遊戯王VRAINS もう1人の『LINK VRAINSの英雄』 (femania)
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第1シーズン 戦いの始まり
1話 プロローグ


注意事項


・小説初挑戦です。至らない部分はご容赦を。
・話によって一人称だったり三人称だったりします。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。


これでOKという人はお楽しみください!


【1】

 

私立戸崎学園高等学校。そこは高校でありながら、課外活動に大きな自由を与えられ、様々な活動が生徒主導によって行われていた。

 

「よし……授業終わり……!」

 

『守屋 遊介』もその高校に所属する1年生。今日の授業がすべて終了し、放課後のチャイムが鳴った後、すぐに席を立ち、本校舎の中を駆けていく。おもちゃを前にした子供のように猪突猛進。

 

向かう先は、本校舎から少し離れたクラブ棟。全力疾走で5分、最後に階段を駆け上がることで目的場所にたどり着いた。扉を開けるとそこは別の世界のようで、戦いの気が風になり、遊介に襲い掛かってくる。

 

2階建ての2階をすべて占拠し行われているのはあるゲームだった。

 

遊戯王オフィシャルカードゲーム。世界で最も有名なカードゲームの一つと言っても過言ではない。

 

モンスターカード、そして魔法カード、罠カード、それらを使いライフを削り合う決闘を行う戦略型カードゲームだ。

 

カードの数も多く無限ではないが甚大な数の戦略を考えられる、奥が深いこのゲームは、年齢が高くなるにつれて知力が向上し、より高度な戦いができることから、高校生であっても虜になる人間は多い。

 

この戸崎学園高等学校にはそんな生徒がおよそ五十人近く在籍している。これは表向きにこの部活に参加している人間たちを指す。

 

戸崎学園公式デュエル部。在籍50名。1年生20名。2年生18名。3年生12名。

 

私立戸崎学園は、最近流行になりつつあるプロデュエリストの育成に前向きな姿勢を示している。国の教育方針的に学科には取り入れられていないものの、部活に対しては大きな援助がされている。

 

遊介もそんなデュエル部の新参として、毎日ここで腕を磨いていた。

 

日課になっているのは入り口に置かれている成績発表を見ること。部員同士のフリーデュエルで勝った回数が書かれているのだが、

 

「……0」

 

遊介は何度見ても覆らない悲しい結果に、涙を流しそうになっていた。

 

それは仕方がないという意見もある。このデュエル部は、プロを目指す者の修行場の1つであり、全員が勝つためのデッキ構成になっている。その一方遊介は、遊戯王アニメのキャラクターのファンとして、部内で唯一のファンデッキ。playmakerのサイバース族デッキを参考にしたデッキを使い、戦い方も真似ている。もちろん勝負にならないわけではないが、手札補充、展開、妨害、その他勝利への要素を考え抜かれたデッキと戦うと、一歩及ばないことが多かった。

 

「よー」

 

(うわ……あいつか)

 

それをあざ笑うかのような卑しい笑顔で向かってくる一人の同級生『松 良助』。遊介の自称ライバルであり、幼馴染でもあり、デュエル部において遊介の敗北の半分はこの男によって積み上げられている。

 

「デュエルしようぜー」

 

「お前懲りないなぁ」

 

「1日1回お前を潰さないとなんか調子でないんだよ」

 

「ふざけるなよぉ」

 

「ははは」

 

そして懲りるという言葉を知らない松は今日もまた、遊介をいじめにくる。しかし遊介も満更ではない。弱者である遊介はそこまで

 

「ちょっと、またやるの?」

 

それを制止するのは、遊介のもう一人の幼馴染『遠藤 彩』。こう見えて三人の中では一番強い。1年生で一番勝利を収めているのは松で、彼も十分な強さがあるが、彩は数が少ないだけで先輩との戦いを含めこれまで無敗。それゆえに最強と言われている。ちなみに本人にその自覚はない。

 

「なんだよ、お前、さっきからテレビにがっつり注目してたくせによ」

 

「あんたがまた遊介泣かそうとするから」

 

「してねえよ!」

 

そもそも雄介はデュエルで泣いたことはない。

 

「言い訳はいいわ、良ちゃん。デュエルで勝った方が正義よ」

 

「お前、良ちゃんはやめろ」

 

「逃げるの?」

 

「まさか……いいだろう受けて立つぜ。13連敗の記録をここでストップする」

 

「遊介、私に任せといて。この馬鹿は私が潰すから」

 

喧嘩もデュエルで行うほどにデュエル脳の2人に、遊介は苦笑いしながら、

 

「まあまあ……、俺なら松とやっても問題ないから」

 

と、理由としては底辺な決闘を止めることしかできなかった。

 

いつもはこんな些細な喧嘩程度では、怒られはしない。皆デュエルに夢中になるからだ。しかし今日は、ほとんどの人間がデュエルをしていなかった。それゆえに、

 

「うるせえよー!」

 

とこちらに怒鳴ってくる人間がいるのも仕方がないことだ。

 

「なによ山崎」

 

「今みんなでテレビ見てんだから、静かにしろよ」

 

「何よ偉そうに」

 

『山崎 和樹』。遊介達と同じ高校1年生。

 

「まだ辞めてなかったのかよ。お前」

 

「なんだよ」

 

「1回も勝てないような雑魚は邪魔だ。さっさと辞めてくれよ。迷惑なんだよ」

 

「やだね」

 

山崎は遊介を非常に厄介視している。山崎にとっては、この部活は研鑽の場であり、基本的に弱肉強食を信じているので、弱者は死ねという過激思想にも賛同するような性だ。ゆえに、客観的に見て弱者である遊介を彼は厄介視していた。

 

遊介は苦虫を踏み潰したような顔になり、ただならぬ雰囲気がこの場を支配する。それを打ち破ったのは、部室の奥から現れたもうもう一人。

 

「まあまあ諸君。そんな怖い顔をしてはいけないよー」

 

『阿久津 快』。遊介より歳は2つ違い高校3年生。すでにプロデュエリストであり、異例の現役高校生デュエリストとして参戦しては、四大大会の1つを優勝したこともある実力者。そしてデュエル部の部長も務めている。

 

「山崎君。ここはいい感じにデュエルを楽しみ研究する部活だ。やる気さえあれば誰でもウェルカム。勝敗が決まるゲームである以上、敗者はつきものであり、それは悪いことではない。前にそういったこと、忘れたかな?」

 

「でもこいつは勝つ気がない。俺はそれが気に入らないだけだ」

 

遊介は山崎のこの言葉に、苛立ちを覚えた。

 

「俺はいつだって勝つ気で戦っている!」

 

「はぁ? あんなふざけたデッキでかよ。勝ちたかったらそんな手札消費の激しいサイバースなんて使ってないで、もっといいデッキ使えよ」

 

「俺が何を使おうが勝手だ」

 

「勝てなきゃ面白くねえだろ。やる気がないなら」

 

再び始まりそうな喧嘩に、部長は、

 

「山崎くん」

 

と一喝を入れた。山崎は不満そうにしながらも、これ以上はまずいと判断し、その場を後にした。

 

(なんだよあいつ……何度も何度も)

 

遊介もあまり納得のいかない結末だったが、

 

「大丈夫かい?」

 

自分をよく助けてくれる恩人を前に、それ以上悪態をつくことはできなかった。

 

「ありがとうございます」

 

「何かあったらいつでも僕に頼ってくれよ?」

 

阿久津は、そのままテレビの方に戻っていく。

 

部室入り口の戦いがひとまず終わり、遊介はようやく部室に入ってずっと気になっていたことに話を持っていくことができた。遊介はテレビの方を指さし、

 

「みんな何見てるんだ?」

 

と言いながら、話題に挙げた場所へと近づく。その答えは松が口にした。

 

「知らないのか。『LINK VRAINS』」

 

「何それ?」

 

「まあ見れば分かる」

 

松に薦められるまま、遊介は部室にただ一つ置かれたテレビの画面を凝視した。

 

「我ら株式会社イリアステルが皆さんにアニメのようなデュエルの世界を提供します! 実際に目の前に現れるモンスター、臨場感のある熱いデュエル。デュエリストがだれしも夢に見たあの世界は今現実のものとなるのです!」

 

テレビに映し出された画面を見て遊介は驚いた。そこはテレビ画面の中で紹介された通り、まるでアニメの世界と言うべきものだ。モンスターが実際に動き、火を噴いたり、尾を振り回したり、クリボーと戯れたり。

 

そこは本当に夢のような世界だった。

 

「今回。この記念すべきの実現に伴って、『LINK VRAINS』対応の新しいデュエルディスクを全世界のデュエリスト全員にプレゼント致します! サービス開始は明日の0時! それまでに全世界のデュエリスト諸君。具体的には、デッキを持っている諸君に配送していきます。早速サービス開始直後から、各個人に合わせたスターターデッキプレゼントキャンペーンを開始いたしますので、皆さん振るって参加してください! では、皆様の参加をお待ちしています!」

 

「面白そうじゃん」

 

「だろ? 先輩とも話してたんだけど、明日はさっそくデュエル部も向こうで活動しないかって。部員は明日の12時までにログインして初期設定やって、向こうのマップを頭に叩き込んでから、明日の放課後にお互いこっちでアカウント名と見た目を報告してから、ログインして集合。という流れらしい」

 

「なるほど」

 

「もちろん、アカウントバレが嫌って人もいるだろうから、先輩がそんな人に有料の別アカウントを用意してくれるらしいぜ」

 

「太っ腹だね……」

 

「いやあ、楽しみだなぁ。アバターもいじり放題なのかな。とっておきのイケメンに変身して、キャッキャウフフタイム――」

 

「何言ってんだよ……」

 

そういう遊介も『LINK VRAINS』の発表会見の最後を見るだけで、すぐに飛びつきたくなっている。自分の使ってきたデッキを使う事はできないことを差し引いても、デュエルの世界という響きが遊介にとってはたまらない世界観だ。

 

もちろん、騒いでいるのは遊介だけではない。デュエルをこよなく愛するデュエル部諸君には、この世界観はご褒美以外の何物でもない。デュエル部はいつにもまして子供がギャーギャー騒ぐのにも劣らない喧騒を見せた。

 

それ故に、段ボールを抱えて、ちょうどデュエル部に押し掛けた一人の女が怒りを露わにするのは当たり前のことである。

 

「うるさい!」

 

男子の応援団長の本気の絶叫をしのぐすさまじい一喝がデュエル部の入り口から聞こえた。

 

はわわ……。

 

今まで騒ぎに騒いでいた連中は黙った後、急に弱弱しい草食動物になり果てる。それもそのはず、デュエル部への訪問者は、2年生でありながら、鬼の生徒会長と呼ばれる恐ろしい女番長。ヤンキーを喧嘩で黙らせ、教員からは信頼厚い優等生、そのくせ精神攻撃まで得意な悪魔のような女なのである。この女に喧嘩を売って今まで無事に帰ってきた人間はただ一人。その名も『花園 麻里』

 

「ははは、今日も元気だね」

 

「阿久津先輩! 勝手に生徒会のテレビを持ち出さないでください! そして、なんですかこの段ボール。内容物はデュエルディスク? イリアステルから? くだらない! 学校生活にこのようなものは必要ありません。すべて破棄しますからね!」

 

やめろー! そんなひどいことを! ふざけるなー!

 

デュエル部全員から飛ぶ怒号。しかし、

 

「何か異論でも?」

 

王様でもやった方がいいのではないかという威圧的な目に、勝てる部員は誰も存在せず、だれしもが再びリス程度の震える存在に成り下がる。

 

「怖いわー……」

 

彩のつぶやきに、遊介もただ頷くしかない。この場で動けるのは、常ににっこりとした笑顔を崩さない阿久津だけだった。

 

「まあまあ、後で使用料は払うよ。それに、それもそのまま捨てたらそれもったいないからさ……。個々は僕の部活の功績に免じて一つ」

 

以前デュエル部は廃止になりかけた。それもまさしく花園の企みによるもの。学校は遊びに場にあらず、勉強、運動や文化に貢献する部活に生徒は集中し、清く、正しく、美しい学校生活を送るべし。その思想のもと彼女が生徒会長になってから娯楽系の部活はほとんどが廃止され、デュエル部も部費の支給量をかなり削減された。本来であれば全力でデュエル部を潰す予定だったところを阻止したのは、学園長の意向と、確かな成績を上げているデュエル部部長阿久津の力。阿久津の成果により、学園のスポンサーになった企業もいくつかあり、食堂の改善、学校の清掃、果ては、大学、就職の推薦枠の設立など、私立学校には嬉しい恩恵を数多く受けられている。それゆえに彼が部長を務めるデュエル部をないがしろにすることはできないのだ。

 

「阿久津さん。私はあなたを認めたわけではありませんから!」

 

「そう怖い顔しないで。眉間に殺意が寄っていない君はすごく可愛いのに」

 

花園は軽蔑するような目で阿久津を見る。しかし、阿久津のぶれない表情に花園はさっそく諦めて、

 

「……貴方さえいなければ……。こんなところ……くぅ」

 

悔しそうに部屋を後にする。

 

「あの女、まだ潰すの諦めてないのか……」

 

普段は険悪な仲の山崎にも遊介は今回ばかりは同意した。

 

場が静まり返り、多くの人間が困惑している中で、阿久津は段ボールの中を確認する。中には、先ほどテレビで紹介されていたイリアステル特製、『LINK VRAINS』対応型のデュエルディスクが入っていた。

 

「みんな喜べ! 来たぞー!」

 

再び部のデュエリストたちは、頭に血を昇らせ興奮の叫び、喜びの舞を披露し始める。さすがに上下関係のある部活なので、最初は3年生、次に2年生、最後に1年生の順に配られる。この部活のルールで差し入れは強い順。1年生の中でも最後に取ることになった遊介。

 

「何取ってんだよ」

 

「いいだろ。人数分あるんだし」

 

「どうせ向こうでも勝てないよお前」

 

「別に楽しめればいいんじゃないか?」

 

「……馬鹿じゃねぇの」

 

遊介は、やはり山崎とは相性が悪いと自覚する。いずれは対等に話せるようになるのだろうか。そんなことはないだろうと一瞬思ってしまった。

 

デュエル部は今日はこれで解散となった。本来であれば自由解散後も完全下校時刻までデュエルを続けることはできるものの、それを行う人間はいなかった。『LINK VRAINS』への参加を心待ちに、その興奮に耐えきれずいち早く帰ってしまう者が全体の十割を占めたのだった。

 

「遊介は今日入るのか?」

 

松の問いかけに、

 

「もち」

 

遊介は肯定の言葉を返す。

 

「じゃあ、良ければ今夜、さっそく向こうで会えるといいね」

 

「ああ」

 

遊介は、彩の提案に素直に了解の返事をして、二人と別れる。

 

それが――平和な世界で、親友二人の顔を見た最後の瞬間だった。

 

【2】

 

いつの間に眠ってしまったのか。遊介は覚えていなかった。今日の12時から始まる『LINK VRAINS』に参加するために、開示されている情報をネットで確認していたことは覚えている。

 

今遊介は悪夢の中にいた。

 

知らない街、しかし現代のような世界であることは間違いないその街は、とても平和とは言えないもの。そこではデュエルが行われている。しかし楽しそうではない。天井に浮かぶ青い光を、まるで麻薬を求める廃人のように見つめ、そしてゲームをやっているとは思えない殺気をたてて、相手のライフを削る。まさに命を賭した決闘のような雰囲気だった。

 

そしてライフが0になった人間は、その場で倒れ、二度と動くことはなくなった。その相手はさもそれが当たり前のように見つめると、デュエルディスクに書かれた数字に4000が加算されるのを確認し、そのままどこかへ消えていく。空に浮かぶ星を、渇望するように見つめながら、息を荒立てて、次の得物を探しに行った。その姿はまるで獣である。

 

街は至る所が破壊され、ところどころに炎が上がっていた。

 

遊介にはその場所が戦場に見えたのだ。そして、夢にも関わらず現実味に溢れているような感覚を得ていた。

 

「喜べ少年」

 

後ろから、自分を呼ぶ声がする。遊介はそのほうこうを向く。そこには、金髪で白いスーツが不思議とよく似合う一人の青年が立っていた。

 

「この世界で君の願いは叶う」

 

何が言いたいか遊介には分からなかった。

 

「あなたは?」

 

白スーツの男は、不敵な笑みを浮かべると、自己紹介を始めた。

 

「私はアルター。イリアステルの総帥で、この世界を作ったエンターテイナーだ」

 

「この世界を?」

 

「美しいだろう? デュエリストの決闘ですべてが決まるこの世界。まさしくテレビアニメで見た世界と言うべきじゃないか。興奮しないかい?」

 

遊介はもう一度その世界を見える限りで見渡した。幸いにも遊介が立っていたのは高台の上で、その景色はよく見える。遊介の目に飛び込んできたのは、多くの死体が光となって消えていくところ。それをなんとも思わない人々がいるところ。それがたとえ子供でも容赦がないこと。

 

「これが……美しい?」

 

「君たちが望んだデュエルの世界がここにある」

 

遊介は吐き気すら催すほどの悲惨な光景を見て、その青年に賛同できない心境であり、さらに白スーツがかなり嫌いになった。

 

「何が……望んだ世界だよ! こんな、なんの楽しくもない世界!」

 

「だが、彼らは楽しんでいるだろう?」

 

「あんな殺気だっているのにか?」

 

「言ったはずだ。願いが叶うと」

 

白スーツは天に輝く星を指さした。

 

「ヌメロンコード。この世界を管理する神が持つ力。それは自分が望んだ事象をそのまま発生させるまさに神の力。彼らはそれを求めている。今はまだ届かずとも、その星へ手を伸ばすために神が与えた試練を乗り越えようとしている」

 

「そんな……」

 

「おとぎ話だと思うのならいい。だが、人間は欲を動力に生命を食って生きる側面を持ち合わせるだろう。デュエルの世界はそれがまさに表に出た仮想空間。誰が死のうと生きようと、自分の願いを叶えられればそれでいい。なぜなら君たちにとってこれはゲームだ。他人を傷つけても犯罪じゃないし、ヌメロンコードがゴールとして設定されているのだから、ゴールを目指すのは当たり前のことだろう?」

 

「……ゲームなんだな?」

 

「そう。ただ一つ違うとすれば、ゲームオーバーには本物の命を代償にしてもらうだけだ」

 

「何! そんなのゲームじゃないだろ!」

 

アルターは遊介の言葉に、狂ったように笑いだした。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

「何が可笑しい!」

 

「可笑しいとも! デュエルはライフを、己の命を削り合うのだろう? ならば0になれば死んでも当然じゃないか!」

 

「なんだと……!」

 

「まさかデュエルが楽しい遊びだとでも思っていたのかい? デュエルとは決闘。それは争いだ。勝者は全てを手に次へ、敗者はただすべてを失うのみ」

 

「じゃあ、下で倒れている奴らは死んだのか?」

 

「信じられないなら、今から見せてやるまでのことだ」

 

この男は狂っている。遊介は、とんでもない存在と話しているのではないか、という不穏な想像をしてしまう。

 

「すべてはヌメロンコードを手に入れるため。それが『LINK VRAINS』という世界の真実だ」

 

「LINK VRAINS……!」

 

「君はヒーローになりたいんだろう? なら、こちらの世界に君はふさわしい」

 

アルターは遊介へ手を伸ばす。まるで、この世界に来いと言うように。

 

「ヌメロンコードは、君を呼んでいる。君こそがこの世界のヒーローにふさわしいと」

 

「ふざけるな……! こんなの……間違ってる! 命を賭したゲームなんて」

 

「間違っていると思うのなら……それを正す正義の味方が必要なんじゃないのかね?」

 

遊介はその言葉に何も返すことはできなかった。ヒーローになるのはやぶさかではない。しかし、命を賭ける覚悟が本当にあるのか。そう問われたら、肯定することはできないだろう。

 

「最初の戦いに乗り遅れたのはまさにこの選択のため。ヒーローとして戦うか、自分の命を取るか。それは君の自由だ。だが、憧れていたのだろう? テレビの向こう側のヒーローに。この世界に来い。君の願いは間もなく叶う」

 

地面にひびが入る。この手の悪夢は、自分が死ぬことで抜けられるのは定石である。遊介はそれを知っていたから、もはや時間がないことが分かった。次が最後の問答になる。遊介は訊いた。

 

「目的はなんだ!」

 

「目的。すでに達せられているよ。デュエルの世界の創造。そして私はそれをついに実現し、十分なデュエリストがあらゆる世界から集まった。後は彼らが巻き起こす物語を、エンターテイメントとして楽しませてもらう。今から胸がドキドキするほど楽しみなんだ」

 

「イカれてる」

 

「エンターテイナーは人々に驚きを与えるものだ。尋常な精神など、持ち合わせているわけがないだろう?」

 

足場が崩れた。遊介は下を見る。急落下するその先は見果てぬ闇が広がっている。

 

「うおあ!」

 

「待っているよ。ヒーロー!」

 

白スーツは、悪そのものが持つとは思えない曇りない眼を遊介に向ける。

 

その夢は、最後まで悪夢だった。

 

【3】

 

「にい! にい!」

 

助けを求めるような声で、遊介は起こされた。遊介は悪夢を未だはっきりと覚えている。それゆえにぐっすり寝たような感覚にはなっていなかった。

 

「なんだよ……薫」

 

遊介を起こしたのは『守屋 薫』。遊介の妹である。

 

「にい! すぐリビング来て!」

 

「なんだよ。ママとパパが出張から帰ってきたのか?」

 

「違う! すぐニュースを見て!」

 

言うなり、すぐに部屋を出て行ってしまった妹を、寝ぼけ眼をこすってから追いかける。

 

リビングに入り、毎朝朝食を食べているテーブルに遊介は座った。

 

「朝飯はお前が当番だろ?」

 

「それどころじゃないの! 寝ぼけてるなら殴るよ!」

 

「どうしてそんな怖い顔して……」

 

遊介の眠気は、テレビから流れてきた音声によって一瞬で飛んで行った。

 

――『LINK VRAINS』にログインしたプレイヤーと思われる多数の人々が、謎の不審死を遂げています――

 

「え……?」

 

「にい! 松の兄貴も彩さんもログインするって言ってなかったっけ?」

 

「あ……ああ」

 

ニュースには続きがあった。

 

――ログイン中の人々は、ゲーム内から意識が戻ってきていません。デュエルディスクは電源を落とすことができず、ディスクを強制分離すると爆発する仕組みになっています。警察が意識を戻す方法、戻らない原因を調べていますが未だ不明です――

 

(まさか……)

 

口ではそうは言ったが、既に気づいている。もはやすべてが手遅れである事。松や彩、一応山崎を含め、自分の知る多くの友が、その世界に行ってしまったことを。

 

遊介は今朝見た悪夢を思いだした。あれはまさに地獄。その中に友がいるかもしれない。その恐怖が遊介を襲う。もちろん、今朝の夢が真実であるとはまだ決まっていない。しかし、今朝のタイミングでその夢を見たことには何か意味があるように遊介は思った。

 

「にい! これ」

 

「すぐ電話する」

 

持っているスマホですぐに松と彩に電話をかける。

 

(だめか……)

 

返ってきた反応は留守にしているというもの。遊介は嫌な予感を含まらせていく。

 

家の固定電話に電話がかかってきた。学校からであった。

 

内容は遊介が想像した通りだった。『LINK VRAINS』の事件で生徒の7割が巻き込まれ授業を行うことが不可能のため、事件解決するまでは可能な限り生徒は自宅待機。そして例のゲームには手を出さないようにという注意。以上2点。

 

電話を切り、先ほどまで座っていた場所へと戻る遊介。その頭に浮かぶのは今朝の悪夢だ。

 

(もしもあの夢が現実に起こっている事だとしたら……?)

 

もしも悪夢が現実の『LINK VRAINS』を表すのであるならば、その世界で、松が、彩が、その他の知り合いがひどい目に遭ってしまうことが遊介には怖い。

 

遊介にとってそれほどのあの二人の存在は大きい。元々、親が出張ばかりで家は遊介と妹しかいない日が多かった。さらに遊介もバイトで週三日は夜いないため、薫を1人にすることは多い。しかし、薫が寂しくなかったのはよく二人が泊まりに来てくれたからだ。松は賑やかしにしかならなかったが、それでも元々ムードメーカー気質であり、いるだけで場が明るくなった。彩は積極的に家事の手伝いや妹の面倒を見てくれていた。若干妹は彩好みの性格と髪型に寄ってきているが、遊介は妹が寂しがらないだけでも、2人には本当に感謝している。もちろん友達としても、いい遊び相手だとおもっている。

 

そんな二人がどもしも死んでしまったら、また家が寂しくなるだろう、妹に寂しい思いをさせてしまうだろう。何よりたった二人の大切な友を失えば、とうとう友達がいなくなってしまう。そのような生活は、遊介には考えが及ばなかった。

 

(それは嫌だ。そんなの辛いに決まっている。このまま死なせていいはずがない)

 

しかし、遊介に今できる事はない。たった一つを除いて。

 

悪夢の中で出てきた男が言っていた言葉。『ヒーローとして戦うか、自分の命を取るか。それは君の自由だ。だが、憧れていたのだろう? テレビの向こう側のヒーローに。この世界に来い。君の願いは間もなく叶う』。まさか本当にヒーローになりたいとは思ってはいないが、それでも、確かに遊介は正義の味方には憧れていた。

 

格好いいから。単にそれが理由である。遊介は一般人。特別な境遇など何もない。それでも、その憧れは本物だった。明確に言葉に表せないほどの単なる子どもが見る夢物語でも、プロデュエリストを目指す十分な理由だった。

 

逃げるか。それとも助けに行くか。

 

究極の選択をこのような形ですることになるとは遊介は微塵も思っていなかった。しかし、決めるのは今しかない。迷って時間を使えば使うほど、向こうの死人は増えていく。その中に親友2人が混ざるのも時間の問題だ。見捨てるなら見捨てる。助けに行くなら助けに行く。それは今決めなければならない。

 

(悩むな……)

 

死ぬのが怖くないわけがない。その生存欲求が遊介を止める唯一の要素だった。逆に行かなければいけない理由はたくさんある。

 

その時に、その言葉を思い出したのは偶然とは言えない事象であったかもしれない。

 

――俺達3人、プロになってチーム組もうぜ。そして世界で一番じゃなくても、世界でトップクラスに輝くエリートチームになる。みんなから羨望の眼差しを向けられる。そんな将来良くないか?――

 

言い出したのは松だった。それに賛同したのは彩だった。遊介は面白そうだったから乗っかった。しかし、その約束は確かに、遊介の生きる希望になっていた。誰に馬鹿にされても、遊介はずっとプロを目指していたのは、この約束があったから。

 

(……もしあいつらがいなくなっても、同じように生きられるかな?)

 

答えが分かりきった自問に返す言葉はない。

 

遊介は決意する。

 

(ヒーロー……のつもりはないけど。もしなれたら、夢に一歩近づける。だったら戦うべきだ。松、彩、まずは大切な2人を助ける格好いいヤツになるんだ)

 

死地に飛び込むにはあまりにも子供っぽく、愚鈍な考えだった。しかし、遊介は本気だった。憧れを目指す覚悟は本気だった。

 

「薫。出かける準備をしといてくれ」

 

「なんで?」

 

「今からばあちゃんの家に行こう」

 

「え?」

 

「ほら、ばあちゃん。会いたいって言ってただろ? せっかくだし会いに行こうぜ」

 

「うん……分かった……」

 

薫は兄の急な提案を怪しんだものの、素直に言うことを聞き、準備のために自らの部屋に戻った。

 

(ごめん薫……行ってくる)

 

唯一の心残りは、薫のことだった。遊介は薫へ、謝罪の置き書きを手紙一枚分程度に残し、祖母へと電話する。内容はしばらく薫を預かってほしいという旨。遊介の祖母は孫を溺愛する気質なので、断られるということはなかった。唯一自分が祖母に会えない理由として、海外留学という嘘をついた。

 

(全く……今のところ格好悪い最低な奴だ俺)

 

頭の中で独り言を言ってから、向かったのは自分の部屋。そこにデュエルディスクが置いてあるからだった。

 

緊張や恐れがないわけではない。

 

しかし、止まるつもりはなかった。

 

遊介はより早くなっていく心臓の鼓動を、過剰にならないように深呼吸で押さえながら、死を伴う拘束具になるであろうデュエルディスクを腕につける。

 

デッキは必要ない。残念ながら自分が持っているカードは使えず、ゲーム内ではゲーム内専用のカードが支給される。

 

「向こうのサイバースのカードあるかな……? サイバースじゃないと練習必要だしな……」

 

一抹の不安を感じつつも遊介は目を閉じた。

 

そして。

 

「イントゥ・ザ・ブレインズ!」

 

遊介は異世界へと旅に出る。友を救うための旅へ。




 ここまでのご閲覧ありがとうございました! 

 今回はプロローグです。世界観を少しは知ってもらえたらと思って書いた内容です。残念ながらこの回に最初のデュエルを入れることができなかったので、それは次回へと持ち越したいと思います。

 次回はついに初デュエル。次はこの作品のデュエルの雰囲気を知ってもらいたいので、長めになりますが、一つのデュエルをすべて入れてしまう予定です。
 次の話もお楽しみにお待ちください。


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2話 初陣 VS白き破壊の竜

注意事項

・小説初挑戦です。至らない部分はご容赦を。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


今回はいよいよデュエル回です!


【4】

 

――スターターデッキを配布します――

 

アバターを作り、いよいよ『LINK VRAINS』の世界に入ろうとした瞬間に遊介に聞こえてきたメッセージ。遊介はディスクにデータとして入った初期デッキを確認する。

 

(サイバース!)

 

まず一安心した。これですぐに勝負を挑まれても対応できない事はない。スターターデッキには、アニメ1年目に主人公playmakerが使ったカードの一部で七割、面白いカード三割の40枚で構成されている。しかし、

 

「エースモンスターはなしか……」

 

肝心のエースモンスターは充実していなかった。リンクモンスターの数も3体。

 

「レアカードはしっかり集めろ。ということかな」

 

遊介は一応そういうことで納得し、いよいよその世界へと足を踏み入れる。

 

〈第一階層 セブンスフィールド バトルシティ〉

 

意識が覚醒した時、遊介は目の前の自分の姿にまず釘付けになった。いつもの冴えない可哀そうな高校1年生ではなく少しは見た目で冒険をしている。髪は濃い目の青に染め、瞳の色も藍色に染めている。しかしあまり変化はないように見える。それは、おしゃれというものを知らない悲しき男子の精いっぱいのあがきであるが故ではなく、単に操作ミスで決定ボタンを押してしまいこれ以上の変更が不可能になってしまったからだ。

 

こちらの世界ではデュエルディスクで様々な行動ができるのは、前情報を確認し知っているため、遊介はさっそく自分のステータスを確認した。

 

「レベル1、スキルなし、保有ライフポイント8000、マネーポイント1000、デッキ名なし。まあ、当然だな」

 

遊介は画面を閉じ、次に周りを見渡した。

 

高層ビルが立ち並ぶ都市。何の意味もないただの風景かと思いきや、遊介はところどころに特徴的な装飾を施している店を発見する。カードやスピードデュエルをするためのDボードなどは買うことができることは知っているが、隠しショップではないことが判明し一安心した。

 

しかし、遊介はこの街に底知れぬ何かを感じている。それは単に、都会としては人が少ないように見えるからか。それとも。

 

(でも、悪夢で見たような感じじゃないな)

 

悪夢の中の世界は本当に戦場だった。しかし、今はこの場から見える光景を表すならば、静寂の都市という一言が最も似合っている。

 

遊介はデュエルディスクを見たが、説明書のようなものは存在しなかった。いまある情報は自分のステータスと、ここが第一階層のバトルシティであることだけだ。

 

「じゃあ……歩くか」

 

目指す場所はバトルシティの中央にそびえ立つ塔。見上げてもどこまで続いているか分からない高い高い塔だった。何か分かるかもしれない、という期待を胸にその塔の根元があるであろう方向へと進んでいく。

 

途中、カード屋があったのを見て、遊介は情報収集ができれば吉と考えて寄ることにした。

 

店内に入ると、見た目が奇抜な連中が数人。中には木のようなふざけた格好をしているプレイヤーもいる。全員が遊介をギロリとみるが、それは一瞬であり、

 

「もしかして初心者か?」

 

サングラスにスキンヘッドという現実世界では関わったらアウトの可能性があるプレイヤーと問いに肯定で返すと。

 

「このタイミングってことは、外だとここがヤバい場所だって分かってるよな。物好きもいたもんだ。だが嫌いじゃないぜ。ようこそ、殺戮と死の溢れるデュエルバーサーカーの集うリンクブレインズへ。俺はマイケルだよろしく」

 

粋な笑顔で遊介を歓迎した。内容は全く穏やかではないものの、遊介もあいさつを返すことにする。

 

「遊介です」

 

松や彩が自分に気づくように名前は変えていない。しかし、苗字は入れていない上、名前に奇跡的に『遊』の字が入っている事から、アニメリスペクトのファンのアバター名だと勘違いし、本名と気づく人間はあまりいないと遊介は判断している。

 

「遊介。まだ右も左も分からないだろう?」

 

「まあ」

 

「ならしばらくここを拠点にしな。ここは俺の店だ。まだ品ぞろえは少ないが、決闘禁止エリアだから、ここに居れば安全だ。俺が死なない限りな」

 

ハハハハハハハハ、と陽気に笑うカードショップの店主。

 

「決闘禁止エリア?」

 

「そうだよな。まだこの世界のルールも分かってないんだよな。まあ、少しづつ教えてやる。カードを見ながら耳を傾けな」

 

遊介は提案の通り、カードを見始める。品ぞろえが少ないのは始まって12時間も経っていないので仕方がないがそれでも100種類あるのは、店主の腕によるものだろうと遊介は推測する。

 

「この世界ではデュエルがすべて、勝てばマネーポイントをもらえる。負ければ保有ライフから賭けた分のライフを失う。マネーポイントはこの世界で生きるために重要だからな。腹が減ったまま1週間、水分不足で3日そのままだと死んぢまうときた。だから食料とか衣服とか家とか、生きるために必要なマネーを稼ぐためにデュエルをする。保有ライフがゼロになったら本当に死ぬ」

 

「本当に死ぬ?」

 

「ああ。アルターってやつが言っていた。最初の公式アナウンスでな。それにログアウト不可能。もうこの世界は命がけだ」

 

「そうなんだ」

 

遊介は今朝の悪夢に出てきたあの青年の顔を思い浮かべ、嫌な気分になる。まさか本気だったとはと、正気を疑った。

 

「で、一つ重要なことがある。外は当然どこでもデュエルを挑まれる。そのデュエルは賭けが行われる。お互いの保有ライフポイントを賭けてデュエルするんだ。保有ライフの少ないほう中から、最低4000でライフを賭ける。賭け分の数値がお互いの賭け分であり、初期ライフが決定されてデュエルが開始されるんだ。そして勝てば賭け分は戻ってくる。負ければ賭けた分は失う。例えば、保有ライフ8000の遊介が、保有ライフが4000のごろつきにデュエルを挑まれるとするだろ? すると、保有ライフの低いゴロツキが残りの4000を賭ける。すると強制的に遊介も4000賭けたことになって、お互い初期ライフ4000でデュエルが始まるってことだ」

 

「複雑だな」

 

「あとはスキルだが。にいちゃんはアニメを見てるかい?」

 

「ああ。見てるよ」

 

「なら、そのイメージでいい。発動は条件を満たしていればいつでも使える」

 

「でも俺、なにもなかったぞ」

 

「おかしいな。だれでも1つは持ってるはずなんだが……」

 

遊介はカードを見ている中で、1枚欲しいものが見つかった。

 

(サイバネット・バックドア!)

 

サイバースデッキには必須と言っても過言ではない1枚であり、スターターデッキには入っていないカード。しかし、値段は3000と現実は非情である。

 

「ただし、俺の店みたいに、決闘禁止エリアでは、デュエルはできるが賭けはできない特別ルールができるようになる。だからデッキと腕を鍛えるにはここがいいのさ」

 

得意げに話してきた店主だが、遊介がじっと見ていたカードを確認すると、ケースの中から取り出した。

 

「欲しいなら、1枚やるよ」

 

「ええ! でも」

 

「へへへ。いいってことよ。この見た目でなかなか人も寄ってくれないんだ。今後もひいきにしてくれるんなら、お前さんの度胸に免じて1枚お近づきの印にってことで」

 

「いいのか?」

 

「おう! 男に二言はねえ」

 

遊介は、後でたっぷりこき使われるかもしれないと思ったが、素直に好意に甘えることにした。早速受け取ったそのカードをデッキに投入する。

 

右も左も分からない中で面白い男に出会えたのは良かった、と遊介の不安は少し晴れる。

 

「ありがとう」

 

「いいってことよ!」

 

再び、ハハハハハハと笑う店主。

 

しかしその笑い声はかき消された。店の前に人が一人落下して叩きつけられた衝撃音による。

 

「なんだぁ?」

 

マイケルは異常事態にすぐ反応し外に出る。遊介も外へと出た。

 

「女の子……?」

 

見た目は遊介と歳はあまり変わらない。長髪の桜色の髪が特徴の可愛いというより、きれいな女子。

 

「ブルームガール! どうした?」

 

「く……」

 

彼女の上に表示されたライフが8000から4000に下がった。保有ライフの減少であることは先ほど説明を受けたばかりである影響で遊介にはすぐに分かる。つまり、このブルームガールがデュエルに敗北したのだ。

 

「皆さん逃げて……! ルールブレーカー持ちです。この店のルールが破壊される。襲われたら、戦うしかなくなってしまう!」

 

「でもよ……あんたは」

 

「もう1度戦って時間を稼ぎます。お世話になった店主さんに、これ以上迷惑を掛けたくない!」

 

「そんな、俺だってあんたみたいな女の子、放っておけないぜ」

 

「私を甘く見ないでください。女だって戦うときは戦います。守られる存在じゃない」

 

遊介には言っている事を100パーセント理解できなかったが、それでも雰囲気からまずいことになっているのは明らかだった。

 

ブルームガールと呼ばれた少女が遊介を見る。

 

「あなたは……デュエル部の!」

 

まるで遊介を知っているかのような口ぶり。

 

「なんであなた! どうしてここに来てしまったの!」

 

徐々に目つきが恐ろしくなってくる。刃のように鋭い瞳。遊介には見覚えがあった。まさかと思ったが、恐る恐る聞いてみる。

 

「会長……?」

 

遊介は堂々と地雷を踏みぬいた。

 

ブルームガールは急に顔を赤らめると、遊介に怒鳴りつける。

 

「なによ! この馬鹿!」

 

「会長も……デュエルやるんだ……」

 

それがとんでもない地雷だったようで、遊介は腹を殴られる。

 

「ぐふ」

 

「何よ! 私はやっちゃいけないっていうの!」

 

「そんなことは……」

 

「いいじゃない。学校の外でくらい。はっちゃけて遊んで何か問題ある?」

 

「いえ……ないです」

 

言ったというより、今の遊介の言葉は言わされたに近い。遊介は穏やかになっている見た目でも、可能な限り逆らわないことを心に決めた。

 

ブルームガールはそれで満足したのか、話を本筋に戻した。

 

「急ぎましょう! 奴はもうここまで来ている!」

 

ブルームガールは辛そうに立ち上がる。マイケルが肩を貸し、すぐに走ろうとする会長を抑える。これでも空中から地面にたたきつけられたのであり、デュエリストでなければ死んでいた、という話も頷ける大けがだ。

 

しかし、ブルームガールの健闘虚しく、『奴』はすぐそこまで来ていた。

 

「見つけたぞ」

 

Dボードに乗り空中から、遊介たちを見下ろす人影。遊介はその姿を見た瞬間震えを感じる。体を冷や汗が伝うような気がした。

 

「なんて殺気だ……奴は、海堂セイト」

 

誰だそれ、という言葉は遊介から出てこなかった。睨むだけで恐怖を与えるセイトの視線は、まるで殺意そのもの。初めて感じる殺気に、遊介は口が動かない。

 

「バーサーカーの中のバーサーカー。目に映る奴に徹底的に潰して回ってるっていう話だったが。話によるともう、20この世から消してるって噂の」

 

「正しくは21だ」

 

「細かいことはいいだろ! バーロー」

 

「そこの女を殺せば21だ。差し出せ。そうすれば今日は見逃してやる」

 

殺す。時にふざけて現実世界で使うその言葉は、この世界では本物。デュエルとはこの世界では決闘のことであり、負けたら命を失う。

 

いざ現実として目の前に現れると、遊介は恐ろしくて足が震えた。

 

「皆さん、逃げて!」

 

ブルームガールは必死に逃げるように叫んで説いた。

 

セイトとよばれた男は遊介を見ると、

 

「そこの男でもいいぞ。誰であろうと殺せれば問題はない」

 

と、遊介をさらに怖がらせるようなことを言う。遊介は足が震えたが、向けられた殺気に少しばかり慣れ、動くようになった口で訊く。

 

「なんで……そんな殺そうとするんだ」

 

「おかしなことを言う。ヌメロンコードを手に入れるために、この世界を制覇する。第一階層の踏破条件は、マネーポイント500000以上で中央の塔を突破すること。ならば、デュエルでポイントを稼ぐのは当然の行為だろう?」

 

「そんなに欲しいのかよ」

 

「俺には叶えたい夢がある。だから求める。お前たちだって同じなはずだ。この世界から脱出するためには、ヌメロンコードを手に入れるしかない」

 

「何!」

 

「そんなことも知らんとはな。だが。そんなことは関係ない。ちょうどいいからお前に選ばせてやる。俺が殺すのはお前か、そこの女か?」

 

遊介に委ねられた選択。セイトが本気であるとこは、遊介には十分伝わっていた。

 

(あいつ……ヤバい。戦ったらただじゃすまない。……けど)

 

ブルームガールを見る。保有ライフはあと4000。次にやられたら、会長は死ぬ。その事実はたとえどんな我が儘を言おうと変わらない。

 

格好いいデュエリストを目指す。この夢が嘘でないと自分で信じるならば、遊介は己に言い聞かせ、自らの行動を決定した。

 

(なら……この場で一番の選択は簡単だ)

 

遊介は迷わなかった。

 

「遊介くん! ここは私に任せて!」

 

「いや……俺が受ける!」

 

「遊介くん! 分かってるの。これは遊びじゃ」

 

「でも、怖くないわけじゃないけど。俺はまだ死なない。会長よりは俺の方がいい」

 

「ちょっと! あなたね! 彼は本気なの。それにあなたはまだ、この世界のデュエルを分かってない!」

 

「それでも。ここで震えて待って、あなたを見殺しにするかもしれない、なんて格好悪いのは嫌だ。だから行きます」

 

「遊介くん! 人の話を――」

 

遊介は駆け出した。デュエルディスクを動かし、Dボードを呼び寄せる。初期型は初回ログイン時にプレイヤーに支給されている。もちろん遊介がボード乗るのは初めてであり、ふらふらと心許ない軌道を描きながらも、何とかバランスをとっている。

 

「良いだろう。ならお前を殺す」

 

「ついてこい!」

 

遊介はセイトに誘いをかけ、セイトはそれに乗じ、遊介の後ろをついて行く。セイトが先導してデュエルの設定を提案した。

 

「スピードデュエル! 俺はライフを4000賭ける。俺の保有ライフは今賭けた4000のみ。お前も賭けてもらう」

 

デュエルディスクは思ったより高性能であり、音声認識で、今のやり取りからデュエルの条件を整えた。そして、デッキから四枚のカードを引く。

 

「お前も殺す。すぐに仕留める」

 

「簡単には負けないさ」

 

「余計な時間は使わない。サレンダーならいつでも認めよう」

 

「ふざけるな。勝つのは俺だ」

 

「なら、せいぜい足掻くことだな。雑種」

 

二人は叫ぶ戦いの開始の合図を。

 

「スピードデュエル!」

「スピードデュエル!」

 

遊介の長い長い戦い。その最初の一戦が始まった。

 

【5】

 

遊介 LP4000  セイト LP4000

 

「先行は俺がもらう! 俺のターン」

 

セイトの掛け声と共に、遊介の最初の戦いが始まる。

 

ターン1 

 

セイト LP4000 手札4

 

「俺はカイザーシーホースを召喚」

 

カイザーシーホース 攻撃表示

ATK1700/DEF1650

 

セイトが最初に呼び出したのは、藍色の鎧をまとった戦士。

 

「カードを1枚伏せる。ターンエンド」

 

セイト LP4000 手札2 

モンスター カイザーシーホース

魔法罠 伏せ1

 

序盤ということもあり、セイトが先ほど見せた殺気に比べ拍子抜けなほど、穏やかなものになった。

 

しかし、遊介は油断はしない、1ターン目から全力で叩き潰すための策を考える。

 

「行くぞ。俺のターン ドロー」

 

ターン2 

 

遊介 LP4000 手札5

 

「おおっと」

 

遊介がDボードに乗るのは初めてであり、1つ1つの行動が遊介のバランスを崩す原因になる。足を器用に動かし、バランスを取りながら、データストームの流れに乗ろうとする。

 

「気をつけて!」

 

ブルームガールの忠告に遊介は素直に相づちを返す。

 

ボードのバランスを取れた頃に、遊介は攻撃を開始した。

 

「リンクスレイヤーは自分フィールド上にモンスターがいないときに、特殊召喚できる!」

 

リンクスレイヤー 攻撃表示

ATK2000/DEF600

 

遊介が最初に呼んだのは、水色の刃を操る戦士だった。最初にこのモンスターを呼ぶと調子が良いデュエルができることが多い。遊介はこの大切なタイミングで幸運に恵まれたことに感謝した。

 

「リンクスレイヤーの効果。手札を2枚まで墓地へ送り、送った数だけの相手フィールドの魔法、罠カード対象にして発動する。対象にしたカードを破壊する。俺は手札を1枚墓地へ送り、お前の伏せカードを破壊させてもらう!」

 

遊介の言葉と同時に、放たれた刃が相手の伏せたカードを破壊する。

 

ーーはずだった。

 

「罠カード。威嚇する咆哮!」

 

リンクスレイヤーの破壊効果に重ねて発動を宣言された。

 

威嚇する咆哮はこのターンの攻撃宣言を封じるカード。よって遊介はこのターン攻撃ができない。

 

(くそ……)

 

遊介は心のなかでは悔しがったが、その無様な姿を見せることはない。

 

「カードを1枚伏せる」

 

「ターンエンドか?」

 

「この程度では止まらないさ」

 

攻撃ができないと分かり、盤面を整えるか、戦力を温存するか、2つの選択肢が遊介にはあった。遊介は後者を選んだ。

 

(弱気だと、あいつは倒せない。それに)

 

遊介の頭には、憧れのヒーローが戦う姿が描かれている。弱気では、このデッキを使う資格はない。遊介は己を鼓舞し、強く出る。

 

「まだ通常召喚を行っていない。俺はスタックリバイバーを召喚!」

 

スタックリバイバー 攻撃表示

ATK100/DEF600

 

「さらに、自分フィールド上にサイバースが存在するとき、手札から、バックアップ・セクレタリーを特殊召喚できる!」

 

バックアップ・セクレタリー 攻撃表示

ATK1200/DEF800

 

白の機械と、紫を基調とする服を纏った端麗な女性が遊介の場に新たに現れる。

 

場に3体のモンスター。彼らは光に包まれ、天空へと駆け上がる。

 

「現れろ! 未来を導くサーキット!」

 

天空に8個の三角形を携えたゲートが表れた。

 

(おお……すげえ!)

 

今まではテレビの向こうでしか見られなかった光景に興奮しながら、遊介は召喚の口上を続ける。

 

「アローヘッド確認! 召喚条件はトークン以外のモンスター2体以上! リンク召喚! 現れろ! リンク3、サイバースアクセラレーター!」

 

サイバース・アクセラレーター 

マーカー 右 左 下

ATK2000/LINK3

 

これがスターターデッキに入っていた唯一のLINK3モンスター。ゆえに、スターターデッキのエースと言うべきモンスター。遊介はスターターデッキと聞き、別のモンスターを想像していたが、このモンスターでも悲観はしていない。

 

「リンク召喚の素材にしたスタックリバイバーの効果! 同時にリンク素材にしたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。俺はバックアップ・セクレタリーを特殊召喚」

 

バックアップ・セクレタリー 守備表示

ATK1200/DEF800

 

先ほどゲートへ向かった紫の女が再び遊介の場に舞い戻る。

 

 

「これでターンエンドだ」

 

 

(とりあえずはこんなところだな。さて、相手がどう出てくるかだけど……)

 

 

遊介は場を、自分ではこれ以上なく万全に整えたつもりだ。しかし、それを見てセイトの顔は微塵も変わりはない。

 

 

遊介 LP4000 手札0

フィールド サイバースアクセラレーター バックアップ・セクレタリー

魔法罠 伏せ1

 

 

ターン3

 

「俺のターン」

 

セイト LP4000 手札3 

モンスター カイザーシーホース

魔法罠 

 

セイトは静かにカードをドローする。

 

「……まずは洗礼だ。覚悟しろ」

 

「なに?」

 

「俺は魔法カード、フルバースト・ブルーを発動。このカードを手札から発動するとき1番目の効果を発動する。手札の光属性レベル7以上のモンスターを相手に見せて発動。このターン相手は伏せカードを発動できない。また、相手に見せたモンスターが召喚に成功し、このターン相手モンスターを破壊した場合、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える」

 

「なんだと!」

 

遊介はこの1枚で、自らの戦術が破られたのを察する。

 

遊介が伏せていたのは罠カード立ちはだかる強敵。戦術は以下の通り。サイバース・アクセラレーターはバトルフェイズにリンク先のサイバース族モンスター1体を対象に、ターン終了時まで攻撃力を2000上げる効果をもつ。その効果は相手のバトルフェイズにも発動できるので、バックアップ・セクレタリーの攻撃力は2000アップして3200に。その後伏せてあった立ちはだかる強敵を使用する。このカードは相手の攻撃宣言時自分フィールド上のモンスター1体を選択。相手はそのモンスターにしか攻撃できず、相手の攻撃表示モンスターはすべてそのモンスターに攻撃しなければならない。これで攻撃力が上がったバックアップ・セクレタリーに強制攻撃をさせれば、たとえ攻撃力3000のモンスターを召喚されても、返り討ちにできるほどの防御は可能になる。

 

しかし、この戦術はあくまで、伏せカードが発動できればの話なのだ。

 

「どうした? 苦い顔をしているな」

 

「く……」

 

「さて準備は整った」

 

「まだカードを見ていない」

 

「見せている。拡大した方がいいか?」

 

遊介は絶句した。それはこの後すぐに現れるであろうモンスターだった。白い鱗、白い翼、青の瞳。長い遊戯王の歴史の中1、2を争う有名で強力なモンスター。

 

「それは……」

 

「見せてやる……、これがお前を滅ぼす、俺の相棒!」

 

セイトは天高くそのカードを掲げた。

 

「この竜こそ、強靭、無敵、最強の名を冠する我が切り札! 俺の復讐の道を照らす希望! ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン!」

 

嵐が巻き起こった。

 

本来であれば、レベル8のモンスターを呼ぶには2体の生贄が必要になる。しかし、セイトが出したカイザーシーホースには、光属性モンスターをアドバンス召喚する際、1体で2体分の生贄とすることができる。

 

故に降臨できるのだ。その竜は。

 

青の瞳は、遊介を見定める。自らの顕現とともにその竜は大きな咆哮をあげた。

 

青眼の白龍 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「本物の……!」

 

「さあ、この意味が分かるな?」

 

セイトは自らのエースモンスターを読んでなお笑みをこぼさない。放つのは相手を殺そうとする憎しみ、殺気の二つ。

 

「復讐ってなんだよ!」

 

遊介は先ほどの口上が気になり訊いたが、

 

「死にゆく貴様に関係などない!」

 

聞く耳をセイトは持たない。

 

「このカードはフルバースト・ブルーの効果で見せたカードだ。よってこのカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 

遊介のフィールド上には2体のモンスターがいるがともに攻撃表示。フルバースト・ブルーの効果によってどちらに攻撃されても3000ダメージが確定する。

 

「くそ……!」

 

「まずはこの一撃耐えて見せろ! ブルーアイズで、サイバース・アクセラレーターに攻撃!」

 

セイトが手を勢いよく突き出す。それと同時に、白の竜は口に光を溜め始めた。

 

そして。

 

「滅びのバーストストリーム!」

 

あまりにも有名な口上をもって、全てを破壊する白く太い光線は撃ちだされた。

 

サイバースアクセラレーターだけではない、遊介ごとその破壊光線は巻き込んでいく。

 

(勝)青眼の白龍 ATK3000 VS サイバース・アクセラレーター ATK2000(負)

 

サイバースアクセラレーターは時を置かずして消滅し、

 

「ぐああああああああ!」

 

遊介はライフをごっそり持っていかれた。

 

遊介 LP4000→1000

 

遊介は雰囲気で叫んだわけではない。

 

(熱い! 熱い! 痛い! ぐぅう!)

 

体を焼かれてるような感覚が遊介を支配していた。そしてそれは、白の光に包まれている間続く。

 

やがて白い竜の咆哮は収まり、白の光が消えていく。

 

「はあ……はあ……」

 

「これが痛みだ。貴様が何のつもりで俺にデュエルを挑んだか知らんがな。無知な貴様にはぴったりの洗礼だっただろう」

 

「うう……ぐ……」

 

喚かないが、遊介は涙を抑えられなかった。単に痛すぎただけ、されど、痛みはそれほどのレベルだったのだ。

 

「先ほども言ったがサレンダーは止めない。いつでもするといい。この世界では1ターン目から可能だ」

 

遊介はこの世界を甘く見ていたことを実感した。

 

この世界はデュエルの世界。しかし、まだ遊びの部分があると勘違いしていたのだ。しかし、今の一撃でそれも打ち砕かれた。

 

遊介は己を恥じた。この程度の痛みで涙をする自分に。この世界に来る前に覚悟は決めた。それを早くも折られかけている自分に。

 

遊介は迷うことはない。どれほどの痛みを得ようと、自分の憧れたヒーローはそんな世界を戦ったのだ。ならば、憧れているのならば、なおさら逃げるわけにはいかない。

 

(俺は……まだ!)

 

「戦える!」

 

全身が悲鳴を上げる中、遊介は立ち上がった。

 

「ほう……貴様が俺が見た中で3人目。少しは殺しがいがあるということか。だがどうする。貴様には今、その貧相なカードしか残されていない。そこからはい上がれるというのなら上がってみろ。俺はこれでターンエンド」

 

セイト LP4000 手札1 

モンスター 青眼の白龍

魔法罠 

 

ターン4

 

「俺の……ターン!」

 

遊介 LP1000 手札1

フィールド バックアップ・セクレタリー

魔法罠 伏せ1

 

遊介は気丈にはふるまうが、実際、追い詰められているのは確かだった。

 

「ドラコネットを召喚」

 

ドラコネット 攻撃表示

ATK1400/DEF1200

 

「ドラコネットの召喚に成功した時、手札・デッキからレベル2以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。デッキから、ビットロンを特殊召喚」

 

ビットロン 守備表示

ATK200/DEF2000

 

モンスターの召喚はできる。しかし、それまでだ。遊介には肝心の相手モンスターを滅するモンスターがすでにいない。攻撃力3000を超える方法は現状存在しない。

 

遊介は焦る。しかし、それが分かってしまった以上焦ったところでなにも変わらないのは明白。

 

(クソ……ここまでか)

 

遊介は拳を握りしめる。

 

(ふざけるなよ……あんな勢いよく飛び出しといてこのザマなんて)

 

遊介が下を見ると心配そうに見つめるブルームガールとマイケルが目に映った。

 

「どうした? まさか何もできないんじゃあるまいな?」

 

セイトは煽る。

 

そして自分は何もできない。

 

遊介はそんな状況が悔しくて悔しくて仕方がなく、そして無性に怒りが湧いてきた。

 

(こんなことだめだ。考えろ! 考えろ! このターンじゃなくても、逆転できる方法はないか?)

 

しかし、焦り、そして混ざる様々な感情を抑えきれず考えはまとまらなかった。

 

(ヤバい……何とか、何とか!)

 

このままでは負ける。死へと一歩近づく。遊介はそれを自覚し助けを求めた。何に対してかは分からないが、解決策を求めた。

 

ピコン。

 

(……なんだ?)

 

デュエルディスクが反応を示す。恐る恐る触ってみると、今まで何もなかったスキルの項目が点滅している。中をのぞくと、デュエルの前まではなかった項目は増えていた。

 

LV1 ストームアクセス LP1000以下の時、データストームを呼び出し、ランダムにリンクモンスターを1枚エクストラデッキに加える。

 

(これは……playmakerの……)

 

藁にもすがる遊介の思いに応えたのか、単なる偶然か。それは今関係ない。遊介は迷わずそのスキルを行使する。

 

「スキル発動!」

 

遊介の横にデータストームが巻き起こる。

 

遊介は飛び込んだ。勝つためにはこれしかない。そう信じることで頭の思考すべてを使っていて、その中が危険であることをすっかり忘れている。

 

「何? 血迷ったか?」

 

セイトがこのような事を言うのも無理はない。それは竜巻であり、巻き込まれればただでは済まないことは明白。

 

現に、

 

「うおおおおお……ああああああ!」

 

吹き飛ばされそうになっているのを必死に耐えている遊介。

 

(負けるかっての!)

 

何とか立ち上がり、そして竜巻の中心。命の鼓動のようなものを感じるところへ遊介は手を伸ばす。

 

「風を掴む! ストーム……アクセス!」

 

データは青い光として集中し、1枚のカードの形になってゆく。

 

そして手に入ったそのカードは、

 

(やっぱり、まずはお前だな!)

 

遊介にとって満足のいくカードだった。

 

「現れろ。未来を導くサーキット!」

 

再びゲートを開く。

 

「召喚条件は、効果モンスター2体以上! 俺はドラコネット、ビットロン、バックアップセクレタリーの3体をリンクマーカーにセット!」

 

遊介の指示のもと、3体のモンスターがゲートへと吸い込まれていく。そして、希望となりえるそのモンスターは現れた。

 

「リンク召喚! 現れろ! デコード・トーカー!」

 

紫の体、そして紫光の剣を持つ戦士が、新たな遊介のエースとして降臨する。

 

デコード・トーカー

マーカー 上 右下 左下

ATK2300/LINK3

 

「ほう、新たなモンスターか。だが2300だな。俺のブルーアイズには届かない」

 

「それはどうかな?」

 

「何?」

 

デコード・トーカーが来たことで、遊介には新たな攻め手が思い浮かんでいる。

 

「リンクスレイヤーの効果で墓地へ送ったマジックカード。サポートプログラム・サモンの効果発動。サイバースリンクモンスターを召喚した時、このカードと、墓地の召喚されたリンクモンスターと同じ数のマーカーを持つリンクモンスターを除外。特殊召喚されたモンスターのすべてのリンク先に、デッキからサイバース族、レベル4以下のモンスターを攻撃表示で特殊召喚できる。俺は左下にサイバース・ヴィザード、相手フィールドだけど、上にドットスケーパーを特殊召喚!」

 

サイバース・ヴィザード 攻撃表示

ATK1800/DEF800

 

(相手フィールド)

ドットスケーパー 攻撃表示

ATK0/DEF2100

 

「そして、デコード・トーカーの攻撃力は、リンク先のモンスター1体につき500アップ。パワーインテグレーション!」

 

デコード・トーカー ATK2300→3300

 

「さらにサポートプログラム・サモンによって特殊召喚されたモンスターをリンク先に持つリンクモンスターの攻撃力はさらに500アップ」

 

デコード・トーカー ATK3300→3800

 

「な……!」

 

「バトル! デコードトーカーでブルーアイズを攻撃! デコード・エンド!」

 

紫の大剣が迎え撃つ白の閃光を斬り裂き、そして、胴を深く斬り裂いた。

 

(勝)デコード・トーカー ATK3800 VS 青眼の白龍 ATK3000(負)

 

青眼の白龍の体が、光の粒子となって消えていく。

 

「ぐ……」

 

セイト LP4000→3200

 

初のダメージ。しかし遊介は喜びに浸ることなく次の攻撃へと転じる。

 

「サイバース・ウィザードでドットスケーパーを攻撃!」

 

(勝)サイバース・ウィザード ATK1800 VS ドットスケーパー ATK0(負)

 

ドットスケーパーも破壊され、セイトのフィールドはがら空きになる。

 

「ぐあ!」

 

セイト LP3200→1400

 

「この瞬間リンク先のモンスターを1体失い、デコード・トーカーの攻撃力は500ダウンする。そして、ドットスケーパーはデュエル中に1度、墓地へ送られた場合に特殊召喚できる。ターンエンド」

 

デコード・トーカー ATK3800→3300

 

ドットスケーパー 守備表示

ATK0/DEF2100

 

「く……!」

 

相手が苦悶の表情を浮かべ、初めて自分の思い通りの展開になったことに喜びを感じる遊介。

 

一方のセイトは、悔しさを露わにはしていないものの、焦りは全く見せていない。

 

「やるな……!」

 

「どうだ。サイバースデッキ」

 

「ああ。少し、侮っていたことは認めざるを得ない。だが、お前を殺すことに変わりはない」

 

「なんでそんなに殺しにこだわる」

 

「簡単なことだ。一人殺せば、マネーポイント10000が手に入る。一番効率がいい」

 

「自分も死ぬかもしれないんだぞ」

 

「そんなもの。とっくの昔に覚悟を決めている。ヌメロンコードを手に入れるまでは止まらない」

 

ブレない態度に遊介もこれ以上問うのをやめた。遊介にとって格好いいデュエルをすることは本気であると同時に、それは彼にとっての本気であると思ったからだった。ならば、質問や説得などは通じない。

 

遊介 LP1000 手札0

フィールド (エクストラゾーン)デコード・トーカー (自分フィールド)サイバース・ウィザード ドットスケーパー

魔法罠 伏せ1

 

ターン5

 

「俺のターン! ドロー! ……ちっ。今日は最初から引きが悪いな」 

 

セイトはドローしたカードを気に入らなさそうに手札に加える。

 

セイト LP1400 手札2 

モンスター 

魔法罠 

 

「俺は魔法カード死者蘇生を発動!」

 

「死者蘇生……マジか」

 

遊介はここで気づく。セイトが常に手札に1枚残していたカードがあることを。それが死者蘇生であれば、この状況も、セイトが考えていた状況の可能性があることを。

 

警戒レベルを遊介はさらに上げる。

 

「蘇れ! 我が相棒。ブルーアイズホワイトドラゴン!」

 

青眼の白龍 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「俺はさらにカードを1枚伏せる」

 

そして、復活したブルーアイズとともに、セイトの殺気が再び最高潮になった。

 

「バトルだ! ブルーアイズでサイバースウィザードに攻撃!」

 

このままでは負ける。遊介は迷わず、伏せていたカードを発動した。

 

「罠カード。立ちはだかる強敵。相手の攻撃宣言時に発動する。俺は自分フィールドのモンスター1体を選択する。デコード・トーカーを選択する。そしてお前のモンスターはこのデコード・トーカーしか攻撃対象にすることができない!」

 

セイトは納得したように、ほお、と口を動かした。

 

「さっきのサイバースアクセラレーターは、このコンボを狙っていたのか。これは、先ほどフルバースト・ブルーを使っておいて正解だったな」

 

セイトは勝利を確信したような笑みを浮かべる。このままでは白龍を失うにも関わらず。

 

「ならばブルーアイズ。デコード・トーカーを潰せ。滅びのバーストストリーム!」

 

遊介は相手の特攻に困惑しながらも、

 

「迎え撃て、デコード・トーカー!」

 

そのまま戦闘を継続する。

 

しかし、ここまで隙のないデュエルを行っているセイトが、なんの策もないことはなかった。

 

「墓地のフルバースト・ブルーの効果! 墓地に存在するこのカードはフィールド上にブルーアイズモンスターが攻撃宣言を行った戦闘のダメージステップ時に発動できる。ダメージステップ時にこのカードを除外し、戦闘を行うブルーアイズの攻撃力を1000ポイントアップする」

 

「え……」

 

青眼の白龍 ATK3000→4000

 

「儚い希望だったな」

 

(勝)青眼の白龍 ATK4000 VS デコード・トーカー ATK3300(負)

 

「うあああ!」

 

破壊の白光を全身で食い止めながらも、破壊されたデコード・トーカー。その爆風が遊介を襲う。

 

遊介 LP 1000→300

 

「ぐ……ぅ、ぁ……」

 

再び体中に痛みが迸った。遊介は再びうめき声をあげてしまう。

 

「俺はこれでターンエンドだ。ちなみに言っておくが、ライフがゼロになった時の痛みはその比じゃない。サレンダーすればその痛みは味わうことはないぞ。その方が余計な手間も省けるしな」

 

「ふざけるな……」

 

セイト LP1400 手札0 

モンスター 青眼の白龍

魔法罠 伏せ1

 

ターン6

 

「俺の……ターン!」

 

デコード・トーカーを失った遊介。残りのサイバー・ウィザードとドットスケーパーで戦うことができる何かが来るよう祈った。

 

「ドロー」

 

遊介 LP300 手札1

モンスター サイバース・ウィザード ドットスケーパー

魔法罠

 

まだ希望は続いていた。

 

「魔法カード。貪欲な壺! 俺は墓地のモンスターを5体デッキに戻し、新たに2枚デッキからカードをドローする。俺は墓地の、ドラコネット、ビットロン、バックアップ・セクレタリー、リンクスレイヤー、スタック・リバイバーの5体をデッキに戻す!」

 

5枚のカードをデッキへ戻し、再び祈るようにデッキに人差し指と中指を置いた。

 

「そして、2枚ドロー!」

 

引いたカードは強力な破壊効果を持つカードでも、強力なモンスターでも、死者蘇生でもなかった。

 

しかし。遊介は諦めなかった。そのカードに己の最後を託すことに決めた。それに十分なカードを引いたのだ。

 

「俺はカードを2枚伏せ。ターンエンド!」

 

「万策尽きたか?」

 

「そう思うなら、俺を殺してみろよ」

 

「元より攻撃を緩めるつもりはない。意味のないカードを伏せている可能性もあるからな」

 

遊介 LP300 手札0

モンスター サイバース・ウィザード ドットスケーパー

魔法罠 2枚

 

ターン7

 

遊介にとって運命のターン。このターンのセイトの行動によっては、負ける可能性も十分ある。

 

「俺のターン! ドロー……まあ、良いだろう」

 

セイト LP1400 手札1 

モンスター 青眼の白龍

魔法罠 伏せ1

 

「俺はホワイト・オブ・エンシェントを召喚」

 

太古の白石 攻撃表示

ATK600/DEF500

 

そして遊介の命運を決める瞬間は始まる。

 

この時。遊介が伏せた最後の2枚が、勝利への道しるべを導き出した。

 

「罠カード。トランザクション・ロールバック! LPを半分支払い、相手墓地の通常罠カード1枚を対象にして発動。このカードはその通常罠と同じ効果を得る! 俺が対象にするのは、お前の墓地の、威嚇する咆哮!」

 

遊介 LP300→150

 

「な……!」

 

「セイト。これでお前のブルーアイズは攻撃できない!」

 

「なるほどな。時間凌ぎか」

 

そしてセイトの考えを遊介は否定する。

 

「いいや。これでいい。このターンさえ凌げばいいのさ」

 

「何……?」

 

セイトのメインフェイズが終了するとともに、遊介はもう1枚の伏せカードを発動する。

 

「速攻魔法。サイバネット・バックドア! 自分フィールドのサイバース族モンスター1体を対象にして発動。そのモンスターを除外し、除外したモンスターの攻撃力より低い攻撃力を持つサイバース族モンスター1体を手札に加える。俺はバックアップ・セクレタリーを手札に加える」

 

「なるほど。サーチか」

 

「いいや。目的はそれじゃない。除外されたモンスターは次の俺のスタンバイフェイズに戻ってくる。そしてそのモンスターはそのターン……直接攻撃ができる!」

 

「なに!」

 

セイトは初めて驚きの表情を浮かべた。

 

遊介はそれを見ることができてうれしかった。自分の戦術が認められたこと。確かに相手の脅威になり得ること。それが己の実力を認められたかのように感じたからだ。

 

「どうする、セイト!」

 

「……何もできん。ターン……エンドだ」

 

セイト LP1400 手札0 

モンスター 青眼の白龍 太古の白石

魔法罠 伏せ1

 

ターン8

 

「俺のターン!」

 

勢いよくドローしたカードは、サイバネット・ユニバース。

 

遊介 LP300 手札1

モンスター  ドットスケーパー

魔法罠 

 

「スタンバイフェイズ。サイバース・ウィザードは俺のフィールドに戻ってくる!」

 

サイバース・ウィザード 攻撃表示

ATK1800/DEF800

 

(巡ってきた勝機。絶対に逃しはしない!)

 

「バトル! このターン、サイバース・ウィザードは相手プレイヤーへ直接攻撃ができる! サイバース・ウィザードで、ダイレクトアタック!」

 

遊介の覚悟の1撃が、彼の叫びととも、電脳世界の魔術師から放たれた。

 

「……く……」

 

セイトは俯く。

 

そして、LPを削り取る1撃が炸裂した。

 

「ぐ……ああああ!」

 

セイトは爆炎に飲み込まれていく。彼を焼き尽くす炎が上がった。

 

――しかし。

 

「く、ハハハ」

 

炎をかき消し、セイトは笑い始めた。狂ったように、そして楽しそうに笑ったのだ。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

「なんで……笑ってんだ……?」

 

彼は死ぬ。保有ライフが0になり命が尽き果てる。

 

「この戦い。高ぶるぞ。私情は持ち込まないつもりだったが……この滾る戦い。全身のアドレナリンが掻き出され、血液が沸騰する感覚。たった一瞬の間だったが、この感覚はかつての友とのデュエルを思い出させる!」

 

セイトは歪んだ笑顔で叫んだ。

 

「速攻魔法。神秘の中華なべ! 俺のフィールド上のモンスター1体を生贄に捧げ、そのモンスターの攻撃力、もしくは守備力分の数値だけLPを回復する。俺はホワイト・オブ・エンシェントを生贄に、その守備力分だけ、LPを回復!」

 

セイト LP1400→1900

 

「そして、お前の攻撃を受ける。そうすることで、俺のLPは100残る!」

 

セイト LP1900→100

 

遊介は唖然としていた。垣間見た海堂セイトの狂戦士としての一面、その激しさに対して。そして自らの最後の攻撃を防がれたことに対して。

 

「そんな……」

 

「万策尽きたか。……低い攻撃力を知略でカバーし俺とここまで戦えたことは褒めてやる。貴様には、久しぶりに楽しませてもらった礼に、ブルーアイズの力をたっぷり刻み込んでやる。さあ、ターンエンドの宣言をしろ」

 

万策尽きた。その表現に微塵の間違いもない。明らかな実力差を前に、何度も奇跡に助けられてようやくつないだ最後の勝機を潰されたのだ。

 

遊介は今度こそ認めなければならない。自らの敗北、そして、ブルーアイズの力を。

 

「ターンエンド……」

 

「エンドフェイズ。ホワイトオブエンシェントの効果! このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに、デッキからブルーアイズモンスターを特殊召喚! 来い、ブルーアイズホワイトドラゴン!」

 

青眼の白龍 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「そんな……」

 

遊介の顔は恐怖で歪んでいた。

 

遊介 LP150 手札2

フィールド サイバース・ウィザード ドットスケーパー

魔法罠

 

ターン9

 

「俺のターン! ドロー!」

 

セイト LP100 手札1

フィールド 青眼の白龍 青眼の白龍

魔法罠

 

遊介はこれ以上、何かを言う力は残っていない。

 

「スキル発動。ブルーソウル! ライフが1000以下の時、手札のブルーアイズモンスターを1体墓地へ送り、デッキからブルーアイズモンスター1体を特殊召喚! 来い3体目のブルーアイズ!」

 

青眼の白龍 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

3体の白龍が並んだ。まさしく圧巻の一言に尽きるその光景を前に、遊介は己の弱さを痛感するしかなかった。

 

「さあ、我が魂を象徴する竜よ。目の前の敵を一匹残らず破壊しろ! 総攻撃だ! 滅びのバーストストリーム!」

 

(勝)青眼の白龍 ATK3000 VS サイバース・ウィザード ATK1800(負)

 

遊介 LP150→0

 

「うわああああああ!」

 

全身を貫く痛み、視界を埋め尽くす滅びの光。精神を食う敗北。

 

Dボードから、足を滑らして落下している事すら、遊介は己の状況に気が付いていなかった。

 

「よく覚えとけ。この世界は貴様の想像を超えるデュエリストなど数多い。俺を興じさせた礼に今日は退いてやる。次戦う時までに、腕を磨いておけ。俺にもっと、全身を焼き尽くすほどの享楽をよこせるほどには、強くなっとけよ」

 

海堂セイトがそう言い残し、光の先へと消えていくのを、遊介はただ見ることしかできなかった。

 

遊介は落下していく。地面へ。

 

そう、これは始まりに過ぎない。

 

これから遊介が歩む、死闘を繰り返す修羅の道の入り口に過ぎないのだ。




デュエル1回分を詰め込んだので長かったと思います。ご容赦ください。

まさかの主人公が初戦黒星スタートでしたが、いかがだったでしょうか。
今後も10日に1話更新できたらとおもうので、遊介の戦いの旅路を見守ってください。次回から本格的にストーリーが進んで行きます。楽しみにお待ちいただければと思います!

感想を頂けると嬉しいです。今後の執筆活動の支えになります。
読んでくださり、ありがとうございました。
次回もお楽しみに!


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3話 異世界からの旅人

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

今回から本格的に『LINK VRAINS』攻略開始!
そしてこの作品がクロスオーバーである理由も明らかに!


【6】

 

遊介は目を覚ました。そこは自分が先ほどまでいたマイケルのカードショップの中だった。白の内装にガラスのショーケースが壁際に並ぶ。しかし、もちろん寝かされていたのは床ではなく。マイケルが休憩で使うソファの上だった。

 

「大丈夫?」

 

遊介は見知らぬ紫の髪の少女に面倒をかけていた事に気づく。

 

「俺……」

 

「良かった。目を覚まさなかったらどうしようかと思っていたの」

 

「君は……?」

 

「私は、『黒咲 瑠璃』。マイケルさんに助けて貰って、ここで厄介になっている一人です」

 

遊介は幼さが残る一方でおしとやかなその少女の姿に見惚れていた。

 

「てめえ、俺の瑠璃ちゃんに何色目使ってんだー」

 

それが気に入らないのか、マイケルはさっそく遊介に忠告らしきことをする。

 

「マイケル。この人は?」

 

「俺が最初にこの世界に来た時に組んでタッグで戦ったんだよ。いやあ、強いのなんの。おかげで死なずに済んだんだ。それ以来、俺はこの人の力になりたくて、せめてこの人がゆっくり休める場所を作ろうと思って。ゲーム初期で30000マネーポイントって高価な値段を意を決してこの店を購入したんだ。私有地は基本的に勝手にルールを決められるからな。決闘禁止エリアを早めに作れたのはありがたい」

 

「基本的にってことは例外があると?」

 

「ああ。ルールブレイカー。この世界で最初に行われた公式イベントの報酬だ。イリアステルの資格である、ハノイナイトレベル1を倒せば手に入る。先着十名。なんてアナウンスがこの世界が始まって六時間後に発表されたんだ。そしたら本当に出現しててよ。その報酬のルールブレイカーはキーアイテムっていう、譲渡不可能な重要アイテムの一つで、私有地のルール設定が無効化されるらしい。だから俺が設定した決闘禁止のルールも意味がなくなる」

 

「なるほど。だからブルームガールはあんなに焦ってたのか」

 

遊介は体を起こす。

 

「看病ありがとう」

 

「ううん。無事ならよかった。ライフが0になったときのショックで目を覚まさない人って多いから……」

 

遊介はそれを言われ、自然と意識を失う直前を思い出す。

 

己の存在というものが、まるで虫に食われる葉のように消えていく感覚。当然痛みをあったが、何より遊介を襲ったのは恐怖だった。

 

確かに二度と感じたくないものだと遊介は終わってから幾時間かたった今も思っている。

 

(松。彩。もしかしたらあの二人も……)

 

遊介は焦る。しかし、それをすぐ消したのは、外から帰ってきたブルームガールの一言だった。

 

「今君が焦ってもしょうがない」

 

「え……何を」

 

「あなたがこの世界に来た理由は分かった。だってあなた、寝込んでる間、ずっとお友達を心配する寝言言ってたもの」

 

「そうっすか?」

 

いかに必死とはいえ、寝言を聞かれていたことは、遊介にとっては恥ずかしいことだった。

 

「でも名前も分からないし、どこにいるかも分からないんでしょ」

 

「はい……」

 

「だったら、焦りは禁物。まずは今の状況を整理して、次にするべき行動を冷静になって決めましょう」

 

現実世界では生徒会長。下を纏めるリーダーとしての才はここでも順調に発揮されている。

 

「ところで遊介くん。ちょっと」

 

ブルームガールに手招きをされ、遊介は素直に誘いに応じた。店の中ではあるものの、マイケルと瑠璃からは少し離れた場所へ誘導される。

 

「遊介くん。彼女……」

 

「瑠璃さんのこと?」

 

「そう。見覚えあるでしょ」

 

あんな知り合いはいないと遊介は首を振る。

 

「違う!」

 

デコピンをされて、額が痛みを訴えた。

 

「なんすか……」

 

「あの子。テレビで見たことない?」

 

「うーん」

 

しばらく考え込んで、遊介は思い出す。

 

「黒咲瑠璃って……まさか」

 

「そう。あのアークファイブで出てた……」

 

「アバターが似てるだけとか」

 

「じゃあ、あのデュエルディスクは何て説明するの」

 

遊介は彼女につけられたディスクを確認する。それはログインに必要なデュエルディスクの形ではなかった。プレイヤーに配布されたデュエルディスクはこの世界では完全耐水性で重さがほぼない代わりに取り外しが不可能。さらに外見はいじることができない設定になっている。

 

「ディスクの見た目を変える方法は?」

 

「ないわ」

 

「断言できるんですか?」

 

「だって、アルターって男が最初に言ったの。ディスクはある理由で見た目を変えられない設定になってるって」

 

「ある理由」

 

「私も正直飲み込めていない話も多いの。けど、異世界のデュエリストが己の願いを叶えるためにこの世界にやってくるとか、彼らは真にデュエルの世界からきたプレイヤーとは一線を画すデュエリストだとか。多分、私たちの世界から来た人は、このデュエルディスクを持っている。けど別の世界から来た人は別のディスクを持ってるんじゃないかしら」

 

「ちょっとストップ。別の世界とか言ってるけどさ。ここゲームの世界でしょ。そんなここが異世界だなんて」

 

「じゃあ何? あれは見事な再現度の偽物?」

 

「それは……」

 

「私が最初にアバターを作ったときに見たけど、彼女と同じ髪型や顔のパーツはなかった。体格は元々の体に合わせられるわけだし。彼女と同じ容姿のアバターは作れない」

 

「ええ……よく覚えてますね……」

 

遊介はそこまで聞いて、自分でも自分の考えを疑うような予測を立てた。

 

「まさか……本物?」

 

恐る恐るした質問に対し、ブルームガールの予想は、イエスだった。

 

「多分。もしかしたらそうかもしれない」

 

「でも正直信じられないけどなぁ」

 

「でも逆に、この世界がゲームの世界って証拠もないでしょ」

 

「でもなぁ……」

 

「異世界の可能性だってある。確かに私たちはデュエルディスクでこの世界に入っているけど、行く先がVRの世界なんて決まってたわけじゃない。……なんか自分でも馬鹿馬鹿しいような予想だけど。もしかしたら、もしかするとじゃない」

 

「なるほど……!」

 

遊介は目に映る紫の髪の少女を見る。

 

「確かに本物なら……マジか……!」

 

デュエルバカというほどに遊戯王を愛してきた遊介にとっては、信じられないほど嬉しい機会だった。テレビの向こう側でみた英雄と肩を並べられる日が来るとはまさか夢にも思ったことはない。遊介が自然に笑みをこぼすのは自然な心情変化だった。

 

しかし、ブルームガールの目は厳しく、遊介を凍り付かせる。

 

「遊介くん。もし彼女が本物だとしたら気をつけなくちゃ」

 

「何を?」

 

「私たちは初対面。知り合いみたいには話せない。テレビで見ましたとか絶対に禁止。あの瑠璃が本物だったら、そんな話をしたら私たちは精神異常者か怪しい奴扱いになる!」

 

「た……確かに」

 

「いい? 絶対に現実世界を連想させる言葉は言わないで」

 

「了解しました……」

 

ブルームガールのきつい説教により、急に盛り上がった遊介のテンションが落ち着きを見せる。

 

しかし、遊介はこの世界の神秘に触れたような気がして、決して悪い気分ではなかった。

 

遊介は再び瑠璃の近くに座り、マイケルの、なにやってるんだてめー的な視線を気に留めず、

 

「あの……」

 

と口を開いた。

 

「むこうで何を話してたの?」

 

先に瑠璃に聞かれ、遊介はとっさに、

 

「これからのこと。ブルームガールに相談を受けてたんだ」

 

と返答する。ブルームガールからは及第点の返答だと頷きによる許可を貰った。

 

「そうね。これからの事も考えるべきね」

 

瑠璃が乗り気になり、遊介に熱い視線を向けていた男もひとまず停戦の意思を見せた。

 

「まず。みんなの当面の目標を言い合いましょう。ここで折り合いがつかないと、私たちは一緒に居られない」

 

ブルームガールの最初の提案に意を唱える人間はなかった。

 

「じゃあ、言い出した私からね。私はヌメロンコードに興味はないわ。ただ、デュエルの相手を求めてここに来た」

 

それに乗じるように、

 

「俺もだ。まさかこんなおっかない世界だとは思わなかったぜ」

 

マイケルも口を開いた。

 

そして瑠璃が言葉を選んでいる様子を見て、遊介は我先にと話し始める。

 

「俺はデスゲームが始まってると知ってからここに来た。理由は先にここに入った俺の友達を見つけるためだ」

 

「手がかりはあるの?」

 

瑠璃の質問に首を振る。

 

そして瑠璃は未だとても言いにくそうにしながらも、口を開いた。

 

「……今から言うことは。もしかしたら信じてもらえないかもしれないけどいい?」

 

異論をはさむ人間はこの場にはいなかった。

 

「私。別の世界から来たの」

 

「別の世界?」

 

「この世界とは別の世界。この世界はデュエルが命がけだけど、そうじゃない、デュエルがエンタメとして普及している世界。アクションデュエルっていうフィールドを縦横無尽に走り回って、各地に落ちてるアクションマジックカードを拾って戦う凄いデュエル」

 

遊介はそれを聞き、ますますこの瑠璃が本物の『黒咲瑠璃』のように思えてきた。

 

「ある日、アルターってやつが目の前に現れて私に言った。喜べ少女よ。君の願いは間もなく叶う。ヌメロンコードの力をもって君の兄も生き返り、君の故郷も修復され、真に平和な世界を君という一人の人格が歩くことができる。そんな世界が再び来るのだ。とか言われて」

 

「で……来たのか?」

 

「うん。私たちの世界では、少し前にとても大きな戦いがあった。その傷痕は大きかった。私も兄を失い、故郷は修復不可能なくらいに破壊されてしまった。だから、もしそれが治せる可能性があるならって思うと。いてもたってもいられなくなったの」

 

遊介はその戦いを知っている。

 

それはあくまでテレビの画面で見ただけだったが、壮絶な戦いだったことに違いはない。五つの次元を駆け、覇王龍の因縁に導かれるように戦った次元戦争。結果的に死んだ人間もいたものの、ほとんどが存命のまま終結。榊遊矢陣営に良い結果で終わった。それが遊介の知る遊戯王アークファイブ世界における次元戦争の結末だ。

 

しかし。今の瑠璃の話の中で一つ遊介の知る結末と違うことがある。

 

(もしこの黒咲瑠璃が本物なら。黒咲隼は命を落とした……? でも……確かアニメでは生きてたはず……)

 

それに、黒咲瑠璃も次元戦争が始まってからは無事だったことは一度もないはずである。

 

幸運にも頭が冴えていた遊介は、一つの可能性を悟った。

 

(この瑠璃さんは、違う形で次元戦争を終わらせた世界の住人とかかな…)

 

そう。この黒咲瑠璃は少なくとも、アークファイブ世界とは違う運命を辿った黒咲瑠璃なのだ。

 

遊介はその可能性を考え、少し話のスケールの大きさにビビりそうになった。もしこれまでの遊戯王世界に『もしも』の数だけのパラレルワールドがあるのならと考えると、頭がパンクするほどの可能性の広がりを感じたのだ。

 

もうすぐで違う次元へと夢見の旅に向かうところだった遊介の目を覚ましたのは、マイケルの一言だった。

 

「いやあ。あんたも違う世界から来てたのか。実は俺たちもなんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。俺達も違う世界からここに来た。おんなじ境遇なんて運命感じるねぇ。俺達が出会ったのはもしかすると必然だったのかも」

 

「ああ。そうかもしれないわね。でも……」

 

「でも?」

 

「私だけじゃなくて……ユートも助けたい。ヌメロンコードは最終的な目標だけど。しばらくは彼を探すのが目標ね」

 

「ユー……」

 

マイケルが凍り付きそうになっているのは、遊介にもブルームガールにも明らかだった。ユート。その名前を口にした瞬間、一瞬ではあるが真面目な表情が綻んだところを見る限り、ユートという男は明らかに瑠璃の恋人的立ち位置にいる男だ。

 

「そうか。なら手伝うよ」

 

「そうね。瑠璃ちゃんの彼氏でしょ。きっと強いわ」

 

遊介とガールがおだて半分で言うと、瑠璃は嬉しそうに、

 

「うん。強い。そして笑顔が素敵ないい人だから。きっとみんなも気に入ると思う」

 

と、言い切ったのだ。

 

【7】

 

女子二人は一度席を外すと、傷心で心ここにあらずのマイケルに代わりに、女子二人は一度席を外すという言伝を瑠璃から遊介は受け取った。女二人の秘密の話がどうとか。

 

一方立ち直りが遊介が思ったより早かったスキンヘッドは、すぐに新たな作戦を立てていた。遊介は気乗りしないながらもそれに耳を傾ける。

 

「一週間後に次のイベントがある」

 

「本当か?」

 

「ああ。これは信憑性が高いぜ。何せオープニングトークでアルターがアナウンスしてたからな。一週間に一回はイベントをやるって」

 

「どんな内容になるんだ?」

 

「それが……口の軽いハノイナイトを脅迫して聞き出した奴から情報を買ったんだが、どうやら次はライフ回復イベントになりそうだ」

 

「保有ライフが増えるのか?」

 

「どうもそうらしい。クリアすれば特典として保有ライフを増加できるそうだ」

 

遊介はてっきり、瑠璃に振られたから、ユートを一緒に倒してー! と頼まれるかとばかり考えていたので、意外に興味のある話が出てきて注意を向け始めた。

 

「確かに。保有ライフが増加なのはありがたいな」

 

「しかも。次のイベントはチーム戦だとも聞いたぜ。五人一つのチーム」

 

「……つまり俺達で出ようぜって?」

 

「そうだ。せっかくだからあのユートって奴も探し出して俺らのチームに入れてさ」

 

「入ってくれるのか?」

 

「彼女がこっちにいるんだ。あいつだってこっちに来るさ」

 

「どうだろうな。スキンヘッドに警戒されて、瑠璃が捕まってるとか思われたら速攻交渉決裂だぞ」

 

遊介は冗談でマイケルに言った。

 

しかし。

 

「知ってるか? チーム対抗で、現れるイベントエネミーデュエリストを倒し続けるんだ。何人倒したかを競い合うらしい。一番倒した奴が優勝。個人優勝と優勝チームは名前も各地の掲示板に載るらしい」

 

「へえ」

 

「俺はそこで。ユートという男の二倍は倒し、男ととして勝利を飾るぜ」

 

「はいはい。頑張れよ」

 

「なんだよ。乗り気じゃないな」

 

「確かに保有ライフを回復できるのはいいけどなぁ」

 

イベントには興味があるが、今のデッキで無理に一位を手に入れに行くほどのメリットは感じない。

 

当然イベント中もデュエルは命を賭ける。命大事にのスタイルならば、エネミーとの連戦はむしろリスクを負うことになる。参加するにしてもノリノリになるには、ライフの回復以外にもう一つくらいはメリットがないと釣り合わない。

 

「そうだな。別に1位になって名前を売りだしても、むしろ注目の的に……注目の的」

 

注目の的なんてはっきりって論外なデメリットだ。

 

しかし、遊介は例外である。

 

彼は名前はそのままだ。その名前が広まりを見せれば、彼を知る人間であればアプローチをとってくる可能性は高い。

 

特に、松や彩くらいに親しい仲であれば、可能性は大いに高い。

 

(その分狙われることも多くなるだろうけど。それは器用に逃げればいい)

 

先ほどボコボコにやられたというのに、遊介の頭にはまだお花が咲き誇っている節がある。しかし、手立てがない今、新たな進歩のために賭けをするには十分なメリットがあった。

 

「遊介?」

 

「いや。やろう!」

 

「どした?」

 

「マイケル。やろうぜ。せっかくなら一位を目指そうぜ!」

 

「あ? あ? お前急にどうした?」

 

「細かいことは気にするなよ。漢だろ?」

 

「お、おうよ。やろうぜ」

 

いつになく興奮していた。

 

しかし、噂をすれば影。

 

その瞬間は急に訪れる。

 

店の外に黒を基調とした服とマントを身に纏った少年が現れた。その少年は迷いなく店の中へと足を踏み入れると、カード屋であるにも関わらず、カードを見るわけでもなく、まっすぐと店主であるマイケルのところへ近づいてきた。

 

「失礼する」

 

髪の毛も紫と黒というダークカラーながら、逆立ってツンツンしているところは遊戯王キャラの特徴である。

 

「ここに紫の髪をした女の子が来なかっただろうか?」

 

大いに身に覚えがあるのですぐにでもそのことを言おうとしたが、二人はすぐに躊躇った。

 

(怖い……)

 

既に何匹かを仕留めた後の肉食獣のように鋭い目つきである。

 

そして本物の戦いを一度経験した遊介にはそれが殺気の類であるものが明らかだった。

 

「答えてくれ」

 

物言いは穏やかで戦意は感じられないが、少しでも怒らせたらまずいことになってしまう。遊介はそう思い言葉を慎重に選んでいくための準備をした。

 

「……知ってます」

 

ここからは一つ一つが重要な選択なる。

 

「あ、ユート!」

 

はずだったのだ。

 

しかし、マイケル店の二階から降りてくる瑠璃の存在が、大いに黒の少年の神経を刺激した。

 

「瑠璃! 良かった。無事だったんだな!」

 

「ユート!」

 

「待ってろ。今こいつらを倒して君を助ける!」

 

この場にいるすべての人間が、恐ろしい結末へ歯車が動き出したのを感じとる。

 

(どうしてそうなる……!)

 

ユートの目があからさまな敵を見る目に変わった。

 

「お前たちは絶対に許さない」

 

と、デュエルディスクを構える。幸いここは決闘禁止エリアで保有ライフは減らない設定だが、穏やかに事が済むとは思えない事態に、遊介とブルームガールは焦り始める。

 

「待ってユート。この人たちは、行き場のない私を助けてくれたの!」

 

「瑠璃。何かあってからじゃ遅い。この世界に来てからも襲われただろう。この世界は危ない。信用できない人間と一緒に居て君をまた失うわけにはいかない」

 

「でもこの人たちはいい人」

 

「今は俺の言うことを聞いてくれ。頼む」

 

彼女のお願いも通じないユートは、気持ちの余裕があまりない状態だと遊介は分析した。

 

このような相手はまず落ち着かせるのが大切である。生徒会長として様々な人々と話をしてきたブルームガールが判断して前に出る。この場で話術が長けているのはブルームガールであり、ここまでは最良の手をうつことができた。

 

「用があるなら私に。まずはあなたの言い分を聞かせてください」

 

「黙れ。お前らも瑠璃を殺すつもりだろう。その前に俺がお前たちを倒す」

 

「ユート!」

 

瑠璃の言葉すら届かない今のユートは完全に頭に血が昇っていた。

 

ブルームガールはすぐには戦闘状態にならず、

 

「私たちは、彼女とともに行動している。いわば同盟関係です。今のところ、この世界を知らなすぎる状態。協力を先ほど約束しました」

 

きちんと事実を伝えていた。

 

真摯な眼差し、そして毅然とした態度。

 

ブルームガールの態度を見たユートの様子が少し変わった。

 

「俺の目的は瑠璃だけだ。もし引き渡してくれるのなら、君たちを悪いようにはしない」

 

「私からすれば、彼女をこのまま今の貴方に渡して良いかも迷います。せめて瑠璃の仲間である証拠を見せてください」

 

「彼女と同じデュエルディスクを持っている」

 

「それは仲間であるという証拠にはなり得ません。もし、あなたが瑠璃を騙そうとしている変装の類をした敵であれば、私たちは容認できない。その可能性がつぶれない限りは、引き渡しには応じられない」

 

「なら奪うまでだ」

 

「ユート。この建物から出ず、瑠璃本人に確認を取らせるというのはいかがでしょう?」

 

「俺を罠に嵌める可能性を否定できない」

 

「しかし、このままでは瑠璃は渡せません。貴方が他人を警戒するのと同じように私たちも外敵を警戒している」

 

「……そうだな。確かにその通りだ。だが折り合いがつかなければ無理矢理通るくらいの覚悟はあると思ってくれ」

 

「でも荒事は避けたい」

 

「それはこちらも同じだ」

 

未だ油断はできないが、ブルームガールはユートを駆け引きに落とし込むことには成功した。

 

今、

 

「どうしよう……」

 

とユートを止める方法を考えている瑠璃が妙案を思いつけば話も変わる。

 

遊介は油断はしなかったものの、一応ことはまだ荒立たないことに安心のため息をつこうとした。

 

事件はそのため息をついた瞬間に起こる。

 

「ユートとか言ったなてめえ!」

 

マイケルが暴走を始めたのだ。

 

「瑠璃ちゃんを探してたとか言ったがなぁ? だが実際俺が瑠璃ちゃんに会った時は一人だったんだぞ! お前彼氏のくせに守れてないじゃないか!」

 

唐突にユートを煽り始める。

 

(マイケル!)

 

心の叫びは形になって出そうなほどに、遊介の中で絶叫が反響する。

 

「あのバカ……!」

 

ブルームガールに至っては声に出ていた。

 

「違うのマイケル。ユートは私を守るために敵五人同時に相手をしてて……!」

 

瑠璃が必死に事態の悪化を防ごうと言い訳をするが、その言葉を制して、マイケルは瑠璃の前に立つ。

 

「お前に瑠璃は渡せねえ。漢ならな、大事にするってもんを見捨てた時点で負けてんだ! 負け犬は帰りやがれ!」

 

ユートの目に再び殺気が灯ったのはその時だった。

 

「確かに。そういう意味では俺は二度負けた。エクシーズ次元で攫われる所を守れなかった」

 

「ユート……それは、私があなたに迷惑かけたくなくて勝手にしたことよ」

 

「いいんだ瑠璃。遊矢達の力を借りてようやく取り戻したのに、俺はこの世界に君を連れてきてしまった。そしてまた敵の襲撃を受けて離れ離れになった」

 

「それもユートのせいじゃない。あの時は仕方なかった!」

 

「だが。それでも俺は、瑠璃が生きている限り守る続けると決めた。それが隼との約束だ。そのために、邪魔する者は容赦できない!」

 

ユートのデュエルディスクは既にデュエルモードになっている。

 

そしてやる気を見せられて闘争本能を掻き立てられたのか、

 

「いいだろう。来いよぉ。俺達マイケルブラザーズが相手になるぜ」

 

と、謎の固有名詞を使って臨戦態勢になるマイケル。その雄姿はなんと猛々しく、そして愚鈍だろうか。

 

最早戦いは止められない状況になってしまった。遊介は苦笑を浮かべながらも覚悟を決めるしかなかった。

 

「ようし、遊介行け!」

 

「なんで俺なんだよ! 煽ったのはマイケルだろ!」

 

「これやるからさぁ。たのむよぉ」

 

そこにはサイバースのリンクモンスターが一枚。

 

「お前。なんでこんなカード持ってんだよ」

 

「お前がくたばっている間に、店に来た奴と取引で手に入れた」

 

「案外繁盛してるんだな」

 

「で、どうする?」

 

「断る」

 

「なんだよ」

 

「マイケル。お前がこうしたんだぞ。お前が責任取れ」

 

「ええ。今俺デッキ持ってないんだよ。部屋に置いてきてる」

 

自分で喧嘩を売ったにもかかわらず。喧嘩道具を持っていないという状態に、遊介は苦笑を浮かべるしかない。

 

(何だったら私が相手をしてもいいぞ)

 

(セレナ。今はまだ駄目)

 

(柚子の言う通りよ。今は瑠璃に体を貸すって約束なんだから。出しゃばり禁止)

 

(なんだ。つまらん)

 

「セレナ。我慢してね」

 

独り言を放つ瑠璃に遊介が気づく。

 

「どうしたの?」

 

「ごめんなさい……その……ユート。いつもはこんなんじゃないの。だから」

 

「ああ。まあ、大事な人を救いたいって気持ちは分かるよ。その焦りも」

 

「ごめんなさい」

 

「君が謝る事じゃないって」

 

瑠璃の辛そうな顔を遊介は見た。

 

(このままじゃいけないな)

 

遊介は穏やかに終わらなくなってしまったこの場を収めるために、前に出ようとした。

 

しかし。

 

「遊介。止まって」

 

ブルームガールが遊介を制止する。

 

「俺がやります」

 

「あなたはまださっきの戦いの傷が癒えていないわ」

 

「それは会長だって」

 

「それに……」

 

ブルームガールは自分のデュエルディスクに腰のデッキケースからデッキをセットする。

 

「私が生きているのは君のおかげ。あんな満身創痍でもう一回ブルーアイズと戦う気力は正直なかった。だから君に助けられた分。ここで返すわ」

 

ブルームガールは強く宣誓する。会長の行動力、鉄の意思、一度決めたことを曲げない姿勢は、現実世界で遊介もよく知っている。そこに何者も入る余地はなく、遊介は戦いを見守る決心をした。

 

しかし、素直に引き下がった理由として一番大きい要素として、ブルームガールのデッキがどんなデッキか興味があったことがある。

 

「悪いがここは通させてもらう。ここは保有ライフは減らずとも、デュエルの衝撃は痛みとして来る。少し倒れていてもらうぞ」

 

ユートの宣戦布告を、

 

「そうはいかないわ。デュエルとなったら私だって容赦はしない」

 

ブルームガールは堂々と受けて立った。そして無邪気な子供ような笑顔を浮かべる。それはいつもの冷酷な女王から発せられているとは思えない陽だまりのような温かさを帯びていた。

 

「それに、遊介くんよりは、貴方に勝てる可能性は高いもの」

 

そうして、望まずして始まった、実力者ユートとブルームガールのスピードデュエル。

 

Dボードがなくともスピードデュエルはできる。ルールは同じ。ただしここは決闘禁止エリアのため、保有ライフポイントから賭けは起こらない。そしてライフはお互いで4000から始まることになっている。

 

「スピードデュエル」

「スピードデュエル!」

 

瑠璃はそれをなんとも言えない表情で見守る。




遊戯王アニメシリーズ登場キャラのうち、参戦1人目は黒咲瑠璃です。アニメでは出番がほとんどなかったけど、僕が展開する話では一杯活躍してほしいという個人的な願いがあります。そして次の対戦カードはユートVSブルームガール。クロスオーバーものっぽくなってきましたね。二人のデュエルがどうなるかは次回に持ち越しです。

そろそろこの話の『LINK VRAINS』のルールも増えてきたので、一度、ルールを整理する話を書きたいと思います。それまではしばらく読みにくいと思いますがご容赦ください。

前回までの2話は、この作者の今の実力をフルに使って頑張って書きましたが、今回からはなるべく1話ずつの文字数を削れるだけ削っていく予定です。できるだけ本文の文字数が10000を下回るようにするので前に比べて短めになっていきますが、それでも話が薄くならないように頑張っていきたいと思います。
(イメージとしては、アニメ1話分の量を目指す感じです)

ここまで読んでくださりありがとうございました。感想を頂けると嬉しいです。
ではまた次回第4話『舞い輝く花 VS反逆の牙』。お楽しみに!


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4話 舞い輝く花 VS反逆の牙 (前編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


今回はデュエル回です。
今回はフィールドの様子も内容に入れてみました。少しでも理解に役立てたらいいなと思っています。
ブルームガールのデッキは……もう察しがついてる人もいるかもしれませんね。


【8】

 

ブルームガール LP4000  ユート LP4000

 

「私が先行をもらうわ」

 

ブルームガールが宣言し戦いが始まった。

 

ターン1

 

「私のターン!」

 

ブルームガール LP4000

モンスター

魔法罠

 

フィールド

 

(ユート)

□ □ □     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

□   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(ブルームガール)

 

「私はフィールド魔法。トリックスター・ライトステージを発動! 発動時一つ目の効果。デッキからトリックスター1枚をデッキから手札に加える! 私はトリックスター・リリーベルを手札に。そして、トリックスター・リリーベルの効果。ドロー以外の効果で手札にこのカードが加わった時、リリーベルは手札から特殊召喚できる」

 

戦場に可愛らしいピンクの花が咲く。

 

トリックスター・リリーベル 攻撃表示

ATK800/DEF2000

 

遊介は今頃大きくは驚かない。たとえ現実世界で冷酷な女として猛威を振るった学校の女王が、可愛らしいトリックスターのデッキを使うことに。

 

しかし、

 

(いやあ、人って見た目だけじゃ分からないもんだなぁ……)

 

と思ったのは事実である。

 

しかし、それはあくまで遊介の心の中の声であり、テレパシーを使えるわけではないブルームガールがそれを聞くことはない。

 

「さらに私は、手札からトリックスター・キャンディナを通常召喚!」

 

トリックスター・キャンディナ 攻撃表示

ATK1800/DEF400

 

そしてピンクの花の隣に、活力のある黄色の花が咲いた。

 

「キャンディナの効果。デッキからトリックスターカードを1枚手札に加える。私はデッキからトリックスター・ホーリーロッドを手札に加える」

 

そしてブルームガールは天井へと手を伸ばす。

 

「現れなさい。光り輝くサーキット!」

 

天井にリンク召喚の為のゲートが現れた。

 

「召喚条件はトリックスターモンスター2体! 私はリリーベルとキャンディナをリンクマーカーにセット!」

 

二輪の花はそれぞれと同じ光を纏って、ゲートへと昇って行く。そしてその中心から舞い降りる大輪の花が、この戦場に舞い降りた。

 

「いでよ。トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

蒼く慈しみを感じさせる光の天使。

 

「かわいいな」

 

「マイケル。お前……」

 

「なんで俺を失望の眼差しで見るんだよ」

 

遊介はそれ以上何も言わなかった。

 

トリックスター・ホーリーエンジェル

リンクマーカー 右下 左下

ATK2000/LINK2

 

ユートはここまでの動きに表情を一切動かしていない。しかし警戒はしていた。

 

対してブルームガールは順調に動く盤面に少しづつ楽しくなったのか、笑みをこぼす。

 

「さあ。張り切っていくわ。手札に加えた装備魔法トリックスター・ホーリーロッドを発動! このカードはホーリーエンジェル専用の装備カード。これを今召喚したホーリーエンジェルに装備する。最初の効果で、ホーリーエンジェルのリンク先に、墓地のトリックスター1体を特殊召喚! 私はホーリーエンジェルの左下にリリーベルを特殊召喚する!」

 

光の天使は城の錫杖を持ち、その後ろにピンク色の小さな天使が舞い戻ってきた。

 

トリックスター・リリーベル 攻撃表示

ATK800/DEF2000

 

「そしてホーリーエンジェルの効果。このカードのリンク先にトリックスターを召喚、特殊召喚したとき、相手に200のダメージを与える! そしてホーリーロッドの第2の効果。ホーリーエンジェルの効果で与える効果ダメージを2倍にする。よってユート。あなたには400のダメージを受けてもらう!」

 

天使の錫杖から光の玉が放たれる。そしてユートにぶつかった瞬間弾けた。

 

「ぐ……」

 

ユート LP4000→3600

 

そして、ノリノリのブルームガールは、声のトーンが半オクターブ高くなっている。

 

「まだまだ! ここでホーリーエンジェルのさらなる効果。トリックスターモンスターの効果でダメージを与えたとき、その数値分だけホーリーエンジェルの攻撃力は上がる。400攻撃力がアップする」

 

トリックスター・ホーリーエンジェル ATK2000→2400

 

「そして、トリックスター・ライトステージの効果。トリックスターモンスターが戦闘・効果で相手にダメージを与える度に、さらに200のダメージを与える!」

 

ユートに電光が纏わり、弾ける。

 

「ぐ……ぅ」

 

ユート LP3600→3400

 

「この効果サイクルが、ホーリーエンジェルのリンク先にモンスターが召喚されるたびに発動するわ」

 

ユートはこのデュエルで初めてその口を開いた。

 

「なるほど……俺にではなく。君のデッキはほぼ万人に勝ちうる可能性があるな」

 

「そう。効果ダメージを戦術の中に自然に組み込めるこのデッキは、LP4000のスピードデュエルでは速攻戦術として特に有効的に戦えるデッキ」

 

「……これは、俺が一気に殺される可能性があるな」

 

「そうね。でも一度始まった戦い。いえ、私のステージは全力で行くわ」

 

「そうか」

 

ユートは、ディスクを前に構えて、再び来るであろうダメージに備えた。

 

そう。ブルームガールの攻撃はまだ終わっていないのだ。

 

「相手が効果ダメージを受けた時、手札のトリックスター・ナルキッスを特殊召喚できる」

 

トリックスター・ナルキッス 攻撃表示

ATK1000/DEF1800

 

上が緑で下の方が黒のドレスの少女が現れた。

 

「現れなさい。光り輝くサーキット!」

 

再び現れるサーキットに、ホーリーエンジェル以外の二人の天使が吸い込まれていく。

 

「召喚条件はトリックスターモンスター2体。私はリリーベルとナルキッスをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来なさい。トリックスター・ブラッディマリー!」

 

優雅な紅のドレスを着た天使がホーリーエンジェルの隣に優雅に舞い降りる。

 

トリックスター・ブラッディマリー

リンクマーカー 右 左下

ATK2000/LINK2

 

「さて。ホーリーエンジェルの左下。リンク先にトリックスターが召喚された。分かる?」

 

青の天使の力が再びユートに牙をむく。ユートにはホーリーエンジェルの効果とライトステージの効果によるダメージが入る。

 

「ぐあ……」

 

ユート LP3400→2800

 

トリックスター・ホーリーエンジェル ATK2400→2800

 

「これだけじゃ終わらないわ。私は装備魔法トリックスター・ホーリーロッドの第3の効果を発動する。このカードを破壊して、ホーリーエンジェルの元々の攻撃力と今の攻撃力の差分。今回は800のダメージを与える!」

 

「な……!」

 

天使は光を放ち始めたロッドをユートに投擲した。勢いよくロッドはユートの黒い外套の肩の部分にぶつかり、その服を焦がす。

 

「ぐぅ……!」

 

ユート LP2800→2000

 

「はぁ……もう半分か」

 

ユートはたった1枚もカードを動かすことなくライフを半分削られたという状態にユートは絶句する。

 

瑠璃ユートが危機に瀕している中でも口は開かなかった。

 

「瑠璃ちゃん。いいのか?」

 

「ユートは簡単には負けない。それにこのデュエルで命は消えない。私もブルームガールのデッキにもユートのデュエルにも興味があるから止めないわ。そういえばマイケル。私、あなたがあんな馬鹿なことを言うとは思ってなかった」

 

「……弱腰の草食系じゃない事は確認しないとな?」

 

「もしかしてわざと?」

 

「さあなー」

 

ニヤニヤしながら二人のデュエルを見つめるマイケル。

 

しかし、命がけの戦いの経験者である瑠璃はその横顔に一瞬だけ感じる。

 

(この人本当は……強い?)

 

しかし瑠璃の心の中の声は、他の人間に届くはずもなかった。

 

戦いはまだ、ブルームガールのターンのままだ。

 

「私は、ブラッディマリーの効果を発動する。手札のトリックスターカード1枚を墓地を送る。その後お互いはカードを1枚ドローする」

 

ユートは驚いたように、

 

「俺もか?」

 

と尋ねるが、

 

「お互いって言ったでしょ?」

 

と言われユートは訝し気にブルームガールを見ながらも、デッキの一番上に手を乗せた。

 

「私はトリックスター・リンカーネイションを墓地へ送る。お互いは1枚ドローする。けれど、私のライフがあなたより2000以上多いときは、私は2枚ドローになる」

 

ユートはそれに納得したように、

 

「手札増強まで。君はこの盤面手札に引いた一瞬で思い描いたのか。すごいな」

 

急に褒められ、ブルームガールは一度手を止めて戸惑う。

 

「何よ……急に」

 

「君は最初に手札を一秒見てから、己のカードを見ずに、一度も手を止めることなく、この盤面を作り上げた」

 

「だってこれ私のデッキだし」

 

「だが。最初の手札は毎度毎度違う。良いデッキには使用者の張った戦術が百以上は組み込まれている。いかにずっと使っていようと、十秒は最初の動きを考えるものさ。それすらないとは、君はそのデッキをずっと扱い、何度も研究と研鑽を重ねたデッキなんだろうな」

 

「……つまり何が言いたいの?」

 

「君は、デュエルを、そのデッキでやることが好きなんだな」

 

「……そうね」

 

ブルームガールは不機嫌ではないものの、顔を赤らめ、恥ずかしそうに語った。

 

「そうよ。私は大好きよ。本当はデュエル部のデュエル見て、私もやりたいなーなんて思ってたわよ!」

 

堂々の発言。それに一番驚いたのは、

 

「えぇ!」

 

もちろん遊介だった。

 

「でも向こうじゃ、私はできなかった。この世界に来たのはね。本当はこっちの世界なら私は自由に遊べると思ったから」

 

ユートは驚き、その後失笑する。それは、急にブルームガールという人間が見せた素の表情があまりに可笑しかったからだった。

 

「何よ」

 

「失礼」

 

ユートは緩んだ口元を元に戻し、

 

「君は悪い人間ではないことが分かった。だが、デュエルはデュエルだ」

 

と、自ら外してしまった道を元へ戻す。

 

「続けるわ。私は2枚、あなたは1枚カードをドロー」

 

デュエルをするお互い2人が、デッキからカード引く。

 

「そして、フィールド上に存在するブラッディマリーを対象に、そのモンスターを戻し、手札のトリックスター・マンジュシカをホーリーエンジェルの左下リンク先に特殊召喚」

 

紅の天使は、本来手札に戻る軌道のところを、己は手札には戻れないが故にエクストラデッキに戻る。そしてブラッディマリーが元いた場所に赤い花が咲いた。

 

トリックスター・マンジュシカ 攻撃表示

ATK1600/DEF1200

 

「さて、またホーリーエンジェルのリンク先モンスターを召喚した。杖はないからダメージは倍にならないけど、ホーリーエンジェルの効果とライトステージの効果で400ダメージを受けてもらうわ」

 

「く……」

 

ユート LP2000→1600

 

トリックスター・ホーリーエンジェル ATK2800→3000

 

「カードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズ、上がっていたホーリーエンジェルの攻撃力は元に戻る」

 

トリックスター・ホーリーエンジェル ATK3000→2000

 

(長い……)

 

遊介は正直思っている。

 

それもそのはず。1ターン目にも関わらず、使ったカードは、手札に入れないリンクモンスターを入れなくても7枚。さらに1枚カードを伏せているのだ。本来であれば最初のターンに仕えるカードは4枚。1.75倍である。

 

(伏せカードを入れたら2倍だし。容赦ねえ……)

 

遊介はこの人が敵として現れなくてよかったと本気で思った。

 

ブルームガール LP4000 手札0

モンスター ①トリックスター・ホーリーエンジェル ② トリックスター・マンジュシカ

魔法罠 伏せ1

 

フィールド

 

(ユート)

□ □ □     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

□   ①     EXモンスターゾーン

□ ② □     メインモンスターゾーン

□ ■ □     魔法罠ゾーン

(ブルームガール)

 

ターン2

 

「俺のターン!」

 

既に傷ついている中、全くその戦いの気は落ちていなかった。

 

「マンジュシカの効果! 相手の手札にカードが加わったとき、その枚数1枚につき200のダメージ。さらにライトステージの効果で200ダメージ」

 

「また400か……」

 

ユートが言うと同時に、マンジュシカが放った光を浴び、ライトステージの分のダメージを受ける。

 

「ぐ……!」

 

「そしてホーリーエンジェルの攻撃力はアップ」

 

トリックスター・ホーリーエンジェル ATK2000→2200

 

ユート LP1600→1200 手札6

モンスター

魔法罠

 

「俺はファントムナイツダスティローブを召喚!」

 

不気味なローブを纏った実体無き騎士が現れる。

 

遊介はそのモンスターを初めて見たが、

 

(実際に見てみるとちょっと怖いなぁ)

 

と、弱音を思い浮かべている。

 

それはブルームガールも同じで、構えがやや前に傾いたのは、その不気味さに反応した故だ。

 

幻影騎士団ダスティローブ 攻撃表示

ATK800/DEF1000

 

「さらにファントムナイツサイレントブーツは、俺のフィールド上にファントムナイツがいるとき、手札から特殊召喚できる」

 

幽体の暗殺者が現れる。

 

幻影騎士団サイレントブーツ 攻撃表示

ATK200/DEF1200

 

「レベル3のダスティローブとサイレントブーツでオーバーレイ!」

 

幽体の騎士たちは紫の光となって、地面に現れたブラックホールのような渦に飛び込んでいく。

 

「漆黒の闇より、悲惨なる闇を斬り裂く、反逆の剣! 今現れよ! エクシーズ召喚! ランク3、ファントムナイツブレイクソード!」

 

黒の渦より光の柱が昇る。そして召喚されたのは、首から青い炎を燃やす黒い騎士だった。

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃表示

ATK2000/DEF1000

 

ユートの猛攻が始まる。

 

「ブレイクソードの効果! オーバーレイユニット一つを取り除き、自分および相手フィールド上のカードを1枚ずつ対象として発動する。そのカードを破壊する! 俺はブレイクソードとお前のフィールド上のトリックスター・マンジュシカを破壊!」

 

黒の騎士は、剣に妖しい炎を纏わせると、マンジュシカに突撃する。ホーリーエンジェルを剣で薙ぎ払い、道を空けさせると、マンジュシカのところで自らを巻き込む青い炎を柱を挙げた。

 

せっかく呼び出したブレイクソードを自壊させる行為に戸惑いを見せるマイケル。

 

しかし他の人間は動じない。

 

瑠璃はその戦術を知っていたから。そして、遊介もブルームガールも、ブレイクソードの効果を知っていたから。

 

「なんで破壊すんだよ。遊介分かるか?」

 

「あんた、もしかしてユートのことを知らないのか?」

 

「いやあ、俺はカードゲームしかかじったことなくてね。俺は初代しか知らないんだよ」

 

「確かにあの世界。アニメを販促のくだらない内容だって馬鹿にする奴も結構いるからな」

 

「おいおい、俺は違うぜ」

 

「分かってるよ。理由はすぐに分かる」

 

遊介の言う通り、ユートは選択ミスをしたわけではなかった。この一手は己の魂と呼ぶにふさわしい竜の顕現を準備したに過ぎない。

 

「ブレイクソードの効果。エクシーズ召喚されたこのカードが破壊されたとき、自分の墓地の同じレベルのファントムナイツ2体を対象に、レベルを一つ上げた状態で特殊召喚できる。戻れ、ダスティローブ、サイレントブーツ!」

 

先ほど渦に吸収された2体の騎士が、再び舞い戻った。己の存在に定義された星を一つ増やした状態で。

 

ブルームガールはLPが減っていないにも関わらず、苦しそうな顔をしている。それは今から出る彼のエースモンスターが強力な存在であることが理由であり、

 

(……だからこそ、できれば1ターンキルが理想的だったのかもしれない。それか、少しダメージを減らしてでも、対処できるカードがあればよかったのかも)

 

遊介はそう、今のブルームガールの心境を分析する。

 

「俺はレベル4となった、ダスティローブとサイレントブーツでオーバーレイ!」

 

再び黒の渦が現れ、二体の幻影騎士は吸い込まれていった。

 

そして、先ほどとは違う、力ある存在が渦の中で呼び出されようとしているのを、この場にいる全員が肌で感じる。

 

「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今降臨せよ! エクシーズ召喚! 現れろランク4! ダークリベリオン・エクシーズドラゴン!」

 

全体的に細めの体躯を持ちながら、口に鋭い牙を持つ黒の竜が降臨したのだ。それはユートを象徴するというにふさわしい存在である。

 

ダークリベリオン・エクシーズドラゴン 攻撃表示

ATK2500/DEF2000

 

「出た……!」

 

ブルームガールがこのカードを恐れる理由は、その竜が持つたった一つの効果だった。そしてそれは一つであるがシンプルながら脅威となるに十分な黒き竜の力だった。

 

「ダークリベリオン・エクシーズドラゴンの効果! オーバーレイユニットを2つ使い、相手モンスター1体を対象として発動する! そのモンスターの攻撃力を半分にし、下げた数値をこのカードの攻撃力に加える! トリーズン・ディスチャージ!」

 

黒の竜の翼が広がり、刃のごとく鋭い両翼から紫の電撃のような見た目の力が放たれる。狙いは青い天使。黒竜の力は易々と青い天使を縛り、その力を咆哮をあげながら吸収した。

 

トリックスター・ホーリーエンジェル ATK2200→1100

 

ダークリベリオン・エクシーズドラゴン ATK2500→3600

 

「なるほど……ありゃ厄介だ。確かに今の遊介には荷が重かったかもな」

 

この時点でマイケルはユートの考えが理解でき、感心の声を上げる。

 

「悪かったな」

 

「いやマジな話。お前のデッキだと、前みたいに力負けするだろう。お前のデッキ、今の状態だと火力が全然ないからな」

 

「分かってるよ……」

 

遊介は少しむくれた。

 

しかし、自分では荷が重かった相手だとは遊介は自覚している。それをブルームガールは分かっていたからこそ、モンスター戦闘だけが取り柄ではない自分であれば勝てる可能性があると分析したのだ。

 

ここまででユートはまだカードを2枚しか使っていない。

 

「俺はカードを2枚伏せる。バトルだ」

 

さらりと言ったその宣言は防御の陣形を整えたという合図。

 

「ダークリベリオンで、トリックスター・ホーリーエンジェルを攻撃! 反逆のライトニング・ディスオベイ!」

 

光を牙に宿し、荒ぶる力を翼に宿しながら黒い竜は舞う。すべてを貫く、ユートの殺気のごとき鋭い1撃が光の軌跡を刻みながら、青い天使を貫いた。

 

(勝)ダークリベリオン・エクシーズドラゴン ATK3600 VS トリックスター・ホーリーエンジェル ATK1100 (負)

 

それはあまりに生々しく酷な光景である。その点の配慮なのか、ダークリベリオンの牙に宿った光が傷口を覆い見えなくしている。

 

やがて青い天使は光粒子となり、輝きとともに消えた。

 

「くう……」

 

たとえ本人に直接的な衝撃がなくとも、LPが減ることによる痛みはフィードバックされる。ブルームガールが浮かべる苦悶の表情はそれを耐えるものだった。

 

ブルームガール LP4000→1500

 

「まだだ。俺の攻撃は止まらない!」

 

(4話後編へ続く)




お読みいただきありがとうございます。
全部書くと10000文字超えちゃうので、今回のデュエルは前後編で分けました。
後編もほぼ同時に出しているので、決着はそちらで。
ちゃんとしたあとがきもそちらでします。


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4話 舞い輝く花 VS反逆の牙 (後編)

4話は前後編で分けています。
詳しい前書きと一緒に前編からご覧ください。

前編を呼んでくださった皆さん。
ここから後編です。どうぞ!


(4話前編からの続き)

 

ユートはすさまじい気迫で、牙を抑えないことを宣言する。

 

「俺は手札から速攻魔法! 幻影の連刃を発動! 闇属性エクシーズモンスターが相手モンスターを破壊した時、墓地のファントムナイツエクシーズモンスター1体を選択! そのモンスターを特殊召喚し、このカードをそのモンスターのオーバーレイユニットとする! 蘇れ! ファントムナイツ・ブレイクソード!」

 

黒の騎士は地獄から戻ってくるかのように、地面から黒い召喚のゲートを通って現れる。

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃表示

ATK2000/DEF1000

 

「やば……! 結構ピンチかも……」

 

ブルームガールは慌てたことを表す一言を言い放った。

 

ユートの狙いは単純だった。速攻。その一つのみ。

 

次元戦争を戦う中で、彼が見つけた1つの境地。知略を巡らす中で4000という少ないライフを削り合う戦い。その戦いで、己の象徴たる黒い竜をその中で最大限に活かす方法は何か。

 

ダークリベリオンは召喚しやすく、そして効果と攻撃が通れば2500のダメージを確実に与えられる。そうすれば残りの相手ライフは1500.1500であれば工夫次第で削り切れるとユートは思っている。ダークリベリオンによって削ったライフで相手の反撃のチャンスを与えるのは生ぬるく、勝てる戦いに確実に勝つために、牙は深く、鋭く、相手を一瞬のうちに慈悲なく滅ぼす一撃でなければならない。

 

(ユート……余裕のない戦い方だな……)

 

「遊矢。お前はエンタメデュエルをやればいい。お前の甘さを正すのが今の俺の在り方だ。デュエルでみんなに笑顔を。それを実行するのは最高のエンターテイナーであるお前だ。俺は……これでいい」

 

(楽しいのか?)

 

「楽しくないわけじゃないさ。だが、俺がデュエルを100パーセント楽しむようになるには、俺達の戦いに決着をつけなければならない。それまでは、俺の戦い方はこれでいい」

 

遊介は独り言を言うユートを見た。

 

「……なんだろう……?」

 

遊介にはその内容がよく聞こえていなかった。

 

ユートの刃は、劣勢は免れないと思われた盤面をたった1ターンで崩し、ブルームガールを斬り裂こうとしていた。

 

「ブレイクソードでダイレクトアタック!」

 

黒の騎士はブルームガールに迫る。

 

しかし、彼女もまた無抵抗ではない。

 

「罠カード! トリックスター・アンコール! このカードはこのターン破壊されたトリックスターを墓地から特殊召喚する! 戻ってきて! トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

トリックスター・ホーリーエンジェル

リンクマーカー 右下 左下

ATK2000/LINK2

 

ブルームガールは舞い戻った自らの相棒を見て、消えていた顔に再び自信を灯らせた。

 

「アンコールの効果で戻ってきたホーリーエンジェルは、このターン破壊されない! それでも攻撃する?」

 

このまま激突すれば、消滅するのはブレイクソードだけになる。明らかに損するだけなのだが、

 

「攻撃は続行だ! ブレイクソード! ホーリーエンジェルを攻撃!」

 

ユートはそのまま攻撃することを選んだ。

 

「なら、アンコールで戻ってきたあなたの力、見せてあげなさい!」

 

ホーリーエンジェルは先に鈍器をつけている物騒なムチを持つと、器用に操ってその先端を黒い騎士にぶつけた。黒い騎士は衝撃に耐えられず馬から落下し、光の粒子となって四散する。

 

(引き分け) トリックスター・ホーリーエンジェル ATK2000 VS 幻影騎士団ブレイクソード ATK2000 (引き分け)

 

しかし、ユートはそれを気に留めず、さらに恐ろしい攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「スキル発動! リベリオンソウル! 俺のライフが相手を下回っているとき、墓地のファントムナイツモンスター3体を除外して発動! このターン攻撃を終えたダークリベリオンは、もう一度だけ攻撃が可能になる! 反逆の意思はデュエリストである俺も秘めている! ダークリベリオン、俺の意思と共に再び牙を突き立てろ!」

 

その宣言とともに、咆哮をあげる黒い竜。

 

ブルームガールの背中を見ている遊介は思う。きっと焦っているだろうと。これほどまでに容赦のない連続攻撃に対して、防御力が低い欠点を持つトリックスター主軸のデッキでは厳しいかもしれないと。

 

しかし、ブルームガールが本当にしていた顔は、まだ負けていないという勝負の顔だった。

 

「スキル発動! トリックスター・イリュージョンギミック! 相手のバトルフェイズ中に発動できる。、墓地のトリックスターを1体選択して特殊召喚。その後フィールド上のトリックスターモンスターと選択したトリックスターを使ってリンク召喚する!」

 

「新たなトリックスターを呼ぶのか!」

 

「そうよ。ユート。貴方もスキルを使ったなら、私も使っていいでしょ? まだまだ負けないんだから」

 

そう言って、後ろを振り向き、勝利を信じているような明るい表情を見せるブルームガール。

 

それを見た遊介とマイケルはこの時だけ意識がシンクロした。

 

(可愛いところあるなぁ)

 

ここにいるブルームガールは、現実世界の氷の女王ではなく、時に厳しく、そして時に優しく、皆を奮いたたせる、まさにアイドルだった。

 

「さあ、お先に見せ場をいただくわ。ユートくん」

 

「……来い!」

 

いつしかユートの目から殺気が消え、純粋に勝利を求める目になっていたのも、やはり彼女の力だったのだろう。

 

「私はフィールド上のトリックスター・ホーリーエンジェルと墓地からキャンディナを特殊召喚して……呼ぶわ。光り輝くサーキット!」

 

天井に再びゲートが開き、青の天使と黄色の花がそのゲート中へと身を投じていった。

 

「私はリンク2のホーリーエンジェルとキャンディナ1体をリンクマーカーにセット! リンク召喚! 彼女が勝利を呼ぶ花の魔術師。トリックスター・フォクシーウィッチ!」

 

花の魔術師。その形容はあながち間違ってはいない。桃色のかわいらしい服を着用していても、その姿を一番近い比喩で例えるなら、魔法使いだ。

 

トリックスター・フォクシーウィッチ

リンクマーカー 上 左 右

ATK2200/LINK3

 

「フォクシーウィッチを特殊召喚した時、相手フィールド上のカード1枚につき200ポイントのダメージを与える! あなたのフィールド上には、伏せカード2枚とダークリベリオン1体。3枚で600のダメージ!」

 

魔法使いは杖をくるくる振ると、その先から魔法を放った。光の花びらが木枯らしに負けないほどの風を携えて、吹雪のように舞いながらユートを巻き込んだ後、一瞬で去っていく。

 

「く……」

 

「ライトステージの効果で200追加!」

 

ユート LP1200→400

 

「まだ削るのか……本当に容赦ないな」

 

うろたえている様子のユートに対して、

 

「でもこれで私は耐えられるわ」

 

ブルームガールは言い切った。

 

ブルームガールの狙いは、ダメージではなくあくまで延命。花の魔術師がダークリベリオンの攻撃を受けても何とかLPは100残る。スキルの使い方としてはかなりギリギリであるが、そもそもブルームガールはこの盤面を予測していなかった中で、刻一刻と迫る己の敗北を回避する1手としては低い評価ではない。

 

しかし、攻撃が通ればライフは100.さらに手札もない以上絶体絶命の状況を覆すには至らない。これを悪あがきとみる人間もいるだろう。

 

「あくまで勝利の為か……。恐れ入ったよ」

 

「さあ、攻撃するならすればいい。私は次引く手札1枚でも戦ってあげるから心配しないで」

 

しかし、ユートは後を考えれば攻撃すべきところを躊躇った。

 

「……く」

 

「どうしたの? 攻撃すればLP100まで削れる。それに可能な限りLPを減らして置くことに損はないはず。私の残りは1500じゃない方がいいと思うけど?」

 

ブルームガールの言うことは嘘ではない。トリックスターデッキであれば、その可能性は高いと、考察すれば最初に出る類の話。

 

しかし、それでもユートは、このタイミングで、ブルームガールが出したフォクシーウィッチに嫌な予感があった。

 

「スキルも使ったのに」

 

「忠告はありがたいが、俺は攻撃はやめる。ターンエンドだ」

 

ユートは内から出る3人目に、

 

(お前! もったいないだろ!)

 

とツッコまれるが、

 

「攻め急いで取り返しのつかないことにはしたくないからな。ユーゴ、遊矢から聞いたぞ。この前攻め急ぎすぎて、ピンチになった話」

 

(な……遊矢!)

 

意識の奥から出た声の主が、観念して自らの体の奥底へと消えていくのを確認する。

 

一方。

 

(本能的回避とかかなぁ……、よく気づいたわ……)

 

ブルームガールは感心してこの現状を受け止めるしかない状況だった。

 

ユート LP400 手札0

モンスター 1ダークリベリオン・エクシーズドラゴン

魔法罠 2枚

 

フィールド

 

(ユート)

■ ■ □     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

1   ④     EXモンスターゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(ブルームガール)

 

ターン3

 

遊介は2人のデュエルがたった3ターンでクライマックスを迎えていることに、そこまでの驚きはなかった。

 

(確かに早いけど……それは、2人が強者であり、どちらもLPを奪うのに躊躇がないデッキだから。だから、まだ3ターン目なのに、これだけ見ごたえのある攻防ができる。そしてそれを迷いなく実行する2人は実力者なんだろうな)

 

そして遊介の言う通り、最後のターンが始まった。

 

「じゃあ、私のターンね。ドロー!」

 

ブルームガール LP1500 手札1

モンスター ④ トリックスター・フォクシーウィッチ

魔法罠

 

「ふふふ。さて。ユート。あなたを殺しうるのはフォクシーウィッチだけではないわ」

 

「なに?」

 

「私は墓地に送ったトリックスター・リンカーネイションの効果を発動。墓地のトリックスター1体を特殊召喚! 来なさい、トリックスターマンジュシカ!」

 

トリックスタートリックスター・マンジュシカ 攻撃表示

ATK1600/DEF1200

 

ユートはその姿を見てすぐに手を打つ。

 

「罠カード。幻影霧剣(ファントム・フォッグ・ブレード)!フィールド上の効果モンスター1体を対象として発動する。今君が出したマンジュシカを俺は選択する。このカードが場にある限り、そのモンスターは攻撃できず、攻撃対象に選ばれない。そして効果が無効化される」

 

マンジュシカに罠カードから現れた黒い剣が迫る。

 

「マンジュシカ封じね……」

 

手を一つ潰されたブルームガールは、それでもなおこのターンで勝負を決めるべく、迷いはしなかった。

 

「なら……私は今さっきドローした速攻魔法、トリックスターブーケを発動。私のフィールドのトリックスターモンスター1体と表側表示モンスター1体を選ぶ。最初に選んだトリックスターモンスターを手札に戻して、戻したモンスターの元々の攻撃力分の数値を、残した表側表示モンスターに加える。私が手札に戻すのはマンジュシカ。その攻撃力1600分をフォクシーウィッチの攻撃力に加える!」

 

「マンジュシカが……手札に戻るのか……」

 

ユートが悔しそうな表情を初めて見せる。

 

マンジュシカは華麗に空中をひねり入れて二回転跳ぶと、ブルームガールの手札に戻っていく。黒の剣は対象を失い、形が崩れていく。

 

トリックスター・フォクシーウィッチ ATK2200→3800

 

「これでダークリベリオンの攻撃力を上回った! さらに私は手札に戻したマンジュシカを通常召喚!」

 

トリックスタートリックスター・マンジュシカ 攻撃表示

ATK1600/DEF1200

 

「いっけーフォクシーウィッチ。いよいよあいつを倒すときよ」

 

ブルームガールが張り切っているのは、フォクシーウィッチの攻撃でいよいよ戦闘ダメージとライトステージで合計400のダメージを受けて、ユートは敗れることになるという算段が付いたからだ。

 

「バトル! フォクシーウィッチでダークリベリオン・エクシーズドラゴンに攻撃!」

 

止めの宣言をブルームガールが堂々言い放った。

 

「やむを得ないか」

 

ユートは伏せてあったもう1枚のカードを使用する。

 

「罠カード幻影翼(ファントムウィング)発動。フィールド上のモンスター1体を対象に発動する! そのモンスターの攻撃力は500アップし、1ターンに1度戦闘・効果では破壊されない。俺はダークリベリオンを選択する!」

 

黒い竜の翼に闇の瘴気が宿る。

 

ダークリベリオン・エクシーズドラゴン ATK3600→4100

 

「迎え撃て!」

 

(勝)ダークリベリオン・エクシーズドラゴン ATK4100 VS トリックスター・フォクシーウィッチ ATK3800

 

再び魔法を発動しようとしている魔法使いに、黒い竜が急接近した。そしてしなやかな黒い尾で魔法使いを地面にたたきつける。地面には衝撃を表す瓦礫破砕の砂煙が巻き起こった。

 

「く……」

 

ブルームガール LP1500→1200

 

「そして、闇属性モンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、俺は墓地の魔法カード幻影の連刃の効果を発動する」

 

「え……何かあるの!」

 

「ああ。俺の隠し刃だ。このカードをゲームから除外し発動。バトルフェイズ終了時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊し、そのモンスターの守備力分のダメージを与える」

 

「え……」

 

ブルームガールが驚くのも無理はない。その懐刃はブルームガールをちょうど殺す数値のダメージをたたき出す。

 

遊介は空いた口がふさがらない。

 

マンジュシカがいることで、次のターンが危なかったユートは、すでにこのターンで敵を倒しうる仕込みを済ませていたのだ。その手腕は見事の一言。さすがレジスタンスで戦ってきた歴戦のデュエリストだと、遊介は感嘆の一言を口から放ちそうになっていた。

 

「俺のファントムナイツデッキは墓地でも効果を発揮するカードが多い。だからこそ、どんな状況でも相手を倒す為の攻撃をし続けることができる」

 

ブルームガールは黙ったままだった。

 

「……なぜ」

 

そしてブルームガールは。

 

ユートにとっては不気味なことに、笑っていた。

 

「そうね。ただ。一つ指摘良いかしら?」

 

「……やはり、奴はまずかったか」

 

「そう。フォクシーウィッチってのがまずかったね」

 

今の口ぶりは、ユートの死刑宣告を回避する一手であることを示していることは、このデュエルの参加者全員が察する。

 

「フォクシーウィッチはね、戦闘・効果で破壊されたとき、エクストラデッキからリンク2以下のトリックスターを特殊召喚する。とりあえずトリックスター・スイートデビルを召喚するわ」

 

巻き起こった煙から、入れ替えマジックのように現れたのは小悪魔系女子。と言っても見た目から入っているタイプの方だ。

 

トリックスター・スイートデビル

リンクマーカー 左 右

ATK2000/LINK2

 

「そして、これがフィナーレ。フォクシーウィッチの効果には続きがあるわ。さらに相手のカード1枚につき200のダメージを与える。あなたのフィールドにはダークリベリオンが1体。つまり、200だけだけど」

 

その続きはユートが直接。自らの負けを示すように言ったのだ。

 

「ライトステージの効果で追加で200か。それで俺のライフは0になる。どうやら、フォクシーウィッチを召喚されていた時点で、ほぼ確定的に俺は負けていた……ということか」

 

ユートは甘んじて、最後の攻撃を受けた。

 

ユート LP400→0

 

ブルームガールに勝利が決まり、店の中は戦場から穏やかな閉鎖空間に戻る。

 

「よし!」

 

その中でノリノリでガッツポーズをする彼女は、遊介が知る限り彩と同等かそれ以上に強いデュエリストであり、そして場を輝かせるアイドルだった。

 

(俺……まだまだなんだなぁ……)

 

遊介は落ち込むようにため息をつく。

 

また、デュエルの疲れと敗北という結果に、もう一人落ち込んでいる男がいた。

 

瑠璃は近くに行くと、

 

「お疲れ様」

 

と声を掛ける。

 

「情けないな。俺は」

 

「まあ、相性が悪かったのよ。ユートのデッキ、効果ダメージの対策全然ないんだし」

 

「ははは……全くだ」

 

二人仲良く話すその光景を見て、ブルームガールは、そして顔を挙げた遊介は、次元戦争の違う結果を知っているから、どこか嬉しく思うのだった。




お読みいただきありがとうございました。今回のデュエルは前回と違い短期決戦。なんとユートには1ターンしか猶予がないという、彼にとってはハードなデュエルでした。

たった3ターンなのになんでこんなに長くなっちゃったのだろう、という感じのデュエルでしたかいかがだったでしょう。分析するに、トリックスターは動きが複雑すぎて、文で書くのが大変であることがわかりました。ちまちま与える効果ダメージも、文の量が増える原因です。ちなみにブルームガールのトリックスターはこんな感じで殺意高めに行く予定です。

ユートや瑠璃の設定は少し変えてあります。一応アニメ最終話のその後とかではない方向で、設定を変えてアニメシリーズのキャラクターは出していく方針です。黒咲……いないのか。念のため言いますが、彼が嫌いなわけではありませんのでそこは勘違いしないでください。

さて今回執筆を焦りましたのは、来週は投稿をお休みするからです。詳しくは活動報告に記してあります。こんな理由で、来週の出そうと思っていた分を先に出しちゃいました。

さておそらくユートも仲間入りということで次回からはいよいよ最初のイベント戦です。次は遊介に頑張ってもらうことになります。次回5話『弱者を恨む者(前編)』お楽しみに!


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5話 弱者を恨む者

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


今回からイベント戦になります。
遊介は無事に保有LPを回復できるのか?
長い戦いが始まります。


【9】

 

『ユートが仲間になった!』

 

もしテレビゲーム画面があるとしたら、そのような表示がされているだろう。それくらいに瑠璃の説得はうまく進んだ。愛しの彼女に対しては格好つけながらもデレデレなユート。周りの人間はその様子を微笑ましく見ていた。

 

それから1週間。

 

イベント戦を明日に迎え、マイケルの店に集まったデュエリスト5人は各自デッキの調整に勤しむ毎日を送った。

 

遊介もまた、ユートに手伝ってもらいながら、デュエルの腕を磨き続ける。毎日デュエルをしてデッキ調整、デュエルをしてデッキ調整と、自らの戦力底上げする努力を続けていた。マイケルの店の決闘禁止によるルールで保有ライフの賭けもなく、ノーリスクで何度もデュエルできる環境はまさに己を鍛える場所としてはふさわしい。

 

幸いにもマネーポイントをユートが20万ほど持っていたので、食料は1週間分買いだめし、イベント戦が行われるその日まで店にこもっている。買いだめのお金は男気溢れるユートが全部受け持ち、マネーポイントは5万ほど失われたが、食料を買いに出かけたところを襲撃する人間を全員返り討ちにすることで、結局はむしろ5万ほど稼ぎになり、本人はやぶさかではない気持ちだった。

 

「……ぐ」

 

「遊介」

 

「大丈夫」

 

今もまたユートとの訓練デュエルを終え、落ち込む遊介。それもそのはず、遊介はこの1週間で15回戦ったが、1回もユートに勝てていない。

 

「腕も上がっている。悲観することはない。さっきのデュエルは俺も危なかった」

 

「ああ。そう言ってくれると嬉しいよ……」

 

この世界に来てから全く勝てないという事実に、悲しい気持ちはとまらない。

 

しかしこの戦いが無意味だったかというとそうではない。

 

行っていたのはスピードデュエル。その中でライフが1000以下になれば遊介はスキルでストームアクセスを使用できる。遊介はスピードデュエルで戦えば戦うほど自分のデッキを強化できる。さすがにデータストームが室内までは入ってこないので、毎度店の外に出て取りに行くというシュールな光景が見られ、手に入ったのはエース級とは言いにくいカードばかりであったが、それでもエクストラデッキは充実し、かなりデッキは強化されている。

 

「はあ……勝てない」

 

またも敗北して落ち込む遊介を見て、

 

「いつまでも落ち込まないの」

 

ときつい一言を見舞うブルームガール。ちなみにこれも毎日の光景である。

 

「さあ、ご飯にしましょう。もう夜だし、明日はイベント戦なんだから、しっかり元気になっとかないとダメよ」

 

「そうっすね……はあ」

 

落ち込む遊介を微笑ましく見守る周りの連中。この光景もまた恒例行事になっていた。

 

食事は簡単なレトルトカレー。通常は各自で勝手に食事をとるものの、今回はそうはいかない。夜の7時から明日のイベント戦の説明が放送されるからだ。

 

運営からの放送はリンクブレインズ各地にある公共放送用の大モニターにプレゼンテーション用の映像が映し出される仕様になっていて、それを見るのが基本になるが、マイケルの家にはテレビが置いてあり、そこでも見ることができるので、リスクを背負って外出する必要はない。

 

ここでルールの説明を全員で見て、作戦会議を行うことになっている。

 

遊介は傷心状態から何とか自分を奮い立たせ、テレビの近くに用意された自分の席に腰を下ろす。目の前に用意されたカレーを一口。

 

「辛い!」

 

「何よ」

 

「ブルームガール! これは」

 

「激辛」

 

「なんでさ!」

 

「なによ、軟弱者」

 

と大真面目に遊介のクレームに対応する。しかし激辛カレーのパックは一つしかないことを確認していた遊介。自然に悪意なき罠にかけられた事を悟り、むくれながらも、他のカレーを奪うほどの度胸はなく、そのまま唇を赤くしながら食べるしか道は残されていなかった。

 

その程度にふざけ合いができるほどには、遊介、ブルームガール、マイケル、瑠璃、ユートの5人は気を許し合っている証でもあったのだ。

 

マイケルに卑しい笑顔を向けられた遊介の機嫌はそこまでいいものではなかったが。

 

既にテレビの画面には、残り1分からカウントダウンをしている時計がある。時限爆弾を意識させる画面だったが、デュエルの世界で爆死という結果は考えにくいので、遊介は警戒することはなかった。

 

「始まるね」

 

全員がカレーをほおばっている中、瑠璃の一言と同時にイベント戦の説明は始まる。

 

画面に出てきたのは、誰しもが恨んでいるだろう男の姿だった。

 

『こんにちは皆さん。アルターです。デュエルの世界、楽しんでいただけているだろうか? 既に参加者の10パーセントが命を落としてしまっているが、気にすることはない。まだ90パーセント残っている。具体的に何人かというのはやめておこうか。きっと卒倒してしまう人間も出てきてしまうからね」

 

今この瞬間、この男を恨みの目で見ている人間はどれほどいるだろうか。

 

(1万程度……じゃありえないほど居そう)

 

遊介はそんな想像をしながらカレーを口に運ぶ。何とかその辛さに慣れてきた。

 

『さて、そしていよいよ明日が本格的なイベント戦の始まりだ。今回はなんと言っても保有ライフを回復する事ができるということだけあって、前回と違って多くの人数が参加することだろうと推測しているよ。楽しみだなぁ、明日は多くの人間が殺し合いをする素晴らしい時間になるんだろうなぁ。生き死にをまじかで感じるイベント、まさしく大規模なエンターテイメントになるだろう!』

 

頭のおかしい殺人者が画面の中で喜びの舞を見せるのを、遊介含め5人は苦虫をかみつぶしたような顔で見る。眉間にしわが寄っているだけのマイケル、恐ろしい殺気を見せるユート、表現は様々ながら、アルターを見るその感情に明るいものは一つもない。

 

『おおっと、怖い目で俺を見るお兄さんたちがたくさんいるから、さっそくルールの説明に行こうか』

 

アルターはそういったものの、残念ながら、狂喜を隠すことなく本筋の話と関係のない人々の敵意を集めるような言葉をたくさん混ぜ込んで、話を進めるアルター。遊介は困惑のあまりため息をついて、必要な要所要所だけを聞き取り、整理する。

 

内容はそれほど複雑なものではない。

 

まずはイベントの内容について。今回のイベントはとにかくデュエルで敵を倒してこのイベント専用のポイントを稼ぐことが重要になる。イリアステルが用意したデュエリストを倒すと1点、他のプレイヤーを倒すと3点、たまに現れるイリアステルの幹部を倒すと10点が手に入る。そして、参加する全てのプレイヤーでこの点数を競う競争になり、高得点ランキングで10位以内に入った人間が保有ライフを8000回復できる。そして、高得点ランキングは2種類存在し、1つは個人成績、2つ目として、チーム成績が存在する。

 

チームは今回のイベントで初実装されるシステム。特徴は2つ。一つはデュエルディスクを使って遠隔通信が可能になる事。2つ目は、メンバーに自分の保有ライフを任意の場面で譲渡できるようになること。この譲渡は、ライフが0になってしまったプレイヤーにも10秒間有効で、やられてしまったメンバーを生き返らせることもできる。これはイベントに限らず、今後も生き続けるシステムで、結成はリーダーになる人間のデュエルディスクに指紋を登録するだけという簡単なものである。

 

ただしデメリットもある。一度チームを入ってしまったら、自由に脱退ができない。そしてチームリーダーが死ぬ場合、代わりに別のチームメイトの保有LPを4000分奪って強制的に延命させられる。その際に0になってしまったプレイヤーも死んでしまうという。リーダーには酷な責任がのしかかる。

 

今後もチームでのメリット、デメリットは増えていくという説明もあった。

 

『それでは、チームの結成は放送終わってからすぐにできるようになるから、個人で戦うのでも、チームで戦うのでも、頑張って戦って保有ライフを回復できるように頑張ってくれたまえ。君たちの熱いデュエルを楽しみにしているよ』

 

放送が終わったと同時に遊介を含め全員のデュエルディスクに通知が来る。その内容は、システムアップデート、チーム機能追加、というものだった。

 

「ちょっと予想外のデメリットがあるけど……どうする?」

 

ブルームガールの疑問形の言葉に、答えたのはマイケルだった。

 

「俺は構わないけどなぁ」

 

「でも、リーダーにLP取られるかもよ」

 

「だってよ。下っ端がリーダーを守ってやればいいだろう?」

 

マイケルは特に放送で言われたデメリットをデメリットと思っていなかった。ユートも、

 

「確かに。リーダーの代わりに他のメンバーが前衛に出ればいい。特に問題になるとは感じない。それよりも、チームを組むことによるメリットの方が大きい」

 

と、戦術面で冷静な分析をした結果を言葉にする。

 

今回のイベント戦。遊介たちがトップを目指すには、チームを組むことは絶対条件である。それは遊介、ブルームガール、マイケルの3人の共通見解だった。そしてユート、瑠璃もその方が勝率が高いと見込んでいる。

 

個人戦で戦えない理由はいくつかあるが1番は自信たちの戦力不足にある。

 

初日に戦った海堂セイトに3人とも実力で劣っていることは言うまでもない。さらに海堂自身が何のメリットもないのに、自分よりも強い人間がいることを明言している。そんな中で、負けたら即あの世行きのイベント戦を一人で勝ち抜くことは難しい。チーム戦でもその事実は変わらないが、3人とも得ができる可能性が高いのはどちらかであるかと考えた時、消去法で考えるのならば個人戦という選択肢はすぐに消える。団体戦であれば最悪、勝てない相手が現れた時に同盟を組んだ仲間を盾にできる可能性が残る。それだけでもチーム戦にする要因としては十分に大きい。

 

そして今の放送で保有ライフの譲渡ができるという設定が出たことで、遠隔通信と保有LPの譲渡という2つのチーム制のメリットが出たことで、チームを組むことの利点がさらに増え、もはや個人で戦うという考えは、遊介、ブルームガール、マイケル3人とも微塵もなかった。

 

瑠璃は元々3人に協力的で、ユートは瑠璃の意向に異を唱えることはありえない。

 

5人がチームとして戦うのは既に決定事項であった。

 

「問題は誰をリーダーにするかね」

 

「普通にユートでいいんじゃないか? この中で1番強いんだし」

 

実力的にも一番強いので文句は出ないはずだった。1週間の修業期間で、ユートは負けなし。なんとブルームガールにも最初の敗戦以降、全く勝利をさせなかった。実力的にはトップクラスであることは間違いない。

 

「悪いが、それは遠慮させてもらいたい」

 

「なんで?」

 

「俺はリーダーって柄じゃない。誰かが犠牲になる結果を生むくらいなら、自分から戦いに行く方がいい。俺はリーダーを守る兵士の方が似合うと思う」

 

この意見には瑠璃も、

 

「私もユートと同じ。……ちょっとリーダーの責任も怖いしね」

 

と、遠慮の姿勢を見せる。元々、瑠璃もユートも好意で遊介たちに付き合っている立場であり、残り3人は無理に我が儘を強要することができない。そのためこれ以上は追及せず3人の中でリーダーを決めなければならない状況になってしまう。

 

そんななかで3人の頭の中には同じ解決策が思いつくのは、やはり仲間として相性がいいからか。

 

遊介が握り拳を出しただけで、それは決行される。

 

「最初は」

「最初は」

「最初は」

 

「グー」

「グー」

「グー」

 

「じゃんけん」

「じゃんけん」

「じゃんけん」

 

「ポン!」

「ポン!」

「ポン!」

 

何かを決定する際に行われる恒例儀式が三人の中で行われる。

 

そしてその一回で勝負は決まることになった。

 

【10】

 

『さあ! いよいよゲームが始まるぞ! イベント戦! とにかく敵を倒して、倒して、倒しまくれ!』

 

リンクブレインズに響き渡るアルターの声。既にほとんどのデュエリストが闘志を燃やしている。

 

『今日は1日リンクブレインズは戦争の渦中となる。もしかしたらこのイベント戦で500000ポイントを手に入れる人間は現れるのかもしれないね!』

 

そして、遊介たちもまた、Dボードを用意してその上に乗り、イベント戦開始の合図を待っている。

 

作戦はそれほど複雑なものにはしていない。

 

リーダーは目立つところを自由行動。そしてリーダーに迫ってきた人間を狙って、隠れながらリーダーを尾行するチームメイトが飛び出してデュエルを仕掛ける。ユートと瑠璃がライフが8000残っているので優先的に出撃する。最早作戦というに及ばない戦い方である。しかし、戦わなければ勝利はつかめない。そもそも生き残りたければ店から出なければ基本的には大丈夫だ。その中でわざわざ遊介たちは戦うことを選んだ以上は、戦うことを遠慮してはいけないのだ。だからこそ、自分から攻めるのではなく、相手を釣るだけでいい。参加者は血気盛んなデュエリストならばおのずと入れ食い状態になる。

 

そして釣り餌になってしまうのは、ここまで悪運が最高潮の彼である。

 

「……」

 

「ちょっと、勝った人がリーダーやるんでしょ。男気!」

 

「会長……鬼っすね」

 

「いいじゃない。あなた戦闘力的には一番弱いんだし、一番戦わないポジションでしょ」

 

「もし、俺に攻撃しに来たらどうするんですか……」

 

「その時は死ぬ気で勝ちなさい。あなたのペナルティで殺されたら呪い続けるから」

 

遊介はノリノリでじゃんけんに乗ってしまったことを後悔していた。三分の一であれば自分に来ることはないだろうとたかをくくっていたのだ。

 

「頑張れよー」

 

マイケルも意地悪なニヤニヤした顔を向けてくる始末で、ため息をするしかなかった。

 

「大丈夫だ」

 

「私たちもいるわ」

 

「ユート……瑠璃……お前らだけだよ。そう頼もしいことを言ってくれるのは……」

 

弱気になっているようにふるまう遊介だが、決して乗り気でないわけではない。リーダーになって、チームの名前は『players』という遊介の『遊』の字を活かした名前になっているのが気に入っている。

 

(さて……)

 

遊介は頬を叩く。その儀式は意識の入れ替え。日常モードの緩い遊介から、デュエルをするためのシャッキリした遊介に変わるのだ。

 

『リンクブレインズ第2イベント!』

 

そして開始の合図が来る。

 

「遊介。一気に上ね」

 

「分かった!」

 

ブルームガールと開始前の最後の打ち合わせが終わったと同時に、

 

『ゲーム……スタートォ!』

 

アルターの叫び声が世界に響き渡る。

 

それとともに遊介はDボードに乗って空高くへと突き進んだ。残りのメンバーは遊介と距離をとるため、2秒後に出発することになっている。

 

作戦は完璧。5人はこのままうまくいくと思っていた。それは当然である。Dボード軌道のタイムラグ2秒、そんなたった2秒の間に攻めてくる人間がいるなどとは思わない。

 

しかし、遊介の悪運はこの2秒の間にも発揮されたのだ。

 

飛び上がった遊介に、まるで彼を狙ったかのように突っ込んでくる男がいた。

 

「な!」

 

他の仲間はまだDボードを起動したばかりでスピードが出ない。この瞬間だけ、遊介を守る盾はないのだ。

 

『デュエルを申請されました』

 

非情な音声が遊介の耳に届く。この世界でデュエルを申請されてしまったら、申請した側が取り下げをしてされた側がそれを了承しない限りデュエルは決行される。

 

「くそ……えぇ!」

 

さらに遊介に突っ込んできた男は遊介のDボードに減速無しで激突してくる。遊介は走行軌道を逸らし、弾かれるだけでDボードからは落ちずに済んだ。

 

「何すんだよ!」

 

遊介の怒声に初めてその男は口を開く。

 

性別が男であることはすぐに分かった。短髪に釣り目ではないもののきつい眼差し。まるで全てを敵視する野獣の如き眼を持っている男。

 

見覚えはないが、逆に言うとここまでアグレッシブな接近をしてくるということは、遊介の知り合いであるということ。

 

(あんな赤い髪の奴知らないけどなぁ……)

 

しかし、ここは遊介たちから見ればVR世界。容姿は自由に変えることができる。

 

心のどこかで松の悪ふざけだと少し遊介は期待する。

 

しかし、すぐに返ってきた言葉にその期待はあっさりと打ち砕かれた。

 

「よお、久しぶりだな。まあ、たった1週間程度しかたってないか」

 

「……山崎」

 

遊介をいつも目の敵にして、デュエル部から追放しようとしていた遊介にとっての邪魔者。山崎和樹。声に虚構の部分がない。いつもの遊介を弱者としてしか見ていない蔑みの声を上げる。

 

「何の用だよ」

 

「俺は楽しくもない無駄なおしゃべりは嫌いなんでね。簡潔に言わせてもらうぞ遊介。せっかくのデュエルの世界だ。向こうのいざこざはいったん置いておいてやる。ただし」

 

「ただし?」

 

和樹は、帯で止められたデッキを遊介に投げてくる。

 

「今すぐサイバースデッキを捨てろ」

 

「なんだと」

 

「俺が作ったそのデッキは勝てるデッキだ。サイバースのような弱いデッキよりは百倍マシだ。たとえ向こうの世界のようなカードを集められなかったとしてもな」

 

「もし、断れば?」

 

「俺がデュエルでお前を殺す!」

 

過激な交渉を持ちかけられた遊介に、デュエルディスクから通信が入る。

 

「デッキを捨てて」

 

「ブルームガール。何を」

 

「貴方がここで無理にリスクを負う必要はないわ。そいつは私がぶっ飛ばすから」

 

「俺のカードは?」

 

「後で拾えばいいじゃない」

 

「……」

 

遊介はブルームガールを責めなかった。なぜなら彼女もまた遊介の為を思っての言葉であると分かったからだ。ブルームガールには山崎に何度も負けているという話をしている。この世界で使うデッキが変わっている可能性は高いが、性格的、もしくは運命的に相性が悪い可能性は否定されない。ならば勝てない相手と無理に戦うことはない。

 

しかし、遊介もまた、譲れないものがあった。

 

「会長ごめん」

 

「遊介!」

 

ディスクの通信を切った遊介は宣言する。

 

「和樹。デュエルだ」

 

「何?」

 

「俺はこのデッキを捨てない。俺はこのデッキが大好きだし、これは俺のデュエルへの誇りなんだ」

 

和樹は勝つためのデュエルをする男。そんな男には理解できなくとも仕方ないと遊介は思っている。遊介は憧れだけでデュエルを始めた。格好いい勝ち方はできないか、それだけが遊介にとってのデッキの研究内容だった。流行に合わせることはできる。勝つためのデッキならいくらでも作れる。しかし、本当に好きなカードを中心に、ロマンのある勝ち方はできないか。もしアニメのように、自分のこだわりを貫き続けて勝てたら、それはとても格好いいことだと遊介は思っている。

 

だからこそ、サイバースを使い始めた時に遊介は誓った。もちろん一生使い続けることはできないだろう。それでもこのデッキで何か格好いいことを成し遂げるまではずっと使い続けて、いろいろな人を驚かせてやろうと。こだわりだけでも一念天に通ずのだと。

 

「……俺はそれが気に入らないんだよ!」

 

和樹は声を荒げる。

 

「お前はデュエルが下手じゃない。特別上手いわけでもないが面白いことを考え付くタイプだ。もしも勝てるデッキを使っていれば全敗なんてあり得ない!」

 

「そんなことはない。俺はデュエルの才能は人並み程度しか持ってない」

 

「確かに人並みだが下手じゃない。だからこそ、そんな変なこだわりのせいで負け続ける姿が気に入らない。そして、それでも楽しいって言ってるのがムカつくんだよ!」

 

遊介は初めて和樹の心の内を聞いて少し驚いている。自分を全否定しているものだとばかり思っていた和樹が、まさか自分を認めてくれている箇所があるのが。

 

「こだわりで何が悪いんだ」

 

「デュエルってのは戦いだ。戦いは勝ってこそだ。プロになるならそれは当然だ。なのにお前は負けてるのにプロになろうとしてる。娯楽なら文句はなかった。けどな……、本気でデュエルをやるんなら、勝てないデュエリストはただの屑だ!」

 

和樹は感情をこれでもかと露わにして遊介に怒りをぶつける。

 

「この世界でも勝つことこそが正義だ! こだわりなんかで生きていけるはずがない! そのままじゃてめえは死ぬんだよ!」

 

「俺は捨てない。最後まで、俺はサイバースで戦う」

 

「てめえ……半端な気持ちで入ってくるなよ、デュエルの世界によぉ!」

 

遊介はディスクを構える。そしてデュエルの申請を受けた。対戦相手の名前が表示される。

 

(ヴィクター。『victor』って勝利者……だったっけ。いかにもらしいというか)

 

しかしそれだけではない何かを遊介は感じている。遠い昔の記憶になにかあったような。そんな感覚を持っていた。

 

「遊介ぇ! お前はここで殺す。殺されたくないなら勝ってみろよ! その屑デッキで。俺はお前のすべて否定してやる」

 

「ヴィクター。ここではそう呼ばせてもらう。俺はこのデッキを捨てる気はない。誇りは安く売らない。格好悪いだろ」

 

「だったら無様に負けてここで死ね!」

 

ヴィクターの保有ライフは8000.遊介の方が保有ライフの数値が低いため、自動的に最低ラインの4000がこのデュエルの賭け値になる。

 

遊介は前を走るヴィクターのDボードを追うようにスピードを上げた。空中を駆ける二人のデュエルはついに始まる。

 

これは現実世界からの因縁の一つの区切りをつける戦いになる。




さて遊介君の2戦目の相手は、現実世界で(1話)登場したっきりで今まで放っておいた山崎和樹君です。
しかし、5話にして久しぶりとか、もはやまだ出で来る様子のない、遊介の親友ポジション二人はどうなることやら、
なんか登場した時には、すでに忘れられているんじゃないかと思うとちょっと心配です。
何か手をうたなければと思うところですね。

前の話のあとがきでは、前編としてこの話を書く予定でしたが、思ったよりも短くできたので後編なしで1回の投稿ですべて書き切っています。

例によって次回はデュエル回になりますが、今回は既に次回の展開を考えてありますので、
それほどお待たせすることなくお届けできるはずです。

もしかすると自分では書いたつもりになっていて説明されてないところもあるかもしれません。
なので、質問も含め、感想を頂けると嬉しく思います。

それでは次回6話、『因縁の対決 vs帝』をお楽しみに。


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6話 因縁の対決 vs帝(前編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

いよいよ和樹とのデュエルです。
遊介は今度こそ勝つことができるのか?


【11】

 

高層ビルが立ち並ぶバトルシティ上空。そこから森林地帯に向かうようにDボードを南西に走らせる二人。二人の間にはすでに穏便に済ませる空気が生まれる余地はない。どちらかの命が削られる未来しか存在しない。

 

「スピードデュエル!」

 

和樹改めアカウント名『ヴィクター』の勢いの良い宣言でデュエルは開始される。

 

遊介 LP4000   和樹 LP 4000

 

「先攻は俺がもらう! 俺のターン」

 

ヴィクターが勢いのまま、自らの先攻を宣言した。

 

ターン1

 

ヴィクター LP4000 手札4

モンスター

魔法罠

 

フィールド

 

(ヴィクター)

□ □ □     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

□   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(遊介)

 

「俺は灼熱ゾンビを召喚」

 

因縁の戦いの先駆けを飾ったのは、体が高温で赤く染まっているアンデッドだった。

 

灼熱ゾンビ 攻撃表示

ATK1600/DEF400

 

(あのカードは知ってる。確か、墓地から特殊召喚されたとき1ドロー。デッキはアンデットか?)

 

遊介はすぐに思考を巡らすが、それはすぐに裏切られた。

 

「このカードが最初の手札にあるのは珍しい。魔法カード!」

 

勢いよく突き出されるカードに、遊介は見覚えはない。山崎和樹のデッキは何度か現実で見たことはあるが、灼熱ゾンビを召喚したことを含めて考えると、デッキが変わっていることは明らかだった。

 

「アドバンス・サモン・フォース、発動! このカードはフィールド上のモンスターをすべてリリースして発動する! リリースしたモンスターの数によって効果が変わる。1体のみの場合、デッキからレベル5、もしくは6のモンスター1体をアドバンス召喚扱いで召喚する。2体以上であれば、レベル7以上のモンスター1体をアドバンス召喚扱いで召喚する。俺が今リリースしたのは1体だ。よってデッキからレベル6のモンスターをアドバンス召喚する! これは特殊召喚としては扱わないぜ。あくまで生贄を捧げての通常召喚扱いだ」

 

「何……?」

 

その1枚はアドバンス召喚を扱うデッキに大きく影響する1枚である。遊介は現実世界での遊戯王カードの調査を怠ったことはない。しかし、そのようなカードの存在を聞いたことはなかった。

 

(もちろん俺だって全部のカードを覚えているはずはないけど。そんなに強力なカードを知らないなんてことはあるだろうか……?)

 

そして遊介は、一瞬だけ別の可能性にたどり着く。それは思考の中できちんとした言葉としてまとめられることもなかったが、遊介はそのカードをゲームのオリジナルカードだと思ったのだ。

 

その推測は遊介にとっては確信に至らないが、間違ってはいない。

 

リンクブレインズには、多くのオリジナルカードがアルターの手によって入れられている。遊介自身は気が付いていないが、遊介が最初のデュエルで使った、『サポートプログラム・サモン』もまた、オリジナルカードの1枚である。

 

「何呆けた顔してんだ?」

 

「そのカード。珍しいカードだなって思ったんだよ」

 

「くだらないことを考える前に勝つことを考えろ!」

 

ヴィクターの怒声に、遊介は不機嫌そうな顔を浮かべながらも戦闘態勢に戻る。

 

「俺がアドバンス・サモン・フォースで召喚するのは、レベル6、炎帝テスタロス!」

 

灼熱ゾンビは魔法カードの発動とともに激しい炎に覆われる。凄まじい熱に遊介が目を細める一方、焼却地に立ちはだかったのは赤い甲冑のような体躯を持つ炎の化身だった。

 

炎帝テスタロス 攻撃表示

ATK2400/DEF1000

 

「く……!」

 

遊介が苦い顔をしていたのは、そのモンスターが有名であるから、その効果を知っているが故のことだった。

 

ヴィクターは容赦なく、効果を発動する。

 

「炎帝テスタロスの効果! このカードがアドバンス召喚によって召喚されたとき、相手の手札をランダムに1枚捨てる!」

 

遊介が握る初期手札の1番右にあるカードが光を放つ。それはテスタロスに選ばれた証だった。渋々遊介はそのカードを墓地へ送った。

 

「捨てたカードがモンスターカードだった場合、そのモンスターのレベル×100ポイントダメージを与える!」

 

遊介の顔がさらに歪んだ。不運にも、遊介が捨てたのはレベル8のデュアル・アセンブルム。

 

「お前は800のダメージを受ける!」

 

炎帝からあいさつ代わりと言わんばかりの炎が放たれる。遊介にぶつかったのち炸裂。

 

「ぐあ……!」

 

火傷を間違いなく確信する高熱を肌に感じ、肌が焼かれる感覚を初めて味わった事で、命の削り合いであることを再確認することになる。

 

遊介 LP4000→3200

 

ヴィクターはそれを見て満足そうに、一瞬唇を端を吊り上げた。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ! エンドフェイズ、アドバンス・サモン・フォースでアドバンス召喚したモンスターは手札に戻る」

 

炎帝は光の粒子となり消え、その粒子はカードの形になってヴィクターの手に渡った。

 

(やっぱ強いな……)

 

遊介は今から戦う相手の強さを再確認する。

 

不意に後ろを見ると、マイケルが心配そうに遊介を見ていたのに気が付き、遊介は心配ないことを手の合図を使い意思表示をする。

 

しかし、やはり焼かれた場所は痛む。遊介はその場所をさすった。

 

それを見ていたヴィクターの脳裏にある映像が蘇る。

 

(……弱い奴だな)

 

脳裏に浮かんだのは幼い頃の記憶だった。

 

和樹には現実世界で憧れていたプロデュエリストがいた。デュエルをエンターテイメントとして、殺伐とした戦いが行われるデュエルの世界で異彩を放つ戦い方だった。それがなんと派手だったことか。観客を魅了するサーカスのようなデュエルの在り方に、和樹は憧れた。

 

しかし、そのデュエリストは、すぐにいなくなる。なぜなら、勝てなかったから。勝つために行われているプロのデュエルは、まるで命を削り合うようなデュエルが観客を魅せる主流であった。異彩は叩かれるもの、そのうえでちっとも勝てないその男は激しい糾弾の的となった。

 

ファンはどんどんと少なくなり、やがて和樹を含めても10程度。他の観客はその革命を起こそうとした男を徹底的に消そうとした。

 

プロは徹底的に負かし続けた。観客は勝つことこそが至上という空気を会場に浸透させて、楽しいデュエルを否定し続けた。マスコミはいらぬ風評を広め続けた。

 

社会的にその男を消そうとしたのだ。

 

(……あいつも奴と同類だ。そんな腐った奴がプロを目指していいはずがない)

 

ヴィクターとして戦っている最中の今の頭には、そんなことが思い浮かんでいた。

 

ヴィクター LP4000 手札1

モンスター

魔法罠 伏せ2枚

 

(ヴィクター)

■ ■ □     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

□   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(遊介)

 

ターン2

 

一方で、遊介は先ほどの痛みに慣れた頃に自らのターンを開始する。

 

「俺のターン! ドロー!」

 

遊介 LP3200 手札4

モンスター

魔法罠

 

(ダメージは受けた。伏せもある。だが、攻めないわけにはいかない)

 

遊介は1週間の訓練の成果を今こそ発揮すべきだと、己の闘志を燃やす。そして、

 

「負けたら迷惑がかかるどころじゃない。誰かを殺すことだってあり得るんだ。そんなこと、絶対にさせない!」

 

リーダーであるその重責が、目に闘気を宿らせる。

 

「俺は魔法カード、ワンタイム・パスコードを発動! 自分フィールド上にセキュリティトークン1体を特殊召喚する!」

 

遊介の場に最初に現れたのは、絵柄とは相反するメカメカしい見た目のトークンだった。

 

セキュリティトークン 攻撃表示

ATK2000/DEF2000

 

「現れろ! 未来を導くサーキット!」

 

リンク召喚のためのゲートが遊介の目の前に現れる。

 

「召喚条件は通常モンスター1体! 俺はセキュリティトークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、リンク・スパイダー!」

 

トークンがゲートに入るとともに、ゲートが輝く。現れるのは藍色の体と青いラインが特徴のクモ型のモンスターだった。

 

リンク・スパイダー

マーカー 下

ATK1000/LINK1

 

ヴィクターの罠は発動しない。これで召喚に対する罠である可能性が薄いことを一安心し、遊介はさらに仕掛ける。

 

「リンク・スパイダーの効果! 手札のレベル4以下の通常モンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚する。俺は手札のビットロンを特殊召喚!」

 

白いボディ、顔の黒の部分に目立つつぶらな瞳。サイバースデッキのマスコットの1体である。

 

ビットロン 守備表示 

ATK200/DEF2000

 

「まだ続けるぞ。俺は墓地のデュアル・アセンブルムの効果を発動する! 手札及び自分フィールド上の表側表示のモンスターの中から、サイバース族モンスター2体を除外して発動する。俺は手札のストライピング・パートナーとドットスケーパーを除外。墓地のこのカードを特殊召喚できる! ただしその攻撃力は半分となる」

 

手札2枚を除外すると同時に、遊介のフィールドに地面と平行な黒い穴が現れた。そこから、赤と青の二色の体をもつレベル8モンスターが浮上してきた。

 

デュアル・アセンブルム 攻撃表示

ATK2800/DEF1000

 

デュアル・アセンブルム ATK2800→1400

 

「さらに、ドットスケーパーの効果! 除外された時、このカードをフィールド上に説く召喚できる!」

 

ドットスケーパー 守備表示

ATK0/DEF2100

 

遊介は間髪入れずに、さらなる召喚を宣言した。

 

「現れろ! 未来を導くサーキット!」

 

再び、今度は上空にリンク召喚の兆しとなる証が現れる。

 

「召喚条件はサイバース族モンスター2体! 俺は、ビットロン、ドットスケーパーをリンクマーカーにセット! リンク召喚、リンク2、ハニーボット!」

 

蜂の姿をしたサイバースの使者が飛んで降りてきた。

 

ハニーボット

リンクマーカー 左 右

ATK1900/LINK2

 

そして、遊介はまだ止まらない。

 

「三度現れろ! 未来を導くサーキット!」

 

遊介は三度開いた召喚ゲートを確認し、自らのエースモンスターを呼ぶ口上を叫ぶ。

 

「召喚条件は効果モンスター2体以上! 俺はデュアル・アセンブルムとリンク2のハニーボットをリンクマーカーにセット!」

 

2体の効果モンスターがリンクマーカーへと吸い込まれていく、そして中央の召喚地点が光輝く。

 

「リンク召喚! リンクスパイダーのリンク先に現れろ! リンク3、デコード・トーカー!」

 

長い過程の先に、ついに遊介のデュエルを支える、サイバースのエースモンスターが、紫の大剣を携えて降臨した。

 

デコード・トーカー

リンクマーカー 上 左下 右下

ATK2300/LINK3

 

「出たな……!」

 

ヴィクターが最大の警戒を見せた。しかしその内心は少し感心している。1ターンでエースモンスターを召喚するとは思っておらず、流れるように召喚を成功させた事は賞賛に値すると思っていた。

 

「デコード・トーカーの効果。このカードのリンク先にモンスターが存在するとき、1体につき攻撃力が500アップする! 上のリンク先にリンクスパイダーがいる。攻撃力を500アップ。パワーインテグレーション!」

 

デコード・トーカー ATK2300→2800

 

「なるほどな。1ターンでエースを出せたことは褒めてやる」

 

「お前に褒められても嬉しいとは思わないな」

 

「そうか。さっさとかかってこい」

 

まるで攻撃を誘導するかのような口ぶりであり、伏せカードを警戒したが、

 

(攻撃は防がれるかも知れない。だが、それを考えて、攻撃の手を緩めてたらいつまでたっても勝てない。勝つためには攻める!)

 

遊介は相手に2枚の伏せがあっても攻撃をするか迷わなかった。すぐにバトルの宣言を行う。

 

「バトルだ! まずはリンクスパイダーでダイレクトアタック!」

 

遊介の攻撃に対してヴィクターは直接攻撃を宣言されていても落ち着いている。

 

それは、この瞬間がヴィクターの伏せカードが発動する瞬間だからだった。ヴィクターは手を前に突き出し、罠の発動を宣言した。

 

「罠カード! ピンポイント・ガード! 相手モンスターの攻撃宣言時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を選択して発動する! そのモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。俺は墓地の灼熱ゾンビを特殊召喚!」

 

「……灼熱ゾンビを蘇生……」

 

ヴィクターのフィールドに黒い穴が開き、そこから赤いゾンビが這いずり出てくる。

 

灼熱ゾンビ 守備表示

ATK1600/DEF400

 

「そして、ピンポイントガードで召喚されたモンスターはこのターン。戦闘、効果では破壊されない!」

 

ヴィクターのカード説明に、遊介は歯を食いしばるしかなかった。ヴィクターが言ったことを言い換えると、このターン攻撃は通らないということ。せっかく召喚したデコードトーカーも攻撃できないのでは意味がない。

 

ヴィクターの狙いはそれだけではなかった。

 

「さらに、灼熱ゾンビが墓地から特殊召喚されたため、カードを1枚ドローする!」

 

その宣言とともに、ヴィクターは思い切りカードをドローした。手札補充までを考えての灼熱ゾンビの採用と、ピンポイントガードによる防御。

 

(勝つためのデュエル……本気だからこそ、あらゆるところでより勝つための1手を打てるようなデッキ。発売自体は昔のカードばかりを使っているけど、それを最大限まで生かそうとしている戦い方だ。……悔しいけど、これは相手が一歩先に行ってるってことか)

 

遊介はダメージを与えられなかったことへの残念な気持ちによるため息をつく。

 

「これでターンエンドだ……」

 

遊介はこのターン、何もできずに相手にターンを渡した。

 

遊介 LP3200 手札0

フィールド ①リンク・スパイダー ②デコード・トーカー

魔法罠

 

(ヴィクター)

□ ■ □     魔法罠ゾーン

□ ③ □     メインモンスターゾーン

□   ①     EXモンスターゾーン 

□ □ ②     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(遊介)

 

ターン3

 

「俺のターン!」

 

 

有利な流れに乗るように、ヴィクターの声のボルテージが少し上がっている。

 

「俺は墓地のアドバンス・サモン・フォースの効果を発動する! ドローフェイズ、通常はデッキから1枚ドローをするが、その代わりに、このカードを墓地から手札に加えることができる!」

 

「何!」

 

強力な効果に対する遊介の驚きように、

 

「これで俺はまたデッキからアドバンスができる」

 

と自慢げに語るヴィクター。

 

ヴィクターがモンスター効果を使ってまでドローをする手段を得たのはこのため。通常のドローは、アドバンス・サモン・フォースを手札に戻す効果でできなくなるので、手札を補充し戦力を強化するためには、通常のドローの他にドローをする必要があった。

 

墓地から戻ってきた魔法カードをヴィクターは再び手に握る。

 

ヴィクター LP4000 手札3

モンスター ③灼熱ゾンビ

魔法罠 伏せ1

 

悔し気な顔を浮かべる遊介にヴィクターは言う。

 

「所詮貴様はその程度だ。くだらないプライドを捨てられなかった者の末路だ! このターンでお前を殺す!」

 

「なんだと?」

 

「デコード・トーカーごときを俺が突破できないとでも?」

 

「な……」

 

衝撃の宣言に、半信半疑の遊介。そんな彼には目もくれず、再びヴィクターは先ほど手に戻した力を発動する。

 

「魔法カード! アドバンス・サモン・フォース! 俺は灼熱ゾンビをリリース。1体リリースのため、デッキからレベル5、または6のモンスターをアドバンズ召喚扱いで召喚する! 俺は光帝クライスをアドバンス召喚!」

 

ヴィクターが手を大げさに天へと伸ばした。それと同時に光が天より降り注ぐ。その中央に呼び出したモンスターがいたのだ。

 

光帝クライス 攻撃表示

ATK2400/DEF1000

 

(攻撃力はデコードトーカーが上回ってる……なんて楽観視はできないよな……)

 

なぜなら、リンクスパイダーが破壊されると、デコードトーカーのリンク先にモンスターがいなくなるため攻撃力が元に戻る。2300では攻撃力としては少し頼りない。

 

「光帝クライスの効果を発動する! 召喚、特殊召喚に成功した時フィールド上のカード2枚を破壊できる! 俺は当然、お前のフィールド上のリンクスパイダーとデコードトーカーを破壊!」

 

(あ……そうだった!)

