大和撫子と復讐の徒 (蛙先輩)
しおりを挟む

1話

初めまして,蛙先輩と言います。小説初投稿で見にくい所も多々あると思いますがどうかよろしくお願い致します。



夏の暑さが少し残っていた9月の晴れの日,僕はある場所に向かっていた。

日差しが少し強かったため僕は右手を頭の上に乗せ、気だるげに歩いていた。そしてそんな僕の周りには登校中の女子生徒達が僕の方を見て,耳打ちしていた。

 

無理もない、普段自分達の着ている制服を男が来ているのだから,そんな好奇な視線を受けながら歩き続け立ち止まる。

 

見上げるとそこには大きな建物があった。 その中から女子生徒達の活気溢れる笑い声、挨拶などが聞こえてきた。

「ここが音ノ木坂学院」

僕は一人,そう呟き学校の門をくぐり校舎に入り,すぐに理事長室に向かった。

理事長室のドアをノックして、向こうから声がかかりドアを開ける。

 

部屋に入るとそこにはジャージを着ている少しサバサバしている女性教員と銀髪の若々しい女性が椅子に腰掛けていた。

 

「初めまして、本日から転入生としてお世話になります。村雨悠人と申します。よろしくお願い致します」

自己紹介をして一礼をする。

 

「初めまして、村雨悠人君。私はこの音ノ木坂学院の理事長を務めている南と申します。そしてこちらが貴方の担任を務める神沢 先生よ」

「神沢 直美だ。よろしくな」

サバサバした女性教員は僕に近づき,共に握手を交わした。

 

理事長は微笑ましそうにこちらを見ながら口を開く。

「まさか2学期に男子生徒が入るなんて思っても見なかったわ」

「急な話で申し訳ありません」

「良いのよ。それと村雨君、いくらうちの生徒が可愛い子が多いからって淫らなことしちゃ駄目よ」

理事長が悪戯が笑みを僕に向ける。

「いやいやしませんよ。そんな事」

僕は彼女の発言に笑いながら返す。 そんな目的で僕は来たんじゃないのに・・・

 

理事長との話が終わり、神沢先生と共に教室に向かった。

教室の前に着くと、中から多くの女子生徒達の声が聞こえてた。どうやら僕の話らしい。

 

「なーに,ただの自己紹介だ。楽にな」

緊張している風に見えたのか神沢先生は僕の肩を一度優しく叩いて教室の扉を開けた。

 

「あーい、全員注目。今日はみんなも知っている通り転校生がきたぞー,それじゃあ入ってきてくれ」

まだ少し騒つく教室に僕は足を踏み入れて教卓の横まで歩く。

「えっ、カッコいい」「綺麗な顔〜」

 

教卓について生徒達の方を見ている時に色々な声が聞こえてきた。

そして、僕の目線は一点に集中した。見つけたのだ,僕がこの学園に来た目的を・・・

黒く艶やかな髪,端正な顔立ち,凛とした雰囲気な彼女を・・・

世間から見れば間違いなく美少女である彼女も僕からすれば忌むべき相手でしかない。

 

そんなことを思いながら彼女を見ていると一瞬彼女と目が合い、彼女はゆっくりと視線を逸らした。

少し苛立ちを覚えながらも、これ以上見ると怪しまれる可能性があるため、教室の中心に視線を向けて口を開く。

「初めまして、村雨悠人と申します。皆さんどうかよろしくお願いします」

 

自己紹介をして頭を下げると、教室全体に生徒達の歓迎の拍手が響く。

その時の僕の表情はさぞ狂気的な笑みを浮かべていた事だろう。歓迎の拍手ではなくこの学校に来た理由に出会えた事に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。誤字、脱字、その他のご指摘ありましたら
ご連絡ください。それではありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

第2話となります。 それではどうぞ!


歓迎の拍手を受けたあと、僕は神沢先生に後ろの席に座るように言われ、指定された席に座った。

「初めまして村雨君! 私、高坂穂乃果! よろしくね!」

席に座ると僕の横に座っていた髪の毛を横に結んだ山吹色の髪をした少女が話しかけて来た。

「初めまして、高坂さん」

手を差し出され、握手を交わす。

「はいはい、自己紹介終わったところで授業始めるぞ」

騒つく教室の雰囲気を神沢先生が手を叩き、鎮める。

 

 

 

一時間目の授業が終わりのチャイムが鳴り、先程挨拶して来た山吹色の彼女とその横にいる理事長によく似た少女と園田海未が僕の席にやって来た。

「ねぇねぇ! 村雨君ってどうしてこの学校に来たの!」

高坂さんが食い気味に僕に質問をする。その勢いに驚いて若干顎を後ろに引く。

 

「こら! いけません穂乃果! 村雨さんが驚いているではありませんか!」

園田海未が僕に迫って来た高坂を注意して、引き返させる。

「えっー! だって仲良くなりたんだもん!」

高坂さんが頬を膨らませ、園田海未に反抗した。

 

「まったく・・・すみません。村雨さん、私の名前は園田海未と申します。これからよろしくお願い致します」

園田海未は謝罪した後に丁寧に僕に頭を下げた。

 

「こちらこそよろしく、園田さん」

僕は胸の中で蠕動する彼女に対する憎悪を笑顔で誤魔化した。

「初めまして、南ことりです。お母さんから話は事前に聞いていました」

お母さん・・・なるほど南理事長の娘か。どうりで母子共に似ているわけだ。

「初めまして、南さん。よろしくお願いします」

南さんの対して挨拶を返すと高坂さんが割り込んで来た。

「おーい、まだ理由聞いてないよー」

高坂さんが頬を膨らませて、目の前にやって来た。

 

「実は家庭の事情でこの街に引っ越して来たんです。そしたら家の近くに元女子校だったこの音ノ木坂学院があったので転入する事に決めました」

僕はその場で捻り出した嘘を彼女に話した。

「そっかー、まぁ色々あるよね」

「そうですね」

 

僕は再び誤魔化すように笑う。

ここに来た理由を話せば、退学になるのは確定なのだからそれだと元もこうもない。

 

「ねぇ! 村雨君ってスクールアイドルに興味ある!?」

高坂さんが先ほどの雰囲気とは打って変わり、大きな声で僕には質問する。スクール・・・アイドル?

 

「穂乃果! 貴方はまた! 村雨君が驚いてるではありませんか!」

「もうっ! 質問してるだけだもん! なんでそんなに怒るの! 海未ちゃんの鬼!」

「穂乃果〜!!」

 

園田海未は黒い笑みを浮かべながら、ゆっくりと高坂さんに近づいていく。どうやら禁句だったらしい。

高坂さんは彼女の黒い笑みに圧倒され、小刻みに震えながら膝から崩れた。

南さんはその光景を抜けるような笑い声で見ていると、僕の方に近づいて来た。

「それで実際はどうなんですか?」

南さんが首を傾げて、僕に質問する。

「すみません。流行などには疎いもので」

 

「だったら放課後、一緒にアイドル研究部に行こうよ!!」

高坂さんが僕と南さんの方を見ながら言った。

「穂乃果!」

「うわぁ〜ん! ごめんなさい!」

結局、園田海未の説教は授業が始まるギリギリまで続いた。

 

 

放課後、僕は高坂さん、南さん、園田海未と共に

アイドル研究部の部室まで向かった。

「ここがアイドル研究部だよ」

高坂さんがそう言い、両手を部室の前に差し出して僕に見せる。

なんの変哲も無い部室の中から、数人の女子生徒の話し声が聞こえる。 恐らく他の部員であろう。

高坂さんがドアを開けると、複数の女子生徒がドアの方に目を向ける。

「みんなおまたせ〜!!」

「皆さん、遅れて申し上げありません」

「ごめんねー」

先に入った3人が部員であろう女子生徒に挨拶をする。

「穂乃果ちゃん!」

「全然待ってないよ〜」

「私達もさっき着いたばかりだし、むしろちょうどいいくらいよ」

 

「そうよ3人とも」

「まったく、部長待たせるなんていい度胸してるわね」

「そういうにこっちも真姫ちゃん達が来た後に走って来たやん」

「うっ、うるさいわね!」

白い肌をした小学生のような外見をした少女が紫色の髪をした少女に言い返す。 側から見れば親子、、、

「チョット、そこのアンタ。今失礼な事考えなかった? てかなんで男がこの学校にいるのよ!」

 

「にこ、別におかしな事じゃ無いわ。一応共学制度は続いているわけだしそれに先生からも聞かされたでしょう。今日、この学校に男子生徒が転入するって」

金髪のアイスブルーの瞳をした綺麗な少女が小学生に説明する。

 

「アンタ今、完璧に固定したわね」

何故、バレるんだ。

 

「まぁええやん、にこっちが小学生に見えるのは

よくある事やし、穂乃果ちゃん達もそこ立ったんと座り。そこの君も」

高坂さん達は自分達の座席に座り、僕は紫色の髪をした少女に椅子を用意され、それに腰掛ける。

てかなんで僕が小学生と思ったら事を紫の彼女は理解したんだ? 不思議だ。

 

「じゃあ、自己紹介をしてもらっていいかしら」

金髪の少女に言われて、僕は席を立つ。

「皆さん、本日この学校に転入して来た。2年の村雨悠人と申します。よろしくお願いします」

僕は丁寧に頭を下げ、座席に座る。

 

「村雨先輩も挨拶してくれたし、凛達も自己紹介するにゃー! 初めまして、星空凛です! よろしくお願いします!」

「こっ、小泉花陽です。よ、よろしくお願いします」

 

「西木野真姫です。よろしく村雨先輩」

「私は絢瀬絵里。歓迎するわ、村雨君」

「東条 希 よろしくな。村雨君」

「にっこ、にっこ、にっ(キモチワルイ)」

西木野さんが頬杖をつき、小学生の謎の自己紹介に苦言を吐いて遮る。

「チョット! 人が最高にキュートな自己紹介してる時になんてこと言ってくれんのよ! あと村雨! アンタ次あったら承知しないわよ!」

しょ、、美少女が僕に指をさして、次がないと宣言する。

 

「まぁ、許してあげるわよ! 私は矢澤にこよ。よろしく」

「よろしくお願いします。矢澤先輩」

 

「それで高坂さん。僕をここに連れて来た理由はなんですか?」

僕は疑問に思ったことを高坂さんに質問すると、彼女は下を向いて笑い、大きく息を吸うとこちらを向いた。

 

「村雨君! 私達のお手伝いをしてもらえない!?」

「えっ?」

僕はいきなりの発言にうっかり声が出る。

それは他の部員も同じだった。

 

「穂乃果! いきなりなんて事を言うんですか!」

「えっーでも男の人を協力もあったほうがまだいいかなって思って」

なるほど、要するにマネージャーのようなものか。

待てよ、もしこのまま手伝いをすれば、目標への近道になるかもしれん・・・ならば

 

「構いませんよ」

「えっ、いいよ!」

高坂さんが目を輝かせ、僕に迫る。他の部員達も驚きの表情を浮かべていた。

 

「ただし、僕にも用事が少々ございまして、その用事の日以外に限ります。よろしいですか?」

「うん! ようこそ私達μ'sの部室へ!」

 

「皆さん、本日からよろしくお願いします」

部室からグラウンドまで聞こえそうな程の大きな拍手が鳴った。

 

僕は横目で園田海未の顔を見ていると彼女は僕の視線に気づいて、照れたように微笑みかける。

 

そう僕は、彼女を・・・殺すためにこの学校に来た。

 

 

 

 

 

 




村雨悠人君の転入目的が明かされました。
誤字、脱字、その他のご指摘ございましたら、ご連絡お願いします。
本日もありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

海未ちゃんの私達は未来の花を聴きながらシナリオを考えています。
それでは3話です。


μ'sのみんなの歓迎を受けた後、俺は2年生の3人組と共に下校していた。

「いやー村雨君が入ってくれて」

「でも、本当に良かったんですか?」

嬉しそうに話す高坂さんを尻目に、園田海未が困り顔で僕に話しかける。

「別に構いませんよ」

不安そうな彼女に僕はほくそ笑む。

 

「これからもよろしくね。村雨君♪」

南さんが笑顔で僕に語りかけ、僕も笑顔で頷く。

 

分かれ道になり、僕達は手を振って互いに違う帰路を歩く。

 

そして、僕は園田海未の後をつける為に道を引き返す。

鼻歌を歌いながら自宅に向かう彼女を、僕は悟られないように所々、電柱や外壁に隠れて慎重に彼女をつける。

 

すると彼女が急に立ち止まり、勢いよく後ろを振り向く。僕はすぐに

近くの外壁に隠れる。

 

かなり慎重に跡をつけていたはず、流石は園田道場の師範の娘と言ったところか。

 

彼女は首を傾げて、再び前を向いて歩き出す。 僕も再び歩き出そうとした時、前から柄の悪そうな3人の男が歩いてくる。

 

「あれっ? μ'sの園田海未ちゃんじゃん! やっベーPVより可愛いわ」

男の一人が彼女に話しかける。対する彼女は明らかに口が引き立っていた。

「すみません、急いでいるので」

彼女は急ぎ足で、男達を避けようとした時、男の一人が壁となり彼女の帰路を塞ぐ。 そして他の男2人も 横と後ろに着いて、退路を塞ぐ。

 

「今から俺たちと遊びに行こうよ」

「悪いようにはしないからさ」

 

「やめて下さい!」

男の一人が彼女の右手首を掴もうとすると彼女はその手を振り払う。

 

「痛って〜な! おい!」

振り払われた男は逆上し、なんと懐からナイフを取り出す。

「舐めてんじゃねぇぞ」

 

男達3人が彼女に差し迫り、彼女は身構える。

僕は彼女の実力はどれほどの元か知りたかったので、そのまま傍観者でいることにした。

 

彼女は男達の攻撃を擦り避け、ひとりの男に背負い投げをして外壁に

叩きつけられ、男は呻吟し始める。

 

ナイフを持った男が襲いかかりるも、背をしゃがませて攻撃を避けて

溝に手根部を打ち付ける。

すると相手はナイフを手放しその場で歯を食いしばりながら倒れる。

 

園田海未が残りの一人に目を向けて、男が身構えると背負い投げをされた男が立ち上がり、彼女の首を締める。

 

園田海未の華奢な体が男の力により、抵抗も虚しく押さえつけられる。

 

身構えていた男は出来したとばかりに男に笑いかけ、懐からナイフを取り出す。

 

「さて、顔は可愛い海未ちゃんは一体どんなお身体をしてるんでしょうか?」

 

男は不快な笑い声を上げながら、園田海未に迫る。

「まぁ、こんなもんか」

僕はすぐにでも不良に凌辱されそうな彼女の元に走った。

 

「待てよ」

僕はナイフを片手に持った男に話しかける。

 

「む、村雨・・・くん?」

 

「ああ? 誰だテメェ? 俺は今からお楽しみタイムなんだ。痛い思いしたくなけりゃ失せやがれ」

男はナイフでどこかに行くように指示する。

 

「それはこっちの台詞だ。痛い思いしたくなければ彼女を離せ」

 

「ハッ、舐めてんじゃねぇぞ!」

男はナイフを片手に僕に襲いかかる。

 

「いけない! 逃げて下さい村雨君!」

 

僕は構えをとり、男の攻撃を避けて、ナイフを持っている手を掴んで

膝の裏を蹴り、バランスを崩させて後頭部を地面に叩きつける。

 

すると男は泡を吹き、白目を向いた。

 

(凄い、でも先ほどの構えと動きは、、、)

園田海未は村雨の構えと動きに疑問を感じてる時に、再び首元に力が入る。

 

「おい、こいつがどうなってもいいのか!」

 

僕は倒れている男が持っていたナイフを拾う。

 

「なんだ! やろうってのか!」

 

僕は深呼吸をして、心を落ち着かせる。

「園田さん。絶対に動かないで下さいね」

 

「えっ?」

僕は園田海未を脅している男の顔の真横に投げつけた。するとナイフは横ではなく男の頬をかすめる。

 

「ぐっ!」

男は痛みのあまりに彼女を手放して、傷口を抑える。隙を見つけた彼女は男の腕を退けて、こちらにやって来た。

 

「大丈夫ですか、園田さん」

「ええ、なんとか」

僕は彼女の安否を確認した後、傷口を抑えている男に迫る。

 

「どうする? やり合うのなら構わないぞ。こちらも一切手は抜かない」

すると男は立ち上がり、足早に他の男を起こして立ち去っていった。

 

「ふぅ、何とか助かってねぇ」

「あのありがとうございます。助けて頂いて」

「いや、当然ことをしたまでだよ。家まで送るよ」

僕は詮索も込めて、彼女に言う。

 

「そんな! 悪いですよ!」

園田海未は手を何度も目の前で振り、断ろうとする。

 

「気にしないで、あんなもの見たら心配で仕方ないよ」

僕は笑顔で彼女に話して、自分の思惑に沿うように仕向ける。

 

「分かりました。ではお願いします」

彼女は了承し、僕達は歩き出した。

 

 

茜色の夕焼けが照らす一本の道をしばらく無言で歩いていると、彼女が口を開いた。

「村雨さん、武道に精通にしてらっしゃるんですね? 何かやっていたんですか?」

 

「幼い頃に父から護身術を教わっていました」

「なるほど、だからあのような綺麗な身のこなしが出来たわけですね」

「買いかぶりですよ」

僕は少し口角を上げて、彼女に笑いかける。

 

「それとどうして、あの場所に? 貴方とは分かれ道で別々になったはず」

「ああ、引っ越したばかりなので、この街を歩いて回ろうと思ったんです」

僕は思いついたその場しのぎの嘘を彼女に話し、彼女は納得してくれた。

 

彼女と話しながら歩いているときに、古い屋敷のような建物に着いた。

 

「ここが私の実家になります。 すみませんわざわざお送り頂いて」

「いえいえ、ではまた明日」

僕達は別れの挨拶をしてそのまま、歩き出した。

 

「ここが園田家か・・・場所は把握した。あとはタイミングだな」

僕はそのまま、家までの道をまっすぐ歩いた。

 

 

その頃、園田海未は自室で村雨悠人が相手を制圧した時に見せた動きの事を思い出していた。

 

「村雨君のあの構えと動作、見間違いかもしれませんがまるで園田流と瓜二つでした」

 

私は疑問に思い、部屋を出て父の自室に向かった。

「お父様、少しお話が」

 

すると部屋から「入れ」という声が聞こえたので戸を開ける。

父はあぐらをかきながら新聞を読んでいた。私は父の前に正座して

自分の抱えている疑問は話す。

「お父様、園田流の構えというのは・・・

園田だけに使用されるのですか?」

言葉を詰まらせながらも父に話す。

 

「園田流の構えは園田のみに伝えられておる。外部が使っているなど決してあり得ない・・・話はそれだけか」

 

「そうですか・・・はい、夜分遅くに失礼致しました」

そう言い、私は足早に席を立ち部屋を出ました。

 

「弟子にしても私は彼を知りません。父の言い分が正しければ彼は一体・・・」

月夜が照らす夜の廊下に座り一人、彼女は佇んでいた。

 

 

 

 

 

 




今回も読んでくださりありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

更新遅れてしまい、申し訳ありません!
それでは4話どうぞ!


古びた屋敷の庭で少年とその父と母が円を作り楽しそうに談笑していた。

「僕、いっぱい修行していつか立派になって父さん超えるからね!」

「おっ、言ったな!」

「お父さんは強いわよ。悠人に超えられるかしら?」

「勝てるよ! 僕はいつか必ず父さんを超えるんだ」

 

少年がその場で立ち上がり、父親に向かって宣戦布告をする。

それを聞いて、父と母は顔を見合わせて笑う。それにつられて

少年が笑い出す。

 

そして、その光景が徐々に薄れていく。

 

 

「ん、もう朝か・・・」

僕は懐かしい夢を見た。父と母と暮らしていた田舎の古びた屋敷の在りし日々の事を・・・

二度と戻ってこないあの日々を・・・

 

 

 

 

服を着替え、学校に向かう準備をする。服を着替えて終えるとカバンを持ち、そのまま家を出る。

 

登校していると、突然後ろから物凄い勢いで何かが迫ってくる気配がして、振り向くと高坂さんが飛び込んでいた。

 

「村雨君! おはよう!」

「あっ、ああ、おはようございます高坂さん」

 

僕はいきなりの行動に驚きつつも、彼女に挨拶を返す。

 

「ねぇ村雨君、せっかく穂乃果と友達になったんだから穂乃果って呼んでよ」

「えっ? ですが・・・」

「えー呼んでよー」

彼女の少し膨れた顔を僕に近づけ、押されてしまう。

 

「わ、分かりました。ほ、穂乃果」

「うん! よろしくね! 悠人君!」

 

「穂乃果ちゃんを下の名前で呼ぶなら私達も呼んでほしいな♪」

鳥のさえずりの様に高い声を背に感じ、振り向くとそこには南さんと

園田海未が立っていた。

「おはよう! 海未ちゃん! ことりちゃん!」

「 お二方、おはようございます」

 

「おはようございます。穂乃果、村雨君」

「おはよう。 穂乃果ちゃん、村雨君」

「村雨君、良かったら私達も・・・名前で呼んでもらえるかな?

その・・・ほら! これから関わることも多いことだし!」

「私も・・・村雨君がよろしいなら」

 

「そうですね・・・分かりました。ことりさん、海未さん、僕の事も

気軽に下で呼んでくれて構いません」

 

「分かった。よろしくね、悠人君♪」

「よろしくお願いします。悠人」

 

僕たち互いに挨拶をして、歩き出そうとした時に園田海未が僕を名前を呼んだ。

「改めて昨日は助けていただきありがとうございます!」

「ああ、いえ、とんでもありません」

 

「えっ、なになに! 二人とも何かあったの?」

「歩きながら説明します」

僕たちは歩き出し、事情を知らない穂乃果さんと南さんに昨日の事を話した。

 

「えー、海未ちゃん! 大丈夫だった!」

「何もされてないの?」

穂乃果さんと南さんが心配そうに園田海未に近づく。

 

「はい、悠人が駆けつけてくれて私を助けてくれたおかげで、私は

無傷です」

「悠人君って強いんだ!」

「いえいえ、大したことないですよ。ただの処世術ですよ」

「穂乃果もその場にいたらこうやって!」

高坂さんはその場でシャドーボクシングを始める。

 

「あはは、、、」

南さんが抜ける様な笑い声を出し、僕と園田海未も困り眉を浮かべる。 しばらく歩いたのち僕たちは学び舎に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー放課後ー

担任の号令が終わると、部活のある生徒達は足早に教室を抜けていく。

僕達もその一つで穂乃果さん、ことりさん、園田海未は更衣室で

着替えを済ましている間に、スポーツドリンクの入ったクーラーボックスを持ってくる。これが割と重い。

 

着替えを終わらせた穂乃果達と合流して、屋上へ向かって階段を登る。

元気よくに屋上の扉を開けると、練習着の格好になっている一年生組と三年生組が揃っていた。

μ'sの面々が僕達に手を振ったり、声をかける。穂乃果さん達も彼女達の元に行き、準備体操を始める。

 

僕のやる事は休憩時間のスポーツドリンクの配給、怪我をした時の応急処置、園田海未や絢瀬先輩の代わりにリズム取りぐらいだ。

 

練習が始まり、園田海未が前に立ち、手でリズムを取りそれに合わせて他の8人が踊りだす。

この間正直、僕のやることは何もない。 ただの怪我をしたメンバーに備えて待機するだけ。

 

こうしてみると実に美しい団体行動である。所々、間違っているところはあるが、徐々に訂正していき、直そう、上達しようという意思を感じる。

 

10分の休憩に入り、僕はメンバー達に声を掛けて、スポーツドリンクを渡していく。

メンバー達から感謝の声を聞きながら、会釈をして僕も日陰に戻って地べたに座る。

 

無気力に雲を眺めていると、絢瀬先輩が視界に入ってくる。すると彼女は僕の隣に座ってきた。

「穂乃果達とはもう仲良くなったらしいわね」

「ええ、向こうが積極的に仲良くなろうとしてくれたおかげです」

「穂乃果の積極性には恐れ入るわね」

「全くです」

僕と絢瀬先輩は口に手を添えて、肩を震わす。

 

「それで、どうかしら、私達 μ'sは?」

「いいグループだと思います。個々のミスをカバーし合い、そしてそのミスを克服して進んでいる。互いに理解しあってるから出来る事なんでしょうね」

 

「そうね。でもまだ一人だけその理解の範囲に入ってない人がいるわ」

 

「えっ?」

絢瀬先輩は立ち上がり、手を叩く。するとμ'sの面々がこちらを向く。

「みんな、村雨君の事をこれから下の名前で呼びましょう!」

 

「いや、絢瀬さん、二年生組は同級生だから打ち解けるのは速かったですけど、他のメンバーは・・・」

 

「いいわよ」

「うちも賛成!」

にこ先輩と東條先輩はこの意見に同意なさった。そしてその他の面々も同意していく。

 

「どうやら、納得してくれたみたいね、私は絵理でいいわ」

「すみません、絵理先輩でよろしいですか?」

 

「うーんちょっと寂しいけど許してあげる」

「寛大なご配慮感謝します」

絵理先輩との話していると希先輩が近づいてきた。

 

「うちの名前は東條希! 気軽に希って呼んでな」

「先輩慣れしてないので、希先輩で」

 

「えー、まぁええか、よろしく」

希先輩と握手を交わすと、なにかを悩んでいる星空さんが目に入った。

 

悠人先輩? 悠人君 どっちで呼んだほうがいいかきゃ?」

「どちらでも構いませんよ。 呼びやすい方で」

星空さんは顎に手を添え、首を固まる。

 

「なら、悠人君にするにゃー、だから凛の事も下の名前で呼んでほしいにゃー」

「分かりました。凛」

「なんだか、海未ちゃんが二人いるみたいだにゃー」

 

凛がそういうと、他のメンバーがクスクスと笑いだす。奥から髪を人差し指で回しながら西木野さんと彼女に隠れて小泉花陽が近づいてくる。

「改めて、私は西木野真姫、真姫でいいわ。 悠人」

そう言い、彼女は手を伸ばす。

「わかりました。真姫」

僕は立ち上がり、彼女と握手を交わす。

 

「ほら、花陽も」

真姫が背後に隠れている小泉さんに声をかける。

「む、村雨先輩、私の事は花陽で構いません、

 

「分かりました。花陽」

僕は彼女に笑顔で答える。

「悠人・・・先輩、でいいでしょうか?」

「それで結構ですよ。呼びやすい名が一番です」

 

「はい」

彼女は元気よく僕に笑顔で答える。

花陽さんと話していると奥からモデル歩きで矢澤先輩が歩いてきた。

失礼ながら似合ってはいない。

 

「・・・にこでいいわよ」

 

「分かりました。にこ先輩」

にこは納得したかのような素振りを見せ、元いた場所に戻っていた。

 

「にこちゃん照れ屋さんだにゃー」

「うるさいわね!」

 

屋上に女神とそのサポーターの笑い声が聞こえた。

 

 

 

 

 

練習が終わり、メンバーの着替えと共に僕はクーラーボックスを直して、校門前でメンバーの帰りを待つ。

「おーい悠人君〜」

穂乃果が僕の名前を呼んで、手を振る。

 

他のメンバーと分かれ道で別れていき、僕はこの街に美味い和菓子屋があると聞きいたのでそこに向かっていた。

 

「ここか和菓子屋 穂むら」

外観は古い木造建築だが、店の周りはとても綺麗で古き良き老舗といった感じだ。

 

扉を開けると、店員であろう女性が商品の団子を摘み食いをしていた。

「あっ」

女性は僕に気付くと、早急に団子を飲み込んで、胸を叩いた。

「いらっしゃい、ご注文を」

「あ、はい」

僕はカウンターに向かい、並べられた商品を見ていると奥から誰かが近づいてきた。

 

「お母さん! 私が楽しみにしてたチョコパン食べたでしょ!」

「今日朝に食べたでしょ! それに今、接客してるんだから部屋に戻ってなさい!」

 

「あっ、失礼しました・・・って悠人君!」

「穂乃果・・・」

僕はいきなりの知人の出現に驚いた。

「あら、貴方が噂の共学生?」

「そうですね、僕が2学期から転入してきました。村雨悠人と言います」

 

「穂乃果の母です。うちの馬鹿娘がお世話になっております」

「こちらこそ、娘さんにはお世話になっております」

「ちょっとー! 馬鹿ってなにさ 馬鹿って!」

穂乃果さんは自身の母に馬鹿にされた事で膨れっ面になる。

 

「あっ、そうだ。村雨君、うちの新商品の味見してもらえる?」

「僕でよろしければ」

そう答えると、穂乃果さんの母上はカウンターの奥に行き、何かを手にして戻ってきた。

 

「これが次に売り出そうとしているものなんだけど」

新商品と言われる物を持ってきた。見た目はどこにでもある饅頭だった。

僕はそれを手にして、一つを口の中に入れた。

 

 

 

 

その時、ふと僕は昔の事を思い出した。

僕が屋敷の庭の草で仰向けになっていると母が何かを手に僕の元に歩いてきた。

母は僕を起こして横に座り饅頭や団子が乗ってある皿を差し出した。

 

僕は母から受け取った饅頭を嬉しそうに頬張る。それを見て母を笑う。 父がその光景を見て、足早に近づいてくる。

父も僕の横に座り、母の作った団子を食べる。

僕は母が作る饅頭が好きだった。そして父と母と過ごすこの時間が・・・

 

 

 

「悠人君?」

穂乃果の声が聞こえ、ふと前を向く。すると穂乃果が不安そうにこう付け足した。

「どうして泣いているの?」

「えっ」

僕は彼女にそう言われると頬に違和感を感じて、手の甲で拭うとたしかに濡れていた。

「あら、涙が出るくらいうちの饅頭が美味しかったのね」

穂乃果の母がその場の雰囲気を和ませるようにそういう。

「そうです。最近、こんなに美味しい和菓子食べた事なかったから」

僕は2人に作り笑いを向けて名物の穂むら饅頭を1パック買って店を出た。

 

街灯が照らす、薄暗い帰り道を僕は一人、うつむきながら歩いていた。

 




読んでいただきありがとうございます! 誤字、脱字、その他のご指摘ありましたらご連絡ください!! 今回もありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

5話! 合宿のお話です。それでは!!


電車に揺られながら、僕は窓の外を眺めていた。

μ'sのメンバーが塊で話したり、個々に分かれて何かをしている。

僕達は今、μ'sメンバー全員で真姫の別荘に向かっている。何故、こんな事になったかというと・・・

 

ー2日前ー

「合宿よー!!」

絵里先輩がいきなり、大声で高らかに宣言する。

 

理由は近いうちに「ラブライブ」という全国のスクールアイドルの頂点を決める大会があり、その予選では発表される曲は未発表の曲に限られ、そして同じ関東地区に全国一のスクールアイドル 「A-RISE」と同じであるため、この状況を生き抜くには皆が一堂に団結する必要があるとの事でこの合宿が提案された。

 

ちなみに花陽にラブライブとは何か?と聞いた時はものすごい剣幕で詰め寄られた。

 

 

そして、現在に至る。

電車の窓の外から見える雄大な山々や草木を見ていると、昔に住んでいた場所を思い出す。

そんなこんなで電車は真姫の別荘がある駅に着いてメンバー達も降りて行き、僕もそれに次いで席を離れる。

 

電車から降りると外気の綺麗な空気が僕を体を覆い、自然と心地よい気分になる。メンバー達もその自然の美しさと空気の良さを堪能していた。

 

後ろで真姫とにこが言い争っていたのを絵里先輩が仲裁していた。

揉める理由がなんなのかは定かではないが・・・

 

そんな事より驚いたのが園田海未の荷物であった。

合宿にしては多すぎる。彼女を服装をよく確認すると登山服を着ていた。何故だ・・・

 

「行きましょ、山が呼んでいますよ!」

彼女は目を輝かせて改札を降りていく。他のメンバーもバスに乗るために降りていく。僕も改札に向かおうとした時、前にいた凛が足を止める。

 

「あれ?」

星空凛が何を察したか線路側を向く。

「どうかした?」

「どうしたんですか? 凛」

 

ことりと僕が凛に疑問を感じる。

「何か足りてない気がしてないかきゃ?」

「忘れ物?」

「忘れ物じゃないけど何か足りてない気が・・・」

 

僕は目を閉じて、眉間にしわを寄せてようやく答えに気付き、澄み渡る青空に目を向け、手を額に当てる。

「やってしまった・・・」

 

ー数分後ー

「たるみ過ぎです!」

園田海未が寝過ごした穂乃果を叱責する。

 

「だって誰も起こしてくれないんだもん! ひどいよ!」

涙目の穂乃果が園田海未に訴え、ことりが穂乃果を宥めていた。

 

「まぁ、いいじゃありませんか。こうやって無事に合流出来たんですから」

「悠人君ありがとう!!」

穂乃果が僕の胸元に掴みかかり、必死に感謝の言葉を述べる。

その光景を見て園田海未はため息を吐いて、他のメンバーも個々の反応を見せていた。

 

その後、バスに乗って僕達は真姫の別荘に着いた。本人曰く、このような別荘があと何軒かあるらしい。

 

中に入るなり、穂乃果が家々の家具を興味深そうに見ていた。真姫が

サンタクロースを信じていたのは驚きだった。 真実は心の中に閉まっておこう。

それからにこ先輩、貴女はあと少しで重罪を犯すところでしたよ。

 

そこからは穂乃果、凛、花陽、にこ先輩、希先輩、絵里先輩が外でのダンス側と室内での真姫、ことり、園田海未、衣装、作詞、作曲担当に

分かれて行動して僕は現在、外で穂乃果達のダンスを見ていた。

 

自然の中でのダンス練習、いつもの学校の屋上との違い新鮮で彼女達にとっても良い経験であろう。

練習はしばらく続いて、休憩に入った。僕は立ち上がり持っていたクーラボックスからスポーツドリンクをメンバー達に差し出していく。

 

みんな草が心地良いのか、寝転んで背を伸ばしたり名一杯空気を吸ったりなどしていた。

 

絵里先輩が休憩終了を告げたそのすぐ後に、にこ先輩が騒ぎ出して、凛とともに走っていった。 まぁすぐに戻ってくるだろう。

 

 

 

 

と思って今のが間違いだった。戻ってきた時彼女達はずぶ濡れだった。どうやらにこ先輩のリストバンドを拾おうとしてこうなってしまったらしい。

 

穂乃果が二人を温めるためにつけた暖炉に興味津々で、にこ先輩が彼女に憤りが感じていると希先輩がためにかかっていた。

 

この上では3人がそれぞれの役割を果たしているのだ。決して邪魔してはならない。

 

花陽がお茶をお盆に乗せて部屋に入ってきた。いつもの優しい笑顔でにこ先輩と凛に渡す。

 

「じゃあ、海未ちゃん達には私が持っていくよ」

穂乃果はそういうと、お盆を花陽から受け取り上の階へ上がる。

 

「なんだか申し訳ないないわね。来てもらってるのに」

絵里先輩が僕に困り眉を浮かべながら、言う。

 

「いや、気にしてないです。僕なんてほとんど仕事してないじゃないですか」

「にこっちがしっかりせんからよ」

 

「わ、悪かったわよ」

にこ先輩は少し申し訳なさそうな顔をしながら僕に謝罪する。

 

「構いませんよ」

僕はにこ先輩にはにかむような笑みを見せて、怒りを抱いていない事を証明する。

 

「ああアァア!!!」

上から聞こえる穂乃果の声に僕らは一瞬体が痙攣したかのように反応する。

 

そして穂乃果が物凄い速さで降りて、玄関を出た。数分後、穂乃果は上で作業をしていたはずの真姫、園田海未、ことりを連れて戻って来た。

 

3人は申し分けなさそうにソファーに座る。どうやら3人は予選敗退を気にしてスランプに陥って閉まったらしい。

 

この3人に任せっきりになるのも良くなかったと花陽がいい、絵里先輩が三班に分かれてそれぞれサポートするという提案を出す。

 

にこ先輩は自身の作詞した曲を作曲しようという提案は希先輩の発言とともに消えていった。

 

外で9人でクジを引いた結果、衣装係「穂乃果、ことり、花陽」

作詞「海未、希、凛」 作曲「絵里、真姫、にこ」の結果となった。

 

 

僕はしばらくしてからそれぞれの様子を見回るようにと絵里先輩に言い渡される。

その後彼女達はそれぞれ別荘からテントを持ち出して、別々の場所に置いていった。

 

僕は少しの間、時間を潰すために実家から持ち出した小説を読んでいた。

こうやって本を読んでいると、時間が過ぎるのがあっという間に感じる。セットしていたアラームが鳴り、小説を懐に入れて歩き出す。

 

それから僕は衣装班、登山・・・失礼 作詞班、作曲班の順番で向かった。

 

その間色々な光景を目にした。衣装班ではことりと花陽がほとんど役割をして穂乃果はテントで心地良さそうに寝ていたり、作詞班は園田海未の登山への謎の想いのせいで作詞という職務を忘れていた。

 

作曲班は絵里先輩が暗いのが苦手、そしてにこ先輩への今大会、メンバーへの熱い想いを語ったりなどしていた。

 

だが穏やか事だけではなかった。 それは作詞班の様子を確認して

作曲の元へ向かうため、下山していた時の事だった。

 

「さて、僕も次の班に行きますか」

「ちょっと待って」

下山している途中に希先輩に呼び止められて、彼女の方を向く。

 

「どうやって登ったん?」

「いや、それはクライミングの応用でー」

続きを言おうとした時、希先輩の言葉が蓋をする様に防ぐ。

 

「ああ、ごめん質問の仕方が違ってたな。何であんなに早う登れたん?」

彼女の発言に僕は少し固まる。

「 ウチらでも一時間弱かかったあの崖をあんな早う登るのって相当凄いよな」

僕は彼女の洞察力にかなり驚いていた。 まさかこんな人間がこのグループにいたなんて・・・

 

「いや、父が多趣味でして私も幼いによくそれに付き合わされていたことがあり、崖をより速く登ったりするのもその一環でした」

僕は希先輩にそう答える。今ここで僕の事を詮索されるのはまずい。

 

「そうか、なんかごめんな。問い詰める様な話し方して」

「いえ、では僕は作曲班の方へ行きますので」

「うん、気をつけてな」

希先輩の言葉を背で聞いて、作曲班の元へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

あの時は本当に焦った。彼女も警戒すべき対象なのかもしれない

今日の事を振り返りながら僕は一人、草原に寝そべり夜空の星空を眺めていた。

 

こうして一人、静かな居場所にいるといつも昔の事ばかり思い出してしまう。 昔が良かったから今が霞んで見えてしまう・・・

そうだ、僕の今、いや未来を照らすために園田を!

