見守る少年のお話し (オミズ)
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見守る少年のプロローグ

読者のみなさんよろしくお願いします。
この小説は初投稿作品です。

まったりテキトーに書いているので文字数の偏りが半端ないです(基本的に少なめ)
今回のお話に至っては、1000文字ちょっとです!!

それでもよろしければ次話も含めて見てください。


俺、山鳴水希(やまなりみずき)には幼馴染の男女がいる。

男の方は菊池泰牙(きくちたいが)

女の方は綾波静音(あやなみしずね)

 

この二人の距離感はヤバイ。

どんな風にヤバイのかは、見てもらったほうがよく分かるだろう。

 

 

 

 

 

 

朝、俺と静音は泰牙を起こしに家まで行く。

 

この時点でヤバイと思うが、この二人の行動を見たら、これは可愛い方である。

 

一緒に着いて来た俺は、居間で待機している。

 

何故かって?

 

静音が泰牙の部屋の中で、漫画的なことをやっていて精神上よろしくないからだ。

こっそり仕掛けたビデオカメラで確認してみよう。

 

「泰牙、起きて」

 

そう静音が声をかけるとテンプレ通りに、泰牙が「後5分」などとぬかす。

そう言われた静音は毎朝、耳元に息を吹きかけてから言う。

 

「朝ご飯、早くしないと冷めちゃう。泰牙には温かいご飯を食べて欲しい。だから…早く起きて」

 

それを聞いた泰牙は跳ねるように起きて、静音に着いていく。

ここまで見れば分かるだろうが、泰牙は最初から起きている。

 

何故なのか訊いてみると、静音には秘密にしてくれとお願いしてから教えてくれた。

 

「…一日の初めには、静音の顔を見たいから」

 

ロマンチストな女子かッ!!?思わずそう突っ込んでしまった。

その時の泰牙の形容し難い表情とセリフを、今になっても忘れることは出来ない。

 

「仕方ないだろ…好きなんだから」

 

これが恋に生きている人間か。

なんて、思わず感心してしまった。

 

その後、3人で朝食を食べるわけだが、ここでもこの二人はやる。

まず、俺の向かい側に泰牙が座る。

その隣に静音が座る。

これが俺達三人の定位置だ。

席に着いたら三人で声を合わせて「いただきます」

 

ここまではいい。

この先が問題だ。

 

暫く話しつつ食べてると、不意に静音の箸が止まる。

そうすると泰牙が、その原因となるものを箸で挟んで静音の口元に持っていく。

 

「食え」

 

「ヤダ」

 

毎朝の婚礼行事の始まりだ。

泰牙が箸で挟んだのはニンジン。

静音の嫌いな食べ物―――と泰牙が思ってる食べ物だ。

 

そう、静音は苦手な食べ物など無い。

それなのに毎朝こんなことをやっている。

 

何故なのか訊いてみたら、泰牙には秘密だと念を押してから答えてくれた。

 

「泰牙が私の事を見てくれるから」

 

泰牙の一日の大半はお前を見ることに費やしてるよ!と叫びたくなったが、我慢した。

 

ここまで聞けば分かるだろう。

静音は泰牙が好きだ。

 

コイツらは両思いだ。

なのにくっつかないわりに、カップルでもなかなかやらない事を日常的にする。

見てて、イラつくを通り越して呆れる。

 

だが、コイツらを嫌いにはなれないから、今日も俺は見守る。

何時かくっつくのかな?などと思いつつ。

 

 

 

 




お楽しみいただけましたか?
たった一瞬でも楽しんでいただけたら幸いです。


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見守る少年の予想外の一話

続けて二話です。
ここまで見てくださったみなさまありがとうございます。
先程よりは流石に長いのでご安心を。

それでは、お楽しみ下さい。


俺、山鳴水希(やまなりみずき)には幼馴染の男女がいる。

男の方は菊池泰牙(きくちたいが)

女の方は綾波静音(あやなみしずね)

 

こいつらは両思いなのに付き合っていない。

そのくせ、カップルでもなかなかしないことを日常的にやる。

そんなこいつらの恋路を俺は今日も見守る。

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日曜日、俺が家で寛いでいると泰牙から電話がかかってきた。

何だと思いつつ電話を取ると、世迷い事を口にした。

 

「水希。俺の彼女として振舞ってくれないか」

 

即行で電話を切った。

一回死ねば良い、と思う。

 

直ぐに電話がかかってきたので、舌打ちしながらも取る。

 

「すまん、言葉足らずだった。怒らないで聞いてくれ」

 

泰牙の話をまとめるとこうだ。

 

①女に言い寄られた

②咄嗟に彼女がいるからと断った

③彼女連れて来いと言われた

④悩んだ末、俺に彼女役をしてもらえないかと思った

 

泰牙は身長185cm、切れ長の目、凄みのある声、バスケ部主将というカッコイイ男だ。

それに対して俺は、身長153cm、くりくりとした大きな目、アルビノだから肌と髪は白く、目は赤いし、線は細い。声変わりは…するのだろうか?

