してる!考えられるとしたら、本部長『入中』!」

 

警察の人が口にしたそれに覚えはある。

自らが入り込んだ物を自在に操る個性。

確か"擬態"だとか。実際の力を見ると、擬態とは違う何かに見えるけど。

 

個性の効果範囲は出力を考えれば、別の人間である気がしないでもないけど━━━私はその可能性を限りなく0だと思う。何故なら、そんな便利な奴がいたら入口をそもそも塞いでるし、こうして通路も地下室も残しておかない。最初からそんなもの無かったことに出来るなら、リスクを犯して警察やヒーロー相手をするより、目を欺いた方がずっと効率的で理に叶ってる。狡猾な嘴まつげなら、それを思い付かない筈がない。

 

だからこれは、それが()()()()()()人間の仕業。

 

 

 

 

 

 

 

「包帯先生、先行きます━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

声を掛けると同時、思い切り体を前へと引っこ抜く。

包帯先生の呼び止める声が聞こえたが、今は止まってる時間がない。幸い歪みの速度はそこまで速くないが、少しでも遅れれば通路が塞がってしまう。

迫ってくる瓦礫をかわし、壁の隙間をぬって奥へ奥へ体を引っこ抜いて行けば、何とか歪みのない通路に滑り込めた。私が通りきった所で通路が完全に塞がる。

 

予想通り個性の効果範囲はそこまで広くなかったらしい。あの手のタイプは支配してる範囲内ではアホみたいに強いが、そこから一歩でも出てしまえば大抵がゾウリムシくらい雑魚だ。怖くない。

 

恐らく切島が話していたブースト薬とかいうので一時的に個性を強化していたのだろうと思う。ブースト薬とは違うけど、同じ様な事して見事に個性に振り回された元テロリストを知ってる。自在に操るという触れ込みと違ってかなり大雑把に壁が流動していたように見えたし、多少の違いはあれ出力の大きさに慣れてないのは間違いないと思う。

 

 

 

そうじゃなければ、流石に私の特攻くらい止められていただろうし。

 

 

 

息を整えてから通路の奥に向けて歩き出すと、背後から「ニコ!」と大きな声を掛けられた。振り向かなくても分かるけど、一応そこを見てみれば黒豆パイセンが壁をすり抜けてきていた。フル装備だと教えてくれた衣装から早速バイザーが行方不明になってる。これは全裸になるのも時間の問題か。

 

「━━━━俺がきた!なんてね!一人で行くなんて水臭いじゃないか!俺も行くよ!」

「他の皆は大丈夫そうでした?」

「はははは!心配いらないさ!サーもいれば、サンイーターもいる!他のプロヒーローだって心配されるほど弱くないよ!━━━それより先を急ごう。相手がブーストなんて無茶な物を使ってまで時間を稼ぎにきてる以上、この先に必ずいる筈だ。それもそう遠くない距離に、だ。だから強行したんだろ、ニコ」

 

この人も大概頭がよく回る。

 

「文句とか言ってませんでした?」

「ははは!サーもイレイザーもカンカンさ!帰ったら怖いね!!まぁ、一緒に怒られてあげるからそんなに落ち込まないでよ!それにね、イレイザーはこうも言ってたよ━━━━━お前が正しいと思う事をしてこい、ってね!」

 

 

 

ぐっと、サムズアップした姿に包帯先生の姿が過った。

 

 

 

「━━━っし!!行きましょうか、ルミルミパイセン!!」

「あぁ、ニコ!!今度こそ助け出そう!!」

 



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私がぁぁぁぁ、あっ、きたんですけどぉ!!もしもーし!!聞こえてますか、ロリコン頭ぁ!お土産にぃ、七三サラリーマンが魔法少女の玩具持ってきました!!そういう趣味なんですよね!の巻き

今週のヒロアカの感想。
えええええええええええええええええ!!!!????れありぃぃぃ!?


皆と別れてから五分ほど。

ゴーグルの機能と黒豆パイセンの個性を活用して、可能な限り最短距離でエリちゃんの足取りを追っていた私と黒豆パイセンは、暗闇の先にその背中を見つけた。

 

ファー付きの緑のジャケットの男、ロングコートを揺らす奴・・・・それと、ロングコートの陰から見える見知った白髪の女の子を。

 

黒豆パイセンから視線で合図され、即座にベビースターのホルダーに手を掛けた。本来なら投降するように声を掛けるべきだ。けれど、嘴まつげには逮捕状が出てる。上の騒ぎの件を合わせれば、不意討ちかまして踏ん捕まえてもお咎め殆んどない筈。故に見敵必殺。さーちあんどですとろーい。脳天に叩き込んでソッコー仕留める!!気を失った所で、身体中に山芋刷り込みつつワサビを尻の穴に突っ込んでヒーヒー言わせてやるぜぇ!!

 

 

 

「ふたこ、さん━━━━」

 

 

 

私を呼ぶ小さなその声に、嘴まつげが振り向いた。

一瞬遅れてベビースターを射出したけど、嘴まつげの掌に防がれ━━━━━私のペンギン丸(ベビースター)は銀の粉塵になって宙に舞い散った。ぺぺぺぺっ、ぺ、ぺっ、ペンギン丸ぅぅぅぅぅ!!

 

「誰かと思えば、あの時の学生か」

 

足を止めた私達を、嘴まつげは鬱陶しそうに粉塵を払うと蔑むような目で見てきた。なので真っ直ぐ見返して、両手で中指立てて見せつけてやる。遠目だけど額に青筋が浮かぶのが見える。沸点ひくぅ・・・。

 

「何を考えている」

 

「沸点ひくぅ・・・頭にヤカン載せたらお湯でも沸かせるんじゃない?カップラーメン差し入れしようか?・・・・む?むむ?」

「ニコ。まだ彼女がそこにいる。気持ちは分かるけど、煽るのは少し控えて」

「あ、いや、んん?」

 

妙なタイミングで声が出た。流石にまだ挑発するつもりはなかったんだけど・・・・?

なんぞ?まぁ、文句はあるけど?あれか、我慢出来ないレベルで嫌いなのか。なるほど。わかりみ━━━な、訳あるか。私が話す前、何か聞こえた?いや、聞かれたのかな?誰に?嘴まつげじゃない。コートの方・・・?いや、なんか違う気がする。

 

かといって辺りを視線で探ってみたが特別何もない。嘴まつげの近くにある通路の角とか怪しいけど。

そうこうしてると嘴まつげが笑ってない目を細めて「事情が~」やら「見てみぬ~」やら「この子に~」やら、ごちゃごちゃなんか言ってきた。どうせ大した事言ってないので、真面目に聞いてる黒豆パイセンにそれは任せて、私は取り敢えずこっちを覗いてくるエリちゃんに手を振っておいた。ついでに口パクでご挨拶。やっほー、きたよー。サンダル履いててくれてありがとねー。ちょー助かったー。隣のインテリ気取りの短足短気糞ダサロリコン嘴まつげに嫌な事されてないー?

 

「何を言おうとしてる」

 

「やっほー、きたよー。サンダル履いててくれてありがとねー。ちょー助かったー。隣のインテリ気取りの短足短気糞ダサロリコン嘴まつげに嫌な事されてないー?━━━━っ、むむ!?」

「ニコ!?」

 

また声が聞こえた後、知らず知らずの内に口から言葉が漏れでてた。偉そうに何か言ってた嘴まつげが眉間にしわを寄せる。ついでに額の青筋も増える。マジ短気。なになに、聞いて欲しかった系?うける。━━━というか、流石におかしいと思ってゴーグルの省エネモードを解除し機能全開で周囲を声の聞こえた方向を検索しなおしてみれば、サーモグラフにて通路の陰に潜んでる二人の姿を発見。引き寄せる個性で引っ張り出せば、苦痛の声をあげながら嘴マスクを着けた黒ずくめの男と酒臭い男が床に転がった。

 

本当はバカップルもドン引きな熱烈なキスをこの二人にやらせるつもりだったんだけど、急に意識がぼやけて個性が上手く使えなかった。それどころか立ってるのすら辛い。隣にいる黒豆パイセンも同じなのか、頭を押さえながら足取りがおぼつかない感じで目の前の連中を睨みつけてる。

 

「油断し過ぎましたか・・・!」

「~~ひっく、いてぇ~ぜぇ~うえっぷ!くそぅ!いきなりシェイクしやがって、吐きそうだァ」

 

黒ずくめの方はコートの埃を払いつつ懐から銃を取り出し、酒臭いのはフラフラしながら一升瓶を抱え直すと壁を蹴り天井へとしがみつく。それにしても、皆マスクしてるな。なにこれ。チームの証的な?それとも空気悪いの、ここ?

 

今度から装備にマスク増やそうと心に決めている間に、エリちゃんのあんよからサンダルが取り上げられた。嘴まつげの個性でバラバラに崩れたそこから、私と靴やのおっちゃんが仕掛けた発信器件無線機な発目ベイビーが出てくる。

 

「餓鬼と侮っていたが、どうやら少しは考える頭があったらしい。随分と早いご到着だとは思ったが・・・・こういう事か」

 

パキ、と発目のベイビーが砕けた。

結構高いって言ってたのに。

 

「ヒーローごっこがしたいなら、相手はよく選んでするんだったな。音本、酒木。後はお前らに任せる。俺はここにいなかった。そういう事だ」

 

嘴まつげがそう言った瞬間、黒ずくめの銃口がこっちを向いた。

 

「━━━━っ、パイセン!」

「分かっ、てるさ!」

 

返事を耳にし、直ぐ様炎を吐き出した。

ただの目眩ましだが敵を躊躇させるには十分だったらしく、私達が後方へ退く猶予は余裕で稼げた。乾いた炸裂音と共に飛んできた弾丸が風を切り見当違いの方へとぶつかり甲高い音が響かせる。

 

「っち、反応の早い!流石はヒーローですか━━━あなた方の個性は!?」

 

黒ずくめのアホな質問が飛んでくる。

勿論素直に答えるつもりは━━━━。

 

「俺の個性は透化!!発動中は、あらゆる物をすり抜けられる!!━━━っ!?」

「私は火を吹く個性と引き寄せる個性!!口から火を吹き、物を引き寄せる事が出来る!!━━━━━━ぬぅっ!?」

 

またついて出た言葉に、私は漸く理解した。

これまでのそれは無理矢理出させられてたのだろう。これは恐らく心の中の言葉、考えを強制的に口に出させる個性。抵抗手段は不明。ただ、今の感じやその前の事を考えれば問い掛けるという発動条件ある可能性が高い。

 

「成る程。私達を引き摺り出したのは、こちらのお嬢さんの個性か━━━━厄介な。ミミック達をスルーしてきた以上、技量もあるのでしょうね」

「おい、ヘッタクソ!外してんじゃねぇ~や!酔っ払ってんのかァア!?」

「酔っているのは君だ」

「俺かぁあ、イイエテミョー!!タハハハ!おぇ」

「はぁ、もう黙って、私のサポートだけしていれば良い。この特別な私の、ね」

 

銃口が再びこちらを向き、天井にぶら下がってる奴がナイフを取り出してくる。

するとその二人の姿を確認した嘴まつげが通路の奥へと歩き始めた。続いてエリちゃんを抱えるコートのやつも。エリちゃんだけ回収しようとしたけど、頭と体がフラフラしててどうにも個性が上手く発動しない。

 

「さて、お前達は━━━━━」

 

何か言いたそうにしてる黒ずくめはスルーして、私は立ち去ろうとしてるその背中に、否が応でも届くように声を張りあげた。

 

「待てこらぁぁぁぁぁ!!エリちゃん置いてけぇ!!この短足短気糞ダサロリコン嘴まつげぇぇ!なにお持ち帰りしようとしてんだ!!ああん!?ネットに若頭は幼児愛好家って書くぞ!八斎會は幼児愛好家の聖地って書くぞ!!いいのぉ!?書くよ!本当に書くよぉ!あんたの写真付きのアカウント作って、一万冊のエロ本所有してるって暴露するからね!ついでに八斎會ロリコン政党結束するから!!あーーもしもし!発目!今から頼みがあるんだけど良い!?ちょっとネットに━━━━」

 

パァン、という乾いた音が鳴り、足元を銃弾がすり抜けていった。無線するふりしてゴーグルに当てた手をそのままに、そこへと視線を向ければ黒ずくめのマスク野郎がプルプル震えてる。寒いの?冷房効きすぎ?な、わけないか。

 

「貴様ァ!!若を愚弄するな!!若は幼児愛好家などではない!!若は偉大な野望を持っている!!お前のような小娘に、何が分かる!!」

 

めちゃおこ。怖いくらいおこ。

だけどおこなのはこっちも同じだ。

こっちだって、腸煮えくり返ってるのだ。

 

「あぁん!?分かってたまるか!!ばぁぁぁぁぁぁか!!あれが幼児愛好家じゃなければ、誰が幼児愛好家なんですかぁぁぁ!?監禁して悪戯してんのは知ってるからぁ!!はい通報ー!はい、アウトー!ヤクザとみせかけて、実はここ幼児愛好家の秘密結社なんじゃないの?へいへい、ロリコンビビってる!社会制裁にビビってるぅ!」

「ロリコンでもなければ、ビビってもいなぁい!!我々は、我々こそが支配する側の人間だぁ!!酒木ぃ!!」

 

怒鳴り声と共に銃のトリガーにかかった指が。

ナイフを持った腕が。

動き出す。

 

 

「ありがとう、ニコ。十分だ」

 

 

けれど、それより早く黒豆パイセンが壁に沈んだ。

 

 

次の瞬間、弾かれるように壁を飛び出したパイセンは、こちらを攻撃しようとする二人に拳を叩き込む。

瞬きする間も与えない、高速の連擊。

嵐のように鈍い音が響いた後、二人が力なく体勢を崩す。それと同時にぼやけていた頭がすっきりして、ふらついていた体に力が籠る。

 

 

「なんでっ、こん、な、動け━━━━━」

 

 

酔っ払っいの言葉を遮るように、黒豆パイセンの拳が再び二人を襲った。二度目の連擊。今度こそ意識が切れた二人が地面へと落ちる。

 

「酩酊どころじゃない感覚を、いつも味わっている。俺は特別じゃない、弱いやつだからね。━━━だけど、それでも、救うと決めた。笑顔を守ると決めた。ヒーローになると、決めた!だから、動けなくても動くのさ!!」

 

どぷん、と地面に沈んだパイセンは、また弾かれるように飛び出す。嘴まつげに向けて真っ直ぐ。

 

「治崎っ!!」

 

声に振り返った嘴まつげに拳を振り抜く。

嘴まつげには寸前でかわされたけど、拳を振り抜いた勢いを利用した回し蹴りはエリちゃんの体をすり抜け、コートの奴の顔面にクリーンヒット。鈍い声を溢しながら、コートの奴がエリちゃんを手離した。

 

「ニコ!!」

 

その声にすかさず引き寄せる個性で━━━コートの奴を地面に叩きつけてからエリちゃんを引っこ抜く。キャッチした後すぐはエリちゃんが目を見開いて驚いてたけど、ぎゅっと抱き締めればそれに応えるようにしがみついてくる。

 

「遅くなってごめんね。よく頑張った」

 

そう言って頭を撫でると胸に顔を埋めたまま、エリちゃんはぐずぐずと泣き出した。そして小さな声で、震える声で、危ない目に遭わせてしまった事を必死に謝ってくる。こんな時なのに、それでもこの子は私達の為に、涙を流してくれる。優しい子だ。本当に。

 

 

 

「━━━━戻って、こい。エリ。何度言ったら分かるんだ。お前は、そういう事を望むべきじゃない。そんな資格ないだろう。何人、不幸にしてきた」

 

 

 

響いてきた嘴まつげの声にエリちゃんの体が震えた。

胸元から僅かに覗く顔が酷く青ざめてる。

 

 

 

「お前のつまらない我が儘のせいで、また俺は手を汚さなくちゃならない。また不幸な人間が生まれる。思い出せ、お前は人を壊す・・・そう生まれついている」

 

 

 

崩れていた体勢を立て直しながら。

頬を袖で拭いながら。

ゆっくり、身を屈めていく。

 

 

「行動一つ一つが人を殺す━━━お前は呪われた存在なんだよ」

 

 

地面に伸びる掌が視界に映る。

その光景に嘴まつげの言葉で熱くなっていた筈の脳が急速に冷えていき、脳裏に目の前の男の個性の情報が過っていく。『オーバーホール』触れた物を分解・再構成するという、何でもありなその個性の情報が。

 

「パイセン!」

「ニコ行け!!彼女を外へ!!俺は━━━━━」

 

エリちゃんを抱き締め、引き寄せる個性をフルスロットルで発動。後ろの通路へと体を全力で引っこ抜く。

私がその場を退いた瞬間、地面が粉々に砕け散る。

 

「━━━━━ここで、治崎を捕らえる!!」

 

粉塵の海を突き進んでいくパイセンの姿に背を向けて、私は引き寄せる個性で更に加速。

元来た道を進んだ。

 

「ふたこさん!わた、わたし・・・!」

「大丈夫!!あの黒豆みたいな目したパイセンね、腹立つことに私でも勝てないから!」

「かてな、い・・・」

「ちょー強いってこと!!私らがいなかったら、絶対に勝つ!だから、逃げるよ!!」

 

エリちゃんが頷いたところで、大きな音が通路に響く。

振り返ればさっきまでいた所がコンクリートのトゲで塞がっている。パイセンの姿はもう見えない。

 

「本当、お願いしますよ。パイセン」

 

私はゴーグルが記録してきた地図を頼りに進む。

まだ僅かに聞こえる、パイセン達の戦闘音を耳にしながら。



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予定というものはちゃんと決めれば決める程、予定通りに進まないものだけど・・・流石にこれは酷くないですか神様、仏様、不沈艦様ァ!!の巻き

最近のヒロアカ、驚くことばかりや(´・ω・`)
まじか、ホリー。


エリちゃん救出!嘴まつげ監獄in!違法薬物回収!ヤクザ屋さん家・爆発☆四散!!仮免ヒーローニコちゃん大活躍!!テレビのワイドショーに引っ張りだこ!!連日ニコに迫る特番放送!ニコ関連商品販売!印税ガッポガッポ!!━━━━━という予定だったんだけど、現実はそう甘くはなかった。

 

 

 

淀んだ空気が流れる暗闇の中、銀の一閃が迫る。

殺意の籠ったそれは身を翻した私の自慢の髪を僅かに切り裂き、その残骸と共に宙へ銀の軌跡を描いた。

 

私はその光景を視界に捉えながら、怒声と共に殺意の元凶を蹴り上げる。

 

「邪魔っ!!すんなってぇの!!」

 

鈍い感触と共に人を蹴り上げた衝撃が足に伝わる。

目の前のそいつは蹴りの衝撃に確かに飛んでいくが、十字にした腕で的確に防いでおり、そのダメージは予想より下回っているだろう。

それこそ僅かな時間で体勢を立て直し、反撃してくるレベルで。

 

案の定、そいつは手にしたナイフを投げ飛ばしてくる。

向かってきたそれを拳で叩き落としてる間に、崩れていた体勢を整えたそいつは二本目のナイフを取り出し切っ先を向けてきた。

 

「邪魔なのは貴女の方です。なんでこんな所に、いるのでしょう?私は暇な貴女と違ってとっても忙しいので、その背中のを寄越してさっさと死ぬなり、尻尾まいて逃げたりしてくれませんか?」

「はぁぁぁん?寝ぼけたこと言ってると、二度とその腹立つニヤケ面出来ないように、原型留めないレベルで顔面ボコボコにしますわですわよ。あんたこそ"また"尻尾まいて逃げれば?お得意でしょぉお?」

「やっぱり、私貴女嫌いです」

「奇遇、私も嫌い」

 

黒豆パイセンと別れて地下道を駆ける事少し。

音もなく気配もなく、突然こいつは現れた。

ヴィラン連合のど腐れアホ女だ。

 

協議の時にこいつらが関わってるかも~なんて話は聞いてたけど、まさかここで邪魔してくるとは思わなかった。狙いはエリちゃんっぽいし、ここにいて余裕ぶっこいて襲撃してる以上、どんな形であれヴィラン連合がヤクザとお仲間なのは確定だろう。少なくとも、今は。

 

「あんた、あんた・・・・えっと、なんだっけ、と、と、とぐろ━━━━━」

「・・・トガです。何ですか、そのニョロニョロしてそうな名前。殺しますよ」

「似たようなもんでしょ。くねくねくねくね地面這いずり回ってさ。で?ヴィラン連合のあんたが、ここで何してん?あぁ、あれか!性格悪過ぎでクビになったんでしょ!分かる分かる!あんた協調性とかなさそうだもんね!あははっ、それで三下やくざに拾われて転職と・・・はははっ、うけるー!どこまで堕ちるわけ?たはー!!」

「ムカっ!!違いますぅ!トガは━━━━っち、油断も隙もあったものじゃありませんね。このカス女」

 

ポロっと何か言うかと思ったけど、流石にそこまでアホじゃないか。やっぱりこいつ頭は良く回る。それに腹立しいくらい目も良い。さっきから引き寄せる個性を発動しようとすると、こっちの気を逸らすような攻撃したり、フェイント交じりに移動してくるから狙いが定まらず出力が安定しない。こいつじゃなければ、最初の一撃で地面か壁にめり込ませてノックアウトしてるのに。たく。

 

「ふ、ふたこさん」

 

アホ女の動向を窺ってると、背負ったエリちゃんが不安そうな声をあげた。首に掛かってる腕を撫でながら「大丈夫」と伝えれば小さな返事と共にぎゅっとくっついてくる。

 

そんな私達の様子を見て、アホ女が差し向けてたナイフを下げて思い切り脱力する。そんな仕草なのに相変わらず隙がないのは忌々しい。試しに指を動かしてみれば、どちらにでも動けるよう足が僅かに開く。

 

「━━━━はぁ、少し興醒めですかね。やるならやるで、それ下ろして貰えません?こっちも攻撃しづらくてしょうがないんですよ。貴女もそうでしょう?さっきから動きにキレがありませんよ」

「残念。あんたみたいな雑魚助と違って、努力する完璧超人の天才ニコさんにはこの程度ハンデにもならないんだなぁ~。それにあんた程度のへなちょこ攻撃、この子に当てさせるわけないでしょ?なんなら三味線もひいてあげよっか?持ってないけど」

 

とは言ったものの、実際問題エリちゃんを背負ったまま戦えるほど生易しい相手でもない。あいつの狙いがエリちゃんである以上、一旦置いて戦うのは論外。隙をついて連れ去られる可能性が高い。目の前のこいつもそうだし、さっき私達を襲った妖怪コンクリ七変化が横からかっらさってくるかも知れない。まだ潜伏してるやつだっているかも知れない。不確定要素が多すぎる今、それは悪手だ。

 

かと言って、このまま徒に時間を使うのも宜しくない。戦闘はなるべく避け、何とか撒く必要がある。

 

せめて誰かと合流出来てれば、それに輩の相手押し付けてトンズラこけるんだけど・・・・ゴーグルに浮かんでる七三や包帯先生の反応は、この糞迷路の中では近いとは言い難い距離。あっちもあっちで妨害受けてるだろうし期待は出来ない。

 

 

ならもう仕方ない。

予備がないから、ギリギリまで使いたくなかったけれど、ここらが使い時━━━━。

 

 

「とっておき、あげる!!」

「━━━っ!」

 

 

━━━通路を塞ぐように炎を吹きつける。

タメなしの炎にアホ女を退かせる威力はない。

けれど、一瞬の隙さえあれば良い。

 

ホルダーの留め具を外し、ベビースターを射出。狙いは勿論、炎の先にいる目障り極まりないアホ女。

だけど個性の対象はアホ女ではなく、アホ女が炎の壁に消える寸前までいた真上の天井。

 

 

この一発は、それでもお釣りがくる。

 

 

「エリちゃん、ぎゅぅぅ!!」

「っっっっっ!!」

 

 

私の声にエリちゃんが背中へ顔を埋めてしがみつく。

エリちゃんの感触を確かめながら引き寄せる個性で一気に後退し、そのまま通路の影に飛び込んだ。

 

瞬間、射出したベビースターが炎の中に飲み込まれ━━━━閃光が通路中へと走った。

 

 

ニコちゃん108の必殺技━━━━Extra。

『喚んで楽しいニコニコ召喚術・爆殺卿』。

 

 

 

「BAN!」

 

 

 

轟音と共に爆風が巻き起こる。

アホ女の短い悲鳴が聞こえたような気がしたが、直ぐに轟音にかき消された。爆発の衝撃でゴーグルが突然のショート、視界が真っ暗になって何も見えない。分かるのは肌から伝わってくるヒリつくような爆炎の熱、吹き荒れる突風が吹き飛ばしてくる礫の痛みだけ。背中のエリちゃんを庇いながら耐える事少し、それが終わりを迎えた。

 

様子を見にゴーグル外して通路を覗き込めば、ボロボロに崩れた天井と黒焦げた残骸が転がってるだけ。あいつの姿は見えない・・・・けれど、何となく何処かでピンピンしてる気がする。

 

「ふたこ、さん、おっ、終わったの・・・?」

 

恐る恐ると言った様子で聞いてきたエリちゃんが肩の所から覗いてきた。大丈夫だと伝えようとしたけど、それより早くエリちゃんが目を見開いた。

 

「ふたこさんっ、顔っ、け、ケガしてっ!」

 

言われて触れて見れば、何かで切ったのか頬の所から血が流れていた。探ったらちらほら血が出てたり火傷してたりしてた。触ったらちょっと痛い。

 

「あー、ビシバシなんか当たってたからね。まっ、OKOK。いつもの事だから。それよりエリちゃんはOK丸?痛い所はない?無茶させてごめんね。ビュンビュン振り回されて気持ち悪かったでしょ」

「わっ、わた、しは、大丈夫だ、よ。でもっ・・」

「わっはは。心配してくれてありがと。でも私こそ大丈夫。エリちゃんと違ってバリバリ鍛えてるし、何より学校に帰ればチートばぁちゃんが完璧に治してくれんのよ。しかも、タダで━━━━━だからね、自分がいなかったらとか、そういう事考えちゃ駄目だよ」

 

俯きかけていたエリちゃんにそう言うと、弾かれるように顔があがった。

そしてその潤んだ赤い瞳に私が映りこむ。

 

「誰がなんて言おうと、私は不幸なんかじゃない。エリちゃんが側にいてくれて嬉しいし、楽しいし、幸せだよ。証拠にほら、こんなに笑えてる━━━━それともエリちゃんは嫌?私と一緒にいるのは好きじゃない?」

 

意地悪だと思いながらもそう聞けば、エリちゃんは弱々しくだけど首を横に振ってくれる。小さな声だったけど「一緒の方が良い」とも。

 

「言ったね、それじゃエリちゃんも頑張ってね。親友の私一人だけ頑張るなんてズルいもんね?」

「えっ、あっ、がんばる・・・でも、わたしなにも」

「ええっ!?じゃさっきのは嘘!?ショック!ニコちゃんショッッッッック!!はー、傷つくわぁ!親友に裏切られて傷つくわぁ!」

「あっ、あ、あの、がっ、がんばる!」

「よし約束ね!私も頑張る、エリちゃんも頑張る!それでおあいこ!まずはしっかり掴まること!」

 

そう言えばエリちゃんは慌てて体にしがみついた。

分かりやすく頑張ってくれるようで助かる。

記憶してるルートに向けて駆け出そうと足を踏み出した時、不意に床が大きく傾いた。暗がりの廊下に目を凝らせば通ってきた道が塞がっていくのが見える。

 

 

『見つけた』

 

 

何処からともなく響く声が鼓膜を揺らす。

即座に反転しようとしたが、来た道がコンクリで塞がれている。後はもう強行突破しかない。

 

 

「━━━━っち!やっぱ、時間掛け過ぎた!あのくそ女ァ!!」

 

 

息を限界まで吸い込み、コンクリを消し飛ばす為のルージュブレスの準備を始めた━━━━が、それより早く地面が大きく傾いてく。ブーツのスパイクで地面に体を固定したが、刺した側からぐにゃついて体勢を整えるのもままならない。

 

「ふたこさん、あっ、あれっ!」

 

エリちゃんの声に視線を向ければ、傾いた廊下の壁に穴があった。人一人簡単に入るような大きな穴。果てしなく嫌な予感するが抵抗手段がない。

次の瞬間には押し潰すように迫ってきた壁に押され、その穴に突き落とされた。

 

落下しながら入ってきた場所を見上げるが、既に塞がっていて帰る事は出来なさそう。ルージュブレスなら穴を空ける事も出来ると思うが、密閉された空間で使うにはあの技はリスクが高過ぎる。なによりあの妖怪コンクリ七変化がきてしまった以上、壊しても直ぐに再生されておじゃんになるのが目に見える。相手が無理してるのなら耐久戦を仕掛けても良いが、決着がつく前に敵の増援がくる可能性も否めない。

 

仕方ないので引き寄せる個性で減速しながら坂を下っていく。しがみつくエリちゃんの様子を確認しながら少しずつ下りていくと大きな空間に出た。廊下というより部屋のように見える。

 

 

 

 

「おぅ、何だか賑やかだなぁ。今日はよ」

 

 

 

 

地面に降りたって直ぐ、低い男の声が聞こえた。

視線をそこへとやればまたマスクを被ったやつがいる。

今度は顔全体を覆う系の鳥っぽいマスク野郎。

 

筋肉が浮かび上がるぴっちぴちのシャツを始め、ガタイの良さや拳に装着されたグローブをみれば、小細工を弄する系じゃなくガッチガチのパワー系。

明らかに近接戦闘よりのやつだ。

 

「女ってのはちと頂けねぇーが、オバホの命令だからな。ぶん殴らせて貰うぜ」

 

男はそんな事を良いながら肩を何度かグルグルと回し、怒声をあげながらこちらに駆け込んできた。エリちゃんの体を押さえながら、引き寄せる個性で体を横へと引っこ抜く。直後轟音と共に拳が目の前を横切っていった。一発じゃない。瞬きする間に、数えただけで三発以上。

 

「はっはっ!!初見でかわすたぁやるなぁ!!面白れぇ!!女だからって手加減はいらねぇよなぁ!!」

 

男がこちらに向かって構え直した所で、溜め込んでたそれを吐き出した。

 

 

 

ニコちゃん108の必殺技。

『ルージュブレス』

 

 

 

思い切り吐き出した紅の炎は、狙った肩の関節に向かって空気を焼きながら進む。ダサマスクの筋肉すら貫いた攻撃。当たればまず間違いなく無力化出来る。

男はそれを見て笑い声をあげると腕をグルグルと回転させ始めた。迎撃する気満々。知らないって怖い。

 

 

「飛び道具ってのは好かねぇが、ごっついの持ってんじゃねぇか!!面白れぇ!!女にしとくにゃ勿体ねぇぜ、ってぇなぁぁあ!!!」

 

 

拳を振り被った瞬間、炎と拳の間に半透明の膜が現れた。甲高い音が響き、男の拳が弾かれる。私の炎は多少時間が掛かったものの膜を突き破ったが、直ぐ様新しい膜が現れ防がれた。そのまま三枚突き破った所で、炎が膜の表面を焦がしながら霧散して消えていく。

 

「油断大敵、だ。乱波。俺が防がなければ、その自慢の腕・・・・ほぼ間違いなく焼き切れていたぞ」

「うるせぇよ、天蓋。・・・・それより早く、俺の拳が炎なんざかき消していたっつんだよ」

 

男はその光景に分かりやすく落胆し、後ろに振り返った。そこには和服を着た、目を瞑る嘴マスクマーク2がいる。本当、ここはマスクだらけか。

 

「戦いは常にクールに、私欲に溺れるな。オーバーホール様の言い付けを忘れるな。相性は良好。我々のコンビネーションで確実に処理するんだ」

「っち、んどくせぇ・・・・何だっけかぁ?あぁ、エリとか言うガキ回収しろってやつか。まぁ、良いか。じゃぁ、あっちの女の処理は俺の好きにして良いんだよな」

「元よりそのつもりだろう。好きにしろ」

 

意気揚々とこちらに向かってくる腕グルグル男と糸目マスクを眺めながら、私は心の底から溜息を吐いた。

 

「次から次へと・・・・ここテーマパークだっけぇ?」

 



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最近のヒロアカの暴露大会に、若干恐怖を覚えるこの頃。頑張ってタイトルを考えました『憧れの先』閑話の巻き

ヒロアカの映画まで間近でやんす。
楽しみな反面、新しい設定の出現に身震いでやんす。
怖いよぉ((( ;゚Д゚)))


誰もが個性を持っているこの時代、ヒーローに憧れてヒーローを目指すのなんて大して珍しい事じゃない。物心ついた頃には俺もテレビが流すヒーローの活躍に夢中で、ヒーローのフィギュアを片手に食い付いるように眺めていた。そして将来の夢はと聞かれれば『ヒーローになるんだ』と決まり文句。

 

だけど、現実っていうのは思っているより厳しかった。ヒーローの世界っていうのは俺が考えていたより才能がものをいう世界だった。

俺より強いやつは幾らでもいて、俺より賢いやつは幾らでもいて、俺より優秀な個性持ったやつは幾らでもいて━━━━━俺より勇敢なやつらは幾らでもいた。

 

そんな現実に挫折したし、後悔したし、諦めようとした。けれど、やっぱり、それでも諦められなくて・・・俺は夢を追い掛けてまた走った。

 

走って、走って、走って。

 

そしてその先に、俺は━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーかん!ここも外れや!どないなっとんねんほんま!自分の屋敷の地下室迷路にするとか、どないな趣味しとんねん!テーマパークにでもするつもりやったんか!八斎會の楽しいヤクザ迷路パークってか・・・あほか!!なんもおもろないねん!」

 

忌々しげにそう吐き捨てファットガムは壁を殴り飛ばした。ズン、と重い音が響き部屋が僅かに揺れ、パラパラと天井からコンクリのカスが落ちてくる。背中からでも伝わる怒気に思わず拳を握ってしまう。

苛立つ理由は分かる。俺だってそうだ。あの時誰よりも側にいたのに止められなかった。あいつがどんなやつなのか、爆豪から何度も聞かされていたのに。そういうあいつの姿を何度も見てきたのに。

 

緑谷と別れてからもう十分以上経ってる。迷路のようなそこを複数のチームに分かれて探っているのに、未だに誰も合流したって連絡もなければ、俺達も痕跡すら見つけられていない。それが酷く心をざわつかせる。

あいつの強さはよく知ってるが、それでも相手は暴力の専門家。しかもここは敵のテリトリーだ。不利な条件が重なるここで、あいつが無事である保証は何処にもない。

 

「・・・・っくそ」

 

迷路の先でようやく部屋らしき場所に辿り着いたけど、そこに大した物は置いてなかった。地下室の入口のような隠しドアを探っているけど、今の所それも見当たらない。勿論あいつがいた痕跡もだ。

 

俺は調べていた場所に異変がない事を確認してから、ファットガムへと向き直った。

 

「ファットガム、こっちもなんもないっす!」

「スカっちゅーとこか。しゃーないな、一旦引き返えして皆んとこ合流するで」

「合流っすか・・・・」

「せや。取り敢えず皆と分かれた道戻るで・・・どないしてん烈怒頼雄斗(レッドライオット)?何か気になる事でもあったんか?」

 

そう覗き込んでくるファットガム。

こんな時でも気にかけてくれてるが分かる。

だからだろう、俺はその脳裏に過った言葉をはいていた。

 

「なんか、なんか他にっ、出来ること・・・ないんすか!俺にっ!」

「切島くん・・・・」

「何でもっ、言って下さい!!何でも、俺やります!!俺っ、頭馬鹿だからっ、何も思い付かなくてっ、でもっ、ファットガムなら、なんかっ、なんかあるんじゃないっすか!サンイーターみたいには出来ないと思います!!でもっ、任せて貰えるなら!俺はきっとやり遂げます!!」

 

ファットガムが安全な道を選んでくれてるのは分かる。経験の少ない俺の分も警戒してくれてるのも分かる。

守られている、その事は。

 

でもそれは仕方ない事だ。

今の俺には、ファットガムの前に立って走れる程の能力がないんだから。どれだけ嘆いても、それは変わらない。

 

だけど、こんな事であいつを見つけられる気がしないのも事実なのだ。敵は徹底的に時間を稼ぎにきてる。今こうして道に迷わせられてるのが、戻らせるのが相手の狙い通りなら、そんな時間あっちゃならねぇ筈なんだ。

 

サンイーターみたいに。

ルミリオンみたいに。

あいつみたいに。

 

俺は馬鹿だから。

もっと、人より動かなきゃ駄目なんだ。

 

俺は強くないから。

もっと、人より無茶しなきゃ駄目なんだ。

 

こんな事じゃ駄目なんだ。

ヒーローになるなら、もっと何かしなくちゃ━━━━俺は━━━━。

 

 

 

「お願いします!!多少無茶でもっ、何か━━━━」

 

 

 

バシッと、両肩を叩かれた。

痛みに顔をあげればファットガムに両肩を掴まれていた。眉間にしわを寄せた顔でジッとこっちを覗いてる。

 

「気持ちは分かった。痛いほど、バシバシ伝わったわ。せやけど、あかん。たとえ仮に君が無理してどうにかなる状況やったとしても・・・・俺はそないなこと君に提案せえへんで」

「なんっ・・・・俺っ!」

「ヒーロー同士、仲間やからな」

 

言われた言葉に、俺は声が詰まった。

 

「ルミリオンもそうやし、ニコの事も同じや。仲間や。せやから皆心配しとる。無茶な行動に怒りもする。何でか?仲間やからや。・・・それやのに仲間の一人である君に無理させて、そんで怪我でもさせたら意味ないねん。ヒーローは綺麗事を実践するんが仕事や。あの子らも、そして君も、全員が無事で終わらな意味ないねん。分かるやろ」

「分かってますっ、それが一番なんだって事は。でもそれは・・・・」

「せやな、ただの綺麗事や。世の中全部が全部上手くいく、なんて都合の良いことあるわけあらへん。最悪だってあるかも分からん。せやけど、それでも、ヒーローならこんな時、誰よりも冷静にならんとあかんで。救えるもんも救えんようになってまう。一旦落ち着きぃーや。はい、深呼吸ーすぅてぇーはいてー」

 

促されるまま深呼吸すれば、視界が少しずつ開けて見えてくる。頭の中を渦巻いてた嵐のような感情が、少しずつ静かになってくのが分かる。

 

そうしてると、ファットガムが肩においた手を外した。

 

「少しは冷静になれたか?ええ顔や。切島くんのその頭の切り替えの早さは美徳やな。うんうん」

「あっ、いや、別にそういう訳じゃ・・・ないんすけど」

「あの時もやけど謙遜することないわ。君は自分が思うてるほど馬鹿でもないで。ちゃんと周りが見えとる。だからこそ、あの時君は守れたんや」

 

そう言われて、大阪での事が頭に浮かんだ。

ありがとうと感謝された、あの日のこと。

 

「それは・・・でもあれは、たまたま相性が良かっただけで」

「相性が良かったから、君はあの人らの前に立ったんか?ちゃうやろ。そない安い気持ちで、いざゆー時に人は人の為に動かれへん」

 

不意討ち気味に背中を強く叩かれた。

痛みにこらえながらファットガムを見れば、丸顔に笑みを浮かべて口を開く。

 

「なんでそんなに自信ないんか分からんけど、胸を張りぃや。俺ん中で、君はもう、一人のヒーローやで。頼りにしとる」

「ヒーロー・・・・っ、うっす!━━━━━っ!?」

 

 

返事を返した直後、馬鹿デカい音が聞こえてきた。

振動もハンパではないし、吹き込んでくる風に焦げ臭さも感じる。爆豪との特訓でよく知ってる感覚。何かが爆発した時に起こる━━━それだ。

 

一瞬爆豪がきたのかと思ったけど、直感的に『違う』と本能が伝えてくる。それに従って考えてみれば、直ぐその理由が分かった。爆豪ならこの程度で終る訳がないから。聞こえてくる筈なんだ。他の爆音が。

 

「きりっ、烈怒頼雄斗!!行くで!!どないなってるか分からんから警戒━━━━」

「ファットガム!!完全に勘っすけど、これ緑谷のやつっす!!あいつ確か、爆豪から爆薬貰ってた!!移動中の車ん中で、危ねぇから止めろって言ったの、俺覚えてます!!あの量なら、多分・・・・!」

「ほんまか!なら、敵と交戦中ってことか・・・・今の音聞いて敵の方も寄ってくるかも知れんな。味方も散らばっとるし、あんましたないねんけど・・・しゃーない、ちと無茶すんで!!付いてきぃや、烈怒頼雄斗!!」

 

ファットガムは自分の体を何度か殴りつけた後、勢いをつけるように思い切り腕を回して━━━壁に拳を叩き込んだ。

 

凄まじい音が部屋に鳴り響く。

そして拳のめり込んだそこからヒビが入っていき、コンクリの壁を粉々にして吹き飛ばす。

 

「はっはっ!どないや!吸着させて集めた、俺のパンチの衝撃は!!なんぼもでけへん必殺技やけどな!!こないな壁、ものでもないで!!」

 

壁の先に広がっていた通路に踏み込みながら、ファットガムはまた自分の体を殴りつける。

 

「烈怒頼雄斗!!目標まで最短行くで!!他のヒーローは兎も角、ちとエリちゃんの事が気に掛かんねんけど・・・ここまでの敵のやり口考えたら、近くにエリちゃん放置っちゅー事はあらへんやろ!!ただ何があるか分からん!!いざというときは庇ってや!!勿論、出来る範囲でや!!」

「すいません!ファットガム!!俺、それには返事出来ないっす!!やっぱり俺は・・・・・仲間の為に体張るのが、誰よりも前に出るのが!!俺の出来る事なんで!!無茶させて貰います!!」

「ははははっ!!悪い子やな!!━━━まぁ、ええで!好きにやってみんかい!!これも経験や!!ただぁし!引き際だけっ、間違えたらあかんからなぁ!!!」

 

再びけたたましい音が響き、コンクリの壁が吹き飛ぶ。

だが今度の壁は厚く、別の空間には繋がらない。

けれどファットガムは気に留めることなく、同じ要領で自分の体を殴り付けてから拳を壁に叩き込む。

 

二度目の攻撃で大きくヒビの入った壁はガラガラと崩れ、今度こそ別の空間が見えた。

 

「っち、まだか!思うたより遠いな!!」

 

ファットガムは走りながら次の壁を目指す。

そしてまたさっきと同じように、ファットガムが自分の体を殴りつけようと拳を振り上げる。するとそこに赤い血が滲んでるのが見えた。

 

「ファットガム!!拳がっ・・・!」

「問題あらへん!!皮膚がちっと切れただけや!!骨もいっとらん!!それより今は急がなあかん!!とっておきつこーたなら、それなりにピンチっちゅうことや!!」

 

怒号をあげながら壁を叩き壊す姿に、思わず苦笑いしてしまう。俺を安じて声をかけてくれたのに、その本人がこれなのだから。━━━でも、それが俺には羨ましかった。

 

考えるより先に・・・俺には出来ない。

俺はいつだって考えてしまう。

あの時だって、それだけの余裕があっただけなんだ。

 

 

 

 

「烈怒頼雄斗!!この先何か聞こえたで!!」

 

 

 

 

追い掛けていると突然そんな言葉が掛かった。

拳を構えるファットガムを視界に捉えながら耳を澄ませば、確かに壁の方から何かが聞こえる。

 

「━━━ちっ!流石に殴り飛ばすのはあかんなっ、味方巻き込むかも知れん!!何処か入れるとこないんか!?」

「ファットガム、だったら俺が!!」

「むっ!?自分なんかあるんか!?」

 

ここの壁の厚さは分からねぇ。

でも俺ならファットガムより、適切な穴が開けられる。当然壁の先に与える影響は小さい。時間だけは少し掛かっちまうが。

 

烈怒頑斗裂屠(レッドガントレット)』ッッッッ!!

 

心の中で必殺技の名を呼びながら貫き手を叩き込む。

拳と違って伝わる衝撃は小さい。けれどその一撃は確かにコンクリを貫いていき、別の空間へ掌を届かせた。

直ぐに手を引いて、俺はそこ目掛けて声をあげた。

 

「俺達はヒーローだ!!そこに誰かいるなら離れてくれ!!次はもっとデカイ穴開ける!!五秒後に行くぞ!五ッッ━━━━━」

 

 

 

 

「おねがいっ、たすけて!ふたこさんがっ!」

 

 

 

 

聞こえた声に、二発目の拳を叩き込む。

拳を叩き込んだ場所から貫通した穴へと、深い亀裂が繋がっていく。三発、四発、五発と重ねていけば亀裂は更に深くなり壁が崩れ始める。

 

「誰かしんねぇけど離れてくれ!!突き破る!!」

 

全身を最大硬化して全体重を込めて壁へとタックルをかませば、俺の体は隣の空間へと入り込む。

そこで周囲を見渡せば直ぐ近くに白い髪の女の子がいて、弱々しくある方向へ指を差した。

 

視線をそこへと向ければ、緑谷と大柄の男が見えた。

見た瞬間直ぐに分かった。緑谷の動きにキレがない。特訓中、一度として俺が攻撃を当てられなかった姿は何処にもなかった。僅かにでも遅れれば、その攻撃の勢いから致命傷は避けられない。直感的にそう思った。

 

「━━━っぬぅ!?あれっ、あかん体詰まった!抜けられっ・・・・ちょっ、烈怒頼雄斗!!あかん、一人でいったら!!」

 

だから、だろうか━━━━。

 

 

 

 

 

 

「ニコッッ!!」

 

 

 

 

 

 

━━━俺の足が駆け出して止まらないのは。

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━ははっ、狙ってきてんの!?レッドライオット!!」

 

 

 

 

 

 

緑谷の掌がこちらを向いたのを見て、俺は全身を硬化させた。全身全霊の全力最大硬化。

今俺が出来る、最大最硬。

 

安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)』!!

 

俺の姿を見て緑谷が笑う。

あの顔は死ぬほど無茶させる顔だ。

だけど何処までも信用してる顔でもある。

 

 

 

そうだ、俺は━━━━━あの顔に急かされた。

 

 

 

あいつはいつもそうやって笑う。

お前なら出来るだろって、当然のように頼ってくる。

なら、応えたいだろう。漢として。あの目に失望されたくねぇんだ。

 

だってあいつは、俺のヒーローだ。

 

誰よりも前を走る。誰よりも無茶をする。

そして誰よりも戦って、救う。

俺の目指した先にあいつがいる。

 

だから、ここで引く訳にはいかない。

無茶でも、無謀でも。

そこに追いかけたい背中があるんだから。

 

 

 

地面を蹴ると同時、体が弾かれるように飛ぶ。

緑谷と交戦していた男に向かって。

 

 

 

「あぁ!?なんだ、良いところなんだ!!邪魔すんじゃねぇよ!!」

 

 

 

拳が振り上げられる。それが怖くないとは言わない。怖いさ。なにせ戦う様子を見て分かったから。

男の一撃は重い。恐らく俺が受けたことがない程の威力だ。下手したら爆豪の必殺技を超える程の、必殺も必殺。だから怖くない訳がない。

だけどそれでも、不思議と引く気は起きねぇ。だってあいつの目が信じていた。俺を。俺の硬さを。

 

 

「ぬうおおおぉぉぉぉッッッッ━━━━━!!!」

 

 

女とは思えない緑谷の野太い声が鼓膜を揺らす。

怒鳴り声が響く中、速度は更に加速していく。

景色が線へと変わる。

 

直後、激しい衝撃が頭に走った。

目の前がチカチカするが、それと同時に短い悲鳴と何が折れる音が鼓膜を揺らす。何とか視線をそこへと向ければ、腕を押さえうめき声をあげる男が見える。

 

 

「!?まさかっ、乱波が押し負けただと!!くっ、不味い!!バリアを━━━━ふっぺッッッッ!?」

 

 

汚い悲鳴に視線を移せば、股間を押さえて踞る別の男がいる。近くに転がる瓦礫も。

大体想像がついたせいか、無事な筈の自分のそれもヒュっとした。

 

「くくっ、はははは!!面白れぇなぁ!!今日は!!次から次へと、なんだ祭りかなんかか!!最高じゃねぇか!!もっと戦おうぜ!!まだやれるよな!!戦えんだろ、あ゛あ゛あ゛ん!!」

 

白い何かが突きだした腕をブラブラさせながら、男が無事な左腕を力強く振り上げる。横目に緑谷を見たが援護が出来るようには見えない。

それで、腹は決まった。

 

「こいやぁ!!!」

 

気合いを入れ直し構える。

すると男の拳が振りかぶられた。

始まる嵐のような打撃。直ぐに受けた拳の数も分からなくなった。耳に響くのは拳圧が巻き起こす風の音。瞳に見えるのは拳の残像。体に感じるのは拳を叩き込まれた痛みだけ。

 

「━━━っつははっ!すげぇな!!なんで立ってられる!!ははは!!最高だぜ!!本当にっ、たまんねぇ!!お前!!最高のサンドバッグだ!!」

 

だけど、だけどだ。

耐えられる。

まだいける。

 

「おまえ!!良いな!!」

 

割れた側から硬めていけ。

硬め続けろ。

俺は盾だ。

 

 

「俺は━━━━━━守るヒーローだ!!!」

 

 

拳へと頭突きを叩き込んだ。

衝撃で頭がふらつく━━━けどそれは男も同じ。

弾かれた腕を見て歯を食い縛ってる。

 

だけど、それが限界だった。

立っているのがギリギリで、腕にも足に力が入らない。息をするのでやっとだ。

 

 

「ははっ!良いぜ、てめぇからぶっ殺してやる!!しっかり受け止めろ、飛び入りの!!守るヒーローさんよぉ!!」

 

 

ぼんやりする意識の中、拳を振りかぶる男の姿が見えた。耐える為に体に力を込めたが、少しも硬化しない。

もう駄目かも知れないと考えが頭を過った時、体が後ろへと引っ張られた。よく知ってる感覚に、頬が弛む。

 

 

「ははっ・・・・そうこなくっちゃな。ニコ」

 

 

そう呟いた俺の前に黄色い影が割り込んだ。

まるで巨大な大砲のように。

空気を裂き、空を駆けて。

 

 

「━━━━いつまで、うちの可愛い後輩どついてんねん!!このダボがァ!!!」

 

 

轟音が空間中に響き渡った。

ファットガムの拳を叩き込まれた男の姿は一瞬で部屋の端の壁にまで吹き飛び、拳圧で巻き起こった砂埃がそれを隠してしまう。

 

微妙に細くなったファットガムに起こされていると、白い髪の女の子と手を繋ぎこっちに向かってくる緑谷が見えた。疲れの滲む顔で相変わらず笑ってる。

 

 

「とどめ取られてやんのー!ははは!」

 

 

こんな時くらい、と思わなくもない。

だけど緑谷らしい言葉に俺は拳をあげた。

 

 

「こんな時くらい、労えよ。ったくよ」

 

 

多分、ボロクソの顔に笑顔を浮かべながら。

 



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ヒロアカの映画を観にいって、取り敢えずヒーローズライジングをブルレで買う事を決めて書いた『未来を見つめる者達』の閑話の巻き

ナインが強すぎて、私が泣いた。
ちょっと待って、どうしたらいいの。
勝てへんわ、あんなもん。


「ナイトアイ!!少しは休まないか!!ずっと走りっぱなしだ!!もたないぞ!!」

 

背後から掛かる声に、私は腕時計を確認した。

別れてから十分以上掛かっている。

しかし未だに胸ポケットにスマホは鳴らない。

 

私は薄暗がりの通路を走りながら口を開いた。

 

「いや、先を急ぎましょう。刑事さん。休むのは全てが終わってからでも出来ます。今は先に進んだ彼女達が心配だ」

「それはっ、分かる!俺もガキがいる身だ!!でもな、さっきのヴィラン連合みたいな隠し戦力があるかも知れねぇ!!」

 

その懸念はある。

トゥワイスのように他の連中メンバーがいる可能性も、それ以外の特級の戦力が控えてる可能性もある。

だが、それでも私の勘が先を急げと急かしているのだ。

 

迷うことなく走り出した彼女の背中に。

我が事務所に見切りをつけ、助けると言って背を向けた彼女の背中に。

 

私は見た。

 

 

 

『私がっ、きた!!』

 

 

 

どうしようもなく憧れたあの人が見せてくれた。

輝かしいばかりの、それを。

 

見誤っていたのだろう。

曇りきった目で何も見ていなかった。

彼女は間違いなくオールマイトの弟子なのだ。オールマイトが認めた人物だったのだ。

 

「・・・・・ニコ」

 

名前を口にした時、胸元のそれが震えた。

足を止めて確認すれば、ファットガムの名前でメッセージと位置情報の載った画像が画面に映っていた。

 

メッセージは短く綴りられていた。

ニコとエリちゃんと合流した事。

ミリオがニコ達を逃がす為にオーバーホールと戦闘している事。

 

「はぁ、はぁ、なっ、ナイトアイ!誰からだっ!」

「ファットガムからです。先に向かったニコと要救助者の少女と合流したと。位置情報も添付されていました。それと現在オーバーホールとルミリオンが戦闘しているとの事です」

「本当か!!よし、お前ら!もうひと踏ん張りだ!ナイトアイ先導頼むぞ!取り敢えず、位置の分かる救助者達の元に!」

「勿論です」

 

刑事の言葉を受け、私は地図を片手に駆け出した。

 

 

 

「ニコ、ミリオ、もう少しだけ待っていてくれ」

 

 

 

口にした言葉はすぐ足音に消えていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

薄暗いその空間に酷く鈍い音が響く。

人の体を拳で打つ、その音だ。

 

目の前の男は焦点の定まっていない目で宙を仰ぐと、ぐらりと大きく体を揺らした。

そして力なくゆっくりと地面へ崩れ落ちていく。

 

テンプルへの渾身の右のフック。

何度もヴィランを沈めてきた一撃。

拳に確かな手応えもあった。

 

 

 

けれど、これで何度目か。

 

 

 

「━━━━透過、本当に厄介な個性だ」

 

 

 

声が聞こえた直後、地面が粉々に砕け散る。

攻撃の前兆に個性を発動させればコンクリートのトゲが波のように押し寄せていき、急所のある場所を的確に貫いていく。反応していなかったら即死の攻撃。思わず額に冷や汗が滲む。

 

畳み掛けられる前に一旦距離を空け体勢を立て直す。

その間に治崎はと言えば、倒れる所か悠々と服の乱れを直していた。苛立ちの宿る顔にダメージは感じない。

この掌には確かに手応えが残っているのに、だ。

 

「・・・・・腹の立つ話だ。お前達のような餓鬼にいいようにされている事も、何度も汚い手で触れられた事も、予定通り進まない事も、こんな手に出ないといけない所まで追い込まれている事も!!何もかも・・・!」

 

再び治崎の掌が地面に触れる。

一瞬で粉々に砕け散った床は、何十何百のトゲと形を変えて俺を囲む。切っ先の鋭利さは、治崎の殺意を伝えてくる。

 

だが、これで俺は止められない。

 

「何度やっても無駄だ!!治崎!!」

 

透過し地面へ沈む。

治崎の足元を狙い位置調整。

素早く個性を解除、体をそこへ向けて弾かせる。

 

 

「その名前を━━━━呼ぶなっ!!!」

 

 

勢いよく地面を飛び出した先に、治崎の掌があった。

触れる寸前で再び透過を発動。

体の中を治崎の腕がすり抜けていく。

 

通り過ぎ様、エルボーを顔面へ放ったが、これは予想されてたようで軽くかわされた。掠りすらしない。

だが、それは想定内。

 

エルボーを突き出した勢いで体を回転。

独楽を頭の中でイメージしながら体を縮めて腰を回す。小さく、速く、鋭く。全体重と遠心力を乗せた裏拳を治崎の顔面へ放り込む。

 

碌に回避行動が出来ない治崎はすかさず掌でヒットポイントをガードするが、その動きを読んでいた俺の裏拳はガードをすり抜け治崎の顔面だけを歪ませた。

 

 

「━━━━ぐっ!!」

 

 

手の甲に走る衝撃。感触。

仕留めた時のような手応えはあった。

けれど、これも何度目か分からない。

 

 

ふらつく治崎に畳み掛けようとしたが、不意をつくようにコンクリートのトゲが天井から落下してきた。あまりにタイミングが良すぎる。恐らく偶然ではなく、俺の行動を読んだ上で狙ったのだろう。

この攻撃自体はかわせたが、追撃のタイミングは逃してしまい治崎に個性による回復を許してしまう。

 

どうしても決められない、意識を刈り取る為の止めの一撃が。一撃、二撃攻撃を叩き込むのは幾らでも出来るのだが・・・いや、その攻撃ですら、今は治崎に打たされている気がする。証拠にこれだけ打っているのにも関わらず、戦闘不能になるような致命傷は全て避けられているのだ。

それに攻撃を当てる度、少しずつだが俺とのタイミングが合い始めてるのも気に掛かる。治崎は明らかにこちらの呼吸を把握してきてる。俺も治崎の呼吸を把握してきているのでお互い様ではあるが、その個性の殺傷性の高さを考えれば完全にタイミングが盗まれる前に決着をつけるべきだろう。

 

もっとも今回に限り、この時間経過は俺に有利に働く。何せサーや他のヒーロー達が後詰めとして向かってきている事は間違いなく、救うべきエリちゃんは緑谷さんが連れていってくれたのだから。

 

前情報が確かなら組の戦力で俺達は止められない。

事実、通路を伝ってたまに聞こえてくる戦闘音が段々と近くなってきてる。他の皆が順調にこちらに向かってるのは明白だろう。

時間稼ぎの兵隊を取り締り、直に後詰めのヒーロー達がやってくる。そうなれば治崎は集まってくるヒーロー達や警官への対処をしなければならず、そこに加えて俺達が保護したエリちゃんの捜索・及び身柄の確保しなければならない。

そして仮にそこまでどうにか行えたとしても、今度はエリちゃんを確保したままヒーローや警察の包囲網を破って逃走までしなければいけない。個性も所詮は身体機能の一つ。そこまで体力が持つ訳がない。

 

だから、ここで無理をする必要はない。

出来る限り変則的に攻めて、安全マージンを確保し続け、徹底的に時間を稼ぐ方が無難だろう。

 

そう、無難だ。

状況を考えれば考える程に。

 

けれど、俺にはそれが悪手に思えてならない。

あくまで勘でしかないが嫌な予感がする。

今倒すべきだと、頭の中で警鐘が鳴り止まないのだ。

 

 

 

だから、次で決める。

 

 

 

呼吸を整えながら治崎を中心に状況を確認する。

地形、空気の流れ、治崎の言動、気配。

全身で感じる全てを頭に叩き込む。

 

そしてこれまでの行動パターンを考慮し、最も起こりうる可能性の高い未来を探す。

無限の可能性の中から自分の命を預けられる━━━そのたった一つの答えを。

 

それは都合の良い未来じゃない。

それは不運に見舞われた最悪の未来じゃない。

導き出すの必然の未来。あるべくしてあるそれ。

 

予測、予測、予測、予測━━━━━

 

 

『次を常に考えろ、ミリオ』

 

 

━━━━━━予測。

 

 

 

「治崎、お前は強いよ。一介のヤクザとは思えない身のこなしだ」

 

 

 

俺の言葉に治崎は眉間にしわを深くさせる。

 

 

 

「でもね、俺の方が強い・・・!!」

 

 

 

握り拳を突き付けそう続ければ、額に大筋が浮かぶ。

 

 

 

「だから、最後にもう一度だけ警告する!もう諦めろ!抵抗しなければ手荒な真似も、不当な扱いもしない!俺がさせない!牢の中で、静かに自分の罪と向き合え!」

 

 

 

心からの本音を、想いを込めて伝えた。

だが、治崎の顔に浮かんだのは反省でも諦めでもなく、純粋なまでの怒りだけだった。

 

 

 

「いい気なもんだな、上から目線で説教か?・・・・そんな力を持っているから、そんな台詞を吐けるのか?病気だよ、お前も、あの小娘も、どいつもこいつも・・・・!!」

 

 

怒号と共に治崎の指が地面に触れる。

 

 

 

「だから、治してやるんだよ・・・・!お前らがすがる、全てを!!戻してやるんだ、この世界を!!俺のっ、手で!!邪魔をするなァ!!」

 

 

 

部屋中の地面と壁の表面が粉々に砕け散る。

舞い上がる粉塵を目に、俺は透過を発動した。

直後、部屋中から無数のトゲが、石柱が、ところ狭しと現れる。唯一の安全地帯は治崎の周囲のみ。

 

それを確認して、俺は地面へと体を沈めた。

 

沈みきった所で方向を調整。

角度を調整しながら個性を解除。

暗闇の中を駆ける。

 

弾き出されるように飛び出したのは、予定通りの治崎の真正面。手を伸ばせば触れられる、目と鼻の先。

それに反応して治崎の掌がこちらへ伸びるが問題はない。予測は出来ていた。反応する事も、逃げではなく反撃を選択する事も━━━━見えていた。

 

治崎の腕に被せるよう、透過した拳を振り抜く。

殺意を纏った掌が俺の顔をすり抜けた瞬間、実体化させた拳に鈍い感触が走る。くぐもった声が響く━━━が、手応えは浅い。死角からの攻撃とはいえ、速さに重きをおいてコンパクトに打った拳。僅かに怯ませただけだ。ダメージは低い。

 

けれど、それで十分。

 

「━━━汚いっ、手で!!触れるな!!」

 

払うように振るわれた右腕を左肘でカチ上げる。何も避けるだけが戦いじゃない。掌にさえ気を付ければそれはただの打撃でしかなく、理性を失った攻撃は隙でしかないのだから。

空を切った右の掌と目を見開く治崎の顔を視界に捉えながら、がら空きになった鳩尾へ右のアッパーを叩き込む。鈍い感触がめり込んだ拳から伝わってくる。

 

けれど、まだ━━━治崎の目は死んでいない。

 

苦痛に歪む声を聞きながら、再び透過を発動。

当然のようにくる反撃をかわしながら体を回転させ、全体重を込めて治崎の顔面へと後ろ蹴りを放つ。

 

衝撃と共に治崎の体が浮き上がる。

跳ね上がった顔の表情は分からない。

だが、直ぐ様俺の足に触れようとする治崎の手を見れば、意識を刈り取れていないのだけは分かる。

 

呼吸は、まだ持つ。

なら一気にここでありったけを。

畳み掛ける。

 

 

 

 

『ファントム・メナス』

 

 

 

 

治崎の動きを予測。

掌の軌道を読み、個性を発動。

反撃をかわし、こちらの攻撃を叩き込む。

 

何処までも冷静に。何処までも冷徹に。

ナイトアイから教え込まれた戦闘技術を、余すことなく叩き込み続ける。

 

その瞳から怒りの火が消えるまで。

 

「もう、諦めろ!!治崎!!」

 

拳が顔面へとめり込む。

 

 

「━━━━ざけっ、る、なっ・・・・俺はっ・・・!」

 

 

苦痛に歪む治崎の瞳から、燃え上がっていた意思が消えていく。

反撃しようと振り回されていた腕から、力が抜けていく━━━━━━。

 

 

 

「若ァっ!!」

 

 

 

突然、背後から男の声が響いてきた。

視線を向ければ地面を這いつくばりながらも、銃をこちらに構える仮面の男が見えた。先程、俺が倒した筈の"考えている事を喋らせる"個性持ちの男だ。

銃口の向きや角度から着弾位置を予測。必要部分のみ透過を発動。乾いた破裂音と共に飛んできた弾丸が体の中を通り過ぎていく。

 

「私がっ、時間を稼ぎます!!どうか先にっ!!貴方の夢を!!私に、見せて下さい!!オーバーホール!!」

 

引き金を引きながら男が叫ぶと、それに応えるよう天井から石柱が落ちてきた。思わず飛び退けてかわす。

こちらにダメージは無かったが、それより距離をあけてしまった事、止めを逃した事が痛い。

警戒されれば先程のように連打を叩き込むのは難しくなる。決めるなら今だった。

 

「オーバーホール!!あいつらがっ、ヴィラン連合が裏切りやがった!!」

 

天井から響く声に聞き覚えはない。

けれど銃を持っていた男が思わず「ミミック」と口にした事で、それが散々邪魔をしてきた入中だという事が分かった。

 

「回収したクロノから薬を奪われたとっ!!探したがっ、もう何処にもいねぇ!!野郎共っ!!俺達を!!」

 

薬という単語に、俺はようやく気づいた。

目を引くような派手な攻撃ばかりしていた理由。戦闘中にも関わらず、僅かなミスも許されないリスクの高そうな自分の修復をし続けた理由。

 

全て、薬を持たせた男を逃がす為の時間稼ぎ。

周囲を見渡してもみたが、やはりエリちゃんを抱えていた男の姿は何処にもない。

 

「━━━━ミミック、落ち着け。他に誰を回収した」

 

治崎の静かな声が響く。

先程までの怒りに満ちたものではない。

酷く落ち着いた声だ。

 

そのあまりの変わりように息を飲んでしまう。

 

「はぁ、はぁ・・・あ、ああっ、す、すまねぇ、居場所が分かりやすかった、活瓶しか回収出来なかった。エリと小娘は命令通り、乱波達の所にやったが・・・他は、何も。体力がっ、もう・・・・」

「活瓶をここに出せ。お前も側にこい」

「あぁ・・・・分かった」

 

落ちてきた石柱からぐったりとした大柄な男と肩で息をする男が現れる。恐らく肩で息をしているのが入中の方だろう。先程荒ぶっていた声と同じだ。

 

「早く治してやってくれ、こいつはまだ使える」

「ああ、心配するな。お前も、こいつも━━━━ちゃんと使ってやる」

「あっ?・・・・・ッッッぐぅ!!?なっ、にをっ、オーバーホールっ!!」

 

入中の顔面をわし掴みにして、治崎は底冷えするような声で続けた。

 

「オヤジの為だ。お前らの全てを、俺に捧げろ」

「っっ!止めっ、止めろ!!オーバーホール!!治崎━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

「その名で呼ぶな━━━━━━俺はこのイカれた世界を壊し、世界を治す。オーバーホールだ」

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━っ!!止めろっ、治崎!!」

 

 

 

 

 

 

俺がようやく声をあげられた時。

鮮血が飛び散った。

 

 

 



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バトル漫画的には奥の手を先に使った方が負けるけど、そもそも奥の手ってここぞで使う技なんだから使われた時点で必殺じゃない?怖っ。の巻き

ああああぁぁぁぁぁ!!エリちゃんにニッコニコで笑って欲しいのぉぉぉ!!


「いたたたたっ!!に、ニコっ!応急措置は、ありがたいんだけど、もうちっと優しく━━━━あたぁっ!?」

 

ぐるぐるヤクザと糸目ヤクザを蹴散らして少し。

切島と太っちょマンと合流出来た私は、先の戦闘で負傷した切島の応急措置をしていた。

本来なら合流した時点でトンズラこくつもりだったのだが、切島も死にかけで私もそこそこ疲れてたので最低限の治療をする為に小休憩を挟む事になった。

都合よく近場に休憩出来そうな部屋があった事。別メンバーと連絡をとった太っちょマンから、幹部の半数を捕らえたって話を聞いた事とかも、休む事を決めた理由の一つである。

 

「優しくして欲しかったらサービス料金払えー。私は看護師でも医者でもないんだから。━━━て言うかこんな超絶美少女に治療されてるんだから、そこは泣きながら感謝する所でしょ。あっ、その包帯とって」

「あっ?・・・・・・これか、おらよ。おい、根性ねぇこと言ってんじゃねぇぞ、烈怒頼雄斗。さっさと怪我治療して俺と再死合しろ。今度こそ、絶対に殴り殺してやっからよ」

 

「自分で美少女とかいうなよ。いや、まぁ、本当のことかもしんねぇけどさ・・・・・つーか、ニコ。隣の人の殺気がハンパじゃねぇのは止めようとか思わねぇ?ぶっちゃけ怖ぇんだけど」

 

言われて隣を見るとぐるぐるヤクザが鼻息荒く肩を回してる。右腕は相変わらずピクリともしない。反対の左腕は拳が負傷してる以外、一見すると元気そうに見えない事もないけど・・・・実際は切島に見えない足を生まれたての小鹿並みにガックガクさせてる。包帯取らせた時も明らかに体がふらついてたし、あんなに分かりやすい所にある包帯を認識するのに時間が掛かったから意識は朦朧としてる筈。戦闘中に把握したこいつの性格を考えれば、これが演技の可能性もないと思う。

だからまぁ、言動は兎も角、今のこいつは見た目怖いだけの安全施設解説ヤクザだ。太っちょマンに捕まえさせずフリーにしてるのはそれが理由。どうせ逃げられんしぃ。

 

「OK丸、OK丸。最悪は私がボコるし」

「おう?なんだ、女。てめぇが相手か?良いぜ、炎だろうがあの妙な力だろうが、真正面から捩じ伏せてやるよ」

「はいはい、そういうの良いから。それよりそこのウォーターサーバーって大丈夫なやつ?大丈夫なら切し・・・・あーーーーレッドライオットに飲ませたいんだけど」

「あっ?知らん、大丈夫だろ。俺は腹壊したことねぇ」

「じゃぁ一杯ちょーだい」

「ほらよ」

 

「・・・・猛獣が、猛獣操ってる」

 

誰が猛獣か。

喉笛噛み千切るぞ、こら。

 

切島に水をくれてやった後、一息ついてたら太っちょマンに預けておいたエリちゃんがこっちにきて、ひしっとしがみついてくる。可愛いので頭を撫で撫でして、頬っぺたをむにむにして、ぎゅっと抱き締めとく。可愛い。えっ、絆創膏貼ってくれんの?ありがとー。自分だと何処怪我してんのか見えないから助かったよー。

 

僅かに心が和んだ所で、突然目の前に紙コップが差し出された。エリちゃんがびくりと肩を跳ねさせ、そそくさと私の後ろへと隠れる。見ればぐるぐるヤクザが水を持ってきてくれてた。

 

「てめぇの分だ。小娘」

「さんきゅー、エリちゃんの分は?」

「エリちゃん?このガキか、ちっ、面倒だな。待ってろ」

 

やってくれるんかい。

 

そう心の中で静かにツッコんでると、太っちょマンが「やってくれんのんかい!」と綺麗にツッコミしてくれた。代弁ありやとですぅ。

 

「水はええわ。エリちゃんには俺のスポドリあげといたさかい・・・・ちゅーかやな。乱波くん、君は、あれや、なんなん?どーいう立場の人間やねん。敵ちゃうんかいな?」

「ああん?何訳分かんねぇこと言ってんだデブ。俺はオバホに命令されてここにいんだぞ、敵に決まってんだろ。だからこうして、態々治療してやってんだ。早く治して再死合する為にもよぉ」

「ずれとる、ずれとるで色々と・・・・まぁ、ええか。しかし、君みたいなんが何でヤクザの使いっパシリみたいなんしとるん。こないな所に収まるタマやないやろ、君は」

 

太っちょマンの言葉に私も同意。

このぐるぐるヤクザ、こういう組織にいるタイプの奴じゃない。良い意味でも、悪い意味でも、だ。

 

太っちょマンの言葉を受けたぐるぐるヤクザは手にしてた紙コップで一杯水を飲み干すと、ロープで縛って転がしておいた糸目の上に腰を下ろした。「ぐぇっ」と悲鳴があがる。

ぐるぐるヤクザはゆっくり息を吐くと、言葉を続けた。

 

「━━━仕方ねぇ、俺ぁあいつに負けたからな」

「負けたって・・・誰にや」

「誰にって、そりゃオバホ以外いねぇだろが」

 

その名前にエリちゃんが体をビクつかせる。

 

「元々地下格闘場の闘士やっててな、相手探して毎日殺し合いよ。つまらねぇ死合いが多かったが、まぁ、そこそこに人生楽しんでたんだが・・・・・野郎いきなり現れて俺に手下になれだなんだと、ふざけた事抜かしやがった。だから言ってやったんだよ。俺に勝てたら好きにしろってな━━━それで、俺は殺された。笑っちまうくらいあっさりな」

「殺されたて・・・そらあり得んやろ。君は生きとるやないか。比喩的な意味なんか?」

「比喩じゃねぇよ。あーーなんだ、正確に言えば分解されて再生されたんだよ。オバホの個性でな。オバホが言うには一瞬なら綺麗さっぱりバラしても元通り治せるらしい。ぞっとしねぇ体験だったぜ、てめぇの体がバラバラになって吹き飛ぶ瞬間を見るのはよ」

「君のアレを捌けるんか、オーバーホールは」

「あ?だからそう言ってんだろ。組に入ってからも5回挑んで5敗。全敗だ。あの男に勝つ為に俺はここにい続けてる」

 

太っちょマンが話を聞いて渋い顔をした。

理由は私にも分かる。ぐるぐるヤクザは単純な近接戦闘能力だけみたら相当レベルが高いやつだ。射程こそ短いがその攻撃速度や攻撃の回転力は、距離をとって戦えない奴等にとってかなり厄介といえる。近接主体でどちらかと言えば防御面を強みにしてる太っちょマンや切島なんか特にカモだったに違いない。

 

そんなやつが格闘場というリングの上で負けた。

格闘場がどれくらいの広さなのか分からないが、決められたリングという範囲が近接主体のぐるぐるヤクザにとって不利に働くことはないだろう。例外は勿論あるだろうけど、戦いの傾向は近接戦闘に寄る筈だ。加えてぐるぐるヤクザの言動を考えれば、搦め手があったように思えないから、嘴まつげはガチンコして勝った可能性が高い。渋い顔になるのも頷ける。

 

まぁ、もっとも、だ。

現在、嘴まつげが戦ってる黒豆パイセンは、こと近接戦闘において"例外的"な強さを発揮する化け物だから、特別心配とかはしないんだけどね。応援?いかないよ。倒すでしょ。多分。

 

そんな話をしてると気絶してた糸目が目を覚ました。

自分の上に乗ったぐるぐるヤクザを見て激オコプンプン丸。なんか色々と喚いてたけど、ぐるぐるヤクザが鬱陶しそうに体重をかけてそれを黙らせた。

 

聞いてよ、こいつら仲間なんだぜ。

これでも。

 

「━━━で、そろそろ治ったか。烈怒頼雄斗」

「治るわけないやろ。静かに休ませぇや。・・・・なぁ、乱波くん。物のついでに聞くんやが、オーバーホールは何したいねん。君みたいなん集めて、こんな子供つこうて」

 

「!!誰が貴様らに教えるものか!!オーバーホール様の崇高な計画━━━━ぐへぇっ!?らっ、乱波貴様!どっ、ぐぇ!?」

 

割り込んできた糸目を黙らせ、ぐるぐるヤクザは「ヤクザの復権だとよ」と教えてくれた。

その後も割とペラペラなんでも教えてくれたが、基本人の話を碌に聞かないタイプなのか、嘴まつげの計画とやらついてあまり詳しく知らなかった。かなりおおざっぱに、金集めて、なんかばら撒いて、計画実行するんだとよ━━━らしい。

 

「まぁ、俺が知ってるのはそんな所だ。おい、烈怒頼雄斗、治らねぇなら俺は行くぞ。死合いはまた今度だ」

「いや、今度はあらへんからな。君はここで逮捕。君の敗けで終わりや」

「喧しいぞデブ!!どっちも死んでねぇだろ!ならドローだ!!」

「何ルールにのっとんてんねん。その判定は」

 

立ち去ろうとするぐるぐるヤクザを太っちょマンが止めた時、腹に響くような轟音と共に部屋が大きく揺れた。太っちょマンのパンチとも、私の爆撃とも違う━━━それこそ地震でも起きたかのような特大の衝撃。

 

「なんや、今のは・・・!」

 

太っちょマンの声が静かな部屋に響く。

けれど返ってくる言葉はない。

全員が無言のまま警戒した様子で固まる。

 

僅かな間をおいて、また振動と轟音が部屋の中を響き渡る。それも今度は短い感覚で断続的にだ。しかも地鳴りのような音も引き連れて、段々とこちらに近づいてくる。まるで切島達が乗り込んできた時のように。

 

「何か来るで!!全員警戒や!!ニコはエリちゃん頼むで!!烈怒頼雄斗、自分で立てるか!場合によっちゃ、自分で逃げてもらわなあかん!!」

「っつ、うっ、うっす!!俺は大丈夫です!!それくらい自分で出来ますよ!」

「さよか!!ほんなら任せるで!!無理だけはしたらあかんからな!」

 

 

 

「駄弁ってねぇで構えろ。来るぞ、デブ・・・!」

「おう!!━━いや、おうちゃうわ!!自分!!」

 

 

 

太っちょマンの華麗なツッコミが決まった瞬間、壁が粉々になって吹き飛んでいった。砂埃に紛れて壁の向こうからやってきた何かが、私達のいる部屋を通過し反対側の壁も突き破っていく。立ち上る砂埃のせいでそれが何んなのか分からない。

ただ、アホみたいに大きい物である事だけは分かる。

 

「あかん!!全員伏せぇや!!」

 

太っちょマンの声が響くと同時。

大きい何かが砂埃を巻き起こしながらこちらに迫ってきた。エリちゃんを抱えて地面へ伏せれば、その何かが頭の上を通り過ぎていき、進行方向にあった壁を壊して、更にその向こうへと進む。そこにあった何もかもを押し壊しながら。

 

「い、今のなんすか!!」

「分からん、ただエライ固かったわ。通り過ぎ様殴り飛ばしてやったが、拳がじんじんしとる。━━━乱波くん、なんか心当たりあらへんか。うちの仲間にこないな事出来るやつおらんねん。教えてくれたら牢にぶちこんだ後、たまーーに差し入れしたるわ」

 

そう太っちょマン聞かれ、ぐるぐるヤクザは一言「知らん」とだけ答える。清々しいほどに嘘を感じない。

 

「ただ、こういう事が出来るのは一人しかいねぇよ・・・!はははっ!野郎、隠してやがったな!取って置きをよ!!」

 

ぐるぐるヤクザはさっきまでフラフラしていたのが嘘のように嬉々として走り出す。

向かう先は"何か"が最初に姿を見せた壁の向こう。

 

太っちょマンが止めあぐねてる様子を横目に、ぐるぐるヤクザに止め刺しておこうかとそこへ視線を向けると━━━━それが見えた。

 

砂埃が漂う先、壁の向こうのずっと先。

マントをはためかせる黒豆パイセンが見えた。天井が落ちて光が射し込んでるせいか、パイセンの姿は特別に目立つ。そんなパイセンの服には汚れが見えるけど、怪我らしき怪我はない。心配するまでもないと思ってた私の予想は当たってたらしい。

そしてどうやら壁を壊した"何か"は黒豆パイセンがいる階から一直線にこちらをぶち抜いてきたのが分かった。

 

「!!」

 

眺めていたら視界の中にあるモノに気づいた。

黒豆パイセンがこちらを一瞥もせず、向かい合い続けるその巨大な影に、だ。

 

鳥のような嘴をもつ瞳の頭。

動く度に崩れる岩のような固い肌。

鋭利な鉤爪がついた太く長い六本の腕。

そしてその異形とも呼べるそれは、あまりに大きかった。地下室を軽く突き破る程の巨躯。上半身だけで四メートル近くあるように見える。

 

 

「オーバーホール!!」

 

 

野太い男の声で怒号が響く。

崩れた瓦礫を足場に駆けあがったぐるぐるヤクザが拳を構えて異形へと飛び掛かる。黒豆パイセンがそれに気づいて止めようと手を伸ばしたけど、少し遅かった。

 

異形から伸びた腕の一本が振られた。

その巨躯に見合わない速度で、異形の腕は轟音を立てながらそこにある全てを巻き込み壊していく。黒豆パイセンは透化でかわしたように見えたけど、ぐるぐるヤクザは真っ向から立ち向っていって━━━━直ぐに巨大な腕の影や瓦礫の波に飲まれて姿を消した。

 

払うように振られた腕はそこにある全てを凪ぎ払って進む。耳をつんざくような轟音を鳴らしながら、地面を揺るがす衝撃と共に壁へ深くめり込む。

ゆっくりと腕が引き抜かれたそこには、赤い汚れのついた瓦礫の山だけが残っていた。

 

自然と肌が粟立ち、背筋に悪寒が走り、エリちゃんを抱き締める腕に力が籠る。

 

 

「乱波くん!!・・・なんやっ、ねん。なんやねん、おんどれぇっ!!」

 

 

太っちょマンの怒号が響くと、それに応えるよう異形が咆哮をあげた。

 

異形は生物とは到底思えない、耳を塞ぎたくなるような甲高い声をその大きな口から響かせていく。

身震いするような殺意と怒りを、その身に漂わせながら。



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昔のえらいひとは言いました、攻撃は最大の防御だと。一部の隙も与えず攻め続けることは優れた守りであるのだと。だから私は皆に言います・・・・逃げるんだよぉーーー!の巻き

あけましておめでとう( *・ω・)ノ
アニメも漫画も盛り上がっておりますヒロアカを応援しつつ、今年も執筆していく所存であります。
ことよろですぅ!


ん、投稿遅い理由?
済まんな、それはただの怠惰やで。
P公に聞かれたら脳が震えるほど拷問される、ただの怠惰ですねぇ(狂気)!!




「絶対☆撤退宣言!!」

 

頭の上の所で両腕使って大きくばってんを作り叫ぶと、都合の良い事に周囲にいた全員の視線がこちらへと集まった。あの嘴まつげ━━━いや、六本腕のお化けロッポンは幸いこちらに気づいてる様子がない。自分の近くで飛び交ってる黒豆パイセンに夢中である。

 

少し呆けていた皆だったけど、状況を理解するにつれてバラバラの意見を口にし出した。太っちょマンはパイセンの援護にと、切島は撤退する事に反対はしたかったけどぐるぐるヤクザの安否の確認と回収をしたいとか。ニコちゃん困ってしまう。そんなもんしてる時間あると本気で思ってる所に。

 

第一に相手の目的はエリちゃんである。それこそ血眼になって追い掛けてくるだろう。私がチンピラ達からリンチパーティーされたのもそれが理由だ。今は視界が狭いのか黒豆パイセンが相当ウザイのかなんなのかこっちに気づいてないけど、気づいたら秒で向かってくるだろう。こんな狭苦しい逃げ場も碌にない室内で、壁も地面も関係なしで自由に動く化け物をエリちゃん守りながら戦う?アホやで。出来るわけない。━━━なのでエリちゃんの安全を確保する為にも、一刻も早く後方へと下げる必要がある。

 

第二に黒豆パイセンに援護はいらん。理由は現状大したダメージもなく上手く立ち回っているからである。

相手へのダメージもないけれど、それは黒豆パイセンも同じ。そして恐らくその立ち回りこそが相手を苛立たせ、視線を奪えている理由なんだろう。頭に血が上ってそうなのは動きを見れば何となく分かる。それにそうじゃなければ直ぐにエリちゃんの捜索を始めてるに違いないのだ。━━━それなのに私達が割ってはいればどうなるか。

まずあの化け物の視線や注意が周囲へと向く。そうなれば少しは冷えた頭がエリちゃんを思い出すだろう。こちらが注意を引くだけ、もしくは決定打となる攻撃が出来れば良いが、現状それがまともに出来そうなのが太っちょマンだけ。しかも対抗出来そうな必殺技は制限つき。話にならない。

それにだ、私達が交ざれば相手の攻撃パターンが変わる。それは黒豆パイセンにとって最悪だろう。これまで黒豆パイセンが無傷で攻撃に対応出来ていたのは相手の攻撃のリズムが一定で、予測しやすかったからだ。不確定要素が増えれば増えるほど予測は難しくなる。黒豆パイセンと初めて会ったその日、最初に遠距離攻撃が出来るクラスメートをのしたのはその可能性を減らす為に他ならない。視界外からの遠距離攻撃は簡単にミスを呼ぶからね。そうなると近くでウロチョロも良くない。黒豆パイセンが庇ったり、下手に視線を集めようと無茶な動きをする可能性がある。ミスするわ。

 

「よって、下手に援護するより邪魔にならないよう撤退!!後続のチーム及び地上チームと早急に合流!!連携して嘴まつげの逮捕にあたる!!それが最良と思いますが・・・・反論は!?」

 

出来るだけ短く、出来るだけ早く。

尚且つ理解できるギリギリで捲し立てると太っちょマンと切島は項垂れながら頷いた。近くに転がる糸目から「成る程、道理ではあるな」と冷静な言葉が返ってくるけど、それはスルーしとく。ぐるぐるヤクザに続いてしれっと交ざらないで欲しい。

 

「ぐぅの音もでぇへんわ・・・・せやな、取り敢えず撤退や。気づかれる前にそそくさといこーや。糸目くんは俺が持つわ。エリちゃんはニコに任せるで」

「はいはい、問題ないですよ」

 

太っちょマンが糸目を担いでると、切島が申し訳なさそうに側にきた。

 

「わりぃ、ニコ。そういう役目は、本来俺の仕事なのによ・・・」

「はいはい、暗くならない。あんたの良い所は硬い所と熱血馬鹿で明るい所しかないんだから。うーはーとか言って道塞いでる瓦礫殴り飛ばしてれば良いの。それにエリちゃんは私とラブラブなので、仮にあんたが元気でもご遠慮願うよね」

「はははっ、そうかよ。んじゃま、俺が先頭で道こじ開けるからついてきてくれよ。任せてくれ」

 

顔についた包帯を剥ぎ取り、切島はいつもの暑苦しい笑みを浮かべガッツポーズをとって見せる。それでよし。最後までコキ使わさせて貰うんだから元気でいて貰わないとね。うんうん。

 

「よし、それじゃ━━━━」

 

撤退する為にルートの説明をしようとした時。

本当に小さな声だったけど、それが鼓膜を揺らした。

黒豆パイセンの声。全部は聞き取れてなかった。だけどはっきりそれだけは聞こえた。どういう経緯で発したかは分からないけれど「エリちゃん」という、その単語だけは。

 

化け物の動きが止まり、ゆっくりとこっちに振り返る。

巨大なそれに目はない筈なのに、こちらへ向いたそれと目が合った気がした。ぞくりと背中に走る感覚はよく知ってるもの。あの日、ショッピングモールで向けられた━━━それだった。

 

「━━━━エリちゃんごめんね。硬くて乗り心地悪いかもだけど、お帰りはその赤いお兄ちゃんに乗り換え宜しく」

「えっ、ふたこさっ━━━」

 

エリちゃんを切島に渡した瞬間、化け物が吼えた。

即座にホルダーにセットされたベビースターを射出。

銀の一閃を宙に描いたそれは、化け物の顔面に当たると白煙を周囲へ撒き散らし、あっという間に視界を塞いだ。

 

「切島!!エリちゃん第一でよろしく!!包帯先生と会ったら即行援護来るよう伝言もよろ!」

「お、おう!!分かった!!お前も気を付けろよ!!」

「あいよぉ!」

 

切島をそこにおいて、引き寄せる個性で飛ぶ。

煙をかき消そうと腕が暴れ回っているそこは、暴風が吹き荒れてるかの如く危険だ。近づくのは得策じゃない。

けれど、それでも隙がない訳じゃない。

 

あれは恐らくエリちゃんを殺さない。

目が合った時に気づいた。あれは理性がまだある。力に多少振り回されているけど、完全に暴走してる訳じゃない。なら、取り返しのつかない攻撃はしない。やったとしても、個性でリカバリーが出来る範囲。自分の力が制御出来てないことを自覚してるなら、エリちゃんのいる方向へ向けての攻撃は足止めが精々。

 

膨れ上がる煙を視認した直後、体を真上へと引き抜く。

すると大きな腕が風を切って私のいた場所を通り過ぎて、エリちゃん達がいた場所の近くへ落ちた。既に後退を始めていたエリちゃん達に影響は然程ない。飛び散る瓦礫や砂ぼこりからは切太コンビが守ってくれてるのが見えてる。

エリちゃん達の様子を軽く確認した後は、その腕を足場に駆け上がりながら息を溜める。最大火力を目標に。

 

砂ぼこりを突き抜けると大きな嘴顔に辿り着いた。

相手の動作から僅かな驚きを感じたが、同時にある程度予想もしていたのか別の腕が迎撃に動き始めるのが見える。すかさず溜め込んでいたそれを吐き出した。狙いは六本の腕を動かす支点。六つの肩。

 

ニコちゃん108の必殺技。

『六連・ルージュブレス』

 

吐き出した真紅の炎は槍の如く飛ぶ。

そして嘴な顔に触れる前に六つに分かれ、狙った通り化け物の肩を正確に射ぬいていく。焼き焦げた臭いが鼻をつき、化け物が痛みに唸り声をあげる。

 

「ニコ!」

 

声が聞こえたと同時、黒豆パイセンが私に突撃してきた。敵に向かっていた体が横に流れる。腹部に走った痛みにこらえながら顔をあげると、私がちょっと前にいた所を腕から生えたトゲが貫いていた。あぶにゃかった。ラグビータックルありやと。ラグビー知らんけど。

 

「ざっすーー!」

「お礼は良いよ!それより状況説明いるかな!」

「じゃぁ、二点ほど。嘴まつげのイミフな体の理由と回復の速度お願いします」

「体が硬質化してるのも大きいのも、自分に組み込んだ仲間の個性を使ったからだ!あまり近寄ると体力を奪われるから気をつけて!!回復の速度はかなり早い、一秒余裕を持たせれば回復してくるよ!」

「りょでーす、倒すなら意識チョッキン系ですね」

「理解が早くて助かる!!」

 

私の体を透過して地面に消えていった黒豆パイセンを横目に、タックルされた勢いそのままに瓦礫の上へ着地。体勢を整えながら嘴まつげの姿を確認すれば一瞬肩回りが弾け飛んだと思ったら、次の瞬間には飛び散った赤い飛沫が磁石に引き寄せられる砂鉄のように集まり肩を元通りに形成していく。ダメージ即行回復とかとんだクソゲーである。

 

まぁ、それでも、ゲームと違ってあれは歴とした生き物。制限無しに回復する化け物じゃない。限りある資源やエネルギーを元に力を行使する有限の化け物。手駒があるならやりようは幾らでもある。

 

「パイセン!援護よろ!!」

 

一声掛けて嘴まつげに向けて体を引っこ抜く。

一呼吸遅れて「分かった!」と返事が聞こえて黄色い影が瓦礫から飛び出し、私より早く嘴まつげに攻撃を加える。

 

振り抜いた拳は硬い肌に阻まれダメージは与えられていないように見える。

けれど、視線は確実に黒豆パイセンへと向いた。

 

その隙に懐へ向かって引き寄せる個性で加速。

振りかぶられる腕を飛び交うトゲをかわして、一気に嘴まつげの懐まで潜り込む。勢いを殺さず飛び蹴りをかますが、足に伝わるのは痺れと痛み。とてもじゃないけど生物を蹴った感触じゃない。無機物その物。ルージュブレスをぶち当てた時、その様子を見ていたから分かってはいたけどこれではっきりした。皮膚が硬いんじゃない。恐らく皮膚の上に石を纏ってる状態。似たような事が出来る個性は知ってる。恐らく、あのコンクリ妖怪のそれだ。

 

ニコちゃん108の必殺技。

『ニコちゃん砲━━━ブルースフィア』。

 

吐き出した蒼炎は球と成って嘴まつげの腹部にぶつかる。岩肌は真っ赤に染まり、焦げた臭いが鼻をついた。化け物がくぐもった声を漏らす。

苦労してルージュブレスぶち当てても回復されるなら、ゆっくり全身を石焼してやれば良い。火傷や怪我を一瞬で治せても、体に籠る熱まではどうしようもないでしょう。部分的にはまず治せない筈。

 

黒豆パイセンの囮にして、たまにくる攻撃をかわしながら嘴まつげに炎を当てていく。嘴まつげの石の鎧は少しずつ赤く染まっていき、熱で朦朧としてきてるのか動きが鈍くなっていく。見てるだけで限界がそう遠くない事が分かる。

 

それなら、直に来る。

頭が働く限界ギリギリに全身回復。

最低のちゃぶ台返し。

 

でも、それは絶好の狙い目でもある。

読めてる行動ほど、付け入る隙もないのだから。

 

 

 

「━━━っぶなぁ!」

 

 

 

勿論、それまでこっちが持つ事が大前提。

それに加えて相手の注意が私に移るまでに体力を削り切る必要がある。これがしんどい。綺麗に避けすぎて警戒度をあげてはいけない。脅威にはならないのだと演出する必要がある。

 

ただでさえ時間が経つに連れて黒豆パイセンの囮の効果は薄れる。現在進行形で相手の私への攻撃頻度が上がってるように、だ。このまま私が完全にターゲットになってしまった場合、この作戦はその時点でおじゃん。後は援軍を待っての時間稼ぎをするしかなくなる。近づくと体力を奪ってくるらしくて?オーバーホールとかとんでも個性使ってきて?純粋なパワーだけでもダサマスク並みの化け物相手にだ。やってられないんだぜ!

 

攻撃頻度を減らし回避に専念する。

相手の攻撃も完全にかわさず紙一重を狙って。

ギリギリである事を見せつける。

 

「っっ!!」

 

僅かに読み違え、右肩に豪腕がかすった。

触れただけのような一撃なのに激痛が響いてきて、体がきりもみしながら吹き飛ぶ。姿勢制御してなんとか着地は出来たけれど腕の感覚がおかしい。嘴まつげから視線を外せなくて見てないけど、折れてるか外れてるかしてる気がする。

 

「ニコ!!」

 

黒豆パイセンの大声にハッとする。

気がつけば太い腕が砂ぼこりを巻き込みながら勢い良く迫っていた。ブルドーザーのように瓦礫をぶち壊して進んでくるそれは、改めて見るとやる気失せるレベル。

 

急いで引き寄せる個性を発動。体を引っこ抜く。

反応が遅れたせいで完全に避けきれないだろうけど、直撃するよりはずっとマシ。

 

耐える為に歯を食い縛った瞬間、ぽっかり空いた天井から巨大な氷柱が落ちてきた。

私と巨腕の間を割り込むように落ちてきたそれは、轟音を鳴らし氷の粒を辺りに散らしながらも必殺の一撃を止める。

 

 

「遅れて悪かった!大丈夫か!」

 

 

声に視線をあげれば穴の上からこちらを覗く轟の姿があった。かっちゃんもいるかと思ったけど、見上げたそこに姿はなかった。

何してるんだか、あの遅刻野郎!だけどまぁ、よしだ!