 

自らの記憶力のなさを恨む遊介に慈悲はない。

 

光の帝王は右と左に光の玉を生成する。それを魔法のように腕を動かさずして発射すると、デコードトーカーとリンクスパイダーを光の爆発によって焼き焦がした。

 

「く……」

 

フィールドが真っ白になってしまった遊介は顔を歪めるのは仕方のないことである。

 

しかし、そんな遊介に吉報がもたらされる。

 

「だが、光帝クライスの効果でカードを破壊されたプレイヤーは、その数につき1枚カードをドローする。お前をカードを2枚破壊したんだ。2枚ドローしろ」

 

遊介は言われるがまま、カードをドローした。

 

(手札も場も0は逃れたけど……このターン耐えられなければまずい……)

 

引いたカードを心配そうに見る遊介。

 

「そして、光帝クライスはこのターン攻撃にできない」

 

その言葉を聞き、安堵の表情を浮かべる遊介を見ながら、ヴィクターはまたも、かつての憧れのデュエリストを思い出していた。

 

そのデュエリストは、あらゆる逆境を前にしても心は折れなかった。自分のデュエルを貫き続けた。誰に笑いものにされようとも、己の生き様は変えなかったのだ。いつか自分が認められると信じて。

 

しかし、勝てないプロに居場所はない。徐々に活躍の機会を奪われ、お金に困るようになったそのデュエリストはついに、ある賭けを強要される。それは、勝てばプロ続行。負ければ、その場でデッキをシュレッダーにいれるというもの。

 

本来は許されるはずもないが、それを許したのはやはり世論だった。弱い人間はさっさとやめろ。強者が絶対、勝利だけが価値あるものである。そんな風潮が、彼の生存を絶対許さなかった。

 

勝つためのデュエルをしてこなかったそのデュエリストは、勝たなければならない時でも、勝つための覚悟がなかった。悪い意味で彼は最後までその戦い方をやめられなかったのだ。ダメージを第一優先にしていれば勝てたのに、場を盛り上げようとするために、あえてプレイングを甘くして負けた。

 

そしてすべてを奪われたのだ。そのデュエリストの夢見た世界はそこにはなく、

 

(よく似てる。見ていてムカつくんだよ。苛々するんだよ!)

 

ヴィクターの眉間にしわが寄る。

 

怒りと苛立ちが溢れる衝動を、攻めを緩めるつもりはなかった。

 

(後編へ続く)




お読みくださってありがとうございました。
今回も長くなってしまったので後編があります。
ぜひお読みください。


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6話 因縁の対決 vs帝(後編)

詳しい前書きは前編にあります。
前編の続きです。
お楽しみください!


(前編の続きです)

 

「俺はまだ通常召喚を行っていない! 俺は先ほど手札に戻した、炎帝テスタロスを、クライスを生贄にアドバンス召喚!」

 

「く……!」

 

光の帝の覆うように炎の柱が上がる。遊介は降りかかる火の粉を払いながら再び炎の中より出でる炎帝をただ見るしかない。

 

炎帝テスタロス 攻撃表示

ATK2400/DEF1000

 

「テスタロスの効果は覚えているな!」

 

「手札のカード1枚をランダムに選んで捨てる……」

 

「捨てろ!」

 

先ほど光帝の効果でドローしたうちの右のカードが爆ぜる。

 

「だが……これは罠カードだ。ダメージは受けない」

 

「必要ない! スキル発動! ヴィクトリーエンド!」

 

「な……?」

 

「遊介! 俺はお前を認めない。お前がそのくだらない誇り、プライドを捨てない限り、俺はお前を否定してやる!」

 

「俺に何のプライドがあるっていうんだ!」

 

「デュエルを楽しもうなんて精神、そして、デッキへの愛着という言葉で飾っただけの執着。それはお前が勝つことを真に望んでいない証拠だ。デュエルに対して真剣に向き合っていない証拠だ。そんな奴がこのデュエルの世界に生きていていいはずがない。死ね!」

 

「俺が、デュエルに真剣になってないだと……」

 

「そうだ! お前は結局ただ遊びでデュエルをしている! 本気などではない!」

 

ヴィクターは怒り狂ったその激情をぶつける。

 

それはいつものことだった。

 

遊介もいつものように流すつもりだった。

 

しかし、人間の感情の許容量には限界があるというのか。

 

あまりに唐突に、遊介の何かが壊れた。

 

(なんだよ……)

 

遊介は思う。なぜ彼は自分を恨むのかと。なぜ勝手に恨まれて嫌な気分にならなければならないのかと。なぜ、そんな私怨で傷つかなければならないのかと。

 

(どうしてこんなに嫌な思いしなくちゃいけないんだよ……)

 

戦うことを選んだのは遊介自身の意思によるもの。そこにどれほどの痛みが伴ったとしても文句はない。

 

しかし恨まれることを選んだ覚えはない。結局は山崎が言っているのも単なる私情を混ぜた子どもの我が儘に聞こえ、虫唾が走る。

 

そう、苛立ちを覚えたのだ。それは初めての出来事だった。もちろん人生で初めてだったわけではない。しかし、デュエルをしている時はいつも楽しかった。怒りなど覚えなかった。

 

勝たなければ死ぬという恐怖。

 

誰かを殺してしまうという重責。

 

罵倒され続けたことへの苦痛。

 

自らを否定され続けた憤慨の蓄積。

 

あらゆるものが偶然の一致で、遊介の中で爆発した。

 

「俺のスキルは自分フィールドのカード1枚を破壊し、自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力を1000アップさせる! 俺は伏せているカードを1枚破壊して、テスタロスの攻撃力を1000アップする! そして、このターン! 相手はフィールド上のカードの効果を発動できない!」

 

炎帝テスタロス ATK2400→3400

 

ヴィクターのこのスキルは勝利宣言に等しい。ヴィクトリーエンド。勝利への終撃。この一撃こそが遊介を叩き潰す一撃である。

 

「炎帝テスタロスで、ダイレクトアタック!」

 

炎帝は己の内より炎を生成し、大きな火炎の濁流を引き起こす。それは易々遊介を飲み込む。

 

「遊介くん!」

 

遠くで悲鳴に似た叫びを、ヴィクターは聞いたが、それに些細な興味すら抱かない。

 

爆炎が遊介を飲み込み、そして消滅させる。

 

遊介は死なない。その代わり誰かが死ぬ。それがリーダーの責任である。

 

ヴィクターはまだその事実を知らないわけだが、遊介が死んでも、他人が死んでも、ヴィクターにはどうでも良かった。他人が死んだら、それはそれで、己の弱さを呪い絶望する。それはそれでいい方向に転ぶはずだと思っていたからだった。

 

「呪えよ。死ぬのは」

 

「誰が死んだって?」

 

炎が消え、その煙の中から声が聞こえる。勝ったつもりになっていて、ヴィクターは相手のライフの減少を最後まで確認していなかったのだ。

 

遊介 LP3200→100

 

理不尽なライフ減少の停止を確認して、言葉を失うヴィクター。しかし、その後煙の中から現れた遊介を見てヴィクターは開いた口がふさがらなかった。

 

「アンダーフロー・エクスチェンジャーの効果。自分のライフが100以下になるダメージを受けた時、手札のこのカードの効果を発動する。戦闘ダメージを0にして、自分のライフを100にする。その後、このカードを特殊召喚」

 

アンダーフロー・エクスチェンジャー 攻撃表示

ATK100/DEF100

 

ヴィクターが遊介をみて驚いた理由。

 

それは、遊介の目にこれまでとは違う何かが宿ったからだった。ヴィクターを凍らせたのは、目に宿ったそれが、殺意に似た何かであることは分かったからだ。

 

「殺気から黙っていれば……。俺がデュエルに真剣に向き合っていないだと? ずいぶんと喧嘩を売ってくれたな?」

 

「……それがどうした。事実だ……」

 

遊介の顔を見つめて、ヴィクターは、口の形を歪ませた。それは狂喜しているというのが一番わかりやすい表現だろう。

 

遊介にとってデュエルは人生を支えてきた重要なファクターだ。そしてたとえ弱くても、全身全霊で、俺が自分で考えた方法で理想を追求してきた。

 

それを否定された遊介は、どうしても許せなかった。

 

いつもは我慢できたのだ。なぜなら現実では、デュエルは所詮部活だった。だからそんなことにそこまで本気にならなくてもいいと思ったのだ。

 

しかし、ここはデュエルの世界。デュエルがすべてだ。その世界で己の人生を侮蔑された。

 

だから遊介は、

 

「お前に語られるほどの覚悟で俺はデュエルをしていない」

 

表情に本当の憤怒を宿らせたのだ。

 

「勝つぞ。俺は勝つ。俺は否定されたままで終わるつもりはない!」

 

遊介は開いた手を突き出す。

 

「アンダーフロー・エクスチェンジャーの効果! 自らが特殊召喚に成功した時、俺は手札が2枚になるようにカードをドローする! 俺の手札は0だから、カードを2枚ドローする!」

 

今までの中で一番乱暴にカードを引いた。

 

(……いいぞ)

 

ヴィクターは狂喜を押さえられなかった。初めて見た遊介の本気を感じられる瞬間。目に激情を宿し、本気でデュエルに挑む姿。それこそヴィクターが、そして山崎が見たかった姿だった。すまし顔ではない、感情を荒ぶらせて、戦いに興じる、真の決闘者としての姿。その姿をずっと見たかったのだ。

 

(それだ。楽しいデュエルなど弱者の吐く言葉だ。その目をして命を削る姿が、勝者として正しい姿だ!)

 

「俺は負けない。殺させない。俺が負けたら誰かが死ぬ。そんなの絶対に認めない!」

 

「なら見せろ! お前の本気をさぁ! デッキなら今から変えてもいいぜ」

 

「必要ない!」

 

「ほう? 負けたら死ぬのにか?」

 

「その証拠を今から見せてやる!」

 

「そりゃ楽しみだ。どのみち、耐えられた以上、俺はこれ以上の攻撃ができない。だが、炎帝は今回は通常の召喚だ。先ほどみたいに戻りはしない。ターンエンドだ」

 

ヴィクターの拍動が加速する。

 

通常を装いながら、次のターンに遊介が何をするか楽しみであったことを示している。

 

ヴィクター LP4000 手札1

モンスター ④炎帝テスタロス

魔法罠

 

(ヴィクター)

□ □ □     魔法罠ゾーン

□ ④ □     メインモンスターゾーン

□   □     EXモンスターゾーン 

□ □ ⑤     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(遊介)

 

ターン4

 

「俺のターン! ドロー!」

 

遊介は勢いよくカードを引いた。

 

遊介 LP100 手札3

モンスター ⑤アンダーフロー・エクスチェンジャー

魔法罠

 

遊介は、引いたカードを一瞥すると、なんのカードも取らずに遊介は前を向く。

 

(……なんだ?)

 

後ろから迫ってくる轟音に気づき、ヴィクターは後ろを向いた。

 

ヴィクトリーエンドがヴィクターを象徴するスキルならば、これはこの世界では遊介の象徴であるスキル。

 

データの竜巻が吹きすさぶ。それは天空を貫く一つの槍であり、データの集合体であるその旋風は新たな生命を作り出す機構。

 

遊介はそこへ迷いなく飛び込んだ。

 

「おい! 自害するつもりか!」

 

「そんなつもりはない! スキル発動。ストームアクセス! 自分のLPが1000以下のとき、データストームから、ランダムにモンスター1体をエクストラデッキに加える!」

 

遊介は命が流れる奔流へと手を伸ばした。

 

「風を掴む! ストームアクセス!」

 

遊介の叫びにデータストームが反応する。遊介の手に新たなエースモンスターが宿る。

 

遊介は、手の中に現れた新しい可能性をしっかりと掴み、そのカードを見た。

 

(順番が違うけど……まあ、何もかもが同じじゃつまらないし。それにこのカードなら正直助かるな)

 

現れたカードの評価を終えると、遊介はデータストームの中から脱出する。

 

「……なるほど。運だよりってか?」

 

嘲笑を浮かべるヴィクターを、遊介の目はすでに捉えていなかった。

 

自分から湧き出る勝利への渇望に身を任せながら手を打つ。

 

「現れろ! 未来を導くサーキット! 召喚条件はレベル2以下のサイバース1体! 俺はレベル1、アンダーフロー・エクスチェンジャーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来い、トークバック・ランサー!」

 

トークバック・ランサー

リンクマーカー 下

ATK1200/LINK1

 

遊介の場に新たな戦士が現れる。勝利への布石への1体目。

 

「そして手札のサイバースガジェットを召喚! 場所はトークバックランサーのリンク先ではなく、真ん中だ」

 

2体目。

 

サイバースガジェット 攻撃表示

ATK1400/DEF300

 

「サイバースガジェットが召喚に成功したとき、自分の墓地のレベル2以下のモンスターを特殊召喚する! 俺はビットロンを墓地から説く召喚。場所はトークバック・ランサーのリンク先だ!」

 

3体目。まだ遊介の手は緩まない。

 

ビットロン 守備表示 

ATK200/DEF2000

 

「トークバックランサーの効果を発動する! リンク先のサイバース族モンスター1体をリリースし、墓地のコード・トーカーモンスター1体を特殊召喚する! 俺はビットロンをリリース! 戻ってこい、デコードトーカー!」

 

白い妖精が闇へと消え、その場所に遊介のエースは帰ってきた。4体目。

 

デコード・トーカー

リンクマーカー 上 左下 右下

ATK2300/LINK3

 

「デコード・トーカーの効果! リンク先、つまり上にモンスターが存在する。攻撃力を500アップ!」

 

デコード・トーカー ATK2300→2800

 

しかし。遊介のエースを召喚しても届かない。

 

ヴィクターはそれを堂々と宣言する。

 

「俺のスキル。ヴィクトリーエンドを受けたモンスター攻撃力は下降していない。その程度ではまだ足りない!」

 

遊介はヴィクターをここで初めて視界に入れる。

 

そして質問をした。

 

「どうしてここまで俺を嫌うんだよ」

 

「嫌っているんじゃない。俺は……くだらないプライドで勝利をつかみきれないお前を認められないだけだ」

 

「どうしてそれが気に入らないんだよ」

 

「むかつくんだよ。あいつを見てるようでな」

 

ヴィクターはその『あいつ』を思い出したのか一気に不機嫌そうになった。

 

その時、遊介は不意に思い出す。

 

「……プロデュエリスト、エンダートのことか?」

 

「な……」

 

図星な回答を受け、驚きのあまりに目を見開くヴィクター。

 

「何故知ってる。あんな弱者を」

 

「知ってるさ。俺も憧れてた。勝つのも格好いいけど、自分の信念を曲げずに戦い続けるその姿。俺は最後まであの人のファンだった。……あの事件は心底恨んだよ」

 

「お前……お前に……!」

 

「憧れたから、そう戦おうと思った事もあった。さすがに何もかもそのままとはいかなかったけど、俺は信念だけは貫くデュエルをしようって。いまでも影響されてるよ。俺はサイバースで戦うという信念はあるつもりだ。最初に新たな種族として発表されたときに一目惚れのように俺の心は震えた。その感動を胸に戦うってことだけは、今の俺の信念だ」

 

「……く……」

 

ヴィクターは遊介を否定しなかった。

 

「お前もファンなのか?」

 

遊介の問いに、

 

「そうだった」

 

過去形で応えるヴィクター。だった、という言葉を不思議に思った遊介にヴィクターは言う。

 

「勝てないから消された。あの人は勝てたはずなんだ。なのにデュエルを盛り上げようとするあまりに……。だから、俺はあんな道は行かない。俺まで同じ道を辿ったら、あの人の犠牲が無駄になる。だから俺は、勝ちにこだわらない奴は嫌いだ」

 

「……安心しろ」

 

「何を?」

 

「俺は勝つ。そうすれば文句はないだろう?」

 

「そこからどう勝つんだ? すでに召喚は終わった」

 

「まだ手札がある」

 

遊介は手札のカードの中から右のカードを選び、見せる。

 

「バックアップ・セクレタリーはフィールド上にサイバース族モンスターがいるとき、特殊召喚できる!」

 

現れるのは、紫の秘書風の女性。5体目。

 

バックアップ・セクレタリー 攻撃表示

ATK1200/DEF800

 

そしてこの瞬間、準備は整った。

 

「現れろ! 未来を導くサーキット!」

 

召喚のためのゲートが開く。

 

「何を……というのは具問だな。ストームアクセスで手に入れたカードだな」

 

「そうだ。アローヘッド確認! 召喚条件はモンスター3体! 俺は、トークバックランサー、サイバースガジェット、バックアップ・セクレタリーをリンクマーカーにセット!」

 

宣言したモンスター3体がサーキットへと入っていった。

 

「リンク召喚! 来い! リンク3、パワーコード・トーカー!」

 

そして3つのマーカーが輝いた中央から、赤い甲冑を来た戦士が現れる。2体目の遊介のエースモンスターとして顕現する力の戦士。

 

パワーコード・トーカー

リンクマーカー 左 左下 右

ATK2300/LINK3

 

「攻撃力2300? パワーという割にはずいぶん弱い攻撃力だ」

 

煽りを無視し遊介は続ける。

 

「そしてサイバースガジェットがフィールド上から墓地へ送られたとき、自分フィールド上に、ガジェットトークンを特殊召喚する。俺は、パワーコード・トーカーの左下リンク先に特殊召喚する」

 

ガジェットトークン 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

6体目と7体目。

 

「だが、炎帝を超える攻撃力はいない。結局お前はその程度か。あれほど大きな口をきいておきながら……失望したぞ」

 

ヴィクターの目に失望と怒りの色の灯が灯る。

 

しかし――。

 

(……なぜ)

 

遊介の目は死んでいなかった。

 

「言ったはずだ。俺は勝つ」

 

そう言うと、

 

「バトルだ!」

 

戦闘を開始する宣言をしたのだ。

 

「自害か?」

 

「それはパワーコード・トーカーの効果を見てから言ったほうがいい。俺はパワーコード・トーカーで炎帝テスタロスを攻撃!」

 

赤と赤がぶつかり合う。炎帝はその力を解放し、炎を生成し始めた。

 

一方、パワーコード・トーカーは特に何かを出すわけでもない。ただ、相手へ突っ込んでいく。

 

「迎え撃て、テスタロス!」

 

ヴィクターの号令とともに炎が発射される。火炎放射は遊介が想像したよりも大きく、些細な動揺はしたが、ひるむほどではなかった。

 

なぜなら、勝利するのは自分だと信じていたからだ。

 

「自分の弱さを呪え!」

 

「パワーコード・トーカーの効果! 1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に、このカードのリンク先のモンスターをリリースして発動! このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、元々の攻撃力の倍になる! 俺はリンク先のガジェットトークンをリリース!」

 

「な……にぃ!」

 

パワーコード・トーカー ATK2300→4600

 

火炎放射の中を勢いを落とさず進む赤の戦士は、遂に炎帝を攻撃射程範囲に捉えた。

 

「パワーターミネーションスマッシュ!」

 

赤の電脳の戦士から突き出された拳。間違いなく炎帝に直撃し、衝撃は風に現れ、その風と共に炎帝は墜落していく。

 

(勝)パワーコード・トーカー ATK4600 VS 炎帝テスタロス ATK3400(負)

 

「ぐ……」

 

ヴィクター LP4000→2800

 

「2800……?」

 

ヴィクターは、ここで気が付いた。遊介の勝つという宣言は嘘ではなかったと。その目に宿った勝利への本気は嘘でなかったと。

 

「俺にはまだ、デコード・トーカーの攻撃が残っている! デコード・トーカーのリンク先には今はパワーコード・トーカーがいる。攻撃力は2800のままだ」

 

「ち……!」

 

舌打ちをしたヴィクター。顔は自らの敗北が決定的であることに対して、悔しさによる歪みを隠せなかったが、唇の端はつり上がっていた。

 

「行け! デコード。トーカー!」

 

紫の戦士は、天高くに向け剣を掲げる。それは己の主への勝利への祝いなのか。

 

初めに海堂セイトと戦い、完全に負けた。

 

ユートとのデュエルも勝てた事がなかった。

 

この世界で敗北し続けた遊介。勝利など最早ないと他人には評されても仕方がない。

 

しかし、この瞬間から、遊介は変わる。

 

「デコード・トーカー!」

 

自らのもう1体のエースに、ヴィクターを指さしながら指示をする。

 

「ヴィクターへダイレクトアタック! デコード・エンド!」

 

ヴィクターに接近した紫の戦士。その大剣が振り下ろされた。生体反射によりDボードを無意識に動かしたため、体が真っ二つになるような斬撃は受けなかったが、

 

「ぐああああ!」

 

体の胴体を大きく斬り裂かれたのは間違いがなかった。大きな衝撃になんとかDボードから墜落せずに耐えきったが、ヴィクターは、ボードの上に屈みこんだ。

 

ヴィクター LP2800→0

 

「どうだ……勝ったぞ!」

 

遊介は、『勝利者』に対して、自らの『LINK VRAINS』初の勝利を宣言した。




お読みくださってありがとうございました。
ようやく主人公白星ですね。やはり主人公が勝つ話を書き切るとすっきりした気分になります。
今回早くお届けできると言ったのですが、いざ書いたら30000文字を超えちゃったので、展開から見直して執筆しました。そのため早くお届けできなかったことをお詫び申しあげます。

今回のデュエルはどうでしたか?
アニメでは2体目のコードトーカーはエンコードでしたが、こちらはパワーコードが2体目です。こんな感じで何も昔のカードから順に出そうとはしていないです。順にすると、トークバック・ランサーとか今出していいのかということになってしまいますしね。

アドバンス・サモン・フォースは、昔自分で考えた初めてのオリジナルカードです。効果は多少強いように思われるかもしれませんが、そこは若気の至りということでご容赦ください。ちなみに山崎君は、この魔法をもっと使ってもらうために、まだまだ活躍してもらう予定です。

後学のために感想を頂けると幸いです。よろしくお願いします。

さて、イベント戦の初戦が終わりました。次はさっそく第2戦に行きたいと思いますが、第2戦はさらに強敵を出す予定です。
次回7話「銀河眼の力宿す者」もお楽しみに!


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7話 銀河眼の力宿す者

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

イベント戦2戦目です。
タイトルから分かるように遂に奴が登場?
「クロスオーバーなら融合、シンクロ勢も出せ」とこれを見た知り合いに言われてしまいました。
ちゃんと出てきます。もう少しだけお待ちください……。


【12】

 

(第1階層 天空の聖域 ヴァルハレミニア)

 

遊介とヴィクターの戦いは終わった。バトルシティの上空を走った2人の戦いはいつの間にか街を越え、エリアとエリアを繋ぐ道路の上を走り抜けた。そして終着点は標高1000メートル程度の山が見えるようになった麓。接続の道が緑豊かな農耕地区になっていたことと、そして白の石造りの町が見えたことから、遊介はここが天空の聖域エリアであると判断した。

 

リンクブレインズには、遊介が最初に降り立ったバトルシティの他にも6つの属性をイメージしたエリアが存在する。それらはバトルシティを囲むように隣り合わせで存在して、エリアの間には幹線道路が繋がっている。

 

炎の世界。生命が生きることが許されない灼熱の溶岩地帯。『煉獄の聖域ムスペル』

 

水の世界。広がる海と氷の大地。そしてその下に存在する都。『恩恵の聖域アトランティス』

 

風の世界。底なしの谷に吹く暴風が人の住まう大地を浮かせる。『飛翔の聖域ミストバレー』

 

地の世界。荒野と岩山が広がり、旧文明の足跡が各地に残る。『伝説の聖域ナスカ』

 

闇の世界。地上は黒い霧と彷徨う死霊、地下は地上に戻れぬ迷宮。『暗黒の聖域ネクロリンド』

 

光の世界。神や天使を振興する白の聖域と、天に住まう天使の共存。『天空の聖域ヴァルハレミニア』

 

この6つの世界に加えて、中央に存在するバトルシティの7つのエリアが『LINK VRAINS』第1階層と呼ばれる世界のすべてだ。

 

天使を信仰すると言われる、光の世界の玄関口。白や黄色の聖っぽさを表す神殿と、住民の白い家の家が混ざり合って共存しているこの町の名前は『ユグドミレニアス』。街並みはあまりに白く、日光の反射が凄まじい。当然このような争いが嫌いそうな町でも、決闘のルールは生きている。この町を拠点としているデュエリストが戦いを繰り広げていることに変わりはない。

 

大きな白い門の入り口で、遊介とヴィクターは一度地面に着地する。入り口は、これもまた純白の橋がかけられていて、靴の汚れがあれば目立って仕方がない。

 

「負けたな……」

 

しかし、ヴィクターの表情は清々しさを表しているように遊介には見えた。ディスクには勝利の報酬であるマネーポイントと、経験値という今まで見たことのない数値が上昇を始めている。

 

遊介はディスクの画面に経験値の説明欄を出した。

 

一般的なRPGゲームにある、レベル、経験値とほぼ同じだ。デュエルにをすれば経験値がもらえる。数値は相手のレベルによるものの、負けるより勝った方がもらえる。ある程度経験値をもらうとレベルアップができ、自分のスキルが増えたり、保有LPの最大値やアイテムが支給されたりするらしい。

 

(こういうところはゲームっぽいんだな……)

 

アルターの思惑が分からず首を傾げる遊介。しかし、そもそも精神異常者にしか見えない男の思考が理解できたらそれこそ自分も同類では、とも考え、それ以上考えるのをやめた。

 

遊介のレベルはまだ2には上がらない。経験値は初戦の100に加えて今回400で合計500。そして最初のレベルアップに必要なのは1000。つまり残り2回戦えば上がると遊介は考える。ついでに自分のチームの成績を見ると、

 

(14人で現在13位……俺まだ1人しか倒してないのに)

 

ヴィクターと戦っている間義務を果たしていた仲間に頭が上がらない事実を突きつけられた。

 

「これで満足か、ヴィクター?」

 

不愉快な顔をして遊介は自分を襲撃した男に訊く。

 

「いや。満足はしてない」

 

と遊介にとっては胃が痛くなるような発言を発射する。遊介は理由を問おうとしたが、ヴィクターの方が少し口を開くのが早かった。

 

「だがまあ。今日のところはいい」

 

「俺は良くない」

 

「遊介。今日はお前の本気の顔を見られた。勝ちたくて勝ちたくてしょうがない感じの顔を見れた。短い間だったが、お前が完全に腐ってないことだけは確認できた。俺は手っ取り早くが好きだが少しづつ成長する地道さは嫌いじゃない」

 

「何が言いたいんだよ」

 

「なに。この世界はきっとお前を変える。勝利を至上とする決闘者へと変化させる。なぜなら、ここは戦いの世界だからだ。真のデュエリストになるお前の変化の動態を見るのも悪くないと思ってな」

 

ヴィクターはそこまで言うと、遊介のデュエルディスクを強奪する。もちろん腕からとれるわけではないので、遊介の左手は引っ張られ肩から、ボキュ、という体に良くない音が発生する。

 

「お前、リーダーなのか。そりゃ都合がいい」

 

そう言うと、勝手にディスクを操作し始める。ディスクは残念ながら自分の物しか操作できないというルールにはなっていないため、このように無理矢理操られることもあり得るのだ。最悪の場合LPの譲渡を勝手に行われ、殺されるという暗殺方法も可能である。

 

しかし、ヴィクターはそうはせず、チームメンバー認証画面に行くと自分の指紋を登録したのだ。

 

「お、おお前!」

 

「は! これでお前を監視できるぜ」

 

ヴィクターの力は強く引き離そうとするまでに、全ての工程は終了。晴れてということはないが、ヴィクターは遊介のチーム『players』の一員となってしまった。

 

「お前! 何企んでる!」

 

「何言ってやがる。さっき言っただろ? お前の変化を見るって。その約束を物理的にさせてもらっただけだ」

 

「何の関係があるんだよ」

 

「メンバーになれば通信できるだろ。それに他のメンバーが今どこにいるか、マップに表示されるようになる。安心しろ、慣れ合いはしねえよ。だが、いつかお前がサイバースを捨てて勝利を目指す瞬間を見逃したくないからな。ストーカーみたいにお前の戦いに巻き込まれてながら、お前が堕ちる瞬間を絶対に見てやるぜ」

 

「なんて自分勝手な! てか、俺が勝ったのに、なんの得もないじゃんかよ」

 

「そういうな。俺はお前が堕ちるための最低限度の手助けはしてやる。慣れ合いはしないが俺はもうメンバーだ。ポイントは稼げる。それに俺ももう残り4000だ。おれにとっても悪い話じゃないしな」

 

「結局お前の得じゃないか」

 

「なんだ。ポイント稼いでやるって言ってるんだ。それはお前にとってもいい話だろう」

 

遊介は急に遊介に対する当たりだ良くなったことを怪しく思いながらも、それ以上の追及はしなかった。

 

「まあ、一度登録した以上、リーダーでもメンバーの解除はできないからな。仕方ないって考えるしかないか」

 

と、自分に言い聞かせるように言葉として表す。

 

もちろんヴィクターも、急に態度を変えたのは理由があってのことだった。

 

(……自分から喧嘩を仕掛けて負けたからな……。あんなに罵倒しておいてこっちが負けてるんだ。後で蒸し返されると癪に障るから、せめて、ポイント稼ぎを手伝ってやっただろうという言い訳ぐらいは作っておかないとな。それに俺も保有LPが残り4000.死なないためにもここで失ったLPを取り戻しておいた方が身のためだ)

 

というのが本音である。ヴィクターこと山崎和樹は、遊介に対しては感情を大いにぶつけまくっているが、一方で自分の状況を分析して次の一手を冷静に考える慎重な一面も持ち合わせている。

 

「ったく。自分からしかけといて負けてるのに、減らず口を……」

 

「な……べつにノーリターンじゃないだろ。ほら、こうしてお前のチームに貢献してやろうって」

 

「だったらちゃんと貢献しろよ」

 

「くそ……勝ったからって言いたい放題言いやがって……」

 

顔を顰めながらも、

 

「じゃあ、この町にいるやつらを血祭りにあげてやるよ。それでいいだろ。ったく、勝ったからっていい気になりやがって」

 

ヴィクターは頭を掻きながら町へと入っていく。そして入れ違いで瑠璃が遊介の元に到着した。

 

「お疲れ様」

 

「ありがとう。何とか勝てたよ。他の人は?」

 

「思ったより襲撃が激しくて……4人だけじゃ手が足りないよ。あの中央街、好戦的な人が多すぎて。安心して、みんな強いわ。誰も負けてない」

 

「へえ……」

 

遊介が思ったことは、

 

(マイケルもそんな強いんだ……)

 

ということだったが、口に出すほどではないと判断し、口を閉じておいた。

 

「ごめん。俺だけ時間がかかった」

 

「大丈夫。彼、たぶん相当強い方だと思うわ。それよりも……メンバーが一人増えたのだけど……」

 

「えーっと……」

 

とても勝手に入られましたなどとは言えない。リーダーの責任問題について生徒会長経験者にひどく叱られる未来を遊介は見た。

 

「俺が勝ったら、メンバーに入ってポイント稼げって。ほら向こうも要求したわけだし。まあ、賭けデュエルだったんだ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。そうそう……」

 

とりあえず嘘をついてこの場をごまかすことにする。ヴィクターが何も言わない限り、その嘘はバレることはないと遊介は高を括る。

 

「……怪しい」

 

「そな、怪しくないよー」

 

ジト目というのはアニメの世界だけかと思っていた遊介は、今まさに実際に出会い、冷や汗を流すことになってしまった。

 

 

【13】

 

 

光の世界は主に2つの領域で分かれている。遊介がたった今潜り抜けた門の先に広がるのが、そのうちの1つがこの町『ユグドミレニアス』。設定では、ここは天使や神の僕として生きる人間たちが、独自の文明を作り上げている町であり、ここに入ったら最後、神を信じずにはいられなくなるという胡散臭いうわさが立つほどに聖を信じる世界となっている。

 

そしてこの町の1番奥に存在する大神殿。その最奥から天空へと続く階段。それを昇ると2つ目の領域が存在する。『天空の聖域』と呼ばれる天使たちが住む世界。空に謎の浮力で浮く地面がいくつも存在し、その上に居城を構えている。神と天使は、幸運なことにこの世界では人間に慈悲を与える優しい存在であり、信仰を持つ人間たちに慈悲を与える。しかし、信仰心を持たない人間や、聖域に足を踏み入れた人間には容赦なく罰を与えるという一面も持ち合わせている。

 

「瑠璃、神を信じてる?」

 

「あなたもう、この空気に犯されたの?」

 

「いや……だって、襲われるらしいぞ?」

 

「もう。来るなら返り討ちにするだけ」

 

あの兄あってこの妹ありという反応である。

 

話を本筋に戻すと、天使たちが聖域を守る理由は、当然神を守るためなのだが、それは生物的本能によるものではない。

 

7つのエリアにはそれぞれセブンスターズと呼ばれるボス的存在がいる。それぞれのエリアにつき1人、そのエリアで挑戦者を待ち続けるイリアステルの社員である。しかし、社員と言ってもイベント戦で出てくるような雑魚ではなく、アルターが厳選した7人。その実力は歴史上に語られる本家セブンスターズよりも強いと言われていて、実際毎朝のリンクブレインズ速報というニュース番組では、ボスに挑んだプレイヤーのニュースが飛び込んでくるが勝った人間は1人も現れていない。

 

このエリアボスについては、存在が最初に語られただけで、倒したらどうなるかについてアルターは一切言及していなかった。ただ、ボスを倒すために努力する勇者というのもまた心惹かれるストーリーを生み出しそうだと楽しそうに笑っただけ。

 

それでも、アルターが存在をほのめかした以上、ボスを倒すと何かしらの利益があることは間違いないと誰しもが思っている。それもイベント戦ではなく、常に存在していることから、この戦いの最大の目的である、ヌメロンコードにたどり着くために何かしらの影響を与えることは間違いないと、多くのプレイヤーの共通認識だった。

 

この光の世界の天使は、ボスを守るための子分であると思えば、存在理由としては十分な価値がある。

 

(厄介なことの原因になるにはもってこいのような存在だけどなぁ)

 

遊介は天使を警戒しながら、きょろきょろ周りを見る。

 

白い家。白い家。白い家。白い神殿。白い道を歩きながら目に入ってくる。これだけ白ばかりでは色気のない不気味さを感じそうなものだが、今のところ遊介はそのような感覚はない。

 

「綺麗……ユートも早く来ればいいな」

 

「ああ。みんなにも見せてあげたいね」

 

男女二人で観光地を歩いている光景はまさにそのような仲を意識させるが、残念ながら瑠璃にはすでに他の男がいる。遊介は別にそれが嫌なのではなく、そうでありながら、道すがらすれ違う人間がニヤニヤしながら自分達を見ていることに悶々とする気分を味わっている。

 

「それにしても今すれ違っているのは……?」

 

プレイヤーであれば警戒は少しぐらいしてもいいはずだと不審に思う。

 

「もしかしたら、この世界に住む一般人なのかしら?」

 

「ノンプレイヤーキャラかぁ」

 

通常のゲームとしては当たり前にいるその世界の住人。しかし戦いの世界でそのような者の存在意義があるのか。遊介はそれを問うたが、すぐに首を振った。

 

遊介の頭の中に思い浮かんだのは、あの男。

 

(「ここはデュエルの世界だ。当然原住民がいるに決まっている。この世界の人間と絆を結んでできる物語もまた、面白そうなドラマを生み出してくれそうじゃないか。それもまたエンターテイメントになるかもしれないだろう」なんて言いそうな気がする)

 

不必要なものを削るのではなく、可能性があるすべてを受け入れる。アルターの謎に包まれた思考回路に遊介は一歩踏み込むことができた瞬間だった。

 

「リーダー、ここからどうするの?」

 

「ああ……、とりあえずここでもポイントを稼ぎたいと思うけど……」

 

「そうね。でも……」

 

十字路の交差点の中央で足を止める瑠璃。

 

「でも?」

 

「なんか妙な感じがするの」

 

「妙?」

 

「だって、さっきから30分くらい歩いているのに、誰にも襲われない」

 

「それはヴィクターが血祭りに?」

 

「だとしても狩りつくせるほどの時間はたってない。しかも今はイベント戦の真っ最中よ。なのに30分も歩いているのに1人も戦いを挑んでこないし、だれもデュエルしてない」

 

「そんなもんか?」

 

「遊介くんは知らないかもしれないけれど、私たち、倒しても倒しても、次が来るって感じだったよ」

 

イベント戦の怖さが分かる一言で遊介は一瞬凍り付きそうになったが、なんとかフリーズを避ける。

 

「バトルシティは中央にあるから、その分、人が集まりやすいとか?」

 

「だとしても、1人もデュエルしてないのはあり得るかしら?」

 

「さあ……」

 

右手にカード屋を見つけて、現実世界からの癖により自然に中に入ろうとしたところを瑠璃に引っ張られて軌道修正を掛けられる。瑠璃は、後でと遊介を諫め、遊介はしょんぼりとうなだれた。

 

しかし、遊介もカード屋に誰もいないことを確認した。建物の中でチーム全員で待ち構えて、デュエルという罠を使っているのかと仮説を立てていた遊介はそれが否定され、瑠璃の指摘に不安を覚える。

 

それから5分。10分。町中を歩き、初めて訪れる光の世界の町を見回ったが、その間、自分たちが襲われることも、誰かがデュエルをしているところを見ることもなかった。

 

ブルームガールからの連絡を受け、街にたどり着いたとの報告を受けたリーダーは、町の中でも標高が高く見えやすい。最奥の大神殿の待ち合わせをすることにして、その旨を伝えた。

 

「あの!」

 

一人の少女が、話しかけてきたのはその時だった。

 

瑠璃はすぐにデュエルディスクを構えて警戒をしたが、それを見て怯えてしまったことから、瑠璃は遊介に対応するように暗にメッセージを送る。仕方なく遊介は口を開く。

 

茶のしなやかな髪と物腰穏やかそうな顔のおかげもあって、遊介は声を掛けるのに特別勇気を出す必要はなかった。

 

「どうした?」

 

「助けてください!」

 

この手の問題は面倒なことになるのが定石である。今はイベント戦の途中でそんなことをしている暇はない。

 

しかし、その一方で、ここで人助けを逃すと後で理不尽なペナルティを受けたり、ここで助けなかったことで本来貰える救済アイテムをもらえず、残念な結果になるという未来も存在する。

 

遊介はとりあえず内容だけでも聞くことにした。

 

「なにをすれば助けられる?」

 

「大神殿で、私たちの仲間が襲われているのです! あなたたちはデュエリストとお見受けします。どうかお助けください!」

 

「どんな奴だ?」

 

「不思議な竜を使っていました。ぎゃらくしー……?」

 

その言葉を聞いた瞬間。瑠璃の表情が一変する。

 

「どうして……?」

 

とだけ言うと、すぐに大神殿へ向かって走り出した。大神殿は先ほど待ち合わせをしようと約束した場所である。

 

(瑠璃の知り合いか……?)

 

遊介はすぐに追いかけたい衝動を抑えて、仲間にチームメンバーに向けて、集合場所にで何かが起こっているというテキストメッセージを送った。

 

目の前の少女に再び話しかけようとしたところで肝心なことを聞いていなかったことに気づく。

 

「君、名前は」

 

「エリー・フォン・ユグレイ」

 

「なんて呼べばいい?」

 

「エリーで構いません」

 

自分の妹と同じくらいで、およそ14歳程度の少女。現実世界では薫と同じくらいの少女にお願いをされては、妹の面倒を見るのがまんざらでもない遊介にとっては断り切れない事柄である。

 

「じゃあ、行こう。大神殿で良いんだよね?」

 

「はい! お願いします!」

 

遊介は彼女の案内を受けて、走り出す。

 

大神殿に向かっている最中も、戦っているデュエリストは1人も見ることはできない。

 

「ここのデュエリストは……」

 

その答えを教えてくれたのはエリー。

 

「今大神殿を襲撃している人間が、全員殺しました」

 

「な……そんな」

 

驚くべきは全員ということだと遊介は考える。

 

(全員。つまりそこにいるのは、誰が来ても倒せるほどのデッキを技術を持ったデュエリストということか)

 

自分が行ったところで勝てるかどうかも分からない。もちろん遊介はそう考えもしたが、瑠璃が、そして遅れて到着したチームメイトも大神殿で向かっている中で、幼気な女の子のお願いを無視する事はなんと格好悪いだろうと考えると、逃げる事はあまり考えなかった。

 

 

【14】

 

 

大神殿にいち早くたどり着いた瑠璃。

 

正確には大神殿の前に広がる広場である。本来であれば荘厳な歴史を感じさせる石像や柱、建物が立ち並んでいるはずだった。

 

しかし、今はそのすべてが破壊されて瓦礫が広がるのみになっている。

 

大神殿にはまだ被害が出ていないものの、避難祖したと思われる子供リーダー格が、地面に倒れ、ごみのように散らばっている光景は、そんな子どもたちには目に悪い光景だろう。

 

そして、その主犯は、黒い外套を羽織った男だった。

 

瑠璃はその男を見て、愕然とする。なぜなら自分が思い描いた人間とは違う人間がそこにいたからだ。

 

「あなたは……」

 

水色の髪をした中学生くらいの少年は振り返った。そして、瑠璃を見た瞬間。死んだような目で倒れている死体を見ていた少年の瞳に光が戻った。

 

「瑠璃!」

 

「あなた……ハルトくん……?」

 

「嬉しいな。ようやく知っている人を見つけられた……!」

 

嬉しそうに笑った少年は何の警戒もせずに瑠璃に近づく。しかし瑠璃は自分の知っている彼にはあまりにも似つかわしくない光景が広がっていたことを不審に思い、警戒を解かなかった。デュエルディスクを前に臨戦態勢に入る。

 

「どうしてそんな警戒するの?」

 

「カイトは……?」

 

「ああ。兄さんのこと?」

 

「貴方は、『天城 ハルト』くんよね……?」

 

「そうだよ。見て分かるじゃないか?」

 

瑠璃は見違えるはずがない。兄であるカイトと次元戦争でともに戦ったからこそ覚えている。カイトが使っていた衣服と同じものを着用し、デュエルディスクも同じものを使っている。

 

「ハルトくん。これは……?」

 

瑠璃は恐る恐る、死体の1つを指さした。

 

「この先の天空の聖域に行こうとしたんだけど。それをこの人たちは邪魔したんだ。天空の聖域には何人も入ってはいけないって言ってデュエルで僕を排除しようとした。だから僕は挑んできた最初の5人を倒した。僕は言ったんだ。これ以上は無駄だから僕にこの先に行かせてくれって。でも、是が非でも止めるっていうから、納得するまで僕はデュエルを受け続けた。ここの住民なかなか頑固なんだよね。結局全員僕に向かってきちゃうし……」

 

「じゃあ……」

 

「僕だよ。ここのみんなを倒したのは僕だ」

 

「そんな……」

 

瑠璃には衝撃は走る。そしてたった今到着したユートもまた、言葉を失っている。

 

ハルトの兄であるカイトは間違っても優しい性格とは言いにくい。友人に対する義は厚い男だが、自分に関係のないことや、敵には容赦がない。対して弟のハルトはそんな兄を見てどうやってあんな性格なったのかと疑いたくなるほどに優しい。誰かを傷つけることに苦しみを感じ、それを平然と行うことができる兄に対して畏怖している一面も持っていた。ちなみに道端のアリや、自分の血を吸っている蚊にすら手を出せずに、噛まれたり刺されたりで大変だという話を、ユートや瑠璃は、カイトからよく聞いていた。

 

だからこそ。平然と屍を積み上げる目の前のハルトを見て驚愕を隠せないのも無理はなかった。

 

「ユート、久しぶりだね」

 

「ハルト! お前、自分がしたことが分かっているのか!」

 

「分かっている。僕は殺した」

 

「どうしてそんなことを……!」

 

「ダメなの?」

 

悪気もなく訊くハルト。ユートの眉間に影ができる。しかしそれ以上は何も言えなかった。自分たちも同じことをしているからだ。結局誰かの命を威張って生きながらえようとしているのは事実だ。

 

結局イベント戦で自分たちが行っている、相手から戦いを挑まれるのを待つという作戦は、正当防衛なら相手のLPを奪うという罪の意識も少しは軽くなると全員が思っていたからに過ぎない。

 

「ダメじゃないよね。だってここはデュエルをすれば、命を奪ってしまう。瑠璃やユートだってそうしてきたでしょ? 自分を守るために。自分の願いを叶えるために」

 

「ああ……」

 

「ならいいよね」

 

「何のためにここを通ろうとしている」

 

「この先にいるボスを倒してヌメロンコードに近づくためだよ。当たり前だろう?」

 

「そこまでヌメロンコードが欲しいのか?」

 

「欲しい」

 

ハルトはデュエルディスクを見る。三日月形に広がるディスクにはところどころに傷がついていた。

 

「兄さんは僕のために戦ってくれた。そのせいで兄さんは、もう目を覚まさなくなってしまった。ヌメロンコードを手に入れれば、兄さんの負った傷を治すことができる。今度こそ兄さんと二人で過ごすことができる。瑠璃。君なら分かるだろう? 隼を失ってしまった君なら、分かるはずだ」

 

瑠璃は黙ってしまった。ユートも、これ以上何も言わなかった。

 

そこに遊介とエリーが到着する。遊介は凄惨な光景に驚いたが、それ以上に、恐れなく主犯の少年に近づいていく。しかし、目的はハルトではなく、大神殿の前に立つ子どものところに向かうことだった。階段のふもとにたどり着き、

 

「みんな大丈夫?」

 

と叫ぶ。エリーの声を聴いた子供たちは、彼女の帰還を喜んだ。

 

「君は?」

 

ハルトの問いに、エリーは答える。

 

「私は、天空の聖域を守るデュエリストの娘です」

 

「君も邪魔をするの?」

 

「それが、使命ですから……」

 

しかし、エリーは震えている。彼女は、大人たちが殺されていく場面を目の当たりにしている。それでも心が折れていない。

 

(凄いな……)

 

遊介のその感想はこの光景に対する者でもあり、それでも心が折れていないエリーに対してだった。

 

「じゃあ、君も僕と戦うの」

 

「貴方は子供も倒すのですか?」

 

「邪魔をするなら」

 

「この町には、天空の聖域を犯そうとする敵に、町の誰もが立ち向かわなければならない決まりがあります。逆らえば今度は神の罰で子供も死んでしまう!」

 

「なるほど。だからあんな必死に戦いに来たのか……」

 

ハルトは納得したように頷くが、

 

「でも、僕は止まるつもりはない。君たちが邪魔をするなら倒して先に進む」

 

「え……」

 

「ごめんね。僕にとっては関係のない誰かが何人死のうと生きようと、それよりも、兄さんを確実に助けることが大切なんだ」

 

ハルトはデュエルディスクを構える。穏やかに笑いながらも、その目は確実にエリーの命を狙っている。

 

「う……」

 

「さあ、構えてくれ。その覚悟があるのなら」

 

「うぐぅ……」

 

エリーは動かなかった。いや、動けなかった。戦えば確実に殺される。それは間違いのない事実である。

 

だからこそ助けを求めに行ったのだ。自分で倒せないから、助けてほしいと見知らぬ人間に頼んだ。

 

しかし、本当にそんな希望も奇跡だとエリーは分かっている。なぜなら、この街のデュエリストをたった一人で全員倒した事実を突きつけられるだけでたいがいのデュエリストは戦おうなどと思わない。誰だって自分の命が大切だから。

 

客観的なデータで語るのなら、ハルトはポイント126でトップを独走している。それだけで実力は明らかである。

 

エリーはそれほどの実力を持つことを理解している。だからこそ、この場で誰も助けてくれなくても構わないと思っていた。

 

しかし。

 

「え……!」

 

「俺が相手になる」

 

エリーは驚くことはなくただ嬉しくて涙を流す。自分の祈りは届いたことに、そして、自分の盾として戦おうとしてくれるデュエリストがいたことに。

 

「君は?」

 

遊介は名乗りもせず、

 

「助けてくれって言われたから助ける」

 

と堂々言い切った。

 

「……物好きだね。いや、きっと君は遊馬みたいに優しい人なんだね」

 

「どうかな。実際、ここで助けないと格好悪いだろうって思っただけだったりするんだ」

 

「でも。ここで盾になれるのは、やはりいい人だと僕は思う。けれど、邪魔をするなら君は倒す」

 

遊介は前には出たものの、ひしひしと感じる強者独特の覇気に気圧されている。

 

(うわあ……、山崎とはまた違った感じだな……。セイトの数倍怖い感じがする)

 

しかし、ここで退けばそれこそ前に出た意味はなく、そもそも格好悪い。遊介はもはや戦う以外の選択肢はない。

 

――ところを救ったのは、意外な人物だった。

 

遊介の前に、さらにかばうように立ったのは瑠璃。

 

「遊介。ここは私にやらせて」

 

瑠璃は迷いなくディスクを構える。

 

「天城ハルト。貴方はあの子供までも殺そうというの?」

 

「うん」

 

「それは、私たちを襲ったあいつらとやってることは同じよ」

 

「でも、兄さんの為なら僕はどれほどの罪も背負うよ」

 

「貴方が誰を殺しても、私たちは同じことをしているから文句は言わない。けど、私も助けてって言われた。だから私はこの子を助けるわ。子供まで殺すなんて絶対にだめ」

 

ハルトから笑顔が消えた。

 

「似ている……」

 

ユートはその後のハルトを、カイトの写し鏡だと評する。それほどの剣幕で瑠璃を見つめているということだ。

 

「なんでよ。瑠璃なら、ユートなら分かってくれると思ったのに」

 

「私はあなたにそんな怖いことしてほしくない」

 

「瑠璃。君だって隼兄さんを助けたいんだろう? なのにどうしてそんな他人が大切だっていうの?」

 

「確かに私も兄さんを蘇らせたい。けど、だからと言って、自分を墜としてしまったら、それはきっと喜ばれない」

 

「きれいごとだ。結局それは願いが叶った後考えられることだ。この戦いにまだ勝つ可能性すら持たない僕らはそんなことを考えていられないだろう!」

 

ハルトの声のボルテージが徐々に上がっていく。

 

「どうでもいいじゃないか! 僕たちにとって1番大事なのは家族だ。仲間だ! あの次元戦争で僕たちは誓ったはずだ!」

 

「覚えてる。覚えているけど! それでも、私はあなたの行為は間違っている。人の生きたいという気持ちを踏みにじるなんてことは絶対に許されないわ!」

 

話は平行線のままだった。

 

瑠璃の言葉は正しい。それは多くの人間に賛同を得られる倫理観であるだろう。しかし、ハルトの事情をよく知っているユートは、一方的にハルトのことを責められなかった。

 

「……瑠璃。僕を従わせたかったら、方法は分かっているよね?」

 

「デュエルね」

 

「そうだ」

 

「受けて立つ。私はスピードデュエルを要求する。マスターデュエルで、兄さんはカイトに勝ったことはない。けどスピードデュエルならまだ未知数だから」

 

「いいよ。ならば、このエリアの上空を周回しながらで行おう」

 

戦いが始まろうとしている。

 

ハルトは、Dボードに乗りいち早く上空へと駆けあがる。

 

それを追おうとする瑠璃。遊介は、

 

「なんでかばってくれたんだ?」

 

と質問する。その答えは、遊介には厳しい事実を示した。

 

「理由は3つ。1つはリーダーを庇うのはチームメイトの役目でしょ。私も仲間よ。だからリーダーを守る。2つ目はこれは私の正義を貫きたいから。さっきあなたがヴィクターに示したようにね。そして3つ目。あなたじゃおそらく勝てない」

 

「なんで?」

 

「あのデッキは恐るべき攻撃力を持っている。今の貴方ではおそらく防ぎきれないほどの猛攻が来る。あなたでは勝てない」

 

「瑠璃なら勝てるのか?」

 

「分からない……。けど多分相性は1番いいと思う。だから私を信じて!」

 

遊介は仲間を負けるかもしれない戦いに送り込むか決断を迫られている。当然個人的な感情としてはNOと言いたい。しかし、可能性があるのなら、チームメイトを信じるのもまたリーダーの役目である。

 

「……分かった。頼む!」

 

「ありがとう」

 

瑠璃はにこりと笑ってから、Dボードに乗ってハルトを追いかける。

 

「リーダーらしい決断だね」

 

ブルームガールに褒められて、遊介は悪い気分ではないが、その一方でぬぐい切れない不安に押しつぶされそうでもあった。

 

上空で待ち構えていたハルト。瑠璃が上昇してきたのを確認すると、自らもまた戦闘態勢に入る。

 

「デュエルモード! フォトンチェンジ!」

 

羽織っている外套は白く染まり、目の近くに刻印が刻まれる。デュエルディスクが反応し、光り輝いた。

 

「始めようか。お互い保有ライフは8000残っている。いくら賭けるかは決めていい」

 

「私はあなたを殺す気はないわ。4000でいい?」

 

「構わない。先攻か後攻か。それも決めていいよ」

 

「私は後攻をとる」

 

「決まったね。なら、始めよう! 」

 

同じ故郷の2人が争うことはないだろうとユートは思っていた。しかし、現実は上空の2人が教えてくれている。互いの正義。妥協や折り合いがなければ味方と戦うことだってあると。

 

「瑠璃……どうか無事で」

 

ユートはただ、瑠璃が無事に戻ることを祈る。本当ならば自分が代わりに戦いたい。しかし、瑠璃が目で『私がやる』と強い要求をしてきた以上、彼女の決心を止めるのもまた失礼に当たるとユートは思った。だからこそ、この祈りだけでも瑠璃の味方になってほしいと願う。

 

瑠璃は己の中の魂に話しかける。

 

「みんな。今回は私たちの問題だから、私が戦う。けど、もし気絶しちゃったら、誰か代わりに」

 

(任せて! 私が出る!)

 

(な……柚子。ずるいぞ!)

 

(いいじゃないのよセレナ。柚子お願い。セレナは私が止めておくから。瑠璃、しっかりね)

 

「ありがとう……」

 

己自信との交信も負え憂いがなくなったこの瞬間。

 

二人の熾烈な戦いの幕が上がる。

 

「行くぞ」

 

「私はあなたを止める。ハルト!」

 

瑠璃とハルトは向かい合い――告げた。

 

「スピードデュエル!」

「スピードデュエル!」




???「ハルトォォォォォォォ!」
ということでハルト君です。なんか年齢がおかしい。というツッコミはこの小説は無視します。
今後のネタバレ無しの範囲で解説をすると。今回の世界観はこんな感じになっています。

               (遊介の世界)
                  ↓
     (エクシーズ世界)→『LINK VRAINS』←(ペンデュラム世界)
                  ↑
               (その他の世界)

このように、クロスオーバーの作品ですが、それぞれの作品ごとの世界があるわけではありません。
ユートとハルトが知り合いなのも、ともにエクシーズ世界の出身であるので不思議ではないのです。

10000文字越えの長い文章をお読みいただきありがとうございました。
50話で一区切りをつけたいので、長い時もあるかもしれませんが今後ともよろしくお願いいたします。

次回はいよいよ瑠璃の初デュエルです! 
どんなデュエルになるのか、作者も現在考え中ですが、実力者同士の戦いなので長くなりそうです。また前後編に分けると思います。
次回は8話『進化する戦い』。お楽しみに!


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8話 進化する戦い(前編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

投稿遅れたことをここでお詫びします。その分頑張りました。

いよいよハルトくんと瑠璃の戦いが始まる!
エクシーズ決戦です!


【15】

 

次元戦争。エクシーズ世界の戦いはこのように語られている。

 

デュエルモンスターズを破壊兵器、殺人兵器として扱い、文明を破壊し尽くす敵の大軍との戦い。

 

敵は白いスーツを着た男女混合の軍団だった。どこの誰か、所属も出身地も名前さえも明かさない兵士たちが、見境なく一般人を殺しつくしていく。

 

彼らを止めるにはデュエルしかなかった。だからこそエクシーズ世界の人間たちは戦ったのだ。

 

黒咲隼、瑠璃の兄も。天城カイト、ハルトの兄も。そしてユートも。

 

しかし、彼らは強すぎた。エクシーズ世界の人間が弱かったのではない。彼らは全員が、全員がエクシーズ世界最強の三銃士と呼ばれた、九十九遊馬、神代凌牙、天城カイトと同等。もしくはそれ以上の力を持っていたのだから。エクシーズ世界のデュエリストは悉く殺されていく。一か月も経たずにたった百人のデュエリスト相手にエクシーズ世界の九割は壊滅した。

 

それでも百人の軍勢を追い払ったのは、エクシーズ世界の英雄たちの決死の戦いがあってこそだっただろう。アークライト家当主が組織したレジスタンスに実力者が集まり、白スーツの悪魔たちと勇敢に戦ったからこそ、エクシーズ世界の残された人間と、最後の生きた街、ハートランドを守り切ったのだ。

 

しかし、その代償は大きかった。人々を救うため最後まで戦い抜いたデュエリストも最終的にほとんどがいなくなっただろう。

 

ハートランドを最後の都市として快く残された人類に開放したドクターフェイカーは暗殺された。その部下として働いていた、ゴーシュ、ドロワは戦死。アークライト家も当主と長男を失った。ミザエル、ドルベ、武田鉄男の3人は神代璃緒を庇い死亡。その後神代凌牙は妹と共に行方不明になった。九十九遊馬は、最後の決戦へと向かい、そのまま帰ってこなかった。

 

瑠璃の兄、黒咲隼はその戦いの中で瑠璃を庇ってある男と戦って死んだ。そして瑠璃もその後を追うことになるはずだった。

 

ハルトの兄、天城カイトはある男と戦って意識不明の重体に陥った。

 

エクシーズ世界の最後の英雄、九十九遊馬もその男と戦った後、帰ってこなかった。その男はエクシーズ世界至高の力として扱われた107枚のカード、『ナンバーズ』をもってしても倒すことはできなかった。

 

瑠璃はその男の名を覚えている。その姿を覚えている。白のスーツがなぜか似合ってしまう青年だった。

 

ハルトはその男の戦い方を覚えている。儀式、融合、シンクロ、リンク。見た事のない召喚法を自在に操り、あの兄がライフをたった500しか削れなかったことを。そして、その男が言ったことを覚えている。

 

「なるほど。なかなか強かった……。僕がLPを削られたのは生涯初めてだ。やはり井の中の蛙という言葉は本当らしいな。僕もまだまだ修業不足だ。次はシンクロ世界。果たしてどれほどの強者と出会えるのか……。パラドックス君が終わらせてなければいいが……」

 

と、余裕な様子で語った。

 

そして、瑠璃にも、ハルトにも、その男は律儀に自己紹介をしていた。

 

「こんにちは。僕の名前はアルター。イリアステルの総帥にして、ヌメロンコードを起動させるために命を搾取する大魔王だ。さあ、勇者よ、僕を倒してごらん?」

 

【16】

 

天空の聖域の上。本来戦うべきでない二人が戦うことになったのは、人間の正義という独特の観点があってこそだろう。白の聖域は天井に舞う二人を下から反射した陽光で照らす。

 

瑠璃  LP4000

ハルト LP4000

 

「先攻する!」

 

ハルトのこの一言とともに、お互いは山札から、四枚のカードを引いた。

 

「僕のターン!」

 

 

ターン1

 

 

ハルト LP4000 手札4

モンスター

魔法罠

 

フィールド

 

(ハルト)

□ □ □     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

□   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(瑠璃)

 

ハルトは手札を三秒見つめ、己の戦いの最初の一手を決めた。

 

「自分フィールド上にモンスターが存在しないとき、フォトンスラッシャーは手札から特殊召喚できる!」

 

先陣を切って現れたのは、青い光を見に宿す剣士。

 

フォトン・スラッシャー 攻撃表示

ATK2100/DEF0

 

(……いきなり来る?)

 

瑠璃はそのデッキのエースモンスターを知っている。最大の警戒とともに、それが来た場合、どう戦うかを手札を見て考えた。

 

「フィールド上にフォトンモンスターが存在するとき、手札のフォトンアドバンサーは特殊召喚できる! さらにフォトンアドバンサーは、このカード以外にフォトンモンスターが存在するとき、攻撃力を1000アップ!」

 

フォトン・アドバンサー 攻撃表示

ATK1000/DEF1000

 

フォトン・アドバンサー ATK1000→2000

 

「2000以上のモンスター2体……」

 

「瑠璃、君は僕が呼ぶと思っているのか。だとしたらとんだ計算違いだよ」

 

「え……?」

 

瑠璃は『竜』がもう来ると思い込んでいた。しかしそれを否定され、つい驚いてしまう。

 

一方のハルトは手を休めない。

 

「フォトンバニッシャーは、僕の場にフォトンモンスターかギャラクシーモンスターがいる場合に特殊召喚ができる」

 

カードを勢いよくディスクに置くと同時、光の剣士に加え、青い光の戦士が現れた。既に、ハルトのモンスターゾーンは既に己の従僕に埋められている。

 

フォトン・バニッシャー 攻撃表示

ATK2000/DEF0

 

「フォトン・バニッシャーの効果。このカードが説く召喚に成功したとき、デッキから、ギャラクシーアイズフォトンドラゴンを手札に加える」

 

ハルトはデッキからカードを1枚手札に加えた。そのカードを見るとハルトは少しだけ微笑む。

 

しかし、すぐに笑みを消す。

 

「そして僕の場にいるレベル4の3体のモンスターで、オーバーレイ!」

 

ハルトの宣言で、空中に黒い渦が生成された。

 

「何を……」

 

瑠璃の言葉を気にも留めず、

 

「オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

渦に黄色の魂が3つくべられ、虹色の光が爆発した。

 

「光の化身たる白き騎士よ。始まりの剣となり、我に勝利を捧げよ! 現れよ、ナンバーズ10! 白輝士イルミネーター!」

 

ハルトの傍に、一体、『ナンバーズ』を冠する騎士が駆け付けた。体に刻まれた10の文字が証拠として輝いている。

 

「ナンバーズ……」

 

瑠璃は『ナンバーズ』の力を知っている。自身は1枚も持っていないものの、その力を行使する戦いを何度も近くで見てきたからだった。

 

No.10 白輝士イルミネーター 攻撃表示

ATK2400/DEF2400

 

「イルミネーターの効果を発動する。オーバーレイユニットを一つ使う。自分の手札を1枚墓地へ送り、デッキからカードを1枚ドローする」

 

宣言した通りの行為を行った。瑠璃にはそれを止める手立ては存在しない。

 

(どうしてアレを呼ばないの?)

 

エースモンスターの召喚は、自身を勝利へと導く近道の1つ。通常であれば最短距離で行うべき行動である。

 

その答えはすぐに判明した。

 

「僕は……ランクアップマジック ライトニングアセンションを発動!」

 

「え……? ランクアップ……」

 

「このカードはエクシーズモンスターを素材に、ランクが1つ高い、光属性のナンバーズを特殊召喚する。僕が呼ぶのは、カオスナンバーズ10!」

 

下で2人の戦いを見守る人々も驚いた。

 

ユートは、ハルトの想像を超えた完成されている戦術を悟って。

 

そしてその他の人間は、その宣言に。遊介の心の中が1番驚きの理由を言葉として示していた。

 

(イルミネーターのランクアップ……?)

 

そう。遊介たちの世界に、カオスナンバーズ10は存在しない。

 

それは無理もない。なぜならそれは、使用者の出身地であるエクシーズ世界にしか存在しなかった可能性だからだ。

 

「混沌の力を宿し、白き甲冑よ黒く染まれ。死神の証をもって、世界から輝きを奪わん! 現れろ、カオスナンバーズ10! 黒騎士ユニルミネイター!」

 

再び渦から現れた騎士。しかしそれは先ほどまで輝きを嘘だと言わんばかりに黒い姿となって、禍々しい紫の光を帯びた大鎌を片手で持っている。

 

黒騎士ユニルミネイター 攻撃表示

ATK3000/DEF3000

 

「ユニルミネイターの効果! 僕は3つオーバーレイユニットをすべて使って発動する。手札のカードを1枚墓地へ送る。その後使ったオーバーレイの数だけカードをドローする。僕はカードを3枚ドロー!」

 

驚異の3枚ドローを行使するハルト。そのすべてを、

 

「カードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

伏せてターンを終了した。

 

瑠璃の表情はあまり良くはない。

 

(1ターン目から攻撃力3000……伏せ3枚。さすがカイトの弟ね……)

 

甘えが許されないことを自覚する。

 

ハルト LP4000 手札0枚

モンスター ① 黒騎士ユニルミネイター

魔法罠 伏せ3

 

フィールド

 

(ハルト)

■ ■ ■     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

①   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(瑠璃)

 

「瑠璃」

 

「何?」

 

「どうして君は彼らと一緒に居るの?」

 

「どうしてそんなことを聞くの?」

 

「ふと気になったんだ。慣れ合いとは縁遠い世界だろう?」

 

瑠璃はその答えに迷いはしなかった。

 

「助けてもらった。この世界で何も知らない私に居場所をくれた。だからその恩を返したいなって思ったの」

 

「けど、ヌメロンコードにかける願いは人それぞれだろう。いずれは敵になる。むしろ仲間なんてものは、この世界で足かせになる。せめて、志を同じにする人間と手を組むべきだ」

 

「そうね……。普通ならそうだと思う。けど、私はこの選択が間違いだとは思わない。私にとってこの出会いは恵まれていた」

 

「恵まれていた?」

 

「だって、みんな優しいもの。それだけで十分よ」

 

 

ターン2

 

 

「私のターン! ドロー」

 

瑠璃 LP4000 手札5枚

モンスター

魔法罠

 

瑠璃は引き寄せたカードに満足し、すぐに行動へと移す。

 

「自分フィールドにモンスターが存在しないとき、リリカルルスキニア、ターコイズワープラーを特殊召喚できる!」

 

最初に呼び寄せたのは、緑の小鳥。それは天空を舞う鳥たちの先駆けだった。

 

LL-ターコイズ・ワープラー 攻撃表示

ATK100/DEF100

 

「効果! このカードの特殊召喚に成功したとき、手札・墓地からリリカルルスキニア1体を特殊召喚する。私は手札の、リリカルルスキニアサファイアスワローを特殊召喚!」

 

LL-サファイア・スワロー 攻撃表示

ATK100/DEF0

 

「私は2体のリリカルルスキニアでオーバーレイ!」

 

2匹の小鳥が、天空に現れた黒の渦へと飛び込んでいく。

 

「レベル1モンスター2体でオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れよ!ランク1 リリカルルスキニア、リサイトスターリング!」

 

現れたのは夜を表すような漆黒の羽毛を持つ華麗な鳥人。

 

LL-リサイト・スターリング 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

「リサイトスターリングには召喚時の効果があるけど、今は発動できない」

 

「なら、何のために出したの?」

 

「効果を使うためよ。私はリサイトスターリングの効果を発動する。オーバーレイユニットを1つ使って発動する。デッキから、鳥獣族、レベル1のモンスターを手札に加える」

 

「新しい小鳥を呼ぶためか……」

 

「小鳥ね……」

 

瑠璃はデッキを見つめた。

 

少し昔の思い出が頭をよぎる。

 

それはこの世界に来てすぐ、ユートに言われた一言だった。

 

 ――……隼の意志を継ぐ覚悟は立派だと思う。けど、だからと言って全く同じ戦い方をする必要はない。きっと君にしかできない戦い方だってある。……僕も考えた。このカードを使ってくれ。開発には苦労したが、君専用のカードになるはずだ――

 

手渡された10枚のカードは付き合い始めて初のプレゼントとなった。ロマンチックなものを送られることを夢見た頃もあったが、瑠璃はそれでも嬉しかった。自分のことを考えてくれていることが分かったから。

 

「ユート。私、頑張るね」

 

そして、デッキから引いたのは、兄から受け継いだカード。

 

「私は、レイドラプターズ、ラストストリクスを手札に加える。そしてこのカードを召喚する!」

 

その鳥は先ほどまでの麗しきことりとは違う。鳥を模した機械のような体躯を持つ猛禽類。

 

RR-ラスト・ストリクス 攻撃表示

ATK100/DEF100

 

「レイドラプターズ……隼兄さんの形見だね」

 

「ええ。あなたに向けるとは思わなかったけど」

 

「僕も、君がそれを使うとは思わなかった。てっきりユートが持ってると」

 

「これは私の覚悟。私の復讐を遂げるという覚悟の証拠のつもりよ!」

 

そして瑠璃はさらにハルトを驚かせる宣言をした。

 

「現れて。新たな力を呼ぶ、サーキット!」

 

「リンク召喚も使うのか……」

 

「召喚条件は、鳥獣族モンスター1体。私はリサイトスターリングをリンクマーカーにセット。リンク召喚。いでよ、リリカルルスキニア、トパーズラーク!」

 

黄色の小鳥が元気にサーキットから現れる。

 

LL-トパーズ・ラーク リンク1

リンクマーカー 下

ATK100/LINK1

 

「本当なら、この子にも効果があるけど、リリカルルスキニアがリンク先にいないと効果が発動できない。けどこれでラストストリクスの効果が使える。このカードをリリースして、エクストラデッキから、レイドラプターズエクシーズモンスターを守備表示で特殊召喚する。私は、レイドラプターズ、デビルイーグルを特殊召喚!」

 

RR-デビル・イーグル 攻撃表示

ATK1000/DEF0

 

そして瑠璃は、ユートから託されたカードを手にとる。兄の戦いの真似ではなく、瑠璃のレイドラプターズを実現させるためのカード。

 

「私はランクアップマジック、L-Rコネクションを発動!」

 

瑠璃はそのカードを堂々と相手に見せびらかし、そして思い切りカードを発動した。

 

「このカードを発動時、私はリリカルルスキニアモンスターをリリースすることができる。リリースした場合、このカード発動は無効化されない効果が付与される!」

 

瑠璃はトパーズ・ラークを墓地へ送り、その効果を行使する。ハルトは特に動じなかった。

 

(伏せてあるカードはどうやら、マジックを無効にできるカードじゃないようね)

 

そのような分析を行いながら、続きを言った。

 

「そして、フィールド上の鳥獣族エクシーズモンスターを素材に、ランクが1つ高い鳥獣モンスターをエクストラデッキから呼ぶ! 私は、デビルイーグルを素材に、ランクアップ、エクシーズチェンジ!」

 

デビルイーグルは魔法に寄って現れた進化の渦へと飛び込んで行く。

 

「雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされた爪をあげ、反逆の翼で飛翔せよ! ランク4、レイドラプターズ、ライズファルコン!」

 

現れたのは瑠璃の兄が最も愛用していたエースモンスター。鋭い爪ですべてを斬り裂く大きな鳥獣。

 

RR-ライズ・ファルコン 攻撃表示

ATK100/DEF2000

 

ハルトの表情が一瞬曇る。それはレイドラプターズの効果にある。攻撃力が総じて低い傾向にあるレイドラプターズだが、その効果は強力なものが多い。

 

「L-Rコネクションによって特殊召喚された鳥獣族の攻撃力は1000アップする」

 

RR-ライズ・ファルコン ATK100→1100

 

「そして、ライズファルコンの効果! オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を対象に発動する。このカードの攻撃力は、対象モンスターの攻撃力分アップする。私は貴方のフィールドのユニルミネイターを対象にする!」

 

ユニルミネイターの紫の光を奪ったハヤブサは、己を焼くような炎を纏い強大化する。

 

RR-ライズ・ファルコン ATK1100→4100

 

「く……厄介な効果だ」

 

ハルトはライズファルコンを評するが、それを聞くことなく瑠璃は仕掛ける。

 

「バトル! ライズファルコンで、黒騎士に攻撃! ブレイブクロ―・レヴォリューション!」

 

炎を纏ったハヤブサがその爪を黒の騎士に突き立てる。黒の騎士はその甲冑事斬り裂かれ、無残にも破壊された。

 

(勝)RR-ライズファルコン ATK4100 VS 黒騎士ユニルミネイター ATK3000 (負)

 

破壊とともに爆発が巻き起こり、その炎がハルトを包み込んだ。

 

ハルト LP4000→2900

 

瑠璃はバトルフェイズを終了し、

 

「カードを1枚伏せ――」

 

カードを伏せようとした。

 

しかし、爆発が収まり、煙の中に消えていたハルトが姿を現す。その手には、青い十字型の槍のようなものを握っていた。

 

「それは……」

 

瑠璃はそれが何か分かっている。それは、ハルトが使うエースモンスターが顕現する合図である。

 

「ユニルミネイターが破壊されたとき、墓地から攻撃力3000以下の光属性モンスター1体を特殊召喚できる」

 

ハルトは槍を上へ投げた。槍は回転しながら上昇し、空中で止まる。そして槍には光の粒子が集まり、形を形成していく。

 

「闇に輝く銀河よ、光の化身となりて、我が僕に宿れ! 降臨せよギャラクシーアイズフォトンドラゴン!」

 

槍の輝きは最高潮になり、竜の姿に変化した。その竜は、存在するだけで空気を震わせる。

 

「来た……!」

 

瑠璃が警戒していたのは、この竜だった。エクシーズ世界のカイトを常に支え、最強たらしめていた竜。

 

銀河眼の光子竜 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「さあ、ここからだ。瑠璃」

 

瑠璃は厳しい目をしながらも、魔法罠ゾーンにカードを1枚伏せ自らのターンを終了した。

 

瑠璃 LP4000 手札1枚

モンスター ②RR-ライズ・ファルコン

魔法罠 伏せ1

 

フィールド

 

(ハルト)

■ ■ ■     魔法罠ゾーン

□ ③ □     メインモンスターゾーン

□   ②     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ ■ □     魔法罠ゾーン

(瑠璃)

 

「私も訊きたいことがあるの」

 

「何?」

 

「あいつと戦うの?」

 

「うん」

 

「お兄さんでも勝てなかったんだよ? それでも1人で」

 

「もちろん。僕の問題には僕が決着をつける。それに新しい問題も1つ増えてしまったしね」

 

「何?」

 

ハルトはそれに答えることはなかった。

 

「ハルトくん……!」

 

 

ターン3

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

ハルト LP2900 手札1枚

モンスター ③ 銀河眼の光子竜 

魔法罠 伏せ3

 

「フォトンパイレーツを召喚!」

 

光子の名を冠する海賊姿の存在が現れる。

 

フォトン・パイレーツ 攻撃表示

ATK1000/DEF1000

 

「フォトンパイレーツの効果。フォトンモンスター1体を墓地から除外し、このカードの攻撃力を1000ポイントアップする。僕はフォトンスラッシャーを除外!」

 

フォトン・パイレーツ ATK1000→2000

 

「そしてフォトンパイレーツの効果は1ターンに2度発動できる! 墓地のフォトンアドバンサーを除外!」

 

フォトン・パイレーツ ATK2000→3000

 

レベル3で攻撃力が3000。しかしこれでは、ライズファルコンの攻撃力には届かない。

 

下で戦闘を見ている観客の思い込みは、ユートのこの一言によって崩された。

 

「まずい……」

 

「何がまずいの?」

 

「ブルームガール。君はこの盤面をどう見る?」

 

「君はギャラクシーアイズの効果を知っているか?」

 

「効果って……」

 

しばらく考え込み、記憶が復活する。

 

「そうか……」

 

ブルームガールの恐れた事態は今から実行される。瑠璃はそれが分かっていたからこそ次の一手を伏せカードに仕込んでいる。

 

しかし、ハルトはそれを見越していたように、

 

「罠カード、トラップ・スタンを発動する。このターン、このカード以外の罠カードの効果は無効化される!」

 

と、瑠璃にとって非常な宣言を行った。

 

「な……!」

 

バトルフェイズに発動できる罠カードを伏せていた瑠璃は、困惑の表情を浮かべる。

 

「まずはそのライフの4分の3を貰い受けるよ。バトルだ!」

 

今の瑠璃に、ハルトの攻撃を止める術はない。

 

「僕はギャラクシーアイズフォトンドラゴンで、レイドラプターズライズファルコンに攻撃!」

 

光の竜はライズファルコンに接近し、ライズファルコンの爪の射程内に入った瞬間、その輝きを増す。

 

「この瞬間、効果を発動! このカードと戦闘する相手モンスター1体を除外する!」

 

光子の塊が拡散するたび、戦うはずだった2体がいるその場所は白く塗りつぶされていく。そして次の瞬間には、2体はこの世界から消えていた。

 

そして、その光は目くらまし。すでに海賊のような機械仕掛けが肉薄していた。

 

「フォトンパイレーツでダイレクトアタック!」

 

剣は確実に瑠璃の殺すための斬撃を繰り出した。剣先は一瞬で、瑠璃の右肩を大きくえぐった。

 

「ぐああ!」

 

痛みに悲鳴を挙げる。

 

この世界は戦いの世界。その痛みは体に外傷は残さないものの、痛みを確実にフィードバックする。

 

瑠璃 LP4000→1000

 

「瑠璃!」

 

下のユートが叫ぶ。守ると決めたはずの愛しの人が悲鳴をあげているのだから。

 

瑠璃にはその声は聞こえない。

 

「……くぅ」

 

片目を閉じ、歯を食いしばって意識が消えるのを防いだ。

 

「僕はこれでターンエンドするよ」

 

そしてその瞬間発動する効果を知っている瑠璃は代わりにその現象を説明した。

 

「バトルフェイズ終了時に、除外された2体はフィールド上に戻ってくる……」

 

「ただし、ライズファルコンの攻撃力は元に戻っているけどね。そしてエンドフェイズ、フォトンパイレーツの攻撃力はともに戻る」

 

フォトン・パイレーツ ATK3000→1000

 

ハルト LP2900 手札0枚

モンスター ③銀河眼の光子竜 ④フォトン・パイレーツ

魔法罠 伏せ2

 

フィールド

 

(ハルト)

□ ■ ■     魔法罠ゾーン

④ ③ □     メインモンスターゾーン

□   □     EXモンスターゾーン 

□ ② □     メインモンスターゾーン

□ ■ □     魔法罠ゾーン

(瑠璃)

 

「瑠璃。僕たちは志は同じだ。エクシーズ次元で失われたすべてを、ヌメロンコードで取り戻そうとしている」

 

「ええ。それが?」

 

「あの誰か分からないような仮の味方よりも僕についてきて欲しい。僕はエクシーズ世界同士で戦っているこの状況はおかしいと思うんだ。ユートと一緒に、僕と戦おうよ」

 

「……あなたは、エクシーズ世界が勝つためなら、あの子を殺すんでしょ……」

 

「もちろん。僕は理想の為なら手段は選ばない」

 

「なら……私はあなたについて行けない」

 

「どうして?」

 

「私は、ハルト、あなたと違ってこの世界で生きる人も大切にしたい。私の復讐は、他人を不幸にしてまで行うことじゃない。あの白スーツと同じことをするんじゃ復讐にならない!」

 

やはり二人は折り合わない。

 

ハルトは残念そうにため息をつきながら、

 

「……それは君が他の人格に影響を受けているからだ。僕らが受けた屈辱は、悲しみは、理性や善性で制御できるようなものじゃない」

 

怒りでなく、哀れみの目で瑠璃を見る。

 

「あの日。君はやはり死んでしまったんだね。柊柚子に魂を宿したと思っていたけど、完全じゃないんだ。ペンデュラム世界の生ぬるい感情が君を侵しているんだ」

 

「柚子は関係ない!」

 

「決めたよ。僕は柊柚子、そして他に宿っている魂を狩らせてもらう。フォトンハンドの応用でおそらく可能だろう。そうすれば、君を侵す感情はなくなる。その時にまた、僕の提案の答えを聞かせてもらう」

 

「ハルト! あなたでも柚子やセレナ、リンを殺そうというのなら……」

 

瑠璃の目に激しい怒りが宿ったのはその瞬間だった。

 

「私はあなたを許さない!」    (後編に続く)




例によってデュエルが長くなってしまったので今回もデュエルは前後編で分けています。
後編もぜひお楽しみください。


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8話 進化する戦い(後編)

前編の続きです。
詳しい前書きはそちらに掲載しました。

前編を見てくださった方は、ぜひ後編も楽しんでいただけたら幸いです!


(前編の続き)

 

ターン4

 

 

「私のターン!」

 

宿った感情の勢いがカードをドローする動作に現れていた。

 

瑠璃 LP1000 手札2枚

モンスター ② RR-ライズ・ファルコン

魔法罠 伏せ1

 

引き寄せたカードは、新たな攻撃の可能性を証明する1枚。

 

「ランクアップマジック、レイドフォース、発動!」

 

これこそが兄から受け継いだ戦い方。エクシーズモンスターを何度も進化させ、鉄の意志と鋼の心で、何度でも敵に立ち向かう。

 

魔法の影響か、空に雷雲の渦が発生した。

 

「自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を素材にして、ランクの1つ高いレイドラプターズモンスターを特殊召喚できる!」

 

そして攻撃力をほぼ失ったハヤブサは新たな力を求めて、雷雲の中へと飛翔した。

 

「獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けし翼翻し、寄せ来る敵を殲滅せよ! ランクアップエクシーズチェンジ! 現れよ!」

 

稲妻とともに、新たなハヤブサは降臨する。

 

「レイドラプターズ、ブレイズファルコン!」

 

赤い翼をもつ新たなハヤブサ。

 

RR-ブレイズ・ファルコン 攻撃表示

ATK1000/DEF2000

 

「バトル!」

 

瑠璃は開いた手を前に突き出した。

 

「ブレイズファルコンは、オーバーレイユニットが存在するとき、相手プレイヤーへ直接攻撃できる!」

 

ハルトは黙ったまま、防御の体勢をとった。それは攻撃を受けきるという意思表示。

 

「行け!」

 

瑠璃の号令とともに、ブレイズファルコンは突撃する。銀河眼の竜を突風の速さで器用に避けると、ハルトのもとへ翔ける。

 

そして、鋭い爪を突き立てようとした。

 

「トラップ発動! 『光子化』(フォトナイズ)! 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分だけ、自分フィールド上の表側表示の光属性モンスターの攻撃力をアップ! ブレイズファルコンの攻撃力1000分だけ、俺はフォトンパイレーツに乗せる!」

 

フォトン・パイレーツ ATK1000→2000

 

「くっ……」

 

目を細めたのは、悔しさの表現だった。

 

「瑠璃。君の爪は届かなかったね。ブレイズファルコンのもう1つの効果は、相手に戦闘ダメージを与えたとき、相手モンスター1体を破壊できる効果だからね」

 

「私がブレイズファルコンを使うと分かってたの?」

 

「ライズファルコンが来たときは少し驚いたけどね。でも、フォトナイズを使うとしたらライズよりブレイズだと判断するよ。戦闘ダメージが発生した時に被害が大きいから」

 

「だから最初のライズファルコンの攻撃には使わなかったのね……でも!」

 

瑠璃はデュエルディスクの画面をタッチする。それは伏せていた罠の発動をする合図だ。

 

「トラップカード、リリカルルスキニア、フェザーダンス! 墓地のリリカルルスキニアを除外して発動! 私は墓地のリサイトスターリングを除外する。相手フィールド上の全モンスターの攻撃力を半分にする!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000→1500

 

フォトン・パイレーツ ATK2000→1000

 

「そして、自分フィールド上にエクシーズモンスターが存在する場合、オーバーレイユニット1つを取り除き、相手フィールド上のモンスターの効果をすべて無効にする」

 

「……ギャラクシーアイズの効果を無効にするのか」

 

「まだよ。発動時に除外したモンスターがエクシーズモンスター場合、デッキからランクアップマジック1枚を手札に加える。このカードは公開する必要はないが、このターン使用できない」

 

「ランクアップマジック……」

 

「私はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

「速攻魔法のランクアップか……」

 

瑠璃は痛む肩を押さえながら、自分の攻撃の終了を宣言した。否、するしかなかった。

 

瑠璃 LP1000 手札0枚

モンスター ⑤ RR-ブレイズ・ファルコン 

魔法罠 伏せ2

 

フィールド

 

(ハルト)

□ ■ □     魔法罠ゾーン

④ ③ □     メインモンスターゾーン

□   ⑤     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

■ ■ □     魔法罠ゾーン

(瑠璃)

 

その戦いを見守る瑠璃のチームメイト。しかしその顔は晴れやかではない。

 

「押されてるな」

 

「ああ……」

 

心配で浮足立っているユートを少しでも落ち着けようと遊介は何度も話しかけていた。

 

「ユートから見てこの盤面はどうだ?」

 

「押されている……のは変わりない。次のターンが勝負だ。おそらくモンスターがいなくなれば勝ち目が薄くなる」

 

「そうか……」

 

遊介は瑠璃を信じている。

 

そしてハルトの実力の高さに感心していた。自分の信じたモンスターを極めた強者に憧憬の目をもってそのデュエルを見守る。

 

瑠璃の顔は緊張で少し強張っている。

 

それはユートの判断通り、次のターンが勝負であると判断していたからだった。

 

そしてハルトも、未だ前向きな姿勢を崩さない瑠璃を見て考えを巡らせていた。

 

(伏せたカードの1枚はランクアップマジック……。明らかにこちらが有利だが、向こうがランク6を出すとしたら話は別だ。レイドラプターズのランク6以上は1体で勝負を決するレベルのモンスターがそろってるからな……。何を加えたか……。可能性は3つ。その中であいつと相性がいいのは、おそらく、デヴォーションフォース)

 

ハルトはエクストラデッキの残りカードを見る。

 

(デヴォーションフォースはランクアップの後、召喚したモンスターとバトルすることになる。むやみに攻撃を仕掛けられない。ならば時空竜よりは……)

 

そこまで考えて自分のターンを開始する。

 

 

ターン5

 

 

「僕のターン!」

 

ハルト LP2900 手札1枚

モンスター ③銀河眼の光子竜 ④フォトン・パイレーツ

魔法罠 伏せ1

 

引き当てたカードは罠カード。残念ながら、このターンは使えない。

 

(……このターンでは仕留められないことも考えておくべきだな……)

 

ハルトは、まず賭けをすることにした。伏せていたカードを発動する。

 

「俺は伏せていたもう1枚を発動する。マジックカード、ギャラクシーサイクロン。相手フィールド上の伏せカード1枚を破壊する! 俺は真ん中のセットカードを破壊!」

 

瑠璃に光子の竜巻が襲い掛かる。強い風圧で吹き飛ばされそうなところを瑠璃は耐えたが、伏せカードは破壊された。

 

「逆境。ランクアップマジックを破壊できれば1番だったけど、はずれだったな」

 

「残念ね」

 

「いいや。そうでもない。君を守るカードはもうそのランクアップしかない。なら、僕が召喚するモンスターは決まった」

 

手札に来た罠を伏せると、ハルトの目の周りに刻まれた刻印が輝き始める。

 

「スキル発動。ギャラクシーオーダー! フィールド上に光属性レベル8モンスターが存在するとき発動。僕のフィールド上のモンスターすべてをレベル8にして、エクシーズ召喚を行う! フォトンパイレーツのレベルを8にして、オーバーレイ!」

 

瑠璃の顔はさらに険しくなる。

 

(ランク8……)

 

特にハルトが使う恐れのあるモンスターは、すべてが強力な効果を持っている。場合によっては1ターンで勝負を決するほどの力を持っている存在もいる。

 

「瑠璃。勝負だ」

 

「……!」

 

銀河眼の竜のレベルの上がった光の戦死が黒い渦の中に飛び込み、白い光の爆発を起こす。

 

「闇に輝く銀河よ。復讐の鬼神となりて、我が僕に宿れ! 降臨せよ! ランク8、ギャラクシーアイズ、サイファードラゴン!」

 

竜は進化する。光の化身として降臨したのは、光波を自在に操る強大な竜。

 

銀河眼の光波竜 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

瑠璃はそのモンスターの威圧を前にしてもひるむことはなかった。

 

そしてハルトもまた、その姿を見ても恐れずに攻撃を開始する。

 

「サイファードラゴンの効果! オーバーレイユニットを使い、相手フィールド上の表側表示モンスター1体を対象に発動! そのモンスターのコントロールを得る! サイファープロジェクション!」

 

「く……」

 

瑠璃の意思に関係なく、広げられた銀河眼の竜の翼から放たれる光。その光を浴び、ブレイズファルコンは無慈悲に奪われた。

 

「この効果でコントロールを得たモンスターの効果は無効化され、攻撃力が3000となり、名前を『銀河眼の光波竜』として扱う」

 

そしてブレイズファルコンの存在は上書きされ、その光の像が竜の形を得た。

 

「デヴォーションフォースもこれでは発動できない。次の1撃で終わりにする!」

 

「そう……ね……」

 

ハルトを睨むその顔も、ハルトには強がりに見えた。

 

「瑠璃。次の1撃は耐えられないだろう。遠慮なく気絶するといい。僕が拾ってあげるよ」

 

「……」

 

反論が返ってこないのは敗北の証明だとハルトは受け取った。

 

「バトル!」

 

最後の宣言。最後の1撃はやはりギャラクシーアイズの名を冠する竜。

 

「ギャラクシーアイズサイファードラゴンで、瑠璃へダイレクトアタック! 殲滅のサイファーストリーム!」

 

ハルトが勝利を確信して微笑むと、叫ぶ。

 

「終わりだ!」

 

それに対し瑠璃は言った。

 

「笑止」

 

「何?」

 

「そう。あなたはデヴォーションフォースを警戒する。だから、あなたは絶対にサイファードラゴンを出す! そして、私のブレイズファルコンを奪う。そう思っていた。思っていたからこそ私はこれに賭けた。貴方相手で何の賭けもなく勝てるほど楽観視はしていない。私の戦いは常にただ勝利のために考え続け、相手を倒すための攻めの姿勢を緩めないこと」

 

そして瑠璃は宣言する。己を勝利へ導く1枚を。

 

「速攻魔法! ランクアップマジック、レヴォリューションフォース!」

 

「な……それは!」

 

ハルトの表情は初めて崩れた。驚きのあまり目を見開く。

 

「相手ターンでは、相手フィールド上のオーバーレイユニットを持たないエクシーズモンスター1体を選択して発動! そのモンスターのコントロールを奪い、ランクの1つ高いモンスターへと、ランクアップさせる!」

 

「まさか……読まれていたのはこちらか……」

 

「私はあなたに奪われたブレイズファルコンを取り戻し、素材とする!」

 

先ほどまで光に囚われていたブレイズファルコンは再び元の姿で主の姿に戻ると、業火に包まれる。

 

「誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!」

 

そして瑠璃は握り拳を振り上げた。

 

「ランクアップ、エクシーズチェンジ!」

 

業火の中より現れたのは、黒咲隼にもっとも数多くの勝利を捧げた革命の隼。

 

「現れよ! ランク6、レイドラプターズ、レヴォリューションファルコン!」

 

RR-レヴォリューション・ファルコン 攻撃表示

ATK2000/DEF3000

 

「どうする? 攻撃する?」

 

「いや……」

 

ハルトは瑠璃の誘いには乗らない。現れたエースモンスターの驚異の効果を知っていたから。

 

「レヴォリューションファルコンは、特殊召喚したモンスターと戦闘を行うとき、戦闘する相手モンスターの攻撃力を0にする……、サイファードラゴンじゃ勝てない……」

 

ハルトの手札はもうない。これ以上の攻撃は不可能だった。

 

自分の考えを読まれたことで勝利を逃した。そのあまりにも恥ずかしい事実を生んでしまったことが悔しく、拳を握った。

 

「私の友達を殺そうなんて事を言った貴方は許されない!」

 

在りし日の兄ような鋭い目で、ハルトを睨む。そして皮肉を込めて言い放った。

 

「懺悔の用意はできているか?」

 

「く……」

 

ハルト LP2900 手札0枚

モンスター ⑥ 銀河眼の光波竜

魔法罠 伏せ1

 

フィールド

 

(ハルト)

□ ■ □     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

⑥   ⑦     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ □ □     魔法罠ゾーン

(瑠璃)

 

ターン6

 

「私のターン!」

 

瑠璃はカードをドローした。

 

瑠璃 LP1000 手札1枚

モンスター ⑦ RR-レヴォリューションファルコン

魔法罠

 

「レヴォリューションファルコンの効果! このカードがレイドラプターズエクシーズモンスターを素材にしているとき、1ターンに1度、相手モンスターを対象にして発動する。そのモンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える! サイファードラゴンを破壊!」

 

黒い隼は飛翔する。そして空中から炸裂弾を雨のように降らし始める。サイファードラゴンは、ハルトを庇うようにハルトのDボードの上へと飛び、爆撃をすべて受けていく。

 

「1500のダメージを受けてもらう!」

 

爆風がハルトを襲った。

 

「ぐ……ああああ!」

 

ハルト LP2900→1400

 

「あっついな……」

 

しかし、止めは刺しきれていない。その証拠に、爆炎から生還したハルトの近くには再びあの竜が姿を現していた。

 

「墓地のランクアップマジック。ライトニングアセンションの効果。光属性エクシーズモンスターが破壊されたとき、このカードを除外。破壊されたモンスター以外で、墓地の光属性モンスター1体を特殊召喚する。僕はギャラクシーギャラクシーアイズフォトンドラゴンを特殊召喚!」

 

銀河眼の光子竜 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

しかし、もはや瑠璃は恐れていない。なぜなら、勝利への道筋がすでに整っていたからだ。

 

「スキル発動! 風鳥花月の加護。デッキから、『恵みの風』『天舞う鳥』『彩りの花』『天照す月』のうち、1枚を選択し手札に加える! 私は、天舞う鳥を手札に加え、永続魔法、天舞う鳥を発動!」

 

瑠璃は今でも覚えている。ハートランドでアルターに敗れ、惨めに死ぬしかなかったところに舞い降りた奇跡。柊柚子が己の肉体の中に魂を封じ込めることで命を繋ぎとめたあの瞬間。生きていること、生かしてもらったことに感謝した。

 

「天舞う鳥は、フィールド上に、鳥獣族エクシーズモンスターが存在するときに発動できる! 1つ目の効果。自分フィールドの鳥獣族モンスターの攻撃力を600アップする。2つ目の効果。お互いのバトルフェイズ、相手フィールドで表側表示のカード効果が無効になる! 3つ目の効果。メインフェイズ1に、自分フィールドにモンスターが存在しないとき、墓地のモンスターを素材に、鳥獣族エクシーズモンスターをエクシーズ召喚できる。4つ目の効果。『恵みの風』『彩りの花』『天照す月』が同時にフィールド上に存在するとき、このカードと、その3枚をデッキへ戻す。相手の手札、フィールド、墓地のカードをすべてデッキに戻し、戻したカード1枚につき100ポイントのダメージを与える」

 

RR-レヴォリューションファルコン ATK2000→2600

 

「それが僕の竜への対策というわけか。スキルでいつでもサーチできるからこそ、君はスピードデュエルに勝負を賭けた」

 

「そう。私があなたに勝つための策。これで恐れ入って頂戴。バトル!」

 

革命の道は拓かれた。

 

黒の隼は、真の力を解放し、銀河の力を破壊する。

 

瑠璃は宣言する。

 

「レヴォリューションファルコンで、ギャラクシーアイズフォトンドラゴンを攻撃! レヴォリューショナル……エアレイド!」

 

隼は自らに内蔵されたパワーで突風を発生させた。その風で銀河眼の竜は体勢を崩す。

 

「レヴォリューションファルコンの効果! 特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、その攻撃力を0にする!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000→0

 

「天舞う鳥の効果で、ギャラクシーアイズは逃げられない! その効果は無効化されている!」

 

真実を受け入れたくないという心と、変えられない己の未熟さに怒りを露わにするハルト。

 

「革命の火に焼かれて、散れ!」

 

瑠璃は自身最高の1撃をこの言葉で飾った。

 

――しかし。

 

ハルトはエクシーズ世界最強のデッキを受け継いだ決闘者。

 

ただでは負けなかった。

 

「僕は負けない。多くを殺してきた。だからこそもう引き返せない。僕は誓った。兄さんを助け、エクシーズ世界を滅ぼしたあいつを地獄に叩き落すまで、情けも、容赦もかけず、どんな罪を背負ってでも勝ち続けると! トラップカード! フォトン・リベンジ・ストリーム!」

 

これがハルトの最後の1枚。今のハルトが出せる最後の力。

 

「自分フィールド上のドラゴン族、光属性モンスターが戦闘を行うダメージ計算前、戦闘する相手モンスターと攻撃力を同じにする! これにより下げられたギャラクシーアイズの攻撃力はレヴォリューションファルコンと同じになる!」

 

銀河眼の光子竜 ATK0→2600

 

「迎え撃て、ギャラクシーアイズ!」

 

竜は放った。その光子を凝縮したレーザーを。

 

黒い隼はその中に迷いなく飛び込む。

 

外装は徐々に光に侵食し破壊されていく。しかし隼は止まらない。なんとしてでもあの竜を倒す。その鉄の意志と鋼の強さをもって。

 

朽ちてゆく体で、それでもなお進むことをやめない隼。ついにその欠けた翼は、光子の奔流を斬り裂き、竜へとぶつかった。

 

隼には最早攻撃を行うだけの力はない。竜に激突した瞬間。己の最期の力をもって、自爆を選択した。

 

次の瞬間大きな爆発が起こった。お互いのエースモンスターがともに散った瞬間だった。

 

(引き分け)RR-レヴォリューションファルコン ATK2600 VS 銀河眼の光子竜 ATK2600 (引き分け)

 

爆風によりバランスを崩した二人だったが、何とか耐える。

 

しかしハルトにも、瑠璃にも、もはや次の1手は残されていない。

 

「く……」

 

「……兄さんが、隼と戦うと毎回辛勝だったって言ってたけど、身をもって体感したよ……」

 

「とど……かなかった……」

 

瑠璃は俯いた。通らなかったことに愕然としている。それだけ、瑠璃にとっては勝負を賭けた1撃だったのだ。

 

「ターン……エンド……」

 

そしてハルトは瑠璃に対して非情な一言を告げる。

 

「リベンジフォトンストリームを発動したターンのエンドフェイズ。僕はデッキからギャラクシーと名のつくカードを1枚手札に加える。僕はギャラクシークラウドドラゴンを手札に加える」

 

「く……!」

 

瑠璃の手札には、魔法カード、『RUM-デヴォーションフォース』が握られていた。

 

瑠璃は言いようのない絶望を味わっていた。

 

瑠璃 LP1000 手札1枚

モンスター 

魔法罠 ⑧永続魔法『天舞う鳥』 

 

フィールド

 

(ハルト)

□ □ □     魔法罠ゾーン

□ □ □     メインモンスターゾーン

□   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □     メインモンスターゾーン

□ ⑧ □     魔法罠ゾーン

(瑠璃)

 

 

ターン7

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

幕引きは静かに。ハルトは先ほどまでの荒ぶる心を押さえて静かにカードを引いた。

 

ハルト LP1400 手札2枚

モンスター

魔法罠

 

「ギャラクシークラウドドラゴンを召喚」

 

現れたのは、竜の赤子だった。

 

銀河眼の雲篭 攻撃表示

ATK300/DEF250

 

「効果。このカードをリリースして発動する。手札、墓地からこのカード以外のギャラクシーアイズ1体を特殊召喚する。僕は、ギャラクシーアイズフォトンドラゴンを特殊召喚」

 

赤子は強力な光を放ち、墓地への扉を開く。そして中から、その竜は現れた。

 

銀河眼の光子竜 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「あ……あああ……」

 

「瑠璃。デュエルで勝った方が正義だ。僕は僕のやり方で兄さんを、そして故郷を救う」

 

瑠璃を指さし、ハルトは勝利宣言を行った。

 

「バトル。ギャラクシーアイズフォトンドラゴンで、黒咲瑠璃へダイレクトアタック!」

 

竜の口元に光が集まっていく。

 

「瑠璃!」

 

悲鳴のように叫んだユートの声は、もはや瑠璃には届いていなかった。

 

「破滅のフォトン……ストリーム!」

 

圧倒的な光の奔流が、瑠璃を飲み込んだ。

 

瑠璃は受けた攻撃、そこから発生する痛みに耐えきれず意識を失った。それは言葉を出す暇もない一瞬のことだった。

 

瑠璃 LP1000→0

 

瑠璃は落ちていく。

 

それを捕まえようと、瑠璃が仲間と言ったチームメイトたちは全員がDボードで駆け寄っていく。しかし、その墜落を受け止めるのには間に合わない。

 

次の瞬間。

 

瑠璃のブレスレットが光を放ち、目をくらませた。

 

そして、次の瞬間。

 

そこに瑠璃はいなかった。そこに居たのは、桃色の髪をした瑠璃によく似た少女だった。

 

「柚子……!」

 

ユートが語る。

 

しかし、

 

「危ない!」

 

遊介の警告は一瞬遅かった。後ろから迫ったハルトに捕まる。

 

「あなたは……」

 

驚く柚子に対して、

 

「お前も殺す。だがしばらくの間は、人質になってもらうぞ」

 

と穏便では済まない脅迫を行うと、ハルトは遊介に対し、

 

「今日は疲れた。退かせてもらう。……お前が本当に瑠璃の仲間だと言い張るのなら、取り返して見せろ。ユグドミレニアスのセブンスターズの間を近いうちに手に入れる。お前をそこで待っていることにする」

 

宣戦布告をした。

 

「次はお前だ!」

 

そう言い残し、柚子を持って、神殿へと向かって行った。

 

「ユート……遊矢……!」

 

柚子は、自分の救世主と信じた彼らの名前を確かに言った。

 

「柚子……柚子!」

 

ユートは去っていくハルトを追いかける。そして遊介たちもユートについて行く。

 

しかし、不幸というものは重なるものだ。

 

街の生命が狩りつくされているという状況を見た天使たちが、ユグドミレニアスの住民以外を抹殺するべく天界から降りてきたのだ。

 

その数100、それもハルトではなく遊介たちのみを狙い始める。

 

「柚子!」

 

ユートはそれでも進もうとするが、100人の壁が立ちふさがった。

 

「ユート! このまま行くのは無理だ!」

 

「だが! 俺は!」

 

「突っ込んで双にかできる数じゃない。助ける機会もなく死ぬぞ!」

 

「だが俺は柚子を!」

 

理性が飛んでしまっているユートを止めたのは、いかつい頼れるお兄さん。マイケルはユートの前に来ると、ユートを無理やり持ち上げた。

 

「撤退だぁ!」

 

「離せ!」

 

「暴れんなよ、小僧!」

 

マイケルの言葉に異を唱える人間はユート以外存在しない。マイケルは思ったよりも力が強く、ユートを力づくで抑え込んでいた。

 

「遊介! ブルームガール! 何人か来るぞ!」

 

「分かった!」

 

「任せて!」

 

天使の襲撃に遊介は構える。しかし、実際その心の中は、とんでもない責任感の重圧を感じていた。

 

(信じて送り出した。その結果瑠璃を痛い目に遭わせた……。そして次は俺。俺が行かないと瑠璃が、そして、ユートが柚子と呼んでいた少女が死ぬかもしれない……。全部俺が……)

 

遊介はこれまでの戦い、否、これまでの生涯において最大級の壁が現れていたことを今実感したのだ。

 




????「瑠璃ィィィィィ!」
今回の結果は、????さんが見たらどんな反応をしてしまうのか。そんな決着になりました。
ハルト、そして瑠璃の戦いはいかがだったでしょうか。楽しんでもらえたら1番だと考えています。ちなみに、ところどころ原作と口上を少し変えている召喚もあります。それは意図的に行っているものなので、ご安心ください。

お互いが実力者であることを示すにはどんな戦いにするべきか非常に悩んだ結果が今回のデュエルの展開です。残念ながら作者の遊戯王に関する知識とデュエル展開能力が追いついていない場面がありました。オリジナルカードは普段多くても2枚程度にしていたのですが、今回は作者の力不足を補うためにたっぷり登場してしまいました。これからもっと精進していきたいと思います。

イベント戦がとんでもない展開になりましたね。
作者的に、この遊戯王は12、13話につき、ボスを1人置いていくスタイルになっています。最初のボスはハルト君です。遊介がどのようにして彼と戦うのか注目です。

そんなことを言いながら次回は別の人が出ます。
宣言通り、次回こそはエクシーズではない人が出る予定です。
次回9話「誇り高き王者」お楽しみに!


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9話 誇り高き王者

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

話がイベント戦どころじゃなくなってしまいました。
イベント戦はで彩ちゃんと松がエンジョイしまくっているので
その話は12話終了後、番外編で書いてみたいと思います。
とりあえず、本編を進めましょう。


【17】

 

イベント戦はもうすぐ終了する。

 

残念ながら遊介はこのイベントを楽しめたとは全く言えない状況だった。

 

初戦から見事に攻撃を仕掛けられ、挙句の果てに瑠璃を誘拐された。

 

しかし、その後は瑠璃の心配をしている暇がなかった。

 

なぜか次々と天使に狙われ、遊介とチームメイトは何人か倒しながら、光の世界からの脱出をするしかなかったのだ。瑠璃のことが気が気でないユートのことを思う遊介は気が重かったが、天使は放っておくと容赦なく数人ががかりでデュエルを仕掛けてくる。

 

「遊介! 限界!」

 

ブルームガールの悲鳴とマイケルのウインクをみた遊介は、

 

「隣のエリアに逃げるぞ!」

 

とチームメイトに指示を出し、Dボードで必死の逃走を行った。

 

それでも天使に追いつかれたり、先回りされたりは珍しくない。その天使をデュエルて倒し続ける。

 

結局光の世界と炎の世界との境界まで戦い続け、夜の19時まで予定されていたイベント戦は、その予定通り終了間際になってしまった。

 

それほどの時間を経てようやく光の世界の出口に迫った。

 

しかし、体力も精神力もともに尽きかけている中で、残り十人と相対する事態になり、

 

「もうやだー……」

 

とブルームガールが悲鳴をあげた。

 

「ブルームガール。これが終われば一息つける」

 

「そうは言っても……」

 

天使は1人1人がなかなかの腕を持っていて、1体1でも簡単に勝てるような相手ではない。

 

「10人相手とか……それに……」

 

既に賽は投げられた。天使が全員先攻を取り、攻撃力2400を超えるモンスターを並んでいる。

 

「あんなのどうすればいいの……」

 

3時間ほどたち、ようやく冷静になったユートは、

 

「……あれを使うしかないか……」

 

と追い詰められた時の策を解放しようとしている。

 

遊介も、何とかこの場を気にるける1手を考えるが。

 

(2、3人なら何とかなりそうだけど……)

 

それ以上戦闘を続ければ犠牲者が出ることは間違いないと予測している。

 

ハルトにさらわれた瑠璃、そして柚子という少女を助けるためにも、体勢を立て直しもう一度この世界に来るためには、まずはこの場を生き残らなければならない。

 

全員の生存逃亡はとんでもなく低い可能性であることに間違いはないが、迷っている場合ではないのだ。

 

「おいおいぃ! 何弱気になってんだお前ら!」

 

この場で強気なのはマイケルのみ。

 

「マイケル……」

 

「遊介、男たるもの、常に堂々と、そして優雅にだ」

 

「ここでジョークとは……元気だな」

 

「じょ、ジョークじゃねえよ」

 

「優雅……」

 

「ジョークじゃねえっての!」

 

遊介は自分が囮になることも考えた。しかし、自分がまければ結局全員の命を奪っていく結果につながる。囮には一番適さない。しかし、誰かに囮を命じるほど非情な選択も取れなかった。

 

「遊介……、私……が」

 

「ダメです」

 

「でも、それ以外にどうやって……」

 

「それは……」

 

答えられない未熟なリーダーにため息をつくと、

 

「じゃあ、後はよろしく。絶対瑠璃を助けてきなさい」

 

「ダメだって……」

 

「馬鹿ね。こういう時は、より生き残りやすい方をとるの!」

 

と檄を飛ばし、天使の軍団に突っ込もうとする。

 

「待って!」

 

遊介の言葉に耳も貸さずに、ブルームガールは最後の花を咲かせようとディスクを構えた。

 

(誰か……神様……仏様……助けてくれ……)

 

遊介は普段絶対に思わないようなことを心で念じたのだった。

 

祈りは。

 

――届いた。

 

白のDボードに乗った金髪の男が炎の世界の方面からやってきたのだ。

 

「フン……4対10か……。仕方あるまい。俺が手を貸してやろう」

 

歳は遊介と同じくらい。身長も同じくらいの英国風の少年。腕にはユートや瑠璃と違う、遊介が見たことのないディスクをつけている。

 

「構わないな?」

 

遊介に問う男。

 

「うん……」

 

と、あまりに急な来客で驚き、つい自然に頷いてしまう遊介。

 

それを見て不敵な笑いを浮かべたその少年は、天使たちに向かって宣言する。

 

「これより先は、この俺が拠点とするフィールドだ。キングは挑戦者は拒まない。だが、侵略者を通す義理はない。警告する。これ以上行こうというのならこの俺が相手になるぞ!」

 

その警告を聞いても、撤退の意思を見せない天使たちにキングは叫ぶ。

 

「ならば……そこで燃え尽きるがいい!」

 

キングを自称するその少年は、デッキからカードを4枚引き抜く。

 

「俺のターン! 相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、バイスドラゴンは特殊召喚できる。ただし、この効果で特殊召喚したこのカードの攻守は半減する!」

 

緑の翼膜を持った竜が最初に現れた。

 

バイス・ドラゴン レベル5 攻撃表示

ATK2000/DEF2400

 

バイス・ドラゴン ATK2000→1000

 

「チューナーモンスター。ダークリゾネーターを召喚!」

 

遊介は次に現れた悪魔が持っていた物が何か分からなかった。

 

ダーク・リゾネーター レベル3 攻撃表示

ATK1300/DEF300

 

そして、その少年は言った。遊介がこの世界に来て初めて見る召喚法。

 

謎の器具を持った悪魔が3つの光の玉に変わり、そして緑の3つの円に変換される。その縁の中心にバイス・ドラゴンが通っていく。そして、バイス・ドラゴンもまた白の星に変わり、列をなした。

 

「王者の鼓動。今ここに列をなす。唯一無二なる覇者の力。その身に刻め! シンクロ召喚!」

 

そして、円の中心を光が貫いた。

 

「現れよ、かの王の魂を受け継ぐ竜! レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!」

 

光の中より現れたのは伝説の竜。紅蓮の悪魔を連想させる竜が現れた。

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

(あれは……)

 

遊介はその竜を間近で初めて見た。

 

(すげえ……)

 

それ以外の言葉が出ない。

 

「レッドデーモンズドラゴン。焼き尽くせ!」

 

腕の禍々しい闇が封じられている腕から炎を撃ちだす。炎は広がり、天使が召喚した従僕たち全てを焼き尽くした。

 

そして天使たちのLPをすべて奪ったのだ。

 

その姿は正に圧巻の一言で表すにふさわしい。

 

王者という自称も頷ける。

 

「ええ……」

 

遊介は自分達があんなにもてこずった天使たちを一瞬で滅ぼした王者の姿をただ見るしかなかった。

 

「お前」

 

「は……はい?」

 

「炎の世界に来るのか?」

 

「あ、できれば逃がしていただきたく……」

 

遊介は自分がなぜか敬語になっていることに気づいていない。

 

「そうか……。では来るがいい。貴様らを王の戦いの場へ招待してやろう。ついて来い」

 

颯爽と去っていく王者。

 

その後ろ姿を五秒間。誰も何も言えなかった。

 

「何をしている。ついて来いを言っただろう?」

 

「は……はい……」

 

そしてそのまま去っていく白の外套を、なんとなくその背中について行った。

 

【18】

 

次元戦争。シンクロ世界でもその被害は凄まじかった。

 

シンクロ世界は競争社会。明日を生きること厳しい貧民と財を捨てるように使い贅沢を極める上流階級の対立が常に続く社会戦争の世界。

 

貧民は生きてそして勝ち組になるためにはデュエルしかない。貧民はプロデュエリストになり上流社会に認められて初めて社会に対する影響を持つ。

 

上流階級に認められたデュエリスト、そしてそのデュエリストを支える者については、絶対的て不可侵な社会権限をもつ事を認められている。その理由はかつて起こった戦いが理由になっていた。

 

不動遊星、ジャック・アトラス、クロウ・ホーガン、十六夜アキ、龍亞、龍可の双子。この6人を中心に、シティとサテライトが手を取り合い人々を救った戦いがあった。ダークシグナーとの戦いはシンクロ世界では知らぬ人間はいないほどの伝説として語り継がれている。

 

その時代より200年が経過した。英雄たちが願ったすべての人間が手を取り合う世界はついに訪れなかった。しかし、英雄に倣い、下から這い上がってくる者にチャンスを、そして成果を残した者には、正しい評価を。サテライト出身の英雄、不動遊星の生き様に敬意を表し、シンクロ世界ではそれが絶対正義となっていた。

 

しかし、新たな敵はそんな折に現れる。

 

白スーツの軍団。イリアステルを名乗る人間が、シンクロ世界に降り立ち破壊活動を始めたのだ。伝説の赤き竜はその危機に再び姿を現し、運命的に己の力を宿す竜のカードを持つ6人に世界を守る使命を与えたのだ。

 

その6人はこれもまた運命なのか、不思議な魅力を持つ人々だった。

 

『スターダスト』を持つ者はシティ最高の科学者の見習いで、一度彼と話すと彼の性格や言動に心を掴まれ、自然と協力したくなるような人格者の卵だった。

 

『レッドデーモンズ』を持つ者は、かのキング、ジャックアトラスの再来と呼ばれた天才デュエリストだった。

 

『ブラックフェザー』を持つ者もプロデュエリストであり、稼ぎを恵まれない子供たちに稼ぎの半分を寄付する、黒の英雄だった。

 

『ブラックローズ』持つ者は、医者を目指す少女。近年増えているサイコデュエリストの被害者を救うために勉強をしながらも、裏デュエル上でお金を稼ぐ魔女の一面を持つ者だった。

 

『エンシェントフェアリー』『ライフストリーム』持つ者は、上流階級の世界に住む双子の姉と弟が持っている。

 

6人は赤き竜の導きによって、運命的な出会いを果たし、やがてイリアステルとの戦いの中心人物として英雄的行動で人々を導きながら、懸命に戦った。その姿はかつてのシグナ―達を思わせるものだったという

 

――しかし。

 

イリアステルはダークシグナーとは比にならないほどの力をもった組織だった。

 

シティは壊滅。シンクロ世界のほとんどは廃墟と化し、世界人口は8割減。そして、赤き竜の使者たる、この時代の新たなシグナ―達も苦戦を強いられ、ついに敗れてしまった。敗れたシグナ―たちの命を救うため、力を使い果たした竜たち。赤き竜は彼らに新たな力を与え、蘇ったシグナ―を守るように祈りを込めた。

 

『スターダスト・ドラゴン・ラストヴェイン』『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』『ブラックフェザー・ドラゴン・アサルト』『ブラックローズ・ドラゴン・ティーラリア』『エンシェント・フェアリー・ドラゴン・シャーレイ』『ライフ・ストリーム・ドラゴン・フレア』

 

新たな生命を注がれた竜は、各シグナ―の守護者として、シグナ―たちの戦いを支えた。

 

イェーガー統括シティ長官の尽力、氷室、牛尾、ユーゴ等有名なプロを筆頭としたレジスタンス活動、そして蘇ったシグナ―の尽力をもって、ようやく大局的な勝利を収めたのだった。

 

「いやあ、強いなぁ。楽しいなぁ。やっぱりイリアステルだけで腕を競うよりも質の高いデュエルができる」

 

アルターを名乗るその男だけは、誰が戦っても勝つことはできなかったが、破壊活動に満足したアルターがその世界を去って、戦争は終了したのだ。

 

 

【19】

 

 

炎の世界。『煉獄の聖域ムスペル』

 

その世界は一つの大きな火山の中に全てだ。緑はなく、黒に近い岩の大地で成り立っている。

 

まずは溶岩が普通に流れる山肌に存在する主街区『ダレイ・ブラーグ』。設定では、ここは岩石を、特に宝石と呼ばれるものを外部に出荷し、他のエリアから多くの生活必需品を輸入することで生活が保たれている。気温は50度を上回ることは日常茶飯事で、これから身を護るために、耐火性能の高い岩盤でできた家に住み、水属性のモンスターを使役して生活環境の気温低下をすることでようやく、猛暑日程度の熱さになる。

 

そして、火山の中に入ると、このエリアのボスが存在する炎の大神殿につながっている。しかし、火山はよく噴火するため、噴火しない7日に1度程度しか、挑戦するチャンスはない。

そしてこの世界にはもう1つ、主街区からつながっている、謎の浮島の道が目玉としてある。それも岩でできているもののなぜ浮かんでいるのかが不明であり、まるでバイクのコースのように細長い形になっていて、陸上や競馬、競輪の競技場でよく見る道になっている。

 

そのような浮島が5つほど、ぷかぷか浮かんでいるのだ。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はジャック。ジャック・アーロン。本名はまた別だが、人々にこの誉れ高き名を最初におくことを許されている。お前らもその名で覚えてくれ」

 

遊介は目の前の人間がジャックと自己紹介しても違和感がある。遊介の中でジャックとは、傲慢の象徴であり、白とシルバーの服を着た金髪で背の高い男というイメージが離れない。

 

目の前の少年は服装とこそ似ているものの、髪型も違う、背は遊介と同じ程度しかない。とてもキングには見えない存在だった。

 

しかし、レッドデーモンズという名のモンスターを使役していることが、王者の証拠であると遊介は考えた。ユートが別の世界から来たならば、この男もまた別の世界から来たのだと自分で納得する。

 

「俺はこの世界に、アルターという男にリベンジするために来た。キングとして受けた屈辱を払うために。そしてついでに俺の故郷を救うために」

 

「故郷……」

 

「お前の噂は聞いている、ユート、エクシーズ召喚とやらを使う凄腕デュエリストだと聞いているが」

 

「あなたのことも知っている。ユーゴが教えてくれた。あなたのこと、そしてシンクロ世界のことも」

 

「ほう、あいつが。俺も何度か戦ったことがある。勝ちを譲ったことこそないが、奴もなかなか面白いデュエルを毎回見せてくれる。俺が戦っていて飽きない奴は珍しい」

 

溶岩の高熱による高温にくたくたになりながら、遊介たちはアーロンについて行く。は天高くに浮かぶ島を指さした。

 

「俺は5つある浮島のデュエルサーキットの中でも最も高いところに君臨している」

 

「君臨しているって……」

 

「俺のテリトリーだ。普段はあの街に厄介になっているが、その代わり、悪しきデュエリストから街の原住民を守っている。ついでにエンターテイメントを含めて、頂上のサーキットはあるときは敵の処刑台であり、ある時は人々を楽しませる娯楽となる」

 

既に主街区を我が物顔で歩くキング。しかし、道中すれ違う人間はアーロンのことを好意的に見ている人間が多かった。

 

主街区の大通りで、

 

「なんか買っていけ。俺が顔を出せば多少は飯と飲み物くらいならタダで譲ってくれるだろう」

 

と粋な計らいを提案された遊介は、実際に数少ない屋台の串焼き屋を訪れる。アーロンが客人だと言うと、彼の言う通り、タダで串焼き2本が譲渡された。

 

(キングすげー)

 

と、肉をかじりながら、目の前の男が本物であることを実感した。

 

「19時か……。結果は見なくていいのか?」

 

アーロンの問いかけに、遊介は首を傾げる。

 

「あ……!」

 

ブルームガールは慌ててデュエルディスクを見た。

 

そこに『第2回イベント戦結果発表!』と大きく書かれた画面が出たことで遊介も思い出す。

 

遊介とマイケルはブルームガールが開いた画面をのぞき込む。

 

チーム戦 第5位までのチームに所属しているプレイヤーがLP4000分回復します。

 

1位  チーム『エデン』       所属1515名 リーダーネーム リボルバー  3200ポイント

2位  チーム『解放軍』       所属1324名 リーダーネーム リョウちゃん 1800ポイント

3位  チーム『サティスファクション』所属6名   リーダーネーム 不動星也   720ポイント

4位  チーム『players』       所属6名   リーダーネーム 遊介     230ポイント

5位  チーム『海堂コーポレーション』所属250名  リーダーネーム 海堂セイト  180ポイント

 

「おお……!」

 

遊介はすぐに自分のライフを確認する。

 

既に4000は支給され、残り保有LPが8000になっていた。

 

「遊介、俺ら天使30人くらいしか倒してないよな……?」

 

つまり点数の大部分をヴィクターが稼いでくれていたのだ。

 

(これは……今度このネタで脅迫しに来るな……)

 

嫌な予感と一緒に、遊介はヴィクターに感謝した。

 

一方、

 

「星也……、お前、俺を除け者にしたな……。この世界に来てから顔を出さないと思えば……」

 

と、アーロンは不機嫌そうに結果発表の画面を見ていた。

 

「やったね……なんて言っている場合じゃないけど……」

 

ブルームガールが呟く。それに反応したのはキングだった。

 

「何を言う。大いに喜ばしいだろう?」

 

「でも私たち、仲間を」

 

「だとしてもだ。喜ぶべきことを喜び、悲しいことには悲しむ。だが、感情をいちいち別のところに引っ張っていては、精神が疲弊する」

 

と、妙に説得力のある言い方を遊介に見せるように行った。

 

ちなみに、遊介にはさらに胃が痛くなる広告をアルターは最後につけ足していた。

 

『仲間を攫われた? 4位のリーダー遊介君がそんな危機的状況だ。さあテレビをご覧の諸君。相手は、ボス……と呼べばいいのかどうかは分からんが、個人戦1位の天城ハルト。この世紀の1戦、見逃す手はないぜ! そこで私アルターが、常々この世界で退屈しているデュエリストを楽しませるためのリンクブレインズの公式放送デュエルの第1回として、そのデュエルを中継するぞ! 遊介君は囚われの姫を助けられるのか。……もしかすると遊介君じゃないかもしれないけど! そうなったら許してほしい。放送日時はまだ未定。だが、常に注意して待ってろよ、アディオス!』

 

(ふざけるなよ……!)

 

遊介の腹は溶岩に負けないくらいぐつぐつと煮えたぎっていた。

 

主街区をそんなこんなで貫通した遊介たちの前に現れたのは、数台のバイク。

 

(まさか……)

 

「Dホイールだ。乗れるか?」

 

本物を初めて見て気持ちが昂る遊介。

 

しかし遊介とブルームガールはすぐに首を振る。学校の方針で免許の取得は特例を除いて禁止されていたため二輪免許を持っているはずもない。

 

「ならばお前たちはDボードでついて来い」

 

「俺は乗れるぜ?」

 

「マイケルだったか。なら、サーキットにつくまでの間、暇つぶしに付き合え。いささか街からでは遠いのでな」

 

王者はまたも勝手に提案をするが、

 

「いいぜぇ。つきあってやる」

 

マイケルはその暇つぶしを受けて立った。

 

「どうするんだ?」

 

「ライディングデュエル。知っているか?」

 

「ああ……なるほど。いいぜ俺はできる」

 

マイケルは堂々と言い切った。ライディングデュエルなどできるのかとツッコミを入れようとした時に、遊介は気づく。

 

残念ながらごつごつした岩場と多くのところで溶岩が流れる中で、バイクの暴走は無理があるだろう。という一般的なツッコミではなかった。

 

(そう言えば、マイケルのこと……あまりよく知らないんだよなぁ)

 

思い返してみて、マイケルは、自分のことをほとんど語らないことを遊介は思い出す。

 

「遊介。私たちはどうする?」

 

ブルームガールの質問の意味は、先に行って待ってるか、暇つぶしをみるか。

 

「……」

 

「じゃあ、見てくのね」

 

「何も言ってない」

 

「見たいって顔してる」

 

心を読み通したブルームガール。それは超能力ではなく、遊介がバイクをちらちら見ているところから分かることだった。

 

実は遊介も、ブルームガールも、マイケルのデュエルを見るのは初めてである。人物像が未だはっきりしないマイケルを知るチャンスだと思い、ブルームガールもまた、見学に反対はしなかった。

 

「お前には、この後のメインディッシュの前座になってもらおう」

 

「前座じゃねえ。お前のキングの称号は俺が頂くぜ?」

 

もはや恒例行事と言わんばかりの煽り合いも終わり、お互いのバイク、Dホイールのエンジンをつける。

 

そして、

 

――『スピードワールド・エクストラ』セット完了。デュエルモードオン。オートパイロットスタンバイ――

 

「ライディングデュエル……」

「アクセラレーション!」

 

マイケル      LP4000

ジャック・アーロン LP4000

 

掛け声とともに、アーロンとマイケルが勢いよくアクセルを踏んだ。

 

アーロンが使うDホイールは『ホイール・オブ・フォーチュン』という、一つの巨大な車輪が回転する特注の機体。そしてマイケルの乗る機体は、見た目こそ特徴はないものの、性能は悪くない者である。

 

「いくぜぇ!」

 

気合を入れたマイケルの掛け声を聞くと、アーロンはなぜかスピードを緩める。

 

「先攻はくれてやる」

 

「いいのか?、じゃあ遠慮なく!」

 

そしてマイケルが大きく息を吸い込んだ。

 

ターン1

 

「俺のターン!」

 

マイケルは鼓膜を攻撃しているのかと見違えるほどの声をあげた。

 

マイケル LP4000 手札5 スピードカウンター 1

モンスター

魔法罠

 

フィールド

 

(ジャック)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(マイケル)

 

「俺は、サモンコアを召喚!」

 

サモンコア レベル3 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

マイケルが最初に出したのは、鋼色の球の体に、赤いエネルギー中枢が中央で怪しく光る謎の物体だった。

 

(機械……?)

 

「うわー、絶対獣系だと思ったのに……」

 

ブルームガールは丁寧に口に出して、自身の意外であるという主張を行った。

 

今まで、マイケルは魔法と罠しか使ってこなかった。メインは罠モンスターであり、装備魔法や他の罠でそれを強化して戦うというスタイル。しかし、マイケルが自分で『本気のデッキにはモンスターを入れているし戦い方も違う』と言っていたのを、遊介は覚えていた。

 

マイケルは空中でそんな話をされているとは知る由もない。

 

「……」

 

しかし、楽しむ余裕は遊介にはなかった。気持ち的に追い詰められていたのだ。

 

――ふと。

 

遊介は向かい風を感じた。

 

その風は遊介を拒むのではなく、向かい風で合っても、心を震わせ、鼓舞するような感覚の風だった。

 

(なんだ……?)

 

遊介は何の確証もないながら、その風は何かが起こしているという確信があった。

 

一方そんな事は知らないマイケルが戦いを始める。

 

「サモンコアの効果は後でな。俺はスピードスペル、シルバーコントレイルを発動! スピードカウンターを1つ取り除き発動する。俺のフィールド上のモンスター1体の攻撃力を1000アップ。サモンコアを選択!」

 

サモンコア ATK0→1000

 

「サモンコアの効果! このカードの攻撃力が上がったとき、デッキからサモンコアを可能な限り特殊召喚できる! 俺は2体のサモンコアを守備表示で出す」

 

サモンコア レベル3 守備表示

ATK0/DEF0

 

「ほう……面白い効果を持っているな」

 

「まだまだ。俺はチューナーモンスター、シンクロコアを召喚!」

 

次に現れた新型は、緑の塗装をされたボディであるものの、それ以外はサモンコアとあまり違いはなかった。

 

シンクロコア レベル3 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

「シンクロ使いか……」

 

「俺は先にこいつを出すぜ」

 

マイケルは握り拳を天空へ上げる。

 

「俺はレベル3のサモンコア2体でオーバーレイ!」

 

マイケルが宣言したのはエクシーズ召喚の宣言。

 

「マイケル、エクシーズもするの?」

 

遊介に訊くブルームガール。当然本気のデッキを初めて見た遊介がそんなことを知る由もない。苦笑いしかできない。

 

マイケルはそんな観客2人に手を振った。

 

「俺はレベル3モンスター2体でオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れろ、ナンバース30! 破滅のアシッドゴーレム!」

 

現れたのは酸を放出する怪しい巨人。ランク3でありながらすさまじい力を持つ存在。

 

No.30 破滅のアシッド・ゴーレム 攻撃表示

ATK3000/DEF3000

 

「ナンバーズだと……」

 

ユートが驚くのも無理はない。ナンバーズはエクシーズ世界にしかない107枚のモンスターカード。それをマイケルが持っているということは、マイケルはエクシーズ世界に居たということ。

 

そしてさらに驚くべきは、そのマイケルはシンクロ召喚を使うということ。

 

「ほう……」

 

「驚かないんだな。自称キング?」

 

「自称じゃない。俺はキング、ジャック・アーロンだ」

 

「なら、今からお前をもっと驚かさせてやる」

 

マイケルはさらにモンスターを召喚すべく、手札に手を伸ばす。

 

「フィールド上の、エクシーズモンスターのオーバーレイユニットをすべて取り除き、エクシーズコアは特殊召喚できる!」

 

酸の巨人の周りに回っている球体をすべて吸い込み、黒の塗装をされたコアは現れる。

 

エクシーズコア レベル3 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

「エクシーズコアの効果! このカードを自らの効果で特殊召喚した場合、俺は2つの効果から1つを選択して発動できる。俺は2番目を選択。俺は次ターン終了時まで手札から罠を発動できるようになるぜ」

 

「その程度では驚かんぞ?」

 

「そう言うな。俺はさっそく手札から罠カード。供物と恩恵を発動! このカードは俺のフィールド上のモンスター1体を対象に発動する。そのモンスターを相手フィールドに移す。その代わり、俺のモンスターは次のターン。戦闘では破壊されない」

 

エクシーズ素材がなくなったアシッドゴーレムが相手の場へと捧げられた。コントロールが奪われたモンスターはエクストラモンスターゾーンのモンスターでも、メインモンスターゾーンへ移動する。

 

「アシッドゴーレムはお前にやるよ」

 

王者の座す白い車体に酸が滴り落ちる。アーロンはそれを器用に躱して見せたが、それは正しい判断だった。酸は容赦なく落ちた場を溶かした。

 

「そして、供物と恩恵のさらなる効果で、俺はカードを1枚ドロー。さらに俺はシンクロコアとエクシーズコアでチューニング!」

 

そしてマイケルは続けてシンクロ召喚の宣言を行う。

 

緑の機会が召喚の円に、黒い機会がその中を潜り抜け、シンクロ召喚は成立した。

 

「来い! レベル6、大地の騎士ガイアナイト!」

 

現れたのは、二振りの槍を持った、青き鎧をまとう騎馬兵。

 

大地の騎士ガイアナイト レベル6 攻撃表示

ATK2600/DEF800

 

「シンクロコアを素材にして召喚されたガイアナイトは、攻撃力を500アップする!」

 

ガイアナイトの槍が緑の光膜につつまれる。

 

大地の騎士ガイアナイト ATK2600→3100

 

「俺はこれでターンエンドだ。どうよ?」

 

「ほう。早速大きく動いたな?」

 

「まあな。生憎手札が悪くてな。この程度しか用意できなかったが」

 

「観客を楽しませるには良い余興だったぞ。褒めてやる」

 

「まあ、もう1つ贈り物は用意してあるんだ。楽しくやろうぜ。俺はこれでターンエンドする」

 

走るバイク。スピードを全く緩めないまま熱風を斬り裂き、王の座がある浮島にめがけて走り続ける。

 

まるで恐れを知らない2人。溶岩にあと10センチで落ちるのではないかというところも余裕の表情で走り抜けていく。

 

「怖くないのかしらね……」

 

ブルームガールのボヤキに、遊介はただ首を縦に振った。

 

マイケルはキングに問いを立てたのは、それとほぼ同時刻。

 

「キング。一つ聞いていいか?」

 

「なんだ?」

 

「何故俺を助けた?」

 

「理由がいるか?」

 

「はぁ?」

 

アーロンは一度ため息をついてから言う。

 

「俺がそうしたいと思った。俺がそうしなければ後悔すると思った。だから助けた。大義的な理由などその程度であり、そしてまた至高の理由だろう」

 

「つまり、なんとなく?」

 

「ふん。その低俗な言葉と一緒にされるのは不愉快だが、そういうことだ」

 

マイケルは、それを聞くと、大きく笑い声をあげた。

 

「ハハハハハハ! そりゃいい。あんた、いいやつだな」

 

「デュエルの続きだ。これ以上問答は必要ないだろう?」

 

「ああ。そうだな」

 

マイケルは嬉しそうにニヤニヤと笑顔を浮かべていた。

 

マイケル LP4000 手札1 スピードカウンター0

モンスター ② 大地の騎士ガイアナイト ③ サモンコア

魔法罠 

 

フィールド

 

(ジャック)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

  □   ②     EXモンスターゾーン 

□ □ ③ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(マイケル) 

 

 

ターン2

 

「俺のターン!」

 

アーロンはデッキからカードをドローする。

 

アーロン LP4000 手札5 スピードカウンター 2

モンスター ① No.30 破滅のアシッドゴーレム

魔法罠 

 

アーロンの攻撃を待たずして、口を開いたのはマイケル。

 

「相手のスタンバイフェイズ。破滅のアシッドゴーレムの効果! オーバーレイユニット1つを取り除くか、2000ダメージをコントローラーは受ける!」

 

「ほう……」

 

「オーバーレイユニットがないなぁ?」

 

アシッドゴーレムの持つ『破滅』とは、相手にのみ向けられたものではない。むしろ、自分に降りかかる災厄でもあるのだ。

 

アシッドゴーレムから、酸が滴り落ちた。アーロンの方に直撃する。酸は体を侵食し、凄まじい苦痛を使用者に与える。

 

「……ぐ……」

 

ジャック・アーロン LP4000→2000

 

「どうだぁ?」

 

「なるほど……これは面白い」

 

そしてマイケルは追い打ちをするように宣言した。

 

「ちなみに、アシッドゴーレムはその裸の状態じゃ攻撃はできないぜ。さらにお前は特殊召喚もできない。お前の行動は罠じゃなくても縛られているってこった」

 

「思った以上だ。貴様……さぞ元の世界では実力者だったのだろうな」

 

「キング。サレンダーなら……」

 

しかし、ここまで言ってなお。ジャック・アーロンの自信に満ちた顔は一切揺らがない。

 

「何を言う。貴様は先攻として素晴らしい腕を見せた。ならば俺がすることはただ1つ!」

 

そしてキングの戦いは始まる。

 

最初に手札から選んだのは、モンスターカード。

 

「お前のカードは確かに召喚を制限する。だが、それは特殊召喚のみ! 俺は手札のビック・ピース・ゴーレムを、アシッドゴーレムをリリースして、アドバンス召喚!」

 

酸の巨人は光の粒子となって拡散した。そして、その粒子は、新たな巨人の姿を模して、形作られていく。

 

ビック・ピース・ゴーレム レベル5 攻撃表示

ATK2100/DEF0

 

この行為は多くのことを示している。

 

「うお……」

 

マイケルはその事実に口を開けて何かを言おうとしたが、何も出なかった。

 

通常召喚によってアシッドゴーレムが消滅。それにより特殊召喚の解禁。そして攻撃力が2000以上あるモンスターの召喚。この3つの条件をたった1枚で行ったのだ。

 

しかし、キングたるアーロンはこの程度では止まらなかった

 

「スピードスペル、オーバーブースト! 俺のスピードカウンターを4つ増やす!」

 

2枚目に出したマジックカードは、スピードカウンターを上昇させるカード。ライディングデュエルで最も重要になるカウンター4つ増やした。

 

そして今まで後ろを走っていた白い王者の座はマイケルを追い越して前に出る。

 

スピードカウンター 2→6

 

「そして、さらに俺はスピードスペルサモンスピーダーを発動する! スピードカウンターが4つ以上あるとき、手札のレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる!。俺はダフレアリゾネーターを特殊召喚!」

 

現れたのは、天使との戦いでチューナーの役割を果たしたモンスターに似た悪魔

 

フレアリゾネーター レベル3 攻撃表示

ATK300/DEF1300

 

「おいおい……」

 

マイケルは唾を飲み込む。レベル3のチューナーとレベル5のモンスターがいる状況。天使を一掃したあのモンスターが来た状況と同じだった。

 

「俺はレベル5のビックピースゴーレムに、レベル3のフレアリゾネーターをチューニング!」

 

そして、つい先ほどみた光景は繰り返される。

 

「王者の鼓動、今ここに列をなす。唯一無二なる覇者の力、その身に刻め!」

 

溶岩がその悪魔の登場を恐れるかのように流れ、地面を侵食し始めた。

 

「現れろ。かの王の魂を継ぐ竜。レッドデーモンズドラゴン、スカーライト!」

 

紅蓮色の竜は姿を現した。

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「フレアリゾネーターを素材にしたシンクロモンスターの攻撃力は300アップ!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000→3300

 

「まじか……」

 

マイケルはあからさまにうろたえていた。

 

「ガイアナイトの攻撃力を挙げたのは、モンスターを警戒してのことだろう?」

 

「ああ……」

 

「その判断は正しい。だが、運がなかったな」

 

「何……?」

 

「勝利はわが物、ということだ」

 

するとアーロンは器用にDホイールの向きを反転させる。

 

「先ほど天使たちを焼き尽くした炎はまさに次の一撃。俺はレッドデーモンズドラゴンの効果を発動する! 1ターンに1度、このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚されたモンスターをすべて破壊する!」

 

「はぁ? すべてだとぉ!」

 

「食らえ、王者の一撃。アブソリュート・パワー・インフェルノ!」

 

右の腕から激しい炎が上がる。溶岩の熱気をも超えるその炎は、マイケルを守るモンスターは全て赤い濁流に飲み込まれ、その炎で溶かされていく。

 

マイケルのモンスターはすべて破壊された。

 

「なん……」

 

「これで終わりではない! 破壊したモンスター1体につき、500のダメージを相手プレイヤーに与える! 破壊したモンスターは2体。1000のダメージを受けろ!」

 

そしてモンスターを溶かしつくした炎から放たれる熱風がマイケルを襲う。

 

「あちい!」

 

マイケル LP4000→3000

 

「あちい……って、おいおいおい! もしかしなくてもこれは……」

 

まだ紅蓮魔竜は戦闘を始めてすらいない。次の1撃をマイケルが受けきることはできない。

 

「ふん……」

 

そしてアーロンは、この状況をまるで当たり前の光景だと言わんばかりに誇っている。

 

「くそ……こりゃ、……マジか」

 

「当然だ。お前はキングと戦った。ならばお前は俺にひれ伏すしかないこの状況は運命として定められていたものだ」

 

アーロンは、遊介を見た。遊介がそれに気づくと、アーロンは再びマイケルに向き直り、そして語る。

 

「強者との戦いは常に、幾多の試練が訪れる。俺は与え、そしてお前はそれに挑む。弱者よ、勝利とはその先にあるものだ」

 

「……こんな時にご説教かよ。なんてな……この無様さじゃ、なんも言えねえな」

 

「無様なのは当然だ。言っただろう。これは定められていた運命だと」

 

アーロンはマイケルを指さし、そして声高らかに宣言する。

 

「バトル! レッドデーモンズドラゴン、スカーライトでマイケルにダイレクトアタック! 灼熱の、クリムゾンヘルバーニング!」

 

紅蓮魔竜の口から放射された炎はマイケルを焼き尽くす。その命をすべて溶かしつくした。

 

「ぐ……おおおおお!」

 

マイケル LP3000→0

 

そして、キングはDホイールを再び反転させて、その圧倒的デュエルを最後にこの言葉で締めた。

 

天高くを指さし、高らかに勝鬨をあげる。

 

「キングは独り! この俺だ!」

 

既に遠く離れた街からは万来の喝采が聞こえる。

 

このデュエルは中継されていたのか、再びキングの威光を示すデュエルの1回として、炎の世界の主街区に住む人々に勇気と希望を与える1戦となった。

 

「……あれ?」

 

マイケルは自分の保有しているLPを確認すると、その数が減っていないことに気づく。

 

ライディングデュエルの敗者のDホイールは、それを示すように、急激にスピードが落ちる仕掛けが発動する。すでに時速0キロメートルになっていたDホイールからマイケルは降りると、近くで止まったアーロンを見る。

 

アーロンは何が言いたいのかをすぐに把握し、その答えを述べた。

 

「このフィールドは俺が購入したのだ。ここでのデュエルは俺が決める。俺が裁くならば命を賭ける戦いだが、俺が楽しむなら、それは命を問わないデュエルにもできるさ」

 

頭からヘルメットをはずしたアーロンがデュエルに満足いったような顔で話す。

 

「まあ、それくらいは当然だろ。こんな形で死ぬのは御免だからな」

 

そこに空を待って2人とデュエルを見ていた遊介とブルームガールが下りてきた。

 

「お疲れ。マイケル」

 

「おう。まったく。こんなボコボコにされるとは思わなかったけどなぁ」

 

遊介が持っていたタオルをマイケルに渡す。マイケルはそれで流れるように出る汗をぬぐった。

 

そんな遊介に不意打ちをしたのは、

 

「では、前座はここまでだな。遊介……だったよな?」

 

「前座?」

 

「この俺ジャック・アーロンは、貴様にデュエルを申し込む!」

 

アーロンだった。

 

「え……え?」

 

「だからこそ。我々はあの頂きの闘技場に向かっているのだからな」

 

「え……?」

 

「この戦いは大一番。イベント戦で入賞を果たしたチームリーダーとの戦いができるのだ。この機を逃すことはあり得ない」

 

「え……ええ!」

 

「これは、町の皆も楽しめる、エンターテイメントになるだろうな」

 

ジャック・アーロンは指をさす。すでに戦いの場は近くだった。

 

中央に巨大な炎の竜巻が渦巻くデュエルレーン。

 

遊介は、ジャック・アーロンの策謀に嵌っていたことに、ようやく気が付いたのだ。しかし、時すでに遅し。遊介は圧倒的強者との戦いを強いられる、王者の定めた運命を進むしかない。




こんな感じで第9話です。お楽しみいただけたでしょうか。
1話が長くなってしまい申し訳ありません。以後はまた前後編に分けるなどの対処をしていきたいと思います。
そして今回はジャック・アトラス……ではなく、その後継者的な存在のジャック・アーロンくんに出てもらいました。

5D'sの世界が、一番未来がどうなったか気になる世界観だと思ってます。特にシグナ―の竜はどうなったのかが気になり、アニメの最終回が終わったころはいろいろと妄想をしていました。私の中での結論は、シグナ―の竜は多くの人に渡りながらも最終的には、かつて自分とともに戦ったシグナ―に似た人間に託されていくような気がしました。ジャック・アーロンは、そんな妄想の中で、キング称号の後継者として思いついたキャラクターです。

そんな中でアークファイブで、レッドデーモンズが変化しているのを見て、自分の妄想した未来のシグナ―たちが、その変化した竜を使って戦うという設定にできればおもしろそうだと考えました。その結果が、今回のシンクロ世界の設定になってます。

今回はあまりに急展開にしてみましたが、もし話についてご質問等がありましたら遠慮なく送ってください。また感想も随時お待ちしています。
次の話は来週までには出したいと思っています。

さて、次回は遊介とキングが戦います。
遊介はここまで1勝1敗。輝かしい勝利を手にすることはできるか?
第10話『竜巻で待つ者』お楽しみに。

(実験)←「VRAINSの次回予告風に次回予告をしてみる」

立ちはだかる悪魔。立ちはだかる王者。挑戦者を叩き潰すのは圧倒的な力。彼は誘う。王たる俺に叛逆せよと。彼は諭す。英雄とは何たるべきかを。遊介は今、試練を越えるためカードを引く!

「俺は……あいつに負けられないんだ!」

次回。遊戯王VRAINS もう1人のLINKVRAINSの英雄 『竜巻で待つ者』
イントゥ・ザ・ブレインズ!

難しいですね。また思いついたらやってみたいと思います。

(お知らせ)

活動報告をよろしければご覧ください。お知らせがあります!


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10話 竜巻で待つ者

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

活動報告のアンケートにご協力してくれた方、ありがとうございます。
返信はしていませんが、参考になりました。アンケートの結果は、あるチャレンジに使うので助かりました。
活動報告に引き続き乗せていますので、まだまだ回答受付中です。よろしくお願いします。

キングVS遊介です。
キングはなぜ遊介に戦いを挑んだのか……?

原作をご存知の方は、藤木遊作VSリボルバーの、ハノイの塔付近で行われた竜巻っぽいものの近くでのスピードデュエルを想像すると分かりやすいです。


【20】

 

火山の火口の真上が戦いの場。炎の世界を覆う巨大な火山の火口からは常に3キロ以下の岩を巻き上げる竜巻が吹き、それがこの戦いの場をも貫通して遥か上空まで、世界を繋ぎとめる柱のように存在した。

 

(不思議だ……なんか、あの竜巻に呼ばれているような……)

 

竜巻の周りを走るようにDボードで滑空する遊介。その後ろにはジャック・アーロンがしっかりついてきていた。

 

本来であればライディングデュエルで戦うためのサーキットだったが、遊介がバイクに乗れないため、急遽戦いはスピードデュエルで行われることになった。

 

「……ちょっと、あんなところで戦うの……?」

 

不安そうに、サーキットで上空の遊介を心配するブルームガール。

 

「まあ、こうなった以上仕方ないだろう」

 

と、やれやれと言いたげなジェスチャーをしながらマイケルが言った。

 

「あのね……遊介はリーダーなの。何かあったら困るでしょ!」

 

「しかしなぁ、俺達も助けてもらった手前、あのキング野郎のお願いをないがしろにするのはちょっとなぁ」

 

「だからってあんなところで戦わなくても……」

 

それを聞いたユートが、

 

「大丈夫だ。何かあったら俺が行く」

 

と聞くに頼もしいことを言った。

 

しかし、マイケルは、

 

「おいおい、あんないわばひゅんひゅん飛んでくる魔境に行くってのか?」

 

と反論し、ユートは一瞬言葉に詰まったが、

 

「……いや、それでもだ」

 

と、遊介を見る目に宿した光は失われなかった。

 

「さすがだなぁ。ようし、もしものもしもの時は、俺も体を張るぜ。仲間だもんな」

 

わざわざ、ブルームガールの方を見て宣言するマイケル。その行為が意味することを察するブルールガールは、顔を白くしながらも、

 

「も……もちろん!」

 

と強がってみせたのだった。

 

しかし、そんなブルームガールよりも顔面蒼白になりながら、飛んでくる瓦礫を躱し、何とか生き残っている遊介。

 

(怖い……怖いって……)

 

普通に当たったら命がアウトな瓦礫に数回狙われているので、そう思うのも無理はない。

 

ここを戦場にしようと言ったのはキングである。彼もまた迫る瓦礫を躱しながら、苦笑いを浮かべていた。遊介はその件について大いに文句を言いたかったが、それよりも気になることが遊介にはあった。

 

「一つ聞かせてほしい」

 

「なんだ? 今更怖気ついたとかはなしだ」

 

「それはそうなんだけど……、なんで俺達を助けてくれたんだ?」

 

「なぜと訊くか?」

 

「ああ。この世界じゃ、チームメイトならともかく、赤の他人を助けるメリットなどないはずだ」

 

「何を言い出すかと思えば……。そんなもの、貴様の尺度で測るな」

 

「ええ……」

 

「俺が助けたいと思ったから助けたんだ。それは俺の決定だ。自分の道は自分で決める。どんな世界であろうと、俺はそうしたいからそう生きる」

 

迷いなく言い切るアーロン。遊介はその姿に心惹かれるものがあった。

 

「それに貴様。どうやらこの後大一番が待っているようじゃないか?」

 

「ああ……それは……」

 

アルターの大きな宣伝によって一瞬で有名人になってしまった遊介。すでにイベントの結果を含め、たった六人で4位入賞を果たしたチームリーダーとしてその注目度は高い。遊介がイベント戦に参加したのはそのためではあったが、まさか公開処刑をされることになるとは夢にも思っていなかった。

 

「……」

 

「迷っているな?」

 

「え……」

 

「遊介。戦いとは酷なものだ。人はいずれ自分の限界を超えなければならない。俺も、我が友である、星矢や鳥羽梨(とばり)もそうだった。人はいずれ己の限界を越え、目の前に現れた壁を突破しなければならない。だが方法はいくらでもある。飛び越えてもいい、叩き潰してもいい、時間がかかっても良いのなら迂回する方法を考えてもいい」

 

「ジャック?」

 

「どんな方法であれ、その経験は大きな力になるはずだ」

 

アーロンは遊介を伸ばした人差し指の先に見据えた。

 

「そして俺はキング。ここに来た客人は、俺のエンターテイメントの相手であり、デュエルで語らうライバルである。ならば、ライバルの試練に助力は惜しまない」

 

「それはありがたいけど……どうして」

 

「理由を求めるか? ならば俺は正直にこう答えよう」

 

その答えを唾を飲み受け止める構えをとった遊介。しかし、どんな構えであってもその行為に意味がないことは言わないでおくのが花だろう。遊介の頭はそれを判断できないほど処理能力をハルトとの一件に注いでいるということを表している。

 

「俺は、お前に似た男を知っている。正直最初見た時、俺はそいつとお前を見違えた」

 

「俺に似た奴が居たのか?」

 

「ああ。そいつはデュエルが好きだった。シンクロ世界はデュエルで成り上がる世界。そいつも本当は認められるはずだったんだ」

 

「だった……?」

 

「だが、そいつは富豪の罠に嵌って、愛した女を奪われ、社会的に殺された。たまにいるんだ。デュエルができる程度で粋がるなガキめ、なんて言いたげな奴がな。当然俺の力で完膚なきまで潰してやったが、もう手遅れだった。女は既に裏の世界の奴隷商人に渡って行方知れず。そいつの評価は二度と上がることはなかった。そいつはある日姿を消したんだ。あの時……俺は躊躇したんだ。友であったそいつを助けるべきか、個人の事情に堂々と足を突っ込むことはマナー違反で控えるべきか。後者になることを選んだら、結果俺は友を失うことになった。それ以降、俺は、たとえお節介でも、助けたい人間を助ける。そう決めているんだ」

 

出会ってまだ1日しかたっていない。しかし、今まで自信の塊であった男が見せた悲しそうに過去を語るその顔は、遊介の心に刺さる何かを帯びていた。

 

「お前らを助けたのは単なる気まぐれだった。だがお前という存在。そしてとんでもない運命を背負っている状況。それを見てたら、俺の心がどうしてもお前に何かしてやれと叫んだんだ。だからお前にこうして語りあいう機会を求めた」

 

アーロンは消えかけていた覇気をすぐに取り戻す。

 

「さて、余計な話をしたな。そろそろデュエルと行こう。お前のルールに合わせて、スピードデュエルで戦ってやる」

 

「……ああ」

 

遊介もデュエルディスクを構える。このフィールドはキングがルールを決めることができるデュエルフィールドであり、賭けは行われないルール設定になっている。

 

「お前があの男と決戦に挑む前に、俺からいくつかアドバイスをしてやる。後悔しないように、お前が戦うためのエールだ。有難く受け取るがいい」

 

「ジャック・アーロン。あんたは傲慢に見えて、実はいい人なんだな」

 

「当然だ。俺はキングだからな。俺のデュエルには常に意味がある」

 

ジャック・アーロンはデッキからカードを4枚引き、

 

「キングのデュエルは、常にエンターテイメントでなければならない! からな」

 

と、どや顔で言った。

 

(気持ちのいい男だ。格好いいな)

 

格好良いデュエリストを目指す半人前として、一つの完成形が目の前にいる状況に心が躍る。遊介はその胸を借りるつもりで、勝負を挑むことにした。遊介もまた4枚のカードを引いて戦いの準備をした。

 

「戦いの前に躊躇ってすまなかった」

 

「やる気になったか?」

 

「この状況でやる気は起こらないけど、あんたの思い、受け取ることにするよ」

 

「それでよし! 後は戦いの中で語ることにしよう!」

 

再び迫ってきた大きな瓦礫を躱した次の瞬間から、2人の戦いが始まる。

 

「スピードデュエル!」

「スピードデュエル!」

 

遊介 LP4000 

ジャック・アーロン LP4000

 

ターン1

 

「俺が先行だ!」

 

先攻を取ったのはアーロン。

 

アーロン LP4000 手札4

モンスター

魔法罠

 

フィールド

 

(ジャック)

□ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

□   □   EXモンスターゾーン 

□ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

「俺は魔法カード。紅蓮魔竜の儀を発動! このカードは俺のフィールド上にモンスターが存在しないとき、LPを800払い、手札のチューナーを含めて、レベルの合計が8になるように手札からモンスターを墓地へ送り発動する。俺はエクストラデッキから、レッドデーモンズドラゴン、スカーライトを特殊召喚! 俺はレベル6、スカーライトバーサーカーとレベル2のチューナー、レッドリゾネーターを墓地へ送る!」

 

ジャック・アーロン LP4000→3200

 

魔法カードが炎上し、そして炎の柱の中から王者の象徴が現れる。

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

(うわ……早速来たか……ってあぶな!)

 

目の前から弾丸のように迫ってきた小さな岩。それでもスピードがあれば、ただの弾丸であり体を貫かれたときの痛みは想像を絶するものになる。

 

「さらに俺は魔法カード、紅蓮魔竜の壺を発動する。俺のフィールド上にレッドデーモンズドラゴンが存在するとき、自分のデッキからカードを2枚ドローする」

 

宣言通り、アーロンは2枚のカードをドローすると、

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

カードを伏せてそのターンを終えた。

 

「く……」

 

天使たちを焼き払い、マイケルを圧倒的な力でねじ伏せた力の象徴が現れた。

 

遊介はその存在を見て、眉間にしわを寄せ、腰が引ける。

 

「恐れるな!」

 

「え……」

 

「どんな敵が現れても恐れるな! お前はリーダーなのだろう? ならば、恐れるな!」

 

「でも俺は……迷ってばかりの頼りないかもしれない」

 

「迷いは結構。だが、迷いと恐れは違う! 迷うとは立ち向かおうとする証だ。だが恐れとは逃げようとする思想から来るものだ」

 

遊介はいきなり怒鳴られたように感じたが、

 

(……確かにそうかもしれないな……)

 

と、どこか納得もしていた。

 

ハルト見せた圧倒的な力。結局瑠璃が戦術で1手上回ったことはなく、奇跡を引き当ててなお勝てなかったその男に勝負を挑まれた時、なんと思ったか。

 

(怖かった……、正直逃げたいと微塵も思わなかったかと言われれば嘘になる)

 

この世界では、戦いは命を賭ける。生存本能というものが人間にもあるとするならば、その本能がその時に働いたと言うべきだろう。

 

しかし、遊介は逃げることは決断しなかった。

 

「奴と戦うんだろう?」

 

「ああ」

 

「何故だ?」

 

「だって……逃げたら……格好悪いだろう」

 

遊介はその答えが少しヒーロー気取りではずかいいものだと自覚している。しかし、本等にそう思ったのだ。

 

そしてアーロンは、それを聞いてにやりと笑った。

 

「それでいい。お前の戦いは間違っていない。大いに立ち向かえ。そして立ち向かうのなら、どんな形でも手を抜くな!」

 

アーロン LP3200 手札1

モンスター ① レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト

魔法罠 伏せ1

 

(アーロン)

□ ■ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

①   □   EXモンスターゾーン 

□ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

ターン2

 

「俺のターン! ドロー」

 

遊介はカードを引く。

 

恐れるな。手を抜くな。向けられたエールを胸に刻み、カードを選択する。

 

遊介 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

そこに王者は叫ぶ。遊介が思いもしないことを。

 

「罠カード、ショック・ウェーブ! 俺のLPが相手よりも低い場合に発動できる。フィールド上のモンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージをお互いが受ける! 俺はレッドデーモンズを破壊し、お互いに3000のダメージを受ける!」

 

紅蓮魔竜は光り輝く。そして、その体を太陽に変え、熱風と衝撃波を放った。

 

「ぐ、あああ……」

 

その熱気は肌が焼き焦がされるかと思うほどだった。遊介は苦悶の表情を浮かべるが、キングはこの熱気にはすでに慣れていて、うろたえたりはしなかった。

 

遊介 LP4000→1000

 

ジャック・アーロン LP3200→200

 

「そんな無茶な……」

 

「無茶だと思うか?」

 

「なに?」

 

「自分にとって強敵とは、常に己の想像を超えてくるものだ。この程度でうろたえるな! 俺はこの瞬間、墓地のスカーライトバーサーカーの効果。このカードを除外し、破壊されたモンスターを次のターンのスタンバイフェイズに、特殊召喚させる」

 

「つまり、次のターン、レッドデーモンズが戻ってくる?」

 

「そういうことだ。そしてスカーライトバーサーカーのさらなる効果で、このターン、特殊召喚していないレベル6以下のモンスターから受けるダメージはすべてゼロになる!」

 

「な……」

 

「さらに! 墓地の紅蓮魔竜の儀の効果! このカードを除外し、効果を発動する。このターン攻撃力2500に満たないモンスターは、攻撃を行うことができない!」

 

「やりすぎだろ!」

 

「天城ハルトもこの程度はやってくるぞ! 超えて見せろ!」

 

「く……」

 

遊介は一気に追い詰められたことを自覚する。しかし、

 

(負けられないよな……、ジャックの言う通り、この状況なんて、あの男ならやりそうだ)

 

と己を鼓舞して、ディスクを選択する。

 

己を頭がお花畑というのなら笑えと、勝手に思い込み、遊介は巨大な竜巻の中心へと突撃する。

 

「貴様……何を……?」

 

「スキル発動! ストームアクセス!」

 

遊介は凄まじい破壊を見せつけている竜巻へと身を投じていった。

 

「ゆーすけー!」

 

「やめろー!」

 

「それはまずい。戻るんだ!」

 

デュエルディスクから流れる緊急通信を完全に無視し、遊介は、その竜巻の中央を目指す。

 

さすがに恐ろしいほどの石や岩が飛んできて、すべてを躱すことはできない。小さな石が体を何度も貫いていくのを感じたが、それでも竜巻に突っ込んでいく。

 

(この先に、何かいる……)

 

遊介も、何の考えもなく竜巻の中に入ったわけではない。

 

その先に何かが待っている。何度目か分からないその存在を求めた。それはきっとこの逆境を打ち砕く何かなのではないかと思わずにはいられなかった。

 

たどり着いた。

 

そこには竜の姿が見えた気がした。

 

「風を掴む……!」

 

遊介は手を伸ばす。そこにいる何者かとつながるために。

 

今までの中で最も大量のデータが、手の中に集約していくのを感じた。

 

「う……おおおおおお!」

 

体に異物が入ってくる感覚。全身を中から焼き尽くされるような感覚に襲われる。

 

「あああああああ!」

 

しかし、諦めない。手を伸ばし続け、血が出たよう感覚を受け手もその手を伸ばし続けた。

 

 

やがて、手にカードが形創られていく。竜の姿が明瞭になっていき、炎の壁のような翼が見え始める。

 

――しかし。

 

石に手が貫かれた。

 

その瞬間、ストームアクセスは中断される。

 

手に残ったのは、リンクモンスターを表すカードであるものの、モンスターは存在せず、カードテキストも書かれていない、なんの役にも立たないカードだった。

 

遊介は竜巻の外に飛ばされ、竜巻はまるで遊介が失敗したことに失望してしまったかのように消えてしまった。

 

「くそ……!」

 

「平気か?」

 

遊介は右腕が半分麻痺しているものの、

 

「ああ。……平気だ」

 

と強がって見せる。

 

しかし、内心では、

 

(くそ……あいつはきっと俺を呼んでただろうに。俺は……)

 

と、悔しさを隠し切れなかった。

 

「しかし……、今まで消えなかった竜巻が消えたとは……一体何を?」

 

「消えた理由は……俺のせいだ」

 

遊介はそれを淡々と言う。

 

(今はデュエルの途中だ)

 

自身に言い聞かせ、手に入れた謎のカードをエクストラデッキに入れると、デュエルを再開する。

 

「お前、手にけがを」

 

「問題ない」

 

「……いいだろう、ならば来い!」

 

遊介は頷き、そしてカードを手に取る。

 

「俺は魔法カード、ワンタイムパスコードを発動! セキュリティトークン1体を守備表示で特殊召喚!」

 

セキュリティトークン レベル4 守備表示

ATK2000/DEF2000

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

遊介は召喚のサーキットを出現させる。

 

「召喚条件は、通常モンスター1体! 俺はセキュリティトークンをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。来い、リンク1、リンクスパイダー!」

 

リンクスパイダー 

リンクマーカー 下

ATK1000/LINK1

 

「リンクスパイダーは1ターンに1度、リンク先に通常モンスター1体を特殊召喚できる。俺は、ビットロンを特殊召喚!」

 

ビット! と可愛い声で、蜘蛛の陰に現れる白い妖精。

 

ビットロン レベル2 攻撃表示

ATK200/DEF2000

 

「そして、俺はモンスター2体をリリース! デュアルアセンブルムをアドバンス召喚する!」

 

そして、遊介が呼び出したのは、赤と青の竜を模した強力なサイバース。

 

デュアル・アセンブルム レベル8 攻撃表示

ATK2800/DEF1000

 

「ほう……」

 

「こいつなら、攻撃が通る」

 

「ほう……?」

 

しかし、このまま攻撃しては、相手の思うつぼであるような気がした。大きい壁を超えるには、そのための手を打たなければならない。

 

「装備魔法。サポートプログラム・アタック。このカードは墓地のサイバースリンクモンスターを除外して、サイバースモンスターの攻撃力を、リンクの数1つにつき800アップする。除外したリンクスパイダーはリンク1.その攻撃力を800アップする!」

 

デュアル・アセンブルム ATK2800→3600

 

「カードを1枚伏せ、バトルだ!」

 

遊介は、ジャックの方を向いて声高らかに宣言した。

 

「デュアルアセンブルムで、ダイレクトアタック!」

 

と、しっかり攻撃宣言はしたのだが、遊介はこの攻撃が通るとは思っていなかった。

 

なぜなら王者を自称する者が、あの爪の甘いロックで満足するはずがないと思ったからだ。

 

「俺は手札のバトルフェーダーの効果。相手のダイレクトアタック宣言時。手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

 

現れた悪魔の鐘は、響き渡り戦いの終わりを強制する。

 

バトルフェーダー レベル1 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

「俺はこれでターンエンド」

遊介 LP1000 手札0

モンスター ② デュアル・アセンブルム

魔法罠 伏せ1

 

(アーロン)

□ □ □   魔法罠ゾーン

③ □ □   メインモンスターゾーン

□   □   EXモンスターゾーン 

□ ② □   メインモンスターゾーン

□ ■ □   魔法罠ゾーン

(マイケル)

 

「良い。ここまでは合格だ。優等生としてはな」

 

「何が言いたい?」

 

「優等生では……あの男には勝てない」

 

「何?」

 

「信念を持て。たとえどれほどに敗れようとも、お前の戦う道を疑うな。俺も疑わない。俺は勝利し続け、王者であり続けるというな」

 

王者はデッキに手を置くと、目を閉じる。

 

「おい……まさか……」

 

「そうだ。俺とてこんな無茶をして後始末を考えているわけではない。だが俺はキングだ。俺は常に迫る敵を叩き潰す。それだけのこと」

 

自ら賭けであることを宣言してなお、その男の強気な姿勢は折れていなかった。

 

「それが俺が俺である所以であり、俺の信念である」

 

 

ターン3

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

右腕に刻まれた赤い痣が光った。ジャックは再びカードをドローをする。

 

アーロン LP4000 手札1

モンスター ③ バトルフェーダー

魔法罠

 

「この瞬間、墓地のレッドデーモンズドラゴンは蘇る」

 

墓地とつながるゲートが広がり、その中から炎を纏って現れたのは不滅の炎。王者の魂の象徴。

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「何を引いた……?」

 

「勝利の1手。だがこれは奇跡ではない。デッキが俺に応えたのだ」

 

そして、それはモンスターだった。

 

「来い! チューナーモンスター。救世竜、セイヴァードラゴン・ノヴァ!」

 

現れたのは、竜というにはあまりに小さい翼しか持たない竜だった。

 

救世竜セイヴァードラゴン・ノヴァ レベル1 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

「だが、これは希望だ」

 

「何……?」

 

「これは忠告だ。俺も、そして天城ハルトも、まさかこの程度が真の切り札だと思ったのか? セイヴァードラゴン・ノヴァは召喚を無効化できず、召喚したターン、セットカードの発動をすべて封じる」

 

「……な……に」

 

「俺はレベル1の救世竜、レベル1のバトルフェーダー、そしてレベル8のレッドデーモンズドラゴンスカーライトをチューニング!」

 

救世竜は光り輝く。悪魔の竜とバトルフェーダーを巻き込む大きな光で輝く。

 

「あれは……!」

 

「本来であれば人に見せるものではないのだがな。餞別だ。これから大きな戦いに向かって行くお前に、最大の一撃を見せよう」

 

そして、天を指さし、切り札の一つの降臨を堂々と宣言した。

 

「研磨されし孤高の光。真の覇者となりて大地を照らす。光り輝け!」

 

巻き起こる炎。それは戦場すべてを巻き込むほどに大きな力となり、数刻も経たず、その炎を遊介のLPを焼き尽くした。

 

遊介 LP1000→0

 

【21】

 

戦いが終わり本来Dホイールを走らせるはずのサーキットに着地する。

 

遊介がユートに話しかけられたのはその時だった。

 

「遊介。ハルトからメッセージが来た」

 

「メッセージ?」

 

「この世界に来る前から、連絡を取るための手段は確立している。この世界でも使えたとは驚きだ」

 

「それで、なんて書いてあったの?」

 

当事者の遊介よりも先に内容を聞いたブルームガールがユートに迫る。

 

「いや……今言うから、少し離れてくれ……」

 

ブルームガールが顔を少し赤らめて離れた。

 

「俺へのメッセージもあるが、それは省略する。『遊介。お前の覚悟を問う。このメッセージを送ってから3週間待ってやる。光の世界のセブンスターズとの決戦場で待っている。手下の天使を全員倒し、ここまで来て俺を倒せ。もしお前が瑠璃を味方だと言うのなら行動で示せ。もし来なければ、お前を外道とみなし、お前の知り合いと思われるすべての人間を虐殺する』だそうだ」

 

それは、和解の意思はないという明確な意思表示と、遊介に逃げる道はないという明確な告。遊介の選ぶ道は2つ。1つは戦う。もう1つは、逃げる代わりに仲間を見殺しにする。

 

「ユート、ありがとう」

 

メッセージの代弁に礼を述べた遊介。

 

「ユートとやら」

 

ジャックが、Dホイールのメンテナンスを終え話に混ざる。

 

「ハルトのエースは、あれだけか?」

 

アーロンはメンテナンスの途中、イベント戦のベストデュエル賞をとった、公式録画の瑠璃VSハルトのデュエルを見ていた。

 

「……いや、まだ、攻撃力4500の奴を3体持っている可能性がある。あれはまだ序の口だ」

 

(4500……)

 

先ほどのジャックの時のように、エースだと思っていたモンスターの上を出される可能性が大きいということが分かり、遊介は冷や汗をかく。

 

するとユートは、

 

「遊介、次の戦いは俺に任せてくれないか?」

 

と、急な提案をした。

 

「でも……それは……」

 

天城ハルトは、LPを賭けた決闘を辞さないことは明白である。ユートが戦うということはつまり、同じ世界で同じ苦しみを味わった2人が刃を交えてしまうということ。

 

「……大丈夫だ。ハルトはやりすぎた。俺は……何であっても柚子を助ける。そして」

 

ユートはまっすぐ遊介を見て、

 

「新しい仲間を、ひどい目に遭わせたくない」

 

と、秘めていた決意を露わにする。

 

「……確かに、それが賢いかもね……」

 

ブルームガールはユートに賛成した。

 

「ユートの方が強いのは確か。もし火力戦になってもそれは得意とするところ。遊介よりも勝てる見込みは高いわ」

 

対してマイケルは、

 

「でもよ、もし遊介じゃなかったら、あいつなんかやりそうじゃねえか?」

 

という意見を出す。確かに、とブルームガールは、この意見にも頷いてしまった。

 

「遊介よ」

 

ジャックは遊介に問う。

 

それは正しい。なぜなら戦うも逃げるも、遊介が決めることだからだ。

 

「……ああ。確かに怖いけど」

 

遊介は答えに迷いはなかった。

 

「ジャックにここまで背中を押されて、逃げるなんて選択肢は消えるよ」

 

「なぜ?」

 

ユートの問いに、

 

「だって、それじゃあ、格好悪いだろ」

 

と、遊介は堂々と言い切った。ユートはその答えに唖然とする。

 

「ちょっと、死ぬかもしれないのよ?」

 

ブルームガールが、そんな子どものような返答をした遊介に迫る。

 

「あなた! 今の貴方の命は、一人の者じゃない。前も言ったでしょう!」

 

「確かに、それが正しい考え方だろうけど。元々悩んでいたんだ。助けに行くべきか、やめるべきか。こういう時は俺は、自分が正しいと思う方に行く」

 

「上に立つ者は、私欲を捨ててでも全体の利益を取る! 君はそんな当たり前のことが分からないの!」

 

「だったら、じゃんけんなんかでリーダーを決めてしまった事を恨んでくれ」

 

「ちょっとそんな言い逃れはずるいんだから」

 

「それに、俺を庇って戦って、連れていかれたんだ。けじめをつけるのは俺だ」

 

「……なによ。ぞんな男らしいこと言っちゃって……」

 

ブルームガールから、それ以上反論は来なかった。マイケルも、満足そうに笑って遊介を見る。

 

しかし、ユートは遊介に近づくと。

 

「すまない」

 

と言って、衝撃の行動に出た。

 

「が……」

 

「なん……」

 

ブルームガールが驚くのも無理はない。ユートは、遊介の腹を殴ったのだ。

 

その一撃はあまりに協力で、

 

「なんで……」

 

「君をこれ以上巻き込めない。身内の不始末は、俺につけさせてくれ。……今までありがとう」

 

「ゆー……」

 

遊介は意識を失った。

 

崩れた遊介を受け止めることなく、すぐにDボードを呼ぶユート、そしてそのまま、光の世界の方に飛んでいってしまった。

 

その間3秒。あまりに急な出来事で、誰もユートの暴走を止めることはできなかった。

 

「遊介……!」

 

意識を失った遊介を抱き上げるブルームガール。

 

「何よあいつ……!」

 

空へと消えていくユートにブルームガールは睨みをきかせていたが、そんな彼女もこの状況をこれからどうすれば良いか、少し悩んでいた。

 

 

 

 

光の世界。ユグドミレニアスの上空。

 

そこには天使が住まうもう一つの光の世界の姿があった。多くの浮島。そこに立つ神殿。その中で天使は暮らしている設定になっている。そして、その中でも最も大きい神殿が光の世界の主が住まうところである。

 

そして、その奥にある戦いの場。円形に並べられた柱と、円から一つ飛び出たところに存在する金色の輝く聖火とそれを灯す聖火台。全てが水晶でできていて、空に近いのは本来は戦士の闘技場として機能するところが、決戦の部隊になっている。

 

聖火台の近くに、天使二人に監視されながら座らされているのは『柊 柚子』。イリアステルにすでに滅ぼされたペンデュラム世界の数少ない生き残りの1人である。

 

「あなた……どうして私を殺さないの……?」

 

「……お前はいつでも殺せる。だが……遊介という男はおびき寄せないとな」

 

「どうして彼を殺そうとするの……」

 

「決まっている」

 

ハルトは柚子にむけて、その真意を語る。

 

「瑠璃もユートも俺達エクシーズの仲間だ。あいつらにもしものことがあったら僕は兄さんやミハエル、トーマスに顔向けできない」

 

「だからって彼を殺すことはない!」

 

「あるんだよ。僕にはある。この殺し合いの世界で、人を利用する以外に絆は生まれない」

 

「そんなことない!」

 

「お前はどう考えようとも、少なくとも僕はそう考える。僕は恨まれてでも、僕が正しいと思う方法で、僕の仲間を守るんだ。僕は彼らに近づくあらゆるものを徹底的に排除する」

 

「どうしてそうなるのよ……」

 

「どうしてか……」

 

ハルトは語る。

 

「忘れるはずもない。エクシーズ世界での奴は俺達を裏切った! もちろんあいつは別人だと分かる。きっと別の世界の守屋遊介だと分かっている。これは単なる八つ当たりだともわかる。だがな、きっとあいつも裏切るんだ……! そんな気がしてならない」

 

ブレスレッドが光った。そして、柚子は消え、その場には再び紫のしなやかな髪が特徴である瑠璃が現れる。

 

「遊介は裏切らない! あの遊介君は……!」

 

「……君の意見は聞かない。僕はなんとしても遊介を殺す!」

 

既に冷静さを欠いているハルトに声は届かない。

 

「もし遊介が来なかったら……、君の中にいる他の人格はその場で殺す」

 

冷酷な一言を口にするハルトに、瑠璃はため息をつくしかなかった。

 

「遊介……来なくていいから……どうか逃げて……」




10話は以上です。
いよいよ大詰めです。次回はいよいよボスバトルになります。
相手はハルト君です。遊介は勝てるでしょうか。

今回の話では、遊介君複数人説が出てきました。
少し説明をすると、遊介君は融合世界、シンクロ世界、エクシーズ世界にも
同一人物がいます。もちろんこの作品の主人公である遊介とは別人です。
所謂、アークファイブの遊矢君と同じですね。彼らを面白く使っていく予定なので
お楽しみにお待ちください。

シーズン1もいよいよ大詰め!
遊介の決戦をどうか見届けてください。
それでは11話『決戦 黄金に輝く時空竜』お楽しみに!


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11話 黄金に輝く時空竜(前編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

話の途中でセブンスターズが倒されていることになってますが、これについては
ジャックともう一人に関して、番外編で書きたいと思います。

いよいよシーズン1も大詰めです。
シーズン1最後のデュエル。とくとご覧あれ!


