アイドルになった元カノと、プロデューサーになった元カレが再会するお話 (ウサミン星の隣の惑星の住人)
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アイドルになった元カノと、プロデューサーになった元カレが再会するお話

俺「安部菜々いいよね……」
友「いい……」
俺「菜々さんが職場でばったり元カレと会って昔に戻っちゃうのいいよね……」
友「いい……」
俺「見たくない?」
友「はやくかいて やくめでしょ」
俺「イクゾー!」

という経緯から誕生した小説です。
色々と突っ込みどころはありますが、軽い気持ちで見て下さい。
あ、話の都合上菜々さんが昔男と付き合ってた設定なので、その手の設定が苦手な人はブラバ推奨です。

追記
オマケ追加しました。ウサミンの視点が無いやん!! どうしてくれんねんこれ!! と気が付いたので。
つい長編のクセが出てしまいました。本当に申し訳ない。


それは、偶然の再会だった。

ばったりと、古い友人と出会った。

 

「あ、菜々……」

「あ、啓介くん……」

 

彼女がアイドルをやっているのは知ってたが、まさか同じ職場とは思わなかった。

彼女だってそうだろう。

俺がプロデュース業についたとは知っているが、まさか同じ職場とは思ってなかったに違いない。

 

しどろもどろになりながらも、何とかして言葉を紡ぎ出す。

 

「あー……その……元気?」

「えっ、あっ、うん。元気だよ」

 

……終わった。

それだけで会話が終わってしまった。いかん、いかんぞ。

どうする──? このままではお互いに支障をきたす。

と、思っていると彼女から救いの手を差し伸べてくれた。

 

「まぁ……その……色々あったけど……今の菜々はウサミン星人だから! あなただってプロデューサーですよね、"八木さん"!」

「あ、うん……そうだな! うん! じゃあまたどこかで。"安部さん"」

「はい、またどこかで」

 

まぁ、元気そうだし、楽しそうだから問題無いみたいだな。腐れ縁として、それだけは知っておきたかった。

相変わらず可愛らしい笑顔を見せる菜々に手を振って、仕事場へと戻る。

 

けれど──

 

「あいつ前とあんま変わってねぇな……今年もう2……いや、やめておこう。あいつは、安部さんはウサミン星人、永遠の17歳なんだ。決して菜々は20ピー歳じゃない……」

 

俺もそこまで老けてないとはいえ、髪型くらいしか変わった所のない菜々を見て少し驚いたというのは、仕方ない話だろう。

 

 

 

俺は八木啓介。

今年で三十路が結構間近に迫っているプロデューサーだ。

昔は学者を目指してたが、まぁ色々あってこっちの道に来た変人とでも思ってくれ。

で、今は……

 

「八木さん、山羊の角着けてみません? ヤギだけに……ふふっ」

「それ学生時代でよくネタにされた奴だし、文化祭で本当にヤギ角着けましたよ高垣さん」

 

ちょこちょこ暇そうに絡んでくる、担当アイドルの高垣楓氏に懐かしいイジられネタを振られていた。

レッスンも終わって、しばらくは暇だからと何故か俺の仕事を見に来たのだ。

 

「というか、別に俺の仕事なんてつまらないでしょうに。他の子と絡んで来たらどうです? その方が楽しいでしょう」

「いいんですよ。私はプロデューサーの仕事を見てるのが好きですから」

「変わってますねェ……ま、構いませんが。でもせっかくの暇な時間棒に振っても知りませんよ」

 

言っちゃあアレだが、高垣さんは何というか……ミステリアスなのだ。すごく。

けどもそんなに近付きがたいというわけでもないし、別になんちゃないんだけどさ。

 

……キリもいいし、ここらで一息入れるか。

キーボードを打つ手を止め、伸びを一つ。バキバキと音が鳴る。

 

「むぅ……俺も老け始めたか。運動が一時間も出来れば御の字なんだが……」

「あら、菜々さんみたいな事を言うんですね」

「そこは突っ込まないでおいてあげましょうよ。ほら、ウサミン星人ですし」

 