 

「トドロキング!!炎!!」

「!・・・分かった━━━━!」

 

私の声を聞いて間髪いれず轟が穴の中へ飛び込んできた。真上に向けて嘴まつげがトゲや腕を振り回して迎撃するが、狙いのついてない攻撃は掠りすらしない。危ない時は助けるつもりだったけれど、轟は攻撃を受けることなく背中に着地しゼロ距離で炎熱を発動。赤い炎が一気に嘴まつげの全身を包む。

何とか体勢を立て直し着地と同時にブルースフィアもぶちこんでみれば、甲高い悲鳴が嘴まつげの口から響いた。

 

苦しむ嘴まつげに振り落とされた轟は、氷のスライダーを作りだし私の所まで滑り降りてきて━━━徐に抱っこして走り出す。ちょっと唖然としてしまったが、轟がわざわざ降りてきた理由が分かった。エリちゃんも心配してたけど、よっぽど私は重症に見えるらしい。

 

「担がれる程ではないけど?見た目ほど」

「良いから呼吸でも整えてろ。肩大丈夫か」

「肩は超いたい」

「だろうな、多分外れてるぞ」

 

言われた通り呼吸を調えながら運ばれてると嘴まつげの腕が攻撃とは違う動きを始めた。自分の体に触れようとする動作。個性発動への、回復への準備。

 

 

「パイセン!!」

 

 

声をあげると黄色い影が瓦礫から飛び出す。

拳を構えて飛んでいく後ろ姿からは私がしようとする事への理解が見てとれる。優秀で大変結構、こけこっこうだ。話さなくても分かるって素晴らしいよね。

 

ホルダーにあるベビースター全弾射出。

嘴顔の横っ面へ、渾身の力を込めて一つ残らず叩き込む。すると甲高い音をたてながら、顔に張りついてた岩が剥がれ落ちた。生身の体が露出する。

 

 

その瞬間、暗闇の中から小さな影が飛び出してきて、露出したそこへと勢い良くぶつかった。

大きな頭が揺れる。

 

 

「よく持ちこたえてくれた!ニコ!後は私とルミリオンに任せて貰う!!合わせるぞ!」

 

 

聞いた事ある声に振り向くと手に何かを━━━ハンコを握って駆け込んでくる七三の姿が見えた。その動きに一切の迷いはない。援護のことといい、流石に黒豆パイセンの先生といった所か。状況把握能力が高し。

 

 

「オオオオオッッッッ!!」

 

 

パイセンの怒声を聞いて石の鎧が直ぐにそこを塞ぐ。

だけど、嘴まつげが出来たのはそれだけだ。

回復までは出来なかったようで巨体はさっきの攻撃の余韻でふらついてる。

 

黒豆パイセンは勢いそのままで嘴顔に拳を振り抜く。

全体重が乗った拳は音も立てず石の鎧の中へ突き刺さり、重く鈍い音を周囲へと響かせた。

ぐらりと大きな頭が揺れ━━━━今度こそ体勢を崩して床に腕をつかせる。

 

 

「━━━ッッッッッはぁ!!」

 

 

すかさず駆け込んできた七三が下がってきた頭を蹴りあげ、顎が大きく跳ね上がる。

その様子を見ながら黒豆パイセンは空中で体をひねり前方に回転。七三もハンコを手にして構えた。

 

「ルミリオン!!」

「はい、サー!!」

 

その合図から一瞬。

回転の勢いを乗せたパイセンの踵落としが脳天を突き刺し、七三の腕から放られたハンコが顎を貫いた。ほぼ同時に叩き込まれた強力な一撃。何かが砕ける音が嘴顔の口から漏れ出て、巨体が力なく地面に崩れ落ちる。

 

「トドロキング!拘束!掌に物触れさせないよう、なんか上手くやって!」

「上手く・・・・分かった」

 

私の言葉を聞いて轟は直ぐに巨体を氷で拘束した。

赤い血を滲ませるそれに動く気配はない。

凍らせてる間も胸を上下させるだけ。いざ動いたとしても掌は空を掴むことしか出来ない位置。これで終わりだ。

 

なのに━━━嫌な予感がした。

 

どうしてだかは分からない。

あえて言うならば、目の前に倒れてるやつから何も感じない事に違和感を覚えたからだろうか。

そうだ、感じなかったのだ。

 

戦い始めた頃に感じた筈のそれ。

あの時感じたような寒気を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━っ、全員警戒!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私が叫んで直ぐ、辺り一面の地面から夥しいトゲが生える。鋭利な切っ先には殺意が宿っていた。

轟が咄嗟に氷壁を作ってガードしてくれなかったら、その圧倒的な物量もあいまって無傷でいられなかっただろう。多かれ少なかれ怪我してる。

 

「大丈夫か、緑谷・・・!」

「OK、それよりちょっと失礼!」

 

引き寄せ個性で体を引っこ抜き、轟の腕から飛び出して空へ。トゲの山に視線を落とせば黒豆パイセンと七三の姿を確認出来た。二人共大きな怪我はしてないように見える。それはそれで安心したけど━━━━だけど肝心のあの嘴まつげはいない。ゴーグルさえ生きてれば、直ぐに見つけられたのに。

 

恐らくあの時、腕を治したタイミングでいつでも分離出来るよう準備していた・・・いや、もしかしたらその時点で分離してたのかも知れない。なにせあの巨体の化け物、一度回復してから一度も嘴まつげの個性を使わなかったのだ。してきた攻撃は腕による物理攻撃と、石をトゲのように伸ばす攻撃だけ。腕による攻撃は言わずもがな、石をトゲにするのはあのコンクリ妖怪の個性だけで十分出来るし、何より嘴まつげの個性に見られる予備動作がなかった。

 

不意に乾いた破裂音が聞こえた。

ついさっき聞いた銃を発砲する、その音だ。

視線をそこへと向ければ銃を構える嘴まつげがいた。

その対面には膝をつく七三とそれを庇うように立つ黒豆パイセンの姿も見える。

 

引き寄せる個性で地面に叩きつけてやろうにも、嘴まつげは個性の射程外。それは出来ない。引き金に掛かった指を見れば接近してる時間もない。弾丸を引き寄せて軌道を変えることも考えたけど、流石に弾丸を捉える自信はない。

 

 

「━━━━━!!」

 

 

だから、対象を変える。

攻撃する方ではなく、攻撃される方へ。

引き金を引くタイミングを見計らって地面へと二人を引き寄せる。二人の体がノーモーションで地面に伏せ、弾丸は空を切っていった━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

「お前達なら、そうすると思っていた」

 

 

 

 

 

 

その直後、激痛が全身を走っていった。

痛みにこらえながら腹部を見ると、赤に濡れた鋭いトゲが生えている。感触から貫通してるのが分かった。

振り返って確認すれば、私の腹から顔を見せてるそれは、地面から弧を描くように伸びてきていた。私から見えないよう、石柱の影に沿うようにして。

 

 

 

 

「身に宿る得体の知れない力に疑問も持たず、自らの分を弁えず、お前達は自由勝手に力を行使する。全能感に浸りながら・・・お前みたいに望めばなんでも手に入ると言わんばかりにな。そして、望み過ぎた結果がこれだ。せめて目の前の連中を見捨てて飛び込んでくれば、勝ちの目もあっただろうにな。ヒーロー」

 

 

 

 

霞みががってく視界の中、嘴まつげは側にある石柱へと触れるのが見える。

 

 

 

 

「ここまで策を労して、ようやく"二人"だ。先が思いやられる。壊理を取り返すまで、あと何人殺さないといけないのか・・・・それを思って苦しむ壊理の事を考えると不憫でならないよ。お前達が唆さなければ、そんな事もなかったろうにな━━━━━まぁ、もうそれも、お前には関係ないか」

 

 

 

 

ぐらりと、宙ぶらりんになってた体が揺れた。

見ればしっかりと床から生えていたトゲが根元から崩れ始めていてる。

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら、ヒーロー。お前は俺より強かったよ。あの世で幾らでも後悔してくれ」

 

 

 

 

 

その声を聞くと同時に、私の体は宙へ投げ出された。

朦朧とする意識の中で視界に映るのは床を埋め尽くすトゲの山と、何かを叫びながら手を伸ばす七三の姿だけで━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ

シリアル「新年一発目からとんでもない話ぶつけんなや兄貴」
ギャグ「ほんま、撲滅したろかオオン?」
アオハル「爆殺されれば良いのに・・・」


シリアス「真面目に仕事してるだけなのに酷くない!?」


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最後の押しの一手はやはりごり押しに限りますよね。はい、気合い根性!気合い根性!気合い根性!これテストに出ますよー!の巻き。

ワタシはぁ、オーバーホールぉ、許さないぃ!
幼女に暴行したかとかぁ、そういう理由じゃない!
決してそういう理由じゃない!
違うんです、本当に(真顔)。


 

 

 

 

 

 

 

まるで時間が止まったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落下して直ぐ、霞がかってた視界が急に晴れた。

すると直前まで頭の中で暴れていた痛みが抜けて、時間が酷くゆっくり感じて、目の前にある石の剣山がはっきりと見えた。

一本一本の正確な位置は勿論、そこへ落下する時間、落下が及ぼす私の外傷の予想、何をどうすれば致命傷を避けられるのか、その為に必要な行動━━━━━そして、私に残された時間まで。

 

 

もう長くは残ってない。

傷口を塞ぐ方法は直ぐに分かったけれど、内臓の幾つかを正確に射ぬかれている以上どうにもならない。仮にリカばぁがいても僅かな延命が良いところだろう。

 

 

利口なふりしてこれだ。

本当に馬鹿な終わり方だ。

笑えてしまう。

 

 

私の予定ではテキトーに学生生活を楽しんだ後、プロヒーローとしてちょろっと活躍して、それでかっちゃんの事務所にでも入ってちょろちょろサポートしながら関連商品とか作って、それでのんびり印税生活するつもりだったんだけど。

予定って思い通りいかないなぁ。

 

 

でも、そうだな。後悔はないかな。

やりたいようにやった。

私は私のやりたいように生きた。

 

 

 

 

 

いつだって。

 

 

 

 

 

だから残されたあと少しも、思ったように生きよう。

母様やかっちゃんの為に何かしてやる事はもう出来ないけど・・・・あの子の為に出来る事がある。

弱くて強い、誰かの為に我慢が出来て、何処か意地っ張りで甘い物が好きな、誰よりも優しいあの子の為に。

 

 

 

 

 

落ちながら、ゆっくり息を吸い込んだ。

傷口に引き寄せる個性を発動し、嘴まつげの視界から隠れた瞬間を見計らって炎を吹き出す。対象にした炎は正確に傷口を焼いていく。溢れ出ていった血が止まる。痛みは最早感じない。あるのは失われていってた熱の流出が止まった感覚だけ。これで後戻りは出来ない。

 

 

 

 

引き寄せる個性で落下位置を変える。

着地と同時、また上空へ体を引っこ抜く。

嘴まつげの位置を再確認し、そいつの側に落ちている小石とアホ面に引き寄せる個性を発動。思いっきり叩きつけてやる。おまけに顎にも小石を叩きつければ体が揺れる。

 

 

 

 

ふらつく嘴まつげに引き寄せる個性で一気に距離を詰める。飛び込んだ勢いそのままに左のフックを顔面へ叩き込めば、衝撃で体が大きく仰け反った。拳の皮膚が裂け血が滲んでるけれど、そんな事は今更だ。多少の出血なんて関係ない。

 

 

 

 

がら空きの鳩尾へ右足を突き刺す。

仰け反っていた体が戻り、くの字に折れ曲がり嗚咽を漏らす。すかさず体を回転し、左の裏拳で顔をぶん殴ってやった。会心の感触。多分歯をへし折った。

 

 

 

 

追撃しようと構え直してると、嘴まつげが顔に掛かっていた血を拭った。こっちを見て目を見開いてる。殺したとでも思ったのか。事実半分死んでるようなものだけど、驚いてるならそれで結構だ。煽ってやりたい気持ちが鎌首をもたげるけど、そんな余裕はないので無視して限界まで腕を引き絞る。

 

 

 

 

「何故っ、お前っが!!」

 

 

 

 

引き寄せる個性も使って拳を振りかぶる。

十字に構えられた腕に阻まれるけれど、拳に伝わってくる感触は悪くない。皹くらい入ってそう。こっちの拳もイカれたっぽいけど、まぁ良い。どうせ後はない。

そのまま嘴まつげとその後ろにある瓦礫に引き寄せる個性を発動。思い切り叩きつけてやる。

 

 

 

 

嘴まつげがくぐもった声をあげる。

普通なら怯む所だろうけど、この状態でも抵抗の意思が見てとれた。だから腕や手首に引き寄せる個性を発動。掌に物を触れさせないよう動かして、嘴まつげの背後にある瓦礫へ引き寄せ固定する。無理矢理やったせいか、片方の手首があり得ない角度になってるけど、それは許して欲しい。こちとら命削ってやってるのだ。おまけして。

 

 

 

 

一気に距離を詰める。

射程内に入り込んだら引き寄せる個性も使って拳を、蹴りを嘴まつげに叩き込む。勿論、全弾急所へと。

時間が限られている以上、手加減は出来ない。

 

 

 

 

何度か攻撃をぶちこむと嘴まつげが怒号をあげながら固定してた腕を動かし、瓦礫へと掌を押し付ける。

直後、瓦礫と地面が砕け散り四本のトゲになって迫ってきた。位置を確認し引き寄せる個性を発動。フルスロットルで私に向かうそれを別方向へ引っこ抜く。脳が瞬間的に沸騰したかと思うほど熱くなり、血流が激しく回る感覚と共に鼻から熱い物が流れていく。

 

 

 

 

結果、引き寄せる個性は正確に対象を捉え、激しい音を立てながら四本のトゲを別方向にへし折った。

目を見開く嘴まつげの顔面と右の拳に引き寄せる個性を発動。フルスロットルで叩き込む。純粋な引き寄せる個性のみの打撃。普段の攻撃より威力は劣るようだけど、攻撃手段の一つとして十分。

 

 

 

 

残り時間も考え攻撃に加えて予備動作にも引き寄せる個性を使う。攻撃の回転力を限界まであげる。どうせ体はボロボロ。関節も何も考える必要もない。

何もかも関係なしに、体を引き寄せる個性で動かし続ける。全てを、この攻撃の為だけに。

 

 

 

 

腕を引いて、拳を放つ。

足を振り抜いて、足を引き戻す。

それをただ繰り返す。

 

 

 

何も考えず、それを繰り返していく。

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

ゆっくりだった世界が少しずつ早く変わってく。

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

個性の使用過ぎで脳が酷く熱くなる。

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

失ってた痛覚が徐々に戻っていく。

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

全身に走るその痛みで理解する。

もうすぐ、私にかかってる魔法が解ける事を。

当たり前のように死ぬ事を。

 

 

 

 

そして、そんな痛みにもう一つ気づいた。

 

 

 

 

心の奥そこにあった、ほんの少しの後悔。

 

 

 

 

大した事じゃないんだけど、なんとなしに気になってたそれ。

 

 

 

 

かっちゃんが未だに悩んでるヒーロー名。

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━何にするのかな」

 

 

 

 

 

かっちゃんの晴れ姿をぼんやり考えながら、私はまた腕を引き絞った━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

『超常』かつて突如として人々にもたらされた謎の変異。一説では未知のウイルスがネズミを介して世界へと広がったと言われているが、明確な論拠はない。

無数にある『超常』にまつわる推論の一つ。

 

そしてそれは、俺にとって最も納得のいく推論の一つだった。

 

 

『・・・・・病気』

 

 

それは俺にとって正しくそうだった。

幼い時より感じていた個性に感じる異物感の答えとし、それ以上はないと。

 

病気なのだ。誰もかれも。

それなのに誰もそれに気づかない。

平気な顔でそれを使い、へらへらと笑う。

 

 

━━━━気持ちが悪い。

 

 

同じ空気を吸っているだけで吐き気がした。

 

 

━━━━気持ちが悪い。

 

 

触れるだけで鳥肌が立った。

 

 

━━━━気持ちが悪い。

 

 

誰もかれもが異常に見えた。

 

 

━━━━気持ちが悪い。

 

 

こんな異常な力をその身に宿しながら、どうして平気でいられるのか。俺にはどうしても分からなかった。

 

心に抱いたそれは体へと移る。

気がつけば俺は一人でいる事が増えた。孤立は周囲から更に奇異の視線を集め、そして気づいていく。俺が違うものだと。"当たり前"に恭順出来なかった俺は異物でしかない。そして異物は拒絶される。

孤児院という閉ざされた世界の中で、俺は誰にも認められない存在だった。

 

 

 

 

だけど、あの人だけは違った。

 

 

 

 

『おう。随分と元気な糞ガキがいるって聞いて来たが、こいつは噂通りの糞ガキだな』

 

 

 

ちょっかいを掛けた同じ院のガキを殴り倒した後、初めてあの人にあった。和服に身を包んだ、大きな体をした厳つい顔の男。部下を何人も引き連れながら堂々と煙草をふかす姿は威厳に満ちていた。

 

男は一人煙草をふかしながら近づいてきて、徐に頭に触れようとした。男の迫力に動けずにいると、男ははっとした顔をして苦笑いを浮かべる。

 

 

『━━━━おっと、おめぇ人に触られるの駄目なやつなんだっけか?悪い悪い、ついな。頭の高さがちょうど良かったからよ。はははっ』

 

 

ひとしきり笑った男は俺を見下ろしながら続けた。

 

 

『寄る辺がねぇならウチに来い小僧。名前は?喋れるか?』

 

 

男の真っ直ぐな瞳に、哀れむような色はなかった。

異物を見るような嫌悪の色も。

その瞳はただ俺を見ていて━━━━気がつけば俺はそれを答えていた。

 

 

『治崎・・・・治崎 廻』

『廻か、良い名前じゃねぇか。ついてこい、今日から俺がお前の親父だ』

 

 

そう言って男が見せた背中に俺が足を踏み出した理由は今でもちゃんとは分からない。

ただそれでも、俺にとってそれが望ましかった事だけは確かで、俺はこの人の為に生きようと思った。

 

 

けれど、世界は何処までも俺を拒絶した。

個性なんてものが蔓延るせいで英雄気取りの馬鹿が増え、その影響で親父の組織は年々弱体の一途を辿った。仲間の組が解体され、肩身が狭いとぼやく姿は見ていられなかった。

 

 

『ぼちぼち潮時なのかも知れねぇな。俺達みてぇなのはよ』

 

 

親父にそんな顔を、言葉を言って欲しくなかった。

だから俺のやり方で組織の再興の道を模索した。

何度も親父に再興の為の構想を説明した。

 

親父を、親父の組織を、相応しい地位につけたかった。

あの日、手を差し伸べてくれた恩に報いたかった。

俺を俺として見てくれるこの人に。

 

壊理という存在を手に入れてから、俺の計画は一気に進んだ。欠けていたピースが揃ったように、事態は良い方向へと進んだ。個性という病気を消せる薬の開発。そしてその薬の効力を打ち消せる対抗薬の開発。何度も失敗を重ねたが研究は日ごとに進み、少しずつだったが成果を出していった。

 

 

だけど、親父は分かってはくれなかった。

 

『ダメだと言ったハズだ。あの子を何だと思ってんだ。ウチの考えに背きてぇなら、おめぇ・・・もう出ていけ』

 

 

違う、そうじゃない。

背きたい訳じゃないんだ。

あんたの理想はよく知っている。

 

その為にも必要なんだ。

あんたの理想の組織の為に。

あんたの為に。

 

それを分からせるだけの、力が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのに━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━ッッッッぐっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

何で俺は、まだ立ち止まっているんだ。

放り込まれる連撃に指一本動かせないまま。

壊理を取り返すどころか、目の前の壊れかけの小娘すら殺し切れない。

 

腹部の火傷の痕を見れば、こいつは生きてる事すらおかしい。そもそもあれほどの怪我。出血を止めたと言っても、こいつの体の中にはこれほどの動きを出来る余力は残っている訳がない。内臓をぶち抜いてやった。間違いなく致命傷。殺した筈だ。

 

なのに、何で、こんな風に動ける。

 

 

「━━━━━━━」

 

 

引き取られてからずっと鍛練を重ねてきた。

全ては組の尊厳を守る為に。

親父を誰にも馬鹿にされない為に。

 

 

 

「━━━━━」

 

 

 

その為に、その計画の為に親父を植物状態にした。

邪魔される訳にはいかなかった。オールフォーワンが消えた現在、ヤクザ者の俺達が裏社会を牛耳るチャンスが今しかないと、そう思ったからこそだ。

 

 

 

「━━━━」

 

 

 

幾つも犠牲を払ってきた。

子飼の部下も、金も、地位も。

この忌々しい個性すらも使って。

 

 

 

「━━」

 

 

 

なのに、それでも足りないのか。

 

 

 

「━━━━あああああああああ!!!!」

 

 

 

嵐の打撃に耐えて突き出した掌は、空を切った。

小娘の頭に揺れる長い髪の、その毛先一本にすら触れられない。完璧にかわされた。

 

女の連撃は止まらない。

拳を振り戻す時にも個性を使い、攻撃は加速し続けていく。人間の可動域などお構い無しで構え直される女の四肢からは骨が砕けるような、何かが切れるような音が響き続けている。打ち込まれる攻撃に激痛が響いてく。俺の何かが削られていく。

 

女の個性で指一本まともに動かせられず。

息すらもまともに出来ず。

痛みだけが俺の全身に走っていく。

 

 

 

 

 

気を失いそうな激痛の嵐の中。

それと目が合った。

 

 

 

 

 

無表情のまま、目をぎらつかせる。

女の二つの目と。

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━っ」

 

 

 

 

 

 

 

知れずに息を飲み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉に出来ない何が、足元から這い上がってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

一度として感じてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウチのこと"ヴィラン野郎"って言われてケンカしたんか。でもなぁ、極道がカタギに手ぇ出しちゃぁいけねぇ・・・・いけねぇ事だけどなぁ━━━━』

 

 

 

 

視界の中で拳が迫ってくる。

まるで他人事のように俺の体は動かない。

拳はこれまで以上に鋭く、速い。

 

 

 

 

『━━━━━治崎、面子守ろうとしてくれて、ありがとうよ』

 

 

 

 

 

「オヤジ、俺は━━━━━━━━」

 

 

 

 

 

顔面に拳が突き刺さり、重い衝撃が走っていく。

視界がぶれて、指先から力が抜けていく。

堪えていた足がゆっくり倒れていく。

意識が暗転していく。

 

 

 

 

 

「━━━━━━俺はッッッッ!」

 

 

 

 

 

薄暗くなった視界の中で掌を翳した瞬間、けたたましい爆音が鼓膜を揺らした。

 

 

 

 

 

「てめぇは、もう寝てろや!!ドカスが!!」

 

 

 

 

 

頭に走る衝撃に、何かが途切れる音がした━━━━━。

 



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書き始めた当初の予定だと最終章だったヤクザ編もかきょーやんなぁ!な『あなたが聞かせてくれたのは』の閑話の巻き

そろそろ続き書くの辛くなってきた。
えっ、書き疲れたのか?違うよ。
ホリーが隠してた設定バンバン公開し始めたからだよ(ニッコリ)


ふたこさんと別れて直ぐ、大きな音が通路の奥から響いてきて、さっきまでいた部屋の方向からすごい風が吹いてきた。その風は沢山の砂と埃を連れてきて、通路一杯に押し寄せてくる。

だけど、赤い髪のお兄さんと丸い大きなおじさんが庇ってくれて、びっくりはしたけれど痛いことも怖いことも、少しもなかった。

 

お兄さんの胸元から顔をあげると、心配そうに見てたお兄さんがにこっと笑う。

 

「大丈夫か、エリちゃん!心配すんな、俺とファットガムがついてる!!かすり傷一つつけねぇで外に出してみせっからな!!っすよね、ファットガム!!」

「おう、当然や!!しっかり掴まっとき!いざとなったら防御力には定評あるファットさんが後ろに控えとるさかいな!!何でも防いだるわ!!それよりエリちゃん!今の内食べたいもんでも考えときぃや!外に出たらな、頑張ったご褒美に何でもぎょーさん食わしたるさかい!」

 

そういって笑うと二人はまた走り出した。

二人が元気な声で話し掛けてくれたのがどうしてなのか、それは私にも分かる。

だって向こうにはふたこさんがいる。

 

私は大丈夫でも、ふたこさんがそこにいるから・・・だからこの人達はそうやって言うんだと思う。

私が心配しないように。

 

 

『━━━━エリちゃんごめんね。硬くて乗り心地悪いかもだけど、お帰りはその赤いお兄ちゃんに乗り換え宜しく』

 

 

たったそれだけを言って、ふたこさんは行ってしまった。あの人のいる場所に向かって。

本当は止めたかった。あの人はとっても怖い人だから。ふたこさんが殺されちゃうと思ったから・・・・でも、何も言えなかった。何も出来なかった。あの人がいるんだと思うと手が動かなくて、声が出なかった。

 

私が止めなくちゃいけなかったのに。

私が危ないことを教えなくちゃいけなかったのに。

 

だって私がふたこさんを呼んだんだ。

私が『助けて』って言ったせいで、この優しい人達はここにきたんだ━━━━━

 

 

「・・・・・っ」

 

 

━━━━そう思ったら、胸がズキズキした。

 

息が苦しくて、涙が出て、手が震えた。

なんでこんな恐ろしいことをしたんだろうって思った。

これまでだってそうだったのに。

 

私のせいで、沢山の人が傷ついた。

私のわがままで、沢山の人が不幸になった。

あの人が言ったことは少しも間違ってない。だって私は皆を不幸にしてきたんだ。ママも、おじいちゃんも、お世話してくれた人達も、みんなみんな嫌な気持ちにさせてきた。

 

 

ママの言葉を忘れたことはない。

 

 

『この子は呪われてる』って言葉。

 

 

その時は分からなかったけど、今ならちゃんと分かる。

あの時ママは怖がってた。わたしがあの人に思うように、私のことをすごく怖がってたんだ。

だって震えた声が、怯える目が、私とおんなじだった。

 

 

ママの笑った顔を知ってる。パパの笑った顔を知ってる━━━それを壊したのが、私だって知ってる。あの人に教えてもらう前から。ぼんやりとだけど、目の前で消えてくパパをわたしは覚えてる。

 

そうなんだ、私のせいなんだ。

ママのことも、パパのことも。

ふたこさんのことも。

この優しい人達のことも。

 

 

全部。

 

 

全部。

 

 

全部。

 

 

私のせい。

 

 

どうすれば良いのかなんて、すぐ分かった。

あの人の所に私が帰れば良いんだって。

だってあの人は私が必要なんだ。だから私を連れていこうとしたふたこさんに怒ってる。

 

元通り、私が我慢すれば良い。

ずっとそうしてきたように。

今までみたいに。

 

 

なのに、どうしても、帰りたくなかった。

嫌だって思ってしまう。約束のこととか、クレープのこととか、遊んだこととか・・・帰ったら全部終わっちゃうから。もうきっと会えない。そんなのは嫌だ。

 

 

『誰がなんて言おうと、私は不幸なんかじゃない。エリちゃんが側にいてくれて嬉しいし、楽しいし、幸せだよ』

 

 

また、ふたこさんに、そう言って欲しいって思うから。

 

 

 

 

 

「エリちゃん!!」

 

 

 

 

 

突然大きな音がして、お兄さんが覆い被さってきた。

お兄さんの後ろに落ちてくる天井か見えた。

だからさっき言われた通りお兄さんにしがみつくと、大きな爆発する音が聞こえた。思わず目を開けると粉々になった天井を払いのける、悪い顔で笑う別のお兄さんがいた。

 

「バクゴーくんか!!おおきに!!」

 

丸い大きなおじさんがそう言うと、悪い顔のお兄さんは軽くそっちを見て鼻息を漏らす。そうしたら赤い髪のお兄さんが大きく口を開いた。

 

「爆豪ォ!!おっせぇぇぇよ!!」

「てめぇ!!助けられといて文句ほざいてんじゃねぇ!!なんだその様ァ!!特訓の意味ねぇじゃねぇか!!死ねボケが!!」

「これでも耐えた方だこの野郎!!それより、先急げ!!こっちの通路の奥!!緑谷がヴィランのボスと戦ってる!!すげぇでけぇやつ!!長く持たねぇぞ!!」

 

赤い髪のお兄さんの言葉を聞いて、悪い顔のお兄さんは凄く辛そうな顔をした。

直ぐに怒った顔になっちゃったけれど。

 

「っせぇ、言われんでも行くわ!!てめぇらはその白ガキ連れて避難しとけや!!」

 

そう言って向けられた背中に、気がついたら私は手を伸ばしていた。どうしてかは分からなかった。

でも、そうしなきゃいけない気がした。

 

ズボンを掴まれて、悪い顔の人が凄い怖い顔で振り向く。少し怖くて赤い髪のお兄さんにくっつくと、「止めろ、ヴィラン顔」って赤い髪のお兄さんに言われてムスッとしたけれど、わたしに目を合わせてくれた。

 

「なんだ、白ガキ。俺は暇じゃねぇんだよ」

「お、おい、そんな言い方しなくてもよ━━━」

「状況考えて物言えや!退いてろ!」

 

そう怒鳴りながら、悪い顔のお兄さんの赤い瞳が真っ直ぐに見てくる。

 

「何が言いてぇか知らねぇが、てめぇの話を聞いてる時間は俺にはねぇ。だから気に入らねぇなら、てめぇで考えて好きにしやがれ」

「好きに・・・・して、良いの?」

「何度も言わすなや、好きに生きて好きに死ね。少なくとも俺も・・・・てめぇを助けんのに必死になってる双虎もそうしてんだよ。ただな、言っとくぞ。好きにするなら、てめぇの命懸ける覚悟してやりやがれ」

 

 

 

「ばっ、馬鹿豪!デリカシーゼロか!!エリちゃんのことはお前も聞いて━━━━」

「関係あるかボケ!てめぇで物考えられんなら、てめぇで決めりゃ良いだろうが!!面倒くせぇ!!」

 

赤い髪のお兄さんの怒る声を聞きながら、わたしは言われた言葉を考えた。

そうしたら自然と声が出た。

 

 

「私、ふたこさんの所にいたい」

 

 

出来る事はないかも知れない。ただ邪魔になるかも知れない。ふたこさんが怒るかも知れないし、嫌われるかも知れない。もしかしたら、もっと悪いことが起きるかも知れない。

 

だけど、私の為に頑張ってくれてるあの人だけ置いていくのは嫌だ。怖くても、それだけは、絶対に。

 

「分かってて言ってんのか?」

 

真っ直ぐな赤い瞳に、私は力を込めて頷いた。

そうしたら悪い顔のお兄さんは背中を向けてふたこさんのいた方向へ歩き始める。

 

「切島。白ガキ持ってついてこい。双虎の所にいくついでに露払いくれぇはしてやる」

「はぁ!?馬鹿か、危ねぇ所に連れてける訳ねぇだろ!!気持ちは分かるぜ!?でも感情で突っ走る場面じゃねぇだろ!ファットガムも俺も━━━」

「んなこと言われんでも分かっとるわ。てめぇじゃねぇんだ、考えた上でだ。何処のルート通って帰るつもりか知らねぇが、俺が辿ってきた場所に道はねぇぞ。どっかの馬鹿のせいで通路の体を成してる場所探すのがやっとだ。おまけに下水が滴るわ、断線したケーブルが垂れ下がるわ、くっだらねぇが罠までありやがる糞みてぇな状況だ。瓦礫一つで後手後手に動くてめぇが、ガキ守りながら誘導出来んのか?ああ?」

「そ、そう言われると、お前ぇ・・・・」

「それにな、恐らくこの先に、地上にあがれる安全なルートがある。ここまで派手にやれる以上、何かしらの備えがあるのは確定だろうが。てめぇらの逃走ルートに罠仕掛けまくる馬鹿はいねぇ。通るならそこだ━━━━ファットガム。文句あんなら言えや」

 

悪い顔したお兄さんが丸いおじさんに聞くと、丸いおじさんは肩を竦めた。

 

「口では勝たれへん気するからええわ。戻るも地獄、進むも地獄ゆーんやったら、少しでも安全なん分かってるルートがええわな。ただやな、この先は間違いなくオーバーホールっちゅうヴィランがおるで。この状況下、一番の危険人物や。それはどないする気や?」

 

丸いおじさんが怖い顔で言う。

そうしたら悪い顔のお兄さんは一言だけ返した。

 

「んな雑魚、俺がぶちのめしたるわ」

 

ズケズケと進んでく背中に丸いおじさんが「はぁっ」って溜息をついた。

 

「理由になっとらんやんけ・・・・しゃーない子や。切島くん、行くで。爆豪くんの言葉にも一理はあるわ」

「良いすか、俺は、あいつのこと信じてやりたいっすけど」

「まぁ、良くはないわな。保護対象を狙っとるヴィランに近づけるんわ・・・・せやけど戻ってきてみて分かったんやが、通路の状態がえらい悪ぅなっとる。爆豪くんが言うように、新しい罠もあるかも分からん。そん時、疲弊した俺らじゃ対応が遅れる。事実遅れとるしな。待つのも戻るも危険なら━━━これも一つの選択肢や。どっちにしろ、俺らのやることは変わらん。エリちゃんを守るだけや」

「!━━━━━うっす!」

 

赤い髪のお兄さんにまた抱っこされて、私は悪い顔のお兄さんの背中を追い掛けてきた通路を戻った。

ふたこさんの声を聞きたくて。

会いたくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのに。

 

 

 

「おい!!ふざけんな、てめぇ!!誰が勝手に死んで良いっつった!!ごらぁ!!」

 

 

戻ったそこに、私の知ってる笑顔はなかった。

仰向けに寝かされながら天井を見上げるふたこさんの顔に表情はなかった。キラキラしてた目はどんよりしてて肌は青白く変わってる。楽しい事を沢山話してくれた口からは息もしてなかった。繋いでくれた手もボロボロで、顔も体も沢山の怪我があって、ふたこさんの周りは赤い血が沢山あって・・・・・。

 

 

「・・・・っこ、さんっ」

 

 

一目で分かった。

ふたこさんが死んじゃったこと。

嘘だと思った・・・でも、一緒にきてくれた赤い髪のお兄さんがボロボロ泣いてる。丸いおじさんも体が震えてる。部屋の中にいた黄色の人も、眼鏡のおじさんも、二つの色の人も皆が悲しんでる。

 

だからきっと、私が見てるものは本当で、もうふたこさんは何も言ってくれないんだって知った。

 

「ふざけんな、死なさねぇぞ!!てめぇ!!おい、轟!!さっさと外の救急呼んでこいや!!てめぇの氷結なら天井の穴から通路の一つ二つ作れんだろ!!機材ごと連れてこい!!」

「爆豪っ・・・・分かった!」

「他の連中も止まってんじゃねぇぞ!!さっさと安全確保しやがれ!!ヴィランが残ってるかも知れねぇんだぞ!!動けや!!ふざけんな!!」

 

悪い顔のお兄さんの側で、ふたこさんは少しも動いてくれない。さっきまで優しい言葉をかけてくれたのに。さっきまで抱き締めてくれたのに。

 

「切島!!心肺蘇生法は知ってるな!!手伝え!!」

「知ってる、知ってるけどよ・・・・でも、その出血じゃぁよ。もう━━━━」

「まだ死んでねぇ!!この程度の怪我でくたばるやつじゃねぇ!!こいつは!!」

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

「この馬鹿はな元から血の気が有り余ってんだ!!この程度なんてことねぇ!!兎に角、心臓を動かさせんだよ!!息もさせる!!手伝え!!」

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

「どいつもこいつも、ふざけんな!!こいつの事殺してぇのか!!」

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

 

 

もう、何も言って貰えないのは嫌だ。

 

 

 

 

そう思った瞬間、頭が凄く痛くなった。

それと同時におでこにある角から、何かがどんどん溢れてくる。

 

私の手を掴んでいた赤い髪のお兄さんが突然離れた。その顔は何かに驚いてるように見えた。

痛みに耐えながらもっと良く見れば、赤い髪のお兄さんの体から怪我がなくなってた。

 

それで、思い出した。

 

『巻き戻す個性』

 

いつだったのかわからないけれど、あの人達がそれが私の個性だって話してた。使い方なんてわからない。でも今その力が出てるのだけは分かった。

 

「エリちゃんっ・・・!」

 

赤い髪のお兄さん声を無視してふたこさんの元に走った。近づいた私に悪い顔のお兄さんは少し驚いたような顔をしたけど、直ぐに視線を鋭くした。何しにきたって、そう言ってるみたいに。

 

だから、角を指差して答える。

 

「あの人がっ、巻き戻す個性だって、言ってた」

「ああ?巻き戻す個性だ?・・・まさか━━」

 

言葉は続かなかったけど、目の前のお兄さんが何を言いたいかは分かった。だから頷いて返す。そうしたらお兄さんは少し黙った後、ふたこさんを一度見て口を開いた。

 

「個性の正確な効果、発動条件、個性発動中の効果範囲は分かるか」

「わからない・・・・でもっ、あの人がっ、ねずみさんを子供に戻せたって・・・言ってた。あっ、赤い髪のお兄さんの、怪我を、治せたっ」

 

お兄さんはそれだけ聞くと赤い髪のお兄さんを見て、それからふたこさんから離れる。そしてじっとわたしの目を見てきた。何も言わなくても気持ちが分かった。だから、お兄さんに代わってふたこさんの腕に触れた。

 

角の所から沢山の力が出てくる。

意識を集中すると頭痛が酷くなったけど、角から出るものは沢山になった。

だけどふたこさんの体は変わらない。あの人の言うことが本当なら元通りに治る筈なのに。少しも。

 

「何でっ・・・・!」

 

力はちゃんと出てる。なのにどうしても治らない。

少しずつ角から出てく力が少しずつ弱くなっていくのに、どうしても治らない。治ってくれない。

 

「そのまま、力を双虎に集中させとけ」

 

私のいる反対側に悪い顔のお兄さんがしゃがむ。

なんとなくそのお兄さんが私の個性の力にさわりそうな気がして離れてって言おうとしたけど、お兄さんは掌でそれを止めた。

 

「良いから集中しろ、双虎だけに目向けてろ。てめぇの個性は恐らくちゃんと働いてる」

「でっ、でもっ」

「情報は足りねぇが、多分それは生物にしか効かねぇんだ。証拠にてめぇの周りにあるコンクリだの、俺のコスだのは変わってねぇ。だから、そのまま個性をこいつに使ってろ。焦らなくていい」

 

そう言ってお兄さんはふたこさんの胸に手を当てて、体重を掛けるようにそこを強く押した。何かを呟きながら。何回も何回も。

 

それから顎をあげて口と口を重ねる。

ゆっくり息を吹き込んでいく。

 

「目を開けろ、双虎」

 

声をかけて、お兄さんはもう一度息を吹き込む。

 

「双虎」

 

赤い瞳に沢山の気持ちを見せながら。

お兄さんは何度も繰り返した。

 

 

「━━━━っすまない、爆豪くんっ!!俺にも手伝わせてくれ!!心臓マッサージをするなら・・・少し考えがある」

 

 

黄色の人がそう言って飛び込んできた。

お兄さんが視線を向けると黄色の人は手袋を外す。

 

「俺の透過で直接心臓をマッサージする。効果は胸骨を圧迫するより大きい筈さ。勿論リスクも高いけれど」

「あんた経験はあんのかよ」

「いや、流石にないよ。個性との相性が良い方法だから、一応学校で練習はしてきたけれど・・・やるのは今回が初めてだ。でもこの状況ならやる価値はあるだろう。任せて貰えないかな」

「・・・・ミスしたら、その時は俺がてめぇを殺す」

「ああ、最善を尽くすよ。君達がこの先もヒーローでいられるように・・・・!」

 

するりと黄色の人の手がふたこさんの中に入る。

強張った顔をした黄色の人は何かを探すように腕を動かす。額には汗が沢山滲んでた。

 

「・・・・今触れた、これからマッサージを始めるよ。爆豪くんは引き続き人工呼吸と声掛けを」

「言われんでもそうするわ」

「よし、始めるよ━━━」

 

黄色の人がそう言うと、お兄さんはまた息も吹き込み始めた。そしてお兄さんは何回もその名前を呼ぶ。

 

 

「さっさと起きやがれ、双虎。寝坊すんのも大概にしろや」

 

 

乱暴だけど、優しい声で。

 

 

 

「ふたこさん・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 」

 



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死んだ時に見るのは走馬灯かサンズリバーと決まってるでしょうが!他に何があるというのさ!えっ、なにあれ、モジャモジャしてる。なに、怖い。の巻き

「・・・・・・知ってる天井だ」

 

 

 

 

 

定番の台詞を逃した私の目の前に広がってるのは、知りも知ってる見慣れた天井。直前までの記憶はぼんやりしてるいるけど、ここにいる筈がない事だけははっきりと分かる。なんだってここに?私の部屋じゃね?

 

そう思って視線を周囲へ向けると、見慣れた壁にガチムチのポスターが貼られていた。びっくりしながら二度見しようとした、振り向いた反対側にもガチムチグッズの嵐。驚いて別方向を見てもガチムチ。何処をどう見てもガチムチ。私の部屋はガチムチに支配されていた。

 

思わず「ひゃおぅ!?」と声をあげてしまうと、ガタリと物音がした。そっちへ視線を向けたらドアを開けたまま肩をびくつかせる髪の毛がモジャモジャな男がいた。

 

「誰だ、貴様ぁ!!モジャモジャごらぁ!!れでーの部屋にノックもしないで、ていうかなんだこの部屋の惨状は!なんて嫌がらせしてん!?私でもここまでしないわ!!許さぬぅ!!」

「ひっ!?あっ、すっ、スミマセン!!僕は緑谷出久って言います!!ノックもしないでスミマセン!まさか僕の部屋に女の人がいるとは思わなく!!━━━というか、ここ僕の部屋だと思うんですけれど・・・・」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?どうみても私の部屋でしょーが!!テキトーこいてるとモジャモジャ一本残らずむしり取るかんね!!ヒサシみたいな頭しよってからに!!」

「えっ、ヒサ・・・・もしかして、あの、僕のお父さん、緑谷ヒサシの知り合いとかですか?」

 

怪訝そうな顔で聞いてきたモジャモジャに、私は胸を張って返した。

 

「まぁ、基本家にいないし、知り合いくらいの付き合いしかないけれど━━━でも歴とした私のお父様だ、この野郎!!・・・・ん?僕のお父さん?」

 

不思議に思ってると目の前で目を見開きながら固まってるモジャモジャが視界に入った。小さく開いた口からは絶え間なく小さな呟きがブツブツと溢れてる。怖い。

 

「はぁ、もう何でも良いけどさ、取り敢えずこのガチムチ達片付けて良い?流石にこれだけ同じ物に囲まれてると気味悪いんだよね」

「きっ、気味悪い・・・・そ、それは、僕自身この部屋が趣味部屋であることは理解してるつもりですし、平均的な一般の方と比べたら変わってる部屋なのは分かりますけど、気味悪いなんてことはないと僕は思ってると言いますか、そもそもオールマイトはヒーローチャーミングスマイルランキングでもナンバーワンで評価されてますし、それにオールマイトグッズはよく作られてて一見同じように見えても全部少しずつ違う物なんです、勿論それも製造のクオリティが低いからという訳でなくちゃんと理由があって、今あなたが見てるポスターなんかはスペシャル特番でプレゼントされたものなんですけど番組内でオールマイトが着てた衣装が━━━━━」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!きっしょいんじゃぁ、どれだけガチムチ好きなんじゃぁ!!ガチホモか!!」

 

ツッコミを入れるべく手を振った━━━振った、のだが、私の手はするっとモジャモジャをすり抜けてしまった。まるで黒豆パイセンみたいに。何となしに自分の掌をみれば色が透けてる。よくよく見れば足元が地面についてない。フワフワしてる。服装も家で着ることのないヒーローコス。しかも窓ガラスを覗いてみたらそこに私はいなかった。

 

「なっ、なんじゃこりゃぁぁぁぁああああ!!ぱぱぱー、ぱぱぱー、ぱぱぱー、ぱぱぱぱーぱーぱーぱー・・・・言ってる場合か!!モジャモジャぁ!!」

「ひえっ!じ、自分で勝手に始めたのに!?ていうか、半透明なの気づいてなかった!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平行世界ねぇ・・・・」

「はい、そうじゃないかと。それならある程度説明がつきますし、僕も緑谷さんも嘘をついてないなら、それしかないかなぁって。原因は分かりませんけど、可能性としては誰かの個性じゃないかと思うんです。もしかしたらそんな単純な話じゃなくて複合的な原因があって偶然起きた現象かも知れませんけど━━━━」

 

なんじゃこりやぁぁぁぁああああ!!事件から少し。

腹を割ってモジャモジャと話していくと、どうやらここは私のいた世界ではないらしい事が分かった。状況証拠としてネットを騒がせていたニコちゃんVS妖怪血ペロ男の映像記録もなく、体育祭の緑谷双虎大活躍録もない。そして何より家族写真を調べると私がいただろう位置にこのモジャモジャが入れ替わるように入ってた。

調べた限り私の記録が何一つここになかったのだ。

 

それでも最初はなんらかの個性で入れ替わられてたり、催眠術的なのに掛かってて騙されてるのかと思ったけど・・・・少なくとも目の前のモジャモジャからは欠片もそういう雰囲気もなく、寧ろお人好しの気配がびんびんしてきたのでとりまこのモジャモジャは信じることにした。

 

しかし、平行世界にダイブするとは。

人生ってわからん。

ていうか、ずっとなんか喋ってるな。このモジャモジャ。ん?なんの話?平行世界ね、うんうん分かる。分かる。そだねー。

 

「・・・・で、こっちでもかっちゃん元気?」

「━━━━えっ、は、はい。元気です。元気過ぎるくらいに・・・というか、その、そっちの世界の僕、っていうのは変なんですけど、性別どころかなんていうか全然違うし、あの緑谷さんは━━━━」

「双虎で良いよ。それでいくと私もあんたを緑谷さんって言わなくちゃいけないじゃん。意味分からなくなるわ。で、出久だっけ?かっちゃんがどったの?」

「あっ、あの、なんて言うか、言い方が仲良さげだったから、ふっ、ふた、双虎さんはかっちゃんとどういう関係なのかなって」

 

どういう関係・・・・?

 

「うーん・・・・幼なじみ、喧嘩友達、遊び友達、奢ってくれる人、勉強教えてくれる人、朝起こしにきてくれる目覚まし、荷物持ち、タクシー・・・・そんな感じ」

「死ぬほどこき使われてる!?えっ、あのかっちゃんがですか!?」

「?どのかっちゃんか知らないけど、金髪ボンバーヘッドの爆豪勝己のことだけど?なに、こっちではどんななの?『ゴラァァァ!!舐めてんじゃねぇぞ!!』とか言ってる?」

「言ってます!似てます!昨日も言ってました!!うわぁっ、かっちゃんが、そんなっ、ええっ、かっちゃんが・・・・凄い。普通に凄い。どうしたらそんな事に」

「どうしたらって・・・・別に?」

 

頑張って思い出しながらかっちゃんとのエピソードを口にすればモジャモジャが項垂れた。どうしたのかとモジャモジャの顔を覗き込んで尋ねれば顔を真っ赤にしながら離れて、それからぼそぼそと話し始める。こっちでのかっちゃんとの事。モジャモジャこと出久はかっちゃんと上手くやれてないらしい。特に中学の頃の当たりは強くて、暗に死ねと言われたこともあるとか。個性が発現した後はもっと酷く関係が悪化して、雄英に入ってからも授業でもよくぶつかるそうだ。

 

「ぶん殴れば良いのに」

「解決法が雑っ!というかですね、こっちのかっちゃんにそんな事したら余計に大変な事になりますから!それに、そもそも攻撃が当たらないと思いますし・・・いや、一発くらいならもしかしたらですけど、でも後に続きがないと言いますか」

「えー?そうなの?私は昔からそうしてるけどなぁ・・・・まぁ、私が超絶美少女な上にアルティメットな天才ウーマンだからってのもあるかもだけどさ」

「自画自賛レベルがかっちゃんと同じだ。成る程」

「うぉい、まてぇい!何が成る程だ!!それはあんた失礼でしょ!!」

 

抗議するとモジャモジャは申し訳なさそうにしたけど、目だけはそういう目をしていた。腹立ったので顔面に蹴りを入れてやる。透けると分かってても驚いたのか、モジャモジャは肩をびくりとさせた。

 

それからも色々と話してこの世界と私のいた世界の相違について検証していく。やっぱり基本的には変わりはあまりなく、相違と言ったら私と出久の存在が入れ替わってる事と、それによって起きた事象の変化。私がいた世界と数ヶ月のズレがある程度だった。こっちはまだ一学期も終わってないそうなのだ。似たようなことばかり起きてるみたいだから敢えて未来の事については触れなかったけど・・・・教えても良いんかな?いや、映画とか漫画とかで大抵こういうのは碌なことにならないもんなぁ。

 

しっかし、話を聞いてるとこっちの出久も色々と大変そうだ。この時代だと珍しく無個性スタートとは。しかも側に天才マンのかっちゃんがいると・・・・だからこんなにモジャモジャのモジモジくんになってしまったのだろうなぁ。せめて私みたいに八割優しさで出来てる気が利く超絶美少女でもいたらもっと陽キャになってたろうに。自然とステップを踏めるお洒落モジャモジャになって『君かわうぃーねぇ!ひゅー!』とか言ってただろうに・・・・。

 

「今からでもダンス覚えようか」

「あの双虎さん・・・・今さっき口から溢してたのが理由なら断らせて下さい」

 

おっと、口から滑ってたんだぜ。

 

それからまた暫く話してていい加減飽きた頃。

気になっていたので「もしかしてわんふぉーなんちゃら継いでたりする?」って聞いたら分かりやすく出久の顔が青ざめた。こっちでも秘密案件らしい。

まぁ、何処にいっても秘密案件だろうけど。

 

「・・・・あっ、あの、なんで、その事を・・・はっ!いえ、何でもないでひふゅ!」

「秘密守る気ある?まー安心しなって。私も向こうで勧誘されたから知ってるだけ。ガチムチの個性も変化なしか・・・いよいよ私らだけか。変化あるのは」

「その、ガチムチって、まさかオールマイトのことじゃ・・・というより双虎さんもですか?それじゃ━━━」

「いや、私は継いでないけど」

 

きっぱりそう伝えると、出久は不思議だって言わんばかりの視線を向けてきた。何がそんなに不思議なのかって直接聞けば、目をキョロキョロさせた後おずおずと話しだす。

 

「だって、双虎さんは、その、個性を二つも持っているんですよね?それに聞いてるとかっちゃん並みに強くて、才能だって・・・それなら━━━━━」

 

その後、出久の言葉は続かなかった。

だけど何となく分かる。

客観的に見たらそう考えるのも分かるし。

 

でも━━━━。

 

 

 

「私はヒーローにはなれないからねぇー」

 

 

 

かっちゃんを見て、ガチムチを見て。

皆を見ていつも思う。

私にはなれないな、って。

 

 

「私はね、自分が強い事を知ってるから戦えるだけ。強さを持ってるから助けにいくだけ。だから自分が出来ないことをやろうとは思わないし、出来ることしかやらない。これまでずっとそうしてきたし、これからだってそうするつもり━━━━」

 

 

いつか誰かが言ってた、ヒーローの資質の話。

考えるより先に体が動くって、そういう話。

私には一度もなかった。人には突発的に動いたようにみえても、自分自身算段をつけないで動いたことはない。それが私なのだ。かっちゃんとかの方がよっぽど向いてる。

 

それに私は、私が守りたいものしか守る気ない。

あんな物を受け取ってガチムチの代わりに平和の象徴とか本当ごめん被る。

 

「━━━━だから、出久はもっと胸を張れば良いよ。どんな経緯があったか知らないけど、あの人に力を渡すって決めさせて、それを受け取ったことは当たり前じゃないから」

「双虎さん・・・・」

「陰キャっぽいとことか、モジャモジャなとことか、部屋のセンスとか、なんかそういうのはアレだけど、なんか、そう、なんだろ、うん、まぁ、その内彼女とか出きるよ。宝くじもあたる。元気出して」

「・・・・かっちゃんが振り回されてる理由が分かった気がします」

 

問題児みたいな言い方した、だと!?

こいつ、この短時間で随分と図々しくなったな。

こんな美少女を前にして、なんてやつだ。もっと仰々しくしても良かろうものを。まぁ、堅苦しい方が面倒だし良いか。

 

「それと、ふと思い出した」

「えっ、はっ、はい。というか、いきなりスッと話変えないで下さい。ついて行けないです。それで何かあったんですか・・・・?」

「私、多分死んだわ」

「死んだ!?向こうで何してきたんですか!?」

「まぁ、幼児虐待してたうんこヴィランしばき回しにいったんだけど・・・・うーん?何処まで言って良いものかなぁ」

 

驚く出久にどう理由を話そうかと考えた時、何かが聞こえた気がした。振り向いて見たけれどそこにはガチムチがいるだけ。特別何もない。

 

「呼んだ?」

「?僕は呼んでないです、けど・・・双虎さん、あの、なんか薄くなってる気が」

 

言われて体を見下ろしてみれば、若干色が薄れてた。

 

「━━━━おー、何だろう、成仏的な?」

「成仏するんですか?」

「さぁね、私も流石に成仏したことないから━━━」

 

言葉を続けようとして、それに気づいた。

耳に響いてた声が誰のものなのか。

 

「━━━━うるさいなぁ、まったく」

 

何を言ってるのかまでは分からない。

でも呼んでる事だけは、はっきり伝わってくる。

そして聞きなれた声に混じって聞こえる、その小さな声も。あっ、増えた。というか、どんどん増えるな。他にやることないの?皆暇なの?

 

「成仏はまだ先みたい、なんかさ、めっちゃ呼ばれてるっぽいから・・・・いやぁ、まいったね。体ボロボロなのにさぁ。あはは」

 

そう笑顔で伝えると出久は困ったように笑った。

 

「何だか慌ただしいですね」

「本当、変な夢みたもんだよ。死にかけなら普通サンズリバーでしょ?平行世界とかワラ」

「夢か・・・・そうなのかも知れないですよね。こんな事誰かに話しても信じて貰えなさそうですし」

「ねっ。私がオタクのモジャモジャと入れ替わってるとか」

「言い方が酷い・・・モジャモジャもオタクも自覚はありますけど」

 

耳に響いてた声がはっきりしてくるに従って、体がどんどん薄れていく。それと同時に目の前がぼんやりして、出久の声が遠くなってくる。

そろそろかなぁと思ってると出久が意を決したように口を開いた。

 

 

「あのっ、僕が言うのは、説得力がないと思うんですけど、さっきの話・・・・双虎さんは十分ヒーローだと思います!だってここに来るまで戦ってたんですよね!死んだって言えるほど必死になって!誰かの為に!」

 

 

「ヒーローだって人間で、身近な人を優先するのは当たり前だと思うし、だから一人一人やり方は違うのは当然と言いますか、皆がオールマイトみたいにする必要はないと思うんです!僕は、オールマイトみたいになりたいと思いますけど、きっと同じ事は出来ないと思います!」

 

 

「なんていうか、その、上手く言えないんですけど、今そうやって誰かに呼ばれてるのは、双虎さんがやってきた事の成果なんだと思うんです!生きて欲しいって、誰かに思って貰えるのも当たり前じゃない!双虎さんはきっともう、誰かのヒーローなんだって思うんです!だから━━━ちゃんと帰ってあげて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出久の言葉に私は軽く敬礼して見せた。

「あいさ」と返事をしながら。

笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、弟よ。一応消える前に言っとくんだけど、お茶子落とすつもりなら下手な事しないで、誠実に真正面から告白した方が良いよ。男らしくぶつかって砕けよ、お姉ちゃん応援してるぞぃ━━━━━━」

 

「いや、弟じゃないですし、麗日さんとはそういう関係になりたいとか恐れ多い事は思ってませんし、というかそれだと僕っ、見事に砕けてるじゃないですか━━━━あっ、帰った!?本当に自由な人だなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━きぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!顔面近づけて何のつもりだこの痴漢爆発頭ァ!!」

 

「ぐおっ!!??てっ、てめぇっ、ふざけんじゃねぇ!誰のせぇ━━━━づっ!!」

「ふたこさん!!」

 

「わっぷ!?何事!?視界が白くっ、敵襲!?!?」




夢おまけ~夕飯編~


デク「お母さん、僕に双子のお姉さんとか・・・腹違いのお姉さんとかいないよね?」ゴハンパクパク

プニコ「腹違いの、お姉さんっ・・・!?」カラン


次回予告

父、問い詰められる


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これにて大団円ということで、三三七拍子で締めたいと思います!さぁさぁ、お手を拝借!よーーーおっ、と、言ったら始めて下さいねー!はい、フライングーー!ひゅーー!の巻き

アニメのワンフォーオールの戦闘描写かっこよすなぁ。映画版も良かったけど、作画気合い入っててえがったわぁ(*´ω`*)


微笑み一つで天地鳴動させる、生まれながらのスーパーアイドル、容姿端麗にして純情可憐な美少女界の生ける伝説、崇め奉られることが基本な私は緑谷双虎。

天下無双系のパーフェクト美少女だ。

 

そんな私は今絶賛インターン生としてヒーロー活動の真っ最中!期待と不安で胸をドキドキさせながら、悪い子さんなヤクザの若頭をボッコボコにした所まで良かったんだけど・・・・その後が大変!可愛すぎる私に我慢出来なかった幼馴染Kが、ニコちゃんの寝込みを襲うという大暴挙をかましたの!ニコちゃん史上最大のスキャンダル!私、どうしたら良いのーーーー!

 

 

 

 

 

「━━━━━って事で、かっちゃんぎるてぃぃぃぃぃぃ!!」

「ふざけんじゃねぇ!!馬鹿がぁ!!誰のせいで、てめぇっ、この、糞がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

泣きじゃくるエリちゃんをよしよししながら状況の説明を聞いた私は、冷静に判断した結果かっちゃんをぎるてぃする事にした。だって許せん。いや、死にかけてたの助けてくれたのは感謝してるよ?してるけどね?

 

「私のファーストキスを奪ったことで既に罪はカンストしてるけど・・・・」

「なっ、そ、がっ・・・ぐっっ、かっ、カンストしててたまるか!!ただの人工呼吸だボケが!!必要なら誰だろうとやったるわ!!」

「その後、あんなに顔近づけて何するつもりだったの!舌突っ込むつもりだったんでしょ!!人工呼吸にかこつけてぇ!!きゃぁぁぁーーー、この変態野郎がぁ!!私が可愛すぎるにしても、それは駄目でしょぉぉぉが!!」

「ふざけんじゃねぇ!!んなこと考える訳あるかぁ!!呼吸の確認しただけだっつんだよ!!」

 

必死に弁解する姿には怪しさしかない。

本当のこと話せよ、と視線を送ってると胸元に顔を埋めてたエリちゃんがモゾモゾ動き出した。どうしたのかと視線を落とすと、ちょうどこっちを見上げたエリちゃんと目が合う。

 

「違うの!かっちゃんさんは、ふたこさんのこと頑張って助けようとしてて、嫌な事しようとした訳じゃないよ!怒らないでっ」

 

エリちゃんは涙目でプルプルしながら教えてくれる。

そうしたら少し目元の赤い切島が「そうだぞ、緑谷」と追従してきた。

 

「爆豪にやましい気持ちなんて欠片もなかった!!見てた俺が保証するぜ!!少しもなかった!!」

 

暑苦しい言葉に黒豆パイセンも頷く。

 

「そうだね、爆豪くんはただ君のことを━━━━」

 

黒豆パイセンの言葉を遮るように爆発音が鳴った。

見なくても分かるけど、チラッとして見ればかっちゃんが額に青筋浮かべて、見たことないレベルで眉間にシワを寄せていた。般若顔にエリちゃんがビクッとする。

 

「いい加減止めろ糞共がぁ!!フォローこいてんじゃねぇよ!!誰が頼んだ!!止めねぇと顔面原型無くなるまで殴り飛ばすぞ!!ゴラァ!!!んな、ことよりさっさと仕事しろや!!糞ヴィラン締め上げんだよ!!」

 

「━━━━━━えぇっ!?フォローしてるのに!?」

「なっ、何でだよ、爆豪!誤解されたままは良くねぇよ!あんなに必死に・・・」

 

「それを止めろっつってんだ馬鹿島ァ!!良いから来いや!!ぶちのめされてぇのか!!」

 

ワチャワチャしながらボロボロの嘴まつげと以下略を拘束していく三人を見てると、上の方から私の名前を呼ぶお茶子の声が響いてきた。見上げれば屋敷担当組が顔を覗かせていて、その中には救出を呼びに行かせたとかいう轟の姿もある。手を振れば悲鳴があがった。

 

「緑谷!!じっとしてろ!!怪我に響くだろうが!」

「ニコちゃんこないな時までサービス精神ださんでええからじっとしてて!!お願いやから!」

「けろっ!!」

 

お説教されてしまった。

何故に・・・ていうか、梅雨ちゃん興奮し過ぎで鳴き声なんですけど。

 

それから程なくして皆が救急隊員が降りてきた。

救急隊員は七三や太っちょマンといった怪我人を無視して真っ先に私の方へ駆け付けてくる。立ってる事を怒られ、用意されたタンカに無理やり寝かされそうになったけど、事情を説明して怪我がないことを言えば軽く体調の確認した後で解放してくれた。

 

救出隊員が七三や太っちょマンに駆け寄っていくと、お茶子と梅雨ちゃん、轟が駆け込んできた。

 

「ニコちゃん!!ほんまにっ、ほんまにっっっっ!!大丈夫なん!?お腹に穴が空いてて、腕も足もエライことになっとるって!!」

「OKだよー、だから落ち着いてぇー」

「落ち着ける訳ないやろ!もう、無茶ばっかりしよってからにぃ!!」

 

興奮するお茶子に顔をみよーんと伸ばされる。

痛みに涙がちょちょ切れていたら梅雨ちゃんが肩ポンして止めてくれた。

 

「お茶子ちゃん、気持ちは分かるけれど無事なことがわかった以上お仕事しましょ。まだここは安全な場所じゃないわ」

「そうやね・・・・はぁ、帰ったら説教するからね。覚悟してて」

 

ズビシと指差されたので敬礼を返す。

お茶子は何とも言えない顔で周囲を確認しながら進んでいく。轟も二人に続いて行くのかと思ったけれど、何故かポツンと残ってた。どうしたのかと思ってると近づいてきて、何故かぎゅっと抱き締められた。私にくっついてるエリちゃんごとだ。

 

エリちゃん共々少し驚いたけれど、何となく察したので軽く背中をポンポンしてあげる。

 

「あはは。心配掛けてごめんね、ありがと」

「・・・・良い。気にするな。無事で良かった」

 

僅かに震える声に、本気で心配してくれた事が伝わってくる。少しだけ申し訳ない気持ちになってると、さっきと同じように怒号が上の方から響いてきた。

 

「しょぉぉぉぉぉぉぉぉとぉぉぉぉぉ!!何をしているんだ、今すぐその小娘から離れろ!!馬鹿が移る!!」

 

見上げれば顔を元気に燃やす遅刻おハゲがいた。

 

「馬鹿が移るかぁ!!ていうか、そもそも馬鹿じゃないしぃ!!天才だしぃ!それよりなに今さら来て!この遅刻魔ぁ!社会人のクセに遅刻とか!!はは!やーい、やーい!社会不適合者!悔しかったら時巻き戻して集合場所に来てみろー!」

「ぐぬぬぬぬ!!口の減らぬガキめがぁ!!待っていろ、今すぐ━━━━」

 

こっちに来ようと身を構えた瞬間、おハゲの腕輪から電子音が鳴った。如何にも緊急と言わんばかりの音。少し葛藤した後、おハゲはそのコールに応えて耳に手首を当てる。それから少し話をした後で駆けつけたウサ姉に色々命令して「覚えておけ、貴様ァ!」と捨て台詞をおいて去っていった。何だったのか。

 

「何だったんだ、あいつ・・・・」

 

息子にまで言われてるぞ。

おハゲよ。

 

「━━━━なっ、おい、ゴラァ!!紅白野郎!!てめっ、何してんだぁ!!あ゛あ゛あ゛!?」

「ん?ああ、そうだな。緑谷、俺は戻る。怪我はないだろうがあんな事があったんだ。ゆっくりしてろ。後始末は俺達がつける」

 

かっちゃんに呼ばれて轟が離れていった。

それを見送ってるとエリちゃんが服を引っ張ってくる。

 

「どったの?」

「あの、かっちゃんさんは・・・」

「?」

「あっ、うぅん、何でもな━━━━━」

 

何かを言いかけた所で、エリちゃんが頭を押さえた。

手を伸ばすと勢いよく払いのけられる。

僅かにあげたエリちゃんの顔には焦りが滲んでる。

 

「なんっ、でっ、だって、もうっ」

 

うっすら角が光ってる様子に、かっちゃんから聞いた話が頭を過った。私を治したエリちゃんの力、巻き戻す個性の事が。

 

「エリちゃん、聞いてね━━━」

「だめ、ちかづいちゃ!とまらっ、なっ、どう、して、いや、いやだ・・・・!」

 

目視では分かりづらいけれど、角から何か溢れていくのが見える。無機物には効果がないと言っていたのに、舞い散る埃や転がってる小石が不透明な力に押されていく。溢れ出るそれはどんどん広がっていって、私の足元に触れた。

 

瞬間言葉に出来ない感覚が走ってきた。

嫌な感じに思わずバックステップしてしまう。

エリちゃんはその姿に安堵したのと同時、ほんの僅か顔を曇らせた。

 

 

「待てやっ!!てめぇ、何処いくつもりだ!!」

 

 

踏み込もうとしたら駆けつけたかっちゃんに怒鳴り声と共に肩を掴まれた。振り払おうとしたけれど、掴む力が強くて離れない。

 

「━━━━かっちゃん!」

「死ぬつもりか!!馬鹿が!!良いから落ち着け!!視認出来るだけでもさっきの比じゃねぇ、出力が安定するまで待て!!あいつが個性使う姿は見てる、恐らくあれは無制限に出せるもんじゃねぇ!!だから待て!!」

「でもっ━━━━!」

「でもも糞もねぇ!!白ガキ泣かせるつもりか!!誰も近寄るな!!良いなぁ!!」

 

かっちゃんに引っ張られていく間もエリちゃんの角から放出する不透明のそれは勢いを増していく。雷のように激しく暴れ周囲へ飛び散っていく。

 

エリちゃんの異変に気づいて周りがざわつくと、その声が聞こえてきた。

 

 

「横に避けろっ!ニコ、爆豪!!」

 

 

声に従って咄嗟に飛ぶと、エリちゃんの周囲を蠢いていた不透明のそれが煙のように消えた。

すかさず引き寄せる個性で飛んで、地面に崩れ落ちていくエリちゃんをキャッチする。抱き締めたエリちゃんの顔は青白く、呼吸も荒い。額には沢山の汗が滲んでいる。意識もなくなっていて、おでこも酷く熱い。

 

無事とはとても言い難いけれど、それでも最悪ではない事に胸を撫で下ろした。

 

「遅れて済まなかった・・・・」

 

息切れしながら告げられた謝罪に、私は振り返って空いてる手で軽く敬礼した。

 

「いえ、あざーすです。包帯先生、本当に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして、時刻AM9時32分丁度。

後続の警官隊やヒーロー達が合流し、完全に安全確保が出来た所で誰かが言った。

 

要救助者、保護完了━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

騒がしかった逮捕劇に静けさが見え始めた頃。

何人ものヴィラン収容報告をしてきた警官が、私に敬礼しそれを声高々に告げた。

 

 

「指定ヴィラン団体死穢八斎會幹部『オーバーホール』、治崎廻の収容完了致しました!」

 

 

敬礼してみせる警官に私は視線を返した。

若い警官の表情には何処か誇らしさが滲んでいる。

私は軽く敬礼を返して気になっていたそれを尋ねた。

 

 

「そうか、護送の準備は出来ているのか?」

「はっ、護衛のヒーローであるスナッチ氏とそのサイドキックが既に到着しているとの事です!最終確認が済み次第、予定ルートで護送を開始するそうです!」

「例の押収品も一緒か?」

「押収品ですか?押収品・・・・ああっ、確かそう聞き及んでおります。それが何かありましたか?今なら呼び止めることも」

「いや、構わない。重要な物だったからな、所在を知りたかっただけだ」

 

僅かに首を傾げた警官だったが、そう伝えれば納得したように頷き報告を続ける。警官の話を聞きながら周囲の様子を確認していると救急の手当てを受けるヒーローの姿が見えた。それと同時に先程の騒ぎが頭を過った。

 

「突入したヒーロー達はどうだった。救急が行ってから何やら騒がしかったがようだが・・・・」

「はっ!そちらも既に問題ないとの事です!どうやら保護対象者が個性を暴走させたようです。居合わせたイレイザーが対処し大事に至らなかった聞き及んでおります!今はイレイザーと他のヒーローの監視の下、病院へ搬送中との事です!」

「個性の暴走か・・・・どういう個性だったんだ」

「えっ、あの、申し訳ありません"警部補"。前日の対策本部で報告があがった時と変わらず未確認ですので、それがどういう個性なのか・・・」

「ああ、そうだったな。そういう事なら構わない。報告ご苦労。引き続き自分の職務に戻ってくれ。私は署に一度報告する」

「はっ!!」

 

警官に見送られながら騒がしい屋敷の門を抜け、用意された車両へ乗り込む。一緒にきた部下は今も仕事をしてるのか人は残らず出払っており、私は入り込んだ車両の鍵を締めてスマホのコールボタンをタッチした。

数コールの後、電子音と共に繋がる。

 

 

「━━━━━聞こえていますか」

 

 

小さな私の呟くような声に感情の込もってない無機質な声が返ってくる。たった一言だけ『続けろ』と。相変わらずのつれない声に、私は声のトーンを僅かにあげてその名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

「弔くん」



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『Villains Concertos』の閑話の巻き

シリアス「長期休暇ですって!?」





『━━━━━弔くん、今しがた治崎を乗せた車両が出発しましたよ。護衛にはヒーローが一人ついてますけど、見たことない人です。名前はスナッチっていうみたいですよ。砂になる個性みたいです』

 

手にしたスマホから低い男の声が響いた。

ハンズフリーにしている為その声は周囲へと伝わり、静けさだけが漂ってた空間には状況を理解したことへの僅かな緊張が走る。

 

「そうか、護送ルートに変化はあったか」

『聞いてる感じだと予定通りみたいでしたけど・・・どうでしょうか?適当に理由つけて追い掛けてみますか?』

「いや、そのまま機会を伺い、隙を見て合流ポイントに集合しろ。ただし、演奏会は遅刻厳禁だ。先につく筈のゲストを退屈させたくないからな」

『了解です、弔くんも気をつけて下さい。あっ、そうだ。良いお土産見つけたので、それも楽しみにしてて下さいねーではでは』

 

そう会話を終わらせると、側で壁に背を預けていたコンプレスが視線を向けてきた。物言いたげな顔に顎をしゃくると、コンプレスは身振り手振りをつけながら話し始める。

 

「いやいや、大した事じゃぁない。ただ、うちの大将にもそういうユーモアがあるとは知らなかったから驚いただけさ。演奏会とは洒落てるね。ヒーローでも目指してみるかい、大将」

「冗談でもよせ、吐き気がする」

 

返した言葉にコンプレスは笑い声をあげる。

 

「そいつは失敬!勘弁してくれよ、大将。それはそうとやっこさんは予定通りなのか?頼むから借りを返す前に監獄に送っちまった、ってのは止めてくれよ。これでも根に持つタイプなんだ。俺も、あいつも」

「心配するな、予定通りだ。・・・・仮にそうなったとしても、いずれ機会は作る。お前らが望んでる限りな」

「はははっ、嬉しいこと言ってくれるじゃぁないの。おじさん期待してるぜ、死柄木」

 

楽しげな声に僅かな怒りを孕ませながらコンプレスは語る。身振り手振りにもいつもの余裕が見てとれず、内心どれ程煮えくり返っているのか聞くまでもない。

それが分かっているのか、コンプレスの近くで腰掛けている荼毘も静寂を貫いている。物静かな空気を好む男だ、普段なら叱責の一つもしてるだろうが今はそれをするつもりはないらしい。協調性のないやつだと思っていたが・・・・存外そうでもないようだ。

 

『時間だ。出発するが、問題ないか』

 

無線越しにスピナーの声が響いた。

こちらを見た荼毘に視線を送れば、俺の代わりに無線を手にし「出発しろ」とだけ声を発する。スピナーは暫く黙った後、ゆっくりアクセルをふかした。

 

ガタガタと揺れ始め、断続的に振動が空間内に響く。

薄暗い空間の中、外から響く音は加速する。

淀んだ空気に殺意が混じり始める。

 

『死柄木!目標を捕捉した!今、前に付ける!いいか、言っとくぞ!!カーチェイスはごめんだからな!』

 

長いような短い時間が過ぎ、求めていた時がきた。

無線の声に全員の視線が俺へと集まる。

許可を求めるそれに、俺は一言だけ返した。

 

 

 

「借りを返そう。利子をたっぷりつけて」

 

 

 

その言葉と共にその荷台のドアを押し開いた。

目の前には流れるような風景、それと一台の護送車両とその前後に計四台のパトカーが並んで走っている。俺達の姿を見て前を固めていたパトカーの運転手が何かを叫んでいるが興味もない。

だから無視してコンプレスに合図を出した。

 

「オーディエンスの期待に応えるのがマジシャンの本分。我らがボスの期待にも勿論お応え致しましょう?こちらに取り出したるは種も仕掛けもない綺麗なガラス玉。これを一つ、二つ、三つ、四つと持ちまして、私めが一息吹き掛けますと、あら不思議━━━━」

 

口許にやったそれをコンプレスは護送車を護衛するように走るパトカーに向け放った。放物線を描いたそれはパトカーの下に潜り込み、コンプレスが指を鳴らすと同時に大きな瓦礫に変わりパトカーをひっくり返す。

 

「━━━━パトカーもフワリ空中浮遊させるとびきりアイテムに早変わり。お後がよろしいようで」

 

大きく跳ね上がったパトカーだったが、そのままクラッシュしたのは三台だけだった。一番前を走るそれは、落下直前パトカーの中から溢れ出た砂がクッションとなり着地したのだ。

一瞬激しく蛇行したものの直ぐに体勢を整え後続車両の前に滑り込んできたパトカーの窓からは、肩から先を砂へと変えた髭面の男が鬼の形相で睨み付けていた。

 

「その相貌、ヴィラン連合だな!!貴様ら!!」

 

男の怒号にコンプレスは「人気者は辛いね」と肩を竦め、荼毘は詰まらなそうに首をかく。

 

「砂の個性ってのは聞いてたが、体を砂に変えられるのか?聞いてたより面倒そうだな。死柄木、お前の個性とも相性悪そうだ」

「分かってるならやれ、荼毘」

「頼み方ってのを知らねぇな、お前は」

 

そう言いながら荼毘は腕に火を燻らせる。

 

「まぁ、別に構いやしないがな」

 

青白い炎が噴出し、一面が青に染まる。

何かが焦げた臭いが鼻をつくが、肉の焼けた臭いはしない。完璧ではないにしろ防がれたのだろう。

 

ただし、反撃するほどの余裕はないらしい。

相性のそう悪くない炎相手、守る対象がいるだけでこの様なら・・・あいつ自身無敵という言葉から程遠いのだろう。となれば全身の砂化は恐らくない。砂化は限定的。一瞬だけだが確認出来ただけで頭部と下半身は人間のそれだった。仮に頭部が砂化出来たとしても、視覚や聴覚といった感知機能が使用出来るか?否だ。そういった個性は異形化してる場合、本来の機能を失うか弱体化する傾向がある━━━━それなら、やりようはある。

 

「そのまま釘付けにしておけ」

「長いこと放出は出来ないぞ」

「それで良い、俺が飛び移るまでの時間が稼げればな。スピナー、減速しろ」

 

俺の合図と共にトラックは減速。

みるみる内に背後を走っていたパトカーが接近する。

トラックの荷台の中から上へあがり、ヒーローのいる場所に向けて飛ぶ。俺の接近と同時に荼毘が火の放出を止め、炎の切れ間に髭の男の姿が見えてくる。

 

やはり頭部と下半身は人間のまま。

下半身が異形化しない事は確定的、可能なら砂化して固定した方が遥かに安定するのだから。頭部に関しては視覚や聴覚を保つ為に異形化してない可能性もあるが、額に浮かぶ汗や表情を見ればそうでない事は察せる。

それなら、こちらのやる事は決まった。

 

「よぉ、ヒーロー」

「━━━━━っ、貴様!?」

 

パトカーのボンネットへ着地すると同時、掌で髭男の顔面を打ち付ける。瞬間的に発動した個性が男の顔面にひびを走らせ、その口から野太い絶叫を上げさせる。

ヒーローが復帰する前に車体の上を走り抜け、置き土産を一つ残して後続の護送車へ。フロントガラスを個性で塵に変えて身を乗り込ませた。

 

「ヴィランっ!?うっ、動くなっ、動けば━━━━」

 

反応良く銃を抜こうとした助手席の警官へ裏拳を一発。ふらついた所で顔面を掴みあげる。そのまま出力を上げて個性を発動すれば、悲鳴も漏らすことなく警官は塵へと変わった。

その様子にハンドルを握っていた警官が息を呑んだ。顔に浮かぶのは恐怖だけで抵抗の気配はない。

 

塵なった男の代わりに助手席へ腰を下ろした。

警察の車両は初めて乗るが存外悪くない。

背もたれに寄りかかりながらダッシュボードの上で足を組み、隣へ軽く視線を向ければハンドル握るそいつは大袈裟に肩を跳ねさせた。

 

「そのままトラックを追って走れ。死にたくなかったらな」

「はっ、えっ、は、はい」

「聞き分けが良くて助かるよ」

 

運転手と仲良くなった所で外からけたたましい音が聞こえた。窓から身を乗り出して見てみれば、先程一部を崩壊させておいたパトカーが横転した状態で車道の壁に突っ込んでいる。

そしてその側には血を流して横たわる警官の姿も。

 

ふとミラーに視線を移せば護送車にしがみつくヒーローの姿が見えた。流石にヒーロー。諦めが悪い。

どうするかと考えているとトラックの荷台にいるコンプレスから仰々しい礼があった。側に荼毘の姿はない。代わりに視界の中を小さな玉が飛んでいく。

 

「━━━━ハンドルから手を離すなよ」

「えっ、はっ、い」

 

その直後、護送車の後部方向から蒼炎が噴き上がった。

野太い断末魔が響き渡り、隣の警官が女のような悲鳴を上げる。肉の焼ける臭いが鼻を刺激すると同時、車両の上部から何かが落ちる音が聞こえた。

 

「定員オーバーだ、他当たれ」

 

一言そう伝えれば天井が軽くノックされた後、「善良な市民の為に、安全運転するよう言っといてくれ」と言葉が続いた。隣の警官へ視線を向け「だとさ」と伝えれば無言で頷く。物分かりが良くて助かる。運転手を代える手間が省けるからな。

 

何かが爆発するような音を聞きながら、俺はスマホを操作してからダッシュボードへ置いた。

僅かな間を置いてスマホから響いてくるのは先生が聞いていた名前も知らないジャズ。曲名も演奏者も忘れた。昔の有名なやつだと先生から聞いたが、それっきり。

俺が知ってることと言えば、案外それが悪くないという事だけだ。

 

フロントガラスの穴から吹き込む風に髪を揺らしながら、俺はスマホから流れる曲に耳を傾けた。

俺の気持ちを表すような、何処か楽しげなその曲に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、冷たい物が顔を打ち付けた。

重い瞼を開くと小さな明かり灯る部屋の中で一人車椅子に座らされていた。背もたれに固定された体は動かない。ぼんやりと歪む意識のまま辺りを見渡す。淀んだ空気が漂うそこは酷く冷えていた。物音が一つもなく、自分の鼓動がやけに煩く鼓膜を揺らしてく。

 

「目が覚めたか?」

 

声に視線をあげると影が目の前にいた。

ゆっくりと近づいてきたそれは電灯の明かりに照らされ徐々に姿を露にしていく。

 

漆黒のコート。

老人のような白髪。

細身の体についた幾つもの手のオブジェクト。

 

「・・・・死柄木弔」

 

呟いた言葉に死柄木は大した反応をすることもなく、俺を固定している椅子に触れる。

 

「ごきげんよう、って言った方が良いか?」

「・・・・・」

「黙りなんてするなよ、友達だろう。俺達は」

 

友達とは面白い冗談だ。

 

「・・・・先に裏切ったのはお前らだろう。今更なんの用だ」

 

俺が所持していたサンプルは警察に押収された。

こいつが俺の身柄を確保した以上、同じ車両に保管されてたサンプルはこいつらの手の中だろう。クロノに渡しておいた半分もこいつらに奪われた。薬の元になるエリもヒーローの手の中。もう俺に用などない筈だ。

 

「殺しに来たのか」

 

思い当たるそれを口にしたが、死柄木は肩を竦めた。

 

「いーや、俺は優しいからな。友達のお前を助けてやろうと思ってな」

「助ける・・・だと」

「そう、俺達は友達だろ?だからこうやって助けた。殺すつもりなら態々ここまで連れてきたりしてないだろう?それに裏切ったと言うけどな、あれだってお前の大切な物が警察やヒーローなんかに取られないよう預かっておいてやっただけだ」

「・・・・ふざけるな!何がっ、預かるだ!なら返せ!!お前ら程度で扱える代物じゃない!!」

 

高らかに歌うように、死柄木の口から語られた戯れ言に思わず声が荒くなった。微塵の誠意もない言葉に怒りすら沸き上がってくる。

そんな俺の表情を見て死柄木は可笑しそうに笑い声をあげ、そっと車椅子を押し始める。カラカラと車輪が回り、頼りない電灯を辿り車椅子は進んでいく。

 

「まぁ、落ち着けよ。その話は後でしよう。それより、せっかく出向させた二人を取り調べたらしいじゃないか。真実を語らせる個性だったか?信用してくれてないなんて悲しかったよ。俺もあいつらも」

「何をっ・・・・」

「でも、それだけだった。お前があいつらにしたのは。随分と信用してたみたいだな、お仲間の個性。だから本来やるべきだった荷物のチェックも、監視も徹底しなかった。自分達へ引き入れる為にも与える不快感は少ない方が良いもんなぁ。自由こそなかったが、随分と甘やかされたって聞いてるよ。ああ、あいつらの頭のネジが外れてるのも理由か?何にせよ、お前はやるべきことをやらなかった。だからな、ここにいるんだよ」

 

裏切りから逃走までの流れを見れば、それが突発的に起こった事ではなく計画されていたのは分かる。だが、少なくとも出向した時点ではあの二人は知らなかった筈だ。

死柄木の口ぶりから察すれば、俺達の目を欺いて連絡をつけたのだろうが・・・・流石に通信機器を持たせたままにはしなかった。当然奴らを閉じ込めた部屋にもそれなりの対策はしてある。となれば、もっと原始的な方法。

 

「個性、か・・・・お前らの中にMr.コンプレスという奴がいたな」

「ははっ、やっぱり頭が良いな。若頭。トガの荷物の中に飴玉が入ってただろう?あれの一つに紛れさせておいた。頃合いを見計らって━━━ってそれだけだ。どうだ、種明かしすればなんて事ないだろ。せめてお前がトゥワイスに現在複製してる物について聞いてれば、その考えにも至っただろうに。結局、お前らは舐めてたんだ。俺達を。そろそろ自覚しろよ、裏切らせたのはお前だ」

 

不意に車椅子が止まった。

目の前には重く閉ざされた鉄の扉がある。

死柄木がそこを軽くノックすれば、耳障りな音を立てながらゆっくり開いていく。

 

「それにしても、随分手酷くやられたな。ボロボロだ」

「お前には関係ない・・・」

「緑谷双虎、ヒーロー名はニコだったか?」

 

その名前に背筋へ悪寒が走った。

僅かに跳ね上がった肩に死柄木が笑い声をあげる。

愉快そうな、その声で。

 

「何が、可笑しいっ・・・!」

「いや、気にするな。こっちの話だ。それより前を向いてくれよ。ようやく着いた。皆お待ちかねだ」

 

死柄木の声に前へ視線を戻せば、目の前にあったのは錆び付いた機械やコンテナが並ぶ小さな工場。こいつらと初めて顔を合わせた場所と良く似た場所。

埃とオイルの臭いが漂うそこにはあの日と同じようにヴィラン連合の姿もあった。前回と違い構成員が揃い、雰囲気は穏やかとは言い難い。

 

「最近な、俺は音楽に嵌まってるんだ。先生から教えて貰った物とかたまに聞いてたりするんだけど、これが中々悪くなくてなぁ」

「なんの、話だ」

「まぁ、聞けよ。それである時思ったんだ。俺にも出来そうだなってさ」

 

そう言いながら死柄木はコンテナの上に置かれたレコードのスイッチを入れた。聞き覚えのあるクラシックが流れ始める。

それと同時に何かが膝の上に放られた。小さく硬い感触に視線を落とせばガラス玉のような何かが膝の上を転がっている。

 

「受け取ってくれ、お前の為に回収しておいた」

 

そう言った瞬間、玉が弾けた。

それと同時にごろりと、重い物が膝の上で転がる。

見つめた先、それと目が合った。

 

「悪い、オーバーホール。あんな騒ぎだったろ?うちの部下も慌ててな・・・・それしか、持ってこれなかったそうだ」

 

死柄木の声が遠く聞こえた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ジ」

 

 

 

 

 

目の前のそれから僅かも目が離せない。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・っ、ヤ、ジ」

 

 

 

 

 

それの生気のない瞳から、少しも。

 

 

 

 

 

 

 

「オヤジ」

 

 

 

 

 

 

ブツリと背後から物音がして、締め付ける感触が消えた。だから自由になった手で抱き締めようとしたが、それは出来なかった。

手首から先に、何もついてなかったから。巻き付いてる包帯の隙間から血が滲む。

 

「治してやれよ、オーバーホール。大丈夫、まだ死んだばっかりらしいからさ」

 

言われるまま、手が伸びた。

オヤジの顔に掌がついていたその場所で触れた。

けれど、個性が発動しない。僅かにも。血で汚れるだけで、何も。

 

 

 

「ああっ━━━━」

 

 

 

オヤジの首から赤い血が流れ落ちていく。

溢れたそれを戻そうとして、掬い上げようとして、その掌さえもう何処にもなく、腕の隙間をすり抜けたそれはズボンへと落ちていく。

 

 

 

 

「待て、待ってくれ、違う」

 

 

 

 

いや、頭では分かってる。

もう無理だ。

 

 

 

 

 

「違うんだ、オヤジ。俺は」

 

 

 

 

 

溜まっていた血があろうと無かろうと、個性が使えようと使えなかろうとも、もう意味はない。

時間が経ちすぎている。

なのに、俺の体は、頭の中は、オヤジを治そうとして止まれなかった。

 

 

 

 

 

「俺は、あんたに、あんたにっ、礼がしたくて━━━」

 

 

 

 

 

『まぁた喧嘩したって聞いたぞ、治崎。来い馬鹿野郎、説教だ。足腰立てなくしてやる、覚悟しろおめぇ』

 

 

 

 

 

 

あんただけは違ったんだ。

誰もが化け物を見る目で見てきたのに。

あんただけは見てくれた、手を伸ばしてくれた。

 

 

 

 

 

 

『てめぇもウチの代紋背負うつもりなら、一張羅くれぇ持ってねぇとな。似合うじゃねぇか、糞ガキなんざもう言えねぇな』

 

 

 

 

 

 

誰もが遠目に見ていたのに。

あんただけは俺の側にいてくれた。

怒鳴りつけてくれた。

 

 

 

 

 

 

『おめぇの恩返ししてぇって気持ちは嬉しいんだがよ・・・治崎よ、仁義だけは欠いちゃいけねぇ。そいつを欠いちまったら俺達は侠客じゃなくなっちまう。これからもウチにいる気なら、それだけは忘れるんじゃねぇぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄なんだ。あんたは。

俺の英雄だから。

だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

笑っていて欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて会った時のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

威風堂々、胸を張って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死柄木ぃッッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それを、こいつは殺した。

 

 

「殺す!!殺す!!お前はっ!!お前だけは!!」

 

 

掴み掛かろうと立ち上がったが、地面に転げ落ちた。

見れば足は脛辺りから何もない。

そこからは焦げた臭いが鼻をついたが、今はそんな事はどうでも良い。

 

目の前に、直ぐそこに、手を伸ばした場所に、死柄木がいる。

 

 

「死柄っ、木ッッッッッッ!!殺す!!お前は俺が殺す!!死柄木ッ、死柄木ッ、死柄木ッッッ!!」

 

 

体が、頭が、焼けつくかと思う程に熱くなっていく。

沸き上がる怒りで目の前がチカチカする。

動く度にぼやけていた痛みが蘇り、激痛が全身を駆け巡るが気にもならない。目の前のこいつを殺せるなら、何も。

 

 

「死柄木弔ァッッッッッッ!!絶対っ、お前だけは、殺す!!殺してやる!!殺してやる!!お前の手にしたものも、何もかも!!全部!!後悔させてやる!!お前に!!」

 

「はははっ、良い声で歌ってくれるな。見立て通りだ」

 

 

それだけ言うと、死柄木は軽快に指を振りながら闇の中へと歩き出した。

 

「何処に行く!!待てぇぇっ!!逃げるつもりか!!死柄木ッッ!!死柄木弔ァッッッッッ!!」

 

喉が裂けんばかりに怒鳴り声を上げると、死柄木は振っていた指を一旦止めて振り返る。

手のオブジェクトの隙間から覗く顔に、ぞっとするような笑みを浮かべながら。

 

「楽しんでいってくれ、オーバーホール。おもてなしは俺の仲間達がしてくれる━━━━━━そうだろ、トゥワイス」

 

鋭利な物を擦り合わせる音を交えながら、コツコツと靴底が地面とぶつかる音が響く。

振り返った先に、腕輪から伸びたメジャーを構えるトゥワイスの姿があった。

 

 

 

 

 

「あぁ、歓迎させて貰うぜ。糞野郎━━━━━━━」

 



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お給料頂きに上がりました所長。つきましては活躍に見合う特別手当てを頂ければと・・・・えぇ、そんなに?そんなに貰えるんですか?れありぃー?まじの、マジの助?一生ついていきます!!所長ぉ!の巻き

次でヤクザ編終わりーですぅー(多分)


「検査結果は・・・・まぁ、頗る健康だね。帰って大丈夫ですよ」

「よっしゃっ!!今夜は焼き肉やで!!」

「いや、まぁ、大丈夫ですけどね?大丈夫ですけれど、焼き肉、焼き肉・・・・かぁ。うーん」

 

エリちゃん保護完了後、容態が急変したエリちゃんに付き添って病院に搬送された私だったけど・・・・私に起きた事をお医者さんにポロっと漏らしたら即拘束、即行で精密検査を受けさせられた。血を抜かれて、レントゲン取られて、ワケわかんない機械に乗せられてブィーーーンってされて━━━━問答無用で病室に監禁である。

当然お昼ご飯抜きのぶっ続け検査。もう一度言っておく、『お・ひ・る・ご・は・ん・ぬ・き』である。まじアリエッティ。

 

健康なんですけどぉ!ご飯食べたいんですけどぉ!って全力で抗議したけど、「お腹に穴空いて無事な訳無いでしょう!!黙って検査されなさい!!」と看護師さんにぶちギレられた。その迫力たるや白衣の覇王だった。嘴まつげなんて物じゃない迫力だった。医療現場は戦場なんやなぁって。

 

そんで何やかんや丸一日検査されて、薄味の病院食食べさせられて、薬臭い部屋に閉じ込められて、テレビのニュースで嘴まつげがヴィラン連合に誘拐されたっぽい事きいて警察なにしてんじゃぁぁぁってぶちきれて・・・・今、こうして、やっと退院許可が降りたのであった。

やぁったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!我が世の春はここであったか!!じゅりえっとぉぉぉぉぉ!!じゅりえっと誰か知らないけどぉぉぉぉぉ!!はぁぁぁぁあ!でも嘴まつげの事がちょっとあれじゃぁぁぁ!言っても仕方ないけどぉぉぉぉ!!

 

何やかんやルンルン気分で診察室から出ると、昨日私を見捨ててさっさと帰っていった薄情者のかっちゃんがいた。

ただでさえギルティ対象のかっちゃん。

当然報復の為に拳を構えてダイナミックエントリーした訳だけど、殴りつける前に行き着けの洋菓子店の紙袋を差し出されて緊急停止。アイコンタクトすればお見舞いの品らしいのでありがたく頂いた。

 

「ふん、やれば出来るじゃないのぉ!そういう事だよ、かっちゃん!仕方ないにゃぁ、置いて帰ったことは許す!でもね、私のファーストキスを奪った事に関しては断じて許してないから、だから今夜焼き肉を・・・・・・はぁわぁ!シュークリームが、こんなにっ、しかも高いやつじゃん!イチゴ載っとる!えっ、やだぁ!イチゴがっ、イチゴが載っとるよぉ!!ありがとかっちゃん!!愛してるよぉ!!」

「あっ、あいっ・・・・っち、っせぇわ。病院で騒ぐんじゃねぇ。それより、体大丈夫だったんか」

「OKまるー、退院して良いってさ。だから焼き肉」

「焼き肉じゃねぇよ。自重しろ、馬鹿が」

「えぇぇ・・・・・」

 

頑なな態度に焼き肉の道が閉ざされたのを感じて少しがっかり。でもシュークリームあるしね。仕方あるまい。その内奢ってくれそうだし。

 

病室に帰るまでの間、私が入院させられた後に起きた事についてかっちゃんから聞いた。

私と同じように搬送された面子の内、重傷と判断されたのはエリちゃん・切島・七三・天ちゃんパイセンだけだったらしい。他は軽傷でその日の内に退院してて、轟やお茶子達はもう学校で授業受けてるとか。

 

エリちゃんは個性を使った影響か未だに意識が戻らず、集中治療室にて隔離されてるみたい。何かあった時の為に包帯先生が控えてるそうだから顔ぐらい見にいっても大丈夫かなぁーーと思ったけど、包帯先生から伝言を貰ったかっちゃん曰く『エリちゃんの容態が落ち着くまで来るな』との事だそうだ。行ってもとりつく島もなく追い返される気がするので、今回は大人しく諦めて・・・・後でお見舞いのベイブレー●届けようと思う。私カスタマイズのやつ。左回転のやつ。

 

切島は全身打撲で多少裂傷もあるけど命には別状はなく、包帯グルグル巻きのミイラ男状態で元気に入院してるらしい。症状もそこまで重くないので数日の内には退院するとか。

天ちゃんパイセンは顔面にヒビが入ってるもののそれ自体後に残るような怪我ではなく、切島同様ミイラ男状態で入院中。こっちは退院が少し遅れそうらしい。

 

それで、七三なのだが・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━来たか、緑谷双虎」

 

かっちゃんと病室を訪れるとベッドに座ったまま書類を読む七三の姿が視界に入った。お見舞いに来たのかガチムチや黒豆パイセンやバブっちといった七三事務所メンバーの姿もある。雰囲気は予想通り重たい。

 

やっほーしてから入ると七三から近くにくるように言われた。言われた通りホイホイ近寄れば、真面目な顔で口を開いてくる。

 

「今回は良く働いてくれた。これは今回の君の働きに報いる対価だ。受け取ってくれ」

 

そう言って手渡されたのは茶色い封筒。

表の所には私の名前が書かれてた。

振って見ればチャリチャリと音がする。

 

━━━気になって七三に視線を送ると「確認してくれ」と言うのでそのまま開いてみれば有名なおじさんが書かれた数枚のお札とちょっとした小銭、それと一枚の給与明細書が入っていた。

 

「それは君が働いた時給に加え、今回の件の危険手当てと活躍を考慮した特別手当てだ。本来なら給与日に与えるつもりだったが・・・私の事務所は一身上の都合で休業する事を決定した。君を続けて雇う事が出来なくなった為、少し早かったが給与を受け取って欲しい。インターンご苦労だった」

「わーい、お給料だぁーーーって言いたい所なんですけど・・・もっと違う感じの想像してドキドキしてやってきた私の緊張返して下さいよ。主に現金換算で」

「・・・・ふふっ、面白いジョークだ。その分も上乗せさせて貰っている。明細書で確認してくれ」

「マジすか」

 

言われて確認したら明細書におかしな文としょっぱい金額が書いてある。ジョーク代やっすい。というか、これ書類として大丈夫なの?なんか駄目だったりしない?

じっと明細書を確認してると七三が眼鏡をカチャリと直して真剣な顔をする。

 

「心配はいらない、後日きちんとした書類を郵送する」

「あっ、ちゃんとしてない自覚はあったんですね」

「当然だ、ユーモアで誤魔化して良いものではない」

「分かりますけど・・・・やるならやるで、今だけでも気持ちギャグに全振りしてくださいよ。そういう所ですよ」

「・・・・・善処しよう」

 

そう言うと七三はカラッとした顔で笑った。

周りの雰囲気とは正反対で、その表情は晴れた空のように晴れやかだった。

 

 

 

 

個性が消えてしまった事を、微塵も考えさせない程に。

 

 

 

 

戦闘中に聞いた小さな発砲音。

それは嘴まつげが特殊弾を放った音だった。

特殊弾を受けた七三は個性を失い、一晩明けた今も個性の発動はおろか個性因子に僅かな反応もないらしい。

これからずっとなのかは分からない。けれど現状、七三は完全に個性を失ってしまった。

 

この時代で個性を失うという事が何を意味するのか。

それは考えるまでもない。

 

生まれてからずっと共にあった個性という力。

確かにそれは元々人が持ってなかった特別な力ではあるけれど、今の人達にとってその力は当たり前に自身を構成する一つで切って切り離せない物。それを失うというのは人によって手足を失う事と変わりはないし、ましてや個性の力ありきで成り立っているヒーローなら、その喪失感はより大きい物だろう。

 

いや、それだけならまだ良かったのかも知れない。

七三は嘴まつげとの戦いで右足も失っていた。

あの不意打ちの一撃が命を刈り取る程の規模だった事を考えれば、命があっただけでも儲けものなのかも知れないけれど・・・・私にはこれが喜ばしい結果とは言えなかった。

 

七三の様子を見ていたら、私の視線に気づいたのか首を横に振られた。

 

「君が気にする事ではない。これは他の誰でもない私の弱さが、力不足が招いた事態だ」

 

そう七三が言うと黒豆パイセンが涙を流した。

圧し殺した声で七三の名前を呼ぶ。

 

「すみません、サー・・・・俺がっ、俺がもっと早く、治崎を捕らえていたらっ!こんな事にはっ!あの時、治崎に気づいていたら!すみません、俺が━━━━」

「止めなさい、ミリオ。先にも言ったが、これは私の弱さが故だ。私が反省する事はあっても、お前が謝る理由など一つもない。お前達は良く戦ってくれた。お前達の・・・いや、お前の機転と、その奮闘がなければ、これほどの結果はなかったと私は思っている。エリちゃんを救い、治崎という凶悪なヴィランの脅威も退けた。それも、誰の命も失うことなく。だから涙はお門違いというものだ、笑顔で胸を張りなさい。ミリオ、お前は成すべきを成した。お前は、私の誇りだ」

「━━━━っ・・・・・はいっ!サー!」

 

歪んだ笑顔を浮かべる黒豆パイセンの頭を撫でながら、七三は控えていたバブっち達を見た。

 

「バブルガール、センチピーダー。君達もだ、なんだその顔は。私の教えを忘れたのか。ヒーローはユーモアを失ってはいけない。悔しく思う事は良い、悲しむのも構わない。だが、ヒーローであるなら、それを抱えてなお笑顔を浮かべるものだ」

 

「勿論です。糧にします、必ず」

「は゛っ゛、は゛ぃ゛ぃ゛!気を゛つ゛け゛ま゛す゛ぅ゛ぅ゛」

 

涙を瞳に浮かべる二人に七三は少し困ったように眉を下げながら穏やかな笑みを浮かべる。

 

「それにだ、私はまだ引退するつもりはない。流石に今まで通りとはいかないが・・・・私なりにヒーローとして活動していくつもりだ。その時は君達に力を借りたい。頼めるか?」

 

「━━━ぁ、勿論です!サー・ナイトアイ!必ず!」

「う゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!は゛ぁ゛い゛ぃ゛ぃ゛!!い゛せ゛き゛し゛ま゛せ゛ぇ゛ん゛ん゛ん゛」

 

すっかり事務所面子でほっこり。

場違い感が凄くなってきたのでかっちゃんを引き連れてこっそり部屋を出ようとしたら、入口を出る所で七三に呼び止められた。

 

「緑谷双虎、礼を言わせて欲しい」

「?なんのですか」

 

意味が分からず首を傾げると七三は口を開いて・・・・何かを躊躇するように口を閉じた。

 

「いや、何でもない。ただ、一言だけで良い。受け取ってくれないか━━━━━━━ありがとう」

 

笑顔で掛けられた言葉に私は精一杯の笑顔で返した。

七三の笑顔の意味も、言葉の意味も私は知らない。

だけど、私が返すのはこれだと思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ、どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

きっと、それだけで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院を出てから暫く。

学校までの帰り道、電車の旅も終わって直ぐの頃。

見慣れた風景を眺めながら買って貰った最後のシュークリームにかぶりついた時、不意にスマホが鳴った。

ポケットから引っ張り出して見てみればメッセージが入ってる。それはお茶子達からで夕飯どうするのー?ってやつだった。

 

時間を確認すれば夕飯までは間に合うかギリギリといった所。バスが行ったばかりで、間に合わせるなら死ぬ気で走るしかないけれど・・・・今から死ぬ気でランニングはキツイ。気分的にダレまくってる。

 

だから少し前を歩くかっちゃんを呼び止めた。

 

「かっちゃん、かっちゃん。夕飯どうする?」

「あっ?あぁ・・・・テキトーにコンビニでも寄れば良いだろうが」

「えぇーコンビニ弁当ぉぉ?焼き肉は?このまま隣駅までちょろっと行ってさ。定食で良いならそこにもあるし、気分的にあんまだけどファミレスとかでも別に良いよ。かっちゃんが好きな場所で」

 

私のナイスな提案にかっちゃんが渋い顔をした。

これは断ってくるやつだ。

私は詳しいんだ。

 

「持ち合わせがねぇ、我慢しとけ」

「ん?違うってば。ほら、ね?」

 

額に青筋を浮かべたかっちゃんに、私は貰ったばかりのそれを見せつけてやった。分かり安く茶色い封筒を顔の前で揺らしたんだけど、かっちゃんの顔が何故か険しくなってく。えっ、なんで。

 

「なに怒ってんの・・・・?」

「なに怒ってるって、てめぇなぁ・・・・そりゃ何の真似だ、ああ?喧嘩売ってんのか。悪かったな、金がなくて」

「ちがっ、誰もそんな事言ってないじゃん!だからっ!今日は私が奢ってあげるって言ってんの!見れば分かるじゃん!ほら!」

「あぁ?・・・・お前、本当に体に違和感はねぇんだな?」

 

この野郎ぉ!!なんて真っ直ぐな目で、頭の不具合を心配してきてんの!?おかしくない!?人が奢るって言っただけで、何の心配してんの!?たまに優しくしてやれば、これだよ!もう、あれだよ!おこだよ、オコぉ!!プンスコだよ!!わたしゃぁ!!

 

「何を疑ってんじゃぁ!たまには奢るくらいするし!」

「記憶してる限り、てめぇに奢られたのは一度切りだ。疑うに決まってんだろ・・・・何かやらかした訳じゃねぇだろうな」

「何もしてないわぁぁぁい!!」

 

むきゃつくぅぅぅぅぅ!!この野郎!!

 

ここまで言ったのにかっちゃんはまだ何かを疑ってる。

完全に何かの犯人扱いの目だ。

めちゃくちゃ腹立つ。

 

だけどここで言い争っても得がある訳でもないし、私はさっさと理由を口にする事にした━━━━━。

 

 

「だから・・・だから、さぁ・・・・・」

 

 

━━━━したんだけど。

 

 

 

「ああ?」

 

 

 

かっちゃんの顔を見ながらそれを考えると言葉が出て来なかった。変な汗が次から次へと出て来て、顔がどんどん熱くなってくる。何故だか心臓がバクバク煩くもなってきて、喉が変に乾いて声が掠れる。

 

 

見るつもりはないのに、そこへと視線がいって・・・余計に言葉は出て来なかった。

 

 

そんな私を見てかっちゃんが眉間のシワを深くさせてく。疑いの眼差し百パーセントである。正直、めちゃ腹立つ。めちゃめちゃ腹立つけど・・・・今はその普段通りの姿が、少しだけ煩い心臓の鼓動を沈めてくれた。

 

 

 

 

「た、たす・・・」

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 

「助けて、くれたでしょ・・・・その、だから、これは、お礼だから━━━━━」

 

 

 

 

私が倒れた後、何があったのかちゃんと聞いた。

それがただ救う為だけにしてくれた行動である事なんて、誰に言われなくても分かってる。

あの時言ったように、かっちゃんはきっと私でなくてもそうした筈だ。

 

それは単なる医療行為なんだから、気にする方がどうかしてる・・・・・のに。

 

 

 

 

 

 

「あり、がと、ぅ・・・・・その、ちゃんと聞こえてた、から。かっちゃんの声」

 

 

 

 

 

 

私の顔から、どうしても熱が引いていかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・かっ、が、っ、が、柄にもねぇことしてんじゃねぇわ!!ボケがあ!!おっ、おおおお、奢れやぁあああ!!かかっ、辛いもん死ぬほど寄越せやゴラァ!!」

「おおっ、おおおおっごったるわぁぁぁああああ!!上等じゃボケぇぇぇぇ!!食いだおれるレベルで食わせてっ!!発汗地獄に叩き落としてやるわぁぁぁぁい!!」

 

近くのよく分からない中華店で死ぬほど辛い物を頼みまくった。

味覚が3日は死んだ。



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『大人達の友情、と』の閑話の巻き

ななさんの個性が判明しちゃっなぁ。
そうきたかぁ、そっちきたかぁ。
てか、最後が不穏過ぎるわ。


夕陽の淡いオレンジが窓から射し込み始めた頃。

通形少年達が帰り、すっかり静かになった病室で私はそれを告げた。

ずっと言えなかった、その言葉を。

 

「すまなかった、ナイトアイ。こんな事になるまで・・・・君に会いにこれなくて」

 

私は私の意思で彼との袂を分かった。

その事に後悔はないが・・・それでも、彼と仲違いしたまま何もしなかった事に思うことはある。

 

「何を・・・・私も貴方に会いに行けなかった。お互い様というもの。それにこの間も会ったばかりだ。寿司屋でのことは私の記憶違いだったか?」

「あれは、彼女を理由にしてしまった。そうでなければきっと私はあの場に行けなかったさ」

「それなら、今日は私に会いにきてくれたという事で良いのかな」

 

そう言ってナイトアイは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

気の利いた言葉が浮かばず「ああ」と肯定の言葉を伝えると、ナイトアイも「そうか」と一言だけ口にして静かに目を瞑る。

 

しんとした静寂の中で時を刻む音だけが響く。

お互い言葉を交わさずにいると夕陽に誘われた鳥達の鳴き声が窓からうっすらと聞こえてきて、遠くに見える電車の走る音が鼓膜を揺らしていった。

 

それは酷く穏やかで、昔の事を思い出した。

 

彼とチームを組んでいた頃。

夕陽の射し込む事務所の中で、私達はよく書類を整理していた。別に習慣だった訳ではない。コンビを組み活動していく中で自然とそうなっていった。

書類とにらめっこしている彼はよくコーヒーを差し出してくれてた。砂糖は一つ、ミルクはなし。お礼を伝えると「大した事ではない」「あなたの活躍に比べれば」と苦笑交じりに返されたものだ。・・・・私はあの時間が嫌いではなかった。それまで一人で活動していた余計にそう思ったのかも知れない。ありのままの姿で誰かと共に過ごす穏やかな時間は特別だった。面白くもない書類整理も、何処か楽しんでいた気すらする。

 

昔を懐かしんでいると、不意にナイトアイが呟いた。

「あなたの名前を呼んでいた」と。

視線を向けるとナイトアイが何処か遠い目で膝に掛かる掛け布団を眺めていた。

 

「私の名前を・・・・?」

「あぁ、あの時・・・彼女が治崎の攻撃を受け、力なく落ちていったその時、私はあなたの名前を呼んでいた。あの子とあなたとでは、背丈も、性別も、何もかも違うのにな」

「それは━━━」

 

どうしてだい?と、そう尋ねようとしたが、そんな私の言葉より早くナイトアイは答えた。

 

「重なって見えたんだ。私が見てしまった、あなたの未来の姿と」

 

その言葉に、私は何も返せなかった。

それは私達が袂を分かった理由そのものだったから。

私は彼の苦悩も痛みも気づいていながら、それでも進む事を決めたのだ。今さら何を言える。

小さな沈黙が続いた後、ナイトアイはゆっくり続けた。

 

「時折、彼女にあなたを見ていた。言動こそ違っていたが、彼女の本質はあなたと良く似ていたから・・・・だから、あの僅かな間に見た彼女の未来と、記憶の底で眠っていたあなたの未来が重なって━━━━気づけばあなたの名前を呼んでいた。良い大人が一番錯乱していたなど、恥ずかしい限りだよ」

 

そう言いながら固くなっていた表情が崩し、「ミリオが気づかなかった事が唯一の救いかな・・・・」と呆れたような表情を浮かべる。

 

「オールマイト、私は・・・・私は、自分の個性が恐ろしかった。どれだけ努力をしても、どれだけ足掻こうと、私の見た未来は何も変わらなかった。個性を使えば使う程、自由など一つもなく、私は誰かに用意されたレールの上を、ただひたすらに歩いている気分になった」

 

「誰かの死の映像を見る度、それを変えたくて何度も出来る限りの事をしてきた。だが結果はいつも変わらない。私の努力を嘲笑うように、私の眺める先で未来の光景が再現されていく。その度に、胃がひっくり返ったかと思うような吐き気に襲われた。知っていながら何も出来なかった事実に、罪悪感で胸が締め付けられた」

 

「そしていつしか思うようになった。これは私のせいではないかと。私が未来を見たせいで、この残酷な未来が決定づけられてしまってるのではないかと・・・・」

 

力なく語られた言葉に、気がついたら私は彼の肩を掴んでいた。そしてこちらを見上げた彼に、私は思考の纏まらぬまま口を開いていた。

 

「そんな事あるわけがない。君のお陰で救われた命もある。私は幾度も見てきたぞ、私は幾度も助けられた」

「違うんだ、オールマイト。それは、私の予知の中でも起きた出来事なんだ。当然の━━━━」

「違う!君が教えてくれなければ、出来なかった!君がヒーローでいてくれたから、君が誰かの為に個性を使ってくれたから分かった事だ!出来たことなんだ!それは誇るべきことだ!」

「そうだったとしても!私はっ、何人も見殺しにしてきたんだ・・・・・!オールマイト!知っていながら、何人も!何人も!見ていたのに、私は・・・・」

 

酷く歪んだ顔に言い様のない感情が滲んでいた。

それは一度として見た事のない、苦痛に満ちた顔だった。その様子に言葉に出来ない感情が沸き上がり、胸が酷く締め付けられた。

私はこんな彼を、一人おいていったのかと。

 

言葉を失っているとナイトアイは顔を俯かせ━━━

 

「だから・・・・嬉しかった。彼女が生きていてくれてっ、私はっ、救われたような気がしたんだ」

 

━━━絞り出すように話を続けた。

 

「私は見たんだ、彼女の死を。治崎から特殊弾を受ける寸前、私は治崎を通じて未来を見た。彼女は本来ならあのまま死ぬ筈だった。腹を貫かれたまま、地面に落ちていく筈だった」

 

小刻みに震える肩から、さっきまでとは違う感情が響いてきた。

 

「けれど、彼女は死を拒んでくれた。死の間際も、全力で、私の声に応えてくれた。情けない、すがり付くような、私の声に・・・彼女は・・・・笑顔で。ほんの一瞬向けられた、あの笑顔に・・・彼女が息を吹き返してくれた事に・・・・楽しそうに笑う姿に、どれほど、どれだけ救われたか・・・どれほど━━━」

 

彼は目元を拭う素振りを見せると、ゆっくりと顔をあげた。僅かに赤くなった彼の瞳には、その表情とは裏腹に力強い信念の火が宿っていた。

 

「━━━━━━オールマイト、生きてくれ。私の見た未来はっ、絶対じゃ、ない。変えられる。変えられる未来なんだ。私がっ、あなたの未来を変えて見せる。この命に代えても、必ず。・・・・だから、生きてくれ。命を少しでも大切にしてくれ。幸せになって欲しいんだ、笑っていて欲しいんだ。オールマイト」

 

想いの籠った言葉に、授業参観の日を思い出した。緑谷少女が私と同じ道を歩まぬように、私なりに指導したその日を。

知った気になって彼女に教えた。友人や家族がどれだけ彼女を想っているのか。

けれど私もまた彼女と同じように、ちゃんと分かっていなかったようだ。知らなかった物、知ろうとしなかった物。見ようともしなかった物、見ていなかった物。手離していた物、失っていた物。それら沢山の物を。

 

「・・・・あぁ、と返事を返したいのは山々だが、それでは頷けないな」

「オールマイト、どうして━━━」

「命まで掛けられたら頷けないさ。友人の犠牲の上で、私は幸せになんてなれない。君も生きていてくれなければ」

 

そう伝えるとナイトアイは言葉をつぐんだ。

 

「━━━━━私は、まだ、あなたのっ、友人で良いのか。あなたを見捨てた、私がっ・・・・」

「当然だ━━━━というより、勝手に友人を止められていたのがショックなんだが」

「すまないっ、オールマイト」

 

一言謝罪を口にすると、彼は肩を震わせながらまた下を向き、静かに嗚咽を溢し始めた。

シーツへと滴が落ちて、新しい染みを増やしていく。

 

「また一緒に、コーヒーを飲もう。書類でも整理しながら、たまにジョークでも言い合って」

「私はっ、いつも、完敗だった・・・・あなたのジョークは、私の心にっ、さ、刺さり過ぎる、から」

「君のジョークは何処か固いからね。けれど負けた事もある。何だっけ、ほら・・・・えっーと」

 

思い出そうと考え始めると、そのナイトアイが涙を拭いながら困ったような笑顔をこちらへと向けた。

 

「だから、あれはジョークのつもりで言った訳じゃないと言ってるんだ。真面目だったんだぞ」

「けれど面白かった。私はしっかり笑わせて貰ったよ。何だっけな?ほら、君なら覚えているだろ?意地悪しないで教えてくれよ」

「勘弁してくれ。思い出すだけでも恥ずかしいんだ。あんな不本意な笑いは一度だけで良い」

「HAHAHA、それは残念だ。そうだ、聞いてくれ。実は生徒達の教育の事で少し相談があったんだ。良いかな?」

「あぁ、勿論だ━━━━━」

 

それから私は彼と話し続けた。

数年のブランクなど感じないくらい自然に。

お互い話したい事は幾らでもあって、語り尽くせぬそれを交わしあった。

 

どれくらい話していたのか。

気がついたら面会時間は終わっていて、私は急かされるように病室を後にした。

 

去り際、ナイトアイから掛けられた「また」という言葉を頭の中で反芻しながら、私も先に行った彼女達と同じように帰路についた。

 

いつもより軽い足取りで。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

『ヴィラン連合、襲撃』、『混沌と化した裏社会抗争』、『暴走するヴィラン連合』、『警察、ヒーロー為すすべなしか』。

 

そんな見出しがデカデカと載った新聞を手にした私は眉間に寄るシワをほぐしながら、抑えきれなかった溜息を口から溢した。ただでさえ数日前の怪我のせいで頭が痛いというのに、こうも問題が立て続けに起こると何とも言い難いものがある。頭痛が痛い、みたいな気持ちだ。

確認した所、殆どの新聞は警察の発表を元にしているようだが、会社によってはいい加減な情報で不安を煽るような物もあり・・・それに影響されて悪化するだろう治安を思うと余計に頭が痛くなってくる。

 

「随分な書かれようだわな。人の気も知らねぇでよ」

 

そう呆れたように呟いたのは同じ病室に入院するグラントリノ。彼の怪我は私より軽い。本来ならとっくに退院しているのだが・・・・年齢が年齢なので一応検査入院させられている状態だ。

そんなグラントリノは渋い顔で紙パックのお茶を音を立てながら飲むと、ベッドへとふんぞり返った。

 

「かぁぁぁーーー!暇だぁな、ったくよぉ。何もしねぇと心臓止まっちまうぜ。塚内、俺ぁ今日退院すっからな」

「無茶言わないで下さい。検査結果次第で明日には出れますし、それまでは大人しく寝てて下さいよ。良い仕事をする為には休みも必要ですから」

「けっ、無駄に長生きさせようとすんじゃねぇや。こちとらもう働き過ぎるほど働いたっつうんだよ。今更、良い仕事も糞もあるか。後はやることやったらさぱっと死んで、棺ん中でお寝んねするだけの人生よ」

「またそういう事を・・・・ほら、爆豪くんの晴れ姿とか見たくありませんか?」

 

その言葉にグラントリノは眉をピクピクと反応させる。まったく気にならない訳でもないらしい。

それから少し考えた様子だったが、直ぐにフンと荒い鼻息を漏らした。

 

「興味もねぇな。ありゃほっといてもどーとでもなる。まぁ、まず間違いなくプロにはなんだろ。その後はあいつ次第だがぁな」

「それはそうでしょうけど・・・ほら、結婚式とか呼ばれるかも知れませんよ」

 

ふと思い付いたそれを口にすれば、グラントリノは凄く難しい顔をして唸った。どうしたのかと思ってると溜息をつきながら話し出す。

 

「・・・・結婚、結婚かぁ。下手したらヒーローになるよか難関だろうな。まぁ、取り敢えずあいつには当分出来ねぇだろうなぁ」

「ははは、それはまだ学生ですからね。けれど時間の問題だと思いますよ。随分と仲が良いですし」

「はぁ、分かってねぇな。塚内。だからてめぇは独身なんだ。女ってのはなぁ、一の行動より十の言葉が必要なんだよ。その点あいつは行動はともかく、言動は死ぬほど素直じゃねぇからなぁ・・・・・鳶に油揚げかっさらわれるような事にならねぇと良いが」

 

染々とそう言うとグラントリノは遠い目で窓の外を眺めた。何処か寂しい背中にカラスの鳴き声が掛かる。

何とも言えない空気の中、お互い沈黙していると病室がノックされた。どうぞと声を掛ければ扉が開き、若い警官が敬礼して見せる。

 

「塚内警部、報告にあがりました。お時間大丈夫でしょうか」

「ああ、ありがとう。頼む」

 

そうして説明された事実は喜ばしいものではなかった。

何とか身柄を確保したヴィラン連合の黒霧は刑務所内で未だに口を割らず、私達を襲撃したヴィラン『ギガントマキア』は行方を晦ませているそうだ。

現場ではエンデヴァーを中心に捜索が続いてるそうだが、もうじきその捜索も打ち切りになりそうだと。

 

報告を済ませた若い警官を下がらせた後、私は改めて新聞へと視線を落とした。

警察の包囲を破りオーバーホールを拐い、何処かへと行方を晦ませたヴィラン連合について書かれた、その記事に。

 

「何を考えている、お前達は」

 

黒霧という貴重な存在を捕らえられた一方、ヴィラン連合にはオーバーホールという存在に加えて例の特殊弾が渡った。未確認だが、行方を晦ませている構成員の一人がヴィラン連合に加入したという話もある。・・・・救い、と言っていいかどうか悩む所だが、捕らえた幹部の話からヴィラン連合と治崎の関係は良いものでなく、今後協力する可能性が低い事が分かったが・・・・どちらにせよ、黒霧を逮捕したとはいえ喜べる状況ではない。

 

「足を奪ったつもりだったが・・・・まだ荒れるな」

「そうですね。今後ご協力お願いします」

「はっ、言われるまでもねぇやな」

 

部屋の雰囲気が少し重くなり、私は気分を変える為に病室に備え付けられているテレビの電源を入れた。何かやっていないかチャンネルを回していると、グラントリノは一つあくびをかいて「寝る」と一言。

空気を変えるまでもなかったかと、心の中で苦笑しているとそれが耳についた。

 

 

『お楽しみ頂けただろうか!本日のジェントル・クリミナルの━━━━』

 

 

何処で聞いたことのある名前に視線を向けると、渋い顔で手を組むコメンテーターの姿があった。コメンテーターの背後には分割された多くの映像が静止して映されている。

 

『一部抜粋した映像ではありましたが見て頂けましたでしょうか。最近ではこうして悪戯に犯罪行為を配信する者までもいる始末。オールマイトの活動休止以来、こういった事は増える一方。警察とヒーローの責任問題であることもそうですが、政府の適切な対応こそ求められることで━━━━』

 

配信という言葉に思い出した。

保須警察署の知り合いから、犯罪行為を映した映像を定期的に配信サイトにアップロードする。そんな特殊なヴィランがいる、と愚痴で聞いた事だ。

 

やることやることがしょっぱい上、基本的に一般人に被害らしい被害を与えないので、上司から後回しにするように言われ・・・・市民から怒りと共に被害届けを叩きつけられ受付の連中からは「はよどうにかしろよ」と無言の圧力を掛けられ「どうせぇば良いんじゃこらぁ!!」と泣きつかれたのはつい最近。騒ぎを重く見た署長から本格的に捜査するよう指示があったみたいだが、それもどうなっているのか。

 

「はぁ、問題は山積みだな」

 

私は退院後の苦労を考えながら、またチャンネルを回した。




おまけ・塚内と合流時のエンデヴァーはおじさん。


おハゲ「なっ、何ぃ!?見失った、だとぉ!?ふざけているのかぁ!!態々こちらを優先して来た私の立場はどうする!!こんな事なら、あの場に残って馬鹿が馬鹿出来ぬよう躾の一つでもつけてやったものを!!ぬぐぅぅぅぅぅ!!」

つかっちー「何に荒れてるんでしょうか、グラントリノ」
ボケおじじ「さぁなぁ、こいつも昔から分けわっかんねぇ奴だからな」


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12節:雄英ハイスクール・ミュージカル:取り敢えず、歌って踊って騒いどけ編
右よし、左よし、前方よし、後方よし・・・・んじゃ、遥か銀河の彼方に向けて発進!!えっ、まだ確認することあるの!?あっ、待って一辺に言われても無理、リストを頂戴な!の巻き


シリアスを書き続けた反動が、ここに・・・!
すまん!皆っ、俺はここまでっ、だ・・・・・・。

(´・ω・`).;:…

(´・ω...:.;::..

(´・;::: .:.;: サラサラ..

.:.;:..


