神様(?)があたしの転生先を間違えました (輝夜姫)
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0.オリキャラ紹介とプロローグ

オリ主×悟空が読みたくて書き始めた自己満足の小説です。
原作漫画沿いにチマチマと書き進めていきます。


孫 蓮香(そん れんか)

 

身長:142cm(15歳時)

体重:37kg(15歳時)

髪型:黒色の癖っ毛ロングヘアーを高い位置でポニーテールにしている

目の色:黒色

容姿:切れ長の美しい瞳と猫を思わせる顔立ちの美人

好きなもの:修行、悟空、甘いお菓子

嫌いなもの:苦いもの セクハラまがいの行為

一人称:あたし、マジギレすると『わたし』になる

二人称:基本はあなた、悪い奴にはあんたということもある

 

備考

転生者。元はド○クエの世界に行くはずだったが、手違いでドラゴンボールの世界に来た。原作知識はほぼない。

最初のうちはかなり戸惑っていたが、一度割り切ってからは楽観と生きることにした。

 

 

 

〜プロローグ〜

 

白かった。上も白、前も後ろも横も斜めも見渡す限り真っ白だった。

 

「広い……ここどこ?」

 

いつの間にこんなところに来たのだろう、と首をかしげながら呟く。

 

「ここは死後の世界。転生の間じゃよ」

「ふきゃあっ!」

 

いきなり後ろから声をかけられて、少女は奇声をあげながら飛び上がった。

口をパクパクさせながら振り向くと、真っ白いローブに真っ白い長い髭のお爺さんが立っていた。

背景も全て白いからすごく見づらいし、何より不気味だ。

 

「だ、誰ですか? テンセイノマ? し、死後の世界?!」

 

軽いプチパニックに襲われ、なんども瞬きを繰り返す。

お爺さんは何がおかしいのか、ホッホッホッ、と笑った。

 

「如何にも。主はついさっき死んだんじゃよ。交通事故での」

「あ、あたしが死ん……」

 

憶いだした。

そうだ、たしかに死んだ。

信号無視して突っ込んで来た、大型ダンプに撥ねられて。

なんとなく痛みまで思い出してしまい、少女は青ざめながら鳥肌の立つ二の腕をさする。

 

「そして今から、主は転生するんじゃ」

「へ?」

 

一瞬で鳥肌が収まった。

テンセイ……転生のことだろうか。

 

(よくラノベとかである、あれ?)

 

「え、あたしが?」

「そう言っておるじゃろう」

「え、えぇぇぇ! 何それすっごい! アニメ見たい!」

 

興奮して思わず拳を握りしめる。

まさか転生者になれるなど、少女は思いもよらなかった。

 

「転生先とかって、選べるんですか?」

「うむ、選べるぞ。どこが良いか?」

「そりゃあもっちろん、ド○クエ8の世界でっ」

 

ズビシィッと人差し指を立てる。

何を隠そうかなりのゲーマーである少女。

特に大好きなのがド○クエシリーズ。その中でも8は大好きだった。

 

「ふむ。わかった」

「よくある転生特典とかはありますか?」

「転生特典はない」

「あっ、ないんだ」

 

ちょっぴり残念そうに唇を尖らせた少女だが、すぐに思い直した。

大好きな世界に行けるだけで幸せなのだから贅沢は言えない、と。

 

「では早速飛ばすぞい」

「はいっ♪」

 

ルンルンで返事をする。

お爺さんが指をこちらに向け、意識が暗転した。

 

 

 

 

 

目が醒めると、なにやら宇宙船らしきものの中にいた。

丸くて、凄い狭い。

 

(えっ、こんなのド○クエにあったっけ? あれ?)

 

さっきのように軽いプチパニックに襲われていると、頭の中に声が響いて来た。

 

『すまぬ! 転生先を間違えた。そこはドラゴンボールという話の世界じゃ!』

 

さっきまで話していたお爺さんの声だった。

 

(……え? 転生先を間違えることなんてあるの?)

 

『もう戻すことはできんからな。その世界で生きてくれ。じゃ、儂はここで』

 

…………え。

思考が一瞬停止した。

 

「アゥアァゥ!」

 

ちょっと待ってお爺さん! 少女そう言うつもりだったのだが、変な言葉しか出なかった。うまく舌が回らない。

そこで初めて、少女は自分が赤ん坊のことに気づいた。

 

どうしよう。

途方にくれる。

何しろ少女はドラゴンボールの世界について、ほとんど何も知らなかった。

 

(お爺さん……転生先間違えたりしないでよ!!!)

 

心からの叫びが、誰かに届くことはなかった。



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ドラゴンボール 一 1.悟空と蓮香とブルマ

こんなに長いのは今回だけです……多分。


彼女が神(?)の間違いによってこの世界に転生してから、12年が経った。

最初は、ほぼ全く知識のない世界に飛ばされたことにかなり戸惑った彼女だったが、持ち前の立ち直りの早さと楽観的思考で、まぁなんとかなるでしょ! という結論にたどり着いた。

幸いなことに、優しいお爺さんに拾われ幸せに暮らしている。

優しいお爺さんの名前は、孫悟飯。

彼女は彼から、蓮香という名前をもらった。

ちなみに、孫悟飯に拾われたのは蓮香だけではない。

一緒に拾われた人の名前は、悟空。

蓮香の持つうすーい知識の中で、おそらく主人公だったと思われる人だ。

 

ここで、蓮香が持つドラゴンボールの原作知識を言っておこう。

 

・なんか、凄い戦う

 

以上。

つまり、ほとんど知識ゼロというわけだ。

登場人物の顔とかはうっすら知ってるけど、名前に関してはお手上げ……という状態だ。

しかし元々お気楽思考な彼女は転生数週間で、知識なんてなくてもなんとかやっていける! と楽観した考えに至っていた。

 

ちなみに今、蓮香と悟空を拾った孫悟飯は生きていない。

数年前に死んでしまった。

だから、蓮香は悟空と2人でこのパオズの山奥の家で暮らしている。

 

「蓮香〜、薪割りすっぞ!」

 

聞き慣れた悟空の声に、おう! と返事をして外に出ると、朝の太陽が眩しかった。

地面の上には、でっかい丸太が2つ。

 

「蓮香はこっちのをやってくれ」

「了解!」

 

返事をするやいなや、蓮香は悟空の右側にある丸太に近寄って、ガバッと抱きつくような姿勢でそれを抱えた。

 

「んぅーーーっ」

 

そのまま持ち上げ、空に向かって投げ上げる。

すかさず蓮香は地面を蹴って跳び上がり、手や足を使って丸太をバコッと綺麗に割った。

地面に着地すると、バラバラと薪が落ちて来る。

それらを拾いながら隣を見ると、悟空も綺麗に割られた薪を拾っていた。

それを見て、蓮香はわずかに唇を尖らせた。

 

(……む、悟空の方が綺麗に割れてる)

 

もっと練習しよう、と蓮香は密かに小さな決意をする。

 

蓮香はこの世界に来てから、超人的な力と敏捷性、跳躍力を持っていた。

転生特典はないはずなのに! と少々驚いたりもしたが、この山奥で暮らすのに、この力はかなり役に立っている。

 

「よーし、薪割り終了っ」

「あぁ」

 

薪を並べて置いてから、悟空に話しかける。

するとちょうどいいタイミングで、蓮香と悟空のお腹がなった。

 

「お腹空いたね」

「そうだな、エサ取りに行ってくっか」

「うん!」

 

蓮香たちは一度家に入り、オレンジ色に輝く球に手を合わせた。

 

「じいちゃん、エサ取ってくる」

 

という悟空の言葉。

せめてエサじゃなくて飯って言えばいいのになぁ、と思うがすでに今更のことなので突っ込んだりはしない。

 

このオレンジ色の球は2人を拾ってくれた、孫悟飯の形見だ。

中に4つの星が見える、不思議な球。

これを2人はじいちゃんと呼び、とても大事にしていた。

 

「さっ、行くぞ蓮香」

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

蓮香と悟空はブラブラと歩きながら何かいい獲物を探す。

 

「んー、悟空何食べたい?」

「クマはこないだ食ったし、トラも食ったしな〜」

 

見た目は7歳ぐらいの少年少女が当たり前のように交わす会話が、これ。

 

(昔は東京という大都会で暮らしてたあたしがね〜)

 

人間とは、意外とどこでも生きていけるのかもしれない。

今では都会の暮らしがあまり思い出せないほどだ。

 

「「魚にしよう(すっか)!」」

 

見事にハモったので、思わず顔を見合わせて吹き出す。

取り敢えず、今日の2人の朝飯は魚に決定した。

 

 

 

 

 

 

大きな川についた蓮香達。

悟空がすぐに服を全部脱いで素っ裸になった。

 

(あう……。もう恥ずかしがる必要もないんだけどね! でもでも、やっぱりちょっと恥ずかしい……)

 

蓮香は若干ほおを赤らめながら視線を逸らすが悟空はなんとも思っていないようで、そのままシッポをチャポンと川につけた。

 

そう、シッポ。

悟空には……いや、2人には不思議なことにシッポが生えていた。

しかし2人とも、全く不便は感じてないし、むしろ便利だからあってよかったと思ってる。

普通の人間にはない器官である尻尾の扱いにも、あっさりと馴染んだ蓮香の順応性には目を見張るものがあるが。

 

その時、悟空の尻尾につられたのか、でっかい魚が水の中から飛び出てきた。

 

「でやぁっ」

 

すかさず蓮香はそいつにドロップキックをかます。

素晴らしく鋭い蹴りは魚の体にクリティカルヒットし、魚は白目を向いて川に沈んで行った。

それを追いかけるように悟空が川に飛び込んで、魚を引っ張り上げてくる。

 

「大漁大漁!!」

「お疲れ〜」

 

白目を向いている魚はすでに死んでいる。

 

(あたしのドロップキック喰らったぐらいで死ぬとか弱っちいなぁ)

 

鋭い牙以外取り柄のないただの魚が、その小さい体に見合わぬ蓮香の鋭い蹴りをまともに受けて、無事でいられるはずがない。

しかし蓮香は、自分の強さをあまりはっきりと自覚していなかった。

 

 

 

 

 

 

悟空がニコニコで魚(白目をむいて死んでいる)を引きずり、蓮香はその後ろを同じく笑顔でついていく。

自分(悟空)の身長の2倍はある魚を満面の笑みで引きずっている図は、なかなかにシュールだ。

その時、遠くからブロロロ……という音が聞こえてきた。

 

「あり? なんの音だ?」

 

悟空も蓮香も、ピタリと足を止めて振り返る。

姿を現したのは……

 

「いっ!!!」

「えっ?」

 

(自動車? この世界にも自動車があるのか?!)

 

思わぬものを見て、へんな感動を覚える蓮香と、目をひん剥いて驚く悟空。

そこに自動車は容赦なく突っ込んできて、

 

「「わわっ!」」

 

蓮香も悟空も魚を担いで慌てて避けた。

さすがと言える反射神経。

キキィッ、と自動車は急停車。

中から出てきたのは、年の頃は10代半ば、可愛くて、ちょっと気の強そうな少女だった。

 

「びっくりしたぁ。ちょっと! 危ないじゃない!!」

 

訂正、と蓮香は心の中で呟いた。

気の強そうな、じゃなくて、気の強い、だ。

 

「おのれ怪物め! さてはオラたちの獲物を横取りしようってんだな!」

 

(へ? 悟空、あなたは何を言ってるの?)

 

そう思った瞬間、悟空は少女の乗った自動車を担ぎ上げ、ぶん投げた。

うわぁお、と思わず蓮香の口が半開きになる。

 

「さぁかかってこい! オラが相手になってやる!」

 

悟空は自動車を見たことがない。

それに今更のごとく気づいた蓮香が、あれは怪物じゃないよ、と教えようとした。

しかし彼女が口を開く前に、

 

「よくもやったわねー……」

 

車の中から少女が、打ったらしい額を抑えながら顔を出した。

そして予想だにもしなかった行動に出る。

 

「こんにゃろー!」

 

パンパンッ、と乾いた銃声。

同時に、放たれる2発の銃弾。

 

「「っっ!!」」

 

1発は悟空の額に。

もう1発は蓮香の額にあたった。

 

「いったーい!」

「いってー。なんだ今のは、妖術か!」

 

涙目で額を抑えながらヒィヒィ言う蓮香と悟空。

銃に撃たれるのは、予想以上に痛かった。

 

(今のあたしじゃなかったら、確実に死んでたわぁ)

 

若干赤くなった額をスリスリしながらそんな当たり前のことを思う。

はっきり言って、額に銃弾をまともに受けて無傷でいられる人など皆無に等しい。

 

「う、うそ……。なんで死なないの?」

 

当然、撃った方も銃を構えた姿勢のまま驚いて固まっている。

まさかこんな少女が、幼気な子供2人いきなり銃を撃ってくるとはーーー常識人(だと思っている)の蓮香にとっては、完全に予想外だった。

 

「当たり前だ! オラたちの体はステンレスのように鍛えてあるんだい!」

 

復活した悟空は怒ったように立ち上がり、背中に背負っていた如意棒をサッと構える。

 

「おのれ妖怪め〜、こらしめてやる!」

 

(あっ、これは止めないとやばいかも)

 

「悟空待って! この人妖怪じゃないよ。あたしたちと同じ人間」

「えっ?」

 

悟空が、蓮香の声にびっくりしたように振り向いた。

 

「そうよ! その子の言う通りだわ。わたし妖怪じゃなくて人間よ」

 

少女も両手を上げながら車から出てきた。

そんな彼女を悟空は疑り深げにジロジロ見る。

 

「なんかオラと違うなぁ。ひょろっとして弱そうじゃないか」

「そりゃそうよ。わたしか弱い女の子だもん」

 

か弱いかぁ……か弱い女の子はいきなり子供に銃を向けたりしないと思うけど、と心の中で呟いたのは蓮香だけの秘密だ。

 

「女? じゃあ蓮香と同じだな。でも蓮香ともなんか違うような……」

「そりゃそうだよ。あたし悟空と一緒で鍛えてるし……チビだし」

 

もう12歳になるというのに、6、7歳にしか見えない自分の見た目を、蓮香は結構気にしていた。

 

「へぇー、蓮香以外の女見たの初めてだ」

「それどころ、人間見たのも初めてだよ」

「うっわぁ〜、イナカもんね〜」

 

なんかバカにされた気がする、と微かにムッとする。

 

「死んだじいちゃんが言ってたね。女の子に優しくしなさいって」

「ほらほら。ねー、優しくしなきゃダメじゃない」

 

ぽつりと呟いた蓮香に、パチンとウィンクする少女。

 

「ところであの怪物なんだ? おまえが捕まえたのか?」

「怪物じゃないわよ!」

「悟空、あれは自動車っていう乗り物、機械だよ」

 

悟空は蓮香の言葉をきいて、驚いたように如意棒でツンツンと自動車をつついている。

 

「そうだ。あたしたちの家に来なよ。さっき魚を捕まえたから、ご馳走してあげる」

 

その誘いに乗った少女を連れて、蓮香達3人は家へと帰った。

壊れた自動車はもちろん置いて。

 

 

 

 

 

 

 

「じいちゃん見てみろ! 女がうちに来たんだぞ!」

 

悟空がそう言って、じいちゃん(オレンジ色の球)に手を合わせた時、

 

「あったーっ! ドラゴンボールだ!」

 

後から入って来た少女が、じいちゃんを指差して叫んだ。

 

(ドラゴンボール……って、この世界(マンガ)の名前じゃなかったっけ?)

 

蓮香が、悟空達に気づかれないよう首をかしげる。

 

「あっ、こら。じいちゃんに触るな!」

「何よケチねー。まぁいっか。教えてあげる…………ほれ!」

 

悟空から球を取り上げられた少女は、腰につけていたカバンをごそごそと探り、2つのオレンジ色に光る球を取り出した。

 

「あっ!」

「じいちゃんだ!」

 

そう。少女が見せた2つの球は、蓮香たちが亡き孫悟飯の形見として大切にして来たそれに瓜二つだった。

 

「ヘッヘッヘー。これはさぁドラゴンボールって言うのよ」

 

少女が嬉しそうに笑いながら、文机に球を置く。

 

「わたしん家の倉にさぁ、この球が1つあったのよね。何かなー?って調べて見たらわかったのよ!

この球の名前は龍球(ドラゴンボール)

ほんとは全部で7個あって、中に星が1粒から7粒まであるのが特徴なのよ」

 

漫画の題名ってそれから来てるんだろうな、とぼんやり考える。

 

(もしかしたら、ようやく物語が動き出すのかもしれない)

 

「じいちゃんのには星が4つ見えるな」

 

悟空が手に持っていたドラゴンボールを覗き込んだ。

 

「それは四星球(スーシンチュウ)よ。んで、こっちが二星球(アルシンチュウ)五星球(ウーシンチュウ)でーす!」

 

自信満々というようにボールを見せる、少女。

 

「あなたはこれを1人で探してるの?」

「ん、そうよ。7つ全部集めるのは相当大変なのよー」

 

まぁそうだろうなぁ、と蓮香は他人事のように思った。

どこにあるのかもわからないであろう球を7つも集めるのは至難の技だ。

 

「でもなんで探してるんだ? 数珠(じゅず)にでもするのか?」

「んなわけないでしょーが、悟空」

 

天然でボケる悟空に、蓮香は素早くツッコミを入れた。

 

「まっさか。7つのドラゴンボールを集めて呪文を唱えると、神龍(シェンロン)が出て来てどんな願いも一つだけ叶えてくれるのよ!」

「「どんな願いも?!」」

 

(すごい……さすが漫画!)

 

蓮香も、大きな瞳をさらに大きくさせて驚く。

いくら漫画とはいえ、今の彼女にとっては現実(リアル)のことなのだが。

 

「あなたはどんな願いを叶えてもらうの?」

 

どんな願いも叶えてくれる、という球を集めていると聞けば、真っ先に思いつくのはこの質問だろう。

少女は夢見るような眼差しをどこか遠くに向けながら答えた。

 

「わたしの願いははもちろん“ステキな恋人”これに決まってるわ!」

「「…………」」

 

『しょーもなっ!』という言葉を飲み込むために黙り込んだ蓮香と、恋人の意味がわからず黙り込む悟空。

意味は違えど、その場に降りたのは沈黙だった。

しかし少女はあまり空気を読めないタチらしかったのが幸いして、微妙な雰囲気が長く続くことはなかった。

 

「というわけで、その四星球(スーシンチュウ)わたしに頂戴!」

「だめだ!」

「悪いけど、それはだめ」

 

2人して即答で断る。

願いを叶えてくれるドラゴンボールだかなんだか知らないが、2人にとってこの球は大事なじいちゃんの唯一と言える形見だった。

 

「えー、ケチねー」

 

少女はしばらく悩むように顎に手を載せていたが、いいことを思いついたというように手を叩いた。

 

「そうだ! あんたたち(ボール)探し手伝ってよ!」

 

そして、こんなことを言い出す。

 

(ボール)探しをか……?」

「旅に出るってこと?」

「そうよ! どうせここにいてもヒマでしょ? 世界に出れば強い奴がいっぱいいるわよ!」

 

強いやつ。

蓮香も悟空も、その言葉に強く惹かれた。

何しろ2人とも、闘うことが大好きなのだ。

武術の心得のあった拾い親、孫悟飯に武術を少し教えてもらい、彼が亡くなってからも2人で組手などをしながら鍛えて来た。

 

もっと、強い奴と闘ってみたい。

 

蓮香も悟空も、顔を見合わせただけで相手の考えていることがわかった。

 

(ボール)探し、手伝うよ」

「あぁ!」

「うんうん。楽しい旅にレッツゴーよ!」

 

ルンルンで外に出て行く少女に、2人は慌ててついて行く。

 

「でもさぁ、他の球がどこにあるかわからないのにどうやって探すんだ?」

 

悟空がポカンとした顔でもっともなことを尋ねた。

すると少女は得意げに胸を張る。

 

「ふっふっふ。そこがわたしの頭のいいところよ! もちろん顔もかわいいけど」

「?」

「……」

 

じぶんで言っちゃうんだ……と蓮香は若干呆れた視線を少女に向けた。

 

「これよこれ。ドラゴンレーダー!」

 

しかし彼女からの視線には全く気づかず、少女はカバンから手のひらサイズのレーダー出した。

緑色の画面に、小さなオレンジ色の光がチカチカと点滅している。

 

(この世界にこんな近代的なものがあったとはなぁ)

 

転生してからずっと山暮らしをしていた蓮香は、素直に驚き感心する。

 

「球からわずかな電波が出てるのに気づいて作ってみたのよ。

ほら、この3つが今わたしたちの持ってるので……次はここね! えっと、西へ約1200公里(キロ)!」

「へーすごい。あなた本当に頭いいね」

「??? よーわからん」

 

悟空がこれを理解する日は一生来ないかもしれない、と考える蓮香は、別に悟空をバカにしているわけではない。

 

「あんたたちが車壊しちゃったから、違う乗り物出さないと」

「壊したのはあたしじゃないよ!」

 

悟空1人なんだから《あんたたち》とは言われたくなかった。

 

「まっ、細かいことはいいじゃない。ところであんた達、名前は?」

「オラか? オラ悟空だ。孫悟空」

「あたしは蓮香。孫蓮香!」

「あんた達って双子だったりするの?」

 

もっともな質問だな、と思う。

同じ年頃の子供が一緒に暮らしてたら、誰でもそう疑問を持つだろう。

 

「それがわからないんだ。あたし達はじいちゃんに拾われた身だし。

顔つきとかはあんまり似てないから、兄妹ではないと思うけど」

「ふ〜ん。確かにあんまり似てないかもね」

 

共通点と言ったら黒髪黒目のところだけ。

悟空はその小さな身長に見合う、どこかあどけない顔立ちやキラキラと輝く丸い目から、いかにも少年っぽい印象を与える。

一方の蓮香は、人形のように整った顔立ちと切れ長の瞳から、少し大人びた印象を与える。

兄妹にしては、あまりに似てなさすぎた。

 

「おまえの名前は?」

「…………ブルマ」

「「ブルマ?!」」

 

かなり間をあけて答えた女の子——ブルマに、蓮香と悟空の声が重なった。

 

「ははーっ、変な名前だな」

(まさか女子運動用パンツの名前とは……)

「うるさいわね! わたしだって気に入ってないわよ!!」

 

大爆笑する悟空とぽかんと口を開けて驚く蓮香に、ブルマが不機嫌丸出しで叫ぶ。

そして、誰か(おそらくブルマという名前をつけた自分の両親)にブツブツ文句を言いながら、カバンからなにかのケースらしきものを取り出し、

 

「何番だっけ……と。9番か!」

 

変なことを呟いた。

ケースから取り出したのは小さなカプセル。

ブルマはそのカプセルをぽいっと放り投げる。

 

「ほら、離れて離れて」

 

なんのことか、と2人が首を傾げたその瞬間、ボムッと小爆発が起こり……。

 

「ええっ?!」

「いぃっ?!」

 

煙の中からバイクが現れた。

うそぉ……、という表情で固まる蓮香と、

 

「やっ、やっぱりお前妖怪か何かだろ!」

 

如意棒を構えてブルマとバイクを威嚇する悟空。

 

「違うって言ってるでしょ〜。ホイポイカプセルなんて、都じゃ常識よ」

 

山暮らし歴12年の2人に、都の常識は通用しなかった。

 

「ほら、乗って乗って。行くわよー」

 

その声に蓮香がようやく我に帰り、バイクにまたがるブルマにおずおずとしがみつくように座る。

その後ろに悟空が座……

 

「うわぁっ!」

「きゃっ!」

 

ったとたん、ものすごい音と加速でバイクが発進した。

 

(ついに、物語は動き始める)

 



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2.球が無い!

まだ2話しか投稿してないのに感想・評価がたくさん来ていて驚きました。
とても励みになります!


「あと4つ見つければいいんだろ? 結構簡単だな!」

「悟空ったら、世界って広いんだよ?」

「蓮香の言う通りよ。そんな簡単に行くわけないじゃ無い」

「そういうもんか?」

 

ただいま悟空・蓮香・ブルマの3人はバイクで走行中。

道中、ブルマが翼竜(?)に誘拐されるなどの事件があったが、悟空と蓮香の活躍でなんとか救出に成功した。

 

「オラ腹へったな〜」

「あたしも〜!」

 

さっきから腹の虫が暴れてる。

2人がこの台詞を吐くのも、すでに3回目だった。

 

(この世界に来てからあたし、かなりの大食漢になったんだよね。その割にはチビだけど……!)

 

やはり蓮香はチビであることを気にしている。

彼女は前世から割と低身長だったのだ。

 

「そうね。辺りも暗くなってきたし、今日はここまでかな」

 

キィっとバイクが止まる。

蓮香と悟空はヒョイっとバイクを飛び降りて、長く同じ姿勢でいたために硬くなった体を大きな伸びをしてほぐした。

 

(あれ、そういえばバイクの三人乗りっていいのかな?)

 

不意に、そんな疑問が頭をかすめる。

 

「にしても道中、誰にも会わなかったわね〜。田舎にもほどがあるわよ」

 

(あっ、そっか。誰にも見られなければいいのかな!)

 

多分(というかほぼ間違いなく)そういうわけではないが、最近単純さが特に顕著になってきた蓮香は、あっさり納得した。

 

「よーし、今日はここで野宿か!」

「バカね〜、デリケートなわたしが野宿なんてできるわけないじゃ無い!」

 

ブルマならどこでも生きていけると思う。

この数時間一緒にいて、蓮香はそう思ったが、当然口にはしなかった。

 

「でもブルマ。野宿以外できないと思うよ」

「ふっふっふ。そう言う時こそこれよこれ」

 

笑みを浮かべながらブルマはカラカラとケースを振る。

 

「あぁ、ポイポイカプセル!」

「ホイポイカプセルよ」

「すっげーなぁ。家まで出んのか、それ」

 

ポイポイの方がいいやすいし、丸のあるかないかは大して関係ないのでは? と若干眉をひそめる蓮香。

 

(にしてもどう言う仕組みなんだ? あんなちっさいのに家が入ってるなんて)

 

「んーあの辺かな? ほら、離れて離れて。ほいっと」

 

悟空と蓮香が全力で離れて、ブルマがカプセルを投げる。

ボムッと小爆発が起こり、

 

「うわぁお」

「ひゃー」

 

十分大きいと言える家が現れた。

ここの技術すごいなぁ、と蓮香は本日何度目かの感嘆の吐息を漏らした。

 

「ほら、入って入って」

「……お前本当に魔法使いとかじゃ無いだろうな」

 

胡乱げな表情の悟空が、如意棒でツンツンと家を突く。

 

「大丈夫だよ。もしブルマが魔法使いだとしても、あたし達ならラクに倒せるでしょ?」

「それもそうだな!」

「怖いこと言わないでよ! わたしは正真正銘人間だってば!」

 

家の中は、普通の家だった。

少なくとも、蓮香達が住んでいた山の家とは比べ物にならないほど、普通だ。

 

「うわっ! なんだ、こん中だけ昼間みたいだぞ!」

 

悟空は電燈に驚き体をのけぞらせた。

確かにこの世界ではまだ見たことがないものだ。

蓮香にとっては、懐かしい、というだけのものだったが。

 

「電燈も知らないの? あんた達、本当に田舎もんねー」

 

一応知ってはいるのだが、なんとなく言い返せない蓮香。

まだこっちでは見たことなかったから、初見ということになるのだろうか。

 

「蓮香は驚きすぎて口も聞けないかしら?」

 

ブルマは、一見クールと取られなくもない雰囲気を醸し出す蓮香が、実は結構子供っぽくおしゃべりなことはこの数時間で理解していた。

そのためか家に入ってから一度も口を聞いてない彼女の心情をそう捉える。

 

「たしかに、驚いた。あたし達って世間知らず……」

 

だったんだなぁ、と続けるつもりだった蓮香の言葉は、悲鳴に近い悟空の叫び声にかき消された。

声の方に視線を向ける。

 

「あっ」

 

そこにはテレビがあった。

それに驚いて悟空は悲鳴をあげたらしい。

蓮香もつい驚いてしまった。

何しろ、テレビ見るのは12年ぶり。

自動車も電燈もあるのだからあってもおかしく無いのだが、テレビという存在はすっかり忘れていた。

 

そんな、いかにも田舎者といった反応を連発させる蓮香たちを見て、ブルマがニヤニヤと笑ってる。

 

「それよりさぁ。あんた達ちょっと臭くない? ちゃんとお風呂はいってる?」

「オフロ? オフロってなんだ」

「ギャーッ、不潔!」

 

こてんと首を傾げた悟空に、ブルマが悲鳴をあげた。

 

「水浴びならしてたよ」

 

生まれてこのかた体を洗ったことない、なんて流石に思われたくなかった蓮香が一応そう弁解しておく。

ブルマにとって、不潔であることは変わらなかったらしいが。

 

「水浴びって! イナカにもほどがあるわよ。洗ってあげるからこっち来なさい。あんたから」

 

ブルマがそう言って悟空を指差す。

 

「あたしは?」

「蓮香は女の子でしょ。孫くんが終わった後に入れてあげるわ」

「りょうか〜い。ありがとブルマ」

 

つまり男女一緒に入れないと。

 

(まぁ、いっつも一緒にいるからあんまり関係ない気もするけどね。あたし子供(ガキ)だし……。)

 

悟空がお風呂に連行されてから数分後。

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!!」

 

お風呂からブルマの絶叫が聞こえて来た。

 

(悟空……ブルマに一体何をした!)

 

 

 

 

 

 

ブルマの悲鳴の原因は、どうやら悟空の尻尾だったらしい。

普通の人にとってはかなり珍しい代物だ。

自分の尻尾の存在を知り、『へぇ、便利』とだけで済ませた蓮香はやはり只者ではない。

 

「ブルマ、お腹空いたから早くお風呂に入れて!」

「そ、そうね。わかったわ」

 

そうして蓮香もブルマについてお風呂場に行った。

 

「えっ、えっ! 蓮香、あんたにも尻尾が……!」

「うん。生まれた時から? あるよ」

 

実際生まれた時の記憶はないから知らないけど、という言葉は口からこぼれ出る寸前で飲み込んだ。

あったらそれこそおかしい。

 

「あんた達、一体何者よ……」

「人間……だと思うよ」

 

原作知識があればわかったことかもしれないが、残念なことに蓮香はそれを持っていない。

 

「あんたの髪って結構長いのね」

「生まれてから一度も切ったことないの」

「えっ?! あんた何歳?」

「12歳だよ」

「じゅうに〜〜?!」

 

そんなに驚くことないじゃない、と思ってしまう。

しかし、蓮香が思った驚かれた理由と、ブルマが驚いた本当の理由は違った。

 

「12歳にしては髪短くない?! 生まれて一度も切ったことないんでしょ?」

 

蓮香の髪は下ろすと腰あたりまである。普通に見たらかなり長い。

しかし、生まれてから一度も切ったことがないとなると別だ。

 

「じいちゃんが言うにはね、拾った時からこんぐらいあったって。

全然伸びないの。悟空も小さい頃からあんな髪型だよ」

「……断言できるわ。あんた達は人間じゃない」

 

(そんな……断言しなくても)

 

若干傷つく蓮香だった。

そんなこんなでお風呂は終わった。

久しぶりの石鹸のいい香りに、蓮香は思わず顔を綻ばせる。

 

「じゃあわたしもお風呂入るわね」

「りょーかーい」

 

蓮香はガシガシとタオルで髪を拭きながら、悟空のいる居間に戻った。

 

「……何してるの?」

 

そこでは、悟空がテレビのチャンネルを高速で変えて遊んでいた。

 

「おっ、蓮香か。おもしれぇぞ、これ。箱ん中に人がいるんだ。ここ押すと変わるんだぞ」

 

ものすごく無邪気で楽しそうな笑みを浮かべる悟空に、蓮香も子供らしい好奇心のようなものが湧いた。

 

「あたしもやっていい?」

「もちろんだ!」

 

ぱちぱちぱち、とテレビのボタンを押してチャンネルを変える。

リズミカルな音と、ちょうどいいボタンの押し心地。

ころころと変わっていくテレビの画面。

 

(これ、意外と楽しいかも!!)

 

 

 

 

 

 

「目がチカチカする〜」

「お、オラも……」

「あんた達、何してんのよ……」

 

ブルマがお風呂から出てくるまで、蓮香達はテレビのボタンをカチカチし続けた。

10秒で何回ボタンを押せるかというバトルはなかなかに白熱したものになる程だ。

蓮香は、この世界に来てからガキっぽさが増してるな、と実感する。

近くに悟空がいるせいな気もするけど、悪い気はしない。

……というより、むしろ楽しかった。

 

「はぁ、本当にガキなんだから。ご飯にするわよ」

「メシかっ?!」

「食べる!!」

「…………」

 

目を回して床に倒れ込んでいたはずの蓮香たちは、ブルマの言葉に飛び上がった。

 

(本当にガキね)

 

そう思いながら、ブルマは2人に呆れたような視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがメシか?」

 

テーブルに並べられた料理を見て、悟空が不思議そうに尋ねた。

並べられてるのは、パンやらサラダやら目玉焼きやら。

まるで蓮香が前にいた世界の朝食だ。

昔じゃ違和感なく食べていた蓮香も今では……。

 

「物足りない……」

「なんだこりゃ。スカスカしてるし、汁は苦いしよ」

 

山暮らしを続けて12年。

一般的に見るとかなりワイルドな食事ばかり取っていた2人には合わなかった。

 

「パンとコーヒーよ! 文句言わないで食べるの!」

「「うぅぅっ」」

 

これじゃお腹が膨れない。

その意見を無言で、視線を交わすこともなく蓮香と悟空は一致させた。

 

「ちょっと食べるもの取ってくる」

「オラ達には物足りねぇや」

「もうっ。スキキライしてるからチビなのよ、あんた達は」

 

うぐっ、と蓮香の口から小さなうめき声が漏れた。

チビを気にしている彼女にとっては、なかなかに痛い言葉だ。

しかし……

 

(好きなものを食べたいもんね!)

 

旺盛すぎる食欲が、小さなコンプレックスを上回った。

 

10分ほどの狩りを終えて、蓮香たちはカプセルハウスに戻った。

 

「ただいまーっ!」

「あら、早いわね」

 

悟空が元気にドアを開けて、ブルマが出てくる。

 

「みて、ブルマ! 狼とムカデが獲れたの!」

 

蓮香はつい、じいちゃんに見せてた時の感覚で、木にくくりつけた2匹の狼と握ったムカデを見せてしまった。

案の定……

 

「ギィヤァァァァァ!」

 

ブルマは絶叫を上げて、ドアを閉めてしまった。

 

(あっ、ごめんブルマ)

 

常識的な感覚を忘れていた蓮香だった。

 

 

 

 

 

 

「でへへ。この布団ふかふかで気持ちええな」

 

お腹いっぱい狼を食べて満足気な悟空が布団の上でボヨンボヨンと跳ねている。

蓮香もたっぷり好物を食べて幸せそうに目を閉じていた。

襲ってくる睡魔に、僅かな抵抗をする。

 

(味覚も変わったねー)

 

微睡みながら、ぼんやりと考える。

 

(ムカデが美味しいとか、さ)

 

昔は、その姿を見るだけで悲鳴をあげていたというのに。

今じゃ嬉々として鷲掴み、丸焼きにして美味しくたべれるのだ。

慣れとは、本当に恐ろしい。

 

「冗談じゃないわ。孫くんには毛布あげるから床で寝てよね」

「へ? 別々か?」

「当たり前でしょ。蓮香はどうする?」

「あたしは悟空と寝るからいいよ」

 

いつもそうしてるし、と付け加えると、ブルマが驚いた顔をした。

 

「まぁ、兄妹みたいなものなのね」

 

すでに眠気のピークにいた蓮香に、ブルマの言葉に返事を返す気力はなかった。

 

 

 

 

 

 

「うわぎゃあぁぁぁぁ」

 

次の日の朝、蓮香とブルマは悟空の盛大な悲鳴で起きることになる。

タマがないと言ってブルマを慌てさせていた悟空だが、ドラゴンボールはきちんとあったし……。

悟空言うタマがなんなのか、かなり気になる蓮香だった。

 

(嫌な予感がするなぁ……)



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3.悟空と蓮香・海へ走る

「ブルマ、まだー?」

「おまえのろいな〜、カメになっちまうぞ?」

 

ブルマはただいまお化粧中。

悟空はもちろん、蓮香もそんなものはしないので、床に座り込んで彼女を急かしている。

 

「うっさいわねー。何がカメよ」

 

急かされている本人は、鏡に向かいながら不機嫌そうだ。

 

「悟空、体操でもしてこようよ」

「おっ、いいな! ブルマ、外でてっぞ!」

「あー、はいはい。いってらっしゃい」

 

ブルマは蓮香たちの方を見ることもなく。しっしっとばかりに手を振る。

外に出ると、朝の空気が気持ちよかった。

んーっ、と伸びをしながら、一気に駆け出す。

悟空が近くにあった大きな岩を掴んで抱き砕いた。

すでに日常的とも言える当たり前の光景だ。

蓮香も負けじと、近くの岩を抱えて思いっきりぶん投げる。

それは20メートルほど先のところに落っこちて、砕けた。

楽しいなぁ、と思う時点で色々ヤバい気がするが、楽しいものは仕方ない。

 

「蓮香っ!」

 

するとその時、悟空の慌てた声が聞こえてきた。

 

「ん、なぁに?」

 

なんともとぼけたような声とともに振り向くと、目をひん剥いている悟空と……

 

「カメッ?!」

 

でっかいカメがいた。

 

「あいつ、本当にカメになっちまった!」

「ブルマがカメに?!」

 

この世界ではのろいとカメになるのか? と若干のパニックに陥りそうになった時、カプセルハウスのドアが開いてブルマが顔を出した。

 

「あんた達、なーにを騒いでるのよ」

「「あれっ?」」

 

今度はブルマを見て固まる蓮香と悟空。ブルマは怪訝そうに眉をひそめてから足元に視線を向けた。

 

「ん? 何これカメ?!」

「「ブルマ(おまえ)じゃないの(か)?」」

「アホ!!!」

 

まさに、一蹴。

この世界では何が起きるかわからないからさぁ、と蓮香は唇を尖らせる。

 

「これ、ウミガメじゃないのよ。なんでこんなところにいるの?」

 

もっともな質問だ。

というか、このでっかいカメ、ウミガメだったんだ。

蓮香はそこから驚いた。

この世界のカメでっか! と感心(?)する。

 

「す、すいません。塩水を一杯いただけませんか? できればワカメでもそえていただいて……」

 

喋ったぁぁぁぁ?!!

