ご注文は祝福ですか? (すぱいす)
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この素晴らしい喫茶店に祝福を!

 初めまして。すぱいすです。
 どちらもにわか程度の知識しか無いのですが、書いてみたい、と思ったので書いてみました。どちらのキャラクターにも解釈違いや、キャラの暴走などがあるかもしれませんが、ご指摘頂ければ、原作を鑑みて自分が全くもって間違っているかどうか確かめてから、改善していきたいと思っております。

 イメージでは、このすば一巻の爆裂散歩の後、カズマがほっつき歩いていたらラビットハウスを見つけたという感じです。一話は導入としてカズマがある程度ラビットハウスい行きなれた後という感じで書いて、二話からカズマとチノの出会いを書きたいと思っています。

 需要があるかは全く分かりませんが頑張りたいと思います!


 父さん、母さん。お元気ですか? ご無沙汰してます。 カズマです!

 俺がこの世界に送られて、早数か月。今は冒険者をやっています。仲間もできました。まだ、俺の冒険はチュートリアル。何も成してはいないけど、今日も元気に頑張っています。そうそう、そういえば一つ変わった事もあります。

 俺、行きつけの店、できました。毎日とは言いませんが、週に二、三回は通っています。そこの喫茶店の娘さんなんか、通いすぎて俺の事を『お兄ちゃん』なんて呼んでくれるんですよ。辛いとき、疲れた時なんかは、その店で一杯飲むと、次の日の活力が湧いてきます。だから、大丈夫。あなたたちの息子は一生懸命、今を生きています。

 それでは、今日もその店に行ってきますね!

 

 俺はそんな事を考えながら店の扉を開いた_____

 

  「いらっしゃいませ。ラビットハウスへようこそ」

 

 

 *

 

「チノ、いつもので」

「カズマさん、また来たんですか」

 

 おっと、客に対してそんな言い草はないんじゃないか。

 

 この子は喫茶店、『ラビットハウス』の看板娘であるチノ。少し白みがかった水色の髪をした、頭の上にのせた白い毛玉がトレードマークの女の子だ。将来の夢はバリスタになる事らしい。俺はこの世界にもバリスタがある事を知って少し驚いた。

 

 

 軽くため息をつくチノにウィンクをして俺の特等席、カウンターのチノの前に座る。チノは照れているからあんなことを言っていると分かっているので、ため息なんて全く気にもならない。

 

「どうぞ」

「ありがとう、チノ」

 

 出されたコーヒーを受け取り、しっかりと味わう。

 この世界に来てカエルだの空飛ぶキャベツだの変なものばかり食べている俺ではあるが、これでも世界のあらゆるものを食べることのできる日本出身。

 そこそこ味覚には自信がある。このコーヒーの銘柄なんて容易く当てて見せよう。

 

「うん、この芳しい香りと調和のとれた味わい、軽い口当たりにこののどごしの良さ。間違いない! これはブルーマウンテンだろ? チノ」

「ブレンドです」

 

 ふっ。

 

「おい、チノ。俺が『いつもの』って言ったら、ブルーマウンテンを出してくれって言っただろ?」

「いえ、カズマさんが最初に来た時に一番自信のあるものを出してくれって言って、ブルーマウンテンを出したら、この店の一番自信のあるものはメニューに書いてあるオリジナルブレンドだろ? って言いながら間違えていたじゃありませんか」

 

 あ、そうでしたっけ。軽くむくれたような顔をして否定するチノ。かわいい。

 

「そうか。ごめんな、チノ。お兄ちゃん勘違いしていたよ」

「お兄ちゃんじゃないです」

「……おい、チノ照れなくてもいいんだぞ。ほら、いつも二人でいるとき呼んでいるみたいに『お兄ちゃん』って呼べばいいんだ。リゼなんかに気を遣う事なんてないんだよ」

「呼んだことないです……」

「おい、カズマ。お前はいつもいつもチノを困らせるな。というか、営業妨害しに来ているのか?」

 

 今、俺に声をかけてきた女の子はリゼ。濃い紫色の髪の毛をツインテールにしたこの喫茶店のアルバイターだ。

 

「そんなことしてねえよ。自分の妹が頑張っているのを見に来るのは当然だろ?」

「当然なわけあるか!! というか、お前冒険者だろ? もっとこう、自分より強いモンスターと戦ったり、クエストをうけて市民を守ろうとしたり、冒険に備えて自らを高めるとかしないのか!?」

「しない。自分より強いやつとかほとんどだし。身の丈にあったクエストはクエストボードには無かったし、そもそもお金は割とあるからわざわざクエストなんざ受ける必要も無い。自らを高めるとかよりはゴロゴロしていたい」

「お前ってやつは……全く、冒険者の風上にも置けないやつだな……」

 

 おっと、リゼがゴミを見る目ですね。心なしかチノも俺をがっかりしたような目で見てくる。お兄ちゃん、妹にはそんな目で見られたく無かったよ……

 何でか知らないが、このリゼという少女、冒険者に憧れを抱いているらしく、冒険者は清く正しく強くあるべきと思っているらしい。

 ホントはただのゴロツキ集団だってのに、騎士かなんかと間違っているのではないだろうか。

 

 まあ、俺も昔想像していたのはそんなもんだったし、人の事は言えないのかもしれない。しかし、現実を知った今そんなことは全く思わない。

 アルバイトで酒を飲むために作った借金を返す宴会芸の女神。毎日毎日爆裂魔法を打たなきゃ気が済まない頭のおかしい一発屋芸人。全く攻撃の当たらないドMクルセイダー。そんな奴らと冒険しているこっちの身にもなってみろっていう話だ。

 

「それに、俺には妹に会いに来るっていう使命があるからな。そっちの方が大切だ」

「そんなのあるかっ!! はぁ……お前といい、ココアといい、どうしてそんなに妹を欲しがるんだ?」

「おい、あいつと一緒にするのはやめてもらおうか。俺はあんなにアホじゃない。なあ、チノ、あいつよりは俺と兄妹になりたいだろう?」

「どっちもどっちです……」

「なんだって!? 俺とあいつがトントンだと……アクアと同レベルの知力しか持ってなさそうなあいつと? 屈辱だ……ん? そういえば、あいつ、今日はどうしたんだ? いつもなら俺とチノが話している時はすぐ出しゃばってきて、『チノちゃんのお姉ちゃんは私だよ!』とか言ってくるのに、今日は全然だ、居ないのか?」

「いや、お前が来る丁度前に出て行った」

「はい、なんだか最近ココアさん、仕事中抜け出してどこか行くんです。どこに行ってるんでしょうか」

 

 へえ、ココアが。元々、喫茶店の仕事をめちゃくちゃ真面目にしているっていうタイプではないが、意味もなく仕事をサボるやつでもない。ホントに何かあるんだろう。

 

「ただいまー、チノちゃんごめんねー!! ちょっと用事が長引いちゃってー」

 

 騒々しく、バタンと扉を開けて大きな声を出しながら入ってくる。こんな奴はここには一人しかありえない。ココアだ。

 

「悪いと思っているなら、働いている途中で用事を作るのは止めてください」

 

 えへへ、と頭を掻きながら謝るココアに、ちょっと厳しめの言葉をぶつけるチノ。お兄ちゃん、しっかりした妹が持ててうれしいです。

 

「あ、カズマくん! いらっしゃいませ! 朝焼いたパンも食べる?」

 

 これが、さっきの話に出ていたココアだ。赤みがかった茶色の髪の毛をしていて、花を半分に切ったような髪飾りが特徴のリゼと同様にこの喫茶店のアルバイターだ。実家がパン屋らしく、パン作りが趣味で、この喫茶店ではトーストなどのパンを担当したりしている。

 

「よう、ココア。仕事中に抜け出して油売っているなんて、姉失格じゃないか? まさか自分からチノの姉を辞退するとはな。まあいい心がけだ。今度からは、俺がしっかりチノの兄として世話していくから安心してくれ。あと、パンはただなら食べる」

「む、チノちゃんのお姉ちゃんは私だよ! それにたださぼっていたわけじゃないんだから! あとパンは500エリスだよ!」

「いらない。絶対ぼったくってるだろ」

 

 ていうか、メニューに200エリスって書いてあるし。エリスはこの世界の通貨で、この世界の一番信仰されている女神様の名前がとられているらしい。1エリス1円とほぼ同じらしい。……ん? たださぼっていたわけじゃない? 