西暦YT02990年、共和国発足から五百年目のその年。

平和を享受していた共和国は新興国『チュウカテン帝国』の脅威に晒されていた。

時の皇帝、テンチョー・チュウカテン一世は共和国政府の国教シュークリーム教を異端とし、共和国政府に対してトウガラシ教への改宗を要求。共和国政府がこの要求を拒否すると神への冒涜だと帝国領二千とんで二十の惑星と共に宣戦を布告。

翌日、第二銀河アンニンにて共和国軍と帝国軍の武力衝突が起き、第三次宇宙大戦が始まった。

 

開戦後、共和国最大規模の艦隊を保有していた第二銀河アンニン連合艦隊を早々に破った帝国軍は、その圧倒的な辛味をもって更に進軍。その電光石火とも言える動きで、僅か一月の内に共和国の三分の一を辛味の下に降らせた。

 

そして我が第一銀河にも、その圧倒的な脅威が迫っていた。

YT02990年9月28日、18時30分時分。

それが私の艦と敵艦隊が接触した時間、私達の戦争が始まった時間である。

 

 

 

 

「ニコちゃん艦長、旗艦捉えたよ!!目標右舷前方、ザッケンナコラー小惑星群内!!敵艦ハッポウサイ!座標bbq0141:029:ga18n!!」

「主砲超次元爆裂ガチムチスパイラルキャノン、エネルギー充填率083,118%!!発射可能領域までカウント1800ですわ!!きゃぁ!?」

「けろっ、1800じゃ間に合わないわ。電磁ウェイシールドの損傷率67%を切ったもの。シールド消失までカウント1530」

 

シールドにぶつかるビーム砲の衝撃と音を肌で感じ、悲痛に満ちた皆の声を聞きながら、私は手首の腕輪を擦りつつ天才と謡われた頭脳をフル回転させる。これまで勝つ事はおろか、生き残る事すら絶望といわれた死線を潜り抜けてきた。今更何を恐れる事があるのか。

覚悟を決め集中すれば、一つの答えが脳裏を過る。

私は導き出したそれを叫んだ。

 

「エネルギーチャンバー1・2・3直列接続!!生命維持に必要な最低限の電力のみ残し、その他の全エネルギーを主砲へ集めろ!!シールドは主砲発射ギリギリまで維持!!発射カウントに入りしだい、シールド停止!!その分のエネルギーは主砲へ!!」

 

「えっ、それって、ワープドライブの燃料もって事!?帰還用の!!仮に勝っても帰れなくなるよ!ニコ艦長!」

「そうだよ、緑谷艦長!それに一辺に流したら回路が持たない!!敵に撃たれる前にこっちが吹き飛ぶ!!それに、そんだけエネルギーぶっこんで一隻でも撃ち漏らしたら終わりだよ!!」

 

「大丈夫大丈夫!いけるいける!なんとかなる。いけるって、多分」

「「多分!?」」

 

悲鳴をあげる二人を他所に「葉隠いつものやったげて!」と言ってやれば「おー見たいか私の武勇伝!」とエネルギーチャンバーの操作レバーを引いた。

 

直後、艦が大きく揺れる。

そして何かが軋むような音がコックピット中に響き渡った。計器が景気よく色づき、危険を報せる警告音が鳴り、何人か悲鳴をあげて泣いた。

 

けれど、賭けには勝った。

 

「エネルギー充填率121%!!緑谷艦長、いつでも発射可能です!!お茶子さん、ターゲットのロックオンは!!」

「OK、問題なし!!ニコちゃん、こっちもいつでもいけるよ!!」

 

景気良く上がった声に「カウント開始!」と返せば「あいさー!」とクルーの声が戻ってくる。

その様子に舵を握るあしどんが「どちくしょーがー!」と叫びながら艦を動かす。敵の猛攻をシールドで受けとめながら、艦に取り付けられた主砲がついに敵旗艦の座標へと向く。

 

「砲撃用意!!カウント開始!!」

 

私の声にカウント確認の声がコックピット中からあがる。その様子に耳郎ちゃんもとうとう観念して、主砲の発射トリガーを手にした。

 

「カウント10!シールド、解除!皆備えて!」

 

梅雨ちゃんの声が響くと同時、艦に衝撃が走り激しく揺れる。けれど致命的なダメージはなかった。ダメージ予測数値的はどれも想定内、いやそれよりずっと下回っている。どうやら前回の改修時に取り付けた切島重工のレッドライオン装甲は伊達ではなかったらしい。高い買い物だと思っていたけれど、いい買い物をしたものだ。

 

「エネルギー充填率139%!!最大出力です!!」

 

百の叫びに耳郎ちゃんが主砲の位置を調整しながらカウントを口にする。

私もカウントを口にし、最後のそれを叫んだ。

 

「カウント0!!トドロキオン・主砲超次元爆裂ガチムチスパイラルエンデペンデンスギャラクシーサイコメガ粒子キャノン発射!!」

「カウント0!主砲超次元爆裂ガチムチスパイ━━━言えるか!!発射!!」

 

悪態をつきながらトリガーが引かれ、艦主砲から巨大な黄色の閃光が走る。真っ直ぐに伸びていく光の濁流は目の前にあった有象無象の艦隊を全て撃ち破り、そのまま小惑星群へと加速していく。

それから数瞬のこと、カッと激しい光が小惑星群の中心から走った。見事なまでの十字の爆炎だ。非常電源に切り替わり少し薄暗くなったコックピット内で、クルー達から歓声があがる。

 

けれど、それも長く続かなかった。

 

「そんなっ・・・・ニコちゃん艦長!左舷より敵反応!それも宙母規模一隻!!戦艦二隻!!護衛艦まで━━━なんや、この数は!?」

 

コックピットのモニターの中、黒い海に浮かぶ超大型艦の姿が目に入った。帝国のエンブレムが刻まれたそれは戦艦二隻と数えきれない艦隊を引き連れ悠々とこちらへと向かってくる。

 

「緑谷艦長・・・・敵からのメッセージが来ました。投降せよと。私達の麻婆豆腐の準備が出来ているそうです」

「辛さは、選べるのか・・・・」

「10辛です。帝国法における最高値です」

 

その言葉に艦内から絶望から悲鳴があがる。

私は帽子を脱いで皆に視線を向けた。

無の境地で、である。

 

「はい、終わったーー!終わりました!皆ー最後の晩餐しよー!冷蔵庫にシュークリーム買ってあるから誰か持ってきてー!一人一個ねー!」

「わーい、ニコやんふとぱっらー!」

「ニコ!私のポテチも持ってくるよ!」

「あっ、それやったら餅も持ってくるわ。あんこも、きな粉も、醤油も、何であるよー」

「艦長、お紅茶もつけますか?」

「そーね!お願いするわ!あっははは!」

 

「けろっ・・・・少し、時間を、下さい。艦長より、と」

「辛いのやだなぁ・・・やだなぁ」

 

皆でわいわい楽しく晩餐しようとしてると、突然光が艦の隣を走っていった。鋭い光の渦は宙母を貫き、側に引き連れていた戦艦や護衛艦隊諸とも力強く薙ぎはらっていく。

お茶子に何が起きたか調べさせると、直ぐにそれがモニターへと映った。厳ついおっさんの顔が船首に張り付いた、荘厳という言葉がふさわしい黄金の戦艦が。

 

「まさか、こんなに早く!?」

「共和国最大の超大型戦艦TOSINORI・・・!」

 

皆でシュークリーム片手に呆然としてると通信が入った。画面を表示させれば見慣れた顔が映る。いつものしかめっ面に手を振ると怒号が飛んできた。

 

「てめぇ!!無茶すんじゃねぇつったろうが!!ごらぁ!!何で救援出した時点で退避しなかった!!」

「いやぁ、あはは」

「あははじゃねぇんだよ!馬鹿が!てめぇに何かあったら示しがつかねぇだろうが!!お義母さんによ!!」

「えへへ、いやぁ、それは上手くやってよ・・・・ん?お義母さん?」

 

ふとモニターを凝視するとかっちゃんの左手の薬指に見慣れない輪っかが見える。何となく自分の左手を見ると見慣れない、なんか今さっき見た物と同じような物が見える。

ぶわっと冷や汗が噴き上がる感覚を味わいながら、左手についたそれを皆に見せると不思議そうに首を傾げられた。それがどうしたの、みたいな感じ。

 

まじ、ありえってぃ。

絶世独立、一顧傾城、再顧傾国。

雄英にこの人有りと唄われる、今世紀最上にして最強美少女な私が?銀河を股に掛ける共和国第一雄英銀河群・特別機動警ら艦隊きっての美少女艦長である私が?えっ?

確認したくても怖くて出来ないでいると、モニターに指揮官帽を被ったエリちゃんが映った。

 

「また、おくさん・・・ふたこ艦長さんと通信ですか?だめですよ、軍の通信を私的に使っちゃ━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て待て待ってぇい!!それどころじゃない事起こってるからぁ!」

 

はっと目を開けると、教卓の所からこちらを眺める包帯先生と目があった。その瞳は少しの迷いもない、度しがたい物を見る目だった。そんな包帯先生の隣で、ヒーロー学の副担ガチムチは可哀想な目でこちらを見てる。

皆の冷えた視線もついでに突き刺さったよ。わぁお。

 

「・・・・良い夢は見れたか。緑谷」

 

静かでいてドスの利いた包帯先生の声に、私は元凶であるかっちゃんの後頭部を憎しみを込めながら見て・・・そして首をゆっくり横へと振った。

 

「悪夢でした」

「そうか。それは残念だったな。廊下で小一時間正座しろ。あと、お前は補習一時間プラスだ」

「えっ、え、あっ、さ、さぁー!いえっさぁーーー!!」

 

ビビっと肌にくる強い意思の籠った鋭すぎる眼光。

背筋にブルッときた私は全力で敬礼を返した。こういう時は抵抗しないに限る。天才の私にはわかンだ。これは抵抗したら十倍くらいになって返ってくるやつだって。泣きを見るやつだって、ね!

包帯先生はそれを見ると顎をくいっとやって廊下に促してくる。良い子ちゃんで天才な私は深く頷き、廊下へ向かって行進を始める。はい、緑谷双虎、いっきまーす!

 

「━━━━━アホが」

 

歩き出した直後、かっちゃんがぼそりと馬鹿にしてきた。この野郎ぉ!と思って文句の一つでも言ってやろうと爆発頭を見たんだけど━━━━━さっきの悪夢が頭を過って言葉が出てこない。なんか、意味もなく恥ずかしくなってくる。

だから、机に置きっぱの消しゴムをかっちゃんの頭に引き寄せる個性を使って叩きつけてやった。

 

へーん、ざまぁ!

 

あっ、すみません。今すぐ、廊下に出ます!!だから補習延長は勘弁して下さい!ちょっと考えるだけでも・・・あっ、はい、無理!成る程!ご検討ありがとう御座います!

 

 

 

 

 

 

 

「何してるんだい、緑谷さん」

「正座ですが」

「その理由を聞いたつもりだったんだけど・・・」

 

言われた通り廊下にて正座していると、暇そうな黒豆パイセンがやってきた。んで、なんか探ってきおる。言わぬあぁい、黙秘します。乙女の秘密なので。

そういうパイセンは授業中なのにふらふらほっつき歩いてるんですくぅわぁあ?と色々疑いながら聞いてみれば「ちょっとインターンの事でね」と苦笑いを浮かべた。

 

「インターン?三年も何かあったんですか?一年の方はなんやかんや中止になりましたよ」

 

あの一件からもう三日。

学校側からのお達しでインターンが中止になった私達は少し歪だった学生生活を終え、それまで通りの普通の学生生活に戻っていた。

 

三日前、私が帰ってきてから直ぐの事。

ヴィラン連合の出現を理由に雄英高校は急遽一年のインターンの全面中止を決定した。

私みたいにインターン先が無くなったり、元々行く場所が無かった連中は特に思うこともなかったけど、現在進行形でインターン中だった連中は猛反発した━━━━━と言いたい所だけど、実際はそうでも無かった。お茶子とか轟とかはちょっと不満を口にしてたけど状況を鑑みて仕方ないと納得してたし・・・・何より一番反発しそうなかっちゃんが「インターンなんざいかんでも、やる事は幾らでもあんだろが」と一喝すると誰も何も言わなくなった。

皆それぞれインターン先で思う事があったんだろう。

 

しかし、あのかっちゃんがなぁ・・・・大人になったのかな。少しは。あれ、なんだろ、なんかかっちゃんの子供の頃を思い出すとホロッとくるものがあるな。泣きそう。

 

そんな風に少しじーんとしてると、黒豆パイセンが何を勘違いしたのか申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「聞いたよ。残念だったね。君ほどの実力者なら、他に雇いたい所が幾らでもあったろうに・・・・」

「あっ、いえ。どちらかと言えば無くなって、いやっふーーー!って感じなんで、残念とかはないですね。働かなくて良いなら、私は一生働きたくないですもん」

「ぷっ、あははは!そうだったね、君を勧誘した時のことすっかり忘れてたよ」

 

楽しそうに笑うパイセンの姿にあの日、七三の病室で見た暗さは残ってない。以前のアホ感満載の元気パイセンだ。

そのまま眺めてると黒豆パイセンと目が合う。

そして私の視線の意味に気づいたのか、黒豆パイセンは少し照れたような顔で頬をかいた。

 

「あの時は情けない姿を見せてごめんね。そして心配してくれてありがとう・・・・でも、もう大丈夫!俺はこの通り!元気っ、一杯さ!!」

 

ぐっと両腕をあげてマッスルポーズを取って見せた。そう、皆知ってるフロント・ダブル・バイセップスである・・・・えっ、知らない?まじで?

キレてるよ、と声を掛けると別のポーズを取ってきた。皆知ってるサイドチェストだ。凄いキレてる気がする。

いや、ボディービルとか、本当は欠片も知らんけど。全部うろ覚え知識だけど。

 

そうやってテキトーに褒めてると、黒豆パイセンが気を抜いたのか服を床に落とした。必然、がっつりとそれが視界に入る。

黒豆パイセンは声にならない悲鳴をあげて股間を隠し、顔を真っ青にさせながらめちゃ謝ってきた。それはそうだ。私が出るとこ出たら黒豆パイセンはセクハラどころか、猥褻物なんちゃら罪だ。お縄だ。

だけど私は女神。優しさが天元突破せし者。そこら辺の生娘とは違う、別次元の処女天使。故にそれを手で制し気にしなくて良いと伝えた。

 

「そんなウインナー見た所で思うこともないんで」

「許して貰えるのはありがたいんだけど、それはそれで傷つくんだけど!?」

「もっと凄いの知ってるので、なんかすみません」

「もっと、凄いのって何!?大丈夫!?それって俺が聞いて大丈夫な話!?」

 

何故か凄い心配されたので私が小さい頃、かっちゃんの家族と温泉にいった際、かっちゃんパパの股間に潜む魔物を見た話をすると、何とも言えない顔で納得してくれた。ついでに家の父のあれは小動物なのを教えてあげると「聞かなかった事にするよ、どっちも」と言われる。なんでや、パイセン。慰めてあげたのにぃ。

 

いそいそと服を着たパイセンはもう一度謝ると、忘れかけてたインターンの話を始めた。何でもパイセンは別の場所でインターンを再開するつもりらしい。それで色々と手続き等でバタバタしていたとか。

私はてっきり七三の事務所の再開を待ってインターンを始めると思っていた。なのでその事を聞いてみると、黒豆パイセンも最初そのつもりだったそうだ。

 

「けれどね、怒られてしまったんだ。サーに。時間が勿体ないってね。一日でも多く、一時間でも多く、一分でも多く、実戦で学ぶべきだって。俺の目指すヒーローになるなら、って」

 

「・・・・サーはさ、次の事を考えてくれてたんだ。俺がクヨクヨしてる間に、俺の受け入れ先や今後のトレーニングについて、ずっと考えてくれていた。自分が一番大変なのに━━━━だったら、その期待に応えない訳にはいかないよね!こんなに応援されて下を向いてたら、それこそ裏切りだ!!」

 

「緑谷さん、俺はヒーローになるよ!サーに誇り続けて貰えるような、一流のヒーローに!ルミリオンの名に恥じない、笑顔を守れるヒーローに!」

 

そう言って笑う姿は少しだけガチムチと被って見えた。

具体的に言葉にするのは難しいけれど、七三が入れ込む理由は何となく分かった気がする。

 

「取り敢えず、服は落とさないようにしないとですね」

「そ、その話は勘弁して・・・あはは」

 

話が一段落ついた頃、丁度良くチャイムの音が鳴り響いた。黒豆パイセンはそれにハッとして「それじゃ、俺も授業があるから」と慌てて自分の教室のある方へと帰っていった━━━━いったんだけど、直ぐに戻ってきた。

 

「そう言えばエリちゃん目が覚めたみたいだね!俺は今日にでも顔を出そうかと思って━━━━」

 

黒豆パイセンが言い切る前に、教室のドアが開いた。

そこにはしかめっ面の包帯先生がいる。

ジト目の包帯先生に黒豆パイセンは静かに口を閉じた。

 

「━━━━━・・・・・まだ、話してなかったんですね。たはははは・・・・すみません」

 

謝るパイセンを放っておき包帯先生を見れば、深い、それは深い溜息を溢しなすった。

 

「はぁ、そういう事だ。緑谷、彼女がお前らに会いたがっている。放課後予定があれば━━━━」

「OKです!超暇です!お土産見繕ってくるんで、今日は早退で良いですか!!やったぁーーー!何買おっかなぁーー!シュークリームは外せないよねー!あとはケーキでしょ?いや、洋物ばっかりは飽きるかな?それならようかん?カステラ?どら焼き?煎餅!煎餅にしよ!かっちゃん!!買い物いこーー!!お土産買いにいくよーー!」

「早退して良いとは言ってないし、爆豪を巻き込んでやるな。馬鹿たれ」

 

スパン、と気持ちの良い音が鳴り響いた。

普通にめっちゃ痛かった。

知能指数が4は減った気がする。



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私がぁ、来ましたよ!そうです、私です!ガチムチだと思った?ねぇねぇ、ガチムチだと思った?違います!そう、みんなのスーパーアイドルにして女神な私が降臨しましたよ!!はい、拍手ぅ!の巻き

アニメの新オープニング、しゅき。超しゅき。


エリちゃんの報せを受けたその日の放課後。

かっちりきっちり午後の授業を受け切った真面目な私は、包帯先生にお願いしてインターンの代償とも言える放課後の補習を翌日に回して貰い、先の事件で一緒にお仕事した皆を伴いエリちゃんが入院してる病院へと乗り込んだ。

 

もっち、大量のお土産を持ってね━━━━あっ、勿論男連中の奢りだよ!私は男の立て時を踏まえてる出来る美少女だかんね!鋼の意思でびた一文払わなかったよ!危なくお茶子達は割り勘しようとしてたけど、そこはね私がきかせて止めたよね・・・いやぁー、優秀過ぎる自分が怖いなぁー!こりゃその内、石油王とかハリウッドスターとかプロポーズにきちゃうなぁ!困っちゃうなぁ!ん?なに、切島?何か言いたい事でも?ん?んん?

 

 

 

 

「━━━━そんな訳でぇ、エリちゃんに呼ばれて飛び出て!ドンガラガッシャーン!!三度の飯はお寿司か焼き肉が良いな!!こよなくシュークリームも愛する、虎ナンジャーお見舞いに参上!!」

 

シャキーンと虎のポーズを取り病室へ入ると、目を丸くしたエリちゃんがお出迎えしてくれた。少し呆けたけど小さいおててで拍手してくれる。

私は掴みがばっちりなのを確信し、廊下の皆へと合図を送った。黒豆パイセンから最高の笑顔が返ってくる。

 

「誘われて飛び出てジャジャジャジャン!!好きな物はお笑い番組!!目指すはオールマイトも越えるスーパーヒーロー!!ルミリオンこと、獅子ナンジャー参上!」

 

バシーンと決めた黒豆パイセンにエリちゃんが小さなお口をポカーンと開いた。確かな手応えを感じ次へ合図を送る。めちゃくちゃお茶子と梅雨ちゃんが首を横に振ってるけど、切島が意を決したように現れた。

 

「続いて飛び出てババババーーン!!真の漢を目指して日々特訓を重ねる!灼熱!熱血!根性!の、猪ナンジャーー参上ォ!!」

 

暑苦しい熱気に当てられてか、私達の紅白饅頭も入ってくる。こい、二色饅頭、狼ナンジャー。

 

「・・・・・病室で騒いだら駄目だろ。騒いで悪い、ショートだ。覚えてるか?」

 

普通に入ってきた紅白饅頭に、私はささっと近づき顔を鷲掴みした。両頬を押し潰されて面白い顔になった紅白饅頭だったが、どうしてそうされたのか分かってないらしく不思議そうな顔をする。

 

「ひょうしひゃ、みどょりにゃ」

「どうしたじゃないんだよぉ!このボケ殺しがぁ!こういうのはノリが大切なの!ノリが!そうじゃないなら、ツッコミしなさい!ツッコミを!どっちもしないって、あんたねぇ最低だよ!お笑いの風上にもおけないよ!そんな事で会場を笑顔で満たせるかぁ!お笑いを舐めんなぁ!━━━裏でトリに備えてるお茶子の気持ち考えたことあんの!?兎ナンジャーの気持ちを!!」

 

 

「えっ!?私!?私がトリなん!?ニコちゃん!えっ、トリ私なん!?てか兎ナンジャーってなに!?いややけど!!つ、梅雨ちゃ━━━」

「わっ、私こそ、無理よ。こんな雰囲気で、蛙ナンジャーには、なれないわ。本当にっ・・・おっ、お茶子ちゃん。お願い、出来ない・・・?」

「私かていやや!極寒だよ!?てか、梅雨ちゃんもナンジャーやるつもりやったん!?」

 

 

「ほらぁ、こんなノリじゃ皆いけないってさ!」

「わりゅい、ひゅぎはひゃんひゃる」

「よぉし、もっかいやってみぃ!エリちゃん見てあげて!もっかいだけ見てあげて!お願い!」

 

両手を合わせて頼み込むと、エリちゃんは胸元で両手を握り締めて力強く頷いてくれる。

 

「よぉし!舞台は整った!やったれ、トドロキング!!お前の渾身のネタを!!」

「任せろ・・・・エリちゃん聞いてくれ。この間クラスメイトから聞いた面白い話なんだが━━━━ああ、まず、俺のクラスメイトっていうのは上鳴電気っていって、髪の毛が金髪で電気の個性を使うやつなんだ。電気を使い過ぎると頭がショートするらしく言葉が辿々しくなったり考える能力が低下するデメリットもあるんだが━━━━」

「前置き長過ぎるわぁーーいっ!」

 

パシン、と胸元へツッコミを入れる。

ちょっと最初の予定とは違うけど一応形になったのでホッとしたが、轟は少し不思議そうな顔をしたあと説明を再開した━━━━ので、チョークスリーパーで強制的に止めた。ツッコミまで殺すな。この野郎ぉ。

 

「いつまで馬鹿やってんだ。邪魔だ」

 

お笑いキラーにお仕置きしてたら、かっちゃんがのしのし部屋の中へ来た。威嚇するような眼差しのまま、ポケットに手をinし、ゆさゆさと体を揺らす不良歩きで。

その姿に粛清パンチしようと思ったけど肝心のエリちゃんが怖がってなくて・・・寧ろ、なんか安心したような顔をしたので矛という名の拳を納めておく。

 

エリちゃんが良かろうなら、良かろうもん。

くっ、くそぅ。

 

「今日も、怖い顔だ・・・・」

「余計なお世話だ、こら。てめぇは相変わらずチビだな。飯食ってンのか、ああ?」

「す、少し、だけ・・・あ、あんまり、食べたく、なくて・・・・」

「食うもん食わねぇとチビのまんまだぞ。たくっ」

 

悪態をついたかっちゃんは肩に掛けたお見舞いの袋をエリちゃんの側にあるテーブルへ置いた。

 

「こっちは食いもんだ。好きなもん食えや、土産だ」

「えっ、でも・・・・」

「っせぇ、ガキが。一丁前に遠慮してんじゃねぇよ。食って糞して寝ろ。ボケが」

 

それだけ言うとかっちゃんはやる事はやったと部屋を出て行った。去り際、私を一瞥してきたけど。あの視線は知ってる。馬鹿やるなよ、ってやつだ。天才たる私は馬鹿なんてしてないのに・・・えっ?なに?お茶子、その目は。

 

お茶子達も部屋の中に入ってきて、さて次は何を見せてあげようかなと思ってると背後から突然頭を掴まれた。ギリギリと締め上げる握力には覚えがある。

これ、引率でついてきた包帯先生のやつだ。間違いない、何度アイアンクローされてきたと思ってるのか。

 

「って、たたたたたっ!?包帯先生ぇ、何故にぃ!?」

「病室で騒ぐな。叩き出すぞ」

「で、でもぅ、いっ、インパクト大切かなって!?看護師さんが、しょんぼりんしてるっていうからぁ!!」

「お前のはただ騒がしいだけだ」

 

一頻り説教かましてきた包帯先生は「お見舞いというのはこういう事だ」と紙袋をエリちゃんに渡した。

 

「あいざ・・・・ほうたい先生さん、こんにちは・・・あの?」

「こんにちは。体調は良さそうだな、良かった。病院服以外に替えの服がないと看護師の方から聞いていたからね。俺が適当に見繕ったやつだが、嫌じゃなければ貰ってくれ」

 

包帯先生から渡された紙袋を手にエリちゃんは申し訳なさそうに少し眉を下げたけど、「ありがとうございます」と言ってそれを抱き締めた。

それから包帯先生に「開けて確認してみてくれ、サイズはあっている筈だ」と言われ、エリちゃんは言われるがまま紙袋を開いて━━━━━━━「あっ」と小さい声をあげて固まった。喜んでる感じはない。明らかに戸惑いが見える。

 

私とお茶子と梅雨ちゃんはエリちゃんの反応があまりにもあまりだったので、背後に回り一緒に覗いて見た。

するととんでもなくダサいスウェットがそこにあった。なんか目がアホみたいに大きい微妙に気持ち悪い動物のキャラ絵が入ってる。なんかダボってしてるし。

 

私はエリちゃんからそれをそっと取り上げ、そっと包帯先生に返した。

 

「なんの真似だ、緑谷」

 

包帯先生を軽くスルーして、母様に送って貰っておいた洋服をお茶子達と広げる。キャラ物は避けて今でも着れそうなのやつを選んで貰ってきたかいもあって、エリちゃんはそれを見て少しだけ目をキラキラさせた。

 

「お洋服、いっぱい・・・・い、良いの?」

「良いよー、私のお古でごめんだけど。でもさ、ほらほら、これとかどうよ?ね、良くない?」

「ええね、可愛い。こっちと合わせても、ほら!ええやん、可愛い!エリちゃんこっち見て見て!あかん、めっちゃ可愛いぃ」

「素敵ね、けろけろ。私のお古も持ってこようかしら。妹も使ったから少し草臥れているのだけど、パジャマにするくらいなら大丈夫よね。今度持ってくるわ」

 

皆でわいわいしてると包帯先生が「パジャマなら、これがあるだろ」って言ってきた。

なので「そんな服着たら虐められますよ。マジで」と返せば肩をびくりと跳ねさせて固まった。

 

そんな包帯先生を見て、エリちゃんが少し焦る。

優しさからエリちゃんはその洋服を貰おうとしたけど、包帯先生の為にならないと優しく説得すれば諦めてくれた。着ない服なんて貰ってもなんの役にも立たない。そんなんゴミと一緒だし、何よりそれで満足してたら包帯先生の服センスが成長しないからね。時に優しさとは残酷なのだ。うん。

 

「・・・・はぁ、あまり騒がしくするな」

 

包帯先生は少し気落ちしながら廊下へと出ていった。

言葉にはしなかったけど何かあったら呼べって感じで視線を送られたので、聞いてた通りエリちゃんはまだまだ不安定なんだろう。見てる感じだと大丈夫そうなんだけど・・・・院内お散歩は、また今度にしよーっと。

 

それから暫くエリちゃんに洋服を見て貰った。

物珍しさでよく見てくれてたけれど、そもそも服に頓着しないタイプなのか反応はどれもいまいち。あんな環境にいたんだからそれも仕方ない気もするが。

ただ私が選ぶ物に興味はあるみたいで、手にとってずっと眺めてた。最終的に洋服の入った袋を大事そうに抱えるエリちゃんの姿を見て、好みかどうかは別としても気に入ってはくれたみたいなので一安心である。

 

あっ、男連中は気がついたらいなくなってたよ。

梅雨ちゃん曰くジュース買ってくるって言い残して帰ってきてないらしい。何処まで行ったんだ、奴ら。

おやつ食べ始めた辺りで飲み物欲しくて廊下覗いたら、遠くのベンチに腰掛けたまま呆ける奴らを発見した。

買い物にもいってないじゃぁぬぅあいのぅ。

 

「なにしてん、あんたらおやつ食べないの?てかジュースは?」

 

パッといってボケッとブラザーズにそう聞くと、切島が何とも言えない顔をした。

 

「建前ってあんだろ、建前ってよぉ・・・・いい雰囲気だから外したんだよ」

 

切島に続いて黒豆パイセンが口を開く。

 

「女の子同士のが話せる事もあると思ってね。元気そうにしてるのが見れれば俺は十分だったし・・・あとねジュースなら轟くんが持ってるよ」

 

言われて轟を見たらジュースを手に冷気を漂わせてた。

包帯先生が何も言わないなと思えば、そっちはそっちで静かに寝息を立ててる。起こすとあれなので轟から感謝の言葉とジュースを等価交換。触らぬなんちゃらに祟りなしだからね。

 

「緑谷、エリちゃんどうだ?」

「ん?どうだって?そりゃ、まぁ・・・・」

「部屋に入ってから一回も笑ってねぇ。緑谷と爆豪きた時は顔色が変わってたが、それだけだ」

 

鈍いと思ってたけど案外見てたみたい。

もしかしたらあの時空気読まなかった訳じゃなくて、エリちゃんの顔色見て空気を変えにきたのかも知れな・・・いや、単に空気読めなかっただけな気がするなぁ。あれに関しては。

 

「あーー、そういうやつ?んーー今の所、あんまりかなぁ。でも、表情に出ないだけだと思うよ。話してると少しだけど声が弾む時もあるし」

「そうか・・・・それなら良かった。俺はそういう事に鈍いからな。緑谷に任せれば大丈夫だとは思ってたが」

「お、おぉう・・・・ま、まぁね」

 

割と本気な感じで言われ、ちょっと照れる。

元より出来る女だしその評価は当然だとは思うけど、面と向かって言われるのは気恥ずかしいものがあるのだ。まったく、轟めが。

 

「そう言われると、確かに笑った姿を見た覚えはないね。緑谷さんといると少し表情が柔らかくなったように見えたけど━━━やっぱり傷は浅くないか」

「くそっ、やっと助け出せても、これじゃやるせねぇっすよ!」

「そうだね、もっと早く助けられていたら・・・それが一番だったろうね。けれどそうならなかった。だから、これから俺達が何をしてあげられるか考えよう。切島くん」

「そっすね。うっす!」

 

やる気に満ちてる切島に「アホか」と冷たいツッコミがきた。視線をそこへやれば眠そうなかっちゃんが欠伸をかいてた。切島は何処か不服そうにかっちゃんを見つめるけど、かっちゃんはそんな様子を気にも掛けず口を開いた。

 

「んなもん、余計な世話だろうが。ほっとけ」

「そんなこと言うなよ、爆豪。ツンデレも程々にしねぇと緑谷に嫌われんぞ」

「双虎は関係ねぇだろ。それにツンデレだかどうだかなんてのも関係ねぇ。余計な世話だから余計な世話だっつってんだ。あのガキは自分で選んだろ。あん時、そこの馬鹿助けるって覚悟決めて個性使ったんだ。鈍いてめぇでも、それが簡単な事じゃねぇのはわかんだろ」

 

かっちゃんの言葉を聞いて、そこいた皆が黙った。

 

「あいつは飯食ったっつったろ。もうとっくに、てめぇで歩く用意してんだよ。それなら後は時間の問題だろうが・・・・・それでもなんかありゃ、もう一人じゃねぇんだ。双虎なりなんなりに話すんだろ。手貸すのはそん時で良いんだよ」

 

チラッとかっちゃんがこっちを見たので、親指を立てておいた。任せぇい、と。そうしたらつまらなそうに鼻息を漏らし、背もたれに寄り掛かる。

皆はその意見に何とも言えない顔になって、それぞれ思案し始めた。

 

私としてはかっちゃんの言うことも尤もだと思う。

こういうのは急かして上手くいく物でもない。心の傷は時間が解決する事が多かったりするし。

でも、だ、私個人としてエリちゃんの笑顔が早く見てみたいというのも本音だったりするので・・・・何もしないというのはやっぱり頂けない。動物園デートする約束はあるけど、それはまた別としてね。むふふふ、何したろっかなぁ。

 

「━━━まっ、取り敢えず、それは追々考えるという事で。さっさと中へ入りな、空気読みーズ。皆でおやつの時間じゃ。エリちゃんがあんたらのこと気にして食が進まないから早くきな!三十秒で支度しな!」

 

「三十秒も掛からないわ」

 

切島の呆れたようなツッコミを受けた私は男連中を引き連れて部屋へと戻った。面会時間終了までの残り時間と、持ってきたゲームの事を考えながら。

 

 

 

 

 

よし、人生ゲームでもしよっと。

一回はいけるっしょ。



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ブレイキン!ブレイキン!ひゅーー!!って感じで、どうでしょう。あねさん・・・成る程、もうワンスピン。OK、OK。よし、レッツカモン!ミュージックいえぇえ!の巻き

4期後半のOPみて、これはやらねばと思った。
今章のヒロインは耳郎ちゃんや。
誰がなんと言おうと、な!


現代、文明の利器によって生活水準は過去のそれとは比べ物にならなくなったが、安全と安定の代償のように個人に要求される能力は多く、その種類は多岐に渡るようになった。責任はより重くなり、求められるパフォーマンスはより大きく・・・・当然、身体的や精神的な負担はより過酷さを増した。

結果、急速に変化する社会の中、人々は様々なストレスによって苦しめられることになった。仕事関係、人間関係、身体関係、個性関係・・・・えとせとら。

 

そんなストレス社会真っ只中。

学生な私達も社会人達と同じ様に、様々なストレスに晒されていた。

かくいう私も授業中ちょっと居眠りするとチョークを投げられたり。ちょっと元気にお喋りしただけで廊下に正座させられたり。体育の時間にも関わらず、元気過ぎると縄つけられたり。お昼ご飯を食べていると隣のクラスの煩いのに嫌味を言われ精神的に傷ついた━━━ので、そいつのメインのオカズを貰い受けてトントンにしたりした。えっ、最後のストレスになってない。解消してる?してないしてない。だから明日もオカズを貰いにいくよ。やったぜ。

 

まぁ、テレビのコメンテーターの言葉をテキトーに引用してあれこれと言ったが、結局何が言いたいかというと『補習もうしたくない』『放課後皆と遊びたい』『エリちゃんとクラッシュ●アしたい』━━━━という事である。

 

 

 

 

「だからぁ、レッツダンシング!」

「イエス、ニコ!!レッツ、ダンシング!!」

 

エリちゃんのお見舞いから数日。

補習地獄によってストレスが限界まで溜まった私は、休み時間にあしどんと一緒にレッツパーリィーする事にした。スマホで音楽を鳴らしながら、教室の一番後ろで覚えたてのステップを踏み散らしてやる。

ふぉぉぉぉぉ!!皆ぁーー楽しんでるかぁぁぁい!!私は楽しんでる!あああぁぁぁ、ゲーセンいきてぇなぁー!ダンシングしてぇなぁーー!補習勘弁して貰えませんかねぇ!!お見舞いもいきたいんですけどぉ!!はい、駄目!ですよね!はぁい、知ってまぁす!

 

ゲーセンに思いを馳せていると、沸き上がるオーディエンスに応えてあしどんがブレイキン。

楽しそうなので私もブレイキン━━━しようとしたけど、ぶどうとウェイがガン見してるので止める。見せパンでもあいつに見せんのやだ。

 

ロボットダンスに移行して二人で自由にパーリィーしてると、ぎこちない動きで葉隠が交ざってくる。踊りなんか出来なくても、ノリと勢いで走り出す。君はそういう子だよ。知ってた。かもん!

 

「レッツ!」

 

お時間もそろそろというタイミングであしどんが回転を止めて開脚してポーズを決める。

なのでそれに合わせて私も十八番である虎の構えで決めた。

 

「パーリィーナウッ!!」

 

流れるように葉隠も鶴の構えで決める。

 

「いえぇぇぇぇ!」

 

バシィっ、と三人でポーズが重なる。

すると少しだけど拍手が起きた。「やるなら短パンはくなや」とかセクハラ発言したブドウは天誅しとく。

恋人(教室の床)とのキスはどんな味だ。ブドウ。嬉しいでしょ、笑いなよ。そうか、もっとさせてやろう(迫真)。

 

「その辺にしてやりなよ、緑谷」

 

ブドウが喜びで咽び泣き始めた頃、耳郎ちゃんが止めにきた。嘘泣きだよ?こいつ全然、微塵も、欠片も反省してないよ?と聞いたけど、絵面的に私が悪者にしか見えないから止めろとの事。そんな優しくされたら応えない訳にはいかない。ブドウを上鳴へ放り投げて、お仕置きは終了しとく。心配してくれてさんきゅ。愛してるよ、耳郎ちゃん。

 

「それはそうと、即席でよく合わせられんね。あんたら。素直に尊敬するわ。教室でいきなり踊り出すのはあれだけど」

「ん?合わせたの最後だけだよ。後はテキトー。耳郎ちゃんもやる?」

「やらんわ、恥ずかしい」

 

恥ずかしいとの発言にあしどんと葉隠が反応する。

 

「はっ、恥ずかしいだってぇ!?まるで私達が恥ずかしい人間みたいに!!響香ちゃん酷い!」

「そうだよ、響香酷い!私達はただ心が赴くまま踊っただけなのに!それをっ、恥ずかしいだなんて!酷い、許せない!━━━でも一緒に踊ってくれたら、許しちゃうかも知れない」

「かも知れない」

 

「・・・・つっこまないからね。あんたらのそのノリに絶対つっこまないからね!」

 

冷たい言葉を投げ掛けられ、二人は泣くふりを止めて肩を竦めた。「「そりゃないぜ」」と声を合わせて言うと「そりゃあるわ!」と耳郎ちゃんがすかさずツッコミをかましにいく。耳郎ちゃん、短い我慢だったなぁ。

 

「いやーでもさ、さっき息ピッタリじゃなかった?ニコ、葉隠!それと響香も!プロになったら皆でチーム組もうよ!麗日も誘ってさぁ!いけるって!絶対!よっし、チームレイニーデイ結成だよ!」

 

あしどんの元気な提案に葉隠は力強い返事を返す。やったるぜぇ!的な。耳郎ちゃんは面倒臭いのか棒読みで「おー」とか言うだけ。少し離れた所ではお茶子が『何事っ!?』て顔でこっち見た。明確な賛成1。世知辛いね。

 

「三奈ちゃん、なんの話してん?」

「ほら、この間話したやつだよ!チームアップの話!麗日は決定ね!チームの要ですから!」

「ええー、それ酸の雨降らせるやつやろ?エグいって、あとそれやる場面分からんし」

「それは・・・・・確かに、いつやろう」

 

悩み始めたあしどんをそのままに、お茶子が私を見てきて━━━んで、そのままかっちゃんを見る。

なに、その視線。気になるんですけどぉ。

 

「それにね、三奈ちゃん。ニコちゃんは・・・・ほら、あれやし」

「ん?あっ、そうか、そうだよねぇ・・・はぁ、仕方ない。瀬呂にしとこうか」

 

 

 

「ちょっ、聞こえてるぞ女子。ここにいるからね、俺。君たちのこと観覧してるからね。━━━というかね、その流れで俺を組み込まないでくれ。悲しくなるだろ」

 

瀬呂が悲しかろうが何だろうがどうでも良いけど、ほらあれやし、って何!?仕方ない、って何!?なんなの!?何があるの!?その視線にどんな意味があるの!?お茶子!お茶子ぉぉっ!!

 

まぁ、お茶子の視線の意味はともかく、チームアップに関して簡単には頷けないのは本当。理由は簡単で、それは単に方向性が全然違うからだ。

 

皆はやる気満々ドリルかも知れないが、私はヒーロー資格を取るつもりはあってもプロとして活動するのはあまり乗り気ではない。そりゃ目の前で事件とか起きれば多少は協力はするだろうけど、態々面倒事を探して首突っ込むほど酔狂でもないのである。

最終的な目標はそこそこ活躍して知名度あげて私の関連商品販売したら、かっちゃんの事務所にでも入らせて貰って印税を貰いながらのんびりまったり窓際社員生活するつもりなのだ。

 

バリバリ活躍したい勢の皆と、そこそこ働いてあとは遊んでいたい私とではあまりに方向性が違い過ぎる。

故にチームは組みがたいのだ。

 

そこまで考えてお茶子の視線ってそういう事かな?とか思ってたら、ダンスを見てた上鳴が「ヒーロー活動に活きる趣味って強いよなぁ」とぼやいた。勿論、ブドウを小脇に抱えながら。

そんなぼやきに瀬呂が「そうだな」と続く。

 

「だろ?砂藤のスイーツとかそれの典型だよな。個性とあってるし。将来的に料理系の企画とかきそうだしさ」

「キャラ付けって訳じゃねぇーけど、コスチューム以外にも分かりやすい特徴って大切だからな。そうなると個性関係なしにさ、逆にギャップ狙いってのもありじゃね?八百万の見た目で大食いとか━━━━」

 

 

「・・・・瀬呂さん、何か言いまして?」

 

 

「ひっ!?何でもないです!」

 

瀬呂が百に無言の圧力を掛けられる中、上鳴はパッと何かを思いついて明るい顔で手を打ち合わせた。

当然ブドウも床に落ちた。

 

「そうそう!趣味って言えばさ、耳郎のも凄ぇよな」

 

突然の誉め言葉にあしどん達とじゃれあってた耳郎ちゃんの耳がピコっと反応する。慌ててこっちに振り返った顔は少し赤くなってた。

 

「ちょっ、やめてよ」

「あの部屋楽器屋みてーだったもんなァ。ありゃ趣味の域超えてる」

「もぉ、やめてってば、部屋王の時のことはいい加減忘れてくんない!?」

 

私も耳郎ちゃんの部屋は何度かお邪魔した事あるけど、確かに楽器だらけだった。最近はインターン関係で忙しくて遊びにいってないけど、ギター教えて貰ったのはまだ記憶に新しい。今度はドラムの約束もしてるし。

 

上鳴の言葉に「確かに」と頷いて返せば、お茶子達もうんうんと頷く。耳郎ちゃんは皆の反応を見て耳を真っ赤にし、恥ずかしさからかプルプルする。可愛い。

 

「そう、ありゃもうプロの部屋だね。プロ。あそこまでいくとさ、匠っつーか、正直かっ━━━━!?」

 

何かを良い掛けた上鳴が言葉詰まらせた。

どうしたのかと視線を向ければ耳郎ちゃんの耳たぶイヤホンが上鳴の目の前に突き付けられてる。

 

「マジで、やめて」

 

強い口調でそう畳み掛けられると、上鳴はしゅんとした。多分悪気はなかったと思うんだけど、耳郎ちゃん照れ屋だからなぁ。私ならめちゃくちゃ自慢するのに・・・・勿体ない。

 

耳郎ちゃんが席に戻った後、ちょっと場の空気があれになって話が弾まなかったので、皆それぞれの席へと戻っていった。

流石にダンスタイム延長させる雰囲気でもなかったし、休み時間ももう終るので私も席に戻り、授業の準備に精を出してるかっちゃんの背中をツンツンしてやる。

 

ねぇ、かっちゃん。

おい、かっちゃんってば。

ねぇねぇ!!かっちゃん!!

かっっっっちゃぁぁぁぁぁんんん!!

 

猛烈にツンツンしてたらぺしっと手で弾かれた。

そんでしかめっ面でこっちを見てくる。

 

「うるせぇ・・・・言っとくが言葉がっ、じゃねぇぞ。行動がっ、うるせぇんだ。で、なんだ」

「さっきさ、ダンスして、チームアップの話して、趣味の話してたんだけどさ。かっちゃんって登山好きでしょ?」

「色々言いてえ事はあるが・・・・まぁな。それが何だ」

「もっとパッとした趣味に変えれば?地味くない?」

 

私の提案を聞いて、かっちゃんは眉間に皺を寄せる。

 

「遠回しに喧嘩売ってんのか?」

「違うってば。ほら、ヒーローになった時さ、アピれる事は多い方が良いでしょ?コツコツヒーロー活動も良いけど、芸能活動もする事になるだろうし・・・・話題性のある趣味とかあれば、それ関係の仕事とかきそうじゃん。ね?だからさ、バンドしようぜ。私ボーカルとギターやる」

「てめぇはいちいち極端なんだよ、もっと細やかな趣味提案しろや。そもそもなんで俺がバンドしなきゃなんねんだ。面倒臭ぇ」

「かっちゃんドラムね」

「聞けや」

 

ユニット名を考えてると轟が戻ってきた。

どうせプロになっても仕事以外やることなくて暇だろうとバンドしようぜ!と誘ったら「楽器はやった事ねぇ」とのこと。私もこの間教わったばっかりだぜ!と言えば「バンドは無理じゃねぇか」と言ってきた。

勿論そんな腑抜けた言葉は許さない。やれば出来る、やらなかったら出来ない。出来ないなんて敗者の言い訳だぁ!くわぁ!

 

「━━━それはそうと、何してたん?休み時間ギリギリまで」

「ああ、夜嵐から連絡があってな。覚えてるか?」

「?よ、よあら、し?ん?」

 

誰だ、それ。うん?知らん。

 

そっとかっちゃんに視線を向ければ「仮免の時、てめぇがアザラシ呼ばわりしてたやつだ」と言われ、ようやくハッとした。そんなのいたっ!と。

 

「で、それがどしたん?一緒にご飯でも行くの?」

「そういう仲じゃねぇ。ただ、今日だったらしくてな、仮免の補習。それで色々話した」

「あー、そういえばそんなんあったね」

 

私らは誰も落ちてないから関係ないけど、目良っちがそんなん言ってた気がする。あんま覚えてないけど。

 

「補習の試験は終わって・・・・合格貰ったそうだ」

「そっか。良かったね」

「?」

 

素直にそう言ったら何故か不思議そうな顔をされた。

こっちも首を傾げると轟も首を傾げる。

真似すんな、この野郎。

 

「いや、だって嬉しかったんでしょ?アザラシが合格して。だから良かったねって・・・・違うの?」

 

口元を指差して言えば、轟は自分の顔を確認するように触って━━━━━分かりやすく柔らかい表情を見せた。その姿にかっちゃんが目を見開いた。

 

「そうだな、良い事だ。ありがとな」

「でしょ?じゃ、放課後は補習終わったら耳郎ちゃんの部屋に集合で。轟はキーボードだから」

「まだ諦めてなかったのか。というか、耳郎のやつに許可とったのか。それ」

「とったよ。一時間後の私が」

 

 

 

 

 

 

 

 

「一時間後も二時間後も許可してたまるか!」

 

遠距離のツッコミが入った所で時間切れのチャイムが鳴った。さぁ、あともうちょぅと頑張ろーっと。



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日頃の行いが悪いからそんな事言われるんですよ。こういうものは積み重ねですからねぇ。猫好きなんてギャップだけじゃぁ人気なんて得られないんですよ!深く反省してくださいね!えっ、ブーメラン?何が?の巻き

ヒロアカの新しいOPで耳郎ちゃんがヒロイン過ぎるのも好きだけど、投げ捨てられる激ださトレーナーと、それを手にショボくれる相澤先生も狂おしいくらいしゅき。なに、あれ。


「文化祭があります」

 

バンド名について考えようとしたLHRの時間。

日々ストレスに悩まされていた私の耳に突然響いたのは、包帯先生のそんなサプライズだった。

皆が良く分からない言葉ではしゃぐ中、私は何度か深呼吸したあと冷静に考える。包帯先生がなんと言ったかを。記憶にあるそれはたった一言。付け加えがないならそれだけの意味だ。しかし、そんな事あり得るのか?日頃苦行しか与えてこない包帯先生が?答えはノット。あり得ない。一枚だけ買った宝クジで一等当たるほどあり得ない。となれば、何かあった筈だ。あの暗号の前後、解読する為のヒントが。

 

私は学習する天才、もう騙されたりしない。

 

始まりは入学初日の突然の個性ありきの体力テストからだ。初日の最初の時間、なんの予告もなしのテスト。いきなりな上、最下位は除籍処分とか言ってくるbadサプライズつき。正直、ヤヴァイクラスに来てしまったと思ったものだ。

次に覚えてるサプライズと言えば、体育祭とかっていう矢鱈と疲れる行事の報告。しかも夏休みをたてに脅して参加を強要してくる始末。あの時ほど包帯先生の理不尽を思ったことはない。ん?あれ、喜んだ覚えがあるな。おかしい、記憶違いかな?

その次にといえば職場体験。資格もない素人なのに連続殺人犯みたいなのと戦う羽目になった。授業参観では包帯先生が止めなかったせいで母様に心配をかけ、その代償でキュウリ食わされる羽目にもなった。合宿では私だけネココス達の攻撃掻い潜ったのに崖から落としてくるし、最近だとインターンなんてのもサプライズしてきた。いや、インターンに関していえばエリちゃんと会えた訳だし、全部が全部悪かった訳ではないけど・・・・・いや、でもなそれを抜きにしても包帯先生が持ってくるサプライズは碌なもんじゃない。私にとっての今年の不幸は皆包帯先生から来てるといっても過言ではないのだ。うん。

 

故に油断せずに行こうと思う訳だ。

 

スッと手を挙げると包帯先生と目が合った。

分かりやすく嫌そうな顔をした先生だったが、周囲を軽く見渡して他に挙手してるやつがいないのを確認すると渋々「どうした、緑谷」と聞いてきた。

なので、ここはバシッと言ってやる。

 

「何を、企んでいるんですか」

「そっくりそのまま返す。緑谷、何を企んでいる」

「・・・・いや、私が聞いてるんですけど」

「分かった、俺から言おう。何も企んでない。お前も何を企んでいるのか言え。正直に今言えば特に罰したりしない」

「何も企んでませんけど」

「嘘をつくんじゃない」

 

なんだとこの野郎ぅ!人が真面目に聞けばこれだ!

なんだってんだよぉぅ!

 

「嘘前提で話さないでくれますか!傷つきましたよ!私は!ええそりゃぁもう、傷つきました!!断固抗議する所存ですとも!!それより、そっちこそ企んでる事をはいて下さい!今度は何をやるつもりですか!あれでしょう、文化祭と言いながら坂道転がるチーズ追い掛けさせたり、ぶちキレた牛の大群に追い回されたり、トマトとオレンジを投げ合ってから新幹線とか押し飛ばさせたりするつもりなんでしょう!!私知ってるんですから!」

「お前はまた無駄な知識ばかりつけて・・・・」

 

おもくそ溜息をついた包帯先生は「普通の文化祭だ」と良い放った。いけしゃぁしゃぁと。

 

「先程、切島から指摘があったように、確かに今年は色々と問題があった。それこそ文化祭を中止にするべき事が。だが、そうは言ってもだ、雄英もヒーロー科だけで回ってる訳じゃない━━━━」

 

包帯先生が言うことにゃ、体育祭がヒーロー科の晴れ舞台なら文化祭は他科にとっての晴れ舞台らしい。加えて最近のヒーロー科重視の学校対応にストレスに感じてる者も少なくなく、そういった意味でも他科の生徒の為に息抜きのイベントとしてやる事が決まったそうだ。普通の文化祭が。大事な事なので二度言います。普通の文化祭が。

 

「━━━━とまぁ、そういう訳だ。今年は例年と異なりごく一部の関係者を除き学内だけの文化祭になる。規模は縮小したが、学校をあげてのイベントだ。ヒーロー科は主役ではないがウチのクラスでも出し物を一つ出さなくてはならん。今日はそれを決めてもらう」

 

言うことは言い切ったという態度で、包帯先生は寝袋にくるまって教室の隅に腰掛けた。そしていつの間にか壇上へと上がっていた眼鏡に司会を任せて、寝た。僅かな迷いすらなく寝た。自由か。あっ、自由が売りだったな。うちの学校。成る程・・・・いや、成る程じゃないけど!

 

「えーーー、それでは相澤先生にかわり、ここからはA組委員長飯田天哉が進行をつとめさせて頂きます!スムーズにまとめられるよう頑張ります!━━━ではまず候補を挙げていこう!希望のある者は挙手を!」

 

こういうものは大体初めの意見に影響されるもの。

誰かが食べ物屋さんをやりたいといえば何の食べ物屋さんになるか考え、誰かが演劇やりたいといえば何を題目にするか考え、誰かが展示物をやりたいといえば何を展示物するのか釣られて考えてしまうのが人間。

だから、本気でおのが意見を通すならば先手必勝に限る。

 

スタート合図と同時に案の定皆が一斉に動き始める。

なので私は全員の手に引き寄せる個性を発動。挙げた掌と机を貼り付けにする。コントロールがぶれて何人かの掌は捉えられなかったけど、所詮私より後ろの席の連中。恐るるに足らず。

 

「はい!はい!眼鏡委員長!!はいッッッ!!」

「あれ、一斉に手が挙がったような、あ、緑谷くん」

「よっしゃぁ!!」

 

思わずあげた歓喜の声にブーイングがあがった。

負け犬達の遠吠えがなんとも耳に心地良い。

個性?使ってないぉ。証拠あるのぉ?ないでそ?使ってないもぉん。

 

一頻り負け犬達をディスってから、私は思い付いたそれを口にした。

 

「新感覚バンド・天上天下唯我独尊一騎当千国士無双系ハイパーギャラクシーエレガントプリンセスオブプリンセスニコWith下僕ーズの結成初ライブ!!他A組メンバーのバックダンス付き!!」

「成る程!良い意見だ!八百万くん、取り敢えず一番端っこに記入を」

「一番先頭でしょぉがぁぁぁぁぁ!!」

 

あまりの扱いに不満を爆発させたが、「相澤先生から聞いた趣旨を忘れてはいけない」と抗議をはね除けてきた。ちくしょぉー。

 

悔しさに歯軋りしてるとドンマイが呆れたような溜息を溢す。

 

「どんなものが飛び出るのかと思えば・・・私欲の塊じゃねぇーか。爆豪、こういう時だろ」

「やかぁしわ、ボケ。てめぇは自分の影の薄さでも気にしてろ、クソモブ」

「酷いっ!」

 

かっちゃん達のやり取りを他所に、意見合戦はその勢いを増していく。やれメイド喫茶やら、おもち屋さんやら、腕相撲やら、びっくりハウスやら、クレープ屋やら、ダンスやら、ふれあいどうぶつえんやら、暗黒学徒の宴やら・・・・・暗黒学徒の宴!?なにすんの、それ!気になるんですけど!トコトコ、それなんなの!詳しく!闇鍋とかすんの!?えっ?トコトコってなに?あんた事だよ、トコトコぉ!!

えっ?耳郎ちゃんがコント?バンドじゃなくて、コント?そっか、応援するよ。耳郎ちゃん頑張ってね。えっ、やるんでしょ?コント。言い出しっぺなのに、何もしないなんてないよね?ね!楽しみだなぁ!!

えっ、デスマッチ?何言ってんのかっちゃん。頭おかしいの?え?何が私には言われたくないだ、こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

そんなこんなで色々とクラスの皆から案が出たが、私の予想に反して物の見事にバラバラ。釣られると思ったのに、そんな事全然なかった。なんて自己主張の激しい自分勝手なやつらなんだ、うちのクラスメイトは。駄目だな、まったく・・・・なに、かっちゃん。その目は。

 

物言いたげなかっちゃんを気にしてると、副委員長の百が黒板を見て掌を振る。

すると百の触れた場所にあった『僕のキラメキショー』とかっていういつの間にか書かれていた文字が黒板から消えた。「あっ」という悲痛の声が外国人のアオヤーマから響く。

 

「不適切・実現不可。よく分からないものは消去させて頂きますわ」

 

次々に消されていく文字。

その度に悲痛の声が上がる。

ちょっと楽しみにしてた暗黒学徒の宴も消されてしまった。かっちゃんのデスマッチは妥当だけど。

 

なんやかんや一番先頭にして貰った私の案を見て、軽快に動いてた百の手が止まる。改めて見てその案の良さが分かったのかな?と思ってたら、その動きの流れから消そうとしてるのが分かって思わず「あっ」と声が漏れる。

 

私の声に百がチラッとこっちを見た。

じっと百の目を見つめてゆっくり首を横に振る。

すると眉を下げて申し訳なさそうな顔をして・・・・また黒板に触れようとしたので「ストッププリーズ!」と声を張り上げた。ピタッと、また手が止まる。

 

「そ、それを言ったら!郷土史研究発表とか!勉強会とか一番に消さないとでしょ!他科が大真面目におおはしゃぎで色々用意してる中、そんなのやってたらそれこそ顰蹙買うでしょ!!盛り下げ駄目、絶対!!盛り上げていかないと!私らが率先して盛り上げていかないとでしょ!!そうでしょ眼鏡ぇぇぇー!!」

「えっ、それはまぁ、一理ない訳でもないが」

「でしょぅ!そうでしょう!だからバンド!バンドなんだよぉ!皆ではしゃげて楽しめる!私は一躍人気者になる!!ついでに売り出したデビューシングルおお売れ!!有名レコード会社からお声がかかりセカンドアルバム販売!!記録的な売上から今年の紅白出演決定!!来年からはメジャーデビュー!!」

 

頑張って利点を説明してたら百によって私の案が消された。ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!くそぉぉぉぉ!!もう発目に収録場所確保して貰ったのにぃぃぃぃ!!

 

それからも話し合いは続いた。

私はやる気か失せたのでかっちゃんの背中をキーボードに見立てて遊んでいたのだが、結局チャイムが鳴るまで何も決まる事はなかった。なんやかんや聞いてたっぽい包帯先生は会議の内容を軽くディスって「明日の朝までに決めておけ」といって扉に手を掛けた。

 

そして、もう一言残して部屋を出ていく。

 

「決まらなかった場合・・・・・公開座学にする」

 

そんなん顰蹙を買うどころやないやん。

言うと絶対になんか言われるので、私は心の中に浮かんだそれを飲み込んで包帯先生の背中を見送った。

 

「━━━━━あと、緑谷。おかしな真似は絶対にするんじゃないぞ」

「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待って下さい!なんでまた私だけ注意していくんですか!!差別ですか!!」

「差別というより、区別だ。良いから自重を心掛けろ。お前ら、よく見ておけよ」

「なんだとぉ!!」

 

あんまりにもあんまりな態度。

おかしくね!ってクラスメイトを見渡したら、殆んどの奴らから視線を逸らされた。なんでや!

後ろの方を見れば相変わらずのぬぼーっとした轟の顔が視界に入る。ベストフレンズな轟。きっと無条件に味方になってくれる筈。そう思って声を掛けた。

 

「轟!あんたは私の味方でしょ!親友でしょ!無礼者共になんか言ってやって!」

「ああ、駄目だと思ったら声を掛けるから、それまでは好きにやれ。心配するな」

「それは味方の台詞じゃぬぅわぃ!思いやりなんて糞食らえじゃぁぁぁい!!ばかぁぁーー!」

 

にゃんこバッグを背負って私は裏切り者達を背にクラスを駆け出した。廊下に出るなり「帰るな、お前はこれから補習だ」と包帯先生から声が掛かって、泣きながら補習室に向かって走った。

 

くそったれぇぇぇぇぇい!!



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お祭りとかの準備してる時間って何気好きだよね。下手したら本番より好きだよね・・・・いや、嘘だけど。私は本番しか張りきらないタイプの人間ですけど。天然お祭り女ですけど!の巻き

おまっ、こんなんばっかり書きよってからに。
もうあれやで、疲れんねんて。きっと(*´ω`*)


残酷な堕天使のテーゼ的な補習に一区切りついた頃。

今頃皆で和気あいあいしながら文化祭のこと決めてんだろーなぁーとやさぐれていたら、包帯先生が私達にある事を報告してきた。

 

私の心の妹、エリちゃんの事だ。

 

「会いたがってる?えっ、言われなくても今度の休みに行きますけど」

 

私の言葉を聞いた包帯先生は「だろうとは思っていたが」と溜息をつく。いきなりなんじゃろかと詳しく聞けば、エリちゃんのお世話してる看護師の人達からエリちゃんが私達の話を良くしてるのを聞いたそうだ。嬉しいね、楽しみにしてくれてんのか。ふむふむ。

 

「今週末にまた様子を見に行くつもりだったんでな、お前達の予定を聞くつもりだったんだが・・・・聞くまでもなかったか」

「えっ、その感じだと、包帯先生もまた来るんですか?なんで?」

「エリちゃんの精神状態が大分安定したんでな、個性についてちょっとした検査をする事になった。俺はその立ち会いだ。安定してきてるとはいえ、彼女の個性は未だに分からない事が多い。何を切っ掛けに暴走しないとも言い切れないからな。当然お前達の面会にも立ち会う・・・・俺が行くと何か問題でもあるのか。緑谷」

 

ジロリと睨まれ、私は反射的に敬礼を返した。

背筋を真っ直ぐ伸ばし、胸を張りながら額へ掌を翳す私の美しい立ち姿に、流石の包帯先生も感心したような━━━━なんでまた溜息なんですくぅあ!!なんでなん!ねぇ、お茶子ぉ!ね!・・・・お願いだからこっち見て。梅雨ちゃんも。ねぇ、ねぇってば!

 

「━━━━まぁ、それはそうとエリちゃんの外出とかって駄目ですか?動物園デート行きたいんですけど」

 

ふと思い付いたそれを口にしてみたら、何故か包帯先生は首を傾げた。「エリちゃんの外出なら、条件付きでなら許可は降りるだろうが・・・」とかぼやいて、心底不思議そうな顔をする。こっちとしては、それが聞けたらもう十分なんだけど?なに?なんなの?包帯先生なんなのん?

 

「?動物園、デート?爆豪とか?好きなだけ行ってこい。休みの日であり、節度を守って付き合ってる以上、俺はプライベートの事に口出すつもりはない」

 

急に吐かれた珍妙奇天烈にして不可思議で奇々怪々な言葉に、他の補習組がガタリと音を立てて身を乗り出す。そこまでは気持ちがわかる。だって私も『ふぁっ!?』ってなったから。けれど、その後の光景が理解出来なくて、私は驚くより首を傾げた。

なんか全員の視線が私とかっちゃんを交互に見つめてくるのだ。あの轟まで珍しく目を見開いてこっち見てくる。完全に疑いの眼差しで。

 

なんなの、君ら・・・なに?疑ってるの?馬鹿じゃないの?んな訳ないでしょーがぁ!まかり間違ってもかっちゃんと付き合ってたまるかぁ!!

私は男の趣味悪くないぃ!私は優しくて、思いやりがあって、お金持ってて、落ち着いてて、やりたい事やらせてくれて、遊びたい時に遊んでくれて、基本的に奢ってくれる素敵なジェントルマンが好きなんじゃぃぃ!!基本ぶちギレてる男はいやなんじゃぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁ、あの変な夢を思い出す!!あの悪夢が、悪夢がぁぁぁぁぁ!!勘弁してよぉぉぉ!!違うんだよぉぉぉぉ!!

 

「くにょぉぉぉぉ!何でそーなるの!エリちゃんと、に決まってるでしょーが!エリちゃんと、デートですぅー!何が悲しくて、かっちゃんとしないといけないんですか!そりゃ、焼き肉とかお寿司とかバイキング奢ってくれるっていうなら、ちょっとは考えますけどね!あとは服とか買ってくれるとか!?それはね!ちょっとはね!考えますけどね!?」

「・・・・そうか。まぁ、俺には男女の事は分からんから好きにしろ。まかり間違っても節度だけは守れ。俺が言いたいのはそれだけだ」

「間違いまぁぁせぇぇんんんん!かっちゃんとデートするくらいなら、とど━━━━━」

 

思わず勢いで言い掛けたが、ビビっと何が背中へと刺さってきて言葉が止まる。チクチクするような感覚を味わいながらそっと振り向けば、無表情のまま目だけはギラギラさせる轟がいた。その隣には鬼のような形相をしたかっちゃんも。

 

なので、そのまま視線を逸らして切島を見る。

 

「━━━切島、あんたが全部奢るなら、一日だけデートしてやっても良いよ。今だけ特別」

「んな最低最悪な罰ゲーム、こっちから願い下げだわ」

「なんだとこの野郎」

 

この天才無敵で史上最上の美少女である双虎ちゃんとデート出来るんなら、銀行口座全額捧げるくらい訳ないでしょうがぁ!寧ろ奢るだけで、一生分の幸せを消費しても叶う事がない私とのデートが可能なのに!?それをこやつ、ふりおっただと!?正気かな!?

 

「何が気に入らない!恐れおおいからかな!?」

「あーーー・・・・うん。まぁ、そんな所だな。俺と緑谷とじゃ釣り合わねーよ。うん。恐れおおい、恐れおおいなぁーー。だからあっち向け。頼むから。本当、お願いだから」

「大丈夫だって、そんな心配しなくてもぉー。切島そこそこ良い男だから、私とデートとしたくらいじゃ『後であいつの下駄箱に不幸の手紙いれとこうぜ』『俺画ビョウいれるわ』とかって言われて悪戯されるくらいだって。あはははー」

「それはそれで地味に嫌なんだが・・・・つーかな、多分それだけじゃ済まねえから。もっと酷い目に遭うから。目に見えてもう最悪だから。兎に角、ノーだ。ノー、絶対ノー」

 

なんやかんや結局断られてしまった。

なんか、地味に傷つくんだが・・・・・いやまぁ、良いか。切島だし。

 

「緑谷、いま━━━━」

「!?━━━━あーーっ!!包帯先生ぇっ!!それでエリちゃんとのデートの件なんですけどぉ!!」

 

急に耳が悪くなった私は聞こえたような聞こえなかったようなその声を華麗にスルー。大分逸れた話をぐるっと戻して、もう一度エリちゃんとの動物園デートについて包帯先生に確認を取ってみた。すると確認を取ってみない事には何とも言えないが、不特定多数の人間が集まる所は難しいだろうとの事。

ただし、雄英高校の敷地内であれば包帯先生もいるので散歩とか遊ぶくらいは許可するとか。

 

「えええぇぇぇぇーーー何ですか、遊具とかありましたっけ?」

「遊具はないな。高校を何だと思ってる」

「ていうかーそもそもー、あっちからこっちまで来るのに電車とかじゃないんですかー?だったら別に大丈夫じゃないですかー?ネズミー王国行ってもー」

「動物園だろう、お前が行きたいのは。それは遊園地だ。兎に角、そういったレジャー施設は諦めろ。彼女の個性についてもう少し詳しく分かれば話は変わるが、現状は何処にでもという訳にはいかない。良いな」

 

頭カタカタさんだよぉーとブーイングした所で、ふとそれを思い付いた。

 

「文化祭とかって、エリちゃん呼んだら駄目系ですか?」

「エリちゃんをか?それは・・・・んん」

 

何もない学校に呼ぶのはあれだけど、遊ぶ場所があるなら話は別。何と言っても国内最難関の名門高校の文化祭だ。出し物一つとってもレベルが高い筈。発目達のサポート科なんてぶっ飛んだ展示とか出し物やりそうだし、経営科とかも良い企画立ち上げそう。普通科だって基本頭良い連中の集まりな訳だし、それなりに期待も出来る。

包帯先生がいる事で非常時にも対応出来るし、雄英のセキュリティ内ならある程度は安全だしで、エリちゃんとノビノビ遊ぶには持ってこいの場所ではないか。

ひゃっほー。

 

そう思って聞いてみると、包帯先生は少し考えた後で「校長に話はしておく」と言ってくれた。

包帯先生の予想では恐らく許可が降りるだろうと言うので、病院に電話してエリちゃんに教えてあげようとしたら止められた。外堀を埋めようとするなとの事。

流石、包帯先生ぇ!私のこと分かってらっしゃ━━━━いたたたたたたたたたたたたたたたた!!アイアンクローはらめぇぇぇぇぇぇ!!脳汁出ちゃうぅー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、バンドすんの?マジで?」

 

補習に精神力を削られ、アイアンクローで痛めつけられたその日の夜。

部屋で筋トレしてると耳郎ちゃんが部屋にやってきた。

ダンベルしながら話を聞くと、文化祭のうちのクラスの出し物がバンド演奏とダンスホールを合体させた・・・なんかよく分からないんだけど、そんなんやる事が決まったそうで、一番音楽経験のある耳郎ちゃん中心に色々とやるみたい。

 

成る程なーって思ってると、耳郎ちゃんが「だからね」と続けた。

 

「ボーカルやりたがってたでしょ?緑谷の歌唱力ならボーカルやるにも十分だし、その頼めないかなって・・・・」

「ふーーむ、成る程。CDは?」

「出さないよ。アホ」

 

悪い話ではない。ないけれど・・・・むむぅー。

取り敢えずお客さんの耳郎ちゃんにココアを出してあげて改めて詳しい話を聞いた。曲の内容については未定。ダンスの内容にも関わってくる事だから、そこら辺はあしどんと相談した上でクラスの皆の意見を聞きつつ決めるそうで、好きな曲を歌える訳ではないそうだ。ちょっとテンション下がった。

あと他科への貢献を一番に考えるとか言われて、もっとテンション下がった。

 

「成る程ねー・・・・・あぁー・・・・んんー・・・・遠慮しても良い?ちょっとねぇー」

「いやまぁ、無理にやって貰うつもりはないし、あんたが駄目なら明日皆で決めるから良いよ」

「ん?耳郎ちゃんがやるんでしょ?」

「えっ」

 

私の言葉に耳郎ちゃんが驚いた顔をした。

 

「ん?だって、他のメンツでメインボーカルなんて出来るやついる?男連中は知らないけど、女子だと耳郎ちゃんが一番じゃん」

「そ、んな、事はないと思うけど」

「そんな事あるでしょ。えきぽんのチケット、何で皆から奪いさったのさユー」

 

あの激闘を思い出しながら指摘してあげると、耳郎ちゃんは顔を赤くする。覚えも自覚もあるらしい。

 

「あっ、あれは・・・・でも、芦戸とかさ」

「あしどんはダンスの指揮取るんでしょ?やってる時間なくない?葉隠はあれでいてボーカルとか立候補するタイプじゃないし、お茶子も梅雨ちゃんもやらないでしょ?百は頼めばやってくれるとは思うけど、今回の趣旨的に耳郎ちゃんのこと推薦すると思うよ?」

 

男連中がやるのもありだろうけど、何となく耳郎ちゃんレベルで上手いやついない気がするんだよねぇ。前に男連中のカラオケボックスに乗り込んだ時あるけど、少なくともあそこにいた連中は普通だった。ボーカルやるだけのパワーはない。

かっちゃんとかは上手いけど、そういうのは面倒臭がるだろうし。他のメンツもなぁ・・・・ちょっとなぁ、期待出来ないかなぁ。トコトコの魔王はある意味パワーあったけど。

 

「まぁ、消去法というか何というか、一番上手いのは耳郎ちゃんな訳だしボーカルやりなよ。他科への貢献だとか難しい事考えてるなら、余計に一番良いものを出すべきだろうしさ。で、何歌うの?」

「~~~~っ、あんたといい上鳴といい口田といいさ、人の気も知らないで、もぅ・・・・一応、何曲かは考えてるけど」

 

何のかんのと色々用意してたらしい耳郎ちゃんがテーブルの上に持ってきた手提げ袋を置く。

そこから出てくる何枚ものCDケース。候補だ、といったそれは全部で二十枚もあった。やる気が迸ってる。

 

「やる気満々マンじゃん」

「だっ、だって、皆そういうの詳しくないって言うから・・・・それに引き受けちゃった以上、手を抜く訳にもいかないじゃんか」

 

頬を赤くさせながら照れ臭そうに言う耳郎ちゃんの姿があんまりにも可愛かったので、当然の礼儀として撫でくり回させて頂いた。一も二もなく、即行で剥がされたけど。シャーーってされた。

 

「で、どの辺りやるつもりなん?」

「ん?あぁ、えっとね、最初はさニューレイブ系のクラブロック辺りEDMで回そうかと思ってたの。芦戸ががっつり踊りたいって言ってたから、この辺りのやつ。だけどさ、なんか皆の話聞いてると、楽器やる気みたいな空気だからさ、ちょっと抑え目の━━━」

「えっ?ニュースレンコン系の?蟹の石が?EDで何だって?」

「いや、どうしたらそう聞こえんの」

 

それから暫く、耳郎ちゃんから相談という名の知識の暴力を受ける事になった。主に音楽の知識の暴力を受けた。ふるぼっこだった。

助けてぇぇぇぇぇ、かっちゃんんんんん!!楽器習ってたでしょ!!ついてけないよぉ、今すぐ部屋にきてぇぇぇぇ!!隣でそっとフォローしてぇぇぇぇ、寝ないでぇぇぇぇ!



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落ち葉が地面を転がり、肌を撫でる風に冷たさを感じる今日この頃。季節はもう秋だけど、私の元には春がきましたよ!!解放の時はきた!!宴会だぁぁぁ!!あっ、はい、冗談です。補習延長は止めて。マジで。の巻き

遅くなってすまんな。
ミルコねえさんに見とれててん。
太ももに見とれててん。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!お疲れ様でしたぁ!!やったぁぁぁぁ、我が世の春がきたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

インターンの代償として行われた補習地獄。

凡そ二週間もの期間行われたそれも、本日を以てようやく終わりの時を迎えた。これで心おきなくゲームが出来る。文化祭の事で皆とワイワイ出来る。エリちゃんと遊ぶ事が出来る。やったぁぁぁぁぁぁ!!

 

喜びの舞いを踊ってると、補習の終わりを告げた包帯先生に「馬鹿な真似はするなよ」と何故か注意された。馬鹿な真似なんてしたことないのに。なんて失礼な先生ざんしょ。シンジラレナーイ。

肩を竦めてそんな心配ナンセンスだとアピールすれば「爆豪良く見ておけ」って、まるでかっちゃんが私の保護者と言わんばかりの注意もしてきた。ナットクイカナーイ。ワタシナットクイカナーイヨー。

 

「━━━━それはそうと、明日のエリちゃん家突撃大作戦の件はおけまるですか?急にキャンセルとか駄目ですよ?おけ?」

「病院はエリちゃんの家じゃない。煩くしたら追い出すぞ・・・・予定に変更はない」

「りょでーす!ばちのバッチリ準備しときます!」

「爆豪、麗日。本当に良く見ておけ」

 

「・・・・はぁ、たく」

「えっ、なんで私も?相澤先生、今なんで私も増やしたんですか?えっ?」

 

戸惑うような声をあげるお茶子をよそに、包帯先生は粛々と解散を告げた━━━━。

 

「いや、待ってください!相澤先生!!帰ろうとせんといて下さい!!なんで私もその二人と当然のようにセットにしたんですか!?確かに、ニコちゃんは大切な友達やけど、でもそんなっ、私っ━━━━━爆豪くんみたいな扱い嫌なんですけど!!」

「おい、コラ。丸顔てめぇ・・・どういう意味だ、コラ」

「それを聞くってことは、自分かてよく分かってるやろ!それが嫌やねん!」

「・・・・・・」

「・・・・いや、なんか言い返してくれへん!?怖なるやん!!めっちゃ怖なるやん!何が待っとんの!?この先に!?」

 

元気百倍で話すお茶子の様子を見ながら、包帯先生は音もなく教室を出ていった。お茶子がそれに気づくのはもう少しかっちゃんと楽しくお喋りしてからであった。

・・・・て言うか、私とセットになると何がそんなに嫌なん!?お茶子ぉ!!私ら地元じゃ負け知らずのアミーゴでしょ!ずっ友でしょぉ!ベストフレンズでしょ!うん?そのつもりだけど?それとこれとは別?セットはやだ?なんでなぁーーん!

 

 

 

 

 

馬鹿スリーWithお茶子の解散危機があったりなかったりした後。私はそのまま寮には帰らず、荷物持ちにかっちゃんと轟を伴ってとある場所へとやってきた。

雄英高校の校舎棟でもサポート科の根城となっている特別学科棟。その中でも二三日に一回はボンバってるサポート科の生徒にして注意勧告必須の危険地帯・・・・発目明が入り浸ってる工作室だ。

 

今日ここを訪れたのには色々と理由がある。

破損したサポートアイテムの修理と改修が済んだらしいので、それの受け取りとテストの為というのが一点。

もう一点はエリちゃんへのお土産の玩具を発目に頼んでたので、それを貰いにきたのだ。まぁ、他にもスーツの事で軽い相談があったり、思い付いた装備の改修案だったり、細々とした用事もあるけど。かっちゃん達も荷物持ちしにきた訳じゃなくて、装備の事とかで相談もあるとかなんとか。

 

そんなこんなでやってきた訳なんだけど、私達の目の前でノックしようとしてた扉が爆発音と共に吹き飛んでいった。流石に訪れる度に、偶然通り掛かるサポート科の生徒から『危ないからそっちには行くな!』と怒鳴られるだけの事はある。私を知らない人は皆言うもんね。この惨状じゃそれも仕方ないけどさ。

 

モクモク煙が漂う部屋に口で「ノックしてもしもーし」と声を掛けると「取り込んでるので後にして下さい!!」と元気に拒絶の言葉が返ってきた。

悲惨な状況に轟が先生を呼ぶか?と聞いてくるけど、割といつもの事なので「大丈夫」と一言返して、私はハンカチを口許に当てながら中へと踏み込む。荒れ果てた空間に機械ゴミがゴロゴロしてる。中にはバチバチと火花をあげてる物や、現在進行形で燃えてたりする物もあって、危険地帯の名に恥じないあまりにあまりな状態になっていた。思わず溜息が漏れる。爆撃でもされたのかな?うん?

 

換気扇様の力によって少しずつ薄れていく煙を掻き分け進むことちょっと、爆発したと思われる焦げ臭い機械の前でブツブツ呟いてる馬鹿を発見した。

狂気に満ちた目で機械を見つめ、ガリガリと音を立てながら手元のノートに数式やら図やらを凄い勢いで書き込んでく姿は完全にあれな人である。

取り敢えずノートを書き終えるのを待って、一息ついたタイミングで肩をつついてやったが「後にして下さい!!」と怒鳴られてしまう。声をかけてみるが無視される。僅かに首筋に浮かぶ青筋が思慮の邪魔をしたことを全力で責めてきてる気がするが・・・・・ま、そんな事言ったらこいつと話なんて出来ないので掛けてるゴーグルを引っ張って━━━━ぱっと離してやる。パァンと良い音が鳴って発目は痛みで悲鳴を上げた。

 

「いっ、いっっっっっっ!!こ、これは、緑谷さんですか!?いきなりは止めて下さい!ビックリするじゃないですか!!」

「いきなりじゃないわい。何回も話し掛けたっての。今日来るって言っておいたんだから、少しは出迎える用意しとけ・・・・というか、先にこれ片付けてからやんな。またショベルカー先生に怒られるよ、あんた」

 

私の忠告に発目は胸を張った。

 

「怒られるのはいつもの事ですし、気にしなくて大丈夫です!!片付けなど、作業場所がなくなったらやるくらいで十分ですよ!!それよりも思い付いたネタをメモする方が先です!!片付けなんてどうでも良い事を理由に後回しにして、折角浮かんだアイディアを忘れてしまったらそれこそ問題ですから!!文化祭も近いですしね!遊んでる時間はありませんよ!!」

「そのどうでも良い事、毎回手伝わされる私の身になってくんない?て言うかさぁ・・・・私が忙しかった間、あんた碌に片付けしてないでしょ?文化祭で忙しいのも分かるけど、これ前に来た時にも見たからね?ほら、これ」

 

足元にあるよく分からない機械の塊を引き寄せる個性で手にして、発目の前に突きだして見せた。

すると発目は少しきょとんとした後、手を打ち合わせて「それは確かにゴミですね!はい!」と良い笑顔を返してきたのでデコピンしてやる。それを片付けろとゆーんじゃぁ。

 

「っぅぅぅぅ・・・・相変わらず手厳しいですね。緑谷さんは。ではこちらも一区切りついたので、早速預かっていたサポートアイテムの改修後の━━━━えっと、あれ?何処に置いたんでしたっけ?おかしいな、この辺りに・・・・あっ、そうだ!!昨日の!あーーーそうだった、それじゃぁ・・・・ちょ、ちょっと待ってて下さい!」

「いや、そっちもそうだけど、それより・・・・聞いてないし」

 

こっちの話ガン無視で発目は廃材の山を漁り始める。

散らかるゴミに頭痛がしてきた所で、かっちゃんと轟もやっとこ部屋に入ってきた。そして改めて部屋の状態を見て何とも言えない顔をする。分かる。

仕方ないので馬鹿はそのまま放って置いて、二人に手伝って貰って片付けを開始。形になってる物は捨てずに一ヶ所にまとめて置いて、それ以外は一切の手加減も手心もなくゴミとしてまとめていく。必要な物もあるかも?知らん。

 

部屋の半分が片付いた頃。

廃材の山をガチャガチャしてた発目が「あっ」という声と共に、頑丈そうなケースをそこから取り出した。

まるでオヤツのジャーキーを前にした犬のように、嬉しそうにケースを抱えてやってくる発目。私は精一杯の思いを込めて笑顔を返して━━━━その顔面にアイアンクローをかました。包帯先生直伝、お説教クローである。

 

「私の言いたい事が分かるか、発明馬鹿」

「あたたたたたっ!?わ、分かります!さっさと改修案の説明をしろ、ですよね!?すみません!次からは緑谷さんのアイテムは分かりやすい所に保管するようにします!!ですが聞いて下さい!実は昨日、開発していた私のベイビーが誤作動を起こしまして!言い訳をする訳ではないのですがっ、それで何かとッッッ!?痛い!?痛いです!!緑谷さん!!握力が強くっ、な、なってぇぇぇぇ!!」

「かぁ、たぁ、づぅ、けぇ、しろって言ってんだよぉぉぉぉぉ!!ばぁぁーーーか!!!」

「はっ、はぃぃぃぃ!」

 

発目も加わえて片付けする事暫く。

日がすっかり沈みお腹が程よく減った頃、綺麗になった部屋でようやくサポートアイテムの説明が始まった。

何処かの嘴ヤクザに壊されたり無くしたりしたベイビースターは、この度ピカピカの新品同様の姿に━━━━とはならなかった。発目から渡されたのは黒塗りに艶めくベイビースター。磨かれてたからピカピカだけど、以前の神々しい感じと違って怪しさが漂ってる。若干カートリッジの容量が増えてるらしいが・・・むむ?

 

受け取ったそれについて聞くと、発目は渋い顔で合金が手に入る前、試験的に作った初期型である事を伝えてきた。強度自体は問題ない物の、完成したそれは携帯するに些か重くなってしまい、ショベルカー先生との相談の結果お蔵入りした物だとか。

何故そんな初期型を渡されたかと言えば、単純に新型を作る材料が集まらなかったのが理由だ。新型のボディーに使われてる金属はI・アイランド謹製の合金。あまり出回っていない為にお値段もそれなりにする。加えてその合金の加工技術がI・アイランドにしかない上に、加工出来る技術者自体も少ないので、注文したからと言って直ぐに届く物ではないのだ。

 

発目も一応メリッサにお願いしてみたらしいのだが、以前の仕入れ値では早期に用意するのは難しいと言われたそうだ。通常価格に二三割上乗せされたら交渉出来るとも言われたそうだが、そうなると学校側から許可が降りる値段を余裕でぶっちぎってしまう。

それで色々考えたあげくベイビースターの新造を断念。初期型を引っ張り出して、カートリッジ周りに改良を施して完成させたそうだ。

 

「━━━━とはいえ、強度は変わりませんよ。いや、寧ろ強度だけならこちらの方が上です。その反面かなり重くなっていますが」

「確かにね、ちっと重いかも」

 

手にしたそれは以前のと比べるとかなり重い。

カートリッジが空でこの重さなら、確かに以前のような速度で飛ばしまくるのは骨が折れるだろう。

 

試しに宙へと個性で引っこ抜いてみる。

そのまま宙に飛んだそれを右へ左へ引っこ抜いて感触を確かめてみる。で、思った事。重いわ、これ。

一撃の威力は間違いなくあがるだろう。それは良い事だ。けれど体力消費も間違いなくあがってしまうのだ。軽く飛ばした感じ、前のと比べると倍くらいしんどい。長時間継続して使うのは難しいと思う。

 

「うーーーん、訓練とかには丁度良いかも知れないけど・・・・・もちょっと軽くならない?」

「すみません、頑張ったのですが・・・これ以上軽くするとどうしても強度が保てなくて。カートリッジの機構を取り除けば、あと少し軽くも出来るとは思いますが」

「あーーーー、そうなったら別にこれじゃなくても良いしなぁ」

「ですよね。まぁ、メリッサさんにお願いして新しい物を注文してます。新型が出来るまでの間に合わせだと思って下さい。新型楽しみにしてて下さい。実はちょっとしたアイディアがありまして。ふふふふ」

 

そう言われてしまえば私から言う事はない。楽しみに待つとしようぞ。

それにこれは仕方なしというもの。そもそも私の使い方が荒かったのが原因だ・・・・・いや、私悪くないな。少なくとも意図的に爆散させたのは一個だけだ。他は皆あの嘴まつげが壊したたり、あいつが地形ボコボコにしたせいで飛ばしたやつ見つからなかったんだし。なんだ、あいつに請求すれば良いのか━━━はっ!行方不明じゃんあいつ!!くそぉぅ!!

 

それからも他の装備についても変更点やら注意点やら何やら色々聞いた。ベイビースター以外は軽い使用テストとちょっとした調整だけで済んだので時間は掛からなかった。お茶しながら10分程度だ。

時間が掛かったのは装備を一通り受け取った後、改修案とか新しい装備について話し出してからだ。この間の戦闘中で欲しかった物とか、装備の不満点とか冗談半分に語ったら異様なまでに食い付かれた。『実戦からくる情報は貴重ですから!』との事らしい。

仕方ないのでせがまれるまま話せる事話していくと、あっという間にタイムリミットがきた。完全下校を促すチャイムである。結局、かっちゃん達は放置であった。

 

発目はちょっとくらい大丈夫というが、うちの寮管理してるのは包帯先生。全然大丈夫でないのできっぱり断り、私は頼んでた玩具をさっさと用意させた。

 

「これが頼まれてた物ですね。結構ありますよ、全部持っていきますか?構いませんが」

 

そう言ってテーブルに置かれたのは工作物が敷き詰められたダンボール。暇潰しに作りますとか軽い口調で言ってたので精々一個か二個くらいだと思ってたのに・・・・これ全部暇潰しで作ったのか?まじか、こいつ。学校に何しにきてん?つい眠りに誘われる私が言うのもなんだけど。

玩具について聞けばどれも廃材を利用して作ったものらしく、元手は殆んど掛かってないそうだ。授業中とか集会だとかの暇な時に手慰みで作った物なので、ギミックもそこまで拘れず大した事もないのでお金もいらないとの事なんだけど━━━━流石に気が引けた。それだけ玩具がちゃんとしてたのだ。かっちゃんも珍しく文句も言わずに眺めて、轟は手にとって感心したような顔をしてる。これはお金払わないといけないレベルだ。ちげーねぇー。

 

「タダで、と言われてもねぇー。そうは言うけどちゃんと塗装もされてるじゃん。このミニカーとか、普通に売れるでしょ。おーーすいすい進む」

「まさか、塗装はクラスの暇人が練習代わりにやった物ですよ?こんな塗装ムラが目立つ、車輪が回るだけの物恥ずかしくて売れませんよ。本気ならカメラと自動追尾装置を乗せて、三時間動けるバッテリーも搭載したスパイアイテムみたいにします」

「それはそれで面白そうだけども・・・・・ベイビースターに付けちゃう?」

「ふふふ、それは次の新型までお待ち下さい」

 

玩具の説明を軽く受けた後、発目も寮に帰宅するとの事で一緒に下校する事にした。

寮までの短い帰り道、そこに如何にもな高校生らしい会話はなく、終始かっちゃん達の目的であるサポートアイテムの相談で持ちきりだった。私は無我の境地で三人を眺めていたけど、発目はキラキラした目でかっちゃん達の話を聞いて、ホクホク顔で自分のアイディアを口にしていく。心底楽しそうに。

 

結局かっちゃん達の装備の改修については後日に持ち越しとなった。発目からの提案も含めて、サポートアイテムについて検討し直すとの事らしい。

そうして色々吐き出してすっきりした発目は話してる間に何か思い付いたらしく、ノートに何かを書き込みながら元気に自分の寮へとフラフラしながら帰っていった。

轟はその足取りが気になったのか去っていく発目の背中を眺めながら足を止める。薄情なかっちゃんは荷物を手にさっさと行ってしまったけど。

私?私は一応馬鹿が寮に入るまでは見守るよ。なんか危なっかしいし。

 

「体育祭の時も思ったが、慌ただしいやつだったな・・・・」

 

轟の言葉には納得しかない。

だよね、マジで。

 

「エリちゃんのこと驚かさなければ良いけど」

「・・・・エリちゃん?まさか、お見舞いに連れていくのか?」

「そのつもり。ほら、エリちゃん個性の事があるでしょ?出掛ける為にも、個性の抑制装置とか作れたら良いなぁーってさ。まぁ、駄目元だけどねぇ」

 

包帯先生が病院から頼まれた内容を考えれば、個性の詳細はまだまだ分からない事だらけで碌に対抗処置がないのは察してる。だから発目連れてっても無駄に終わる可能性が高いだろうけど、あれはあれで天才の部類に位置する人間だ。私には思い付かない事を、ぶっ飛んだ思考で叩き出す可能性もゼロじゃない。

 

「・・・・そうか、何か見つかると良いな。動物園だったか」

「うん、虎の鳴き声で賭けしてるからね」

「子供と賭けをするな。━━━━なぁ、緑谷、動物園俺も餓鬼以来行った事なくてな。時間があったら俺も行って良いか?」

「?良いよ、別に。まぁ、来る以上は奢らせるけどね。お財布にお金と夢を詰め込んでおいで」

「あぁ、お手柔らかに頼む」

 

 

 

 

 

 

「ごらぁぁぁぁっ!!能天気共ぉ!!いつまで足止めてくっちゃべってんだ!!相澤のやつに文句言われても知らねぇぞ!!」

 

発目が無事に寮には入るのを確認し、私達もかっちゃんの後を追って寮へと帰った。夕飯に遅れたらたまらないのでダッシュで、かっちゃんもぶち抜いて帰った。

はははは!お前達のおかずはニコちゃん仮面が貰ったぁぁぁ!!なにぃ、荷物を抱えながらその速度だと!?貴様ら、人間か!?こ、こけろぉ!!私の荷物は落とさず、器用にこけろぉ!!




おまけー( *・ω・)ノ

【発目にニコちゃんがお説教してる時の、暇人の会話】

ととろき「緑谷が説教してる・・・・なんか珍しい光景だな」
かっちゃん「明日は雪でも降ってくんだろ。良いからさっさと手ぇ動かせや、クソ紅白。終わらねぇだろうが」

ととろき「ああ、悪い・・・・でも、雪か・・・そろそろ寒くなってきたからな」
かっちゃん「あ?なんだいきなり」

ととろき「?雪が降るんだろ?俺はまだ明日の予報見てねぇが」
かっちゃん「はぁ?予報?何言ってんだ」

ととろき「天気の話だろ?」
かっちゃん「天気・・・?」

ととろき「?」
かっちゃん「?」


スミマセーーン!ヤリマス!カタヅケマス!
アタリマエダーー!!


ととろき・かっちゃん(まぁ、いいか)


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馬鹿と天才は紙一重らしいけど、そんな事ある?だって対極でしょ、馬鹿と天才って。えっ、違うの?胸に手を当てて考えてみろ?ちょ、何言ってるのか分からないわ。の巻き

更新遅れてごめんやで。
なんや、えらい忙しゅうて・・・・(´・ω・`)スマヌ

まぁ、そんな事情はさておいて、ミルコねえさんとバーニンねえさん掘り下げ来ないかなぁー。ホリー書いてくれんかなぁ(0゚・∀・)wktk



「ぶんか、さい・・・・?」

 

長きに渡る戦い(補習期間)の果て、ようやくやってきた週末。自由という名の翼で元気に外出した私は予定通りかっちゃんと発目、それと黒豆パイセンを引き連れてエリちゃんの待つ病院へとやってきた。

ただ午前中は色々と検査があって面会の時間は取れないとの事で、近場で差し入れの買い物したりご飯食べたりして時間を潰したりして・・・・実際に会えたのはお昼をがっつり過ぎた頃だ。しかもまだ検査が残ってるらしくて、面会時間は一時間だけときたもんだ。包帯先生に抗議してみたけれど、悲しい事に時間に変更なし。これ以上文句を言うなら三十分に減らすと言われたので、私は迷う事なく敬礼を返しておいた。大人しくベイ●レードします!と。

 

あっ、他の面子は来てないよ。

お茶子と梅雨ちゃん、切島は文化祭の準備で。

轟はれいちゃんのお見舞いに行った。なんかこっち来るか最後まで悩んでたみたいだけど。

 

そういう事で時間もないから早速お土産の玩具やらお菓子やらをぷれぜんつ。相変わらず申し訳なさそうに眉を下げちゃうエリちゃんを撫でまくり祭りで和ませた後、発目のあれこれにちょいと付き合って貰った。

それからエリちゃんと一緒にオヤツのシュークリームを頬張りながら、かっちゃんと黒豆パイセンのむさ苦しいベ●バトルを眺めつつ文化祭の話をしたんだけど━━━━思いっきりキョトンとされた。知らぬぅ、らしい。さて、どう言ったら良いか?

 

「文化祭っていうのはね、学校の生徒が中心でやるお祭り。何でやんのかとか知らないけどね。私が中学の時の文化祭は男子がメイド姿で喫茶店やったり、焼き焦げたパンケーキとかマスタード掛かってないホットドッグ売ってたり、しょぼいお化け屋敷やったり、クラスで下手くそなダンスを披露したり、パクり芸をやったりとか・・・・・・なんか、そんな感じ?」

「・・・・?」

 

思いっきり首を傾げられたので、同意を求めてエリちゃんの側でノートパソコンをカタカタさせてる発目を見たが・・・・私の視線に気づく気配すらない。なんかまたブツブツ言ってる。

仕方ないのでかっちゃん達を見たら、丁度かっちゃんを打ち倒した黒豆パイセンと目があった。ガッツポーズされる。━━━ていうか、何普通に負けてん?私に勝っておいてなんだその様は!!気合いが足りないぞ、かっちゃん!!魂を震わせろぉ!!この野郎ぅ!!なんだ、そんなやる気ない顔して!!そんなんじゃ駄目だぁ!!聖獣は応えてくれないぞ!!

 

「聖獣なんかいるか、ボケが。つーか、なんだその頭の悪い説明は。こっちまで馬鹿だと思われるから止めろや」

「はははは!爆豪くんは相変わらず手厳しいね!でも緑谷さんの言葉も概ね間違ってないからなぁ。うーん、そうだねぇ」

 

少し悩んだ素振りを見せた後、黒豆パイセンもエリちゃんに文化祭の説明してくれる。大して私と変わらない説明だった気もするけど、大きな身ぶり手振りを交えながら楽しげに語られるそれはエリちゃんの琴線にがっつり触れたようで、それまでぼやっとしてた瞳の輝きが分かりやすく変わった。キラキラのそれに。

 

「・・・あっ!そう!リンゴ!リンゴアメとか出るかもね!前にお見舞いに来た時、エリちゃんリンゴ好きだって言ってたよね!リンゴに溶かしたアメを絡めた物なんだけど、甘くって美味しいスイーツだよー!」

「甘くて・・・・美味しい」

 

黒豆パイセンの説明でエリちゃんがじゅるりと涎を垂らす。悔しい事に、手にしたシュークリームより反応が良い。敬虔なシュークリーム教信者の私としては、リンゴアメに誘惑する黒豆パイセンの行動に遺憾の意を示したい所である。こにやろうぅ。

 

「あ、あのっ、双虎さんも、何かするの?」

 

心の中で軽くパイセンをディスってると、何処か期待する眼差しでエリちゃんが顔を覗いてきた。なので笑顔でうちのクラスの出し物で踊るか演奏する事、かっちゃんもそれに参加する事を教えてあげれば、エリちゃんの小さなお口がもにゅもにゅする。何か言いたい事があるんだろうと少し待ってあげると、エリちゃんはゆっくり話始めた。

 

「・・・・私、考えてたの・・・助けてくれた時の、助けてくれた人のこと。双虎さんたちのこと、もっと知りたいなって考えてたの━━━」

 

そこで言葉を途切らせて、エリちゃんは私の目をじっと見上げてくる。相変わらず弱々しい表情だけど、初めて会った時と比べ物にならないくらい力強い光が瞳に映ってた。

 

「━━━━だから、私、行ってみたい」

 

一応包帯先生に確認の為に視線を向けてみる。

前日OKは貰ったけれど、今の情勢を考えれば急に中止とかにもなりかねない。けれど私のこの心配は完全に杞憂だったようで、包帯先生は許可を出すように小さく頷いた。なのでそのままエリちゃんに視線を戻して、笑顔と一緒にその言葉を伝えた。

 

「もち、おいで。その日はめいっぱい遊ぼ」

「・・・・・う、うん!」

 

ニッコリとはしてくれなかったけど、エリちゃんは何処か嬉しそうにする。そんなエリちゃんに黒豆パイセンは空気を読まず「俺とデートしよう!」なんて事言い始める。勿論冗談なのは分かるから放っておいたけど、デートという言葉に首を傾げるエリちゃんに「蜜月な男女の行楽さ!」と余計な台詞を吐き始めたので処しておいた。子供に何を教えてるんじゃぁ。

そして、エリちゃんの初デートは私とするんじゃぁ!!このネトリ野郎がぁ!!パイセンは七三とでもイチャイチャしてろぃ!!

 

あと、発目よ。最初に挨拶して少し話して以来、ずっと無言でカタカタと。まさかこのまま何も話さないで帰るつもりか?ん?そりゃね、あんたとエリちゃんは今日が初対面で友達ではないよ?そもそも私が頼んだ事をやっては貰ってるよ?でもね、あんたね、一応お見舞いの体で来てるんだから形だけは取り繕おうか。というか、取り繕え。エリちゃんがあんたの対応についてずっとソワソワしてるから。カタカタやめぇい。やめぇい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

短い面会を果たした帰り道。

久しぶりのお出掛けついでに、学校近くにある喫茶店へやってきた。にゃんこ兄貴は残念ながらお出掛け中だったけど、おじいちゃんは相変わらずの様子で笑顔を浮かべて出迎えてくれる。

オススメのセットを頼んでからエリちゃんとの文化祭について話し合いしつつ待ってると、不意にリズミカルに鳴っていたカタカタ音が止まる。

そして病院では碌にあがらなかった発目の顔が漸くあがった。

 

「さっぱり分かりません!!情報が少な過ぎます!はい!」

 

気持ちの良いお手上げの台詞に、店主のおじいちゃんが「お勉強かなぁ?」とニコニコしながら人数分の飲み物を置いて去っていく。発目は頼んでたアイスコーヒーをイッキ飲みし、パソコンの画面を見せながら説明を始めた。

 

個性の特異性を理由に、病院からエリちゃんの情報は貰えなかった。持ち込んだ機材の半数も、エリちゃんの個性に悪影響を与える可能性を考慮して病院側がNG。包帯先生がいるから問題ない気もするけど、エリちゃんの個性の性質、その能力の高さ故の危険性を考えて一学生には許可が出せないとの事らしい。

それで発目が手に入れたのは本人からの証言と見た目やその様子、私達からの状況説明のみ。こんな結果が出るのは仕方ないというもの。

 

ただ発目というやつは、そこで簡単に諦めるような殊勝な人間でもない。分からない物を分からないで投げ捨てる事なく、知識と伝をフル動員して色々と考えてくれたらしい。自ら得た情報、似たような過去の事例、個性学に見識のあるメリッサからの話を基に、ある程度自分なりの仮説を立てたようで頭が痛くなるようなレポートを見させられた。やはり天才じゃったかぁ。

 

「━━━というようにですね、エリさんの個性は特殊な力場を発生させますが直接的に変化させている訳ではなく、あくまで対象の個性因子に働き掛けて変化を促しているタイプの個性だと思われます。これを抑える為には個性因子自体の活動を抑制する事が最も効果的であると思います。薬物投与による治療がまず考えられますが、副作用も強く体の小さなエリさんに行うには危険性が高いので現実的ではありません。ですが、個性研究の権威シールド博士の論文に、脳へ一定の周波数で電磁波を当てる事である程度個性因子の活動をコントロールする事が可能とあります。実証実験の結果もかなり効果が高く安定していますので、現実的に考えればこちらではないかと。ただこれには細かなエリさんの生体データが必要になってきます。個性発動時は当然として、平常時や感情の変化におけるデータもです。個性因子の動きには個人差があり、装置も専用の物を用意しなければなりませんので。しかし装置自体が━━━━━」

「OK、結論は?」

「━━━━これらの装置を作るには医療機関のフォローが不可欠です。装置の開発資金、その維持費も個人で賄えるような物でないので、結論を言ってしまえば私一人ではどうしようもないです。力になれず申し訳ありません」

 

発目はそう言い切ると珍しく眉を下げた。

そして力を抜くように背もたれに寄りかかり一息つくと、今度はかっちゃんのコーヒーをイッキ飲みした。まだまだ熱かろうそれを、だ。

 

それはあまりに自然な動きだった。コーヒーを手に取ろうとしてたかっちゃんが、抵抗はおろか突っ込みすら出来ず、ポカンとしてただ固まるくらいに。

 

意識外からの奇襲ッッ・・・・!あまりに突然横から伸びた手による、千載一遇の機会を狙うかのような不意の攻撃ッッ・・・!!取られるッッ!抵抗する暇もなく、当然の奪取ッッ・・・!飲み干されるッッ、湯気の漂うコーヒーッッ・・・・!!湧き上がる疑問ッッ・・・!当然の疑問ッッ・・・!!なぜ、こいつは、アイスコーヒーを頼んでおいて、かっちゃんのホットコーヒーに手を出したのかッッ・・・!!当たり前の如くッッ・・・!考える!!双虎にゃん、考える!!そしていたる、答えに至る!!━━━━━多分何も考えてないとッッ・・・!!

 

とかとかどっかの漫画風に考えた後、私と黒豆パイセンは無言でアイコンタクトして、それぞれのカップを静かに自分に寄せた。

 

「サポートアイテム開発の為に、個性についてより学ばなければいけない事は重々承知していた筈ですが・・・よもやここまで自分が何も出来ないとは思いませんでした。今回は良い勉強になりました。帰ったら一から個性について学び直します」

「そっか、文化祭で忙しいのにありがとね。今日は」

「いえ、お気遣いなく。私自身エリさんの個性に興味をそそられて、自らの意思できたのですから。当分は文化祭関連で忙しく手を付けられませんが、時間が空き次第今回の件についてのレポートはまとめ直しておきますので、双虎さんには少々お待ち頂ければと思います」

「あいよー・・・・・ん?双虎さん?」

 

しれっと距離を詰められたような気がしたが、発目は大して気にした様子もなくパソコンをバッグにしまい立ち上がる。そして店主のおじいちゃんにコーヒー代を払い、「ごちそうさまでした!」と一言言い残して嵐のように去っていった。多分でしかないけど、去り際の笑顔を見るに、何か面白い事でも閃いたんだろうと思う。

 

因みに、払ったコーヒー代は勿論自分の分だけだ。

そもそもかっちゃんの分を取った事に気づいてないだろうからね。仕方ないね。・・・・まぁ、可哀想なのでかっちゃんのお代わり分は私が注文しといた。奢りはしないけど。

 

それから少しティータイムを楽しんでると、入口の方からカランカランとベルが鳴った。何となく視線を向ければ、大きめの帽子を被ったロングコートを羽織りマスクまでしてるアホみたいに怪しい男と、この店のアイドルにゃんこ兄貴ことアールがいた。

 

「アール、おいでぇー」

 

ちちちっ、と舌を鳴らしながら呼ぶと私に気づいたアールがシュタタタッとやってきた。そのまま膝の上にぴょんと飛び乗ると可愛い声で一鳴きして丸くなった。

ん?なんだ、今日はおやついらんのか。そうかそうか、じゃぁ喉をゴロゴロしてやろう。うりうり。ここか、ここがええんか。

 

「・・・・そこのレディー。楽しんでいる所を邪魔をするようで悪いのだが、この店の店主は不在であろうか?」

「━━━━む?私?」

 

言われておじいちゃんがさっきまでガタゴトしてたカウンターを見たが、コーヒーメーカーが静かに動いてるだけでおじいちゃんの姿はそこに無かった。かっちゃんに聞いてみるとついさっき裏に引っ込んだとの事。

セットメニューのパンケーキを取りにいったのかな?まぁ、趣味とか道楽というだけあって、あのおじいちゃん割と平気でどっか行っちゃうからなぁー。

 

「だそうです。でもまぁ、コーヒーのお代わり作ってる途中なんで、直ぐに戻ってくるんじゃないかと思いますよ」

「そうか、ありがとう。重ねてお尋ねしたいのだが、この店は待合席などは・・・・」

「あーー、そーいうのはないですねぇ。予約席とか今日は無さげなんで、空いてる席に座って待ってて大丈夫かと。あっ、時間潰しするなら、新聞とか雑誌とかがそっちの棚に」

「親切にどうもありがとう」

 

怪しい男は帽子を軽くあげて頭を下げた。

見掛けの割には礼儀正しい。

怪しい男から、紳士マスクに格上げしてあげようっと。

 

紳士マスクは店の中を落ち着かない様子でキョロキョロする。格上げしといてなんだけど、怪しい。めちゃ怪しい。怪しすぎる。まるで怪しさの権化のようだ。

あまりの怪しさにじっと見てると、私の視線に気づいた紳士マスクが肩をびくりとさせてそそくさとカウンター席についた。

 

「怪しいな・・・・」

 

かっちゃんがそっと呟きながら、財布の中から仮免許をちらつかせる。勿論男には見せないように。

捕らえる気満々のかっちゃんを見て、黒豆パイセンは困ったように眉を下げて首を横に振る。

 

「初めて来て緊張してるだけだと思うよ。それに店主の人もいないし・・・・」

 

加えて私ら以外、他にお客さんいないしね。

確かに気まずいこと山の如しではある。

でも、それを差し引いても怪しいぃ。

 

じっと三人で観察してると、紳士マスクがこっちに振り返った。マスクと深く被った帽子のせいで顔があまり見えないけど、僅かに覗く目からは戸惑いが見てとれる。

 

「どっ、どうかしたのかな?」

 

それはこっちの台詞なんだけど。

その様子にかっちゃんは仮免許証を掌で弄びながら、相変わらずの鋭い視線を紳士マスクにぶつけていく。

黒豆パイセンも何か思う事があったのか、直ぐ行動出来るよう僅かに腰を浮かせた。

その二人の様子に気づいたらしく、紳士マスクは喉をごくりと動かして━━━━━

 

「ご、ゴールドティップスインペリアルをご存知かな!?」

 

━━━━━そんな事をめちゃくちゃ早口で聞いてきた。

怪しさ、カンストする気がする。



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千里の道も一歩から、百万再生の道も一再生から!そう、何事もそう簡単にはいかないと言うことです!楽には稼げない!!だから、私は止めました!毎日一本ずつ?出来るかぁ!の巻き

ジェントルの声が山寺の兄貴になるとは思わんかった。声イケメン過ぎるやろがぁ(*´ω`*)ハァハァ


「動画配信者・・・?」

 

突然ゴールドなんちゃらとかいう紅茶について、早口で話し始めた怪しいを体現する紳士マスク。

その様子が余りにもあまりに不自然だった為、私達は一人でよく分からない事を喋り続ける謎の紳士マスクを三人と一匹で囲むように席につき直した。アールがにゃーっと威嚇すると、それを切っ掛けにして紳士マスクは苦し紛れのような言い方で「動画配信者をしているものなのだ!!」とか、そんな言葉を吐いたのであった。

 

「動画ぁー、配信んんんーー?」

「そうなのだよ!レディー!!今日も次の撮影の為に下見をしていてっ、こ、これも顔バレ防止の為なのだ!!私にも少なくないファンがいるのでね!!私が撮影に来るとなると、ファンが押し寄せてしまう!!この店に迷惑を掛ける事になる!!その為の、変装なのだ!!決してっ!私はっ!!怪しい者ではないのだよ!!」

 

聞いてる感じだと所々胡散臭いけど、丸っきり嘘をついてるようには思えない。配信はしてるっぽい。ファンがいるかは知らんけど。

かっちゃんは依然として紳士マスクを不審者としか思ってないみたいで、人殺しのような鋭い視線をぶつけて動けないように威圧してる。

黒豆パイセンも黒豆パイセンで紳士マスクの死角に入り、なに食わぬ顔でスマホを弄り始めた。紳士マスクの横顔とスマホへ交互に視線を向けてる所を見ると、警察が発表してる指名手配書とか見てそう。

あと、私の腕の中ではアールは欠伸をかいてる。可愛い。写メしたい。

 

「・・・・でも、動画配信かぁ。なつい、昔やったなぁ」

「えっ、そうなのかい?レディー」

「まぁ、中学の頃にちょっと。近所の野良猫を私が撮って、友達のアカウントで編集したやつあげたんですよ。動物系って結構伸びが良いから。でも思ってたよりあんま再生数伸びなくて、即行で飽きて放置しましたけどね」

 

私のその言葉にかっちゃんの『そんな事してたんか』という視線が刺さってくる。痛い、止めて。楽してお金欲しかったの。出来心なの。

 

「そりゃぁ、そうさ!こんな安易な考えではね。再生数を伸ばすのはそう簡単な事じゃぁないのだ。私もかれこれ六年も配信しているが、未だにサイトのトップページを飾った事がない程だ」

 

なんか動画の話したら紳士マスクが急に元気になった。その話ぶりにやっぱり嘘は感じない。

さっきより色々と話してくれそうな雰囲気なので、忘却の彼方にいっていた動画の事を思い出しながら適当に乗っておく事にする。

 

「へぇ、やっぱり簡単じゃないんですねー」

「ああ、勿論だとも!私もあれこれやっているがね、まぁー思ったように再生数が伸びんものなのだよ。して、レディーの配信動画がどういった物だったのかね?私も動画配信者のはしくれ、もしもまだその動画に思う事あらば微力ながらアドバイスしよう。再生数を更に伸ばす事も夢でないぞ」

「えぇ・・・今さら伸びてもなぁ。それにあいつもやってないだろうし。結構低いですけど、そんなに伸ばせます?目標としては収益化を目指したいんですけど」

「しゅ、収益化か・・・・ふむ、まぁ、と、取り敢えず今はどれほどなのかね?アドバイスするにも、な。うん」

 

そう言われても再生数なんて覚えてない。

友達が『収益化は難しいねぇ』とぼやいたのを覚えてるくらいだ。幾つだったけ?