という悲鳴を心の中に押しとどめた自分を蓮香は無性に褒めてやりたくなった。

 

「贅沢なカメね〜」

 

 

(つ、突っ込むところはそこですか……!)

 

悟空が驚いてないのは当たり前だけど、ブルマも驚いていない。

つまり……。

 

(ここの世界の動物(?)は喋るのが普通なのか)

 

蓮香はまた一つ、この世界について学習した。

 

 

 

 

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

塩水(ワカメ添え)を完食したウミガメは、ぷはーっ! と息を吐いた後お礼を述べた。

礼儀正しいカメだなぁ、とどこかずれた感想を抱く。

 

「じつはわたくし…………カメなんです」

「見りゃわかる!」

「見たらわかるわよ!」

 

ウミガメの思わぬボケに、蓮香とブルマのツッコミが重なった。

 

「ウミガメのくせに松茸狩りに来たのが運の尽き。みんなとははぐれるわ道に迷うわ、もうかれこれ一年ほども海を求めて彷徨い歩いております」

「「「…………」」」

 

ツッコミどころがありすぎて、もうどうつっこめばいいのかわかりません、というのが蓮香の本音だった。

悟空の沈黙はよく理解できてないからだろう、という蓮香の予想は正解だったりする。

 

「海ってあんたねぇ……てんで方向違いよ?」

「海の場所は知らないけど、カメにはかなりの距離じゃない?」

 

ブルマは一度カプセルハウスに戻り、《MAP》と書かれた本を持ってきた。

 

「ほら、南へ約……120公里(キロ)

「120公里(キロ)ですか……?!」

 

驚いた後、ガックリとうなだれるウミガメ。

蓮香にとって、120公里がどれくらいの距離なのかの予想はつかないが、文脈としてなかなかの距離であることぐらいはわかる。

 

「オラ達がそのウミってところに連れてってやろうか?」

 

うなだれたカメにそう提案したのは、ポケーッとした顔で会話を聞いていた悟空。

 

「いいね、それ! あたし達の足ならすぐだよ…………多分」

「えっ、ほんとうですかっ?!」

 

最後に小さな声で付け加えた『多分』は聞こえなかったらしいウミガメが、嬉しそうに首をあげた。

しかしブルマは反対のよう。

 

「何言ってんのよ。時間の無駄だわ、ほっときなさいよ!」

「時間ならたっぷりあるじゃん」

 

蓮香がこう言い返すと、ブルマはますます口調を荒げた。

 

「たっぷりないの! 私にはあと30日しか残ってないんだから!」

「「のんびりしてたくせに……」」

 

同じタイミングで同じ言葉を発する悟空と蓮香。

でもここで、『連れてくのはやっぱり無理です。120公里頑張って』というわけにはいかない。

 

「じゃあオラ達だけで行ってくる」

「うん」

「勝手になさいよ! そのかわり、二度とわたしの目の前に現れないでよね!」

 

相当気に食わなかったのか、ブルマはフンっ! とばかりに顔を背けた。

悟空は大して気にしていないようで、ウミガメをひょいと背負う。

そうして蓮香達は、

 

「アホーッ。イナカもーん、帰ってくるなー!」

 

というブルマの叫びを背に、海を目指して走り出した。

しかしものの数分後、

 

「ちょっと待ちなさいよー! 仕方ないからわたしも付いて行ってあげるわ!」

 

ブルマはバイクに乗って後ろから追いかけてきた。

 

「あれ、二度と会わないんじゃなかったのか?」

「あんた、ほんとにかわいくないわねー!」

 

悟空は良くも悪くも正直すぎだった。

ブルマが付いてきた理由なら、蓮香は容易に想像がつく。

 

「一人でいるのが怖いんでしょー?」

 

ニヤニヤ笑いながらそういうと、ブルマは図星をつかれたようで、口ごもりながら否定した。

 

「ち、違うわよ! わたしの狙いはあくまでも、あんた達が持ってるドラゴンボールなんだから!」

「あぁ、なるほど」

 

あまり問い詰めるのはアレなので、と納得したように頷く。

 

(ブルマって、結構面白いよね)

 

 

 

 

 

 

時々蓮香と悟空でウミガメを背負うのを交代しながら、3人は海を目指して走り続けた。

その時、

 

「へっへっへ。いいモン持ってるじゃん」

「そのウミガメこっちによこしな。好物なんだよ」

 

岩陰から軽く3メートルはありそうな巨大なクマが2匹現れた。

鎧を着て、刀まで持っている。

喋っていることについても、蓮香はもう何も突っ込まなかった。

というか突っ込める雰囲気ではなかった。

 

「ひぇぇ。さぁどうぞ。孫くん達、早く差し上げて……!」

 

ブルマが怯え、薄情なことにあっさりとウミガメを売った。

しかし怖いもの知らずな蓮香達は当然、

 

「誰がお前なんかに渡すか、べー」

「あげるわけないでしょ!」

 

断る。

するとクマたちは、ただでさえ細い目をさらに細めた。

 

「素直に渡せば命だけは助けてやろうと思ったが」

「どうやら自分たちが食べられたいらしいな」

 

いかにも小物な悪人台詞を吐く2匹を一瞥し、蓮香は小さくため息をついた。

幸い(?)クマたちには気づかれなかったが。

悟空がのんきにウミガメを背から下ろす。

するとウミガメは、カメとは思えない速度で離れて行った(ついでにブルマも)。

 

「あたしはこっちをやるから、そっちはお願いね〜」

「わかった!」

 

見上げるような巨大グマが、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

蓮香は、これから始まる小さな戦闘に、心がワクワクするのを感じた。

 

一瞬の静寂……そして蓮香の目の前に立つクマは、彼女の2倍はある刀をおおきく振りかぶって……振り下ろしてきた。

しかし蓮香は全く危なげなく躱す。

こんなの、彼女にとっては遅かった。

 

「こっちだよー、ノロマさん」

 

そう挑発すると、クマはあっさり頭に血を登らせた。

 

「このガキ……死ねぇ!!」

 

再び剣を振り下ろしてきたが、それをバックステップで避ける。

そして……

 

「「ジャーン拳!!!」」

 

大きく跳び上がり……

 

「パーッ!!!」

「グーッ!!!」

 

平手をクマの胸あたりに食らわせた。

ズバーンッという派手な音ともにクマが数メートル先に吹っ飛んで大きな岩にぶつかった。

おまけに崩れた岩の下敷きになり……。

ご愁傷様、とでもいうように、蓮香は手を合わせて目を閉じた。

彼女の隣では、蓮香と同じくじゃん拳(ただしグー)を使ったらしい悟空が、額から血を流して倒れるクマの前でピースをしていた。

後ろでは、ブルマとウミガメが蓮香達2人の強さに驚いていた。

 

 

 

 

 

そこからさらに歩くこと10数分。

 

「やりました! 海ですよー!!」

「すげぇー、なんちゅう広い川だ!」

「悟空、川じゃなくて海だよ。綺麗だねー」

 

興奮するウミガメと悟空。

ウミガメにとっては1年ぶりの家(?)だから、興奮するのも仕方がない。

 

「ありがとうございますっ! あの、すこしお待ちいただけますか。お礼がしたいもので……」

「お礼?」

「玉手箱じゃないでしょうね」

 

玉手箱って……この世界にも浦島太郎の話があるの? ブルマが睨むような表情で言った言葉に、蓮香が首をかしげる。

ウミガメはそれだけいうと、遠く水平線に向かって泳いで行った。

さすが、歩いている時と違って速い。

あっという間に見えなくなった。

 

しかし数分後、

 

「なにかしら、あれ」

 

砂浜に木の枝で落書きをしていたブルマが一番に気づいた。

悟空と蓮香もブルマの視線が向いている方を見る。

 

「さっきのカメだけど……」

「上にだれか乗ってるなぁ」

「よくあんなの見えるわね、あんた達」

「あたし達は山育ちで目がいいの」

 

言った後で、某アニメ映画にこんなセリフがあったな、と気づいた蓮香だったが、特に気にしなかった。

そのカメはどんぶらこどんぶらこと近づいてくる。

そして蓮香たちのいる浜辺に到着した。

 

「ハロー!」

「お待たせしました!」

 

カメの背中に乗っていたのは、派手なシャツに短パンサングラス。

長い杖を持って甲羅を背負っている、髪の無くなった(つまりハゲた)爺さんだった。

場にそぐわないファンキーさに、呆気にとられる蓮香たち3人。

おそらく全員同じ気持ちだったはずだ。

 

(((……だれ?)))



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4.亀仙人の筋斗雲

海に帰れず困っていたウミガメを助け、海にやってきた蓮香たち3人。

お礼がしたい、というウミガメが連れてきたのは……ものすごくファンキーな老人だった。

 

「グッドアフタヌーン」

 

日本の漫画だから英語があるのも当たり前……?

思うところはそこか、と思わず突っ込みたくなるようなことを考える蓮香。

 

「亀を助けてくれたそうじゃな」

「じいちゃんなにもんだ?」

 

その場の全員一番気になっていたことを、悟空がズバリと訊いてくれた。

 

「わしは、亀仙人じゃ!!」

 

本名か、渾名か。おそらく後者だろう。

得意げにいうあたり、もしかしたら有名な人なのかもしれない。

蓮香には……おそらく悟空とブルマにとっても、聞き覚えのない名前だが。

 

「助けてくれたのは誰じゃ?」

「お坊ちゃんとお嬢ちゃんの方です」

 

亀仙人は視線をカメから蓮香と悟空の方に移す。

 

「ご苦労さんじゃったな。では、お礼に素敵なプレゼントをやろう」

「「プレゼント?」」

 

蓮香と悟空が声を揃えて亀仙人の顔を見上げる。

亀仙人は海の方に向き直ると、持っていた杖を掲げて高らかに叫んだ。

 

「来いっ、不死鳥よ!」

 

………………

 

「何も来ない」

「来ないわね」

 

ちょうど同じタイミングで、蓮香とブルマが口を開いた。

 

「あのー」

 

そこに声をかけたのはウミガメ。

 

「不死鳥のやつは食中毒で死んだんじゃ……」

「そうか! そう言えばそうじゃったの」

 

死ぬ時点でそれ、()()鳥じゃなくないか? と、蓮香は心の中で突っ込んだ。

 

「ウーム……不死鳥を呼んで永遠の命をやろうと思ったのじゃが。

よし、では代わりにこれをやろう」

 

しばらく顎に片手を当てて考え込むそぶりを見せていた亀仙人は、再び海の方に向き直り、杖を掲げた。

 

「来るんだ、筋斗雲よ!!」

 

するとその声に呼ばれたかのように、黄色い雲が空から猛スピードで飛んできた。

 

「あっ!」

「いっ?!」

「雲がっ」

 

三者三様で驚く蓮香たちの隣で、亀仙人がホッとしていたことには、誰も気づかなかった。

飛んできた雲は、彼らの前でキキィッと急停車した。

 

「筋斗雲じゃ。これをお主ら2人にやろう」

「……どうやって食うんだ?」

「綿菓子みたいでおいしそう……?」

「ありがたい雲を食うなっ!」

 

唾を飛ばしながらつっこんだ後、亀仙人は真剣な顔(サングラスのせいでよくわからないが)に戻って驚くことを言った。

 

「筋斗雲に乗れば、意のままに空を飛ぶことができる」

「空を飛ぶ!」

「へーっ、飛べるのか!」

 

パッと目を輝かせた蓮香と悟空。

亀仙人はただし、と言葉を付け加える。

 

「この筋斗雲は清い心の持ち主でないと乗れん。つまり良い子じゃなくてはいけんということじゃ。どれ、わしが見本を見せてやろう」

 

そういうや否や、亀仙人はヒョイっと雲の上に乗………れなかった。

亀仙人の体がズボッと雲を突き抜け、したたかに腰を打つ。

グキッという嫌な音が聞こえたのは、蓮香たちの気のせいではなさそうだ。

 

「あいたたた、こ、腰が」

「だ、大丈夫ですかっ?」

「キャハハハハ」

 

亀仙人のうめき声と、彼を心配するウミガメの声に、ブルマの大爆笑が重なる。

ブルマは多分、筋斗雲に乗れない……。

蓮香は直感的にそう悟った。

 

「オラ乗ってみる!」

 

今度は悟空がそう言って、ヒョイっと雲の上に乗………れた。

 

「「「へ?」」」

「悟空すご〜い!」

 

驚く亀仙人、ウミガメ、ブルマの声に、蓮香の呑気な声が重なった。

 

「蓮香も乗ってみろよ!」

「あ、あたし? 乗れる自信が……」

「蓮香なら大丈夫だって!」

 

若干逃げ腰になる蓮香の手を強引にひっ掴み、悟空は彼女を引っ張り上げた。

蓮香は反射でぎゅっと目を瞑る……が。

 

「えっ……乗れた!」

「乗れた乗れたーっ!」

 

雲の上で呆然とする蓮香と、喜ぶ悟空。

筋斗雲は、見た目小さいが2人で乗るには充分な大きさだった。

 

「蓮香、オラにしっかり掴まっとけよ」

「へ?」

「それ!」

 

悟空が声をかけると同時に、筋斗雲はものすごい勢いで空へ飛んだ。

 

「やっほー」

「うわっ……た、たのし〜い!」

 

慌てて悟空の背にしがみついた蓮香だが、慣れるとすぐに笑い声をあげる。

 

数分空を飛び回り、蓮香と悟空は筋斗雲をブルマ達のところまで戻らせた。

 

「すごいやこれ! どうもありがとう!」

「楽しいっ! 亀仙人のじいちゃん、ありがとねっ!」

「うむ。なかなか見事な雲さばきじゃ」

「ねぇねぇおじさまっ! わたしにもあれちょーだいっ」

 

ブルマがワクワクと目を輝かせながら亀仙人に頼む。

 

「ふむ……あいにくとあれは1つしかなくての。代わりに何かやっても良いのじゃが……ただし」

 

蓮香はなんとなく、亀仙人が次に何をいうのか予想がついた。

顔を赤らめ、だらしなくヨダレを垂らしているのだから、気づくのも当たり前だが……

 

「パ、パンチー見せてくれたらな!」

「えっ……」

「……スケベジジイ」

 

顔を赤らめ驚くブルマと、冷めた目で筋斗雲の上からポツリと呟く蓮香。

 

「仙人ともあろうお方がなんということを!」

「うるさい! 仙人だってパンチーを見たいわい!」

 

真面目らしいウミガメが亀仙人に怒るが、当の本人は全く意にも介さない。

 

「筋斗雲に乗れない意味がわかりますよ……」

「カメのくせにうるさいわい!」

「…………いいわ。それぐらいなら、なんとか……」

 

ブルマが顔を赤くして頷く。

蓮香はなんとも嫌な予感がして、やめたほうがいいと声をかけようとしたが既に遅く……

 

「はいっ!」

 

ブルマが寝巻きのワンピースの裾を掴みめくりあげた。

 

「あっ……」

 

蓮香が小さく声をあげた。

と同時に、亀仙人の鼻から勢いよく血が噴き出る。

ブルマは、下着をつけていなかった。

 

「きゃっ。恥ずかしい……」

 

この様子を見る限り、ブルマ本人はそのことに気づいていない。

 

(い、言ったほうがいいのかな……)

 

蓮香は結局、知らぬが仏ということわざを思い出し口をつぐむ。

事実を知ったブルマが、鬼と化すことは容易に想像できたからだ。

せっかく筋斗雲をくれたじいちゃんが死ぬところを見るのは嫌だった。

 

「ねぇねぇ! で、何をくれるの?」

 

何も知らないブルマが呑気に尋ねる。

 

「あっ、そ、そうじゃな……」

 

そう言った限り、考え込むように黙ってしまう亀仙人。

どうやら、何をあげるかは考えていなかったようだ。

その時、ブルマの目にあるものが止まった。

 

「ちょ、ちょっとそれ見せて!」

「えっ?! わしのブリーフをかっ?」

 

今の会話からどうしてブリーフを見せるという考えが出てくるのか……。

蓮香とウミガメはかなり本気で呆れた。

 

「んなの見たくないわよ! その首から下げてるやつ!」

 

亀仙人は確かに、首から何かを下げていた。

長い髭に隠れてよく見えなかったが……。

 

「やっぱり!」

「「あっ」」

 

嬉しそうなブルマの声と、驚いたような蓮香、悟空の声が重なった。

 

「ドラゴンボールだっ!」

「星が3つかあるから、三星球(サンシンチュウ)というやつだなっ!」

「ラッキー。これ、レーダーのずっと南に映ってたやつよ」

 

思わぬ収穫に、ブルマの機嫌が一気によくなる。

 

「待て待て、まだそれをやるとは言っておらんぞ。…………高く売れるかもしれんし」

 

完全にもらう気になっているブルマを亀仙人が諭す。

確かに、3人がこれだけ異様な盛り上がりを見せれば、渋ってしまうのも当たり前かもしれない。

 

「いいじゃない、ホラッホラッホラッ!」

「……あっ……」

 

なんどもワンピースの裾をめくりあげるブルマ。

蓮香は止めるタイミングを逃し、またもや固まった。

亀仙人も再び鼻から大量に出血させ、

 

「よ、よかろう……あげる」

 

あっさり落ちた。

 

「やったやったー!」

 

飛び跳ねて喜ぶブルマと悟空。

ブルマはこのあと着替えるであろう……そして自分が下着を履いていなかったことに気づくはずだ。

その時起こる惨事を思って、蓮香は曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。

 

(朝の、タマがない騒動は、これか……)

 

そして蓮香は、ブルマの下着を脱がしたのが悟空であることに気づいたのだった。

 

 

 

 

 

 

そのあと亀仙人と別れカプセルハウスに戻った3人。

一度着替えにブルマが家の中に入り……程なくして絶叫が聞こえてきた。

なんだなんだ? と驚いて家に入っていく悟空。

蓮香は、飛んで火に入る夏の虫、という言葉を思い出していた。

悟空を思って心の中で合掌する。

しかし悟空をかばうつもりは毛頭なかった。

 

(理由はなんであろうと、これは悟空が悪い)

 

悟空がハウスに入って数秒後、激しい銃撃音がカプセルハウスから鳴り響いた……。

 

 

 

 

 

 

「あんた達の筋斗雲で行ったほうが早そうね。乗せてよ」

 

悟空を銃で撃ちまくって納得したのか、それともドラゴンボールが見つかったことがよほど嬉しかったのか、ブルマの機嫌はあっさりと治った。

 

「たぶん無理だと思う……」

「大丈夫よ蓮香。わたしは細いから3人乗っても平気よ」

 

そういう問題(コト)じゃない、とは怖くて言えなかった。

 

「でもこれ、良い子じゃないと乗れねぇんだぞ」

「失礼ね! 私はいつも清く正しいわよ!」

「…………」

 

蓮香はあえて何も言わない。

 

ブルマは、その自信はどこからくるのかといいたくなるほど自信満々に筋斗雲に飛び乗………れなかった。

ズボッと体が雲を通り抜け、顔面から地面に突っ込む。

 

「それみろ」

「やっぱり……」

「どうして……! 美しすぎることも罪なの?!」

 

多分、自覚していないのが一番罪なんだと思う……つい口から出てしまったそのつぶやきは、幸いなことにブルマの耳には届かなかった。

結局ブルマは、筋斗雲に乗る蓮香たちの後をバイクでついていくことになった。

 

「ノロいなぁ」

「うっさいわね! あんたたちはスピード違反よ!」

「……それならブルマは銃刀法違反じゃない?」

 

 

 

 

 

 

そして3日も経った頃。

 

「レーダーだと、この辺ね〜」

「あっちに家がたくさんたってるよ」

「村っぽいぞ。あそこにあるんじゃないのか」

 

3人はようやく1つの村にたどり着いた。

しかし、不自然なほど静まり返っている。

 

「人の気配はあるのになぁ」

「不気味ね……」

「みんな寝てんじゃねぇのか」

「悟空……もう昼近いよ」

 

(静けさが……怖い)



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5.ウーロンあらわる!

奇妙に静まり返ったとある村。

ここに5つ目のドラゴンボールはあるのか……。

 

「こんにちはーっ。だれかいますかーっ?」

 

ブルマが叫ぶが、なんの声も、音も返ってこない。

 

「おかしいなぁ」

「人の気配はたくさんするのにね……?」

「でも、ここにドラゴンボールがあるのは間違いなさそうよ」

 

カチカチ、とドラゴンレーダーを弄るブルマ。

 

「確かめてみる!」

 

蓮香はピョンっと筋斗雲から飛び降りると、適当にその辺の家の扉をノックした。

 

「誰かいるんでしょー? なんで返事しないのー?」

 

やはり、返事はない。

しかし気配はあるので、居留守をしているのは間違いなかった。

扉を開けようとドアノブを回すが……

 

「開かない……」

「鍵がかかってるみたいね」

「ならこうすりゃいいじゃねぇか」

 

そういうや否や、悟空は蓮香をどかすような形で扉の前に立ち、

 

「やっ!」

 

ドアノブに向けて拳を叩き込んだ。

バキッ! という音ともにあっけなく大きな穴が空く。

 

「ほれ、開いたぞ!」

「あんた無茶するわねー」

「悟空ったら……」

 

そして悟空は全くためらいなく扉を開けて中に入る。

その時、

 

「とーーーっ!」

 

家の奥から変な叫び声が聞こえ……バキッという嫌な音ともに悟空の頭に斧が振り落とされた。

割れたのは悟空の頭ではなく斧の方だったが。

 

「いっ、いちちちち」

「ひ、ひえええ………!」

 

頭を押さえて涙を浮かべる悟空と、突然のことに驚き怯えるブルマ。

 

「おじさんいきなりなにすんのっ?!」

「や、やっぱりダメだったか……」

 

怒り心頭、といった様子の蓮香に、攻撃を仕掛けてきたおじさんはがっくりとうなだれた。

 

「す、すみませんウーロン様! 食べ物でもお金でもなんでも差し上げますっ。娘は……娘たちだけはどうかっ」

「「「へっ?」」」

 

手を合わせ、必死に頼み込んでくるおじさんと、全く訳がわからず首をかしげる3人。

 

「あの……ウーロンって、お茶……じゃないよね?」

 

戸惑ったような蓮香がこてんと首を傾げながらそう言うと、今まで何度声をかけても出てこなかった村の人たちがわらわらと家から出てきた。

 

「なーんだ、ウーロンじゃなかったのか」

「どおりで少し時間より早いと思ったわ」

 

そんなことを話しながら。

 

 

 

 

 

 

 

「いやーすまんすまん! てっきりウーロンのやつが化けてるんだと……」

 

悟空にいきなり斧を叩き込んできたおじさんが、頭をかきながら申し訳なさそうに謝る。

おそらくその人の娘だろうと思われる2人が、タオルを濡らし、悟空の頭にできたたんこぶに置いた。

 

「早とちりもほどほどにね……」

「わたしだったら死んでたわよ!」

「め、面目無い」

 

あれだけの勢いで斧を振り落とせば、普通は無事じゃない。

石頭の悟空(蓮香でもおそらく大丈夫だろう)じゃなかったら、一体どうなっていたか……。

 

「きゃっ!」

 

いきなり聞こえてきた悲鳴に蓮香とブルマが振り向くと、悟空が治療をしてくれた女の子の股あたりを叩いていた。

 

「おまえ、女だろ!」

 

そして無邪気な笑顔でそう言った途端、バキッ! というすごい勢いとともに悟空の体が吹っ飛び、壁に叩きつけられた。

 

「バカっ?!」

 

顔を赤くして、蹴り技を決め終えた姿勢のまま叫ぶ蓮香。

 

「い、イデー、何すんだよ蓮香!」

「何すんだよじゃない! 何サラッと痴漢みたいなことしちゃってるのよっ! もし次またやったら、今度は本気で蹴るからねっ!」

「なんでだよー」

「…………ところでさっきから言ってるウーロンって何者?」

 

ブルマはどうやら、喧嘩するガキ2人は放っておくことにしたらしい。

 

「ウーロンというのはこの辺りに住んでる妖怪です」

「「妖怪?」」

 

ギャーギャー言い合っていた蓮香と悟空も、同じワードに反応して振り向く。

 

「はい。どんなものにも姿を変えることのできる、そりゃ恐ろしいやつなんです。奴の本当の姿を見たことがあるやつはおりません」

「ふーん……。で、そのウーロンがどうしたの?」

「はい……実は先日ウーロンが鬼の姿でやってきまして、わしの娘2人を嫁にもらいにくると……」

「2人とも?」

 

どちらか1人ならまだわかるが……と怪訝そうな顔で聞き返す蓮香に、おじさんは表情を暗くして頷いた。

 

「こいつがなかなかスケベなやつでして、もう村の娘が何人もさらわれているんです」

「逃げられないの?」

「逃げたり歯向かったりすると、村の人たちを全員食い殺すと……」

「そんなのやっつけちゃえばいいじゃんか!」

 

いとも簡単そうに言ってのける悟空。

それに蓮香も頷くことで同意した。

 

「そ、そんなっ。こーんなでっかいやつなんですぞ!」

「本当はものすごーくちっさいやつだったりするかもだよ? 本当の姿は誰も見たことないんでしょ?」

「そ、それはそうかもしれませんが……」

「……そうだ!」

 

いきなり、何かを思いついたかのようにカバンをあさり出すブルマ。

取り出したのは、ドラゴンボールだった。

 

「ねぇねぇ、誰かこれと同じの持ってたりしない?」

 

1人、それに反応した人がいた。

 

「ほいなっ。あたしゃそれとおんなじのを待っとるぞい」

 

扉のところからこちらを伺っていた人たちのうちの1人だった。

 

「パオズばあちゃんが?」

「やっぱりあった!!」

 

パオズばあちゃん、と呼ばれたおばあちゃんは、前掛けのポケットを探り、オレンジ色に輝く小さな球を見せた。

 

「これじゃろ?」

「これこれっ!」

「1、2……六星球(リュウシンチュウ)だ!」

「やったねブルマ!」

 

素直に喜ぶ蓮香と悟空の隣で、ブルマの顔に人の悪い笑みが浮かんだ。

 

「どう、おばあさん? その球わたしたちにいただけたら、ウーロンっていう妖怪を退治してあげるわ」

 

この提案に対してパオズばあちゃんは……

 

「いやぁ、そりゃ退治してくれるってならいいけど、女のあんたにはちょっとばかし無理がないかい?」

「退治するのはわたしじゃないわ……この子たちよ!」

 

蓮香と悟空の前に、ビシィッとブルマの指が突きつけられる。

 

「へ? この子たちが?」

「この2人、見た目は子供だけどものすごく強いのよ。見たでしょ? 斧にも負けない硬い頭と、鋭く威力のある蹴りをっ!」

 

ブルマの言葉に、『たしかに……』とか、『こりゃひょっとすると……』なんて言葉が飛び始める。

 

「いやしかし……もしウーロンを倒すことができてと、奴の住処が分からなければ攫われた娘達が……」

「それにもいい考えがあるわっ!」

 

自信満々で言ってのけるブルマに、蓮香は少し嫌な予感を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでオラがこんなヒラヒラしたやつを着るんだよ〜」

「う、動きにくい……」

 

ブルマのいい考えとは、蓮香と悟空が今日攫われる娘達に成り代わってウーロンの住処を突き止めるというものだった。

そのため攫われるはずの娘2人から服を借りたのだが、当然スカートで蓮香も悟空も不満たらたらだ。

 

「ブルマー、これ恥ずかしい!」

 

何しろ12年ぶりのスカートだよ! という蓮香の思いは、叫ぶことなど当然できない。

 

「大丈夫よ〜。蓮香とっても可愛いわよ。孫くんもまぁ誤魔化せるわ」

「「ううぅっ」」

 

その時、村の人が慌てたように家に入ってきた。

 

「ウーロンのやつがやってきたぞ!」

 

その言葉を聞いて、その場にいた村人達が慌てて家に逃げ込んで行く。

 

「じゃあ頼んだわよ、2人ともっ!」

 

ブルマもそれだけいうと、蓮香と悟空を家から放り出してバタンと扉を閉めてしまった。

 

「……薄情者」

「めんどくせぇなぁ」

「1発でやっつけちゃいたいよね」

 

不穏な会話をしながらその場にしゃがみこむ。

するとそんな2人に、ズシーンズシーンと派手な足音を立てて何かが近づいてきた。

蓮香がこっそり振り向くと、そこにいたのはブタと鬼を足して2で割ったような化け物。

縦3、4メートル。横1メートルぐらいありそうだ。

どんな姿にも化けられる……というはずなのに、女の子を嫁に迎えにくる姿ではない。

蓮香は恐怖など微塵も感じずそれだけ思った。

 

「いひひ、迎えにきましたよお嬢さん方」

 

そんな化け物が花束を持ってこの口調。

蓮香はかぶった頭巾の陰でウェッと顔をしかめる。

ついでに、隣の悟空がぶるりと震えたことにもなんとなく嫌な予感がした。

 

「そうか、この姿が怖いんだね」

 

悟空の震えを恐怖と勘違いした化け物ーーーウーロンはそう言って……

 

「変化っ!」

 

ボムッ、とカプセルハウスが現れる時のような軽い爆発が起きる。

現れたのは、渋くてイケメンなおじさまだった。

 

「あらー」

「うわぁお」

 

変化を間近で見て驚く悟空と蓮香

その時、バタンと扉の開く音がして……

 

「はじめまして〜。わたしブルマと言います。16歳でーす。エヘエヘ」

「…………」

 

目をハートマークにし、今にもヨダレを垂らさんばかりのブルマが出てきていた。

先ほどのブタオニを見ていなかったのだろうか。

蓮香は呆れて、開いた口が塞がらない。

 

「ほ、ほぉ。バストのサイズはいくつかな?」

「85っ!」

「…………」

 

真面目な顔で尋ねるウーロンと、わざわざジャケットの前を開いて躊躇いなく教えるブルマ。

蓮香は呆れて、開いた口が塞がらない。

そこで蓮香は、隣にいたはずの悟空がいないことに気づいた。

ちょうど同じタイミングでウーロンも気づいたらしい。

 

悟空は、3人が立つところから少し離れたところにある木の前に立って……

 

「……悟空のバカ……」

 

立ちションをしていた。

蓮香は作戦が失敗することを悟り、このあとの展開を予想して、邪魔な頭巾を外す。

 

「ぐおぁぁっ! 俺の大嫌いなものが付いているーっ!」

 

蓮香の予想通り、悟空を覗き込んだウーロンが太い悲鳴をあげた。

 

「お、おまえ! 昨日の娘じゃないなっ?!」

「えっ? オメェ、パンパンしてねぇのによくわかったな」

 

怒り狂うウーロンに、なんとも呑気な悟空。

蓮香は呆れて……以下略。

 

「悟空。戦闘準備」

「? あぁわかった」

 

まだなんとなく状況の理解が追いついていない悟空も、蓮香の言葉に条件反射で構える。

 

「……よくも、よくもウーロン様を騙してくれたなぁ……変化っ!」

 

ボムッという煙の中からあられたのは、巨大な化け物牛だった。

 

「ブルマ、中に入って!」

「はっ! わたしったらいい男を見るとつい……」

 

ブルマも慌てて家の中に入る。

 

「作戦変更よ。蓮香も孫くんも、遠慮なくぶっ飛ばしちゃって!」

「言われなくても、だよね。悟空」

「あぁ。最初からこうすりゃよかったのによ」

 

戦闘態勢をとる蓮香と悟空。

しかし表情は大して真剣なものではなかった。

むしろ、これから始まる戦闘にワクワクしているという表情だ。

 

(あたしも悟空も、まどろっこしいのは嫌いなの)



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6.ウーロン対孫悟空・蓮香

村人の持っているドラゴンボールをもらうため、恐ろしい変身妖怪ウーロンを退治することになった悟空と蓮香。

()()()()()運命やいかに……!

 

 

 

 

 

「よーしかかってこい!」

「むふふふ、謝るのなら今のうちだぞ小僧ども」

「謝るのはあなたでしょ? ほらほら、そっちからかかって来なよ!」

 

どこか楽しそうな笑みを浮かべながら構えを取る悟空と蓮香。

一方、ウーロンが変化した大牛は……

 

「いいか?! もう1回言うぞ! オレ様はめっちゃんこ強いんだぞ! 」

 

そんなことを言うばかりで全く攻撃してこない。

 

「うるさいなー。ごちゃごちゃ言わんでかかってこいよ!」

「おまえはアホか?! 勝てるわけないんだぞ! 死ぬんだぞおまえ!」

「わかった。わかったから! かかってこないならあたしたちから行くよ!」

 

業を煮やした蓮香がグッと拳に力を入れる。

とその時、ウーロンがちらりと村の時計を見たと思ったら、くるりと方向転換をして村から出て行って行ってしまった。

 

「えぇっ?!」

「あっ、こらーっ! 逃げるのかーー!」

 

一瞬、驚きで動きを止めた蓮香たちも、慌ててウーロンの後を追う。

村の外に出るが、大牛の姿はどこにもなかった。

いたのは口笛を吹いてる変な豚だけ。

 

「なぁなぁ、今ウシが出てっただろ?! どっち行った?」

「あっち」

 

悟空がその豚に尋ねると、豚はためらいなく西側を指差した。

 

「素早いやつだなっ!」

 

ダダダッと悟空は駆け出したが……。

 

「悟空待って!」

 

蓮香がそれを呼び止めた。

 

「ん? なんだ蓮香。さっさと追わないと逃げられ……」

「怪しくない?」

 

悟空の言葉を蓮香が遮った。

 

「何がだ?」

 

悟空はわけがわからず首を傾げたが、蓮香の表情は至って真剣だ。

 

「あなたさぁ」

 

蓮香がこう話しかけたのは悟空ではない。

口笛を吹いていたあの豚だ。

 

「どうしてウシを怖がらなかったの?」

「へっ?」

 

ピシッと指を突きつけられながらそう訊かれ、豚は思わず間抜けな声を出した。

 

「いま探してるウシさぁ。あたしたちは全然怖くないけど、普通の人が見たら怖いと思うんだよね」

「…………」

 

豚は何も返さないが、その顔には若干の焦りが見受けられる。

 

「普通、あんなウシを見たら逃げるなら村に駆け込むなりすると思うの。悲鳴の1つでもあげたり。……呑気に口笛なんて吹いてられるかな?」

「…………」

 

豚は、何も言わない。

悟空は、蓮香の言いたいことがなんなのかを察し、あっ! と声をあげた。

 

「「あなた(おまえ)は…………ウーロンが化けてるんだなっ!!」」

 

声を揃えてそう言った途端、何故か豚がズッコけた。

 

(正体がバレて驚いてズッコケたのかな?)