 

「悠人?」

声を聞こえて、目を開けるとそこには園田海未がいた。

 

「奇遇ですね、悠人がここにいるなんて」

「海未もどうして、こんなところに希達といたのでは?」

 

「少し一人になりたくて・・・」

「もしかしたら、3年生の事を気にしているんですか?」

 

「えっ、いやそのー」

図星だったようだ。

 

「数時間前、作曲班に行った時ににこ先輩が言っていました。

曲はみんなのためにあるって・・・だからあまり気にしないでください。気にするななんて他人事ですごく身勝手に聞こえてしまうかもしれませんが」

僕はそう言い、呆れたような笑い方をする。

 

「いえ、他人事だなんて、悠人はちゃんとチームの為に働いてくれています。だからそんなこと言わないでください・・・」

 

「そっ、そうですか」

僕は彼女が僕に微笑みかけた顔に、一瞬見ほれてしまいそうになり、目をそらす。

 

「でも、にこがそんな事を」

「メンバーの一人一人が個性的で、性格も感性もバラバラですけどみんなチームの事が好きなんでしょうね」

 

「ええ、想いは一つです」

彼女がそう呟くと、少しの無言の間が空く。

 

「それと、改めてあの日の事は本当にあの時はありがとうございました!」

あの不良に絡まれていた時の事か・・・

「あ、あれは別に」

「それと・・・もしかしたらなのですがあの時の構えは園田流の物ですか?」

 

彼女の質問に喉を詰まらせる。とりあえずお得意の嘘で誤魔化すか・・・

「あれは父からの教えなので、どこから移ったのかは定かではないんです」

 

「そうなんですか・・・あのよろしけば今度、私の道場で組手をしてもらえますか?」

「構いませんよ」

まぁ、あの動きすら見せなければ問題ないか・・・

 

「あっ、ありがとうございます!」

不味い、先ほどはうっかり見惚れそうになってしまったが・・・

そうだ、この瞬間に職務を・・・指名を全うしよう。この為にここにきたんじゃないか。

僕はそう決めて、真横にいる彼女に悟られないようにジャックナイフを尻ポケットから出して、園田海未の背後に近づけようとした時に、真姫の別荘の方からピアノの音色が聞こえる。

その瞬間、園田海未の視線が別荘の方に向く。俺は急いでポケットにナイフを隠す。

 

少ししてから園田海未は立ち上がり、僕の方を向いた。

「今なら何か良いものがかけそうな予感がします」

「そうですか。なら頑張ってきてください。僕はもう少しここで寝ます」

 

「分かりました。ではお気をつけて」

園田海未は丁寧に頭を下げて、別荘へ向かった。

 

僕はポケットからナイフを取り出す。

「殺し損ねてしまった・・・」

 

園田海未の微笑みが脳裏に浮かぶ、それを消し去る為に地面を殴る。

 

「次はない! 必ず殺す!」

静かな草原に一人の男の怒りが風となり広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで、中途半端な終わり方をして申し訳ないです!
黒っぽい猫さん ☆7つありがとうございます!
そのほか、お気に入り7件 ありがとうございます!

誤字、脱字、その他のご指摘ありましたらご連絡ください。

これからも少しずつ投稿していきたいと思いますので皆さんどうぞよろしくお願い致します! では!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

6話です!
それではどうぞ!


合宿が終わり、無事 真姫、ことり、園田海未はスランプを脱却する事に成功した。

 

僕達は今、ラブライブ予選のステージの場所を探しに秋葉原に来ている。

先程 校内で放送室を使い、穂乃果、花陽、園田海未が自己紹介をしたところ花陽、園田海未の人見知り発動して穂乃果が花陽の為に上げていたボリュームのマイクに大声が校内中に響いて、多くの生徒が耳を痛めることになった。

 

まぁ宣伝は出来たから良しとして問題はステージ場所だ。

校内は既に使ってしまったところが多いので、とりあえず秋葉原に来たものの、ここはかの有名なA-RISEのお膝元。

この場所でライブをするという事は彼女達に宣戦布告すると同じ。

安易な行動は避けたい方が良い。

 

そんな事を考えているとUTX高校、すなわちA-RISEの通学している学校の設置モニターから彼女達の声が聞こえた。

 

新曲の宣伝をしていて彼女達のカリスマオーラが液晶画面越しからも伝わってくる。

 

すると穂乃果が突然、何者かに手を引かれUTX高校の方に走っていき、穂乃果を追ってにこ先輩、花陽が彼女の後を追っていく。

 

僕は穂乃果の手を引く者の正体を遠くからだが、なんとか理解できた。

「A-RISEの綺羅ツバサ・・・」

「悠人くーん」

凛が僕の元に走って来た。

「かよちんがいきなり、どこ行ったから分かる? なんかいきなり走っていって」

 

「多分、UTX学園の中ですよ。先程、穂乃果もA-RISEの綺羅ツバサさんに手を引かれて入って行きましたから」

 

「えーーー!! いたの!!」

「僕も最初は疑いましたけど、あの髪型が似合う女性はそういませんよ」

 

他のμ'sのメンバーも僕と凛の元にやって来た。

「にこちゃんどこ行ったのよー」

「にこ先輩もですか・・・」

そういえばあの人もアイドル好きだったな。

 

すると穂乃果がこちらに走って来た。

「みんな来て! 」

μ'sのメンバーが彼女に連れられて建物の中に入っていく。

「ほら! 村雨君も!」

「いや、僕、男ですから

 

「いいの! 許可貰ったから」

穂乃果は僕の手を引き、UTX高校の中に入っていく。

 

A-RISEの3人組に出迎えられて、カフェスペースのソファに座る。

 

A-RISEのメンバーから温かく歓迎されて、最初は緊張していたμ'sのメンバーも表情が明るくなっていく。

 

そして統堂英玲奈さんがμ'sメンバーのそれぞれの特徴などを話していく。

その情報力と考察力には驚いた。

 

「あの、入れといてなんだけれど、貴方は」

綺羅ツバサさんが僕に話しかける。

 

「自己紹介遅れて申し訳ありません。今月から音ノ木坂学院に転入しました。村雨悠人と申します。μ'sの皆さんのサポートをさせていただいています」

 

僕は頭を下げて、再び着席する。

「よろしくね! 村雨君!」

綺羅ツバサさんが笑顔を僕に見せて、僕も笑顔で返す。

 

「ちょっと! 何アンタ ツバサさんに鼻の下伸ばしてんのよ」

にこ先輩がいきなり、根も葉もない発言をした。

 

「別に伸ばしてなんてないですよ。全く」

僕は首を下げて溜息をついて、また前を向くと優木あんじゅさんと目が合う。

 

すると彼女は僕にウインクをして来た。

いきなりのウインクに邪な感情はあらずとも、少し照れて顔をそらす。

 

「むっ・・・」

背後から強烈な視線を感じて、視線の方向に目を向けると園田海未が鋭い目つきで僕を睨んでいた。

 

「何か?」

僕はこの視線の真相は知るために彼女に聞く。

 

「いえ、悠人が少し、破廉恥だと知って・・・少し失望しました」

 

「はぁ、貴女もにこ先輩側の人ですか」

僕は再度、溜息をつく。

 

その後、綺羅ツバサさんがなんと自身の学校の屋上でライブをしないか?と持ちかけて来た。

 

ウチのリーダーは即決してライブをする事を決めた。

 

A-RISEの三人が僕達を入り口まで送りとどけてくれた。

 

僕は優木あんじゅさんに話しかけられ、玄関に着くまで話していた。

 

「綺麗な顔だねー」

「いや、そうですか? はは」

こんなやりとりをしている間も、僕の背後には園田海未の刺さるような視線がずっと当たっていた。

 

それに気づいたのかA-RISE.μ'sのメンバーも苦笑いを浮かべていた。

 

帰り道も2年生組がいつもの別れ道で、別れる際も彼女の目線は刺さったままだった。

 

「なんだったんだ? あの視線は・・・」

あの視線の意図、真相、僕には分からなかった。

 

その事を考えながら、周囲が少し暗くなり街灯な機能し始めた時の少し影入った道を僕は1人、歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は自室で1人、勉強していた時に自分が悠人に抱いた感情について考えていました。

 

私はどうしてあそこまで腹を立てたのだろう。

 

悠人が優木さんに微笑まれて照れた時に、何か感じたことのない感情が心の底から湧き出て来ました。

 

怒りとはまた別でした・・・子供の頃に遊んでいたおもちゃを無理やり取られそうになった時のあの気分に少し似ていました。

 

仲よさそうなのは本来、良い事なはずなのに何故ここまで、悠人に対して未知の感情を抱いているのか? 分からない・・・

 

 

 

 

「海未さん。お夕飯が出来ました」

「はい、今行きます」

私は、この感情を母に聞くとこにした。

 

 

 

 

「それは嫉妬ですよ」

「えっ、いや嫉妬! 私が?」

私は予想だにしない発言にただ驚いてしまった。

 

 

「その悠人さんが他の人と至近距離で話したり、親しげに話していると心が痛む。出来れば自分のところにいてほしい・・・そう思ったのでは?」

 

「いや、その・・・」

反論できなかった。母の言う事は的を射ていたのだから。

 

「でも、良かったわー 海未さんにもようやく春が来たんですね」

 

「違います! 悠人はその・・・そう! 友人です!」

 

私は動揺を隠せず、食事をすぐに食べ終えて逃げるように自室に戻った。

 

「・・・破廉恥ですぅ!」

私は枕を後頭部に被せて、床に額をつけてしばらく唸り続けた。

 

 

 

 

 




6話、読んでいただきありがとうございます。
少し恋愛的なような入っちゃいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

第7話です。 後一応念のためにオリ主である
村雨 悠人君のプロフィールを載せておきます。


「村雨悠人 (16)
DATA
誕生日 3月15日
血液型A型
身長176cm
体重 67kg

切長の目に中性的な顔立ちが特徴の青年。
園田海未と同じく武道に精通しているところがあり、希の考察から身体能力は高い模様」

それでは7話どうぞ!






UTX高校の屋上ステージを使う事が決定した

μ'sは本番までに必死に練習を重ね、遂に本日を迎えた。

 

μ'sと僕はUTX高校に向かうために校舎を出た。

UTX高校に着くと、A-RISEが出迎えてくれて待機室まで案内してくれた。

 

僕はメンバーの着替えを廊下で待っていると、A-RISEの3人がこちらに向かって来た。

 

服装は既にステージ衣装に着替えていて、彼女の目からやる気が伝わってくる。

「お互い頑張りましょう」

「そうですね、彼女達にも言ってあげてください」

僕は待機室の方を指差す。

 

綺羅ツバサさんは頷いて、3人が僕の前を通っていく。

そして、あんじゅさんはまた不意にウィンクをしてくる。

照れるからやめていただきたい・・・

 

 

そして、屋上ステージに行き、とうとうライブが始まった。

 

最初はA-RISEから始まった。

曲が始まるとともに、高校の屋上ステージのはずなのに下から歓声がよく聞こえる。

 

彼女達のダンスが終わるとともに、高校の下の方から多くの人達の拍手や歓声が聞こえる。

 

僕からの感想は言葉も出ない。

ダンステクニック、歌唱力、どれを取っても完璧と言っても過言ではない。

これがA-RISE、全国のスクールアイドルの頂点に立つ存在。

 

だがそれを感じていたのは僕達だけではなかった。

μ'sのメンバーも彼女達の華麗なパフォーマンスに伏し目がちになっていた。

 

無理もない。あんなものを見せられたら皆、こうなるのは当然。

 

「全然違う・・・私達・・・やっぱりA-RISEのライブには」

「叶わない」

「認めざるおえません」

メンバー達の弱音、動揺が伝わってくる。

これではプレッシャーに負けて思うようなパフォーマンスが出来ない可能性がある。

 

「そんな事ない!!!」

穂乃果が不穏な空気を切り裂くように言い放つ。その声に周りの俯いていたメンバー達が視線を上げる。

 

「A-RISEのライブが凄いのは当たり前だよ。

せっかくのチャンスを逃さないよう私たちも続こう!!」

 

皆の目に光が灯っていく。これがμ'sのリーダー 高坂穂乃果の力。他者に勇気と希望、そして前進する力を与える。

「そうです。2週間頑張って来たんですから

この日の為に合宿までして作り上げた曲を

見てくれている皆さんにお届けしましょう」

 

僕が付け加えるようにそう発言すると、不安そうな顔から自信に満ち溢れた顔に変わっていく。

 

メンバー達が集まって、2本の指を前に出していく。

穂乃果が掛け声をしようとするとクラスメイトの女子生徒達がなんと応援に駆けつけてくれたのだ。

 

そして彼女達の新曲「ユメノトビラ」が始まった。

 

ライブ終了とともにクラスメイト達から歓声が上がり、最後に穂乃果達は綺麗に頭を下げた。

 

僕はその光景を舞台裏から眺めていると、綺羅ツバサが笑ったのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

μ'sメンバーと別れた後、1人、夜道を歩いていた。

「・・・俺は何をしているんだ」

僕は今日のライブの事を思い出した。自分がメンバー達を励ました事を・・・

「そんな事する必要なんてないはずなのに・・・今が楽しい? そんなわけがない!」

 

脳裏に父と母が血だらけの姿で倒れて、その側で泣く幼い自分を思い出す。

街灯の明かりに照らされながら歯ぎしりをしていると、携帯が鳴る。

 

確認すると園田海未からのメールだった。

「今日はお疲れ様でした。穂乃果と貴方の言葉で今日のライブを乗り切る事が出来ました。ありがとうございます。

それで本題なのですが・・・今週の日曜日、よろしければ稽古に付き合ってもらえませんか? お返事待ってます」

 

そういえば合宿の時、約束してましたね。

まぁ今の園田家がどのようなものなのかを把握するには良い機会ですね。

 

「分かりました。では今週の日曜日、そちらにお伺いさせていただきます。

本日はお疲れ様でした。ゆっくり体をお休めになってください」

僕は園田海未にメールを打ち返して、携帯電話をポケットの中に入れる。

 

 

 

 

 

 

緊張しましたぁぁ〜〜! って何緊張しているですか! 私は! ただ約束していた稽古の手伝いをしてほしいというメールでしょう!

 

私は布団の上で胸に携帯を当て、謎の緊張感に1人悶えていた。

すると携帯が鳴り、確認すると彼からの返信だった。

 

「分かりました。では今週の日曜日、そちらにお伺いさせていただきます。

本日はお疲れ様でした。ゆっくり体をお休めになってください」

 

ここはシンプルに答えましょう。

「こちらよろしくお願いします。おやすみなさい」

それ以降、彼からの返信は無かった。

 

それはそれで少し悲しいです。

少し開けた障子の隙間から月夜が射し込んで私を照らす。

この胸の動揺に苛まれながらも、私は目を閉じた。

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます!

誤字、脱字、その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

8話です。それではどうぞ!!!!



A- RISEの合同ライブから数日後の日曜日。

 

僕は以前、園田海未の稽古に付き合うと約束したので彼女の家に向かって、歩いていた。

 

しばらくして僕は彼女の家の門前に着いて、入り口付近にあったインターホンを鳴らす。

 

「はーい。どちら様でしょうか?」

園田海未の声がインターホン越しに伝わってきた。

 

「村雨悠人です。開けていただけませんか?」

「悠人! すぐに開けます!」

そう言って、彼女はインターホンを切った。

しばらくすると、門の奥から話し声と共に足跡が聞こえてきた。

 

門が静かに開いて、胴着姿に着替えた彼女が出迎えた。

「おはよう、、ございます」

彼女は少し、頬を染めて挨拶をしてきた。

 

「おはようございます。海未」

彼女に挨拶を返すと、僕を門の中へと入れる。

 

彼女の家は古風な屋敷で庭には石で囲まれた小さな池があり、そこには数匹の錦鯉が悠々と泳いでいた。

 

「あら、海未さん。そのお方は?」

声の方を向くと、園田海未によく似た着物姿の女性が立っていた。

 

「彼は村雨悠人君です。本日、私のお稽古に付き合って下さるんです」

「初めまして、村雨悠人と申します」

 

「初めまして、園田海未の母です。なるほど貴方が海未さんの・・・ねぇ?」

 

彼女は僕に挨拶をすると、悪戯な目で園田海未の方を見る。

すると、園田海未の顔が徐々に赤くなっていく。

 

「おっ、お母様! 違います! 私と彼は!」

「はいはい。おほほ」

園田海未の母は着物の裾で口を隠して、笑いながら屋敷の方に戻っていった。

 

「全く・・・では悠人、道場の方に案内します」

 

屋敷から少し離れたところに道場があった。

靴を脱いで道場に入ると、彼女は胴着を渡した。

 

僕は早速、胴着に着替える事にした。

しかし、こうして胴着を着るのも久しぶりだ。しばらくこうやってまともに着て、誰かと組むのは久しぶりだ・・・

 

ふと父と稽古をした時の事を思い出した。

 

 

「どうした悠人、もう限界か?」

「まだまだ!」

僕は頬に傷が付いても必死に父に立ち向かい、どうにか一本取ろうと足掻いた。

 

結果は一本も取れなかったけど・・・

 

 

 

 

 

帯を締め終えて、道場の広間に戻って着た時には彼女は既に真ん中で小窓から入る木漏れ日を手を伸ばして、浴びていた。

 

「あっ、悠人着替えたんですね。大きさはどうですか?」

 

「問題ないですね」

園田海未にそう答えると、ふと僕は彼女の後ろに壁に掛けてあった竹刀に目がいく。

 

「悠人?」

「ああ、すみません。稽古始めましょうか」

 

「そうですね」

 

僕達は互いに見合い、一礼して構える。

「はぁー!」

園田海未が先制を仕掛けてきて、近く手を僕は払う。だが、起点を利かせて何度も仕掛けてくる。

 

これ以上払い続けるのも限界か、、、

「ふん!」

僕は園田海未に手を伸ばして、彼女の左裾を掴んで彼女を引き寄せる。

 

彼女は振りほどこうと、空いている左手で抵抗しようとする。

 

俺も彼女を左手を振り切ってすかさず彼女の襟元を掴んで、足を掛けた。

 

すると彼女は背中から畳に崩れていった。

 

「一本取られましたね・・・」

畳に体を預けて、微笑みながらそう呟く。

 

それから何度か組み手を重ねて遂に・・・

「ハァァ!!!!」

「ぐっ!」

彼女は僕から一本取ったのだ。

 

「やっと・・・とれました」

「とられてしまいました」

僕は彼女から差し出された手を取り、立ち上がる。

 

 

 

二人、道場の壁に持たれて水を飲みながら、顔の汗を拭く。

「しかし、お強いですね。一本しか取れないなんて・・・」

 

「海未もなかなか強いではないですか。起点の利かせ方が凄く上手いです」

 

「そうですか。ありがとうございます。でも悠人、何故あの時の構えではー」

「稽古はどうだ? 海未」

 

彼女が続けて何かを言おうとした時に道場の入口の方から逞しい声がしたので、目を向くと和服姿の中年男性が立っていた。

 

すると海未が立ち上がり、僕もそれに合わせて立ち上がる。

「はいお父様、彼のお陰でいつもより励んでおります」

 

「初めまして、村雨悠人と申します。園田海未さんとはクラスで仲良くさせていただいています」

 

「園田海未の父だ。よろしく」

手を差し出されたので、本心を偽り微笑んで握手を交わす。

 

「海未よ。村雨君の実力はどうかね?」

「正直、私より上かと、先程まで何度か交えてやっと一本取れました」

 

「なんと・・・」

園田海未の父は目を開き、驚いた顔で僕を見る。

「いえいえ、父が多趣味な物でそれで武術を教わっていただけです」

園田海未の父に返すと、彼は顎に手を添えて何か考え事をするような動作をとる。

 

「村雨君・・・良ければ私と一度、組み手を取ってもらえるか?」

 

「お父様が直々に・・・」

 

「分かりました。園田道場の師範と手合わせできるとは」

 

「では始めよう・・・」

 

互いに向かい合い、一礼をして構えを取る。

彼の体から常に放たれている気迫が伝わってきて、鳥肌が立つ。

 

すると、彼は地面を強く蹴り僕の元に駆けていく。僕はいきなりの速度に避けるのに遅れが生じる。

 

僕は掴まれそうになった左裾を後ろに下げて、彼が技をかけられないように間合いを作る。

 

「ほう、今のを避けたか・・・ほどんどの者はあれに捕まって今頃、畳で寝ておるところだ」

 

「はは、僕も危なかったですけどね」

 

どうする。またあの構えを見せれば園田海未ではなく、今度は師範にまで見られる。ここは潔く負けておくか・・・

 

 

そんな事を考えている時に気づけば、彼は目の前まで迫っていて一瞬にして、僕の体は宙を舞った。

 

「私の勝ちだな」

園田海未の父は倒れる僕に、口を開いて歯を見せた。

 

「負けちゃいましたね」

手を差し伸べられて立ち上がると、園田海未が駆け寄ってきた。

 

「海未の言う通り、中々腕が立つな。しかし

対決している時に雑念が入ったのは感心せんな」

考え事がバレてたか・・・

 

「どうやって間合いに入り込もうか、考えていたら一本取られてしまいました」

 

「でも、凄いお父様を前にしてここまで組み手が出来るなんて・・・」

 

「海未も中々ですよ」

「なんとお主達、下の名で呼ぶ仲なのか!」

 

「違います! お父様! 穂乃果達も彼を下の名前で呼んでいるので私もそう呼んでいるだけで決してそんな・・・」

そう言うと、園田海未が顔を赤らめる。

 

「そうか、海未もとうとう・・・」

「だからお父様! 違います!」

父と娘の話は夕陽が射してきた道場をより一層明るくした。

だが、夕陽が射して強くなる分、影も濃くなっていく。僕も同じだ。

 

二人が楽しみ話している事に関して表面上の笑顔とは別に内心では

恐ろしいほどの不快感、おどろおどろしさが蠢いていて、目眩がしそうな程の気持ち悪さが僕を包み込むように襲ってくる。

 

今の自分はちゃんと笑顔で二人を見れているのだろうか? もはや自分の表情すら分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、僕はすぐに着替えて、彼女の家を出た。夕食の誘いを受けたが断った。

断った時、園田海未の顔が少し寂しそうな顔をしてたが

気のせいだろう。

それにこれ以上、あの場所にいれば気が狂いそうだったからだ。

 

でも、久しぶりに組み手をしたのは少し楽しかったな。

夕暮れの帰り道、一人そう思う僕だった。

 

 

私は部屋で一人、机に座りながら作詞を考えている時に今日の事を思い出しました。

「悠人との組み手、緊張しました。ですが何故、あの構えをとらなかったのでしょう? もしかしたら見間違いかも知れませんね・・・夕食を一緒に食べたかったな・・・」

 

 

すると私は我に帰り、自分の失言に悶えるのであった。

 

 

 

 

 

 

園田海未の父が部屋の障子を少し開けて、その隙間から月を眺めながら酒を呑んでいた。

 

「海未の友人はなかなかだった。しかしあの動きからして本気すら出していなかった。村雨・・・まさかな・・・」

 

そうひとりでに話して、酒を一人飲むのであった。

 




今回もありがとうございます!!
誤字、脱字、その他のご指摘ありましたらご連絡ください!!!!
ありがとうございました!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

第9話です。


9話

 

僕たちは今、アイドル研究部の部室のパソコンの前に釘付けになっている。それは何故か?

 

今日の午後にラブライブ 予選突破チームの発表があるからだ。

 

メンバー 一人一人が固唾を飲みながら見守る中、花陽が発表欄をスクロールしていく。

 

1番 A-RISE が表示される。

まぁ、当然ですよね・・・

2番 イーストハート 3番 ミッドナイトキャッツ と別のチームが枠を埋める。

 

「ダメだよ、同じだよ・・・」

穂乃果が絶望した顔で溜息を吐く。

 

そして、花陽が最後の人組みを表示されている場所にスクロールする。

「4チーム目は・・・」

 

「ミー」「ミュー」

花陽が徐々に下げて行くとともに、メンバーの口元も尖った口に変化していく。

 

第3者の目線からすれば中々面白い光景だ。

そして花陽がスクロールしきるとそこに映っていたのは・・・

 

4番 μ's

 

「音ノ木坂学院高校 スクールアイドル μ'sです!」

花陽が改めて確認するかのように画面に自身の顔を持っていく。

μ'sの名前を見た途端、周囲に沈黙が流れる。

 

「μ'sって私達だよね。石鹸じゃないよね」

「当たり前でしょ!」

穂乃果のボケに真姫が渾身のツッコミを入れて穂乃果の顔が引きつる。

「凛達合格したの?」

「予選を突破した?」

 

 

 

「やったー!!!!!」

彼女達の歓喜の声がアイドル研究部の中に響く。

 

彼女達は喜びのあまりに部室を飛び出していった。僕は彼女達のいきなりの言動について行けず立ち尽くしていた。

 

「行ってしまった」

僕はそう呟いて改めてパソコン画面を見て彼女達が合格した事を再認識すると自然と頬が緩んだ。

 

穂乃果の夢を聞いたときは、妙に現実味があり少し恐ろしく感じました・・・

 

 

「あれ?」

ふと横を見ると耳を塞いだままの園田海未がいました。多分さっきの歓喜の声が聞こえなかったのだろう。

 

「海未」

「わっ! なっ、なんですか! 悠人! 私は今 真剣にー」

園田海未が何か続きを言おうとした時に放送が入る。

 

「おしらせします。たった今、我が校のスクールアイドル μ'sがラブライブ の予選に合格したとの発表が入りました」

 

それを聞いた時、彼女の顔が笑顔を取り戻して僕にハイタッチをしてきた。

 

そのあと、すぐ冷静に戻ってしまったが・・・

 

 

 

僕はその後、穂乃果達に用事があると告げて、学校を去った。

 

μ'sには出れる時、出れない時がある事を条件にしているのでプライベートに関しては寛容だ。

 

嘘だ・・・本当はこれ以上関わりたくないだけだ。

そして歩くたびに頭の中にこの学校に来た日々の事が頭を巡る。

合宿、ラブライブ予選、この間にも忌むべき園田海未と手合わせをした。

 

この数日間、僕は一体何をやっているんだ?

彼女達の活動に付き合って僕に何がある?

 

そうだ・・・園田海未を・・・園田海未を・・・

 

僕は何度も何度もこの言葉を吐いてきたくせに殺し損ねた。本当は殺したくないのか?

いやいやいやそんなはずはない。

 

こんな不毛な自問自答をここ最近、ずっと続けている。

僕はこんな馴れ合いをしに来たんじゃないはず・・・

 

すると携帯が鳴り、画面を見ると園田海未からだった。

 

「はい、もしもし」

「もしもし悠人ですか? 今から場所を教えるのでそこまで来てくれますか?」

 

「僕は今日予定が・・・」

「ん?」

園田海未の言の葉から異様なほどの怒りを感じる。ここは素直に従ったほうが後々の為か・・・

 

 

着いたのは大きな団地でそこの一室に来て欲しいとのことだった。

「ここか」

部屋の前についてインターホンを鳴らす。

 

奥から幼い声での返答が聞こえ、ドアが開く。

「あのすみません。知人にここまで来るように言われたんですが」

「初めまして、矢澤こころと申します。

あなたがお姉様の言っていたお姉様の付き人さんですね。お待ちしておりました。さあどうぞ」

 

「あっ、はい。失礼します」

僕は彼女に言われるままに部屋の中に入っていく。というか今、付き人と・・・

 

リビングに通じる扉を開けるとμ'sメンバーが椅子に座っていた。

みんな怒ったり疑問を抱いた顔などそれぞれの表情をにこ先輩に向けていた。

 

「みなさん、どうしたんですか?」

「悠人よく来てくれましたね」

園田海未が張り付いた笑顔を僕に向ける。

なんとも不気味だ・・・

 

園田海未が説明を聞くに、にこ先輩が理由を付けず早く帰りそれを怪しく思い付けて行くと一度、バレて振り切られるも妹のこころちゃんと会い、そこでにこ先輩が他のメンバーをバックダンサー、僕を付き人だと妹弟に教えていたという。

 

確かにリビングの横を見ると、こころちゃん以外にもう一人女の子と男の子がいる。

 

男の子は僕に駆け寄ってズボンの裾を引っ張りながらモグラ叩きのおもちゃを指差す。

やれってことか・・・

「珍しいわね。虎太郎が人に懐くなんて」

「少し付き合ってもいいですか?」

「好きにしなさい」

 

僕はメンバーから問い詰められるにこ先輩を尻目に虎太郎君に導かれるままにモグラ叩きの近くに座った。

 

「私矢澤ココア! んでこっちが末っ子の虎太朗、お兄さん名前は?」

「村雨悠人です。よろしくお願いします。ココアちゃん。虎太郎君」

挨拶した後、少し遊びに付き合っていると、虎太郎君が近くまで寄って来た。

「似てる〜」

「僕は誰にですか? 」

僕は聞き直すと、虎太郎君が指した方向を見るとその先には園田海未がいた。

「虎太郎、それは口調が似てるからでしょ」

ココアちゃんが虎太郎君の発言を無事に茶化す。

「確かに似ているかもしれませんね」

僕も便乗して付け足す。幼い子に助けられるとは我ながら情けない。

だが、その間、虎太郎君はココアちゃんの言葉に納得のいかないような顔をしていた。

 

するとにこ先輩とμ'sメンバーの話し合いが少し耳に入った。あまり雰囲気はよろしくないようだ。

 

「別に私の家でどう言おうと私の勝手でしょ、頼むから今日は帰って・・・」

にこ先輩が吐き捨てるように僕達に言う。

さて、潮時だな。

「さようなら、ココロちゃん、ココアちゃん、虎太郎君」

僕は3人に手を振り、μ'sメンバーと共に部屋を出た。

虎太郎君の発言は子供の当たり障りのない虚言と受け止めておくことにした。

そしてにこ先輩の家を出た後、穂乃果の思いついた提案にみんなで実践することになった。

 

 

 

 

 

 

そして数日後の放課後、僕は屋上に大きなステージを作っていた。風船の空気入れやセットの組み立てなど、メンバーと協力して完成した。

 

あとは穂乃果が主役を連れてくれば完成だ。

 

すると携帯が鳴り、穂乃果からの連絡がきた。にこ先輩とその下の子達を連れてここに向かっているらしい。

 

屋上に上がってきた妹弟をカーペットに座らせて、絵里先輩、希先輩の考えた衣装を着たにこ先輩が舞台から姿を現われて僕達は彼女の後ろに並ぶ。

そして、にこ先輩は自分の一人のアイドルを今日で終わりにしてμ'sのメンバー達と新しいアイドルになる事をココロちゃん、ココアちゃん、虎太郎に伝える。

 

最初は動揺していた3人も姉の気持ちを理解したのか目には尊敬の念が見えた。

 

ライブが始まる際に僕達は一斉に舞台から降りて裏で待機する。

 

彼女のラストソロライブを見届けるために・・・

 

そして、僕はその時、この光景見てより強く思った。μ'sは僕の関わるべき場所ではないと、

 




今回も読んでいただきありがとうございます!
☆9 キース・シルバーさんありがとうございました!!!!

その他の皆さんもお気に入りにしてくださり、ありがとうございます。
大変申し訳ありませんが物語の山はもう少し先なので付き合っていただければと思っております。
いつも通り 誤字、脱字、その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

今回は少し暗いお話です。
それではどうぞ!


僕は今、自宅で数日後の修学旅行に備えて準備をしている。

 

にこ先輩の一件以降僕はμ'sメンバーと距離を取るようにした。

穂乃果に何度も誘われてはいるが、理由をつけて断っている。

 

僕が彼女達と関わったのは少しでも、園田海未に関する情報を得るためでこの期間で得ることは出来た。

 

後は穂乃果が途中で諦めるのを待つのみだが

彼女の性格を考えるとそれは難しいか、、、

そんな事を考えている時に携帯が鳴り、取ると園田海未から一件のメールが届く。

「明日の放課後、屋上に来てもらえますか?」

 

多分、μ'sメンバーが僕の事を不審に思ったのだろう。最初は迷ったがこれ以上穂乃果にも声を掛けられるのも面倒に思ったので行く事にした。

「分かりました」

 

一言メールを送り、携帯を机に置く。

 

 

 

 

 

次の日の放課後、僕は屋上に繋がる階段を登っていた。屋上に近づく事に話し声が聞こえてくる、恐らく僕の事だろうとそう思いながら足を進め扉の前に着く。

 

僕はドアノブに手をかけて、扉を開けた。そこにはμ'sのメンバー全員が揃っていた。

「みなさん、お待たせしてすみません」

僕はメンバー達に挨拶をして、皆それぞれの反応を示した。

「どうも、それで話ってのは?」

「そんなのアンタが一番分かってるはずでしょ」

にこ先輩が僕の発言に対して言及して来た。

 

「僕がここ最近、μ'sのサポートに来ていなかった事ですか?」

 

「穂乃果達、何か嫌のことしちゃったのかなって・・・それで悠人君が嫌な思いしたのなら謝る」

不安げな顔で質問する穂乃果に僕は返答する。

 

「いえ、別にそんな事はないです。単に行こうと思わなくなったです。別に僕がいなくてもこのグループは回るだけですし、ここにいるメリットがない事に気付いただけです」

 

「メリットって貴方は効率で物事を判断する人だったの? 」

真姫が腕を組んで聞いて来た。

 

「効率に考えてる事は悪いことではないでしょう」

 

「ウチら、悠人君のお陰で助かったことあるんよ。A- RISEのライブの時に弱気になったうちらを励ましたくれたやん。」

 

「あれは穂乃果に便乗して言っただけです。

あの現状を変えたのは彼女ですよ」

 

「悠人、貴方は私たちの仲間なんですよ。だからそんなこと言わないでください」

僕には疑問だった。何故、彼女達はここまで僕を信頼しているのか?

何故、たかがここを去るだけなのにこうも手こずっているのか?

何故、僕自身去ろうとする事に抵抗感があるのか。

 

そうか、きっと僕は彼女たちとの日々を楽しんでしまっていたのか・・・成すべきことを成さぬままに過ごしてしまっていた。

極めて怠惰な事この上ない。

 

仕方ない。ここは少し早めに泥を被ろう。

僕は必ずここを去れて、彼女達との関係性を壊す発言を彼女達に投げかけた。

 

「全く・・・仲間、仲間って、 所詮はプロでもなんでもない寄せ集めの女子高生がアイドルごっこをしているだけでしょ?」

彼の一言でメンバー達は顔が引きつる。

 

「アンタ今、なんて言ったの?」

予想通り、にこ先輩の逆鱗に触れた。このまま続けよう。

 

「寄せ集めの女子高生のアイドルごっこだと言ったんです。子供がおままごとをするのと変わらない。いいですか? 貴方方に限らず全てのスクールアイドルは所詮、ごっこ遊びに興じているだけなのですよ。穂乃果さんに声を掛けられて、初めて見に来た時は笑いを堪えるので必死でした。

なんて滑稽な事をしているのかと・・・」

 

「アンタふざけんじゃないわよ!! 」

にこ先輩が僕に向かって飛び掛かるのを真姫が止める。

にこ先輩を止めている真姫が僕の方に目を向けた。彼女は目に涙を溜めながら僕の事を睨んでいた。

 

フェンスの近くにいた花陽も真姫同様、涙目になり、その横の凛も僕を睨みながら泣いていた。

 

絵里先輩、希先輩は言葉を詰まらせているのか、僕の話を黙って聞いていた。

「そんな事ない!」

穂乃果が僕に対して、反論して来た。流石に彼女もこれには怒りの表情を浮かべていた。

しかしここで止めるわけには行かない。

 

「そんな事ない? 履歴に書いても何の得にもならない。将来性もない。それに何の意味があるんですか?

それに先輩方は今年、大学受験ではないですか? こんな事に時間を割いていていいんですか? にこ先輩は勉学を苦手と聞きました。

こんなものに費やしている暇があるのなら英単語の一つや二つ覚えたらどうですか?

数式の一つや二つ取れるようになったらどうですが? 」

 

「勉強も大切だけど今しか出来ないは必ずあるはず。私はμ'sに入ってそれを理解した。

貴方にも必ずそれが分かるはず」

絵里先輩が自負心を含んだ発言をする。

 

「それがこのグループですか? 前生徒会長は随分と甘いお考えのようですね。

数ヶ月後には無くなるお子様グループなんかに意味を見出す必要性なんかー」

 

僕が話を続きを言おうとした時、先に痛みが僕を頬を伝う。

 

そこには涙を目に浮かべた園田海未が立っていた。

「貴方は最低です。そんな人だとは思いませんでした。 貴方は最低です!!!! 」

 

よしこれでいい・・・これで僕に次に勧められる。軌道修正は完了した。

 

「ふふっ、そうですね。でもこれで分かったでしょう。僕がこのグループに不必要な人間だと」

 

μ'sメンバーは目を伏せていた。ただの一人を除いて、

希先輩だけは目を逸らさず僕の事をジッと見ていた。僕の考えを見透かすように・・・

 

「では、失礼いたします」

僕はそう言い、いつもより重く感じる屋上の扉を閉めた。

 

 

 

 

数日後、僕は修学旅行先の沖縄を満喫していた。

青い海、生い茂る緑、やはり本土とはまた別の空気感を感じる。

何より僕は故郷と東京以外の所を言ったことが無かったので何より楽しかった。

 

穂乃果達はどうやら海側に行っていて向こうは向こうで楽しくやっているようだ。

 

 

それから夜になり、僕は宿泊先の部屋に戻った。僕は他の生徒とは違って別の棟に用意された部屋に指定された。まぁ不純異性を考慮してとか事だろう。

 

僕はホテルで用意された食事を早急に食べ終えて、自室で食べる菓子類をコンビニで買おうと、外に出る。

 

 

コンビニで菓子類と飲み物を購入した後、宿泊先に戻ろうと道を歩いていると、園田海未が向こうから歩いて来た。

 

僕は彼女から目を逸らすと、彼女も僕から目を背けてそのまま通り過ぎた。

 

そう僕達はもともと無関係・・・あくまでこの学園では・・・

 

 

そんな事を思いながら、真夏の夜に似た暑さを感じで僕は宿泊先に足を進める。

 

 




読んでいただきありがとうございます!!!!
それと多いかどうかは分かりませんがお気に入り21件頂きました。
誤字、脱字、その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

11話です。 今回は園田海未の目線からの話です。
それではどうぞ!!!!