 

「おい、じゃあ何してたんだ?」

「ええ!? いや、それは……ちょっと……言えないかな……って……お姉ちゃんは秘密を守るものなんだよ!」

 

 なんだこいつ。歯切れ悪いな。つーか、お姉ちゃん推しがうぜえ。秘密を作ってまでサボるなよ。まあ、別にこいつの用事なんてどうでもいいか。

 

「まあ、いいです。とりあえず仕事して下さい」

 

 チノもどうでもよくなってきたのだろう。呆れた顔をしている。しかし____

 

「仕事って……する必要あるのか?」

 

 __そう、客なんて居ないのだ。俺以外

 

「まあ、いつも通り人がいないな」

「リゼさん、いつも通りとか言わないでください」

「私のいないうちにカズマ君くらいしか居なくてよかったよー」

「なんでこんなに客がいないんだろうな? もうちょっと人がいてもいいと思うんだけどな」

 

 実際、美人な店員が居る訳だし、男の冒険者なんてほとんどが女好きだし、来てもおかしくないというわけではない。

 

「父が夜やっているバータイムでは結構人気があるんですが」

「なるほど。その時間に儲けを得ているってことか」

「そうだな、女性冒険者の方にかなり人気があるらしい」

「タカヒロさんダンディーだもんね」

「この前、街を歩いていたら女性冒険者の方に『チノちゃん、新しいお母さん欲しくない?』って聞かれました……」

「「「えっ」」」

 

 ちょっと悲しそうな顔をしながら言うチノに、俺たちは何も言えなくなる。

 タカヒロさんはチノのお父さんで、この店のマスターだ。チノが幼い頃に奥さんを、数年前に父親、つまりチノにとってのお爺さんを亡くし、そこから自分一人でチノを育ててきた。チノにとっては最後の家族。それはたとえ冗談だとしてもちょっと辛いだろう。いや、冗談じゃないかもしれないが。冒険者にはろくな男がいないってよく言われるしな。女性冒険者は早く結婚して、こんな不安定な仕事を辞めたいという気持ちはわからなくもない。っていうか、俺も辞めたい。

 しかし、これは配慮が足らなさすぎる。俺はその冒険者が分かったら、すんごい事をしてやると決めた。いや、勿論、その冒険者が女性だということは全く関係はない。ただ、俺は兄としてチノが悲しんでいる事に対して許せないだけだ。

 

 俺がそっとチノを慰めるような事を言おうとすると、

 

「大丈夫だからね! チノちゃん! その冒険者さんにはお姉ちゃんが後でチノちゃんに謝らせるし、タカヒロさんもどこにも行かないから! それにね、私はいつもチノちゃんの隣にいるから!」

 

 ココアがチノを抱きしめる。全く……こういう時だけ、割とお姉ちゃんするな。こいつは。

 

「勿論、俺もな」

 

 便乗する俺に、

 

「ああ! 私だっているぞ! いつでも頼りにしてくれ!」

 

 リゼも乗っかってきた。

 

「な、あ……」

 

 抱きしめられたチノは顔を真っ赤にしてあわあわしながらココアを引きはがそうとする。

 そして照れ隠しに、

 

「大丈夫です。そんなこと冒険者さんの冗談だってわかってますし、そもそもお父さんは再婚くらいするべきなんです。私はもうすぐ成人するんですから、そのくらい理解できます。ココアさんもそうですが、子ども扱いしないでほしいです」

 

 と、心にもないことを言った。

 きっと、タカヒロさんが再婚すると言ったらチノは相当傷つくだろう。自分の好きな喫茶店に出ることを止めて部屋に引きこもってしまうくらいには。まだ短い付き合いだがそれくらいは俺にもわかる。

 この子はきっととっても優しい女の子だ。亡くなったお母さんやお爺さんの思い出をすごく大切にしている。夢がバリスタっていうのも、ただ憧れただけじゃなくて、バリスタだったお爺さんを継ぎたいっていう気持ちもあるんだろう。

 でも、そんなこと表には出さず、寂しがりのクセに強がりを言う。そんなチノだから俺は、ココアは。

 お兄ちゃんに、お姉ちゃんに、なってやりたいと思ったんだろう。

 そんな気持ちが顔に出ていたのか、

 

「皆さんニヤニヤしないでください」

 

 チノに注意されてしまった。やはり、ニヤニヤしていたようだ。リゼとココアをみても同じような顔をしている。

 

「強がらなくてもいいんだよ?」

「強がりなんかじゃないです……嘘じゃないです」

 

 そっぽを向いていじけるチノ。それがちょっとおかしくて、

 

「ああ、そうだな」

「うんうん、チノちゃんは正直だもんね」

「ああ強がってなんかないよな」

 

 まだニヤニヤしながら、からかってしまう。

 チノは顔を真っ赤にして、

 

「ホントですから~~~!!!」

 

 その言葉に皆吹き出してしまった。

 

 皆でチノに平謝りしながら、ふと思う。

 このほのぼのさ。こみ上げる安心感。

 アクアやめぐみん、ダクネス、あいつらといるのも問題ばっかりだけれども悪くはない。

 それでも、こういうのも欲しくなる時もある。

 いや、それはちがうな。俺も悔しいけど、あいつらがいるから。ここで安心できたりするんだろう。俺はきっとこの世界で一人だったら、それはもうあっけなく死んでいただろうし、もし死んでいなくても寂しさや辛さのあまり泣いてばっかりの日々だったかもしれない。

 

 それはチノもきっと同じで。

 ココアやリゼがいるから彼女は色々な表情を見せてくれる。

 

 ほら今、こんな風に。

 

 俺たちの謝っている姿がちょっとおかしいらしく、滅多に見せてくれないチノの笑顔。

 その顔を見れたことが嬉しくて。

 

 

 俺は明るくて、笑いの絶えないこの素晴らしい喫茶店に祝福をした!

 

 

 

 

 




 稚拙な文章を読んで頂きありがとうございました。最終回っぽくなってしまいましたがまだまだ続きます。一週間に一回投稿出来たらいいな……と思っています。もしかしたらそれより、長くなるかも……

 早く、ラビットハウス以外のごちうさメンバー、このすばメンバーも出したいなあ……と思っています。
 この世界では魔法少女チノが本当に爆☆誕するという展開もアリかも……と思うとドキドキしてきますね!
 ごちうさの可愛らしさ、ほのぼのさ、このすばの面白さに少しでも近づけたらなあ……
 


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ひと目で尋常でない鬼畜だと見抜いたよ

感想、ご指摘、評価ありがとうございます! まだまだカズマさんらしさや、チノ、ココアの魅力は全然出しきれてはいませんが、これからも頑張っていくのでよろしくお願いします!


「エクスプロージョン!」

 

 めぐみんの朗々とした声が廃城の周りに響き渡った。かと思うと、大きな爆音と少しの熱風がこちらまで伝わってくる。

 流石、爆裂魔法だ。

 殆どのモンスターに対してオーバーキルで、一発撃ったらその日は何も魔法を使う事はできないと言われるだけある。めぐみんの持てる魔力をありったけ詰め込めるだけ詰め込んだ一撃は、それはもう凄いもので。

 観るだけ。ホントに観るだけで、何も被害を気にしなくてもいいなら、爆裂魔法は結構面白いものだった。

 

 最近、俺はめぐみんの爆裂魔法を撃ちに行く散歩。通称、爆裂散歩に付き合わされていた。

 理由はよく分からないが、魔王軍の幹部が俺たちの住んでいる町、アクセルの近くに来たらしく、俺たちが倒せそうな弱っちいモンスターは全て隠れてしまったらしい。つまり、その日食べる為に使う金をその日のうちに稼ぐというやり方は出来なくなった訳だ。俺は偶然にも突発的に入ったキャベツ採取によって、小金持ちになっていたから日々の暮らしに困る事は無かった。

 しかし、ここで困る奴が俺のパーティーメンバーには居た。

 アクアだ。

 そこで、アクアはバイト、ダクネスは家に帰って筋トレ。なんだ筋トレって、馬小屋でやればいいだろ。そもそもあいつは馬小屋を借りているのだろうか。パーティーメンバーについて知らない事がある事に対して少し気になる。まあそれは置いといて、あぶれたというか、暇になった俺はめぐみんに付き合う事となったってわけだ。

 

 最初は、めぐみんの訳の分からない爆裂欲とかいう物に付き合わされて面倒だと思っていた俺だが、今はもうめぐみんの散歩について行くのが毎日の楽しみになりつつある程だ。

 

「いやあ、毎日のことではありますが、あの城に向けて爆裂魔法を撃つのは最高ですね! そう思いませんか? カズマ?」

「まあ、俺は撃ってないけど、観るだけでもちょっと楽しいよ。それにこう、何となくではあるが爆裂魔法について少しずつ理解してきた気がする」

「ほう! カズマ、爆裂魔法について少し分かった事があるというのですか?」

「ああ! 例えばだが、今日の爆裂魔法は昨日の爆裂魔法に比べて威力が強かった様に感じる。しかし、昨日は雨だ。俺の爆裂魔法に対する判断基準である炎熱や、音が届きづらかったと考えられる。そこで、今日のような快晴の一昨日と比べてみると今日のは少し威力が弱かったと気づく。つまり、めぐみんは今日調子が悪かった。その原因は何故か俺なりに考えてみた」