 

すると豚がボムッ! と煙に包まれて、現れたのは……

 

「なんだこいつ?」

「……さぁ……ラーメンマン、とか? ラーメン持ってるし」

 

片手に箸、片手にラーメン。

胸には『根』『性』と書かれているロボット(?)だった。

 

「ぐはははっ! よくも見破ったな! だが1つ勘違いをしている。このウーロン様が逃げるわけなどないだろう!」

「じゃあ何してたの?」

「忘れ物を思い出しただけだっ!」

「……あっそ」

 

嘘が下手だな、と蓮香は思ったが口にはしなかった。

 

「じゃあ戦うぞ!」

「戦おっか、強〜い強〜いウーロンさん」

 

さっと構えを取る2人。

 

「お、おまえら! 本気でオレを怒らせてもいいんだなっ?」

 

ウーロンがそう言った時、村の子供が放ったパチンコ玉が(恐らく)彼の後頭部に命中した。

カンッ、という軽い音と共に。

 

「ぎゃっ!! あいたたた……!」

 

決して重い音ではなかったはずだが、大袈裟に痛がるウーロン。

 

「ば、バッキャロー! 子供の面倒はよく見ておけーっ!」

「す、すいませーん!!」

 

若干涙目になりながら、パチンコを放った子供の親を怒鳴る。

 

「「…………」」

 

そんなウーロンを蓮香と悟空は呆然と見ていた。

 

「ふ、ふっふっふ……。とんだ邪魔が入ったぜ……」

 

まだ涙目だが、なんとか蓮香たちの方に向き直ったウーロン。

その姿からは、全く強さが感じられない。

 

「おまえさぁ……ひょっとして、ものすごく弱いんじゃねぇのか?」

「なんていうか……小物悪党感が満載……」

「なっ……! だ、誰が弱いだとっ?! 小物悪党とか言うな! 俺様は世界一強いと有名なんだぞ!」

「そうかなぁ?」

「嘘っぽい……」

「な、なんだとぉ……。そう言うおまえらはどうなんだ? 強いのか? えぇ?!」

 

ウーロンがギャーギャーと喚くが、蓮香も悟空も『強い』と即答した。

 

「そ、そこまで言うならお前ら……このレンガ3枚素手で割れるか?」

 

そう言いながら、2人分レンガを3枚積み重ねるウーロン。

蓮香は、どこから持ってきたんだそのレンガ……とツッコミたくなった。

 

「こんなの、指一本で割れるぞ。な、蓮香」

「うん。……せーのっ」

 

バコッ!

 

「「ね(な)?」」

 

言った通り、蓮香も悟空も右手人差し指だけでレンガ3枚を貫き割った。

恐るべき怪力である。

 

「…………」

 

ウーロンは驚きか恐怖か(恐らく両方)で硬直している。

そして……

 

「変化っ!」

 

ボムッという小爆発。

現れたのは明らかに戦闘に不向きな豚顔コウモリ。

 

「わははははっ! …………退散っ!」

 

わけのわからない笑いを残したと思うと、ウーロンが化けた豚コウモリはバタバタと飛んで逃げて行ってしまった。

 

「なんだったんだ、あいつ」

「ぼけっとしてないで捕まえるよ! 筋斗雲っ!!」

 

蓮香は悟空の頭を軽くパシッと叩くと筋斗雲を呼んだ。

すぐさまとんできた筋斗雲に飛び乗り、ウーロンを追って空へ駆け上る。

ウーロン……豚コウモリはすぐに見つかった。

 

「へっへっへー、もう逃げられないぞー」

「観念なさいっ!」

「げげっ!」

 

追いつかれたことにギョッと目を向いたウーロンは、すぐに

 

「変化っ!」

 

と叫ぶ。

今度はロケットの姿だった。

ドヒュンッ! と方向転換して逃げていくが、蓮香と悟空も筋斗雲に乗ったまま追いかける。

 

「やっ、やばいっ!! そろそろ時間がっ」

 

するとウーロンはいきなり変なことを言った……その瞬間。

 

「やっぱし……」

 

ボンッ! という音と共にロケットの姿が消え、代わりにさっきの豚が現れた。

 

「「あっ!」」

 

豚は重力に従ってどんどん落ちていくが、悟空が彼をひっ掴み事なきを得た。

 

「お前が本当の姿だったのかーっ!」

「さ、流石に本当の姿とは考えてなかった」

「お、お前らこそ一体何者なんだ……?」

 

こうしてウーロンはお縄についた。

 

 

 

 

 

 

ウーロンを縄につないで村に帰った蓮香たち。

 

「こ、この子がウーロンの正体だったわけ?」

「やれやれ、怒る気にもなれんわい」

 

驚くブルマや村人達。

……今まで恐れていた妖怪がまさかの小さな豚だったのだから当たり前だが。

 

「攫われた娘達は無事なんじゃろうな!」

「は、はい……すごく」

「すごく?」

「とにかくあんたの家まで案内してもらうわよ!」

 

ブルマが強気にそう言って、村人総出でウーロンの住処へ行くこととなった。

 

(こんなにぞろぞろ全員で行かなくていいと思うけど……)

 

こう思いながらも口に出せない蓮香だった。

 

「あんた生意気な家に住んでるわねー」

 

ウーロンの住処についた時のブルマの第一声。

小さな城といっても過言じゃないほど立派な家だった。

 

「ひゃー、すげー家だな」

「ふふふ、そこらじゅうから金を巻き上げて作ったのだ」

「そこ! 威張っていうとこじゃないからっ!」

 

そうしてその大豪邸に入ったわけだが……

 

「ヘッジっ! お父さんが迎えにきたぞ!」

「ホッグちゃん! ママよ!」

「リー! もう安心だぞ!」

 

そこにいたのは若い娘が3人。

3人とも、怖がっていた様子はない。

むしろ、

 

「いいの。あたし達のことは放っといて」

「畑仕事よりこっちのほうがいいもーん」

「それよりウーロン。頼んでたドレス、買ってきてくれた?」

 

この豪遊生活を楽しんでいるようだった。

親達も、思わず呆然。

 

「だからおとなしーい女の子が欲しかったんだ。こいつらむちゃくちゃ贅沢して……頼むから連れて帰ってくれ」

 

悔し涙かを浮かべながらそういうウーロン。

なんというか……自業自得としか言いようがなかった。

 

 

 

 

 

ブォォォーン、と広い川をカプセルボートが進んでいく。

運転しているのはブルマ。

後ろに乗っているのは悟空、蓮香、縄で繋がれたウーロンだ。

 

「これでドラゴンボールも残り2つよ! 案外早く集まりそうね!」

「でもさぁ、なんでウーロンも連れてくんだ?」

「こっちだって聞きたいわい!」

「変身術じゃない? なかなか便利そうだしね。あなたの変化」

「蓮香のいう通りよ! 旅の役に立ちそうだしね」

「お、オレやだぞ! 旅なんて面倒くさい!」

 

嫌がるウーロンを黙らせたのは、ブルマのある一言。

 

「暑いわねー。今晩は下着だけで寝ようかしら」

 

その途端、ウーロンがコロリと態度を変えた。

 

「ま、まぁ。たまには旅行もいいかな」

「スケベな豚……」

 

完全に呆れ返った表情で呟く蓮香。

こうして、ウーロンが旅の仲間に加わった。

 

(このブタ、あたし達の言うことちゃんと聞いてくれるのかな?)



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7.ヤムチャとプーアル

6つ目のドラゴンボールを目指して南西へと向かう一行。

今はカプセルボートに乗って谷に挟まれた広い河を進んでいるところだ。

 

「遠いなぁ。まだなのか?」

「そういえばあたしたちって今どこに向かってるの?」

「お前ら聞いてなかったのかよ?!」

 

いやいや仲間に引き入れられたウーロンも、だいぶ馴染んできたようだ。

 

「そういえば言ってなかったわね。まだまだ遠いわよ! 後3日ぐらいかかりそうね」

 

ブルマはそう言いながら、ごそごそと隣に置いてあるリュックを探る。

 

「えぇっと。フライパン山……このあたりね!」

 

なにそのふざけた名前の山……という蓮香の呟きはウーロンの悲鳴によってかき消された。

 

「なにーーっ! フライパン山?! あ、あんなところに行くつもりだったのかよっ!」

「お前そこ知ってんのか?」

「む、むしろお前ら知らないのか? フライパン山にはめちゃめちゃ恐ろしい牛魔王がいるんだぜっ!!」

 

牛魔王というのはよほど恐ろしいのか、ウーロンはギャアギャアとうるさく喚く。

 

「そんなやつは蓮香や孫くんがやっつけてくれるわよ」

「おもしろいじゃないか」

「闘うの楽しみ〜」

 

しかしそんなウーロンを軽く流して、なんとものんきな3人。

 

「オレはいやだぞっ!」

 

ウーロンはそういうと、ボムッと魚(おそらく鯉)に変化した。

 

「へへーんだ。あばよっと!」

 

そして、ぽしゃんと水しぶきをあげて河に飛び込んだ。

 

「あっ、逃げた!」

「まったくしょーがねーやつだな!」

「潜って捕まえる……のはかなり大変そうだね」

 

げんなりとした表情で蓮香は広い河を見つめる。

深さもかなりありそうだ。

 

「大丈夫よ」

 

しかしブルマが、妙にハッキリした口調で言い切った。

 

「ウーロンを捕まえるのに潜る必要はまったくないわ。ちょっとあっち向いてて」

「えっ?」

「……なるほど」

 

なんのことかわからないというように首をかしげる悟空。

しかし蓮香は予想がついたのか、どこか呆れたような視線を河に向ける。

いや、この視線は河の何処かにいるウーロンに向けていると言えるか。

 

(つまり、ウーロンのスケべを利用するんだね……)

 

蓮香の予想は的確だった。

ブルマは脱ぎたてのパンツを、どこから取り出したのか不明な釣り竿に引っ掛け河に垂らす。

ものの5秒後、

 

「そら、かかった!!」

 

鯉らしき魚がパンツを加えていた。

 

「し、しまった!」

 

間違いなく、ウーロンだった。

しまったと言いながらもパンツを離さないところがなんとも彼らしい。

 

「お前なに考えとるんだ……」

「このスケべ……」

 

蓮香はどこか軽蔑気味の視線を向け、悟空でさえも呆れている。

取り敢えず、再びボートは動き出した。

ちなみにウーロンの扱いは……

 

「今度逃げたらカツにして食っちゃうからな!」

「あたし、クマカツもトラカツも好きだけど、やっぱりトンカツが一番好きなの」

 

ナイフとフォークを持った悟空と蓮香に挟まれる形で座ることになった。

 

「くっ……しょうがないからついていってやるが……さっきのパンツくれよ」

 

なんとも彼らしい。

 

「ほら、代わりにこれをあげるわ」

 

そう言ってブルマがウーロンに渡したのは……

 

「なんだこれ! ただのアメ玉じゃないか!」

「そのうちウーロンが役に立ったらパンツをあげるわ」

「ホントだな! 約束だぞ」

「はいはい」

 

ウーロンの方を向きもせず言うあたり信用し難い約束だが、ウーロンはそれで納得したらしく、アメ玉を口の中でコロコロと転がす。

 

「なぁなぁ、オラにもアメ玉くれよ!」

「あたしもアメ食べたい!」

「あんたたちはいいの」

「「えぇ〜」」

 

ガクッと項垂れる蓮香と悟空。

その時、ボートの速度が急に落ちた。

 

「あれ、止まった?」

「どうしたんだ?!」

「エンジンが止まっちまったぜ」

「しまったガス欠だ。……ねぇ、あんたガソリンに化けられないの?」

「化けられるわけないだろ?!」

 

化けられたらすごい……と言うか恐ろしい。

 

「ガソリンってなんだ?」

「悟空、ガソリンってのはね、ボートを動かすための栄養源みたいなものだよ」

「へぇー、蓮香は物知りだなっ」

「えへへ〜、それほどでも」

 

悟空に褒められて、まんざらでもないと言うように笑う蓮香。

 

「じゃあ岸につけてカプセルでガソリンを出すわ。ウーロン、オールに化けて」

「オールだな」

「オームってなんだ?」

「悟空、オームは鳥の名前だよ」

「へぇー、蓮香は物知りだなっ」

 

蓮香と悟空だけズレていた。

 

「変化っ!」

 

ボムッとウーロンがお決まりの小爆発を起こし、オールに変化する。

 

「鳥じゃないぞ?」

「これはオール。ボートを動かすための道具だよ。こうやって使うの」

 

蓮香が、バシャバシャとオール……に化けたウーロンでボートを漕いでみせる。

 

「へぇー、おもしろそうだな。オラもやる」

 

蓮香と悟空が交代し……

 

「ブ、ブホッ! こらっ、俺はデリケートなんだからもっと丁寧に……ブホッ」

 

ウーロンはかなり乱暴に使われることとなった。

 

 

 

 

 

 

「繋いだぞー」

「ごくろー」

 

なんとかボートを岸につなぐことに成功した。

 

「おい、オレ役にたったぞ。パンツくれよ」

「あれぐらいでギャルのパンツが手に入ると思わないでよねっ」

「ウーロンの頭の中はパンツでいっぱいなんだね……」

 

くれるって言ったじゃないか! と喚くウーロンを完全にスルーしながらジャンパーのポケットを漁ったブルマは、ピタリとその動きを止めた。

 

「無い……」

 

その顔が、面白いぐらい青くなっていく。

 

「ぎゃーっ! カプセルの入ったケース河に落としたんだわっ!」

「ええっ!」

「落としちまったのか?」

「おいおいどうすんだよ……」

「ウーロンっ!」

 

ブルマが必死の形相でウーロンに振り向いた。

 

「パンツあげるからカプセルケース見つけてきて!」

「ば、バカ言うなよ! こんな広いとこから探せるわけないだろっ!」

「あれ、ウーロンならつられると思ったのに……」

「オレもそこまでバカじゃねぇよ!」

 

ポソッと何気に失礼なことを呟いた蓮香にすぐさま反論するウーロン。

しかしつい先ほどパンツに(物理的に)釣られたのを見ているので、説得力は皆無に等しい。

 

「歩いていけばいいじゃねぇか」

 

ふよふよと筋斗雲に乗りながら悟空が提案する。

 

「あんたと蓮香は筋斗雲に乗れるからいいわよね!」

「だったらブルマ、ウーロンにバイクかなんかに変化してもらったら?」

 

蓮香も筋斗雲に飛び乗りながらそう言った。

 

「それだっ! 賢い!はぁーい、ウーロンちゃーん」

 

語尾にハートマークをつけて満面の笑みを浮かべて振り返ったブルマ。

しかしそこにウーロンは……

 

「げげっ!」

 

いなかった。

 

「あっ! あの野郎また逃げたな!」

「懲りない人……いや、豚」

 

呆れながらも蓮香は律儀に言い直す。

 

その頃ウーロンは。

 

(へへっ、フライパン山になんて行けるかよなっ。残念だがパンツは諦めるか……)

 

岩陰に隠れてほくそ笑んでいた。

 

 

「ウーローン!」

「出てこーい」

 

蓮香と悟空が筋斗雲に乗って空から探すが、岩に隠れて見つからない。

 

「ブルマー、見つからないよ」

「どうすんだ」

「……ふふっ、そう言うことなら仕方ないわね」

 

ブルマは不気味に微笑んだと思うと、手を口元に当ててメガホンのようにし……

 

「ピーピーピー」

 

と言った。

 

その頃ウーロンは。

 

「ピーピーピー」

 

ブルマの声が聞こえた途端お腹がゴロゴロと言い出し……慌てて草むらに飛び込んでいた。

 

 

「ほーらウーロンちゃーん。ゲリになっちゃったでしょ?

さっきあげたアメ玉ねー、PPキャンデーって言って、私が作ったものなのよ。舐めた人はピーピー言われるとゲリになっちゃうの」

 

ブルマの言葉を聞きながら、なんともえげつないアメを発明したものだな……と、蓮香は呆れ半分恐怖半分で苦笑する。

 

「ス、スミマセン……。もう逃げないのでやめてください……」

 

出てこないならまだ言うわよーっ、と脅されたウーロンは、どこから出したか不明なトイレットペーパー片手に草むらから出てきた。

 

「言うこと聞かないとまたやるわよ」

 

そう言うブルマの顔は完全に悪人のそれだ。

しかしそんなことをうっかりでも口にすると、このえげつないキャンデーを舐めさせられる可能性大なので、蓮香は黙り込む。

 

「くそー。とんでもないモンなめさせやがって……」

「ブルマってやっぱ凄いんだねー」

「オラたち舐めなくてよかったな! マジメだもんな」

 

悟空はそう言った後、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「どれ、ピーピーピー」

「うぎゃぁっ! 遊ぶなー」

「ぎゃははははっ!」

 

蓮香は心の中でご愁傷様と呟きながら鼻をつまむ。

しかし、悟空を止めも怒りもしない蓮香も結構タチが悪い。

 

 

 

 

 

 

 

「さて……ウーロン、バイクに変化してちょうだい」

 

ブルマに言われてバイクに変化したウーロンだが……

 

「ギャフン」

 

ブルマがまたがるなりクシャッとつぶれてしまった。

 

「ちょっと!」

「イタタ……怒るなよ、仕方ないだろ。オレは姿を変えることはできても力は変わらんのだから」

 

そのせいで、蓮香たちとも闘わなかったのだ。

 

「おまけにオレが変化していられる時間は5分だけだ。その後1分の休憩を挟まんといけないしな」

「ガーン」

 

さらに衝撃の事実を告げられブルマが石と化す。

 

「ただしオレはパンツには自信がある」

 

ウーロンは自信満々にそう言って、女物のパンツに化けた。

 

「さっき河で濡らしたから今ははいてないんだろ? さぁ遠慮なくはけ!」

「んなもんいるかーっ!!」

「ぎゃっ!」

 

ブルマからバシッと地面に叩きつけられるパンツ……に化けたウーロン。

 

「……スケベ豚」

「歩いていくしかなさそうだなぁ」

 

歩くことが決定した。

 

 

 

 

 

 

日がサンサンと照りつける砂漠……に似た荒野。

そこを蓮香達4人は歩いていた。

 

「「し、死ぬ〜〜!」」

 

木の棒を杖代わりにしながらも、早々にバテたブルマとウーロン。

 

「お前たちだらしないなー」

「あたしと悟空も付き合って歩いてるんだから、もう少しがんばろっ」

 

ブルマに言わせれば、山育ちの野生児とは違う……らしい。

しかしここを通らない限りフライパン山に行くことはできない。

 

「も、もうダメ。今日はここまでだわ」

「ひぃーっ」

「情けないねぇなぁ」

「ご飯になる獲物もいなさそう……」

 

蓮香がグゥグゥなるお腹を押さえて苦しそうに言う。

 

「ねぇ……この辺りに旅館かホテルないかしら」

「あるわけねーだろ」

「……やだ! ヤダヤダヤダー! お腹空いた、お風呂入りたい、ベッドじゃなきゃ眠れない〜!」

 

まるで小さな子供のように駄々をこね始めたブルマ。

寝転がり、手足までばたつかせているその姿は蓮香に、スーパーでお菓子欲しさに喚く子供を連想させた。

しかし5秒も経たないうちに、

 

「とか言いながらしっかり寝てら」

「「…………」」

 

グーグーと間抜けな寝息をたて始める。

その秒速で眠りにつく姿は蓮香に、某有名漫画のメガネをかけた主人公を連想させた。

 

「オレたちも寝るか」

「腹減ったなぁ……」

「右に同じ……」

 

 

そんなウーロンと悟空と蓮香のすがたを望遠鏡で見ている影がいた。

 

「ヤムチャさま! カモですよ、カモ!」

「何……ガキ2人と豚1匹か……。対して金は持ってなさそうだな」

「でも、ホイポイカプセルを持ってるかもしれませんよ」

 

ネコに似た小さな動物1匹と、長髪の男が1人。

 

「よし、行くぞプーアル」

「はいっ!」

 

 

蓮香たちは、自分たちに危険が迫っていることに、全く気づいていなかった。

 

「なんか探してこようか……」

「そうだな。おめぇ豚肉好きか?」

「好きなわけないだろ! わざとかお前!」

 

そう叫んだ時、ウーロンが自分たちに近づく影に気がついた。

 

「おいっ! なんだあれ?」

「「えっ?」」

 

闘いは、避けられそうにない。

 

(誰でもいいからとにかくお腹空いた……)




題名に『ヤムチャとプーアル』とありながら、ほとんど登場できていない……。
次回は戦闘シーンです。


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8.ヤムチャおそるべし!

荒野に迷い込んだ者から金品を奪って生活している悪党、ヤムチャとプーアル。

今、蓮香たち4人の前に現れた。

 

「よう」

「なんだ? お前」

「こんにちは、あまりいいお天気じゃないね」

「嫌な予感がするな……」

 

ぽかんとした顔の悟空。

にこやかな笑みの蓮香。

冷や汗を流すウーロン。

 

突然現れた男に、三者三様の反応を見せる。

ちなみにブルマはのんきに爆睡中だ。

 

「俺はこの荒野を根城にするヤムチャってもんだ」

「僕はプーアルだぞ!」

「……プーアル……茶?」

「お茶じゃないっ!」

 

エヘンッ、というように胸を張りながら名乗った小さなネコ……に似た動物に、蓮香は思わず聞き返してしまった。

それをネコ……プーアルは尻尾を逆立てながら否定する。

 

「……ガキども相手じゃ格好がつかねぇが、生きて荒野を出たけりゃ金やカプセルを渡すんだな」

 

ヤムチャと名乗った男が口元に悪人笑いを刻みながら片手を出す。

 

「プーアル……?」

 

その時、ウーロンが何かに気づいた。

 

「お前、泣き虫プーアルじゃないか?!」

「ウ……ウーロンッ?!」

 

プーアルも何かに気づいたらしく、小さい目をほんの僅かに見開き驚いてみせた。

 

「知り合いか、プーアル」

「は、はい。前、南部変身幼稚園に通っていたころいつもボクを虐めていたウーロンです」

 

(南部変身幼稚園……そんなのあるんだ)

 

蓮香は、ウーロンが昔いじめっ子だったことはとりあえず聞かなかったフリをすることにした。

 

「女の先生のパンツを盗んで幼稚園を追い出されたエッチなやつです……」

 

しかし、プーアルが次に言った言葉にずっこけた。

 

「幼稚園の頃からパンツが好きだったの……」

「お前、昔も今も変わっとらんやつだな……」

 

呆れで絶句する蓮香と悟空。

先生のパンツを盗んで幼稚園を追い出されるなど、最早聞いたこともない事例だ。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいい。早く金かカプセルを渡せ」

「おっおい。悟空も蓮香も強いんだなっ? ホントに強いんだなっ? 」

「あぁ、強いぞ」

「うん、強いよ」

 

焦った様子で尋ねてくるウーロンに、蓮香も悟空も躊躇いなく答える。

その途端、ウーロンは強気になった。

 

「けっ!! ヤムチャだったか? お前にやるようなモノはねぇよ! ケガしないうちに、さっさと消えるんだなっ!」

 

そして怒涛のごとくそれだけ言って、ササッとその場から離れた。

 

「あ、後は任せたぞ! ちゃんとやっつけろよっ」

 

蓮香と悟空にその言葉だけを残して。

 

「ほぉ、貴様らそんなに天国に旅行がしたいのか……」

 

スッと腰に帯びていた剣を抜くヤムチャ。

その顔は完全に本気(マジ)だ。

プーアルも慌ててその場から少し離れる。

 

「なぁ蓮香、なんであいつやっつけるだ? 悪いやつなのか?」

「うん。あの人、あたしたちを殺すつもりだよ」

 

全く会話を聞いていない悟空に呆れも驚きも見せず返事を返す蓮香は、すでに悟空に慣れきっている。

 

「えっ? なんでオラたちを殺すつもりなんだ」

「あたしたちがこの人にお金やカプセルを渡さないからだよ」

「なんだそうなんかー」

 

今から戦闘が始まるとは思えないほどのんびりとした空気が2人の間に漂った。

 

「なんなんだこいつらは……」

「だ、大丈夫だろうな」

 

呆れるヤムチャと不安なウーロン。

しかし戦闘の開始は唐突だった。

 

「ハーーーッ!」

 

ヤムチャがいきなり、その場の雰囲気まで切り裂くように剣を蓮香たちに振り下ろす。

 

「「わっ!」」

 

慌てて飛び上がって避ける2人。

空中で態勢を整えた蓮香は、勢いをつけたままヤムチャの顔を蹴りつけた。

しかしヤムチャもさることながら、蓮香の鋭く素早い蹴りを、持っていた剣で受け止める。

衝撃で、お互いがパッと距離を置いた。

その時、

 

「棒よ伸びろっ!」

 

悟空が持っていた如意棒を構えてそう叫んだ。

如意棒は悟空の言葉に従い、ヒュンッとその身を伸ばす。

そしてそのままヤムチャの腹を突いた。

 

「ごふっ!」

 

衝撃で、彼の体は数メートルほど吹っ飛ぶ。

 

「ヤ、ヤムチャさまっ!」

「すげぇ! アイツらホントに強いぞっ」

 

負けるかもしれない……とプーアル。

勝てるかもしれない……とウーロン。

全く逆の思いで、2匹は拳を握りしめる。

 

「くっ……小僧。その棒はどこで手に入れた?」

「死んだじいちゃんにもらったんだっ!」

「……意のままに伸縮する棒……まさか如意棒か?!」

「へぇ……あなた如意棒を知ってるんだ。ちなみにじいちゃんの名前は孫悟飯だよ」

「やはりそうか……。孫悟飯といえば格闘で右に出るものはいないとまで言われていた達人……彼に2人も孫がいるとはな」

 

風に長髪をなびかせながら、充分端正と言える顔をしかめるヤムチャ。

 

「一応、あたしたちは拾われた子だよ?」

「なるほど養い子か。だが彼に教えをもらったとは……ガキとはいえ油断はできんな」

「……オラ腹減ったなー」

「あっ! あたしも〜」

 

思わず2人が油断した時だった。

 

「久しぶりに、手応えがありそうだ。……狼牙風風拳!!」

 

ヤムチャが素晴らしいスピードで襲いかかってきた。

蓮香の体が軽く吹っ飛ばされ、悟空が激しい攻撃を受ける。

最後、ヤムチャは奇声と共に悟空の体を思いっきり突き飛ばした。

バコッッ!! と荒野に並ぶ岩たちを崩しながら10メートル近く悟空の体が吹っ飛んでいく。

 

「ひ、ひえぇぇぇっ!」

「ヤムチャさま〜っ!」

 

慄くウーロンと喜ぶプーアル。

さっきから反応がことごとく対照的だ。

 

「よくも……よくも悟空をーーっ!」

 

しかしここで蓮香がブチ切れた。

あの程度で悟空が死ぬとはもちろん彼女も思っていない。

恐らく軽いかすり傷程度で済んといるだろうな、とはわかっていた。

それでも、彼女が今一番大事な人をひどく攻撃され、怒りが沸点に達したのだ。

 

「はぁっ!」

 

先ほど放たれたものよりも、さらに威力の増した蹴りがヤムチャに向かって放たれる。

それはヤムチャの胴にまともに入った。

………しかし、空腹のせいでいつも以上の力は出なかった。

 

「くっ……貴様も狼牙風風拳を喰らいいたいのだなっ……」

「しまった……お腹が空きすぎて力が……」

 

おまけに強い蹴りはなったせいで余計空腹感が増した。

 

「は、腹減ったー」

 

その時ガレキの中から悟空がお腹を押さえながら出てきた。

彼も空腹が限界にきているようだ。

 

「そろそろ終いだっ! うおぉぉぉっ!」

 

ヤムチャがものすごい勢いで突進してくる。

万事休す……とおもわれた瞬間。

 

「う、うぅ……ん。うるさいわねー、眠れないじゃないのっ」

 

今までの騒ぎに全く気付かず爆睡していたブルマが目を覚ました。

 

バッチリ目が合うヤムチャとブルマ。

 

その途端、ヤムチャの体が急停止し

た。

顔は紅くなり、足がガクガク震えだす。

ついにドテッと転んだ彼は、息も絶え絶え、ふらふらになりながら荒野の彼方へ帰っていった。

 

「か、必ずカプセルはいただくからなーっ!」

 

という置き台詞を残して。

 

「ねーねー。今の誰? なかなかいい男だったじゃない?!」

「…………のんきだな、おまえ」

「オラ腹減った……」

「あたしもう限界……」

 

とりあえず、この場の危機は去ったようだった。

 

ヤムチャがまさか、『女は嫌いじゃないが緊張してあがってしまう……』という厄介な体質を持っているとは、露ほども思っていなかった。

 

(どうでもいいから早く何か食べたい……)




ほぼ初めてのまともな戦闘シーン、いかがでしたか?
これでもかなり頑張った方なのです。


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9.ドラゴンボール危うし!

蓮香たちを襲った悪人ヤムチャは、苦手な女性がいたために、ひとまず退散して行ったのだった。

その後ウーロンがカプセルハウスワゴンを隠し持っていたことが判明し、その中で夜を明かすことにした一行……。

 

「あんたこんなカプセルあったのに、どうして黙ってたのよ、このケチっ!」

「くっそー、とっておきのカプセルだったのに……」

「ふぁ、ひぃひゃん」

「……孫くん、口の中のものを飲み込んでから喋ってくれる?」

「悟空は『ま、いいじゃん』って言ってるよ」

「なんで聞き取れるの?!」

 

12年一緒に住んで来たからねー、と言いなら、蓮香は大きなハムの塊(ちなみにこれで3つ目)にかぶりつく。

 

「オラも蓮香の言ってることとか思ってることとか結構わかるぞ!」

 

と言いつつ、こちらは4つ目のチキンにかぶりつく悟空。

ハウスワゴンにある1ヶ月分の食料は、2人の子供によって食い尽くされようとしていた。

 

「お前らむちゃくちゃ食うなぁ」

 

2人もバケモノ級の大食漢がいるため、ウーロンは全く休めず次々と食材を料理していく。

文句が溢れるのも当たり前だった。

 

「ハラ減ってたからな」

「おいしいんだもんっ」

 

喋りながらも食べることを止めない2人。

ウーロンは諦めのように1つため息をついてさらに持ったスパゲティを2人の前に置いた。

……ものの数秒でその皿はカラになる。

 

「ウーロン料理上手っ! いいお嫁さんになれるよ」

「バカかっ! 俺は男だから嫁にはならねぇよ!」

「ウーロン、これもう一個くれ」

「…………」

「ねぇウーロン、バスルームある?」

 

コーヒー片手にバケモノ2人を見ていたブルマが、ふとウーロンにそう尋ねた。

 

「そこだ」

 

ウーロンが悟空に肉まん(ちなみに4つ)が盛られた皿を渡しながら、ハウスワゴンの左奥を指差す。

ブルマはそこを覗き込んだ。

 

「せっまいわねー。シャワーしか使えないじゃない」

「贅沢言うなっ!」

「まぁいっか。ウーロン、パジャマかなんかある?」

「えっ? よし、オレのを貸してやろう」

 

会話を後ろで聞いていた蓮香は

 

(ウーロンのパジャマは背丈的にブルマには入らないんじゃ?)

 

と思ったが、食べることに忙しくて口を挟まなかった。

 

「覗かないでよね!」

「はい」

 

会話を後ろで聞いていた蓮香は

 

(やけに素直だな……怪しい)

 

と思ったが、食べることに忙……(以下略)

 

 

 

 

 

ブルマがバスルームにシャワーを浴びに言ってから数分後、ようやく蓮香と悟空がごちそうさまをした。

ハウスワゴン内の食料はあと数日分ほど……。

しかし蓮香と悟空がいるため、せいぜい1食分にしかならないだろう。

 

「あいつらまた襲ってくるんじゃねぇだろうな」

 

不安げに窓の外を見るウーロン。

あいつらとは、さっき襲って来たヤムチャたちのことだ。

 

「来たっていいさ。今はハラいっぱいだからなっ」

「今なら絶対に負けないよ……」

 

そう言いつつ、テーブルに足を乗っける悟空を蓮香がたしなめた。

 

「そういや、お前ら何で旅なんてしてるんだ?」

 

ふと、思い出したようにウーロンが尋ねる。

 

「そういやぁ、まだ言ってなかったな」

「あの恐ろしいフライパン山に行こうなんて、おかしいぞ」

「ドラゴンボールがそこにあるんだって」

 

ふわぁっとあくびをしながらの蓮香の言葉に、ウーロンが首をかしげる。

 

「ドラゴンボール……? なんだそれ」

「オラも一個持ってるから、見せてやるよ」

 

そう言って、悟空は腰帯にくくりつけてある布を手に取った。

その布には、2人のじいちゃんの形見である四星球(スーシンチュウ)が包まれてある。

 

「この球、ドラゴンボールって言ってよ。これ7つ集めると、神龍(シェンロン)ってやつが出て来て、1つだけ願いを叶えてくれるらしいぞ」

「それほんとかよ!」

「かっこいいだろ」

「どんな願いもか?」

「そう言ってたぜ……ん?」

 

突然、悟空の右肩にかすかな重みがかかり、悟空は顔を傾ける。

見ると、蓮香が悟空の方に頭を乗せて、くぅくぅと寝息を立てていた。

 

「蓮香のやつ、寝ちまいやがった」

「へぇ〜、こいつよく見ると可愛い顔してんだな。大人になったらあいつよりも美人になれるかもしれねぇぞ」

「ビジン……?」

「お前まさか、美人の意味もしらねぇのかよ……」

 

ウーロンの言葉を聞いて頭にハテナマークを浮かべる悟空。

 

「ま、いいや。そんで今ドラゴンボールはいくつあるんだ?」

「5つだ。6つ目がフライパン山にあるんだと……」

「ふーん、オレはそう言うのにあんまり興味ねーな。オレが興味あるのは女だけだ」

 

蓮香が起きていれば、間違いなく『スケベ豚……』と呟かれそうなセリフを吐くウーロン。

 

「だったら龍に女が欲しいっていえばいいじゃねぇか」

「なるほど、お前頭いいな!」

 

はっきり言って、あまり良くない。

 

「でも変なやつ。なんで女なんか欲しいんだ?」

「ちぇっ、ガキだなー」

「あんたも十分ガキよ。ガキにしてはスケベすぎるけど」

 

突然、悟空とウーロンの背後から、すでに聞きなれた声がした。

 

「それよりウーロン! 何よこれ。こんなの入るわけないじゃない」

 

そう言ってブルマが抱えるのは、どう見ても子供用サイズのパジャマ。

今の彼女は体にタオルを巻きつけただけの出で立ちだ。

 

「言っただろ、オレのだって。……それより、風呂上がりに冷たいジュースでもどうだ?」

「たまには気がきくじゃない。……あら、蓮香は寝ちゃったの?」

 

悟空の肩で寝息を立てる蓮香を一瞥して、ウーロンからジュースを受け取った。

そして悟空もそれを受け取る。

そのはずみで、蓮香の頭が悟空の肩から膝にずり落ちた(いわゆる膝枕だ)。

しかし蓮香は起きるそぶりも見せず、爆睡だ。

 

「さて、私はもう寝るわ。あんたたちは下で寝なさいねっ。ウーロン、二階まで上がって来たらまたピーピー言って下痢にしてやるから」

「はいはい」

 

そう言って二階へと上がっていくブルマ。

 

「あいつ、カラダはいいが性格は悪いな」

 

ポツリと呟くウーロンの横で、悟空がいびきをかきはじめた。

ウーロンの顔に、ニヤリと悪い笑みが浮かぶ。

 

「ジュースに入れた睡眠薬が早速効いてきたみたいだな……。あの女、触ってやる。触ってやるぞ〜」

 

まったく、ロクでもないやつである。

 

……しかしその晩、再びヤムチャたちが襲って来て、ウーロンはブルマにイタズラするどころか見張りで一睡もできなくなってしまうのだが……自業自得と言えるだろう。

ちなみに、強力な睡眠薬を盛られなかったはずの蓮香でさえ、騒ぎには気付かず眠りこけていた。

 

(zzz……)




この回は蓮香とヤムチャのうまい絡ませ方が見つからず、寝かせてしまいました……。
楽しみにしてくださってた方、本当にすみません。
それと、この回で書き溜めてたものがなくなったので、これから毎日投稿は難しくなりそうです……。


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10.強盗大策戦

「ふわぁ……」

 

朝、悟空は大きなあくびとともに目を覚ました。

 

「やっと起きたか……」

 

大あくびをする悟空をどこかジト目で見ているのは、目の下に大きなクマのできたブタ、ウーロン。

 

「おはよっす!」

 

まだ目を瞬かせながらも、悟空は元気に挨拶をする。

 

「何がおはよっすだ。オレは一睡もできてねぇってのによ」

 

そういうウーロンは、何故か手に小銃を抱えていた。

 

「なんで?」

 

一睡もできなかったのか? 銃を抱えているのか?