最近、彼が放課後、屋上に来なくなった。最初は用事が長続きしているのかと思っていましたが、それ以外でも私達を避けるようになり、挨拶も曖昧なものへと変わっていきました。

 

μ'sのみんなも同じ事を思っていたらしく、悠人を屋上に呼んで話をしようということになった。

 

私達はいつもより早く集まって、悠人のことについて話していた。

 

「悠人君、なんで来なくなったんだろ? 穂乃果が無理に誘ったからかな?」

 

「そんな事ないよ。穂乃果ちゃん」

少し落ち込みがちになる穂乃果をことりが慰める。

 

「でも確かに彼って自分の事あまり、話さないわよね」

「休憩の時もスポーツドリンクを配布して、やること無くなったら一人で本読んでるし」

真姫がいつもの癖で髪の毛を指で回しながら

話すと、にこがそれに続いて話す。

 

「あのうち、悠人君で気になった事があるねんけど」

希の言葉に周りのみんなが彼女の方を見る。

 

「合宿の時な、うちと海未ちゃん、凛ちゃんで山登ったんよ」

 

「あの後・結局登ったのね・・・」

絵里が私の方を見る。

 

「お、抑えきれなくて・・・すみません」

私はみんなに過去の行いを謝る。

 

「まぁ、それはええねん。うちらが登った山って高さもあったけど結構急な斜面やらが多くて登るんにも1時間ちょいくらいかかってん。その時にうちは最後列で前と後ろを定期的に見とったんよ。

そんでひと段落着いて、休憩しとったらその数分後に彼は登って来たんよ。しかも息も切らさんと・・・」

 

みんなが驚く中、穂乃果も何かを思い出したかのような反応をする。

 

「どうしたんですか? 穂乃果」

「前に一度、悠人君がうちに店に来たことあるんだ。その時新作のお饅頭食べた時、悠人君と途中から涙を流したんだ」

 

「それって単に美味しすぎて泣いたんじゃないのかな?」

ことりが穂乃果の発言に異論を唱える。

 

「お母さんもそう言ってたんだけど、私にはそうには見えなかった。涙を流すまでなんか

悠人君、ぼーっとしてたしきっと何か別の事を考えてたんだと思う」

 

別の何か、涙を流す事を思い出したという事は何か心に残る程の事を思い出してしまったという事でしょうか?

 

そして、今度は私自身の彼の疑問をみんなに話すことにした。

 

「みんな、実は私も彼に関して疑問に思っている事がありまして、以前私は不良に絡まれた時に彼に助けられた事があったんですが・・・その時に私の見間違いかもしれないんですが彼が見せた護身術の構えが園田流の構え方そのものだったんです」

 

私の発言にみんなはまた目を大きくする。

続けて私は言葉を続ける。

 

「私は普段道場で父のお弟子さん達と共に稽古を行なっていて顔もよく覚えているんですが、彼の姿を見た事は一度もないです。父も初めてあった時、他人行儀だったので、彼が何故あの構えを知っていたのか分からずじまいなんです」

「身体能力が高くて、海未ちゃんと同じ園田流の使い手って事?」

花陽が顎に手を添えて状況の整理をする。

 

「園田流に関してあくまで可能性ですが・・・」

 

穂乃果の言っていた心に残る事を思い出して

涙を流したのなら、彼は一体、何を想っていたのでしょう。 悠人貴方は一体、、、

 

その時、屋上出入り口の扉が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

私は彼の頬に強い平手打ちをした後に、彼は

私達の元を去りました。

その後、私達は練習する気力がなくなり、その日は練習を行わず帰宅しました。

 

その日の夜、部屋で今日の事を思い出したながら月を眺めていると、着信音が鳴り、携帯の画面を見ると希が携帯をかけて来ていました。

 

「もしもし、海未ちゃん? ごめんな、こんな夜に」

「いえ、問題ありません・・・」

 

「実は悠人君の事やねんけど・・・彼は多分、μ'sの事、嫌いになんかなってないと思う」

 

「どういう事ですか?」

 

「悠人君はいつも感情を表に出さんかったけど嫌な顔一つせんかったし、確かにμ'sとの日々を楽しんでた。せやないと合宿やラブライブ予選の2週間の練習にも付き合ってくれんはずや・・・ウチには分かるんよ。孤独な人は無意識に人を求めてしまうから・・・」

 

「希?」

 

「やからきっと原因があるはず、それに海未ちゃんも愛しい人を叩いた事後悔してるんちゃう?」

 

「いっ、愛しい! 私は別にそんな、、、」

 

「あははは、海未ちゃん面白いわ」

電話越しで希の笑い声が聞こえて・私は頬を染めて必死に否定しようとするも言葉が詰まってしまう。

 

「でも彼のあの時、嘘を言ったとして彼に関しては何もわからないままです」

 

「そこはウチにも見当がつかんわ」

 

「海未さん、お風呂が沸きましたよー」

お母様から呼ばれる声を聞き、応答する。

 

「はーい,すみません。希、お風呂に入りますのでこれで失礼します」

 

「うん、こっちも夜分遅くにごめんな」

「いえ、では失礼します」

私は電話を切り、そのまま風呂場へと向かった。

 

 

その後、修学旅行の日を迎えて、沖縄に着いた時も彼は一人で行動をしていた。

 

夜、私がトランプゲームで負けてしまい罰ゲームで買ってくる事になり、コンビニに向かっている時、向こうからコンビニ袋を持ってこちらに向かってくる彼を見つけた。

 

彼は私に気づいたのか目線をそらす、分かっていた。一度離れたものは簡単には戻らないと・・・彼が私の横を通り過ぎた後、私は彼の背中に声をかけようとしましたが、どうしても言葉が喉の奥に引っかかりそれは叶いませんでした。

 

 

次の日、私は一旦、気にすることを辞めて

修学旅行を満喫することにしました。

 

私達が修学旅行に行っている間に凛がなんとウェディング姿でμ'sのみんなと一緒にパフォーマンスを披露していたらしく写真を見たときは驚きました。

 

凛はどうやら女性らしい服装を着るのにコンプレックスを抱いてたようで、それを乗り越えたの事です。

 

穂乃果とことりと私は彼女が笑顔で写る写真を見て頬が緩み、ここ最近、暗雲な気持ちだった心に少し暖かな気持ちになりました。

 

私も少しずつ、悠人と分かり合いたい・・・そんな気持ちになりました。

 

 




11話終了です!!!
読んでいただき ありがとうございます!
それとお気に入り21件突入致しました。読者の皆様のおかげです。
皆様、本当にありがとうございます!
いつも通り誤字、脱字、その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

12話です。
それではどうぞ!!!!


10月中句の晴れた土曜日、僕は新幹線の座席に座りながら、故郷のあった場所に向かっていた。

全てはμ'sと関わって揺らいでしまった信念を再び固めるために・・・

 

電車は目的地の駅について僕は下車して、

手を組み合わせて体を伸ばす。

 

改札を降りて、駅の外に出ると見覚えのある川や山を目にして改めて戻ってきた事を実感する。

 

僕の住んでいたのはとある県の山奥にある古い屋敷。 山一帯が私有地なので誰も近づいてはこない。

 

しばらく歩いていると私有地だった山について、山の中にある石段に足を乗せる。

 

山の中の森から鳥や虫の鳴き声や風が葉に当たり、カサカサと揺れる音、川のせせらぎがよく聞こえる。

僕は聞こえる音に耳を澄ましながら、歩いて行く。

 

「やった着いた・・・」

歩き続けた僕は遂に目的地である昔に父と母と暮らしていた屋敷に着いた。

 

屋敷の周りを見ると、木のツルが窓や柱に絡まっていたり、藻が付いていたりなど年月を思わせるような外観になっていた。

 

晴れた日には家族で仲良く円になり、昼食を摂った庭も今は人の手入れがない為、雑草がそこら中に生えていた。

 

見ていくたび、家族との楽しかった日々が鮮明に蘇ってくる。

 

父と稽古に励んだり、母と花遊びを楽しんだり今もう無くなってしまったが確かにあった日々が脳裏に次々と浮かんでくる。

 

僕は思い出を回想しながら家の裏側まで足を進める。

 

そこには小さく建てられた両親の墓があった。

 

「お父様、お母様、お久しぶりです。僕は今、東京の音ノ木坂学院高校という学校に通っています。これもお二人遺していてくださった遺産のお陰でございます。必ずもやわたくしがお二人の仇を討ちますのでもうしばらくお待ちください」

 

その時、僕の中で揺らいでいた決心が固まった。僕の今まで生きた意味・・・

 

必ず、園田海未を・・・園田の血を絶やしてやる。

 

 

 

それから2日が経って月曜日を迎え、僕はいつもの同じように教室で授業を受けていた。

 

教室の雰囲気は相変わらず賑やかで、僕がμ'sメンバーとのいざこざが広まってないのか

女子も以前と変わらず接している。普通なら僕は学校で孤立している立場なのだ。

穂乃果、ことり、園田海未と廊下ですれ違う時もあるが、目があっても逸らしてお互い避け合う関係になっている。 ことりに関しては僕に対して怒りの混じった瞳で見られる事もある。

放課後、夕陽が窓から入ってきて薄暗い廊下を照らす。

廊下を歩いている時に練習着姿の園田海未が前から歩いてきた。

 

僕は構わず修学旅行の時と同様、彼女を横を通り過ぎて玄関に向かおうとした時、僕を呼ぶ声が後ろから聞こえた。

 

振り向くと園田海未が僕の方に体を向けていた。

 

 

「何か御用ですか?」

そう言うと、園田海未は僕に頭を下げた。

 

「この前は頬を叩いて申し訳ありませんでした。いくら貴方の発言に憤りを感じたとはいえ、言葉で対処すべきでした」

 

彼女は以前の行いを悔いたのか僕に謝罪してきた。僕自身、特に気にしてはない。

むしろそうされてもおかしくないような事をしていた為、彼女の行動は想定内だった。

 

 

「いえ、別に構いませんよ。それでは失礼します」

 

僕は彼女に素っ気なく答えて、再び玄関まで歩き始める。気のせいか前を向く時、少し悲しそうな顔で僕のことを見ていた。

 

彼女も歩き出したのか、徐々に遠ざかっていく足音が聞こえる。

 

夕暮れの廊下、二人の男女が足音のみが聞こえていた。

 




今回も読んでいただきありがとうございます!

誤字、脱字、その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

13話となります。 それではどうぞ!!!!


10月が過ぎると、少し肌寒くなってきて、セーターを着ている生徒も増えてきた。

 

僕は教室で本屋で購入した小説を読んでいた。こうして小説を読んでいる時が一番落ち着く。

 

文章に書いてある事を脳内の中にある映写機が映し出し、想像と挿し絵の違いを楽しんだりもしている。

 

風の噂で聞いたがμ'sはハロウィンイベンドで人気を博したとか。

 

次はとうとう2次予選、これでラブライブ 出場が決定するのだから、メンバー達はより練習に励んでいるに違いない。

 

僕の席の横でいつも通り穂乃果、ことり、園田海未の楽しそうな話し声が聞こえる。

たまに園田海未が穂乃果を嗜める発言も耳に入ってくる。

 

すると、僕の横に誰かの近づく気配を感じて本から視線を横にそらすと園田海未が立っていた。

「おはようございます。悠人」

 

「ああ、おはようございます。園田さん」

 

彼女の挨拶に僕は他人行儀で返す。僕と彼女は今はただのクラスメイト、μ'sの手伝いをしていた頃とは違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり僕は自分の家で一人、教室で読んでいた小説を読んでいると空腹感を感じて本を置いて、冷蔵庫に向かう。

 

冷蔵庫を開けると、食材がないことに気付き

眉間に手をあてる。

 

夜になると部屋にいても肌寒く感じたのでパーカーを一枚来て外に出る事にした。

 

アパートの階段を降りて、一人近くのスーパーまで買い物に向かう。

 

店内に入ると、夕飯の食事の買い出しか子連れの女性達が店内に多数確認できた。

東京に来た時、都会でスーパーを見つけた時は魚、野菜、肉、などなんでもある事に目を丸くしたのを覚えている。

 

そんなことを思い出しながら買い物かごに食材を入れていき、野菜コーナーに向かいレタスに手をつけようとした時、誰かの手が当たる。

「あっ、すみません」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません」

 

相手の方を見た時、そこには東條先輩が立っていた。

「悠人君・・・」

「すみませんでした。東條先輩、失礼します」

 

その場からすぐに立ち去ろうと足を前に出した時に後ろから東條先輩が僕を呼んだ。

 

「悠人君・・・少し話さへんか?」

「・・・分かりました」

 

 

 

 

 

 

買い物を済ました僕達は公園のベンチに座った。暗くなり公園の灯りがよく目立っていて、僕達以外、公園にいる人がいないため弱々しく吹く風の音がよく聞こえるほど静寂に包まれていた。

 

「それで話とはどういったことでしょうか?」

 

「自分でも分かってるやろ?」

 

おそらく屋上での一件の事だろう。

 

「屋上での件なら、僕の本音はあの時に話した事で間違い無いですよ」

 

「本当にそうやろか?」

「はい?」

「ウチはあれが悠人君の本音やとは思ってない。多分、何か理由があってそれで仕方なく言った言葉やと思うんよ。

たしかに悠人君はいっつも手伝える事なくなったら壁にもたれて一人で本読んでるけど、

私達の事、ちゃんと考えてくれてるってのは分かるんよ」

 

「そんなんじゃないですよ。手作っていたのは高坂さんに言われたからどんなものか気になり、手伝っただけですよ」

 

「悠人君、なんで辞めたんか教えてくれへんか? みんなの前で言ったことは嘘やってのはわかってる。嘘は昔から人の嘘を見抜くのは得意なんよ」

 

東條先輩は真っ直ぐな目で僕の目を捉えてそう言った。 そういえば屋上でμ'sを侮辱した時、悲しそうな顔を浮かべるメンバー達の中で彼女だけは僕の事を今と同じような目で見ていた。

 

「仮に僕を嘘を言ったとしても何になると言うんですか? 今となっては意味のないことでしょうか」

 

「そうかもしれん。でもな悠人君はあの日々をμ'sのみんなと関わってて楽しそうやった。

初めて君と会ったとき目を見た時、分かってん。この子は孤独やったんやろなって・・・」

 

この時、東條先輩に心の虚を突かれたのか僕は少し動揺を覚えた。それ後に虚から怒りマグマが出てくる感覚がした。

 

「だから、ウチに話してほしい、そしたらμ'sのみんなもー」

 

「貴女に! 僕の分かるって言うんですか!?

μ's、μ'sってそんなにアレが大切か!?

大切なモノなんていつかは無くなるんだ。音もなく終わりが来るんだ! 」

 

僕は彼女の言葉を遮り、心から噴き出たマグマを発散した。

東條先輩は僕のいきなりの大声に驚いて、僕の発言を聞いたあと、少し悲しそうな顔をした。

 

「すみません。大声出して・・・話はそれだけですよね? もう帰りますね」

僕はベンチに置いてあったレジ袋を取り、早急に立ち去った。

レジ袋を取る際に、東條先輩の顔が視界に入った時、目が少し潤んでいた。

なんだその目は・・・

 

 

 

 

僕は暗闇を所々、照らす街灯を頼りに家への道を歩いた。

歩いている際、公園での事が脳裏をよぎり、その度に拳を握りしめる。

 

忘れようと決心する為に、故郷に戻ったのに

その後にこの出来事だ。

 

どこまでも邪魔だ・・・いや、僕の心の弱さが原因だ。

だがこの苦悩、懊悩もあと少しで終わる。

 

 

 

 

それから何もないまま予選当日を迎えた。その日は大雪と吹雪が強く、歩く事すら困難なほどであった。

 

僕は廊下の窓から外の光景を眺めていると、

向こう側から穂乃果、ことり、園田海未が急ぎ足で向かって来た。

 

 

彼女達が横を通り過ぎる時、園田海未と目が合う。すると彼女の足が止まる。

「悠人、まだ学校にいたんですか。外は雪が積もっているので気をつけてくださいね」

 

彼女はそう言い歩き出そうとした時、僕は彼女の名前を呼ぶ。彼女は驚いたような顔をして再び足を止める。

 

「・・・頑張ってくださいね」

 

僕は彼女にそう伝えると彼女は嬉しそうに微笑んで、歩き出した。

 

 

さて、僕も始めるか・・・

 




今回も読んでいただきありがとうございます!

誤字、脱字、その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

今回はラブライブ 2次予選のお話となります。



悠人の声援を受けて、私は嬉しくなり彼に対して笑みを答えた。

 

私は穂乃果とことりたちの元に急いだ。穂乃果とことりは玄関の前で立ち止まっていた。

 

外は予想以上に吹雪が吹いていて、視界も良好ではないハッキリ言って予選会場に向かうには絶望的な状況でした。

 

「行こう!」

穂乃果は一歩を踏み出して、私達はそれについて行くように足を前に出した。

やはり穂乃果は凄いです、私達が臆してしまうところも飛び越える勇気を持っている。

しかし、その勇気を嘲笑うかのように足を進めれば進めるほど吹雪は強くなっていった。

 

もう駄目かと諦めかけたその時、吹雪が止み始めて傘と退けると、なんと全校生徒のみんなが雪かきを持って除雪していました。

 

そして、彼女の協力と声援を受け私達は走り出してやっとの思いで会場に着く事ができました。

 

 

会場に着くと絵里達が私たちが来るのを待っていて、穂乃果が絵里と熱い抱擁を交わすと

涙を流し始めました。

「怖かったよー!」

人一倍心の強い彼女も本当は不安で仕方なかったのでしょう。

 

会場には既にA- RISEの皆さんが着いていて、彼女達に挨拶をする。

「お互い良いライブにしましょう」

綺羅ツバサさんが笑顔でそう言うと他の二人と準備室に向かう。

 

そう私がラブライブ に進むには彼女達を越えなければならない。

いや、彼女達だけじゃない他のアイドル達だってきっとこの日の為に相当な練習を積んで来たのに違いない。

 

私達も早急に衣装に着替え始める。今回は雪をイメージした白を強調した衣装で着替えている時にふと学校で悠人にかけられた一言を思い出す。

「頑張ってくださいね」

 

あの言葉を思い出すと、不思議と嬉しくなり自然と笑みが零れた。

必ず、ラブライブ に進む! そう決心して私は衣装に身を包んで舞台に立った。

 

舞台から見た景色は舞台に設置されているライトとお客さんのライトペンで色鮮やかになっていて、空から降ってきた粉雪がライトに照らされて幻想的な美しさになっていた。

会場内からは私達を呼ぶ声が中には私達の馴染みのある声も聞こえる。

 

曲が始まる前みんなが目を閉じてそれぞれの想いを浸る。

 

今回は私だけじゃ書けなかったμ'sのみんなで一緒に作った初のラブソング。

 

そして、音楽が流れ始めるとともに私達は踊り始める。

 

 

 

 

参加していた全てのアイドルのパフォーマンスが終わり、舞台には参加していたアイドル達が並んで立っていた。

 

結果発表のドラムが鳴り始め私は心の中で必死に祈りました。1次予選の時は震えて結果発表の瞬間を逃しましたが、今回は逃しません! 例えそこにどんな結果が待っていようとも!

 

「ラブライブ 出場が決定したのは・・・音ノ木坂学院高校 スクールアイドル μ's!!」

 

司会者が高らかに宣言した後、会場のお客さんの感性が飛び交う。

 

それと共に私達は喜びのあまり、涙を流して互いに抱きしめ合いました。

みんなでつかんだ勝利です! これでラブライブに出られる!!

 

「おめでとう」

綺羅ツバサさんが穂乃果の元に来て、祝いの言葉をかけて二人は熱い拍手を交わしていた。

 

 

 

 

 

 

衣装の着替えを終えて、ふと携帯の画面を確認した時に思わず目を見開いた。

 

そこからはお母様からの大量の着信履歴が表示されていました。

見た瞬間、胸騒ぎがして恐る恐るお母様に電話する。

 

2コール目に入ろうとした時に電話が繋がった。

「もしもし、お母様? 何度も電話しておられたようですがどうなさいました?」

 

電話の向こうで聞こえる母の声はどこか疲れていて、そしてなにやら怯えているようにも聞こえました。

 

「海未さん・・・落ち着いて聞いてください・・・園田家が・・・・・・襲撃されました」

 

「えっ?・・・・・・どういう事ですか? 誰が、そんな・・・」

私は驚きのあまり、言葉が途切れ途切れになってしまった。

 

「襲撃して来た人物はー」

 

私は続きを聞いた時、勢いよく椅子から立ち上がり、準備室を飛び出した。後ろから私の名前を呼ぶメンバーを気にも止めず、ひたすら走り続けた。

 

会場を出て、まだ雪が積もって歩きにくい道を足に力を入れ、早く走りながら先程の母との会話を思い出す。

 

「襲撃して来た人物は海未さんが以前連れて来たあの青年でした」

そんな、まさか・・・

 

そんなはず・・・予選突破からの喜びから一転、私の心には動揺、焦り、不信感が蠢いていた。

 

私の心を包もうとする負の感情を振り切るように私は走り続け、やっと家が見えて来た。

 

家の前に着いた時、私は絶句しました。

 

大きな門が破壊されて、そこから見た我が家はことごとく荒らされているからです。

 

門の近くを見ると傷心しきっているお母様が横たわっていました。

 

「お母様! ご無事ですか!」

 

「う、海未さん・・・彼が中に・・・」

 

お母様が道場の方を指して、私は立ち上がり向かおうとした時に、道場の壁が壊れて

誰かが飛んできてその勢いで地面に転がる。

 

倒れていたのは何と刀を手にしたお父様でした。

「お父様!」

 

私はお父様の元に駆け寄り、体の状態を見る。

体は所々、切り傷があり服は血で滲んでいた。

 

「海未か・・・すまない・・・もっと早く気付くべきだった・・・」

 

「お父様、何を?」

私はお父様の言葉の意味を理解出来ないでいると、道場の方から足音が聞こえ、目を向ける。

 

「悠人・・・」

彼は刀を右手に持ち、刃先から血が垂れていた。

怒り、憎しみ、それらの感情より動揺となぜ彼がこんな事をしたのかを考えるのに必死だった。

 

「何故、こんな事を・・・」

 

「おやおや、これはこれは園田道場師範のご息女ではありませんか・・・」

 

彼は道場から外に出てくると、頭を急に下げ始めた。

 

 

 

 

 

 

「改めてご挨拶申し上げます。私は村雨悠人、改めて園田悠人・・・園田家の分家 村雨の一人息子でございます」

 

彼の言葉に私はついて行けなかった。園田悠人? 園田家の・・・分家?

 

すると父は上半身を起こして口を開く。

 

「彼は園田家にかつて存在した分家、村雨の末裔・・・我々の遠戚の血縁者だ」




今回もありがとうございました。
とうとう悠人君の正体が明らかになりましたね。
ちなみに以前後書きで書いた 山というのはここの部分です。はい

いつも通り誤字、脱字、その他のご指摘ありましたらご連絡ください!!!!
ありがとうございました!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

私は父から告げられた驚きの事実に目を大きくして、再び悠人の方を見る。

 

彼は私の顔を見ると穏やかな笑みとは違う張り付いた笑顔を私に向けた。

 

「彼と・・・刀を交えた時に身のこなし方に違和感を感じて、重ねていくうちに理解したよ。

村雨・・・我が祖父から一度だけ聞いたことがあった。かつて園田家は宗家と分家に分かれていて、その一つに村雨が」

 

「曽お祖父様から・・・」

 

 次々と明かされる真実に私は理解するのに精一杯でした。

 

「何が目的だ、園田悠人・・・ここまでしたんだ。それなりの・・・理由があっての行動だろう・・・」

 

父が息を切らしながら悠人に目的を聞くと、彼は左手を額に当てて笑い始めた。

 

「何がおかしいんですか。こんなことをして!」

 

 私は彼の態度に怒りを覚えて、怒気を含んだ声で言い放った。

 

「そうかそうか、やはりご存知ないんですね・・・先先代当主は伝えなかったんですね。真実を」

 

「真実?」

 

 私が彼の発言に疑問を感じていると、彼は開口した。

 

「先ほど当主がおっしゃった通り園田家はかつて宗家と分家に分かれていて、その一つが村雨でした。

村雨は宗家から遠戚だった為、末席の烙印を押されて汚れ仕事を受け持つことになりました」

 

「汚れ仕事?」

 

「当時、園田家は有名な家柄で敵も多かったので村雨はそんな輩を排除していた。即ち暗殺です」

 

「暗・・・殺・・・」

 

「何・・・」

 

 私と父は彼から打ち明けられた真実にただ動揺するばかりでした。彼は動揺する私達を置いていくように話を続けた。

 

「そして時代が経つにつれ、園田家の脅威がなくなると今度は園田家の真実が露見しないように村雨を園田が所有していた山の一部に移るように命じた。

こうして私の代まで住み続けました」

 

彼の発言に頭を抱えていると、私は一つの疑問が浮かんだ。

 

 「あなたのご先祖が山に住んだのなら貴方はどうしてここにいるんですか」

 

 「ここからが本題です。宗家は村雨に山に移るように言った時、一つの約束をしました。山で暮らし、秘密を露見しないこと。

 

代わりに住処が脅かされることになれば、手を差し伸べると。それなのにもかかわらず・・・全て教えて差し上げます。私の過去を」

 

 彼は拳を強く握りしめて、かつて故郷で起こった出来事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

幼い悠人は物陰で両親が誰かと話しているのを見ていて、父はやや強張った表情で対話していた。

 

話し相手は数日前からよく訪問してくる三人の柄の悪そうな男で、両親にしつこく何かを交渉していて耳を凝らして話を聞く。

 

「村雨さ〜ん。うちの上がここじゃないとダメって言って聞かないんですよ、だから頼みますよ。

もちろんそれ相応の額を払わさせてもらいます」

 

「何度言っても無駄です。お金の話じゃないんです。とにかく出て行ってください」

 

 男は腕時計を確認すると、舌打ちをして他の二人を連れて出る。

 

「村雨さん。諦めませんからね〜」

 

 男はそう言い、立ち去る。

 

 父は罰の悪そうな顔をして母と共に玄関の鍵を閉めて、悠人のところにくる。

 

「お父様、今の人たちって・・・」

 

「ああ、悠人の気にすることじゃないよ」

 

 そう言うと、父は先ほどの強張った顔ではなく笑顔で僕の頭を撫でる。

 悠人もいつもの父に戻ったのだと安堵した。

 

 

 その日の夜、悠人は両親が部屋で何かを話しているのを扉に耳を当てて聞いていた。

 

「宗家に連絡しているが、一向に繋がらない。どうなっている」

 

「まさか、絶縁されたとか」

 

「それだと宗家と村雨の契約は・・・今はともかく奴らを追い出していくしかないのか」

 

「おそらくここ最近、ここらで耳にする事業団体の差し金でしょう。ここの土地が欲しくて私達が邪魔で追い出そうとしているんでしょう」

 

「なんて横暴な連中だ」

 

 悠人は扉からゆっくり身を剥がして、自室の布団に潜った。

 

 彼は自分の知らないところで何かが動いていることに不安感を感じていた。

 

 眠ろう・・・明日はきっと笑える。

 

 そう言い、彼は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、悠人は落ち込んでいるであろう両親の為に花を摘んで、それを両手に屋敷まで歩いていた。

 

 すると家の方から多くの人の声が聞こえて胸騒ぎを感じて走り出す。

 

 屋敷に着くと昨日きた男とその仲間であろう数人の男達が手にバットやパイプを持って屋敷の壁や庭を荒らしまわっていて、父は木刀を片手に母もしがみつくようにして男達を止めようと必死に抵抗していた。

 

「やめろー!」

 

 彼は両手に持っていた花を投げ出し、鉄パイプで縁側を壊していた男の一人の足にしがみつく。

 

「このガキ!」

 

 男の足振りに悠人は振り下ろされて、地面に倒れる。

 

「なめてんじゃねえぞ!」

 

 男は懐からナイフを取り出して悠人に突きつけた時、母が男の腕に飛びかかる。

 

「やめて! この子だけは!」

 

「うるせえ!!」

 

 男が母を振りほどこうとした時、刃先が何かに刺さる感覚がして妙な静けさが訪れる。

 

 恐る恐る手元を見るとナイフは彼女の腹部を捉えていた。

 

「お母様!」

 

 悠人は崩れゆく彼女の元に駆ける。別の相手をしていた父もそれに気付いてやってくる。

 

 倒れた彼女は呼吸を荒くして刺し傷から鮮血が流れて地面の草を赤く染める。

 

 刺した男はひどく動揺していて、仲間の一人から罵倒されていた。

 

「馬鹿野郎! ここに来る前に殺すなって言ったろ!」

 

「だってよお! あの女がっ!」

 

「お母様!」

 

「おい! 目を覚ませ!」

 

 悠人と父が必死に声をかけて、患部を抑えるも出血が止まらず彼女の顔色も悪くなっていく。

 

「悠人・・・貴方・・・あ・・・い・・・し・・・てる」

 

 途切れ途切れの言葉で二人に言葉を伝え、彼女は動かなくなった。

 

一瞬の静けさの後、少年の泣き声がその場に響いた。




今回はここまでです。中途半端ですみません!

いつも通り誤字、脱字、その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

16話です! この作品の話考える時、よく和風系の曲を聴きながら話考えたりしてます。


悠人は亡くなって間もない母親の前で泣いている。

 

すると、父はまだ泣き続けている悠人に近づいて優しく抱き締めて耳元で囁く。

 

「逃げろ・・・」

 

「えっ?」

 

いきなりの発言に涙が止まり、父は再度目をしっかり見て逃げろといった。

 

悠人は泣きながら、先ほど来た道を引き返す。

 

男の一人が悠人を追いかけようとするが、木刀を片手に鋭い目つきをした父が立ちふさがる。

 

「息子のところには行かせん・・・妻の仇、とらせてもらうぞ」

 

「やれ!」

一人の声で複数の男が怒号を上げながら父の元に走っていく。

 

 

悠人は涙を流しながら、山を下っていく。

「誰か、誰か!たすけて!」

 

山を下り、涙を流しながら歩く。

 

「どうしたんだい?」

横から中年の男性が肩を叩いて話しかけて来た。

「お父様が・・・お母様が」

悠人は泣き続ける。

 

「お父さんに何かあったのかな?」

 

「山に・・・お父様とお母様が」

 

「分かった。おじさんもついて行くから一緒に行こう」

 

悠人は頷くと、男性と再びを下った山道を登る。

 

家の付近に着いた時、悠人は周りが妙に静かな事に気づく。

 

恐る恐る男性と家に入ると、彼は言葉を失った。

 

至る所に男達の倒れている姿があり、全員頭から血を流している。

 

悠人は辺りを見渡すと、縁側に二人の人を見つける、その正体はリーダー格の男と父だった。

 

「お父様!!!!」

 

悠人は一目散に父の元に駆け寄り、体を揺らす。 だが父は全く動かない。胸元を見ると穴が開いていてその周辺は血で滲んでいた。

 

近くに頭から血を流して気絶している男が倒れていた。

 

「たっ、大変だ! とにかく警察と救急車を!」

 

男性は急いで、携帯を取り出して警察にかける。

 

悠人は冷たくなった父の胸に顔を預けて泣いた。

 

 

 

 

 

その後、救急車と警察が来て、悠人の両親の死亡が確認された。

数日後、暴力団を雇った事業団体が逮捕されたが、過去の出来事がトラウマとなり彼の心は晴れる事がなかった。

 

その後は施設に預けられて、長い間施設で暮らすがそれでも過去に囚われ続けた。

 

 

 

 

 

悠人が両親の墓参りに行った時のこと。かつての実家の真横に墓を立てていた。

 

凄惨な出来事が起こったが、それでも楽しく過ごしていた場所なので、ここに立てる事にした。

 

両親に顔を出した後、コーションテープで囲われた我が家を見る。

 

両親の亡くなった時の姿が頭の中に鮮明に蘇り、少し体が重くなった。

 

暫く入ることを避け続けていたが、コーションテープを剥がして縁側から屋敷内に入る。

 

懐かしさを噛み締めながら、屋敷内を歩き回る。

両親の部屋に入ると、天井やら所々に蜘蛛の糸や埃が舞っていた。

 

 

部屋の押入れを漁っていると、古びた本の様なものを見つける。

 

悠人は気になり、それを手に取り中身を確認すると、悠人は目を丸くした。

 

 

そこには自分達、村雨のルーツ、この土地にいる原因、園田宗家との関係が記されていた。

 

真実を知ると同時に心の底から憎悪が湧き上がって来た。本当に憎むべきは両親を襲撃した連中ではなく、自分達の親族なのだと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠人は自分の生い立ちを園田海未に打ち明けた。

 

彼女の表情は暗く、伏し目がちになっていた。

「では貴方がここに来た目的というのは・・・」

 

 

「園田家宗家の壊滅及び、血縁者の抹殺です。 貴女の曽祖父が村雨を異郷に追放した際に縁を切った。それにより我々は永遠にあの場所に縛り続けられた!!!!」

 

彼は声を荒げて園田海未に吐露する。いつもの落ち着いた悠人はそこにはいなかった。

 

「さぁ、僕の事はもう分かったでしょう?

死んでください」

 

悠人は笑顔を二人に見せると、園田海未の父の方に入っていく。

 

斬りかかろうとした時に園田海未が父の横にあった刀を手に取り,父を守る。

 

「させません! 父を殺させることも! 貴方に人殺しをさせることも!」

 

園田海未が腕と下半身に力を入れて,悠人を押し返す。

 

「いいでしょう。当主を屠る前に貴女から斬らせてもらいましょう」

 

両者が刀を構えて、間合いを取る。

 

私は負けません。絶対に・・・園田家を守る! そしてみんなと一緒にラブライブ に出るために!!!

 

園田海未が強く地面を蹴り、走り出した。

 




読んでいただきありがとうございます!

悠人の過去が打ち明けられ,次話は海未さんvs悠人となります。

誤字、脱字、その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話

海未vs悠人君のお話 です!


海未が悠人に斬りかかろうと走り出す。

彼は海未が間合いに踏み込んで来た所を

左に避けて刀をかわす。

 

「はぁ!」

海未は悠人の動きに対応して彼が避けた時に

すぐさま片足を軸にして体勢を立て直して、悠人に一振りを当てようとする。

 

「おっと」

悠人は刀を目の前に振りかざして海未の一撃を防ぐ。

 

刀と刀が削り合い、鉄同士が擦れ合う音が聞こえる。

 

「腕力はこちらの方が有利かと思いますが?」

 

「なんのこれしき!」

 

海未は悠人の刀を振り払い連続的な斬撃を当てていくが、悠人は全てを見越したかのように刀で全て防いでいく。

 

海未の父は2人の対決を上半身を起こして不安げに見ていた。

彼は悠人と一度、剣を交えていたため彼の実力がどれほどのものか理解していたからだ。

 

「海未・・・」

 

悠人が彼女の斬撃を身を屈めて、避けて空いた腹に自身の手根部を打ち込む。

 

「ぐはぁ!」

 

悠人の強烈な一撃に彼女の足が地面を離れて

体が後ろに飛んでいく。

 

彼女は地面に叩きつけられて、一撃を受けた場所を抑える。

 

「海未!!!!」

海未の父は思わず叫んで彼女の安否を気にする。

 

「いきなり発勁ですか・・・」

 

「誰も刀だけとは言ってませんよ? これは殺し合いですからね?」

 

彼は地面に倒れる海未に再び、張り付いたような笑顔を向けて、走ってくる。

 

海未は立ち上がり、彼の振り下ろした刀を避ける。

 

腹を抑えながら立ち上がり体勢を直そうとした時、悠人は目の前まで迫ってきていた。

 

海未は悠人が繰り広げる雨のような斬撃の数々を歯を食いしばりながら防いでいく。

 

「どうです? どうです? アハハハ!」

彼は笑いながら、刀を振り続けて叩きつけるように海未の刀にのしかかっていく。

 

重い! 一つ一つが重くて素早い・・・やはりそうだったんですね・・・

 

海未は悠人が道場に来た時の事を思い出す。

何度も話しかけても応答がなく、一点のところだけを見ていた。

 

海未は目を向けると、壁に掛けられていた竹刀を見ていた。

 

再び、彼の方を見て彼の目を見ると、なんだか嬉しそうでそれでいてとても切なそうな目をしていた。

 

剣道が好きなことが・・・

「ぐっ!!」

遂に海未は受け止めきれず、手足を数カ所切られて、体勢を崩す。

 

体勢を崩した彼女に悠人は海未の発勁を打ち込んだ部分に目掛けて強烈な蹴りをいれる。

 

海未は刀を横にして辛うじて防ぐことが出来たが、接触した時の衝撃で体が吹き飛ぶ。

 

「ふぅ・・・」

悠人は息を吐いて、再び刀を構える。

 

海未は地面に倒れながらも立ち上がろうとする。

 

「一つ聞いてもいいですか? 貴方がμ'sに・・・協力した・・・理由はなんですか?」

 

海未は刀を地面に突き立て、それを支えに立ち上がる。

「それは貴女の情報を知るためでですよ。

合宿、ラブライブ 1次予選、貴女の家に行った時、それらで貴方に関する情報を得ることが出来た。あとはタイミングでした、そして

ラブライブ 最終予選でそっちに周囲が目を向けている隙に奇襲しました」

 

「では・・・初めから私達を・・・」

 

「そうです。貴女達を仲間だなんて思った事は一度もないですよ」

 

「・・・そうですか・・・嘘ですね」

 

「はっ?」

 

「私を手にかけるタイミングなど作れたし、あったはず・・・そうしなかったのは私の事をー」

「黙れ!機会を狙っていただけだ」

 

「貴方は裏で私達の事をしっかり支えて見てくれていた・・・A-RISEとの合同ライブだって貴方の声と穂乃果の声があったから・・・

元気が出た・・・」

 

海未はそういうと、ボロボロの体で立ち上がる。

 

「まだ立つんですか? 大人しく寝ていれば苦しまずに死ねたものを・・・」

 

話題をすり替えるように悠人は言って海未を嗤う。

 

「・・・まだ死ぬわけにはいきません・・・

μ'sのみんなとラブライブ に・・・みんなとステージに立ちたいから・・・ここで倒れるわけにはいきません!」

 

海未は静かに刀を構える。

 

「想いの力とかそういう類ですか? 冗談ですよね? そんなものがなんの役に立つっていうんですか! 大切にしているものなんていつかはー」

 

なくならない!!!!

 

悠人と海未は聞き覚えのある声が聞こえ、声の方を向くとそこには8人の少女が立っていた。

「海未ちゃんとμ'sの絆はなくならないよ!」

穂乃果が海未に激励を送り、続くように他のメンバー達も声をかけていく。

 

「みんな・・・」

頑張って海未ちゃん!!!!

海未ちゃん!!

 

海未ちゃん!!

海未ちゃん! 頑張るにゃー!

海未!!

 

海未!!

頑張れ! 海未ちゃん!!!

海未〜!!

 

μ'sの声援を受けて海未の顔に余裕の笑みが浮かぶ。

 

「悠人さん・・・私は負けません。みんなの声がある限り!」

 

園田海未は再び、駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 




仲間の思いで立ち上がる・・・王道ですけど自分的にはこういうのは好きな方です。はい

読んでいただきありがとうございます!!!!
いつもと同じく 誤字脱字その他ご指摘ありましたらご連絡ください!
それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

海未ちゃんvs悠人のパート2です。 前半は穂乃果ちゃんの目線で
後半は海未ちゃん目線となります。
それでは!