「そうでした」と言いながらクスクスと笑う高垣さん。どうもウサミン星人の響きが気に入っているのか、聞くとついクスッと来るんだとか。

……あいつ、昔っからウサギ好きだったなぁ。ホント変わってねーこと。

 

ふとそう思い、ふっと笑って振り払う。いかんいかん、俺は高垣楓のプロデューサーなんだ。安部菜々の友人だった八木啓介じゃないんだから。

 

「ところで八木さん」

「はい?」

 

……だが。

 

「菜々さんで思い出したのですが、私と初めて会った頃、よく『ナナ』という名前の友人の話をしてましたよね」

 

あっ。

今更思い出した事だが、しかしそれは嫌という程鋭い刃になって襲いかかる。

高垣さんが何でもないように尋ねた事が、俺にとってはいかんのだ。だって俺と菜々はタメ。つまり俺の年齢=菜々の年齢でボカしていた部分が明らかになってしまう。

それに加えてアイドルの男友達ってなんかこう……ね? いかんでしょ、うん。いかん。

 

俺は担当が違ったから先週まで気付かなかったが、よく調べときゃ良かった。というか想像出来るか、まさか同じ職場なんて。

 

「あ、あー。それはですねェ……安部さんのことじゃなくて、名前が同じ友人がいるんですよ」

「……何か隠してませんか?」

「ほ、本当ですって!」

 

ジト目を向ける高垣さん。

いや本当勘弁してつかぁさい。

 

「菜々さん、コーヒー豆の種類とか入れ方について詳しかったんですよね」

「そ、それがどうかしたんです?」

「よく見せてもらったら……不思議な事に八木さんが入れてくれたコーヒーとほとんど同じ入れ方をしたんですよね」

「所詮コーヒーの入れ方ですよ? というか憶えててくれたんですね。酔ってたから忘れてたと思いましたよ」

「とても饒舌に語っていたものだから、つい憶えちゃいました。もっと言えば味も。整え方はミルクで、ガムシロと砂糖は可能な限り入れない……ですよね」

「えぇ、ええ。確かにそう言いましたね」

「菜々さんも同じ事を言ったんですよ。そしてこう閉めました。

 

『全部友達のコーヒー好きから教えてもらった事なんですけどね。よくナナに言ってたんですよー、コーヒーはブラックで飲まなきゃ豆に失礼だとか』──

 

これ、全く同じことをこの前言ってましたよね。コーヒーはブラックで、でないと豆に失礼だ。それに美味いコーヒーは味を整える必要すらない……って」

 

──あ、終わった。

完全に気付かれてる。もう誤魔化せない。昔菜々にコーヒー出した時にそんなこと言ったわ。

ま、まぁアレを言わなきゃ良いだけの話だし……

というかなんで俺は隠そうとしたんだろ。恥ずかしいというわけでもあるまい。

 

まぁ、バレたのが高垣さんだった事が幸いか。

 

「もしかして、その"ナナ"さんは……」

 

もはや隠しようもないのでおとなしく白状した。

 

「それ、あんまり言わない欲しいんですけど……事実です」

「まぁ。中々の名推理だと思うのですが」

「ナかナかだけに?」

「あ、そういう考えもあるんですね。けど、別に隠す事でもないじゃないですか。友人でしょう? それにプロデューサーとアイドルだし、親しくてもそこまで……」

「いやほらね、最近何かとあれでしょ。どんなクソ情報でも迷惑になるような事は避けたいんですよ。やっと、あいつの──菜々の夢が叶ったんだから」

 

そう言うと、高垣さんは少し表情を変え、しかしすぐに笑顔を見せた。

 

「大丈夫ですよ。私はプロデューサーの味方ですし、それに口も硬いですから」

「ホント、お願いします……」

 

とはいえ、明らかになるのは最小限に留めておきたい。

俺も気をつけるとしよう。

 

「おっと、そろそろ時間じゃないんですかね」

「そうですね、向かうとしましょうか。菜々さんとのお話、今度聞かせて下さいね」

「それはプライベートでね、高垣さん」

 