悟空は、その2つの疑問をたったの3文字にまとめて投げかける。

 

「昨日の夜、またヤムチャたちが襲ってきたんだ」

「ヤムチャ……? 昨日のアイツらか?」

「あぁ。おかげでオレは寝ずの番さ」

「そうかー、オラ全然気づかなかったな」

 

悟空はちょっと申し訳なさそうに頭をかく。

しかし目を覚ませなかったのは、ウーロンが強力な睡眠薬を盛ったせいであり……悟空は全く悪くない。

 

(くそ〜、睡眠薬なんて飲ませなきゃよかったぜ……ってあれ?)

 

ここでふとウーロンは気づいた。

 

(オレ、結局蓮香には睡眠薬飲ませられなかったぞ?)

 

「おい、まだ蓮香のやつは寝てるのか?」

「ん? あー、蓮香のやつ朝には弱いんだ。夜もすぐ寝落ちちまうし、1回寝たら起きることもほとんどねぇ」

「くそぉ、そうだったのか!」

 

妙なほど悔しがるウーロンに、悟空はコテっと首を傾げた。

 

「う……ん。なんか頭がガンガンするわね」

 

その時、そう言いながら、シーツを体に巻きつけて階段を降りてきたのはブルマ。

頭がガンガンするのは睡眠薬のせいだろう。

 

「ねぇウーロン。私の服は洗濯してくれた?」

 

おはようの挨拶もなく、眠そうな顔で歯磨きをするウーロンに訊く。

 

「それどころじゃなかったぜ……」

 

しかしこの答えを聞いた途端、眠気も吹っ飛んだというように目をカッと見開いた。

 

「何がそれどころじゃなかったのよ! 私に一日中シーツを巻きつけてろっていうの?!」

 

唾を飛ばしながら怒鳴る。

そんなブルマを諌めたのは、以外にも悟空だった。

 

「ウーロンは一晩中見張りをしてたんだぞっ」

「見張り……なんで?」

「お前も見ただろ? 昨日のやつらがまた襲ってきたんだ」

 

一瞬思い出すように視線を彷徨わせたブルマだったが……

 

「あっ! あの素敵な人? 彼なら大歓迎じゃなーい」

 

途端目を輝かせてそう言い切った。

バックにハートマークが飛び交っているのは気のせいではない。

 

「お前は幸せもんじゃ……」

 

ウーロンは呆れたように呟き、ブルマでも着れる服が1着だけ2階にあると言った。

 

「それならそうと早く言いなさいよっ!」

 

ダダダっと二階に駆け上がっていくブルマ。

 

「なぁ、オラ腹減った」

「お前昨日からそればっかだな……。メシ作るから蓮香を起こしてやれ」

「わかった!」

 

嬉しそうに頷いてから、蓮香の寝転がるソファにダダッと向かう悟空。

 

「蓮香、起きろ〜」

「ん〜……」

 

悟空の呼びかけに一瞬答え、薄っすらと目を開けるがすぐにまた閉じてしまう。

よほど眠いのか、これではしばらく起きないだろう……といった感じだ。

しかし蓮香の性格を熟知した悟空が、ここで魔法の言葉を一言。

 

「蓮香〜、メシだぞ?」

「お腹すいたっ!」

 

ガバッと勢いよく起き上がる。

額と額が凄い勢いでぶつかりそうになったが、流石の悟空が素早く避けることで回避した。

 

「あっ……悟空、おはよ」

「おはよっす」

 

2人はニコリと笑顔で挨拶を交わした。

 

 

 

 

 

「食料が、これで、パァだ……」

 

朝とは思えない食欲を発揮する化け物2人を横目に、ウーロンががくりと項垂れる。

その時、けたたましい足音と共にブルマが1階に降りてきた。

 

「ウーロン! 何よこの服はっ! こんな格好でウロウロしてたら、私ただの変人じゃないのよっ!」

「その割にはしっかり着てるくせに……」

 

烈火のごとく怒るブルマに、ボソリと呟くウーロン。

 

「なにもウサ耳まで律儀につけなくても……」

 

苦笑しながらも冷静に突っ込んだのはやはりというべきか、蓮香。

今のブルマは、黒のレオタードに網タイツ、ふわふわ尻尾にウサ耳蝶ネクタイ……という、ザ・バニーガールの格好だった。

 

「ふんっ! 今日はこれで我慢してあげるわ。全く……どんな育ち方したらこんなスケベ中年みたいな中身のガキになるのかしら」

「言ってろ……」

「パンツ盗んで幼稚園を追い出されたようなヤツだしね……」

「蓮香っ! それは忘れろっ」

「んー、結構衝撃的だったから、忘れるのは無理かも?」

「うぐわぁ〜! 泣き虫プーアルの野郎がー!」

 

なにやら頭をかきむしるウーロン。

そんなに知られたくないようなことなら、そもそもしなければいいのに……と呆れた視線を向ける蓮香。

 

「ほら、フライパン山に出発するわよ! ウーロン運転して」

「えっ。オレが?」

「当たり前でしょっ。女の朝は忙しいのよ」

「オレ寝不足なんだけど……」

 

げんなりとするウーロンの方に手を置き、蓮香が二言。

 

「残念。頑張れウーロン」

 

この言葉に、ウーロンはがくりと肩を落とした。

そして呟く。

 

「ブタ使いの荒い奴め……」

 

 

 

 

 

 

ウーロンの悲痛気なうめき声と共に発信したハウスワゴンを、望遠鏡で覗く人影があった。

のぞいているのはもちろんこの男……。

 

「動き出したようですね。ヤムチャ様、どうします?」

「そうだな……何としてもドラゴンボールというやつは奪いたい」

 

昨夜、金品を目当てにハウスワゴンを襲いに来たヤムチャは、悟空がウーロンにドラゴンボールについて話しているのを盗み聞きしていた。

そしてなんとしてでも手に入れたいと思ったのだ。

彼の願いはただ1つ。

“女の前に行ってもあがらないようにしてもらう”

蓮香が聞いたら『しょーもな……』と呟かれそうな願いだが、彼は至って本気である。

ちなみに、昨夜は忍び込んだはいいもののイロイロあり、寝ているブルマの裸を見てしまい正気を失った……まぁつまるところ、失敗したのだ。

 

「こうなったら強硬策を取るしかないな。行くぞ、プーアル!」

「はいっ!」

 

蓮香たちに、危険が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふーん♪ あの人また来ないかしらねー」

 

ワゴン後部座席で口紅を塗りながら鼻歌を歌っているのは、言うまでもなくブルマだ。

バニーガールの姿が割と似合っているので、余計に場違い感が否めない。

 

「悟空、あれっ……」

 

真っ先に気づいたのは、特に代わり映えのない景色をボンヤリと眺めていた蓮香だった。

 

「あっ、昨日の奴らじゃないか?」

 

蓮香に声をかけられて、悟空もそれに気づいた。

 

「うわわっ! あいつだ、来たぞっ!」

 

ハウスワゴンに併走するように、古めかしいデザインのオープンカー……らしきものが近づいて来ていた。

乗っているのは小銃を抱えているヤムチャ。

運転しているのはプーアルと呼ばれていたネコ……らしき動物だ。

 

「えっ、あの人? あの人がいらっしゃったの?」

「ブルマ……いらっしゃったとかそんな可愛いものじゃないと……」

「きゃーっ! どこ? どこ、どこにいらっしゃるの?」

「あたしの話聞いてる?……って、危ない!」

 

窓に手をついて興奮するブルマを諌めていた(ツッコんでいた?)蓮香が真っ先に危険を感じ取り、注意喚起の声をあげた……その時。

 

どっかーん!

 

派手な音と強い衝撃がハウスワゴンを襲った。

ヤムチャが手に持っていた小銃をぶっ放し、ハウスワゴンの左前輪あたりが吹き飛ばされたのだ。

 

「ぎゃーっ!」

「蓮香っ!」

「悟空っ!」

 

窓ガラスが吹っ飛び、ハウスワゴンはもう走ることができないぐらいに大破してしまった。

しかし……自称ステンレス並みの防御力を持つ悟空と蓮香はさておき、普通のブタであるウーロンも無傷で済んだのはラッキーだったと言えるだろう。

ブルマは頭を強かに打ち付け気を失ったが……これは蓮香の注意を聞かなかったせいでもあるのだから仕方がない。

 

「やいやいやいっ! 何すんだよっ」

「いきなりこんなことするとかありえないっ!」

 

怒った悟空と蓮香がハウスワゴンから飛び出し、外で構えるヤムチャに向かって叫ぶ。

 

「ふふっ、女は気絶したか。

おい貴様ら、痛い目見たくなかったら、素直にドラゴンボールを渡せ」

 

小銃を構え、唇には悪人そのものの笑みを浮かべながら言い放つヤムチャ。

 

「なんでドラゴンボールのことを知ってるんだ?!」

「大方、あたしたちの話を盗み聞きでもしたんでしょ」

 

慌てたようなウーロンと、ヤムチャから視線を外すこともなく、舌打ちしそうな顔をする蓮香。

昨日の夜、自分が寝落ちた時に悟空はドラゴンボールの話をしたのだろう……とは容易に想像がつく。

そして、それを盗み聞きするヤムチャの姿も。

 

(油断してた……!)

 

悔しそうな表情の蓮香の横で悟空は思い切り、ヤムチャに向かってあかんベーをした。

 

「おまえなんかにゃ、やらんっ!」

 

なんとも頼もしい。

そう思いながらも蓮香は大きく頷いた。

 

「やるつもりは無いよーっ!」

「ふっ……お前らよっぽど俺に稽古をつけてほしいみたいだな。

いいだろう、2人まとめてかかってこい!」

「それじゃあ……って言いたいけど、2対1じゃフェアじゃないしね」

「ここはオラだけでやってやる!」

 

余裕しゃくしゃくたる態度でかます蓮香と悟空。

それにヤムチャがイラついた。

 

「俺の狼牙風風拳で打ちのめしてやるーっ!」

「昨日はハラが減ってたんだっ! 今はハラポンポンだぞーっ!」

「これは、悟空の勝ち……」

 

ダッと駆け出す両者を見ながら、蓮香がふわりと微笑んだ。

彼女は、悟空が負けるなどとは一片たりとも思っていなかった。

そして、勝負の結果は彼女の予想通りとなる。

 

バキッと容赦のない悟空の蹴りが、ヤムチャの右頬に炸裂した。

 

「ヤ、ヤムチャ様っ! 歯が……!」

 

倒れ込んだヤムチャに急いで近寄ったプーアルが、慌てたように叫んだ。

それを聞いたヤムチャが、何処からか手鏡を取り出し自分の顔を見て……

 

「うおおぉぉーっ!」

 

叫んだ。悲鳴をあげた。絶叫した。

 

「歯が、歯がとれた! お、俺のりりしい顔がぁーーっ!」

 

いや自分で言うか。

蓮香が心の中でツッコミを入れる。

この人もブルマと同じ人種かもしれない……そうも思った。

 

「こ、こここのやろー。覚えてやがれっ!」

 

ヤムチャは口元を押さえそれだけ言うと、慌てたように乗って来た車で逃げていってしまった。

 

「おいーっ! すげえなおまえ! めちゃくちゃ強いぞ、見直したぜっ!」

 

拳を握りしめて目を輝かせるウーロンに、悟空がエヘンっと笑う。

 

「悟空ナイスっ! かっこよかったよー!」

 

蓮香も手を叩きながら悟空を褒め………でも、と言葉を続けた。

 

「車がこれじゃぁね……」

「歩いて行くしかねぇな」

「全く余計なことしてくれたぜ、アイツらは」

 

再びこの荒野を歩いて越えなきゃいけないことに、げんなりとしたため息を合わせた3人だった。

 

 

 

 

 

 

歩き出して数分。

悟空が気絶したブルマを背負い、蓮香とウーロンがその隣を歩く。

 

「へへ……おい、オレにもおんぶさせてくれよ」

「おぶったりしたら余計疲れちゃうよ、ウーロン? 交代はあたしだけがやるから大丈夫」

 

言葉だけ見ればなんとも優しく気遣いがあるが、蓮香の有無を言わせぬ強い口調にウーロンはあっさり肩を落として諦めた。

 

その時、

 

「おーい、おーい」

 

後ろからブロロロ……と言うエンジン音。

そして、自分たちを呼び止めるような声がした。

振り向くと、ヤムチャ。

蓮香は反射のように構えをとる。

しかし、気を張った蓮香の予想は良い意味で裏切られる形となった。

 

「いやー、僕たちよく考えたらすっごく悪いことしてたんだよね。

お詫びにこれをあげるよー」

 

と言うと同時にポイッと投げられたのは、すでにおなじみホイポイカプセル。

現れたのは自動車だった。

 

「じゃ、気をつけてねー。さよならーっ!」

 

そしてクルッとUターンして去って行く。

満面の笑みで……。

手を振りながら……。

 

「なんか話がうますぎねぇか……?」

「アイツ、根はいいやつなんだなっ!」

「……だと、いいけど。とりあえず歩くより効率は良いよね」

「爆弾とか仕掛けられてねぇだろうな」

「その時はその時だよ」

「ダメだぞ。人を信じなきゃ」

 

まだなんとなく怪しむウーロンと、人を疑うと言うことを知らない悟空。

そして蓮香は『何か起きた時は起きた時』と楽観的に割り切っている。

 

結局、それに乗って行くことが決定した。

 

「さ、フライパン山へレッツゴー!」

 

悟空の元気な掛け声とともに、ウーロンがどこか渋々といった感じで車を出発させた。

 

 

 

 

 

 

「ヤムチャ様っ。動き始めました。まっすぐフライパン山に向かっています」

「よし……7つ集まったところで一気に奪うぞ。ふっふっふ……」

 

ヤムチャが、そう簡単に獲物を諦めるはずなど、無かった。

 

 

(ヤムチャが来る時って、ブルマは大抵夢の中……)

 



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11.フライパン山の牛魔王

今回は割と短めです。


荒野の悪党ヤムチャから(何故か)もらえた自動車に乗って、フライパン山へと向かう蓮香たち。

そして2日あまりも過ぎた頃……

 

「ブルマー、フライパン山ってまだ?」

「もうすぐそこよ」

 

ブルマは蓮香の質問に答え、ふぅぅっと息を吐いた。

 

「それにしても暑過ぎない? ここって割と北側なのにさ」

「たしかに暑いよね。……ブルマの格好はかなり涼しそうだけど」

「うるさいわねっ! タイツとか履いてるから結構暑いのよっ」

「じゃあ脱げば?」

「この格好に生足でいろとっ?」

 

未だバニーガールの格好をしているブルマ。

露出の高い服なので、パッと見涼しそうなのだ。

ついでにだが、『生足』に反応して喉を鳴らしたスケベブタが1匹いたとかいないとか。

 

「まぁ、ブルマをからかうのもそこそこに……この暑さの理由、ウーロン知ってる?」

「……あぁ」

 

後部座席から、運転席にいるウーロンの頭越しに身を乗り出して尋ねる。

ウーロンは、尋ねてくる蓮香の方を振り向くことはなく(運転中なのだから当たり前だが)コクリと頷いた。

 

「フライパン山はもともと涼景山と言って過ごしやすいところだったのだが、10年ほど前に天から火の精が落ちてきて燃える山となり、気候も変わってしまったらしい」

「いきなり空から火の精が降ってきて大火事になるって……」

 

怖っ! と蓮香は素直に身を震わせた。

 

「見ろ……あの山だっ!」

 

そう言うウーロンの視線の先には、轟々と燃え盛る炎の山があった。

一度その場に車を止め、蓮香たちは車を降りる。

 

「ひぇぇぇぇ」

「これじゃ暑いわけだねぇ」

「すげえな!!」

 

慄くブルマ。

妙に納得する蓮香。

間抜けな顔で炎の山を凝視する悟空。

 

反応は全員違うが、取り敢えずそのあまりの燃え上がりように驚いているのは皆同じだった。

 

「なぁっ。もう行くのやめようぜ……牛魔王もいるんだぞ!」

 

一方ウーロンは必死で蓮香たちを説得しようと試みる。

なんとしてでも、あの炎の山には近づきたくないのだ。

 

「牛魔王って、結局何者なのよ」

「オマエ本当に知らんのか? とにかくむちゃくちゃ恐ろしくて強いやつだ。……あの山に近づくものは、み〜んなこれだ」

 

そう言いながら、チョンチョンと自分の首に手刀を当てるウーロン。

それが意味するのは……

 

「殺される……ってこと」

 

蓮香の呟きに、ウーロンはこくんと頷いた。

 

「山のてっぺんに城があるだろ? そこにあちこちから奪った金銀財宝があって、それらを盗みにくる奴がいるんだ。そんな奴らから宝を守るために、山の麓に牛魔王がいるらしいぜ!」

 

身振り手振りで必死に説明するウーロン。

にしても……

 

「あんた、やたらと詳しいわねぇ」

 

蓮香も思っていたことを、ズバリと言ったのは勿論ブルマ。

 

「当たり前だっ! 学校の教科書に載ってるんだぜ」

「ウーロン、学校では先生のパンツ盗まなかったの?」

「それは忘れろって言っただろぉぉっ! ってか真面目な顔で首を傾げるなぁっ!!」

 

ウーロン面白い。

素直に思ったことを口にしてしまうと、このブタはどんどんヒートアップしていくだろう……とは簡単に予想がついたので、揶揄うのもそこそこに蓮香は口を閉じた。

 

「あっ、言っとくけどウーロン。逃げたらピーピー言うからね」

「…………」

 

そう言われて、ウーロンはスーッとブルマから視線を逸らした。

どうやら、逃げるつもりだったらしい。

 

「はぁ……」

 

大きくため息をついてうなだれたウーロンに、蓮香は思わずご愁傷様と声をかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

「んもうっ! 本当に暑いわねっ」

「ば、バカ! 大きな声出すな!」

 

山の麓に着いて早々、茹だるような暑さに愚痴を呟くブルマと、牛魔王に怯えてビクビクするウーロン。

ある意味、これが普通の反応だろう。

まぁつまり……

 

「蓮香、あっちこっちに骸骨が落ちてるぞ」

「あっ、ホントだ。宝を盗みにきて殺された、かわいそーな人たちだよ」

「かわいそーなのか?」

「そ。……取り敢えず悟空、枝でコンコンするのはやめなさい」

 

この2人が、変なのだ。

 

「レーダーで見ても、ドラゴンボールがあの城にあるのは間違いなのよねー」

 

汗を拭いながら、レーダーをピッピと弄るブルマがそう言った。

 

「要するに飛んできゃいいんでしょ? あたしと悟空が筋斗雲で取りに行こうか」

「その手があったか!」

 

パチンッと指を鳴らし、途端笑顔になるブルマ。

 

「でも、持ってこれるの?」

「行って見なきゃわかんねぇ……な、蓮香」

「そうだね。何しろこの熱さだし」

「ま、行ってみっか。筋斗雲ーーっ!」

「大きな声を出すなっちゅーに!」

 

そう言うウーロンはすでに涙目だ。

けど、さっきから注意しているウーロンの声も、結構大きかったりする。

 

蓮香と悟空は、悟空に呼ばれて飛んできた筋斗雲に飛び乗った。

 

「ちょっと見てくる!」

「必ず見つけてきなさいよ!」

「早く帰って来いよ!」

 

ブルマの命令とウーロンの涙声を聞きながら、城へと飛んで向かう蓮香たち……だったが。

 

「あっつい! 無理っ!」

「あちゃちゃちゃ!」

 

あまりの熱さにあっさりギブアップした。

 

「どうする〜、蓮香〜」

「この暑さには参るね。なんとか火を消せないかなぁ」

「とにかくブルマんとこに戻るか」

「だね」

 

ヒューンッと筋斗雲でブルマのところにまで戻る。

 

(あれ……誰かいる?)

 

大きな人(?)影がブルマたちと一緒にいるのに気づいた蓮香は嫌な予感を覚え、今にもブルマたちに向かって叫びそうな悟空を止めようと……

 

「おーい、ダメだー! 城には暑くて入れねぇよ!」

 

間に合わなかった。

蓮香はハァと1つため息をついた。

戦いは避けられないかもしれない、と。

 

「あれ、おっちゃん誰だ?」

 

悟空は、自分のせいで絶体絶命のピンチを引き寄せたことにも気付かず、呑気に牛魔王をおっちゃん呼ばわりする。

しかし、牛魔王は怒ったそぶりを見せなかった。

 

「こ、小僧っ! それは筋斗雲ではねぇだべか?」

「へ? あー、そうだよ。よく知ってるね、あなた」

 

心の中で悟空に対して呆れながら、牛魔王を軽く『あなた』呼ばわりする蓮香も、かなり肝が座っている……と言うか怖いもの知らずだ。

 

「誰にもらっただっ?!」

「亀仙人のじいちゃんにもらったぞ。

そうか〜、おっちゃんが牛魔王か」

「確かに強そうだよね〜、悟空」

「あぁっ」

 

筋斗雲に乗りながら、いつもど〜りの会話を交わす蓮香と悟空。

やはり、この2人が変なのだ。……いや、常識人の頭を持ちながら、この反応をすることができる蓮香の方が悟空より変なのかもしれない。

 

「亀仙人っ? む、武天老師様だ! おめぇ武天老師様の住んでるとこ知ってるだかっ?」

「「え!?」」

 

嬉しそうな声をあげた牛魔王に対して間抜けな声を揃えたのは、後ろで正座をしていたブルマとウーロンだ。

ウーロンの足元に水たまりができている。

なんの……かは彼の名誉のためにあえて言わないでおこう。

取り敢えず……

 

(戦闘には、ならなさそう)




この回で、原作漫画第1巻が終わりました。
次回から2巻の内容に入っていきます。
早く3人の修行が書きたい……!

この作品の主人公は悟空と蓮香なので、彼ら2人が出てこないシーン、直接関係ないシーンは飛ばしています。
ご了承ください。


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ドラゴンボール 二 12.亀仙人をたずねて

明日から夏休みっ!
更新速度を上げられればいいなぁ。


「な、なぁっ! おめえ武天老師さまが今どこに住んでらっさるか知ってるだか?!」

 

見上げるほどの巨体と、悪魔の帝王という恐ろしい二つ名を持つ牛魔王が、筋斗雲に乗ってふわふわと宙に浮かんでいる蓮香と悟空に詰め寄った。

 

「むてん……なんとかって、亀仙人のじいちゃんのことだろ?」

「海岸の沖の方に住んでると思うよ」

 

悟空と蓮香がそういえば、牛魔王は跳ね回って喜んだ。

 

「うおお〜っ! えがっだー!城に帰れるべーっ!」

 

彼が足を踏み鳴らす度に地面が揺れる。

それにしても、驚くほど訛った口調だな……。

蓮香はそう思いながら、ぽかんと口を開けて喜ぶ牛魔王を見ていた。

 

「んー?」

 

その時、牛魔王が何かに気づいたように悟空の背を覗き込んだ。

 

「小僧、おめぇこの棒……如意棒じゃねえべか?」

「そうだよ! おっちゃん色々詳しいな。オラのじっちゃんにもらったんだ」

「……おめえらのじいちゃんって……」

「孫悟飯だよ、おじさん」

 

蓮香がニコっと笑いながら教えると、牛魔王は『うおほーっ』と謎の奇声をあげた。

 

「コリャーたまげたっ! 悟飯さんのお孫さんけーっ!」

「おっちゃん、じいちゃん知っとるんか?」

「知ってるも何も、武天老師さまの一番弟子がおめえらのじっちゃんで、二番弟子がおらだったんだベー」

「それ、ほんとか?!」

「そうだったのっ?!」

 

盛り上がる3人の横で、ブルマとウーロンがなんとも間抜けな表情で驚いていた。

 

「ご、悟空と蓮香のやつが強いの、わかる気がしてきた」

「そ、それよりもあのスケべじじいがそんなにすごい人だっただなんて……」

 

もしウーロンの言葉を悟空が聞いていたら、嬉しそうに胸を張っただろう。

もしブルマの言葉を蓮香が聞いていたら、激しく肯定していただろう。

 

「おっと、なつかすがってばかりいられねえ! おめえらにちょっくら頼みがあるだ!」

「なぁに?」

 

それまでの嬉しそうな表情を消し、ふと真面目な顔つきになる牛魔王。

といっても、彼は大きなヘルメット(?)をかぶっているせいで、鼻と口元しか見えないのだが。

 

「最近仕入れた情報によると、武天老師さまの持ってる芭蕉扇を使えば、あの山の火を消すことができるみてえなんだ」

「つまり、亀仙人のじいちゃんにそれを借りてきてほしいってこと?」

「んだ。筋斗雲でひとっ飛びだべ?」

 

手を合わせて拝んでくる牛魔王。

断る理由などないし、蓮香も悟空も2つ返事でオーケーした。

 

「そのかわりさ、ドラゴンボールくれる?」

 

こう言ったのはブルマでも蓮香でもなく……驚くべきことに悟空だった。

悟空から、そのかわり……という言葉が出てくるなんて思っていなかった蓮香が目を剥いて驚く。

 

「ドラゴンボール? なんだべそれ」

「こういうやつ」

 

悟空が腰に巻きつけてある布を開いて四星球(スーシンチュウ)を見せた。

 

「おじさん城に持ってない?」

「あー、そういえば見たことあるな。

いいべ、いいべ。そんなもんでいいなら、やるだ!」

 

軽ーく了承した牛魔王に、蓮香と悟空の後ろでブルマとウーロンが喜びの声をあげた。

ウーロンなど、『生きて帰れるっ!』と言って涙を見せている。

よほど牛魔王が怖かったのだろう。

 

「じゃ、早速行ってくる!」

「あ、ちょっくら待った!」

 

今にも筋斗雲を飛ばしそうになった悟空たちを、牛魔王が呼び止めた。

 

「実は昨日、おらの一人娘のチチを、武天老師さまを探すよう使いに出しちまっただ。

途中の道にいると思うから、拾って一緒に連れてってけろ」

「いいけど……3人も乗れるかな?」

「なんとかなるんじゃねぇか?」

 

見た目より筋斗雲は広いし、何より蓮香と悟空もチビだ。

その一人娘がバケモノ級の大きさじゃなければなんとかなるだろう。

 

「気はちいせえがめんこい子だ。

そんだ! 小僧、おめえならヨメにしてやってもいいな!」

「ヨメって?」

 

蓮香は悟空にヨメの説明をしようと口を開いたが、その前に牛魔王が写真をポケットから取り出した。

 

「ほれ、これが写真だ」

 

そこに写っていたのは、なんとも可愛らしい女の子。

歳は蓮香と同じぐらいか少し上かぐらいだろう。

 

「その子連れてけばいいんだな」

「わかった、任せて」

 

 

 

 

 

 

この5人の様子を陰からこっそり見ていた人物がいた。

そう、ヤムチャとプーアルである。

この1人と1匹、牛魔王が見せたチチの写真を見て、目をひん剥いた。

何故か……それは、ここにくる途中写真の子にそっくりの少女を、訳あってヤムチャがぶっ飛ばしたからだ。

様子を見る限り、牛魔王は娘を溺愛している。

ぶっ飛ばしたことがバレたらぶっ殺されると、ヤムチャは急いで先ほどの少女の元へと車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

「あっ、悟空! あの人じゃない?」

「ん?」

 

筋斗雲を割と低空で飛ばし、チチを探していた蓮香たちは、写真の子にそっくりの少女を見つけた。

少女は目立つピンクのヘルメットをかぶっていたため、案外あっさりと見つけることができた。

 

「おーい。おまえ、チチって名前かー?」

 

少女の方に筋斗雲を近づけながら、悟空が叫ぶ。

少女は驚いたように振り向いた。

 

「そ、そんだけど……。な、何もんだおめえらは?」

「あなた、牛魔王のおじさんの娘でしょ?」

「えっ……おっとうを知ってるだか?」

「おっちゃんに頼まれて、これから亀仙人のじいちゃんとこ行くんだ」

「芭蕉扇……ってのを借りにね」

 

そう説明すると、チチは『ほんとけっ?』と驚いた

 

「オラたちの筋斗雲で連れてってやるから、乗れ」

「その綿あめみたいなのに乗れるのけ?」

「心が清らかなら乗れるって」

「なら大丈夫だっ! おらの心は水洗便所のように清らかだべ」

 

自信満々に言うが、水洗便所……おそらく、あまり清らかなものではないと思うのだが。

 

「ん……しょ」

 

チチは蓮香たちのように飛び乗る、ということができないらしく、筋斗雲によじ登った。

その際、ちょうど目の前に垂れていた蓮香と悟空のシッポをむんずと掴む。

 

「「っ!!」」

 

すると、2人の力がへなへなと抜けていき、ドテッと筋斗雲から落ちてしまった。

 

「ど、どうしただか?」

「イタタタ……シッポ握らねえでくれよ」

「あたしたち、シッポを強い力で握られると力抜けちゃうんだよね」

 

シッポを握られると力が抜ける。

これは、いまの蓮香と悟空の最大の弱点だった。

 

「あんれまー、おめえらなしてシッポがあるだか?」

「あるもんは仕方ねぇだろ?」

「生まれた時からあるんだよー」

 

 

 

 

 

 

そんな3人をこっそりと陰から覗く人影があった。

 

「よし、聞いたか。奴らの弱点はシッポだ!」

「はい、いいことを聞けましたね」

「よし……このまま奴らがドラゴンボールを7つ集めたところを狙って奪う。ふふ……いい考えだ」

「7つ集まるのが楽しみですね……ヤムチャさま!」

 

 

 

 

 

 

 

「あんれーっ!!」

「落っこちるなよー」

「支えてるから大丈夫だよ、チチ」

 

ものすごいスピードで筋斗雲が進んで行く。

乗っているのは子供が3人。

前に悟空、真ん中にチチ、後ろに蓮香だ。

チチは怖いのか、ぎゅっと目を瞑って悟空にしがみついている。

 

その時、何を思ったのか、悟空がチチの股のところをパンパンと蹴った。

 

「!!」

「やっぱり! おめえお……」

 

女だろ? と続けたかったのだろう悟空の言葉は途中で切れた。

蓮香に蹴り飛ばされたがために。

 

ガンッと悟空は地面に墜落した。

筋斗雲を止めた蓮香が上から叫ぶ。

 

「2度とそれをやっちゃいけないって、言ったでしょーが!!」

「イッテー! なんだよー、そんなたいしたことやってねえだろー」

「たいしたことなの!! ねぇ、チチ?」

「んだ! たいしたことやったべ!」

 

チチも相当お怒りのようだ。

けど、チチは心の中でこうも思っていた。

あんなところを蹴られては、もう、この少年のところにお嫁に行くしかないと……。

 

 

 

 

 

 

再び飛ぶのを再開し、海へと着いた3人。

 

「海は広すぎて亀仙人のじいちゃんがどこにいるかわからねえな」

「誰かに訊こうか」

 

偶然にも、イルカが3人の下を跳ねた。

 

「あ、あの人に訊いてみるべ」

 

イルカは人じゃないよ……。

蓮香は心の中だけで突っ込む。

人間以外の生き物が喋ることには、すでに驚かない。

 

「なあなあ、亀仙人のじいちゃんの家知ってる?」

「ああ! 知ってイルカ。あっちにずーっとずーっと行ったとこの、小さな島に住んでイルカ!」

 

いちいち語尾に『イルカ』がつくので、何かを訊かれているような感覚に陥ってしまう。

 

「サンキュー」

「ありがとー」

 

イルカの指(?)差した方に筋斗雲を飛ばして行くと、確かに小さな島があった。

台風が来たらあっという間に沈んでしまいそうな小さな島だった。

そこには派手なピンク色の小さな家が一軒。

KAME HOUSEと書かれている。

 

「おっす!」

「こんちはっ!」

 

そこにいたのは、大きな甲羅を背負い、サングラスをかけて禿げた爺さん……亀仙人と、松茸狩りに行って迷子になったウミガメだった。

 

「ありゃりゃ。誰かと思ったら筋斗雲をやった子供らではないか」

「じいちゃん元気?」

「おお!元気だよ〜ん」

「あ、あの人が武天老師さまけ?」

 

(あっさり芭蕉扇が手に入るといいけどなぁ)



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13.亀仙人の芭蕉扇

フライパン山の火を消せると言う芭蕉扇(ばしょうせん)を求めて亀仙人(武天老師)の家へとやってきた蓮香たち。

果たして芭蕉扇は手に入るのか………。

 

「おっす! じいちゃんにもらった筋斗雲調子いいぞっ」

「すっごく役に立ってるの!」

「そりゃあよかったわい。筋斗雲は何しろ神様に授かった素晴らしい雲じゃからな」

「へーっ! 神様からか、すげえなぁ」

「じいちゃん神様にあったことあるんだ……」

 

亀仙人は、驚く悟空と蓮香の後ろに見覚えのない娘が立っているのに気づいた。

 

「お、おい。おぬしらと一緒にいる娘っ子、ちょっと縮んでしまったんじゃないか?

ほれ、前見た時はもっと……胸がボイーンとしとらんかったかのう? ボイーンと」

「そっち?! というか2回もボイーンを強調しなくてもっ!」

「………!」

 

わざわざブルマの胸のでかさを手で表しながら言う亀仙人に、思わず突っ込む蓮香とドン引きするチチ。

 

「ちがうよ。こいつは牛魔王の子供だよ!」

 

ツッコミも引きもせずに亀仙人の勘違いを指摘したのは悟空。

 

「なに、牛魔王の娘?! ほーか! ほーか!」

「チチっていうの」

 

蓮香の言葉にコクコク頷くチチ。

それを聞いた亀仙人は、空を見上げて呟いた。

 

「うーむ……お父さんじゃないのに、()()か……」

 

わざわざ空を見上げて、真面目な表情で呟く言葉じゃない。

 

するとチチが、少し疑わしげな顔で蓮香と悟空の囁くような声で尋ねた。

 

「なあ……あのじっちゃん本当に武天老師さまけ?」

「そうだろ」

「多分……ごめん、なんとも言えないわ」

 

チチが疑ってしまうのも無理はないだろう。

何しろ、亀仙人はパッと見ただのスケべなじじいである。

 

「おら、ちょっくら確かめてみるだ……」

 

そういうや否や、チチはヘルメットについた刃を投げる構えをとった。

そして、なにやらどうでもいいことを呟いて1人で笑っている亀仙人の背後に、

 

「本物なら避けられるはずだべ……!」

 

その刃を思いっきり投げた。

刃はまっすぐ亀仙人の頭に向かって飛んでいく。

それの気配を察知したのか、亀仙人はピクリと小さな反応を見せた後、おかしな声をあげて振り向いた。

持っていた杖を、自分を守るように前に出して。

……が、刃はあっさりと杖を切り裂き、亀仙人の頭に刺さった……というより食い込んだ。

 

うっわ、痛そ……。

人ごとのように呟く蓮香は結構ヒドイ。

 

「ぐおおぉぉっ!」

「だっ、大丈夫ですか?!」

 

痛みにうずくまる亀仙人に、ウミガメが慌てて駆け寄った。

 

「や、やっぱりおめえ、武天老師さまじゃねえべっ!」

 

チチは悪びれもせずに問い詰める。

 

「アホンダラ!! いくらわしでもあんなの急に避けられるかっ!」

 

対する武天老師は立ち上がって言い返す……?!

 

(なんで立ち上がれる? なんで叫ぶことができる?)