「海未ちゃん〜!」

海未ちゃんがいきなり、準備室を飛び出して私達の呼ぶ声を置いていくように走っていた。

 

「海未ちゃんどうしちゃったのかな? あんなに慌てて」

 

「何か急用・・・ってわけでもなさそうね」

 

ことりちゃんと真姫ちゃんが少し不安そうな表情を浮かべながら言う。

 

他のみんなの顔を見ると同じ表情をしていた。

 

「行ってみよう! 海未ちゃんに何かあったかもしれない!」

私がそう言うとみんなも強い決心を含んだ目で頷いた。

 

建物の出入り口のドアを開けて、外に出ると雪が足元まで積もっていた。そこから真っ直ぐにローファーの足跡があったので、海未ちゃんの足跡だと分かった。

 

 

私達は雪で歩きにくい足をなんとか動かして 、寒空の下で海未ちゃんの足跡を辿る。

 

進んでいくとその足跡は海未ちゃんの家の方に向かっている事に気が付いて、そのまま走っていく。

 

海未ちゃんのお家が見えて来たときに再び胸騒ぎがして来たが、足を止めず家の門まで走る。

 

私達はようやく門の前に着いた時、言葉が出なかった。

 

いつもは綺麗な門が見るも無惨に破壊されて、敷地内も所々破壊されていたからである。

 

「酷い・・・」

 

「誰がこんな事を・・・」

 

 

「穂乃果ちゃん・・・」

今にも消えそうなか細い声で私を呼ぶ声が聞こえるとそこには海未ちゃんのお母さんが息を切らしながら横たわっていた。

 

私は海未ちゃんのお母さんを見つけた時にみんなとすぐに駆け寄った。

 

 

「海未ちゃんのお母さん! どうしたの! 何があったの!」

 

私はここで何があったか聞き出そうとする。

 

「酷い、救急車を呼ぶわ!」

海未ちゃんのお母さんの姿を見た真姫ちゃんが携帯を取り出し、救急車を呼ぶ。

 

 

「私よりあそこに主人が・・・」

海未ちゃんのお母さんが指差すを方を見ると

海未ちゃんのお父さんが地面に横たわっていた。遠くから見ても海未ちゃんのお母さんより酷い怪我だと分かった。

 

駆け寄ろうとした時に、物凄い衝撃音と共に海未ちゃんの叫び声が聞こえた。

 

声の方向を見ると、ボロボロの姿の海未ちゃんが地面に倒れていた。

 

みんなは名前を呼ぼうとした時に、次の出来事で言葉は喉につっかえた。

 

そこには数ヶ月前まで私達と一緒にいた青年が立っていたからだ。

 

「悠人君・・・」

私は思わず呟く。

 

他のみんなも思わず、彼の出現に驚いていた。

 

何でこんな事を・・・こんな酷い事を!

 

私は悠人君に対する怒りが湧き上がってくると海未ちゃんが口を開く。

 

「一つ聞いてもいいですか? 貴方がμ'sに・・・協力した・・・理由はなんですか?」

 

 

「それは貴女の情報を知るためでですよ。

合宿、ラブライブ 1次予選、貴女の家に行った時、それらで貴方に関する情報を得ることが出来た。あとはタイミングでした、そして

ラブライブ 最終予選でそっちに周囲が目を向けている隙に奇襲しました」

 

「では・・・初めから私達を・・・」

 

「そうです。貴女達を仲間だなんて思った事は一度もないですよ」

 

それじゃあ、今まで協力してくれていた理由の海未ちゃんに関する情報を得るためで、私達は彼に利用されていただけ・・・

私達は少しショックを受け、俯いていると

 

「・・・そうですか・・・嘘ですね」

 

「はっ?」

彼が驚いた事でそう言うと共に私達も顔を上げて、海未ちゃんの言葉に驚く。

 

「私を手にかけるタイミングなど作れたし、あったはず・・・そうしなかったのは私の事をー」

「黙れ!機会を狙っていただけだ」

 

「貴方は裏で私達の事をしっかり支えて見てくれていた・・・A-RISEとの合同ライブだって貴方の声と穂乃果の声があったから・・・

元気が出た・・・」

そうかこんな事をするのはいつだって、出来たはずそれでもしなかったのはきっと・・・

 

海未ちゃんは刀を使ってボロボロの体を起こした。

 

「まだ立つんですか? 大人しく寝ていれば苦しまずに死ねたものを・・・」

 

「・・・まだ死ぬわけにはいきません・・・

μ'sのみんなとラブライブ に・・・みんなとステージに立ちたいから・・・ここで倒れるわけにはいきません!」

 

「想いの力とかそういう類ですか? 冗談ですよね? そんなものがなんの役に立つっていうんですか! 大切にしているものなんていつかはー」

 

なくならない!!!!

 

私は咄嗟に彼の言おうとしてたであろうと言葉を否定する。

 

私の声に反応して、2人はこっちを向いて驚いた表情をして、続けて二言目を口にした。

「海未ちゃんとμ'sの絆はなくならないよ!」

 

頑張って海未ちゃん!!!!

海未ちゃん!!

 

海未ちゃん!!

海未ちゃん! 頑張るにゃー!

海未!!

 

海未!!

頑張れ! 海未ちゃん!!!

海未〜!!

 

私が激励を送った後にμ'sのみんなが続けて海未の名前を叫ぶ。

 

 

遠くの方で何と無くしか確認できなかったけど確かにμ'sの声援を聞いた海未の顔に先程とは違った心に余裕の笑みが浮かべた。

 

「悠人さん・・・私は負けません。みんなの声がある限り!」

 

海未ちゃんは刀を構えて、悠人君の元に走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はμ'sのみんなの声援で不思議と体が気力を取り戻した。

 

声が聞こえた時は驚きました。 いるはずのないか穂乃果達がいて、そしてこの惨状を見ても強い目をしていたからです。

 

 

「はぁ!」

悠人と私の刀が勢いよくぶつかり、火花を散らした。

 

私達は刀をぶつけ合い、先ほどより激しいしい攻防戦を繰り広げる。

「こんなものですか? まだまだ脆弱ですね!!」

「ぐっ!」

 

海未ちゃん!!!!

 

海未!!!!

 

 

悠人の猛攻に押されそうになった時にμ'sのみんなの声が耳に入ると再び、力を取り戻す。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

私は渾身の力を振り絞り、彼の刀を跳ね除けて、反動でよろめいた彼の懐に空かさず狙いを定めて持ち手を変えて、刃と峰の向きを逆した状態で刀を横に振った。

 

 

彼の肋部分に綺麗に峰打ちが入り、痛みのせいか歯を食いしばっていた。後ろに刀の当たった箇所を抑えながら、後ずさりする。

 

「何故ですか・・・何故、斬らない?」

 

「私は貴方を斬りたくありません・・・貴方はやはり私の大切な仲間ー」

 

「哀れみのつもりですか!?」

 

私の言葉を彼は遮り、怒気を含んだ声で反論した。

 

「ふざけるな・・・僕があんな思いをしたのにも関わらず、何故貴女だけ・・・お前だけ仲間や家族に囲まれのうのうと生きているんだ! 」

 

彼の心の叫びが屋敷全体に木霊するように響いた後、彼は私の元に全速力で走ってきた。

 

私も持ち手を変えて、刃同士が火花を散らして重なり合う。

 

「お前の持っているもの全部壊してやる! 僕が味わった同じ苦しみをお前にも与えてやる! 園田家も! μ'sも! お前の大切なものを全部壊してやる!」

刃先から怒り、悲しみ、憎悪が伝わってくる。刀を重ねた時に彼の顔をよく目を凝らして見ると片方の目から雫が頬を伝っていた。

 

私はその時、彼の心情が分かったような気がした。

きっと彼はご両親を失ってから時が止まっていて虚無感、悲壮感、私に対する復讐心が雲のように彼を覆っている。

 

最初は私達を利用するつもりでいたのが、関わっていくごとに雲に日が差して行き、それに動揺してしまった。

 

長年募らせた復讐心と負の感情がたった数ヶ月で無くなるのが恐ろしくたまらない。

 

ですが、私は彼の優しさを知っている。

例え,利用されたとしてもそれでも私は彼を助けます! 彼の心の雲を晴らしてみせる!

 

「 僕の前から消えろ! 園田海未!!!」

 

彼は電光石火の速さで刀を振り続けて先ほどよりも力も更に増していて、ひとつひとつ耐えるのにも注意しなければいけない。

 

だが今の彼には大きな弱点があった彼は感情的になり過ぎていて、刀の扱いも乱雑になって隙が先ほどより多くなった。

 

彼が疲弊して再度、刀を振るいあげる前を狙って、正拳突きを溝に撃ち込む。

 

「ゔっ!」

彼は腹部を抑えて後ずさりするも、すぐに手を離した。

 

私も再び、刀を構える。

 

「ふひひひひひひ」

彼は奇妙な笑い声を上げながら、体を揺ら揺らと横に小さく揺らしていた。

彼の様子は明らかにおかしくなっていた。

 

μ'sのみんなの方も見ると、いつもと違う彼の様子の変化に動揺していた。

 

「貴方を・・・助けます。貴方を一人にしません。もう一人は終わりです」

 

私は目に涙を浮かべて彼に言うと、揺ら揺らと揺れていた彼がピタリと止まり私を見る。

 

「なんですか・・・その目は・・・イミワカンナイ・・・そうか僕を劣等だと思っているんですね? 宗家が分家を見下すのは当然ですもんね? 」

彼は片目を大きく見開いて下卑た笑い声を上げた後、刀を構える。

 

私も彼から殺気を感じて再び構えを取り、同時に一歩を踏み出して刀を重ね合う。

 

火花が散るとともに何度も何度も重ねては離れる刃と想い、刃先から伝わる彼の絶望感、

断ち切れ!!

 

私は彼を跳ね除けて、刃先を後ろにして腰を低くして構える。

 

悠人も体勢を立て直して私を見た後、同じく腰を低くして刃先を後ろに構える。

 

 

 

私達、いやこの屋敷内が静寂に包まれる。

屋根に積もっていた雪の塊が地面に落ちた瞬間、私達はその音と共に走り出した。

 

 

「園田海未ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「悠人!!!!」

 

二人の叫び声が冬空の下に響き渡った。

 




読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字その他ご指摘ありましたらご連絡ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

私事ですが、漫画東京喰種reが終わってしまったのが残念です。
かなり思い入れのある作品だったので、買った最新巻を度々読み返したりしております。はい
前置きはこのくらいして本編をどうぞ!


19話

 

気がつけば私は辺り一面静寂の闇に包まれた空間に立っていた。

 

私以外のものは何一つ存在していなくて、暑くも寒くもなく物音一つない。

 

一歩足を踏み出すと、足音が反響して辺りに響いてどこまでも遠のいていった。

 

そのまま無限の闇を何かに手繰り寄せられるかのように真っ直ぐに歩いていく。

するとどこからか人の声が聞こえた。後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。

 

気のせいかと思い、前を向いて再び歩き出すとまた声が聞こえる。

 

今度は形があるようにはっきりと私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

それから何度も何度も木霊するように・・・

 

呼ぶ声が回数を重ねる事に光が強くなっていく。

 

私の背後から光が差し込んできて、振り返って額に手をかざしながら目を細めて光を見る。

 

すると突然光は輝きを増して私を包み込んでいった。

 

気づけば私は別の場所に仰向けに寝ていて、

上には白い天井が見えた。

 

 

「海未ちゃん!!!!」

 

暗闇の中で聞こえた声が私を呼び、横を見ると椅子に座り、私の左手を握りながら目に涙を溜めていた穂乃果がいました。

 

「ほ、、のか」

 

周りを見るとμ'sのみんながいました。

 

海未ちゃん!!!!

 

海未!

 

私の顔を見た時、みんなが安心したような顔をして涙を流し始めました。

 

「パパに連絡してくるわ」

 

目元を微かに赤らめた真姫が足早にその場を立ち去った。

 

「何かあったんですか?」

 

未だに自分の状況を理解できてない私にことりが私のそばに来て話してくれました。

 

 

「海未ちゃんと悠人くんが戦って二人とも倒れたんだよ。そのあと真姫ちゃんが呼んでいた救急車が来て、海未ちゃんと海未ちゃんのお父さんとお母さん、そして悠人君が運ばれていったんだ。そして海未ちゃんは3日間寝たきりだったんだ」

 

 

「3日間も・・・そうだ!お父様とお母様は!」

 

私はことりに食い気味に問いかけた。

 

「海未ちゃん、落ち着いて二人とも無事だよ。多分もうすぐー」

 

ことりが最後まで言いかけた時、病室の扉が開いた。

 

そこを見るとお父様とお母様が立っていて、お母様は私の姿を見ると手に持っていた差し入れを床に落として片方の掌で口元を押さえて目に涙を浮かべる。

 

お父様も目に涙を浮かべて、私の方をじっと見ていた。

 

二人はゆっくりと駆け寄り、私を優しく抱きしめた。

 

「よく戻ってきました」

 

「よく帰ってきた。海未」

 

 

私は涙を流しながら抱きしめる二人の温もりを心の底から感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

μ'sのみんなと両親が病院を出た後、私は診察室でこの病院の院長である真姫のお父様に診察を受けていた。

 

 

「この様子ならあと少しで退院できそうだね」

 

「そうですか、良かったです。 ところで院長」

 

「どうしたんだい?」

 

「あの・・・彼は・・・」

私が悠人の事について聞くと、院長は一度視線を下に逸らして、再び私の目を見て口を開く。

 

「彼はまだ眠っているよ。 君同様に腹部に傷を負っていたからね。ちょうどこの後彼の病室に行こうと思っていたんだ。良かったら君もどうだい?」

 

 

「・・・はい」

 

私は少し間を空けて答えると、院長は静かにうなづいた。

 

院長と共に彼の病室に向かっていると、廊下の奥の方で看護婦達が騒いでいました。

 

「院長!来てください!」

看護婦の一人が私たちの方に気づくと慌ただしく院長を呼ぶ。

 

「どうしたんだ?」

院長と私は足早に看護婦のところに向かう。

 

病室に前について、看板を見るとそこには村雨悠人の名前が書いてありました。

 

「村雨悠人さんの姿がどこにも見当たりません」

 

「何!」

院長は驚いて経緯を看護婦達に聞く。

 

「私達は交代で患者さんを見ていたのですが交代の途中でトイレに行きたくなり、戻った時には既に姿がありませんでした」

 

「という事はもう事前に起きていたという事ですか?」

 

「恐らくそうだな」

彼の寝ていたベットには彼の腕に打たれていたであろう注射針が乱雑に抜き取られた形で捨てられ、彼の血液らしきものがベットに少し染み付いていた。

 

そして、看護婦の一人が病室の窓を指すと院長が窓を開けて、外を確認する。

 

「まさかこの窓から・・・」

院長が驚嘆を含んだ声でそう呟くと私は居ても立っても居られなくなり、勢いよく病室を飛び出した。

 

後ろから私を呼ぶ声が聞こえたがその声を振り切って廊下に出て、階段を降りた。

 

そのまま、病院を飛び出して私は悠人を探し始めた。

 

走りながら私は彼が病院を抜けた理由を考えていた。

 

一つはμ'sへの復讐でしたが、今の彼の容体では恐らくそれを実行するのは不可能な状態のはず。

 

そしてもう一つは・・・出来れば考えたくありませんが,もしかしたら彼は・・・

 

 

起こりうる最悪の事を脳裏に浮かべて街中を走っていると背後から名前を呼ばれ、立ち止まって振り返る。

 

そこには絵里と希が驚いた表情で立っていました。

「絵里、希」

 

「海未ちゃんどうしたん?」

 

「海未!なんでここに! ダメでしょ寝てないと」

 

「絵里、希、悠人が病院を抜けました。」

 

「えっ!」

 

「すみません、急いでいるので失礼します!」

 

そう告げて、二人から立ち去ろうとした時に、絵里に手を掴まれる。

 

「待ちなさい。一人で探すよりみんなで探した方が効率いいでしょ?」

 

そう言い、ウィンクして絵里は携帯を取り出す。

 

「そうやで海未ちゃん。一人で抱えたってしょうがない。一人が困ったらみんなで助け合うのがμ'sやで」

 

「絵里、希・・・ありがとうございます!」

 

私は目に涙を浮かべて、二人に頭を下げる。

 

いつもそばにいる大切な仲間達、こういう時により彼女達の優しさ、ありがたみを感じる。そして一人じゃない事を気づかせてくれる。

彼にもそれを分かってほしい、もう一人じゃないと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます!!!!

誤字、脱字、感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話

最近、知ったんですけどラブライブで優木あんじゅ役を務めた大橋歩夕さんがご結婚ご出産なさったそうです。本人に届きませんがおめでとうございます。末長くお幸せに!

それでは20話どうぞ!


僕は重い瞼をゆっくりと開ける。

 

薄い視界が徐々に定まっていき、はっきりと見えるようになり一番最初に見えたのは真っ白な天井で、その次に自分がベットの上で横たわっている事が分かった。

 

手首に違和感を覚えて確認すると、長い管が付いた注射針が刺さっていて、上に伸びる管を目で辿っていくと血液パックに繋がっている。

 

そうか、ここは病院か。彼女との斬り合いでこうなったのか・・・

 

腰を上げて辺りを見渡そうとした時に肋部分に滲むような痛みを感じて、思わず顔を歪ませる。

 

服をめくって患部の確認をすると、丁寧に包帯を巻かれていて、患部を見たときに微かに残る眠気と脱力感を感じながら、彼女と刃を交えた事を思い出す。

 

互いに肋部分を裂いた時、一瞬の事で斬られた事すら気づかず数秒後に体から力が抜けていき、その際に視線を後ろにそらした。

 

彼女も糸の切れた人形のように無気力に前へ傾倒して行く。

 

冬の外気で冷えた土に身を重ねて、僕の意識は途絶えた。

 

記憶を巡ると同時に、大きな溜息をついて、僕は漆黒といっても良いほど黒く塗り潰された自身の心とは正反対な色をした純白の天井を見る。

 

結局、殺めることが出来なかった。

目的にたどり着くときに足元が崩れて奈落に突き落とされた気分だ。

 

這い上がる気力も体力も何一つ僕には無くて、彼女に対する復讐心は最早、微塵も残っていなかった。

 

あの家を壊すために必死に特訓した。 それ以外どうでも良かったのだ。

 

それさえ成す事が出来れば・・・それなのに・・・

 

 

 

 

 

全てが無意味になってしまった・・・

 

恐らくここにいれば退院した後、園田が警察に僕を引き渡すだろう。最期まで園田に僕は

お世話になるのかと考えると嫌気がさしてきた。

 

 

僕は手首に刺さっていた針を抜き取り、近くにあったらティッシュを素早く何枚か取り出して止血した後、近くにあったゴミ箱に捨てた。

 

ベットから体を下ろして、床に置いてあったスリッパに足を入れる。

 

窓を開けると、外は茜色の夕焼けが町の建物を照らしていて陽の当たらない箇所は真っ暗になっていた。今の僕にはそれがμ'sと僕の立場にも見える。

 

病院の下を見ると、かなりの高さだったがいつ看護婦が戻ってきてもおかしく無いので僕は窓から身を乗り出して,窓の横に設置されていた長い雨どいパイプに手を伸ばして,ゆっくりと下に降りる。

 

下には数人、病院から出てきたな人達が家路を急いでいて彼らを警戒しつつ、周りを見ながら下へと体を下ろして行き、ようやく地面についた僕は人目を警戒してゆっくりと病院を抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院を抜け、僕は河川敷を歩いていた。ここに来るまでに色々な所を歩いていたので、スリッパは土や砂で汚れていた。

抜けた最初は人目を警戒していたものの、人が少なくなって行くにつれて、あまり気にしなくなっていた。

 

 

 

 

夕陽が病院で見たときより沈んで、周囲の気温も下がっていて歩き疲れた僕は河川敷の草の生えた坂に腰を下ろして視線の先に流れる大きな川を見る。

 

人の声も聞こえず、耳に入ってくるのは時より吹く風の音くらいでそれ以外は何も無い。

 

川を見ていると故郷での日々が頭をよぎる。

 

よく父と山女魚や岩魚などを捕まえて塩焼きにして食べた事や、夜になるとたくさんの蛍が水面を照らしていた事など昨日のことのように思い出す。

 

 

僕は重い腰を上げ,目の前にある大きな川に目を向けて坂を下りて行く。

 

坂を下りてゆっくりと川に足を近づけ、遂に足首が水に浸かった。

 

その瞬間、履いていたスリッパの隙間に冬の気温で水温の下がった川の水が足を満たして足首の感覚が冷たさから瞬時にして痛みに変わって行く。

 

だが足を止める事なく進んでいき、その間に水が足首から膝元まで達して歩きづらくなる。

 

水の中を進んでいると僕は以前、読んだ小説を思い出す。

その小説の主人公も僕と同じく、人に本音や素顔を隠して知人達と関わっていた。

 

そう言えば、その小説の作者も死因は入水自殺だったな。

 

そんなどうでも良い事を考えながら進んでいると水位が腰まで達していた時、突然足元の感覚がなくなり僕は一瞬して水の中に姿を消した。

 

本能的に少し慌てるが、すぐに冷静になりそのまま水中に体を預ける。

 

僕は水中で仰向けになり、夕陽で薄く茜色の入った水面を見ていた。

 

水面が遠ざかっていき、川底に近付くほどに

徐々に意識が遠のいていると脳裏に父と母との日々を思い出す。

 

父と共に剣道をした事、母と花遊びをした事、晴れた日に庭で三人で昼食と食べた事が

映写機のフィルムのように流れる。

 

ああ、これが走馬灯か・・・

 

そして、その後に父と母の血塗られた姿、

園田を討ち取る事を誓った在りし日の自分、

音ノ木坂学院に入学して園田海未と会った事。

そして、μ'sでの日々・・・最期まで僕の脳裏を離れなかった存在・・・

 

僕は徐々に薄れゆく意識を感じながらゆっくりと目を閉じて、川底に引き寄せられていく。

 

 

目を閉じる寸前、水面に微かに何かの気配を感じたが今の僕にそれを確かめる術はなかった・・・

 

 




今回もありがとうございました!
そして、新たに評価を下さった。
ヨーソローさん、新庄雄太郎さん、ライオギンさん

繰り上げ評価をして下さった黒っぽい猫さん。
その他の多数お気に入り誠にありがとうございます!!!!

そして誤字脱字その他ご指摘ありましたらご連絡ください! それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

いつもより少し長めです。
それではどうぞ!!!!


絵里と希がμ'sのみんなに連絡してくれた事により各自、家に帰っている途中だったみんなが悠人を探してくれる事になった。

 

「私は海未と一緒に悠人を探すわ。希は別の場所をお願い」

 

「分かった! 見つけたら連絡するわ!」

 

希は駆け足で人混みの中に消えていき、私と絵里も悠人を探し始める。

 

目に付いた人達に声をかけて、患者服を着た青年を見ていないか尋ねるも手掛かりは見つからないまま1時間が過ぎようとしていた。

 

「中々見つからないわね‥‥」

 

「‭ええ、一体どこに‥‥」

陽が先ほどより沈んできていて、このままでは後少しで夜になってしまい捜索は困難になり断行せざる得なくなる。

 

現状に焦りを覚えていると絵里の携帯が鳴って懐から取り出してみると、それは花陽からの着信だった。

 

「花陽からだわ。出てみる」

絵里が花陽からの着信に出て、会話を始める。彼女の表情はやや険しく何か深刻なことを聞いているようにも思えた。

 

「ええ、分かったわ。ありがとう花陽」

絵里は電話を切り、口を開いた。

 

「患者服を着た人がいたそうよ」

 

「!!」

私は声も上げず、絵里に目で驚きを訴えました。

 

「場所は‥‥‥ここから少し歩くわね」

 

「行きましょう」

 

私と絵里は悠人の目撃情報のあった場所に走りはじめた。

 

目撃情報のあった近くには公園と河川敷があり陽が沈んできたせいか周りにはほとんど人がいない。

 

二人で河川敷の近くを探索していると、とあるものが視界に入った。

 

なんと誰かが川に入っていく姿が目に入り、止めようと声をかけようとした時に私はその人物の正体に気づいた。

 

私達の探していた人が川の中に入って行っているのです。

 

「海未、あれって‥‥」

 

私は一目散に草の生い茂る坂を下りて、背後から呼ぶ絵里の声を振り払うように彼の元へ走る。

 

何度も彼の名前を呼びかけるも応答は一切なくただ俯いて川の中を進んでいるのです。

 

すると突然、彼が川の中に吸い込まれるように消えて行きました。恐らく水深の深い所に来てしまい足を踏み外したのでしょう。

 

私は走る速度は早めて川の前に着く。私は大きく息を吸い込んで川の中に飛び込んだ。

水中は冬の影響か凍えそうなくらい冷たかったが、悠人の命が何より優先のため堪えながら水を掻き分けるように進んでいく。

 

 

悠人は私の潜った真下に仰向けで沈んでいて

石のように動かなかった。

 

そして、彼の背中が川底に着いて砂埃が水中を舞う。

私も川底に着いて、目を瞑った彼の身を抱えて勢いよく川底を蹴って水面に目指して泳ぐ。

 

この時、私の息は後少しで切れそうになっていて私自身も少し焦っていて、いち早く浮上しなければならなかった。

 

 

そして、遂に水面から顔だして空気を多く吸い込んだ。 吸いすぎて少し咳が出た後に川岸を目指して泳ぐ。

 

「海未! みんなと病院には報告は入れたわ! 」

 

「ありがとうございます! 絵里!」

 

ここまで彼には何の変化もなく、恐らく今は呼吸が止まっている状態で川から上がり私と絵里で彼の体を引き上げる。

 

「海未? 寒くない?」

 

「いえ大丈夫です」

 

服はびしょ濡れでしたが寒すぎてむしろあまり寒さを感じなくなりました。

 

私はすかさず悠人の胸に耳を当てる。数秒間胸に手を当て、

 

「鼓動が聞こえません」

 

彼の胸から鼓動が聞こえず、まるで抜け殻のようだった。

「私のせいです‥‥‥私がもう少し見つけるのが早ければ‥‥‥」

 

自分の不甲斐なさに落胆していると、両肩に白くて綺麗な手が乗せられる。

 

「貴女のせいじゃないわ。 救急車が後少しで来るはずだから私達は出来ることをしましょう」

 

 

そう言うと絵里は立ち上がり、私と向かい合わせの所に移動して両手を重ねる。

 

「私も実践するのは初めてだけど‥‥‥」

 

 

悠人の胸の間に手を乗せて、何度も押して胸の手に当てる。

 

そして、絵里は体内に空気を送るために悠人の口を開けて自分の口を近づけて重ねようとする。不意に心が締め付けられるように苦しくなり、思わず胸元を左手で握る。

 

今、一刻を争うことだと自分でも十分に分かっている。こうした方が悠人が起きる確率が上がって、私情を挟む場合ではない事も分かっている‥‥‥それでも‥‥何故か心が痛んでしまう。

 

 

「まっ、待ってください!!!!」

 

絵里が驚き、近づけていた唇を止めて私の方を見た。

 

「ど、どうしたの? 海未?」

 

「わ、私がします。私が人工呼吸をします!」

 

私がそう言うと絵里は何かを悟ったかのような表情をしてすぐに妖艶な笑みを浮かべた。

 

「そうね、そうよねー 分かったわ」

 

「え、絵里! なんですか! その顔は!」

 

「いやーなんでも〜」

絵里はそう言いながらその場から離れて私は絵里のいた位置に座り、目先には意識を失っている青年が水浸しで横たわっていて私の横には不敵な笑みを浮かべながら私を見る絵里が立っている。

 

私は激しい心臓の鼓動を抑えながら、悠人の顔を覗き込む。彼の端正な顔立ちが目に写って更に胸の鼓動が激しくなる。

彼の胸の前で手を重ねて、胸元を何度も押す。

 

次に体の中に酸素を直接送り込む。つまり彼と私が唇を重ねなければならない。

胸の鼓動を抑えて、ゆっくりと顔を近づける。

 

 

そして‥‥‥‥‥

 

 

 

 

彼と私の唇が重なり、息を送りこんだ。

顔を離した後、初めての感覚に少し動揺して再び胸元を何度も押して、息を流す。

 

不意に絵里が視界に入った時、先ほどの妖艶な笑みを浮かべていた彼女とは違って林檎のように顔を赤くなっていた。

 

最初は羞恥心こそありましたが、回数を重ねていくごとにその意識も薄れていきました。

 

「起きてください。悠人! 起きてください!」

 

息を強く吹きかけた時に、彼が口から水を吐き出しながら、咳き込む。

 

「悠人!」

私と絵里が彼の名前を呼んで、彼はうっすら目を開ける。

 

「絵里先輩‥‥園田海未‥‥何故、ここに」

 

起きた時に私は安心した感情と同時に彼に対する怒りが湧いてきて彼の頬に平手打ちをする。

 

彼は驚いたような顔をして、私の顔を見る。

 

「‥‥‥を‥‥‥て‥‥か‥‥‥何をしてるんですか!!!!!」

 

私は彼の行動を理解できず、自分から命を捨てるという行動に対して怒りを覚えた。

 

「何で拾った命をまた捨てるようなことするんですか! なんでこんな愚かな事をするんですか!!!!」

 

私は悠人の胸を何度も叩く。

 

「‥‥‥僕は‥‥園田に復讐するために生きてきた。‥‥‥でも今は貴女に対する復讐心なんて微塵も残ってないんです。多分、もう疲れたんだと思います」

 

彼は私と目を合わさずに光の灯らない瞳でそう呟いた。

 

「悠人‥‥‥」

悠人の哀愁漂う姿に私は虚無感を感じていると遠くの方から私と絵里を呼ぶ聞き覚えのある馴染みの声が聞こえる。

 

声の方を振り返るとなんとμ'sのみんなが坂を下りてきていました。

 

「海未ちゃん! 大丈夫? びしょ濡れじゃん!」

 

穂乃果が大袈裟に私の状態を心配しつつも、どことなく安心した表情を浮かべる。

 

 

「海未ちゃん!」

穂乃果に続いてことりが駆けつけて私の身の回りを心配した。

 

他のメンバーも下りてきて、絵里と私の元に来る。

 

「さて、これは一体どういう事や? 悠人君?」

 

希が細めた目を悠人に向けて、他のメンバーもそれに連なるように悠人の方に目を向ける。

 

「悠人‥‥‥」

 

「悠人君‥‥‥」

 

 

 

「彼女が僕の救済処置を阻害したんですよ」

希とは視線を合わさず虚ろな目で返答をする。

 

「死のうとする事を救済処置って‥‥‥悠人君の昔の事は海未ちゃんのお父さんから聞いたよ。‥‥‥うちからは‥‥‥なんとも言われへん」

 

希はどうやらお父様から悠人の話を聞いたようで、悲しそうな目で悠人な事を見つめる。

 

「なら僕の事を止める権利はーー」

 

「だからね、悠人君に会わせたい人がおるんよ」

 

悠人が声を少し声を荒げながら話すと希が遮るよう話す。

 

「会わせたい人?」

 

「多分、もうそろそろ着くわ」

 

希がそういうと、坂の上から車のエンジン音が聞こえてきた。

 

車の方を見ると、車内から見覚えのある3人が出てきて、こちらに向かって下りて来る。

 

一人はお父様、もう一人はお母様でそして着物を着た白髪の女性が歩いてきた。

 

「お婆様‥‥‥」

 

3人が私達の元にやってきて一礼する。

 

「久しぶりだね。海未」

私の顔を見て、優しく微笑む。

 

「関西の方で日舞を教えにいっていたと聞きましたがどうしてこちらに‥‥」

 

「数日前に帰ってきてね、懐かしい友人たちとのお茶会の後に家でのんびりしていたら海未の友達が家を訪ねてきたんだよ」

そう言い、お婆様は横にいた穂乃果の方に目を向けて、穂乃果が頭を下げる。

「怪我の方は大丈夫かい?」

 

「はい、怪我はなんとか‥‥‥」

 

「そうかい‥‥‥それで」

 

お婆様が悠人の方に目を向けて、彼の元に駆け寄る。

 

「あんたが村雨の子かい?」

悠人がお婆様の目を見て無言で頷く。

 

「うちの孫とせがれをあんな目に合わせた理由は十分、承知だよ。だからこそあんたには話しておかなければならないね‥‥‥」

 

「何をですか‥‥‥」

悠人が先ほどと同じ虚ろな瞳をしながら聞く。

 

「園田が村雨を追放した本当の理由さ‥‥‥」

お婆様がそう言った時、彼の顔色が変わる。

 

「どういう事ですか‥‥‥」

彼は動揺を交えた声で質問するとお婆さんは一瞬、黙り込み重く閉じていた口を開いた。

 

 

 

「‥‥‥私の父は園田宗家の村雨に対する扱いと強いてきた悪行に大変心を痛めておった。

そして自分が当主になった時に村雨に行なわせてきたことをやめさせ、宗家と対等に扱うようにしようとしていたんだ」

 

「だが現実はそうは行かなかった。村雨は秘密裏に動いていたが,一部の連中は村雨の存在に気づいていて園田の敵対していた奴らが道場の弟子に紛れて来たこともあって怪我人まで出る事になった。

このような事態が起こり、村雨の存在が脅かされかねないと考えた父は苦渋の末に村雨を敵に悟られぬように所有していた土地に追放して、村雨との関係を切った。痕跡を残せば村雨の存在が露見しかないからね」

 

「それでは宗家は‥‥」

 

「村雨を守るために追放したんだよ」

 

「嘘だ! そんなものは!」

悠人は怒りの混じった声で反論すると,お婆様が再び口を開く。

「嘘と思ってくれて構わない。良かれと思ってした事が後世に最悪な出来事を招いてしまったんだからね」

お婆様がゆっくりと身を屈めて膝を地につけた。

 

「村雨を守るつもりがお前さんを片田舎に縛り付けて、かけがえの無いものまで失うことになってしまった。全ては真実を伝えなかった私に責任がある。今まで本当に申し訳なかったねぇ‥‥‥」

 

そう言いお婆様は指を地面につけた後,静かに額を地面につける。

 

「なんですか‥‥‥それ」

悠人は膝から崩れ落ちて俯く。

 

「悠人‥‥‥」

 

突きつけられた真実に落胆する彼を私は胸元を強く握りながら彼を見つめていた。μ'sのみんなも同じく黙り込んでいた。

 

「僕は‥‥ただ父と母といたかっただけなのに‥‥‥それだけで良かった‥‥‥なんで僕だけ‥‥‥」

 

彼は蚊の鳴くような声で呟いた後、伏せた顔から雫が落ちたのが見えた。

 

「父様‥‥母様‥‥一人にしないで‥‥‥」

 

私は自分を抑えきれず今にも崩れ落ちそうな彼を元にゆっくりと歩き出し、そっと抱きしめた。

「えっ?」

突然の出来事に驚いた彼に私は心に秘めた言葉を喉の奥から引き出す。

 

「私達がいます。私がずっとそばに居ます。

貴方をもう一人にはしません‥‥‥」

私は目に溜まっていた涙を流しながら彼の背中をさする。

 

私の耳元で彼のすすり泣く声がいつまでも聞こえた。

 

 




いかがだったでしょうか!
評価を下さった武御雷参型さん、ヤザワさん、優しい傭兵さん、陸海空さん,山風さん
そしてその他多数のお気に入り誠にありがとうございます!!!!
誤字脱字感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話

 

「寒いな」

真冬の寒さが未だに健在な1月序盤の朝,僕は制服を着て,白い息を吐きながら通学路を歩く。

 

今日は学校の始業式で、周りには同じ制服を着た生徒達が友人達と談笑,イヤホンで音楽を聴きながら登校している。

 

 

 

 

 

河川敷での一件の後、僕と園田海未は救急車で病院に再び運ばれて病院に着いた際に看護婦からこっ酷く叱られた。

 

個々の部屋に戻されてからそれ以降、顔を合わすこともなく2日後に園田海未が退院する事になり、病院を去った。

 

その日の夕方、窓の外を眺めていると部屋のドアをノックする音が聞こえる。返事を返すと園田海未の父が立っていた。

 

僕がベットに上半身を預けながら一礼した後、彼も一礼してゆっくりとこちらに近づいてきて口を開いた。

 

「村雨悠人君‥‥今回の件は不問にすることにした‥‥」

 

「何故ですか? 僕は貴方の娘を殺そうとしたんですよ」

 

「それは承知の上だ。だが現当主でありながら園田の歴史を知らなかった私にも責任がある」

 

「‥‥‥そう‥‥‥ですか」

 

「まだ不服か? それなら我が家に伝わるーー」

 

「当主殿‥‥もう面会時間は終わりですよ」

 

僕は当主に笑みを浮かべて答えると、時計を確認した後、申し訳なさそうな顔をして立ち上がる。

 

別に当主が嫌いというわけではない‥‥‥宗家との因縁など心のどこにも存在していないのだから‥‥‥問題は僕だ。

 

本来なら警察に突き出せば、裁かれる対象であったはずなのに結局,僕は園田にお世話になってしまった。

嫌悪感とはまた別の感情が僕の心を包み込んでいた。

 

次の日、僕は退院して元の‥‥いや変わってしまったであろう日常に身を投じる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る。退院して家に戻ったその日、家に南理事長から電話がかかってきて明日の朝に理事長室に来るように言われた。

恐らく僕の処遇についてだろう‥‥まぁ大体予想はつく。

 

僕は腹を括った上で今こうして学び舎に足を運んでいる。数ヶ月だったがそれなりに楽しい学校生活だった。

 

 

理事長室前に着いて扉をノックをすると、向こうから返事が聞こえて扉を開ける。

 

理事長は椅子に座り両手の指を重ねて,いつもの穏やかな表情とは一変して険しい表情を浮かべていた。

 

扉をゆっくりと締めて彼女の前で止まる。

 

「まずは退院おめでとう。村雨悠人君」

 

「ありがとうございます」

 

「貴方がここに呼ばれている理由は分かるわよね‥‥‥‥」

 

彼女の問いに無言で頷くと、彼女は軽く息を吸い込んで、口を開いた。

 

「村雨悠人、貴方を‥‥‥2週間の停学処分にします」

 

 

「‥‥‥えっ?」

 

「この2週間、自分の行いを深く反省してーー」

 

「待ってください! なぜ、退学じゃないないんですか? 僕のした事を理解しているはずでは? 僕がどういう人間かすらも‥‥‥」

 

彼女の声を遮り、疑問をぶつける。

 

「貴方の事は生い立ちも行いも聞いたわ。その上での判断です。今の貴方には考える時間が必要。そして私達、教育者の存在も」

 

僕は彼女の言っている事を理解出来ず、動揺を隠しきれないでいる。

 

「排除すべきです。あの時の僕は園田海未を殺めた後、きっと貴女の娘も手にかけていた。そんな輩を残すなんてーー」

 

僕が湧き上がって来る自分の本音を打ち明けていき、言い切ろうとした時に理事長が椅子から立ち上がり、勢いで椅子を床に倒れる。

 

「いい加減にしなさい!!!! 貴方は幾つだと思っているの! 過ぎた事をいつまでも掘り返して何になるの! 貴方は許されるチャンスを与えられたのよ! 人の気持ちから逃げないで!」

 

いつもの穏やかな表情から想像もつかない程の剣幕で僕に詰め寄り、思わずたじろぐ。

 

「貴方はこの学校を去り、私達の前から消える事で全て治ると思っているのかも知れないけど一度、乱れた物はそう簡単に治らない‥‥‥貴方は復讐の代償として色んなものを壊した。 取り戻す方法は一つ‥‥‥今を生きて償って貴方自身が変わることよ。そうよね‥‥‥園田さん」

 

理事長がそう言うと、ゆっくりと扉が開いて彼女と目が合う。

 

「何故、ここに彼女が‥‥」

 

「私がここに呼んだのよ」

 

理事長が先ほどの剣幕とは打って変わり元の穏やかな顔で携帯を片手に持っている。

 

「さっきの会話‥‥聞いてたんですね‥‥‥」

 

 

「‥‥‥はい。悠人‥‥‥今を生きましょう」

彼女は僕の片手を握り、上目遣いで僕の顔を覗き込むようにそう言う。

 

「すぐに変われないですよ。僕は」

 

「大丈夫、ゆっくりでいいんです。それに私が側にいます。言ったはずですよ。一人にしないって‥‥‥ちょっと恥ずかしかったんですから」

 

そう言うと、園田海未は頬を膨らませる。するとなぜか少し可笑しくて自然と笑みが溢れる。

 

「なっ、何がおかしいんですか! もうっ! 私は貴方のためをーー」

園田海未は両手を横に振りながら、穂乃果に説教するような口調で僕に話しかける。その途中も僕は口元を隠しながらに笑う。

 

「それで! ちゃんと! 変わって!くれるんですよね! 」

からかい過ぎたのか少し、涙目になった海未に再び問いかけられる。

 

答え?‥‥‥決まってます。

 

「‥‥‥はい‥‥‥海未」

 

僕は彼女に微笑むと彼女もその綺麗な目で僕に笑いかける。

 

この瞬間、僕はやっと心から笑えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、停学中の課題はきっちりやってもらうわよ」

 

 

 

「‥‥‥はい」

 

 




閲覧ありがとうございます!!
誤字脱字その他ご指摘、感想ありましたらご連絡ください!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話

23話です。
今回はμ'sとの対面です。
それでは!