「ふむふむ。それで? カズマの考えというのを聞かせてください」

「それはめぐみん自身も日々爆裂魔法をチューニングしながら撃っている、という事だ。1日に一度しか撃てない爆裂魔法はどうしても撃つ回数が少なくなってしまう。従って、めぐみん自身も良いものを撃とうとすると過去のイメージを頼りにするしかないわけだが、昨日は雨だった。その昨日の撃った爆裂魔法と同じくらいのものを撃とうとしてイメージに引っ張られてしまい一昨日より弱くなってしまった、というわけだ」

「ふむ、カズマからはそう見えたのですか。私としては常に一番良いものをと、イメージして撃ってはいるのですが……まさか、昨日の爆裂魔法に引きずられているとは……爆裂魔法は常に至高。しかし、その上で最強を求めねばならない物です。まだまだ私も未熟。一人で極めようと思った道ですが、やはり、誰かに見てもらうのも悪くはないですね」

 

 爆裂魔法に関して一切の妥協をしないめぐみんにとっては屈辱かもしれないような指摘をしたのだが、少し悔しそうな顔をしたものの、思ったよりめぐみんは堪えてないようだ。ことあるごとに、爆裂道に誘ってくるように、これまでコイツは爆裂魔法に関して理解してくれる人というのは居なかったのかもしれない。だから、そういう人間が現れて嬉しかったのだろう。

 ひとしきり改善点のようなものをブツブツ言った後、めぐみんは晴れやかな顔で、

 

「ふむ! カズマ!明日は絶対カズマに一分の文句も言わせないような爆裂魔法を撃ってみせますよ!」

「おう、期待してるぜ!」

 

 うん、これでこそめぐみん。俺はもう少し手伝ってやることにした。

 

「それにしてもカズマの成長は留まることを知りませんね。そのうち、爆裂魔法のできをハッキリ言い当てることが出来るようになるのではないでしょうか?」

「そうかもな。まぁ、そうなったときは爆裂ソムリエとでも呼んでくれ」

「いいですね! 爆裂ソムリエ! 何というか、紅魔族的にもいいネーミングです!」

 

 そう言われると何となく嫌になったが、まぁ喜んでいるようなので良しとした。

 

「おい、帰るぞ。めぐみん」

 

 ちょっと俺とめぐみんの友情が深まったような気がして、旨い昼飯でも食わせてやろうかと考え、早く帰ろうとすると。

 

「あの……私、爆裂魔法撃ったら動けないからカズマに来てもらっているのですが……」

 

 ちくしょう! コイツ、そういえばこんないい感じの場面でも寝っころがってやがった!

 俺はむしゃくしゃしたので、帰りはめぐみんの尻なんかや、身体中を堪能して帰ることにした。めぐみんは嫌がったが俺は悪くない。絶対にだ。

 

 *

 

 めぐみんと二人で帰って、昼飯を食った後、俺は色々考えて、町に繰り出す事にした。思い返して見れば、俺はこの世界に来てから、バイトやクエストばかりして、寝る。そんな日々を過ごしてきたせいで、あんまり町を回るということはしていなかったような気がする。

 必ずしも冒険とは命を懸けてギリギリの戦いをするとではない。寧ろ、未知の場所を探検することこそ、冒険の真骨頂といえるだろう。ましてや、俺はかつては引きこもりをしていたのだ。自分の町を見るだけではあるが、ワクワクしないわけがない!

 だから、めぐみんも爆裂魔法の疲れが抜けきらないが、着いてきたいと言ったが断った。アイツにとって当たり前の事はこっちにとっては当たり前ではないのだ。

 変に解説されて面白くなくなったり、ワクワクしているところをバカにされたくはなかった。

 

 ひとしきり回って確かめてみたが、やはりこの世界はゲームなんかでありがちの中世の世界観に近いらしい。魔法の発展だかによってトイレなんかは有るらしいが、それはゲームの中では語る必要の無かったものだし当然といえば当然だ。寧ろ、現代日本人の俺にとっては、水洗トイレが在るかどうかは、死活問題に近い。この事だけは感謝すべきだろう。

 

「さて、どうするかなー」

 

 アクセルはそこまで大きくない町なので、日が暮れるまでに回りきれてしまった。途中で、アクアのバイト先を通りがかって、アクアの目の前で旨い串焼きを貪り食うという暇潰しまでする余裕があった。

 どうするかな、とはいったもののやることもない。帰るかと思った時に、珍しい物が目に入った。

 

「ん? あれは、喫茶店?」

 

 近づいてみたら、確かに喫茶店だった。ゲームなんかの世界観では、酒場が主流で喫茶店はあまりない気がする。確かに、喫茶店で仲間を見つけた! と言われても何か弱そうな気もするが。

 

「えーと、名前はラビットハウス? 変な名前だな。もしかして、如何わしいお店か?」

 

 ラビットハウスという名前の通り、うさぎの耳を着けたスタイルのいいお姉さん達が、あんなサービスやこんなサービスをしてくれるのをイメージしたが、すぐそんなものがあるわけないと切り捨てた。

 多分、只の喫茶店だろう。

 しかし、ここでふと思い当たる事があった。

 冒険者ギルドからは少し遠い。だからか、あんまり冒険者は来にくそうだ。店の前の看板によると、自家製ブレンドのコーヒーがオススメのようだが、コーヒーなんてものは嗜好品だ。一般家庭なら自分の家で淹れるか、飲まないかのどちらかだろう。よって、一般人もいない。

 

 ということは、もしかしてだが、ここは『隠れ家』ではないだろうか。

 男なら、きっと誰もが憧れる、『隠れ家』

 自分だけが知っていて、自分の趣味嗜好を知っている渋いダンディーなマスターが『いつもの』と頼むだけで、言葉少なに「どうぞ」と、そっとコーヒーを出してくれる。

 少なくとも俺はそういうのに憧れるタイプだった。

 俺は期待に胸膨らませ、扉を開いた。

 

「「いらっしゃいませ! ラビットハウスへようこそ!」」

 

 元気な声と穏やかな声だ。どちらも女性の声らしい。

 どうやら、ダンディーなマスターが淹れてくれるコーヒーというのは夢に消えてしまったらしい。

 ちょっとガッカリしながら、「お好きな席へどうぞ!」

 と言われたので、テーブル席に着いてみる。

 期待にちょっとそぐわなかったので、せめてもの四人がけのテーブルを独り占めすることで紛らわせようという試みだ。

 

「お客様! ご注文は何に致しますか?」

 

 元気な方の女の子が注文を取りに来た。茶色の髪の毛にピンク色のカーディガンのようなものを着ている。見た目に関しても、俺の仲間達にひけをとらないくらいだ。それに、俺は機嫌を直して、

「それでは、お嬢さん『いつもの』頼めるかな?」

 軽い意地悪をすることにした。

 初見の癖に『いつもの』なんてあるわけない。

 まぁ、もう一度聞かれるだけだろう。

 そう考えていたのだが、

 

「は、はい! わ、わかりました! 『いつもの』ですね! 少々お待ち下さい!」

 

 あれ? どうやら納得されたらしい。

 もしかしたら常連客と間違われたのか。

 まあ、それならそいつのいつも飲んでいる物を味わってみるのも悪くない。もし良かったらそれを俺の『いつもの』にしよう。

 店員はてとてとと戻っていった。

 

 *

 

「チノちゃん、『いつもの』だって!」

「はい? それだけ言われても何も解らないですが。ココアさん」

「あ、そっか! えっと、ね。あちらの席に座ってるお客様だよ!」

「ココアさんのお知り合いですか?」

「え? 私はチノちゃんが知ってるから、そんな頼み方したんだと思ってたんだけど!?」

「私、あの人知らないです」

「えー!? 私あの人にかしこまりました! って言っちゃったよー!!」

「自業自得じゃありませんか」

「どうしよーー!! チノちゃん!! 何となく見たことがある気がしたから大丈夫だと思ったのにーー!!」

「はぁ、全くしょうがないココアさんです……わかりました。取り敢えず、ココアさんが見たことがあるというなら私がお名前だけ聞いてきてみます。それで、ココアさんが全くわからないようなら、一緒に謝りましょう」

「うう。チノちゃん、ダメなお姉ちゃんでごめんねぇ~~」

「く、くっつかないでください! あと、お姉ちゃんじゃないです」

 

 *

 

 少し待っていると、さっきの子とは別の女の子がこちらに近づいてきた。青い髪の毛にばってん模様にした髪飾り、その上に毛玉? みたいなものが乗っているこれまた可愛い女の子だ。

 