 

「んだら、武天老師さまだっちゅう証拠を見せて欲しいだ!」

「ほれ、自動車の免許証じゃ。名前を見てみい」

「あんりゃーっ!」

 

頭に刃を食い込ませたまま、チチと平然と会話を交わす武天老師。

驚異の丈夫さである。

刃の形もあって、亀仙人にトサカができたように見えるのが面白かった。

 

「お、おらとんでもねえことを……すまねえだ!」

 

そう言いながら慌てたように亀仙人の頭から刃を抜くチチ。

 

「おら早とちりだから……」

「早とちりで危うく殺人者になるとこだったね……」

 

蓮香は若干引きつった笑いを浮かべた。

ちなみに、亀仙人の怪我の治療は大きめのバンドエイドを貼っただけである。

 

「まぁそんなことよりお前たちよ、一体何のようでここにきたのじゃ?」

「あっ、いけねえ忘れてた!」

「じいちゃんに芭蕉扇を貸してもらいたいの。持ってるんでしょ?」

「なに、芭蕉扇!」

 

亀仙人は驚いた後、(珍しく)シリアスな顔になって、芭蕉扇について説明した。

 

「確かに持っておるが、芭蕉扇をどうするつもりじゃ?」

「おら貸してけれ! フライパン山の火を消してえだ!」

「すぐ返すからさ」

「貸してあげて?」

 

全員で必死に頼み込むと、亀仙人はまだどこかシリアスな表情を保ったまま低く唸った。

そして考え込むように黙り込む。

 

「おねげえだ! 貸してけろっ」

「なに悩んでんだ?」

 

後ろで頭を下げるチチと、コテンと首をかしげる悟空。

その隣で、蓮香は微妙な表情を浮かべて呟いた。

 

「なんか、嫌な予感が……」

「よし、貸してやろう!」

 

蓮香の呟きに、亀仙人のはっきりとした言葉がかぶせられる。

それを聞いたチチは飛び跳ねて喜んだ。

そんなチチに、亀仙人は一言付け加えた。

条件がある、と。

 

「小僧、ちょっと」

 

ひょいひょい、と手招きをして、亀仙人が悟空を呼ぶ。

 

「なんだ?」

「うむ……あっ、これ。おぬしは来んでよい」

「変な条件出された上、悟空が大した理解もできずにそれを呑んじゃったら嫌だし」

 

悟空についてきた蓮香が、ツンっと言い放つと、亀仙人は小さくうなだれた。

 

「まぁいいか……。

条件なんじゃがな、おぬしらと一緒にいたあの胸のでかい娘っ子の、パ、パイパイをちぃーっとつつかせてもらえんかの?」

「そんなことだろうと思ったこのすけべジジイが!」

「お、大きい声を出すでない!」

 

冷めきった目で亀仙人を見る蓮香。

武天老師と呼ばれるこの老人は、おそらく腕は確かなのだろうが、なにぶんスケべすぎる。

 

「ま、いいんじゃないか? 胸つつくぐらい」

「ちょ、悟空!」

「お前、かるいのう……」

 

やはりきちんと意味を理解していない悟空。

ついてきてよかった……と蓮香は心の底から思う。

 

「だめだよ! ブルマが可哀想でしょ」

「何を堅いこと言うか。わしは老い先短いんじゃ、冥土の土産ぐらい持たせてくれたっていいだろう!」

 

うぐっ……と蓮香が言葉に詰まる。

そう言われると、根の優しい蓮香は何も言えない。

 

「何が冥土の土産ですか。亀仙人さまは不老不死の薬を飲んだじゃないですか」

「こ、これ! 余計なことは言うな、カメのくせに!」

 

蓮香はうーっと唸った。

この条件はブルマがあまりに可哀想だが、この条件を呑まなければ芭蕉扇……ドラゴンボールは手に入らない。

さて、どうしたものか。

そう思った時、蓮香の頭にとある豚の顔が浮かんだ。

 

「あっ……! ……いいわ、ブルマには可哀想だけど、その条件を呑む」

「えぇ、蓮香さんっ?」

「おお、おお。では芭蕉扇を貸してやろう!」

 

いきなり条件を呑んだ蓮香に驚きの声を上げるウミガメ。

亀仙人は上機嫌になって、芭蕉扇を取りに家の中へと入っていった。

入る前に

 

「この条件は牛魔王にはナイショじゃぞ。格好がつかんからな」

 

としっかり釘を刺しておいた。

その時点で既に格好悪いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

亀仙人が芭蕉扇を探し始めて十数分。

 

「あのー、まだ見つからないだか?」

「どこやっちまったんだ?」

「おかしいのお……カメよ、芭蕉扇どこにあるか覚えておるか?」

「ずっと前、ナベシキに使っておられたんですから、台所じゃないですか?」

「「ナベシキ……」」

 

チチと蓮香が同時に呟く。

神聖なうちわをナベシキに使うなど……呆れて物も言えない。

 

「あれが芭蕉扇じゃったのか……!」

「知らないで使ってたの?」

「うむ……しまったの。あれはワンタンの汁がこぼれて汚れたから捨ててしもうた……」

「おぉいっ!」

 

亀仙人と一緒にいると、蓮香はツッコミが尽きず、少々疲れる。

 

「えぇーーっ!」

「そんな……!!」

「なんとバチあたりな!」

 

悟空、チチ、ウミガメは驚いたように声をあげた。

驚くのも当たり前だが。

 

「もう、フライパン山の火は消せねぇだよぉーっ!」

「ドラゴンボールも無理だな……」

「どうすれば……」

 

ショックでチチが泣き出した。

悟空と蓮香も予想外の事態に思わず唸る。

 

「よろしい!!」

 

そんな、混乱めいた場の雰囲気を払拭したのは、亀仙人の力強い声だった。

 

「こうなれば、わしが自らフライパン山に出向いて、火を消してやろう」

「えっ!」

「じいちゃんそんなことできるのか?」

「当たり前じゃ。この武天老師に不可能はない!」

 

力強く言い切った亀仙人が、目の錯覚か、とても頼もしく見えた。

 

「よいな。パイパイのこと、お前からあの娘に伝えてくれよ」

 

しかし聞こえてきた悟空との会話に、やっぱり目の錯覚か……、と蓮香はがくりと項垂れる。

うなだれた先で、あの生真面目らしいウミガメと目があった。

大変だね、と言う意を込めて苦笑を向けると、同じような苦笑で返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ではレッツゴーじゃ!」

「わざわざ服着替えてきたのか?」

「ふっふっふ。今回は格好良く決めんとな」

 

出してきた条件や、頭に貼られた大きなバンドエイドのせいで、あまり格好良くはないのだが……蓮香はそれを口にはしなかった。

 

「それより、じいちゃん筋斗雲に乗れないよね? どうやっていくの?」

 

単純な疑問をぶつけると、亀仙人は不敵に笑った。

そして、杖(あれ、そういえば切れたはずなのに直ってる)を掲げ、高らかに声をかける。

 

「子ガメラよ……来いっ!」

 

すると空から、何かがくるくると高速回転しながら飛んできた。

それはドスッと音を立てて砂浜に着陸する。

どうやらそれは、カメ……いや、ガメラの子供らしかった。

軽く挨拶を交わした後、亀仙人はそのガメラの背中にあぐらをかいて座った。

 

「子ガメラよ。フライパン山まで連れていって欲しいのじゃが」

「ヘーい」

「よし、ではレッツゴー!」

 

亀仙人がそう呼びかけ、悟空は筋斗雲を走らせた。

亀仙人も子ガメラに乗ってついてくる。

子ガメラはものすごく回りながら飛んでいるのだが……。

 

「あれ、あたしだったら酔うな」

 

蓮香の呟き通り、亀仙人はフライパン山に着いた途端酔いで嘔吐し。

皆の不安を煽ったのは言うまでもない。

 

(失礼だけど、不安しかない……)



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14.亀仙人のかめはめ波

短めです。


「なるほどの……これがフライパン山か。すごいもんじゃ」

「本当に消せるの?」

「なに、容易いことじゃ」

 

きっぱりと言い放つ亀仙人だが、蓮香も悟空も……その場にいる全員が、若干不安げな表情だった。

 

「これ、牛魔王よ」

「は、ははっ!」

 

牛魔王は、久方ぶりの師匠との対面で緊張しているらしく、ガチガチだ。

 

「おまえ評判が良くないのお。

宝を守るため、幾人も殺生しているそうではないか」

 

あえて燃え盛る炎の山から視線を離さないまま、静かな口調で牛魔王を諭す。

その姿は、よい師匠のように見えた。

 

「まことにおはずかすい限りですだ! 火さえ消えれば宝など捨てます!」

 

そう言いながら土下座をする牛魔王。

彼のこの姿を、今まで彼を恐れていた人たちが見たら呆気にとられるだろう。

事実、ウーロンが驚愕を浮かべてその様子を眺めていた。

 

(なんだ、亀仙人のじいちゃん。しっかりいい師匠なんだ!)

 

蓮香がそう思ったもつかの間。

 

「お、おい、例の条件」

 

顔を赤らめて悟空のことをつつく。

蓮香は少し考えを改めた。

 

(いい師匠だけど、この世界じゃなかったらとっくにわいせつ罪で刑務所行きかも)

 

その後亀仙人は、悟空とブルマを連れて少し離れたところに行く。

なにを話しているかは、完璧に予想ができた。

 

戻ってきた亀仙人の顔には、大きく『上機嫌』と書かれており、ブルマの顔には、大きく『不機嫌』と書かれていた。

そんな不機嫌丸出しのブルマに、蓮香はスゥーっと近寄った。

 

()()は呑んだ?」

「ちょっと、蓮香! 知ってたんならあのスケベじじいを止めなさいよ!」

 

小声で尋ねると、小声の叫びが返ってくる。

 

「止めようとしたんだけど……止められると思う?」

「…………」

「でも、いい案があるの」

「いい案?」

 

ニコリと……いや、ニヤリと笑う蓮香に、ブルマは思わず不機嫌を忘れて首を傾げた。

 

「ウーロンに、ブルマそっくりに変身してもらうの。つまり……」

「ウーロンを身代わりにってこと?」

 

こくん、と頷く蓮香。

ブルマは思わず笑みを濃くした。

この、一見幼気(いたいけ)な普通の少女。

こう見えて意外とイイ性格しているのだ。

 

「確かにいい案ね。ありがと、蓮香」

「ふふっ。あとはこれをウーロンが呑んでくれるか、よね」

「だいじょーぶ。断っても、ピーピー言ってやるわ」

 

ニヤリとほくそ笑む、女同士。

この2人、本当にイイ性格をしている。

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、山の火消してやるぞーい!」

 

まさか豚(しかもオス)の身代わりを立てられるとは知らず、亀仙人が至極ご機嫌な様子でみんなに声をかける。

 

「よかった! おねげえしますだ!」

「……ではやるかの」

 

亀仙人はそう言って、ばさりと上着を脱いだ。

 

「わし、セクシーじゃろ?」

「はいはい」

 

ただガリガリなだけ……。

背中に湿布貼ってあるし……。

 

空返事を返すブルマの横で、蓮香は生暖かい目を亀仙人に向けていた。

 

「よっこらせ……くく!」

「ほれ、しっかり」

「せぇーの!」

 

崩れた塀の上に、悟空と蓮香の力を借りてなんとかよじ登る。

その姿は、ちょっと元気なだけの老人そのもので、ウーロンなど『こりゃダメだ』と呟いてしまった。

 

「よっしゃ、いくぞ……」

 

亀仙人はまだフラフラしながらそう言い、

 

「んぅーーっ…………はっ!」

 

力を溜める。

……その、瞬間。

 

「なっ……!」

「えっ!」

「「げげげげっ!」」

「あれまーっ!」

 

ガリガリだった亀仙人の体が、筋骨隆々のたくましい体つきへと変化した。

纏っている雰囲気までもが変わり、力がどんどん上がっていく。

蓮香は、不可視の『気』を、ビシビシと感じていた。

……無論、無意識下で無自覚なのだが。

 

「てで、でるだ! 武天老師のかめはめ波!!」

「かめはめ波……?」

 

緊張と興奮に満ちた牛魔王の声。

その場の緊張感が高まった。

 

「か……め……」

 

亀仙人は小さな声で何かを言いながら、両手を不思議な形に合わせる。

 

「は……め……」

 

緊張感が、最高潮に達した。

 

「波!!」

 

亀仙人がそう叫び、両手を燃え盛る山の方へと押し出した……瞬間。

目の眩むような青白い光の玉が、亀仙人の手から弾け、山を目指して一直線へと飛んで行った。

続いて、大きな爆音にも似た音が響く。

 

「ぷひゅー。消えたぞい」

 

そういう亀仙人は、元のガリガリに戻っていた。

 

「た、たまげた……」

「嘘でしょ……」

 

悟空と蓮香が、やっとと言うようにそれだけ呟く。

ブルマやウーロンたちは口を開けたまま言葉を発することはできないようだった。

 

「あんのぉ……老師様」

「ん、なんじゃい?」

「火は消えますたけんど……ついでに山も城も……」

「ん?」

 

牛魔王に言われて、亀仙人も山の方を振り返る。

 

「「「「あっ……」」」」

 

先ほどまであったはずの山は、跡形もなく消し飛んでいた。

 

「…………張り切り過ぎちゃった! てへっ」

 

全員がその場にひっくり返ったのは、言うまでもないだろう。

 

()()が良すぎたのね……)

 




次回でフライパン山編は終わりとなります!


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15.七星球(チーシンチュウ)発見!

亀仙人が火を……ついでに山も城も全て消しとばし、ブルマとウーロンはレーダー片手にドラゴンボールを探しに行った。

 

「すまんかったのぉ。城を消してしもうて」

「何いうだ! 城は建て直せばええだよ!」

 

まだ申し訳なさそうな亀仙人に、チチが太っ腹に言い飛ばす。

 

「すげえ技だなぁ。じいちゃん、オラにも教えてくれよ!」

「あたしにも教えて!」

「フォッフォッフォッ。それは無理じゃよ。かめはめ波を習得するには、50年は修行せんとの」

「「50年……」」

 

亀仙人に軽くあしらわれてしまい、蓮香も悟空も残念そうに肩を落とす。

 

「できねぇかなぁ?」

「やってみる?」

 

蓮香の提案に、悟空はニヤリと笑った。

 

2人して、ヤムチャのくれた自動車に向かって立つ。

さっきの亀仙人に真似たポーズをとり……

 

「「んむぅ………はっ!」」

 

力を溜めて、2人同時に両手を車の方に突き出した。

パァっと青白い閃光が2つ、車に向かって放たれる。

亀仙人の放ったそれよりもずっと小さいが、それは紛れもなくかめはめ波。

かめはめ波が放たれた音と、車が吹っ飛び壊れる音に驚いて、談笑していた亀仙人、牛魔王、チチが振り返る。

 

「出た……」

「出た……ね」

 

そこに立っていたのは、手を突き出したまま呆然と硬直している悟空と蓮香。

やってみたものの、できるとは2人とも毛頭思っていなかった。

 

「素晴らしい……さすが悟飯さんのお孫さんだべ」

「なに?! 孫悟飯のか?」

「あれ、老師様は知らなかっただか?」

「んむ……昔、悟飯から尾の生えた子供を拾って育てていると聞いたが……相当鍛え混んでおるの」

 

背後でそんな会話がされているとは知らず。

 

「ねぇ、車壊しちゃったよ……。どうする?」

「おこられっかなぁ……?」

「おそらく。出るとは思わなかったからなぁ」

「オラも……」

 

当の本人たちは、壊れた車を前に立ち尽くしていた。

 

「これ、小僧らよ」

「ん?」

「なぁに?」

「孫悟飯は元気か?」

 

亀仙人の問いかけに、蓮香が若干辛そうな表情をする。

 

「じいちゃんなら死んじまった」

「大猿の化け物に踏み潰されて、ね」

「なにっ?! そうか……惜しい男を亡くしたの」

 

亀仙人も、ムゥっと眉間にしわを寄せる。

愛弟子が死んでいたとは、思いもしなかった。

 

「どうじゃ、この旅が終わったら、2人ともわしの家に来んか?」

「「えっ?」」

「修行をつけてやるぞ」

「ホント?!」

「ホントか!」

 

途端、パァっと顔を明るくする蓮香と悟空。

 

「行く! 絶対行くよ!」

「修行つけてくれ! 約束だぞっ!」

「うむ、うむ」

 

頷いてくれる亀仙人に、蓮香と悟空は飛び跳ねて喜びあった。

強い人に修行をつけてもらうことは、純粋に強さを求め、純粋に闘いを望む2人にとって、なににも変えがたいステキなプレゼントだ。

 

「あった!! バンザーイ、バンザーイ!」

 

その時、少し遠くからブルマの歓声が聞こえてきた。

どうやらドラゴンボールが見つかったらしい。

 

「これで6個目だね!」

「あぁ、7つ集まったら修行だな!」

 

2人は早くも修行しか頭に無いようだった。

 

 

 

 

 

 

「なにこれ! 車がめちゃくちゃじゃない!」

「あはははは……」

「すまねえ……」

 

戻ってくるなり驚き、不満の声をあげたブルマに、蓮香と悟空が乾いた笑いを浮かべる。

 

「車なら、おらのをやるべ」

 

助け船をだしてくれたのは牛魔王だった。

どこからか、すっかり馴染みとなったホイポイカプセルを取り出し、投げる。

ボムッと現れたのは、少し古いデザインだがなかなかステキな車だった。

 

「わぁっ! どうもありがとう!」

 

ブルマを筆頭に、蓮香たちが車に乗り込む。

次のドラゴンボールが西の地にあることがわかり、お別れ……という時、亀仙人がブルマを杖で突いた。

 

「約束を忘れてはおらんかの?」

「あははぁ……やっぱし覚えてた?」

 

例の条件のことだ。

ブルマは先程蓮香に言われた通り、ウーロンを引き連れて向こうへ行った。

その後すぐに、亀仙人がブルマ(おそらくウーロン)に呼ばれて岩かげに猛ダッシュで向かっていった。

ウーロンのことだから悪ノリして、何かしでかすかも。

蓮香はそんな不安を抱いたが、まぁいっか、と流した。

 

(ほんと、スケベな師匠だ……)

 

 

 

 

 

 

「なぁ悟空さ」

 

車に乗り、ブルマとウーロンを待っている間、チチが悟空に話しかけてきた。

その頰が、わずかに赤らんでいる。

 

「おらたちもうちっと大きくなったら、嫁にもらいにきてくれな?」

 

聞こえてきた言葉に、ぼんやりとしていた蓮香が驚いたように振り返る。

 

「ヨメ? ヨメってなんだ?」

「やんだー、わかってるくせに!」

(ごめんチチ。悟空は本気でわかってない)

 

わけもわからず悟空が了承して仕舞えば、大きな勘違いが2人の間に生まれることとなる。

蓮香は慌てて悟空に説明した。

 

「悟空、嫁にもらうってのはね、結婚することだよ」

「ケッコン?」

 

次々と聞きなれないワードが出てくるせいか、悟空の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

チチも、悟空が本気でわかってないのを理解したらしく、結婚について説明した。

 

「愛し合うものが一緒に暮らすことだべ」

「ちなみに、愛し合うってのは……。まぁつまり、一番大好きな女の子と一生一緒にいることだよ」

 

愛し合う、をうまく説明する言葉が見当たらず、蓮香は簡単に悟空にそう説明した。

 

「ヨメにもらうってのは……?」

「一番大好きな女の子を選ぶ……ってことかな?」

「そっか……ならチチはヨメにもらえねえや」

「「えっ?」」

 

チチと蓮香の驚いたような声が重なった。

 

「な、なしてだ……?」

「オラが一番好きな女の子は、蓮香だからな」

「……ふぇっ?(なんか今、とんでもない言葉が悟空の口から飛び出た気がする……)」

 

予想だにしていなかった悟空の言葉に、蓮香が思わず間抜けな声を出した。

 

「蓮香さは悟空さの姉か妹だべ? 兄妹は結婚できねぇだよ」

「オラと蓮香は兄妹じゃねぇぞ」

「……多分だけどね」

「そうだっただか……」

 

チチが自分に敵意を向けていなかったのは、悟空と兄妹だと思っていたからかな。

蓮香は遅ればせながらそう思う。

 

「そっか……悟空さは蓮香さを愛してるだな……」

「……アイシテルってのはよくわかんねえけど、オラ蓮香のことが大好きだ!」

「……!」

 

悟空は、きちんと理解していないはずだ。

悟空が自分に向けているのは、家族愛……あるいは友愛のはず。

恋愛感情であるはずがない。

悟空がそんなもの、抱いているはずがない。

 

そうわかっていても、蓮香は頰が熱くなるのを止められなかった。

 

「おらは横恋慕なんて野暮なことはしたくねえだ。女は引き際が肝心だな……」

 

若干寂しげな顔で、チチがそう言った。

子供同士の、幼稚な愛。

だとしても、悟空への愛がチチの初恋だったのは予想がつく。

 

(もしかしたら……)

 

ある予感が、蓮香の心をよぎった。

 

(原作世界の悟空の嫁はチチだったんじゃ……。だとしたら、あたしは、原作を決定的に、大きく変えてしまった。登場できないキャラクターがいるかもしれない。あたしは、とんでもないことをしてしまったんじゃ……)

 

 

それからすぐ亀仙人たちが戻ってきて、ここでお別れとなった。

目指すは西。

残るドラゴンボールは1つである。

 

(チチ……本当にごめん。ごめんなさい……)




これでフライパン山編は終了となります。
次回はウサギ団の話ですが、久々に純戦闘シーンがあるので不安です…。


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16.ウサギとニンジン

今回は2話をくっつけたので少しだけ長いです。


そろそろ車の燃料がなくなってきた……とヒヤヒヤしながらきのこの森(?)を進んでいた蓮香たち。

幸運なことに、そろそろ完全に切れてしまう、というところで大きな街に到着した。

 

「助かったー、街があったじゃない!」

「燃料が入れられるぞ!」

 

喜ぶブルマとウーロン。

しかし蓮香と悟空は妙な違和感を感じていた。

 

「なんかさぁ、注目浴びてない? ねぇ、悟空」

「あぁ……おっす!」

 

悟空はちょっと首を傾げた後、近くを通った少女に声をかけた。

が、

 

「きゃぁぁぁ!」

 

と盛大な悲鳴を上げて逃げられてしまった。

逃げた少女の視線は、悟空ではなくブルマに向けられていた気がして……。

 

「どうやら、怖がられてるのはブルマみたいだね」

「? 何言ってるのよ。あ、満タン頼むわね」

 

ブルマが車を降りて、ガソリンスタンド(?)の店員にそう声をかける。

その店員も、心なしかビクついているようだ。

 

「私は買い物してくるわ。あんたたちも行く?」

「オラはいい」

「悟空が行かないならあたしもいいや」

「オレも行かねえぞ。女の買い物は長ったらしいからな」

 

全員に行かない、と言われたブルマは少しだけ不満げな顔をする。

荷物持ちがいない……とでも思ったのだろうな、と考え蓮香は思わず乾いた笑みを浮かべた。

相変わらず蓮香は、人の考えを読むのが得意らしかった。

 

 

 

 

 

 

「ブルマが怖がられてたのは気のせいじゃないみたい。ほら、あたしたち視線を浴びなくなったもん」

「そうみてえだな」

 

車を降りてあたりを見回しながら会話する。

ブルマのいなくなった蓮香たち一行に目を止めるものは誰もいない。

 

「あのぉ……」

 

まだどこか怯えたような声色で話しかけてきたのは、車に燃料を補給してくれた店員だった。

 

「はい?」

「皆様はウサギ団とは何の関係も……?」

「「「は……ウサギ?」」」

 

見事、蓮香と悟空とウーロンの声が重なった。

まさか、ブルマが怖がられていたのはあのバニーガールの耳飾りのせいか?

 

「関係ないんですね……よかったぁ。紛らわしい髪飾りはやめてくださいよぉ〜」

 

本気で安心したというように力を抜く店員さん。

一体何がなんなのかわからない。

 

「あのウサギの格好は、このスケベ豚の私物ですよ」

「……」

 

蓮香に笑顔でスケベ豚呼ばわりされたウーロンは、決まりが悪いのかだんまりを決め込んでそっぽを向く。

悟空はそんなウーロンの姿を見て笑っている。

 

「ところでウサギ団というのは……」

 

蓮香がそこまで言った時、ブルマが帰ってきた。

 

「あっ、服買えたんだ」

「えぇ。やーっとあのバニー服が脱げたわよ」

「おっ、飯買ってきたか? オラ腹減ったぞ!」

「買ってきたわよー」

 

ブルマが帰ってきたものの、バニーの髪飾りを外した彼女はなんの注目もされていなかった。

 

 

 

 

 

 

「あれ……」

「ん? どうしたんだ、蓮香」

 

ブルマの買ってきたリンゴやら肉まんやらにかじりついていた蓮香が、何かに気づき小さな声をあげた。

それに耳聡く気づいたのは、当然と言えるか、悟空。

 

「あいつら……ウサギの格好してる」

「ん〜……あぁ、あいつらか」

 

2人が目を向ける方には、黒い服を着込み、頭にウサギの耳飾りをつけた男が2人。

りんごを奪ったり、通り行く人にガンつけたり……と、はたから見てもわかるほどガラが悪い。

 

「私が怖がられてた理由はあの人たちね……」

 

ブルマは汚いものを見るような目をその2人に向けた。

その視線に気づいてしまったのか、男2人がこっちを向いた。

 

(あっ……闘える予感が)

 

蓮香は無意識で唇の端をあげる。

彼女は悟空と同じくらい……いや、それよりもか好戦的だ。

 

「おいそこの女」

「ちょーっと俺らと一緒に遊ばないか?」

 

下手なナンパだ……と思いつつ、口にはしない蓮香。

 

「ふん。こっちはあんたたちなんか相手にしてられるほど暇じゃないのよ。さっ、行きましょ」

 

ブルマは声をかけてきた男2人にちらりと一瞥をくれて、ツンっと冷たく言い放った。

その姿を見るに、ナンパには慣れてるのかもしれない。

 

「長生きしてぇだろ」

 

チャキッという微かな金属音。

ブルマが振り返ると、背の高い方の男が首筋に銃口を当てていた。

 

「正当防衛、成立……かな?」

 

そう呟いたのは、ブルマではない。

蓮香だ。

 

「っ!!」

 

その途端、背の高い方の男が自分の右手を抑えてうずくまった。

蓮香が、目にも留まらぬ速さで回し蹴りを彼の右手に放ち、銃を弾き飛ばしたのだ。

 

「くそっ、このガキ」

 

続いて背の低い方の男が銃を取り出したが、悟空のパンチによって制圧された。

 

「あー、久しぶりに闘ったから気持ちいいなー」

「だねぇ。でも今のは闘った、て言えなくない? あたしなんだか物足りないけど」

 

この2人の会話に、ブルマとウーロンが声を合わせて呟いた。

野蛮人め……と。

 

「す、すいません親分……街に来てくだせぇ。めちゃくちゃ強い奴がいまして……」

 

そんな声が聞こえてきて、そちらに目を向けると、背の高い方の男がレシーバーを片手に持っていた。

言葉の通り、彼らの親分を呼んだのだろう。

 

「第2ラウンド突入かな」

 

嬉しそうな蓮香の言葉にかぶせるように、人々の悲鳴があちこちから上がった。

 

「とんでもないことしてくれたなっ!」

 

という罵倒の言葉も飛んでくる。

そして街の人々はあっという間に家に閉じこもり、街は不気味な静けさに包まれた。

 

 

 

 

 

 

「もうお前らおしまいだぜ」

「ニンジンになって食われちまうがいい!」

 

チビ男も起き上がり、2人してニヤニヤと嫌な笑いを浮かべる。

 

「お、おい。なんだかやばそうだぞ! 逃げようぜっ」

「逃げる必要なんかねぇだろ。オラたち何も悪いことしてねぇからな」

「悟空と同意見。逃げちゃうなんて勿体無いもん」

 

とそこに、車のエンジン音が聞こえてきた。

見ると、ウサギの形をした何とも可愛らしい車がこちらに近づいてきている。

降りてきたのは……。

 

「くくっ……ウサギの中から、ウサギ……」

「蓮香、笑ってる場合じゃねえぞ。逃げようぜっ」

「だーいじょうぶだって」

 

降りてきたのは、サングラスをかけたウサギだった。

服のお腹のところに、大きく『兎』とプリントされている。

 

「ほほーっ!」

 

車から出てきたウサギは、男2人と何やら話した後、いきなり奇声を上げてこちらに飛んできた。

そして……

 

「握手しましょう」

 

ブルマに向かって、徐に手を差し出した。

 

「ケッタイな奴」

「男って……」

「?」

 

パチン。

小気味のいい音を立てて、ブルマがウサギの手をはねのけた。

 

「誰があんたなんかとっ」

 

強気に言うが、言われたウサギは不気味な笑みを浮かべている。

 

「触りましたねぇ……」

 

その、瞬間。

 

「「「えぇっ!」」」

 

ボムッという音を立ててブルマがニンジンになってしまった。

驚きで目をひん剥く蓮香たち。

 

「いっひっひー。ザマーミロ。さすが親分っ」

 

とか言ってる男が2人いるけど、そいつらはとりあえず無視。

 

「このやろーっ!」

「ブルマを返しなさい……!」

「ホッホッホ。私にかかってくるのですか? あなた方もニンジンとなりますよ」

「「くっ……」」

 

卑怯な……と思いながらも、そう言われれば動くこともできない。

 

「あっ。悟空、如意棒!」

「そうかっ!」

 

蓮香が悟空の背に背負われている如意棒の存在を思い出し、思わず叫んだ。

悟空もニヤリと笑い、形勢逆転とばかりにウサギに攻撃を仕掛ける。

 

「お待ちなさいっ! 暴れるとこのニンジンを食べてしまいますよ!」

 

しかしそう言われ、再び形勢逆転。

こちらは手も足も出せなくなってしまった。

 

「汚ねぇ……」

「ウーロン、鳥に化けてブルマを……って、あぁ!!」

 

蓮香がパッと名案を思いつき、車に乗るウーロンの方を向くと、彼はすでに車を発進させていた。

 

「さいならーっ! オレには関係ないもんねーっ!」

「あっ、こら!」

「……ピーピーピー!」

 

ブルマがウーロンに舐めさせたキャンデーを思い出し、蓮香はとっさにこう叫ぶ。

それを耳にしたウーロンは腹を壊し、慌てて車を降りて茂みに飛び込んだ。

 

「とりあえず、ウーロンのことはあと。どうする悟空」

「どうするったってなぁ……」

 

ウーロンの逃亡を防いだはいいものの、手足の出せないというこの事態は変わらない。

 

「お前たち、あの子供らをかわいがってやりなさい」

「いっひっひ。任せてくだせぇ」

「さっきはよくもやってくれたなぁ」

 

ニタニタと笑いながら、腕まくりをして蓮香たちに近づいてくる男2人。

 

「おいっ! オメェら蓮香になんかしたら承知しねぇぞっ!」

「ちょっと! 悟空になんかしたらボコボコにするからねっ!」

 

悟空と蓮香は同時に同じ意味の言葉を相手に叫び、思わず顔を見合わせる。

 

「仲がいいのは結構だなぁ……」

 

ジリジリと近づいてくる2人から少しでも逃げるようにと、蓮香たちもゆっくりと後退していく。

ウーロンは決してこちらに戻ってこないだろう。

何かないか、と唇を噛んだとき、蓮香はある気配を捉えた。

こちらを伺うような、あの気配。

 

「ヤムチャ、プーアル! もしそこにいるなら奴の持ってるニンジンを取り上げてっ!」

 

1つの賭けだった。

もしこっちを伺う気配がヤムチャたちなら、きっと答えてくれるはず……と。

 

賭けは大当たりだった。

蓮香が叫んだ瞬間、どこからか小さな鳥が現れて、ウサギの手からニンジンを奪い飛んで行った。

青色の毛並みの鳥だった。

おそらく、いや、間違いなく、変化したプーアルだ。

 

「悟空っ!」

「あぁ!」

 

蓮香は一瞬で飛び上がり、流れるような仕草で男2人に蹴りを放った。

悟空は蓮香の声に応えると、如意棒を構えてウサギににじり寄る。

 

「ま、待ちなさい! 私を殺すとあの娘は元には戻りませんよ」

「オラは殺したりなんかしねえさ……!」

 

悟空はブンっと如意棒をウサギの頭に振り下ろす。

ウサギが痛みにうずくまると、そこにプーアルが飛んできて、悟空にニンジンを渡した。

 

「おいっ! このニンジンを戻してくれたら、命だけは助けてやる」

「わ、わかりましたっ!」

 

ウサギは慌ててニンジンの前に立った。

そして片足を上げ、『ヘイッ』と言いながら手を2回叩く。

するとボムッと音を立ててニンジンがブルマへと戻る。

 

「あ、あれ……私どうしてたのかしら……」

「プーアルが助けてくれたのよ……って、あれ? プーアルと……ヤムチャは?」

 

蓮香がウサギと男たちを縛りながら辺りを見回す。

が、プーアルたちの姿はどこにもなかった。

ついでに気配もなかった。

 

「ま、いいや。ありがとねーっ」

「にしても蓮香、よくあいつらがいるって気づいたなぁ」

「なーんか、見られてる気配がしたんだよね。確信はなかったけど」

「蓮香は気配探るの得意だかんなっ」

 

和やかな会話を交わしつつ、ウサギたちを見事縛り上げた蓮香と悟空。

 

「で、どうする?」

「うーん……あっ!」

 

悟空が何かを思いついたらしく、如意棒を地面に突き刺した。

それだけで、ウサギたちはヒイッと怯える。

 

「棒よ、うーんと伸びろっ!」

 

そのまま悟空はウサギたちを担ぎ上げると、ものすごい長さまで伸びた如意棒を、登り始めた。

 

「どこ行くのーっ?」

 

と声をかけるも、悟空はあっという間に見えなくなった。

 

数分後、シューっと降りてきた悟空にウサギたちをどこにやったか尋ねると、こう返ってきた。

 

「ウサギは月だ!」

 

これには思わず、蓮香も苦笑を漏らす。

 

(ウサギが月で餅をつく……は事実になったみたい)




ヤムチャの活躍シーンカットさせてもらいました。
次回からついにピラフ一味が登場します。


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17.ドラゴンボール奪われる!

残るドラゴンボールは後1つ。

その一星球(イーシンチュウ)も、レーダーによると間近に迫っていた。

 

「お前性格暗いぞ! ちょーっと危ないとすぐ逃げちゃうんだもんな」

「ほんとひどいったらねー。ウーロンに鳥に化けてもらおうと思ってたのに」

 

悟空と蓮香が言っているのは、先ほどの街で巻き込まれたアレコレのことだ。

 

「くどいなーお前らは。大体、蓮香も酷いだろ。迷わずアレを言いやがって」

「いやー、とっさに思い出してさ」

「思い出すなよ!」

「逃げるあなたが悪いでしょーが」

「…………」

 

これ以上言い返してもドツボにはまる、と気づいたウーロンはダンマリを決め込んだ。

蓮香はどうやら口が回るらしい。

 

「ところでよ、ブルマはドラゴンボールが集まったらどんな願いを叶えてもらうんだ?」

 

黙り込んでいてもどこからまた話が戻るかわからない、と考えたウーロンは、話題をブルマに投げかける。

確かに気になることだろう。

 

「ホーホッホ。言わなかったっけ?