 

こんなんなので、素のままでも女装して似合ってしまう。

それを知ってるからこんな事を言ってきたんだろう。

クソが。

 

とりあえず、思った事をそのまま言う。

 

「静音にしてもらえ。女装&お前の彼女なんてやりたくねえ」

 

「頼む!俺が静音の事好きなの知ってるだろっ!?静音にか、彼女役なんて頼めねえッ!!!」

 

浮気がバレて必死に彼女に縋りつく男、みたいに憐れだったので、条件付きで引き受ける事にした。

 

「…分かった。引き受けてやるが、条件がある」

 

「何だ?」

 

「一つ、静音にこの事を話す。二つ、今日から明日まで飯を奢れ」

 

「………分かった。よろしく頼む」

 

背に腹は変えられなかったのか、泰牙は二つの条件を受け入れる。

これで、少しは俺の女装がバレる可能性を減らせるだろう。

 

(あ~あ。折角の休日が面倒な事になっちまった)

そう、嘆息するくらいは大目に見てくれるだろう。

なんて…誰も居ないのに言い訳をする自分が滑稽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「把握。水希を可愛くしてあげる」

 

あの後、静音にこのことを説明すると、こう返って来た。

複雑な気持ちになったが、俺だとバレないようにするには徹底的にやった方がいい。

どうせ相手は同じ学校の奴だろうし。

 

今日、何度目かの溜め息を吐きながら言う。

 

「頼む」

 

心を殺して一時間、すっかり変わった俺が鏡に映し出された。

 

ウィッグをつけてロングヘアーにした髪、軽く朱をいれた唇。

睫毛は長く見せる為にラインを引いて、女の子っぽくなった影響かいつもより艶かしく見える肌。

白いワンピースにカーディガンを羽織った服装。

 

ここまで女々しくなるとわりと凹む。

生まれる性別を間違えたんじゃなかろうか?

 

そんな疑問を抱えつつ後ろを振り向くと、何故か静音も落ち込んでいた。

 

「どうした?」

 

「水希…男の子のくせに可愛い。女の子としての自信をなくす」

 

本心なのだろう。

目じりを下げて、視界に入れたくないかのように目を逸らしている。

 

だが、言わないで欲しかった。

おかげさまで、たわんでいた心が折れた。

 

仕返しに忠言をしてやろう。

 

「着いてくるなら泰牙だけには気付かれるなよ」

 

目をパチパチとさせてから静音は意外そうに言う。

 

「…バレてた?とりあえず了解。水希ちゃんの頑張りを遠くから見守る」

 

ニマニマと笑う彼女を殴りたい衝動に駆られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13時、この町の待ち合わせ場所の定番の噴水で、日傘を差して一度きりの彼氏を待っていた。

その際、何度かナンパされたがやんわりと断っておいた。

 

「待ったか」

 

背後から泰牙の声。

(正面から来い)

 

「ううん、待ってないよ」

 

心の中で悪態をつき、吐き気をこらえながら言う。

 

「あっちのカフェで女が待ってる」

 

泰牙が北の方角を指差しながら、女の居場所を告げる。

 

(一度きりの彼女を、労わる甲斐性はないんですかねぇ?)