 

そう思ってアールを撫で撫でしながらスマホで調べてみる。消えてるかと思ったけど、サイトを開いて調べたら普通に検索に引っ掛かった。ショボいサムネをタッチすれば懐かしい映像が流れ始める。なつい。再生数も大分伸びてる。放置期間を考えれば喜べないけど。

 

「ほうほう、これはハンディカメラかな?少し画質は荒いが・・・・ブレが少ないのは素晴らしいな。こういった手持ちでの撮影物は酔う映像が多い。その点、レディーの撮った物はカメラの視点が安定していて見やすい」

「はぁ、そうですか」

「しかし、絵面が少し単調過ぎるな。もう少し編集して、見せたい場面に━━━━━再生数8,645回!?8,645回!?コメントも、こんなに!?」

 

それまで物知り顔でレクチャーしてた紳士マスクが大声を上げてスマホに顔を寄せた。にゃんにゃんという可愛い子猫の鳴き声が、紳士マスクの顔の側から響いてくる。シュールな絵面だなぁ。

 

「ね、低いでしょ?暫く放置しててもこれですよ。収益化とか全然無理でしょ。それに私の路地裏アイドル達が、知らない連中にハスハスされるもちょっとあれかなぁって」

「あっ、えっ、れ、レディー。動画はこれだけ、なのかい?何か、そう、SNS等で何か宣伝などは、君ならば━━」

「いや、そういうのは面倒だったんでやってませんね。それだけですよ」

 

ウケが良かったら続けてたかもだけど。

あーーいや、でもなぁ・・・・あいつも編集面倒臭いって嘆いてたからなぁー。それにコメント欄とか、なんかきしょいの多かったしなぁー。

それこそ収益化とか言われない限り続きはなかっただろうな。うん。

 

過去をぼやっと振り返っていると、紳士マスクがプルプルと震え始めた。何かするのかと警戒して構えたら、何かが紳士マスクの目元から落ちた。ぽたり、ぽたりと。

床に垂れた滴から視線を上げて紳士マスクを見れば、良い大人が静かに泣いていた。

 

「す、すまないっ、私が君に教えられる事は、何もない・・・・寧ろ、どうやったらこんなに再生回数が伸びるのか、教えて欲しいくらいだ」

「えっ、ちょっ、あの」

「猫に、猫にも、負けたのか、私はっ・・・・!」

 

ガクッと膝をつく姿に思わず慰めの言葉かけると、黒豆パイセンも少し焦った様子で援護にきてくれる。

かっちゃんは何か言いたげにしてたけど、流石に空気を読んだのか何も言わずに見守ってくれた。ありがとう、余計な事言わないでくれて。えっ、慰めるの手伝ってくれないの?出来る訳ないでしょ!!かっちゃんを何だと思ってんだ!!

 

二人で慰めてるとおじいちゃんがパンケーキを手に帰ってきた。今日は随分とお洒落なパンケーキで、クリームとか果物とかがてんこ盛りになってた。全然値段と見合ってないそれの理由を聞いたら『一度こーいうの作って見たかったんだよ』だそうだ。本当に趣味のお店だなぁ。はぁ、まったく・・・さいこーだよ、おじいちゃん。

 

取り敢えず面倒臭い事は黒豆パイセンにパスして、私はパンケーキを食べる事にした。食べ物には美味しさの鮮度があるから仕方ないね。それに、ほら、泣きたい時もあるさ。大人だって。えっ、なに?黒豆パイセン。いやぁ、食べるのに忙しくて。あとおねしゃー━━━━━いやだぁ!!私のせいじゃない!なんか勝手に泣いただけだし!泣かせてないもん!!あっ、連れてかないで、かっちゃん助けっ、あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!アール助け、あああああるぅぅぅぅぅ!!逃げないでぇぇぇぇぇ!!

 

 

結局、黒豆パイセンと慰める事少し。

おじいちゃんが気を利かせて紅茶を用意すると、紳士マスクは感謝の言葉と共にそれを口にして落ち着きを見せ始めた。アイドルもかくもやという可愛さ天元突破の私の慰めと、黒豆パイセンのどっかの熱血テニスプレイヤーばりの応援のかいもあって、悲しみにくれてた紳士マスクはようやく立ち直った。

世話の掛かるジジイだな、と思った私は悪くないと思う。言わなかったし。

 

「すまない、レディー&ボーイ。それとご老人。迷惑を掛けまして」

 

「はい、本当に━━━━もごぉ、もごぉお」

「いえ、こちらこそ。なんか申し訳ありません」

「いいえ、いいえ。大人にでも、そういう時もありますから。お気に為さらず。それより大分お待たせしてしまって申し訳ない。お客様何かご注文はありますかな?」

 

パイセンに口を抑えられた私と、二人の男達の優しい言葉に紳士マスクはもう一度感謝を告げて「ゴールドティップスインペリアルを一杯、お願い出来ますかな」と言った。まだ飲みたかったのか。それ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、この豊潤な香り!黄金を思わせるこの色み!口の中で滑らかに広がる茶葉の風味!まさに、皇帝が嗜むと言わしめるゴールドティップスインペリアルですな!はははは!」

「おお、分かりますかな?お若いの」

「勿論ですとも!普段は経済的な問題もありましてティーバッグで済ませてしまいますが、大切な仕事の前には必ず専門の販売店まで足を運び、その仕事にみあった物を選んでおります!つい最近でいえばロイヤルフラッシュを購入しましてな!」

「ほう、ロイヤルフラッシュですか。あれは確かに良い茶葉ですなぁ。私としては九十度で、少し蒸らした物が好みなのですがお客様は?」

「ん!?あ、あー、私は、ははは!奇遇ですな!ご老人!私も丁度それくらいが好みですよ!」

 

紅茶ですっかり元気になった紳士マスク。

おじいちゃんは紅茶に詳しい紳士マスクに共感を覚えたようでずっと二人きりで話してる。よく分からないけど楽しそう。パンケーキうまい。

 

楽しそうな二人を放っておいて、元の席に戻った皆で情報共有を開始した。私は態度や様子から怪しいとは思ったものの、男自体に見覚えはない。かっちゃんも同じだった模様。それでいの一番に調べ始めた黒豆パイセンに期待して話を聞いてみたが・・・・。

 

「いや、ごめん。警察庁が公開してるヴィランの指名手配欄を探してみたんだけど、該当する人が見当たらなくて・・・・凶悪犯の顔は大体俺も把握しているから直ぐに分かるんだけど」

「ぱっと出てこない辺り、仮にヴィランだったとしてもショボそうですね。もう放っておいて良くないですか?要は今の所、怪しい一般人って事ですよね?」

 

そう聞ければ黒豆パイセンは何とも言えない顔をする。

黒豆パイセンの言いたい事は分かる。

だけどこれ以上何かするにはそれなりの理由が必要になる。目の前で犯罪行為してくれるとか、警察から指名手配されてるとか、そういう拘束する為の具体的な理由がだ。そもそも私達の持つ仮免許証は、緊急時でなければ碌に効力を発しないなんちゃって資格。ちゃんとしたヒーロー免許ならいざ知らず、出来る事は少ないものなのだ━━━まぁ、私は可能な限り拡大解釈して、ありとあらゆる理由をつけて正当化してバリバリ使うけどもね。是非もないよね。

 

「パイセンが責任持つなら、多少手荒でも拘束しますけど?ね、かっちゃん」

 

ちらっとかっちゃんを見れば、いつもの「けっ」が出た。やるってさ。かっちゃんも。

 

「あはは。そういう所、君達はよく考えてるよね。でもまぁ、現状何もしてないあの人を捕まえる訳にもいかないかなぁ。これでいざ行動に移して、あの人に何か罪状があれば良いけど、無実だった場合は注意ですむ話じゃない。俺一人の責任で終われば良いけれど、まず間違いなく君達も何らかの処罰を受けるだろう。だから無理はしない方が良いかな」

「ですよねぇー」

 

エリちゃんの時もそうだけど、黒豆パイセンは基本熱血マンだけど頭も良く回る。自分の立場と有してる権利という物を良く理解もしてる人だから、黒豆パイセンがそう言うのは想定内。私もそうするべきだと思うから異論もないし。かっちゃんに確認を取れば、舌打ちしてそっぽを向いた。こっちも理解はしてるみたい。

 

「さてと、パンケーキ食べ終わったし、ぼちぼち向こうも話終わりそうですし・・・私ちょっといってきまーす」

「ちょ、緑谷さん!?」

「!?おい、双虎!」

 

黒豆パイセンとかっちゃんの声をスルーして、紳士マスクの隣の席についた。紳士マスクは私に気づくと目を丸くして肩を揺らした。側にいるだけで緊張してるのが良く伝わってくる。ポーカーフェイスが下手くそ過ぎて、逆に何か狙いがあるのか勘ぐりたくなるレベルだ。

空気を読んでおじいちゃんが離れた所で声を掛けた。

 

「ちょっと良いですか?」

「な、何かな?レディー」

「いえいえ、少しだけ気になった事があってですね・・・・私の事知ってますよね?」

 

目を見ながらそう言えば、紳士マスクが分かりやすく顔色を変える。僅かに身構えた姿から、少しだけど戦いに慣れた気配が漂ってくる。

 

「━━━どうしてそう思ったのかね」

「勘です。と言いたい所ですけど、違いますね。最初、私と話した後・・・・確認しましたよね。私の顔。それも二度。その後、向こうの目付き悪い方の顔も。態度に変化があったのはその後。動揺したんですよね?本物に会って。何処で見ました?体育祭ですか?ペロリストの時のですか?それとも、どっちもですか?一時期色んなサイトでトップページを飾ったニュースでしたし、動画配信してるなら勿論知らないわけないですよね?どうして、知らないフリをしたんですか?」

 

そうやって聞けば紳士マスクの目が剣呑な雰囲気を纏い始めた。

 

「たとえそうだったとして、君にその理由を答える必要があるかな?」

「いえ、素直にそう言ってくれればサインくらいしたのにぃーって話ですよ!照れちゃってもう!水臭いですよ!」

「そうか、サインね・・・・ならば仕方な、えっ、サイン?」

 

指を鳴らしてサインペンコールすれば、いつものようにおじいちゃんがサインペンを持ってきてくれた。

体育祭の一件以来、色んな所でサインを求められる。人気者故当然の宿命なのだが、それはこの店でも変わらずだった。馴染みになった常連のおっちゃんおばちゃん達から、やれ孫に見せるだの嫁に自慢するだのとある事に求められちゃってもー大変。ペンが直ぐインク切れちゃって。その様子を見かねたおじいちゃんが気を利かせてペンを用意してくれるようになったのである。

因みに、この店で初めてサインした相手はおじいちゃんだ。

 

おじいちゃんからペンを受け取った私は華麗な指さばきでペンを回す。くるっくる回す。こんな時でも私は天才。怖い、私は私の才能が怖い。

 

「ほら、何処にサインしますか?マスクにします?はりーはりー!へいへーい!」

「あ、い、やっ、待ってくれ。マスクは・・・・では、この手帳に」

「名前はなんて入れます?」

「名前は飛田━━━━━あっ、その、名前は結構」

「わっかりました、飛田紳士マンにしときますねー」

「!?!?あっ!えっ!?ああ、うん!」

 

サラサラッとサインを書いて手帳を渡すと、飛田紳士マンは何とも言えない表情で変な汗を流しまくってた。

これでただの一般人なら、私の目も大概節穴だ。

だけど、多分そうはならない。

 

ペンをカウンターに置いて、私は掌を差し出した。

飛田紳士マンは困惑しながらも掌の意味に気づいて、手袋をしたまま握手に応えてくる。

 

「配信頑張って下さいね。陰ながら応援してます」

「ああ、ありがとう」

「でも出来るなら、私の近くではやらないで下さいね」

 

しっかり手を握り合わせたまま、目の前の男へ視線を向ける。隠しきれない動揺を浮かばせる、その瞳に。

 

「私、お祭りとかイベントとか大好きなんですよ。だから近くでそんな面白そうな事やってるって知ったら、是が非でも参加したくなっちゃうんで」

「・・・・肝に銘じておくとしよう。レディー。いや、緑谷双虎くん」

 

私の言葉で眉間に深い皺を作った飛田紳士マンは、それだけ言い残して颯爽と店を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ、あのお客様、まだ代金払って貰ってなかったんだけどねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタッ、と男二人が無言で席から立ち上がる。

完全に戦闘態勢モードで。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━ごっ、ご老人!!申し訳ない!お代を忘れていた!!」

 

 

 

 

 

 

そして飛び込むように飛田紳士マンが戻ってきてお代を支払っていった。カッコ悪ぅ。

 



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バーニンねえさんかミルコねえさんヒロインで物語が書きたい。そんな事を考える今日この頃書いた『紳士淑女のクランクイン』の閑話の巻き

ジェントルが好きです。
ラブラバも好きです。
でもエンデヴァーおじさんの方が、もぉっと好きです。

(※尚、今後の展開次第でバーニンとミルコに鞍替えする可能性大)



何もかも信じられなかったあの頃。

 

 

『初めまして諸君━━━━━』

 

 

目的もなくパソコンにかじりつく日々。

 

 

『そう!私はジェントル!!ジェントル・クリミナル!!今を嘆く者達よ、私を信じてついて来い!!』

 

 

モニタの灯りしかない暗くて狭い部屋の中で━━━━

 

 

『私が!!世界を変えてやる!!』

 

 

━━━━私はあなたという、光を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『歴史に名を残したい、そう・・・それが私!ジェントルさ!!』

 

「キャーーーーーー!!すてき!!やっぱり素敵よ!ジェントル!!」

 

モニタから流れる彼の姿と声に、興奮から思わず椅子から転がり落ちた。お尻が少し痛いけれど、これも仕方のない事。だってこんなに素敵なのだもの。大人しく座ってなんていられる訳がない。

 

ジェントルは今日も本当に素敵!

整えられたお髭はチャーミングだし、襟の大きなコートはカッコいいし、縦じまのズボンを穿いた足は最高にスマートだし、声だって男らしさのある渋くて何処かエロスに満ちてる良い声だわ!数多くのヴィランの中でも一番に紳士でカッコいいし、おまけにユーモアまであるんだもの!

 

だと言うのに・・・・私はそのモニタに映るある部分が気に入らなくて仕方なかった。それは動画自体じゃなくて、動画の少し下にある数字欄。

そう、再生回数と評価の欄だ。

 

「なによ!!こんなに素敵なのに、なんで再生回数伸びてないのよ!!殆んど昨日と変わらないじゃない!!評価も悪い方ばっかり伸びてるし!!皆分かってないわ!!」

 

本当に世間は見る目がない。

ジェントルはこんなにも素敵なのに!Jストアの不正に対して、皆の代わりに身を挺して制裁してくれてるのに!感謝の言葉はあって然るべきなのに!その下のコメントも下品で下劣で低能な罵倒ばかりなんて、世の中おかしいわ!!何がラブラバ出せよ!!私なんか出ても面白くもなんともないのに!!寧ろジェントルもっと出せでしょ!!もっともっと、ジェントル出せでしょ!!言われなくても出すわよ!!ジェントルで埋め尽くして見せるわ!!

 

こうなったら、正しい評価に直す必要があるわね。

あまりジェントルはこういう事は好かないけれど、でも間違ってるものを直すだけだもの。きっと怒られないわ。

 

そう思ってキーボードに触れようとしたら、玄関の開く音が聞こえてきた。慌てて出迎えに行けば、お出掛けようの外套を纏った彼の姿があった。

日夜世のため人のため悪しき者達に、正義の名の下に制裁を加える天下の義賊。並いるヴィラン達の中で最も気高く高潔な心を持った、ヴィラン界の異端児。

私のパートナー、ジェントル・クリミナルの姿が。

 

ジェントルは自らの行いを世に知らしめる為、危険を省みず動画を上げている。それは立派な事なんだけれど、その代償として色んな人に顔を知られているので、用事があって出掛ける時は変装を欠かさない。今も大きめの外套や帽子、マスクといったジェントル七つ道具で身を隠している。

帽子とマスクの隙間を覗くと、メイクのない目元はいつもよりすっきりしていた。デビュー時代を思い出して胸がときめく。こっちのジェントルも素敵だわ。

 

「お帰りなさい!ジェントル!」

 

いつものように声を掛けた。

いつものように明るい返事を期待して。

 

だけど、彼は弱々しく「ああ」と声を返して帽子とマスクを取った。目元だけでは分からなかったけど、隠されていたジェントルの顔は分かりやすく青ざめていた。額に大粒の汗が滲んでいて、息がとても荒い。

 

「ど、どうしたの!?まさか、ヒーローに!?」

「違うとも。ヒーローには会わなかった・・・・いや、寧ろ厄介な者に目を付けられたかも知れないが」

 

そう言いながらジェントルは脱いだ外套を私に渡し、部屋の中へ入っていく。軽く外套の埃を払ってジェントルを追い掛けて部屋に戻れば、椅子に深く凭れ掛かって座る彼の姿があった。手帳を開いて何かを見つめてる。

 

「本当にどうしたの、ジェントル?」

「ラブラバ、雄英体育祭を覚えているかい?」

「ん?雄英体育祭?今年の?ジェントルの動画を上げてる時にサイトで何度か目にしたけれど・・・・体育祭自体は興味が無かったから見てないの。それにそんな時間があるならジェントルの動画をデビュー時代から見直すわ」

 

当たり前の事なんだけど、ジェントルはそれを聞くと笑い声をあげて笑顔を見せてくれた。

 

「ありがとう。そう言って貰えると、あの頃の私の努力が報われるよ・・・・あー、それで話を戻すのだが、その雄英体育祭の放送中、随分とカメラに映っていた子がいたのだ。雄英高校ヒーロー科一年、緑谷双虎」

「緑谷双虎・・・・?」

「ステインの事件で活躍し、散々に動画をあげられた"ニコ"と呼ばれる彼女だ」

 

その名前に漸くピンときた。

確かに一時期、その名前は動画サイトを賑わせていた。ステインの姿も映っている事から殆んど動画が削除されてしまったが、未だに編集された物が上がる事すらある。記憶してる中で最も伸びた動画は数十万回を軽く超えていた筈だ。そしてその頃、ジェントルの動画へのコメントに彼女の名前もよく見た覚えがある。

 

「あの失礼なコメントの原因でしょ!覚えてるわ!何が、ジェントルも技かけて貰えよ、よ!!ジェントルなら一撃とかもあったわね!思い出すだけでもムカつくわ!!ジェントルはヴィランだけど、皆の為に戦う義賊なんだから!それをっ、あんなただの殺人鬼と同じ扱いだなんて!!失礼しちゃうわ!!」

「私の為に怒ってくれるのは嬉しいんだが、今はそういう事ではなくてね。これを見てくれ、ラブラバ」

 

そう言ってジェントルから渡された手帳にはニコというサインが書かれていた。同じ筆跡でジェントルの本名の飛田という文字と、ジェントルと掛けてなのか紳士マンとかふざけた文字もある。

 

「警告だよ、これは」

 

どういう事なのかとジェントルを見たら、ジェントルは溜息をついてからそっと話し始める。例の計画の為に雄英高校周辺を調査しに行った事。そして調査対象となってた一つ、ゴールドティップスインペリアルを取り扱ってる喫茶店に調査へ入り━━━━そこで雄英の生徒である緑谷双虎(ニコ)と出会ったのだという。

 

「近年稀に見る過激さを見せた今年の雄英体育祭一年の部、そこで見事優勝を果たしてみせたあの爆豪くんの姿もあった。もう一人いた男子生徒に見覚えはなかったが、あの話ぶりからすれば実力は二人並み・・・・いや、恐らくはそれ以上か」

「気づかれたの・・・?」

「それはないだろう。もしそうなっていたら、流石に私も無傷で帰ってはこれなかった筈だ。だが、警戒はされてしまった可能性はある。すまない、ラブラバ。君にも手伝って貰いながら」

 

弱々しい言葉に私は首を横に振った。

ジェントルの落ち込む姿を見てるのが辛くて、私は視線を下げて気持ちを伝えた。

 

「そんな事は良いのよ。ジェントルが無事で良かったわ・・・・それで、計画はどうするの?」

 

私の言葉にジェントルは何も返さない。

平和ボケしている世間に警鐘を鳴らす次の計画。

名門雄英高校への侵入計画。

 

言葉にするのは簡単だけど、行うのは容易ではない。

雄英高校のセキュリティは国内でも有数。

ヴィラン連合の事件で一度隙をつかれて侵入を許したとはいえ、依然としてそのセキュリティの高さは変わってない━━━━それどころか、その事件の影響で強化されてしまってるだろう。

 

「実際、雄英高校が本格的に動いたら、侵入の難しさはこれまでの比じゃないわ。文化祭も中止になるでしょうし、そうなったら隙なんて・・・中止するなら早い方が良いわ。ジェントル、次の企画は━━━」

「ラブラバ」

 

言葉を遮られて、私はそこへ視線を向けた。

ジェントルの視線は自分の右手に向けられていた。

震えて止まらない、その指先に。

 

「━━━━━ラブラバ、私は、私の心は、震えている。恐怖に・・・・そして、これ以上ない歓喜に、だ」

 

その言葉通り、青ざめたジェントルの顔には複雑そうな笑みが浮かんでいた。

 

「彼女と握手を交わした掌が、酷く熱いのだ。ラブラバ。これまで多くのヒーローと相対してきた。だが、あれほど明確な敵意を感じたのは・・・・初めてだった。身が竦むというのを、私は初めて感じたのだ。分かるか、ラブラバ━━━━━私は、あの体育祭で怒涛の活躍を見せた彼女に、ステインすら踏み台にした彼女に、あのニコというヒーローに!!敵だと、そう認識されたのだ!!私が!!」

 

ジェントルの手が握り込まれた。

震えを残したまま。

強く。

 

「このジェントル・クリミナルが!!」

 

握り拳から血を流しながら、ジェントルは笑い声をあげた。瞳を潤ませながら、顔を青ざめさせながら、体を震わせながら━━━━けれど何処までも嬉しそう。

 

「彼女は強い、間違いなく!握手した瞬間に分かった!これまでで、きっと、最も強い!才能もある!運も!エンタメ性も!彼女はいずれ、誰よりも高く飛ぶ!ヒーローとして!誰よりも!!だから━━━━━」

 

 

ドン、とジェントルは拳をテーブルへ叩き付けた。

 

 

 

「━━━━━だからっ、私は勝つぞ」

 

 

 

静かに吐き出された言葉に、ジェントルから漂う熱い空気に、私の体は震えた。

だってその言葉に、これまで感じた事のない程の覚悟が見えたから。この計画を最初に口にした時、髭を懸けるといった言葉すら霞む程の、断固たる覚悟をそこに感じたから。

 

 

 

「私は、彼女に勝つ。勝って、私は・・・・」

 

 

 

ジェントルはそこで口を閉じて、何かを払うように顔を振った。それから何度か深呼吸を繰り返し、体の震えが無くなった頃、ジェントルは漸く顔をあげてくれる。

その表情はいつもの紳士然としたものに戻っていた。先程のような震えがくるような灼熱の気配は感じない。

けれど、その瞳には悔しさが残ってた。

 

「・・・・すまない、やはりリスクが高過ぎるな。計画を見直そう。何より、このまま文化祭が予定通り行われる訳もない。ラブラバ、何か面白い代案は━━━━」

「やりましょう、ジェントル」

「━━━━━っ、らっ、ラブラバ?」

 

ジェントルの声を聞きながら、私はパソコンを操作した。そして雄英高校について調べてる時に見つけた幾つかの記事を表示させ、呆けてるジェントルにその画面を見てもらう。

 

「見て分かるように今回の文化祭開催について、殆んどのメディアが雄英の対応に厳しい意見を表明してるわ。それでも強行した以上、そう簡単に中止はあり得ない。例年に比べれば警備は強化されるでしょうけど、それでも通常時よりセキュリティレベルを落とすのも事実。乗り込むなら、この時以外にない。隙は必ずあるわ・・・・ジェントル確認なんだけれど、自分の正体と私達の計画について話した?何かに気づいてる様子は?」

 

ジェントルは少し考えた後、否と首を横に振る。

 

「それはこの髭に誓って"ない"と断言しよう。多少怪しまれるような行動をしてしまったのは事実だ。加えて撮影の下見にきた事も口にしてしまった━━━だが、明確に私の目的を口にはしていない。私の正体については・・・・どうだろうな。だが、さっきも言ったがあの状況で捕らえなかった事を考えるに、私を知らなかったのではないかと思う。私も・・・自分でいうのもなんだが、そこまでメジャーではないからな。悔しいが。まぁ、ただの一般人とは思われてはなかろうが」

「間違いないのね?それなら仮に教師に伝えられたとしても、学校側も文化祭中止の選択までは出来ない筈よ。パトロールが増える可能性はあるかも知れないけれど、一週間何も起きなければ下見出来る程度に警戒も緩むわ。一ヶ月先のイベントに、今日の事を結び付かせる人間もいないでしょうし。念の為に数日様子を見ましょう。ジェントルは家にいて。ルートに関して懸念があれば私が確認してくるから」

 

やることを考えながら、私がやるべきそれをパソコンに打ち込んで整理していく。

何列か打ち込んだ辺りで背後から声が掛かった。

戸惑うようなジェントルの声が。

 

だから、私はそれを返した。

ずっと前にジェントルから私が貰ったものを。

 

「ジェントルは、私の光なの・・・・あなただけが、私を受け入れてくれた。あなただけが、私に向き合ってくれた。あなただけが、私に踏み出す勇気を教えてくれた」

 

 

「だから、今度は私の番なの。ジェントルがやりたいなら、私は全力で応援する。それが悪い事でも、良いことでも、ジェントルの為なら何だってやって見せる」

 

 

「だから嘘をつかないで、ジェントル。本当にやりたい事を教えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい経ったのか、私は時計を確認してなかったから分からない。だけどキーボードの音が鳴り響く中で呟くような声が聞こえてきた。

 

「計画は変えない、私は雄英高校に侵入する。だが、それともう一つやりたい事がある。・・・・・私はあのステインをくだした、彼女を超えたい。勝ちたい。私が、私である為に。私が、ジェントル・クリミナルであるが為に━━━━━━協力してくれるか、ラブラバ」

 

いつもより頼りない言葉に私は頷いた。

いつもより想いを込めて。

力強く。

 

「必ず用意するわ。ジェントルの望む場所を」



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古事記にもあるようにですね、人の恋路を邪魔する奴は馬に〇られてまえ、と言いますけど……えっ、言わない!?嘘だぁ、昔河川敷にあった古事記には…ねぇ友よ。そうだったよね?こっち向けよ、友よ。の巻き

ミルコねえさんパネェぇ(*´Д`)ハァハァ




文化祭まで残り一月を切った今日この頃。

文化祭の出し物について色々と内容が固まった私達A組の面々は、与えられた役割を果たさんとそれぞれがそれぞれの活動を開始していたのであった━━━━━

 

「はい!どうよ!!こんな感じで、どぅ!?」

「完璧だよ、ニコ!!この天才めぇ!」

 

━━━━そして今、私のノルマは終わったのであった!!

 

私がエリちゃん関連の事でわちゃわちゃしてる間にも、A組内での文化祭の話し合いは粛々と進められていた。漸く私やかっちゃんが参加する頃には殆んどやる事が決まっていて、私のやった事といえば言い渡された役割に頷くくらいだった。

 

そんな訳でその日の放課後、A組で借りきった演習場で、あしどんから伝えられた私のダンスパートを完璧にこなして見せれば、様子を見てた皆が歓声をあげて拍手の嵐を起こした。

アルティメットな天才にしてエクセレントな美少女が故の賞賛。目立つのはそこまで好きじゃないけど、これは致し方ない。美少女が故の定め、甘んじて受けようぞ。もっとやるが良い!!讃えよ!我輩を崇めよ!!苦しゅうないぞ、ははははー!!世界は私の為に回ってるーー!!ふぅぅぅぅ!!

 

喜びを表現すべくバレリーナもかくもやといった所作でクルクル回ってると、行動を遮るように横腹をつつかれた。私の親友オブ親友たる、マイフレンドお茶子に━━━っうひゃぅ、ちょっ、く、くすぐったいで御座います!お代官様ぁ!なになにどうした・・・あれ、オコなの?もしかしてオコなの?なんでぇ!?

 

「ううー、何で一番後から練習始めた人が、一番最初にマスターしとるんや。納得いかん」

「ああ、嫉妬ね!いやぁ、ごめん天才で!てへぺろ!」

 

可愛さ全開でてへぺろしたが、ジト目で見られた上に無言で脇腹をつつかれた。お茶子だけじゃなくて、ダンス担当の女子ーズ全員からつつかれた。なんでや、なんでなんや!ほんまの事なのにぃ!くすぐったいんですけどぉ!止めてっ、マジで!ふみゃぁ!

 

過呼吸になるほど女子ーズに弄られて少し。

復活して皆の様子を見てると、喧しいドラム音が聞こえてきた。視線を向けた先では演奏隊になったかっちゃんが怒号をあげながらドラムを叩きまくっていた。

ドラムを頼まれた当初は欠片もやる気無かったのに、今では誰よりも熱心に練習してる。なんで心変わりしたのかは知らないけど、事情を知ってそうなお茶子が言うには「愛やで、愛 」らしい。意味分からん。急に音楽に目覚めたのかな?ん?

 

「おらぁ!ちゃんとついてこいやぁ!!タタタッつったら、ギャーンだっつったろ!!てめぇ何回言わすんだ、アホ面ァ!!おい、カラス頭ァ!てめぇもダラダラしてんじゃねぇ!!キッてやったら、パッだろうが!!舐めてんじゃねぇぞクソが!!」

 

「わ、わっかんねぇよ!んな事言われてもよぉ!なに?!何なの!?何処が駄目なの!?常闇ぃ!助けてぇ!」

「すまん、上鳴。俺にも分からん」

 

私は何となく言いたい事分かったけど、演奏隊の皆は何とも言えない顔をしてる。苦笑いを浮かべてる耳郎ちゃんは分かってるっぽいかな?あっ、助けにいった。大丈夫そうかな?

 

 

「緑谷さん、ちょっと良いですか?」

 

 

わちゃわちゃしてる演奏隊の様子を眺めてると、不意にそんな聞いた事のない高い声が後ろから掛かった。

かっちゃんから視線を外して振り返ってみれば、胸の所で両手をモジモジさせるお口チャックさんがいた。一応軽く周囲を見回してみたけど他に人はいない。声を掛けてきたのはお口チャックさんで間違いないみたいだ。珍しい。

 

なんやかんや、お口チャックさんとは話らしい話をした事がない。前に手マンとっちめる為に個性の事を聞いたけど・・・・思い返すとマジで話したのなんてそれくらい。シュガーアニキならお菓子談義した事あるし、アオヤーマならチーズケーキで語り合った事もあったけどなぁ。しかし、お口チャックさんって長いな。チャッさんでいいや。もう。

 

そんなレアキャラなチャッさんは、私と目が合うと視線をキョロキョロさせて酷く焦り始める。まるで猛獣の前に突き出された子犬のようだ。

その姿に悪戯心がムクムクしちゃって猫パンチと共に「がおぉっ」と言ってみるとめちゃくちゃ怯えられた・・・・いや、なんで!?そんなに!?ダイジョーブ!この美少女怖くない!噛まないよ!あんまり!

 

「すっ、すみません!演出の事で相談があったんですけど、でも、あの、あ、後で良いです!ごめんなさい!」

「あーーーーいやいや、怒ってないから。それよりどったの?演出の事でしょ?」

 

とある事を頭に思い浮かべながら逃げ出そうとするチャックさん掴まえて話を聞けば、やはり私のソロパートの事での相談だった。他の面子と違って私は一人で演じる所がある。曲の間奏部分でやる、お茶子の個性を使った空中でのソロダンスだ。時間としては数十秒もないけれど、間違いなく注目される所だし手は抜けない。演出も同じく、最新の最高が良い。相談があるならどんとこいなのである。

そんな訳で話を聞くと演出ありきで一回リハをしてみないか、との事だった。

 

「さ、先程、み、見てました。その、ダンスの方も、大丈夫そうで、手も空いてるように見えたので、一度、こちらもリハをしてみたくて声を掛けたんですが・・・」

「そういう事ね、いーよー。何処でやるん?チャッさん」

「あ、それは、あの、向こうで・・・チャッさん?」

 

首を傾げながらチャッさんが指差した所には、妙にやる気を滾らせてる演出隊の姿があった。ダンス隊や演奏隊と違い、演出隊の仕事はぶっちゃけ今はやる事ないのでこのやる気も仕方ない気はするけど。

演出隊の仕事は言うまでもなくA組のライブの演出をする事。ライブをより効果的に見せる為の演出を考えたり、飾りとか衣装とか必要な道具を用意したりとか裏方仕事全般だ。━━━━だけど、その演出内容も他の隊と話し合いの末、先日やっと決まったばかりなのだ。余程の事がない限り、変更するにしても試してからだろう。余程の事がない限り、な。

んで、飾りとか衣装に関しても、既に大まかな物は業者に注文して届くのを待ってる状態なので、そっちもやる事なし。

 

だからまぁ、重ねて言うけど、こいつらただの暇人なのである。しょうがない、仕事をくれてやるか。

仏の心を持って慈悲の眼差しを向けると轟は口元を軽く緩めてくれたが、切島と瀬呂が思いっきり顔をしかめてきた。

 

 

「おう、ものすげぇ失礼な事考えてんな。緑谷」

「俺達だって分かってんだよぉ、こんちくしょう」

 

 

おっと、私の鉄壁のポーカーフェイスが崩れちゃってた?そーりー!暇人共ぉ!

 

ダンス隊に片足突っ込んでるアオヤーマも呼んで改めて演出について再確認。段取りを決めてからお茶子に浮かして貰い、曲無しのままだが通してやってみる事に。

 

私の合図と共に空中に飛び出せば、アオヤーマのキラキラビームも空中に放たれる。予定では私の動線にビームがない筈なのだが思いっきりビームが飛び交ったのでいきなりストップ。位置の調整をして再び始めるが、今度はアオヤーマのビームが離れ過ぎてると切島にストップを掛けられる。そいでもう一度話し合って段取りを決め直し、もう一度試してみたが・・・・今度は完璧な私の振り付けに待ったが掛かった。なんだよぉ。

 

「いや、緑谷のダンスに文句ある訳じゃねーんだよ。でもなんかよォ、こうしてみると、中盤にしては騒がしい絵面だなぁって。なんかクライマックス感が凄いんだよな」

「緑谷が飛んでるだけでも結構目引くもんなぁ。最後のポーズ決めた所で音楽止まる幻聴聞いたわ。つーか、本番はここにダイヤモンドダストもすんだろ?なんだろ、盛りすぎた感あるよな」

「青山くんの、光もあるし・・・」

 

なんだと、この野郎共。

私が目立って何が悪い!美少女の義務でしょ!いや、目立つのは不本意だけどね!?だけど、必然でしょ!

轟に味方するよう視線を送ると、分かったと言わんばかりに頷いて口を開いた。

 

「やっぱり、ダイヤモンドダストはラストまで止めて置いた方が良いだろ。青山のレーザーの演出も過剰だ。緑谷はスポットライト当てるだけで十分目立つ」

 

おおぃ!?この野郎ぅ!

何に頷いたの!?今ぁ!?

ねぇ!!削っとるやん!私の見せ場削りまくっとるやん!ねぇぇ!

 

轟の言葉を聞いて切島達はウンウンと頷く。

完全に賛成ムードだ。

おかしい。

 

「じゃぁ、やっぱ緑谷下げる時に青山にレーザーやって貰う感じにするか?ぱぁーってよ。ほら、こーやってさぁ、扇状的にさぁ。切島、こんな感じどーよ?」

「それが良いかもな。スポットライト落として、バババーって青山のレーザー飛ばしたら場面転換としては分かり安いよな。メリハリっつーの?」

「でもそうなると、スポットライトを動かすのは動物には難しくなりそうだね☆!僕と同じく、緑谷さんはスター性が強いからさ☆!」

「あ、あの、でも、決まった場所に動いてくれるなら、そこまでは・・・・あっ、緑谷さんのダンスパートの動きをもう少し抑えて貰えば」

 

私そっちのけで話がずんずん進んでく。

なんか私の見せ場パートがどんどん地味になっていく。

なんでや、お茶子(関係なし)。

 

エリちゃん来るから、その見せ場だけはがっつりやりたいんだけど・・・・バランス考えたら仕方ないのも分かる。元より人手の割に演出過剰過ぎる気はしてたし。

一つの問題点が見つかると、今度は全体の演出について演出隊は見直し始めた。それまでは盛れる限界まで持っていた演出に疑問を持ったようだ。

 

「もしかして、これヤバいんじゃね?切島」

「かもな。と言うか、見返して気づいたんだけどさ、演出隊ライブ終わる頃には死ねるんじゃねぇか。この仕事量」

「僕はダンスパートもあるから、期待し過ぎないでくれよ☆!」

 

そんな事を良いながら、三人が私を見てきた。

なんで私に聞くのか分からないが「今更?」と返したら「もっと早く教えろよぉ!」と言われてしまう。だってそこで苦労するのは私じゃないし。やるっていうなら頑張ってやれよ、としか。

 

「同じクラスメイトとして、最低限掛ける優しさとかあるだろ!?気づいたら言おうぜ!?ねぇ!?」

「どんまい」

「そこはどんまいじゃないからぁ!」

 

演出隊は私とのリハを中断して本格的に演出内容を確認し始めてしまった。アオヤーマもダンス練習に帰り、私も解放されてしまう。仕方ないのでダンス隊でも冷やかしに行こうとしたら、チャッさんに呼び止められた。

 

「どしたん?」

「あ、いや、あの、ダンスパートの動きで少し話が・・・僕、ライト担当なんで、その」

「そういう事ね。りょ」

 

足を止めた私にチャッさんはメモ帳片手に質問してきた。ダンスの流れや位置関係、移動時間など諸々。聞かれた事を淡々と答えていったのだが、私の言葉を文章に起こしていたチャッさんは何故か目を丸くさせる。

 

「え、そんな正確に自分の位置が分かるんですか?移動距離も測ったみたいに・・・・」

「ん?まぁーね。流石にミリ単位は無理だけど。だからさっき言った位置にライト当ててくれさえすれば、後は私が合わせるから大丈夫」

 

私の個性は正確であれば正確であるだけ性能が上がる。

だから個性の性質を理解してからはそういった感覚は積極的に鍛えてきた。元々才能あっての事だけど、今なら目視五十メートル以内、誤差一センチで位置を測れると思う。

ガッツポーズを取りながらその二の腕を叩き『センスの為せる業よ!』とアピールすると、感心するような溜息を吐かれた。素直にそういう反応されるとあれだ。照れる。

 

「凄いですね・・・・前から凄い人だとは、思ってたんですけど。はぁ・・・・・」

「やめぃやめぃ、本当の事だけどさ。天才な上、美少女でごめんね。惚れる事も許す」

「あ、いえ、そんな・・・・・」

 

瀬呂を相手にするぐらいのノリで言ったら、真面目な顔で本気で恐縮された。チャッさん弄りがいがあり過ぎるな。物凄くやりづらいんだZE。

 

どうやって話そうかと考え始めた時、遠くからギターの甲高い音が響いてきた。視線を音の方へ向ければ、耳郎ちゃんが演奏隊の皆の前でやり方を教えてる様子が視界に入る。涙目の上鳴がカクカク頷いてる姿が面白い。話してる内容までは聞こえないけど、あっちもあっちで上手く回ってるようだ。かっちゃんがあんまりにもあんまりなら翻訳係でも行こうと思ってたけど、その心配はいらないみたい。

 

そう思って視線をチャッさんに戻すと、妙に熱っぽい視線で演奏隊を見てるのに気づいた。演奏隊入りたいのか?と一瞬思ったが、こっそり背後回って視線の先を追ったら耳郎ちゃん見てるっぽい。

 

「可愛いよね、耳郎ちゃん」

「ひぇぇっ!?」

 

声を掛けたらチャッさんは悲鳴を上げた。

顔を真っ赤にさせて冷や汗も凄い。

視線も泳ぎまくってて、息も荒くて、手がアワアワとしてて、もうなんだ挙動不審が過ぎる。

 

「あ、あの、ちが、違うんです!僕は、別にっ、耳郎さんの事は━━━━━」

「あーーーうんうん。分かった分かった。何も見なかった事にするから。大丈夫、耳郎ちゃん可愛いから仕方ない仕方ない。普段ボーイッシュだけど、時折見せる乙女な所がきゃわいいんだよね。ギャップ萌なんだよね。分かる」

「━━━━━何も見なかった事にしてくれるんじゃないんですか!?」

「皆聞いてよぉぉぉぉぉぉ!!チャッさんがねぇぇぇぇ!!」

「もう話そうとしてるし!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんや楽しい文化祭の練習も終えて部屋に帰ると、充電してたスマホがピカピカしてた。ゲームアプリからの体力回復報告かと思って画面を表示させれば、やっぱり回復報告だった。

けれど、今日はもう一つ知らないアドレスから通知が来てた。

 

メールを開いてみれば、Subに書き込まれたその文字が目に入った。『撮影会への招待状』という、その文字が。



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売られた喧嘩は基本的に買ってあげる主義だけど、あんまり安っぽいと弊社の独断と偏見からお断り申し上げる事も御座いますので、その点は十分留意の上お申し込み下さい。世界級美超絶少女委員会会長より。の巻き

あーーーー!!書くことないなぁぁぁぁ!!


ポカポカ日差しが心地よいその日。

清々しい程に晴れ渡った空の下、とある理由から私は下僕とフレンズ達を伴って寮の前にいた。

 

 

 

「うぇるかむ、とぅざ━━━━雄英高校ぉ!!イン、A組寮ぉ!!」

 

 

 

私の鈴の音がごとき素晴らしい掛け声と共に、皆の手元にあるクラッカーがパパパーーンと音を鳴らした。

クラッカーから飛び出したカラフルなテープは宙をユラユラと舞いながら、目を真ん丸に見開いたその子の頭の上や近くにゆっくり落ちていく。皆はそんな様子をみながら私と同じように歓迎の言葉を掛けたり、口笛を吹いたりと一気に騒がしくその子を出迎える。

 

だけどその子はそういう物を気に掛ける事もなく、真っ直ぐに私を見て口を開いた。

 

 

「ふたこさん」

 

 

そんな可愛らしい小さな声の主は、私が小さい頃に着てたにゃんこパーカーを可愛く着こなすエリちゃん。

本当なら文化祭にいきなり呼んで「サプライズ!」ってやるつもりだったんだけど、ネズミー校長から『いきなり人だらけの文化祭に呼ぶのは危ないかもね』との事で、人に慣らす為にこうして一回見学する事になったのである。

私はそんな小さなお客さんに笑顔を返した。

 

「はいよ。いらっしゃい、エリちゃん」

 

私の言葉と笑顔に、エリちゃんは引率してきてくれた黒豆パイセンと包帯先生から離れて、こちらに向かって足早に近寄ってくる。

腰を落として腕を広げながら待ってあげれば、そのまま勢いよく抱き着いてきてくれた。

細くて小さな腕で、ぎゅっと。

 

だからお返しに大人パワーでぎゅっとし返せば、「ふみゅ」とか可愛らしい呻き声が響いてきた。力をちょっと弱めてあげると、胸の所でモゾモゾしてたエリちゃんの顔がにょっきり出てくる。

 

「一週間ぶり。元気してた?」

「・・・うんっ」

 

私は近くの茂みの中からお尻を出して「桃が生ってるよ!!」とよく分からない事を叫ぶ黒豆パイセンを無視して、エリちゃんをそのまま抱き上げて寮へと向かった。ジュースもお菓子も一杯用意してある。見学はそれをちょっと摘まんでからだ。アップルパイもあるんだよー。ムキムキしたおじさんが作ったやつだけど、味は美味しいんだよー。ははは。

 

 

「・・・・・緑谷さん!ここに、桃が生ってるよ!!」

 

 

かっちゃぁぁぁぁーーーん!あそこにいる変質者なんとかしといてぇ!不燃ごみで良いからぁ!包帯先生!不審者ですよ!捕まえて下さい!それ、たまに裸になったりする痴漢でもあるんで!現行犯してください!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆と楽しいオヤツタイムを過ごしてから暫く。

私はエリちゃんの手を引いて、当初の目的だった校内の見学を始めた。流石に文化祭も二週間を切ったので、エリちゃんと見学するのは私と黒豆パイセンだけ。お茶子や梅雨ちゃんといったエリちゃんと顔見知り組は同行したがってたけど、そんな余裕など少しも残ってない事をかっちゃんに指摘され、しぶしぶ出し物の練習へと戻っていった。━━━━んで、眼鏡はかっちゃんに出番を取られてショックを受けていた。眼鏡に足りないものは、情熱でも、思想でも、理念でもなくて速さだと思う。速さだよ、速さ。速さが足りない。

 

 

そんな訳でいざ見学を始めると文化祭まで二週間を切った事もあってか、休みの日にも関わらず校内は人でごった返していた。普段なら部活に勤しむ奴等は元より、外へ遊びにいく連中も部屋に籠る連中も、文化祭の準備に引っ張り出されているんだろう。人多っ。

 

手を繋いで一緒に歩いてるエリちゃんも人混みにビビってるのか私の体にピタッとくっついてる。

めちゃ歩きづらい。

 

「休みの日とは言えど、この時期はやっぱり何処も活気が凄いよね!去年もこんな感じだったよ!皆プルスウルトラの精神でやってるから!!」

「そうなんですかぁ。はぁー。そう言えば、パイセンのクラスとか文化祭は何やるんですか?」

「俺のクラス?なんか色々やるみたいだよ!!俺、インターンの事で色々忙しくてあんまり参加してないから分からないんだよね!あははは!」

 

そう言えばこの間も授業中なのに廊下ウロウロしてたな。この人。忙しいのは本当だったのか。まぁ、疑ってた訳でもないんだけど。

 

「お、通形じゃん」

「マジだ、おーい通形ー!」

 

あっちこっち見ながら歩いてると、黒豆パイセンを呼ぶ声が聞こえた。振り返って見てみれば、知らない顔の男子生徒二人が道具を小脇に抱えながら手を振ってる。二人に気づいたらしい黒豆パイセンの表情をみれば友人なんだろう。

 

二人は最初にこやかにこっちに向かっていたけど、近づくに連れて段々と表情を曇らせていった。なんとなく私を見てからな気がする。気のせいかも知らないけど。あっ、いや、気のせいじゃないな。めちゃ見てるわ。

そのまま近くへと来た二人は仮面のような笑みを顔に張り付けながら、黒豆パイセンへと口を開いた。

 

「おい、お前、良いご身分だな。最近学校休みがちって聞いて心配しればよぉ・・・おい、女連れてデートか糞が。はぜろ」

「俺達が文化祭の準備でひいこら言ってる時に・・・・くぅぅ、羨ましい。ていうか、紹介しろよ。誰なんだよ、そっちの綺麗な人・・・あれ?」

 

私の顔を見て、片方の男子が止まった。

凄い思案顔になってから、スマホを弄り出す。

そしてスマホに映った映像と私を何度も交互に見て、酷く驚いた顔で息を飲んだ。

 

「と、通形!略奪愛はやべぇよ!!そいつ一年の緑谷じゃねえーか!!爆豪の彼女の!!あー初めまして、俺通形の友人で、三年I組の━━━━って、つふぇ!お、押すなよ!」

「!?え、あ、マジだ!!誰かと思えば一年の緑谷双虎じゃん!おいおいおい!マジかっ、通形マジか!!お前、お前ぇーー言えよー!」

 

いや、誰が誰の彼女じゃい。

勝手に略奪させるなぃ。

 

文句の一つも言おうかと思ってると、男子二人の視線は直ぐに私の腰にくっつくエリちゃんに向けられた。いきなり二人から視線を受けて、肩をビクリとさせたエリちゃんはさっと私の後ろに隠れる。でもそれだけでは不安だったのか、側にあった黒豆パイセンの手も掴んで自分の方へ引っ張った。

エリちゃんの行動に合わせて動いた黒豆パイセンと私の肩がぶつかる。

 

「えっ、お前・・・・・」

「あ、そういう・・・・」

 

どういう、だ・・・・おい。

言ってみろパイセン共。

 

誤解を解くように黒豆パイセンへ視線を送ると、黒豆パイセンは何も言わずに穏やかな笑みを浮かべて頷いた。

 

「二人共。あのね、この子は・・・・」

 

「あーーーーー!!結構です!!ダイジョーブ!俺達何も見てないし!な!」

「そ、そそそそ、そうだぜ!おれ、お、おれ、おれれ達、何も聞いてないし!!あの、I組の出し物は、親子連れでも楽しめる企画になっておりますので機会があればいらっしゃって下さい!!」

「何宣伝してんだよ!?マジできたらやべぇだろ!!で、では俺達はこの辺りで!!」

 

逃げるように駆けていく二人の背中を見ながら、黒豆パイセンは伸ばしかけてた手を下ろした。

そして神妙な顔で私の方を見て、赤い舌を見せてきた。

 

そう、テヘペロである。

 

「ごめん、テヘペロ━━━━ぶふふっ!?」

 

パイセンの横っ面をビンタした私は悪くないと思う。

おら、走って誤解を解いてこい。心臓張り裂けんばかりの全身全霊の全速力で走っていってこい。

GOだ、馬鹿野郎ぉぉぉ!!

 

 

 

 

 

 

結局二人を取り逃した役立たずも一応連れて、引き続きエリちゃんと校内を散策してると、ペンキの臭いに包まれながら作業してるB組の男共を発見した。

エリちゃんが作ってる物に興味を示したので顔を出す事にした。丁度良くB組の汚点もいたので、エリちゃんに社会見学の一見として見せてようと思ったのも理由だ。勿論、悪い見本として。

 

「やっほー、B組の童貞共。はっぴーかーい?」

 

「げぇっ、緑谷だ!」

「マジだ、緑谷じゃん!」

「やべぇ、緑谷がいる!」

「よしいけ、物間!!」

「だからっ、なんで僕を前に出すんだ!!止めろ!!」

 

なんやかんや前に出てきた物真似太郎は、クラスメイトの視線に歯軋りしながら服装の乱れと息を整え、いつもの人を見下すような顔をした。変わり身の早さにエリちゃんが感心したような声を出す。思ってた反応と違う。

 

「こんな所でっ━━━━━━お、おい、僕はまだ、何も言ってないからな!いま、顔に個性使っただろ!地面にぶつけるつもりだったろ!!」

「?ナンノコトカ、ワカラナイナァー」

「絶対に嘘だろ!!見え透いた嘘を言うんじゃない!!これだから君の相手をするのは嫌なんだ!!何でもかんでも暴力で解決しようとする!ヒーローを目指す者としてなんて短慮なのか!品位が知れるよ!」

 

どうにもキレのない言葉に首を傾げると、物真似太郎は冷や汗を浮かべながらごくりと喉を鳴らした。

そして前髪を横へと流し直すと背中を向け、B組男共がいる方へと戻っていく。

 

「えっ、終わり?」

「今日の所はこの辺にしといてあげるよ!!僕達も暇じゃぁないんでね!!」

 

「ビビってんじゃねえーぞー!物間ー!」

「ガツンと言ったれ!言ったれ!」

「ここからがお前の真骨頂だ!!見てるぞ!」

「骨は拾ってやる、悔いを残すな!」

 

「うるさぁぁぁぁぁい!好き勝手言ってんじゃないぞ!!お前らぁ!!お前らがやれよ!!僕が無敵だと思ったら大間違いだからな!!この女、本当にっ!手加減なしで攻撃してくるんだからな!!割に合わないんだよ、本当に!!」

 

物真似助の逆ギレに「だって俺達、A組に文句ないもん」と団結を見せる他の男共。そういう意味では味方はいないらしい。可哀想に。

 

「ははは!なんだか今年の一年生は面白い人達が多いね!羨ましいよ!!」

「パイセンに言われたくないんですけど」

「どういう意味!?」

「そういう意味です」

 

その後、B組が作ってる物を見せて貰って、出し物についてもちょろっとネタバレを受けた。聞いても内容がよく分からなかったけど、どうやらクラスで劇をやるらしい。公演時間的に私は見れなそう。

あと、B組の姉御イッチーがミスコンに出るとかなんとか。私は出ないので即応援メッセしといた。『ヒモビキニで出たらイケる』、ってナイスアドバイス送ったら『誰がやるか』という言葉と怒ってる謎の中国人スタンプが返ってきた。なんでこのスタンプを買ったのか、後でじっくり━━━━━いや、今から行けば良いか。

 

 

 

 

「という訳で、私達がきた」

「こ、こんにちは」

「俺もお邪魔しちゃったよね!」

 

「うわ、本当にきた」

 

一応アポとってミスコンの打ち合わせしてる場所を訪ねると、ドレス姿のイッチーを発見した。即写メろうとしたら、即断られた。流石、姉御でやんす。反応早い。

イッチーはエリちゃんと目線が合うように腰を落としてにっこりと笑顔を向ける。

 

「エリちゃん・・・だよね?こんにちは、私は双虎の友達で拳藤一佳っていうの。よろしくね」

「け、けんどう、いつか・・・・さん?」

「そう、こいつみたいにイッチーでも良いよ。ねぇ、エリちゃん。私ね、前からエリちゃんの事聞いててね、仲良くしたいなぁって思ってたの。友達になってくれたら嬉しいんだけど・・・・どうかな?」

 

イッチーが顔を覗き込みながら聞くと、頬を染めたエリちゃんが照れ臭そうに私にくっついて小さく頷いた。

その様子にいつもキリっとしてるイメージが強いイッチーの顔が、見たことないくらいふにゃっとする。

 

「可愛いぃ・・・・」

 

分かる。

 

イッチーと一緒にエリちゃんにほっこりしてると「あーー!」っという声が掛かった。なんじゃろかと視線を向ければ、空中をフワフワしながらやって来る、ねじれんパイセンの姿があった。その後ろには天ちゃんパイセンの姿もある。

ねじれんパイセンはエリちゃんの前に着地すると、そのまましゃがみ込んでぬいぐるみが如くエリちゃんを抱き締める。捕らえられたエリちゃんは目が真ん丸だ。

 

「なにこれ、なにこれ!可愛い!緑谷さんの子供?やっぱり爆豪くんの?それとも轟くんの?」

「やっぱりも、それともも、あり得ないですから━━━━と言うか、エリちゃんですよ。今抱き締めてるの。もう忘れたんですか?」

「えっ、あ、本当だ!エリちゃん久しぶり!あっ、初めましてよね!だってエリちゃん気絶してて、私の事見てないもんね!私、波動ねじれって言うの、お友達になりましょう!」

 

圧倒的な押しの強さにエリちゃんは一生懸命に頷く。

早く脱出したくてやった事だろうけど、その仕草はねじれんパイセンの何かを激しく擽ったらしく、触れ合いはより過激になった。抱き締めるだけだったのが、頬擦りまで追加されてる。

そうして騒いでると他のミスコン参加者もゾロゾロ集まってきた。遠目から羨ましそうに眺めていたからいつか来るだろうとは思ってたわ。可愛いからね、仕方ないね。

 

エリちゃんの勇姿を眺めてるとイッチーが肩をつついてきた。どったの?と視線を向ければ、隣に立って口を開く。

 

「双虎、あんたはミスコン参加しないの?今からでも間に合うから参加しなよ。あんたなら絶対優勝出来ると思うんだよね。一位二位一年で独占してやろ、ね?」

「本音は?」

「死なばもろとも、よ」

 

死んだ魚の目でそう言うイッチーに「私が出ると優勝決まるから断る」と伝えれば、「それを公言するくらいなら出るわ」と言われた。なんでなん。ウルトラエクセレントアルティメット可愛いでしょ、私は。

 

因みに第二次エリちゃん争奪愛で撫で大戦は、最終的に睫毛がとんでもない事になってる三年パイセンが止めて終戦を迎えた。イッチー曰く、ミスコンでの最大最強のライバルだそうだ。勝ってるな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

あっちこっちを更にウロウロし、なんやかんや辿り着いたのは雄英きっての魔境。サポート科の根城である特別学科棟。入口から所狭しと人が行き交い、展示エリアには既に物が飾られている場所もある。

大きな口を開けてキョロキョロするエリちゃんを連れて歩いてると、景気の良い爆発音が耳に響いてきた。

 

二週間切ってるのに今更何を爆破してるんだかと気になって爆心地を覗きにいけば、煙が立ち昇る二足歩行式の大型ロボットの前で、あくせくと飛び散った部品を片付ける発目の姿を見つけた。

やっぱりお前か、という言葉はこの際飲み込んでおく事にする。

 

エリちゃんを黒豆パイセンに預けて、他のサポート科の面々も交じって行われてるゴミ拾いを手伝いにいけば、気持ちいい笑顔と共に「おや、双虎さんではないですか!」と声が掛けられる。

 

「良いから手を動かせ、手を」

「はい!勿論です!あっ、そちらのベイビーにはあまり近づかないで下さいね!ジェネレータが不安定でまたドカンと爆発するかも知れないので!ドカンです!」

「展示物として、その安全性の無さは駄目なんじゃない?」

「大丈夫です!当日までには仕上げますので!!」

 

自信満々に言い放ったアホに、私は渾身のデコピンを一発食らわせ片付けを再開した。呻き声に返す言葉はない。あえて返すなら「アホめ」が、である。

 

片付けを終えてから改めてエリちゃんの件を話せば、発目自身は忙しくて構ってる時間はないが好きに見ていって良いと許しを貰った。他のサポート科の連中も、作業の邪魔さえしなければ基本文句は言わないだろうとの事。

許可を貰ったので発目のブースを見学しようと思ったんだけど、肝心のエリちゃんは発目に興味を持ったらしく作業姿をじっと見つめて動かなかった。何が面白いのか気になって一緒になってぼんやり眺めてると、小さい声でエリちゃんが呟く。

 

「ふたこさん。みんな、がんばってるね」

 

そう言われて私も改めて発目の横顔を見た。

ゴーグルを付けているから視線が何処にあるのか見えはしないけど、動きを見ていれば目の前しか見えてないのはよく分かる。顔の汚れも服の汚れも気にせず、額の汗を拭いながら手にした工具で配線まみれの基盤を弄る姿は、エリちゃんの言う『頑張ってる』に違わない物だろう。

 

今日見てきた他の連中もそうだ。

うちのクラスメイト達も。

勘違いしたあのそそっかしい先輩達も。

相変わらず無駄に元気なB組の男共も。

打ち合わせ場所にいたミスコンに参加する皆も。

目の前にいる発目達も。

 

 

 

『ごきげんよう、フロイライン。私の名前はジェントル・クリミナル。君の数多くいるファンの一人で、今はまだ有象無象の映像投稿者でしかない、しがないヴィランだ』

 

 

 

誰もが文化祭に向けて、頑張っている。

 

 

 

『突然このようなメールが届き、君をさぞ困惑させ驚かせてしまった事だろう。無作法な手段で連絡先を突き止めてしまった事、不快な思いをさせた事をまずは謝罪しよう。申し訳なかった。私が口にした所で信用など出来ないだろうが、この連絡先について悪用しない事を約束する。さて……こんな真似をしてまで君に連絡を取ったのには他でもない、タイトルにも書いた通り、君を私の撮影会に招待したくて連絡させて貰った。是非とも君にはゲストとして参加して頂きたいのだ』

 

 

『企画内容は簡単、君には私と戦って頂きたいのだ。勿論強制はしない。あくまでこれはオファーでしかない。ただ君が断るとなると、次の投稿予定日にあげる映像がない為、私は本来の崇高なる計画・雄英!!入ってみた!!を実行する事になるのでその点は留意して頂きたい』

 

 

『最後になるが、三つほど注意させて頂きたい。一つ目はこの件について、私達と君とだけの秘密にして欲しいという事。二つ目はこの話を誰かに漏らした事をこちらが把握した時点で、それ相応の報復をさせて頂く事。三つ目は━━━━━私の本意が君達を傷つける事でないという事だ。日取りは追ってお伝えしよう。良い返事を期待している』

 

 

 

『PS、文化祭の準備、是非とも頑張ってくれたまえ』

 

 

 

 

 

 

 

ただの悪戯だと思ってスルーしたけど━━━━━

 

 

 

「・・・・ふたこ、さん?」

 

 

 

隣掛かった不思議そうな声に笑顔で応えると、エリちゃんはホッとした顔をした。

それからエリちゃんは私の袖を掴みながら、また発目を見て呟くように話し掛けてきた。

 

「ふたこさん、できたら、どんなふうになるのかな?」

「ねぇー完成してないでこれなら、面白くはなりそうだよね。ワクワクしちゃうね」

「うん、ワクワク、しちゃう・・・・と思う」

 

 

 

━━━━━私の友達の顔を曇らせるような事をしようっていうなら、許すつもりはない。何処の誰だろうと。



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料理と同じ様に、何事も下準備というのは大切。衝動で殴ったりしては駄目。良いですか、相手に一度一番ダメージにならない場所を攻撃させてから、正当防衛を盾にやりなさい。一思いに股関を。良いですね?の巻き

しぇんろぉぉぉぉぉん!おらに、文才をおくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!(心からの叫び)


エリちゃんとの楽しい学校見学会を終えた翌日。

 

「━━━━という訳で、どっかの馬鹿が喧嘩吹っ掛けてきました。ぶん殴りにいきますので、フォローの方お願いしまーす」

 

私は休み時間を利用してガチムチをいつもの仮眠室に呼び出し、悪戯メールの内容を書き上げたノートを見せると同時に協力要請をしていた。

えっ、話したら不味いんじゃないのか?大丈夫!バレなければどうという事もない、問題ナッシング。念の為に監視されてる可能性の高いスマホは教室に置いてったし、ガチムチが秘密を話せるレベルに機密性の高い仮眠室へ来てるからOKOK。もーまんたいよ━━━━というか、あんなフワフワした脅ししか出来ないレベルなら、そこまで心配する必要もない気がするけどね。それこそ警察とかヒーローが本格的に動き出したりしなければ、今回の輩相手ならバレないでしょ。

 

ガチムチは私の話を聞きながらノートを読み終えると、矢鱈と長い溜息をついてから一息つくようにお茶をズズッと飲む。

 

「・・・はぁ、まずはこう言うべきかな。一人で抱え込まずよく相談してくれたね。緑谷少女。信用してくれてありがとう。他にも色々言いたい事はあるけれど・・・・なんでまた、こんな事になっちゃったんだい?何か心当たりは?」

 

心当たりというか、犯人だと思う奴は分かる。

態々撮影会なんて言葉を使ってきたあたり、恐らく喫茶店の時の紳士マスクだろうと思う。私が刺した釘で刺し返しにくるとか、何気洒落が利いてるよね。こんな回りくどい事するくらいなら、いっそその場で文句でも言えば良かったのに。ご丁寧に即殴り飛ばしてやったものを。

はぁ、面倒臭い。

 

「恐らく差出人だと思う輩には会いました。喧嘩売られたのはちょっと謎ですね。めちゃくちゃ怪しい行動してたから、かなり遠回しに『私の近くで変な事するなよ』と釘刺したんですけど・・・・やっぱりそれですかね?プライド傷つけちゃった系かな?でも、それならそれで直ぐ喧嘩売ってくれば良いのにっ、て個人的には思うんですけどねぇー。言ってくれれば、普通に買うのに」

「はぁーー・・・・まったく君は。まず、不審者に迂闊に近寄らない。どうしてもと言うなら、そういう時こそ直ぐに通報しなさい。君はまだ学生なんだから、何でもその場で解決しようとしないの。それと喧嘩を簡単に買うんじゃありません。良いね?」

「へーい」

 

ガチムチは「本当に分かってるのかなぁ」とぼやきながらノートを返してきた。

 

「さて、先に確認をしておきたいんだけど、今この話を知っているのは私だけで良いのかな?爆豪少年は?」

「あーー、かっちゃんにはまだ言ってません。昨日話そうとしたんですけど、文化祭の練習で疲れたのか部屋行ったらもう寝てて。だから、今夜にでも話そうかと」

「へぇ、あのタフネスが売りの爆豪くんが疲れてか・・・・練習相当頑張ってるんだね」

「付き合わされてる皆は屍みたいになってましたけどねぇ。あはは」

「HAHAHA、そりゃそうだ・・・・というか、ちょっと待って緑谷少女。彼寝てたんだよね?そもそもどうやって部屋に入ったの君」

 

急に真顔になったかと思えば、ガチムチはそんなどうでも良いことを聞いてきた。

そんな事聞くまでもないのに。

 

「━━━━?普通に合鍵で入りましたよ。貰ってるんで。大丈夫ですよ、窓割って入ったりしてないんで」

「いや、私もそんな泥棒みたいな事するとは思ってないよ。でも合鍵か・・・・・君ら本当に付き・・・・何でもないよ。気にしないで。おじさんの感覚が古いのかも知れないね。うん、そういう事にしておこう。さて、話を戻そうか。まだ通報もせず相澤くんにも話さず、私にしか話していないって事は、何かしら考えがあるんだろう?まずはそれを聞かせて貰えないかな?」

 

ガチムチは話が早くて助かる。

相手の狙いがどうあれ、この不安定な時期にこんなメールが生徒に来てしまった事が学校側に知られれば、学校側は警備を更に強化するしかない。そうなれば当然、文化祭は中止。他の活動だって、その多くが自粛に追い込まれるだろう。

 

そして、エリちゃんは間違いなくしょぼんとする。許せん。

 

だから、私はこの件が人に知られる前に終わらせるつもりだ。具体的に目標を言えば、文化祭の開催に悪影響を及ぼす騒ぎを起こす前に、紳士マスクとその協力者を逮捕すること━━━とは言ってもだ。メールの誘いを馬鹿正直に受けて一人で戦いに行くつもりはないし、ましてや一人で全部解決しようとも思ってない。

それが出来るなら理想ではあるが、現実的に考えて難し過ぎる。

 

あの時の紳士マスク一人を倒すだけなら、それほど難しくない気がしてる。確かにそれなりに強そうではあった。まともにやったら面倒そうな相手だとは思う。

だけど、あまりにも雰囲気が温かったのだ。釘を刺した瞬間、紳士マスクから向けられた敵意は・・・・チワワに睨まれた程度だった。全然怖くなかった。

だけどそれもあくまでお互いが対等な条件、状態の下で戦った場合の話。主導権が相手にある以上、相手にとってベストの戦いが出来る状況・環境を用意されるだろう。態々こんな手間の掛かる事をやってくる連中だ。報復手段があるなら、自らを守る為の"保険"も用意している事が考えられる。それらが騒ぎを起こす類いの事で、文化祭に影響及ぼすものなら使われた時点でアウト。勝てても意味がない。

 

叩くなら一気に全部。

保険を使う暇もなく、報復する余裕もなく。

疾風迅雷で丸ごと一撃粉砕である。

 

それにはどうしても人手がいる。

恐らくいるであろう紳士マスクの協力者まで綺麗さっぱり根こそぎ捕まえる為にも、教師の協力は勿論、警察関係者とヒーローの協力も必要だ。

 

「私が連中の目を引き付けてる間に、捕まえる為の準備してて欲しいんですよね。現段階だとただの悪戯で終わるレベルなんで、次の連絡がきて相手の動きが具体的に分かったら動けるようにして貰いたいんですけど・・・・頼めます?」

 

私の話を一通り聞いて、ガチムチは疲れた顔をする。

 

「君は教師の私に、生徒を囮にしろって言うのかい?」

「まぁ、そうですね」

「そうですねって・・・・軽く言うなぁ、もう」

 

ガチムチはお茶を啜りながら、何とも言えない顔で悩み始めた。悩む時点でこっちとしてはありがたい。これが包帯先生ならとりつく島もなくスマホを取り上げて校長辺りに報告しそうなもんだし。

暫く唸った後、ガチムチは湯飲みをテーブルに置いて私を見据えた。真面目モードだ。

 

「教師としては頷けない。君の身の安全に関わるからね。然るべき所へ連絡し対応するべきだと思ってる。・・・・だけど━━━━」

 

言葉を途切れさせたガチムチは私の頭を撫でてきた。

すわセクハラか!っと思ったけど、ツッコミより早くガチムチが言葉を続けた。

 

「━━━━━君が皆の為に、文化祭を守ろうとするその気持ちは応援したいとも思ってる。君の()()としてね」

 

それだけ言うと、ガチムチは頭から手を離して立ち上がった。よっこいしょ、とかおっさん臭い言葉を言いながら。

 

「取り敢えず、塚内くんに相談してみるよ。事情も含めて。信用出来る知り合いのヒーローにも声を掛けておく。━━━だけど、万全の体制が整えられないようなら、今回の事は諦めて欲しい。良いね?」

「万全ってどれくらいですか?」

「君が危険な目に遭わないくらい、かな」

「もう一声」

「条件を値切らないで」

 

暫く条件の緩和について交渉を続けたけど、ガチムチはそこだけは首を縦にふらなかった。どう話が転ぶか分からない以上、交戦許可くらいは取りたかったんだけど・・・うぅん、ガチムチの頑固ホモぉ。

あと、去り際「最悪、何かする前に教えてね」とか言われた。何もしないって言ってるのに?なんだろね?

 

 

 

 

その日の放課後、文化祭の練習を終えた私はかっちゃんの部屋に直行した。先に帰られると前みたいに眠られる可能性があったので、部屋に帰るかっちゃんの背中にぴったり張り付いて一緒に帰った。無言で。

周りからの生暖かい視線には勘違いだと叫びたい所だが、スマホの事もあるので睨む程度に留めておく。大丈夫だと思うけど、盗聴盗撮は警戒した方が良い。

事が済んだら覚悟しておけ、醤油顔・アホ面・尻尾。

 

部屋に入るまでは何も聞かず怪訝そうな顔で私を見るだけだったかっちゃんだけど、部屋に入った瞬間「今度は何しやがった!」と怒鳴ってきた。私が何かした体で話を進められるのは腹が立ったのでローキックをお見舞いして、即座に返ってきたローキックはガードしとく。

ははは!私に不意討ちなど、貴様にはッッッッ!?あっ、あああああああああああああああ!!!ば、馬鹿野郎ぅ!!雷神拳は反則でしょ!!私のっ、ファンキーボーンがおかしくなったらどうするのぅ!!なに、ファニィーボーン?だからそう言ってるでしょぉ!ファンキーボーンだってさぁぁぁぁ!!

 

 

ダメージの回復を待って、かっちゃんの部屋でだらける事暫く。スマホの電源を落とし、毛布でぐるぐる巻きにしてから、私は改めてメールの件とガチムチに伝えた件について話した。そしてその話を始めると直ぐ、かっちゃんの額に青筋が浮かぶ。

話し始めて僅か一分の出来事であった。かっちゃんは短気過ぎるのであった。

 

怒りポイントが分からず身構えると、かっちゃんは怒気の籠った溜息を吐きながら話始める。

 

「お前、なんでその日の内に言わねぇんだ」

「・・・えぇ、だって寝てるから」

「そういう時こそ起こしゃ良いだろうが、ああ?無駄な時ばっかり叩き起こしやがって、本当にてめぇは・・・・はぁ、話しただけマシか」

 

無駄な時っては何時の事だろう?身に覚えがありすぎて分からんなぁ。マジで。

 

「まぁまぁ、それは取り敢えず置いとこ。話進まないからさ、ね?」

「ね、じゃねぇわ・・・・んで、どうするつもりだ。俺に話した以上、オールマイトの言う通り大人しくしてるつもりもねぇんだろ?」

「ん?いや、普通に大人しくしてるつもりだけど」

 

私がそう言うとかっちゃんが目を丸くさせながら「はぁ?」と間の抜けた声をあげる。

だけどそれも一瞬、直ぐに疑いの眼差しを向けてきた。

 

「なに、その目は」

「本当の事を話せ、二度は言わねぇぞ」

「だ・か・らっ、大人しくしてるって!・・・・そりゃ、ガチムチがあんまり頼りにならないならやれる事はやるつもりだけど、それだって情報少な過ぎて動けないってば」

 

一応メールにあった『ジェントル・クリミナル』というヴィランについて調べはした。だけど、分かった事と言えば最近ネットの一部で名前が通ってて、警察の捜査が本腰にならない程度の悪事を重ねる小悪党で、正体も経歴も不明で、弾性とかいう個性を使い何人ものプロヒーローを退けた経歴を持ってる事くらい。

六年も活動してて未だに警察に尻尾を捕まれてない以上、逃げ足の速さだけは間違いないんだろうけど・・・まぁ、私が知ってるのはそれだけだ。

 

流石にこんな誰でも知ってるようなしょっぱい情報では何も出来ない。ん?指名手配?一応されてたよ。サイトの一番隅っこの方に載ってた。食い逃げの常習犯と下着泥棒の間に挟まって。あれは気づかないわ。うん。

 

「━━━━て訳でさぁ、次の連絡待ちなわけ。何かあったらまた言うし・・・・ん、なに?」

 

一通り理由を説明してから顔をあげると、かっちゃんが目をぱちくりしてた。可愛らしくあざとさ120パーセントで首を傾げると、おもくそ頬っぺたをつねられる。しかも手加減なし。バリくそ痛い。

 

「やっ、めいっ!!何するだーー!!乙女の柔肌にぃ!!・・・ったいなぁ、もう!まぁ、そりゃね、触れたくなるほど魅力的なのは私も認める所だけどさ、それにしたって加減という物があるでしょうが。どうしてもとお願いしてくれれば、かっちゃんなら特別にお寿司で手を打つ事も━━━」

「訳分かんねぇことほざくな。あと昼はてめぇで買えや。引子さんからちゃんと食費貰ってんだろが・・・・この馬鹿さ加減、偽物って訳じゃねぇな」

「━━━なにおぅ!?」

 

失礼な事ほざいたかっちゃんを睨みつけると、ぼやくようにかっちゃんはある事を話した。

轟から聞いたらしいんだけど、アザラシの学校でヒーロー科の生徒がヴィランと入れ替わられた事件があったらしい。しかもその入れ替わってた時期が仮免許の時で、その入れ替わられてた生徒というのが私と接触したあのエロ女だという。因みにエロ女の中身について、アザラシは教えて貰えなかったそうだ。誰だろ。キバ子かな、ムカつくから。もしキバ子なら、力一杯ぶん殴っておけばよかったなぁ。

 

「まぁ、そういう訳だ。オールマイトが活動休止してから頭の悪ぃ馬鹿が増えてる。この間の糞ヤクザみてぇな厄介なのもいりゃ、今回みてぇな木っ端の馬鹿共もな。これに懲りたら、てめぇも不用意におかしな奴に近づくな。良いな」

「はぁーい。りょ」

 

大人しく返事したらジト目を向けられた。

 

「・・・・・大人しくしてろよ」

「だから、分かったってば」

 

重ね重ね失礼な奴だなと思いつつも、別に企んでもないので頷くとジト目の間にシワが寄った。

 

「正直に話せ、何するつもりだ。聞くだけ聞いてやる」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが切れる音がした。

 

「だぁかぁらぁっ、何もしないって言ってるじゃん!!分かったって、さっきから言ってるでしょぉぉがぁぁぁぁ!!なんなの!?後から知ったらかっちゃんが心配すると思って、こうして態々教えにきてんのにさ!!そもそも教える必要ないからね!!ガチムチにはちゃんと話通して対応して貰ってんだからさ!!それをなに!?ネチネチ、ネチネチとさ!!大人しくしてるって、言ってんじゃん!!なに喧嘩売ってんの!?上等だよ、買ってやるよぉ!!今日こそ、その爆発頭丸坊主にしてやんよぉ!!!」

「あっ、待て、誰も━━━━━っぬぐ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに殴り合いの喧嘩した。

勝った。圧倒的に勝った━━━━というか、なんか、あんまり抵抗してこなかった。疑い過ぎた事、ちょっとは悪いと思ってるっぽい。まぁ、許さんけどな。

少なくとも、明日のお昼でデザート奢るまでは絶対に許さん。許さぁんんんんんん!!!



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私は思います、人はやり直せると。どれだけ間違っても、生きてる限り正しくある機会は誰にでも……えっ?あ、はい、つまりですね、次は居眠りしないのでもう正座止めて良いですか?!足が痺れて限界で!の巻き

耳郎ちゃんの歌ええなぁ。即行で買ってもうた。
ああぁぁー、耳が幸せなんじゃぁ。

あっ、更新遅れてすまんやで(´・ω・`)


「━━━━っ」

 

 

 

 

 

「━━っ」

 

 

 

 

 

「緑谷ッッッ!」

「!?はっ、はいぃ!!寝てません!!」

 

怒鳴り声と共に聞こえた机を叩く音に、私は即行で立ち上がり全身全霊を以て敬礼を返した。我ながら背筋が良く伸びて頭のぶれない惚れ惚れする程の敬礼だな!と思ってたら━━━━本来目の前にあるであろう包帯先生の姿がない事に、私は少し遅れて気づいた。

おや?と思い軽く周りを見渡して見れば、私の机に手をついてる耳郎ちゃんが最初に目に入って、自分の席から離れてガヤガヤしてるクラスメートの姿が見える。

どうやら、授業中ではないらしい。ホッとした。

 

「もう、驚かさないでよ~。耳郎ちゃんのいけずぅ!このこの~」

「二の腕つつくな、ひっぱたくよ。ていうかね、驚いてんのはこっちの台詞だから。あんた一限目の授業中からお昼まで寝っぱなしだからね?相澤先生から『放課後、文化祭の練習始める前に、職員室へ来るように』って伝言貰ってるよ。あっ、爆豪も一緒にね」

「うそやん」

 

一縷の望みを込めてかっちゃんに聞いたら、眉間に深いシワを作りながら「あ゛ぁ?」と言われた。ごめんて。ちゃうねん、ちょっと眠たかってん。

 

「文化祭の準備もラストスパート掛かってきたし、疲れてんのは分かるけど・・・・それにしても寝過ぎでしょ。マイク先生ちょっと泣いてたからね?」

「いやぁ、昨日はちょっと夜更かししちゃってさ。エリちゃんとちょっと電話してたら、アプリのイベクエのノルマ分周るの思い出して・・・で、イベクエやってたらこの間買ったゲームの攻略法を何故か閃いちゃって、取り敢えずそこだけクリアして寝ようと思ったんだけどゲームしたらしたでなんか目が冴えちゃって・・・・しょうがないからかっちゃんにイタ電してから寝たんだけど、結局寝たのが二時過ぎでさ。まいったよね」

「鉄人じゃんか。練習の後にどれだけ人生謳歌してんの。ていうか、爆豪が眠たそうな顔してたのそれが原因か。はぁ、まったく。ウチの隊のキーマンボロボロにしないでくれる?練習に差し支えるから」

 

耳郎ちゃんの声に「差し支えるか、ボケが」と前の席から抗議がきて、耳郎ちゃんが何と言えない顔で苦笑いする。気持ちは分かる。

 

「あー、それでさ、ちょっと相談あったの。お昼ご飯食べながらで良いから聞いてくんない?」

「ん?良いよ、別に━━━━かっちゃん、今日はどうする?」

 

最近かっちゃんはお昼休みも演奏隊に付き合って練習してる。食堂までは一緒に行くけどそこで食べる事なく、食堂の所にある購買でパンだけ買って去ってくのだ。

だけど今日は練習の要の耳郎ちゃんが抜けるようなので聞いてみたのだが・・・・かっちゃんからは「遊んでる時間はねぇ」との返事を貰った。さようでござるか。

 

いやぁ、耳郎ちゃん抜きでも練習するとか、今回気合い入りまくってるな。かっちゃん。なんか高校受験前のかっちゃん思い出す。あの時もコソコソ頑張ってたもんなぁ。体鍛えるの。クソ寒い中、いつもの公園汗だくで筋トレとかしたり、やけに長い時間走ってたり━━━━思えば、もしかしてあれが風邪の原因では?まぁ、何でも良いけど。聞いてもどうせ教えてくれないし。

 

「かっちょいいドラム期待してるね。がんば」

「━━━はっ、言われるまでもねぇわ」

 

それだけ言ったかっちゃんは、教室で駄弁ってた上鳴と常闇を捕まえてさっさと行ってしまった。いつもは購買までは一緒に行くのに・・・・どんだけ練習したいんだ。元より目立ちたがり屋ではあるけど・・・・それとも練習しないとヤバいのか。その二人。

ちょっと不安を覚えて耳郎ちゃんに聞いたら、かっちゃんのそれはただ張り切ってるだけで問題はないとか。練習は今の所順調そのもので、アガらなければ本番も大丈夫そうらしい。

 

「本番前は変に焚き付けないでよ。お願いだから」

「ん?まぁ、うん?かっちゃんただでさえ元気だからね。しないしない」

「えっ、あれで?」

 

どれで?

 

 

 

 

 

耳郎ちゃんに誘われるまま食堂に着いて暫く。

何故か遠巻きに見守ってくる他のA組女子ーズを横目に、ラーメンを啜りながら耳郎ちゃんの話を聞くと、まさかのボーカルのお誘いだった。

 

「えっ、今更・・・・?」

「悩んだんだよ、ウチもさ。本当にギリギリまで。でもさ、昨日の段階で合わせて思ったの。あんたダンサーにしておくには目立ち過ぎるって。なんて言うのかな、緑谷は華があるでしょ?歌も歌えるし、だからさ」

 

耳郎ちゃんの言葉に、視界の端で見えた女子ーズ全員が頷いた。そこで反応するくらいなら、いっそこっち来て一緒に話聞けば良かろうに。もう、なんなーん?

皆へ白い目を向けてる間も、耳郎ちゃんのちょっとした相談は続く。ズルズルしながら大人しく聞けば、何て事はない。文化祭がいよいよ近くなってきて、ちょっとビビってしまったらしい。あれこれそれっぽい事言ってるけど、一昨日撮影したリハの映像を見て本番を意識しちゃったのが原因っぽい。

 

「━━━━でさ、やっぱりライブのボーカルって一番華がある奴がやった方が良いと思うの。ほら、この通り、ウチはパッとしないし・・・・準備時間は少ないけど、ウチもフォローするし、あんたなら今からでも大丈夫でしょ?」

 

まぁ、やって出来ない事はないとは思う。

何せわたすぃー天才っ、ですからぁ。

でも、これは素直に頷けない。

 

「ことわーる!面白くないからー!」

「えっ、いや、待って!マジで!ウチも冗談で言ってる訳じゃないんだよ!ライブを━━━━」

「良くしようって?それこそ冗談でしょ」

 

文化祭まで残り一週間を切った今、大幅な変更は間違いなく宜しくない。私がボーカルになればダンス隊の配置を調整し直す必要も出てくるし、割と見せ場であるソロダンスパートも穴埋めしなきゃいけなくなる。幸い皆それなりに動けるからやって出来ない修正でもないが、これまでの練習で作ってきたリズムを崩してまでやる事かと聞かれればノーだろう。本番でポカする可能性が大きくなるし、何より今より良くなるとも思えない。

言葉を遮るようにそう言えば、耳郎ちゃんは言葉を詰まらせた。ジトっと見つめてやった耳郎ちゃんの目が、そっと逸らされていく。

 

「別に、これが前向きな話なら考えたよ。私もさ。これが本当に一番良いっていうならね。でも、これは違うでしょ?」

「・・・・・・そうだね。ごめん、無理言って」

「良いって。ちょっとネガティブになっちゃっただけでしょ?練習は私も見てるけど問題ないない、大丈夫だって。ほら、元気出るようにチャーシューあげよう」

「あんたから物貰うとか、なんか怖いからいらない」

 

深い溜息をついた耳郎ちゃんはお冷やを口にした。

 

「はぁ・・・・いや、さ、客観的に見たら思ってたより酷くて。あっ、ウチの演奏がね。上鳴達は出来すぎなくらい。百も爆豪も良い音出してくれるし。だから、ボーカルやってる場合じゃないかなってさ」

「そう?耳郎ちゃん普通に上手いじゃん」

「上手くないよ、全然。歌に夢中になってるとストローク乱れるし、コードチェンジ途切れてる所結構あるしさ・・・あれ客観的に聞いたら恥ずかしくて」

「すとろー?コーデ、チェンジ?うん?まぁ、そうだね。うんうん。分かる・・・!」

「でしょ!凹むんだよ、あれ聞くとさぁ。だって練習不足なの一発でバレるじゃんか━━━━」

 

そして静かに、知識の暴力が始まった。いつかの悪夢の再来である。

分かるような分からないような、そんな専門的な音楽用語の交じった愚痴が耳郎ちゃんの口から延々と流された。どこへ?勿論私のお耳に、だよ。

途中までは意識を保ちつつ、理解しようと頭をフル回転させて努力してたんだけど━━━━それも5分を超えた辺りから限界を迎え、意識は朦朧としてきた。

しかし、夢の国には旅立たせて貰えない。目を瞑り寝ようとすると、耳郎ちゃんに「聞いてる!?」と揺すられて強制的に起こされるから全然眠れなかった。つおい。

 

それから愚痴を聞きながらご飯を食べる事暫く。

お昼休みも終わろうという時間に耳郎ちゃんの愚痴大会は閉幕した。全部話してすっきりしたのか、耳郎ちゃんはごちそうさまを口にしてから、呆けた顔でぼやーっと天井を見上げた。

残ったスープを飲みながらその様子を見てると、耳郎ちゃんがぼやくように語り出す。

 

「━━━━前にも話したかもだけど、ウチさ、両親とも音楽関係の仕事しててさ。だから、子供の頃から一番身近にある物は、玩具なんかより楽器とかでさ・・・・気がついたら好きになってた。音楽聞くのも、自分で演奏するのも」

 

「でも才能とかはなくてさ、今のレベルになるまでだって凄い時間掛かったんだ。最初はギターだったかな?コードの意味も分かんなくて、楽譜読めないし、指届かないし、弦弾くのだって下手くそで・・・・でも楽しかった。一つの事が出来ると、両親が凄い褒めてくれて、ウチ以上に喜んでくれて。ウチはそれが嬉しくて、練習した。沢山」

 

「だけど、趣味の域を出なかったんだ。好きだけど、それ以上には出来なかった。両親みたいに職業にしたいと思わなかった・・・・違うかな、思えなかった。音楽以上にさ、ヒーローに憧れたから。だから、今更音楽とか、人の上に立ってやる資格とかないって思ってて━━━━思ってたんだけど、なぁ・・・・はは。どっかの誰かがおだてるし、持ち上げるしで、気がついたら教える事になってて。分かんないよね、人生って」

 

乾いた笑い声を溢して、耳郎ちゃんは私を見た。

今度は真っ直ぐにこっちを見てくれる。

 

「・・・・ねぇ、緑谷。ウチさ、出来ると思う?」

「?出来ない奴には、普通頼まないでしょ」

 

そう伝えると耳郎ちゃんは目を丸くさせる。

それから困ったように眉を下げながらも、頬を染めて照れ臭そうに笑った。耳郎ちゃん可愛いーって茶々いれたら、馬鹿呼ばわりされる。ざ、理不尽。

 

「はぁーたく、あんたは焚き付けるの上手いよね、本当。その気になっちゃうじゃんか」

「?だから、焚き付けてはないでしょ。失礼な」

「ははっ、そういう事にしておく・・・・ありがと」

「良く分からないけど、どういたしまして」

 

話がまとまると遠巻きにしてたA組女子ーズが津波の如く戻ってきた。そして私達の話の結果を知って安堵の顔を見せる。聞けば他の面子はボーカルの件について、私が夢の国へ旅行してる間に相談されていたそうだ。無理してやる事ない組と、自信を持って頑張るべき組に分かれてバチバチしてたらしいのだが話はまとまらず・・・・この変更で一番大きな負担が掛かる私に判断を委ねる事にしたそうだ。怖い判断させてくれる。

 

 

そんなお昼休みも終わり、退屈な午後の授業も乗り越えれば文化祭の練習の時間がやってくる。いつもの訓練場を貸し切っての練習だ。もっとも私は包帯先生から説教されてから遅れて参加したが。

 

基本的に練習はいつも通りだったけど、何故だかその日はやけに耳郎ちゃんの声がよく響いてた。それまでも一生懸命ではあったけど、その日のそれは妙に熱がこもってて━━━━ついに男でも出来たのか?と上鳴の様子を見たけど、少なくとも上鳴ではないらしい。なんにせよやる気になったのは良い事だから、余計な事は言わないでおいたが。

 

あと、かっちゃんのドラムも矢鱈うるさかった。

何を張り切ってるん?あやつは。

なんやかんや、CDデビュー狙ってる?

 

「ん?」

 

お茶子達の振り付け練習を手伝いながらかっちゃんの無駄にレベルの高いドラムの音を聞いてると、不意にスマホがブルッと震えた。画面には非通知の表示。

皆と一旦別れ、施設の外で電話に出れば、聞き覚えのある声が耳に響いてきた。

 

『ごきげんよう。久しぶりだね、緑谷双虎くん』

 

男の声を聞いて、あの日テンパってた紳士マスクの姿が脳裏に浮かぶ。現在進行形の敵ではあるけど、いまいち緊迫感に欠ける。これなら真夜中にイタ電した時の、かっちゃんの怒鳴り声の方がまだ緊迫感あるというもの。

 

「こんばんはー。撮影会の場所決まったんですか・・・・あー・・・・んーー・・・・ジェン、ジェット?いや、ジェントルマン東さん」

『くくっ、ははは!依然として、私は君の眼中にないらしい。名前も覚えて貰えてないとは━━━だがそれでも、私という存在まで忘れないでいてくれたようだ。光栄だよ、緑谷双虎くん。いや、ニコ。僅かでも君の心の中に、この私を住まわせてくれて。さて、君も文化祭の準備で忙しいだろうし、何より私を良く思っていない事だろうから、詰まらないお喋りはこの辺りにしておこう。単刀直入に聞かせて欲しい、呼び掛けに応えてくれるかね?私の挑戦を受けてくれるかね?』

「嫌です、って言ったら?」

『その時はその時さ。私は君に無理に参加して欲しい訳じゃない。慎んで諦めるとも━━━━君の事はね』

 

迫力には欠けるけど、その声に籠められた本気の意思は伝わってきた。私が断ればこいつは躊躇う事なく、文化祭にちょっかい掛けて来るだろう。それがどれだけ困難でも。

 

それなら、私の答えも一つだ。

 

「良いよ、癪だけど乗ってあげる。日時と場所教えて、顔面原型留めないくらいボコりにいってあげるから」

 

伝えた言葉に僅かの沈黙が流れたけど、それも長くは続かなかった。直ぐに愉快そうな笑い声が響いてくる。本当に楽しそうな、その声が。

 

『はははっ!ご参加して頂き、心より感謝申し上げる。撮影会の日付は文化祭の前日、今より五日後の夜。君を信用してない訳ではないが、場所については当日改めて伝えるとしよう。準備をして待って頂きたい・・・・楽しみにしているよ、ニコ』

 

そう言い残して、通話は切れた。

遠くから聞こえるクラスの皆の声を聞きながら、私は少し考えてから次の準備の為に歩き出した。

 

 

「本当、覚悟しとけよ。紳士マスクぅ・・・・!」

 

 

けちょんけちょんにしてやるけんのぅ!!



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よく女の敵に「こういう男」的な事を言うやつがいるけど、女の本当の敵も女だから。よく覚えておくように。の巻き

アニメの方がついに、あのエンデヴァー回来てもうた。はぁぁぁぁぁぁ、たまらん!!
ていうか、原作マジでどうなるの。先が全然見えないよホリー先生。


「━━━━もしかして、雄英の緑谷さんじゃない?」

 

不意に掛けられた声に、私はスマホから顔を上げて運転席を見た。するとミラー越しにこちらを覗くタクシーの運転手と目が合う。物珍しそうに覗く視線に、軽く会釈すれば同じように頭を下げ返された。

 

「体育祭見たよ。凄かったね。これでも若い頃ヒーロー目指してた事もあってさ。私は才能なかったから全然駄目だったけど、割と本気でやっててね。だからなんて言うのかな、個性の使い方というか・・・・戦闘センスっていうの?そういうのは凄さとか分かるんだよ。轟くんとの戦闘なんて痺れちゃったよ。あれは凄かった、うん。可愛くて、強くて・・・きっと人気のヒーローになると思うなぁ」

「いやぁ、それほどでも━━━━ありますけどね!クラスでも未来性ナンバーワンと言われたり言われなかったりするくらいなので!あっ、企業秘密なんですけど、引き寄せる個性って簡単そうに見えるじゃないですか!なんか、こう簡単に対象選択して、問答無用に引っ張るみたいな!実は全然そんな事ないんですよ!あれ、実際ムズいんですぅ!超スーパーデラックスシビアなんですよぉ!正確に位置を測ってないと、引き寄せる出力なんて全然でなくて!物の重さも頭に入れてないと、自分が飛ぶことになっちゃって!でもっ!!でもですね!そこは天才な私ですから!息を吐くように出来ちゃうんですけどね!そう、アルティメット可愛くて、めがっさ強くて、百年に一人の天才なんですぅ!私ぃ!サイン要ります?」

「えっ、あ、あぁ、サイン貰えるの?ありがとう、それじゃぁ、そうだな・・・・この手袋とかでも良いかな?」

 

そう言って渡された予備っぽい手袋にササッとヒーロー名のサインを入れてあげる。えっ、サインペン?いつも持ってるけど?私程のスターになると、呼ばなくても人が寄ってきてしまう。故に身嗜みの一つとして常備してるのである。

 

「サインありがとう、息子に自慢出来るよ━━━━それにしても、こんな時間に、こんな所に来て大丈夫かい?この先何もないんだけど」

 

運転手の人はハンドルを握った左手に視線を落とした。見ているのはワイシャツの裾から覗く腕時計。

スマホの時計でさっき確認したけど、時間は既に夜の十時を過ぎた所。未成年の女の子が出歩くには些か遅い時間。車はさっきからどんどん人気のない場所に向かってる。心配されるのは当然だ。

どうやらこの人は違うらしい。それなら答えは決まった。

 

「すみません、ちょっと守秘義務的な感じなので」

「あっ、いや、ごめんね。詮索しようって言うんじゃないよ。ただ、ちょっと心配でね。女の子二人で出掛けるような場所でもないし、時間もあれだからさ・・・・そうか、守秘義務か。こんな時間に出掛けるなんてよっぽどの事なんだろうね。頑張って、応援してるよ」

「あざーす」

 

運転手の人が都合良く勘違いしてくれたみたいなので、そのまま放っておいて窓の外から風景を眺めた。ガラスにうっすらと車内が映る。

車の揺れに合わせてツインテールを揺らす、隣に座る小さな女の子の姿も。

 

深く被った帽子とマスクで表情は見えない。

けれど、コートの上からでも肩に力が入ってるのは分かる。緊張している。慣れた様子はない。きっと、この子も初めての事なんだろう。

ぼんやりその姿を眺めていると、深く被った帽子の下から覗く女の子の瞳と目が合う。窓ガラス越しにも、瞳に浮かぶ緊張と警戒の色は分かる。

 

「━━━━ゲームはもう良いのかしら?」

 

取り繕った声に、私は笑顔を返しておいた。

 

「今日分は回ったからねぇ。今回のイベさぁ、クリア報酬のキャラ好きじゃないから、あんまりやる気しなくて。いや、結構強くなるみたいなんだけど・・・・でも、編成はもう大体決まってるし、私は別に人と対戦とかしないからそこまで強くなってもなぁって。ツインテちゃんはアプリとかしないの?」

「・・・・やってた事もあったわね。もう興味もないけれど。私には・・・・なんでもないわ。それより降りる準備をして、もう直ぐ着くわ」

 

僅かに顔を曇らせたツインテちゃんは手を差し出してきた。大人しくスマホを渡すと、受け取ったそれを側に置いてあった箱へと仕舞い込む。GPSはとっくに切ってるのに用意周到だ。

ミラーから覗いてた運転手が少し不思議そうにしてたけど、私がウィンクすれば納得した様子で前方へと視線を向けた。

 

「降りる前に言っておくわ。私が見逃すのは一度までよ。失望させないで頂戴」

 

ギラリとサングラスの下で怪しく輝く瞳に、私は頷いて返した。

 

「あいあいさー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文化祭がいよいよ前日に迫ったその日。

あれこれ理由を付けて外出許可を得た私は、紳士マスクからの連絡を待って、駅前の漫画喫茶で一人漫画を読み耽っていた。

読んでいるのは後ろに立った人は問答無用で殴るヒットマンの漫画と、たまに警察署を爆破させるとある公園前勤務の警官の漫画。どっちもアホみたいに巻数があるので丁度良かった。幾らでも時間潰せる。

 

かっちゃん並みにボンバーしてる警官の描写におしとやかに笑ってると、スマホがブルブルっときた。スマホの画面を見れば『非通知』の文字。面倒臭がりながら出れば『こんばんは、私だ』とガチムチかな?みたいな言葉が聞こえてくる。

 

「すみません。私という知り合いはいません。お掛けになった電話番号を確認して、もう一度掛けなおして貰えると幸いです。ではっ━━━」

『あっ、待ってくれ!ニコ!私だ、ジェントルクリミナルだ!すまない、非通知になってるのを忘れていた。え、えーっと、そうだ!今何処にいるかね?迎えを寄越したのだが・・・・』

「というか、一つ良いですか?」

『ん?』

 

当たり前のように迎えとか言ってるけど、そんな話これが最初なんですけど?

そもそも待ち合わせ場所も聞いてないんですけど?

私がここにいるの、私が気を利かせて何処にでもいけるように準備してたからなんですけど?

 

こいつから電話を貰ってから、私は待っていた。

撮影会とやらの場所は言わないまでも、待ち合わせ場所とか時間とかとかとか・・・・何かしら追加で連絡が来るだろうと。なのに、こいつ、マジで、何も言ってこなかった。このご時世だ、雄英のセキュリティレベルが普段より上がってる事は、こいつだって分かってる筈。私も外出許可を取ったように、雄英生徒だって気軽に敷地から出られなくなってる。

なのに、こいつ、本当に、マジで、何も言ってこなかった。何時までには学校から出てとか、最低それぐらいしても良くね!?いきなりは出られないからね!?

 

━━━━との事を淡々と伝えると、紳士マスクは申し訳なさそうに謝ってきた。

 

『こっ、こちらの、リサーチ不足だ。すまない、ニコ。こっちもこっちで、何かと準備する事もあり、どうしても手が回らなくて・・・・本当に申し訳ない。それと色々と手を打って貰って感謝する』

「感謝しなくても良いんで、もう止めません?文化祭終わったら幾らでも相手しますから。喧嘩くらい、普通に買いますよ」

『いや!そういう訳にはいかない!こちらも譲れぬものがあるのだ!!相応しい場所を用意した!期待して待っていてくれたまえ!では━━━』

「はいはい、待って待って。迎えは何処に来てるんですか?それとも私の場所分ってます?」

『━━━━あ、そうだった!私としたことがっ!え、と、君の場所は・・・・・あっ、問題ない。私のパートナーが既に把握済みのようだ』

 

大丈夫だろうか、この人。

話すのはこれ三度目だけど、紳士マスクはそう悪いやつでもない気する。何であんな動画あげてるのかは意味分からないけど、根っこから"犯罪者ァ!"みたいな黒マスクや若頭とは違う人種だろう。根っこは腐ってなさそう。これで頑固でさえなければ、説得してるんだけど・・・・やっぱり難しいかなぁ。

 

「分かりました。じゃぁ、この巻読み終わったら店出ますんで、迎えに来てる人にそう伝えて貰えます?」

『えっ、巻?君はそこで何を・・・・?』

「何をって、ここ漫画喫茶ですよ?漫画読むでしょう。普通に。もう少しで終わるので、この巻だけ読ませて下さいありがとうございます」

『いや、礼を言われる程の事では。構わないとも。そうか、漫画喫茶か。そうだな、漫画喫茶なら漫画を読んでいても可笑しくはな・・・・・いや、それは困る!こちらも、時間があまり・・・・あ゛あ゛っ、ごほん!わ、忘れてくれ』

 

どんどんボロが出るな、この人。

多分近くにブレインの人がいないんだろうなぁ。

持ち直そうとした所と、さっき私の場所を確認した事を考えれば、連絡とかはとってそうだけど。

 

『兎に角、外に出て、迎えの者と合流を。忘れてはいないだろうが不穏な動きは━━━━』

「はいはい、分かってますよー。そっちこそ、私が従ってあげてるんですから、変な事しないでくださいね?」

『━━━ッッ!?あ、ああ、勿論だ。で、では、会場にて君を待っている!』

 

ぷっつりと通話の切れたスマホを見ながら、私は面白い人だなこの人・・・・と、思った。打てば響くとはいうけど、こんなに何でもかんでも反応する人はそうはいない。リアクションも込みで。このリアクションっぷり、芸人に成れるよ。

漫画の話をした時のノリツッコミもそうだったけど、少し声色低くしただけで、こんなに良い反応してくれるなんて・・・・はぁ、からかい甲斐あるなぁ。なんで犯罪者してるん?向いてないよ、絶対に。私達バカスリーWithお茶子と漫才やろうぜ。勿体ない。

 

なんか少し心をしんみりさせて店を出ると、店の出口を出て直ぐの所にベージュのコートを羽織り、帽子と色の濃いサングラス、そしてマスクで顔の大半を隠してる女の子がいた。

帽子の下から飛び出したツインテールが、風に揺られてピョンピョンしてる。ツインテちゃんだ。

 

一件すると可愛らしいお客さんに見えない事もないけど、女の子から漂う雰囲気はどうにも剣呑とし過ぎていた。

 

「初めまして、緑谷双虎さん。お迎えにきたわ」

「あ、やっぱり?どうも、こんばんは」

「挨拶は良いわ。それより、確かめさせて貰うわ。貴女が約束を守れているのかどうか」

 

それだけ言うと、ツインテちゃんは何かの機械を取り出して身体に近づけてくる。嫌な予感バリバリなので下がろうとしたら、「抵抗しないで」と威圧的な声で制止を求められた。

 

「あくまで確認するだけ。それ以上の事はしないし、するつもりもない。彼が望んでいないもの。それと私に何かあれば、彼が実行するようになってるから覚えておいて」

「何するつもりか聞いて良い?」

「答える義務が私にある?でも、そうね。答えてあげる。貴女が素直になってくれるなら、それが一番楽だもの━━━━━━文化祭を潰すわ」

 

女の子はそう言うながら私の顔を見てきた。

平静は保ってるつもりだけど、女の子は何かを確信したようにほの暗い喜色が瞳に浮かぶ。

 

「━━━━ふふ、やっぱり、そうなのね。良かった、無駄にならなかった。それなら聞いて、緑谷双虎さん・・・・今回、雄英はかなり無理をしてるでしょう?マスコミも騒いでいるし、何より警察から圧力が掛けられてる。世間からもあまり良く思われてない・・・・だから雄英は今問題を何一つと起こせない。誰が何が原因だろうと、それこそ警報一つ鳴らせない程に」

「ふぅん、良く調べたねぇー。私はそこら辺の事情とか興味ないからさっぱりだけど、そうなのかもねぇ。てか、どんだけ雄英の事好きなの?ファン?今からでも文化祭の招待状あげよっか?」

「嘘つきね。貴女が興味ないわけないわ。だって小さなお友達が来るのでしょう?違うかしら?」

 

探るような声に舌を出しておく。

ツインテちゃんはそれに対して冷たい視線を向けたけど特に言葉を返さず、黙々と機械を身体のあちこちに近づけ続けた。そして小さな電子音が鳴った。ちょうど盗聴機を入れていたズボンのポケット部分で。

ツインテちゃんは私のポケットに手を突っ込んで、マイクのついたそれを引っ張り出した。

 

「━━━━そうだろうとは思っていたわ。だって貴女、見た目よりずっと頭が回りそうだもの。相手は誰かしら?」

「私のパンクでボンバーな幼馴染。爆豪勝己っていったら分かる?体育祭で事あるごとに爆発してた。何かあったら駆け付ける手筈になってる」

 

これは嘘じゃない。

かっちゃん"も"聞いてる。

ていうか、この子、今見た目がなんちゃらって言わなかった?あれ、気のせい?

 

「そう・・・・最低限、人は選んだみたいね。破棄させて貰うわ━━━と、その前に、マイクの先で聞いてる"人達"に警告するわね。こちらが何も知らないと思ったら大間違いよ。手は既に打ってあるわ。迂闊な事しないで頂戴ね」

 

そう啖呵を切って盗聴機を踏み潰す姿は、電話越しでオロオロする紳士マスクより数段格好いい。ボロボロ喋ってくれる紳士マスクと違って中々にやってくれる。こっちはあくまで一人しか名前をあげてないのに、人達とこの子は言った。手を打っている、という不意討ちの言葉はさぞ効いただろう。これがなんの根拠もないただのブラフでも、あれだけはっきり言われれば動揺する。あっちの面子を考えれば大丈夫だとは思うけど、面子次第では動きが止まる可能性もある。本当にやってくれる。

この子が紳士マスクのブレインかどうかは分からないけど、紳士マスクの近くであれこれフォローしてるのは間違いなさそう。

 

「まだ何か持ってるなら、自分で出して貰えるかしら?勿論出さなくても結構よ。ただ、そうしなかった場合の結果だけは考えてね」

「はいはい、これで良い?」

 

スマホに付けてた発信器入りのストラップを外して差し出せば、ツインテちゃんはそれを軽く調べた後面白くなさそうに投げ捨てた。

 

 

 

 

「さぁ、乗り込んで頂戴。案内するわ、彼の元に━━━━」

 

 

 

 

そうして促されるまま用意されたタクシー乗り込み移動を開始。何度かタクシーを替えて移動した後、私は漸くその場所へと辿り着いた。人里から離れた所にある、その古ぼけた遊園地へ。

営業してる様子はない。それは今の時間という訳じゃなくて、もう何年もといった感じ。

 

案内されるまま錆びた門を潜ると、一斉にライトアップされた。音割れしまくりなスピーカーから耳障りな曲が聞こえ、配線が駄目なのか機械が駄目なのかあちこちで火花が散ってる。遊具によっては稼働してるものもあれば、ぎこちない動きで悲鳴をあげてるのも。

周囲の様子を見渡していると、突然スピーカーからドラムロールが流れてきた。それに合わせて稼働式のライトが動いて観覧車を照らす。

 

『リスナー諸君!!これより始まる怪傑浪漫!!目眩からず見届けよ!』

 

スピーカー響く声を聞きながら、ライトアップされた場所に目を凝らしてみる。いつかの紳士マスクの姿があった。今日も姿を隠す為なのか厚着してる。

 

『私はっ!!そうっ!!私はっ、私こそは救世たる義賊の紳士!ジェッッントルゥゥゥゥ、クリミナルゥ!!!』

 

威勢の自己紹介と同時に、紳士マスクは身に付けていた帽子とマスク、コートを脱ぎ捨てた。帽子の下にはオールバックに整えられた白い髪があり、マスクの下には立派な白髭が蓄えられていて、コートの下には襟が矢鱈と強調された燕尾服的なイカれたコーディネートが施され━━━━━パンダみたいなメイクがされてる目は、眩しそうに細められていた。

アホかな。これだけライトアップされてたら、そうなるよね。帽子脱ぐ前に気づいて。

 

『っお、うぉ、眩しっ━━━こ、今宵は多少趣向を変えた物をお見せしよう!そう、私の新たなる挑戦!!その為に今日、ゲストがいらっしゃっている!!』

 

そんな声と同時に、私にもライトアップが襲ってくる。

うおっ、眩しっ!!