こ、い、び、とよ。素敵な恋人!」

 

いいお願いでしょー、と言わんばかりの表情で言い切ったブルマに、ウーロンが叫んだ。

 

「俺たちが命がけで手伝ってやってるのに、そんなしょーもない願いかよ!!」

「しょーもないとは何事よー。フンッ! これだからガキは」

 

しょーもない願い、と言っているウーロンも前に、神龍に女をもらうだのなんだの……とあった気がする。

幸いなことに、その会話中蓮香は寝ていたし、悟空も覚えていなかったので突っ込まれることはなかった。

 

「もっとかっこいいことにつかえよー」

「うるさいわねっ! 対して役にもたってないくせして、大きなお世話よ!」

「2人とも落ちつ……」

 

蓮香の言葉は最後まで続かなかった。

——突然、車が吹き飛ばされたために。

車に乗っていた蓮香たち4人は車外に放り出され、尻餅をついた。

誰も怪我をしなかったのはかなりラッキーと言える。

 

「あービックリしたー」

「何が起きたのー?」

「いったーい」

「うぐぐ……なんだ?」

 

それぞれが地面に打ち付けたところをさすりながらおもいおもいにつぶやいていると、何かが木の陰から現れた。

何か——ロボットが。

そのロボットは中に人が乗るタイプのヤツらしく、ゴソゴソと車の残骸を探っている。

 

「あのぉ、何して……」

「あった!!」

 

蓮香の言葉はまたも途中でぶった切られた。

 

「わはははは。ドラゴンボールは頂いていくぞ!」

 

え……という間も無く、ロボットはカバンをひっつかんで浮かび上がった。

 

「しゃらばだ!」

 

ロボットはそう言い残すと、あっという間に見えなくなった。

しばし、ポカーンとなる4人。

1番最初に復活したのは、蓮香だった。

 

「いや、しゃらばだ! じゃないでしょ。噛んだの?! ってかドラゴンボールを返しなさいよー!!」

「変わったやつだな」

「悟空。さっさと取り返しに行くよ! 筋斗雲ーーっ」

 

蓮香の呼ぶ声に応えるように、筋斗雲はすぐさま飛んで来た。

 

「行こっ!」

「あ、待って!」

 

ピョンと雲に飛び乗った蓮香と悟空を、ブルマが慌てたように呼び止めた。

 

「蓮香はここで私たちと一緒にいてちょうだい」

「そ、そうだな。またなんか襲ってくるかもしれねぇし……」

「んー、わかった。じゃ、悟空任せたよ」

「よし!」

 

蓮香が飛び降りると、悟空は筋斗雲を走らせてロボットを探しにいった。

 

 

 

 

 

 

 

「ドラゴンボールのことを知る他の人がいるのを忘れてたわ」

「迂闊だったね……」

 

悔しそうに吐き捨てる女2人と違い、ウーロンはどこかビクついていた。

 

「今度こそヤバそうだぜ。もう諦めよう。な?」

「いやよ、ここまで来て」

「よし、俺が恋人になってやろう」

「なってくれんでもええわっ!」

(ウーロンが恋人なのは流石にヤダな)

 

とは思ったものの口にはしない蓮香。

その時、

 

「おーい」

 

悟空が帰って来た。

 

「やっつけたぞ」

「で、ボールは?」

「なかった」

「何しにいったのよ!」

「何しにいったんだよ!」

 

こうやってハモるあたり、ブルマとウーロンは案外気があうのかもしれない。

 

「もしかして、抜け殻になったロボットを倒した……とかじゃない?」

「??」

「やっぱそうか……」

 

あたしが行けばよかったかも……と思うも後の祭りである。

 

「あいつら、きっと最後のドラゴンボールを持ってるんだわ。もう終わりよー。おしまいよー」

 

泣き崩れたブルマの肩をポンポンと叩く蓮香。

ドラゴンレーダーを使って追いかけることはできるが、間に合わない可能性が高い。

 

(さて、どうしよう……)

 

「何言ってんだ、オラのがあるじゃねえか」

「え?」

「あ……! じいちゃんの形見!!」

「あーー、そっか! ふふ……はっはっは、あいつめ、一個忘れておるわい! ザマーミロッ」

(ブルマ、悪人面)

 

悟空が腰に括り付けていた四星球が無事であることを思い出し、ブルマはいきなり元気になった。

 

「さーて、行くわよ! 7つ集めるのは私たちよ!」

「行くわよ、たって、車は壊れちまったぜ?」

「ふんふんふーん♪ 前の街でカプセル買い足したもんね」

「カプセルの入ったカバン盗まれたけどね」

「ハッ……」

 

蓮香の呟きに、ブルマの顔が面白いくらい青くなっていった。

 

「もう終わりよー。おしまいよー」

 

再び泣き崩れるブルマ。

泣いたり笑ったりと忙しい。

その時、救世主が現れた。

 

「おやおやー。こりゃまた偶然だなー。こんなところで何してるの?」

 

現れたのは、車に乗ったヤムチャ。

 

「きゃー、ヤムチャさまーっ!」

 

黄色い声を上げるブルマは、何気にヤムチャと初対面に近い。

ヤムチャが現れた時のブルマは大抵、寝てたり気絶してたりだからだ。

 

そのあと、なんだかんだでヤムチャの車に乗せてもらうことになった。

なっとのだが……これほどの遭遇率となるともはや怪しい。

 

(ヤムチャもドラゴンボールを狙って、あたしたちをつけてたのかもな)

 

と蓮香は思ったが、助かったことに間違いはない。

取り敢えずそれを尋ねるのはやめにした。

——にしても、ブルマはいたくヤムチャを気に入ったようで、頬ずりなどしている。

その度に悲鳴をあげるヤムチャは、女性が苦手なのかもしれない。

筋斗雲に乗って車に並走する蓮香は、そう考えて苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃー、でっけーなー」

 

ドラゴンレーダーを頼りに追いかけること十数分。

着いたのは大きな城だった。

 

「気をつけろ! ここの奴らは只者じゃないはずだ」

「うん。慎重にね」

 

先頭に悟空。しんがりに蓮香が立ち、恐る恐る城内へと踏み込む。

薄暗い通路はなんとも言えず不気味だった。

 

「矢印があるわ」

「こっちにもあるぞ」

 

ブルマと悟空の言う通り、床のあちこちに矢印が描いてある。

 

「何だろうな」

「ここの城主が迷わないようにつけた、とか?」

「うーん、そうかも。方向音痴の城主なんだね」

 

賢いはずのくせに、どこかズレた考えの持ち主の蓮香が的外れなことを言う。

結局、矢印に沿って進むことにした。

 

 

 

 

 

 

「あれ、行き止まりだ」

 

先頭の悟空が立ち止まる。

壁に阻まれて、先には進めなかった。

 

「え、行き止まり……」

 

蓮香が首を傾げた時、派手な音を立てて今まで進んで来た道に壁が降りた。

つまり、

 

「しまった、閉じ込められた!」

「方向音痴の城主のためじゃなくて、罠だったんだ!」

 

今さら気がついたところで、後の祭りであった。

 

(なんだろう。いま、誰かに呆れられた気がした……)



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18.ついに(ドラゴン)現る!

本日2話目の投稿です。


「くそーっ! 完全に閉じ込められた!」

「オラのパンチでも開かねぇぞ」

「あたしのキックでも……」

 

ヤムチャ、悟空、蓮香の悔しそうな声が無情に響く。

壁は開きそうになく、おまけに予想以上に頑丈だった。

 

「どうしますか、ヤムチャさま」

「だから入るのはやめたほうがいいって言ったんだ!!」

「ウーロン、あんたちょっと落ち着きなさいよ」

 

ブルマが、唾を飛ばしながら喚くウーロンをたしなめたその時、壁にいきなり映像が映った。

壁の一部がテレビのようになっているのだ。

 

「おい、おまえたち!」

 

画面の向こうにいるのは、水色の肌の、明らかに人ではない生き物。

かぶった帽子には星印が付いている。

 

「わたしはピラフ大王だ!」

 

ピラフ大王と名乗る水色のソレは、慇懃な態度で蓮香たちを(画面越しにだが)見下ろす。

 

「あんたね! 私のドラゴンボール奪ったの!」

 

ブルマは怯えた態度を少しも見せず、画面の向こうのピラフ大王に向かって怒鳴った。

 

「そのドラゴンボールだが、1つ足らんぞ。星の4つ入ったボールを持ってるはずだ」

 

ピラフ大王はそこで一度言葉を切る。

そして、悪役おきまりのセリフ。

 

「今のうちに素直に渡さんと、後で後悔することになるぞ」

「誰がおまえなんかにやるもんか!」

 

ブルマは画面のピラフ大王に向かってあかんべーをした。

 

「よーし。どうしても渡さんつもりだな……エッチなことするぞ!」

「は……? (今、あの水色大王の口からどこかのスケべじじいを思わせるセリフが飛び出たぞ?)」

 

一同が唖然した時、天井から巨大なアームが出てきて、ブルマをつかんだ。

そしてそのまま上階に連れていく。

ブルマが拐われてしまった。

 

「しまった、マズイぞ!」

「ブルマ!」

「エッチってどういうことなんだ?」

 

焦るヤムチャと蓮香。首をかしげる悟空。未だ唖然とするプーアル。

ウーロンは……

 

「わ……わくわく」

「わくわくしてんじゃない、この中身中年スケベブタ!」

 

ボカッ! と頭を叩く音。

蓮香も流石に手加減はしたが。

 

画面に、ブルマの姿が映った。

ブルマと一緒に映るのは、ピラフ大王と、ブルマより少し年上の女性、二足歩行の犬だ。

 

「離せ! ドロボウめっ!」

「ふっふっふ。白状するなら今のうちだぞ……」

「誰がいうもんですかっ!」

 

この状況に立たされても強気でいられるブルマはさすがだと言える。

その度胸は並ではない。

 

「なるほど……そんなに恥ずかしい目にあいたいか……」

 

では望み通りに……そう言って不気味な笑みを浮かべたピラフ大王に、さすがのブルマも恐怖で慄く。

 

「た、たえろっ! 頑張るんだ……」

「ブルマ……っ」

 

辛そうに顔を歪めるヤムチャと蓮香。

しかしピラフ大王がブルマにしたのは……

 

「ちゅぱっ」

 

投げキッス…………?

 

「「はっ……?」」

 

画面のこちらとあちらで、蓮香とブルマの声が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ。

 

「あいてっ!」

 

(ピラフ大王の思う)エッチ攻撃にも口を破ることのなかったブルマは、早々に帰ってきた。

 

「ったくなんなのよ!」

「偉かったぞ。よく耐えた!」

「まさかの価値観の違いに助かったね」

 

とその時、シューーッと煙が出てきて、蓮香たちのいる部屋(?)内に充満した。

 

「しまった! これはすいみ……」

 

蓮香も慌てて口を塞いだが、間に合わず、意識を失った……。

 

 

 

 

 

 

「蓮香! 蓮香おい起きろ!」

「蓮香、ちょっと!」

 

ヤムチャとブルマが声をかけるが、蓮香はむにゃむにゃ言ってるだけで、一向に目を覚まさない。

 

睡眠ガスで眠りについたみんながようやく目を覚まし、悟空の四星球(スーシンチュウ)までも盗まれたことがわかったのだが、蓮香だけがどうしても目を覚まさないのだ。

 

「そーいや、蓮香は朝弱かったな」

「でも朝じゃないですよね?」

 

ここで、悟空の魔法の言葉、

 

「蓮香〜、メシだぞ?」

「お腹空いたっ!」

 

いきなり飛び起きた蓮香の額と、悟空の額がぶつかりそうになったが、さすが間一髪で悟空が避ける。

 

「って、あれ?」

「悪りぃ。メシはまだだ。オラも腹減ったけどな」

「あー……あっ! 四星球(スーシンチュウ)は?!」

 

ようやく頭が覚醒した蓮香が慌てて悟空の肩を揺らす。

 

「盗まれたわ……」

 

ブルマの悲壮な声。

蓮香も『そんな……』と顔を歪めた。

 

「壁は破れないの?」

「さっきから色々やってんだけどな……」

「壁が堅すぎるんだ。とても破れんっ」

 

蓮香はそれを聞いて、うーっと考え込む。

そして、1つ思いついた。

 

「悟空! 亀仙人のじっちゃんのかめはめ波! あたしたち使えたよね!」

「そっか! よし、わかった」

「いい、一緒のところを狙うよ。……ここあたりを」

 

蓮香がコンコンと壁の一部を叩き、悟空がそれに頷く。

 

「「か……め……は……め」」

 

両手を合わせるような形で構えた手を、2人同時に壁に向かって押し出した。

 

「「波っ!!」」

 

青白い閃光が奔り、壁にぶつかる。

小さな爆発が起きて……

 

「だめだ。修行が足んねえからこんなちっちぇー穴しか開かなかった」

「もっと練習しとけばよかった……」

 

そう言って肩を落とす蓮香たちの脇を抜け、ヤムチャが穴から外を覗く。

 

「奴ら外にいるぞ! 龍もまだ出てない!」

「えっ!」

 

おそらく、今から龍を呼ぼうとしているのだろう。

 

「プーアル、コウモリに化けてこの穴から抜け出せ!」

「そっか! 今のうちにボールを盗んで!」

「はいっ!」

 

ヤムチャと蓮香の言葉に元気よく返事をしたプーアルは、ボムッとコウモリに変化した。

 

「ウーロン! あんたも行くのよ!」

「へ? おれも……?」

「当たり前でしょ! たまには役に立ちなさいよ。ほら、ピーピー……」

「わかった! 行く!行きます!」

(この密室状態でウーロンにピーピー聞かせるのはマズいでしょ)

 

蓮香も、冷静に心の中で突っ込むほどの余裕ができた。

……が。

 

『出でよドラゴン! そして願いを叶えたまえ!』

 

穴から聞こえてきた、ピラフ大王の声。

神龍は、呼び出されてしまった……。

 

(万事休す……ってとこかな)



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19.神龍への願い

少し短めです。


「まずいっ! もう(ドラゴン)を呼び出してしまったぞ」

「あーーっ、もうだめだわ!」

「お、おいっ! オラにも見せてくれよ」

「あたしも見たいっ!」

 

壁の穴にへばりついたヤムチャとブルマを押し退けて、悟空と蓮香も外を覗く。

 

「うわーっ。でっけぇな!」

「あれが神龍かぁ」

 

なんとも呑気な口調で龍に驚く2人の後ろでは、ブルマとヤムチャがギャーギャー叫んでいた。

 

(でもこのままじゃ、世界があのピラフ大王(水色野郎)のものになっちゃう)

 

蓮香は呑気に見えて、内心では割と焦っていた。

 

(そうなったら……亀仙人のじっちゃんに修行つけてもらえなくなるかもしれないっ!!)

 

世界が支配されることより、修行ができなくなる方が、蓮香にとっては大問題らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい……こりゃ逃げるしかなさそうだぜ」

「う、うん。そうみたいだね……」

 

一方壁の穴から外に出たウーロンとプーアルは、神龍のあまりのデカさに怯んでいた。

ピラフ大王が神龍を呼び出してしまう前にドラゴンボールを盗もうとしたのだが、すでに手遅れだ。

……しかしここで、ウーロンがあることを思いついた。

 

(あいつより先に願いを言って仕舞えばいいんじゃないか?)

 

思いついた瞬間、ウーロンは神龍に向かって駆け出していた。

プーアルが驚いて制止する声も聞かず。

 

「わ、わたしは、世界を……」

 

緊張した口調で、ピラフ大王が神龍に願いを言い始めたがそれに被せるように……

 

「ギャルのパンティおくれーーっ!」

 

ウーロンが、自分の願いを叫んだ。

すると、星が煌めく夜空から、白い女性用の下着が風に邪魔されながらゆっくりと落ちて来た。

ある意味、シュールな光景だ。

 

「願いは叶えてやった。では、さらばだ」

 

デパートでも買えるような願いを叶えた神龍は、そう言い残すと姿を消した。

そして、7つのドラゴンボールは眩しい光を放ちながら空へと浮き上がり、バラバラに飛んでいってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

『ギャルのパンティおくれーーっ!』

 

打ちひしがれていたブルマたちの耳に、突如飛び込んで来たのはウーロンの声。

もしかして……! と穴から外を覗くと、ちょうど下着が空から落ちて来ているところだった。

 

「やったぜあのやろう!」

「ウーロンのスケベが役に立ったわ!」

 

世界がピラフ大王のものになることを見事阻止したウーロンに、ヤムチャとブルマが歓声をあげる。

 

「ちょ、ちょっと待って! ドラゴンボールはっ?!」

「あぁ。ドラゴンボールは願いを叶えると、またバラバラになってそこら中に飛んでっちゃうのよ」

「え、じいちゃんもかっ?」

「じいちゃんの四星球(スーシンチュウ)も?!」

「残念だけど、そういうことね」

 

ブルマの言葉に、蓮香と悟空は「そんなぁ……」と肩を落とした。

じいちゃんの、唯一にして大事な形見が何処かに行ってしまったのだから、落ち込むのも当たり前だった。

 

 

 

 

 

 

「なんという情けない……」

「こうもあっさり捕まるかなぁ……」

「しょうがねぇだろ。あいつら光線銃持ってんだから」

 

ウーロンとプーアルは怒り狂ったピラフ大王にあっさり捕らえられ、蓮香たちも牢屋に入れられてしまった。

壁は全て鋼鉄でできており、穴を開けられそうにもない。

 

「お、天上が開いてるじゃねえか!」

「だめだよ悟空。ガラスが貼ってあるから、飛び上がると頭ぶつけちゃうよ」

「なんだ、そうなのか」

 

蓮香に言われ、悟空は飛び上がるのをやめた。

 

「どうしようか」

「これでは、ドラゴンボールを再び集めることもできないぞ」

「ドラゴンボールを集めるのは当分無理よ」

 

膝を抱えて座り込んでいたブルマが、ポツリと呟くように言った。

ヤムチャが、どういうことだと聞き返す。

 

「あの7つの球は一度願いを叶えてしまうと、再びドラゴンボールになるのに一年かかるらしいの。

つまり、一年経つまであれらはただの丸い石ころよ」

「つまり、探せっこない……」

「そういうことよ……ハァ」

 

ブルマがため息をついた時、牢内のスピーカーからピラフ大王の声が聞こえて来た。

 

『やい、おまえたち! さっきはよくも邪魔してくれたな! お前たち全員を処刑してやる!』

 

ピラフ大王が言うには、昼間になって太陽が昇ると、この牢内はオーブントースターのように暑くなるらしい。

 

『ぎゃははは! 干からびて苦しんで死ねっ! 明日が楽しみじゃ』

 

プツリと言うかすかな音とともに、スピーカーから音声が途絶えた。

 

一瞬の静寂。

 

「いやーっ! この若さでミイラになりたくないーーっ!!」

 

ブルマの叫びが引き金となった。

 

焼豚(チャーシュー)になるのも嫌だーっ!」

「オシッコしたいーっ!」

「け、ケッコンの夢が……」

「修行できないじゃん!」

「オラ腹減った……」

 

みんなの心からの叫びは虚しくも消えていく。

絶体絶命だった。

 

(ヤバイヤバイ! このままじゃ修行が!)



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20.満月

天井ガラス張りの牢に閉じ込められてしまった蓮香たち。

このまま夜が明けて昼になってしまうと、灼熱の太陽地獄が待っている。

 

蓮香たちはなんとかここから脱出しようと、壁に穴を開けようと試みるが、傷1つつかない。

 

「だめだ……ここから出ることは不可能だ……!」

 

ついに、壁を殴りつけていたヤムチャが赤くなった手を押さえて呻くように言った。

 

「オラ、腹減ったぞー」

「あたしも……まさに、お腹と背中がくっつきそう」

 

悟空と蓮香も空腹で倒れこむ。

かめはめ波を何度も打ったせいで、体力もかなり削られてしまっていた。

 

「オレたちこのまま死ぬのかなぁ」

 

倒れ込んだ蓮香の隣に座ったウーロンが、悲しげな声で呟いた。

 

「わたしはっきり言って、死ぬのキライよ! やだわっ!」

「死ぬのが好きな人なんていねぇよっ!」

 

ブルマに怒鳴りかえしたウーロンがふと、天井付近まで浮かび上がって空を見上げるプーアルに気づいた。

 

「おい、何してんだ?」

「お月さまを眺めてるんだ。今夜は満月だから綺麗だよ。……死ぬ前に綺麗なもの見とこうと思って」

「縁起でもないこと言うな!」

 

そんな2人の会話を聞いていた蓮香と悟空が、なにかを思い出したように顔を上げた。

 

「悟空も……思い出したんだ」

「あぁ。……知ってっか? 満月の夜にはすっげえ怪物が出るんだぞ」

 

悟空の言葉を、ブルマが鼻で笑い飛ばした。

 

「バカなこと言ってないで、ここから抜け出す方法を考えなさい」

「嘘じゃないよ、ブルマ。だってあたし見たもん。おーっきな猿の化け物」

「オラは見てねぇけど、オラたちのじいちゃんはその化け物に踏み潰されて死んじまったんだぞ」

「なにっ?」

 

悟空の言葉に驚いたような声を出したのはヤムチャだ。

 

「あの武道の達人孫悟飯をか? すごい化け物だな」

「家も木も、みーんなめちゃくちゃにしていったの」

「……あんたたちはその時なにしてたのよ?」

「ん、オラ寝てた」

 

悟空のあっけらかんとした言葉に、蓮香以外の全員が呆れたような声を上げた。

 

「お前どう言う神経してんだよ……」

「ウーロンの言う通りね。蓮香は?」

「あたし化け物見た後から意識がない……ってか記憶がないんだよね」

「気絶したんだな……どれほど恐ろしい化け物だったのか」

 

蓮香が気絶するならよっぽどだ。

ヤムチャはそう言って唸った。

 

「そういやぁ、満月の夜は月を見ちゃだめだぞって……」

「あぁ、じいちゃんよく言ってたね」

 

懐かしいなぁ……蓮香がそう呟く。

しかしその隣で、ブルマ、ヤムチャ、ウーロン、プーアルがギョッとして身を引いた。

何故かみんなして壁の方により、目を見開いて蓮香と悟空を見る。

 

「ね、ねぇ……1つ聞いていいかしら?」

「孫悟飯が亡くなった夜……お前たちは月を見たか?」

 

ヤムチャの質問に、悟空が元気な声で肯定した。

 

「見ちゃダメって言われてたけど、ションベンしに外に出た時、ついな……」

「あたしも、大猿の化け物の背後に月を見て……あれ、そういえばそこから意識がないかな?」

 

2人の言葉に、ブルマたちはさらに壁に張り付いた。

顔は恐怖でか、引きつっている。

 

「ど、どどどう思う?」

「どう思うったってな……」

「……満月を見せれば、はっきりするんじゃねえか」

 

こう提案したのはウーロンだ。

 

「え、なに?」

「あたしたちが満月を見ればいいの?」

「い、いやだめよ! もしそうだった時、わたしたちが危ないわ!」

「あ、それもそうだな」

「危ないとこだった、満月を2人に見せてはいかんぞ……」

「孫くん、蓮香! あの満月を見ちゃダメよ!」

 

ブルマが満月を指差して言う。

しかし……蓮香と悟空は同時に振り向いてしまった。

つまり、満月を見てしまった。

 

「うわわわわーっ!」

「ひぇーーっ!」

 

ブルマたちが、壁に張り付いて悲鳴をあげる。

蓮香と悟空は……

 

「あちゃー、また見ちゃった」

「満月、綺麗だねー」

 

平然としていた。

 

「なんだ、なんともないじゃないか」

「ほ、ほら。偶然だったのよ」

「は、はは。そうだよな」

 

一同が安心したのもつかの間……蓮香と悟空が、ピタリと動きを止めた。

表情が固まり、目を見開き、激しい心臓の鼓動に合わせて体が揺れる。

 

「お、おいどうしたんだよ」

「悪い冗談は、やめてよね……」

 

瞬間……蓮香と悟空の体が大きく震え、体が巨大化し始めた。

服が裂け、体毛が生え、歯は尖り牙となる。

ブルマ、ヤムチャ、ウーロン、プーアルが絶叫する中、蓮香と悟空は大猿の化け物へと変化した。

2人の……いや、2匹の咆哮が夜空の闇に響き、牢は破られた。

 

(…………)




2巻終了まで後もう少し……!
早く修行シーンが書きたい。


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21.悟空と蓮香が大変身!

信じられないことに、満月を見た悟空と蓮香が大猿と化してしまった!

ブルマたちの閉じ込められていた牢は壊れ、外に出ることには成功したが……。

 

「お、おい! 悟空、蓮香もういいぞ! 元に戻れーっ!」

 

ブルマやウーロンは慌てて逃げ、ヤムチャは振り返って2匹の大猿に向かって叫んだ。

が、悟空も蓮香も城を殴りつけて壊したり、月に向かって吠えたりと戻る気配はない。

 

2匹の大猿は全くと言っていいほど同じ外見だったが、蓮香の変身した大猿は、悟空の変身した方よりも一回り小さかった。

 

 

「グガァァアァッ」

「ガァァァッ」

 

悟空と蓮香は咆哮しながら、立派な城をどんどん破壊して行く。

 

「ここは危険だ、逃げるぞっ!」

 

ヤムチャがブルマたちに叫び、皆は慌てて城から離れて行く。

 

 

そんな中、呑気に城で寝ていたピラフ大王とその部下2人は逃げ遅れてしまった。

しかし運が良かったのか、寝室が壊される寸前で逃げ出し、大猿の化け物たちに悲鳴をあげながらもヘリコプターに乗り込んだ。

 

「や、やった!」

「バンザーイ!」

「た、助かった……」

 

ふわりと飛び上がったヘリコプター内でそう喜びあった3人だったが、大きい方の大猿——悟空が逃げることを許さなかった。

破壊した城の一部を掴み取り、飛んでいるヘリコプターに向かって投げたのだ。

かなり距離があったのだが、城のカケラは見事ヘリコプターに命中。

ピラフ大王たちの乗ったヘリコプターは地面に墜落した。

……不思議なことに、乗っていた彼らは軽傷で済んだのだが。

 

 

小さい方の大猿——蓮香は、遊ぶかのように城を破壊していたが、遠くに走って逃げるブルマたちの姿を認めた。

そして、隣にいる大猿姿の悟空に向かって、まるで話しかけるかのように吠え声をあげた。

悟空もそれに応えた後、2人してブルマたちの方にドスドスと向かい始めた。

 

 

それを見ていたブルマたち。

 

「ちょ、ちょっと! こっちに来るわよ」

「まずいなっ」

 

ピラフ一味が乗るヘリコプターに悟空たち2人が気を取られている間に、ブルマたちは城からかなり離れたところまで来ていたのだが、なにぶん巨大な2人はかなりのスピードで迫ってくる。

 

「あいつら2人が戦ってくれりゃあいいのによ!」

「それはないと思うわ。あの2人すごく仲良いし……」

「さっきも会話してるように見えましたしね」

 

逃げながらウーロンが言った言葉を、ブルマとプーアルが否定する。

理性を失って暴れているというのに、悟空と蓮香はお互いを傷つけるような行動を全く見せなかった。

 

「やばい、このままでは追いつかれるぞ!」

 

その時、プーアルがハッとして顔をあげた。

 

「ヤムチャさま! あいつら確か尻尾が弱点だったんじゃ……」

「っ! そうだ! 弱点は化け物になっても変わらないはず……」

「ちょっとちょっと! 何立ち止まってんの?!」

「追いつかれるぞ」

 

考え込むように立ち止まったヤムチャとプーアルに、ブルマとウーロンが焦った声をあげた。

悟空と蓮香は、もうすぐのところまで来ている。

後10秒もせず追いつかれるだろう。

 

「よし! 俺が悟空の、ブルマとウーロンで蓮香の尻尾を強く握るんだ。力が抜けたら、プーアルがハサミに変化して尻尾を切れ!」

「わかりました!」

「エェッ?!」

「い、イヤよムリよ!」

 

元気よく返事をしたのはプーアル。

全力で首を横に振ったのがウーロンとブルマだ。

 

「このまま殺されるか、尻尾を掴んで奴らを止めるかどっちがいい?!」

 

そう叫ぶヤムチャのすぐそばまで、悟空と蓮香が近づいて来た。

踏みつぶそうと足をあげる悟空と、掴んでこようと手を伸ばす蓮香。

ブルマとウーロンは嫌々ながらも覚悟を決めた。

 

「あぁもう! やればいいんでしょ?!」

「死にたくねぇよー!」

 

叫び、涙目になりながら、ブルマとウーロンは蓮香の尻尾に力強く抱きついた。

ヤムチャも、悟空の尻尾を抱きしめる。

すると、まるで電気ショックを受けたかのようにびくりと体を震わせた後、2人はへなへなと動きを止めた。

 

「今だプーアル!」

「はいっ!」

 

プーアルはボンッと大きなハサミに変化して、蓮香の尻尾と悟空の尻尾を根っこ(?)のところから切った。

すると、背がスーーッと縮んで行き、体毛も消えて元の2人の姿に戻った。

ドテ……と倒れ込んだ2人はなんとも呑気な寝息を立てている。

 

「も、元に戻った……」

「「…………」」

 

ヤムチャとブルマの手にある、しめ縄ほどの太さがあった2人の尻尾も、すっかり元の長さ、太さに戻っている。

 

「この子たち、何者よ……」

 

呆然と呟いたブルマの言葉は、その場の全員の胸の内を表していた。

 

(zzz……)



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22.ドラゴンチーム解散

満月を見て怪物猿になってしまった悟空と蓮香が大暴れ。間一髪でプーアルが思い出した2人の弱点と、ヤムチャのアイデアでなんとか危機を脱したブルマたちは、無残な姿となってしまった城の麓で夜を明かした。

 

「まったく……コイツらのせいでとんでもない目にあったぜ」

 

ウーロンは、未だねむりこける悟空と蓮香を見下ろしてため息をついた。

 

「まぁまぁ。2人のおかげで牢から逃げれたし、俺たち誰も怪我をしなかったんだから、いいじゃないか」

 

そう諭すように言ったのは、かつて悟空たちの敵だったヤムチャ。

彼の表情はもう、悪人のそれではない。

 

「おじいさんを踏み潰したのが蓮香か孫くんかはわからないけど……言わないほうがいいでしょうね」

 

1人浮かない顔なのは、普段は勝気でわがままでも、根が優しいブルマである。

 

「まさか宇宙人……とかじゃないですよね?」

 

プーアルは、怖々というように悟空と蓮香の寝顔を覗き込む。

 

「まあ、尾を切ったから2度と怪物にはなるまい」

 

ヤムチャがそう言った時、悟空が大欠伸とともに目を覚ました。

 

「よう、おはよう」

「おっす!」

「何がおっす! だよ。ったく……」

 

悟空はよく眠れたとばかりに元気に挨拶する。

 

「あれ、オラなんでハダカなんだ?」

「え、お前全然覚えとらんのか?」

「何が?」

 

悟空はあれだけ大暴れしたというのに、大猿となったことをまったく覚えていなかった。

大猿化した時の記憶は残らないらしい。

 

「ウーロン、あんたその頭にかぶったパンツあげなさいよ」

「え?! やだぜ! これは神龍にもらった大事なパンツなんだ」

 

頭にかぶったパンツを守るように押さえて慌てるウーロン。

(はた)から見たら立派な変質者だ。

 

結局、ウーロン自身が着ていた服を悟空にあげた。

幸い背丈は同じぐらいだ。

 

「おまえ足短えんだなー」

「うるせぇ! 似たようなもんだろ!」

 

蓮香が起きていたら、誰よりも早くウーロンと同じ言葉で突っ込んでいただろう。

 

悟空は歩こうとした時、バランスを崩して後ろに転んでしまった。

 

「あれ。なんかうまく立てねえな」

「尻尾がなくなってバランスが変化したんじゃないのか? じきに慣れるだろう」

「え、尻尾?」

 

ヤムチャの言葉に首を傾げた悟空は、自分の腰あたりを見て焦ったように叫んだ。

 

「あっ!! な、ないっ!」

 

焦ったように叫んだ……のだが、

 

「ま、いいか!」

 

この一言で済ませた。

ホントに軽い性格である。

 

「それより、オラの如意棒知らねぇ?」

「あ、あぁ、多分あの崩れた城の中だろう」

「そっか! じいちゃんにもらった大切な棒だ。取ってくるなっ」

 

悟空はそういうと、城に向かって駆け出した。

途中、何度も転んでいたが。

 

 

「これからどうすんだ? ドラゴンボールはどうせ1年使えねぇし、解散だろ?」

「そういうことになるわね〜」

 

ブルマは軽い口調で言いながらも、内心で大きくため息をついた。

 

(あ〜〜あ。素敵なボーイフレンドも1年後までお預けかぁ)

 

自分で探す気はゼロらしい。

そんなブルマの隣で、ヤムチャも内心大きくため息をついていた。

 

(くそぉ……女が苦手なまま更に1年乗り切らねばならないのか。これでは結婚はいつになることやら)

 

そこまで考えた時、ヤムチャはあることに気がついた。

 

(そういえば俺、ブルマとは普通に話せてるぞ……?)

 

ブルマも丁度、隣にいる『ステキな男性』に気がついたらしく、2人は見つめ合った。

 

 

「んぅ…………あ、ウーロンおはよぉ」

 

蓮香が目をこすりながら顔をあげた。

 

「ケッ!」

 

しかしウーロンはそれには返さず、ある方を見て舌打ちしている。

蓮香もつられたようにウーロンの視線を辿った。

 

「なんで、ブルマとヤムチャは踊ってるの?」

 

ちなみにすぐ横でプーアルも踊っていた。

 

(ナニ、この状況……)

 

蓮香はただただ首をかしげる。

気づけば、自分は服を着ていない。

ヤムチャが肩に巻いていたスカーフ(?)を体に巻きつけている状態だ。

 

「悟空は?」

 

わけもわからず、若干不安になった時、遠くから悟空の声がした。

 

「あったーっ!」

 

叫びながら、こちらに駆け戻ってくる。

……城から蓮香たちの元へ着くまで、合計4回転んでいた。

 

「お、蓮香起きたのか?」

「悟空、なんでいきなりドジっ子になったの?」

「え、なんのことだ?

……あれ、ブルマたちどうしちまったんだ? 変なヤツら」

 

嬉しそうに手を取り合って踊るブルマとヤムチャに、悟空はコテンと首を傾けた。

 

「悟空! 棒はあったんだな?」

「あら蓮香、起きたのね!」

 

2人はなぜかハイテンションだ。

 

「あのぉ……何があったの? 牢から出てるし、服無いし、城崩壊してるし……2人は踊ってるし」

 

記憶のない蓮香は軽く混乱気味だ。

 

「まぁなんでもいいじゃない!

それよりさ、私たち(みやこ)に行くことにしたのよ!

あんたたちも一緒に来ない? かわいいから人気者になれるわよ?」

 

ハイテンションなブルマの言葉に、蓮香と悟空は声を揃えて断った。

 

「あたしたち亀仙人のじいちゃんとこに行くんだ! 修行つけてもらうの!」

「もっともっと修行して強くなるんだ!」

 

これからの修行を思ってか、蓮香と悟空の目はキラキラと輝いている。

 

「そう、ウーロンはどうする?」

「……しかたねぇな、ついてってやるか!」

「ウーロンは都の女の子目当てでしょ?」

「余計なこと言わんでいいっ!」

 

ニヤニヤしながらの蓮香に、唾を飛ばすウーロン。

 

「1年経ったらまた集めるんだろ?」

「ムッフフフ。ドラゴンボールはもういいのよ!」

 

ブルマとヤムチャとプーアルが、全く同じ顔で笑った。

 

「「ねーーーっ♥︎」」

 

笑い合うブルマとヤムチャに……

 

「?」

「ケッケッ」

「なんか……2人ともキモい」

 

首をかしげる悟空。

唾を吐くウーロン。

若干引き気味の蓮香。

 

そこで、蓮香は自分の腰辺りの違和感に気づいた。

 

「あ……れ? 尻尾は? 尻尾がない!!」

 

途端慌てたように、体に巻きつけられた布越しに腰をペタペタ叩く。

……が、

 

「ま、いいや」

 

元々の性格と、悟空の影響もあってか、この一言で済ませた。

思わずすっ転ぶ悟空以外のみんな。

 

「あんたたちの思考回路、ほんと似てるわね……」

 

ブルマは呆れを通り越して苦笑気味だ。

 

「それよりさ、ドラゴンレーダーあたしたちにちょうだい。じいちゃんの形見のボール探すからさ」

「いいわよー。使い方はわかる?」

「うん!」

 

修行が終わったら四星球(スーシンチュウ)を探しに行こうね! と笑い合う蓮香と悟空。

 

ヤムチャは「そろそろ行くか」と言って、馴染みのホイポイカプセルを出した。

現れたのは、立派な小型飛行機。

 

「じゃあな2人とも。立派な武道家になれよ!」

「うん!」

「がんばるよ!」

「そのうちまた会いましょうね!」

 

軽く挨拶を交わし、悟空は筋斗雲を呼んだ。

すぐさま飛んでくる筋斗雲。

 

「とりあえず、パオズ山にあるあたしたちの家に連れてってね」

 

蓮香が撫でるように雲に触ると、筋斗雲はまるで喜ぶように揺れた。

 

「悟空、蓮香、元気でなーっ!」

「ウーロンもなー!」

「ウーロンもねー!」

 

ブルマたちを乗せた飛行機と、悟空と蓮香を乗せた筋斗雲は空へと飛び上がり、別々の方向へと別れた。

 

「バイバーイ!」

「またなー!」

 

悟空たちらしく、さっぱりとして元気な別れだった。

 

♦︎♢♦︎♢

 

「世の中にはいろんな奴がいるんだな!」

「楽しかったね! それに面白かった」

「あぁ! これからもっともっと強くなって、いろんな奴に会いたいな」

「うん。それに、いろんな人と闘いたい!」

 

悟空と蓮香はこれからの事に胸を馳せ、雲の上ではしゃぎあった。

 

(修行楽しみ! ……まぁその前に服が欲しいけど)




あと1話で2巻が終わりです。
ようやく第1章が完結した気分。


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ドラゴンボール 三 23.亀仙人の修行料

「このあたりだねー、あたしたちの家」

「あぁ。空から眺めるのは初めてだ!」

「じいちゃんの家にご厄介になるんだから、布団ぐらい持ってく?」

「そうすっか」

 

岩場をすり抜けるように筋斗雲を飛ばし、悟空たちは家に帰ってきた。

ここを出てから1年も経っていないのに、とても懐かしい。

 

 

「オラ腹減ったなー」

「あたしもだよ。早いとこじいちゃん家に行ってご飯食べさせてもらお」

 

決して大きくない筋斗雲の上に、2組の布団をバランスよく乗せ、その上に2人して飛び乗る。

 

「じゃあ筋斗雲、亀仙人のじいちゃんの家まで頼むな」

「かなりとばしていいよー」

 

蓮香の要望通りに筋斗雲は猛スピードで空を駆け抜け、あっという間にカメハウスへと到着した。

相変わらずのどかな島だ。

 

「あれ、ウミガメがいない。まさかまた懲りずに松茸狩りに行ったんじゃ……」

「蓮香? 何ブツブツ言ってんだ?」

「え? あー、まぁなんでもないよ(流石にないかな)」

 

蓮香がウミガメのことをあれこれ考えている間、悟空は筋斗雲から布団を降ろしてそれを抱え上げた。

 

「おーいじいちゃーん!! オラたち来たぞー」

 

ドアの前でそう呼びかけたが、なんの返事もない。

 

「あれ、いねえのか?」

「いや……テレビの音が漏れてる。窓から入る?」

 

ひとまず布団を玄関先に置いて、2人は窓から中をのぞいた。

 

「ほら、いるでしょ?」

「ホントだな! じいちゃん!」

 

悟空が再度呼びかけるが、テレビの前に座って身を乗り出すように画面に釘付けになっている亀仙人には、全く聞こえてないようだ。

 

(何見てるんだろ)

 

気になった蓮香は亀仙人の肩越しにテレビを覗き込む。

 

(……このスケべじじいが……!)