いつもに増してささくれている心は、親友に皮肉を言う元気があるみたいだ。

 

「早く行って終わらせよう」

 

俺のげんなりした表情を見たのか、それに泰牙は黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、非常に居心地が悪い。

 

カフェに入った俺達は、件の女、沢村美紀(さわむらみき)のいるテーブルに座った。

自己紹介をして数分、ジッと俺達を見ている。

そのせいで周りから注目されてる。

 

不意に目を見開いた(現実逃避をした)沢村が叫んだ。

 

「その人は誰ですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

うるせえ。

 

そう俺達は思ったが、周りの観衆は、修羅場?などと面白そうにヒソヒソ話していた。

クソが。

 

「…俺のか、彼女だ」

 

泰牙がつまりながらも言ったが、つまったせいで沢村が不審な目で俺を見た。

内心で溜め息を吐きながら、嘘が下手な泰牙をフォローする。

 

 

「泰牙くん、恥ずかしがらないでよ。私まで恥ずかしくなっちゃう」

 

 

泰牙の手をとりながら言う。

沢村は自然なスキンシップに大ダメージを受けたようだが、安心しろ。

俺も受けている。

 

「……水希さん。泰牙さんのどんな所が好きなんですか?」

 

テメェ、俺が大ダメージ受ける質問をしやがって。

後で下駄箱にラブレターでも入れてやろうか?

 

そんな思考を悟られないように笑顔を作りながら、真実と嘘を混ぜて言う。

 

「泰牙くんのバスケをしている姿がカッコイイし、恥ずかしがり屋なところは可愛いし、病弱な私を気遣ってくれるし、喧嘩をしてもすぐに謝ってくれるから、かな?…まだ、あるけど聞きたい?」

 

本当の事が8割構成しているから、少し照れくさい。

実際、俺が女だったら泰牙に惚れててもおかしくはない。

そんなくらいには、コイツの事が好きだ。

 

ふと、相手の反応が無いので思考を断ち切って様子を見ると、何故か沢村と泰牙も照れていた。

ていうか、周りの人達も照れてた。

 

この微妙な空気を打ち破ったのは、今まで頼りにならなかった泰牙。

 

「…分かっただろ。俺の彼女はコイツだ。文句なら俺に言え。コイツに言ったら…潰すぞ」

 

「は、はい!失礼しました!」

 

そう言って沢村は料金を払ってから、町へ駆けていった。

 

可哀想に。

もうちょっとだけ優しく追い返してやれないのか?

微妙に泣きそうだったぞ。

 

まあ…俺にとっては面倒ごとを作り出した女、という存在なので扱いなどどうでもいい。

さっきのは一般論だ。

 

それにしても泰牙よ。

俺を大事にしてくれるのは嬉しいが、仮にも彼女に向かって『コイツ』はないだろう。

 

からかいついでに帰宅を促す。

 

「泰牙くん。コイツって彼女に言っちゃダメだよ。…そのせいで私は機嫌を損ねたので、家まで送ってください」

 

「あ、ああ。悪かったな」

 

泰牙が、まだその演技続けるのか?という顔で見てくるがスルー。

俺は、まだ人目があるだろうが!!と叫びたいが、その衝動もスルー。

 

代金は泰牙に払わせてカフェを出た所で、ずっと隠れてこちらを見ていた静音が不機嫌そうに顔を出した。

 

(バレるなって言ったよな?)

溜め息を吐く。

 

「し、静音!どうしてここにいるんだよ!?」

 

泰牙の心情は分かるが、今の静音にその言葉は逆効果だぞ。

案の定、先程よりも機嫌を損ねた静音が、底冷えするような声で泰牙に問う。

 

「いて…悪かった…?」

 

「ぅえ!?そ、そうじゃなくて…」

 

俺と静音に交互に視線を合わせながら、泰牙は弁明しようとするが弁明になっていない。

 

カフェから出た直後なので、観客が、修羅場ラウンドツー!!と叫んでいた。

(何でお前らそんなにテンション高いんだよ)

 

この状況も演技も全て面倒臭くなってきたので、日傘で二人を軽く殴ってから言う。

 

「帰るぞ」

 

泰牙と静音は顔を見合わせた後、俺の横に並んだ。

こうして俺の見守れない日常が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、俺が「帰るぞ」と言った後、泰牙と静音が黙って着いて来たのを見て、観客が思った事は一つだったらしい。

 

 

(ご主人様………!)