「あの……」

「ん?」

「はじめまして、私はマスター代理のチノと言います。こっちはうさぎのティッピーです。本日は当店をご利用頂きありがとうございます。失礼ですが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 頭の上を指差して自己紹介された。

 というか、上の毛玉、うさぎなのか。なるほど、だからラビットハウスなのか。全然、うさぎには見えないが。

 

「えーと、ご丁寧にありがとう。俺は佐藤和真。一応、冒険者やってる」

「そうですか、ありがとうございます。お近づきの印に当店自慢の腹話術をしたいと思います。よろしくお願いします、お爺ちゃん」

「腹話術?」

「チノ、いきなりワシにふるでない!」

 

 いきなり渋い男の声がした。ここには俺しか男は居ない筈だが、というか、思い切りチノの頭の上から声がしたような気がしたが。

 

「おい、そのうさぎ喋ったか?」

「喋ってないです。腹話術です」

 

 両手で口を塞いで喋ってないアピールをするチノ。

 誤魔化すかのようにカウンターまで逃げていった。

 まあ、いいか。アクアもあんな宴会芸くらいできそうだし。この世界のスキルには少女の声をオッサンの声にするスキルくらいあるんだろう。

 

 *

 

「聞いてきました。サトウカズマさんだそうです。ココアさんご存知ですか? ……ココアさん? なんで、震えてるんですか?」

「あ、あ……」

「本当にどうしたんですか? 何かあの人とあったんですか?」

「う、ううん! 何もないんだけどね……耳かして! これは私が近所の奥さん達に聞いた話なんだけどね……」

「いきなり引っ張らないでくださいよ……というか、お店サボって何してるんですか。ココアさん」

 

「実はね、あのサトウカズマって人は女の子ををヌルヌルにするプレイが好きで、しかもその子は愛人で人前で捨てないで、って言っているのを捨てようとしたり、パンツをスティールして、女の子を泣かせたり、恋人か奥さんかは解らないけど水色の髪の毛をしている女の人にだけ働かせて、自分は自堕落な生活を送っているとかっていう噂が……そんなところから、人よんで『鬼畜のカズマ』! アクセルの奥様界隈では結構ホットな話題なんだよ!」

 

「え……えぇ……なんでそんな人が……う、ウチ何かの店に……こんな、ちょうどリゼさんが居ないときに来るなんて……どうすれば……あう、あう……」

「チノちゃん! 気をしっかりもって! これはね!『鬼畜のカズマ』からの挑戦状なんだよ!」

「挑戦状……ですか……?」

「俺の『いつもの』に加えるに足りる物を出してみろ!

 っていう意味だよ! ちゃんと期待通りの物を出して、『鬼畜のカズマ』をご機嫌にすれば何もされないよ。それに、あの人はお客様! つまり、いつも通り、私達は接客すればいいんだよ! 」

「なるほど、ココアさんの言うとおりです。でも……その、期待に添えなかったら?」

「……チノちゃん! 私はチノちゃんの代わりにヌルヌルになるからね!」

「ヌルヌル以外は私なんですか!?」

 

 *

 

 来店してから、結構経っている。

 俺が変な注文をしたのも悪いが、ちょっと遅すぎないか? どうやら、何か相談しているみたいだが……文句言ってやろうか。

 立ち上がろうとした時にちょうどコーヒーを淹れ始めた。だったら、俺ももう少し待つのはやぶさかじゃない。

 

「大変お待たせしました。当店自慢のコーヒーになります。どうぞ」

 

 本当に大変待たされたが、このコーヒーのいい香りに免じてまぁ、良しとしよう。それはそれとして、

 

「なぁ、なんで二人とも俺の目の前にいるんだ? 飲みづらいんだが」

 

 二人は俺の横に立ってじろじろ見てくる。

 

「いえ! す、す、すみません! やっぱり喫茶店の店員は自分達の淹れた一杯でお客様が笑顔になるのが喜びというか、何というか、私、バリスタ志望なので」

 

 何をそんなに慌てているかわからないが取り繕うかのように答えるチノ。そんなに、厳しい声で言っただろうか? それは良くないな。俺は年下には優しいカズマさんだ。気を付けるようにしよう。

 まぁ、そういうことなら俺としても何も言うことはない。ちゃんと批評をぶつけることにしよう。

 

「(ココアさん……あれで大丈夫だったでしょうか?)」

「(大丈夫だよ、チノちゃん。ブルーマウンテン淹れといたんだから! お客様っていうのは高い物を淹れておけば、取り敢えず文句は言わないものなんだよ!)」

「(それは偏見だと思うんですが……でも、そうですね。ココアさんみたいに間違えたりしない、味のわかる人なら喜んでくれそうです)」

「(それは言わないでよぅ……)」

 

 何かひそひそ話をしてるみたいだが……

 まぁ、気にしないようにするか。

 いざ。コーヒーを口に含む。

 これは……

 

 

「うん! これは旨い! こんな旨いコーヒー飲んだのは初めてだ!」

「わぁ……ホント? やったねチノちゃん!」

「はい! やりましたね! ココアさん!」

 

 ふっと笑顔になった俺を見て、我が事のように喜んでくれるココアとチノ。ダンディーなマスターは居なかったが、この店は本当にいい店かもしれない。

 

「ああ、本当だ! 軽い口当たりに爽やかな苦味。たくさんのコーヒーを飲んできた俺だが、ここまで旨いのは無かった。この店に3つ星を上げよう!」

「やった! チノちゃん、3つ星だよ! 3つ星! これで私達も名店の仲間入りだね!」

「どういう基準か、よくわかりませんが……コーヒーを誉められるのはうれしいです」

 

 まぁ、正直、あんまり違いはわからないのだが。漠然と何かこれまで飲んだやつより飲みやすく、旨いなってくらい。まぁ、俺のリアクションで喜んでもらえるなら何よりだ。

 そこで、調子に乗った俺は、

 

「ああ、最高だよ! これはコーヒーマイスターの俺の鑑定から言って、この店のオリジナルブレンド! どうだ! 当たっているだろう?」

 

 持ってもない資格まで出して、鑑定したふりをする俺。

 実際は、店の前の看板を参考にしただけだ。

 

「え、あ、その、それは……せ、正解で」

「あ! 私と似たような間違えしてる! そうだよね! 間違えちゃうよね! 私も来たばっかりのころ、ブルーマウンテンを別のコーヒーと間違えちゃったんだよー」

「え?」

 

 間違えちまった、はずかしーー!!

 3つ星だとか、コーヒーマイスターだとか言ってしまった分、とてつもなく恥ずかしい。

 

「な、何言ってるんですか! ココアさん! 隠してたら分からないじゃないですか!」

「あっ! 私もしかして、やっちゃった?」

「やっちゃったじゃないですよ!」

 

 どうやら、チノは俺のミスを見逃してくれるつもりだったらしい。しかし、しかし、年下に気遣われた俺は、そのいたたまれなさに、

 

「なんで、ブルーマウンテンなんだよ!『いつもの』って言ったら、ブレンドだろ!?」

 

 と逆ギレしてしまった。ビクッと体を震わせて言い合いを止めるココアとチノ。そのままガタガタ体を震わせた。それを見て俺は我に帰り、

 

「あの、すまなかった……俺がコーヒーマイスターなんてのはう」

「ごめんなさい! ヌルヌルだけは勘弁してぇ!」

 

 何?

 

「ブルーマウンテンを淹れろって言ったのは私なの! チノちゃんは関係ないの! パンツが欲しいなら私のをあげるから、チノちゃんは許してあげてぇ!」

 

 は?