 

『そう、今をときめく雄英生!!ヒーロー科の緑谷双虎くんだ!!体育祭で活躍し、あのステインを倒した、あの彼女だ!!日々躍進を続ける彼女は!!今宵、私を止めにきてくれた!!そう、私の次の企画を阻止する為にきてくれたのだ!!このジェントル・クリミナルの敵として!!』

 

手で光を遮りながら、紳士マスクの位置を確認。

さっきの場所から移動はしてないっぽい。

私は側に落ちてた小石をフルスロットルで引っこ抜いた。勿論狙う先は一つ。

 

『故に私は戦うのだ!!私は私の正義の為に!!彼女は彼女の為に!!リスナー刮目せよ、私は今宵━━━━━ッッッ!?』

 

放ったそれは紳士マスクの前で何かに弾かれた。

個性の事は調べた。恐らくそれを使ったんだろう。

紳士マスクの個性である"弾性"は、触れた物に一定の時間弾性を持たせる事が出来る。生物でなければ、対象は空気も何でもありの厄介な物。

一撃で終わればラッキーだったんだけど、流石にそこまで間抜けでもないかぁ。

 

『━━━━━ハハハハハハッッ!!嬉しい限りだ!!お待ちかねなのはっ、お互い様だったようだッッ!!歓迎しよう、ニコ!!私を止めてみたまえ!!君の全力を以て!!!』

 

その言葉と共に紳士マスクは跳んだ。

私に向かって。



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割とノリノリで書き上げた『紳士淑女の楽しい撮影会』の閑話の巻き

はぁーーー最初のプロットと大分違うなぁ!!なんでこうなったんやろ!なんでやろなぁ(*´ω`*)


「━━━━━始まったか」

 

イヤホンをした彼の落ち着き払った声が、車内の中に静かに響く。続いて彼の指先が手元のノートパソコンのキーボードを軽快に叩き、モニタに映った物を見て口を開いた。

 

「目標、アルファ、ベータに他の協力の影はない。繰り返す、目標、アルファ、ベータに他の協力の影はない。警察による人払いが済み次第、プランAを開始する。現場のマップデータを確認後、配置について準備を始めてくれ。━━━尚、先に説明した通り作戦開始後、現場一帯に10分間妨害電波を流す。各チーム連絡があればそれまでに済ませて欲しい、以上だ」

 

その言葉に車に備え付けられていたスピーカーから了解の言葉が返ってくる。それは今日の呼び掛けに応えて集まってくれたヒーロー達の声だ。彼らはヴィラン活性化の現在ただでさえ忙しいというのに、大した益もなく、雄英高校の文化祭を守るというたった一点の為に、私達に協力を申し出てくれた。

 

塚内くんを始めとした警察関係者の対応にも頭が下がる思いだ。密かに動いてくれた彼らからの情報提供がなければ、こんなにも早く犯行現場を特定する事は出来なかっただろう。ヒーロー達を密かに集め移動させる事も、周辺一帯の人払いを行う事も━━━彼らの協力なくしてはあり得ない。

 

隣にいる彼もまた、それは同じ。

まだ傷も完全に癒えていないにも関わらず、彼は二つ返事で頷いてくれた。彼の情報分析能力とプランニングがなければ、ここまで迅速に対応は出来なかった。元相棒であり、友人であるナイトアイの協力なしには。

彼には本当に感謝しかない。

 

「ありがとう、ナイトアイ」

「?いきなりどうしたんだ、オールマイト。まだ感謝される事はしていないつもりなのだが?まだ、これからだ、油断は欠片も出来ない。まずはあの厄介なブレインから確実に捕まえねば、あれは何を起こすか分からないからな」

「HAHAHA、そうだね。済まない・・・だけど、嬉しくてね。協力してくれた事もそうだけど、またこうして一緒に仕事出来るとは思わなかったから」

 

彼女という切欠がなかったら、きっとこの先も話すことは無かったかも知れない。何かと言い訳をして、会う事を駄々を捏ねる子供のように拒み続けただろう。もしかしたらそのまま、彼の何を知る事もなく後悔を抱えたまま別れる事だってあっただろう。縁起でもない話ではあるが、ヒーローという職業柄、それは珍しくない別れだ。

 

私の言葉にナイトアイは義足に触れた。

何かを確かめるように。

 

「私も、そう思っていました。もう貴方と私の道は交わらないのだと━━━━けれど、それは違った。違うのだと、彼女達が教えてくれた。運命など、ない。個性などではなく、私が私の意思で選ぶべきだったのだと。そうして漸く、私は望むべき道を歩く為の"足"を得られました」

 

モニタを真剣な顔で眺めながらも、ナイトアイは僅かに口元を綻ばせた。その横顔に悲痛さはない。あるのは前を向いて歩く、強い意思だけだ。

そんなナイトアイの様子を眺めていると「そう言えば」となにかを思い出したように彼は続けた。

 

「彼らを集める時ですが、貴方の名前は使うまでもありませんでしたよ」

「えっ、ど、どうしてなんだい!?言っただろう、頼んだのは私だ!今回は全て私の責任で行うと!名前くらい好きに使ってくれて良いと!また君は変に気を━━━━」

「いえ、そういう事ではないんです。今夜、要請に応えてくれた大半が、彼女の名前に集まったんですよ。私が最初に伝えたのは緑谷双虎が、雄英のあの問題児が、厄介事に巻き込まれて困ってるという事だけでした。そうしたら呆れた声で溜息を吐く者がいれば、馬鹿だアホだと笑い声をあげる者や、声を荒らげて苦言を呈す者もいました・・・・それでも最後は一言"力になると"。貴方が今回の件での"彼女の保護者"だといえば、尚更と」

「━━━━━それは、はははっ、まったく」

 

思い返せば・・・いや、思い返さなくてもそうだ。

今夜集まった彼らは一度は彼女と面識を持つものばかり。ナイトアイの事務所の面々を始め、現在休止中のプッシーキャッツも、エンデヴァー事務所のサイドキック達も、他のヒーロー達も。

 

「彼らの行動をヒーローらしい、と言えばそうなんでしょう。しかしこの世知辛い時代、得にもならない事へ、こうも簡単に人は首を縦に振らない。声を掛ける者は勿論選びました。ですが、それでも私のように救われた人間ならまだしも、集まった中に迷惑しか掛けられなかった筈の者もいたというのは・・・・何ともおかしな話だと思いませんか。けれど、まぁ、今の私には、何故だか理解も出来てしまうんですが」

「ああ、私もだ。彼女は危なっかしいからね」

「ええ、危なっかしくて見ていられない」

 

悪態をつきながら、言い訳を口にしながら、傷だらけになりながら、それでも真っ直ぐ全力で誰かの元に駆けつけていく。そんな彼女の背中は、いつ見ても危なっかしくて見ていられない物だ━━━━だから、放って置けないのだろう。

 

私も、隣の彼も。

呼び掛けに応えてくれた皆も。

そして後部座席で貧乏揺すりしながら、ずっとイライラを隠さない彼も。

 

「オールマイト、大人の仕事を見せてやりましょう」

「ああ、勿論だとも。そういう事だから、もう少しだけ我慢してて欲しいんだけど・・・・大丈夫、爆豪少年?」

 

「ああ!?何心配してんだ!?こうして待ってやってんだろうが!!見えねぇのか、ああ!?さっさと、やることやれや糞が!!」

 

大丈夫じゃないな、これは。

流石にいの一番に反対して、最後のギリギリまで反対してた彼は違う。少しでも目を離したらすっ飛んでいきそうだ。

 

心配性の彼が飛び出さない事を祈りながら、私は作戦開始の時間を待って時計を見つめた。

秒針は刻一刻と刻まれていく。

その時に向かって。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『夢は、ヒーローになって教科書に載るくらいの偉大な男になる事です』

 

 

 

まだ若さと情熱だけが私を動かしていた時代。ジェルトル・クリミナルではなく、ただの飛田弾柔郎だった頃。

それが私の細やかな夢だった。

教師に怪訝な目で見られても、クラスメートに笑われても、両親に嘆かれても・・・私は私の未来を誰よりも信じ、夢の為に努力を続けていた。

 

苦手な勉学も進んでやった。

留年してしまうほど結果はついてこなかったが、それでも全力で必死になってやった。分からないなりに学び続けた。

身体も個性も独学で鍛え続けた。

効率が悪かったのかあまり身にはならなかったが、それでも一度も諦めず努力した。僅かにであったが、手応えだってあった。

 

成れる。私は、私の目指すヒーローに。

誰もが知るような、そんな偉大な男に。

成れるのだ。

 

この長い努力の果て。

道のりの先に。

きっと━━━━━

 

 

『落下した男性は全治6ヶ月の大怪我。結果として君はヒーローの救助を妨害した。これは公務執行妨害にあたり━━━━━━━』

 

 

━━━━そう、思っていたのに。

突然、私の目の前にあったその道は、私の信じていた夢は消え去ってしまった。何かの冗談のように。

 

事故の現場に偶然居合わせた。

落ちる人を見て、私の個性なら助けられると思った。

だが、私が介入した結果得られたのは称賛でも感謝でもなく、ただ一つの犯歴だけだった。

 

当時通っていた学校は退学。

私の罪を知って私の家は周囲から孤立した。

周囲からの嫌がらせに両親は私に憎悪を向け、ついには追い出された。居場所すら、私は失った。

 

どうして。

 

一人アパートで暮らすようになって何度もそう思った。

私はただ助けようとしただけなのに。ヒーローになりたかっただけなのに。理由など分かっている。私がミスを犯したからだ。救えていれば、何も失わなかった。ならば、黙って見ている事が正しかったのか。思えない。あれが最善だと思った。私にはヒーローの姿が見えなかった。見えなかったんだ。だから助けにいったんだ。間違いなんかじゃなかった。けれど━━━━━。

最低限生きるためのお金を稼ぎにいく時間以外、分かりきった自問自答を何度も繰り返した。毎日毎日、そのことばかりで頭がおかしくなりそうだった。

 

そんな日々の中、彼と会った。

高校時代にクラスメートで、ヒーローになったと聞いていた竹下くんに。サイドキックとしてヒーロー業界に入った彼は既に独立していて、立派なヒーローとなっていた。知り合いの出世した姿に嬉しくて声を掛けた。あの頃の、夢に燃えてた自分を思い出しながら、同じヒーローを目指した者として。

 

『あ━━━━━━・・・・えーっと、誰でしたっけ』

 

クラスメートであった期間はたった一年だけ。

関わりも少なかったから覚えていないは仕方ない。彼とは友人ではなかった。だから仕方ない。仕方ない筈なのに、彼の声が酷く頭の中に響いた。それはいつまでも反響して、鳴り止まなかった。

彼の背中が遠ざかっても、彼のファンが姿を消しても。

ずっと、ずっと、ずっと。

 

 

 

『夢は、ヒーローになって教科書に載るくらいの偉大な男になる事です』

 

 

 

脳裏に過った思い出に、吐き気がした。

言い知れない何かが胸の奥から滲み、何処からか沸き上がってくる恐ろしい何かに身体が震えた。

目の前が黒く淀み、何も見えなくなった。

 

 

 

『夢は、ヒーローになって教科書に載るくらいの偉大な男になる事です』

 

 

 

止めろ。

 

 

 

 

『夢は、ヒーローになって教科書に載るくらいの偉大な男になる事です』

 

 

 

 

止めてくれ。

 

 

 

 

『夢は、ヒーローになって教科書に載るくらいの偉大な男になる事です』

 

 

 

 

止めてくれ!

 

今更、私に何があると言うんだ。

何もかも失った、失ってしまったんだ。

生きる事すらギリギリで、個性なんてもうずっと使ってなくて、身体だってもう鍛えてなくて、それに世間は私を犯罪者としか見ない。それがヒーロー?誰が認める。家族も、誰も彼も。私を犯罪者としか見ないのに。私は、ただの犯罪者なのだ。

 

夢など、もう━━━━━なのに。

 

 

 

 

『夢は、※※※になって教科書に載るくらいの偉大な男になる事です』

 

 

 

 

━━━━犯罪者。

 

その言葉が再び頭の中に響いた時、私は天啓を得た気がした。気がついたら走っていた。いけないと思いながらも、心はそこへと流れていった。もう止められなかった。

 

貧しさに喘ぐ己の未来の姿を脳内から蹴飛ばし。

老いと孤独に涙を流す未来の姿を脳内から殴り飛ばし。

私は一心不乱に部屋を漁った。

 

まだ、やれる事がある。

まだ、私にはしか出来ない事が。

まだっ。

 

そして私は見つけのだ。

私の偉大なる夢を。

ヴィランという、選択肢を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━ッヅア!?」

 

衝撃に目の前に光が舞った。

地面へと打ち付けた肩からは激痛が走り、腹部や太腿からも鈍い痛みが走ってくる。何が起きたの言うまでもない。彼女に撃ち落とされたのだ。

 

ある程度まで近づけた所で、何かが撃ち込まれた。

恐らくは側に転がる小石。全部で何発かまでは分からないが、撃ち込まれたのはそれだ。

咄嗟に防いだ。個性を使い、目の前に空気の膜を作った。なのに、当たった。どうして?分かってる。引き寄せる個性だ。しかし問題は別、これが飛んできた位置こそ問題だ。そうそれは死角からだった。私が空気の膜を張り巡らせている筈の、死角の位置から。

驚くべきことに、彼女は空気の膜の隙間を縫って狙撃したのだ。

 

戦闘が始まって、たった三分。未だニコの髪の毛一本触れられていない。なのに、もう把握された。

恐らく広場一帯だけだろうが、それでも事前に用意してた空気膜の位置も、その大きさもニコは知っている筈だ。動きを見ていれば分かる━━━━いや、それだけじゃないだろう。弾性の張力も、下手をすれば強度でさえ掴まれたかも知れない。だとすれば、ニコがそれを利用してくる可能性すらある。

 

「もう、終わりで良い?あんまりやり過ぎると過剰防衛とかになりそうだし」

 

痛みに堪えながら顔をあげれば、少し離れた所からこちらを眺める彼女が見えた。その顔にはまだ余裕が浮かんでいる。それどころか、ラブラバの位置を探ろうとしている仕草すら見てとれる。

 

はっきりと分かってしまった。

個性云々など問題ではない。相性が悪い訳でもない。

ただ、ただ格が違うのだと。

 

 

「はっ、ははははっ、ははははははは!!」

 

 

成る程、これが本物なのか。

何とも頼もしく、何とも恐ろしく。

何とも立派な姿なのか。

 

 

 

羨ましい。

 

 

 

心の底からそう思う、なんと羨ましい姿だと。

才気に溢れる若者の、自信に満ち溢れたその姿は私の夢そのものだった。数え切れないほどの称賛を受け、数え切れないほどの人達から未来を期待され、当然のようにヒーローへとなって、そしてまた当然のように偉業を成していく。

 

何が違ったのだろうか。

記録には残っていないが、君だって中学時代ヴィランと戦ったのだろう。ヒーロー達の手をはね除け、同級生を助ける為に。個性だって使った筈だ。

 

それなら裁かれるべきではないのか。

私と同じように。

何が違う。

 

いや、本当は分かってる。

彼女は私と違い救ったのだ。

違いはたったそれだけ。

 

緑谷双虎、私は君が羨ましい。憎たらしい程に。

私が得られたかも知れない全てを、当たり前のような手にしている君が。

 

 

 

「冗談を言ってはいけない、ニコ!私はまだ━━━━」

 

 

 

全身に力を込めた。

痛みは走り足は震えるが、まだ立ち上がれる。拳に力を込めればどちらもまだ使える。呼吸も落ち着いてきた。戦うには十分過ぎるほど、余力が残っている。

こんな日が来るのを私はずっと望んでいたのだ。そうでなくては困る。

 

 

「━━━━━━この通り、ピンピンしている!!」

 

 

六年、動画サイトで燻り続けた。

聞けば誰もが知っている、そんな世紀の大犯罪者になる事を信じて。動画をアップしながら身体も個性も鍛え直した。全盛期は今だと心より思える程に。

 

 

何の為に?

 

 

「この時の為にさっ、ニコ!!私はまだ立っている!!私の夢は、まだ終わらない!!掛かって━━━━━ッッッヅヅヅヅヅ!?」

 

 

言い終わる前に身体がニコの方へ引き寄せられた。

個性で空気の膜を作ったが、私がそれにぶつかる事はなかった。ぶつかる直前、突然軌道が変わり地面に叩きつけられたからだ。対応しきれず、打ち付けた胸に痛みが走る。息が一瞬止まる。

 

直ぐ様身体が宙へと飛んだ。

私の個性じゃない。

胸辺りから伝わる吊り上げるような感触はニコの物だ。

 

上昇を止める為に個性を使おうとしたが、肝心の手が前方に向かない。ニコの個性で後ろへと引っ張られ固定されているのだ。力が強い。力を込めたがビクともしない。

 

何とか首だけ振り向きニコを確認すれば、頬を膨らまして炎を吐く準備をしていた。その筆舌に尽くしがたい威力は体育祭な映像から知っている。人に向けるのだ。調整はしてくるだろうが、それでも継続戦闘能力を奪う程度の威力はある筈だ。

 

不味い、そう思った瞬間。

声が聞こえた。

 

 

「ジェントル!!」

 

 

そんなラブラバの悲痛な声が。

どんな顔をしているのかなんて見なくても分かる。

六年もの間、一緒に過ごしてきた。共に笑い、共に泣き、共に喜び合ってきたのだ。分からない筈もない。

 

「━━━━まったく。事がなったら、安全な場所へ行く手筈だったのに」

 

彼女の力を借りるつもりはなかった。

それでは意味がないからだ。私だけの力で勝たねば、私は私の過去を振り払えない。私のかつての夢といえるニコを、今の私が屠る事に意味がある。私は間違っていないのだと証明する為にも。

幼き日の憧憬など、もう必要ない。今の私はジェントル・クリミナル。ヴィラン。いずれ、偉大なる男として語り継がれるべき━━━━

 

 

「駄目っ!いや、ジェントル!!負けないで!!勝って!!」

 

 

━━━━そうだった。

 

声の方を見れば、涙で頬を濡らす彼女がいた。

一心に私の身を案じて、勝利を望んでくれる彼女が。

そうしてやっと思い出した。どうして僅かな間でも、忘れていられたのか。

もう、この夢が、私一人の夢ではない事を。

 

 

 

 

「ラブラバ!!君の夢を、今一度!!私にっ!!預けて欲しい!!」

 

 

 

 

勝つ。

ただ、君に。

恥も外聞もない。

私にも負けられない理由がある。

誰が望んでいなくても、どれだけ下らなくても、笑われても馬鹿にされても、彼女が私の勝利を望んでいるのだから。

私の夢を笑わないでいてくれた、応援してくれた彼女が。

 

 

 

 

 

 

「ジェントル!!勿論よ!愛してる!!ずっと!!これからも、貴方が私の夢なんだから!!」

 

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

 

 

その発言と発動したラブラバの個性『愛』。

他人に依存するこの個性は、ラブラバが定めた対象者の身体能力を一時的に強化させる。個性の効果は、対象者へのラブラバの愛の深さによって決まる━━━━━つまりは、今が最大にして最強という事だ。

体の奥底から沸き上がる力で、拘束を無理矢理振りほどいた。驚くような表情を浮かべたニコは直ぐ様炎を放ってきたが、溜めが足らなかったのか予想より規模が小さい。手刀で切り払えば簡単に霧散して消えていく。

 

目を見開くニコを視界に捉えながら、ラブラバを回収し個性を使って一気に距離を取る。

彼女の個性の射程外へと。

 

「ごめんなさい、ジェントル!私っ━━━」

「いや寧ろ感謝しているさ。ありがとう、ラブラバ。少し、頭が冷えた。さぁ、後は私に任せ観戦していてくれ。君にジェントル・クリミナルの本気をお見せするよ」

「うん!!」

 

ラブラバが離れていくのを横目に、息を吐きながら周囲を改めて確認する。道具は揃っている。後は組み立てるだけ。冷静に。知識は既に頭の中にある。

 

不意に、私の顔を見てニコが笑った。

 

「少しは良い顔するじゃん。最初からそうすれば良いのに・・・・来なよ、まだ遊び足りないでしょ。約束してた通り、顔面にグーパン入れたげる」

「ははっ、そう言えば言っていたね。・・・・ああ、試してみたまえ!!君の拳が届くのかどうか!!!」

 

私達は負けない。

 

「刮目せよ!!ここからが、ジェントル・クリミナルの!!本気の本気!!ニ百パーセントだ!!」

 

私達の夢を、まだ終わらせなどしない。



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男なら真正面からこいよぉ!正々堂々!!そうだ、武器も捨てて拳でこい!……えっ、目の前の地面が変な色してるぅ?大丈夫、落とし穴とかないよ!ムカデとか蛇とか入れてないよ!マジで!の巻き

はぁー紅茶足りてないなぁー(・´д`・)



耳障りな甲高い音が鳴らしながら、鋼鉄の柵が紳士マスクの豪腕でゴムの如く激しくたゆむ。

弾性を与えられた柵には何十本もの鉄パイプが立て掛けられてあり、その張力の強さを考えれば紳士マスクが手を離せばどうなるか想像は容易だった。

 

「暴力は好みではない━━━━がっ、君に勝つにはこれでも足りまい!!故に手加減はしない!ジェントリーィィィ、ストリングショット!!」

 

引き寄せる個性も使ってその場を飛び退けば、寸前まで私が走っていた場所に鉄パイプの嵐が襲う。

弾き飛ばされた鉄パイプの威力は凄まじく、物によっては地面に突き刺さっている物すらある。アホか。殺意が在りすぎて引く。いきなりエンジン掛かりすぎだと言いたい。

 

「━━━ちっ、たく!!」

 

引き寄せ個性で思い切り身体を引っこ抜く。

紳士マスクとの距離が少し縮まる。

けれど個性の射程内に入る前にダッシュで距離を空けられた。さっきからこれだ。本気だと口にしてから逃げに徹して一切隙を見せない。

 

逃げ回るだけなら、いっその事そのまま放って置くのも手だ。恐らく紳士マスクの身体能力を強化してる個性は時間制限があるだろうし、何よりガチムチ達が行動するまでの時間稼ぎが出来る。

けど、そうもいかない。自由にさせると安全圏から何でもかんでも利用して、馬鹿みたいに物量攻撃仕掛けてくるのだ。少しでも圧力を掛けて、攻撃の手を緩めさせないとこっちが持たない。

 

「ちょこ、まかするなっての!!」

 

足元の小石に引き寄せる個性を発動。

紳士マスクの後頭部目掛けて引っこ抜く。

だが、紳士マスクはそれを首を捻ってかわし、走りながら腰元で拳を構えた。

 

「ちょこまかするとも!!君の個性は恐ろしいからね!!射程内に入れば、それだけで終わりだ!!それがなくとも戦闘センスの高さは私以上!!近づく訳もなし!故に、こうして!!搦め手を使わせて貰う!!」

 

空気を切り裂く、豪快な拳が放たれる。

ただそれは私にではない。両の拳が突き出されたのは紳士マスクの左右、何もない空間に向けて。

 

「ジェントリー、ミートハンマー!!」

 

その声と同時に両側の景色が歪み、左右から衝撃が襲った。ほぼ不可視である事、硬くも何処か弾力を残した感触に、紳士マスクが個性で作った空気膜の存在が頭に浮かぶ。どうやら、ご丁寧に、お土産を残しながら走ってくれたらしい。

 

けど、そこまで威力はない。

猫だまし程度だ。

かっちゃんのデコピンのがまだ痛い。

 

「んんんんっ!?にゃろ!!」

 

気がつけば紳士マスクがいない。

耳を澄ませればポヨンポヨン間抜けな音が上空から聞こえる。視線を音の方へ向ければ、ジェットコースターのレールの上で跳ねるように駆ける紳士マスクを発見した。

 

紳士マスクに向けて小石をぶっぱなし牽制しつつ、自分の身体も紳士マスクへ向けて引っこ抜く。勿論、出力はどちらもフルスロットル。

 

「ははっ!!やはり早いな!!」

 

そう言いながら、紳士マスクは小石を手刀で払いのけながらレールを蹴飛ばした。蹴りの威力に轟音が鳴る。

そして鉄の塊であるレールが、まるでゴムのように大きくたわんだ。

 

「ジェントリー、ウィップ!!」

 

衝撃の反動でレールが鞭のようにしなった。

咄嗟に別方向に身体を引っこ抜けば、目の前を鉄の塊が通り過ぎていく。

 

「っぶな!!殺す気かぁ!!ボケナスぅ!!」

「ははははは!!冗談を!!それで終わるなら、私はとっくに明日の計画の為に準備を始めているさ!!それより、話す余裕を与えているつもりはないのだが!?」

 

空気を蹴って飛んだ紳士マスクは、ぎこちなく稼働しているバイキングへと飛び移った。何をするつもりなのかと見てれば、紳士マスクは船首からあっという間に支柱の天辺まで登り切り━━━━軸の付近で手刀を力強く振り払った。

 

「プレゼントだ、ニコ!」

 

紳士マスクが跳び去ると、軋むような音が鳴った。

続いて硬い物が割れるような、砕けるような、磨り潰されるような━━━何かが決定的に破壊されてく音が響いてくる。

 

一際大きな音が鳴った直後。

悲鳴のような音を鳴らしながら支柱から外れた船が、私に向かって勢いよく落ちてきた。背後へと思い切り飛び退いてかわせば、視界の中にコンクリートに覆われてた地面を完膚なきまでに叩き壊す船の姿が入ってくる。

冗談抜きで、殺す気なん?こいつ。引くわ。

 

 

「━━━━━ほら、この程度訳もないだろう」

 

 

楽しげな声に視線をあげると、観覧車のゴンドラに腰掛ける紳士マスクの姿を見つけた。さっきまでヒィヒィ言ってたの嘘のように、その顔は生き生きしていた。余裕がある所じゃない。今の状況を楽しんでいるのか笑みすら浮かんでる始末だ。

 

「楽しそうだねぇー、あんた」

「ああ、お陰さまでね。まるで翼を得た気分だよ。世界を狭めていたのは、私自身だったらしい」

 

今なら何処までも飛んでいけそうだ、と紳士マスクはゴンドラの上に立ち上がる。ライトアップされる中、堂々とした態度で見下ろしてくる姿は、癪だけど少し様になっていた。

 

「しかし、そろそろお開きとしよう。直にラブラバの力が切れてしまう」

「それ、私に教えて良いの?」

「聞かれた所で問題はない。これで終わりにするつもりだからね」

 

何処からか、悲鳴のような音が響いてきた。

さっきのバイキングの時と似たような音だったけど、規模が明らかに違っていた。周囲に流れるその不協和音は、鼓膜どころか肌に伝わってくる程の大きな音なのだ。

 

戦いながら遊園地にある物は見てきた。

見える範囲だけではあるけど、稼働してないアトラクションも殆ど把握してるつもりだ。

その中でバイキングを超える物はただ一つしかない。

 

「私の心のより所、第二の故郷と言えるかの国において、それは失敗作と謳われた。古の大戦の最中、コンクリートの防壁を打ち崩す為に作り上げられた陸上地雷『パンジャンドラム』。1.8トンの火薬を詰めた本体と直径三メートルの車輪で構成されたそれは、車輪に備え付けられたロケットを推進力に地面を駆け、眼前にある全てを打ち砕く驚異の兵器であった。あまりに前衛的であり他に類をみない独特のフォルム持つそれは、構想通り機能すれば破壊の神として今に伝わった事だろう。残念な事に、失敗に終わったがね━━━━━━」

「パンジャンドラム・・・・!」

 

パンジャンドラム、私はそれを知っている。

昔かっちゃんと過ごした幼稚園時代、お昼寝の時間でも寝付けない私に業を煮やした先生が、何時の頃からか読んで聞かせてくれた兵器百科図鑑に載っていたヤツだ。目を血走らせてそれを口にする先生がちょっと怖かったが、語られる兵器にまつわる小難しい話はいつも私を心地よい眠りに誘ってくれた。お昼寝が終わった後の清々しさは格別であった。一緒に寝てたかっちゃんは、なんか寝覚め悪そうにしてたけど。

 

「━━━━これが、私の最後の一手だ。是非とも受けてくれたまえ」

 

そう言いながら紳士マスクは、天辺まで上がったゴンドラから飛び降りた。観覧車の軸になってる部分へ一気に辿り着くと、怒声をあげながら拳を振り抜く。

拳の衝撃で軸の部分が激しく揺れる。金属で出来ているとは思えない程グニャグニャに。

そして、その場所から耳障りな悲鳴があがった。

 

「The Great My Panjandrum━━━━ゴォォ!」

 

ニ度目の拳が振り抜かれた瞬間、けたたましい音と共に巨大なリングを支えていた軸が砕け散った。轟音鳴らし地面に落ち、寸前まで回転していた勢いのままゆっくり転がっていく。

ただ正面に立ってる私の方向へではなくて、そのまま真横にだけど。アホかな。

 

けれど、安心したのも束の間、リングは急に方向転換してこちらに向かってきた。何かに遮られたように見えた事と、それにぶつかった瞬間接地したリングの部分がグニャリと歪んだ事から、紳士マスクが予め準備して方向を変えたのは間違いない。まったく、寸前まで馬鹿だった紳士マスクを返して欲しい。よく頭が回る。

 

「手綱を握るのは当然だろう!!さぁ、どうする!!ニコ!!受けてくれるかね!!逃げて貰っても、一向に構わないがッッッッ!!」

 

紳士マスクは軸から飛びだし、リングの外で両手を突き出した。

 

「ジェントリーサンドイッチ!!!」

 

ゴウンという音と共に、リングが僅かに加速する。

とは言ってもリングの移動は遅い。個性を使って全力で駆け出せば、余裕を持って逃げられると思う。

だけど、逃げに徹すれば紳士マスクを見失う。ガチムチ達の準備が整う前にそれは避けたいのだ。

 

 

 

それに、何より、やられっぱなしは面白くない。

 

 

 

「上等ぉぉぉぉ!!やってやんよ!!!」

 

 

 

思い切り息を吸い込む。

限界の限界まで。

 

 

 

「ならばよし!!受けて頂こう!!」

 

 

 

炎が作り出されるそこへ全意識を集中させる。

イメージはずっと前から出来ている。

後は形にするだけ。

 

 

 

「そして、我が前に散れ!!私に勝利という甘美を与えてくれたまえ!!!勇敢で無謀なるヒーロー、ニコ!!!」

 

 

 

体の中で何かが激しく燃えていく。

頭の中で痛みが走り回り熱が滾っていく。

溜め込んでいるソレが、私の中で唸りをあげていく。

 

 

 

 

ニコちゃん108の必殺技。

ニコちゃんブレス派系『ニコちゃん銀河星団(スターダスト)』。

 

 

 

 

吐き出した小さな真紅の光の塊が、目の前に細々と散らばっていく。まるでホタルのように漂うそれは、ふよふよとゆっくり観覧車に向かっていき━━━━━リングに触れた瞬間爆発した。

 

「むっ!?これは━━━━━っ!!」

 

体育祭の私を見たなら、知ってる筈だ。

これは轟の炎を止めた時、偶然に出来たそれを技に昇格した物。ルージュブレスの特性を利用して、誘導性を捨て去って炎を限界まで圧縮。産まれた極小の炎の球はかなり不安定な物で、何かに触れるとコントロールを失い一気に膨張、炎が酸素を求めて爆発する。

 

瞬間的な破壊力は私の技の中でも断トツ。

この技を見た先生から人には絶対使わないようにと注意される程だった。ルージュブレスですら、使い方をよく考えるようにで終わったのに。

 

ただこれ一つ作るだけでもかなり集中力がいる。

一度吐き出すと一切コントロール出来ないので、まともに当てようとしようとすれば量が必要。今出した程の量にとなればかなり時間掛かるし、作ってる間は他に何も出来なくなるから技として失敗作なのだ。

えっ、量なんていらない。至近距離で使えば良い?自爆しちゃうでそ。

 

リング内に入り込んだ光は、最初の爆発の衝撃につられて誘爆していく。リングの内側に爆熱の嵐が吹き荒れる。空気が、地面が、爆発の余波に揺れる。

鋼鉄の塊が、瞬く間に解体されていく。

 

「うお!?うぉぉおおおおお!!??」

 

危なそうなので少し離れて様子を見てると、紳士マスクの悲鳴が聞こえてきた。爆煙で全然様子が見えないけど、大丈夫だと信じたい所である・・・・というか、あれだ。ちょっとやり過ぎた。騒ぎ過ぎた。ここまでやるつもりはなかったんだよね。逮捕とかもガチムチ達にお任せして、あくまで時間稼ぎだけのつもりだったのに。

 

「これ、弁償とか求められないよね・・・・?」

 

もし求められたとして、観覧車って幾らすんの?

果たしてかっちゃん払えるだろうか。

まぁ、いずれナンバーワンヒーローになるんだから、観覧車の一つや二つ大丈夫だよね。いけるよね、うん。任せた。

 

そうこうしてると、空に照明弾が上がった。

ガチムチ達が紳士マスク確保に動く合図で、私へ撤退を促す合図。準備が整ったなら紳士マスクの捕捉も当然済んでるので、私は一目散に出口に向けて走った。恐らく迎えも近くで待機してる。

 

 

「━━━━━━ニコ!!」

 

 

突然の声に視線を向ければ、直ぐ側まで紳士マスクが飛んできていた。構えられた拳に、即座に身体を反転。右腕を限界まで引き絞る。

 

「私は、まだ!!負けてはいない!!」

 

怒号をあげながら振りかぶった拳は私の頬を掠めていく。強化の消えた様子の紳士マスクの拳は、モーションも分かりやすかったから避けるのは簡単だった。

それでも頬を掠めてしまったのは、紳士マスクの必死さまで考慮してなかった私の間抜けさのせい。

 

「ぶるぅあああっっっっ!!!」

「ぬぐッッッッ!?」

 

カウンターで顔面に右の拳を叩き込む。

引き寄せる個性も使った、フルパワーの一撃。

拳に鈍い感触と痛みが走る。

 

渾身の手応えを感じながら全力で拳を振り切れば、紳士マスクの身体が吹き飛び地面を転がった。

地面に横たわりながら呻き声をあげる姿に、追撃する必要性は感じない。

 

直にヒーロー達が駆け付けてくるとはいえ、ここは近くで元観覧車が煙をあげている危険地帯。一応周囲の安全を確認してあげてからその場を離れようかな?と考えてると「待ってくれ!」と紳士マスクから声が掛けられた。

 

「なに?まだやる?」

「い、いや、参った。私の完敗だ、気持ちの良い一発だったよ。ありがとう」

「パンチ貰って感謝とか・・・・ドMなの?」

「はははっ、違うさ。違うとも。全力で戦ってくれた事と、全力で私を捕まえる為に準備してくれた事への感謝さ。私だけならまだしも、よもやラブラバを出し抜くとは恐れいった。恐らく彼女は・・・・・もう捕まっているのだろう?」

 

照明弾が上がった時点で、ツインテちゃんの確保は確実だろう。あれはそういう合図でもある。特に否定する理由もないのでそう伝えれば、紳士マスクは悔しげに「そうか」とだけ呟いた。

そんな紳士マスクを見て、思った事を聞いてみた。

 

「勝てたよ、あんたは」

 

そう言えば、紳士マスクは私の言葉の意味に気づいたのか笑い声をあげる。

 

「勝負に勝てなくても、私には勝てた。そもそもネットに犯行予告動画流すだけで、文化祭なんて簡単に中止に出来るんだから。今の戦いを生放送でもすれば、それだけでも雄英は文化祭を取り止めないといけなかった」

 

もし生放送なんてなったら、早くに別の作戦が開始された筈だった。可能な限りの人払いを済ませた後、電波妨害をしながら一気にヒーロー達が雪崩れ込んでくるプランBだ。

犯人確保より私の救出に重点をおいてる為、紳士マスク達を取り逃す可能性はかなり高いのがこのプラン。

事実、紳士マスクは奥の手としてツインテちゃんの個性を残していた訳で、私に気を取られていては逃げられた可能性は高かっただろう。

 

「━━━━ははは、それでは意味がない。そんな事すれば、明日の侵入が難しくなってしまうじゃないか。私は明日の件だって諦めるつもりはなかった。この髭にかけた企画だったのだ。だから、敗けだよ。私の」

 

そう言いながら紳士マスクは起き上がり、座ったまま私へと向き直った。

 

「行きたまえ、迎えが来ているのだろう。私は、私の最後の役割を果たす。敗者らしくね」

 

入口の所から車のブレーキ音が響いてきた。

見れば車のライトに照らされながら、見慣れた人影が慌ただしく近づいてくる。

 

「君は君の役割を果たせば良い。勝者らしく」

 

そんな紳士マスクの言葉を聞きながら、私は近づいてくる人影へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっちゃーん!!ガチムチぃー!!おーい、観覧車って幾らすると思うーーー!?百万くらいかなぁー!」

 

「はぁ!?なんの話だ!!」

「観覧車・・・・わっ!!緑谷少女!?それ、まさか!?」



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寝たい時に限って眠れないのは良くあるよね。逆に寝たら駄目な時に限って眠たくなる時もあるよね。世の中もっと上手いこといかんのかね?まぁ、私はどっちにしろ直ぐ寝れるんですけどね!ドヤァサ!の巻き

はい、ジェントル編おわりぃぃぃぃ!
次回、やっと文化祭がはーじまるよーぉぉぉぉ!!


「煌めく眼でロックオン!!」

「猫の手 手助けやって来る!!」

「どこからともなくやって来る・・・」

「キュートにキャットにスティンガー!!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」

 

バイィィンとポーズが決まった四人は、カラフルな衣装も相まって真夜中でも取り分け異彩を放っていた。何故か一人だけスーツだったけど、それをおいても異彩を放ってた。一般人なんて私とかっちゃんしかいないというのに、それでも一糸乱れぬ動きで登場ポーズを取って見せるそのプロ根性たるや・・・・思わず感嘆である。ごいすー。

 

かっちゃん達と合流した後、直ぐに他のヒーロー達が遊園地へと雪崩れ込んできた。状況を把握してるプロヒーロー達の動きは迅速で、紳士マスクはあっという間にお縄にされ連行されていった。

紳士マスクの連行に同行しなかった他のヒーロー達も暇な訳ではない。遊園地内にゴロゴロしてる緊急性のある危険物の撤去作業があるからだ。大体紳士マスクが悪いとはいえ、多少は私のせいでもある。なので紳士マスクに代わり、一応念の為に謝罪しといたら「白々しい」と白い目で見られた。なんでやろなぁ。真面目にやってきたのに。

 

皆があっちこっち忙しくしてる間の私はといえば、ヒーロー達と一緒にきたゴリラ刑事に事情聴取を受けていた。と言っても、ゴリさんは最初からこちらの協力者の一人。事情は大体知ってるので、聞かれたのは盗聴機が壊れた後から遊園地までの出来事くらいだ。特に観覧車を含めて所々壊れてるアトラクションについて聞かれた。しつこく聞かれた。訝しげにめちゃくちゃしつこく聞かれた。

 

そんなこんなで漸く解放された私の所に、同じく作業が一段落ついたネココス達がやってきて━━━━バイィィンと復帰の挨拶してきたのが今だ。休業してたのは聞いてたけど復帰したのは今が初耳なのでちょっと驚き。

やんややんやと拍手してると、マンダレイが笑い声をあげながら手をあげた。

 

「お久しぶり、緑谷さん。また派手にやったものね。相変わらずそうで安心したわ」

「こんちゃでーす、派手にやったのは私じゃなくて紳士マスクでーす。私はちょこっとアレしただけでーす。それより洸太きゅん元気ですか?」

 

ふと思い出して洸太きゅんについて聞けば、水色ネココスこと年増・・・・・ボブ子18が「ねこねこねこ」と独特の含み笑いをする。

 

「洸太はねぇー、最近は矢鱈と元気よぉー。この間も虎に必殺技教えてくれ!なんて突っ掛かってたくらいに。なんでかは知らないけどねぇー?ねぇー虎?」

「ウム。身体が出来上がっておらぬが故、我から伝える事はそう多くはなかったがな。精々ランニングのやり方程度か。そう言えば、ラグドールも何か聞かれていたな」

「うん、まぁね。一丁前に気を使いながら、個性の効率の良い特訓方法ないかにゃて聞いてきたよ。一丁前にさー」

 

そう言ってカラカラ笑う黄色ネココスは、何故かヒーロースーツじゃなかった。オフィスレディーみたいなパリっとしたスーツ姿。さっきから気にはなってたけど、なんだろあれ。似合わない訳でもないけど、違和感が凄い。なんだあれ。

違和感が凄くて眺めてると、かっちゃんに頭ひっぱたかれた。スパンッッ、つった。めちゃ痛い。私の貴重な知能指数が2は減った。

 

「えーーと、何かな喧嘩売ってんの?買うけど」

「喧嘩は売ってねぇわ、馬鹿が。あんまりジロジロ見てんなっつってんだ。神野ん時の事忘れた訳じゃねぇだろ。色々あんだ、放っておけ」

 

神野と言われてピンときた。

洸太きゅんからも色々聞いて、迎えにきたマンダレイにも何となく聞いた話題なので余計にである。

ピピピン!ってきた。

 

合宿の時、私と同じように誘拐された黄色ネココスは、私と同じように神野で救出された。救出時、若干衰弱している以外目立った負傷はなく、大事に至らなかったと思われていたそうだが・・・・私と違って、黄色ネココスには一つだけ大きな問題があった。それが個性の消失だった。万年スーツ・変態・僕っ子ワンの証言によれば、個性の力で奪ったとかなんとか。

あれから個性消失について検査やら何やらあるんだとか言ってたけれど、この様子だと結局どうにもならなかったんだろうなぁ。

 

「・・・・・ヘビィだぜぇ」

「そのノリで話聞きに行くんじゃねぇぞ」

 

ぷんすこするかっちゃんからネココス達に視線を戻すと、黄色ネココスのクリクリした丸い大きな瞳と目があった。それはもうがっつり。

しかも私達の話を聞いてたみたいで苦笑いされる。あうちなんだぜ。

 

「たはは、ごめんね!気を使わせちゃってさ!でもあちきは大丈夫だから気にしにゃいで!個性がなくたって、やれる事もやりたい事も幾らでもあるんにゃよ!これからは三人のサポートを頑張る訳さ!取り分け事務に燃えるのだよ!若人達よ!にゃははは!時間もあるし、オフィスラブも狙っちゃおっかなぁー!」

「うちの事務あんただけでしょ。誰とラブする気よ、まったく」

 

溜息交じりにマンダレイがツッコミを入れる中、ボブ子が血涙を出すんじゃないかという顔で怨念の籠ってそうな低い声を吐いた。「オフィスラブなら、私の方がしたいわ」と。

全員が真顔になった所で、虎兄貴が優しい言葉を掛けながらボブ子を回収していった。そのまま結婚すれば良いのにと言ったら、他のネココス達が複雑そうな顔しながらそれは難しいとの事。お似合いなのに、世知辛いね。

 

「・・・・まぁ、ピクシーボブの事は気にしないで。本当に。あれよ、発作みたいな物だから」

「あちきらとか半分諦めてるけど、ピクシーボブはまだ本気で諦めてにゃいからねぇ。ねぇ君達、親戚に独身の格好いいお兄さんとかいにゃい?」

 

「えぇ・・・・あー、お兄さんじゃないけど、かっちゃんとかどうです?将来性はありますよ」

「秒で人を売るんじゃねぇ。ふざけんなクソボケが」

「じゃぁ、切島っていうのがいるんですけど」

「あいつも止めてやれや」

「じゃぁ、眼鏡とか轟とか・・・あとは黒豆パイセンとか、天ちゃんパイセンとかは?」

「・・・・・」

 

なんか言ったげて、かっちゃん。

あの人の相手は学生には酷だよって言ったげてよ。

流石に私も、これでマジに紹介とかになったら心が痛むからね。

 

そうこうしてるとゴリ刑事と話してたガチムチが戻ってきた。話を聞けば今日はもう帰って良いとの事。

ただ紳士マスク達の証言次第では、警察署に呼び出し受けてまた事情聴取するかも、だそうな。

話に一区切りついたタイミングでマンダレイが声を掛けてきた。そろそろ仕事に戻るとの事らしい。

 

「それじゃ、二人共、明日は・・・・て、もう日付変わってたっけ。今日の文化祭頑張ってね。見にはいけないけど、私達も陰ながら応援してるわ。オールマイトもお疲れ様でした。後の事はナイトアイや私達で片付けますから、文化祭に備えてゆっくり休んで下さい」

「ありがとう。明日は忙しくなりそうだし、お言葉に甘えさせて貰うよ。マンダレイ、今日は駆け付けて貰って本当にありがとう。休業中だったというのに」

「そんなっ、そこまで言ってもらう事でも。何より復帰の切っ掛けを貰えて助かったのはこちらの方です。それに他の皆もそうですが、ヒーローとして当たり前の事したまでですから。それよりも今回のビル━━━━いえ、何でもありません。お疲れ様でした」

 

賑やかなネココス達と別れた後、私達は忙しなく働く社会人達に見送られ帰宅を開始した。紳士マスク達に連れてかれた場所は何気に二つくらい県を跨いだ所にある辺境の地だったらしく、車で真っ直ぐ帰っても二時間程掛かるそうだ。とっくに日付が変わった今から慌てて帰っても、寮に着く頃には朝の方が近いという事実に若干頭が痛い所である。

最も外出届けの内容的には翌日帰る事になってるので、仮にもっと早く帰れても寮には帰らず、学校の近場のヒーロー事務所で休ませて貰う手筈になってるんだけど。

 

そうして七三事務所の車が走り出す事少し。

運転手してくれてるバブっちから「コンビニあるけどどうするー?」ときたので、かっちゃんが奢ってくれるなら寄りますと返すと、「何でだ、こら」と隣の目付き悪いボンバーヘッドからツッコミを頂いた。

でも、奢ってくれる気はあるみたいで「軽いもんにしとけ」とツンデレしてくれる。それでこそかっちゃんやで。話分かるぅー。

 

「あはは。仲良いねぇ、二人共。ちょっとした物ならお姉さんが奢ってあげるから、お財布は置いてついておいで。オールマイトは何か食べますか?」

「・・・・・んっ?ふあぁ・・・あーーごめん。少し眠ってしまっていた。何かな、バブルガール」

「コンビニです、コンビニ。ちょっと寄るんですけど、何か欲しい物とかありませんか?」

「コンビニかぁ・・・・それじゃお茶をお願いしようかな。緑谷少女と爆豪少年も、何か欲しい物があれば買っておいで」

 

「あっ━━━━あぁ・・・・」

 

瞼を擦りながら財布を取り出したガチムチが、流れるように千円をくれた。直前に先輩風吹かせたバブっちがションボリンしてるけど、それはツッコまないでおく。ややこしくなるから。バブっちにはまた次の機会に先輩風を吹かせて貰おうと思う。どんまい。

 

着いたコンビニでちょこっと買い物してから帰宅を再開。ガチムチが静かに寝息を立て始めると、程なくしてかっちゃんも窓ガラスに頭を預けたままクテっと就寝していった。

当然というかなんというか、そんな場所に頭を預ければ車の揺れと共に頭を窓ガラスにガンガンぶつける訳で・・・・若干可哀想になったので膝枕してやる事にした。私の件を心配して、昨日良く寝れなかったみたいなのでこれくらいサービスじゃ。よく寝るが良い。ボンバー勝己。

 

ラジオとエンジン音が流れるだけの静かな車内で、かっちゃんのボンバーヘッドを撫で撫でしながら夜景を眺めてると、バブっちが「寝ないのー?」と聞いてきた。

夜に備えて時間があれば昼間に寝まくってた事を伝えれば、呆れた顔で「自由だね、緑谷さんは」と苦笑いされる。

 

「それにしても文化祭かぁー。懐かしいなぁ、何だか随分前の事みたい。緑谷さんは明日何するの?劇とか?お店とか出す感じ?」

「出店とかはないですね。劇はB組がやるみたいですけど。うちはクラスの出し物でライブやります、ライブ」

「ライブかぁ、緑谷さん歌ったりするの?」

「いや、私は踊ります。めちゃ目立つパート貰ったんで、がっつり盛り上げまくってやりますよ」

「はははっ、なんか面白そう。ちょっと見てみたいかも」

 

ハンドルを握りながらバブっちは笑い声をあげた。

その声に反応してかっちゃんがもぞったので、人差し指を口許に当ててバブっちにしぃーってやれば「おっと」と可愛い仕草で口を塞いでくれる。

 

「ごめんね、大丈夫そう?」

 

ゆっくり撫でながら様子を見れば、かっちゃんは相変わらず子供みたいな顔で寝てる。

気持ち良さそう。

 

「大丈夫ですよ。ぐーすかぴーしてます」

「ふふ、そっか。良かった良かった。それにしても可愛い寝顔してるね。起きてる時はずっとこーんなだったのに」

 

かっちゃんの真似なのか、バブっちがぎゅっと眉間にシワを寄せる。微妙に似てる物真似に思わず笑ってしまうと、バブっちもつられてクスクス笑い声をあげる。

それから暫く二人でヒソヒソ話してたけど、自然と会話が途切れて車内はまた静かになった。

 

ラジオから流れる曲を聞きながら、私はぼんやりと目の前にある夜景を眺めた。漸く街並みが見える場所まで戻ってきても、時間が時間だからか暗闇に浮かぶのは街灯くらい。人の気配が殆どしないそこは驚くくらい静かで、何だか街まで眠ってるみたいに見えた。

思えばこうやって深夜のお出掛けとか、初めてかも知れない。あーーー、いや、大晦日に鐘突きに出掛けた事あったわ。でもあの時は結構人がウロウロしてたしなぁ。やっぱりちょっと違うかな。こんなに寂しい感じではなかった。

 

「寂しい、かぁ・・・・」

 

ふと、紳士マスクの顔が頭に浮かんだ。

去り際は背筋を伸ばして何処か誇らしげですらあったけれど、強化して息を吹き返す前は見ていられない表情をしていた。悲痛というのかなんというか。向かってくる姿から言い知れない虚しさが漂っていて、少なくとも本心から望んでそうしているようには見えなかった。

てっきりあのツインテちゃんに弱みでも握られてて、良いように使われてるのかなと考えたけれど・・・・あの子が駆けつけた時の表情を見れば、それが勘違いだったのは直ぐ分かった。

 

直接聞いた訳じゃないから多分でしかないけど、紳士マスクにとってツインテちゃんは、私にとってのかっちゃんだったんじゃないかなと思う。

それが良い出会いだったのかどうかは分からない。結局こうして捕まった事を考えれば、もっと違う出会い方をした方が良かったんじゃないかな?と思わなくもない。

だけど、そうはならなかった。紳士マスク達は捕まって、私達は明日の文化祭の為に帰ってる。それがたった一つの現実。だからこの話はそれで終わりなのだ。

 

不意にかっちゃんが、寝心地悪そうにモゾモゾする。

いつの間にか止まってた手で頭を撫で撫ですれば、かっちゃんはまた直ぐに穏やかな寝息を立て始めた。

 

「ふふっ、ちょろかっちゃん」

 

掌から伝わる温もりを、膝から伝わる鼓動を感じながら、私は座席に凭れて目を閉じた。

瞼の裏に生意気な態度で声を掛けてくれた、あの日のミニかっちゃんの姿が浮かんでくる。

 

 

 

 

 

 

「・・・・ありがとう、かっちゃん」

 

 

 

 

 

 

あの時、私に声を掛けてくれて。

 

 

 

 

 

 

心の中でそれだけ呟いて、私も意識を手放した。

車の振動に体を揺らしながら。



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文化祭とかの屋台の食べ物はちゃっちくて値段に見合ってない気がするけど、それでも美味しく感じるのは色々頑張った後でお腹が減ってるからでしょうね。えっ、仲間がいるから?あっ、そっちね。の巻き

ようやく、先週のヒロアカ見れた。
ああああああ!エンデヴァァァァァァァ!!


早朝から澄みきった青空が広がるその日。

今日のイベントに関して学校側から特別お達しはなく、クラスメート達は朝早くから慌ただしく動き出した。

何の為に?勿論、文化祭の為だ。

 

 

 

「━━━━という訳で!!俺が迎えにきた、よね!」

 

 

 

一時間の車の旅を経て、エリちゃんの病室へと辿りついた俺は、緑谷さんから伝授された格好良いポーズを取りながら部屋に突入した。緑谷さん曰く、エリちゃんがどっかんどっかん笑う定番ネタだというので、この格好良いポーズは練習に練習を重ねた。今が最新にして最高の出来だと自負してる。

 

けれど、何故か笑いは起こらない。

 

不思議に思って病室内のエリちゃんへ視線を向けると、すっかり可愛い外着に着替えてベッドに座るエリちゃんが首を傾げていた。

 

「とりさん・・・・?」

 

訝しげだ!見事なまでの訝しげ!!騙したね!緑谷さん!!でも、ちょっと疑ってたからそこまで驚かないよね!!

でもおっかしいなぁ・・・見せて貰ったプリクラだと本当にこんなポーズしてたのに。こんなに反応悪いとは。

 

「そう、これは鶴の構えっていうんだ!おはよう、エリちゃん!可愛いお洋服だね!よく似合ってるよ!」

「おはよう、ございます・・・・可愛い・・・・・」

 

素直に思った事を伝えると、エリちゃんは少しだけ頬を染め口をモゴモゴしながら下を向いてしまった。恥ずかしがる姿も微笑ましくて温かい気持ちで眺めてると、エリちゃんが俺の後ろの方を気にしたようにチラチラ覗き始めた。どうしたのかと思えば「ふたこさんは・・・」とエリちゃんが小さな声で呟く。

 

「ごめんね、緑谷さんは文化祭の準備が忙しくて、どうしても来れなくてね」

「ううん、大丈夫です。多分、むかえにこれないからって、聞いてたから・・・・」

 

そう言いながら何処か期待していたのだろう。

エリちゃんの表情には落胆の色が見える。

緑谷さんもあの件が無かったら間違いなく来てるだろうから、その期待もあながち間違ってはいないんだけど。何も無かったら絶対に来てるよね。うん。

どう慰めようかと考えてると、エリちゃんは「だけどね」と話始めた。

 

「むかえにこれない代わりに、すごいの見せてくれるって・・・・言ってて、だから・・・えっと、わ、ワクワクさんだから、大丈夫です」

「はははっ、そうか・・・・そうだね。きっと凄いの見せてくれるよ!一緒に応援しちゃおうね!」

「・・・・・うん」

 

それから暫く文化祭のしおり片手にエリちゃんとお喋りしていると、エリちゃんの主治医に外出許可の最終確認をしに行っていた相澤先生が看護師の女性と病室へとやってきた。

エリちゃんもそれに気づいたのか、相澤先生達を見つけるとペコリと頭を下げる。

 

「あっ、お、おはようございます」

「おはよう、エリちゃん。お医者さんから外出許可を貰ってきたよ。今から雄英に向かって一時間くらい車に乗るんだけど、出掛ける準備は出来てるかな?」

 

相澤先生の声にエリちゃんは慌てた様子で辺りを確認し始める。最初は鏡を見ながら自分の洋服を、次に今日一日履く事になる靴を、その次にお出掛け用の小さなバッグを開いて指差ししながら持ち物をチェックしていく。

そう時間も掛からず確認し終えると「だいじょうぶです・・・・」と何処か不安そうに看護師の女性を見つめた。

見つめられた看護師の人が「大丈夫。昨日一緒に確かめたものね。おトイレだってさっき済ませたし」と言えば、エリちゃんは小さく頷いて俺達の顔を見上げた。

そんなエリちゃんの様子に、相澤先生は口元にうっすら笑みを浮かべると、エリちゃんの頭を優しく撫でた。

 

「それじゃ、行こうか。文化祭に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

文化祭当日。

 

学校近場のヒーロー事務所で仮眠した後、予定通りの時間に私とかっちゃんは寮へ帰宅した。

そしてまた予定通り、昨日皆に振る舞ったとかいう百のお紅茶でも嗜みながら、ゆるりと文化祭の準備に勤しもうと思っていたんだけど━━━━━辿り着いたそこは既に戦場であった。A組の面々は右へ左へ駆けずり回り、衣装がどうとか何がないとか、時間がなんとやらとか忙しくしてる。

あらららーと呑気に眺めていたら、荷物を抱えたあしどんに突撃された。おっとぉ。

 

「おっそい!!ニコ!!今まで何処ほっつき歩いてたの!!ほら、これ持ってゴーゴー!」

「おっふ!?えっ、何処に!?ていうか、私の朝のお紅茶タイムは!?」

「そんな時間はない!!ていうか、ニコのこれまでの日常に元からそんな時間ないでしょ!新しく面倒なルーティーン作るな!戯言は良いからさっさと体育館運んで!!待機してる演出隊に渡して、ついでにあんたの出番の確認をしてくる事!戻ったら直ぐにあんたも着替え!良い!?」

「いっ、いえっす!まむっ!緑谷双虎、体育館にいっきまーす!!」

「よぉし、行ってこい!で、爆豪は演奏隊と合流して!!打ち合わせしてるから!!早く!!駆け足!!」

 

「喧しい、言われんでもいくわ」

 

そうして慌ただしくかっちゃんと別れて、私は体育館にいるであろう演出隊の元へと向かった。

人で賑わう体育館について直ぐ、人混みの中にライブの小道具を手に打ち合わせしてる男共を発見。荷物を持って突撃してやる。よっすよっす、童貞共!!私を呼んだらしいなぁ!来たぞぉ!!可愛さ余って美しさまで天元突破してる双虎にゃんが訪れてやったぞぉ!!咽び泣けぇい!!

 

━━━━と軽く挨拶を交わしたら時間もないのでさっさと荷物を渡して、演出隊と絡む部分について確認作業を開始する。練習の時から特に変更点もないので、確認作業は思ったよりスムーズに進み・・・結局5分も掛からずに終わった。

 

用件も済んだので着替える為に寮へ帰ろうとしたんだけど、なんか轟に呼び止められた。なんぞや。

 

「いや、用事の方は大丈夫だったのかと思ってな」

 

そう言う轟の目は矢鱈と真剣だった。

何かを確信してるような態度に、ちょっと動揺する。

何せ今回の件に関して轟には何も話してないのだ。学生で知ってるのはかっちゃんと黒豆パイセンだけ。お茶子も切島も他の皆は誰一人知らない。包帯先生にだってまだ知らせてない・・・・お陰で昨日学校を出る時は随分と怪訝そうな眼差しを送られた。

皆を信用してない訳ではないけど、相手が何処から情報収集してるのかはっきり分からなかった為、話す相手は最低限にしていたのだ。包帯先生に話さなかったのは文化祭を中止にしかねないからだけど。包帯先生はあれでいてかなりツンデレだから、生徒の安全重視で動く筈だからね。

 

しかし、まいったなぁ。

いつから気づいていたのか分からないけど、この調子だと少なくとも昨日今日って訳ではなさそう。そんな素振り見せた覚えはないんだけど。

 

言葉に迷ってると轟に「無理に言わなくて良い」と言われた。

 

「何があったかは話さなくても良い。・・・・・ただ、もう大丈夫なんだな?」

「まぁ・・・・・うん。一応はね」

「それなら良い。ダンス、頑張れよ」

 

そう言って笑顔を浮かべた轟だったけど、その笑顔は何処か寂しげに見えた。見てると胸の所がズキリとしてくる。何だか悪い事した気分だ。

 

「別にさ、轟の事を信用してないとかじゃないからね?お茶子にも話してないくらいなんだし・・・・なんなら、また今度時間のある時にでも話すし」

「分かってる。だから、そんなに気にしなくて良い。お前が無事ならそれで」

 

せやかて、しょんぼりしてるやん。

 

掛ける言葉が中々見つけられず、一人でモヤモヤしてたら轟が切島に呼ばれた。演出隊も本格的に準備を始めるみたい。さっさと行ってしまう背中がまた寂しそうで、思わず呼び止めてしまいそうになるけど、結局掛ける言葉が見つからなかったから止めといた。

ライブ終わったら、焼きそばでも奢ってやるかなぁ。

 

ともあれ、用事も終わったので私も急ぎ寮へと帰る事に。寮へ辿り着くと着替えた皆に出迎えられて、息つく暇もなく既に準備の終わってる女子ーズの面々に更衣室代わりとなってる部屋へ連行された。

私の衣装はちょっと手間が掛かる。なので元より手伝って貰わなきゃならないんだけど、鬼の形相でどんどん着飾らせてくる皆の勢いが凄くて圧倒される。うわっぷ、ってなる。負けっぱなしはお祭り女の沽券に関わるので、皆の勢いに負けないようテンション上げたら「大人しくしてて!!」と怒られた。しょんぼりん。

 

着飾られてる最中に花火の音が鳴った。

おっ、と思って時計を見れば文化祭の開幕の時間。

直ぐにスピーカーからラジオ先生の『雄英文化祭開幕ぅぅぅぅ!!』と響いてくる。あのおっちゃんは朝からテンション上がりまくりすてぃーんだな。元気の秘訣はお紅茶ですか?はぁーゴールドティッシュ・インドジンデアル飲みてぇー。えっ、なに百?違う?何が?ゴールドディプ?なにそれ?

 

ライブ開始まで残り三十分を切った頃。

化粧をしてる所に男子共の声が掛かった。

どうやらお客さんが来たらしい。

 

お茶子に頼んで呼んで貰えば、綺麗におめかしした小さなお客さんがおずおずと部屋に入ってきた。

だから笑顔と共に声を掛けた。

 

「いらっしゃい、エリちゃん!今日はまた随分と可愛くなっちゃったねぇ!がっ、しかしぃ!それでも残念ながら、可愛らしさ部門不動のナンバーワンである私の方が、やっぱりちょこっと上だけどね!なはは!」

 

元気にとまではいかなくても、可愛いらしい返事を期待してたんだけど、エリちゃんから返ってくる物がなかった。なんかぽけーっとしてる。

私の言葉に呆れ顔だったお茶子も、エリちゃんのその様子には首を傾げる。

 

「どうしたん、エリちゃん。何かあった?・・・・さっきのニコちゃんの言葉なら間に受けんでええからね。ニコちゃんのいつもの軽口やから。素直じゃないだけ。ほんまは、エリちゃんめちゃ可愛いー!とか、抱き締めて頬ずりしたいー!っとか思うてるんよ。多分」

 

おっと、勝手に翻訳されてしまった。

大体間違ってないけど。

ついでに甘やかしたいもつけといて。

 

お茶子に声を掛けられても、何も言わずポカンとするそのエリちゃんの様子に、周りの女子ーズが段々と心配そうな顔になっていく。

そして流れるように今度は私がジト目で見られ始める。ちょっ、なんでなん。え、なに、私のせいなの?何とかしろと?あいあい。

 

小粋なジョークで爆笑を取ろうかなぁと、ネタについて考えてたらエリちゃんがゆっくり口を動かし始めた。

 

 

「・・・・・きれい、お姫さまみたい」

 

 

呟かれた小さな声に。

私は自分の服へ視線を落とした。

この日の為に用意した衣装は他の皆と少し違ってフリルのついた白を基調にしたワンピースドレスだ。裾の刺繍や胸元のリボンだったりはダンス隊の服と同じオレンジ色で統一してる。

そんなドレスは可愛いし、我ながら似合うとは思うんだけど・・・・それでもまさかお姫様とまで言われるとは思わなかったので、エリちゃんの反応はちょっと照れる。恥ずい。

 

「すごい、ふたこさん、きれい!かみ下ろしてる!」

「ああ、これね。最後まで皆と悩んだんだけど、ダンスの時に映えるからってこうなったんだ。エリちゃんとお揃いだねぇ」

「えっ、あっ!うん、いっしょ!」

 

目がキラキラしてるエリちゃんを横目に、しまったなぁという考えが頭に浮かぶ。こんなに良い反応してくれてるけど、このドレスは演出で直ぐに脱ぐ物なのだ。

実際、その演出の為に、ドレスの下にはダンス隊の女子ーズの皆とほぼ同じ服着てたりする。スカートとショートパンツの違いはあるけども。

見てがっかりさせるのも悪いかと思ってドレスの事について教えようか悩んでると、エリちゃんが小さく手招きしてきた。耳を寄せれば「あのね」と可愛いらしい声が聞こえてくる。

 

「私ね、すごく、ワクワクさんだよ」

 

エリちゃんの顔に浮かぶものは、笑顔とはまだまだ言えない物。だけどその顔に僅かに浮かんでる表情の変化は、その言葉が嘘じゃない事をちゃんと伝えてくる。

だから私は吐き出し掛けた言葉を飲み込んで、精一杯の笑顔を返しておいた。

 

「そっか、それじゃ楽しみにしてて。エリちゃんの事、思いっきり驚かせてみせるから!」

 

演出隊だけじゃない、それこそ皆で考えた演出だ。

後は自信を持って見せつければ良い。

それこそ、私らしく。

 

 

 

 

 

それから程なくしてエリちゃんと別れた私は、残りの準備を済ませて皆と体育館へと向かった。

時刻は9時45分。

 

ライブ開始まで、残り15分━━━━━。



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目立つのはそんなに好きじゃないかな。必然的に目立つだけで。え、うん。そうだよ、目立ちたくないよ。どっちかと言えば。面倒じゃん、目立った後がさ。なに、その疑いの眼差しは?の巻き

ライヴの表現とか、鬼の如く難しかばい。
耳郎ちゃんの美声を聞いて、頑張った。
頑張ったよ!もうむりぃ!


「━━━━思ったより、人集まってるよ」

 

ステージに降りたカーテンの隙間から、賑やかな声が響いてくる会場を覗いたあしどんが興奮した声をあげる。喜色の混じったそれにあしどんと一緒に覗きにいったお茶子が「わぁ、ほんまや」と続くと、ただでさえ緊張してたっぽい百と梅雨ちゃんの背筋がちょっと伸びた。

その緊張につられてか、尾白と常闇も表情を固くさせて深呼吸を始める。

 

因みに私の側でドレスにキャッキャッしてた葉隠もそんな皆の様子を見て「なんか緊張するねぇー!」とか言ってるけど、緊張してる気配はまるで感じない。

人の事は言えないけど、あしどんと葉隠は肝が据わってんなぁ。

 

そんな事ぼんやり思ってると、シュガー兄貴の「朝からゴキゲンな連中だぜ」なんてぼやきが聞こえてきた。

するとそれを聞いてたブドウが興奮気味に声をあげる。

 

「んな言い方するんじゃねぇ!楽しみにしてくれてんだよ!バカチン!━━━この俺の、下剋上ハーレムパートを!!見せつけてやるぜ、俺の時代がきた事をな!!」

「そ、そうかもな、良かったなー」

「なんだその気のない返事は!!羨ましいんだろぉ!羨ましいんだろぉが!言ってみろごらぁ!」

「ウラヤマシイナァー」

 

あいつらも楽しそうだな。

特にブドウの方は夢幻見てるやん。幻想に生きてるやん。私が見てる中ではやつの時代はミジンコ一匹分も来てないんだけどな?不思議やで。

そんなアホ共を眺めていると、耳郎ちゃんに声を掛けられた。表情を見るにこっちも緊張してそう。

 

「緑谷は緊張・・・・してないみたいだね。こんな時でも普通とか、本当あんたこそマイク握れば良かったんだよ。天職みたいなもんでしょ、まったく」

「ははは、それじゃ今からでも代わろっか?」

「冗談、今更そんな事言わないって」

 

ばつの悪そうな苦笑いを浮かべて、耳郎ちゃんは肩に掛けたギターの弦を指で弄りながら続ける。

 

「今だって自信はないよ。出来る事は全部やってきたつもりだけど、それでも練習が足りてるとは思わない。昨日の夜も弾いてみたけど、もう拙い所ばっかり目についちゃってさ・・・・だけど、全力でやるよ。これまで準備してきたもの、全部出し切って、それで今出来る最高の音楽流してみせる━━━━だから、あんたもしっかりやってよね。馬鹿みたいに目立つ場所に立つんだから」

 

そう言って耳郎ちゃんは拳を突き出してきた。

力強い真っ直ぐな眼差しには、ボーカルを交代してくれないかと相談してきた時のような弱さは見えない。自信はないと口では言ってるけど、失敗するつもりだってさらさらないみたいだ。

 

それならと突き出された拳に私も拳をぶつけた。

コツンすれば、とびきりの笑顔が返ってくる。

 

「あいよ、ぼす」

「誰がボスだ、誰が━━━━━ああ、後さ。前に色々言ったけど、何か言ってあげてよ。ほら」

「ん?」

 

くいっと耳郎ちゃんが顎をしゃくる。

なんじゃろ?と耳郎に促されてそっちを見れば、無言でドラムの前に座るかっちゃんの姿があった。

 

「あー、あれは良いの。今話し掛けても邪険にされるし、大丈夫だから放っておいて。本番になったらちゃんと爆発するから」

「そう?柄でもないかもだけど妙に静かだし、なんか緊張とかしてるんじゃないの?本当、柄じゃないと思うんだけどさ」

 

柄じゃないと二度言われるかっちゃんとは。

分からないでもないけど、繰り返し言われると何だか笑ってしまう。

 

そりゃ、耳郎ちゃんの言うとおり、柄ではないかもだけどかっちゃんだって人間だ。

いつも自信満々みたいな顔してるけど、緊張する時だってあれば、不安になる時だって弱気になる時だってある。長い事見てるから、それは良く知ってる。

 

だけど、それ以上に私は知ってる。

いつだって見せてくれたから。

 

 

 

 

「大丈夫だって。ここぞって時は、絶対に決めてくれるからさ!」

 

 

 

 

これまでの事を思い出しながら耳郎ちゃんにそう伝えれば、何故か頬を赤くして目を逸らしてきた。

なんか「これで」とか「あり得ないって」とか、もにょもにょ呟いてる。なんて?耳郎ちゃん?

 

そうこうしてると眼鏡の声で「皆、五分前だ!配置に!」とか聞こえてきた。

そのまま配置についても良いけど、一つすっかりやり忘れてた事を思い出したので全員に集合を掛けた。

勿論かっちゃんもそうだし、今会場側にスタンバってる演出隊も無線越しに集合させる。

 

「なんだい、緑谷くん!時間がっ・・・・!」

「はいはい、分かってる分かってる。直ぐ終わるから。ほら、私ら円陣組んでなかったでしょ?景気づけに一発やってからやろ」

「円陣・・・・それは、まぁ、士気があがるならやった方が良いかも知れないが、時間が・・・・」

「無線連中ー聞こえてるー?声だけでごめんだけど、ちょっと良い?円陣組むからそっちもよろしくー」

 

眼鏡をスルーして無線を飛ばせば、切島の元気な返事が返ってきた。やるってさ。

 

「それじゃ、あとは眼鏡!よろ!!」

「えっ、そこを僕に任せるのか!?あ、いや、委員長の仕事と言われればそうかも知れないが━━━━━ああっ、もう!分かった!!任された!!」

 

何かを振り払うように頭を振った眼鏡は、自然と出来た円陣の中へ一歩だけ踏み込み大口を開けた。

 

「皆!泣いても笑っても、これが文化祭で僕達一年A組が学校の皆に見せられる!!たった一度きりのライブだ!!準備期間は決して長いとは言えなかった!正直言えば不足は幾らでもあるだろう!だが!!今日までの皆の努力は、僕がしかと見てきた!!演奏隊も!ダンス隊も!演出隊もだ!全力を尽くせば、きっと悪い物にはならない!!いや、最高の物になる筈だ!!」

 

全員を一度見渡して、眼鏡は一度息をついてから声をあげた。会場から響く観客の声に負けない。力に満ちたその声を。

 

「これは爆豪くんの言葉だが、僕はそれが相応しいと思うから言わせて貰う━━━━━雄英全員、音でやるぞ!!!」

 

その声に全員が声をあげて拳を突き上げた。

緊張してた面々もすっかりその気になってる。

委員長だね、眼鏡はやっぱり。

 

まぁ、かっちゃんだけ何とも言えない顔してたけど。

はいはい、ごめんね。台詞取らせちゃって。

しくらないでよー、あははは。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

緑谷さんと別れてから暫く。

エリちゃんを一度トイレに連れていってから、緑谷さん達がライブをやる体育館へ行くと、既に会場は人で溢れ返っていてとても賑やかだった。

友達に場所取りをお願いしておくべきだったかなと、少しだけ自分の計画のなさに後悔を覚える。

 

「うわぁー、思ったより人が多いねー」

「・・・・う、うん」

 

手を繋いだエリちゃんにそう言うと、人の数に圧倒されたのか不安そうな顔でくっついてきた。少し歩きづらいけれど頼ってくれてる彼女を離す訳にもいかないので、蹴らないように気をつけながら俺は舞台へと進んだ。

 

出来るなら一番前まで行きたい所だけど、思ってたよりずっと人が集まってたみたいで、体育館の真ん中ぐらいが限界だった。ただ、それでも舞台まではそう遠くない。本番は暗くして舞台を照らす事を考えれば、この位置からでもよく見える筈だ。

後の問題といえば、視線の高さくらいだろうか。

 

「よし、じゃぁエリちゃん!そのままだと見えないだろうし、抱っこするよ!おいで!」

「えっ、でも・・・・」

 

エリちゃんは少し恥ずかしがってる素振りを見せたけど、「この高さなら緑谷さんが良く見えるんだけどなぁ?」と伝えれば迷う事なくコクコクと頷いてくれる。

 

腕にエリちゃんを抱え込んで少しすると、ブーーっという音が鳴って館内のライトが消えた。エリちゃんが少しびっくりして肩を揺らしたけれど、その後会場から聞こえた声に直ぐその震えは治まった。

 

「ニコーーー!」

 

誰の声かは分からない。

でもきっと、彼女の活躍を見てきた生徒達だろう。

ヤオヨロズー!とか、バクゴー!とか響く中で、確かに彼女の名前も会場に響いていた。

エリちゃんの顔を覗くと、緑谷さん達を探してるのか視線がキョロキョロしてる。

 

「ミリオさん、双虎さんは・・・?」

「直ぐに出てくるよ、カーテンの所見てて」

「うん」

 

歓声が一際大きくなった時、ゆっくりとカーテンが開いていった。ライトが消えて真っ暗だけど、うっすらと人影が舞台の上に見える。だけど、見た感じ彼女の姿がない気がする。一人だけ違う衣装だったみたいだし、もしかしたら途中で出てくる演出なのかも知れない。

 

何処からともなく手を打ち鳴らす音が響いてくる。

熱狂的なヤオヨロズコールが矢鱈と大きく聞こえてくる会場で、熱気に当てられて手を叩く人が増えていく。

俺の直ぐ隣でも周りの熱に当てられたエリちゃんが、舞台を見つめながらペチペチと手を叩く。

 

不意に、爆豪くんの怒声と共に舞台の上へ爆炎があがる。オレンジと赤の光が会場を照らし、つんざくような爆発音が鼓膜を揺らす。

歓声が一瞬で消えた後、間髪いれずに会場が一気にライトアップされA組の皆の姿がはっきり視界に飛び込んできて━━━━そして直ぐ、ギターを提げた耳郎さんから大きな声が響き渡った。

 

 

「よろしくお願いしますッッ!!」

 

 

それを合図にギターが掻き鳴らされて、ドラムが音を轟かせて、キーボードの鍵盤が旋律を奏でる。

勢いのあるスタートにエリちゃんがびっくりしてるけど、周りの観客も圧倒されて身体が少し仰け反ってしまっているのだから仕方ない。思いきった良いスタートだ。沢山練習してきたからこそだろう。

 

演奏が始まるとそれまで止まっていた派手な衣装を着た皆が一斉に踊り出す。リズムに乗って生き生きした表情で踊る皆の姿に、エリちゃんと俺の体が自然と揺れる。

 

「ミリオさん!たいこ叩いてるの、かっちゃんさんだよ!」

 

耳郎さんの歌が流れ始まると、それまで呆けてたエリちゃんが会場を指差しながら声を掛けてきた。そこには相変わらずのしかめっ面でドラムを叩く爆豪くんの姿がある。他の皆が笑顔な分、存在感が凄い。

ただそれでも、あの空間に溶け込んで見えるから不思議だ。なんやかんや彼も上手くやってるって事なんだろうけど。

 

エリちゃんはそんな俺の疑問も置き去りにして、次々と誰が何してる!と教えてくれる。

けれど歌も二番目が始まった頃、エリちゃんも緑谷さんがいない事に気づいたみたいでそれまで以上にキョロキョロし始めた。不安そうな目で会場から俺に目を向けたエリちゃんは小さな声で「双虎さん、踊らないのかなぁ」としょんぼりする。

 

「ははは、大丈夫!緑谷さんは踊るっていってたよ!緑谷さんがエリちゃんとの約束破った事ある?」

 

俺の言葉にエリちゃんは少し考えて「まだ、ないよ」って答えてくれた。まだって所に、緑谷さんへの理解がある気がする。付き合いはまだまだ短いけど、エリちゃんはよく分かってるなぁ。

まぁでも、少なくとも今は、全力で期待に応えてくれる筈だ。

 

「━━━━だから、そんな不安そうな顔しなくて大丈夫!それより良く見てて、緑谷さんの事だからきっといきなり何かやってくるよ!」

 

そう励ました瞬間だった、会場から驚きに満ちた歓声があがったのだ。慌ててエリちゃんと顔をあげると━━━━━沢山の光を伴って彼女がやってきた。

 

天井に待機してたのか突然天井の闇の中から現れた彼女は、沢山のライトに照らされながら、粉雪のような淡いオレンジの光を引き連れて華麗に宙を舞う。

ゆったりとした曲調に合わせて踊る姿は優雅だけど、彼女らしい力強さに満ちている。浮かべる大人びた笑顔、風に靡く艶やかな髪からは可憐さ妖艶さが漂っていて、俺にはそれがとても綺麗に見えた。気がつけば目を奪われていたくらいに。

周りにも俺と同じ様な人達がいるのか、興奮で賑わう声に混じりそれまでとは違う意味で熱のこもった溜息が溢れていくのが聞こえる。

 

緑谷さんはそのまま流れるように舞台に降り立ち、耳郎さんのシャウトに合わせてドレスを勢いよく脱ぎ捨てた。その瞬間、緑谷さんの側や宙に漂っていた光の粒一つ一つが、まるで花火のように鮮やかに弾けていく。

突然現れた光のシャワーにまた歓声があがる。

 

光が消え去った後、緑谷さんはドレス姿ではなく皆と同じオレンジの衣装に着替えて踊っていた。

アップテンポの音楽に合わせて踊る姿は、さっきの優雅さが嘘のように激しく熱気に満ちてる。妖艶とすら思えた顔には無邪気な笑みを浮かべて、振り回される髪からは楽しさが滲んで見えた。

けれど、額に汗を浮かべて笑顔で元気に踊る彼女の方が、個人的には魅力的に見えた。見ているだけでこっちまで楽しくなってしまう、そんな彼女の姿が。

 

終わりに向けて曲が更に盛り上がっていく。

皆の踊りにも演奏にも熱が籠っていく。

響き渡る音楽に観客の体が揺れ、彼女達のパフォーマンスに歓声が飛び交ってく。

 

そんな熱狂に包まれ会場の中で耳郎さんが歌いきり、最後のアウトロが流れ始める。

ダンス隊の全員が息を揃えて指先を天井に向ける中、緑谷さんは一人だけこちらに指鉄砲を向けてた。

その顔に悪戯っ子な笑みを浮かべて。

 

曲が終わると同時に、大きな歓声があがる。

緑谷さんはそれに合わせて、何かを撃ち出す仕草と共にウインクが飛ばした。近くで野太い歓声があがったけど、それが誰の為であるかなんて考えるまでもなかった。

 

喜びと驚きの混じった歓声が直ぐ側から聞こえる。

抱えたエリちゃんの顔を覗けば、そこには憂い気だった表情は欠片も残ってなかった。思わずあがった両手に、思わずあげた声に、もう小さな体にまとわりついていた影の気配は見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁぁーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その顔に満面の笑みを浮かべながら、体全体を使って喜ぶ姿に・・・・どうしようもなく笑みと涙が滲んだ。

舞台の上の彼女には見えただろうか。

君がずっと望んでいたものは、君が守りたかったものは今ここにある。

 

笑ったよ、緑谷さん。



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良くも悪くも世の中変わる物があれば、変わらない物もあるし、変われない物もある。まぁ、私の可愛さは最初から最強で不変だけどね。の巻き

あああああああ!!お外に行きたいんだなぁもぅぅぅぅぅぅ!!(更新遅れてごめんね)


熱狂の渦の中、無事にA組の出し物が終わった後。

氷やら何やらの片付けに勤しんでいると、黒豆パイセンと目が凄いキラキラしたエリちゃんがやったきた。

 

「やぁーオツカレー!」

「ふたこさん!」

 

元気な声に「お?」とか思っていると、エリちゃんは黒豆パイセンの手を離してこっちに駆けてきた。

手に持ってた氷入りのタライをドンマイに投げ渡し、両手を広げてスタンバイすれば、エリちゃんがタックル気味に私の胸に飛び込んでくる。

 

「どうどう、凄いテンション高いね!どったの!」

 

顔を覗き込んでそう言えば、エリちゃんは手をバタバタさせながら笑顔で口を開いてくれる。

 

「あのね!最初は大きな音でこわくて、でもダンスでピョンピョンなってね!ピカッてなって!ぶわぁって冷たくなって!またピカピカーってしてね!そしたら、静かになって、でもふたこさんがキラキラーーってきて、女の人がわーってなって!わぁぁぁって言っちゃった!」

「そっか、そっかー。喜んで貰えて良かったよ。どう、カッコ良かった?」

「ううん、きれいだったよ!!」

 

エリちゃんの真似して手をバタつかせる黒豆パイセンを無視して、嬉しい事を言ってくれた腕の中にいる可愛い生物をぎゅーってしてあげる。エリちゃんは照れたように笑って、ぎゅーっとお返ししてくれた。そう、照れたように笑って、笑ってだ。

はぁぁぁぁぁ!!かわえええぇぇぇぇぇ!なにこれ、可愛ぇ!!舞台の上からでも笑ってるのは見えてたけど、側で見るとまた違うね!なんかキラキラしてるもん!キャワイイ!はぁ、もうこれはお持ち帰りかなぁ。お持ち帰りしないと、寧ろ失礼になっちゃうなぁぁ!━━━え?駄目?何言ってるんですか!もう!冗談ですよ、パイセン!じょーだーん・・・・ちっ。

 

「おーい、いつまで油売ってんだよー」

 

エリちゃんとイチャイチャしてると、ドンマイが不満げな顔で声を掛けてきた。手には氷が満載のタライが二段。二段目は私が渡したやつだ。投げといて何だけど、よくキャッチしたな。結構重かったのに。中々どうしてやりおるわ。

 

「ちゃんと鍛えてるようで何よりじゃ。うんうん。これならば、体育祭の時みたいに紅白饅頭に瞬殺もされぬじゃろうて。ドンマイの名もいよいよ返上じゃな、ほほほ・・・じゃ、そのまま職務に戻りたまえ」

「いや、お前も戻りたまえよ。なにちゃっかり抜けようとしてんだ。あと、勝手に師匠になるな」

 

なにおう?生意気にぃ・・・・今度の戦闘訓練でまたボコったろうかぁーああん?

 

まぁしかしだ、抜けるのは仕方なかろうて。

なにせ私には大事な使命があるのでね。

そうっ!お客さんであるエリちゃんの接待及び護衛という、何よりも大事な仕事がね!!

 

ドヤっ、と抱えたエリちゃんを見せつけながらアイコンタクトしてやれば、ドンマイは文句も言えず「ぐぬぬ」と唸る。"勝ったな!"そう確信したその時、腕の中のエリちゃんが服を引っ張ってきた。どうしたのかと視線を落とすとエリちゃんが何か言いたげな顔してる。

 

「?どうしたの?」

「あのね、わ、私もお片付け、お手伝いする」

 

なんっ、だと・・・!

あまりの突然な裏切りの言葉に、思わずアイドルもかくもやなエンジェルスマイルが崩れそうになる━━━が、そこは天才的パーフェクト美少女双虎にゃん。ここでしょんぼりんさせる訳にはいかぬぅ!と有り余る乙女力をフルパワー発動させ、ひきつりそうな顔を全身全霊を持って笑顔で固定してみせた。やるね、流石わたしぃ!

 

「えっ、えーーっと、またどうして?」

「お返し、したかったの。ずっと、ふたこさん達に貰ってばっかりだったから・・・・」

「お洋服とかお菓子とか?気にしなくて良いのに。あげといて何だけど、あんまり高い物でもないしさ。洋服はお古だし、お菓子は安物だし、玩具に至っては発目が暇潰しにガラクタで作ったやつだし」

 

まぁ、発目の玩具に関してだけ言えば、出費こそ掛かってないだろうけど技術料が高くつきそうな気がしない訳でもないが。

そもそもの話エリちゃんが言うそれは、こっちがやりたくて勝手にやった事ばかり。それこそただの自己満足。喜んで貰えてるなら私としてはそれで十分だし、他の皆もそうだろう。

お礼だってエリちゃんはその時その時にちゃんと言ってるし、改まってお礼を言われる程の事ではない。

だから「そんな必要ないよ」と伝えたけど、エリちゃんは首を横に振る。

 

「それだけじゃなくて、遊んでくれたり、お話してくれたり、すごいの見せてくれたり。私、いっぱい楽しくて、いっぱい嬉しかったから、だから・・・・私も、ふたこさん達に嬉しいことしたいなって・・・・おっ、お友達だから」

 

胸元で指をツンツンさせながら、エリちゃんはモジモジとそんな事を言ってきた。純粋さと無垢な優しさから放たれる後光は凄まじく、その眩しさに私も思わず顔を仰け反る程であった。

浄化されるぅ!大人になるに連れて荒んでいった私の心が、真っ白にされるぅ!!はぁぁぁ!━━━━なんてな!私は元から純白の心の持ち主!!優しさと思いやりに満ちてる私では、社会の荒波によって疲れた心を癒される事はあっても浄化などされないのだよ!!だてに女神だの、天使だのと言われてはない!えっ、言ってない!?言われてるよ!少なくとも、私は言ってる!

 

エリちゃん優しさに心をズキュンされていると、不意に嫌な気配を感じた。はっと顔を上げれば、そこには悪い笑みが浮かべるドンマイの姿が。

 

「そっかそっかー!エリちゃん良い子だねー!緑谷もお兄さん達も助かっちゃうなぁ!良かったなー、緑谷!片付け終わらないと、遊びにいけないもんなッッッ!!当然、嬉しいよなぁ!!」

 

ぐぬぅっ、このドンマイ野郎ぅ!

次の言い訳を考えてる間に、黒豆パイセンも会話に交ざってきて「よぉし、それなら俺も手伝っちゃうよ!皆でやれば、早く終わるしね!任せて!」とか言い出してガッツポーズしてくる。エリちゃんもすっかりやる気になっちゃって、黒豆パイセンの動きを真似して力強いガッツポーズを見せてくる。

 

違うの!エリちゃん!私ね、そもそも後片付けしたくない!面倒だから!抜けられるなら抜け出して、即行であのお祭り騒ぎしてる所に直行したいの!お祭りしたい!

だから早く遊びに行きたいなぁ、とか子供特有の許されるレベルの我が儘言って欲しいの!寧ろ!

 

と、言うわけにもいかず説得の言葉を探してる内に、ジト目のお茶子とか耳郎ちゃんとかとかに囲まれ始めて━━━━私はガチャガチャと楽器を運んでる、何処か満足げなかっちゃんへとSOSの視線を送った。

 

我が幼馴染ならば分かってくれる筈だ。

幼稚園の頃から伊達に長い付き合いをしてきた訳ではないのだ。私が部屋の事とかでどれだけ母様に叱られてきたのか・・・・かっちゃんは誰よりも側で見てきて、そして幾度となく綺麗好き故に快く手伝ってきた筈だ。知ってる筈だ。私がそういうの好きじゃないことは。

 

だから私はかっちゃんを見つめた。

その瞳に万感の思いを込めて。

言うんだ、かっちゃん!ここは任せて先に行けっと!

 

 

 

「━━━━いや、さっさと片付けやれや。ボケが」

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、つっかえ!!

マジつっかえだわ!はぁぁ、つっかえ!!

つっかぇぇぇぇぇぇぇ!!

そういう所だかんな、くそボンバーヘッドぉ!!

 

ん?なにエリちゃん?怒ってる?そんな事ないない。気のせいだよーあははは。さぁ、一緒にお片付けしちゃおっか!!あははは・・・・タノシイーナァー!!ヒャッハァーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが美!!これぞ美!!これこそが私、絢爛崎美々美が辿り着いた美の終着点!!絢爛豪華の真の姿ですわ!!!オホホホホホホホホ!!!」

 

なんやかんや愉快なクラスメートにエリちゃん達も交えて、面白い楽しくお片付けを終えて少し。

私は鼻の下伸ばしたダメンズ達と女子ーズを追い掛けるように、エリちゃんの手を引いてミスコンを見に行った。

 

実質学校ナンバーワン美少女の私としては、私以下の順位とかまったく気にならなかったけど、応援ぐらいしにいかないとイッチーに恨まれる気がしたのだ。

あとイッチー達ミスコン組と見学の時に知り合ったエリちゃんが、その勇姿を普通に見たがったのもあるけど。

 

「ホホホホホホホホホホホ!!!ご覧遊ばせぇぇぇ!!!私の美よぉぉぉぉ!!!」

 

しかし私は今、何を見てんだろうか・・・・。

カラテチョップで会場を沸かせたイッチーや、他の皆はは辛うじてミスコンの体を成してた。まだミスコンだった。けど今ミスコンと聞いてたイベントの会場にいるのは、デカイ顔の形したロボとその上で高笑いする豪華パイセン。戸惑いの声より歓声のが多い所や、会場の盛り上がり方からして許容されてるパフォーマンスなのは分かるけど、ミスコンのパフォーマンスってもっとこう・・・ね?あるやん。まぁ、エリちゃんが楽しそうにしてるから別に良いけど━━━うぉっ、変形した!すげぇ!欲しい!もっと小ちゃいバージョンのやつで欲しい!!

 

側で笑ってる黒豆パイセンに毎回こんななんですか?と聞いたら、去年も負けないくらい派手だったよ!との事。去年もロボコンだったのか。成る程、来年は発目にも教えてやるか。

 

「ふたこさん」

「ん?どしたの、エリちゃん」

「これ、何をするやつなの?」

 

コテン、と首を傾げながら可愛く尋ねられ。

私は青空を仰ぎ見ながら答えた。

 

「・・・・・ロボコン。年に一度、雄英の理系女子が集まって、作ったロボを競わせるお祭りさ」

「ロボコン・・・・!そっかぁ・・・・」

 

「緑谷さん、堂々と嘘を教えないで。というか諦めないで、大丈夫だから。この後、普通のミスコンに戻ると思うから・・・・・多分・・・・・大丈夫かな、去年は大概だったからなぁ」

 

それから程なくして、ねじれんパイセンのパフォーマンスが始まり雄英ミスコンは無事にミスコンに戻った。

男達の野太い歓声を聞きながら、妖精のように空を舞うねじれんパイセンを見て、これは優勝だなって思った。まぁ、私が参加したら、勿論私が優勝だけどなっ!とも思った。

 

 

 

その後はインターンメンバーを誘って文化祭へと繰り出した。お茶子に付き合ってクレープ屋行ったり、景品ある出店を訪問して回って出禁くらったり、いつも気前よく奢ってくれるB組の愉快な仲間達を見つけて食べ物を善意で提供して貰ったり、お化け屋敷とかアイテムの展示会とかとか色々と。

そうしてあっちこっち遊び回っていると━━━━━ちょっとアクシデント発生。エリちゃんが見ては行けないものと出くわしてしまった。

 

 

「━━━━む、貴様か。相変わらず人を小馬鹿にしたような面で見よって・・・・親の顔が見てみたいわ」

 

 

道徳観的な意味で18禁ヒーロー、一応轟の父親であるDV糞野郎のおハゲである。今日は完全にオフなのかメラメラせずに髭面を晒して、洒落たジャケット羽織ってる。一瞬誰だか分からなかった。

私はエリちゃんの目にさっと手を当てて、ばっちいものを見えないようにした。エリちゃんはちょっとビクっとしたものの、それが私の手だと気づくと何かの遊びだと思ったのかニコッとした。そして何処かワクワクした様子で、お店で買ったわたあめを引き続きパクパクする。可愛い。

 

「何し━━━━━」

 

「何してんだ、お前」

 

私が聞くより早く、一緒にぶらついてた轟が冷たい声を掛けた。黒豆パイセンと切島が顔をひきつらせ、かっちゃんが「けっ」と言って、私の両隣にいたお茶子と梅雨ちゃんがそっとエリちゃんの耳も塞ぐ。幸い雰囲気の悪さに気づかなかったらしいエリちゃんはハッとした顔をして、わたあめを食べる手を止めて何処かワクワクした様子で身構えた。完全にサプライズ待ちである。どうしようか・・・・いや、後で考えよ。

 

そんなエリちゃんから轟へと視線を移せば分かりやすく嫌そうな顔してる。おハゲはといえば、鼻息を荒く漏らして気にしてないアピールである。内心傷ついてそう。冷ちゃんの事知ってるから同情はしないけど。

しかし、インターンに行くぐらいだから、もう少しマシになってるのかと思ったけど・・・相変わらず冷戦だな。子供の前だと言うのに、まったく。

 

「何しにきたんだ。一部の関係者しか入れねぇ筈だ」

「勘違いするな、焦凍。お前の様子を見にきた訳ではない。仕事・・・ではないが、所用があってきただけだ」

 

そう言ったおハゲの声に何か違和感を感じる。

いつもならただ話すだけでも暑苦しい感じがするのに、今日は何となくしおらしいというか・・・なんか覇気がないような気がする。

轟と短い言葉を交わした後、おハゲはらしくなく落ち着いた様子で、私と手を繋ぐエリちゃんを見た。

 

「件の娘か」

「件の娘とか言わない。エリちゃんですよ、エリちゃん。これからパフェ買うんでエリちゃんのお小遣い下さい。一杯稼いでるでしょ」

「何故俺がお小遣いをやらねばならん・・・・ふんっ、後は貴様でどうにかしろ」

 

わっ、マジでくれた。

千円ぽっちだけど。

 

お金を渡したおハゲは用は済んだとでも言うように、財布をしまってさっさと背中を向けて校舎へ歩き出したんだけど・・・・途中で足を止め、振り返った。

 

 

 

「焦凍」

 

 

 

落ち着いた男の低い声が、いやに響いた。

轟の眉間にシワが寄るが、その声はそんな轟の様子を気づく事なく続けていく。

 

 

 

「お前は自慢の息子だ・・・・ならば俺も、お前が胸を張れるようなヒーローになろう」

 

 

 

振り向いた顔に。

その瞳に。

 

 

 

「父は最も偉大な男であると」

 

 

 

静かな炎を灯しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おハゲの背中が消えていった人混みの方を見ながら、轟は複雑そうな表情を浮かべている。

轟はその背中に悪態をつかなかった。

体育祭の前ならきっと、その目に怒りやら憎しみやら籠めて、文句の一つも言っていただろうに。

今でも多分、冷ちゃんの事を怒ってるし、憎んでるのは変わらないとは思う。思うけど・・・もうそれだけでもないみたい。

 

不意にパァンと良い音が鳴った。

かっちゃんが轟の背中をひっぱたいた音だ。

目を見開いて振り返った轟に、かっちゃんは「はっ」とつまらなそうに鼻息を漏らして先に進んでいった。荒い激励だけど意味はちゃんと伝わったらしく、轟は困ったように笑ってそれについていくように歩き出す。

 

「くだらねぇ事で、ボケッとしてんじゃねぇ。誰がどうだろうと、てめぇがやる事は変わらねぇだろ」

「・・・そうだな。ありがとな、爆豪」

「気色悪ぃこと言ってんじゃねぇ、ぶっ飛ばすぞ」

 

私が声を掛ける必要はなさそう。

男の友情ってやつ?

 

切島が耐えきれず「熱いな、お前ら!」とか言って二人の所に交ざってくのを横目に、私はエリちゃんの目の前へ千円を翳した。見て見て!サプライズ!お小遣いだよーーー!と、勿論満面の笑みも一緒に。

 

わぁぁぁぁ!とはならなかった、とだけ言っておく。

私が小さい頃は大はしゃぎしたのに。

おかしいなぁ・・・・。



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『ナンバーワンの称号』の閑話の巻き

はぁぁぁぁぁぁ(・д・ = ・д・)

ミルコ姐さんがぁぁぁぁぁぁぁ( ;∀;)


電話越しから告げられた言葉に、気づけば俺の口からその言葉が溢れていった。

 

「なんの冗談だ」

 

自分ですら分かる程の怒気の籠った言葉。

電話越しのそいつは震える声でその言葉を繰り返した。

つい先程、俺の耳に響いたそれを。

 

『で、ですから、オールマイト氏は、今回のヒーロービルボードチャートの発表に合わせて引退しますので、今後は現在No.2であり、次回暫定1位となりますエンデヴァー氏にはNo.1ヒーローとして━━━』

「ふざけるな!!この俺に、こんなどさくさ紛れに!!奴のッッ、No.1の座につけというのか!!」

『憤るお気持ちは、こちらも理解しております。ですが、今後の混乱を避ける為にもエンデヴァー氏には』

「貴様らの都合など知るかァ!!奴を出せ!!引きずってでも、この俺の前に連れてこい!!引退など腑抜けた事、二度と言えぬようにしてやる!!」

 

怒りと共に吐き出した言葉に偽りなどない。

本心から吐き出した言葉だ。

だがどれだけ怒鳴っても、何度聞いても返答は変わらなかった。勝てないと思いながら、それでも足掻き挑み続けた頂・・・平和の象徴と謳われた奴の、引退という言葉だけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が引退とはな」

 

文化祭の騒ぎを一望出来る校舎の屋上。

缶コーヒーで喉を潤しながら、俺は隣に立つショボくれた奴にその言葉を吐いた。

つい最近まで、誰しもが認めるNo.1ヒーローであったオールマイトに。

 

奴は何処か申し訳なさげに「ああ」と短い返事を返す。

何度も聞き確認した事だ。今更驚きはない。

ただ、それでも、何処かで俺は否定の言葉を望んでいたらしい。胸に響く痛みが、それをどうしようもなく教えてくる。

 

「ヒーロー協会から許可が出た以上、私は正式に引退を発表させて貰うよ。どれだけ続けられるか分からないけど、これからはこの学校で後進の育成に専念するつもりさ。・・・・これから君には、沢山の苦労を掛けると思う。共に戦えなくて申し訳なく━━━」

「面白くない冗談だ。俺は元より、貴様と共に戦うつもりなどないわ」

「━━━HAHAHA、つれないな。君は」

 

力なく笑った男の視線は学生達の声が響く柵の向こうへと向けられる。その横顔に、もうヒーローだった頃の輝きは見えない。痩せこけた頬、窪んだ目、しなだれた髪・・・・張り裂けんばかりだったスーツも、今ではブカブカとして不恰好だった。袖から覗く腕の細さは常人以下だろう。

 

弱々しい姿に、もう戦えないのだと見せつけられた。

文句はもう口から出てこなかった。

 

「分かっていた。貴様のあの情けない姿を見た時から」

 

代わりに出たのは、そんな言葉だった。

 

「そう・・・か。いや、それもそうか」

「当然だろう。俺でなくともあの情けない体を見れば、貴様が引退するのは目に見えていた」

 

そう、引退は目に見えていた。

理性では分かっていた。

これまで戦いの日々の中で多くの人間を見てきた。自ら傷つく事もあったが、それより多くの敵を傷つけてきた。どれだけやれば人が壊れるかなど、どれだけ傷つけば壊せるかなど、分からない筈もない。神野で見たこいつは、既に絶望的なまでに壊れていた。

 

だから、あの時、咄嗟に声を飛ばしてしまった。

俺にあれだけ煮え湯を飲ませた男が。

全てを犠牲にしても届かなかった男が。

焦凍に託してでも超えたかった男が。

 

もう戦えないなど━━━━ふざけるな、と。

 

「ははっ、これで俺は晴れてNo.1ヒーローだ。貴様の忌々しい背中が見えなくなると思うと清々する。精々、テレビの前でハンカチでも噛んで己の不甲斐なさに涙でも流すが良い」

「エンデヴァー・・・・本当にすまない」

「謝るなッッッッ!!」

 

瞬間的に沸き上がる熱に。

声が出ていった。

 

「貴様にっ、謝られる筋合いなどないッッッ!!欠片とてだッッッ!!同情など、この俺に掛けるな!!何様のつもりだ貴様っ!!」

 

この男のいない世界で、そんなNo.1の称号に何の意味がある。なんの価値がある。

俺は肩書きが欲しかった訳じゃない。

ただ、成りたかったのだ。

 

この男よりも強く。

誰よりも強く。

 

その機会を永久に失ったのは、こいつのせいでは断じてない。No.2に君臨し挑む機会を得ながら、その地位で足踏みしていたのは俺の不甲斐なさが故。才能が、努力が、運が足りなかった。それだけの話だ。

この男の強さも、怪我も引退も関係ない。届かなかった俺の弱さだけが全てなのだ。

 

荒くなった呼吸を落ち着けて奴を見据えた。

申し訳なさそうに眉を下げる奴は何か言いたげだが、結局何も言う事はなく黙って俺を見つめた。奴の瞳には癪に障る思いが透けて見えたが、何も言わないのであればそれで良い。十分だ。

 

「・・・・・二十歳の頃には、既にNo.2へと登りつめた。そして登ってきたからこそ、理解してしまった。俺は頂に辿り着けないと」

 

辿り着いたそこから見える景色は、俺の足を止めるには十分過ぎた。眼前に聳えるオールマイトが作り上げたそれは見上げる程に高く、息を切らし血を吐きながらギリギリで登ってきた俺がまた手を伸ばすには、その頂はあまりにも遠すぎた。

 

「貴様には勝てないと、俺は思っていたよ」

「・・・・・君らしくないな」

「はっ、らしくなかろうが俺はそう思っていた。だから焦凍に託した。俺の全てを懸けて育て、貴様を超えさせるつもりだった。だというのに、貴様の引退でパァだ」

「まだ、彼に何かを背負わせるつもりかい?」

 

尋ねる、というよりは諌めるような言葉に。

思わず自虐的な笑いが込み上げてくる。

敵だとすら思っていた男に心配されるなど・・・なんの冗談なのかと。実際どうしようもないほど、こちらも壊れているのだから、その心配も見当違いとも言えないが。

 

「はっ、教師面が板についてきたか」

「笑い事じゃない。私は彼の教師の一人として、彼を守るつもりさ。君がまだ彼にいらぬ重荷を背負わせるつもりなら、今度は文句の一つも言わせて貰うよ。場合によれば、それ以上の事だってする」

 

妙に力の籠った声と共に、強い光の灯った瞳が俺を真っ直ぐに見据えていた。

 

弱々しい体ではさして脅威は感じない。

だが、オールマイトの発した気配は、現役時代に幾度も感じたそれと変わらなかった。

 

「いらん心配だ。・・・・もう焦凍は、自分の足で歩き始めている。貴様の手など必要ないわ」

「えっ、それは」

「望まぬ限り、俺が教える事はない」

 

自らの意思でインターンに来た時、既に焦凍は俺に囚われるだけの存在ではなかった。焦凍の瞳には以前より強い光が宿っていた。未来へと進む強い意思の光が。

この男の背を追うというのは未だに頂けん話だが、あれは二度と自分の歩む道を迷うまい。自らの意思で望む場所へと行くだろう。俺の望みなど蹴り飛ばして。自由に。

それに仮に迷っても━━━あの馬鹿や喧しい小僧のように手を取る者がいる。背を押す者がいる。

誤る事などあるまい。

 

この俺とは違って。

 

「・・・・そうか。それなら良いんだ。それで、今日はどんな用があって来たんだい。わざわざ私に文句を言いにくる程、君も暇でも無いだろう?」

「ふん、それでも良かったんだがな・・・・」

 

俺は頭の隅にあったそれを思い出した。

あの電話以降・・・・いや、それよりもずっと前、神野以来より考えていた事を。

 

「オールマイト、貴様には一つだけ聞きたい事があった」

「ん?何かな、一つと言わず私が分かる事ならなんでも伝えるつもりだけど」

「貴様の休業以来、犯罪発生率は上がり続けている。ここ一ヶ月のそれは例年に比べて三%もの増加だそうだ。それだけ仕事は増えた、だがそれまで以上に取り締まりも続けている。だが、それでも聞こえてくる。貴様の築き上げてきた目には映らぬ何かが、崩れていく音が」

 

崩れ、何かが広がっている。

言葉に出来ない、何が。

そしてそれは、恐らく俺が止める物。

 

「故に貴様に聞くつもりだった。平和の象徴が、俺がこれから担うモノがなんなのかを・・・・だが、その必要もなくなった」

 

そんな事は、聞くまでもなかった。

久しぶりに焦凍の顔を見て、忘れかけてた物をはっきり思い出した。俺が背負うべきモノ、背負うべきだったモノ達。そして、もう背負う事すら許されぬモノを。

求められようと求められぬとも、どのみちこの男と俺は何もかも違う。今更考え方は変えられない。歩んだ道も変わらない。俺が手にした力も一朝一夕で手に入れた物でない以上、急に強くなる訳でもない。

ならば俺という人間が出来る事など、肩書きがどうであれそう変わる訳がない。やれる事をやるしかないのだ。

 

奴の背負ってきた物など知らん。

平和の象徴足り得るかなど知らん。

ただ、それでもせめて見せねばならん。

 

焦凍に、子供達に、妻に。

俺がこれまで犠牲にしてきたモノ。

その全てに見せねばならんのだ。

 

これからの俺を。

No.1ヒーローとなった、エンデヴァーというヒーローの姿を。

 

「テレビからでも眺めていろ。この俺の姿をな」

「・・・・・ああ、そうさせて貰うよ。応援してる、と言ったら怒るかな?」

「気色の悪い事をほざくな!!虫酸が走る!!」

 

手元のコーヒーを飲み干し、俺は出口へ向けて歩き出した。これからやることは幾らでもある。立ち止まってる訳にはいかないのだから。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「虫酸が走るか・・・・ふふ、彼らしいな」

 

慌ただしく行ってしまった彼の事を思い出すと、どうしても笑みが溢れてしまう。弱気な言葉を吐いた時はどうしたのかと思ったが、結局彼は彼のままだった。

勿論、良い意味でだ。

 

彼は私の事を嫌っているようだが、私は心強い仲間だと今も思っている。何年も同じトップヒーローとして活躍してきたのだ。彼の強さは誰よりも知っているし、ヒーローとして信用もしてる。私生活の方に少し気になる所はあるが、ヒーローとしてなら間違いなく一流の彼だ。彼ならきっと、これからの時代を牽引してくれるだろう。

惜しむらくは、そこに自分がいない事だろうか。

 

ふと、フェンスの向こうに視線を向けると、生徒達の姿が視界に映った。笑顔を浮かべながら楽しげな声をあげて、忙しなくあっちへこっちへ・・・・・不安定だと思われてた社会もここでは平和な物だ。

目立ったトラブルもなく順調そのもの。生徒達の為に多くの関係者へ頭を下げた校長の努力も、これで報われる事だろう。

 

そんな事をぼんやり考えてると、文化祭の為にここ一月の間戦い続けたもう一人の姿が頭に浮かんだ。無茶ばかりする、サボり癖のあるけど憎めない可愛い生徒の姿だ。

 

「緑谷少女、今頃何処にいるのかな・・・・」

 

何とはなしに見慣れたポニーテールを探した。

常識的に考えて生徒達が溢れるそこから見つかるとは思っていない。目は悪い方ではないが距離もあるし、何より人探しするには人も物も多すぎる。

だけど、そこは彼女だ。もしかしたらという期待もしてしまう。

 

「・・・・流石に無理か」

 

元より難しいとは思っていたが、見渡したそこから彼女の姿は見つけられなかった。人混みに紛れてしまっているのか。はたまたここから見えない場所にいるのか・・・どちらにせよ、残念だ。余計なものに囚われず、楽しんでくれてると良いのだが。

 

「平和の象徴か・・・・」

 

ふと彼の言葉を思い出した。

私が担い続け、積み上げてきた形の分からないそれ。

今の情勢を鑑みれば、彼がいうように形の見えぬそれは少しずつ崩れているのかも知れない。事実目に見えて人々の不満が増え、犯罪者も増えてしまった。私という抑止力に見切りをつけ、新体制への移行を急いだヒーロー協会の動きからも、それは覆しようもない事実なのだろう。歯軋りしたくなるほど悔しい話だが、私にはもうどうしようもない。彼のいうように、もう見守るしか出来ないのだ。

 

あの子達に、何をしてやれるだろうか。

力で守る事が出来なくなった私が。

何をしてやれる。

 

考えても答えは出なかった。知識も経験も足りない半人前の教師の私では少し難し過ぎたんだろう。

けれど、彼が歩み始めたように、私もまた自分で答えを出し進まねばならない。

 

 

笑顔を浮かべる、彼等を守る為に。

 

 

お茶を飲みながら生徒の様子を眺めていると、不意にポケットから着信音が鳴った。取り出して画面を見てみれば、ナイトアイからメールが一件。内容は現場の片付けが一通り終わったとの報告だった。

感謝の言葉を返した私は飲みかけのペットボトルの蓋を閉め、与えられた職務をこなす為に巡回ルートと書かれた紙を片手に屋上の出口へと向かった。

 

これからの事を。

私に出来る事を。

頭の中で考えながら。

 

 

 

 

 

 

「━━━━━あっ、ガチムチがサボってる!!」

 

「うわっ、いた。後ね、サボってはないから」

 

「サボってる!!」

 

「サボってないからね!?警備巡回中なの、本当に!!」

 



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『アオハルトライアングル』の閑話の巻き

こんなん書いた(´・ω・`)

いらんかった気がしないでもない。


眩しいくらいに照らすスポットライト。

沸き上がり続ける万雷の拍手。

地響きのような大歓声。

 

少し前までそんな物に囲まれていた私は今・・・・寮の調理場にて、甘い香り漂う少しこぶりな赤いリンゴを手にしていた。寸前までギターを掻き鳴らし、熱狂的な声援を受けていたのが嘘のように感じる。違和感が凄い。とてつもなく凄い。

 

「━━━━耳郎?耳郎さん?聞いてらっしゃいますぅ?」

 

疑問符のついた言葉に視線を向けると、エプロンを着けた上鳴が不思議そうな顔でこっちを見ていた。

その手には先程用意するよう頼んでおいた金属のボウルやトレーが重ねられてる。

 

「ああ、ごめん。ありがとね、用意しても・・・・ちゃんと洗った?」

「洗ったわ!ごっしごし、洗ったわ!そこは疑うなよ!頼まれた事何もしないでここに戻ってきてたら、もうそれただのアホじゃん!?」

「えっ、アホじゃない時なんて・・・・あった?」

「なに、その常時アホみたいな評価!?酷くない!?あったよ、幾らでもありました!最近だと━━━」

「あーはいはい。そうだねー」

「━━━せめて聞いてぇ!?」

 

そんな風に上鳴と話してると、段ボール箱を手にしエプロンを揺らすもう一人もやってきた。ドカドカとした重そうな足音と一緒にきたのは同じクラスの口田だ。

 

「おっ、砂藤から借りられたっぽいな。口田、ここ空いてるぞー」

 

上鳴の誘導に従って置かれた荷物を三人で見ると、お菓子作りに使えそうな調理器具。他にも色んな種類の飴型やお菓子作りに使うナッツだったり色のついたチョコチップだったりが入ってる。

 

「・・・リンゴ飴にこういうのって使うのか?」

 

ナッツの袋を手にした上鳴の疑問に、口田が首を横に振った。

 

「リンゴ飴はリンゴに飴を絡めるだけだから、つっ、使わないとは思うけど、一応渡しておくって。余り物で賞味期限も近いから、必要なら使っても良いって・・・・」

「そっか。んじゃ、これはそのままに・・・・・そう言えばさ、今更だけどコレ入れもんとかってどうすんの?」

 

不思議そうな言葉と共に視線がこっち向いた。

そんな事聞くまでもないだろ━━━と思ったんだけど、言われてみればラッピングの道具はない。ウチが預かってるのはリンゴ飴の材料だけ。

 

「それ、貰ってないわ・・・・やば、どうしよ」

「マジか。でもまぁ緑谷主導だしなぁ、しゃーねーか。んじゃま、俺ひとっ走り買ってくるわ。スーパーならあるよな?」

「ウチも買ったことないから分からないんだけど、スーパーなら多分・・・・ごめんだけど頼める?」

「おう、任せとけ。ついでに何か適当にフルーツとかも買ってくるわ」

「フルーツ?何で」

「いや、ふと思ってさ。飴に絡めるだけっていうなら、なんか他にも作れそうだなぁと。イチゴとか、ミカンとか、バナナとか飴やってさ、色々種類も作ればエリちゃん喜びそうじゃね?どう?」

 

何だってやること増やそうとするかな?と思わなくもないけど、それ自体は悪くはない気がする。料理の工程はリンゴ飴と変わらないし。何より、エリちゃんも喜んでくれそう。

 

「分かった。それじゃ、それも一緒に頼める?後でお金渡すからさ」

「金は良いって、俺がやってみたいだけだし。後なんか買うもんある?」

「後は特には・・・・あっ、ちゃんと外出許可とってからいきなよ」

「やべ、そうだった!相澤先生何処にいんのかな」

 

慌ただしく駆け出していった上鳴を送り出し、ウチと口田はレシピに従って調理の準備を始めた。

何故こんな事になったのか思い出しながら。

 

 

 

『耳郎ちゃん、いっぱい相談乗ってあげたでしょ』

 

 

 

それは一昨日のこと。

そんな笑顔と共に緑谷から渡されたのは真っ赤なリンゴの山と食紅、砂糖、割り箸と言った物だった。最初は意味が分からず首を傾げたが、一緒に渡されたメモを見てそれがなんの為に用意された物なのかは察した。それはリンゴ飴の材料だったのだ。

 

『お菓子ニキからレシピ貰っておいたから、当日に隙見て作っておいて。帰りにエリちゃんにお土産としてあげるから』

『ここまで用意するなら、もう自分でやんなよ・・・』

『やってる時間ないんだってば。その日は一日エリちゃんのお世話しなきゃいけないからね。それにほら、私はあれだよ、ほんの少し、わずかに、若干、きもち、料理は苦手系だし・・・・。お願いサプライズしたいのぉ!出来立てをあげて、ふぉああぁぁぁぁ!って言わせたいの!お願いだよぉ、耳郎ちゃん!Z・I・R・O!耳郎!Z・I・R・O!耳郎ぅ!』

『腹立つからそのコール止めな』

 

緑谷の言葉を聞いて、以前やってきた角の生えた女の子の事を思い出した。陰のある表情を浮かべ、緑谷の側から離れようとしない小さくて弱いその子の事を。

そうしたら断る事が出来なくて、気づけば私は頷いていた。それに相談に乗って貰った恩があったのも事実だし。

 

そうして引き受けて、やってきた当日。

ライブの片付けを終えるとそのまま寮へと帰り、リンゴ飴作りの準備を始めていたんだけど・・・・何故か上鳴と口田が手伝いにやってきた。聞けば緑谷に手伝いに行くように言われたらしい。どちらも災難だな、と思ったけど一人でやるより楽になるので、ウチは二人に是非にと手伝いをお願いして━━━━で、今に至る訳だ。

 

上鳴を見送ってから少し。

口田にリンゴの用意をして貰ってる間、私はレシピの分量通り用意した砂糖・水・食紅を一つのボウルに移して掻き混ぜ始めた。

レシピによれば火に掛ける前に良く混ぜておかないといけないらしい。火に掛けてから混ぜると白くなってしまうそうだ。砂藤のワンポイントアドバイスによれば、先に水と砂糖を火に掛けてよく溶かし、冷ましながら食紅を混ぜ合わせる方法もあるらしいけど、個人的にこちらの方が色味が綺麗な気がする・・・のだそうだ。

 

良く混ぜ合わせたら火に掛けて、あとは煮立つまでそのまま。火力は中火だ。

焦げ付かないように鍋の様子を見てたら「耳郎さん」と声が掛かった。視線をそちらに向ければ任せていたリンゴの山が籠から消えていて、トレーの上に綺麗に並べられた割り箸の刺さったリンゴが置いてある。砂藤のワンポイントアドバイスをちゃんと把握してたみたいで、リンゴの水気もしっかり拭き取ってあった。乾いてから飴を絡めた方が良いとレシピにあったけど、この調子なら煮立つ頃には丁度良さげだ。・・・・ていうか砂藤もさ、ここまで気を回してアドバイス書いてくれるくらいなら手伝ってくれれば良い気が、いや、十分助かってるんだけども。

 

「ありがと、良い仕事するじゃん」

「あっ、いえ、そんな事は・・・僕は、レシピ通りにやっただけですし」

「照れなくて良いって。言われた事きちっとやるのも大切でしょ。世の中それも出来ないのが幾らでもいるんだし・・・・・それにほら、上鳴とかだと雑な感じになってそうじゃん?リンゴの真横に串刺したりさ~『これ芸術的じゃね!?』みたいな事言ってさ」

 

ちょっと物真似して言うと、口田は何とも言えない顔をして乾いた笑い声をあげた。同意こそなかったけど、はっきり否定しない所を見るに『ありそう』ぐらいには思ってそう。

 

不意に会話が途切れた。何かあった訳ではない。単純に話したい事を話し終えたのだ。お互いお喋りが得意な方ではないので、必然キッチンには静寂が訪れた。

耳に響いてくるのは温まってきた鍋が立てるコトコトという小さな音立てるだけ。

そんな静かな空間で、ウチと口田の視線は自然と鍋に向っていった。

 

「・・・・・そう言えばさ、口田は緑谷に何して捕まったの?ウチは、まぁ、ライブの事でちょっとね」

 

何となく聞いてみたら、何故か口田は見てるこっちがびっくりするくらい肩を跳ね上げた。何だか頬も赤くて、額から変な汗が滲んでる。ウチが見てる事に気づくと、口田は物凄い勢いで視線を逸らして、アワアワと狼狽え始めてしまった。

 

何したんだ、緑谷のお馬鹿。

無茶振りする奴ではあるけど、それと同時に加減も分かってる奴だとも思ってたんだけどな。

 

「大丈夫?何をダシにされてんの?言いたくないなら言わなくても良いけど、あんまり━━━━」

「い、いえ!そ、そういう、感じのっ、訳じゃなくて、ですね!僕は、その、お願いされただけでっ、でも無理矢理とかではないので!はい!」

「めっちゃ喋るじゃん、今日・・・・まぁ、口田が良いなら良いんだけどさ。けど、あいつがあんまり馬鹿な事言うようだったら遠慮なく教えてよ。代わりに締めておくから」

「ははは・・・・はい、その時は」

 

モジモジしながらも浮かべた頼り無さげな笑顔に、不思議と陰は見えなかった。無理矢理じゃないというのも、脅されて言わされてるって訳ではなさそう。

ウチの心配し過ぎで済んだのは良いことだけど、それなら何をダシにしたのやら?あの慌てよう普通じゃなかったんだけどな。

 

そうこうしてる内に鍋が煮立ち、ブクブクと音を立て始めた。借りてる温度計をさせばレシピ通りの温度。

ウチは直ぐに火を止めた。

 

「耳郎さん、これを」

 

すかさず手渡された串の刺さったリンゴに、ウチは思わず笑ってしまう。

 

「はは、至れり尽くせりだね。ありがと。でもそんなに気を使わないで良いよ。口田も一緒にやろ、量もあるしさ」

 

無言で頷いた口田と一緒に鍋にリンゴを入れた。

食紅の混ざった真っ赤な飴は、リンゴ一つがしっかり浸る程の量はない。なのでくるくる回すように、リンゴへ飴を絡めていく。どちらかと言えば不器用な方だと思っていたけど、そう苦労する事なく一つ目を綺麗に仕上げられた。

中々の出来に口田に見せようと思ったけど、そっと口田の手元を覗いたらウチが作った物より綺麗に仕上がったリンゴ飴を見てしまい━━━━ウチは静かにクッキングシートを敷いたトレーへそれを置いた。問題は味。そう。見た目は程々で良い。

 

 

「耳郎さん、今日は格好良かったです」

 

 

三つ目のリンゴを手にした所で、不意に口田がそんな事を言った。最初は何を言われたのか分からなくてぼんやりしちゃったけど、言葉の意味に気づいたら気づいたで何だか照れ臭くて返事が返せない。

これが緑谷相手だったりしたら、「まぁね」ぐらいは冗談気味に返してるんだろうけど。

 

言葉を返せずにいると、口田は何処か慌てた様子で言葉を続けた。

 

「あっ、あのっ!生意気言ってすみません!経験者の耳郎さんからしたら、そのっ、多分、駄目な所とかあったなぁとか思うと思うんですけど、でも僕は聞いてて凄いなって思ったし、楽しそうに歌ってる姿とか元気づけられたし、曲も歌も綺麗でまた聞きたいなって思って、だから━━━━こうやって、僕達も見える場所で、音楽を続けてくれたらなって」

 

そんな口田の話を聞いて、お父さんの言葉をまた思い出した。ライブ中に頭を過っていった『好きにやって良い』なんていう、簡単で単純で・・・・けれど、私の背中を押してくれた力強い言葉が。

 

「━━━うん、続ける。これからだって、ずっと。ヒーローになったって続けるよ。だって、好きだから」

 

きっとヒーローというものに負けないくらい、私は音楽が好きだ。歌うのも、楽器を弾くのも、曲を書くのだって最高に楽しくてしょうがない。あの舞台の上ではっきりとそれが分かった。

 

だから、これからだって続けてく。

誤魔化したり言い訳したいしないで、堂々と好きだって胸を張って言えるように。

精一杯に。

 

「また聞いてよ。今度はもっと凄いの聞かせてあげるからさ!」

 

そう笑って伝えたら、口田は頷いてくれた。

コクコクと、何度も。

 

 

 

 

それから口田とリンゴに飴を絡める事暫く。

残り一つとなった所で、漸く上鳴が汗だくで帰ってきた。飴を絡めながら聞けば、相澤先生が中々捕まらなかったらしい。最終的にオールマイトから外出許可を貰ってスーパーへ行ったとか。

 

そんな訳ですっかりくたくたになった上鳴だけど、足腰をプルプルさせながらもリンゴ飴作りはやりたがった。どうしてもというので作りかけだった最後のリンゴを渡せば「任せろ!」と意気込んで飴を絡め始めた。駄目なのが出来上がりそう・・・・と思っていたんだけど、小癪にもウチより手際が良い。仕上がったら普通に最初に作った物より綺麗な物が出来上がりそうで、何だか釈然としない気持ち。

 

「そう言えば上鳴。あんた、緑谷になんて騙されてきたの?」

「そうそう、実はさ・・・・って、何でだよ!騙されてないからな、別に!一昨日さ、リンゴ抱えてる緑谷見つけてさ、何すんの?って聞いたらエリちゃんのお土産作るっていうじゃん。じゃぁ手伝うか、ってそんな感じ?いやぁ、最初は俺がやるつもりだったんだけど、緑谷のやつ全然信用してくれなくてさぁ~失礼な奴だよなぁ~たくさぁ~」

 

「・・・・ごめん、どうせ碌でもない理由だろうなとか思って」

「・・・・ぼっ、僕もごめんなさい。脅されてるんだろうなって、勝手に思ってて」

 

「君らの俺のイメージってなんなの?泣くよ?」

 



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これが永遠の別れだとは思わないから…だから、私はさよなライオンは言わないよ。さぁ涙を拭いて、笑顔を見せて。そう、またネズミイルカ。………だから、またネズミイルカ。ネズミイルカだってば!の巻き

連休・・・・?なにそれ、美味しいの?(挨拶)

更新遅くごめんね!暫く感想も返せてないし、はぁぁぁぁ!はくびしんは悪い子!まったくもって悪い子!!ドアの閉まる所に手を挟んで、バターんのお仕置きします!やっぱり痛そうなので止めておきます!