【22】

 

遊介が目覚めたのは夜中だった。

 

そこは炎の王国ではなく、懐かしのマイケルの店だった。

 

店に用意されたソファの上で寝かされていた事に気づき、すぐ起き上がろうとしたが、

 

「……あれ」

 

と、つい独り言を行ってしまったのは、感じたことがない柔らかな感触が手にあったからだった。

 

「会長……」

 

ブルームガールが遊介の手を握っていた。既に寝落ちしてしまっていたが、ただ腹を殴られて意識を失っただけながら、遊介のことを心配し、様子を見ていてくれたのだった。その手はいつもの厳しい姿から一転、優しさを象徴するような温もりを感じた。

 

「……ありがとうございます」

 

女の子らしい柔らかなその手から己の手を離し、気づかれないようにそっと手を離し、ソファから離れる。そしてデュエルディスクの様子を確認する。

 

(うわ……)

 

腹を殴られてからちょうど24時間以上経過していることに気づいた。すでに戦いは終わってしまったかと懸念したが、遊介はそんな気がしなかった。

 

メンバー表を見ると、メンバー全員がまだ生きているのを確認できる。

 

「瑠璃はまだ生きている。よかった」

 

それだけ確認できれば十分だった。すぐに外に出る。

 

「待て」

 

中からなんとジャックが現れたのだった。

 

「なんで……」

 

「あの紫のが暴走して先行しただろう。今のままでは天使を突破するのにいささか戦力不足なのではないかと思ってな?」

 

「いいのか?」

 

「ああ。どのみち天城ハルトは次に炎の世界に来る可能性もあった。奴を来る前に叩くにはいい機会だ。奴の保有LPは昨日のイベントで12000になっているだろう。8000削って残り4000にすれば狂戦士でもない限りはしばらくおとなしくなるだろうさ」

 

「あんたは炎の世界にこだわっているんだな」

 

「当然だ。なんせ俺は炎の世界のマスターになったからな?」

 

「マスター?」

 

ジャックは遊介のしっくりこないような表情にあっけにとられる。

 

「お前……まさか、マスターを知らないのか?」

 

「あ……まあ……」

 

てへへ、口で言う代わりに、頭に手を当てた遊介にジャックは説明を始める。

 

「セブンスターズを倒した者にはその世界のルールを決める決定権が与えられる。すなわち、その世界の王になれるということだな」

 

「待ってくれ……ジャックは倒したのか。昨日の時点じゃ……」

 

「お前と戦った後、お前らについて行く前に倒してきた。なかなか強かったな。俺のLPを1000まで追いつめたのだ。褒めてやりたいところだ。それはさておき。俺はそれを使い、炎の世界全体を、炎の神殿および浮島のデュエルサーキット以外で、賭けによるデュエルを禁止した」

 

「そんなことができるのか……すごいな」

 

「そして、光の世界は今、天城ハルトがマスターだ。ルールは、賭けるLPは最低8000、それ以下のLPしか持たない場合、デュエル開始時にペナルティが生じる。なかなか厳しい世界にしてくれたもんだな」

 

「最低8000……」

 

つまり遊介はこのまま戦いに行ったら、8000でたった1回で命が持っていかれるということになる。

 

「だが、奴を倒せば変わる。マスターとなった人間を倒せば、倒した人間が新たなその世界のマスターになれるんだ。そうすればその土地のルールを決め放題だぞ? 消費税100%でも文句は出ない」

 

「いや、それは出るだろ……」

 

「冗談だ。まあ、でもそんなこともできるほど、ルールは決め放題になる。もちろん、賭けデュエルのルールもな」

 

アーロンが冗談を言ったことに遊介は少し驚いたが、分かりやすいルール説明に遊介も納得と首を振る。

 

「天城ハルトがいるのはおそらく光の世界の一番奥だろうな。天使がうようよ飛んで、お前に襲い掛かってくるぞ。全員1人で倒すのは厳しいだろう?」

 

「ああ。まあ、そうだな……」

 

「だから俺が手伝ってやると言ったんだ。お前にエールを送った以上、お前にはちゃんとハルトと戦ってもらわないと、昨日のデュエルの格好がつかない」

 

言い方は俺の為だと一点張りだが、それでもアーロンは遊介を心配しているのだ。それを感じ取った遊介は、

 

「ありがとう。ジャック」

 

と礼を述べる。

 

「き……気にするな。これも俺が勝手にやっている事だ」

 

「それでも、この世界でお節介してくれるんだから、お前は優しいんだな」

 

「ふん。キングとして最低限度の礼儀を尽くしているだけだ。気にするな」

 

店のドアが再び開く音がしたのはその時だった。

 

「起きてたなら言えよー」

 

「マイケル。運んでくれたのか?」

 

「おうよ。お前さんは軽すぎるぜ。もっとデュエルマッスル鍛えとかないと、死ぬぞ?」

 

「なんだよデュエルマッスルって……」

 

こんな時でもマイペースなマイケル。ハルトの件で混乱寸前の遊介にはとても頼もしく見える。

 

「まあ、冗談はさておきな。光の世界は今、天使が全員下に降りて、侵入者を排除するやべーやつになってる。そのまま突っ込んだらぶっ殺されるし、こそこそ隠れながら1人ずつ引き寄せて戦うにも時間が足りない。そんなんじゃ先にユートが着くだろうな」

 

「じゃあ、どうすればいい?」

 

「俺とデュエルさ」

 

「は? ふざけてるのか?」

 

「そうじゃないっての。お前にはあるだろ。一つだけ、誰も寄せ付けない結界を張る方法が」

 

「待てよ、俺は魔法使いじゃないぞ」

 

遊介にはさっぱり理解できなかったが、アーロンにはマイケルが意図することが通じた。

 

「データストーム。遊介にはそれを意図的に呼べるスキルがある」

 

遊介はそれを聞き、初めてマイケルの考えを理解した。

 

「データストームを意図的に起こして、俺がその中に入っていけばいいのか」

 

「お前には気合を入れてもらわなくちゃいけないがな。それでも、天使はその中に近づけない。データストームの加速を使えば、15分程度で大神殿にはつくだろうよ」

 

「でも、光の世界では、LPを賭けるなんてことしたら」

 

「そこは心配すんな。デュエルのルールはデュエル開始時の場所のルールが適用される。俺の店の中で始めれば、俺が設定した賭けデュエル禁止が適用される。そこから外に出ても保有LPが減る心配はない」

 

その時遊介には、初めてマイケルが頼りがいのあるお兄さんとして目に映った。

 

「ついでに新カードもゲットよ。どうだ? お前がくたばっている間、俺様が考えた作戦は?」

 

「いい。いいなそれ。それでいこう。どのみち正攻法じゃ間に合わないからな」

 

「よし。決まりだ!。すぐに始めるぞ」

 

遊介はジャックに、ここまで付き合ってくれたお礼を言おうと近づく。それを察したのかジャックはそれを拒んだ。

 

「礼は奴を倒してからだ。俺達は、万が一データストームに入ってくる天使が居たらそいつに喧嘩を売って、時間を稼ぐ。お前は絶対しくじるなよ?」

 

「ああ。分かった」

 

マイケルが店の中から呼んでいるのを聞き、遊介は店に入る。

 

マイケルから賭け値無しのデュエルを受諾し、デュエルを開始する。Dボードに乗って、すぐに上空へと舞い上がった。

 

カードショップからDボードが三機、遅れてもう1機が飛び出す。

 

遊介はその時は知らなかったが、実はこの時点から、アルターの宣言通り、イリアステルによる公式生放送が始まっていた。上空を舞い、ハルトの待つ光の世界に飛び立った遊介を多くの人間がテレビ画面で鑑賞している。

 

――さて。いよいよ戦いが始まる。遊介君は勝つか負けるか。君もその目でしかと見届けよう! 実況は私アルターがお送りします!――

 

この夜は、遊介の知らないところでリンクブレインズの特大イベントになっていた。

 

 

********************************************

 

チーム『エデン』本拠地にて

 

「お姉さま……」

 

「ええ。そうね。もしもの時は助けないと。三波、リゼッタの小隊に出撃準備をさせましょう」

 

「……にい、死なないで……」

 

********************************************

 

チーム『解放軍』バトルシティ支部にて

 

「遊介……頑張れよ」

 

「まっつん。俺が頑張れって?」

 

「お前じゃない。俺が知ってる方の遊介だ」

 

********************************************

 

チーム『海堂コーポレーション』本社

 

「ほう。あいつが……」

 

「兄さま」

 

「ああ。見届けさせてもらおう。俺は少し出てくる。中継を繋いでおけ」

 

********************************************

 

 

光の世界に差し掛かった。たった1日ぶりながら遊介は久しぶりとも思えるそこは、自分たちが追われていた頃の五倍の天使が飛行している。

 

「厳戒態勢だな」

 

マイケルの独り言に遊介は同意の頷きを行った。

 

天使たちは新たに現れた3人の人間を視認すると、まっすぐ飛び込んできてデュエルの申請をしようとする。

 

「遊介。お膳立ては十分だな! 主街区の大神殿についたらすぐにサレンダーして、そのまま天城ハルトのところへ行け!」

 

「ああ!」

 

遊介はスキルを選択する。その瞬間、地面と平行に紫の竜巻が吹き荒れた。遊介はその中に迷いなく飛び込んでいく。

 

今回の目的は、新カードの確保だけではない。この激しい嵐を読み、Dボードを乗りこなさなければならない。

 

「ぐ……おおおお!」

 

気合を入れるように、風の中を突き進む。やがてDボードは嵐の力で普段では考えられないような推進力を発生させた。

 

「風を掴む……。もう少しだ!」

 

マイケルとジャックとの通信が途切れた。それは2人がデュエルを始めた証。

 

(天使か……どれくらい強いのか……)

 

強さが気にならないわけではなかったが、遊介はその考えを頭から捨てる。

 

「行くぞ……て、え?」

 

推測15分と言っていたが、すでに大神殿が目の前に来ていた。

 

(……いや、さすがに速すぎでは……)

 

どれくらい速く動いていたのだろうか、という推測はしないことにした。この体が今形を保っているのは、スキルの恩恵による奇跡みたいなものだと思うことにして、データストームを消滅させるべく、手を伸ばす。

 

「ストームアクセス!」

 

手の中に新たな希望が集約して現実化する。

 

(エンコード・トーカー。了解!)

 

データストームは消失し、大神殿の中へとDボードに乗ったまま突撃する。

 

神殿は複雑な構造にはなっていない。この神殿は、天空にある天使世界への入り口。水晶でできた柱と、赤いカーペットの先に、たった一つの出口があり、その先に天へと続く階段、ではなくエレベーターが一つ存在するのだった。

 

そしてその前に1人。まるで遊介の道を阻むように立つ少女が居た。

 

「エリー」

 

遊介はその名前を呼ぶと、それに反応するように彼女はデュエルディスクを構えた。

 

「ここから先は行かせない。私を助けてくれた恩人であるあなたでも」

 

「俺はこの先に行かなければならない」

 

遊介がもう一歩前に出ようとすると、

 

「あと一歩でも前に出たら、自動的に戦いが始まる。私を倒さないと、その場から貴方は動けなくなる」

 

遊介に自分を殺せと、エリーは宣言する。

 

「どうして?」

 

遊介は理由を聞いた。エリーは言うのを躊躇った。しかし、彼女は、遊介が退かないと察し、その理由を説明することにした。

 

「女神は殺されました。光の世界には新しい王が君臨しました。私は光の世界とともに生きる原住民。大人が全員殺されてしまっても、光の世界を捨てはしません。私は、とっても嫌でしたが、生きるために、王に忠誠を誓いました」

 

「それが俺を邪魔する理由だと?」

 

「理由なくして王以外の人間を生かすことは大罪であると」

 

「君はそれを望んでいるのか?」

 

「そんなの、ただの冷たい世界です。でも、反逆すれば今度こそ、子供は皆殺しなのです。だから、私は」

 

遊介は、エリーを憐れに思った。

 

しかし、救う術はないとも思っていた。

 

今優先するべきは、エリーではなく瑠璃の命。

 

(だが……やるのか?)

 

どうしても意を決することができなかった。なぜなら、それを認めてしまうと、まるで正義の為ならどんな命も見殺しにしても構わない、ということを認めてしまうような気がしたからだ。

 

それを遊介は、とても格好悪いことだと認識している。

 

「君はどうしたい?」

 

「そんな問いは無駄です!」

 

感情的に遊介の問いを拒むエリーだったが、遊介はもう一度問う。

 

「何が君にとって嬉しい?」

 

「だから!」

 

「答えてくれ」

 

「それは……貴方と戦わないのが一番だけど……」

 

「俺は今から王を倒す。それで君を自由にする」

 

「あの方は、あなたには倒せない。強すぎる! あなたはすぐにここから逃げるべきです!」

 

「……どうして俺に逃げろって言ってくれるの?」

 

それが彼女の善性だった。光の世界で生きてきた彼女は、遊介を倒すべき敵とは認識しなかった。それが言葉として現れたのだ。

 

「それは……その……」

 

「俺は君とは戦いたくない」

 

「でも……こうするしか」

 

そこに。問答を差し置いて。

 

遊介を追い抜き、戦いの場に出た人間が現れた。あまりに急な参戦で、遊介はその人間を止められなかった。

 

「会長……!」

 

現れたのは寝ていたはずのブルームガールだった。

 

「遊介。私をおいて行かないでよ。私もあなたの味方よ」

 

「いや……寝てたから」

 

「おかげであなたに追いつくために、貴方が呼んだデータストームに飛び込まなくちゃいけなかったじゃない! 死ぬかと思った!」

 

「それを俺に言われても……」

 

ブルームガールは、エリーの警告にあるように、戦いを強制される。デュエルディスクが勝手に起動し、エリーとブルームガールが戦うことになってしまった。しかしブルームガールはその状況に動じることはなかった。

 

「先行きなさい」

 

「かいちょ……」

 

遊介がブルームガールに睨まれたのは、この世界でその呼び方はやめろということ。

 

「ブルームガール。エリーは」

 

「心配しない。ほどほどに戦って時間を稼ぐ。その間に終わらせてきて」

 

しかし遊介の顔は晴れない。遊介の懸念は、すでにデュエルが始まってしまったことにあった。

 

「もうLPを賭けて戦いが始まった。死んで」

 

「大丈夫よ。光の世界のマスターを倒せば、ルール変更につき光の世界で行われているデュエルは強制終了になる。ジャックの時に実験したから」

 

「実験?」

 

「私たちだって、ハルトに一泡吹かせるために、いろいろ考えたの! でも、あなたが勝たないと意味ないからね!」

 

遊介はそのことを知らされてはいなかった。

 

遊介の仲間たちは、すでに戦いを始めていた。ハルトから瑠璃を奪還するために、何をするか、何ができるか。気を失っている間もずっと考え続けていたのだ。

 

それを知り、自分がいかに良い仲間に恵まれたかを改めて実感する。そして、その働きに報いるためには、勝つしかないと覚悟を決めた。

 

「――ありがとう!」

 

「細かい文句はいくらでもあるけど、今は言わないわ。頑張って!」

 

ブルームガールのエールを胸に刻み、遊介は走り出す。

 

「待って……」

 

エリーはそんな遊介を止めようとするが、デュエルが始まってしまった強制力で足が動かなかった。

 

本当なら止めるべきだと訴える理性と、どこか、ある日急に現れた救世主に期待をしてしまう感情をもつ自分がいた。

 

「さあ、エリーちゃん。デュエルをしましょう。この世界が変わるまで適当に時間稼ぎをするわよ」

 

ブルームガールがディスクを構える。

 

一点の迷いもなく遊介を送り出したブルームガールにエリーはふと疑問が浮かんだ。

 

「遊介さんは……勝てると思っていますか?」

 

それに対しブルームガールは、一秒のタイムラグなく答える。

 

「勝つ。私たちはそのために来たんだもの」

 

 

【23】

 

 

運命の戦いの場。月と星々は水晶でできた聖火灯る決戦場を優しい光で照らす。

 

天空の大神殿、その最奥に用意された戦場は、空にあまりに近く、まるで夜空に包まれているのかと思わせるほどの幻想的な風景が周りに広がる。

 

そこに、囚われの姫は待っていた。

 

そこに、天城ハルトは待っていた。

 

最初の来訪者は、約束の人間ではなかった。

 

「君が来たか。ユート」

 

ハルトは、懐かしく思う友人の名を口にする。

 

「瑠璃を取り戻しに来た」

 

目的を包み隠さず、堂々と言うユートの目には、怒りの炎が宿っていた。

 

「そう怖い顔をするなよ。瑠璃は殺さないさ。でもあいつは来ないみたいだね」

 

「お前を止めるのは遊介の役目ではない」

 

「そうか。だが、約束は覚えているな?」

 

「俺は遊介の代わりに来たんだ!」

 

「ふざけるな。僕は遊介が来いと言った。約束は約束だ。遊介が来ないのであれば、それ相応の報いを受けてもらう」

 

「待て!」

 

ハルトはそれ以上ユートの声に耳を貸さなかった。右手を出すと、その手は青色に光り輝く。

 

「やめて……」

 

恐怖で顔が歪んでいる瑠璃を見ても、ハルトは容赦はない。右手を出すと、手の形をした何かが、瑠璃に迫っていく。

 

「やめろ!」

 

ユートは走り出したが、その体に電撃が走る。

 

「が……!」

 

「おとなしくしてくれ。瑠璃は殺さないさ」

 

青い手が瑠璃の中に差し込まれた。

 

「あぐ……あぁぁ……」

 

死んだ魚のような目になった瑠璃。その体の中をハルトは容赦なくえぐっていく。

 

「……逃げているのか。だが、魂は体から出ることはせきない」

 

瑠璃の目からなみだが零れ落ちる。言葉にならないような異物感と、気持ち悪さが襲い掛かっていた。ユートはその経験を神代凌牙から聞いたことがあり、それを瑠璃が味わっていると思うと言葉にならない苦しみをユートは感じている。

 

「やめろ! やめろぉ!」

 

ハルトは聞き入れない。ユートの声を全く耳に入れようとすらしない。

 

ユートを苦しめる電撃はその威力を増す。黙れ、とハルトが言う代わりにユートにプレッシャーを与えた。

 

「あ……」

 

「追い詰めた。引き抜くぞ」

 

「やめて……!」

 

「大丈夫だ。君を蝕む余計な魂を潰すだけだ。起きた頃には元通りの君が蘇るはずだ。レジスタンスで一緒に戦った頃の君に。ユートもすぐに君と同じにしてあげるよ」

 

「だめ……だめ……」

 

あと5秒。それだけ時間があれば魂の摘出に十分。ハルトは確実に、落ち着いて、処理を進めていく。

 

(もう……だめ……!)

 

瑠璃は思ってしまった。諦めてしまった。

 

そして、5秒。

 

ハルトは確かに、魂を握った。後は引き抜くだけだ。

 

瑠璃の命は、そしてその体に宿っている魂は複雑に絡み合っている。引き抜けば瑠璃の魂ごと消えてしまうことを、ハルトは分かっていない。だからこそ、ハルトの行動に迷いはない。

 

「あ……!」

 

手が引き抜かれた。

 

瑠璃は、その瞬間意識を闇に沈められ――。

 

――なかった。

 

ハルトはフォトンハンドを強制的に終了させる。そして、ユートへの電撃をも中断させる。彼の視線の先には、約束の男がいた。

 

「来たぞ」

 

ハルトは瑠璃から離れ、現れた遊介の方に体を向けた。

 

「来たか」

 

「なんで仲間の2人までひどい目合わせるんだ。お前の狙いは俺のはずだ」

 

「簡単なことだ。僕は、仲間以外のあらゆる人間を信用しない。レジスタンスは常に最悪の事態を想定して戦う者だ。僕は見知らぬ人間を徹底的に排除する。仲間という存在は否定するつもりはない。だが、ここは敵地だ。そこで絆を結ぼうなど、それこそ、利用されて悲劇の引き金になる」

 

「だから、お前は信用できる人間以外は殺すわけか……」

 

遊介は3歩前に出た。

 

「遊介……だめだ!」

 

ユートが怒鳴ったのはすべて遊介を心配してのこと。しかし、

 

「ユート。俺はお前と同じチームの仲間だと個人的には思っている。だから、君が大変なときは助けさせてくれ」

 

遊介は殺気すら感じさせるユートの顔をみても臆することなく言った。

 

「仲間……貴様が?」

 

ハルトの目に怒りが灯ったのはその時だった。

 

「その顔で……その声で、その姿で、仲間だと? ふざけるなよ。所詮貴様も裏切る。あいつと同じ血を持っているのなら、そうに決まっている!」

 

ハルトの手からロープのようなものが伸びる。そのロープは遊介のデュエルディスクがある腕に巻き付いた。すぐにロープは消えたが、その腕には刻印が刻まれる。

 

「これでお前はここから逃げられない」

 

「俺を殺せば、俺はリーダーだ。俺は代わりに他のメンバーから命を奪うことになる」

 

「その心配はない。ここは今俺の世界だ。この世界ではリーダーを殺したら、そのリーダーが誰から命を奪うかは勝者が選択できる。ユートと瑠璃以外のお前の仲間は、お前を通じてLPを意図的に0にできる。そういうルールにした」

 

「面倒なルールにしたな」

 

「本来ならリーダーのチームメイトの命をはく奪するシステムを無効にしたかったがそれはできなかった。しかし光の世界でそんなことができるからこそ、僕はお前をここにおびき寄せた。普通に殺すだけなら、あの後すぐに殺すこともできた」

 

ハルトはデュエルディスクを構える。

 

「準備は整った。僕は、エクシーズ世界の僕の仲間を騙そうとした敵であるお前を葬る。今ここで。デュエルモード、フォトンチェンジ!」

 

遊介は逃げるつもりはなかった。

 

しかし、LP8000が最低の賭け値、そして負ければブルームガール、マイケル、ヴィクターの誰かが殺される。その2つが懸かった戦いの前であり、改めて意識すると緊張で心臓が爆発しそうだった。

 

(恐れるな……)

 

己に言い聞かせて、地面をしっかりと踏みしめる。デュエルディスクを構え、戦いの姿勢になった。

 

「遊介……」

 

瑠璃の弱弱しい声に、遊介は、

 

「大丈夫。そこで見ていてくれ。俺はしっかりけじめをつけるよ」

 

と答え、心配そうに見るユートに頷いてみる。

 

ユートは何かを言いたげだったが、それを中断し、

 

「頑張れ……瑠璃を頼む」

 

と遊介の戦いを見守ることを宣言した。

 

遊介のデュエルディスクには断りようのないデュエル申請が来る。

 

ルールは、初期ライフ8000、手札5枚で行うマスターデュエル。

 

遊介は決闘を受諾する。

 

お互いはカードを5枚ドローした。

 

この戦いに邪魔は入らない、退く道もない。互いは相容れない存在として命を賭けた戦いが始まる。

 

「ここで死ね」

 

「いいや死なない。俺はここに勝ちに来た」

 

――戦いが始まる。

 

「デュエル!」

「デュエル!」

 

遊介 LP8000

天城ハルト LP8000

 

(後編へ続く)




長くなってしまったので、前後編で分けています。
後編はついにデュエルに突入します。ぜひご覧ください!


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11話 黄金に輝く時空竜(後編)

詳しい前書きは前編にあります。そちらをご覧ください。

後編はいよいよデュエルです。
ハルトVS遊介のデュエルをお楽しみください。


(前編の続き)

 

ターン1

 

「僕が先攻だ」

 

ハルトが宣言し、己のカードを見定める。

 

ハルト LP8000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(ハルト)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

「ギャラクシーアイズ、クラウドドラゴンを召喚」

 

最初に出したのは、以前瑠璃を倒すための最後の1手になった小さな竜。しかし、その竜はすぐに青い粒子になって、槍に姿を変える。

 

「効果。このカードをリリース。手札、もしくは墓地から、このモンスター以外のギャラクシーアイズ1体を特殊召喚する」

 

そしてハルトはその槍を天空へと投げ上げる。

 

「闇に輝く銀河よ。光の化身となりて、我が僕に宿れ! 降臨せよ、我が魂!」

 

そして現れたのは、瑠璃を徹底的に追い詰めた銀河眼の竜。

 

銀河眼の光子竜 レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「僕はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

最初の行動はまだ穏やかだった。しかしそれは瑠璃の時と同じく、容赦なく敵を潰すための準備であることを遊介は分かっていた。

 

「さあ、来い」

 

ハルトは遊介を挑発する。

 

(く……もう来たのか……)

 

目の前に現れたすさまじい威圧を放つ竜に、遊介の目が険しくなる。

 

ハルト LP8000 手札1

モンスター ① 銀河眼の光子竜

魔法罠 伏せ2

 

(ハルト)

□ ■ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

ターン2

 

「俺のターン。ドロー!」

 

遊介の最初のターン。ハルトを睨み、そして場をしっかりと確認する。緊張しているからか、いつも以上にフィールドを見て、手札を見て、最初の攻撃の方法を丁寧に決めた。

 

遊介 LP8000 手札6

モンスター

魔法罠

 

「手札のスタックリバイバーを墓地へ送り、ビットルーパーは手札から特殊召喚!」

 

遊介の場に最初に現れたのは白い槍を持ったサイバースの騎士。

 

ビットルーパー レベル4 攻撃表示

ATK1500/DEF2000 

 

「そして、サイバースガジェットを通常召喚!」

 

そして、ビットルーパーと同じほどの大きさで、似た体形のサイバースが現れる。

 

サイバース・ガジェット レベル4 攻撃表示

ATK1400/DEF300

 

「サイバースガジェットの効果! 召喚に成功した時、墓地のレベル2以下のモンスターを守備表示で特殊召喚する。俺は墓地のスタックリバイバーを特殊召喚!」

 

そして、墓地へ続くゲートが開き、その中から先ほど手札から墓地へ送ったモンスターが現れる。

 

スタックリバイバー レベル2 攻撃表示

ATK100/DEF600

 

「現れろ。未来を導くサーキット」

 

3体のモンスターを召喚してすぐに、リンク召喚の合図を出す。

 

「召喚条件は効果モンスター2体以上。俺はビットルーパー、サイバースガジェット、スタックリバイバーの3体をリンクマーカーにセット!」

 

遊介の場にいる3体は、上空に現れたサーキットにむけて飛び立つ。それぞれが、リンクマーカーの上、左下、右下に着弾して、サーキットは輝いた。

 

「サーキットコンバイン! リンク召喚、来い! デコードトーカー!」

 

現れたのは、遊介の戦いの先陣を切るにふさわしい、紫の剣を持ったサイバースの戦士。

 

デコード・トーカー 

リンクマーカー 上 左下 右下

ATK2300/LINK3

 

遊介はその後ろ姿を見て、少し安心する。

 

その効果もあってか、この先のカード効果を語るときに舌を噛まずに済んだ。

 

「そして、スタックリバイバーの効果。俺このカードを素材としてリンク召喚した場合、同時に素材にしたレベル4以下のサイバースモンスター1体を墓地から守備表示で特殊召喚する。俺はサイバースガジェットを特殊召喚できる」

 

サイバース・ガジェット レベル4 守備表示

ATK1400/DEF300

 

「さらに、サイバースガジェットが墓地へ送られた場合、俺のフィールド上に、ガジェットトークンを特殊召喚できる」

 

ガジェット・トークン レベル2 守備表示

ATK0/DEF0

 

しかし、デコードトーカーのリンク先に、今召喚したモンスターを置くことはなかった。

 

ハルトはそれに驚いた様子はない。

 

(まあ、この程度で揺さぶりはかけられないか)

 

遊介は、この戦いに全力を注ぐと決めている。意外な行動をして揺さぶりをかけて、相手のプレイングに影響を与えられるのならば良いと思ったが故の行動だった。

 

そしてそれはもちろん遊介のプレイングミスではない。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

遊介は天空へ受けて手を伸ばす。その先に、新たな召喚サーキットが現れる。

 

「召喚条件はサイバースモンスター2体。俺はサイバースガジェット、ガジェットトークンをリンクマーカーにセット。リンク召喚、リンク2、フレイムアドミニスター!」

 

光った召喚ゲートから現れたのはロボットのような見た目の赤いサイバースモンスターだった

 

フレイムアドミニスター 

リンクマーカー 左 右下

ATK1200/LINK2

 

「デコードトーカーの右下リンク先にフレイムアドミニスターを置いている。デコードトーカーは、リンク先のモンスター1体につき攻撃力が500アップする。さらに、フレイムアドミニスターが存在する限り、自分フィールド上のリンクモンスターの攻撃力は800アップ!」

 

デコード・トーカー ATK2300→3600

 

フレイムアドミニスター ATK1200→2000

 

ハルトは、この連続召喚でも動じない。それもそのはず、ギャラクシーアイズは攻撃力が上のモンスターと戦闘を行っても、自らと相手モンスターを除外する効果で、破壊を免れる効果を持っている。

 

しかし、それでもフレイムアドミニスターの攻撃で2000ダメージは通る。

 

しかし、遊介にはこの状況も織り込み済みであった。ハルトを追い詰めるために、デッキに投入したカードがちょうどよく手札にあった幸運に感謝し、優柔不断は無しで徹底的に使っていくことにした。

 

「攻撃はしない」

 

「……ほう」

 

はじめて、ハルトが遊介の行動に興味を示した。遊介は直接次に使うカードを突き出し、そすてディスクで発動宣言を行った。

 

「魔法カード、『サイバースショック』! フィールド上にサイバースリンクモンスターが2体以上存在するとき、その中で最も攻撃力の高いリンクモンスターの攻撃力分のダメージを与える。俺のフィールド上のリンクモンスターの中で、最も攻撃力が高いのは、デコードトーカーの攻撃力3600!」

 

デコードトーカーは魔法カードの力を宿した剣を掲げ、紫の斬撃波を放った。その斬撃波はハルトを押しつぶすように直撃し炸裂した。

 

「ぐ……」

 

その衝撃はハルトを無理やり五歩分奥まで押し飛ばした。確かに攻撃は通ったのだ。

 

ハルト LP8000→5400

 

「このカードの効果を発動したターン攻撃を行うことはできない。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

手札0。本来であれば手札に奥の手を残しておくことも考えなければならない。しかし、そんな余裕はないと判断している。

 

「……先制の攻撃を成功させた程度で思い上がるな」

 

「思い上がってはない。俺は全力でお前を倒そうとしているんだ」

 

「そうか。だが、お前は勝てない」

 

ハルトは一瞬ふらついたが、すぐに体勢を立て直す。

 

「なぜなら俺は絶対に負けないからだ」

 

余裕の態度は未だ崩すには至らなかった。

 

(まだまだ、始まったばかりだな……)

 

遊介は油断しないように己に気を使いながら、そのターンを終える。

 

遊介 LP8000 手札0

モンスター ② デコード・トーカー ③ フレイムアドミニスター

魔法罠 伏せ2

 

(ハルト)

□ ■ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

  □   ②     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ ③   メインモンスターゾーン

□ □ ■ ■ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

ハルトの目はまるで遊介を、誰かの仇のように見るハルト。

 

遊介はふと気になった。ハルトの動機は確かに遊介は頷けなくはないものの、それだけでは語れないような怒りが宿っているように思えたのだ。

 

「一つ聞きたい。なんで俺をそこまで敵視する?」

 

「その問いに意味はない。問いというのは情報を得るために行うものだ。その情報を活かすために行うものだ。ここで死ぬ貴様に答えることなど何もない」

 

「俺はそんなに信用ならない顔か?」

 

「そんなことは関係ない。僕はこれから先、何も失わないために、あらゆる外敵を差別なく排除する」

 

ハルトとのまともな会話はもはや不可能なことを示した。

 

 

ターン3

 

 

「僕のターン!」

 

ハルトがカードをドローして、デュエルの続きを強行する。それは戦いの中断は許さないという意思表示。

 

ハルト LP5400 手札2

モンスター ① 銀河眼の光子竜

魔法罠 伏せ2

 

今引いたカードを確認した瞬間、

 

「今からお前を潰す」

 

その殺気を倍加させて、新たなカードをディスクに置いた。

 

「ギャラクシーウィザードを召喚」

 

現れたのは、宇宙を思わせるローブを来た魔術師。

 

銀河の魔導師 レベル4 攻撃表示

ATK0/DEF1800

 

(レベル4……)

 

エクシーズモンスターは同じレベルでないと呼ばれない。遊介のその安堵は一瞬で消される。

 

「ギャラクシーウィザードは、1ターン1度、ターン終了時までレベルを4つ上げる」

 

「な……」

 

銀河の魔導師 レベル4→8

 

「何を驚いている。まさかフォトンドラゴンで長々と戦っていくと思うのか?」

 

ハルトは手を前に突き出した。それは新たなエースを出す合図だった。

 

「俺はレベル8のギャラクシーアイズとウィザードでオーバーレイ!」

 

2体のレベル8モンスターが空中に現れた黒い渦の中へ、黄色の光となって吸い込まれていく。

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!」

 

渦が収縮し、新たな力が覚醒する爆発を起こす。

 

「宇宙を貫く雄叫びよ、遥かなる時を遡り、銀河の源より蘇れ! 顕現せよ、ナンバーズ107! ギャラクシーアイズタキオンドラゴン!」

 

爆発の中から現れたのは新たな銀河眼を持つ竜。青い光子竜に対し紫の光と黒の体躯が特徴の巨大な竜だった。

 

NO.107 銀河眼の時空竜 ランク8 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「さあ、行くぞ! バトルフェイズ開始時、俺はタキオンのオーバーレイユニット1つを使う。このカード以外の表側表示モンスターの効果はすべて無効化され、その攻撃力、守備力は元々の数値となる!」

 

「なに……」

 

遊介のモンスターは一気に弱体化し、その攻撃力は相手の竜の攻撃を通す数値へと落ち込んでいく。

 

デコード・トーカー ATK3600→2300

 

フレイム・アドミニスター ATK2000→1200

 

(まずい……)

 

遊介はここでデコード・トーカーを失うわけにはいかなかった。ここでモンスターをすべて失っては、次のターンに戦うことが厳しくなってしまう。

 

「バトルだ! ギャラクシーアイズタキオンドラゴンで、デコードトーカーを攻撃! 殲滅のタキオンスパイラル!」

 

時空竜の口にすさまじいエネルギーが集約され、そして破壊の咆哮が放たれる。

 

「トラップ発動。『パラレルポート・アーマー』! 自分フィールド上のリンクモンスター1体の装備カードとして装備! そのモンスターは相手の効果の対象にならず、戦闘では破壊されない」

 

(勝)銀河眼の時空竜 ATK3000 VS デコード・トーカー ATK2300 (負)

 

デコードトーカーは剣の腹で圧倒的な破壊の力を受ける。その衝撃が遊介に襲い掛かる。

 

たった700ダメージ。しかし、

 

「ぐ……があ!」

 

全身に電撃が走ったような痛みを遊介は感じる。膝をつきそうになるところを何とか耐えた。

 

遊介 LP8000→7300

 

「何とか……」

 

この程度で済んだ。と言おうとした遊介にハルトは告げる。

 

「この程度で終わったと?」

 

「何……?」

 

遊介は上空にいるはずの時空竜を見る。

 

その姿は逆三角錐のような形に変形していた。

 

「タキオントランスミグレイション!」

 

時空竜の変形後と思われる物体から、七色の放射状の光が放たれる。その瞬間体が凄まじい違和感を訴えるのを遊介は感じる。

 

その違和感を説明することはなく、ハルトはタキオンドラゴンの効果を説明する。

 

「バトルフェイズ中に相手のカード効果が発動する度、このカードの攻撃力を1000アップし、このカードは1ターンに2度攻撃できる」

 

NO.107 銀河眼の時空竜 ATK3000→4000

 

「2回……!」

 

「さて……もう一度だ」

 

光は収まった。そしてすでに逆三角錐の物体はなくなっていて、再び時空竜は攻撃の準備を始めていた。その姿は先ほどと全く同じ動きで、まるで、時を遡ったかのような感覚を遊介は得た。

 

ハルトは指さす。次は赤い体を持つ遊介のモンスターを。

 

「タキオンドラゴン。フレイムアドミニスターを攻撃! 殲滅の……」

 

再び殲滅と言うにふさわしいエネルギーが時空竜に集まっていく。遊介に防ぐ手立てはない。次の攻撃は確実に受けなければならない。

 

「タキオンスパイラル!」

 

放たれた破壊光線は、フレイムアドミニスターを軽々飲み込み、光線は遊介へと、流れていく。

 

(勝)銀河眼の時空竜 ATK4000 VS デコード・トーカー ATK1200 (負)

 

光に覆われた遊介に待っていたのは、全身を焼き尽くされるかのような想像を絶する痛み。

 

「が……ああああああ!」

 

叫ばずにはいられない。叫ばないと神経が焼き切れるのではないかと錯覚するほどの激痛が遊介を襲った。

 

遊介 LP7300→4500

 

すでに遊介の残りライフは半分に迫っている。すでに体の限界を示そうと、頭痛がサレンダーを訴えている。

 

(だめだ……だめだ!)

 

それでも遊介は立ち上がり、体勢を立て直した。

 

「立ち上がるか。まあ、この程度で殺せるはずないか。薄汚い裏切者と同じ貴様は」

 

「何の話だ……」

 

「知る必要はない。俺はこれでターンエンド!」

 

その瞬間、時空竜の攻撃力が戻るのを遊介は確認した。

 

NO.107 銀河眼の時空竜 ATK4000→3000

 

ハルト LP5400 手札1

モンスター ④ 銀河眼の時空竜

魔法罠 伏せ2

 

(ハルト)

□ ■ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ④   ②     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ ⑤ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

(強い……)

 

心配そうな目で己を見る瑠璃とユート。それは仕方がないことだと遊介は納得している。この状況は客観的に遊介が不利であることを示している。

 

「まだ……ここから逆転させてもらう!」

 

ハルトは意気消沈しない遊介を蔑むような目で見ていた。

 

 

ターン4

 

 

「俺のターン! ドロー」

 

体を動かすたびにしびれが走る。遊介はそれを気合で克服しカードを握った。そのカードはまだ遊介に絶望するには早いことを伝える。

 

遊介 LP4500 手札1

モンスター ② デコード・トーカー

魔法罠 ⑤ パラレルポート・アーマー 伏せ1

 

「装備魔法カード、『サイバース・アナイレーション』をデコードトーカーに装備!」

 

このカードは遊介が戦闘力が低い常に言われていたその弱点を補うためにイベント戦対策で入れていたカード。ついに使うことができたことに少しの満足感を得るが、すぐに気を引き締め直す。

 

「遊介。それは……」

 

このカードはユートに入れることを勧められたカードでもあり、ユートが反応を示すのも無理はない。

 

「そうか……そのカードなら倒せるな」

 

ユートの宣言通り、このカードは攻撃力が高かろうと関係ない。

 

「この装備魔法を装備したモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ、戦闘を行う相手モンスターと同じになる」

 

その説明をした時点で、ハルトには遊介の考えを悟った。

 

「なるほど。今のデコードトーカーはパラレルポートアーマーの効果で戦闘では破壊されない。つまり、今のデコードトーカーは、戦闘時に攻撃力を同じにして、しかも自分は破壊されないという戦闘では無敵の存在になったわけだ」

 

「行くぞ! バトルだ!」

 

伏せカード2枚。しかし遊介にこのこうげきを迷うほどの余裕はない。

 

「デコードトーカーで、ギャラクシーアイズタキオンドラゴンを攻撃!」

 

デコードトーカーは装備魔法の力を得て、竜を倒すドラゴンスレイヤーとなった。その一撃は確実に時空竜を葬り去る。

 

――あくまで、このままいけばの話だが。

 

ハルトはその攻撃を易々と通しはしない。

 

すでにこの瞬間を予期していたかのように、伏せたカードを発動する。

 

「速攻魔法。『RUM-エスケープ・フォース』! 自分フィールド上のエクシーズモンスターが攻撃対象に選ばれた時、その攻撃を無効にする!」

 

「なに……」

 

自分の逆転の一手を防がれ、遊介は落ち込む。しかし、それよりも恐ろしいことが起こることも遊介は自覚していた。なぜなら、発動していたのは、エクシーズモンスターを進化させる魔法だったのだから。

 

「さらに、攻撃されていたモンスターを素材に、ランクが1つ高いモンスターをエクシーズ召喚する! タキオンドラゴン! ランクアップエクシーズチェンジ!」

 

「く……!」

 

「貴様に僕のモンスターを破壊などさせはしない。お前は蹂躙される。次に現れる真のギャラクシーアイズの力を宿す僕の切り札によって」

 

「真の……?」

 

時空竜は光となって天空へと駆けあがる。そして混沌の渦の中へと飛び込み、この戦闘場を包み込む光の柱を発生させる。

 

ハルトは叫ぶ。その名を。その竜が何たるかを。

 

「逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ、永遠を超える竜の星! 現れろ! カオスナンバーズ107! ネオギャラクシーアイズタキオンドラゴン!」

 

光の柱に塗りつぶされていた遊介の視力が回復する。

 

その目に映ったのは、時空竜を超える力を持ち、目の前にいるだけで恐怖を感じずにはいられない黄金の三つ首の竜。それはまさしく圧倒的存在だった。

 

CNo.107 銀河眼の時空竜 ランク9 攻撃表示

ATK4500/DEF3000

 

「あ……ああ……」

 

遊介は感じてしまった。

 

(ヤバい……あいつはヤバい……!)

 

何とかしなければ確実に負けてしまうと、言葉にならずとも感じ取った。しかし、今の遊介にあのモンスターを倒す方法はない。

 

「た……ターンエンド……」

 

不本意にも、そう宣言するしかないのだ。

 

「愚かな顔だな……」

 

「く……」

 

「今にも血反吐を吐きそうな顔だ。そろそろ理解した方がいい」

 

何を、という問いは遊介から生まれなかった。

 

黄金の竜が出た時点で、希望を持って遊介を見守っていたユートも瑠璃も、焦りを隠せない。

 

「遊介……」

 

瑠璃は今にも泣きそうな顔をしていた。

 

遊介 LP4500 手札0

モンスター ② デコード・トーカー

魔法罠 ⑤ パラレルポート・アーマー ⑥ サイバース・アナイレーション

 

(ハルト)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ⑦   ②     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ ⑥ ■ ⑤ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

ターン5

 

 

「僕のターン。ドロー!」

 

ハルト LP5400 

 

ハルトは引いたカードを見て、一応の納得を示すと、遊介を睨む。

 

「今からネオタキオンの真の力を解放しよう。それで、お前の戦いを支えるそのモンスターを消し炭にしてやる」

 

(まじか……)

 

遊介はここで傲慢におのれのカード効果を信じたりはしない。ネオタキオンの真の力を遊介は知っているからだ。

 

(大丈夫……大丈夫……まだ負けてない……恐れるな!)

 

しかし遊介は体の震えが止まらなかった。

 

(まだ負けない。まだ負けない! 何をそんなに怖がってるんだ俺!)

 

必死に自分を元気づけても、震えは止まらなかった。

 

ハルトはそんあプルプル震える遊介を見て、

 

「……雑魚め」

 

と蔑むだけだった。そして、黄金の時空竜の力を解放する宣言をハルト行う。

 

「ネオタキオンの効果! オーバーレイユニット1つを取り除き発動する。このカード以外のフィールド上の表側表示のカード効果はターン終了時まで無効化される。そしてこのターン相手はフィールド上の効果を発動できない。タイムタイラント!」

 

黄金の竜から、先ほどの時空竜を超えるほどの光が放たれる。そして遊介は自らの恐怖が増していくのを感じる。

 

(あ……)

 

その巨大な体ももちろん恐ろしい。しかし、何より恐ろしいのは、4500という攻撃力を持つ竜からの攻撃を受けたら、それはどれほどの痛みをフィードバックするか?

 

遊介はそれが怖かった。無意識に恐怖を感じていたことに今気づいた。

 

光の放射が終わり、攻撃の体勢に竜が変わっていく。

 

「これで、お前の罠も装備魔法も効果を使えない。バトルだ」

 

戦闘の宣言が来た。遊介の呼吸が荒くなる。

 

(来る……来る……)

 

それ以外、頭の中で遊介は考えられなかった。

 

「破壊するのに時間がかかったが、これでデコードも破壊される。ネオギャラクシーアイズタキオンドラゴン、アルティメットタキオンスパイラル!」

 

三つ首から放たれたのは黄金の炎。すべてを破壊する究極の一撃。

 

(勝)CNo.107 銀河眼の時空竜 ATK4500 VS デコード・トーカー ATK2300 (負)

 

デコードトーカーは焼き尽くされ、勢い衰えぬ破壊の濁流は遊介を巻き込んでいった。

 

初日。ブルーアイズホワイトドラゴンの攻撃を受けた時、全身を焼き尽くされるような感覚を感じたのを遊介は覚えている。

 

しかし、この攻撃はそれをも超えていた。

 

「が……ああああああああ!」

 

自分が溶かされバラバラになるような感覚を遊介は抱え、叫ばずにはいられなかった。

 

『死』を本気で意識した。

 

遊介 LP4500→2300




今回はここまでです!
遊介VSハルトの戦いは次回まで続きます。

裏話を少しすると、ハルト君は自分のことを『僕』と言いますが、いつもの癖で『俺』と書くことが多く執筆中その修正が大変です。
間違いが無いように意識していますが、ありましたら随時訂正していきます。

あとがきは短めで。語りたいことは、デュエルの決着がついてからにしたいと思います。
今回はアニメ風次回予告でお別れしたいと思います。次回12話もお楽しみに!

(次回予告)

命を賭けて。誇りを賭けて。この世界では何かを失いながらでしか生きられない。しかし彼は違う。なにも失わないために、世界、迫る敵と戦い続ける。運命に立ち向かい続ける勇者を守るため、その竜は舞い降りた。

「俺には、絶対に負けられない理由が3つある!」

次回 遊戯王VRAINS―もう一人の『LINK VRAINS』の英雄― 「英雄の守護竜」 イントゥ・ザ・ブレインズ! 


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12話 英雄の守護竜

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

遊介は果たして勝てるのか?
それとも作者の意地悪で負けて、主人公を変更されてしまうのか?
決着の時です。

9月20追記 
閲覧していただいた方から、ミスの指摘がありました。ただいま訂正案を考え中です。それまでは、ミスの部分は飛ばしていただき、ストーリーをお楽しみください。
→9/21 たぶん訂正完了です。(苦し紛れ)


【24】

 

ハルト LP5400 手札2

モンスター ⑦ 超銀河眼の時空竜

魔法罠 伏せ1

 

遊介 LP2300 手札0

モンスター 

魔法罠 伏せ1

 

(ハルト)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ⑦   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

「何故立つ。お前はあいつと同じ血を持っているのに。仲間を売り自分が楽になることを選ぶあいつと同じ血を持っている貴様が、なぜそうまでして立つんだ」

 

ユートも瑠璃も、今の遊介を見て絶句していた。

 

遊介は立っていた。しかし無事とはとても呼ぶことはできない。

 

遊介はハルトを見る。しかしその視界はぼやけている。目を閉じたいという欲求が、決意を揺さぶってくる。

 

服はところどころが焼かれていた。それが演出なのか本当の火傷なのかは判別がつかない。

 

大きく息を吸い、そして吐きだす、というただの呼吸活動すら意識的に行わないと体に酸素が届かない。

 

(だめだ……まだ倒れちゃだめだ!)

 

遊介は必死にそう自分に言い聞かせることで何とか己を保っている。

 

「遊介、もうやめろ!」

 

ユートの声が聞こえても、遊介は頑なにディスクを構え戦う姿勢を見せる。

 

「お前はもう限界だ!」

 

長年レジスタンスで戦ってきたユートの忠告は正しい。それは分かっている。

 

それでも遊介はデュエルディスクを構え、戦いの続行の意思を示した。

 

退けない。自分をここまで導いてくれた仲間のために、自分に命を預けてくれている仲間のために。誰かを守れるヒーロー気取りにしてはずいぶん無様な格好だったが、それでも遊介は仲間を失いたくなかった。

 

命賭けの世界でできた本当の仲間にひどい目に遭ってほしくなかったのだ。

 

体をふらつかせながらも、何とか意識を保ち、デッキに手を置いた。

 

「今にも血反吐吐きそうな最悪な顔だな。何故お前はそこまで戦う。この世界に来るまで知りもしなかった赤の他人のために」

 

「……悪い、かよ……」

 

「悪いに決まっている。どうせお前もユートや瑠璃を利用しようとしていた。そして自分たちが命の危機に瀕した時、容赦なく2人を地獄へ生贄に捧げるんだ。そんなことを僕が認められると思うのか?」

 

「そんなこと、するわけない!」

 

「黙れ。絶対にお前はそうする。お前は、その手で友を殺す」

 

2人は分かり合えない。思想が違いすぎる。

 

遊介はあらゆる出会いを肯定する。その中で、希望を見つけて生きていく。

 

ハルトはあらゆる可能性を悲観的に見る。徹底的なリスク排除。そうすることで自分を、仲間を生かそうとする。

 

2人は相容れないのだ。

 

遊介は何故話が通じないのかをようやく理解した。

 

これ以上の言葉を述べることなくカードをドローする。

 

 

ターン6

 

 

「俺のターン!」

 

カードを引いた。そして見た。モンスターカードだったことに安心し、遊介は伏せカードを発動する。

 

まだ戦意は、戦う意思は途絶えていない。

 

「罠カード。『リコーデット・アライブ』。墓地のリンク3サイバースを除外して、エクストラデッキからコード・トーカーモンスターを1体特殊召喚する。俺は墓地のデコードトーカーを除外して、エクストラデッキから、パワーコード・トーカーを特殊召喚!」

 

縋るように差し出した手。それに応えたのは赤きコードトーカーだった。

 

「悪あがきを……」

 

確かに2300であれば、次の黄金の竜の攻撃を受けても遊介のライフは100残る計算になる。

 

ハルトはそこまでを想像した。

 

しかしながら、遊介にとっては、この赤いサイバースの戦士は、危機を打開する希望の1手であった。

 

パワーコード・トーカー

リンクマーカー 左 左下 右下

ATK2300/LINK3

 

余計な言葉を言う余裕は今の遊介にはない。淡々と作業を進める。

 

「手札のドットスケーパーを、パワーコードトーカーのリンク先に通常召喚」

 

ドット・スケーパー レベル1 攻撃表示

ATK0/DEF2100

 

「バトル!」

 

そして遊介はすぐにバトルフェイズを宣言した。

 

「頭が沸いたか?」

 

遊介は反論しなかった。頭は既におかしくなっている。ねじが数本飛んでしまっている。脳で思いついた言葉は本来吟味されてから、音声をつけられ飛ばさるが、今の遊介にはその吟味をするだけの余裕はなく、思いついたことをそのまま口から発射してしまう。

 

「安心しろよ……俺は諦めたわけじゃない」

 

遊介はためらいなく宣言する。

 

「パワーコードトーカーで、ネオタキオンを攻撃!」

 

赤い戦士は飛翔する。そして黄金に輝く時空竜へとまっすぐ突撃していく。金の時空竜はその赤い戦士を迎え撃つべく黄金の炎を口元に宿し始めた。

 

「この瞬間、俺はパワーコードトーカーの効果を発動する! このカードが相手モンスターと戦闘を行うとき……、リンク先の、はぁ、はぁ、モンスター1体をリリースして、その攻撃力を倍にできる! 俺はドットスケーパーをリリース!」

 

赤い戦士の力はこの効果を持って倍増する。

 

パワーコード・トーカー ATK2300→4600

 

先に放たれようとしていた炎を、パワーコードトーカーは自らが持つフックショットのような武器を放ち、三つ首の一つに当てることで阻害する。

 

「パワーターミネーションスマッシュ!」

 

遊介が必死に叫ぶと同時刻に、攻撃力が倍加したパワーコード・トーカーは黄金の竜を貫いた。

 

(勝)パワーコード・トーカー ATK4600 VS 超銀河眼の時空竜 ATK4500(負)

 

「く……」

 

ハルト LP5400→5300

 

ハルトに与えたダメージは微々たるもの。しかし、ハルトの真の切り札である超銀河眼の時空竜を破壊できたことに大きな意味がある。

 

しかしハルトは、相変わらず表情を変えない。自分のモンスターが消えてなお、己の勝利を疑わない。

 

(まだ……なにか……)

 

遊介は己を蝕む嫌な予感をぬぐうことができなかった。

 

遊介 LP2300 手札0

モンスター ⑧ パワーコード・トーカー ⑨ ドットスケーパー

魔法罠 

 

(ハルト)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ⑦   ⑧     EXモンスターゾーン 

□ □ ⑨ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

ターン7

 

 

「時空竜を倒した。それで?」

 

「なに?」

 

「この程度で終わりなら、僕は、兄さんのギャラクシーアイズデッキは、エクシーズ世界最強などとは呼ばれない」

 

「な……な!」

 

遊介は限界が近い。先ほどのパワーコード・トーカーの1撃もモンスターが来なければ不可能だった。すでに遊介のデュエルは運頼みの領域なのだ。

 

誰が言ったかは分からないが、遊介はこの言葉を思い出す。『奇跡とは、二度と起こらないから奇跡と呼ばれる』

 

「僕のターン。ドロー」

 

ハルトは静かにカードを引く。

 

ハルト LP5300 手札3

モンスター

魔法罠 伏せ1

 

その光景を遊介は見た事がある。瑠璃にとどめを刺すときと動きがほぼ同じだった。

 

それは勝利を確信しているが故の行為であるならば。そう考えるだけで冷や汗が肌を伝うことがしっかりと感じられる。

 

「装備魔法。『銀河零式』(ギャラクシーゼロ)を発動。自分の墓地のフォトン、もしくはギャラクシーモンスターを攻撃表示で特殊召喚する! 僕は墓地のギャラクシーアイズフォトンドラゴンを特殊召喚!」

 

そのカードは最初から手札にありながらもずっと使わずに残していたカード。自らの魂たる竜を再びこの戦場に呼び戻すために彼が残していた手段。

 

モンスターが居ないこの状況さえも、ハルトには想定の範囲内だったということ。

 

(なんて……奴だ)

 

再び現れた銀河眼の竜を前に遊介はハルトの力を甘く見ていたことを知った。

 

銀河眼の光子竜 レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

それだけでは終わらない。ハルトはさらに手を残していたのだ。

 

「この装備魔法にはデメリットがあるが、今は関係ない。僕はさらにマジックカード、フォトンサンクチュアリを発動。自分フィールド上に、フォトントークン2体を特殊召喚する」

 

現れた2つの光の玉。

 

フォトントークン レベル4 守備表示

ATK2000/DEF0

 

「僕はこのターン、光属性のモンスターしか出せない。だがそれも関係ない。僕の手札は光属性だ。そして先ほど引き当てたカードを出すため、フォトントークン2体をリリース。フォトンカイザーをアドバンス召喚する。

 

二つの球は一つに混じり、光り輝く円環を顕現させた。その中から現れたのはフォトンモンスターの皇帝。

 

フォトン・カイザー レベル8 攻撃表示

ATK2000/DEF2800

 

「このカードの召喚に成功したとき、デッキからフォトンカイザーを特殊召喚できる」

 

「もう1体……!」

 

その皇帝はもう1体遊介のフィールド上に現れた。

 

レベル8のモンスターが3体。

 

遊介が恐れていた事態が現実になろうとしていた。

 

ハルトはここで深呼吸をする。そして、覚悟を決めた真剣な顔つきになる。

 

「俺の仲間に近づいた罪。未来に犯すであろう貴様の罪。俺はそのどれをも認めない。ここですべてを断罪する。さあ、懺悔の用意はできているか!」

 

そんなものはしない。遊介はそう決めている。

 

しかし、ここでそんな強がりを言ったところで耳を傾ける人間はいない。

 

なぜなら、断罪を拒む者は既に負けが確定しているから。

 

「俺はレベル8のギャラクシーアイズ、そしてフォトンカイザー2体でオーバーレイ!」

 

青き銀河の竜は光となり、2人の皇帝とともに遥か空へと飛翔していく。そこにできた黒い渦をめがけて。

 

到着。ハルトの手に赤い槍が握られる。

 

「逆巻く銀河よ! 今こそ怒涛の光となりて、我が僕に宿れ!」

 

口上ともに天上へ投擲された槍。

 

その時、銀河の爆発を見違えるほどの神秘的な色の爆発が起こった。

 

「降臨せよ。我が魂! ネオギャラクシーアイズフォトンドラゴン!」

 

そして天より現れたのは黄金の時空竜と同等の力を持った、赤き光子竜。身に宿す力はさらに大きく、それは顕現するだけで空気を震わせ、存在のみであらゆる生命を平伏させるほどの、力の化身。

 

超銀河眼の光子龍 ランク8 攻撃表示

ATK4500/DEF3000

 

「あ……ああ……」

 

遊介にはまだ戦う気力はあった。が、手立てが残されていなかった。

 

先ほどの1撃が本当に最後の1撃だったのだ。

 

ハルトはそれを分かってか、もはや遊介に対して警戒はしていなかった。ここから先は倒すべき敵との戦いではなく、処理すべき雑魚排除という雑務となっていた。

 

「ネオギャラクシーアイズの効果! ギャラクシーアイズフォトンドラゴンを素材としている時、フィールド上に表側表示で存在しているカード効果をすべて無効にする。フォトンハウリング!」

 

威嚇の波動。たったそれだけで時空竜を破ったパワーコードも畏怖してしまう。

 

遊介はその時、何を感じていたか。

 

それはたった一言で表すことができる。

 

絶望。

 

次の1撃を体が耐えることはできない。仮に耐えられても、もはや遊介には――

 

生半可な敵ではないことは知っていた。

 

エクシーズ世界最強であることも分かっていた。

 

そして、自分が勝てる可能性は低すぎることも分かっていた。

 

それでもここにきて戦いを決意したのだ。しかし、それすらも驕りだった。

 

なぜなら、勝てる可能性が低いのではなく、勝てないからだ。

 

この時。今までどんな痛みにも必死に耐えて、どんな試練も乗り越えてきた遊介の闘志がついに枯渇してしまった。

 

「これで終わりだ。LPは残るが所詮はたった100。そしてお前のデッキにはもはやこのモンスターを乗り越える手段はない。その前にお前の精神が持たないだろうがな。バトルだ。ネオギャラクシーアイズフォトンドラゴン。パワーコードトーカーを攻撃」

 

超圧縮された光子のエネルギー波。遊介はそれが感覚的に先ほど己を瀕死へ追い込んだ裁きの一撃と同等の力を持っていることを悟った。

 

「ああ……ああああ……」

 

ただ、うろたえるしかできない遊介。

 

「もうだめだ。やめてくれ!」

 

「お願いやめて……やめて!」

 

ハルトに命乞いを続けるユートと瑠璃、しかし、

 

「もはや奴に逃げ場はない。泣いて命乞いをしようと僕は聞き入れない。僕は害をなす可能性があるものをすべて排除する。僕の、最後の仲間を守るために」

 

ハルトは指さす。己の魂たる赤き光の竜が倒すべき標的へ。

 

「アルティメットフォトンストリーム!」

 

(勝)超銀河眼の光子竜 ATK4500 VS パワーコード・トーカー ATK2300(負)

 

放たれた一撃を遊介は受け入れた。

 

先ほどが黄金の炎と比喩するならばこちらは灼熱の赤炎。ハルトの抱える怒り、憎しみの炎の具現化だった。

 

すでに遊介の目は何も情報を入れていない。

 

溶けていく。痛みではなく、自分がこの世から消えていくような喪失感。

 

体は衝撃に耐えられず浮遊し、戦闘場から強制退場させられた。

 

目を開けていようとも、意識はブラックアウトしていた。

 

遊介は天空の闘技場だけでなく、天使の住まうこの聖域から落下し、そのまま地上へと墜落していく。

 

「遊介ぇぇ!」

 

チームメイトの悲鳴が天を貫いた。

 

遊介 LP2300→100

 

「ターンエンド」

 

ハルトは、デュエルの終わりをあえて宣言しなかった。遊介は落下で物理的外傷を受け死ぬ。それには、リーダー特権の仲間のLPの自動譲渡は関係ないうえに、チームは強制解消となる。それはそれでいい幕引きだと思ったのだ。

 

ハルト LP5300 手札0

モンスター ⑩ 超銀河眼の光子竜

魔法罠 伏せ1

 

(ハルト)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ⑩   □     EXモンスターゾーン 

□ □ ⑨ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

【25】

 

 

(だめか……)

 

もう死ぬ。遊介はそう思った。

 

(だめなのか……)

 

負けたのだ。遊介はそう思った。

 

もはや体はどこもかしこも痛みすらあげず、なにも反応しようとしない。

 

遊介はデュエルディスクを見た。LPは100残っている。

 

しかしもう戦おうとする気力が沸いてこなかった。

 

それがどうしようもなく悔しかった。

 

(何が悔しい)

 

己に問い詰めた。

 

(瑠璃を助けられなかったことか。何を言う。俺ははヒーローではないはずだ。誰かを助けるだけの力はなかった)

 

また考えた。

 

(ならチームリーダーとして無様だからか。そりゃそうか。俺は勝てない。仮にDボードを呼んで奇跡的に戻れたとして、その後はどうしようもない。俺は負けてきっと誰かを殺してしまうんだ。あいつの言う通り、俺が殺した)

 

正しい。正しいが足りなかった。

 

(やっぱり格好悪いからか……。それも……そうなんだけど

 

やはりそれだけでは足りなかった。『それだけでは』。

 

(……いや、そうか……そうだな)

 

その答えは簡単なことだった。遊介は自問自答でもはや意味のない答えを得た。

 

「ははは……もう死ぬ……」

 

その時、デュエルディスクが光った。

 

「ん……?」

 

正しくはディスクが光ったのではない。その中に入れていたかカードが光ったのだ。遊介はそのカードを手に取る。

 

それは以前キングとのデュエルで失敗したストームアクセスで手に入れたなにも書かれていないリンクモンスター扱いのカード。

 

そのカードが光り輝く。すると下の方から紫の竜巻が遊介目掛けて龍のように昇ってきたのを見た。

 

遊介は無抵抗にその竜巻に巻き込まれる。体が凄まじい勢いで浮かせられていく。

 

竜巻の中。

 

遊介はまた、かつて一度だけ出会ったことのある竜の姿を見た。まるでそのデータストームはその竜が起こしたかのようにその竜はデータストームの中心に居たのだ。

 

いつものデータストームとは違う。その竜巻は遊介になんの危害も与えなかった。包み込むようにして優しく、天にある戦いの場へと運ぶ運び屋。

 

竜は遊介を見る。

 

何も書かれていないカードはまるでその竜を求めるように輝いた。

 

「お前……やっぱり、あの火山の竜巻の……」

 

竜はその言葉が分かったのか、ゆっくりと頷く。

 

「ごめんな。あの時、失敗しちゃって」

 

竜はそれでも遊介を見続けていた。

 

遊介は未だすべてが見えないその竜の正体に気が付く。この竜であれば、どんなに強力な相手でも戦うだけの力がある。

 

遊介は自分の思いをぶつける。

 

この竜に協力してほしい。その思いをありったけ。

 

「俺は負けられない。絶対に勝たなくちゃいけない。そのために君の力を貸してほしい。俺は」

 

竜は頷いた。

 

「いいのか? 俺は――と違って頼りないぞ?」

 

それでも竜は頷いた。竜の決意も堅かったのだ。遊介を助けるために、データストームを起こして助けた時点で、その竜は、すでに自らの力を使う主を決めていた。

 

何故。と遊介は思う。しかし、それは野暮な質問だった。

 

まだ何も書かれていないカードを前に差し出す。

 

「この前の続きだ。今度こそ、俺と一緒に来てくれ」

 

竜巻の中に咆哮が響き渡る。

 

カードの中に力が注ぎ込まれていく。

 

テキストにその竜の名前が刻まれていく。

 

その名は――。

 

 

【26】

 

 

竜巻が戦闘場のすぐ近くに発生する。

 

「ち……なんだ、こんな時に」

 

ハルトもこの気象異常に驚いていたが、ユートと瑠璃には嬉しい知らせが来た。

 

その竜巻の中から、助からないと思われた男が現れた。

 

「貴様……」

 

すでに心も折れたかとハルトは判断していた。しかし、遊介に宿るその目は、未だ希望を失っていなかった。

 

「往生際が悪いことだ。さっさと死んだ方が楽になれたものを」

 

「ああ。正直、今ももう、次に倒れたら俺は立てないだろうな」

 

と自分を評しながらも、

 

「それでも……俺には、絶対に負けられない理由が3つある」

 

と、自分が心のどこかで憧れていたヒーローを遊介は真似た。

 

「1つ。俺は友達を失わないためにこの世界に来た。それは彩や松だけじゃない、ユートや瑠璃、マイケルやブルームガールもだ。2つ。俺はチームリーダーだ。俺が死ねば代わりに誰かが死ぬ。そんなことは、ここまで俺を導いてくれた仲間に申し訳が立たない。そして3つ」

 

その言葉はこの場の誰にも衝撃を与える一言を言い放った。

 

「何より負けたら……格好悪いだろう?」

 

遊介はにやりと笑って言い切った。

 

ユートと瑠璃は唖然とする。そんな理由で限界の体を動かしてまだ戦うのかと。

 

そしてハルトは、

 

「何を言い出すかと思えば……貴様、とうとう壊れたか」

 

と、憤りを超えて呆れしかなかった。

 

しかし、遊介は今自分が言ったことを恥じていない。

 

「俺は何も後悔なんてしていない。俺は最後まで諦めない」

 

遊介はデッキに手を置いた。

 

今にも意識がまた飛んでいきそうな状態、戦いの状況、どちらで見ても、猶予は次のターンしかなかった。

 

「行くぞ……!」

 

 

ターン8

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

遊介は最後のドローを行った。

 

遊介 LP100 手札1

モンスター ⑨ドットスケーパー

魔法罠

 

そして最後のターン。遊介の頭の中には今引いたカードに見覚えがなかった

 

「ファイアウォール、お前がくれたのか……現れろ! 未来を導くサーキット!」

 

天空に召喚のサーキットが現れる。

 

「召喚条件はレベル2以下のサイバース1体。俺はドットスケーパーをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン! リンク召喚、現れろリンク1、トークバックランサー!」

 

最初に呼んだのは、小さなサイバースの槍使い。

 

トークバック・ランサー

リンクマーカー 下

ATK1200/LINK1

 

「そして俺は魔法カード『カウンタープログラム』を発動。リンク召喚に成功したとき、俺のライフが相手ライフの数値の半分より低く、自分モンスターの攻撃力の合計が相手モンスターの攻撃力の合計より低い場合、デッキからレベル4以下のサイバースモンスターを効果を無効にし、自分リンクモンスターのリンク先以外に、可能な限り守備表示で特殊召喚できる! ただし、このターン発動以降、俺はサイバースリンクモンスターしか特殊召喚できない。俺はこの4体特殊召喚!」

 

ドラコネット レベル3 守備表示

ATK1400/DEF1200

 

ビットロン レベル2 守備表示

ATK200/DEF2000

 

サイバース・ウィザード レベル4 守備表示

ATK1800/DEF800

 

バックアップ・セクレタリー レベル3 守備表示

ATK1200/DEF800

 

「このターンでケリをつける」

 

「できもしないことを。今のお前のデッキにそんなカードは存在しない」

 

「なら、試してみるか?」

 

不敵な笑いを浮かべる遊介。

 

ハルトは身構えた。その笑みが本物に見えたから。

 

「俺が未来を託すのはこいつだ……! 現れろ未来を導くサーキット!」

 

再びリンク召喚のサーキットが開く。

 

「召喚条件はモンスター2体以上! 俺は、カウンタープログラムで呼んだ4体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

先ほど呼び出した4体が流星となり、合計4つの光が上下左右に煌めいた。

 

「これこそが俺の、サイバースの新たなる可能性! あらゆる敵を拒み、焼き尽くす、電脳世界の守護を司る竜。今、迫る敵を排斥するため、その姿を現せ!」

 

そして現れるのは竜巻の中で出会い、遊介を主と認め、その男を守る守護竜。

 

「リンク4! ファイアウォールドラゴン!」

 

白き体と青い光を宿す黒い翼。サイバース族真のエースモンスターが遊介を守るために舞い降りた。

 

ファイアウォール・ドラゴン

リンクマーカー 上 下 左 右

ATK2500/LINK4

 

「リンク4……!」

 

ハルトも現れたその竜にただならぬ何かを感じ警戒する。

 

しかし、その警戒は無意味と化す。

 

ハルトは確かにあらゆる事態を想定して戦う戦士である。しかし、ファイアーウォール・ドラゴンの効果は、そもそも、対策する方法が少ない。

 

「ファイアーウォールドラゴンの効果! このカードと相互リンクしているモンスターの数まで、自分または相手のフィールド、墓地のモンスターを対象として発動! ファイアーウォールドラゴンと相互リンクしているモンスターは上にあるエクストラゾーンのトークバックランサー1体。よって、俺は1体、ネオギャラクシーアイズフォトンドラゴンを対象にする。そのモンスターを持ち主の手札に戻す!」

 

「な……んだと……!」

 

ハルトは初めて顔を歪めた。

 

「ようやく……驚いてくれたな。これが俺の新しいエースの力だ。エマージェンシーエスケープ!」

 

電脳世界の竜から激しい電撃が放たれる。

 

赤い竜はその電撃に焼かれる。凄まじい攻撃力を持つその竜も、その電撃には耐えきれない。

 

光子の竜は、皮肉にも自らが光の粒子となって四散する。

 

そして、ハルトのフィールドはがら空きになった。

 

「く……」

 

ハルトは遊介を睨む。

 

それはそのはず。なぜなら、すでにLPが削りきられる理由は自らで説明していたからだ。

 

「現れろ未来を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族リンクモンスター1体。俺はトークバックランサーを素材に、ファイアーウォールドラゴンの右のリンク先に特殊召喚する。出でよ、セキュアガードナー!」

 

セキュア・ガードナー 

リンクマーカー 右

ATK1000/LINK1

 

「さらに、墓地の『リコーデッド・アライブ』の効果。EXモンスターゾーンにモンスターが存在しないとき、このカードを除外し、除外されているコードトーカー1体を特殊召喚する。俺はファイアフォールドラゴンの左に、除外されたデコードトーカーを特殊召喚する」

 

デコード・トーカー 

リンクマーカー 上 左下 右下

ATK2300/LINK3

 

現れた2体のリンクモンスター、そしてファイアウォール・ドラゴンの総攻撃によって削られる総LPは5800.止めを刺すには十分な攻撃力。

 

「くそ……貴様!」

 

「お前は強かった。強かったよ。でも侮ったな。これでお前に勝つ!」

 

そして、最後の宣言を行う。

 

本当に最後だった。これを耐えられたら、もう体が耐えられない。どうか終わってくれという願いを込めて、

 

「バトル!」

 

遊介は叫ぶ。

 

「セキュアガードナーでダイレクトアタック!」

 

攻撃は入った。ハルトは必死に攻撃を受け止める。

 

「ぐ……」

 

ハルト LP5300→4300

 

「デコードトーカーでダイレクトアタック!」

 

紫の戦士の大剣による斬り上げ。その衝撃に耐えられず、ハルトは打ち上げられた。着地は背中からになり、凄まじい痛みがハルトに襲い掛かる。

 

「が……!」

 

(攻撃が通った! あの伏せは発動できないカード……!)

 

ハルト LP4300→2000

 

「ファイアウォールドラゴンでダイレクトアタック!」

 

遊介はこれが最後だと信じた。

 

ファイアウォールドラゴンの翼が変形し、体が赤く染まり、そして翼があった竜の後ろが炎の壁を表す円状の力場を生成した。

 

「テンペストアタック!」

 

撃ちだされた紅蓮の炎のごときレーザーを撃ち放った。

 

これで終わる。

 

遊介はそう信じた。

 

しかし――、もう一度言う。ハルトはエクシーズ最強の戦士。

 

伏せカードが発動できない無駄なカードであるはずがなかった。

 

「罠カード、『フォトン・プロテクター』。この戦闘で戦っている俺のモンスターは戦闘では破壊されず、さらに俺がこの戦闘で受けるダメージは0になる!」

 

ハルトの前に青白い光の盾が現れた。その盾が、レーザーを受け止め、その爆発から、ハルトを守り切る。

 

「な……!」

 

「この程度で……終わると思ったか。貴様になど負ける俺ではない。さらなる効果により、俺は墓地のフォトンモンスターを1体手札に戻す。俺は墓地のギャラクシーアイズクラウドドラゴンを手札に戻す」

 

そしてギャラクシーアイズを蘇らせるカードを手札に戻された。

 

遊介は黙っている。

 

ハルトはそれを、今度こそ敗北を認めた証としてとらえた。

 

「これで貴様の攻撃は終わった。次のターン。俺が墓地のギャラクシーアイスを蘇らせ、その攻撃で終わらせる」

 

そう。それが真実。

 

結局遊介はハルトに勝つことなどできなかった。

 

ファイアーウォールドラゴンという奇跡をもってしても、ハルトに遊介は叶わないのだ。

 

――というのが、ハルトが知る真実。

 

「それはどうかな?」

 

遊介は、言ったのだ。まだわ終わってはいないということを。

 

「何……?」

 

「俺の攻撃が終わったと思ったら大間違いだ。墓地の、『パラレルポート・アーマー』の効果! 墓地のリンクモンスター2体、トークバックランサーとパワーコード・トーカー、そしてこのカードを除外し、俺のフィールド上のモンスター1体、ファイアーウォールドラゴンは、このターン2回攻撃ができる!」

 

「なんだと!」

 

ハルトの絶叫、そしてそれを塗り替えるように、遊介は本当の最後の1撃を叫んだ!

 

「ファイアウォールドラゴンの攻撃! テンペストアタック!」

 

背中の炎の円があらぶり、紅蓮の炎が撃ち出された。

 

「くそ……がぁあああああ!」

 

これ以上をハルトは防げない。

 

最後の1撃は、遊介の祈りは、勝利への執念は、通じたのだ。

 

ハルト LP2000→0

 

デュエルディスクに見たことのない画面が出たのに遊介は気づく。

 

『就任おめでとうございます。新たなエリアマスター。この世界のルールはあなたが決めることができます』

 

「そうか……勝ったんだな」

 

遊介はその場で意識は失わなかったが、横に倒れてしまった。

 

ルールはいつでも設定できる。遊介は一つだけ設定して残りは後回しにした。

 

そのルールは。光の世界において、命を賭けたデュエルを禁止すること。それは現在デュエルを行っている者含め光の世界全員に適用される。

 

「これで……」

 

最後の戦い、遊介に勝利の女神は微笑んだ。




長くなりましたが、前後編分けず一気読みがいいと思い、1つにまとめています。
第1シーズンラストのデュエルはいかがだったでしょうか?
たった8ターン書くのにこれほどの文章量となり、自分でも驚いています。
しかし、皆さんに面白いと思っていただければ幸いです。

実はハルトはプレイングミスをしています。この戦い、本来は遊介に勝ち目はありませんでした。その点について少し捕捉をすると、ハルトも少し感情的になっていたのでしょう。兄のように冷静に最善手を討ち続けるにはまだまだ未熟という描写のつもりです。そういう点から見ても遊介の勝利は奇跡として映えるのではないかと考えています。

さてデュエルはラストですが、第1シーズンはもう少しだけ続きます。
今回もアニメの次回予告風にお別れしましょう。

(次回予告)

1つの大きな戦いは終わった。しかし、その戦いがもたらしたのは、新たなる戦いが始まる合図のファンファーレだった。白スーツの男が天空の戦闘場に現れ語ったのは、ヌメロンコードの真実だった。

「お前らは俺が倒すべき敵ってことだな」

次回 遊戯王VRAINS―もう一人の『LINK VRAINS』の英雄― 「戦いの真相」 イントゥ・ザ・ブレインズ! 


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13話 戦いの真相

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

このリンクブレインズでの戦いの真実が明らかに……なるかもしれない。


【27】

 

 

ブルームガールとマイケル、そしてエリーが戦闘場に現れた。

 

すでに体が動かない、ハルトと遊介を置いてことが進んでいる。ユートがフォトンハンドを解除し、瑠璃を監視する天使2人を始末し、瑠璃は救われた。

 

「遊介……!」

 

ブルームガールに抱きかかえられ、遊介は何とか座る姿勢まで回復する。

 

「ごめん。迷惑かけた……」

 

「勝ったんだね……」

 

「ああ。勝った」

 

「よかったぁ……」

 

ぎゅっと女の子に抱かれるのは遊介には初体験だった。あまりに急だったもので何と言えばいいか、とりあえず、

 

「あ、ありがとう……」

 

と言うのが精いっぱいだったのだ。

 

「こちらこそ。おかげでエリーも、光の世界の子どもたちも救われた。もうこの世界だけでも、デュエルで命を落とす人はいなくなった。だからエリーも助けられたよ」

 

そう。遊介は間に合ったかどうかと心配していたことが1つあった。エリーを助けられればいいと思ったのだ。だからこそ、すぐに倒れたい欲求を押さえてでも、設定を変えたのだ。

 

その結果は、今目の前にいる、妹と同じくらい可憐な少女を見て明らかだった。

 

「ありがとうございます」

 

頭を下げるエリーに遊介は、にっこりとほほ笑んだ。

 

ハルトはユートと瑠璃と話している。

 

「僕は……負けたな」

 

「ああ」

 

「僕は……兄さんの面子を汚した。エクシーズ最強を誇って、この世界で戦っていたのに」

 

「それは……」

 

返答に困るユートに対し、瑠璃は言う。

 

「ねえ。どうしても誰も信用できない……?」

 

それは、ハルトの過激ともとれるリスクコントロールに言及する。

 

「僕は……そうだね。だって、僕が見逃したせいで、誰かが傷ついたりいなくなったりするのが怖いんだ」

 

すでに死にそうな目で瑠璃を見る。

 

瑠璃は慰めるようにして言った。

 

「ハルト。私は、裏切られてもそれでいい。だって自分で信じたんだもん。それは自分のせい。あなたがそこまで非道になる理由が私たちだっていうのなら、これ以上無理はしないで」

 

「無理……」

 

「戦うの辛くない? だって、毎回痛い思いをしてたんでしょ?」

 

「それは……」

 

デュエルをする以上はLPが削られないということはない。ダメージはそのまま痛みとなってフィードバックされるこの世界で、ハルトはただ一人戦い続けた。

 

全ては故郷を救うため。そのために最速で勝利への道を、ヌメロンコードへの道を拓こうとしていた。

 

その代償も当然高かったのだ。

 

「ああ。痛かったよ」

 

「これからは私たちも協力する。全部を拒んで1人で大変な思いをするのはもう終わりにしよう……?」

 

普段のハルトにはこのような説得は通じない。

 

しかし。

 

今は、

 

「……ああ。こんな無様に負けたんだ。きっと、やりかたを間違えていた……かもしれないな」

 

と、静かに語るのだった。

 

戦闘場は穏やかな空気に包まれ、戦いの終わり感じさせる。

 

拍手が聞こえたのその時だった。

 

戦闘場の中央、いつの間にかそこに立っている白いスーツの男。

 

遊介はその男を知っている。奴は、自分をこの世界へいざなった男。

 

ハルトはその男を知っている。奴は己の故郷を滅ぼし、兄を倒した男。

 

アルター。

 

「素晴らしい戦いだった」

 

ハルト、瑠璃、ユートの目にすさまじい殺気が灯ったのが分かった。

 

遊介はその瞬間に分かった。エクシーズ世界の人間が持つ恨みの大きさを。

 

しかし、そんなことを気にも留めない彼は、

 

「君たちも僕に用があるのは知っているが。これはホログラムでね。ここに本来の僕はいない」

 

「何の用だ!」

 

「この戦いを楽しませてもらったお礼に、勝者である彼にこの戦いの真実を教えてあげようと思ってね?」

 

とだけ言うと、遊介に近づいていく。

 

「久しぶりだね?」

 

遊介は立ち上がれない。しかし睨みながら、その男との久しぶりの対談に臨む。

 

「お前……」

 

「俺が言ったこと。今では本当だと実感しているかな?」

 

それはリンクブレインズに入る前の夢の話をしていることはすぐにわかる。

 

「お前のせいひどい目にあった」

 

「楽しくはなかったか?」

 

「楽しいもんか。何度も死にかけた」

 

「ははは。充実しているようで結構結構」

 

「お前……」

 

話すのは2度目ながら、やはりこの男とは分かり合えないことがはっきりと分かる、

 

「まあ、そう言うな。今日はエリアマスターになった君に、とっておきのお知らせがあってな」

 

すると、遊介のデュエルディスクに二人の人間を映し出す。

 

「これは?」

 

「彩ちゃんと良助くん。良助君のプレイヤーネームは『まっつん』。彩ちゃんのプレイヤーネームは……聞いて驚くなよ? 『リボルバー』」

 

「リボルバー?」

 

遊介は一瞬だけ考えて、その名前がなんであるかに気がづく。

 

「1位の巨大組織のリーダー……」

 

「そうだ。2人はまだ生きている。まずは勝利の証として、2人の姿と生存を君に伝えよう」

 

それを聞いて一安心の深呼吸をした。

 

「良かった」

 

「良かったか……そう思えればいいのだがね」

 

「何が言いたいんだよ」

 

「いいや。それはいずれ知ることになるさ。今はまだ語るべき時ではない」

 

アルターはにこにこ笑って遊介に言う。

 

ブルームガールとマイケルが口を出した。

 

「この戦いの真実って?」

 

「ああそうか。まあ、チームメイトとして君にも伝えてあげよう。この戦いはそもそもなんのために行われているかは知っているか?」

 

アルターはじっとマイケルを見る。マイケルは慌てて目を逸らした。

 

「なんだよ……つれないなあ。まあいいや。では少し長い話になるから、心して聞いてくれ」

 

アルターは、ほぼ透明なカードの映像を出した。

 

「この戦いは何のために行われているか。それはヌメロンコードという、捧げられた供物に相応なあらゆる願いを叶えてくれる神の恵みと言うべき力を求めるための戦い。それは今映し出されている1枚のカードとして視認できるものでね。今はこの世界の天空の城、アーククレイドル、我がイリアステルのこの世界における本拠地に幽閉されている」

 

再びアルターは映像を見せた。二枚目は古代人がデュエルをしている光景。

 

「古来よりヌメロンコードはあらゆる平行世界のいずこかに現れて、その世界の使用者を求める。その世界で、最も己を使うにふさわしい人間を見極め、その使用者の願いを叶え、次の世界へと飛んで行く。それの繰り返しさ。ヌメロンコードの力はまさしく神の所業を成し遂げる。死者蘇生、時間渡航、過去事項への干渉、未来予知。あらゆる力をその世界の人間に与えることができる。では、ヌメロンコードは誰を使用者に選ぶか、そして供物とは何か?」

 

3枚目。2枚目に出てきている人間から魂のようなものが消えていく画像を見せられる。

 

「ヌメロンコードが求めるのは人の命。命を吸えば吸うほど、与える力は増大し、叶う願いの種類も多くなる。だが、命を吸うとはどういうことか。命とは不可視の存在であり、贄として捧げようにもどう捧げればいいかなど分かるはずもない。しかし、この世界にはある。命を数値に見立て、戦うことで命を放出するゲームが。そう、デュエルだ。デュエルによって削られたお互いのLPは供物となってヌメロンコードへと送られていく。デュエルとはヌメロンコードを起動させるための供物として命を捧げる儀式に他ならない」

 

4枚目。多くの人間が倒れているその先に立っている1人の人間が、ヌメロンコードを手にしている画像。

 

「そしてヌメロンコードとは、その世界で最優の戦士を使用者に決める。そして、その最も優れた戦士を決める為に。ヌメロンコードはあらゆるところから人間を集め、競い合わせる。今君たちがいるこの世界はまさにヌメロンコードの使用者を決めるための戦いの舞台。デュエリストが競い合い、生き残った者のみがその万能の力を手にする」

 

5枚目。そこにはアルターと同じ髪色をしている女の子の画像。

 

「我々イリアステルはその真実を知る者。そして、ヌメロンコードを手にし、願いを叶えるために、あらゆる世界に参上しては、その世界に現れたヌメロンコードを手に入れるために、戦争を起こした。イリアステルの誰かが最優の戦士であることを証明するために、その世界に戦争を仕掛け、命を供物として捧げるために、デュエルで命を落とす世界に変貌させ、その世界の人間に戦争を起こした。ユート、瑠璃、ハルト、君たちのエクシーズ世界、そしてそこにいるんだろうが……、ユーゴ、リン、そしてジャックのシンクロ世界、そしてユーリ、セレナの融合世界、そして、榊遊矢、柊柚子がいた、ペンデュラム世界、そこを滅ぼした次元戦争の真実は、我々イリアステルがヌメロンコードを手にするための戦争なんだよ。事実、その世界に現れたヌメロンコードはすべてこの俺が回収している」

 

6枚目に画像を変えようとしたアルター。

 

しかしその前にユートが叫ぶ。

 

「ふざけるな! 俺たちの世界はそんなことのために壊されたのか! 多くの人間はお前らの欲望のために壊されたのか!」

 

ハルトも何かを言おうとしたが、先ほどのデュエルの反動で何も言えなかった。しかし、その目は憎むべき敵に向けられるものだった。

 

「そうだよ」

 

アルターはにっこりとほほ笑んで答える。

 

「貴様……!」

 

「そう怒るな。だからこうやって君たちにもチャンスを与えているんじゃないか。厄介なことにヌメロンコードは一度使用されると次の世界で最も優れた人間を決めるまで何の反応もしてくれなくてね。我々イリアステルがこの世界のヌメロンコードの場所を知って城を構えたんだけど。結局儀式が終わるまで手は出せないし、万が一にも他の人に決まったら城にあっても俺には拒絶反応を起こされてしまうからね、城を構えた意味もない。君たちにもこの世界でヌメロンコードを手に入れるチャンスは十分にあるよ。もちろんヌメロンコードは動かないから、君たちがアーククレイドルに来る必要があるがね」

 

「そういう話をしているんじゃない! お前は俺達の世界のなんの罪もない人間を地獄に叩き落したんだ!」

 

「そうだよ。それが?」

 

悪びれようともしないアルターに殴りかかろうとするユート。しかし、ホログラム映像を殴ることなどできなかった。

 

「くそ……!」

 

「なんでそんな怒ってるんだ。あの世界では君たちにもチャンスがあった。ヌメロンコードを手に入れるチャンスが。あれはゲームだよ。単に命がかかっているだけで、報酬を手にするために戦うゲーム。退屈なんかしない最高のエンターテインメントじゃないか。俺は独善的に願いを叶えたりはしない。ゲームはやはり平等に権利があるべきだからね」

 

最高の笑顔で嬉しそうに語ったアルター。ユートの怒りがさらに倍加していく。

 

「おっと、話の続きをしなければね」

 

6枚目に現れた画像は、少女がアルターの腕に嬉しそうにしがみついているところだった。

 

「イリアステルの目的はただ1つ。かつて死んでしまった姫に幸せな人生を送ってもらうこと。姫と言っても俺の妹なんだけどね。これがとってもかわいいんだ。まさに天使。いや天使を超える愛らしさ。おっと、シスコンアピールはここまでにして、我々イリアステルは、病気のせいで3年しか生きられなかった彼女に、ヌメロンコードを使い多くの願いを叶えた。生き返らせ、病気をなかったことにし、たくさんのお友達を提供した。最近はホセのおじいちゃんが寿命を迎えてしまったのを見て、誰も死なない世界を作って欲しいと来た。全く我が儘なことだ。だから我々イリアステルはまたヌメロンコードを探した。そしてたどり着いたのがこの世界さ」

 

7枚目。誰もいない都市。

 

「しかし、そこは滅びた世界なのか、人間がいなかった。これではヌメロンコードを使用することはできない。供物がないからね。だが、俺はこれをチャンスだと思った。この世界を我々イリアステルの世界として、調整し、あらゆる世界から人間を呼び寄せることで、最大規模のゲームを開始できるのではないかと。だからこそ、すでに滅びた世界の生き残りにも招待状を送った。そして遊介くんたちの世界では、VR世界としてこの世界を紹介し、この世界に招き入れた。目論み通り、すでにこの世界は1つの世界として十分なほどの人が集まったよ。さらに盛り上げるために高精度のAIプログラムを搭載した疑似人間をこの世界の原住民として設置して、この光の世界のように、あらゆるところをファンタジーっぽく世界を改造してみたんだが、それでよりゲームらしくなったということだ。おかげで最高の世界ができた。広告に魅了されて今日も1万人がこの世界に来てくれたよ」

 

「まだ増えているのか……?」

 

「そうだよ遊介君。ゲームに途中参戦が禁止されているのはつまらないだろう?」

 

「お前……これ以上の被害者を増やす気か?」

 

「被害者、やめてくれよー。正しい言い方は参加者だ。そもそも人の命が大切という道徳観は、君たちの世界のものであって、平行世界にはそんな道徳観がない世界がある。道徳観の押しつけは何の面白みもない争いにしかならないからね」

 

アルターはまるで簡単な問答をしたかのように、なんの深刻さも見せないまま、8枚目を出す。そこには白いスーツの人間と、遊介に見える少年が戦っている様子があった。

 

「これは我々イリアステルとの競争だよ遊介くん。この世界から脱出して元の世界に帰還するためには、我々を倒し、他を蹴落とし、ヌメロンコードを手にする必要がある。君はこれから先も多くのデュエリストと戦い、勝ち残り、まずはアーククレイドルを目指さなければならない。アーククレイドルに至る条件は2つ、デュエルポイントを個人、もしくはチームで500000以上溜める事、そしてエリアマスターになる事。その2つの条件を満たしたら、バトルシティで最も高い塔を上りなさい。そこにいる最後のセブンスターズを倒すことでアーククレイドルへの道は拓かれる」

 

「アーククレイドルはイリアステルの本拠地だと言ったな……」

 

「今回も精鋭の姫護衛隊99人を用意して君たちを待っているよ。……本当は100人だったんだけど、トラブルが起こってねぇ。ちょっと半端だけど、まあ許してくれ」

 

遊介は話が小休止に入ったことを見計らって、ここまで話のまとめを一言で行った。

 

「つまり、何もかもがお前のせいで、お前らは俺が倒すべき敵ってことだな」

 

「よくまとまっているな。そう、理解はそれで十分。80点をあげよう」

 

「100点じゃないのか」

 

「なあに、今に分かるさ。君が倒すべき相手は、俺達だけじゃない」

 

アルターはまるで未来を予知していたかのように、デュエルディスクに警報が鳴ったのはその時だった。

 

『侵入者。侵入者。海堂コーポレーションのデュエリスト1名、エデンのデュエリスト300名、解放軍のデュエリスト230名が光の世界に侵入。現在エデンと解放軍の半数が下界で戦闘をはじめ、残りの人間がこちらにまっすぐ迫ってきています。狙いはマスター、あなたである確率が70%オーバー。すぐに対処を行ってください』

 

「うそでしょ……、こっちはもうへろへろなんだけど!」

 

ブルームガールがそういうのも無理はない。もっとも、それを1番言いたいのは遊介だったが。

 

「アルター。分かってたのか?」

 

「ああ。さあ、どうする少年。ここでエリアマスターの座をはく奪されたら、ここはまた戦場と化すぞ?。君が倒されなければ、このエリアのマスターは君のままだ。逃げるが吉だと思うぞ。これから先、君はエリアマスターとしてこんな風に命を狙われることが多くなる。気をつけなさい。君にももっと英雄譚を紡いでもらいたいとおもっているからね」

 

アルターのホログラム画像が消える。

 

しかし、この状況でそれに文句を言う人間はいなかった。

 

「どーしよー!」

 

焦りと疲れで今回ばかりは混乱を起こすブルームガール。

 

「どうするも何も……どうすっか」

 

と意味のない独り言ってしまうマイケル。すでにこの戦闘場から迫る軍勢が見える。

 

ユートと瑠璃は、ハルトを抱えて脱出の準備をしていた。

 

「悪いがハルトを守らなければならない。俺達はこいつを逃がす」

 

「ひどい置いてくのユート! ちょっとー瑠璃、遊介は!」

 

「ごめんなさい。ブルームガール。これでも大切な私たちの仲間だから。遊介は……その……」

 

言いにくそうにしている瑠璃に遊介が助け舟を出す。

 

「いいよ。行ってくれ」

 

「いいの?」

 

「大切な友達なんだろ。だったら助けるべきだ」

 

「ありがとう……このお礼は必ずする。だから、生き残って!」

 

エクシーズ世界の実力者で、ここまで遊介を支えてくれた2人は戦場から離脱した。

 

「あーん。もう……」

 

最早やけくそになっているブルームガール。遊介をマイケルに持たせて、

 

「こうなったら玉砕よ! 全員ぶっ飛ばして、遊介君だけでも」

 

しかし、遊介はそれに反対した。

 

「ダメだ。そんなの。死にに行くようなものだぞ!」

 

「だって、じゃあ、どうすれば!」

 

「マイケル、いい案はないか?」

 

「ないな。俺は肉体派で作戦たてるのは不向きだ」

 

最早話し合う時間はなく、すでに最初の1人がこちらに迫っていた。

 

「チームエデン。リゼッタ。遊介殿、あなたを頂きにまいりました。私のもとへ来てください!」

 

実は『命を頂く』とは一言も言っていないのだが、それを判断できる脳を持っている人間は今は1人もいなかった。

 

「ああ。もうだめぇ。もうやけよ!」

 

と、特攻を仕掛けようとするブルームガール。

 

その時。

 

「滅びのバーストストリーム!」

「ブラックフレイム!」

 

リゼッタと名乗った人間を攻撃した人間がいた。

 

白い竜と、黒い竜の上に1人ずつ乗っている。

 

白い竜には、

 

「見ていたぞ」

 

「海堂セイト……!」

 

「貴様に前に言ったな? 俺に享楽をよこせるほどには強くなっとけよと。貴様とはもう一度戦う。これは俺の決定だ。今すぐ戦え」

 

「むりだっつの」

 

「ならば今は許す。この俺に殺されるまで生き残るがいい。乗れ! 下までは送ってやる」

 

そして黒の竜に乗っていたのはヴィクターだった。

 

「無様なもんだ」

 

「ちょっとヴィクターくん」

 

「お前が仲間のブルームガールか。……よく似ているが。まさかな。それより遊介は預かっていく。こいつは俺がリベンジする予定でね。悪いがここで死なれたら困るんだ。だから預かっていくぜ。あんたらは適当に逃げな。あいつら、なぜか遊介を狙ってやがる。いや、光の世界を狙っているんだろうがね」

 

「でももう光の世界は」

 

「保有ライフの賭けはできないんだろう? 知ってるよ。だがあいつらが動けない遊介を別の世界に持っていったら話は別だろ?」

 

「あ。そっか」

 

「頭が回っていないな。だがいい。お前らの戦いっぷりは公式放送で見た。今日だけは情けをかけてやる。いくぞ」

 

近くに居たエリーをそそくさと竜に乗せる。

 

「あの……私、新しい光の世界のマスターと……」

 

「そうか。ならお前は向こうだ」

 

と、少女を軽々しく投げ飛ばすヴィクター。ちなみにキャッチをミスしたら下へ真っ逆さまである。

 

「お前……!」

 

今回は海堂がしっかりとキャッチしたため事なきを得た。

 

「エリー……」

 

アルターの話では、エリーはAIであることになるが、

 

「ますたぁ……光の世界の従者として、これからお供致します……」

 

と、嬉しそうに笑うエリーは人間そのものだと遊介は思う。

 

「これからは君たちにこの世界を守ることは強制しない。命を張る必要はもうないよ。みんなにメッセージで伝えといてくれ」

 

「え……でも……」

 

「いいから……。そうしないと、あの日君を庇った意味がないだろ」

 

「……はい!」

 

エリーはこれまで見せたことのない笑顔を新しいマスターに見せた。

 

遊介は思う。たとえこの戦いが正しいものでなかったとしても、戦った意味はあったと。

 

柄の悪い2人の竜に、マイケル、ブルームガール、そして遊介は乗せられ、戦闘場を後にした。

 

海堂セイトのブルーアイズに乗せられ、下界に向けて下っていく遊介。しかし、いつの間にかブルームガールとマイケルが乗るヴィクターの竜と離れ離れになっているのに気が付く。

 

「おい……どこに連れていく気だ」

 

「闇の世界。お前にはそこで俺のエリア攻略を手伝ってもらう」

 

「なんでだよ!」

 

「無償の慈悲など俺がすると思うか? 闇の世界は実力者のごろつきも多い。腕を磨くにはぴったりだし、お前を狙う奴らからお前はしばらく姿を隠さなきゃならん」

 

「なんで……あ、エリアマスターで狙われるからか……」

 

海堂セイトは頷く。

 

遊介はすでに光の世界のエリアマスター。ヌメロンコードに至るには、エリアマスターかそのチームメイトにならなければ、ヌメロンコードへの道は拓けない。この世界に来た人間が

 

「闇の世界は世俗に疎い馬鹿どもだらけで、しかもデュエルさえできれば、賭けなし万歳構わず襲い掛かってくる、戦闘狂いのバーサーカーだらけだからな。だが今のお前はむしろ、賭けがない方が気が楽だろう」

 

「痛みは来るだろ。もう痛いのは御免だよ……」

 

「ふん。せいぜいきっちり働くことだ。顔隠しの仮面かローブくらいは用意してやる。お前のけがが治るまでは、海堂コーポレーションが庇ってやるさ。その代わり、治ったら俺とデュエルしろ」

 

「お前も十分バーサーカーじゃないか……」

 

遊介とエリーを乗せたブルーアイズホワイトドラゴンは、そのまま光の世界から飛び去って行く。

 

 

 

 

この戦いはリンクブレインズの転換点だった。

 

それはこの世界に、プレイヤー同士が争い合い、ヌメロンコードを求める戦争であることを強烈に印象づけた戦いとして人々に影響を与えた。

 

ここから先、リンクブレインズの世界の各地で、デュエリスト同士の戦いのが苛烈になっていったのだ。

 

1日の使者は日にちを増すごとに増えていき、今まで増えるばかりだったこの世界の総人口はついに減少を始めてしまったのだ。

 

デュエリストには大きく3つの選択肢が与えられた。

 

1つは個人で、自分で自分の命を守っていくこと。

 

2つ目は、どこか巨大な組織、もしくは小規模でもチームに入り身を守りながら生きること。

 

3つ目は、この世界で唯一、賭けデュエルを公式に禁止している光の世界に逃げ込むこと。ただし、ここはキャパシティの関係で、デュエルが初心者だったり、まだ子供だったりと、理不尽に命を奪われる可能性がある人間が優先される。

 

この戦いから4か月。リンクブレインズは、この3グループに分かれる、新たな戦いの前の移行期間に入ったのだ。

 

********************************************

 

チーム『エデン』本拠地にて

 

「にい……」

 

「大丈夫カオリン?」

 

「彩さ……ごめんなさい。リボルバー様」

 

「いいのよ。薫。あなただけはその名前で呼んでも」

 

「にい……」

 

「大丈夫。遊介は絶対に私が助けるから」

 

ポニーテールにサングラスをかけた彼女は後ろにいる男に声を掛ける。

 

「ね。エクシーズ世界の遊介君?」

 

「……ああ。任せてくれ。姫」

 

********************************************

 

チーム『解放軍』バトルシティ支部にて

 

「ほお、あっちの世界の遊介も面白いな」

 

「同じ顔でそんなこと言うなよ」

 

「そんな事言うなって。ノリ悪いぞ、まっつん」

 

「うう。やっぱ調子狂うな。なんかちがうんだよなー。同じ顔のくせに」

 

********************************************

 

遊介は公式放送のデュエル以来、公に姿を現さなかった。その行方は誰にも知れなかった。

 

それは光の世界に本拠地を移した遊介のチームメイトも同じ。

 

断片的な噂は何度かでるものの、遊介は消えてしまったかのように、いなくなってしまったのだ。

 

「もう……どこ行ったのよ。寂しいじゃない……」

 

光の世界に残されたエリーが守っていた子供たち、彼らのお守りを自主的に継いだブルームガールは、光の世界のエリアマスターの代行を務めながら、とっても寂しそうに時折月を眺めている姿が目撃された。

 

(第1シーズン 終)




これで遊介の戦いも落ち着――いては全然いませんが、ここまでが第1シーズンです。

第1シーズン終了というよい機会なので、皆さんのここまで読んだ感想を頂けると、今後の参考になります。よろしければ一言お願いします。

ちなみになぜシーズンを分けているかというと、途中で番外編を入れるからです。
番外編は主人公が交代して物語が繰り広げられていきます。番外編の概要に関しては小説の情報を更新していますのでそちらをご覧ください。
ちなみに、ヴィクターとセイト君が一緒に来たのも偶然ではありません。それも番外編でお伝えできればと思います。

さて気になる第2シーズンですが、第2シーズンはエリーとヴィクターを仲間に加え戦いはさらに激化していきます。
遊介はいったいどこへ行ってしまったのか。そして光の世界に迫る、二つの巨大なチーム。『エデン』と『解放軍』を巻き込んで、光の世界を守るため、そして、ヌメロンコードを手に入れるための戦いを繰り広げます。

お盆が終わってからしばらく、執筆の時間が取れませんので、番外編をお届けするのは少し先になってしまいそうですが、お楽しみにお待ちください。

さて、第2シーズンに関しては、番外編の最後に次回予告を乗せますので。よろしくおねがいします。ここまでのご閲覧、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします!


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番外編 運命の引き金
番外編1 彩の覚悟 前編


注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

番外編1です。

お待たせしてごめんなさい! いよいよ始めます!


【1】

 

リンクブレインズに入って6日。

 

私はさざ波の音を聞きながら、海を一望できる喫茶店の特等席で最近の楽しみの一つである、『特製アロハ(?)パンケーキ』の到着を待ちながら、落ち込んでいた。

 

さっきの話だ。

 

また目の前で人が死んでいくのを見た。

 

それは私が殺した人だった。

 

それでもデュエルは楽しい。相手と己で凌ぎを削っている感覚が私は好き。だからこそデュエルが始まってしまうと重要なことを忘れて夢中になってしまう。

 

この世界ではデュエルで人が死ぬ。それはこの世界を支配している何者かが決めたルール。デュエルは己の持つ保有ライフの内お互い同じ数値を賭け値ととしてデュエルを行い勝てば、賭け分のライフは戻り、保有ライフはデュエルの前のままになり、負ければ賭け値分のライフが失われる。デュエルに負け、保有ライフが0になった瞬間その人間は死んでしまう。

 

「はあ……」

 

しかし厄介なのは、デュエルで勝ち、お金の代わりになるマネーポイントを使って食料と飲料を買わないと私が死んでしまうということだった。だからこそこの世界では闘争は当たり前の文化であり、デュエルが弱い者は死ぬしかない。

 

それだけは嫌だった。デュエルは楽しいものだ。人が死ぬ賭けデュエルなんてそんなの楽しくない。

 

――違う。私は命がけでもデュエルは楽しい。どうせならここで死んでも構わないってくらいデュエルを愛している。しかし、デュエルの生で死ぬ人間を見るとどうしても罪悪感が生まれ、それがどうしても辛かった。

 

「一日一人……、このまま何度後悔すればいいんだろう……」

 

それでも食べないと、飲まないと、この体は死んでしまう。人殺しを拒否し、命を賭けた戦いを拒否し、そして飢餓で死んでいった人間を何人も見たことがある。自分もああはなりたくないと思い、一日一回は戦ってきた。

 

罪悪感を紛らわすために、私がいつもデュエルをしているのはカジノ。リゾート街の一番大きなホテルの地下で行われている賭けデュエル場。そこなら、自分が死ぬ覚悟がある人間が来ているのだから私がデュエルで相手を殺してしまっても文句は出ないし、罪悪感も少ないので、毎日通っている。もちろん全く罪悪感がないわけではなく、デュエルを楽しんだ後に、その人の後を考えると、悲しくなる。

 

カジノでは勝てば、相手からもらえる正規の報酬に加え、観客が私に賭けた分の掛け金の半分をカジノの運営から手に入れられる。初期のお金がない時期には、その儲けのシステムに大変お世話になった。おかげで、今は高性能Dボード購入、デッキ補強、デュエルディスクの強化を終えて、次のイベント戦に向けての準備が整いつつある。

 

しかしいつまで勝てるだろうか。これまでは無敗でここまで来たが、地下の賭けデュエルで敗北したものは別室行きという、考えるだけでも恐ろしい何かをされてしまうことが容易にうかがえる。私は女なので殺されはしないだろうが、カジノのバニーガールに話を聞くと、かつてここで負けてしまい、夜にセクハラありきの接客を永遠に続けなければいけないらしい。しかし、それはまだ軽い方で、男は行方知れずになるそうだ。

 

どうしてそんな怖いことをするのかは考えるつもりはない。しかし、十六の私から見て、同年代のリゼッタがそういうことをしているのは心苦しい光景だ。

 

いつまでこのような生活を続ければいいだろうか、もしくは永遠なのか。デュエルはもっと楽しくあるべきだと私は思う。

 

実は、今一番恐れていることがある。それはこの世界に慣れてしまう事。

 

この世界は私にとって楽しすぎる場所だ。デュエルをするだけで衣装住には全く困らない。デュエルがすべてのこの世界は、私にとってはたまらないパラダイス。なぜなら働く必要も学ぶことを強制されることもない。何かを学びたい、特別なことをしたいという欲求がある人は別として、普通に生活するには私が大好きなデュエルのことだけ考えればいい。

 

それは私にとってとっても楽しいことだ。この世界はまるで私のために存在するんじゃないかと思うくらい、夢の世界だ。この世界に慣れるのはきっとそう遠くない。

 

だからこそ、デュエルで人を殺してお金を稼ぐという行為をなんとも思わない、本当のこの世界の住人になってしまいそうな気がする。

 

いつか遊介と良助含め三人でした約束。プロデュエリストになるという夢をかなえるためにも、私がこの世界に囚われてはいけないのだ。

 

――そう、いけない。

 

(……そうすると、いつかはこの世界が終わるのか)

 

ふと自然に頭によぎるその考えを無理やり消そうと、頭をブンブン横に振る。

 

「よう」

 

そこに来た一人の少年。

 

慣れ慣れしく呼ばれても私は無視するつもりだった。私はこの世界に来てから一人ぼっちだ。せめて、この世界にいるだろう、遊介と良助には会いたいと思っているのだが、リンクブレインズは思ったよりも広く、さらに容姿が変わっているのだから特定は困難だ。

 

だから今私を呼んだ声には心当たりはない。

 

昔学校で教えてもらったように、知らない人について行ってはいけない、を実行しよう。そう思った。

 

しかし、目の前に見えたその顔で私は一瞬それを躊躇う。

 

「遊介?」

 

私の親友にそっくりな顔の少年が目の前に居たのだ。

 

「ああ。……久しぶりだな」

 

たった六日しか空いていないのに、それでも懐かしすぎるその顔を見て私はとても嬉しかった。

 

「ええと、彩」

 

「ここでは私は『リボルバー』って名前」

 

「変な名前だな……。なんで」

 

「ええっと」

 

私はデッキの名から一枚のカードを取り出す。

 

実は初期装備のデッキとして私は非常にありがたいことにとてもレアなカードをスターターデッキに入れてもらった。特にそれを象徴しているカードを一枚出す、

 

「ヴァレルロードドラゴン……」

 

「そう。奇しくもあなたのサイバースデッキのライバルと言うべき強力なエースよ。それでせっかくだから、あなたがサイバースを使うなら私はそのライバルとして、リボルバーって感じで名づけたの」

 

目の前の遊介は、それにあまり反応を示さなかった。

 

「変だな。もっと可愛い名前にすればいいのに」

 

変だ。念のため言うが私の名前のことではない。ここで遊介がテンションが上がらないのは変だ。遊介はいつもはクールキャラだが、デュエルの話になると頭が小学生だ。私がライバル宣言したら、『いいじゃん。ならお前を倒せば俺はとっても格好良いかんじだな』とか、『すげーな! これで宿命の対決みたいなことすれば面白そうだ』とかノリのいいことを言わないはずがない。

 

「そう? 私、格好いいのが好きでね」

 

「……ああ。そうか。そうだったっけははは……」

 

目の前の遊介は目が泳いでる。やはり何か変。

 

そんな忘れるような話ではない。遊介とは小学校の頃からデュエルをしていた仲だ。私は男の子に憧れ、世間一般ではイケメンという存在を目指していた。だから制服も男子のものを頑なに履いては先生に怒られたし、男子と殴り合いをして勝った時には、『姉貴可愛い』と言った子分ををぶっ飛ばした。

 

別に女であることが嫌なわけではない。ただ、格好いいのが好きだった。

 

だから私は、昔はなよなよしていた遊介とも気が合ったのだろう。そして遊介がいつしか夢中になっていたデュエルを私は始めた。それが運命の出会いだったと今でも思ってる。私はどんどんデュエルに夢中になったのだ。

 

アニメももちろん視聴した。その時に画面の向こうにいる、いわゆる強キャラがとても格好よかったことを覚えている。落ち着いた雰囲気、しかし、一手一手は鋭く、最後に決め台詞や、背中で語る圧倒的強者のオーラ。たまらなく好きだ。いい。格好いい。

 

少し話が脱線してしまったが、とにかく昔からそんな子供だった。

 

それを忘れたということ自体があり得ない。

 

私とてこの六日間、デュエルだけをしていたわけではない。この世界に順応するためにいろいろなことを調べた。

 

この世界は不思議に満ちている。

 

例えば、どこかで見たことがあるような有名人を見かける。この前はスターダストドラゴンに似た竜を使う少年を映像で見た。昨日はサイバー流などとほざく青年が街中で暴れているという噂を聞き、デパートの屋上から捜索したところ、サイバーエンドドラゴンを使う、とっても有名な人が敵をボコボコにしているところを見た。それらを筆頭に、この世界はどうやらただのゲーム世界ではなく、様々な世界から人が来ている。

 

実際、今まで倒した人たちのデュエルディスクを見ると、私が今つけているものと違うことが多い。その人たちがどこから来たのかを訊くと、それぞれ私では想像しえないような世界のを故郷として話てくれる。そこはさすが南国リゾート。人々の意識も解放感満載で、

 

そして分かったことは、デュエルディスクの種類によって、元の世界が違う。という事実だ。

 

「あなた誰?」

 

「ゆうすけだよ」

 

「でも私の事知らないよね」

 

「知ってる。彩のことは」

 

「私の名前を知ってるのは、たぶんカジノで見たからだとする。けど、そのデュエルディスク。私の世界の人がつけているものじゃない」

 

「……そんなこと」

 

返答に困る遊介もどき。あと一押し、と言ってもこっちも正直推測の域を出ない。

 

仕方ないので、残りの一押しは、よい子が真似をしてはいけない方法で行うことでした。

 

具体的に言うと。

 

パンチで。

 

「待ってくれ!」

 

私がその素振りを見せた瞬間、向こうが白旗を上げる。さすがに白旗を上げた相手を殴る趣味はないので、

 

「冷やかしはやめなさい。この変態」

 

と精いっぱいの冷めた目で相手を見下してみた。

 

しかし、相手は懲りないらしく、

 

「話を聞いてくれ。俺は、その、本当に遊介なんだ」

 

と言い始めたので、パンチの追加をしようとしたが、

 

「頼む!」

 

と、土下座をされてしまっては、仕方ないので、弁解の機会を与えることにしようと思う。

 

ちょうど今私がいるのは喫茶店で、二人掛けの席が近くに空いていたので、そこに移動することにした。

 

しかし、確かに遊介と言われて不思議には思う。あまりに似すぎている。いや、黙っていれば同一人物だろう。

 

早速二人きりの裁判開始。当然彼に発言の機会は与えない。残念ながら私はぶつぶつと言い訳をされるのが大嫌いなので、全部こちらのペースで話をさせてもらうことにする。

 

「早速だけど、名前は?」

 

「守屋遊介」

 

「殴っていい?」

 

「待ってくれ。それは本当だ。だが、君の知っている遊介とは違う。俺はその……端的に言えば、エクシーズ世界から来た遊介だ」

 

エクシーズ世界。そんな世界もあるのか。イメージとしてはエクシーズ召喚が有名になった、私たちとは違う世界ということであっているのか。

 

しかし、今まで立てていた仮説が急に真実味を出し始めると、心が躍り始めてしまう。世界の神秘というものに触れて心が騒ぐ感覚だ。

 

「もしかして私の名前を知ってたのは」

 

「俺の故郷にも、彩っていう幼馴染がいた」

 

「いた……って」

 

「もういないってこと。だからさ、俺は、別の世界のお前でも……その、生きている姿を見て感激したよ。デュエルが強いところもそっくりだ。まあ、可愛いもの好きだったから向こうは。だからお前も可愛いのが好きなのかなって思って」

 

念のため手を振りかぶってみたが、これ以上は勘弁してほしいというのが顔に出ている。おそらくこれに嘘はないと私は判断した。

 

「で。なんで貴方が私に用があるの」

 

「あの……お近づきになりたくて」

 

「じゃあ、もう二度と関わらないでね」

 

「どうしてそんな冷たいんだよぉ」

 

「私の知る遊介は貴方とは違う。私とあなたとは赤の他人。関わる必要はないでしょ」

 

ぐぬぬぬ、となぜか苛々し始める偽遊介。いや偽物ではないか。

 

「分かった。じゃあ、本当の目的を言う。俺はあんたをスカウトしに来た」

 

「スカウト?」

 

「ああ。あんたには俺達の仲間になってもらいたいんだ」

 

「やだ」

 

生憎と縛られる生活は、向こうの世界で十分だ。私は自由奔放にデュエルをして生きられる今の生活にはそれほど不満はない。たった一つ、人殺しの罪悪感を除いて。

 

「頼む。この水の世界を闇を打ち払ってほしい。一緒に!」

 

いきなり目の前の偽遊介が、ヒーロー気取りの言葉を言い始めたのは驚いたが、どうにも面倒ごとのように思える。

 

思えたのだが、その時店に入ってきた一人の少女を見て、少し気が変わった。

 

「あ……あなたは」

 

私を恐々して見るその顔に私をとても見覚えがある。

 

「リゼッタさん」

 

「……バトルクイーンにそんな言われ方は困ります。リゼッタで結構ですよ」

 

ストップ。七秒待ってほしい。バトルクイーンなんて初めて聞いた。まさかカジノではそんな呼ばれ方をしていたのか。

 

確かにカジノで結果を出す人間に二つ名がつくのは珍しくない。現に、珍しいデュエルディスクをつけた闇属性の人形デッキ使いのイケメンが、『ファンサービス』という嬉しくなさそうな呼ばれ方をしていたのを聞いたことがある。

 

まさか自分がそのような呼ばれ方をしているとは思わなかった。

 

「ご飯? 今から」

 

「はい。夜からまた仕事なので……」

 

「またバニーでしょ。全く、ふざけてるわよね。ここのエリアって」

 

「……すぐに食べて仕事の準備をしなければいけないので、すみません」

 

目にすでに活力が灯っていないのは見て取れる。

 

「仕事……辛い?」

 

「……失礼します」

 

リゼッタはその場を去ってしまった。どうやらひどい心の傷になるようなことをさせられているようだ。

 

もしもリゼッタのような、やりすぎなペナルティを受けている女の子を救うことができれば。そう考えると、今は水の世界の闇を払うという言葉に少し興味が出た。

 

「話を戻しましょう。具体的には、何が貴方の言う闇だって?」

 

「例えば彼女のような、やりすぎペナルティを受けている人間をなくすことができる。実はあのペナルティ、あのカジノに限った話じゃない。水の世界では至る所でペナルティを受ける可能性がある。あんたも結構危ないぞ」

 

「私負けないもん」

 

キリっと言い切ったことに驚いた偽遊介。しかし、すぐに反論は飛んできた。

 

「そりゃ負けなきゃ普通の方法じゃあんたを攫えないけどさ。けど、この世界は結構闇が深いぞ。この世界の各地にはエリアマスターの手下がいるらしくてな、エリアマスターが気に入った人間はどんな手を使っても手に入れる。例えば人目の少ないところところとか、ホテルの部屋に強引に侵入して拉致したり、何かと冤罪をでっち上げてその人間を連行したりする。拉致した人間の恥ずかしい秘密を握って、脅すことで水の世界の」

 

「何それ。ただの権力暴走じゃない」

 

「なんで人を集めてるかは知らない。そもそもイリアステルがあのアルターとかいう奴の手下だ。何を考えてるかは分からないが、もしかすると、そういう権力暴走そのものを楽しんでるのかもな。実際そこのリゼッタちゃんみたいに勝手に攫われて、脅しに屈してあいつらの言いなりになってる奴も多いんじゃないか?」

 

「彼女について詳しいのね」

 

「初期の被害者だからな。むしろ彼女のような未成年の女の子があんな仕事させられてるんだ。それは治安的に良くないだろ。だから俺たちは、この水のエリアを解放するために戦っている、いわばレジスタンスさ」

 

レジスタンス。なんと格好いい響きだろうか。そこで先攻を上げ、救国の英雄に――。

 

なんてことを考えるから、母親に妄想逞しいのねと嫌味を言われるわけだが。

 

それはともかく、急いでご飯を食べるリゼッタを悲し気な目で見る目の前の偽遊介が悪い人間ではない事は分かる。しかし、私とてもう子供ではない。ここまでの情報ではまだ手を貸す事はできない。

 

少なくとも、どうやって水のエリアマスターにレジストするのか、それが大切だ。さすがに自殺行為に手を貸すのは御免だ。

 

逆に言えば、勝ち目があるのなら手を貸すのはやぶさかではない。元より、生きる目的が欲しかったところだ。たとえいいことでも悪いことでも、この世界で生きる原動力になれば、今まで意味もなく、ただ私が生きるために殺してきた人にも申し訳一つは立てられる。

 

私が訊くまでもなく、答えを偽遊介は言ってくれた。

 

「エリアマスターを倒して、この水のエリアを俺たちのものにするんだ」

 

「倒せば自分たちの者にできるの?」

 

「ああ。この水のエリアのルールも決め放題。晴れて王様さ」

 

「倒すのはもちろん」

 

「ああ、デュエルだ」

 

ちょうど私の近くをため息をつきながら通っていくリゼッタの姿を見た。よく見ると、ちらりと見えた二の腕に痣のようなものがある。

 

全く、いつの時代もどこの世界も、嫌な奴はいるものだ。

 

「で、私たち二人でやるの?」

 

それが問題だ。アトランティスはイリアステルの守護兵が多く、居住区以外に足を踏み入れようものなら100%イリアステルの兵士に攻撃を受けることになる。

 

「いいや。仲間がいる。アトランティスで今戦ってるよ」

 

「そう。何人くらい?」

 

「千人くらいか……?」

 

「嘘ぉ、そんな大規模な軍団なの」

 

「ま、まあ、俺達の目的はレジスタンスとして、イリアステルに囚われ働かされる可愛そうなやつらを助けて、脅しに使われてた社会的に抹殺されるような情報をバラされても過ごせる居場所を用意する事が最初の目的だからな。それでどんどん人は増えるわけだが……」

 

水の世界の闇に飲まれる人が日を追うごとに増え、きりがない。ということだろう。

 

「明日、俺達はエリアマスターに攻撃を仕掛ける。あんたにそれを手伝ってほしいんだ」

 

「分かった」

 

「おおそうか……は?」

 

私が二つ返事で請け負うとは思っていなかったのだろう。しかし、私も一応良識はあるつもりだ。間違ってないことを否定するつもりはないけれど、間違ったことを否定しないつもりは毛頭ない。

 

私が気に入らない相手をぶっ潰す。それはそれで爽快なのではないだろうか。

 

「いいのか?」

 

「いいよ」

 

「本当に?」

 

「本当」

 

偽遊介がとっても嬉しそうに笑った。それが私も嬉しかった。

 

「じゃあ、さっそく、俺の仲間に会ってほしい。すぐに行こう。もう時間がないから、打ち合わせもしないと」

 

と言って、私の手を引っ張っていこうとする偽遊介。

 

本物の遊介にもそんなことされたことないのに、こいつなんて生意気なんだ、等と思いパンチをしようとしたが、それはさすがにやめておく。

 

何を言おう、今から私は初めて自分の意志で、この世界で初めての戦いに行くのだ。

 

この興奮を余計な事で覚ましたくない。

 

素直に偽遊介の手に引っ張ってもらうことにした。

 

【2】

 

 

水の世界。海上沿岸に広がる南国風味のリゾート街と海の下に広がる神殿世界アトランティスの二つで構成される世界。

 

リゾート街は南国リゾートそのもの。言うなればハワイみたいなところだ。

 

一方アトランティスも説明はほとんど必要ない。外観はフィールド魔法の『伝説の都 アトランティス』そのままだ。そして内装もまた自分が想像した通りの荘厳な感じ。

 

説明すべきは、その二つを繋ぐ方法と二つの街の違いについてか。

 

リゾート街は常に誰でもウェルカムな明るい都市である。本当に観光目的としか思えない建物や設備が充実し、賭けデュエルは当然行われるものの、その数はバトルシティに比べれば大して多くない。デュエルに負ければ死ぬかもしれないという危ない世界でも、この地だけはにぎやかで、先ほどハワイみたいなところだと言ったが、それは間違いではないだろう。

 

アトランティスまでは驚くなかれ、イルカが連れて行ってくれる。なぜイルカなのかは現地住民の人には聞いてもよく分からなかったが、海の守り神がどうとかと言っていたのを覚えている。

 

そしてアトランティス。アトランティスは謎のバリアみたいなもので覆われていて、中に入れば空気がある。溺れる心配はひとまずない。

 

神殿づくりの街、その一番標高が高い場所にある御殿の中が、水のエリアのボスであるという。そこに至るまで、距離的にはさほど遠くには感じない。

 

本来であればとてもいい感じの景色が入り口からでも見られるのだろう。

 

しかし、今は違う。

 

これは地上の地獄か何かだろうかと勘違いしそうだった。

 

至る所で戦いが起こっている。そこらじゅうで爆発が起こり、吹っ飛ぶ人間が後を絶たない。そして、LPが尽きて死んでしまった人も少し見られた。

 

よく見ると、戦っているのは二種類の人間。偽遊介が来ている服によく似た服を着た人間と、白スーツの男ども。

 

よく見ると、その中には私が三日前くらいにカジノで倒してしまった男の姿もある。

 

私は一つの恐ろしい結論に至った。

 

別室行きという恐ろしい結末を辿った人間の成れの果ては、イリアステルの操り人形になるよう洗脳されることだったのだ。

 

(これは、思った以上の悪党ね……)

 

嫌悪感を抱くことを禁じ得ない。

 

偽遊介はこの光景の何を見ても動じない。おそらく彼にとって、この光景は当たり前だったんだろう。

 

多くの命が消えていく光景。

 

「あなたは怖くないの?」

 

「何が?」

 

「だって、人がこんなに……」

 

「それの、何が問題なんだ?」

 

「だって死んでるんだよ……。争って、それで」

 

偽遊介は私をとっても不思議そうな目で見ている。まるで私の考えが可笑しい、分からないとでも言っているかのように。

 

「だって、デュエルは決闘だろ。なら死ぬのは当たり前じゃないか?」

 

「決闘って……」

 

「もちろん。人が死んだら悲しい。けど、俺達はデュエリストだ。死ぬのも、そして殺すこともあるだろう。だってお互いのライフを削り合っているんだから、戦っているんだから、そこには生きる覚悟もあれば、死ぬ覚悟もある。だから、俺達は命賭けて、大きなことを成そうと必死に立ち向かっていける」

 

私には理解が難しい。私にとってデュエルは楽しいものだ。命の取り合いの道具ではない。私の住んでいた向こうの世界でも、この世界でもそれは変わらないはずだ。

 

しかし、偽遊介が間違っているとは言えない。人の考え方は人それぞれ。

 

それに、

 

「大切なのは生き死にか?」

 

「それは……」

 

「俺は違うと思うんだ。どう生きたいか、どう死にたいかだと俺は思っている。常識は人を縛る。だから時に大切なものを奪われる。倫理を否定はしないよ。けど俺は、生きることが正しいから人を生かす、死ぬのはだめだから殺さない、なんてものは……ただの与えられた命に対する怠慢だと思うんだ」

 

この言葉には、私が反論できないほどの本気、信念を彼が乗せているように思えた。

 

「遊介団長!」

 

アトランティスに戻った偽遊介を見つけて、その名を呼びながら走り寄ってくる少女。彼女も偽遊介と同じ服を着ているので、おそらくは偽遊介の仲間なのだろう。

 

歳は私と同じくらい。ただしツインテールがよく似あっている可愛い女の子だ。

 

「三波! 無事だったか」

 

「はい。……そちらはもしかして……」

 

「ああ。バトルクイーンだけだが仲間に引き入れた。これで百人力だ」

 

「おお。それはすごいですね!」

 

三波と呼ばれた少女は私に握手を求めてきたのでそれに応じる。

 

「よろしくお願いします!」

 

「え。ええ、よろしく」

 

「アジトがこの先にあるので、詳しい話はそこで! 団長行きましょう!」

 

三波はそれだけ言って走りだしてしまった。おそらく行く先は五階建てくらいの神殿っぽい建物。旗も看板もないのは当たり前だが、アジトと聞いて、一瞬地下迷宮的なものを想像した私は非常に恥ずかしい。

 

「行こうか?」

 

「うん」

 

未だ謎の多い偽遊介に連れられて、私はアトランティスを歩く。




番外編1前編でした。
本当ならデュエルを入れたかったのですが、長くなりそうだったのでいったんここで区切りたいと思います。基本的には番外編5を除き前後編で何とかまとめていくつもりです。

さて今回は彩ちゃんの話をしましたが、この話の振り返りは後編が終わったらにしたいと思います。

今回は前回までと作風を一変して、スピード感を意識した一人称視点の物語です。最近は一人称の小説を書いていなかったので、執筆は少し難しく感じました。何より作者の暴走具合がすごいですね。一応抑えるだけ抑えましたが、それでも読みにくいところがあったらすみません。

さて、後編ではいよいよ彩ちゃん初デュエルです。相手はさっそく強敵である、水のエリアマスター。今回は先行して使う本作品オリジナルカードの1枚だけなので公開します。どんなデュエルになるか想像しながら、お楽しみにお待ち頂けると幸いです。

彩の使用カード
効果モンスター  レコンナイサンス・ワイバーン ドラゴン族 レベル6 ATK2600/DEF2600
①このカードは相手フィールド上に特殊召喚できる。②このカードが①の効果で特殊召喚した時、このモンスターのコントローラーは、以下のうち一つを選択してこの効果を発動する。・セットしたカードを1枚選んで公開する。・相手はカードを1枚ドロー。手札のカード一枚をランダムに除外する。③このカードが特殊召喚されたターン、このカードは戦闘、効果では破壊されない。


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番外編1 彩の覚悟 後編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

番外編1です。

前回のあとがきで訂正しなければならないところがあるのでここで訂正します。正しくは以下の通りです。

レコンナイサンス・ワイバーン ドラゴン族 レベル6 ATK2600/DEF2600
①このカードは相手フィールド上に特殊召喚できる。②このカードが①の効果で特殊召喚した時、このモンスターのコントローラーは、以下のうち一つを選択してその効果を発動する。・セットしたカードを1枚選んで公開する。・相手はカードを1枚ドロー ・自分は手札のカード一枚をランダムに除外する。③このカードが特殊召喚されたターン、このカードは戦闘、効果では破壊されない。

彩ちゃんのデュエルがついに開始です。


三波に案内されて、アジトの中を歩く。

 

そこは、アジトというよりは、地下に広がる学校みたいな建物だった。神殿のような内装ではあるが、構造は本当に学校によく似ている。違う場所があるとすれば公共浴場があるくらいだ。

 

そう言えば、廃校をホテルに改装して、大繁盛というニュースを聞いたことがある。要はそれの住宅版だと考えればしっくりくる。体育館アリーナは全員集合をし集会を行う。職員室は作戦会議室に名称が変わっているところを見ると、私が向こうの世界で通っていた学校の校舎は、実は建物として可能性に溢れたところなのではないだろうかと思う。

 

すれ違う人は様々。しかし、その多くが何かを抱えている。

 

残り4000しか保有ライフがなく、恐怖で震えている弱者。

 

怪我をして動くのも厳しい人。

 

何か精神的ショックを受けて、情緒不安定になっている人。

 

それも、私の世界から来た人だけではない。デュエルディスクによって出身地が判別できるのなら、それこそ百種類に迫る数は、この建物内で見ている。

 

私はそんな人が、その運命が悲しく思えた。

 

可哀そうとは思わない。結局その人に必要なのは同情ではない。それでも私は同情しかできない。その人の苦しみに共感できるわけでもない。そんな私がそのような感情を持つのはおこがましい。

 

しかし、デュエルは本来は楽しいものだ。こんなひどい光景を生むのではなく、スポーツのように熱くバチバチに競い合い、その中にあるおもしろさを味わいつくす。そんな、遊びであり、エンターテインメントだ。それを知ってほしい、忘れないでほしいとは切実に願う。

デュエルが好きな私は、他の誰にもデュエルを嫌いになってほしくない。私と一緒に語らい、熱く戦い合えるようになってほしいと思う。

 

随分独善的かも知れないが正直な感想だ。

 

「実際にレジスタンスとして戦っているのは百人に満たないんです」

 

「三波ちゃんは?」

 

「私も……最初は戦えなかった」

 

三波と呼ばれる遊介の腹心らしき女の子は私とデュエルディスクが同じ。つまり、同じ出身世界ということだ。

 

その話に納得する。私たちの世界ではデュエルは命を賭けて行うものではなかった。安全安心なエンターテインメントとして発達してきたのだ。

 

しかしこの世界では、デュエルとは人殺しの手段だ。その手段をもってすれば相手の死を厭わずお金の強奪をすることが合法になっている。常識が違えば生き方も替えなければならない。私も慣れるまで苦労したものだ。

 

何とか人を殺さない手段はないか。それが無理だと分かった後は、なんとか罪悪感を感じない方法がないかを探した。

 

「でも、レジスタンスで団長に拾ってもらって、このアジトに来て、同じような仲間にいっぱい会えた」

 

「いっぱいかぁ。でも仲間ってのはいいよねー」

 

「はい。……もうすぐ作戦会議室になります」

 

その拾ったという偽遊介団長が三波の言葉に補足を入れた。

 

「俺はいい人間じゃないぞ」

 

それも、自分を悪人にする方向で。

 

「俺には、自分と同じ性質を持つ人間が分かる。三波にもそれを感じたんだ。だからレジスタンスがまだ100人にも満たない頃に、勧誘した」

 

「何よ。同じ性質って」

 

「なあに簡単だ。猪突猛進ってこと」

 

「イノシシねえ……」

 

「自分が正義だと思ったことに出会えれば、それに向かって自分すら顧みず突き進む。だっていいことだと考えるから」

 

「つまり三波はそういう子だから制御しやすいってこと」

 

「……否定はしない。結局俺がレジスタンスを率いているのは、慈善活動じゃないからな。レジスタンスの最終目標は、並みの人間には理解されないだろう。けど、ここに集まる連中は違う。それを知ったうえで、それでも俺についてきてくれてる。特に幹部に近い奴らはデュエルが死ぬほど好きで、最後の晩餐も飯よりデュエルないい奴らも多いんだ」

 

偽遊介の目には確かな信念が宿っているように思える。別の世界の存在とは言え、遊介をここまで突き動かしている最終目標とはいったい何なんだろうか。

 

「ついたぞ」

 

作戦会議室。プロジェクターで映し出された画面にはアトランティス全体の構造が描かれている図面があった。

 

外で戦っている部隊を除く、およそ五十名が集い何かを話し合っている。その中で急に参加するわけなので、『今忙しいんだから、余計なことを持ち込むな』と目で訴えられているのは仕方がないと思う。

 

しかし。そこはさすがレジスタンスリーダーの偽遊介。

 

「みんな。聞いてくれ。協力者ができた。バトルクイーンだ!」

 

と、不愉快な二つ名で私を紹介し始めた途端、全員が遊介に注目する。そして、三秒ほど、唐突に告げられた事実を飲み込めたころ、私に対する態度が急変した。

 

「おお。マジか」

 

「バトルクイーン。じゃねえ、バトルプリンセスじゃねえか。俺はてっきりおばさんが来るかと」

 

などなど、賞賛の声が届いてくる。これはなかなか悪い気分ではない。

 

歓声が落ち着くのまで約十秒と非常に短い気がするが、これは仕方がない忙しい間に割りこんで入ったのだから、すぐに作業に戻りたいとは思うだろう。

 

「そうだな……本当なら全員の紹介をしたいが。時間も時間だ。今は幹部だけにとどめよう。他の隊員は空き時間にでも挨拶してくれ」

 

文句は出ない。一通り周りを見渡してみたが、最年長の人でも二十代前半くらいの若い集団のように見える。しかし、偽遊介の言葉に対し、よくある男子学生のノリで、なんでだよーみたいな野次は飛んでこない。私が考えている以上には、統率のとれた集団なのだろう。

 

幹部は特に優秀らしく、偽遊介が呼ぶまでもなく、私の前にでて、自己紹介を始めた。

 

一人は私の世界では、古風の西の都に住んでいそうな大和撫子風の少女。着物があれば完璧な見た目だ。かわいい。

 

「私、レジスタンスの事務、生活面責任者をさせていただいてます。ミコトとお呼びください。クイーン」

 

そしてもう一人は、いかにもチャラ男予備軍の金髪男子。英国の美少年ならまだしも、数本染まり切っていない茶髪が見えるうえ、瞳の色や顔や体つき含めて、金髪は不自然なので、所謂見た目の『冒険』という奴だ。しかし顔のパーツはよく、アイドルをしても問題ないくらいには顔立ちも良い。

 

「俺は実働部隊の責任者ケインだ。先生の指導の下、レジスタンス団員のデュエルの腕を磨いて仕事に時に大暴れする役だぜ」

 

つまり働きアリということだ。

 

しかし二人とも私と同年齢くらいなのではないかと思う。最もこんな世界では年齢など関係ないか。

 

「先生っていうのは?」

 

「ああ。先生!」

 

ケインが手招きして呼ぶ先には、

 

「ああ。うちの最終兵器。俺がリーダーさせてもらってるけど、実力一番はあの人だ」

 

と偽遊介に言わしめ、私もそれに納得の人間が居た。

 

私は知っている。ていうかこの前彼のデュエルを見た。サイバードラゴンというだけでこの男ありと呼ばれる伝説のデュエリスト。

 

「丸藤亮だ。お前とはぜひ一度デュエルをしたいと思っていた。バトルクイーン」

 

握手を求められ、私は即座に応じる。こんな機会、おそらく生きていてもそうあるものではない。あのヘルカイザー亮と実際に会っているのだから。おそらく私はこの世界に来てよかったと初めて思っている。

 

「先生には、レジスタンス候補生と実働部隊を鍛えてもらっている。また、デュエル専門にばってしまうが、デュエルアカデミアというところで実際に行っていた授業を再現してもらいながら、ここに住まう人の暇つぶしを企画してもらっているんだ」

 

偽遊介が誇らしく説明するが、

 

「俺は……まあ、真似事だ。世話になったあの人たちの真似事をしているに過ぎない。過大評価はよしてくれ」

 

と、本人の自己評価は低いようだ。

 

「さて……それじゃあ、作戦の最終確認をしようか」

 

偽遊介はすぐに作戦会議の開始を始めようとする。私はまだ聞きたいことがたくさんあったのだが、こればかりは仕方がない。

 

レジスタンスについては聞きたいことがまだある。いや、むしろ、ここに来てから増えたと言うべきか。あの住人たちをどう養っているのか等の経営の仕組み、実働部隊の実力、内部情勢や、短い自己紹介だった二人を含め、明日ともに戦うことになるだろう人たちのこともよく知りたいという欲求はあるが、今は目の前の問題に集中した。

 

作戦ははっきり言って今の私に理解できないほど綿密に組まれている。残念ながら話の中で理解できたのは三割程度。

 

まず、堂々と正面突撃。そして五つのグループに分かれ、あれこれしながら全員でエリアマスターへ一直線。その途中戦闘はどうしても避けられない場合のみ戦闘を行う方針で可能な限りエリアマスターに近づく。

 

そして今回の突撃は、レジスタンスの命運も変える大一番であることも分かった。

 

それぞれ五グループでの競争となり、エリアマスターを最初に倒した者に新しいレジスタンスのリーダーとして最高決定権を与えるという話になってしまった。それはもちろん急な参加の私にも適用されるらしい。

 

まるで私がもうレジスタンスの一員みたいに扱われている。

 

さすがに私もこれにはもの申す。

 

「ちょっと、私は協力するとは言ったけど、勝ったからってレジスタンスに入らないわよ」

 

「なんだよノリ悪いな。アジトまで教えたのに入らないなんて……」

 

偽遊介の目が殺気を帯びたものに変わったのはその瞬間だった。

 

「どうなるか分かってるだろ?」

 

しかし、所詮は偽遊介。私にその手の脅しは効果がない。

 

「だったらあなたたち全員倒してでも脱出してやるわよ」

 

思いっきり喧嘩腰で答えやった。

 

「……ははは」

 

そしたら笑われた。偽遊介は全く思考回路が変なんじゃないかって本気で思う。

 

「何笑ってんのよ」

 

「いや……そのな。連れてきて正解だったって思って。彩、お前も相当変だ。こんな敵地になるかもしれないところで対象にメンチ切ったんだから」

 

「しょうがないじゃない。誰かに屈するなんてごめんよ」

 

「ああ。分かってるよ。そんなお前だからこそ、俺は一緒に戦いたいのさ。今回」

 

偽遊介は深呼吸をして、今度は真面目な顔で、私に語り掛けてくる。

 

「彩。俺達を助けてくれ」

 

「何よ唐突に……こんなおっきい組織なのに?」

 

「それがな。残念ながら、俺達の中でまともに戦えるのはここにいる奴ら程度しかいない」

 

「は?」

 

嘘だ。あんなに人がいたのに。

 

「居場所が欲しいだけの奴らも多いのさ。ただ生き残りをかけたデュエルが怖くて逃げた来たやつ。さらに悪いことに実働部隊でもほとんどがデュエル初心者なんだ。それでも一生懸命に戦ってくれているからいい奴らなんだ。でも、やっぱり俺たちの居場所を守るために強い奴が欲しい。俺のレジスタンスを守るために力を貸してほしいんだ。あんたほどのデュエリストなら、特別待遇全然ありだぜ」

 

「なんでそんな話になるのってことよ」

 

「だってお前、ここでショックを受けていた人たち見て怒ってただろ。それも、その人達にじゃなく。俺とあんたは同類だ。だからあんたが、デュエルは最も面白いものなのに、どうしてこんな人たちがいるんだって思ったんだ。違うか?」

 

エスパーじみた偽遊介の言葉に驚き、つい正直に頷いてしまった。

 

「リゼッタみたいに変なことに巻き込まれる奴らをこれ以上増やさないためにも、レジスタンスはもっと大きくなってこの世界の秩序を守る集団にならなくちゃいけない。もっとデュエルを自然に楽しめるような世界にこの世界を正していくんだ」

 

「正すってどういうことよ」

 

「ああ。ここはデュエルの世界だ。だったらもっとデュエルが面白いっていう世界に俺たちがするんだ。そのためにもレジスタンスはこの世界をみんな突破し、この世界のエリアをすべて支配する。エリアマスターになってな」

 

何故だろうか。

 

偽遊介はいいことを言っているようには見えない。見えないのだが、不思議と、魅力的なような気がしてきた。

 

催眠術でもかけられたかとほっぺをつねったが、私には全く変化がない。

 

「支配って……まるで悪党の言い方ね」

 

「ああ。それが俺たちの最終目標だからな」

 

最終目標。先ほどから、ずっと気になっていたこの組織の最終目的地の話。このレジスタンスが良い組織か悪い組織かが決まると言っても過言ではない事項だ。

 

今、ちょうど訊くタイミングが来た。

 

私は容赦なくそのタイミングを利用する。

 

「何よ、最終目的って」

 

「ああ。俺達レジスタンスの目的は、この世界を終わらせないこと」

 

「終わらせない……?」

 

「ここはデュエルの世界だ。何もかもがデュエルで決まる。デュエルが好きな奴にとっての天国だ。そうだろ?」

 

確かに、とまた私は無意識に首を縦に振った。

 

「俺達は、……まあ少なくともここにいる幹部全員はデュエルが大好きだからな。この世界は楽園だ。そんな世界を俺たちが管理して永遠に終わらせない」

 

彼らの目的とは、つまり、この世界に永住するつもりだということか。

 

「どうだ。この世界にずっと暮らせるんだ。ワクワクするだろ!」

 

どうやら本気も本気、とても本気なようだ。言葉に熱が入って、まるで嘘をついている様子がない。

 

「……帰ろうとは思わないの?」

 

私は、向こうで叶えたい夢がある。友達と三人で、プロになること。そのためにもここで死んではいられないのだ。

 

「帰りたいのかお前」

 

「当然でしょ」

 

「なんでだよ」

 

「だって私には向こうで叶えたい夢がある」

 

「それはこっちでは叶えられないのか?」

 

無理だ。プロデュエリストという夢は叶えられる――。

 

――いや。不可能ではない。むしろこの世界はデュエルがすべてなら、厳しい価値観の中でプロを名乗れればそれはとても格好いい存在ではないだろうか。

 

「でも……」

 

どうして私の心はこんなにも揺れているのだろうか。普通なら帰りたい。帰らなければならないと考えるはずなのに。

 

デュエルの世界というのが私にってそんなに魅力的なのだろうか。

 

「彩。元の世界に帰還することが必ずしも幸せとは限らない。向こうでは望まない未来を押し付けられるかもしれないんだぞ」

 

偽遊介が語る。

 

有り得ない話ではない。私の世界ではプロデュエリストは弁護士や裁判官になるくらい大変だ。そのうえ完全歩合制。私は一度将来の夢を告白したことがあるが、その時は親も先生に猛反対された。お前は成績がいいんだから、普通に大学に行って、いい会社に勤めるべきだと3時間くらい説教されたこともある。

 

無論それが間違いだとは思わない。むしろ世間一般的には正しいと分かっている。

 

1度持っていたカードを全部捨てられたことがある。私に夢をあきらめさせるためだと言っていたので、その時は本気で喧嘩したが、親が折れることはなかった。お小遣いもその日からなくなり、新たにカードをそろえることもできなくなった。でも遊介や良助がデッキを再現したカードを私用に用意してくれた時は本当に嬉しかった。部長が私にアルバイトを紹介してくれたのも、ありがたかった。

 

(うぐ……これは、確かに……偽遊介にしては、的を射た発言ね)

 

――もっとも、この時の遊介が抱えていたものをまだ私は知らなかったのだ――

 

「デュエルが本当に好きなら、この世界は楽園だ。デュエルがすべての世界。生き死にの賭けをすべてのエリアで禁止すれば、そこはデュエルが狂うおしいほど好きな奴にとって、人生を賭けるのに十分ないい世界だろう?」

 

「何を知ったような口を」

 

偽遊介はそれににやりと笑って答えた。

 

「だってお前、俺と同類だ。さっきも言っただろ。俺には分かるんだよ」

 

へらへらした顔で言う偽遊介に私はどこか違和感があった。まるで、本音のような本音ではないような。そんな説明のできないような言い方に聞こえた。

 

【3】

 

アトランティスの頂上。

 

スノードームみたいな空間の中にいる。そこが戦いの場だった。

 

周りはすべて海。魚は縦横無尽に泳ぎ回り、たまにサメが通っているところから、ここは海の中なんだなと思う。

 

さて驚くべきことが起きた。

 

「お前が私の相手か。レジスタンスというが、その実力見せてもらおう」

 

私の目の前にいる白いスーツの青年が、私に向けて言った。

 

そう。なんと一番先についてしまったのは私なのだ。丸藤亮はアジト防衛の最終ラインなので不参加なのだが、まさか私が最初にここについてしまうとは思わなかった。

 

結局私がしたことと言えば、邪魔な奴を無慈悲にぶっ飛ばし続けただけ。作戦も何もない不良のならばリ争いと何ら変わりはない。

 

しかし、正直昨日の話についてで頭がいっぱいだった。ここに来るまでも昨日のレジスタンスの話が気になって何度プレイミスしたことか。

 

随分と偽遊介は面白いことを考えるものだ。確かに彼の言うことが本当に実現するとしたら果たしてどんな世界か興味がないわけではない。悔しいが、偽遊介に言う通り、私はそれくらいに狂ったデュエル好きらしい。

 

しかし、彼らが言っているのはデュエルがすべての世界で永住するということ。この人生全てとなるとそれはもはや異世界転生と同じことだ。それはそれで怖い。私だって向こうに残してきた友達も多いし、両親や、デュエルに興味がないだろう薫ちゃんも含めて永遠に会えなくなってしまうのは悲しいし寂しい。

 

逆に言えば、この世界でも夢がかなうのなら、あとはその寂しさ、悲しささえなければ私は全然大丈夫だ。でも、本物の遊介や良助は、それを聞いたらなんというだろうか。そんな私にドン引きするだろうか。

 

もうすぐ決めなければならない。ここでエリアマスターに会ってしまった以上、私はここで勝つしかない。そして勝ったら私がエリアマスターだ。

 

王様になるのは悪い気分ではないが。レジスタンスの作戦に乗ってここまで成り行きで来たのだ。最初は興味本位で始めた話だったが、いつの間にか大きな話に膨らんでしまった。私がエリアマスターになったら、そこで決断は迫られるだろう。

 

「皮算用だな」

 

どうやら私が勝った後の妄想をしているようで向こうは気に食わなかったらしい。

 

「あら、そうかしら」

 

さすがに相手はエリアマスター今だけはデュエルに集中しよう。難しいことは後で考えればいい。

 

深呼吸する。

 

スイッチが入った。

 

「だって私負けないからね」

 

自信満々に笑って見せた。絶対に挑発に見えただろう。それでいい。

 

「なら、少しは楽しませてくれよ」

 

どうやら向こうは長々と語らうことは苦手らしい。すぐにデュエルディスクを構え、私のデュエルディスクに、ルールが書いてあるデュエル申請が送られる。

 

ルールは4000のマスターデュエル。

 

つまり、スキルによる奇跡を起こすことは認めないらしい。私は私で、ストームアクセスでリンクモンスターガチャをやるのはやぶさかではないのだが、マスターデュエルも嫌いではない。そもそも私に嫌いなデュエルなんて存在しないが。

 

「いいわ。受けましょう」

 

私はその申請に許可を出した。私の保有ライフはまだ8000。安全圏内であるわけでなんの問題もない。そもそもたった一週間でライフが4000になるとかありえない。そんな弱者はおそらくすぐに死ぬだろう。

 

悪口はそこまでにして私はデッキから初期手札五枚をドローする。

 

「完璧な手札ね」

 

「ほう。ならば俺を楽しませてくれプレイヤーネーム『リボルバー』。今までの挑戦者は弱くて退屈していたんだ」

 

「ええ。楽しみましょう」

 

せっかく意義のありそうなデュエルができるのだ。私も興奮している。せっかくのこの機会、このデュエルを味わい尽くしたいものだ。

 

そして私のデュエルが始まった。

 

水マスター LP4000

彩     LP4000

 

「レディファーストで」

 

「構わない」

 

私に先攻を譲ってくれる辺りなかなか紳士の適性がある。

 

最も私は淑女らしく戦う気はない。

 

ターン1

 

「私のターン」

 

引き寄せた手札を一通り見る。それで、私の中に二つの戦術パターンが出来上がる。一つは安定して戦う方法。すぐには決着はつかないが、延命には十分な戦力が手札にある。しかし、こちらは使わない。エリアマスターが相手なのだ。何をしてくるか分からない以上、下手な延命は考えるべきではない。

 

ならば徹底的に攻撃を行う宵越しのマネーは持たないぐらいの特攻で行く。

 

彩 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(水マスター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(彩)

 

「私は魔法カード『トレードイン』を発動。手札のレベル8モンスターを一体捨てて、カードを2枚ドローする!」

 

「早速ドローか」

 

「私欲張りなの」

 

私は早速使おうと思っていた自分のエースモンスター1体を墓地へ捨て、新たにカードを2枚ドローする。

 

さあ、ここからだ。

 

「私はさらに魔法カード、『死者蘇生』を発動。墓地のモンスター1体を特殊召喚する。私はクラッキングドラゴンを特殊召喚!」

 

1ターン目から死者蘇生という幸運なカードが来てくれたので、私がこの世界に来てからずっとお世話になっている強力なドラゴンを呼ぶことができる。もっともこいつはなぜか機械族。ドラゴン族であればもっと融通が利くのだが、効果が効果なだけに、ドラゴンサポートを受けさせるわけにはいかないという事情だろう。

 

クラッキング・ドラゴン レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF0

 

「いきなり攻撃力3000か……」

 

「驚いた?」

 

「いいや。さすがバトルクイーンと名乗るだけはある」

 

向こうはクラッキングドラゴンを見ても自信満々だ。次のターンでどのように攻略するかお手並み拝見と行こう。

 

「私はカードを3枚伏せて、さらにもう1体召喚するわ」

 

「欲張りだな」

 

「そう言わないの。召喚するのはあなたのフィールド上なんだから」

 

「何……?」

 

こればっかりは驚くだろう。私もこの世界で初めて見た時、珍しい効果だと驚いたものだ。

 

「私は、レコンナイサンス・ワイバーンを相手フィールド場に特殊召喚!」

 

私と相対するように私が呼び出したのは、まるでカメレオンのドラゴン版とも言うべき存在。レコンナイサンス。偵察をするにはとてもいい性質だ。

 

レコンナイサンス・ワイバーン レベル6 

ATK2600/DEF2600

 

「偵察したからには私に利益をもたらすもの。その竜はあなたの味方の振りをする代わりに、貴方は、セットカードを一枚公開するか、私にカードをドローさせるか、自分のカードを1枚ランダムに墓地へ送らなければならない。さあ、どうする?」

 

水のエリアマスターは迷わず、私にドローさせる効果を選んだ。

 

「いいの?」

 

「ああ。別に困ることはないさ。その効果には驚いたが、むしろ利用させてもらうことにしよう。しかし、この竜、特殊召喚したターンに自分に破壊に対する耐性をつけるが……さすがに1ターンでは意味をなさないな。君が攻撃をしてくるわけでもない」

 

「そういうこと」

 

私はカードを1枚ドローする。ちょうど来たのは罠カード。これで私の憂いもさらに晴れるというものだ。

 

「今引いたカードではなにもしない、ターンエンド」

 

最初のターンはこんなものだろう。クラッキングドラゴンを使うこの状況なら理想的ともいえる。まあ、私がデッキを作ったのだ。理想的な状況にならないことはない。

 

だんだん楽しくなってきた。自然と唇の端が吊り上がる。

 

「レディにしては悪い笑みだ」

 

「あら、不快にしてしまった?」

 

「いや。むしろ、この状況。なかなかにワクワクしてきたよ」

 

その台詞を最後まで聞けることを願っている。私も、エリアマスターなどとたいそうな名前が飾りではないことを祈っている。

 

彩 LP4000 手札1

モンスター ①クラッキング・ドラゴン

魔法罠 伏せ3

 

(水マスター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ② □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

□ ■ ■ ■ □   魔法罠ゾーン

(彩)

 

ターン2

 

水のエリアマスターは語る。

 

「このデッキはここではない別の世界で、戦った英雄が使っていた水属性デッキを参考に作ったデッキだ」

 

「へえ」

 

おもしろそうなデッキだ。相手にとって不足はないというところか。

 

「あまり舐めない方がいいぞ。俺のターン!」

 

水のエリアマスターはカードをドローする。

 

水マスター LP4000 手札6

モンスター ② レコンナイサンス・ワイバーン

魔法罠

 

早速悪だくみをしている顔を私に見せてくれているエリアマスターさん。しかし残念ながら、攻撃は私が先だ。

 

「トラップ発動」

 

「な……」

 

「『破壊輪』。相手ターンに相手のLP以下の攻撃力を持つ相手フィールド上の表側表示モンスター1体を対象に発動。そのモンスターを破壊して、私はその攻撃力分のダメージを受ける。その後、あなたは私が受けたダメージと同じダメージ分ダメージを受ける」

 

まずは一撃。そしてこのデュエルととってもスリリングに楽しめる状況になる一手。

 

「正気か……ライフは4000しかないのに……」

 

レコンナイサンスワイバーンの攻撃力は2600。これだけでもうデュエルはクライマックスになってしまうだろう。さすがにこの速さでLPが半分以下になるのは予想外だったらしい。

 

とっても驚いている。可愛い表情だ。体がゾクゾクしてきた。

 

「私は本気よ。さあ、楽しいデュエルにしましょう!」

 

私の宣言と同時に、レコンナイサンスワイバーンには爆弾が取り付けられる。彼には申し訳ないがこのデュエルを盛り上げる礎になってもらおう。

 

大爆発が起こった。

 

爆炎を浴びる。熱い。とっても熱い。しかし、それよりも興奮が私の中で勝っている。

 

「ぐあああ!」

 

対して向こうは、なかなか痛そうだった。

 

彩     LP4000→1400

水マスター LP4000→1400

 

さすがエリアマスターと言うべきか、そこからの展開は早かった。爆炎が収まる前に最初の一手を出してきた。

 

「セイバーシャークを召喚!」

 

煙を斬り裂くように現れたのは、頭から牛を両断できそうな怖い刃を伸ばしているサメだった。

 

セイバー・シャーク レベル4 攻撃表示

ATK1600/DEF1200

 

私は誰のデッキを参考にしたものかすぐに察する。

 

しかし、残念だ。クラッキングドラゴンに対し、召喚は悪手だ。最もそれでも止めるわけにはいかないだろう。モンスターの召喚はデュエルにおいて避けても通れない基本である。

 

まあ、だからと言って容赦をするつもりはないが。

 

「召喚?」

 

「何か?」

 

「この瞬間、クラッキングドラゴンの効果。相手がモンスターを1体のみを召喚、解く召喚した時発動できる効果がある。そのモンスターの攻撃力をそのモンスターのレベル×200ポイントダウンさせて、下降分の数値をダメージとして与える」

 

「なんだ、その効果は!」

 

「文句は言いっこ無しよ。クラックフォール!」

 

クラッキングドラゴンから己のエネルギーの放出による暴風が発射される。これによりセイバーシャークは元気がなくなったようだ。

 

セイバー・シャーク ATK1600→800

 

そして、

 

「ぐう……」

 

水のエリアマスターは、ダメージを受ける。この感覚が最高だ。この世界ではダメージが目に見えて分かる。相手が痛がっているのを見ると、いけないとは思いつつも、その背徳感がなんとも言えない快感を私の中に生む。

 

水マスター LP1400→600

 

「まさか……」

 

「分かった?」

 

「貴様の戦術は……ぐ……」

 

ここで説明を入れるのが、私の策に嵌った相手に対する責任だろう。何より私が言いたい。

 

「召喚を制限されるのは厳しいでしょ? あなたはレベル3のモンスターを出した時点で敗北決定。それを避けるにはモンスターを伏せるしかない。でも、クラッキングドラゴンはもちろん攻撃もできる。セイバーシャークがこのままだと――」

 

「負けるか……」

 

水のエリアマスターは苦しそうに息切れをしながらも、心は折れていないようだった。

 

それでいい。ほとんどの奴はここで戦意を喪失していて私もがっかりだった。これは期待できそうだ。彼ならば、クラッキングドラゴンを超えて、私にリンク召喚をさせられるかもしれない。私と楽しいデュエルをさせてくれるかもしれない。

 

「俺はシャークサッカーを特殊召喚」

 

相手が召喚したのはレベル3の魚族。またサメである。

 

シャーク・サッカー 攻撃表示

ATK200/DEF1200

 

「このカードは魚族、海竜族、水族モンスターを召喚した時、特殊召喚できる」

 

「クラッキングドラゴンの効果は忘れてない?」

 

「そう思うなら使ってみるといい」

 

というので私は効果を使った。

 

「クラックフォール!」

 

「受けるダメージは攻撃力が下がったぶんだけだ。俺が受けるのは200ダメージのみ」

 

その通り。自殺行為でなくて安心した。

 

シャーク・サッカー ATK200→0

 

水マスター LP600→400

 

水のエリアマスターは、続いて迷いなくカードの効果を使う。どうやら私を倒す算段は付いているようだ。楽しみだ。私をどうやって倒すのか。

 

「セイバーシャークの効果。自らを選択し、レベルを1分変動できる。俺はセイバーシャークのレベルを1下げる」

 

セイバーシャーク レベル4→3

 

なるほど。さすがエリアマスター。やはり、クラッキングドラゴンだけでは止められなかったようだ。私はますます、相手の策が楽しみになった。

 

「俺はレベル3になったセイバーシャークとレベル3のシャークサッカーでオーバーレイ!」

 

サメ2体が青い光となって地面に現れた黒い渦に吸い込まれていく。

 

「2体のモンスターでオーバーレイユニット構築! エクシーズ召喚! 現れろ! ナンバーズ47! ナイトメアシャーク!」

 

現れたのはヒレが鎌のようになっている趣味のいい狂暴そうな巨大サメであった。

 

No.47 ナイトメア・シャーク 攻撃表示

ATK2000/DEF2000

 

「攻撃力が足りないわね」

 

「いいや。こいつで良い。お前には負けてもらう」

 

「へえ……」

 

水のエリアマスターは、私を指さし、勝利の一手となる効果を宣言する。

 

「1ターンに1度、オーバーレイユニット1つを使い、効果発動。自分フィールド上の水属性モンスター1体を選択し、選んだモンスターはこのターン相手に直接攻撃ができる。他のモンスターは攻撃できなくなるデメリットはあるが。ナイトメアシャーク自身を選択することもできる。問題はない」

 

つまりクラッキングドラゴンは相手にせず、私を倒す手段に出たということである。これも一つの立派な戦術。ずるいなんて言う者じゃない。むしろ、素晴らしい対応策と賞賛を送るべきだ。

 

やっぱりデュエルは自分の思い通りにならないところが面白い。

 

「バトル! 俺はナイトメアシャークでダイレクトアタック!」

 

これを受ければ私は負ける。

 

私の命を奪うために、巨大な鎌の死神は影の世界に入ったかのように姿をふっと消した。次の瞬間。その鮫は私の後ろに。そして鎌は私の首に迫ろうとしていた。

 

まあ、この程度では負けない。

 

「罠カード。『ガード・ブロック』。私への戦闘ダメージを0に。そして私はカードを一枚ドロー」

 

鎌の切っ先に光の壁が現れ、鎌を弾く。そして私は説明通り、カードを一枚ドローした。

 

「さすがにこれでは仕留めきれないか……」

 

「残念ね」

 

「ああ。できればこのターンで倒したかったが……、仕方がない」

 

その目にはまだ、希望が見える、つまり私を倒す方法はまだ存在するということだ。

 

「どうするの?」

 

「このターンで倒そう! 俺は速攻魔法『RUM(ランクアップマジック)-クイック・カオス』を発動! フィールドのナンバース1体を素材に、ランクが1つ高い同ナンバーのカオスナンバースをエクシーズ召喚する! 俺はナンバース47、ナイトメアシャークを素材に、ランクアップ、エクシーズチェンジ!」

 

ランクアップマジックを天に掲げ、それに呼応するようにナイトメアシャークは咆哮と轟かせる。

 

「すごい……鳴き声!」

 

後ろを見ると、二番手で到着した三波と偽遊介が観客になってデュエルを見ていた。

 

「なるほど……ここから先は私の知らない領域なわけね!」

 

ナイトメアシャークは青い光になり、空中にできたブラックホールへと身を投じていった。そして、

 

「海に潜む悪夢よ、その混沌の力を宿し、今こそ死神となりて地上に浮上せよ! 現れろ、カオスナンバーズ47! ナイトメア・シャーク・フォアデス!」

 

現れたのは鎌を四本に増やし、海を連想させた青のボディが、禍々しい黒に変わった鮫の悪魔。悪夢現れたら間違いなくなくレベルの凶悪な姿をしている。

 

CNo.47 ナイトメア・シャーク・フォアデス 攻撃表示 ランク4

ATK2800/DEF2800

 

「このカードは相手プレイヤーに直接攻撃ができる! そしてオーバーレイユニットを2つ使うたびに追撃もできる。今、デスシャークがもつオーバーレイユニットは2つ。よって俺はあと2回、このモンスターで攻撃できる!」

 

「なるほどね……」

 

確かに凶悪なカオスナンバーズだ。こうなってしまうとクラッキングドラゴン戦法の限界だろう。このようにエクシーズやリンク相手だと、クラッキングドラゴンの効果に引っかかってくれないのだ。

 

さすがにそろそろデッキのコンセプトを変えるべきだろうか。

 

「さて、観念してもらおう」

 

「それ、あなたのエースモンスター?」

 

「ああ。このカードこそ、アルター様が俺に授けてくださった水のエリアマスターとしての力だ。神代凌牙を倒して妹を拉致した時に戦利品として、神代凌牙から抜き取ったカードらしい。……あ、この話は勝ってからのご褒美とか言ってたな。後で怒られる……」

 

向こうも自分の勝ちが見えて興奮しているようだ。その気持ちは分かる。勝ちが目の前に来た時の興奮はまた、楽しいデュエルをした後に来る幸福感そのもの。

 

しかし、残念だ。その幸福はすぐに消してもらうことになる。

 

「永続トラップ『デモンズチェーン』。フィールド上のモンスター1体を対象に発動できる。このカードが表側表示で存在する限り、対象となったモンスターは攻撃できない」

 

「な……」

 

「残念」

 

水のエリアマスターもこれには驚いたことだろう。私を仕留めるにはまだ足りない。私も、さすがにあのカオスナンバーズの効果には驚きを隠せないが、モンスターの効果を無効にするカードはこのご時世、思ったよりも有効的に使うことができる。

 

 

「さあ、どうするの、次は?」

 

と言っても何もできないだろう。顔が今度こそひきつっている。

 

しかしそこはさすが水の世界のマスター。手はあるらしい。

 

「魔法カード、アクアジェットを発動。フィールド上の魚族、海竜族、水族モンスター1体を選択。攻撃力を1000アップする」

 

クラッキングドラゴンの攻撃力を上回ることで、攻撃ができずとも壁にする。堅実な手だ。これではこの後にクラッキングドラゴンで攻撃して終了ということはできなさそうだ。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

しかし、今回も面白かった。まさかダイレクトアタックで戦術を立てるとは。やはり策と策をぶつけ合っているこの感覚。これこそがデュエルの真骨頂だ。

 

「あはははは!」

 

「なぜ笑う。レディ」

 

「だって、楽しい。とっても楽しいから。楽しいときは笑うって決めてるの。この世界ではね」

 

水マスター LP400 手札1

モンスター ③CNo.47 ナイトメア・シャーク・フォアデス

魔法罠

 

(水マスター)

□ ■ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ③   □     EXモンスターゾーン 

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ ④ □   魔法罠ゾーン

(彩)

 

ターン3

 

「私のターン」

 

カードを引いた。そのカードを見て、私は次を考える。

 

「いいわ。それで行きましょう」

 

ついつい笑ってしまう。先ほどのダメージで体が痛いけど、だからこそ味わえる戦っている実感。向こうの世界でもデュエルをしている時はバッチバチに戦っている感覚が楽しかったけど、こっちのデュエルを味わったら向こうの戦いでは物足りなくなりそうだ。

 

「なんて……私、なんかヤバい」

 

自分に対して独り言を言ってしまう。頭がおかしくなってきている気がする。これ以上行くと私の中の何かが壊れそうだ。

 

でも今は、勝ちに行く。

 

彩 LP1400 手札3

モンスター ①クラッキング・ドラゴン

魔法罠 ④デモンズ・チェーン

 

こうなった以上、クラッキングドラゴンを場に残しても仕方がない。

 

「私は魔法カード『アドバンスドロー』を発動! 私のフィールド上のレベル8以上モンスター1体リリースして、デッキからカードを2枚ドローする。私は当然クラッキングドラゴンを選択。カードを2枚ドロー」

 

「クラッキングドラゴンを捨てるのか?」

 

「安心してマスターさん。私はなにもプレイングミスはしていない」

 

まずは下準備。カードをドローした。

 

(……来た!)

 

勝利への道が見えた。

 

わざわざクラッキングドラゴンを使った大仕掛けになる。当然このターンで決める!

 

「そしてマジックカード。『おろかな埋葬』。デッキからモンスター1体を墓地へ送る。私はバックグランドドラゴンを墓地へ」

 

邪魔は入らない。いや、タイミングを計っているだけか。現段階では測りかねる。

 

「私は今墓地へ送った、バックグランドドラゴンの効果を発動! このカードが墓地に存在し、私のフィールド上にモンスターが存在しないとき、このカードと、手札のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。バックグランドドラゴンとともにスニッフィングドラゴンを守備表示で特殊召喚!」

 

私は2体の可愛い僕を呼び出す。

 

バックグランド・ドラゴン レベル5 守備表示

ATK1600/DEF1800

 

スニッフィングドラゴン レベル2 守備表示

ATK800/DEF400

 

「さらにスニッフィングドラゴンの効果! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから同名モンスター1体を手札に加える」

 

まだ邪魔は入らない。私はそのまま続けた。

 

「そして私は、トリガー・ヴルムを通常召喚!」

 

それは銃の引き金のような形をしている竜。このカードこそ破滅を誘う引き金となる3体目のモンスター。

 

トリガー・ヴルム レベル2 攻撃表示

ATK600/DEF600

 

「さあ、行くよ。現れろ、我が道を照らす未来回路! アローヘッド確認。召喚条件は効果モンスター2体以上! 私は、バックグランドドラゴン、スニッフィングドラゴン。トリガーヴルム3体をリンクマーカーにセット!」

 

3体の竜は現れたサーキットに吸収されていく。そして、そこから現れるのは、このデュエルのフィニッシャー。

 

「現れろ。リンク3! トポロジック・トゥリスバエナ!」

 

これは正直竜ではないが、最初に私がストームアクセスで引き当てた私のリンク3のエース。何度もお世話になっている、遊介ときっとお揃いのサイバース族モンスター。

 

トポロジック・トゥリスバエナ

リンクマーカー 上 左下 右下

ATK2500/LINK3

 

「罠カード、『神の宣告』。ライフを半分支払い、そのモンスターの召喚は無効にさせてもらう!」

 

水マスター LP400→200

 

ここで水のエリアマスターからの反撃。新しいモンスターの対策をしたカード。ここまでで逆に彼が伏せたもう一枚は私のモンスターの攻撃に備えたカードと予想できる。

 

ちょうどいいつかいどころだ。この勝負、この一枚でもらう!

 

「手札のカウンタートラップ。『レッド・リブート』を手札から発動!」

 

「手札だと……!」

 

「このカードはライフを支払い発動する。相手が発動した罠を無効にして再びそこにセットさせる。そして、あなたはデッキから好きなトラップを1枚伏せられる」

 

「く……」

 

一見なかなかのデメリットだが、レッドリブートにはさらに効果がある。これが手札から発動できるので使い勝手がいい。

 

「さらにレッドリブートを発動したターン。あなたはこれからトラップを発動できない!」

 

「何……」

 

これで相手の防御は麻痺した。水のエリアマスターは、表情に余裕がない。やはりもう一枚も罠であるようだ。

 

これは勝った。間違いなく。

 

「トリガーヴルムの効果。このカードが闇属性リンクモンスターのリンク素材に使われて墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを召喚した闇属性モンスターのリンク先に特殊召喚する!」

 

墓地への扉が開く。そこから現れる引き金。それは今度こそとどめの引き金だ。

 

トリガー・ヴルム レベル2 攻撃表示

ATK600/DEF600

 

水のエリアマスターは、緊張の面持ちこちらを見る。どうやら私が攻撃力2800を超えるモンスターを引かないことを祈っているらしい。

 

それは無駄だ。そもそも――。

 

この時点で、勝負はついているのだから。

 

「この瞬間、トゥリスバエナのリンク先にモンスターが特殊召喚されたことにより、トゥリスバエナの効果を発動する! 特殊召喚されたカードと相手フィールド上の魔法、トラップをすべて除外し、除外した魔法、トラップ1枚につき、500のダメージを相手に与える!」

 

「何……」

 

私のエースモンスターは変形を始める。第2変形。大きな爪をどこからか出し、そこから撃ち放たれる衝撃波によって、このターン封じた罠全て裁断する。

 

その数3枚。1500の相応のダメージが襲い掛かるのだ。

 

水のエリアマスターに。

 

「まさか、戦闘を1回も行わずに……!」

 

「残念がることはないよ。だって、楽しいデュエルだったからね」

 

「……敗北の痛み知らぬ戦乙女か……これは、ぐあ!」

 

水マスター LP200→0

 

衝撃に吹き飛ばされ、水のエリアマスターは失神。

 

『おめでとうございます。新たなエリアマスター』

 

「やったー! 勝ったー!」

 

勝利に酔いしれ、思いっきり叫ぶ。デュエルはやるだけでもいいものだが、勝ったときの勝利の気分は格別だ。最高!

 

しかし、本当にエリアマスターになってしまった。

 

私が後ろを振り返ると、幹部二人が追加され合計4人が私のデュエルを見ていたという事態に今気づく。

 

「おめでとうございます!」

 

三波の素直な賞賛は嬉しかった。他の人も私をたたえてくれた。てめえよくも先にやりやがったなと因縁をつけられることを覚悟していたので、少し安心した。

 

そして偽遊介もまた私を褒めてくれた。偽物でもやはり知り合いの顔に称えられるのは悪い気分ではない。

 

しかし、それもつかの間、偽遊介は訊いてきた。

 

当然それは私がエリアマスターになったから、ついでにレジスタンスに入ってくれという旨の話だ。

 

後で決めようと思ってたが、その後ではもうないようだ。ここで即決しなければならない。この4人をまとめて相手して巨大組織を敵に回すか、それとも、この世界に革命を起こした後永住するという馬鹿げた話に付き合うか。

 

全く、なんでこんな話に巻き込まれてしまったのか。やはり知らない人について行くべきではなかった。

 

しかし、元々リゼッタを助けたくて、水の世界のエリアマスターになりに来たわけだし、レジスタンスという組織を味方につければリゼッタみたいな、この世界で不当に苦しめられている人も救えるかも知れないと考えると、決して巨大組織を牛耳っておくのは悪いことではない。

 

それに、完全なデュエルの世界を、なぜ偽遊介が、レジスタンスの幹部のみんながこだわるのか、訊いてみたい。なぜ、元の世界ではなく、この世界に移住して暮らし続けることを目的とするのか。

 

そのためにも私は、この話に乗ることにした。

 

「いいわ。レジスタンスのリーダー請け負ってあげる」

 

「本当か?」

 

「あなたたちに興味があるし、それに、私もそろそろ生きる目的が欲しかったの。この世界でレジスタンスとして多くの不当にペナルティを負わされている人とか、この世界に馴染めない人を助けるっていうのは格好いいでしょ。それに私もデュエルですべてが決まる本当の意味でのデュエルの世界。少し興味があるわ。ちょっと魅力的かもって思ってる自分もいる」

 

「本当か?」

 

「もちろん見限るかも知れないけど興味がある限り付き合ってあげる」

 

「俺たちに付き合うってことは、元の世界を捨てる事になるんだぞ」

 

「それはだめだってわかったら、私は抜けるわ。でも今はそこまで実感ないし、それにどうしてあなたたちがこの世界にこだわるのか、きっと理由があるんでしょう? まだ私みんなと話してないから、勝手にあなたたちをヤバい連中だって思うのは良くないしね」

 

「いい奴だな。お前」

 

「あら知らなかったの?」

 

「いいや。知ってた。……んじゃあ、まあ」

 

偽遊介が、いやしばらく付き合う事になるので、エクシーズ遊介に改名して、エクシーズ遊介が握手を迫ってくる。

 

「これからよろしく」

 

「ええ。しばらくお世話になるね」

 

私は握手に応じた。これで私も、エクシーズ遊介くんの設立した怪しい組織の仲間入り。そしてリーダーなのだ。まあ、いろいろ迷惑をかけるかもしれないが、私は責任を負わないことにする。

 

「それじゃあ、さっそく仲間たちに報告しないとね。それに、すぐに上の世界の悪い奴ら潰しに行くわ」

 

「お前……今日ぐらい祝杯を」

 

「ダメ。私をリーダーに仕立て上げたんだもの、働きアリにはブラックに働いてもらうわ!」

 

なんだか楽しくなってきた。しばらくは退屈しなさそうだ。

 

********************************************

 

エクシーズ遊介は、戦いが終わった後とは思えないハイテンションな彩の背中を見る。

 

「頼もしそうですね」

 

「ああ。まったく。調子狂うぜ」

 

「ブラックだって」

 

「……人選間違えたな。まあ、いいけど。あいつはそれを我慢してでも引き留めるに十分な俺たちの切り札になる」

 

「もう……元団長は言い方が悪党なんですよぅ」

 

三波の言葉に、確かに、と頷きを返した。

 

やがて三波も新しいリーダーの後ろに走ってついて行く。幹部2人も、お疲れさまとだけ言って歩き出した。

 

独りになったその後、エクシーズ遊介は言った。

 

「彩。俺達のレジスタンスのほとんどの人はね、故郷がもうないんだよ。もう、滅びたんだよ。その世界に未来はないんだ。だからこの世界が、まだ生きているこの世界が希望なんだ。人間ではアルターに絶対に勝てない。だからあいつに屈服することになっても……俺たちは最後の、俺達が生き残れる楽園を作る。たとえアルターの遊び道具であるこの世界でも、死になくない奴のために」

 

しばらく黙った後、

 

「さて、このことをどう……新しいリーダーに言おうかな……」

 

と空を見上げた。もっとも、見えるのは海だけだった。

 

********************************************

 

 

ある日。

 

水の世界のリゾート地は大きな混乱を招く事件が起こった。

 

「おらぁ! カチコミじゃあ!」

 

と言うバトルクイーン。そしていつの間にか存在した手下たちが暴れ始めたのだ。

 

地下のカジノの囚われているリゼッタを含め、多くの不当労働をしていた人を救い出し、その原因となっていた人間を全員拘束した。しかし、拘束された人間の行方は、この世界で自発的に新聞社をやっている記者達がいくら調べても分からなかったらしい。

 

チームの実装が発表されたのは、ちょうどレジスタンスがこの事件で有名になった直後だった。

 

レジスタンスは表舞台に出るにあたって、名前を変える。

 

チーム『エデン』、いずれ巨大組織になるその団体の名前の由来は、この世界に『楽園』を作ることだと噂されている。

 

(番外編1 終)




番外編1終了です。
長い! と思われた方もいるでしょう。ごめんなさい。字数的には2話並みです。
前回のあとがきで前後編でやっていくなんて言った挙句の果てにこんなことになってしまいました。次回はもう少し展開を考えて執筆しますので、ご安心ください。

さて今回の話はいかがだったでしょうか。今回もまた本編とは違ったテイストの文章になっています。番外編はこのような1人称視点を中心に進めたいと思っていますが、前の方がよいという声が聞こえれば元に戻したいと思います。

ここまで読んでくださった方は分かる通り、彩ちゃんも明るい性格の中になにか危ういものを持っています。それが完全に目覚めてしまうと危ない方向に行きそうです。デュエルの内容はリボルバーという名の通りドラゴン族使いですが、彩ちゃん自身は勝つためにはどんなカードも入れる容赦のない性格をしているので、そこまでアニメの本人に似せてはいません。しかし、それでも遊介のライバルと自称するにふさわしいカードを使うことにちがいはありません。当然、ヴァレルロードを出すのは□□□□□時です。

この話を機に彩ちゃんのことが少しでも好きになってくれるとありがたいです。本編の第2シーズンでは積極的にかかわってくるので。

さて、番外編2は遊介の妹さんが登場です。
お兄ちゃんに裏切られ、薫はどう思っているのか、なぜ兄を追いかけてきたのか。その辺を語りたいと思います。お楽しみに!


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番外編2 兄を求めて 前編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

番外編2です。
薫ちゃんはブラコンというわけではありません。
ただお兄ちゃんが嫌いじゃないだけです。
健全な兄弟愛だということをここで言っておくことにします。

今回使うオリジナルカード
『オーガ・リベンジファイア』 罠カード
①デッキから、ガトリングオーガを特殊召喚。② 墓地のこのカードを除外し、相手フィールド上にセットされている魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚を破壊する。その後デッキから、炎属性の「オーガ」モンスターを特殊召喚する。




馬鹿。

 

裏切者。

 

ばかばかばかばかばか!

 

にいのばか! 大嫌い!

 

なんて居なくなった日に日記に書いたくせに、結局はにいがとっても心配です。

 

にいは優しいから、きっと、友達を助けに行ったんだと思います。だからわたしもそんなにいのお手伝いができればいいと、ずっと思ってました。

 

そう思って1週間ほど経ったときののことです。

 

白いスーツの美男子がうちに来てくれました。驚きました。イリアステルの社章が入っているので、大犯罪者なのですが、ニュースを見る限りでは、全員行方不明と報じられていたはずです。

 

ちなみに私は結局おばあちゃんの家には行きませんでした。正直嫌な予感はありましたから。きっとにいはあの世界に行ってしまう。だからもしそうなったら私は、この家を守ろうと思ったんです。

 

でも、その白いスーツの人は言いました。

 

「君のお兄ちゃん。このままじゃあ死ぬよ」

 

なんで! とついしがみついてしまいました。

 

そしたらその白いスーツの人は言いました。

 

「彼はきっと俺とは相容れない。俺はあの世界の管理者であり、参加者を愚弄するラスボスだからね。そして君のおにいちゃんは勇者だ。彼はいずれ必ず勇者の役目を果たそうとしてしまう。だがそれは不可能だ。彼には実力が足りない。彼には運命を引き寄せる力がない。きっと抱く理想はあまりに大きく、彼を破滅へと追い込むだろう。全てを奪われ、力に、欲望に屈した人間に裏切られ、彼はきっと孤独になってしまう」

 

どうしてそんなことになってしまうのかは言ってくれなかった。けれど、そのスーツの男の人は私のお兄ちゃんの死亡は確実だと何度も言いました。

 

「その時、彼には救いが必要だ。全てを諦めて堕落するにせよ、死ぬと分かっていながら立ち上がるにせよ、壊れてヤケになってしまうにせよ。彼が自殺などという最も呆れた最期を迎えないためには、生きる意味が必要だ」

 

私はその人が何が言いたいかがわかりませんでした。けれど、にいがとってもピンチなのはわかりました。

 

そしてこの人はきっと、私にもにいのいるその世界に行けと言いたいことも分かりました。

 

現実世界のにいは今病院に居ます。意識不明。脳にはなんの異変もなく、ただ死んだように安らかな顔でベッドの上で眠っています。VR世界に意識を持っていかれたまま、にいは戻ってきません。

 

国が今回のリンクブレインズのデスゲーム化については重大なテロと認識しているようで、被害者の皆さんが安静にできる場所を用意してくれました。栄養も点滴でどうにかなっているようで、死んではいないことにどこか安心していました。

 

しかし、今、このように言われて私はにいが死んでしまうかもしれないことを、改めて思い知りました。

 

白いスーツの人は私にデュエルディスクを渡しました。

 

私はその人に、聞きました、

 

「あなたは兄さんの味方なのですか?」

 

そしたら、その白いスーツの人はこう答えました。

 

「私はエンターテイナーだよ。死が隣り合わせのあの世界では、いろいろな人にいろいろなドラマができる。中にはとっても見ごたえがあるドラマもあるものだ。私はその世界の基盤を作った。私は魔王役で出演している物語の舞台をね。そこからどのようなドラマが生まれるかは私も知りようがない。君のお兄ちゃんが紡ぐ物語もまた、良い物語になりそうな予感がある。最期まで見届けたいと願う者として、そしていつかふさわしい舞台で最高の瞬間を作りたいと思っている。だから、そのためのお膳立てくらいはするさ」

 

といって、私の前からいなくなりました。

 

その時の私はどうかしていたのでしょう。

 

それくらいに一人で過ごすのは寂しかったのです。家を守ると言っても、結局一人では寂しかったのです。

 

私はすぐに、迷わず病院に行きました。

 

にいが寝ているベッドの近くに行きました。

 

誰にもディスクを見られないように気を付けながら、走りました。

 

何度も通っているのでわかります。1日に3回、看護師さんが面倒を見に病室を訪れるはずです。だから私がここで倒れても、きっと面倒は見てくれます。

 

念のため、パソコンで犯行文っぽいものを作りました。私はイリアステルの人間に無理矢理ディスクをつけられて、事件に巻き込まれたように見せようとしました。そしてそのパソコンは箱にしまって家の庭に埋めました。

 

にいの隣で横になりました。デュエルディスクを抱くようにして。こうやってベッドに並んで寝るのは少し恥ずかしかったですが、これならきっと見つけてもらえると思いました。

 

そして私はにいに会えるよう、祈るようにして言いました。

 

「イントゥ・ザ・ブレインズ」

 

眠くなりました。

 

――おやすみなさい。

 

 

【2】

 

 

目を覚ますと私は街に立っていました。

 

凄かったです。ここは本当にゲームの中なのかと驚きました。なぜなら、目の前に広がるその光景は、まさに見慣れた都市そのものだったのです。

 

しかし、その世界が私の故郷とは全く違うことはすぐにわかりました。

 

「ひゃあああ!」

 

驚いてしまいました。上空に浮いているモンスターの数々。にいがやっていたデュエルモンスターズのカードに書かれているような化け物があちらこちらに見えました。

 

手にはデュエルディスクがありました。しかし説明は何もありません。私もにいの影響でゲームをやったことは何度もあるので、ゲームならチュートリアルぐらいはあると思っていましたが新設設計ではないゲームみたいです。

 

近くにあった電光掲示板には、

 

『本日イベント開催中! 保有ライフを増やそうぜ! みんな!』

 

ということが書いてありましたが、一体何のことだかさっぱりわかりません。

 

とりあえず、近くにマイケルカードショップという店を見つけたのですが、今日はお留守みたいでした。ここでルールを説明してくれる人がいればと思ったのですが残念です。

 

ここはデュエルの世界だということはCMを見ていて知っています。

 

イベント中だからでしょうか。街の中ではそこらじゅうでデュエリストが戦っていました。実際にデュエルを見ていると、さすがアニメの世界に張ったと錯覚するほどの世界観と売りにしているだけあります。迫力はテレビの前で見ているより段違いでした。

 

しかし、なぜでしょうか。不思議と皆さん、デュエルをしているにしては殺気だっているような気がします。とても怖いです。

 

そこら中で爆発の音が聞こえます。それもとても怖いです。

 

どうしようか迷いました。残念ながら、にいは近くにいないようなので、とにかくしばらくは1人でいなければなりません。

 

せっかく意を決してここまで来たのに、それはとても寂しいです。

 

「解放軍だ! 逃げろ!」

 

遥か遠くでそんなことを叫ぶ声が聞こえました。軍という言葉が気になります。

 

もしかするとここか戦争か何かが起こっているのではないか。という考えが頭をよぎり急に不安になってしまいます。

 

「おい」

 

不意に話しかけられ、びっくりしてしまいました。

 

後ろを振り返ると、そこには、

 

「デュエルしろよ」

 

悪そうなお兄さんがにやりと笑いながらいました。

 

『デュエルが申請されました。相手の保有ライフに従いライフは4000でデュエルをスタートします』

 

「え、え?」

 

どういうことなのかわかりません。

 

でも、デッキらしきものがあるのは分かりました。

 

もしかして私はこれを使いデュエルをしなければならないのでしょうか?