 

「そんな目で見ないでぇ! あなたの奥さんみたいにお金は稼いであげられないからぁ!」

「おいっ、ちょっと待て! 何の話をしてるんだよ!?」

「怒らないでぇ! だってカズマさんは女の子をヌルヌルにしたり、パンツ取ったり、働かせたりするのが好きなんでしよ!?」

 

 誰がそんな変な趣味を持っているというのか。滅茶苦茶イライラしたが、初対面の人間にキレるのは少し憚られたし、その思い込みを否定するほうが大切なので、どうやって俺のその人物像を作り上げたか聞く事にした。

 

 *

 

「つまり、だ。お前は近所の奥様達の噂のイメージだけで、俺の事を決めつけた。そういうことだな?」

「はい……」

「俺がどんなに頑張って冒険してるかも知らず、寧ろ、あいつらをフォローしているのにも関わらず、だ。」

「はい……ごめんなさい……」

「全く、これに懲りたらココアさんも噂話を鵜呑みにするのは止めてください。こんな風にお客様にご迷惑をお掛けしてはたまったものじゃありません」

「すみませんでした……」

 

 俺はココアから事情を聞いた後、その全てについて懇切丁寧に状況を説明し、論破した。いや、勿論、クリスについては俺にも非があったので少し脚色したが。

 

「あの……ココアさんもこのように反省してますので、ここは許していただけませんか?」

 

 チノが俺の顔を伺うように尋ねる。

 俺の名誉も何とか取り返したようだし、このままキレて、ここのコーヒーをもう飲めなくなるというのは少し寂しい。せっかくこの街でいい店を見つけたのだから。

 

「そうだな。俺も変な注文の仕方をして悪かったよ。次来るときは、ブレンドを飲ませてくれ」

「いえ、それは面白い事をしようと思っただけでしょうし……その、良ければブレンド飲んでいって貰えませんか? ご迷惑をお掛けしたお詫びとして。それに、どっちも飲んでもらえれば、カズマさんの『いつもの』決められるんじゃありませんか?」

 

 ちょっと悪戯っぽく笑うチノ。

 

「そうか。じゃあ、御言葉に甘えて飲ませてもらおうかな」

「はい。ココアさん。罰としてブレンド淹れてきてください」

「わかったよ! ちょっと待っててね!」

 

 パタパタと駆けていくココア。全くそそっかしい奴だ。

 

「チノも苦労してるな。あんな店員がいると困るんじゃないか?」

「そうですね。ココアさんにはいっつも振り回されてばかりです」

「そりゃそうだよな。俺も仲間に振り回されてばっかりだ」

「カズマさんもですか。私達少し似てますね」

 

 ふふっ、と笑うチノ。

 この年で喫茶店の店員をやってるにしては余り愛想がないと思っていたが、笑うと可愛らしい。それで、俺はここに通うことを心に決めた。

 

「でも……ココアさんが来てからこの店が明るくなったような気がします」

「ココアが来てから?」

「はい。これまでは夜はお父さんがバーをして昼には私ともう一人の店員さんが居るだけだったんです。寂しいと思ったことはありませんが、ココアさんが居ると本当に賑やかです」

「そうか、家族はチノとお父さんだけなのか?」

「そうですね。今はココアさんが居候していますが」

「ごめん、悪いこと聞いたな……」

「いえ……もう慣れました」

 

 最後の言葉だけが、少し寂しさがあるような気がして。

 俺は、

 

「そうか。なら、チノは俺の事を『お兄ちゃん』って呼んでいいぞ」

「はぁ……なら、『カズマお兄ちゃん』ですね……」

「……」

 

 ハッ! 俺はもしかしたらとんでもない怪物(妹)を産み出してしまったかもしれない……

 

「なぁ、もう一度呼んでくれないか?」

「ココアさんの準備が出来たみたいですね。お席へどうぞ」

「……なぁ、もう一度呼んでみてくれないか?」

「お待たせ! カズマくん!当店自慢のブレンドコーヒーです! あ……」

 

 これまで夢にも見た念願の妹が出来た嬉しさにお兄ちゃんと呼んで貰うのをココアに邪魔された。

 そのココアは、さっきのようにパタパタ走ってくるので危ないなと、思ったら、案の定コケた。

 

 俺の目の前で。

 

「あっつ!!」

「うわぁ! ごめんなさい! ごめんなさい!」

「…………」

「ねぇ、なんで手を付だしてこっちに近寄ってくるの!? ねぇ、何か言ってよ! ねぇってばぁ!!」

 

 ココアが何か言っているようだが、俺には聞こえない。俺は今、キチンとコイツに罰を与えるだけの口実ができた筈だ。

 

 俺はそのまま震えるココアに向けて__

 

「『スティール』ッッッ!!」

 

 

 

 結局、ココアの言っていたことは事実も混ざっていたと分かったことで、俺は泣き叫ぶココアを宥めたり、弁解をするのに凄く時間がかかり、アルバイトから帰って来たアクアに帰ってくるのが遅いと怒られた。

 

 因みに、チノはそれから一度もお兄ちゃんとは呼んでくれなかった。

 

 

 

 




前と同じくらいにしようと思ったのですが、何故か長くなってしまった……お読み頂きありがとうございます! 書き溜めも全くしていないので、出来た所からどんどん出しているため、今回みたいに予定より早かったり、遅かったりするかも知れませんが、お待ちしていただけると助かります。


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灰かぶりと冒険者

すみません!予定より2日も遅れてしまいました……
しかも、字数も前回より少ないです。

次からは、頑張りますのでよろしくお願いします!


 あれから、何とか言いつくろう事に成功した俺はココアもコーヒーを俺にぶっかけた上に、あいつの誤解のせいで散々苦労させられたという事でトントンだという事になり、俺はラビットハウスを出禁になるという事は無かった。まあ、怒りのままにパンツをスティールした事が許されるなら俺は最高の結果を得たといっても過言ではない。

 しかし、物的被害を受けた俺の冒険者服は最近買ったばかりという事と、カズマさんはお客様なのだからというチノのマスターとしての心遣いによって、後日弁償してもらう事となった。ココアの給料天引きという形で。

 そして、今日、ラビットハウスの定休日にそれをしてくれる手筈になっている。

 今はいつもの通り、俺はめぐみんの爆裂散歩に付き合った後、待ち合わせ場所で待っているところだ。

 ちなみに、俺の服はあの後、

 

「なぁに? カズマさん、私に秘密で喫茶店なんか行ってきたの? しかも、そこで誰かを怒らせてコーヒーをぶっかけられたと見たわ! 私のくもりなきまなこはそう見通してるわね! ぷーくすくす、女神を働かせてのけ者にしたから罰が当たったんだわ! これに懲りたら、私にカズマさんのお金を少し分けて、働かなくてもいいようにすべきね! そうしたら、カズマみたいなヒキニートにも少しは良いことが訪れるんじゃないかしら? あと、私はコーヒーを飲むよりはシャワシャワが飲みたいんですけどー」

 

 と、アクアが馬鹿な事を言ってきたので、もはや最近殆ど着ていない羽衣を引き裂いてやろうとしたら泣いた。

 泣きじゃくるアクアが鬱陶しかったのでしぶしぶ羽衣を返してやったら、

 

「私に任せなさい! カズマが何度いじめられてコーヒーをぶっかけられても私が新品同様まで綺麗に洗濯してあげるわ!」

 

 と妙に意気込むので任せてみると、マジでコーヒーのシミは全くといっていいほど無くなり、新品以上の輝きで俺のもとに帰ってきた。なるほど、あいつは実は洗濯の女神様だったのかもしれない。それならもう少し心も漂白されればいいのになんて馬鹿なことを考えていると、どうやら、チノたちが着いたらしい。

 

「お待たせしました。ココアさんが中々起きなくて……」

「ああ、俺も今来たところだ。全然問題はないよ」

「えへへ、ごめんね。カズマくん」

「ごめんねじゃないだろう……全く、親しき中にも礼儀ありだぞ。ココア」

 

 ココアを注意したのはラビットハウスの店員の最後の一人、リゼだ。

 俺が別の日に行ったら彼女が働いていて、ココアが俺にコーヒーをこぼしたことをすごく謝られた。

 その後、すべての事情をココアから聞いた後は俺と目が合うとスカートを抑えて顔を真っ赤にしながら、それでも客への礼節を尽くそうと頑張っていた。俺としてもそういう対応はありがたい。

 

「じゃあ行くか」

「はい」

 

 俺たちはコーヒーをこぼした際にカップが割れてしまったため、雑貨屋に行くことになった。

 

「あれ? カズマくん、その服綺麗になってるー」

「その服がココアがコーヒーを掛けてしまった服なのか?」

「そうなんだ。そのせいでカズマくんは変な服で街を歩き回ってたんだよ」

「他人事ですね」

 

 アクアが洗っている間、ジャージを着ていた時の事だ。これまで言われたことは無かったが、やっぱりこちらの人からしたら、変わった服なのだろうか。一応、俺の一張羅なのだが。

 

「ああ、俺の仲間が綺麗に洗濯してくれたんだよ。こういう変な事には役に立つ奴なんだ。この前話しただろ?」

「アクアさんって言いましたっけ。お金の為に働いていらっしゃるとか」

「ああ、またラビットハウスに連れてきてお金を落としていかせるよ」

「それでは意味がないと思うんですが……はい。お待ちしています」

 

 あいつはコーヒーよりシャワシャワを飲みたいとか言っていたが。

 

「妹になってくれるかな?」

 

 一応あいつは年齢不詳の女神だから、多分お前より年上だぞ。というか、誰でもいいのか。なら、是非アクアを妹にして欲しい。チノとの交換ならおまけに俺のジャージまでつけるぞ。

 

「アークプリーストなんだろ? この街では出会ったことがないぞ! 駆け出しの街アクセルにいるレベルからアークプリーストだなんてすごい才能じゃないか! 私も是非会ってみたいな! ん? なら、なんで借金なんて持っているんだ? アークプリーストとは慎み深く、謙虚で、欲にまみれず、人々を助け、神の道に導くという。借金なんてできるとは思えないんだが……」

