西住みほは鋼の心を手に入れたようです (アイガイオン)
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プロローグ 闇から生まれた歪な光
撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し。鉄の掟、鋼の心。
私がずっとずっと言いつけられてきた、西住流の教え。
それを基準に考えれば、なるほどあの時の私の行動は間違っていたかもしれない。
己の感情のまま、無我夢中で動いた結果が、今のこの状況に繋がっているのだろう。
では、一つ問いを立ててみよう。
チームの、家の、流派の教えに背いたからか?
全てはあの決勝の舞台で、敗北したことが原因なのだ。
「なら……」
そうだ。単純な話じゃないか。
勝つことこそが最大の目標だというなら。それ以外が邪道だというのなら。
「勝てばいい」
要は勝てば、正しいのだ。
「勝てばいい」
ならば、私が為すべきことなど、あきれるほどに瞭然ではないか。
勝てば全てが許されるなどと、そんな傲慢な考えは毛頭ない。
己が矛盾していることも、重々承知。
だがそれでも、己がここで足を止めてはならないと、そう思ったのだ。
だって、世の中には
運、才能、生まれ育った環境と、世界はどこまでも不平等で理不尽だから。
そんな人たちに報いるために。彼女たちのこれまでの道程は、決して無駄ではないと示すために。
私は決して諦めてはいけないと、強く思うのだ。
だって、私には
その証拠に、今も私は微塵も諦めていないのだから。
チームメイト、姉、母――今まで私を誹り、非難し、あるいは見捨てた多くの人の顔を思い浮かべながら、しかし私の心には細波一つ生まれない。
私の敵になるなら、それで構わない。あの時の私の行動は、確かに指揮官として無能の誹りを受けても仕方がなかったと自覚している。
だがそれでも、それでも、それを理由に足を止めることだけはしてはならないと、己を強く戒める。
「――そう」
もはやこの学園艦に私の味方はいない。だが、それがどうした。
そう、呆れかえるくらい
「“勝つ”のは私だ」
勝ち続けると、己の信じる道を往くのだと、そう決めた。
救いも情けも、総じて無用。
私は私のやり方で、あの日の出来事に始末をつける。
「叩き潰す。黒森峰も、西住流も――否。私の前に立ちふさがるなら、誰であろうと」
――よってここに、歯車は致命的な狂いを見せる。
光を信奉しながら、しかし根底にあるのは過去。
鋼の心は、その実折れた己を守るための防壁でしかなく。
しかし、持って生まれた才能――ただそれのみが、彼女を――西住みほを無理矢理立たせている。
力学的には自立するはずのない建物が、強引な支えによって崩れずにあるように。
その在り方はひどく歪で、ひどく哀れだった。
みほは本質的に光側ではないので、このまま進めば必ずどこかで壊れます。
なおそんな場合でもさらに正しい(間違った)方向へ進み始めるのがマジモンの光の奴隷メンタリティな模様。
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第1話
光ってやっぱいいなあ(ガンマレイキメー)
飾り気のない自室の天井を見上げながら、西住まほは今日一日のことを想起していた。
あの決勝戦。みほは確かに私たちの敗北に直結するミスをしてしまった。だが、それだけが理由などとは口が裂けても言えない。
そもそもあのような足場の悪い地点を通るよう指示を出したのは自分だ。そのような状況を作ったのも自分だ。
だというのに、母も、チームメイトも、そしてどこの誰とも知れぬ世間の風潮も、皆一様にみほだけを糾弾し続けている。
「……っ!」
それを浴び続けている妹のことを想うだけで、知らず知らず拳を強く握っている自分がいた。
今のみほには、支えてくれる仲間が一人もいない。それは厳然たる事実であり、そして黒森峰と西住流の在り方を鑑みれば、非常に口惜しいが当然の流れなのかもしれない。
黒森峰の隊長として、そして西住という家の跡取りとして。自分は
そんな無力な自分が、何より憎らしくて仕方がない。
「ならば――」
そんな自分が今できること、今為すべきこととは一体何だ。
西住流の後継者、黒森峰の隊長――それらの飾りで覆い隠された、西住まほという一人の人間が、人間として、そして何より、あの子のたった一人の姉として、為すべきこととは――
「私は、おまえの――」
その答えを口にしようとした、まさにその時。
「お姉ちゃん、いる?」
部屋の扉を叩くノックとともに、妹の声が聞こえた。
そしてそれこそ、更なる混乱と憔悴の日々の始まりを告げる烽火だったのだ。
「み、みほ。おまえは一体、何を言っている?」
眼前で日ごろの鉄面皮からは想像もできないほど狼狽した私の様子を眺めながら、みほは淡々と答える。
「全部そのまま、言った通りだよ。お姉ちゃんはこれからも
それは、つい先ほど決めた覚悟を見透かしたかのような内容だった。額面通りに受け取れば至極真っ当で正しいのに、それを言っているのは当事者も当事者、渦中の人物であるみほ自身。しかもその
「――っ!おまえは、おまえは自分の言葉の意味が分かっているのかッ!?隊長?後継者?ふざけるなッッ!私は、私は――」
「――もう一度だけ、言うよ」
冷や水を駆けられたかの如く、私は凍り付いた。
違う。目の前のみほは、今までとは決定的に何かが違う。
「自分の務めを果たして。近いうちに私はお姉ちゃんの敵になる。その時チームがバラバラじゃ、本当の意味で私の目的は果たせない。西住流次期後継者が指揮する最強の黒森峰を、私は真っ向から叩き潰す。そうすることでこそ――」
これは何だ。言っていることはどこまでも真っ当なのに、なぜみほのことがこんなにも恐ろしい?