ある程度訓練しておかんとな……

部屋を出て行く高垣さんを見送りつつ、俺は再び自分の仕事に打ち込むのだった。

 

 

■■■■

 

一方。

 

「へ? ナナと八木さんの関係ですか?」

 

渦中の安部菜々は当然、そんな事はいざ知らず。

マイペースに、いつも通りに過ごしていた。

 

「あれだけ目で追ってたり、顔を合わせれば特に何も言う事もなく軽く手を挙げるだけだし、なんかあったんじゃないかなって。ほら、男女のアレ……とか」

「あ、ナナは永遠のアイドルなのでそういうのNGですから安心して下さい」

「やっぱり? 菜々さんキャラ作りもしてるしあり得ないだろうなーとは思ったけど」

 

まぁ知り合いか何かだったのだろうと適当にアテを付けた速水奏は、菜々の反応を見つつ少し落胆する自分に気が付いた。

小悪魔系ではあるが、実際に恋愛などした事がない彼女にとって、それが真実であって欲しかったと少し望んでいたのだ。知りたい、という欲求もあった。

 

「あ、でも友達ですよ八木さんとは」

「昔の?」

「昔じゃなくて最近です」

「……本当?」

「えぇ、意気投合して友達になりました。ウサミン星人の何たるかを分かってくれたんですよ!!」

「そうなんだ」

「そうなんです」

 

普段と一切変わりない調子で答えるが、その実、菜々の内面は──

 

(あっっっっっぶなっ!!! めっちゃ焦りましたよ!! 最近の子たち勘やばないですか!! やばたにえん!! 助けてタキシード仮面様ですよもう!!)

 

果てしなく焦っていた。

 

(まぁでも啓介くんと友達になったのはつい最近っていうのが、あながち嘘じゃないですからね。奏ちゃんには悪いですが、オトナのやり方ではぐらかせてもらいますよ……!)

 

菜々にとっても、啓介にとっても。

彼らの過去の関係は、絶対に誰にも知られたくない。

全て想定外だ。

お互いがお互いに影響を受けたとは言えども、しかし職場が同じなどあり得ない確率の話だった。

 

だがあり得てしまった。

ので、彼らはこうしてなんとかはぐらかす。

 

何故ならば。

 

 

(言えない……啓介くんと学生の頃付き合ってたなんて!)

 

 

……この二人、実は昔付き合ってたのだった。(やる事はやっていない)

 

4年程付き合い、別れたのは大学前。

菜々がアイドルを目指し続けると決意したからこそ、彼らは素直に別れた。

 

が。

 

いくらなんでも夢が叶った後に、夢のために別れた男と夢の舞台を叶えてくれた職場で再会するというのはあまりにも嫌な話ではないか。なんか。

 

結局、彼らはそんな理由でひたすらに隠すのであった。

 

 

■■■■

 

 

あれからしばらく経った。

千川さんと先輩と俺とで、あれこれと打ち合わせなりなんなりを終わらせた後の話だ。

俺や先輩以外にも、もちろんプロデューサーはいるが、なんで俺が一人だけなのかというと高垣さんのスケジュール調整とか色々忙しくて、中々打ち合わせに参加出来なかったのだ。

この打ち合わせには346プロのアイドル全員を動員して、何か出来ないかということの意見交換みたいな面も含んでたけど。

 

さて、そんな打ち合わせも終わって、見知った人しかいない上に連日の疲労で結構フワフワしている。

早く帰って寝たいとか思いながらも、たまにはまた三人で飲みの誘いとかしちゃおっかなーとか考えていた……のだが。

 

「そういえばこの前、菜々さんがコーヒーを出してくれたんです」

 

そう先輩が切り出した時、遂に来たか……!! と戦慄する。

菜々にコーヒーの入れ方とかを教えたのは俺だが、あいつはスカウト前は地下アイドルやりつつメイド喫茶にいた!! だからバレはしない……だってまだ先輩や千川さんにはコーヒー出してないし!!!