理事長室を去った後、僕は海未に連れられて

屋上に向かっていた。

 

おそらく、彼女達と対面させようとしているのであろう。予選決勝の後の件といい入水自殺の件といい彼女達には迷惑をかけて正直、合わせる顔がない。

 

すると、園田海未は僕の顔を横目で見た後に立ち止まると、口を開いた。

「大丈夫です。みんな事情が理解していますし会いたいと言ったのは彼女達ですから」

園田海未がそう言って、優しく微笑む。

僕は無言で頷いて、そのまま階段を登る。

 

見覚えるのある鉄の扉が見えて、近づいていく事に聞き覚えのある声が聞こえて来る。

そして、海未がドアノブを回して開いたドアの隙間から彼女達の姿が視界に入っていき、向こうも扉の開閉音に気付いて視線をこちらに向ける。

 

「みんな、お待たせしてすみません」

彼女に連れられて屋上に床に足に踏み入れる。

僕の姿を確認した途端、僅かな沈黙がその場に流れる。当然といえば当然か‥‥‥

 

「悠人君」

穂乃果が僕の名前を呟くと、顔を伏せて駆け足で僕の元に来る。

 

目の前まで迫った時、右手を勢いよく僕の右頬に当てて振り切る。

 

彼女の平手打ちに周囲のみんなも驚いて目を丸くしていていた。

 

「穂乃果!」

海未が彼女の元に駆け寄ろうとした時、穂乃果から微かに声が聞こえた。

 

「‥‥‥ないで‥‥‥二度とあんな真似しないで!!!!」

 

穂乃果は涙を流しながら僕に激昂し、海未のそんな彼女の姿を見て思わず立ち止まる。

 

「なんで死のうとするの! 辛い事あったかも知れないけどあんな事しちゃダメだよ!!

確かに屋上の事で会うことが少なくなったけど穂乃果は考えてたんだよ! どうやったら前みたいになれるかなって? 私達の事好きになってもらえるかなって‥‥‥でも死んじゃったら意味ないよ‥‥‥」

 

彼女は綺麗な青い目から大粒の涙をボロボロと流しながら、何度も僕の胸を叩く。まるで僕の胸にある罪悪感を奮い立たすように

 

「穂乃果‥‥‥すみませんでした」

刺激された罪悪感に勝てず、心の底から謝罪する。

 

「本当に反省してる?」

不安げに聞く彼女に優しく笑みを浮かべて無言で頷くと穂乃果は拳で涙を拭いて、いつもの太陽のような暖かな笑顔を僕に向けた。

 

「皆さんもご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

残るμ'sメンバー7人の方に頭を下げる。

 

「頭上げなさい」

にこ先輩が許しを得て、頭をあげる。にこ先輩が腕組みをしながら鋭い目付きで僕の方を見ていた。

 

「言っとくけど私はアンタが前にここで言ったこと許してないから」

 

「にこ!」

 

「にこっち!」

 

「にこちゃん!」

 

「何よ! 理由はどうあれ好きなものを馬鹿にされたのよ! 怒るのは当然でしょ!」

にこ先輩に反感を抱いた他のメンバーが彼女に噛み付くが彼女の発言に負かされ,黙り込む。

 

「にこ先輩の言う通りです。理由はどうであれ僕はみんなの好きなものを‥‥大切な物を侮辱しました。それに変わりはありません。 これも因果応報‥‥罰を受ける覚悟も出来ています‥‥」

 

「悠人君‥‥‥」

希先輩が心配そうに僕の方を見る。

 

「だからこれからはみんなを心配させた分,μ'sに尽くしなさい! もちろん私には特にね! ふんっ!」

にこ先輩はそう言うと腕を組んだそっぽを向く。

「にこ先輩‥‥‥承りました」

僕はにこ先輩に向かって頭を下げる。小柄な彼女の体をいつもより大きくたくましく見えた。

 

「にこちゃん‥‥‥」

 

μ'sメンバーがにこ先輩に暖かな目を向けると、にこ先輩は顔を赤くする。

 

「そっ、それと!」

にこ先輩が再び、僕の方を向いて息を大きく吸って開口する。

 

「分家と宗家って何よ」

 

「にこちゃん‥‥‥」

 

「にこっち、分からんと海未ちゃんのお父さんの話聞いてたん‥‥‥」

先程の暖かな目とは違い、どこか冷めた目線がにこ先輩に向けられる。

 

「仕方ないでしょ! あの時雰囲気暗かったし聞ける状況じゃなかったじゃない!!!!

凛や穂乃果だって理解出来ない顔してたじゃない!」

にこ先輩が二人の名前も出すと、二人をしらを切るが明らかに動揺している。

二人にも動揺,μ'sメンバーの冷えた視線が向けられる。

 

「まっ‥‥まぁ一応説明しますね。宗家というのは基本は長男が当主を務める家で分家はその下の兄弟達,親族が当主と言う事です。宗家は分家に支援するかわりに分家は宗家に尽くす。まぁこの制度もあくまで戦前まであったものですからご存知ないのも無理はありません」

 

「予想していた通りね! 要は親戚ってことでしょ」

 

「そうですね」

にこ先輩が腕を組んで自信満々に答えるも冷えた視線が止むことはなかった。

「しかし、海未ちゃんと悠人君が親戚だなんて驚きだにゃー」

 

「かなり遠いですけどね」

苦笑いを浮かべながら僕の周りを猫のように回る凛の問いに答える。

 

「あっ、穂乃果ちゃん。悠人君に聞きたいと事あったんちゃう?」

 

「あっ、そうだった。悠人君」

 

 

「何ですか?」

不意に落ち着いた口調で呼ぶ彼女に驚きつつも目を向ける。

「前にうちのお店来た時にうちの饅頭食べた時‥‥‥なんで泣いてたの?」

周りの視線がこちらに向いて僕はいきなりの質問に少し驚いていると、彼女は何かを察したのか慌て始める。

 

 

「あっ、答えたくなかったら答えなくていいんだよ!ただ少し気になったから‥‥‥」

 

そういい眉をハの字して後頭部を掻きながら

苦笑いをする。

 

「‥‥似ていたんです‥‥‥母が作ってくれた和菓子の味に‥‥‥食べた時に少しそれを思い出して‥‥過去に浸ってしまいました。

もう二度と味わえないと思ってたから‥‥」

 

「悠人君‥‥‥」

 

「穂乃果‥‥また行ってもいいですか?」

僕は不安を抱えながら、喉の奥から声を掻き出す。

 

 

「うん! 」

穂乃果は再び、僕に太陽に勝るとも劣らない笑顔を僕に向ける。彼女には敵わないとつくづく思う。

 

 

その後、僕は彼女達に見送られて屋上を去り、家路に着いた。彼女達を支えるにはまず2週間の停学期間と課題を乗り越えなければならない。

 

今度は心から彼女達を支えようと窓の外で輝く月に誓った‥‥‥




読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字その他ご指摘感謝ございましたらご連絡ください!!!
ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話

寒い冬の寒さが続くある日の夜。

 

屋上の一件以降、僕は南理事長に出された課題を黙々をこなす日々を送っていた。

 

最近、園田海未からはメールがよく届くようになった。内容は他愛もない事で「体調の方はいかがでしょうか?」「ご飯、作りに行きましょうか?」「分からないことがあったら聞いてくださいね」などいくら一人はしないと言ってもやや過保護な面が垣間見えますがそれ程に彼女が僕を気にかけてくれているのは感謝しか以外の何物でもありません。

 

μ'sのみんなからもメールが来るようになり

最初は余所余所しかった文章も徐々に砕けていきました。にこ先輩に至っては序盤から鋭い文章でした。

 

そんな事を思い出しながら、課題を進めているとインターホンが鳴る。

 

「誰だ?」

腰を上げて玄関を覗き穴から訪問者を確認する。

 

僕は訪問者を確かめると、ドアを開ける。

 

「夜分遅くに失礼します‥‥‥」

そこにはマフラーを首に巻き防寒着に着込んで、両手で手提げ袋も持った海未が立っていた。

 

「どうしたんですか?」

 

「あの‥‥‥理事長に様子を見てきてほしいと言われたので‥‥そのついでにお夕飯がまだでしたら‥‥ご用意させて頂こうと思いまして‥‥‥」

彼女は頬を仄かに染めながら手提げ袋を上に上げる。

 

「そうでしたか、ありがとうございます。課題を進めていたので夕飯もまだでして‥‥寒いでしょう。どうぞ狭い部屋ですが」

 

「では‥‥お邪魔します」

 

僕は彼女を部屋に招き入れてドアを閉めると、防寒着とマフラーを受け取りハンガーにかける。

海未を台所まで連れて行くと彼女はエプロンを取り出して、体に結んだ。

「すぐに取り掛かりますね」

 

「何かお手伝い致しましょうか?」

 

「いえいえ! お気になさらず!」

「そうですか‥‥何かあったら言ってください」

彼女は頷いて下準備に取り掛かっていた。

 

「課題の続きでもするか‥‥‥」

 

台所と茶の間で背中合わせの二人の間に沈黙が流れる。台所から聞こえる蛇口から出る水の音、包丁で食材を切る音、それだけが彼女の言動を知る手立てだった。

 

「あの‥‥最近は‥‥どうでしたか?」

沈黙を破るように彼女は僕に小さな声で話しかける。

 

「そうですね‥‥‥やはり課題と読書ばかりしていましたね‥‥‥」

 

「そう言えば教室といい練習の休憩中といい読書ばかりしていましたね。一体どのような

本がお好きなんですか?」

 

「僕は父の影響で昔の純文学を主に読んでいて、「人間失格」「斜陽」「走れメロス」「蜘蛛の糸」「こゝろ」なんかが好きですね。現在の本には疎くて‥‥」

 

「私も読書が好きなんですが父の書物が古い物が多いせいか私も最近の物にはやや疎いんです‥‥」

 

そんな話をしているとガスが止まり、皿に料理を盛り付ける音が聞こえる。どうやら出来上がったようだ。

 

「お待たせ致しました」

彼女がお盆の上に料理を乗せて僕の手前の席に着いた。

 

皿に綺麗に乗せられた炒飯と餃子が出てきた。

あの数分の間でよく餃子が出来たものだ‥‥

 

「いただきます」

胸の前で手を合わせて箸を手に取り、炒飯から味わう。

 

米の粘り気もしっかりと取られていて中華料理店さながらの味わいに情けないことに無我夢中に箸を進める。

 

「どうでしょうか?」

彼女が胸にお盆を抱きながら不安そうな表情で聞いて来る。

 

「とても美味しいです。流石は園田家次期当主ですね」

 

「そっ、そんな!買い被りすぎですよ!」

彼女は片手をお盆を持ちながらで空いた片手で腕を振り、照れ隠しをする。

 

 

 

 

彼女の手料理を味わっていると彼女が口を開いた。

 

「そう言えば悠人はこの期間にどこにも出かけ予定はないんですか?」

 

「いえ一応 故郷に帰ろうと思いまして‥‥‥」

 

「故郷ですか!‥‥‥あっ‥‥‥」

彼女は僕の生い立ちを思い出したのか恐縮したかのように縮こまってしまった。

 

「すみません‥‥出過ぎた事を‥‥」

瞳が潤んでいて今にも泣き出しそうな表情だった。

 

「いえ! 別にそんな事はありません!僕は‥‥‥両親に報告したいだけなんです‥‥新しい生き方を見つけたと‥‥そして、両親を安心させたいんです‥‥」

 

僕は彼女を慰めながら、自分の胸の内を明かすと先ほどまで顔を伏せていた彼女が顔を上げる。

 

「悠人‥‥‥」

彼女は僕の名前を呟くと、軽く息を吸い込んで重く閉ざした口を解き放つように開いた。

 

「私も‥‥連れて行ってください」

 

「えっ?」

 

「村雨と向き合わないと‥‥‥私は前に進めない気がするんです‥‥‥」

 

「私があの土地に移住することになったのは私達の先祖が原因なんです。貴女が気に病む必要なんて--」

「それでもです! 貴方の目の前で起こった悲劇‥‥園田のかつての行い‥‥これは運命なんです。いつか知らないといけなかった‥‥きっと定められていたんです。私は園田家次期当主としてこの真実と‥‥向き合う必要があります。そして‥‥私自身が前に進むためにも‥‥」

先ほどの泣き出しそうな子供のような目から一転、彼女は強い決心を滲ませた目をしていた。

 

「‥‥来週の日曜日ですよ‥‥‥」

 

「はい!」

彼女に伝えると、先ほどのこわばった表情から穏やから笑顔になり返答する。

 

僕は前に進もうとしているように彼女も自身の一族の歴史を知って前に進もうとしている。

 

そんな事を思いながらまだ少し暖かい彼女の手料理に箸を伸ばすのであった。

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます!!!!
次回は海未ちゃんが悠人の生まれ育った地であり悲劇の地でもある場所に踏み込みます。

いつもどおり 誤字脱字その他ご指摘、感想ありましたらご連絡ください!!!!
では!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話

新章をプロットを考え中です。


25話

 

海未との約束から1週間が経ち、日曜日を迎えた。

 

僕は黒いチェスターコートに身を包んで約束の時間の1時間前に家を出て、駅の前で立っていた。

 

天気は快晴だが不意に吹いてくる冬の風に度々身を震わせる。すると自分の名前を呼ぶ声が聞こえて目を向ける。

 

見覚えのある長い黒髪の女性が手を振りながらこちらに歩いてきた。

 

「おはようございます。悠人」

 

「おはようございます。海未‥‥随分早くきました」

 

「殿方を待たせるわけにはいかないので‥‥」

 

彼女は僕にそう言って首を少し横に傾けて笑みを向ける。

 

「さぁ、いきましょうか」

 

「ええ‥‥‥」

 

 

 

 

 

僕達は新幹線の4人席に向かい合わせで座り、森の木々のようにそびえ立つビルが徐々に少なくなっていくのを景眺めていた。

 

海未の方に視線を向けると彼女も目を大きく見開いて窓の外に釘付けになっていた。

 

すると彼女は僕の視線に気付いたのかこちらを見ると頬を赤く染めて視線を下に向ける。

 

「新幹線からの眺めは初めてですか?」

 

「いえ、幼い頃に両親に連れられた際に乗った以来で、こうして窓から眺めているとその時の事を思い出すんです」

 

そう話す彼女はいつもの凛とした雰囲気を纏いつつ子供のように無邪気な表情をしていた。

 

新幹線は僕の故郷に近づいていき窓の外は鉄やコンクリートの塊の人工物から鬱蒼と生い茂る木々や山が目立つようになっていた。

 

 

そして、昼下がりに目的地の駅に着いて僕達は新幹線を下りた。

しばらく間、座席に座り続けて少し体が固まったので指を結んで腕を伸ばす。

 

海未も目を閉じて、鼻からめいいっぱい空気を吸って吐いていた。

 

「空気が美味しいですね」

 

「僕の家の近くはもっと美味しいですよ。さぁ行きましょう」

 

僕達は改札を降りて実家に向かって足を進めていた。その道中、海未は木々や山々に魅了されたのか目を輝かせて辺りの見回していた。

 

屋敷へと続く山の中の石段を川のせせらぎや鳥の鳴き声を聞きながら進んでいると、石段の先から見覚えのある木造建築の門が目に入る。

 

石段を登りきり数ヶ月ぶりに帰ってきた屋敷を目に入れる。

 

海未は驚きと少し緊張したような表情で屋敷の外観を見ていた。

 

「ここが悠人‥‥村雨の方々が暮らしていた屋敷‥‥‥」

 

「さぁこちらへ‥‥」

 

海未に門をくぐらせて屋敷をより近くで見せる。 山奥の中に屋敷があることに驚いたのか辺りをここに向かう道中、同様に見回すように見ていた。

 

人の手入れがないのであちらこちらに木のツルが絡まったり蜘蛛の糸が付いていたりなどしていて、彼女を連れて屋敷の裏に歩いて行き、両親の墓の前で足を止める。

 

「ここが悠人のご両親のお墓‥‥」

 

僕はバックから供え物を取り出して両親の墓の前に置いて、線香に火をつけて添える。

 

「お父様‥‥お母様‥‥お久しぶりです‥‥

とは言っても去年の11月以来ですが‥‥‥僕はお二人の死をきっかけに自分の家の秘密を知り、園田 宗家の人間達を恨みました。

お二人の敵討ちの為に必死に稽古に励んで、宗家の人間に刃を向けました。

ですが負けてしまい目標であり生きがいであった宗家への復讐は呆気なく終わってしまった。一度お二人の元に行こうとしました。だけど僕をこの世界に繫ぎ止める存在‥‥‥彼女とその友人達のおかげで今こうしてこの場にいます」

 

僕は後ろで立っていた海未の方に両親に紹介するように手を伸ばして伝える。

 

「今の生活は世の中とは殆ど隔離してきたような生活を送って来た僕にとっては不安感も大きい反面、刺激的で何より楽しいものです。

すぐに同じ足並みで歩めるとは思っていません‥‥僕と彼女達の歩んだ時間は違うから‥‥だけど少しずつ歩んで行こうと思います‥‥‥お父様、お母様‥‥産んでくれてありがとうございます」

 

 

 

 

僕は目を閉じて、静かに頭を下げる。

すると後ろから足音が聞こえて横を通り過ぎる。

 

頭をあげると園田海未が両親の墓の前で供え物を置いて、正座をしている。

彼女は真っ直ぐな目で両親の墓に見て開口してつらつらと言葉を発した。

 

「初めまして、悠人のお父様、お母様‥‥私は園田家 当主の娘 園田海未と申します。

今回は現当主である我が父の代理として私がお伺い致しました。我が家が村雨に強いてきた行いをご子息の口から知った時、非常に心が痛みました。許されべき事ではない。信じたくなかった。彼の刀を交えた時に大きな悲しみが伝わってきました。怒り、絶望、虚無などの負の感情が‥‥ですがそれらを生み出したのも私‥‥私達の責任‥‥ですからお父様、お母様、ご子息が先ほどおっしゃったように彼が遅れた時間を私も共に歩むことを約束します。それが園田家 次期当主である私の責任です。どうか見守っていてください」

 

海未はそういって、深々と頭を下げて僕もそれに続いて墓石に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

両親の墓参りと掃除を終えて、不意に空を見るとやや茜色に染まっていた。

石段を降りていると後ろから続いて降りていた海未が僕に声をかける。

 

「この後、どこか向かうところでもあるんですか?」

 

「はい、最後に行っておきたい所がありまして‥‥」

 

そう言うと海未は行き先の検討が付かないのか視線を上に向けて眉間にしわを寄せる。

 

「付いて来たら分かりますよ」

 

僕は彼女に向かって口元を横に引くとしぶしぶ納得したような表情を見せる。

 

 

石段を降り終わって、歩道を歩き続けると外観の古い白い建物が見えて来た。

 

しばらく歩いて建物の前に着いて、柵の向こうに見える砂浜やジャングルジムなどを見て、かつての自分を思い出す。

「ここは?」

 

「僕が両親を失った後に、育った場所です。久しぶりにここの施設長と会いたかったんです」

 

インターホンを鳴らすと、インターホン越しから職員の声が聞こえてくる。

 

「すみません。私、以前この児童施設に入所していた村雨悠人と言うものですが、施設長はいらっしゃいますか?」

 

「施設長ですか? 少々お待ちください」

 

そう言って職員がインターホンが切って僕達は3分くらい待っていると向こうから小柄な白髪の老人がこちらに向かって歩いて来た。

 

老人は僕達の近くまで来て柵越しから僕の顔をしばらく凝視して、僕の事に気がつくと目を大きく見開いた。

 

「久しぶりだね‥‥‥悠人君‥‥」

 

「お久しぶりです。施設長‥‥」

 

二人の間に沈黙と遠慮の混じった空気が覆っているのを海未はひっそりと感じていた。

 




読んで頂きありがとうございます!!!!
誤字脱字感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話




26話

 

 施設長に連れられて僕と海未は彼の部屋に招かれて、室内に入る。

 

 部屋の中は向かい合わせのソファーとその間に四角い形をしたガラスのテーブルと部屋の奥に理事長室にあるような大きな机と椅子が置いてある。

 その机の上には花瓶が置いてあり綺麗な紫色の花が添えられていた。

「まあ座ってくれ」

 

 施設長はソファーの方に手を差し伸ばしながら言い、僕たちはソファーに横に並んで腰を下ろす。

 

 横目で園田海未を見ると少し緊張した表情で中央の机に目を向けていた。

 

 施設長の方を見ると向かいのソファーの後ろに置いてある給湯ポットでお茶を入れて、湯飲みを3つ、お盆に乗せて持ってきて僕と海未の前に湯飲みを置いていく。

 

 湯飲みを置くと向かいのソファーに腰を下ろして軽く息を吐いた。

 

「‥‥‥元気だったかい?」

 沈黙を破るように施設長が僕に声を掛ける。

 

「ええ、都会での生活にも慣れて今は不自由なく生活出来ています」

 

「そうか、それでお隣の可愛いお嬢さんはどなたかね?」

 

 海未について僕に聞くと彼女はその場で立ち上がり口を開く。

「初めまして、園田海未と申します。悠人とは高校の同級生です」

 

 海未は丁寧に頭をさげると、施設長は彼女に微笑む。

「初めまして、園田さん。彼のことをしたの名で呼ぶという事は相当親しいみたいですね」

 

 そう言い彼は少し意地悪そうな表情を浮かべると、彼女は首を少し横に傾けてほんのりと頬を赤く染めて何も言わずに再び、座り込んだ。

 

「何故いきなりここに来たんだい? 来るのなら連絡してくれれば良かったのに」

 

「僕なりのサプライズというやつです」

 

「ふっ、君には似合わない言葉だな」

 

 彼は口元を緩ませて湯飲みを手にとってお茶をすする。

 

「しかし、憑き物が取れたのか以前より表情が良くなったね‥‥」

 

「この数カ月で色々ありましたから‥‥」

 

「その色々というの園田さんの関係しているのかな?」

 

 僕は彼の勘の鋭さに思わず背筋を伸ばして目を丸くしていると施設長は湯飲みをゆっくりとテーブルに置く。

 

「ご存知なんですか?」

周囲に緊張感が漂い、僕自身も鋭い目線を彼に向ける。

 

「ニュースや新聞などには公表されなくとも

関わっていた人間には情報が回ってくるものだよ。まぁ君のいる学園の理事長から連絡が聞いたんだがね。‥‥‥初めては耳を疑ったよ。そして気づいたよ。君が入所時から抱いていたものの正体に‥‥‥でも良かったよ。こうして君と腹を割って話し合える日を迎えることができて」

 

 施設長は口を開くと、先ほどまで黙っていた海未が口を開いた。

 

「腹を割ってとおっしゃっていましたが悠人は以前、この施設に入所していた時はどんな様子だったんですか?」

 

施設長は眉毛をハの字の様にして悲しそうな表情で僕の方を見る。

「以前の彼は施設の子達と遊んでいる時もどこか無理をしているように見えた。きっとご両親を失った悲しみを少しでも埋めようとしていたんだろうね。それでもやはり埋められなかったのか物陰で一人泣いていた所を何度か見かけたこともあった。‥‥」

 

「気づいていたんですね」

 僕が苦笑いを浮かべて彼に返答すると申し訳なさそうな表情をして口を開く。

 

「その時、手を差し伸べてあげてたらなと思ってね。心の中に抱えていたものにいち早く気づいてあげられたらなと思ったよ‥‥‥」

 

「施設長‥‥‥」

彼は机の方に目を向けて自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「貴方が悩む必要なんてないんですよ」

 

「しかしーー」

 彼が話そうと言葉をつらつらと並べていく途中で僕は封を閉じるように遮る。

 

「僕は今、彼女と友人たちに支えられて前に向かっているんです。貴方は身寄りのない僕をここまで育ててくれた。十分に感謝してます。その感情に嘘はありません。だからそんな自嘲して自分を卑下する様な事はやめてください」

 

「悠人君‥‥‥」

僕が彼にいただき続けていた感謝の念を伝えると大きなため息をついて両手を額に当てて天井を見上げる。

 

 

「私のとんだ思い違いだった様だね‥‥‥」

 

彼はか細い声で確かにそう言って天井からゆっくりと顔を下ろして、僕の方に穏やかな笑みを浮かべる。

僕と海未も互いに顔を合わせて微笑みあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設の門を出ると辺りはすっかりと暗くなっていて星が見え始めていた。

 

 

 

「ありがとうございました。それでは僕はこれでーー」

 

最後に別れを告げようとした時、施設長が僕に手招きをするので彼の元に近づく。

 

施設長が耳を貸すように示唆したので耳を傾けると、彼はゆっくりと話し始めた。

 

 

 

 

 

 

新幹線の中で僕と海未は行きと同じ向かい合わせの席に座っていた。

車内は乗客が多かったのにも関わらず夜なのか妙な静けさに包まれていて、彼女は疲れたのか窓にもたれかかりながら心地好さそうに目を閉じて寝息をかいていた。

 

その姿を微笑ましく思いながら見ていると不意に施設長の言葉を思い出す。

 

 

 

「君の家を暴力団を使って襲撃した事業団体なんだが‥‥‥刑務所内で全員殺害されたらしい」

 

「えっ?」

 

「土産話になるかは分からないが一応伝えておこうと思ってね‥‥‥」

 

彼の口から伝えられた事実に多少驚きながらも頷いて返す。

 

 

 

(一生忘れることのない出来事だが今となっては過ぎてしまった事だ。彼らには報いが訪れたのだろう。しかし、なんだろう‥‥この胸騒ぎは‥‥‥)

 

 

手に入れた幸せを無くしてしまいそうな不安感を抑えて少しでも紛らわそうと眠っている海未の顔を僕は静かに見つめていた。




閲覧ありがとうございました!
次回から新章に入ります。皆さん何卒宜しくお願い致します。
誤字脱字感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!

ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「蹂躙編」
27話


新章を迎えるにあたって再度 プロフィールを書かせていただきました。



村雨悠人 (園田悠人)(16)
DATA
誕生日 3月15日
血液型A型
身長176cm
体重 67kg
好きな食べもの 和菓子
嫌いな食べもの なし

切長の目に中性的な顔立ちが特徴の青年で、かつて園田家に存在した分家 村雨の子。
宗家との因縁に決着をつけるべく園田海未を奇襲するも相討ちになり、彼女とμ'sの面々の力を借りて新たな人生を進む事を決心する。
剣術の腕は園田道場の師範である海未の父を追い詰めるほど高い実力を持っている。

園田海未(16)
DATA
誕生日3/15
血液型A型
身長159cm
好きな食べもの 穂乃果の家の饅頭
嫌いな食べもの 炭酸飲料

μ'sのメンバーの一人で作詞担当
同級生の高坂穂乃果、南 ことりとは幼馴染
ラブライブ 予選決勝のすぐあとに村雨 悠人と刃を交えて相討ちになり、3日間眠り続ける。その後、自殺を図ろうとした村雨悠人を救出してμ'sの面々と悠人の新たな人生をサポートする事を決める。
村雨 悠人に密かに想いを寄せている節がある。



小鳥のさえずりが微かに聞こえて重い瞼をゆっくり開けると、ぼんやりとした視界が徐々に定まっていく。

 

 窓から陽の光が差し込んでるのが目に見えて、僕はゆっくりと掛け布団から上半身を起こして両腕を天井に向けて伸ばす。

 

 

 辺りを置いてある物や部屋の雰囲気で再度、ここは自分の部屋ではないことを思い出す。

 

「そうか、学校に泊まってたんだったな‥‥」

 

 体温で温まった布団から出て畳んだ後、寝間着を脱いで制服に着替える。スクールバッグを肩にかけて部屋の扉を開けて鍵を閉め、彼女達のいる部屋に向かって廊下を歩く。

  僕は穂乃果の案によりμ'sの面々とラブライブ 前日に学校に泊まっていた。

 

 この数日間、色々なことがあった。ラブライブ 一礼週間前にμ'sの面々と街に遊びに行って、夕方の海辺で解散を宣言した事。駅のホームで大声で泣き声を上げる彼女達の姿に胸を強く締め付けられたような感覚に陥った事を今でも覚えている。

 

 部屋に向かって歩いていると廊下の窓枠に誰かが手を添えて外を見ていた。不意に強い風が吹いて長く綺麗な黒髪が宙を舞った事で誰なのかすぐに理解する事ができた。

 

ゆっくりと彼女に近づいていると、気配を感じたのかこちらに首を向ける。

目が合ったとき、にこやかにこちらに微笑みを向けて口を開く。

 

「おはようございます。悠人」

 

「おはようございます。海未。とうとう今日ですね」

 

 彼女は静かに頷いて、再び窓の外に目を向けて雲ひとつない晴天を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

夕方になり決勝戦の舞台に向かうと、会場には多くの人が集まっていた。

 

中には知り合いもいて、その知り合いと今、話しかけ‥‥いや正確には絡まれている。

 

 

「お久しぶりですねぇ‥‥優木さん」

 

「久しぶり、悠人くん」

 

彼女は満面の笑みを浮かべながら右腕にしがみついて上目遣いで僕の顔を覗き込むように見る。

 

「相変わらず綺麗な顔ねぇ〜 女の子みたい‥‥女装に興味ない?」

 

「嬉しくないですし、興味ないですよ‥‥」

彼女とのやり取りに苦笑いを浮かべながら答えて、後ろから痛いまでに突き刺さる冷ややかな視線に耐えるという二重苦を強いられている。

 

恐らく、現在後ろで起こっている事はA-RISEのお二方とμ'sメンバー八人が苦笑いを浮かべて、残りの一人がすごい剣幕で僕の事を見ているという事。本を読めば読むほどこういうイメージがしやすくなったりもする。やっぱり読書っていいですね‥‥

 

 

「あの‥‥もういいでしょうか?」

少し怒気を孕んだ海未の声が背後から聞こえて、優木さんが何かをにんまりとした笑みを浮かべて腕から離れていった。

 

礼を言おうと海未の方に振り返ると、海未が僕の腕を掴んだ。

 

「悠人、付いてきてください。真姫も時間ですよ」

 

「そうね、悪いわね。みんな少し場を外すわ」

 

僕は真姫と海未に連れられて会場内の建物に向かった。

扉を開けて会場内の建物の中に入ると手を離して、ゆっくりと僕の前を歩き出す。

 

「どうしたんですか?」

 

「父の言いつけである人に挨拶するようにと言われていまして、今からその方の所へ‥‥」

 

「私もパパの知り合いの人がここに来るから挨拶してって言われたから」

 

「なら、僕が行く必要はないはずでは‥‥」

 

「いえ、父に悠人も一緒に連れていくように言われまして、もっと早くにご挨拶したかったんですがねぇ〜」

 

満面の笑みを浮かべる彼女の顔はどこか闇を抱えた人間の顔をしていて、笑顔のはずなのに心には全く真逆の感情が動いている気がした。

そして、その背後で真姫が額に右手を添えてため息をついた。

 

「そ、そうですか‥‥それはすみませんでした」

 

「いえ、気にしないでください!」

 

笑みを浮かべて子供のように無邪気な声で返答する。

足を進めているうちに目的の人物の部屋の前に着く。

 

扉の雰囲気からして見るからに他の待機用の部屋とは違う事が一目で理解できた。

 

海未は茶色の扉を右手の中指を曲げて、軽く扉を叩くと中年の男性だろうか、男性の低い声で声が返ってきた。

 

「失礼します」

 

海未が扉を開けて中に入ると、そこには白髪のオールバックの男性とおそらく僕らと年齢の近い青年がソファーに腰掛けていて、二人は僕達の顔を見るなり、ソファーから腰を上げた。

 

「初めまして、逢崎会長。園田海未と申します。今回は父に代わりご挨拶に参りました」

 

「西木野真姫です。パ‥‥横に同じく父に挨拶するように言われ、参りました」

 

「園田海未の付き添いの村雨悠人と申します」

 

真姫、海未に続いて自己紹介をしている静かに頭を下げる。

 

「三人とも、よくきてくれたね。私の名は逢崎宗次郎。そして、隣にいるのは息子の逢崎蓮だ」

 

「初めまして、園田海未さん。西木野真姫さん。村雨悠人さん。逢崎蓮と申します。ここまで足を運んでいただきありがとうございます」

 

彼は軽く会釈をした後、僕らに笑みをむける。

 

逢崎さんの息子さんに僕ら三人が会釈を返した後に海未が逢崎宗次郎さんに緊張を含んだ雰囲気で声をかけた。

 

「父からお話を伺っています。古い知人同士であり、会長の創設された「逢崎会」は教育支援などに携わってきた御家柄だと。

国内の学校への支援、教育を受けられたない児童への教育支援や非行に走る少年少女の教育などを行い、さらに第ニ回ラブライブ 開催に莫大な支援金を援助してくださったことも‥‥」

 

僕と真姫は驚いて、顔を見合わせた。

 

「よく知っているね。その通りラブライブを開催するに当たって支援金を援助させてもらったよ。生涯に一度の高校生生活だ。一度、夢破れた人間にも再び、チャンスが当たって良いではないかと思ってね。学業だけでは学生は成長するものではない」

 

僕は彼の言葉に思わず感動を覚えて背筋を震わせていると、となりの真姫は同様に感動したのか何故か激しく首を縦に何度も振っていた。

 

彼女自身もμ'sと出会い、いろんな価値観が生まれたのだろう。それを思うとμ'sというグループがいかに偉大か一目瞭然である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挨拶が終わり部屋を出た後、僕達は別れて二人は待機室の方に向かっていった。僕も前列の方に席を設けたのでそこに向かって歩く。

 

建物の外に出た時に、先ほどよりも人が増えていてあまりの多さに目を思わず大きく見開いた。小学生くらいの子供から子連れの親子、僕と同じ年くらいの学生。サラリーマンなど多くの年齢層が一つの会場に集中していた。

 

 

席に着くと程なくして、司会者の方が出てきた。

 

「みなさーん!盛り上がってますかぁぁ!」

 

その声掛けに会場からたくさんの人の声が大声で返す。

 

「っとその前に! 今回は第ニ回ラブライブ 開催において、多くの支援してくださった方からのスピーチがあります。皆さん多くの拍手でお出迎えください! それでは!」

 

ステージのカーテン越しからたくさんの拍手に囲まれて逢崎宗次郎が出てきてマイク前で一礼をする。

 

「皆さん、寛大なお出迎えありがとうございます。逢崎宗次郎と申します。ラブライブ は全国の高校生が努力と互いの力、そしてチームワークを発揮する最高の舞台です。どのダンスも美しく、華麗で私ですら夢を見させていただいています。 そして、この決勝大会で優勝が決まる! 君達の努力の成果を是非存分に発揮してほしい! 以上!」

 

演説が終わって彼が一礼すると再び拍手が起こり、それを背に受けて彼はカーテンの中に消えていった。

 

 

 

それからは多くのアイドル達がパフォーマンスを舞台で披露した。流石はラブライブ 全国大会。どれもハイクオリティで正直、優勝できるかも不安になるほどでした。

そして、遂に最後の組、「μ's」がたくさんのサイリウムの光に包まれて姿を現して、音楽が流れたと同時に彼女達は舞台で美しく舞い踊り始めた。

 

パフォーマンスが終わり、会場からは彼女達への多くの拍手を送られた。横一列になり彼女達は会場の人達に一礼して舞台を去った。

 

 

先ほどのパフォーマンスの余韻に浸ろうとしていると会場が騒がしくなっていく。

 

「アンコール!」

 

「アンコール!」

 

会場からたくさんのアンコールが聞こえて数秒後、彼女達が別衣装に着替えて現れて再び、パフォーマンスを始めた。

 

多くの光に包まれて舞台で舞う彼女達の姿はまさに九人の女神そのものであった。

 

大会が終わり、μ'sのみんなの元にいこうと建物の中に入り待機室に向かっていると、廊下の角から誰かとぶつかる。

 

「すみません」

 

「あっ、いえこちらこそ」

 

彼の方を見ると、足元に何か手持ちの機械のような物が出てきた。 彼は慌ただしくそれを懐に入れると走り去っていった。

 

彼女達の部屋の前について扉を軽く叩くと、声がして扉を開けた。

 

「悠人君!」

 

「悠人!」

 

九人が僕の姿を見たときに駆け寄ってきた。彼女達の目は先ほどまで泣いていたのか少し赤くなっていた。

 

「皆さん。優勝おめでとうございます!! 最高の舞台を見せてくれてありがとう!」

 

僕は笑みを浮かべて会釈をして、彼女達と顔を合わせて互いに笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、僕は何気なく朝のテレビニュースを見ていると、ニュースキャスターが発した言葉で思わず目を見開き絶句した。

 

「続いてのニュースです。本日、午前一時頃、「逢崎会」会長、逢崎宗次郎氏が殺害された状態で発見されました‥‥」

 




宇宙一バカなラブライバーさん評価 ☆10 を付けていただきありがとうございます!
その他多数のお気に入り そして、皆様のおかげでお気に入り100に達することができました。UA数も18000越えも誠にありがとうございます。 これも読んでくださっている読者の皆様のおかげです!