 

 やたら冒険者について詳しいリゼ。

 アクアはアークプリーストだが全くそれに当てはまってなどいない。

 悪いやつではないのだが、欲には俺たちの中で、誰より塗れていると言えるだろう。

 

 雑談をしていると、その店に着いたようだ。

 結局、服に関しては俺の方から弁償しなくても良いといった。

 新品と変わらない程綺麗になったし、何より彼女達は俺の友人なのだ。

 そんな関係の人からその程度の事でお金をむしり取りたいとは思わない。

 ココアは大喜びしたが、チノとリゼは余り良く思わなかったらしくごねたが、また仲間を連れてラビットハウスを訪れるので、その時安く飲み物を提供してくれ、と言ったら納得してくれた。それだったらアクアも来る気になるだろう。

 

「でも、それだと私たちは今日カズマさんをただ買い物に付き合わせてしまったことになりますね。なんだか申し訳ないです」

「いや、別にいいよ。今日は暇だったし。それにアクセルにこんな店があったなんて知らなかったよ。一度、自分一人で回ってみたことがあったけれど、やっぱり地元の人が居ると違うな。穴場みたいな場所を教えてもらえる」

「そういえば、カズマは最近アクセルに来たばかりだったか。出身はどこなんだ?」

「凄く遠いところだよ。俺も、自分の出身地の名前はよく分からないな。小さな辺境の街だったしな」

「そうなのか。カズマは偉いな。しかし、そんな遠いなら親御さんも心配しているんじゃないか?」

 

 その質問に押し黙ってしまう。日本の両親は本当はどうしているのだろうか。考えまいとしてきたが、アクアのこ後任の人が、俺に関しての記憶を消してくれるなんかの対処をしてくれたりするんだろうか。

 もし、そうじゃなかったら。普通に俺は死んだことになって、両親は……

 

「あの、カズマさん? 大丈夫ですか? ひどい顔をしていらっしゃいますよ?」

 

 チノが心配そうにのぞき込んでくる。

 いけないな。そんなつもりじゃなかったんだが。

 

「す、すまない! 思い出したくないような事を思い出させてしまった!」

 

 リゼが慌てて俺に謝ってくる。

 

「いや、ただホントに遠くでさ。もう会えないかもしれないから、ちょっと思い出しただけさ。二人ともフツーに生きてるよ」

「そ、そうなのか。ホントにカズマは偉いな」

「お? やっと俺の凄さがリゼにも伝わったようで何よりだ。……ん? チノ、頭の上の毛玉を握りしめてどうしたんだ?」

「痛い、いだい、痛い!」

「おい、チノ。ティッピーが痛がっているようなきがするんだが」

「野太い声で痛いって言ってるよなコレ。コイツ自身が喋っているとしか……」

「腹話術です……」

 

 いや、流石にチノの腹話術であんな声を出すのは無理だと思うんだが。多分、アクアでもあんなのは……いや、何となくアイツはできそうな気がするな。宴会芸と洗濯の神様だしな。

 

「何話してるのー? 私も入れてよぉ!」

「もう話終わりました。ココアさん、早くいいカップ見つけてきてください。今手に持っているのはウチの規格には合ってません」

「チノちゃん厳しい! あ、あれなんてどうかな?」

 

 俺たちが話している間に、ココアは真面目にどれがいいか探していたようだ。

 離れたところにあるカップを手に取ろうとして、

 

「「あっ……」」

 

 同じカップを取ろうとした女の子と手が触れ合った。

 

「なんだかこれ漫画で見たことがある展開だな」

「このまま恋愛に発展しそうな感じだな」

「はぁぁぁ……」

「なんか意識されてるぅっ!」

 

 いきなりラブコメし始めるココアと女の子。

 普通は男である俺がこういう展開になるべきではないだろうか。

 

「ん? シャロじゃないか?」

「え?」

「お知り合いですか?」

「リゼ先輩? どうしてこんなところに? しかも、サトウカズマ!?」

「前にちょっといざこざがあった時に首を突っ込んで仲良くなったんだ。紹介するよ。ここにいるのは同僚のココア。そしてこっちが働き先の娘さんのチノだ。今日は割れたコップの替えを探しに来たんだ」

「ココアだよ」

「チノです」

「そうなんですか。あの、リゼ先輩? この人は?」

「ああ、全く先輩なんてつけなくてもいいって言ってるのに。こいつはサトウカズマだ。うちの店の常連で、今日は買い物に付き合ってもらってるんだ。さっきの感じからすると、カズマもシャロの事知ってるのか?」

「いや、俺は知らないぞ。見たことはあるような気がするんだが」

 

 金髪のゆるくウェーブのかかった髪の毛をしていて、そこはかとなく上品さをたたえているこのシャロという少女。どこかであったことがあるような気がするのだが、どこだったか思い出せない。

 

「アンタね……担当していなくても割と来てるんだから、受付の顔くらい覚えておきなさいよ……」

「担当……? 何の?」

「ギルドよ! 冒険者ギルド! 覚えているクセに知らないふりしてるんじゃないでしょうね!」

「ああ!」

 

 俺はボンと手を叩いて納得する。

 なるほど、俺はルナさんという受付嬢さんにやってもらう事が多いので、忘れていたが、飲み会の席でシャロという受付嬢を狙っているという冒険者が居たような気がする。狙っていない男からもウケは良いようだが、確かみんな一様に、

 

「あの『気品は素晴らしいし、愛想も良くて、顔も間違いなくトップクラスだけど、他の人に比べて何かが足りない』っていう」

「どこの情報よ! っていうか、何かって何!? なんだかすっごく腹立たしいんだけど!」

 

 何かって、ナニだ。

 

「何が足りないんでしょうか? 私にはシャロさんは完ぺきに見えますけど」

「お嬢様すぎて近寄りがたいんだよ! きっと」

「そうなのかも知れないな」

 

 うんうん、と納得するラビットハウスメンバー。

 しかし、アクセルの冒険者の実態を知っている俺からすれば、奴らはいくら相手がお嬢様だろうが、身分とか関係なくセクハラすると思う。むしろ、綺麗なもの程、汚したくなるとか言い出しそうだ。

 まあ、どうかっこつけても俺もその一人だし、はっきり言ってやろう。

 

「色気がないんじゃないか?」

「はっ? いきなり何言ってんのアンタ? 大丈夫? プリーストでも探す?」

「このやろーてめー! 人が困っているみたいだからハッキリ教えてやろうとすれば!」

「余計なお世話よ! そんなにデリカシーが無いから、カスマだのクズマだの言われるのよ!」

「おい、その名前について詳しく!」

「あわわわ、上品なシャロちゃんが、カズマ君相手だとあんなに……」

「美人が怒ると怖いってホントです」

「喋っている内容はスルーなのか?」

 

 けなしあう俺とシャロを横目で見るココア、チノ、リゼ。

 

「というか、このパターンも結構恋愛に発展したりするよな」

「嫌よ嫌よも好きの内ですね」

「勇者の話でも、最初はお姫様がダサい半人前の勇者を馬鹿にしてるっていうお話も結構あるもんね」

「……もしかして、シャロさんはお姫様!?」

「二人はこのまま結婚してハネムーンに行くんだね!」

「「そんなわけないっ!」」

「おお、息ぴったりだな……」

「リゼ先輩!? 私、こんな奴はありえません! 私の、私の好きな人は……ぁぁぁ……」

「そうだよ! 俺ももっと巨乳なお姉さんが好みなんだよ! こいつはロリ枠2号なんだよ!」

「ああ! アンタ、言ってはいけないことを言ったわね……ただえさえ、ギルドの先輩方と更衣しているときなんか、格の差を見せつけられてため息ついたりしてるのに!」

「お前の事情なんて知るか! こら!髪を引っ張るな!」

 

 もはやヤケクソになりながら、これまでのイメージをかなぐり捨てて飛びかかってくるシャロ。

 っていうか、力強っ! 俺一応冒険者だぞ!