 

「あの……私……」

 

「うるせえ!」

 

「ひ……」

 

見た目通り、とても怖いです……。

 

「さっさとやれよ。どうせ断れないんだからよ」

 

「でも……私……」

 

実は毎週アニメをにいとみているので、基本的なルールは知っているのですが、実際にやったことはないのです。そんな私にいきなりデュエルを知ろとぶっつけ本番で言われても、私は困ってしまいます。

 

しかしながら、どうやら向こうのお兄さんは聞く耳を持ってくれていません。

 

「さあ、デュエルだ」

 

「あ……ううう」

 

「さっさと初期手札ドローしろ!」

 

「は、はい……」

 

言われるがままにカードを5枚引いてしまいました。

 

「よし、戦う気ありだな」

 

「そんな……ことありま」

 

「ごちゃごちゃ言うんじゃねえ!」

 

どうしよう。

 

このデュエルに負けるともしかしたら死んでしまうのかな……。

 

怖い。せめて最後ににいに会いたかった……。

 

私、早速ピンチです。

 

薫    LP4000

チンピラ LP4000

 

(チンピラ)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(薫)

 

ターン1

 

薫 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

「てめえの先攻だ!」

 

「先攻ですか……?」

 

「さっさとやりやがれ」

 

せめて少しは冷静に考えさせてほしいです。あんな怖い顔でプレッシャーを与えないでほしいです。

 

でも、こうなった以上仕方ありません。もしもの時ににいを助けるためには、これくらいのプレッシャーに負けてはいけない。頑張らないといけません。

 

「私のターン」

 

手札を見ます。

 

「魔法使い族……」

 

魔法使い族が多いデッキです。でもデッキの中を見ていないので、まだどんなデッキかわかりません。それでも手札にあるカードで戦わなければ。

 

「マジシャンズヴァルキュリアを召喚します」

 

最初に呼んだのは魔法使いの女の子です。いや、女の子かどうか分からないけれど、もし大人だったら将来はあんな風になりたいと思います。

 

マジシャンズ・ヴァルキリア 攻撃表示 レベル4

ATK1600/DEF1800

 

遊戯王のカードによっては動きが複雑すぎてよく分からない時がありますが、今の手札を見る限り、それほど難しい使い方をするカードはありません。

 

「そしてカードを2枚伏せて、ターンエンドです」

 

相手にターンを渡すのは少しドキドキします。これから何をされるのか不安になりますが、今できることをしっかり考えて手を打つ。それがにいがデュエルをする時にいつも心がけていることだそうです。

 

この世界ではデュエルが重要になる以上、私も気を付けていこうと思います。

 

にいに会うためにもここはなんとしても勝って生き残ろう。

 

そう思い、つい右手を強く握ってしまいました。

 

薫 LP4000 手札2

モンスター ① マジシャンズ・ヴァルキリア 

魔法罠 伏せ2

 

(チンピラ)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ ■ □   魔法罠ゾーン

(薫)

 

 

ターン2

 

 

「じゃあ、俺のターンだな」

 

ところどころ欠けた歯を見せて向こうのお兄さんはカードを引きます。

 

チンピラ LP4000 手札6

モンスター 

魔法罠

 

引いたカードを見て、少し考えるお兄さん。それを見て、私は少し怖かったです。

 

何をしてくるのでしょうか。

 

「俺は……ガトリングオーガを召喚!」

 

お兄さんが出してきたのは、その名の通り、ガトリングと思われる回転型の弾丸射出機を携えた悪魔でした。

 

ガトリングオーガ 攻撃表示 レベル3

ATK800/DEF800

 

「じゃあ、殺すか」

 

「え……?」

 

「おいおい、嬢ちゃん。ここはバトルシティだぜ? 次のターンがあるなんて生ぬるいことは考えないことだ」

 

きっとあのガトリングオーガという奴はそのままではいけない。このモンスターを召喚した時のあのお兄さんの目は、恐ろしい目をしていたように見えました。

 

カードの発動をするタイミングは気を付けなければなりませんが、ここで使わないと後悔する気がしたので発動します。

 

「速攻魔法、『ディメンション・マジック』。魔法使い族モンスターが存在するとき、私のフィールド上のモンスター1体をリリースし、手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚します。わたしはフィールドのマジシャンズ・ヴァルキリアをリリースして、手札の混沌の黒魔術師を特殊召喚!」

 

私の手札に残ったうちの1枚は、上級モンスターでした。攻撃力が高く、発動したディメンションマジックとの相性も悪くないです。

 

現れたのは頼もしい魔術師でした。その背中は頼りになりそうです、

 

混沌の黒魔術師 レベル8 攻撃表示

ATK2800/DEF2600

 

「さらに、相手モンスター1体を選んで破壊できる。今召喚された、ガトリングオーガを破壊します!」

 

「おう、マジかぁ」

 

魔法カードの効果で発生した電気がオーガを攻撃し、粉々にしました。

 

これで一安心、と思ったのですが、

 

「へへへ、少しはやるじゃねえか。しょうがねぇ。俺は魔法カード『ソウル・チャージ』を発動する! 俺は墓地のモンスターを任意の数選んで特殊召喚する。だが、召喚したモンスター1体につき、1000のダメージを受ける。俺は墓地からガトリングオーガを蘇生させて1000ダメージを受ける。そしてこのカードを発動したターン、バトルフェイズは行えない」

 

ガトリングオーガ 攻撃表示 レベル3

ATK800/DEF800

 

チンピラ LP4000→3000

 

「そして俺はカードを3枚セットぉ。行くぜ?」

 

やはりあのオーガには何かある。それも、わざわざ特殊召喚までしなければいけなかった理由があるはずです。それが今から明らかになるということは、私はまずいことになりそうなことは予想できます。

 

「ガトリングオーガの効果! セットしたカードを1枚墓地へ送るたびに、相手に800ポイントのダメージを与える! 俺は今伏せている3枚のカードを墓地へ!」

 

「3枚……!」

 

「お嬢ちゃんも分かるよなぁ。早速、2400のライフを削られるんだぁ。怖いだろう?」

 

強面のお兄さんは、悪そうな笑みを浮かべて宣言しました。

 

「やれ、ガトリングオーガ。ファイア!」

 

ガトリングから撃ちだされる数々の弾丸が私に――。

 

「が、ぐ、ああああああ!」

 

痛い! 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

「やめてぇ!」

 

「やめるわけねえだろぉ! 甘んじて受けな!」

 

「やああああああああ!」

 

痛い……痛いよぉ。

 

薫 LP4000→1600

 

全身が針でずぶずぶ刺された。それくらい痛い。

 

「あ……あああ……」

 

目から涙が出ました。痛い。本当に痛い。

 

「お嬢ちゃん。ここはバトルシティだ。生半可なデュエルは許されないぜ。耐えられないならさっさとサレンダーしろよ。まあ、そうしたら一歩死に近づくわけだぁ!」

 

嬉しそうに叫ぶあのお兄さん。

 

どうしてこんな痛いことをして喜ぶのでしょうか。にいがやっていたデュエルはもっと楽しそうな遊びだったのに。

 

デュエルっていうのはこんなにひどいものなの。にいを問い詰めたかったです。

 

――首を振りました。そんなはずはないと思いました。

 

にいは悪いことはしない。だからこんなことは違うと思います。

 

でも、にいが毎日こんなことをしていると思うと、にいのことがとても不安になりました。

 

まだ死ねません。

 

でもここで負けたら死に近づくと言っていました。ならば負けられません。

 

「おお、立つのか。お嬢ちゃん」

 

「ぐ……」

 

「泣きべそをかいているが、そこらの隠れている腰抜けよりは優秀だぜ嬢ちゃん。さあ、来な。つぎがてめえのラストターンだ。俺は残った手札1枚を伏せて、ターンエンド」

 

目の前のお兄さんはにやりと笑い、ターンエンドを宣言しました。

 

「混沌の黒魔術師の効果。私は墓地の魔法カードを手札に加えます。私は『ディメンション・マジック』を手札に加えます」

 

チンピラ LP3000 手札0

モンスター ② ガトリング・オーガ

魔法罠 伏せ1

 

(チンピラ)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ② □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ ③ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(薫)

 

 

ターン3

 

 

「私のターン」

 

手もすごく痛みますが、私はまだあきらめません。

 

薫 LP1600 手札4

モンスター ③ 混沌の黒魔術師 

魔法罠 伏せ1

 

手札に来たのは魔法カード。まずはそれを発動して、憂いをなくします。

 

「マジックカード。『サイクロン』。相手フィールド上の、魔法・罠ゾーンに存在するカードを1枚、破壊する! あなたの伏せたカードを破壊します!」

 

「マジかぁ、このまま攻撃してくれても良かったんだけどなぁ」

 

凄い風が起こって、悪いお兄さんが伏せたカードを破壊しました。

 

これで残りは、あの忌々しい機関銃野郎です。

 

「私はカードを1枚伏せます」

 

さきほど手札に戻した速攻魔法を伏せます。

 

手札には魔法使い族モンスターがもう1体います。十分使う機会はあります。

 

「さらに私は、装備魔法『ワンダー・ワンド』を混沌の黒魔術師に装備。装備モンスターの攻撃力を500アップします」

 

混沌の黒魔術師 ATK2800→3300

 

ワンダーワンドにはもう1つの効果がありますが、今は使う必要はありません。

 

今伏せているもう1枚の罠カードは、『マジシャンズ・サークル』であり、混沌の黒魔術師で攻撃をする沖に、自分のデッキから魔法使い族モンスターを攻撃表示で特殊召喚できる効果を持ちます。

 

これで強力な1撃のあと、ダイレクトアタックをお見舞いできるはずです。

 

「バトル!」

 

しかし、そう甘くはありませんでした。

 

「メインフェイズ終了時、俺は墓地の罠カード、『光の護封霊剣』の効果を発動する! 墓地のこのカードを除外! このターン相手はダイレクトアタックできなくなる!」

 

「え……」

 

まずい。これではマジシャンズ・サークルの効果を使ってもダイレクトアタックできません。

 

「魔法使い族は、油断ならないからね。マジシャンズサークルなんか発動されたらこのターンで沈んじゃうから。念のため発動させて貰おうかなぁ」

 

読まれている。予想は図星です。

 

これでは仕方ありません。

 

それでもこのターン、あの悪魔を消し去ることは十分な意味があります。

 

「混沌の黒魔術師で、ガトリングオーガを攻撃!」

 

黒魔術師は、渾身の一撃を私のために撃ちだしてくれました。あの忌々しい化け物をこれで撃破です。

 

「ぐおおっ! ぐ……」

 

苦しそうな顔をしています。本当に痛がっているようです。

 

(勝)混沌の黒魔術師 ATK3300 VS ガトリングオーガ ATK800(負)

 

チンピラ LP3000→500

 

痛がっている……?

 

ようやく、この世界のルールを理解できました。

 

どうやらこの世界では、デュエルのダメージが実体化しているようです。

 

だから先ほどはあんなに痛かったのだと、そして今の私の攻撃であの悪いお兄さんが痛がっているのだと理解しました。

 

つまりこの世界ではデュエルは、本当の意味で痛みを伴う戦いだということ。

 

そう考えると急に恐ろしくなってきました。

 

しっかりしないと。

 

私は深呼吸をして、前を見ます。現状、マジシャンズ・サークルを発動しても、直接攻撃はできないので意味がありません。個々は温存して次の機会に備えることにしました。

 

「私はこれでターンエンドです!」

 

薫 LP1600 手札1

モンスター ③ 混沌の黒魔術師 

魔法罠 伏せ2 ディメンション・マジック マジシャンズ・サークル ④ ワンダー・ワンド

 

(チンピラ)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ ③ □ □   メインモンスターゾーン

□ ④ ■ ■ □   魔法罠ゾーン

(薫)

 

 

ターン4

 

 

運命のターン。このターンを乗り切れたら、勝利に近づきます。

 

「俺のターン! ドロー」

 

チンピラ 

 

向こうの悪いお兄さんは手にしたカードを見て、にやりとまた笑いました。

 

「さっきのターン破壊されたカード。あれは何だと思う?」

 

私に訊いてきます。知るはずがありません。

 

「今教えてやるよ。俺は墓地の魔法カード、『オーガ・リベンジファイア』を発動! このカードを除外して、相手フィールド上の伏せられているカードを1枚破壊する! 俺はお嬢ちゃんの伏せたディメンション・マジック、つまり、そのカードを破壊する!」

 

向こうのお兄さんは的確に、私の伏せたディメンションマジックを破壊してきました。

 

まずい。これではまずいです。

 

もしも、アイツが来たら……。

 

「さらに、この効果を使用後、デッキの炎属性のオーガと名のつくモンスター1体を特殊召喚する。ただし、このターン俺はバトルフェイズをスキップする。よみがえれ、ガトリングオーガ!」

 

悪夢再び。その言葉はまさにこのことです。

 

来てしまいました。アイツが……!

 

ガトリング・オーガ レベル3 攻撃表示

ATK800/DEF800

 

「さらに 墓地にあるマジックカード『錬装融合(メタルフォーゼ・フュージョン)』の効果を発動。墓地のこのカードをデッキに加えてシャッフル、カードを1枚ドローする!」

 

軽やかな手つきでカードをデッキに戻し、再びカードをドローする相手のお兄さん。

 

そして手札にはカードが2枚あります。

 

私はやめてくださいと心から思いました。どちらかがモンスターであってほしいと。

 

「俺は、カードを2枚セット」

 

しかし、それはかないませんでした。

 

「さあ、お嬢ちゃん。分かるな?」

 

勝利を誇る笑みで向こうのお兄さんは私を見ます。

 

また、痛いのが来る。

 

「ガトリングオーガの効果! 俺はセットされた2枚を墓地へ送り、1600分のダメージを与える!」

 

「やめて……!」

 

「やめねえよ! たっぷりいたぶってやるぜぇ! ファイア!」

 

再び打ち出された弾丸。

 

痛くて――痛――。

 

やめ――。

 

――。

 

薫 LP1600→0

 

 

少しの間気を失いました。

 

相手のお兄さんはニヤニヤ私を見つめて、

 

「ようし、まずは4000ゲットぉ。良かったな。俺達解放軍の礎になれるんだぞぉ?」

 

解放軍、礎。言っていることの意味が分かりません。

 

「俺たちがイリアステルを倒して世界を救う礎だ。喜んで命を差し出してくれよ。俺達には500000ポイント必要なんだよぉ。さあ、もう1回デュエルしようぜ! ほら立てよ! なあ?」

 

もう1回なんて。

 

怖くてやりたくありません。こんないじめを受けるためにこの世界に来たんじゃない。わたしはただにいに会いたいだけなのです。

 

「立てよ。立たねえなら勝手に始まるぞ。お前はデュエルディスクだけ差し出しとけばいいよ。あとは俺が全部やってやるからさ。俺がお前をここで殺してやるよ。嬉しいだろ。怖い世界から、痛いのから、お前は解放されるぜ?」

 

死ぬ?

 

嫌。嫌。嫌!

 

私は逃げようと体に力を入れます。

 

だめです。力が入りません。全身が痛いです。

 

「てめえ、まさか逃げようなんて思って無いよな。俺達解放軍の礎になりたくないって言わないよな。舐めてんじゃねえぞ。俺達は命かけて戦ってんだよ。イリアステルが作ったこの世界を終わらせるために、最前線に立ってんだ。雑魚はその助けになるなら、命張っても当然だろうが!」

 

怖い。このお兄さんは怖い。

 

嫌だ。死にたくない。誰か助けて!

 

祈りました。神様でも仏様でも、どうせなら悪魔でも構わない。助けてほしいと。

 

「ちょっと」

 

女の人の声が聞こえました。

 

その声は、なぜか聴いた瞬間涙が出るほど安心する声でした。

 

「なんだてめえ」

 

「その子いじめるなら、代わりに私をいじめなさいよ。ちょうど相手が雑魚ばっかりで退屈していたところなの」

 

「ああ。生意気な。俺が誰か分かっていってんのか。ボコボコにしてやるよ」

 

その女の人は私に笑いかけてくれました。

 

涙で前が見えなくて、その時は誰か分かりませんでした。

 

「薫ちゃん。任せて。あなたをいじめたクズは……ここで殺すわ」

 

 

【3】

 

 

あまりに鮮やかな手際で、私が苦戦したそのお兄さんを軽々と追い詰めました。

 

その女の人はアニメで見たことのある、オレンジ色のドラゴン型サイバースモンスターを使っていました。

 

「ひぃ……助けてくれぇ……」

 

「助ける?」

 

女の人はものすごく怒っていました。

 

「私の薫ちゃんをここまでボロボロにしておいて。今にも殺しそうなことをしておいて?」

 

その姿は先ほどのお兄さんよりも恐ろしく冷酷で、でも私にとってはとても嬉しいことでした。私にためにその女の人は起こってくれたのです。

 

いつしか立つ気力すら出ない私を支えてくれる人もいました。

 

「リボルバー様。南東地区制圧。現在我々がチーム1位の成績を維持しています」

 

「三波、報告ありがとう。リゼッタのほうも、もうすぐ終わるって言ってたし、私もそろそろこの男をいたぶるのは終わりしようかな」

 

私をいじめたお兄さんは、震えてリボルバーと呼ばれたその女の人を見て腰を抜かしていました。

 

「あんたは……あんたは……ひいい……。エデンのリーダー……」

 

「それがどうしたの?」

 

「助けてくれ。助けてくれ。命だけは、命だけは! そうだ、俺、今からあんたの奴隷にでもなる。だから……」

 

「馬鹿な男」

 

その女の人は私をいじめたお兄さんに言い捨てます。

 

「死になさい。下種。私の薫ちゃんを痛い目に遭わせたその罪、万死に値するわ。トポロジックボマードラゴンで、ダイレクトアタック」

 

「やめてくれぇぇ!」

 

容赦はありませんでした。

 

放たれたレーザーはそのお兄さんを焼き尽くし、遺灰すら残すことはありませんでした。

 

「リボルバー様。この子、怪我がひどいので……その」

 

「三波心配しないで。この子は個人的に助けたい子だから。ちゃんと助けるわ。まあ、いつもそんなこと言っているけど。今回は本当に特別」

 

先ほど見えなかったその顔が見えました。

 

死にそうになっていた私を助けてくれたのは。

 

「大丈夫。薫ちゃん」

 

「彩お姉ちゃん」

 

にいの大親友。彩さんだったのです。

 

(前編終わり)




いかがだったでしょうか。
前回の1人称視点につづき、今回も1人称視点で話を進めています。前回とはまた違った感じで少し幼い薫ちゃんという、この作品のヒロイン候補としての一面を引き出せていければと思っています。

彩ちゃんはデュエル初心者だし、こんな結果は仕方ないのです。むしろこの健闘に拍手を送ってあげてください。

そんなわけで、遊介の妹である薫ちゃんがついにこの世界に来てしまいました。しかし肝心の兄には会えず、出会ったのは悪いお兄さんと、薫ちゃん大好きな彩ということになりました。このような形で、薫もまたエデンに身を置くことになります。その詳しい過程は後編で。

今回はチンピラが解放軍の話も少ししていますが。解放軍の話は、次の番外編まで待ってください。今回は薫ちゃん中心で進めていきます。

作中のチンピラはとにかく悪そうに書きました。そして悪いモンスター、ガトリング・オーガはたまたま録画していた5D'sを見ていて思い出しました。あれは4000デュエルでは凶悪ですね。今後はもうこの話で出ることはないでしょう。

さて次回は後編です。後編はエデンのイベント戦お楽しみ会+エデンについてより掘り下げていければと思っています。
後編は10日以内に出せればと考えています。お楽しみに!


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番外編2 兄を求めて 後編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

久しぶりの投稿です。遅くなりましてごめんなさい!
デュエルは話の構成的にありませんが、お楽しみいただければと思います。
ちなみに次回はデュエル有りなので、もう少しお持ちください。

番外編2の後編です。遊介の妹がエデンに吸収されてしまう経緯とは?


「はぁ……幸せ……」

 

私は彩さんに拾われました。

 

自分の知る相手に保護されるというのはとても幸運だったと思います。アバターを現実の姿と全く変えなかったのが功を奏したと言えるでしょう。

 

最初は彩さんかどうか分かりませんでしたが、私の主観で語ることを許されるのならこの彩さんは本物です。

 

にいは知りませんが、彩さんは二人きりの時はボディタッチが激しいです。ことあるごとに私に体を触ってきます。

 

スキンシップのつもりなのでしょうが……。

 

「あのぉ……」

 

「なあに?」

 

「いくら何でも……腕を組むというのは……」

 

「いいじゃない。それともお姫様抱っこの方がいい? もちろん抱っこされるのは薫ちゃんだけどネ!」

 

ノリノリでこのようなことをしてくるのです。溺愛されているといえば聞こえはいいですが、街中では恥ずかしいのでやめてほしいと思います。

 

しかし、助け出されてから、ここまで歩いてくる間、この世界のことをいろいろ教えていただきました。おかげで、この世界における基本的なルールはしっかり理解できました。

 

正直驚きました。この世界は本当にデュエルで生き死にが決まってしまうなんて。

 

より一層、にいが心配になります。すぐにでも探しに行きたいですが、その欲求は抑えることにしました。

 

今私は、どうやら巨大組織に保護されたということらしいです。今は、『リボルバー』という名前でこの世界を生きている彩さんと、秘書である二人、三波さんとリゼッタさんが近くでいろいろと難しい話をしています。

 

「リボルバー様。現在のポイントが800を超えました。チーム戦ランキングでは現状第2位です」

 

「2位かぁ、何とか1位になれないものかな」

 

「1位は解放軍です」

 

「でもあいつら原住民や戦う意思のないやつ、またこの世界に来たばっかりの奴とか、弱そうなやつとかを狙い目にしてるんでしょ? モラルがないわモラルが」

 

彩さんが現実世界ではかけていないサングラスをかけている姿はカッコいいです。

 

「リゼッタどうするべきだと思う?」

 

「……本当に1位になろうというのなら、幹部クラスの連中をもっと働かせて、解放軍を根絶やしにするか、解放軍と同じように戦わないとだめですよ。相手を選り好みしている場合ではないと思いますが?」

 

「過激だねぇ。まじかぁ……じゃあ、前者で」

 

「決断速いですね」

 

「うじうじ悩んだって仕方なくない? 根絶やし……とまではいかないけど、徹底的に解放軍をサーチして、ボコっていけばいいんじゃない?」

 

「人道的に決めるのなら、幹部の多数決を取るべきでは?」

 

「その必要はなし。だって私、リーダーだから。リーダー決定権を行使するわ」

 

「では、そのように皆さんに通信で伝えます。多分クレーム来ますけど」

 

「いいのいいの。文句あるなら私倒して新しいリーダーになるべし! って約束でしょ」

 

どうやら聞く限りでは、彩さんは巨大組織『エデン』というチームのリーダーらしいです。そして、独裁者的思考を先ほどから躊躇いなく見せています。でも、我が儘っぽさは現実世界でもあったので、違和感はありません。彩さんの我が儘をにいと松さん2人で必死に止めるというのが、いつもの3人の光景でした。

 

彩さんはこの世界でもあまり変わらず過ごしているようで安心しました。

 

「リボルバー様。その子はどうしますか?」

 

「どうするも何も、抱き枕に……なんてね。しばらくは私が面倒見るから。気にしないで」

 

ちなみに抱き枕は本気かもしれないです。現実世界でも、彩さんは私の家に泊まるとき、いつも私をそれっぽい扱いにして隣で寝ていたことが何度もあります。

 

流れで面倒を見られることになっていますが、それはそれで嫌ではありません。むしろ一人で彷徨うくらいなら、この世界で生きるイロハを教わる間は、見知った人に頼れる状況はとても幸運なことだと思います。

 

本当はにいではないのが残念ですが、さすがにこれ以上は高望みでしょう。

 

「じゃあ、カオリンはしばらく私のモノね。やったー」

 

嬉しそうに笑ってくれるのは、私も嬉しい限りですが少し将来が不安になったのは気のせいだということにします。

 

「カオリン……面倒! 普通に名前で呼んでいい? 他のみんなにはアバター名を呼びやすくしたってことにしとくから」

 

「はい。私もその方がありがたいです。あの、彩さんはやっぱり、リボルバー様って呼んだ方が?」

 

「何言ってるの。いつも通り。今までと同じように、仲良くしましょう? 今まで通り、私のことは彩お姉ちゃんで。……で本題だけど、薫ちゃんはちょっと他の人とハンデがあるから、そのハンデが埋まるまでは、私たちに拉致……もとい保護されます。よろし?」

 

「はい」

 

「じゃあ、決まり。それじゃあ、これからしばらくともに過ごす私の働きバチ達に会いに行きましょう!」

 

嬉しそうに笑った彩さん。私の手を握って走り出しました。彩さんの仲間なのできっといい人がいっぱい……とはいかないような気がします。先ほどの会話を少し聞くだけでわかりますが、彩さんは今牛耳っている組織に圧制を敷いている模様です。

 

きっと、彩さんに恨みがある人がいるんだろうなと、先行きが不安になりました。

 

 

【4】

 

 

アジト、というよりは仮設のテントに近い見た目でした。小学校の頃に運動会で来賓の人が涼んでいたテントによく似ています。それを街の中の公園っぽいところを貸し切り状態にして遠慮なく広げていました。

 

クレームなどなんのその。文句があるならデュエルをしろと、張り紙に書いてあります。もしかするとチームエデンは私の想像以上に危なっかしい組織の可能性が出てきました。

 

「ただいまー」

 

彩さんが手を振った先には、かなりボロボロになっているデュエリストの姿が数名いました。その中には私が求めた人物が――、

 

「にい――」

 

嬉しくて走り出そうとしたところを、彩さんに止められました。

 

「ぬか喜びさせたくないから言うけど。アレ偽物よ」

 

「あれって、でも、あれはにいです、遊介です」

 

「見た目はね。見た目はそうなのよ。中身はクズだけど」

 

思いっきり罵倒しています。にいと同じ姿の人間を罵倒しています。

 

そしてそれは向こうにも聞こえていたようです。

 

「お前、やめろ。出会う前から悪印象を植え付けやがって。ていうか、俺がまるで遊介じゃないみたいな言い方だな。俺は正真正銘遊介だ」

 

「そうなのよ。本物を騙る偽物なの」

 

「違うってんだろ!」

 

「あら、じゃあ、あなたは遊介? この子が探している遊介? 違うでしょ。ならいいじゃない偽物で」

 

「どうしてそうなる! 俺は紛れもない本物だ」

 

「じゃあ、聞いてみる? 妹さんはどう思うか」

 

彩さんはこちらを見ます。

 

声、見た目、全く同じです。私には本物にしか見えません。しかし、この話の流れ的にきっと私の知っているにいではないことがわかります。あれがただのそっくりさんだということも。

 

「いや、いいよ。どうせ俺は彼女にとっては『偽』だからな」

 

「ずいぶんと潔く認めるじゃない」

 

「俺の妹じゃないことは確かだ。それについては嘘はつかねえよ」

 

「あんたも妹居るんだ」

 

「正確には『いた』だけどな」

 

過去形。つまり、にいのそっくりさんの妹はもういないということでしょうか。

 

「もしかして、嫌なこと思い出させちゃった?」

 

「いいや。俺が嫌がっったて事実が変わるわけじゃない。その程度は気にしないさ」

 

偽遊介さんは、この話題を無理やり変えました。

 

「ところで、さっきの命令はなんだ。解放軍と戦えだと? こっちはクソ忙しいってのに」

 

「どうせなら1位になりたいじゃない。そのために解放軍のポイント稼ぎをこれ以上減らしながらこっちは稼ぐ」

 

「もう疲れたわ。少し休憩させろ!」

 

「お断りよ今すぐ行きなさい。これはリーダー命令よ」

 

「ブラック反対!」

 

「上等じゃない。文句あるなら私にデュエルで勝ちなさい? もっとも、100戦って1回も勝てないあなたにそれができるならの話だけどね」

 

「くそぉ……勝ち越してるからってぬけぬけと」

 

「はい、いっけー」

 

偽遊介さんはとっても不服そうな顔をしながら公園の外へ向かって行きました。

 

ところで、私はこの後どうなるのでしょうか。このままテントの下で何もせずに待機と言うのは、助けてもらった恩に報いることができません。

 

「三波はあいつの監視ついでにお仕事ね。リゼッタは他のエリアで戦っている人たちに連絡。今から私たちは解放軍をフルボッコにします。ただし、最初も言った通り、保有ライフが4000以下になったら必ずアジトに逃げることを徹底。おっけー?」

 

リーダーらしく、部下に命令を出している彩さんに訊くことにしました。

 

「あの、私は」

 

「彩ちゃんはしばらくテントの下で」

 

「何かできることはありますか?」

 

「え……」

 

「助けてもらってばかりじゃ、その……」

 

「ああ。別にいいのよ。そもそもそれがエデンの本来の仕事だし」

 

仕事、彩さんは自慢げに語ります。

 

「この世界で生きようとしている人達、居場所が欲しい人たちを助けて、この世界を争いがほどほどのまともな世界にする。不当に命は奪われず、ひどい目にも合わない世界にする。それがエデンが戦う理由だもの。……なんて、リーダーになったばかりの私が言うにはまだ早いけど、そういう組織なのよ。ここ。だから多少大変でも、結局それが理想の実現につながるのなら、多少は無理をするの」

 

彩さんは私ににっこりと笑いかけてくれました。

 

「だからね、彩ちゃんは何も心配せず、エデンにかくまわれていいの。もちろん所属は強制しないけど。安全になるまでは……そうね、一緒に寝てくれるだけで、私の疲れも吹っ飛ぶし、それで役に立ってるってことで」

 

私は少しエデンに、怖い先入観を持っていたかもしれません。彩さんが嘘をつくはずもなく、きっとこの組織は、危なっかしいところもあるけど、悪い組織ではないのだと思います。殺気の偽遊介さんも、本気で怒ってはなかったし、三波さんもリゼッタさんも、彩さんを信頼しているようです。

 

「じゃあ、薫ちゃんはそこのテントの私専用の席に座ってゆっくりしてて。ちょっと」

 

彩さんが違う方向を向きます。そこには、ニヤニヤしながら立っている男の人がいました。

 

「あの侵入者を可愛がって来るから。安心して待っててね」

 

と、デュエルディスクを構えてその男の人に向かって行きます。

 

私は言われた通り、テントにある、もふもふのクッションが置いている椅子に腰を落ち着けました。

 

ちょうどテントには水分補給のためか、ゆっくりとお茶を口の中に入れている綺麗な女性がいました。

 

その人はこちらを見て、

 

「ごきげんよう。あなたがリーダーの保護した人?」

 

と優しく語り掛けてくれました。

 

「はい……」

 

「私はミコト。解放軍の幹部を務めさせていただいてます。よろしければあなたの名前をうかがっても?」

 

「カオリン……デス」

 

いけない。緊張でカタコト言葉になってしまいました。

 

「ふふ、愛らしい。リーダーもこのような方を愛でる趣味があるとは。日頃の激しさからは想像もつきませんでした」

 

どうやら私はぬいぐるみ扱いらしいです。先ほどここに来る前に私を連れていくと連絡をしていましたが、何を言ったのでしょう。よく聞いていなかったため、内容は知りませんでしたが、どうも何か間違ったことを吹き込んだようです。

 

もっとも、今から私が何を言っても遅いと思うので、私は諦めることにします。

 

「……デッキ、見せていただいても良いですか?」

 

積極的に話しかけてくれるのは、きっとここでしんみりしないように気を使ってもらっているのでしょう。遠慮するとむしろ失礼に当たるので、私も何とかその話に乗っていこうと思います。

 

デッキを渡した時に、外で悲鳴が聞こえました。彩さんが攻めてきた人をもう追い詰めているようです。

 

「魔法使い族……でも、何も改造していない、雑な作り。もしかして、この世界に来たのは最近ですか?」

 

「はい……その……さっき」

 

「先ほどというのは?」

 

「今日の、1時間前くらいです」

 

「それは……大変でしたね……。よりにもよって今日なんて、私だったら絶望してますよ」

 

「今日? 何かあるんですか?」

 

「今日はイベント戦と言って……今この街は、とにかく血気盛んな戦士が戦い合う地獄と言ってもいい」

 

「そんな地獄にわざわざ戦いに来ているのですか?」

 

「はい」

 

「何のために?」

 

「このイベントは他のチームとの競争。それに勝てれば、チーム全員の減ってしまった分の保有ライフが回復する。そうすれば、多くの人が安心できる」

 

「多くの人?」

 

「エデンのチームメイトです。何人いると思います?」

 

彩さんが率いているので、結構多そうです。

 

「100人とか……?」

 

ミコトさんは首を振りました。

 

「1000人を超えています」

 

1000……?

 

多いです!

 

彩さんはそれほど巨大な組織の頂点に立ち戦っていたと思うと驚きです。

 

「リーダー、人助けって言って、自分のチームに弱い人かくまって、安全に住む居場所を与えているのですよ。私たちのように覚悟を持ってこの世界に来た人ばかりじゃない。中には好奇心でこの世界に招かれて、そして生きることも困難に感じている人がいる。そんな人がひどい目に遭わないようにって」

 

少しにっこりしながら、向こう側で戦っている彩さんを見るミコトさん。ミコトさんも彩さんを信頼しているのが窺えます。

 

彩さんは本当に変わっていないようです。我が儘なようでいて、実は優しい一面も持っている。

 

私は嬉しいです。

 

少し怖かった。しばらく会わないうちに、私の知っている人が変になっているかもしれないと。でも、それは杞憂でした。

 

「うわああああ」

 

情けないこの声は、彩さんの相手から。見ると、彩さんはダメージを全く受けていません。

 

昔から、にいを圧倒する感じでしたが、どうやら彩さんは外でも通用する力を持っていたようです。それは、にいが勝てないはずです。デュエルに関してはにいは弱いですから。

 

「……私はそれが少し引け目に感じてしまって、なかなかリーダーと仲良くできないのですけれど」

 

「え?」

 

ミコトさんが急に話を始めました。

 

「リーダーはみんなのためによく頑張ってくれてる、それでもきっと重い重圧がのしかかっている。……遊介も、あんなこと話さないで、利用するだけ利用して彼女の探している人が見つかったタイミングで手放した方が、彼女も苦しまないだろうに」

 

何か不穏なことを言っています。どういうことでしょう。

 

「ごめんなさい。私もリーダーのことが嫌いではないのです。けれど、これは私たちに問題があって」

 

「問題?」

 

「私たちはどうしてヌメロンコードを求めて戦っていると思います?」

 

ヌメロンコード。触れた人間のあらゆる願いを現実にする超常現象を起こす存在。つまりミコトさんにもそれを使いたい理由があるということ。

 

「なんて……出会ってすぐの貴方には急に言われても困る話ですね」

 

「あ、すみません……」

 

「いいの。でも聞いてほしい。エデンに集まって、特に戦いを選んだ人たちが戦う理由」

 

ミコトさんは写真を見せてくました。

 

「あれ……?」

 

そこには私と、にいも映っていました。ミコトさんや、どこかで見たことのある人たちも。でも、私はミコトさんとは初対面のはずです。

 

「驚きました?」

 

「はい」

 

「安心して。これはあなたではない。別の薫ちゃんです。私の故郷にもあなたそっくりの可愛い子がいた。……あなたに話しやすいのは、雰囲気が似てるからかな……」

 

「もしかして、さっきの偽遊介さんの妹が、この人?」

 

「ええ。だから彼も本当にあなたの兄ではない別の遊介。そして私は、昔からの付き合いだった」

 

懐かしそうに、嬉しそうに、でも、どこか悲しそうにミコトさんは話していました。

 

「でも、今はもういない。もう、あの人たちは死んでしまった」

 

「どうして……」

 

「戦争があったのです」

 

戦争。現実世界では考えられないことだ。でも、ミコトさんは嘘をついているとは思えない。

 

もしかするとミコトさんは本当に、別の世界の人間なのかもしれない。

 

「多くの人は死んでしまった。デュエリストはみんな駆り出されてイリアステルと戦った。もちろん私も。私は生かされて、奇跡的に生き残った。でも、あの遊介の妹はその時、死んでしまった。ユートも瑠璃も、遊馬くんも、テツオくんも、本当に多く死んでしまったわ」

 

だとするならば、おそらく戦う理由は復讐。それが本当ならばミコトさんは、きっとこの世界にいるイリアステルを恨んでいると思います。

 

「ここに来たのは復讐の為なんですね」

 

「それも……ないわけじゃないけれど。でも、イリアステルには勝てない。だから復讐はやれることをすべてやった後で」

 

「勝てない……?」

 

「イリアステルには、彼らを最強としている『セカンドオーダー』カードがある。あれがある限り、絶対に勝てない。なら復讐なんて死ぬ間際でいいの」

 

復讐ではない。ではなんの為でしょうか。

 

「戦争の生で人類は著しく減少した。そして文明をほぼ終わりを告げて、何より食べ物の供給源がほとんどだめになった。もう、あの世界は終わる。人間は限りある数しか生きていけなくなり、数は減少して絶滅する。それくらいに敗戦した後の私の世界はひどかった。でも、ここなら……まだ生きているこの世界なら? 生まれたばかりのこの世界ならまだやり直せる。まだ人が生きられる。今はイリアステルの支配下だけど、少しでも生きて行ける可能性を見出せるのなら、この世界で生きていく。それでいい。私はまだ生きたい、みんなもまだ生きたい人がいる。そんな人の生きる場所を創るために、今できることをしているのです」

 

「すごいです。死ぬかもしれないのに、優しいんですね、ミコトさんは」

 

「ううん。私だけじゃない」

 

ミコトさんは、デュエルディスクに保存している写真をたくさん見せてくれました。

 

あまりいい光景は映っていませんでした。爆発、瓦礫の山、傷ついた人々、しかし、その中でも今日もまた精いっぱい生きたことをしっかりと記録した写真。中の人たちの顔は希望に満ちていました。

 

「三波も。リゼッタも、ケインも、亮さんも、私も同じ。ケインはシンクロの世界から、亮さんは融合の世界から。そしてエデンにはいなくても、他にも多くの人がきっと故郷を滅ぼされている。イリアステルがヌメロンコードを使いたいがために巻き起こした戦争で」

 

「でもそれって、この世界も今戦争中なんじゃ……それじゃ、この世界も同じことに」

 

「同じことにはしない。まだ方法は具体的にはわからないけど、一度世界の破滅を経験しているもの。今度こそ、自分たちが生きられる最後のチャンスを逃さないように頑張る。そんな人たちがエデンの実働部隊として頑張っているのです。何とかヌメロンコードを手に入れられれば、それに越したことはない。この世界に私たちが生きられる永遠をお願いするつもり、ケインも、たぶん遊介も、三波も、リゼッタも」

 

「すごい、ご立派です」

 

「ううん、これはきっと悪いこと。平和な世界が故郷がある人は、そこに帰りたいと思う。あなただってそうでしょう?」

 

「あ……」

 

確かに、元の世界に帰りたいと思う。にいを見つけて、帰らなければと思う。それが正しいことだから。

 

でも、ミコトさんにとっては、この世界に永遠をもたらして、この世界に永住することは正しいことなのでしょう。

 

しかし、だとすると、

 

「帰りたいって人と喧嘩になりませんか?」

 

「なる。ていうか、もう少しなっている。この世界に永住したいという思想の集まりがエデンなら、帰りたい人を集めた組織もあるわ」

 

「それって……まさか」

 

「解放軍。今は軽い小競り合い程度だけど。おそらくどこかで必ず決定的に決裂する。向こうの思想と私たちの理想は、どうあっても噛み合わない部分があるから」

 

ミコトさんはそれが悲しいことだというような雰囲気で語ります。

 

「ミコトさん……」

 

「本当は、リーダーも元の世界に帰りたいと思う。早く友達を見つけて、そして――」

 

一度大きくため息をついたミコトさん。勝利に酔いしれながら次の敵と戦っている彩さんを見て、

 

「リーダーは人がいいから、なんだかんだできっと見捨てない結果を取ってしまうような気がする。あの人は必要悪は許容しても、正義感は強い人だから。本当はこれ以上私たちと関わるべきじゃないのに。……ジレンマですね、あの人の力がないとエデンはここまで大きくなれなかったし、あの人はきっとこれからもエデンを支えるリーダーとしてふさわしいけれど。万が一にでも絆されてしまったら、もしも友人が帰ることを望んだのなら、きっとリーダーはとても苦しんでしまうと思います」

 

ミコトさんは私に頭を少し下げました。まるで頼みごとをするかのように。

 

「薫さん。一緒に居てあげてください。もしもの時に、あなたが近くにいるだけでも、リーダーはきっと心を病まないで済むはずだから」

 

それになんと返せばいいか、私にはわかりませんでした。

 

しかし、ずっと昔からお世話になっている彩さんの為なら、少しはお手伝いできるといいと私は思います。

 

「はい。私も彩さんを支えられるように、早く一人前になりますね」

 

ミコトさんの真摯な姿勢に私はこう答えました。

 

 

 

【5】

 

 

アジトは広く、その中でも食堂は大賑わいです。

 

アジトにいきなり連れてこられた時は驚きました。まさか、海の中にあるなどとは夢にも思いませんでしたが、景色がとてもきれいで、これからしばらくの住居になると思うと、少し心躍ります。

 

そして、台に上ってリーダーは大きく叫びます。

 

「解放軍ざまあみろ……もとい、エデン優勝おめでとう! みんなおっつかれー! 乾杯!」

 

本当の勝鬨というのを私は初めて聞きました。激しい叫び声に似たボリュームですが、聞いていて不快には全くならないさわやかな声です。

 

それもそのはずで、保有ライフが増えたのです。4000だけというよりは4000もです。私も最初に負けてしまった分が元通りになり、心機一転再スタートを切らなければと意気込んでいるところです。

 

つまり、私もエデンに入りました。彩さんのお手伝いができるように、一刻も早く一人前になりたいと願うばかりです。

 

とりあえずしばらくは、亮さんにしっかり鍛えてもらうことにします。私のデッキも改良して、にいに会った時、驚いてもらえるくらい強くなりたいと思います。

 

「薫! こっちこっち」

 

ケインさんに引っ張られ、私は彩さんのところへ放り込まれました。この場に集まった団員全員の視線が集まる彩さんのところです。私なんかでは当然緊張します。

 

「今日から新しい仲間になりました。カオリンでーす。みんな、可愛がってあげてね」

 

「仲良くしてあげてねではないのでしょうか?」

 

「ああ、そうそうそれそれ」

 

まるで私を愛玩動物みたいに……。

 

しかし、ここで文句を言うのは野暮でしょう。今は楽しいひと時、明日から始まる修業の日々に備えて、今日は余計な文句なしでたっぷりと楽しみたいと思います。

 

「カオリンです! プレイヤーネームが呼びにくかったら薫で良いです。よろしくお願いします!」

 

歓迎の声がすぐさま各方向から来ました。

 

これで私も一安心です!

 

 

 

 

数日後。

 

嬉しいものが目に入りました。

 

テレビ画面の先に、にいが映っています。

 

「ファイアウォールドラゴンの攻撃――テンペストアタック!」

 

先のイベント戦で個人1位の人との死闘に勝利したにいは、この一戦でエデンに限らず各地の強力なデュエリストに認められ、一目置かれるデュエリストになりました。

 

その瞬間をテレビ画面で見られてよかった。

 

何より、にいが生きている、その事実がとても嬉しかったです。

 

「よかったね、薫ちゃん」

 

「はい!」

 

(番外編2 終わり)




こんな感じで遊介の妹は彩ちゃんのチームに吸収されました。
これから薫ちゃんの未来は明るいのか暗いのか……それは後のお楽しみです。

投稿遅れましてごめんなさい!
この話の執筆中、パソコンが動作不良を起こし、書きたいのに書けないという状態になっていました。現在は一応修理も終わり、このように復帰しました。が、そろそろ寿命かも……というありがたいお言葉も聞いているので、また投稿が遅かったら、パソコンがぶっ壊れたんだな、と思っていただいて気長にお待ちいただければ幸いです。

次回はいよいよ番外編3です。
番外編3はいきなりデュエルから入ります。最近デュエルは全然書いてなかったのでまたミスる可能性もありますがその時は温かい目で見逃しながら話の内容を楽しんで頂ければと思います!

今考えている構想では、最近アニメで不屈の闘志を見せているあのキャラが使うテーマと、番外編3の主人公を戦わせてみたいと思っています!


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番外編3 解放軍の理念 前編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

まっつん初登場です。しかし、ちょっと昔と変わっているかも?

少し長くなってしまいました。ご容赦いただければ幸いです。


「やめてくれ……」

 

命乞いをする人間を見るのは果たして何度目だろうか。

 

くだらない。なんて無様な姿だ。この世界で大きな顔をしても意味ないだろうに。

 

この世界で生きようなんて奴の気が知れない。たぶん、そこの男と俺は相容れないだろう。

 

「悪いな。死んでくれ」

 

俺は光の戦士の一撃を持って、目の前の命をまた一つ摘み取った。

 

ポイントはこれでようやく500000。人間やろうと思えばできることは多いのだろうと実感する。

 

最初にこの世界に来た時は心躍ったものだ。

 

デュエル好きであった俺には、この世界はとても魅力的だった。最初は目の前でモンスターが動いているのは怖かったが、それも慣れで何とかなる範囲だった。

 

現実と同じく楽しめると思っていたあの頃。

 

しかし、アルターと名乗るクソ野郎のせいで、リンクブレインズは地獄になった。

 

死ぬためにデュエルをするなどと馬鹿げている。なんでそんなことのためにこの世界でデュエルをしなければならない。

 

しかし、この世界から出る方法はただ1つ、ヌメロンコードを手に入れることだけ。

 

ならばその後やることは決まった。

 

500000ポイント? エリアマスター?

 

大変そうに聞こえるからと言って、そこから逃げても、生きている限りデュエルで殺される可能性はある。。

 

だからずっと戦ってきた。全力でここまで来た。

 

目の前で死んだ男を看取ることもなく、バトルシティの中央の塔、最後の階段を上る。その先は屋上、地上500メートルの闘技場で、バトルシティのエリアマスターが存在するはずだ。ようやくここまで来たのだと思うと、これまでの数週間も報われるというものだ。LP回復の希少なイベント戦も無視して、ひたすらポイント集め、バトルシティ中央の塔の攻略の準備に時間を注いだ甲斐もあった。

 

「あれは……」

 

下からは見えなかったのに、塔の頂上に来た今、空中に浮かんでいる城の一部が見えた。

 

「来たのか、問題児」

 

そして、俺の追い求めた最後の相手がそこにいる。

 

俺が問題児と言われる理由は相当数思いつく。だが、その中でも俺の一番の悪行は、

 

「1か月立たないうちにずいぶん殺してきたな。125人とか、はっきり言って大量殺人者だ」

 

「イリアステルの犬か」

 

「犬は犬でも、アルター様を護る番犬と言ってほしいな。俺は第1階層最終ボスなんだぜ?」

 

「どうでもいい」

 

ここまで3週間。たったそれだけしか経っていないのに、死者は1万人を超えている。

 

「こんなふざけた世界で、人々を殺し合わせるその性根が気に入らないんだよ。首謀がお前でないしろ、手を貸しているお前も同罪だ」

 

何も振り返らず、殺してきた人数は数知れず、それでも、この世界を終わらせるために戦ってきた。この前も俺のダチが死にかけたんだ。これ以上待ってはいられない。ここでお前を殺し、アーククレイドルへの道を拓く」

 

「まっつん。いい気迫だ。これなら俺の倦怠も晴れるというもの。デュエルだ」

 

目の前で目障りなイリアステルの社員が挑発を始めている。

 

舐めるな。

 

この世界に来てから、全ての時間を捧げてきたのだ。

 

たった3週間だと笑うのなら構わない。しかし、俺の捧げてきた覚悟は本物だ。

 

どんな手を使っても、彩や遊介をこの手で救えるのなら、俺は迷わない。

 

「バトルシティのエリアマスター。ここでお前の息の根を止める!」

 

「来い。挑戦者。クライマックスにはまだ早いことを知ってもらおう」

 

「デュエル!」

「デュエル!」

 

良助 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

エリアマスター LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(エリアマスター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(良助)

 

「先攻はチャレンジャーからだ」

 

どうやら俺が先攻らしい。

 

絶対に舐められていると感じたが関係はない、ここで奴は敗れ死ぬのだから。

 

 

ターン1

 

 

初手は悪くない。次に引くカードが何であれ、止まることはないだろう。

 

「俺のターン」

 

良助 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

「俺は魔法カード『フォトン・サンクチュアリ』を発動」

 

このカードが初手で来る時の勝率は高い。

 

「俺のフィールド上にこのカードはフォトントークンを2体を守備表示で特殊召喚する」

 

フォトントークン レベル4 守備表示

ATK2000/DEF0

 

この1枚で向こうも分かっただろう。俺が使うのは光属性のデッキだ。そして俺は幸運なことにその中でも最も有名で強さも保証されているカードが初期デッキに入っていた。それを軸にしている。

 

「現れろ、我が行く道照らすサーキット!」

 

俺はトークンの内の1体を指定した。

 

「召喚条件は光属性レベル4以上のモンスター1体。フォトントークン1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

 

今でもこの口上を言うのは大人げなく恥ずかしいところもあるが、それもやり続ければ慣れてくるものだ。それに、言わないと召喚しようとしてもディスクが反応しない仕様になっているようなので仕方がない。

 

「リンク召喚。リンク1。裁きの光輪!」

 

格好悪い言い方だが、光り輝くドーナツである。いや、最も、それほど格好悪いモノではないのだが、俺にはそういう以外に思いつかない。このカードは現実世界になかったオリジナルカード。俺の初期デッキに入っていたようだ。

 

裁きの光輪 

リンクマーカー 下

ATK0/LINK1

 

そしてこの裁きの光輪、俺が予想するよりもかなりいい能力を持つカードだった。もしかすると俺では考えもしない方法で、悪用できる禁止カードレベルの可能性を秘めているほどに。

 

「裁きの光輪の効果。1つ目の効果は、このカードのリンク先に、デッキのライトロードモンスター1体を選択し攻撃表示で特殊召喚する。俺はウォリアーガロスを特殊召喚!」

 

裁きの光輪が光の柱を発生させ、その中から現れたのは、光の戦士。レベル4ながらなかなかに優秀な働きをしてくれる。

 

もっともライトロードの戦士たちは、その全員が優秀だ。俺の勝利を支えてくれている。

 

ライトロード・ウォリアー ガロス レベル4 攻撃表示

ATK1850/DEF1300

 

「裁きの光輪の2つ目の効果! このカードのリンク先にライトロードを召喚した時、このカードにシャインカウンターを1個置く。その数1個につき、自分フィールド上のライトロードの攻撃力は300アップする。そして、このカードにシャインカウンターが乗っている限り。他のライトロードモンスターが存在する場合、このカードを相手は攻撃対象にできず、このカードの効果は無効にされない」

 

ライトロード・ウォリアー ガロス ATK1850→2150

 

リンク1のくせに効果は盛沢山だ。そういう奴は現実世界ではおよそ悪用されて制限を受ける傾向にあるが、この世界は制限などの概念はない。その代わり、サンダーボルトを筆頭とする禁止カードは、世界に1枚しかないなどの、レアリティの高さが凄まじい。

 

その点で言えば、初期デッキにこのように入っていたのは嬉しいことだと思う。

 

「さらに、手札のライトロード・パラディン ジェインを通常召喚!」

 

ライトロード・パラディン ジェイン レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF1200

 

「裁きの光輪の効果により、パラディンジェインの攻撃力はアップ」

 

ライトロード・パラディン ジェイン ATK1800→2100

 

先ほどは戦士と言ったが。騎士と言わなかったのは、このモンスターが居るためだ。こいつは本当に騎士って感じの身なりである。

 

最初のターンは攻撃できない。ならば、防御を固めるのが良い。俺は防御を固めると言えば、1体の強力なモンスターを呼ぶよりは盾を増やす事を意識する。

 

「俺はさらにカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズ、パラディンジェインの効果でデッキからカードを2枚墓地へ送る」

 

この世界はカードが実物をセットすることでできるホログラムなので、わざわざカードを墓地へ送るということを手動ですることなく、ディスクが勝手に処理してくれる。もちろん実物カードを使うモードも選べるらしいが、この世界ではライトロード使いの俺は処理の少ないホログラムモードでやっている。

 

「さらにウォリアーガロスの効果。自分のライトロードモンスターの効果でデッキからカードが墓地へ送られた場合、さらにカードを2枚墓地へ送る」

 

俺は今送られたカードを確認する。残念ながら墓地で使えるような効果はなかったが、悲観することはない。

 

「今送ったカードの中には、ライトロードモンスターが1体。そのため俺はカードを1枚ドローする!」

 

ドローも宣言するだけで自動的に手札に加えることもできるのだが、これだけは俺も手動で行っている。これはどうも癖になっているようで、これがないと違和感があってデュエルに集中できないのだ。

 

俺はカードをドローしてこのターンを終えた。最初にしてはやや不安が残る盤面だが、こればっかりは初期手札に左右されるので仕方がないだろう。

 

最終的に勝てばいいのだ。

 

 

良助 LP4000 手札3

モンスター ① 裁きの光輪 ②フォトントークン 

      ③ ライトロード・ウォリアー ガロス ④ ライトロード・パラディン ジェイン

魔法罠 伏せ1

 

(エリアマスター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   ①     EXモンスターゾーン 

□ □ ④ ③ ②   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(良助)

 

 

ターン2

 

 

「まずは様子見と言ったところか? 予想ではもっと激しいものだと思っていたが……」

 

「さっさと始めろイリアステル」

 

「そう急かすな。少しは心に余裕を持ったらどうだ?」

 

余裕だと?

 

ふざけるな。悠長に生きることなどあり得ない。

 

目の前で人が死んでしまうことなど、そんなの間違っているに決まっている。それを許容する人間をなぜ許すことができようか。

 

「では始めよう。俺のターン」

 

エリアマスター LP4000 手札6

モンスター

魔法罠

 

「マジックカード『ハイドライブ・スカバード』を発動する。自分フィールドにハイドライブトークン1体を特殊召喚する」

 

見たことのないモンスターが出た。

 

サイバース族、と言えば遊介が使っているのだが、アイツはこんな不気味なモンスターは使っていなかったはずだ。

 

ハイドライブトークン レベル1

ATK0/DEF0

 

「現れろ、イリアステルの未来回路!」

 

早速リンク召喚。リンク1、攻撃力の心配はない。しかし、未知のモンスターが相手では、油断は好ましくないだろう。

 

「召喚条件はハイドライブモンスター1体。ハイドライブトークンをリンクマーカーにセット。リンク召喚、現れろ! フローハイドライブ!」

 

リンクしたモンスターもサイバース。風属性の不気味なモンスターだ。青い体躯と碧頭に不細工な口をしている。

 

フロー・ハイドライブ

リンクマーカー 下

ATK1000/LINK1

 

「そして、ハイドライブブースターを通常召喚する」

 

ハイドライブ・ブースター レベル1 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

そして先ほどのトークンによく似たモンスター。まさか、また呼ぶつもりか。

 

その予感は、どうやら当たっていたらしい。

 

「現れろ、イリアステルの未来回路! ハイドライブ・ブースターをリンクマーカーにセット。呼び出すモンスターは同じ、フローハイドライブ!」

 

再び同じ奴が、今度は先ほど呼び出した奴のリンクマーカーの先に現れた。

 

雑魚を次から次へと、一体何をする気なのか。

 

「さて、もう幕引きはやめてくれよ?」

 

「なんだと?」

 

「俺はリンクマジック『裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)』を発動!」

 

リンクマジック? 聞いたことのないカードだ。

 

「リンクマジックは、リンクモンスターのリンク先になった魔法・罠ゾーンにのみ発動できる」

 

「不便なマジックだな」

 

「いいや。その分の釣りがくるというものさ。そもそもこのカードが発動できれば、このカードのリンク先にも、エクストラデッキからのモンスターを呼べる」

 

なるほど。確かによく見るとカードにリンクマーカーが付いている。上、右上、左上。このカードを発動できれば、エクストラデッキのモンスターも使いやすそうだ。

 

敵のカードを褒めてどうするんだ。

 

しっかりしなければ、奴は敵、殺そうとする意志以外必要ない。

 

「マジックカード、『ハイドライブ・リビルド』。自分フィールド上のハイドライブモンスターを破壊する。エクストラモンスターゾーンのフローハイドライブを破壊する」

 

「呼んでおいて破壊とは、ずいぶんと馬鹿なやつだな」

 

「そうでもないさ。フローハイドライブは破壊されたとき、ハイドライブトークンを1体特殊召喚することができる」

 

「なに……!」

 

また呼ぶのか。ずいぶんと多い。

 

ハイドライブトークン レベル1 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

「羽虫が好きなようだな」

 

「ああ。虫も毒を持っていれば侮れないだろう? 俺のデッキはそういう類のものだ。さらにハイドライブリビルドの効果を発動する。破壊したハイドライブが墓地で効果を発動した時、墓地のハイドライブモンスター1体を特殊召喚する。俺は墓地のハイドライブブースターを特殊召喚する」

 

ハイドライブ・ブースター レベル1 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

「さて、行くぞ? 現れろ。イリアステルの未来回路。俺は呼び出したハイドライブトークン1体をリンクマーカーにセット。リンク召喚! 現れろ、リンク1、バーンハイドライブ!」

 

次に現れたのは、赤い龍と言うべきだろう。

 

バーン・ハイドライブ

リンクマーカー 下

ATK1000/LINK1

 

そしておそらく奴は続けてくる。

 

しかし、攻撃力を見る限りでは、なんの問題もなさそうな相手に見える。おそらく、問題なのは、この先だ。何が出てくるか。おそらくリンク3。それも、わざわざリンクモンスターを呼んでいる辺り、何かあるはずだ。

 

「現れろ。イリアステルの未来回路。召喚条件はこれまでと同じだ。俺はハイドライブブースターをリンクマーカーにセット。リンク召喚。いでよ、リンク1、クーラントハイドライブ!」

 

先ほど現れたのが炎龍ならばこれは氷の竜。またもリンク1のモンスター。

 

クーラント・ハイドライブ

リンクマーカー 下

ATK1000/LINK1

 

「さらに永続魔法『プロパティ・プロジェクター』を発動させてもらう。このカードはハイドライブリンクモンスターのリンクマーカーの合計が3以上存在するとき発動できる。以下の6つの効果をそれぞれをデュエル中に1回のみ発動できる。ただし、ターンに1度という制限はない」

 

デュエル中に1度などという効果はたいてい厄介な効果だ。

 

それを使ってくるということは本気で俺を潰しに来ているということ。

 

それはそれで非常に厄介だ。

 

未だ底が見えない奴のデッキ。このターンを耐えきれれば次も見えるというものだが、果たしてそう上手くいくか。今から心配になる。

 

情けない。これほど人道から外れてなおここに来たくせに、俺はまだ、遊介や彩のように自信満々の馬鹿には慣れないらしい。

 

「始めよう。プロパティプロジェクターの効果。俺は相手のパラディンジェインを選択し発動。第3の効果! 風属性ハイドライブが存在するとき、選択した相手モンスターを風属性に変え、そのモンスターの攻撃力を0にし、自分フィールド上の風属性ハイドライブの攻撃力を下げた数値アップ!」

 

「ちっ」

 

「舌打ちするな。そんな怖い顔で」

 

ライトロード・パラディン ジェイン ATK2100→0

 

フローハイドライブ ATK1000→3100

 

「さらにプロジェクターの効果を発動しよう。今度はウォリアーガロスを選択する。自分フィールド上に炎属性のハイドライブが存在するとき、選択したモンスターを炎属性に変え、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える!」

 

先ほどから効果が凶悪過ぎる!

 

炎の龍から火の玉が発射され、俺はそれを受けるしかない。

 

爆炎。

 

熱くないわけがない。

 

これまで散々痛い目にはあっているが、それでも慣れないのは火傷の類だ。あれは衝撃や裂傷などとはわけが違う。

 

良助 LP4000→2150

 

奴は攻撃の手を止めない。

 

「ぐ……」

 

「さらにプロジェクターの効果! 俺は裁きの光輪を指定する。水属性ハイドライブが存在するとき裁きの光輪を水属性にして、相手の手札を2枚墓地へ送る!」

 

「はぁ?」

 

「さあ、選択権はお前にある。選んで墓地に送るがいい」

 

なんて効果だ。ずるい効果盛りすぎではないか。

 

しかし、そこにカードとして在る以上仕方がない。ケチをつけるのは後にしても、今は状況を冷静に見るべきだ。

 

俺はカードを選んで墓地へ送った。先ほどカードをドローできたので、それでも手札が寂しい状態ではない。

 

「そして、ハイドライブリンク1モンスターの共通効果。自分と同じ属性のモンスターが相手フィールド上にいる場合、ダイレクトアタックを可能にする」

 

「そうか……」

 

つい口が滑ったが、属性を変えた理由はようやくわかった。

 

ハイドライブモンスターの真骨頂はこの効果ということか。ダイレクトアタックは予想していなかった。

 

ここで、ダイレクトアタックを無様に受ければ敗北は必須。なるほど、奴の思惑通りに事が運んでいるようだ。

 

「バトル。まずはバーン・ハイドライブでダイレクトアタック!」

 

防ぐ必要はない。受けてもまだ耐えられる。

 

「この瞬間、リンクマジック、ジャッジメントアローズの効果! このカードのリンク先のモンスターが戦闘を行うとき、その攻撃力は倍になる!」

 

「何?」

 

「つまり、お前が受けるのは2000だ!」

 

バーン・ハイドライブ ATK1000→2000

 

火球が放たれる。

 

俺は防御の構えをとった。

 

――ぐ。

 

爆炎。

 

目が焼けなかっただけよかったが、一瞬眩暈がした。

 

良助 LP2150→150

 

バーン・ハイドライブ ATK2000→1000

 

「続いて、クーラントハイドライブでダイレクトアタック!」

 

クーラント・ハイドライブ ATK1000→2000

 

また、2000か。

 

よくできたデッキだ。モンスター頼りの馬鹿相手ではそれで通用しただろう。だが、こちらも伊達に100以上殺していない。

 

その程度で倒れるほど、柔ではないつもりだ。

 

「墓地のネクロガードナーの効果! このカードを除外し、この攻撃を無効にする」

 

飛んできた氷の弾丸を何とか防ぐ。

 

クーラント・ハイドライブ ATK2000→1000

 

しかし、問題はもう1体だ。今のフローハイドライブはそもそも攻撃力が高すぎる。それがさらにリンクマジックとやらで攻撃力が倍になるのだ。それはもう脅威以外の何物でもない。

 

「フローハイドライブでダイレクトアタック!」

 

フロー・ハイドライブ ATK3100→6200

 

「先ほどの耐えも、これで無意味だな!」

 

「果たしてそうかな?」

 

「何?」

 

まさか、攻撃を防ぐつもりがなかったなどと言うつもりじゃないだろうな。

 

わざわざ口にはそのようなこと出さないが、もしそう思っているのだとすれば、とんだ思い違いだ。

 

俺はわざわざ、その攻撃を待っていたのだから。

 

「罠カード『ドレイン・シールド』! 相手モンスターの攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分だけ、自分のライフを回復する!」

 

「な……!」

 

澄ました顔がようやく歪んだか。

 

もっとも、その程度で嬉しく思うことはない。奴らは享楽殺人者なのだ。俺の目の前で、この世界で一緒にやっていこうと決意した新しいパートナー――グレイと名乗り、俺を頼ってくれたその年下の後輩を、お前らはイベントなどと言いながら殺したあの光景は今でも鮮明に覚えている。

 

特にイリアステルの人間は惨たらしく殺してやる。

 

「俺のライフは、今攻撃をしてきたその攻撃力、6200分回復する」

 

良助 LP150→6350

 

「なあ……!」

 

「これでお前の攻撃は終わったな」

 

「く……ははは。これは一本取られたな。墓地の守りを使った時点で、勝利を考えたが……」

 

「舐めるなよ……!」

 

つい握りしめる拳に力が入る。

 

だが、憎い。俺は憎い。目の前に立っている白いスーツの奴らが。そしてこの世界を肯定しようとする奴らが。

 

どれだけ冷静ぶっても、その怒りだけは収まらないのだ。

 

そして、奴らの牙が、今度は俺の大好きな親友に向けられるかもしれないと考えたら――。

 

奴は平然とメインフェイズ2に入る。

 

「ならば、こちらも防御を固めよう。現れろ、イリアステルの未来回路!」

 

「今度は何を……!」

 

「召喚条件はハイドライブリンクモンスター2体! 俺はフィールドの、バーンハイドライブ、クーラントハイドライブをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ、ツインハイドライブナイト!」

 

今度はまともな人型のヤツが現れた。右と左にそれぞれ不細工な剣を一本ずつ持っている。

 

ツイン・ハイドライブ・ナイト

リンクマーカー 右 左

ATK1800/LINK2

 

防御を固めるという言葉の意味を俺はそこで理解した。

 

それはおそらくジャッジメントアローズがあるからだろう。あれは何も攻撃時とは言っていない。防御の時も攻撃力は2倍。

 

最低でもこちらは3600を超えるモンスターではないと攻撃ができない。

 

「さらにカードを1枚伏せる。ターンエンド」

 

さすがにエリアマスターだけあって、俺がライフを6000回復しても動揺はないようだ。俺とて、相手を動揺させるためだけにドレインシールドを入れたわけではないので、大して文句はない。

 

 

エリアマスター LP4000 手札0

モンスター ⑤ ツイン・ハイドライブ・ナイト ⑥ フロー・ハイドライブ

魔法罠 ⑦ プロパティ・プロジェクター ⑧ 三本の矢 伏せ1

 

(エリアマスター)

□ ⑦ ⑧ ■ □   魔法罠ゾーン

□ ⑥ ⑤ □ □   メインモンスターゾーン

  □   ①     EXモンスターゾーン 

□ □ ④ ③ ②   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(良助)

 

「さすがにそう簡単にはいかないか。だが、ツインハイドライブナイトがいる限り、俺が素材にした炎、水属性のモンスターの効果は無効化される」

 

「だが、裁きの光輪は自らの効果で、その効果は無効化されない」

 

「厄介だなぁ……」

 

「それはお互い様だろ。それに、そうお前の思い通りにならないことを俺が証明してやる」

 

「ならカードを引くといい。それほどの強がりを言ったのだ。すぐターンエンドなんてやめてくれよ?」

 

当然だ。

 

 

ターン3

 

 

「俺のターン!」

 

俺はカードをドローする。

 

奴如きに止まってはいられない。俺はこのまますぐにイリアステルの本拠地たる、天空の城アーククレイドルへと進まなければいけないのだから。

 

このターンで王手をかける!

 

良助 LP6350 手札2

モンスター ① 裁きの光輪 ②フォトントークン 

      ③ ライトロード・ウォリアー ガロス ④ ライトロード・パラディン ジェイン

魔法罠 

 

「俺はウォリアーガロスとパラディンジェインでオーバーレイ! 召喚条件はレベル4モンスター2体。オーバーレイネットワークを構築!」

 

2体のライトロードは天に上り上空に現れた渦の中へと飛び込んでいく。そして地上に光が落ちた。その中に入る者こそ、俺が呼び出したモンスター。

 

「現れろ! ライトロード・セイント ミネルバ!」

 

ライトロードは人型が多いため、モンスターというには違和感がある。特にこいつはなかなか美女の部類に入るのではないだろうか。ライトロードを知らないどこかの異界から来た馬鹿がナンパをしていたのを見た事がある。あれはこの世界に来てから唯一の笑い話だろう。

 

ライトロード・セイント ミネルバ ランク4 攻撃表示

ATK2000/DEF800

 

「裁きの光輪の効果。ライトロードがリンク先に召喚されたことで、このカードにシャインカウンターを1つ乗せる。そしてカウンターが2つになっているため、ミネルバの攻撃力は600アップ」

 

ライトロード・セイント ミネルバ ATK2000→2600

 

「ミネルバの効果! オーバーレイユニット1つを取り除く。デッキの上からカードを3枚墓地へ! その中にライトロードカードがあった場合、その数までカードをドローする!」

 

俺は自動的に送られたカードたちを見る。

 

――あった。それも2枚。これは幸運、というべきか、むしろ多すぎくらいにライトロードを入れているので当然というべきか。

 

「あったのは2枚。俺はカードを2枚ドロー。先ほどの損害分は補填させてもらう」

 

「ほう……だが、攻撃力がひ弱だな」

 

「ああ。別にこいつで戦うわけじゃないし、もう用はない」

 

そう。別にまともに相手をする必要はない。

 

ライトロードを強者のデッキにしている圧倒的な力を見せる時だ。

 

「俺はマジックカード。『シャインチャージ』を発動する。フィールド上にライトロードと名のつくモンスターが存在するとき、フィールド上のモンスターにシャインカウンターを置くことができる。俺は裁きの光輪に2つのシャインカウンターを置く」

 

裁きの光輪には4つのシャインカウンターが乗った。これはさすがに分かると思うのでこれ以上の説明は奴には省くが、カウンターが増えたことで、フィールド上のライトロードの攻撃力はアップする。

 

ライトロード・セイント ミネルバ ATK2600→3200

 

だが、これは一時的なものだ。

 

「俺は裁きの光輪の3つ目の効果を発動。このカードのシャインカウンターを4つ取り除き、デッキからジャッジメントドラグーン1枚を手札に加える!」

 

ライトロード・セイント ミネルバ ATK3200→2000

 

「なに……?」

 

これが俺が狙っていた効果。

 

デュエルの最初からこいつを手にすることだけを考えてきた。

 

「そして、魔法カード『光の援軍』を発動。デッキからカードを3枚墓地へ送り、その後デッキからレベル4以下のライトロードモンスターを手札に加える。そして、今手札に加えたライトロードマジシャンライラを通常召喚する」

 

ここからは詰めだ。不安要素を徹底的に消していく。俺が呼び出したのはライトロードの魔術師。

 

ライトロード・マジシャン ライラ レベル4 攻撃表示

ATK1700/DEF200

 

「召喚したライラの効果を発動する。このカードを守備表示にして、相手フィールドの魔法もしくは罠カードを1枚破壊する。俺は、お前の伏せたカードを破壊させてもらう!」

 

ライラの光弾は間違いなく、奴の伏せカードを撃ちぬいた。

 

しかし、奴は破壊されるのも計算の内らしい。

 

「今破壊されたカードは、罠カード『古き秩序の崩壊』。このカードが破壊された時、デッキからセカンドオーダーと名のつくカードをデッキから手札に加える。デッキから『セカンドオーダー・輪廻転生の法』を手札に加える」

 

セカンドオーダー? また聞いたことのないカードだ。

 

しかし、今は迷うところではない。奴が加えたカードがどんなものであれ、攻められる瞬間を見過ごしてはならない。

 

俺はこのまま続ける。

 

「準備は整った。邪魔なカードも消えたことだ。俺の墓地には4種類以上のライトロードがいる。貴様の息の根を止めるのは、このカードだ! 来い、ジャッジメントドラグーン!」

 

威光を示す龍。ライトロードで戦った先に顕現する圧倒的な光の力を纏う龍。これが今の俺のエースモンスターだ。

 

裁きの龍 レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF2600

 

「……これが。そうか。確かに、これを持っているならば、強いな」

 

奴も妙な納得感を出している。奴も知っているのだろう。このカードの破格な効果を。それを俺は今から顕現させる。

 

「裁きの龍の効果。LPを1000支払い発動。このカード以外のフィールドのカードをすべて破壊する!」

 

言うだけなら単純だが、シンプルに素晴らしい効果だと分かる。何せ、何かなければ、このカード以外のすべてを俺の目の前から消してしまうのだ。

 

――今の俺の前の光景のように。

 

良助 LP6350→5350

 

「く……」

 

このまま新たにモンスターを出せればよかったが、残念ながら通常召喚は既に行ってしまった。ここはダイレクトアタックしかない。

 

「ジャッジメントドラグーンで、ダイレクトアタック! デッドエンド・ジャッジメント!」

 

放たれた一撃、龍なので破壊光線になってしまうが、それもさすがライトロードと関係する龍だけあって神々しき見た目の1撃だ。

 

その一撃は間違いなく、

 

「がああ!」

 

奴に痛手を与えた。

 

エリアマスター LP4000→1000

 

まだ3ターン目なのだが、ここまで長かったような気がする。しかし、奴は瀕死状態と言っていい。手札はモンスターカードのみが残り、王手はかけた。後は奴がどう出るかだ。

 

「クソ……」

 

未だ強がりともとれる笑みを見せる奴に俺は宣言する。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

良助 LP5350 手札1

モンスター ⑨ 裁きの龍

魔法罠 伏せ1

 

(エリアマスター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ ⑨ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(良助)

 

 

ターン4

 

 

「ここまでやるとは、たった1か月で、よくもそこまでデッキを構築できたものだ」

 

「さっさとしろ。サレンダーするなら俺は止めない」

 

「ふふ。貴様に見せよう。これが、我々に与えられた力だ」

 

「ずいぶんとした自信だな」

 

不敵な笑みを続け、カードを静かにドローする。

 

エリアマスター LP1000 手札2

モンスター

魔法罠

 

おそらくは奴が手札に加えたカードのことなのだろうが、一体、どのような効果なのか。

 

「永続魔法、『セカンドオーダー・輪廻転生の法』を発動する」

 

だが無意味だ。

 

その程度の逆転法の対策をしていないはずがない。

 

「罠カード、『神の宣告』! 俺のLPを半分にする」

 

代償は大きいがこればかりは仕方がない。

 

良助 LP5350→2675

 

「お前が発動した魔法は無効にさせてもらう!」

 

これでいい。奴の逆転の1手目は防げる。

 

「残念だが、その手は無理だ」

 

「何?」

 

どういうことだ。

 

「セカンドオーダーカードは、同じセカンドオーダーカードの効果以外では無効化されない」

 

なんだそりゃ!

 

馬鹿げている。それではせっかく払ったライフも無駄だ!

 

「残念だったな?」

 

無意識に歯を食いしばっているのは、発動されたそのカードがヤバいということを感じているからだ。

 

「セカンドオーダーの力を見せよう。輪廻転生の法の効果。手札のカード1枚を墓地へ送る。墓地のエクストラデッキから召喚したモンスターをすべてデッキに戻す。その後、戻したカードと同名のモンスターを最大5体まで選び、あらゆる制限を無視し特殊召喚できる! 生きて、そして死んだ者たちよ。今こそ再び生を受け、誕生することを、この新たなる秩序が許す! 降臨せよ!」

 

馬鹿げた光景が前にある。

 

フロー・ハイドライブ

リンクマーカー 下

ATK1000/LINK1

 

バーン・ハイドライブ

リンクマーカー 下

ATK1000/LINK1

 

クーラント・ハイドライブ

リンクマーカー 下

ATK1000/LINK1

 

ツイン・ハイドライブ・ナイト

リンクマーカー 右 左

ATK1800/LINK2

 

先ほどまで立ちはだかっていたやつらがすべて蘇りやがった。

 

なんだあのカードは。効果がふざけているにもほどがある!

 

「攻撃力がないと安心しているな?」

 

もちろんそれで奴が終わるはずもない。こうした以上おそらくさらに上の奴を呼ぶはずだ。

 

「現れろ! イリアステルの未来回路! 召喚条件は炎、水、風、地属性全てを含めたハイドライブモンスター2体以上! 我がフィールドすべてのモンスターをリンクマーカーにセット。リンク召喚! これこそが我が真の切り札。アローザル・ハイドライブ・モナーク!」

 

これまでの中で、もっともデカい奴だ。羽虫だったハイドライブもリンク4ともなればここまで来るのか。

 

アローザル・ハイドライブ・モナーク

リンクマーカー 上 下 左 右

ATK3000/LINK4

 

かなり危なくなってきている。攻撃力も十分ある。それに、奴の効果によっては一気に窮地に立たされる。

 

「モナークの効果! このカードにハイドライブカウンターを4つ乗せる。そしてこのカウンター1つを取り除きさらなる効果を発動。ジャッジメントダイス! 1ターンに1度さいころをふり、出た目に応じた属性をもつモンスターを破壊する。光属性は5だ。祈るがいい」

 

ここで運任せか。

 

一瞬呆れたが、次の瞬間には嫌な予感が襲い掛かった。

 

この世界のデュエルはすべてコンピュータでルール判定をしている。そしてディスクはイリアステルの製品だ。

 

おそらく、5が出る。

 

「出た目は5だ。光属性を破壊! そして破壊したモンスター1体につき500のダメージを受けてもらう」

 

やはり――。

 

俺の龍は自ら破裂するように爆散する。そしてその衝撃が俺に伝わってきた。

 

良助 LP2675→2175

 

「驚いていないな」

 

「お前……乱数調整をしたな……!」

 

「何の話だ?」

 

「とぼけるな! 現実で実際にさいころを振っているならともかく、コンピュータで出すさいころの判定には乱数を使わざるを得ない。だが、お前のディスクのコンピュータは、ランダムに数字を持ってくるのではなく、AIが適切だと思った数を持ってくるようにプログラムされている」

 

「……さて、なんの話だか?」

 

「貴様……」

 

「それに、仮にそうしていたところでなんの問題がある。実際現実世界でも6分の1の確率で出るだろう。ならば文句を言われる筋合いはない。さあ、つづきだ」

 

こちらとしても証拠をつかんでいるわけではないし、そもそもここは裁判所ではない。奴の口車にのるのは不快極まりないが、仕方がない」

 

このまま攻撃を通すつもりはない。

 

「フィールドのジャッジメントドラグーンが相手により破壊されたことで、裁きの光輪の効果を発動できる! このカードを特殊召喚する!」

 

俺の戦いはまだ終わっていない。奴が調子に乗ったところで、未だ戦いは続いている。

 

ならば、俺は勝利のために手を打ち続けるのみ。

 

裁きの光輪

リンクマーカー 下

ATK0/LINK1

 

「そして、裁きの光輪は、自分の効果で特殊召喚された時、最後の効果を発動する。墓地の裁きの龍1体につき、次の俺のターン終了時まで攻撃力を1000アップし、それを元々の攻撃力として扱う。先ほど破壊された1体が墓地にいるため、攻撃力は1000」

 

裁きの光輪 ATK1000

 

「たった1000.残念だな。君のフィールドには守るカードはない。ここは攻撃させてもらおう。アローザル・ハイドライブ・モナークで、裁きの光輪を攻撃!」

 

奴は思いっきり宣言した。

 

当然だ。有利であればそれを堂々と見せびらかす。その心境も納得できる。俺だって、この世界で馬鹿みたいに戦うまで、まだデュエルが楽しかったころはそうだった。

 

そして、大体彩はここでニヤリと笑うのだ。

 

――馬鹿ね。ただで通すと思ってるの?――

 

今、まさに、そんな状況であることを、奴は知りはしないだろう。

 

奴は負けたくなければ警戒すべきだった。俺が光属性を使っていることがわかったなら、当然。

 

「今、攻撃と言ったな?」

 

「ああ。その最後の――な……!」

 

奴はまさしく、かつて俺が彩にしてやられたときと同じ顔をしている。口をポカンと開けてアホの顔をしている。

 

久しぶりに、愉悦を感じる瞬間だ。

 

俺はしっかりと奴に見せていた。奴も、そのカードはあまりに有名過ぎるので分かったはずだ。だからこそああやってフリーズしている。

 

「手札のオネストの効果。俺の光属性モンスターが先頭を行うダメージステップ時、このカードを手札から墓地へ送る。エンドフェイズまで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分、裁きの光輪の攻撃力をアップする」

 

「馬鹿な……!」

 

裁きの光輪 ATK1000→4000

 

「終わりだ」

 

裁きの光輪は、元が攻撃力ゼロとは思えない光のエネルギーの集束を行い、それを発射する。奴の巨大な眷属はその光に焼かれ、消え去った。

 

「うああああああ!」

 

これが奴の断末魔。

 

たとえエリアマスターでも、大した違いはなかった。

 

これでまた、グレイも浮かばれるか……などと思ったりもした。

 

(負)アローザル・ハイドライブ・モナーク ATK3000 VS 裁きの光輪 ATK4000 (勝)

 

エリアマスター LP1000→0

 

 

【2】

 

 

目の前で倒れている奴に特に何の感想も抱かなかった。痛みでのたうちまわっていようとも関係ない。しっかりと役目は果たしてもらおう。

 

「おい。アーククレイドルへの道を拓け」

 

「あ……ああ……くそ……くそぉ」

 

無様に横になっている奴を俺は蹴った。

 

「がはぁ!」

 

「早くしろ」

 

「ま、待て、早まるな」

 

「知らん。そこで死んだら、俺が貴様のディスクをいじって自分でやる」

 

「今は、まだ、早すぎる」

 

戯言が止まらない性格のようだ。仕方がない。

 

ここで殺すとしよう。エリアマスターでも、ディスクの不死設定を解けば、俺に負けた今の状態では即死ぬだろう。

 

罪悪感はもうない。今俺に在るのは、イリアステルへの憎しみと、この世界を終わらせる義務感のみだ。

 

俺は奴のディスクに手を伸ばそうとした。

 

「少し待ってくれないか?」

 

後ろから聞いたことのある声がした。

 

何も言わなくても俺には分かる。

 

俺がこの世界で一番恨んでいる男の声だ。

 

その方向を見る。

 

白いスーツの男が、珍しくデュエルディスクを構えて立っていた。

 

「やあ、プレイヤーネームまっつん」

 

「アルター」

 

この世界のラスボス。

 

「まさか、この早さでそこの101位に勝てるデッキを構築し、天空の城にたどり着こうとする人間がいるとは……正直意外だった。これだからヌメロンコードの戦争は止められない。こうやっていつだって俺の予想は裏切られる。それが面白くてたまらない」

 

奴は心底面白そうに笑っている。

 

ふざけるな。

 

ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!

 

「怖い顔だね。まっつんくん」

 

「俺はずっとお前を倒すことだけを誓ってここまで来た。デュエルだ!」

 

「ああ。そうか。それはご苦労だった、何せ、ここまで来たんだ。本気なのは分かる。そして、俺がここに来たのは、そんなまっつん君の意向を叶えるためだ」

 

俺の意向を叶える?

 

「チャンスを上げよう。今ここで俺と戦うチャンスを。先ほどのデュエルを見た。君は資格を示した。この俺と戦う資格を」

 

「上等だ。俺はここでお前を潰す」

 

「はははは。その調子だ。今回は出血大サービス。俺は手札0、ライフ1000からスタートしよう。場所は、あの頭上、天空の城の周り、今天空の城は烈風のバリアに覆われている。その周りでスピードデュエルだ。どうかな。俺はスキルは使わないが、君は使える。素晴らしいハンデだと思うのだが?」

 

本当であれば断るという選択肢はない。

 

しかし、勝つ気があるのかというほどのハンデを自分で言っている。当然裏があるだろう。

 

俺がそう考えているのを見透かすように、奴は言った。

 

「ああ。不安なのか。当然だ。これほどのハンデおかしいにもほどがある。ではよろしい。その真意を伝えよう」

 

アルターはカードを1枚、デッキから見せた。

 

「セカンドオーダーの力をまだ君は一端しか見ていない。あの城を解き放つということは、このカードの真の使い手99人をこの世界に放つということだ。まだこの世界に同等に戦える人間はいないとイリアステル首相の俺は考えている。だが、もし君が力を示したら、解放するのもやぶさかではない。つまりはテストだ。セカンドオーダー、真の力に君がどれだけ対抗できるかね」

 

「報酬はあるんだろうな」

 

「もちろん俺を倒せばゲームクリアだとも。君は、それを望んでいるんだろう?」

 

明らかな罠。

 

だが、そんなことはどうでもいい。

 

俺はDボードをこの場に呼び出す。

 

「いいだろう。その誘い、受けてやる!」

 

(後半に続く)




まっつんこと良助が本格登場です。
初期の構想では、主要キャラはVRAINS主要キャラの代わりに、テーマデッキを使うつもりだったので、まっつんのデッキは剛鬼デッキ、前回の薫は、転生炎獣デッキ、を使う予定でした。

しかし、最近鬼塚が戦闘スタイルをチェンジしてしまったため、ダイナレスラーはまだよくわかっていない中でまっつんに使わせることもできず、結局、数多くデュエルをしても長続きしそうなライトロードデッキというところに落ち着いています。鬼さんはいずれ……。
逆にハイドライブは1発ネタとしては十分なカードがそろったのでここで出しました。残念ながらハイドライブ使いのエリアマスターさんは、ここから先不屈の闘志を見せることはできません。本編50話(遊戯王アニメでおよそ1年分の話数)、番外編を少しやるにしても65話くらいを目標にしているので、名乗ることすら敵わないキャラはもう出番はないでしょう。

さて、次回はいよいよ、アルターの初デュエルです。
イリアステルの皆さんはバリバリオリジナルカードで戦いますので、丁寧に書いていきたいと思います。今後もお付き合いよろしくお願いいたします。
後編もお楽しみに!

(最近やり忘れていたアニメ風次回予告)

あの日。生きる希望を失ったあの瞬間から、犠牲を悲しく思うのをやめた。殺人鬼にまで身を墜としてなお、心の闘志は消えていない。今、すべての悪を断つため、光の戦士が、追い求めてきた仇敵に挑む。

次回 「解放軍の理念 後編」 イントゥ・ザ・ブレインズ!


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番外編3 解放軍の理念 後編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

ラスボスの初デュエルです。
いろいろと馬鹿らしい効果をそろえていますが、そこはラスボスらしさということでご容赦を……。


アーククレイドル。

 

天空の城と言われ、俺はかつて見た映画を思い出し、そのイメージが強かったが、そこまで見た目愉快なものではなかった。

 

風の球体障壁を纏っているそれは、城を逆さにしたような形をしている。逆三角錘のドームに入りそうな形をしている。

 

今は届かない。風の障壁は俺が想像していたものよりもすさまじかった。雷雲ではなく、本当に竜巻のようなバリアで、少し触れるだけで、触れた場所がミンチになりそうな勢いだ。

 

その近くをDボードで走るのはいささか危険に思えるが、そうもいってはいられない。

 

俺は後ろを振り返る。

 

「どうだ。見にくいかもしれないが、素晴らしいだろう、俺の居城は?」

 

「ああ、非常に気に入らない形だ」

 

「そうか、そう言ってくれると、有難い」

 

何がありがたいのか。

 

随分とふざけた態度だ。

 

今から俺の殺されるかもしれないというのに。

 

「そう怖い顔をするなよ?」

 

「……グレイ」

 

「ん?」

 

「この名前を憶えているか?」

 

最初、この世界に来た頃、デュエルで死ぬかもしれない、しかしデュエルをしなくても餓死する、その自分に迫る恐怖に震えることしかできなかった俺を救ってくれた恩人。

 

「……覚えているとも。融合世界のデュエルアカデミアの生徒だろう」

 

「ラスボスのくせに記憶力はあるんだな」

 

「ああ。俺は君たちがこの世界で紡ぐ物語を見て愉しんでいるからね。登場人物くらいは記憶するさ。デュエルアカデミアは融合世界の最後の人類の希望だった場所だ。天上院吹雪、三沢大地、エドフェニックス、クロノス校長、丸藤翔、数々の素晴らしいデュエリストも始末してきたが、彼は最後まで俺の手から逃れて生き残った実力の持ち主だ」

 

「つまり、邪魔だったから消したと?」

 

「まさか、確かに素晴らしい敵だったことは認めるが、そんな個人的な理由で彼を殺しはしないよ」

 

邪悪な笑みだった。奴は笑ったのだ。

 

「そう言えば、最初に配ったルールブレイカーが、デュエルポイント200000で売れると発表した頃だったかな。彼が死んだのは」

 

「貴様!」

 

「はははは、いやいや、何も彼を殺す気はなかったんだ。ただ、グレイ君含め、ルールブレイカー持ちという目標が入れば、殺し合いも活発になるかなぁって思ってな」

 

そのせいでグレイは卑劣な罠に嵌った。10対1で戦わなければならない状況まで追い込まれたあいつは、最後まで、俺が帰りを持っていたねぐらの場所を吐かなかったそうだ。

 

「そういえば、あの時、彼はルールブレイカーを持っていなかったな」

 

今思えば、俺はあの時鈍感だっただけで、最初からあいつは狙われていたのだろう。しかし、恐怖で動けなかった初期の俺を見捨てることもできず、俺を自分のねぐらに招待して、俺の精神が安定するまで、俺をかくまってくれていたのだ。

 

いつかは恩を返したかった。あんないい奴が死んでいいはずがなかった。

 

「金目当てで襲撃が増えた。それさえなかったらあいつは死ななかったかもしれない」

 

「そうだな。なら、その恨み。ここで生産するチャンスだということだ」

 

ここまで言っても奴は悪びれることはない。

 

いいだろう。これ以上の語らいは不要だ。

 

「……ぶっ殺す」

 

「まっつん。いや、良助君。来るがいい。このアルターが君の怒りを受け止めてあげよう」

 

そのスーツを赤く染めてやる!

 

「スピードデュエル!」

「スピードデュエル!」

 

これが、この世界での最後の戦いだ。奴の仇を討つ。

 

良助 LP4000 手札4

モンスター

魔法罠

 

アルター LP1000 手札0

モンスター

魔法罠

 

(アルター)

□ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

□   □   EXモンスターゾーン 

□ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □   魔法罠ゾーン

(良助)

 

 

ターン1

 

「先攻は俺がもらうけど、何もできないな。ターンエンド」

 

アルターはにこにこしながら、すぐにターンエンドを宣言した。

 

本当に何もしないつもりか。

 

舐めているのか、それとも、その何もない状態から勝つつもりなのか。

 

しかし、そんなことをここで考えても仕方がない。

 

いつも通り、しかし、最大限の警戒をして奴と戦うだけだ。

 

 

ターン2

 

 

運命の1枚、カードを引く。

 

「俺のターン!」

 

良助 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

天空の城が纏う風のバリアの余波か、風はすさまじく。少しでも気を抜けば転倒して下へと真っ逆さま。おそらく墜落すれば命はない。

 

ボードの操作にも気を付けなければならない。

 

「俺はマジックカード『ソーラー・エクスチェンジ』を発動する。手札のライトロード1枚を墓地へ送り、カードを2枚ドロー! その後デッキからカードを墓地へ送る」

 

何もしてこない。

 

当然だ。奴のフィールドには何もない。

 

しかし、どうにも嫌な予感がする。万全の状態を整えておかなければ。

 

「俺はさらに『光の援軍』を発動する。デッキからカードを3枚墓地へ。そしてデッキからレベル4以下のライトロードモンスターを手札に加える。俺はライトロードアサシンライデンを手札に加える」

 

俺はさっそく最上に近い形で戦術を組めそうだ。

 

これならば、攻撃と防御が独立する。仮にモンスターを全滅させられても、何とかなる。

 

「俺はマジックカード、『フォトンサンクチュアリ』を発動、フォトントークン2体を特殊召喚!」

 

フォトントークン レベル4 守備表示

ATK2000/DEF0

 

「現れろ、我が行く道照らすサーキット!」

 

俺はトークンの内の1体を指定した。

 

「召喚条件は光属性レベル4以上のモンスター1体。フォトントークン1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚。リンク1。裁きの光輪!」

 

裁きの光輪 

リンクマーカー 下

ATK0/LINK1

 

「裁きの光輪の効果。1つ目の効果は、このカードのリンク先に、デッキのライトロードモンスター1体を選択し攻撃表示で特殊召喚する。俺はウォリアーガロスを特殊召喚!」

 

「ただし、このモンスターを召喚したターン自分はエクストラデッキから召喚できるカードは他の光輪かライトロードに限られる、だろ?」

 

「それも知ってるのか」

 

「さっきのデュエルでは必要なかったら言ってなかったけど、このような効果もしっかり宣言すべきだ」

 

奴の言う通りだ。この後の展開はライトロード限定だ。他のモンスターも呼べてればより戦術も広がるが、さすがにパワーバランスが多少考慮された結果だろう。

 

ライトロード・ウォリアー ガロス レベル4 攻撃表示

ATK1850/DEF1300

 

ここまでは先ほどのデュエルと同じ流れだが、ここから先は違う。

 

さすがに気合だけで奴を倒すつもりはない。俺は奴を倒すための秘策として用意したカードを使うことくらいは考えてきた。

 

策は詰められるだけ詰めている。さすがに手札0の相手を殺すことくらいはできるつもりだ。

 

「俺はさらにライトロードアサシンライデンを通常召喚!」

 

俺が呼んだのは先ほど手札に呼び寄せたモンスター。暗殺者とは思えない煌びやかな刃を持った上半身ほぼ裸の男である。

 

ライトロード・アサシン ライデン レベル4 攻撃表示

ATK1700/DEF1000

 

「ライデンの効果。メインフェイズ、デッキからカードを2枚墓地へ送る」

 

すでに、墓地に相当数のカードがたまった。残念なことに裁きの龍が1枚墓地へ行ってしまったが、それは些細なことだろう。

 

「……ライトロードカードがない。これ以上の効果は望めない」

 

「残念だったな。ギャンブルに勝てないのは悲しいことだ」

 

ニヤリと笑う奴の姿は自然体だ。強がっている様子には見えない。何かあるのか。

 

――いや、何もない。そう信じて戦うのみだ。

 

「別に、こいつで賭けに出たわけじゃない。俺の目的はこの先だ。現れろ。俺の行く道照らすサーキット!」

 

天に登場したサーキット。個々から呼ぶのは、リンクモンスターの中でも強力なリンク4だ。

 

「アローヘッド確認。召喚条件は、ライトロードモンスターを2体以上、もしくはリンクモンスターを1体以上含めた、光属性のモンスター4体。俺は場に存在するすべてのモンスターをリンクマーカーにセット!」

 

個人の信条として、あまりモンスターの数は減らしたくはない。しかし、召喚ができる好条件を逃す理由にはならない。特に、こいつは。

 

「リンク召喚。現れろリンク4。導きの光輪!」

 

姿は裁きの光輪の紫色バージョンだ。放つ光は少し禍々しさを帯びている紫色。

 

導きの光輪

リンクマーカー 右上 上 左下 下

ATK0/LINK4

 

「攻撃力がないな。いいのか?」

 

奴はどうやらおしゃべりをしたいようだ。わざわざそのようなことを聞くということは、俺に今呼び出した奴について語らせたいということだろう。

 

そんな挑発をしなくても、すぐにこいつの効果は説明するつもりだ。

 

「構わないさ。このカードをエクストラデッキから特殊召喚した時、1つ目の効果を発動する。デッキから、ライトロードモンスターを1体、このカードのリンク先に特殊召喚する。俺は、サモナールミナスを特殊召喚する」

 

これは裁きの光輪と同じ効果だ。そして導きの光輪にも当然、カウンターに関連する効果がある。

 

とりあえずは、今指定したモンスターを召喚しよう。

 

ライトロード・サモナー ルミナス レベル3 攻撃表示

ATK1000/DEF1000

 

「そして導きの光輪にはシャインカウンター1つを、ライトロードモンスターをリンク先に召喚、特殊召喚のたびに置く」

 

「先ほどに似た戦術だな。なるほど。君のデッキは、ライトロードにすでに存在したシャインカウンターをメインにした戦術をとる、新たなライトロードの使い方を提示しているようだ」

 

「それでお前は死ぬ」

 

「どうかな?」

 

その状況で何をするというのだ。と、奴に言おうとしたがやめた。奴はおそらくあえてこの状況に自分からしたのだ。ならば何かをするはずだ。

 

故に、こちらも容赦はできない。徹底的に攻撃を仕掛ける。

 

「俺はサモナールミナスの効果を発動する。手札を1枚墓地へ送る。そして、墓地のレベル4以下のモンスターを蘇生する。俺は墓地のアサシンライデンを呼び戻す!」

 

俺は再び暗殺者呼んだ。先ほどルミナスは導きの光輪の左下に呼び、そして次の暗殺者は光輪の下に呼ぶ。再びリンク先なので、カウンターが乗ることになる。これでカウンターは2つ。

 

ライトロード・アサシン ライデン レベル4 攻撃表示

ATK1700/DEF1000

 

そして、当然これで終わるつもりはない。

 

「俺は墓地の『シャインチャージ』の効果を発動する。このカードがこのターンに手札から発動されていない場合、手札の光属性モンスター1体を墓地へ送ることで、このカードを手札に加える。俺は手札のモンクエイリンを墓地へ」

 

この効果はデュエル中に1度しか使えないが、墓地に送られても使えるという効果はありがたい。光輪はとりあえず、カウンターを4つ乗せなければならないので、このカードには毎度助けられている。今回も、墓地に送られたのが幸運だった。

 

「そして今手札に加えたシャインチャージを発動する。導きの光輪にシャインカウンターを2つ置く」

 

「4つになったな、そいつの効果がそろそろ発動できる頃か」

 

そう、裁きの光輪と同じだ。4つ溜めるのが条件。そしてリンク4なので、その効果も強力だ。

 

「ああ。俺は導きの光輪の効果を発動。シャインカウンター4つを取り除き、リンク先に存在するライトロードの攻撃力を2倍にする。そして、上昇した攻撃力分の数値、お前にダメージを与える!」

 

攻撃力上昇。その数値を計算すると。

 

ライトロード・サモナー ルミナス ATK1000→2000

ライトロード・アサシン ライデン ATK1700→3400

 

その上昇値の合計は2700。奴を仕留めるに十分な数値となった。

 

導きの光輪、その中央の穴に光が集束した。竜のブレスに負けない破壊光線を放つ。

 

「お前には2700のダメージを負ってもらう!」

 

この一撃、これで終わりだ。

 

このまま通ればの話だが、通るに決まっている。なぜなら、奴の場には何もない。

 

「早速止めかぁ」

 

奴はそれでも笑っている。分からない。奴のどこからかそんな余裕が出るのか。

 

「さあ、死ね」

 

「無理だ」

 

奴は指を鳴らした。

 

そして次の瞬間。奴のフィールドに1枚のカードが現れる。

 

どこから、どうやって?

 

「驚いてくれた何よりだ。口がぱっくり空いているぞ?」

 

阿呆な顔を晒してしまったらしい。しかし、それくらいに納得がいかない状況だ。

 

「さあ、ここから俺の余裕に理由について、ネタ晴らしと行こう!」

 

よく見ると奴の出したそのカードは奴が先ほど絶対の自信を持っている理由であるセカンドオーダーのカードだった。

 

「『セカンドオーダー・生命の根源』。ダイレクトアタックを受ける時、このカードがデッキに存在するなら、デッキから発動できる。このターン受けるダメージを0にし、LPを1000回復する」

 

アルター LP1000→2000

 

「デッキからだと……」

 

「驚いてくれたか?」

 

発射直前だった破壊光線は、奴の魔法によって阻止され光は霧散する。

 

奴の効果によれば攻撃も無意味だ。しかし、この程度はおそらくやってくるだろうと思っていた。これならば、まだ気にするほどではない。

 

「導きの光輪の効果を受けたライトロードモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで戦闘、効果では破壊されず。そのモンスターとの戦闘で俺の受けるダメージは0になる。そして導きの光輪は、ライトロードモンスターが自分フィールドにいるとき、攻撃対象に選択されない」

 

「その後のケアもばっちりだ。さすがだな」

 

「お前のお世辞には嘘がまみれているように聞こえる」

 

「いや、態度が軽いだけだよ」

 

へらへら笑っているのもおそらくは勝ち筋が見えているから。俺にはその方法は想像もつかない。

 

しかし、退く道はない。奴を倒すまで、負けるわけにはいかない。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「おや、もう終わりか?」

 

「ああ。とりあえずこのターンはこれでいい」

 

そう、これでいい。たとえ、嫌な予感があってもこれ以上何かをすることはできないのだから。

 

良助 LP4000 手札0

モンスター ① 導きの光輪 ② ライトロード・サモナー ルミナス

      ③ ライトロード・アサイン ライデン

魔法罠

 

(エリアマスター)

□ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

□   ①   EXモンスターゾーン 

□ ② ③   メインモンスターゾーン

□ ■ □   魔法罠ゾーン

(良助)

 

しかし、負けたわけではない。

 

まだ、やりようはある。

 

「エンドフェイズ、ルミナスの効果で3枚、ライデンの効果で2枚のカードを墓地へ」

 

墓地に送ったカードを確認し、俺は効果を発動する。

 

「『ライトロー・レイピア』の効果。このカードがデッキから墓地へ送られた場合、自分フィールドのライトロードに装備する。俺はアサシンライデンに装備」

 

ライトロード・アサシン ライデン ATK3400→4100

 

これで俺のターンは終わり、奴のターン。

 

このターンを凌がれるのは想定内だ。問題は次のターン。いよいよ奴が動く。

 

先ほどデュエルでたった2枚から状況を覆したセカンドオーダー、その真の使い手を名乗るのなら油断はするべきではない。

 

 

ターン3

 

 

「では、俺だな? ここからはたっぷり楽しんでもらおう」

 

奴はカードを引いた。

 

そして不敵に笑って見せた。

 

アルター LP2000 手札1

モンスター

魔法罠

 

「さて、ここから俺の独壇場だ。刮目して見ておけよ?」

 

「黙れ、その余裕はすぐに消えることになるさ」

 

「期待しておこう」

 

奴が発動したのは魔法カード。

 

「フィールド魔法。『セカンドオーダー・財の塔』を発動」

 

気のせいか、先ほどまで見えなかった金色の塔が城の上に建ったような……?

 

アルターはそのカードを効果を読み上げる。

 

「発動時、デッキから神装兵器カードを1枚手札に加える。俺は『神装兵器・黒の大杯』を手札に加え、発動!」

 

その直後、真下に黒い海が広がった。見た目禍々しい液体で入浴したら体が溶けそうに見える。

 

「これは?」

 

「大きな杯の水面だよ。実際に湖が現れたわけじゃない。黒の大杯の効果。俺は属性を1つ選択する。選択したモンスターを杯の水へと誘う」

 

黒い海は俺のライトロードを吸引し始めた。否、それだけではない。その黒い液体の中から得体の知れない暗黒の帯が俺のモンスターに向かって伸び、巻き付き、水へと引きずり込んでいく。

 

ジュウウ――という溶ける音が聞こえてくる。

 

「これは……?」

 

「俺は君のライトロードの属性である光属性を選択。飲み込まれたモンスターはフィールドに残るがどんなことをしてもフィールドを離れない。当然あんな溺れている状態では攻撃も、表示形式の変更もできない。そして君は飲み込まれたモンスター1体につき500、お互いのエンドフェイズにLPを失う」

 

失う。これではダメージにカウントされない。そしてどんなことをしてもフィールドを離れないというのは、召喚の素材にもできないという意味に取れる。だとするならば、俺のモンスターはただ邪魔になるだけということ。

 

しかし、ライトロードとして存在するならば、それで十分。まだ俺のフィールドには1体分の空きがある。

 

「そして財の塔の効果。神装兵器を発動した時、デッキから、原初の大火を特殊召喚する」

 

ようやく奴は最初のモンスターを呼んだ。

 

原初の大火 レベル7 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

奴の呼び出したモンスターはモンスターと言うべきではない。なぜなら、宝石から金色の炎が出ているだけだ。

 

「原初の大火の効果。このカードをリリースし、デッキの中の好きなカードを5枚、デッキの一番上に好きな順番で置くことができる」

 

奴は悩むことなくカードを5枚デッキトップに置いた。

 

「そして財の塔の効果。1ターンに1度。デッキの上からカードを3枚めくり、セカンドオーダー、もしくは神装兵器カードをめくった中にあるだけ任意の数手札に加える」

 

「なぁ!」

 

馬鹿らしい声が出てしまった。

 

「驚いてもらえて何よりだ。もちろん先ほどデッキは操作している。俺はデッキの上に置いたカードを3枚手札に加えるよ」

 

一気に3枚ドローしたのと同じだ。ふざけたカード効果だ。

 

そして、アルターはいた手札に加えたカードを使ってくる。一体どんな効果だというのか。戦々恐々としてしまう。

 

「さて、勝負だ。俺は永続魔法『セカンドオーダー・不夜の理』を発動する。フィールド上の神装兵器と名のつくモンスターの攻撃力は自分のターン2倍になり、このカードが存在する限り相手から受けるすべてのダメージは半分になる」

 

急に辺りが眩しくなった。太陽がこのカードに反応している?

 

「そして俺は永続魔法『神装兵器・太陽の宝剣』を発動。このカードはモンスター扱いとなり、フィールドに特殊召喚される」

 

召喚と言っておきながら、奴はその剣を自らの右手に装備した。

 

「お前、何をする気だ」

 

「処理がモンスター扱いなだけだ。武器なんだから、誰かが振るわなければ意味がないだろう?」

 

さも当たり前のように言っているが、俺はあんな奴を見るのは当然始めてだ。俺はその攻撃力を見る。

 

神装兵器・太陽の宝剣 レベル8 攻撃表示

ATK2500/DEF0

 

「セカンドオーダー不夜の理の効果で攻撃力は2倍!」

 

神装兵器・太陽の宝剣 ATK2500→5000

 

手札1枚からここまで状況を持っていくとは。

 

仮にそれが5枚もあれば、と考えるだけで恐ろしい。これが奴の力。

 

だが、ただで負けるつもりはない。そろそろ頃合いだ。

 

俺は奴のライフを削るべく、スキルの発動を宣言する。

 

「スキル発動! ライトロードの招集! フィールド上のライトロード1枚につきデッキからカードを4枚墓地へ送る! その後墓地へ送られた光属性モンスターの数以下のレベルを持つ光属性モンスターを、墓地から手札に加える!」

 

先ほどオネストが墓地に送られていた。俺はデッキから8枚のカードを墓地へ送る。

 

送られたモンスターはちょうど4枚。十分だ。

 

「送られたカードは4枚。俺は墓地のオネストを手札に戻す!」

 

しかし、奴はすぐに対処してきた。

 

「『セカンドオーダー・罰する雷』を手札から発動!」

 

「なに!」

 

「手札誘発は最近のトレンドだろう。このカードは無条件に相手の手札を1枚破壊し、除外する」

 

雷が降り注いだ。俺に――。

 

全身に異物が貫通する痛みを受ける。

 

この程度では気を失わないがきつい。そしてオネストのカードは手から消えていた。

 

アルターそのカードはまだ勢いを止めない。

 

「その後、俺はデッキからカードを1枚ドローする」

 

優雅にカードを引くアルター。

 

1枚。たったそれだけだ。しかし、先ほども言ったが、1枚で奴は十分なのだ。それが再び手に加わった。

 

「バトル……は行わない」

 

「なんだと?」

 

「マジックシリンダーとか使われたら怖いし」

 

にっこりと笑って宣言した。

 

まさかあいつ、俺のデッキを分かっているのか。確かに俺のデッキには、マジックシリンダーが存在する。

 

しかし、今伏せているカードは違う。

 

「もっとも、バトルを行わなくても、十分倒せそうだ」

 

「なんだと」

 

「そうそう、その顔だ。驚いてくれよ? もっともっと」

 

邪悪に笑うアルター。すでに勝利を確信しているつもりか。しかし攻撃をされなければ次のターンが来る。まだやりようはあるはずだ。

 

「太陽の宝剣の効果。バトルフェイズをスキップ。このカードの今の攻撃力の半分のダメージを相手に与える」

 

「ちっ、2500……!」

 

「そうだ。受けてくれよ、これが太陽の祝福を受けた剣の輝き」

 

奴は剣を構えた。剣が輝き、膨大なエネルギーが、まるで竜のブレスの前兆であるかのように収束している。

 

しかし、上等だ。

 

俺が伏せている罠は、『反転のバリア ミラージュ・フォース』。相手からうけるダメージを相手にやり返すカード。モンスターは守れないが、効果ダメージでも、戦闘ダメージでも発動できる優秀なカードだ。

 

俺は罠の発動を宣言しようと、デュエルディスクを操作する。

 

――?

 

反応しない。どういうことだ!

 

その答えはアルターが宣言した。

 

「この効果に対し、相手は、モンスター効果、魔法、罠カードを発動できない!」

 

「なんだと……!」

 

「さあ、天より見下ろす神々よ、刮目して見よ。そして驚嘆せよ! 我が宝剣の光輝、あらゆる邪悪を焼き尽くす太陽の現身! グロリアスバースト!」

 

光輝の一撃、竜にも負けない光熱の放射が襲い掛かった。

 

叫ぶまでもない。

 

というか叫べない。言葉を失うほどの攻撃が、俺の体を焼き尽くそうとする。

 

良助 LP4000→1500

 

Dボードから落ちた。

 

そして、俺のモンスターがすでに死んだような目で浮かんでいる真下の黒い海に落下する。

 

突如力が失われていく感覚に襲われた。全身が俺の体ではないような感覚。

 

怖い。怖い。

 

この感覚は、あの日、奴にデスゲーム宣言をされたとき、すべてを理解したあの感覚に似ている。

 

俺は、グレイの仇を取らなければならないのに。

 

「ああ。くそ!」

 

上がれない。足に何かが巻きついている。

 

「ああ、落ちたか。悲しいな。そこまでか」

 

「まだ!」

 

「エンドフェイズ、お前の周りにいる仲間1匹につき君は500のLPを失う。これで……0だ」

 

「クソ……、貴様ぁ!」

 

「君はとても頑張った。だがまだ足りない。俺と戦うには足りなすぎる。俺を本当に倒したければ、まずは人の想像を超えるデュエルを目指すべきだ。そうすれば、いつか俺に、ダメージを与える日は必ず来るさ。君には見込みがあるからね」

 

体が海に沈む。

 

徐々に奴が遠ざかっていく。

 

力が入らない。

 

必至にもがいて、奴の魔法から逃げようとした。

 

しかし、無理だった。

 

俺は海の底に引きずりこまれた。

 

――?

 

――?

 

――。

 

良助 LP1500→0

 

 

【4】

 

 

俺の黒歴史になったその出来事を聞かせてやったのは、遊介によく似た目の前の男と、解放軍のリーダー。

 

シンクロ世界の遊介との出会いはずいぶん前だ。情けない形だった。グレイが死に、バトルシティで失意のどん底にいた俺を見て、興味本位で助けたらしい。

 

この偽遊介には感謝している。奴が所属していた解放軍にスカウトされることになったが、解放軍では飯が支給されるので、餓死を心配しなくなっただけでも、心はずいぶんと落ち着いた。

 

今では遊介と同じくらいの立場に昇進し、多少自由に動けるようになった。

 

そんな頃に先ほどまで語った出来事が起こり、見事な負け戦だったため、目の前のシンクロ使いの遊介には今さっきまで笑われていたところだ。

 

奴とのデュエルで負った負傷は想像よりひどく、俺は1週間は歩けなかったのだ。

 

――俺は全く懲りていない。未だ、俺の中には、奴を殺すための火は灯っている。解放軍は俺の思想によく似た奴らが集まっている。独りでだめなら、今度は人数をそろえて数で勝負すれば良い。

 

解放軍はこの世界を終わらせるためなら多少の犠牲を厭わない。原住民も、この世界の存続を目指す人間も、解放を望まず戦わない人間もすべて敵、ただアルターを倒すためだけにあらゆる世界から集まった復讐者の集団。

 

軍というだけあって、定められた規則が絶対である。例えば、1日4000ポイントを全員に課して、外の人間に賭けデュエルで戦いを挑むことが義務であり、相手は誰でもいい代わりに、もしも達成できなかったら、公開処刑として、解放軍の仲間と賭けデュエルをしなければならないらしい。他にもいろいろあるがさすが百か条すべてをここに並べると嫌気がさすのでやめることにする。

 

最初に解放軍のバトルシティ支部に案内されたときは、年甲斐もなく驚き、興奮したものだ。外向けはただのNPCが使っているDボード販売会社に見えるが、その地下には、悪の組織か何かと勘違いするようなアジトが広がっている。秘密基地だけあって、中身の面白さは抜群だ。

 

俺は解放軍でも特別扱いになっている。解放軍に厄介になっているのは、イリアステルを倒すためなので、俺はしょっちゅう命令に逆らい自由にやらせてもらっていた。そのため何度も公開処刑の賭けデュエルを行ったが、それを勝ち続けた結果、その実力が認められ、例外的に幹部に迎え入れられた。

 

まあ、手に負えない猛獣扱いなので、放し飼いするしかなかったのだろう。

 

それが解放軍に入ってからしばらくたった俺の今の現状だ。幹部になると多少自由が認められるので、俺はその自由行動権を使い、堂々とバトルシティのエリアマスターを倒しに行ったのだ。まさかアルターが出てくるとは思わなかったが、収穫もあった。さすがにその情報は共有してやろうと、報告書とともに、アルターと会った時の話をしている。

 

「はははは。まさか、独りで突っ込んでコテンパンとはなぁ」

 

「笑うんじゃねえよ遊介もどき」

 

「ふ……」

 

「お前もニヤリって感じで笑うな、アゼル」

 

馴れ馴れしく話しているが、俺が今言葉を向けたのが、解放軍のリーダー、アゼル。グレイの融合世界からの知り合いだそうで、解放軍の創設者。俺はどうやら融合世界の人間と縁があるらしい。

 

この解放軍は、リーダーの意向、つまり、目の前のアゼルの決定が絶対だ。アゼルが他の地区に闘争を申し込むといえば、他の世界に遠征をするし、イリアステルと戦うといえば解放軍はイリアステルと戦う。つまりは最高権力者であり軍の絶対君主だ。

 

これが救いようのない屑であれば俺はその場で奴を殺していたが、アゼルは現場判断を尊重し、部下の意見も取り入れながらも、高い決断力で物事を決定していく。まさに理想の上司を感じさせる解放軍の行政手腕を見せている。

 

その甲斐もあってか、解放軍はそこそこの巨大組織として、今ではリンクブレインズで、エデンの次に巨大な組織にまで成長した。

 

解放軍に集まった連中は、俺も含めて、奴が掲げた信条に同調した人間たち。

 

一、死ぬことを恐れるな。生きられないことを恐れろ。毎日、勝利のために前進し、無駄な日々を過ごすべからず。

 

一、犠牲を恐れるな、その先で得られる価値の大きさを信じろ。俺達が戦い死んだ奴の何十倍の人間が救われる。

 

一、慣れ合いをするな、競い合え。解放軍のメンバー同士は友であり、また競う相手である。負けない意思を持ち続けることが己を強くする。

 

このようなアゼルの信条で、イリアステル打倒を掲げた解放軍は、俺としては、居心地はそんなに悪くないように思える。

 

最も、俺は命令を聞かない問題児であるため、規則をきちんと守っている奴らの心は知らないのだが。

 

しかし、そんな問題児を未だ解放軍においてくれているアゼルは、やはり器は大きいと言える。俺も奴の強さ、その心意気は素晴らしいものだと思っている。だからこそ解放軍の命令は聞かずとも、アゼルとはこうしてよく話をする仲になろうと思えた。

 

「俺にも一言声を掛けてほしかったな、まっつん。お前には確かに自由行動権を与えているけど、言ってくれれば俺も一緒に行ったのに」

 

「あんたはリーダーだろ。勝手に突撃して自爆した奴なんか放っておけばいいのにさ」

 

「そうはいかないさ。グレイが最後まで護った男だ。俺がその意思を継がなくてどうする」

 

「結局飼い犬かよ」

 

「言うことを聞いてくれればもっといいんだがな」

 

「お断りだ。俺は俺の方法でイリアステルに迫る。だがまあ、お前らがどうしてもっていうなら付き合ってやる。餌をもらってる身分だからな」

 

「ああ。近々な」

 

「何かあるのか?」

 

「エルフィの報告によると、エデンが解放軍に報復らしきことを始めたらしい」

 

「そんなの、解放軍の水地区の支部の奴が勝手に手を出したからだろ」

 

「それだけで済めばよかったんだがな。どうやら向こうのリーダーは攻撃されたことで怒り心頭らしい、エデンは解放軍を完膚なきまで破滅させる意向だそうだ」

 

そこに口を出してきたのはシンクロ遊介だった。ちなみに、シンクロ遊介とは、シンクロ世界の遊介の略である。

 

「うわあ、藪蛇」

 

「いや、あそこは獅子の住処だったかもしれない。なにせ、リーダーのリボルバーは、信じられない強さを誇っているからな」

 

「アゼルよりも強いかなぁ」

 

「それは戦ってみないと分からん。しかし、こちらの損害賠償案を秒で蹴られた以上、戦うしか残されていない」

 

アゼルは一度ため息をつく。

 

「まっつんの勝手な行動とはいえ、ようやくアーククレイドルに手が届きそうだったからな。この機会にすぐにでも、戦力を整えて、今度は解放軍の主戦力でアルターに挑もうとした矢先にこんなことになるとは」

 

アゼルも気苦労が絶えないだろう。巨大な組織である以上、部下の行動の責任追及や辻褄合わせをしなければいけない件は絶え間なく襲い掛かってくるはずだ。

 

まあ、俺は手伝ってやる気は微塵もない。

 

「……とりあえず飯行くか。お前らも一緒にどうだ?」

 

シンクロ遊介が応える。

 

「後から行くよ。それより、他の支部のリーダーと連絡とっとけば? 場合に寄ったら俺たち主戦力組だけじゃ止められないかも知れないし」

 

「そうだな、助言有難い」

 

アゼルは部屋を後にする。残ったのは俺と、シンクロ遊介。

 

先に向こうが口を開いた。

 

「しかし、まさかアルターに戦いを挑むなんてな。命知らずにもほどがある」

 

「戦ってみなくちゃ分からないだろ」

 

「ははは。まあな。でも、クソ強かったろ?」

 

「ああ。信じられないほどに」

 

「アゼルも心配してたぜ。なにせ、あの戦い、放送されたからな?」

 

何? そんなの初耳だ。

 

「知らなかったのか? あの性悪白スーツのことだからそれくらいはやってのけるだろ」

 

「くそ、公開処刑じゃねえか」

 

「まあ、ドンマイ。これに懲りてしばらくは俺の遊び相手になってくれよ。最近は幹部になっちゃったから、俺が動くほどの命令をアゼルしてくれなくて暇なんだ」

 

「お断りだ。デュエル以外は受けないぞ。俺はデッキの改良と腕を磨くのに忙しい」

 

「また百人斬りでもするのか。なら俺も一緒にやらせろ」

 

「どんだけ暇なんだよ」

 

「まあ、お前の相棒ポジだから、俺」

 

「俺の相棒?」

 

そんな存在、譲るはずはない。

 

「俺の相棒はグレイだけだ」

 

「意外だな、リンク遊介か彩ちゃんとでも言うと思ってたのに」

 

「そっちはダチだ。相棒は、俺にはもう必要ない」

 

「キザだねえ。別にいいだろ、俺も一緒にいくぜー」

 

このシンクロ遊介は、どうも一緒に居るだけで、違和感がありまくりだ。たまに殴りたくなるくらい。俺の知っている遊介はこんなに軽い奴じゃない。

 

しかし、前に一度だけ聞いたことがあるが、こいつもこいつで結構な過去があったようだ。それでもこんな前を向いて生きているのだから、その精神の強さは多少見倣うべきかもしれない。

 

そう思っているうちに、少しずつ、こいつにも慣れてきた。

 

「……飯行くぞ」

 

「おう。まっつん、今日は何にする?」

 

俺は立ち上がって、部屋を後にした。

 

 

 

俺はしばらくは解放軍にいるつもりだ。いつかアルターに勝つまでは、せいぜいこの組織を利用しなければならないからだ。

 

俺のやることはこれからも変わらない。奴を倒すまで全力で走り続ける。

 

それだけだ。

 

(番外編3 終)




良助のデュエルと、彼が解放軍にいる理由を簡単に語ったこの話、いかがだったでしょうか。彩は運命的な出会いで、エデンと出会い、そしてそこで絆を育んでいるのに対し、良助は成り行きで入り、それを利用するだけ利用するだけの施設としか思っていない。2人の立場や考え方の違いを出してみました。

今回出てきた解放軍の新キャラの掘り下げは、事情により番外編4に回しています。そして4については予告なしです。

特に驚かせるようなことをする気があるわけではありませんのでそこはご安心ください。まだ主要キャラが死ぬようなこともありませんので、番外編4も、お楽しみにお待ちください。

次の話は、およそ2週間後になります。しばらくお待ちいただければ幸いです。


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番外編4 二度と戻れない道

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


 フォーチュンカップというライディングデュエルの頂上決戦で優勝して以来、俺はプロデュエリストとして、生計を立てられるようになった頃の話だ。

 

 

 

「遊介、おめでとう!」

 

 俺の彼女である、彩を始めてシティへと連れてきたことがあった。

 

彼女とは、俺が3年前シティへと赴いた時から、文通は何度かしているが会った事はなかった。故にこうして会うのは3年ぶりであり、前よりも色っぽくなった彼女を見て若干興奮しているところだ。

 

大会優勝したその夜、豪華絢爛の光都市、イェーガー10世と名乗る市長の施策により整備された夜景を見せた時に、笑顔で言われたこの言葉を俺は今でも覚えている。

 

 彩は幸せそうに笑っていた。

 

 それが俺にとっては、人生で一番と言っていいほどに嬉しかった。

 

「まさか遊介が大会王者になる日が来るとは……私は諦めちゃったけどその分、なんか私も夢がかなったみたい」

 

「まあ、プロなんて一握りだからな。だったら、普通の就職をする道を選んだ方が堅実だし、彩は間違っていないと思うぞ?」

 

「えへへ、そう言ってくれると嬉しいな。私も、自分が諦めちゃった分、心行くまで遊介を応援できるしね、だから、とても嬉しい」

 

 本当であれば高級ディナーを振る舞うような光景なのだが、俺もフォーチュンカップに向けてDホイールの整備やその他諸費ですでに借金をしている状態だったため、優勝賞金は借金の返済にすべて充てざるを得なかった。なので食事はグレードが変わることがなかったが、それでも、

 

「本当にキレイ……」

 

「大会で成績を残した人しか入れないラウンジだからな。ここから見える都市夜景は世界で1番だって市長も言ってたよ。それこそ、王者しか見ることが許されない景色だ。お前と2人で見るって昔」

 

「ああ、子供の頃のね」

 

 サテライトの貧しい地域が出身である俺と彩は、いつか、シンクロ世界で1番になってやると夢を語り合ったことがあった。具体的にどうやるのか、などとまるで考えず、とにかくシティで成功し、都会で裕福に食ってやろうと。

 

「いやあ……ここまで本当に来たんだ。それも、あれからまだ10年くらいしか経ってないけど感慨深いっていうか」

 

「まあ、俺の場合、とても運がよかったからな」

 

「そうなの?」

 

「シティに最初に出た時にさ。唯一俺が出れた公式試合が、前のフォーチュンカップの前座試合だったの覚えているか?」

 

「もちろん。見てたよ。キングの力を見せるためだからって、一般公募のデュエリストをキングがひねり潰す光景をテレビ放送するやつでしょ」

 

「そうそう」

 

「あれ、なんか生贄とか言われてるやつ」

 

「そうそう、生贄生贄」

 

「なに嬉しそうに言ってるのよ。プロを目指している人の心を何回も折っている儀式だって聞いてるわよ。未来を潰すとか本当にいけ好かないやり方じゃない」

 

「まあ、そうなんだけどな。でも俺はそれがなかったらだめだったよ」

 

「どういうこと?」

 

 俺はそこからのサクセスストーリーを、順を追って説明することにした。

 

 事は先ほど前のフォーチュンカップの前座でデュエルをしたことから始まる。この時俺は絶対王者ジャックアトラスの再来と言われた、アーロンとのデュエルを行った。結果は敗北、徹底的に抗戦してやるつもりだったのに、まさか4ターンで終わりになるとは思いもしなかったものだ。俺の目指す場所と、現実にここまで差があるのかと、若干心も折れかけた。しかし、その程度の気力で王者を目指しているつもりはなかったし、5秒落ち込んだ後は元通り、デッキや戦術の反省会をしていた。

 

 その時、それをたまたま見かけたアーロンから、

 

「さっきのデュエル、面白いものを見せてもらった。その礼だ」

 と、俺に、規模は小さいものの、各地で行われているデュエル大会の案内とアーロン直筆の推薦書をもらった。

 

「いいのか?」

 

「ああ、俺は見込みのある奴には、どんどんデュエルを盛り上げてもらいたいと思っている。お前はきっと、俺の前に再び昇ってくると思っていてな」

 

「そりゃどうも。なら俺も、あんたの期待に応えないとな?」

 

「ふ……まあ、ほんの少し期待して、次の大会までは待つことにしよう」

 

 それがアーロンとの初邂逅だった。

 

 フォーチュンカップ、シティ1番のライディングデュエルチャンプを決める戦いに出るには、市民の人気をとるのが1番だ。

 

 そのために俺は名前を売らなければならない。各地のデュエル大会を巡って、とにかくデュエルをした。

 

 さすがはシティだけあって、サテライトでは無敗の俺も、何度も敗北したものだ。最初はそれで馬鹿にもされたし、サテライトに帰れとも言われた。しかし、めげることなく、とにかく戦った。

 

 ここまで見て分かるように、俺は精神はタフなのでいじめには耐えられた。しかし問題は別にあった。小さなデュエル大会は優勝しないと賞金が出ず、仮にもらえても、とてもではないがシティで生活するには厳しい金額だった。バイトだけでは到底生活もできず、とうとう借家も追い出される始末。いったいどうしようとホームレス生活への期待不安の未来を想像していた頃に、俺に第2の出会いがあった。

 

 瑠偉、そして瑠奈の2人だ。なんとも幸運なことに、デュエルファンの2人は俺のことも知っていて、俺のファンだという。

 

「遊介兄ちゃんがデュエルを教えてくれるなら、俺んち住んでいいよ!」

 

「瑠偉! この人に迷惑なんじゃ」

 

 いや、俺としてはむしろありがたいが、迷惑かどうかを訊くのは俺の方だろう。と思ったのだが、聞いてみると二人の親は海外に出張へ出ていて、今は兄弟2人で過ごしているらしい。家の人には、家事のお手伝いさんとして俺を登録してくれるそうなので、俺は年下の子の優しさに全面的に頼り、家に住まわせてもらうことになった。

 

 瑠偉も瑠奈も本当にいい子だ。俺は、その兄妹に恩を返すためにも、大会のない日は瑠偉の特訓に飽きることなく付き合ったし、瑠奈に勉強も教えてあげた。高学歴ではない俺でもさすがに11歳の子供にものを教える程度の教養は持っている。というか、シティにつく前に必死に勉強してきたので、何とかなった、というのが正しいのだが。

 

 住居は解決、だがまた問題が発生した。それは、俺のDホイールだ。ある時故障してしまった時に、直すだけのお金がないとなり、今後のデュエリスト生命に大きな不安が残る状態に。その時、瑠偉が、父親の伝手で知り合ったDホイール修理の名人を紹介してくれた。

 

 それが、不動星矢、そして黒羽鳥羽利の2人だ。星矢はDホイールの開発科学者で、鳥羽利は修理の天才。二人は、身寄りのない何人かの子供を預かり養いながら、修理屋を営んでいる。

 

「何よこれ。ポンコツじゃん。 買い替えな!」

 

「鳥羽利。そんなことを言うな。彼にとっては愛着のある機体のはずだ」

 

 瑠偉の知り合いとだけあって性格は違うにしろいいやつそうだったのがよかった。これなら俺の唯一のポンコツ機体も喜ぶというものだ。

 

「星矢、まさかただとは言わないでしょうね!」

 

「そうだな、さすがに無料とは言えないか」

 

 そればかりはもう仕方ない。

 

「たのむよー、星矢」

 

「お子様は黙って、向こうのガキどもと戯れてろ」

 

「鳥羽利姉ちゃんには聞いてない!」

 

 瑠偉の駄々こねも、鳥羽利がほっぺを引っ張り中断された以上、やはり金は必要だった。

 

しかし、星矢の救済措置がここで舞い降りたのは俺にとっての光明だ。

 

「俺が今開発しているモーメントがある。それを取り付けてテスト走行を担ってくれるなら、タダでもいい。それなら、修理代くらいは科研費から出るだろう」

 

「本気!」

 

「もちろん、爆発等、事故を起こす可能性もないとは言えない実験と引き換えだ。やってみる気はあるか?」

 

 俺は二つ返事で了解した。

 

 それ以来は瑠偉、瑠奈の家で済みながら、星矢の元でテスト走行、2回事故で死にかけたが、それでも何とか生還し、俺は将来発売される新型と同等の改造をされた機体を手に入れた。

 

 深刻な問題を2つの解決し、さらに素敵な出会いを繰り返した俺は、その幸運をものにするためにさらにデュエルに磨きをかけ、次々と大会で優勝を勝ち取る。

 

 そしてようやく、フォーチュンカップへ招待されたのだ。

 

 驚いたのは、星矢や鳥羽利も参加するということだ。2人とも飛んでもないデュエルの腕を持っていて、アーロンと因縁があり、その決着をつけると言っていた。さらに俺はそこで俺と同時期に名前が売られ始めた、ユーゴというデュエリストも招待されていた。

 

 植物使いのデュエリストとの激闘から始まり、俺はそんな強敵たちと戦い、そして最後、頂点で待っていたアーロンに再会したのだ。そして俺はそこで勝利し、ようやく、頂点へと上り詰めた。

 

「すごい……幸運重なりすぎでしょ?」

 

「ま、まあ、後で不幸に見舞われなければいいけど……」

 

「きっと神様が、たくさん頑張った遊介を認めてくれたのよ」

 

「そうか、そうだといいな」

 

「ところで、アーロンさんと連絡先とか交換した?」

 

「ああ、まあ」

 

「私に紹介してよ! キングとお近づきになりたい!」

 

「お前、下心見え見えだぞ…」

 

「えへへへへ」

 

 

 俺は幸せだった。これ以上を望まないくらい。俺は行き着くところまで行きついた。これから先はみんなに希望を見せるプロとして戦っていくものだと疑いはしなかった。

 

 しかし、そう幸運が続くわけもなかった。

 

 ある日の試合のことだ。

 

 ライディングデュエル中に俺の相手だった選手のDホイールが故障し、爆発事故を起こしてしまった。出場した選手は怪我、ライディングデュエルの危険を世に広める大問題となった。

 

 俺は相手の選手を引っ張り出し、そして必死に助けた。それでも、片足を失い、ライディングデュエルはもはやできない体となったのだ。

 

 原因は明らかだった。何度も星矢の修理を見ていれば、素人でも分かるメンテナンスミス。その時のエンジニアは不憫なことに、さっさと出せというスポンサーに移行に「

 

 ――数日がたった後、俺は目を疑う記事を映像ニュースで見た。

 

 

『悪魔の所業 遊介選手、Dホイールへの細工。勝利を掴むため、最悪の行動に出た男』

 

 

 当然身に覚えはない。そもそも俺はDホイールを細工して、爆発転倒させるような機械いじりの技術も持ち合わせていない。

 

 これは相手プロのスポンサーになっていた貴族の陰謀だったの知るのはすべてが終わった後だった。エンジニアを脅迫し、わざわざ自分の選手を犠牲にしてまで、俺の名声を破壊したかったそうだ。

 

 事実無根の記事は瞬く間に拡散し、さらに巧妙にできた合成画像や、買収された証言者まで用意する狡猾さ。報道はこれを機に徹底的に俺を追い込むことで、会社の利益に繋げようと奮闘し、報道に踊らされる市民によって、いつしか俺は、悪魔のデュエリスト呼ばわり。

 

 それでも、アーロンや星矢やユーゴは俺の無実を主張し、それを証明しようとしたが、世間はそれを許さなかった。いつしか俺はあらゆる大会に出場することができなくなり、最後にはプロの引退宣言を迫られる始末だった。

 

 これ以上、迷惑はかけられないと、俺は瑠偉や瑠奈に黙って家を出て、誰にも言わず故郷に戻った。いや、まだあきらめたわけではない。ほとぼりが冷めればワンチャンあると思い、今は身を隠すことにしたのだ。

 

 しかし、その貴族の俺に対する怒り――もっとも、田舎あがりが生意気な顔をするのが許せないという身勝手な理由だったが――は凄まじかったらしく、俺は故郷に戻ったときに奴が残したとどめを身をもって体感した。

 

 

 彩が――売られたという。

 

 

俺がプロになったのは彼女に格好いいところを見せたかったからだ。そしてその彼女がいなくなった。この意味は非常に大きかった。それ以来俺はあらゆる行為に意味を見出せなくなった。

 

そして堕落した俺を見られたくはなかったから、俺は故郷からも逃げた。誰にも見られないように身を隠し、独学で、闇のデュエルと呼ばれる儀式を勉強した。

 

 使う相手はただ1人。俺をここまで陥れた貴族を殺すため。

 

 

 イリアステルが攻めてきた日を俺はしっかりと覚えている。

 

 奴らは強かった。

 

 信じられないくらいに強かった。

 

 でも、俺達だって負けてはいなかった。

 

 白い悪魔、何するものぞ。俺達には希望があったのだ。200年前、ダークシグナーから世界を救った赤き竜、その末裔たちがネオドミノシティに偶然――否、運命によって集まり、再び赤き龍の力と眷属たる6体の神龍を携えて戦ってくれた。

 

 セカンドオーダーなどと、バカみたいなルール破りの効果ばかりを持つカードを使う相手に、新たなシグナ―と、その仲間も一歩も引けを取らずに戦っていた。

 

 それは俺の故郷、この世界では分かりやすいようにシンクロ世界と言ってしまっているが、そのシンクロ世界に伝わる伝説のシグナ―たちに引けを取らなかったのではないだろうか。

 

 一方俺個人としては情けなかった。本当は俺も、デュエルを悪用してシンクロ世界のために戦わなければいけなかったのだ。しかし、その頃の俺には、イリアステル等どうでも良かった。この混乱を利用して、俺は復讐を果たし、死んでいけばいい。

 

 しかし、その最期の願いを叶える前に、燃える街の中をさまよっているところで、俺は奴に会ったのだ。

 

 アルター。この世界を襲撃した首謀者だった。

 

「何のようだ」

 

「差別が横行し、努力を踏みにじり、俺を裏切り、すべてを奪ったこの世界、そしてに生きる人々、それらは、生きる価値などない愚廃極まった世界だ。お前のその願望をかなえてやろうと思ってな」

 

「俺はそんなことは欠片も思っていない」

 

「自覚していないだけだ。お前は闇に手を染めた。行き場のない刃は復讐を終えても収まることはない。その証拠に、お前はこの世界を看過している」

 

「それは」

 

「それは、この世界をお前は守るべき世界と見ていないからさ。世界が滅べば自分も死ぬ。残るのは人々の死体と、夢も希望もない世界。そんな未来が待っているのなら、たとえ生粋の悪人だって不安ぐらいは持つさ。だがお前はそれを持っていない」

 

 事実だ。俺は欠片も加勢をしようとは考えなかった。俺を助けてくれたシグナ―のみんなが命を賭けて戦っているのに。

 

 俺はなんて屑野郎だ。

 

「あ。あああああ」

 

「だが心配することはない」

 

 アルターはデュエルディスクを置いていく。

 

「なんだ、これ」

 

「君にチャンスをあげよう、あらゆる願いを叶えるチャンスを。覚悟が決まったら来ると言い。新たな世界で、君が失ったすべてを取り戻すための戦いができる」

 

「まさか。そんなこと」

 

「彩ちゃんを、取り戻したくはないのか?」

 

「……それは」

 

 明らかに何かを企んで、俺はそれに利用されようとしている。それくらいは分かる。

 

 しかし、彩が生き返るというのなら、迷いはしない。復讐をしても、大して満足しないのなら。俺は、夢物語を追い続けている方が性に合いそうだと思った。

 

「俺は……」

 

「一度行ったら二度と戻れない。その世界は闇のデュエルが当たり前の命がけの世界だ。ヌメロンコードを求めて人々が戦う世界だ。それでも行くか?」

 

 次の瞬間には、アルターはそこにいなかった。

 

 彩が生き返る? 彩が生き返る!

 

 

 たとえ嘘でも構わなかった。たとえ、その先で死んでも構わなかった。

 

夢がかなうときの心の躍動を俺は知っている。生きる意味の必要性を俺は知っている。

 

俺に迷う理由はなかった。

 

 行けるようになるのは、シンクロ世界が滅んだ後だと書いてあった。だから俺は、滅ぶのを待った。どれほどの犠牲が出ようと、見て見ぬふりをしながら、来る俺のための戦いに備えた。

 

 

 

「……ドン引きだな」

 

「だろ? でも聞きたいって言ったのはお前だからな」

 

「なるほど、お前が過激派ばかりの解放軍にいる理由が分かった気がする」

 

「だろ? 俺もまあ、善い人間ではないってことだ」

 

 その日、俺は、松とアゼルとともに、水の世界の工場跡を目指していた。水の世界の工場近くで、解放軍の各地を統べる幹部と合流する予定であり、その後、工場跡へと赴く予定になっている。

 

 その世界ではエリアマスターの権限で徒歩と公共交通以外の移動を禁止されているため、ある程度は徒歩で移動しなければならないのだ。足は忙しいにしろ、口は暇なので、談笑をしながら、集合場所に向かっている。

 

 彼が過去を語ることになったのは、以前、良助が黒歴史としてアルターに惨敗した話を聞いた代わりに、俺も黒歴史を言えと言われたからだ。

 

 しかし俺の歴史ははっきりガチの黒歴史だ。良助が眉間にしわを寄せているのも無理はない。語ろうと思えばもっとエグい話もできたのだが、これ以上は俺も心穏やかではいられなくなるのでやめることにする。

 

「珍しいな」

 

「アゼル君、なんだね」

 

「お前、今まで過去を語りたがらなかったのに、今はそんな悠々と語って」

 

「ああ、それな、たまたまだ……って言いたいけど実はそうじゃない」

 

「何か理由が?」

 

「単なる個人的な事情だ。アゼルはこの後のエデンとの交渉を頑張ってくれればいい」

 

「……釈然としないが、まあ、そうだな」

 

 アゼルも普段は納得はしないような男なのだが、今回は緊張しているようで、俺の言うことを素直に聞いてくれた。それは、それだけエデンという組織の恐ろしさを感じ取っているということだ。

 

 エデンとの会談は、向こうから持ち掛けられている。リーダーのリボルバーを名乗る奴が直接手紙を送ってきたのだ。わざわざ、部下に各地のアジトの受付に律儀に直筆で。何より恐ろしいのは、カモフラージュしてあるはずの、アジトの場所を向こうがすべて知っているという点だ。

 

 それに関してはすぐに、向こう側に聞けば決着はつくだろう。隠しアジトとはいえ、人が出入りすればさすがに予想はつくのかもしれない。

 

 俺が不安を感じているのはそこではない。アゼルには今余計な心配はかけたくないので言わないが、良助には言っておきたいと思う。

 

「良助、エデンにも遊介ってやつがいるらしい」

 

「ああ、知っている」

 

「俺はさ、気になってるんだ。向こうの遊介はお前の求める本物なのか、それとも別の世界の俺なのか」

 

「さあな。それで?」

 

「おいおい、気になるじゃねえか。向こうの遊介はなんでそんな組織にいるのかってさ」

 

「そうか? たまたまだろう」

 

「エデンだって言ってしまえば過激派だ。このデュエルで死ぬなんて馬鹿げた世界から逃げたい奴だってこの世界の人口の半分はいる。あいつらが掲げているのは、そんな半数に真っ向から反抗する、『この世界の永続』を理念にしている」

 

「ああ、知ってる。エデンの遊介は、なんと言うか、過激なんだろ?」

 

「リボルバーが組織の陽なら、奴は陰だ。目的の遂行のために、暗殺も謀略もなんでもやる。俺と同じで、奴も何か闇がある。警戒するに越したことはないだろ?」

 

「だからって今から考えても仕方ないんじゃね?」

 

 それはそうか。と、俺は良助の言いぶりに賛成してしまった。

 

 確かに、今から警戒しても仕方ない。まだ会ったこともないしどうしようもないだろう。

 

「もうすぐ集合場所だ」

 

 アゼルの指示もあり、俺はこの話を終了させた。

 

 

 

 解放軍の幹部は、エリアごとのリーダー、そして俺と良助、アゼルの9人である。それ以外は一般兵とでも言っておこう。

 

 そして頼もしいのは、その6人のうち3人は、イリアステルとの戦争を経験している実力者だ。良助が会うのは初めてだろう。

 

 一人目は融合世界出身の万丈目準。

 

「こいつが、遊介が言っていた良助とかいう……」

 

「サンダー……?」

 

「俺をサンダーだと? お前、ふざけてるのか?」

 

「何……サンダーじゃない……?」

 

「貴様……ふざけているようだな」

 

 良助が出合い頭に何かを言っているが、俺にはよくわからない。サンダーなんて、真面目をキャラの彼には似つかわしくないだろう。使うデッキはドラゴン族主体、エースモンスターは光と闇の龍。エースこそ融合ではないが、彼の実力は解放軍中でもトップだ。

 

 ちなみに解放軍のリーダーのまっちゃんというのは彼のプレイヤーネームだ。なんでも、自分の情報を可能な限り隠すことにメリットがありそうだと思ったとか、誰かに唆されたとからしい。そしてそのふざけたネームを見たアゼルは、自分ではなく、彼をデータ上のリーダーにして、実際のリーダーであるアゼルは、名前すら公になることはなく軍の運営をできる。これについては、リーダーを討伐されるというリスクが大幅に減る。

 

 2人目、エクシーズ世界からやってきたトーマス・アークライト。水の世界の裏デュエル上で猛威を振るっているところをアゼルがスカウトした。

 

「遊介、いつになったら俺のファンサービスを受けに来るんだ。最近は雑魚狩りばかりで、飽き飽きしているんだぞ。そのうちお前らに喧嘩を売りに行くぞ」

 

「まあまあ、俺達は競争関係であり協力関係。イリアステルを潰すっていう目的は一致してるんだ。お互いに利用し合う関係として、これからも仲良く」

 

「くだらねえ。お前らは一番にイリアステルに戦いを仕掛けるっていう話だからそれに乗るっていう条件だ。あまりダラダラしてると俺もキレそうになる」

 

「……ミハエルは見つかったのか?」

 

「いや、アイツ、どこに居やがるんだ。ったく、復讐は2人でって言ったのはあいつなのによ」

 

「いやあ、弟を待つなんて、優しいお兄ちゃん――」

 

 すごい怖い顔で睨まれた。怖い。

 

そしてイリアステルとの戦争経験者三人衆、最後の1人が、ペンデュラム世界からやってきたという、沢渡という男。

 

「アゼル、とうとう俺に頼るとは、いい判断だぜ?」

 

「まあな。ランサーズの特使だと自信満々に言ってくれたんだ。実際期待してるぜ?」

 なんでも奴はランサーズというイリアステルを倒す軍団として各世界を旅してきたとかなんとか。

 

「任せとけ、この俺様がいればな。その代わり、分かってるよな?」

 

「ああ、しっかり働いてくれたら、解放軍とランサーズの同盟も考えてやってもいいぞ?」

 

「オーケー、お助けキャラの力を見せてやる」

 

 頼もしい味方を呼べて解放軍も勢いづいている。その他3人の幹部は先に偵察に行ったという話だ。解放軍の実質リーダーであるアゼルの言うことくらい聞いてほしいが、解放軍は元より馬鹿で血の気の多い集団なので仕方がないといえば仕方がないといえる。

 

 これほどの戦力が揃えば、エデンと万が一のことがあっても、簡単に全滅ということはないだろう。

 

「さて、それじゃあ、行こう。エデンのリボルバー様がお待ちだ」

 

 アゼルの号令で、この場に集まった人間は、彼について行く。

 

 しかし、不思議なものだ。この場にいる人間は、普段アゼルの言うことは聞かないようなやつばかりなのに、全員来るとは。

 

 もしかすると、エデンに彼らも何か因縁があるのだろうか。

 

 この場で分かるはずもなかったが、何か不穏な気配を俺は感じ始めた。

 

(後編へ続く)




お待たせしました。
非常に遅くなりましたが、番外編4です。

遅くなった理由としては、今回は物語の構成の見直しをしていたらいつの間にか、という感じです。その分、面白くしていくつもりなのでお許しください。

後編もすでに執筆は終わっているので、見直しが終わり次第すぐに投稿します。
お楽しみに!


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番外編4 二度と戻れない道 後編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

番外編4後編です。

これから始まる予定のシーズン2の行く末が決まる話になっています。
お楽しみください!


 水の世界のとある工場跡、そこでリンクブレインズの世界における巨大組織2つのリーダー格による会談が行われようとしていた。

 

 主な内容としては、水の世界で以前行われた解放軍によるエデンメンバーへの集団襲撃。その時のエデンのメンバーは戦闘員を護衛で1人つけただけの食材買い出し組だったのに対し、解放軍メンバーは全員が戦闘員と言っていい。結果は見え透いており、エデンのメンバーは全滅。この知らせを聞いたエデンのリーダー、リボルバーは怒り狂い、解放軍に釈明を求めた。

 

 リンクブレインズに本来は戦闘員、非戦闘員の境はない。故に解放軍が責められる所以はない。なので本体は無視しても問題ないと判断できるのだが、解放軍にはそうもいかない理由がった。

 

 以前のイベントで解放軍とエデンは1位を競い合う中で戦った。結果解放軍は押し負け、エデンに1位を譲ることになったのだが、その後アゼルはエデンの研究を進めるうちに、恐ろしいことに気づく。

 

 エデンは実際戦っている人数は100人に満たない、そしてその他は非戦闘員、つまりただエデンの領地で暮らしているだけの市民ということだった。解放軍1000人近くに彼らはたった100未満で勝利して見せたのだ。予測ではその100人は一人一人が解放軍の幹部に匹敵する可能性も否めないと予測された。

 

 つまり解放軍は、今のままではエデンとの全面戦争になったときに、敗北する可能性は否めないのだ。そして今回の会談を設定したエデンは、解放軍が来なかった場合、自動的に全面戦争を仕掛けるという脅迫をしてきたのだ。

 

 アゼルはいずれはエデンも倒すことを考えているが、今はまだ勝算もたてられていないという状況で戦うことはいけないということで、今回の会談では多少の犠牲を払ってでも戦争だけは避けたいと思っているところだった。

 

 しかし、会談の会場に工場跡を選んだ理由を考えて、アゼルは少し恐れを覚えていた。

 

 

 

 工場跡ではあるものの、中には何もない。ただ広い灰色の空間が広がるのみ。そして、入り口から奥、そこにエデンの使者と思われる3人が立っている。

 

 一方アゼルの後ろには解放軍8人。数だけ見ればだまし討ちということはないと判断しアゼルはリーダー格と思われるサングラスをつけた少女に話かける。

 

「俺は解放軍のリーダー、アゼルだ。そちらのリーダーと話がしたい。

 

 アゼルの見掛け通り、そのサングラスをかけた少女こそが、エデンのリーダー、リボルバーだった。

 

「本日は会談に応じていただき感謝致します、アゼル殿。本来であれば前置きとして優雅に夕食を共にしながらというのが礼儀ですが、今回はこちらもそのような礼を尽くす余裕がないことをお許しください」

 

 リボルバーが一歩前に出た。

 

 サングラスを外すまでもなく、声を聴いて反応を示したのが2人、良助とシンクロの遊介だった。

 

「彩……」

 

「あれは俺らの世界の彩だ。手出すなよ? 殺されるぞ?」

 

「ああ、出しはしないけど。驚いたな、本当にそっくりなんだなぁ」

 

 リボルバーこと彩も、解放軍の中に、遊介によく似た奴と良助がいるのに気が付いたが、状況もあり、さすがにすぐには声を掛けない。

 

「私たちの要求は分かっていますか?」

 

「ああ、手紙を拝見させてもらった。今回はあなた方に我が解放軍の一員が凶行に及んだ事、委細承知したうえでここまで来た。まことに申し訳ないと思っている。これについて、このようなことが起こった原因を、解放軍のシステムと照らし合わせながら説明したい」

 

「その必要はありません」

 

 リボルバーの隣にいる秘書が一礼をして話し始めた。

 

「チームエデン、三波と申します。すでに事の調査はこちらで済ませています。解放軍は基本的に4000のデュエルポイントを稼ぐことをノルマとしており、それ以外は自由に各々のすべきことをさせるという最低限の管理による放任主義の組織であり、今回の事件も、水の世界に来た構成員が独断で行ったことであり、止める理由と、抑止力がなかった。と我々は結論付けました」

 

「いかがでしょう?」

 

 リボルバーの問いにアゼルは反論する余地はなかった。

 

「確かに、間違いはない」

 

「そうですか。では、これに対する解放軍の考えをお聞かせいただきたいです」

 

 アゼルは一瞬迷ったが、すぐに口を開いた。

 

「結論から言うと、我々のチームスタイルでは起こりうることであり、今回の事件は確かに人道に背くことを認めるが、それでも我々に非は少ないと断言できる。もとより、リンクブレインズに非戦闘員という概念はなく、外出とはそれこそ命を落とすリスクを許容することであることは明らかだ。今回の事件の謝罪とは別に、今後も解放軍はこのスタイルを崩すことは考えられない」

 

「考えられない……ですか」

 

「呆れてもらって結構。しかし我々にも理念がある。結局解放軍とは、イリアステルを倒し、この世界を終わらせるという一点のみで協力関係にあるだけの集まりだ。リーダーである俺の命令にも絶対に従わなければならないという規則はつけていない。各々がイリアステルに迫り、そして妥当するための最善の行動をする。そのために時には協力し、時に競い合う。我々はそれこそが、イリアステル打倒への最善の道だと考えているからだ」

 

「反省はしないと?」

 

「いや、今回のようにあなた方のようなイリアステル打倒を協力できるかもしれない組織とことを荒立てるつもりはない。あなた方の要求する慰謝料は必ずお支払いし、今後はあなた方と、事を荒立てないために、あなた方の我々に対する要求はすべて飲むつもりだ。非戦闘員に今後、デュエルを挑まないことは団員に徹底させる」

 

「団員に言うことを聞かせる権力もないリーダーがですか?」

 

「それは、そうだな。だが、可能な限り俺は努力をする。守れない団員はそちらの手で処分してくれても構わない。情けないが、解放軍のシステム的に、俺は努力義務という形でしかあなた方との盟約には答えられない。おそらく最大2割の人間は従わないだろう。だが、どうかこれで妥協いただけないだろうか?」

 

「……分かりました。では今度はこちらの考えも申したいと思います」

 

 リボルバーは、一度深呼吸をして、そして語りだす」

 

「今回の事件は、解放軍とエデンの相性の悪さが決定的に明らかになった結果だと思われます。我々エデンの戦闘員は、候補生入れても現在170名。それに対し、我々が保護し、非戦闘員は1000人を超えます。当然彼らにも行動の自由が保障されるべきであり、安全保障のため完全解放とは言えなくとも、外出をすることを禁止することはできません」

 

 隣でエデンの幹部である、リゼッタがディスクを操作する。

 

 その後すぐに、この場に来た解放軍の全員に、今回の会談のために用意したと思われるデータが送られてきた。

 

「しかし、そこで解放軍であるあなた方の襲撃を受けてしまうのでは、保護もなにもないんですよ。今回のように戦闘員でない人たちが殺される。我々としては今回犠牲になった数名の為にも再発防止をしなければいけません」

 

「それは、その通りだな」

 

「以前から注意をしていましたが今回の事件を経て確信しました。解放軍のそのシステムを私たちは許すことができません。仮に、一度は最速でアーククレイドルに迫ったという、実績があったとしても。それは戦えない人々の犠牲を軽く見て、蔑ろにしてまで、打倒を求めるものではないと考えます」

 

「なるほど……しかし、イリアステルを倒さない限り、真に死なない世界は訪れないと思うが?」

 

「だとしても、誰かを犠牲にしてまで、デュエルポイントを稼ぐ必要はない。運営を名乗るイリアステルは、現在もデュエルポイントを稼ぐ手段として、週1回のイベントを用意しています。それを積み重ねれば、いずれは、500000ポイントの獲得、そしてアーククレイドルへの道を拓く第1階層最後のデュエルに挑むことも可能になる。故に、あなた方が犠牲を生み出す必要はあまりありません」

 

「日を追うだけでも、犠牲は増える。我々が仮に動かなくても」

 

「数は少ない方がいいという考え方は一般的だと思いますが?」

 

 だめだ、と、解放軍の全員が考えたのはこの瞬間だった。

 

「良助、お前のところの彩、なかなか肝が座ってるな」

 

 シンクロの遊介の声に良助は頷く。良助も知っているが、彩は一度決めたらてこでも態度を変えない女だ。

 

 彩の考えは解放軍と全く異なる。エデンの理念はこの世界の永続。それはつまりこの世界を終わらせないことだ。

 

 しかし、この世界の永続とイリアステルとの戦いは別だ。イリアステルはこちらが拒絶しても向こうからやってくる災害のような存在に近い。この世界で死なないためにはいずれはイリアステルを倒すことも考えなければならない。

 

 エデンは、そのイリアステルとの戦いに対するスタンスを、いずれ機が来る時まで備えて戦うというスタイルだ。解放軍の、最速で積極的に潰しに行くというスタイルとはわけが違う。機会が来るまでは、徹底的に命を救い守ることを優先するというのだ。

 

 どちらも考え方は間違っていない。解放軍は最初こそ犠牲を多く出すが、短時間での決戦で済む分、戦いの後の命が保障される。対してエデンは、可能な限り犠牲は少なくし、備えるだけ備えてから戦う。それも戦いまで、そして戦いの最中の犠牲も少なく済む。どちらがより犠牲が少ないかなど、終わった後でなければ分からないので、間違いかどうかが分かるはずもない。

 

 アゼルもこの決定的な意識の差を感じた。しかし、それにはあまり恐ろしさを感じなかった。アゼルが恐れたのはこの後だ。

 

 そしてそれは現実になってしまう。

 

「私は、解放軍をエデンの敵とみなしました。よって、私たちは解放軍との和解をするつもりはありません。ですが、解放軍の皆さんには2つの選択肢を与えましょう」

 

 急に、リボルバーの声が冷たくなったように思えた。

 

「1つ目。解放軍の解散、そして幹部の皆さんには我々エデンに入っていただきます。それが飲めないというのなら2つ目」

 

 リボルバーのこの言葉を待っていたかのように、倉庫の入り口に、エデンのメンバーが現れた。

 

「私たちに倒されるか。です」

 

 入り口には戦闘部隊、そしてその一番前に、エクシーズ世界の遊介が立っていた。

 

「悪いがあんたら幹部はここから生きては返さない。俺と、直属の部下でおもてなしだ」

 

 アゼルは急いで他の解放軍に連絡を取った。

 

 しかし、その基地からも流れてくるのは、解放軍のメンバーの悲鳴ばかり。たまに断末魔も入っている。

 

「うちらの姫も悪い女だ。まさか、まさか、全面戦争なんてなぁ。俺としては昂るけど」

 

 嵌められた。もとより、エデンは和解をする気などなかったのだ。待ち受けているのは戦争という結末ただ一つ。すぐには向こうも全面戦争を仕掛けないだろうという考えが甘かった。と、アゼルは思わざるを得なかった。

 

「おいおいおいおい、アゼル! こりゃヤバいんじゃねえか?」

 

 沢渡が言う必要もない現状確認をした。しかし、そんなに焦ってはいない。

 

 一方で心穏やかではいられない人間が解放軍にも2人いた。

 

「お前、俺らの世界の遊介だな?」

 

「トーマス! 会いたかったぜ、友よ」

 

「フ……俺も会いたかったぞ遊介。エデンにいるお前と確実に戦うチャンスが来るこの時を、俺は待ってたんだ」

 

「へえ、俺と」

 

「お前がエデンにいることは伝手で聞いている。お前とこうして相対するために、窮屈な敵対組織に身を置いた。だがこれでお前を仕留めれば、俺もようやく自由になれる。イリアステル潰しに専念できるってもんだ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、恐ろしい殺気を持って、エクシーズの遊介を見るトーマス。その理由はすぐに判明する。

 

「あの時は悪かったよ。俺が隠れ家を密告したんだっけか。イリアステルに。いやあ、おかげで俺は命乞い成功だ。アルターに出会ってもう死んだと思ったけど、命乞いはしてみるもんだなって思った。でも後で聞いたよ。そこには、クリスさんがいたんだよな。本当に悪いと思ってるんだぜ」

 

 にこにこと語るエクシーズの遊介を見て、トーマスの怒りは最高潮に。

 

「四の五の言わず構えろ。お前は俺がファンサービスで地獄に送ってやる。その運命に変わりはねえ」

 

「そう怖い顔すんなよ。お前が怒るのは仕方ないことくらい分かってる。けど、今は生き残って無様に逃げることを提案するぜ? 命は大切に……な?」

 

「俺はお前へのファンサービスで頭がいっぱいなんだ。気にするな?」

 

「はははははは! やっぱそうなるよなぁ。やっぱそうじゃなくちゃあな。安心しろ、俺は逃げも隠れもしない。だが、以前の俺じゃあないことも覚悟しておけよ?」

 

 さらに万丈目は、目の前に見えた自分の知り合いに

 

「丸藤亮」

 

「万丈目準。生きていたとは」

 

「簡単には死なんさ。俺はアゼルと再起を図っているだけだ。それに、鮫島理事長がいなくなって以来行方が知れなかったお前には言われなくないな」

 

「お前はそちら側か」

 

「俺は意外だ。お前が誰かの下につき戦っているなど」

 

「自分でもそう思っている。だが、この道は間違いではなかった、とも思っている」

 

「お前にそう思わせるだけの何かが、エデンにはあったと?」

 

「そうだ」

 

「……あいつの言葉を借りるつもりはないが、お前も一目おいた『奴』なら言うぞ。なんで翔の想いを継いでくれないんだってな」

 

「……そうか」

 

「ここまで言っても、何も言い返さないとは、腑抜けたな。カイザー。見るに堪えん。オベリスクの恥はここで始末してやりたくなった」

 

「勇んでいるところ悪いが俺は戦えない。ここにいる代わりで我慢しろ」

 

「逃げるのかカイザー!」

 

「好きに言え、今の俺には戦う必要のない相手と戦うほど、『余裕』はない」

 

 解放軍の幹部9人で、この場に集まったエデン50人近くと戦うのは無茶だ。

 

 アゼルにはそれが分かっているが、それを止めるすべを、アゼルは持っていない。命乞いをしてでもとめるべきだとも思ったが、それもこの状況では止めようがない。

 

 もはや自分たちの生存は絶望的だ。

 

 そう考えたアゼルは、覚悟を決めた。

 

「リボルバー! デュエルだ! 俺と、8000のライフを賭けろ!」

 

 その宣言を聞き捨てることは、彼女の秘書である2人にはできず前に出る。しかし、リボルバーはそれを制止して、

 

「せっかくのリーダーのお誘いだもの、私も少し遊んでいくわ」

 

 とディスクを構えた。

 

「リーダーさん。私も命がけだもの、憂いをなくすためにもそこの良助と話をしたいのだけど。お許しくださる?」

 

 アゼルは警戒をしつつも、

 

「もちろん、その間は戦いを始めるなんて野暮なことはしませんわ」

 

 という言葉を聞き、良助に会話をバトンタッチした。

 

 良助は現実世界でもいつもやっているように彩に手を振り、彩はそれをいつものように返す。

 

「なんか久しぶりって感じね」

 

「ああ」

 

「良助、解放軍にいたんだ」

 

「ちょっとした縁があってな。そっちこそ、まさか巨大組織のリーダーとは驚いた」

 

「すごいでしょ。私が実力と運でつかんだ財産よ」

 

「ったく、お前は本当に。付き合ってて飽きない人間だぜ」

 

「すごいでしょ、もっと褒めていいのよ」

 

「ああ、今回ばかりは脱帽だ」

 

 2人はいつものように笑いながら、話を続ける。

 

「ねえ、良助。あなたも今からエデンに来てほしいんだけど?」

 

「強欲だなぁ。お前、まるでほしいカードよこせ見たいなノリだぞ?」

 

「ええ、結構真剣にお願いしてるんだけどなぁ……」

 

「そうか、悪い悪い」

 

 シンクロの遊介とアゼルは、良助が裏切ることを危惧する。そうなった場合、どう動くべきかを考える。

 

 しかし、本人はあっさりと、

 

「すまん。俺には無理だわ」

 

 と、断ったのだ。これには、彩ももちろん、この場の解放軍も驚いた。良助には、確かにエデンに寝返る理由もないが、逆に、解放軍に絶対に居なければいけないという理由もないはずだと、周りの人間は思ってた。

 

「なんで? 何か恩でもあるの? それとも、脅迫されてるの? あなただって解放軍のやり方は間違ってるって思ってるんでしょ?」

 

「まあな。正しいっていうにはちょっとやることも過激だ」

 

「薫ちゃんだって、解放軍に殺されかけた。そっちが最悪な組織なのは明白よ!」

 

「そうなのか。それは妹ちゃんに悪いことしたな」

 

「だったら!」

 

「まあ、聞けよ」

 

 良助のその答えに迷いはなかった。一字一句つまらないのは、この世界で良助が得た答えであることを示している。

 

「エデンはいい奴らだ。それは俺も分かる。命は大切だ。戦えない人を保護して、必死に守りながらも明日を目指しているお前らは確かに正しい。けど、それじゃあ、全然足りない。俺はお前らの知らないところで死んでいく奴らを見た。この世界のルールのせいで、イリアステルのさじ加減で、まるで玩具のように弄ばれて、死んでいく奴らだ」

 

 良助はディスクを構える。それは戦いの合図。

 

「お前はお前で正しい。けど俺はそういう奴らを知ってるから、そういう、被害者を少なくするために、いち早くイリアステルを倒すべきだと思っている。ということは俺は解放軍の味方だ。俺だって、何人もこの手で殺してきた。もう、お前らと一緒に居るべきじゃあないくらいに」

 

「でも!」

 

「ごめん。俺は最後までこっちにつく。俺は俺の正義を持つ。俺がその方が格好いいと思う方を選ぶ。まあ、もうそんなこと言えないかもしれないけどな」

 

「……格好いいとか、遊介じゃないんだから……」

 

「悪いな。それに、いつかお前が万が一間違った道に行き始めたら、それを止めるには、俺はそっちにいない方がいいだろ」

 

「私が間違えるとでも?」

 

「お前、思い込み激しいし、頑固だし。言うこと聞かなくなったときは、それを止めてやるのは、俺の仕事だ。ほら、向こうでもそうだっただろ? お前は暴走、遊介は中立、そして俺は、お前へのツッコミ担当だ」

 

 彩の顔が曇った。

 

 今の宣言は、良助が完全に敵対するということを示している。

 

 彩もさすがに現実世界で友達だった良助と敵対することは考えていなかった。だから想定外の敵対者が生まれたことを、本当に残念に思ったのだ。

 

「リボルバー様……」

 

「大丈夫。大丈夫だよ」

 

 良助は申し訳なさと裏切った罪悪感を若干抱えつつも、

 

「いいのか?」

 

 シンクロの遊介の問いに、

 

「ああ。俺はこれでいい」

 

 と、しっかり返答する。

 

 リボルバーの落ち込みタイムは終了した。

 

「もう知らないんだから。三波、リゼッタ、幹部と戦うわよ。解放軍はここで殲滅する」

 

 ここからは無慈悲なエデンのリーダーとして、解放軍の敵としての指示を始めた。

 

「手始めに、あの偽者遊介を倒しましょう。見ててムカつくから」

 

 リボルバーの無慈悲な選択がシンクロ遊介を襲う。

 

「え……おれぇ⁉」

 

「残念だったな、俺は先に逃げるぞ」

 

「良助、手伝えよ!」

 

「こんなところで死んでやるつもりはない。俺は出口確保組に加勢するからさ」

 

「おおーい!」

 

 そして、アゼルはリボルバーの前に立った。

 

「さて、戦争を仕掛けた以上、こちらも容赦はしない」

 

「ええ。エデンと解放軍。今後の命運をかけた戦いになるでしょう」

 

 解放軍とエデンと戦争の火ぶたが切られた瞬間となった。

 

 

 

 この倉庫での戦いは、解放軍の幹部が3人死亡、エデンの戦闘員が15人死亡し、幕引きを見せた。しかし、それは解放軍とエデンの全面戦争の始まりに過ぎなかった。各地の解放軍のアジトは壊滅し、エデンが占領下においた。解放軍はこの未曾有の危機に、遂に団結を始めエデンへの逆襲を始めていく計画を立てている。解放軍の残りの幹部は、あの戦力差の中を奇跡的生き残り無様に敗走。残った兵力を一か所に集め、身を隠し、力を蓄えることになった。

 

 しかしエデンは情け容赦なく追撃を入れるため、その行方を必死に追っている。見つかるのも時間の問題であり、新たな戦いが始まる時期も近い。

 

 二大組織の全面戦争の事実は瞬く間にリンクブレインズに響き渡り、この戦争の開始を見たイリアステルの介入――賭けデュエルができない安産地帯でも、賭けデュエルを強制できるレアアイテム『ルールブレイカー』を、イベントでさらに1000個配布した――により、やがてリンクブレインズ全土が、血で血を洗う大戦争へと発展していくことになる。

 

 この世界で安心できる地域はどんどんと減っていく。そして、命懸けのデュエルをする必要のない安全地帯にも、その戦いの影響は伸びていく、残された安全地帯の奪い合いを始まることになった。

 

 当然、シンクロでもエクシーズでもない、本物の遊介が手に入れた光の世界もまた例外ではない。

 

 一応は平穏を手に入れた、光の世界のチーム『players』にも、徐々に、戦いの足音は近づいてきていた。

 




アゼルと彩のデュエルは、泣く泣くカットしました。
本当はデュエルを書いても良かったのですが、番外編と言うこともあり、そんなに長く1つの話を書くのもどうか、と判断した結果です。

もちろん内容は考えているので、見てみたいという声が聞こえたら、後ほど時間ができた時に書き残したいと思います。

案外編は元々、物語進めるにあたっての今後の基盤を作る目的もありました。
そしてそれは一応、ここまでで達成され、これでシーズン2を憂いなく始められそうです。が、もうちょっとだけ、番外編にお付き合いください。

最後の番外編は、前後編に湧けず1話でやります。
ここまでは物騒な話が多かったので、次の番外編は日常感マックスで書きたいと思っています。たまには、そういう話も書きたいという、作者の願望です。

なのでデュエルは次回もお休みです。シーズン2の最初の話までお待ちください。


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番外編5 ブルームガールの秘めた思い

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

たいそうなタイトルですが、内容はただ女子二人が話しているだけです。女子会です。
むしろタイトル詐欺と思われる可能性もあるかもです。

番外編最後の話、クライマックス感は全くないのんびりした話なので、そのつもりでお楽しみいただければと思います。


 光の世界はリンクブレインズの中でも唯一、全域にわたって、賭けデュエルが禁止されているエリアになっている。

 

 そこに拠点を置いているのは『players』という小さなデュエルチームだった。エリアマスターが倒され、新たなエリアマスターの座をかけて、サイバース使いとフォトン使いのデュエリストの戦いが起こった。そしてそこでサイバース使いのデュエリストが勝利し、新たなエリアマスターが今の光の世界の平和をつくった。

 

 この知らせはイリアステルの公式放送により放映され、安全となった光の世界には、デュエルを苦手とするデュエリストやそもそもデュエルができないままでこの世界に迷い込んだ人間が、自らの安全のために逃げ込んできた。

 

 彼らは、光の世界への保護を求める代わりに、今までは大人の原住民が行っていた原住民の仕事を代わりに務めることを求められそれに従って慎ましく生きている。

 

 しかし、不安要素も多い。

 

 現在のエリアマスターこと、守屋遊介は行方不明である。各地で同じ顔が観測されているがそれらは偽物。というより別の世界からやってきた同一人物だ。結局、本物の遊介は結局行方不明なのである。

 

 そんな中でさらに厄介なことに、賭けデュエルをあらゆるルールを無視して行うことができる『ルールブレイカー』の配布により、光の世界に来た戦いが不得手な住民に不当な賭けデュエルを仕掛け、デュエルポイントを稼ぐ不法者も現れ始めている。

 

『players』のデュエリストはそんな無法者を相手にデュエルで戦い、拘束、追い返し、悪質な相手には排除という過激な手段をとって、光の世界の安全を守るための慈善活動を行っている。

 

 それもすべて光の世界を拠点にしている『players』のデュエリストとして、エリアマスターが無事帰還するまで、拠点を守ろうという心意気と、そもそもチームメンバーの心が善良なので、いらない被害者が出るのを見過ごせない、という気持ちもあって行動だった。

 

 しかし、不法者の数も多くなってきているのが問題になっている。何しろ『players』のデュエリストの数は、3度のチームイベント戦で上位を占めている割にはその数が少ない。

 

 エリアマスターの守屋遊介。ただし現在行方不明。

 

 トリックスター使いのブルームガール。

 

 毎回使うカードが変わり、デッキの正体のつかめないマイケル。

 

 幻影騎士団を使う実力者ユート。

 

 そしてそのパートナーで、鳥獣族を使う瑠璃。

 

 そして普段は一緒に行動をしていないものの、メンバーとして登録されているヴィクター。

 

 そしてメンバーとしてまともに機能するのは現在、遊介とヴィクターを除いて4人。それに対して、無法者は1日20人以上確認されている。それをたった4人で処理して回っているので、1日の大半をデュエルと無法者の処理で過ごしている。

 

 そのような働きが人々の間に知れ渡り、光の世界の守護者として、デュエリストたちは尊敬されるようになった。

 

 

 

 ある夜の話。

 

 新たに拠点としている2階建て、新たなマイケルのカードショップ、居住スペースの2階のベランダから、今日もブルームガールは空を見上げる。

 

「疲れた……」

 

 今日も7人の無法者とデュエルをして、先ほど夕食を終えたところだった。

 

「何よ……全く。こうも多いと困るわ。なんか最近強くなってきてるし」

 

 ブルームガールはむくれながらベランダに用意された彼女専用のテーブルに腰を下ろす。

 

 今日も月は夜空を星とともに彩っている。ブルームガールはここから毎日空を見上げ、テーブルに乗せた一杯のオレンジジュースをご褒美に飲むのが最近の日課だった。当然糖質多めの飲み物なので、夕食の炭水化物は控えめにして、栄養バランスが偏りすぎないようにしている。

 

 オレンジジュースをぐびっと口に流し込み、

 

「はぁー!」

 

 と、まるで酒を飲んだ後のような叫び声をあげた。

 

 しかし、ここで本日のミスにブルームガールは気が付いた。が、もう遅い。苦言を呈されるのは仕方のないことだとも自覚する。

 

「ブルームガール、ちょっとはしたないわ。外から見られてるかもしれないのに」

 

「く……でもこれだけはやめられない。テーブルという本来座るためじゃない用途で使うものに座っちゃう背徳感、そして、一杯のオレンジジュース。家ではこんなことできないし、ここでしかできない最高の自分へのご褒美よ」

 

 いつもは一人で見上げる月。しかし、今日は同伴者がいた。

 

 そう、瑠璃だ。

 

 以前ハルトを脱出させるため、一度は光の世界を離れたものの、一週間もしないうちに光の世界に戻ってきて、それからは、再びチームメイトとして同居しながらともに生きている。

 

「テーブルに座るだけで背徳感なんて感じる?」

 

「家が結構厳しくてさ」

 

 瑠璃がテーブルの椅子を本来の使い方で使用したのを見て、ブルームガールもまたこれ以上は恥ずかしいと思ったのか、瑠璃に向かい合うようにして、クッションを置いた椅子に腰を下ろす。

 

「ベランダを男子禁制なんて、可愛そうじゃない? ここから見る月も景色も結構きれいだし、彼らにも見せてあげたいけど」

 

「ダメよ、ここはか弱い女子の憩いの場なの。男子は寝てればいろいろ治る」

 

「私はいいの?」

 

「瑠璃は女子じゃない。実はこうやって女子会的なことをやるのも少し憧れてたのよ」

 

「へえ、ふふふ」

 

「お、おかしい?」

 

「ううん。私もこうやって、女の子同士で話すのは久しぶり」

 

 女子二人で女子会と言うかは人に寄るだろうが、ここでは女子会と定義することにする。そしてこの女子会は、実は瑠璃が提案したものだ。

 

 きっかけになったのは、夜にベランダで晩酌みたいなことをするブルームガールを、瑠璃が見たことにある。

 

最近は街のパトロール活動とデュエルも激化して疲れがたまる毎日。その中で、夜のベランダで一人寂しく女の子が月を見ながら、叫んでいたらさすがに通常運転とは思えないだろう。

 

 そこで瑠璃は、そのストレスを少しでも愚痴って軽くできればと思い、その相手役に立候補したのだ。

 

 しかし、ブルームガールは元々ストレス発散というよりは、疲れを吹っ飛ばすためのルーティンみたいなもので、特段苛々していたわけでもない。そのため、瑠璃の提案にむしろ、瑠璃に心配をかけてしまったという自責を負う結果となった。

 

 ブルームガールは瑠璃の提案を無下にすることもできなかったので、ブルームガールは少し考え方を変えることにした。本来はエリーの帰りを待ってから3人で行うはずだった自分が1回もやったことのない女子会なるもの、その事前練習をやってみようという風に。

 

「今日もお疲れ様」

 

「瑠璃こそ。今日何人倒した?」

 

 もっとも最初に語られる話は、とても女子二人から放たれるような言葉ではないのだが。

 

「私は5人程度。そのうち、1人は、まあ、倒しちゃったけど」

 

「あれは仕方ないって。向こうが賭けデュエルを仕掛けてくる以上、光の世界の人を守るにはこっちも、デュエルに乗るしかない。ちゃんと警告もしたんでしょ、自業自得」

 

「でもやっぱり、目の前で死んじゃうのはね……」

 

「まあ、それはね。私も未だ慣れないし。でも私たちが戦ってるから、潔く撤退する人も増えてきたんじゃない?」

 

「うん。結構。私のこと見るだけで謝って逃げる人も増えてきた」

 

「……なんか、私たちが鬼かなんかみたいね。こうして話してると」

 

「おに……、ふふふ、確かに!」

 

 瑠璃が笑い、そしてブルームガールもそれにつられてにっこりと笑って微笑んだ。

 

 場が少し暖かくなる。和やかな雰囲気で会話を始められたことは、ブルームガールにとっては暁光だった。何にせよ、ブルームガールにとっては初の女子会。たった二人で気の知る相手とは言え、自分の初めてを体験することを悪い思い出として残したくはないという気持ちがあるのだ。

 

 瑠璃が笑うのを一時やめて、次の話題へ切り替える。

 

「そういえば、聞くのをすっかり忘れてたけど、なんでベランダで晩酌するの?」

 

「ふぇ?」

 

 瑠璃の唐突な質問にブルームガールは固まる。

 

「夜に一杯ってのは私たちの世界でも大人がよくやってるけど、でも、毎日毎日外ってことはないし、何か理由があるんじゃないかなって思って」

 

「それで昼間……心配かけちゃって」

 

「まあ、最初に言い出したのはユートなんだけど」

 

「ユートが?」

 

「夜に叫んでいて怖い、もしかするともう激務でおかしくなってるんじゃないか、とか言ってたよ。それを私が聞いて、実際に見に行ってみたら本当にやってるんだもん、びっくり」

 

「う……」

 

 自分では押さえていたつもりの、晩酌の後の定番の叫び声。それが意外な人物に不安を与えていたことを知り、ブルームガールは己の所業を少し恥じることとなった。

 

「それは……ユートにも悪いことをしたわ」

 

「まあ、私も貴女のストレスの原因は分かるつもりだしね」

 

「別に私、仕事がストレスなわけじゃないよ?」

 

「そうなの?」

 

「前の世界での家出のストレスに比べれば、デュエルばっかできる今の状況は結構私楽しい。だからストレスっていうよりは単なる疲れだと思う。だから今までは体形維持のために禁止されてたジュースの飲んで、明日も頑張るぞ! って檄を自分に送ってるの」

 

「じゃあ、本当に苛々してるとか、そういうのは?」

 

「ない。それは断言できるよ。だって、マイケルも、ユートも瑠璃も、いい人ばかりと一緒に過ごせるんだもん。少なくとも、家で勉強ばかりよりずっと楽しい」

 

「家よりずっと……そんなに家だと大変なの?」

 

「さっきも言ったけど、親がかなり厳しくてね。私は将来医者か大学教授、もしくは官僚になるしか認めないって感じ」

 

「なんか……結構大変そうに聞こえるわ。今の私じゃ想像できない」

 

「なんか昔貴族かなんかの血筋だったらしくてね。それはもう家だと大変よ」

 

「聞かせてほしいなぁ……なんて」

 

「え?」

 

「もちろん嫌じゃなかったらだけど。私たち、もう長い間チームじゃない。もっとあなたのこと知りたいなって思ったの。だめ?」

 

「……長くなるかもよ?」

 

「もちろん。せっかくこうやって飲み物も用意してるし」

 

 瑠璃は自分の分のジュースを口に含んだ。

 

 自分の家は異常だとブルームガールは自覚しているからこそ、あまり話したくはないと思っている。

 

 しかしブルームガールは話すことにした。なぜなら同様に彼女も瑠璃のことを知りたかった。異世界にまで来て初めて同じ屋根の下で暮らすことができた友達の頼み、それを無下にはしたくなかった。

 

 少し愚痴っぽくなりながらも、元の世界の生活を、ブルームガールは語り始める。

 

 朝は6時起床。20分で5キロのマラソンをした後、朝食は30分かけゆっくりととる。その後10分で外出の支度を済ませ。学校へ行く。

 

 成績は学年1番以外の場合は携帯を没収されるので学業にも相当の覚悟を持って挑む。授業は先生の語る一字一句を聞き逃さないように心がけ、午後は生徒会長として激務をこなす。この生徒会長も必要なキャリアで、ならなければ一家の落ちこぼれとして家を追い出されるから必死に縋りついた役職。

 

 帰ってからは塾。塾の全国模試では上位100以内を取れなければ絶縁を言い渡され一切の家からの援助を受けられないから頑張った。

 

 11時に家に帰ってからはご飯など与えられない。体重は見栄えが良い50キロから55キロの間に維持することを強制されている。親は様づけで呼び、一切の妥協なく目上の人間への尊敬の態度の取り方を含め、あらゆるマナーを監視され続ける。破れば頬を叩かれるので反抗は10歳の時にやめた。

 

 自由時間は夜の12時から。ただしテレビを見ることはできない、娯楽やそれにつながる者はすべて没収され、部屋に残されているのは、将来に役に立ちそうな本。

 

 そんな生活を、高校2年生になるまで毎日。

 

「えげつない……」

 

「私の家はそれが当たり前だったし、その頃は勉強以外は全部堕落、一度手を染めればあとは人間の屑になっていくだけ。なんて戯言、本気で信じてたからね」

 

「辛くなかった?」

 

「いやあ、そりゃぁ……生き苦しかったよ。でも、まあ、その分。私にとってプロデュエリストが戦っている光景は衝撃的だったなぁ」

 

「衝撃的?」

 

「だって、楽しそうだったんだもん。仕事をしてるのに」

 

 魔が差して、監視カメラのカモフラージュを行い、隠されていた携帯電話のテレビ機能で、テレビを見たのが高校2年生の4月10日。その時にやっていた番組がはプロデュエリストがデュエルをしているところだった。

 

 よく分からない遊戯を流しているだけだと、当時のブルームガール、否、麻里は思ったのだ。しかし、それは間違いだった。

 

 麻里は見ていて興奮した。まるで、サーカスを祖父母とたった1度だけ見た時の感動を思い出すくらいに。それはまさしく本物のエンターテイメントだった。

 

 なんて楽しそうなのだろうか。嘘偽りない、繕わないその気持ちは間違いなくあった。

 

 それ以来デュエルに興味を持った。家出の行動は監視され、カードを持つことはできなかったが、英才教育の賜物なのか、カードの効果テキストは一瞬見れば覚えられたため、ルールや遊び方を理解するのに苦労はしていない。

 

「……デュエル好きなのね」

 

「いま語ってみれば、まるで子供のよう。一度見て感動して、それにのめりこんじゃうなんて」

 

 それでも、ブルームガールは家を出れる時期になったら家を出て、プロになりたいという密な夢を持つまでにデュエルにはまっている。

 

 なのでそんなブルームガールにとって、このデュエルの世界は、自分の好きなことにのめりこめる、いい世界なのだ。

 

「ううん。素敵なことだと思う。楽しそう……か」

 

 自分の家というとてもプライベートなことを、とりあえず一段落言い終え、ブルームガールはお返しとばかりに、

 

「じゃあ、今度は私の番」

 

 と、瑠璃に過去の話を迫ろうとした。

 

 しかし、ブルームガールもイリアステルとの戦争の話は既に聞いている。エクシーズ世界でのすさまじい戦いの一部始終を、すでに知っていた。その地上の地獄の光景を、悪しき記憶をそこで引き出す必要ないと考え、聞く話を変えることにした。

 

「ユートと、いつから付き合ってるの? 馴れ初めを含めて」

 

「ええ!」

 

 瑠璃の顔が急に赤くなるのをブルームガールは確かに見た。これは面白い話を聞けそうだ、とブルームガールはニヤリと笑う。

 

「私だってちゃんといろいろ話したのよ。少しくらい教えなさいよ」

 

「でも……その、馴れ初めなんて」

 

 瑠璃は口をつぐんだが、

 

「なによぅ、別に別に言いふらしたりはしないから」

 

「うう……別に嫌じゃないけど、恥ずかしいなぁ」

 

 瑠璃は五秒迷い、そして口を開く。

 

「私がユートに会ったのは、まだ故郷が平和だったころ。兄さんの紹介だったの」

 

「それから?」

 

「ぐいぐい来るね……。でも、それからはよく兄さんと一緒にいる時に話して、自然に仲良くなってたかな。そのうち2人で出かけたりもしたよ」

 

「デートの時はどっちが誘ったの?」

 

「ユートがね、今日は2人で出かけないかって」

 

 あまりに嬉しそうに当時のことを話す瑠璃に徐々に押され気味になるブルームガール。

 

(やっぱり大好きなんだなぁ)

 

 そう彼女を思わせるほどの瑠璃のユート語りは徐々に熱量を増していく。徐々に早口に声量も大きくなっていき、ブルームガールは押され気味に。

 

「そうそう、近くの都市でデュエル大会があってね! その時のユート、とっても格好良かったの! 後ちょっとで負けそうってときも、キリって感じで、それはどうかな、だって」

 

 しかしブルームガールも熱量に圧されているだけで話を楽しんでいないわけではなかった。瑠璃の話すエクシーズ世界の話は、自分の知らない、まるでフィクションの物語のように楽しんでいる。

 

 しかし、夢心地に話を聞く時間は急に終わりを迎える。

 

「ところで、ブルームガールは誰か好きな人はいるの?」

 

 瑠璃の鋭い一撃によって。

 

「え、ええええ!」

 

「ふふふ、私にこんな語らせたんだもの、今度はあなたの番よ」

 

「そ……そんなのいない!」

 

「そうなの。誰か、一目ぼれしたことのある人でもいいのよ?」

 

「いないって」

 

「格好いいって思った人とかは?」

 

 いない。ブルームガールはそう答えようとした。しかし、一瞬だけためらいを見せたのを瑠璃はも逃さない

 

「い……いないわ」

 

「ええ、ほんとにー?」

 

「どうしてそう思うのよ」

 

 ブルームガールの徹底抗議にも瑠璃は怯まない。なぜなら、確かに断言できない何かがあると瑠璃は見抜いたからだ。

 

「だれだれー?」

 

「いない。いないから!」

 

「ちょっと、欠片でもそう思っている人がいれば、教えてよぉ」

 

「いやよ。恥ずかしい」

 

「嫌ってことはいるんだね」

 

「く……」

 

 徐々に不利に始めるブルームガール。

 

 そしてそこにとどめを刺すように、デュエルディスクに連絡が入るのはその時だった。

 

 あまりに唐突だったため、体をビクッとさせながら、デュエルディスクをとる。

 

 そしてその相手は驚くべき相手だった。

 

「もしもし、繋がってますか?」

 

「ゆ、ゆうすけ!」

 

 その瞬間、わずかではあるが顔を赤らめるブルームガールの姿を瑠璃は見逃さない。

 

 もしかして……、と疑惑を持ったが、瑠璃にとっても遊介からの連絡が来たというチームにとってのビッグニュースのため追及は待つことにした。

 

「あんた、どこ行ってたのよ!」

 

 過去最高のブルームガールの怒鳴り声が、光の世界に響き渡る。

 

「耳が……」

 

「ちょっと聞いてる!」

 

「もう少し、ボリューム落としてください」

 

「く……生意気な……」

 

 チーム内の連絡は音声のみの連絡とテレビ電話、そしてメールの3つ。今回はその中のテレビ電話のため、表情もよくわかる。

 

 遊介と、その後ろに隠れながら顔をひょっこり見せるエリーの姿が。

 

「とりあえず無事なのね!」

 

「ああ。今まで闇の世界にいてさ。ちょっと修業してた」

 

「修業って、あんたねぇ、こっちがどれだけ忙しいと思ってんの。そんな個人の事情に時間を割いてもらってる時間はないから。今すぐ帰ってきなさい!」

 

「いや、その……あの戦いの後、闇の世界に拉致されてさ……そこで、海堂の奴の闇の世界攻略を手伝ってたんだよ……」

 

「なんでまたそんなことを」

 

「あいつが勝手に連れてきたんだよ。竜で地下空間に突っ込んだせいで出口も分からず、周りにはデュエルバーサーカーがうようよ、闇の世界はとにかくライフの賭けをしない代わりにデュエルを何度も何度も挑まれて、毎日戦い漬けで大変だった」

 

「感想なんか聞いてないわ。あれから何日経ったと思ってるのよ! 少しは連絡よこしなさい」

 

「それが今までずっと繋がらなくてさ。今朝ようやく闇の世界から出られたんだ。海堂が闇の世界のエリアマスターを倒して、やっと出口が見つかったというか、地図を手に入れたから出られたんだよ」

 

「ふーん」

 

「怒ってる?」

 

「当然じゃない! どれだけ心配したと思ってるの!」

 

「ごめんなさいぃ……でもその分、俺しっかり修業してきたから、期待してくれ」

 

「本当でしょうね。帰ってきたらすぐに見せてもらうから」

 

「ああ」

 

「で、いつ帰ってこれるのよ」

 

「2日後。頑張って生き残ったから、帰ったら帰還パーティーしてほしいな」

 

「図に乗るな。速く帰ってきなさい。すぐに山のような仕事を押し付けてやるんだから」

 

「ええ。もうくたくただよぉ。1日休ませて」

 

「ダメよ。エリーはともかく、あなたはエリアマスターなんだから。働け」

 

「く……悪魔!」

 

「ずいぶんと減らず口を叩くようになったじゃない」

 

 先ほどから当たりは厳しい者の、ブルームガールが嬉しさを隠し切れないほどのニコニコ笑顔で応答している。

 

「でも、とにかく、無事でよかったわ。気を付けて帰ってきてね」

 

「分かった。じゃあ、次は光の世界で」

 

 通信が切れ、ブルームガールは少し残念そうにしながらもデュエルディスクの画面を閉じる。

 

 そして、連絡が終わったことで、遂に瑠璃のブルームガールへの攻撃が幕を開けることとなる。

 

「遊介くんなのね」

 

「ふぁ?」

 

「一目惚れ」

 

「何言ってんの瑠璃!」

 

「隠しても無駄無駄。だって今、どう見てもいつものブルームガールじゃなかったもの。どこで惚れたのよ」

 

「そんなことない。私はその……」

 

「もしかして、ハルトとの戦いのときに何か?」

 

「ない。ない。絶対にないから!」

 

「またまたー」

 

「からかわないでよぉ」

 

 顔が赤いぞ、と瑠璃は追撃をしようとしたがやめておいた。そんなことをしなくてもここまでむきになるという行動自体が、ブルームガールが遊介に何かは思っている事は分かったからだ。今日はそれを収穫に、2日後に帰ってくる遊介との絡みを楽しみに待つことにした。

 

 ブルームガールはそんな瑠璃の悪だくみに気づくことはない。

 

(そりゃあ、まあ、アイツの頑張ってるところ見て、格好いいなって思ったことはあるけど……く……気のせいよ。絶対に気のせい。だってあいつが気になる理由なんてないんだから。しばらく会えなくて寂しいとか、そんなこと絶対にないんだから!)