誤字脱字感想その他ありましたらご連絡ください! それでは!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話

μ'sの九人と部室で椅子に座り、今朝のテレビニュースの件について話していた。

 

その議題とは「逢崎会」会長 逢崎宗次郎氏が殺害されたと言う事。

 

 

「「逢崎」って昨日、ラブライブ 始まる前に舞台の前で話してた人だよね」

 

「うん、でもなんでいきなり‥‥」

 

穂乃果とことりが眉間にしわを寄せながら真相について考えていた。無理もない、昨日目にした人間が亡くなったと聞けば誰もがこういう反応になる。

 

かなり有名な家柄の人間が亡くなった事もあり、ネットでもその話題で持ちきりとなっていた。昨日直接会って話した僕と真姫、海未は驚きを隠せずにいた。

 

「殺害のされ方も刃物で喉を刺すってこれまた酷いやり方よね‥‥確か‥‥息子さんいたわよね。気の毒ね‥‥」

 

真姫が伏し目がちに息子の事を気にかける口振りで話していた。

 

「部屋以外、荒らされてた形跡がなくて犯人もまだ捕まってないらしいわね。恐らく犯人は「逢崎会」に恨みを持っていた者による犯行だってニュースでもやってたわ」

 

「日本の教育に影響を与え、非行に走る少年少女の教育‥‥こんな善良な人が殺されていい理由なんて‥‥」

 

部室内が暗い雰囲気に包まれる中、一人の少女が椅子から立ち上がり、手を叩いた。

 

「さぁ! 暗い話はこれで終わりっ! せっかくみんな集まったんだから屋上に行こーよ」

 

穂乃果が曇天に光を差すようにその言葉でみんなの表情にも笑みが戻る。

 

その後、僕達は穂乃果の言葉もあり、屋上に行き、ラブライブ で踊っていなかった曲のパフォーマンス練習をしていた。

 

 

 

 

学校が終わり、僕はそのままスーパーに寄って、夕飯の献立を考えながらカゴに商品を入れていく。

 

野菜やら魚やら色々なものをカゴに入れてレジで会計を済ませて店を後にした。

 

辺りはすっかり暗くなっていて、街灯の光が一定の間隔で夜道を照らし光の周りに蛾や他の小さな虫が集まっていた。

 

遠くの方に目を向けると小柄な少女らしき人物が両手に大きな袋を一つずつ持って歩いていた。

 

頭部を見て特徴的なツインテールが目に入り、自分の知り合いだと認識した。

 

「にこ先輩‥‥下の子達の為に毎日、大変だな‥‥‥」

 

片方の手が空いている僕は彼女を手伝おうと駆け足で向かっていると、突如彼女が消えた。

 

いや、正確には何者かに連れて行かれるようにして消えた。

 

「にこ先輩!!!!」

 

僕は手に持っていた買い物袋を道に捨て、一目散に走る。

 

乱暴に連れて行かれたのか、彼女のいたところに買い物袋が二つ地面に落ちている。

 

連れて行かれた方面の見ると路地裏があり、足を速める。すると路地裏の奥から抵抗するようなにこ先輩の呻き声が聞こえる。

 

声のする方に向かうと、にこ先輩が壁に体を押し当てられて口を塞がれている状態だった。

 

押し当てている人物の姿は異様なものだった。背丈は僕と同じくらいだが顔に黒い面を被り、全身黒いマントのようなもので纏っていたのだ。

 

抑えている左手にはハンカチのような布を持っていて、睡眠薬が染み込んでいるのかにこ先輩の目が虚になっていく。

 

「彼女から手を離せ‥‥でなければ容赦しない‥‥」

 

僕はあからさまに怒りを露わにして、園田流の構えをとる。

 

相手は右手から空いている右を懐から入れて、十センチ程の黒い棒を取り出す。

 

それを力強く下に降り下げるとなんと長い刃が出てきた。まるで刀そのものだ。

 

相手は矢澤先輩から手を離すと、両手で構える。 手を離したことで矢澤先輩は壁にもたれながら無気力に倒れていく。

 

突然、相手は僕に刀を斜めに振りかざして、咄嗟に後ろに下がる。

 

その後、下から切り上げて、逆の方に体を避けて刀との接触を避けていく。

 

ふと下に目をやると鉄パイプが落ちていてそれを拾い、水平にして刀から身を防ごうとしたものの刀の鋭利さが勝りパイプが真っ二つになる。あと少し、体がパイプに近ければ斬られていた。

 

相手が次の段階の為に大きく刀を振り上げた隙を狙い、溝うちに自分の手根部を強く当てる。

 

相手は応えたのか、刀を落として溝うちを抑えて後ずさりをして僕の方を見る。

 

「まだやりますか‥‥」

僕が再度構えをとると、襲うことなくそのまま更に奥の方へ走っていった。

 

「ふう‥‥‥なんとか退けたな‥‥」

 

相手の逃亡を確認してにこ先輩の元に向かい、胸に耳を当て鼓動を確認する。

 

「眠らされてるだけか‥‥」

にこ先輩を背負い、元来た場所に移動して落とした買い物袋を利き手の右手に二つ左手に一つ持って彼女の住む団地に向かった。

 

エレベーターに乗り、彼女の住む階に着いて部屋のインターホンを押す。

 

「は〜い」

部屋の中から声がして足音が近づいてくる。

鍵を解除して開閉音とともに、隙間から小さな少女が顔を覗かせる。

 

「あっ、悠人さん! っと‥‥お姉様! どうしたんですか!」

 

「やぁ、こころちゃん。にこ先輩疲れちゃったみたいで買い物帰りに息抜きのつもりが眠っちゃったみたいで」

 

僕は道中で考えていた家族へのその場しのぎの嘘をこころちゃんについた。

 

「そうでしたか。お姉様ったら‥‥とりあえず中にお入りください」

 

「ああ、お邪魔します」

 

僕は玄関に入り、買い物袋を置いてから彼女をリビングに向かう。

 

リビングにはここあちゃんと虎太郎君がいて、僕の方に近づいてきた。

 

こころちゃんが二人に向かって口元に人差し指を当てて静かにするように言い、布団を引いて彼女を横に寝かせる。

 

「これで良いかな‥‥」

玄関付近に置いた買い物袋に目を向ける。

 

「買い物してたって‥‥事はまだこの子達の食事がまだか‥‥」

 

六つのつぶらな瞳が僕の目に向けられる。

 

「良かったら‥‥作りましょうか?」

 

三人は勢いよく、首を振った。

 

 

 

 

 

「「「ご馳走様でした!」」」

 

「はい、お粗末様でした」

三人の幼子の感謝の言葉を受けて、笑顔を応えるとリビングの方から声が聞こえた。

 

「んっ‥‥ここは?」

 

「にこ先輩、おはようございます。先輩の家ですよ」

 

すると彼女は意識がはっきりしていくのと同時に僕に掴みかかった。

 

「あいつは! 私を捕まっ--」

 

「奴は僕が追い払いました。そして僕が眠っていた先輩をここまで運んできました。それから下の子達には一応嘘を言っておきました。真実を伝えればきっと怖がってしまいますからね‥‥」

 

にこ先輩を口を塞ぎ、耳元で話す。

 

「そうね‥‥分かったわ」

 

彼女から離れて、三人の幼子の方を見る。三人とも不思議そうな表情でこちらを見ていた。

 

「お姉さん。もう大丈夫ですよ」

 

そういうと、三人が一斉ににこ先輩の元に向かう。

 

「こころ、ここあ、虎太郎。心配かけたわね。お姉ちゃんもう大丈夫だから」

 

にこ先輩は三人を優しく抱きしめると、僕の方に目を向ける。

 

「あんたもありがとうね‥‥」

 

僕にそう言って、優しく微笑んだ。

 

その後、にこ先輩と食器を洗い終わった後、僕は自分の買い物袋を手にして四人に見送られながら部屋を去った。

 

僕は帰りの夜道ににこ先輩を襲った面を被った人物を思い出していた。

 

(奴は何故、にこ先輩を襲ったんだ。度が過ぎたファンか? いやなら何故刀を‥‥脅すなら安易に用意できる包丁やカッターで問題ないはず‥‥奴は一体‥‥)

 

胸の中に漠然と残る巨大な疑問と不安感を抱えながら僕は家路を急いだ。

 

 




黒絵の具さん、神崎龍斗さん
評価を付けていただきありがとうございます!!
その他多数のお気に入りをつけていただいた皆さんもありがとうございます!!!

誤字脱字感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください! それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話

前話から期間が空いてしまいしました。申し訳ありません。29話です!どうぞ!


29話

 

 午前の授業が終わり、昼休みの教室で僕と海未、穂乃果、ことり含む二年生は教室の黒板より左上に設置されているテレビに釘付けになっていた。理由は一つ、逢崎宗次郎亡き後の「逢崎会」の新会長に息子である逢崎蓮氏の就任発表会が生放送で配信されているからである。

 

「ご両親の葬儀の後に就任式とは随分多忙ですね。心の整理する余裕すら与えられないなんて‥‥」

「全くですね‥‥」

 海未と僕は彼の身の出来事を哀れに想っていると途中で生放送の画面が右端に小さくなっていき、スタジオの司会者とコメンテーター達のトークが行われている。

 

「お父上が亡くなったとはいえ、十七歳の青年を会長に就任されるのは無理があるのでは?」

「そこは団体に所属していた方々も協力して活動していくでしょう」

 白髪の頭に顔に丸眼鏡をつけた年配の男性が右隣の席の四十代前半の女性との会話に他のコメンテーターも同意するかのように頷く。

 すると司会者が後ろに設置されているモニターを左手で触れると、『逢崎会』の 類い稀なる善業が映し出される。そこには海未が以前、逢崎会長本人の前でも話した行いの数々だった。

 

「『逢崎会』の行なって来たもので特に高く評価されていることがこちらです」 

 

 司会者が再びモニターを左手でタッチするとそこには何やら白い建物が映し出されている。

「これは十年前ほど前から逢崎宗次郎氏が考案した『非行少年少女更生プロジェクト』に使用されている施設で、『箱庭』と言われています。全国から非行に走った十二歳から十八歳の少年少女を対象にこの施設で更生のためのカリキュラムが施されるそうです。これまで多くの少年少女がこの施設に送られて、何百人と更生して家族の元に帰って来たと言います。例えば」

 

司会者がモニターをスライドして別の画面に映り、そこには更生した子達の例が並べられていて司会者が一例をピックアップする。

「Aさんの場合、かつて学校ではいじめや教師への暴力、家庭内でもご両親に手を挙げ、外では暴力事件を起こすなどしていましたが『箱庭』から帰って来たことには他者に温厚になり、何事にも真面目に取り組むなど、以前とは比べようがないほど更生したようです」

 

 司会者がモニターに手を向け、コメンテーター達に語りかけていると、司会者が左耳に手を当てる。

「現場から動きがあったそうなので会場に切り替えます」

 

 テレビ場面はスタジオから就任発表会場に切り替わり、 舞台の周りには多くの記者やカメラマンが舞台の下で彼が来るのを今か今かと待っているのがテレビ越しで映る。

舞台の上に司会担当を務めるであろう眼鏡をかけた、中年の男性がマイクで口元に近づける。

 

「えー、ただいま「逢崎会」新会長 逢崎蓮氏が舞台に上がられます。それではどうぞ‥‥」

舞台裏のカーテンから紺色のスーツ姿をした端正な顔立ちの青年が、姿を現してカメラのシャッターの音や設置ライトを浴びながらマイクスタンドの前に立つ。

 

「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。この度『逢崎会』新会長に就任いたしました。逢崎蓮と申します。父の死からあまり時間は経過していませんが、このように公の場で皆様に見守られながら会長の座につけることを心より嬉しく思います。本日、皆様にお集まりいただいたのはこれからの『逢崎会』の方針と『非行少年少女更生プロジェクト』についてお話させていただきます」

 

 彼はそう言い、首を下に向けて軽く息を吐いた後、ゆっくりと正面を向く。その時、一瞬だったが僕には彼の左の口角が僅かに上がったように見えて、僕は背筋に少し寒気を感じた。

 

「『逢崎会は』以前と同じく教育問題に携わり、一つでも多く解決に尽力していきたいと思います。そして‥‥‥『非行少年少女更生プロジェクト』のついてですがその前に一つ‥‥‥皆様、スクールアイドルとはご存知でしょうか?」

 

 彼の唐突の発言に現場の記者や液晶画面越しにいる僕達も首を傾けて眉間にシワを寄せる。

 

「スクールアイドル。近年、高校生の間で話題となっていて現在その人気は凄まじく、人気のグループの学校に入学希望者が続出するほどです。さらにはスクールアイドルの全国大会『ラブライブ』ここから実力を見出されプロのアイドルを目指す方もいると聞きます。前会長である私の父、逢崎宗次郎は『ラブライブ』及びスクールアイドルを支援していました。ですがこれによってあることが起こっているのです」

 

「ある事?」

 ことりが生唾を飲んでテレビに釘付けになる。

 

 

「学校内でのいじめ、格差問題です」

 僕は驚きのあまりに目を大きく見開いて、液晶画面の向こうも会場が一気にざわついてカメラのシャッターの音が一層激しくなる。

 

「スクールアイドルというものが出てから学校での問題も目立ち始めて来ました。入学希望者増加に貢献したスクールアイドルをしているものが他の生徒を罵倒する、また別の例としてスクールアイドルをしていじめに遭うなど、報告されています。ですが世間はスクールアイドルというものをプラス的に考えるのもそうですが、世に溢れるいじめ問題などでそういった件がもみ消されていったのも事実‥‥‥このような事態、会長として見過ごすわけにはいきません。この場で宣言します‥‥‥全国のスクールアイドルを『非行少年少女更生プロジェクト』の対象とします。及び、スクールアイドル活動の全面停止!!! 」

 

 会場では記者達が一斉に立ち上がり、彼に質問を投げかけるが彼は黙って正面を向いていた。教室内が一段と騒がしくなった。

 

「こんなのおかしいよ! 穂乃果達そんなことしてないもん!」

 穂乃果が椅子が倒れんばかりの勢いで立ち上がり、怒りを露わにして液晶画面の向こう側の彼に問いかける。

 

「そうだ! 発言を撤廃しろー!」

 教室にいたクラスメイトの数人もテレビに叫ぶ。

 

「穂乃果ちゃん‥‥‥」

 

「穂乃果」

 僕と海未、ことりは普段、温厚なはずの彼女から発せられた怒りの声に狼狽えていた。

 

「では会長はいつからそれを実行するおつもりですか!!」

一人の記者の怒号にも近い声で会場と教室が静まり返った。

 

「それは‥‥‥無論、本日です」

 彼は笑みを浮かべてそう答えた時、運動場側の窓硝子に気配を感じた。

 

「伏せろ!!!」

 

 僕が叫んだ瞬間、窓ガラスが一気に割れ始めて、少し遅れて教室にクラスメイトの悲鳴が響き渡り、割れた窓からカーテンに隠れて複数の何者かが入っていた。

 カーテンから見せた存在の恰好を見て、一気に体に力が入る。以前、にこ先輩を誘拐しようとした奴らの姿と同じだからだ。

 

 一瞬の出来事だった。黒いマントの一つがことりの胸ぐらを掴んで、抵抗ことりに意にも返さず再び、窓側に走り出す。

「ことり!」

 僕は彼女を助けようと走り出そうとした時、黒マントが窓から飛び降りた。

 

「穂乃果ちゃん! 海未ちゃん! 悠人くん!」

 彼女の断末魔に似た助けを求める声が下から聞こえる。

 

 すかさず、穂乃果の方に目を向けるとぐったりとした体勢の穂乃果が黒マントの肩に担がれて、運び出されようとしていた。その後ろで海未が黒いマントと激しい格闘戦を繰り広げていた。

 

「穂乃果!」

 彼女の元に向かおうとした時、目の前に二人の黒いマントが壁となり、懐の中から以前と同じく10センチほどの黒い棒を出して下に強く降る。案の定、黒くて長さは1メートル程で刃も峰も同一の黒一色でそれ見た生徒達の悲鳴がさらに現場を緊迫にさせる。他の生徒達のほとんどは廊下から教室を見ていて、数人は教室のすみで怯えている状況だった。

 

「邪魔だ!!」

 斬りかかって来た一人の刃を左に避けて右手の発勁を溝に打ち込み、怯んだ隙に刀を奪い取り後ろに下がる。

 下がった時に後ろを確認するとそこにはもう穂乃果の姿はなかった。自分の不甲斐なさに怒りを感じていると不意に追い詰められている海未の姿が目に入る。相手は既に刀を取り出していて彼女は回避する他なかった。

 

(くそっ! せめて彼女だけでも!)

 その時、黒いマントの一人が刀を水平に振ってきたので僕は体勢を低くして持ち手を変えて峰で相手の右肘を弾くように当てる。

 

 黒いマントは肘を抑えて手から刀が滑り落ちた。

「海未!」

 海未が僕の声に気づくとすかさず剣を彼女に投げ渡す。彼女は相手との距離を少し空けて、机の上を踏み台にして刀を受け取ると、横に一回転して僕の真横に着地した。

「ありがとうございます。悠人」

「ええ」

 僕と海未が刀を構えると、突然ブザーのような音が聞こえる。音の方を確認すると黒いマントの一人からだった。

「‥‥‥時間だ‥‥」

 一人がそう呟くと残りの黒いマント達も一斉に窓側に走っていき、僕と海未は奴らを追いかけようとした走り出す。窓側に着くと先ほどの黒いマントの三人が校門を出てすぐの位置にいた。

「海未、ここで待っていてください」

「ですが悠人!」

 僕は彼女の言葉に聞く耳を持たず刀を教室の床に置き、窓から飛び降りて着地する。着地時に走る足の痺れをこらえながら連中を追う。運動場を抜け、校門を出てすぐにあるの長い階段から下を見た時、目に入った光景に唖然とした。

 階段の下には知らぬ間に黒い中型トラックがグラウンドの真ん中にあり、その荷台には穂乃果、ことり、凛、花陽、真姫、絵里先輩、希先輩、にこ先輩が乱雑に乗せられていた。状態から見るに眠らされている様子だった。そして黒いマントを纏った二人が荷台に大きな布をかけた。

 

「待てっ!!!」

 僕は階段を駆け下りていくと黒いマントの二人は二台の中に入り込み、トラックはエンジンをふかしてゆっくりと走り出す。下に着くとトラックは先ほどより勢いを増して、距離が離れていく。

 

「みんな!!」

 僕は走りながらみんなを呼ぶも、叫び声を置いてくようにトラックは無慈悲に距離を離していく。そして着地時の痺れが再度蘇ってその場で倒れた。硬いアスファルトの顎を置いて、低い視点からトラックが角を曲がって見えなくなるのを僕は自責の念に駆られながら静かには見ていた。




閲覧ありがとうございます! 誤字脱字感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください! それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話

一人称、三人称混ざるあたり自身の無能さを痛感します。がんばルビィ! すみません、それではどうぞ


 黒マントの襲撃からしばらく時間が経った。僕は今、保健室で丸椅子に座り、先生に窓から飛び降りて着地の際に負傷した足首を見てもらっている。僕の隣の丸椅子から海未が心配そうな趣で僕の足首を見つめていた。

 

「少し痛みますよ」

 先生は救急箱から湿布と包帯を取り出して湿布を貼った後、慣れた手さばきで包帯を足首に巻いた。

「これでよしっ、しかし君も無茶をするね。教室から下に飛び降りるなんて」

「本当です! 全く貴方は!」

 先生が困り眉を浮かべて苦笑する先生とは別に、海未からは叱咤を受けるが彼女の声はどこか震えているようにも聞こえた。きっと本気で心配してくれたんだろう。

 

「すみません‥‥‥」

 僕は海未に頭を下げると、少ししてから頭の先でため息がした。

 

 手当てが終わり、海未と保健室の扉を閉めて廊下を改めて見ると、その凄惨な光景に思わずため息が出る。窓硝子が所々割られていて、床に落ちた硝子の破片を数人の女生徒達が切磋琢磨に箒とちりとりで掃除していた。

 そしてその後に気づいたのが妙に正門前が騒がしいことである。窓枠に近づいて正門前に目を凝らすと、カメラやその他の機材を持った複数の人たちが野次馬のように押し寄せている、おそらくマスコミである。閉じた正門から僕達の担任教員や他の教員達が見ている限り帰るように言っている。

 

「スクールアイドル達が襲撃されたから‥‥‥」

 

「ええ‥‥‥」

 正門前から硝子の破片を処理する女生徒達の方に目を向けると、一時間前の事が脳裏に浮かぶ。教室の廊下で怯えるクラスメイト、救いを求めることり、穂乃果、μ’sのみんな。特にことりの声が今も頭から離れない。彼女達の事を思うと拳を強く握りしめ、自身の無力さを呪おうとした時ーー

 

「悠人」

 隣から聞き慣れた声がして横を向くと海未がその場に立ち止まり、何か決心を滲ませた鋭い目で僕の事を見ていた。

「貴方のせいではありません。あの奇襲は誰もが予想できなかった事です。未曾有の事態に誰もが困惑している‥‥‥私達もその一人なんです。起こってしまったことは仕方ありません」

 

 彼女の強く、どこか優しい言葉に僕は胸の中に強く響いた。

 

「さあ、教室に向かいましょう。私たちにも出来ることがあるはずです」

階段を登って僕達の教室前に着くとやはり、僕達の教室の中と廊下をクラスメイト達が割れた硝子の破片などを箒でかき集めて捨てていた。

 

クラスメイト達が僕達が戻ってくるのに気がつくと、何人かのクラスメイトが駆け寄って足の具合を尋ねてきた。僕が手当てを受けたので問題ないと答えると安堵したが、瞬時に険しい顔になり、クラスメイトの一人が懐から携帯を取り出し、僕と海未の前に表示画面を見せた。

「これは‥‥‥」

 海未が目を大きく目を見開いて小さな液晶画面に映る、漠然とした現実にもはや言葉も出ないという様子だった。そこに移っていたのは『ラブライブ』公式ホームページだが、そこから関東地区のスクールアイドル『A-RISE』『Mutant Girls』『Midnight Cats』『Yeast Heart』その他のアイドルグループの名前が消えていたのだ。

 

「名前が消えているってことは‥‥‥」

「おそらく捕まってしまったということでしょう‥‥‥」

「でもこれを見て」

 そう言いクラスメイトの女生徒が画面を再び、指で下になぞるとそこには『μ’s』の名前があった。

 

「おそらくまだ海未が捕まっていないことが原因でしょうね」

 僕はそういうと海未とクラスメイトは納得したように頷く。

 

「お前ら、掃除は捗っているのか?」

 声のする方を見ると、担任の女性教員が廊下の奥からこちらに歩いてきた。

「先生、マスコミの人達は?」

 

「ああ、しつこくしたら警察呼ぶぞっつったら蜘蛛の子散らすようにどっかいっちまったよ、それで」

 海未の質問に答えると、女性教員は僕の足首に目を向ける。

 

「村雨、足の方は大丈夫なのか?」

 女性教員は顎で僕の足首を指した。

 

「ええ、まあそれよりこの惨状は‥‥‥」

 僕が改めて廊下や周囲の校内を目視すると、クラスメイト達も釣られるように周りを見る。辺りは相変わらず割れた硝子の破片が散らばって割れて常に通風状態のままで時より風が舞い込んできた。

 

「このことに関しては南理事長も逢崎会長に進言するつもりらしい。何せ自分の娘も連れて行かれたんだしな‥‥‥」

 

「ことり‥‥‥」

 海未を含めたその場にいたクラスメイト達がことりやμ’sのみんなの事を思いだして、その場で目を伏せていると、手を叩くような音がする。

 

「とりあえずホームルームだ。教室に戻れ」

 女性教員が手を叩いた後のような状態で手を下ろして教室に入っていき、それに続いて僕達も入室した。

 

 

 

 

 

 ホームルームが終わり、教室の生徒達が足音を立てて教室を出ていく。女性教員が園田海未に対して身の回りに気をつけるように言うと、そのまま教室を去っていった。今回の件は各学校の教員達も困惑するばかりである。海未に声をかけられ僕も席を立って、スクールバッグを肩にかけて教室を出る。

 校舎の玄関を出ると、女性教員の言った通り既にマスコミ連中の姿はそこにはなかった。

 

 すると携帯の着信音が鳴り、海未が自分のスクールバックを漁り携帯を取り出して着信に出る。何やら真剣な趣で話していて、電話を切るとこちらに顔を向ける。

「父が階段の下に車で待っているらしくて何やら悠人にも話があるようで来るようにと‥‥‥」

 

「分かりました」

 階段を降りていくと海未の言った通り、一台の黒い車が車道の脇に停車していて車のすぐ横の歩道に当主が立っていた。

 

「お父様」

 海未はそういうと実父の方に駆け寄ると、当主はそっと抱きしめる。

「よく無事だった‥‥‥」

 当主は娘を胸に抱きながら肩を震わせて、希望を必死に離さぬように強く抱きしめていた。

 

 車に乗って海未は助手席に座り、僕は後部座席の真ん中から運転中の当主に一つの疑問を問いかける。

「何故、僕も同伴なんですか?」

「実は今、家に人が来ていてな、初めは追い返そうとしたんだがどうしても二人に伝えたいことがあると言ってな‥‥‥」

 

「僕に?」

「まあ、着いて話せばわかるさ」

 数分後、車は園田宅に着いて、車から降りる。

 

 

「マスコミはいないんですね‥‥‥」

「さっきまでいたが、追い返したよ‥‥‥全く騒々しいったらありゃせん」

 当主は胸の前で腕を組み、憤りを感じていた。

 

 玄関の戸を開けて、長い木製の廊下を進んでいくと障子が貼られた戸が見えて、当主が横に引く。

部屋は畳敷きで中央に木製の大きな机がありその近くに座布団で正座するスーツ姿の男性が座っていた。僕は彼の姿を見た時、思い出した。ラブライブ決勝戦の後、彼女達の待機室に向かう時、廊下でぶつかった男性だ。

 男性は僕達の姿を確認するとその場で立ち上がり、当主に一礼したあと僕らの方に向き替える。

 

「初めまして、園田海未さん、村雨悠人さん。フリーライターの真鍋洋一と申します」

 そう言い、爽やかな笑みを浮かべた後、僕達に頭を下げた。

 




閲覧いただきありがとうございます!!
誤字脱字その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!
それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話

31話となります。それではどうぞ!


「31話」

 茜色の空が徐々に影を含んでいる頃、僕は海未と当主、そして真鍋洋一と名乗る謎のフリーライターの四人で机を囲んで座っていた。

「それで話したいこととは何かね‥‥‥」

 当主が眉間に皺を寄せながら尋ねる。その横に座っていた海未も警戒を含んだ趣で彼の顔を見ていた。

「園田さんと逢崎さんが知人同士と耳にしまして、それについてお伺いしたいのと、もう一つは‥‥‥これを聞いた後で話させていだだきます」

 真鍋さんは少しの間、沈吟した後に彼は懐から何かを取り出して机に置いた。

 よく見ると彼とぶつかった時に落とした録音機である。海未と当主が顔をしかめていると彼が録音機の再生ボタンを押すと、僕と海未、真姫の声がする。

「これはまさか‥‥‥」

「ラブライブ決勝戦の際に逢崎宗次郎、逢崎蓮の待機室での録音記録です」

 再生ボタンを押すと、擦り切れるような機械音の後に男女の会話が聞こえる。僕達の会話だ。

 

「私達の会話ですか‥‥‥」

 海未は少し驚いた顔をした後、すぐに音声に聞き耳を立てる。

 

「ここからです」

 僕達が部屋から出て、扉が閉まる音が聞こえて数秒後の事だったーー

 

「ふう‥‥‥全く、またスクールアイドルが問題を起こしたらしい‥‥‥この大会は人気でその分、金回りが良いから出資者になったものをこれでは私の仕事が増えるばかりだ‥‥‥」

 

「日に日に有名になってますからね。彼女達が問題を起こすとマスコミ達が我先に集まってきますからね‥‥‥」

 聞こえてきたのは逢崎宗次郎と逢崎蓮の会話だが、明らかに逢崎宗次郎の口調が僕達の前とは明らかに違っていた。真横で聞いていた海未も彼の変化に驚いていた様子で、当主も項垂れていた。

 

「あと‥‥‥さっき来た『村雨』と言ったか‥‥‥どこかで聞いたことがあるような‥‥‥まあいい」

 僕は海未と顔を合わせて、再度、音声に耳を立てた。妙な緊張感が僕らの周囲を覆っていた。

 

「私は舞台で応援演説をせねばならん。お前は先に帰っていろ」

 

「はい」

 

 足跡が聞こえて徐々に遠ざかって行き、その後に扉の開閉音がした後、鍵を閉める音が聞こえた。無音と時より外から小さく聞こえるアイドル達の音楽や来場客の騒ぎ声が耳に入る。そこからしばらくして鍵を開ける音がして足音が録音機の方に向かってきて、音が切れた。

 

「ーーというのが僕が彼らが来る前に事前に仕掛けた録音機での記録です」

 そう言い、彼は机に置いてある録音機を手に取り、懐に入れる。僕と海未、海未の父は黙ったままだった。二人も僕と同じできっと何を言っていいのかわからないのであろう。

 

「それと当主殿にお伺いしたいことというのが、どうやって逢崎宗次郎と面識を持ったかということです」

 当主は背筋を軽く伸ばして、彼の目を見る。

 

「あれは確か四年前か‥‥‥あの『箱庭』という施設の設立記念会に招かれた時に知り合ったぐらいだな。そして数日前に連絡がきてあってね。私は野暮用があって代わりに海未を向かわせたということだ」

 

「なるほど‥‥‥では村雨さん。彼らの口から名前が出ていましたが、見覚えはありますか?」

 

「すみません。覚えがありませんね‥‥‥」

 

「そうですか‥‥‥ならあれは偶然か‥‥‥」

 真鍋さんは何やら最後に聞き取れないほどに小言を呟いて顎に親指と人差し指を添えて、沈吟し始める。僕は胸に引っかかっていた疑問を彼に問いかけた。

「『逢崎』家は一体なんなんですか? 録音機の内容からして裏で良からぬことをしているのは確かですが‥‥‥」

 

 すると、彼は聞いた時は少し驚いたような表情をしたが、その直後に険しい表情を浮かべて、口を開いた。

「表向きは青少年達の教育や非行少年少女達の更生支援などに貢献してきた家柄。『箱庭』なんてその典型的な例です」

 彼は視線を斜め下に流して、軽く胸を膨らませてゆっくり息を吐き出した。

 

「僕の兄は『箱庭』の元入所者でした。兄は入所するまで学校で他生徒に暴行、外ではカツアゲ、喧嘩などを行なっていて一度、警察署に連行された時に母が『箱庭』への入所を勧められたそうです。半信半疑だった母も兄の素行不良には手が負えない状態だったので『箱庭』に入所者させることに決めました。二週間後、兄は以前の素行不良ではなく、他者に思いやりをもてる優しい人間になっていました。性格も以前とは違い温厚になり、私もそんな兄と過ごす日々が楽しくて仕方ありませんでした‥‥‥」

 彼は途中で苦虫を噛んだような表情を浮かべた後、力が抜けたような顔になった。おそらくここまで話すのにも苦痛を感じているのだろう‥‥‥

 

「‥‥‥ですが時々兄が人の離れた所で独り言を呟いたり、頭を打ちつけたり奇行を行い始めて『箱庭』を出て三週間後、兄は精神を病み、自殺をしました。母は激怒して『箱庭』に問い合わせましたが、『更生処置を行っただけ』と軽い返答で電話を切られたそうです」

 すると海未は沈吟した後、目を大きく見開いて何かに気づいたような表情を浮かべる。

「そんな、横暴な事をした『逢崎』の行いがなぜ、世間に露見していないのは何故ですか?」

 

「僕はフリーライターとして活動しだして『箱庭』について調査を始めました。やはり同じような訴えをしている人が何人もいたみたいなんです。しかし兄の件と同じで、『更生処置を行っただけ』との返答で内容を聞いても企業秘密の一点張りで話しにならなかったとか。そして僕のように『逢崎』に迫ったフリーライターや記者が行方不明になっていると仲間から聞きました。そしてこの録音機の内容で僕の予想は確信に変わりました」

 

 

「『逢崎会』は裏で自分達の邪魔をする人間を消している‥‥‥」

 海未が確信と自信を含んだ言葉ではっきりと呟く。当主は依然として無口のままだが、表情には憤りを露わにしていた。

 

「そして今回を事件をきっかけにスクールアイドルへの世の中の目も少なからず、変化してしまいました」

 彼は懐に手を入れてスマートフォンを取り出して、突きつけるようにニュースサイトの場面を僕たちに見せる。

 

 そこに書いてあったのは他県のスクールアイドル達が起こした問題などが書かれていた。スクールアイドルグループが他生徒を対するいじめやもしくはその逆で、廃校に貢献したアイドルのメンバーの一人をクラスメイトが複数人で殴る蹴るなど暴行を加えたという記事であった。そしてその下の感想欄にスクールアイドルに対する失望の声や侮蔑の言葉が並べられる。しかし中には『逢崎会』批判する意見やスクールアイドルを肯定する意見を述べられていた。

 

「‥‥‥」

 海未が目を震わせながら、両手の手のひらで口元を隠すように塞いで目の前の現実を瞬き一つせず見ている。

すると記事を見ていてある疑問が脳をよぎった。

「『逢崎』がスクールアイドルを支援していたのは多大な利益が得られるからで、この記事のようなスクールアイドル達の問題を露見しようとした人を裏で消していた‥‥‥なら何故、逢崎蓮はスクールアイドル達を捕らえるような暴挙に出たのでしょう‥‥

‥それになぜ警察は動かないんですか?」

 

「『逢崎』は教育だけでなくこの国の中でも絶大な権力を持っている財閥の一つです。そして教育問題に関しては第一線で担当、活動して彼らというのは暗黙の了解で、彼らが教育のためなんて言ったら物事が成立するのが現状なんです。それに現状『逢崎』を押さえつける証拠もありません。警察は手を出せない状態なんです。そして逢崎蓮、先代とは全く別の行いをする彼の目的は未だ不明です。録音機の会話からして父と共謀している雰囲気でしたのでスクールアイドルを『箱庭』に連れて行く理由はないはず‥‥‥」

 

「この録音機を警察に提出すればよろしいのでは?」

 当主が口を開くと、真鍋が険しい顔になる。

 

「僕自身証拠が不十分だと思うのと、もし警察の中にも『逢崎』が関わっている可能性があります」

 

「何を根拠にそのようなことを?」

 海未が問いかけると彼は少し逡巡した後、口を開いた。

「『逢崎』について調べていくうちに僕はある事件にぶつかりました。彼らは事業団体で暴力団組織を雇って辺境の田舎を襲撃する事件が起こしました」

 僕はその時、何故か冷や汗が縦に線を描くように背中から垂れていくのを感じた。

 

「事業団体は設立されてから1年も経っていない。その団体の目的はその土地を開拓して教育施設を作る事だった。そして銀行やらから融資を受け取った形跡もない。いったいどのような手段でそのような資金を得たのか調査を進めて、彼らの作ろうとした施設の設計図を入手した時、驚きました。現存する箱庭の構造と全く同じなんです。彼らの元へ取材に向かおうとした時、彼らは刑務所内で殺害されていました。死因は配給食の中に混入された毒による毒殺だったと‥‥‥おそらく警察の中に『逢崎』の使いがいて、口封じのために切り捨てたんでしょう」

 

「つまり‥‥‥『逢崎』が支援を‥‥‥」

 僕が呟くと、彼は無言で頷く。僕は意味のわからない衝動に駆られて、前のめりの体勢で彼の胸元をつかんだ。いや、本当は衝動の正体に気づいてはいたが信じたくないのだ。だが、目をそらすわけにもいかない。

 

「その襲撃された田舎というのはどこの土地なんですか!?」

 僕が怒号に近い問いかけに彼の表情には驚きと動揺が入り混じっていた。

 

「悠人、どうしたんですか! いきなり!」

 海未が立ち上がり、僕をたしなめるように肩に触れる。

 

「悠人君! 落ち着きたまえ!!」

当主が立ち上がり、落ち着くように説得する声が聞こえる。しかしそんな彼の言葉を無視するように真鍋さんの両肩をゆすり続ける。

 

「いいから早く!!!」

 僕が胸元を掴みながら問いかけると彼はスマートフォンを手に取り、右手で操作して僕の顔の前に持ってくる。その表示された画面を見て僕は目眩にも似た感覚に襲われた。

その土地は紛れもなく、間違いなく僕がかつて両親と暮らしていた場所なのだがら‥‥‥

 僕はスマートフォンを彼に渡すと脱力感が体を襲い、畳に尻餅をつく。

 

「ゆ、悠人?‥‥‥」

 海未が不安そうな趣で覗き込むように端正な顔をこちらに持ってくる。

 

「やはりそうだったんですね‥‥‥」

 真鍋さんの不意な一言で僕は彼の顔を見る。

 

「事件を調べていくうちに被害者の一家の名前も特定できました。村雨さん‥‥‥やはりあなたは」

 

「まさか‥‥‥悠人のご両親を襲撃したのって‥‥‥」

 海未が真鍋さんの方に目を向け、動揺を含んだ目で彼を見る。

 

「『逢崎』の差し金です」

 彼の口から放たれた紛れも無い真実が耳の中から鼓膜に触れて脳の中に染み渡り、過去の両親との日々が再び湧き出てくる。

両親の僕を呼ぶ声が脳内に木霊したあとに突如、断末魔に変わりそして無音になった。気の遠くなるような孤独感に再び苛まれ、どす黒いものが両親との日々を飲み込むように湧き出てくる。この感覚に覚えがある。幸福の抜け殻になった屋敷の一室で宗家への復讐を誓った時と同じ感覚だ。

どす黒いものに飲まれそうになった時、それの背後から日が昇るように光が出てきて、一筋がどす黒いものに切れ目を入れた。すると溶けていくようにどす黒いものが消えていく、僕は光に照らされていき、やがて包まれた。その光の中には微かな温もりを感じた。

 

「悠人!」

 気がつくと海未がか細い両腕で輪を作るようにして僕の体を抱きしめていた。彼女の体温と胸の鼓動が体をつたってくる。

 

「言ったはずです。一人にしないと‥‥‥」

 そうだ‥‥‥そうだった僕はもう一人じゃ無い‥‥‥なさなくてはなすべきことを

 

「海未、心配かけましたね。僕はもう大丈夫です。あなたがいてくれたから‥‥‥『あなた達』がいてくれるから」

 そう言い、海未の体を抱きしめ返す。僕を暗闇から救ってくれたのは彼女だ。彼女の体は妙に震えていた。当主の咳払いが聞こえて、瞬時に僕と海未は距離を置く。

 

「それでどこにあるんですか?」

 

「何がですか?」

 真鍋さんは悪戯な笑みを浮かべて聞き返す。僕の横で海未が微笑した。

 

「決まってますよ。『箱庭』の場所です」

 僕が笑みを浮かべると、真鍋さんは笑みを浮かべながらスマートフォンに再び、触れ始めた。

 




閲覧ありがとうございました!
誤字脱字その他感想ありましたらご連絡ください!!
それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話

長い間、放置してすみません。実は携帯を落としてしまい、投稿できずにいました。警察署に届けられていてめちゃくちゃホッとしました。届けてくれた方、そして警察の皆さん、ありがとうございます。
皆さんも携帯には気をつけてください!‥‥‥余計なお世話ですね。
それではどうぞ!