開き直りでも、自棄になっているわけでも、まして立ち直ったわけでもないのに、どうしてこうも
そしてそれを、誇ることも喜ぶことも一切せず、ただ当然のように話すおまえは一体、どうしたというのだ。
「――西住流に、ひいては戦車道の世界に蔓延る勝利至上主義を消し飛ばすことが出来る。もう二度と、戦車道の中で涙を流す人が生まれないように」
そんな大言を、なぜそうも当然の未来だと言わんばかりに顔色一つ変えずに語ることが出来る?
「自分の矛盾なんて、全部承知の上。勝利を以て勝利を求める価値観を壊すなんて、狂っていると自覚してる。それでも、ここで足を止めて一体何になるの?」
言葉に込められた熱量――魂が、まるで物理的な圧力を持っているかの如く肌を刺す。
文字通り、みほは本気だ。本気で夢を語り、本気でそれを成し遂げんとしている。
「
「諦め?逡巡?そんなものはいらない。だからお姉ちゃんも、好きにしてほしい。力でも、言葉でも、どちらでも全力で尽くせばいい。だけどそれでも絶対止まらない」
その光に、私はただただ圧倒されるばかりで言葉が出ない。そんな私をどこまでも真っ直ぐな瞳で見据えながら。
「――私は負けない。バイバイ、お姉ちゃん」
みほが背を向けて去る。去ってしまう。
待て――――待ってくれ、みほ。おまえは一体、
その背中に手を伸ばしても、既に手遅れだった。
ぱたん、と扉が閉じられる。
後を追うことは、なぜか出来なかった。
光の奴隷・亡者の特徴其の一
・割と言ってることは真っ当なことが多い
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第2話
文字数も安定しない。書きたいときに思うまま書いているからこんなことになるんですよね。
西住まほとの、そして黒森峰との決別から月日は流れ、大洗女子学園で新年度を迎えた西住みほは眼前に広がる
現実とは誰かの予測通りに進むことなど全くと言って良いほど有り得ない。それは己の道を見つけ、
だが今回の場合、想定外の事由はみほにとってはある意味で僥倖と呼ぶべきものだろう。
戦車道の復活。誰もやらないなら自分がやる予定だったのだが、良い意味で当てが外れた形になった。
(だけど、あまりに性急すぎる。大洗は確かに戦車道をやっていた過去はあるけど、二十年以上も前に廃止されている。当然、戦車道分野での実績もない。それは私が転校先を選ぶ際の
プロモーションに続いて始まった履修に関するオリエンテーションなどそっちのけで、みほは現状の分析を開始していた。
(ならば裏には、間違いなく戦車道を
この時点で、みほは大洗に突如として降りかかった何かしらの脅威若しくはそれに類するものの正体をおおよそ掴んでいた。
「……なるほど。これは
そしてそれは、みほにとって新たな手札が増えたことを意味していた。
「ねえねえみぽりん。さっきからどうしたの?」
「ふえ?」
目まぐるしく展開される未来予想は、隣からの声によって止められていた。
「もー。オリエンテーションくらいしっかり聞いておかないとダメだよ?」
声の主――武部沙織がぷんすかといった様子で話した内容を聞いて、初めてみほは己がかなり深く思考に没頭していたことに気付いた。反対側では、やはりこの学園艦に来て出来た友人の五十鈴華が、あらあらと言った様子で自分たちを見つめている。
そして同時に、沙織が言うオリエンテーションなるものの存在にも始めて気付いた。当然、話を聞いていなかった自分には何のことかさっぱり分からない。
「えへへ。……ごめん。聞いてなかった」
己に非があるならばしっかり認める。これはとても大切なことである。
なお、この後の履修選択では三人ともしっかり戦車道を選択した。
履修用紙を提出したその日の放課後。みほは迷わず生徒会室へと足を運んでいた。沙織と華も同行を申し出たが、今回に関しては込み入った話になる可能性が高いため、申し訳ないが断っている。
「失礼します」
アポイントメントはすでに済ませてある。扉を叩き、一礼して入室したみほを迎えたのは、当然だが生徒会の面々である。