 

 と、意味もなく自分に言い聞かせている。

 

「じゃあ、遊介君の帰還だもの。パーティーはできなくても、大盤振る舞いの食事くらいは用意しておきましょう?」

 

 瑠璃の提案にブルームガールは賛成の意を示した。

 

 この夜の女子会は遊介の帰還というニュースに寄って、この後は何の食事を用意するかという相談会になった。

 

「今度はエリーも混ぜてやりたいねぇ」

 

「どうせならもっと人数は多い方が面白そうだけど」

 

「できるといいなぁ」

 

 今宵の女子会は、なんの変哲もない話ししかしていない者の、いつもの夜に比べて楽しいものになったらしく、二人の思い出に刻まれることとなった。

 

 今宵はここまで。

 

(終わり)

 




番外編終了です。このような、本編からだと話が逸脱して、テンポが悪くなってしまいそうな話はこのように番外編で書いていきたいと思っています。それもいったんここまでです。

番外編、いかがだったでしょうか?
彩、良助、薫、そしてエデンと解放軍。今後のストーリーに欠かせない彼らの正体に迫った話でした。書き終えて、ちょっと駆け足だったかな、と思っていますが、以前も書きましたとおり、あくまで番外編なので、長くやるのはちょっと違うな、とも思っています。なので、およそ20000文字の中でいかに、彼らを紹介できるか、そこは執筆で結構苦労しました。

満足いくものになったかというと自分ではそうでもないです。もっとも修業を積んで、限られたスペースでいかにキャラクターを魅力的に書けるか、という点もしっかり修業していきたいと思います。

番外編に一区切りつきましたので、ご都合がよろしければ、番外編の感想など何かコメントを頂けると、今後の参考になります。よろしくお願いします。

ちなみに、番外編で書き切れなかったデュエルも多いです。丸藤亮や万丈目準、トーマス、沢渡など、未だかけていない過去キャラデュエルはいずれやっていきます。また、未だ戦うところを見せていない、エクシーズ遊介、シンクロ遊介のデュエルはシーズン2中に行うのでお楽しみにお待ちください。

さて、これまでの番外編で、主要キャラクターの、リンクブレインズの立場はおおむね明らかにしたつもりなので、ここからいよいよ主人公復活、バリバリ本編を進めていきたいと思います!

(アニメ風 次回予告)← 飽きずにやっていきます!

底知れぬ闇の中。あの日痛感した己の弱さと向き合った。光指す大地に舞い戻ったとき、帰るべき故郷の危機を知る。ならば今こそ、今度こそ。自分の力で道を切り拓くため、彼は新たな戦いへと赴いた。

「悪いが、こんなところで負けられないんだ」

次回 遊戯王VRAINS ~『もう1人のLINKVRAINSの英雄』~

   『帰還』

   イントゥ・ザ・ブレインズ!


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第2シーズン 戦いの宿命
14話 帰還(前編)


注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

第2シーズン開幕です。
ちなみにファイアウォールドラゴンが1月から禁止になるそうですが、この話ではまだまだ使っていきます。
だってあんな登場させといて1回のみの登場というわけにはいかないという事情が……。
どうかここだけは守護竜を恨まず、暖かな声援とともにで活躍を見届けて頂ければ幸いです。


炎、水、風、地、光、闇。属性をモチーフにした6つの地域がついにプレイヤーの手に渡った。3日前、海堂セイトが闇の世界のエリアマスターを倒し、その世界を支配したことで。

 

これを受けてイリアステルは、まるでその瞬間を待っていたかのように、新たなイベントを開催した。

 

端的に言えば七つの世界によるエリアの奪い合いとなる。

 

この世界にいるプレイヤーは、6つのエリアのうちどのエリアの味方をするかをイベント開始時に決める。そして、自分で決めた世界とは違う他の世界の味方をしているデュエリストを倒すとイベントポイントとして1点をゲットできる。また中央のバトルシティはイリアステルの区域として扱われ、イリアステルからはついに、セカンドオーダーのカードを持った、精鋭を7人世界に解き放った。それらは倒せば50点。そしてそれぞれの世界のエリアマスターを倒した場合1000点を獲得できる。ただし、この期間は、エリアマスターを倒しても、勝者が新たなエリアマスターにはなれないことに気をつけなければならない。

 

これに加えて、各人は1日1回、他のチームの味方をする相手とデュエルを行わないと、保有ライフが1日につき1000減っていくというペナルティが発生する。これでどこかに隠れてやり過ごすという方法がとりにくくなる。

 

今回各人がイベントの目的は2つ。まずはポイントの確保。可能な限りポイントを稼ぎ、今後の自分の戦いを有利にすることに直結するものだ。

 

ここで稼いだイベントポイントを使い、各地の交換所で役に立つアイテムを交換できるようになる。商品は以下の通りだ。

 

・ルールブレイカー 5点    賭け禁止区域でも、保有ライフを賭けたデュエルを行える。

・透明マント    10点    デュエルを挑まれたときに使用して、その場から逃げられる。効果は合計10分間使用可能。

・サポートシステム 各種20点  デュエルを始める前に使用することで、そのデュエルにおいて特殊な効果を使用できる。

 

 ○先行ダメージ   相手に2000ポイントのダメージを与えた状態でデュエル開始

 ○スキルサイン   スピードデュエル以外のデュエルでも、スピードデュエルで使っているスキルを使用できる。

 ○封印の黄金箱   あらかじめ指定したカードをデュエルが始まって3回目の自分のターンに手札に加えることができる。

 ○隔離フィールド  このデュエル中、相手は手札、または墓地でのカード効果を発動できない。

 ○1キル予防     お互いが最初のエンドフェイズを迎えるまで、互いが受けるダメージはすべて0になる。

 

そしてもう1つは己が味方をする世界を勝利に導くこと。イベント開催期間は一ヵ月。その間他のエリアの味方になっているデュエリストを倒し続けポイントを稼ぎ、自分が味方をしている世界にイベントポイントを集めることで貢献する。

 

最終的に、それぞれのエリアで、稼いだ合計のポイントを数え、全デュエリストの総合取得数で数えて、一番多いポイントを稼いだエリアに所属するデュエリストには全員に、いずれ来る最終決戦で有利になるアイテムが支給され、逆に一番少ないエリアのデュエリストは、最終決戦で不利なハンデを負うことになり、さらにそこのエリアマスターはは、勝者である1番のエリアのエリアマスターに無条件でエリアを譲渡しなければならない。

 

各デュエリストがどのようにして勝ち馬に乗るか、もしくは自分のチームを勝たせるかを考えながら、積極的に戦いに身を投じなければならないイベントになる。当然保有ライフの賭けでデュエルは行われるため、命賭けでも、勝てば勝つほど有利になり、逃げることにほとんど利益のないシステムになっている。

 

そして最後に、

 

「いずれ君たちと我らイリアステルは戦う運命にある。それがこの世界の運命を決める最終決戦になるだろう。それはいつになるのか、それは未だ明かせないが、君たちは今から備えなければならない。さあ、この先、生き残るための最初の一歩だ。君たちの勇気ある行動こそが、君たち自身の明日を保証することになる」

 

というメッセージも付け加えられ、イベントはいつもと同等、もしくはいつもにまして盛り上がりを見せている。

 

 

 

「マスター。大丈夫ですか?」

 

本来は光の世界の原住民であるエリーは今、光の世界を離れ、エリアマスターである遊介とともに、バトルシティ上空をDボードを使い飛んでいた。

 

「ふわぁ……」

 

お手本のようなあくびを披露したエリアマスターを気遣うのは、昨日までの激務で眠そうにしているのを心配してのことである。

 

闇の世界の攻略は、なんとも無謀なことにたった4人で行われた。遊介、エリー、そしてその二人をさらった、ヴィクターと海堂セイト。なんとも相性が悪そうなチームで闇の世界で激しい戦いに挑んだのだ。ちなみに海堂セイトとヴィクターが、なぜ一緒に現れたのかについては、ヴィクターも海堂もそんなことどうでもいいだろうとはぐらかすばかりだった。

 

闇の世界での戦いが激しいと評する理由は、闇の世界の特徴に関係する。

 

闇の世界は、初期に高度なプレイングをするプレイヤー達が集まり、とにかくデュエルを楽しもうというと、お互いライフを賭けずに、エリアマスターの攻略も興味を示さず、デュエルを何度も何度も行っていた。それをきっかけには闇の世界には実力者が単にデュエルを楽しむ世界として知れ渡り、我こそはと、実力を示したい者。強い奴と戦いたいというものが集まり、まるで毎日大会が行われているかのような熱気で、多くのデュエリストが戦っている。

 

ただし、なぜかいつの間にか、闇の世界はちょっとした狂喜に包まれることになった。多くのデュエリストは、朝起きてデュエル、ご飯食べてデュエル、デュエル、デュエル、お昼ご飯の後デュエルデュエルデュエル、そして夜ご飯を食べてデュエルデュエルデュエル、で一日を終える人間が数多く、そこら中でデュエルが行われ、普通に歩ていると5秒でデュエルのお誘いが来るという、デュエル祭りが毎日行われているようなところになってしまった。

 

つまり闇の世界にいる間は、暇ならとにかくデュエルを挑まれ、一日デュエル漬けというのもあながち嘘じゃないという毎日を送ることになる。

 

そんな世界に不本意に放り込まれた遊介とエリー、そしてここまでの熱気を予想していなかった海堂とヴィクターは、闇の世界でのデュエル漬けの洗礼を受け、3週間ほどは悲鳴を上げるしかなかった。そしてそれに慣れ、いよいよ闇の世界のエリアマスターに挑もうと闇の世界を進む間も、常に戦いを挑まれ、全く攻略が進まなかった日も多い。そしてとうとう狂ってしまった海堂セイトが、

 

「寝る必要はない! とにかく進むぞ」

 

正気か? と訊く遊介に対し、ヴィクターも、そしてまさかのエリーもそれに賛成。ちなみに、エリーは度重なるデュエルの疲れで狂ってしまった状態だったためと考えられ、早く帰りたいという思いがかなり大きくなっているが故の賛成であり、反対一票の遊介に抗う方法はなかった。

 

闇の世界の攻略にかかった時間は1か月半、最後に海堂がエリアマスターを倒すことで闇の世界の攻略は終了した。しかし、遊介にはさらに災難が襲い掛かる。

 

「いつかの約束、覚えているな? さあ、戦うぞ」

 

攻略で疲れがマックスの状態で、さらに海堂と戦うという恐ろしい宣言を言い渡された遊介はエリーとともに逃亡を決意し、闇の世界を必死に駆け抜けて、ようやく昨日、闇の世界からの脱出に成功したのだ。しかし、残念ながらその世界から追手が現れ、海堂との戦いを見たいという酔狂な追手との戦いを切り抜けて、ようやく今に至る。

 

「エリーこそ……大丈夫か」

 

「私は、マスターが無事なら、それで」

 

「もっと自分を大事にしたほうがいい。あの時も頭おかしくなってたんだから」

 

「うう……その……あの時は、申し訳なく」

 

「まあ、最終的にはそれで良かったと思うんだけどな。あのまま、普通の暮らししてたら1年間幽閉されてた可能性もあるし」

 

それに、あながち悪くなかったと、遊介は今振り返って思っている。

 

闇の世界と聞き、最初は恐ろしい人間たちがいっぱいいるようなイメージを持っていたが、実際にいたのはただのデュエルが好きな人達だった。デュエルには本気で挑むが、その他については非常に優しく、他人である自分たちのデッキや戦術について、アドバイスや意見をくれたりする人も少なくなかった。結局はそれが遊介たちを強くし、そしてその強くなった遊介たちとさらに熱いデュエルをするという結果につながるという循環になっていたのだが。

 

しかし、そんなこともあり、自分でカードや戦術を考えていた頃よりも凄まじい躍進があった。

 

「でも、エリアマスターとして戦力面の自信がなかったからさ。あそこで戦ったおかげで少し勇気が出た。俺はあの変な闇の世界で戦ったんだってさ」

 

「皆さんお強かったですね。最初の頃は手も足も出ませんでした」

 

「同じく……ハルトと戦った時はとても幸運だったんだなって思ったよ」

 

不意に視界に下の様子を映した遊介の目。バトルシティでは、至る所で戦いが繰り広げられている。それはいつものことだが、やけにその数が多いような気がした遊介は、デュエルディスクで最新のイベント情報を見ようとした。

 

「今はイベントの最中のようですね。昨日から始まっているようです」

 

「まじか、全然知らなかった」

 

「そうですね。闇の世界の皆さんは特にイベントにも興味を示していませんでしたし、あまり気にしませんでしたね」

 

「今回はどんなイベントなんだ?」

 

「……」

 

「エリー?」

 

何か良くないことが書いてあると思い、遊介は慌ててイベントの告知を見た。

 

なるほど、とエリーが黙った理由が分かる。これは光の世界の危機だと。

 

これまではチームメイトが光の世界の治安を守りながら遊介の帰りを待っていてくれた。しかし、相当な疲れを見せているのは電話越しでも遊介は把握している。それに加えて、このようなイベントが始まれば明らかに今戦っている4人は壊れてしまう。

 

何とかその前に帰還し、たった一人でも戦力として加わって、負担を減らさなければ、と遊介は思った。

 

本当であればせっかく外の世界に出たエリーを連れて一晩だけ観光と休憩をはさむ予定だったのだが、エリーもこのようなイベントの中ではそんな気分にもならないだろう。遊介はそう思い、

 

「旅行、今度にみんなで行こうか?」

 

とエリーに提案する。

 

「すみません、せっかく気を使って寄り道を計画してくださったのに」

 

「いや、こんなイベントだと心配だろう?」

 

「はい。光の世界は、故郷ですから」

 

「俺もちゃんとエリアマスターとして守るから。何も心配いらない」

 

エリーの前ではエリアマスターとして格好つける。それももう日常茶飯事なので遊介は慣れている。

 

「はい! では急ぎ帰りましょう!」

 

エリーの嬉しそうな顔を見て自己満足をした遊介は、Dボードのスピードを上げる。自然にスピードを上げ始めたエリーに置いて行かれないようにするためだ。

 

エリーも闇の世界での修業を経て頼もしくなった。当然前も十分勇敢な少女だと遊介は感じていたが、今はそれ以上に、頼りがいのある子になったものだと思う。その分自分はそこまで成長していないのではないかと思うと、遊介は内心情けなさを抱えていた。

 

光の世界は、もうすぐ見える。バトルシティをあと少しで越えるところだ。

 

『警告、警告』

 

聞きなれない音がディスクから流れ遊介はビビッて体を一瞬震わせた。

 

「なんだぁ?」

 

『エリアマスター。急接近する人影在り、ディスクを構えています』

 

「追手か? まだあきらめていなかったのか」

 

早速逃げようとさらにスピードを上げようとしたが、

 

「マスター、前から来ます!」

 

後ろに気を取られて、前方の上を意識していなかった事が仇となり、挟み撃ちという最悪の展開になる。

 

「エリー、降りるぞ!」

 

「ダメです、下にも」

 

「はぁ?」

 

包囲されている。距離的にデュエルを仕掛けられる距離ではないが、ここからどの方向に行っても激突は避けられない。

 

相手側は明らかな今日協力体制である。遊介はこの時点で追手の可能性をなくした。闇の世界の追手には、この手の連携はできない。そもそもそんな動きをDボードでするには相当な訓練が必要になる。

 

一機、前から、一機、後ろから戦闘距離範囲まで迫ってくる。よく見ると二人とも同じ服を着ていた。

 

「解放軍……?」

 

世俗には疎い闇の世界でも、エデンと解放軍の噂はよく届く。二つの巨大組織は、今は全面戦争中だとの話であることは遊介も知っている。そして解放軍が、あまり人殺しを後ろめたく思っていないような連中であることも。

 

「マスター……」

 

「エリー。後ろを警戒していてくれ」

 

「分かりました」

 

遊介はエリーの真正面に出て、前から迫る敵の警戒をする。

 

しかし、その警戒心はすぐに驚愕へと変わった。

 

「サイバースの遊介。なるほど、さすが俺。似てるな」

 

目の前に同じ顔が現れたのだ。遊介はドッペルゲンガーの伝説を思い出し、命の危機かもと縁起でもないことを考えてしまった。

 

しかし、どうせ死ぬならと開き直り、現状を確認する。

 

今襲い掛かってきているのは明らかに解放軍。しかし、偶然見つけたにしては、この人数はおかしい。つまりこの連中は明らかに遊介を狙ってきたということ。

 

「なんだよ偽物」

 

「お前も……まあ、お前ならそう言うよな」

 

「不服ならなんて呼べばいいんだ?」

 

「シンクロ世界の遊介だし、シンクロ遊介って呼んでいいぜ、俺もサイバース遊介って呼ぶからさ」

 

リンクじゃないのか、とツッコミを入れたいところだったが、今はそんな状況でもないため喉を通過させなかった。

 

「なんで俺たちを狙うんだよ」

 

「イベント中だし? 点数稼ぎだろう?」

 

「にしては、人数がずいぶん多いな。偶然見つけたって感じじゃないけど?」

 

「……バレたか。まあ、そりゃね。でも目的を素直に言うと思うか?」

 

「いいや。どうあれ、シンクロ遊介を名乗る偽物が俺を狙いに来ているのは分かった」

 

エリアマスターの討伐は1000点獲得、というイベントの内容を考えれば、ふらふらとDボードで飛んでいるエリアマスターほど狙いやすい相手はいないだろう。

 

「でも、こんなところで貴重な戦力を投入していていいのか? 解放軍はエデンに対して劣勢だって聞いたぞ?」

 

「なんだよ、煽るのか?}

 

「煽るつもりじゃないけどさ。俺なんかに構うんじゃなくて、エデンのボスを倒して一泡吹かせるのに使った方が最終的に有益かもよ?」

 

「いいや。そんなことはないさ。ここでお前を倒してから、向かえばいいだけのことだ。それに……」

 

もったいつけるように間をおいて、

 

「今解放軍は、光の世界を潰して、自分たちのものにしようと躍起になっているところだ」

 

と、どうあれ遊介が、解放軍と戦わなければならない理由を提示する。

 

「そんな……」

 

エリーが言葉を失いかけるのも無理はない。光の世界の状況は、ブルームガールが連絡の後に現状報告をメールで送ってきたので遊介もエリーも知っている。現状は光の世界は、デュエルが苦手な人や、死ぬのが怖く己の研鑽を放棄した人間が数多く逃げ込み、前の事件でほとんど死んだ大人の原住民の代わりをすることで成り立っている節があり、戦えるデュエリストは少ない。そんな中で、いかに半壊したと言っても解放軍に狙われれば、迎撃は厳しいと言わざるを得ない。

 

エリーの故郷が壊される。

 

それはせっかく命を賭けて守った遊介にとって、とても見逃せるような話ではない。

 

「俺もお前を倒してから合流する。でもその前にこのイベントをきっかけに帰ってくるだろうと見張ってたのは正解だったな。早速1000ポイントいただこうか?」

 

と、シンクロ遊介はデュエルを申請した。

 

遊介はこの男に訊きたいことはまだある。なぜ解放軍いいるのか。光の世界を狙う理由は何なのか。イリアステルを止めるために協力はできないのか。などなど。

 

しかし、すでに向こうがやる気であり、さらに逃げられないこの状況を何とかしなければ、始まらない。

 

何より、たくさんお世話になってきた仲間が今最大の危機を迎えているならば、逃げるわけにもいかない。

 

「光の世界、そう簡単に渡すと思ってるのかよ」

 

「はぁ?、お前がそれを言うのか?」

 

そもそも、遊介は先ほどからシンクロ遊介が勝利する前提で話が進んでいるのが気に入らなかった。

 

そしてそう思っている理由は、遊介の想像以上だった。

 

「まさかお前、俺に勝てると思ってるの?」

 

「やってみなきゃわかんないだろ?」

 

「そもそも逃げてた時点で察しはつくけどなぁ」

 

それは逃げてんじゃなくて拉致されたんだよ! と反論しようとしたが、

 

 

「そもそも、天城ハルトだっけ? あんな雑魚に苦戦している時点で勝負は見えてる」

 

 

等と言われてしまったら、反論の前に心が穏やかではいられなくなる。

 

「雑魚?」

 

「当然だろ。俺だったらあの程度の相手100回やって95回は絶対に勝てる。エクシーズ世界の人間はあんなに弱いのか? って目を疑ったほどだ」

 

それは、ハルトだけでなく、瑠璃やユートなど、自分の仲間を侮辱されたことと同義だ。そして己に対する侮辱を踏まえ、遊介はこれでことを穏便に済ませるつもりはなくなった。

 

「それで俺も弱いと?」

 

「ああ、これで俺は1000点もらったも同然だ」

 

「そうか。そう言うことなら、俺は断りはしない」

 

「さすが俺。じゃあ、惨たらしく負けてもらって光の世界を明け渡してもらおうか」

 

問答無用ではなかったが、意味はなかった。

 

結局戦うことになった遊介だが、しかし、別にそれはそれでいいと思った。侮られたままというのが腹立たしいということもある。

 

しかし、それよりも、遊介も思っていたのだ。

 

「お前のような奴に負けているようじゃ、エリアマスターも務まらないからな」

 

「言うね。なら、有言実行頼むぜ。LPは4000賭けだ。デュエルの方法は、せっかくDボードに乗ってるんだし、スピードデュエルで行くか?」

 

「いいよ。どうあれ、俺は勝つ」

 

「その言葉忘れるなよ。後で泣きながら前言撤回してもらうぜ、サイバース遊介くん!」

 

遊介は後ろを見る。

 

エリーは心配な面持ちでこちらを見た。しかし、向こうもデュエルを挑まれている模様で、

 

「エリー、こっちの心配はするな。そっちガンバれ!」

 

とエールを送る、エリーは頼もしい顔で頷き返し、自分のデュエルに戻った。

 

こちらも頑張らなくては、と自分に活を入れ、ディスクを構える。

 

「スピード」

「デュエル!」

 

遊介の新たな戦いは、まさかの異世界との自分が相手で始まった。

 

(後編へ続く)




あとがきは後編の後にまとめて書いています。

後編もぜひご覧ください!


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14話 帰還(後編)

こちらは前編の続きです。

前書きは前編に書いてありますのでそちらをご覧ください。

後編もお楽しみいただければ幸いです。



シンクロ遊介 LP4000 手札4

モンスター

魔法罠

 

遊介 LP4000 手札4

モンスター

魔法罠

 

(シンクロ遊介)

□ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

□   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

「選ばせてやるよ。どっちがいい?」

 

シンクロ遊介の誘いに、

 

「じゃあ、先行をもらおうかな」

 

遊介は先攻を宣言した。

 

 

ターン1

 

「俺のターン」

 

先行はドローできないので、初期の手札で内容を考えなければならない。しかし、すでにどのような動きで行くかは決定している。

 

「サイバースガジェットを召喚」

 

最初に呼びだしたのは初期から使っているサイバースモンスター。

 

サイバース・ガジェット レベル4

ATK1400/DEF300

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

そしてすぐにリンク召喚の宣言をする。

 

「召喚条件はレベル4以下のサイバース1体。俺は今召喚したサイバースガジェットをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

現れたサーキットに躊躇いなく飛び込んでいく、サイバースガジェット。八方向に分岐した矢印のうち下方向のものに、己の体を捧げた。

 

「リンク召喚! 現れろ、リンク1、リンクディサイプル」

 

槍か杖か、判断しにくい棒状のものを持ったモンスターが遊介が呼び出す最初のリンクモンスター。

 

リンク・ディサイプル 

リンクマーカー 下

LINK1/ATK500

 

「そして、サイバースガジェットが墓地へ送られたことで、ガジェットトークンを1体特殊召喚する」

 

ガジェット・トークン レベル2 守備表示

ATK0/DEF0

 

「まだ続く。現れろ、未来を導くサーキット」

 

再び遊介はリンク召喚の行使を宣言した。

 

「召喚条件は、レベル4以下のサイバース1体、先ほど召喚したガジェットトークンをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン!」

 

呼び出したトークンをすぐに、次への展開の燃料にし、遊介は新たなモンスターを呼んだ。

 

「現れろ、リンク1、リンクディヴォーティー!」

 

謎の曲線を描く危機を携えた、遊介の新たなリンクモンスターが現れる。これは闇の世界で手に入れたカード。遊介は闇の世界で、戦術だけでなく、己のデッキも大幅に強化している。このモンスターもその1つだ。

 

リンク・ディヴォーティー

リンクマーカー 上

LINK1/ATK500

 

「ディサイプルの効果を発動する。このカードのリンク先のモンスター1体をリリース。デッキからカードを1枚ドローし、その後手札のカードを1枚、デッキの1番下に戻す。ディヴォーティーをリリース!」

 

「おいおい、とんだディスアドバンテージじゃないか」

 

シンクロの遊介の言う通り、ここまでこの効果を発動する意味は現状あまりない。しかし、遊介の目的はここから先にある。

 

「相互リンク状態のディヴォーティーがリリースされた場合効果を発動する。フィールド上にリンクトークン2体を特殊召喚!」

 

リンクトークン レベル1 守備表示

ATK0/DEF0

 

「まだ続く、現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はモンスター2体。俺はリンクトークン2体をリンクマーカーにセット!」

 

このターン3回目のリンク召喚。残念ながらディヴォーティーの効果でこのターンリンク3以上のモンスターをリンク召喚はできないので、最大はリンク2までとなる。

 

「現れろ、スペースインシュレイター!」

 

青い人型のサイバース、これがこのターン、遊介が呼び出す、最後のモンスターだ。

 

スペース・インシュレイター

リンクマーカー 上 下

LINK2/ATK1200

 

「ここまでやって1200のモンスターか。正直拍子抜けだなぁ」

 

シンクロ遊介はここまでの動きを見て感想を述べる。しかし遊介は特に興味を示さない。なぜなら準備は十分行ったからだ。

 

「スペース・インシュレイターのリンク先のモンスターの攻撃力は800ダウン。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

リンク・ディサイプル ATK500→0

 

遊介 LP4000 手札1

モンスター ① リンク・ディサイプル ② スペース・インシュレイター

魔法罠 伏せ2

 

(シンクロ遊介)

□ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

□   ①     EXモンスターゾーン 

□ □ ②   メインモンスターゾーン

□ ■ ■   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

ターン2

 

 

シンクロ遊介 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

「じゃあ、さっそく俺も始めようか、ドロー!」

 

シンクロ遊介の戦い方は遊介にとっては未知数。遊介は自然と身構える。

 

「……さて、どうしたものか。まずはこれだな」

 

ゆっくりとカードを吟味すること3秒。

 

「俺は、チューナーモンスター、ライティドライバーを召喚!」

 

青い精、というには、右腕のドライバーがなんとも不似合いなモンスターがシンクロ遊介の先陣を切る。

 

ライティ・ドライバー レベル1 攻撃表示

ATK100/DEF300

 

「初手からチューナーか」

 

「まあ、シンクロ使いだからね、俺」

 

シンクロ遊介はニヤリと笑い、さっそく召喚したモンスターの力を発揮する。

 

「ライティドライバーの効果! デッキからレフティドライバーを呼び出す!」

 

この思いっきり短縮された効果の説明と掛け声とともに現れたのは、先ほど呼んだチューナーとは対照的な体をもつモンスター。

 

レフティ・ドライバー レベル2 攻撃表示

ATK300/DEF100

 

「レフティドライバーの効果! 特殊召喚されたこのモンスターのレベルはターン終了時まで3となる。そして、モンスターを通常召喚しているターン、ワンショットブースターは手札から特集召喚できる!」

 

ワンショット・ブースター レベル1 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

すぐにメインモンスターゾーンが埋まったところを見て、遊介は警戒する。すでにチューナーは場に存在するため、シンクロ召喚が行われることが明らかだからだ。

 

シンクロ遊介は遊介の予測通りに、シンクロ召喚の合図を送る。

 

「早速行くぜ、俺は場に存在する、レベル3、レフティドライバー、レベル1、ワンショットブースターに、レベル1、ライティドライバーをチューニング!」

 

三体は粒子状となり、同調を示す円環となる。シンクロはレベルの合計のモンスターを呼び出すもの。今回呼び出されるのはレベル5。あまり高くはないものの、シンクロモンスターはレベルだけでは格が決まらない節がある。

 

油断はできない、と遊介は思った。

 

「シンクロ召喚! 来い、レベル5.スカ―ウォリアー!」

 

包帯を巻いた傷を持つ戦士か。しかしそこには強者の雰囲気を漂わせる何かがあった。

 

スカー・ウォリアー レベル5 攻撃表示

ATK2100/DEF1000

 

「来たな」

 

「まあ、このターンはこんなものさ。そもそも、そっちにその程度のモンスターしかいないなら、こっちもそこまで本気を出す必要もないしな。さて……、カードを1枚伏せて、バトルだ」

 

バトルフェイズの宣言。

 

このまま攻撃を通せば攻撃力2100の攻撃を受け、遊介のライフが最悪2100そのまま削れるこのになる。

 

しかし、当然遊介もそこまで馬鹿ではない。

 

「その前に、メインフェイズ終了時に罠を発動させてもらうよ」

 

「ほう?」

 

「罠カード『聖遺物からの目覚め』。俺はフィールド上のモンスターを使ってリンク召喚をする」

 

シンクロ遊介は感心したように少しだけ口を開けた。

 

「まじか、それで黙ってたわけね」

 

「防ぐか?」

 

「無理。好きにしろ」

 

「じゃあ、遠慮なく。召喚条件はサイバースモンスター2体以上。俺はリンク1のリンクディサイプルとリンク2のスペースインシュレイターをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

 

シンクロ遊介の余裕の顔に若干の不安を覚えつつも、遊介は予定通りの動きで展開する。

 

遊介の最近の戦闘スタイルはデコード・トーカーを始動にすることにはあまりこだわっていないが、コード・トーカーを召喚することにはこだわっている。今回は手札に加える術がなかったが、コードトーカーをサポートするカードを多数、デッキに投入しているからだ。

 

「来い! リンク3、エンコードトーカー!」

 

呼び出したのは、ハルト戦の直前で手に入れたものの、使うことができなかった光のコードトーカーだった。

 

エンコード・トーカー

リンクマーカー 上 下 右下

LINK3/ATK2300

 

「2300……!」

 

シンクロ遊介は、自分が呼び出したモンスターよりも高い攻撃力を持つモンスターが現れ、

 

「マジか……こんなら別の奴呼ぶべきだったな……」

 

と、一瞬だけ眉間にしわをつくりながら言った。これ以上、自分がこのターンできる事はないと諦めた。

 

「しょうがない、俺はこのターンは終わりだ」

 

遊介はここぞとばかりに煽る。

 

「おいおい、粋がってた割に無様な初手じゃないか」

 

ちなみに、これは闇の世界のデュエリストが使う常套手段らしく、相手がこれで怒りを覚えれば攻撃的になり、精神的変化からミスを誘発する高度なテクニックと遊介は教わっている。最も真偽は定かではない。

 

「生意気な口だな」

 

少なくともシンクロ遊介には効果は薄いようだった。

 

シンクロ遊介 LP4000 手札2

モンスター ③ スカー・ウォリアー

魔法罠 伏せ1

 

(シンクロ遊介)

■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

③   ④     EXモンスターゾーン 

□ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

「少し驚かされたぜ、リンク版『緊急同調』とはな」

 

「こういう使い方はこっちとしても不本意なんだけど、結果オーライ」

 

「まったく、こんななら、もっと攻撃力の高い奴を召喚すべきだったな。手札をケチった俺がいけないんだけど」

 

お互い序盤はあまり動きの少ない流れとなった。

 

「そう言えばお前、闇の世界から来たようだが、どうだった隠居生活は」

 

突如として始まったデュエルとは関係のない話。しかし、こういう会話も、この世界を生きていく為には重要だと遊介は知っている。

 

相手の情報をいかに引き出すか、自分の情報をいかに偽装して守るか。嘘100%では嘘飛ばれるので真実を織り交ぜながらいかに上手に話して相手を乗せるか。相手の仕掛けてくる誘いに気づき、それにどう対処していくか。

 

手に入れた情報は、この世界ではどのような形で役に立つか分からない。どんな情報でもいつか何かの役にたったりする。

 

遊介は最初の頃は気持ちに余裕がなかったものの、そのような事情も考えるようになってからは、雑談にも積極的に応じるようにしている。

 

「最悪だったよ。デュエル漬けだ」

 

「さぞ恐ろしい世界だったんだろうな?」

 

「ああ。行くなら大軍で行った方がいいぞ。少人数だとボコボコで門前払いかも」

 

「けどお前はそこに身を隠していた。いい判断だな。雑魚のエリアマスターとしては、居心地も良かっただろう。自分が弱いのが露呈しなくて済むから」

 

「お前さ。同じ顔でそういう事言うのか。自己嫌悪でもしてないとなかなか言えないと思うぞ?」

 

「俺の顔を使っていい人間はこの世で一人だけ。他は殺す。そうすればわざわざ変なニックネームつけなくて済む。お前を殺したいのはそういう個人的願望もあったりするんだ」

 

そんなことで殺されてたまるか。

 

遊介は今の話を聞いて改めて決意する。

 

「まるで、俺以外にも遊介くんを見たことあるみたいな。なんと言うか驚きがないよな、俺を見ても」

 

「ああ。実際エクシーズ世界の遊介には会ったことあるし」

 

「どんな奴だった?」

 

「それはあってからお楽しみだ。まあ、向こうも向こうで面白いと思うぜ」

 

値千金の情報を引き出すことができた。エクシーズの遊介、ハルトやユートから聞いていたものの、シンクロ遊介が会っているということはこの世界に、そのエクシーズ世界の自分が来ている。

 

遊介はそう確証を得た。いずれ会う可能性がある以上、警戒をしておいて損はない。

 

シンクロ遊介の雑談は続く。

 

「しかし、お前、前情報にはないカードめっちゃ使ってるな」

 

「そりゃ、ハルトと戦ったのだって、結構前だぞ。俺も成長する」

 

「ほう、そりゃ、良助君も喜ぶだろうぜ」

 

良助。意外な人物の話が出たことに遊介は驚いた。しかし、シンクロ遊介の言い草から、

 

「お前、良助と知り合いなんだな」

 

と予想を立てることもできる。

 

「元気だぜ良助は、まあ、お前は会えないんだけど」

 

冗談じゃない、と遊介は思う。遊介がこの世界に来たのは親友が無事かを確認し、助けになるためだ。

 

「会えない?」

 

「だってあいつ、今光の世界にいるし」

 

それが示すのは、良助が解放軍と一緒に光の世界で戦っているということ。つまり、自分の敵であるということだ。

 

現実世界ではずっと仲良くしてきた。そんな良助が敵に回るということが、今いちピンと来ない。

 

「でも、なんで会えないんだ? って愚問か」

 

「ああ。愚問だな」

 

それ以上をお互い口にはしない。シンクロ遊介は遊介の帰還を阻むためにここにいる。つまり、デュエルに遊介は敗北するという絶対の自信を暗に示しているのだ。

 

遊介は、むやみに挑発に乗るつもりもないが、このまま黙っているのも格好悪いと考え、それに対抗するための宣言をする。

 

「その予想。裏切ってやるよ」

 

遊介の宣言に、

 

「無理だ」

 

と言いつつも、シンクロ遊介は心底嬉しそうに言葉を返す。

 

 

ターン3

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

宣言した以上、遊介は気合を入れた。絶対に勝つと。

 

そのための手段を残りの手札と、フィールドから考える。

 

遊介 LP4000 手札2

モンスター ④ エンコード・トーカー

魔法罠 伏せ1

 

「リンクインフライヤーは、フィールド上のリンクモンスターのリンク先になる自分フィールド上に特殊召喚できる!」

 

呼び出したのは凧のような形をした、風属性のサイバースモンスター。

 

リンク・インフライヤー レベル2 守備表示

ATK0/DEF1800

 

「さらにスワップリーストを通常召喚!」

 

続けて、新たに杖を持った魔術師を思わせるモンスターを呼ぶ。

 

スワップリースト レベル2 攻撃表示

ATK500/DEF1000

 

「モンスター2体、来るか?」

 

シンクロ遊介が遊介に訊く。

 

「いいや、まだある」

 

彼の問いに対しこう答えた遊介は、さらに伏せていたトラップを発動した。

 

「トラップカード、『リビングデッドの呼び声』を発動。自分の墓地に存在するモンスター1体を対象として、特殊召喚する。俺は墓地のサイバースガジェットを特殊召喚!」

 

「リビングデッドって、お前、さっきからサイバースと関係ないカードばっか使ってんな。サイバース使いじゃないのかよ」

 

デッキに何を入れようと、この世界では特に反則ではないので、そのような言われようは遊介にとって心外だったが、遊介は、

 

「俺はお前が言う雑魚だから。なりふり構ってられないのさ」

 

と先ほど言われた雑魚という言葉を使い嫌味のように返す。

 

「この野郎」

 

一本取られた、と言わんばかりに苦笑するシンクロ遊介を横目に遊介は墓地から先ほど先陣を切ったサイバースを呼び戻した。

 

サイバース・ガジェット レベル4

ATK1400/DEF300

 

フィールド上に再び3体のモンスターが揃う。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

遊介は迷いなく、新たなモンスターの召喚を宣言した。

 

「召喚条件はサイバース族モンスター2体以上。俺はリンクインフライヤー、サイバースガジェット。スワップリーストの3体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

メインモンスターゾーンにそろった3体のモンスターは、上空に現れたサーキットに突撃する。そして中央が光り輝いた。

 

呼び出されるのは、遊介の新たなコード・トーカー。

 

「現れろ! リンク3、シューティングコードトーカー!」

 

腕に大きな矢を装備した、青い体をもつ水属性コードトーカー。闇の世界で戦っている最中、ストームアクセスで手に入れたモンスターである。エンコードトーカーの下のリンク先に呼び出された。

 

シューティングコード・トーカー

リンクマーカー 上 左 下

LINK3/ATK2300

 

(……前情報にはなかったモンスターだな)

 

その存在を見て、口には出さないものの、シンクロ遊介にはいくつかの確信が生まれた。

 

これまで闇の世界にいたことも事実であり、そこでデッキを強化したという話も事実であると。

 

闇の世界については、遊介に聞かなくてもシンクロ遊介は調べはついている。そして以前、ハルトとの戦いから、公式のデュエル記録には一切登場していなかったその時間。その闇の世界で自身の強化に専念しているとしたら、と考える。

 

(もしかすると、あながち侮れない相手になってるかもな)

 

という結論をシンクロ遊介は出した。

 

そんなことを考えていることも遊介は知るはずもない。

 

「スワップリーストの効果! リンク素材になったとき、このカードを素材としたリンクモンスターの攻撃力を500ダウンさせる! その代わり、俺はデッキからカードを1枚ドロー!」

 

今出したシューティングコード・トーカーの攻撃力を下げる意味は見た目上ない。シンクロ遊介は遊介の戦術に首を傾げる。ただの1ドローの為なのかと。

 

シューティングコード・トーカー ATK2300→1800

 

「さらに、サイバースガジェットの効果」

 

「トークンを召喚するんだよな?」

 

「そうだ。2度目だし、お前が了承しているのならわざわざ説明はしないぞ」

 

「ああ」

 

遊介はそのトークンを、シューティングコードトーカーの左のリンク先に特殊召喚する。

 

ガジェット・トークン レベル2 守備表示

ATK0/DEF0

 

そして今ドローしたカードをセットする。

 

「バトルフェイズ! シューティングコードトーカーの効果を発動する。このバトルフェイズ、このカードのリンク先のモンスターの数プラス1回、相手モンスターに攻撃できる! このターン相手モンスターが1体のみの場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ400ダウンする」

 

わざわざ召喚した新たなエースも攻撃力1400.

 

これには何かある。シンクロ遊介は今から繰り広げられる戦術が少し楽しみになり、唇の端っこを吊り上げる。

 

「何かあるんだろ? 来いよ」

 

遊介は挑発ともとれるその言葉に、

 

「当然だ、遠慮なくいくぞ!」

 

と堂々宣言し、

 

「シューティングコードトーカーで、スカーウォリアーを攻撃!」

 

シューティングコードトーカー ATK1800→1400

 

(何……自爆特攻? 何を)

 

矢をつがえ、攻撃を仕掛けようとする青い弓使いに、シンクロの戦士は急襲。矢を放つ前に間合いを詰め、手に装備した剣で襲い掛かった。

 

そのまま、剣で青い弓使いは斬り裂かれ、その命を奪われる。

 

本来であれば、そのような流れで、せっかく召喚した青の弓兵は消える運命にあるのだ。

 

しかし、当然遊介はその悲しい結果を求めてこのような決断をしたのではない。

 

「エンコードトーカーの効果! このカードのリンク先の自分のモンスターが、そのモンスターより攻撃力が高い相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算前に発動できる。その自分のモンスターはその戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。そのダメージ計算後、このカードまたはこのカードのリンク先の自分のモンスター1体を選び、その攻撃力をターン終了時まで、その戦闘を行った相手モンスターの攻撃力分アップする」

 

包帯を巻いた戦士の衰えぬ剣戟を、光のコードトーカーは、弓兵の前位に割り込み、持っている立てて弾き飛ばす。

 

「この戦闘でシューティングコードトーカーは破壊されず。俺の受けるダメージは0になる。そして、シューティングコードトーカーは、スカーウォリアーの攻撃力2100分の攻撃力をアップする!」

 

シューティングコードトーカー ATK1800→3900

 

「なるほど……!」

 

ここまでの説明で、その先に何をするのか、シンクロ遊介は読めた。

 

本来、エンコード・トーカーの効果を自発的に使うと、せっかく攻撃力を上昇させたモンスターはそのターン攻撃をすでに終えてしまっている。これでは攻撃力を上げるだけ無駄だ。

 

しかし、攻撃回数を増やせばその限りではない。例えば以前遊介が使った『パラレルポート・アーマー』などを使えば、攻撃力を上昇させたモンスターでそのまま攻撃できる。

 

このシューティングコード・トーカーはそういう意味で、エンコードと相性がいいのだ。故に攻撃力を下げても、十分活用は可能である。

 

「なるほどってことは、俺の戦術、分かったんだな」

 

「癪だが、今回はマジで一本取られたぜ」

 

「なら、そのままダメージも食らってくれ」

 

シューティングコード・トーカーはこのターン、リンク先に2体モンスターが存在することにより、3回の攻撃が可能になっている。

 

シンクロ遊介はさらに自分でも、厄介な状況を作り出していた。本来次の攻撃でスカーウォリアーは破壊され、モンスターに限定したシューティングコード・トーカーの攻撃は終わる。というのが本来の流れだが――。

 

「行くぞ!」

 

遊介の容赦ない攻撃が始まる。

 

「シューティングコードトーカーで、スカーウォリアーを攻撃! シューティングコンプリート!」

 

シューティングコードトーカー ATK3900→3500

 

不本意ながらもシンクロ遊介はスカーウォリアーの効果を宣言した。

 

「スカーウォリアーは1ターンに1度、戦闘では破壊されない」

 

「ならば、ダメージは受けてもらうぞ!」

 

青い弓兵の渾身の一射が、シンクロの戦士に襲い掛かった。戦士はその一撃をもろに受けるが、なんとか生存する。

 

(勝)シューティングコード・トーカー ATK3500 VS スカーウォリアー ATK2100 (負)

 

しかし、その戦いの衝撃は、シンクロ遊介に襲い掛かる。

 

「ぐ……」

 

シンクロ遊介 LP4000→2600

 

そして、スカーウォリアーはフィールドに残った。否、残ってしまった。

 

モンスターが居るこの状況、それはつまり、シューティングコードトーカーが再び攻撃できるということ。

 

「運がなかったな。俺はもう一度、シューティングコードトーカーで、スカーウォリアーを攻撃!」

 

スカーウォリアーの戦闘破壊に対する耐性は1ターンに1度。

 

これ以上は耐えられない。

 

「シューティングコンプリート!」

 

再び放たれた1射は、戦士の身体を確実に貫いた。

 

(勝)シューティングコード・トーカー ATK3500 VS スカーウォリアー ATK2100 (負)

 

「クソ……」

 

シンクロ遊介 LP2600→1200

 

遊介の攻撃はまだ終わっていない。

 

「エンコードトーカーで、ダイレクトアタック! ファイナルエンコード!」

 

盾から出した刃による一撃。これが決まれば、勝負が決する。

 

しかし、当然、シンクロ遊介もまた、無策でいるわけがない。

 

「手札の、速攻のかかしの効果。相手のダイレクトアタック宣言時にこのカードを手札から墓地へ送り、その攻撃を無効、このターンのバトルフェイズを終了する!」

 

シンクロ遊介は手札からカードを墓地へ送り、バトルを強制終了させる。これで、遊介の攻撃は終了。スピードデュエルなので、そのままエンドフェイズに移行した。

 

「シューティングコードトーカーの効果。このターン戦闘で破壊した相手モンスター1体につき、カードを1枚ドローする。俺はカードを1枚ドローして、ターンエンド」

 

「アフターケアもばっちりか。驚いたな、一気に俺ピンチ」

 

それでも余裕の態度を崩さないシンクロ遊介。

 

「という割には、ずいぶん余裕に満ち溢れている顔だな」

 

「なあに、この程度追い詰められることは結構ある。俺のデュエルはいつだって……ここから逆転するのさ」

 

ニヒルな笑みを浮かべるシンクロ遊介の闘志はいまだ尽きていない。

 

遊介はその様子を見て、

 

(格好いい決め台詞だなぁ……今度真似してみようかな)

 

と腑抜けたことを考えていたことは、シンクロ遊介には知る由もない。

 

遊介は後ろを見る。

 

エリーが解放軍の一人とデュエルを続けていた。

 

(エリーのLPはまだ4000。もうしばらくは大丈夫か)

 

と、現状を確認し、自分のデュエルに意識を戻す。

 

 

遊介 LP4000 手札1

モンスター ④ エンコード・トーカー ⑤ シューティングコード・トーカー

      ⑥ ガジェット・トークン

魔法罠 伏せ1

 

(シンクロ遊介)

■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

□   ④     EXモンスターゾーン 

□ ⑥ ⑤   メインモンスターゾーン

□ ■ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

ターン4

 

 

「俺のデッキは常に、下準備さえあれば1枚から逆転の一手を打てる。刮目して見てろよ。かつて、キング、ジャックアーロンをも超えた、俺のデッキのポテンシャルを!」

 

長い口上を述べシンクロ遊介はデッキからカードをドローした。その姿に遊介はプロデュエリストを重ねた。遊介が目指す将来の職業においても、口上というのは客を引き付けるために必要な演出だ。それをシンクロ遊介はまるで実践しているように見えたのだ。、

 

シンクロ遊介 LP1200 手札2

モンスター

魔法罠 伏せ1

 

遊介はドローしたカードを見たシンクロ遊介に、自信が満ちたような雰囲気を感じる。

 

「光の世界への道、諦めてもらうぜ。俺も、ここからがフルスロットルだ!」

 

遊介に指さし、シンクロ遊介の戦術の披露が始まる。

 

「墓地のレフティドライバーの効果。このカードを墓地から除外し、デッキからライティドライバーを手札に加える」

 

「2枚目?」

 

「当然。この右左セットは3枚ずつしっかり入ってるぜ。そして今手札に加えたライティドライバーを召喚!」

 

遊介の前に再び、シンクロ遊介の最初のモンスターが現れる。

 

ライティ・ドライバー レベル1 攻撃表示

ATK100/DEF300

 

「またか」

 

「そう、さっきと同じだ」

 

その宣言通り、デッキからレフティドライバーが蘇る。

 

レフティ・ドライバー レベル2 攻撃表示

ATK300/DEF100

 

「このカードの効果でレフティドライバーのレベルを3にする。さらに罠カード『ロスト・スター・ディセント』を発動。墓地のシンクロモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはレベルが1つ下がり、効果が無効化、守備力は0となる」

 

先ほど遊介が破壊した、スカーウォリアーがほぼ無力の状態で引き揚げられた。

 

スカーウォリアー レベル4 守備表示

ATK2100/DEF0

 

しかし、それはあくまで単体としてみればの話だ。

 

「レベル8……」

 

遊介はその意味をよく理解している。今から呼び出されるモンスターがおそらくシンクロ遊介のエースである強力なモンスターであること。

 

シンクロのレベル8。このキーワードだけでも、恐ろしいモンスターをたくさん想像できる魔境のようなレベル帯。

 

それが今から敵として現れようとしているのだ。

 

「行くぞ、サイバース遊介。今度は俺が、お前に一泡行かせてやる番だ」

 

シンクロ遊介は、遅くなったがようやく呼べるな、と独り言をつぶやいたあと、

 

「俺はレベル4となったスカーウォリアー、レベル3のレフティドライバー、レベル1のライティドライバーをチューニング!」

 

再び、モンスター3体が同調を行う。シンクロ召喚を特徴づける円環が、今後は8つ。

 

そしてその円環を包むように空から注いだ光。

 

その中から現れた存在が、シンクロ遊介のエースモンスター。

 

数多の戦場を、シンクロ遊介とともに駆けたであろう、シンクロ遊介にとって至高の存在。

 

「現れろ! レベル8 アーティフィシャルウォリアー・プリズムフォース!」

 

白の甲冑を纏う人型で、透明度の高い水晶をアクセントのように身に着け、甲冑には細い青のラインが走り、背中に六枚、ダイヤモンドの翼を携行させている戦士。

 

AFW・プリズムフォース レベル8 攻撃表示

ATK2500/DEF2000

 

「あれは……!」

 

遊介は、攻撃力数値、姿を見て、特別な何かを感じた。自分の持つファイアウォールドラゴンと同じ、何かの力に溢れているような威圧感のような、すべてを救う英雄が持つ輝きのような。他とは違うという何か。

 

「さて、遊介。さっきまでは侮って悪かったな」

 

シンクロ遊介の様子が一変する。先ほどまではへらへらと笑みを浮かべるばかりだったが、それが、今は笑顔こそ変わっていないものの、

 

「こいつを出した以上……光の世界への帰還は諦めてもらう」

 

というその顔には、絶対的な勝利への自信がにじみ出ていた。




遂に始まりました第2シーズン。
いきなり多少の波乱の中始まりました。
第2シーズン最初の相手は、まさかの自分自身、とまではいきませんが、シンクロ世界の遊介くんです。

番外編で語った通りに、彼は解放軍所属のデュエリストで、本文中にもありましたがフォーチュンカップにおいては、ジャックを破り優勝しています。ちなみに、シンクロ世界のジャックことアーロン君は、ジャックアトラスには一歩譲るが、引けを取らない実力という設定なので、それを倒したシンクロ遊介君は、そこそこの実力者なのです。

デュエルは次回に続きます。
今回最後に出したオリジナルモンスターとそれ関連の設定裏話は次回のネタにとっておきたいと思います。
次回もお楽しみに!

(アニメ風次回予告)

かつてこう呼ばれた。光の軍師。その名の通り、傍らに降り立った戦士を使役することからついた異名。光の戦士と共に、相手の優勢を一気に突き崩すその姿こそ、かつての栄光であり、デュエルに懸ける唯一の誇り。

次回 遊戯王VRAINS ~『もう1人のLINKVRAINSの英雄』~

   「全てを封じる光」

   イントゥ・ザ・ブレインズ!


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15話 すべてを封じる光(前編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

戦いは続く……。

AFW(アーティフィシャルウォリアー)・プリズムフォース レベル8 ATK2500/DEF2000

チューナー1体+シンクロモンスターを1体以上含めたチューナー以外のモンスター2体以上。
①の効果は相手ターンでも使用できる。① 1ターンに1度、相手がモンスターの効果、魔法、罠カードのいずれかをフィールド上で発動した時、その効果を無効にする。その後、この効果で無効にした効果を使用したカードの種類によって以下の効果を発動する。・モンスター そのモンスターを次のスタンバイフェイズまで除外する。さらに、自身の攻撃力を700ポイントアップする。・魔法 そのカードをフィールドにセットする。このターンそのカードの効果は発動できない。さらに自分はカードを1枚ドローする。 ・罠 そのカードをフィールドにセットする。このターンそのカードの効果は発動できない。さらに相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与える。② 自分のライフが1000以下で自分フィールド上にモンスターが存在しない時、墓地のこのカードを除くレベル5以上のシンクロモンスター2体を除外することで、このカードを墓地から特殊召喚する。この効果はデュエル中1度しか使用できず。使用したターン、『AFW』と名のつくモンスターをシンクロ召喚する以外の特殊召喚はできない。

訂正 シンクロ遊介のターン4の手札は3枚からです。


シンクロ遊介 LP1200 手札3

モンスター ⑦ AFW・プリズムフォース

魔法罠 

 

遊介 LP4000 手札1

モンスター ④ エンコード・トーカー ⑤ シューティングコード・トーカー

      ⑥ ガジェット・トークン

魔法罠 伏せ1

 

(シンクロ遊介)

□ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

⑦   ④     EXモンスターゾーン 

□ ⑥ ⑤   メインモンスターゾーン

□ ■ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

光輝の翼。そう言い表すにふさわしい翼が、白い鎧を装備した人型のモンスターの後ろに浮いている。

 

「さて……」

 

そして、勝利を確信しているシンクロ遊介は、いよいよ攻撃を始めようとしている。

 

遊介には、目の前に現れたモンスターに見覚えはない。つまり、この世界の独自のオリジナルカードなのではないかと予想する。本来は、これはシンクロ世界にしかないただ1枚のオリジナルカードなのだが、それは今の遊介には関係のない問題だ。

 

シンクロ遊介は、エースの召喚に使うことがなかった手札から、

 

「俺はカードを2枚伏せて、バトルフェイズに突入する」

 

カードを伏せた後、逆襲の狼煙をあげた。

 

「バトル! 俺はプリズムフォースで、エンコードトーカーを攻撃!」

 

翼は発行し、さらに周りに漂うエネルギーを光に変換し集約させる。そのエネルギーは戦士の正面に送られ、白い球体へと変貌する。

 

遊介はアフターケアの効果を発動し、相手の思惑通りにならないように誘導する。

 

「トラップカード、『ドップラー・フェーズ・コーティング』発動。このカードは、フィールド上のサイバースモンスター1体に装備し、装備モンスターは戦闘では破壊されない!」

 

これでエンコードトーカーを守れれば、次のターンで再び、シューティングコードトーカーの攻撃を放てる。攻撃の主軸であるエンコードを失う分けにはいかない遊介。

 

しかし、それを聞くと、シンクロ遊介は、ハハハハ、と笑う。

 

「何が可笑しい?」

 

「残念だったな」

 

そしてシンクロ遊介は攻撃準備に入っているエースを指さした。

 

「本領発揮だ。プリズムフォースは、1ターンに1度、相手がフィールドで発動した、魔法、罠、モンスター効果を無効にする!」

 

「何……?」

 

「つまり、お前が今発動したカードは不発だ!」

 

戦士にエネルギーを送った六の翼が、今度は戦士と罠カードの間に円状に並び、凄まじい光を放射する。

 

「プリズムリフレクション!」

 

光を受けた罠はその効果を発揮せず沈黙した。

 

遊介にとってはまさかの、モンスター効果による封印を見て、あっけにとられている。

 

しかし、これで終わりではなかった。シンクロ遊介はエースの続きを宣言した。

 

「この効果により、無効にしたカードの種類によって、効果を発動する。トラップカードを無効にしたとき、そのカードを再びセットし、そのカードおよび同盟カードの発動をこのターンの間封じる。さらに、相手に1000のダメージを与える」

 

「な……に」

 

どこから発生したのか、凄まじい電撃が遊介を襲う。

 

「ぐ……ぅぅ!」

 

遊介はこのデュエルで初めてダメージを負った。

 

遊介 LP4000→3000

 

そして、シンクロの戦士の攻撃は続行される。

 

「行け、プリズムフォース、エンコードトーカーを消し去れ! アーティフィシャルレイ!」

 

先ほど戦士の前に集められた光が、破壊光線となって、エンコードトーカーに襲いかかる。

 

盾で防ごうとするが、エンコードトーカーはその圧倒的な光量に体ごと飲み込まれ、そのまま存在が消失した。

 

その余波によるダメージを当然遊介は受ける。

 

(勝)AFW・プリズムフォース ATK2500 VS エンコード・トーカー ATK2300(負)

 

遊介 LP3000→2800

 

守りの盾として用意していた策が剥がされ、未だライフポイントは優勢に見えるだけの、実質主導権を奪われた形になってしまう。

 

「たった1枚で」

 

「言ったろ? お前に勝たせるつもりはない」

 

シンクロ遊介の攻撃はこれで終了したが、次に向けて、不安を隠せない状況であることに変わりはない。

 

シンクロ遊介 LP1200 手札1

モンスター ⑦ AFW・プリズムフォース

魔法罠 伏せ1

 

(シンクロ遊介)

□ ■ ■   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

⑦   □     EXモンスターゾーン 

□ ⑥ ⑤   メインモンスターゾーン

□ ■ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

遊介は先ほどのダメージよりも今後を心配する。後ろを見ると、すでに大天使クリスティアの力で、敵を倒しかけているエリーの姿。この様子では彼女の心配をする必要がないことがわかり遊介はこのデュエルに再び集中した。

 

(このままでは負ける……)

 

次に来るカードにすべてを託さなければならない。

 

未だこのような運任せのデュエルをしているあたり、まだまだだと自分では思ってしまうが、目の前のシンクロモンスターを相手に、四の五の言ってはいられなかった。

 

 

ターン5

 

 

「マスター、大丈夫ですか!」

 

エリーの心配の声に、

 

「なんとかする。心配するな!」

 

と強がりを返しながら、デッキの一番上のカードを引き抜いた。

 

遊介 LP2800 手札2

モンスター ⑤ シューティングコード・トーカー

      ⑥ ガジェット・トークン

魔法罠 伏せ1

 

遊介は先ほどのモンスターの効果を見る。この世界では、一度も見たことないカードや効果はモザイクで隠されてしまうため、相手の効果の宣言を待たなければいけないが、それ以降は判明しているカード効果の確認をすることはできる。

 

「……厄介な」

 

と、大きな独り言を言ってしまう程度には今目の前にいる敵は脅威だった。自分の行動を1回は確実に阻害される。現れたシンクロ遊介のエースによって。

 

「どうだ?」

 

得意げに話しかけてくる自分と同じ顔の人間。

 

いつかはあんな風に余裕を持ったデュエリストにもなってみたいものだと少し思いつつ、

 

「お前、こんな行動阻害とか、性格悪いぞ」

 

と、喧嘩を売る。しかし、現状、戦いの流れは向こうにある状況で、遊介のこの言葉も意味はほとんど為さない。

 

「光の軍師。それが俺の異名でね」

 

「異名?」

 

「これでもシンクロ世界ではプロデュエリストを経験していた身だ。その絶頂期につけられた異名だ。戦うのは戦士、そして俺はこの光の戦士を最大限まで活用するためにあれやこれやの策を出す。その様子を見た誰かが言い始めてから、こんな名前がついちまった。まあ、気に入ってるけど」

 

プロデュエリスト。

 

それは遊介が将来なりたい理想の姿。その理想をすでに目の前の人間は叶えているという。

 

それが真実かどうかは遊介には分からない。しかし、これまでの立ち振る舞い、そして余裕の現れ方を考えると妙な説得力を遊介は感じている。

 

そして、このデュエルが始まる前に見せた絶対的な自信は、プロの世界で鎬を削ってきた経験が言わせていることも分かった。

 

(つまり……俺は脅威と認識されるほど強くないっている見立てなのか)

 

それは己への侮辱であり、遊介も内心穏やかではない。

 

ならばどうするか。その評価を変えるにはここからのデュエルで証明するしかない。

 

「さあ、かかって来いよ!」

 

空を走る。Dボードに乗っていて感じる空気抵抗。

 

それが目の前の強者から放たれる威圧であるかのような錯覚がする。

 

「上等……!」

 

遊介の心に火が付いた。

 

すでに新たな突破口は見えている。まずは相手のエースの動きを封じることから始めなければならない。

 

「俺はマジックカード『サポートプログラム・バスター』を発動! このカードは、フィールド上にサイバースリンクモンスターが存在するときに、ライフを半分支払って発動できる。相手フィールド上のモンスター1体を選択し、そのモンスター破壊する。その後自分フィールド上のサイバースモンスター1体の元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

遊介 LP2800→1400

 

「そうはいかない。プリズムフォースの効果、その発動は無効にさせてもらう。プリズムリフレクション!」

 

再び光輝の戦士の翼から光が放たれる。その光を浴びた魔法カードの動きが停止した。

 

「魔法カードの発動を無効にした場合。そのカードを再びフィールドにセット。このターン効果は発動できない。そして俺はカードを1枚ドローする」

 

シンクロ遊介は堂々と自らのエースの効果を語り、さらにドローをする。

 

しかし、その光景を最後まで見ることなく、遊介はここからさらに動き出す。

 

「アローヘッド確認!」

 

それはリンク召喚の合図。ここから遊介は新たにモンスターを呼び出そうというのだ。

 

2500、それほどのモンスターを持っているのは、シンクロ遊介だけではない、と言わんばかりに。

 

「召喚条件はモンスター2体以上! 俺は、リンク3のシューティングコードトーカーとガジェットトークンの2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

向こうがエースならば、こちらもエースを投入する。

 

遊介は、エクストラデッキに待機している、自らの勝利の象徴である竜を呼び出した。

 

「これこそが、あらゆる敵を拒み、焼き尽くす、電脳世界の守護を司る竜。今、迫る敵を排斥するため、その姿を現せ! リンク召喚、来い、ファイアウォールドラゴン!」

 

召喚ゲートから現れるのは、天城ハルトという絶対的な敵をうち払った実績を持つ、遊介の守護竜。青い線、鋼の胴体、荒々しさではなく、荘厳な威圧を纏う竜

 

ファイアウォール・ドラゴン

リンクマーカー 上 下 左 右

LINK4/ATK2500

 

「来たな……待ってたぜ……!」

 

シンクロ遊介は、遊介の元に降臨した竜を見て満足そうに宣う。

 

「待ってた?」

 

「やっぱお前は、こいつを倒してこそだからな」

 

シンクロ遊介のエース破壊宣言。

 

それに対し、遊介の回答は、

 

「それを考える必要はない。このターンで仕留める気だからな」

 

と、自信満々に言葉を返してみせる。そして遊介をそこまで言わせる理由は、次の手にあった。

 

「墓地のスペースインシュレイターの効果! 自分フィールドにサイバース族リンクモンスターがリンク召喚された時に発動できる。そのモンスターのリンク先となる自分フィールドにこのカードを特殊召喚する。俺はファイアウォールの下にこのカードを特殊召喚」

 

そのモンスターは最初のターンに召喚し、その後墓地へ送られたモンスター。先ほどの償還時には存在に一切のメリットはなかったが、このモンスターの本領発揮はこの自分を蘇生させる効果である。

 

つまり、この瞬間こそ本領発揮ということだ。

 

スペースインシュレイター

リンクマーカー 上 下

LINK2/ATK1200

 

「このカードのリンク先のモンスターの攻撃力は800ダウンする」

 

「お前、わざわざ呼んだファイアウォールの攻撃力を下げるのか?」

 

「ああ。でもこれでいい」

 

これは遊介が最初のターン、手札にあるモンスターを見た時点で、最終的に目指していた盤面。如何に不利な状況でも逆転をするための一手として考えていた道筋だ。

 

「よく見ろよ。リンクマーカーの向きを」

 

そう勧められたシンクロ遊介はその言葉に従った。

 

「……相互リンク」

 

シンクロ遊介は納得する。スペースインシュレイターを何故その場所に召喚したか。

 

「そうだ。これならファイアウォールの効果を発動できる」

 

遊介は待ち望んだファイアウォールの活躍のためにその効果を宣言する。

 

「ファイアウォールドラゴンの効果。このカードと相互リンクしているモンスターの数につき1枚まで、フィールド・墓地のモンスターを手札に戻す。俺が選ぶのは、当然、プリズムフォースだ!」

 

遊介は己の前を走る白の戦士を指さした。ファイアウォールドラゴンはその指示に従ったかのように反応すると、効果発動の準備を始める。

 

――シンクロ遊介の口が開いた。

 

「甘いぜ、速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動! フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が400アップし、効果は無効化される。俺が対象にするのは、当然ファイアウォールだ!」

 

ファイアウォール・ドラゴン ATK1700→2100

 

効果の無効。遊介はこれは想定していなかった。

 

「くそ……」

 

効果の不発が決定的になった。

 

光の軍師。その異名は伊達ではないということか、と遊介は勝手に納得する。

 

前を走る自分と同じ顔のデュエリストは、プリズムフォースだけでなく、その他のカードをも使って、相手の攻撃を徹底的に封じていく。そして己の策に相手をはめていくのだ。

 

「ざんねんだったな」

 

遊介の手札は残り1枚であり、ここから先はやはり運任せになってしまうが、もはやなりふり構っていられない。残り8000の保有ライフをさらに賭けている現状、運任せでも勝たなければならない。

 

「マジックカード。『サイバース・キャッシュ』を発動! 自分フィールド上に元々の攻撃力が異なるサイバース族モンスターが居る時、デッキからカードを2枚ドローする!」

 

遊介は残っていた手札1枚から、反撃を試みるための新たな手をデッキから呼び出す。

 

そして来たカード2枚を見て、

 

「これに懸ける」

 

と宣言する。その中にモンスターはなく1枚は魔法、1枚は罠だった。

 

遊介には予感があった。

 

それは次の自分のターンにプリズムフォースが無事であれば、どうあっても勝ち目はなくなるということ。

 

なんとしてでも、プリズムフォースを何とかしなければ。遊介は最後の希望を今引いたカードに託す。

 

「俺はカードを1枚伏せる」

 

「今更1枚か?」

 

「本命はこっちだ。マジックカード、『リンクアトロシティ』! 自分フィールド上のリンクモンスター1体をリリースし、その攻撃力分だけ俺の他のリンクモンスターの攻撃力をアップする! 俺はスペースインシュレイターをリリースし、ファイアウォールドラゴンの攻撃力を1200アップする!」

 

新たに発動された魔法の力で、スペースインシュレイターはこのカードの力によって、消滅しその力が赤い光となってファイアウォールドラゴンに宿る。

 

消滅によりデメリットは消える。

 

ファイアウォール・ドラゴン ATK2100→2900

 

ファイアウォールドラゴンは元々の攻撃力に戻りさらに、魔法カードを効果を受けたファイアウォールドラゴンの攻撃力は上昇する。

 

ファイアウォールドラゴン ATK2900→4100

 

「4100! まじか」

 

「行くぞ!」

 

遊介が引いた希望の1枚。

 

単純な攻撃力勝負であれば、ファイアウォールドラゴンは今、目の前の白い光の戦士を滅するに十分な破壊力を持つ。

 

遊介は敵を指さし、己の竜に命じる。

 

「バトル! ファイアウォールドラゴンで、アーティフィシャルウォリアー、プリズムフォースを攻撃!」

 

竜は咆哮をあげ、翼を大きくはためかせた。そして体を炎のような深紅に染め、翼は燃え盛る壁となる。

 

守護竜は戦士を滅ぼすだけのエネルギーの放射を準備した。

 

しかし、そこで邪魔が入る。

 

「甘いぜ。カウンタートラップ『攻撃の無力化』を発動!相手モンスターの攻撃宣言時に、その攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃を無効にする。その後、バトルフェイズを終了する!」

 

「なに」

 

まさかの2枚目までもが、プリズムフォースを守るための妨害カード。さすがにここまでしつこいとは、遊介は思っていなかった。

 

ファイアウォールドラゴンは発動された罠の力が放つ風圧によりバランスを崩しバトルは中断されることになった。

 

そしてバトルフェイスの終了。このターンの遊介の攻撃はこれで終了する。

 

「クソ……」

 

この1撃が決まってほしい。そう切に願っていた遊介の顔には悔しさがにじみ出る。

 

「マスター……」

 

「……大丈夫だ」

 

さすがに強がりだと分かるエリーは、遊介を心配せずにはいられなかった。

 

すでに自身に襲い掛かってきた火の粉を振り払った後で、遊介のデュエルを見守るだけである。

 

しかし、劣勢を強いられている己のマスターを見てしまえば、不安になるのも仕方なかった。

 

「情けないぜ。サイバース遊介」

 

「なんだよ」

 

「お前、そんな可愛い子に頼られているんだろ。無様な姿を見せて恥ずかしくないか?」

 

「うるせえ」

 

シンクロ遊介は優勢であることを実感している満足そうな顔で戯言を並べ始める。

 

「エリーちゃん。見ただろ? この男はこの程度の男だ。凡人の中の凡人。特別な力なんてない。こんな情けない奴なんか見限って、新しいマスターを探すことを提案するぞ」

 

「結構です」

 

「早! 即決だねぇ」

 

「私の世界のエリアマスターはこの人です」

 

「くだらない忠義に振り回されるのはよくないって」

 

「忠義ではありません」

 

エリーの意志は固かった。この程度の戯言に惑わされないくらいに。

 

「マスターはいい人です。だからこそ信頼しています。この前の闇の世界でも、足を引っ張ってばかりの私を見捨てないでくれた。自分の方が3倍も4倍も戦っていて大変なのに、私を生きていけるように精一杯サポートしてくれた。その恩は忘れることはありません。私はこの人が、あの世界のエリアマスターでよかったってそう思います」

 

このように聞いていて心地いい、褒めの言葉を言ってくれるくらいに。

 

「へえ……なら、たっぷり失望することになるぜ。これから」

 

シンクロ遊介の言葉を聞いても真っ向からエリーは睨み返す。

 

遊介はその様子を見て、消えてはいないが、徐々に弱まっていた心の火に再び油を注いだ。

 

「エリーにそこまで言わせて……ここで引き下がってなんかいられないな」

 

「でも、お前のターンはこれで終わりだ」

 

「まだ、俺は戦える」

 

「そうか、そう来なくっちゃな」

 

シンクロ遊介の優勢な状況は未だ覆せなくとも、エリーにこれ以上情けない姿は見せられない。

 

遊介は未だ希望を捨てない。

 

プリズムフォースがカード効果を無効にするのは1回。であれば、今伏せたカード、もしくは先ほど不発だったカードのどちらかが発動できると信じているからだ。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

遊介は次のターンに己の運命を託す。

 

ファイアウォール・ドラゴン ATK4100→2500

 

遊介 LP1400 手札0

モンスター ⑧ ファイアウォール・ドラゴン

魔法罠 伏せ2

 

(シンクロ遊介)

□ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

⑦   ⑧     EXモンスターゾーン 

□ □ □ メインモンスターゾーン

■ ■ ■   魔法罠ゾーン

(遊介)




前編です。
後編も同日12:00投稿するので、そちらもぜひお楽しみください。


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15話 すべてを封じる光(後編)

前編がすでに投稿されているので、前書きはそちらにあります。

こちらは後編です。お楽しみください。


ターン6

 

 

遊介が未だ希望を捨てないその態度を見てシンクロ遊介は考える。

 

当然、今伏せたカードが逆転の1手である可能性が高いと。

 

ならば、とシンクロ遊介は確実に勝利を掴むため、最後のだめ押しを実現するカードを求める。

 

「俺のターン」

 

運命の1枚。これで遊介の未来も占われる。

 

シンクロ遊介はカードを引いた。

 

そして――。

 

シンクロ遊介 LP1200 手札2

モンスター ⑦ AFW・プリズムフォース

魔法罠

 

シンクロ遊介は、持ち前の幸運で、自らの運命を操った。

 

これこそが、数多くの敵を打ち倒してきた、天より授かった勝負運である。

 

「俺は速攻魔法、『継がれる闘気』を発動! このカードは、墓地の戦士族モンスター1体を除外して発動する。俺のフィールド上のモンスターの攻撃力を次の相手ターンのエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。俺はスカーウォリアーをゲームから除外!」

 

AFW・プリズムフォース ATK2500→3500 

 

「さらに除外したのがシンクロモンスターだった場合、相手フィールド上のマジック、トラップカード2枚まで破壊する。お前が前のターン伏せたカード2枚を破壊させてもらう!」

 

「な……」

 

遊介が最後の希望を託したカード。その伏せられたトラップは、無惨にも見事に破壊される。 

 

「残念だな。このカードは初期から愛用している俺の愛用カードなんだ。まあ、このターン俺はこのカード以外の魔法、罠を発動・セットはできないんだがね。それでも、こういう場面では強い」

 

「くそ……」

 

本気で悔しがる遊介。

 

シンクロ遊介の勝利は無情にもここで決まる。

 

先ほどのターン遊介が何とか手繰り寄せた逆転の手。

 

それはこんなにもあっけなく崩れ去った。

 

この場を風をきる音だけが支配する。

 

勝利を確信したシンクロ遊介に最早言うべきことはない。対して、敗北が迫る遊介にもまた出てくる言葉はなかった。

 

「バトルだ」

 

「罠カード『ドップラー・フェーズ・コーティング』」

 

これは防がれる。それを分かり切っているからこそ、遊介の声に覇気はない。

 

「無駄だ。プリズムフォースの効果! その罠の発動は無効にさせてもらう。プリズムリフレクション!」

 

放たれる光。

 

「罠カードを無効にしたことで、そのカードを再びセット。お前は1000のダメージを受ける」

 

襲い掛かる雷撃。

 

遊介 LP1400→400

 

「マスター!」

 

響き渡る悲鳴。

 

そして、ファイアウォールドラゴンは破壊される。

 

今の遊介がファイアウォールドラゴンを失えば、もはや勝機はない。

 

「プリズムフォースで、ファイアウォールドラゴンを攻撃!」

 

勝利を確信したシンクロ遊介は、勝負を決める1撃を撃ち放つ。

 

エリーは目を閉じた。

 

己のマスターの敗北を見たくないから。

 

――――。

 

エリーが次に目を開けた時。

 

そこには、攻撃をされたはずのマスターが、未だLPを0にしていない状態で立っていた。

 

「なんで……?」

 

 

「そもそもおかしいとは思わなかったか?」

 

遊介があそこで『ドップラー・フェーズ・コーティング』を使用する意味はない。なぜなら、そもそも防がれるから、ということに加え、発動してしまえば、そこで遊介の負けが決まる。

 

発動さえしなければ、攻撃を受けても遊介のLPは残っていたはずなのだ。

 

しかし、そうはしなかった。遊介は自らLPを削ったのだ。

 

勝つために。

 

 

「さっき破壊されたトラップカード。その名は『ファイアウォール・プロテクト』。このカードはサイバースモンスターへの攻撃を無効にし、自分フィールド上のサイバースモンスター1体の攻撃力を次の俺のターンのエンドフェイズまで800アップする効果をフィールドで発動できる」

 

「そのカードは破壊しただろう?」

 

「だが、ファイアウォールドラゴンがフィールドにいる時のみ、このカードはさらなる効果を2つ発揮する。1つは、お互いのスタンバイフェイズ、墓地のサイバースリンクモンスターを除外し、このカードを自分フィールド上にセットする。そしてもう1つ。これが今発動する効果だ!」

 

遊介の目には、先ほどの意気消沈した状態からは想像できないほどの光を帯びている。

 

その目をエリーは知っている。

 

闇に世界の激闘の中で、あの目をしたマスターは――勝つ!

 

遊介は叫ぶ。己の逆転へ道標を。

 

「2つ目。相手モンスターの攻撃宣言時、墓地のこのカードを除外! このターンのバトルフェイズを強制終了する。その後、フィールド上で表側表示で存在するモンスターの効果を無効にする!」

 

「な……んだとぉ! マジか!」

 

この反撃はシンクロ遊介にとっても予想外だった。

 

遊介の先ほどの意気消沈はすべて、演技だったのだ。

 

守護竜は発動した罠の力を得て、再び翼に炎の壁を展開する。そこから放たれるのは、いつも自身の効果で放たれる電撃の攻撃をさらに拡張した怒涛の雷撃。

 

それをまともに受けた戦士は、倒れはしないものの、苦悶の叫びをあげる。

 

己の権能を封じられる自らのエースを、目を見開いて刮目するシンクロ遊介。

 

してやったり。という顔で遊介は声をあげる。

 

「どうだ?」

 

「……驚いたぜ」

 

「それは良かった。俺としては破壊されてもされなくても良かったってことだ」

 

「ピエロめ」

 

「勝つためならその程度はする」

 

感情の凹凸による相手の誘導。それは実はヴィクターがよくやる手法の1つであり、本人曰く、人は感情と切り離せない生物だからこそ、相手の感情を読み取って行動を起こすこともあるから、それを利用しない手はないだろう、と、遊介は聞いている。

 

もっともこれは誘導というわけではなく、シンクロ遊介が攻撃を躊躇わなければ、結局はこの結果になった。遊介が意気消沈して見せたのは単に驚かせるためだという意味合いが強い。

 

「やってくれたなぁ!」

 

そして騙された方のシンクロ遊介は悔しそうにしながらも、一方で楽しそうな顔もしていた。

 

「いいぜお前。俺が考えていたよりは随分とイケるやつになってきたな」

 

シンクロ遊介のこの言葉は、遊介にはさほど意味のない言葉に聞こえた。

 

しかし、ここには確かに意味があった。

 

シンクロ遊介が「イケるやつ」という相手は、真に彼が戦うべき敵に送る言葉である。つまりここまでのデュエルを見て遊介はシンクロ遊介の雑魚判定を覆したということ。

 

「後はこのままイケる状態で俺を倒せるかどうかだぜ?」

 

もっともそんな個人的な話が遊介が知る由もない。

 

「そうだな。お前が俺を雑魚っていった評価、覆してやるさ」

 

遊介はシンクロ遊介に宣言する。

 

「ファイアウォールプロテクト、3つ目の効果を使用した時、自分のライフが1000を下回っている場合、デッキからサイバース族のレベル4以下モンスターをデッキから1枚手札に加える、俺はクロックワイバーンを手札に加える」

 

その効果を聞き届けたシンクロ遊介は、

 

「なら、楽しみに次のターン、待つことにするさ。ターンエンド」

 

とターンの終了を宣言する。

 

シンクロ遊介 LP1200 手札1

モンスター ⑦ AFW・プリズムフォース

魔法罠

 

(シンクロ遊介)

□ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □   メインモンスターゾーン

⑦   ⑧     EXモンスターゾーン 

□ □ □   メインモンスターゾーン

□ ■ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

ターン7

 

 

「俺のターン!」

 

遊介はデッキからカードを引く。

 

引き当てたのはレベル4のビットルーパー。今手札にあるカード2枚では残念ながらそプリズムフォースを突破できない。

 

しかし、遊介は思う。

 

(このターンが、あのプリズムフォースを倒すラストチャンスだ……!)

 

次のターンを許せば、自分で言っている通り、1枚から新たな攻め手で攻撃されさらに不利になる。その予感があるからこそ、このターンにできれば決着をつけたいところ。

 

「行くぞ!」

 

己に気合を入れ、Dボードを加速し始める。

 

「お前、何を?」

 

「忘れがちかもしれないが、スキルにはレベルがある」

 

「つまり、お前が使うのはストームアクセスではないと?」

 

「ああ、見せてやる。これがアップデートされたスキルだ!」

 

データストームと名付けられた竜巻が吹き荒れる。まるで遊介の呼びかけに答えるように。そして遊介はその中に飛び込んだ。

 

膨大な電脳世界の情報リソース。

 

遊介の新たなスキルは、それを利用する際の可能性を広げるスキルだった。

 

「行くぞ……! スキルレベル2! ハイストームアクセス! 自分のライフが1000以下の時、手札のモンスター1体を裏側表示でゲームから除外する! その後、データストームからランダムにレベル4以下のサイバースモンスターを1体手札に加える!」

 

吹き荒れる嵐に手を伸ばす。そして先ほどドローしたモンスターを除外し、新たなカードを手に加えるため、その発動を宣言する」

 

「俺はビットルーパーを除外! 風を掴む! ハイスト―ムアクセス!」

 

嵐の中に突っ込んで、わざわざカードを引き出す。

 

シンクロ遊介は初めてその光景を見て、

 

「傍から見ると、あれ、正気の沙汰じゃねえな」

 

と、自分と同じ顔をしながら嵐から脱出した遊介を評した。

 

そして、その遊介は自分のターンを開始する。

 

「行くぞ。クロックワイバーンを召喚!」

 

遊介が召喚したのは、今手札に加えた新たなモンスターではなく、先ほど手札に加えたモンスター。ワイバーンという名前の通り、竜の姿をしたモンスターだ。

 

クロック・ワイバーン レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF1000

 

「クロックワイバーンの効果! 自身の攻撃力を半分にして、自分フィールドにクロックトークンを特殊召喚する!」

 

クロック・ワイバーン ATK1800→900

 

クロックトークン レベル1 守備表示

ATK0/DEF0

 

「そしてデータストームによって手に入れたモンスター、コードラジエーターの効果。コードトーカーモンスターをリンク召喚するとき、手札のこのモンスターも素材にできる」

 

「つまり、素材は3体分あるってことか」

 

シンクロ遊介の言葉に頷き、遊介は召喚を宣言する。

 

「さらに現れろ、未来を導くサーキット。召喚条件はサイバース族モンスター2体以上! 俺は、クロックワイバーン、クロックトークン、そして手札のコードラジエーターの3体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろ! リンク3、エクスコードトーカー!」

 

未来を導くサーキット、そこから現れたのは闇の世界で手に入れ、遊介を今も支え続ける、緑のエースモンスター。

 

エクスコード・トーカー

リンクマーカー 上、左 右

LINK3/ATK2300

 

「ここで新たなコードトーカー……」

 

シンクロ遊介が手に入れていた情報ではこれもまた知り得ないカード。

 

(闇の世界で、よほどの実りがあったようだな……!)

 

シンクロ遊介の予想通り、遊介は確実にレベルアップして帰ってきている。

 

その修業成果こそ、かつてでは倒し得ない相手を倒すに至るこの瞬間。

 

「エクスコードトーカーのリンク先にいるモンスターの攻撃力は500アップ。よってファイアウォールドラゴンの攻撃力は500アップ!」

 

ファイアウォール・ドラゴン ATK2500→3000

 

「攻撃力が……!」

 

プリズムフォースにもファイアウォール・ドラゴンにも言えることだが、効果に文句はなくとも、攻撃力は十分高いとは言えない。それを補う方法があればよいが、ないと、この状況のように、あっという間に攻撃力を凌駕される。

 

しかし、遊介はその先を見据えている。

 

「そして、コードラジエーターの効果。このカードがコードトーカーのリンク素材になって墓地に送られたとき、相手モンスター1体を対象に発動する。そのモンスターの攻撃力を0にする! 俺は当然、プリズムフォースを対象にする」

 

光の戦士はその効果により、輝きが極限まで弱まっていく。その姿を後ろから見たシンクロ遊介は、寂しそうにその背中をただ見守った。

 

AFW・プリズムフォース ATK3500→0

 

「攻撃力0って、、本格的にこれはぁ……」

 

「やばいって?」

 

「……くそ、まさか負けるとは」

 

シンクロ遊介はため息をつく。手札を持つ手も、だらんとしたに落とし、空を見上げた。

 

対して遊介は今から倒すべき相手をしっかりと見つめる。

 

今度こそ、凄まじい力を見せたそのモンスターを破壊するために。

 

「バトルだ。ファイアウォールドラゴンで、アーティフィシャルウォリアー、プリズムフォースを攻撃!」

 

標的に指をさす。守護竜はそれに応え、再び翼を変形させた。

 

撃ち放つは、すべての敵を撃ち払う、嵐を巻き起こすほどのエネルギーを携えた紅蓮の火炎。

 

「テンペストアタック!」

 

その業火は、遂に、光輝の戦士を焼き尽くした。

 

(勝)ファイアウォール・ドラゴン ATK3000 VS AFW・プリズムフォース ATK0(負)

 

そしてその攻撃の衝撃を直々に受けて、シンクロ遊介は衝撃に耐えきれず墜落する。

 

「……やっぱ初手が弱かったか。楽しかったぜサイバースの遊介!」

 

シンクロ遊介 LP1200→0

 

シンクロ遊介は衝撃に耐えきれず、下へと墜落していった。

 

 

 

 

「マスター」

 

嬉しそうに近づくエリー。主の勝利の己が勝利のように喜ぶエリーを見て、がっかりさせなくてよかったという安堵感に遊介は浸っていた。

 

先ほどまで包囲をしていた解放軍も、シンクロ遊介の敗北を見て散っていた。

 

「やっぱりマスターは強いです! あんな奴、敵じゃないですね」

 

しかし、それには遊介は反論をせざるを得ない。

 

「いや、どうだろう」

 

「勝利したではありませんか」

 

「それなんだけど、腑に落ちないことがあるんだ」

 

「腑に落ちないこと?」

 

「あいつ、手札をずっと1枚残してた。それに、スキルも使ってない。もしかすると本気じゃないのかもしれない」

 

「あ……たしかに……」

 

デュエリストとしてはその真意を考えずにはいられない。

 

しかし遊介は迫るエリーの故郷の危機を優先することにした。

 

「今考えても仕方がない。行こう、エリー。光の世界に加勢だ」

 

「はい。了解です」

 

Dボードを再び加速させ、ようやく懐かしき光の世界へと突撃していく。

 

 

***************************************

 

「お前」

 

デュエルディスクから流れてくる音声を、墜落したシンクロ遊介は聞いていた。

 

「良助。どうだ光の世界は」

 

「その前にお前のことだ。聞いてたぞ、全部」

 

「まじで……いやあ、これは恥ずかしいところを」

 

「お前、なんでスキル使わなかった?」

 

「スキルかぁ。俺、あれ邪道な感じがして嫌なんだよね。やっぱデュエリストならカードで戦わないと。それにほら、アゼルは、遊介の危険度知りたいって言ってたからさ。あいつが本気を出せるようにってことでひとつ」

 

「手札の『シンクロ・リフレクト』使わなかったのもそれか?」

 

「そうゆうこと、それにさ、楽しかったからいいんだよ」

 

シンクロ遊介は遠くなっていく遊介を見ていった。

 

「アイツはイケるやつだ。まだまだ生かしておく価値がある。イリアステルとの戦いに向けて、まだ死なれても困る、って言えるくらいには強かったぜ」

 

「アゼルには伝えておく。けど、わざと負けなんて」

 

「いいや。あれは負けだよ。俺はあれでも勝てると思ったからそうした。その判断がミスだった。だから俺の負け。あいつは強かったよ」

 

「……いいのかよ。ライフも減ったんだぞ」

 

「いいよ」

 

シンクロ遊介は天を仰ぎながら口を開いた。

 

「俺はプロだった男だ。今は腐っているとしてもな。だから、楽しむためのデュエルと、人を殺すためのデュエルは使い分ける。それくらいのプライドはまだ残ってるさ」

 

良助は、

 

「なあに格好つけてんだ。さっさと合流しろよ?」

 

と、厳しく一蹴し通信を切った。

 

「ははは、結構最後のは本気で言ったつもりだったんだけどな」

 

シンクロ遊介はへらへらと笑いながら、再びDボードに乗り、光の世界を低空飛行で目指し始めた。




長い……。
しかし後悔はしていません。だってこの2人とデュエルは、第2シーズン開幕にふさわしい激闘にするつもりでした。いかがだったでしょうか。遊介も成長しています。以前に比べれば少しは主人公らしくなったように見えたでしょうか?

さて、遂にファイアウォール・ドラゴンがOCGで禁止になってしまいました。アニメでは不遇の扱い、OCGでは牢屋行き。さすがにこの話でも1度扱いを考え直さなければならないかもと不安に駆られましたが、結局ファイアウォール・ドラゴンはこのまま使っていくことに決定しています。なので、禁止カードを出すのはNGなどとは言わずに、せめて扱いだけはこの話の中では優遇していきたいと思います。

その優遇の1つが専用サポートカードの使用です。今回はオリジナルカードで表現しましたが、最近ではアニメでもファイアウォール・ガーディアンという期待の新星が来てくれたので、今からどう使うか考えている最中です。

ちなみに作中の『ファイアウォール・プロテクト』の効果は以下の通りです。

『ファイアウォール・プロテクト』 通常罠

②③の効果は、「ファイアウォール・ドラゴン」が自分フィールド上に表側表示で存在する場合に発動できる。①相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を無効にする。その後自分フィールド上のサイバース族モンスター1体を選択し、そのモンスターの攻撃力を、次の自分のターン終了時まで800ポイントアップする。②自分、もしくは相手のスタンバイフェイズ時、墓地のサイバース族リンクモンスター1体を除外して発動する。このカードを自分フィールド上にセットする。この効果でセットしたこのカードはセットしたターンに発動できる。③相手の攻撃宣言時、このカードを墓地から除外し、ライフを半分支払って発動する。このターンのバトルフェイズを終了する。その後、自分のライフが1000以下のならば、デッキから、レベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。

こんな感じのカードを今後も使っていきながら、ファイアウォール・ドラゴンを輝かせることを考えています。

次回で遊介君は本当に光の世界に帰還します。ようやく仲間と再会するわけですね。ちなみに次の遊介君デュエルまでは、2回、間を挟みます。仲間の活躍が続くのでそこはご了承ください。

(アニメ風次回予告)

解放軍の襲撃に割って入ったのは3人目の遊介。エクシーズ世界を滅ぼしたという最悪の裏切り者。彼はかつての同胞にこう語る。生き抜くために裏切ることの何が悪いと。それが黒竜の逆鱗に触れることも知らずに。

「勝負だ遊介。多くの同胞の無念を受けろ!」

次回 遊戯王VRAINS ~『もう1人のLINKVRAINSの英雄』~

   「レジスタンスの裏切者」

   イントゥ・ザ・ブレインズ!


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16話 レジスタンスの裏切者

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

光の世界争奪戦編です。


光の世界はかつてない混沌の中にあった。

 

これまでは、光の世界に危害を加える人間は個人、もしくはグループ単位の民間人襲撃だった。イメージとしては襲撃と言うより殺人事件、もしくは未遂と言う位置づけとして考えた方がいいレベルのものだった。

 

しかし今回は違う。

 

解放軍の襲撃はこれまでのような戦って勝てば済むという事はなく、戦っても戦って次が来る。最終的に解放軍が撤退を決断するか、どちらかが全員死ぬまでこの戦いは終わりはしない。

 

「……ぐぅ……!」

 

歯を食いしばりながら次のデュエルに向かうブルームガール。

 

これまでの散発的な襲撃への対応だけでもとんでもない疲労を感じていた彼女は今回のこの襲撃に、過労で死ぬのではないかというレベルで戦っている。彼女のモチベーションは、デュエル自体はやることに疲労はあれど苦がないという点。そして、夜に飲む一杯の背徳感を持つなオレンジジュース一杯。

 

他人から見れば弱いものだが、ブルームガールにとっては、戦うに十分な理由である。

 

そのモチベーションも50人を超える数を倒せば、徐々に減衰するのも無理はない。

 

現状、住人は、エリアマスターが座すはずの屋敷に全員避難させ、デュエルができ、保有LPが8000以上あるデュエリストは、

 

「ここで戦わなかったら光の世界が地獄になってどうせ死ぬから、生きたければ手伝え」

 

と言う、ブルームガールの脅迫によって外へと強制出撃させる。そして住人の避難先の入り口にあたる大神殿を守るように、『players』のデュエリストは仁王立ちし、デュエルを受け続けた。

 

幸運かな、光の世界でのルールは1体1のデュエル以外を行うことができないよう遊介が設定している。仮にルールブレイカーを持っていたとしても、そのアイテムは一つの効果にしか使えないため、LPが減らないというルールをアイテムで無効にしている以上、1VS1を無効にすることはできない。ちなみにルールブレイカーは、効果の重ね掛けはできない仕組みになっている。

 

大神殿前が制圧されないように、ユート、瑠璃、マイケル、ブルームガールを中心に光の世界のデュエリストの徹底的な防衛。そしてそれを崩すべく戦力を投入しているのが解放軍と言う構図になっている。

 

当然解放軍の方が数が多いが、戦える人間が相手1人につき1人ずつと限られるため、戦況は停滞を見せていた。

 

戦線の最前線に到着したアゼルは驚愕したものだ。数では圧倒的有利にも関わらず、とくにたった4人のデュエリストが合計すでに200近くのデュエリストを倒してなお防衛状態を維持し戦いづつけていることに。

 

マイケルは最前線に来たくせに、自分で戦おうとしないアゼルに挑発をかける。

 

「腰抜けかてめえ、雑魚の相手はやり飽きた。てめえが来い!」

 

その言葉は、アゼルにとっても、そして防衛を続けている4人にも言葉以上の深い意味をもつ言葉である。

 

防衛側の、ユート、瑠璃、マイケル、ブルームガールは、すでに精神力がいつ尽きるか分からない状況である。解放軍とて多少の実力者の集まりであり、勝ちを取るには簡単な相手というわけではない。彼らにとっては、もう大将首を取ることで相手の士気を下げ撤退を狙いたいというのが本音である。

 

対してアゼルも自分で戦いに出るわけにはいかない。

 

すでにアゼルも幹部を招集し、勝負に出たいと思っていた。本当はアゼルも自分で戦いたいところである。しかし、そうはできない理由がある。

 

以前、ある工場跡でエデンとの全面戦争になった際、アゼルはリーダーであるリボルバーとデュエルを行った。お互い、保有LPのうち、8000を賭けた真剣勝負だった。アゼルとて解放軍のリーダーであり、それ相応の実力は持っていた。

 

しかし、結果は惨敗。

 

LP的には大差はなかったが、最後にアゼルのフィールドには何も残らず、リボルバーのフィールドには、攻撃力の高いドラゴン3体が並んでいる状態で幕引き。完全制圧を遂げられてしまったのだ。

 

アゼルは自分でも情けなく思いながら、無様に逃走し何とか命を繋ぎとめて今に至る。つまり、アゼルのLPは既に4000。

 

そしてアゼルは目の前で抗戦を続けているデュエリストを見て、

 

(負ける可能性を否定できない)

 

と考えている。そのため、自身の生存をまで捨てきれない身ではむやみに戦いに出るわけには行かなかった。

 

しかし、このままでは戦況が動かないこともアゼルは承知している。1名を除いて、幹部が到着するまでには相当の時間がかかる。

 

「おい、聞いてるのか?」

 

大神殿前、マイケルの叫びが多くのデュエリストの耳をつんざく。

 

しかしアゼルは反応は返さず、到着した自分の部下を順序よく、光の世界のデュエリストとの戦いに割り当てていく。

 

このボディーガード4人で押し寄せるメディアを止めるような構図であり、誰かが勝手に通り抜けられそうなのだが、それを許さなかったのはマイケルが組み込んだ大神殿の防御扉である。光の世界のデュエリストが10メートル以内に存在する場合に限り、大神殿の入り口を完全閉鎖し、閉鎖したデュエリストを倒さない限り扉が開くことも壊すこともできない仕様になっている。

 

技術上と材料の問題で10メートル以内という制約がかかってしまったものの、先に説明した光の世界のルールに加え、この防御扉の使用を組み合わせることで、光の世界は少ないデュエリストでエリアマスターの居城を守る事を可能にしている。

 

今回、扉は、『players』のデュエリスト全員を倒さない限り壊れない仕組みになっているため、解放軍はこのように時間をかけてでもこの4人を攻略するしかない。

 

事前調査が足らなかったことを後悔したアゼルだったが、一度責めた以上、単なる撤退はアゼルとしても気持ちはよくない。

 

「アゼル」

 

幹部の一人が到着した。光の世界までは一緒に来ていた良助だ。

 

「……遊介は?」

 

「どっちのだよ」

 

シンクロ遊介に遊介と戦うように指示したのはアゼルである。光の世界のマスターを光の世界に誘導し、あわよくば、その力を確かめろという指示。

 

「シンクロ遊介は?」

 

「ああ。負けたよ」

 

「……あいつが?」

 

「ああ。手は抜いてたみたいだが、前に比べて強くなってたとさ」

 

「なるほど。で、サイバースの遊介はこっちに来てるのか?」

 

「まあ、光の世界の危機をそのままにはできないだろうさ。そんなの格好悪いだろって」

 

「なんだそりゃ」

 

「俺に訊くなよ。あいつはそういうやつなんだ。それより、シンクロ遊介はダウンした。しばらくはこっちに来れないぞ」

 

「……そうか」

 

すでに差し向けたデュエリストはあらかたブルームガール率いる防衛軍に倒され、場は膠着状態。

 

「あれは……?」

 

瑠璃がその男の到着に気が付いた。

 

アゼルと親し気に話している状況から、その男が幹部に近い存在であることを予想した。ユートにその予想について耳打ちをする。

 

そしてその話はマイケルやブルームガールの耳に届く前に、先にアゼルと良助が前に出てくる。

 

良助はブルームガールをどこかで見たことがある気がする、と妙な感覚を覚える。

 

(まさかな……)

 

その正体が気になるところであったが、良助はその好奇心を封じ、デュエルディスクを構える。

 

「解放軍、プレイヤーネームまっつん。まあ、ふざけた名前であるのは許してほしい。命懸けになる前につけたネームだからな」

 

名乗りを挙げる良助、戦おうと準備をしていた解放軍の一般兵たちもその手を止める。

 

その行動を見た、光の世界のデュエリストたちも、まっつんと名乗る男が解放軍の中でも相当な実力をもつ存在であることを察する。

 

大神殿を守る4人のデュエリストのうち、リーダーの代理をしているのはブルームガールである。その使命を自覚しているが故に、彼女はいち早く良助の宣言に対し、言葉を返した。

 

「今度はあなたが相手?」

 

「その通りだ。名前を聞いていいか?」

 

「聞いてどうするの? 意味ないと思うけど」

 

「仮にも解放軍ブランドを持ったデュエリストを相手にここまで持ちこたえているんだ。そんな相手と戦うのに、相手の名前を知りませんじゃ格好がつかないだろう?」

 

「意外、下調べで知ってるものかと思ってたけど」

 

「別に必要はない。どんなデッキを使うかだけ知っていれば事は済む。それがどんな名前の誰が使うかは当日の楽しみとっておいた方がモチベも維持できるってもんだ。これでもこっちだって命懸けなんだから。普通に考えたら、1つの楽しみでも持ってないとな」

 

良助は笑いながらデュエルディスクをいじる。すでに戦う気満々で誰と戦うか品定めをしている状態だ。

 

一方で光の世界のデュエリストたちは解放軍の戦力をあまり知らない。

 

解放軍は基本幹部以上の戦力をあまり公開したがらない。幹部以上が戦う場合、原則味方以外の観測者を生かしてはおかない。たとえたまたま見てしまったという人間であってもだ。

 

見た人間が死ぬのだから、彼らの戦力を知る生者はほぼいない。なぜなら幹部が敗北を見せたのは、リンクブレインズが始まってからただ一度。リボルバーとエクシーズ遊介率いるエデンの戦士たちにのみだ。

 

故に一般的には解放軍の幹部が使うデッキがどのようなものかは周知されていないのだ。

 

それはブルームガール達にも言えること。すなわち、まっつんを名乗るデュエリストがどのようなデュエルをするのかを把握していない。

 

「私が相手になるわ」

 

相談もなくブルームガールが相手に立候補する。

 

良助は名乗りを上げた乙女に向き直り、

 

「なら、まずはお前からだ」

 

と良助は戦闘態勢に入る。そして呼吸を整え、気を整える。

 

次の瞬間。先ほどまで穏やかだった良助の気配が一気に豹変する。恐ろしい闘気、ユートが纏うような殺気のように鋭利ではないものの、人を畏怖させるに十分な気配を漂わせていた。

 

ブルームガールは今から戦う相手の様子を、

 

(……ヤバい、これ、結構強いタイプだ)

 

と最大の警戒をした。

 

場に静寂が流れる。マイケルもアゼルも、今から戦おうとした2人を止めることはない。ユートと瑠璃は、その間妙な動きをする人間がいないか警戒をしている。

 

この場に妙な動きを見せる人間はいなかった。

 

――ただし、後からこの場にやってくる人間はその限りではない。

 

「まあ、待てよ」

 

戦いが始まろうとしているところに横やりが入る。

 

誰だ、と怒りを露わにしようとした良助は、その男を見て叫ぶのを中止した。何故よりにもよってその男がそこにいるのか、良助には理解できなかったからだ。

 

ブルームガールは一瞬、笑顔になりかけた。

 

しかし、醸し出す雰囲気が明らかに違うのですぐに警戒を強めた。

 

「光の世界の諸君は初めまして、そして解放軍の馬鹿どもは久しぶりだな。自己紹介は要るかい?」

 

ブルームガールとマイケルはそれに頷くが、他の人間は頷かなかった。

 

「エクシーズの遊介」

 

良助がその名を述べ、エクシーズ遊介と思われる人間はへらへらと笑いながらその名前が正解だと言う。

 

「そう。覚えていてくれたのか。嬉しいね」

 

アゼルが口を開く。

 

「忘れるはずがないだろう。俺たち解放軍の幹部を2人殺した男」

 

「あの工場跡での戦いは面白かったな。今でも鮮明に覚えている」

 

エクシーズ遊介はアゼルに向かって、忌々しい思い出を掘り返すようにねっとりと話し始める。

 

2人、異常な殺気を帯び始めたデュエリストがいた。しかし、エクシーズ遊介はその殺気にまるで気が付いていないような素振りを見せ、そして、

 

「何しに来た?」

 

良助の問いに答える。

 

「なあに、そう怖い顔するなよ。今回俺が先行したのは警告をするためだ。エデンはいつでも解放軍との戦いを始める準備があるが、今日は邪魔しないでもらいたいらしい。もうすぐここにエデンの連中が来る。それもお姫様を含めた本隊。あと30分もすれば到着するだろうな」

 

30分、アゼルが他の幹部の到着に予定していたのは40分。差の10分のみで今ここにいる解放軍を皆殺しにできるはずだとアゼルは、悲観的な予想を立てざるを得なくなった。

 

「何のために?」

 

その問いを発したのはブルームガール。それに光の世界にとっては驚きの回答をエクシーズ遊介は用意していた。

 

「光の世界、お前らと同盟を組むためにさ」

 

「同盟?」

 

「今までの防衛システムは見た。少数精鋭なんて馬鹿げたことをしているが、その割にはしっかり頑張っているみたいだ。だが、戦いは所詮数だ、解放軍は今回様子見程度で来てたから凌いでいたけど、奴らも本気で戦えば、光の世界の防衛なんて夢物語だ」

 

「ずいぶんと舐められてるみたいだけど? まるで私たちが負けるみたいな」

 

「可能性の話だ。気を悪くしたのなら謝る。けどな、こういうのは最悪の事態も考えて動くべきだぜ。例えば、お前らが過労死することとか、死ななくても過労で判断力が落ち、デュエルに負けるとか十分あり得るだろう?」

 

ブルームガールは反論できなかった。

 

結局は光の世界でまともに戦力になる人間は著しく少ない。強い奴が戦い続けばいいという理論は、その強いのがロボットであれば何の問題もないが人間であるならばその理論には、疲労度と言う決定的な陥穽がある。

 

「でもおかしな話ね」

 

ブルームガールは疑心暗鬼全開の顔でエクシーズ遊介を見る。そして同じような顔をしてアゼルはエクシーズの遊介に疑問を投げかける。

 

「確かに。俺も不可解に思える。なぜなら、今のエデンに、光の世界と同盟を組むことのメリットはない」

 

同盟と言うのは自分と相手の立場が同じであるという前提のもとに成り立つ。しかしエデンは既に名前が知れた巨大組織。ユートも瑠璃もマイケルもブルームガールもそれぞれ十分に強いデュエリストではあるが、同等なデュエリストならエデンにも何人もいる。故に今の光の世界とエデンとではとても戦力的に対等とは言えない。

 

優勢であるのならそれこそ今解放軍が行っているように、光の世界を制圧してしまえばいい。それだけの戦力を持っているのだから、その方が同盟の時に必要な立場の譲歩もなく、自分達の利益につながるようなことをすべて行うことができるはずだと。

 

「俺もそれは重々承知してるんだけどな。でもまあ、恨みばかリ買うのも良くないってうちのお姫様がね。だからたまには友達を増やそうってことで同盟って形にしたんだ。別に利益ばかりを求める最短距離じゃなくても得るものあるだろう。たまには友達百人できるかな? なんて酔狂なことも、日々に潤いを与えてくれるもんだ」

 

「戯言を」

 

「アゼル君。そう怖い顔をするなよ。ところでどうするんだ? このままエデンとやり合うってんなら、俺は一向に結構だが、そっちはそんなことはないのだろう?」

 

「……」

 

アゼルの顔色は悪くなったのをマイケルは見逃さなかった。チームメイトにのみ聞こえる小さな声で、

 

「どうやら、現状解放軍とエデンの戦いは、エデン優勢ってところだな。そんな奴が同盟を組んでくれるとは、願ってもない話だが?」

 

「……どうかな」

 

ユートの思考回路は戦場経験者であるが故、罠の可能性を自然に考える。

 

「エデンになんのメリットもない同盟を組むことに意味があるか?」

 

「さっき酔狂って言ってたじゃんか」

 

「そんな言葉を信じていい状況ではない。俺達は解放軍相手であれ、エデンであれ、俺達が相手をするには強大すぎる相手だ。心を許したら、決定的な隙を与えることになる」

 

「……まあ、お前の言うことも分かるが、警戒したところでどうするんだ?」

 

「……そう……だな」

 

結局エクシーズ遊介の言う通りなのだ。光の世界は4人では守り切れない。今のように時間を先延ばしにすることが精一杯であり、巨大な軍事力に匹敵するエデンや解放軍と戦うには、やはり戦える者の数が少なすぎる。

 

「ユート、なんか怖えぞ、さっきから」

 

「そうか?」

 

「ああ、殺気を隠しきれてない。いつもは一流なのに、今日はどうもクールさが欠けてる二流の顔だ」

 

「マイケル、俺はな」

 

「悪いってわけじゃない。お前、たぶん因縁があるんだろう? あいつと」

 

マイケルはすべてを察したかのような言葉をユートに向け、ユートは図星であるが故に何も言い返せなかった。

 

一方アゼルも迷うことをやめ、解放軍に指示を出した。

 

「撤退だ」

 

「逃げると?」

 

「エクシーズの遊介。俺達はまだ死ねない、だからこそ罵声でもなんでも浴びせると良い。生きるためにわが身可愛さで逃げる弱者とな」

 

「笑いはしないさ。俺も同類だし、その言葉もよくわかるつもりだ」

 

「ほう?」

 

「行けよ。うちの姫が来る前に姿を消せ。そうすればまだ長生きできるぞ?」

 

アゼルは、それを侮辱の言葉と受け取り、歯を食いしばりながらもエクシーズ遊介に背を向けた。

 

「俺はここに残っていく」

 

良助はアゼルに言う。

 

「本気か? 死ぬかもしれないぞ?」

 

「いいだろ、ここで起こった事の顛末も知っておいた方が、情報として有益だろ。光の世界が同盟を組むか組まないか、その結果を知る必要があるだろ?」

 

「そうだな。じゃあ、頼みたい」

 

「なあに、いざとなったら地上でダウンしているシンクロの遊介に敵なすり付けて逃げてくる。心配するな」

 

「……生き汚いな、お前」

 

「いつも通りって言え」

 

アゼルは少し笑い、解放軍は引き揚げさせ、そして自らDボードに乗って光の世界の外へと向かい始める。それを見送った良助はディスクを構え警戒は解かないものの、一歩引き様子を見るというスタンスを示した。

 

「なるほど、まあ、良助ならうちの姫もむやみに襲わないか」

 

エクシーズ遊介はそんな独り言を述べた後、光の世界の4人の方を向く。

 

「さて、目的は伝えた通り、うちとそっちのチームの同盟だ。せっかくだから光の世界のマスターである俺の偽物にも意見を伺いたかったんだが、まだ戻ってきてないのか」

 

ブルームガールが遊介の代わりと言わんばかりにエクシーズ遊介の前に出る。

 

遊介と同じ顔で同じ体つき。しかし、目の前の存在は自分の知っている遊介とは違う。妙な気持ち悪さをブルームガールは感じた。

 

そしてその感情を表現した顔を、同盟を疑う顔をとったエクシーズ遊介は、

 

「そう怖い顔しないでくれ、裏はあるけど、お前達を殺したいわけじゃないんだ」

 

と、反論する。

 

「そうかしら?」

 

「お前らほどのデュエリストをみすみす殺しはしない。いつか来るイリアステルとの最終決戦のために、貴重な戦力としてうちも数えてるんだよ。今回の同盟は、どちらかと言うと最終決戦までエデンとお前らが、殺し合わないようにするためのものだ。それに嘘はない」

 

今まで言葉に詰まる様子も、嘘を言っている様子もないエクシーズ遊介。

 

「ずいぶんと評価高いじゃない」

 

「まあな。エデンだって何も殺したがりなわけじゃない。味方が一人でも多い方がいいというのは当然の考えだと思っていたんだけどなぁ」

 

親しみやすいようににっこりとブルームガールに話かける。

 

しかし、ブルームガールは警戒を解かない。友好的な表情を見せることはない。

 

エクシーズ遊介の事は、同じ世界で生きてきたユートや瑠璃から話を聞いているからだ。

 

エクシーズ遊介が、ユートや瑠璃、そして世界そのものを売った裏切者であることを聞かさされている。

 

「ああ……なるほど。そういうことか」

 

エクシーズ遊介は、ブルームガールの警戒の理由を察し、そして恐ろしい殺気を向けている男と女、2人を見る。

 

「ユート、俺に言いたいことがあるんだろう?」

 

エクシーズ遊介は誘い、そしてユートはそれに応えるためにブルームガールのさらに前に出る。

 

「……遊介」

 

「ああ、お前らと一緒に育ち、あの世界を愛して、戦っていた同士、それが俺だ」

 

次の瞬間。

 

ユートから、放たれた怒気はこれまで誰も見たことのないほどだったと断言できるだろう。

 

その雰囲気だけで、ブルームガールが言葉を失い、引け腰になる。

 

ユートはそれでも怒りのままに叫ぶことなく、目の前のエクシーズ遊介に問いを投げた。

 

「……あの日、イリアステルに最後の全面決戦を挑もうとした時のことだ」

 

「ああ、覚えてる」

 

「お前はそこにいなかったな」

 

「ああ、いなかった」

 

「アジトで皆、ようやく一息の休息を得て、最後の戦いへの休養を取っていた」

 

「……ああ」

 

「だが、最後の攻撃を仕掛ける直前、そのアジトは壊滅した。今まで場所はバレていなかったのにも関わらず」

 

「ああ」

 

エクシーズ遊介は、そんな話題でもニコニコ笑っていた。

 

ユートは声を震わせながら問う。

 

「……俺は信じたくはない。だが、あの日、唯一いなかったお前が怪しいと俺は睨んでいる」

 

エクシーズ遊介は、表情を変えないまま、

 

「ああ、俺が教えたよ。アジトを」

 

と、まるで当たり前のことを言うかのように、淡々と口にした。

 

「貴様……!」

 

ユートの怒りが空気を凍らせていく。

 

ただ1人、その空気に怖気づくことなく告白を始める。

 

「あの日、俺はイリアステルに襲われた。それも、あのアルターに」

 

「……」

 

「俺は死にたくなかったからな。命乞いをした。そしたら、アイツは、アジトの場所を教えたら、生かしてくれると言った」

 

「……貴様」

 

「だから俺は躊躇いなく教えたよ」

 

「貴様、貴様ぁ……!」

 

「死にたくなかった。俺は死ぬわけにはいかなかった。俺はな」

 

そして、エクシーズ遊介の顔が豹変する。笑顔だが、しかしそれは邪悪なものだった。

 

「当たり前だろぉ! なんで世界のために自分を犠牲にする必要がある? 俺は生きたい、まだ死にたくなかった! だからお前らを売ったんだよ!」

 

ユートが叫んだ。今まで我慢していた怒りをぶつける。

 

それはどれほどの怒りだろうか、ブルームガールも、マイケルも理解できなかった。

 

ただ1人。瑠璃だけが理解できる。

 

そのアジトは凄惨な光景だった。皆殺し。一言で表せばそう表現するしかない。襲撃を受け手救援に向かったデュエリストは、その光景を録画した最後の記録映像を見て、絶句しなかった者はいなかった。

 

そこにはイリアステルの連中共に、エクシーズ遊介の姿があった。

 

最後の戦いの前夜、友や家族との別れの宴、しかし、いまだ希望を失っていなかった仲間の姿。

 

そこに攻めてきたのだ。当然戦う準備がまだ万全ではないレジスタンスの人間を完全準備を終えていたイリアステルの人間が蹂躙していく。

 

戦う者も、戦えない者も関係なく、ただ命を奪い続けるイリアステルの軍勢。

 

そしてさらに、その中に混ざり、内部構造を秘密の避難通路まで教えてイリアステルを誘導し、自らも昨日までの仲間だった人間の命を奪い、カード状の謎の紙を生み出してくエクシーズ遊介。

 

そこの管理を任されていたクリストファー・アークライトはそのエクシーズ遊介の手で殺された。

 

セカンドオーダーと名のつく、イリアステルのカードを使っていたのだから、もはや裏切りに疑いようの余地はない。

 

回想をしていた瑠璃に、目の前にいるユートとエクシーズ遊介の声が届く。

 

「お前のせいで……どれほどの命が奪われたと思っている!」

 

「はぁ、知るかよ? なんで他人のために命を捧げなきゃいけないんだ! おれはな、お前らのように高尚な意思なんか持ってないんだよ!」

 

「だからと言って、仲間を殺すと分かっていたはずなのに、お前は!」

 

「じゃあ、なんだ。俺が死ぬのが正しいってのか? お前らのために命を捧げろと? 冗談じゃない! なんで俺が死ななければいけないんだ」

 

「お前が……教えさえしなければ……レジスタンスはまだ戦えた。次の日、惨めな結果を迎えることはなかったかもしれない!」

 

「は、はははははははははははは」

 

「何が可笑しい!」

 

「勝てないってわかってただろ、ああそうか。お前は馬鹿だから、頭がお花畑、希望だのなんだの戯言を並べるのが得意な馬鹿だから分からないか。でも普通の人間だったら分かってただろ。エクシーズ世界に攻めてきた、『本当のイリアステルの戦士』に勝てるはずはないって。そんな中で生きる道がある、そう手を差し伸べられた時、普通の人間はそれに縋るもんだろ!」

 

「お前のせいで、死んだ。死んだんだ。お前が……」

 

「俺は死にたくなかった。死ぬわけにはいかなかった。だからお前らを売ったんだ。それが事実だ」

 

ユートはこれ以上、恨み節を述べることはなく、デュエルディスクを構える。

 

「勝負だ遊介。多くの同胞の無念を受けろ!」

 

「……ああ、いいぜ。俺だって、お前の怨みが筋違いとは思っていないからな」

 

「保有LPのうち、全てを賭けろ」

 

「俺のは8000だ。8000ならいいか?」

 

「……お前はここで殺す」

 

ユートの見せる凄まじい怒り故か、光の世界の損得的に負けたら損しかない本来なら無駄な戦いを止める者はここにいなかった。

 

「……そろそろ、サイバース遊介も戻ってくる頃か。せっかくだ。仲間の無様な敗北をしっかり見てもらって、エデンとの同盟を有利に勧めようかな?」

 

「安心しろ、お前はもう、二度とその目に光を入れることはない」

 

裁きの戦い。因縁の戦い。

 

ブルームガールや良助が知らない世界で起こった惨劇の清算が始まる。




というわけで次はユートVSエクシーズ遊介です。
瑠璃VSハルトに続き、2回目の内部抗争です。まあ、でもエクシーズ遊介の初陣はこうしたかったので、同じ世界の抗争続きなのは仕方ありません。遊介シリーズの中にも悪い遊介がいるという感じにしたかったのです。

しかし、またもエクシーズ決戦ではつまらないので、次回のデュエルでは少し変わったことをしようと思います。ただし、17話だけでそこまで行くか分からないので、18話まではお待ちいただくと思います。そろそろ、ユートだけでなく、彼の中にいるという設定の彼らの出番も作りたいなぁ、と思ったり。

前回からだいぶ時間が空いてしまいました。それについては本当に申し訳ないと思っています。ちょっと最近は忙しい毎日を過ごしていて、単純に続きを書く時間がなかったです。1月中に出した私の他の作品は、これ以外すべて、去年までに作った書き溜めなので、実は今年度最初の執筆作品だったりします。

さて、次回ですが、またも時間が空きます。2月の中旬ごろになるかと。その時期まではとても忙しいのでご容赦いただければと思います。

2月の中旬ごろからは、また一気に投稿スピードを上げて投稿していく予定です。3月中には25話くらいまで行くスピードで書く予定でありますので、ご期待ください。

(アニメ風次回予告)

これは戦い。デュエルを行いながらも交差する拳と拳。なぜならお互いの目的は戦いの勝利のみ、それがどのような勝利であっても、そこに意義があるのなら。たとえ誇り高い決闘とは言えなくとも、己が怒りをぶつけられたのならそれでいい。

「無念の魂の安らぎのため、裏切者は今裁かれる」

次回 遊戯王VRAINS ~『もう1人のLINKVRAINSの英雄』~

   「レクイエム」

   イントゥ・ザ・ブレインズ!


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17話 レクイエム

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

いよいよユートと、エクシーズ遊介の戦いが始まります。

2月16日追記 当初出した内容に余計な文章が入っていました。現在は修正済みです
また最後の攻撃のダークリベリオンエクシーズドラゴンとダークレクイエムエクシーズドラゴンの攻撃の順が逆になっていました。こちらも訂正しています


ユート LP8000 手札5

モンスター

魔法罠

 

エクシーズ遊介 LP8000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(エクシーズ遊介)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート)

 

エクシーズ遊介は愉快な顔で殺意を思いっきり向けている目の前の男に向けて、

 

「さあ……お前の怨みを俺にぶつけてみろ。お前が正しいっていうのなら、俺は死ぬべきだよな? だから勝利の女神とやらに占わせようぜ! どっちが正しいかをさ!」

 

と、挑発の1つの完成形かのような身振り顔つきで言い切った。

 

ユートはあからさまな挑発になる男ではないが、今はそもそも堪忍袋も木っ端みじんの状態である。

 

「殺すぞ……貴様は。たとえ誰に恨まれようとも」

 

ユートはデッキから最初の5枚をドローし、そしてエクシーズ遊介もまた5枚のカードをドローした。

 

因縁の戦い。

 

この戦いの結果はおそらく、エクシーズ世界の人間ではない人間には恐らく何も影響を与えないだろう。

 

しかし、この場の瑠璃にとっては大切な一戦である。

 

あの日、死んでいった多くの共に見てほしいと切に願う、復讐の機会。

 

「デュエル」

「デュエル」

 

戦いは始まった。

 

 

ターン1

 

 

「復讐を願う人間を迎え撃つにはしっかり準備をしなくちゃな。俺が先行でやらせてもらうぜ」

 

エクシーズ遊介の宣言。返答は待たずエクシーズ遊介はカードの操作を始めた。

 

「俺はマジックカード『ナンバーズゲート』を発動! 手札のモンスター2枚をオーバーレイユニットとし、エクストラデッキからランダムに『No.』と名のつくモンスター1体を特殊召喚する。俺は手札の、HM(ヒートマスター)・シールダー2体を素材にする」

 

宣言したモンスターのカード2枚を天に向けて掲げると、その2枚はひとりでに宙に浮き、炎の如き2つの攻防として、黒い螺旋を描く渦の中へと消えていく。

 

そしてデュエルディスクから、ランダムに決定されたモンスターが自然に現れる。

 

「……当たりだ。刮目して見てもらおう」

 

天を指さす。エクシーズ遊介のその行為にユートは警戒をしながら、エクシーズ遊介が指さした先を見る。

 

そこには太陽があった。

 

実際は違う、太陽ではなく別の星が光を見せているだけである。しかし、その後信じられないのはそれを覆う機体が現れたのだ。

 

「あれは……?」

 

「お前は見たことはないだろうよ。これはクリスがもしもの時に備えて家族にしか明かしていなかった武器だ」

 

「……お前が奪ったのか」

 

「そうだ。なかなか強いぜ。まあ、召喚が大変なんだけど。来い! ナンバーズ9! 天蓋星ダイソンスフィア!」

 

そう、今現れたのは星とその機体がまとめて1体で数える信じられない存在だったのだ。

 

No.9 天蓋星-ダイソン・スフィア 攻撃表示 ランク9

ATK2800/DEF3000

 

ユートはそのモンスターを初めて見た。

 

そもそもクリスという人間は弟2人とは違い人前でデュエルをする人間ではなかった。弱かったからではなく、彼はそもそも科学者だったからだ。その機会がなかっただけである。

 

故に彼がエースとしたモンスターを見たことがあるのは、ミハエル、トーマスの2人だけだ。本来は彼らの父も知っているが、すでに亡くなっている。

 

「さて、ナンバーズゲートを使ったターンは俺は通常召喚はできない。俺はこれでターンエンドだ」

 

ユートはその動きに不審さを感じた。

 

「伏せカードもないとは、生温いって?」

 

エクシーズ遊介はユートの真意を悟ったような言葉を告げる。

 

しかしユートは反論しなかった。ただ目の前のエクシーズ遊介を殺すために今の手札でできることを考え始める。

 

エクシーズ遊介 LP8000 手札2

モンスター ① No.9 天蓋星-ダイソン・スフィア

魔法罠

 

(エクシーズ遊介)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ①   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート)

 

 

ターン2

 

「俺のターン!」

 

デッキの1番上のカードを引き、今ある6枚で、目の前に現れたナンバーズを倒す方法を考えるためカードに注目する。

 

ユート LP8000 手札6

モンスター

魔法罠

 

ナンバーズとはエクシーズ世界で、最強格のモンスターとされる107枚のカード。特にナンバーズはランクが高くなるにつれ効果が凶悪になっていく傾向にある。

 

今呼び出されたモンスターのランクは9。一筋縄ではいかないことは間違いない。しかし、今は罠は伏せられていないので、今後防御を固められる前に攻撃すべきだとユートは、このターンの方針を決める。

 

その間3秒。

 

「ユート!」

 

瑠璃とブルームガールの声が重なり、ユートの声に聞こえる。それは決して応援というトーンではなかった。

 

ユートは手札から目を話し、エクシーズ遊介を見ようとする。

 

すぐに悲鳴の理由が分かった。何故かエクシーズ遊介が目の前に近づいている。

 

握り拳をすでに打ち出していて、油断していたユートはそれを防ぐ手段はない。

 

激突。ユートの内臓に衝撃が走った。

 

「が……!」

 

腹から広がる痛み、それを歯を食いしばり耐え、二回目襲い掛かる拳を前に後ろに跳んでそれを躱した。

 

「貴様……!」

 

エクシーズ遊介は悪びれることなく、

 

「知ってるか? ユート。この世界では、デュエル中に気絶したらそいつは負け判定になるらしいぜ?」

 

デュエルを見ていた周りの人間は、勝ちのために手段を選ぶ様子のない彼に怒りを覚えた。特に瑠璃はデュエルに介入しようとしていたが、

 

「来るな! 大丈夫だ!」

 

ユートは強く言い切って、敵への警戒度を最大まであげた。もう一度、たった一瞬だけカードを見て、その後すぐに注意をエクシーズ遊介へと戻す。

 

再び殴りかかってくるエクシーズ遊介の拳を三回捌くと、続けてくる蹴り上げを再び後退することで躱す。

 

「どうした? お前はやってこないのか?」

 

「下らん。貴様の挑発に乗るものか!」

 

ユートは目の前のエクシーズ遊介の目的を冷静に捉えようとする。

 

(暴力はデュエルタクティクスに乱れを起こそうとするためが第一だろう。俺とてレジスタンスとして戦ってきた。多少痛みを与える程度で俺を気絶させることはできないのは奴だってわかっているはず……だからと言って、肉体へのダメージを与えるのは止まらないだろうな。プライドを守るということを知らないあいつには、自分が追い詰められた時の保険用に、俺に深刻な肉体ダメージを与えておくこともするはずだ)

 

気絶によるユート敗北、そしてデュエルによる勝利。その2つを同時に狙うことでユートに確実に勝利しようとする。

 

それがエクシーズ遊介の戦い方なのだ。

 

「俺はファントムナイツクラックヘルムを召喚!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃表示 レベル4

ATK1500/DEF500

 

再び迫っていたエクシーズ遊介の行く手をふさぐように、ユートは自らのモンスターを呼び出した。

 

「さらに自分フィールド上にファントムナイツが存在するとき、手札のサイレントブーツを特殊召喚する!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 攻撃表示 レベル3

ATK200/DEF1200

 

ユートの味方をするモンスター2体がエクシーズ遊介の行く手を塞ぐ。エクシーズ遊介はそれを躱そうと走るが、モンスター2体は幻影と言えど騎士、ただのカード使いでは、振り切れない。

 

「俺はさらに装備魔法『レイズウイング』をサイレントブーツに装備する!」

 

「あ……?」

 

「この世界で手に入れたカードだ。このカードはフィールドに存在するレベルが存在するモンスターに装備する。装備したモンスターのレベルを1つあげる」

 

幻影騎士団サイレントブーツ レベル3→4

 

「レベル4モンスター2体……!」

 

エクシーズ遊介は悟った。これで条件が整ったことを。そしてユートもそれが分かっている。エクシーズ遊介が己のエースを召喚することを分かったことを。

 

それでも、ユートは自身を曲げる事はしない。

 

ユートにとってこの戦いは鎮魂の意味をもつ。理不尽に殺された同胞たちの怒り、憎しみを少しでも、その原因である目の前の遊介にぶつけ、魂の安らぎとする。

 

故にその方法は、相手と同じ外道な方法であってはならない。自分のまま、エクシーズ世界で生きてきた自分が復讐をすることで意味を成す。

 

ユートはそんな風に考えている。

 

「俺はレベル4モンスター2体でオーバーレイ!」

 

先ほどまでユートを守っていたモンスターは黒の妖光を纏い地上に現れたブラックホールの中へと飛び込んでいく。

 

その瞬間、とびかかってきたエクシーズ遊介の渾身の拳をディスクをつけていない腕で受け止め、そして再び距離をとり、時間を稼ぐ。

 

「漆黒の闇より……愚鈍なる力に抗う――反逆の牙! 今降臨せよ!」

 

そして、言葉通りの漆黒の渦から現れたのは、ユートのエースモンスター。長い戦いを支え続けた最高の相棒。

 

「エクシーズ召喚! ランク4! ダークリベリオンエクシーズドラゴン!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃表示 ランク4

ATK2500/DEF2000

 

今度ユートの前に現れたのは竜。これではさすがの遊介も接近は諦めざるを得ない。

 

一方ユートは、現れた自身の相棒を見て、攻勢へと転じるようとする。

 

「ダークリベリオンエクシーズドラゴンの効果! オーバーレイユニット2つを使い、相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、下げた数値の分だけ、このカードの攻撃力を上げる! トリーズン・ディスチャージ!」

 

黒竜の翼から雷撃が天高く放たれる。

 

その雷撃が確かに届き、その力を削いでいく。

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK2500→4100

 

No.9 天蓋星-ダイソン・スフィア ATK2800→1400

 

「なるほど……さすがだぜ。たった1ターンであいつを殺す算段が整えられるとは」

 

「バトル! ダークリベリオンエクシーズドラゴンで、ダイソンスフィアを攻撃!」

 

間髪入れずに、そのままバトルフェイズに入り、攻撃を仕掛けるユート。

 

この攻撃が通れば強力な先手であることは間違いない。

 

しかし、ユートも少しは予感していた。

 

あのエクシーズ遊介が、どうあっても勝とうとする容赦のない状態であったその男がそう易々と攻撃を通すはずがないと。

 

「そう簡単に攻撃は通らないさ」

 

凄まじい風が吹いた。その風は人を軽く吹き飛ばすような風だったが、自然現象ではない。なぜならユートのドラゴンのみを的確に狙い、攻撃を始めようとしたその竜を止めるためのものだったからだ。

 

「攻撃が無効にされた……天蓋星の効果か……!」

 

「ご名答。あの星は、自らに襲い掛かる攻撃を無効にできる。1度だけだけどな。でもお前が天蓋星を見た時点で、ダークリベリオンで攻めてくるのは分かってたからな。これで十分だと思ったが、お前……面白いくらいその通り動いてくれたよな」

 

頭に血が上っていたかと一瞬自身を顧みて己の中で暴走している熱をようやく実感する。しかし少し冷静になった頭で考えてもここまでのデュエルの運びは、たとえ冷静でもそうしただろうと納得できるものだった。

 

「俺はバトルフェイズを終了。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

ユートはカードを伏せ、エクシーズ遊介の直接の攻撃に備える。

 

「いいのかユート。こんなんじゃ、あんなにキレてた割には大したことないって評価をするしかなくなっちまうな」

 

エクシーズ遊介のユート煽る言動は止まらない。

 

しかし、攻撃が止められることも了承していたユートはさして怒りはしなかった。むしろ目の前の未知の脅威の力の一端を暴けたことで、対応ができると前向きに捉えている。

 

ユートは、問題は次のターンであると考える。

 

体に少しずつ痛みが走っているが、いまだ思考は衰えない。目の前のナンバーズが攻撃無効だけではない、何かそのモンスターをランク9にしている効果があり、それが次のターンで見ることができるかと期待した。

 

敵を知れば戦い方も見えてくる。それは相手がたとえどのような敵であっても同じこと。ユートは実践からそれを知っている。

 

(さあ……どう来る……?)

 

 

ユート LP8000 手札2

モンスター ② ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

魔法罠 伏せ1

 

(エクシーズ遊介)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ①   ②     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート)

 

 

外野から見れば、この戦いに誇り高さなど微塵もなかった。ユートがただただ損をする一方である。殴られ、そして煽られ、とてもデュエルの正しい姿とは言えないものだった。

 

故にその戦いを見守るブルームガールや瑠璃が何度も介入を試みるがその都度、マイケルが止めていた。黙ってみてろと。これは、たとえ何の見返りがなくても、ユートが望んだ戦いだからと。

 

マイケルはまるで同じような経験があるかのように語っていた。

 

一方戦っている当事者2人の間では、

 

「無念を受けろ、だったか?」

 

「そうだ」

 

「確かに俺は結果的に殺してしまった。だが、それでも、確かに救われた命はあった。俺はそう思ってる」

 

「……お前1人せいで多くのレジスタンスの人間が死んだ」

 

「それは違うな。その犠牲のうえで、俺の命が助かったと言うべきだ。人の命を大切になんて常識論を語るのなら、それは喜ぶべきことだろう?」

 

あまりにも他人をないがしろにしているように聞こえる供述に、ユートの怒りのボルテージはさらに上がっていく。

 

 

ターン3

 

 

「俺のターン。ドロー」

 

エクシーズ遊介のターンが再び始まる。

 

エクシーズ遊介 LP8000 手札3

モンスター ① No.9 天蓋星-ダイソン・スフィア

魔法罠

 

「始めるか。俺はマジックカード『サイクロン』を発動する。その効果で相手フィールドの魔法、罠のうち1枚を破壊する。俺は破壊するのは当然お前がさっき伏せたカードだ!」

 

ちょうどいいカードをデッキから退いた遊介は、ユートにとって不快な笑みを浮かべながらそのカードを発動する。ユートが防御用に伏せてあったカードは残念ながら破壊されてしまった。

 

「く……」

 

これでユートも防御することが厳しい状況に。しかし、ダークリベリオンの攻撃力はいまだダイソンスフィアを上回っている。その点は戦闘破壊は免れるはずだと、ユートはまだ強気でいられた。

 

「だが、お前のドラゴン、攻撃力4100かぁ。こりゃまいった。戦闘破壊は無理そうだなぁ……戦闘破壊は」

 

「何が言いたい」

 

「今の言い方なら簡単だろ。そもそも、戦闘破壊なんてする必要ないってことだ!」

 

エクシーズ遊介はダークリベリオンを突破できないことを承知していても、それすら予想通りだと言わんばかりの表情を浮かべながら、声を大にして言い放つ。

 

続く内容は、呼び出したダイソンスフィアが真に恐れられる驚異的能力の話。

 

「さあ、ユート。死ぬなよ?」

 

「舐めるな!」

 

「いいや、次の一撃は重いぜ。ダイソンスフィアの効果。相手フィールド上に、自身よりも攻撃力が高いモンスターが存在するとき、オーバーレイユニットを1つ使って発動する。このターン、ダイソンスフィアは相手へ直接攻撃ができる状態になる!」

 

「な……に?」

 

直接攻撃。それは攻撃力で敵を制圧するユートが対応を苦手とする相手。ユートは相手の攻撃を、ダークリベリオンの攻撃力の高さ、自身の攻撃力をあげてカウンター、といった方法で基本は攻撃を防ぐ。

 

しかし、効果ダメージや直接攻撃など、攻撃力を参照しない効果を使われてしまうと、そのような攻撃を防ぎ方はできない。

 

「これでこのターンダイソンスフィアはダイレクトアタックできる。当然、この後攻撃力を上げてもな?」

 

エクシーズ遊介はさらにカードを発動する。

 

「俺はマジックカード『反転炎上』を発動! 自分フィールドの攻撃力が元々の数値より低いモンスター1体を選択。選択したモンスターの攻撃力を元々の攻撃力まで上昇させ、さらにその効果で上昇した分の数値を、攻撃力に加算する。俺のダイソンスフィアの下がっていた攻撃力の数値は1400。よって、その2倍、2800の数値をダイソンスフィアの攻撃力に加える!」

 

No.9 天蓋星-ダイソン・スフィア ATK1400→4200

 

目の前に攻撃力4200のダイレクトアタック可能なモンスター。それは通常のLP4000デュエルだったらたった1撃で相手のライフを0にできる火力を持った1撃必殺の砲台だ。

 

リンクブレインズの世界では、モンスターの攻撃を受けると、ある程度痛みを伴うようになっている。当然それは一度に受けるダメージが多ければ多いほどその痛みは増していく。以前サイバースの遊介がハルトの銀河眼の光子竜達の攻撃を受けて瀕死になった思い出は深く頭の中に残っている。

 

そして今のユートにはそれを防ぐ手立てはない。

 

歯を食いしばり、攻撃を前に身構えるユート。

 

それを見て、

 

「へえ、こりゃ珍しい。勝利の女神はお前を見放したのかな。攻撃を受けるしかないとは情けないなぁ、ユート!」

 

と大声をあげ、

 

「なら、容赦なくお前を潰してやるさ! バトルフェイズ。ダイソンスフィア、ダイレクトアタック!」

 

天に届くようにエクシーズ遊介は叫んだ。

 

それに呼応するかのように、ダイソンスフィアからは何かが放たれる。

 

それは言うなれば流星群。天からの攻撃は、数多の光芒となり、ユートに向けてだけではなく、光の世界全体に降り注ぐ。ユートの逃げ場をふさぐために。

 

「瑠璃、みんな! 建物の中へ逃げろ!」

 

ユートは味方に忠告すると、自身は何とか直撃だけでも避けようと走り出す。

 

「無様だなぁ、ユート!」

 

それが最高に愉快そうにエクシーズ遊介は笑った。

 

しかし、ユートにとっては失神しないことが何より気を付けなければならないことだ。街を走りながら雨のように降ってくる攻撃から何とか逃げ続ける。ダベリオンもその攻撃を破壊しながらユートを守り続けていたが、なんにせよ数が多すぎる。

 

「く……!」

 

迫る一撃を飛んで躱そうとするが当然着弾と共に爆発。

 

その爆風に吹き飛ばされ、近くの建物に叩きつけられた。

 

ユート LP8000→3800

 

「がぁ――」

 

瞬間、意識が8割持っていかれた。それでも瞬間唇を噛み、2割の意識を残し、朦朧としながら地面に寝転ぶ。

 

意識を暗黒へと落とそうとする誘惑を怒りで振り切り、再び意識を完全に覚醒させた。

 

「俺はこれでターンエンド。さすが、まだ生きてんのか。普通の人間ならここで意識を手放すんだけどな」

 

「お前……俺以外にもこんな戦い方をしているのか!」

 

「さすがに味方にはやってないけど、敵にはやっているよ。痛みで顔が歪む、怒りで思考が歪む。意識が朦朧とする。それらすべては俺の勝利へとつながる。単純な話だ。マナーは守っていないが、ルールに違反しているわけじゃない。この世界で俺を咎められる人間は誰もいない。俺は生きるために勝つ。そのために最も相応しい手段をとっているだけだ」

 

「お前……く……」

 

眩暈がいまだつづくユート。

 

エクシーズ遊介は、

 

「エンドフェイズ、ダイソンスフィアの攻撃力は元々の数値に戻る」

 

No.9 天蓋星-ダイソン・スフィア ATK4200→2800

 

と、必要な処理を淡々とこなして自分のターンを終了させた。

 

エクシーズ遊介 LP8000 手札1

モンスター ① No.9 天蓋星-ダイソン・スフィア

魔法罠

 

(エクシーズ遊介)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ①   ②     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート)

 

 

ユートは今にも意識を手放しそうだった。

 

過去、ハルトと戦った時の、瑠璃や自身が知る遊介がこれほどの痛みをもってしても自身の信念を貫いた。それがどれほどの偉業だったか改めて思い知る。

 

ならば自分のこんなところで止まっていられないと、ユートは思った。

 

自身が戦うのが、イリアステルへの怒りだと言うのなら。

 

その怒りはこんなものではないと己を鼓舞する。

 

レジスタンスとして戦ってきた日々を思い出す。地獄のような戦いの日々。思い出も、友も、すべてを奴らに奪われ、戦火の炎を起こす薪としてくべられた。

 

あの時に誓ったのだ。あいつらを必ず地獄へ叩き落とし、無為に死んでいった彼らを少しでも慰めようと。

 

「人ってのはあらゆる他を食い物にしながら、ただ生きようとする他の生物と同じ生存本能を持っている」

 

エクシーズ遊介は、痛みに耐えるユートを見ながら語る。

 

「何を……知ったような口を……」

 

「そんな卑しい側面を理性が見たくないがために、お前らは絆というものに縋りつく。他者と協力、協働、それは見た目はとても美しい。それに縋って、自身の嫌な側面から目を離す」

 

「レジスタンスの仲間を、そのつながりを、偽善だというのか!」

 

「俺も絆が良いものだとは思うさ。だがそれはあくまでいい方向に働いたらだ。望まぬ同調を強いられ、望まぬ圧力をかけられ、それでも絆に縋りついたら、仲間外れが怖くて、裏切りへの報復が怖くて、抗えない」

 

ユートは反論しなかった。それは事実だ。そのような人間の悪性は望まずとも生きていれば必ず出会う。

 

「お前はレジスタンスを、故郷を守るために集まり、共に志を共にする連中だと信じて疑わなかったようだがな。本当にそうだったと言い切れるか。レジスタンス全体が?」

 

それはユートとて人であり、さらに幹部などの人を統べるような立ち位置にはいなかったから分からない。

 

「当然違うだろ。イリアステルにどう命乞いすればいいか考えている奴も、俺が見ただけでも3割は超えてた。自身の保身のために仕方なく、現状一番安全なレジスタンスに身を置きながらも、どうやってこの先を生き残ろうかと奴らは必死に考えてた。本当は行きたくない戦場にデュエリストだからと駆り出されて、その中で味方に見つからないように無様に逃げ回って、何とか命を繋いでた。それは間違っていないと思うぜ。なんにせよ、死んだら終わりだからな」

 

エクシーズ遊介は自身も含まれる連中のことを、愉快に紹介した。それがユートにとってどれほど不快なことと知りながら。

 

ユートの中で3つの魂があらぶり始める。

 

特に、その中の一人は我慢できないと、ユートに『代わる』よう要請していた。あの野郎、一発ぶん殴らせろと。

 

しかし、ユートはそれを拒んだ。これは、これだけは、たとえこれから協力し合うと誓い合った友でも任せられない自分の戦いだと。

 

「なあ、ユートそれでもお前は、俺が間違っていると言えるか? 生きたいと思ったから、生きる選択をしたこの俺が。なあ!」

 

エクシーズ遊介は偽ることなく本心を叫んだ。

 

ユートはエクシーズ遊介が言ったその事実を嘘だとは思わない。しかし、仕方なかったのだ。戦える人間が一人でも多く戦場に立ち戦わなければエクシーズ世界は滅ぶしかなかった。人々は死ぬしかなかった。

 

だから戦ったのだ。勇敢な戦士たちは、自身の命を犠牲にしてでも未来を勝ち取れるのならばと、己を犠牲にしてきた。

 

そんな格好いい人々の姿をユートは知っている。

 

だからこそ、そのように生きた人々の犠牲を無駄にする、あのエクシーズ遊介が許せない。

 

「ああ。お前は間違っている。故郷のために必至に戦った人々がいた。その行為がたとえ無駄に終わるかもしれないと知っても、希望が欠片ほどあるならまだあきらめないと必死に戦った、レジスタンスの仲間たちがいた。お前はそれを――」

 

眩暈は収まり、意識が再び完全に覚醒する。

 

「その人々の願いを踏みにじったんだ! 俺はそれが許せない。だからお前を、ここで罰する!」

 

エクシーズ遊介はその答えを聞き、笑った。

 

「そうじゃなくちゃな」

 

と言いながら。

 

 

ターン4

 

 

「俺のターン!」

 

怒りを籠めカードを思い切り引き抜いた。

 

ユート LP3800 手札3

モンスター ② ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

魔法罠

 

次の戦術は考えるまでもなかった。

 

結果的に自身のエースが場に残ったことで余計な手間をかける必要もない。すでに、目の前にそびえ立つあのモンスターを倒す準備は整っている。

 

後は、決して消えることのない己の怒りをぶつけるのみだ。

 

「墓地のサイレントブーツの効果を発動する! このカードを除外し、デッキから速攻魔法、『RUM-幻影騎士団ラウンチ』を手札に加える!」

 

「ランクアップマジック……!」

 

そのカードの脅威は、エクシーズ世界で生きた人間なら知っている。それは強力なエクシーズモンスターをさらに強化する、エクシーズ世界のデュエリストの切り札。

 

ユートはそれを躊躇うことなく発動した。

 

「俺は手札に加えた『RUM-幻影騎士団ラウンチ』を発動! このカードはオーバーレイユニットを持たない闇属性エクシーズモンスター1体を、ランクの1つ高い闇属性モンスターへとランクアップさせる! 俺はダークリベリオンエクシーズドラゴンを進化させる! ランクアップエクシーズチェンジ!」

 

「く……」

 

エクシーズ遊介の顔が、デュエルに入り初めて歪む。

 

エースと切り札の違いは、エースとはは場を優勢に持っていくための自分の得意な戦術の核になる存在、切り札とは、相手を確実に殺すための存在。

 

ダークリベリオンがエースなら、今から呼び出されるのは切り札である。

 

それは、このデュエルに相応しい名を冠する、ユートの怒りそのものだった。

 

「煉獄の底より……未だ鎮まらぬ魂に捧げる――反逆の歌! 永久に響かせ現れろ!」

 

ユートのドラゴンが、変化していく。黒竜だったそれよりも、さらに禍々しい姿となっていく。

 

「ランク5! ダークレクイエムエクシーズドラゴン!」

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ランク5 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

ユートの怒りの具現化とも言うべきその竜は、場に現れた瞬間その猛威を振るっていく。

 

「ダークレクイエムエクシーズドラゴンの効果! オーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスターの攻撃力を0にし、下げた数値分、このカードの攻撃力に加える! レクイエム・サルベーション!」

 

「なんだと! なんてインチキな」 

 

翼に装備された闇の水晶から、暗黒の鎖が放たれる。それはあまりに巨大でどうにもならないはずのダイソンスフィアを確かに縛りあげた。ダイソンスフィアはその輝きを完全に失っていく。

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ATK3000→5800

 

No.9 天蓋星-ダイソン・スフィア ATK2800→0

 

「ぐぅ……まじか……」

 

「俺はお前を許さない。俺が受けた痛みなど生温い。貴様には血反吐を吐くほどの一撃を食らわせてやる! バトルだ!」

 

その攻撃宣言はもはや、竜の咆哮だった。それほどの激しさを伴っている。

 

しかし、エクシーズ遊介もそれに怯むことはない。

 

「そう易く攻撃は通さないぜ。ダイソンスフィアの効果を発動!」

 

と、攻撃を防ごうとするが、

 

「そうはいかない」

 

ユートはまさにそれを狙っていた。

 

「ダークレクイエムの効果! 相手がモンスター効果を発動したとき、オーバーレイユニットを1つ使い、発動した効果を無効にし破壊する!」

 

ダイソンスフィアを縛っていた鎖の影響か、効果発動を無効にするとともに、ダイソンスフィアはその機体にひびが入り始め、そして溶岩に飲まれるかのように、端から破滅の炎が機体を覆っていく。やがて炎と共にその存在は抹消されていった。

 

「くそ……」

 

「さらに、この効果を使用したのち、墓地のエクシーズモンスター1体を特殊召喚する! 蘇れ、ダークリベリオンエクシーズドラゴン!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃表示

ATK2500/DEF2000

 

「な……」

 

エクシーズ遊介にとっては衝撃の展開だろう。

 

たった1ターンで、ここまで形成が逆転したのだから。

 

「お前を守る者はいない。無念の魂の安らぎのため、裏切者は今裁かれる」

 

「てめえ……!」

 

苦悶の表情を浮かべるエクシーズ遊介にかける慈悲は微塵もない。

 

「バトルだ! 俺はダークレクイエムエクシーズドラゴンでダイレクトアタック!」 

 

上昇するその竜は翼を大きく広げた。翼ややがてステンドグラスのように美しく輝く。

 

「鎮魂のディザスターディスオベイ!」

 

そして、牙に圧縮されたエネルギーを携えて、その竜はエクシーズ遊介に襲い掛かった。

 

竜の攻撃、突き立てられる牙をまともに受け、

 

「がああああ!」

 

エクシーズ遊介は悲鳴をあげる。

 

エクシーズ遊介 LP8000→2200

 

「ダークリベリオンエクシーズドラゴンで、遊介! 貴様にダイレクトアタック! 反逆のライトニングディスオベイ!」

 

「や、やめ」

 

「これがお前が抱えた多くの怨みだ。あの世に行って詫びるがいい!」

 

その牙が――。

 

寸分狙いを違うことなくエクシーズ遊介に刻み込まれ、そしてそのまま、地面を引きずりながら、近くの建物に激突した。

 

エクシーズ遊介 LP2200→0

 

 

 

終わりは意外にもあっけなかった。

 

当然この程度でユートの怨みが晴れることはない。

 

しかし、一つの決着はつい――。

 

 

 

「まだだぁ! まだ死ねるかよぉ!」

 

「何……!」

 

 

ユートは遊介が倒れていないこと、そして未だデュエルが続いていることに驚いている。

 

「どうなっている……?」

 

エクシーズ遊介は、ダメージを受けた箇所を手で抱えながら、

 

「まだ死ねない。死ねない。死ねないんだよ。だから、俺は命乞いをした。その時手に入れたカードだ」

 

あるカードがすでに発動されていた。

 

 

『セカンドオーダー・混沌の種』

 

 

「この永続魔法は、俺のLPが0になるとき、墓地のナンバーズを1体除外することで、相手ターンでも手札から発動できる。自分はライフ0でもデュエルを続行できる。この効果は無効にできず、このカードは自身の効果以外でフィールドから離れない。そしてこのカードが存在する限り、ライフが0でも俺はデュエルを続行できる。まだ効果はあるがそれは後で説明しよう」

 

ユートは執念とも妄念とも言うべき、生への固執を遊介が見せていることに恐ろしさを感じた。

 

「ははは、ユート。ああ。お前の勝ちだ。実力勝負じゃ俺はどうあってもお前に勝てない。そんなの分かってる。守屋遊介という男は英雄なんかになれない。自分が抱えられる量以上の願望を抱いたら、必ず破滅するような、奇跡なんて起こせやしないただのモブキャラだ」

 

「そんなことはない。現にあいつは、サイバース使いの遊介は」

 

「ハルトに勝ったか。それは偶々、ハルトがプレミしたからだ。どちらかと言えば、それは遊介の奇跡じゃなく、ハルトの不幸と数えるべきだろうよ。俺は遊介だ。よくわかる。己の願望を持っても、それを叶えるだけの力がないのが守屋遊介という男だ。それはたとえどの世界の俺でも変わらない。いずれ、サイバース遊介も、自身の弱さを呪う日は必ず来る。俺が保証してやる」

 

ユートは反論をしようとしたが、その前に再びエクシーズ遊介の口が開いた。

 

「だから俺は無様に命乞いをした。自分の力量を分かっているから、それでも生きたかったから、俺はプライドなんかそこらのネズミに食わせた。全部、全部を売ったよ。そうやってここまで生き延びてきたんだ」

 

エクシーズ遊介がこの世界に来て初めて、

 

「お前の恨みなんかになぁ……負けてられねぇんだよ!」

 

怒りの形相で叫んだ。

 

「ここからはエクシーズ世界の戦いじゃねえ。俺とお前の戦いだ。俺はどんな手を使ってでも、お前を潰すぜ、ユート!」

 

「遊介……!」

 

昔はあんな奴じゃなかった、そのような感傷は一瞬ユートの中に湧き、そしてすぐ枯らした。

 

あれは敵だと、ユートは再び己を敵意で満たす。

 

戦いは新たなる局面へと動こうとしていた。




ちょっと長くなってしまいましたが、前後編の分けるほどではなかったのでまとめました。ユートVSエクシーズ遊介の戦い前半です。

前半はユートが自身の怒りを遊介にぶつけるというテーマで進んできました。
本来ユートは今回のように力押しばかりをするようなデュエルをするわけではありません。ダイソンスフィアの攻撃もいつもなら警戒して然るべきなのです。しかし、今回はユートが怒っている状態と言うことを加味して、他にやりようがあった可能性を捨て、小細工を弄さず、ただ本気の殺意をみせるような形で書いてみました。

一方エクシーズ遊介の戦い方は、奪ったものを最大限利用して、ユートの怒りを煽ることができるようなカード選びにしています。なので、デッキにあまり個性を出さないことで、人のパクり感が少しでも表現できていたらと思います。

そして次回、遂に決着です。
最近は長いデュエルばかり書いていて、正直大変ですが、18話も頑張りたいと思います。次回もお楽しみに!

(アニメ風次回予告)

全ては奪ったものだった。ある日を境に奪い続けて、己の命を長らえさせてきた。告白する敵に、復讐者は共感の意を示さない。なぜなら秘めたその思いは1人のものではない。その魂に輝きが灯り、次元を超えた絆を示す。

「君がその力を使うなら、僕も出てきていいだろう?」

次回 遊戯王VRAINS~『もう1人のLINKVRAINSの英雄』~

   「捕食者 VS生誕する混沌」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!


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18話 捕食者VS生誕する混沌

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


「あれは……」

 

Dボードに乗って数時間。先ほどのシンクロ遊介との戦いもあり、遊介はようやく光の世界にたどり着こうとしていた。

 

しかし、その遊介が見たのは、何者かの広範囲の攻撃によって多くの被害を被った光の世界だった。

 

誰かが戦っている。

 

遊介は急いで、現場へ赴こうとしたが、そこに一通のメールが来る。

 

『来るな。危険だ』

 

ユートからのメールに不穏な何かを感じ取った遊介だったが、今は1人ではなくエリーが後ろに控えている。無謀ではなく彼女の安全を優先し、ユートの警告に従うことにした。

 

上空からユートを探し、その戦いの行方を見守る。

 

 

 

 

ユート LP3800 手札3

モンスター ③ ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン 

      ② ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

魔法罠

 

エクシーズ遊介 LP0(特殊効果でデュエル続行) 手札0

モンスター

魔法罠 ④ セカンドオーダー・混沌の種

 

(エクシーズ遊介)

□ □ ④ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   ③     EXモンスターゾーン 

□ □ □ ② □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート)

 

 

圧倒的なユート攻撃でエクシーズ遊介のライフは0になったはずだった。

 

しかし、エクシーズ遊介は、イリアステルのセカンドオーダーのカードにより存命を果たす。

 

プライドを捨て、惨めに血反吐を流してでも生き残る。執念とも言うべき生への執着は外道なデュエルを辛辣な目で見ていた観客を黙らせていた。

 

「『セカンドオーダー・混沌の種』を破壊する方法は1つ。このカードにカウンターを5個乗せること。このカードは俺のターンに1度、カオスナンバーズを召喚しなかった場合にカウンター3つ、俺のフィールドのカオスナンバーズが破壊されたら1つ、俺がダイレクトアタックを受けたら2つ、このカードにカウンターが乗る」

 

「つまり、カオスナンバースをお前は呼び続けるということか」

 

「ああ、だがデメリットばかりじゃない。このカードがある限り、ランクアップ無しでこのカードの効果でカオスナンバーズを呼びだせる。カオスナンバーズの力は俺達がよく知っているだろう?」

 

ただでさえ強力なナンバースのランクアップ体、もはやその脅威度は語るに及ばない。

 

ここから先の激戦をユートは予想せざるを得なかった。

 

「遊介……ずいぶんと憐れな姿になったな。昔のお前はそんな奴じゃなかった。誰よりも、デュエルで笑顔を、そう思っていたやつだった」

 

「はっ、昔の話だ。今の俺はその頃のクソみたいな甘ったるい自分を許せないくらいだ」

 

「俺はお前を許さない。何があったにしろ、お前は許されないことをしたのは事実だ。だが、それでもあえて、昔友だったお前に問いたい。何があった」

 

「語るに及ばす。ユート、同情しようと言うならやめておけ。今お前の目の前にいるのは別人だ」

 

「……そうか。なら、そうしよう。俺ももとより、何を聞いたからと言って手加減をするつもりはない。俺はカードを1枚伏せて、墓地のクラックヘルムを除外し効果を発動する。エンドフェイズ、幻影騎士団、ファントム魔法、罠カードを1枚回収する。俺は、このターン使った『RUM-幻影騎士団ラウンチ』を回収し、ターンエンドだ」

 

少し怒りの矛を収めていたユートだったが、その目にはすでに殺気が蘇っていた。

 

「そう、そうだ。その顔だぜユート」

 

エクシーズ遊介は、そんなユートの顔を見て満足げに笑っていた。

 

 

ユート LP3800 手札3

モンスター ③ ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン 

      ② ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

魔法罠 伏せ1

 

 

(エクシーズ遊介)

□ □ ④ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   ③     EXモンスターゾーン 

□ □ □ ② □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート)

 

 

ターン5

 

 

「俺のターン!」

 

すでに意識を手放してもおかしくないほどのけがを負っているエクシーズ遊介は、それでもその声から闘志を失っていなかった。

 

エクシーズ遊介 LP0(特殊効果でデュエル続行) 手札1

モンスター

魔法罠 ④ セカンドオーダー・混沌の種

 

「まあ、ここからさらに怒らせることになるけどな……へへへ」

 

すでにライフは尽きている。体は限界を迎えているが、エクシーズ遊介は、ユートの激昂を思い浮かべるとにやけが止まらなかった。

 

「さあ、ここからこのデュエルの第2幕だ!」

 

そしてドローした1枚に手を出すことなく、最初に目を向けたのは墓地だった。

 

「俺は墓地の、ヒートマスター・シールダーの効果! 俺のLPが相手よりも下回っている時に、墓地のこのカードを特殊召喚できる! 蘇れ! ヒートマスター・シールダー!」

 

「1ターン目に墓地へ送っていたカードか!」

 

「そうだ」

 

「ようやく奪ったモンスターではなく、自分のカードを使う気になったのか」

 

「いいや、あくまで布石だよ。蘇れ、俺の炎の戦士たち!」

 

墓地から蘇ったのは、円形の炎の盾を持つ、赤い鎧を身に纏った戦士2人。

 

HM・シールダー レベル4 攻撃表示

ATK0/DEF2200

 

(レベル4モンスター2体……!)

 

ユートは警戒する。

 

エクシーズ遊介とは昔何度も戦った仲だ。故にその戦術も知っている。HM(ヒートマスター)モンスターは特殊召喚に長けたシリーズであり、さらに、炎属性のエクシーズモンスターのエクシーズ素材になったときに、エクシーズモンスターに特殊な効果を加えるモンスターが多い。

 

「来るか」

 

「ああ。俺はレベル4のシールダー2体でオーバーレイ!」

 

2人の炎の戦士は上空へと飛び、黒い螺旋の中へと吸収されていく。

 

ユートは当然、ヒートマスターのエクシーズモンスターを警戒した。

 

しかし、そんなユートには想像し得ないモンスターが現れる。

 

「満たされぬ魂を乗せた方舟よ。光届かぬ深淵より浮上せよ! 現れろ、ナンバーズ101、サイレントオナーズ、アークナイト!」

 

「何!」

 

No.101 S・H・Ark Knight ランク4 攻撃表示

ATK2100/DEF1000

 

暗黒の渦から現れたのは天の箱舟だった。そしてそれは――。

 

「なぜ……」

 

ユートの逆鱗をさらに露骨に逆撫でするカードだった。

 

「何故お前がそのカードを……持って……るんだぁああああ!」

 

この怒りは竜の咆哮のごとく、人間を畏怖させるに十分な力強さがあった。

 

その叫びに、エクシーズ遊介は悪びれも一切せずに答える。

 

「あの日。遊馬と凌牙がアルターとの最終決戦に挑んだ。お前はそれは知っているだろう。なら簡単なことだ。俺はその2人の最期を看取ったんだよ。その後このカードを頂いた。それ以外に考えられるか?」

 

「まさか……あの2人が……負けたのか……」

 

「ああ、負けたよ」

 

「……お前は、何をしていた」

 

「……ただ、見てただけだ」

 

「何もせずにか。助けも求めず?」

 

「そうだ。命乞いをした俺は見逃される代わりに、目の前でやられる2人を見た。……ああ、安心しろ。あの2人はエクシーズ最強と呼ばれるにふさわしい戦いを見せた。アルターのLPを半分も削ったんだ。誇るべきだ。恨むなら俺だ。俺のような裏切り者が近くにいたから、あいつらは負けた。2人じゃなく3人ならチャンスがあったかもしれない。その可能性を俺は否定したんだ」

 

毛細血管が何本か切れた。否、実際は切れていないが、その程度起こってもおかしくないほどの激情がユートの中で発生する。

 

「貴様!」

 

「今更だろ! さあ、デュエルを続けるぞ」

 

まるでユートが怒り狂っている姿が愉快であると訴えるように笑うエクシーズ遊介。そして呼び出したナンバーズの力を惜しみなく使い始める。

 

「ナンバース101、アークナイトの効果を発動! オーバーレイユニットを2つ使い、相手フィールドの特殊召喚された攻撃表示モンスター1体をこのカードをオーバーレイユニットとする! エターナル・ソウル・アサイラム!」

 

箱舟の砲台から鎖のが放たれ、ダークリベリオンを巻き取った。箱舟の鎖は竜の抵抗すらもものともせず、その身の中に収納していく。

 

そして、ダークリベリオンを養分とし、オーバーレイユニットを1つ復活させた。

 

「く……!」

 

しかし、これで終わらない。だからこそ、ユートの表情は曇る。

 

そう、これほど強力な効果でも、まだ、カオスナンバーズではないのだ。

 

エクシーズ遊介はカオスナンバーズを呼び出す手筈に入った。

 

「俺は混沌の種の効果を発動する! このカードがフィールド上に存在するとき、同じナンバーのカオスナンバーズを、ランクアップマジック無しに呼び出すことができる! 俺はナンバーズ101、サイレントオナーズアークナイトを、カオスエクシーズチェンジ!」

 

箱舟は天高く浮上する。そして、その中核から、何かを撃ち出した。

 

それが人型のモンスターであるのは地上に降臨してからの話である。ナンバーズ101のカオスナンバーズは変形ではなく、覚醒であるのだ。

 

「満たされぬ魂の守護者よ、暗黒の騎士となって光を砕け! 降臨せよ! カオスナンバーズ101、サイレントオナーズ、ダークナイト!」

 

巨大な赤黒い槍を持った、暗黒の騎士が、ユートの前に立ちはだかる。

 

CNo.101 S・H・Dark Knight ランク5 攻撃表示

ATK2800/DEF1500

 

「く……」

 

ユートが歪んだ顔になっているのは、当然そのモンスターの効果が予想できたからだ。基本的にカオスナンバーズは、元のナンバーズの効果を強化した効果を持つ。

 

ならば当然、

 

「ダークナイトの効果! 1ターンに1度、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体をこのカードのオーバーレイユニットにする! ダークソウルローバー!」

 

このような効果を持っているのは道理だ。

 

凄まじいエネルギーを内包した槍が、不可視の速度で投擲され、ダークレイクエムに直撃する。先ほど圧倒的な力を見せた竜があっけなく、目の前の黒騎士に吸収されていった。

 

そしてユートのフィールドには、モンスターが居なくなる。

 

「さて、ユート? お前を守るモンスターはいなくなったわけだが……」

 

「……ああ」

 

「無様だな。さっきまであんなに頼もしかったのに、今じゃ、ただの弱い獣程度にしか見えないもんだ」

 

エクシーズ遊介は歪んだ笑みと共に、

 

「バトル! 俺はサイレントオナーズダークナイトで、ダイレクトアタック!」

 

再び槍が投擲された。その槍はユートが躱す余裕を全く与えることはなく、槍の攻撃を受けたユートがさらに傷を負う。

 

悲鳴はあがらない。あげられないというのが正確だろう。

 

衝撃により飛ばされたユートは宙を舞い、受け身も取れずに失墜する。

 

「……あ、ぐ」

 

ユート LP3800→1000

 

すでに体は限界に来ていた。立ち上がろうとしてもふらつき、再び膝をつく。

 

「はぁ……ぐぅ」

 

命懸けの戦いである。それはLPという数値の話ではなく現実に起こる。肉体が耐えきれずデュエルの決着がつく前に死亡するケースは、この世界では珍しくない。

 

いつもは胸をときめかせながら脳に入れる瑠璃の声も、今は、叫んでいる事実だけ分かり内容が頭に入ってこない。

 

「おいおい、ユート。まだまだこんなもんじゃないだろう?」

 

煽るエクシーズ遊介。しかし、煽らずともユートはまだ立ち上がる。

 

エースモンスターを完全に奪われている状況であったとしても。

 

口を開くことなく、自身の存在を自覚することで精一杯になりながらもまだ闘志は失われていない。

 

エクシーズ遊介が再び接近していた。

 

繰り出される一撃をまともに顔に受け、それでもユートは意識を手放さなかった。

 

さらに打ち出される拳と脚の攻撃は十を超える。ここで止めを刺そうと、エクシーズ遊介は容赦なく意識を奪いにかかる。

 

それを躱し、受け止め、しなし、捌き、

 

「ぐ……ぁあ!」

 

体のどこにそんな力が残っていたのかと、エクシーズ遊介が問いたくなるような大跳躍で再び距離をとった後、近くの路地裏に逃げ込んだ。

 

当然エクシーズ遊介はそれを追いかける。しかし脚力はユートの方が遥かに上だった。しばらく続いた鬼ごっこはユートに軍配が上がる。

 

「ち、俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

デュエルでは悪意ある時間稼ぎは反則行為としてペナルティにつながる。エクシーズ遊介は仕方なくターンエンドを宣言した。

 

エクシーズ遊介 LP0(特殊効果でデュエル続行) 手札0

モンスター ⑤ CNo.101 S・H・Dark Knight

魔法罠 ④ セカンドオーダー・混沌の種 伏せ1

 

(エクシーズ遊介)

□ □ ④ ■ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ⑤   □     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート)

 

 

ターン6

 

 

何とか時間を稼いだユートは自分にターンが回ってきたことを確認した。

 

「俺の……たー、ん」

 

すでにカードを引き抜く腕に力はほとんど入っていなかった。

 

ユート LP1000 手札4

モンスター 

魔法罠 伏せ1

 

ユートはデュエル初期から持っている魔法カードを見る。

 

エクシーズ遊介と戦うと決まったときに咄嗟に入れた1枚だった。相手がエクシーズ使いではなければそもそも機能しないし、機能してもそれで戦況が大きく変わることはあり得ない。

 

しかし、ユートは考えていたのである。万が一、ダークリベリオンが相手のエクシーズ素材にされてしまったら、戦いが圧倒的に不利になり、さらに対応する術がなくなってしまうと。そしてエクシーズ遊介の実力をよく知っているユートは、ダークリベリオンを封じる方法として、その方法を使ってくるのではないかと予想した。

 

故に1枚だけこのカードを入れていたのだ。

 

「速攻魔法、『スペースサイクロン』! 相手のエクシーズモンスターのオーバーレイユニットを1つ取り除く! 俺はオーバーレイユニットにされた、ダークレクイエムエクシーズドラゴンを取り除く!」

 

ユートはカードの宣言のために声をあげ、エクシーズ遊介もその声に気が付いた。

 

「レクイエムを……?」

 

その目的が分からないエクシーズ遊介は困惑する。

 

ユートは、先のターン手札に戻したランクアップマジックを掴み、

 

「墓地の装備魔法、『レイズウイング』の効果! このカードを除外し、墓地に存在するエクシーズモンスターを効果を無効にし、攻撃力を0にすることで特殊召喚する! 墓地のダークレクイエムエクシーズドラゴンを特殊召喚する。この時、そのモンスターのランクは1つ上がる!」

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ランク6 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「……まさか」

 

エクシーズ遊介はイリアステルの力を使っている。それは異次元の力、本来エクシーズ世界には存在しないいわゆるチートカードと言ってもいい。

 

しかし、次元を超えて生きてきたのは当然ユートも同じだ。その中で育んだ絆があった。背負ってきたものがあった。

 

「俺は『RUM-幻影騎士団ラウンチ』を発動! オーバーレイユニットのない闇属性モンスター1体を進化させ、ランクの1つ高い闇属性エクシーズモンスターを特殊召喚する。俺はランク6になったダークレクイエムを素材に、ランクアップエクシーズチェンジ!」

 

宣言の直後、ユートから強大なエネルギーが発生し、大風を巻き起こす。しなれかかっていた髪が再び逆立ち、鎮魂の竜は暗黒の渦の中へと消えていく。

 

ユートの目が、赤く輝いた。その口上のみ、ユートだけではない、何者かの声が重なる。

 

(ユート、俺とお前の絆、見せてやろうぜ!)