エリちゃんと散々に遊び回った文化祭。

楽しい時間はあっという間に過ぎていき、時刻はとうとう五時を迎えた。正直遊び足りない気がしてならないが、時間は有限なのだ。こればかりは嘆いても仕方ない。

そんな文化祭終了まで残り僅かとなった頃、私達はミスコンの結果発表を見に行った。優勝は私の予想通りねじれんパイセンだった訳だが・・・・。

 

『参加登録が無かった為、無効票となりましたが!!三位と10票差に迫る投票数を獲得し!!審査員特別賞を受賞した、彼女にも盛大な拍手をお願い致します!!』

「みんなぁぁぁぁぁぁ!!投票せんきゅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

なんか、私も受賞した。

司会から渡されたマイクを手に全力で挨拶してやれば、取り敢えず雰囲気に乗った会場の皆から、盛大な歓声が返ってくる。口笛があちこちから吹かれて、拍手の雨が降り注ぐ。

 

はぁぁ、気持ちええぇぇ!!可愛すぎる私なら当然の反応だけど!!やっぱこれだよね!

 

集まる視線と歓声に身震いしてたら、ふとステージの端っこでお茶子と手を繋いだエリちゃんが目に入った。

私は折角なので手招きして二人を呼び寄せる。お茶子はひきつった笑顔を浮かべながらも、その会場の雰囲気に呑まれてエリちゃんの手を引いてやってきた。

私はお茶子からエリちゃんを預かると、エリちゃんと一緒に会場へ向けてセカンドサンキューを放った。

ありがとうぉぉぉぉぉぉ!!そのうちバンド組んでCD出すから一人百枚買うんだぞぉぉぉぉ!!!私のファン共ぉぉぉぉぉ!!おらに印税生活させてくれぇぇぇぇ!あ、お茶子!どこに行く気だ!!何逃げようとしてんの!ほら、一緒にセンキューするんだよぉ!!

 

『いやぁ!!見事な笑顔!!微塵もこの結果を疑っておりませんね!異常な結果過ぎて開票してた連中が発狂してたんですがね!しかし、気持ちが良い程ナルシストですねぇ!!体育祭の時から思っていましたが、彼女は根っからのエンターテイナーなんですかね!どうですか解説!』

『まぁ、私はですね、可愛ければ何でも良いと思いますよ。A組のステージ見ました。ドレスのチラリズムと、衣装チェンジした後のムチっとした短パンが素敵でした。後で握手して欲しいです。ニコにゃんのCD買います』

『気持ち悪いコメントありがとうございます!一緒にされたくないので、明日から僕に対して他人行儀に接して下さいね解説!!━━━━では、これにて雄英文化祭ミスコンの全プログラム終了となります!皆さん最後に、美しき出場選手の方々へ盛大な拍手をお願い致します!!』

 

再び会場に万雷の拍手が鳴り響く。

優勝したねじれんパイセンや豪華パイセン、イッチーや他の出場選手が手を振れば、歓声も拍手もその勢いを増して大きくなっていく。

エリちゃんは私と一緒にそれを受けながら、他の皆と同じように手を振った。また少し、聞こえてくる音が大きくなった━━━━━

 

 

「━━━じゃないわ!!なんで、参加もしない癖に、ちゃっかり実質四位になってんだっつーの!!」

「あだだだだだだだ!!割れるぅ、頭が割れるぅ!!ギブギブ!!ごめんて、罪作りなほど愛らしく可愛いワールドワイドな美少女で!!」

「欠片も反省してないでしょうが!!」

 

━━━━で、ミスコンが完全に終わると、三位のイッチーにヘッドロックかまされた。小脇に挟んで頭を絞める、サイド・ヘッドロックだ。ゴリラと言っても過言ではないイッチーの腕力に、私の繊細な頭蓋骨は簡単に悲鳴をあげる。割れちゃぅ!らめぇ、脳みそ出ちゃうぅ!

 

「こっちはドレスなんて着させられて!!シュシュっとケンドーとか囃されて!!恥ずかしい目に遭いながら頑張ってるっていうのに、何横から特別賞持っていってんだ!マジで!」

「あだだっ!わ、分かる!気持ちは分かる!でも、これ、私のせいじゃなくね!?勝手に投票した奴等が悪いじゃん!!」

 

怒る理由も分からなくはないけど、本当に何もしてないから怒られても困る。マジで。

ミスコンの運営委員会が調査した結果、体育祭でのエンターテイナーっぷりを覚えられてた事もあって、パフォーマンスタイムが無かったにも関わらず私は参加してると思われてたらしい。投票した奴の大半がA組バンドでやった私のパフォーマンスは見ても、肝心のミスコンを見逃したり途中から見に行ったりしてる奴等ばかりだったそうだ。中には参加してない事に気づいていながら、それでも投票した猛者もいたとか。

 

そんな奴等があまりに多く、結果として四位につけられるレベルで集まってしまった。大会規約的に無効票にするしかないが、それだけ支持を受ける私に何もしない!とはっきり言えるほど運営委員会は肝が据わっておらず、何かしら賞を与えて支持者達に納得して貰おう・・・・となって、審査員特別賞らしい。

 

よって私のせいではない。

敢えて悪者を探すなら投票用紙をマークシートみたいな予め選択肢を用意するタイプにしないで、自由に書けるタイプにした運営委員会だと思う。

ファン達?ファン達は仕方ない。仕方ないっちゃ仕方ない。

 

「ふふふ!仲良しね二人共!私達も交ぜて!」

 

いつの間にか豪華パイセンと女の友情を築いてたねじれんパイセンが近くにいた。その腕の中にエリちゃんを抱き締めながら、ニコニコとご満悦である。

イッチーはその二人の姿を見ると苦虫を噛み潰したような顔をした後、私の頭を締め付ける腕を外して苦笑を浮かべる。痛かった、割れちゃう所だった。

 

「いえいえ、止めといた方が良いですよ。先輩が態々やるほど楽しい事でないので。やっほ、エリちゃん。元気そうだね」

 

気持ちを入れ換えて出した挨拶にエリちゃんがペコリとお辞儀をした。「イッチーさん綺麗だったよ」と続けてエリちゃんが言えば、イッチーの顔がふにゃっと柔らかく笑う。

 

「ね!本当に!エリちゃん、私はどうだった!?」

「えっと・・・・あのね・・・ねじれんパイセンさんも、凄く綺麗だったよ?」

「そっかぁ!ありがとう!嬉しい!」

 

飾り気のない言葉だけどエリちゃんには分かりやすかったみたいで、頬を染めてテレテレする。可愛い。

そんなエリちゃんの頭を撫でながら、ねじれんパイセンはこっちを見てきた。

 

「そうだ、ニコも特別賞貰ったのよね!去年はそんなの無かったから、私ビックリしちゃった!おめでとう、ニコ!」

「どうもでーす。一番びっくりしてるのは私だと思うんですけどねぇー」

「ニコもびっくりなんだ!ふふふ、お揃いね!出展品の撤収作業で絢爛崎さん帰っちゃったけど、ナイスパフォーマンスって褒めてたわ!来年は一番目指してみて!私ね、きっとニコなら優勝出来ると思うの!」

「あざーす。ですよねぇー」

 

軽く返した言葉にイッチーがジト目を向けてきた。

背後にいる皆からも視線を感じる。

チラっとかっちゃんを見てみれば、面倒臭ぇことやろうとしてんじゃねぇ糞が!みたいな鋭い視線ぶつけられた。なんでや、かっちゃん。そこは『お前がナンバーワンだ』ってヨイショするとこじゃない?何の為の幼馴染枠なん?あ、いや、想像したら寒気がした。言わないで、やっぱり・・・・まっ、結果の分かってるミスコンなんて出る気ないんですけどね!既に最強の美少女として殿堂入りしてる私が参加するのはレギュレーション違反だしね!ふははははは!!・・・ん?あれ、出場してた人達だよね?なんで囲むの?なに?なんなん?胴上げ?えっ、なっ、あああッッーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

怖い笑顔を張り付けた出場選手達に揉みくちゃにされた後、そろそろエリちゃんが帰りの時間なので校門へと向かった。文化祭終了の放送が流れた後ではあったけど、行き交う生徒達からは冷めやらぬ熱気がまだ漂ってる。

そんな人混みを抜けて校門まで辿り着けば、相変わらず気だるげな我らが包帯先生とリンゴ飴隊が待っていた。リンゴ飴隊の隊長である耳郎ちゃんの手にはリンゴ飴1つ入れるにしては大き過ぎる紙袋が握られてた。

 

「・・・・やっと来たか。10分の遅刻だ、緑谷」

「さーせんしたぁ!道に迷ってました!」

「バレる嘘を堂々とつくんじゃない」

 

冷たく言い放った包帯先生はエリちゃんに歩みより、手の届く場所まで来るとしゃがみ込んで目を合わせた。見たことない優しい目付きに、ニコちゃん憤慨である。ずるい、私にもその目を向けて欲しい。チョーク投げないで欲しい。

 

「文化祭、楽しんで貰えたかな?緑谷が迷惑を掛けてなければ良いんだが」

 

聞いた事ない穏やかな語り口に、エリちゃんは力強く頷く。包帯先生の物言いには腹立つけど、喜んで貰えたのを聞けたのは良かった。包帯先生の物言いはあれだけど。本当に、あれだけど。

 

そんな二人のやり取りを横目に、私は私で耳郎ちゃん達から例の物を受け取った。ずっしりとした予想外の重さにこっそり話を聞くと私が予定してたリンゴ飴二つに加え、耳郎ちゃん達でフルーツ飴を用意したとの事。

やはり、出来る女じゃったか・・・・。

 

ちょっと耳郎ちゃんの両隣にいる男共を見てみた。

上鳴は相変わらずの間抜け面だったけど、チャックマン口田は私と目が合うとバツが悪そうに視線を逸らした。額に浮かぶ汗やほんのり赤く染まった頬、耳郎ちゃんに向けた視線の熱っぽさから『何かやったな!』っと察したけど、今は黙っておいてやろうと思う。後で洗いざらい吐いて貰うが。こら、お茶子!梅雨ちゃん!ニヤニヤしないの!バレちゃうでしょ!

 

「・・・・ん?緑谷、なにその顔?麗日も梅雨ちゃんも。何でも良いけど、早くエリちゃんに渡してあげなよ」

「うん?そだね。うんうん、そだねーー」

「?」

 

まぁ、この耳郎ちゃんの様子を見ると、大した事やってなさそう。耳郎ちゃん乙女力高い上に嘘つけないから、何かあったら絶対顔とか態度に出るもんね。

 

取り敢えずこっちの恋路は置いといて、包帯先生との短いコミュニケーションを終えたエリちゃんの肩をトントンする。エリちゃんは何の疑いもなく振り返り、肩の所にセットしてある私の人差し指へ頬をプニらせた。

きょとん、としたのも束の間。悪戯された事に気づいたエリちゃんが楽しそうに笑った。

 

「やーい、引っ掛かったぁ」

「うん!ひっかかっちゃった!えへへ」

 

可愛い、天使かな?天使だな。普通は怒る所なんだけど、まっいっか。楽しいならそれで。

時間もないのでサクッと一度抱き締めてから、私は耳郎ちゃんから貰った紙袋を手渡した。不思議そうな顔をしたエリちゃんに開けてごらん?と伝えれば、恐れる恐る紙袋開いて中を覗いた。最初は中身を見ても疑問符がついてそうな反応だったけど、手に取ってまじまじと見た後で目がキラキラし出す。

 

「ふたこさん、これ・・・・リンゴ飴?」

「いえす、サプライズ!」

 

前遊びに行った時、夏祭りの写真見せながら軽く教えたけど、どうやらちゃんと覚えてたみたい。なにこれ?とか言われなくて良かった。

そんなエリちゃんとは違う意味で、側にいた黒豆パイセンが驚いた。

 

「リンゴ飴!?売ってた!?俺探したよ!?」

「売ってませんよ。言い出しっぺなんだから、それくらい確認しといて下さい。事情話したら運営の人普通に教えてくれましたからね、今年はリンゴ飴の出店はないって」

「・・・・そうか。言われてみればそうだね。盲点だった。でも、これだけ気を回して動ける人が、なんで廊下で正座させられてるんだろう。俺、不思議だよね」

 

・・・・・・・・んにぇ。

いや、それはそれ、これはこれだから。

少しも関係ないからね。うん。

 

「その熱意と行動力を、僅かにでも学業へ向けてくれれば、俺達教師も苦労しないで済むんだがな・・・・」

 

はぁー、黒豆パイセンの声に混じって、なんか幻聴が聞こえるなぁー!包帯先生とよく似た幻聴が聞こえるなぁーーー!不思議だなぁぁーー!!

 

幻聴は銀河の彼方へとぶっ飛ばしておいて。

エリちゃんが手にするリンゴ飴の包装をとってあげた。可愛いクマの絵柄の入った包装はエリちゃんが捨てたくないというので紙袋の中へ軽く折っていれてあげる。

少しの間リンゴ飴を見つめた後で、エリちゃんはそれに齧りついた。リンゴ飴には小さな痕がついて、エリちゃんの口の周りには食紅の赤が滲む。

 

何かを確かめるように口をモゴモゴさせるエリちゃんに、黒豆パイセンが目線を合わせて口を開いた。

 

「どう、リンゴよりさらに甘いでしょ?」

 

笑顔と一緒に掛けられた言葉にエリちゃんは口の中の物を飲み込んで、それから嬉しそうに笑った。

 

「うん、さらに甘い」

 

黒豆パイセンの真似をして。

本当に嬉しそうに。

 

 

それから少ししてエリちゃんは黒豆パイセンと包帯先生に連れられて病院へと帰っていった。

リンゴ飴を手に笑顔で帰ってくエリちゃんに、お別れの言葉は掛けてない。ただ一言「またね」とは言っておいたけど。




双虎、エリちゃんとバイバイ中~


もちゃこ「マタネズミイルカってなんやろ・・・」
ととろき「マタネズミイルカ・・・・か。俺も知らねぇが、多分尻尾が二股に分かれたイルカとか、そんなじゃねぇか」
キリシマン「マジかよ、轟。そんなのいんのか、博識だな」
ウェイ「へぇ、そんなんいるのか。口田とか動物詳しいじゃん何かしらねぇ?」
(´・ω・`)「・・・・・?」

梅雨ちゃん「盛り上がってる所悪いのだけど、私はネズミイルカだと思うわ。よく家のお父さんがいう親父ギャグそっくりだもの。またね、の"ね"と、ネズミイルカの"ネ"を掛けたのよ。きっと」
じろちゃん「梅雨ちゃん、そういうのは解説したら駄目なやつだから」


かっちゃん「・・・・はぁ、くだらねぇ」


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きっとそれは終わりで、きっとそれは始まりの物語。の巻き【前編】

大分遅れて済まなんだ(´・ω・`)

踏ん切りついたけんよぉ。


「━━━━━皆!!飲み物は行き届いただろうか!!よし、では!!我々のライブ!文化祭での成功を祝して!細やかではあるが慰労会を始めたいと思う!!乾杯の音頭はクラス委員長である僕、飯田天哉が取らせて頂こうと思うが良いだろうか!!」

 

オレンジジュースの入ったコップを持つ眼鏡が、胸を張ってそんな事を聞いてきた。てっきり乾杯の言葉が出てくると思って用意していたので、なんか肩透かし感がすごい。水を差された気分である。

沢山のお菓子や料理が並ぶテーブルを囲むよう並び立ち、カラフルなコップが手に乾杯の音頭を今か今かと待っていた皆からも「そんな事いちいち許可とるなぁー!」とか「真面目も程々にしろー!」とかブーイングが飛ぶ。

眼鏡はその様子を見て慌ててコップを天井へと掲げた。

 

「よ、よし!では乾杯だ!!皆、お疲れ様でした!!」

 

「「「「乾杯ーー!!」」」」

 

眼鏡に続くようにカラフルなコップが高く掲げられ、楽しげで元気な返事が返っていく。

文化祭の片付けも無事終えて迎えた時刻19時30分。包帯先生からGOサインを何とか貰った私達は、寮の共有スペースで文化祭の打ち上げを開催していた。

強制解散となる21時になるまで、飲むだけ飲んで、食うだけ食って、歌うだけ歌って、楽しめるだけ楽しむ所存である。・・・・そう、宴だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!はははは!あしどん女子みんなで歌うぞ!!なんか選曲してぇ!!轟ぃ、お菓子をもてぇい!よし苦しゅうないぞ、かっちゃん!!ジュースのお代わりをつぐ栄誉を与え━━━━━━あだだだだだだ!!アイアンクローは、いらないんですぅ!ジュースが欲しいんですぅ!!氷いっぱい入れたやつが欲しいんですぅ!お願い、なんか言って!無言でアイクロでしないで!!

 

 

最初にそれを思い付いたのは、どっかの髭面が調子こいたメールを送ってきてガチムチ達がその対応に動き出した頃だった。何となく思い付いた。宴しなきゃ、と。

今になって思えば紳士マスクや文化祭の準備とか、やらなきゃいけない事が色々と立て込んでてストレス溜まっていたのだと思う。紳士マスクのせいで遊びにいけないし、皆文化祭の準備で遊んでくれないし・・・・ストレス発散したくて仕方なかったんだと思う。

元凶ぶっ飛ばして、ステージで踊って、エリちゃんと遊んで大分スッキリした今なら分かる。この一ヶ月遊び足らなかったのだと。来月は遊ぶぞ、この野郎。

 

まぁ、そんな訳で、この一ヶ月は隙あらば包帯先生に媚び売りまくった。授業では常に起きていたし、真面目にやってると見せる為に授業中質問もしたりもしたし、出された宿題はちゃんと全部写させて貰ったし忘れずに提出し━━━━それを全力で、包帯先生にアピールした。マイ猫ファイルの中でも秘蔵の一品引っ張り出して献上し、我が家のアザラシも唸るプロ級の肩揉みでお疲れの肩を揉みほぐした。ぶっちゃけ、肩揉みはうざがられたけど・・・・それでも私の熱意が伝わったのか、すごい嫌そうな顔だけど条件付きで許可が貰えた。打ち上げの場所を寮内にする事、打ち上げの責任者にかっちゃんとお茶子を付ける事、指定した終了時刻に解散する事などなどだ。

責任者にかっちゃんとお茶子を態々付けるというのは、若干思う事もあるがセニハラという物だ。浮かんだ文句を飲み込んで、こうして宴を迎えたのである。

 

 

「よっしゃぁ、任せろ!!女子達に負けてられねぇからな!!漢っ、切島鋭児郎!!歌います!!」

 

 

「ウェーイ!やったれ!やったれ!次は俺が続くから、お前の魂の演歌で景気づけてくれよ!!切島ー!」

「ひゅーひゅーーー!切島くんのぉ!ちょっと良いとこ見てみたーい!!」

「歌え歌え!!跳ね板共!!乗りに乗りまくってる、このオイラの!ラブソングを際立たせる為になぁ!!」

「・・・・砂藤、俺ね、峰田はこういう所だと思うんだよね」

「だなぁ。尾白、お前の爪の垢で良いからちょっと煎じてやれよ」

「常闇くんは歌わないのかい?合宿の時の歌なんか僕に負けず劣らず素晴らしかったよ!良ければ、僕とデュエットしてみないかい☆!」

「いや、俺はレパートリーが少ない。歌自体、得意でもないのでな。あの時も悪戯な風に誘われてしまっただけだ・・・・ふっ」

 

だから、もっと私に感謝するべきだと思うんだけど・・・・・こいつら全然敬わないな。私の事。何勝手に男達だけで盛り上がってん。カラオケセットだって、私がラジオ先生から借りてきたのに。女子は女子でお喋りに夢中だし。ちょいちょい、よいしょが足らないぞ?よいしょが。あれだよ、かっちゃんみたいにジュースつぎに来るべきじゃなぃ?腰を低くしながら「へへっ、こりゃ気がききやせんで!」って悪代官と結託する悪徳商人みたいになるべきじゃなぁぁい?

 

「━━━━ね、かっちゃん」

 

ちょうどサイダーを注いでくれてるかっちゃんに視線を送れば、サイダーを入れる手を止めて無言でデコぴんしてきた。強めだった。思わずフゴォォって悲鳴が口から漏れる程であった。

 

「何っ、すんのぉ!いきなり!」

「喧しいわ、ボケが。碌な事考えてねぇって、親切丁寧に顔に書いてあんだよ」

「そんな事考えてませんんんー!私のお陰でぱーちー出来るんだから、もっと私を崇め奉れアホ共めがって、至極当然の事を思ってただけですぅ!!」

「予想を軽々飛び越えてくんじゃねぇよ、馬鹿が」

「━━━あたぁっ!?」

 

またペチンとやられた。

おでこ痛い、一瞬穴が開いたかと思った。

痛みに悶絶してるとお茶子が濡れタオルを持ってきてくれた。そしてそのまま「赤くなっとるねぇー」とヒリヒリしてる所を冷たいそれを当ててくれる。気持ち良い。お茶子はやはり天使じゃったかぁ。

 

「うえーんお茶子ぉー、かっちゃんがいじめんねーん」

「あー、うんー、そうかー、そやねー、そういう事にしとこかー。それより、リンゴ飴もろたよ。ありがと。でもラッピングも可愛いから食べるの勿体なくて、えへへ」

 

そう言うとお茶子はラッピングされたリンゴ飴を見せてきた。紅色の飴を纏ったリンゴが宝石のように艶々と輝いてる。美味しそうというよりは綺麗な感じだろうか。打ち上げの時に皆にあげようと思って材料を用意した身としては、その完成度を誇らしく思う所はあるけど、結局作ったのは耳郎ちゃん達。進んで自慢する気にはならないのが本音だ。

 

「ははは、喜んで貰えて良かった。でも、私は材料用意しただけだしねー。あとそのラッピングに関しては私は何も知らないちんげーるなのよ。耳郎ちゃんの趣味かな?意外と可愛いの持ってるよね」

「そうなんや?・・・・でも、言い出したのも用意したのもニコちゃんやろ?だから、ありがと。大切に食べさせて貰うね」

 

そう言ってニコっとされれば、意固地になるのもどうかと思って笑顔を返しておいた。

 

「そ?んじゃまぁ、どういたまして」

「それをゆーならどういたしましてや。慣れん事は言うもんちゃうね。ふふふ・・・・まぁ、何処の誰かは、慣れんでも、もうちょっと素直に言葉掛けた方がええと思うんやけどねぇーー」

 

苦笑しながらおでこを冷やしてくれるお茶子に、かっちゃんが鋭い視線を送る。かっちゃん程素直じゃない人もそうはいないから、お茶子の言葉は心にくるものがあったのだろう。自覚もしてるだろうし。

まぁ、その分というか何と言うか、態度にも顔にも出るから分かりやすいとは個人的に思うんだけどね。

 

「緑谷、適当に持ってきた。食べるか?」

 

お茶子とかっちゃんが剣呑な雰囲気で見つめ合ってると、眼鏡を引き連れた轟がお菓子山盛りの紙皿片手にやってきた。背筋を伸ばして紙皿の中身を覗いてみれば、私の好みを覚えたのか中々にいいラインナップが揃ってる。

 

「ありがとー、良い仕事じゃ。ほれほれ、隣空いてるよ。お座り、轟丸、眼鏡丸」

「なんか犬みてぇな呼び方だな」

「緑谷くん、君はまったく・・・・せめて名前を呼んでくれないか」

 

空いてる隣をポンポン叩いてみせれば、轟は穏やかな笑みを浮かべながら紙皿をテーブルへと置いた。

そして何故かかっちゃんの様子を見てからテーブルを挟んだ反対側、かっちゃんが腰掛けてる向かいのソファーに腰を下ろす。眼鏡も一緒にだ。

 

「今は、まだこっちで良い」

「?そう?なら、別に良いけど。なんか仲良くなったね、轟とかっちゃん」

「・・・・そうか?だと嬉しいんだけどな」

 

「ふざけんな、誰が仲良くだ。死ね」

 

かっちゃんもこうして元気にツンデレしてるし。

仲良くなったなぁ、この二人。

最初は水と油みたいなもんかと思ってたのに。

 

お菓子摘まみながら話していると、寮の入口からインターホンの音が響いてきた。気づいた百が足早に向かって━━━━直ぐにゾロゾロと人を引き連れて戻ってきた。私が呼んでおいたB組の連中と、目の下に隈を付けた発目だ。「君達と馴れ合うつもりはない!」と元気に喧嘩売ってきた物真似太郎は引き寄せる個性の力で壁とクラッシュアウトして貰い、他の連中へはやっほーと手を振る。発目は生まれたての小鹿の如く足をガクガクさせながらもニヒルな笑みと共にガッツポーズを、イッチー達B組女子ーずからも笑顔と共に手を振り返される。B組男子共からは畏怖の目を向けられた。おう、男共、そこは羨望の眼差しにしとけ。クラッシュしちゃうぞい。

 

「なーに勝手に始めてんのよ。少しは待ってなっつーの。緑谷幹事殿」

「イッチー達こそ何遅れてんのー?こっちは待ちくたびれて萎びちゃう所だったんだけどぉー?」

「劇やったでしょ?そのせいで片付ける物が色々あったのよ。それにしてもよく言う。あんたに萎びる暇なんてないでしょうが。はい、これ、皆からお土産ね」

 

そう言って渡された大きな袋にはお菓子が詰め込まれていた。会費代わりに要求してたけど、思ってたより倍くらい多い。元々こっちが用意した量も合わせれば、2クラス分の生徒がワイワイするには十分な量だ。よきよき。

 

発目にも声を掛けようとしたけど、声を掛ける前に床に突っ伏してイビキをかいていた。無理して来なくて良いって言ったのに・・・こいつは何をしに来たのか。やり遂げた顔して。

取り敢えずお土産だと思われる栄養ドリンクは預かって、はじっこに毛布を掛けて置いておく。部屋のベッドで寝かせる?そんな選択肢はない。運ぶのめんどい。それにどうせ最後に寮へ送り返すつもりだし、取り敢えずこれで良いでしょ。その内復活するかもだしね。

 

「あっ、そうだ。飲み物も一応買ってきたけど、冷えてるのあんまりないんだよね。氷とかある?」

「あるある。いけ!トドロキング!!」

「クラスメートを製氷機みたいに使うな、馬鹿たれ。轟だってそんな使われ方嫌でしょうが」

 

折角良いアイディアだと思って言ったのに、ペシンとイッチーに頭を小突かれてしまった。そんなに嫌なの物かと轟に視線を向ければ、無表情のままだけど「任せろ」としっかり頷いてくれる。

なので『どやぁさぁ』とイッチーを見たんだけど、何故か溜息つかれた。

 

「報われないわ」

「なにが?」

「・・・さぁね」

 

遠い目をしたイッチーだったけど、結局は轟と一緒に氷を準備しに行った。「叩かれ損なんですけどぉー」とお茶子に不満を漏らしてたらB組女子ーずに囲まれて、なんか頭撫でられた。わしゃわしゃされた。私は犬だったかなってぐらいわしゃわしゃと・・・・やり過ぎなんですけども!!髪型崩れるんですけどぉぉぉ!!かっこ怒りぃぃ!!

 

「敵にしたら厄介極まりない奴だけど、このにぶちんっぷりは憎めないわ。あはは」

「切奈の気持ち、分かるマース。同じクラスメイトだと、ベリータイヤードなりそデスけど、こうして見るとキュートデス」

「ん」

「のこのこ♪私は同じクラスでも大丈夫だよー可愛いもん」

「お止めなさい、皆さん。まるで動物のように愛でるなど。彼女にも尊厳というものが」

 

頭ぐわんぐわんされる中、呆れたような溜息が聞こえてきた。ちょっとそっちを見ればレイちゃんがいた。相変わらず幽霊っぽい。

 

「・・・・・そう言いながら、茨も撫でてるし・・・緑谷、一佳から聞いた。打ち上げ計画したの、貴女なんでしょ?誘ってくれて嬉しかった。ありがと」

「んーーー、まぁ、ぱーちーは人多い方が楽しいしさ。どーいたまして」

 

そのままB組女子ーずは頭を撫で回されてると、A組女子ーずも集まってきて悪のりしてきた。一応ぱーちーの事で感謝を口にしてたけど、頬っぺたつついくる様子に感謝の念は感じない。なので、「どうせ弄るなら肩揉んだり腕揉んだりするが良い!」と言ったら、足つぼ本気で押された。死ぬかと思った。

 

そうこうしてるとジュースの用意が出来たみたいなので、皆で揃って二度目の乾杯をした。

皆も揃ったし何をしようか。あれこれ用意したけど、やっぱり最初はあれかな?あれだろうな、あれしかないな!!K●Fで勝ち抜き戦だな!!皆、テレビの前に集まっ、集ま、集まってよぉぉぉぉ!!・・・・・・仕方ない。発目、起きろ。起きてぇ、一緒にやろよぉ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━おい、何してんだ。てめぇは」

 

B組メンバーが合流してから暫く。

遠くから響いてくる打ち上げの喧騒を聞きながら、庭でまったりお月見してたらかっちゃんがやってきた。お花摘みにと出てきた時は男連中と腕相撲大会してたけど、果たして決着はついたのだろうか?B組のですぞが勝ってたら良いな。優勝にチロ●チョコ賭けたから。

やってきたかっちゃんは相変わらず眉間に皺が寄ってる。でも怒ってる訳じゃないっぽい。

 

「どしたの?かっちゃんも休憩?」

「休憩じゃねぇ」

 

かっちゃんは呆れたような顔をした。

そして隣まできて手に持っていた上着を私の肩に掛けてた。ちょっと肌寒い気はしてたので、それ自体はありがたいんだけど・・・そのあまりにも優しい手つきと似合わない紳士的な態度に、感謝より先に不信感が込み上げてくる。

思わず半歩下がると「文句でもあんのか?ああ?」と凄まれた。あっ、いつものかっちゃんだ。良かった。

 

「上着ありがと。・・・・いやでもさ、似合わない事するかっちゃんが悪いと思うんだよね。おらぁ!寒いんじゃぁ、上着でも着とけボケぇ!みたいなのがかっちゃんじゃん?」

「じゃぁ、上着返せや」

「えー、それはやだ。寒いし」

 

伸び掛けた魔の手から守るように上着をぎゅっと握る。するとかっちゃんは舌打ちしながら顔を背けた。

フェイント掛けて取り返しにくるかと思って様子を見たけど、かっちゃんにその気はなさそう。ホッと一息ついてから何となしにスマホで時間を確認すると、もう直お開きの時間だった。かっちゃんがここに来た理由が分かった。どうやらお迎えにきたらしい。

 

「お茶子にでも頼まれたの?お迎えご苦労、褒美を取らすぞよ。何が良い?業務用の唐辛子一キロであるか?」

「いらねぇわ。なんの嫌がらせだ」

「辛い物好きでしょ?」

「味付けとしてはな。別に唐辛子が好きな訳じゃねぇわ。てめぇ、俺が唐辛子で飯食ってたらどう思うんだ」

「頭おかしいなぁって」

「分かってんなら言うなや」

 

そう言うとかっちゃんも私の隣で空を見上げる。

何か言いたげにしてるのに気づいて、そのまま黙って待ってればかっちゃんがゆっくり口を開いた。

 

 

「・・・・・少しは、気晴れたかよ」

 

 

かっちゃんが、そんな事を言った。

月明かりに照らされたかっちゃんの横顔からは、やっぱり怒ってる気配は感じない。いつもは火のついた爆薬みたいな激情の宿った赤い瞳が、今は穏やかに揺れる暖炉の火みたいな優しさの滲む赤に染まってた。

 

「まぁね、スカッとしたよ!元凶はパンチ出来たし、今日は遊び尽くしてやったしね!」

「そうかよ・・・・」

 

短い返事が夜空にとけていく。

私達の話が止まると、そこは酷く静かになった。

何処からか響いてくる虫の音や木々を揺らす風の音は今も聞こえてくる筈なのに、私には会話と一緒に時まで止まったみたいに思えた。世界中から、私達だけが取り残されたみたいだなって。

 

そう思ったら、気づけばそれが口から出ていっていた。

言うつもりの無かったもの。

だけど、きっと、かっちゃんは気づいてしまってるそれを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、ちゃんと出来てたかな」

 



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きっとそれは終わりで、きっとそれは始まりの物語。の巻き【後編】

はぁぁぁぁぁぁぁ、何とか書き切れたぁぁぁぁ!!
おらには、これが限界だぁぁ( ;∀;)




緑谷双虎って馬鹿は、昔からあまり言葉にしない奴だった。無口って訳じゃねぇ、いらねぇ事は幾らでも口から飛び出しやがる。寧ろ喧しいくらいにだ。

 

けれど、肝心な所は全然口にしねぇ。

いつも勝手に抱えて、最後まで一人で走りきろうとしやがる。能力が下手にあったせいで大抵の無茶は独力で何とかしちまうから、その成功経験が更にその悪癖を加速させていったんだろう。

 

かくいう俺も、ずっとそれに気づかなかった。

気づいた時には、こいつは一人で走るのが当たり前になっていた。俺が辿り着くのは何時だって何もかも終わってからだった。困ったような笑顔と、根拠のねぇ『大丈夫』を何度も聞いた。

 

だから━━━━━

 

 

「私、ちゃんと出来てたかな」

 

 

━━━その言葉が聞けたのは、少しは追い付いた証拠なのだろう。それでもらしくないそいつの横顔を見ていると己の不甲斐なさには怒りを覚えるが、それすらも聞けなかった昔を思えば冷静さを欠く程ではなかった。

ずっと側にいた癖に、俺はこの顔すら見れなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん、ニコちゃん知らん?」

 

腕相撲で粗方のした頃、山のように菓子を皿に積んだ麗日が話し掛けてきた。妙な呼び方で。

 

「誰がかっちゃんだ、こら。喧嘩売ってんのか、てめぇは」

「喧嘩は売っとらんて。それより知らん?もうすぐ時間やし、皆で一緒に歌おう思うたんやけどおらんくて・・・さっきお花摘みに行ったんは知ってねんけど」

「あ?・・・っち、あいつ」

 

死穢八斎會との件が終わってから、双虎が何かに悩んでるのは直ぐに気づいた。変にやる気を見せる時は大抵何か余計なもん抱えてる時だ。

原因には心当たりがあった。様子を見てればそれは確信に変わった。あの白ガキの様子を何処か遠い目で眺めてる横顔を見れば・・・・あいつが何を見てて、何を考えてるのかは。

 

「・・・・出てくる。時間までに戻らなかったら、後はてめぇが締めろ。丸顔」

「丸顔て、なんか久しぶりに聞くなぁ。ふふ、かっちゃんゆーたお返しなん?」

「っせぇ、やっとけよ」

「うん、ニコちゃんの事よろしくね」

 

双虎の奴を探して騒がしい部屋から出て直ぐ。

廊下の壁に背を預けぼさっとしてる轟の姿を見つけた。

何してんのかと視線を向ければ、丁度こっちに気づいたらしい轟のやつと目が合う。

 

「━━━庭の所にいる」

 

一言呟くように言うと、轟は背を預けてた壁から離れ未だに騒がしい部屋の方へと歩いていく。

通り過ぎていった妙にすかした面が気に入らなく、気づけば俺の口から声が溢れていた。

 

「てめぇは、良いのかよ」

 

自然と漏れた言葉に、轟の足が止まった。

 

「・・・・俺は、いい。俺が言っても、あいつは話さないだろ。頼む」

「・・・てめぇに頼まれるまでもねぇわ」

「だろうな」

 

それだけ言うと振り返る事なく轟は廊下を進んでいった。声を掛ける気にはならなかった。癪ではあるが、その湿気た背中に、固く握られた拳に、身に覚えのある感情を見たからだ━━━━まぁ、だからと言って助け船を出してやるつもりはもっとねぇが。

どうせ放っておいても勝手に立ち直って、勝手に追い駆けてくる奴に気を使うだけ馬鹿らしい。

 

そうして庭に出ると芝生の上で立ち尽くした双虎を見つけた。冬が近づいて肌寒くなってきたって言うのに、半袖で空を眺めながらぼんやりとしてやがる。

引子さんから宜しくと言われてる手前、風邪を引かすのもあれかと思い着てた上着を脱いで側へいった。

 

「おい、何してんだ。てめぇは」

 

そう声を掛けると双虎の視線がこちらに向いた。

少しだけ目を見開き驚いてる様子だったが、直ぐに目が優しげな弧を描いた。

 

「どしたの?かっちゃんも休憩?」

「休憩じゃねぇ」

 

馬鹿にさっさと上着を掛けると、また驚いたような表情を浮かべる。そして何を思ったのか半歩逃げやがった。何か言いたそうな顔に「文句でもあんのか?ああ?」と凄んでみれば、何故か安心したような顔をされる。

その表情にカチンときたが、文句を言うより早く双虎が口を開いた。

 

「上着ありがと。・・・・いやでもさ、似合わない事するかっちゃんが悪いと思うんだよね。おらぁ!寒いんじゃぁ、上着でも着とけボケぇ!みたいなのがかっちゃんじゃん?」

「じゃぁ、上着返せや」

「えー、それはやだ。寒いし」

 

いつもと同じやり取りをしながら、その軽口を聞きながら隣にいる双虎の様子を見た。からかうような仕草も、楽しそうな笑顔も、軽快に紡がれる言葉も・・・・いつもと変わらないように見える。

 

だがその目だけは違っていた。

後悔に染まった瞳の色だけは。

 

「・・・・・少しは、気晴れたかよ」

 

俺の言葉に双虎が僅かに肩を揺らした。

振り返った顔に、その二つの瞳の中に俺が映り込む。

双虎は少しの間を置いてまた笑顔を浮かべた。

 

「まぁね、スカッとしたよ!元凶はパンチ出来たし、今日は遊び尽くしてやったしね!」

「そうかよ・・・・」

 

本当にそう思ってるなら良い。最後まで誤魔化すつもりならそれでも良い。何を選ぶにしろ俺が選ぶ道は変わらない。こいつの側を離れるつもりはねぇ。

だが、俺にはこいつが何かを話したがってるように見えた。そして少し待ってやれば、それを口にした。

 

 

 

 

 

『私、ちゃんと出来てたかな』と。

 

 

 

 

 

何に対してなんて事は聞くまでもなかった。

言葉を発してから双虎が見つめたのはあの日、個性を暴走させる白ガキへと伸ばされかけた掌。

なんて事はない、端から文化祭もヴィランもこいつは眼中になかったんだろう。文化祭の準備に勤しんだのも、ヴィランと対峙したのも━━━━たった一人、白ガキの為だけ。こいつは、あの時の罪滅ぼしがしたかっただけだ。

 

手間の掛かる事が大嫌いなこいつが、打ち上げを一から企画するなんてのがその証拠だ。他の連中の気持ち利用するような真似して、後ろめたい気持ちがあったんだろう。

 

あの日、飛び込もうとしたこいつを止めた事に関して、俺に後悔はねぇ。白ガキの個性はあまりに不安定で力が強過ぎた。不用意に触れていれば、最悪だってあり得た。イレイザーヘッドの協力もあり個性の暴走は止まり、結果的に怪我もなく保護が出来た。今日の様子を見れば、まだ全部が解決出来たと言えなくとも、笑顔を浮かべられる程度は救われた事が分かった筈だ。それまでの経歴、暗いあの無表情を考えれば、この短時間でそうなれたのは上出来だ。出来すぎと言っても良い結果だろう。

 

 

「大丈夫かな、エリちゃん。笑ってはくれたけどさ」

 

 

だが、それでもと、こいつは思うのだろう。

こいつは昔から傲慢で、我が儘な奴だ。

望んだ物でなければ納得しない。

 

 

「それで十分だろ」

「そだね・・・・でもさ、思うの。どうしても」

 

 

あの場所にいたのが本当のヒーローなら、ちゃんと助けてあげられたんじゃないか━━━━そう言って双虎は月を見つめる目を細めた。

 

 

「・・・・私さ、かっちゃんに止められたから止まった訳じゃないんだ。それは切っ掛けにはなったけど、結局手を伸ばさなかったのは私自身の判断。勘だけど、近寄るの危ないと思ってさ」

 

「馬鹿か。あんなもんに触れてたら、それこそ何があったか分からねぇだろうが。何も間違ってねぇよ」

 

「あははは・・・うん、そだね。そう思うよ。でも、でもさ、私はあの場所に、エリちゃんの為にヒーローとして行ったのに・・・・酷い話じゃん、助けなきゃいけない子に、手も伸ばせないなんて━━━━」

 

 

そう言いながら双虎は空に掌を翳した。

月明かりに照らされた双虎の指が淡く白く光る。

誰かの為に伸ばされて、誰かの為に握られてきた筈のその指は、今は酷く細く頼りなく見えた。

 

 

 

 

 

「━━━━━━かっちゃん、私さ、ちゃんと目指してみようと思う。ヒーローってやつ」

 

 

 

 

 

苦手だと聞いた、嫌いだと聞いた、怖いのだと聞いた。

それでも俺はこいつが、いつかそうやって自分から言い出すんじゃないかと心の何処かで思っていた。

おかしい事じゃない。こいつは言葉や形にしなかっただけで、昔からずっとそういう奴だった。だから側に置いておきたかった。

 

「・・・・・・そうかよ」

「うん、そうなのだよ。ふへへ」

 

そして、こいつがそれを選択する事も。

 

 

「それでね、私さ━━━━」

 

 

双虎の言葉を遮るように、首から下がっていたそれを服の中から引っ張りあげて見せてやった。

取り出したのは細工も何もない、シンプルな銀の筒が下がっただけのロケットペンダント。それ自体は珍しくもなければ特別高くもない、ただのアクセサリーでしかない。

それが分かったのか、双虎は飾り気も面白みもないそれを見て不思議そうに首を傾げた後、説明を求めるように俺の目を見つめてくる。

 

 

「お前の出番はねぇ、これは俺が託された物だ」

 

 

ただ一言そう言えば、双虎がポカンと口を開いた。

けれどそうして呆けていたのは僅かの間だけ。直ぐに気づいたんだろう。これがなんなのか。

双虎はそれを眺めながら複雑な表情を浮かべて「そっか」とだけ呟きまた月に視線を向けた。

 

 

「・・・・・かっちゃんが、継ぐんだ」

 

 

「まだ、そのつもりはねぇ。少なくとも、俺の力で頂点取るまではな」

 

 

「なにそれ、格好つけてんの?成れるんなら早くにした方が良いよぉー。ガチムチの話聞いてると即行で使えるよ、みたいな感じだけど、絶対そんな事ないから。代を重ねる毎に出力上がるなら、そもそもガチムチの時と勝手が違うだろうし━━━━あとガチムチって完全に天才型じゃん?アドバイスとか期待出来ないよ、あれは」

 

 

「分かっとるわ」

 

 

「それにさ、今はヴィランが大きく動いてるじゃん。いつ何があるか分からないんだし、使える物は早く使えるようにした方が良いって。まだ使わないんなら━━━」

 

 

「言ったろ、これは俺が託された。てめぇじゃねぇ」

 

 

それが合理で言われた事だろうが、こいつの我が儘だろうが関係はない。こいつにこれを渡すつもりはない。

てめぇの為だと良いながら、誰かの為だけに平気で危険に飛び込むような奴には、たとえどんな条件出されようと、どんな面で言われようと。

 

 

「━━━それに、もし、仮にそういう時が来ても、これを使うのは俺だ。俺の役目だ。それとも、俺の事は信じられねぇってのか」

 

 

「そんな事言ってないじゃん・・・・うん、分かった」

 

 

小さく頷いた双虎から、俺は月へと視線を戻した。

煌々と輝く、少し欠けたその月を。

 

 

 

「てめぇは、てめぇの守れる範囲で力を尽くせ」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「てめぇの力で足りねぇなら周りの人間使え。てめぇは得意だろうが、人使うのはよ」

 

 

 

「ふふ、さいてーな褒め言葉ありがとー。でも、そうだね。そうする」

 

 

 

「それでも手が届かねぇもんは、俺が全部守ってやる」

 

 

 

ジジイが言ってた"いつか"の話じゃねぇ。

こいつが望むなら、今だろうと。

 

 

 

「・・・・・それで、かっちゃんが無理したら意味ないじゃん」

 

 

 

返された小さな声は少しだけ震えていた。

いつか聞いた物と同じように。

だから、あの時と同じ言葉を返してやった。

 

 

 

「言ったろ、怪我もしねぇよ」

 

 

 

不意に、俺の肩へ双虎が頭をのせた。

顔を動かさず目を向ければ、少し頬を赤く染めて嬉しそうに笑う双虎の姿があった。

 

「・・・・出来ない約束は、するもんじゃないと思うけどなぁ━━━━━でも、ありがとね。かっちゃん。見てるから、ちゃんと」

「・・・良く見とけ、目離さないでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あーーーお前ら、校内では不純異性交遊は認められてないからな。節度は弁えろよ」

 

そっと背後から掛けられた担任の言葉に、俺達はどちらともなく無言で離れた。

 

「包帯先生、オ帰リ、早イッスネー!ヨッ、韋駄天!疾風迅雷!新幹線!」

「適当な持ち上げ方をするな、何処の三下だ。打ち上げの方はそろそろ終了時間の筈だが片付けは・・・・明かりが落ちてるな。もう終わったのか。お前達、続けてもいいが消灯までには戻れ」

「続キ?ナンノ事ナノカ、双虎ニャン分カラナイニャン!眠イカラ帰ルニャン!!」

 

耳まで真っ赤にさせた双虎はブリキの玩具のようにギクシャクしながら帰って行った。

担任はその様子を見た後、俺に何とも言えない視線を向けてきた。視線で口を開くなと伝えた、が担任はバツが悪そうに口を開いてくる。

 

「・・・・・悪かったな」

「気ぃ、使ってんじゃねぇよ・・・・クソが」

「・・・・まぁ、なんだ、次はタイミングぐらいは計ってやる」

「次なんざあってたまるか、ボケが」

 

担任と別れて寮に帰ると、目をキラキラさせた馬鹿島を見つけたので腹いせにボコっておいた。

後悔は、微塵もねぇ。

 




次っ回━━━予告ぅ!

紳士の皮被ったベランを蹴散らし!
文化祭を大成功に導き!
か弱い女の子の笑顔を守った!

不屈の乙女力の持ち主にして!
完全!究極!天才!美少女!
希代のスーパーアイドル緑谷双虎ちゃんの元に訪れる新たな騒動の予感!

何がが大きく変わろうとするその時の中!
私はそこに何を見るのか、何処へ向かうのか!
そして私の平穏で楽勝な印税生活は果たして本当にくるのだろうか!無理な気がしてきた!



次回、第一部最終回

『危うくタイトル詐欺になりかけた私の、楽しい英雄物語』



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危うくタイトル詐欺になりかけた私の楽しい英雄物語!の巻き

始まったものは必ず終わる。どんな旅もいつかは終わる。人は、その終わりにどこに辿り着くのか・・・(ガンソード味)。

シリアス「最後に人の言葉使いやがった、こいつ」
シリアル「素敵やん?」
シリアス「全然素敵ちゃうで」


激動の文化祭から一夜明けて迎えた、文化祭の振り替え休日。

 

 

「━━━━はぁ、引退ですか?そうですか。お疲れ様です。まぁ、それは一旦おいておいて、かっちゃんがガチムチの後継ぐ気満々グースなので、わんほぉの使い方とか、個性についてその他諸々詳しく教えて下さい。どうせガチムチも良く分かってないんでしょ。期待してませんから、知ってる事だけ吐いて下さい。はよ」

「あれ!?一旦置いとかれる話してるつもりはないんだけど!?私としても結構ドキドキして・・・というか、さらっと別の爆弾投げ込まないで!!爆豪くん継ぐ気になったの!?本当に!?何も聞いてないんだけど!?」

 

 

二度寝し、三度寝し、四度寝し━━━これ以上ないくらい怠惰で優雅な朝を過ごした私は、お昼ご飯という名の朝ご飯を食べてから人気の少ない校舎を訪れた。そしてフラフラしてた暇そうなガチムチを捕まえていつもの休憩室へと直行した。

そしてそして、これまたいつものように、ほぼガチムチ専用と化した冷蔵庫から炭酸ジュースとガチムチ用にお茶を引っ張り出し、側の棚に隠してある茶菓子も取り出し、真面目なお話へと洒落込んだ次第である。

 

ガチムチの引退宣言は怪我の具合から分かりきってた事なので早々に打ちきり、右手に茶菓子を左手にジュースを構えながら、改めて昨日の出来事について順を追って説明した。一通り話終えた頃、ガチムチは「そうか、彼が」と感慨深そうに呟いてお茶を啜る。

 

「いや、そうか・・・ではないですから。何勝手に私以外にも勧誘掛けてんですか?私に一言もなしに。私、オコですからね。地味に。おかしくないですか?普通、先に私に言ってるんだから、事後承諾でも何でも一言くらいなんかありません?かっちゃんに言ったよー、託したよーみたいな」

「えっ、ああ、そ、そうだね。ごめん。確かに君にちゃんと伝えてなかったのは悪かったと思うよ。でも君は継がないと言っていたし、それに爆豪くんから直接聞くと思って・・・・」

「聞きましたよ!昨日!びっくりしましたよ!!私に掛かってたオファーがかっちゃんにも掛かってて!!しかも、もうかっちゃんやる気満々で!やっと、こっちがっ、こ、っち、が━━━━━━」

 

昨日のかっちゃんとの事を思い出すと、妙に格好良く見えたあの横顔が頭を過っていった。

そしてその後の、包帯先生に見られた迂闊な自分の姿も想像して・・・行き場のない、言葉に出来ない色んな感情が込み上げてきて、身悶えせずにはいられなかった。

 

「うがぁぁぁぁぁあああああ!ああああああああ!!はあああああぁぁぁぁぁ!!」

「!?!?ごっ、ごめん!本当にごめん!軽率だった━━━訳でもないんだけど、私もあの時は最善だと思って・・・・いや、しかし、後からでも君にはちゃんと説明するべきだった!本当にすまない!後で焼き肉奢るから!」

「・・・フグで手を打ちましょう!」

「弱い人にはトコトン強いな、君は!けど分かった!フグでも何でも奢るから!ね!」

 

フグを確約出来たので何とか心を落ち着かせ、私は改めてお話に戻った。ガチムチから「耳が真っ赤だけど大丈夫?」とか言われるけど無視する。

うるさいんじゃぁ。

 

「しかし、ワン・フォー・オールの使い方か・・・どうして君が?」

「じゃぁ、逆に聞きますけど、もし仮にそのままかっちゃんが継いで、何か分からない事が出て来たとして・・・かっちゃんが素直にガチムチから聞くと思います?」

「あーーーーー、あーー、成る程。爆豪くんは意地でも聞いてこないか」

 

聞くわけがない、かっちゃんはそういう人だ。

今ですら頂点取ってから継ぐとか言ってる意地っぱりが、個性の使い方を聞きにくる訳がない。自分の目で見て人から技術を盗む事はあるだろう。首根っこ捕まえて無理やり教えれば嫌な顔しながらも取り敢えずは聞いてはくれる。だけど、自分から頭を下げて尋ねるなんて絶対しない。かっちゃんのプライドは成層圏ぶち抜くほど高いのだ。

もう既に、わんほぉのことは実際に使えば何とか出来ると思ってそうだし・・・というか思ってる。絶対。戦闘センスが良いから、ぶっつけ本番でも割といい線いきそうなのがまたあれだ。

 

「状況が変わればかっちゃんも自分で聞きにくるかも知れないですけど・・・・何かあってからじゃ取り返しつきませんから。今は私が代わりに聞いておこうかと」

 

かっちゃんの気持ちは尊重してあげたいけど、今は悠長な事も言ってられない情勢だ。嫌でも、もしもを考えないといけない。

黒マスクが捕まってからヴィランのニュースは絶えない。おハゲや他のヒーロー達が頑張ってるのも同じくらい聞くけど、それでもヴィラン絡みの事件の話を聞かなかった日はない程、世の中は悪い方へと流れてる。これからの情勢が悪化するのは目に見えてる。

当然それはガチムチの身の危険に直結するだろう。この人程ヴィランに恨まれてる人もいないのだから。ヴィランが活性化している今、怪我を理由に引退するなら尚更狙われるようになる。ガチムチの周囲にはそれなりの警備網が敷かれてはいるが、最悪の結果を迎える可能性だってゼロじゃない。

静かに私の話を聞いたガチムチは「面目ない」と言って困ったように笑った。

 

「考えてなかった訳ではないけれど・・・そうだね。少し甘かったかも知れない。分かった、知ってる事を話すよ。機会を見計らって伝えて欲しい・・・・しかし、爆豪少年の代わりにか。君も素直になったものだね」

「はぁ?何ですか、それ。私はいつも自分に正直に生きてるつもりなんですけど?」

「HAHAHA、そうだね。そうだったよ、君は。これからも爆豪少年の事よろしく頼むよ。私に言われるまでもないんだろうけどさ」

 

そう言うとガチムチはニッと笑った。

何か勘違いされてる気がしないでもないけど、言われてる事は特別否定する内容ではないので同じ様に笑顔を返しておく。まぁ、笑顔の価値は私の方がなん十倍も上だけど。いや、なん百倍かな。私だけはスマイル百万円は貰ってもいい気がする。可愛い過ぎるもん。

 

「・・・あっ、それと私の引退についてなんだけど、今はまだオフレコって事でお願いね。当然先生達は皆知ってるんだけど、世間への発表はビルボードの時になるし、生徒達が聞くのもその発表の少し前の予定だから」

「はいはい、りょでーす。誰にも話ませーん。ナイショしときまーす。それよりフグはいつ行きます?今日?」

「君にとって私の引退はフグに負ける話題なのか・・・・何だろうな、悲しい。あと、今日は行かないからね」

 

それからガチムチ話す事暫く。

聞きたい事を聞き終えて寮へと帰ってる途中、書類がめちゃめちゃ詰まったバインダーを抱えた包帯先生に出会ってしまった。やる気のないその目でじっと見られると、今日は本当に何も悪い事してないのに体が震える。あっ、いや、いつも悪い事はしてないけども。

 

「・・・・あー、緑谷、昨日は悪かったな」

「はぁ!?何ですかいきなり!や、止めて貰えます!?謝られる事なんてありませんし!ていゆーか!そういうの逆に気になって、今夜も眠れなかったらどうしてくれるんですか!?寝不足は美容の敵なんですよ!?」

「眠れなかったのか、お前・・・・そうか」

「眠りましたぁぁぁぁ!四度寝してやりましたけど!?包帯先生が忙しく働いてる時間も寝てやりましたけども!?」

「分かった、この話は終わりだ」

 

これ以上何か言われては堪らないと思い、話が終わり次第ダッシュでその場を後にしようとしたけど━━━何故か包帯に絡めとられ強制的に止められた。

まだ何かあるのか振り返れば、「お前に関わる事で少し話がある。今時間はあるか?」と眠たそうな顔で言われる。色々と心当たりが頭を過るが、経験上こちらから何か言って上手くいった試しはないので黙って頷いておいた。

 

そうして包帯先生から聞いたのはエリちゃんの事だった。

 

「えっ?!エリちゃんウチの寮に住むんですか!?」

「ああ、その事について先程校長先生から最終決定の通告を頂いた。ウチの寮で預かる事になる」

 

身寄りがないエリちゃんが退院後どこに行くのか気にはなってたけど、まさかウチに来るとは思わなかった。個性の特異性を考えれば、研究の為に大学病院みたいな所に入るのかなぁ━━━とか考えてただけに驚きだ。

詳しく聞けば病院で検査したもののエリちゃんの個性は未だに謎だらけで、抑える方法も包帯先生の個性しか今の所は見つからなかったらしい。制御の出来ない個性に病院からそろそろ限界だと泣きつかれ、関係各所と協議を重ねた結果うちの校長の鶴の一声で雄英高校が保護する事になったそうだ。で、具体的に何処に住まわせるの?ってなったのを今しがた決めたらしい。

 

「まぁ、そういう訳だ。基本的に彼女の世話が俺が見るつもりだが、時と場合によってはお前の助力を求める事が━━━━」

「りょでーす!皆で面倒見まーす!そうとなったら歓迎会しないと!ひゃっほーーーー!」

「━━━━待て待て。話は終わってない、止まれ」

 

皆に報告する為に走り出したらまた包帯で止められた。

本日二度目の強制停止、しかもさっきやられたばかり。幾ら寛容が服を着て歩いてると称される私も、流石にこれには全力オコ。なので感情のままきっと睨み付けてやった━━━━━やったんだけど、向けられていた静かな視線が怖かったのでテヘペロしといた。ジョーダンっすよぉ!

 

「すみませんした!うっす!包帯先生の包帯の中にトイレットペーパー挟んだの私です!さぁせんした!」

「あの時のはお前だったのか・・・・そうだろうとは思っていたが。まぁ、良い」

 

そう言うと包帯先生は拘束を解いてくれた。

お説教だとばかり思ってたので改めて表情をよーく伺ってみたが━━━━分からない。包帯先生、表情に乏しい。前から思ってたけど、この人分かりづらい。私の人生の中で一二を争うレベルで分かりずらい。まぁ、怒ってなさそうではあるけど。

 

「・・・・取り敢えず、文化祭は良くやった。エリちゃんの事も含めてな」

「えっ、あっ、は、はぁ・・・・」

「最近の授業態度も若干ではあるが改善が見られる。改善する余地はまだ幾らでもあるが・・・いきなり全部をきっちり直せというのも酷な話だ。習慣はそう簡単に直らない。そのまま継続する努力をしろ、今はそれで良い」

「へ、へぇ、えっと、が、がんばりまーす・・・?」

 

多分褒められてるんだろうけど、全然その気にならない。声の感じとか視線の鋭さで、新手の説教にしか思えない。あれ、褒められてるんだよね?これ?えっ?なにこれ新しい説教?

 

何を企んでるのか探ろうと思ってたら、バインダーで頭を軽く小突かれた。

 

「この一ヶ月でのお前の努力を認める。だが、二度目はないぞ。良いな?」

 

それが何に対してか、包帯先生は言わなかった。

だけどその顔を見れば言いたい事は何となく分かってしまった。隠し通せるつもりだったけど、やっぱり爪が甘かったらしい・・・それとも事が済んだからガチムチが話したのか。どちらにせよ、今回のヴィランの件について知ってるっぽい。

 

「・・・えーっと、やっぱりガチムチですか?」

「最終的にはオールマイトから説明はあった。だが、それだけという訳でもない・・・・お前が思ってるより、周りはお前を良く見ているという事だ。よく覚えておけ」

 

そう顰めっ面で言われて、思わず笑い声をあげるとまた頭をポカっとされた。

 

「忙しい中での特別課外補習、怪我せずに良くやった。だが、これも日頃の行いの悪さが招いた事。今後は真面目に授業を受ける事だ」

「特別課外補習・・・・ふふっ、無理ありません?」

「そう思うなら今回限りにしろ。俺も校長先生もどれだけ気を揉んだか・・・・さっきも言ったが、二度目はないぞ。肝に銘じておけ」

「あはは、はーい」

 

包帯先生は呆れたように溜息をついて背中を向けた。

そして数歩歩いた所で急に立ち止まる。

余計な事を思い出したのか!?と身構えたけど、振り返った包帯先生の目に怒りはなかった。ホッとしてると包帯先生が口を開く。

 

「・・・・・緑谷、ヒーローと関わる以上、これからも多かれ少なかれこういった面倒は付きまとう。特にお前は目立つ奴だからな。それでも、お前のやりたい事は今も変わらないか?別の道もお前にはある」

 

それがどういう理由で言われたのか分からない。

だけど少し心配そうな眼差しに、USJで包帯にされた質問を思い出した。あの時もこんな感じの事を聞かれた気がする。色々と言葉が頭に浮かんだ。殆んど言い訳みたいな、誤魔化すものばかり━━━━だけど、結局口を出ていったのは別の言葉だった。

 

 

 

「私、ヒーローになります」

 

 

 

その言葉を聞いて目を見開く包帯先生に、私はニッと笑ってみせた。

僅かな静寂が訪れた後、包帯先生は少しだけ優しい色を瞳に浮かべると前を向いて歩き始めた。

 

「━━━━それなら、まずは進級出来るように努力しろ。話はそれからだ」

「はい、努力し・・・・えっ!?私、進級の危機なんですか!?」

 

聞き捨てならない台詞に質問を投げたが、包帯先生はどんどん廊下の向こうへと行ってしまう。

 

「あれれれのれ!?先生ぇ!あの、私の進級って!?」

「今日はゆっくり休め」

「休めじゃないですよ!ちょっと、いかないで!行かないで先生ぇ!!どーゆーこと!?進級の危機なの!?私ぃ!?テスト頑張ったじゃないですか!ちょっ、包帯先生ぇ!包帯先生ぇってばあああぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、夢を見た。

かっちゃんと会ったばかりの頃を再現したような夢。

相変わらず偉そうにヒーローごっこへと誘う小さな手に、私はあの頃重ねられなかった自分の手を重ねた。それで何か変わる訳じゃない。現実は変わらない。

だけど、掴んだその小さな手は、夢の中でも力強くて温かかった。

 

 

『━━━━━らしくない選択だ。君は本気で、そちらに行けると思ってるのかい?』

 

 

何処からともなく低い男の声が聞こえた。

公園だった場所は真っ暗に淀んで息が苦しくなる。

だけど、もう体は震えなかった。

 

小さな手に引かれるまま、私は真っ暗な闇の中を歩いた。遠くに見える・・・小さな、本当に小さな明かりに向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一部【完】!!

という訳で、取り敢えず最終回です。
約一年もの間お付き合い頂いた皆様、ちょっと覗きにきて頂いた皆様、感想書いて頂いた皆様、応援してくださった皆様、読んで下さってありがとうございます。本当にありがとうございます。
自分で読み返すと、はぁぁぁぁぁぁ!!ってなる駄文も駄文ですが少しでも楽しんで頂いていれば幸いです。

元々ヒロアカを読んでいた際、出久が女だったら割りと二人の関係って丸く収まるくね?みたいな思いつきから始まり、ただの女の子だと苛められてしまうだけでは?それは可哀想やん……なら色々と高スペックな天才にしとくか!逆にかっちゃんの鼻へし折るか!とこれまた思いつきで書いたお話でした。
そんな行き当たりばったりな感じなので当初は雄英高校に入る前で完結する短編の予定でした。その後は皆さんのご想像にお任せします~と失踪する手筈だったのですが、それがこんなに続ける事になるとは………振り返るとはくびしんもビックリです。

その後も神野やオバホで失踪しようかと企んでいましたが、なんやかんやここまで書いていました。気がついたら話を考えてて、習慣って恐ろしいですね。

この後の展開についてある程度プロットは出来ているのですが、原作の急展開っぷりが怖いので様子見させて下さい。ここから先は迂闊に踏み込んだら舵取り出来そうにないので(泣)。
もういっそ完全オリジナルストーリーに切り換えてエンディングまで突っ走る事も考えたのですが、やっぱり堀越先生の原作から離れ過ぎるのは嫌なので仕方ないね(既に取り返しつかないレベルで改変済みの作者)。今後の原作の展開によっては、次の映画編で完結させる可能性もありますが・・・・まぁ、なんにせよ、原作がもう少し進んで急展開地獄が落ち着くまで再開は未定です。
もうちょっと続いたんじゃよ、とはやりたいので恐ろしく気の長い人は待って頂けたらと思います。

ではでは、はくびしんのつまらない話もこの辺りで。
繰り返しになりますが、この物語にお付き合い頂いた皆様本当にありがとうございました。


PS.僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジングBlu-rayで予約しました。キメラの兄貴が脳裏に焼き付くくらい見ます。


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ifストーリーズ:もしとか、たらとか、ればとかに惑わされまくった多次元宇宙な物語編
お姉ちゃんはいつだって可愛い弟の味方なのであーる!つまり、貴様ぁ、ボンバーヘッド野郎!何してくれてんだごらぁぁぁぁ!!なifの巻き


随分と前に感想で掛かれた設定で、パッと思い付いたお話を載せておきます。

双虎が出久くんの姉だったら、な小話です。
リアルが6月なのに、3月のお話です。
季節感?知らんなぁ。


立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花!浮かべる笑顔は向日葵が如し!━━━━そんな言葉がぴったりな見返らなくてもアルティメット美少女の私は緑谷双虎!14歳!現役ピチピチの近所でも可愛い過ぎると噂の中学二年生だ!

 

そんな私には父の悲しきモジャモジャ遺伝子を継いでしまいモサイ頭になった、ちょっとオタクでパッとしない顔したダメンズな双子の弟がいる。名前は緑谷出久。ガチムチなヒーローをこよなく愛し、無個性というハンデを抱えながらもヒーローを目指す立派なホモだ。

ちょっとあれな趣味を持つ暗くてオタクでブツブツ呟く事が多い不気味な所もある変態な弟だから周りから色々と言われるけど、私にとって大切な可愛い弟だ。根は真面目だし、虐められてる子がいると助けにいくくらい優しいし、おやつを喜んで献上してくれるし、朝は起こしてくれるし、髪のセットもしてくれるし、おかずくれるし、私のお小遣いでは足りない物を買う時はいつも笑顔でお金を貸してくれる。私の戦闘訓練に付き合わせても嫌な顔一つしない。足腰を震わせながら、ゲロ吐きながら、何度ボコボコにしても死にもの狂いで噛みついてきてくれる・・・・彼女がいないのが不思議なくらい、良くできた私の自慢の弟なのである。

 

そんな可愛い私の弟に、最近矢鱈と突っ掛かってくる不届きな輩がいる。絶賛思春期中の幼馴染、かっちゃんこと爆豪勝己だ。弟と同じくヒーロー大好きな男の子で、やはりガチムチが好きなホモである。

それだけ聞くと気が合いそうな二人だが、どうにも昔から仲が宜しくない。個性のせいなのか、性格がそもそも合わないのか何かとぶつかってる。最近は特に酷い感じで突っ掛かってきていて、お姉ちゃんプンプンスコスコなのだ。

そんな訳で三月に入った今日この頃。今日も今日とて、かっちゃんがうちのモサモサを数人で囲っている所を見掛けので、拳を構えて全力ダッシュ中であった。

 

 

 

 

「ごらぁぁぁぁぁぁぁ!!何っ、ウチの可愛い弟に手出しとんのじゃぁぁぁぁ!!爆発頭ぁ!!」

「━━━━っ!?なっ、ぐぬぇ!?」

 

 

 

 

勢いそのままにソォイ!とギカントパンチ。

取り巻きの悲鳴の中を爆発頭がきりもみ回転しながら横っ飛びしていく。丁度飛んで行った方向にいた取り巻きにぶつかると、近くの机やら椅子やらを巻き込んでド派手に倒れていった。

 

「や、やべぇ!緑谷姉だ!!姉の方が来たぞ!!」

「殴られる!!かっちゃん!い、行こうぜ!もう良いだろ、出久はさ!!」

 

怯えたような声をあげながら、取り巻きABが倒れたかっちゃんと取り巻きCに駆け寄っていく。

興味もないのでそれはスルーして、私は顔が真っ青な弟に近づいた。

 

「大丈夫?出久、あのボンバーヘッドに何かされてない?キンタマ潰しとく?」

「キンタマは止めてあげてよ!━━━と言うか、僕は別に虐められてたとかじゃなくて、ただ何と言うか、かっちゃんはその、話があったというか、その、なんて言ったら良いのかなぁ・・・・」

 

弟はよっぽど怖かったのかしどろもどろにそう答えた。何をされたかは分からないけど、多分脅されたんだろう。裸の写真撮られてとか、かっちゃんに無理矢理やられたとか・・・・なんか、そんなんだろう。分からないけど。

ホモ達の考える事はノーマルの私には分からんとです。

 

そうこうしてるとかっちゃんが起き上がった。

怪我はないようだけど、額に青筋が浮かべてめちゃくちゃ睨んできている。間違いなくオコだ。尤も、オコなのはこっちもだが。

 

「て、てめぇ、いきなり何しやがんだ!!ああ!?喧嘩売ってんのか!?このっ、こ、この、馬鹿女が!!」

「はぁぁん!?誰が馬鹿だ!誰が!!天才中の天才たる私を捕まえて、目玉腐ってるんじゃありませんこと!?つーか、ウチの可愛い弟虐めてんじゃねぇーよ!!その頭所々むしって、あられもない髪型にしてやろうか!?リアルにハゲさすぞ、ああん!?」

 

そう言ってぎっと強く睨み返せば、かっちゃんも同じように強く睨み返してきた。怒りで思わず拳に力が籠る。かっちゃんも似たような気分なのか、飛び込めるように姿勢を低くした。ピリピリとした空気の中、お互い臨戦態勢を整えた所で何故か出久が間に割って入ってきた。右の掌と左の掌を私とかっちゃんそれぞれに向けて制止を求めてくる。

 

「止めてんじゃねぇ!クソデク!!てめぇからぶっ飛ばされてぇのか!!ああ!?」

「ああ!?誰の弟ぶっ飛ばすだってぇ?てめぇ、このクソかつが!!ふぁっきゅぅぅぅぅ!!・・・・出久、お願いだからちょっとどいてて?お姉ちゃんね、今日こそこの爆発頭に引導渡してやろうと思ってるの!ふふふのふ!!」

 

「お、お願いだからどっちも落ち着いて!かっちゃんも喧嘩しにきた訳じゃないでしょ!?姉さんも、確かにかっちゃんはアレだから!そういう時もあるけど!さっきのは勘違いだって言ってるんだから止めてよ!!」

 

勘違い・・・・?ん?

 

「それじゃ何してたの?」

「あっ、え、えっと・・・・」

 

私の質問に出久は目をキョロキョロさせて口をモゴモゴさせた後、無言でかっちゃんの方をチラ見する。

つられて私も見れば、私と目が合ったかっちゃんはバツが悪そうに目を逸らした。

そしてかっちゃんは出久に意味ありげな視線を送る。

 

「・・・・・あ、あれは、その、姉さん!話は変わるんだけど!ちょっと良いかな!?」

「む?・・・・はぁ、なんか気が抜けちゃった。良いよぉーなになに、どったの?おねーたまに何でもお聞き」

 

私の言葉に出久はかっちゃんと私を交互に見た後、意を決したように口を開いた。

 

「もうすぐホワイトデーでしょ!先月のバレンタインデーのお返しとか、姉さん何か欲しい物ないかなぁーって━━━」

「てめぇクソデク!!」

「ひぃっ!!ごめんなさい!!」

 

取り敢えず意味不明に怒鳴ったかっちゃんの頭を一発ひっぱたいてから、出久に言われた事について考えてみた。欲しい物は幾らでもある。だけど、どれもそれなりにする。出久のお小遣いでは無理だろう。それでも敢えて何かないかと言われれば・・・・特に思い付かなかった。

 

「うーーーん?まぁ、お返しとか良いよ。あげたのだって、余り物だし」

 

態々弟の為に作った物じゃない。マジの余り物だ。

手間も暇も掛かってないし、ラッピングすらした覚えもない。バレンタインデーの前日、余ったそれを皿にポイしてオヤツ代わりにあげてやっただけだ。畏まって感謝される覚えはない。

 

だから断ったんだけど、出久は目を丸くして焦ったような表情を浮かべた。

 

「えっ、嘘・・・姉さんが何も要求しない!?何か悪いものでも拾って食べたんじゃ━━━はっ!?」

「おっと、出久よ。私の可愛い弟よ。それどういう意味?詳しく聞こうじゃないか、ん??」

「あっ、いや、ごめんなさい!でも悪気があった訳じゃ、でも姉さんいつも━━━━━あてててて!?頭がっ、われっ、ごっ、ごめんなさい!何でもないです!本当に!すみませんでした!!とっ、兎に角っ、何か!あげれるか分からないけど、何か欲しい物ないかなぁって思っててててててて!!!」

 

出久は頭を腕で締め上げられながらも、それでもそんな事を聞いてくる。お返ししようという精神は嬉しい。つまりそれはチョコのプレゼントを喜んで貰えたという事なのだから。頑張って作った甲斐がある。出久には余り物しか与えてないが━━━━けれどだ、どうにも腑に落ちない。バレンタインデー前日の様子を思い浮かべると、ひきつった顔で『えっ、今度はなに?』と何処か怯えた表情を浮かべる弟の姿しか思い出せない。散々疑った後、私の顔色を窺いながらそれを食べて『美味しかったけど・・・・えっ、なに?僕は何をすれば良いの?』とか『お願いだから、お母さんに怒られない事にして。本当にお願いだから』とかしか言われた覚えがない。食べた対価として、アルゼンチンバックブリーカーの練習台にした覚えしかない。あっ、対価貰ってるやん。

 

取り敢えず頭を解放してやって、その日プロレス技の練習台になった事が一番のお返しだった━━━と言ってあげると何ともいえない顔をされた。何故かかっちゃんも微妙な顔をする。そんな二人の姿に、昔微妙な顔して追い掛けてくる幼い二人の姿が過った。昔からこいつらこんな顔する。もしかしたら最近仲悪いのかと思ってたけど、こいつら私の見てない所だとそこそこ上手く行ってるのかも知れない。

 

「まっ、兎に角、お返しは良いよ。あんた今月なんか買うんでしょ?あのアホみたいに高い、ガチムチだらけの写真集。楽しみにしてたもんね」

 

前に楽しそうに教えてくれた弟の姿を思い出しながらいうと出久は顔を真っ青に、周囲にいたかっちゃんの取り巻き達が物理的に距離を取った。凡そ二メートル程。かっちゃんは何か呆れた顔してるけど。

 

「ちょっ、止めてよ皆の前で!!それだと誤解されちゃうから!オールマイトの!オールマイトの写真集だから!!去年の活躍を納めた限定版が出るから、それで!!━━━━ね、かっちゃん!!ねっっ!!」

「俺に話ふってんじゃねぇよ、クソデクが」

「ねっ!てば、かっちゃん!!いいの!?かっちゃん!!」

「・・・・・ちっ、そんなんあったな」

 

また男同士で分かりあっとる。

仲良いな、こいつら。

 

「兎に角っ、兎に角!何かないかな!?聞くだけだから!聞くだけ!あげるかは別として!!実際、僕もお金にあんまり余裕はないし・・・・」

 

尻窄みに声が小さくてなってく弟の様子に思わず溜息が溢れる。優しいのは美徳だけど、お姉ちゃんとしてはもう少し男らしく強気な所も見てみたい所なのだ。

まぁ、何がともあれ、そんなに聞きたいならと考えてみた。

 

「そうだなぁ、まぁ、お金。一億万円くらい欲しいかなぁ?」

「一億万円って子供じゃないんだから・・・なんか、もっとこう、現実的な物はないの?バレンタインデーのお返しとしてだからね?よく三倍くらいだって聞くから、その範囲で何かさ」

 

現実的?ふむ?

 

「えーーそうだなぁ?洋服とか?最近駅前のショップで可愛いパーカー見つけてさぁ~、にゃんこのやつね、にゃんこの。色んなカラーあったけど、個人的には三毛カラーの奴が良いかなぁ」

「パーカーね、そうかぁ。パーカーかぁ」

「あとねあとね、スカート欲しい。チェックの可愛いのあったの。ほら去年行ったじゃん、福袋買いに行った所。デパートのさぁ~あそこにあったのよ」

「あー、あそこね。うん覚えてるよ。でもスカートか、スカートはちょっとあれかなぁ」

「?後はね、ケーキとか?シュークリームも良いよねぇ。あっそうだ!この間さ、光己さんがお土産に持って来てくれたのあったでしょ!あれあれ!あれが良い!」

「シュークリーム好きだもんねぇ、そっかぁ」

「━━━━とかまぁ色々言ったけど、明日の休みに母様達と買い物に行くから良いや。学年末の結果良かったから買ってくれるってさ」

「えぇぇぇぇぇぇーー・・・・」

 

出久の目は明らかに他に何か言って欲しそうだけれど、そうは言っても特に欲しい物とかはない。よもやここまでお姉ちゃんっ子だとは予想外だった。それならそれでちゃんと欲しい物リスト用意したのに。残念だ、実に。今度はそうしよう。

 

「兎に角っ、今は特になし!」

 

ビシっとポーズを決めて言うと、出久は分かりやすく肩を落とした。丁度よくチャイムも鳴ったので、出久と他の連中にもバイバイして教室へと帰る━━━━つもりだったのだが、一つ言うことがあった。

 

「かっちゃん、かっちゃん」

 

振り向き様声を掛けると、微妙な顔したかっちゃんと出久が足を止めてこっちに振り返った。二人と目が合う。どちらも『なんだよ』と言いたげな目だ━━━━━なので笑顔を返しておいた、その言葉も付けて。

 

「ホワイトデー、楽しみにしてるから♪」

 

私の言葉聞いたかっちゃんは一瞬呆けた。隣にいた出久も大きく口を開けてポカンとする。少し経つと何を言われたのか理解して、出久は変な汗を額に浮かべて、かっちゃんは眉間のシワをまた一段と深くさせ睨んできた。私がからかってた事に気づいたんだろう。

 

分からない訳がない。それなりに長い付き合いだ。隣には隠し事出来ない可愛い弟もいる。隠せる筈もない。

そうでなくても、それまでの話の流れを考えれば直ぐに気づける。からかい甲斐がありそうだったので、出久と一緒に泳がせておいただけだ。

 

それに、これはズルした罰でもある。

 

「私も色々考えて作ってやったんだから、セコイ真似しないでちゃんと自分で考えな。つまらない物だったら、来年はあげないからね?」

 

人が折角色々考えて、頑張って用意してやったのに、そのお返しがズルで用意されるのは癪なのだ。何がどうあれ私に返ってくるのは、かっちゃんが頭を悩ませて選んだ物の方が良い。本気で選んだ物だからこそ、それが可笑しな物なら思いっきり馬鹿にも出来るし、テキトーに用意されるよりお値段的にも品質的にも良い物がくるだろうから。かっちゃんのセンスは中々良いのだ。

 

「今年も期待してる、じゃーねー」

 

そう言って軽く手を振ると、かっちゃんは何故か顔を赤くさせてそっぽ向いて行ってしまう。返事くらいして欲しかったんだけど。

出久は私にハンドサインで隠し事してた事を軽く謝り、かっちゃんの後を慌てて追い掛けていった。

 

「今年はなにくれんだろ・・・・?」

 

貰える物を想像しながら、私も自分の教室へ向かった。

先生に見つかっても怒られない程度の駆け足で。

 



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はろーはろー!聞こえてますか!私はただのウルトラストロングスパーキングギャラクシー美少女!なんてね!なんで無視するの?ねぇ?ねぇってば!!聞けよごらぁ!のifの巻き①

寝相が悪過ぎて、平行世界にジャンプしちゃった双虎さんの小話。

思いつきパート2。


「はっ!また知ってる天井だ!」

 

目が覚めると見慣れないガチムチのポスター。

体を起こしてあちこち見てみれば、やっぱりガチムチグッズに囲まれた最高にイカれた空間に私はいた。ただ実家ではなくて寮部屋だ。かっちゃん達の部屋と良く似てる。紳士マスクの事を始め何かと面倒事がやってくるなぁ、と最近の運の悪さに辟易していたが、よもやまたここに来る事になるとは。平行世界すら寝ただけで干渉してしまう私は、もはや女神なのでは?元から女神だけども。

 

「━━━━━わっ!また来た!?」

 

驚いたような声に振り向くと、この間夢現で見たモジャモジャがそこにいた。「やっ、怪人モジャモジャ」と手を挙げると少し照れた様子で「ははは、こんにちは」と挨拶を返してくる。普通の挨拶だ。相変わらずユーモアセンス0だな、こいつは。

 

「ウルトラストロングスパーキングギャラクシー美少女を前にして、なんでそうつまらない挨拶するかな?そこはようこそおいで下さいました!!今日も変わらずお美しくあられますね、お姉様!!くらい言ってよ。気が利かないなぁ」

「出ません出ません、そんな言葉。僕を何だと思ってるんですか・・・・というか、またこれたんですね。まさかまた向こうで?」

「さぁ?怪我するような事はしてないと思うけど?」

 

寝る前の事を思い出してみたが、今の状況と繋がるようぶっ飛んだ現象が起こる理由に心当たりはない。確認の為に体を確認して見れば、寝る前に来てたにゃんこの着ぐるみのまま・・・・・まま?むむ?

 

試しに壁を殴ってみた。

鈍い痛みとミシリという音が響き、ついでに隣の部屋から悲鳴が聞こえた。

 

「ふっ、双虎さん!?なんで急に!?何か気に入らない事でも━━━━あっ、いえ!いきなり男の部屋に寝てる事とか、突然転移させられたとか怒る理由も思いつきますけど」

「そうじゃなくてさ、私実体あるわ。おっ、個性も使える」

「そうなんですか、実体が。それに個性もなんて・・・・えっ!?それはっ、えええ!?」

 

試しに色々と試してみた。

個性の具合に特に変化なし、体を動かしてみたが身体能力に変化はなく、重力やら何やらも元の世界とそう変わらない気がする。

 

「・・・・・これは、ついに時空を越える力が覚醒したと言うことか。元より女神だし、アルティメットに可愛い美人が過ぎる美少女だから、いつかはそういうのも身に付けるだろうとは思ってたけど━━━━まさかこんなに早くだとは」

「何で納得してるんですか!?双虎さん!?そんな落ち着いてる場合じゃないと思うんですけどっ、と言うか、時空に関係する個性なんて聞いた事っ、いや、今の状況がそもそも簡単に説明出来る物じゃないし、前の半透明の状況で僕の部屋に来た事だって誰かの個性の影響の可能性があったと考えた訳だけど、ここまで強力な物なんてこれまで━━━━━」

 

何かブツブツ始めたモジャモジャ。最早欠片もこっちを見てない。仕方ないので部屋にあった冷蔵庫からスポドリ取り出し、それをチビチビ飲みながら観察してると慌ただしくドアが開いた。開いたドアの先には警戒心ビンビンな顔した男連中がいた。外国人アオヤーマ、切島、常闇、ブドウの四人だ。

 

「緑谷!ドタドタってよ、何かスゲェ音したけど大丈夫か!?」

「朝からウルセェぞ緑谷!!おいらの朝の大事なルーティーンが出来ねぇだろ!!」

「緑谷くん!!いきなり酷いじゃないか!びっくりして紅茶を溢してしまったよ☆!」

「・・・・慌ただしき目覚め、何かあったか緑谷━━━ん?」

 

常闇の視線が私を見つめた。

その視線に他の連中が私の存在に気づき、全員の動きが止まった。驚愕の表情を浮かべるもの、静かに血の涙を流すもの、あっちこっちに視線を泳がせるもの、怪訝そうに眉を顰めるもの・・・・浮かべる表情はそれぞれ違ったが、全員が全員何も言えずに固まる。

 

暫くして切島がオロオロしながらも口を開いた。

 

「みっ、緑谷・・・・幾らなんでも、そのさ、彼女を寮部屋に連れ込むのは不味いだろ」

 

その言葉に考え事に夢中だった出久が目を見開いてはっとした。

 

「つまりこの現象を説明━━━━はっ!?ちっ、違うよ!絶対に違うから!!本当に違うから!!この人はそういうのじゃないから!!本当に!!信じて、切島くん!!」

 

おい、こら。どんだけ勘違いされたくないんだ。この美少女と彼女に間違われて、何が不満なんだ貴様。

控え目に言って、ぶっ飛ばすぞ。ごら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平行世界の・・・・デクくん???」

 

出久の部屋に生身でリスポーンしてから暫く。

寮の共同スペースに連れ出された私はA組の面々に囲まれていた。出久の説明に殆んどの者が首を傾げ、さっきと引き続き警戒心を露にする連中もいる。ベストフレンズなお茶子も疑いの眼差しで私を頭の先から爪先までジロジロと眺める。悲しい・・・・といっても、なんだろ。お茶子だけ疑いのベクトルが違う気がするけど。

 

「緑谷、嘘ならもっと上手い嘘つきなよ。幾らなんでも無理があるでしょ」

「そうだよ、三奈ちゃんの言う通り。相澤先生にそんな事言ったら怒られるよー。正直が一番。今なら許せるって!ねっ、お茶子ちゃん?」

「なっ、何で私にふるん!?ゆっ、許すとか、そんなっ、私は関係ないし・・・・」

 

そんな事言うのは私のお笑いユニットのメンバー。

悲しい気持ちが加速する。

あと、脈あるぞ。弟。

 

「けろっ・・・・でも、彼女、確か双虎さんと言ったわよね。何がどうあれ雄英のセキュリティを抜けてここにきてるのは問題よ。ここの生徒だって夜は勝手に出歩けないようになってるくらいにね。何より昨晩異常があったようには思えないわ」

「だよね。そうなると、以前侵入してきたヴィランみたいに転移の個性で来たとか?この子が言ってる事に嘘がなければ送られたって事になる・・・・のかなぁ?分かんないな」

「現実的に考えればその筋があり得そうですわね。流石に平行世界というのは、信じがたい物がありますし」

 

なんか気がつけば女子ーズが否定的な意見でまとまり掛けてる。これは不味いと思って弁解の言葉を探してると、切島が「待て待て」と割って入ってきた。

 

「いやさ、状況は意味わかんねぇし、そりゃ疑う気持ちはわかんだけど、ワルモンみたいな言い方良くねぇって。少し話したけど、そんな悪い子じゃねぇよ。俺が保証するぜ」

「フォロ島・・・・!」

「フォロ島!?」

 

かっちゃんと付き合える辺り、前々から良い奴だとは思ってたけど、よもやここまでとは!帰ったら、向こうのフォロ島に飴でもあげよう。

 

「切島ほど信用はしていないが、敵にしては考えなし過ぎる。彼女が敵であり転移を行える者が背後にいるのであれば、狙い目は皆が寝静まる時間、つまり夜になるだろう。俺というイレギュラーはいるが、殆んどの者が睡眠不足や油断から戦闘能力が落ちる以上狙わない訳がない。それに緑谷の証言に間違いがなければ、彼女がこちらに来たのは緑谷がジョギングに出掛けた後・・・・状況的に敵と考えるのは無理がある」

 

フォロ島に続いてトコヤミンが味方になってくれた。

感謝の気持ちを込めて鳥顔をモフろうとしたけど、直ぐに距離を取られた。こっちでも勘が良い。

 

「切島じゃねぇーけどさぁ、俺も悪い子には見えねぇなぁ。すげー可愛いし」

「なぁ上鳴ぃ、ちゃんと頭使ってっか?まぁでも、俺も襲撃か事故のどっちかと言われれば、個性事故かなとは思うけどさ。尾白は?」

「えっ、俺?ああー、えっと、そうだな、悪い人には見えないかな?」

 

上鳴、瀬呂、尾白の三人もフォロ島と同様味方になってくれた。思わず目に涙が滲む。日頃から駄目な童貞共だと思ってたけど、本当は良い童貞だったらしい。

 

「皆っ・・・・私しゃ嬉しいよぉ!バ上鳴とか心の中で思ってごめんねぇ。ドンマイと尾白もありがと」

 

「待って?あれ、待ってくんない。何か俺だけ酷いアダ名で呼ばれてない?まさか、向こうの世界でもドンマイって呼ばれてるの!?ねぇ!?」

「いや、瀬呂。俺もストレートに罵倒されてるんだけど」

「いや、本当の事だろ」

「何だとコンチクショー!!」

 

順調に集まってた味方だけど、援護射撃はそこまでだった。他の連中は遠目から状況を窺う感じ。後から起きてきた轟に一縷の望みを掛けたけど、こいつ早々話をドロップアウトしてソファーでうたた寝し始めた。

一応ブドウが下心満載で何か言い募ってきたけど、それは踏んだ。こいつはどう頑張っても味方にならない。案の定拒絶したらめちゃくちゃ文句言ってきたので、奴の顔面を踏みつけてる踵にゆっくり力を込めながら「啼けゴミ虫が」と冷たい顔を向けたら「喜んで!」と言ってきた。女子ーズの嫌悪感の籠った視線が足元に突き刺さる。

 

何ともいえない微妙な空気が流れる中、眼鏡が二つの陣営の間に入ってきた。こっちでも委員長のようでキリッとした真面目な顔向けてくる。

 

「どちらもその辺りにしよう。女子の皆の意見は尤もだし、常闇くん達の意見にも一利ある。しかしだ、俺達は彼女に対する情報に乏しく、どちらの意見も正しいとは断言出来ない事も事実だ。━━━で、ある以上、彼女の身柄を押さえつつ、相澤先生の到着を待つのが一番だと思うのだが・・・・どうだろうか?」

 

眼鏡の意見に皆が頷いた。

取り敢えず今すぐ敵対関係にならずに済んだとホッと一息ついていたら、皆の後ろから聞き慣れた悪態が聞こえてきた。

 

「朝から喧しいわボケ共がっ、何たむろってんだ?ああ?」

 

背筋を伸ばして声のする方を覗けば、眉間にシワを寄せながら不機嫌だと全身でアピールしてくる、不良百パーセントな金髪ボンバーヘッドがいた。

 

「あっ、かっちゃんだ!こっちもちゃんと眉間にシワ寄ってる!なになに~、かっちゃんの遺伝子には眉間のシワが自然と寄ってく呪いでも掛かってんの~?あはは、うける~!」

「ああ!?んだ、てめぇは!!喧嘩売っとんのか!!」

 

私の言葉に青筋を浮かべたかっちゃんは人混みを押し退けながら、真っ直ぐにこっちに向かってきた。体をペンギンのように揺すりながら、如何にも不良ですとアピールしながらだ。中学の頃のかっちゃん思い出す。腰パンしちゃってる所も含めて。なんかお可愛い。

 

「か、かっちゃん!落ち着いて!双虎さんも悪気があった訳じゃ・・・・ないと思いたいんだけど、なんか話を聞いてると、まったくない訳でもないような気もするんだけど、いやっ、だっ、だけど!兎に角喧嘩売ってるとかじゃ━━━━ふべっ!」

「っせぇ!クソデクが!!雑魚の癖に道遮ってんじゃねぇ!!どけボケが!!」

 

あっさりと掌底食らった出久が床に転がる。

そんな様子に出久のアダ名を呼びながらお茶子が慌てて駆け寄っていった。あれれ、いつの間に。少なくともこの間はかなり距離ありそうだったのに。

 

出久とお茶子の様子を見てる間にもかっちゃんがズンズン迫ってくる。止めに入った切島やら阿修羅さんやらを押し退けて、怒りを微塵も隠さずに力強く歩を進め━━━━あっという間に私の目の前まできた。

 

「てめぇが何処の誰だか知らねぇけどなァ、喧嘩売ってんなら買ってやるよ。女だからって手加減されると思ってねぇだろうな?ああ?」

 

かっちゃんはそう言いながら指を鳴らす。

何だか懐かしい感じだ。最近丸くなってきたのか、こういうのは少なくなってたから。

やっぱり中学の頃のかっちゃん思い出す。

 

「ちょっと、爆豪!!止めなよ!!女の子に━━━」

「ああ、良いよ良いよ。あしどん。いつもの事だし。こんな頭ボンバーマン、逆にボコっちゃうからさ」

「━━━━ぼっ、ボコっちゃう?ていうか、あしどんって?えっ、私のこと!?」

 

 

 

「よそ見たぁ、てめぇよっぽどぶっ飛ばされてぇみてぇだなぁ!!」

 

 

 

あしどんと話してたら、怒鳴り声と共に右の拳が振り抜かれた。癖は変わらないのか見慣れた軌道だ。いつものように首を傾けてかわし━━━━懐へ一気に踏み込む。

 

「なっ━━━━ぐぬっ!?」

 

がら空きの顎へ左のアッパーカット。

ふらついた所で腰を回転、勢いを乗せた右フックで下顎を刈り取る。更に体勢が崩れた所へ、左膝を腹に叩き込む。体がくの字に折れ曲がったら左肘を背中に叩きつけて、そのまま全体重を掛けて床へと押し倒す。とどめに隙だらけの腕を捻りあげ、おまけに首の上へ膝をおいてフィニッシュ!!━━━━その間、僅か五秒。やはり私は天才だったか。

 

「・・・・・あれ?」

 

━━━と、何やかんや最後まで決めたものの、私が思ってた展開とは大分違う。向こうのかっちゃんなら最後まで食らう事なんて有り得ない。必ず何処かで連擊を外してくる。なんなら反撃だってしてくるだろう。極め技なんて当然食らうわけない。この程度のじゃれあいなら、お互い数度打撃を浴びせて終わり。痛み分けが精々だ。だから今もそのつもりだったんだけど・・・・それがまさか、こんな簡単に、完璧に、最後まで極められるとは。

 

「なっ!?てめっ!!」

 

私と出久以外、何でもかんでも同じかと思ったけど、かっちゃん一人とっても色々と勝手が違うらしい。他の皆も同じようだけど少しずつ違うし。お茶子とかは特に。なんか敵意すら感じる。

 

「はぁ・・・・ごめん。かっちゃん。向こうのかっちゃんと同じ感覚でやっちゃってさ、あはは。いやでも、こんなに弱いとは思わなくて」

 

これは流石に私が悪いと思って素直に謝ってみたが、取り押さえてるかっちゃんの抵抗が何故か強まった。首の所に置いた膝に力を込め、更に腕を強く捻ってやれば、その抵抗も多少は弱まった。

だが、そこはプライドの塊なかっちゃん。それでも悪態をつきながら全力で抵抗の意思を示してくる。

こういう所はマジかっちゃんなんだけどなぁ。

 

「うわっ、本当にかっちゃんと戦えてる・・・・」

「ほんまや、スゴっ」

「いや、緑谷、麗日。全然戦えてねぇよ。爆豪の方が。一方的だったぞ。今も拘束解ける気配もねぇし」

「凄いな、彼女。爆豪くんがあんなにも容易くやられるなんて。轟くん、今の見たかい?」

「ああ、すげぇな・・・爆豪が近接戦闘で圧倒されるのなんて、先生相手に戦闘訓練してる時でも早々ないぞ」

 

おお、我が身に送られる称賛の声の、なんと気持ちの良い事か・・・・もっと褒めるが良いぞ。ふふふ。気持ちーー。

 

「あの口ぶりだと平行世界の爆豪ってもっとやべーんだよな?あっちの俺大丈夫かなぁ・・・・死んでないよな?ん?峰田どうした?」

「うっせぇ上鳴!オイラはなぁ、オイラはぁ、今心底ムカついてんだよ!向こうでこっちの緑谷がいねぇって事はっ、あっちのオイラの前の席に、あのボイン美人が座ってるって事だぞ!許せるか!?クソっ、向こうのオイラ死ねよ!そんでオイラ代われ!」

 

変なのもいるけど・・・・まぁ、あれは良いや。きっとこっちでもモテないんだろうな。ナムナム。

しかし、足元のは元気だなぁー。

 

「てめぇ!クソ女!!いつまで乗ってやがんだ!!ぶちのめすぞ!!ごらぁぁぁ!!」

「ハッハッハッ、本当かっちゃんだなぁ。出来るもんならやってご覧遊ばせ!先ずは拘束抜ける所から頑張ってみよーか!はい、もっと捻りまーす!」

「ッッッッッッ!!?ぐぬぅっ!!てめっ、覚えとけよぉ!!!」

 

それから少し包帯先生が来るまでの間、かっちゃんをからかって遊んだ。こっちの世界でも、かっちゃんはかっちゃんであった(笑)。

 



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はろーはろー!聞こえてますか!私はただのウルトラストロングスパーキングギャラクシー美少女!なんてね!なんで無視するの?ねぇ?ねぇってば!!聞けよごらぁ!のifの巻き②

そして、続いた。


包帯先生とネズッミー校長から取り調べを受けてから暫く。私から事情を聞いた包帯先生達は改めて状況を整理した後、他の先生達も交えて緊急会議を開いた。

そして二時間にも渡る会議の末、帰ってきた包帯先生とネズッミー校長から言い渡された私の処分は━━━━━状況が完全に把握出来るまで、制限付きでA組寮にて軟禁という沙汰であった。

勿論、三食ご飯付き。数日分の衣服も無償で提供され、部屋も家具付きで貸してくれるそうだ。寮に完備されたパソコンも使い放題。学校の回線だから監視されまくりだけど、どうせ動画サイトぐらいしかみないし。あとついでに包帯先生が監視につけば近くのスーパーくらいは行っても良いそうだ。お金ないから立ち読みしか出来ないけども。

 

「マジすか、包帯先生。至れり尽くせりじゃないですか。昼間とか自由ですか?完全フリー?」

「いや、基本的には俺が監視として付く事になる。俺の都合が合わない場合は別のヒーローが君の監視に付く事になるだろう。その場合は出来る限り女性が付く手筈になっている。まぁ、あまり居心地は良くないだろうが、こちらも状況が状況だ。悪いが諦めてくれ・・・だが最低限、君のプライバシーを守る事は約束するよ」

「トイレとかお風呂は覗かない感じ?みたいな?」

「とっ・・・・・女の子がはしたない事を言うもんじゃない。念の為に言っておくが、そこまではしない」

 

包帯先生の言葉に続いてネズッミー校長も「そんな無体な事しないし、他の教師にも生徒達にもさせたりしないのさ。安心して過ごして欲しいね!」とかにこやかに言ってくる。

二人はそこまで、と言ったが状況を考えればそんなに有り得ない話ではない。実際、絶妙にタイミングが悪いのだ。何せこっち今は夏休み真っ只中。私がやってきたのは合宿で襲撃を受け、ガチムチが黒マスクと激闘を繰り広げた後らしい。ただでさえピリピリしてるのに敵対勢力ではないにしろ、原因不明な現象で部外者の侵入を許した。慎重になるのも頷ける。

その微妙な状況下、A組の寮内でこの自由度で生活出来るなら破格の扱いだと言える。

 

「あっ、生理用品とかも貰えます?出来たらいつも使ってるメーカーのが良いんですけど」

 

思いついたそれを尋ねると、包帯先生はピシリと固まる。ネズッミー校長はあちゃーみたいな顔をして口を開いた。

 

「あぁーーごめんね。それはこちらの配慮が足らなかった。今日中には女性の先生を君の元に行かせるから、そう言った相談はその時して欲しいのさ」

「はーい、りょでーす!他に何かあります?」

「今の所はないなのさ」

 

女性の先生か、ねむりちゃん辺りだろうか?