緊張感が僅かに和らいだ畳敷きの一室でμ’s及び、スクールアイドル救出のために第一関門である『箱庭』の位置を真鍋さんに聞いていた。

「『箱庭』は東京から外れた空き地にあって。今現在、多くの記者が『箱庭』を囲む有刺鉄線の前でカメラを持ってどうにか中身を撮ろうと虫のように集っているらしいです」

 

真鍋さんが携帯を机の中央に置いて、地図が表示された液晶画面に四人の顔が映る。施設周辺に設置されている有刺鉄線の外は、森と木々に囲まれている。

「あんな騒動の後なら当然ですね」

 続けて真鍋さんは指で施設周辺を確認していく。そして建物の正門から真反対の方を、右手の二本指で広げて人差し指で小さな円を示す。

 

「ここに別の門らしきものがあります。そこから内部に侵入という形を考えています‥‥‥」

 少なくとも、正門よりは万全にないにしろ警備は存在するはずだ。門があるということは出入りがある‥‥‥僕の脳内に策が浮かんだ。しかし実行しようにも問題がある。まず非常に危険を伴うこと。それとこの三人と説得である。真鍋さんに関しては後の二人より否定的ではなさそうだが、海未に関してはこういう危険を伴うことは避けたがる性分だ。そして娘よりこの作戦に対して憤りを感じるのは間違いなく当主なのだから、しかし今はそんな悠長なことを考えている場合ではない。僕は批判を浴びる覚悟で開口することに決めた。

 

 僕の作戦は裏門の近くでトラックが来るのを待ち、来た時に海未が裏門の前で一人でメンバーを助けに来たふりをしてトラックに存在を示す。降りて来て海未を捕まえそうになった時に、木の陰から僕が奇襲を仕掛け、それに気をとられているうちに海未が他の連中を相手にするというもの。そして衣装を奪って着替えて真鍋さんが運転、僕と海未は荷台に隠れる。

 

 真鍋と海未は呆気にとられているような表情をしている。真鍋さんは最初こそ驚愕していたもののすぐに応じてくれた。しかし当主は眉をひそめて趣でこちらに目を向ける。今からやることは非常に危険なことだ。子を持つ親としては心配するのは無理もない。

 

「悠人くん、本気かね? もう少し作戦を考えてからの方が良いのでは?」

 

「ええ、確かに危険です。だが今こうしてるうちにμ'sのみんなが『逢崎』の手によって矯正されるかもしれない。そして明日にはより多くのスクールアイドル達が捕まります。そして真鍋さんの話を聞いていたなら分かるはずです。あの施設で行われていることはろくなことじゃない」

 当主は先ほどよりは眉間に寄せていた皺が薄くなっているもののやはり覚悟が決まらず躊躇していると、彼の隣から小さなため息が聞こえた。ため息の正体に目を向けると、海未は僕の目を見て静かに首肯した。

 

「海未、やる気なのか?」

 当主は眉間に少しシワを寄せて、彼女に問いかける。

「お父様、危険は承知の上です。ですが戦はもう始まっています。彼の言う通り私も大切な友人達を助け出したいのです」

 娘の強い決意の声に彼が動揺を感じている間に僕も彼の説得に介入する。

 

「当主殿、海未は僕が命に代えても守りますので、ご安心下さい」

 彼は僕の実力がどのようなものかその身で体験している。自負心を持っているわけではないが、少なくとも信用を得ることはできそうだ。

 当主は少しばかり、逡巡を顔に浮かべてた後「娘を頼んだ」と蚊の鳴くような声で呟いた後、立ち上がり部屋を出て戸を閉めた。

 程無くして当主が戸の隙間から顔を覗かせて、僕達に手招きをする。

 彼の背中を追って敷地内を歩いて行くと相変わらず、年気を感じさせる道場の前に立つ。当主がゆっくりと倉の戸を押していくと木の軋む音を出しながら開ける。

 小窓から微かに漏れる夕日が均等な定位置から畳に向かって差し込んでいた。静寂の支配する道場を当主は道場の中に足を踏み入れて、続いて僕達も奥の方に進んで行く。

 

 道場の壁の方まで行くと、壁に掛けている木刀二つを僕と海未に手渡す。

「戦というのであれば、刀を持たねばな‥‥‥」

 僕と海未は顔を合わせて、向き直って当主に頭を下げる。

 

「真鍋殿は木刀は?」

 

「いえ、僕はお世辞にも運動ができるとは言えません。ですのでできる限りお二人の足を引っ張らないように努めます」

 彼が気炎を立てると、当主は静かに頷く。

 当主の運転する車に乗り、僕達は強いと憤りと微かな不安感を胸に抱きながら『箱庭』に向かった。

 道中、人通りの少ない秋葉原が目に入り、その光景に僕達は言葉を詰まらせた。

 UTXの建物の外観は酷い有様で建物の窓硝子が割れて、破片が地面に散らばっている。普段は『A-RISE』の映像が流れているモニターは捕らえられたスクールアイドルとそのメンバーの名前を公開している。

 

 多く存在したスクールアイドルショップも入り口付近や店内の中もひどく荒らされている様子で、店長らしき人物が背中に哀愁を漂わせながら箒で周囲を掃いていた。非日常的な光景が目に入り、拳に力が入る。

 

 

 

 

 

 都心を車で離れて数十分が立った。相変わらず車内を静寂と緊張感が支配している。車が目的地に近づくにつれて、徐々に周囲を先ほどより濃くなった夕闇と木々が窓ガラスを通して目に映る。

 

「ここで止めてください」

 数メートル前方の木を真鍋さんが指差して停車するように当主に告げる。

「何故だ?」

「この先はおそらく相手の目も介入してくる可能性があります。ここからは降りて徒歩で向かった方が得策かと‥‥‥」

 真鍋さんがそう言うと車は徐々に減速して行き、道の脇に停車する。僕達は車のドアから車外に出ると、外風が体に触れて肌寒さを感じながらトランクを開ける。中に入っている木刀入れを二つ取り出して一つを海未に手渡す。

 

「木刀は受け取ったな。悠人くん、海未。すまないが私はどうしても外せない用事があってな、本当にすまない」

「お気になさらないでください。当主殿」

「はい、お父様」

 海未を返事を返すと、当主のすぐそばまで近づいて顔を胸に埋める。

「必ず帰ってきます」

 彼女の言葉に返信するかのように彼は海未の小さな体を抱きしめた。

 

 

 

 

 当主と別れた後、僕と海未は真鍋さんを筆頭に息を殺して草木を搔きわけながら森の中を歩いていた。いつあの黒いマントを纏った連中が出てくるかわからない。緊張感に心を支配されつつしばらく進んでいると遠くの方から人の声が聞こえた。

 

「 二人にもそれを伝えようとしたが、二人とも気づいたのか辺りを見回している。

「悠人、今のって‥‥‥」

「ええ、人の声が‥‥‥」

 

「おそらく正門の方に固まっているマスコミの方々でしょう。裏門までもう少しです」

 声を頼りに薄暗い森の中で静かに裏門を目指す。海未の表情を見ると、緊張しているのかやや強張った顔をしている。乾いた土を踏み進んでいると、先頭にいた真鍋さんが左腕を水平に横に出して、止まるように合図する。

 

 何事かと気になった僕は視線を上げると、そこには薄暗い空を隠すかのように黒い柱のようなものが聳え立っている。その横には目を通すと真鍋さんの言った通り、有刺鉄線が張り巡らされている。

 有刺鉄線に目を向けていくと、微かに後ろの方から地面を荒く踏むエンジン音が聞こえて、そちらの方に目線を向けると木々の間から車のヘッドライトであろう光が見える。

 僕はすかさず二人を小声で呼び、光の方に指を向けると、真鍋さんが暫し、黙念したような表情を見せた後、唇を尖らせて軽く息を吐く。

「それでは作戦に移りたいと思います。園田さん‥‥‥お願いします」

 海未は無言で恐ろしいほどに冷静な態度で首肯した後、僕らの元を去る。僕たち二人もなるべく海未の位置に近い、木々に身を潜める。

 時を待たずして、見覚えのある黒いトラックが僕の視界に姿を表す。僕はトラックの荷台を覆った緑色の布に目を向けて、あの中に怯えながら拉致された少女達がいることを想像し、背に背負った木刀袋に繋がれた持ち手の紐に強く握力をかけた。トラックの進む道の数メートル先には僕らと離れた海未が木刀袋から取り出した木刀を右手に持っている。

 

 トラックのヘッドライトが数メートル先の海未の足首を照らす。するとトラックが止まり、ライトを更に上にあげて彼女の下半身から上を照らす。すると助手席と運転席から黒いマスクをつけて、漆黒のマントを纏った二人組が車内から降りてきた。僕はゆっくりと木刀袋から

傷ひとつない見事な木刀を手に取り、奇襲に備える。

 

 海未は無言で木刀を構えると、二人がマントを靡かせながら駆け足で向かっていく途中で僕は木の陰から飛び出し、二人の頸部分に確実な一撃を叩きつける。

 すると二人は膝から崩れて地面に顔を伏せた。

「やりましたね。悠人」

「さすがですね。あまりに一瞬で目が追いつきませんでした‥‥‥」

 二人が僕の元に駆け寄り、安堵した表情を向ける。そして気絶させた二人のマスクとマント、二人の懐の中にあった門に入る際におそらく必要であろうICカードのようなものをとり、二人を森の木々の陰に隠す。

 真鍋さんと海未に先ほど取ったものを渡して、変装させて僕は荷台の中に隠れることにした。荷台の布の中に首を入れると中では十人近くの少女が黒い布で目隠しされて、結束バンドで手足を拘束されている。今すぐにでも助けてあげたいですが僕らにはやるべきことがある。僕は胸の中での葛藤を沈めながら静かに裏門に近づくトラックに揺られていた。

 




閲覧いただきありがとうございます!
誤字脱字その他感想御指摘ありましたらご連絡ください!
今回もありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話

すっかり12月‥‥‥そういえばこの作品を書き始めて5ヶ月ちょっと経ったんですね。読んで下さってる方々のためにも完結まで突っ走っていくつもりです!!
それではどうぞ!!


 トラックが緩やかな地面を踏んで、前進していく。荷台に覆いかぶさっている布の隙間から、目を覗かせると辺りは夕日は沈んであたりはすっかり暗黒が支配していた。

 すると突然、トラックが徐々に速度を落としてやがて徐行になる。運転手席側に耳を傾けると運転席と助手席にいる真鍋さんと海未以外に誰かの話し声のようなものがぼそぼそと聞こえる。どうやら門に近づいているようだ。

 トラックが止まり、先ほどの話し声が明確に聞こえるようになった。どうやらICカードを見せるように言っているようだ。

 数秒後、重い扉をこじ開けるような鈍い金属音が聞こえて、トラックが乾いたエンジン音を吹鳴して、前進する。

 荷台から後ろ側に目を外に向けると、フェンスがゆっくり閉じていき、その向こう側に先ほどまでいた森が見えた。森は既に暗闇に包まれて降り、上に伸びた木々が月の光に照らされて、森と認識できる程度であった。

 

 運転手席側に膝で向き直り、座席の方まで移動して布の隙間から目を向けると、視界に白いドーム状の建造物が目に入る。周囲は夜の闇に包まれているということもあり、その姿は異様な程、目立っていた。ドームの上部分に視線を向けると建物の外側に柵で囲まれた廊下があり、一人の黒い覆面の人物が廊下の柵に両腕を預けて左手で首にぶら下がっている双眼鏡を持ち、遠くの方を見ていた。

 

「悠人、見えますか」

 黒い覆面を被った海未が首を少し、僕の方に向けて口を開く。覆面越しではあるが彼女の様子から先ほどより緊張感が増してることが理解できた。

 

「ええ‥‥‥あれが『箱庭』」

 逢崎家が数年に造り、数多の少年少女を矯正という名目で収容し、具体的には分からないがあの施設に招いた結果、死へと導いた。真鍋さんのお兄さんの命を奪い、そして僕の両親を直接的ではなくとも間接的に殺害し造られた狂気の愚物。そして、それにより再び手に入れたかけがいのないものまで奪われようとしている。

 今、目に映っている巨大な建物のどこかにμ’sのみんながいる。今は放置されているのか、それとも‥‥‥。海未のみならず、僕までも不安感に駆られてしまう。不安感や負の感情は人に伝染しやすい。特に不安や緊張感漂うこういう空気では非常に危険だ。断ち切る方法は一つ、前向きに考えていくこと。これに尽きる。

 

 そんなことを考えてうちにトラックは白い建物内に引き込まれるように入っていく。中に入るとそこには自分たちが乗っているトラックと同じようなものが左右に複数、駐車されていて天井に等間隔で設置されている蛍光灯が、今にも切れてしまいそうな明かりで、薄暗く不気味な空間を照らす。トラックの進んでいる正面の奥に黒いマスクを被った人物が二人、見えた。僕は木刀入れから木刀を取り出して、臨戦態勢に備える。先ほど、侵入する前に奪った黒いマスクとマントは二つしかなく僕の分がない。まずどちらか一人のを奪い、もう片方は可哀想だが、口封じのために気絶してもらう。すると海未が正面を向きながら僕を呼ぶ。

「悠人、あなたの考えていることはわかりますが、さすがに至近距離で他のスクールアイドル達もいて動きにくい状況下です。私がドアを開けて左を相手します。あなたは右側の方をお願いします」

 

「分かりました」

 僕は彼女の提案を快諾すると、荷台の右側に膝を擦らせるように移動する。トラックが二人の前に停車すると、黒いマスクは左右二手に分かれて、近づいて来た。足音が近づいてくるとともに木刀の柄を握る力が強くなる。周囲を見回したところ幸い、この位置には監視カメラはなかった。

 二人の黒いマスクの足音が止まり、定位置に着いた事を確認して構えをとる。荷台の布を掴んで、綺麗に張った状態にして下に向かって勢いよく引っ張っていく。運転席付近から徐々に荷台の中身が公になり、不気味な明かりを放つ蛍光灯が徐々に差し込んでいき、他のスクールアイドル達の姿をより鮮明に映し出していった。布が荷台をするすると音を立てながら滑って徐々に僕の近くまで迫る。

 そして、僕の左肩に蛍光灯の明かりが刺して、左頬に明かりが刺した瞬間、勢いよく木刀を斜めに勢いよく振り上げて首元に弾くように当てた。刃先を当てる際に黒いマスクを一瞬、目が合ったが数秒後、膝から崩れ落ちた。

 

「おい! どうした!」

 僕とは逆方向、即ち、今僕の後ろ側にいる黒いマスクが僕の側まで駆け寄ろうとした時、車の助手席のドアが勢いよく開いて

海未が疾風の如く、現れる。黒いマスクは海未の行動に理解が追いついていない様子だったが時、既に遅し。腹部に迫り、強烈な発勁を打ち込むと黒いマスクは数秒、仁王立ちの状態で固まった後、ゆっくりと背中から地面に崩れていった。

 

 黒いマスクの一人からマスクとマントとICカードを奪い、二人を先ほどの黒いマント同様に手足を縛って近くにあったトラックの隅に隠すように横に寝かせる。瞬時にマスクとマントを纏って、木刀をマントの中に隠して荷台から降りる。三人とも車外に出て、近くにあった白いペンキで塗られた非常階段の扉があって開ける。案の定、非常階段があり、先ほど僕達がいた場所と同じように蛍光灯が出入り口と階段の方をぼんやりとした明かりで照らす。一段ずつ足を進めていくごとに、鈍い音が周囲に響く。何段か進んで扉を見つけてドアノブをひねる。視界には純白の廊下があり、その先に右と左で曲がり角が見えた。僕達はゆっくりと非常階段の扉を閉めて、堂々と歩く。ここでこそこそ歩くと却って目立つ。現にこの廊下の曲がり角のの天井に視線を向けると、左右に監視カメラが設置されている。どちらの角を曲がろうか考えながら、進んでいると左の角から黒いマスクの二人がやってくる。二人が歩きながら会話をしており、こちらを通りすぎたその時。

「おい」

 僕達の背中に先ほどの一人であろう者の声がかかる。恐る恐る振り返ると先ほどの一人がこちらを向いていた。

「お前ら、下に行った連中知らないか? 小娘を乗せたトラックが戻って来たから向かったきり戻ってこないんだ」

 恐らく、僕と海未が制圧した二人のことでしょう。ここは上手く切り抜けなければ。

 

「いや、見ていない‥‥‥」

「そうか、分かった」

 

 黒いマントはそういうと、もう一人を連れて非常階段の扉を開けて,今にも切れてしまいそうな蛍光灯が照らす階段に消えていった。

 

あの二人が下に向かうという事は拘束した二人が見つかる可能性がある。そうなると僕達の存在が見つかる恐れがある。とにかくμ'sのみんなを見つけなければ‥‥‥!!

僕達は左の方を曲がり,進んでいくと奥に扉が見えた。

 

扉の前まで進んでドアノブを回すと先ほどの廊下とは違い、薄暗く,天井に設置された蛍光灯は青色の光を放っている。周囲を不気味に照らし、廊下の右側には長方形に伸びた長いガラスが貼られていた。ガラスの方に目を向けると僕はその光景に愕然とした。

 

ガラスの向こうには大きな空間があり、下を見下ろすと複数の少年少女が椅子に拘束されて、その周りに先ほどの黒いマスク達が取り囲むように立っている。

空間の左側には頑丈そうな大きな扉があり、少年少女達の前には二本の脚で頑丈に固定された大きな液晶画面があり、映像を見させられていた。

そこの映像に映っていたのは人を拷問する映像だった。ガラスが防音性のため、音声は聞こえないが、映像から余りの痛みに悲痛の叫び声をあげる男の顔がその凄惨を物語っていた。

 

すると、一人の少女らしき人物が下を向き始めて肩を震わせる。恐らく映像の恐ろしさに吐瀉物を吐いたのでしょう。

一人の黒いマスクが少女らしき人物の前髪を掴んで、無理やり画面に目を突きつける。前髪を掴まれながらも少女は必死に抵抗するも、それも虚しく押さえつけられて悍ましい映像を見させられていた。

 

 

「酷い‥‥‥‥」

海未が蚊の鳴くような声で呟く。真鍋さんの方は表情こそ分からなかったものの彼の身の回りから怒りを感じ取った。恐らくこれは僕の推測にしか過ぎないが、あのような残酷な映像や精神的な恐怖を与えることにより強制的に性格を捻じ曲げているのだろう。

 

「あのような方法で‥‥‥」

真鍋さんは静かに、だが怒気を孕んだ声で呟いたあと、懐から携帯のカメラでガラスの向こうを撮影する。

 

「行きましょう‥‥‥」

僕は胸に抱いた確かな怒りを押し殺しながら再び、歩いていく。続いて見つけた部屋の名札には『監視室』と書いてあった。つまり、ここからμ'sやほかのアイドル達の場所を特定することが出来る。

 

僕と海未、真鍋さんは扉の前で顔を合わせて、静かに扉を開けた。中には三人の黒いマスクがいて、一人目は椅子に座り監視カメラの映像を見ており、二人目はは携帯に釘付けになっており、三人目は肩にかけたアサルトライフルを愛おしそうに眺めていた。

 

僕達が彼らの元に近づいて、真鍋さんが交代の時間と彼らに告げる。緊張しているせいか、彼の声は少し震えていた。

「ッチ! マジかよー、ここが一番楽なのによー 行こうぜ」

監視カメラを見ていた一人目が文句を垂れながら、残りの二人を連れて監視室を去る。気配がなくなったのを確認したあと、真鍋さんが椅子に座り、僕達も監視カメラの映像に目を向けた瞬間、その光景に言葉が詰まる。

監視カメラの映像が大きな画面に小さく張り巡らされているが、それのほとんどが僕達が先程見た、少女らしい人物と同じ事をされていました。一人は強姦、その右通りの映像の少年には男が生きたまま犬に喰われている映像や、徐々に指を切り落とされていく少女の映像など見るに耐えない映像ばかりだった。

「ゔっ」

海未が声にならない声を出して、その場にしゃがみこむ。僕は瞬時に彼女の背中を支える。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ‥‥‥少し気分を害しただけです。問題ありません」

一度、彼女のマスクを取り、姿を確認する。少し顔色は悪かったが

その目からいつもの綺麗な光は消えていなかった。

 

真鍋さんがタイピングで監視カメラの画面を切り替えながらμ'sを含んだ関東のアイドル達の居場所を探す。

 

海未が僕の横で微かに震えていた。先ほどの光景を見た以上、不安感も大きくなっているはず。もし、μ'sのみんなもあんな目に遭っていたらなんて考えたら、僕も恐ろしい‥‥‥

 

「いました‥‥‥」

真鍋さんの一言で僕と海未はすぐに彼の元に駆け寄り、監視カメラの映像を釘付けになる。そこには手足を黒い結束バンドのようなもので拘束されて、目隠しをされてのたうち回る穂乃果の姿が映っていました。他には目隠しの隙間から涙をながす花陽とことりの姿、壁にもたれて怯える凛と真姫など、最悪の結末にこそなっていなかったものの、画面から伝わってくる阿鼻叫喚に思わず、目眩が感じる。

 

「二階のフロアの一室です。ここからはそう遠くありません。その他にA-RISEや他のアイドルも収監されています。一度に助けるのは無理があります」

真鍋さんが冷静な口調で僕達に語りかける。たしかに監視カメラの映像を見るに敵の数も多い。スクールアイドル達の

 

「いえ、全員助けましょう」

 

「どうやって‥‥‥」

僕は暫く考えた後、自分の頭に浮かんだ策を真鍋さんと海未伝えた。

 

僕は作戦の詳細を伝えると、二人は海未の家で侵入の時の作戦を話した時と同様、呆気にとられていましたが、一刻を争うため、納得してくれました。

 

真鍋さんは部屋に鍵をかけて待機で、僕と海未はすぐに監視室を出て、μ'sや他のアイドル達のいるフロアに足を進める。 この作戦に全てを賭けて‥‥‥!!




閲覧ありがとうございます!!
誤字脱字感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34話

僕と海未はμ’s及び他のスクールアイドル救出の為、目的地に向かって、無機質な廊下を急ぎ足で歩く。下のフロアにμ'sの他に『A-RISE』『Mutant Girls』『Midnight Cats』『Yeast Heart』が捕まっており、真鍋さんの情報によると他のスクールアイドル達は、現在、輸送中のようだ。今のうちに彼女たちを解放して真鍋さんの施設内を撮影した写真を見せれば、警察も動いて他のスクールアイドルの救出と逢崎会及び逢崎蓮に対するの強制捜査に入るはず。

 

 廊下の角を右に曲がり、階段をまっすぐに進むと階段があった。下にまっすぐ伸びた階段が眼下に移る。真鍋さんの情報ではこの下にスクールアイドル達が捉えられている。警備員もいて、目を光らせているらしい。僕と海未は階段を駆け下りて、監視室で覚えた経路を進んで行く。降りると先ほどと変わらない、白くて無機質な廊下があった。数メートル先の右側に曲がり角があり、近くの天井には監視カメラが一台、取り付けられている。

 

 監視カメラに目を向けると、僕の懐にしまった携帯電話が震える。携帯を取り、耳に当てる。電話の相手は真鍋さんだった。

 

「村雨さん。目の前にある角を曲がって、廊下を進めば扉があります。その先に‥‥‥彼女達がいます」

 

「ではここで作戦を実行しましょうか‥‥‥」

 

「分かりました」

 真鍋さんが携帯の奥で、パソコンのタイピング音が聞こえる。海未の反対側で携帯に耳を近づけて、静かに聞いている。

 

「行うのですね」

 海未がやや緊張を孕んだように呟く。僕は静かに首肯する。すると携帯から真鍋さんが僕を呼ぶ。

 

「村雨さん。準備ができました」

 

「お願いします」

 生唾を飲んで、返答するとその数秒後、施設内に激しい警報音が鳴り響く。あまりの音に僕と海未は一瞬、耳を塞く。

 

「緊急事態発生! 緊急事態発生! 侵入者を確認! 繰り返す! 侵入者を確認! 侵入者は武装した三人で現在は離散して三階で一人確認、矯正室に向かっている様子だ。なおを武装を施しているため、多勢でかかるように!」

残り二人は四階で確認! このような事態、逢崎会長に知られるわけにはいかない。施設内にいるものは全力で奴らを探して捕らえろ!」

 真鍋さんが監視室からマイクで施設内に怒号に近い声音で、放送を流す。すると廊下の角の奥から扉を強く開ける音が聞こえた後、多くの足音が近づいて来る。

 

「始めましょう‥‥‥」

 海未が廊下の奥を見つめながら、静かに足を進める。廊下の角から四人の黒いマスクを被った者達が走ってきた。四人はそのまま走り過ぎて、階段を駆け上がっていった。僕達も急ぎ足で廊下の角を曲がり、その先にあった扉を目視する。

 

 駆け足で近づいて扉を開けると、一斉に女性達の悲鳴やら鳴き声が飛び込んで来る。警備員が喧騒に憤りを感じたようで、壁を強く姿が蹴る目に入った。壁は今までの廊下とは違い、左右の壁側はガラスで覆われて、その中から聞こえるスクールアイドル達の阿鼻叫喚が僕の鼓膜を激しく揺らす。

 

 僕はすかさず憤怒している警備員に駆け寄る。監視室から交代として派遣されたことを告げると、彼は荒く息をあげながらも頷いて、奥の方にいた仲間達を連れて、部屋の外に出た。周りに他の黒いマスクがいないことを確認すると僕と海未は顔を見合わせて、マスクを取る。するとそれを見ていた誰かが海未の顔を見ると名前を叫んだ。それにつられたように他のスクールアイドル達がこちらに顔を向ける。僕たちは施錠されていた扉をICカードの使って解除していく。扉が自動的に開くと中から四人の少女達が中にいた。僕は彼女達の拘束具を解いて、顔をよく確認する。確かこの子達は『Mutant Girls』のメンバー達だ。

「あの、あなたは?」

 一人の少女が目を腫らしながら、不安そうな趣で尋ねる。他のメンバーの少女達も同じ疑問も含んだ目で僕に目を向ける。

「僕は音乃木坂学院のスクールアイドル『μ’s』の友人です。あなた達を助けにきました。ここから出ましょう‥‥‥」

 

 僕が偽りのない言葉を彼女にかけると、僕の後ろの方から扉の施錠を解除する音が聞こえて振り返る。海未が他のスクールアイドル達の解放してこちらに向かって頷く。海未の方から『Midnight Cats』の二人と『Yeast Heart』の四人が出てきた。

 僕と海未は彼女達を連れて、奥に進むと、聞き慣れた声が耳に入る。すると横にいた海未が、凄い勢いで走っていく。僕も彼女についていくと、そこにはガラスの折に囚われた九人の女神がいた。海未と僕はすかさず扉を開けて、みんなの拘束具を解いていく。穂乃果が拘束具を取られて海未の顔を見た後に、目から大粒の涙を流して、彼女の体に抱きつく。海未は我が子をあやす母親のように彼女の頭を優しく撫でる。最後の一人、希先輩の拘束具を解いた時、希先輩がいきなり僕の胸に顔を埋める。肩が少し震えて、小さく鼻をすする音が聞こえる。いつもはしっかりしていて、誰よりも優しい心を持ち、他のみんなを包み込むような母性を持つ彼女。きっとこんな状況でもみんなを励まそうとしていたのだろう。

「遅れてすみませんでした」

 僕は一言、呟くようにそう言った。

 

 

 

 海未が最後の一組、『A-RISE』を解放しに向かい、僕は出口の前で『μ’s』と他のアイドル達と彼女達が来るのを待っていた。すると奥の方から強く早い、足音がこちらに迫って来る。その足音に『μ’s』や他のアイドル達の顔色が怖気を貼り付けたような表情を浮かべる。敵か? いやもうここにはもういないはず、などと考えていたが『それ』が目に入った時に、仮説は一瞬にして吹き飛んだ。

 

「悠人くうううううううん!」

 優木あんじゅさんがウェーブした茶髪をなびかせて、物凄い速度でこちらに向かってきている。彼女は陸上選手にも遜色ないほどの美しい姿勢でこちらに走って、飛び込んできた。すかさず僕は彼女を受け止めると、彼女は両手で僕の体を抱きしめて、胸元に何度も顔を頬ずりして上目遣いでこちらを見る。

 

「悠人君! 私のこと助けにきてくれたんだよね! ありがとう!」

 

「いっ、いえ、お気になさらず」

  僕が苦笑しながら答えると再び、僕の胸に顔を埋める。気のせいか知らないが先ほどより締め付ける力が強くなっている気がする。すると海未と『A-RISE』の二人が少し息を切らしながらこちらにきた。

 

「あんじゅ、貴女テンションの起伏が激しすぎるわよっ!」

 綺羅ツバサさんが両手で両膝を抑えるような体勢で荒い息をする。

 

「さっきまで恐怖で震えていたのに園田海未がそこの青年がいると聞いた途端、まるで生き返ったかのように顔色が戻って、そのまま廊下に出て行ったんだ」

 統堂英玲奈さんが呆れたような目でであんじゅさんの方を見る。あんじゅさんは英玲奈の表情を見るなり、甘えるように僕に擦り寄った。

 

「アノ‥‥‥モウイイデショウカ‥‥‥」

 海未からの凍りつきそうなほど強い視線を浴びることになった。その時の彼女の瞳には色がなかった。その姿を見て、『μ’s』のみんなは苦笑を浮かべたり、他のアイドル達と同様に怯えているようだった。

 

 

「海未ちゃん。あの黒いマスクの人より怖いにゃ‥‥‥」

 

「うん‥‥‥」

 凛と花陽が震えながら肩を寄せ合う。その光景をみて、苦笑は浮かべていると懐の携帯が鳴る。携帯の表示画面を見ると、真鍋さんからだ。

「悠人君。作戦はなんとか成功したよ。そちらは」

 

「ええっ、こちらも皆さんの解放に成功しました。では今から脱出を始めます」

 僕が監視室で唱えた作戦はこうだ。まず監視室からサイレンを流す。最初に少女らしき人物が矯正を受けていた巨大な矯正室に多くの黒いマントを誘い込んで、真鍋さんが外から施錠する。これで大多数の黒いマスクは閉じ込められて、残りの残党を僕が片付けて、戦闘中に彼女達を逃す。これが僕の考案した作戦だ。

 

「残りの残党は四階に二人、二階の廊下に三人です。大丈夫ですか?」

 

「ええ、」

 僕が静かに返すと、真鍋さんは「ご武運を」とだけ返して電話を切った。僕は海未達の方を向き直り、会話の詳細を話す。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 海未が真っ直ぐな目で不安そうな声に尋ねる。それは他のみんなも同じだった。どこか不安そう目でこちらを見る。

 

「一緒に逃げようよ! 悠人君!」

 穂乃果が僕の右手の裾を掴んで、必死に訴えるように吐露する。彼女の気持ちは嬉しいがここで僕も引くわけにはいかない。

 

「大丈夫です。相手は数人。油断さえしなければ問題ありません」

 

「でっでも! 危険です!」

 海未が張り上げた声で僕に投げかける。彼女の言う通り確かに危険だ。しかしそんなことはもうここに来る前に、理解していることだ。僕は彼女達を守れなかった。海未と互いに腹を裂いた後、屋上で僕を受け入れてくれた時に、守ると固く誓ったはずなのに僕は出来なかったんだ。奇襲してきた、多勢に無勢だったなんて考えればいくらで言い訳は出てくる‥‥‥それでも僕は‥‥‥成し得なかったことに対して言い訳で終わらせたくないんだ。

 

「海未」

 僕は不安そうな彼女の頭を撫でると、綺麗な黒髪が僕の手の下で静かに揺れる。海未は少し驚いたような表情でこちらを見る。

 

「僕に任せてください」

 彼女の目を捉えて、嘘偽りのない言葉を彼女にかける。すると彼女は呆れたのか、静かにため息を漏らす。

 

「全く、貴女と言う人は‥‥‥」

 蚊の鳴くような声で、静かに呟いた後、僕の腰に両手を回して顔を僕の胸に埋めた。

 




閲覧ありがとうございます! 誤字脱字感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35話

35話

 

 僕は真鍋さんから連絡があれば出るように海未に伝えると侵入者と理解できるようにマントをとり、ゆっくりと扉を開けた。素早く敵の位置まで足を走らせて向かう。階段を駆け上がり、廊下に出ると案の定、黒いマントの二人がいた。彼らと目が合い、僕を見るや否や、二人揃って懐から黒い刀を取り出して構える。僕もそれを確認すると背中に背負っていた木刀入れから木刀を抜き取った。静かに構えると、二人が斬りかかるような体勢でこちらに走ってくる。

 

 僕は、右側の壁に向かって素早く飛んで、足で壁を蹴って二人の背後に回り込む。振り返った左側の黒いマスクの手に、木刀を叩きつけると、痛さで声をあげて、刀をその場に落とす。地面に落とした刀を足で踏んで後ろに滑らせる。

その右にいた黒いマスクが横に刀を振ってきたので、腰を下ろして回避する。そしてガラ空きの溝に右手で持った木刀の刃先を強く押し込む。

 黒いマスクは壁に背中から激突して白目をむいて背中からゆっくりと床に倒れた。後ろから気配を感じて振り向くと、先ほど痛みで悶えていた黒いマスクが拳を振るいあげた状態で立っていた。

 すかさず僕は拳を交わした後に、交わされた反動で低い体勢だった相手の首元に左手で手刀を叩きつける。するとそのまま先客だった自分の仲間の背中にもたれるようにして倒れた。僕は下敷きになっている相手の手から刀を奪う。

 僕は二人が気絶しているのを確認すると、目上に取り付けられている監視カメラに目を向ける。すると察したかのように警報がなると、踵を返して四階に向かう。

 

「侵入者が四階に向かっている。施設内にいる者は対処しろ!」

 真鍋さんがマイクで施設内に命令を轟かせると、向かっている途中に向かいの扉が開いて黒いマスクの三人組が出てきた。三人が首を鳴らしたり、指を鳴らした後に懐から棒のようなものを出して、下に強く降る。

 

棒の先から伸びるように出てきた刀身が僕に向ける。僕も静かに刀を構える。相手の一人が走ってきて、刀を振るあげたのを交わして、壁の方に蹴りつける。続いてきた相手が右手が横に振った刀を腰を下ろして交わすと、相手の懐から黒い刃先が飛びたしてきた。僕は顔に刺さる事は回避できたが、右頬を掠めて一筋の血が流れる。

 

体勢を立て直して、二刀流となった相手に木刀を構える。先ほど壁にぶつかった相手も立ち上がる。二刀流が左右交互を刀を振る。間合いを取らなければ危険なので後ろに下がりつつ、反撃を好きをうかがう。

 

二刀流を構えた相手が再びこちらに向かって、走ってくる。僕は左手で懐から先ほど黒いマスクから取った刀を力強く手首を振って相手に投げる。宙を舞っている途中で刀身が出てきて相手は思わず、二刀流で防ぐ。

 

相手の視界が一箇所に集まった瞬間に空いた溝に木刀の刃先で強く押す。

相手は両手に持っていた刀が手から離れて、背中から壁にぶつかり、首が垂れる。

 

右と正面から気配を感じて、顔を上げると黒いマスクの二人が刀を振り上げていた。

 

僕は左手で、足元に落ちていた刀を拾って正面に振ってくる刃を防ぐ。木刀で右の刃を防ぐ相手を払いのけて、後ろに下がる。

 

左手の刀を刀身を収めて懐に入れる。 右側から黒いマスクが両手で構えた刀を振り上げる。左に身を避けて、振り下ろした際によろめいた隙に頸に弾くように木刀を叩きつける。 糸が切れた人形のように膝から崩れて地面に倒れた。

 

僕は正面にいる最後の相手に目を向ける。相手は両肩を回した後、刀を両手で構える。

僕は腰を低くして、刃先を後ろに向けて構えをとった。相手は勢いよく踏み出してこちらに走ってくる。そして、間合いに踏み込んだ瞬間、僕も走り出して、瞬時、相手の溝に刀身を叩きつける。すると真後ろで倒れる音がした。

僕は後ろを向いて、地面や壁で伸びている黒いマスク達を確認した後、監視カメラに向かって頷く。

 

三階の廊下で海未達と合流して、しばらくすると黒いマスクを被った真鍋さんがやって来た。 他のみんなはその姿に怯えていたが、同業者である事を告げると安堵の表情を浮かべた。そして、先頭に僕と真鍋さん、後ろに海未を配置して敵襲にも備えておきながら来た道を静かに辿って、薄暗い非常階段を使って降りる。 すると非常階段の扉の前に立った時、外が何やら騒がしいことに気づく。

 

ゆっくりと扉を開けると、そこには白と黒の車が数十台、赤いサイレンを鳴らして駐車している。

「警察‥‥‥なんで‥‥‥」

目の前の事実に驚愕していると、見覚えのある着物姿の男性がこちらに向かって来た。

 

「悠人君! 無事だったか!」

そこにはなんと当主殿がいて、こちらに手を振る。僕はこの状況に対して質問をすると、どうやら当主殿は僕達をあの場所に連れて行った後、東京の警察署に行って『箱庭』と現在、逢崎蓮がいるとされる『逢崎邸』に警察職員を派遣するように抗議したとか、長い抗議の末に、ようやく警察が動いて、今のような状況になったらしい。どうやら他のスクールアイドルを輸送していたトラックも警察によって抑えられたらしい。

アイドル達が扉から生産されるように出て来たので、警察職員の数人は驚愕していた。

多くの警察職員が一斉に『箱庭』の中に突入していく。これでここの施設に囚われた他の子供達も助かるはずだろう。

 

そして、真鍋さんがスマートフォンで撮影した写真や映像を見せると、警察はそれを本部に送信して、すぐさま『逢崎邸』への強制捜査が始まったらしい。裏門の方にも既にマスコミが回っていた。警察が来たら当然こうなるか‥‥‥

空は見上げると、真っ暗な闇の中にぽつりぽつりと小さな光が見える。 呆然とそれを眺めていると、誰かが僕の右肩に手を添える。

 

「やりましたね」

海未が僕の横で呟く。不意に吹く夜風で美しい黒髪が宙を舞う。

 

「ええ、なんとか‥‥‥これではようやく」

僕は何か、心に引っかかりながらもそれを押し殺すように遮り、言葉を喉から引っ張り出す。すると一人の警察官が海未の方に駆け寄って来た。何やら『箱庭』での詳細を聞きたいということらしい。海未は了承して、僕に手を振り、警察官とともにその場を去った。

ふと裏門の方を見ると、ものすごい数のパトカーが黒いマスクの連中達を乗せて、蟻の行列の様に外へ出て行く。

その後すぐに僕も、当主殿と警部に呼ばれて現場の敷地内に建てられた片屋根テントの中に入る。

 

中には当主殿と茶色のチェスターコートを纏った長身の男性がパイプ椅子に座っていた。どうやらこの人が警部だそうだ。

 

警部は一度、椅子から腰を上げて、僕と握手をした。用意されたパイプ椅子に座り、警部から黒いマスク達の事について聞かされた。

黒いマスクの連中を調べたところ、どうやら彼らは暴力団組織らしく、昔から『逢崎会』とは古い仲だったようだ。

『逢崎会』にとって都合の悪い事を吹聴しようとした輩を消していた事が明らかになった。そして、数日前に殺害された逢崎宗次郎

を手にかけたのも自分達だと組員の一人が供述したという。理由を聞くと、ある人物の依頼で協力するに当たっての利点を聞かされて元々『逢崎会』が組織に対する扱いが粗末になって来たこともあり、快諾したらしい。

 

「その人物とは?」

僕は眉間に皺を寄せて、尋ねると一層真剣な声音で一言を放った。

 

「逢崎蓮‥‥‥」

僕は目を大きく見開きながら自分の耳を疑った。逢崎蓮が実父である逢崎宗次郎を殺した? どういう事だ? 録音機で聞いた時は醜悪な会話内容だったが普通の親子のように思えた。

 

「問題は何故、息子である逢崎蓮が父を殺したのかだ‥‥‥」

僕と警部、当主殿が項垂れていると、近くに置いてあったスマートフォンが鳴る。

「失礼‥‥‥」

どうやら警部の物らしく、手に取り、耳に近づけて会話を始める。

 

「わかった」

警部が電話を切ると、僕達の方に向き直る。

 

「『逢崎邸』をこれまでの組員が言ったような内容がディスクパソコンから見つかったと報告が入りました。だが肝心の逢崎蓮は依然として姿を特定できないままです」

警部が拳を強く握りしめると、屈辱感を浮かべたような表情で歯を食いしばる。

 

「そう言えば、海未は?」

当主殿は不意に海未の居場所を聞くと、警察官に呼ばれて、正門の方について行ったと話す。

 

「正門の方?」

警部が眉間に皺を寄せて、腕を組む。その反応は僕の発言に違和感を感じているような感じだった。

 

「あそこには話を聞くためのテントなどはなかったはずだが‥‥‥」

僕はその時点でとてつもなく、嫌な気がした。いや、まさか‥‥‥不信感が心に巣食おうとした時に、僕の懐に入れてあった携帯が鳴る。着信は海未からだ。

 

携帯と取ると、携帯の向こうから車の走行音らしき音が聞こえる。そして、それとともに海未が口になにかを押し付けられているようなことが聞こえる。

 

「海未! 海未! どうしたんですか!海未!」

頭に血を登られて、必死に彼女に問いかけると、向こうから聞き覚えのある声が返ってきた。

 

「もしもぉ〜し! 海未ちゃんだと思ったぁ?