 

「菜々さんは本当に、なんというか家庭的ですよね。支えてくれる感じとか、包容力とか」

「彼女は確かにそちら寄りだと思います。アイドルとしてではなく、素だとですが」

「へぇー、そうなんですか。俺は安部さんとは最近仲良くなったばかりなので知らないんですよね」

 

差し障りのない反応だった筈なのに、何故か二人が怪訝な顔をする。

どういうことかと理由を尋ねようとして、ふと気が付いた。

この前高垣さんから言われた事だ。

 

『八木さんは苗字呼びですよね、菜々さんの事。346プロで彼女を苗字呼びする人はかなり少ないんですよ』

 

……これだ。

思い当たったと同時に、先輩が尋ねてくる。

 

「啓介さんは、菜々さんの事を苗字で呼ぶんですね」

「えぇ、はい。最近仲良くなったばかりですし、やはり線は引いておくべきかと」

「名前で呼んでくださいとは言われなかったんですか?」

「いえ、特には。先輩はもしかして言われた口で?」

「えぇ。彼女を担当する事になった時に」

 

変に疑われても困るし、本当の事を言うかと考え始めた。

二人と最近は話す機会が少なかったし、知っていればまた対応も変わるだろうから……と思った、その矢先。

 

「ねぇ、啓介くん。ナナだけど……!?」

「おまっ、菜々!?」

 

話題に出た人が、来た。

 

 

 

「えぇと……つまりアレですか」

 

困惑する千川さんと先輩の前で、菜々と揃って正座しながら苦笑する。

 

「二人はその……偶然にも同じ職場に入った元カレ元カノの関係と。しかもそれをお互いに知ったのはごく最近」

「「はい」」

「八木さんの方が先で、菜々さんのスカウトが後だから本当に偶然です」

 

俺の室で打ち合わせをしていた事が災いしたのか、幸運だったのか。

割と遅い時間だったから、菜々は俺と久しぶりに食べに行くつもりだったらしい。

だから完全にキャラを崩して声をかけながら入ったら……ということらしい。

 

「まぁ、終わった関係とは言え気をつけてくださいね。いくらでもなっちゃいますから」

「わかりました」

「アイドルだから恋愛とかしません!」

 

いや恋愛とかしませんって……

 

(昔思いっきりしてた癖に)

(そういうこと言わない!)

 

小声で突っ込んだら脇に手刀を入れられた。痛い。

そんな様子を見てた二人は、なんだか微笑ましそうにしながら──千川さんが恐ろしい事を言った。

 

「こちらはプライベートな話なんですけど……お二人はどんな感じだったんですか?」

「た、助けて啓介くん!」

「ごめん菜々! 俺も無理! 先輩!!」

「ちひろさん、疲れてるのはわかりますからやめましょうよ」

 

どうやらちひろさんは今日休憩とってなかった模様。

この後四人でめちゃくちゃご飯食べた。

 

 

 

「家まで近いのかよ」

「もうここまで来ると運命って怖いね」

 

二人と別れた後、菜々と帰る方角が同じだからと同じ電車に乗ったら、同じ駅で降りるというミラクルを体験した後にこの展開である。

俺と菜々の家はコンビニ1軒分くらいの距離だった。

 

「えっ何俺お前がビールとつまみ買ってる姿見るのやだよ」

「あたしだってやだよ」

「じゃやめよう」

 

あとは帰るだけなのだが。

どうしてか少し寂しそうな顔をする菜々を見て、俺はついこんな事を言った。

 

「ウサミン星人だっけ? お前が楽しそうで、嬉しそうで、何よりだよ。夢、叶ってよかったな」

「啓介くん……」

「今度はアレだ、その……ステージで踊ったり歌ったりする姿を見せてくれよ。楽しみにしてっから」

「──うん!」

 

満遍の笑顔を見せる菜々。

そんな姿に安心して……だが高垣楓のプロデューサーとして、言葉を紡ぐ。

 

「でもウチの高垣さんはそう簡単には負けないからな! んじゃ、おやすみ!」

「ナナを手放した事、後悔するくらいにすごくなってみせますからね! じゃあ、おやすみ!」

 