 

 

 

 




読了、ありがとうございます。

これからもおそらく投稿していくので、その際はあらためてよろしくお願いします。


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見守る少年の予想外の一話 ルート泰牙


一話の泰牙視点となります。
泰牙と水希の意識の違いなどに注目してみると面白いかもしれません。


「あの…泰牙さん」

 

金曜日の放課後。

弾むような声が響く校舎の影で、少年少女が向かい合っていた。

 

少女は緊張しているのか、小刻みに足を震わせている。

少年は反対に、リラックスして少女の言葉の続きを待つ。

 

…数秒の時すら苦しく感じたのか、少女は覚悟を済ませ、用件をまくしたてる。

 

「…わ、私とデートしてください!!」

 

「え、いや、その…む、無理」

 

予想していた用件とはまったく違ったのか、先程までの余裕溢れる態度から一転して焦る少年。

しかし、肝心な部分だけはきっちり答えることの出来る人間だった模様。

それがこの少女にとって、いいことなのかは分からない。

それでも、分かる事はある。

 

哀れ少女は一瞬で。

一世一代の勇気は木っ端微塵だ。

 

これだけだ。

 

このままではめげない少女は、望む未来への切り口を探す。

幸い少年は、断った負い目があるのか、少女の返答を待ってくれている。

ショックで揺れる脳みそを回転させて、少女は望む未来を手に入れるべく、奮闘する。

 

「………何で、ですか?」

 

そもそも断られた理由すら分からないのだ。

まずはそれを知るべきだろう、という判断の元のこの一言は、後に少女に多大なる衝撃を与える一言となった。

 

「え?…好きな人…いや、彼女がいるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何でこんなことになったんだ。

自室で頭を抱える。

 

思い浮かぶのは、悩みのタネを作った女のセリフ。

 

「へ……彼女ぉ!?連れて来てください!!日曜日、14時、近所のカフェに!!!」

 

何でこうなる。

いいじゃんか、嘘吐いて逃れるの。

なのに、何でお前は嘘が露呈するような道を整備するんだ…

クソッタレめ。

あのまま帰れよ…

 

文句を吐いても仕方ないのに、頭の中は文句の大合唱だ。

クソ…頬を叩いても文句合唱隊は出て行かない。

 

誰か…誰か…頼れる奴はいないものか…?

彼女…女…静音…幼馴染。

幼馴染?

 

閃いた。

閃いたがこれは…許されるのか?

だが、アイツ以外に頼れる奴はいない。

 

許せ、水希。

 

「水希。俺の彼女として振舞ってくれないか」ガチャンッ!!

 

やべえ。

通話最低記録達成。電話、叩きつけてきった。

分かる事。

メチャクチャ怒って拒絶してやがる。

 

水希よ、言葉足らずだったのは認めるが、幼馴染の言葉を拒絶するのは酷くないか?

 

そうは思うが、頼みの綱が水希だけな現状、縋りついてでも水希に彼女をしてもらわなければ!!

 

「…分かった。引き受けてやるが、条件がある」

 

よっしゃ!!

情けなく縋りつく作戦、大成功!!

 

と、喜ぶのはいいが条件って何だ?

 

「何だ?」

 

「一つ、静音にこの事を話す。二つ、今日から明日まで飯を奢れ」

 

微妙に痛いところついてくるな。

流石は幼馴染。

俺の弱点を熟知してやがる。

 

メシ代はいいとして、静音については大丈夫だろうか?

最近の様子を思い出せ…着せ替え人形が欲しいとか言ってたような…

なら、水希が適任だろう。

どうせ、化粧してもらって服を借りるんだろう。

それは着せ替え人形みたいなモンだろう。

 

「………分かった。よろしく頼む」

 

さて、一つの問題は脱したが、水希を彼女役にして上手くだませるだろうか?

女の勘はするどいとは言うが、果たしてどれほどのものか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ったか」

 

13時、町の待ち合わせの定番スポットで、日傘を差している華奢な人影を見つけた。

おそらく水希だろうから声をかける。

 

「ううん、待ってないよ」

 

昔に比べると、水希は頼もしくなった。

腕っ節はアレだが、こういう演技はピカイチだ。

 

そんな水希が不機嫌そうな顔で振り向いたので、首を捻る。

 

何かしたっけな?

…そもそも、この状況自体が不機嫌になる要因か。

 

この予想はおそらく正しいだろう。

さっきから水希は、他人に気付かれない程度に顔を歪めてる。

 

「あっちのカフェで女が待ってる」

 

雑談など、今の水希にとっては薬にならないだろう。

むしろ毒になる。

今は最短ルートで向かおう。

 

「早く行って終わらせよう」

 

そう言った水希の表情は、遠い過去を思い出させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、凄く居心地が悪い。

 

カフェに入った俺達は、件の女、沢村美紀(さわむらみき)のいるテーブルに座った。

奴は、自己紹介をして数分、ジッと俺達を見ている。

 

そんなに見たって面白いモンなんかねえだろうに。

何が楽しいんだか?