 

「やっぱり王道だな」

「いいなー私もラブしたいなー」

「ココアさんは色気より食い気です」

「失礼な! 私だってちょっとは色気くらいあるよ!」

「そういう意味じゃないと思うぞ……」

「おい、お前ら少しはコイツを止めろ!」

 

 三人は微笑ましそうに見るだけで、余りにもうるさすぎて、店の人に叩き出されるまで俺たちのケンカは続きました。

 

 カップは追い出される前に買ったみたいです。

 

 

 

 




シャロのキャラが暴走しちゃってますね……こんなつもりじゃなかったんですが。もっと、可愛らしさを全面に出せるようにしたいです。


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ココアと爆裂散歩

またも遅れてしまいました。
申し訳ないです。
今回は少しだけシリアスです。

途中変な書き方になっている箇所がございますが、ご了承下さい。


「「「ばくれつ、ばくれつ、ランランラーン。ばくれつ、ばくれつ、ランランラーン♪」」」

 

 青空の下、俺たち三人の歌声が響き渡る。めぐみん、ココア、俺の三人は今日も爆裂散歩に繰り出していた。俺とめぐみんだけだった爆裂散歩に新しいメンバーが加わったという事になる。ラビットハウスで、俺の仲間には爆裂魔法を撃てるやつがいると話したところ、ココアがそれを見てみたいと言ったので、連れて行ってみたらドハマりしたというわけだ。ちなみに、チノは爆裂魔法は凄そうだが、それが上手くいかなかったときの二次被害も凄そうだという事で不参加、リゼは物凄く見たがっていたが、家庭の事情で不参加という事になった。

 めぐみんは、

「ほう! 我が爆裂魔法を見たいという人が居るですと!? いいでしょう、いいでしょう! その人に爆裂魔法の素晴らしさを見せつけて、爆裂道へと共に歩む同士になってもらおうじゃありませんか!」

 と、やはり、爆裂魔法の布教には非常に熱心な対応を見せて、目を赤く光らせながら承諾した。

 チノが失敗したら、怖いのでみたいな事を言っていたのは黙っておこう。

 ていうか、本当に失敗したりしないよな? これまで上手くいっているってだけで、これから上手くいく保証が無いって事は無いよな? まぁ、めぐみんは爆裂魔法だけはホントに凄い。

 うん、大丈夫だろう。大丈夫……だよな……?

 

『エクスプロージョン!』

 

 今日の爆裂魔法が炸裂する。

 観客がいて調子に乗っているのだろうか。爆風が強い気がする。

 

「今日の爆裂魔法はどうでしたか? カズマ?」

「ああ、その前に一つ聞きたい」

「何でしょう?」

「まず、今日の爆裂魔法は俺がここ最近見たやつの中でもトップクラスの威力を誇っていたと思う」

「カズマもそう思いますか!やはり、観客が多いと違いますね! 私の気持ちが爆裂魔法に乗ったみたいです」

「うん、それは分かる。俺もめぐみんの真の実力が見れて嬉しい。……でもな、コレを見てみろ」

「はい?」

 

 俺はココアを指を指す。

 

「腰を抜かしてますね」

「腰を抜かしてるな」

 

 ココアは腰を抜かして、立ち上がれないまま、それでもこの場から遠ざかろうと這って動いている。

 逃げなきゃ……逃げなきゃ……と言いながらもぞもぞ動く姿は俺でもちょっと可哀想だと思う。

 

「もうちょい力加減出来なかったのか?」

「いえ、見たいという人に全力を尽くさないのは寧ろ失礼かと思いまして……それに私も中途半端に撃つと爽快感が少ないんですよ。ここまで驚くとも思ってませんし……」

 

 めぐみんも普通に撃っただけだしな。

 俺は見慣れているが、初めてのココアにはちょっとした驚き体験だったのかもしれない。

 しかし、コイツは爆裂魔法を見てもめぐみんみたいに興奮すると思っていたんだが……

 やはり、普通の女の子なんだな。

 

「おい、ココア。もう、大丈夫だ。安心していいぞ」

「爆発が……爆発が……あの城が……燃える……」

 

 ガタガタ震えながら、ぶつぶつ言う。

 トラウマになったかもしれないな。

 

「おい、ホント大丈夫か?」

「あわわ……あわわ……」

 

 こりゃ重症だな。

 行きの道では『めぐみんちゃんも私の妹だよ!』とか言っていたコイツはもう見る影もない。

 まだ這ったまま逃げようとするので、回り込んで通せんぼする。

 

「落ち着け。ココア。逃げなくても大丈夫だから」

「ヴぇ……?」

 

 どんな声だしてんだよ。

 

「もう爆裂魔法は終わったし、あれは魔力を多く使うから1日に2度は使えない。だから、もう心配することは何もない」

「……ホント?……」

 

 そこでやっと顔を上げる。

 ココアは俺にぶつかるまで逃げようとした上に、俺は何の気なしにしゃがんでココアに声を掛けたので自然、ココアに上目遣いされる形になる。

 

「お、おう大丈夫だ……うん、大丈夫だ」

 

 興奮したせいか、頬が赤く染まり、目に涙を浮かべているココア。

 よく考えれば女の子の泣き顔なんて、バイト駄女神しか見たことのない元ニートな俺はどぎまぎしてしまう。

 コイツも普段、お姉ちゃんになりたがっているだけのトラブルメーカー。つまり、俺の中でアクアと同列になりかけていた分、ギャップでかなりクる。

 コイツも女の子……なんだよな……

 

「もうばくはつしない?」

「しない、しない」

「もうおしろもえない?」

「燃えない、燃えない」

 

 まだぐずぐず泣きながら話しているからかちょっとたどたどしい。聞いてくる質問も少し幼児退行しているような。

 今、言われて気づいたが、あの城めぐみんが何回爆裂魔法撃っても殆ど変わってないんだよな……

 あの城、何か魔法でもかかっているんだろうか?

 でも、只の廃城に見えるけど。

 至近距離で見つめあってるのが恥ずかしくて、訳のわからん事を考えてしまったが、今はとりあえずココアだ。

 

「おい、ちょっと近くないか?」

「え、あ、うん。ゴメン……」

 

 もじもじと離れるココア。

 恥ずかしがるなよ! と思ったが、多分端から見たら俺も似たようなもんだろう。

 

「ちょっとは落ち着いたか?」

「うん……もう、大丈夫」

 

 一段落だ。

 これでもうココアももう取り乱す事はないだろう。

 

「そうか。痛いとことかないか?」

「ううん、大丈夫。カズマ君優しいね」

「ち、違うから! お前がケガするとチノに言い訳するのが面倒なだけだから!」

「照れなくてもいいのに~」

「照れてないから! ホント、照れてないから!」

 

 ニヤニヤしてくるココアがウザい。

 コイツ調子が戻ったらすぐこれか。

 もう少しあのままで良かったかもしれない。

 

「おい、二人とも、私の事を放っておくのはやめてもらおう」

 

 すまん、めぐみん。お前のこと忘れてたわ。

 

 

「ごめんね……?」

「あん?」

 

 一休みしたココアがポツリと話し出す。

 

「私せっかく連れてきて貰ったのにあんな感じで……ダメダメだよね……」

 

 しゅんっとするココア。きっと自分が見せてと言ったのに怯えてしまい。めぐみんに申し訳ないとでも思ったのだろう。

 それを感じたのか、めぐみんも、

 

「まぁ、我が爆裂魔法は最強の魔法! 一般人が見て驚くのは仕方がないことです。寧ろ驚かれない方が私にとって侮辱とも言えます。やはり、私の日々の訓練に精を出し、着実に成長している爆裂魔法は現世の理を離れ、私の思い描く究極に至ろうとしているのかもしれませんね」

 

 なんて言った。

 全く、素直じゃない奴だ。普通に気にするなと言えばいいのにな。

 

「そうだぞ。ココア。喫茶店の店員に戦闘能力なんて必要ないんだ。爆裂魔法みたいなアホ魔法にビビるのは当然だ」

「おい、私の人生を懸けている爆裂魔法について悪口を言うのはやめてもらおうか」

 

 ココアは俺達のバカなやり取りにちょっと笑顔をこぼす。

 それでも憂鬱な顔はそのままで。

 何か言おうとした時に、ココアが口を開いた。

 

「でもね、私も一応、冒険者なんだ……」

 

 *

 

 それからココアはぽつぽつ話始めた。

 

「私は王都出身でね。上にお姉ちゃんとお兄ちゃんが二人いるんだ」

「お兄ちゃんの一人はソードマスターで、もう一人はアークウィザード」

「お姉ちゃんは魔法も剣も使えるルーンナイト」

「皆、凄い冒険者なんだ」

「だから、私も冒険者になろうとしたんだけどお母さんやお姉ちゃんに大反対されて」

「家でパン屋をやりましょとか、ココアにはちょっと危なすぎるよとか言われてムキになっちゃって」

「ベルセルグのソードマスターアークウィザードルーンナイトになって帰ってくるんだからーって家出しちゃったんだ」

「でも、アクセルについて私のステータスを見せて貰ったんだけど、ちょうどあと一歩剣士にも魔法使いにもなれないステータスで」

「取り敢えず、冒険者として登録したのは良かったけど、冒険者じゃ上手くパーティーに入れなくて」

「一人でモンスターと戦おうとしたんだけど、カエルさんには食べられそうになるし、コボルトさんにも集団で追いかけられるし、何も出来なかったんだ」

「家に帰りたいって思っても、家出した時に持ってたお金は馬車代や宿代なんかに消えちゃって」

「クエストを受けてもモンスターは倒せなくて、それだけダメでも、お姉ちゃんみたいになりたくて。冒険者にしがみついてたくてバイトも長く続かなくて」

「それで殆ど行き倒れみたいになってたときにラビットハウスに拾われたんだよね」

 