(生徒会長の角谷杏さんだけ、か。事前に聞いた限りでは、多少問題はあってもこの学園と生徒に対しては非常に真摯だとおおむね良い評判だったけど……)
百聞は一見に如かず。自分自身で確かめもせずに人を決めてかかるなど愚の骨頂。今より始まる会談でその正体を確かめる。
(その予定だったけど――)
思わず笑みを浮かべてしまう。
「やーどうも。待っていたよ西住ちゃん」
気だるげに椅子に腰かけてこちらを見やる生徒会長。一見すればやる気がなさそうに見えるが、みほには分かる。
この人は、
「いやー。戦車道履修してくれて助かったよ。西住ちゃんがいるなら百人力だ」
「その口ぶりから察するに、貴女は私のことを知っているんですね」
「まーね。こっちとしても色々あるから、西住ちゃんが戦車道選ばなかったらどうしよっかなって思ってたけど、杞憂だったみたいで助かったよ」
「色々、ですか」
「そ。……ねえ、もう腹の探り合いはやめない?」
こちらの考えていることなど、向こうも織り込み済みということか。
「ふ、ふふ――」
「ふふ、ふふふふ――」
思わず私たちの口から笑い声が漏れた。最初は小さく、しかしだんだんと大きくなっていったそれは、やがて生徒会室に響き渡る哄笑となっていた。
「ふふふふふふふふ、ふふふふふふふふふふ――!なるほど、なるほど素晴らしい!……単刀直入に聞きましょう。戦車道復活、その裏にあるものとは一体何ですか?」
「この学園艦、そしてそこに住まうみんなの未来。それを奪われるなんて、あたしは絶対に認めない。だから、絶対に全国大会で優勝する」
ここで初めて、杏の口調から遊びが消えた。声に宿った熱が、彼女の本気を余すことなく伝えている。
「私一人でもやるつもりでしたけど、本当にこれは僥倖ですね。……いいでしょう、会長。私西住みほは、全霊を以て貴女に協力しましょう。互いの利害が一致している者同士、宜しくお願いします」
「こっちこそ。……さて、それで今日は話をしたいってことだったけど」
「会長の本音が聞けた。それで目的は達成ですよ。戦車道復活の理由についても、これで把握できましたし。……最後に一つ、よろしいですか?」
「ん」
日が沈み始め、徐々に朱色に染まっていく生徒会室。その扉に手をかけ退出しようとしていたみほは、ふと思い立ったように振り向いた。
「私がもし、戦車道を選んでいなかったら――会長。貴女はどうしていましたか?」
自分のことを生徒会は既に把握していた。そして、「戦車道を選んでくれて助かった」と言った。つまり、少なくとも角谷杏は西住流の家に生まれ、黒森峰の副隊長を務めていた自分の過去を知っているということに他ならない。
そして、彼女にはのっぴきならない
ならば一般的には、何としても手に入れたいと考えるのが普通だろう。
「そんなの、決まってるじゃん」
当たり前のように、杏は答える。
「どうもしないよ。選ばないってことは、それが西住ちゃんの選択だったってことじゃん。それについてどうこう言う権利なんかあたしにはないんだから」
「……そうですか」
予想外の、そして予想以上の答えに歓喜の情念が止まらない。
杏は、本気で自分たちの力で高校戦車道を制覇する気だったのだ。自分の存在など、彼女にとってはせいぜい便利な地図程度のものでしかないのだ。自分がいようといまいと、杏の道は変わらない。
なんと真っ直ぐな輝きだろう。なんと素晴らしい気概だろう。
その本気に、思わず見惚れてしまいそうだ。
「でも、西住ちゃんは来てくれた。……まさか、こんなにもカッコいいとは思ってなかったけどね」
「だから、一緒にてっぺん目指そう。そっちにも事情があるのは知ってるけど、西住ちゃんの言う通り利害が一致してるなら問題はないよね?」
「当然です。今の歪んだ戦車道の世界を壊す。高校戦車道の優勝は、あくまでもそのための手段の一つですから」
「……こりゃまた。とんでもないのを味方にしたみたいだねー」
苦笑気味の声に見送られて、生徒会室を後にする。
既にみほの胸中は、ある確信が生まれていた。