不敵な笑顔を見せ合い、軽く手を上げて別れる。

俺は高垣さんのプロデューサーだが、なんとなく、個人としてはウサミン星人ナナのファンになろうかと思った。

まぁでも、高垣さんのファン1号みたいなもんだし、菜々には悪いが、それはしばらく後になりそうだ。

 

 

■■■■

 

 

(心配は杞憂に終わりましたか)

 

後日。

楓は菜々と接する啓介の様子を見ながら、一安心していた。

もちろん、昔の関係が面倒な事になる事はなさそうだ、という安心が強い。だがそれよりも──

 

(八木さんは"私のプロデューサー"ですから、取られるかもと思ってしまいました)

 

復縁するのでは? という心配が消えたという事が実のところ、嬉しかった。

楓と啓介はデビュー当時からの付き合いで、プロデューサーの啓介は、楓からすればより素晴らしい舞台へと導いてくれた恩人だ。

 

だからこそ自分の魅力で魅了したいし、誰よりも輝いている姿を見せたいと思う。

 

そんな人物の目が別のアイドルに向くなど……アイドルとして、いや人として嫉妬とか心配とかする方が自然だろう。

 

「ですが……」

 

だが。

それはそれとして。

 

「あれ? 菜々さん、あたしなんか紙で指切ったみたい」

「ちょっと待っててくださいね美嘉ちゃん。ナナがすぐにバンーソーコーとマキ◯ン取って来ますから!」

 

「……あれ? 無い? 啓介くーん、バンソコと消毒液知らなーい?」

「あ? バンソコと◯キロン? ちょっと待ってろ菜々ー。すぐ持って……」

 

「啓介くんと……菜々……? もしかして、二人って……」

 

「あっ、あのね美嘉ちゃん! ナナと八木くんそんな関係じゃないから! ただの昔馴染みだから!!」

「そうそう! 幼馴染ですからね姉ヶ崎さん!! はいバンソコとマ◯ロン!!」

「え──えっ!?」

 

「うっかりボロをボロボロ出すのが、余計酷くなってる……うっ、となっちゃうわ」

 

安心感からかやけに昔の態度に戻っている二人を見て、世話が焼けるなぁ……と感じた楓は、混乱する状況を収めるべく足を進めるのだった。

 

 

 

オマケ:その後のウサミン

 

 

みなさんは過去に置いてきたはずの出来事と遭遇したらどうなりますか?

驚くとか、まぁ色々あるでしょう。実際ナナもえらく驚いた事あります。

 

けど。

 

どうして……ナナはアイドルになった後に、元カレと再会してしまったのでしょうか……!?

 

いやホント。

どうして? なんで? ゴルゴムの仕業? それともウサミン星人になった代償でしょうか?

 

色々と複雑極まりない感情と羞恥心とかのおかげで、ウサミン星から郵送される特別なジュースを飲む手が止まりません。

 

「あ、あのー……菜々さん? 確かに明日フリーですけど、そんなに飲むのは──」

「ちひろさん! わかりますか! ナナがあんなに頑張ってる姿を10ピー年前からの友人ッ!!! しかも弱さも何もかも見せた元カレに見られてッ!!! 挙げ句の果てに今の今まで気付かなかった!? ひどいでしょう!!」

「で、でも菜々さん気付いてもらえてよかったじゃないですか!! わたしなんてプロデューサーと入社以来の仲なのに未だに……」

「え?」

「あれ?」

「……その話、初耳なんですけど」

「……忘れて下さい」

「……まぁ、人間誰しも辛い時ありますよね」

 

あまりにもむごい話題を無理矢理切って沈黙。

ちひろさんも大変なんですね……プロデューサーも少しは気付いたっていいんじゃないですか。

……まぁでも、プロデューサー結構カタブツですから、気付いて気付かないフリしてそうですけど。

 

「で、何の話でしたっけ」

「菜々さんと八木さんって何がきっかけで付き合ったんですかって話をしたらこうなっちゃった感じです」

「そういう感じですか。んー……ナナと啓介くんが付き合ったのは、ただの実験ですかねェ」

「実験?」

 