 

露出高めのレオタードを着た2人の美女が、体操をしている番組だった。

ヨダレまで垂らしている亀仙人は大変情けない。

 

「悟空、一緒にじいちゃんを呼ぶよ」

「わかった」

 

頷きあって、せーの、と息を合わせ

 

「「じいちゃん!!」」

 

全力とも近い大声で、叫んだ。

特に意識はしていないのだが、悟空など耳元に向かってだ。

ギャッと悲鳴をあげた亀仙人は、耳を抑えて呆然としている。

 

「な、なんじゃお前らか。おどかさんでくれ」

「何度呼んでも気づかないんだもん」

「じいちゃん。オラたち修行に」

「ちょ、ちょっと待て! もう少しじゃからの」

「……このスケべ」

 

またテレビの画面に視線を向け、だらしなく口元を緩める亀仙人に、蓮香がボソリ。

強いのはこの目で見てるし、そこに関しては尊敬しているのだが、この仙人はスケべすぎる。

 

「はぁ……あたしたちお腹減った!」

「冷蔵庫の中身を適当に食っておれ」

「「はーい!」」

 

こちらも見ずに言った亀仙人の言葉に元気よく返事をした後、悟空と蓮香は台所に走った。

 

「レイゾウコ……ってなんだ?」

「これのことだよ、悟空」

「へぇー、変な箱に入ってるんだな」

「変な箱って……テレビの方が変な箱じゃない?」

「確かにそうだな」

 

冷蔵庫を開けると、びっしりと食料が入っていた。

空腹の悟空と蓮香は目を輝かせて喉を鳴らす。

 

「どうする? 料理する?」

「このままでいいだろ。さっさと食おうぜ!」

「だね!」

 

 

 

 

 

 

 

「プハー、えがったえがった」

 

美女2人がレオタード姿で体操する番組を見終えた亀仙人は、腰を叩きながら立ち上がった。

さて、と後ろを振り向いて、目が飛び出るほど驚いた。

 

冷蔵庫の前に、膨らんだお腹を叩きながら満足げな笑みを浮かべて座り込む悟空と蓮香。

その周りにあるのは食料の入っていた袋やら包んでいたフィルムやら……。

蓮香がやったのか、燃えるゴミやプラスチックゴミなどに分別はされている。

 

「一ヶ月分の食料が……氷も、バターまで……」

 

物の見事に食い尽くされていた。

流石に生肉は手付かずで残されていたが。

 

「うまかったぞー」

「ごちそうさま! じいちゃん」

 

笑顔で言われて、怒るに怒れなくなる亀仙人だった。

 

 

 

 

 

 

「さて、修行に来たんじゃったな」

「あぁ! ドラゴンボール集め終わったんだ」

「ふむ……しかしタダで修業させるわけにはいかんのう」

 

亀仙人の言葉に、蓮香がエッと声をあげた。

 

「有料?! あたしたちお金持ってないよ!」

「大丈夫じゃ。金はとらん」

「?」

「ピチピチギャルを連れてこい」

 

……このスケべじじいが。

蓮香はそう思ったが、流石に口にはしなかった。

それで修業させてもらえないとか、結構笑えない事態になる可能性もあるために。

 

()()()()ギャル?」

「ピチピチ、じゃ! まぁ簡単に言うと、可愛くて溌剌とした女の子というわけじゃ」

「ふーん……元気なオンナ連れてくればいいんだな!」

「あ〜……一応あたしがついてるんで大丈夫ですよー。ブルマみたいな女の子を連れてくればいいんでしょ?」

「ふむ、その通りじゃ!」

 

蓮香は小さくため息をついて立ち上がった。

 

「行こ、悟空」

「なんかよーわからんけど、行くか!」

 

 

 

 

 

 

 

「お、あいつどうだ?」

「悟空、あれは男の人だよ」

 

筋斗雲に乗って低空飛行をしながら、亀仙人のお眼鏡に叶いそうな女の子を探す。

しかしなにぶん田舎なので、ピチピチギャルはそうそういない。

というか、そもそも人がいない。

 

「アイツは?」

「……失礼かもしれないけど、ダメ」

 

ピチピチギャルを全く理解していない悟空は、さっきから人を見つけるたびに訊いてくる。

 

「うーん……海に人魚とかいないかなぁ」

「ニンギョ?」

「そ、美人さんばっかりなんだって」

「海だな。筋斗雲、海に行ってくれ!」

「え、ちょ、悟空……」

 

蓮香が止める間も無く、筋斗雲はクルリと方向転換をして海の方へと飛んで行った。

 

 

「いたよ……」

 

海についてすぐ、イルカと話している人魚を見つけた。

蓮香の想像してたのと少し違って、普通に上半身はTシャツだ。

 

「あの人か?」

「うん。もうあの人でいいんじゃない? 美人だし」

 

その人魚さんに「とりあえず来て欲しい」とお願いし、悟空たちはカメハウスへと筋斗雲を飛ばした。

 

(なんで修業するのにピチピチギャルを探さなければならないんだっ!)




2巻が終了しました。
次話から3巻に入っていきます。


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24.ライバル? 参上

亀仙人こと武天老師に修行をさせてもらおうと、カメハウスへとやってきた悟空と蓮香。

亀仙人は2人にこう言った。

『修行を受けたければ、ピチピチギャルを連れてこい!』と……。

 

 

「おーいじいちゃん、連れてきたぞーっ」

 

筋斗雲にピチピチギャル(人魚)を乗せて、再びカメハウスへと到着した悟空たち。

 

「ねぇ、一体なんなの?」

「いきなり連れてきてごめんね、ちょっとあたし達の師匠(になってくれるはずの人)に会ってほしくて」

「でもいねぇな。どこ行っちまったんだ」

 

悟空の言う通り、声をかけたものの家の中に気配がない。

 

「悟空、悟空」

 

その時、家の陰から亀仙人が悟空を手招きした。

 

(なんであんなところにいるんだろ。てか、真っ白いスーツって……)

 

妙に甲羅がマッチしてるからすごいよな、と蓮香は思った。

 

「それにしても、お姉さん本当に美人さんだね」

「ありがとう。あなたもとっても可愛いわよ」

「エヘヘ、ありがと。あたしはもうちょっと背が欲しいんだけどね(前世からのコンプレックスです、低身長)」

 

蓮香と人魚がそんな会話をしていると、悟空が戻ってきた。

 

「ねえねえあのさぁ……ぱんちぃくれねえか?」

「……悟空、どっかのスケベブタみたいなことを言わないでくれる??」

「れ、蓮香、何怒ってんだ?」

「だいじょーぶ。悟空には怒ってない。亀仙人のじいちゃんに怒ってんの」

 

人魚は下半身が魚のため『ぱんちぃ』は履いていない。

筋斗雲に乗れるほど心の清い人魚は、悟空にそう教えた。

悟空はそれを亀仙人に教えるためか、また家の陰に戻って行く。

 

そのすぐあとに、亀仙人も家の陰から出てきた。

 

(あれ、絶対勘違いしてるな……)

 

鼻息荒く、ドキドキしてるの丸わかりで訳のわからない挨拶をしながら近づいてくる亀仙人を見て、蓮香はそっとため息を吐いた。

悟空のことだから『ぱんちぃ』を履いていないことだけ教えたのだろう、と予想する蓮香は、特技に『悟空の行動を予想する』と言えそうだった。

 

人魚に近づいて行った亀仙人はいきなりずっこけた後、何かを考えるように俯いた。

 

「あ、あの〜。お、恐れ入りますが……」

「?」

「ちょ、ちょっとだけパ、パパ……パイパイつまませてもらえませんか?!」

 

 

 

 

 

 

「……蓮香は何故拍手をしておるのじゃ?」

「いやぁ、美人さんの人魚さん、ものすごいパンチだったなぁって」

 

あはは、と笑顔で誤魔化す蓮香。

 

「なんだ! ぱんちぃってパンチのことかーっ!」

「ま、まぁな……」

 

(いや、違うでしょ)

 

「敵に勝つにはまず打たれ強くならねばな。ギャルのパンチは侮れん。パンチをもらって鍛えるのじゃ!」

「さすが!」

 

(いや、もっともらしく言ってるけど絶対違うよね?! 悟空純粋すぎるよ!)

 

本当に、亀仙人といると心の中でのツッコミが絶えない蓮香だった。

 

「悟空、蓮香よ。もう一度ピチピチギャルを連れてくるのじゃ!」

「え……また?」

「また連れてくるのか?」

 

修行は? と不満げな顔をした悟空と蓮香に、亀仙人が再びもっともらしく口を開いた。

 

「言ったはずじゃぞ? わしの修行は厳しいと!」

「いや、こう言う厳しさとは思わないって……」

「うん、わかった!」

 

ついにツッコミを口に出した蓮香と、純粋にまっすぐ亀仙人の言葉を受け取り頷く悟空。

 

 

「ん?」

「蓮香、どうした?」

「いや……なんか近づいてくる」

「な、なにっ、カメか?!」

「……なんでそんなオーバーリアクション?」

「いや、船みたいだぞ? 変な奴が乗ってる」

「変な奴って……ただの小さい坊主でしょ。布教で来たのかな?」

 

遠くの海から、蓮香の言う通り坊主頭の少年が小さな船を漕いでいた。

 

(どこから漕いで来たんだろ。この世界、普通にエンジン付きモーターボートとかあるだろうに)

 

蓮香が首をかしげる。

それとほぼ同時ぐらいに、坊主頭の少年が舟を漕ぐのを止めた。

まだ、カメハウスのあるこの島まではかなりの距離がある。

蓮香だけでなく悟空と亀仙人も首をかしげた、その時。

 

「ハーーーッ」

 

と言う威勢のいい掛け声とともに、少年が大きくジャンプした。

空中で2、3回ほど回転して…………砂浜に頭からダイブした。

 

「な、なんじゃこいつ」

「変な奴」

「いや、見てないで出してあげようよ」

 

蓮香はそう言いつつバタバタする少年の足を掴み、「ほりゃ」という力の入ってない掛け声とともに砂から引っこ抜いた。

 

「コホン……どうも」

 

砂のついた頭をぱんぱんと払いながら挨拶をする少年。

 

(髪がないから砂を落とすのも楽だな)

 

蓮香はなんとも的外れなことを考えていた。

 

「あなたが武天老師さまですねっ?!」

「いかにもそうじゃが?」

「わたくしはるばる海を渡ってやってまいりました、クリリンと申します!

ぜひ、武天老師さまのもとで修行をさせてくださいっ!」

 

 

背筋を伸ばし、息継ぎゼロでそう言う少年……基クリリン。

あ、布教じゃなかった。

蓮香は小さく呟いた。

 

「それはご苦労さんじゃった。

しかし残念ながらわしゃ滅多に弟子はとらん。諦めろ」

 

あっさり突き放した亀仙人にも、クリリンはめげなかった。

持って来た風呂敷をゴソゴソと広げ、一冊の本を取り出す。

 

「この本はほんのご挨拶がわりです」

 

差し出したのは……エロ本。

いやこれはダメでしょ、と蓮香は胸の内で呟いた。

しかし……

 

「ふむ、考えてみよう」

「いや、チョロいね武天老師!!」

 

ほほうこれは……などと呟きながらエロ本に夢中な亀仙人の耳に、蓮香のツッコミは入っていない。

蓮香は今日何度目かのため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「ところできみらは? 弟子なのか?」

「うん! オラ孫悟空だ」

「あたしは孫蓮香。よろしくねクリリン」

「きみは女の子だろ? 武道をやるのか?」

「オラ、ブドウは好きだ!」

「今のはシャレかい? というかきみには聞いてないよ」

 

蓮香は相変わらずの悟空の天然ボケに苦笑いを漏らした。

 

「あたし、これでもかなり強いよ? 武道をやるのに女も男も関係ない。あなたはそうは思わないの?」

「いや、確かにそうだな。ただ僕がいたところに女の子はいなかったからね」

「ふーん」

「はは、おめえの頭ゆでタマゴみたいだな!」

 

再度、悟空の天然ボケ炸裂。

 

「何を言うか! 武道を志す者は頭を丸めるものだ! 見ろ、武天老師さまだって!」

 

クリリンの言葉に、亀仙人がエロ本から視線を外さないまま言った。

 

「わしはただのハゲじゃ……」

 

黙り込むクリリン。

 

「面白い人だね」

「変なヤツ……」

 

 

 

 

 

 

 

「クリリンじゃったな」

「はいっ!」

 

エロ本を全ページ読み終えたのか、亀仙人が顔を上げてクリリンに向き直った。

 

「わしのもとで修行する条件として、ピチピチギャルを連れて来てもらいたい。わしの好みはわかるかの?」

 

クリリンは自信ありげに頷き、亀仙人の耳元に口を寄せた。

 

「……………………で、ございましょ?」

「ふむ、ふむ。やるのぉ、お主! よくわかっとるじゃないか!」

「お褒めに預かり光栄ですっ」

 

興奮しながら会話する亀仙人とクリリンを、筋斗雲に乗ったまま見ている悟空と蓮香は。

 

「なぁなぁ、何話してるんだ、あれ」

「スケベ……。あれ、ここに(あたし)がいるってこと忘れてるよね、絶対」

 

確かにあたしはチビだけどさぁ……女らしくないけどさぁ……と、蓮香は若干拗ね気味だ。

 

「蓮香?」

「別に……悟空、スケベはじいちゃんに似なくていいからね」

「??」

 

そんな会話をしているうちに、亀仙人とクリリンも話し終えたらしい。

 

「よし、では早速筋斗雲に乗って探してこい!」

「きんと、うん?」

「乗れよ、クリリン!」

「く、雲に乗れるのか?」

「気持ちいいぞーっ!」

「ごめん、多分あなたは乗れないと思う……」

 

蓮香の予想は大当たりだった。

なるほど、と言って雲に飛び乗ったクリリンは、物の見事に突き抜けて尻餅をついた。

 

「むむっ! その雲には心の清いものでなくては乗れん! さてはお主、不純な動機でここに来たな?」

 

そう言う亀仙人も、筋斗雲には乗れない。

 

「そんな! わたしはただ武術に強くなって女の子にモテたいと思っただけです!」

「それが不純って言うんだよね……」

「ウーロンと気が合いそう……」

「変なヤツ」

 

(この世界はスケベが多いな。ある意味チビでガキで良かったのかも……?)




ようやくクリリン登場。
次回はランチさん。


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25.(ふしぎ)な女の子、ランチ

「人が少ないよね、ホント」

「おいっ! もっと低いところを飛べよっ。ボクはお前にしがみついてないとおっこちるんだぞ!」

「悪いこと考えてるのがいけないんだろ?」

 

そう言いつつ、悟空は筋斗雲の高度を下げた。

ちなみにクリリンがしがみついてるのはもちろん、蓮香ではなく悟空だ。

 

「蓮香、あいつどうかなぁ?」

「どこ……あれは男だよ」

「……おまえ男女の違いがわからないのか?」

「見ただけじゃな。チンチンあるかないか触ればわかるぞ」

「それやったら蹴り飛ばすけどね」

「……俺は男だからな」

 

その時だった。

 

「きゃーっ! だれか助けてーーッ」

 

女性の悲鳴が聞こえて来たのは。

 

「あれ? 今助けてって聞こえなかった?」

「あそこに誰かいるぞ?」

「げっ! 女の子が襲われてる!」

 

悟空達の下では、警察官のような格好の男2人が、長い黒髪にカチューシャをつけた若い女性に銃を向けていた。

 

「悟空」

「あぁ、わかった」

「え……お、おいまさか助けに行くつもりじゃないだろうな?! あいつら鉄砲持ってるんだぞっ!」

「あんなの当たらないって」

 

言うや否や、蓮香は筋斗雲に下に降りるよう言った。

ある程度の高さまできたら、悟空と蓮香2人して飛び降りる。

クリリンは慌てて悟空の背にしがみついた。

 

「よっ」

「なっ、なんだおまえらは?!」

 

いきなり空から降ってきた子供達に、男2人が目を剥いた。

 

「その女の子を助けにきた!」

「そんな物騒なもの向けないでほしいなぁ」

 

カッコよく決める悟空と、可愛らしい笑顔の蓮香。

 

「あらかじめ申しておきますと、ボクは一切関係ありませんからね! そいつらの独断ですからね!」

 

対照的に、クリリンは慌てて岩陰に隠れて悟空たちを売った。

 

(だから筋斗雲にも乗れないんだよ)

 

蓮香は心の中で呟く。なかなかに辛辣だ。

 

「なーにが助けに来ただ!」

「子供だからと言って邪魔すると、おまえらも逮捕するぞ!」

「だーかーらー、そんな物騒なものこっちに向けないでって……ば!」

 

蓮香が、決して長いとは言えない足で男の持っていた銃を蹴り飛ばした。

そのまま流れるような仕草でアッパーカットを食らわし、1人をノックアウトさせた。

 

「ほっ!」

 

その間に、悟空が高く飛び上がり、もう1人の男に思いっきり頭から突撃した。

顔面にもろに頭突きを食らった男も、あっさりと気絶した。

 

「あっけな」

「弱っちい奴らだな」

 

ポカーンとした顔で今のを見ていた女の子が、ようやく理解が追いついたのか表情を輝かせた。

 

「あ、ありがとうございます! なんでお礼を言ったらいいのかっ」

「いやいや、なんのこれしきですよ」

「ちょっと待て、クリリン。あなたは何もしてない」

「はっはっは」

「笑ってごまかすなぁ……」

「なぁ、こいつならじいちゃんオーケーか?!」

「ん……いいんじゃないかな? 美人さんだし」

 

 

悟空達は、ランチと名乗ったその女の子を連れて帰ることにした。

ちなみに、彼女は筋斗雲に乗ることができた。

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ!」

「まぁ……素敵なところね!」

「へっへっへ、お気に召されましたか?」

「クリリン、笑い方が悪人っぽい」

「誰が悪人だ!」

「ん? クリリン」

「おいっ!」

 

カメハウスにランチを連れて来たが、またしても亀仙人が出てこない。

 

「便所かな?」

「そうだと思うよ」

「じゃ、呼んでくる!」

 

悟空は家の中に入っていった。

「おーいじいちゃーん、便所かー?」と叫びながら。

 

「でも、どうしてここへ私を?」

「特に用はないんですがね! しばらくここにいてほしいんですよ。何せ男ばかりで華やかさに欠け……」

「ク〜リ〜リ〜ン、さぁて問題です、あたしの性別はなんでしょう?!」

「わ、わ、悪い! そう怒るなって……蓮香はピチピチギャルの華やかさなんて持ってないだろ?」

「………………フンッだ」

 

言い返す言葉が思いつかず、蓮香は眉間にしわを寄せてそっぽを向いた。

そして強く覚悟を決めた。

 

(将来絶対イイ女になって、クリリンを見返してやる……!)

 

「助かるわ! 追われてるのよ、私」

「そう言えばお姉さん、警察に追われてたよね? なんかしたの?」

「失礼だぞ、蓮香。あれは警察の格好をした悪者だ、絶対」

「いえ、警察よ。本物の」

「へ?」

 

あっけらかんとしたランチの言葉に、クリリンは目を丸くする。

このいかにも優しそうな女の子が、何故警察に追われるのだろう、と。

 

「なんで?」

「バッグに大金が入ってるし……銀行強盗でもやったのかしら。それとも列車強盗……」

 

自分のしたことなのに、何故そんな不確定な言い方なのか。

蓮香は訳がわからないと眉をひそめた。

 

「またまたぁ。お金持ちのお嬢さんなんでしょ?」

「え、もしそうだったらあたし達やばくない?」

 

まさかの誘拐犯扱い……と呟いた蓮香に、ランチが違うわよ、と笑った。

 

「あなた達も気をつけたほうがいいわ。私、くしゃみをすると、コロっと性格が……」

「ええのーっ!!」

「きゃっ」

 

ランチの言葉を遮って、いきなり会話に割り込んで来たのは言わずもがな亀仙人だ。

窓から顔を突き出して……よく見れば鼻血が出ていた。

 

(このスケべじじいっ)

 

この言葉はすでに蓮香の口癖になりそうだった。

 

「でかしたぞおまえ達!」

「へっへっへ……どうです? 顔はちょっと幼いけど、体の方はなかなかプリプリと……」

 

(だから笑い方が悪人だよこのスケべが!)

 

「よし、よし! 3人の弟子入りを認めるぞ!」

「「やった!」」

「あ、ありがとうございます!」

 

滅多に弟子を取らないといっていた割には、あっさりとしたものだった。

 

「はじめまして! 私ランチと言います。お孫さんには危ないところを助けていただきました」

「ほほー、こいつらがあなたを……」

「いや〜、なんのなんの」

「あなたはなんもしてないでしょうが……」

 

クリリンとは随分調子のいい性格らしい。

 

「実は、わしの名は武天老師と言いましてな。こやつらに武術を教えておるものなのじゃよ」

「まぁ! 通りでこの子達が強いわけね!」

「オラまだじいちゃんになんも習ってねえぞ」

「……。ところでランチさんとやら」

 

亀仙人は悟空の言葉を完全にスルーして言葉を続けた。

 

「もしおヒマじゃったらわしとお風呂に……い、いや、ここでしばらくのんびり暮らして見ませんか」

「ちょっと待って、じいちゃん、最初に何を言おうとした?」

「……。どうですランチさん」

 

亀仙人は蓮香の言葉も華麗にスルーした。

 

「もしお邪魔じゃなかったら、お願いしても?」

「ほ、ほ、ほ。お邪魔だなんてとーんでもないですぞ!」

 

(ランチさんって、天然? じいちゃんのセクハラ発言を聞いてなおOKするなんて……)

 

その時、どこからかハエがやってきて、ランチの顔の前を横切った。

 

「は…は…み、みんな逃げ……ハックションッ」

 

ランチがくしゃみをした……瞬間、彼女真っ黒い髪が見事な金色に変わり、目つきもかなり悪くなった。

……つまり、人相が大幅に変化した。

 

「え、」

「なんだ?」

「「へ?!」」

 

予想外のことに、悟空たち4人が間抜けな声を漏らす。

 

「ここは刑務所……じゃなさそうだな。っと……なんだてめえたちはっ!!」

 

ランチ(黒髪)よりも声が低くなったランチ(金髪)が、どこから出したのか銃を構えた。

そしてためらいなく銃を連射し始める。

 

「うきゃぁぁぁ」

「「「ぎょわわわわ」」」

「………へ、へっくしょいっ」

 

再びランチがくしゃみを1つ。すると、金髪は黒髪に戻り、顔つきも元の童顔に戻った。

 

「あら? すいませーん! 私くしゃみをするたびに性格が入れ替わっちゃうみたいなんです」

 

(((な、なんというとんでも能力……)))

 

「何かいけないことしませんでしたか?」

 

手に持っている銃と、傷だらけの悟空たちを見れば分かりそうなものだが。

 

どうやら、とんでもない女の子と暮らすことになってしまったらしい。

 

(にしても、やっぱりランチさんは天然か……あ、黒髪の方ね)



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26.修行のはじまり

いよいよ亀仙人に修行をさせてもらえることになった、悟空たち3人。

しかしこの島は修行をするには狭いということで、もっと大きな島へと移ることになった。

 

「よしよし、みんな出たな? 家はカプセルにして持ってくからの」

「へ?」

 

蓮香が間抜けな声を漏らしたと同時に、カメハウスがパッと消えた。

 

(カ、カプセルハウスだったのかっ!)

 

もう全ての家がカプセルハウスなんじゃないかと蓮香は心から思った。

 

「でもどうやっていくんだ? 筋斗雲にそんな乗るかな」

「いや、筋斗雲は無理だよ。だって、乗れない人が2人もいるんだよ?」

「「ぐっ……」」

 

態とらしくクリリンと亀仙人に視線を向けながら言った蓮香に、2人が小さく呻いた。

 

「ボートか飛行機?」

「う、うむ。蓮香の言う通りボートを出すんじゃ」

 

取り出したのはやはりホイポイカプセル。

 

「そりゃ、レッツゴー」

「「おー!」」

 

亀仙人の掛け声に悟空と蓮香は明るくノッたが、クリリンは若干ビクついているようだった。

 

「クリリン、ボート苦手なの?」

「いや……。ランチさん、そのぉ……ボートに乗ってる間はくしゃみしないでくださいね?」

「あ、はーい!」

 

クリリンの怯えていた理由に、蓮香はなるほど、と頷いた。

このボートという狭い空間、移動中に()()金髪ランチになられては、全員、目的地の大きな島まで泳ぐことになるだろう。

 

(ランチさんがくしゃみをしませんように……)

 

ブルリと微か身を震わせた後、蓮香は心の中で神に祈った。

 

 

 

 

 

 

 

神への祈りが通じたのか、ボートに乗っている間ランチはくしゃみをしなかった。

そうしてついた大きな島。他にも家が建っていて、亀仙人曰く300人ほどの人がここで暮らしているらしい。

 

「早速、晩飯まで軽く修行をつけてやるかの」

「あ、ありがとうございます!」

「やった!」

「修行だー!」

 

はしゃぐ3人を微笑ましげに見ながらランチが口を開いた。

 

「じゃあ私は夕飯の支度をして……は…は……」

「「「「!!!」」」」

 

突然口元を押さえ始めたランチに、悟空たち3人は悲鳴を上げて慌てて逃げた。

ササッと音がしそうな勢いで岩陰に隠れる。

 

「は…ふぁああ……」

 

が、ランチがしたのはくしゃみではなくあくびだった。

——ラッキーと言えばいいのか。

 

「じゃあ夕飯の用意して待ってるわね!」

 

そう残し、ルンルンでカメハウスに入っていったランチを見送って、悟空たちはフゥーッと息をついた。

 

「あ、焦ったァァ。ランチさん怖い」

「びっくりした〜」

「あ、あくびかぁ」

「ば、馬鹿者! あれぐらいでビビっておるようじゃよい武道家にはなれんぞ!」

「ししょー真っ先に逃げてた!」

「ゴホンゴホン……ししょー?」

 

蓮香のツッコミを軽く咳払いで流した後、亀仙人は聞きなれない呼び方にハテ、と首を傾げた。

 

「じいちゃんは、今日からあたしの師匠でしょ? それに、やっぱじいちゃんはじいちゃんだけな気がして……」

「なるほど、師匠と呼ばれるのは何十年ぶりかの」

 

納得したように頷き、亀仙人は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……早速修行を始めるわけじゃが、クリリンは何か習っておったのか?」

「はい! 多林寺で8年ほど」

「え、クリリン何歳? 赤ちゃんの頃から武道やってたの?」

「失礼だな! ボクは13歳だぞ!」

「え……!」

「ゴホンゴホン、そろそろいいかの?」

 

どんどん話を脱線させ、ヒートアップしていく2人を咳払いでなだめる。

 

「では3人とも一通りの基礎はできているというわけじゃな? では少し見せてもらおう」

 

そう言って歩き出した亀仙人に、悟空たちがゾロゾロとついていく。

 

「よし、よいか? この岩からあそこの木まで、ちょうど100メートルある。果たして何秒で走ることができるかの?」

 

亀仙人の最初の修行は、基礎中の基礎であり、定番中の定番、短距離走だった。

 

「速く走れるものほどよい武道家というわけではないが、足腰が堅牢であるに越したことはない」

「フッフッフ、ではボクが先に走りましょう。見せて上げます、オリンピックに出れるほどのボクの実力を」

「え、この世界にもオリンピックあるんだ……」

 

と、蓮香の呟きにクリリンが「は?」と返す。

蓮香は慌てて「なんでもない」と手を振った。

 

(あっぶな〜。呟き注意)

 

 

 

 

 

 

 

「では行くぞ! ようい……」

 

亀仙人がゴール地点の木の横に立ち、手を挙げる。

 

「ドン!」

 

振り下ろした、と同時にクリリンが猛烈なスピードで駆け出した。

ゴールと同時に亀仙人は手に持っていたストップウォッチを止める。

止めて、驚いたような声を出した。

 

「ほぉーっ! 10秒4か。こりゃあ大したもんだわい!」

「じゅ、10秒4です、か……。じ、自己ベストは10秒、1…なんですけど、ね。はぁ、はぁ」

 

クリリンは自慢げに腰に手を当てているが、息がものすごく切れている。

蓮香はどこから出したのか、クリリンに水を渡した。

 

「次オラ走っていいか?」

「あ、待って。悟空靴壊れてるでしょ?」

「あぁ」

「クリリンに貸してもらってから走ったほうがいいよ……いい? クリリン」

「え、あぁいいぞ」

 

クリリンが自分の靴を脱ぎ、悟空はそれを履いた。

悟空が元履いていた靴はバコバコに壊れていて、走りにくいことこの上なしだ。

ちなみに蓮香も同じ状態である。

 

「よーい……ドン!」

 

亀仙人が手を振り下ろしたと同時に、悟空がものすごい……本当にものすごいスピードで駆け出した。

ドビュンッ! という効果音とともに亀仙人と蓮香とクリリンの横を駆け抜ける。

 

「は、8秒、5」

 

結果を言う亀仙人の声は、どこか呆気にとられた感じだった。

 

「お、お前どう言う鍛え方してきたんだよ……」

 

クリリンの声は完全に上ずっていた。

 

「さすが悟空!」

 

蓮香は呑気にパチパチ手を叩いている。

 

「じゃあ、次あたしね」

「蓮香も靴、クリリンに借りるか?」

「サイズが合わない気がする……」

 

悟空もクリリンも、年齢に見合わずかなり小柄だが、蓮香は2人よりもさらに一回り小柄だ。

クリリンの靴を履いてみたが、案の定、若干走りにくい。

 

「いいや、裸足で走る」

 

地面は芝生みたいだし、見たとこ石も大して落ちていない。

大丈夫だろう。

 

「ではいくぞーい」

「はーい」

 

蓮香は亀仙人の振り上げた手に視線を合わせ、右足を軽く後ろにやって走る構えをとった。

 

「よーい……」

 

軽く腰を落とす。

 

「ドン!」

 

合図と同時に、蓮香は駆け出す。

彼女が元にいた世界では、決してあり得なかったスピードで。

 

ヒュッと走り抜けて、蓮香は木にタッチをした。

振り向くと、クリリンが目に見えてショックを受けている。

 

「9秒0……」

「悟空より0.5秒も遅いのかぁ」

「ボクより1秒速いんだぞ?!」

「ふむ……お前たち3人とも大したもんじゃ。しかしそれはあくまでも、人間のレベル。真の武道家になるには、人間のレベルを超えなくてはならない」

 

そう言って、亀仙人は背負っていた甲羅を外した。

 

「クリリン、わしのタイムを計れ」

「あ、はい」

 

亀仙人はスタート地点の岩まで歩いて言って、「いつでもよいぞ」と声をかけた。

 

「では行きます! よーい……はいっ!」

 

猛烈なスピードで、と言うには軽すぎる、と思うほどの速さで、亀仙人が悟空たちの前を駆け抜けた。

その衝撃で発生した風が、蓮香の結った長い髪をビュウっとなびかせる。

 

「何秒じゃった?」

「ご、ごご5秒6です」

「はえー……」

「人外……ししょーは人外だ」

 

呆然とする弟子3人をよそに、亀仙人は再びあの甲羅を背負った。

 

「久しぶりに走ったら喉が渇いた。クリリン、ちとビールを持ってきてくれんか?」

「はい!」

「びーる?」

「悟空、しゅわしゅわする苦い飲み物だよ」

「コーヒーとか言うんがしゅわしゅわしたやつか?」

「…………8年経ったら飲んでみよう。そしたらわかる」

 

そんな呑気な会話をしていた時、カメハウスの中から聞こえてきた。

———くしゃみが。

 

「「「あ」」」

 

そして一拍置いた後に聞こえてきたのは、クリリンの悲鳴。

カメハウスのドアが勢いよく開いて、悲鳴をあげながら走るクリリンと、それを追いかけるのは、包丁を持ったランチ(金髪)。

 

「あれ、クリリンさっきより速くねぇか?」

「あれだよ、鬼ごっこの時は足が速くなるって言う。——これは捕まったら殺られる、リアル鬼ごっこだけど」

「ふむ、クリリンなかなか人間の壁に近づいてきたのぉ」

 

ちゃっかり岩陰に隠れている3人だった。

 

(ついていけてるランチさんもなかなかに素質あるんじゃ……)

 

 

 




まだ本格的な修行には入らない……。


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27.亀仙人の厳しい修行

悟空、蓮香、クリリンの3人が亀仙人の弟子となってから3日目。

修行はまだ始まっていなかった。

——何故、始まっていないのか?

詳しく話すと長いのだが、簡単に言うと、亀仙人、クリリン、ランチの3人が夕食に食べたフグが原因で食中毒になったためだ。

——何故悟空と蓮香は大丈夫だったのか?

これも話すと長いのだが、簡単に言うと、夕食を食べなかった(食べれなかった)ためである。

 

そしてついに、今日から修行が始まる。

 

 

 

 

 

 

朝、4時半。

カメハウスに目覚まし時計のけたたましい音が鳴り響いた。

起きたのは亀仙人、こと武天老師。

 

「起きろ、クリリン。修行じゃぞい」

「は……へ…? もうですか?」

「うむ。わしは悟空たちを起こしてくる。さっさと着替えておくのじゃ」

 

そう言い残し、服を着替えた亀仙人は2階へ続く階段を上る。

内心で、あることへの文句たらたらだった。

 

(くそう、ランチちゃんがあの変な体質じゃなければわしとランチさんが一緒に寝るのに。何が悲しゅうてクリリンなんかと一緒に寝にゃいかんのじゃ)

 

蓮香が聞いていたならこう呟くだろう。

 

いや、ランチさんが普通の人でも、女子のあたしがランチさんと寝るわ。

 

 

2階の一室にある大きなベッドの上では悟空、蓮香、ランチの3人が寝息を立てていた。

 

(どれどれ、ランチさんはどんな格好で寝ておるかの〜)

 

スケベ心丸出しで部屋を覗き込んだ亀仙人は、視界に入った金髪に、小さくヒェッと声をあげる。

 

(お、恐ろしい時のランチさんじゃ……。うまく悟空と蓮香だけを起こさねば)

 

と、暫し悩んだ末に、部屋にあった箒を掴み、それで悟空の顔をコンコンと叩いた。

うまくランチには当たらないように…と。

 

「ん……あ! じいちゃんおはよっす!」

 

が、悟空は朝に強い。驚くほど寝覚めが良く、朝の挨拶も大変元気いっぱいだ。

 

「わわっ、シーッ!」

 

慌てて亀仙人が手をバタバタとさせるがすでに遅い。

ランチが、目を覚ました。

 

「お、おっす…」

 

悟空も、起きるなりギロリと睨まれて、事態を把握したらしい。

若干引き気味でランチに挨拶をした。

 

「て、めぇ……なんでオレと同じ布団で寝てるんだ!!」

 

言うや否や、ランチがどこから出したのか悟空に向かって銃を乱射する。

 

「わ、わっ!」

 

しかし持ち前の反射神経で悟空はそれを華麗に避けた。

おまけにきちんと蓮香を(騒ぎに全く気付かず穏やかな寝息を立てている)抱えて避けるあたり、さすがすぎる。

 

「大人しく、寝てろって!」

 

たとえ女であろうと容赦しないのが悟空である。

蓮香を抱えたままランチの顔面に見事な蹴りを炸裂させた。

当然のように気絶したランチ。

 

「オマエは……タンパクなやつじゃのう」

「?? 蓮香、起きろ! 修行だぞーっ!」

「……しゅ、ぎょうっ!!」

 

銃を撃つ凄まじい音にも目を覚まさなかった蓮香は、修行のワードを聞いて飛び起きた。

そのまま体のバネを使ってピョンっと悟空の腕から抜け出し、再度

 

「修行!」

 

——蓮香を起こすには、「飯」と「修行」と言う言葉を出せばいい。

それを熟知しているあたり、伊達に長年付き合っていないと言うことか。

 

「……で、ししょーはランチさんに何をやっているのかなぁ?」

「え……! あ、しゅ、修行じゃったの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

道着に着替えた悟空たち3人は、まだ夜が明けたばかりの空の下、亀仙人の演説(?)を聞いていた。

 

「……………………ここまではわかったか?」

「全然わからん」

 

要約すらできないほど長いセリフを言ってのけた亀仙人だが、悟空はまさに『ぽけ〜』とした顔で瞬きした。

 

「んー、つまりあれ? 修行を頑張って

人生楽しく生きましょう! ってこと?」

「……うむ、その通りじゃ」

「なーんだ、それならオラにもわかるぞ!」

「……おまえ、バカだろ」

 

 

兎にも角にも、修行が始まった。

 

「まずは軽くランニングじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこが、ハァ……ハ、軽い、ランニング、よ……!!」

 

亀仙人のいう『早朝の修行』とは、牛乳配達のことだった。

牛乳瓶の入った箱を持ち、決して小さくはない島を乗り物なしで回る。

しかも謎なことに……

 

(バカみたいに長い並木道や! 雲より高いところまで続く階段や! 丸太橋や! 砂漠やら激流や……恐竜に追いかけられたりする牛乳配達がどこにあるかーーっ!)