 

不意に目を見開いた沢村が叫んだ。

 

「その人は誰ですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

うるせえ。

 

そう俺達は思ったが、興奮しきった奴には届かない感情だろうな、とも思う。

結局、俺達に出来るのは、沢村という嵐が過ぎ去るのを待つことだけ。

直撃している際は、最小限の被害で切り抜けるしかない。

 

溜め息を吐きたい感情を抑えて、嵐を受け止める。

 

「…俺のか、彼女だ」

 

ミスった。

スマン水希。

思ったより彼女って言うの、勇気いるな…

 

「泰牙くん、恥ずかしがらないでよ。私まで恥ずかしくなっちゃう」

 

演技中の水希は、俺のミスをカバーする為に、はにかみながら俺の手をとってくる。

これが女子で、本心からだったら照れるんだろうけど、生憎と水希の感情はビシビシと伝わってくる。

 

吐きてえ

 

そんな感情が伝わったら、照れるどころか申し訳なくなる。

今後はからかう回数を減らすから、今は我慢してくれ水希。

 

「……水希さん。泰牙さんのどんな所が好きなんですか?」

 

女よ。

初めて俺はお前に感謝したくなったぞ。

 

こう聞けば、水希は俺の長所を言ってくれるだろう。

その中には本心が含まれているはず。

普段、好きなところを言ってくれない水希の、俺に対する本心を知るチャンスになる。

 

これだけで、俺が水希とココに来た意味があると言ってもよくなった。

 

「泰牙くんのバスケをしている姿がカッコイイし、恥ずかしがり屋なところは可愛いし、病弱な私を気遣ってくれるし、喧嘩をしてもすぐに謝ってくれるから、かな?…まだ、あるけど聞きたい?」

 

………お腹一杯です。

 

やばい。

やっぱりコイツはカワイイなぁ。

ホモって訳じゃないんだが、水希は小動物的な可愛さがあるからな。

 

今すぐ頭を撫でたい。

払いのけられて睨みつけられるだろうが、撫でたい。

 

そのためには、今すぐコイツを遠ざけねば。

 

「…分かっただろ。俺の彼女はコイツだ。文句なら俺に言え。コイツに言ったら…潰すぞ」

 

「は、はい!失礼しました!」

 

よっしゃ!!

邪魔者は去った。

 

後は速やかに帰って、撫でるだけだ。

 

「泰牙くん。コイツって彼女に言っちゃダメだよ。…そのせいで私は機嫌を損ねたので、家まで送ってください」

 

「あ、ああ。悪かったな」

 

まだその演技続けるのか…?

 

まぁいい。

折角の提案だ。

機嫌を損ねないように、水希の家まで送ってから、あがらせてもらおう。

 

そう浮き足だっていた俺の心は、カフェの外に出た瞬間、焦りによる地団駄に変わった。

 

「し、静音!どうしてここにいるんだよ!?」

 

何でいるんだ!?

その混乱から、やましい事があるような態度をとってしまった。

 

やばい。

静音の視線が、虫けらを見る目に変わってきてる。

弁解、弁解、弁解…?

どうするんだ?

水希とデートしてましたって言うか!?

アホか!!

そんなの分かりきってるだろ!!

弁解にすらならねえ!!

 

「いて…悪かった…?」

 

「ぅえ!?そ、そうじゃなくて…」

 

静音の不機嫌メーターが急上昇してくのが目に見える。

ゆらゆらと幽鬼のように佇む静音は、他者を拒絶する冷たさに溢れかえっているようにさえ見える。

 

静音に嫌われたら…

その先は考えすらしたくない。

今は、嫌われないように頑張るしかない。

 

よし。

水希、助けてくれ!!

ちらちらと水希の方を見て救難信号を出す。

 

その信号を受け取ったのか、水希は呆れた顔で俺達を傘で軽くどついた。

 

「帰るぞ」

 

…静音と顔を見合わせる。

お互い思ってることは同じのようで、俺達の心が繋がってるのを認識させてくれる。

それさえ分かれば、後で納得がいくまでじっくり話せばいい。

その信頼関係を思い出させてくれる。

 

ったく…本当に

 

 

(俺達は水希には一生叶わないな)

 

 

 




ご読了ありがとうございました。

次話を投稿するとしたら休日になると思いますが、お楽しみしてくださっている皆様、のんびりお待ち下さい。


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