不思議な表情を見せるちひろさんに、ナナは昔の事を思い出しながら説明しました。

 

「人間、付き合ってみたらどう変わるかって事にお互い興味があって。親友みたいなもんだったから、そのノリでこう」

 

実際結構長い付き合いだし、そろそろそんな風になってみようか! みたいな感じで付き合ってみても、何にも変わらなかったんですがね。

 

「やる事やったんです?」

「友達の延長線だったし、ナナの憧れが本気になったのもその辺だったからやってないですよ」

「ホントに友達……」

 

……まぁ、軽めのものの一つや二つはしましたケド。

でもそれはそれ、これはこれ。

今のナナはアイドルなんですから。

 

しかしと……慣れてないからですかねェ。

おさ……ジュースが前ほど飲めなくなってきましたのでここから無限に枝豆食うマシーンへと変貌しましょうか。

 

「で、ばったり出くわした時はどうでした」

「いやもう、二人してファンや同僚に見せられない顔になっちゃいましたよ。でもそれは一瞬だけで、あとは最近の感じで」

「最近うっかり名前で呼びあってますよね。よく他の子から聞きますよ」

「うっ……ウサミン星にいた時のクセが抜けないんですよ」

 

この前なんて美嘉ちゃんの前で……思い出したら恥ずかしくなってきました。

気が抜けてうっかり……なんて笑えませんよぉ。まぁ、会うのはプロダクション内だけですからなんとかセーフですけど。

ただの幼馴染とか色々言い訳つきますけどねえ、どうにも……

 

「そういえば、菜々さんは楓さんとよく一緒にいますよね。共通の話題的なアレですか」

「共通の話題的なアレに近いですけど、普通に楓ちゃ……楓さんとはお友達ですよ。この前は美味しいお店に連れてってもらいました」

 

まさかナナに対して「負けませんよ」って来るとは予想外でしたけどね。

彼女は啓介くんが担当ですし、その手のところで思うものがあったんでしょう。逆だったらナナも多分対抗心的なサムシング燃やしちゃいそう。

 

「ちなみに顔を合わせる前は?」

「連絡も取ってなかったですね。ナナが地下アイドルやってた頃に、啓介くんがプロデュース業に就職したーってお母さんから教えてもらったのが最初で最後だったかな」

「めっちゃ疎遠じゃないですか」

「疎遠でヘンですかね。所詮が……ウサミン星の頃の付き合いですよ?」

「あー、私もあまり人のこと言えなかったです」

 

でも家まで近かったのはリアルガチでもうアレでしたね、二人して嫌になりましたね。

 

「……まぁでも、夢を応援するからこそ身を引いてくれた人が、結構近くで見られる場所にいてくれたっていうのは、嬉しいですけどね」

「それ惚気ですか」

「惚気じゃなくて感謝の気持ちですよ!?」

 

お互い復縁するつもりも無いし、ナナも八木さんも、アイドルってものに夢中だから。

 

……でもボロを出さないように気を付けないといけませんね。

 

啓介くん呼びしちゃってから、莉嘉ちゃんまでそう呼ぶようになっちゃいました。なんかモヤっと来ます。

うーん。ナナ嫉妬深いつもりも無いんですけどねェ。

今度、楓さんに聞いてみますか。ナナそういう経験あんまりないんで。

 

「あ、今すごくオトナな顔してます。今度そういう方針の写真撮ってみません?」

「キャ、キャラ的にナナより文香さんとかの方がいいんじゃないですか。ほら、キラキラ可愛い系ですから」

「イメチェンしてもいいと思うんですけど……17歳とは思えない色気でしたよ」

「余計ダメです!」

 

い、色気はちょっと……

ただでさえ最近、みんなからたまに色っぽいって言われてるし!

行き場のないこの感情は、あとで啓介くんに言ってやろっと……




先輩っていうのは武内Pの事です。
書きたいもん書き切ったので続く予定とかは無いです。


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