ざんね〜ん! 逢崎蓮君でしたぁ〜」

電話の向こうで話す彼の声音は、初めて会った時や就任式の際の慇懃な態度ではなく、まるで相手を嘲笑する様な口調だった。

「いや〜また守れませんでしたねぇ〜、村雨悠人くぅぅぅん、いや、園田悠人君」

多くの安堵や安心感で涙する少女達に反して

僕はあまりの怒りに携帯で相手の名前を憎悪を孕んだ声で叫んだ。

 

 




閲覧ありがとうございます! 誤字脱字感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!! そろそろこの章も後三話くらいで完結したいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話

今年最後の投稿になります。読者の皆様、本当にありがとうござます!! 良いお年を!!


僕は電話の相手に憤りを覚えた。液晶画面の向こうで僕の怠慢さをおどけた口調で嘲笑する『逢崎会』会長、逢崎蓮。μ’sメンバーの一人で僕の友人、園田海未の声が聞こえる。海未は何かで口を塞がれているのか、上手く聞き取れない。電話の奥からはわずかに走行音が聞こえているので、現在どこかに向かっているのは確かだ。

「はいは〜い。海未ちゃんは静かにしてましょうねえ〜」

「おい! 今、どこにいる!」

 僕は焦りのあまりに席を立ち上がり、怒鳴りつける。すると先ほどから警戒していた趣の当主殿や警部の表情がより一層、険しさを増す。

「まあまあ、落ち着いてくだせえ。僕はyouとお話しがしたいだけ。お望み通り、教えまっせ」

 不快と感じるほどの口調で、逢崎蓮は僕の問いに返答する。

 

「『箱庭』から少し離れたところに埠頭があるからそこまでおいで〜。ただし、君一人でね。もし警察や他の人達を連れて来たら……海未ちゃんの原型をなくして、ネットにアップしちゃいます!」

 逢崎蓮が威勢のいい語気で、宣言する。僕は辺りを再び、見渡す。テントの中にいる警察官達が僕を怪しげに目視していた。

「んじゃ! また後でねー!」

 電話が切れて、僕は通話終了の画面に吠えかける。

 「どうした?」

 驚いた様子の当主殿が、僕の方に顔を覗かせる。

「すみません。またこれ借ります」

 僕は近くにあった木刀を手に取り、テントを飛び出る。後ろから聞こえる当主殿と警部の呼びかける声を聞き流す。裏門には記者やマスコミのカメラのシャッターが辺りの闇を照らしていた。裏門ではなく、視界の端に見えた侵入防止用の金網に飛び移り、よじ登る。施設を出た後、吸い込まれそうなほど漆黒に包まれた森の中を、分け目も降らず走り続ける。移動し続けていると、懐に入れた携帯が振動する。逢崎蓮から現在地の座標が送られて来た。確認したところ、さほど遠くはない位置にあるらしい。僕は再び、つま先に強く力を加えて地面を蹴った。

 

 しばらく、走り続けて、地図の近くまで近づく。暗闇の中、数メートル先に何かを大きなものが道の脇に見えた。刮目すると、一台のパトカーが駐車している。おそらく逢崎蓮が乗車していたものだろう。すると不意に何か遠くから音が聞こえる。水の音だ。つまり声は海水が風に揺られているということか。僕は傾聴しながら埠頭に向かう。

 

 目的地に着くと、海が近いせいか、冷たい風が僕の頬を撫でる。周囲に首を向けると建物に亀裂が入っていたり、木の蔓が絡まったフォークリフトがひっそりと佇んでいた。静寂と寂れた雰囲気が包囲する中、慎重に足を進める。埠頭の中心部分に来た時、突然、僕の頭上が明るくなり、光が二つ重なり、僕を照らす。思わず、左手で明かりを遮る。それを待っていたと言わんばかりに、僕の後ろ側から拍手が聞こえる。振り向くと、逢崎蓮が手を叩きながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。

「いやいや、お見事お見事、園田悠人君」

「海未はどこだ!」

 僕は熱のある語気で彼に問い詰めると、逢崎蓮が指を鳴らす。すると逢崎蓮の後ろの建物から一人の黒いマスクに身を抑えらている海未が出て来る。口は猿轡で塞がれいて、僕の目を見るなり、そばにいる黒いマスクに激しく抵抗する。

 

「海未!」

「おっと! 動くなよ〜下手な動きをすればここに来た意味、なくなっちゃうよ」

 思わず、走り出そうとした僕は、逢崎蓮の脅迫により制止される。

 

「彼女を離せ!」

「落ち着きなはれや〜、まあでも、ここまできたご褒美ぐらいはあげないとね〜」

 逢崎蓮が黒いマスクに、指で何かを催促すると、海未の口を塞いでいた黒い布が解かれる。

 

「悠人!」

 僕の名前を呼ぶ海未に逢崎蓮が、静かに冷笑を浮かべる。

 

「彼女から離れろ」

 僕は逆鱗を押し殺して、一言呟く。腰に携えた木刀に手をかける。

 

「やだなぁ、僕はお話がしたくてここまで来たもらったのにー」

 気味の悪い笑みを作り、電話越しと変わらないおどけた口調で返事を返す。しかし僕も彼に大して気になることがある。大勢のスクールアイドルを拉致したこと。実父を手にかけたことだ。

 

「なぜ、実の父親の逢崎宗次郎を殺したんですか?」

「えっ?」

 真実を知らなかった海未は驚いた顔で僕を見る。逢崎蓮は僕の問いに鼻で笑う。

 

「スクールアイドル助けたってことは『逢崎家』がやって来た事は知ってますよね。僕はね、父が昔から嫌いでした。父は僕を次期『逢崎会』会長にしようと必死で、学校から帰って来れば机に向かわされて、したくもない習い事も行かされるなどさせられて来ました。僕は会長になんてなりたくなかった。昔から『逢崎会』の行いを知っていたから。母が危篤になった時も、父は変わらず仕事ばかりしていました。母が亡くなったその日も……」

 

 逢崎蓮が静かに拳を握りしめているのが見えた。

「僕は気づきました。父にとっては僕も母もどうでも良くて、僕は父の後釜に過ぎないのだと……そして、年月が経ち、通っていた高校で、ある少女に出会いました。その少女はとてもおとなしくて、どちらかというと地味な子でした。委員会をきっかけに知り合い、スクールアイドルが好きな事を知りました。スクールアイドルの話題を話す時、嬉しそうに話す彼女に僕は惹かれました。そして、貴女達のファンでもありましたよ……」

 逢崎蓮は冷めた目で、海未の方を静かに一瞥して僕の方に戻す。海未は驚愕しているのか、唇を震わせていた。

 

「しかし、僕の通っていた学校にいたスクールアイドルのメンバーが彼女を虐めて、そして……彼女は自殺した」

 逢崎蓮が突然、憎悪を宿したような目でこちらを目視する。僕と海未は予想もしなかった事実に動揺を隠せないでいた。逢崎蓮が僕の趣を見るなり、再び口を開く。

「だが、彼女の死は公にならなかった。それは何故か」

 

「『逢崎会』の仕業……」

 海未が震えた唇から振り絞って、呟くと、逢崎蓮に届いたのか、彼は静かに頷く。

 

「『逢崎会』は当時、父が牛耳っていた。スクールアイドルは父にとって商売道具のようなもの。難癖をつけられてしまえば、面倒ですからね。父の根回しによって、彼女の死は闇に葬られた。許せなかった。罪のない彼女が殺された事、加害者がのうのうと生きている事。都合よく物事を進める父、何も知らず、何も気づかず『逢崎会』の支配下で踊り続けるスクールアイドル。そして僕は決めました。何もかも壊してやろうと……」

 悲壮な表情だった彼が、最後の言葉の際に邪悪の笑みを浮かべて、僕の背筋に微かな怖気が走る。

 

「スクールアイドルが不幸な目に合わなかったのは残念ですが、世間に『逢崎会』の悪事が露見したので、これで『逢崎会』も終わりですね」

「確かに貴方に起こったことは紛れもなく不幸な事だと思います。でも! だからといってこんなひどい事する道理にはならないはずです!」

「おや? 園田海未、貴女、人の事言えるんですかあ〜? 知ってますよお? 園田家が何をして来たのかを……」

 逢崎蓮が嘲笑するような語気で海未を煽ると、僕に目を向けて微笑する。

 

「貴方のことも調べましたよ、園田悠人君。園田分家の子として生まれて、先祖の我が儘で片田舎に引っ込められて、そして愛する両親も逢崎に奪われて……僕と貴方は似てるんですよ。囚われていた事や栄光の影の位置にいる事が……」

 彼の言葉に思わず黙念する。確かに僕たちは似ている。彼は幼少から父親に言われた事を強いられて来た。僕はあの山から出ることが許されかった。鳥籠の中にいる鳥同士だ。自由を謳歌する者に嫉妬して、籠の中から必死に鳴く一羽の鳥。

 

「だから園田悠人君。この国を出ませんか?」

「えっ?」

 僕は急な発言に思わず、顔を眉間にシワを寄せる。海未の方を目を向けると彼女は顔を歪める。

 

「もうすぐ、ここにフェリーが来る。僕達でこの口から出て、世界を周ろうではありませんか。君だって広い世界を見たいだろう? これまで影の中にいた僕達が光に照らされるんだ! そして、始めるんだ。新しい人生を!」

 彼は両手を大きく広げて、高らかに宣言する。その表情は先ほどの人を蔑むような顔ではなく、純粋無垢な子供そのものだった。彼の気持ちは痛いほどわかる。だからこそ知っている。囚われ続けていた者は何をするかわからない事も。ならやることは一つだ。

 

「僕は行かない。貴方を止める」

 僕は彼の目を捉えて、聞き間違いようのない声音ではっきりと告げる。逢崎蓮は僅かに驚いた表情を見せたが、瞬時に微笑を僕に向ける。

 

「あー貴方は貴方で居場所、見つけたんですね。なるほど」

 彼は再び、黒いマスクに指で何かを催促する。黒いマスクが右手を懐に入れる。取り出された手には拳銃が握られていた。銃口が海未の頭部を捉える。海未の顔は次第に白くなっていき、引きつった顔で銃口を後目で確認する。

「海未!」

 僕は彼女の元へ、勢いよく走り出す。その瞬間、背後から殺気を感じて、腰に携えた木刀を勢いよく抜いて後ろを向く。逢崎蓮が黒い刀を手に握り、が僕に斬りかかろうとしていた。すかさず木刀で相手の刃を防ぐ。木刀と刀が激しく削りあい、逢崎蓮が後ずさりをする。

「いや〜奇襲にも対抗できるなんて流石っすね、悠人君。一緒に侍ごっこしましょう」

 そう言い、逢崎蓮が刃先をこちらに向けて、静かに構えを取る。殺気を感じ取るのが遅ければ切られたのは間違いなく僕だった。僕も静かに構えを取る。埠頭周囲内を再び静寂が支配する。不意に二人の間に海風が吹く。

ほのかな塩の匂いが僕の鼻腔を駆ける。風が止んだ後、僕は静寂を振り切る勢いで、地面を強く蹴り駆け出した。




閲覧ありがとうございます!!
誤字脱字、感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話

更新遅れてすみません。『蹂躙篇』今回で最終話です!
それでは!


37話

 静寂と不意に海風が吹く埠頭の中心。僕と逢崎蓮は互いに、刀身を何度もぶつけ合う。刃が削れて火花を散らす。腕に力を入れて、突き放す。逢崎蓮が即座に左手を懐に入れた。取り出す際に黒い何かが目視出来た。

 僕は即座に身構えると、逢崎蓮は勢いよくそれを取り出す。拳銃だった。引き金を引き、破裂するような発砲音とともに、黒光りした銃口から鉛色の弾丸が風を切り、迫ってくる。

 

 下から刃を切り上げて、弾丸が真っ二つに避ける。両頬の側を静かに通過する。刀身が僕の視界の上に上がった時、逢崎蓮は刃をこちらに向かって、身を低くして翔けてくる。急いで体勢を立て直して、肉薄する逢崎蓮の刀を止める。

「悠人!」

 海未が心配が混じったような声音で僕を呼ぶ。彼女は先ほどと変わらず、逢崎の手下に見張られていた。早く彼女を助けなければ。

「ほらほら! 園田悠人! こんなものじゃないでしょ!」

 逢崎蓮が腕に力を入れて、刀身を僕の肩付近まで押し込む。

「中々、筋がいいですね。剣を習っていたんですか?」

「ええ、強制という形でね!」

 逢崎蓮が力強く刀を振り、刀同時が強く弾け合う。勢い余って僕は後ろまで、後ずさりをする。一振りの風で地面から、僅かに埃が立つ。

 

「したくもない事を強要され続けてきた。これもその一つです」

 そう語る彼の目には光が一切、灯っていなかった。唯一存在するのは漠然とした虚無。

 静かに答えると虚ろな目で睥睨する。彼は剣だけではなく銃も携えている。あの剣の腕に拳銃とは厄介な相手だ。僕は勢いよく地を蹴り、彼の元に肉薄する。逢崎蓮が拳銃を取り出して、銃口をこちらに向ける。安全装置を外して引き金を引き、弾が風を切り裂き、こちらに飛んでくる。銃口の向きをみて、身を避けたことでかろうじて飛んできた銃弾を回避する。その後に続けて引き金を引いて、銃声が鳴る。銃弾が左の二の腕部分を掠った。僅かに感じる痛みに思わず、口角を歪める。

「おっ、掠ったか、んじゃもう一発ーー」

 再び、銃口を向けた時、僕は木刀を手首で弾くように投げる。木刀は拳銃を持つ手元にあたり、逢崎蓮が苦悶の表情を浮かべる。拳銃は彼の手から弾かれるように離れ、地面に落下して乾いた音が響く。

 

 僕は、すかさず彼のそばまで走る。僕を斬り伏せようと逢崎蓮が勢いよく、水平に刀を振る。体勢を低くして、刀を交わす。がら空きだった腹部に手根部を素早く強打する。逢崎蓮が身を後ろに反らせて足が地面から僅かに離れる。

「逢崎さん!」

 逢崎の部下の心配そうな声音が耳に入る。逢崎蓮は口元をにやつかせながらこちらまで走ってきていた。僕も足元に落ちている木刀で刃を防ぐ。突然、際ほど銃弾を受けた部位から鈍痛が伝わる。鈍痛により僅かに防御が弱体化する。それを待っていたと言わんばかりに、木刀に強烈な斬撃を受けて、足元が揺らぐ。怯んだ僕の肋部分に逢崎蓮が蹴りつける。強い衝撃が走り、歯をくいしばり、思わず膝をつきそうになる。木刀で防ごうとした時、体勢が悪く、四肢を斬りつけられて、地面に膝を付く。手から木刀が滑り落ちる。切り傷の方を見ると服が血で滲んでいた。彼の方に目を向けると刀身に伝う、血を振り払う。

 

「残念ですね。園田悠人君。本来の貴方なら僕に勝つことなんて容易いことでしょう。ですがここにくるまでに学校や『箱庭』などで戦闘を行い、そして、今、疲弊している状態での刀を交えている。もう限界なはずですよ」

彼が不敵な笑みを浮かべながら、告げる。彼のいう通りだ。今の僕には剣を振るう、いや、もう今、膝をついているので精一杯だ。

「どうやらもう限界みたいですね‥‥‥」

 逢崎蓮が刃先を虚空に掲げる。虚ろな目で僕を見下ろす。

「さよなら」

 

 彼が腕を振り下ろす。僕は呆然と迫る刃を目視していると視界に、何かが映る。

「大丈夫ですか! 悠人!」

 

 そこには木刀を手に、逢崎蓮の刀を防ぐ海未を立っていた。

「なぜ、ここに見張りは?」

 

「悠人が逢崎さんに一矢報いた際、見張りの方が僅かに隙を見せたので、その間に寝てもらいました」

 僕は海未のいた方を見ると、逢崎の部下が白目を向いて倒れている。逢崎蓮が軽快な動きで後ろに下がり、海未と距離を置く。

「悠人‥‥‥すみません。私が不甲斐ないばかりに‥‥‥今度は私が貴方を守ります」

 僕に背を向けて、つらつらと言葉をかけてくる。彼女の背中は大きく頼もしく見えた。

「だから帰りましょう。みんなの元へ!」

 彼女は熱のこもった語気を話し終えると、逢崎蓮の元へ駆ける。逢崎蓮も静かに冷笑を浮かべて、彼女に刃先を向ける。刀が重なると同時に、小さく火花が散り、金属音が鳴る。

 木刀を振るう海未の動きを見て、驚いた。僕が彼女の屋敷を襲撃した時より、動きが軽快で、見る限り刀の振りや動作に無駄がない。実力が以前より飛躍的に向上している。それの証拠に先ほどまで余裕の笑みを浮かべていた逢崎蓮の表情が引きつっているように見えた。

「クッソ! なんで折れないんだよ‥‥‥仲間も自分も酷な目に遭いながら何故、戦えるんだよ!」

 海未の風のように舞う、剣術に翻弄されながらも逢崎蓮が必死に食らいつく。その刹那ーー、海未が鋭い一撃が彼の左に叩きつける。逢崎蓮が歯ぎしりをして痛みを堪えるような顔をする。逢崎蓮が大振りをして、海未との距離を開ける。

 逢崎蓮が荒く、呼吸をしながら海未を睨みつける。

 

「簡単な事です。守るべきものがあるからです。私の父、母、お祖母様、学校のみんな、穂乃果、ことり、花陽、凛、真姫、絵里、にこ、希、そして‥‥‥悠人。私は今、生きた短い人生の中で心を許せる人がたくさんできました。みんなを守りたい。ただそれだけです」

海未は逢崎蓮に強い信念を、孕んだ言葉を伝える。彼は無気力に刀を構える。

「そんなものが‥‥‥」

怒りのせいか、彼は歯が潰れんばかりの強さで顎に力を入れて、海未の元へ走る。

「何になるっていうんだぁ!」

彼の断末魔に似た叫び声が埠頭の静謐な空気を揺らす。海未は軽い息を吐いた後、瞼を閉じて、木刀の刃先を後ろに向ける。激昂した逢崎蓮が刃先を彼女に近づいてくる。海未が瞬時に目を開けて、木刀を力強く振る。木刀の刀身が逢崎蓮の腹部に強打する。すると彼は静かに膝から崩れ落ちていった。ーー圧倒的だったーー。彼女の一太刀が見えなかった。目に見えない程の速度で木刀を抜いたのだ。

すると、海未がこちらに身を向けて歩いてくる。僕の前で止まると、目に涙を浮かべ始めた。

「ごめんなさい。悠人、本当に‥‥‥貴方を一人にしないといいながら、私は貴方に支えられてばかりでした。守られてばかりでした」

「いいんですよ。僕は今回、貴女に救われました。貴女がいなければ僕はこうして貴女と会話すらできていないんですから」

僕が彼女に笑いかけると、海未は安堵したように深呼吸する。別のところから物音が聞こえる。目を向けると、逢崎蓮が身を起こして、尻餅をついて左手で木刀を当てられた部分をさすっていた。

「逢崎蓮‥‥‥」

「なんで、こんな事になったんだろうな」

彼が吐き捨てるように呟くと、睥睨するような目で僕らを見る。

「園田海未‥‥‥貴女は嫌ではないんですか?‥‥‥園田家に生まれて‥‥‥実の両親から次期当主になれという‥‥‥両親の自己願望を押し付けられて‥‥‥貴方もですよ‥‥‥園田悠人‥‥‥分家の子として産まれ、先祖のせいで片田舎に押入れられて‥‥‥そのせいで貴方は‥‥‥あなた方は似てるんですよ‥‥‥望まれた未来を築けない者同士‥‥‥僕はね‥‥‥ずっとそうだったんです‥‥‥一番じゃなきゃダメだった‥‥‥褒められることもなかった‥‥‥そして気づいたんです‥‥‥父は僕を自分の替え玉としか思ってないんだと‥‥‥学校に行っても‥‥‥真面目な人間はなずなのに中傷を受ける日々、何故善良なはずの人間がこうも虐げられる。

僕は虐げている連中を見て思ったんです。彼らは僕の両親と全く変わらないって‥‥‥歳や立場は違えど人の自由を奪っている‥‥‥許せなかった‥‥‥ならばいっそ、全部壊してしまおうと思ったんです。逢崎が積み上げてきたもの、周囲に蔓延る不条理も全て‥‥‥」

逢崎蓮は悔しそうに拳を握り、月光に照らされた地面を叩く。すると、海未が静かに口を開く。

 

「貴方の言う通り、私も不満を抱いた事もあります。幼い事から日舞と剣道のお稽古の日々‥‥‥

泣き出してしまう事もありました‥‥‥穂乃果やことりが羨ましく思った事も‥‥‥でも、時より日舞を公で披露する母やお弟子さんに剣を教える父の姿を見た時に私はその姿に魅了されたんです。だから私も父や母のような立派な人になりたい‥‥‥園田の跡継ぎに相応しい人になりたいと‥‥そう思ったんです。だから私は自分の望んだ未来にゆっくりと近づいているんです」

 

逢崎蓮が目を丸くして、驚いたかのようにこちらを見る。僕も彼女に続いて、今までの事を彼に伝えることにした。

 

「僕もそうだった。両親を亡くして、園田宗家が原因で僕があの片田舎に閉じ込められたと知った時は宗家に心底、憎悪を抱き、必ず殺すと胸に誓いました。だけど海未に敗れた後、何をしていいかわからなくなった。何故敗れたのかも考えて、そして気付きました。μ’s、園田家が決死に僕を探してくれた時、僕はもう一人ではないんだと。だからこんなでも、なんとか生きているんです」

 

「 ハハ‥‥‥ご立派な事‥‥‥」

逢崎蓮は皮肉を交えた言葉を返す。虚空を見上げて、胸の内が軽くなったのか、微笑んでいた。

 

その後、逢崎蓮は自ら警察に電話をして自首した。たった一日の出来事だったが僕にとっては二日とも三日とれるほど長く感じた。

スクールアイドル達、全員の保護と逢崎会の他の幹部、協力していた暴力団組織の構成員の逮捕されてこの騒動は終わりを迎えた。

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます!
残り数話でこの物語の本編も終了となります。それまでこのしがない自称作家にどうかおつきあいください。
誤字、脱字、感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話

冬が過ぎて、春の日差しが地上を照らし暖める頃、

音ノ木坂高校では三年生の卒業式の準備の為、たくさんの在校生達が引っ切り無しに動き回っていた。

 廊下や体育館などに装飾品やダンボールで切り抜いた文字などを貼り付けている。

 一方、僕は車椅子の上から、貸し出されたトランシーバーで他生徒に指示を送っていた。数日前の逢崎蓮の件で僕は脚に突き抜けるような痛みを感じて病院に行き、レントゲンの結果、右足にヒビが走っていて、左足にも細く小さな線が確認できた。そして、大事をとり現在、僕は車椅子で日常を過ごしている。

 

「いつもの活気を取り戻しましたね」

 艶やな黒髪が特徴の少女が僕の頭上から、他生徒を見守る。

「そうですね……」

 学校がいつもの賑やかさを取り戻したのは喜ばしい事だが、素直に祝えない。理由はわかっている。

 逢崎蓮の逮捕後、逢崎家の暴虐とも言わんばかりの所業が露見して『逢崎会』は解散。逢崎家に加担した暴力団組織はまとめて壊滅した。逢崎家の財産は『箱庭』で被害にあった人々や、傘下の暴力団組織が壊した公共物の修繕費用に当てられた。

 隠蔽された逢崎蓮の想い人であった少女の死がニュースとして公に取り上げられる。それは彼女の死からおよそ数ヶ月後の出来事だったそうだ。

自殺の原因を作ったスクールアイドルの少女は逢崎会の根回しにより、罪を隠匿されて悠々自適にアイドル活動を続けていたが、逢崎の全貌が明らかになり、悪事が発覚して逮捕。犯行理由は彼女が逢崎蓮に好意を寄せていて、隣にいたその少女が気に入らなかったという自己中心的な原因であった。又、逢崎家から多額の賄賂を受け取り、事件を隠匿した校長、理事長共々、懲戒免職とともに逮捕された。

 そして、その高校のスクールアイドルチームは解散。警察が教育委員会の協力を得て、一斉調査を行った結果、多くの案件が山の様に出て来た。不幸な事に、スクールアイドルの人気が急激に衰退の意図を辿る事になった。

 スクールアイドルはこの先どうなるのだろう? そんな不安感にここ数日、頭を抱えている。

 

「悠人」

 聞き慣れた声のする方に目を貼ると、海未が少し悲しげな笑みを浮かべる。

「あなたの考えていることはわかっています。私自身もショックです。私だけじゃない穂乃果やことり、μ’sのみんなもです。それでもーー」

 不意に海未がその長いまつ毛の先を一点に向けた。そこには穂乃果、ことり、花陽、凛、真姫が体育館前の飾り付けを行なっていた。穂乃果と凛が色紙で繋げた輪っかを首にかけて、戯けている。真姫が人差し指を立てて、咎めているのを花陽と小鳥が苦笑いでなだめる。その姿を見ると、先ほどまで凝り固まっていたものが解れて、自然に頬が緩んだ。

「みんな前に進んでいる。さあ私達も行きましょう!」

 海未の笑顔の提案に僕は首肯で応えると、車輪がゆっくり前に進んだ。

 

 

 

 放課後、車椅子を海未に押してもらいながら廊下を進んでいる時に、後ろの方から声がして、振り返る。

 担任教師が手に何かの用紙を持って僕の前に歩いてきた。

「村雨、お前に渡し損ねてたやつだ。まあ、ゆっくり考えろ」

 手に持っていた一枚の紙を渡すと、右手をあげてそのまま廊下の奥に消えた。

「悠人、それって、、、、、、」

「進路調査票……」

 「悠人はどうするんですか? 私は進学を希望していましたが……」

 今まで考えもしなかった自分の将来。本来なら宗家に復讐してから考えようとしていたが、それも終わった今、僕はただの学生。

「すみません。僕は未だに定まらなくて、、、」

 僕は気の抜けたような笑いを彼女に返す。

 

「あ、焦ることはないと思いますよ! 勢いで決めてしまえば後悔することもありますから!」

 海未は空元気を出したような態度で僕に語りかけた。彼女なりに僕を気遣ってくれたのだろう。僕はどうかして良いかわからず、彼女に薄ら笑いを向ける。

 しかし、次から三年生。本格的に将来について考えねばならない。

 

「将来か、、、、、」

 夕日が沈んで行き、夜の帳が侵食していく空を、窓から懊悩の眼差しで見つめていた。

 

 

 卒業式当日。雲ひとつない晴天のもと卒業式は行われた。送辞の述べた後、舞台にいた真姫がピアノで音色を奏で始めた。穂乃果の美しい声音が体育館の静寂な空気を震わせる。すると僕の隣にいた海未やことり、離れた座席にいる凛、花陽、絵里、希、にこまで口を開き歌い始めた。女神達の演奏に魅了されたのか館内にいた在校生も合唱を始めた。

 

 式を終えて、九人の女神と僕は校舎の庭で談笑した後、僕達は屋上に向かった。ここで彼女達は多くの壁とぶつかってきた。そして乗り越えてきた。すると穂乃果がタイルにモップで力強く大きく、自分達のチーム名を書く。

「ありがとうございました!」

 一同がタイルに向かい、感謝の念を込めて頭をさげる。いずれここに書いた文字も日差しに焼かれて消えるだろう。きっとμ’sという名も時代や環境によって忘れ去られるだろう。いずれ誰も知らぬものになる。

 しかし彼女が残したものは決してなくならない。この時間にかけた思いや絆は風化することなく彼女達と彼女達に薫陶を受けた人達の中で生き続ける。刻み続けたものは決して消えない。

 

「やり遂げたよ。最後まで」

 太陽の声が薄暗い屋上への階段で静かに響いた。




閲覧ありがとうございます。今作の本編も次で最終回となります。
ここまで読んでくださった皆様本当にありがとうございます!
誤字、脱字、感想その他ご指摘ありましたらご連絡ください!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話 私たちは未来の花

まだ朝陽も登っていない早朝。白く濃い霧から伝わる冷気を感じながら、人一人いないアスファルトの道を進む。微かな眠気とバックを背負い、膝まで伸びた厚手のコートを纏って、 身震いしながら横断歩道の赤信号で足止めを食う。僕はつかの間の暇を埋めるために懐から携帯を取り出す。

 液晶画面から視界に入ってきたものに思わずに頬を緩む。そこには笑顔で卒業証書を持つ、三人の女神と僕、彼女達を笑顔で祝福する女神達が写し出される。 

 三日前、桜舞う学園で僕達は高校生活は幕を閉じた。多くの在校生や教職員の拍手と温かい目で見守られ、ある者は終始笑顔で、ある者は感涙とともに、学校を去った。

 

 不意に首を上げた際、鮮やかな衣装に身を包んだ少女達の写真が貼られた大型車が目前を通過する。あれから消滅の危機に陥っていたスクールアイドルは現在も続いている。  

 

 それも以前よりも急激に注目を集めている。一年前の絵里達の卒業式の後、南理事長から海外で注目されきているスクールアイドルの宣伝活動のため、ニューヨークに向かうことになった。

 この宣伝がうまくいけば逢崎蓮によって衰退したスクールアイドルの人気を取り戻すことが可能性があるからだ。メンバーの数人は渡航に対して、やや消極的になっていたもののμ’sの太陽こと高坂穂乃果の説得によりニューヨークに向かった。

 結果、ニューヨークでの公演は大成功を収めて、帰国したその日にはラブライブの運営ホームページが復活してμ’sに対して多くの賛美の声が寄せられていた。無論、その中には反対意見も含まれていたが、彼女達を讃える意見はそれを遥かに凌駕した。数日後、μ’s、A-RISEを含んだ大勢のスクールアイドル達によって秋葉原での公演により、日本国内での人気が更に増加。逢崎の件で卑屈になっていた他のアイドル達も穂乃果の熱弁に折れて、参加する。そして、本番は満面の笑みを浮かべながら踊りに興じていた。

 小さな人間の思いが数を増して、やがて多くの人を乗せて、価値観や世の流れを変えた。人の思いの強さを改めて思い知らされた。

 後の武闘館公演にてμ’sは事実上解散することになった。そして、僕にとって大きな壁が立ちふさがっていた。そう、進路である。自分の未来など考えたことも無かったため、頭を抱えた。そして自問自答して出た答えは……旅に出ることだった。

 

 理由はいたって簡単だ。僕が世の中や世界について無知だからだ。生まれた時から園田の作った檻の中で暮らし、両親が殺害された後も、復讐に囚われていた。

僕の人生は一つのものしか見てこなった。ニューヨークに行った際、世界の広さに驚き、自身の視野の狭さを痛感した。

担任教師も初めは眉を潜めていたが、理由とそこに懸ける想いを伝えると、渋々ながら了承してくれた。μ’sのみんなに伝えると一同はここの反応を見せた。皆言葉や表情は違えど、どれも親愛に満ちた言葉だった。

 

 同学年の穂乃果は製菓系の専門学校進学を決めて、ことりはファッションデザインを勉強するためにパリの大学へ、海未は彼女の祖母の友人が講師をしている関西の大学に進学して、さらに舞踊に磨きをかけるとの事だ。そうして今、僕は白い息を吐きながら街の外れにある船着き場に向かっている。

薄暗い空が、陽の光で明るくなり、立ち並ぶコンクリートの建造物が山吹色に彩られていく。

 

 船着き場に着き、近くに設置された長椅子に腰を下ろす。不意に朝日に照らされた水砂漠を眺めていると、ふと一人の少女の姿が頭によぎる。

 鮮やかな琥珀色の瞳、陶器のように白い柔肌、深海よりも深く黒い直毛、身麗しい面立ち。彼女を思い出すたび、胸が疼く。症状の名は知っている。本や娯楽作品で何度も目にした。

しかし、この胸中を取り巻く感情を理解するにはしばし時間がかかりそうだ。そんな事を考えていると、地平線の方から汽笛が聞こえた。白い塊が太陽の光を背に浴び、正面に影を作り、徐々に接近する。長椅子から腰を上げた時、聞き慣れた声が後方から響く。声の方に首を振ると思わず瞠目した。

「悠人〜!」

「悠人君!」

 九人の女神達が息を切らしながらこちらに走ってきた。彼女達には情報を伝えていないはずなのに何故なのか考えていると目の前に着いた。皆、服装が寝巻きだったり、外出用の服装だったりとまばらなため、かなり慌てて支度したことが容易に理解できた。

「何故、ここが分かったんですか?」

 僕は疑問を問うかけると、特徴的な語尾を話す短髪の少女が真っ直ぐ手を上げる。

「凛が朝、一人でランニングしていたら歩道橋の近くで悠人君らしい人見つけたんだよ。服装がどこかにいく服装だったから駄目元でみんなに電話したら出たにゃ」

 言い張ると凛はその小さな体躯で胸を張る。

「もー何も言わずいきなり出て行くなんて臭いよ! 悠人君!」

「水をちゃんと付けてください。それだと僕が臭うみたいになりますから」

 僕が穂乃果の間違いを指摘すると、女神達は小さく笑い始めた。ただ一人を除いて……

 

「悠人……」

 黒髪の少女が搔き消えそうな語気で呟く。僕を映す彼女の瞳は悲哀を宿したように見えた。細い足が重い足取りで近づき、僕の前で整列する。

「これは別れじゃないんですよね」

 僅かに震える声音から、哀愁が漂う。目が合うと彼女の瞳の水分が形となり、溢れ落ちそうになっていた。僕は彼女からの返答に首肯する。

「必ず……必ず……また会えますよね?」

「はい」

 今度は首肯ではなく、僕の言葉で返す。嘘偽りも虚飾もない本音だ。すると彼女は僕の腰に、白く細い腕を回す。僕の胸に小顔を当て、蚊の鳴くような声音で呟く。言葉が耳に届いた後、胸元にある黒い髪を壊れ物を扱うように優しく撫でた。

 

 

「またねー! 」

 九人の女神の暖かい見送りと声援を受けながら、僕を乗せた旅客船は船着き場から離れた。手を見るみんなに手を振り返しながら、徐々に小さくなる彼女達の姿を見て、若干の寂しさを覚える。やがて確認できなくなり、街の景色だけが僕を瞳に映っても、不動のままだった。海上で吹く潮風を身に感じて、僕はゆっくりと瞳を閉じる。先ほどまで鼓膜に触れた鴎達の鳴き声が遠ざかり、船着き場で海未から発せられた言葉が脳裏から蘇る。

 

 

「いつまでも、待っています」

 

 親愛と清純に彩られた言葉がいつまでも大きく胸中で木霊し続けた……。




今までありがとうございました! まさか去年のバイトの最中に出て来た空想がここまで続くと思ってもいませんでした。今作を書いていく過程で一人称、三人称が入り混じったり、他の筆者の作品を目にして自分の文章力の無さに絶望したこともあります。というか今でもします。もし次書くなら三人称書きたいなーなんて思ってます。もともと三人称で話を進行しようと思っていたら一人称にシフトチェンジしてました。
 感想や高評価をいただける度、幸福感に包まれて、日刊ランキングにランクインした時の喜びは昨日のことのように覚えています。しかし何より嬉しいのはここまで閲覧してくださった読者の存在です。みなさんの存在が僕をここまで突き動かしてくれたと言っても過言ではありません。

本当にありがとうございました! またどこかでお会いしましょう では! 


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。