「私たちは、優勝できる」
誰が聞いても分不相応な大言壮語と嘲笑するであろう。戦車道の経験者もおらず、備品も何もかも存在するかさえ怪しい無名校が、全国大会で優勝する。
空想上の物語ならいざ知らず、そんな奇跡は現実には起こり得ないのだから。
――だが、近い将来に人々は知ることになる。
本気の恐ろしさを。意志の力の強さを。
「諦めなければ、夢は叶う」
何故なら彼女は光の奴隷。
定めた道を違えることなど、絶対に有り得ないのだから。
会長は完全な光の奴隷じゃないよ!逆境の中だから覚悟決めて頑張ってるんだよ!まあ、光側なメンタルなのは否定しませんが……。
あと、原作とほとんど変わらない描写は基本飛ばしてます。
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第3話
やっぱみんな光好きなんすねぇ~(本当にありがとうございます)
あと、今回原作と比較して若干のキャラ変更があります。なんだか変だなと感じられました方がいらっしゃれば申し訳ありません。
秋山優花里にとって、
いつだったか、テレビで放送していた戦車道の試合をたまたま見たその時から、ずっとずっと戦車が好きで好きでたまらなかった。
地を揺らして走る鋼鉄の戦列。その威容に目を奪われた。
耳を劈くが如く響き渡る砲撃の音。思わず音量を上げて夢中で聴き入った。
手に汗握る白熱した試合展開。知らず身を乗り出して応援していた。
――そして、試合が終わった後のことだった。先ほどまで烈しく争っていた二輌の戦車。勝者と敗者、明確に分かれた二輌の車長が戦車を降りたかと思えば、互いの健闘を称えるように固い握手と抱擁を交わしたのだ。
きれいだと、心の底からそう思った。
礼節を尊び、強く、そして淑やかな女性を育てる。そんな理念に、私は心の底から憧れていたのだ。
そしてそれゆえに、幼い私が自分も戦車道をやりたいと思うのはごく自然な流れだった。自分も、テレビの中の格好いい女性のようになりたい。戦車に乗りたい。
そんな夢を、しかし私は今まで口にすることはなかった。
だって、それがほとんど不可能に近いことを幼いなりに理解していたから。
私の家族は特別な名門ではない。すごいお金持ちでというわけでもない。ごくごくありふれた普通の家族だった。
出身地の近くに戦車道に関われる場所はなく、将来通うことになるであろう高校にも戦車道は既に存在しない。
それでも戦車から心が離れることは一度たりともなかった。どうしようもなく好きだから、それを忘れることなんてどだい不可能なことだった。
戦車に乗れないならばと、戦車関連のグッズを買いあさった。
戦車道の試合の放送があれば、可能な限り観た。
無理なものは無理だからと、現実と夢の間で折り合いをつけて、妥協して、自分にはこのぐらいが相応しいのだと納得して。
そうして迎えた高校二年生の年。何故かは見当もつかないけれど、大洗において戦車道が復活することになった。
その時の私はどう思っただろう?やっと得られたまたとない好機に手放しで歓喜しただろうか?
――否。
はっきり言えばその時の私は、戦車に乗れるという点については確かに喜ばしく思っていたが、戦車道についてはそれほど興味を持てなかったのだ。
それは私があれほど憧れた戦車道の理念が、聞こえの良いお題目に過ぎないと理解してしまったからだった。
だって、見てしまった。
仲間のために危険も顧みず川へと飛び込んでいった勇気ある少女。自分と年齢も変わらないであろう彼女は、
プロリーグから来た解説者にも、マスコミにも、そしてあろうことか彼女自身が生まれ育ってきた家の流派からさえも。
――失望した。そしてなにより、絶望した。
自分が憧れた理想の世界などどこにも存在しないという現実に、
今や戦車道の世界は、言うなれば化物の巣窟だ。
勝者は敗者を嘲笑う。平然と他人を傷つけ、中傷し、そしてそれを恥じることすらない。そんなどうしようもない”悪”が幅を利かせている。
そんな世界に、誰が好き好んで入りたいと思うだろうか?