まぁ、何がともあれ取り敢えずは手元にあるカードを消費する事を考えよっか。

私は見張り役として残ってる女子ーズの皆に向き直り、手元のトランプのカードに視線を落とした。

 

待ってる間暇だったので最初は色々あっちの事を話してた。未来の事は伏せてだけど。それでもこっちでは起こってない事もあって、その手の話に対して基本的に皆食い付きは良かった。何故だか、かっちゃんの話は特に。

ただその手の話は向こうで何度もしてるやつばかり。話してるだけなのもちょっと手持ち無沙汰になって、それで何となく始めた大富豪だったけど・・・・思ったより白熱してしまった。私も含めてギラギラした目でやってる。

 

「━━━━はい、んじゃ再開ね。私の番だよね?はい8切り。で、エースの革命・・・・出す人いない?いないよねぇ?だって、2もジョーカーも使っちゃったもんねぇぇぇ?はい!んじゃ、5であがりー!いぇーい!」

 

ポンポンと持っていたカードを場に出し終えると、まだカードを持ってた面子が悔しげな声をあげた。特に先程まで大富豪だった耳郎ちゃんは格別で、恨みの籠ったジト目でむっちゃこっちを見てくる。

 

「くわぁーくそっ、マジか!あの一枚だけ処理出来ればあがれたのに!」

「へいへい~都落ち~!都落ちぃ~!さっさと王冠を譲るが良いっ、この大貧民めが!!」

 

百が作ったちっちゃい王冠を耳郎ちゃんから奪い取り、自らの頭の上にセット。神々しい黄金が私の美しさとの相乗効果によって光り輝く。多分。

 

二位争いが始まる中、あしどんは手元のカードを眺めながら呟くように言った。

 

「そっかぁ、ニコ暫くいるんだねぇ。部屋どうする?私の隣なら空いてたよ、確か」

「あっ三奈ちゃんズルい!そーゆー事なら、私の隣も空いてるよ!て言うかさ、どうせお布団もないんだし、私の部屋においでよ!一緒寝よ寝よ!向こうの事とか聞きたい事あるし!特にニコやんと爆豪の関係とか!!・・・・あっ、そうだ!寧ろ皆で集まってパジャマパーティーしよ!パジャマパーティー!」

「パジャマパーティーか、良いね!私は賛成ー!麗日達もどう?一緒にワイワイやろーよ!」

 

大富豪観戦組だったお茶子や梅雨ちゃん、百はあしどんの言葉に少し迷う素振りを見せたけど、何やかんやパジャマパーティーには参加してくれるっぽい。

 

「んじゃ、耳郎ちゃん。うんと可愛いの着てきてね?あっ、これ大富豪命令だから。拒否権とかないから」

「なんで!?大富豪にそんな権限ないでしょ!!王様ゲームじゃあるまい・・・・し」

「皆ぁ、そろそろ大富豪も飽きてきたから、王様ゲームやろ!一回だけ、王様ゲームやろ!」

「待て待て!ニコ!嵌める気満々でしょ!こらぁ!!」

 

耳郎ちゃんの必死の制止に楽しげな笑い声が溢れた。

百やお茶子、梅雨ちゃん辺りはまだ警戒心の方が強いけど、他の面子とは大分打ち解けられた気がする。特にいつものお笑いメンバーは元よりノリが良いのもあって向こうとそんなに変わらない感じだ。

 

「よし丁度こっちも勝敗は決まったし、このままカードで王様決めよ。ニコ。キングが王様ね」

「あっ、芦戸!なに勝手に準備進めてんの!?やんないからね!」

「まぁまぁ、響香ちゃん。これも定めだと思って。ねっ、一緒にシャンニングドローしよ?」

「こんな定め受け入れるか!てか、シャンニングドローってなに!?」

 

ワイワイしてる三人を眺めながら運命のカードをシャッフルし始めていると、背中に何かビビビッと感じるものがあった。振り返ってみれば、包帯先生の何か言いたげな視線と何処か楽しげなネズッミー校長と目が合う。

何かあるのかと聞いてみれば、ネズッミー校長の笑い声が返ってきた。

 

「ハハハハっ、何でもないのさ!ただ、そうだね、若さというのは素晴らしいと思ってね。私のようなひねくれた大人になるとね、何事も必要以上に疑って掛かるような見方をしてしまう。目に見えている事を疑って、聞いた話を疑って、何かあるんじゃないかってね。正直に言えば君と話すまで、私は君がヴィランの一味、そうでなくてもその協力者ではないかと思っていたよ」

「根津校長、それは・・・っ!」

「大丈夫なのさ。相澤くん。この子は悪い子じゃない。あんな風に笑える人間が、人を傷つけるような事はしないのさ━━━━まぁ、少しずる賢い所はあるみたいだけどね」

 

ネズッミー校長のウィンクに私は目を逸らした。

いらん事まで暴かれそうだから、このネズッミーとは話さないのが吉なのである。

 

「━━━━━しかし、うーん、こんなに仲良く出来るなら待遇を変えた方が良いのかも知れないね?」

「ふぁ?」

「!?校長っ、何をっ・・・!」

 

包帯先生の驚いたような声。

そしてネズッミー校長の瞳に宿った怪しげな光を、私の優秀過ぎる双虎アイは見逃さなかった。上手い事これからの話を誘導しないと、私にとって大変宜しくない結果になる気がする。

シャッフルしてたカードをお茶子にパスして、私はネズッミー校長と向き合った。

 

「そんなに緊張しなくて大丈夫なのさ。君は・・・向こうで、つまり平行世界で我が雄英高校に通っていたんだよね?ヒーロー科の生徒だった、間違いないかな?」

「そ、そうですけど・・・それが何か?て言うか、私の話を鵜呑みにして良いんですか?平行世界とか、割とぶっ飛んだ話してる自覚はありますけど」

「にわかには信じがたいさ。でも、君の話を聞くとまるっきり嘘とも思えなくてね。さて、そんな学生の君をただ寮に閉じ込めておくというのは・・・どうだろうか?きっと向こうの私も言う筈さ、健全とは言えないよね!ってね。だから提案なんだけど━━━━」

 

おおよそ何を言われるのか分かったので、即行で両手を胸の所でバッテンさせた。

 

「お断り申し上げます!!」

「━━━━で、提案なんだけど、良かったら━━━」

「おぉぉこぉぉっ!とぉぅ!わぁぁっ!りぃぃっ!しまっすぅぅぅぅぅぅ!!」

「━━━━良かったら、学生らしく生活していかないかな?」

 

ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!

私知ってるっ、これ選択権が用意されてないやつぅぅぅぅぅ!!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!ゲームしたり、漫画みたり、にゃんこ動画をおやつ片手に寝転がりながら観て、何もしないでのんびり過ごす計画がぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネズッミー校長の策略のせいで、私は午後から他のA組連中と一緒に訓練場へやってきていた。監視役の包帯先生が来るから、ついでに連れてかれたとかではない。ネズッミー校長のせいで、一生徒として訓練に参加する事になったのだ。げせぬぅ。

よもや身元の分からない人間を、生徒達の訓練に参加させてくるとは思わなかった。ネズッミー校長から信用されたのは良いけど、こんな事ならちょっと疑われるくらいに調整しとくべきだったのかも知れない。後悔は先に立たずとはいうけど、あれは本当にマジでマジだ。マジ、マジだわ。

 

そんな訳で本格的に参加させる前に腕試しする事になった。相手は向こうでもお世話になってたお化け先生。お化け先生の個性は知ってるので、お化け先生のコピー相手に遠慮なく手加減ゼロで試したかった技を試しまくった━━━━その結果、引かれた。超引かれた。

 

特に男連中からの畏怖の視線は凄くて、ちょっと近寄っただけで同じくらい距離を取ってくるレベルに恐れられてしまった。あのブドウですら後退りしてくるくらい。まぁ、だからと言って皆が皆そうでもない。男の中でも轟とかかっちゃんは対抗心を燃やしてきて、出久からはキラキラとした尊敬の眼差しが向けられた。

あしどんとか葉隠とか、さっきゲームしてた女子ーズもそこまで態度は変わらなかった。同じ女子の活躍を喜んでるくらいだった。

 

皆から当然とも言える称賛を受けてると、本体のお化け先生が声を掛けてきた。

 

「━━━━驚イタ、ココマデ出来ルトハ。多少油断ハシテイタガ、遅レヲ取ルトハ思ワナカッタ。平行世界デモ、私ハ教師トシテ君ニ訓練ヲツケテイルダロウカ?ダトスレバ、私ヨリ優秀ナノダロウナ。君ノ相手ガ出来ルノダカラ」

「ん?そんなに変わりませんよ。個性も大分見られましたし、次くらいからはお化け先生でも普通に対応出来るんじゃないですか?ていうか、そもそも本気じゃない人に言われてもアレなんですけど」

「ハハハハッ、生徒ニソンナ事ヲ言ワレタノハ初メテダ。出来ルナラ本気デオ相手ヲシタイ所ダガ・・・・私モ教師トシテ立場ガアルノデネ。期待ニ応エラレズ申シ訳ナイ。シカシ、向コウノ私ハサゾ楽シイダロウ。君ハ育テガイガアル」

 

そうかなぁ・・・・向こうのお化け先生は、基本的に溜息しかつかない人なんだけど。お世辞にも楽しんでるようには見えないんだよなぁ。

まっ、どっちでも良いけどさ。

 

「ソウイエバ、君ハ仮免許ヲ取得シタト聞イタガ?」

「ああ、はい。ライセンス取りましたよ。資格証持ってきてませんし、そもそもこっちだと登録されてないだろうから証明しろって言われても出来ませんが」

「イヤ、今ノ戦闘デ君ノ大体ノ能力ハ把握シタ。判断力、身体能力、技術、個性、ソノドレモガ仮免許有資格者トシテ不足ナイレベルダッタ。既ニ必殺技ヲ幾ツモ用意シテイルヨウダシ、君ノ訓練メニューハ基礎能力ノ底上ゲヲ重点的ニ行ッタ方ガ良イト思ウノダガ・・・・ドウダロウカ?」

 

それについて思う事はない。

私としても、元よりそうするつもりだった。

コクンと頷いておけば、満足したようにお化け先生も頷く。

 

「筋力トレーニング、ソレト個性トレーニングヲ中心ニプランヲ立テル。組ミ手ハ必要カナ?」

「組み手は別に━━━━」

 

いらない、そう言おうとした時だった。ボンっという大きな爆発音が私の耳に響いてきたのは。

見なくても分かったけど、一応確認してみれば眉間にシワを寄せたかっちゃんの掌から焦げ臭い煙が立ち上ってる。何か言いたげな視線と目が合ったので仕方なく先を促してやれば、額に青筋を浮かべながらかっちゃんは口を開いた。

 

「てめぇが、仮免許の有資格者様だとはなぁ・・・えぇ?糞ポニテ女ァ。最近同じヤツばっか相手で退屈してたんだ。是非ともご教授願いてぇなぁ?ああ?」

 

何かそれっぽい事言ってるけど、このかっちゃん語は要約すると『理由なんざ何でも良い。さっきの借り返させろ。ボコボコにしてやるからよ』である。向こうのかっちゃんなら買ってあげても良い喧嘩だけど、こっちのかっちゃんだといまいちやる気でない。なんかノリが違うのだ。面白くない。それに弱いから遣り甲斐なさそうだし。

お化け先生に止めないの?と視線を向けたけど、アイコンタクトで好きにして良いよとの事。いや、止めて欲しかったんだけども。

 

「えぇっーと、うーん。メリットないからやだ」

「ああ!?んだ、てめぇ!!メリットだぁぁ!?この俺が━━━━」

「私より弱い奴とやって、私がなんの得するの?対人訓練が必要ならお化け先生とか包帯先生に頼めば済むんだよね。それにさ、かっちゃん絶対しつこくするじゃん。どうせ勝つまでやるつもりでしょ?やだよ、疲れる。めんどい。だから、やだ」

 

私がそう言うと様子を見てた出久が遠い目をしながら頷いた。頭に浮かんだ言葉は『分かる』だと思う。

 

「くっ・・・てめぇっ!!舐めてんのか!?ああ!?一回勝った程度で調子乗ってんじゃねぇぞ!!!来やがれや!!今度こそぶちのめしてやっからよぉ!!ごらぁ!!」

「はいはい、舐めてる舐めてる。ペロペロ~~。でも生憎、調子には乗ってないから」

 

微塵も負ける気がしない相手と戦って勝った。さっき起きたのは、ただそれだけの事。そんなの自慢になる訳がないのだから、調子に乗るも何もない━━━━とはいえ、それをそのまま直接言うと余計面倒な事になりそうだから黙っておくけど。

 

諦める気配のない目の前の男を眺めながら、どうやったら楽にやり過ごせるのか考えてみたが・・・・こっちのかっちゃんも馬鹿ではない。あっちより大分弱いけど、プライドの高さも頭の回転の速さもそこまで変わらない気がする。みみっちさも同じくらいなら、誤魔化すのは無理だろう。

 

「はぁ・・・・仕方ないか。良いよ、一回だけね」

「はっ!端からそう言ってりゃ良いんだ!!ドカスが!!今すぐぶちのめ━━━━」

「ただし、ただではやらないから。私が勝ったらシュークリーム十個。コンビニのは駄目。ちゃんと洋菓子店のやつだからね?高いやつ」

 

そう言って両手の指をパッと開いて見せれば、かっちゃんが目を丸くさせた。

 

「━━━━はっ、はぁ!?シュークリームだぁ?!てめぇ、ふざけんのも大概にしろや!!誰がっ、てめぇなんざに奢るか!!」

「じゃ、無しね。お疲れー」

「なっ、く、このっ・・・・ちっ、上等だ!!糞ポニテ女ァ!!てめぇがぁっ!!俺にっ!!勝てるもんならな!!」

 

私の言葉で火がついたのか、かっちゃんは怒鳴り声をあげると爆発の勢いを利用して飛び込んできた。かっちゃんお得意の爆速ターボだ。

ただ、やっぱり向こうのかっちゃんと違う。安定性に掛けるし、速度自体も若干遅い気がする。

 

「約束、したからね?」

 

ニコちゃん108の必殺技━━━Extra。

『ニコニコ・メテオール』コンクリver+ニコちゃんブレス派系『ニコちゃん銀河星団』線香花火ver。

 

そこら辺に落ちてたちっさいコンクリ片に対して引き寄せる個性を発動。かっちゃんを死角から狙撃した。鈍い音が響いて、かっちゃんが空中でバランスを崩す。すかさず隙をついてニ撃、三撃と攻撃を重ねて━━━更に個性の出力もあげていく。

 

邪魔の入らない環境の中、灰色の軌跡が私の指示通りに飛び交う。嵐の如く激しく飛び回るコンクリ片の群れは、風切り音をあげながらかっちゃんの体を次々に襲っていく。かっちゃんは灰色の軌跡に包まれながら、爆破して私の攻撃を散らそうとしてるけど、それもあまり上手くいってない━━━というか、上手くいかないように私が腕をあらぬ方向に引っ張ってたりするんだけどもね。隙だらけだから、つい。

 

そうこうしてる間にチャージし終えた炎を吐き出す。

フヨフヨと空中を揺れるそれは灰色の軌跡が起こす風に巻き込まれてかっちゃんの元へ。

そしてけたたましい音が鳴り響く。文化祭での出し物で使う演出用に調整した技。威力は無いけど、至近距離で食らわせれば目と耳くらいやれる。目立つにも持ってこいだ。

 

コンクリ片を大量にぶつけられながら、目と耳をやられたかっちゃんだけど抵抗はやっぱり止めない。打つ手は完全に封じたつもりなんだけども。

 

それから少し、そろそろダルくなってきたなぁと嫌気が差した頃。かっちゃんの腕の抵抗が漸く無くなった。引き寄せる個性を解除すると、コンクリ片が散らばった地べたの中に倒れてるかっちゃんを見つけた。見事に白目剥いてる。

 

「・・・・・マジか。爆豪、瞬殺かよ」

 

切島は唖然とした様子で呟くと、遅れて状況を理解した皆がざわざわし始めた。いつの間にか全員の視線が私に集まってる。

 

「シュークリームとったどぉぉぉ!!」

 

なので高らかにガッツポーズを取ったんだけど、何か不穏な気配を放つモノが背後に立った。

恐る恐る振り返ると、ご自慢の包帯を握りながら見開いた目でがっつりこっち見てる包帯先生がいた。

 

「教師の俺の前で堂々と賭け事をするとは・・・良い度胸だ。よっぽど、向こうの俺は君に甘いらしいな。向こうの、俺は」

「━━━━━ひぇっ!?こ、これは違うんです!!」

「ほう、なら、何が違うのか説明して貰おうか。ゆっくりと」

 

二時間くらい正座で説教された。

淡々とお説教された。

勿論、こっちのかっちゃんも巻き込んだ。

 



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はろーはろー!聞こえてますか!私はただのウルトラストロングスパーキングギャラクシー美少女!なんてね!なんで無視するの?ねぇ?ねぇってば!!聞けよごらぁ!のifの巻き③

そして、続いた。
多分、このおふさげパート次で終わりや。


拝啓、母様へ。

セミの声が耳につき、日射しが厳しいこの頃・・・おっとそちらは冬も間近でしたね。こたつとみかんが恋しくなる肌寒い日が続きますが、ごけんしょーであらせられますでしょうか?私はごけんしょーです。言われた通り毎日洗濯して、乾いた洗濯物はしまってます。部屋の隅に重ねておいたりしてません。本当です。信じて下さい。お願いだから、部屋を訪ねる時は三日前には連絡下さい。

 

さて、貴方の娘こと百年に一人レベルな超天才美少女の双虎にゃんですが平行世界にきてから早い物で一週間が経ちました。最初は戸惑う事ばかりだったけど、基本的に元の世界と同じ人ばかりで、その上の性格とかも大きく変わらないので上手いことやれているのですが・・・・一つ面倒な事も一緒でした。

 

かっちゃんがマジでメンドイの。

死ぬほど中ニなの。

母様、へるぷみー。

 

 

 

 

 

 

「━━━━━っぐぅ!?てめっぇ!!」

「あああああ!!しっ、つこいなぁ!!!」

 

わたぁーー!っと引き寄せる個性込みでラリアット。

怒号と共に放った渾身の一撃はダメージが溜まってたかっちゃんの意識を何とか刈り取り、漸くその喧しい口を黙らせタフネスが過ぎる体を地面へと叩きつけた。

手合わせを始めてから約二十分ちょいの戦闘で、ほぼ全部の体力を使う羽目になった。タフネスにも程がある。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はっ・・・・む、むりぃ」

 

そのまま立っていられず、白目剥いたかっちゃんに腰掛けて息を整えていると、出久がスポーツドリンク片手にやってきた。苦笑いと共に差し出されたそのドリンクを貰い、私は荒い呼吸を少し落ち着けてから一気にそれを胃に流し込んだ。うまあじ。

 

「━━━━━はぁぁぁぁぁっ!生き返ったぁ!!ったく、そのアホかつ!本当っ、アホかつ!馬鹿なんじゃないの!?出久!!幼馴染なんでしょ!?少しは躾しな!!本当っ、本当むり!アリエッティぃ!!」

「すっ、すみません。かっちゃんがご迷惑をお掛けしまして・・・でもですね、確かに僕は幼馴染ではありますけど、双虎さんみたいに強くないですし、流石に躾とかは・・・・あははは」

「あはははじゃない!!そのせいで私が大変なんだからね!?馬鹿言ったら、ぐーでぶん殴ってやれば良いの!!ぐーで!!ボッコボコにしたりぃ!」

 

そう言って拳を突き出してみせてたけど、出久から『やります』の言葉はなし。代わりに苦笑いが返ってきた。なんて役に立たない弟よ。そんなんだからかっちゃん馬鹿なんだぞ?略して馬鹿っちゃんなんだぞ?まったく。

 

この一週間、事ある毎にかっちゃんは突っ掛かってきた。訓練中は当然の如く挑んできて、自主トレ中やらランニング中にオラついた態度で喧嘩売ってくる。それ自体は別に良い。少し面倒ではあるけど、ぶちのめせば済む話だ。面倒なのはその相手がかっちゃんで、やる度に動きに磨きが掛かってる事だ。

こっちのかっちゃんは弱い。だけど、あっちのかっちゃんと比べて身体能力や個性が極端にヘボい訳でもない。戦闘センスだって向こうのかっちゃん同様頭おかしいレベルで高い。・・・・それじゃぁ何が違うの?となったら、それはほぼ間違いなく『経験』だと思う。

そう、こっちのかっちゃんの弱さの理由は簡単で、圧倒的に実戦経験が少ないせいだ。

 

何度か戦って確信した。こっちのかっちゃんは恐らくこれまで自分と同等、もしくはそれ以上の相手と碌に戦った事がないんだと思う。出久はあの調子だし、こっちと面子が変わらないならかっちゃんの相手を出来るようなやつ中学にもいなかった。戦闘センスは感じるのに動きの所々に粗が目立つのはそのせいだろう。

引き際に引かず、こうして意識を失うまで戦うのも自分の力量や限界を把握してないから。

 

でもこの一週間で確実に戦闘スキルが上がった。

私の攻撃に反応するようになってきたし、格闘術も個性の使い方も的確により嫌らしくなってきてる。

こっちも向こうで培ってきた物があるから簡単に追い付かれてやるつもりはない・・・・けれど事実として、このまま訓練を続けていけばそう遠くない内に手加減出来なくなると思う。実際さっきの止めは半分本気でぶちこんだくらいだ。

 

腐ってもかっちゃん、という事だろう。

いや、どういう事だろう。

言っといてなんだけど意味わかんないわ。

 

取り敢えず敗者であるかっちゃんの顔面に『敗北者ァ?』『やめ、やめろ!』『止まるな、かーつ!』『敗北者じゃけぇ』『種類が違うカットケーキをワンホール分所望する』とだけ書いておいた。

それを見てた出久が青い顔で「うわぁ」と言うので『シュークリームとハーゲン●ッツ馳走であったわ』と前日と前々日に奢って貰った事に対する感謝の言葉もつけといた。然り気無い気遣いが出来る、清く優しく美しい私なら当然だよね。今夜も待ってるよ、馬鹿っちゃん。

 

「━━━━さて、と!回復!出久、次相手しよっか?」

「えっ、もう元気になったんですか?!あ、そ、それじゃ少しだけお願いします・・・・!」

 

訓練を始める当初、お化け先生に言った通り戦闘訓練はしないつもりはなかった。だけどかっちゃんと一度手合わせすると無謀な挑戦をしてくる奴等が出て来た。主に轟とか、出久とか、切島とか。勿論、その場で丁重にボコボコにして差し上げた。ただ、それでへこたれる連中でもなく、かっちゃん同様ちょいちょい手合わせを頼むようになって今に至るという訳だ。

そんな訳で今日も今日とて出久をボコり、轟をボコり、切島をボコり、尾白をボコり、ついでにドンマイをボコり、セクハラしようとしたブドウを踏みつけ、復活した馬鹿っちゃんをボコったのだった━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━いや、だったじゃないわぁ!」

 

最早当然の如く訓練に参加させられたその日の夜。

お茶子の部屋へとパジャマパーティーしにきた私は、女子ーズの皆の前で心の底から不満を吐き出した。

人生ゲームのスロットを回しながら、梅雨ちゃんが心配そうにケロケロしてくれる。ありがてぇ、ケロケロありがてぇ。

 

「やってられないよぉ、私は・・・何だって別の世界に来てまで、この糞暑い時期にせっせこ授業せねばならんのよ。かっちゃんもアホみたいに絡んでくるしさ。あーーーもぅーーー久々にぐーたら出来ると思ったのになぁぁぁ。どうせ出るなら向こうの授業出るわ。はぁぁぁぁぁ、もったいな!一週間分の元気と出席日数もったいなぁぁぁ!!」

 

無理ぽよぉぉ!っと隣にいたお茶子に抱きつくと、お茶子は苦笑いしながら頭を撫でてくれた。慈母が如き優し手つきに心が癒されていく。頑張って誤解を解いた甲斐があったんだぜ。はふぅ。

 

「あははは、お疲れ様ニコちゃん。爆豪くんの様子を見とると、ぐーたらしてる時間は明日もなさそうやね」

「ケロケロ、本当ね。今日も爆豪ちゃん過激だったもの。一度負けてあげたらどうかしら?あんまり良くない事だとは思うけど」

 

コマを進めながら梅雨ちゃんの言った言葉に、あしどんがイヤイヤと首を振る。

 

「爆豪、あれで勘良いから無理でしょ。直ぐに気づいて余計にヒートアップするって」

「だよねー。『てめぇ!俺に勝ち譲るたぁ、どういう了見だぁ!舐めてんのかこらぁ!』って言うよ!絶対!━━━私は絶対言うに、響香ちゃんの魂を賭けるぜ!」

「待て葉隠、勝手にウチの魂賭けるな。あっ、梅雨ちゃん子供産まれたって。ご祝儀出しな、双子だから二十万」

 

また子供、だと?おいおい、梅雨ちゃん何人産む気なん?私なんて伴侶所かクソイベントばっか踏んでて、さっきなんて転んだだけで数百万飛んだのにぃ。くそうぅ。

そうは言ってもこればっかりは運。文句を言っても仕方ない事ので、私はなけなしの手札から二十万を抜き取り手渡した。

 

「梅雨ちゃんのすけべぇ」

 

と一言添えて。

すると悪のりしたあしどんや葉隠も真似して一言添えながらお金カードを渡していく。「ラブラブだねぇ!」とか「お名前はお決まりですかぁ」とかだ。

そうして現金カードを受け取った梅雨ちゃんの頬には羞恥のせいか赤みが差す。肩がプルプル震えて、視線が少し下を向いた。

 

「け、けろっ・・・・ふっ、双虎ちゃん。皆も。そう言うのは、良くないと思うわ」

「えーでもぉー、そーいう事しないとぉー、お子様は出来ない訳ですしぃー、それはつまりぃ、お好きで御座いますねぇって事ではないにょぉー?」

「こっ、これはあくまでゲームの話でっ、私は、そのだって・・・・けろぉ」

 

耳まで真っ赤になった可愛い梅雨ちゃんをニヤニヤしながら見てたら、頬っぺたをぐいーっと引っ張られた。

ちょっとした痛みと共に触り慣れた肉球の感触が伝わる。構って欲しいんかー?とか思ってたら、段々と頬を掴む力が強くなってきて激痛が走り出す。

 

「━━━━みぇっ!?いたたたたたっ、お茶子ぉ!力強いっ!強いって!取れちゃう!頬っぺたが取れちゃう!本当に痛いんだけど!?」

「梅雨ちゃんに言うことあるやろ?ん?」

「ごめんなさいでございましたぁッッ!!」

 

謝ったら鬼のような握力から解放された。

ヒリヒリは残ってるけども。

あっ、あとね、悪のりした他の二人も百と耳郎ちゃんから軽くお叱りを受けました。まる。

 

 

 

 

「━━━それはそうとさ、こっちの爆豪はただのアホとして、向こうの爆豪とはどうなのさ?梅雨ちゃんの事あれこれ言ってたけど、そういう話ならニコが一番何かあるでしょ。どうなの、実際さ。何処までいってんの?ちゅーした?もしかして、その先までとか?きゃー!」

 

転職マスに止まったあしどんがスロットを回しながら、ふとそんな事を聞いてきた。葉隠もその話題に乗ってきて「全部吐いちゃいなよ、ゆー!」とか言ってくる。吐いちゃなよ、ゆーとか言われてもなぁ。

 

「いやいや、ないない。別に付き合ってる訳でもないし」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

私の言葉に何故か全員が固まった。

そしてあしどんのスロットが1で止まる。

転職先はTVタレントらしい。

 

「あれ、おかしいな。付き合ってないって聞こえた気がする。葉隠、聞いた?」

「えっ、う、うん、きっ、聞いちゃったかなぁ~。ええ?あれぇ?」

 

なんか二人がめちゎくちゃ困惑してる。

何がおかしいのか?と思って周りの反応を見てみたら、そこにいた全員が同じ様な顔をしてた。

 

「誕生日は毎年欠かさずプレゼント渡し合ってて、バレンタインの日には、小学生の頃から毎年手作りチョコあげてる仲なのに?」

 

そう言ってズイっと、あしどんが迫ってくる。

疑うような視線を向けられるけど、それに特別理由はないんだけどな?小さい頃からやってるから習慣になっちゃってるだけだ。それにお返しが凄いから止められないのもある。

 

「しょっちゅう一緒に出掛けてるんでしょ?しかも二人きりでさ。ご飯食べに行ったり、ゲーセン行ったり、カラオケ行ったり・・・・登山なんて仲良いカップルでもそうそういかないよ?」

 

そう言ってズズイっと、葉隠が迫ってくる。

またしても疑うような視線を向けられるけど、でも聞いて欲しい。これは仕方ないんだ。だって奢ってくれるんだもん。文句はぶちぶち言うけどさ、なんやかんや行きたい場所には付いてきてくれるし。あと、登山はたまたま気分がのったから行っただけで、どうしても行きたかったとかではないし。

 

「あんたさ、相手側の実家に専用の食器を用意されてんでしょ?それどう考えても親すら公認してる仲じゃん」

 

そう言ってズイズイっと、耳郎ちゃんが迫ってくる。

そしてまた疑いの視線である。いい加減にして欲しい。何も付き合ってるから用意されてる訳じゃない。子供の頃から良くご飯御呼ばれしてて、個人的にも仲が良い光己さんが好意で用意してくれただけだ。それ以上はなにもない筈。

 

「父親にしろ母親にしろ、年頃の女の子の部屋へ男の子を通したりはせんと思うけどなぁ・・・それも寝てる時とか、幼馴染でも絶対あり得んて。と言うか、仮に彼氏だとしても中々通さんと思うよ?普通は」

 

そう言ってぬっと、お茶子が迫ってくる。

そしてやっぱり疑いの視線であった。そんな事言われても困ると言うのに。母様的には起こすの面倒でかっちゃんに任せてただけだろうし、それ以上何もないと思うんだよね。それにかっちゃんはあれで紳士だから、寝込み襲うような事は間違ってもしないだろうし。

 

でも、実際にどうかは置いて考えてみると、客観的に見てカップルと言われてもおかしくない状況な気がする。しかも並のカップルではなくバカップルよりだ。なんだろ、なんか考えれば考えるほど、勘違いするのも仕方ない気がしてきた。全然違うんだけども。

ちっ、違うしぃ?

 

「━━━━━こっ、この話は終了ぉぉぉぉぉ!!」

 

「逃げた」

「逃げたね」

「逃げたな」

「逃げたわね」

「逃げましたわ」

「逃げやな」

 

一斉に集まった視線に、何故か妙に気恥ずかしくなった。何故か顔も熱くなって、居心地が超悪くなってくる。激しくいたたまれない。

 

「うっ、うるさぁぁぁぁぁい!!お茶子こそどうなんじゃぁぁぁぁい!!出久との馴れ初め話さんかぁぁぁぁい!!うちの可愛い弟、どうやってタブらかしたんじゃぁぁぁぁい!!」

「たっ、タブら!?しとらん!しとらんから!!デクくんとはっ、そういうんとちゃうし!!ただヒーローとして尊敬しとるというか、姿勢が立派だなって思っとるだけで・・・・そんなんちゃうし!!」

「良く言う!!盛りついたメス犬みたいな目で出久の事見てる癖にぃ!バレないと思ったら大間違いだかんね!エロお茶子ぉ!エロお茶子ぉ!ひゅーー!」

「ちゃうゆーとるやん!!エロとかちゃうから!!そんなんゆーたらニコちゃんかて、向こうのかっちゃんの話する時とかニッコニコしてるやん!!どんだけ大好きなん!?見ててこっちが恥ずかしなるわ!!」

「にゃぁ!?そっ、そんな事ありませんけどぉ!?私は生まれついてのエンターテイナーだから、常に面白おかしくお話を提供する癖がついてて、だからにこやかに教えてるだけですぅ!!」

 

 

 

「さぁさぁ、熱くなって参りました。司会は私こと葉隠が、解説は三奈ちゃん氏でお送り致します。三奈ちゃん氏、この戦いどちらが優勢でしょうか」

「うむ、優勢とかよく分かんないけど、面白いから生暖かい目で見守ってましょう。明日弄るのが楽しみです」

「成る程、それは楽しみですね!」

 

「いや、止めてやりなって」

「けろっ、そうね。百ちゃん、手伝って貰えるかしら?」

「ええ、勿論です。時間も時間ですし、今日はこれでお開きにしましょう」

 

 

 

 

その日の夜、お茶子との決着がつかなかった私は、一人布団の上で復讐を誓った。今度こそ、お茶子だけを弄ってやるのだと・・・・それとちょっと、ほんとのちょっとだけ、向こうのかっちゃんが懐かしくなったので星に願っておいた。

私ばっかり大変なのは不公平だと思うので、そろそろ向こうのかっちゃんにも同じくらいの苦労と苦痛を与えたまえと━━━━━いや、まぁ、向こうで文化祭の準備で忙しくしてるとは思うから、本当に何か起きて欲しい訳でもないけど。最悪、私の代わりに文化祭を頑張って貰わないとだし。

だから、せめて、足の小指をタンスの角にぶつけるレベルで良いです。何かをかっちゃんに与えたまえぇぇぇぇ。きぇぇぇぇ・・・・・・ぐぅぅZZZ。

 



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はろーはろー!聞こえてますか!私はただのウルトラストロングスパーキングギャラクシー美少女!なんてね!なんで無視するの?ねぇ?ねぇってば!!聞けよごらぁ!のifの巻き④

すまん、続いた(;・ω・)
じ、次回こそ、終わるからっ!


「ニコちゃーん!朝だよー、朝御飯行くよー!」

 

お茶子の声が廊下から響いてくる別世界8日目の朝。

夏の蒸し暑さと元気なお茶子の声に目覚めた私は、寝ぼけ眼を擦りながら時計を確認しようとして━━━━それに気づいて動けなくなった。

 

「・・・・・」

 

なんか、隣に、かっちゃんおるんだけども。

大胆不敵に同じ布団で横になってる奴は、私から奪ったタオルケットを当然の如く被り、静かな寝息を立ててる。腹立つほど気持ち良さそう。

頬っぺたをつついてみたけど、少し眉間にシワを寄せただけで起きる気配はない。フッと耳元に吐息を掛けてればかっちゃんは体をブルリと震わせる。そして不機嫌そうに寝返りをうったがやっぱり起きない。

隣の存在が目に入った瞬間は、遂に寝込みまで襲いにきたのかと思って百万回殴り飛ばそうと思った。ちん●もぎ取ってやろうかと思った・・・思ったんだけど、襲いにきたにしては間抜けな顔してるし、てか寝てるし、それになんか昨日突っ掛かってきたのと雰囲気が違う気がして、私の手は気がつけば止まっていた。

 

「ニコちゃーん?聞いとるー?」

 

外からお茶子の声が聞こえる。ついでにドアもコンコンとノックされ始めた。

すると、そんな元気な音にかっちゃんの肩がピクリと跳ねた。何となく起きる気配を感じてドキドキしながら身構えていると、ムクリと起き上がったかっちゃんが眠たそうな目でドアの方を睨みつける。

 

「ちっ、ぅっせぇな・・・・何騒いでんだ、あの丸顔は・・・・・・あぁ?」

 

かっちゃんは乱暴に自分の頭をかきむしり━━━ふと私の姿を見て止まった。時が止まったかのように瞬き一つしない。なんなら呼吸も止まってそう。

 

「・・・・おはよ?」

 

そう声を掛けるとかっちゃんは目をパチパチさせた。

それから直ぐ不機嫌そうに眉間にシワを寄らせ、何か言いたげに口を開き掛けたんだけど━━━ここが自分の部屋でない事に気づいたようで、険しい表情を浮かべて静かに身構えた。

 

「状況説明しろや。てめぇが把握してる事で良い」

「あっ、かっちゃんだ」

「あぁ?何寝ぼけた事言ってんだ?それより説明しろや。時間がねぇ、手短に━━━━」

 

かっちゃんの声を遮るように勢い良くドアが開いた。

瞬間かっちゃんが私の体を庇うように抱き寄せ、入口の方へ向けて掌を翳し迎撃体勢を取る。

 

騒がしく乗り込んできたのはお茶子とあしどんを始めとした女子ーズの皆だった。纏う雰囲気や浮かべた表情を見れば、皆が私を心配してこうして来てくれたのが伝わってくる。

 

そんな皆の姿にかっちゃんも安堵の溜息をついた。

どんな想定をしてたのか分からないけど、今の状況がかっちゃんにとって想定以下だったのは間違いないと思う。

 

「はぁ・・・てめぇらか。驚かすんじゃ━━」

 

かっちゃんが手を下げると同時。

下がったその右腕には梅雨ちゃんの舌が、左腕には百の手元から伸びた鎖付きの手錠が音を立てて絡まる。

 

「爆豪くん最低や!!幾ら勝てへんからって、寝込みまで襲うなんて!!元からあれやったけど、今回はほんま見損なったわ!!」

「幾らめちゃくちゃやっても、それでも最低限やっちゃいけない事くらい分かってると思ってたのに!!最低だよ!!爆豪!!」

「本当サイテーだよ!!爆豪くん!!恥を知りなよ、恥を!!この恥知らずぅ!」

「本物の恥知らずが言うと違うね!!爆豪動かないで!!一応クラスメイトなんだし、ウチらもあんまり乱暴にしたくないけど・・・でも、抵抗するなら手加減出来ないよ!!」

「爆豪さん!!神妙になさって下さい!!言い訳は相澤先生が来てからゆっくり聞きますわ!!」

「けろぉ!!」

 

「あぁっ!?んだ、てめぇら━━━━ぐぅぬ!?止め、この、糞共がぁぁぁぁぁ!!」

 

怒りの表情を浮かべた女子ーズの尽力によって、かっちゃんは大した抵抗をする暇もなく捕まった。

ヒーロー科の生徒の本気を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かっちゃんが女子ーズの独断と偏見によって現行犯逮捕され、包帯先生達に連行されてから暫く。

午前中の訓練を終えた皆と寮で冷やし中華(きゅうり抜き)を食べてたら、げんなりした顔でかっちゃんは帰ってきた。何を聞かれたのか軽く聞いたら殆んど私と同じ内容だったみたい。それに加えて私に何もしなかったのかしつこく聞かれたそうだ。包帯先生から、それはしつこく。まぁ、何もないんだけど。

かっちゃんがこの世界に来た理由に関しては不明。本人も特に心当たりはないそうだ。昨日の夜、かっちゃんの不幸を軽く呪ったのでそれが原因かと思ったけど、そんな願った程度で時空を越えられる訳もない。一応かっちゃんに話してみたが、私と同じ様に「んな訳あるか」と否定してきた。だよね。

 

「━━━━にしてもよぉ、そっくりだな」

 

私から少し離れた所で男達に囲まれながら冷やし中華(きゅうり入りという狂気の産物)を啜り始めたかっちゃんに、こっちの切島がぼやくように言った。

特に深い意味はなさそう。

 

「っせぇ、てめぇも向こうと変わんねぇ馬鹿面してやがって。ややこしい、面変えろや」

「無茶言うなよ。こういう所はどっちも変わらねぇなぁー、横暴っつーかよー。爆豪・・・つーと、こっちの爆豪もいるしな、あー、勝己って呼んで良いか?」

「ああ?同じ顔だからつって調子乗んな、勝己様だ。クソ髪が」

「おう、勝己様だな。よろしくな、勝己様!」

 

切島の一言を切っ掛けに、男子共が悪のりで勝己様コールを始めた。だけど突っ込まない。誰も突っ込まない。かっちゃんに至っては、さも当然のような顔してふんぞり返ってる。

 

「また偉そうにしちゃってさ、ちょっと遠慮とかないんかね?ね?皆?」

 

「ニコちゃんがそれを言うの?ニコちゃんが?」

「あんたがあそこにいたら間違いなく、受け入れてるでしょ。同類だよ、あんたは」

「寧ろニコならもっと欲しがるんじゃない?コール」

「そんで私はコールしちゃう側だよね!ひゅー!」

「双虎さんですしね」

「けろ」

 

おっと、一人も味方がいない。

さっき駆けつけてくれた時は、めちゃくちゃ心配してくれたのに。ベストフレンドと言って言い程の絆的なモノを見せてくれたのに。

仕方ないのでかっちゃんにヘルプしたら、真顔で「てめぇの自業自得だろ」と冷たく言われた。こ、こいつぅ。

 

そんな風に和気あいあい楽しくお昼ご飯を食べてると、不意に何かがへし折れる音が聞こえた。見れば真っ二つに折った箸を手にした、こっちのかっちゃんが鬼の形相でそこにいた。見つめる先は勝己様。

 

「てめぇ、こっちが黙って見てりゃ・・・俺と同じ様な面しておきながら、クソ女程度にへこへこしてんじゃねぇぞ?ああ!?」

 

そういうとこっちのかっちゃん、略してこっちゃんが私を睨んでくる。ムカついたので睨み返そうとしたけど、視界を遮るようにかっちゃんの掌が割り込んできた。

 

「━━━━ああ?誰が同じ様な面だ。一緒にしてんじゃねぇよ。俺はてめぇみてぇに、頭悪そうな面してねぇわ。鏡でも見返してこい、ボケが」

「ああ?!んだと、てめぇ!!ぶっ殺されてぇのか!?」

「はぁ、キャンキャンるっせぇな。てめぇこそぶっ飛ばされてぇのか?ああ?」

 

こっちゃんの言葉に対してあまりに偉そうに返すので「かっちゃんも、大体こんなもんだけど?」と私は親切から教えてあげた。なんか睨まれた。

 

剣呑な雰囲気を漂わせる二人の姿をおかずに、私は冷やし中華を食べるのを再開。ズルズル麺を啜りながらこれからの事を予想してみる。一、口喧嘩。二、殴り合いの喧嘩。三、個性も使った殺し合い。四、話し合いで解決。和解・・・・因みに一番有り得ないのが四。

まぁ何を選択した所で、あのかっちゃんが負ける事はないだろうし、こっちゃんの弱さに気づいたら手加減するだろうしで、どうなっても大事になる事はないと思うが━━━━とか、思ってたら心配した出久が二人の間に割って入っていった。優しいことは悪い事ではない。だけどそれも時と場合を考えないと、だ。二匹の猛獣の前に、ボケボケした羊が割り込んだらどうなるかなんて分かりきってる。だから引き寄せる個性で逃がそうとしたけど、私の心は冷やし中華に夢中でつい出遅れてしまった。

二人の拳が顔面にめり込み鈍い音が響く。出久の鼻から真っ赤な血を噴き出す。

 

「邪魔してんじゃねぇ!!クソデクが!!」

「んだ、このオタク臭ぇ陰毛野郎は。邪魔すんな、ぶっ飛ばすぞ」

 

もうぶっ飛ばしてるんだよなぁ。

しかしあれだな、向こうのかっちゃんも出久とは相性悪いらしい。よもや会って数時間で顔面パンチするとは。

それから程なくして二人は殴り合いの喧嘩を始めて、当然の如くこっちゃんをかっちゃんが捩じ伏せた。

そしてこっちゃんのギラついた目は、めでたくかっちゃんへと向いたのであった。

 

「てめぇ!!午後の訓練で面貸せや!!!」

「ああ?んだ、この糞雑魚が!こっちが優しくしてやりゃ付け上がりやがって!!イキッてんじゃねぇぞ!!ぶち回すぞ、ごらぁ!!」

 

よし、頑張れ。かっちゃん。

私の分も。

 

 

 

 

 

派手に爆発音が鳴り響いてく午後。

訓練場にて出久にプロレス技を教えてると、ガリガリモードのガチムチが顔を出してきた。向こうと同様に黒マスクとの戦闘で負傷したのか、頭に巻かれた包帯やら体の所々に貼られた絆創膏やらの治療跡が目につく。

首から下がるアームホルダーの中には包帯グルグル巻きの腕も見えた。しかし骨折まで一緒とか・・・・ごめんだけど、ちょっとキモいな。このシンクロ力。

 

「やぁ、緑谷少年。特訓の方は順調かな?」

「あっ、オールマイト!」

 

出久は残像を残す勢いでガチムチの声に振り返った。

浮かべた笑顔はオヤツを差し出された犬のようにキラッキラだ。出久はやはりホモであった。

そんな出久の様子に苦笑いするガチムチは、私に気づいたらしくフラフラと近寄ってきた。

 

「誰に指南を受けてるのかと思えば・・・・君が噂になってる女の子かな?平行世界から来たっていう」

「ちわーす、緑谷双虎でーす。人呼んでアイドルの究極系、ブラックホール級の魅力であまねく人々を惹き付け遂には銀河すら虜にした、可愛いが過ぎるスーパーギャラクシーキングオブキング美少女。気軽に双虎にゃん様って呼んで下さい」

「そ、そっかぁ、成る程。アイドルで、ブラックホールね。そしてスーパーキングオブ、ふむふむ、成る程成る程・・・・いや、ごめん分からないよ。えっーと、緑谷双虎ちゃんで良いのかな?」

「双虎にゃんです。ガチムチ・・・トッシー」

「こだわりが分からないよ・・・トッシー?」

 

困惑するガチムチことトッシーに手招きした。

首を傾げて耳を近づけてきたトッシーに、私は気になってた事をそっと聞いてみる。

 

「何で出久に渡したんですか、個性。苦労するの目に見えてるじゃないですか?新手のイジメ?そうじゃないなら、幾らなんでも考えなし過ぎません?」

「!?えっ、こっ、えっ!?!?緑谷少年から、聞いっ、あぁっ、ごほん!ごほほ!いっ、いや、なんの話かな?」

 

キリッとした顔で返してきたけど、態度が既に取り繕えてない件。取り敢えず出久は特訓の担当であるお化け先生に任せて、トッシーを引き摺って訓練場の隅っこに移動。包帯先生が少し離れた所から見守る中、お話し合いという名の尋問を開始した。

 

「━━━━そうか、そっちの私は君に・・・まさかこんな可愛い女の子に継がせようとするなんて、向こうの私は一体何を考えているのか」

 

神妙な顔で、トッシーはフルスイングでブーメランを投げた。戻ってきた鋭利な切っ先がトッシーの頭に刺さる幻影が頭に浮かぶ。

 

「あの、盛大なブーメラン投げ放ってますけど大丈夫ですか?帰ってきてますからね、戻ってきたブーメラン頭に刺さってますよ。自覚して下さい、こっちのトッシーも向こうのガチムチと変わらないですからね?大概なんですよ?ただでさえイカれた個性なのに、普通の、無個性の、特に身体能力が高い訳でもない凡人に普通継承します?どうせ心がどうとか言うんでしょう?分からなくはないですけど、それ以前の問題ですからね?百万歩譲ってそれは置いときます。でも今の放置っぷりはおかしいでしょう?出久の傷痕みればどれだけ無理させてるか分かりません?なんでちゃんと指導しないんですか。個性の特異性考えたらそれこそマンツーマンで育てなきゃ駄目でしょ。贔屓とか気にしてる場合じゃないですよ?そもそもあれですよ、運良くああして生きてますけど、一つ間違えたらパァンってなってますからね。体パァンって。その個性持ってるトッシーが一番知ってるでしょ。何考えてんですか。師匠でしょ、トッシーは」

「えっ、あっ、ああ、う、うん。そうだね、その通りだ。申し訳ない・・・というか、そのトッシーって私の事なの?あと、さっきからたまに話に入ってくるガチムチってまさか━━━あっ、何でもないです」

 

姿勢については特に何も言ってないのに、トッシーは静かに正座した。まるで母様に叱られる私のようである。ちょっと優しくしてあげたくなる。しないけど。

 

それから少し話を聞いてみたがこの男・・・本当に何にも教えてないらしい。元より出久から話を聞いてたので期待してなかった。何せ出久から聞いたトッシーから教わった事は基本的に授業でやった事ばかりだった。聞いた時は本当、あまりの惨状に叫びたくなった。それ私も授業でやってってからぁぁぁ!!って。この筋肉の塊が教えなくても、他の先生でも教えられる事だからぁぁ!!って。

個性についてなら何かと思ったけど、出久の聞いてると現状私が知ってる事と大差ない事にも気づいてしまった。あれだけ特殊な個性なのに、正式に継いだやつと知識が変わらないって異常だ。向こうでも教えるの下手っくそだなぁとか、言葉が足らないなぁなんて思ってたけど、こっちもそのままポンコツだとは思ってなかった。

まぁ、トッシーの言葉を全部鵜呑みにして、ガンガン聞かなかった出久にも問題はあるんだけども。出久は勝手に自己完結する所あるし。

 

とにもかくにも過去の事をあれこれ言っても仕方ないので、この数日の間で私が見て気づいた事を教えておいた。何が出来なくて、何が足りないのか。大体は私が言うまでもなく、お化け先生や包帯先生辺りはある程度気づいていそうだけど、やっぱり出久の個性の特異性を踏まえた上でじゃないと分からない事もあると思うから。一通り伝えた終えた所で、トッシーは不思議そうに聞いてきた。出久の世話を焼く理由を。

別に答えるつもりはなかったんだけど、矢鱈とトッシーが真剣な目をしてたので一言だけ返しておく。

 

「別の世界とはいえ同じポヨポヨから産まれた弟みたいなもんだから、ちょっと応援してあげよっかな?って思ったのが一つ・・・・後は、私はいつまでもここにいるつもりはないので」

 

私の言葉にトッシーは目を丸くする。

それから口元に手をやって何かを考えるような仕草をしたトッシーは━━━━ふと、笑った。

 

「何となくだが、君を選んだ理由が分かった気がするよ。約束するよ、緑谷少女。彼をきっと立派なヒーローにしてみせる。もしその時が来ても、君は振り返らず進んで欲しい・・・・きっと、向こうの私もそれを望んでいる筈だ」

 

そう言って差し出された手に、私も手を伸ばしてた。

握ったそれは骨ばっていて細くて、けれど沢山の傷に覆われた固い意思の籠った力強い手だった。

私が良く知ってる、あの人達と同じ様に。

 

「頑張って下さい。マジで。トッシーは先生なんですからね」

「HAHAHA・・・はい」

 

力ない返事が返ると同時、また大きな爆発音が響いてきた。訓練にしては明らかにやり過ぎを報せる豪快が過ぎる爆音。喉が張り裂けんばかりの怒号、誰かの悲鳴や焦ったような声も響いてくる。ちょっと音のする方をチラ見してみれば、黒い煙が立ち上る場所とそこへ向かって駆け寄っていく包帯先生達の姿が見えた。

私と同じ様にそれを見たトッシーの眉は困ったように八の字になり、私はいたたまれず静かに目を逸らした。

 

「・・・・取り敢えず、彼らを止める事から始めるとするよ」

「頑張って下さい。マジで」

「うん・・・・緑谷少女、物は相談なんだけど」

「やです」

「うん、そうか・・・・そうだよねぇ・・・」

 

深い溜息をつき爆煙が立ち込める場所へ向かって歩き出したトッシーの背中に向かって、私は胸の所で十字を切った。どうかトッシーに幸運を、と。

 



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はろーはろー!聞こえてますか!私はただのウルトラストロングスパーキングギャラクシー美少女!なんてね!なんで無視するの?ねぇ?ねぇってば!!聞けよごらぁ!のifの巻きfinal

難産だった(´・ω・`)
しかし、取り敢えずこれで一段落。
お付き合い頂きありがと。


次回、バットエンドifを一つ置き逃げします。
すまんな、思い付いてしもうてん。


午後の訓練も終えて迎えたその日の夜。

こっちゃんの世話をかっちゃんがしてくれたお陰で大分時間が余った私は、いつもよりちょっと長めに湯船に浸かってさっさと寝間着に袖を通した。初日から一緒にやってきた相棒、にゃんこの着ぐるみパジャマである。今日も今日とてキャワイイが過ぎる。

 

私としては夕飯までそのまま部屋でのんびり過ごすつもりだったんだけど、ニコニコした女子ーズの皆に拐われるように共有スペースへと連れ出されてしまった。

そして百お手製のアイスティーと砂糖ニキのお菓子が用意されたかと思えば、向こうのかっちゃんのエピソードを要求された。なんか取り調べを受けてる気分になる。

 

「・・・・て言ってもなぁ、大体話しちゃったしなぁ」

 

連日開かれてるパジャマパーティーを思い出しつつ紅茶を上品に嗜みながら言うと、向かい側で手を組んで座るあしどんが唇を尖らせた。

 

「うっそだー。まだ何かあるでしょ?」

「ないない、一通り話しちゃったってば」

「からのー?」

「ないっつーに」

 

しつこいっと、あしどんのオデコをペチってやれば「ふにゃぁ」とか言って隣に座る葉隠へ凭れ掛かるように倒れた。

 

「くそぉー、私はここまでのようだぁ・・・・葉隠ぇ、後は頼んだ、ぜ━━━━━がくっ」

「そんなっ、三奈ちゃん!やだよ、目を開けてよ!私一人置いていかないで!三奈ちゃん!三奈ちゃぁぁぁぁぁぁん!!くそぅ、こうなったら私が仇をとって見せるよ!!さぁ、ニコやん!動くな手をあげろ!そして吐くんだ!胸きゅんエピソードを詳しく!!」

 

演技下手くそか、三文芝居にも程がある。

けれどその心意気は嫌いじゃないので、演技を披露してくれた葉隠には半分本気のしっぺをプレゼントした。

葉隠はあしどんの比ではないほど悶絶し、あしどんは額に汗を浮かべて葉隠から距離をとった。

まっこともって、ざまぁである。

 

「━━━━でもさぁ、ウチもあの角の取れた爆豪は目を疑ったわ。ニコへの態度とか見るからに甘いしさ。思わず鳥肌たったっての。何したらああなんの?」

 

無様な二人を眺めながらお菓子をポリポリしてると耳郎ちゃんがそんな事を聞いてきた。

するとそれに続いてお茶子達も口を開く。

 

「朝は思いっきり勘違いしてもうたけど、思い返してみれば凄い自然に庇っとったしね。こっちやと攻撃!攻撃!攻撃ぃぃ!!見たいな感じやのに」

「けろけろ、こっちの爆豪ちゃんは救出訓練とか避難誘導訓練とか大嫌いだものね」

「それでも授業はちゃんとこなしますし、成績自体は良いのですが・・・・やはり心構えという部分は首を傾げてしまいますわね。ヒーローを何だと思っているのか。まったく困ったものです」

 

あれやこれやと私抜きでお喋りは続いた。

そして女子ーズの間でかっちゃんの株が高騰し、こっちゃんの株が下落していく。まさか平行世界にきてモテ期とは、恐れいったでござる。

けど実際のところは戦闘能力以外、中身はあんまり変わらないんだけどな。あの二人。一見するとこっちゃんより落ち着いて見えるけど、性格とか言動とか変わらんよ?割と糞のまんまだよ?うーむ、不思議だ。

 

「ねぇ、ニコとしてはどうなの?二人見比べてみてさぁ」

「そうだよ!どうなのどうなのー!」

 

そう言って口元を楽しげにニヨニヨさせながらあしどんは私の顔をぐいっと覗き込み、それに便乗した葉隠が肩を掴んでゆさゆさしてくる。答えないと解放してくれなさそう。

 

「そりゃ、知らないかっちゃんより、知ってるかっちゃんの方が私は良いよ。愛着もあるし」

 

「ほほーー!」

「ほほぅ!」

 

ほほぅ、じゃないわ。ほほぅ、じゃ。

消去法で選んだだけで、恋愛脳共が喜ぶ系の話じゃないから。目をキラキラさせるんじゃない、こら。何きゃーきゃー言ってん!?違っ、頭の中で私とカップリングさせるんじゃない!!何だって私がかっちゃんと付き合わにゃならんのじゃ!!良かろう!!その曇った目を覚まさせてくれるわぁぁぁぁ!!

 

それから暫く、私は語った。熱く語ってやった。

如何にかっちゃんが彼氏として失格か、如何に横暴なうんこ野郎なのか━━━覚えてる限りの思い出を・・・いやっ、忘却の彼方にしまい込んでた記憶をも引っ張り出して全力で語ってやった。よくやく来た、かっちゃんのモテ期を叩き潰す気で。

 

「━━━━そしてかっちゃんは!あろう事か、私の教室に乗り込んできてチョコ要求してきた訳!!信じられる!?こっちがさ!アホな幼馴染の元にようやく来たモテ期を潰さないように、学校で渡すの止めておいてあげてたのにさ!それを態々自分から来ますかね!?少し考えれば分かるじゃん!!私みたいなアルティメット天才美少女からチョコ貰ってる姿みたら、大抵の女子は退いちゃうでしょ!だから面倒だけど気を使って━━━ったぁ!?」

「何を話してンだっ、てめぇはッッッ!!」

 

話が乗りに乗ってきた所で、不意討ちで頭を思いっきりひっぱたかれた。べりー痛い。知能指数が減った。二は確実に減った。

痛みに堪えながら振り向くと、額に青筋を浮かべたかっちゃんがいた。延長してこっちゃん達と戦闘訓練してた割に大きな怪我はなさそう。小さな火傷や擦り傷は一杯あるけど。

 

そんなかっちゃんの後ろには訓練に参加してた男連中の姿があった。軒並みボロボロだったけど、取り分け出久に背負われてる白眼剥いたこっちゃんが重症っぽい。またアホみたいに限界突破したのだろう。

しかし何がこっちゃんにここまで頑張らせるのだろうか。かっちゃんとは別の次元で謎だ。

 

「ま、いっか。取り敢えずお帰り、かっちゃん。あのね、夕飯はハンバーグらしいよー。良かったら、半分食べてあげよっか?うん、分かった。任せんしゃい」

「何が分かって、何を勝手に任されてんだ。くれてやる訳ねぇだろ、この馬鹿が。大人しく自分の分だけで我慢してろや」

「えへへ、ありがとー」

「だからっ!!俺が渡す前提で話を進めようとすんじゃねぇつってんだろうが!!このボケ!!」

 

 

「あんなゆーて、結局オカズあげるんやろなぁ」

「けろっ、あの様子だとそうなりそうね」

「口の悪さは変わりませんが、あの方明らかにニコさんに甘いですものね」

「らぶだね」

「アオハルだね」

「駄目だ、ウチあれ慣れないわ。鳥肌治まんない」

 

 

「ぶつくさうっせぇぞ!!クソ女共ぉ!!ぶちのめされたくねぇなら黙ってろや!!」

 

 

「ああやって元気に怒鳴ってっと、俺達のよく知ってる爆豪なんだけどなぁ」

「正直、気味悪ぃからな。あの爆豪」

「うわぁ・・・・かっちゃんが、あのかっちゃんが」

 

 

「ぶん殴られ足りねぇのか!!クソ雑魚共ぉ!!」

 

 

ほらね、かっちゃんでしょ。所詮はこんなもんよ。

さぁ、皆で見損なうが良いわ。ぬははは━━━━ったぁ!何でデコピンしよった!?なに喧嘩売ってん!?上等だよ、この爆発頭ァ!!

 

 

 

 

殴り合いの喧嘩を制し、ハンバーグ多めの夕飯を終えた後、何事もなく消灯の時間を迎えた私だったが、ちょっと野暮用があったのでこっそり窓から夜のお出掛けした。まぁ、外出とはいっても雄英の厳戒態勢状態のセキュリティぶち抜いて校外へ、とかじゃない。行き先は同じA組寮にある男子棟。そこに臨時で用意されたかっちゃんの部屋だ。

 

幾つかのベランダを伝って進む事少し。

特に大きな問題もなくかっちゃんの部屋のベランダに辿り着いた。カーテンの締め切られた部屋に明かりはない。それに窓越しから耳を澄ましてみたけど妙に静かだ。もしや寝てる?消灯から一時間も経ってないよ?早くね?

 

そっと窓に手を掛けてみると、鍵が掛かってなくてスルスル開いてく。無用心だなと思いながらカーテンを開いて顔を突っ込んだから「おい」と不機嫌そうな声が聞こえた。声の方を見れば安っぽい布団の上で胡座をかく、夜でも絶好調で眉間にシワが寄せたかっちゃんがいた。

 

「やっほ、起きてるなら起きてるって言ってよ」

「っせぇわ。てめぇこそ来るなら来るっつっとけや。機会はあったろうが。俺が寝てたらどうするつもりだったんだ、この馬鹿が」

「ないっしょ。状況が碌に分からない内に与えられた部屋で、かっちゃんが能天気に寝るなんて無用心な事する訳ないじゃん?実際こうして起きてたし」

 

部屋に入りながらそう言うと、かっちゃんは窓や入口の様子を伺いながら続けた。

 

「仕掛けてくるとしたら、そろそろだろうからな。まぁ、てめぇがこうして呑気に散歩出来る程度のセキュリティしか敷けねぇなら、敵だとしても大した事ねぇんだろ。部屋に何も仕掛けてねぇしな」

「もう調べたの?1日くらい大人しくしてれば良いのに。マジで敵だったら仕掛けられてるよ?」

「そんときゃそんときだ、ぶちのめして出てきゃ良い。幸い、厄介なのは先公共だけだ。俺の偽者も含めて雑魚しかいねぇ。それより、この一週間で見たこと聞いたこと全部話せや」

「いや、まぁ、こっちもそのつもりだったけどさぁ。あんまり敵作ろうとしないでよね」

 

それからかっちゃんに促され一週間の生活の中で、私が知り得た情報を私見こみこみで話した。かっちゃんは私の話を聞きながら現状の確認をし、この世界について自分の考察を話し━━━━あと、私が何を話したのか聞いてきた。なんかめちゃくちゃ聞いてきた。未来に関わる話や私達が不利になる情報は口にしてないのに。

えっ?俺の事は話しただろ?話したけど?でも個性についてとか、出来る事とかは話してないし。少なくとも、私はダメージ受けない話しかしてないし・・・・あだだだだだだだだだだだだ!!

 

アイアンクローを受けた後はかっちゃんからも話を聞いた。ネズッミー校長から受けた取り調べの内容やかっちゃんに対する先生達の動きがどうだったのか。

そして何より、私が一週間不在にしてた事に対して元の世界がどうなってるのか。

 

ネズッミー校長や先生達の動きは私の時とそんなに変わらなかったみたい。ただ同一人物がいるから、変装の類いを疑われてかなりしつこく取り調べを受けたそうだ。こっちの皆からすれば、かっちゃんが増えた訳だもんね。キバ子の事もあるし、仕方なし。

で、私が一週間不在だった事に関しては━━━━特に何もなかった。というか、話を聞いてると私がこっちにきた日とかっちゃんがこっちに来た日は、そもそも同じ日みたいなのだ。寝る前に私からメリーさんならぬ、完全究極美少女ふたにゃーんさんから『私いま、共有スペースを挟んだ向かいの女子棟の四階の一室にいるのぉぉぉぉ!』と悪戯電話が掛かってきたそうなので間違いないと思う。あの『知っとるわボケ、さっさと寝ろや』の言葉の冷たさは私も良く覚えてる。思い出したらむかついた。

 

そんな訳で時間の流れがどうなってるのか超謎だけど、上手くすればジャンプした時間に戻れる可能性が出てきたので取り敢えずは良しとこうと思う。考えても分からんし。

 

「━━━━ふざけた話だ。どいつもこいつも、言動も見た目も変わらねぇつぅのに俺達を知りやがらねぇ。個性で操られてる、もしくは幻見せられてるって言われる方が納得出来るわ。てめぇは本当に、ここが別の世界だとか思ってんのか?」

「まぁ、嘘ついてそうな人いないっぽいし、色々とリアルだしねぇ。一応さ、こうしてかっちゃんが来るまでは、意識に影響与える系の個性で夢でも見させられたりしてる可能性も考えてたけどね」

「はっ、俺が偽物だったらどうすんだ」

 

凄い真面目な顔でかっちゃんはおかしな事を聞いてきた。意味が分からず首を傾げると、かっちゃんも何とも言えない顔で私の顔をじっと見てくる。

 

「・・・・何だ、その面は」

「ん?いやだって、変な事言うから」

「変な事は言ってねぇだろ」

 

変な事言ってるでしょうに。

 

「いや、だってさぁ、私がかっちゃんを見間違える訳ないじゃん。あはは」

 

こういう特殊な状況でもかっちゃんが私を私だと信じてくれたように、私だってかっちゃんの事は間違えない。

実際、アホ面で寝てる姿だけでピンときたくらいなのだ。伊達に幼馴染はしてないという事だろう。あーーでも、姿形がガチムチくらいビフォーアフターしてたら、気づく前に一発くらいぶん殴ってるかも知れないけど。

 

「ん?」

 

いつもなら悪態の一つでも返してきそうな物なのに、かっちゃんから何時まで経っても返ってこなかった。

なんかそっぽ向いてる。

 

「・・・・・どしたの?」

「な、何でもねぇわ・・・・けっ!」

「???何でもないなら、まぁ別に良いけどさ?それよりさ、この後の事なんだけど━━━━」

 

情報交換が一段落ついた所で、これからの行動方針について話しあった。幸い私もかっちゃんも元の世界への帰還を第一として考えていたから話し合いは割とスムーズに進んだ。それで決まったのは明日から本格的に帰還方法について調査を開始する事、その際ここの皆と敵対しないようにする事、こっちの先生達の協力を取り付ける事の三つ。

かっちゃんはこっちの皆を信用出来ないと、協力を取り付ける事に対して終始顰めっ面だったけど「一週間もねっとりじっとりしっとり観察してきた私の目が信用出来ぬのかぁ!!」といえば、一応は納得したのか「けっ」と言ってくれる。え?それで納得してるのか?してる。かっちゃん用語的に、この「けっ」は不本意ではあるけど一応納得したという「けっ」なのだ。因みに納得してない「けっ」もあるのでビギナーは気をつけて欲しい。見分け方としては、言葉を言い放った後の表情を見るのがコツだ。眉間のシワがちょっと深くなるのだ。

 

一通り話す事を話し終える頃にはすっかり0時を回ってしまっていた。ボチボチ解散かな?と、帰りのルートを考えつつ窓から他の部屋の様子を伺ってたら、かっちゃんが「おい」と呼び掛けてくる。

何か言いたげな顔したかっちゃんに「なんじゃろほい?」と首を傾げれば、凄く真面目な顔で「何も企んでる事はねぇだろうな?」と再確認してきた。この期に及んで疑うとはとんだクソ失礼野郎である。

 

「はぁーまったくもう、心配性だなぁ。大丈夫だってば、今は帰る事だけ考えてるから・・・ていうか、それ以外考えてる余裕ないし。だって帰り方どころか、こっちの世界にジャンプしてきた原因もまだ不明なんだよ?それなのにもう一週間も無駄にしちゃってさぁー、いやぁまいったよね?」

 

そう言って笑ってみせたけど、かっちゃんは表情も変えずに真っ直ぐ私を見ていた。疑ってるんだろうなと思ってたけど、その目は何処か心配そうで━━━━気づけば、その言葉が口から溢れていた。

 

「━━━正直ね、帰れると思わなかった。それ以前に、帰る場所があるのか半信半疑だった。平行世界に飛ばされました~なんて、幾ら個性みたいな不思議パワーがあってもあり得ないでしょ?精神操作系の個性でそういう記憶入れられました、って方がまだ納得出来るって」

 

嘴まつげにやられた時、出久の部屋に意識だけ飛んでしまった事はあった。あれも大概おかしな出来事だったけど、夢として片付けられたあの時と比べれば、今回のそれはあまりにも現実感があり過ぎた。

壁を殴った感触も、身体を動かした時の違和感のなさも、個性発動時に頭に走る手応えも、感じる物全てが疑いようもないくらいリアルそのもので━━━だから、私は疑った。目の前にいた出久より、自分の事を。

 

この一週間ずっと確かめていた。

出久達を鍛えるっていう名目を盾にして。

私の頭の中にあるものが私の物で、私が私の意思でここにあるのか・・・まぁ、それも今朝終りにしたけど。

 

だって、悩む必要がなくなっちゃったから。

何処かの誰かさんが教えてくれた。

いつもの仏頂面で。

 

「もう迷わないよ。私は帰る為に頑張る。帰る事だけ考えるから・・・・向こうで皆待ってるだろうしね。だから大丈夫だよ」

「・・・・はぁ。たくっ、てめぇは」

 

呆れたような声と共に何故か頭が撫でられた。

随分と乱暴な手つきでわしわしされて、気づけばすっなり髪がグシャグシャになってしまう。別にセットとかしてないし、寝る前だからテキトーに結っただけのヤツだけど・・・・ちょっとイラッとしたので睨んでおいた。

 

「はぁ、かっちゃんさぁ・・・・乙女の髪をなんだと思ってんの。手入れとか大変なんだからね」

「はっ、うるせえ。つまんねぇ顔でつまんねぇ事ほざくからだ。賭けても良いっつんだよ。てめぇは何処にいようと誰に頼まれなくても、ボール投げられた犬みてぇに尻尾振って面倒事に首突っ込むに決まってんだ。帰る事だけ考えるだぁ?てめぇにんな殊勝な真似出来るか、馬鹿が」

「そんな事ないと思うけ━━━━ふぎゃ!?ちょっ、犬じゃないんだからぁ!こらぁ!あふっ!撫でるなって、ふにょぉあ!?」

 

私の悲鳴を無視して一頻り髪をワシャワシャしたかっちゃんは何処か満足げに手を離した。グシャグシャになった髪を指ですきながら恨みを込めて見つめてやったが、あろう事かこの金髪爆発頭鼻で笑ってくる。

 

「てめぇはただ一言、俺に謝っときゃ良いんだよ。迷惑掛けるってな。四六時中てめぇがいなくてもな、帰り方の一つや二つ俺が見つけるわ・・・・だから、好きにやれや。後始末は俺がやってやる」

 

偉そうにそう言うとさっさとベランダへと押し出された。言外の帰れコールだ。腹立つ。

でも、その乱暴さは私の良く知るかっちゃんらしくて、思わず頬が弛んでしまった。

 

「じゃぁ、おやすみ。明日から頑張ろうね」

「おう、さっさと行け。先公共に勘づかれて変に勘繰られるのは面白くねぇ」

「ねぇ、かっちゃん?」

「あ?」

 

 

 

 

「そこまで言ったんだからさ、もし私があれして何か起きちゃって帰れなかったら・・・ちゃんと責任とってよ?私ね、にゃんこ飼える庭付きの一軒家が良い。あんまり田舎じゃなくて、駅から徒歩十分くらいの交通の便が良いところね」

 

 

 

 

 

「あ?・・・・・・あぁっ?!」

 

 

 

 

 

かっちゃんを盛大にからかってから、私はベランダを飛び出して真っ直ぐ部屋へと帰った。当分、あのポカンとした顔は忘れられない気がする。

 

特に何もなく部屋へと戻った私はワクワクしながらやる事をメモにまとめ、さっさと布団に潜り込む。全ては明日に備えてだ。やる事は幾らでもあるのだから。

 

 

 

 

「━━━━━━むむむ!?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「・・・・爆豪さん、顔があの、もしかして寝不足ですか?目の下の隈が凄い事に━━━」

「っせぇ、クソナード。朝から不快なモブ顔晒してんじゃねぇ。ぶっ飛ばすぞ」

「━━━かっちゃんだ・・・・やっぱりかっちゃんだ」

 

馬鹿が馬鹿な事言った翌日。

何故か起こしにきた出久とかいうクソモブと共有スペースへ行くと、妙な人だかりが出来ていた。

先公の相澤と女共全員、それと今現在起きてる男共といった所だ。

 

「あっ、きたよ」

 

丸顔がそう言うと全員の視線がこっちへと向いた。

向けられた視線が少し不躾であり、腹が立ったので睨み返すと相澤の野郎が何とも言えない顔で近づいてきた。手には二枚の紙が握られてる。光に透けてうっすら文字が見えるが、その内容ははっきりしない。

 

「・・・・君は緑谷双虎の、彼氏の方の爆豪か?」

「おい、待てごら!誰が彼氏だ、誰が!」

「そのようだな。一応先に聞いておくが昨晩の事、君は何か知ってるか?」

 

そう言われて密かにやってきた馬鹿の顔が浮かんだ。

舐めてた訳ではないが、雄英高校のセキュリティは思ってたいた以上らしい。だが、聞き方が曖昧な所を見るに、肝心の話の内容まではバレてなさそうだ。

なら、しらばっくれる方が良いだろう。

 

「何の話だ、俺は一晩中部屋にいたわ。疑ってんなら廊下の監視カメラで確認しろや」

「ああ、いや。それは確認済みだ。少なくとも廊下の監視カメラに君は映ってなかった。警備システムにも何の反応もなかった。まぁ、夜間の見回りをしていた教員がA組寮に人サイズの化け猫が壁を駆け上がってる姿はみたそうだが・・・・まぁ、それは幻覚だろう。しかし、そうか、君も何も知らないか。取り敢えずこれを見てくれないか。それを見た上で、君に聞きたい事がある」

 

そう言って差し出された白い紙には文字が書かれていた。見慣れた筆跡で『ニコちゃん式、完全攻略チャート11月まで』とあった。仮免許の事や白ガキの事、ヤクザヴィランやヒゲヴィランの事もあれこれ書いてある。そして二枚目━━━━。

 

『きた!なんか、帰れそうな感じき』

 

俺は頭の悪そうな文字から相澤へと視線を移した。

俺の視線に相澤は何も言わず女共を見る。つられるようにそこを見れば、黒目女が「あのね」と話始めた。

 

「昨日の夜、というか朝方さぁ、なんかニコの部屋がある方が凄いガタガタしてさ。ニコ寝相悪いから、それかなぁって思ってたんだけど・・・」

 

黒目女に続き、丸顔も口を開く。

 

「起こしにいったらいなかったの。それと来た時と同じ服と下着が消えてて・・・で、あの手紙が床に」

 

非科学的極まりない話だが、俺達が来た時と同様に常識の範疇を超えた消失。この手紙にしたって脅された様子がない。それらの点を踏まえて状況を考えれば、おのずとその答えは出た。

 

 

 

「あの、馬鹿女っ・・・・・巻き込むだけ巻き込んで、先に帰りやがったのかぁ!!!」

 

 

 

何となく全部あいつのせいな気がしてた俺は、それを言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから馬鹿の残した攻略チャートに目をつけたネズミ校長に付き合わされ、持ち得る情報をありったけ吐かされ、こっちの馬鹿共の特訓に最後まで付き合わされた。

一週間したら、なんか帰れた。

 




◇戻ってきた二人◇


ふたにゃん「なんか、凄い怖い夢みた気がする。よにきみょ的な。あっ、かっちゃん。聞いてよー・・・って、なんか疲れた顔してんねぇ、どったの?って、ででででで!?なんで頬っぺたつねんの!?痛いっ、痛いんですけど!?なに!?」

かっちゃん「なんか、少しな・・・・ムカつく」

ふたにゃん「なんで!?」



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闇の帝王な先生の気がうっかり向いちゃったルートなifの巻き

ヒロアカの暗黒帝王先生はいつも楽しそう。
ここでもそう、この人いつも楽しそう。

はい、という訳でバッドエンドifルートです。
引き返すなら、ここやで。
注意したからね、しかたからね!


「・・・・・ふがっ!?」

 

ガタン、という大きな物音に私は重い瞼を開けた。

視界に映り込むのは飴色のカウンターテーブル、空になったパフェの入れ物、氷の浮いた薄くなったコーラ━━━それと電源の落ちたスマホだった。

最後に見えたスマホを手にし起動させれば、寝る前にやってたアプリの中断画面が液晶に浮かぶ。画面の端っこには17時の表示も見えた。

 

どうやら一時間以上寝てたらしい。

 

欠伸をかきながら体を起こせば「おや?」という男の声が耳に響いてきた。視線の声の方へ向ければ、バーカウンターの奥で静かにグラスを磨く頭が黒モヤな黒霧ことキリりんの姿があった。

私には何が面白いのか分からないけど、相変わらずキュッキュッ楽しそうにしてる。

 

「お目覚めですか、セブン」

「んー、んーーーふにぃぃぃぃっ、はふぅ。はぁーーーおはよ、キリりん。なんか飲み物ちょーだい」

「そう言われても困るのですが・・・コーラで良いですか?」

 

キリりんの言葉のせいなのか、カランと私の残した薄いコーラが自己主張してくる。ぬるくなった分際で生意気な。

 

「えーなんかやだぁ。あーあれにして、ほら、あれ、なんとかのなんとかドライバー・・・・パイルドライバー!」

「本心からお望みとあらば、技の一つでも二つでもお掛けしますが・・・・スクリュードライバーの間違いではありませんか?」

「なにその必殺技みたいなの?」

「貴女のリクエストこそ必殺技なのですが。それと、スクリュードライバーはお酒なので駄目です。若い内から飲むと馬鹿になりますよ。どうぞ、ウーロン茶です」

 

嗜めるような言葉を告げた後、キリりんは氷が沢山入ったウーロン茶を差し出した。キリりんの揺らがぬ意思を感じた私は渋々それを受け取り口をつける。

冷たくて、んまい。

 

「それはそうとさ、ちょっと良いキリりん」

「はい、何でしょうか?弔なら━━━」

「あ、そっちはどーでも良いよ。さっきガタンって鳴ったのなに?びっくりしたんですけど」

 

不満気に頬を膨らませてそう言ってみると、なんか凄く残念な者を見るような視線向けてきて、呆れたような脱力感の籠った溜息を吐かれた。

 

「貴女が寝惚けて勝手にガタンってやったんですよ」

「うっそだーー。私ほど寝相良いやつはいないよぉ?」

「それは奇遇ですね。私も貴女ほど寝相の悪い人を知りませ━━━━」

 

キリりんが言葉を言い終わる寸前、入口のドアがガチャリと音を立てた。足音の軽さやリズムから陰気臭いのが帰ってきたのが分かり、私は手元にあるウーロン茶から氷を一つ取り出して、引き寄せる個性でそいつ目掛けて飛ばした。

 

パァン、と乾いた音が鳴る。

だけど苦痛の声は聞こえない。

どうやら不意討ちはミスったらしい。

 

「━━━おい、何すんだ」

 

不機嫌そうなその声には僅かに殺気が滲んでいた。

こっちも相変わらず短気で困る。

肩越しに様子を見れば、やっぱりやつがいた。

 

顔面に手のマスクをつけた猫背の痩せた男。

私と同じ姓をつけられた死柄木弔。

何か買ってきたのか手にビニール袋をぶら下げてる。

 

「一人で楽しくお出かけですかぁ?良いご身分で御座いますねぇー?私を置いてさぁー?お土産はー?」

「何で俺が、お前みたいな馬鹿の土産なんて買わなきゃならないんだ。面倒臭い。・・・・それに、お前が謹慎なのは、お前の責任だ。馬鹿。俺に突っ掛かってくるなよ、この馬鹿」

「おう待て、何回馬鹿っつったよ?おん?この天上天下唯我独尊で傾国の天才美少女な私を捕まえて、何処が馬鹿だっての?なに?喧嘩売ってんの?上等だよ、このお手々シコシコ野━━━━━」

 

拳を握り締め、肺に空気を取り込み、即行で臨戦体勢を取った━━━━━のだが、それより早くビニール袋が飛んできた。すわ、目眩ましかと警戒したが、肝心の弔に戦う気がないように見えたので、私はそのままビニール袋をキャッチした。手でサワサワしてみれば、何か柔らかい物と固い物が入ってるのが分かる。

 

「むむ?なに?」

「開ければ分かるだろ。黒霧、何か出せ」

 

私の隣にドカリと座りながら、弔はキリりんに横柄な態度で命令する。そしてやっぱり私に攻撃する気はないらしい。

 

「弔もですか・・・・何かと言われても困るのですが」

 

ブツブツ言いながらも何かを用意し始めたキリりんを横目にビニール袋を開けてみた。するとコンビニで買ったらしいシュークリームとケーキが入ってた。投げたせいでシュークリームからクリームが溢れ、ケーキはプラスチックのケースに崩れた状態でくっついてる。

なんやかんやとバーを出られない私の為に買ってくれたのは察したが、それならそれで何故投げたのか問いたい。

 

「買ってくれたんなら、普通に渡してよ・・・・馬鹿なの?それともツンデレ?弔みたいな根暗がやっても、ぶっちゃけキモいだけで効果ないよ?」

「うるさい黙れ、もしくは死ね。いらないなら捨てろ」

「いや、食べるけどさ。勿体ないし」

 

貰ったそれを食べ始めると弔がテレビをつけた。

現在の時刻は17時ちょっと過ぎ。つまりはニュースというこの上なくつまらない番組だらけの糞みたいな時間。

なのでさっさと衛星放送に切り替えてドラマチャンネルに回せと言ったのだが、弔には完全に無視された。

腹立ったのでショートケーキのイチゴを頬に押し付けてやる。即行で塵にされた。

 

「━━━━お、やってるな」

 

チャンネルを回すのを止めた弔からテレビに視線を移せば、難しい顔したおっさんが偉そうに何か喋ってるニュース番組。何をペチャクチャしてるのかとよくよく見れば、一昨日に私達がやった雄英襲撃事件の特集をしていた。私が謹慎を食らう羽目になった、あの忌々しい事件である。

 

「流石に、オールマイトのあれについては触れないな。残念だ、面白いニュースが見れると思ってたんだけどな」

「それはそうでしょう。雄英にとっても、そして協会にとっても宜しくない情報です。可能な限り秘匿する筈です。少なくとも彼が引退するか死ぬまで・・・・もしくは後釜が見つかるまで、といった所でしょうか」

「メディアに出れば、それだけでバレるのにな?ヒーローってのは馬鹿ばっかりだな」

 

楽しそうに話う二人を見ながら思う。

オールマイトって誰だっけと。

いや、先生から聞いてた名前だから覚えてる。ぼんやりとだけど、その名前は確実に知ってる。知ってるんだけど、どうも顔が出てこない。代わりに矢鱈インパクトの強かった金髪のボンバーヘッドが出てくるんだけど。

 

「ねぇねぇ、あのさ、オールマイトってどれだっけ?あの黒い眠たそうな目の人?」

 

「「・・・・・」」

 

またしても残念そうな目を向けられた。

解せぬ。まったく以て解せぬ。

 

「何で忘れられるんだ・・・・いや、最初から覚える気がないな。お前」

「コメンテーターの背後のモニターにでかでかと浮かんでる金髪の大男ですよ。貴女がキモいと言った筋肉ムキムキの奴です」

 

言われて見てみれば、笑顔を浮かべる濃いムキムキのおっさんの映像が目についた。

 

「ああ、ガチホモか。そうならそうと言ってよ。知ってる知ってる。弔のあれで腕がぶぁーってなって、崩壊が届く前にそのまま腕取っちゃった人でしょ。あれは怖かったわーマジで」

 

「ガチホモ・・・ですか。恐らく、世界で貴女だけですよ。そんな呼び方をする人は」

「天下のオールマイトの肩書きも、あの馬鹿の前だと形無しだな」

 

あれだけ準備して殺しきれなかった男。

忘れる訳がない━━━━名前と顔は一致しなかったけど。

 

「弔がビビってなければ、殺れてたかも知んないのに・・・・はぁ、脳無一体パァにしてこれで、何で私より怒られないのかね?」

「おい、ふざけるなよ。俺はビビった訳じゃない。前情報より動ける事が分かったから警戒しただけだ」

「はっ、良く言うよねぇー。結局、虚勢張ってるだけの死にかけだったじゃん。あれだけ殺す殺す息巻いて、取れたのが腕一本ってどうよ?」

 

使い捨てとはいえチンピラ共を捕らえられ、先生から借りてた脳無を叩き潰され、挙げ句の果て生徒の一人も殺せてない。重傷者はいたらしいけど、殺しにいってそれなら落第点としか言えない。何よりの狙いであったガチホモの命だって取り損ねてる。先生は十分だと言ってたけど、私はそうは思わない。

言われた事をやれるだけの余裕はあった。ギリギリではあったけど、あの一瞬弔が迷わなければ、他のヒーローの妨害を受ける事なかった。それこそ私の援護もなしに、腕一本と言わず確実に殺しきれたのだ。

 

「それを言うなら、時間になっても集合ポイントに来ないで、ふらふら遊び歩いてたお前にも原因があるだろ」

「ぬぐっ・・・・そ、それは、いやだってさ、あんなにしつこいとは思わなかったんだって。あの、あれ?そういや名前聞いてないな?あの金髪爆発頭」

 

雄英襲撃時、ガチホモの所に突撃した弔と別行動していた私は、A組生徒の中でも要注意人物と言われる連中と遊んでいた。予定ではさっさとあしらって弔達と合流する事になってたんだけど・・・・私が相手したそいつらは要注意人物と言われるだけあって、厄介極まりない奴等だった。

 

特に目付きの悪い金髪爆発と頭が紅白饅頭な氷マン。

個性自体が強個性だった事もあるけど、それ以上に戦闘センスが他の連中と比べて明らかに飛び抜けていた。チンピラ達に押し付けてなかったらタイムリミットまで粘られた可能性は高い。まっ、それでも負ける気は微塵もしないんだけどもね。

 

「いやぁ、中々だったよ?つおかったもん。あれだよ、キリりんとか弔じゃぁ、やられてたかも知れないよ?それをね、私は一人で抑えてた訳!だから━━━━」

 

『おや?僕がこの間聞いた謝罪は、何かの間違いだったのな?セブン』

 

「ぴゃぁ!?」

 

いきなりテレビ画面から飛び出してきた魅惑のハスキーボイスに、私のチワワ並みの貧弱な心臓が張り裂けんばかりに高鳴った。

勿論、悪い意味で。

 

「せ、先生ぇ!!違うんですぅ!!私は悪くないんですっ!弔が!弔がそう言うように誘導したんですぅ!!」

「おい、適当な事をいうな」

 

慌てて振り返るとテレビ画面からニュース映像が消え、真っ黒な背景を背負った先生の映像に変わっていた。先生は相変わらずの白いシャツに黒いジャケットというシンプルな格好で、椅子に凭れ掛かりながら楽しそうに笑い声をあげてる。

 

『はははっ、仲が良さそうで何よりだ。セブン、先日の件はそろそろ反省出来たかな?僕としては君の謹慎を解いてあげたいんだが』

「反省してます!!もう、作戦中にネットに居場所がバレる系の画像をアップしません!!」

『別にSNSを使うなとは言わないけれど、時と場合は考えようね。驚いたよ。「雄英襲撃ナウ」ってコメントとピースサインしてる君の写真がSNSにあげられてるって聞いて。・・・・けれど、良く撮れてたよ。今回の為に作ってあげたマスクも良く似合っていたし、とてもキュートだった。思わずイイね押してしまったくらいさ』

「あざぁぁぁぁす!!新しいスマホもあざぁぁぁぁす!!それで先生!物は相談なんですけど、アプリのセーブデータとかこっちに移せませんか。コードとか覚えてなくて」

『それは少し難しいな。君の前のスマホの情報は警察に掴まれてしまったからね。お小遣いをあげるから、また課金でもして初めからコツコツやりなさい。当分は外に出られないだろうしね』

 

先生はそう言うとキリりんに視線を向けた。

キリりんは何とも言えない顔で懐からカードを取り出す。見たことない高級品漂う黒いカードだ。凄いお金の臭いがする。

 

差し出されたそれを受けると、先生が機嫌良さそうに口を開いた。

 

『上限は1,000万。当分追加を与えるつもりはないから、それを上手く使いなさい』

「やったぁぁぁぁ!!先生大好きぃ!!今度のバレンタイン楽しみにしてて下さい!!めっちゃ、良いチョコ贈りますね!!ひゃっほーーー!!」

『ははは、楽しみにしてるよ』

 

お小遣いが調達出来たので、私は早速出前のメニューを手に取った。お寿司か、うなぎか、ジャンクにピザか。ラーメンも蕎麦も良いな。かつどんという手もある。迷う。

 

「弔は何にするー?」

 

親切にそう聞いてやったが、弔は顔をしかめるだけ。

そして不機嫌そうに先生の方へ向いてしまう。

仕方ない、うな重頼んでやろ。キリりんはピザかな。

 

「・・・・先生、良いのか」

『構わないとも。セブンにあげたお小遣いだ。どう使おうと彼女の勝手さ。弔、君も欲しいのかい?』

「金は必要ない・・・それより情報をくれ。正確な雄英のスケジュールだ。手駒もいる」

『情報と手駒ね・・・・良いだろう。スケジュールについては現在分かってる範囲のデータを纏めて送ろう。手駒に関しては知り合いに声を掛けてみるよ。目ぼしい者がいれば黒霧から連絡が行くようにしておく。それで良いかな?』

「ああ・・・・待っててくれよ。先生、次は確実に殺してやる」

『そうかい?それなら期待しているよ、弔』

 

なんか物騒な話してる。

根暗コンビは今日も仲良しやなって。

なんであれで盛り上がれるんだろ?謎だね。それより建設的にスイーツの話しようぜ。

 

あ、もしもし?出前お願いします、はい、はい、住所は・・・あっ、そうです。先日はすみません。かっぱ巻きが入ってるから、ついエキサイティングしちゃって。今日は一番高いやつお願いします。大トロ入ってるやつ。はい、大トロが。そうです、大トロのやつです。えっ、好きなネタ乗せられるんですか!?じゃぁ、かっぱ巻きは全部抜いて下さい!代わりにイクラとかウニとか・・・・えっ?!カニ?!生カニなんてあるんですか!?

 

「キリりん!弔ぁ!!あと五カン好きなネタ乗せられるんだって!!何が良い!?ねぇ!!何もないなら大トロ乗せるけど!!!ねぇぇぇ!!!」

 

「大トロ、大トロ、うるさい。餓鬼か。先生と連絡してるの見えないのか」

「はぁ、まったく・・・・そうですね、まだ空きがあるのでしたら、コハダとエンガワをお願い出来ますか」

「おい、黒霧。お前・・・・・」

 

『あははは、楽しそうだなぁ。久しぶりに僕達も出前でも取ろうか。ねぇドクター』

『はぁ、先生はどのみち食べられんじゃろうが。しかし、寿司か。最近は食べとらんな。たまには良いか』

 

「なっ・・・・!?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『先生見てますー!?ほら、大トロですよ、大トロ!!凄くないですか!?テッカテカ!油でテッカテカですよ!?はぁぁぁぁぁ、マグロの匂いがするぅ!高そうなマグロの匂いがぁ!!ごちでーす!』

 

楽しげな彼女の声を聞きながら、僕は昔の自分のささやかな気紛れに感謝した。よく彼女を手元におく事を決めてくれたね、と。

 

彼女を拾ったのはほんの気紛れだった。

実際怯える事しか出来ない彼女に、当時の僕は何の興味も持っていなかった。良いところ脳無にするか、その容姿と頭の良さを使って工作員として育ててみるか、弔の遊び相手にするか、精々思い付いたのはその辺り。

ところがだ一度懐に入れ育ててみれば、これが中々面白い。彼女はまさに才能の塊だった。

テストをすれば身体能力・思考能力や常に同年代の者と比べてトップクラスの成績を叩き出し続けた。戦闘を経験させればその学習能力の高さと非凡な戦闘センスを以て他者を圧倒する。空間把握能力に至っては常軌を逸した才覚を持っていた。

 

彼女が増長するのも無理はない。

僕さえいなかったら彼女は間違いなく僕と同じ道を自ら歩み出した事だろう。まぁ、もっとも、そんな彼女も今や僕の後継者候補の一人なのだが。

 

「先生、あれをいつまで甘やかすつもりかね」

 

楽しそうに夕食を食べ始めた彼女の姿を眺めていると、不意にドクターがそんな事を聞いてきた。足元にいるペットに寿司を与えながら、ドクターは何処か不機嫌そうに続ける。

 

「今回の一件、あの娘が余計な事をしなければ達成出来た筈だ。他のヒーローが間に合う事もなく、少なくとも半数の生徒を殺し、あのオールマイトをも殺し切れた筈だ。あの男の個性の減退は我々の予想以上だった。違うか」

 

可能性だけの話をするなら、ドクターの話も間違ってはいない。だが現実は計算通りにはいかない物だ。

僕が半死半生で情けない姿を晒しているように。

 

「ドクター。可能性だけでいうなら、僕はこうなっていないさ。オールマイトと対峙したあの時、勝算は僕にあった。だが、結果はこの様。忘れたのかい、世の中は不確定要素に満ちている。それを考えれば上出来さ。弔も彼女も無事に帰ってきた」

「脳無を失ったぞ!先生!あれを調整するのにどれだけの手間が掛かったか!!」

「ははは、結局はそこに行き着くんだね。そうだろうとは思ったけれど、まったくドクターは」

 

僕が笑うとドクターは益々不機嫌になっていく。

 

「それにじゃ、あの甘さが気に入らん!わしは!」

「甘さ?」

「そうじゃ、あやつ未だに誰も殺してなかろう!先生の後継者でありながら、あの腑抜けたあり方は許せん!これもそれも先生が甘やかしてるからじゃろう!違うか!また無駄に小遣いなど渡して・・・・まったく・・・あれだけあれば機材のひとつも・・・・かぁ、まったく!」

 

随分と不満が溜まってたようでドクターはブツブツ言いながら寿司を乱暴に口に突っ込んでいく。

最近ドクター自ら『歳を取った』などと力なくぼやく事が増えたが、この調子なら当分気にする事はなさそうだ。これからはたまに彼女をぶつけるとしよう。

 

「しかし、甘さねぇ・・・・」

「なんじゃ、何か言いたげじゃな」

「いや、何でもないよ。それより足元の彼、ドクターの手元に釘付けだよ。放っておいて良いのかい?」

「うむっ?おお、すまんジョンソンちゃん。忘れてた訳ではないんじゃよぉー!おーよしよし!」

 

ドクターは少しだけ勘違いをしている。

確かに彼女にはドクターの指摘通り甘い部分が残っている。弔と同じ様に候補止まりな理由がそれだ。

 

けれど、それと彼女が殺しをしないのは別の問題。

彼女は殺せないのでなくて殺さないだけ。

これまで死ぬよりも残酷な私刑を、彼女は敵対者に対して幾度も行っている。僕が教えた技術で壊し尽くしてきた。その結果がどうなるか理解しながら。

実に、恐ろしい事だ。

 

しかしまぁ、彼女にとって殺しという行為が、特別な物になりつつあるのは事実だろう。それまでは何となく殺しという行為を避けていたようだったが、今では意図的に避けている節がある。

僕の見立てではそれは甘さというより美学に近い物なのだろうと思う。今回の件でも彼女はチャンスを得ながら、弔にオールマイトを殺させるように動いた。ターゲット以外の犠牲を最小に抑える為に、ああして他のヒーローを呼び寄せた。ゲームでもしてる感覚なのだろうか。まったくもって面白い。

 

「セブン・・・・いや、死柄木ナナ。君にそういう相手が出来た時が楽しみだ」

 

己の美学を無視しても殺したい相手。

それを自ら殺した時、君は完成に近づくのだろう。

今から本当に楽しみだよ。

 

「━━━何か言ったかね、先生?」

「いや、ただの一人言さ。そう言えばさ、ドクター。セブンを見た時のオールマイトは見ものだったねぇ。誰と間違えたのか、本当おかしくておかしくて。あははは」

「先生は本当に良い趣味しとるよ。あんな荒い画像でよく楽しめるものだ・・・・よもや、また見るのかね?」

「いや、映像を捉えるのは神経を使うからね。今夜は音だけで楽しませて貰うよ」

「楽しそうで何よりじゃよ、先生」

 

側に掛けてあったヘッドフォンを付け、手元のボタンを操作すれば直ぐにその声が聞こえてきた。

あの男の苦痛に喘ぎながら、聞き覚えのある名前を弱々しく呟くその声が。

 

僕の頬は自然と吊り上がっていた。

 




◇ろうや先生◇

せんせー「━━━━ん?ああ、夢か。僕とした事が随分とおかしな夢を見たものだなぁ。でも、そういうのも悪くなかったのかも知れないね。ふふふ」

かんしゅ『こらぁ!!犯罪者!!何を笑ってる!!撃ち殺すぞ!!』

せんせー「おっと、怖い怖い。何でもないよ、何でもね・・・・ふふふ」




何か思い付いたら、また書きます。
多分、きっと、めいびー。


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うわっ剣が喋ってる!気持ち悪っ!!え?聖剣?誰が?いやいや、魔剣でしょ、どう頑張って見ても。背伸びするもんじゃないよ。ね?のif巻き

ヒロアカのアニメ、二期の第2クールエンディングのファンタジーネタでぼけぼけしながら書いたった。
以外と一杯書いてしもうた。ダラダラと、すまんやで。


そして、ライジングは無事買えたけど、忙しくて観れてへんやないかぃぃ(´・ω・`)クキィィ


その年、ユーエー王国の国王ネズッミー百三十世より国内外問わずある事が大々的に発表された。

城の大魔法使いによって、数百年前に世界を恐怖のズンドコに陥れた闇の暗黒帝王の復活が予言されたという。

そしてこの事態に王様はかつて暗黒帝王を倒した英雄の剣とその使い手である勇者を探しているのだと。

 

その話は瞬く間に広まった。狼の群れが駆ける草原を越え、死の霧漂う森を越え、ドラゴンの住まう山脈を越え大陸全土へと。そして多くの者が駆り立てられた。

腕に覚えのある者達はこの発表を受けて王都へ。

報奨金に期待して剣を探す者達は冒険の旅へ。

少年から老人、戦士、傭兵、騎士、山賊や海賊に到るまで誰もが富を、名声を、力を求めて動き出す。

そしてこれこそが、後々まで語られていく事になる━━━大英雄時代の始まりである。

 

 

「である、じゃないわよ。馬鹿娘。馬鹿な日記書いてないで早く寝なさい。さっきも言ったけどお母さんね、明日町内会の寄り合い出ないといけないから、あんた店番してなさいよ」

「えぇぇぇぇーーー。明日は暇だし、一日中寝てようと思ったのにぃぃ」

「どうしても嫌ならやらなくて良いわよ。追い出すだけだから」

「了解です!母様ぁ!!母様の留守、この私がお守りいたしまっする!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の暗黒帝王の復活が予言されてから一ヶ月。

王都の方が何か騒がしくなってる事を風の噂に聞きながら、金銀財宝に勝るとも劣らない美貌を持つ天才にして唯我独尊な私フタコ・ミドリーヤは、いつものように我が家の雑貨店で看板娘をしていた。

 

私は自他共に認める気がついたら傾国しちゃうくらい圧倒的美少女。そんな私が店番なんてすれば当然街の童貞共が黙っていない。男達は私の気を引こうとアホみたいに商品を買い漁り、お昼過ぎた頃にはお店はすっかりスッカラカンである。残ってるのは高額商品ぐらい。

本当なら、お昼まで寝てるつもりだったのだが・・・まっ、この売り上げならお小遣いも増えるし。よしとしようか。

 

『・・・・あ、あの、ミドリーヤ少女』

 

不意に、筋肉ムキムキそうな男の声が聞こえた。

視線をそこへと向けると、安売りの籠に入りっぱなしになってる外見がボロボロの剣が一本目に入った。

面倒臭いので無視する。

 

『いや!無視しないで!聞こえてるよね!?』

「あ、いえ、聞こえないです。はぁー午後どうしよっかなぁ。どーせあとは売れないし、もう店閉めちゃおっかなぁぁ・・・・お昼何食べよ」

『分かった!お昼食べながらで良いから聞いて!!お願いミドリーヤ少女!!世界の危機なんだ!本当に!えらばれし者よ剣を抜けとか、もう偉そうな事言わないから!お願い、聞くだけ聞いて!!今日だけで良いから!本当にっ、本当にお願い!』

 

はぁーー鬱陶しいぃぬぅぁぁぁぁ。

仕方ないので店を閉めてから話を聞いてあげる事にした。お昼ご飯であるサンドイッチを摘まみながらだけど。

 

今から丁度一ヶ月前。

店の隅っこに置いておいた私の愛刀ならぬ愛棒、害虫根絶丸1号が突然喋った。叩き潰してきた害虫達の怨念が溜まりに溜まり、ついに自我を持ったのか!と目の前の怪奇現象にドキドキワクワクしたのに、あろうことかこいつ自分の事を古の英雄の名前を名乗り、挙げ句その身は聖剣だと教えてくる。しかも私に向かって選ばれし者よ!とかほざいてくる。

 

王様のお触れで暗黒帝王を倒す事が出来る聖剣を探している事、それを持つ選ばれし者を探している事は聞いていた私はじっくり、腰を据えて、たっぷり、真剣に、あれやこれやと、考えに考えて、悩みぬいて━━━━自称英雄であるトッシーの話を全部無視する事にした。

 

その後はあわよくば誰か持っていかないかな?と安売りの籠に突っ込んでおいたのだが・・・結果はこの通り。一向に誰も買わない。木製の食器より安いのに。

まぁ、鞘から抜けない剣とかただの重い棒だしね。中途半端な長さだから物干し棹にもならんし。孫の手にしようにも形がかくのに適してない。しかもその鞘ときたら、到るところに害虫を抹殺した時についたシミだとか付きっぱなしで、あと長い事蔵の中に仕舞ってたせいかなんか変な臭いする。なんか買われないのも仕方ない気がしてきた。

 

『━━━━という訳でだ、私はかの戦いの果て意識の一部を剣に残して、暗黒帝王の復活に備えたという訳なんだ・・・・あの、聞いてたかな?ミドリーヤ少女』

「えっ?あ、はい。聞いてました。ですよね、サンドイッチはマスタードいれますよね。分かります」

『何も分かってないんだけど!?少なくともマスタードの話はほんの少しもしてないんだけど!?えっ、全然聞いてなかったの!?結構色々話したんだけど!?』

「あはは、まさか。ちゃんと聞いてたってば。さっきのジョーク。フタコにゃんジョーク。あれだよね、うん、分かってる。分かってるよ。うんうん。ね・・・あー、サンドイッチうまー」

『さては何も聞いてないね!?』

 

怒る剣の柄をつつきながら、私はふと思った事を聞いてみた。

 

「そー言えばさ、私は鞘から抜けるんだよね?試してないけど、中身ってどんななの?やっぱ錆びてんの?」

『いや、それはない。たとえもう百年経ったとしても、この剣"ワンフォーオール"が錆びる事などないさ。白刃については・・・使い手次第といった所か』

「使い手次第?」

 

詳しく聞いてみると害虫根絶丸ことワンフォーオールは、選ばれし者とやらが鞘から引き抜くと自動で使い手が使いやすい形に変わるらしい。今喋ってるトッシーの時は自分の身の丈程もある鉄塊みたいな特大剣で、トッシーの師匠の時はレイピアだったらしい。

そしてそんな剣を抜いた者は人並み外れた力と、古の英雄達の魔法も使えるようになるとか。この剣擬きの言う事が本当ならだが。

 

「ねぇ、選ばれしなんちゃらってさ、マジで私だけなの?誰か代役とかたてらんないの?あんこもち帝王だか、きなこもち帝王だか知らないけど、ようはそれを倒せれば何でも良いんじゃないの?」

『随分と美味しそうな名前になったね。奴が聞いたら歯軋りしそう━━━━いや、奴なら薄ら笑いを浮かべるか。あーーえーと、まずね、奴を倒すなら聖剣ワンフォーオールは必要かな。奴の元に聖剣の対になる魔剣オールフォーワンがあるからね。凶悪な魔剣なんだ。代役については・・・恐らくは無理だと思う。声を聞けた以上、君が次の後継者だ。君が亡くなるような事があれば、新たに選出される事はあるのだろうが』

 

うわぁ、回避不可ときたもんだ。

やってられないんだぜっと。

 

そのまま剣の戯言に耳を傾けながら転た寝してると、カランカランと入口から鈴の音が鳴った。寝ぼけ眼を擦りながら見てみてれば見掛けない二人組がキョロキョロしながら入ってきた。魔女っぽいとんがり帽子の女の子と、眼鏡を掛けた騎士風の男だ。

泥棒にしては間抜け過ぎるけれど、取り敢えず害虫根絶丸を手に迎撃態勢を取ってから声を掛けてみる事にした。

 

「ちゃお、泥棒ならお断りなんだけど?」

 

私の声に二人が驚いた顔でこっちを見た。

驚いたのはこっちなんだけど。

マジで泥棒なん?え?しょっぱくけど。

 

「あっ、あの、ごめんなさい!悪気はあらへんの!ただ、ここに聖なる魔力を感じて・・・」

「だから言っただろうウララーカくん!後日改めて訪れた方が良いと!!」

「せやかて、もしあれがほんまに商店にあって!今度私らが来る前に売られてたら取り返しつかんやんか!せやから確認だけしよって言うたの!!イーダくんもそれなら言うたやん!」

「それは、そうなのだが・・・」

 

なんか私そっちのけで揉め始めたので、害虫根絶丸で床を強目にひっぱたいた。大きな音が鳴る。石畳のブロック一つが砕ける。

二人はそれを見て口を閉じた。よきシャラップ。何となく目的が分かったからスパッと解決しよう。

 

「まず、クローズドの看板を無視して不法侵入してきた件を謝ること。二つめ、石畳の修理費をちょっと多目に寄越すこと━━━━あっ、多分ね、魔女っ子の探してるこの害虫根絶丸は売ってあげる。今ならスタンプ二つ押してあげる」

『もののついでに売らないで!!いや、もののついででなくても売らないで!!スタンプ押さないで!!』

 

害虫根絶丸がきゃんきゃん騒ぐのをスルーして、改めて二人から話を聞くとやはり聖剣とその使い手を探してるらしい。何でも魔女っ子のオチャコ・ウララーカの師匠は王様にあんこもち提供王の復活を予言した魔法使いで、弟子であるオチャコは師匠から直々に聖剣の捜索を任されたそうな。一緒にいる眼鏡は、とある領地持ちの貴族の次男坊でイーダ・M・テンヤという王国騎士見習いらしい。オチャコに与えられた使命を偶然聞いて正義感が爆発、いてもたってもいられずこうして付いてきたそうだ。因みにオチャコとはあくまで友達、男女の関係とかではないみたい。

 

まぁ、何がともあれ処分に困ってた物をお金を出して買うと言うのだ。断る理由は欠片もない。害虫根絶丸の猛抗議を右から左に流しつつ、全力の商人スマイルと共に二人の懐事情を探りながら交渉を始める。

オチャコの方は明日のご飯代すらままならない貧乏具合だったけど、イーダの方の懐は身分通り随分と温かい。持ち合わせがないと聞いたけど、それでもかなりの大金を持ってるようだ。流石、貴族様は違う。

貴族様の財布に合わせて金額交渉を続ける事少し、オチャコが唖然とする中で私達は握手を交わした。

 

「━━━━よし、じゃ交渉成立という事で」

「ありがとう、君の誠意に感謝する。取り敢えずこれは手つき代だ。後日使いの者を寄越すから、足りない分はその者から受け取ってくれ」

 

「・・・そら、本物の聖剣やったし、価値はあんねんけどさ。えぇ、ご、豪邸三つくらい建つんやけど」

 

いやいや、幾らなんでも三つは建たない。

土地代もあるから建っても二つが限度だって。

まっ、そもそも豪邸なんて買わないけどね。そこそこの一軒家立てて、猫を愛でながら一生ぐーたらして暮らすのだ。夢のニート生活じゃぁ。ふへへ。

 

そうして代金と交換でイーダの手に渡った害虫根絶丸だったけど、勿論静かに見守ってる訳ではなかった。

 

『みっ、ミドリーヤ少女!?ほ、本当に私を手離すつもりなのかい!?戦えるのは君だけなんだぞ!!それは、酷な話だとは思う!いきなりこんな事言われて信じる事は出来ないだろうし、戦えと言われて戦える人間がどれほどいるか!』

 

害虫根絶丸の声が聞こえてない二人の視線を受けながら、害虫根絶丸は血を吐くように叫び続ける。

 

『だが、暗黒帝王が復活すればこの街とて無事で済む保証はないんだぞ!?世界の為にとは言わない!この街の為に、君の家族の為に、君の平穏を守る為に!!私を抜いてくれないだろうか!!ミドリーヤ少女!!』

 

流石にちょっと胸が痛くなるから止めて。

母様の事とか出すの反則でしょ。

でも、まぁ、抜かないんですけども。

 

遠ざかってく姿と声へ、私は満面の笑みと共に手を振った。もう二度と帰ってくるんじゃないぞ。害虫根絶丸一号。ここは二号に任せろ。お前は気兼ねすることなく世界を救ってこい、かんば。

 

「さて、戸締まりしてお昼寝でもするかな。どーせ、母様夕飯まで帰ってこな━━━━━━むむ?」

 

剣を叩き売りしてから暫く。

店の片付けを終えた頃、面倒事も無事に処理したと言うのに、けたたましい破壊音が外から響いてきた。何かとてつもなく重い物が落ちてきたような、そんな不穏極まりない音が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しばかり気になって害虫根絶丸二号を手に店を出ると、街の広場の方が騒ぎになってた。なんか皆でわーわーきゃーきゃーしてる。はしゃいでる訳ではなさげ。

ちょっと様子を覗きにいけば、脳ミソ丸出しのムキムキマッチョな化け物が衛兵相手に暴れ回っていた。

その側にはさっき害虫根絶丸を買った二人の姿もあった。衛兵に交じり剣と盾を手に立ち回る必死な顔した眼鏡。その後ろにいる魔女の子の方は怪我でもしたのか苦悶の表情を浮かべながら、害虫根絶丸を抱え込み踞ったまま動かない。

 

この街の衛兵の実力は知ってる。

だから、放っておいても大丈夫だとは思うんだけど、このまま店の近くで暴れられるのは宜しくない。営業妨害だ。今日は兎も角、明日以降の売上に悪影響は必至。

故に、私もそのお祭りに二号を翳しながら参戦した。

何事も迅速解決が一番。私は面倒は先に終わらせるタイプです、どうぞー。

 

「くっ、この化け物なんなんだ!!こんなやつ聞いたこともなっ━━━━━ふぎゃっ!?」

「足場の提供ご苦労様でーす」

 

という訳で、衛兵の一人を踏み台に私は空へかっ跳んだ。化け物の視線は依然として周りを取り囲む衛兵達だけを捉えている。私の事は毛ほども警戒してない。

なので隙だらけの化け物の脳天目掛け、渾身の力を込めて二号を振り下ろした。

全身の筋肉を総動員しつつ全体重を掛け、果てには遠心力が乗るように放った一撃。綺麗な弧を描いたそれは鈍い手応えと共に何かが潰れ、そして砕ける音を耳に響かせた。

 

ぐらりと化け物の体が揺れ、大きな音を立てて地面へと体を突っ伏す。膨れ上がっていた筋肉が若干萎み、ギョロリとした瞳からも生気が消える。

 

「━━━━っし、とったどぉぉぉぉ!!」

 

根絶丸を高く翳すと周りから歓声があがった。

物陰から様子を見てた連中も顔を出してやんややんやと褒め称えてくる。若い衛兵達からは「ボス!」「流石ですボス!」とか言われたので、勿論おしおきした。可愛い女の子にボスってなんだ、ボスって・・・ねぇ?ねぇ、隊長?ねぇ?こっち見てくださいよ、ねぇ。

目を逸らす衛兵隊長にジト目を向けていたら、か細い声が背後から掛かってきた。チラ見すればイーダとかいう眼鏡が何か言いたげな顔で見てる。

 

「き、君は先ほどの・・・ありがとう、助かった。対峙した時からタダ者ではないとは思っていたが、まさかこれ程とは」

「なに、見惚れちゃった?よし、ならば私のファンになることを許す!毎朝、私の偉大さと可愛いさを想いながら、空を見上げて一刻ぐらい好きに褒め称えると良い!━━━━と、それより魔女っ子は大丈夫?怪我してるでしょ?そっちは大丈夫なん?」

「はっ!?そうだ、ウララーカくん!!」

 

私の言葉にハッとしたイーダは慌てて魔女の子ことオチャコに駆け寄っていった。オチャコは顔色が悪いが会話はちゃんと出来ているし、改めて見た感じ傷も深くなさそうだから大丈夫だろう。何より、この子魔女だし。時間さえあれば魔法で傷くらいちょちょいでしょう。知らんけど。

 

騒ぎを聞き付けたのか更に衛兵達がやって来た。

その中には腕利きの人もいたのでいよいよやることないかな?と二号を肩に帰ろうとしたら━━━━━何か不穏な気配を感じた。

 

「━━━なっ、なんだ、こいつは!?」

 

誰かのあげた驚愕の声に振り返れば、さっき叩きのめした脳みそ丸出しのムキムキの化け物が陸へと放り出された魚みたいにビクンビクンと跳ねていた。

化け物は口元から涎を垂れ流しながら、ぐちゃぐちゃとメキメキと不快な音を立てながら歪な形へと変えていく。腕があらぬ方向へとへし折れ、脚が千切れんばかりに捻曲がる。隆起している筋肉がそれ自体別の生き物のようにうねり、ぶつかり、混ざり、別の形へと姿を変えていった。

 

気がつけば人間のようだったそれは、四つん這いの謎の化け物にクラスチェンジしていた。

ただでさえ太かった四肢は大木のように大きくなり、その背丈も成人男性の二倍程の巨体へ、僅かに人間味を残してたいた顔は狼のような獣面に変貌を遂げた。

あと相変わらず脳ミソは見えっぱなしである。いの一番に変えなきゃいけなかろうに。頭蓋骨つけるとかさ。

 

「オオオオオオオオオオッッッッ!!!!!」

 

咆哮を一つあげると、化け物は駆け出した。

四つ足で地面を駆けるそいつは恐ろしく速かった。

獣のような低い姿勢で滑るように地面を駆け抜け、自分を囲っていた衛兵達を次から次へと蹴散らしていく。

あっという間に私の所にもやってきて、生意気にも牙を剥いてきたので━━━力一杯横っ面をぶっ飛ばしてやった。

 

ベキリと嫌な音が鳴る。

 

私へ突っ込みそびれた化け物が明後日の方向に転がるのを横目に、手元を確認してみれば害虫根絶丸二号が根元からポッキリされていた。御逝去である。元より安物だから期待してなかったけど・・・僅か一月の命じゃったかぁ。まぁ、しゃーなし。

 

柄の部分を化け物目掛け投擲。

パカンという良い音を聞きながら魔女っ子達の所まで引き返して、私は愛刀・害虫根絶丸一号を借りた。

 

「ごめんねお客さん、ちょっと借りるよ」

「えっ!?あっ、ちょっ、待って━━━━」

 

魔女っ子の手を振り切って化け物へと駆け出すと、直ぐにムサイおっさんの声が聞こえてきた。

勿論、その声は手元からだ。

 

『みっ、ミドリーヤ少女ォォォォ!!私は信じていた!君はっ、君はやってくれると思っていた!口ではあれこれと文句を言うが、君の街を見つめる目は優しかっ━━━━』

 

うるさかったのでチョップしてやった。

おっさんの声で『いたっ!?』とか悲鳴が聞こえる。

 

「ええい、喧しい!!使われる時くらい、前みたいにお口チャックしてて!!変な気をつかうの!!」

『━━━━ま、前!?そうか、君は私が目覚めるより早く既に!!分かった!今こそ真なる封印を解こう!!存分に━━━━』

「出来るならぁッッッ!!死ぬ気で封しときなッッッ!!!」

『━━━━えっ?』

 

深く息を吸い込み━━━━全力で地面を蹴った。

 

掛け値なしの本気の踏み込み。蹴り脚は地面を削り飛ばし、その反動で体は一気に加速する。

破れかぶれに振り回された剛腕を一つ掻い潜れば、化け物との距離は一瞬でなくなり、私の体は無事攻撃の射程内へと潜り込んだ。

 

「ちぇぇぇぇッッすとォォッッッッ!!!」

 

下段に構えた害虫根絶丸を、全身のバネも使って一気に振り上げる。砕けるような音が響く。加速した勢いを殺さず体ごと叩きつけた一撃は、化け物の顎を砕き顔面を強引に空へと向けさせる。

 

『うぉぉぉっ!?えっ、ちょっ、鞘のまま!?折れる!!ミドリーヤ少女!!これは剣だ!!棍棒ではなく、剣であって!叩くもッッッッ━━━━ほぉあ!?』

 

隙だらけの化け物の脚の関節に二撃目。

野太い悲鳴と共に手に硬い物を砕く感触が走り、化け物の体は頭から地面に崩れ落ちる。

トッシーは心配してたけど、私の知ってる通りに手に握り締めたソレは傷一つない。赤い染みはついたけど、それはいつもの事。

 

これを初めて物置小屋発見してから十年。

私はその名が示す通りに、害虫は勿論のこと私の敵たる物達と戦う為に幾度となく振るってきた。ゴから始まる地面を高速で掛けたまに飛ぶ害虫を滅する時。ムから始まる足が一杯あって噛みついてくる害虫を滅する時。ムカついた近所のガキを殴り倒す時。態度くそ悪い客を店から叩き出す時。近所の森で私の山葡萄を横取りする泥棒を蹴散らす時。気の迷いで私に喧嘩売ってきた熊にお仕置きする時。いつまで経ってもお子様気質で短気な幼馴染とその相棒のドラゴンをぶちのめ・・・・躾る時。

そしていつだってこの棒は壊れないでいてくれた。私の期待に応えてくれた。最高のパフォーマンスを見せてくれた。そう離れがたき相棒なのだ。

 

でも、こいつは余計な事喋るようになっちゃったし、王様が探してるしで、使ってるだけでヤバい事になる代物へと変わってしまった。故に、ここでお別れなのだ。めちゃくちゃ残念だけど。

 

「私からの手向けだよ、害虫根絶丸!いっちょ有終の美ってやつを、飾っちゃおうかぁっっっ!!」

『待って!待ってくれ!本当に!!この剣の頑丈さは心得ているが、まだ封印状態で真価が発揮されてない!!幾ら聖剣とはいえ壊れる可能性がある!!長い間封印されていたから、整備する必要もあるくらいで、だからミドリーヤ少女!!聞いて!お願いだから、振りかぶらないでッッッ━━━━ひょえ!?』

「━━━どぉりやぁぁぁぁ!!」

 

気合い一発。

怒号と共に振り下ろした全力の一撃は、再び丸出しになってる脳みそを叩いた。形容し難い炸裂音が鳴り、害虫根絶丸を握る手にこれ以上ないほどの手応えが走る。

攻撃を受けた化け物は地面へと顔を激しく打ち付け、大きなクモの巣状のヒビをそこへ作り出した。化け物は地面に顔を半分ほど埋めたままピクピクしていたが、それも少しの間だけ。直ぐに動かなくなり、空気が抜けた風船のように急に萎んで・・・・最後にはパッと消えてしまった。

生き物らしくないなぁ、と戦ってる間ぼんやり思ってたけど、どうやらマジもんの化け物だったらしい。

 

そんな風に状況を確認していたら、周囲から野太い歓声が上がった。何処から徒もなく私を褒め称える声も聞こえてくる。主に衛兵のしたっぱ共から「ボスー!」とか「姉御ぉ!」とか聞こえる。後であいつら殴る。

 

「声援ありがとーー!ミドリーヤ雑貨店!ミドリーヤ雑貨店をよろしくお願いしまーーす!まだ高額商品残ってるので、是非とも買いにきてねーー!今ならサービスポイントもう一個ついてくるーーー!!」

 

ついでに店の宣伝してると、よろよろと魔女っ子が近づいてきた。感謝は勿論だし、なんならお礼の一つも貰えるかな?とワクワクして待ってたら、徐に手首を掴まれる。

何か不穏な気配を感じて魔女っ子の顔を見ると、凄い形相で私の事を見つめていた。完全に疑ってる目である。

 

「今、聖剣使うたよね?ミドリーヤさん・・・いや、勇者様」

「え?い、いやいや、ないない。ひゃくぱー人違いだって。あんなの使った事にならないでしょ。頑丈なの良いことに、そのままぶっ叩いただけだって。あれじゃなくても出来るから」

「知らんやろうから教えるけど・・・・その剣ね、普通の人には鞘から抜けんし、振る事もでけへんの。実際、イーダくんは持つ事は出来ても剣として振れんかった。意識にブレーキが掛かる感覚があるんやて。軽く見た感じ、魔法のせいかな?剣の選んだもん以外使えんようにって、そういう魔法」

 

私はそっと魔女っ子に害虫根絶丸を握らせると、即座に愛する我が家に向かってダッシュした━━━が、駄目!さっきまで弱ってた人間とは思えない魔女っ子に高速タックル決められた。

 

「やめてぇぇぇぇぇ!!無理だって!!マジで!!やだぁ!!私は家でゴロゴロしながら、のんべんだらりと暮らしてたいのぉぉぉぉぉ!!」

「私かて!!冒険なんてせんと、家で魔導書読みながらお餅食べてたいわぁぁぁぁぁ!!お願い、ミドリーヤさん!!一回で良いから、王都きてぇぇぇ!!一回で良いからぁ!!」

「やだね!!だってそれ、一回行ったら終わるやつでしょ!?一回行ったらフィニッシュするやつでしょ!?私は騙されない!!断るぅ!!断るったら断る!!」

「くっ、なんて馬鹿力!!イーダくん!!ちょ、見てへんで協力して!!」

「いやぁぁぁぁぁ、助けてかっちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

 

それから暫く、私達の熱い攻防は続いた。

緊急時に吹けと渡された笛の音を聞いた幼馴染とそのペットのドラゴンが、びっくりする程の早さで駆けつけるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は何してんだ、てめぇは!!」

「ぐわぁ」

 

「かっちゃぁぁぁぁぁぁん!!へるぷみぃぃぃぃぃ!!勇者にさせられるぅ!!」

 

「分かるように説明しろや!!馬鹿が!!」

 




続かない。




バッドエンドルートはもちょっと書くかも。


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闇の帝王な先生の気がうっかり向いちゃったルートなifの巻き②

ああああああああああああ!!
キメラのおじさんで話書きたいんだなぁもぉぉぉぉぉ!!!わんわんぉ、わんわんぉ好きだよぉ!