(ああ、お前の力を借りるぞ……遊矢)

 

「二色の眼の竜よ! その黒き逆鱗を震わせ、歯向かう敵を殲滅せよ!」

 

その声によって現れたのは、新たな黒竜。それも二色の眼を持った威圧的な巨大竜だった。

 

「現れろ、ランク7! 怒りの眼輝ける竜、覇王黒竜、オッドアイズ、リベリオンドラゴン!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン ランク7 攻撃表示

ATK3000/DEF2500

 

「ぐ……反動か……」

 

心臓が鎖で締めあげられる感覚をユートは気合だけで押しのける。

 

再びエクシーズ遊介に立ち、新たに呼び出した黒竜の力を示す。

 

「オッドアイズリベリオンドラゴンは、エクシーズモンスターを素材としてエクシーズ召喚されたターン、1ターンに3回攻撃を可能とする!」

 

「さ、3回って、てめえ、また訳のわからないでたらめな効果持ってきやがって!」

 

「さあ、覚悟はいいな!」

 

目の前の黒い騎士を滅ぼすのに十分な力をもち、それが3回の攻撃を可能とする。カオスナンバーズを破壊し1回、そしてダイレクトアタック2回。これによりセカンドオーダー・原初の種には5つのカウンターが乗り、破壊されることでデュエルは終結する。

 

「お前……まさか、ここまで読んでたのか」

 

「読んでたわけじゃない、だが、お前もレジスタンスなら、分かっているだろう」

 

彼らレジスタンスは常に最悪の状況を考えながら行動する。たとえ自身の大切な仲間を奪われようとも、それでも戦い最終的には奪い返す。全てはイリアステルを倒すため。

 

まさにこのターンのユートはそのレジスタンスの精神を示したのだ。

 

「くそ……!」

 

「今度こそ消えろ! バトルだ! 覇王黒竜オッドアイズリベリオンドラゴンで、ダークナイトに攻撃!」

 

覇王黒竜はその翼からさらに、エネルギーを放出する。目の前の敵を滅ぼすために。

 

「反旗の逆鱗! ストライクディスオベイ!」

 

牙は間違いなく突き立てられた。暗黒の騎士は、混沌の闇へ消えていく。

 

(勝)覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン ATK3000 VS CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800(負)

 

「がは」

 

混沌の種カウンター 0→1

 

「2回目! ストライクディスオベイ!」

 

続けて攻撃をしようとするユートに、エクシーズ遊介が介入する。

 

「墓地にナンバース101が存在し、オーバーレイユニットを持った状態でダークナイトが破壊されたとき、ダークナイトを墓地から蘇生する! リターンフロムリンボ!」

 

「な……」

 

この瞬間、このデュエルは終わらないことが確定した。

 

だからと言って、ユートが攻撃を止める筋合いはない。

 

(勝)覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン ATK3000 VS CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800(負)

 

混沌の種カウンター 1→2

 

そして、エクシーズ遊介の身を守る者はいなくなる。

 

「3回目! ストライクディスオベイ!」

 

地面を抉りながら迫る竜の攻撃を止める術はエクシーズ遊介にはない。

 

「があああああ!」

 

その攻撃を受け、エクシーズ遊介は地面を情けなく転がっていく。

 

混沌の種カウンター 2→4

 

しかし、まだ死なない。エクシーズ遊介はすぐさま、ゾンビのように安定しない動きであっても立ち上がる。

 

「まだだ……まだだ……へへへ」

 

ニコニコ不気味に笑いながら。

 

ユートもすでに体が限界に近づいてきている。恐らくあと1度強い衝撃を受けるだけで意識を手放してしまうだろう。

 

「俺は……これでターンエンドだ」

 

互いはいつ意識がなくなってもおかしくない境地にいた。2人を動かしているのは、勝利への執念のみである。

 

ユート LP1000 手札2

モンスター ⑥ 覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン

魔法罠 伏せ1

 

(エクシーズ遊介)

□ □ ④ ■ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   ⑥     EXモンスターゾーン 

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート)

 

 

ターン7

 

 

 

もはや互いに余計な言葉を挟む余力はなかった。

 

「俺は、まけねえ……はぁ……ぁぁ!」

 

もはやカードドローの宣言もせず、デッキからカードを引くエクシーズ遊介。

 

エクシーズ遊介 混沌の種カウンター 4(5で敗北)手札1

モンスター

魔法罠 ④ セカンドオーダー・混沌の種

 

「俺は伏せカードを発動する。『強欲な瓶』。さらにデッキから1枚ドローする。そして手札は2枚だ……墓地のマジック『ナンバーズゲート』の効果。このカードを除外し、手札のカードを2枚墓地へ送る。エクストラデッキからランダムにナンバーズ1体を特殊召喚する。おれは今ある手札2枚を墓地へ!」

 

カウンター5つ目がかかった最後のモンスター、

 

「……悪くない。俺が呼ぶのはこいつだ、現れろナンバーズ96、ブラックミスト!」

 

呼び出したのは、形のない、悪意に溢れた黒い霧。

 

No.96 ブラック・ミスト ランク2 攻撃表示

ATK100/DEF100

 

そして当然、デュエルに勝利するため、混沌の種をそのモンスターに蒔く。

 

「俺は、セカンドオーダー・混沌の種の効果で、ブラックミストをカオスエクシーズチェンジ!」

 

黒い渦を通過し、その霧は悪意の塊として形を得た悪魔へと変生した。

 

「現れろ。カオスナンバーズ96 ブラックストーム!」

 

叫ぶその声はどこから出ているのか。エクシーズ遊介は既に理性をほとんど失い、勝利の身を追い求める獣となったからこそ出せる力というべきか。

 

悪魔はその声に応え、禍々しいその姿を現した。

 

CNo.96 ブラックストーム ランク3 攻撃表示

ATK1000/DEF1000

 

「ブラックストームの攻撃。ブラックストームはオーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスターの攻撃力を0にし、相手の攻撃力分の数値を自らの攻撃力に加える!」

 

CNo.96 ブラックストーム ATK1000→4000

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン ATK3000→0

 

そしてユートにとどめを刺すべく、彼の方に向けて走り出す。

 

「やれブラックストーム!」

 

すでにユートは前がよく見えていない状況である。しかしそれでも、デュエルはできる。

 

「トラップカード『幻影騎士団ウロング・マグネリング』……その攻撃を……無効にする。 その後……この……カードを特殊召喚する!」

 

トラップで窮地を凌ぐユート。

 

幻影騎士団ウロング・マグネリング レベル2 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

LPはいまだ尽きない。それに安心するユート。

 

愛おしい声を聞いた。何かを叫んでいるような気がしたが、内容は聞き取れなかった。

 

しかし、その声によって眩暈を振り切った。

 

目の前にはエクシーズ遊介の姿があった。

 

とどめを刺すつもりだと悟り、ユートは防御の体勢と取ろうとする。しかし、体の動きは既に鈍っていて、間に合わない。

 

繰り出される拳。顔に思い切り当たった。

 

もはやユートに抵抗する術はない。

 

続けざまに繰り出される暴力をユートは受けるしかなかった。

 

そして体を持ち上げられる。

 

――とどめをさされた。

 

ガラス張りの大きなショーウインドウへと投げられる。ガラスは激突と共に割れ、奥へと転がり込んだ。

 

 

ユートは気を失った。そして、二度と目覚めることはなかった。

 

 

「は、ははははははははははははははははははははははははは!」

 

笑い声が上がった。

 

起き上がってこないユートに背を向けて、勝利に酔いしれ始める。

 

「どうやら俺は正しかったみたいだな! ユートぉ!」

 

エクシーズ遊介は叫んだ。勝利に酔いしれる。

 

 

 

 

 

 

 

その男が彼の前に現れるまでは。

 

「ねえ、君」

 

ユートが飛んで行った方向から何者かの声が聞こえてくる。

 

それはしかし、それは決してユートではない。そこから現れたのは、怪しい姿をした謎の男。ゆっくりと、優雅に、しかしなんとも言えない覇気を漂わせながら歩いてきた。

 

「……誰だ……お前」

 

「これから死ぬ人間に名乗っても意味はない、故に手の内を明かしても……構わない」

 

エクシーズ遊介は知るはずもない。

 

その男の存在こそ、ユートが異世界を渡り歩き得た新しいの力の一端である事を。

 

「遊矢が苦しんでいるんだ。友達のユートがいじめられてるのが嫌だって」

 

「遊矢……?」

 

「よくもユートをいたぶってくれたね。そのせいで遊矢が辛そうで辛そうで……、僕、それが悲しくて、我慢できずに遊矢よりも先に出てきちゃったよ。でも、君がその力を使うなら、僕も出てきていいだろう?」

 

その男は愉快に笑いながら、しかしただならぬ妖気を携えていた。

 

「本当は黙って見ている予定だったけど、ユートも意識を失ってしまったし。仕方ないから、君のような外道は――」

 

次の瞬間、エクシーズ遊介は戦慄した。

 

その男が笑顔の裏で抱えた、

 

「僕が直接……地獄に墜としてあげようと思ってね!」

 

他人の不幸を愉悦に感じる悪魔のような感情の吐露、そして歪みに歪んだ表情を見て。

 

エクシーズ遊介はデュエルディスクを見る。

 

なんと驚くべきことに、このデュエルはユートではなく、今目の前にいる男が自動的に引き継いでいることになっているのだ。

 

「てめえ……!」

 

勝利をもぎ取った喜びを汚され、心穏やかではいられないエクシーズ遊介は、目の前に現れた紫の敵に殴りかかる。

 

しかし、打ち出された拳を軽々躱す、その男は

 

「消耗した体で僕に殴りかかるなんて……馬鹿の極みだね?」

 

と言いながら、決して反撃をしなかったユートと違い、思い切り殴り返してきた。

 

腹に重い一撃、

 

「が……ぁぁ」

 

そして数度の追撃、

 

「いいね……もっと顔を歪めなよ!」

 

「ぶ、がふ……」

 

エクシーズ遊介が瞬く間に追い込まれていく。

 

「ああ……いけないいけない。あまり暴力を振るうと遊矢に失望されちゃうなぁ」

 

膝をついたエクシーズ遊介を背に距離を取ると、

 

「安心しなよ。きちんとデュエルで決着をつけてあげよう」

 

と、再び向き直った。

 

 

エクシーズ遊介 混沌の種カウンター4 (5で敗北)手札0

モンスター ⑦CNo.96 ブラック・ストーム

魔法罠 ④ セカンドオーダー・混沌の種

 

(エクシーズ遊介)

□ □ ④ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  ⑦   ⑥     EXモンスターゾーン 

□ □ ⑧ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(ユート?)

 

 

ターン8

 

 

エクシーズ遊介は新たな敵であるその男を見る。

 

全てが変わっている。口調も、雰囲気も、姿も、服装も、デュエルディスクも。

 

「僕のターン!」

 

エクシーズ遊介のディスクはその男を、ユーリと名付けていた。

 

ユーリ LP1000 手札3

モンスター ⑥ 覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 

      ⑧ 幻影騎士団ウロング・マグネリング

魔法罠 

 

「ぐ……ふ……」

 

「意識はしっかり保っておいてね。君のような人間には本来見せたくないんだけど、ユートをいじめた罪は重い。遊矢ほどではないけれど、同じ体の同居人としての仲間として、彼のことも気に入ってたんだ。それを汚された今の僕は、君を本気でひねり潰さないと気が済まないから。途中で意識が飛んで終わりなんて、くだらない終わりは許さないよ」

 

大口をたたくユーリ、エクシーズ遊介は少なくともユートに関係する人間だと理解する。

 

しかし、デュエルを引き継いでいる以上、デッキに変わりはなく、それならば対応のしようもある。とエクシーズ遊介は考えた。

 

その考えは間違いである。

 

その証拠はすぐに示された。

 

「僕は魔法カード『融合』を手札から発動する」

 

「ゆ、融合? そんな……」

 

「そんなカードはユートのデッキに入ってなかったって? はははははははははは! 愉快な反応をありがとう!」

 

ユーリはエクシーズ遊介の反応を面白がった。

 

「僕たちは体を入れ替える。遊矢という人間の肉体を軸に、今この体には4つの魂が宿っている。僕はその1つ。僕たちは自由に外界に晒す姿を入れ替えることができる。今この体はユートが使っていた状態から、僕が使っている状態に変わったのさ。そして、それはデッキでも同じことが言える。デュエル中に入れ替わったら、フィールド、墓地のカードは変わらないけれど、手札とデッキのカードが変わる。だから、今僕の手札に存在するカードは、僕のデッキのカードということさ」

 

「馬鹿……な……」

 

「いいね、その顔。人の情けない顔は僕の大好物だ。もっと晒してくれよ!」

 

ユーリは愉悦を思い切り感じている愉快な笑みを浮かべながら、モンスターの融合を始めた。

 

「僕が素材にするのは、今、僕のフィールドに存在する闇属性モンスター2体」

 

呼び出すのは、ユーリのエースモンスター。ユートがエクシーズドラゴンをエースにするのと同じように、ユーリにも相棒とする竜がいる。

 

「闇に身を委ねた魂たちよ! 今ひとつとなりて、災禍の渦の地獄から、新たな脅威を生み出せ!」

 

右の手の平と左手の平を合わせて、竜の降臨を宣言した。 

 

「融合召喚! 出でよ。全てを蝕む毒龍。スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン!」

 

現れたのは闇の竜。しかしユートのように秩序だった闇ではなく、すべての飲み込み、食らい尽くす、災禍の象徴のような、毒々しい体をした竜だった。

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン レベル8 攻撃表示

ATK2800/DEF2000

 

新たな竜、その攻撃力は貧相なことに2800しかない。

 

エクシーズ遊介は一安心する。

 

しかし当然、攻撃力の低さで安心したわけではなかった。恐らく攻撃力は何とかなるから呼んだのだと予想する。

 

それが罠だ。攻撃力だけでは、ブラックストームは倒せない。

 

CNo.96には、戦闘破壊されないという効果がある。これが混沌の種と非常に相性がいい。破壊されなければカウンターも乗らない。故にデュエルにも絶対に負けない。

 

その効果があるからこそ、エクシーズ遊介は未だ負けを考えていなかった。

 

「……ああ、安心して。実は彼の出番はまた今度になりそうだからね」

 

ユーリのまたも真意を掴みづらい言葉をエクシーズ遊介は聞いた。

 

「どういうことだ」

 

「君はどうあがいても勝てない。例えば……仮にそのモンスターが破壊されないみたいな効果を持っていたとしてもね」

 

エクシーズ遊介は自らの目論見を言い当てられ、嫌な予感を増大させる。

 

ユーリは語った。

 

「君のような外道だ。最期の砦は、カウンターを乗せないためのクソみたいな方法で身を守ることだろう? 安心しなよ。その程度、ユートだって悟ってたさ。一応彼の名誉のために言っておくけど、彼の手札には、すでに君のナンバーズを攻略する手段は整っていた。どのみち君はデュエルでは負けていたさ」

 

「なんだと……」

 

「僕が出て来たのは、本当にただのピンチヒッターだよ。ノックアウトで僕の保有LP8000持ってかれるのも気に入らないし。それにデュエルは楽しくやらなきゃね、ノックアウトなんてつまらない結末より、飛び切りの見せ場を作って、相手を絶望させてこそ、エンターテインメントなデュエルだろう?」

 

ユーリは再び手札に手をかける。

 

「僕は、捕食植物(プレデター・プランツ)・サンデウキンジーを召喚」

 

ユーリが呼び出したのは、見た目は植物でありながら、見目恐ろしさを感じてしまう存在。

 

捕食植物サンデウ・キンジー レベル3 攻撃表示

ATK600/DEF200

 

「サンデウキンジーの効果。このカードと僕の手札、フィールドのモンスターを融合させる」

 

「また融合かよ……」

 

「当然。言っただろう、君はちゃんと地獄に送ってあげるとさ」

 

ユーリは融合素材とするフィールドに2体を順番に指さす。

 

「僕はスターヴヴェノムとサンデウキンジーを融合する!」

 

2体は、光の渦を描き溶けあい、一つとなっていく。

 

「飢えた牙持つ毒龍よ。奈落へ誘う香しき花よ。今一つとなりて、思いのままにすべてを貪れ! 融合召喚! 現れろレベル10! グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン!」

 

先ほどの毒竜が、さらに禍々しい姿となり、生物を本能的恐怖へと誘う形で降臨する。

 

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン レベル10 攻撃表示

ATK3300/DEF2500

 

竜の降臨。そして先ほどの宣言。

 

勝つつもりでいたエクシーズ遊介は、すでに自分の最期を予感せざるを得なかった。

 

そしてそれは現実になる。

 

ユーリは召喚した自身の切り札の力を解放した。

 

「グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンは1ターンに1度、相手モンスターを1体対象にして、そのモンスター効果を無効にして、攻撃力を0にする効果を持つ。僕は当然、君のブラックストームを対象に発動する!」

 

竜が携えている触手が伸び、ブラックストームにかじりつく。その箇所から力は封じられ、暴虐の嵐を起こすほどの力を持ったモンスターは無力化された。

 

CNo.96 ブラック・ストーム ATK4000→0

 

「効果も無効にした今、そのナンバーズを守るものは何もない。どうだい、今の心境は?」

 

エクシーズ遊介は既に言葉を失っていた。無様を晒し、醜い姿を見せ、圧倒的優位を持って勝利を求めたデュエルだったにも関わらず、最後は絶望しか残っていない。

 

「あはははは! いいよその顔。そうだ。それだよ。ああ……こんな顔をしてくれるなら、最初から僕が戦いたかったなぁ。その方が、感慨深かっただろうに。まあ、君のその顔を見れただけで、慰めとしようかな」

 

ユーリは、空気を味わう深呼吸を披露し、そして、宣言する。

 

「バトル、僕はグリーディーヴェノムフュージョンドラゴンで、ブラックストームを攻撃」

 

その竜から茎が伸び、蔓が伸び、その一つ一つの先から、口に向けてエネルギーが放たれる。放たれたエネルギーは竜の前で集約され、破滅の業火にも負けない、絶命の光を解き放つ。

 

その光を浴び、最後のカオスナンバーズは呑まれ消えていく。

 

(勝)グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン ATK3300 VS CNo.96 ブラック・ストーム ATK0(負)

 

そしてエクシーズ遊介もまた、自らの最期を自覚した。

 

「ああ……ああああああああああああああああああああああ!」

 

悔しさに塗れた無様な叫び声をあげるしかなかった。

 

混沌の種カウンター 4→5(破壊) エクシーズ遊介の敗北が確定




まずはお詫びを。
23日に投稿する予定が、パソコンの動作不良により、遅れてしまいました。
申し訳ありませんでした。

さて、今回は少し長くなってしまいましたが、ユートとエクシーズ遊介の決着の回です。

ちなみに今回の中ではユーリが登場しましたが、彼の設定は漫画版のアークファイブを参考にしています。遊矢が大好きです。しかし、彼らしい残虐な性格も含めたいと思い今回の話で出たような性格になっています。

今回は特に複雑なデュエルタクティクスを実行したわけでもありませんが書くのに多大な時間がかかりました。なぜかというと、デュエルの内容を何度も変更したからです。ユートが弱い感じは出さないように、かつユーリが出る必要性のある流れはどういう流れかを考え、今の形に落ち着きました。しかしこう、振り返ってみると、そんなにユーリは戦っていないので、タイトル詐欺になってしまったかもしれないですね。

次回はデュエル無し回になりそうです。ストーリーをまた大きく進めたいと思います。

(アニメ風次回予告)

追い求めた2人。自身が戦う意味は友のために他ならない。しかし、すでに道は分かたれていた。歪みが渦巻くリンクヴレインズの毒は、自身の周りを確実に蝕んでいた。

「ねえ遊介。あなたは、私と良助、どっちの味方?」

次回 遊戯王ヴレインズ ~『もう1人のLINKVRAINSの英雄』~

   「虚構世界の蝕毒」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!


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19話 虚構世界の蝕毒

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

今回アンケート機能を試しに使ってみたいと思います。説明書は見ましたが、実際に使ったことはないのでどのような感じか、まだ研究している段階です。皆さんもご協力お願いします。

あとがきの最後に表示されるそうです。


「あ……ああ……」

 

大空に手を伸ばすエクシーズ遊介。そしてそれを道端の汚らしいゴミのように見るユーリ。

 

デュエルを見守っていた光の世界の戦士たちも、戦いが終わったその場に駆け付けていた。

 

「君さ……残りの命、賭けるんじゃなかったっけ?」

 

「……はぁ?」

 

倒れている状態から上半身を起こそうとしたが、それは叶わず仰向けになりながら、掠れた声で答える。

 

「あのな……自分から自殺の可能性……つくるかよ……」

 

「つまり、君は嘘をついたわけだ」

 

「……今更だぜ。俺は裏切者だ。嘘の1つや2つ気にかけるつもりはない。……それより、……驚いたな。融合の世界の人間か……。はぁ、なるほど、ユートは死んだって聞いてたんだけど、妙な方法で生きながらえているらしい」

 

「……もう一度立ちなよ。僕は嘘は嫌いなんだ。自分で言ったことを嘘にしないためにも、君はここで殺す」

 

「それはやめとけ。……時間だ」

 

ユーリは向こう側の空を見る。

 

空中を走り、ものすごいスピードで迫っている集団を確認する。

 

「あれが、エデンの。なるほど、もしかすると君の目的は、そもそもユートではなかったのかな?」

 

「光の世界の連中を釘付けにするのが……俺の仕事だ。仲間が死ぬかもしれないデュエルをするなら、ハルトの挑発に乗ったお人よし連中なら。逃げずに見守るだろうと思ったのさ。現に、サイバース遊介の仲間は誰一人逃げずに、このデュエルを見ていた」

 

「光の世界の人間を交渉の場に引きずり込むと。へえ、なかなか考えるじゃないか」

 

「人なんて、ものは、どう動くか分からない。確実に人を動かすには洗脳しかないだろうが、可能な限り手を打つことで、可能性を上げる方法ならいろいろある」

 

「つまり、エデンが彼らと話すことができた時点で、君たちにはメリットがあると?」

 

「少し違う。話せなければメリットがない」

 

「ふうん。まあ、そこらへんは僕には関係ないな」

 

「なんだよ、ユートはあんなに必死に、あいつらを守ってやってるのにさ」

 

「僕は遊矢の敵を排除するだけだ。それ以外は別の奴らが考えればいい」

 

「は……心酔ねぇ。冗談だろ。てめえ、外道のくせによ」

 

「僕は遊矢の熱狂的なファンとでも言っておこうか」

 

つかみどころのない紫の装束を纏った彼はそう言うとエクシーズ遊介から遠ざかっていく。

 

ユートではない何者か、ユーリの姿を見て、ブルームガールとマイケルは警戒する。その顔を見てユーリは、まだユートしか知らない、という事実を思い出し、まだ意識を取り戻さないユートを感じると、

 

(遊矢、変わってほしい。僕はこの手の説明は苦手だ)

 

と自らに向けて言い、再び近くの路地裏に引きこもった。

 

瑠璃はそれを見て、

 

(そろそろ、この人たちにも真実を告げるべきね)

 

心の中から聞こえる声に頷いた。

 

 

 

目の前に出現した謎の少年に釘付けになっていたブルームガールとマイケルは、背後から迫る二人の影に気が付かなかった。

 

肩をトントン。

 

死んだ? と一瞬背筋に悪寒が走る2人。

 

しかし、振り向いた瞬間、死の恐怖はすぐになくなった。

 

「ただいま」

 

「ゆ……本物?」

 

「……ああ、あそこに倒れてるの偽物だもんな。でも証拠もある」

 

後ろにまるで懐きすぎの犬のようについてくるエリーを見て、ようやくブルームガールは、その男の存在に気を許した。

 

「遊介!」

 

「ただいまー」

 

マイケルも久しぶりの再会に喜びの笑みを浮かべる。

 

「お前……無事だったか!」

 

「ああ、3か月くらいだっけ? あれから。いやあ、面目ない。怖い龍使いに誘拐されちゃって」

 

「心配したぜぇ……まぁ、元気に返ってきたからどうってことねえな」

 

遊介は後ろにいたエリーを引っ張って前に立たせる。

 

「エリーも無事だ」

 

エリーは特にブルームガールに向けて、

 

「ただいま帰還しました!」

 

と嬉しそうに報告する。ブルームガールもそれを見て、ほわわんと笑い、

 

「よかったぁ……」

 

と胸をなでおろすことになった。ハルトとの戦いの際、無謀にもブルームガールに挑みかかったのに無事だったのは、ブルームガールの手加減と必死の説得があったからに他ならない。エリーが今の命があるのはブルームガールのおかげなのである。

 

なので、命を救おうと手を尽くした人間として、エリーが無駄死にをしなかったことに安心したのだろう。

 

「しかし、遊介。闇の世界にいたんだってな」

 

「マイケル。お前も来るか。あそこ地獄だから」

 

「地獄っつっても、お前死んでないだろう?」

 

「そうじゃないんだなぁ、あそこの厳しさは一言では語れないね。でもまあ、その話はまた今度。今はお客が来るみたいだし、そっちに専念しよう」

 

遊介は一通り再会の挨拶を済ませると、喜ぶ2人を差しおいて前に出る。

 

「なによぉ、つれないわね……」

 

というブルームガールの小さな声は遊介の耳にはかろうじて届かなかった。

 

しかし、ブルームガールがこれ以上追及しなかった理由は明白である。今は浮かれている場合ではない。エデンの人間がここに迫ってきているのだ。

 

遊介はここにくる道すがら、すでに状況を把握していた。

 

ユートが戦っていたのはエデンの所属である3人目の遊介。一日で同じ顔と2人分で会うとは、いよいよ死ぬかもしれないという予感を遊介は抱かざるを得ない。

 

それはさておいて、遊介は途中からであるがユートとエクシーズ遊介の戦いを見ていた。

 

その時に目にしたのは、周りを破壊しまくる2人の間を縫って、危険地帯を1人でデュエルの観戦のために走っている3人目の男。

 

今はデュエルが終わったことで決着がついたこの場に姿を現していた。

 

遊介はプレイヤーネームを聞こうと思った矢先、その必要はなくなる。

 

「遊介。光の世界のお前ってことは、俺のダチの遊介だよな?」

 

遊介は声と今の反応で正体を察した。

 

「松! 松なのか、なぜ松がここに? 自力で――」

 

「いきなりボケるな、シリアスな場面なのに調子狂うだろ、それよりデュエルするか?」

 

「……今の切り返し、本物だ。生きてたのか」

 

「ああ。なんとか」

 

リンクヴレインズでは見た目と名前が変わるため、入る前にすでにお互いを確認する方法は話し合っていたのだ。俺と松の場合は、片方がボケて、もう片方がそれにツッコミを入れた後、唐突に「デュエルするか?」と訊くこと。

 

とうとう使わずして3月経過してしまったが、ようやく、遊介は求めていた友人のうち1人の無事を確認できたのだ。

 

「元気だったか?」

 

「ああ。大変だったぜ生き残るの。そりゃあもう、本1冊書けるくらいの武勇伝だ。お前に聞かせてやりたいぐらいだ」

 

「なんだよ、俺だって負けてないっての」

 

「ああ。見てたぜハルトとの戦い」

 

「は? アレ見てたのか?」

 

「無様に転げまわってたな。マジウケた」

 

「お前な、死ぬか死なないかだったんだぞ、こっち」

 

「へへへ。いやあ、あれから有名人だったぜ。光の世界のエリアマスターはあの天城ハルトを倒した実力者。それはそれは、お前を殺して名声を得たいなんて狂乱した連中がどれだけ湧いたか」

 

「嬉しくないだろそれ。こっちの身にもなれ」

 

「は、まあ、そう思うと姿を消してたのは正解だったな。ったく、ハルトの野郎も馬鹿だよな。あそこでアルティメットさえ出さなければどうにでもなってただろうに。てかアルティメットは敗北フラグ、それ一番言われてるから」

 

「ああ……やっぱ気づいてた?」

 

「当たり前だ。冷や冷やしたぞ。ああ……もう死んだかもあいつって」

 

「それはまあ、俺も正直……あのデュエルを見返すとそう思う」

 

「はは、まあ、よかったぜ。ところで後でデュエルな。久しぶりにお前とやりたかったんだよ」

 

再会を喜びあう2人。

 

ところが、この場にもう1人が現れたことでそうもいかなくなった。

 

その女は急に現れると、仰向けになっているエクシーズ遊介を持ち上げる。

 

「どこへ行ってた?」

 

「お、お前と一緒に、同盟をうまく進める準備だぁ」

 

「独りで独走してたのにか?」

 

サングラスをかけているその女は侍女らしき人間を2人侍らせていた。しかし、その必要はないのではないかと思うぐらい圧倒的な存在感を醸し出している。

 

「無様に負けやがってぇ! うおおおおおお」

 

「お……おおお……! いてぇええ……」

 

「まあ、有用なパシリはまだ生かしておくか。けどね、これ以降一人で突っ走るのは禁止! いいわね」

 

「はぃぃ」

 

先ほどまで外道の固まりそのものだったが、今の彼はあの女に尻に敷かれているような態度を見せている。酷い態度の変わりようだ。

 

そして松がその女の正体を口にする。

 

「彩。喜べ、いいタイミングで遊介がご帰還だ」

 

松がそう言うと、

 

「なんであんたもココにいるのよ」

 

と悪態をつきながらも嬉しそうなサングラスを外す。

 

「遊介、久しぶり」

 

「声からして彩なんだが、お前、サングラスかけるような女だったか」

 

「似合ってるでしょ。にい?」

 

「薫の真似すんな。……やっぱ、本物かよお前」

 

「そうそう。本物。そしてエデンのリーダー、プレイヤーネームをリボルバー。あんたがサイバースデッキ使うだろうと踏んで、わざわざこの名前にしたんだよ」

 

「……物好きだな。もっと女らしい名前にしろよ」

 

天然のニコニコ顔を見てそちらも本物であると遊介は信用する。

 

「見たわよ、あの公式放送。もう有名人じゃない。行方不明だったくせに」

 

「悪かったな。誘拐されたんだよ」

 

「エリアマスターが誘拐とか、ふふ……はははははは」

 

「笑うな!」

 

「ははははは! 超ウケる」

 

「ウケるな」

 

「いやあ、ははは。もう、私もずっと探してたんだよ。あの時も放送あったからすぐに部下を向かわせたのに。あんた行方不明になっちゃうんだもん」

 

遊介は彼女についている侍女の1人を見る。そういえば、とあの戦いの後に、海堂とヴィクターによって厄介払いされたレディを発見し、なんとも言えない気持ちに遊介はなった。

 

「でもまあ、無事だって信じてたしね。あんた昔から悪運だけは強いから。本番に弱いタイプだけど」

 

「うるさいな、現実になりそうだからやめろ。ここで本番に弱いタイプとか、死ぬっていってるようなものだろ」

 

「えへへーバレた?」

 

3人で集まって、内容はともかく話をする。少し前では当たり前だった光景が、遊介にはなんとも嬉しかった。

 

自分がこの世界に来た目的である2人にようやく出会うことができたのだ。

 

これで、遊介も憂いはなく、戦いに専念できると確信する。

 

「とりあえず2人とも無事で何よりだったよ」

 

「ああ」

 

「そうね」

 

遊介は

 

「後はこれから先、協力してイリアステルを倒せば元の世界に帰れる。……なんて、そう簡単な話じゃないだろうけど……」

 

友人の無事を確認する。そもそも遊介が来る必要のないこの世界へ来た理由はもう達成された。遊介にとっては、残りはこの世界から脱出することとなる。

 

故に、遊介は次の、そして最終のビジョンを提示する。

 

しかし、遊介がその提案をした時点で、2人の顔が一瞬曇ったのを遊介は見た。

 

「どうしたの?」

 

何かまずいことを言ってしまったか。と焦る遊介。

 

なんと切り出せばいいか、次の言葉に少し迷った。

 

その様子を見て、良助は言った。

 

「いや、まあ、お前のせいじゃない」

 

そして、彩に目線を向ける。彩は、

 

「私のせい?」

 

と不服を申し立てるが、

 

「当たり前だろうが。遊介に言ったらドン引きされるぞお前」

 

とその不服申し立てを退けようとする。

 

当然遊介にとって気になるのは、何を言ったら自分がドン引きすると予想されるのかだ。

 

通常の敵ではいざ知らず、彩とは昔からの付き合いである。隠し事をするような仲ではないと信じ、彩に訊いた。

 

「俺がドン引きすることって?」

 

彩は一瞬迷った様子を見せたが、隠し事をするのは後の悔恨になると判断し、意を決した。

 

「遊介。エデンの目標って知ってる?」

 

「いや」

 

「エデンはね。この世界を永続させて、そこに永住したい人々が所属するグループなの」

 

「……それで?」

 

「察しなさいよ」

 

「……まさか……帰りたくない?」

 

「……ぶっちゃけ、まだ迷ってる。けど、永住に意見が偏ってるから、私はエデンのリーダーをやってるの」

 

信じられないことを聞いた、と一瞬思ったが、遊介は特にドン引きまではしなかった。

 

むしろ、自分の視野の狭さを痛感する。

 

終わりは、イリアステルを倒し、そしてこの世界を終わらせる事。それがゴールだと思い込んでいた。しかし、違う。確かに終わりだけを語るのならばその方法はいくらでもある。

 

良し悪しを考えないのならば、全員が一斉に自殺をすればそれは1つの終わりだ。彩が言った永住を決断しこの世界の住人となるのも、一つの結論として成り立つ。終わりの形はいろいろあるのだ。

 

しかし、一つの決断には当然反対意見が出る。どんなに多くの人間が支持する決断だとしても、反対勢力は必ず存在する。

 

遊介は決して永住が悪しき思想だとは思わなかった。

 

当然この世界はデュエルができる人間にとってはいい世界だ。楽しい世界だ。遊介は、彩がこの世界を気に入るだろうことは分かっている。昔、カードを親に没収されたときの悲しみ様を知っているからだ。彩の家は厳しい環境であり、彩にとっては耐えられない世界であることは分かるのだ。

 

「永住か……」

 

「悪くないと思う。生きていくには十分な環境がここにあるもの。それに、エデンには、帰らないって人だけじゃない。帰れない人だっている」

 

「帰れない?」

 

「とっくに故郷がイリアステルに滅ぼされている人々がいる。帰っても、その世界では食っていけない。そういう世界からこの世界に逃げ込んだ人もいる」

 

遊介には想像しえない世界だった。しかし、筋は通っている事は分かる。遊介はイリアステルの目的と、これまで行ってきた所業を、総統であるアルター本人から聞いている。故に納得できないことはない。

 

そういう人たちにとっては、この世界こそ希望そのものである。

 

しかし、一方で、遊介も思っているがこの世界の在り方が気に入らない人間もいる。

 

「遊介、彩の言葉に耳を貸すな。今頭イカれてるから」

 

良助もその1人だ。

 

「何よその言い方ー」

 

「事実だろ。てめえ、デュエルして死ぬんだぞ。そんな世界に永住する奴いるか?」

 

「私は別にいいけど」

 

「いいわけないだろ。デュエルは人殺しの道具じゃない。お前も人が死ぬのを望んでるわけじゃないだろうが」

 

「まあ、それはそうだけど」

 

「なら、俺は一刻も早く、この世界を終わらせるべきだと思う」

 

遊介はその意見も否定しない。むしろ遊介がその考え方に近いと言える。

 

遊介にとってデュエルとは娯楽である。そしてエンタメである。決して命を賭けて行うものではない。故にこの世界で起こっているデュエルの在り方自体を遊介は否定的に見ているのは間違いない。

 

だからこそ、何かとんでもないことになる前に、この世界を終わらせたいと思っているのだ。特に、彩や良助など、大切な友人が死なない前に。

 

しかし、彩は退かない。

 

「でも、それじゃあ、うちに逃げ込んだ。故郷のない人々はどうなるの!」

 

そして良助も譲歩をする気はなかった。

 

「そいつらは仕方がない。この世界と共に死んでもらうしかないだろ」

 

「ひとでなし」

 

「彩。この際、遊介がいるから、あえて言葉にするぞ。故郷がある人々にとっては、この世界は紛い物だ。この世界に招かれているのは、エクシーズ世界や融合世界みたいに故郷が滅ぼされている人々ばかりじゃない。俺達だって、帰るべきも元の世界があるだろ。みんなもきっと心配してる」

 

「でもでも、それって見捨てるってことでしょ」

 

「どのみちこの世界が続く限りは、イリアステルのルールの中で無駄に命が消えていくだけだ。お前だって分かってるだろ。イリアステルを倒さない限りはこの世界は終わらない。元の世界に帰れない」

 

「でも倒したら終わっちゃうんでしょ。私はともかく、行き場のない人々を見捨てるのは間違ってると思う」

 

「……それは俺達には関係のない話だ」

 

喧嘩が始まりそうな流れに不穏な空気を、遊介は感じた。

 

遊介は思う。どちらも間違っていないと。

 

(確かに、ジレンマだな……)

 

この世界の終わりは、恐らくヌメロンコードの発動である。そしてヌメロンコードに、願いを言うことでこの世界は終わりを迎えるのだ。ヌメロンコードが叶える願いは1つ。終わるはずの世界で永住できるだけどリソースを願うか、全ての人々の帰還を願うか。

 

2つの願いは決して両立しない。リソースを願えば、元の世界への帰還の道は閉ざされる。逆に帰還を望んでしまうと、それを望まない人々も帰還させる。特定の人間のみを帰還させることは不可能だ。それは複数の願いになってしまう。1つの願いにするには、1人を帰還させるか、生存者というひとくくりにして、帰還させるかしかない。

 

「関係ないって、冷たい」

 

「他人を慈しむのは自分が生きていてこそだ。まずは自分が生きていてこそだろ」

 

「良助、あんたってやつは」

 

「どうとでも言えよ。俺はどんな手段を使っても、帰るぞ、絶対」

 

遊介の目の前で起こる2人の対立。

 

その目は通常の喧嘩のようでいて、そんな雰囲気ではないように、遊介には感じられた。

 

(2人は対立関係……そういえば……)

 

先ほどシンクロ遊介と戦った時に聞いた話を思い出す。

 

良助は解放軍の所属だった。そして彩はエデンのリーダー。そして遊介は解放軍とエデンが戦争をしているのは知っている。

 

故に2人の道はすでに分かたれているのだ。

 

友だから、ずっと同じ道を歩んでいると思っていたのは、自分の傲慢な思い込みだったと遊介の身に染みる事実。

 

この3か月。リンクヴレインズの中で生きてきた中で選び取った2人の答え。

 

このままいけばいずれ殺し合いになる。その可能性だって捨てきれない。遊介の中に、どんどんと嫌な予感が生まれてくる。

 

「ねえ遊介」

 

彩からの言葉は、その嫌な予感に拍車をかけるに等しいものだった。

 

 

「ねえ遊介。あなたは、私と良助、どっちの味方?」

 

 

遊介はすぐ答えられなかった。

 

「私はこの世界を最後の希望にしている人を見捨てられない。だから、この世界を永住できるものにするために、願いは使いたい」

 

彩の声。

 

「俺はそんな奴らを労う余裕はないと信じてる。今生きてる奴、生きていけるやつを死なさないために、さっさと決着をつけて元の世界に帰りたい。お前との夢もあるしな」

 

松の声。

 

「ちょっと、それ出すの反則!」

 

「ならお前は、3人でプロになるのをあきらめるのか! 親を見返してやるって言ってただろ」

 

「プロならこっちの世界だって出来るもん。ハードル上がるけど」

 

「それに死ぬかもしれない世界を永続させてどうする」

 

「死なないように制度を整えればいいのよ」

 

「無理だね。死人は絶対出る。デュエルで死ぬとかマジ勘弁だ」

 

2人とも間違っているとは言えなかった。

 

良助は家に帰りたいだけだ。それは遊介だって、その他多くの人々だって分かっている。

 

しかし、彩は、家のない人々の受け皿となるべきだと言っている。それもいい。たとえ元の世界に帰れなくても、この世界で生きることはできる。

 

 

「遊介、ね、分かってくれるでしょ。私の味方よね」

「遊介、耳貸すな。俺達は俺達でイリアステルを倒すぞ。このイカれた女は好きにやらせておけばいい」

 

 

「……」

 

2人とも確たる信念を持っている。

 

遊介はその2人と自分を比較した。

 

自分の覚悟は、あまりにも曖昧で脆いことが分かる。

 

イリアステルは倒す。その意気込みは持っていた。しかし、それは自身の敵であると意識したが故にそう思い込んでいたにすぎない。元の世界に帰りたいという意識も、視野が狭かったが故にそれしか考えられなかったという、思い込みだった。

 

――否。

 

遊介には、現実世界への帰還を目指さなければいけない理由が3つある。

 

1つ。現実世界では薫が待っている。今頃嘘つきである兄を恨みながら待っているはずであり、遊介には彼女の怒りを受け止める義務がある。

 

2つ。プロデュエリストの夢だって、この世界でもできるというが、それは違う。あの世界だからこそ叶えるべき夢である。プロの輝く姿に夢をもらったように、今度は自分が幼い子供たちに夢を与えられたら、どれほど格好いいかと憧れた。だからこそ目指すのだ。故にデュエルがすべての世界ではなく、デュエルが夢である世界でなければ、真に夢が叶ったとは言えない。

 

3つ。そもそも、デュエルは生き死にをかけたものであってはいけない。人々を楽しませるエンターテイメントであるべきだ。それだけは、生死をかけて戦い、痛みを知っているからこそ言える言葉だ。

 

故に遊介はこの世界を否定しなければならない。

 

覚悟とは違くとも、自分が戦う理由はこれだけで充分だと、遊介はそれだけは確たる信念として持っている。

 

ならばエデン、つまり彩とは分かり合えない。

 

ならば解放軍と足並みをそろえるか、と言われれば、それは違うとも遊介は思っている。

 

解放軍は過激だ。先ほど良助も言った通り、どんな手段を使ってでも、と言うことを真に実行している。

 

最終的な目標がイリアステル討伐だといっても、その過程で、命を生贄に捧げることを必要悪として良しとする風潮は遊介にも認められない。

 

やり方は考えるべきだ、と遊介は考えている。

 

何も最短の近道で目標は達成できなくとも、最善の道を諦めてはいけないのだ。特に人命がかかっているのならば、時間よりも命を優先して然るべきである。

 

解放軍はそこが欠如している。仮に彼らと足並みをそろえたら、と遊介は後ろにたつ自分の仲間たちを考えた。彼らが生贄に選ばれてしまった時に自分は耐えられない。

 

世界の脱出は目指す、しかし犠牲は少ない方法で。

 

遊介が目指す最善はこれだった。

 

故に遊介もまた、彩や、良助と足並みをそろえることはできない。

 

遊介が、己の信念に基づくならば。

 

――しかし、そう答えようとしてさらに迷いが遊介に生じる。

 

今の遊介はエリアマスター。メンバーや光の世界を守る義務がある。

 

ここで2人と決別していいのか。2人とも巨大組織の幹部かリーダーを務める存在。

 

ここで対立の姿勢を見せたときに、解放軍とエデンの2つを敵に回す可能性はないか。もしそうなったら、この決断のせいで、メンバーが死ぬこともあり得る。そうなったら死んでも悔やみきれない事態となるだろう。

 

故に今はどちらかの理想に基づいて動くべきかもしれない。エリーを、ブルームガールを、ユートや瑠璃、マイケルを守るならば。そして自分を生き残らせるためならば、強い組織に身を置くことも必要である。

 

(どうする……俺……?)




果たして早めにとはなんだったのか。結局前回からほぼ1週間後の日の投稿になりました。

今回の話はここまでです。

全然進みませんでしたね。もうちょっといけるかなぁ、と思ったのですがそうでもなかったです。

今回の話でついに遊介も、親友と対立する未来を選ばなければならなくなってしまいました。しかし、作者的には行き当たりばったりではなくこれは計画通りです。むしろこのために番外編を挟んだと言っても過言ではありません。遊介は、誰の味方で、誰の敵になるのか。それをはっきりさせることでいよいよ、リンクヴレインズでの戦いを過酷なものに変えていきたいと思います。

そして今回で19話。予定だと25話か26話で2回目のボスバトルなので、そろそろそちらのデュエル構成を考えなければ。もう対戦カードは決まっているのですが、デュエル構成だけは毎回直前になってから考えてます。これまでのアニメシリーズや、wikiなどで使いたいカードについて勉強する時間が必要なので、構成を考えるのは直前になってしまいます。ちなみに次のデュエルですが、デュエル初披露同士の対戦カードになる予定です。お楽しみにお待ちください。ただし、次の話もストーリー中心になると思います。

(アニメ風次回予告)

1つの決断、それは新たなる敵を生み出すことに他ならない。光の世界の戦士たちは、勝利のために強敵渦巻く新天地へと赴く決断をする。拭えぬ不安、悪魔の囁きに心を狙われる彼らに、瑠璃は一つの事実を告げた。紫だったその髪を桃色へと変化させて。

「私は、遊矢と同じなの」

次回 遊戯王VRAINS~『もう一人のLINKVRAINSの英雄』~

   「新たな仲間と新たな地」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!


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20話 新たな仲間と新たな地

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


「少し、相談させてほしい」

 

返事を待たず、遊介はその場に背を向け、仲間の元に駆け寄った。

 

そして今交わした話を端的に述べ、状況を確認する。

 

光の世界は新たな危機に直面したと言ってもいい。

 

遊介がどのような選択をしたとしても光の世界は、そして自身のチームが戦いに巻き込まれることになったのは事実。選べるのは相手だけ。エデンと戦うか、解放軍と戦うか、己の信念を突き通すため、2団体を相手どるか。

 

いずれにしても、先は地獄になることは間違いない。

 

遊介は仲間に今示されている選択肢ではなく、

 

「唐突で申し訳ないんだけど質問させてほしい。みんなは、この先、イリアステルの作ったこの世界でどうしたい? ヌメロンコードを使ってまで存続させたい? それとも別の願いに使ってこの世界終わらせたい?」

 

と訊いたのは、ある意味英断だったかもしれない。どこの味方をするかと訊けば、他人のことを考えてエデンを選ぶ人間が多いだろう。それも間違いではないことも遊介は承知している。しかし、今生存率の話をしても、確率の変動こそあれ、どこかと命懸けで戦わなければならない運命にある事実は変えられない以上無駄だと判断した。

 

故に今問うべきは、自分の仲間が、この世界の行く末に対し、どのような意見を持っているかだ。その質問であれば、解答者は自身の考えを吐露するだろうと遊介は考えた。

 

「……そうだな」

 

冗談交じりにではなく真剣な表情の遊介を見て、重要なことだと察したマイケルが最初に口を開いた。

 

「俺は正直この世界はどうでもいいな。続くも消えるも、正直どうでもいい。すぐにでも死ぬ覚悟はあるからな」

 

マイケルはいつも通りの表情で、

 

「だが、イリステルは倒さなくちゃならねえ。それは事実だ。間違いない。そうしなきゃ平和にはならない。だから倒さなくちゃならない。だから倒すまでは何でもやってやるくらいのつもりだ」

 

としっかり答えた。

 

いつもは冗談交じりの物言いを好むマイケルの答えを耳に入れた他の仲間も、この質問の重要性を感じ取る。

 

そこに、ユートが戻ってきた気配を感じる。

 

もっともその姿は今までとまるで別人のものだった。

 

「少しいいか?」

 

「……お前は?」

 

遊介はその男を睨みつける。当然のように会話の輪の中に戻ってきたその男を警戒している。

 

「……そりゃ驚くよな」

 

しかし、睨みつけられているそのトマト頭の男子は、動じることはない。

 

「なんて説明すればいいのか……」

 

「そうだ。ユートを関係者だってことは見た目で分かる。雰囲気が似ているからな。でも、お前は別人だ」

 

「分かってるよ。警戒されるのも当たり前だ」

 

遊介があと少しでデュエルディスクに手を伸ばそうとする中。

 

「待って、彼は味方よ」

 

瑠璃が口を開く。

 

「根拠は?」

 

「私が命を賭けて保証する。私たちには秘密がある。ここで彼と、遊矢と戦わないでくれたら、私とユートの秘密を告白するわ。それで今は納得して」

 

「……良いだろう。なら今は彼をユートの代理として話を聞こう」

 

遊介はそれで一応の納得を見せた。

 

今の一連の動作を見てブルームガールは、遊介の変容に気づく。今、遊矢と紹介された少年を警戒するその目は、光の世界攻略前に見せた真顔と比べ圧が比べ物にならなかった。

 

ブルームガールは己に置かれた環境の中で、強い人間が放つ圧、オーラのようなものを感じ取れる感覚が、他人より少し敏感に近くできる。今の一連の動作だけでも、前の遊介とは違うことが分かった。少し胸がうずいた理由は本人でも分からないが。

 

遊矢はユートの代理として発言を許されたことで、口を開く。

 

「俺たちは自分達の世界を救うためにここに来た。元々命を賭けてここまで来たつもりだ。だから、イリアステルと戦う。そしてヌメロンコードを使って、イリアステルが壊したすべての世界の状態を、襲撃の前まで逆行させる。イリアステルが来ない、本来の世界に戻すつもりだ」

 

「それはユートも?」

 

「ああ。何年も一緒に戦ってきた仲間だ。気持ちは同じさ」

 

遊矢の主張はエデンと真っ向から対立している。そして、

 

「私も同じよ。遊矢と同じ」

 

瑠璃もその意見に同調している。

 

遊介は次にヴィクターの意見を思い出す。闇の世界で共に戦っている時、ふと、ヌメロンコードをどう使うかについて話したことがある。

 

その時、ヴィクターが言ったのは、

 

「イリアステルと戦うのは当然だ。だが、どこかと波長を合わせるのはごめんだね。俺は勝利にはこだわってるが虐殺者じゃないという自負も持っている。どっかのRPGで聞いたいのちだいじにっていうのは大切だぜ。だって死んだら何もできないじゃんかよ。だから他人を殺してまで、自分の願いを叶えたいとは思わない。てか、そもそも、倒しに行こうってのが間違いだろ。イリアステルの目的がヌメロンコードの起動である以上は、必ず奴らと戦うときは来る。その時に負けなければそれでいい。……ああでも、エデンの酔狂な連中みたいにこの世界にずっといたいとも思わねえ。それってイリアステルが用意したこの世界に腑抜けにされて、結局負けてるような感じがするからな」

 

という話だった。

 

最後に遊介はブルームガールの方を見る。

 

ブルームガールは俯いて、自身の答えを言うか迷っていた。

 

「……聞かせてほしい」

 

遊介はそう言うが、ブルームガールはそれでも口を開こうとはしない。

 

理由を尋ねようとはしなかった。今遊介は欲しいのは、光の世界の代表としてどのように動くか。そのためにもブルームガールの考えをしっかり聞いておきたかったのだ。

 

「……私ね。この世界が好きなの」

 

「うん」

 

「だから。その……終わらせるのはもったいないな、ていう気持ちはないわけじゃない」

 

ブルームガールがこう述べることに遊介は反論はしない。

 

「怒らないの?」

 

「……まあ、会長の家がとんでもなく厳しいのは有名だからね。帰りたくないって思うのは当然だと思うし」

 

「安心して。それでも私はエデンの味方にはならないわ」

 

「それはなぜ?」

 

「私1人の家に帰りたくないっていう願いは、ユートや瑠璃、遊介が持っている願いなんかに比べれば小さいって分かってる。この世界はまやかしだし、あの犯罪者集団が用意したものだし、この世界は存在すること自体が間違ってる。それは確かだと思うから」

 

そこまでは言っていないのだが、と口を挟まず遊介はブルームガールの決意も聞いた。

 

「ありがとう。とりあえず、光の世界の方針は、イリアステルと戦って、この世界を終わらせるってことで良いよな?」

 

光の世界のエリアマスターである遊介の言葉に異を唱える者はないかった。

 

遊介はその答えを持って、再び彩と良助がいる場所へと戻った。

 

良助も彩も、遊介を緊張の面持ちで迎える。

 

遊介が出した結論は。

 

「悪いが、俺はどちらかの味方にはならない」

 

意外な答えだと、良助と彩の顔が言っている。

 

「お前……」

 

当然の話である。今の言葉は、そのまま光の世界の総意として受け取られかねない。そして相手は2人とも巨大組織の中で大きな権力を持っている2人。悪化を辿ればその2組織との戦争になる可能性だってある。

 

安全策を考えればどちらかの味方になる事が正しい選択だろう。

 

「遊介、本気?」

 

「ああ」

 

「薫ちゃん、悲しむと思うけど」

 

「どうしてそこでその名前が出てくる」

 

「だって薫ちゃん、私が保護してるから」

 

脅しの材料を提示する彩。遊介は内心驚いて、大声を出し混乱しそうになったが、一呼吸自身を落ち着かせる。

 

「俺が同盟を組まないと、薫をどうするって?」

 

「殺すかもよ?」

 

「そこまでして俺らと同盟を組む必要はお前らにはない。殺したければとっくに処理してるだろ」

 

「あなたね……自分の妹の話なんだから、処理とか言わないでよ。ちょっとドライじゃない?」

 

「いや。お前は薫を殺さないよ。もとより解放軍と対立している理由が、役立たずの処理の仕方についてだ。エデンはそれでも殺さない。対して解放軍は殺して糧にするってスタイルだろ? それくらいの情報は闇の世界にいても入ってくるよ。そのスタンスが本当なら、お前が役立たずの薫を殺すことはない。役に立つなら、それこそ人数的に劣っているエデンには必要な人材として数えられる。俺はそう予想している。……まあ、個人的に、お前を信じているってのもあるけど」

 

「……何よぉ、そんな言い方。ずるいじゃない」

 

良い負かしたことへの優越感を示す笑みを浮かべながら、遊介は続ける。

 

「俺がエデンと同盟を組まないのは、終わりの時が来た時に決定的な対立が生まれるからだ」

 

「やっぱり、この世界を終わらせるの?」

 

「ああ。それは変わらない。俺達が生きるべき世界はこの世界じゃない。元の世界に戻りたい、元の世界を救いたい、俺のチームにいるのは俺含めそんな連中だからさ。だから理想が相容れない」

 

「……そう。残念。遊介なら、良助と違って分かってくれると思ったのに」

 

「悪いな」

 

エデンとの対立の理由を言い終わった遊介に、今度は良助が、

 

「なら、俺の味方になれないってのは?」

 

「むやみな人殺しもダメってこと。目的のために手段を択ばないっていう方針は、不必要な犠牲を積極的に許容することだ」

 

「ああ、まあ……」

 

「それは、たとえ最後の形が同じでも、納得できない結果になると思う。少なくとも俺のチームにとっては」

 

「……つくづくお前は格好いいねー」

 

「格好つけているつもりはないんだけど、まあ、俺たちは俺達で納得いく結果を求めてるってことだな」

 

生まれた対立。

 

この世界に来る前は間違いなくこの3人は同じ道を歩いていた。親友だった。

 

しかし、この世界に来てそれはなくなり、今は3人の道は分かれてしまった。

 

「だから、まあ、お互い、自分の納得いくような形でやっていこう。俺達3人は恨み合うわけじゃなくて、競い合うってことで。そうすれば後悔なんてしないさ。俺だって自分の道が正しいなんて自身はないから、それぞれで正しいと思ったようにやればいい」

 

良助は遊介が出した結論に、一応の納得を示す。

 

「まあ、それしかないよな……」

 

一方で彩は納得がいっていないようだった。

 

「どうして、遊介まで反対するのよぉ! もう……なんで、私に味方してくれないの……」

 

顔を見れば一目瞭然。この結果が納得いかないと非常に『激おこ』な顔をしている。かなりの年数を一緒に過ごした友人として、その顔はこの後かなりまずいことを言おうとしているのが一目でわかる。

 

「遊介のわからずや。そんなに喧嘩がしたいなら受けて立とうじゃない!」

 

感情をフルオープンにして声を荒らげ始める彩。そしてその内容が予想しない方向へと飛躍していく。

 

「ちょっと待て、俺は何も喧嘩したいってわけじゃ」

 

「ふん、遠慮することないわ。私とそんなに対立したいって言うならね、良助も入れてあんたら2人、もう許してください彩様、って言うまで、徹底的に負かしてやるんだから!」

 

さりげなく巻き込まれた良助が、

 

「お前、別にお前のやり方を認めてないわけじゃ……」

 

と言い訳をしようとするがもう遅い。

 

「うるさい! こうなったらエデンは今から、全戦力を解放軍と光の世界全面戦争を開始するわ! 誰が正しいかデュエルで決めようじゃない」

 

「ちょっとまて、落ち着けって」

 

「こっちは頭きてんの! せっかく3人そろって、遊介と良助と一緒にこの世界堪能できるのを楽しみにしてたのに!」

 

「それはそれで、これはこれ」

 

「この女心も分からないポンコツ男子どもめ。今に見てなさい、泣かしてやるんだから」

 

それだけ言うと、彩はせっかく連れてきたエデンの精鋭たちに帰還命令を出した。そして横たわっているエクシーズ遊介を拾い上げ、

 

「競争って言ったわよね。遊介。なら私はあなたたちと戦うわ。そして、いつか私の言うこと聞かせてやるんだから」

 

と言い捨て、Dボードに乗り、去っていく。

 

「ありゃ、完全に目的見失っているな」

 

良助は彩の状況を分析する一方で、遊介はほんの少し後悔する。

 

(俺達とこの世界で一緒に戦うの、結構楽しみにしてたんだな……それは悪いことをしたかも……)

 

遊介は少しの後悔と後ろめたさを感じながらも、それでもこうなるしかなかったと自分に言い聞かせる。元々3人がリンクブレインズの世界で辿ってきた道は異なる。故に思想が異なってくるのは当然の結末だ。

 

「……しかし、やべえことになったな」

 

良助は遊介を見ながら、これから起こることの予測を立てる。

 

「彩の奴、ああなったら絶対にやるぞ」

 

長い友人関係の中で、本当に泣かされたことが何度かある良助と遊介は、今回もまた少し頭に痛みを覚えることとなった。

 

「どうする?」

 

「どうするも何も、戦うしかないだろう。いや、俺はイリアステルを誰が最初に倒すか競争しようって意味で、競い合いって」

 

「たまに独りで妄想突っ走るのがよくないよなあいつ。まあ、こうなったら仕方ないな……お互い気張ってあいつの機が治るまでがんばろうぜ」

 

良助もこの場を後にする。どこかに連絡をかけながらDボードに乗って、去っていった。

 

予期せぬ形で、戦いの幕は開いてしまったのだ。

 

 

 

話し合いの結果を語る前にお腹をすかせたエリーのために、光の世界の神殿近くにある定食屋に寄った遊介とそのチームメイト。

 

神殿も近いので、『players』のチームメイトもよく使用するためか、ブルームガールやマイケルにとっては第2のアジトのような感覚で、この店のテーブルを使用することも多い。

 

「こんなの前にあったっけ?」

 

「あんたが行方不明になってから、結構光の世界に来る奴多くなったの。いまここはデュエルが苦手だったり、覚悟のない奴の逃げ場になっているわ」

 

「へえ……それで、そうやってきた連中がやりたいようにやってるわけね」

 

「そう。ここも、料理が得意な有志数名がやってくれてるの。しかも、私たちには一日一食、ただでおすすめランチも出してくれているわ。これがおいしいのよ。カロリー気にせず惜しいものを食べられるって、こんな幸せなことはないってね……」

 

今の一言をよく理解しようとした遊介はブルームガールこと生徒会長が自分の家でどれだけ縛られた生活をしていたかを察することができる。

 

「せんぱ……ブルームガール、家が相当お厳しいんだね」

 

「そりゃあ、そうよ。カロリーコントロールは基本だったもの。少しでも親が決めた体重を越えたら体重が規定値を下回るまで家から追い出されたし」

 

「追い出されたことあるんだ」

 

「ケーキなんかを食べるってなったら、追い出し覚悟だったわ。あと買い食いとか」

 

「1グラムもだめ?」

 

「ダメ」

 

「きびしいなー」

 

他のメンバーがその話を聞いて絶句する。瑠璃だけが頷いてその話に聞き入っていた。

 

ブルームガールはこの話はやめやめと言わんばかりに話を変更する。それはおあつらえ向きな話題があるからだ。まさしく目の前のユートの代わりに座っている少年の話である。

 

「遊矢だっけ? あんた、何者?」

 

後で言う、という瑠璃の話をうまくとった話の転換であり、誰も反論は入れない。

 

「俺かい? 俺はその……どこから話せばいいのかな……?」

 

榊遊矢。ペンデュラム召喚を主に使うデュエリストであり、エースモンスター、オッドアイズペンデュラムドラゴンと魔術師、エンタメイトシリーズの使い手であり、歴代主人公の中でも最も得意的なエンタメデュエリスト。

 

しかし、ユートやハルトなどの様子を見ても、どうも自分の知っている存在とはすこし背景が異なるようである。

 

「まず、俺はこの世界の住人じゃない」

 

「知ってる、ユートもそうだったし」

 

「まあ、そりゃあね」

 

「私が聞きたいのは、ユートとどういう関係なのか、ということよ」

 

「それは、そうだな、遊介の話と照らし合わせてみると分かりやすいと思うよ?」

 

遊介の名前が急に挙げられ、当の本人は口に入れようとしたスプーンを一時停止する。

 

「俺?」

 

「ああ。お前も、他の世界の自分がいるだろ?」

 

「ああ、あのおかしな連中か……」

 

「俺にもいるんだよ。俺と同じ存在が。名前は少し違うんだけど。エクシーズ世界の俺がユート、融合世界の俺がさっきエクシーズ遊介を倒したユーリ、そしてもう1人、まだ出てきてないけどシンクロ世界のユーゴ。事情があって、今は1つの体を4人で共有してるんだ」

 

「え……超常現象」

 

「まあね。でも、事実なのはさっき見てもらったとおりだよ」

 

「まあ、さっき見せてもらったしね」

 

「ああ。俺達4人の目的は共通している。イリアステルを倒して自分達の故郷を救う」

 

「じゃあ、その……お前の中の人も」

 

「ああ、エクシーズ世界も融合世界も、シンクロ世界も、かなりひどい状況だ。俺は実際その世界を行ってみてきたから。柚子と一緒に」

 

新しい名前が出て来たところで、瑠璃が話に入る。

 

「柚子っていうのは私の友達。今呼ぶね?」

 

「呼ぶ?」

 

瑠璃は腕につけた紫のブレスレッドと見せる。

 

ブレスレッドは光を帯び始め、やがてその光があたりを包み込み、人の視界を白く塗りつぶす。

 

それは一瞬の話。光はすぐに収まり、瑠璃が座っていた場所に別の女の子が座っていた。この時間差では、瑠璃が別人になったとしか考えられない。

 

紫のしなやかな髪は、いつの間にか桃色に変化し、髪を後ろで2つに束ねているところも瑠璃とは違う性格を示している。

 

「もしかして」

 

否、もしかしなくても話の流れとして、彼女が柚子と言う存在なのだと。

 

「初めまして。でも、みんなのことは、瑠璃を通して知っているわ。柚子って呼んで。私もみんなのこと、瑠璃と同じ呼び方で呼ぶから」

 

「もしかして……」

 

「ええ。私、遊矢と同じなの」

 

それはつまり、瑠璃や柚子も、遊矢とユートの関係と、同じ関係であるということ。

 

「つまり君の中にも、その……言い方は良くないかもしれないけど、他の人格が?」

 

「ええ。後は融合世界のセレナ、シンクロ世界のリン。私たちは遊矢と同じように、ペンデュラム世界から、イリアステルを倒すために来たの」

 

世の中いろいろな人がいるもんだな、くらいの感覚で遊介はそれを聞き、

 

「その……今まで隠してたのは」

 

この事実を今まで隠していたのは、瑠璃もユートも、この事実を知ったときに遊介たちが、自分たちのことを気味悪がったり怪しんだりする可能性を考えてのことだった。

 

しかし、それは杞憂である。

 

「そんなことで驚いたりしないよ。むしろこんな小さなチームにずっと付き合ってくれている時点で、恩しか感じてないし、君達が良い奴だってわかるから」

 

屈託のない真剣な目での言葉。それを受けた柚子は、瑠璃が危惧した心配がないことが分かって、自然と気が少し抜けた顔になる。

 

「これからもよろしく。柚子」

 

「……ええ。こちらこそ」

 

「もちろん遊矢も」

 

「ああ。任せてくれ。ユートが回復するまで、しっかり代役務めるからさ」

 

頼もしい2人が新たに仲間になった感覚で、ブルームガールやマイケル、エリーは、危機的状況でありながらも、暗く沈んだ顔にはなっていなかった。

 

 

 

光の世界の課題は、とうとう敵対関係になったエデンとどのように戦っていくかという点である。

 

「どうします……?」

 

エリーの疑問に、言い対策案を出せる人は1人もいない。

 

遊介も頭を傾けるくらいしかできない始末だった。

 

しかし、ここで遊矢がふと、このような言葉を口にする。

 

「炎の世界のジャックアーロンは……?」

 

「それは」

 

実を言うとジャックが支配する炎の世界は既に立ち入ることができないでいる。理由は定かではないものの、ジャックからただ1言、『来るな』とだけ、ブルームガールに伝えられている状況だ。

 

「そうか……結局俺ら、数がいないからピンチなんだし」

 

遊介と違い、他の仲間は自分が負けるという考えを一切持っていないところ、頼もしい仲間だと遊介は思う。

 

「水の世界はエデン。地の世界は解放軍、闇の世界は海堂がいるしな。あとは、風の世界」

 

風の世界は、エリアマスターをリンクブレインズでは無名のデュエリストが努めている。

 

「仲間を増やすという点では、風の世界に行って同盟を取り付けるのがいいんじゃないか?」

 

「そうだな……他は敵だらけだし、唯一仲間として期待できるのは、風の世界の人間か」

 

マイケルがそう言うと遊介を見る。

 

遊介もそれに反論することはなかった。

 

「なら。すぐにでも行動しよう。エデンはいつせめて来るか分からない。さっそく行動開始だ!」

 

光の世界のデュエリストは、遊介の帰還により新たな戦いへと乗り出すことになった。

 

 

 

******************************

 

風のせかいにて。

 

「……恐らく光の世界の人間はここに来る」

 

「にいさま。その……」

 

「安心しろ、零羅」

 

眼鏡をかけた、威厳ある男が弟をなでる。

 

そして目の前に並んだ己の部下たちに告げた。

 

「迎え撃つ準備だ。光の世界の連中を測ってやれ」

 

******************************




続編遅くなりましてごめんなさい。本業が忙しく執筆する時間が取れませんでした!
今月中にもう1話は最低でも出しますので、お楽しみにお待ちください。

今回で遊介とエデンが戦うことになってしまいました。
次回からは風の世界編です。以前お話した通り、初デュエル同士でやります。
ちなみに味方側はエリーちゃんが参戦予定です


(アニメ風次回予告)

暴風吹きすさぶ渓谷。目の前に現れた嵐の壁は、あらゆる侵入者を拒む鉄壁の防御壁。遊介たちはそれを越え、新たな仲間を探すため、門番を名乗る男との戦闘に挑む。敵は鉄壁の武者たち、それらを貫かんと、天使たちを従え、少女は叫ぶ。

「私も、もう足手まといにはなりません!」

次回 遊戯王VRAINS~『もう一人のLINKVRAINSの英雄』~

   「ランサーズの試練」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!


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UA10000記念番外編 光の世界の休日 日常編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


エデンとの戦いに備え、風の世界との同盟を結ぶことに決めた遊介たち。そのためにも急ぎ風の世界へ赴こうとしたのだが、エデンとの決戦とは別に、遊介たちには解決しなければならない問題があった。

 

忘れてはいけないのが、今はイベント期間中ということ。

 

イベントのおさらいを簡単にすると、今回のイベントは大掛かりなチーム戦となっている。それぞれの世界に属するデュエリストが、他の世界のデュエリストを倒すたびにポイントを入手できる。そのポイントを世界ごとに集計し、合計が最も高い世界のデュエリストには、優勝賞品が贈呈される。逆に一番少なかった世界については、そのエリアマスターが優勝した世界のエリアマスターに、世界を無条件で譲渡しなければならないペナルティを持つ。ちなみにエリアマスターが倒されると、倒した世界に通常の1000倍のポイントが入るため、エリアマスターの敗北は決して許されるものではない。

 

そしてこのイベントにはさらに特殊なギミックが設けられている。イリアステルから、アルター自身が7名の強力なデュエリストを派遣して、各地のデュエリストを殺しまわるということ。そしてもう1つは、稼いだポイントで、自分のデュエルを有利にできるアイテムを購入できるという点だ。

 

現在、このイベントのせいで、光の世界は窮地に立たされている。

 

1位の水の世界がポイント数、7829点に対し、光の世界は567点。ちなみに5位の炎の世界は2600点であり、現状では光の世界は絶望的なのである。

 

理由を述べるのに苦労はない。光の世界がこのような無様を晒している理由は単純な人手不足である。

 

光の世界のエリアマスターが擁するデュエリストチームは10人にも満たない少なさなのに対し、土の世界を統べる解放軍や、水の世界を統べるエデンは、それぞれ組織として戦える人間が500名を超えている。単純にエリアマスターの影響力が及ぶ組織内の人間に戦闘を命じるだけでも、その効率は単純に50倍以上の差があるのだ。

 

そして野良デュエリストは長いものに巻かれて身を守る人間が多い。戦える人間が土や水、闇の世界に流れて行く。光の世界では戦っても弱かったり、戦えなかったりする弱者。戦力不足は当然ともいえる。

 

さすがにこのような絶望的な差では、いくら労働時間を増やして戦いに乗り出しても、逆転などできるはずもないのだ。

 

さらに光の世界には、弱いもの狩りをするデュエリストが外から多数押し寄せてくるのが日常であり、遊介率いる『players』のデュエリストはその対応に追われ続けている。治安維持を行う代わりに、光の世界の運営を住人に任せるという契約で、光の世界において高い方針決定権力を持つことになっているメンバーは、日々弱い者いじめを得意とする外のデュエリストから、住民を守らなければならないのだ。

 

そんな事情もあり遊介たちは、風の世界にはすぐに行けない。少なくとも綿密な計画を立てて、風の世界への旅は可能な限り時間をかけずに行くことになっている。

 

その準備が整うまでの間は、遊介たちは通常営業なのだ。

 

「バトル! デコードトーカーで、ダイレクトアタック!」

 

遊介はまさに今その仕事に従事中である。野生のデュエリストを指さし、己のモンスターに止めを刺すように促した。紫の戦士が手に持つ大きな剣を振るい、敵のLPを0にする。

 

「ぐああああ」

 

この世界では敗北は死と同義。自身が持つ命をすべて失ったものはその場で光となって消える。

 

「……あいつ……」

 

LP4000で戦い、死んだということは、すでに追い詰められていたにも関わらず、ここに攻め入って何とか勝利を得ようとしていたということ。しかし、遊介には同情の余地はなく、他人を襲った人間を無事に生かしておくつもりもなかった。

 

「マスター?」

 

デュエルが終わってもしばらく動かない遊介を見て、エリーが心配の面持ちで話しかけてくる。

 

「ん?」

 

「いかがなさいました?」

 

「あ、いいや。俺は問題ない」

 

「もしかして、殺してしまったことを悔いておられるのかと」

 

「……俺もそこまで善人じゃないよ。戦う気のない住人を襲って殺そうとした人間だ。同情なんてしない」

 

「でも……辛そうです」

 

「そうか?」

 

遊介はそれを自身の辛さとは微塵も思っていなかった。

 

「いやあ、こんなに大変だったとは思わなかったよ。ブルームガールがおサボりのエリアマスターを怒るのは無理ないな」

 

「そうですね。これで今日は何人目でしたっけ?」

 

デュエルの回数は既に20人を越え、それ以上は数えるの忘れてしまっているところだ。

 

当然デュエル中は頭も使う、そして戦いなので体力も使う、ダメージを受けたら体が痛む。精神的にも肉体的にもかなりダメージが積み上げられているところだ。

 

しかし、遊介はそれだけではない辛さを感じていた。ちょうど、この瞬間も。

 

闇の世界ではしょっちゅうデュエルをしていたがそれでも辛くはなかった。労力をかけた分、相手と仲良くなることもしょっちゅうで、デュエルでは情報を得たりや自身の強化へとつながったりと得るものも多かった。

 

しかし、今は違う。敵はほぼ全員ルールブレイカーを持っていて、せっかく遊介が保有ライフを減らさないようにルールを設けているのに、その意味がない状態なのだ。そして人目のつかないところで一般人を襲い、証拠を残さないようにその一般人を殺していく。

 

それを守るために遊介は戦わなければならない。しかしそうすると、目の前で人が死んでいく。保有ライフがなくなり、泣きそうな目で消えていく。

 

遊介は彼らの持つ思いを知るはずもない。望みを知らない。ただ非情に徹して、滅ぼすべき悪として彼らの命を摘み取ったのだ。

 

同情など許されるはずはない。しかし、人を殺すというこの行為を可能な限り避け続けて、罪悪感から逃げ続けてきた遊介にとっては、光の世界を守るためとはいえ、何度も人殺しをせざるを得ない状況はとても辛かった。

 

「マスター……」

 

「大丈夫だよ」

 

遊介は後ろを振り返る。

 

そこには、今殺してしまった男に襲われていた光の世界の住人が2人。

 

「大丈夫?」

 

「あ……その」

 

襲われていたのは女性2人。その2人から見れば遊介はまさに救世主に見えただろう。

 

「お救い頂きありがとうございました!」

 

目を輝かせながら遊介に近づく2人。

 

さすがにサインを求められるようなことはないが、持っていたバッグから1つ何かを差し出される。

 

「これは?」

 

差し出されたのは柑橘系の果実。みかんともオレンジともいよかんともそれない形状であるが、光の世界の特産品と言える甘みの強い生食に適したものである。

 

「今日を含め、いつも私たちを守っていただいているお礼です」

 

遊介は後ろめたさを感じながらも、相手の好意を無下にすることも躊躇われたため、その果実を受け取った。

 

この行為から分かるように、遊介の光の世界における評判はそれほど悪くない。

 

それは、ブルームガール達がなかなか姿を見せないエリアマスターの遊介を庇っていたことが要因として大きいだろう。

 

『遊介はハルトとの戦いで大きな傷を負い、今は意識を失っていて、目を覚ますために時間がかかる』

 

『自分達が光の世界を守るのは遊介が、光の世界のある少女を救いたかったからであり、彼女の故郷を守ろうという意思を尊重してのことだ。故に、私たちの誠意は彼の真意であるとご理解いただきたい』

 

このようなメッセージ、そして実際の行動をしてきた仲間たちが遊介の帰る場所を守っていてくれたのだ。

 

そして実際、先日の解放軍の撃退が功を奏し、パトロールにも先日から合流を果たし、治安維持の仕事をしているところを見せることで、光の世界の住民は遊介のことを認め、徐々に話かけるようになってきていた。

 

「いつもおつかれさまです」

 

「いいや、これくらいは、当たり前です。気にしないで」

 

「いえいえ、皆さんにはいつもお世話になっていますから。その、最近は助けられた時のために、常にお礼を持ち歩く人も多いんですよ。それくらい皆さんには期待もしているし、感謝もしているんです。光の世界を守ってくれるって」

 

「それは」

 

それだけの力があるかと言われれば、遊介はイエスとしっかり答えられない。今の光の世界は、他の世界から来る、大規模侵攻に耐えられるだけの力はない。それは、先日の解放軍の襲撃の際も分かっていたことだし、現状の戦力分析をするまでもなく客観的に見ても明らかだ。

 

故に、

 

「が、頑張ります」

 

としか、遊介は返答することができない。

 

しかし、女性2人はその答えに嬉しそうにはにかむと、その場を後にした。

 

デュエルを疲れで一瞬ふらつく遊介。

 

「お具合が悪そうです……」

 

「大丈夫。気にしないで」

 

「お辛そうです……一度お休みになるのはいかがでしょう」

 

「いや、一度戻ってくるよう連絡受けているから」

 

既にお日様が天高く昇っている時間。遊介はこの日、朝から37人の人間を人間を相手取り、ようやくお昼の休憩を得ることができた。

 

 

 

「エリー、無事?」

 

「はい!」

 

「遊介に変なことされなかった?」

 

遊介に不要な容疑をかけようとしているブルームガール。

 

今日も光の世界の住人の憩いの場になっている食堂の片隅、『players』専用のブースのところで、遊介は、自身をパシるブルームガールと、先ほどから一緒にいたエリーと共にお昼ご飯を食べているところである。

 

「あのですね……サボりのおしおきは受けるので、これ以上俺の悪評をたてないでくださいますかね?」

 

「あら、そんなこと言える立場なのかしら? 私たち、あの仕事を貴方の代わりにずっとやってきたんだけど?」

 

「だからやってるじゃないですか……。頑張ってるよ、俺も」

 

「だめよ。私たちが倒した合計人数456人は最低限貴方に倒してもらわないと。それまで私たちは優雅な休息の日々を過ごすの」

 

「それって、1人でやった数じゃないんじゃ」

 

「はいそこうるさい。あなたエリアマスターでしょ。みんなに力を示さないと」

 

「だからって俺も人間なんだよぉ」

 

「エリーもかっこいい遊介の事見たいものね?」

 

自分の賛同者を得ようと言葉巧みに自分を有利にしようとするブルームガール。

 

「あ、それは……そうですけど」

 

そして純粋であるが故に、その口車に乗っかってしまうエリー。

 

「ほらー」

 

「ほらー、じゃなくて。もう疲れた……」

 

「ダメよ。このままだとイベントで負けちゃうんだから。せめて光の世界に来た連中は皆殺しにしないと」

 

「会長、皆殺しって、せめて全員倒すとかもっとおしとやかな言葉を使わないと……」

 

「良いじゃない。事実を隠す必要はないわ」

 

遊介は目の前の会長の強メンタルを少しは見習わなければと思う。たった数日程度で、先ほどの殺人行為に心を病んでいては、これまで光の世界を守るために同じ行為をしてきた仲間たちの中で戦う権利はない。

 

当然、デュエルで人を殺すことは正当化されるべきではないと遊介は思っている。

 

しかし、一方で光の世界を守るためには、外敵との衝突は避けられない。敵がルールブレイカーを持っている以上、保有ライフをかけたデュエルは避けられず、どちらかが傷つくしか戦いを終わらせる方法がない。

 

「はぁ……」

 

「なあにため息ついてるの?」

 

「いやあね……やっぱ、目の前で人が消えるのは辛いわ……」

 

「そう? 相手は関係ない人間を殺そうとしてるう奴よ。向こう側だって覚悟の上で襲い掛かってる。そう思った方がいい。心病んじゃうわ」

 

ブルームガールが治安維持の仕事を行う際の心構えを聞いても、遊介は首を傾け、心病んじゃうかも、と冗談を呟く。さすがにまだ心を病むとは思わないくらいには元気なものの、ブルームガールのように割り切る事は易々とできそうにはなかった。

 

「まあ、お礼を言われるのは悪い気分はしない」

 

「良い人も多いでしょ」

 

ブルームガールのこの言葉を聞き、遊介は先ほどもらった柑橘類の果実を手にする。

 

「さっきもらったんだ。確かに、会長の言う通りだな」

 

「でしょでしょ? よく食事のおすそ分けとかもらうのよ。いやあ、この世界のスーパースターって感じがして、いい気分よ」

 

「会長、そこはみんなの温かい心が身に染みるとか言った方が」

 

「もちろん。そう思ってる。これも遊介があの時、ハルトを倒したついでに、光の世界を賭けデュエル禁止エリアにしてくれたおかげかもね」

 

「俺の?」

 

「原則ここではデュエルをしても保有ライフは減らない。そのせいかこの世界は比較的に温厚な人が集まってくるから、暮らしている人はみんないい人ばかり。私としても心地いいわ。それは貴方がそういう世界にしたことが、きっかけであることには間違いないもの」

 

「それは、まあよかったよ。本当はエリーが死なないようにするための応急措置だったんだけどな」

 

しかしブルームガールに褒められた気がして、遊介は悪い気はしなかった。

 

「お姉さま。おそらく心労は1.5人分抱えています。どうかこの後お休みはいただけませんか?」

 

エリーがさりげなく、ブルームガールをお姉さま呼びしているのは、彼女なりのブルームガールへの敬意の表し方のつもりである。

 

自分を0.5人扱いをしていることを聞き過ごせなかったブルームガールは、

 

「エリー、ダメよ。ちゃんと2人前って言わないと」

 

「でも、私はまだ半人前ですので」

 

「あなたも私たちのチームの一員なんだから、もっと胸を張って張って!」

 

エリーを手招きして自分の近くに来させると、背骨を押し、無理やり胸を張らせる。

 

その様子に遊介は失笑する。

 

「ますたー?」

 

「何よ?」

 

「ごめんごめん。その……まあ、平和なもんだなっておもってさ」

 

「平和ねえ、あなた、さっきまで何度も戦ってきたくせに」

 

「まあ、それはそれ。エリーや会長が仲良く話しているのを見ると、まあ、前にハルトと戦った時には想像もできなかったなって」

 

「ああ……」

 

ブルームガールは、少し微笑んで、

 

「そうね。本当」

 

遊介に同意を示した。

 

 

 

再び外に出て、パトロールを行う遊介。

 

光の世界の主街区は7日に1回の夕方市場で盛り上がりを見せている。この市場では、郊外で育てられた作物の販売や他の世界からの輸入品等の販売が行われ、それに加え、酔狂な者たちの大道芸や、趣味、道楽の成果を披露する小さなイベントが開かれたりする。

 

何かと物騒なこの世界で、これだけ大きい平和的なイベントを開催できているのは、現状光の世界と水の世界の2つだけだろう。そのほかの世界ではこれだけ平穏さを感じられるイベントは開かれない。

 

これは『players』は関係なく、光の世界の住民が自発的にやり始めたものだ。日々物騒な世界でも楽しみを創ろうという有志が最初に射的の露店を出し始めたのがきっかけで、そこに集まり始めた人を狙って他の店が出店し始めることで大きくなっていったという経緯がある。

 

市場がある数時間は多くの住人が外に出るため、当然心無い襲撃者によるデュエルのできない一般住民を狙う機会は増える。そこで、この瞬間だけは、遊介だけでなく多くの『players』全員が外に繰り出しパトロールをすることになっている。

 

しかし、実際には襲撃件数は、市場開催時はだいたい0の時が多い。理由は一般の襲撃者の心理状態にある。

 

この世界で強いデュエリストは、解放軍やエデンなどの生活基盤が整っているチームにスカウトされているため、野良になることはほとんどない。仮に片方の組織で自身との相性が良くなくとも、もう片方の組織に行けば良い話だ。

 

ではどのようなデュエリストが野良になり、明日が困るような貧困者になるかと言うと、その多くはそれほど強くないからある世界に属して戦うことを積極的にできない弱者だ。

 

本来はエデンや光の世界は、少なくとも、戦いたくない人間を強制的に戦わせることはしないのだが。彼らはどこかに根を下ろしたらその地域のために戦うことを強要されたり、自分に不都合な要求をされる可能性を捨てきれず、その恐れから、どこかの世界に拠点を置くこともできないのだ。それは戦うことを諦め、誰かに縋りつくしか選択肢がない弱者にはあり得ない選択。まだ、デュエルに対して持っている無意識の矜持から自分で稼ぐ手段を捨てきれない人々のみが陥るジレンマである。

 

この世界はデュエルができなければ、この世界の金にあたるデュエルポイントも稼ぐことができない。基本的には3日につき1人には勝利しなければ十分な食事にもありつけない。孤独となったデュエル弱者層は、自身よりも弱い人間、もしくは元々戦えない人間に無理矢理勝負を挑み、金を稼ぐしかないのである。

 

話を戻すと、そのような弱者層は、基本報復を恐れ、自身の襲撃を悟らせないように、狩りは人気のないところで内密に行うものである。故に、市場のような元々人が大勢いる場所では目撃率も高まることから、結果的に襲撃の実行に踏み切れない連中が多い。

 

故に市場の開催は結果的に、非デュエリストとして、助け合って生きていこうとする住民達の身を守っている結果になっている。『players』のパトロールも最近は、光の世界に住む人間と交流を深める機会として機能している面が大きい。

 

遊介もその例外ではない。

 

今日で2回目の参加である遊介も、すでに街の人間からは歓迎を受けている。

 

特に元々光の世界に住んでいた原住民の子供からは懐かれている。エリーを守った格好いいお兄さん的ポジションだ。

 

「ユースケさーん」

 

地元の子供のうち、特に懐いているエリーの知り合いに声を掛けられるのも、遊介はようやく慣れてきたころだった。

 

「ん?」

 

「俺達の輪投げすごくうまくなったんだよ!」

 

「そうなのか?」

 

「おう。見てみて」

 

「なら、行こうか。そうだ、エリーは別行動だからいないぞ」

 

「知ってるよ。今、ブルームガールさんとデートなんだろ」

 

「いや、デートというよりは……?」

 

午後は1人で行動している。というのも、エリーは、先ほどの食事の後、どこかへと連れていかれてしまった。本当はこの後デュエルの特訓でもお願いしようかと思っていた矢先だったので、少し拍子抜けだったのだ。

 

「エリー姉ちゃんのこと、責任取れよー」

 

「責任……?」

 

「なんだよ、気に入って自分のチームに勝手に入れやがって。もう結婚だろー」

 

「お前らぁ、何を訳の分からないことを」

 

「なんだよ、捨てるのかー!」

 

「それは……」

 

「うわあ、サイテーだぁ」

 

「……ほら、早く輪投げの店行くぞ!」

 

実際に付き合ってみると、ハルトと一緒に居た時には分からなかったことだが、なかなかに年上を恐れない悪ガキであることが分かった。遊介は、日々子どもの相手をしていたエリーの気苦労を多少感じつつ、彼らに連れられ走り出す。

 

――必要もほとんどなく、彼らが自慢げに輪投げを自慢する露店にたどり着いた。

 

ちなみに商品は大した事はない。2日に1回なので、毎回毎回商品を用意していては大変なので仕方がない。しかし、そこはさすがうまく考えられていて、参加料は少なめに、何度も挑戦できるようにして、5投でいけるかいけないかぐらいの点数を超えたら、参加料の1.5倍のお菓子をもらえるという方針になっている。この子供たちは既に何回か参加して、ようやくお菓子を1つ手に入れているので、すでに店主の思惑に乗っている悲しき生き物である。

 

しかし、とうぜんそれに乗っからない人間もいる。

 

見慣れないおしゃれな服を来て、最高得点をどや顔でたたき出し、お菓子を1回で受け取るスーパースター。

 

「何やってるの、会長?」

 

「ふぇ……」

 

恥ずかしそうに振り返る女性は、まさに遊介が名指しで呼んだレディだ。

 

「な、なんでここに……!」

 

「いや、この子らが……」

 

と遊介は子供たちを指さそうとする。

 

いない。

 

先ほどまで周りにうろうろしていた、遊介をからかった子供たちは既に見る影もない。

 

「……本当だよ?」

 

念押しをする遊介に、ブルームガールは、少し顔を赤くしながら、

 

「あいつらぁ……後でエリーと一緒に、食堂の下ごしらえの刑ね……!」

 

ととても悔しそうな顔をして物騒なことを呟く。

 

「それはともかくとして、遊介、今暇?」

 

子どもの未来は決して明るくなさそうだが、それは残念とも思わず諦め、

 

「あ、まあ」

 

と、レディのお誘いに乗り気であることを示す。

 

「まあ、見回りはやりながらだけどね。一緒に回らない?」

 

「いいけど、会長はいいの。この後予定もあるんじゃ」

 

「どうせ後で、アレがあるから呼びに行く予定だったけどね。でも始まるまでまだ時間があるから、一緒に行動すればいいじゃない?」

 

「それはそうだ」

 

「でしょ? さ、いきましょ!」

 

ブルームガールは遊介の手をやや強めに握ると、市場の中を引っ張り始めた。

 

アレ、という具体性が伏せられた謎のイベントについて不穏なものを感じたものの、遊介はブルームガールに抵抗せずその楽しみに付き合い始める。

 

途中で書かれていた掲示板の中で、そのアレに関するヒントが隠されていたのを、遊介は幸運にも見逃さなかった。それ故に、その時間が来るまで、ブルームガールに思いっきりお付き合いをすることに決めたのだ。

 

 

『光の世界エリアマスター復活記念! この機にエリアマスターをもっと知ろう! 初のエンタメデュエル大会! ??? VS 遊介』

 

何故か自分が、勝手に戦うことになっていることに理不尽を感じながらも、遊介はブルームガールに逆らうという無駄なことは、今の良い機嫌を損ねないためにも、しないことにした。

 

(デート編に続く)




この機会になってしまいましたが、UAが10000という大台に乗りました。

日頃から呼んでいただいている皆様には、この場を借りて心よりお礼を申し上げます!

そこで、今回は記念番外編として、このような番外編を書かせていただくことにしました。この番外編は、今回の日常辺、デート辺、エンタメデュエル編の3話に分けて投稿する予定です。

久々の投稿が、またもデュエル無しになってしまったのは非常に心苦しいのですが、実はすでにデュエルの内容だけは書き終わっています。あとは、その他の部分を順次書いていくので、デュエルが見たいという方はあともう少しお待ちください。



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UA10000記念番外編 光の世界の休日 デート編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

デート編です。
だからといってむちゃくちゃ2人をイチャイチャさせるわけではありません。
何事もほどほどに、がいいものです。


ブルームガール、現実世界では学校の生徒会長。

 

彼女はいわゆる高根の花。通常彼女とこのように2人並んで歩くことは許されない。

 

しかし、ここはデュエルの世界。現実世界のルールはそこに存在しないのだ。お楽しみを咎める者は誰もいないのである。

 

 

 

「まあ、現実世界のしがらみを忘れているのは構わないんだけど……」

 

隣を歩くブルームガール、特大クレープをほおばっている。

 

今日の市場はやけににぎやかな光景を見せている。いつもは物の販売がメインなのに対し、今日の市場はそれもある一方、食べ物や遊戯の屋台も多いお祭り騒ぎだ。

 

「うまい」

 

彼女が口に入れているクレープもその屋台のうちので買ったもの。たっぷりの生クリームに肉厚な果実がこれでもかと入っている。いったいこれの材料をどこで手に入れたのか、と問いたくなる一品。

 

そしてこのクレープ、実はただで譲ってもらったものである。

 

店員は光の世界の住人であり、エリアマスターとその仲間の2人を見た時に、日ごろのお礼ということでお代をタダにしてくれたのだ。

 

「遊介さん、昨日はお世話になりました。いやあ、さすがエリアマスター。見事なお手前で感動しました」

 

「ああ、いや、仕事ですから」

 

「でも、あんな少ない人数で、よく戦ってくれてますよ。貴方も最近は復活してくれてより心強い。ウチら、本当に感謝してるんですよ。あなたたちのおかげで、こうやって穏かに楽しくできるわけだから」

 

遊介もその店主の事はつい先日のことだったためしっかりと覚えている。ちょうど襲われそうになっていたところあくびをしながら通りかかり、危機感よりも、まず口を大きく開けていたところを見られた恥ずかしさが勝ったのは悪しき思い出だった。しかし、目撃者は格好いい方の出来事を話題にしてくれたため、遊介はほっとした。

 

「さすがねぇ、えりあますたー」

 

心が籠っているか判断のつかない微妙なブルームガールの声も覚えている。

 

そして今に至るわけだが、そんな2人が街中を歩いているためか、街の人間の注目度はかなり高い。さすがにサインを求められるようなスーパースター扱いではないものの、地元の人気者として、いろいろとサービスをしてくれる人が多い。

 

ブルームガールははっきり言えば外見は整っている方である。外見設定で盛っているのではないかという疑惑をかけられても心配ない。外装と神の色を除けば現実準拠。別におしゃれの字範囲内で嘘をついているわけではない。

 

人の好みによるところはあるが、少なくとも学校で美人と評価する人間は非情に多い。

 

そんな彼女がおいしそうにクレープを頬張っている姿はとても絵になる。宣伝効果は絶大。クレープやに行こうという話はちらほらと聞こえて来る。

 

当の本人はそんなことになっている事は気にも留めず糖分を摂取し続けている。

 

「ああ、ふわふわの生クリーム。このトッピングが絶妙に甘さを引き立てて……もう、たまらない!」

 

恐ろしいことに、この程度の食レポは自然に出てくる様である。

 

「食べる?」

 

と遊介にクレープを差し出してくる。

 

断る理由もないため、遊介はかぶりつく。

 

うまい、と感想を述べたブルームガールに遊介は賛同する。本当に生クリームにこだわっているのか、現実世界でも味わったことのない白い甘味が口の中に広がっていく。

 

「これは……」

 

「2人分買えばよかったね。今日しか店出さないのかなぁ」

 

「多分、結構手も込んでるし、また出すにしてもすぐにとはいかないだろうなぁ」

 

「そっかー。みんなにも食べてほしかったんだけどなー」

 

「メール出そうか?」

 

「……こんなことでチーム内メール使うのは良くないけど、お願い。エリーちゃんにはお勧めしたい」

 

遊介は自身のデュエルディスクを操作し、チームメイトにブルームガールのおすすめ物件を伝える。

 

(会長にいいように使われてるなぁ)

 

と思わなくもなかったが、それも悪くないと思っている自分がいることに驚いている。しかし己を振り返ってみると、昔から彩に振り回され続けた経験を何度もし続けており、このような扱われ方の方が慣れている節があるのではと気づく。

 

周りから嫉妬を受けているような謎の視線を投げかけられているのは、無理もないことと受け流し遊介はメールの分を軽やかに打ち込んでいく。

 

「そういえば、聞いたことなかったけれど、遊介が好きな食べ物って何?」

 

「俺?」

 

「私は甘いものが好きだけど」

 

夜にオレンジジュースをお酒の代用みたいに飲んでいたら誰でもわかる、などと言う野暮なツッコミはしない。

 

「そうだなぁ」

 

通常答えに迷わなさそうな問いに遊介は迷う。

 

好きなものと言えばデュエルだ。それは、自分の多くの自由時間をなげうってでも構わないと本気で思っている趣味である。しかし、それ以外に好きなものと訊かれると意外とそれほど熱中しているものはない。

 

特に特定の食べ物にこだわりがあるということはなかった。

 

「……うーん」

 

「それ、迷うところ?」

 

「いやあ、会長の熱量に比べると、好みはあっても、自身をもって好きだって言えるものはないかなぁ」

 

「別にそんなに迷わなくてもいいのだけれど?」

 

「うーん、肉も魚も野菜もきのこも、ぶっちゃけおいしければそこはこだわりないなぁ。あ……でも、一人で食べるのは寂しいかも。みんなでなんとない話しをしながら食べるのがいいな」

 

「ふーん。じゃあ、こうして2人で夜の食事でも十分楽しいわけね」

 

「それはまあ、この世界に来てから不安だったけど、そこだけは良かった。だって誰かがずっとそばにいるから」

 

「……そうね。私も」

 

満足げに笑う理由が遊介には分からなかったものの、それでも笑顔の会長は似合うものだと、不意に思ってしまった。

 

 

 

 

今度は掲示板ではなく宣伝をしているマイケルに出会う。

 

何を宣伝しているかと言うとその内容は既に知っているものだった。

 

『光の世界エリアマスター復活記念! この機にエリアマスターをもっと知ろう! 初のエンタメデュエル大会! ??? VS 遊介』

 

先ほど掲示板に張られていた紙と同じものをマイケルが配っている。

 

「おう、遊介。なんだ、デート中か」

 

「うん」

 

当たり前のように肯定する会長は果たしていいのか悪いのか。しかし遊介にはそれ以上にまず聞かなければならないことがあった。

 

「それ俺初耳なんだけど」

 

「え。昨日言っただろ」

 

遊介はそう言われて昨日を振り返る。しかし、身に覚えがない。

 

「昨日、寝てるときに言ったろ?」

 

「は?」

 

「だから」

 

マイケルは普通にその事実を突きつける。

 

「お前、寝てる人間に通じるわけないだろ! 起きてるときだろ普通」

 

「お前、寝てるだけで人の頼み聞けないのか? それでも人間かよ」

 

「人間は普通寝てるときに人の声を積極的に聞こうとはしていないとおもうんだけど」

 

「まあ、気にすんなよ。もう決まったことだ。それか今から俺が代わってもいいぞ。明日の俺の分のパトロールをやるってならな」

 

何事も等価交換。カードショップをやっている商売人の魂ここにあり。遊介はマイケルの逞しさに舌を巻く。

 

「……まあ、やらないとは言ってないけど」

 

「なんだよ、お前のノリノリじゃねえか」

 

「まあね。見る限り、ずいぶん大きい会場を貸し切ってやるようだし、プロの端くれとして、人に魅せるデュエルをやってみる練習になるかも」

 

案内用紙を見る限り、光の世界の中で唯一のデュエルフィールドであるコロッセウムを使用するデュエルらしく、内容はアクションデュエルになるようだ。アクションデュエルの特徴としては、フィールドの至る所に裏向きのカードが落ちていて、そのカードを拾った方が使用できるという、特殊なルールがある事。しかしなんでもかんでも拾えばいいというものではない。カードの効果はバラバラであり、魔法もあれば罠もある。罠は拾った瞬間自分にダメージが入ることもしょっちゅうで危険なときほど博打になるというリスクがある。

 

しかし、そのようなイレギュラーなカードを巻き込んだ予測不能のデュエルは、時に客を大いににぎやかにするものだ。

 

「へえ、お前がその気なら相手はぴったりじゃないか?」

 

「相手って、???になってるじゃんかよ」

 

マイケルは急に顔を近づける。その行為の目的を測りきれず、遊介はつい引け腰になってしまった。

 

「おい、てめえ。変なことしねえっての、耳貸しな」

 

と忠告を受けて、遊介は耳を傾けた。

 

「ここだけの話、相手は榊遊矢だ。ブルームガールが、新入りの実力を見たいってよぉ」

 

分かった事実は多い。マイケルも使われている側であること、遊矢が相手であること。そして何より、

 

「会長……」

 

この大ごとの元凶がブルームガールであることだ。

 

「ふふふ、面白そうじゃない。お互い名前に遊ぶっていう字がついてる対決」

 

勝手に人を巻き込んで悪びれない悪癖は、生徒会長としての仕事を数多く本人の同意なく押し付けてきた証か。真実は分からなくとも予想はできる。

 

「まあ、オレも面白そうだから乗ったんだけどな。会場の手取りと飾り付け、そしてチケットの販売は俺観衆よ」

 

「有難いわ。そこらへん、私は無知だから困ってたから」

 

「いいってことよ」

 

目の前の仲間二人の結託が思った以上の盛り上がりという威力を見せている。遊介は我ながら恐ろしい仲間を持ったものだと将来が少し怖くなった。

 

しかし、このようなお祭り騒ぎに参加するのはいつ以来か、と思い返してみると、これくらいアグレッシブな仲間の近くにいた方が面白いのかもしれない。とも遊介は思ったのだった。

 

 

 

酔狂な人間はどこにでもいる。

 

たとえばこのような楽しいお祭りの最中であるにも関わらず、騒動を起こす馬鹿者。後で思い返して後悔することが多い悪ふざけをする人間。

 

襲撃者2人。街の住民が襲われそうになっているところに、遊介とブルームガールは通りかかった。

 

「遊介」

 

「相手は2人か」

 

遊介は街の人間を守るために、すぐにその場へと駆けていく。

 

そして、デュエルモードを、タッグデュエルで設定し、2人に勝負を挑んだ。

 

「た、タッグ……?」

 

「あれ、ダメだった?」

 

「その……私はそれぞれ1人ずつを相手にするものだと……」

 

「あ、それでもよかったかぁ……」

 

遊介は今更になったその可能性に気が付いたがもう遅い。この世界では一度デュエルを挑んでしまえば、もう後戻りはできない。すでに決定してしまった設定を変えることもできない。

 

「もしかして、タッグ嫌だった」

 

遊介がブルームガールに問うと、少し火照った顔ながら不敵に笑い、

 

「別に。私は平気よ。遊介こそ、遅れをとらないでよね」

 

宣言する。

 

「もちろん、足手まといにはならないよ」

 

遊介もまた、デュエルのこの瞬間、いつもよりほんの少しだけシャキッとし、ブルームガールの期待に応えることにする。

 

光の世界の中でも有名なデュエリスト2人が相手。襲撃者にとってはさぞ不幸なことだろう。この2人は実力者として有名であり、襲撃する側からすれば一番厄介な敵が現れてしまったということだ。

 

 

 

 

勝負にはそれほど時間を要さなかった。

 

デュエルは終始、遊介とブルームガールのタッグが優勢で進む。

 

それもそのはず、この2人のコンビネーションは、事前に打ち合わせたわけでもないくせに十分な質を伴っていた。

 

ブルームガールは、トリックスターのバーン戦法でとにかく攻めて、攻めて、相手のLPをとことん減らしていく。そして遊介は、自身はほとんど攻撃に参加することなく、ブルームガールの障害になりそうな戦術への対応に専念し、ブルームガールの戦法がまるまる通るように強力にアシストした。

 

「受け取りなさい、ブルームガールの愛を!」

 

(会長、ノリノリだなぁ)

 

「罠カード、『プレゼントカード』! 相手は手札をすべて捨て、カードを5枚ドローする!」

 

うわあ、やめろぉ! 声を震わせながら命乞いをする弱者を目の前に、それを全く意に介さず、最後の宣言をする。

 

「この瞬間マンジュシカの効果! あなたがドローした枚数の1枚につき200のダメージ、5枚ドローしたため、あなたたちに1000のダメージよ!」

 

ドカーン! うわあ!

 

この瞬間だけはトリックスターの残忍さを思い知る遊介。

 

しかし、まだ終わらないのだ。

 

「フィールド魔法『トリックスター・ライトステージ』の効果! 200ダメージ。さらに、永続魔法『地獄の拷問部屋』の効果で、さらに300ダメージ。これで、あなたたちは終わりよ!」

 

最後にさらっと、なんの可愛げもない名前のカード効果を宣言し、残り1300だった襲撃者のLPは尽きる。

 

あがった断末魔を気に留めず、ブルームガールは遊介にハイタッチを要求した。

 

遊介は、少し苦笑いしながら、そのタッチに乗った。

 

「いやあ、愛ですかアレ……」

 

「言ってみたかったのよ。これ」

 

「愛、怖いなぁ」

 

「でも、助かったわ。思ったより手札悪くて、最初の方は頼りっぱなしだった」

 

「それはまあ、そういうときもあるだろうし。気にすることじゃない」

 

実際、襲撃者は、ブルームガールの手札が悪い状態ではそこそこ食いついては来ていた。ダメージも2000は受け、一時は負ける事も考慮に入れたほどだ。

 

遊介にとって驚きだったのはそこから1ターンで、ブルームガールが相手のLP4000をあっさりもっていったことだが。

 

「ふう、大変だったわね……」

 

ブルームガールの体がやけに傾いているように、遊介には見えた。

 

顔を急に焦りの表情に変わるのを見て、イレギュラーな事態が発生していることを察する。脚に、少し大きめのくぼみがあることを察する。

 

デュエルを終えたばかりで多少痛みを感じて集中力が切れていたのだ。ブルームガールが転びそうになっていた。

 

遊介は、ブルームガールを受け止める。

 

残念ながら人の全体重を、曲げた左腕で受け止められるほどの力がない遊介は、全身を使って受け止めるしかなかった。

 

「あ……」

 

「会長、危ない危ない。転びそうだったでしょ?」

 

「ちょ……」

 

何か言おうとしている会長が、珍しく言葉を見つけられない様子。遊介がその間を埋めるように、

 

「もしかして、結構ダメージ食らってたり?」

 

と訊き、

 

「実は怪我をしてたりとかなら、イベント会場まで、背負っていきますよ?」

 

と立たせようとせず、ブルームガールに当たり前のように質問する。

 

遊介にとってはおかしな話だとは思っていない。確かに女性を背負うことに少し緊張はするものの、仕方のない行為だと思うつもりだった。

 

しかし、この発言、ブルームガールにとっては大問題だったのだ。

 

「え……」

 

実際、少し脚をひねってしまったようで、歩くのは困難である。しかし、遊介に背負ってもらうということは、そう簡単にできることではない。

 

ブルームガールは相手との長い時間密着する行為は、たとえいやらしい行為でなくても、恋人同士がすることなのだと考えている。もしここで背負ってもらったりなどしたら、それは自分から遊介が好きであると告白してしまうことと同義であるという持論を持っていた。

 

確かに遊介のことを嫌っているわけではないが、まだ早い。そのような行為はまだ早いのだ。

 

世間的に見れば、たった1回の親切程度の行為であるものの、ブルームガールにとってはそれほど大きなことなのだ。

 

しかし、むしろこれはチャンスでもあった。

 

「……じゃあ、お願いしていい?」

 

たとえ無理をすれば歩けると自覚しても、年甲斐もなくおぶってもらうという貴重な経験を、自然な流れでしてもらう唯一の機会と言ってもいい。

 

ブルームガールは現実世界では、親や兄弟にもこのようなことをしてもらった記憶はない。故に、人に背負われるのはどういう気分なのかを知るいい機会でもある。

 

――というむちゃくちゃな言い訳を、ブルームガールは己の中に発生させ、自分を正当化させる。

 

本当に体験したいことは、かつて一度だけ見た少女漫画みたいに、自分が1人の女の子として、かっこいい王子様――王子様というには、遊介はまだまだであるが――に優しくされてみたいという邪な欲望だったわけだ。

 

遊介は、そんなブルームガールの思考を読み取ることなく、彼女を背中に背負うと、

 

(もう少し会長と回りたかった気もするけど、それはまた今度だなぁ。今はまっすぐイベント会場に急ぐか)

 

と歩き出す。

 

その道中、多くの人々の注目を浴びることになった遊介。なぜか皆目見当がつかない。

 

そしてイベント会場近くでエリーと合流した時、

 

「ますたぁ……?」

 

と、空いた口がふさがらないエリーを見て、遊介は、少しまずいことしたのかなぁ、とようやく自身の大胆な行為を顧みるきっかけを得たのだ。

 

 

 

脚をくじいて、しばらく休憩が必要なブルームガールに代わり、マイケルとエリーが、会場を盛り上げる司会となった。

 

舞台のコロッセウムはいわゆる闘技場のイメージそのままだ。周りに観客が戦う戦士を見下ろすように座っている。

 

そして外では若干画質が悪いものの、内部の様子をが映像で映し出している。

 

遊介は控室ではなく、直接観覧席から豪華に登場と言う流れである。ちなみに、開始5分前に受けた指示であり、遊介はどう登場しようか現在進行形で頭を悩ませていた。

 

そんな、エリアマスターを置いて、イベントはついに始まる。

 

「光の世界のみんなぁ、良くきたなぁ! マイケルだ! 今日は俺達のエリアマスター遊介のエンタメデュエルを、とくと楽しんでいってくれぇ!」

 

さすが商売人だけあり、大声を出すのが慣れている様子。隣で震えているエリーが少し可哀そうに思えてくるほどだ。

 

会場はマイケルの掛け声に大賑わい。会場を巡る移動販売サービスもすべてマイケル仕込みのため、今回のイベントによほど気合を入れていると見える。

 

しかし、すべては遊介をいち早く街のエリアマスターとして認知させるためのイベントである。そんな仲間の豪快な気遣いには、遊介もありがたく思っていた。

 

「さあ、まずは挑戦者だなぁ! かもーん!」

 

マイケルの雑な司会進行に合わせ、

 

「がんばって、ゆうや!」

 

という声援と共に、舞台に登場する1人のデュエリスト。紅い地面を走る竜の角に手を添え、

 

「ladies and gentlemen! お待たせ、みんな!」

 

手振りながら出て来たのは、生粋のエンタメデュエリスト。

 

「俺の名前は榊遊矢、光の世界の新参デュエリストだ! 今日は思いっきり、エリアマスターの胸を借りて、最高のエンターテイメントを創りあげるから、お楽しみに!」

 

1枚のカードを遊矢は勝手に発動する、その発動に反応して、天に向かって1発の花火が打ち上げられた。天高く火の粉は、『Nice to meet you!』という字を描く。

 

(あんなのの後に出るのか……!)

 

遊介はここにきて急にプレッシャーを大きく感じる。

 

そしてそれはエリーも同じだった。

 

「ええ……と、その……次、いきますぅ!」

 

どうやら台詞を忘れてしまったらしい。

 

何とか考えなければと、遊介は頭をフル回転させる。しかし、今の演出以上の内容を思いつくはずもない。

 

(どうしよう……)

 

目線の先でマイケルに励ましを受けているエリーを身ながら、頭が真っ白になる遊介。

 

その時だった。

 

「ほおー、エンタメデュエリストかぁ!」

 

なんと、誰もいないはずの、遊矢がでてきた方とは向かい側の控室から、1人の男が現れる。

 

それは誰もが予想できるはずもない乱入者。

 

「君は?」

 

予定外の来客に遊矢は、笑みを浮かべながら尋ねる。乱入者は臆することなく答えた。

 

「デュエルはエンターテイメント。お前は見たところ、人を楽しませることに特化したデュエリストだ」

 

デュエルディスクを構えやる気満々のその男は、決して知らない人間ではない。

 

「なら俺は、そのデュエルをぶち折ってやる。人にドン引きされる勝つためのデュエルでな」

 

「それはいただけないな。やっぱりこういう場のデュエルは面白くないと」

 

「そう思うなら、まずはそれだけの力があることを示してもらわないとな、新入り」

 

乱入者、

 

「人に不快な思いをさせる悪を、見事お前のデュエルで楽しませて、勝ってみせろ! それができない奴を、エンタメデュエリストとしても、遊介と戦うのも、認めるわけにはいかないなぁ!」

 

ヴィクターは、堂々と、目の前の敵に宣戦布告をした。




ヴィクター参戦!

ということで特別編のデュエルはまさかのヴィクターと遊矢のデュエルになります。5話以降デュエルがお預けされているヴィクター君。実は本編だと次のデュエルが、30話より後になりそうだったので、このタイミングで1回戦ってもらうことになりました。遊介が戦うよりも、勝敗は見えなさそうなのも面白いかなと思った次第です。

デュエルは書き終わっていると言いましたが、投稿はまた少し時間を置きます。
書き終わっているからこそできる、特別企画をアンケートでやってみたいと思います。

お付き合いいただければ幸いです。


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UA10000記念番外編 光の世界の休日 エンタメデュエル編

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

エンタメデュエル編です。
アクションデュエルにいい思い出がない方もどうかお付き合いいただければ幸いです。
クロスオーバーということで1回はやっておきたいデュエルなのですが、本編でできるタイミングがなさそうなので、この番外編でやってみたいと思います。

今回、かなり長めになっています。ご留意ください。


アクションデュエルのルールは通常のデュエルに、アクションカードという特殊なカードが加わることで成立するデュエル形式である。

 

特殊なフィールド内に4枚のアクションカードという特殊なカードが散らばり、プレイヤーはデュエルを行いながら、そのカードを探し当てることで、自らの戦術にそのカードの効果を組み込むことができる。アクションカードは魔法、罠の2つが存在し、何が地面にばらまかれるかは、デュエル開始時ランダムに決定される。カードは裏向きで配置されるため、実際に拾うまではそのカードの正体も分からない。

 

魔法のアクションカードを拾った場合、そのカードを発動できるタイミングで任意に発動できる。ただし罠のアクションカードを拾った場合、即時にその効果が発揮されるため、注意が必要である。大体が拾ったプレイヤーへのデメリットであるからだ。

 

アクションカードは、1ターンにお互いが1枚まで発動できるという条件がある。故に同じターンに同じ人が2枚以上のアクションカードを使うことはできない。さらに手札に持っているアクションカードは、次の相手ターン終了時に除外される。たくさん持って、溜め置きはできない。

 

故にアクションカードを拾いに行くのは、通常必要になった時に、ということになるだろう。

 

 

 

突然の乱入者、ヴィクター。

 

誰もが、誰だあいつ状態になるだろうと思われた。

 

しかし、ここでマイケルがとんでもないアドリブをぶち込む。

 

「出やがったなぁ、エリアマスターを狙う悪い奴」

 

などと、ヒーローショーっぽくことを運ぼうとする。遊介はそれだけでも予定外のことで、頭が一杯なのに、

 

「ああそうだ。俺は悪だ。エリアマスターをぶっ殺しに来たんだからな」

 

ヴィクターがそのマイケルのアドリブに乗り始めたのだ。

 

しかし、2人のやけに呼吸のあったアドリブが功を奏し、場がおかしな空気になることもなく、

 

「がんばれー、ユーヤくん」

 

「あの感じ悪い男倒しちゃってー!」

 

「エリアマスターを守って!」

 

と、会場をさらなる盛り上がりを見せる。

 

「やるね、君」

 

遊矢の賞賛は、場を見事盛り上げて見せたヴィクターのエンタメ力に対して。そして、ヴィクターも別段嫌そうな顔はしない。

 

「まあ、これでもプロを目指してるんでね。勝ちにはこだわるけど、最低限の盛り上げはしてやるさ。マナーってやつだよ」

 

「……じゃあ、気が合いそうだな」

 

「気が合う? やめとけ、榊遊矢」

 

「なんで」

 

「俺はお前みたいに優しくない。アイツをぶっ殺しに来たのは事実だからな。定期テストだ。腑抜けになってないか」

 

「それは、穏かじゃないな」

 

「なら、公開処刑をお前が止めてみろ。俺を満足させたらいいこと教えてやる。だから、付き合えよ。準備運動」

 

「それはもちろん。デュエルを拒みはしないさ。けど……準備運動で終わりになっちゃうかもよ?」

 

「言うねぇ。なら、期待してるぜ」

 

ヴィクターは指を鳴らす。

 

それはデュエルの始まりを意味した。ヴィクターのデュエルディスクにはすでに、アクションフィールドがセットされていて、今の合図でそれが発動されたのだ。

 

世界が塗り替わる。

 

選ばれたのはアクションフィールドは『聖域の浮島』。緑と神殿の跡の瓦礫が散らばる、空中の8つの浮島。広さもそれぞれ違い、それぞれの浮島には、白い柱が折れた残骸がところどころに見られる。そして最も大きい浮島には、屋根が吹き飛んでいるものの、何らかの儀式が行われた大広間のある、石材づくりの建物も見える。

 

「てめぇ! 勝手にフィールド決めんな!」

 

マイケルの声に、

 

「こういうのは速いもん勝ちだ!」

 

と反論したヴィクター。マイケルは気に入らない顔をしながらも、エリーに台本を見せそのまま進める事にした。その一部始終を遊介は遠くから見ていて、

 

(大変そうだなぁ)

 

と、呑気な感想を抱いていた。自分が出る必要がなくなったが故の気持ちの余裕が生まれたと言える。

 

そして遊介は聞き覚えのない掛け声を聞くことになる。

 

「地を駆けろ、空を舞え。縦横無尽に動き回って、戦いの地で奇跡を掴め!」

 

マイケルに続きエリーが、

 

「ここれこそ、デュエリストの心技体、すべてが問われるデュエルの進化体!」

 

と言いなれないその台詞をしっかりと口にする。

 

「アクション!」

 

マイケルの掛け声に、

 

「デュエル!」

「デュエル!」

 

ヴィクターと遊矢が応えることで、デュエルは始まった。

 

 

 

アクションカード 4枚散布

 

遊矢 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

ヴィクター LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(ヴィクター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊矢)

 

 

 

「そういえばいいのか? アクションデュエル、俺はかなり得意だよ?」

 

「榊遊矢。お前の得手不得手なんて承知のうえだ。気にすんな」

 

 

ターン1

 

 

 

「だが、そっちの得意なフィールドに乗ってやったんだ。先攻はもらうぜ?」

 

ヴィクターが先攻を宣言しデュエルは始まる。

 

遊矢は、まだ自分のターンにもなっていないにも関わらず、Dボードを使い上空へと飛翔する。

 

「お? 早速アクションマジックか?」

 

「ああ。やっぱりアクションデュエルは、アクションカードをとった方が便利だからね」

 

上昇していく遊矢を見て、ヴィクターもDボードを引き寄せる。浮島と別の浮島の間の距離はそれほどないが、人間の跳躍で隣に跳ぶのは明らかに不可能なほどは離れている。移動にはDボードかモンスターを使用するしかない。

 

ヴィクターは自分のDボードを近くに呼び寄せると同時に、

 

「俺はモンスターを裏側でセット!」

 

裏側守備表示でモンスターを召喚する。そして、それだけでは当然止まらない。

 

「さて。たっぷり苦しんでもらおうか!」

 

ヴィクターはDボードに乗り、先に飛翔した遊矢の後を追いながら、己のターンの続きを行った。

 

「永続魔法、『レベル制限B地区』を発動!」

 

「はぁ?」

 

遊矢が驚きの声をあげる。記憶の共有によって知っている、ユートが見た以前のヴィクターのデッキからは想像もつかないカードが発動されたからだ。

 

以前のヴィクターは徹底的に攻撃をして、相手のLPを削り切るという戦法だった。しかし、発動された『レベル制限B地区』は、ヴィクターの得意とする高レベルモンスターのアドバンス召喚と相性が悪い。

 

「この魔法は存在する限り、レベル4以上のモンスターを強制的に守備表示にする」

 

「意外だな。それじゃあ、君もやりづらいんじゃないか?」

 

「馬鹿かお前。このカードを発動してるんだ。それなりの戦術は使う」

 

ニヤリと笑うヴィクター。

 

その真意をはかるのは解説役のマイケルだった。ちなみにエリーが質問する形で、その解説は行われる。

 

「あの魔法、どういうつもりでしょうか?」

 

さすがに疑問を口に出すだけなので、言葉に詰まったりはしない。しかし、急な代役のはずのエリーもしっかりやっているようで、遊介のとなりに座っているブルームガールは大変満足気である。

 

「まあ、間違いなくロックデッキだろうな」

 

マイケルは、今のヴィクターの戦術を予想する。

 

「相手の攻撃を制限するカードで徹底的に身を守って、その間チクチクと効果ダメージを与えたり、デッキ破壊をしたりする戦術だ」

 

そしてヴィクターが、

 

「さらに俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

という動きを見せると、さらにマイケルは解説を重ねる。ちなみに、マイケルの解説は、アクションデュエル中の2人には聞こえないようになっている。

 

「どうせあの伏せカードも、相手を動かさないためのカードだ。間違いない。あの裏側のモンスターも厄介だろうぜ。ワームか、効果ダメージ系か」

 

ここでいうワームというのは、デッキ破壊系を意味する。

 

そして戦いを見守っている、ヴィクター戦経験者の遊介は少し違和感をもった。

 

(随分と、おとなしいな……デッキの方針、いつの間にか変えたのか)

 

Dボードの腕も遊矢は十分であり、ヴィクターは追いつくことができない。最初の浮島への上陸は遊矢に譲り、ヴィクターは他の島を目指す。

 

 

ヴィクター LP4000 手札2

モンスター ① 裏側

魔法罠   ② レベル制限B地区 伏せ1

 

(ヴィクター)

□ □ ② ■ □   魔法罠ゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊矢)

 

 

 

最初の浮島に上陸した遊矢は、アクションマジックを探すものの、その島にカードは見つからない。仕方なく、次の島を目指すことにする。

 

 

ターン2

 

 

「さあ、ここからは榊遊矢、渾身のエンタメデュエルの開幕だ!」

 

遊矢の会場に向けての宣言に、闘技場でデュエルを見守る観客のボルテージはあがっていく。

 

「俺のターン!」

 

遊矢は攻勢に転じるべく、起点となるカードを引く。

 

遊矢 LP4000 手札6

モンスター

魔法罠

 

遊矢の初陣、記念すべき最初を飾るのは、

 

「まずは先駆け! 俺のデッキのスピードスター! エンタメイト、ディスカバーヒッポを召喚!」

 

なんと、ただのカバだった。

 

EMディスカバー・ヒッポ レベル3 攻撃表示

ATK800/DEF800

 

遊矢は呼び出したそのカバに乗り、カバは喜んで駆け出すと島の端っこまで猛スピードで走る。その間に遊矢はもう1体モンスターを呼び出した。

 

「そしてエンタメイトの召喚に成功した時、僕らを支えてくれるお姫様の登場だ! エンタメイトヘルプリンセスは、特殊召喚できる!」

 

モンスターの召喚の時にわざわざ差し込むこのセリフは榊遊矢が心がけるエンターテイメントのデュエルの一環。呼び出すすべてのモンスターはこのエンタメの登場人物で、できる限り名前を憶えて帰ってもらいたい。そんな遊矢のこだわりが、モンスターを印象付ける紹介文を言うという行動に結びついている。

 

カバは飛ぶ。一応モンスター扱いなので、その跳躍力は一級。一番近い浮島へは容易くジャンプで届く。そして、その空中で、遊矢が呼び出したお姫様(黒)がフィールド上に呼び出された。

 

EMヘルプリンセス 守備表示 レベル4

ATK1200/DEF1200

 

次の浮島に到着し、遊矢は愉快なカバから降りる。そして、周りを見渡し、手札のカード1枚に手を伸ばした。

 

「そしてこの瞬間! 先ほど呼び出したヒッポの効果を発動! 彼はもちろん今みたいに、俺を連れて行ってくれるけど、当然それだけじゃない! ディスカバーヒッポの効果で、このターン俺は通常召喚に加えて、レベル7以上のモンスターをアドバンス召喚できる!」

 

そして、右手に1枚のカードを持ち、天へと掲げる。たった1枚に大胆すぎる動作。しかしこれも遊矢が観客の注目を集めるためのパフォーマンスであり、その1枚はそれをするにふさわしいモンスター。

 

「俺はフィールドのヒッポと、ヘルプリンセスをリリース! これより出でしは、かくも珍しき、二色の眼の竜。俺のエース登場に大きな拍手をお願いします! 来い、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」

 

遊矢が呼び出した2体のモンスターは大きく跳躍し、光り輝く粒子となった。やがてその粒子が召喚のゲートを創り、その中から、オッドアイの眼を持つ竜が降臨する。

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃表示 レベル7

ATK2500/DEF2000

 

赤い鱗、巨大な宝玉、何より主の紹介の通り二色の眼を持つ、走行型のドラゴンがフィールドに現れた。会場は遊矢の宣言通り、大きな拍手に包まれる。しかし、そんなことは意に介さずヴィクターは、自身のカード効果を適用した。

 

「だが、そのモンスターはレベル7だよな! レベル制限B地区によって、そいつは守備表示になってもらうぜ!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃→守備表示 DEF2000

 

少し具合が悪そうに呻く赤い竜。しかし、これが具合が悪くなったのではなく、単に守備表示になり攻撃ができない合図である。

 

「大丈夫だ。お前の力で、アレを突破するぞ!」

 

わざわざ呼び出したエースモンスターが守備表示になったにも関わらず、意気消沈しない遊矢。それは今、自身のエースモンスターを縛る枷を外す方法がすでにあるということだ。

 

「そう簡単に相手のペースには乗らないよ! 俺は魔法カード『巨竜の羽ばたき』を発動! フィールド状のレベル5以上のモンスター1体を手札に戻して、フィールド上の魔法、罠カードをすべて破壊する!」

 

ちなみにオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンには翼はない。

 

「羽ばたきぃ?」

 

「……まあ、そこはね」

 

にこにこしながら華麗にスルーする。当然魔法に、翼という条件はないため、発動に問題はない。二色の眼の竜は地面を思いっきり蹴り跳躍、その風圧で、別の小さめの浮島に上陸したヴィクターの魔法と罠を見事に吹き飛ばしていった。遊矢はその風を利用し、さらに浮島をアグレッシブに移動する。

 

「やるねえ、そうじゃなくちゃ」

 

ヴィクターはにやりと、デュエルが盛り上がってきたことに笑みを浮かべる。

 

「でもどうすんだ? 通常召喚も使った。これじゃあ、次のターン攻撃し放題だなぁ?」

 

ヴィクターはその浮島から離れようとはしない。アクションカードも取った様子は見せず、その上、自らのロックカードを破壊されているにも関わらず、弱気にもならない生意気な口を動かすヴィクター。

 

遊矢はそれに指を振って応えた。

 

「お楽しみはこれからだ!」

 

どこかで聞いたことがある決め台詞を恥ずかしがることもなく叫ぶと、2枚のカードを見せびらかす。

 

「せっかく呼んだオッドアイズは跳躍してから戻ってこない。そんなのつまらないだろう? ご注目! スーパースターを呼び戻す! その方法は、摩訶不思議なペンデュラムの力!」

 

「……なるほど、ペンデュラム召喚か」

 

ヴィクターの言う通り、榊遊矢が今から行うのが、彼が得意とするペンデュラム召喚。ペンデュラムモンスターと呼ばれる特殊なモンスターを2体、自分の魔法、罠ゾーンの右恥と左端にセットする。そのカードに書かれているスケールという数字2つの数字の間のレベル数を持つモンスターを、手札、もしくはエクストラデッキにいる表側表示のペンデュラムモンスターを特殊召喚する方法。

 

「その通り! 俺スケール6のエンタメイトリザードローとスケール8のエンタメイト、オッドアイズユニコーンで、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

見せびらかした2枚は共にペンデュラムモンスター。そして、6と8のスケールをセットしたことで、レベル7のモンスターをペンデュラム召喚できるようになる。

 

「さあ、再びの登場だ! 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚! 舞い戻れ! オッドアイズ・ペンデュラムドラゴン!」

 

天空に光の軌跡が描かれる。円を示したその輝きの輪の中から、先ほど跳躍した竜は再び現れた。

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃表示 レベル7

ATK2500/DEF2000

 

「なるほど、ペンデュラムか……」

 

ヴィクターは子どもがおもちゃを発見したときのように欲に満ちた笑みを浮かべる。

 

「喜んでもらえて何より」

 

「ちげえよ。ペンデュラム使い。一度戦ってみたかったんだ。いい得物がかかったぜ!」

 

その口ぶりは本当に悪役を演じているかのように遊介には映った。

 

一方に遊矢は、ヴィクターの勝利願望の奥深さなどいざ知らず、

 

「さあ! 楽しもう! バトル!」

 

と、デュエルをノリノリで続行する。

 

「俺はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで、その裏側守備モンスターに攻撃!」

 

遊矢の元に舞い戻ってきた竜は、主の攻撃宣言に応え、自身の力を口元に集中させる!

 

そして大きく跳躍、狙いはヴィクターのいる浮島。黒と赤の螺旋を描く炎を打ち出す!

 

「螺旋のストライクバースト!」

 

放射された煉獄炎は、その狙いを外すことなく、ヴィクターのいる島に着弾。

 

「ぐおお」

 

ヴィクターの周りの空気を熱しながら、モンスターを焼きつくす。

 

浮島は頑丈にできているため、竜の炎では壊れないのだが、当然これほどの炎に晒され、裏側のモンスターは無事では済まない。

 

現にヴィクターのモンスターも、炎が止んだ時に、その存在は既に見当たらなかった。

 

「あれ……?」

 

裏側モンスターと戦闘をする時は、戦闘時にモンスターは表側になり、相手に何者かは示される。しかし、まだそれがない。

 

ましゅー!

 

可愛らしい声が遊矢の耳に届く。ヴィクターの声ではない。残念ながら彼では、妖精のようなその声を出すことは不可能だ。

 

では何者か。

 

ましゅましゅ!

 

その声がさらに大きくなり遊矢に届く。まるで近づいてきているような。

 

白い物体が遊矢に襲い掛かってきた。

 

「なぁ……?」

 

さすがの遊矢もそれには驚く。白い物体が自分に目掛けて飛んできているのだ。そのスピードはものすごく、見事に遊矢に激突する。

 

「ぐあ!」

 

その白い物体はとても柔らかく、激突しても衝撃波ともかく、少しの痛みしか感じない。しかしダメージは間違いなく受けた。

 

「お前が攻撃したのは、マシュマロンだ。戦闘破壊に耐性をもつモンスターの中では、最も有名かも知れないな。裏側守備のこのカードに攻撃したお前は、マシュマロンの効果によって、1000ダメージを受けるわけだ」

 

遊矢 LP4000→3000 

 

「なるほどね……2段構えか」

 

「ロックデッキかと思っただろ? だからお前は魔法、罠を破壊した時点で安心した。甘いなぁ、榊遊矢」

 

今までロックデッキという印象を与えることで、そのロックを破壊することで有利に転じると思われた遊矢が、まさかの自分のターンで先にダメージを受けた。

 

予想だにしない展開に、会場は大盛り上がり。エリーは夢中でそのデュエルを見ている。

 

(意地悪いなあいつ)

 

遊介はそんなことを思いつつ、そのデュエルに見入っていた。

 

一方ダメージを受けた遊矢は、

 

「いやあ、マジか……」

 

と、ダメージを噛みしめ、メインフェイズ2へと移行する。

 

「ペンデュラムゾーンのリザードローの効果! もう片方のペンデュラムゾーンにいるエンタメイトを破壊する。カードを1枚、ドローする!」

 

もう片方、EMオッドアイズ・ユニコーンを破壊し、デッキからカードを1枚ドローした遊矢。

 

「いくぞ、オッドアイズ!」

 

人間離れしたジャンプでオッドアイズの角の上に乗ると、自身がいる広めの浮島を移動し始める。

 

「俺はこれでターンエンド!」

 

「おいおい、エンタメデュエリスト。そんな無様じゃ面白くねえぞ!」

 

煽るヴィクター。しかし、ムキになることはない。余裕の笑みで、

 

「なあに、まだまだ。君のエンタメには負けないよ」

 

と、ヴィクターに言い切った。

 

遊矢 LP3000 手札1

モンスター ③ オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン

魔法罠 ④ EMリザードロー

 

(ヴィクター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ③ □ □   メインモンスターゾーン

④ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊矢)

 

 

ターン3

 

 

 

「このターンでぶっ殺す!」

 

ヴィクターは高らかに勝利宣言をした。

 

「俺のターン!」

 

ヴィクター LP4000 手札3

モンスター ① マシュマロン

魔法罠 

 

ヴィクターは遊矢に走れと言っておきながら、自身は余裕綽々、動くことなく自身のカードを動かし始める。

 

「俺は、召喚僧サモンプリーストを召喚! このカードは召喚した際、守備表示になる!」

 

呼び出したのは、紫のローブを着こんだ魔法使い族のモンスター。

 

召喚僧サモンプリースト レベル4 守備表示

ATK800/DEF1600

 

「サモプリの効果! 1ターンに1度、手札の魔法カードを墓地へ送る。デッキからレベル4モンスターを1体特殊召喚する! 俺は手札のこのカードを墓地へ、聖鳥クレインを特殊召喚!」

 

召喚僧はその名の通り、召喚を司る僧侶。その力によって、魔力の提供を受ければその召喚の力を発揮する。その魔力によって呼び出されたのは、白い翼を広げた鳥だ。

 

聖鳥クレイン レベル4 攻撃表示

ATK1600/DEF400

 

「聖鳥クレインは特殊召喚に成功した時、カードを1枚ドローする!」

 

ヴィクターはカードを1枚ドローし、

 

「さあ、行くぜ!」

 

と、気味の悪い笑顔を見せて、今ドローしたカードではないもう1枚を手に取る。そのカードは今や、この世界におけるヴィクターの代名詞と言えるカード。

 

「刮目しろ! 魔法カード『アドバンス・サモン・フォース』を発動! このカードはフィールド上のモンスターをすべてリリースして発動する! リリースしたモンスターの数によって効果が変わる。1体のみの場合、デッキからレベル5、もしくは6のモンスター1体をアドバンス召喚扱いで召喚する。2体以上であれば、レベル7以上のモンスター1体をアドバンス召喚扱いで召喚する」

 

そしてヴィクターは指を3本立てる。

 

「俺は3体のモンスターを全てリリース。2体以上のリリースのため、俺はデッキからレベル7以上のモンスターを、通常召喚扱いでアドバンス召喚する! この時3体以上をリリースしている場合、当然3体リリースの召喚として扱われる!」

 

この効果を強調した理由は呼び出すモンスターの名前を聞き、デュエリストは誰もが納得する。

 

「出でよ! 神獣王バルバロス!」

 

3体のリリースの後、召喚されるのはすさまじい出現の瞬間、その威圧で戦いの場を凍らせるほどの、とてつもない力を感じさせる獣王。

 

神獣王バルバロス レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF1200

 

「あれは……」

 

「エンタメデュエリストでも見たことあるか。そうだ。これこそ、お前はあの世に送る俺の切り札。さあ、アクションカードは見つかったか? 死ぬぜ?」

 

遊矢は己の竜に乗りながら、

 

「でも、オッドアイズは倒せても、俺はまだ死なないな」

 

とペンデュラムドラゴンに乗りながら、目的の場所まで己のモンスターを走らせる。既に遊矢の目には最初のアクションカードが見えていた。

 

「間に合うと良いけどな?」

 

しかし、このままなら、間に合うのはあくまでオッドアイズに乗っていたらの話。ヴィクターには、遊矢の敗北が見えている。

 

その理由は、当然、今召喚した、バルバロスだ。

 

「バルバロスの効果! モンスター3体をリリースして召喚に成功したとき、相手フィールドのカードをすべて破壊する!」

 

観客が騒然とする。その効果は破格にもほどがある。サンダーボルトとハーピィの羽箒。その破壊力抜群の2枚を1つに纏めた効果だ。それは少しでもデュエルの心得があれば、その効果がシンプルかつとんでもない効果だと分かる。

 

「な……!」

 

「さあ、その竜から降りてもらうぜ! 榊遊矢!」

 

獣王が咆哮をあげる。それに伴い嵐が吹き荒れ始める。獣王の持つ槍に、圧倒的な風圧の竜巻が宿り、稲妻が轟いた。

 

再び、荒ぶる闘志を爆発させた獣王は、竜巻を己に集約させ、身に纏いながら天を駆ける。

 

その行き先は当然、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン・自身の持つ槍と、神に仕える獣として持つ権力を使った怒りの乱槍。

 

たとえ竜とて逃げ場はない。その槍は、竜巻は間違いなくその竜を捉える。

 

しかし、竜は己の破壊を悟り、遊矢を無理やりひっぺ剥がすと、

 

「オッドアイズ?」

 

呻きながら、体を回転、尾で遊矢を向かっていた方向へ弾き、同時に獣王の攻撃から逃がした。

 

獣王の蹂躙。

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンは為す術なく破壊され、そして、その余波でペンデュラムゾーンにいた、EMリザードローも木っ端みじんとなった。

 

「さあ、綺麗になったな、フィールドが! さあ、終わりだ。エンタメデュエリスト! 会場を盛り上げられないまま死ね! バトルだ」

 

ヴィクターは、弾き飛ばされ地面を転がっていた遊矢を指さし、

 

「神獣王バルバロスで、榊遊矢にダイレクトアタック!」

 

巨大な槍の刺突が遊矢に襲いかかる。

 

通常のデュエルでは、手札にどうにかするカードがない以上、遊矢の負けは決定的だ。

 

しかし、先ほど、オッドアイズはなぜ遊矢を弾き飛ばしたのか。

 

それは、その先に希望があったから。

 

アクションカード。奇跡を起こす1枚である。

 

「ありがとう、オッドアイズ! お前のおかげで命拾いしたよ」

 

「は?」

 

既に槍の先が目の前に迫っているにも関わらず、臆することなく、遊矢は地面からカードを拾い上げる。

 

「……よし!」

 

表を見てニヤリと笑った遊矢。

 

「アクションマジック、『聖域の守護結界』を発動! このターンお互いが受ける戦闘ダメージは半分になる!」

 

浮島全体に綺麗な光の粒子が漂い始め、全員の体を軽くする。

 

本来は致死的な攻撃となる獣王の槍も、この光粒子により、遊矢の受けるダメージは減る。

 

獣王の槍は軌道を変え、遊矢は直撃を何とか避けることに成功した。しかし、かすっただけでもそこはさすが獣王の槍。それだけで、人間が耐えるには厳しいダメージが遊矢に襲い掛かった。

 

「ぐ……!」

 

見事に吹き飛ばされたものの、体を回転させ、着地は何とか様になった。

 

遊矢 LP3000→1500

 

「ふう……」

 

「ち、耐えたか、エンタメデュエリスト」

 

「まあね。いやあ、危なかった。アクションデュエルじゃなきゃ終わってたよ」

 

ヴィクターは自身の攻撃を防がれてなお、

 

「アドバンスサモンフォースによって召喚されたモンスターは、エンドフェイズに手札に戻る。俺が召喚した神獣王バルバロスは手札に戻る。俺はこれでターンエンドだ」

 

デメリットで自分のモンスターがいなくなっても、気丈を振る舞い、余裕の笑みを消すことはなかった。

 

「フィールドがなくなったな。今度はこっちのターンだ。ここから俺の逆転劇を楽しんでくれよ!」

 

「ふん、好きにしやがれ。1ターンでLP4000、減らせやしねえよ」

 

「どうかな?」

 

遊矢も未だ闘志尽きることなく、フィールドに何もない、手札がたった1枚のこの状況で、

 

「まだまだ、お楽しみはここからだ」

 

再び会場を盛り上げようとした。

 

まだ3ターンしか経っていないという状況を忘れ会場はさらなる盛り上がりを見せる。

 

そしてマイケルやエリーもまた、解説を続ける。

 

「大変ですね。2人とも、フィールドに何もいません」

 

「ああ、次のターン。遊矢が何を仕掛けてくるかによって、このデュエルは決まるぜ」

 

デュエルは佳境を迎えようとしている。

 

 

ヴィクター LP4000 手札2

モンスター

魔法罠

 

(ヴィクター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊矢)

 

 

ターン4

 

 

再びDボードを呼んで遊矢は飛び乗る。新しいアクションカードを探しに行くため。アクションデュエルの回数でヴィクターを遥かに上回っている遊矢は、次のアクションカードが落ちている場所にも、心当たりはあった。

 

「俺のターン!」

 

遊矢 LP1500 手札2

モンスター

魔法罠

 

Dボードに乗り、目指したのは浮島でも一番大きな島。すなわち儀式用の大広間がある神殿がある地。

 

新たなアクションカードを手に入れるまで、遊矢は止まらない。一方のヴィクターも動き始めたところを見て、

 

「さて、一気に行くよ。俺はマジックカード! 『ペンデュラム・コール』を発動する! 手札を1枚墓地へ送って、カード名が異なる魔術師2体をデッキから手札に加える! 俺はデッキから、曲芸の魔術師と黒牙の魔術師を手札に加える!」

 

ヴィクターもDボードに乗って、最大の島を目指している。遊矢のこの動きだけで、容易に次の展開が予測できる。

 

「ペンデュラムか!」

 

「その通り! 俺はスケール2の曲芸の魔術師と、スケール8の黒牙の魔術師で、ペンデュラムスケールをセッティング! これにより、俺はレベル3から7までのモンスターをペンデュラム召喚可能!」

 

人差し指を天に向け、叫ぶ。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚! 戻ってこい! オッドアイズ!」

 

まだ空中にも関わらずDボードから飛び降りた遊矢。単なる自殺行為にしか見えないため、さすがに観客の間にもどよめきがあがる。

 

しかし心配はない。なぜなら、ペンデュラム召喚によって戻ってきた遊矢の相棒が遊矢を助け、中継地点の浮島へと、彼を誘ったからだ。

 

颯爽と戻ってきた赤い竜。過労死枠などと揶揄されることがあっても、これこそペンデュラムモンスターの強み。ペンデュラムモンスターは破壊されてもエクストラデッキに表側表示で残り、スケールの条件さえあえば、再びエクストラデッキからペンデュラム召喚できる。

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃表示

ATK2500/DEF2000

 

中継地点で2枚目のアクションマジックを拾った遊矢、すぐさまオッドアイズの跳躍を駆使し、島を伝って目的の神殿跡のある最大の島へと向かう。

 

「速いな……追いつかねえ」

 

Dボードをマックススピードで動かしているヴィクターだったが、それでもオッドアイズの全速力の方が速い。

 

徐々に距離の差が広がっている以上、ヴィクターが追いつく術はない。

 

「バトルだ!」

 

当然遊矢も楽しむとはいえ手は抜かない。がら空きの相手フィールドを見て、攻撃を止めるという選択肢はなかった。

 

「オッドアイズで、ヴィクターにダイレクトアタック!」

 

竜は振り返り、その中でヴィクターを捉える。

 

「螺旋のストライクバースト!」

 

そして自らの螺旋焔を狙い違わずにヴィクターに撃ち放った。

 

当然アクションカードを未だ拾えていないヴィクターにこの攻撃を止めるすべはない。

 

爆発。Dボードは頑丈にできているが、それでも衝撃で墜落するに十分な威力と言って差し支えない。

 

ヴィクター LP4000→1500

 

オッドアイズは再び主の目指す方向へと走り出す。

 

一方ヴィクターは爆発に煽られ、コントロールが一時不能になり、近くの浮島に墜落。

 

「追いつくのは絶望的だな」

 

となぜか、わざわざ聞こえるように大きな声で言う。

 

「まあ、ただじゃやられねえけど」

 

歯を見せ、凶悪な笑みを再び浮かべて。

 

その様子を遊矢は見逃さない。

 

「何かあるのか?」

 

大声でヴィクターに問うと、

 

「馬鹿かてめえ、そんなのあるに決まってんだろ!」

 

と、残る手札2枚のうち、1枚を手にとった。

 

「俺はこの瞬間、冥府の使者ゴーズの効果を発動する! 俺のフィールドにカードが存在しないとき、相手のコントロールするカードによりダメージを受けた場合、このカードを手札から特殊召喚!」

 

先ほど聖鳥クレインの効果でドローしたときに笑ったのは、アドバンスサモンフォースを使って勝てると思ったからではない。このカードを引き当てたからだ。

 

ヴィクターが呼び出すのは悪魔族のモンスター。ヴィクターの前に突然現れる。冥府の使者というだけあり、禍々しい装いをして、巨大な刃を装備している。

 

冥府の使者ゴーズ レベル7 攻撃表示

ATK2700/DEF2500

 

「うわ、2700? いきなり?」

 

遊矢の驚きの声、そして、

 

「さて、すぐお別れかな、オッドアイズ?」

 

目に見えてさらに調子に乗り始めるヴィクター。

 

「ゴーズの効果! 戦闘ダメージをトリガーに特殊召喚された場合、俺のうけたダメージと同じ数値のステータスを持つ、カイエントークン1体を特殊召喚できる!」

 

ゴーズの隣に、雰囲気の似た存在が再び忽然と顕現する。

 

冥府の使者カイエントークン レベル7 攻撃表示

ATK2500/DEF2500

 

「2500まで……!」

 

「榊遊矢! 次がてめえのラストターンだ!」

 

自分のフィールドに現れた冥府の使者たちに遊矢を追うように指示する。

 

会場でこのデュエルを見る観客は、ここからの展開を期待する。

 

「あのヴィクターってやつやるなぁ」

 

「ユーヤ、がんばー!」

 

「ヴィクター、悪役キャラで売り出せば面白そう」

 

いろいろとヴィクターを評価し始める声もあがってくる。まがりなりにも、ヴィクターが会場を盛り上げている証拠だ。

 

(なんか、前に比べて、あいつらしくないというか)

 

遊介はヴィクターに不穏な何かを感じながらも、素直に会場を盛り上げている、同じ将来の夢を持った同士を素直に尊敬していた。

 

「この展開、お前にとってはおもしろくねえか? エンタメデュエリスト?」

 

ヴィクターは遊矢をどんどん煽っていく。しかし、

 

「いいや、相手も輝かせてこそのエンターテイメントだ」

 

と遊矢は未だ強気の姿勢を崩さなかった。

 

「いいねぇ、そうこなくちゃ!」

 

「俺はこれでターンエンド!」

 

ターンエンドの宣言と共に、遊矢は最後の島につく。

 

 

遊矢 LP1500 手札0

モンスター ③ オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン

魔法罠 ⑤ 曲芸の魔術師 ⑥ 黒牙の魔術師

 

(ヴィクター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ⑦ ⑧ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ③ □ □   メインモンスターゾーン

⑤ □ □ □ ⑥   魔法罠ゾーン

(遊矢)

 

 

ターン5

 

 

ヴィクターが自身が墜落した浮島の捜索を始めたのは、遊矢がターンエンドの宣言をした瞬間。その後、墜落した浮島から再びDボードで飛翔し、大神殿のある浮島を目指した。

 

「俺のターン! ドロー!」

 

その目は勝利のことしか考えていないという目をしている。

 

ヴィクター LP1500 手札2

モンスター ⑦ 冥府の使者ゴーズ ⑧ 冥府の使者カイエントークン

魔法罠

 

相手のターンエンドを待ったのは、アクションカードを拾うため。自分が墜落した先にアクションカードがたまたまあった、というわけではなく、ヴィクターはあらかじめそのカードを狙っていたのだ。

 

表を見た時に、すぐに発動できるカードでなかった場合、遊矢のターンのエンドフェイズに墓地へ送られてしまうので、様子を見たものの、いざ拾って表を見た瞬間、すぐに発動できるカードだったのは少し残念に思う。

 

しかし、効果に文句はなかった。

 

「アクションマジック『聖域の免疫光』を発動! 自分のターンのメインフェイズ時、相手フィールドのカードを1枚を破壊する! 俺は黒牙の魔術師を破壊!」

 

既に大神殿跡の大広間に到着した遊矢は自分のペンデュラムカードが破壊されたことで、息を呑む。

 

ヴィクターもそこに到着。先についていた冥府の使者と共に、遊矢を追い詰めた形だ。

 

「さあ、死ぬぜ?」

 

「それはどうかな……?」

 

ヴィクターはいまだ強気を崩さない遊矢に特に不快そうな顔を見せることはなく、むしろ止めを刺す楽しみを我慢できずに笑みをこぼす。

 

「神獣王バルバロスはリリース無しで通常召喚できる。ただし、この効果で召喚した場合、元々の攻撃力は1900だがな?」

 

さらに猛攻を仕掛けるべく、手札の神獣王バルバロスを呼び出す。

 

神獣王バルバロス レベル8 攻撃表示

ATK1900/DEF1200

 

「そしてカードを1枚セット」

 

ヴィクターは最後の手札のカードをフィールドに伏せ、

 

「バトルだ」

 

このデュエルを終わりにすべく、最後のバトルフェイズ開始の合図をする。

 

「冥府の使者ゴーズで、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを攻撃!」

 

冥府の使者は持っている刃で竜を断つ。遊矢は先ほど拾ったアクションカードは使わない。その攻撃を受けるしかない。

 

(勝)冥府の使者ゴーズ ATK2700 VS オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK2500 (負)

 

遊矢 LP1500→1300

 

「く……?」

 

「どうした、使わないのか? アクションカード?」

 

「……そのうち分かるさ」

 

「そうか? なら遠慮なく。バトル、攻撃力2500、カイエントークンで、貴様にとどめだ!」

 

ヴィクターは迷いなく遊矢にとどめを刺そうとした。

 

しかし、それは罠だ。

 

遊矢はこの瞬間を待っていた。

 

「アクションマジック! 『聖域の仲両裁』を発動! 相手の攻撃宣言時、その攻撃で俺の受けるダメージは半分になり、俺が受けたダメージと同じダメージをヴィクター、お前も受ける!」

 

「な……にぃ」

 

「へへ、かかったな」

 

カイエントークンの攻撃は点から降り注ぐ光の柱に止められ、ヴィクターと遊矢を同じ光が照らす。それは互いの生命力を奪う、この聖域の仲裁の光。

 

遊矢 LP1300→50

 

ヴィクター LP1500→250

 

「やりやがったな……」

 

「ようやく、一矢報いたって感じかな? そういう顔してるよ」

 

顔を歪めるヴィクターに対し、遊矢は未だ、たったLPが50しかないのに、まだ明るい顔でデュエルを楽しんでいる。

 

「へへ、やるじゃあねえか。だがバルバロスで終わりだ」

 

「それは無理だ。『聖域の仲両裁』を使ったターン、お互いはこのターン、これ以上受けるダメージは0になる」

 

「てめえ、しつこいぞ。いい加減死にやがれ」

 

「やっぱり俺も勝ちたいからさ。他の3人に比べて俺は弱いから、勝つためには少し意地汚くもなるよ」

 

「……その言葉、いいな。初めてお前のいいところを見つけたって感じだ」

 

しかし、遊矢も実は余裕がない。次のターン、相手の冥府の使者を何とかする方法がなければ、やられるのみだ。すなわち、ドロー勝負。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ヴィクターのターンエンド宣言を受け、遊矢は目を閉じ、自分のデッキの上に指を乗せる。

 

 

ヴィクター LP250 手札0

モンスター ⑦ 冥府の使者ゴーズ ⑧ 冥府の使者カイエントークン

      ⑨ 神獣王バルバロス

魔法罠 伏せ1

 

(ヴィクター)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ ⑨ ⑦ ⑧ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

⑤ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊矢)

 

 

「……さあ、ご注目! このドローが運命を決める! 見事逆転できたら、盛大な声援と拍手をお願いします!」

 

遊矢は最後の自分のターンになることを予期し、カードを引く。

 

 

ターン6

 

「何かを変えたかったら、恐れず一歩前に出る! 俺のターン、ドロー!」

 

遊矢はカードを引いた。

 

遊矢 LP50 手札1

モンスター

魔法罠 ⑤ 曲芸の魔術師

 

そして、表れる自然な笑み。それは勝利への布石を見つけた証。

 

「俺のフィールドにモンスターはいない。俺はスケール8の時読みの魔術師をペンデュラムスケールにセッティング!」

 

これにより、レベル3から7までのモンスターがペンデュラム召喚可能。

 

「てめえ、引きやがったな!」

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚! 再び戻ってこい! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」

 

遊矢のエースモンスターが再びフィールドに戻ってきた。

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃表示

ATK2500/DEF2000

 

再びのエースの帰還に、会場も大盛り上がり。

 

「へえ、まさかまた呼ぶとはな。けど、冥府の使者ゴーズは倒せないぜ?」

 

「いいや、彼を倒す必要はない」

 

「……そうだな」

 

ヴィクターも納得する遊矢の勝利への布石。それは、まさに幸運も加味されているだろう。先ほどのターンで神獣王バルバロスが召喚されていなければ、ここでオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを出しても勝つことはできなかった。

 

攻撃力を1900に下げてまで召喚したことがむしろ遊矢に勝利のチャンスを与えたのだ。

 

「さあ、最後のバトルフェイズだ! 皆さん一緒に、攻撃のコールをお願いします!」

 

遊矢は会場全体を巻き込んで、フィニッシュアタックを最高潮に盛り上げる。

 

「エンタメデュエリスト、そう言えばこの神殿にアクションマジックはないのか?」

 

「なかったよ。読みが外れた」

 

「そうか――」

 

ヴィクターは目を閉じる。

 

そして遊矢が最後の攻撃を放つ。

 

「バトル! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで、神獣王バルバロスを攻撃! 時読みの魔術師の効果で自分のペンデュラムモンスターが先頭を行うとき、相手は罠カードを発動できない!」

 

これで伏せカードを封じることができる。確信した遊矢が、己の竜の技名を叫ぶ。

 

そして会場の観客も一緒になって、その技は宣言される。

 

「螺旋のストライクバースト!」

 

バルバロスに向けて、螺旋の火炎が放たれる!

 

ヴィクターは最後に言った。

 

「――ああ。安心した」

 

安心。この状況でおかしな言葉、遊矢は驚きで目を見開く。

 

「まさか……ここまで綺麗に引っかかるとは思わなかったぜ!」

 

とまるでこの状態から勝とうと宣言する。

 

「時読みの魔術師の効果でトラップは」

 

「罠だろ? なら……魔法なら発動できるよな?」

 

「な……!」

 

ヴィクターは先ほど伏せたカードを発動した。

 

「速攻魔法! 『禁じられた聖杯』! フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が400アップし、効果は無効化される。俺は、神獣王バルバロスを対象に発動!」

 

「なるほど、それで、攻撃力を2300まであげるわけか」

 

「いいや、攻撃力は3400まで上昇する」

 

「な……」

 

エリーがここまでの話について行けず解説のマイケルに理由を問う。さすがにマイケルはヴィクターの真意を見抜いていた。

 

「バルバロスの妥協召喚で攻撃力が下がるのは自らの効果だ。それが無効になれば、奴の本来の攻撃力3000が適用される。そこに聖杯の力で400ポイントの上昇。何より、これほどの上昇量のくせして、突進と同じタイミングで使えるんだから、引っかかったときは恐ろしいぜ」

 

「なるほど……」

 

戦場で、ヴィクターはもはや止められない攻撃をする遊矢に叫ぶ。

 

「俺はちゃんと警告したはずだ。『冥府の使者ゴーズは倒せないぜ?』ってな。俺もデュエリストだ。あそこでわざわざそんなこと言わねえよ。バルバロスに攻撃が来ることぐらいわかってた」

 

「お前……」

 

「それでもあえて、言ってやったんだよ。バルバロスのことを忘れている間抜けみたいに演じれば、攻撃してくれるかもって。お前はあの時、相手がバルバロスであることを警戒すべきだった。そして可能性が欠片しかなくても、4枚目のアクションカードを探しに行くべきだった。自分の強みを視野に入れず、ここで攻撃宣言をしてしまったお前の負けだ」

 

神獣王バルバロスに聖杯の中身が注がれる。その瞬間、攻撃力が元に戻った獣王の威圧は、最初遊矢のフィールドすべて消し去ったとき以上に変貌する。

 

「もう戦闘の巻き戻しはできない、返り討ちだ! やれ、バルバロス!」

 

たった一瞬で予想された勝敗は逆転する。

 

遊矢は、その瞬間何も言うことはできなかった。

 

(負)オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK2500 VS 神獣王バルバロス ATK3400 (勝)

 

遊矢 LP50→0

 

 

 

「まだまだだな……俺も」

 

仰向けに倒れる遊矢。一方満足げな表情を浮かべるヴィクターは、唖然として彼を見守る観客に対し、まるで感謝を示すように、観客に向けて頭を下げる。

 

その瞬間。会場は大きく盛り上がった。

 

「すげえ!」

 

「まじか!」

 

「いいデュエルだった」

 

少し腕があれば、なんとも綱渡りなデュエルだったという者もいるだろう。しかし、遊矢がそれでも笑顔だったのは、会場が盛り上がったが故である。

 

「エンタメデュエリスト榊遊矢」

 

「なんだい?」

 

「まあ、悪くなかったぜ。たまには酔狂なことも必要だからな。俺の悪ノリによく合わせた」

 

「それはどうも」

 

「敗北者はさっさと舞台から降りろ。メインディッシュも待ってるんでね」

 

ヴィクターはそう言うと、遊介の方を向き、かかって来いと手招きする。

 

「エリアマスター! 新人がやられてるぞ。仇、とらねえのか? 軟弱者」

 

遊介を確実に目で捉えての挑発。

 

遊介は今のデュエルが大いに見ごたえがあったので、実はもう満足していたのだが、このまま逃げようとはしなかった。

 

何故なら、ここで逃げたら格好悪いから。

 

「遊介、どうするの?」

 

隣にいたブルームガールに問われた、その答えは、

 

「行ってくるよ」

 

迷いのない、エリアマスターとしての出陣だった。

 

目の前に遊介が立つ。ヴィクターはそれに大いに満足し、

 

「あの時のリベンジマッチだ。俺達のデュエルにアクションカードはいらないな?」

 

「ああ。勝つよ。お前に」

 

「いい顔だ。もとより、それが目的だからな」

 

遊介もまた、目の前に乱入者として、会場を大いに騒がせたヴィクターを倒したいと好奇心が沸いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめ、モンスターを手札に戻すなんてずりいぞ!」

 

「バトル、ファイアウォールドラゴンで、ダイレクトアタック!」

 

「この……くそったれぇ!」

 

 

 

 

 

 

ヴィクターとのデュエルの後は、エリアマスターや『players』のメンバーにデュエルが挑めるイベントが急遽開催された。そのせいで、遊介はその日、過去例に見ない疲労を負うことになった。

 

しかし後悔はしていない。光の世界に住む人々との交流は間違いなく楽しかった。

 

ブルームガールやマイケル、エリーなど、このような会を盛り上げ、一緒に楽しんだ仲間に感謝しながら、この日、久しぶりに、心の底から大いにエンジョイした。

 

イベントは終わり、ヴィクターが、今日乱入してきた理由を遊介に話す。

 

「ずいぶんノリノリだったな、ヴィクター」

 

「俺もプロを目指してる身だぜ。悪ノリすればあの程度はするさ」

 

ヴィクターはあくびをして、

 

「海堂セイトが探してたぜ。いい加減約束を果たせって」

 

と遊介にとって居ぬべき約束を思い出させる。

 

「お前、連れ戻しに来たのか?」

 

「そこまでの義理はねえよ。あいつとは前に別れてから会ってないし、連絡もとってねえ」

 

「連絡って、メンバーじゃなきゃ連絡も難しいだろ」

 

「あ? やっぱ知らねえのか? ちょうどいい、今日はこれを警告しに来たんだ」

 

ヴィクターは自分のデュエルディスクを、遊介に見せる。すると、そこには、

 

「ヴィクター、参加チーム、players、海堂コーポレーション……2つ?」

 

「そうだ。でもお前のディスク見てみ」

 

遊介のディスクに表示されているメンバーリスト。その中のヴィクターは、players所属としか書かれていない。

 

「これは……」

 

「チームは勝手に抜けれない。それは周知の事実だろ? だが、掛け持ちはできる」

 

それがどうした、と遊介が答えようとすると、

 

「スパイね」

 

ブルームガールが話に混じってきた。

 

「あたりだ。エリアマスターには表面上は、自分のチームに毒が入っている事は知らされない。だからまあ、警戒しておけ。せいぜい、仲間に裏切られて死ぬなんて無様、晒さないようにな」

 

遊介はふと、疑問を抱く。

 

「どうしてそんなこと教えてくれるんだよ」

 

「あ? 言ったろ、俺はお前が変貌するのを楽しみにしてるって、それまで死なれたら困るんだよ。だから、下らねえ理由で死なないようにするくらいは手伝ってやる」

 

ヴィクターは、当たり前だろ? という顔で遊介に己の目的を伝える。

 

「そう言えば、もう1つ依頼があるんだった。光の世界、今ピンチらしいじゃないか。そのために風の世界に行くとか」

 

「なんで知ってんだよ」

 

「榊遊矢が教えてくれたぜ?」

 

口止めをしていなかったことを、遊介は今になって少し後悔する。

 

「そこもまあ、交換条件で協力やるぜ」

 

ピンチというのは今開催されているイベントの話である。現在光の世界は最下位。このままではまずい。

 

「イリアステルの刺客が今各世界に侵攻を始めている。そいつを倒せば1人につき1500点だ。なら、光の世界は俺が守ってやる。お前らは風の世界に行って、そこのイリアステルを倒せ。そうすれば、5位にはなれる」

 

「交換条件は?」

 

「風の世界にいる情報屋から情報を買え。代金はお前ら持ちだ。情報が届いた時点で、俺は光の世界のためにイリアステルと戦ってやる」

 

「内容は?」

 

「神のカードが眠る場所だ」

 

 

 

ヴィクターは姿を消した。慣れ合う気はないのは確かなようで、光の世界にはいるものの、行動は共にしないとのこと。

 

しかし、思わぬ形でイベントを乗り切る手段が見つかったのは暁光と言える。

 

闇の世界でヴィクターとも、共に戦った仲として、等価交換であれば嘘をつかない、というヴィクターの唯一信頼できる点を見つけていたため、遊介はその話に乗ることにした。

 

これで風の世界に行く算段は整った。

 

「いよいよか……」

 

お祭り騒ぎが終わり、夜の風で火照った体を覚ましながら、月を眺める。

 

「お疲れ」

 

隣でブルームガールは、オレンジジュースを遊介に差し出した。

 

「みんなは?」

 

「疲れたって言って寝ちゃったよ」

 

「そうか」

 

差し出されたオレンジジュースを受け取って一口飲む。

 

「これは……」

 

「私のおすすめ。どう?」

 

「ああ。おいしいよ」

 

遊介は微笑んで再び空を見上げた。

 

「あー、楽しかったね。今日」

 

ブルームガールが言った。

 

遊介はそれに、

 

「また、こんな日が来ると良いな」

 

と一言。

 

「会長。これからもよろしく」

 

少し語尾を濁したのは恥ずかしかったからか。それに、ブルームガールは応えた。

 

「ええ。任せて。私も頑張るから」

 

と、しっかりと答えた。

 

後ろから、マイケルがニヤニヤしながらのぞいているのを気づくことなく、2人はコップが空になるまで、話つづけた。

 

 

 

――後に、本当にずっとずっと後になって彼女が俺に見せてくれた日記の中に、この日のことが書かれていた。「今まで生きてきた中で、一番楽しかった。みんなと、ついでに遊介と、これからもずっと一緒にいたいなぁ」――




すみません。長くなってしまいました。
やはりデュエルは前後編分けるべきだったと反省しています。

デュエルはヴィクターの勝利です。
彼はとりあえず1勝ですね。デュエル内容は粗かったかもしれませんが、これくらい単純な方がエンタメデュエルとしてはいいのではないかと思いました。

番外編にお付き合いいただきありがとうございました!
1度こういうことをやってみたかったので、本編を待っている方には申し訳ありませんでしたが、無事に終えられたので、次回から本編に戻ります。

長い文章、お付き合いいただき、ありがとうございました!


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21話 ランサーズの試練

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

隙あらばヒロイン力を高めていきたいスタイル。


風の世界に行くのに準備期間を2週間要した。理由は、自分達が不在の間に、光の世界の防衛をどうするべきかという問題を抱えていたからだ。

 

風の世界には全員で行くのは確定的だった。遊介1人で行っては、万が一遊介が負けた場合、死ぬのは仲間の方になる。身代わりの選択はランダムなので、お留守番の中で死因も分からず死ぬことになるというのは、悲惨な最期の中でも群を抜くだろう。

 

しかし、チームメイトだけが行くというのもあり得ない。今回は風の世界のエリアマスターとの同盟の交渉なのだ。であるならば、少なくともエリアマスターが赴くのは礼儀というものである。

 

よって全員で行くことは確定的だったのだが、それでは光の防衛に問題がでる。

 

それを解決したのはヴィクターだった。自分からリスクを覚悟で、利のある交渉を持ち掛けてきた。風の世界での情報と等価交換で、光の世界を助けてくれるという。ヴィクターの真意は測りかねるものの、遊介にはこの条件に頼ることが唯一の問題の打開策だと思いその依頼を受けた。

 

これにより、風の世界へと赴くことができるようになったのである。

 

 

 

風の世界には地面がない。領土は空中。地面を必要とせず、人々は空をDボードで動き回りながら日常を過ごしている。しかし、大地の代わりに風の世界にはものすごく巨大な怪鳥が何匹かゆったりと飛び回り、人々はその怪鳥の上に文明を築き、街を形成しているのだ。

 

怪鳥は風の世界の中で8種類飛んでいて、その中でもDボードでは到達できないほどの高度で飛んでいる一番大きな鳥が、エリアマスターのいる大聖堂を背負う怪鳥アルス。その鳥に近づくときのみ、神の鳥シムルグに乗る必要があるため、特別な許可が必要になる。

 

数多くの人々がDボードに乗って飛び回り、怪鳥の上に街を築く。光の世界の浮島もそうだったが、ファンタジー感あふれるその光景に、この世界に足を踏み入れた光の世界一行は息を呑む。

 

あらかじめ風の世界についてある程度下調べはしたものの、残念ながら怪鳥アルスに向かう手段は調べがつかなかったた。また、ヴィクターが足した条件である情報屋も細かい場所までは分からず、情報屋についても現地で調べなければならなかった。

 

本来の目的であるエリアマスターとの会見を早々に終わらせて光の世界に戻りたいところである遊介。

 

「二手に分かれよう。アルスへ行く方法を調べる組と、情報屋を探す組。何か進展があったらその都度連絡ってことで」

 

遊介の提案に反対する者はいない。よって風の世界に入ってから『players』は二手に分かれた。

 

怪鳥アルスへの道を探すのは、遊介、ブルームガール、エリーの3人。そして、情報屋を探すのは、柚子、遊矢、マイケルの3人となった。

 

アルスへの道を探す遊介とブルームガール。その後ろをついてくるエリーはさっそく、一番近くの怪鳥へとDボードを走らせる。

 

「すごーい」

 

まるで子供のような感想を呟きながら、向かった先の街を上空から見下ろすブルームガール。しかし、大きな生き物の上に広がる街を見るとそこが巨大な生物の上だとは思わない。何より、街だけでなく、木々や花、そして岩と言った大自然も街の近くに存在するところを見ると、本当の大地の何ら遜色ない光景がそこに広がっているのだ。

 

怪鳥は時々羽ばたいているため翼がある方角から入ると、その巨大な翼で叩かれるため入るとは基本前方か後方からだと決まっている。その中で、街に直接は入れそうな後方から第1の怪鳥に潜入を試みた。

 

その街は木造建築を主とする一軒家が数多く並ぶ、田舎町という印象を受ける。しかし、寂れているわけではなく、人の往来は活発に行われ、食品や雑貨を売る露店が数多く並んでいる。

 

これはこれで面白そうだったが、風の世界の調査が今回は最優先のため、露店をスルーしようとする遊介。

 

しかし、女性陣はそうはいかない。

 

光の世界では見たことがない服、おいしそうなスイーツ。それらを見て好奇心を刺激されまくったあげく、歩くスピードがどんどんと落ちていく。

 

「……あの、少し見てく?」

 

そう提案した時の、ブルームガールの目の輝かせ方を遊介は忘れることはないだろう。

 

ブルームガールはエリーを連れて、様々な店に入っては店内を巡っていく。しかし、さすがに遊介に気を使っているのか、一つの店につき10分以内に品が決まらなければ次の店に行くというルールでお買い物をすることに。

 

そのおかげで普段よりはものすごく速いショッピングではあったが、いくら1軒10分とはいえ、20軒巡っていたら3時間以上かかる。

 

結局お昼になってしまい、なんの情報も得られずに、テラス席のあるおしゃれな飲食店に入った。

 

そこは、風の世界のインフォーメーションセンターと併設しているため、今までこの街を巡った甲斐があったというものだと、遊介は今までの街巡りを意味があったものでほっとしている。

 

実は今のお昼休みの1時間前にすでにマイケルからメールが入っている。情報屋を発見することができたそうで、チームのお金を使って紙のカードの場所とその他有益な情報を得たという情報が入っている。紙のカード、オベリスクの巨神兵は地の世界のどこかに封印されているらしい。また、サイバースの融合モンスターやシンクロモンスター、エクシーズモンスター、儀式モンスターが発見されたとか。

 

ブルームガールやエリーが楽しそうなところを見て、さすがに水を差す気にはなれなかったものの、マイケルのメールを見てからは、これ以上時間もかけていられないと思っていたところだ。有益な情報を得られそうな場所に着いたことに一安心した遊介は、昼食でなぜか大きなパフェを頼んだブルームガールと、巻き込まれながらも楽しみに待機するエリーを置いて、遊介は隣接しているインフォーメーションセンターへと赴く。

 

総合案内所で情報収集をする。怪鳥アルスはDボードでは行くことができないほどの高度とはいえ、エリアマスターの居城へと行くための手段としてはあまり秘密裏にはされていないはずだと、遊介は睨んでいた。

 

実際その通りで、調べてみると3通りほどの行き方が存在するという。

 

シムルグのレンタルは片道100万。頭がおかしいのではないかと思ったが、それは逆に、アルスは神聖な場所であるというのが風の世界では常識であることを示唆していて、エリアマスターは自分と違い他者との交流を進んで行うわけではないということが伺える。

 

「どうしたものか」

 

しかし、時間をあまりかけたくはないし金もない。

 

不本意ながら、その建物の受付を行っている男性に自己紹介をすることにした。

 

「光の世界のエリアマスターの遊介だ。風の世界のエリアマスターと話がしたい。どうすればいい?」

 

権力を振りかざすようであまり気は進まなかったものの、もしかすると要人となれば裏ルートが存在するかもしれない。その期待をもって遊介は自らエリアマスターであることを白状する。

 

すると、インフォーメーションセンターの受付の男性の表情が一変する。

 

「……要件は?」

 

ニコニコした顔から、恐ろしさを感じるほど険しい顔へ。

 

「同盟を組みたい」

 

「いま伝えてきます。昼食は?」

 

「まだとっていない」

 

「では、昼食の後、またこちらまで来てください。その間に、大聖堂へと連絡を通しておきます」

 

遊介はとりあえず、その受付の男に従うことにした。

 

飲食店に戻った遊介は、ブルームガールとエリーが待っている席へと足早に急ぐ。

 

1キロはあるだろう甘味を二人で頬張る姿は何とも愛らしい。

 

そして遊介が席に座ろうとした瞬間。

 

「二股……」

 

という、なんの根拠もない言葉は近くから聞こえてきたのも、気のせいではないのだ。

 

「マスター、どちらへ行っていたのですか?」

 

「ああ、隣の建物ですこし調べてきたんだ。エリアマスターへの道も何とか手立ては見つかりそうだよ」

 

「ごめんなさい、私たちだけ」

 

申し訳なさそうなエリーはまだいい方だと遊介はため息をつく。

 

「ご苦労様」

 

ブルームガールはスプーンに生クリームを乗せて差し出してくる。

 

「あーん」

 

まさか食べさせようとしているのか。その考えに至るまで遊介は5秒の時間を要する。そして理解した瞬間恥ずかしさのあまり拒絶しようと思ったが、さすがに先輩相手にそうもいかない。

 

自分の恥程度で仲間が満足してくれるならと、意を決してそのクリームを口に入れる。

 

美味なのは間違いない。しかし、それ以上に恥ずかしい。まるでカップルみたいなことをしてしまっていることに頭が熱で爆発しそうになっている。

 

そしてそれを見たエリーは、少し悩むと、なんとブルームガールの真似をしてきたのだ。

 

「あーん……です」

 

「エリー……?」

 

「その、マスターが嬉しそうだったので、私も微力ながらお手伝いをと……」

 

単に遊介に喜んでほしいという一心のエリー。それが理解できるほどには他人の心がわかる遊介。それを拒むこともできるはずはなく、ウェイターの男から、もてなす側がしてはいけない殺気を感じられるのもまた、気のせいではあるまい。

 

仕方なく、エリーから差し出されたのも食べる。

 

「ありがと」

 

「いいえ、私、もっとお役に立ちたいとおもっていますから」

 

近くでブルームガールがニヤニヤしながらこの状況を楽しんでいた様子も、遊介ははっきりと確認した。

 

 

 

遊介は連れの2人を案内しながら、先ほどの案内の通り、インフォーメーションセンターへと戻る。

 

先ほどの男性を探したが見当たらない。

 

「寂れているのかもね」

 

そんなことはないと遊介は思ったが、そこで先ほど訪れた時との違いに気が付く。

 

人がいない。

 

受付の人もいない。観光客や立ち寄っている客もいない。本当に誰もいない。

 

「皆さんお出かけ中でしょうか? もしくは休み?」

 

エリーがそんな推測をするが、それは間違いだ。先ほどセンター内を見回っていた遊介は、今日が営業日であること、従業員の数が十分いること、人がいなくなるようなタイミングがないほどにぎわっていることを間違いなく確認している。

 

「そんなはずは……」

 

首をフクロウがごとく傾げてみる。当然そんなことでこの謎を解明することはできない。

 

しかし、光明は自ら発見するばかりではなく、時に向こうからやってくることもある。

 

インフォーメーションセンターの扉が開き、一人の男が堂々と仁王立ちをしていた。

 

見ると後ろに神の鳥シムルグが降臨している。

 

「貴様か? 光の国の戦士と言うのは?」

 

「ああ」

 

そう問うその男は、自らが風の世界のエリアマスターに通じるものだと自白しているようなものである。

 

随分と太い声をしたその男。巨体であり、鍛え上げられている体があることを、服をフル装備している状態からでも察することができるレベルであるが、声が成人男性に比べ少し迫力が足りない。まだ未成年だと見受けられる。

 

「俺は風世界のエリアマスターが要するデュエリスト組織、ランサーズ所属の者だ」

 

ランサーズ、遊介はどこかで聞いたような、という程度にしか覚えていない名前だった。

 

「ランサーズ……」

 

「光の世界の噂は聞いている。なかなかに悪くない世界だ。俺も実際に行ったことはないが、噂で流れてくる話だけでも、お前達がいい人間であることは察することはできる」

 

そう言われると悪い気がしないが、それだけでは収まらないことを、その男は険しい表情で示していた。

 

「俺達ランサーズは、光の世界との同盟を結ぶのは悪くないと思っている。俺達のリーダーであるエリアマスターもそう言っているところだ」

 

しかし、その男はこちらを睨んで来る。

 

「だが、ただで同盟と言うわけにはいかない」

 

それはもちろんだろう。さすがにそれは遊介も覚悟している。光の世界からは戦力となるデュエリストを貸し出すなどはできないが、できる限りの事はするつもりだった。

 

「じゃあ、どうしろって?」

 

「俺達ランサーズの目的、お前は知っているか?」

 

「……いいや」

 

「イリアステルの討伐。俺達ランサーズは、各世界でイリアステルに故郷を滅ぼされた人間を集め、他の世界にその危害が及ばないようにするためにイリアステルと戦うことを目的としたデュエリスト集団。風の世界は俺達の本拠地。その風の世界と同盟を組むからには、貴様らにもイリアステルと戦う意思がなければならないということだ。そしてそれを語るに十分な強さがあることも」

 

「つまり、どうしろと?」

 

「俺と戦え。俺に負けるようなエリアマスターと同盟は組まない。俺達のエリアマスター、赤馬零児はそう言っていた。そして、俺もそれには同意する。弱い者は淘汰される以上、俺たちの戦いに、俺より弱い者を巻き込むことはできん」

 

同盟を組む条件は、まさかのデュエルだった。

 

遊介は驚いたが、よく考えるとここはデュエルの腕がものを言う世界。確かな実力を示せない人間に信用はおかれないのも納得である。

 

そして、デュエルとなれば、遊介に断る理由はない。

 

「分かった。なら、俺が相手になればいいんだな?」

 

「無論! 表に出ろ!」

 

男は背中を向け、この建物の外へと誘う。

 

遊介はデュエルディスクをセットし、デッキの最終確認を行うべく、デュエルディスクの画面を覗いた。しかし、その瞬間を見計らって、遊介よりも先に外に駆け出す人間がいるとは思いもしなかった。

 

「ちょっと、エリー?」

 

ブルームガールの驚いた声でようやく気が付いた遊介は、エリーがすでに自分より前に出ていることを認識する。

 

「エリー、何を」

 

デュエルを受ける気満々だった遊介は、エリーに向かって疑問を投げかける。しかし、エリーは申し訳なさそうな顔は微塵も見せず、むしろデュエルを挑んできた男を睨む。

 

「エリアマスターのデュエルは神聖なデュエルです。あなたのような名乗りも上げない男の相手をする程度の御方ではありません。従者である私が相手になります」

 

まさかの宣戦布告。

 

確かにエリーにとっては、光の世界のエリアマスターである遊介の存在は大きい。しかし、以前はこれほどに激しい自己主張を行うことはなかった。

 

「従者?」

 

「はい。私はエリーと申します。偉大な光の世界のエリアマスターの一番弟子でもあります」

 

そんなことにした覚えはないのだが、と今度は本気で首をフクロウが如くひねる遊介。しかし、決して悪い気はしない。遊介はこの行動にすこし納得した。以前から彼女は、エリアマスターの自分の役に立ちたいと公言し、何度も有言実行してきた。遊介はそれだけでとっても助かっていると思っているのだが、遊介から見てエリーはまだまだ満足いっていないような様子に見えることもあった。

 

遊介の予想では、エリーは明確な戦果を挙げていないことを気にしているのではないか、と思っている。

 

実際雑務などは積極的に行っているものの、エリーはチームの手伝いを自分の手柄ではなく、自分を救ってくれた人たちのために果たすべき義務と思っている節が強く、役に立つというのが義務の遂行だけで満足するのではなく、そのうえで確かな成果を挙げることだと思っていた。そのために、強者を倒し、自分も役に立つのだと証明できるまでは満足しなかったのである。

 

故に、このタイミングはエリーにとって、まさに絶好のアピールポイントなのである。

 

「マスターは私よりも数段強いです。私に後れを取る人間に、マスターは倒せません。先に私を倒しなさい!」

 

「……その覚悟、しかと受け取った。では、先にお前を倒し、エリアマスターの実力を測る! 構えるがいい!」

 

男もそのデュエルに乗り気になりデュエルディスクを構えた。

 

エリーはここで初めて遊介の方を向く。

 

「ここは、私がやります」

 

「でも、いいのか?」

 

「はい。私だって闇の世界で、マスターと一緒に生き残ってきました。これからは私もお手伝いします。私も、もう足手まといにはなりません!」

 

ブルームガールは目を輝かせているのは、愛すべき妹分の彼女が頼もしく成長した、と言う姉心を爆発させているからである。

 

そして遊介もまた、最初に出会った頃に比べ、自分達の仲間として生き生きとしているエリーを見て、少し嬉しくなった。

 

「分かった」

 

エリーが意気込んでいるところを邪魔してまで自分が戦う理由はない。遊介はそう思い、ランサーズの男に念のためこのデュエルのルールを問う。

 

「当然このデュエル、賭けはなしだな?」

 

「いかにも! これは試練であり、命の奪い合いにあらず。であるならば、LPを賭ける理由もなし。存分に力を発揮できるというものだ」

 

「分かった。お前がいいなら、先にエリーとやってもらうぞ」

 

「構わん」

 

ランサーズの男は、デュエルディスクを構えたエリーに叫ぶ。

 

「来い! 光の世界のデュエリスト! ランサーズの鉄壁の武者。権現坂昇が相手になる!」

 

「はい。よろしくお願いします!」

 

デュエルのルールはマスターデュエル。つまり、実力勝負。

 

エリーは闇の世界に行く前、ブルームガールを相手に手も足も出なかったという。それを本人から聞いた遊介は、ランサーズを相手に今の彼女がどれほど強くなったのか、少し楽しみになった。

 

エリーの試練のデュエルが始まる。

 

「デュエル」

「デュエル!」

 

エリー LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

権現坂 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(権現坂)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(エリー)

 

 

デュエルが始まった途端、エリーは感じる。

 

権現坂昇という男は強いと。

 

あふれ出る闘気は激しい戦いを何度も潜り抜けた証。闇の世界の多くの実力者を凌駕する覇気。

 

しかし、エリーには、先ほどまでの自分の意識を翻す気は全くない

 

勝利。ただそれだけを見据える。

 

 

ターン1 

 

 

「これはお前を試す戦い。俺の流儀ではないが、あえてここは先攻をもらう。俺の刺客を倒して見せろ!」

 

先行は権現坂と名乗った巨漢。

 

「俺はスケール1の超重輝将ヒス―Eとスケール8の超重輝将サン―5でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

ペンデュラムゾーンに現れたモンスターは、ロボットであるが外見は武者の姿をしている。権現坂が使うのは、そのような外見を持つモンスターシリーズ。その名を超重武者。

 

「これにより、レベルが2から7までのモンスターが同時に召喚可能!」

 

ペンデュラム召喚の強みは既にエリーは見たことがある。どのようなモンスターが来るか分からないものの、警戒レベルを高める。

 

権現坂は手札から2枚のカードを取った。

 

「争乱の世。そこに生きる命懸けの武者たち。天に描かれた戦いの狼煙を望み、新たな戦いの地へ降臨せよ! ペンデュラム召喚! 出でよ! 超重武者ダイ―8、超重武者コブ―C!」

 

天に描かれた光の軌跡、その中央から2体の武者が馳せ参じる。

 

超重武者ダイ―8 守備表示 レベル4

ATK1200/DEF1800

 

超重武者コブ―C 守備表示 レベル4

ATK900/DEF900

 

権現坂はこれに満足せず、さらに武者たちの力を使う。

 

「超重武者ダイ―8の効果! 自分の墓地に魔法、罠カードがないときに、このカードを攻撃表示にする! そしてデッキから「超重武者装留」モンスター1体を手札に加える!」

 

超重武者ダイ-8 守備表示→攻撃表示

 

「俺はデッキから超重武者装留マカルガエシを手札に加える!」

 

最初は壁を作ってターンエンドか。エリーはここまでのデュエルにそう判断し、手札を見た。最初の攻撃をどうするかを決めるために。

 

しかし、権現坂はそう甘い男ではない。この程度ではなかった。

 

「そして今召喚したモンスター2体をリリース! 超重武者の主将をアドバンス召喚する! 出でよ、超重武者ビックベン―K!」

 

2体の超重武者は天高く跳躍する。そしてその2体が飛んだ先から降臨する、巨大な1体の超重武者の武将。その剛体をもって巨大な武器を振り回す強剛な敵がエリーの前に立ちはだかった。

 

超重武者ビックベン―K 攻撃表示 レベル8

ATK1000/DEF3500

 

「攻撃力は1000……」

 

権現坂は数値を見て油断したエリーのつぶやきを即座に否定する。

 

「否、このカードが召喚に成功した時、このカードの表示形式を変更する!」

 

「え……」

 

超重武者ビックベン―K 攻撃表示→守備表示

 

守備表示になった瞬間、エリーの前に立ちはだかる壁は3500という、ドラゴンでも易々と超えられない数値を持った壁だった。

 

「うわ……」

 

果たして自分に、その壁を超えられるか。

 

すこし怖気ついたエリーに権現坂は叫んだ。

 

「さあ、光の世界の戦士よ。お前がエリアマスターの代わりを果たすというのなら、見事このベン―Kを超えてみろ!」




ちょっと短いですが今回はここまでです。デュエルは次回1話に丸ごと入れたいと思います。

投稿が遅くなり申し訳ありません。先週は短編小説のコンテスト用の小説を書いていたため、こちらにあまり力を注げませんでした。

次回はエリーちゃんと権現坂のデュエルになります。ランサーズの登場はかねてから
予定していましたが、やはりアニメが終わって1年以上たつとどんなキャラだったか忘れてしまっています。

一応、時間の許す限り復習したつもりですが、なにか間違いがあればご容赦いただければと思います。

(アニメ風次回予告)

鉄壁の武者の守りの構えからの猛攻。圧倒的なまでの一撃をもろにうけてなお、エリーは歯を食いしばって立ち上がる。その心に宿っているのは、自分を救ってくれた多くの仲間への感謝の念と、遠すぎる彼らへのあこがれ。今、彼らに追いつくための一歩を踏み出す!