 そこでココアはふっと思い出すみたいに目を瞑る。

 

 *

 

「あ、良かったです。目を覚まされましたね」

「ふわふわのベッド……私の借りてるお宿じゃない。あそこは雑魚寝なのに……ここ、どこ?」

「お疲れみたいですね。ここは私の家です」

「あなたの……?」

「はい。貴女は家の店の前で倒れてたんですよ? 声を掛けても返事しないので、取り敢えずベッドまで連れてきました」

 

 ようやく焦点の合いだしたココアの目には青い髪の少女と白い毛玉が映る。

 

「あ! もふもふ! って、事はこれは夢だね! 夢の中だけでも私の都合のいいものを出してこようって言うなら、私は全力でもふもふさせてもらうよ!」

「あ、ちょっと飛び付かないで下さい! この子はティッピーです。あと、夢じゃありません」

「え、夢じゃないの? ならここはどこ?」

 

「ここは喫茶店ラビットハウスです」

 

 階段を降りて一階に行くと、ココアも少しは知っている喫茶店の佇まいだった。

 

「わー、ホントだ! 喫茶店だね! でも、これが私の夢じゃないとは限らないよ! だって、私王都で喫茶店お姉、ちゃんと、行ったこと……」

「どうしたんです? 取り敢えず、座られては?」

 

 カウンターへと促すチノ。

 

「へ? でも……」

「まだ夢と間違ってるみたいなので、少し刺激を与えます」

「はえ?」

 

 トクトクと、淹れられる湯気が立つ暖かそうな飲み物。

 

「どうぞ……」

 

 差し出されたのは真っ黒なコーヒー。けれど、ココアは飲むことはできない。

 

「私、お金もってない……」

「大丈夫です。夢ですから」

「あ、そうだよね! 夢だもんね!」

 

 ふっと口に含む。

 

「に、苦いー、って、夢じゃない!?」

「当たり前です」

「夢じゃないって事は、私やっぱりお金払わなくちゃ! 何も持ってないよぉ!」

「だから、お代は要らないって言ったじゃないですか。ちょっと恥ずかしいことまで言ってしまったのに台無しです」

 

 ぷう、とむくれる少女。今の今まで彼女が自分よりも幼いような女の子で、その子がコーヒーを淹れてくれたなんて、ココアは全く気づく余裕等なかった。

 でも、その子の顔がちょっと可笑しくて、もう一口コーヒーを飲む頃には自然と微笑んでいた。

 

「やっと、笑いましたね。死んでるような顔をしていたので心配しました」

「あっ、ごめんね……コーヒーまでタダでもらっちゃって」

「いえ、お爺ちゃんも言ってました。一杯のコーヒーがお客様の心の安らぎになるならそれが一番だ、って。」

「お爺さんかっこいい! あれ? でも、お爺さんは? マスターじゃないの?」

「申し遅れました。私、この店のマスター代理、チノといいます。この頭の上にいるのはティッピー。そして、夜のバータイムを担当する父がここにいます。お爺ちゃんは前に他界しました……」

「あっ、ごめんね……」

「いえ、もう大丈夫ですから……」

 

 自分をもてなしてくれたチノを寂しそうな顔をさせてしまったのが、歯痒くて。

 飲みかけのコーヒーをぐっとあおって、

 

「だったら、私がチノちゃんのお姉ちゃんになるよ!」

 

 ぎゅっと抱きしめる。

 上手くいってなかった。アクセルにきて何もかもが空回りした。もうダメだって思ったときに彼女の優しさが心に染みた。

 だから、少しでもありがとうを伝えられたらと、強く抱きしめる。

 

「え、あ、あう……」

 

 ココアから見えないが、ずいぶん慌ていると思う。

 それでも、そのままにする。

 

「あの! 離して下さい!」

 

 離してとは言っているが、どこか優しさを含むように言うチノ

 

「えへへ、ごめんねチノちゃん。つい、嬉しくて」

「はぁ……あの、いきなり困ります……」

「ゴメンね……」

 

 たははーと笑うココアをじとっと見るチノ。

 

「大体、お姉ちゃんになるって何ですか?」

「それはチノちゃんのお姉ちゃんになってあげるって意味だよ!」

「そのままじゃないですか……」

 

 ムフフと笑うココアに呆れるチノ。

 

「だったら、ココアお姉ちゃんですね……」

「! もう一回言って!」

「ココアさん、止めてください」

「もう一回言って!」

「コーヒーのお代取りますよ?」

「取ってもいいから、もう一回言って!」

「お金無いんじゃ!?」

「その時はここで働いたりして…………そうだ!」

 

 ?、と疑問符を浮かべるチノにココアは提案する。

 

「私をここで雇ってくれないかな?」

「はい?」

「私ここで働いてみたいんだ! そしたらチノちゃんのお姉ちゃんとして一緒にいれるし良いことづくめだね!」

「え、えと……話に付いてけないです……それに、第一ココアさん、剣持ってますし、冒険者さんじゃないんですか?」

 

 腰を見るとアクセルで買った安物の剣。

 これだけがまだ彼女を冒険者足り得る物だった。

 それをそっと置いて、

 

「大丈夫! 冒険者は辞めるから!」

「え、えぇ……」

「だから、お願い! 私、お金ないの! ここで働かせて!」

「私だけじゃ、決めようが無いんですけど……」

「わかった! じゃあチノちゃんのお父さんに聞いてくるね!」

「ま、待ってください! 今、父は不在です! せめて今日はここに居てもらっていいんで、夜に話してください!」

「わかったよ!」

 

 ふんふ、ふーんと鼻歌を歌いながらスキップするココアをみてため息をつくチノ。

 

「さっきまで死にそうな顔だったのに。ココアさんって変な人です……」

「何かいった?」

「何も言ってません!」

「そういえば、私の飲んだあのコーヒーはブルーマウンテンだね! あの美味しさは間違いないよ!」

「あれはウチのブレンドです。コーヒーの銘柄も分からないのにウチのバイトは出来ませんね」

「あ! チノちゃん、私を認めてくれたんだね!」

「えっ……認めてません! まだ認めてませんから!」

「ふふっ、照れなくても良いんだよ! ティッピーとまとめてもふもふしてあげるー」

「だ、抱きつかないで下さい」

「もふもふー」

 

 チノとココアのやり取りを実は帰って来たタカヒロがそっと見ていたので、即決でココアは住み込みになった。

 その時のココアはとても喜び、チノは父の決断を不可思議に思いながらも少しだけ嬉さが混ざったような表情をした。

 

 *

 

「そんなことがあったんですか……」

「俺も知らなかったよ……」

「ゴメンね、変な話してもう帰ろっか」

 

 一人歩き出すココア。

 

「あの、ココアはもう冒険者になろうとは思いませんか? もし良ければウチのパーティーに……私の一存では決められませんが……」

 

 前にいるココアに尋ねるめぐみん。

 俺も同じ事を聞こうとした。

 俺達のパーティーは別に四人じゃなきゃダメって事はない。

 寧ろ、クセのある俺達と組んでくれるっていうなら歓迎だ。

 でも、きっと、ココアは。

 

「ううん! 今はやらないよ。私はチノちゃんのお姉ちゃんだから。チノちゃんを一人にしたくないし、私もチノちゃんと居たいんだ。だから、ありがとう。めぐみんちゃん、カズマ君」

 

 ココアの振り向いた横顔は少しだけいつもの彼女より大人びた笑顔をしている気がした。

 

 

 カズマと別れ、ココアはラビットハウスに着く。

 

「お帰りなさい、ココアさん、爆裂魔法はどうでしたか?」

「ただいま! チノちゃん。あのね!」

 

 




ココアの兄は原作では弁護士と科学者の卵だそうです。
冒険者風にすればこんなのかな? と。
モカさんについても、このすば世界に直せば上位職につくぐらいじゃないかな? と思い、こういう設定にしました。

ルーンナイトについてはオリジナル設定です。

今回はココアに対して原作に比べてハードにしてしまったので、うわー、やっちまった感が物凄いです。
ほのぼの、日常とタグ付けしてあるのに! 全てのごちうさファンの皆様に深く謝罪を申し上げたいと思います!


次回からは少しはこのすばの話を進められたらいいなぁと思っています。
このすば原作一巻もまだ終わっていないので、はやく進めなくちゃ! という焦りが有るのですが、筆者のロースペックさのせいで上手く筆が進まない……ッッ!

けれど、頑張っていきたいと思います!
これからもよろしくお願いします


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