ナイン?知らんな!おいらぁ、キメラのおじさんが良いんだよぉ!


弔主導による保須市襲撃事件から暫く。

私達は三度目となる襲撃の為に、ブローカーを通して新たな仲間達を集めていた。実質的に二度の襲撃に成功している事と一応仲間だったペロペロおじさんの『俺をほにゃららするのはオールマイトだけだぁ!』動画のお陰で、募集を掛けたたら人の集まりがそれなりに良く、ブローカーからは快く何人か紹介された。

 

それで最初に合流したのは二人の男女。

一人は身体中火傷だらけの男『荼毘』。クールでなに考えてるのか分からないけど、陰キャ系ファイヤー野郎だ。コードネームは傷だらけの堕天使(スカーダークエンジェル)。私がつけてあげた。カッコいいと思うんだけど、呼ぶとめちゃ怒る。

もう一人はヤンデレ吸血女子高生『トガヒミコ』。ポケットにナイフ忍ばせてる、ペロペロおじさんのファンだ。それはそれは熱烈なファン具合で、好き過ぎてペロペロおじさんになりたいらしい。意味わからん。コードネームはトガっち。最初こそ少しギクシャクしたけど、今では一緒にクレープ食べにいくほどの仲良しさんだ。たまにヤバい顔で血を吸ってこようとするけど・・・それはまぁ、普通に撃退するので別に問題じゃないし。

 

そんなこんなで元から仲間だったキリりんも合わせるとヴィラン連合も四人となった・・・あ、弔忘れてた。五人となった。そんな五人でやる最初の仕事━━━━それは面接である。

 

「お前らぁ!!私達の仲間になりたいかぁ!!ヴィラン連合に入りたいかぁ!!」

 

スピーカーから流れる私の美声が廃工場内へと響いていく。だが、悲しいかな。返事がない。そこそこ人はいるのに。耳の穴かっぽじって手を当ててよーく聞いてみたが、やはり返事らしき返事はない。

 

「そうか、入りたいか!!よろしい!!ならば、面接だ!!向こうにいるトガっちから整理券を受け取り、順番にあそこに見えるモヤモヤしたのと、傷だらけの堕天使っぽいのと、顔面をずっとアイアンクローされてる男達の前でじっくりことこと面接します!!一人五分の面接です!予め渡した資料に書いてある通り、自己紹介の練習はしてきましたか!!座る前からチェックしていきますからね!はい、それじゃ左の人から順番で整理券を貰っていってどんどん行こうか!いえす、スタート!!」

 

パンパンと手を叩いてスタートを促したが、何故かこいつら動かない。ほぼ全員が額に青筋浮かべて睨んでくる。呆れた顔したのもいるけど。

流石にヴィランやってるだけあって頭おかしいわ。完全究極美少女を目の前にしてなんてこの反応とか。普通は喜び歌い歓喜して、涙を流しながら迅速に動くのが道理だろうに。時代が時代なら打ち首拷問だよ?あれ、なんか違う気がする。いや、まぁ、いっか。

 

「はいはい、ちゃっちゃと動いてー面接始められないよー。時間は有限、いつまでも━━━━」

「っせぇぞ!クソ餓鬼!!俺らはてめぇみてぇなチンチクリンと遊びにきた訳じゃねぇぞ!!」

 

私の声を遮るようにどっかの誰かから怒号が飛んだ。

するとそれに続いてあっちこっちからブーイングが始まる。仕舞いには舐め腐った顔でこっちに向かってくる始末だ。賛辞ならまだしも、まったく!このウンコ共ぉ!!

 

取り敢えず一番前にいた頭悪そうなヤンチャ野郎を引き寄せる個性で引っこ抜き、飛び込んできたそいつの顔面に肘鉄を打ち込んだ。流石にブローカーが紹介してきただけあって一撃で沈まなかったけど、続いて放った裏拳の二撃目までは耐えられなかったらしく力なく地面へと転がった。

おまけで鼻と口にちょこっと炎を吹き込んでやれば、絶叫と共に周囲からブーイングの嵐がやんだ。

 

「━━━━はい、という訳でね、私らが君達を紹介したブローカーの顔を立てて優しくしてる内に、さっさとやる事やりな馬鹿共。気に入らないならグダグダ言ってないで回れ右して帰れば良い。お帰りは向こうね?」

 

ピッと出口を指差すと同時、馬鹿笑いが廃工場内に響いた。視線を声の元へと移せば、片目に深い傷を負った筋骨隆々な大男が腹を抱えて笑っていた。側にあるコンテナを平手で叩きながら、ひいひぃとひきつるほどの大爆笑である。

 

「はいそこー、うるさくしなーい。面白いこと言ってないでしょうが」

「馬鹿言うな、十分おもしれぇよ!仮にも賞金まで掛かったヴィランがこの様なんだぜ!?笑わねぇ方がどうかしてる!!・・・はぁ、たくよぉ、さいっこうじゃねぇか!お前気に入った!!俺ぁ、巷じゃぁマスキュラーって呼ばれてるもんだ!!ヴィラン連合入るぜ、よろしくな!!おい、女ァ!!確認だけどよぉ、好きに暴れて良いんだよなぁ!!」

 

勝手に仲間入りしようとする姿にちょっと頭痛を覚える。なに言ってんだか、こいつは。

 

「面接するって言ってんのに、何勝手に仲間入りしてんの。この筋肉お化け。入りたかったらまず整理券貰って、あそこの怪しい三人衆から合格貰いなさーい。あと好きに暴れていい訳ないでしょうが、私か弔がOKした所で暴れなさーい」

「ははは!わーった、わーったっての!おう、そこの!整理券寄越せ!面接かなんか知らねぇが、さっさと終わらせようぜ!俺のやる事とやらを聞きてぇからよ!」

 

大男が整理券を手に弔達の元に向かい始めると、他の連中もぞろぞろと動き出す。私の指示でというより男につられてなのが気に入らないけど、いちいち突っ込んでるとキリがないので何も言わないでおいた。

 

一旦流れが出来ると早いものでトガっちの整理券はあっという間に配り終わり、いよいよ怪しい三人衆の面接が粛々と始まる。暇人と化した私とトガっちはポッ●ーをツマミに観戦タイムと洒落混む事にした。

 

「それにしても弔くん達、不機嫌そうですねぇ」

「ねっ、何が気に入らないんだか・・・がんばえー!キリりんー!弔ぁー!スカーエンジェル石川ぁー!美人過ぎるヴィラン=私が応援してるぞ━━━うわっ、危なっ、炎飛ばしてきた!?何考えてんだ、馬鹿エンジェル!!ぶつかったら火傷するでしょ!やーい、お前の母ちゃん大天使ー!」

「私、人の気持ちってあまり分からない方だと思うんですけど、多分そういうのが不機嫌にさせてる原因だと思いますよ。ナナちゃん」

 

そのまま二人でポリポリしながら見てると早速合格者が出た。さっきの大男だ。何か楽しそうに雄叫びあげてる━━━かと思ったら、なんかこっちきた。大股でズンズンと。

 

「おう!つー訳でよろしくな!さっきも言ったがマスキュラーだ!てめぇの名前言えよ」

「偉っそうだなぁ~。まぁ、別に良いけどね。畏まられるより楽だし。私は死柄木ナナ。でもセブンって方がよく呼ばれるかな?まっ、好きな方で呼んで良いよ」

 

私の自己紹介に続きトガっちも「トガです」と笑顔を見せる。笑顔といっても邪悪スマイルだ。別に態とやってる訳じゃない。トガっちはわりといつもこんなだ。マジキチモードの笑顔知ってる身からすれば、それでも全然可愛いげのある笑顔なんだけど・・・・。

 

ちょっと不安を覚えて筋肉男を見たが、特に思う事はないのか「おう」と一声返すと私の前の所でドカリと胡座をかいた。そしてそのまま何処か楽しそうに他の連中が面接してる姿を眺め始める。

 

「で、後は誰だ?」

 

不意に掛けられた言葉に私はトガっちと一緒に首を傾げる。すると筋肉男は私の方を見て「てめぇだ、てめぇ。セブン」と言ってきた。どうやら私に聞いていたらしい。

 

「誰だって、何の話?もう少し人間の言葉喋ってくんない?」

「だから、てめぇが目をつけてんのは後誰なんだって聞いてんだ。俺達の前に来た時点で、いやもっと前から、使えそうな連中には目星はつけてたんだろ。てめぇの目が止まった回数は数えて七回だ。俺と最初に殴り飛ばした雑魚抜けば、後五人分てめぇは誰かを見た・・・・・違うか?」

「あーそういう話。思ったより頭回るんだね。安心した、脳みそまで筋肉で出来てそうだからさ」

「ははっ、止めろ止めろ。実際、俺はお利口な人間じゃねぇしな・・・・ただな、考えなしの馬鹿のままじゃいられねぇのさ。サツに追われてるとよ。で?後はどいつだ」

 

楽しげな声に私は整理券を手にした連中を見た。

直ぐに目についたのは今正に面接を受けてるオカマ、その直ぐ近くで待っている拘束着をきた変態の二人。

それから少し周囲を見渡せば、周囲の様子を窺っているシルクハットの男、前髪が目に掛かってる学生、変な言動を繰り返す全身黒スーツの男。どれもブローカーから情報を貰った時から目をつけてた連中だ。

一通り教えてあげると、筋肉男は顎を擦りながら何やら思案気。トガっちには前もって教えてあげてたので面白くなさそうにお菓子をポリポリする。

 

「・・・・ああ?わかんねぇな。あのオカマと拘束男は分かるが、他のはほぼ無名の連中だろう。何か理由でもあんのか?」

「理由ねぇ・・・うーん、無いこともないけど。今のあんたに教える理由ないからね」

 

次の作戦で最悪使い捨ても良い面子"その一"であるこの筋肉男には特に教えるつもりはない。

 

「なんだよ、冷てえじゃねぇか。まっ、何でも良いか。暴れられんのは確定してくれんだろ?なぁ?」

「まぁね。好き勝手にって訳にはいかないけど、あんたにはそれなりに矢面に立って貰うつもりだから。そん時は存分に暴れれば良いよ。あっ、あと衣食住も用意してあげる。残念ながらお給料はないけど、それでもあんたにとっちゃ破格でしょ?」

「ははっ、違えねぇ。人ぶちのめせて、ゆっくり横になれる寝床がある・・・十分過ぎるぜ」

 

そんな風に話をしてるとオカマが合格を貰った。そのあと直ぐに次の拘束男も合格を告げられる。それからも予想外に弱そうなトカゲが合格を貰った以外、当初の予定通りの面子に合格の言葉が与えられていった。

不合格となった面子はキリりんに送り帰されるか、喧嘩を売って弔とスカーエンジェル小泉にぶち殺されるという殺伐とした結果を迎えた。かわいそーにぃー。

 

支給する装備についてキリりんとトガっちが合格者を集めて話を聞き始めると、不機嫌そうな弔とスカーエンジェル川内が私の所にやってきた。あいつらも当分暇人だ。おいっす、と暇人仲間に挨拶したが不快感マックスで舌打ちされる。何故に。

 

「くだらない茶番やらせやがって・・・・お前から殺すぞ。セブン」

「おい、待て。殺るなら俺に殺らせろ、陰キャ野郎。跡形もなく燃やしてやるよ」

「あっ?誰が何だって、火傷野郎」

 

息の合ったご挨拶に私は思わず笑みが浮かぶ。

どうやら仲良くなったらしい。

よきかな、よきかな。

 

「ははは、ナイスジョーク!お前ら!すっかり親友だねぇ。それよりあのトカゲ良かったの?使えそうにないけど?」

 

気になった事を聞いてみると、スカーエンジェル斎藤は弔へと視線を向けた。弔はその視線を受けてつまらなそうに「使えないな、あれは」と呟く。

けれど『いらない』とか『間違いだった』とは言わなかった━━━である以上、私から何か言うつもりはない。面接した結果、弔に思う所があったんだろうから。

 

「━━━そう言えばさ、スカーエンジェル高砂は」

「そのスカーエンジェルってアホみたいな呼び方止めろ。冗談抜きで殺すぞ、アホ面女・・・・あと、何処からきた、その高砂とか何だかんだってのは」

「何となく?その時のインスピレーション?スカーエンジェルが嫌なら・・・じゃぁね、ダビー。今からダビーね。ダビーは装備いらないの?持ってんの、そのクソダサコートだけじゃん」

「・・・・余計なお世話だ。自分の装備は自分で用意する」

 

それだけ言うとダビーはポケットに手を突っ込んで歩きだし、そのまま廃工場の闇に消えていった。作戦まで大人しくしてて欲しいんだけど、いったい何処へ何を燃やしに行くのやら。やんちゃしても証拠残さないし、人目も気にしてくれるからまだ良いけどね。まったく、困ったちゃんだ。

 

まぁ、あれは気にしてもしょうがないか。もう放っておこ。止めたって止まらないし、説得めんどいし。

どうなっても私は知らんもーん。

 

しっかし、大体予定通りにはなったけど・・・うーむ。

 

「ねぇねぇ弔ー、ちょっと良い?」

「なんだ、馬鹿」

「知ってる?馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ。糞馬鹿脳タリン陰キャコミュ症唇ガサガサ童貞の弔くん?」

 

私の言葉を聞いた弔は鼻で笑った。

 

「おい、知ってるか?その理論で行くとそっくりその罵倒がお前に返っていくの。それより何が言いたい?つまらない事だったら殺すぞ」

 

口を開けば殺す殺すと、おのれは小学生か。

つっこんだら煩いから余計な事は言わないけどさ。

取り敢えずポケットに入れてた写真を弔に見せながら、私は気になってたそれについて聞いてみた。

 

「ねぇ、本当にこいつにするの?別のにしない?」

 

次の作戦の際、雄英の生徒を一人拐う事になっているのだが、弔の選んだ奴はよりにもよって以前襲撃した際、アホみたいに食い下がってきた金髪ボンバーヘッドだったのだ。こっちの戦力は揃ってはいるが、相手側にはプロヒーローの中でも指折りの面子と未熟さがあるとはいえ強個性持ちの生徒が何十人もいるのだ。夜間の急襲でこちらに分があるとはいえ、リスクは依然として高い。

それなのに一番面倒そうなの選んできたのだ。文句の一つも言いたくなる。

 

「駄目だ、他の連中じゃ意味がない」

「いや、これ狙う理由は分かるよ。でも保須の一件で生徒が一人死んでて警備体制が余計厳しくなってるんだからさぁ、ここはもっと楽な奴にしとこーよ。リスク管理だよ、リスク管理」

「その為にこの面子を揃えたんだろうが。お前とトゥワイスでなければ、最悪二・三人はパクられても良い。上手く回せ」

 

それだけ言ってそっぽ向いた弔に、残念ながら作戦を考え直す様子は見えない。面倒だけど、やっぱり私で何とかするしかなさそう。

実際これを拐う効果はかなりのものがあるとは思う。保須の一件で雄英は生徒の暴走を許してしまった。その結果は最近ニュースで取り上げられてる通り、ヒーロー科の生徒一人と二人のプロヒーロー死亡という残念極まるもの。この期に及んで失態━━━例えば、全国放送の体育祭の時に、その素行不良っぷりを存分に見せつけた雄英生徒が、ヴィランに勧誘されてあっさり連れていかれたとかなれば、雄英の信頼はいよいよもって地に落ちるだろう。

 

しかしだ、弔は一つだけ思い違いをしてる。

弔は雄英体育祭でのあいつの姿を見て勧誘出来ると思ってるみたいだけど、それは見当違いも良いところ。あれは私達とは違う。

私が相対したあの金髪ボンバーヘッドはどれだけ見た目があれで言動が酷くても、人としての本質が私達と相容れないタイプなのだ。根幹にあるものが、まったく正反対と言っても良い。簡単に言ってしまえば、あいつはヒーローなのだ。

 

 

 

『お前っ!?・・・・ちっ、何が面白ぇんだ。てめぇは、ああ??』

 

 

 

この間ショッピングモールへ買い物に行った時、たまたま会ったあいつは半べそをかいた子供の世話を焼いていた。会話の内容は耳に入ってたのでそれが迷子なのは分かるんだけど、いつものしかめっ面で荒々しく対応してるせいで、一見すると恫喝してるようにしか見えなかった。もっと言えば誘拐犯とか。よくよく話を聞けば、親を探す手がかりについて聞いてたりするのだけどね。

そのせいで近くにいた人に110番されそうになってるのを見て、思わず噴き出した私は悪くないと思う。寧ろ爆笑しなかったのを褒めて欲しいくらいだ。

 

あの後、私は可哀想な迷子っちに飴ちゃんあげてトンズラこいたけど、金髪ボンバーヘッドはあのしかめっ面のまま子供を交番にでも送り届けたのだろうか?それとも一緒に親でも探したのか?あそこには迷子センターがあった筈だからそこへ連れていったのだろうか?

何にせよ、きっと最後まで付き合ったんだろう。あの仏頂面で。そう思うと笑えてくる。

 

「爆豪勝己ね・・・・長いなぁ、んー、かっちゃんで良いかな?うん」

 

この間は散々相手してあげたんだし、今度は私とも遊んでくれるよね?ねぇ、かっちゃん。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「聞いて下さい、ナナちゃん!ヒドイんですよ、この装備!!」

 

黒いモヤモヤの人から貰った装備一式を持って、友達の部屋に入るとナナちゃんはテレビゲームに夢中でした。ヘッドフォンも付けて超真剣です。次の作戦が間近だっていうのに緊張感の欠片もありません。

ナナちゃんは振り返りもしないで「なにー?」と聞いてきます。ちょっとムッと思って、もう一度名前を呼ぶとゲームを一旦ストップしたナナちゃんがヘッドフォンを外しながらこっちを向きました。

唇を尖らせてちょっと不満げです。

 

「なになに?どったのよ、トガっち。今良いところだったんだけどー?」

「どったのよ、ではないのです!見てください!これ!」

 

貰った装備を見せつけるとナナちゃんは「あー」と納得したような声を出しました。まだまだ短い付き合いですが、流石ナナちゃんです。私の好みについてよく分かってます。

 

「全然可愛くありません!頼む時に可愛くって言ったのに!」

 

ギザギザした歯をイメージしたネックウォーマーも、宇宙人が付けてそうなパイプの生えたマスクも、主武器となる注射器も、如何にも悪党が使います感が凄い出てるのです。信じられません。あれだけ可愛くと言ったのに。

 

「まぁ、可愛くはないけど、カッコよくない?首巻きのデザインとか私は結構好きだけどなぁ。それにデザインはあれとしてシンプルな作りな分軽いし、割と使いやすいんじゃない?」

「むぅ、そうですか?マスタードもそんな事言ってましたけど・・・・でも私は可愛いのが━━━━というかその首巻きって言い方、なんかおばさんくさくないですか?」

「ぬぇッッ!?いっ、良いじゃん首巻きでも!別に!伝わるじゃん!」

「伝わりはしますけど、やっぱりおばさんくさいですよ。ナナちゃん」

「がはっ!おば、さんっ・・・・だとぉぉ!?」

 

ナナちゃん時代劇とか好きなせいなのか、たまにこういう古い言い方するんですよね。

 

ショックを受けて倒れたナナちゃんを撫で撫でしてると部屋がノックされました。ナナちゃんがか細い声で返事を返せば、黒モヤの人の声が返ってきます。どうやら飲み物とオヤツを持ってきてくれたみたいです。

 

「━━━失礼しますよ。おや、貴女も一緒でしたか。丁度良かった、先程の装備はどうでしたか?やはりお気に召しませんか?改修するにしても次の作戦には間に合いませんので、こちらとしては今回だけでもそちらで満足して頂きたいのですが」

「あー・・・・いえ、取り敢えずこのままで良いです。可愛いくはありませんけど、ナナちゃんがカッコいいと言ってくれましたし。それに個性を使う時はどうせ直ぐ外しちゃいますから」

「そうですか、それは良かった。こちらとしても助かります。・・・・ああ、トガヒミコ、貴女も何かお飲みになりますか?」

 

テーブルにオヤツと紅茶の載ったお盆を置きながら、黒モヤの人はモヤに浮かべた二つの目を優しげに細めました。分かりづらいですけど、多分笑顔なのだと思います。

何が用意出きるのか分からなかったのでナナちゃんと同じ物を頼んでみれば、そう時間も掛からず紅茶とオヤツの追加分を持ってきてくれます。予想より早く帰ってきたのでその理由を聞いてみれば、ナナちゃんが直ぐにお代わりするだろうと思って用意してたそうです。過保護です。前々から思ってましたけど、ナナちゃん関係に凄い過保護です。この人。

 

それから私はナナちゃんと一緒にオヤツタイムを楽しみ、一緒にゲームしました。鬼難易度でシューティングとリズムゲームやらされました。

難しかったです。

 




おまけぇぇぇーー!

時刻02時3分。



キリりん「━━━━━!?せっ、セブンッッ!!こら!貴女、まだ起きているのですか!!いい加減寝なさい!!ゲームは切って、今すぐ!明日またやれば良いでしょう!!ポチポチしない!!」

ななひゃん「ちょっ、待ってよ!ここだけ、ここだけクリアしたらセーブするから!マジで!きてるの!いま、マジで!パーフェクト来てるんだってば!!いま!!」

とがっち「…………むにゃ」……ZZZ



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闇の帝王な先生の気がうっかり向いちゃったルートなifの巻き③

バッドルートとして書いてるけど、本当何もかもバッド方向に進むなぁ。
こうして書いてみると、デクくん不在というか後継者なしのA組ってキツイ所あんねんなって。ヤクザ編とか、ヒーロー側全滅するんちゃうの?怖い。


あっ、前回のコメで眼鏡へのリアクションが多かったから、はくびしんも反省と共に追悼してくね。南無南無。すまんかった、眼鏡。でも助けてくれる人おらんねんもん。


楽しい楽しい三度目の襲撃作戦を始めて少し。

あっちこっちから戦闘音が聞こえる森の中で、私は無線を手に各所に連絡をとっていた。

 

『こちらアルファ1、俺のコピーがやられた。教師連中が動くぞ。オーバー』

『おい、荼毘心配しろよ!!教師なんざ目じゃねぇ、直ぐに荼毘3号作って送ってぶち殺してやるぜ!!』

『おい、名前呼んでんじゃねぇ。馬鹿。なんの為のコールサインだと思ってんだ』

 

無線機の向こうから聞こえてくる元気な声を聞きながら、私は足元のそれを足でグリグリしながら頭の中で状況を整理した。確かに予定より教師達の解放時間は早い。けれど色々と考えてみたが、それで生じる問題もない気がする。

 

「OK、OK。オメガりょ。スカエンとジンジンはそのまま予定通りやっといて。こっちもマスオが駄目だったらそのまま回収して一旦下がるから、何かあったら連絡ちょーだい。オーバー」

 

『了解しねぇよ!またな、セブン!!』

『だから、お前ら、コールサインを使えっていってんだろ。何の為に決めたんだ。はぁ・・・まぁ、良い。アルファ1了解、アウト』

 

無線を切ると同時、足元のそれが動いた。

軽く足をあげて踏みつける。靴底に硬質な感触が走るが、何度かそうして足踏みしていれば肉を打つ鈍い感触へと直ぐに変わった。僅かに聞こえる呻き声と鼻をつく鉄の臭いで、また何処か軽く切った事も何となく分かる。

 

「やっ、やめろっ・・・・!」

 

そんな声に視線を移すと、荒い呼吸をあげながら這いつくばってるオレンジの髪をサイドテールに纏めた女の子の姿があった。中々に勇ましい表情をしてるのだが、その様が様なので何とも言えない感じ。立ち上がろうと腕に力を込めれどその体は一向に地面から離れなくて、やっとこ体が少し浮き上がったかと思えば、バランスを崩して直ぐに倒れてしまう。根性は認めるけど、無駄なことするなぁとどうしても思ってしまう。

無駄に頑張らせるのもアレかと思って、引き寄せる個性で地面に叩きつけておいた。呻き声と共にグシャリと音がして、今度こそ動かなくなった。

 

そうこうしてると足元のそれが靴底を押し上げ始めた。

視線を落とせば血塗れになったボロボロの男が、歯を食い縛って起き上がろうとしていた。血で滑って踏んでる部分がずれると、その腫れ上がった瞼の奥に潜んでいた怒りに燃える瞳と目が合う。

 

「お前っ━━━!!よくも、拳藤をッッ!!」

「けんどー?ああーあっちの女の子のこと?もしかして彼女だったとか?あちゃー、そりゃごめんねぇ。でもお互い敵同士な訳だし、それにあんたらもウチの雑魚太郎のことやってくれちゃったんだからさぁ、おあいこって事で勘弁してよ」

 

申し訳ない気持ちと共に軽くペコってしたが、足元のそいつは余計に目をギラギラさせて起き上がってこようとする。

 

「ふざけるなっ!!何がっ、おあいこだ!!仕掛けてきたのは、てめぇらだろ!!うちのクラスメートが、A組の連中がっ、どれだけ苦しんでると思ってんだ!!」

 

思ってんだぁっ、て言われてもな。

出来れば全員ぶっ倒れててくんないかな?と思ってるくらいだから、多ければ多いほどヨッシャァ!って感じなんだけど。言ったら怒るよなぁ。うん、言わないでおこ。

 

対話を諦めた私は靴底と男の顔面、男の後頭部と地面を対象にして引き寄せる個性をフルスロットル同時発動。

もはや金属化の気配も見せず、男の頭は地面と靴底に挟まれて嫌な音を立てる。男の手足から力が抜けるのを確認してから足をあげれば、お気にの靴はすっかり血塗れになってしまっていた。ショックである。

 

 

「━━━━っつぅ、ってぇ」

 

 

男をぶちのめした音に、アホ面下げて倒れてたマスオがヨロヨロと起き上がった。顔でもぶん殴られたのか、涙目で頬を押さえて踞ってる。

それから恐る恐るといった様子で周囲を見て、私に気づくと肩を強張らせた。

 

「せっ、セブンさん!?あ、あの、すみません!でもこれは違うんです!!俺はっ━━━」

「ああ、良いって。それより体大丈夫?大丈夫そうなら、もう一踏ん張りして欲しいんだけど?」

「━━━でっ、出来ます!こんな怪我なんて事ないです!」

 

飛び上がるように立ち上がったマスオはヘルメットを被り直して落ちていた銃を拾い上げる。大人しく仕事に戻るかと思ったんだけど、何を思ったのか銃口をついさっきまで私が踏んでた男に向けた。そのまま引き金を引こうとするので━━━━即座に引き寄せる個性で銃を地面へと叩きつけた。暴発した弾丸が近くの木に音を立ててぶつかる。

 

何故か驚いた反応を見せる馬鹿に、私は軽く視線を送った。余計な事はするなと。マスオは私の視線の意味を理解したようだけど、納得いかなかったのか「どうしてですか?」と聞いてきた。びっくりだ、こいつ私の話を聞いてなかったらしい。

 

「最初に言ったでしょ、故意には殺すなって」

「でもっ、こいつは俺を・・・・!」

「だから、なに?」

 

ゴーグルの赤いレンズの先、マスオの瞳を見つめながらもう一度だけ言った。マスオはびくりと体が揺らしてゆっくり息を飲み込む。

 

「別にさぁ、人殺すの反対とか言ってる訳じゃないの。寧ろ、ウチらってそういうイカれた連中の集まりだから、殺したり殺されたりってよくある話でしょ。気にしないって。だからぶっちゃけ、これが死のうと、そっちのが死のうと、あんたが死のうとどうでも良いの。興味ない」

「えっ・・・・どうでもっ、ひぃ!?」

「でも、今回は駄目。私の立てた作戦で、私の指揮の下で、余計な損害を出すのも、余計な損害を与えるのもね。何でかって?理由はまぁー、色々とあるにはあるけどさ━━━━━私がオヤツの時間押して考えたペキカンな作戦を、あんたみたいな考えなしの馬鹿に崩されるのメチャクチャ嫌だから・・・ていうのが一番の理由。それでも納得いかないならご自由に。私もそれなりの手段をとるだけだから」

 

そう言ってツンとオデコを指でつつけば、マスオは物凄い勢いで何度も頷きガスを撒き散らし始めた。足元に転がる連中にはもう目を向けない。

私は転がってる連中を近くの木に吊るして、マスオに周囲の注意を怠らないよう警告してからその場を離れた。位置的にプロヒーローがこっちまで来るのに時間掛かるだろうし、こっから先はあんまりイレギュラーな事起こらなさそうだから警告必要なかったかもだが。

 

目的地に向かって木々の間をピョンピョンしてると、目標を発見したと報告のあった場所から大きな地鳴りが響いてきた。見れば黒い鳥みたいな化け物と刃物の塊みたいな謎化け物が大怪獣バトルを始めていた。

見晴らしの良い岩場へと着いた私は改めて大怪獣バトルの様子を確認してみた。刃物の方は歯の奴がブースト薬使った結果なんだろうと思うけど、その相手してるのはなんなのか?体育祭は見たけど、あそこまで派手なのは・・・・あっ、分かった。鳥頭のやつだ。大きさ違うけど、他は一緒だもんな。ふーむ、あの金髪ボンバーヘッドだけ捕まえれば良いかと思ったけど、あれはあれでちょっと欲しいな。個人的に。

 

人が計画を崩すのはあれだけど、私が自らやるのは良し。なので、Mr.コンプレスことコンさんに『コンさん、出来たら今暴れてるのも回収ヨロシク!』とだけ伝えておく。コンさんからは『ガンマ了解、善処するよ』と苦笑気味に返事が返ってくる。善処で十分。

さて、向こうの二人はまだ生きてるかな?

 

「あー、しもしも、こちら美人が過ぎる神話生物もかくもやなヴィランランキングナンバー1のオメガ。ベータ1、ベータ2状況報告シクヨロ!オーバーー」

『こちらベータ1!こっちはちょっと手こずってるわ!きゃっ!?もぉ、乱暴なんだからん!』

『こちらベータ2ぃ!悪いがっ、連絡してる余裕はない!!オーバー!!』

 

プロヒーロー相手組は苦戦中、と。

やられてないなら十分だ。

活きの良いオカマとトカゲに引き続き頑張るよう伝えて通信を終える。すると直ぐにトガっちから連絡がきた。なんぞなもし。

 

『こちらトガです。ナナちゃん、こっちは目標達成しました。時間に余裕ありますけど帰った方が良いですか?あと一人くらい行けそうな気がするんですが。ええっと、おーぶん?』

 

おっ、仕事が早いね。

 

取り敢えずトガっちには合流ポイントまで下がるように指示を出しておく。トガっちは帰りの手段が限られてるし、何より単独行動してるから無理はさせられない。

ハウスするんだ、おーぶん。

 

そんな風に連絡してたらMr.コンプレスことコンさんから『目標確保!』との連絡が来た。即座に全員へ撤退指示を出し、待ちくたびれてるであろう筋肉兄弟へ通信を繋げば『こっちも、ようやく友達が来てくれた所だ』と楽しそうに笑い声を返してくる。

 

「こっちが完全撤退するまで、ゲストは一人も通さないでよ?その道以外からくる連中はガン無視で良いからさ」

『ああ、了解だ。ここからは一人も通さねぇよ。その代わりといっちゃなんだが暫く自由に遊ばせて貰うぜ。なぁおい、確認なんだがよ、故意じゃなきゃぶっ殺しても良いんだよなぁ?』

「えぇーー・・・その聞き方って絶対わざとやるやつじゃん」

『しねぇっての。後でてめぇに死ぬほどネチネチ説教されんのも、喉焼かれんのも俺はごめんだ。ただよ、流石に俺もマジのプロヒーロー相手に加減してる余裕はねぇからな』

 

そういう事ならとOKを出し、私も合流ポイントに行こうとしたら何か物音がした。場所は近くの岩の物陰、大人が一人隠れるのがギリギリといった様子の場所だ。

その岩の上へ向けて細かい炎を吹き出し、雨のように降らせてみれば悲鳴と共に男の子が出てきた。赤い帽子が特徴的な目付きの悪いチビッ子だ。

 

「やっ、こんばんは。近所に民家もキャンプ場もない筈だけど、一体何処の子かな?お父さんとお母さんは?」

 

笑顔を浮かべて頭に手を伸ばしたけど、チビッ子は地面を転がるように逃げ出した。ただお間抜けにも逃げた方向は逃げ道のない崖っぷちという、考えられる中で最悪の選択。勝手に追い詰められたチビッ子は体をブルブル震わせながら青い顔で私の方を見てくる。

なんかちょっと可愛い。飼い始めの猫みたい・・・・いや、飼ったことないけど。

 

「大丈夫、大丈夫。何もしないよーちっちっち」

「こっち来るな!!撃つぞ!!お前っ、お前ヴィランだろ!!聞いたぞ!!俺はっ、騙されないからな!!」

 

真っ青な顔をしたチビッ子は眉間にシワを寄せて、右を翳しながら大きな声で怒鳴り声をあげる。だが残念な事に翳された右手にも、その本人にも迫力はない。その必死さだけはよーく伝わってきたけど。

しかっし、このシャァーって感じの怒り方ますます猫みたいだなぁ。野良猫かな。

 

なつかせてみたくて色々考えてたら、不意をつくようにチビッ子から水流が放たれた。子供にしては水量も勢いもあるけど、それでもお遊戯レベルは越えない。

だから心情的には当たってあげたい所なんだけど、個性で作られたそれが普通の水でない可能性もあるので華麗にかわしておいた。無駄に冒険するのもどうかと思うの。うん。

 

避け切った後は引き寄せる個性を発動。

対象は勿論、私に攻撃を避けられて目を見開いて動揺するチビッ子。チビッ子は大した抵抗する暇もなくこっちへぶっ飛んできて、そのままポスっと腕の中に収まる。

 

「あ、ああっ、あ・・・・」

 

私に捕まり絶望の表情を浮かべたチビッ子。

私はそんなチビッ子を左手でがっちりホールドしながら、徐に頭の上に向かって右手を伸ばし━━━━

 

「よーしよしよしよしよし!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

━━━━撫でまくってやった。

 

ついでにぎゅうぎゅうに抱き締めて、頬擦りも一杯しておく。最近ムサイくて愛嬌もない殺伐とした連中とばっかりいたから、こういう可愛いモノに死ぬほど飢えていたのだ。はぁ、本当可愛い。可愛いは正義だよね。マジで。プニプニスベスベの頬っぺたとか、いつまでも頬擦りしてたい・・・・はっ!気絶してる!?いつの間に!?

 

可愛がり方の難しさをこれ以上ないほど痛感しながら、救助隊が発見しやすそうな所にチビッ子をリリースした私は、今度こそ寄り道せずに皆が待つ合流ポイントへと向かった。集合時間まであと少し。何事もなければ良いんだけどなぁ━━━━んにゃっ?!なんだろ、寒気がする。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

『オールマイト落ち着いて聞いて欲しいのさ。今しがた合宿場から緊急連絡が入って━━━━━』

 

その一報を受けて私は己の不甲斐なさを呪った。

校長から罠の可能性があるため待機するようにと言われたが、私はいても立ってもいられずヒーローコスチュームに身を包むと直ぐに自宅を発った。

 

どうして無理を押してでも参加しなかったのか。

どうしてもっと近くにいなかったのか。

敵の影に奴の気配を感じながら、それでも私は何処か状況を甘く見ていたのだろう。奴は既に倒した筈だ、と。

 

『━━━━わぁお、痛そ。ヒーローってみんなそんな感じなの?ひくわー』

 

USJ襲撃の際、楽しげに私を揶揄する彼女を、セブンと呼ばれたあの彼女の姿を見た時から・・・ヤツ特有の底意地の悪さを感じた。彼女がヤツに似ていたという訳ではない。彼女自身からは子供染みた無邪気さすら感じた。まるでゲームでやっているかのように。

私がそれを感じたのは師匠を彷彿とさせる呼び名、髪型や衣装といった━━━見せつけるかのように、態とらしく飾り付けられたそれらだ。

 

一瞬、迷ってしまった。

ヤツの気配を感じた時点で、彼女が師匠の血縁者ではないかと脳裏に過ってしまったからだ。後日調べた結果、無事であってくれと願った師匠のご子息は行方不明となっていた。彼に関連する記録の多くが意図的に消された形跡があり、何処に住んでいたのか。何をしていたのか。家族がいたのか何も知る事は出来なかった。ご子息の周囲で何かあったのは間違いないが。

そしてそれと同時に、彼女が師匠の血縁者である可能性も、未だ否定出来ない事となってしまった。

 

あの迷いで片腕を失ってしまったが後悔はない。

もし彼女がそうであるなら、拳を振り切る訳にはいかないのだから。私には彼女を救う義務がある。平和を、力を、師匠に託された者として。それがどれだけ辛い戦いになろうと。

 

だが、それはあくまで私の事情だ。

生徒達は何も関係がないのだ。

私がいる事で今何か起きているのなら守らねばならない。飯田少年の身に起きた悲劇を繰り返す訳にはいかない。たとえこの命に替えてでも。

 

そうして強く空気を蹴り飛ばし、更なる加速を加える。

数度繰り返し合宿場近くの山間に差し掛かると、崖沿いの道に赤いランプの群れを見つけた。加えて立ち上る黒い煙や地を這う砂埃、何かを砕くような破壊音も誰かの悲鳴も。

 

拳圧で方向をねじ曲げ、空気を蹴りそこへと飛び込んだ。いま正に警官を押し潰そうとする、玩具のように空を駆けるパトカーの元へと。

 

「テキサスッッ━━━━スマッシュッッッ!!」

 

力を込めて拳を振り抜けば、爆風が生まれパトカーを押し飛ばした。きりもみしながら飛んだパトカーはガードレールを突き破り崖下へと転がり落ちていった。

直ぐに大きな爆発音が鼓膜を揺らす。

 

「っ、お、オールマイトだ!!」

「オールマイト!!」

 

歓喜の声を背に受けながら、私の目がしっかりとそれを捉えた。眼前に佇む二人の男達を。どちらも仮面をしていて顔は分からないが、二人共随分と立派な体格をしている。恐らく肉体強化系の個性持ちだろう。

 

「━━━私がきた!!悪いが、私は少し急いでいる!!大人しく投降するのであれば手荒な真似はしないが、そうでないのなら加減は期待するな!!」

 

腹の底から怒号を放ったが、仮面をした男達はお互い顔を見合わせた後、どちらも首の後ろをかく仕草を見せた。まるで面倒だと言わんばかりに。

 

「聞いてねぇぞ、こいつが来るなんてよ。せっかく人が楽しんでたっつーのに」

「はぁ、まだ連絡きてねぇってぇのによ。おい、どうすんだ。これ。流石に手に余んぞ」

「仕方ねぇだろ、セブンに連絡入れろ。ちと早ぇが、俺達はここで解散だ」

 

セブン、という言葉に思わず息が止まった。

脳裏に師匠の笑顔が過り、血が沸騰したように熱くなる。そして直ぐ、喉の奥から声が溢れていった。

 

「貴様らっ!!あの子の事をっ、セブンが何処にいるのか知っているのか!!」

 

二人は僅かに肩を揺らし動揺を見せた。

しかし、それも一瞬だけだった。

もう一人を庇うように仮面の男が前へ踏み出し、拳を力強く構えてくる。

 

「そうだとしてよぉ・・・・それをあんたに教えると思うか?俺らヴィランだぜ?個人的な友達でもあるめぇしよ。なぁ、ナンバーワンヒーロー。それより遊ぼうぜ。俺が何処まで出来るのか、あんたで試してみたかったんだ!!」

 

ピンク色の繊維に包まれて急激に膨張した腕が地面を殴り飛ばす。瞬間、コンクリート道路に巨大なヒビが入り、砕けたコンクリート片が土埃と共に舞う。

拳圧でそれらを吹き飛ばせば、全身をピンク色の繊維で包んだ仮面の男がクラウチングスタートの体勢で構えていた。

 

「あんた相手なら加減はいらねぇよなぁ!!マックスだ!!バラバラになりな、後ろの雑魚と一緒によォッッッッッ!!」

 

爆撃でもされたかのような爆音が響く。

肉の弾丸は風を切り裂き真っ直ぐに迫ってくる。

その速さと全身を包む繊維の多さから、先程地面を叩いたものとは威力は比にならないだろう事は簡単に予測出来た。背後には警察や消防隊員達がいる。避ける事が出来ない以上、選択肢は一つだけだ。

 

「デトロイトッッッ━━━━」

 

背後へと引き絞った拳を、私は眼前のそれ目掛け振り抜いた。

 

「死ねよ!!クソヒーローッッッ!!」

 

何かが弾けるような音が響く。

鈍重な手応えが腕に走る。

全身に衝撃が駆け抜けていく。

 

片腕を失った事でバランスが悪くなり、パンチの威力は全盛期と比べるべくもなくなってしまったが━━━それでも私の拳は望む威力を叩き出してくれた。

 

「ッッッッッつ!?お、おお!?くそっ、マジかよ!?これがナンバーワンの━━━」

「━━━━━━スマァァァッシュッッッッッ!!!」

 

腕を完全に振り抜いた瞬間、パァンと男が弾け飛んだ。

一瞬殺してしまったのかと思ったが飛び散ったそれは赤い血でも肉でもなく、ただの泥でしかなかった。

 

「オールマイト!!もう一人がいません!!」

 

背後から掛かった警官の声にハッとした。

辺りを見渡してみたがそこには瓦礫が残るのみでヴィランの姿はない。

 

「すまない!もう一人が何処に行ったか分かるか!」

「あっ、みっ、見ました!オールマイト!!一瞬だけでしたが、先程崖下に何か落ちて行ったのを!!人かは、分からなかったのですが」

 

言われて崖下へと視線を向けた。

闇に紛れて分かりずらいが、何かが無理やり通ったように木々の枝が折れてる部分を見つけた。がたいの良さを考えて先程のヤツである可能性は高い。

 

私はその場を警官達に任せ、男の後を追い崖下の森へと飛び込んだ。すると直ぐに抉れた地面を見つけた。駆け出す為に強く蹴ったのだろう。木々の隙間から覗く月の明かりがそれらを淡く照らす。

それを辿り駆けること数秒、それが目に入った。

 

 

「━━━━━セブンッッッ!!」

 

 

私の声に黒いモヤの側で佇んでいた彼女は目を丸くさせた。隣にいる仮面の男は舌打ちを鳴らし、近くにある黒いモヤの中へとさっさと入った。そして彼女も足早にその中へと歩んでいってしまう。

 

 

「待ってくれ!!君はそこにいるべきではない!!君には━━━━━」

 

 

彼女は酷く冷たい目で私を見ながら、静かに闇に消えていった。ただの一言もなく。僅かな淀みもなく。

それが当然であるかのように。

 



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闇の帝王な先生の気がうっかり向いちゃったルートなifの巻き④

ヴィラン編は取り敢えず次が最後。
お付き合い頂き、誠に感謝でござる。
にんにん。


現代の世界三大美人の一人と言っても過言ではない、アルティメットでグレートでエクセレントな美少女の私率いる、ヴィラン連合開闢行動隊による合宿場襲撃作戦決行から翌々日。

 

 

「作戦達成を記念しましてぇぇーーーカンパーイ!!」

 

 

炭酸ジュースが注がれたグラスを掲げ、惜し気もなく可愛いさを目一杯込めて声をあげれば、いつものバーの中に乾杯の返事が返ってきて、それぞれが持った色とりどりのグラスが高く掲げられた。

若干ノリの悪いのが視界に入るけど、主に弔とか、弔とか、弔とか、ダビーとか。まぁ、それよりテンション高い奴らが盛り上げてくれるので私的にはOK丸だ━━━━からと言ってさっさと出ていくんじゃないよ根暗コンビ!!ごらぁ!!

 

「セブンに乾杯!!初作戦だからよぉ、ちょっと心配だったけど、なんやかんや上手くいって━━━━良くなかったぜ!!また宜しくな!!」

「仁くん分かりづらいです。喜んでるのは何となく分かりますけど。でも、そうですねぇ、作戦上手くいって良かったのは本当です。個人的にも新しくお友達も出来そうですし、本当良いことずくめでした。これで少しはステ様に近づけたでしょうか?はぁ、ステ様。ステ様、ステ様、ステ様ステ様ステ様ステ様ステ様っ・・・ふふふっ!早く会いたいです!お話したい!ねぇ、ナナちゃん!今度はステ様を捕まえてる人達倒しに行っちゃいましょう!待ちきれないです!」

 

店内に流れるムーディーな雰囲気を見事にぶち壊してくれた二人を横目に、私も美味しそうな香りが漂うシーフードピザを口にした。うみゃい。チーズ追加して良かった。

 

「━━━これまた美味しそうに食べるねぇ、セブンのお嬢は。若いってのは良いなぁ、本当にさ。おじさんくらいになると、それはちょっと胃に重いわ」

 

そう言って琥珀色の飲み物が入ったグラスを傾けるコンさんに、筋肉野郎がビールの入った大ジョッキ片手に歩み寄って無理やり肩を組んだ。

 

「おう、おう!なぁに、ジジイみてぇな事言ってんじゃねぇよ。コンプレス。んな事言ってっと余計に歳くっちまうぞ?ああ?それよかお前マジシャンだろ?なんか芸しろよ、折角の祝いの席だろうが。ほら、あれだ、どばーんとよ!ビル消すとかどうだよ!なぁ!」

「あら、良いじゃなぁい?面白そう。私、そういうの生で見たことないのよ。何か見せて頂戴よ、ミスター」

 

直ぐ側でカクテルを飲んでいたオカマ、一応女性カウントされてるマグ姉貴も便乗していったので私も乗っといた。やんややんや。ポケットからキリン出せー。

 

「君ら、もう酔ってるの?お嬢も、それお酒じゃないよね?・・・・はぁ、あのね、ああいう大掛かりな物は、それなりに準備が必要な物なの。機材は勿論、人手もお金もね。だから今すぐなんて言われても、ちょっとしたヤツくらいなもので、例えば━━━」

「ああ?何か良くわかんねぇけどよ、つまりあれか?あんたの取ったカード当てますーとか、そう言うのか?つまんねぇなぁ!もちっとねぇのかよ!」

「━━━ああっーと、これはカチンときたよ。怪盗を舐めて貰っちゃ困るなぁ」

 

ムッとしたコンさんはポケットからハンカチを取り出すとヒラヒラさせ始める。まじまじと三人で見つめていたら、コンさんが「ワン、ツー、スリー!」と一声掛ければ兎のヌイグルミへと変わった。それは一瞬のこと。手際の良さに拍手しといたけど、他の二人はタネの方が気になったようでコンさんを羽交い締めにした。

 

「それお前の個性使っただろ!おらぁ、入れ替えたもん何処に隠したんだよ!!出せ、出せ!」

「ボディチェックさせて貰うわねぇー、あらやだ、割と良いからだしてるじゃない」

「ちょちょちょちょっ!?マジックの種明かしは厳禁だよ!というか、チェックするにしてもそっちは駄目でしょ!色々と━━━━あふんっ!?」

 

何か酔っ払い共によって事故が起きそうなので、私は早々にその場を脱出。隅っこで一人でゲームしてるマスオを茶化し、壁に背を預けて格好つけるトカゲを写メって茶化し、頭フィーバーしてるトガっちとジンジンと軽く踊り、「肉ぅ」とか「断面んんっ」とかなんとかずっと呟いてる病み上がりの拘束男の口には熱々の唐揚げを突っ込み━━━━さっさとキリりんがグラスきゅっきゅしてるバーカウンターへ行った。やり切った私の顔にキリりんは何処か呆れているものの、何も言わず氷のたっぷり入ったグラスにジュースを注ぎ直してくれる。さすキリだよね。しゅき。

 

「悪戯も程々にして下さい、セブン。狭い店内で喧嘩されたら堪りませんからね」

「えへへ、りょー。それよりニュースの方はどんな感じ?いい加減に発表した?」

「いえ、事件があった事についてはマスコミが嗅ぎ付けたようですが、警察からも雄英からも具体的な発表はありません。時間の問題でしょうが」

 

キリりんの見つめる先、テレビでは緊急報道と題して昨日の事件について流していた。難しい顔したキャスター達が、雄英がどうだとか警察がどうだとかあれこれ言いたい放題。現場にもいない連中が随分と偉そうだなぁなんて思わなくもないけど、それも仕方ない事だ。所詮は他人事、自分に被害がなければ人間こんなものだ。

実際、後手に回ってしまってるけど、向こうの連中は上手くやってる。最善と言っても良い。

 

こんな事態にも関わらず、前回同様に死傷者は相変わらずのゼロに抑えられてる。勿論それは、こちらがそうなるように手を抜いたからではある。

だがそれでも、雄英の連中がこちらの想定以下のゴミみたいな戦力しか揃えられてなければ、対抗処置について考えていなければ、二三人くらいは死んでいる計算だった。やることはやってるのだ、あの連中も。

 

こっちの想定を超えてた部分だってある。

例えば生徒達の動きが思ったより良くてマスオが倒され掛けたり、教師の抑え役だったダビーコピーが短時間でやられてしまったり、歯の奴がブースト薬を使わなければならない程追い込まれたり、ガチホモが単騎で突っ込んできたり。数えればアクシデントはそれなりにあった。

結果的に大きな犠牲もなく私達の作戦は上手くいったけれど、今回はかなり運に助けられていた。出来すぎも良い所なのだ。

 

だと言うのに、世間様はこれだ。

こっちとしてはそうしてヒーロー側を貶めてくれるのは大歓迎なんだけど、ここまで上手く行くと逆に笑えない。もう少し手応えが欲しい感じだ。

 

「━━━━そこんとこ、どう?かっちゃん?」

 

私が視線を向けた先。

部屋の隅っこで椅子に絶賛拘束中な、今回のターゲットである金髪ボンバーヘッドの姿があった。相変わらず悪い目付きと視線が合うと、拘束を解こうとガチャガチャ抵抗を始めた。猿轡無かったらもっと元気そう。

 

何を言うのか気になって、引き寄せる個性で猿轡のピンを外してあげる。カシャンとそれが床へ落ちると、その光景を前に、何か言いたげに私の事を睨んできた。

 

「お礼ならいらないけど?」

「礼なんざするか、ぶちのめすぞ。馴れ馴れしく声掛けてくんじゃねぇクソヴィラン。耳が腐るわ」

「腐りませんんーー!癒されたり虜になったりする事はあっても、腐ったりはしませんんーー!!ていうかクソヴィランじゃないからっ!私にはナナって可愛い名前があるんですぅーー!ほら言ってごらん、ナナちゃんは世界で一番輝いてる。超きゃわいいねって。僕の心は君のものだよって。ほら、ゆーせい」

「世界で一番頭吹っ飛んだ馬鹿女の間違いだろ」

「あんだとこのやろー!」

 

ナチュラルに口悪いな、こいつぅ。腹立つ。本当にヒーロー志望なのか?・・・まぁ、何でも良いけどさ。

 

「ねぇ、それよりかっちゃんさ、どうなのこのニュース。ムカつかない?頑張ってたのにね?」

「はっ、くっだんねぇ。碌に知りもしねぇ、有象無象の雑魚が喚いてるだけの事だろうが。んな事よりさっさと拘束解けや。時間の無駄だ。何されようが、てめぇらの仲間になんざならねぇぞ・・・・それと、そのかっちゃんっての止めろ。無性に腹立つ」

 

告げられたかっちゃんの拒絶の言葉に、僅かな揺らぎもない。折角つけたアダ名も気にいらないみたい。うちのお手々マンは仲間にする気満々なんだけど、やっぱり無理っぽいよなぁ。これは。あのコミュ性なんかに任せたら、それこそ一生平行線に終わりそう。

 

私は勧誘は一旦止めて、話の切り口を変えてみる事にした。押して駄目なら引いてみな、である。

 

「雄英のヒーロー科行くくらいなんだから、かっちゃんも将来はヒーロー志望なんだよね?ねぇ?」

「ああ?何だいきなり・・・それ以外でヒーロー科に席置くやつはいねぇだろうが」

「だよねー?でも私としては、それが分からなくてさ。何でヒーローになりたいの?」

 

首を傾げて聞くとかっちゃんは怪訝そうな顔をする。

なんでそんな事聞くのか分からないって顔だ。

そりゃヒーローは人気職の一つで、子供に聞けば大半がヒーローになりたいなんて答える世の中だ。それでもそう思わない奴らもいる。私みたいに。

 

「何だってヒーローなんかが良いのー?ヒーローなんて碌なもんじゃないよー?法律だの、利権だの、人気だの・・・そんな色んな物でがんじ絡めになってる職業なんて絶対楽しくないって」

 

「良いことがしたいならヒーローにならなくても出来るよ?迷子くらい私でも普通に迷子センターくらい届けるし。人ぶっ飛ばしたいならさ、ボクシングでも、プロレスでも、空手でも、好きな格闘技やれば良いじゃん?一昔程じゃないにしろプロ団体は残ってるし、好きなだけ戦えるよ?人気物になりたいならモデルでもすれば?かっちゃん黙ってればイケメンだし、直ぐ人気になれるよ。その後続くのかは謎だけどね。個性使って暴れたいだけなら、それこそヴィランになれば良いしさ。━━━━ねぇ、何でヒーローなんか目指すの?」

 

目をじっと見てもう一度問い掛ければ、かっちゃんは言葉を詰まらせた。私はそんなかっちゃんの頬に手を添えて、息が掛かるほど顔を近づけてみた。赤い瞳が僅かに揺れて、拘束具が音を立てる。

 

「ねぇ、私知ってるよ。かっちゃんが戦い大好きなの。倒した敵見下してやるのが大好きなの。人に注目される事が大好きなの」

 

弔が目をつける前から、この目で私は見ていた。

USJで敵を倒して笑顔を浮かべる姿を。

体育祭で生徒達を蹴散らして起こる歓声に、誇らしげにしていたその姿を。

 

「ねぇ、かっちゃんのやりたい事って、ヒーローじゃなくても出来るんじゃない?ううん、ヒーローなんて足枷付けない方が、もっと好きな事出来るんじゃないかな?法律も、モラルも、ルールも関係なくさ。私達のバックアップがあれば、もっと━━━━」

「うるせぇ、寝言は寝て死ね」

 

 

そして、だから知っていた。

 

 

「ふふ、意味分かんない。なにそれ」

「っせぇ、黙れって事だ。頭スッカラカン。何と言われようと変わらねぇよ。俺はあの背中に、オールマイトに憧れたんだ。そこに何か面倒があろうが、そこに腹立つもんがあろうが、俺の夢は変わらねぇんだよ」

 

 

それでもきっと、かっちゃんがこう言うのは。

 

 

「俺はヒーローになるんだよ。オールマイトも超えて、誰もが認める本物のナンバーワンヒーローにな」

 

 

吐き出された拒絶の言葉に、少し残念な気持ちになって━━━そして少しだけ嬉しく思った。期待していたのだ。こうして断ってくれる事を。

そうじゃなくちゃ、面白くない。

 

面倒がなく容易く事が成せるなら、それが一番良い。

あれこれ考える事も、あれこれ調べる事も、あれこれ準備する事もないなら、それが一番楽だから。

でも、そればかりだと飽きてしまう。何でも思い通りに動くのは好きだけど、それも過ぎれば退屈なだけ。たまにはこう言う融通の利かないイレギュラーがいないと張り合いがないのだ。

 

 

「それじゃ、ゲームしよう。私を捕まえたら、かっちゃんの勝ち」

 

 

それに先生ほど良い性格してないけれど、曲がらない物を無理矢理曲げるのは結構好きなのだ。

 

 

「私がフリーの間に、かっちゃんをヴィランに出来たら、私の勝ち。シンプルで良いでしょ?」

「はっ、ゲームも糞もねぇ。成立しねぇだろ、んなもん。精神系の個性持ち一人いりゃ、身動き出来ねぇ俺は洗脳されてそれで終わりだ。違うか?ああ?」

「ぶーー!しないってそんな無粋な事!もち、弔にもさせないし、他の誰にもさせない。まぁだからって、態々逃がしてあげるほどフェアにやるつもりもないけど。頑張って隙見つけて逃げなよ。その方が楽しいからさ。応援してる、かっちゃん♡」

 

 

私の言葉にかっちゃんが目を見開いた。

きっと私の言葉が冗談じゃない事に気づいたからだろう。この男、獣みたいに勘は良いのだ。当然だ。

 

 

「何処にいても、どんな手を使っても、どれだけ時間が掛かっても、きっとこっち側に来させてあげる。手始めに・・・・そうだね、私の提案を蹴った結果を見せてあげるよ。もしかしたら貴方に訪れたかも知れない、明るい未来の話をしながらね━━━━キリりん、パーティー終わった後で良いからお願い出来る?」

 

 

相変わらず静かにグラスを磨いてたキリりんはチラッと私を見て「弔にはなんと?」と聞いてきた。連絡を取ってから動いた方が良いけれど・・・・バーカウンターに弔のスマホは置きっぱなし。フラっと出ていったけど、何処に行ったのかも、いつ帰ってくるかも謎ときたもんだ。どーしようもない。

一応、緊急連絡手段はあるけど、あれは本当に緊急時に使う物だからなぁ。

 

「それまでに帰ってくれば直接言うよ。まぁ、入れ違いになったらテキトーに言っておいて。そこら辺はキリりんに任せるからさ」

「・・・・はぁ、彼に怒られた時は、ちゃんと責任をとって下さいよ。セブン」

「あいあい!もっちー!ポイント12ーAね、迎えは一時間後くらい目安にして━━━━━あっ、ちょっと待って」

 

突然ポケットで震えたスマホを取り出せば、新着メールが一件届いていた。画面をタッチしてアプリを開けば、最近良く連絡を取り合っていた人物の名前が表示された。

メールの内容は、私が予想していたそれだった。

 

「━━━ごめんね、かっちゃん。見せたい物があったんだけど、なんかそうも言ってられなくなっちゃった」

「あ?今度何だ?意味分かんねぇ奴だな、てめぇは」

「ふふっ、マジごめんって。でも期待してくれてて良いよ?こっちのパーティーも絶対楽しめるからさ」

「イカれ女のパーティーなんざ期待出来るか、死ね」

 

息を吐くように悪口言うな。

まったく、もうぉー。

困った反抗期ボーイだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「さっ、皆ぁ!楽しいパーティーはお開き!二次会の準備始めて!忙しくなるよ!!」

 

 



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闇の帝王な先生の気がうっかり向いちゃったルートなifの巻きfinal

グラントリノォォォォォォォォォ!!
(今週のジャンプの感想)

はぁぁぁぁぁ、鬱ぅぅぅぅ!!
(更新遅くなったごめんね)


『ナナ、君はやりたい事はあるかい?』

 

いつも何でもお見通しって感じの先生にそう聞かれた時、私はアプリゲーのガチャを回す手を止め、何も言えずポカンとしてしまった。下手をすれば私より私の事を知ってるのに、今更なんでそんな事を聞くのだろうと思ったからだ。

私は「態々言う必要あります?」と、そう返した。何故ならそういう話はするまでもない。先生なら普段の言動から勝手に分析して、私がこれから何をするつもりで、どんな準備をしてるのか察する事が出来るのだ。それこそ頭の中で考えてる事だって、個性に頼らずにある程度は読んでる筈だ。それなりに付き合いは長いし。

 

それに加えて先生は私の意思を誘導してる節がある。

何をしようとする時、それが私にとって有用だと思えば育てる為に勝手にそれなりの課題を与えてくる。不必要だと判断すれば、それとなく私の注意を別に向けさせようとする。敢えてそれについて言及した事はないし、これからだって逆らうつもりもないんだけど。

 

けれど先生は笑って言うのだ。

 

『確かに色々と口出しはさせて貰ったけれどね、それでも出来るだけ君の意思を尊重してきたつもりさ。そして今日という日が来るまで、僕が君に与えられる物は全て与えたつもりなんだ━━━━だからね、君の先生として聞きたい。君を育ててきた者として、教えて欲しいんだ。私から旅立とうという君が、この世界でこれから何をしたいのか。僕に隠してきた、君の意思を。どうかな、ナナ』

 

軽やかな声には確信が見えた。

恐らく既に私が何を言うのか、私の口から聞くまでもなく予想はついていたのだと思う。バレるのを承知の上で活動していたとはいえ、こうもあっさり見抜かれるのは心臓によろしくはなかった。

 

私はニヤニヤと口元を歪める先生に大きく溜息をついた後、その言葉を口にした。弔にも、先生にも、誰にも言った事のない━━━私の夢の名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうも、ピザーラ神野店です』

 

その言葉を切欠に始まった。

この日の為に備えていた。

その全てが。 

 

「ばんっ!」

 

神野の街が良く見えるビルの屋上。

私は発射音を口に出しながら、指鉄砲で建物を撃ち抜くフリをする━━━その瞬間、神野の空に轟音が鳴り響いた。花火なんて比にならない特大の爆発音だ。

 

続けて狙いをつけて指鉄砲を撃つふりをする。

発射音を口にする度、爆音が鳴り響き、閃光が闇夜を駆け抜けていく。爆発により生まれた紅蓮の炎は、龍の如く猛々しく空を駆け巡る。

リズムを取りながら指鉄砲を目標のビルに向けバンバンと口にしていけば、漆黒の空は瞬く間に赤の滲む白熱で照らされ、即座にそこにあった大気を焼き尽くしていった。

 

遠くから逃げ惑う人の悲鳴が、けたたましい警報が、パトカーや救急車のサイレンが、避難を呼び掛けるアナウンスが聞こえてくる。歓声は一つとしてあがらない。

けれど直ぐ近くからは驚愕の声が、歓喜の滲む声が、私の耳に強く響いてくる。

 

「いつの間に用意したんだよ!セブン!ははっー絶景だなぁこりゃ!!最高の花火だ!!だははははっ!!」

 

それまで静かに眺めていた筋肉戦士キュララは手を叩きながら楽しげに笑う。それに続くようにトガっちとジンジンも口笛吹いたり拍手したり賑やかしてくれる。是非とも、もっとやって欲しい。ちょー気持ちいいから。

 

「私もバンバンしたいです!ナナちゃん!」

「それなら俺もやりたくねぇな!!任せろ!」

 

パーティーピーポーな二人が元気良く挙手してくるが、それに関して丁重にお断りした。別に意地悪でもけちんぼでもない。これ、元から決まった予定に合わせてバンバン言ってるだけだからだ。別に私の合図でボンバーしてるんじゃないんだよね。ボンバーポイントと時間知らなかったら無理なの。りむー。

 

それを知った二人は少ししょぼんとしたものの、次の合図をやらせてあげると言ったら元気に挙手してくれた。

なので合図用の無線を渡して任せておいた。時間になったらバンバンしたってくれや。

 

「さて、と━━━━キリりん?そっちはどう?撮れてる?」

「はい、良く撮れてますよ。拝見しますか?」

「ちょっち見せてー」

 

受け取った小型モニタに視線を落とせば、悶え苦しんでるヒーロー達の姿があった。キリりんのバーに仕掛けられた監視カメラからの映像だ。

 

予定通りに部屋に飛び込んできた彼等は、私の用意したトラップがお気に召したようで、カメラの向こうで楽しそうにわちゃわちゃしてる。モニタに繋がってるイヤホンを耳に付けると、苦痛に歪んだ元気な声が響いてきた。

因み現在ヒーロー連中が引っ掛かってるのはスタングレネードトラップと、催涙系のガストラップと、電気トラップだ。どれも死なない程度に調整した安全設計である。やったね、まだまだ楽しめるね。この後のサプライズも是非楽しんで欲しい。

不意にモニタを覗いてきたマスオが、ガストラップを見て呆れたように溜息をついた。

 

「あーあ、その様子だとさ、直ぐ立ち直っちゃうんじゃないの?どうせ用意するなら僕に声掛けてくれれば良いのに。確実に一人は殺れたよ」

「ぷっぷーー!うける!マスオってばよく言うよねー!生徒相手にガスの守り突破されといて!今のところ昏倒させるのが関の山でしょ?精進せよ、若者よ」

「なっ!?そ、そんな事ないっ!!時間掛ければ一人くらい余裕だ!!なんなら試して━━━━わっ!?」

 

ムキになって吠えた負け犬なマスオに、ガバッとマグ姐さんが抱き着いた。マスオの顔が一瞬で真っ青になって静かになった。これがホモの力か。つおい。

 

「はいはい、喧嘩はなしよ。マスタード」

「ちょっ、マグネっ!?離せよ、僕はっ、そういう趣味ないから!!コンプレスにしろよ!さっきみたいに!」

「いやいや、マスタードくん?何、俺の事差し出そうとしてんの?こっちきておじさんとお話しようか、ね」

 

悪い大人に捕まったマスオを見送り、私はモニタの映像を切り替えた。次に映ったのは"脳無工場"の映像。ただし脳無の姿はたった一つもなく、ヒーロー側の面子が違うだけで基本的には似たような状況だ。

それにしても、せっかく危険承知で飛び込んできたのに、大した成果もないままトラップにやられてるのってどんな気持ちなんだろ。聞いてみたい(野次馬根性)。

 

「予定時刻ですよ、仁くん!」

「おう!やっちまうぜぇ!」

 

パリピな二人が無線で合図を送って直ぐ、街の外れの方で破壊音が響いてきた。その音の発生源はというと、迷える避難民が足早に向かった南西の方角である。

それも破壊音は一ヶ所ではなく複数箇所。

 

「━━━━わぁ、おっきな音ですね。これなんの合図だったんですか?」

「花火じゃねぇのかよ!俺のバンバンしたい気持ち弄びやがって!!セブン、許すぜ!!ちくしょーがよ!」

 

「あーそれね、脳無を出動させる無線んん~~」

 

某青いタヌキの真似をして言うと二人が「おおー」と唸り声をあげる。

 

「あの黒い奴ですか?ステ様の時に、テレビで映った」

「んーにゃ、残念だけとランクの低い白っぽいやつ。先生が失敗作を安く売ってくれてねー。そして今回はなんと、そんな脳無ちゃん五体大放出しました!はい、私の財力と交渉力に拍手ー!」

 

私の声に合わせて二人は快く拍手してくれる。

本当にこいつらノリが良い。

なな、こいつら、しゅき。

 

三人で友情を確かめあってると、トットコトカゲのスピ太郎だけ憮然とした態度で私を睨むように見つめてきていた。

なんじゃらほい?と聞けば、額に青筋を浮かべながら口を開いた。

 

「セブン貴様!ステイン様の仲間じゃないのか!!関係ない者まで巻き込むような、こんな低俗なやり方ただの犯罪者と何が違う!!俺は認めないぞ!!こんな、テロリストのような!!」

 

唾を吐いて叫ぶスピ太郎を横目に、大人達の包囲網から抜け出してきたマスオが呆れたような溜息と共にやってきた。それを聞いたスピ太郎が瞳に怒りを込めてマスオに視線を向けるが、向けられた張本人は肩を竦めて「あのさぁ」と呆れながら話し始める。

 

「低俗も糞も今更でしょ?不意ついて合宿場襲撃した時点で、十分立派な犯罪者だって。そんな事も分からないでここにいたの?本当に?だとしたら信じられないんだけど。そもそもさ、僕らの方が数が少ないんだし、こういうのも有効な手だと思うけど?」

「何だと!!お前みたいなガキに何が分かる!!俺はステイン様の理想の為にっ・・・・!」

「そのステイン様っていうのさ、碌な計画もなく暴れ回ってただけの犯罪者だろ?実際その計画性のなさのせいで捕まってるし。馬鹿だよ、単なる馬鹿。それを揃いも揃って━━━っつぅ!?」

 

引き寄せる個性で、十円玉をマスオの喉にシュート。

ちょー気持ちいいー。

 

勿論ただ嫌がらせがしたかった訳じゃない。

ペロおじファンのダビーとトガっちが、調子乗ってるマスオを殺しそうな目で見てたから止めたのだ。マスオは鈍ちんだから気づいてないけど。はぁー本当、お馬鹿可愛いやつだよ。まったく。

 

「まぁまぁ。落ち着きなよ、スピ太郎」

「スピナーだ!スピ太郎ではない!!そして俺は落ち着いてる!!それよりセブン答えろ!!この何処にステイン様の理想がある!!」

 

そんな風に怒るスピ太郎に続きダビーが「聞かせろ」と言ってきた。視線をそこへと向ければ、酷く冷えた青い瞳と目が合う。

 

「そこの馬鹿と同じ事を言うつもりはねぇ。手野郎や黒霧の言動見てりゃ、ステインの理想がここにないのは分かってた事だからな。所詮俺達は、お互い都合が良かったからつるんでるだけだ。同士でもなけりゃ、友達でもねぇ・・・・けどな、少なくと俺達は今も身内だろ。ヴィラン連合の名前使って何かするつもりなら、説明する義理くらいはあるんじゃねぇか?セブン」

 

下手な事言ったら火炎放射しそうな顔で、ダビーは淡々とそう言った。それに続いて遠巻きにこっちを見てたコンプレスとマグ姐貴も口を開いていく。

 

「ヒーロー連中の突入を予め知ってた事もそうだし、バーの仕掛けを用意してた事もそうだし、脳無の準備をしてた事もそうだし・・・・これって随分前から計画してたんだろ?ここまで上手くいってるみたいだし、今更止めろとは言わないけれど、せめて計画が完遂した時どうなるかくらいはね?」

「そうよ。ケチケチしないで教えなさいよ、セブン。秘密にする理由もあったんでしょうけど、ことここまで来たらチームに一蓮托生よ。今からでも事前に知ってれば協力出来る事があるかも知れないしね」

「肉面・・・・はぁ、はぁ、肉面ん、みたいぃ。肉面見せてぇぇ・・・・肉、肉面んん」

 

一人変な声も交じったけれど、概ね計画について聞きたいらしい。ぶっちゃけ終盤だし、今更知られた所でどうなるもんでない。希望通り教えても良いんだけど・・・さてどうしよっか。

 

現在、私の策は思いの外連中に効いてる。

戦闘能力の高い突入組のヒーローはトラップのお陰で大半が今暫く使い物にならない。一番邪魔になりそうなナンバー2~4まで一挙に潰せたのは大きい。ガチホモを抜くとあの連中が一番邪魔しそうだったのだ。

複数箇所の爆破とこっちの用意した避難警報で混乱する避難民達は、突入作戦に関わっていないヒーロー達や警察の足止めをしてくれるだろう。脳無達が暴れ回れば場は更に混沌とする。仮に突入組が回復したとしても、人員を割く事になるのは間違いない。そうなると分散も十分だ。

 

色々と考えた結果、やはり教えた所で問題ない気がする。一応この件でリーダー扱いになってる弔に視線を送ってみたけど、好きにしろと言わんばかりに目を逸らされた。さいですか、りょでーす。

 

「えぇーーとね、それじゃ━━━━」

 

何処から教えようか考えながら言葉を口にしたその時、不意に大きな音と共に突風が吹き抜けていった。

そこへと視線を向ければ、幾つもの建物が無残にも薙ぎ倒されている。音の発生源となった場所は隕石でも落ちたかのように地面が深く深く抉れ、その周囲には砂埃と黒煙が立ち込めていた。

 

キリりんにアイコンタクトすると、落ち着いた様子で頷いてくる。計画は次の段階に進んだらしい。あの人がそう判断したなら私から言うことはない。いよいよ大詰めだ。

 

「━━━━まっ、黙ってたのはごめんね。事が事だけに情報の流出は必要最低限にしたくてさ。まっ、取り敢えず行こう。説明は道中でするから」

 

キリりんのモヤモヤが大きく広がる。

全員が入れるように。

それを見てトガっちが首を傾げた。

 

「今度は何処に行くんですか?」

 

当然の疑問に、私は歩きながら続けた。

 

 

 

 

 

「世界が変わる瞬間を見れる場所」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

『━━━━━世界平和?』

 

 

 

 

何でもないように、彼女は言った。

同じような言葉を一体どれだけ多くの人間が口にしただろうか。そしてどれだけ多くの人間がその難しさを知り口をつぐんだだろうか。

それは誰もが思いつくような夢で、誰もが諦める夢だ。

 

「━━━理由を聞いたらね、その方が楽しく生きれそうだからだって言うんだ。どう考えても叶える為の労力の方が果てしなく大きいだろうに。悪いとは思ったんだけど、堪えきれず笑ってしまったよ」

 

けれど彼女は、真っ直ぐな澄んだ瞳で当然のように僕に語ったのだ。純粋な子供のように。

もっとも、平和とは対極の存在とも言える弔と今後とも歩むつもりである事を考えると彼女の言う『世界平和』への道程は、怨嗟と死体の山に囲まれた血に濡れた真っ赤な道なのだろうが。

 

「彼女に比べれば、僕も可愛いものだと思わないかい?人より長い時を生き、多くの仲間を得て、それなりに権力も名声も得ていながら、結局この国すら掌握出来ず・・・・遂には君に破れた。手元に残るのはかつての栄華の残骸と、この弱く衰えた身体だけだ。はははっ、まったく面白いジョークさ。なぁ、オールマイト」

 

私の足元で血溜まりに転がる彼は、僅かに胸を上下させるだけで言葉を返さなかった。痩せこけた頬に血糊をべったり付け、へしゃげた腕も切り傷にまみれた足も放り出したままピクリともさせない。

 

英雄と呼ばれた男も今や見る影もない。

散々煮え湯を飲ませられた僕にとって殺しても殺し足りない男ではあるが、こうなってしまえば憐れな物だ。靴底で顔を軽く踏みつけてみれば僅かな苦痛の声があがるが、残念ながらもう心は踊らなかった。

 

僕は彼の顔から足をどけ周囲を見渡した。

大きく窪んだ大地のほぼ中心、見えるのは瓦礫の山ばかり。遠くの街並みに立ち上る炎と煙が見えるが、後は大して目につくものはない。

一応、瓦礫の中にヒーロー達の姿もあったが、オールマイト同様立ち上がる気配もないあれらを警戒するのも馬鹿らしい。

 

ふと物音に気づいて空を仰ぎみれば、マスコミが飛ばしている取材ヘリが目についた。上空に飛び交うそれに手を振れば、怯えるようにヘリが逃げていく。

正直過ぎる動きに思わず笑みが溢れる。可愛いものだと。

 

「はははっ、祝福するようじゃないか。これは中々気分が良いな。君がヒーローをやっていたのも分かるよ。・・・・・ん?私は違うって?そうだろうね、金や名声の為にヒーローを名乗ってた他の連中ならいざ知らず、君は何処までもヒーローだった。他者の為に己の命を懸ける。イカれた男さ。友を捨て、師を見捨てて、人として幸せを全て捨てて、こんなにボロボロになるまで戦い抜いた。そうさ、立派なヒーローだよ━━━━━で?君は結局何を得たんだい?聞かせてくれよ、オールマイト?」

 

僕の声に彼は言葉を返さない。

正確には返せない、のだろうけど。

それは怪我のせいでもあるだろうし、僕に負けたという事実が彼に言わせない。

 

仮初めの平和は終わった。

平和の象徴たる彼のこの情けない姿が、世間にそれを報せるだろう。オールマイトに抑えつけられていた世界中の悪意が動き出す。枷を失ったそれらは暴走し、互いを喰らい合い、いつか一つの形を作り出す。

その中枢に誰がいるのか、それは僕にも分からない。先生という立場的には教え子達だと良いなとは思うが━━━━こればかりは後の者達次第だ。

 

「━━━━オールマイト、僕は君を殺さないよ。弔から怒られてしまうからね。だからその老いさらばえた脆弱な身体で、僕の代わりにこの後の世界をよーく見ておいてくれよ。君の不甲斐なさと甘さのせいで、全てが壊れていく様を。君が守らなければならなかった恩人の子供達が、世界を崩していくその様をさ!」

 

苦しげな声をあげるオールマイトを捨て置き、僕は重い体を引き摺って歩を進めた。

赤いランプの光と、サイレンが鳴り響くそこへと向かって。

 

確かに彼との戦いで疲弊しているとはいえ、逃げる気になればそれも可能だ。けれど今更逃げる事は考えてはいない━━━僕は、もう長くはない。オールマイトに与えられた傷は着実に僕の命を削っていた。もう幾ばくも残っていない。仮にここで逃げ延びたとしても最後までは彼等に付き合えないだろう。

 

故に僕はここで舞台を降りる。

僕という存在の消失は中途半端な支えを得るより、よっぽど良い経験になるだろう。特に弔には得難き機会となる筈だ。更なる飛躍をする為に。

それに主犯格である僕の逮捕によって弔達への追手の手も多少緩むだろうし、やはりここで僕が捕まるのは決定事項と言えるだろう。

 

きっとこの先、僕は死ぬその時まで牢獄の中になる。

僕の行き先であろうタルタロスの警備は紛れもない本物だ。漸く捕まえた僕を逃がすまいと警備も今まで以上に強化されるだろうし、それこそ全盛期の力でもなければ不可能だ。

 

だから、願っているよ。

君達それぞれが夢を叶える事を。

深い、深い、奈落の底で。

 

先ずは、弔より先に歩き始めた、夢を教えてくれた彼女の幸運でも願っておこう。

そう思ってふと顔をあげると、崩れ掛かったビルの屋上に彼女の姿があった。弔と友人達を引き連れて楽しげに手を振っている。弔は相変わらず納得してないのか不機嫌そうだが、その目はしっかりと僕を捉えていた。

 

 

 

 

「━━━━次は、君達だ」

 

 

 

 

指を差された彼等は何も言わず黒い霧に消えた。

そして僕が吐き出した小さな声もまた、サイレンに飲まれて消えていった。

 




はい、という訳で胃に優しくないバッドエンドルート完ッッッ!!まだまだ地獄の始まりですが、アンハッピーが苦手なはくびしんには荷が重いので終わります!きっと世の中メチャクチャになるんでしょうね!あーやだやだ(他人事)!

次回は多分、立ち直れなかった引きこもりルートやります。パパっと書いたプロットの段階では、バカップルがイチャイチャするだけの話しです。

じゃぁまたね!


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引きこもりクソニートな幼馴染との付き合い方なifの巻き

( *・ω・)ノヤァ

まさかの、かっちゃん視点でお送りします。
双虎引きこもりルート。

双虎視点だと、暗すぎてあかんかったんや。
やっぱり物語はハッピーに限るよね(ヘタレ宣言)


開花を待ちわびる桜の蕾が風に揺れる三月。

その日、さっさと朝食を済ませた俺は着なれたコートを羽織り、今朝方届いたそれ━━━━雄英高校の入試結果が入ったその封筒を手に玄関の扉を開けた。

 

扉が開くと春の訪れを感じるにはまだまだ冷たい風が頬を撫でていく。少しだけマフラーの存在が頭を過ったが、靴を脱いで部屋に取りにいく手間を考えると面倒になったので止めた。何より目的地まではそう遠くない。どれだけのんびり歩いた所で十五分も掛からない場所だ。加えて一度そこに辿り着けば出掛ける事もないのだから、厚着していく必要性は余計に感じなかった。

だからさっさと行こうとしたのだが、背後から威嚇するようなババアの声が掛かった。

 

「勝己!あんた双虎ちゃんの所行くんだったら、私の旅行のお土産もついでに持って行きなさいよ!!気が利かないわね!」

「━━━━ち、っせぇ!用があんならてめぇで行けや!!んどくせぇ!!つか、何勝手に俺の行き先決めてんだ!!クソババア!!」

 

怒鳴り返すと直ぐに般若の顔をしたババアが紙袋片手にやってきた。鬼気迫る姿に思わず身構えちまったが、ババアは俺の防御を息をするようにすり抜け、頭をおもいっきりひっ叩きやがった。そのまま胸ぐらを掴み上げて頭突きするように顔を近づけてくる。

 

「誰がクソババアよ!!誰が!!ああん!?あんたまさか引子さんにもそんな口利いてるんじゃないでしょうね!!だったら丸刈りにするわよ!!」

「ってぇな!!このクソババアが!!んな事する訳ねぇだろうが!!頭沸いてんのか!?ああ!?」

 

ババアとメンチ切り合ってると、おどおどしたジジイが居間から顔だしやがった。何を言うのかと思えば「玄関で騒いでるとご近所さんに聞こえちゃうぞ」なんてちっせぇ事ほざきやがる。

その直後、ババアが何か言いたげな視線をジジイに向ける。ジジイは肩を竦めて困ったように笑った。

 

「光己、その辺にしてあげなさい。勝己もちゃんと分かってるだろうし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「これの何処が大丈夫に見えんの!!あんたがそうやって甘やかすからつけあがんのよ!!」

「そ、そうかな?私より光己の方が甘やかして・・・あっ、いや、何でもないよ。あれだよ、ほら、勝己もあの双虎ちゃんのお母さんの前じゃ変な事しないさ。だろう、勝己?」

 

あいつの所に行く事を断言されてるのは若干腹立つが、これ以上文句を連ねても面倒なだけなので「ああ」と返事を返せば、ジジイが満足そうに頷いてきやがる。それを見たババアは不満気な顔をしながらも「お土産は持ってきなさいよ」と紙袋を握らされた。

 

「引子さんと双虎ちゃんによろしくね」

「勝己、気をつけて行ってくるんだよ」

 

二人の生暖かい視線を背中に受けて、俺は玄関を思い切り締めて出た。怒号が飛んできたが無視した。

関わってたらキリがねぇ。

 

 

 

 

 

 

俺には緑谷双虎という幼馴染がいる。

絶賛引きこもり中の女だ。

 

初めて会ったのは幼稚園の頃。

当日つるんでいた奴等と公園でヒーローごっこで遊んでいる時、一人でブランコを揺らしていそいつを偶然見つけた。普段見掛けない奴だから嫌に目についた。一緒にいた連中も同じだったようで、いつの間にか遊ぶのを止めて「あれは誰だ?」なんて話で持ちきりになった。

その内、細かい事はどうでも良くなって、遊びのメンツ不足を感じてた俺は仲間に入れてやろうと声を掛ける事にした。

 

その時の事は今も忘れない。

俺の事を上目遣いで覗いた、涙で潤んだ大きくて宝石のように綺麗に輝くあいつの瞳を。

そしてそこに映った、顔を真っ赤にさせながら間抜けな顔をしていた自分も。

 

結局その時は俺がモタモタしていた事や、双虎の母親が直ぐに迎えにきて遊ぶ事はなかったが、それからちょくちょくあいつの姿を公園で見るようになった。

人見知りのあいつは最初目も合わせなかったが、何度か話す内に顔をあげるようになって、いつの間にか目を見て話せるようになった。言葉は辿々しく要領を得ない時があり、子供ながらイラつく時もあったが、その瞳が真っ直ぐ自分の事を見てると思うと文句は出なかった。

 

母親達が交流してから会う機会は更に増えた。

家か公園にしか出歩けなかったあいつも俺がいると少しは大丈夫なようで、親ぐるみで出掛けるとなれば常に一緒に居させられた。トイレ以外、ほぼひっつくあいつを多少は煩わしく思った事もある。

まぁそれでも、服の裾を摘まみながら泣きそうな顔で俺に頼ってくる双虎の姿に悪い気はしなくて、その手を振り払う事はなかったのだが。

 

俺にくっつきながらも外を出歩くあいつの姿に、小学校という言葉を口にするようになったあいつの横顔に、子供ながらこうやって頼られるのは何時までも続かないだろうなと思っていた。少しずつだが、笑顔を見せる日が増えていたから。少しずつだが、自分から外に出ようとしていたから。少しずつだが、変わろうとしているのは気づいていたから。どもる所は眉を顰められるかも知れないが、本質的に優しくて顔も良いだけに、その努力はきっと報われると思っていた。

だが、そんなあいつの意思に関係なく、ソレはあいつの心の奥に残り続けていた。

 

 

小学校三年の春、あいつは一人の教諭の前でパニックを起こした。俺が見ている限り、その教諭が何かした訳じゃない。そいつはただ笑ってテスト結果を褒めて、頭を撫でただけ。ただ、それだけだった。

 

双虎は喉が張り裂けんばかりに悲鳴をあげて嘔吐した。

綺麗だった瞳を暗く淀ませて、血色の良かった顔を真っ青にさせて、凍えているかのように体を小刻みに震わせて、歯をカチカチ鳴らせ━━━涙を溢しながら「ごめんなさい」とひたすら口にし続けた。

あまりの双虎の変わりように俺ですら暫く動けなかった。双虎のやつが大人の男に対して極端に恐怖を覚えていたのはウチのジジイに見せる反応で知っていたが、それもある程度慣れれば普通に話せる程度のモノだと、俺は甘く見ていたのだ。

 

その教諭の何が原因だったのかは今も分からない。

ただ双虎にとって教諭がした何かが耐え難い事で、俺の知ってる普通というものが双虎にとってどれだけ難しい事なのかは嫌と言うほど理解した。

 

それ以来、あいつは学校に来ていない。

それまで行くとこが出来ていた公園や近所の商店街すら顔を出すことが出来なくなった。初めの内はカウンセリングの為に病院へと出掛けていたようだが、学校での一件以来身の内にあったソレは確実に悪化してしまったようで、治る所か通院すら難しくなり、今もあいつは部屋の中にいる。暗い部屋の中に、たった一人で。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、勝己くん?暫くぶりねぇ」

 

見慣れた風景を眺めながら歩くこと10分程。

辿り着いたアパートの前で、トートバッグを肩に掛けた双虎の母親は笑顔と共に声を掛けてきた。カウンセリングに通わせていた頃は随分と疲れた顔をしていたが、ここ数年は生活が安定しているのか顔色は悪くはない。

この調子だと、俺が来なかった間に何か起きた可能性はなさそうだ。 

 

「いつもいつも双虎の様子見に来てくれてありがとうね。今は自由登校の時期だっけ?早いわね、勝己くんも春から高校生なのよね━━━━あっ、高校と言えばそろそろ結果発表だったんじゃないかしら?もしかして今日はそれで?」

「・・・・まぁ、今朝、手紙来たんで」

「あらあら、そうなのね。その様子だと悪い結果じゃないみたいで良かったわ。あの子も柄にもなく気にしてたみたいだから、ふふふ。勝己くん、おめでとう」

「うっす」

 

双虎の母親は一頻り嬉しそうに笑った後、俺に部屋の鍵を渡して双虎の事をよろしくと伝えてきた。

最早いつもの事ではあるが、双虎の母親は俺の事を信用し過ぎている気がする・・・まぁ、その方が俺にとって都合が良いから、余計な事をいうつもりもねぇんだが。

 

双虎の母親と別れて部屋に向かった。

一応インターホンを押したが返事は返ってこねぇ。

仕方なく借りた鍵でドアを開け、さっさと部屋の中へと踏み込んだ。そのまま『ふたにゃん』という表札がぶら下がるドアに行き、軽くノックしながら声を掛けた。

 

「おい、双虎。いるんだろ、開けろ。開けねぇとぶち破るぞ。ごら」

 

そんな言葉に慌ただしくドアの向こうで何かが動く。

何かが崩れるような、何かが割れたような、何かにぶつかるような、何かを蹴り上げるような・・・・そんなドタバタした音を散々に響かせた後、勢いよくドアが開いた。

 

現れたのは手入れの行き届いてないボサボサの長い髪をフワフワ揺らしながら、パンツ一枚にヨレヨレのTシャツ一枚というあられもない格好をした眼鏡女。

俺の幼馴染である、緑谷双虎だ。

 

「━━━かっちゃん!」

 

双虎は俺の姿を見るや、髪の隙間から覗く瞳を細めて、嬉しそうにフニャりと笑う。

そのまま間髪入れず犬みたいに飛び着いてこようとしたが、汗臭さが鼻についたので取り敢えずデコピンで撃ち落としておいた。

 

バチンという音と共に指へ衝撃が走る。

直後、絞め殺された豚みたいな悲鳴をあげた双虎は、苦しげな声を漏らしながら廊下に転がった。

 

「ふがぁっ!?あっ、あああぁぁぁぁっ!!おでこがぁ、おでこに穴があいたぁぁぁぁぁっっっっ!!」

「空いてたまるか。てめぇ、朝連絡したっつぅのに、なんで返事寄越さねぇんだ。この馬鹿が」

 

俺の言葉を聞いた双虎は涙目のまま体を起こした。

そして上目遣いでこっちを見ながら首を傾げる。

心底不思議そうに。

 

どうやら世の中でトップクラスに暇人であるこいつは、スマホを見る時間すら作れないらしい。

このウルトラ馬鹿。

 

「・・・・はぁ、まぁ良い。それよか、はよ風呂入ってこい。くせぇぞ」

「そう?自分だと分からないんだよねぇ。まだ・・・・あれ、この間入ったの何時だっけ?昨日?いや、昨日は入ってないな。あれ、でも一昨日は確か、うん?」

「聞いてるこっちが頭痛くなるから思い出さんで良いわ。さっさと頭から足の爪先まで全部洗ってこい」

「へいへいほー」

 

風呂場に駆け出した双虎の背中に「着替え忘れんじゃねぇぞ」と言えば、慌てて引き返して部屋に戻っていった。どうやらまた、何も持たずにいったらしい。

 

双虎が風呂場に入った後、コンビニで買ってきたアイスやら土産やらを適所へと片付けてから、双虎の引きこもり部屋に足を入れた。

至る所に積み上げられたゲームカセットや漫画の山が最初に目に入る。次に床に散らばっている服。その次は乱雑に置かれた未開封のフィギュア。いい加減ゴミを捨てる事は覚えたようで、部屋の隅でお菓子のゴミやらジュースのゴミやらがビニール袋で一纏めになっている。

テレビの前には一つクッションが置かれ、その周りにはジュースや菓子の山が囲むように並んでいた。一晩はそこから動かなかった事は察した。

 

軽く臭いを嗅いでみたが、幸い汗臭さが残ってるだけで危険そうな刺激臭は感じなかった・・・・この状態を幸いと思ってる時点で、あれではあるが。

 

「うわ、また勝手に片付けしてる」

 

部屋を片付けながら待つ事少し。

湯気を漂わせながら少し火照った顔した双虎が、バスタオルを首に掛けて帰ってきた。せっかく着替えたというのに、相変わらずTシャツ一枚にパンツ一枚という恥も外聞もない格好。歩く度に揺れるそれが嫌に目について仕方ない。

少し頭が痛くなったが、それよりまだ雫が滴ってる長い髪が気になった。

 

「片付けられたくなきゃ普段からやっとけ。つーか、こっちこい」

「む?なになに?」

 

手招きすれば呑気な面で近寄ってきたので、そのまま捕まえて首に掛けっぱなしになってるタオルで拭き直してやった。やや強めで。

 

「いつも髪はちゃんと乾かしてこいっつってんだろ!ガキじゃねぇんだ、何回も言わすなや!」

「うわっぷ!ちょっ、ふぉっ!?どっ、どうせやるなら!優しくてひょああぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!?」

「てめぇへの優しさはとっくに品切れしてんだよ!!タコ!!大人しく拭かれてろ!!」

 

最初は野良猫のように抵抗してきたが、逃げられない事に気づくと死んだ魚みたいな目になり、俺にやられるがままになった。どうせ放っておいてもやらないだろうからとついでにドライヤーを当て、流れでブラシも掛けておいてやれば「かっちゃんも好きだねぇ」とぼやいててくる。

 

「寝惚けた事ほざいてんじゃねぇぞ、ボケが」

「んふふ、そーぉ?じゃあ、まぁ、そういう事にしといてあげる。よきにはからえ、かっちゃん」

「・・・・・けっ」

 

そのまま髪を乾かしてやってから暫く。

部屋の片付けが一段落ついた頃、双虎は広くなったベッドの上に転がった。片付けに戻るよう睨み付けてやったが、双虎はそれに気づく事なくベッド横にある本棚から漫画を抜き出して読み始める。

 

「おい、双虎」

「ちょっと休憩ー、もうムリー、やる気出ないー」

 

文句つったれる馬鹿はまったく動く気配がない。

何が気に入らないねぇのかと、ふと手首の時計へと視線を移せば時刻は昼を過ぎた頃だった。双虎に視線を戻すと、漫画から顔チラチラ出しながら「あー、甘いモノがいいなぁー」とあからさまに要求してきやがる。

 

「・・・・はぁ、たく、てめぇは━━━大したもんは買ってきてねぇぞ」

「さすかつ!何買ってきたの!?ケーキ!?」

「コンビニのだけどな」

「えぇ!?マジでケーキ!?なに、なんか良いことあったの?彼女出来たとか?」

 

不意に出た双虎のその軽口が冗談である事は分かった。特別何か考えていった訳でない事も。

だが、それが分かっていても自分でも驚く程、頭ん中が冷えて腹の底がカッと熱くなる。気がつけば寝転がるあいつの上に覆い被さっていた。

 

ずれた眼鏡の先に驚愕に見開かれた瞳が見えた。

あの頃と変わらない綺麗な、宝石のような瞳は真っ直ぐに俺を見ていた。

そしてその瞳には冷たい表情をしながらも、ギラついた熱の籠った目で双虎を見つめる、自分の姿が映り込んでいる。

 

「あ、あにょぅ・・・かっちゃん?かっちゃん様?勝己くん?爆豪さん?何か、その、目が怖いんだけど、あと顔が少し近い気がするですけどぉ・・・・聞いてる?」

「約束、忘れた訳じゃねぇだろうな」

 

誤魔化すような双虎の声を遮るように、地を這うような低い声が口から溢れた。双虎は目を泳がせながら「や、約束?」と困ったような顔をする。

 

惚けた顔をした双虎に、ポケットに突っ込んで置いた封筒から円盤を取り出し見せてやった。

キョトンとする双虎の前で円盤のスイッチを入れれば、スーツ姿のオールマイトの映像が現れる。映像にすらびくつく双虎の手を握り安心させ、そのまま映像を流し続ければ待っていた言葉が流れた。

 

『━━━という訳で、爆豪くん見事合格だ!Congratulations!おめでとう!ただ、救助ポイント0というのは個人的に少しだけ頂けない!ヒーローを目指す以上、救助は切っても切れない大切なお仕事だ!学校に来たらその辺りも授業でや━━━』

 

スイッチを押して映像を止める。

双虎に視線をやれば青い顔で固まっていた。

ようやく思い出したらしい。

 

「あーっと、えーっと、とっ、取り敢えず合格おめでと?良かったね、雄英って倍率やばいんでしょ?おつおつ」

「おう」

「それでね、あのね、一旦落ち着こうかっ━━━ふみぅっ!?」

 

目敏く隙をついて逃げようとする双虎の腕を引き寄せ━━━V1アームロックを掛けた。

双虎の悲鳴が鼓膜に響く。

 

「あたたたたッッ!!ちょっ、マジで痛いってば!!なんでアメリカーノ!?今そういう雰囲気じゃなかったでしょぉぉぉぉっ、ッッッぉ!?あっ、しむぅ!しぬるぅ!」

「るっせぇ、逃げようとすっからだろ。逃げねぇって約束するなら解放してやらん事もねぇ」

「確約してよ!そこは!逃げない逃げない!逃げませんから離してぇ!」

 

技から解放すると双虎はそのまま力なくベッドに横たわり、何処か居心地悪そうに胸元で手を弄り始めた。

逃げるのは諦めたようだが、困ったように下がる眉や許しをこうような上目遣いの瞳に、約束を果たす気概までは見えない。

 

「やっぱり、なしってのは?駄目?ほ、ほら、私なんか相手にしなくても、雄英って名門だし、他にも可愛い子とかいるかもだし?やりたい盛りなのは分かったけど、どうせなら相手も選んだ方が良いんじゃないかなぁーって?ねっ、早まる事な━━━━」

「あのな、てめぇは、俺が一時の気の迷いで、こうしてると本気で思ってんのか?」

「━━━━あぅぅ・・・・それは、思ってないけど」

 

俺の言葉に双虎の顔が赤く染まった。

茹で蛸という表現を聞いた事はあるが、目の前にあるのが正にそれなんだろう。

 

「あのさ、絶対、かっちゃん後悔するよ?そりゃ、私はちょうぜつ美少女だけどさ、スタイルも抜群だし、性格もウルトラ良いし、だから夢中になるのは分かるけど・・・・私はさ、こんなだしさ」

「性格はそんなに良くねぇだろ」

「にゃんだとこの野郎」

 

頬に手を添えると、双虎は何も言わず擦り寄せた。

目を細めて、口元を弛めて。

甘える子猫のように。

 

「お前がそうやって無防備に甘えやがるから、こっちはすっかりその気になっちまったんだよ。てめぇが散々誘惑しやがったんだ。その責任ぐれぇ、てめぇでとれや」

「責任って・・・・どうせ口説くなら、ちゃんと口説いて欲しいんだけど」

「柄じゃねぇ━━━━目瞑ってろ」

 

その言葉を聞いた双虎は呆れるように笑って。

そっとその宝石のような瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・甘ぇ、てめぇ菓子ばっか食ってねぇでちゃんと飯食え」

「初めての感想がそれ!?」

 




ほんぺんとのそういー

ふたにゃん「なんだ、このデブ!」

ifふたにゃん「!?で、デブじゃないですぅ!少しぽっちゃりしてるだけですぅ!そっちこそ、筋肉じゃん!やーい、筋肉!かっちかちやなぁ!」

ふたにゃん「はぁぁぁぁぁ!?(怒)」



かっちゃん「そんなに変わらねぇと思うが」

ifかっちゃん「そりゃな・・・・まぁ、抱き心地良いのはこっちだろうが」

かっちゃん「!?!?!?」


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