次回 遊戯王VRAINS~『もう一人のLINKVRAINSの英雄』~

   「光の世界の天使」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!


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22話 光の世界の天使

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

オリジナルカード2枚でます。

「超重武者装留シールド・ガントレット」
効果モンスター
星1/地属性/機械族/攻 0/守 400
①自分メインフェイズに自分フィールドの「超重武者」モンスター1体を対象として発動できる。自分の手札・フィールドからこのモンスターを装備カード扱いとしてその自分のモンスターに装備する。②自分の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、このカードを装備している「超重武者」モンスターが自分フィールド上に存在するとき、自分のターンのメインフェイズの間およびバトルフェイズの間、相手は罠カードを発動できない。

「光の守護天使 ヴァルハミレニア」
LINK4 (リンクマーカー 上 右上 左上 下)
光属性/天使族/攻 2500
天使族モンスター4体
①1ターンに1度、墓地の天使族モンスター1体を除外し、このカードのリンク先にいるモンスターの攻撃力、守備力は除外したモンスターの攻撃力分だけダウンする。この効果は相手ターンでも発動できる。②自分フィールド上の天使族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、攻撃力の数値が相手の守備力の数値を超えた分だけ、相手に戦闘ダメージを与える。③このカードがフィールドに存在する限り、自分フィールド上の天使族モンスターは効果では破壊されない。


権現坂 LP4000 手札1

モンスター ① 超重武者ビックベン―K 

魔法罠 ② 超重輝将サン―5 ③ 超重輝将ヒス―E

 

(権現坂)

② □ □ □ ③   魔法罠ゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(エリー)

 

 

ターンエンドの宣言はしていないものの、すでに迎え撃つ構えでエリーを見る権現坂。それを宣言の代わりとみなし、エリーは自らのターンを迎える。

 

「守備力3500……」

 

相手フィールドに堂々たる構えで立つ弁慶を見て、険しい表情をエリーは見せていた。

 

「臆したか?」

 

「まさか、この程度で恐れを抱くのであれば、私はここまでついてきてはいません」

 

 

ターン2

 

「私のターン、ドロー!」

 

エリーは声高らかに自身のターンを宣言した。

 

エリー 手札6 LP4000

モンスター

魔法罠

 

今引いたカードを徐に墓地へ送る。

 

「手札のヘカテリスを墓地へ送り、デッキから『神の居城―ヴァルハラ』を手札に加える」

 

そして手札に加えたカードを迷うことなく発動した。

 

「そして永続魔法『神の居城―ヴァルハラ』を発動」

 

「む……」

 

そのカードを見て権現坂が反応を示す。このカードに馴染みがあるような反応に見えた。

 

「そのカードは……」

 

「神の居城ヴァルハラは、私のフィールドにモンスターが居ないとき、手札の天使族モンスター1体を特殊召喚できる! 私は手札の、ヴィーナスを特殊召喚する!」

 

「ヴィーナス?」

 

エリーが召喚の宣言をした瞬間、天上に眩い光が迸る。そして威厳をもって舞い降りたのは白い翼、金の鎧を併せ持つ圧倒的な存在感を持った大天使。

 

The splendid VENUS レベル8 攻撃表示

ATK2800/DEF2400

 

「これは……」

 

最初から様子見をすることなく、上級天使の中でもかなり強力な大天使を呼び出したところ、エリーの本気度が窺える。

 

「ヴィーナスの効果! このカードがモンスターゾーンにいる限り、フィールド上の天使族以外のモンスターの攻撃力、守備力は500ポイントダウンします!」

 

超重武者ビックベン―K DEF3500→3000

 

「ほう……」

 

感心したような声を上げる権現坂。しかし、まだ自身のモンスターを破壊される段階ではないからか、まだ表情一つ変えない。

 

エリーもそれが分かっている。そして、ヴィーナスを呼んだのは威嚇のためではなく、当然目の前のモンスターを倒すためである。

 

「私は奇跡の代行者、ジュピターを召喚!」

 

次のエリーが呼び出したのは、興じんな肉体を持った天使。猛スピードで天上から舞い降りた。

 

奇跡の代行者 ジュピター レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF1000

 

「さらに私は魔法カード『おろかな埋葬』を発動。デッキから英知の代行者マーキュリーを墓地へ送ります!」

 

唐突に発動した今の魔法は単純に手札にあったから発動したわけではない。必要があったから発動したのである。

 

「そしてジュピターの効果を発動します。墓地の代行者モンスター1体をゲームから除外して、自分フィールドの天使族光属性モンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで800ポイントアップします! 私は、ヴィーナスの攻撃r力を800ポイントアップします」

 

ジュピターの効果により、ヴィーナスの力がさらに増幅する。

 

The splendid VENUS ATK2800→3600

 

「ほう……」

 

自身の武将の攻撃力を超える天使を前にしても、決して動じない権現坂。

 

何かあるのか、そう思うエリーだったが、それでも攻めなければ超えられない。

 

「バトル!」

 

エリーは自身が呼び出した大天使に攻撃を命じる。自身が天使たちを扱う女神の如く、自身の使いに命令を下した。

 

「ヴィーナス! 超重武者ビックベン―Kを攻撃! ホーリー・フェザー・シャワー!」

 

上昇し、金星の名を冠するプラネットシリーズの大天使が、一帯を眩い光で包み込む。光と共に放たれた翼の刃が光と一体化しているが故に、認知できぬまま、将軍はいつの間にか刃で貫かれ死に至る。

 

(勝)The splendid VENUS ATK3600 VS 超重武者ビックベン―K DEF3000(負)

 

相手は守備表示のため、この戦闘によってダメージは通らないものの、相手の将軍は消え去った。これにより、権現坂のモンスターはいなくなる。

 

次にダイレクトアタックをすれば確かな一撃となるだろう。

 

しかし。

 

権現坂は当然そのままで攻撃を通すわけもなく、

 

「俺は超重武者装留マカルガエシの効果を発動。守備表示モンスターが破壊され、墓地へ送られた時、このカードを手札から墓地へ送って発動。破壊されたモンスターを攻撃表示で特殊召喚できる。俺はビックベン―Kを特殊召喚! そして特殊召喚されたビックベン―Kは表示形式を変更できる!」

 

たった今、エリーが策を講じて破壊したモンスターがすぐに蘇る。

 

超重武者ビックベン―K レベル8 守備表示

ATK1000/DEF3500

 

「そんな……」

 

ヴィーナスの効果で守備力はさがるものの、

 

超重武者ビックベン―K DEF3500→3000

 

これでは続けて攻撃を行うことはできない。

 

エリーはこのターンの攻撃を諦めるしかなく、

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

自身のターンを終了せざるを得なかった。

 

「良い攻撃だった」

 

権現坂の言葉に、返す言葉をエリーは見つけられなかった。エンドフェイズに入り、ヴィーナスの攻撃力は元に戻る。

 

The splendid VENUS ATK3600→2800

 

エリー LP4000 手札1

モンスター ④ The splendid VENUS ⑤ 奇跡の代行者 ジュピター

魔法罠 ⑥ 神の居城ヴァルハラ 伏せ1

 

(権現坂)

② □ □ □ ③   魔法罠ゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ④ ⑤ □   メインモンスターゾーン

□ □ ⑥ ■ □   魔法罠ゾーン

(エリー)

 

 

 

ターン3

 

 

「だが、その程度の攻撃でこの俺のモンスターを破壊することはできん。まだまだお前を認めるわけにはいかんな」

 

「く……」

 

「さあ、今度はこちらの攻撃だ。俺のターン!」

 

権現坂は刀を抜刀するかのごとく、デッキからカードをドローする。

 

 

権現坂 LP4000 手札1

モンスター ① 超重武者ビックベン―K 

魔法罠 ② 超重輝将サン―5 ③ 超重輝将ヒス―E

 

 

今引いたモンスターを見て、権現坂は迷わずそのカードを使う。

 

「俺は超重武者装留シールドガントレットをフィールドのビックベン―Kに装備する!」

 

装備したのは、ビックベン―Kを強化するモンスターカードでありながらの装備カード。

 

「このカードを装備している限り、お前は俺のメインフェイズとバトルフェイズ中、罠を発動できない!」

 

「……そうですか」

 

弱みを見せなかったが、内心はエリーは焦っている。エリーが伏せていたのは、『次元幽閉』攻撃してきた相手を除外して、この状況を好転させる予定だったのだ。

 

「では、行くぞ!」

 

権現坂はそんなエリーの抵抗をものともせず、自らの弁慶に命じる。

 

「バトルだ!」

 

権現坂は大きな声で宣言する。

 

しかし、おかしい。権現坂のモンスターには守備表示モンスターしか存在しない。

 

「どうやって」

 

「当然ビックベン―Kでだ。超重武者は守備表示のまま守備力の数値を使って攻撃ができる!」

 

「え……」

 

さすがのエリーも、ルールを根本から無視したモンスターの存在に驚きを隠せなかった。

 

「ビックベン―Kで、貴様のヴィーナスに攻撃!」

 

ビックベン―Kはビックベン―Kは高く飛び上がった。そして墜落と共に、浮いている天使に向かい己の武器と己をぶつける。落下スピードはすさまじく、天使を容赦なく地面に叩きつけた。

 

(勝)超重武者ビックベン―K DEF3000 VS The splendid VENUS ATK2800(負)

 

風圧がエリーに襲い掛かる。

 

「うう……」

 

エリー LP4000→3800

 

攻撃は終わ――、

 

「まだだ! 俺はペンデュラムスケールのサン―5の効果を発動する! 超重武者が相手モンスターを破壊した時、もう1度だけ続けて攻撃ができる!」

 

「え……」

 

ヴィーナスが消えたことで、ビックベン―Kの攻撃力は元に戻っている。

 

超重武者ビックベン―K ATK3000→3500

 

「バトルだ、続けてジュピターに攻撃!」

 

ベン―Kは地面に拳を叩きつけ、凄まじい暴風と自揺れを起こす。暴風は並みの暴力を超えた衝撃をエリーに与え、彼女を庇ったジュピターは遥か先へと飛んで行った。

 

(勝)超重武者ビックベン―K DEF3500 VS 奇跡の代行者 ジュピター ATK1800(負)

 

エリー LP3800→2100

 

「く……」

 

モンスターの全滅、そしてLPの減少。自身に線る危機に焦りを覚える。

 

ペンデュラムモンスターの効果により、毎ターン迫る2回の攻撃をこれ以上潜り抜けるだけの方法をエリーは現状持ち合わせない。

 

「どうした、浮かない顔だな?」

 

権現坂はエリーに問う。

 

「この程度で音を上げているようでは話にならんぞ」

 

「当然、その覚悟はあります」

 

「ならば疾くベン―Kを倒せ。それができなければ、俺が次のターン、貴様を葬り去る」

 

このままでは権現坂の言う通りになってしまう。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

権現坂はエリーをまっすぐ見つめ、ターンの終了を宣言した。

 

権現坂 LP4000 手札1

モンスター ① 超重武者ビックベン―K 

魔法罠 ② 超重輝将サン―5 ③ 超重輝将ヒス―E 

    ⑦ 超重武者装留シールド・ガントレット

 

 

(権現坂)

② □ ⑦ □ ③   魔法罠ゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ⑥ ■ □   魔法罠ゾーン

(エリー)

 

 

 

「大丈夫かしら……」

 

そばでエリーの戦いを見守るブルームガールと遊介。

 

この状況、一見権現坂がビックベン―Kを倒されれば終わりという劣勢に見えるが、今後の展開はエリーの手札によるものだと考えている。

 

それでも、デッキをオールモンスターでここまでのデュエルに仕上げるあたり、決して弱くはない。エリーには厳しい相手だったかと遊介は任せた自分を責めそうになった。

 

しかし、それが彼女に失礼なことであると思い出す。

 

今自分がすることは彼女を信じること。自分たちのために体を張って戦っている彼女の勝利を信じることだ。遊介はそう考えなおす。

 

このように戦うことを望んだのは彼女なのだから、その覚悟を受け止め、見守るのもまた。

 

「信じよう。それも仲間としての務めだ」

 

「……そうね」

 

 

 

エリーは目の前にそびえ立つ大きな壁を見る。

 

かつて、弱かった自分では、とてもではないが超えられない壁。

 

しかし、今のエリーは違う。本物のヒーローと出会えた今は、その勇気を見習い、自分が守りたいものを自分で守りたいと、憧れの背中を見ながら、そう憧れた。

 

そして、いつまでも憧れではいけない。

 

この状況を打破するカードを手にするため、エリーは祈った。

 

己のデッキに、勝利を。

 

 

ターン4

 

 

「私のターン……ドロー!」

 

エリー LP4000 手札2

モンスター

魔法罠 ⑥ 神の居城 ヴァルハラ 伏せ1

 

カードを引く。

 

そのカードを見る。

 

引いたのはレベル3の弱小モンスターだった。

 

しかし、それは確かに希望の1枚だった。

 

「私のフィールドにモンスターはいません。私は、神の居城ヴァルハラの効果で、アテナを特殊召喚!」

 

始めに呼んだのは、こちらも麗しき聖女たる高レベルの天使族。

 

アテナ レベル7 攻撃表示

ATK2600/DEF800

 

強力なモンスターではあるが、このモンスターでは、届かない。

 

しかし、本命はこちらではない。

 

「創造の代行者、ヴィーナスを召喚!」

 

創造の代行者 ヴィーナス レベル3 攻撃表示

ATK1600/DEF0

 

「代行者ヴィーナスの効果! 500LPを支払い、自分の手札、もしくはデッキから神聖なる球体1対を特殊召喚します! 私は3回支払い、3体の球体を特殊召喚します!」

 

自身の命を削ることをいとわず、エリーは最後の希望を呼び出す。

 

エリー LP2100→600

 

神聖なる球体(ホーリーシャイン・ボール) レベル2 攻撃表示

ATK500/DEF500

 

神聖なる球体(ホーリーシャイン・ボール) レベル2 攻撃表示

ATK500/DEF500

 

神聖なる球体(ホーリーシャイン・ボール) レベル2 攻撃表示

ATK500/DEF500

 

フィールドにエリーが呼び出した4体のモンスター。

 

壁を作るわけでもない。全員攻撃表示だ。もとより、そのような生ぬるいことは考えていない。

 

エリーの目は既に、目の前の巨大な武将を倒すことだけに向いている。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

その掛け声は、彼女にとってのヒーローの真似だったが、生半可な覚悟で使っているつもりはない。

 

「私は、フィールドに存在する4体の天使族モンスターをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

上空に現れた召喚のサーキットに、4体の天使が飛び込んだ。

 

「光の、人々の希望を守る天からの守護者! リンク4、光の守護天使 ヴァルハミレニア!」

 

眩い金色の塔が顕現する。そしてその中に降臨した天使は、エリーのエースモンスター。金色の塔が薄れると共に、

 

「うわあ、綺麗」

 

ブルームガールが総評する、大きな六の翼と、金色の鎧を纏った天使の騎士がその姿を現す。

 

光の守護天使 ヴァルハミレニア

リンクマーカー 上 右上 左上 下

ATK2500/LINK4

 

「ほう……、新たな刺客か。だが、それでどうやってベン―Kを超える?」

 

興味がそそられたのか、権現坂は問いを投げる。

 

エリーの答えはこうだ。

 

「もちろん、この天使で」

 

エリーは呼び出した自身のエースの効果を躊躇うことなく発揮する。

 

「ヴァルハミレニアの効果を発動します! 墓地の天使族モンスターを除外し、このモンスターのリンク先に存在するモンスターの攻撃力と守備力を、効果で除外した天使族の攻撃力分だけダウンさせます!」

 

「ぬ……」

 

「私は、レベル8のザ、スプレンディットヴィーナスを除外し、ビックベン―Kの守備力を2800ダウンさせます! シャインオブプライド!」

 

天使の騎士は自身の剣を抜き放ち、その先端から集束させた光を解き放った。白いレーザーはビックベン―Kの脚を確実に貫き、その武者の仁王立ちを崩した。

 

超重武者ビックベン―K DEF3500→700

 

「ぬお……そんな効果が」

 

ようやく表情に変化を見せた権現坂。当然の反応と言えるだろう。己の武将がこれほどまで弱体化しているのだから。

 

そして、権現坂はその表情を驚きに変化させることになる。

 

それはエリーのバトルの宣言と共に言われた、一言によるものだった。

 

「バトルフェイズ。ヴァルハミレニアの効果で、フィールド上の天使族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える!」

 

「なに!」

 

即ち、守備表示であるが故の戦闘ダメージ0が通じない。攻撃表示の時と同じようにダメージが通ることになる。超重武者の強みを潰す効果だ。

 

「私はアテナで、超重武者ビックベン―Kを攻撃!」

 

聖女は己の聖なる武器をもって、相手の武者へと向かう。迎え撃とうとする武者だが、先ほど脚に穿たれた穴によってまともな構えを取ることはできない。敗北は必須だった。

 

(勝)アテナ ATK2600 VS 超重武者ビックベン―K DEF700

 

「ぐおおお……!」

 

権現坂 LP4000→2100

 

戦闘ダメージをまともに受ける権現坂の周りの地面には、白の魔法陣が描かれた。

 

それこそ、ヴァルハミレニアの攻撃。エリーのエースたる守護天使が落とす、神の雷。

 

「光の守護天使ヴァルハミレニアで、権現坂さんへダイレクトアタック!」

 

「これは……むう」

 

権現坂にこの攻撃を防ぐ手段はない。

 

故に選んだのは、ビックベン―Kと同じ、仁王立ちだった。

 

「……来い! この一撃、俺は逃げも隠れもしない!」

 

覚悟を決めた目で最後まで堂々たる姿を見せた相手に、エリーは最上の敬意をもって、攻撃の合図を言い放った。

 

「ヴァル・インティグレイ!」

 

魔法陣に向かって、蒼の雷が降り注いだ!

 

ギュアアアアア!

 

風の世界の巨大な怪鳥をも唸らせる雷を、

 

「うおおおおおおあああああああ!」

 

権現坂は、己の宣言通り逃げずに受けきったのだった。

 

 

権現坂 LP2100→0

 

 

 

 

デュエルが終わり、若干ふらつく権現坂、しかしエリーの前に歩み寄り、

 

「見事なデュエルだった」

 

握手を求める。エリーはそれに確かに応えた。

 

「お相手、ありがとうございました!」

 

「こちらこそ。楽しいデュエルだった。礼を言う。機会があればまた相手になってくれ!」

 

「はい、喜んで!」

 

最近はいろいろと冷や冷やするデュエルが多かったため、遊介はこのようにデュエルで親睦を深める様子を見られたことが嬉しかった。

 

やはり、デュエルは人にいい結果をもたらす娯楽であることを再認識した。

 

そして、遊介は何よりエリーが勝ったことが純粋に嬉しかった。

 

「お疲れ、エリー」

 

ブルームガールがいち早く歩み寄り、頭をなでなでする。

 

「うわあ、やめてください、恥ずかしいです」

 

と言いながらエリーは遊介を見る。

 

「いいデュエルだったよ」

 

遊介がニコニコしながらそう評価したことが、エリーにとってとても嬉しいものだった。

 

「いやあ、負けた負けた。これは痛快だったな」

 

自身のデュエルを顧みる権現坂に、

 

「じゃあ、これで俺らの強さには納得してもらえたか?」

 

遊介が問う。

 

「ああ、とりあえずは納得した。これくらいの腕があれば、紹介しても問題あるまい。すぐに案内しよう」

 

「怪鳥アルスにか?」

 

「ああ、そこの大聖堂で、俺たちのリーダー、赤馬零児が待っている」

 

権現坂は遊介に、大聖堂へ連れていくという確約をした。

 

これで道は拓けた。

 

「ああ、ありがとう」

 

権現坂に礼を言い、すぐに仲間に知らせようとする遊介。

 

その時、

 

「権現坂……?」

 

少し離れたところから遊矢の声を、遊介は聞く。

 

既に、二手に分かれたもう一方の組が、こちらに来ていたようだった。

 

「ああ、遊矢……」

 

すぐに事情を説明しようと、遊介は手招きで遊矢を呼ぼうとした。

 

しかし、それは阻まれることになる。

 

「遊矢、遊矢なのか……!」

 

なんと、権現坂の目が急にうるうるし始めたのだ。

 

「ゆううううううううやあああああああああ!」

 

そして、権現坂は鉄の下駄をはいているとは思えない速さで走り始め、遊矢の元へ。

 

そして、遊矢に、

 

「遊矢、遊矢、ゆうやあああああああああ! 良かった。良かった。生きていたんだな! うおおおおおおお!」

 

嬉し涙を流しながら、熱い抱擁をしたのである。




今回のデュエルはいかがだったでしょうか?
超重武者は魔法も罠も使わないので簡単かと思いきや、意外とデュエル構成は大変だった気がします。一方でエリーの方は、典型的な天使族デッキにしました。これはエリーの部分を適当にしたわけではなく、今回使ったオリジナルカードをエースにすることは決めていたので、それにふさわしいデッキにしてみました。

早いもので5月ももう終わろうとしていて、いよいよ連載開始から1年が近づいています。
何か一周年記念的なことをしてみようかなと思ったり、速くストーリーを進めたいとも思ったり。なかなか悩みどころです。

さて、次回はいよいよランサーズとの対面です。
あらかじめ言っておくと、ランサーズのメンバーは本編と大きく違います。その目的も違うので当然と言えば当然ですが。

ここだけの話、クロスオーバーが楽しいタイプの人間として、ちょっと残念な結果となったアークファイブのリベンジができればと思って始めた連載なので、ランサーズの登場はかねてからやりたかったことの1つだったりします。

登場人物出しすぎじゃね? と考えている人もいると思いますが、ご安心ください。これ以上は敵側のモブしか増えません。(それでいいのか)

ランサーズにはもしかすると意外な人が登場するかも? お楽しみにお待ちください。


(アニメ風次回予告)

風の世界の頂上。そこで、数多の次元を旅した精鋭の戦士と出会う。光の世界を守るための交渉の矢先、その男は現れた。ペンデュラム世界に侵攻し、多大な被害をもたらしたその男に、2人のエリアマスターが立ち向かう。

「私の戦いに、ついて来れるか?」


次回 遊戯王VRAINS~『もう一人のLINKVRAINSの英雄』~

   「DDD」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!


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23話 DDD

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


感動の再会に水を差すのは気が引けたものの、権現坂の熱烈な抱擁は衰えを知らず、十分な酸素を取り込めなくなり始めた頃に全員で制止した。

 

風の世界の頂点。大聖堂を擁する怪鳥へと向かう最中に権現坂に遊矢や柚子との関係を少し聞いてみた。

 

まず権現坂は自身の故郷について話を始めた。出身は遊矢や柚子と同じペンデュラム世界。ペンデュラム召喚が主な召喚方法として栄える世界で、デュエルが非常に栄えている世界。プロデュエリストの概念、プロになるための塾というのも存在するほど、デュエルが文化として栄えている世界。

 

しかし、現状は違うという。

 

「ヌメロンコードがあるとき、俺たちの世界に跳んできた。そしてそれと一緒にイリアステルもな」

 

遊矢がその話に付け加える。

 

「あの時はまだ異世界なんて話も知らなかったからさ。あの白いスーツの奴が悪党なんて、そしてデュエルで戦争だなんて見当もつかなかった。けど俺達の世界が幸運だったのは、プロを目指す人も数多くいたから、デュエリストの数は十分いた。特にLDS、って言ったら分からないか。俺たちの世界の中で一番規模の大きい宿なんかは、かなりの実力者が揃ってた。あの世界。ペンデュラム召喚がメインで使われる世界で、融合、シンクロ、エクシーズの講習をしていたのはLDSだけだったかな……」

 

マイケルが話に入ってくる。

 

「じゃあ、お前らの世界には元々、他の召喚方法もあったってことか。ほら、シンクロ世界にはシンクロ召喚しか知られてない、みたいな話も聞いたことあるだろ。お前らの世界はそうじゃなかった」

 

「いいや、俺たちの世界も元々はペンデュラム中心だったよ。でも、LDSのトップ、赤馬零児はそれで満足しなかった。三年前から自分で異世界への扉を開いて、各地の召喚方法を学んだり、LDSの講師として招いたりしてたみたいだ」

 

「ほう、それで」

 

「ああ。でも、前に一度話した限りだと、自分の世界でデュエル戦争が起こるところまでは想定していなかったらしい。でも、異世界という存在を知ってた赤馬零児は、自分達の塾の生徒を徹底的に強くするためならなんでもする男だ。自分からリスクを冒して異世界に行くことも、他の塾を潰してスカウトをしたりすることもある。目的のためにあらゆる手段を考え、実行し、成果をあげる。そうやって強くなっていったLDSの奮闘もあって、俺らの世界では今も抵抗を続けられている」

 

「へえ」

 

しかし、権現坂は、ペンデュラム世界の勝利とは言わない。

 

「しかし、俺たちの世界に来たヌメロンコードは何故かすぐにどこかへ飛んで行ってしまってな。イリアステルはそれを確認したら早々に撤退してしまったんだ。結局連中の最高戦力と戦う機会がなかったから、なんとかなったのだと今は思っている。イリアステルは雑魚兵もそこそこの強さだ。連中の雑魚兵を相手にするだけで、俺達の世界のデュエリストは半分以上やられてしまった。あのまま続いていたら、負けていただろうな」

 

マイケルはいつになく真剣な表情で会話に混ざっている。ここまで来てランサーズの目的に気が付いたのか、マイケルは権現坂に問う。

 

「次に自分達の世界に来たら今度こそペンデュラム世界は滅びる。その前に精鋭をそろえてイリアステルに挑みそれを滅ぼせば、その恐れはなくなる。お前達ランサーズはそのための組織だな?」

 

「そうだ。俺達は各世界を旅し、力と仲間を集めながらこの世界まで来た。そして今、決戦の時を迎えようとしているのだ」

 

遊介はここまで聞いて燻っていた1つの疑問をぶつける。

 

「じゃあ、遊矢や柚子もランサーズなのか?」

 

それに対し、意外な反応が見られた。遊矢と柚子は首を横に振るが、権現坂は思いっきり肯定したのだ。

 

認識のズレに、遊介はどう受け取ればいいか一瞬迷ったが、恐らくは本人たちが正解だと判断する。

 

権現坂はそれに納得できなかったらしく、

 

「なぜだ。遊矢、柚子。お前たちは仲間ではないのかー!」

 

権現坂の叫びに応えたのは遊矢だった。

 

「ほら、俺は、零児と仲が悪いから。それに次元移動だって、お前らと一緒に行ってないし」

 

「だが、行く先の世界で何度も共に戦ったではないか。零児とてお前をもう立派な仲間だと信じている」

 

「どうかな……。俺はどんな世界でもみんなが明るくなれるようにふるまうけど、零児はどんな時でもシリアス全開で余裕を許さない感じだからな。なんか合わないのかもね。この前も結局喧嘩分かれしちゃったし……」

 

「何を言う。奴とてお前のことを認めているはずだ」

 

「いやあ、どうだかなぁ」

 

柚子がランサーズでないのは言うまでもない。彼女の立場は前々から明らかになっている。遊矢について行き遊矢を支える。それは本人もしっかりと言葉にして言っていた。

 

なので遊介は余計な詮索はしないことにする。

 

その一方で、会話の中で出て来た赤馬零児という男の人物像に少し考えを巡らせていた。

 

目的のために容赦はなく、そして必ず実績を上げる、実力至上主義。そんな印象を遊介は受けていた。

 

(まいったな。とっても怖そうだ)

 

さすがに口には出さないものの、遊介は赤馬零児に会うのが、少し恐ろしく思えてきた。今回の訪問は、同盟を結べなければ意味はない。エリアマスターとしての責務を果たせるかどうか、勝負の時はすぐそこに近づいている。

 

 

 

 

風の世界の一番上を飛ぶ怪鳥の背には、聖なるものを感じさせる大聖堂が存在する。風の世界の宗教的聖地というよりは、エリアマスターのために用意された居城と言う意味合いが強い。

 

シムルグから降りた一行は、権現坂の案内で大聖堂の中へと案内された。

 

辿りついた場所は一番奥に玉座が一つあり、後は厳かな空間が広がるだけ大広間だった。遊介はこの部屋の目的をすぐに察する。かつては風の世界も光の世界と同じようなイリアステルの役員がエリアマスターとして立ちはだかり、挑戦者とデュエルを行う空間だった。

 

そして玉座の前で何人かが立っているのが目に見える。そして玉座には男が1人座っていた。

 

「案内したぞ!」

 

前を歩く権現坂が座っている男の方へと叫ぶ。

 

「ご苦労」

 

返ってきた声は威厳を感じる太い声だった。

 

佇まい、今の声、そして雰囲気。大聖堂の中に元々いた人間の中でも、玉座に座るその男は別格の覇気を持っていた。

 

(赤馬零児……!)

 

遊介はチームを代表して一番前を歩く。その後ろをメンバーは緊張の面持ちで歩き出す。大聖堂には余計なBGMは一切に流れていない。ただ時折風が吹き抜ける音がする。

 

玉座に座っていた零児が立ち上がり、遊介たちが近づいてくるのを堂々と待った。

 

その間に会話はない。双方が十分に近づくまで、お互いに声を発することはなかった。もっとも、遊介はただ、最初に何て言うべきが考えておらず、どうするか迷っていただけだったのだが。

 

普通に声を発しても届く距離になり、最初に口を開いたのは零児だった。

 

「良く来た。歓迎しよう。我々ランサーズの本部、および風の世界の本拠地へ」

 

「ど、どうも」

 

赤い眼鏡がこれほどチャーミングに見えないのはこの男ぐらいだろう。

 

「君たちの目的は知っている。我々、風の世界との同盟だな」

 

「ああ。そう……です」

 

「畏まる必要はない。君もまたエリアマスターの一人。気兼ねなく言いたいことは言ってもらって構わない」

 

「なら。お言葉に甘えて。あなたの言う通り、同盟を組みに来た」

 

身長高いなぁ、という感想は喉の奥に封じ、赤馬零児と相対する。天城ハルトと戦った時とはまた違った緊張感だったが、それ以上を気にする余裕はなかった。

 

「まず、我々ランサーズの紹介からいこう」

 

遊介たちがエリアマスターを前に、残りが後ろに並んでいるのと同じように、ランサーズ側もまた全員集合のようで、赤馬零児の後ろには歴戦とも思われるランサーズのメンバーが並んでいる。

 

「我々ランサーズはこれまで、融合世界、シンクロ世界、エクシーズ世界を渡り歩き、その地で戦争を起こしている最中だったイリアステルとの戦いを行いながら仲間を集めていた。ランサーズの面々は、それぞれ違う世界の出身だ。各地にスパイも送り込んでいるからここにいる人間が全員ではないことをあらかじめ了承してほしい」

 

「なるほど」

 

本当に様々な人間が参加している。その言葉に偽りはない。

 

赤馬零児は遊介から少し目を離し、後ろにいる遊矢と柚子を見る。

 

「なんだよ……」

 

「生きていたか」

 

「ま、まあ」

 

「ならいい。君たちは非常に興味深い研究材料であり、ペンデュラム世界の戦力だ。そのことを忘れるな」

 

「戦力って、まるで俺達を武器みたいに……」

 

いつもはニコニコ顔の遊矢が非常に嫌そうな顔をしているのを見て、本当に苦手なんだな、と遊介は思う。

 

一方で柚子が、ランサーズ側の一番左の女子と目を合わせていた。ランサーズの紹介は彼女かららしく、彼女は柚子の視線に気づいていながらも話を進める。

 

「私はペンデュラム世界から来た光津真澄よ。ランサーズに入る前からLDSに所属していて、今はランサーズとして指名されて、こうして戦っています。よろしく」

 

柚子と目を合わせ少し嬉しそうにしているのは、二人の仲の良さを示しているのか。ペンデュラム世界出身であれば、柚子とあらかじめ仲が良くても不思議ではない。

 

そして次に、その隣。濃い目のピンク髪、そして顔立ちを見て女性ではないかと一瞬見間違えるかもしれない少年。

 

「ミハエル・アークライトです。エクシーズ世界から来ました。でも、ランサーズに入ったのはつい最近で、ここを拠点に活動してます」

 

「ど、どうも」

 

かわいい、と後ろからブルームガールの声が聞こえたのは果たして真か偽か。

 

その隣にいるのは小さな男の子だった。遊介が見るとおびえたように零児の後ろに隠れる。紹介は零児からだった。

 

「彼は私の弟だ。零羅という」

 

「そんな子供まで参加してるのか?」

 

「それを言うならランサーズにまともな大人はいないと思うが? それにデュエルの腕は十分だ戦力として数えていい」

 

遊介としては少し彼の行く先が不安だったが、他人を心配している余裕はないので無事を祈るだけにした。

 

逆に隣は非常に頼もしい顔をしているように見える。外国風の彼からは遊矢と同じ雰囲気を感じる。彼は丁寧なお辞儀の後、

 

「僕はデニス。融合世界出身。遊矢に倣ってエンタメデュエルを日々極めている。今はシリアスだけど、後でショータイム、見せてあげるよ」

 

そして最後に赤馬零児は、

 

「このほかに二人、沢渡という男と、名前は言えないがもう何人かがいる」

 

と付け加えた。

 

イリアステルとの戦いを潜り抜けたということは、ここにいるメンバーは想像以上の実力をもつデュエリストが揃っているということ。先ほどのデュエルを見ても、エリーが勝利を飾ったものの、権現坂は全力を出しているようには見えなかった。

 

(もしも、ここで全面戦争とかになったら生きては帰れないな……)

 

と考えてしまうところ、遊介はずいぶんと弱気になっている。

 

「さて、挨拶を済ませたところで本題に入ろう」

 

「ああ、そうっすね」

 

「同盟の件だが、絶対に断るつもりはない」

 

たった二言で光明が見えたのは確かだが、同盟の交渉と言って遊介が思い描いていたのは、会食かなんかをして相手をほめたたえながら、ゆっくりと話をすすめるものだと考えていた。一応高級菓子も遊介は用意してきている。

 

「あの、そんな手っ取り早く決めちゃっていいんすか?」

 

恐る恐る訊いてみると、

 

「私も暇ではない。さっさと決められるものは決めておきたい性格なんだ。懇親会は別の機会としよう」

 

「あ、そうすか」

 

色々を同盟にこぎつけるための言葉を多少考えていた遊介にとっては拍子抜けな答えが返ってきた。

 

赤馬零児は冗談を言うような男ではなく、それは本当という前提で、さっそく話は交渉の具体的内容へと移る。

 

「話を続ける。同盟を組む以上、お互いに有益な何かがなくてはならない。こちらにとっても、そして君たちにとっても。君たちの問題は承知している。いずれ来るエデンとの戦いに備えた戦力増強。こちらはランサーズの面々、および風の世界のデュエリストを貸し出す用意がある。君たちがそれにふさわしい対価を用意できるかが問題だ」

 

「対価……か……いろいろと考えている事はあるけど、具体的にそっちの要求をある程度聞かせてもらわないと」

 

「我々の目的は先ほど言った通り、イリアステルの討伐。これに尽きる。故に、ランサーズが計画する決戦に君たちのチームのデュエリストを戦力に加えられるのなら、こちらの作戦にも大きなプラス要素を加えることができる。イリアステル戦では我々の作戦の傘下に入る。これでどうだ」

 

「……それは」

 

遊介は後ろを振り返る。

 

反論はない。メンバー全員が肯定を示す頷きを返した。

 

「いいだろう」

 

「では、交渉成立だ。風の世界は」

 

なんと、もう決まってしまった。

 

「ちょっ、こんなあっさり……いいのか?」

 

「風の世界はそれ以外の問題を抱えていない。であれば、この要求が通れば、これ以上話しをややこしくする必要はないと思うが?」

 

「そういうものなのか……」

 

「ふ……私のように淡々と物事を進める人間は珍しい。それは自覚しているがね」

 

遊介としては、もっと何か必要なものがあると考えていたため、これで同盟が成立するのならこれ以上願うことはない。最低限のコストで最上の結果を得たと言ってもいい。

 

しかし、一方でここまで会話はすべて赤馬零児のペースですべてが決まっていることも自覚していた。恐らく今の状況も赤馬零児の思惑通りの展開なのだろう。

 

(底が知れないな……)

 

今になってこの同盟が正しいのか若干不安になったものの、既にここまで来てしまった以上は後戻りはできない。

 

目的の戦力増強は達成した。これで少しは事態も好転するというもの。

 

遊介は当面は安心だと、安堵のため息をついた。

 

「……ん」

 

唐突に、入口の方角を見た零児。遊矢や権現坂、デニスやミハエルの表情が一変する。

 

零児がまた口を開いた。

 

「すまないが、もう一つ同盟の条件を加えよう」

 

それだけ言うと、零児は入り口に向かって歩き出した。遊介もまた入口の方角へ、零児の後ろをついて行ってみる。

 

ぐああああああ!

 

断末魔の叫びは大聖堂に響き渡った。

 

入り口から、ここの警備員をしていた二人が吹っ飛んでくる。地面に叩きつけられた。次の瞬間、その警備員二人はそこで消滅する。

 

「な……」

 

唐突に見ることとなった人の死に、この場に集った誰もが息を呑んだ。

 

入り口から何かが、入ってくる。

 

トラブルは唐突に起こるからトラブルと言うのだが、この襲撃はあまりにも唐突すぎる。

 

「DDD。ディファレント・ディメンション・デーモン。それを集わせ戦う風の世界のエリアマスター。そして毎度毎度イリアステルの邪魔をするランサーズの首領、赤馬零児。いやあ、あの時は終ぞ戦うことはなかったが、こうして機会を与えてくれたアルター様には感謝だな」

 

白いスーツはイリアステルの証。明らかに味方ではない。

 

「今がイベント中だってこと、忘れてないか? 各エリアに一人ずつ、イリアステルの戦士が放たれる。それにとどめを刺せば1500ポイントゲットだ。風の世界が現在5位、光の世界は6位。ポイントは喉から手が出るほど欲しいだろう?」

 

「貴様……、なぜここに来れた? 神の鳥は一匹だ。それも、光の世界の彼らに使って、今は休憩中のはず」

 

この大聖堂に来るには神鳥に乗らなければたどり着けないはず。その言葉を言う前に、

 

「空に浮かぶイリアステルの城はこの怪鳥よりもはるか上。下から昇れなければ、上から降りてくればいいだろ?」

 

答えを自白する。当たり前のように言うが、これはイリアステルだからこそできる、ゲームマスター権限と言ってもいい所業だ。こちらの制約を無視できる存在は厄介なものだと思わざるを得ない。

 

「目的は?」

 

「さっき言ったぞ、赤馬零児。俺はかつてペンデュラム世界の侵攻に参加していた。だが、あの時は戦えなかったお前と戦いに来た。それだけの話だ」

 

「そうか。だが、私としては興味はそそられない」

 

「そう言うな。お前が相手をしないのなら、他の奴を処刑するだけの話だ。俺のデュエルは申し込まれたら断れない、命の削りあいだ。ここで大切な仲間を失いたくはないだろう」

 

「……確かに、同盟を結んだ後に、すぐ潰されるのは面白くはないな」

 

零児はデュエルディスクを構える。

 

「いいね、そう来なくちゃ。だが……相手はお前だけじゃない」

 

イリアステルの戦士がデュエルディスクをいじる。

 

相手として選択したのは、零児、そして遊介だった。

 

「お、俺もか」

 

「エリアマスター2人、もろともに相手をしてやるよ。まとめて撃破して、残りのメンバーには絶望してもらおうじゃないか」

 

勝手に巻き込まれた遊介。しかし、零児はそれほど驚いた顔を見せない。これも予想通りと言うことか。

 

「共に戦い、勝利を掴め。君の力を見せてほしい」

 

零児は遊介に向けて言う。

 

いい迷惑だ、と遊介は一瞬思ったが、どのみち、再会にならないためにもポイントは必要だ。この後イリアステルの人間は、この同盟の後探して倒そうとしていたことは、ここに来る前、ヴィクターの提案を受けたことから少し考えていたことだった。

 

遊介は、獲物が向こうから来た、と、勝てる保証は何もないこのデュエルを前向きに捉えることにする。

 

「私の戦いに、ついて来れるか?」

 

「態度で示すよ」

 

「いいだろう。ならば、二人で倒すぞ。確実に」

 

零児はデッキに人差し指と中指を置く。

 

遊介もまたデュエルディスクを準備し始めた。

 

光の世界と風の世界の共同戦線は、エリアマスター二人とイリアステルとの戦いで始まる。まさかにこの同盟の真の目的を体現するもの。

 

あとは勝つのみである。

 

「いいね。ノリのいいデュエリストは嫌いじゃない。さあ、楽しもうじゃないか!」

 

同盟の真価を問う戦いが始まる。




更新が大変遅くなり申し訳ありませんでした。
月の前半に体を悪くしました。お腹が痛くて寝込んだり、それが終わったかと思えば体が痛んだりでした。これからは体調に気を付けたいと思います。

今回は同盟を結ぶために熱い交渉戦、と思っていたのですが。ぼくのイメージでは赤馬零児がそんな不要な腹の探り合いをするタイプではないと思ったので、交渉戦はやめました。その代わり、ランサーズの面々を軽く紹介する形でまとめています。しかし、ちょっと内容を詰め込みすぎてしまったか、この話は淡々と進んで終わりという感じがあるかもしれません。


VRAINSが第3期に入りましたね。まさかAiちゃんがイケボになって帰ってくるとは思ってもみませんでした。そしてロボッピがまさか……あんなだとは……。意外とショックを受けています。


さて次回ですが、また時間を空けます。他の連載も1話分は更新するため、次回は2週間後ぐらいになると思います。その代わり、24話のデュエルは前後編に分け長めのデュエルになると思います。一時間スペシャル的な感じでお楽しみ頂ければ幸いです。



(アニメ風次回予告)

異次元の王、そして電子世界の戦士たち。共に力を合わせ強大な敵へと立ち向かう。相手は第二の秩序の真の使い手、セカンドオーダーの真の使い手に、二人のエリアマスターが、猛攻を仕掛ける。

次回 遊戯王VRAINS~『もう一人のLINKVRAINSの英雄』~

   「同盟軍 VS 不滅の太陽」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!


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24話 同盟軍 VS 不滅の太陽 (前編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

長いので前後編構成です。

オリジナルカード出ます。しかし、敵側は多いので、メインの2枚だけの紹介にしたいと思います。
また、遊介と、赤羽零児にもオリカありです。


「セカンドオーダー『尽きぬ生贄』」
永続魔法
このカードは『セカンドオーダー』と名のつくカードの効果以外の効果によって、フィールドを離れず、効果を無効にされない。①1ターンに1度、デッキからカードを5枚まで好きな枚数墓地へ送る。フィールドに『オーダートークン(レベル8 ATK0/DEF0)』を特殊召喚する。この効果は相手ターンにも発動できる。②オーダートークンが破壊されたターンのエンドフェイズ。デッキからカードを1枚ドローする。

「セカンドオーダー『暗黒の太陽』」
永続魔法
このカードは『セカンドオーダー』と名のつくカードの効果以外の効果によって、フィールドを離れず、効果を無効にされない。①自分フィールド上の、『The supremacy SUN』の攻撃力、守備力は1000ポイントアップする。②『The supremacy SUN』の召喚、特殊召喚は無効にされず、『特殊召喚ができない』効果を無視する。③『The supremacy SUN』は戦闘、効果による破壊以外でフィールドを離れず、破壊されたときは必ず墓地へ送る。④『The supremacy SUN』が墓地から特殊召喚されたとき、『The supremacy SUN』以外のモンスターをすべて破壊し、1体につき800ポイントのダメージを相手に与える。


「ターゲット・アルゴリズム」
永続魔法
①このカードを発動したとき、相手モンスターを1体、自分のモンスターを1体選択する。お互いのバトルフェイズ時、選択した自分モンスターと相手モンスターは、戦闘が可能であれば必ず戦闘を行う。この効果で選択されたモンスター以外は攻撃宣言を行うことができない。②このカードが存在する限り、お互いのモンスターは戦闘では破壊されない。③選択したモンスターのうち、どちらかが破壊されたとき、このカードは破壊される。

「アタッチドファイル」
装備魔法
①このカードを装備しているモンスターは、墓地のサイバース族モンスター1体につき100ポイント攻撃力がアップする。②お互いのバトルフェイズ開始時、墓地のこのカードを除外して発動する。フィールド上の表側表示モンスター1体を選択し、墓地のサイバース族リンクモンスターを特殊召喚する。その後、選択したモンスターをサイバース族として扱う。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は0となり攻撃はできない。


「異次元王の会談」
通常罠
①フィールド上の「DDD」モンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターの攻撃力を、次の自分のターン終了時まで、ペンデュラムゾーンに存在するDDDカード1枚につき1000ポイントアップする。②自分のターンターン「DDD」と名のつくモンスターを5体以上召喚している場合、この効果を手札から発動できる。このカードをフィールドにセットし、フィールド上の「DDDモンスター」1体をデッキに戻す。デッキからカードを3枚ドローする。その後、エンドフェイズへ移行する。


風の世界の住人は知らないだろう。

 

今自分たちが神聖視する大神殿で、恐るべき敵とエリアマスターが戦っていることを。

 

しかし、イリアステルのこの襲撃は決して偶然ではない。

 

風の世界だけでなく、すべてのエリアでイリアステルの人間が現れたのだ。

 

 

 

水の世界にも、イリアステルは現れた。イベントで告知されていた、解き放たれる7人のうち1人。

 

「ぐああああ!」

 

エデンの本部がある、水の世界のアトランティスに攻めてきた一人。

 

実働部隊の隊長であるケインが敗北した事実は本拠地に衝撃を与えた。何しろエデンの中では十本の指に入る実力者。それが容易く、何もできないまま、倒されたのだ。

 

それを目撃したリーダー、リボルバーは、そのイリアステルを相手に決闘を申し込む。

 

「ぶっ潰す。お前、私の仲間を傷つけておいて、生きて帰れると思うなよ?」

 

「威勢のいいお嬢さん。イリアステル第3部隊隊長、サーディスが相手をしましょう」

 

 

 

炎の世界では未だ激闘が繰り広げられている。

 

ジャック・アーロン。シンクロ世界から来た王者を継ぐ者はたった一人で、これまで闇の世界からの侵攻を耐えきっていた。

 

しかし、そこにイリアステルの刺客が現れたのだ。

 

「貴様……」

 

「イリアステル第1部隊隊長、ファストル。最強の名に懸けて、貴様の首を頂戴する!」

 

 

 

土の世界には、解放軍の本部兼訓練所がある。

 

そこで酔狂にも99人抜きをして準備をしたイリアステル、第4部隊フォースミルが100人目に選んだのは、まっつんだった。

 

「ああ。いままでの死は非常に良い者でした。あなたもぜひ、私に死を味合わせてください……」

 

「……なめんなよ。テロリスト風情が。あの男はともかく、その手下如きに、俺が倒せると思ってたら大間違いだ」

 

 

 

闇の世界は現在、チーム海堂コーポレーションが本拠地を置いている。

 

そこに、海堂セイトを名指しで戦いに来たイリアステルの第6部隊隊長が宣言する。

 

「オレト、タタカエぇ?」

 

海堂セイトはその男を侮辱するような目で彼を見る。

 

「俺も……舐められたものだな」

 

 

 

そして、光の世界にもまた1人。

 

「遊介君はどこかしら?」

 

女性のイリアステル隊員が目の前に現れる。

 

その前に立ちはだかるのは、契約通りヴィクターだった。

 

「イリアステル。待ちくたびれたぜ」

 

「あら、私を待ってたの?」

 

「ああ。まさかすべての世界に一斉攻撃とは思わなかったけどな」

 

「そう。あなたを倒したら、遊介くんと会えるかしら?」

 

「俺は眼中にないわけか? ならこう言っておこうか。俺を倒したら、どこにいるか教えてやる。だから俺を見ろ。そして戦え」

 

「やる気まんまんね。オッケー、それが条件なら、第2部隊隊長、ルセカンドル。あなたに決闘を申し込む」

 

 

 

各地の一斉攻撃、その事実が告げられ、遊介がまず心配したのは、ヴィクターが契約通り光の世界で向かうつかどうかだった。

 

しかし、その心配は、デュエルディスクに届いたメッセージによってすぐに取り払われる。

 

遊介は、迎撃に入ったヴィクターを信頼し、自分は目の前の敵に集中する。

 

一方で、赤馬零児は敵にそれほど興味を持った様子はなく、ただ、超えるべき障害として敵を見つめるのみだ。目の前のその男を強い恨みが籠った様子で見ているのは、ランサーズの光津真澄だった。

 

「お前は……」

 

それに気が付いたイリアステルの襲撃者は、ニヤリと笑い、

 

「久しぶりだなぁ。お嬢ちゃん」

 

と挑発して見せる。

 

「よくも、北斗と刃を」

 

「安心しろ、お嬢ちゃん。俺は気に入った相手は殺さない主義でね」

 

腰につけたデッキケースのような箱から二枚のカードを取り出す。そこには人が存在した。まるで封印でもされているように。

 

「貴様……!」

 

「二人は生きてる。この中で安らかになァ……」

 

ここで赤馬零児がようやく口を開いた。

 

「なるほど。君が無理やりにでもランサーズに入りたいと言ったのは、彼が、あの2人を倒したからか」

 

表情が少しだけ険しくなる。

 

「君には少しも興味がなかったが、LDSの生徒を傷つけたというのなら、私の生徒を傷つけたことへの代償を体で理解してもらうことにしよう」

 

「はははは、少しは冷めた目が熱くなったじゃねえの。やってみろやってみろ!」

 

イリアステルのその男はデュエルディスクを構える。

 

「この俺、第5部隊隊長、フィフテルを楽しませてくれよ! エリアマスターども!」

 

遊介と零児もディスクを構えた。

 

デュエルは、遊介と零児のタッグとイリアステルの男のマスターデュエル。

 

タッグの場合フィールドは共有になるが、手札はそれぞれ5枚ずつ持っている状態。一方で相手のイリアステルの男は5枚しか持っていない。単純な数では、タッグである遊介と零児が有利になる。LPは4000。タッグはこのLPも共有する。

 

「デュエル!」

「デュエル!」

 

赤馬零児のみ静かに戦いの開始を迎え、そのデュエルは始まった。

 

 

フィフテル LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

遊介・零児 LP4000 手札 零児5 遊介5

モンスター

魔法罠

 

(フィフテル)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介・零児)

 

 

 

「相手はペンデュラム世界の多くの実力者を葬った存在。油断はするな遊介。リーダーの負けはチームとして許されないぞ」

 

零児のその掛け声に、

 

「ああ!」

 

気合を入れて、その提案に返事をする。

 

零児は一瞬だけ、唇の端を吊り上げると、

 

「いい返事だ。だが、最初は私が行く」

 

と、己のカードを見定め始める。相手から敵の宣言に反論することはなく、先行を譲った。

 

 

 

ターン1

 

 

「私のターン!」

 

手札の見定め、そして最初の戦術を練った零児はいよいよカードを動かし始める。

 

「私は永続魔法、『異形神の契約書』を発動! 効果は後で話す。続いて、手札の『DDスワラル・スライム』の効果! このカードを含む素材を墓地へと送り、融合召喚を行う! 私は、スワラルスライムと、DDヴァイステュポーンを素材とする!」

 

手札のカード2枚を墓地へと送り、新たなモンスターを呼び出す。

 

「融合召喚。生誕せよ! 烈火王テムジン!」

 

最初にフィールドに現れたのは、烈火王の評される剣を持った王。

 

DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃表示

ATK2000/DEF1500

 

(いきなり融合召喚か……すごいな)

 

遊介が感心してそれを見ているものの、赤馬零児はこれで止まらない。

 

「ここで、『異形神の契約書』の効果を発動する。融合召喚に成功した時、我々のLPを1000ポイント回復する!」

 

遊介・零児 LP4000→5000

 

「私はさらに、墓地のスワラルスライムの効果! 墓地のこのカードを除外し、手札のDDモンスターを特殊召喚できる! 私は、手札のDDラミアを特殊召喚!」

 

DDラミア レベル1 守備表示

ATK100/DEF1900

 

「そして、この瞬間烈火王テムジンの効果発動! フィールドにこのカード以外のDDが特殊召喚されたとき、墓地のDDモンスター1体を特殊召喚できる! 私は先ほど融合素材として墓地へ送った、DDヴァイステュポーンを特殊召喚!」

 

DDヴァイス・テュポーン レベル7 攻撃表示

ATK2300/DEF2800

 

「現れろ! 異次元へと至るサーキット!」

 

「リンク……召喚?」

 

空中に現れたのはリンク召喚と際に現れるサーキット。遊矢がそれを見て驚くのも無理はない。遊矢には、赤羽零児がリンク召喚を使った記録はない。

 

「私のデュエルは常に進化する。榊遊矢、貴様が異次元で新たな力を得てきたようにな。私はDDラミアと、烈火王テムジンの2体をリンクマーカーにセット!」

 

せっかく召喚した融合モンスターを使ってまで呼び出すリンクモンスターとは。

 

この場にいるすべての人間の興味をひく。

 

「拓かれたるは冥府の闇。その深淵より凱旋し、地上の混沌を平定せん! リンク召喚! リンク2 DDD深淵王ビルガメス!」

 

リンク召喚によって現れたのは2人目の王。闇の底より帰還した、偉大なる戦士の王。

 

DDD深淵王ビルガメス 

リンクマーカー 右下 左下

ATK1800/LINK2

 

「深淵王ビルガメスの効果! このカードが特殊召喚に成功したとき、デッキから、カード名が異なるDDペンデュラムモンスターを、ペンデュラムスケールにセットする! 私は、DDD反骨王レオニダスと、DDD極智王カオス・アポカリプスをペンデュラムスケールにセット! その後私は1000のダメージを受ける」

 

遊介・零児 LP5000→4000

 

(さっき回復したのはこのためなのか……?)

 

遊介は永続魔法の契約書をおいた意味を理解する。しかし、あらゆる行動を単一の意味のみにとどめないのが、赤馬零児だった。遊介はそれを今から見せられる。

 

「墓地のDDラミアの効果! フィールドの契約書1枚を墓地へ送り、墓地のこのモンスターを特殊召喚する! 私は、フィールドの『異形神の契約書』を墓地へ送り、墓地のDDラミアを特殊召喚!」

 

DDラミア レベル1 守備表示

ATK100/DEF1900

 

「この効果で特殊召喚したラミアは、墓地へ送られる場合、代わりにゲームから除外される」

 

遊介はそのモンスターの詳細を改めて確認する。

 

(チューナー……!)

 

つまり、これから行われる召喚は。

 

「私は、レベル7のDDヴァイステュポーンとレベル1チューナー、DDラミアをチューニング!」

 

レベル8という高レベルを呼び出すシンクロ召喚!

 

「その紅に染められし剣を掲げ、英雄たちの屍を超えて行け! シンクロ召喚、レベル8、DDD呪血王サイフリート!」

 

現れたのは3体目の王。血塗られた剣を持った英雄の王。ビルガメスの右下のマーカーの先に呼び出される。

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃表示 レベル8

ATK2800/DEF2200

 

(シンクロ召喚まで……)

 

遊介は、ここまでの流れに圧倒される。しかし、零児はさらに口を開いた。

 

「墓地のDDヴァイステュポーンの効果! このカードが墓地へと送られたターン、このカードと墓地のモンスターを除外し、レベル8以上のDDモンスターの融合召喚を行う! 私がヴァイステュポーンと共に除外するのは、DDD烈火王テムジン!」

 

赤羽零児は再び融合召喚を行おうとしている。

 

この場にいる人間は二種類に分かれる。またやるのか、と驚き続ける者。ああ、これくらいはまだやるよね、と納得する者。遊介は前者だ。

 

「融合召喚! 現れろ、レベル8、烈火大王、エグゼクティブテムジン!」

 

4体目の王。先ほどのテムジンの強化版と言うべき存在が、ビルガメスの左下のマーカーの先に現れる。

 

DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン レベル8 攻撃表示

ATK2800/DEF2400

 

「まだ続く!」

 

「まだ……」

 

とうとう、遊介は声に出してしまう。しかし、よく見ると、フィールドにはレベル8のモンスターが2体。

 

「はははは、最高だぜ。さすがだ。赤馬!」

 

イリアステルの襲撃者はここまでの流れに大層ご満悦のようだ。

 

しかし、赤馬零児は意に介さず、5体目の王を呼び出す。

 

「私はレベル8の呪血王サイフリートと、レベル8のエグゼクティブテムジンでオーバーレイ!」

 

天に黒い渦。その中に光となった2体の王が吸い込まれる。

 

「2つの太陽が昇るとき、新たな世界の地平が開かれる! エクシーズ召喚! 現れいでよランク8! DDD双暁王カリユガ!」

 

巨大なエネルギーの爆発と共に、その地に王は舞い降りる。5体目の王は凄まじい威圧を誇るランク8の強大な王だった。ビルガメスの左下のマーカーの先に君臨する。

 

DDD双暁王カリ・ユガ 攻撃表示 ランク8

ATK3500/DEF3000

 

遊介は驚きを禁じ得ない。

 

赤馬零児はたった1ターンで、融合、シンクロ、エクシーズ、リンク、4つの召喚をして見せた。そして呼び出されたこのモンスターは、攻撃力としては十分過ぎる王。

 

もしもこの男と戦うことになっていたら、果たして、自分はどうなっていただろうか。そう思うほどの1ターンだった。

 

「このターン、5体以上のDDDを召喚している場合、手札のトラップ『異次元王の会談』の第2の効果を発動する。このカードをセットし、フィールド上のDDDモンスター1体、DDD深淵王ビルガメスをデッキへ戻す。私はデッキからカードを3枚ドローし、直後、エンドフェイズへ移行する。私はこれでターンエンド」

 

長い1ターンが終わった。

 

結果的に見れば、赤馬零児のフィールドには1体のモンスターが居るのみだが、普通では、手札4枚からでは不可能ではないかと思えるほどの盤面が完成した。

 

 

 

遊介・零児 LP4000 手札 零児3 遊介5

モンスター ① DDD双暁王カリ・ユガ

魔法罠 ② DDD反骨王レオニダス ③ DDD極智王カオス・アポカリプス

    ④ 異次元王の会談

 

(フィフテル)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

② □ ④ □ ③   魔法罠ゾーン

(遊介・零児)

 

 

「さすがだぜ、赤馬ァ」

 

「さあ、お前のターンだ」

 

「へへへ、まずこれを崩して、てめえの顔を歪めてやるぜ……!」

 

フィフテルはこの状況になってなお、余裕の笑みを崩さない。

 

 

 

ターン2

 

 

 

「俺のターン」

 

遊介はこれがイリアステルの戦士との初戦闘だった。これまでアルターと何度か言葉を交わしたことがあったが、実際にイリアステルと敵対する機会が幸運にもなかったのだ。

 

しかし、フィフテルを目の前に思う。

 

これからはイリアステルとの戦いの連続になるかもしれないと。

 

そんなことを遊介が思っていることなど、フィフテルには関係ない。

 

イリアステルの戦士である彼はさっそく、イリアステルの象徴たるカードを発動する。

 

「俺は永続魔法。『セカンドオーダー『尽きぬ生贄』』を発動!」

 

「セカンド、オーダー?」

 

遊介が疑問符を発生させると、それに零児が答える。

 

「イリアステルのオリジナルカードだ。総じて、1枚でデュエルの状況を変えるほどの力を持っているカードの種類と言える」

 

「永続魔法なら」

 

遊介は自身の場に出ているカリユガを見る。カリユガはフィールドの魔法、罠を一掃する能力を持っているのは把握済みだ。

 

しかし、赤馬零児は、遊介の意見を否定した。

 

「1枚だけのためにカリユガの効果は使えない。これが囮の可能性もある。それに、あのセカンドオーダーには、厄介な効果があってな」

 

「厄介?」

 

「表側表示のセカンドオーダーは、ほとんどのカードに、破壊耐性があるうえ、無効化されない効果を持っている」

 

「はぁ?」

 

それでは対処の使用がないインチキカードである。遊介はそんなはずないと思わなくはなかったが、

 

「イリアステルを舐めるなってことだな。遊介くん」

 

と、堂々と話をするフィフテルを見て嘘ではないと確信しため息をついた。このデュエル、想像以上に厄介なことになりそうだと。

 

「尽きぬ生贄の効果! デッキからカードを5枚まで任意の枚数墓地へ送る。自分フィールド上に送った枚数だけの、オーダートークンを特殊召喚できる! 俺は5体墓地へ送り、5体のトークンを特殊召喚!」

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

「そして、俺はさらに永続魔法、『セカンドオーダー『暗黒の太陽』』を発動する! 効果の使用は後回しだ。俺はオーダートークン2体をリリースし、アドバンス召喚を行う!」

 

イリアステルの男は天を指さす。そこは神殿の天井しか存在しない。

 

しかし、光の粒子となった、トークンが天井を透過して消え去った直後、天井が崩壊する。

 

建物に大きな穴をあけ、大きな瓦礫が落ちてくる。神殿は強固な作りのため、神殿自体が崩壊を始めたわけではなかったものの、天井は次々のひび割れ、崩れ落ちてくる。

 

「カリユガ!」

 

零児の命令を受け、カリユガが、人を下敷きにしそうな瓦礫のみを破壊し、チームメイトと遊介の仲間を守った。

 

一方で、相手を警戒し続ける、遊介と零児の前に、新たなモンスターが降臨する。

 

「これこそ、すべての闇を照らす太陽。プラネットシリーズの頂点! 暗黒の太陽はこのモンスターの異名だ」

 

それはまさに、太陽の化身と言うべき存在だった。

 

The supremacy SUN 攻撃表示 レベル10

ATK3000/DEF3000

 

「この瞬間、永続魔法、暗黒の太陽の効果を発動する! フィールド上のThe supremacy SUNの攻撃力は1000ポイントアップする」

 

The supremacy SUN ATK3000→4000

 

零児があれほどまで技巧をこらして呼び出した攻撃力3500をすぐに超えてきた。

 

「バトル。暗黒の太陽よ、カリユガを焼きつくせ!」

 

攻撃宣言。狙いは当然、目の前のカリユガ。

 

赤馬零児はそれを察知し、罠を発動する。

 

「罠カード『異次元王の会談』。自分フィールド上のモンスター1体はペンデュラムスケールのDDDモンスター1体につき、1000ポイントアップする。ペンデュラムスケールには2枚のDDD。私はカリユガの攻撃力を2000ポイントアップする」

 

DDD双暁王カリ・ユガ ATK3500→5500

 

「どわっと、そういう効果ね」

 

「返り討ちにしろ! カリユガ! ツインブレイクショット!」

 

黒い太陽を、双暁王が打ち破る。

 

イリアステルの男はその返り討ちには対応できなかったようで、直撃を受けた。

 

(負) The supremacy SUN ATK4000 VS DDD双暁王カリ・ユガ ATK5500 (勝)

 

フィフテル LP4000→2500

 

「ぐう、やるねぇ」

 

たった2ターンで攻撃力4000を超えるモンスター同士の激突。このデュエルで如何にレベルの高い戦術が求められるかを遊介は垣間見た気がした。

 

相手フィールドに残ったのは悲しき3体の雑魚トークン。守備力もそこまでなく、これは展開によってはさらにダメージを見込める。

 

「罠を伏せるのはいいが、どうせカリユガで破壊されるからな……しょうがねえ、俺はこれでターンエンドだ。まったく、さすがに赤馬相手じゃ一筋縄じゃいかないな。この――じゃ」

 

相手はこれでターン終了を宣言した。

 

「さあ、アルター様が注目している遊介とやら。お前のお手並みを拝見しようか?」

 

ようやく回ってきた自分のターン。遊介は手札にあるカードをもう一度確認し、このターンで決めると決意する。

 

長引けば、他にどんな、無茶苦茶なカードを使われるか分からない。このターンはカリユガが圧力をかけたおかげで、トラップカードを伏せられずに済んだ。手札誘発は考えても仕方ないので考えない。それを除けば、このターンは攻め切る好機だ。

 

 

フィフテル 手札3 LP2500

モンスター ⑤ オーダートークン

魔法罠 ⑥ セカンドオーダー「暗黒の太陽」 ⑦ セカンドオーダー「尽きぬ生贄」

 

(フィフテル)

□ □ ⑥ ⑦ □   魔法罠ゾーン

⑤ ⑤ □ □ ⑤   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

② □ □ □ ③   魔法罠ゾーン

(遊介・零児)

 

 

 

ターン3

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

遊介がドローを宣言し、山札からカードを引く。

 

スタンバイフェイズへ移行。

 

この瞬間、カードの効果を宣言したのは、遊介ではなかった。

 

「俺はこの瞬間。墓地のThe supremacy SUNの効果を発動する! このカードが破壊された次のターンのスタンバイフェイズ、手札のカード1枚を墓地へ送り、このカードを特殊召喚する!」

 

「復活……!」

 

墓地へのゲートから開き、そこから再び暗黒の太陽が姿を現す。

 

セカンドオーダーの効果により、その攻撃力と守備力は1000アップし、圧倒的な攻撃力を持つ太陽は再び立ちはだかった。

 

The supremacy SUN レベル10 攻撃表示

ATK4000/DEF4000

 

そしてそれだけにとどまらない。

 

「セカンドオーダー不滅の太陽の効果! 太陽が再び昇ったとき、このモンスター以外のモンスターをすべて破壊し、破壊したモンスター1体につき、800ポイントのダメージを与える」

 

「な……!」

 

動じない赤羽零児。しかし遊介はそれほど胆力はない。そのまま受ければダメージは相手のオーダートークンを含めて3200.そもそもモンスターを全破壊と言う時点で破格の効果だというのに、無茶苦茶な能力だ。

 

「さ、すべてを焼きつくせ!」

 

暗黒の太陽は輝きを放つ。

 

凄まじい熱気、全身が火傷するのではないかと勘違いするほどの灼熱が一帯を吹き荒れる。

 

カリユガは溶け、そして消滅した。

 

そしてオーダートークンも木っ端すら残らず消え去り、セカンドオーダーの魔法の効果で3200のダメージを受けることになる。

 

しかし、そうはならない。

 

赤馬零児はこの状況も見越していたのか、自らのカードの効果を発動する。

 

「反骨王レオニダスのペンデュラム効果! 効果ダメージを受ける場合、このカードを破壊する。このターン、私達が受ける効果ダメージはLPの回復へと変化する。よって、我々はLPを3200ポイント回復する!」

 

迫りくる灼熱から大きな盾で主を守るレオニダス。その背中はなんと頼もしいことか。

 

「助かった」

 

零児に礼を言う遊介。

 

「油断するな、このターン限りだ。これを毎ターン繰り返されていたらこちらももたない」

 

そうだ、と遊介は気づく。

 

相手フィールド上には攻撃力4000のモンスター、普通に戦うのでも厳しい相手だが、さらに相手には破壊されるたびに復活し、さらにフィールドを丸焼きにして大きなダメージを与える効果を持つ。

 

「おおっと、除外とかしようとしても無駄だぜ? セカンドオーダー暗黒の太陽の効果で、破壊されて墓地へ送られる以外で、サンはフィールドを離れることはない。お前らはまともに太陽とやりあって、復活時の効果で死ぬか、サンにひねりつぶされるかしかない」

 

「厄介な……」

 

「この程度で狼狽えるなよ。アルター様に比べたらこれでも生ぬるい方なんだぜ」

 

これで生温いという。イリアステルと戦う気まんまんの遊介にとってはあまり聞きたくない言葉だった。

 

「でも、逆に考えればこの程度対処できなきゃ、アイツとも戦えないってことだな……」

 

しかし、この逆境がデュエルを放棄する理由にはならない。

 

遊介はようやくまわってきた自分のターンで、何とかする方法を考える。




後編は数日後に投稿します。

もしかすると中編、後編になるかもしれません。


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24話 同盟軍 VS 不滅の太陽 (中編)

前回紹介し忘れたオリカを1枚紹介します。

「DDDの異動辞令」
通常魔法
①フィールド上にDDDモンスターがいるとき、自分フィールド上の「DD」カード1枚をデッキに戻し、デッキからDDモンスターを1体手札に加える。その後、自分はLPを1000ポイント回復する。この効果を使用した時、自分はエクストラデッキのモンスターを特殊召喚できない。


「厄介ね」

 

ブルームガールは一言添える。

 

「お前ならアレをどう攻略するんだ」

 

マイケルがブルームガールに尋ねる。しかし、

 

「どうだろ……」

 

発動された永続魔法、セカンドオーダー『暗黒の太陽』の効果を見る。

 

破壊すれば必ず墓地へいく。それ以外にフィールドを離れる方法はない。デュエルをしている本人たちにはモザイクがかかって見えない状態だが、デュエルの観戦者には、相手のカード効果もしっかりと見える仕様になっている。

 

「私は効果ダメージで攻める方法があるけど、それを対策していないわけないよね。あんなデッキを使っている以上」

 

「だな。……遊介は勝てると思うか?」

 

「……勝つわ。前に比べて頼もしくなった彼なら。きっと勝てる。私たちはリーダーを信じるの」

 

「ああ。そうだな。チームメイトはリーダーを信じないとな」

 

マイケルは嬉しそうに笑い、不安げに見守るエリーの頭をなでながら、しっかりと頷いた。

 

ランサーズの真澄もまた、相手が発動するカードの数々にコメントをした。

 

「そう。あのモンスター。私が駆けつけた時には、あのモンスターを前に、ボロボロになっている北斗と刃がいた。モンスターが居なかったのは、あの効果を発動したからだったのね……」

 

「真澄……大丈夫?」

 

今にも狂いそうなほどに怒りを露わにする真澄に柚子は問いかける。

 

「大丈夫。……本当は私がリベンジしたかったけどね。でも、今は見守るわ。必ず、社長が二人の仇をとる。あの人の強さは私たちが良く知っている」

 

「そうね……」

 

 

 

遊介・零児 LP7200 手札 零児3 遊介6

モンスター

魔法罠 ③ DDD極智王カオス・アポカリプス

 

 

「マジックカード、『サイバネット・マイニング』を発動! 手札のカード1枚を墓地へ送り、デッキからレベル4以下のサイバース族モンスターを手札に加える。俺は、手札のドットスケーパーを墓地へ送り、デッキからサイバースガジェットを手札に加える! そしてドットスケーパーは墓地へ送られたとき、特殊召喚できる!」

 

ドットスケーパー レベル1 守備表示

ATK0/DEF2100

 

「現れろ! 未来を導くサーキット! 召喚条件はレベル4以下のサイバース1体。リンク召喚! 現れろ、リンクディサイプル!」

 

リンク・ディサイプル

リンクマーカー 下

ATK500/LINK1

 

「そして、手札のリンクインフライヤーは、自分フィールド上のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる!」

 

リンク・インフライヤー レベル2 守備表示

ATK0/DEF1800

 

「さらに、自分フィールド上にサイバースが存在するとき、手札から、バックアップ・セクレタリーを特殊召喚できる!」

 

バックアップ・セクレタリー レベル3 攻撃表示

ATK1200/DEF800

 

「現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はトークン以外のモンスター3体。俺は場にいる3体のモンスターをリンクマーカーにセット! リンク召喚!」

 

3体の連続召喚。その後に呼び出すのは、初期デッキから存在し、これまでの戦いを支え続けたエースの1体

 

「リンク3、サイバース・アクセラレーター!」

 

サイバース・アクセラレーター

リンクマーカー 左 右 下

ATK2000/LINK3

 

「そして、サイバースガジェットを通常召喚!」

 

サイバース・ガジェット レベル4 攻撃表示

ATK1400/DEF300

 

「このモンスターを召喚したとき、墓地のレベル2以下のモンスターを守備表示特殊召喚できる。蘇れ、リンクインフライヤー!」

 

リンク・インフライヤー レベル2 守備表示

ATK0/DEF1800

 

「現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はモンスター2体。俺は、サイバースガジェットと、リンクインフライヤーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れよ、プロキシードラゴン!」

 

先ほど召喚したリンクモンスターの下のリンクマーカー先に、2体目のリンクモンスター。

 

プロキシー・ドラゴン

リンクマーカー 左 右

ATK1400/LINK2

 

「そして、サイバースガジェットがフィールドから墓地へ送られたとき、ガジェット・トークンを1体特殊召喚する!」

 

ガジェット・トークン レベル2 攻撃表示

ATK0/DEF0

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

再びのリンク召喚。次の素材とするのは、今呼び出したトークン1体。

 

「リンク召喚! リンク1 リンク・スパイダー」

 

プロキシー・ドラゴンのリンクマーカー先に、サイバース族の蜘蛛が現れる。

 

リンク・スパイダー

リンクマーカー 下

ATK1000/LINK2

 

「四度現れろ! 未来を導くサーキット! 召喚条件は効果モンスター2体以上! 俺はリンク2のプロキシードラゴンとリンクスパイダーをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

このターン4回目のリンク召喚。呼び出すのは、先ほどのサイバースアクセラレーターと同様、最初のデュエルから遊介と共に戦ってきたエースモンスター。

 

「リンク召喚! 現れろ! リンク3 デコードトーカー!」

 

巨大な大剣を持った、電脳世界の戦士。

 

デコード・トーカー

リンクマーカー 上 左下 右下

ATK2300/LINK3

 

「デコードトーカーの攻撃力はリンク先のモンスター1体につき500ポイントアップする。上のリンクマーカー先にサイバースアクセラレーターが存在するため、デコードトーカーの攻撃力は500アップする!」

 

デコード・トーカー ATK2300→2800

 

「なるほど」

 

ここで、イリアステルの第5部隊隊長が口を開く。

 

「その後、サイバースアクセラレーターの効果で、攻撃力をアップするわけだ。確かに攻撃力は十分だろう。だが、お前、分かってるのか? サンを破壊しても再び戻ってくる。そしてお前のフィールドはすべて死に絶え、お前には恐ろしいほどのダメージが飛んでいくぞ?」

 

彼の言う通り、普通に攻撃をするだけでは、次のターンにフィールドが全滅するという未来しか待っていない。

 

赤馬も遊介を見ている。このままの攻撃はこちらを追い詰めるしかないので、それを注意する目だ。

 

「大丈夫だ、手はある」

 

遊介は堂々と言い切った。 

 

「手札から永続魔法、『ターゲットアルゴリズム』を発動する!」

 

発動したのは1枚の永続魔法。このカードはまさしく、この状況を打破するのに適する効果を持っていた。

 

「発動時、自分のモンスター1体と相手モンスター1体を選択。俺はデコードトーカーとお前のサンを選択する。選択したモンスター同士はバトルフェイスのたびに戦闘を行わなければならない」

 

「それじゃ、意味ないだろ? どうせ破壊される」

 

「いいや、意味はあるのさ。永続魔法のこのカードが存在する限り、お互いのモンスターは戦闘では破壊されず、選択したモンスター以外は攻撃宣言はできない」

 

「復活するのが厄介ならそもそも破壊しなければいい。なるほど、そんな方法が」

 

「このカードがある限り、お互いはモンスター1体でしか攻撃できないし、攻撃する相手すら制限される。そして、このカードはサイバースアクセラレーターと非常に相性がいい」

 

結局、デュエルは相手のLPを0にした方の勝利だ。モンスターの破壊が絶対条件ではない。

 

「さらに俺は装備魔法『アタッチドファイル』をデコードトーカーに装備! デコードトーカーの攻撃力は、墓地のサイバース族モンスター1体につき、100ポイントアップする! 墓地には7体のサイバース族。700ポイント攻撃力をアップする!」

 

デコード・トーカー ATK2800→3500

 

「バトル! サイバースアクセラレーターの効果で、このカードのリンク先のデコードトーカーの攻撃力をターン終了時まで2000ポイントアップする!」

 

デコード・トーカー ATK3500→5500

 

「デコードトーカーで、選択したスプレマシーサンを攻撃! デコードエンド!」

 

「ちい、トラップさえ伏せられてたらなぁ……赤馬めェ」

 

太陽の化身たるモンスターに戦士の刃が突き立てられる。

 

遊介発動したカードにより、太陽は沈むことなく輝き続けるが、戦士の攻撃を受けた代償は間違いなく、イリアステルの戦士に降りかかった。

 

(勝) デコード・トーカー ATK5500 VS The supremacy SUN ATK4000 (負)

 

フィフテル LP2500→1000

 

「見事だ。遊介」

 

ここまでの戦術を見た赤馬の一言。

 

「これならば相手のセカンドオーダーの効果を発動させることはない。及第点だろう」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「だが、まだ油断するな。ここまで追いつめても、奴はイリアステルだ。一筋縄で終わるとは思えない」

 

「……できれば、このままいってほしいけど……」

 

「そうはいかないからこそ、連中は数多のデュエリストを葬った、恐るべき敵といえる」

 

赤馬の言う通り、フィフテルはまだ全くまいった様子はなく、

 

「まさか、セカンドオーダー使って、ここまで追いつめられるなんてねぇ。いいね……いいねエ。やっぱり強者とのデュエルはそう来なくちゃねぇ!」

 

むしろテンションが上がっている。

 

「やっぱりよかったぜ。イリアステルに入って」

 

ものすごいご満悦のように、歯を思いっきり見せて、ものすごい笑顔を浮かべながら、

 

「こんな強者と戦えるから、イリアステルはたまらない。思い通りにいかないから、やっぱデュエルはおもしれえ。そうそう、こんなふうに、デュエルは楽しくなくちゃなァ! アハハハ、アハハハハハハハハ」

 

笑い始めた。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハ、まだまだまだまだ、まだまだまだまだまだァ、もっとあげていくぜェええええええ!」

 

「ええ……」

 

徐々に頭のねじがとれはじめているのかと遊介は疑ってしまう。劣勢になっているというのに、それを感じさせないほどの勢いが向こうから感じられる。

 

遊介はこのターン、これ以上できることはない。ターンエンドを宣言した。

 

デコード・トーカー ATK5500→3500

 

 

遊介・零児 LP7200 手札 零児3 遊介0

モンスター ⑧ サイバース・アクセラレーター ⑨ デコード・トーカー

魔法罠 ⑩ ターゲット・アルゴリズム ⑪ アタッチドファイル

    ③ DDD極智王 カオス・アポカリプス

 

 

(フィフテル)

 

□ □ ⑥ ⑦ □   魔法罠ゾーン

□ □ ⑫ □ □   メインモンスターゾーン

  □   ⑧     EXモンスターゾーン

□ □ □ ⑨ □   メインモンスターゾーン

□ □ ⑩ ⑪ ③   魔法罠ゾーン

 

(遊介・零児)

 

 

 

ターン4

 

 

「俺のォ、ターぁあああン!」

 

フィフテルはあがりきったテンションのまま、デッキからカードをひいた。

 

そして、目を見開き、そのカードを見る。

 

「さあて、追い詰められたところでぇ、お楽しみの逆転タイムだぁ!」

 

このターンで、追い詰められている状況をひっくり返すと宣言した。

 

 

フィフテル LP1000 手札4

モンスター ⑫ The supremacy SUN

魔法罠 ⑥ セカンドオーダー「暗黒の太陽」 ⑦ セカンドオーダー「尽きぬ生贄」

 

 

「俺は永続魔法『命と力の契約』を発動! このカードの発動時、及びお互いのターンのメインフェイズ1開始時、俺のモンスター1体を選択して発動する。そのモンスターの攻撃力は2000ポイントアップする。ただし、この効果を発動したターンのエンドフェイズ、選択したモンスターは破壊される」

 

「く……」

 

ターゲットアルゴリズムは戦闘破壊は防げても効果破壊は防げない。

 

まさか相手モンスターの自壊がこれほど喜ばしくないと思うときは、これまであっただろうか。

 

「さて、一気に逆転と行こうか。この効果により、サンの攻撃力は2000ポイントアップだ!」

 

The supremacy SUN ATK4000→6000

 

「そして、俺は『尽きぬ生贄』の効果を発動する! 俺はデッキからカードを4枚墓地へと送り、フィールド上に4体のオーダートークンを特殊召喚!」

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

「この瞬間、今墓地へと送られた『セカンドオーダー『平和への協定』』の効果を発動! このカードが墓地にある限り、フィールド上の永続魔法、永続罠は相手の効果によって破壊されない!。 つまり『命の力の契約』は破壊不可能となる!」

 

「く……」

 

これで、The supremacy SUNの攻撃力を4000まで戻すのは絶望的になった。

 

「さらに俺はカードを1枚伏せ、バトル!」

 

圧倒的な攻撃力6000を持つ、太陽の攻撃が襲い掛かろうとしている。

 

「ああ、ターゲットアルゴリズムの効果で、俺はデコードトーカーにしか攻撃できないな。The supremacy SUNでデコードトーカーに攻撃!」

 

「サイバースアクセラレーターの効果! デコードトーカーの攻撃力を再び2000ポイントアップ!」

 

デコード・トーカー ATK3500→5500

 

「だとしてもその攻撃力は5500どまりだ。サンの攻撃力には敵わない! さあ、まずは戦闘ダメージを食らいな!」

 

今度は太陽の逆襲。先ほどよりも攻撃力はアップした相手モンスターがデコードトーカーに攻撃を浴びせる。

 

(勝) The supremacy SUN ATK6000 VS デコード・トーカー ATK5500 (負)

 

遊介・零児 LP7200→6700

 

「く……」

 

そしてイリアステルの相手はさらに、猛攻を仕掛けてきた。

 

「この瞬間、手札のモンスターカード『セカンドオーダー 『ヴィクティの呪杖』』の効果! 相手に戦闘ダメージを与えた時、このカードを墓地へ送り、相手プレイヤーにさらに1000ポイントのダメージを与える!」

 

「何!」

 

空いた天井から、雷が降り注ぐ。遊介と零児に直撃し、ダメージを与えた。

 

遊介・零児 LP6700→5700

 

もはや何か月もこの世界にいれば痛みには慣れてきたが、耐えられるというだけで、痛いものは痛い。遊介は歯を食いしばった。

 

先ほどからの連続攻撃。一気にライフが削られるうえ、相手が発動した永続魔法の効果により、太陽は破壊されることとなる。

 

「エンドフェイズ、『命と力の契約』の効果により、The supremacy SUNは破壊される」

 

太陽は墓地へとゆっくり沈んでいった。しかしそれは、完全な消滅ではなく一時的に見えなくなっただけのこと。

 

次のターン再び日は昇る。それは避けられない運命だった。

 

デコード・トーカーの攻撃力は元に戻る。

 

デコード・トーカー ATK5500→3500

 

「そしてここで残念なお知らせだ。ヴィクティの呪杖の効果が発動した次のターンのエンドフェイズまで、お前らはエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。そしてヴィクティの呪杖は次の俺のターンのスタンバイフェイズ、俺の手札に戻ってくる」

 

「そんな効果まであるのかよ」

 

遊介は、眉間にしわを寄せる。

 

元々次のターンは赤馬零児がコントロール権を有する。なので自分には何もできない。しかし、先ほどのターンを見る限り、赤羽零児のデュエルはエクストラデッキを良く使うデッキであることはよく分かる。

 

「さて、さすが7200を1ターンでは削れないもんだな。俺はこれでターンエンド。だが、分かってるな? 次のターン、再び太陽は昇ることを!」

 

この1ターンで逆転をする。

 

その言葉に嘘はなかった。目の前のイリアステルの男は、自身のカード効果を使い無理矢理、得意なセカンドオーダーを使う戦術を発動する状況を整えた。

 

そして、さらに、ダメージを与えたうえで、相手のエクストラデッキの仕様を封じた。これで、高い攻撃力を持つモンスターの召喚は一段と厳しくなる。

 

「ほう……」

 

赤馬零児は目の前に迫った状況に一言、感心したように呟いた。

 

 

フィフテル 手札1 LP1000

モンスター ⑤ オーダートークン

魔法罠  ⑥ セカンドオーダー「暗黒の太陽」 ⑦ セカンドオーダー「尽きぬ生贄」

     ⑬ 命と力の契約 伏せ1

 

(フィフテル)

 

□ □ ⑥ ⑦ □   魔法罠ゾーン

⑤ ⑤ □ ⑤ ⑤   メインモンスターゾーン

  □   ⑧     EXモンスターゾーン

□ □ □ ⑨ □   メインモンスターゾーン

□ □ ⑩ ⑪ ③   魔法罠ゾーン

 

(遊介・零児)

 

 

ターン6

 

 

「私のターン!」

 

赤馬零児はがカードをドローした瞬間、その効果は宣言される。

 

「墓地の、The supremacy SUNの効果を発動する! 手札のカードを1枚墓地へと送り、墓地のこのカードを特殊召喚する! 蘇れThe supremacy SUN!」

 

再び、暗黒の太陽が昇る。セカンドオーダーの効果により、攻撃力が1000アップしている状態で。

 

The supremacy SUN レベル10 攻撃表示

ATK4000/DEF4000

 

「そしてセカンドオーダー『暗黒の太陽』の効果により、The supremacy SUN以外のすべてのモンスターは破壊され、破壊されたモンスター1体につき800ポイントのダメージを与える!」

 

再び辺りを灼熱が覆いつくす。

 

電脳世界の戦士たちは破壊され、相手のトークンもろとも巻き込み、6体のモンスターがフィールドから跡形もなく消え去った。

 

遊介たちが受けるダメージは4800.

 

遊介・零児 LP5700→900

 

あれほどあったLPが一瞬で3桁へと変貌し、遊介は黙ってしまう。

 

やろうと思えばたった一瞬でここまでダメージを与えることができるセカンドオーダーのカードと相手の戦術。

 

赤馬零児のカードがなければ今頃とっくに、自分のLPは0になっていただろうと確信する。

 

「そしてメインフェイズ開始時、命と力の契約の効果により、さらに攻撃力が2000アップする!」

 

The supremacy SUN ATK4000→6000

 

「さあ、超えられるか? 赤馬? このターンで何とかしなければ、お前は死ぬ」

 

「……一応理由を聞いておこうか」

 

「ああ、もちろん。言うとも。俺はセカンドオーダー『尽きぬ生贄』の効果! デッキからカードを4枚墓地へ送り、オーダートークンを4体、特殊召喚できる!」

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

オーダートークン レベル8 守備表示

ATK0/DEF0

 

「なるほど……。つまり、このターンで仕留めなければ、次のターン、再び同様の効果が発動し、私達に最低でも3200のダメージが入るわけか」

 

「ああ。もちろん。ちなみに、俺がさっきヴィクティの呪杖を発動したのは、お前のもつ融合モンスター、神託王ダルクの効果を使わせないため。お前が俺の部下と戦っていた時に使ったカードだったな。さすがに、あれはいけねぇ」

 

遊介がこっそりその効果をのぞいてみる。ダルクは効果ダメージを回復に変える効果を持っていた。

 

つまり向こうは、あらかじめ、赤馬零児のカードをある程度知っているということ。

 

「さっきのリンク召喚には驚かされたが、今度はエクストラデッキ無しだ。赤馬零児。この状況をどうやって打開する?」

 

相手は赤馬零児を挑発する。

 

この状況を突破できるものならやってみろと。

 

そして、対する赤馬零児は。

 

「……いいだろう」

 

その挑発を真っ向から受けた。

 

「君がそこまで言うのなら、私も多少は本気を出すとしようか」




後編だけだと長くなりそうだったので、中編を出しました。

次回で決着です。


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24話 同盟軍 VS 不滅の太陽 (後編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

いやあ、デュエルって書くの大変だなぁ(今更)

7月26日追記 訂正箇所があったため訂正しました。


フィフテル 手札1 LP1000

モンスター ⑤ オーダートークン

魔法罠  ⑥ セカンドオーダー「暗黒の太陽」 ⑦ セカンドオーダー「尽きぬ生贄」

     ⑬ 命と力の契約 伏せ1

 

(フィフテル)

 

□ ■ ⑥ ⑦ □   魔法罠ゾーン

⑤ ⑤ □ ⑤ ⑤   メインモンスターゾーン

  □   ⑧     EXモンスターゾーン

□ □ □ ⑨ □   メインモンスターゾーン

□ □ ⑩ ⑪ ③   魔法罠ゾーン

 

(遊介・零児)

 

 

ターン6

 

 

遊介・零児 LP5700 手札 零児3 遊介0

モンスター ⑧ サイバース・アクセラレーター ⑨ デコード・トーカー

魔法罠 ⑩ ターゲット・アルゴリズム ⑪ アタッチドファイル

    ③ DDD極智王 カオス・アポカリプス

 

「私のターン!」

 

赤馬零児はがカードをドローし、手札を4枚にした次、その効果は宣言される。

 

「墓地の、The supremacy SUNの効果を発動する! 手札のカードを1枚墓地へと送り、墓地のこのカードを特殊召喚する! 蘇れThe supremacy SUN!」

 

再び太陽は昇った。

 

そして、その灼熱は、すべての生命を絶命させる。

 

「セカンドオーダー、暗黒の太陽の効果を発動する! フィールド上のモンスターをすべて破壊し、1体につき800ポイントのダメージを与える!」

 

遊介が展開した戦いの布陣はすべて崩壊し、さらにその代償がLPへのダメージとなって迫る。

 

言葉を発するはずもない。デュエルでのダメージを直接感じている今の遊介は、LPダメージ4800という、過去最高鋒の攻撃を直に受けている。体に走る痛みは、痛烈さを思い起こさせる叫びをすることすら許さない。

 

遊介・零児 LP5700→900

 

もはや風前の灯となった命に、止めを刺す1枚を、フィフテルが披露したのはその瞬間。

 

「トラップカード。『セカンドオーダー・反逆の暁星』を発動! 発動ターン、LPが低いプレイヤー、つまりお前らのモンスターは、メインフェイズ1終了時に全員が攻撃表示となる。この時リバースモンスターの効果は発動されない。そしてバトルフェイズ、LPが低い方のプレイヤーのモンスターは、攻撃可能な場合必ず相手モンスターに攻撃しなければならない。ただし、モンスターを召喚しないでやり過ごすことはできない。このターン、LPが低い方のプレイヤーがモンスターを場に残さずメインフェイズ1を終了した場合、俺がデュエルに勝利する」

 

赤馬零児は発動されたトラップにより、自らが置かれた状況を正しく言葉にした。

 

「貴様には元々オーダートークンと暗黒の太陽の合わせ技もある。どのみち、このターンで止めを刺さなければ、我々が負けるということか」

 

フィフテルは、ニヤけた顔で、

 

「その通り。お前らに超えられるか? 攻撃力6000を」

 

と一言。その表情は、明らかに自身の勝利を信じている者がするものになっていた。

 

それも当然だろう。フィールド上には攻撃力が6000もあるモンスターを待機させている。そしてセカンドオーダー『尽きぬ生贄』の効果で壁役のモンスターも呼ぶことができる。そして、先ほどの罠でダイレクトアタックができるモンスターでの突破も封じた。さらに向かい合っている相手はこのターンエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。強力なモンスターを呼ぶことすら制限されている状態だ。

 

いわば将棋で言う王手を宣言したに等しい。

 

「さらに俺は、墓地の『セカンドオーダー・ラグエイルの呪杖』の効果。このカードが墓地に存在するとき、お互いのスタンバイフェイズ、俺はLPを500回復していく」

 

フィフテル LP1000→1500

 

圧倒的にフィフテルの有利。しかし、赤馬零児はここまでの流れに対し対し一言。

 

「そうか」

 

ただ冷静に、状況を見極め、新たなる一手を打とうとする。その目には、諦観を思わせる意思は一切感じられない。

 

「私は、スケール10のDD魔道賢者ニュートンをペンデュラムスケールにセットする。これでスケールは4と10。よって、レベル5から9までのモンスターは、手札からペンデュラム召喚可能!」

 

「やる気なのか。この状況で」

 

「当然だ。私はランサーズのリーダー、そして隣の彼は光の世界のエリアマスター。共に守るべきものを持ち、それを守る大きな責任を背負っている。生半可な覚悟で戦いなどしないし、敗北などあり得ない!」

 

赤馬零児の場に、ペンデュラム召喚の条件は整った。ペンデュラム召喚はエクストラデッキだけでなく、手札からモンスターを召喚する力もある。相手が発動した、エクストラデッキ封じの効果は受けない。

 

「我が魂を揺らす大いなる力よ。この身に宿りて、闇を斬り裂く新たな光となれ!」

 

口上と共に降臨する、新たなる王は、これまでの王たちとはまた違う、ペンデュラムモンスターの王。

 

「ペンデュラム召喚。降臨せよ。すべての王を超越し得る異次元の覇者。DDD死偉王ヘルアーマゲドン!」

 

天空に描かれた召喚陣から、現れ出でたのは、人型ではない、恐怖を人に植え付ける異形の王。

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF1000

 

「もとより、逃げるつもりはない。このターンですべての決着をつけよう。私は魔法カード『DDDの異動辞令』を発動! 自分フィールド上に『DDD』モンスターがいるとき、フィールド上の『DD』カード1枚をデッキに戻し、デッキから新たな『DD』モンスターを手札に加える。私は、魔道賢者ニュートンをデッキに戻し、デッキから、DDケルベロスを手札に加える。その後、私はLPを1000回復する」

 

遊介・零児 LP900→1900

 

「……へへ」

 

フィフテルの笑みは止まらなかった。

 

絶体絶命の中、それでも全く闘志が揺らぐ気配のない目の前の男が、次に何をするのかが楽しみで仕方がない。命を賭けた勝負の中で、相手が何をしてくるか分からない。次はどのような形で自分を驚かせてくれるのかが楽しみで仕方がない。

 

「そして私はペンデュラムスケールに存在する、カオスアポカリプスの効果を発動する。墓地のDDモンスター2体を除外し、このカードを特殊召喚できる! 私は、墓地のサイフリートとエグゼクティブテムジンを除外!」

 

そして今まで、ペンデュラム召喚の軸となっていた王が、戦いの場へと姿を現した。

 

DDD極智王カオス・アポカリプス レベル7 攻撃表示

ATK2700/DEF2000

 

「2体並べた程度で」

 

「この程度では終わらん。LPが初期状態の半分以下になっている場合、私は永続魔法、『地獄門の禁忌契約書』を発動!」

 

「地獄門の契約書じゃなくてか?」

 

フィフテルの問いに零児は答える。

 

「そのカードを強化したものだと考えればいい。ただし、コストも膨大だ。エンドフェイズにこのカードがフィールド上に存在すると、そのターンに手札に加えたモンスターの攻撃力の合計分のダメージを受ける効果がある。しかし、代償の分、強力な効果を発動できるのも事実。このカードは1ターンに1度、デッキから異なるDDモンスターを2体まで手札に加える効果を持つ」

 

既に手札に加えるモンスターは決まっていたようで、デッキを確認してから迷った様子は見せなかった。

 

「私はデッキからDD魔道賢者二コラとDDD制覇王カイゼルを手札に加える。そして、この効果を使用した時、私のフィールド上のDDDペンデュラムモンスター1体を選択し、選択したモンスターの攻撃力を、今手札に加えたモンスターのレベル×300ポイントアップする。制覇王のレベルは7、二コラのレベルは6。よって、13の300倍、3900攻撃力をアップする。ただし、この効果を使用した後には、私は新たにモンスターを特殊召喚できない」

 

そして赤馬零児はその契約書の効果を、カオス・アポカリプスに使用した。

 

DDD極智王カオス・アポカリプス ATK2700→6600

 

「てめ、なんだそのカードは?」

 

フィフテルがまた赤馬零児に向け言葉を発する。しかし、その表情は驚きに満ちているように見えた。

 

「らしくないじゃないか、そのカード。俺が知っている赤馬零児は、もっと確実で完璧なデュエルをする男だ。そんなお前が、なぜそんなハイリスクなカードを入れてんだ。確かに効果が強力だが、その契約書の破壊を封じられるだけで、お前にはバカみたいなダメージが行く。解せないな?」

 

「確かに、ハイリスクハイリターン、とは本来避けなければならない行為だが、時にリスクを背負ってでも、未来を取らなければならないときもある。そうしなければ、組織が衰退するか、死ぬかと言うときは特に。私にとってはまさにこれは禁忌契約。しかし、ランサーズとして、私の仲間が多くの危機を乗り越え成長したところを見て、私も思ったのだ」

 

赤馬零児は、榊遊矢の方を向く。

 

「彼は多くの苦難と挫折を乗り越えてきた。エンタメデュエルは受け入れられず、独りよがりで、くだらないものだと多くの批判を日々受け続けている。しかし、彼は今も折れていない。彼はエンターテイメントが一つの形だけではないことを学び、相手と呼吸を合わせなけれなければならないことを学んだ。多くの強敵との戦いの中で」

 

次に赤馬零児は光津真澄の方を向く。

 

「彼女はかつてはとても弱かった。デュエルがじゃない。強敵と戦うことへ恐怖していた。しかし、ここまでの旅で、勇気を手に入れた。戦う勇気を。確かにランサーズには必要不可欠な素質だが、それを手に入れるのには多大な時間がかかる。だれしも負けたくはないものだ。特に生死がかかっているならなおさら。私は彼女は誇らしく思う」

 

そして再びフィフテルの方を向く。

 

「他にも、私の仲間が成長を見せ続けている。管理者としてこれほど誇らしいものはない。そして、それと同時に、私もまた己を見直す機会を得た。貴様の言う通り、やり方を変えればリスクも増える。それは私の好むところではない。しかし、成長のないデュエリストにも未来はない。敵は次元をも超える超越者たちの軍団、ならば、私も強くならなければ、仲間に示しがつかない」

 

何かを思い出したのか、赤羽零児は一瞬笑った。

 

「そういえば……私が尊敬するデュエリストが、こんなことを言っていたな。何かを成し遂げたければ、勇気をもって前に出ろ。今思えば、綺麗事のように聞こえるそれも、確かに間違ってなどいない言葉だった。我々ランサーズは行く先を恐れながら、常に進化していく。全てはお前達を倒すために」

 

赤馬零児のフィールドに、ペンデュラムスケールは存在しない。ペンデュラム召喚自体は1ターンに1度だが、スケールのセットは何度でも行える。

 

「私は、DD魔道賢者二コラと、DDケルベロスをペンデュラムスケールにセッティング!」

 

新たなペンデュラムカードは効果の発動のため。

 

「DDケルベロスのペンデュラム効果! フィールド上のDDモンスター1体を選択し、そのモンスターのレベルを4に、その攻撃力と守備力を400アップする! カオスアポカリプスを選択」

 

DDD極智王カオスアポカリプス ATK6600→7000 レベル8→4

 

「さらにDD魔道賢者二コラの効果を発動する! 手札のDDDモンスター1体を墓地へ送り、フィールド上のレベル6以下のDDモンスター1体の攻撃力を2000上昇させる」

 

DDD極智王カオス・アポカリプス ATK7000→9000

 

「これで……」

 

自分ではどうしようもなかったこの状況を赤馬零児は1ターンで逆転した。遊介はその手腕とデッキの持つパワーに驚愕する。

 

赤馬零児は特に満足することもなく、

 

「バトルだ」

 

戦いを宣言する。

 

「来るか?」

 

「これで、あの忌々しい太陽を葬ることができる。私がバトルを宣言することにより、君の特殊勝利条件は果たせない。私はカオス・アポカリプスで、The supremacy SUNを攻撃!」

 

その宣言に躊躇はない。極智王の攻撃力は6000という力を持つ敵を圧倒する9000。この攻撃が通れば戦いは終わる。

 

――通ればの話だが。

 

相手はイリアステル。その攻撃を易々と通すのならば、次元を超えた先で勝利し続けるような存在になってはいない。

 

「墓地の『セカンドオーダー・マグノリアの呪杖』を発動する! 墓地のこのカードを除外し、相手の攻撃を無効にして破壊する! この効果に対し、相手はカードの効果を発動できない!」

 

満を持しての攻撃を無慈悲に止めるフィフテル。

 

逆転の一手となるアポカリプスは、フィフテルが持った杖により消滅した。

 

「どうした? こんなもんか? 赤馬零児!」

 

イリアステルの男は、勝利を確信した。そして、思いきり歯を見せ笑顔を見せる。

 

しかし、何も表情を変えることなく、零児は行使される効果を宣言する。

 

「死偉王ヘルアーマゲドンの効果を発動する。フィールドのモンスターが破壊されたとき、自らの攻撃力を、破壊されたモンスターの元々の攻撃力分だけアップする・アポカリプスの元々攻撃力は2700。その攻撃力をヘルアーマゲドンに加える」

 

「たとえそうだとしても、ヘルアーマゲドンの攻撃力は5700どまり。俺の太陽の攻撃力には敵わない!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン ATK3000→5700

 

その通り。このままでは通らない。そしてヘルアーマゲトンもまた攻撃を強制される。次のターンまで生かすこともできない。

 

今度こそ王手。フィフテルは自身の勝ちを確信した。

 

しかし、赤馬零児はそれでも、悔しそうな顔も、敗北を恐れる顔もしなかった。

 

「……私の攻撃はまだ終わっていない」

 

「は?」

 

零児は遊介の方を見る。

 

「君のカード、使わせてもらう」

 

「ああ」

 

わざわざ遊介の方を向いたのは、そのカードが遊介が仕掛けた次への布石だったから。そしてそれを使うのは赤馬零児。まさに同盟の結晶ともいえる共同戦線が成し得た一手である。

 

「私は墓地の、『アタッチドファイル』の第2の効果を発動する。バトルフェイズ時、墓地のこのカードを除外し、私はフィールド上のモンスター1体を選択して発動する。墓地のサイバース族モンスター1体を攻撃力を0にして特殊召喚し、選択したモンスターをサイバース族へと変更する! 墓地のサイバースアクセラレーターをヘルアーマゲドンの隣に呼び、ヘルアーマゲドンをサイバース族へと変更する!」

 

「な……!」

 

フィフテルは、その目的に気づき、笑みが消える。

 

その後の効果は、遊介が説明した。

 

「サイバースアクセラレーターの効果は覚えているな? このカードのリンク先のサイバース族モンスターの攻撃力を2000ポイントアップする効果を持つ。そして幸いにも、このカードのリンク先は右と左にもある。ちょうど、サイバース族モンスターになったヘルアーマゲドンがいるな」

 

赤馬零児は続けた。

 

「サイバースアクセラレーターの効果により、ヘルアーマゲドンの攻撃力を2000ポイントアップする!」

 

DDD死偉王ヘルアーマゲドン ATK5700→7700

 

「やべ……」

 

フィフテルは墓地を確認する。

 

元々このデッキは杖を主体にするのではなく、あくまで太陽を主軸に置いたデッキ、元々防御のための杖はそれほど多く入れていない。故に、デッキからカードを墓地へ送っていても、運悪く、墓地に守る手段がないこともある。

 

まさに今がその状況だった。

 

「これが同盟の成果と言えるだろう。運よく君を倒せそうだ」

 

「うワァァァ。赤馬……零児、やるじゃねえか」

 

「バトルだ。私はDDD死偉王ヘルアーマゲドンで、The supremacy SUNを攻撃!」

 

ここまでのすべての行動に意味があった。それゆえの勝利へつながる一撃が放たれる。

 

イリアステルを名乗るその男に、最後の攻撃を放った。

 

「ヘルテンダクルウィップ!」

 

黒く分厚く、禍々しい死の鞭が生成され、そして踊り狂う。その太陽が粉砕するまで。

 

(勝)DDD死偉王ヘル・アーマゲドン ATK7700 VS The supremacy SUN ATK6000 (負)

 

「ウオワアアアァァァァああああ」

 

最後の一撃を堂々と叫びながら、フィフテルは甘んじて受けるしかなかった。

 

フィフテル LP1500→0

 

 

 

デュエルは終わり、フィフテルは保有ライフを失って立ち上がる。

 

赤馬零児には勝利への満足感はないようで、特に顔が穏やかになることはなかった。

 

一方で遊介は、今のデュエルでよく勝てたものだと顧みていた。恐らく一人ではとてもではないが勝てなかっただろうと思う。

 

「遊介」

 

赤馬から一言。

 

「感謝する。このデュエル、ともに戦ったからこそ勝てた。私の勝利ではない、我らの勝利だ。1500ポイントは君が持っていくといい」

 

「え、でも、それじゃ光の世界が逆転するぞ?」

 

「我々ランサーズは風の世界に執着があるわけではない。だが、君は違うのだろう? 私は、君が光の世界を守るために戦っているのを知っている。ポイントは、持っていて意味のある人間に与えるのが最適だろう」

 

「なら、ありがたく頂戴しますよ」

 

デュエルディスクに1500ポイントが振り込まれ、光の世界がギリギリ安全圏内へと入ったことを確認した。

 

一方で赤馬零児は再び、フィフテルを見る。残りライフが4000になった表示を確認し、口を開く。

 

「私の仮説だが、イリアステルと言えども、この世界のルールには縛られているように見える。その保有ライフ、本物だな?」

 

「その通り、アルター様は酔狂な人でね。俺達もプレイヤーの一人として、命懸けの楽しむよう命じられた。おかげで俺の保有ライフは残り4000。もっと、この遊びのデッキで楽しみたかったぜ」

 

「遊び……?」

 

遊介は、その言葉を嘘だと思いたかった。

 

しかし、ソレをフィフテルは真っ先に否定する。

 

「当たり前だろ。こんな弱いデッキでイリアステルの幹部やってられるかっての。まあ、でもやっぱりロマンのあるデッキはいい。杖を使うのも面白いが、こうしてモンスター同士の削り合いってのが、まさしくデュエルの醍醐味だと思うんだよ」

 

フィフテルはへらへらと笑いながら敗者とは思えない堂々たる態度で大声を出す。

 

「今回は勝ちを譲るぜ、イベント戦大勝利おめでとう。またいずれ会おうぜ。今度は俺らの本拠地とかでな。でもまあ、次負けたら死ぬし、さすがに次は本気で戦わなくちゃなぁ。今度は俺も負けねえぞぉ! はははははは!」

 

腰につけた球体を手に持ち、フィフテルは地面に叩きつける。

 

目くらましのフラッシュ・バン、激しい光から身を守るため目を閉じるランサーズとプレイヤーズの諸君。

 

次に視界が開けた瞬間、フィフテルは姿を消していた。

 

「あれで本気じゃないって……」

 

遊介はうなだれる。そしてデュエルの疲れから腰を落とした。エリーが心配そうに駆け寄ってくる。

 

赤馬零児は後ろで控えていたランサーズに何かを指示したが、それを頭に入れる余裕も今の遊介にはなかった。

 

「マスター、飲み物です。後始末が何かあれば、私たちに任せてください」

 

「ああ、エリーありがとう」

 

そう言いながらも、遊介は、これから来るだろうイリアステルとの戦いに一抹の不安を感じていた。

 

 

 

土の世界。

 

「……く……」

 

まっつんこと良助は、敵を前に膝をつく。

 

「いやあ、強かった強かった。アルター様がなかなかやると聞いて、本気で来て正解でした」

 

良助のLPはまだ十分残っていたが、この一撃を耐える余裕はない。目の前には、セカンドオーダーの力で、攻撃力が20000まで跳ね上がっている、セカンドオーダーのモンスターがいた。

 

セカンドオーダー・輪廻の管理者

リンクマーカー 上 左上 右上 右下 下 左下

ATK4000/LINK6

 

「ようやく、追いつめたのに、ここでその化け物呼ぶのかよ……!」

 

「ご安心を。あなたはまだ保有LPが4000残る。次戦うまでに、どうして負けたのか考えておくことですね?」

 

良助 LP4000→0

 

 

 

 

炎の世界。

 

巨大な爆発が起こった。

 

その後、ジャックの行く末は知れなくなった。

 

 

 

 

水の世界。

 

「まったく、なかなかやる……」

 

「そっちもね」

 

リボルバーとイリアステルの戦士、サーディスの戦いは激化する。

 

共にLPは半分以下まで減り、手札も、モンスターの攻撃力も互角。これまでは。

 

「ところで、貴方は、これから光の世界と解放軍に勝負を挑むとか?」

 

「それが何?」

 

「ふふふ……残っていると良いですね……」

 

次の瞬間、戦況は一気に変わった。

 

あるモンスターがその場に現れた瞬間。凄まじい威圧と共に、その竜は顕現する。

 

戦いは決着した。

 

エデンのチームメイトたちは、全員が一斉に水の世界から脱出することとなった。

 

 

 

そして、光の世界。

 

「……今あいつはここにいねえよ」

 

「そうですか。では待たせていただきましょうかね。あなたには眠っていてもらいましょう」

 

目の前には時戒神サンダイオン。そのモンスターは戦闘終了後、相手に4000のダメージを与える効果を持つ。

 

(無茶苦茶な相手だぜ……)

 

ヴィクターの今のデッキでは、とても相手にならない敵。

 

相手の使う、すべてのモンスターがヴィクターの戦う土俵である、戦闘で無敵の効果を持ち、さらに戦うだけこちらが消耗していく。

 

「では、待たせていただきましょうかね。ここで、遊介君を」

 

「野郎……!」

 

「バトル、サンダイオンで、邪帝ガイウスに攻撃。私のサンダイオンは現在攻撃力0ですが」

 

「戦闘破壊無効、ダメージ0だろ。嫌って程聞いた……!」

 

「そのとおり、では効果ダメージ4000で、お別れですね!」

 

(クソ、クソクソクソクソ……!)

 

身が燃えるほどの怒りと、自身の弱さを呪いながら、ただ目の前の絶望に嘆く以外に道はない。

 

「てめえ……! 次は絶対に負けねえからなぁ!」

 

ヴィクター LP1700→0

 

 

 

遊介たちが、何とか身に迫るイリアステルの敵を倒した一方で、各地で、イリアステルとの戦いに決着がついていた。

 

そのデュエルを見た多くのデュエリストが驚愕する。

 

トップクラスのデュエリストを相手に圧倒のデュエルを見せたイリアステルは、まだ遊びのデッキだったことを。




すこし時間が空いてしまい申し訳ありません。
先週投稿したつもりが、つもりのまま、投稿していませんでした。新しい話を投稿しようとした今日気が付いたので、今日はこの話を投稿させていただきました。
既に次回の話は書き上がっていますが、連投はせず、少し間を置きたいと思います。

イリアステルの唐突な襲撃のデュエル。
赤馬零児の圧倒的なデュエルを少しでも美味く表現しようとは思いましたが、相手が悪かったですね。
少しギリギリの勝負になってしました。
もっとも、このデュエルで遊介君に、まだまだ自分が弱いということを自覚させるにはいいデュエルになったのではないかと思います。このデュエルは、零児がいなければ勝てないようにはしています。

執筆の舞台裏ですが、零児と書くとき、パソコンがなかなか変換を覚えてくれないのが面白かったです。
零児と書こうとしても、礼二だの、零時だの、例示だの、挙句の果てに〇児だの。まともに出た時の方が少なかったような気がします。

地獄門の禁忌契約書はいわゆる、架空デュエルでおなじみの強欲な壺その他類似効果の代わりですね。たまにやってみたくなるのが強力なドロー・サーチ等効果。しかし、さすがに壺系統は安直だったので、少し変えました。ここは見逃してください。お願いします……。

さて、いよいよ次回がボスバトル、となりそうなのですが、1回だけブルームガールのデュエルを挟みます。相手は秘密です。一応布石は、ここまでで打っておいたので、予想しながら待っていてください。

もしかすると、次回も今回ぐらいに長くなるかも……。


(アニメ風次回予告)

光の世界に危機が迫る。ヴィクターからきた緊急メールの中で、敗北の二文字が遊介を追い詰める。危機にに立ち向かうため、ブルームガールたちはランサーズの援軍と共に急いで拠点へと向かう。しかし、予想もつかない方向へと動きはじめた。

「これで、彼を助けてもらえるのなら……!」

次回 遊戯王VRAINS~『もう一人のLINKVRAINSの英雄』~

   「魅惑的な取引」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!


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25話 魅惑的な誘い(前編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


「遊介はさ。古代文明に興味はあるかい?」

 

「ああ、まあ、ないわけじゃないけど詳しくは知らないな……」

 

「僕の趣味は自分の知らない文明について学ぶことなんだ。良かったら、君たちの世界についても、僕に教えてほしいな!」

 

「ああ、喜んで」

 

 

 

「改めて、私たちが今いるチーム『players』のリーダー遊介よ。サイバース族の使い手」

 

「……柚子、彼、そんなに強く見えないのだけれど」

 

「そう? 結構勝率もいいってブルームガールが言ってたけど」

 

「うーん、どうかしら、ちょっとデュエルしなさいよ」

 

「ええ……、むっちゃ疲れてるんだけど……」

 

 

 

「つまり、遊矢とこの俺、そして柚子と、この写真にいる沢渡という男は、長い戦いを共に走りぬいてきた親友と言うことだ」

 

「沢渡は友達か?」

 

「当たり前だ。共に同じ境遇で戦ってきた心の友だろう」

 

「どうかな……。俺的には遊介の方が友達って感じがするんだけど……」

 

「それは嬉しいけど……同じ世界出身なんだし、俺はまだまだじゃないか?」

 

「どうかな。遊介はいいやつだけど、沢渡のやつは……」

 

 

 

 

 

イリアステルとの戦いが終わって数時間。大聖堂から去り、風の世界の酒場兼宿屋を借りてのランサーズとの懇親会の最中に、遊介当てへの1通のメッセージ。

 

その衝撃の知らせは唐突に入ってきた。

 

「負けた。すまない」

 

その謝罪の一言と、その後、現在の光の世界の様子が細やかに説明されていた。

 

攻めてきたイリアステルの戦士は、遊介が明日の夕暮れまでに帰ってこなかった場合、光の世界の住人を、子どもから少しづつ処刑していくという布施を出した。

 

しかし、遊介が現れたら、それ以上手は出さず、遊介と真っ先に戦うという。

 

他の世界にいるだろう遊介が逃げられないように、その宣言はすべての世界に張り紙として張られることになっているという。

 

先ほど、風の世界の入り口にあたる町の掲示板にもそのような記載のある紙が貼りつけられていたのを、エリーが確認している。

 

「大丈夫ですか……?」

 

実は遊介はかなりのダメージを受けている。

 

先ほどのイリアステルの戦いで、LP4000以上のダメージをもろに受け、かなり疲弊している。赤馬零児もまた、顔には出さないものの、最初に会った時より比べかなり顔色が悪い。

 

あの赤馬零児もあの状態なのだ。遊介の方は疲れと痛みがどっと出て、懇親会においてもぐったりとしている。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

しかし、止まってはいられない状況だ。

 

すぐに戻らなければ、光の世界が危ない。せっかく光の世界の安寧を守るために行動を起こしてきたというのに、ここでリタイアなどもっての他だ。

 

「すぐに行かないとな」

 

「でも、お体が……」

 

「黙っているわけにも」

 

赤馬零児が近づいてくる。

 

「君はもう少し休憩してからのほうがいいだろう。君にはチームメイトがいる。そして同盟相手である我々も。たまには仲間を使うのも考えた方がいい。光の世界への救援はまず仲間に向かわせるのがいい。ランサーズのミハエル、権現坂、光津も同行させよう」

 

「でも、無責任じゃ」

 

「リーダーたるもの、人を使うことも覚えた方がいい。何もかも一人で背負う必要はないだろう」

 

気づけば遊介の周りにはすでに出発準備を整えたメンバーが集まり始めている。

 

マイケルは遊介の顔を覗き込んで、

 

「まあ、安心して俺らに任せろっての。光の世界のデュエリストは少数だが精鋭。そう易々とは負けねって」

 

「マイケル、いいのか?」

 

「おうよ。その代わり、逃げんなよ? 少し休憩したら必ず追いかけてこい!」

 

「……すまん」

 

「おうよ。リーダーの期待に応えて来るさ」

 

そしてブルームガールとエリーも、

 

「まっかせなさい。見せてあげるわ、光の世界の力を」

 

「マスター、どうか今はご安静に。無理して向こうで倒れる方が危険ですから……」

 

頼もしい言葉を聞かせてくれたので、遊介は赤馬の言う通り、仲間を信じて送り出す決心をした。

 

光の世界への凱旋の仕方は赤馬零児がすでに準備を進めていたようで、凱旋組全員にデバイスを渡す。ランサーズだけでなく、playersのメンバーにも。秘書が1人につき1つ手渡しで渡された。

 

「諸君、それは緊急用の音声通信装置だ。デュエルディスクを通してでは傍受される恐れがあるため、我々独自の電波を使った技術で音声通信を行う。ただし、相手に盗られそうになったら後ろのボタンを使い自爆させろ。この技術は秘匿するよう」

 

沈黙は了解の代わりである。

 

「じゃあ、頼む、遊矢、柚子、エリー、マイケル、ブルームガール」

 

「死ぬな。何かあれば必ず戻ってくるよう。いいな?」

 

出撃組がそれに頷き、遊矢以外の全員が懇親会の建物を飛び出す。

 

「零児、なんか、丸くなったな」

 

「榊遊矢。君の実力にかかっている。私を失望させるな。最高のエンタメで倒して見せろ。私が認めるような」

 

「分かったよ。そこで待ってな」

 

そして遊矢も出撃組の後を追った。

 

「……行ったな」

 

赤馬零児は見送った後、遊介の近くに座る。

 

「ゆっくりと懇親会ができなかったのは残念だが、同盟の後すぐに分かれなかったのは幸運だったな」

 

この懇親会、実は赤馬零児が発案したものだった。すぐに戻らず、親睦を深めようと。

 

なぜ、と遊介は思ったが今になって、その理由は分かった気がしている。

 

「あんた、ヴィクターが負ける可能性を考えてたんだ」

 

「デュエルは勝負だ。勝つこともあれば負けることもある。勝敗どちらに転んでも、次を用意するのが勝負者の役目だ」

 

「勝負者、管理者じゃなくてか?」

 

「私もこの世界では、イリアステルに挑む1人のチャレンジャー、であれば、可能な限り仲間を集め、勝つための策を整える。全ては勝利するために」

 

「ありがとう、メンバーを貸してくれて」

 

「いや……どちらにしてもあの3人は光の世界に向かわせるつもりだった。今の光の世界の情勢を調べさせるために。それに……」

 

「……それに?」

 

「今の君の状況を考えると、このタイミングで――」

 

赤馬零児がその後言ったことに、遊介は驚きはしたものの有り得ない話ではないと納得する。

 

「でも、まさか……」

 

「もし、私が彼女の立場だったら、そうする、と言うだけの話だ。なんにせよここから先に起こることには確証がない。戦力ができる限り多い方が、もしもの時に対応できる」

 

遊介の心に、大きな不安がのしかかる。

 

そうはならないでくれと。

 

 

 

Dボードに乗って猛スピードで光の世界へと向かう一行。

 

先導するのはブルームガールとマイケル。

 

「どこに向かう?」

 

「当然中央の神殿でしょ。イリアステルの奴はそこにいるに違いないわ。敵は1人、ここにいる全員で確実にひねりつぶす!」

 

「口悪いなぁ、まあ、それには賛成だ」

 

「そうね、そのまま真っすぐ……」

 

そう目論むブルームガールの視界の端っこに小さな鳥の群れが見えた。

 

「……多い」

 

「待て、ありゃ……」

 

後ろからも報告が来る。光津真澄から、

 

「ちょっと、左! あれ、なんかこっちに向かって」

 

「……まずいな。あの飛行の仕方、エデンの戦闘員の連中だぞ」

 

向かう先は同じく光の世界。

 

しかし、イリアステル狙いと言うわけではないだろう。倒しても1500ポイントしか手に入らない。2位以下との差が圧倒的に離れている1位のエデンが今更リスクを背負ってまで、イリアステルを狙う意味はない。

 

「何のために?」

 

「分からんが、余計なことをされるのは御免だ」

 

マイケルの言葉を聞き、いち早く遊矢と柚子が離れていく。

 

「おい、何を!」

 

「マイケル、俺らがあいつらと戦う。お前らは先に行け!」

 

「でも、あの数だぞ?」

 

「なあに、本気出すから心配するな。多人数相手だとエンタメどころじゃなくなるけど、それでも、たぶんこの中じゃ俺が一番やれる」

 

「任せていいのか?」

 

「ああ!」

 

ブルームガールが、

 

「任せた! 絶対死ぬなよ!」

 

と叫び、遊矢と柚子が離れていく。

 

 

 

 

エデンの一軍、戦闘員だけでも数十名規模、光の世界へと向かう道を邪魔するように、遊矢と柚子が前に出る。

 

「お前ら、なんで光の世界に行くんだ!」

 

光の世界の部隊の戦闘を走っていた男は、意外な行動に出た。

 

「よっしゃ! 当たり! さすがリーダーだぜ」

 

なんと、ガッツポーズをしたのだ。

 

遊矢にとっても柚子にとってもその行動は意味不明だった。

 

「まさかこの2人が釣れるとは! 囲んでくれ! 逃がすなよ、強敵2人、あとで向こうの援軍に行かれると困るからな。でも邪魔はするな! 俺が1対1で倒す!」

 

包囲される遊矢と柚子、しかし、彼らの気を引けるのならば言うことはない。

 

しかし、2人とも目の前の男の反応だけが解せない。

 

「チームエデンの一番槍ケイン! この前の敗北からすぐ復活! まだ保有LPは8000ある、榊遊矢! いざ尋常に勝負!」

 

「ええ?」

 

相手の勢いに気圧されそうになっている遊矢。そして柚子にもデュエルの申請が来る。

 

「ケイン! 今回は真剣勝負じゃなくて」

 

「ミコト! お前には柊柚子を頼む」

 

「もう、申請した! それより、今回は時間稼ぎ」

 

「さあ、勝負だ。榊遊矢!」

 

ケインに勝負を挑まれる遊矢。元々戦うつもりではいた遊矢は断るつもりはない。しかし、相手の話を聞く限り、まるで自分達と戦うのが予定通りかのような言い方だった。

 

「なんか、変だな……」

 

遊矢の中で休息を終えたユートも、遊矢の疑問に同調していた。

 

 

 

 

光の世界に差し掛かり、『players』が拠点としている街へともうすぐ到着しようとしている。

 

しかし、様子がおかしい。

 

「何アレ」

 

空中を多くの人間がDボードで飛んでいる。まるで何かを捜索しているかのように。

 

「あ……!」

 

エリーが何かを発見し、ブルームガールがその方向を見ると、何者かが、光の世界の子供を神殿へと誘拐していく姿が見える。

 

「何なんですか……あれ!」

 

「エリー、すぐに行きましょう!」

 

「はい!」

 

しかし、マイケルはそれを止める。

 

「何よ!」

 

「待て待て待て、あれが全員俺らの敵だったらどうする?」

 

「でも、なんかよくないことが起こってたら……!」

 

「だとしても落ち着け。こういう時のために裏口も用意しておいた。そっから街中に行って様子を見るぞ」

 

裏でランサーズの3人が光の世界の異物に見えるデュエリストの数を数える。

 

入り口に数十人。門の前で、リーダーを中心に外敵からの侵入者に備えている様子が見られる。

 

そして空に百名程度。距離があるためにしっかりは見えないものの、全員がデュエルディスクを装備している様子。

 

マイケルの話はもし事実であれば、要塞に兵士数人で突っ込むというレベルで無謀な行為となるだろう。

 

「なんですって!」

 

さらに、唐突にブルームガールの怒ったような声が響き渡る。

 

「どうした?」

 

権現坂とマイケルの声が重なる。ブルームガールはデバイスを見せて、今の話を報告する。

 

「どうもきな臭いわ。遊矢の方もなんか囲まれて向こうにガッツポーズされたって」

 

「思いっきり怪しいじゃねえか。やっぱり裏口だな」

 

「でも、向こうにバレてない?」

 

「分からん。一応中央から俺が入ってみるか? ヤバくなったらお前らが裏から行けばいい」

 

「脱落前提で話をしないで。遊介だって」

 

「遊介の事好きだなお前」

 

「いいでしょ。とにかく、裏口から迂回するわよ!」

 

「だったらもう着陸するか。飛んでたら目立つもんな」

 

 

 

 

光の世界の神殿では非常に苛々している2人がいた。

 

1人はデュエル中、光の世界のデュエリスト十数人に囲まれて不利な状態に追い込まれているイリアステル、ルセカンドルがいた。

 

「ああ、イライラするわねぇ……!」

 

十数人を同時に相手に、すぐにLPが0にならずに戦いになっているところはさすがの戦闘力だったものの、攻撃を徹底して防ぎながら、召喚を妨害するデュエリストが十数人とあって、イリアステルのデュエリストと言えど易々デュエルに勝利するということはない。

 

「ちょっと、戦う気はあるの?」

 

その問いに答える相手はどこにもいなかった。

 

もう1人は敗北の後、ふてくされているヴィクターだった。悔しさのあまりデッキを徹夜で組みなおしているところを誘拐され神殿に至る。

 

神殿では、ヴィクターの他に、急に光の世界へ現れたデュエリストによって神殿へ連れてこられている人間は少なくない。

 

不思議と子供が多い。そんな彼らに警戒心は何故かない。彼女はが遊介の親友を名乗ったことで、完全に信用しきっているようだった。攫ってきたにしてはとても仲良くしている。コミュニケーション能力が高いのか。

 

彼女は子供たちの相手を一段落させると、ヴィクターの方へ向かっていく。

 

「ふふふ、負けたんだってねー」

 

サングラスをかけているのが非常にウザい、とヴィクターが口に出して先ほど言ったのだが効果はないようだ。

 

「うるせえ」

 

「まあ、仕方ないわよねー。イリアステルのやつ強いもん。私も遊びデッキ相手に負けかけたわ。でも、私は勝った」

 

「てめえ……!」

 

「ふふふ、悔しい、悔しい?」

 

煽られているのは十分承知しているが、ヴィクターにとって挑発に乗るのは二の次だった。

 

一番は、彼女がなぜここにいるのか、ということだった。

 

「リボルバー、いや彩」

 

「やだなぁ、そんな怖い顔しないで。私は遊介に会いに来たんだから。別にあなたを挑発しに来ただけじゃないの」

 

「光の世界からすれば最悪だな。戻ってみればてめえがいるとは。遊介も気が休まらないぜ。ていうか、なんで俺まで誘拐されてんだよ?」

 

「え、察しつかないの? あなたは人質よ?」

 

彩は、ニコニコと笑う。

 

「私この前、遊介と良助と喧嘩するって決めちゃったんだよね。また3人で遊びたいから、私の望みを叶えるために、アイツらが背負ってるものみんな奪って、自由にしてあげようって思って」

 

そして、顔とは正反対の穏かではない台詞を口にし始めた。

 

「奪ってって暴力的だな」

 

「貴方に言われたくないわ。遊介をいつもいじめて」

 

「俺はあいつに勝ちにこだわってほしいだけだ。そうすればあいつは化ける。凄まじく強くなる。今のあいつはまだ甘い。プロなんてなれるはずはない。けど、俺は、アイツはできる奴だってのは信じている。だからこその荒療治だ」

 

「あははは」

 

「何がおかしい」

 

彩は首を振った。

 

「いやいや貴方は正しいよ。戦うなら徹底的に勝利を追い求めなければならない。私にとってはこの喧嘩も同じ。私はエデンのリーダーとしてじゃなくて、個人的に絶対に遊介に負けられない。だから勝つための準備をするの」

 

「準備だぁ?」

 

「遊介は逃げるような男じゃない。だから十分なエサで誘い出せば私との勝負に必ず乗ってくる。だって逃げるのは格好悪いから。……そろそろかな」

 

彩はデュエルディスクを確認する。そこにはブルームガールとエリーの映像が映っていた。

 

 

 

裏口には監視の目はなかった。

 

ここは『players』が光の世界を拠点にしてからひそかに作り上げた地下道。街の外のマンホールを空けて中に入り、地下道を通っていけば神殿内部に到着するようになっている。

 

いざというときに、住民を逃がすために使ったり自分達が光の世界を出入りするときに使おうと常々話し合っていた。

 

「凄いな、これ、君たちが全部作ったのかい?」

 

ミハエルが感心した様子で地下トンネルを評価する。

 

「作ったのはマイケルよ。こういう隠し通路が欲しい、とは言ってたんだけど、まさか本当に作っているとは。頼りになるわ」

 

マイケルは自慢げな顔を周りに見せる。

 

地下道は照明は用意されておらず、今は先導するエリーがライトで前を照らしながら進んでいる。敵の可能性は考えていない。敵に利用されないように、このトンネルを知るのは今日のこの時までマイケルだけだった。マイケルは自力でこのトンネルをつくり、構造を考えた。ブルームガールやエリーもこの存在を先ほど知らされて驚いていた。

 

「俺に感謝しろよ」

 

「分かったわ、マスター」

 

「懐かしいな、その呼び方」

 

「もう、何か月も前だもんね、バトルシティでカードショップやってたの」

 

「そうだな。……どうした?」

 

エリーが止まっていた。それにつられ、ブルームガールとマイケルが止まり、その後ろに来ていたランサーズの3人が止まる。

 

「どうしたの?」

 

「誰か、います」

 

まさか、とマイケルがエリーからライトを強奪し、先を照らす。

 

そこには遊介がいた。

 

しかし、自分たちの遊介ではない。一度見たことあるブルームガールやマイケルには分かる。それが本物ではないことに。

 

そして向こうも隠す気はなかった。

 

「久しぶりだな」

 

「ずいぶんボロボロじゃない」

 

「ああ、この前のデュエルの傷が回復しないんだよ。まあ、榊遊矢はうちの向上心溢れる実働部隊隊長が何とかしているだろう。リベンジしたいところだったが、まあ、それは今度にな」

 

その話をするということは、目の前にいるのはエクシーズ遊介。

 

そこまでわかれば、光の世界に来ているデュエリストの正体も分かるというもの。

 

ブルームガールは歯を食いしばる。せっかく光の世界をエデンから守るために同盟を組んだというのに、防衛を考える前に先手を打たれてしまった。

 

風の世界へと出発したのはおととい。たった二日間、やむを得ず空けてしまったら攻められた。元々人手が少ないためか、仕方なくヴィクターを残したら敗北。なにもかもがうまくいっていないことに、ブルームガールは己に腹を立てる。

 

「今度は何を企んでいるの? ていうか、なんでこの道知ってるのよ?」

 

「うちのリーダーは生ぬるいからな。人の拠点に来たら隠し通路くらい探せっての、ってことで、俺が隠し通路を捜す担当だったんだよ。いやあ、探すのには苦労したぜ。でも見つかった。だったらお前達はここから来ると思ってな」

 

エクシーズ遊介はデュエルディスクを準備する。

 

「何よ、私たちと戦うつもり」

 

「ここから先に逝けるのは、ブルームガール、エリー、お前達二人だけだ。残りはここでエデンのデュエリストと遊んでいてもらおうかな」

 

それが合図だったのか、後方からデュエリストが迫ってくる。その数は十五人。全員がデュエリストで間違いない。

 

「ちょっと、まだこんなにいるの?」

 

「表にあんなにいたのに、エデンはどれだけの兵力を」

 

ランサーズの真澄とミハエルの所感は間違っていないとブルームガールは思っている。

 

敵があまりにも多すぎる。エデンのデュエリストは100人程度しかいないという情報は持っていた。仮にそれ以上多かったとしても、自分の陣地を守るのを優先するのならば、それほど多くのデュエリストはここには来ないとふんでいた。

 

しかし、実際はここまで見ただけでも、およそ300人以上。本当に大戦争でもする気ではないかと言うほどの人数だ。

 

「さてお嬢さん2人、うちのリーダー、リボルバー様がお待ちだ。ここは平和に解決しようじゃないか?」

 

エクシーズ遊介の提案に、真っ向から反対しようと思ったが、続けて見せられた画像にエリーが悲鳴をあげる。

 

「あ、みんな……!」

 

エリーを慕う子供たちが全員そろって神殿内に集められている。

 

「人質……!」

 

「まあ、そういうことだ。ちなみにリーダーには人質作戦は秘密に行った。恨むんなら俺を恨めよ。リーダーは脅迫は苦手らしくてね」

 

「言うこと聞けってことね……!」

 

「ブルームガール、ぜひ、我らがリーダーのところへ。俺が案内しよう」

 

ブルームガールは歯を食いしばるがそれが何か解決になるわけではない。エリーをなだめ、

 

「行きましょう……エリー」

 

「……はい」

 

エクシーズ遊介が神殿へと続く道に向けて歩き出す。エリーとブルームガールはそれについて行く。

 

マイケルも自然について行こうとしたものの、やはり招待を受けていない人間をエデンの人間が通すつもりはないようで、ブルームガールとの間にエデンのデュエリストが割って入る。

 

舌打ちをするマイケル。そしてデュエルは始まった。

 

マイケルは奥へと消えていくブルームガールとエリーを見て気をつけろと言おうとした。

 

しかし、何故か言えなかった。

 

何か、決定的なミスをしたような後悔が、マイケルの中に生じて、口を動かすのを躊躇わせたのだ。

 

 

 

神殿と言えば正直いい思い出はない。

 

かつては大戦争となったその場所。その場所でまた、穏かではないことが起ころうしているのは確かだろう。

 

「来た」

 

そして神殿の中央で、ヴィクターの頬を引っ張って遊んでいたのが、エデンのリーダーであるリボルバーだった。

 

「私たちに用があるって言うじゃない。何の用?」

 

ブルームガールはさっそく喧嘩腰。そしてデュエルディスクを準備して、思いっきり戦う準備をしている。

 

エリーはさすがに喧嘩っ早すぎではないかと思わなくなかったものの、そのブルームガールの行動に反対はしなかった。

 

「単刀直入に言うと、あなた達とは戦いたくないなーって思って。私たち、友達になれそうなので、一度お話をしてみたかったんです」

 

「だったら普通にそう言いなさいよ。なんだってこんな人質みたいなこと」

 

「私はそうしようと思ったんですよ。でも、普通にやっても話に乗ってくれなさそうだって偽遊介が言ってて、勝手に人質まで取りやが……とっちゃって仕方なくこの流れに変更しました。私の目的は、ブルームガール、貴方とエリーちゃんとお話をすることだったので、それができれば過程はまあ目をつぶろうと思って。私も人質を取る方針に切り替えました」

 

「よくもぬけぬけと……!」

 

笑みを浮かべながら話をするリボルバーこと彩に、ブルームガールは苛立ちを隠せない。今まで自分たちで必死に守ってきた光の世界に攻撃を仕掛けられているのだから、それは当然の反応だった。

 

彩もそれが分かっているからこそ、向けられている敵意に過剰に反応はしない。

 

淡々と自分の目的を果たそうと話を続ける。

 

「ブルームガール。私たちは光の世界との戦争は望みません」

 

「戯言を」

 

「本当です。私が懲らしめたいのはあくまで遊介だけ。私が喧嘩しているのは遊介だけ。だから、あなた達にまで危害を加えることはしたくない」

 

「でも、遊介を倒そうっていうのなら、私たちのチームが負ける」

 

現在行われているイベントでは、世界を統べるリーダーが倒されればその世界が1000ポイント喪失することになり、現在の5位の光の世界のリーダーである遊介が負ければ、再び光の世界が最下位に転落する。そして、そうなれば、光の世界は水の世界に吸収される。つまり、植民地となってしまうという解釈が一番合うだろう。

 

「その前に、あなたたちをエデンで保護……すみません、これは侮りですね。あなたたちに仲間になってもらいたくて」

 

「仲間になってってどういうこと?」

 

「そう怖い顔をしないで下さい。私は、ブルームガール、貴方の望みを叶えられる」

 

「望み?」

 

「前に遊介と話をしている時、表情が曇ってましたよね。だから、遊介と考えが合わないところがあったんじゃないかなって」

 

彩の言う『前』とは、遊介と喧嘩別れする前、遊介がチームに自分の意志を伝えに行った時の話だ。

 

そんな顔をブルームガールはした覚えはなかった。しかし、顔には出ていたのだろうと後悔する。

 

しかし、ブルームガールの意志は決まっている。

 

「残念だけど、私はあなたたちの味方にはならない」

 

「何故?」

 

「その話はその時にもう済んでる。私はエデンには協調しない。遊介が戦うのならば、私は彼の意見を尊重するわ」

 

「そうですか。……遊介の事、好きなんですね?」

 

「え、いや、そういうわけじゃ」

 

「赤くなっちゃって、可愛いんですからー」

 

彩はブルームガールをからかう一方で、徐々に顔から笑みが消えていく。

 

「以外と意思は堅そうですね……でも、私は本当にあなたと喧嘩はしたくないんだけどな……」

 

彩は手に持ったリモコンを空中に向ける。

 

ボタンをいくつか押し、5つの映像が映し出される。綺麗な五角形になっているのは彩の趣味だろう。

 

一番上。どこかへと向かっているエデンのデュエリスト。そしてその下4つには、遊矢と柚子、地下道で戦っているランサーズの姿がある。

 

「一番上、どこへ向かっているでしょうか?」

 

「あなた……!」

 

「このままいけば、エデンの戦士50人が、風の世界を出た遊介を一気に襲撃します。一応、彼のところに向かわせたのはここらで雑用をしている連中とは違う、エデンの精鋭部隊」

 

「さっきから思っているけど、よくそんな兵力用意できたわね……。水の世界の本部もあるでしょうに」

 

「ふふふ、やだなぁ、これは遊介がふっかけた喧嘩ですよ。全力で応えないと親友に失礼でしょ?」

 

「は?」

 

「全武力、だけじゃない。エデンの全員が、全員が私に協力してくれているの。戦闘員だけで500名、その他の雑務でも1000名以上。絶対に勝つためにね」




後編につづく。


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25話 魅惑的な誘い(後編)

後編です。オリカ1枚出ます。


トリックスター・ホーリーフラッシュ

通常魔法
②の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①フィールド上の『トリックスター』モンスター1体を選択する。そのモンスターを破壊し、相手プレイヤーに600ポイントのダメージを与える。②自分のLPが相手よりも低い場合、自分、もしくは相手のメインフェイズに発動する。墓地のトリックスターモンスター1体を特殊召喚する。この効果で『トリックスター・ホーリーエンジェル』を特殊召喚した場合、自分はデッキから『トリックスター』カードを1枚手札に加える。


ランサーズとの同盟があって万全の準備をしても、とてもではないが対抗できない多さだった。

 

ブルームガールにとって、どこも無視できない内容だったが、特に一番上の映像は気になって仕方がない。今遊介はひどい傷を負っている状態だ。今襲撃されれば、迎撃できるだけに体力があるか疑わしい。

 

「先輩、このままだと遊介がやられますよ」

 

しかし、ここで弱みを明かすわけにはいかない。たとえ虚勢でも、遊介がその程度で動じないことを言わなければ、そこで遊介が襲撃されて終わりだ。

 

「あんな奴ら、遊介には何の問題もないわ」

 

「そうでしょうかねぇ……?」

 

一言で表せば悪い笑みを浮かべる彩は、ブルームガールに向けて一つの提案をする。

 

「でもまあ、あなたたちが不利なのは元々分かっているし、少しくらいはチャンスを上げないとなぁ、とも思う私もいます。だって最初から勝利が見えている勝負はつまらない。どうでしょう先輩。ここらで1つ、賭けをしませんか?」

 

「何を賭けるの?」

 

「勝った方が負けた方に、エロ、グロ以外で言うことを一つ聞く。てのは?」

 

「約束が守られる保障はない」

 

「じゃあ、私このまま遊介のことをいじめに行きますよ?」

 

選択肢はないと言うのはまさにこのような状況のことを言う。このままではいくら見方が少数精鋭でも数に押しつぶされる、向こうのイリアステルのデュエリストのように。

 

「でも先輩がこのデュエルを受けてくれるのなら、私、約束守りますよ? 私はデュエルに嘘はつかない。それは誓って」

 

彩は何かを投げ飛ばしてくる。

 

何かのボタンだった。たった一つ変なマークがついた赤のボタンがつけられている。そして彩の方にこれは何なのだ、という目線を送ると、ブルームガールの視界には、何か怪しいものを彩が、首につける様子が映った。

 

「私のLPが0になったらそのボタンが有効化します。うちのエンジニアに作ってもらいました」

 

「これは?」

 

「爆弾。私は自分の言葉に命を賭けます。さあ、先輩? デュエルをしましょう。あなたが勝てば何がお望みですか?」

 

正気の沙汰ではない。当然嘘だと思う。しかし、嘘と言う証拠もない。

 

「どうしてそこまで……」

 

「本気ってことです。私はほら、態度が軽いから、言葉に信用性がないように見えやすいですからね」

 

首に装着した後の手が震えている。

 

まさか、とブルームガールはつい呟いてしまう。

 

彩は震える手からは想像もできないような、清々しい顔で言葉を重ねる。

 

「私は本気ですよ? 先輩に仲間になってほしいのも、遊介と決着をつけたいのが私だってことも。この賭けデュエルで先輩の望みを叶えるつもりなのも。遊介と戦うんだもん。絶対に手を抜いたりはしない。策でも、情熱でも、デュエルでも、全部で勝ってこその勝利で、アイツに負けを認めさせる。そうすれば、遊介も、エデンに入ってくれるかもしれないでしょ?」

 

「本気ね。あいつと戦うためだけに」

 

「私はエデンのリーダー。自分達の邪魔になりそうなものを徹底排除するのは当然のこと。そのために勝利への布石を完璧に打つことも当然の仕事です。でも、ブルームガール、貴方がここで私に勝てば、私は退きます。だって完璧な勝利ができなくなるから、遊介の頑固な意志を折れなくなっちゃうので」

 

ブルームガールはボタンを見せながら言う。自分の望みを。

 

「私の望みは当然、光の世界へもう二度と戦略まがいのことをしないでってこと。あなたの望みは?」

 

「私のチームの入ってください。それだけでいいです」

 

「は? それになんの意味が?」

 

「意味はあるんですよ? ブルームガール、貴方には遊介を釣りだして貰います。奪われた光の世界、私たちは人を誘拐する侵略者、仲間に裏切られたうえで、侵略者たる私に負けを晒す。そうすれば光の世界での支持率も0になるでしょう。これまでチームの働きはすべて無駄になり、そのうえで私に無様に敗北する。どうですか? さすがにそんな無様を晒せば……遊介も心が折れるでしょ」

 

「遊介の心を折ってどうする」

 

「当然私の敵にならないでってお願いするだけですよ? ふふふ、先輩、遊介の無様を見るのが嫌なら、私を倒して、爆弾のスイッチをオンにして私と止めないと」

 

彩はデュエルディスクを準備する。

 

「いいわ! そのデュエル、受けて立つ!」

 

エリーが加勢するためにデュエルディスクを用意するが、後ろにエクシーズ遊介が立ち、エリーを呼ぶ。彼の近くにはエリーが親しくしている光の世界の子供が集められている画像を見せる。エクシーズ遊介にエリーがデュエルを挑まれた。

 

ブルームガールはエリーを気遣う暇はない。

 

目の前にはエデンのリーダー。自分に爆弾をつけているとは思えない絶対的な自信を見せるデュエリスト。

 

しかし、ここでブルームガールが勝てば何もかもが終わるかもしれない。不利な状況も一気にひっくり返せるかもしれない。

 

ブルームガールがデュエルを断る理由はなかった。

 

「デュエル!」

「デュエル!」

 

 

ブルームガール LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

彩(リボルバー) LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(彩)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(ブルームガール)

 

 

ターン1

 

 

「先行はいただくわ」

 

「もちろん、お好きにどうぞ。誘ったのは私です」

 

ブルームガールが使うカードはトリックスター、その全力は先行でこそ輝く。

 

相手は疑う必要のないほどの強者。イリアステルの使者を、1人で倒し、光の世界を襲撃した最強のイリアステルの使者を、自身の策をもって打ち破った実力者。手加減するような余裕はない。

 

「トリックスター、ヒヨスを召喚!」

 

トリックスター・ヒヨス レベル1 攻撃表示

ATK100/DEF0

 

呼び出された小さな花の天使は、

 

「現れなさい、光り輝くサーキット!」

 

呼び出しと共に現れたサーキットに身を投じる。

 

「リンク召喚! 現れろ、リンク1、トリックスターブルム」

 

そして呼び出されたのはリンク1の黄色の天使。

 

トリックスター・ブルム

リンクマーカー 下

ATK100/LINK1

 

「トリックスター・ブルムがリンク召喚に成功した時、相手はカードを1枚ドロー」

 

「あら、いいんですか?」

 

「後でわかるわ。ヒヨスはトリックスターのリンク素材となったとき、墓地から特殊召喚できる。私はリンク先にヒヨスを特殊召喚する」

 

トリックスター・ヒヨス レベル1 攻撃表示

ATK100/DEF0

 

「さらに私はフィールド魔法、トリックスターライトステージを発動! 発動時、デッキから、トリックスターモンスターを1体手札に加える! 私は、トリックスターキャロベインを手札に」

 

彩はトリックスターのカードの動かし方を知っている、効果ダメージを主軸としているとことも。

 

「さらにマジックカード、『トリックスター・ホーリーフラッシュ』を発動! フィールド上のトリックスター1体を破壊し、相手プレイヤーに600のダメージを与える!」

 

「先行ダメージですか」

 

故に彩は、これくらいのダメージは覚悟していた。

 

「それがトリックスターの戦い方よ。私はヒヨスを破壊する!」

 

ヒヨスを中心に強い光があたりを覆う。

 

彩(リボルバー) LP4000→3400

 

「さらに、トリックスターブルムの効果! このカードのリンク先のトリックスターが破壊された時、相手の手札のカード1枚につき200のダメージ!」

 

「うわ、きつい」

 

さらにブルムの効果が炸裂する。先ほどブルムの効果で手札が増えているのもあり、彩が受けるダメージは1200まで伸びている。彩は初めのターンで自分のLPがここまで減らされるのは予想してなかった。

 

彩(リボルバー) LP3400→2200

 

「まだ続く! ライトステージの効果! トリックスターモンスターによって相手にダメージを与えた時、ライトステージの効果でさらに200のダメージを与える!」

 

さらに迫るダメージ。彩は苦い顔をする。

 

彩(リボルバー)LP2200→2000

 

「私はフィールドのブルムを対象に手札のマンジュシカの効果を発動する。ブルムをエクストラデッキに戻し、マンジュシカを特殊召喚!」

 

トリックスター・マンジュシカ レベル3 攻撃表示

ATK1600/DEF1200

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

ブルームガールの猛攻は終わり、既に彩のLPは半分を下回っている。フィールドに残ったモンスターは貧弱なものの、最初のターンとしては十分な成果だと、ブルームガールは断言する。

 

ブルームガール LP4000 手札1

モンスター ① トリックスター・マンジュシカ

魔法罠 伏せ1

 

(彩)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(ブルームガール)

 

 

 

ターン2

 

 

「私のターン」

 

遂に彩のターンが回ってきた。

 

彩(リボルバー) LP2000 手札7

モンスター

魔法罠

 

彩がカードをドローしても、ブルームガールの攻撃は終わらない。

 

今ブルームガールが行っているのは、自分でもどうかと思うほどのLP4000を削る戦法。

 

そしてそれはターンを経過させる必要はなく、相手がカードをドローすればそれで終わる。

 

「この瞬間! 手札のマンジュシカの効果! 相手モンスターがカードを手札に加えた時、そのカード1枚につき、相手に200のダメージを与える!」

 

「う……」

 

彩(リボルバー)LP2000→1800

 

さらに彩にダメージが襲い掛かる。

 

「ライトステージの効果で、さらにあなたには200のダメージを与える!」

 

「ぐ……」

 

彩(リボルバー)LP1800→1600

 

怒涛の勢いで減っていく自らのLPを見てブルームガールは苦悶の表情を浮かべる。

 

しかし、ブルームガールは止まらない。

 

最後、この1枚を発動するまでは。

 

「トラップカード、『トリックスター・リンカーネイション』を発動! 相手は手札のカードをすべて除外し、その数だけ、カードをドローする!」

 

「ふぇ……?」

 

つまりこのタイミングで相手は手札をすべて失い、さらにカードを7枚ドローする。マンジュシカの効果を発動して、その数は1400ダメージにのぼる。さらにライトステージの効果で200のダメージ。合計は1600で、相手LPはすべて吹き飛ぶ。

 

これが、ブルームガールが必勝の型とする、疑似1ターンキル。ブルームガールが強敵と戦う瞬間まで封じていた、必勝の一手だった。

 

そして相手もそれに気が付いているからこそ、唖然と言う顔をしている。

 

「これで終わりよ」

 

勝利の笑みを浮かべるブルームガール。

 

しかし、発動したリンカーネイションの様子がおかしくなる。カードが震え効果が発動しない。

 

「え?」

 

「さすがですよブルームガール。私も手札にこのカードがなければ危なかった。私は自らのLPを半分払い、手札のトラップを発動する。カウンタートラップ『レッド・リブート』。このカードは、相手の発動した罠を無効にし、再びその場に伏せさせる」

 

発動した最後の1手、リンカーネイションが無慈悲に伏せられ、疑似1ターンキルは不成立となった。

 

彩(リボルバー)LP1400→700

 

「く……」

 

これで決まればどれだけ楽だったか、ブルームガールは歯を食いしばり悔しさを露わにする。

 

「さて、レッドリブートのさらなる効果で、ブルームガール、貴方はデッキの罠1つを伏せることができます。ただし、リンカーネイションと一緒に、このターンは発動できませんが」

 

ブルームガールは相手に勧められるままに、罠カード『無謀な欲張り』をデッキからセットする。

 

「さて、まずは攻略のフィールドを整えるか。私はマジックカード、『トレードイン』を発動! レベル8の手札のモンスターを墓地へ送り、カードを2枚ドローする。私はクラッキングドラゴンを墓地へ! カードを2枚ドロー」

 

彩は今引いた2枚のカードを見て笑みを浮かべる。

 

まるで勝利への道が見えたかのような目だ。

 

「私はフィールド魔法『リボルブート・セクター』を発動。このカードの効果により、私は手札から『ヴァレット』モンスター2体を守備表示で特殊召喚する。いでよ、マグナヴァレット、メタルヴァレット」

 

銃の種類の名を冠するプレイヤー名を選んだ彩が使うのは、その名の通りヴァレットモンスターを使う。現れ出た2体の竜はどちらも弾丸を想起させる体の持ち主。

 

マグナヴァレット・ドラゴン レベル4 守備表示

ATK1800/DEF1200

 

メタルヴァレット・ドラゴン レベル4 守備表示

ATK1700/DEF1400

 

「さて、本来はリボルブートセクターの効果でステータスが変動するけど、面倒だから省略。すぐに素材として使うからね。現れろ、我が道を照らす未来回路! 召喚条件は闇属性のドラゴン族モンスター2体! マグナヴァレットとメタルヴァレットをリンクマーカーにセット!」

 

空中に現れたサーキットに2体の竜は突撃、2つの赤いマーカーが光り輝く。

 

「いでよ、リンク2! ツイントライアングルドラゴン!」

 

召喚されたのは細身で、腕に特徴的な三角形をつけた竜。

 

ツイン・トライアングル・ドラゴン 

リンクマーカー 右 下

ATK1200/LINK2

 

「ツイントライアングルドラゴンの効果! LPを500支払い、墓地のレベル5以上のモンスターをこのカードのリンク先に復活させる! 私は墓地のクラッキングドラゴンを選択! この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない」

 

彩(リボルバー)LP800→300

 

クラッキング・ドラゴン レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF0

 

「まだまだ行くわ。現れろ、我が道を照らす未来回路! 召喚条件は効果モンスター2体以上。私はツイントライアングルドラゴンとクラッキングドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ、リンク3、トポロジックトゥリスバエナ!」

 

連続のリンク召喚。

 

それによってブルームガールの目の前に現れたのは、遊介の使うサイバースとは雰囲気の違う禍々しいサイバースのモンスター。

 

トポロジック・トゥリスバエナ

リンクマーカー 上、左下 右下

ATK2500/LINK3

 

ここまでのリンク召喚も見事なもので、流暢に呼び出されたリンク3、特に通常召喚も無しに呼び出した手腕に感心せざるを得ない。

 

そして、その通常召喚はようやくここで使われる。

 

「さあ、ここから攻撃する! 私はチューナーモンスター、ヴァレットトレーサーを通常召喚!」

 

呼び出された赤い弾丸。

 

ヴァレット・トレーサー レベル4 攻撃表示

ATK1600/DEF1000

 

呼び出したのはあえて、トゥリスバエナのリンク先とは違うゾーン。

 

「効果、自分フィールド上の表側表示カード1枚を破壊し、デッキからヴァレットモンスターを特殊召喚する! この効果を使用するとき、私はこのターン闇属性モンスターしかエクストラデッキから呼べない。けれど、気にする必要はないわ。呼ぶ予定もないもの。私はリボルブートセクターを破壊し、デッキからシェルヴァレットドラゴンを特殊召喚する!」

 

シェルヴァレット・ドラゴン レベル2 攻撃表示

ATK1100/DEF2000

 

次に呼び出したのは、トゥリスバエナのリンク先だった。

 

そしてその行為が引き金となって、トゥリスバエナの効果のトリガーが引かれる。

 

「トポロジックトゥリスバエナの効果! このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚されたとき、召喚されたモンスターとフィールド上の魔法・罠をすべて除外する! そして除外した相手フィールドのカード1枚につき500のダメージを与える! マイグレーションフォース!」

 

トゥリスバエナは変形し、呼び出された弾丸を、変形によって生み出した鉤爪により粉砕、その勢いで、ブルームガールのフィールドの魔法。罠カードをすべて消し去る。そしてその衝撃はブルームガールを直撃。

 

「ぐ……!」

 

ブルームガール LP4000→2500

 

「まだ終わらない。現れろ、我が道を照らす未来回路! 召喚条件は効果モンスター2体以上。私はリンク3のトポロジックトゥリスバエナと、ヴァレットトレーサーをリンクマーカーにセット!」

 

「リンク……4!」

 

「現れろ! トポロジックボマードラゴン!」

 

凄まじい風圧。召喚のサーキットが反応した瞬間、その竜の威圧が神殿全体に襲い掛かる。

 

トポロジックボマー・ドラゴン

リンクマーカー 上 下 左下 右下

ATK3000/LINK4

 

ここまでの召喚を繰り返し、リンク4を呼んでおきながら、手札は2枚残っている。計算し尽くされた完璧な流れ。そして相手にはまだ攻撃が残っている。

 

「ブルームガール、トポロジックボマードラゴンの攻撃を受けても耐えられる、なんて、甘い考えは捨ててください。このカードは相手モンスターを破壊した時、その攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

つまり、攻撃をそのまま通せば、相手に3000ポイントのダメージを与える。ブルームガールはここで終了。

 

「く……」

 

「1キルを防いだ後に1ターンで4000削り、面白いかなって思ってやってみましたけど、これが決まればまさにその通りになりますね? バトル!」

 

容赦ない戦闘宣言。

 

「トポロジックボマードラゴンで、トリックスターマンジュシカを攻撃!」

 

口に見える機構にエネルギーが集約するのが分かる。その威力が凄まじいこともはっきりしている。

 

この攻撃を受ければブルームガールの敗北は決定する。本人もしっかり自覚していた

 

ブルームガールは手札の1枚に手を伸ばす。

 

(まだ負けない。遊介に迷惑はかけられないからね)

 

トリックスター・マンジュシカの攻撃力はたったの1600.別にリンク4のモンスターを用意しなくても簡単に超えられる攻撃力だった。しかしそのまま攻撃を甘んじて受けるつもりは欠片もない。

 

「手札のトリックスター・キャロベインの効果! フィールドのトリックスターが戦闘を行うとき、このカードを墓地へ送る。戦闘を行うマンジュシカの攻撃力は、その元々の攻撃力分だけアップする!」

 

「は?」

 

彩が驚きのあまり声を上げる。

 

「マンジュシカの攻撃力は1600、その分攻撃力を上げさせてもらう。そしてあなたはそのまま戦うしかない。このマンジュシカと」

 

トリックスター・マンジュシカ ATK1600→3200

 

赤い天使は攻撃を受ける前、意を決して上昇、相手の口元に自身の得物を投げ込む。集約されたエネルギーは衝撃により秩序を失い暴発、そこで爆散する。

 

(勝)トリックスター・マンジュシカ ATK3200 VS トポロジックボマー・ドラゴン ATK3000(負)

 

そしてその衝撃は彩のところへ。

 

彩(リボルバー)LP300→100

 

「くっそー……」

 

巨大なサイバースの竜は消えた。これで彩のフィールドはがら空き。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

カードを伏せる以外に彩ができることは何もない。

 

 

彩 LP100 手札0

モンスター

魔法罠 伏せ2

 

(彩)

□ □ ■ ■ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(ブルームガール)

 

 

 

ターン3

 

「私のターン!」

 

ブルームガールはカードをドローする。

 

ブルームガール LP2500 手札1

モンスター ① トリックスター・マンジュシカ

魔法罠 

 

このターンが勝負になるのは目に見えている。ブルームガールはドローした時点で悩む。

 

引いたのはトリックスターナルキッス。ここで召喚をするべきか、それともそのままマンジュシカで戦うべきか。

 

しかし、その考える時間すら、彩は与えない。

 

「永続トラップ『デモンズチェーン』。フィールド上のモンスター1体を対象に発動できる。このカードが表側表示で存在する限り、対象となったモンスターは攻撃できない。さらに効果も無効にされる。ブルームガール、貴方がこのターンをターンエンドして、次のターンに効果ダメージで私が死ぬ、と言う未来はなくなった」

 

「く……」

 

ならば迷うことはない。

 

相手は何をしてくるか分からない。次のターンまで生かしておくことが危ない。

 

ブルームガールは決心する。なんの掛値無しに勝てる相手でないのなら、ここでリスクに怯えている場合ではないと。

 

「私は、トリックスターナルキッスを召喚!」

 

トリックスター・ナルキッス レベル4 攻撃表示

ATK1000/DEF1800

 

「バトル! トリックスターナルキッスで、プレイヤーへダイレクトアタック!」

 

決まれ! 

 

ブルームガールはそう願った。

 

しかし、その瞬間ブルームガールは見てしまったのだ。彩が凶悪な笑みを浮かべたことに。

 

「かかった」

 

ブルームガールの血の気が引く。

 

「さあ、底知れぬ絶望の闇へ沈め! 罠カード――」

 

場が発動カードによってもたらされる光に覆われる。

 

目を焼きつくすかのような閃光があたりを覆う。

 

そして目の前が真っ白になった。

 

視界が塗りつぶされる。その時間はおよそ10秒。目が再び色彩を得た時に、衝撃の光景が目の前に現れる。

 

何もなかった。いたはずのトリックスターたちがいなかった。自分のフィールドには何もなかった。

 

「まさか、アレは……」

 

「さあ、ブルームガール。ターンエンドを宣言して。あなたにできることはもう何もない」

 

そう、何もない。次のターンの攻撃を自分は甘んじて受け入れなくてはいけない。

 

「ターンエンド……」

 

ブルームガールはそう言うしかない。

 

ブルームガール LP2500 手札0

モンスター

魔法罠

 

 

(彩)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(ブルームガール)

 

 

 

次のターンが来るというほど、ブルームガールは現状を楽観視していない。

 

「私のターン」

 

彩は今引いたカードを見て勝利を確信する。

 

「正直に言うと危なかったですけど、何とか勝ててよかった。私、貴方が一番の強敵だと思ってた。ブルームガール。だからこそ、ここで勝利する私に、もはや敗北はない!」

 

彩の宣言通り。このターンで決着はついた。

 

再び蘇った強力な竜の力で。

 

ブルームガール LP2500→0

 

その衝撃は凄まじく、ブルームガールは意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

どれほど寝ていたのかと、自分を疑い目を覚ます。

 

最初に目に飛び込んできたのは、倒れているエリート、こちらをじっと見つめるリボルバーの姿だった。

 

負けた。その事実は覆りようがない。

 

「さて、先輩。もう先輩は私たちの仲間です」

 

デュエルディスクを見ると、自分の所属が1つ増えている。

 

前にヴィクターが言ったスパイの話。所属は1つに限定されない話。今のブルームガールはエデンの一員としてシステム上は認識されている。

 

「さて私が賭けに勝ったからには、先輩に言うことを一つ聞いてほしいなぁ」

 

「……く」

 

「まさかここで放棄する、なんて真似はしませんよね? まあ、もしもそんなことしたら」

 

彩が見つめる先の映像では風の世界に到着したデュエリストの姿。エリーをエクシーズ遊介がじっと見つめる光景。画面の先で死にかけている仲間の姿。

 

「先輩以外、みんな殺しちゃうかも……」

 

爆弾をつけたときと同じ目で、そんなことを宣う。

 

「やめて!」

 

意図せずして出た悲鳴、それは紛れもないブルームガールの願いだった。死んでほしくはない。どれほど戦う覚悟があったとしても死んでほしくはなかった。

 

「じゃあ、ブルームガール。お願いを聞いてください。私は遊介と戦えればいい。どうか遊介をここまで連れてきてください。そうすれば、皆さんの命は保証します。だって解放軍やイリアステルと戦うために、皆さんのような戦力を、こちらとしても失いたくはないと願っていますから」

 

「本当に?」

 

「はい。それだけは誓って。私も人殺しがしたいわけじゃない。友達と殺し合いをしたくないし、できればみんなで生きていたい。そう思うからこそ、私は光の世界をこんな回りくどい方法で攻めました。私だって快楽殺人者じゃない、それくらいの矜持はあります」

 

たとえそれが嘘でも、多くの人質がとられている以上、ブルームガールに反抗する余地はない。

 

「それで、彼が救われるのなら……!」

 

「はい、保有ライフは減るかもですけど、殺しはしません。絶対に。私は遊介に降参してほしいだけですから」

 

「……」

 

「裏切るのは怖いですか?」

 

「やるわ。やるわよ。だから殺さないで。みんなを」

 

「良かった、そう言ってくれて、こちらも……安心しました」

 

彩は一度ため息をつき、そしてブルームガールをたたせる。

 

既にブルームガールが出発するだけの準備はできていた。用意された自分のDボードの乗る。

 

「行く……わ」

 

「はい。私も待ってます。エリーちゃんと一緒に」

 

ブルームガールは風の世界に向けて出発する。

 

涙を流している理由は、己が非力さが故か。

 

それとも――。

 

 

 

遊介の元に一通のメッセージが来た。

 

内容は、ブルームガールから。至急来てほしいとのこと。

 

遊介は、なんの疑いも持たずに、ようやく本調子に戻った体を起こし、風の世界を出発する。




長らくお待たせして申し訳ありませんでした!
お盆が思った以上にいろいろとやることがあり、こっちの執筆に時間がかかりました。

25話はブルームガールと彩の戦いになりました。
あれよあれよの急展開。本来であればエデンとの戦いはゆっくりやろうかな、とは思っていたのですが、そんなことをすると果たして何話かかってしまうのか、と思い、彩が戦うところだけをピックアップしてお届けしています。

そして2回目のボスバトルは彩です。遊介と彩は19話で喧嘩になったばかりなのですが、早速喧嘩をしてもらいたいと思います。

VRAINSでいうリボルバー戦と同じ緊張感で戦ってほしいところですが、果たして作者は決戦にふさわしいデュエル展開を用意できているのか、と不安になっています。

正直に言うと急展開はあまり私の好むところではありません。しかし、戦争となれば、何もかもが万全の状態で起こる戦いではないとも思っています。そこで今回は、ちょっと強引かもしれませんでしたが、奇襲というものをやってみました。果たしてこれが是が非か。

どちらにしてもここまで来てしまったので、後は遊介と彩が戦うのみです

(アニメ風次回予告)

誰も見捨てられないという親友の彼女の覚悟。あの日、楽園を背負うと決めたその日から、どんな悪を成そうとも、大切な人々を守ると決めた。そんな彼女の歪んだ覚悟に、遊介は怒り狂う。変わり果てた彼女への失望で。

「みんなを人質にとるような今のお前を、俺は許せない」

次回 遊戯王VRAINS~『もう一人のLINKVRAINSの英雄』~

   「決戦――そして」

   イントゥ・ザ・ヴレインズ!

次回の放送日は8月27日です。


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26話 決戦――そして(前編)

注意事項

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!