だから、自分は整備士として戦車道に関わろうと思っていた。戦車道を始めるならば、試合で破損したり故障したりした戦車を修理する整備士は必須だ。そこに関わって、そして時々ちょっと無理を言って戦車に乗せてもらえればそれでいいと、そう思っていた。
――彼女に、西住みほに出会うまでは。
戦車道受講の初日。集まった受講者の中にその姿を見つけた私は、ひどく狼狽した。
彼女こそ、私が戦車道に見切りをつける発端となってしまった事件の当人。私の理想を、たとえそれがどんな結果に繋がろうと見せてくれた人だったのだから。
だから、その日の戦車探しの時間に私は迷わず声をかけに行った。
誰がなんと言おうと、あの日の西住殿の行動は決して間違ってなんかない。
私は、その勇気を尊敬している。
初対面の人に言うようなことではないかもしれない。だけどそれでも、私は伝えたかった。
きっと――いや確実に、あなたの味方は存在する。少なくとも、私はそうなのだと。
突然の不躾で不格好な言葉に彼女は少し驚いた様子だったが、すぐに私の目を真っ直ぐ見つめてこう言った。
「――秋山さん。貴女は、戦車道が好きですか?」
……勿論だと、即答できればどれだけ良かっただろうか。
少なくともその時の私にはその問いに対する答えが見つからなかった。
「……西住殿は、どうなのですか?」
だから、そう返した。この人は私以上に、今の歪んだ戦車道を見てきたのは間違いない。ならば私と同じように、戦車道に失望しているのではないかと思ったのだ。
「もちろん、大好きだよ」
だから、そんな予想外の返答に言葉を失った。その間にも、彼女の言葉は続いている。
「礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育てる。……秋山さんなら、これが何か分かりますよね?」
「……戦車道の理念ですね。ですが……」
「言いたいことは分かってます。……私自身、戦車道の闇の中にいた身ですから。今の戦車道は、歪んでいます。勝利を追い求め、犠牲を容認し、相手への敬意すら忘れ、ただの怪物となり果てた人を、私は見てきました。それはもう、本当に悲しいことです」
「悲しいこと……ですか?」
ここでやっと、私は彼女の言葉が私の予想とはまるで違う内容であることに気付いた。
彼女は決して、私に同情してほしいなどと思っていない。自分が経験した残酷な仕打ちを、まるで科学の実験を眺めるかのように、誰よりも真摯に現実として認識している。
「それが今の戦車道の世界の現状です。でも、戦車道は断じてそんな戦争じみたものじゃない。戦車道が本来あるべき姿は、既にその分野に関わる者ならば必ず知っている先の理念に示されている。それを”聞こえの良いお題目”にしちゃいけない」
「――見せつけてやらなければならないでしょう。互いに助け合い、一丸となって勝利を目指すこと。相手を尊敬し、認め合うこと。戦車道の理念に示されたそれがどれほど美しく素晴らしいものであるかということを」
静謐に放たれる熱い言葉は、まさしく私が失っていた夢そのもので。
「この大洗から、世界に刻み込んでやるんです。不要だと切り捨てられた夢を、現実として確立する。……それが私の求めるモノ」
その熱に、私は幼い子供のように魅せられていた。
言葉が出ない。諦めていた夢の体現者が、今こうして目の前にいることに感動すら覚えていた。
「……もう一度、聞きます。秋山さん――戦車道は、好きですか?」
これはまさしく神託。彼女は自分の道を、初対面にもかかわらず私に打ち明けてくれた。
それはきっと、私の心の底に眠っていた夢の残骸を見つけたから。
私自身もはや失くしたと諦めていたそれを、この人は拾い上げ、そして再び私の目の前に差し出している。
それは、彼女の旅路に誘われたことに他ならず。
「……はい!勿論、大好きですッッ!!」
溢れる歓喜の念が止まらない。
この人となら、私の
確かな確信と限りない欣悦とともに、私と彼女は手を取り合う。
「普通Ⅰ科二年A組の西住みほです。これからよろしくね」
「普通Ⅱ科二年C組、秋山優花里です!こちらこそよろしくお願いします、西住殿!」
昨日までの現実に折り合いをつけていた
「共に
今より始まるは、西住みほによる英雄譚。その助けとなるべく、私もまた覚悟を決めよう。
諦めなど今も、そしてこれから先も永劫不要なものだ。
自分たちが共に進むと決めた道の果てにこそ、夢の世界があるのだから。
秋山殿、無事光堕ち。地味に「戦車道に失望する」という改変を入れる作者。
でも、西住流が席巻する高校戦車道、そしてその結果生まれたみほへの仕打ちを見てしまうと、有り得ないってわけでもないと思うんです(言い訳)
……糞眼鏡と総統の出会いとか、見てみたいなあ。
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