第2シーズン最終回です。
長めになりましたが、お楽しみ頂ければ幸いです。
投稿は

前編 本日

中編 30日

後編 31日

にします。


風の世界を出た頃にブルームガールが1人、合流地点にいた。

 

Dボードが出かけた時と違うものだったことに遊介は疑念を抱く。

 

しかし、ささいなことだと今は無視することにした。

 

「みんなは?」

 

何より遊介が心配だったのは仲間の安否だった。せっかく赤馬零児が通信デバイスを渡したにも関わらず、連絡は全然来ない。

 

彼曰く、もしかすると罠にはめられたのかもしれないとのこと。遊介を先に行かせたのは、叛逆軍を扇動させて状況を動かそうと企んでいるかららしい。

 

遊介もそれを待ってから後を追おうとしていたが、そこにようやくブルームガールが入った。しかし、内容は穏やかではなく至急来てほしいとのこと。

 

こうなれば遊介もさすがに仲間の身を案じずにはいられない。

 

ブルームガールへの問い。それに対し返ってきたのは、次の一言だった。

 

「エリーが……人質に取られた」

 

「何……!」

 

「このままじゃ戦うにも戦えない。どうすれば……」

 

「……とりあえず、向こうに行きながら考えよう」

 

「それなら、一時撤退しているところがあるの。そこに合流しましょう」

 

「……ああ、分かった」

 

遊介は何故か今のブルームガールがおかしいような気がしねてならない。

 

声が震えているし、どこか何かに怯えているようなそんな雰囲気で、これほど弱弱しい姿は初めてかもしれない。少なくとも遊介はそう思う。

 

「大丈夫?」

 

「え?」

 

ブルームガールの声は裏返る。そんな驚くようなことを聞いたつもりは、遊介には全くなかったのだが。

 

「その、なんか、体調悪い?」

 

「平気よ。ほら行くわよ」

 

本人がそう言う以上仕方がないか、と思い、遊介はそれ以上追及はしなかった。ブルームガールについて行き、遊介は光の世界へと向かう。

 

ブルームガールが抱く真意を、遊介は知ることはない。

 

***************************

 

 

間違っているとは分かってた。

 

これまでの道が正しいなどとは思ってはいない。

 

脅迫、蹂躙、その他、外道とも思われることにだって手を染めてきた。

 

それもすべてエデンに勝利をもたらすため。

 

イリアステルに故郷を完全に滅ぼされ、その世界で生きていくことができなくなった人々が求める最後の楽園。この世界を永続させるためならば。

 

これからもきっと、間違いを重ねていく。

 

それでも、彼らを見捨てられない。その気持ちだけは確かにある。今まで何のために生きるのかなんて考えたことはなかったけれど、この世界に来たのも遊ぶため、がきっかけだったけれど、今は、心からエデンを守りたいと思う。自分のデュエルの腕がみんなの役に立つのなら。大好きなデュエルで誰かを助けられるのなら。

 

たとえどんな困難が待っていようと、誰と戦おうと、その意思を貫く覚悟はある。

 

 

 

いろいろな人から、残してきた故郷の話を聞く。

 

イリアステルに襲撃される前の幸せな時間と、襲撃されたときに広がった地獄を。

 

世界の終焉。

 

白い服を着た集団は、街を堂々と歩きながら笑みを浮かべ人を殺していく。

 

これは願いを叶えるための尊い犠牲だと、あまりにも簡単に人の命を奪っていくのだ。

 

血のパレード。

 

大道を占拠し、列をなし、人の死を祝っていく死神の集団。手を振り子供たちに恐怖を与え、見世物で大人たちを絶望へ叩き落し、大きな音と共に、命を吸い上げていく。

 

やがてヌメロンコードが起動すると、その世界から命は消える。そこに在るのは人類がたどり着く荒野。あらゆる生命が否定され死ぬしかない世界。

 

そしてイリアステルは、自分達だけ、次の世界へと旅立つ。

 

残された者には、ただ、この世界への招待券が渡された。

 

そして、その世界で人は徐々に数を減らし、最終的には絶滅するしかなくなっていく。

 

 

 

この世界は希望だと皆語る。この世界に来るしかなかった人々の希望だと。

 

私がその話を聞くたびに、悲しみを覚えることはない。同情などあり得ないと私は思っている。苦しみは、経験した人間にしか分からないものだ。

 

私は、同情はしない、一緒に悲しむつもりはない。その代わり、彼らの剣になろうと決めた。

 

この世界を守る剣に。何とか生きようと必死になっている人々を守る剣になろうと決めた。

 

……正直に言うと、私は猪突猛進なので、相手を迎撃する剣と言うよりは、相手へと向かっていく銃弾と言った方が正しいのかもしれないが。

 

なんでもいいのだ。私が彼らにとっての戦うための手段になるのなら。

 

『死んだよ。もう死んだ。友達も家族もみんな死んだ。俺はたった1人生き残って、無様に生き残って、ここに来た。死にたくなかったから。……そう、死にたくない。そんな奴らがここにはいっぱいいる。そんな奴らの居場所にしたい。エデン、楽園をつくろう、ここに。もう死ぬ心配なんてないって笑って言えるような居場所。俺はこのチームがそんな場所で会ってほしいと思う』

 

チーム名を満場一致でこれに決めてから、私の覚悟は決まった。

 

――でも、でも、薫ちゃんもいるし、悲しませたくないし、せめて、遊介や良助には一緒に居てほしい。

 

それだけは私の我が儘、さすがに親友を殺すまでの勇気はない。だからできる限りやってみよう。

 

プライドを崩そう、追い込もう、屈服を要求しよう。

 

心が折れて、何もかもどうでも良くなるくらいまで敗北させよう。

 

そうすれば、きっと――

 

「来たわね」

 

デュエルディスクに映るブルームガールを見て、私は、遊介との戦いを覚悟する。

 

***************************

 

 

 

光の世界にたどり着く。

 

やはりイリアステルの襲撃もあり、外を歩く人はいないのを確認する。

 

そういえば、とブルームガールに遊介は尋ねる。

 

先ほどまで、戦況を詳しく報告していたのだが、これから先、どこに向かうべきなのか。そして、敵はエリーを人質にとり何を考えているのか。その2つについては何も言わなかった。

 

敵の目的、と考え始めると、ふと、遊介の頭にはアルターの顔が浮かぶ。

 

『エンターテイナーは人々に驚きを与えるものだ。尋常な精神など、持ち合わせているわけがないだろう?』

 

そんな言葉を平然と言い放つ奴の手下が敵なのだから、尋常な考えかたで考えること自体が間違いなのだろうと思った。

 

(おおかた俺を弄ぶのが目的だから、俺を釣りだすのが目的なんだろうけどな)

 

そう思いながらも一応、ブルームガールに確認する。

 

「敵の目的は?」

 

「え、それは……その」

 

「何か言えない事情が?」

 

「言うわ。あなたよ、遊介。あなたと戦いたいって」

 

「なんで俺なのかな……」

 

ブルームガールが嘘を言っている様子はない。先ほどまで抱いていた疑念は気のせいかと、遊介は少し安心する。

 

「あなたがリーダーだからでしょ。光の世界の」

 

「それはそうだけど、強さなら、ブルームガールやマイケルとかの方があると思うけどな。強い奴と戦いたいならそっちの方がいいとは、思う。まあでも、逃げるつもりはないけど」

 

「ないんだ」

 

「だって、逃げるのは格好悪いだろ」

 

「……変わらないね。そんなあなただから……まあ好きなんだけど」

 

「好き?」

 

「なんでもないわ。それで、これから向かうところなんだけど。……どうしよう、傍受されているかもしれないから、言っていいのかな」

 

「それは……その」

 

歯切れの悪い回答のまま、街の上空へととうとう差し掛かってしまった。敵が籠城している中で、その拠点となっている土地の上空を飛ぶのはいかがなものかと思う。

 

そんなことも気が付かないブルームガールではない。

 

「いいのか。こんな堂々と飛んでて?」

 

問いを投げたものの、ブルームガールから返答はない。

 

やはり何か――と思った時に、デュエルディスクにメールが届く。

 

ブルームガールからだった。

 

なぜ、そう思う前に、遊介はメールの内容を見る。

 

中には一言。

 

「ごめん」

 

何に対して謝っているのかは分からない。しかし、添付されているファイルを開いた瞬間、信じられない光景が画像として何枚も目に入る。

 

そこには無様に負ける、味方の光景、そして人質として囚われている光の世界の子供、そしてエリーと、もう一人の少女の姿があった。

 

どこかで見覚えがあるその少女は、遊介にはすぐに見当がついた。

 

遊介の妹、薫だ。しかし、以前、薫はエデンに囚われていると言っていた。

 

「エデン……?」

 

次の瞬間、下から風邪を切る音がする。凄まじいスピードで近づいてきている何か。明らかに遊介を狙ったものだった。

 

「く……!」

 

悪い予感を一瞬抱いた遊介だったが、そんなことを考える暇もなく受ける襲撃。

 

遊介は緊急旋回をして、後ろに下がる。

 

そして、ブルームガールと遊介の間に割って入った人影があった。

 

「ありがとう、ブルームガール。約束通り、皆さんの命は保証します。私の命と誇りにかけて」

 

「約束、通り?」

 

遊介が乱入者の存在を尋ねる必要はなかった。

 

彩。チームエデンのリーダー。

 

「先輩には、貴方を釣りだす役目を押し付けたの。私たちの新しい仲間として」

 

デュエルディスクの画面を見せつける。

 

その中にブルームガールの姿があり、所属チームが2つ記されていた。

 

自分のチームと、そしてエデンの名。

 

それが示すのは、ブルームガールが相手の言いなりに、つまり裏切ったという事実。

 

「勘違いしないでね。何も先輩は昔から裏切者だったわけじゃない。でも、貴方がいなかったから、代わりに私と戦って、負けて、人質を取られて。みんなの命を保障する代わりに、私たちの仲間になって貴方をここに連れてくるよう、私がお願いしたの」

 

「何……?」

 

「遊介、後はあなたを倒す。それで私は光の世界に完全に勝利することができる。あなたはすべてを失う。それで終わり。この前決まった勝負は私の勝ちってこと。どう? このスピーディーな決着は?」

 

問題はそこではない。遊介にとって問題は、人質を彩にとられていること。そんな外道な戦法を彩がとっているということ。

 

「……順番に訊こう」

 

「いいわよ」

 

決して快い気分ではないが、あらゆる情報が一気に押し寄せてきたため、遊介は今の状況を整理して気持ちを落ち着けるために、質問を要求。それが受理された。

 

「俺がお前に聞きたいのは3つだ」

 

「ええ」

 

「まず、なんでお前はここにいる」

 

「イリアステルの襲撃は一斉にだった。そしてその実力は結構。あなたも風の世界で赤馬零児と戦ったみたいだけど、よくわかるでしょう?」

 

「それを知っている理由を聞きたいところだけど、イリアステルの襲撃とお前の襲撃になんの関連性がある」

 

「光の世界が心配だったのよね。そろそろ第2の拠点が欲しいなって思ってたから。光の世界は大丈夫かなって思って、ついでに弱ってるところを襲っちゃおって。だって、イリアステルとのデュエリストとの戦いで弱っている奴と戦えればなんか勝ち目が上がってそうでしょ? そしたら驚いたわ。あろうことか負けてるし。遊介、外に出ちゃってるし。だからついでにイリアステルを倒してここを占領して、遊介を迎え撃つって形にすれば、光の世界と戦うこともできる。それも圧倒的有利に。今の現状を見ればそうでしょう?」

 

当たり前のようにイリアステルを倒してと言っていたが、風の世界での戦いを経験した今それが彼女の強さを物語っている。

 

「2つ目は?」

 

「……どうして光の世界を狙う」

 

「1つは反逆軍と戦うため。そのために豊かな土地が必要だった。どのみちすべての世界を奪おうっていう算段だし、だからって炎の世界とかだと、侵略しても食糧問題とか改善しなさそうじゃない。やっぱり、豊かな土地を狙わないと。せっかく侵略しても、チームメイトへの恩恵がないでしょ。ただでさえ一番最初の侵略なんだから」

 

ここまでなんの悪びれもせず、当たり前のように光の世界を奪おうという話をしている彩。

 

遊介は黙る。

 

それは怒りによるものだった。

 

喧嘩をするのは何も反対はない。意見が対立したなら戦うしかないとは覚悟していた。

 

しかし、それはあくまで個人同士の戦いと思っていた。光の世界を賭けてまで、この世界に多大な迷惑をかけてまで行うものではないと思っていた。

 

自分だけではなく他人に迷惑をかけることが遊介には許せなかった。そんなもの、ただの戦争だ。遊介は喧嘩は許容しても、仲間にまで被害の及ぶ戦争を認めた覚えはない。

 

「戦争だもの、遊介?」

 

彩はそんな遊介の心を読んだように言う。

 

「戦争? 俺とお前の喧嘩が?」

 

「いいえ、これはエデンと敵対するチームを滅ぼすための戦争。元々敵対するチームは完全に滅ぼすって決めてたし、貴方との以前の問答は、あくまできっかけに過ぎない」

 

「そうかよ。だからお前は光の世界を滅ぼすつもりで」

 

「滅ぼしたければ、いつでもできた。いくらあなたたちが頑張っても、光の世界は弱い者の集まりでしかない。あなた達を倒すだけの兵力は以前からあった。でも、それはだめ、せっかくの綺麗な世界を壊すのは本意じゃないし、虐殺は趣味じゃないの。戦うのは最低限。相手から得られるものを最大限得られるように手を尽くす」

 

「それが、今回の襲撃と人質作戦か」

 

「ああ、もちろん人質はあなたのチームメイトだけじゃないよ? ここに住むすべての人を人質にとった。理由は当然、貴方を釣りだすため。そこまですればあなたは逃げない。必ず私と戦うためにここに来る」

 

一度失笑し、彩は答える。

 

「あなたは、逃げ出すなんて格好悪いことはしない。正義の味方を名乗っていなくても、貴方は逃げたりはしない男。私はそれを知っている。友達だから、ずっと見てきたもの」

 

遊介はそれに返す言葉はなかった。

 

その代わり、3つ目の質問を投げかける。

 

「なんで……みんなを巻き込んだ。そうまでして俺と戦いたい理由はなんだ」

 

「もちろん。あなたのすべてを奪うためよ。まずはLP。デュエルで倒してあなたを次負ければ死ぬところまで追いつめる。次に拠点。私の認めない心休まる場所はすべて滅ぼす。次に仲間。あなたの仲間を全員洗脳でも、脅迫でも、何をしてでも奪いつくす。後は……」

 

流暢におぞましいことを言い始める彩に、遊介は純粋な疑問を投げかけた。

 

「俺の仲間を巻き込んでまで、どうしてそこまで手の込んだことをする?」

 

「決まってる。これ以上邪魔されたくないから。あなたの心を徹底的に折ろうと思って。抵抗する意思をなくせば、私はあなたを殺さないで済む。素晴らしい平和的な解決でしょう? 親友同士の殺し合いなんてしなくていいんだから」

 

目が本気だった。少なくとも遊介にはそう思えた。

 

だからこそ、なおのこと、遊介は目の前の彩がさらけ出す野望に恐ろしさと怒りを感じる。

 

彩は確かに遠慮を知らない人間だった。しかし、彼女にどんな心境の変化があればここまで本気で、このようなことをやろうと思いつくのか。もしかすると、今まで影に隠れていただけで本当は、こんな残虐な一面を持ち合わせていたのか。そんな恐ろしさ。

 

そして怒りはたった1つだ。

 

送られた画像の中に存在する、屈辱に塗れた顔を浮かべたヴィクター、苦しそうに暴れるマイケル、何かに怯えるエリー、そしてもう目も合わせてくれないブルームガールを見て。

 

「お前は、俺だけでない他のみんなに手を出した。それは、喧嘩の範疇を超えている。絶対にあってはならないことだ。俺が光の世界を守ろうとしたのは、住民の為だけじゃない、ここが好きな俺の大切な仲間のためだ。そんなあいつらの願いを潰して、自分の願望をかなえる傲慢な今のお前は、好きになれない」

 

「いいよ。もとよりそのつもり。私は謝罪を求めないし、貴方が怒りを感じるのにも文句はない」

 

「どうして、そこまでする? エデンの思想は前に聞いた。だが、お前をそれほどまでに動かすものはなんだ!」

 

「これは戦争、さっきそう言ったわよね? 故に私を動かすのはエデンの理想そのものよ。そしてその邪魔をするあなたを無力化する」

 

「エデンにどうしてそこまで入れ込む! そのために、こんな外道な戦法を取ってまで勝利を得て、お前は満足なのか。それが正しいことでも、格好いいことでも思ってるのか?」

 

「……遊介は知らないからそんなことが言えるのよ。エデンにいる人たちがどんな人たちか。まあ、別に知ってもらおうなんて考えてない。説得なんて生温い手を使うつもりもない。私は自分の願いを叶えるために、遊介と戦う。あなたのチームのすべてを奪う。エデンの全チームを屈服させる戦いの火ぶたをきる」

 

彩はデュエルディスクを構える。戦わないという選択肢はないと示すために。

 

「私はその理想を叶えると約束した。私には見捨てられない。この世界しか残っていない人々を。私にとって、その人たちを守ることが、自分にとって格好いいことだと思っている」

 

彩の声に一切の迷いはなく、彩の目に一切の曇りはない。

 

彼女は本気だと分かる瞬間だった。

 

「さあ、遊介、ここからは決闘をしよ? どうせもう分かり合えない。どちらかの願いの道を潰す以外に道はない。そもそも、私を倒せなければ、ここから先へは進めない。エデンに囚われたみんなを救うこともできない」

 

遊介は結局落ち着いていられなかった。

 

画像の中に見える、苦しむ光の世界の仲間、同じチームの仲間は決して良い顔をしていない。

 

ずっと光の世界を守ってきた彼らは、今の現状を納得しているはずがない。

 

ならば、光の世界で過ごした期間が短くても、それ故に光の世界に戦う資格があるか疑わしくても、目の前で、うつむいているブルームガールが抱いているであろう、悔しさを晴らし、光の世界を、自分たちの故郷を守るために戦うのは、きっと間違いではない。

 

遊介はそう思いデュエルディスクを構える。

 

「やる気になったのね? 言っておくけど私はルールブレイカーを持ってる。光の世界でのあなたのルールは通用しないわ」

 

「みんなを人質にとるような今のお前を、俺は許せない」

 

彩のデュエル申請を迷いなく承諾する。

 

「遊介、言っておくけど、あなたはこれに負けたらすべてを失うよ? 住民は光の世界を守れなかった愚かなエリアマスターだってあなたを評価する。当然よね? 守れなかったんだから。そして、仲間も失う。言っておくけど、私、人質を解放する気ないよ。拠点も、自分の正義も失う。だって、私たちが勝てば、貴方に抗う資格も力もなくなるもの。それでも、このデュエルを受ける?」

 

「なら、今更やめる気あるのかよ。元々俺を倒すためにここに呼び寄せたんだろ。お前にデュエルをしないっていう選択肢はない」

 

「もちろん。デュエルで遊介が弱者であることを証明する。人望も奪ってあげる。そうやって全部に負けたあなたはきっと、私に縋りつくしかない」

 

「そうはならない。デュエルには勝たせてもらう。今から解放軍も来る。全面戦争だ。お前と言う要がいなければ、まだ、勝ちの目はあるかもしれない」

 

「なら、頑張って戦ってね、遊介。さあ、勝負よ。互いの全力、そのすべてを賭けて。ルールはフィールドをマスターデュエルと同じにするスピードデュエル。お互いのすべてを賭けて戦いましょう!」

 

「俺はここを勝ち通る。お前らの好きにはさせない。俺だって、この光の世界が好きだ。そこでみんなで過ごすのが大好きだ。みんなが守ってきたその努力を無駄にはさせない。奪わせるつもりはない!」

 

互いに保有LPを4000分賭ける。

 

今回は特殊なデュエル、フィールドはマスタールールを使う一方、スキルがありの、真に互いの持てる力すべてを使うデュエル。

 

二人は向き合った。

 

遊介は自分達の故郷と友を守るため、そして彩への失望を籠めて。

 

彩は、自分の正義を貫くため。

 

互いの信念を賭けた戦いが始まる。

 

「スピードデュエル!」

「スピードデュエル!」

 

 

 

遊介 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

彩(リボルバー) LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(彩)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)




中編で6ターン分、後編の前半がデュエルパートの予定です。


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26話 決戦――そして(中編1)

現在30日の26時です。

……すみません。遅れました。現在31日です。

デュエルパートを変更してたら長くなってしまったので、構成を少し変更します。

中編1 今

中編2 31日深夜

後編 9月1日

9月に入ってしまいましたが、日曜日、お休みのなのでセーフということで、どうか1つ……

オリカ、またまたいっぱい出ます。

『サポートプログラム・アドバンス』 通常魔法
①このターン通常召喚を行っていない場合に発動できる。手札のサイバース族でレベル5以上のモンスターを召喚する。この効果で召喚したモンスターの攻撃力は500アップする。②墓地のレベル5以上のサイバース族モンスターとこのカードを除外する。デッキからレベル5以上のサイバース族モンスターを1体手札に加える。

『リンク・ウェポン』 装備魔法
①このカードはフィールド上のリンクモンスターできる。装備モンスターの攻撃力は、自身のリンクマーカー1つにつき500ポイントアップする。

『バックアップ・アナリシス』 通常罠
①墓地にサイバース族『バックアップ』モンスターが存在するとき、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターの効果をフィールドに存在する限り無効化する。選択したモンスターがリンクモンスターだった場合、墓地の『バックアップ』モンスター1体を手札に戻す ②自分のターン。墓地のこのカードを除外し、LPを半分支払うことで、①の効果を発動できる。この効果は、このカードが墓地に送られたターンには発動できない。


『装填準備』 永続魔法
①このカードを発動時、自分LPを500支払いこの効果を発動できる。墓地の闇属性ドラゴン族モンスターの数、デッキの上から順番にカードを確認し、その中に存在する『ヴァレット』モンスター1体を手札に加える。その後、残りのカードは元に戻し、デッキをシャッフルする。②1ターンに1度、手札の『ヴァレット』モンスターを1体、特殊召喚できる。③自分のカードの効果によって、このカードがフィールドを離れたとき、デッキからカードを1枚ドローする。


「そう睨むなよ」

 

エクシーズ遊介の前で、エリーは牙をみせて威嚇する。

 

可愛いなもう、と言う遊介と同じ顔をした敵に睨む。

 

「だったら私をマスターのところへ連れて行ってください」

 

「それはできない。向こうは危険だぜ?」

 

「でも私は」

 

「今行っても間に合わないよ」

 

「そんなことはありません。ただでさえイリアステルの戦いで大きなダメージを負っているんです。それでLPを賭けた戦いをまたやったら、もしかすると……」

 

「まあ、言わんとしてることは分かるけどな」

 

本人は気が付いていないが、戦場を生きているエクシーズ遊介からすれば、今大きな傷を負っている様子なのは明らかだった。

 

恐らく、デュエルに負けるようなダメージを受ければ、体が痛みに耐えきれなくなるだろう。良くて意識喪失、悪ければ体が動かなくなる可能性もある。

 

「まあ、殺しはしないさ。リーダーの意向だからな」

 

「私は従者です。だから、こんなところで」

 

「エデンも忙しい、もしもアイツが意識を失うことがあれば看病してやる人が必要だろう。お前にいてやってほしいって、リーダーがな」

 

「まるでマスターが負けるみたいなことを!」

 

「……まあ、このデュエルが終わるまでは、どのみちお前を離すつもりはないさ。お前は人質だからな。外に出るのは諦めろ。まあ、神殿内で誰かと話す分には構わないから、自由にしてくれ」

 

ちびっこなのに迫力あるなぁ、というつぶやきが、エリーにとっては侮辱に聞こえ、さらににらまれる。

 

目を逸らした先に映る、遊介と彩の姿。

 

それを見ながら、昔の自分の、ある瞬間を思い出す。アルターと戦った時だった。

 

絶対に負けたくない戦いで、勝てなかった。そして、いろんなものを失った。

 

不思議と、今の遊介を見ていると思い出す。

 

「彩は容赦ないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊介 LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

彩(リボルバー) LP4000 手札5

モンスター

魔法罠

 

(彩)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

 

ターン1

 

 

光の都市の上空で二人が向かい合う。

 

「俺の仲間は無事なんだろうな!」

 

彩に叫ぶ遊介。

 

「もちろん。そうじゃないと、遊介と戦う口実がなくなっちゃうもの。でも、何もしないとは言わない。殺さないのは誓うけど、それ以外のことなら……」

 

「お前」

 

「助けたければ私を倒すしかないよ。私のやり方が気に入らないのなら、私を倒して、エデンを倒して、みんなを救うヒーローにならないとね」

 

「……本気なんだな」

 

「ええ、貴方に恨まれても、私はエデンの勝利のために戦うわ」

 

「分かった。なら、俺は全力でお前を倒し、ここを押し通る。お前にけがをさせてでも」

 

「そう来なくちゃ」

 

遊介の最初のターンが始まる。

 

「俺はマジックカード『サイバネット・マイニング』を発動。手札のレイテンシを墓地へと送り、デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。俺が手札に加えるのは、レベル4のロムクラウディア」

 

遊介は初期の手札を見て迷いなく己の取る戦術を決めた。前は手札を見て迷うことがしばしばあったが、今はそのようなことはほとんどない。これまで同じデッキで何度も戦闘を重ね、自身の中での最善手を打つ方法は、頭の中に入り切っている。

 

「そして、俺はマジックカード『サポートプログラム・アドバンス』を発動する。このターン、通常召喚をしていない場合、手札のレベル5以上のサイバースモンスターを召喚する。俺は手札のコンデンサーデスストーカーを召喚する! この効果で召喚したモンスターの攻撃力は500アップする」

 

コンデンサー・デスストーカー レベル5

ATK2000/DEF1000

 

コンデンサー・デスストーカー ATK2000→2500

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

如何に決戦と言えど、最初に呼びこめる戦力は手札5枚。遊介はその中で、最も攻撃力の高いモンスターを呼べる策をとった。

 

当然この程度で止まる相手ではないことは理解している。彩と遊介はここに来る前、現実世界でもデュエル仲間だった。互いに競い合い、高めあい、デュエルを楽しみながら強くなった。何度も何度もぶつかり合っていたのだから知っている。

 

彩が強いと言うこと。デュエルにおいて、遊介が勝ったことは片手で数えられるくらいしかない。

 

それほどの強敵が相手なのだから苦戦は既に視野に入れている。

 

しかし、今回だけは負けるわけにはいかないと、遊介は前を走る彩を身ながら覚悟を決める。

 

これはいつもの喧嘩ではない。正真正銘の決闘。

 

ここでエリアマスターの自分が負ければ、光の世界が奪われる。かつて自分の手で守ったエリーの故郷、仲間がこの世界での新たな住処として愛し、必至に守って来た世界を。

 

エリアマスターとしてではなく、自分を信頼してくれた仲間のために、負けられない。目の前の侵略者であるエデンのリーダーを倒し、皆をこの手で救うのが、チームのリーダーとして皆に果たすべき責任だ。

 

 

遊介 LP4000 手札1

モンスター ①コンデンサー・デスストーカー

魔法罠 伏せ1

 

(彩)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ① □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

ターン2

 

 

 

「私のターン! ドロー」

 

デッキからカードをドローし、

 

「2500で安心はしないことね」

 

得意げに笑いながらそのように宣言する彩。

 

予想はできていたと言うべきか、これを突破する気満々の彩を見て、遊介は緊張する。

 

通常であれば相手が使うデッキはどんなものか、相手が何枚か使うまでは予想はできないのだが、彩に関しては別だ。

 

わざわざリボルバーと言う名前に下からには、恐らく使うのはヴァレットデッキ。しかし、厄介なのは、たとえどんなモンスターが来るか分かっていても、そのモンスターが強力で、楽に戦える相手ではないと言うこと。

 

「私はマジックカード『テラ・フォーミング』を発動。デッキからフィールド魔法を1枚サーチ。そして今サーチしたフィールド魔法をすぐに発動する。私はフィールド魔法、始皇帝の陵墓を発動!」

 

「な……!」

 

そのカードは予想できなかった。本来そのカードは、アドバンス召喚を主体とするプレイヤーが使うべきものであり、リンクを主体とするヴァレットには、あまり合わない。

 

しかし、確かに、完全に無駄になっているかどうかというと、そんなことはないともわかる。

 

「始皇帝の陵墓の効果。私はライフを2000支払い、手札の2体リリースが必要なレベルのモンスター1体を通常召喚する! クラッキングドラゴンを召喚!」

 

彩 LP4000→2000

 

そして目の前に、黒い体とエメラルドの光をもった異質な竜が現れる。

 

クラッキング・ドラゴン レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF0

 

「いきなり3000か……」

 

「私はカードを1枚セット。バトル!」

 

彩は容赦なく遊介のモンスターを潰しにかかる。

 

「クラッキングドラゴンで、コンデンサーデスストーカーに攻撃! トラッフィクブラスト!」

 

攻撃力3000をもつ竜の攻撃が容赦なく電脳世界の毒サソリに襲い掛かる。勝敗は明らかだった。遊介はあえてその攻撃を受ける。

 

(勝)クラッキングドラゴン ATK3000 VS コンデンサー・デスストーカー ATK2500 (負)

 

「く……!」

 

戦いの衝撃を受け、遊介に少しのダメージが入る。

 

遊介は一瞬、目の前の視界が歪んだことに気が付く。

 

(思ったよりもダメージが残っているな……)

 

しかし。デュエルに必要な思考に歪みはない。戦闘継続に問題はない。

 

遊介 LP4000→3500

 

「コンデンサーデスストーカーの効果は、効果で破壊されないと発動しない。残念ね遊介」

 

笑みを浮かべる彩。

 

「何……そんな予感は少ししてたんだ。攻撃力で越えてくるだろうなってな」

 

「そう、期待に応えられてなによりね。でも、あなたのデッキ、この攻撃力を超えられるの?」

 

「なに、今に見てろ」

 

「なら楽しみに見させてもらうわ。私はこれでターンエンド」

 

前を悠々と走っている彩には余裕が見られる。負けることなど微塵も考えていない顔だった。

 

それは絶対の自信を持っていないとできないことだ。自分が蒔けるはずがないというデッキと自分の実力への信頼。

 

しかし、遊介もこの程度で勝ち目を失う、最初の頃の情けない自分ではない。次のターンへの布石は既に打ってある。

 

彩 LP2000 手札3

モンスター ② クラッキング・ドラゴン

魔法罠 伏せ1

 

 

(彩)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ② □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

 

互いにここまでは様子見と言っていい。

 

けん制し合いながら最初の出方で様子を見て、次の相手の動き方に思いを巡らす。

 

昔から彩と戦うときはそうだった。

 

そして、互いのターンが1回終わったころに、ようやく互いは本気でカードをきり始める。自分が打てる戦術を披露しながら相手を驚かしていく。

 

(あの頃は楽しかったな)

 

そして今は、驚かすためではなく、相手を慈悲なく倒すために、自身の最高の戦術を見せるのだ。

 

 

 

ターン3

 

 

既にためらいはない。親友同士で戦うという異常な行為に。

 

遊介はカードを引く。

 

「俺のターン!」

 

目の前の『敵』を倒すために。

 

 

遊介 LP3500 手札2

モンスター

魔法罠 伏せ1

 

 

「俺はロムクラウディアを召喚!」

 

ROM・クラウディア レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF0

 

「召喚って言ったわね?」

 

「……クラッキングの効果か」

 

「そう。クラッキングドラゴンは相手がモンスターを召喚したとき、そのレベル×200分だけ、そのモンスターの攻撃力を下げ、下降分のダメージを与える。クラックフォール!」

 

竜から衝撃波が放たれ、モンスターの攻撃力の現象と、ダメージが同時に巻き起こる。ロムクラウディアのレベルは4.攻撃力は800ダウンし、その分のダメージが入る。

 

遊介 LP3500→2700

 

しかし、だからと言って召喚をやめるわけにはいかない。戦わなければ、クラッキングドラゴンの圧倒的な攻撃力にひねる潰されるだけになるからだ。

 

「ロムクラウディアの効果。このカードが召喚されたとき、墓地のサイバース族モンスター1体を手札に戻す。俺は墓地のレイテンシを戻す!」

 

墓地より戻ったレイテンシを、遊介はそのまま見せ続ける。

 

「レイテンシは、墓地から手札に戻った際に、手札から特殊召喚できる!」

 

レイテンシ レベル1 守備表示

ATK0/DEF0

 

「レイテンシには効果を発動しても意味ないわね……」

 

「ああ。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

最初のリンク召喚。

 

呼び出すのは、モンスター2体を必要とするサイバース族リンク。

 

「リンク召喚! 現れろ、スペースインシュレイター!」

 

スペース・インシュレイター

リンクマーカー 上 下

ATK1200/LINK2

 

「レイテンシの効果! 自身の効果で特殊召喚したこのカードがリンク召喚の素材になったとき、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

デッキからカードを引き、間髪入れずに引いたカードを使う。

 

「バックアップセクレタリーは、フィールドにサイバース族が存在するとき、手札から特殊召喚できる。俺は、スペースインシュレイターのリンク先に特殊召喚!」

 

バックアップ・セクレタリー レベル3 攻撃表示

ATK1200/DEF800

 

「クラックフォール!」

 

再びクラッキングドラゴンの効果が発動。レベル3、故に600分の変動とダメージが遊介に襲い掛かる。

 

「ぐ……!」

 

遊介 LP2700→2100

 

遊介は突如激しい頭痛に襲われ、体全体が痺れた。しかし、たった一瞬。心臓が止まりそうな感覚を経てもまだ、止まるわけにはいかない。

 

「スペースインシュレイターのリンク先のモンスターの攻撃力は800ダウンする」

 

バックアップ・セクレタリー ATK 1200→400

 

「でもリンク素材にするんでしょ? その説明はいらない」

 

「いるんだよ。確かにリンク素材にはするが、今引いたカードの発動条件には必要でね。俺は魔法カード『サイバース・キャッシュ』を発動する! フィールドに元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つサイバースがいる時、デッキからカードを2枚ドローする!」

 

「壊れカードじゃん」

 

「お前に勝つのに、遠慮なんかしていられないからな。俺はカードを2枚ドローする。そして、現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体以上。俺はリンク2のスペースインシュレイターとバックアップセクレタリーをリンクマーカーにセット!」

 

2体のモンスターは上空に現れたサーキットへと身を投じ3つの赤い光が灯る。

 

「リンク召喚、現れろ、シューティングコードトーカー!」

 

表れるは、水のコードトーカー。巨大な弓を持ち、相手を射る射手。

 

シューティングコード・トーカー

リンクマーカー 上 下 左

ATK2300/LINK3

 

「2300ねぇ」

 

「そう慌てるな、彩。別に手を抜いているつもりはない。本当は別のモンスターを呼び出す予定だったが、こっちの方が都合がよくなった。俺は装備魔法『リンク・ウェポン』をシューティングコードトーカーに装備。装備モンスターの攻撃力はリンクマーカー1つにつき500アップする!」

 

「なるほど、装備カードか。でも、初めて見るカードね」

 

「マイケルがこの世界で俺のために見つけてくれたカードだ。シューティングコード・トーカーのリンクは3.よって上昇する攻撃力は1500となる」

 

シューティングコード・トーカー ATK2300→3800

 

「バトルだ! 俺はシューティングコードトーカーで、クラッキングドラゴンを攻撃!」

 

水色の戦士は弓を構え上空へと跳躍する。

 

狙いは竜。その体を貫くために、矢を放つ。

 

「シューティング、コンプリート!」

 

その矢は間違いなく、竜を絶命させた。

 

(勝) シューティングコード・トーカー ATK3800 VS クラッキングドラゴン ATK3000 (負)

 

そして戦闘の代償を彩が支払うことになる。

 

しかし、ただ代償を負うことはない。

 

「私はトラップカード『ガードブロック』を発動させてもらう。戦闘ダメージを0にして、カードを1枚ドローする」

 

彩はエース級のモンスターが破壊されたことにさほどのダメージを負っている様子はない。

 

「ふふふ、これくらいは……ね」

 

とデュエルを楽しんでいる様子に捉えることすらできる。

 

彩にとってクラッキングドラゴンはただの過程なのだと言うことがはっきりする瞬間だった。

 

(まだ油断はできないってことか……変わらないな。今もそれだけは)

 

彩はどんなに追い詰めても次の一手を出してくる。基本的にサレンダーしかない、と言う状況になっている彩を遊介は見たことない。

 

つまり、まだ、この先に手は残しているということ。

 

油断は許されない状況だった。

 

(それでも、この一撃は大きい。クラッキングドラゴンはどうしても排除が必要だし、シューティングコードトーカーで倒せたの良い。このデュエル、逆風が吹いている様子はない。なら、こっちにも勝ちの目はある)

 

遊介は戦闘終了後、自身のモンスターの効果を使用する。

 

「シューティングコードトーカーが相手モンスターを戦闘で破壊したバトルフェイズ狩猟時、破壊したモンスター1体につきカードを1枚ドローする!」

 

遊介はカードを引き、

 

「俺はこれでターンエンド!」

 

遊介はこれ以上できることはないため、ターンを終了した。

 

遊介 LP2100 手札2

モンスター ③ シューティングコード・トーカー

魔法罠 伏せ1

 

(彩)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ③ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

「遊介」

 

相手から声がかかる。

 

「ずいぶんと怖い顔。そんなに負けるのが怖い?」

 

「そんな顔にしているのは誰だと思ってる」

 

「私たち、プロを目指したデュエリストよ。人を楽しませるものとして、自分たちが楽しくデュエルをしないでどうするの?」

 

楽しむ余裕などあるはずがない、と言おうとしたがそれよりも遊介に響いたのは別の箇所だった。

 

「目指した?」

 

過去形。まるで今は違うかのような言い方。

 

「お前、まるで今はプロを目指してないみたいな……!」

 

「優先順位が変わっただけ。今の私は、エデンを守り続けることが第1に叶えたい願いだもの」

 

「あの日の、約束……」

 

「その為にはまず、この世界を平和にしなきゃね。私たち、エデンが勝って」

 

「……お前は……変わったな!」

 

遊介の声には怒りが混じっている。

 

しかし、彩には響かない。

 

「さあ、次は私のターンね」

 

 

 

ターン4

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

彩は、遊介の見せる怒りの形相にも目を留めず、再び動き出す。

 

彩 LP2000 手札5

モンスター

魔法罠

 

「相手フィールド上にモンスターが存在するとき、私はゲートウェイドラゴンを特殊召喚。このカードは相手フィールド上にリンクモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚できる!」

 

ゲートウェイ・ドラゴン レベル4 攻撃表示

ATK1600/DEF1400

 

「ゲートウェイドラゴンの効果を発動する! メインフェイズに1度、手札のドラゴン族闇属性モンスター1体を特殊召喚する。出でよ、スニッフィングドラゴン!」

 

スニッフィング・ドラゴン レベル2 攻撃表示

ATK800/DEF400

 

連続で2体のモンスターの特殊召喚を行った彩が狙うのは間違いなくリンク召喚。それは遊介にもはっきりとわかる。

 

「スニッフィングドラゴンの効果。このカードが召喚、特殊召喚されたとき、デッキから同名カードを1枚手札に加える。そして、遊介がリンクをするなら、私もリンクモンスターで戦うわ。現れよ我が道を照らす未来回路!」

 

上空にサーキット。2体のモンスターが共にリンクマーカーとして変化し、2つの光が灯った。

 

「リンク召喚! 現れろ、ツイントライアングルドラゴン!」

 

召喚されたのは細身で、腕に特徴的な三角形をつけた竜。

 

ツイン・トライアングル・ドラゴン 

リンクマーカー 右 下

ATK1200/LINK2

 

「ツイントライアングルドラゴンの効果! LPを500支払い、墓地のレベル5以上のモンスターをこのカードのリンク先に復活させる! 私は墓地のクラッキングドラゴンを選択! この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない」

 

彩 LP2000→1500

 

クラッキング・ドラゴン レベル8 攻撃表示

ATK3000/DEF0

 

「さて、準備は整った、現れよ、我が道を照らす未来回路!召喚条件は効果モンスター2体以上。私はツイントライアングルドラゴンとクラッキングドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ、リンク3、トポロジックトゥリスバエナ!」

 

再びのリンク召喚により現れたのは、サイバースモンスター。

 

2人から少し離れたブルームガールが深刻な顔をするのを遊介は見る。

 

それを見て遊介はいろいろと悟った。ブルームガールが彩と戦ったこと。そしてこのモンスターがそのデュエルで現れ、猛威を振るったこと。

 

トポロジック・トゥリスバエナ

リンクマーカー 上、左下 右下

ATK2500/LINK3

 

しかし、攻撃力は未だシューティングコード・トーカーが上回っている。

 

しかし、トゥリスバエナの効果は遊介も知っている。遊介が先ほど発動していなかったカードを発動させるのは、まさにこのような厄介な効果を持つカードの動きを止めるためだ。

 

「罠カード『バックアップ・アナリシス』発動。墓地に『バックアップ』と名のつくサイバースモンスターが存在するときに発動できる。相手モンスターの効果を無効化する。対象にしたモンスターがリンクモンスターだった場合、墓地に存在する『バックアップ』サイバース族モンスター1体を手札に戻す」

 

「……そんなカードあったかしら?」

 

「これもマイケルが手に入れて俺にくれたカードだ。あいつ、どこでそんなカードを見つけてきてるのか、それだけは教えてくれないんだけどな。今はそれよりもデュエルを続ける。俺はトゥリスバエナの効果を無効にし、墓地のバックアップセクレタリーを手札に戻す!」

 

これでトゥリスバエナの効果は使えなくなる。このカードの持つ、魔法・罠カードの除外と言う役割は果たせない。

 

「そうか、それじゃあ……」

 

彩は、

 

「仕方ないね。ここでやろう」

 

思いっきり笑顔になると、まるで今の妨害をものともしないように新たにカードを動かし始める。

 

「永続魔法『装填準備』を発動。発動時、私はLPを500支払って、墓地の闇属性ドラゴン族モンスターの数まで、デッキからカードをめくり、その中の『ヴァレット』と名のつくモンスター1体を選択し手札に加え、私は墓地には、スニッフィングドラゴン、ゲートウェイドラゴン、ツイントライアングルドラゴン、クラッキングドラゴン。デッキからカードを4枚めくる」

 

彩 LP1500→1000

 

表示された4枚のカードの中から1枚、

 

「私はマグナヴァレットドラゴンを手札に加える。残りのカードはデッキに戻し、シャッフルする」

 

カードを手札に加えた。

 

「さて、これで条件は整った。私のLPは1000を下回っている」

 

「何を言っている、1000を下回ってたらなんだって言うんだ?」

 

「ふふふ、遊介、鈍いなー。アレしかないでしょ」

 

何かを楽しみにワクワクしているような様子。

 

彩は遊介を置いて上空へと上昇する。

 

「何を……」

 

次の瞬間、彩に目掛けて横向きの竜巻が現れる。

 

遊介が知らないはずはない。あれは、ストームアクセスを使うときに現れる新しい力を内包したデータの集合体。

 

「まさか……」

 

しかし、別におかしな話はない。

 

スキルは一人一人固有のものがあるが、同じものを他人が持たないわけではない。たまたま遊介と同じスキルを彩が持っていても、あり得ない話ではないのだ。

 

「聞こえる……」

 

彩は風に突撃する。

 

「荒ぶる魂が、力の振るう場所を求める声が……私に捉えられるのを、待っているのが」

 

手を開き、そのスキルの名を宣言した。

 

「ストームアクセス!」

 

膨大な情報が1枚の形となって、その手に収められた。

 

「良き力だ!」

 

遊介の前に再び凱旋した彩は、

 

「私は2体目のスニッフィングドラゴンを通常召喚!」

 

効果は1ターンに1度しか発動できないのにも関わらず、2体目のスニッフィングドラゴンを召喚した。

 

そしてフィールドにはトゥリスバエナとモンスター1体。

 

リンク4が呼べる状況。

 

「さっき手札に加えたのは……!」

 

「ええ。想像通りよ。現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

上空に再びサーキットが現れる。

 

「召喚条件は効果モンスター2体以上! 私はリンク3のトポロジックトゥリスバエナとスニッフィングドラゴンをリンクマーカーにセット!」

 

リンク4。それは最強格のリンクモンスターの証。

 

「リンク召喚! 永久の創世と共に、無限に再生する無の終焉! 出現せよ! トポロジックゼロヴォロス!」

 

現れたのは竜でもなければ、何かの悪魔でもない異質な見た目のモンスター。しかし、伝わってくる覇気は、それが只者ではないことをしっかりと示している。

 

「あれは……なんだ……?」

 

遊介はそれを見て言葉を失った。

 

トポロジックは知っていたが、遊介の知るトポロジックは3枚、トゥリスバエナ、ボマードラゴン、ガンブラードラゴン。

 

あんなトポロジックは見たことない。

 

トポロジック・ゼロヴォロス

リンクマーカー 左上 右上 左下 右下

ATK3000/LINK4

 

「私だって、あなたの知らないカードの1枚や2枚使うわ。この世界で手に入れたこの世界独自のカード。すごく頼もしい戦力よ」

 

この世界では自分のオリジナルスキルだと思っていたそのストームアクセスを先に決められ、呼び出されたリンクモンスター。遊介は分かる。今まで起死回生で乗り越えてきた空こそ分かる。

 

このターン、間違いなく自分が追い詰められることが・

 

「そんな怯えた顔をしないで遊介。どうなるかはすぐにわかるわ。私は永続魔法『装填準備』の効果を発動する。手札のヴァレットモンスターを特殊召喚。効果で手札に加えた、マグナヴァレットを特殊召喚する」

 

マグナヴァレット・ドラゴン レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF1200

 

問題はトポロジックのリンク先に特殊召喚されたこと。

 

(トポロジックの共通効果は、リンク先にモンスターが特殊召喚された場合、強力な効果を発動すること……!)

 

「この瞬間、トポロジックゼロヴォロスの効果を発動! このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚されたとき、フィールド上のカードをすべて除外する!」

 

「な!」

 

思わず遊介は声を上げてしまう。

 

「すべて……?」

 

「ええ。すべて、遊介の使うシューティングコードトーカーもさようなら。私のモンスターも、カードもさようなら。これでフィールドは綺麗になるわ。さあ、ゼロヴォロス始めなさい! アシュラーエニグマ!」

 

空中、遊介と彩が走るその下に不吉な模様が描かれる。

 

そして次の瞬間、灼熱を帯びた光に場は包まれた。

 

ダメージが通るわけではない。

 

しかし、微かな刺激も今の遊介には毒だ。

 

「ぐ……体が……!」

 

特に灼熱と言えば、先に戦ったイリアステルの太陽を嫌でも思い出させられる。体が、あの時に受けた痛みを覚えている。

 

遊介が次に彩を直視できた瞬間、その目には彩しか映らなかった。先ほどまで堂々と顕現していたはずのモンスターは存在しない。

 

「クソ……!」

 

彩は、この時を待ち望んでいたかのように、まだカードの宣言を続ける。

 

「『装填準備』の効果! 自分のカードの効果によってフィールドを離れた時、カードを1枚ドローする!」

 

「アフターケアまでしっかりしてるな……!」

 

「さて、これでフィールドはがら空き。後は追撃もし放題。私は速攻魔法『クイック・リボルブ』を発動。デッキから『ヴァレット』1体を特殊召喚できる。ただし、この効果で特殊召喚したモンスターは戦闘が行えず、エンドフェイズ破壊される。私はヴァレットトレーサーを特殊召喚!」

 

ヴァレット・トレーサー レベル4 攻撃表示

ATK1600/DEF1000

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路! 召喚条件はレベル4以下のドラゴン族モンスター1体! 私は今呼び出したトレーサーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 出でよ、ストライカードラゴン!」

 

ストライカー・ドラゴン

リンクマーカー 左

ATK1000/LINK1

 

あれほどの召喚を終えてなお、彩の動きは止まらない。

 

敵ながら遊介はそのデッキのポテンシャルに凄みを感じる。考え抜かれた動き、相手を徹底的に追い詰める容赦のない戦い方。

 

すべて勝利のために磨かれた相手のタクティクスだ。

 

彩は今呼び出したリンクモンスターの効果を宣言する。

 

「ストライカードラゴンがリンク召喚に成功した場合、デッキから『リボルブート・セクター』を手札に加える!」

 

デッキから、『ヴァレット』の戦術の基本となるフィールド魔法をサーチしたうえで、

 

「バトル、ストライカードラゴンで、相手プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

さらに追撃も行ってくるところ、容赦はないと言えるだろう。

 

モンスターのいない遊介はその攻撃をそのまま受けるしかない。

 

遊介 LP2100→1100

 

「ぐ……!」

 

体がよろめく。

 

天城ハルトと戦った時に受けたのような、想像を絶する痛みは今のところないが、体に累積しているダメージで、体が悲鳴を上げ始める。

 

(まだ駄目だ。弱音を吐くな! 俺の体!)

 

遊介は己を鼓舞する。

 

一方の彩は、バトルが終わり、

 

「私はストライカードラゴンの効果。このカードと、墓地のヴァレットモンスター1体を選択して発動する。ストライカードラゴンを破壊して、そのモンスターを手札に戻す。私はヴァレットトレーサーを選択」

 

呼び出されたばかりにも拘わらず、消えていったストライカードラゴン。そして彩の手札には『クイック・リボルブ』で呼び出されたモンスターが手札に戻った。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

彩 LP1000 手札3

モンスター

魔法罠 伏せ1

 

(彩)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ ③ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

最終的にはたった1枚の伏せカードとなったが、彩のこのターンに行った行為は、並みのデュエリストの1ターンを遥かに超えているもの。

 

遊介は、この1ターンで、目の前の敵の強大さをますます感じることとなった。

 

「さあ、遊介、君のターンだよ?」

 

笑みを浮かべ次のターンを促す彩。まだまだ余裕のありそうな様子を見て、遊介は過去のデュエル部での経験を思い出す。

 

(あいつにとっては……ここまでが準備運動ってところか……)

 

いつも、本気になったときは目を見開き、迫力のある顔になる。余裕のあるうちは、まだ本気ではないことの証明だ。

 

「まずは奴のデッキの底が見えるところまで戦わないとな」

 

 

 

ターン5

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

カードをドローし、スタンバイフェイズへと突入する。

 

この瞬間、カードの効果を宣言したのは、彩だった。

 

「トポロジックゼロヴォロスの効果! 自身の効果で除外されたこのモンスターは、次のターンのスタンバイフェイズに特殊召喚する! そして、このカードの攻撃力は、除外されているカード1枚につき200攻撃力がアップする」

 

「戻ってくる……」

 

「そう、私がタダでダイレクトアタックを許すわけないでしょう?」

 

次元を斬り裂いて再びその姿は顕現する。

 

トポロジック・ゼロヴォロス

リンクマーカー 左上 右上 左下 右下

ATK3000/LINK4

 

除外されているカードは、4枚、攻撃力は800上昇する。

 

トポロジック・ゼロヴォロス ATK3000→3800

 

「ここにきて、この攻撃力かよ」

 

「サレンダーする?」

 

「まさか。俺はお前を倒すと決めた。こんなところで降参なんかしない」

 

「なら頑張って遊介。この程度じゃ、光の世界のエリアマスターとして、情けないだけだよ?」

 

「言ってろ。すぐにお前の顔を歪めてやる……!」




中編2へ続く……



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26話 決戦――そして(中編2)

中編と後編には2があります。

もともと考えてた話の構成では、前編、デュエルの中編、その後の後編になる予定でしたが、デュエルの内容を変更したことで大幅文量アップ。

よって、もともと中編の内容だったところを中編1、2とし、元々後編で書こうとしていたところを、後編の1、2にしています。

中編2です。

この編でのオリカは以下のように。

『アンダーフロー・エクスチェンジャー』 
レベル2 サイバース族 ATK100/DEF100

①自分がダメージを受ける場合、そのダメージによって自身のライフポイントが0になるとき発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、自分のLPを100にする。この効果を発動したターン、このカードのコントローラーが受けるダメージはすべて0になる。②このカードが自らの効果で特殊召喚されたとき、自分の手札が2枚になるなるようにカードをドローする。③このカードは特殊召喚されたターン戦闘では破壊されない。

(追記)

投稿時と内容を一部変更しました。デュエルの内容に変更はありません。

『マーカーズ・ギフト』通常魔法

①2つのエクストラモンスターゾーンにリンク4のモンスターが存在するとき、1枚以上が自分のコントロールするモンスターの場合、デッキからカードを2枚ドローする。


**********************************

 

 

「あ……」

 

制圧された神殿内は自由にある歩き回ってよいという話を受け、エリーはまず同郷の年下たちに会いに行った。

 

彼らは不安な面持ちで遊介と彩のデュエルを見ていた。

 

エリーはきっと大丈夫と彼らを励まし、次にマイケルを捜しに行く。

 

「おお、エリーか」

 

「マイケルさん……マスターは大丈夫でしょうか?」

 

「お前、人質なのにそれか。好きだな、あいつのことが」

 

マイケルもあまり良い顔をしていない。

 

ランサーズの面々は別の部屋にいるのか、この場にいるのはマイケルだけだった。

 

「あいつ……」

 

「マスターの」

 

「いや、見ろよ、画面の端っこにたまに映るぐらいだが……」

 

ブルームガールの曇った顔を指していた。

 

「裏切ったなんてことはねえ。あくまで俺達の命を守るための措置だった。仕方なかった。でもあいつはきっと、そう思ってはいないんだろうな。遊介を罠にはめた、という事実に引っ張られてるみたいだな」

 

「……それは」

 

「万が一遊介が負けてみろ。きっとあいつはこう思う。とんだお人よしだからな。『遊介がああなったのは自分のせいだ。とんだ裏切り者だ』ってな」

 

「そんなこと……!」

 

「やばいぜ、デュエルを見る限り、遊介が劣勢だ。どう見てもあのリボルバーさんは、まだ余力を残してる。あの顔は、自分にはまだあれ以外のエースがいるから大丈夫だって目だ」

 

「そんな、あれほどのモンスターを従えていて、まだ勝負を決める気はないと?」

 

「ああ。でも、勝ってくれと願うばかりだ。きっとあいつが今負けたら、俺たちはヤバくなる。そんな予感がする。遊介を含めてな」

 

エリーは首を振った。

 

「そんなことは起こりません」

 

「ん?」

 

「だって私たちは知ってます。マスターは、強い人だって。周りに流されないで、だれしもが最善だと思える道を考えて、それをリスクを恐れず実行に移せる。そんな行動力があるあの人だから、私たちは信じられる。だから、私たちが信じれば、マスターは勝ちます。天城ハルトに勝ったあの時のように」

 

「……そうだな。エリー、俺達が信じないとな。あいつを」

 

**********************************

 

 

遊介 手札3 LP1100

モンスター

魔法罠

 

 

 

目の前には攻撃力3800のモンスター。

 

対して自分のフィールドには何も存在していない。

 

手札は残り僅かで目の前の敵を潰す方法を考えなければならない。

 

遊介は今あるもので何ができるかを考える。

 

遊介が攻撃力3800のモンスターを突破する方法は限られている。

 

戦闘で倒すのならば間違いなくパワーコードトーカーを出すのが手っ取り早い。

 

しかし、恐ろしいのは相手が伏せているカード。もしもあれが戦闘を防ぐ類のものであれば、次のターン、パワーコードトーカーは破壊され勝ち目はなくなるだろう。

 

(なら、多少手間がかかっても、効果で除去を行うべきだ)

 

トポロジックゼロヴォロスは今、リンクマーカーがどこのモンスターゾーンにも向いていない状態でそこに存在する。メインモンスターゾーンの真ん中であれば効果の暴発も狙えたのだが、それを許すほどの甘えを彩が許すはずもない。

 

「俺はサイバースガジェットを通常召喚!」

 

新たなサイバースを呼び出す。行く先は既に見定まっている。

 

サイバースガジェット レベル4 攻撃表示

ATK1400/DEF300

 

「サイバースガジェットの召喚に成功したとき、墓地のレベル2以下のモンスター1体を特殊召喚できる。俺は墓地に存在する、レイテンシを特殊召喚」

 

レイテンシ レベル1 守備表示

ATK0/DEF0

 

「さらに、フィールドにサイバース族モンスターがいる場合、手札のバックアップセクレタリーを特殊召喚できる」

 

バックアップ・セクレタリー レベル3 攻撃表示

ATK1200/DEF800

 

「現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件は、効果モンスター2体」

 

バックアップ・セクレタリーとサイバース・ガジェットが現れたサーキットへと吸い込まれ、2つの光を灯した。

 

「リンク召喚、現れろ、リンク2、アンダークロックテイカー!」

 

アンダークロックテイカー

リンクマーカー 左 下

ATK1000/LINK2

 

「ここで、リンク素材となったサイバースガジェットの効果を発動する。フィールドにガジェットトークンを特殊召喚!」

 

ガジェット・トークン レベル2 守備表示

ATK0/DEF0

 

特殊召喚する先は、リンク先にならないように気を付ける。

 

そして条件はそろった。逆転の一手を遊介は打ち始めた。

 

「俺は墓地の『バックアップ・アナリシス』の効果を発動する! 自分のターン。墓地のこのカードを除外し、LPを半分支払うことで、最初の効果を発動できる。この効果は、このカードが墓地に送られたターンには発動できない。俺の墓地にはバックアップセクレタリーがいるため発動可能。相手のモンスター効果を無効にし、墓地のバックアップセクレタリーを手札に戻す」

 

遊介 LP1100→550

 

「好きね、そのモンスター」

 

彩の余計な一言にわざわざ遊介は反応を返さない。

 

「これで、ゼロヴォロスの効果は発動されず、その攻撃力も元に戻る」

 

トポロジック・ゼロヴォロスATK3800→3000

 

「現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はモンスター2体以上。俺は、リンク2、フィールドのアンダークロックテイカーに、レイテンシ、ガジェットトークンの3体をリンクマーカーにセット!」

 

3体のモンスターは上空へと向かい、呼び出される竜の礎となる。

 

遊介が絶対的信頼をおくその竜は、幾度となく遊介の危機を救い、ハルトとの戦いから、闇の世界での激闘、その後の強敵との戦いにおいて、何度も遊介に光明を見せてきたエースモンスター。

 

「リンク召喚! 電脳世界の守護を司る竜。迫る敵を排斥するため、その姿を現せ! ファイアウォール・ドラゴン!」

 

ファイアウォール・ドラゴン

リンクマーカー 上 下 左 右

ATK2500/LINK4

 

その竜が現れたとき、彩の目が輝いた。

 

「来たわね……、こうして相対すると、やっぱり、凄いわ……!」

 

これに関しては遊介は言われて悪い気はしない。この竜は今や、多くの苦難を共にした相棒であり、自分の絶対的エースモンスターだ。

 

しかし、笑みは見せない。今は、真剣な戦いだ。そして相手は、倒すべき敵。油断につながる行為を、遊介は意識的に慎んだ。

 

「墓地のスペースインシュレイターの効果を発動する! このカードが墓地の存在し、フィールドにサイバースリンクモンスターが特殊召喚されたとき、このカードを墓地から、そのモンスターのリンク先になるように特殊召喚!」

 

スペース・インシュレイター

リンクマーカー 上 下

ATK1200/LINK2

 

「スペースインシュレイターのリンク先のモンスターの攻撃力は800ダウンする」

 

ファイアウォール・ドラゴン ATK2500→1700

 

「あら、攻撃力、下げちゃっていいのー?」

 

「今に判る。ファイアウォールドラゴンの効果! このカードが相互リンク状態のとき、フィールド、もしくは墓地のモンスターを、このカードとの相互リンクの数まで手札に戻す! 俺はお前の場の、トポロジックゼロヴォロスを手札に戻す! エマージェンシーエスケープ!」

 

ファイアーウォール・ドラゴンから激しい電撃が放たれる。

 

凄まじい力を見せていたゼロヴォロスもこれには耐る術はなく、その姿を消した。

 

「やるね。ゼロヴォロスでごり押しは無理か……」

 

「お前のフィールドはこれで空いた。バトルだ!」

 

遊介は彩を指さし、宣言する。

 

「ファイアウォールドラゴンでダイレクトアタック! テンペストアタック!」

 

体が赤く光り、翼が円形の炎の壁へと変貌する。そして顎の先に集束し始めたエネルギーが閾値を超え、暴風すらも破滅させる赤い閃光が放たれる。

 

彩はその攻撃を前に、

 

「でも遊介、タダで通すと思ってるの?」

 

と余裕の表情で応えた。

 

「私は手札のチェックサムドラゴンの効果を発動。相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚する!」

 

彩が盾として呼んだモンスターは、これもまた闇属性のドラゴン。

 

チェックサム・ドラゴン レベル6 守備表示

ATK800/DEF2400

 

攻撃力が下がったファイアウォールドラゴンの攻撃を、盾として真っ向から受け、彩に被害が及ばぬよう盾となった。

 

ファイアウォールドラゴンは再び攻撃をしようとするが、守備力が高く突破できない。

 

「どうする遊介? このまま攻撃する?」

 

「するわけないだろ、さすがにそう易々と決着はつかないか」

 

「当然でしょ。そして、チェックサムドラゴンの効果で、私はLPを守備力の半分、1200だけ回復する」

 

彩 LP1000→2200

 

彩は始皇帝の陵墓で思いLPコストを払ったうえでの戦いにも関わらず、いつの間にか、LPは逆転された。

 

LPの上下は焦る要因ではない。それは最近の戦いの中で、身に染みて分かっている。

 

しかし、それでも、遊介には一抹の不安がよぎる。ここで仕留められなかったことが、後で自分をより追い込むのではないかと。

 

ダメだ、と遊介は自分に言い聞かせながら、深呼吸する。

 

(負けるとはまだ決まっていない。弱気になるな。ファイアウォールは呼べた。戦況は厳しくても、俺は戦えている。勝ちの目はまだあるはずだ)

 

自分を守るように背中を見せるエースモンスターを見て、

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

次に来る彩の戦術を迎え撃つ覚悟を決める。

 

「さすがだな、俺は今ので決めるつもりだった」

 

「本気で殺しに来てるのがビンビン伝わったよ。なんか嬉しかった」

 

「嬉しいか。そうだな……俺は、悲しい」

 

「なんで?」

 

「このデュエル、本当の、正々堂々の試合でやりたかった」

 

彩は遊介の言葉を聞き、しばらく黙る。

 

「俺は……! 光の世界を賭けてとか、エデンの理想を叶えるためとか、こんな」

 

「でも、私は、こうすることを選んだ。ごめんね遊介」

 

もう道は交わらない。

 

この戦いで、光の世界の、遊介の仲間が愛し、遊介が仲間のために守ろうと決めた街の未来が決まる。

 

エデンの侵略戦争の拠点とされるか、これまで通り、デュエルの世界に馴染めない弱者の縋れる光になり続けるか。

 

他を踏みにじる道と、理想を探し続ける道。

 

このデュエルは、どちらかの道が途切れるデュエルになる。

 

彩は、そう言った。

 

遊介 LP550 手札1

モンスター ④ ファイアウォール・ドラゴン ⑤ スペース・インシュレイター

魔法罠

 

(彩)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ □ ⑥ □ □   メインモンスターゾーン

  □   ④     EXモンスターゾーン

□ □ □ ⑤ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

 

ターン6

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

デッキからカードを引く彩の顔は自信に満ち溢れている。

 

それは明らかに嵐が来ることを予言するものだった。

 

彩 LP2200 手札3

モンスター ⑥ チェックサム・ドラゴン

魔法罠 伏せ1

 

「でも遊介、貴方もいいセンスだと思うよ? 並みのデュエリストじゃ、トポロジックで全員倒せちゃうからね。つまらない」

 

「……そうか」

 

「でも遊介ならこれくらいは倒すんじゃないかって楽しみにしていたの。そしてそれが実現した。期待通り、このデュエル、熱くなってきたね」

 

彩の目が変わったのが遊介に判る。

 

本気の目、獲物をこれから撃ちぬく。その殺気が籠っている。

 

「さて、ここからは本気だよ……?」

 

彩が最初に発動したのは伏せていたカード。

 

「トラップカード、『闇次元の解放』を発動。除外されている闇属性モンスターを特殊召喚する。私は、除外されていたマグナヴァレットを特殊召喚!」

 

彩は自らの効果のトリガーとしたモンスターを呼び戻す手段まで用意していた。

 

マグナヴァレット・ドラゴン レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF1200

 

実際相手ターンに使える状態だったので、チェックサムドラゴン含め2回分の攻撃には対処できた計算になる。このカードは盾としても使えるように設置されていた。

 

それに気が付いた遊介は、本当に無駄のない動きをする彩に感心を禁じ得ない。

 

「さらに私は速攻魔法『スクイブ・ドロー』を発動する。フィールド上のヴァレットモンスター1体を破壊。デッキからカードを2枚ドローする。私は、マグナヴァレットを破壊し、2枚ドロー!」

 

デッキから新たなカードを招きいれ、そして、手札にあることをほのめかしていたフィールド魔法をここで使用した。

 

「フィールド魔法、『リボルブート・セクター』を発動。その効果で、私は2体の『ヴァレット』モンスターを手札から守備表示で特殊召喚する。来い、ヴァレットトレーサー、メタルヴァレット」

 

彩は手札の弾丸を2発、フィールドに出現させる。

 

ヴァレット・トレーサー レベル4 守備表示

ATK1600/DEF1000

 

メタルヴァレット・ドラゴン レベル4 守備表示

ATK1700/DEF1400

 

「『リボルブート・セクター』が場に存在する限り、私のフィールドのヴァレット達の攻撃力、守備力は300アップする」

 

 

ヴァレット・トレーサー DEF1000→1300

 

メタルヴァレット・ドラゴン DEF1400→1700

 

「そして、私は2枚目の『装填準備』を発動する」

 

「2枚目?」

 

「遊介? こんな便利なカード、1枚だけ入れるわけないよね? 便利カードは積めるだけ積むでしょ? 効果の説明は省略、私は墓地の闇属性ドラゴン族モンスターの数だけデッキの上からカードをめくる」

 

彩 LP2200→1700

 

彩が使っているのはヴァレットデッキだ。5枚以上デッキのカードを上からめくれば、その中にヴァレットが存在する可能性は高い。

 

「あら偶然。私はマグナヴァレットドラゴンを手札に加える。そして『装填準備』の2個目の効果で、マグナヴァレットを特殊召喚」

 

マグナヴァレット・ドラゴン レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF1200

 

「そして、ヴァレットトレーサーの効果を発動する。表側表示のカードを1枚破壊し、デッキからヴァレットトレーサー以外のヴァレットを特殊召喚する。このターン私は闇属性モンスターしかエクストラデッキからの召喚ができなくなるけどね。私は『装填準備』を破壊し、デッキから、オートヴァレットドラゴンを特殊召喚」

 

オートヴァレット・ドラゴン レベル4 攻撃表示

ATK1600/DEF1000

 

「『装填準備』の効果。自分のカード効果によって破壊された場合、カードを1枚ドロー」

 

恐るべきことに、彩のフィールドはモンスターで埋め尽くされた。

 

これならば、呼び出せる。高リンクモンスターを。

 

(……来るのか……!)

 

遊介には1つの予感がある。

 

相手はヴァレット使い。そして彩の余裕めいた表情。多くのモンスターをそろえた事実。

 

それは、たった1体、しかし、とんでもなく強力なエースをまだ持っているということ。

 

そして、この布陣であれば、エースはアレしかいないこと。

 

彩の目が変わったのも、恐らく、そのモンスターが存在することによるだろうからだと言うこと。

 

「現れろ……我が道を照らす、未来回路!」

 

彩の後方にリンクサーキットがオープンする。

 

「召喚条件は効果モンスター3体以上。私はチェックサムドラゴン、メタルヴァレットドラゴン、ヴァレットトレーサー、オートヴァレットドラゴンの4体をリンクマーカーにセット!」

 

遊介の額に冷や汗が流れるのは、デュエル中これが初めてだった。

 

先ほど出たトポロジックも強力だったが、その時ですら遊介は動じなかった。しかし、次に来るモンスターは、歴代でも名を残すに違いないほど圧倒的強者だ。

 

 

**********************************

 

「あいつ、まだ余力を残してたのか……!」

 

マイケルは目を見開く。

 

「大丈夫です。マスターならきっと……!」

 

エリーは祈る。

 

そしてそんな2人の近くに、このデュエルを見守ろうとする新たな客が現れた。

 

「それは、どうかしら」

 

「お前、たしか、マスミ、とかいう」

 

「ええ。あなたたちに巻き込まれて見事に人質よ。どうしてくれるのかしら」

 

「それは、申し訳ない」

 

「まあ、いいわ。あなたを怒っても仕方のないことだし。それより、彼、本当に大丈夫かしらね」

 

「……大丈夫だろ」

 

マイケルはそう言ったが、光津真澄は、画面の中の遊介を見て、

 

「どうかしら、彼の目、少しずつ光を失っているように、私には見えるわ」

 

**********************************

 

 

 

「閉ざされし世界を貫く我が新風! リンク召喚! リンク4、ヴァレルロード・ドラゴン!」

 

現れたのはリボルバーの名にふさわしい、銃を想起させる体をもつ竜。

 

ファイアウォールドラゴンと同じく、場に存在するだけで圧倒的プレッシャーを与える存在だ。

 

ヴァレルロード・ドラゴン

リンクマーカー 左 右 左下 右下

ATK3000/LINK4

 

遊介の悪い予感は的中した。

 

そう、ヴァレットデッキの真のエースモンスターはトポロジックではない。あのヴァレルロードドラゴンを筆頭とする、ヴァレルシリーズのリンク4のドラゴン。

 

「どうしたの、怖い顔よ? 遊介」

 

彩はニヤリと笑みを一瞬だけ見せて、

 

「マジックカード『マーカーズ・ギフト』を発動。自分と相手のエクストラモンスターゾーンにリンク4のモンスターが存在するとき、デッキからカードを2枚ドロー」

 

呼び出したモンスターの力を解放する。

 

「バトル、ヴァレルロードドラゴンで、ファイアウォールドラゴンを攻撃!」

 

この攻撃が通れば、遊介は終わる。

 

しかし、彩はあえてそうはしなかった。

 

「ヴァレルロードドラゴンの効果。相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ、相手モンスターのコントロールを奪う! ストレンジトリガー!」

 

ヴァレルロードドラゴンから、青い弾丸が放たれた。

 

その弾はファイアウォールドラゴンに直撃し、それを受けたファイアウォールドラゴンは呻き、そして意味もなく体を赤くし、そして相手フィールド上へと転移する。

 

遊介にはそれを防ぐ手立てはない。自分が信頼を置いているエースモンスターが奪われる様を、ただ見ている事しかできなかった。

 

「ふふふ……奪っちゃった」

 

この状況はわざと行ったことなのだろう。

 

デュエルの前、彩は遊介のすべてを奪ってやると宣言した。

 

この光景はその宣言を実行に移した結果ということ。

 

「彩……!」

 

ファイアウォール・ドラゴンはスペース・インシュレイターのリンク先を離れ、攻撃力は元に戻っている。

 

ファイアウォール・ドラゴン ATK1700→2500

 

「こんなふうにね、遊介から希望を奪っていくわ。もう、私と戦えるだけの力をなくすまで。遊介の最後の表舞台にふさわしい、残念な結末でフィニッシュにしてあげる! あなたのエース、ファイアウォールドラゴンで」

 

残酷な宣言がされた。

 

「スペースインシュレイターを攻撃!」

 

デュエルは情では動かない。ファイアウォールドラゴンは望まずとも、彩の命令を受けて攻撃を準備する。

 

遊介は、いつも自分側から放たれているその攻撃を正面にする。

 

何の言葉も出なかった。

 

「遊介!」

 

悲鳴が聞こえる。

 

それも当然だ。この攻撃をまともに受けたら終わりなのだから。

 

よりにもよって、ファイアウォールドラゴンに終わらせられるとは、誰が考えただろうか。

 

「テンペストアタック!」

 

放たれた攻撃、遊介は、その攻撃に対して。

 

「……」

 

何もしなかった。

 

否、遊介にこの攻撃を止める手段は既になかった。

 

(勝)ファイアウォール・ドラゴン ATK2500 VS スペース・インシュレイター ATK1200(負)

 

そして遊介には、その差の分。1300のダメージが襲い掛かり、遊介は負ける。

 

「終わってみれば、あっけない幕引きね」

 

「……」

 

「何か言ったら、負け犬さん。ああ、もしかして痛くて何も言えないのかな?」

 

「負け犬?」

 

「ん?」

 

「誰が、負けたって?」

 

「え?」

 

彩がどや顔で勝者としての振る舞いを見せているところに、飛び込んでくるのは、苦しそうにもしながらも、まだ耐えている遊介の姿。

 

「うっそ、どうやって……」

 

「俺は手札のアンダーフロー・エクスチェンジャーの効果を発動する。俺のLPが0になるダメージを負うときに発動できる。自分のLPを100にして、このカードを特殊召喚。俺がこのターン受けるダメージは0になる」

 

遊介 LP550→100

 

アンダーフロー・エクスチェンジャー レベル1 守備表示

ATK100/DEF100

 

「その後、自分の手札が2枚になるように、カードをドローする!」

 

遊介はデッキからカードを引く。

 

このカードは希望だ。次のターン、あのヴァレルロード・ドラゴンを倒し、彩を倒すに至るための。

 

「へえ……まだあきらめてないんだ」

 

「当たり前だ」

 

少し遊介はふらついたが、しかし、彩を睨み返す。

 

遊介は、少し遠くでデュエルを見守っているブルームガールを見て、そしてまた光の神殿を見て、彩に言った。

 

「俺がここで勝たないと、きっと俺の仲間のみんなが嫌な思いをする。そんなの、彼らと一緒に戦う仲間として、リーダーとしてあるまじきことだ。俺に希望がかかっているのなら、その声に応えないといけない」

 

赤馬零児は、仲間の見守る中、あのイリアステルと互角以上の戦いをして見せた。すべては仲間を守るために。

 

ならば遊介もまた、どんな状況でも負けてはいけない。

 

「俺はチーム『players』のリーダー、遊介だ。俺は、彼らの願いを、光の世界を守るために負けるわけにはいかない!」

 

「その意気、さすが遊介ね。なら来なさいよ。私は全力をもってあなたを全力圧倒的に超えて、潰す」

 

「やってみろ」

 

「まずは、そこからどうやって這い上がるか、お手並み拝見ね。私はカードを1枚伏せて、ターンエンド。エンドフェイズ、スクイブドローで破壊された方のマグナヴァレットの効果、自身とは別のヴァレットをデッキから呼び出す。現れよ、オートヴァレットドラゴン」

 

オートヴァレット・ドラゴン レベル4 攻撃表示

ATK1600/DEF1000

 

「さ、これで私のターンは終わり。迎撃の布陣は整った」

 

 

彩 LP1700 手札1

モンスター ⑦ ヴァレルロード・ドラゴン ⑧ マグナヴァレット・ドラゴン

      ⑨ オートヴァレット・ドラゴン ④ ファイアウォール・ドラゴン

魔法罠 伏せ1

 

 

 

(彩)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

⑧ ⑨ ④ □ □   メインモンスターゾーン

  ⑦   □     EXモンスターゾーン

□ □ ⑩ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

遊介の前に3体の敵。

 

そしてその奥には、堂々と迎撃の体勢をとる彩の姿。

 

遊介は深呼吸し、自身に訴える。

 

(さあ、このターンが勝負だ!)

 

遊介は次のターンであの布陣を突破するべく、手に力を込めた。

 

風が吹く。

 

その中に動く希望をつかみ取る。

 

それが遊介が勝つ唯一の方法だった。




次回より後編です。

26話、どれだけ多いんだ? 
と作者も思ってます。

これなら2話分は想定して話をつくるんだったと後悔しています。

26話は、デュエルパートの変更部分を完成次第投稿していきますので、1日ごとに様子を見に来ていただけると幸いです。




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26話 決戦――そして(後編1)

後編1はデュエルの決着までです。

オリカは以下のように。

『データ・サルベージ』 通常魔法
①墓地に存在するレベル4以下のサイバース族モンスターを手札に加える。この効果を使用したターン、自分はサイバース族モンスターしか召喚・特殊召喚できない。


『ファイアウォール・サポーター』
レベル8 サイバース族 ATK2500/DEF2000

①このカードを手札から墓地へ送り発動できる。フィールド上のリンクモンスターを1体選び、攻撃力を500アップする。この時『ファイアウォール』と名のつくモンスターを選択した場合、攻撃力をさらに1000アップする。攻撃力をこの効果を発動した時、このターンのバトルフェイズ、相手は魔法、罠カードを発動できない。この効果は相手ターンのバトルフェイズでも使用できる。②リンクモンスターが墓地へ送られられたとき、墓地のこのカードを効果を発動できる。墓地へ送られたリンクモンスターとこのカードを除外することでリンク4以上のサイバース族モンスター1体をリンク召喚する。

このデュエルを書いてて、1年目よく、プレイメーカーはリボルバーに勝てたなぁという感想を抱きました。


彩 LP1700 手札1

モンスター ⑦ ヴァレルロード・ドラゴン ATK3000 

      ⑧ マグナヴァレット・ドラゴン ATK2100

      ⑨ オートヴァレット・ドラゴン ATK1900

      ④ ファイアウォール・ドラゴン ATK2500

魔法罠 伏せ1 フィールド『リボルブート・セクター』

 

 

 

(彩)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

⑧ ⑨ ④ □ □   メインモンスターゾーン

  ⑦   □     EXモンスターゾーン

□ □ ⑩ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

**********************************

 

「エデンの野郎……随分と派手にやってくれるじゃねえか」

 

以前壊滅的な被害を受けた解放軍だったが、最近は何とか立て直してきている。幹部クラスのデュエリストを筆頭に、エデンに対抗し、リーダーのアゼルが、エデンとの戦闘で得た反省からひらめく新たな作戦の数々によって、今も解放軍は十分な勢力として成り立っている。

 

しかし、イリアステルの戦士の襲撃、良助の敗北、さらに続けてエデンの光の世界の進軍と、ここ最近は悪い出来事が重なり、劣勢は確実と思われた。

 

そこに助け舟を出してきたのは、同盟を組んでいる、ランサーズの赤馬零児。彼は自ら解放軍のアジトを訪れ、アゼル、シンクロ遊介とともに戦い、何とかイリアステルの戦士を撤退へと追い込んだ。

 

その後、零児はこのように言った。

 

『光の世界に危機が迫っている。あの土地を取られればエデンの勢力がより大きくなる。それは解放軍にとっても喜ばしくないだろう。いぞぎ戦いに介入しエデンを止めることを薦める』

 

ただでさえ解放軍は劣勢である中で、さらに光の世界がエデンに奪われたら、解放軍にとって不利になることは間違いない。

 

光の世界は、食料が潤沢に存在し、住みやすさも、中央のバトルシティ、水の世界、風の世界に比べても抜群に高い。専守防衛をされたら、エデンの戦力を相手にするのは極めて難しい。

 

だからこそ、アゼルは、何とか遊介との和解を行い、共にエデンと戦う共同戦線を敷くための交渉材料を捜している最中だった。

 

「アゼル、いいのか? 今の戦力じゃ、返り討ちにあうだけかもしれないぞ」

 

「順次各地に散らばっている解放軍が駆けつける予定だ」

 

「だとしても、エデンは弱小チームをどんどん吸収して、勢力を伸ばしている。その戦力は、以前よりも」

 

「光の世界を取られたら、さらにエデンとの戦いは圧倒的に不利になるんだ。それに……」

 

自分達のはるか先、先行している仲間、まっつんこと良助の姿を見て、

 

「良助が間に合わないと、あの世界の遊介が何をされるか分からん。そしてプレイヤーズのチームメイトも。中には、トーマスの弟であるミハエルもいるらしい」

 

「ああ、トーマスのやつ、むっちゃ怒り狂ってたからな。でもエデンの人質に取られたままよりは、回収して思いっきり兄弟げんかしてもらう方が俺達には都合がいいか」

 

「……しかし、珍しいな」

 

「何が?」

 

「シンクロ使いの守屋遊介、お前という男が本気のデッキを持ってきている。どんな心境があってのことだ?」

 

「ああ」

 

シンクロ遊介はしばらく考えた後、答える。

 

「きっとこの戦いで、戦況が大きく動く。俺は解放軍に負けてほしくはない。だから、この転換点では、本気で戦いたいのさ」

 

「そんなに思い入れあったのか? この解放軍に」

 

「今はある。まっつん、お前、他にも気の合う奴らがいる。そんな居場所を守るためなら、俺はもう一度だけ本気で戦ってもいいと思ってる。俺は昔、仲間を見捨てた。けど、今度は、見捨てたくない。そんなただの自己満足で、本気で戦おうと思ったのさ」

 

「それは、ありがたいな」

 

「やるなら勝つぞ。解放軍、全員突撃で、エデンの連中を殺しつくしてやる」

 

Dボードのスピードを上げるシンクロ遊介を、アゼルは同じスピ―ドを出した後を追う。

 

 

 

 

良助は猛スピードで光の世界へと向かっていた。

 

この戦いがいつもの喧嘩ではないことを良助は悟っている。

 

「彩、随分と過激になったもんだよな。遊介、負けるなよ。俺が着くまでは……!」

 

良助には1つの確信があった。

 

親友同士の喧嘩であるはずだったこの戦いを、エデンの全戦力を賭けて行った。

 

それはつまり、喧嘩ではなく戦闘で遊介を討伐するという意思そのもの。

 

であれば、遊介が負けたら、喧嘩での負けでは済まない代償が襲い掛かるのではないかと。

 

正直言うと、良助にはある不安が常にあった。

 

この世界に来てからの彩は何かが違う。

 

果たして遊介は勝てるのかと。

 

 

**********************************

 

 

 

ターン7

 

 

 

「俺のターン!」

 

カードを掴もうとする手が痛む。頭痛も激しく、一瞬またふらつきそうになった。

 

しかし、その手は間違いなく、カードを掴みとった。

 

遊介 LP100 手札3

モンスター ⑩ アンダーフロー・エクスチェンジャー

魔法罠

 

 

敵の場には自身のエースモンスターであるファイアウォール・ドラゴン。

 

そして、ヴァレット2体に、ヴァレルロード・ドラゴン。傍から見ればわずかな手札で突破するのは諦めたくなる布陣だ。

 

しかし、サレンダーは許されない。

 

自分の運命を諦めるつもりもない。

 

決着をつけるため、遊介は先ほど彩がやったのと同じように、天へと駆け昇る。

 

「スキル発動! 自分のライフが1000以下のとき、データストームのなかから、ランダムに1枚、サイバース族モンスターをエクストラデッキに加える!」

 

吹き荒れる風は、ゼロヴォロスが来た時よりもさらに強く、中心に入った瞬間、体がバラバラになってしまいそうな感覚へと陥りそうになる。

 

何かの破片が飛んできた。

 

二の腕に深い切り傷が入る。

 

「ぐ……!」

 

それでも遊介は手を伸ばした。新しいそこになければならない希望へと手を伸ばすために。

 

「風を……」

 

頭に意志がぶつかる。体中に激痛が走り、失神しかける。

 

しかし、強靭な意思でそれに耐える。

 

「掴む! ストームアクセス!」

 

手の中に宿る新たな力を確かに実感し、遊介は離さないように、カードとなったその希望を間違いなく手にした。

 

そして、彩の前に凱旋する。

 

「はぁ、はぁあ」

 

「無茶したね」

 

「負けられないからな。俺はマジックカード『データ・サルベージ』を発動。墓地のサイバース族レベル4以下のモンスター1体を手札に戻す。俺はロムクラウディアを手札に戻す。そして、現れろ、未来を導くサーキット!」

 

最初のリンク召喚は、フィールドにいるレベル1のアンダーフロー・エクスチェンジャーを素材とするリンク1のモンスターのリンク召喚。

 

「リンク1、リンクディサイプル」

 

リンク・ディサイプル

リンクマーカー 下

ATK500/LINK1

 

「そして、ロムクラウディアを通常召喚!」

 

ROM・クラウディア レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF0

 

「ロムクラウディアの効果。このカードが召喚されたとき、墓地のサイバース族モンスター1体を手札に戻す。俺は墓地のレイテンシを戻す!」

 

墓地より戻ったレイテンシを、遊介はそのまま見せ続ける。

 

「レイテンシは、墓地から手札に戻った際に、手札から特殊召喚できる!」

 

レイテンシ レベル1 守備表示

ATK0/DEF0

 

「レイテンシの効果! 自身の効果で特殊召喚したこのカードがリンク召喚の素材になったとき、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

そして遊介は天に手のひらを向ける。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

今召喚した2体のモンスターをリンクサーキットへと向かわせる。

 

「召喚条件はモンスター2体。来い、セキュリティドラゴン!」

 

セキュリティ・ドラゴン

リンクマーカー 上 下

ATK1100/LINK2

 

リンク・ディサイプルのリンクマーカーの先に、新たなモンスターを呼び出す。

 

「私はヴァレル……」

 

彩は何かを言いかけたが、

 

「……いいや。続けて」

 

「俺はセキュリティドラゴンの効果を発動する。このカードを相互リンクをしている場合、相手モンスター1体を手札に戻す」

 

「残念だけど、遊介、ヴァレルロードドラゴンは相手モンスターの効果の対象にはならないの」

 

彩は遊介に忠告をするが、

 

「安心しろ。俺の狙いは元から、ファイアウォール・ドラゴンだ!」

 

セキュリティドラゴンの効果はそのまま通り、ファイアウォール・ドラゴンは遊介の手へと戻ってくる。

 

「これで、ファイアウォールドラゴンは取り戻した! ここからだ。現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件は 効果モンスター2体!。俺はリンク1のリンクディサイプルとリンク2のセキュリティドラゴンをリンクマーカーにセット!」

 

このターンに呼び出されたリンクモンスターを素材に、遊介はさらなるリンク召喚を行う。

 

呼び出すのは先ほどのデータストームの中からつかみ取った、遊介の新たなる主戦力モンスターの資格を持つ、強力なモンスター。

 

「現れろ、リンク3、トランスコードトーカー!」

 

新たなるコード・トーカーだ。

 

トランスコード・トーカー

リンクマーカー 上 下 右

ATK2300/LINK3

 

「それはもしかして……?」

 

彩の問いに遊介は答える。

 

「ストームアクセスで手に入れたカードだ。トランスコードトーカーの効果。1ターンに1度、リンク3以下のサイバースリンクモンスターを、墓地からこのカードのリンク先に特殊召喚できる。俺はリンク2アンダークロックテイカーを特殊召喚!」

 

アンダークロックテイカー

リンクマーカー 左 下

ATK1000/LINK2

 

「そして、手札のリンクインフライヤーは、自分フィールド上のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる!」

 

リンク・インフライヤー レベル2 守備表示

ATK0/DEF1800

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

新たなリンク召喚。これで、このターンでは4回目のリンク召喚を行うことになる。

 

「俺は、召喚条件は効果モンスター2体以上! リンク2のアンダークロック・テイカーとリンクリンフライヤーをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

エクストラデッキからそのモンスターを呼び出す。

 

そのモンスターは、ファイアウォール・ドラゴンに並びもう1体の遊介のエース。

 

「リンク3、デコードトーカー!」

 

デコード・トーカー

リンクマーカー 上 左下 右下

ATK2300/LINK3

 

トランスコードトーカーのリンク先に特殊召喚される。

 

彩はデコードトーカーの効果をしっかりと把握しているようで、

 

「デコードトーカーの攻撃力はリンク先のモンスター1体につき500アップする。これで、デコードトーカーの攻撃力は2800になるわけね。でも、まだ足りない」

 

遊介は、そこに説明を付け加えた。

 

「トランスコードトーカーの効果。相互リンク状態になっている場合、このカードと相互リンク状態のモンスターの効果の対象から守り、攻撃力は500アップする。よって、トランスコードトーカーの攻撃力は500、デコードトーカーの攻撃力は1000、攻撃力アップ!」

 

トランスコード・トーカー ATK2300→2800

 

デコード・トーカー ATK2300→3300

 

「俺はさらに墓地の『サポートプログラム・アドバンス』の効果を発動。このカードと、墓地のレベル5以上のサイバース1体を除外し、デッキからレベル5以上のサイバース族モンスターを手札に加える。俺が手札に加えるのは、ファイアウォール・サポーター」

 

彩に見せつけたそのカードを遊介は速攻で墓地へと送った。

 

「ファイアフォール・サポーターの効果。このカードを墓地へ送り、フィールドのサイバース族モンスター1体を選択。選択したモンスターの攻撃力を500アップする。そしてお前はこのターン、魔法、罠カードを発動できない!」

 

デコード・トーカー ATK3300→3800

 

「は……ちっ」

 

彩が舌打ちをしたところを見ると、あの罠カードで何かをしようとしていたのは明らかだった。

 

それを防いだ今なら攻撃を通せる可能性が高い。

 

「バトル!」

 

遊介は攻撃を宣言する。

 

「デコードトーカーで、ヴァレルロードドラゴンを攻撃! デコード、エンド!」

 

攻撃力は十分にある。

 

しかし彩は焦っている様子はない。

 

それはつまり、まだ、彩にはこの程度の攻撃を受ける用意は、罠を使わなくてもあると言うことなのだろう。

 

「ヴァレルロードドラゴンの効果! 1ターンに1度、フィールドのモンスター1体の攻撃力を500ダウンさせる。アンチエネミーヴァレット!」

 

「デコードトーカーの攻撃力を下げるのか。それが狙いだったら残念だったな。ファイアウォール・サポーターのおかげで、お前の」

 

「誰が、デコード・トーカーって言った?」

 

「……やっぱりそうなるよな」

 

「私は、フィールドのマグナヴァレットにこの効果を使う! この瞬間、マグナヴァレットドラゴンの効果。リンクモンスターの効果を受けたこのカードは破壊され、代わりに相手モンスター1体を墓地へ送る。この効果は、対象を取らない効果! トランスコードの耐性は潜り抜ける!」

 

マグナヴァレット・ドラゴンは破壊され、ヴァレルロードに装填される。そして、ヴァレルロードは口を開き、銃口をデコード・トーカーへと向けた。

 

銃弾が放たれる。デコード・トーカーは無様に撃ちぬかれ、その姿を消した。

 

これにより、遊介が渾身の抵抗として呼び出した戦力はなくなり、フィールドには攻撃力が低下したトランスコードが残るのみとなる。

 

トランスコード・トーカー ATK2800→2300

 

これで遊介の攻撃は終わり、次のターン、遊介はヴァレルロードに蹂躙されるしかない。

 

「残念ね。最後の望みを託したデコード・トーカーまで破壊された。あなたにもう勝ち目はないんじゃない? 私とあなたの差はまさに、エースが健在しているかいないかでついている。諦めてサレンダーでもすれば……?」

 

「勝ち目はない……か」

 

彩はここで異変に気付く。

 

思ったより遊介が困った顔をしていないことに。そして彩が聞きたくない言葉を遊介が放つ。

 

「それはどうかな?」

 

「え?」

 

「俺は墓地のファイアウォール・サポーターの効果を発動する! 俺のリンクモンスターが墓地へ送られたとき、贈られたそのモンスターと、自分の墓地のファイアウォール・サポーターを除外し、リンク4以上のサイバース族モンスターをリンク召喚する!」

 

「バトルフェイズ中に、リンク召喚……?」

 

「そうだ。俺が除外するのは今破壊されたデコードトーカーとファイアウォール・サポーター! そして召喚するリンクモンスターのリンクは4! 召喚条件はモンスター2体以上。条件は整っている!」

 

「く……さっきわざわざセキュリティドラゴンを仲介したのは、これが狙いで……!」

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

墓地から2体のモンスターがリンクマーカーにセットされた。上下左右に光が灯る。

 

そしてその中央から再び舞い戻るのは、遊介のエースモンスター。

 

「戻ってこい、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

ファイアウォール・ドラゴン

リンクマーカー 上 下 左 右

ATK2500/LINK4

 

召喚されるのはトランスコードトーカーの真下。再び相互リンク状態となり、その攻撃力は互いに500アップする。

 

トランスコード・トーカー ATK2300→2800

 

ファイアウォール・ドラゴン ATK2500→3000

 

「攻撃力3000……」

 

彩は目の前のファイアウォールを見て呟く。

 

このターンヴァレルロードを倒さなければ、遊介に勝利への道はない。

 

しかし、それは逆に言えば、ヴァレルロードさえ倒せれば、勝利への道はまだ閉ざされないということにもなる。

 

「ヴァレルロードは破壊する。お前の余裕の象徴であるそのモンスターを破壊させてもらおうか」

 

彩の顔は、ここにきてようやく険しくなっていた。

 

「バトル、ファイアウォールドラゴン! ヴァレルロードドラゴンに攻撃!」

 

ファイアウォール・ドラゴンはその体を赤く変える。

 

すべてを焼き払う炎、迫る敵を排斥する力を放つ。

 

そして今の罠を使えない彩には、その攻撃を受けて立つしかない。

 

「ヴァレルロードドラゴン、迎え撃て!」

 

遊介は叫ぶ。そして彩はそれに応えた。

 

「テンペストアタック!」

「天雷のヴァレル・カノン!」

 

2体の竜の攻撃がぶつかり合う。

 

(引き分け) ファイアウォール・ドラゴン ATK3000 VS ヴァレルロード・ドラゴン ATK3000 (引き分け)

 

そのエネルギーは激突によって、激しい光が上空で発生した。

 

その戦いを直接見たものは全員が圧倒される。

 

激突地点ですさまじい爆発が起こった。

 

戦う両者は共にその爆風をまともに受け、墜落しかけた。

 

互いに根性で持ちこたえる。

 

次の瞬間、互いのエースたる2体のモンスターはフィールドに存在しなかった。

 

残っているのは、彼らを囲んでいたモンスターたち。

 

トランスコード・トーカー ATK2800→2300

 

「バトル、トランスコードトーカーで、オートヴァレットドラゴンを攻撃!」

 

トランスコードトーカーが武器を取り出す。自身のパーツの一部が変形、合体し巨大な銃を取り出した。

 

「トランスコード・フィニッシュ!」

 

その攻撃を彩はそのまま受ける。

 

(勝) トランスコード・トーカー ATK2300 VS オートヴァレットドラゴン ATK1900 (負)

 

彩 LP1700→1300

 

「ぐ……!」

 

圧倒的だった布陣が一気に崩されいい顔をできない彩。

 

遊介はカードを2枚伏せて、ターンを終了した。

 

「エンドフェイズ、破壊されたマグナヴァレットドラゴン、オートヴァレットドラゴンの効果を発動する。私はデッキから、アネスヴァレットドラゴン2体を特殊召喚する。その攻撃力、守備力は、リボルブートセクターの効果で300アップ」

 

アネスヴァレット・ドラゴン レベル1 守備表示

ATK0/DEF2200

 

アネスヴァレット・ドラゴン DEF2200→2500

 

遊介 LP100 手札0

モンスター ⑪ トランスコード・トーカー

魔法罠 伏せ2

 

 

(彩)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

⑫ □ ⑫ □ □   メインモンスターゾーン

  □   ⑪     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ ■ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

2人の間に静寂が流れる。

 

このターンで互いのエースがぶつかり合い、そこに至るまで全力で策をめぐらせた。

 

精神的疲労、肉体的ダメージ、それらが積み重なっているのは言うまでもない。

 

それでも闘志はまだ互いに灯っている。

 

「遊介、私、あきらめが悪いのが自慢なの」

 

「ああ。知っている……」

 

「だから、LPが残っている限りは、私、戦うから」

 

 

 

ターン8

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

彩 LP1300 手札2

モンスター ⑫ アネスヴァレット・ドラゴン

魔法罠 伏せ1

 

 

「……さて、このターンでフィニッシュに持っていきたいところ……」

 

彩はしばらく考え込み、そして動き出す。

 

「現れろ。我が道を照らす未来回路! 召喚条件は『ヴァレット』2体。フィールドのアネスヴァレット2体をリンクマーカーにセット! リンク召喚、ブースタードラゴン!」

 

ブースター・ドラゴン

リンクマーカー 左下 右下

ATK1900/LINK2

 

「さらにマジックカード、ヴァレルリロードを発動。墓地の『ヴァレット』モンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。私はヴァレットトレーサーを特殊召喚」

 

ヴァレット・トレーサー レベル4 守備表示

ATK1600/DEF1000

 

その攻撃力は、フィールドに残っているリボルブートセクターの効果でアップする。

 

ヴァレット・トレーサー ATK1600→1900

 

「ヴァレットトレーサーの効果。フィールドの表側表示カードをを1枚破壊し、デッキからヴァレットを呼び出す。私は

 

「ヴァレットトレーサーの効果により、フィールドのカードを1枚破壊することでデッキからヴァレットモンスターを呼び出すことができる。私はブースタードラゴンを破壊し、デッキから3枚目のマグナヴァレットを呼び出す」

 

マグナヴァレット・ドラゴン レベル4 攻撃表示

ATK1800/DEF1200

 

マグナヴァレット・ドラゴン ATK1800→2100

 

「そして、リンク召喚されたブースタードラゴンが破壊されたとき、墓地からドラゴン族モンスターを特殊召喚する。蘇れ、ヴァレルロードドラゴン!」

 

「な……?」

 

先ほどのターン、あれほど苦労して破壊したヴァレルロードが蘇る。

 

ヴァレルロード・ドラゴン

リンクマーカー 左 右 左下 右下

ATK3000/LINK4

 

「……バトル!」

 

彩はヴァレルロードを召喚した時点でメインフェイズを終わらせ、バトルフェイズへと移行しようとした。

 

その狙いは遊介がバトルフェイズ中に発動するトラップカードを、チェーンを封じるヴァレルロードの効果で封殺する狙いだった。

 

しかし、それが仇となる。遊介はトランスコードを守る手立てを用意していた。そしてこのターンを生き残る術も。

 

「メインフェイズ終了時、俺は速攻魔法『セキュリティ・ブロック』を発動する。フィールド上のサイバース族モンスター1体を選択する。選択したモンスターはこのターン戦闘では破壊されず、さらにこのターンお互いが受ける戦闘ダメージは0となる」

 

「ち……」

 

彩は舌打ちをした。残念ながら彩の今の盤面から効果ダメージを発生させる術はなかった。

 

「それでも攻撃が封じられたわけじゃない。私はヴァレルロードで攻撃、そして効果を発動する。フィールド上のモンスター1体の攻撃力を500ダウンする。アンチエネミーヴァレット」

 

そしてその効果の向く先は、当然トランスコード・トーカーではない。

 

「マグナヴァレットがリンクモンスターの効果の対象になったとき、このカードは破壊され、相手モンスター1体を墓地へと送る。この効果でトランスコードトーカーだけでも墓地へ送る」

 

ヴァレルロードに弾丸は再び装填され、そして発射された。

 

その弾丸は間違いなくトランスコード・トーカーを貫き、墓地へと送った。

 

「私はこれでターンエンド。この瞬間、私はこのターンに破壊されたマグナヴァレットの効果を発動する。3体目のオートヴァレットを呼び出す」

 

オートヴァレット・ドラゴン レベル4 攻撃表示

ATK1600/DEF1000

 

オートヴァレット・ドラゴン ATK1600→1900

 

これで彩はこのターン、ターンエンドをした。

 

彩 LP1300 手札1

モンスター ⑦ ヴァレルロード・ドラゴン ⑨オートヴァレット・ドラゴン

      ⑬ ヴァレット・トレーサー

 

(彩)

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

□ ⑦ ⑬ ⑨ □   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ ■ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

何とか耐えきった遊介だったが、頼みの綱だったトランスコード・トーカーは消え、フィールドには伏せカードが1枚。

 

手札は0.遊介には正真正銘、後がない。

 

しかし、それでもまだ、諦めるつもりはなかった。

 

今までこっそりと後ろからついてきてこのデュエルを見守っているブルームガールにメッセージを送る。

 

「必ず勝つから。心配しないでいい」

 

そして遊介は、運命が決まる最後のターンを始める。

 

 

 

ターン9

 

 

 

「俺のターン……」

 

デッキに祈る。

 

必ず勝つ、そのために、必要な力が欲しいと。

 

「ドロー!」

 

遊介は、カードを引いた。

 

遊介 LP100 手札1

モンスター

魔法罠 伏せ1

 

「相手のスタンバイフェイズ終了時、ヴァレルロードドラゴンの効果! アンチエネミーヴァレット。フィールドのオートヴァレットを対象に効果を発動する。そして、オートヴァレットの効果、リンクモンスターの効果の対象になったとき、このモンスターは破壊され、相手フィールド上の魔法、罠カード1枚を墓地へと送る!」

 

容赦のない宣言により、オートヴァレット・ドラゴンは弾丸となり、遊介のカードを撃ちぬいた。

 

これで正真正銘、手札は1枚。

 

「さあ、遊介! ここから、たった手札1枚から、何をするっていうの?」

 

「……ああ。そうだな」

 

遊介はドローで引いたカードを見る。

 

「……今から見せてやる」

 

引いたカードの種類はモンスター。

 

「俺は、ドラコネットを召喚!」

 

ドラコネット レベル3 攻撃表示

ATK1400/DEF1200

 

「ドラコネットの効果! デッキからレベル2以下のサイバース族通常モンスターを特殊召喚できる。俺は、デッキからビットロンを特殊召喚」

 

ビットロン レベル2 守備表示

ATK200/DEF2000

 

「現れろ、未来を導くサーキット」

 

次に呼ぶモンスターこそ、遊介を勝利へと導くピース。

 

「召喚条件はレベル2以下のサイバース族モンスター1体。俺はビットロンをリンクマーカーにセット。リンク召喚、来い、トークバックランサー!」

 

トークバック・ランサー

リンクマーカー 下

ATK1200/LINK1

 

「効果。フィールドのサイバース族モンスター1体をリリースし、リリースしたモンスターとカード名が異なる『コード・トーカー』モンスター1体をリンク先に蘇生させる。ドラコネットをリリースし、俺が呼び戻すのは、トランスコード・トーカー!」

 

トークバックランサーの旗が掲げられ、ドラゴネットは消滅。

 

そして墓地から、このデュエルで呼び戻した希望である、戦士が舞い戻った。

 

トランスコード・トーカー

リンクマーカー 上 下 右

ATK2300/LINK3

 

彩は警戒心を強める。

 

遊介はそんな彩を意に介さず、攻撃の準備を進める。当然ここでは終わらない。

 

「トランスコードトーカーの効果、相互リンク状態のとき、互いのモンスターの攻撃力は500アップする」

 

トークバック・ランサー ATK1200→1700

 

トランスコード・トーカー ATK2300→2800

 

遊介の戦術は当然ここでは終わらない。

 

「トランスコードトーカーの効果。自分の墓地のリンク3以下のサイバース族モンスターを1体を対象として発動。そのカード、このモンスターのリンク先に特殊召喚。俺は墓地のセキュリティドラゴンを特殊召喚する!」

 

「リンク2を……?」

 

彩にも真意がつかめないようで、困惑する一方、ここから先に何をするのか楽しみだ、という期待の表情も見せる。

 

遊介はこのターンで決着をつけるつもりだった。

 

そして、そのための準備はできている。

 

トランスコードトーカーをエクストラモンスターゾーンではなく、メインモンスターゾーンに置くことができた。

 

それは、遊介が持つ、目だたないながらももう1体のエース、最初の頃からともに戦ってきたモンスターの効果を最大限利用する準備ができたということ。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

召喚条件はトークン以外のモンスター2体以上。

 

「俺はトークバックランサーとリンク2のセキュリティドラゴンをリンクマーカーにセット!」

 

リンクの合計は3.

 

「リンク召喚! 現れろ! サイバースアクセラレーター!」

 

サイバース・アクセラレーター

リンクマーカー 下 左 右

ATK2000/LINK3

 

トランスコードトーカーの上のリンク先に特殊召喚され、そのサイバース・アクセラレーターは下にリンクマーカーを持つため、相互リンク。

 

その攻撃力は500アップする。

 

サイバース・アクセラレーター ATK2000→2500

 

準備は整った。

 

遊介は一度深呼吸をする。

 

確かに向こうには伏せカードがあるが、それを気にしてバトルを中止するわけにはいかない。次にどんな弾丸が撃たれるか分からないのだ。

 

ここで決着をつける以外に、勝ち目はない。

 

「バトルだ」

 

バトルフェイズへ突入した。

 

「サイバースアクセラレーターの効果。このカードのリンク先に存在するサイバース族モンスターの攻撃力を、このカードの攻撃を放棄する代わりに、2000ポイントアップする!」

 

トランスコード・トーカー ATK2800→4800

 

「ふふふ……すごいね。よもや……ここまで」

 

感心した様子で遊介を見る彩。

 

さすがにたった1ターン、たった手札1枚からヴァレルロード・ドラゴンを倒せるモンスターが召喚されるとは思っていなかったのだろう。

 

彩は目を閉じる。

 

遊介に止めるという選択肢はない。

 

たとえここで道が分かたれようとも、それは彩が望んだことだ。であれば、その覚悟を持つ彩に慈悲をかけることは失礼だ。

 

これが決闘と言うのなら。

 

遊介は、自分の道を信じ、彩を倒すことを覚悟する。

 

「バトルだ! トランスコードトーカーで、ヴァレルロードドラゴンを攻撃! トランスコード、フィニッシュ!」

 

再び相手に向けられる銃口。今度の狙いはヴァレルロード。

 

彩の強さの象徴たるその竜へ、最後の1撃を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。

 

遊介はここで一番見たくない、しかし、よく知っている顔をする彩を目に入れてしまった。

 

彩はニヤリと笑って、言うのだ。

 

「馬鹿ね。ただで通すと思ってるの?」

 

その目に闇を抱えていても、目の前のその彩は、あの頃と何一つ変わっていなかったのだ。

 

攻撃を宣言した遊介の前に1枚のカードが姿を現し、目の前の光景を白く染め上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トラップカード『聖なるバリア・ミラーフォース』を発動。相手の攻撃宣言時、相手フィールド上の攻撃表示モンスターをすべて破壊する!」

 

そのカードを知らないはずがない。

 

それはあまりにも有名で、使われたら最も厄介極まりないカード。

 

そして残念ながら遊介のフィールドには攻撃表示のモンスターしかいない。

 

その光の中で起こることは間違いなく、今の遊介に取っては悪夢そのものだろう。

 

渾身の一手だった攻撃は反射し、自分のモンスターはすべて消えていく。

 

たった一瞬で、遊介が最後に積み上げた希望が消えていく。

 

「あ……あああ……」

 

遊介には何も残っていない。

 

手札も、フィールドも、墓地で発動できるカードも何も残っていない。

 

彩は嘲笑を浮かべ、

 

「さあ、ターンエンドの宣言をしなさい?」

 

遊介に宣言する。

 

「……くそ……」

 

言葉にならない悔しさだった。

 

ここで負けたら、仲間が危ないというのに、仲間が愛した光の世界がどうなるか分からないのに。

 

自分はエリアマスターとして責務を果たせない、その事実しか残っていない。

 

「ターン……」

 

言いたくない。

 

遊介はそう思った。しかし、言うしかない。

 

「エンド」

 

「エンドフェイズ、墓地へ送られたオートヴァレットの効果を発動する。デッキからヴァレット1体を特殊召喚。3体目のアネスヴァレットドラゴンを特殊召喚」

 

アネスヴァレット・ドラゴン レベル1 守備表示

ATK0/DEF2200

 

遊介 LP100 手札0

モンスター

魔法罠

 

(彩)

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

□ ⑦ ⑬ □ ⑫   メインモンスターゾーン

  □   □     EXモンスターゾーン

□ □ □ □ □   メインモンスターゾーン

□ □ □ □ □   魔法罠ゾーン

(遊介)

 

 

 

ターン10

 

「私のターン」

 

カードをドローする。

 

彩 LP1300 手札2

モンスター ⑦ ヴァレルロード・ドラゴン ⑬ ヴァレット・トレーサー

      ⑫ アネスヴァレット・ドラゴン

魔法罠

 

そしてすぐにバトルフェイズへと突入した。

 

「遊介、君のデュエルは素晴らしかった。コンビネーションも、戦略も。だけど、私の覚悟にはまるで全然程遠い、でも今までこの世界で戦ってきた中で、なかなかの好敵手だったわ。その戦いぶりに敬意を表し、最後はこの1撃で終わらせる」

 

彩が攻撃を命じるのはヴァレルロード・ドラゴン。

 

「目を閉じず、光に飲まれて消えてく遊介を、この目でちゃんと見るからね」

 

ヴァレルロードの放つ激しい光の中で視界を確保するためのサングラスをかける。

 

「対閃光防御良し、標的確認。最終セーフティ解除」

 

彩は遊介に向けて手を向ける。

 

遊介は、ただ、目の前の竜が撃ち放つ光を見るしかない。

 

「最後に言い残すことはある?」

 

遊介に勝者たる彩は尋ねる。

 

「エリーに、ブルームガールに、マイケルに、お前が預かってる薫に、ユートに瑠璃に、俺の仲間に、何かしてみろ……それだけは、絶対に許さない」

 

「大丈夫。安心して、私、誰かを殺すのはできる限り避ける主義だから。親友として、それくらいの約束は守るわ。だから、この一撃を受けたら、意識飛ばして、しばらくおとなしくしててね」

 

彩は宣言する。

 

「天雷の……」

 

その攻撃を。

 

「ヴァレル・カノン!」

 

ヴァレルロードの砲から、その光は放たれた。

 

遊介 LP100→0

 

遊介 保有LP8000→4000

 

 

 

**********************************

 

「遊介……!」

 

「マスタあ!」

 

悲鳴が上がった。

 

隣にいた真澄は目を閉じるしかなかった。

 

**********************************

 

光の神殿の中、エデンが占拠したエリアのある一室で。

 

「にい……!」

 

拳を強く握って、そのデュエルの結末を見届けた。

 

**********************************

 

 

 

そして、戦場の後ろで、声にならない悲鳴をあげ、顔を歪めている少女もいた。

 

遊介は、Dボードから墜落する。

 

意識は既にない。

 

ただ、地面に向けて。

 

ブルームガールはそれを助けようとするが、

 

「大丈夫ですよ。あなたが追わなくても」

 

と、彩がそれを阻んだ。

 

「どいて、落ちちゃうでしょ!」

 

「既に回収の手筈は整っています」

 

その宣言通り、下では猛スピードで接近してきた、エデンの幹部だろう女性が遊介を回収するのが見える。

 

彩はその幹部に通信を飛ばした。

 

「デッキを抜き取るのを忘れないでね。反抗されたら困るから」

 

と、デュエリストの命とも言えるデッキを奪うように宣言する。

 

「ちょっと、そんな、何もそこまで」

 

「ブルームガール、ちょっとの間だけです。安心してください。私が遊介にただおとなしくしていてほしいだけなんです。無力化するだけです。だから、安心してください」

 

「でも……」

 

しかし、彩にも予測できなかったことが起こる。

 

この場に、彩が感知しない侵入者が現れ、遊介をさらおうとする女性に突撃、遊介を奪った。

 

「ちょっと、どういうこと……」

 

乱入者である男は彩のいる上空を見る。

 

「彩!」

 

怒りを露わにするのは、彩にとってもう1人の親友だった。

 

「松……!」

 

「遊介は返してもらうぞ!」

 

「私を倒さなくていいの?」

 

「安心しろ! 遊介を避難させ次第必ず戻ってくる。それまでは解放軍が相手だ!」

 

光の世界に押し寄せる、数多くのデュエリスト。

 

「なるほど、迎撃態勢が整っていないうちに戦争しようってつもり?」

 

「向こうで待ってろ。俺がお前を倒して、解放軍を勝利させる」

 

「人の命をどうとも思わない、ホームシック利己的集団のくせに、ずいぶんとイキってるじゃない」

 

「調子に乗っているのは、お前も同じだろう?」

 

「……否定はしないわ。じゃあ、待ってる。来れるものなら、私のところに来てみなさい」

 

良助は何も言わずに、

 

「遊介……しっかりしろ、死ぬなよ」

 

遊介をもってどこかへと運んで行った。

 

ブルームガールは一瞬だけ、追おうしたが、体が動かなかった。

 

自分に彼を助ける資格はない、と思ってしまったのだ。

 

「さあ、行きましょうか、ブルームガール?」

 

彩に手を握られ、そのまま連れていかれる。

 

向かう先の光の世界は、すでにチーム『エデン』のものになっていた。

 

 

 

 

 

解放軍とエデンの戦いは、ここから3日にかけて続いたが、エデンが最終的に勝利した。

 

解放軍は2度目の敗北と、半数以上の兵力低下を受け、とうとう、エデンに拮抗する組織ではなくなった。

 

 

 

 

 

この5日後。

 

世界対抗戦のイベントは終了し、その結果最もデュエリストを倒した数の多い水の世界が、ポイントが一番少ない光の世界を吸収することが正式に認められた。

 

風の世界と光の世界のデュエリストたち数名の安否が不明となる。

 

元々、デュエルが苦手だったデュエリストが集まっていた世界は、水の世界の接収から、解放軍との戦場となることが多くなり、過激派の多い解放軍は、元々の住民すらも手にかけることは少なくなかった。エデンは必死に住民を守ろうとしたが、手痛い被害を受けた解放軍の残党による過激な攻撃から、全員を守るのは難しかった。

 

結果、元々の住民はどんどんと戦いに巻き込まれ、姿を徐々に消していく。

 

デュエルで人が死ぬ世界でも安心できる居場所であることを目指した光の世界は、あっという間にその姿を消したと言えるだろう。

 

 

 

 

すべて、遊介が負けてから起こったことだ。




後編2もこのデュエルの結果を受けて内容を少し変更+増量してお届けするのでしばらくお待ちください。


リボルバーのカード、パワーありすぎです。サイバース族で勝てる気がしない。

そんな悩みの中、どうやったら勝ち目があるかを考えた結果が、今回のデュエルです。
考えるのはとても大変でした。特にヴァレルロードのあたりが、下手に暴れさせると手が付けられなくなるので、調整が大変だった気がします。


今回のデュエルは遊介の負けです。あとがきでは、なぜここで遊介を負けさせたのか、その説明をしたいと思います。次回の後編2ではいつものあとがきをやります。

実は彩とのデュエルは連載当初から対戦カードとしての構想はありました。
そして遊介が負けることは、もうその時点で決まっていました。

主人公が負ける系の話が嫌いな方には申し訳ないとおもっています。

しかし、理由はあります。一応私なりの。

私は主人公補正は大好きです。大いにやってほしい。ご都合主義も大好きです。『現実ではそんなにうまくいくはずないよ』ていう夢を書くのが創作であり、読み手がそれを読んで、面白さを感じれば、それでいいと思ってます。

しかし、主人公やその仲間がなんの苦労もしないでサクセスストーリーを歩むのは、あまり好みではありません。登場人物が行く道の最後に何かを得るのなら、そのための苦労や挫折、理不尽な何か、それらを経て初めて得るものがあると考えています。

だからこそ、本作の主人公である遊介にもそう簡単に楽をさせるつもりはありません。彼が目指す理想や目的、それを叶えるゴールは遥か先である。そのことを遊介に再認識させることがどこかで必要だと思いました。

彩やエデンという敵の構想も当初からあり、敵としての激突の理由はそんな大きなものよりも、単なる思想の違い、という方が人間らしくていいかなと思い、それを行う敵として、彩が適任だったと言えます。

第2シーズンに入ってからいい調子で来ていた遊介を全力で叩き潰す。そんなヒーローの敵として、彩のがしっかりと描写で来ていれば、26話は成功と言えるのではないかと思っています。

遊介君の苦難の戦いは続く。しかし、脱落はしません。遊介は最後までしっかり主人公をやってもらいます。

ちょっとの間グレちゃうかもしれませんが、今のところそこは未定です。




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26話 決戦――そして(後編2)

大変遅くなってしまいましたが後編2です。
シーズン2最終回はしんみりムードです。


遊介は目を覚ます。

 

意識を失っていたのはすぐに気が付いた。

 

体を起こそうとするが、いろいろと痛む。これまでも多くの攻撃を受けてきたが、呼吸するたびに体が悲鳴をあげるのは初めてで慣れない。

 

それでも、今はいつだと、デュエルディスクを見て確認する。

 

そこで異変に気が付いた。

 

デッキがない。

 

周りを見たものの、デッキらしきものがない。

 

しかし、今自分がどういう状況かは大体理解できた。自分がいるのはベッドの上。包帯を巻かれているところ、誰かに看病されていたということだ。

 

気温は高い。おそらく外界自体が高い温度を持っているところなのだろうと予想できる。

 

「起きたか……」

 

隣にはもう一つベッドがあった。

 

「ヴィクター?」

 

「よお、敗北者。一ヵ月も寝やがって、どんだけ体に傷入ってんだよ。俺だって、あれからの戦いで無茶していろいろ骨折して死にかけたけど、3日失神したあと目を覚ましたぞ」

 

「ここは?」

 

「炎の世界だ。ほら、いただろ、ジャックアーロン。あいつがいた世界だ」

 

「どうして、俺は光の世界で……」

 

「それは、まあ、この後帰って来る奴に聞け」

 

ヴィクターは、いてて、と辛そうな顔を見せながらも遊介にできるだけ近づこうと、ベッドの端による。

 

「負けたな。無様に」

 

「……ああ」

 

失神したとは言え、忘れるはずがない。彩とのデュエルを。

 

遊介の主観でも、あれは完敗だった。自分のフィールドには何もなかったのに対し、向こうは未だエースが存在し手札も残っていた。

 

「そしてお前はこうして、無法地帯の隠れ家に落ちぶれて、アイツは今やこの世界で最も大きなデュエルチームのリーダーとして、今はイリアステルとの戦いに備えているってわけだ」

 

ヴィクターは遊介のデュエルディスクを見て、

 

「ああ、お前もデッキを奪われたわけか。全く、あの野郎、することなんでも過激だよな」

 

デッキを奪われた。

 

その事実は何よりも遊介を苦しめる。

 

あのデッキは遊介が一人で組み上げたものではない。マイケルのカード収集力、ブルームガールやユート、遊矢やエリーが練習相手になり、デッキの改善案を提案してもらい、その結果でできた、チームリーダーとしての誇らしいデッキだ。

 

「……くそ」

 

「……無様な顔だな。……まあ、オレも人のことは言えんが」

 

ヴィクターは大きなため息をついた。

 

「馬鹿な話だよな。あんなに勝利にこだわったのに、いざとなればこのザマだ。何がヴィクターなんだか。そもそも勝者はウィナーっていうんだよ」

 

「いまさらか」

 

「ああ。今さら。今になって、弱い自分を見ると……自分を殺したくなる」

 

そんなことに意味はない、などとは遊介は言えなかった。言う権利がないと思った。なぜなら今の自分もまさにそのような存在だからだ。

 

あの戦いは勝利以外に意味はなかった。敗北から得るものは何もなかった。

 

決闘に敗北すると言うことは、即ちすべてを失うということなのだ。

 

「まあ、せいぜいお互い今は自分を嘲笑うことにしようぜ。お互いに、勝つべき時に勝てなずに全部を失ったクソ野郎の自分をな」

 

ヴィクターはもう1度ため息をつくと、再びベッドの上で寝てしまった。

 

遊介は動く分には問題なく、ベッドの上から起き上がる。

 

体は未だ痛むものの、歩くぶんには問題ない。

 

一番近くのドアを出ると、すぐそこに玄関があり、先ほどの部屋が寝室だったのが分かる。玄関から出ると、空気の水分がほとんどない乾いた空気と熱気が遊介を包んだ。周りの景色は見たことがある。ここは炎の世界の街の中らしい。

 

「それなら、すぐ戻れるか……?」

 

体があまり動かない中で、無理をするのもどうかと思ったものの、遊介は今、自分がどのような状況であるかどうかが分からない。せめて光の世界がどうなったかだけでも確認したかった。

 

ゆっくりと、一歩ずつ、向かう先へと歩き出す。

 

しかし、数歩歩いた後、その足を止めることになった。

 

目の前には一人の女性がいる。

 

「……守屋遊介。元エリアマスター……ですよね」

 

つい、頷いてしまった。

 

そしてそのことをすぐに後悔することになる。

 

「ああ。ああああああ。見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたぁあああああ!」

 

目を見開き、笑顔を見せると、手にデュエルディスクを持っている。

 

「あれ、でも……デッキがない? ないんだ……、今デッキを持ってないから、殺せるんだ。私も」

 

自分の命を狙う刺客だということが分かった。

 

遊介は逃げようとするが、さすがに今の体の状態では走れない。

 

デュエルの申請をされたとき、デッキを所持していない場合、代わりにデュエルを行う人間がいない場合、相手は不戦勝となる。猶予は3分。いったんデュエルが申請された以上、遊介に交わす手段はない。

 

「あ、あはははははははははははは、ざまあみろ、ざまあみろ、殺人者! もうここらに人はいないんだぁ!」

 

「殺人者……?」

 

女性は遊介の、意味を理解できないという顔を見て発狂する。

 

「お前のせいで死んだお前のせいで死んだお前のせいで死んだお前のせいで死んだお前のせいで死んだお前のせいで死んだお前のせいで死んだお前のせいで死んだお前のせいで死んだお前のせいで」

 

女性は呟きながら遊介に近づいてくる。殺意に溢れる目に遊介は怯みその場を動けない。女性は自身の腕がとどく距離まで近づくと、距離を遊介の顔を殴った。

 

「ぁ……が……」

 

今の遊介は脆く、それだけで仰向きに体を倒される。

 

「ふざけんなよ……てめえ!」

 

「な……にを……」

 

「お前があの日負けたせいでなぁあああああ! 弟が死んだんだよおおおお!」

 

「は……?」

 

「何も知らないみたいな顔しやがってぇえええええ!」

 

遊介は再び顔を殴られた。頭が真っ白になり、相手の声がしっかりと脳に刻まれていく。

 

「あ……ぁぁ」

 

「お前が負けたせいであそこが戦場になった。光の世界はデュエルが苦手なくせに興味本位でこの世界に来た私の弟みたいな子の拠り所だったんだ。けどな、負けた光の世界は戦場になったんだよ。お前のせいで弟だけじゃないいっぱい人が死んだ、お前のせいで死んだんだ!」

 

「……そんな」

 

そんなことになっているなんて遊介は知らなかった。遊介はこの1か月の間、ずっと意識を失っていたのだから。

 

「エデンの連中はあいつらを守ってくれなかった! 解放軍と戦う中で、イリアステルの連中と戦う中で、他の、過激派の連中と戦う中で、光の世界は戦場になったんだ。住民すら巻き込んで始まった戦争で、しんだしんだぢんだ死んだ死んだしんだしんだぢんだ死んだ死んだんだよおああ!」

 

涙を流しながら、恨みをぶつける女性。

 

「全部お前が負けてからだ。全部お前のせいだ。だから、責任をとってお前は死ねよ、弟を返せよ。それか、私の、可愛いれんをかえせえよおおおお!」

 

衝撃だった。

 

自分の敗北で、確かにチームのみんなが、光の世界の待遇が悪くなることは、遊介は覚悟していた。

 

しかし、まさか、自分の敗北がきっかけとなり、多くの光の世界の人々が命を落とすとは思っていなかった。あのデュエルでそれほど重いものを背負っているとは思わなかった、

 

遊介は、心が抉られるような気分になった。

 

顔から涙が自然にあふれ出る。

 

「なんでお前が……泣いてるんだよぉおおおおお!」

 

猶予時間は残り三十秒。再び殴られ、目の前の景色が歪み始めた今の遊介に助けを呼ぶ体力はない。

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 

これが報いか。

 

最後に遊介が思ったのはそんなことだった。

 

力がないから、勝てなかったから、大切な瞬間に勝利を勝ち取ることもできず、多くを失った。それだけでなく、自分が負けたせいで、不幸な人間を生んだ。

 

ならば、ここで死ぬのも仕方ない。

 

遊介は目を閉じる。これは、勝利すらできない無能だった自分への罰なのだと。

 

「弟ぉをぉお!」

 

女性とは違う声が聞こえた。

 

「てめえ、そこで何してる!」

 

「は?」

 

女性の遊介を責める声は聞こえなくなった。

 

デュエルが始まったようで、しばらくの間、爆発音が続く。遊介はずっと目を閉じたままだった。

 

そして、目を開けると、

 

「大丈夫か? なんで勝手に外に出てるんだよ」

 

良助がそこにいた。

 

 

 

部屋に戻り、先ほど受けた傷を治療する。

 

「たっく、無茶しやがって。お前は今お尋ねものなんだぞ。さっきみたいな恨みを持つ奴とか、エデンとかに狙われてる」

 

「自覚がなかった。すまん」

 

「まあいい。この建物は安心しろ。ここはな。解放軍が炎の世界に用があるときに使う専用のコテージなんだ。まあ、そんなわけで医療用道具も少しはある」

 

「解放軍が……俺を?」

 

「あのデュエルの後、お前の後に来て、エデンと大戦争をしたんだ。……馬鹿みたいに負けたけどな」

 

「その時俺を……助けたのか」

 

「そりゃな。俺はお前の、ダチだからな。いくら解放軍と考えが違くたって、ピンチなら助ける。お前、危なかったんだぜ、墜落してたんだ」

 

「ああ、それは、なんとなく、覚えてるような」

 

「まあ、今は無理すんなよ。とりあえず、ここなら安全だ。しばらく過ごしていくといいさ」

 

遊介は意識を失っていた1か月の間に起こったことの詳しい説明を良助が始める。

 

遊介はその話を聞くのに恐怖を感じていたものの、自分が負けたことで起こったことをしっかりと受け止めるべきだと自分を鼓舞して、耳を傾ける。

 

「まず、今のリンクヴレインズの状況だが、あまり良くはない」

 

「なんでだ?」

 

「ああ……イベント戦が終わってな。この世界で最も強いチームが決まった。今のリンクヴレインズの勢力は大きく2つに分かれた。エデンに味方をするか、エデンに反抗するか。もはや立場としてはその2つしか残っていない」

 

「その言い分だと、反逆軍は、ずいぶんと弱ったようだな」

 

「ああ、エデンに2回も敗北をした俺達はもう、敗北者のレッテルを張られてな。勢力も全盛期の半分。地の世界にあった本部もぶっ壊されて実質的に機能していない状態だよ」

 

「そうか……エデンが」

 

「エデンは光の世界と水の世界の2つを本拠地にしながら他の世界にいるデュエリストを次々説得して回りながら、自分達に対抗しようとしてる連中を処分している」

 

「処分……?」

 

「説得。それがだめなら拉致して監禁。それでも考えを変えないなら、処分の順だったか。可能な限りの人間を味方につけて、どうしても味方になれないっていう奴らを殺していくことで、この世界の犯行勢力の芽を摘み尽くすつもりだ。まあ、この手の外道戦法は大方エクシーズ遊介のやり口なんだろうがな」

 

それを聞き、遊介が不安になったのは、自分のチームメイトたちの安否だった。

 

良助もそれを察したのか、次に話をしたのは遊介のチームメイトについてだった。しかし、それはたった一言で済む説明だった。

 

「落ち着いて聞け。お前のチームメイトは……ランサーズ等の同盟相手を含め、安否不明だ」

 

「……っそだろ……」

 

「今、必至に捜索しているところだが、まだ、彼らの安否についての正しい情報が入ってこない」

 

良助を責めるわけにはいかず、行き場のない怒りを自分の不甲斐なさに向ける。

 

「悪いな。解放軍にもっと力があれば、いい情報もあったんだろうが。現状、エデンが本拠地にしている光の世界や水の世界には手を出せる状況じゃない。生きているのならそのどちらかにいるはずなんだが、調査に行けば捕まるか殺される」

 

「……そうだな」

 

遊介の声が震えている。今にも嗚咽を漏らしそうな様子だった。

 

それでも、遊介は意地でも涙を流そうとはしなかった。故郷を整え必死に弱い姿を見せるのを我慢している遊介を良助は見ていられない。

 

つい、こんな声を掛けてしまう。

 

「なあ、お前のせいじゃないよ」

 

「それは」

 

「こういう言い方良くないかもしれないが、お前らは元々人数は少なすぎた。エデンに戦争をする気があったなら、いずれは終わってた。お前が負けたから、さっきの奴みたいなやつが出て来たわけじゃない。確かに光の世界では犠牲は多く出たが、それは、お前の勝敗に関わらず、こうなるしかなかったんだと、俺は思う。どうしても」

 

遊介は首を振る。

 

「確かに負けは決まっていたかもしれない。けど、俺があそこで負けなければ違う未来があったかもしれない」

 

「デュエルは戦いだ。時の運だってある。勝つときがあれば負けるときだって」

 

遊介は首を振る。

 

「光の世界に……デュエルが苦手な人が集まっているのは知ってた。この世界で怖い思いをしていた人が逃げてきた場所だってのも知っていた。俺は、それを知ったうえで、光の世界を守るplayersのリーダーをやり続けた。なら、それはきっと、受けるべき報いなんだ。勝てなかった愚かなエリアマスターとして」

 

良助はそれを否定する。

 

「自分の身を守れない奴らの心配をするほどの余裕がある人間なんていない。この世界じゃ生死はすべて自業自得だ」

 

「だとしても、きっとそれで納得しない奴はいる。その時、怒りのぶつけ先はきっと俺だよ。俺を恨んでいる奴は多いんだろう」

 

「それは……」

 

良助は遊介の言葉を否定したかったが否定できなかった。

 

ここのコテージに遊介がいる。そんな情報をどこからか手に入れた多くのプレイヤーと良助は戦った。何度も。何度も。その中で、多くのデュエリストが言ったことは、

 

「遊介が負けたせいで、死んだ」

「弱いエリアマスターのせいで、今は地獄を見ている」

「あの時負けたあいつに責任があるんだ」

「死んで償え。あの子を死を」

 

などなどの、本来は遊介に浴びせるべきではない言葉を言う連中をずっと見てきた。

 

遊介を恨むなど筋違いだと訴えたものの聞き入れない連中をこの1か月ずっと。

 

「そうなんだな。そうなんだ……」

 

遊介は俯く。黙秘は即ち肯定、と遊介は受け取ったのだ。

 

「遊介、その……」

 

「分かってた。分かってたさ。仕方ないことだ。これは俺のせいだ。だから関係のない奴らの怨みを受けるのは、まだ耐えられ……なくちゃいけない」

 

呼吸が荒くなり始める遊介。

 

「……けど」

 

「もしも、俺が負けたせいで、エリーやマイケル、ブルームガールがひどい目に遭っていたら、俺はきっと……」

 

それ以上を言葉にしなかったのは、恐らく素面で言うのがはばかられる内容だったのだろう。

 

たった一瞬だったが、遊介の目に何か黒いものが見えたのは、良助はあえて見なかったことにした。下手に口に出して意識させたら、それこそ取り返しがつかないような気がしたからだ。

 

自分を責めている様子の遊介に、良助はそれ以上の言葉をかけられない。

 

良助も、いつまでも遊介の世話ばかりをしているわけにはいかない事情がある。

 

解放軍が何とか幹部を吸いなわずに未だ生きているのは、沢渡シンゴとシンクロ遊介が囮となり、エデンの幹部5名を相手に殿を務めてくれたからだ。彼らもまた安否不明となっているが、もはや生きてはいないだろう。

 

シンクロ遊介が率いた部下について、後事をすべて良助は託されている。

 

アゼルは残った幹部に加え、各地の反エデン派の実力者をスカウトして戦力を補強し、今一度解放軍を再興し、エデンと戦う準備を始めている。

 

その中で、遊介の彩と互角に渡り合った腕は必要不可欠だ。

 

先日のデュエルは、恐らくアルターの仕業で、全世界に公開された。並みのデュエリストでは歯が立たないレベルのデュエリスト相手に健闘する遊介の姿は再び全世界に知られ、敗北者とあざ笑う者や恨みを持つ者を増やす一方で、その腕がハルトの時だけではない本物だと認める人間も少なくなかった。

 

解放軍はどちらかと言うと、これまで敗北を踏まえ、少しでも実力者が欲しいところで、彩と渡り合うだけのポテンシャルを見せた遊介は、認められている風潮にある。

 

良助にとって、解放軍に遊介を誘うのは今しかない。

 

しかし、今の心持ちではさすがに首を縦に振りづらいだろう、と良助は思い、

 

「遊介、俺はそこで、お前が来るのを待ってる」

 

解放軍に来てほしいという旨を書いた置き書きを遊介の近くに置く。

 

「俺は、まだお前に死んでほしくない。ダチとしても、この世界をエデンの隙にはさせたくない、同じ目的を持つものとしても」

 

良助は、最後、無理するなよ、とだけ言い残し、その部屋を去った。

 

 

 

遊介は一人、思考を巡らす。

 

自分の敗北から社会の様子は大きく変わった。

 

事実をまだ見ていない遊介は、今エデンが本当は何をしているか知らない。しかし、自分のチームにやったように、あまりに外道な戦法で、誰かが傷ついているのなら、それは間違っている。

 

何とか止めなければいけない。

 

と。

 

しかし、その一方で、遊介には今、自信がなかった。

 

もう1度彩と戦えと言われたときに、勝てるビジョンが思い浮かばない。

 

「……屈するのか?」

 

ふと口に出した言葉に、それはない、と心が叫んでいた。

 

もう、あれは許しておけない存在になっている。自分だけでなく、自分の仲間に手を出してまで勝とうとする外道に成り下がった。そんな人間の味方になるなど、醜悪の極みだ。

 

格好いい人間になりたい。それだけはずっと心の中に存在する。今も変わらない夢であり、理想。

 

遊介はだからこそ、誰かに屈することも、言いなりになってやることも、認められない。

 

先ほどの良助が置ていった置き書きにも目を通した。そこに書かれていたのは、解放軍で再起を図ろうという誘いだ。

 

しかし、解放軍にこのまま向かうのは躊躇われた。

 

自分たちの理想のために、相容れない人間の犠牲を黙認する組織にはどうしても行きたくなかった。光の世界の犠牲者の数割は解放軍の無茶な戦術によって生まれている。そして、それを先ほど語ってくれた良助は、その犠牲についてなんとも思っていない顔をしていた。

 

良助もまた元の世界に帰りたいがため、他の犠牲を肯定しているのだ。

 

しかし遊介にはそんなことはできない。どんなにきれいごとでも、遊介は一番犠牲が少なく済みそうな再現を求めたいと思っている。

 

だから、やはり解放軍とは相容れないのだ。

 

遊介は立ち上がる。

 

先ほどの置き書きの余白に良助へのメッセージを書き、今度はたとえ全身が痛もうとも、気丈に歩きだす。体が無理をするなと言う忠告を遊介は無視し、部屋の外へ。着替えのある部屋の中にある、顔を隠せそうな服装を探す。

 

サングラスとフードがあったため、今の服から着替え、コテージの中にカードがあるかどうかを探す。残念ながらなかったため、カードは行く先で補給することにした。

 

遊介はこのコテージを出ていく。

 

相容れないと分かった以上、解放軍にこれ以上の借りをつくるわけにはいかない。

 

外に出て、今度は襲われないように、身を隠し裏口から誰にも見つからないようにして、こっそりと外へと出ていく。

 

幸い敗北後でも、ある程度のデュエルポイントの蓄えがある。自分の愛用したデッキの再現は決して不可能であるが、代わりとなるデッキの準備はできるはずだ。

 

嘲笑を受ける覚悟はしている。

 

何も知らない他人から見れば、今の自分が滑稽に見えることを、遊介は分かっているつもりだ。

 

これからエデンと戦うつもりならば、良助を頼り、解放軍に身を寄せるのが安全で確実な方法だ。それをわざわざ断ったところで、メリットなど何もない。ただ、ついて行くのが気に入らないというだけで、逃げだした駄々っ子と同じようなものだ。

 

それでも、解放軍に協力するのは気が引けた。遊介は今更誰かの言いなりになって動きたくはない。組織に身を置けば自由に動けなくなるのは目に見えている。

 

解放軍の戦いが、エデンを倒すために行われるのに対し、遊介の目的は光の世界の奪還と仲間の救出だ。安否不明な人間が生きていると希望を持ち、彼らの救出を第一優先に考える。そのとき、人質として使われる可能性のある自分のチームの人間は、解放軍と共に戦う方法を取れば優先順位が低くされる可能性がある。

 

それに、そんな理性的な話を抜きにしても、自分でやってしまった責任は自分でとりたかった。ここで誰かに頼れば、自分は一生、自分の力で困難に立ち向かっていけない格好悪い人間になると思った。現実的ではなくても、修羅の道でも、自分の失敗で失ったものをとりかえすときに、他人の力は借りたくなかった。

 

故に遊介はこれから、解放軍とも足並みをそろえず一人でやっていくことに決めた。

 

エリーを、マイケルを、ブルームガールを取り戻すその時まで、せめてplayersを復活させるその時まで。

 

そしてその後は、敗北する前に目指した、ゴールへ向かう戦いの続きをする。光の世界を取り戻し、再び拠点にしてそこで暮らしながら、イリアステルを倒す準備をする。元の世界に帰るために。

 

乾いた空気を吸い、肺に熱気を吸い込みながら、エデンに対するリベンジへの闘志を燃やし、炎の世界のどことも知れない場所を歩いていく。

 

目の前に、一人の男が立ちはだかった。

 

幸いにも良助ではなかったため、遊介は逃げずに済んだ。しかし、決して味方とは言えない存在だった。

 

「目覚めたんだな」

 

「……巨大組織のリーダーは、わざわざ敗北者に話しかけてくるほど暇なのか」

 

アルター。イリアステルのリーダーであり、この歪んだ世界を作り出したトップ。

 

天城ハルトと戦った後に会った時よりも、目の前の敵はあまりに醜悪な化け物に見える。

 

この男がつくった世界のせいで。、彩は変わり果てた。多くの人々が苦しみ始めた。

 

今では、そもそもの元凶であるこの男への、恨みが膨れ上がってきている。

 

「いい顔だ。敗北を経て、本物の怒りと恨みを知った顔だ」

 

「……何の用だ」

 

「今日は君に、今日までの労いをしようと思ってね」

 

「労いだと……?」

 

アルターは汗を一つもかかずに、口を動かし続ける。

 

「君は、この世界、リンクヴレインズを動かすヒーローの1人だった。リンクヴレインズを肯定する敵、我々イリアステルと戦うために必死に戦い続けた。だが、先日の戦いで君は、仲間も、拠点も、デッキも、この世界で生きる術をすべて失った」

 

「それがどうした」

 

「君はもう、ゲームオーバーだ」

 

敵であるはずのその男から告げられた敗北宣言、意外にも遊介の心に刺さった。それはその男が敵である一方で、またこの世界での戦いを俯瞰し管理するゲームマスターであるからか。

 

自分は、すでにこの世界の敗北者として、認定されたということを確定させる宣言だと言えるからか。

 

「だが、ここまでよく頑張った遊介君。最前線で、この世界での戦いを盛り上げてくれた勇者である君に、なんの言葉もなく終わりというのはどうも味気がない。せめて、ここまで観客の妹を楽しませる演者として頑張ったことを労いたい。そう思ってね」

 

「まるで、俺がもう終わりだ、みたいな言い方だな」

 

遊介がアルターを睨むと、アルターは高らかに笑い出した。

 

「ははははははははははは! 何を言ってる。君はもう終わりだろう?」

 

「俺のLPはあと4000も残っている」

 

「これまで培ったデッキはもうない。捨てられているかもしれないし、燃やされているかもしれない。もう二度と会えないと考えた方がいい。まさか、君は今から奇跡で組み上がったあのデッキと同じレベルの負けたデッキを用意して、またエデンと戦うというのか? あはははは、無理無理」

 

アルターから見て遊介はよほど無様に見えるのか、あざ笑うのをやめる様子はない。

 

「同じデッキをつくる必要はない。レベルに多少の違いがあっても、戦えればそれでいい」

 

「あのレベルの完成されたデッキは二度と完成しないよ?」

 

「それでもだ」

 

「あれで勝てなかったのに、まさか、雑に作ったデッキで、彩ちゃんに勝てると思っているのかい? 俺達に勝てると思っているのかい? 実力の一端は、この前風の世界で、遊びのデッキで見せたはずだ。現実を見ることを薦めるが?」

 

「現実なんて見てどうする。そもそもこの世界で現実と向き合って生きてる奴なんか、どこにもいないだろう。全員が、お前らのような悪党と戦うために今日も動き続けている」

 

「ははは、それもそうだな。けど、3つだ」

 

「3つ?」

 

「今のはほんの1つの理由にすぎない。君が、もうゲームオーバー、この世界を動かす要因ではなくなった敗北者であり、二度と這い上がれないと示す根拠は3つある」

 

アルターは指で2を示す。

 

「2つ目。エデンは既に1000以上のデュエリストを率いるデュエル集団だ。君の仲間もそこに囚われているとして、たった1人でエデンの全戦力と戦う気か? それこそ、無謀極まりない。戦いは数だ。勝ち目なんて、万に一つもありはしない」

 

「だとしても、やらなければいけない」

 

「ククク、お前、それ本気で言っているのか? あれほどの軍勢となったエデンにたった一人挑むなんて、死ぬしか未来はないぞ」

 

「御託はいい。3つ目はなんだ」

 

アルターは再び笑う。

 

それでも、遊介は特に怒りはしなかった。これからたった1人で戦うなど、普通に考えれば無謀としか言いようがないのは自分でも分かっている。

 

「見事にヤケになっているなぁ……」

 

とつぶやいたことにも、遊介は怒りを見せはしなかった。

 

「3つ目は、これから先、さらに戦いのレベルが上がるからだよ」

 

「レベルが上がる?」

 

「雑魚は生きていけない地獄にこの世界は変わる。俺達イリアステルが、そろそろ動き始める。ヌメロンコードの話は覚えているな」

 

ヌメロンコード、あらゆる願いを叶え、世界を変革する強大な力。

 

そしてそれを起動するためには、多くのデュエリストが命を賭けて殺し合い、生き残った者の中で最初にその存在にたどり着いた者が願いを叶えられる。

 

これまでも図らずとも、殺し合いの構図はできていた。

 

「そろそろ、イリアステルである俺達も本格的に参戦しようと思っててね。ここ最近のデュエリストたちのレベルを見て、この世界のデュエルレベルもそろそろ俺達と遊べるほどにはなったように見えたからさ」

 

「この世界を別の世界みたいに壊すつもりなのか」

 

「いいや。今回ばかりはそうはいかないのさ。我が妹の今回の願いは、この世界を自分の物にするってことらしくてね。元々この世界は滅んだ後の世界だったというのは言ったことがあるだろう。今はイリアステルの科学力の賜物である独自のエネルギー源を使い生きた世界っぽくしているが、それはイリアステルがやられたらおしまいだ。元の滅んだ世界に戻ってしまうだろう。だから、まずヌメロンコードで真の世界再生を果たす。その後は、あらゆる世界から人々を呼び出し、妹を楽しませる映画の、ゲームの登場人物になって、この世界でドラマを生み出してもらうよ」

 

人が死ぬのを不快に思わない集団に思うように動かされたら、命がいくつあっても足りないのは想像に難くない。

 

「そんなことのために……お前らは人を使い潰すつもりなのか」

 

「そうだよ。そのためにこの世界にあるヌメロンコードを手に入れる。それでその後は、まあ、まだ考えてないけど、例えば君のように物語のような面白い生き方をする人間を見つけては、すこしちょっかいをかけながらドラマを用意して、その登場人物により面白い物語紡ぎだしてもらう。、それを見せて、妹に楽しんでもらおうと思ってね」

 

アルターにとって、自分達は画面の向こうにいるべき登場人物であり、生死や人の感情よりも、エンターテイメントとして面白くなるかどうかが重要である。それは人殺しをこの世界に強制させている時点で明らかだ。

 

「そのためにも、計画の第一段階として、この世界を再生して、外から人をもっと呼べるようにしないと。そのために、イリアステルはそろそろ本腰を入れて君たちとLPを奪い合いを始めるのさ。今の君には、そこで最前線で戦えるだけの力は何もない。つまり、雑魚そのものなんだよ。それじゃあ、これから先の舞台に立つことはできない。故に君はゲームオーバーだ。今までお疲れ様。後はこの世界の行く末が決まるまで、何もせずゆっくり休んでいたまえ。お疲れ様」

 

「何もせず?」

 

遊介にひっかかる単語。

 

「ああ。だってできないだろう? デッキもない。仲間もいない。体もボロボロで、周りには、君を恨んだり、利用したりしようとする敵だらけだ。どう考えたって今の君は詰んでる。生き残れるだけで奇跡と言ってもいい。イリアステル総帥として君に助言をするのなら、何もかも諦めて、自分を生かすことだけに集中するべきだ。もう、望みも理想も捨てて、無様にでも、必死に生きれば、死なずには済むかもしれないぞ?」

 

遊介は黙った。

 

「今のこの結果は君が戦ってたどり着いた結果だ。これから何をしようと失った信頼も、仲間も、望みも戻ってこない。だからもう寝ろ。そして、毎日を逃げ回るネズミのように生きて、今日は良いことはなかったけれど、悪いこともなかったと生きていけ。そうすれば誰も君の気に留めない。生存率は大きく上がる。何もかも、命あってこそだぞ?」

 

アルターは見下すように遊介を見る。

 

遊介はしばらく、黙った。

 

しかし、その目は決して光を失うことはなかった。

 

俯きから再びアルターを方をみた遊介は一言。

 

「俺は降りない」

 

堂々と宣言する。

 

「これから何をしようと無駄に終わる可能性が高いぞ?」

 

「アルター。俺はまだ負けてない」

 

「……生意気な目だ。現実が見えていない妄執者の目をしている。ああ、それじゃあ、俺と同じだぞ? お前はいつか悪になる。そうすれば今度こそ、お前が目指す理想には届かなくなる。お前は獣となり、殺される道しか残らない。現実を視ろ。諦めろ。叶わない夢を追う狂人になる前に」

 

「俺は戻る。元の世界に戻る。今度こそ絶対に負けない」

 

「ほう?」

 

遊介は語ったのは、この時は気合を入れるだけの言葉だったが――後になって大きく意味を持つようになる言葉だった。

 

「俺は勝つ。もう絶対に負けない。負ければすべてを失うのはよく分かった。ヴィクターの言う通りだった。勝たなければならないところで勝てないことはデュエリストとして何よりも愚かだ。ならこれからは負けなければいい。勝ち続ければいい。死ななければ、どれだけ遠い夢でも、少しづつ、近づける」

 

「……負けなければか。そんなことはきっとあり得ない。イリアステル総帥たる俺も恐れる、万一の敗北をお前はしないと?」

 

「ああ。進む先に立ちはだかる者があれば超えればいい。その先に、俺は理想を果たす。彩は仲間を殺さないと言った。なら、俺は少しずつでも、もう一度彩と戦えるところまで近づいて、エリーを、マイケルを、ブルームガールを取り返す」

 

「その後は?」

 

「みんなで元の世界に帰るために戦うんだ。アルター、お前をたおして、ヌメロンコードに至る」

 

「そうか……あくまで、お前は元の世界に戻ろうとするわけか」

 

アルターは言った。

 

「なあ、遊介、なんで元の世界に戻りたい?」

 

「この世界はデュエルで人が死ぬ世界だからだ。そんな世界を永続なんてさせない」

 

「遊介、それはこの世界のルールの否定であるだけだ。元の世界に戻る理由にはなっていない。ヌメロンコードに至れば、この世界のルールである殺し合いを消すことだってできるんだ。今のお前の言い分じゃ、エデンに正義があるぞ」

 

「この世界は人をおかしくする。彩のように」

 

「彼女はおかしくなったわけじゃない。この世界でそういう夢を持っただけだ」

 

「この世界は……」

 

「俺が訊いているのは、なぜそこまでこの世界の永続を否定するのかだ。この世界の悪しき箇所を訊いているわけじゃない。それこそヌメロンコードの力でどうにでもできるからな」

 

遊介は、元の世界に戻りたい理由を探す。

 

なかった。

 

何もなかった。今まで元の世界に戻ることが当たり前の正義だと思っていた。それだけで帰ろうとしていた。

 

元の世界に絶対に戻りたいという理由は、どこを探しても見当たらなかった。あるのは、この世界の在り方が間違っているという根拠だけ。もしもそれが、彩の、彼女のやり方に賛同する者が正せば、それが消える。

 

「それでも、俺は、そうすると決めた。元の世界に戻る。そのために、彩を超えて、お前を倒す」

 

「なあ遊介くん。理由なき戦いに大義はない。絶対に譲れない誇りがない者に未来はない。たとえ勝ち続けても、その戦いが無為になり続けるだけだ。もっとも、イリアステルはそんな男に負けるつもりはさらさらないがね。だから俺からの最後通告だ。これ以上戦いに首を突っ込むのなら、君に命はないと思え。もう諦めろ。何もかも」

 

アルターは、遊介とすれ違うように歩き出す。

 

遊介が後ろを振り返ったときには、すでにアルターの姿はなかった。

 

「……理由なき戦いに大義はない……」

 

その男から受けたその言葉が妙に胸に突き刺さった。しかし、敵からの言葉を胸に刻むつもりはなかった。

 

「あれ……」

 

目から何かがこぼれる。

 

ゴミでも入ったのだろうかと疑った。それは涙だった。

 

「情けないな……今の俺は。なんて、格好悪いんだろうな」

 

遊介は歩き出す。ここではないどこかへ。

 

 

 

 

「あいつ……」

 

コテージに戻った良助の目に映った書き置き。

 

『俺は、お前とは一緒に行けない』

 

「馬鹿じゃねえのか。頭湧いてるのは彩だけじゃなかったか。あんな状態でどうやって勝つつもりなんだよ」

 

良助は何も解放軍の下っ端として自分の部下に加えるつもりはなかった。ただそばにいてもらうだけで、後は自由にやってもらうつもりだった。人手も貸すつもりだった。

 

「……うるせ」

 

寝ていたヴィクターが目を覚ます。

 

「ヴィクター、なんで止めなかった」

 

「ああ。止める必要はないだろ」

 

「無謀な賭けに出るかもしれない状態だ。負けて、えげつない負債がある状態なんだぞ」

 

「死ぬならそれまでの男だ。負けなければいい」

 

「あのな……!」

 

「……まあ。ほっといてやれ。言って聞くぐらいの理性があったら、そもそもお前が助けたときもコテージから出てないさ。体の状態を分析して、治るまでは待つだろ。それができないような今の奴に、生半可な説得は無意味だ。現実に打ちのめされるまでは、好きにさせとけ。もしかすると、化けるかもしれないぞ?」

 

「……てめえ」

 

「代わりに俺が仲介役をしてやる。何かメッセージがあったら送ってやるさ」

 

ヴィクターは、いたたた、と言いながら体を起こすと。

 

「しかし、おかしな話もあったもんだよな。どうしてお前と遊介は一緒に居られないんだろうな。俺はてっきり、遊介はお前と組むと思ってたんだがな」

 

「……そうだな」

 

良助はしばらく考え込んで、そして答えた。

 

「俺は何をしてでも絶対に元の世界に戻る。それが至上命題かそうじゃないかの違いだろうな。彩はそもそも帰るつもりもないし、遊介もこの世界が間違っているというだけで、きっと帰る必要がなかったら帰らないって選択をする可能性はあるだろうな。でも俺は違う。俺には向こうの世界でプロになる夢がある」

 

遊介は置き書きを悔しそうにぐちゃぐちゃに丸め、ゴミ箱へと捨てる。

 

「ずっと昔に約束したことがあったな。3人でプロになって同じ舞台に立つって。でも彩や遊介はプロになるのはただの夢だって思ってたみたいだし、3人で同じ舞台に立つってのも、叶えばいいな程度のものなんだよ」

 

「お前は違うのか?」

 

「俺にとってそれは生きる目的だ。絶対に叶えたい夢だ。だって格好いいだろ。向こうの世界で、一握りしかなれないプロになって、幼馴染3人でデュエルステージに立つ。世界中の人間の目に俺達が映る。俺はそんな未来に憧れた。だから、元の世界に戻って、最高の名誉を手に入れたい。俺の、命を賭けて叶えたい夢だ」

 

「へえ……なるほど。気に入った」

 

「は?」

 

「いやな。俺は今まで、お前らがふざけてデュエルをしてるお楽しみ集団程度にしか思ってなかった。けど、お前は、ずっと覚悟をもって向き合ってきたんだな。実力はともかく」

 

「うるせえ」

 

「解放軍にいるのもそれが理由か」

 

「ああ。……だから本当は、彩とも遊介とも、一緒に居たかったんだよ。敵対したら殺し合うことになるって思ってな。結果そうなってしまったわけだが、遊介とはこれから一緒にいられると思っただけどな」

 

良助は寂しそうに書き置きを眺める。

 

ヴィクターは良助の気持ちを推し量るわけではなかった。

 

「俺はお前らのところに厄介になることにするか。まあ、世話になった分の恩は返さないとな。その間にデッキも組みなおしてやつにリベンジしてやる」

 

「なら、せいぜい働いてもらうぞ。遊介を探し出して、エデンを倒すためにな。上手く働いたら、デッキの組みなおしも手伝ってやる」

 

「へいへい、なら、準備ができるまではおとなしく働きアリにでもなってやるさ。俺は遊介のように、無謀な馬鹿じゃないからな」

 

 

 

遊介はそれから行方知れずとなった。

 

解放軍、エデンがともに必死に彼の行方を捜したが見つからない。

 

死んだ、と言う人間もいなくはなかったが、彩も、良助もそれを否定し続け、捜索の手を緩めることはなかった。

 

生きている、という前提で話をするが、遊介は表舞台に姿を表さなかった。

 

その間も光の世界と水の世界において、解放軍やその他の反抗勢力がエデンとの戦いを繰り広げるが、エデンに痛手を与えることは叶わず、むしろその他の世界においてもその戦火が広がる。

 

 

 

3か月が経過した。世界の情勢が大きく変化を見せた。

 

エデンは勝者として自分たちの考えを広め始め、闇の世界と、中央のバトルシティを除いたすべての世界で、そこに住まう人々に選択を迫った。

 

この世界で生きるか、元の世界に帰りたいか。

 

この世界で生きることを選んだ人々は、エデンに迎えられた。選ばなかった人々も、すぐに処分されたわけではなく、エデン側が説得を進め、それでも折れない人々には、エデンは解放軍を筆頭とする反対派の本拠地を訪ねるよう推薦する。

 

今エデンは世界を大きく二分しようとしていた。できる限り、自分たちの賛同者を増やし、それで納得しない者を敵へと送る。

 

そして完全に世論が二分された頃を見計らって、反エデン派の主要メンバーおよび本部を壊滅させ、もう一度残った人々に説得を行うつもりだった。

 

それが手っ取り早く、かつ、犠牲が最も少ない方法だと信じ、エデンのデュエリスト達はまだ説得へと向かっていない人々を探すため今日も飛び回る。

 

一方解放軍は、他の反エデン派と同盟を結び、エデンとの最後の戦いに向け、準備を進めていた。ランサーズ、海堂コーポレーションは未だ沈黙を守ったままで、最終的にどのように動くか未知数だったが、その他のチームの中で、エデンに協力できないという団体がエデン討伐と言う大きな目標を達するため、各チームの信義やメリットを捨ておいてまで解放軍と同盟を組み、エデンに対抗できる可能性を持つだろう、最後の勢力となり上がった。

 

そんな中、エデンの、そして解放軍改め、エデン討伐同盟軍のデュエリストが無差別に殺される事件が起こる。

 

その事件を起こした犯人が声明を発表した。

 

「こんにちは、俺はアルター。イリアステルは君たちに、宣戦布告をする。さあ、ヌメロンコードを手に入れるために、殺し合おうじゃないか! こっちは、最強の7人、俺を守る守護者たる本気の守護者6人と配下90名と共に、君たちと戦おう!」

 

 

第2シーズン 終わり




また姿を消すのか遊介よ。
そんなことを思う人もいるでしょう。ですがご安心ください。行方不明になるのはこれが最後です。ちなみに、今回の話で少しお気づきの人もいると思いますが、遊介君の様子が少し変ですね。19話で虚構世界の蝕毒という話を出しましたが、実はこの世界に来て一番毒され始めていたのは……。

以上が第2シーズンになります。
衝撃の遊介敗北、すべてを失った遊介。
そしてそんな彼を置いていくように遂に本格参戦を始めるイリアステル。
混迷を極めるLINKVRAINSの世界は、ここから終結へ向けて急速に動き始めます。

しかし、最後の26話だけ長かった。文字数だけで言えば、およそ5万文字。
それを1か月くらいの間で書き切るとは、未熟者の私にとっては、自画自賛をしたいレベルの偉業です。

遊介君は再起し、全く出てこなくなった仲間を救うことができるのか?
その運命を決めるのが第3シーズンになります。
1週間後位に予告編を出す予定なので、そちらをぜひご覧になってください。

しかし第3シーズンは残念ながらすぐには始まりません。
また番外編を10月の下旬から順次投稿していく予定です。

1『???』全6話
2『解放軍 戦う理由』全6話
3『光の世界解放戦』全3話
4『エデン 帰りたくない少女』全2話
5『遊介  帰りたい少年』全2話
6『エリー・薫・マイケル 大好きな人の話』1話

これくらいはやりたいな、と予定しているので、年内はおそらく第3シーズンに行かないと思います。

実は第3シーズンが終わった後には、番外編はない予定です。
その代わりと言うわけではないつもりなのですが、敵側やスポットライトが当たっていない人たちについて、もっと語ってみたいと思っています。その方がグランドフィナーレで感慨深くなる、かもしれないと思っているからです。

しかし、この番外編。26話を書くにあたり、今までの内容を見返しながら思いついた補間用の物語のため、詳しい話がまだ何も決まっていません。なので、話を考える時間として、1か月ほど、この連載についてはお休みをいただき、話を考えたいと思っています。


その分、今回は本編に負けない、面白い番外編にする予定なので、ご期待いただければと思います。


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番外編2 過去から今 そして明日へ
第3シーズン 予告


第3シーズンの予告編です

PV的なやつです。

小説でPV的なものって、とこれを見てる友人には言われましたが、この手の情報ちょい出しが好きなのです。

お付き合いいただければ幸いです。


――続く戦い、すでに過去の平穏はなく、命を失うことも日常となった――

 

 

 

「……マスターは、死んだのでしょうか?」

 

光の世界が陥落し、一年が経過しました。

 

未だに私は問い続けます。

 

そして帰ってくる言葉は、

 

「分からない」

 

だけ。もう、これで300回目です。

 

エデンの本拠地である水の世界も、表の街は既に戦場となり、アトランティスのみが残る状況。私は、マイケルさん、ブルームガール先輩とは離れ離れになり、アトランティスに監禁されています。

 

きっと私のことを快く思わない人は多いでしょう。

 

エデンの人は敵である私のことを丁重にもてなしてくれました。

 

アトランティスの外に出ることは叶わなかったけれど、それでも、衣食住の環境にかんして、捕虜になっているとは思えないほど待遇でした。彩さんがそうしろと命じてくれたそうです。

 

その間、エデンの人たちの話をずっと聞いてきました。故郷がない、もうこの世界しかないと嘆く人たち。

 

それでも私は、マスターのものです。マスターが協力すると言わない限り、決してエデンに協力はしません。

 

向こう側が怒って殺されても構わない。私はマスターを裏切ったりはしません。マスターが今も生きていると信じて私は待ち続けます。

 

いつか、必ず帰ってきてくれると。

 

 

 

 

「エリー、一緒ににいを探しに行かない?」

 

「え……」

 

「脱出しよ。ここ。ほら、にいのデッキもある」

 

「でも、そんなことをしたら、エデンを裏切るってことに」

 

「気にしないで。それよりも、ほら、にいの前のデッキ。ファイアウォールもいる。エリー、貴方に預けておくから、にいに会ったとき、一緒に返しましょう」

 

 

 

 

それが私の旅の始まりでした。

 

マスター、今、迎えに行きます。

 

 

 

――ある者は姿を消し、ある者は戦う覚悟を決め、牙を研ぐ――

 

 

 

あの日、彩は外道に堕ちた。もはや自分の理想のためならなんだってする悪そのものだ。

 

あれから1年。

 

最近はほぼ毎日エデンの戦士かイリアステルと戦っている。

 

イリアステル連中はそのデュエルの腕で、万を遥かに超えるエデン討伐軍とエデンを同時に相手して、今でも80名近くの戦士が生き残って猛威を振るっている。

 

たった10人、いくらエデンと戦っている最中だとしても、解放軍、エデンともに3割の戦力を消費して、ようやく10人。このままじゃイリアステルが独り勝ちになりそうなのが怖い今の状況だ。

 

エデンに関してはまだ、幹部クラスのデュエリストが全員健在。

 

一方でエデン討伐軍は、幹部クラスのデュエリストを含めすでに4割失っている。

 

それでもまだ負けたわけじゃない。

 

俺は誓った。

 

これまで死んでいった者たちすべてに。

 

どんな手を使ってでも必ず勝って、元の世界で幸せを掴むと。

 

解放軍にいる誰しもが故郷を愛し、故郷に戻りたいという人間だったから。

 

俺はいろんな奴の、元の世界での夢を聞いた。そしていろんな奴の夢が途切れ、断末魔と共に涙を流す奴を見た。

 

そんな奴らに寄り添って、いつもこう言われるのだ。

 

「お前は負けるな」

 

と。

 

だから、俺は、どんなに打ちのめされようと、修業を続け、いつか、夢をかなえるのだ。

 

彩をぶん殴ってでも連れ戻し、遊介を探し出し、あのふざけ合った日々に戻る。

 

そして、3人でプロデュエリストになる。

 

「遊介、お前は今どこにいるんだ」

 

 

 

 

――この戦争の果てに何を見つけ、どこへと行くのか――

 

 

 

 

私は正しかったはずだ。

 

この世界に間違いはないとは言えない、それは認める。

 

けれど、間違いは正せばいい。この世界には未来があるのだから。

 

でも、エデンにいる人たちには、故郷に帰っても未来はない。それは、たとえイリアステルを滅ぼしても変わらない。

 

そんな彼らは口をそろえて言う。

 

「この世界で、みんなと一緒に暮らしたい」

 

私はとても嬉しい。エデンは物騒な組織だけれど、みんなが互いに思いやりを持っているから、居心地の良い居場所になっていることが。

 

過去は変えられないけれど、未来は変えられる。

 

この世界で、過去を捨てて新しい生活をすることはできる。

 

イリアステルが滅べばこの世界は終わりを迎える。ならばヌメロンコードの力でこの世界を永続させれば、イリアステルが作ったこの世界のルール、デュエルを命懸けで行うというルールを取り払い、真に平和な世界をつくれば、それでみんな悪いようにはならないのだ。

 

確かに、元の世界に戻りたいという人もいるのは知っている。

 

しかし、ソレが叶えば、帰る世界がある人はいいだろうが、ない人には死ねと言うのか。

 

それが敗者の代償だというのか。かけがえのない命を滅んだ故郷で無駄に散らせと言うのか。

 

だから、私は負けられない。

 

「彩」

 

「何よ偽遊介」

 

「辛かったら、代わるぞ?」

 

目の前には、私がエデンのリーダーになってからずっと私を支えてくれた初期メンバーのみんながいた。

 

「ありがとう、でもいい」

 

「最近、いろいろ背負いすぎなんじゃないか」

 

「いいの。これくらいなんてことない」

 

私は立ち上がって歩き出す。

 

再びエデン討伐軍などとほざく、賊軍を屈服させに行く。

 

……本当は誰かに任せたいけれど、そうもいかない。

 

リーダーたるもの、誰よりも働いて他の模範の成らなければ。

 

――嘘だ。これは建前だ。

 

本当は、少し、やりすぎたかな、と後悔している。

 

「遊介、お願いだから、姿を見せて……」

 

薫が時折見せる悲しそうな顔を見て、ブルームガールがあれから笑わなくなったを見て、私は一刻も早く、彼に会いたいと願う。

 

 

 

 

――渦巻く恨みを、感情をすべて飲み込み――

 

 

 

 

俺は、何をしているんだろうな。

 

「マイケル」

 

脱獄してから早半年、

 

「なんだ?」

 

「遊介、見つからないな」

 

「ああ、連中の手がかかっていないのはこの辺りのはずなんだけどなぁ」

 

「俺もう疲れたよ」

 

「悪いな、闇の世界がここまで苛烈だとは、遊介の奴、あの時よく生き残ったもんだ」

 

今日も2人、闇の世界を歩き続ける。

 

俺は、馬鹿だ。

 

デュエルも、あのカードを使わないと半端な強さだし、年長者だったのに、あのチームを助けてやることも、代わりに犠牲になってやることもできなかった。

 

どうしてこうなった。

 

どうしてこうなった。

 

どうしてこうなった。

 

ずっと、自分に問い続けている。

 

もっとうまくやれたはずだ。なぜなら俺は、遊介やブルームガール、エリーよりも年上で人生経験が豊富な大人なのだから。

 

俺はあのチームが好きだった。

 

少人数だけれど、それが逆に良かった。気の合う仲間が集まったチームだった。

 

大変じゃないとは言わないが、あのチームで、人生で初めてできた友たちの為ならなんだってできると思ってた。

 

実際はそうはならなかったわけで、こうして無様に追われる身なのだが。

 

……一番きつかったのは、以前ブルームガールを見た時だ。

 

俺には分かる。

 

アイツはきっと、遊介のことが好きなのだ。

 

でも、アイツは今、苦しんでいる。そして、俺に何度も言うのだ。

 

裏切ってしまった。嫌われしまった。と。

 

実際、そうも見えるかもしれない。あの日、遊介が彩と戦う必要はなかった。仮に戦うにしても、解放軍と一緒に来れば、晒し者になることはなく、違った結末もあっただろう。

 

しかし、俺からすれば、それは仕方のないことだった。

 

俺達が光の世界に戻った時点で、こうなる運命だったのだ。

 

俺はむしろ、自分の意志をおさえ、俺たちの命を保障するために汚れ役になったあいつを心から尊敬する。

 

汚れ役は俺がやればよかったのに。とたまに思うのだ。

 

そうすれば、少なくとも、今のあいつのように、死んだ目で日々を過ごすことにはならなかったはずなのだ。

 

失敗は必ず取り返す。

 

そのためにも、俺はまず遊介を見つけるのだ。

 

「マイケル、前、前!」

 

「うお……あれは」

 

「見つかったら今日潰れるぞ……、逃げよう。今日こそはここで体力0とか」

 

「ああ、勘弁だな。ためには遊介捜索に集中させろっての」

 

まてぇえ! と迫ってくる闇の世界のバーサーカーデュエリストから逃げ続ける。

 

 

 

 

――戦いは非情に、その想いを黒く塗りつぶしていく――

 

 

 

ああ。

 

私は。

 

どうして生きているんだろう。

 

……だめだ、心を強くもって。

 

私が人質だからこそ、脱走したマイケル達は生きていられる。エリーや他の人が生意気を言っても、殺されない。

 

彩が悪い人間ではないとは信じたいが、殺されないとは限らない。私一人が、エデンの人質として遊介を裏切り続ければ、他のみんなは助かる可能性が上がるのだ。

 

マイケル達が万が一で死ぬまでは、自分で命を絶つわけにもいかない。

 

「ブルームガール、今日は水の世界へ。公務です」

 

「はい」

 

心を凍らせろ――何も考えるな。

 

もう、私に何かを考える資格はない。

 

ただ、罰が下るのを待つだけだ。

 

でも、ずっと、捨てられない気持ちがある。

 

遊介。

 

ごめんなさい。

 

あの日、裏切りました。貴方を。

 

辛い思いをさせることになったと思います。

 

貴方が命を賭けて勝ち取った、光の世界を、私のせいで滅ぼしました。

 

もしもあなたが私を恨んでいるのなら。

 

殺しに来るまで、私は待っています。

 

 

 

 

――地獄を変えたいと願うものは、ずっとその時を待っている――

 

 

 

 

「死んだよ。君の――は」

 

その言葉を聞いてから、どれだけの時間が経っただろうか。

 

ここは戦場だ。死体は残らない。だから、そんな形でしか、仲間の死が知ることができない。

 

ずっと聞こえるのだ。お前のせいで、死んだ。そんな声が。

 

寝ても悪夢しか見られない。こっちに来てと、知っている顔が俺を地獄へと引っ張る夢。

 

すまない。

 

そっちにはまだ行けそうにない。

 

俺にはまだやるべきことがある。

 

目の前に屍を積みあげて、俺は死んだだろう、彼らに誓う。

 

無念のうちに命を奪われた彼らに。

 

「……ああ、心配しないでくれ。俺は、お前達の恨みを代わり連中にぶつけてやる」

 

目の前に現れた敵。

 

「俺にはまだやるべきことがある。生き残る。もう一度あいつに会う。その望みを叶えるためならば、道を阻むものは……引き潰す」

 

 

 

 

――英雄の帰還を――

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

「なんで彼女らを庇う。それに天城ハルト。貴様は、奴らの敵だろう」

 

「……ユートと瑠璃の頼みだ。消えてもらおう、万丈目準」

 

**********************************

 

「エデンに、この地に手出しはさせん。ここは、教えを受け、自分のデュエルを見つけ始めた門下生の学びの場だ。貴様に無様に命を取らせはしない」

 

「ほう……なぜそこまで彼らに入れ込むんだ?」

 

「俺は、愚かな戦いをずっと繰り返してきた。だが、弟は俺に新しい道を示してくれた。それはサイバー流を正しい形で、後世のデュエリストに伝えること。弟と抱いた最後の夢を……潰した貴様を殺すため、俺は最後のデュエルをすると決めた。この戦い、翔に捧げる。構えろ、イリアステルの統治者!」

 

「いいだろう。デュエルアカデミアの決戦、その続きと行こうじゃないか、丸藤君」

 

**********************************

 

「以前は混戦になって叶わなかったが、俺はお前を許したわけじゃない。行くぞ、ミハエル。今こそ奴を地獄に落とす」

 

「はい、兄さま」

 

「いいですね、その意気です。では、エクシーズ世界で果たせなかった戦いをしましょう。この私、かつてエクシーズ世界侵攻の総隊長だった、フォースミルが相手になります」

 

**********************************

 

「……お前も俺を阻むのか」

 

「今の貴方は、格好悪すぎます!」

 

「勝負して! このまま、私たち裏切るなんて、絶対に許さないんだから!」

 

**********************************

 

「いつか……決着をつける。そう言ったよな、シンクロ遊介」

 

「ここは俺の居場所だ。良助は、たとえ俺の知る良助じゃなかったとしても最高のダチだ。他にも今は、多くの親友がここにいる。お前が、これ以上を臨むなら。いつか約束した決着をここでつけようか」

 

「ああ、そうだな。俺は自分の望みを叶えるために、お前を殺すよ。シンクロ遊介!」

 

「やってみろ!」

 

**********************************

 

 

 

 

 

第3シーズン 戦いの犠牲




「え……アニメのVRAINSが終わる? そんなバカな……遊戯王は3年周期じゃないのか」
という心境の現在です。

アニメは終わっても、この連載は完走したいと考えているので、それまでお付き合いいただけたら幸いです。


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シンクロ世界編 プロローグ

注意事項(必ず以下を了承したうえでお読みください)

・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。

これでOKという人はお楽しみください!


プロローグ

 

 

この世界は勝者と敗者がはっきりと分かれている。

 

勝者はネオドミノセントラルシティと呼ばれる富裕層の地区で充実した生活を送ることを許され、支配者階級となる。

 

敗者はサテライトタウンと言う場所で、貧しい生活をおくりながら、富裕層の生活を支えるために下で働き続けるしかない。さらに破産した一家はシティに特別労働者として送還され、支配者階級に奉仕をし続けるほかになくなるだろう。

 

ただ1つの例外を除いて。

 

かつてこの世界では、サテライトタウンの生まれでありながら、シティに否応なくその存在を刻み、世界を救った英雄がいた。

 

星屑の竜をエースモンスターとして使役するその男は、仲間と共に己の信念とデュエルの腕でその世界を変えたのだ。

 

既に何百年も前の話になるが、その英雄を忘れなかった人々は、その伝説と共にこのネオドミノセントラルシティに1つの掟を残した。

 

それは、可能性を否定しないこと。

 

たとえサテライト出身でも、十分な成績を残せばシティの人間となる。しかしその逆で、役に立たないクズをサテライトに流すという制度も付けた。

 

十分な成果と聞き、真っ先に思い浮かぶのがデュエルだ。この世界ではデュエルの技術がさらに進化し、現実となるソリッドヴィジョンの開発に成功。ライディングデュエルに必要なDホイールも進化を遂げ、ますますデュエルが盛んに行われるようになっている。

 

デュエルは人々を楽しませる最高のエンターテイメント。そして人々を楽しませるデュエルを見せるプレイヤーはどんな立場であっても尊敬される存在となることができる。

 

故にサテライトタウンに住む子どもたちは将来をデュエルに賭ける者も多い。

 

自らのデュエルの腕でこの世界への挑戦者となり、必ず成り上がると誓うのだ。

 

勝者となる。ただそれだけを夢見て、己のデュエルの腕を鍛えるのだ。

 

 

 

泣いている彩。それを見る幼馴染2人。慰めに意味はない。これから彼女が歩んでいく地獄を彼らは想像することすら許されない。

 

今日、サテライトタウンの地である発表があった。

 

彩がシティに特別労働者としてタウンを出ることになった。

 

「う……うう」

 

いつか3人でプロになってシティで名を売るという未来はこれで潰えた。明日、彩はどこか知らない場所へと働きに出なければならなくなった。家の多大な借金を返済するために。

 

それを止める術は、今の親友2人に存在しなかった。

 

「私、別に売られることが悔しいわけじゃない」

 

彩はその日、2人に自身の胸の内を明らかにする。

 

「私、夢だった。本当に、本当に、3人で一緒に、デュエルでシティに挑みたかった」

 

しかしそれはもう叶わない夢。

 

「昔約束してたのに。ずっと楽しみだったのに……」

 

それに対し、遊介は言う。

 

「安心しろ。まだあきらめちゃいけない」

 

「でも、一度特別労働者として就職したら、もう自由な時間は許されない」

 

「3年耐えてくれ」

 

「え?」

 

「俺がその間に、シティに行く。デュエリストになって、キングになって、お前の借金を肩代わりしてやる」

 

「でも、そんなすぐ」

 

「頼むよ。俺だってまだあきらめたくないんだ。良助だってそうだろ?」

 

隣の良助もまた頷いた。

 

彩はそれにほんの少しの希望を見出す。そして、

 

「ありがとう、遊介、良助」

 

嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

1年後。

 

「良助! どこに行く気だ!」

 

残された2人の道は違えることになる。

 

「遊介」

 

「俺らは彩を助けるって誓ったはずだ!」

 

「……すまん。でもな」

 

後ろでけがをしているのは、サテライトタウンの一部を牛耳る富豪に過労死寸前まで働かせられ続け、倒れている労働者たち。全員まだ12歳から18歳の間の子供だった。

 

「俺はこんなことをしているあいつを。ブロン家のあの野郎を許せない」

 

「でも……」

 

「大丈夫だ。これでもしっかり鍛えてきた。あいつを倒して必ず戻ってくる」

 

良助は自身で組織した義賊団のメンバーと一緒にシティへと赴き、ブロンを暗殺する手段を取った。違法とされる、過度出力のデュエル実体化装置を持って。

 

結局遊介はついて行かなかった。

 

なぜならそんなやり方で成り上がることを望まなかったから。

 

遊介はその戦いの顛末を噂でしか聞かなかったが、凄まじいほどの犠牲者が出たという。

 

結果、良助は二度とサテライトタウンに帰ってくることはなかった。

 

 

 

そしてさらに1年後。

 

絶望渦巻くサテライトタウンに1枚の希望が訪れる。

 

それはキングへの挑戦権。

 

シティで、伝説となったキング、ジャック・アトラスの生まれ変わりとまで噂されるほどの圧倒的カリスマデュエリスト。

 

彼が初めてサテライトタウンに訪問するという。

 

そこでキングと戦うチャレンジャーを募集するとのことだった。

 

ここでキングと戦い勝てばそこには想像もできぬほどの栄光が待っている。

 

これはサテライトタウンに住むデュエリストにとって一世一代のチャンスだ。

 

自分の名前を売る。またとない機会なのだ。

 

そして当然、それに食いつくものは多かった。

 

17歳となった遊介もその1人。

 

かねてからシティからの慈善団体で、Dホイールへの乗り方を指導してくれる男に師事して1年。良助がいなくなった直後から遊介は本気で今日まで自らを鍛え上げてきた。

 

「星也さん。俺、ジャックに挑戦するよ」

 

「……本気か? あいつは強いぞ」

 

俺を弟子にしてほしいと願ったその日から、星也は住み込みで、弟子2人を鍛えている。

 

「そういえば昔から気になってたんだけど、知り合いなのか?」

 

それの兄弟弟子にあたる、もう1人の星也の弟子が奥の部屋から顔を出した。

 

「……ユーゴ、それはお前が俺に勝てた時の褒美だと言ったはずだぞ?」

 

「うへえ、やっぱガード堅いなー」

 

ユーゴもまた、遊介と同じ目的を持つ少年だった。特別労働者として働きに出たリンという幼馴染を取り戻すと息巻いている。

 

そんなこともあり、遊介とユーゴはすぐに意気投合。

 

彩や良助以外と仲良くなることはないと思っていたが、以外といい関係になっている。

 

「それより、遊介! お前抜け駆けはなしだぞ!」

 

「は?」

 

「ジャックと戦うのは俺だ」

 

「何言ってんだお前? 戦うのは俺だ」

 

「ならデュエルで決めるぞ」

 

「上等」

 

表に出て決闘を始めようとする2人を見て、

 

「待て」

 

と制止するのは師匠たる星也の務め。その理由を遊介が尋ねると、

 

「そもそも、ジャックと戦うにはライディングデュエルをする必要があるだろう。そしてサテライトタウンで行われる予選に勝ちぬかないといけないはずだ」

 

「それはそうだけど……」

 

「まずはこれを見ろ」

 

星也がノートパソコン型のDホイールメンテナンスデバイスに映っている映像を見せる。その中に映っているのはまさしく、キングのデュエルの様子だった。

 

ジャック・アーロンが敵を圧倒的に倒していく映像。それも1つだけでなく数多く。

 

「どうだ?」

 

「なんと言うか、圧倒的フィールだな……」

 

「さすがジャックだぜ」

 

子供並みの感想しか出ない2人にため息をついた星也だったが、それを水に流し必要な助言を行う。

 

「お前らはこれと戦うと言っている。スターダストを使った俺に瞬殺されている程度では話にならない」

 

「まあ、そうだけどよ……」

 

ユーゴは痛い指摘を受けて、返答に困る。それは当然遊介も分かっている。ジャックは強力なドラゴンを使役し圧倒的なデュエルを人々に見せる。それに圧倒されていてはただの雑魚デュエリストということになり、夢も叶わないというものだ。

 

今で、彩を、そして良助を救うという夢は諦めていない。

 

星也は覚悟だけは一人前のひよっこ2人を前に言う。

 

「今日からは俺と徹底的にデュエルだ」

 

「え?」

 

「俺にまぐれでも勝つまでやる。せめてそれくらいじゃないと話にならないからな」

 

「勝つまでって、俺ら星也さんのLP1000削るのが限界」

 

「その程度じゃ話にならない。後はお前達の軟弱なフィールをもっと出力が出るようにしないと、ジャックに隣走られるだけで転倒しかねない」

 

星也のこの言葉をきっかけに、遊介とユーゴはさらに厳しい修業へと身を投じていくことになる。

 

 

 

サテライトタウン、キングとの対戦権を賭けたデュエル公式大会。

 

そこでは2人のデュエリストが猛威を振るった。

 

1人は、煌めく翼をもつ竜を従えたデュエリスト。

 

もう1人は、戦士族と機械族の混合デッキを使うデュエリスト。

 

その2人はサテライトタウンの中で圧倒的な戦績を残し、他のサテライトタウンデュエリストを寄せ付けない。

 

そしてついに、その2人のデュエルが始まる。

 

勝者がジャックと戦うのだ。

 

「遊介! 手加減なしだぜ」

 

「ああ、ユーゴ。お前の竜は俺に跪くことになるだろうな!」

 

2人はDホイールに乗って、審判の号令と共に走り出す。

 

「スピードワールド10セット!」

 

『デュエルモードオン・オートパイロット・スタンバイ』

 

「ライディングデュエル・アクセラレーション!」

 

この世界でのデュエルは風と共に在る。

 

Dホイールでモンスターと共に地を駆けながら、互いのフィールをぶつけ合う決闘。当然Dホイールの故障や破壊、搭乗者が落ちたりしても敗北となる。

 

高速の世界で、カードを操りぶつかり合う。

 

ここでの勝者が、キングと戦うことになるのだ。

 




というわけで、番外編の最初はシンクロ遊介の過去編です。
ノリとしてはクラッシュタウン――嘘です。

遅くなって申し訳ありません。
一応プロットを考えて書き始めたのですが、最初に考えたものだと話が長い+遅いという感じになりそうだったので、スピーディーに話を進めるために、内容をすべて変更して書き直していたので11月に入っての投稿になりました。

次回から番外編本編に入りますが、シンクロ世界番外編の投稿は12月末完結を目指しています。しかし、本編に関わる内容でもあり、シンクロ遊介がどのような経緯でリンクヴレインズに来たのかがわかる話にするので、所詮番外編やろ? と思わずお付き合いいただけると幸いです。

一応、どんな話になるかというと話をすると、ダークシグナー編を参考に、オリジナル展開で話をしようと思っているところです。

がもしかしたら変わるかもしれません。まだ迷っているところが多い現状です。




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