 

とにかく、ベリーハードな牛乳配達だった。

クリリンをはじめとして、蓮香、悟空とバテバテである。

 

「これを8ヶ月間続けること。さて、続いて朝の修行」

 

こう告げる亀仙人の声が、蓮香には死刑宣告のように聞こえた。

 

なぜ8ヶ月なのかというのは、目下のところ、修行の目標が8ヶ月後に行われる『天下一武道会』であるためだ。

 

 

 

 

 

 

 

朝の修行、ここから、蓮香は悟空たちと別修行となった。

悟空とクリリンに与えられたのは、素手で広大な畑を耕すこと。

 

そして蓮香には……

 

「へ? 縄跳び?」

 

連れてこられたのは、悟空たちの畑からちょうど小さな丘を挟んだところにある小川だった。

水はとても綺麗で、意外にも深さはある。

 

「縄跳び、をなんで小川の近くで?」

「フォッフォッフォ。小川の近くで、ではない。小川の上で、じゃ」

「へ?」

 

亀仙人は、完全に間抜けな面を晒す蓮香の横で、小川を指差した。

いや、正確には、小川にある岩を指差した。

 

岩、といってもその大きさはかなり小さい。

直径30センチぐらいの、極めて真円に近い形で、表面は少しでこぼことしているものの、平面に近い。

小川からは10センチほどの高さが顔を出していて、深さを考えると高さはかなりある岩だ。

 

「この上で、縄跳びを?」

「うむ。これは腕と足を鍛え、バランス力を鍛える修行じゃ」

「あたしが悟空たちと違う修行なのは、男女の差?」

「如何にも。もちろん、蓮香のことを侮っているわけではないぞ? 鍛え方や闘い方の、重点の置く場所が違うだけじゃ」

「大丈夫、わかってるよ……でも、縄跳びじゃ対して腕の筋肉は鍛えられないんじゃないかな?」

 

そう怪訝そうな蓮香に亀仙人が差し出したのは、見た目は普通の縄跳びだった。

もちろん、蓮香が前世で使っていたようなカラフルで如何にも安っちいものとは似ても似つかない、まさに『縄』だったが。

持ち手のところに妙な違和感を感じる。

 

「……う、重っ!」

 

受け取った縄跳びは、予想をはるかに超える重さだった。

(おもり)が入っているのだろう。

持つとズシリと感じ、試しに飛んでみるとなかなかクる。

 

「ちなみに、何回……?」

 

恐る恐る、というように尋ねると、こう返事が返ってきた。

 

「回数は決まっておらん。悟空たちが畑を耕し終えるまで、じゃ」

 

亀仙人の飄々とした声が、蓮香には死刑宣告のように聞こえた。

本日2回目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、やめてよいぞ〜」

「ひ、あぁぁ、終わったぁぁ」

 

亀仙人の声に、蓮香はようやく縄跳びを回す手を止め、ジャンプをやめた。

亀仙人の後ろには泥だらけになって、疲れ切った様子の悟空とクリリン。

蓮香の方も、かなり息を切らしている。

重い縄跳びを回していた腕は腕自体が鉛のように重く、手は赤くなっている。当然、ジャンプし続けていた足も棒のようだ。

おまけに、何度も水の中に転んだためびしょ濡れだった。

 

(これは確かに……バランス力もかなり鍛えられる……慣れるまでの時間もかなりかかりそうだけど!)

 

「さて、朝食でも食いに行くぞい」

 

亀仙人の言葉が、蓮香には天使の歌声に聞こえた。

本日初だった。

 

 

 

 

 

 

 

島のとある中華料理屋で、常人の7、8倍は食べたであろう悟空たち3人は、昼の修行に入っていた。

とは言っても、昼の修行は修行らしからぬ『お勉強タイム』だが。

 

渡された教科書は亀仙人の自作らしい。

 

「げー、オラは苦手だな」

「フッフッフ、これ完全にボクの勝ちだな」

「あたしに勝てるかはわからないよー」

「ほれほれ、静かにせい。ではまず国語から。悟空、12ページから読んでみろ」

 

そう指示する亀仙人は不思議なことに教師らしさが板についている。

 

(なんだか懐かしいなぁ……)

 

と、暫し前世を思い出して感傷に浸っていた蓮香だったが、

 

「うふんくすぐったい だめよもうすぐままがかえってくるんだからと まーがれっとはいったのだが ぼぶはごういんに……」

「これは断じて国語に使うべき教科書じゃない!!」

「……蓮香、静かに」

「前言撤回だぁぁ、ししょーはやっぱりししょーだったぁぁ」

「「…………」」

「??」

 

 

 

 

 

 

 

お勉強タイムが終了し、ランチさんの手作りランチ(シャレではない)をいただいた後は、昼寝の時間だった。

 

「よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。これが亀仙流じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、続いての修行、悟空とクリリンは工事現場の手伝いじゃ。これは筋肉を鍛え、おまけにアルバイト料までもらえる一石二鳥の修行じゃぞ」

 

ということらしく、悟空とクリリンは2時間ほど土を掘ったり運んだりすることとなった。

 

「蓮香は薪割りじゃ」

「薪割り……」

 

それなら余裕だ、と蓮香は内心ホッと息をついた。

おそらく素手で割れとかいうのだろう。

それなら、ブルマと出会う前毎朝日課のようにやっていたことだ。

——しかしそんな蓮香の予想はあっさり裏切られた。

 

「この斧を使ってやってもらう」

「斧……かっ、る!」

 

受け取った斧は、一体何で出来てるんだというほど軽いものだった。

刃は付いているものの、おもちゃのようにちゃちく見えてしまう。

 

「こんなんで薪割りしたら斧が壊れるんじゃ……」

「そこをうまくやるのがこの修行じゃ、これは器用さと集中力と、観察眼を鍛える」

「観察眼?」

「敵の行動を読むのに必要な力じゃ」

 

それはわかるが、なんでそれが軽い斧で薪割り? と蓮香は口に出さずに首をかしげる。

 

「木のどこをどういう角度で叩けばよいのか、斧にかける力はいかほどか、それを読んで行く修行じゃ。蓮香は純粋な力だけではどうしても負けてしまう敵もおるじゃろう。そう言った相手と戦うのに必要なのは、相手の弱いところを見つけることじゃ」

「それが薪割りで身につく……わかった! 頑張る」

「うむ、ちなみに斧の変えなら何個かある。しかしまぁ……あまり壊さぬようにの」

 

 

斧を壊さないようにと慎重に振り下ろせば、慎重にしすぎて薪は割れない。また少しでも力をかけすぎると斧が壊れ、薪は変な風に割れる。

結果、2時間が経ち次の修行に移る時までに上手く割れたのは数本だけだった。

おまけに……

 

(集中の仕方が悪いのかな? 頭の血管が灼き切れそう……)

 

 

 

「次の修行はここで行う」

「ここ、朝の牛乳配達で通った砂漠?」

「うむ、その通りじゃ」

「ここでは何するの? ししょー」

「逃げ回れ」

「は?」

 

何やら不穏な響きが……と、蓮香はやや青ざめる。

それと同時に、不安をさらに助長させるのが、遠くから近づいてくる『ドシーン…ドシーン…』という、地響きに近い音である。

 

「恐竜……」

「うむ、ここにはこの時間になるとなぜか恐竜たちが集まってくるのじゃ」

「1体じゃないの?!!」

「3体くらいかのう……」

「死ぬ! 喰われる!」

「大丈夫じゃ、逃げ回れ」

 

ドシーン…ドシーン……

 

「キィィィタァァァ!」

 

ついに視界に入った恐竜。

その数……4体。

 

「3体じゃないっ? 4体いる!!」

「1体増えたぐらい変わらん。頑張れ」

「キャァァァァッ」

 

大変女の子らしい悲鳴をあげながら蓮香は追いかけてくる恐竜から逃げ出した。

 

「砂漠から出るんじゃないぞい!」

「わかったぁぁぁ! 砂漠からはでませぇぇん!いやぁぁっ、こぉなぁいぃでぇぇ!」

 

悲鳴をあげながらも亀仙人にはきちんと返事をする蓮香は律儀なのかなんなのか。

 

その同時刻、悟空とクリリンは湖でサメに追いかけられ、悲鳴をあげながら泳いでいた。

 

 

 

 

 

「ひぃ、ふぅ、はぁ」

「つ、つか、疲れ……た」

「は、は、はぁ……はぁ」

 

びしょ濡れの悟空とクリリン(流石に服は着た)。汗だくの蓮香。

3人は荒く息を吐きながら疲れ切っていた。

 

「さて、次が最後の修行じゃ」

「つ、ぎは……なにです、か?」

「反射神経を鍛える修行じゃ。今回は蓮香も悟空たちと同じことをする」

「は、はい……」

 

 

最後の修行も、かなりえげつなかった。

蜂の攻撃を避けるという、トンデモナイ内容。

 

終わった時には、悟空たちの体中、蜂に刺されて腫れ上がっていた。

 

「痛い……」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日の修行はここまでかの」

「や、やっと終わった……」

「疲れた……」

「あ、あの、毎日こんな厳しい修行が続くんですか?」

 

恐る恐る、のクリリンの言葉。

それに、亀仙人は「なにを言っている?」という顔で言った。

 

「明日からはもっときついぞい。この……20キロある亀の甲羅を背負って今日と同じことを毎日続けてもらう。わしが亀仙人と呼ばれている理由、わかった?」

 

この言葉が、蓮香には死刑宣告のように……(以下略)

 

 

 

(さすが亀仙人の修行……拳法らしさはゼロだけど、死ぬほど疲れる)




蓮香のオリジナル修行について考えるの、かなり難しかったです。
薪割りのやつは、かなり無理矢理感あるかな? と最後まで思いつつ書きました。


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28.修行の日々

前回が若干長めだったので、今回はかなり短いです。


修行が始まってから、3ヶ月が経った。

早朝の修行、牛乳配達が終わり、蓮香は悟空たちと別れて小川へ向かう。

手にはバカみたいに重い縄跳びを持って。

 

最初の1ヶ月で、両足前跳びなら岩から落ちることもなく跳び続けられるようになった

錘の重さにも慣れてくるというものだ。

2ヶ月目からは両足後ろ跳びの挑戦を始めた。

バランスを保つのがさらに難しくなり、1ヶ月半かかってようやく引っかからずに行けるようになった。

——つまりというか、両足後ろ跳びで1回も引っかからずになったのがつい10日前のことだった。

 

そして1週間前から新しい跳び方、二重跳びに挑戦しているのだが……。

 

「うぁっ」

 

バシャァッと派手に上がる水しぶき。

これで本日6回目だ。

 

「ふひゃぁ、難しい……。まったく、根本的には両足前跳びと変わらないのになぁ」

 

ジャンプのタイミングと縄の回るタイミングが合わず、どうしても引っかかってしまうのだ。

 

「普通の縄ならできるのに……重すぎるんだよ、これ」

 

ブツブツ言いながら岩の上に再び立ち、縄を構える。

 

(せぇ、の)

 

ヒュンヒュンとリズム良く縄を回し、タイミングを合わしながら高さの調節もしながら跳ねる。

下手に腰が曲がると跳びづらいと知っているので、背はピンと伸ばして姿勢よくだ。

と簡単に言っているが、この背筋ピンもかなり難しい。

なぜなら、背中に20キロの亀の甲羅を背負っているから。

気を抜くと、軽い蓮香は後ろに倒れそうになる。

 

 

「よーし蓮香、朝飯じゃぞー」

「うひゃっ」

 

突然セリフとともに現れた亀仙人に驚いて、蓮香はバランスを崩した。

そのまま思い切り小川にダイブ。

 

「いった〜。いきなり現れないで……」

 

岩にぶつけた右肘を左手でスリスリしながら小川を出る。

 

「上手くいっておるかの?」

「二重跳びに苦戦してます〜。まだ始めて7日なんだけど……」

「ふむふむ。じゃが始めた頃よりだいぶ体幹が良くなってきた。すぐに上手く飛べるようになるじゃろ」

「はいっ。頑張る! っと、今日も泥だらけだね、悟空にクリリン」

「あぁ、オラ腹減った……」

「ボクも……」

「あたしも、早く食べたい」

 

ランチの作ってくれている朝食を思い浮かべ、蓮香のお腹が可愛らしく鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

お勉強タイム、昼寝が終わり、次の蓮香の修行は薪割り。

これは、3ヶ月経った今ようやく慣れてきた、という感じだ。

 

リズムよく、最高の角度で、力加減も調整して。

薪の形や大きさはそれぞれ違うのだから、どこをどう叩けば上手く割れるのかも、薪によって違う。

最近はそれがだいぶわかってきた。

それでも——1日ひとつは斧を壊す。

 

 

「うぁぁ、掌にマメがこんなに……」

 

(軽い斧ではあるけど、握りしめるのには無意識で力が入っちゃうんだよね)

 

薪割り修行が終了し、次は恐竜と追いかけっこである。

 

これが、一番早く慣れることができた。

実際に今、追いかけられている。

追いかけられながら他のことを考える余裕ができたということか。

それでも、

 

「グガァァアァッ」

「うっひゃっ」

 

気を抜くと、喰われそうになるのだが。

 

 

蜂との訓練(たたかい)は3日に1回しかない。

そのため今日はなかった。

 

今日も、ベリーハードな修行が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

夕食後。

 

「悟空……起きてる?」

「ん、どうしたんだ、蓮香」

 

月が照らす2階の部屋で、隣の悟空が一向に寝息を立てないのに気づいた蓮香が声をかけた。

 

余談だが、ランチは朝になるとほぼ必ず金髪ランチになっていることがわかり、布団をもう1組買って違う部屋で寝ている。

よって、この部屋のベッドは悟空と蓮香の2人が使っていた。

 

「いつになったら、拳法教えてくれるのかなぁって」

「あれ、聞いてないのか? 家の近くにあるでっけえ岩を動かせるようになったらイチニンマエだってさ」

「そんな話聞いてないぞししょー……」

 

恨みがましい口調の蓮香に、悟空がくくっと笑った。

 

「あたしたち、天下一武闘会出れるのかな?」

「それはわかんねぇけど、出たいよな」

「……そうだね、出たい。思い切り闘いたい」

 

話しているうちに、瞼が重くなってくる。

眠れない時というのはあるが、誰かと小声で話していると眠くなるのは何故だろうか。

 

「おやすみ悟空。明日もがんばろね」

「あぁ、おやすみ蓮香」

 

 

(とりあえず、二重跳びがんばろう。あと、斧を壊さないようにしなければ)



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29.天下一武道会はじまる

はじまると言っておきながら会場に着くだけの回……。


修行の日々を送り続け、ついに天下一武道会まであと1ヶ月となったある日。

 

「じいちゃーん!」

「武天老師さま!」

「ししょーっ」

 

悟空が、ドアを壊さんばかりの勢いでカメハウスに飛び込んだ。

その表情は興奮に満ちていて、後ろから追いかけてきたクリリンと蓮香も同じくだ。

 

「じいちゃん、ちょっと来てくれよ!」

「見てもらいたいことがあるんだ」

 

言うや否や、悟空がくつろいでいた亀仙人を引っ張り上げ、そのまま引きずるように外に出た。

蓮香とクリリンもそれに続く。

 

3人が亀仙人を連れて来たのは、カメハウスからそう遠くない位置にある巨大な岩。

 

「これがどうしたと言うんじゃ?」

「動かせるようになったんですよっ」

「あたしたち3人、全員!」

「見ててくれよっ」

 

まず、岩に手を当てたのは悟空。

歯を食いしばり、ものすごい形相で腕に力を込める。

 

——ズズズズ…!

 

と、岩が動いた。50センチほど。

 

亀仙人の目が、信じられないものを見るように見開かれる。

 

「お次はボクです! 悟空ほどは動かせませんけど……」

 

と、やや謙遜しながらも岩に手を当てるクリリン。

ふんっ! と力を入れると、彼の押す岩がズズ…と動いた。

約30センチほど。

 

亀仙人は、もはや呆然。

 

「次はあたしね。とは言っても、あたしは2人とちょっと違うんだよね」

 

言いつつ、蓮香が()()()()()岩に当てた。

 

「へ?」

 

まさか片手で動かすつもりか? と亀仙人は思わず間抜けな声を漏らす。

 

「か…め…」

 

しかし、当たり前だが片手で岩を動かすことなどできない。

悩んだ末に、蓮香はある方法を思いついたのだ。

 

「は…め……波ぁっ!」

 

岩に当てていない左手から、青白い閃光が走った。

そしてタイミングを上手く合わせ、蓮香は右手に力を込める。

かめはめ波の勢いを借りて、岩が動いた。

クリリンと同じく、30センチほど。

 

そう。

蓮香が思いついたのは、かめはめ波の勢いを借りて岩を押すことだったのだ。

今の自分の筋力じゃ、この岩を動かすのは難しい、と早々に気づいた蓮香は、かめはめ波を片手で出す練習を始めた。

 

そして、縄跳びで培ったタイミングを合わせる力と、薪割りで培った観察眼を生かしたのだ。岩をどの角度から押すのがいちばん動きやすいかと言うのを、蓮香は見極めていた。

 

「……………」

「な! これで拳法教えてくれるだろ?」

「……う、うむ……まぁまぁだな」

 

(うそだ、まぁまぁだったらそんなに呆然としないはずだ)

 

蓮香は激しく荒れた呼吸を整えるのに必死で、ツッコミは心の中だけでした。

ちなみに亀仙人は内心、

 

(岩を動かすのはジョウダンだったんだけどな……)

 

などと思っていたのだが、悟空とクリリンは知らない。

蓮香はどうかわからないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、結果は、悟空たちは結局今までと変わらないことをすることになった。

拳法は教えてもらえなかったのだ。

亀仙人曰く、

 

「亀仙流の基本は、これまでお主らがやって来た修行の中に含まれておる。

拳法というのは、自分で気がつかないうちに今まで鍛えられたものの応用でしかない。——蓮香の今日の岩の動かし方がまさにそれじゃ。

武道は勝つために励むのではない。

()()()()()()()に励むのじゃ。

今までやって来た基本を生かして、拳法は自分で学べ」

 

らしい。

 

変わったことといえば……背中の甲羅が20キロから40キロになったことぐらいだろうか。

もはや蓮香の体重よりも重いものだ。

 

「なにこれ……重すぎ……」

 

蓮香が呻くのも仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてさらに1ヶ月が過ぎ、ついに天下一武道会が明日にまで迫った。

今日は、いよいよ南の都に出発である。

 

「お前たち、もうその甲羅を外していいぞ」

「よかったぁ、このままじゃ恥ずかしかったんだよね……」

 

ボソリと蓮香が呟く。

 

「ん?!」

「すげえ、体が軽くなったぞ!」

「重さを感じない……すごい」

 

ぴょんぴょんと跳ねて見て、蓮香は思わず感激した。

背に40キロの甲羅を背負い、1キロはあるであろう縄跳びを回しながら跳ねるのは、辛かった……。

蓮香は思わず遠い目になりかける。

 

「その場で思い切りジャンプしてみろ」

「え?」

 

亀仙人に言われ、素直に悟空たちは頷いた。

せーの、と合わして思い切り地面を蹴る。

 

「えっ?!」

「ひゃっ!」

「キャッ!」

 

跳んだのだ。雲の近くまで。

鳥の飛ぶような高さまで。

 

「オ、オレたち……」

「自分の足で…」

「跳んだ…よね?」

 

空中で呆然と顔を見合わし、重力に従って地面に足をつける。

かなりの高さから降りた(落ちた)のだが、見事に着地してみせた。

そして改めて……

 

「「「すっ、すげーーーっ!」」」

 

顔を見合わして、興奮したように叫ぶ。

 

「すげーっ! むちゃくちゃ早く走れっぞ!」

「オレだって!」

「ひゃーっ! すごいすごいすごい!」

 

この8ヶ月、本当に意味があるのかと危ぶんでいたが、意味があったのだ。

修行を始める前とは、もはや比べ物にならない力を3人は得ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひひ、変な格好だな」

「お前だって」

 

そう、ニヤニヤ笑いながら突き合う悟空とクリリンの格好はいつもの修行着ではない。

ランチが手作りした、晴れ着。

白のシャツに紺のスーツ、スーツと同色の洒落た帽子だ。

 

「とてもかわいいわよ」

「こんなミニのスカートなんてひさしぶ……あ、いや! 初めてだから、変な感じ」

 

外で着替えた悟空とクリリンと違い、女子の蓮香はカメハウスの中で着替えた。

紺色の膝丈スカートに白いブラウス。ブラウスの襟のところに、赤い紐をリボン結びにしている。

またいつもポニーテールに結われた髪を下ろし、赤いリボンをカチューシャのようにしたランチ風ヘアースタイルだ。

——かなり癖の強い髪なのだが、それはそれで可愛かった。

 

「蓮香、化けたなぁ…」

「ちょ、悟空、それどういう意味よ〜。おかしくない?」

「あぁ、かわいいぞ」

「……そういうことサラッと言うから怖いよね……」

 

かなり久しぶりのミニスカート姿をかわいいと言われ、蓮香は目元を紅くする。

 

一方のクリリンは、初めて見る蓮香の修行着、寝間着以外の姿に、完全に見惚れていた。

 

なにぶん蓮香は、ウーロンに『将来ブルマより美人になるかも』と言わせた美少女である。

 

切れ長でややつり目な瞳のせいで、若干キツイ印象を与えるタイプではあるが。

 

「ほれ、乗った乗った」

 

言いつつ、亀仙人は車のトランクを閉めた。

ちなみにこれもホイポイカプセル——カプセルカーである。

 

「じゃあ頑張ってね!」

「あぁ!」

「ランチさん、いってきまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行機内。

 

「すげーっ! こんなでっけえのが飛ぶのか! でも筋斗雲よりは遅えな」

「イナカモンが……」

 

大興奮の悟空に、冷めたように新聞を読むクリリン。

一方蓮香と亀仙人は……

 

「…………」

「…………」

「…………いい? ししょー。次またCAさんに痴漢行為を働いたら……わかりますよね?」

「はい……もうしません」

 

(普段はいいししょーなのに。いかんせんスケベすぎるっ!)

 

蓮香は亀仙人を見張るかのように見つめ続け、亀仙人は冷や汗を流していた。

 

 

飛行機を降り、タクシーに乗ると、天下一武道会会場まではすぐだった。

 

「うっひゃぁぁぁ」

「世の中には人がたくさんいるもんだな」

「なんか、緊張してきたな……」

 

(東京駅レベルの人混みだなぁ。さぁて……闘うぞ!)



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30.修行の威力

「すげえ人だな」

「観客がほとんど……だといいなぁ」

「うぅ、選手も大勢いるんだと思うぜ」

 

悟空や蓮香はもちろん、クリリンも初めて見るほどの人混みである。

いや、蓮香は前世では慣れた光景(モノ)だったが。

 

「ほれほれ、予選会場へ行くぞい。キョロキョロして迷子になるなよ」

「は、はい」

「あぁ」

「ふぁ〜い」

「……蓮香、お前は緊張感ないのぉ」

「んん?」

 

(いや、この人混み、久しぶりではあるけど通勤ラッシュの満員電車に比べれば、ね)

 

 

予選の受付を済ます時、

 

「ほ、本当に君達が予選に参加するのかい?」

 

などと受付の人に驚かれたりしたが、思い切り子供なのでしかたあるまい。

とくに、蓮香などぱっと見か弱い少女(幼女)だ。

 

 

「さて、付き添いはここまでじゃ。知っての通り、予選で勝ち残ることのできた8人のみが観客の観ている表で戦う。わしも外で見ておるから、お前たちの姿が観れるのを楽しみにしておるぞい」

「わかった!」

「がんばるね」

「い、一応頑張りますっ」

 

三者三様に返事をし、そのまま予選の行われる競武館に入ろうとして——亀仙人に呼び止められた。

 

「そんな格好では戦いづらいじゃろ、ほれ」

 

 

 

 

 

 

 

着替えを終えて、悟空と蓮香は嬉しそうな声をあげた。

蓮香は着替えた時に髪をカチューシャにしていたリボンで縛った。

亀仙人に渡されたのは、全員お揃いの山吹色の道着。

左胸のところに“亀”と書かれている。

 

「な、なかなか派手ですね……。負けたらカッコ悪いな」

「負けなきゃいいんだよ!」

「そうだぞ、クリリン!」

「お前らホント軽いよな」

「やだなーごくうほどじゃないよー」

「棒読みだぞ……」

「ほれほれ、そろそろ行かぬと遅れてしまうぞ。頑張ってこい」

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、これみんな選手たちかー」

「オレ、自信なくなってきたよ……」

「男の人ばっか……みんな筋肉ムキムキだねぇ」

 

競武館の中にはいかにもな屈強男たちで溢れていた。

どこを見渡しても悟空たちのような子供は——ましてや蓮香のような女の子はいない。

3人は明らかに場違いで、ある意味悪目立ちしていた。

 

そして、いくつも置かれている競技台の中の1つの上に、老人が1人立った。

 

「えー、本日は遠いところはるばるお集まりいただきありがとうございます。

本日集計したところ、138名の強者たちがこの場に集まりました」

「ひゃ、ひゃくさんじゅう、はち……」

 

クリリンがくらくらと目を回す。

 

「それでは、競技の方法とルールを説明します。

この競技台の上で1対1の勝負をしていただき、勝ち残った8名のみが本戦に出場となります。

この競技台の上から落ちたり、気絶したり、降参したり、泣いたりしたら負けとなります」

「泣いたりはないんじゃない?」

 

ぽそりと蓮香が呟く。

 

「ただし、相手を殺すのはダメです。武器の使用も認めていません。

予選は1分間だけで、決着がつかない場合は判定で勝負を決めます」

 

人数が多いので4ブロックに分けるという話があり、悟空たちはそれぞれクジを引いた。

 

「悟空、蓮香、何番? オレは93」

「オラは70番だ」

「げげっ! 同じ3ブロックじゃねぇか! 悟空と闘うとかヤだぞ……」

「番号が離れてるから大丈夫だよ。ちなみにあたしは129番だから……4ブロックね」

 

あからさまにホッとするクリリン。

しかしすぐ、でも、と言葉を継いだ。

 

「1回戦で負けたら関係ないか。武天老師さま、闘い方は全く教えてくれなかったからなぁ」

「こらこら、ネガティブ発言禁止だよ、クリリン」

「ねがてぃぶ……ってなんだ?」

「暗くて後ろ向きな発言ってこと」

「あぁ、そういうことか。大丈夫さ! 亀仙人のじいちゃんに教えてもらった通り修行したんだから!」

 

そしてすぐ、悟空の番号が呼ばれた。

悟空は競技台の上に上がり、クリリンと蓮香がそれを見守る。

 

「おいおい、あんなガキが出場か?」

「おい見ろよ、女の子までいるぜ」

「舐めてるのか?」

 

などという声が聞こえてきて、蓮香は唇を尖らせた。

 

「おい、あんま気にすんなよ蓮香」

「わかってるよ」

 

しかし……結果は悟空の勝ちだった。

素早く相手の後ろに回った悟空が相手の裏腿を突き……相手が倒れたのだ。

 

「ドジなやつでよかったなぁ、悟空」

「マヌケが相手でよかったね」

「……いや違う」

「ん?」

「蓮香、クリリン。よっぽどの相手じゃなきゃ、本気で闘うのはやめとけ!」

「どういうこと?」

「本気で闘わないと負けちまうぞ?」

 

怪訝そうな蓮香とクリリンに、悟空が再度言った。

 

「いや、思い切りやるのはやめといたほうがいいぞ」

 

その時だった。

 

「おいおい、誰かと思ったらクリリンじゃねぇか」

 

振り向くと、ヒョロリと背が高く細い坊主男と、やや横に広く背も低い坊主の男。

 

「あ!」

 

クリリンは、その顔に覚えがあるようだった。

 

「まさかお前も出場したいとか言わねえよな?」

「お前、見込みが全然ないって言われた落ちこぼれだしな〜」

 

明らかに上から目線でバカにしたような物言いに、蓮香が眉間にしわを寄せた。

しかしクリリンは何も言い返さずに縮こまっている。

 

「何番だ?」

「きゅ、93番です……」

「おぉっ! こりゃいいや、俺が相手だぜ!」

 

ヒョロリと背の高い方の坊主が、嬉しそうに声を上げる。

 

「えぇっ?!」

「お手柔らかに頼むぜー」

 

下品な笑い声を上げたまま、男2人は去っていった。

 

 

「イッラつくー! 何あいつら、何様?」

 

蓮香がブーブー文句を言いながら、去っていた男たちにベーッと舌を出した。

 

「あいつらものすごい強いんだ……大林寺でいつも俺をいじめてた。もう無理だよ……」

「大丈夫だ! あいつらなら思い切りやれ! 絶対勝てるさ」

「なんなんだ、さっきから思い切りやるなとかやれとか……」

「とにかく、がんばって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてついに、クリリンの番号が呼ばれた。

 

「がんばれ!」

「大丈夫だよ、クリリン。ファイトッ」

 

2人の声援を受けながらも、クリリンはビクつきながら競技台に上がる。

ヒョロリと背の高い男はニヤニヤと笑みを浮かべながらも競技台に上がった。

 

「はじめっ!」

 

合図がなされた瞬間、坊主男が拳をクリリンに向かって突き出した。

 

「!」

 

クリリンはビクッとしたが、すぐに飛び上がりそれを避ける。

そして——

 

「せやぁっ!」

 

思い切り、蹴りを坊主男に向けて繰り出した。

男はものすごい勢いで吹っ飛ばされ、競武館の壁を破って外に飛んでいった。

 

「「うそ……」」

 

クリリンと蓮香が——いや、競武館に集まった人全員が、信じられないものを見るように壁に空いた穴を見つめた。

 

「きゅ、93番の勝ち……」

 

結果を告げる審判の声は、心なしか震えている。

 

「オラたち、知らねぇ間にすげえ強くなってたんだよ!」

「あわわ……」

「大丈夫? さっきの坊主、死んでない?」

 

嬉しそうな悟空と対象に、クリリン、蓮香、周りの男は表情を引きつらせていた。

 

 

「129番と130番の方!」

「あ、呼ばれた。行ってくるね〜」

 

なんとも軽い返事をし、競技台へと上がる蓮香。

 

「頑張れよ!」

「やりすぎないようになっ」

 

悟空とクリリンと4ブロックの競技台の下に立った。

蓮香の相手は、クマを連想させる大柄なスキンヘッド男。

そいつは、蓮香を見るなり下卑た笑みを浮かべる。

 

「コイツァ随分カワイイ子じゃねぇか……へっへっへ」

(ロリコン?! 気持ち悪い……)

「どう可愛がってやろうか……へへ」

「こっちのセリフよ……女の敵め」

 

ニヤニヤと笑ってくる男を、蓮香は睨みつけた。

 

「舐めんなよ?」

 

蓮香のつぶやきと同時に、はじめの合図がなされた。

 

「うぉらぁ!」

 

男が、拳を繰り出してくる。

蓮香はそれを右に躱し、そのまま飛び上がった。

そして、男の顎を思い切り蹴り上げた。

男は真上に吹っ飛んでいき、ガンッと天井に頭をぶつけ、高速で競技台の上へと戻って——落ちて——きた。

男の頭の周りを、ピヨピヨと鳥が飛んでいるように見えるのは、果たして幻だろうか?

 

「ひゃ、129番の勝ち……」

 

見ていた他の出場選手は、蓮香を、そして悟空とクリリンを、恐ろしいものを見るかのように見つめた。

 

(闘うの楽しすぎ! このまま勝つぞー)




戦闘シーンがやはり難しい。
こんなので大丈夫か? と不安に思う今日この頃。


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31.再開! そして対戦相手決定

——男は今、猛烈な恐怖を感じていた。

 

この天下一武道会を目指して、約7年間徹底的に自分を鍛え上げてきた。

予選でも順調に勝ち進み、この戦いを含めてあと2回勝てば天下一武道会出場だ。

それなのに——

 

「よろしく〜」

 

まさか、相手が()()とは。

 

「はじめ!」

 

審判の合図がなされた途端猛烈なスピードでこちらに迫られ、そのスピードに圧倒されて動きが固まった瞬間()()の姿が視界から消えた。

 

「なっ?」

 

慌てて右、左と見渡すと、肩をトントンと叩かれる。

 

「隙だらけよ、おにーさん」

 

——終わったな、オレの7年間。

 

そう思ったのと同時に、男の意識は刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「129番の勝ち!」

 

おーっと上がる歓声に、蓮香はイェーッと拳をあげた。

 

「やったー!」

「ナイスだ!」

 

競技台の下の悟空とクリリンも蓮香と同じく満面の笑みでガッツポーズをとる。

 

3人ともあと、1試合勝てば本戦出場だった。

 

 

「あれ……もしかして、ヤムチャ?」

「蓮香か?」

「うわーっ! やっぱりそうだ。久しぶりー、ヤムチャ」

 

第3ブロック1人目の本戦出場者を決める決勝戦——悟空の予選最後の試合が行われている競技台の下、蓮香はある人との再会を果たした。

 

「やたら強いガキらがいると聞いてきたが、やはりお前たちのようだったな」

「ふっふっふ。ね、ブルマたちも来てるの?」

「あぁ、プーアルとウーロンも一緒だ」

「やった! あとで会いに行くね」

 

蓮香が、自分と悟空を外の世界に連れ出してくれた友人を思い出して笑みを浮かべた時、おおーっというざわめきがあたりで広がった。

 

「70番、天下一武道会出場決定!」

「やったーっ!」

「悟空、おめでとー!」

「やったな悟空!」

 

クリリンと蓮香の2人も歓声をあげる。

 

「彼は?」

「あぁ、この人はクリリン。ししょー……亀仙人の元で一緒に修行した仲間だよ」

「あぁ、なるほど。オレはヤムチャだ、よろしく」

「よろしく!」

「93番、97番、台に上がってください!」

 

ついに、クリリンの番号が呼ばれた。

これに勝てば、クリリンも天下一武道会出場決定だ。

 

「ファイトクリリン!」

「がんばれよ、3人みんなで天下一武道会出ような!」

「おう!」

 

蓮香と悟空から声援を受け、やや緊張しながらもクリリンが競技台へと上がる。

 

「久しぶりだな、悟空」

「? 誰だ、おめえは」

「ククッ、ヤムチャだよ、悟空。髪切ってるからわからないけど」

「え、ヤムチャ?! ヤムチャか!」

「はは、やっとわかったか」

「髪が違ったから全然わからなかったぞ」

「都で長髪はダサいからってブルマのやつがうるさくてな」

「あー、たしかに。ちょっと鬱陶しかった」

「は、ははは……」

 

彼女からはダサい、友人からは鬱陶しかったと言われてヤムチャは若干落ち込む。

 

「ヤムチャも出場できたか?」

「あぁ、一応な。正直、お前らに勝てる気はしないが」

「わからないよ? 出場できたってことは相当強くなったんだろうし……」

「93番の勝ち! 天下一武道会出場決定!」

「「あっ!」」

 

パッと振り返ると、仁王立ちになったクリリンと、意識を失って倒れている男。

 

「「やった!」」

「124番、129番台に上がってください」

「っと、呼ばれた。じゃ〜行ってくるね」

「がんばれよ蓮香! 絶対出場だぞ」

「オレらも応援してるからな!」

 

悟空とクリリンに再度笑いかけてから、蓮香は競技台へと上がった。

相手は——

 

「うわぁお、怪獣?」

 

2メートル近くありそうな、怪獣だった。

青と緑という、随分毒々しいカラーリングだ。

 

「それでは、始め!」

 

合図がなされた瞬間……というか、もはやフライングのような速さで怪獣がパンチを繰り出して来た。

 

「ひぁっ」

 

間一髪——ではなく、どこか気の抜けたような声でそれを避ける。

 

「な、なに?!」

 

避けられるとは思っていなかったのか、怪獣は目を見開く。

 

「なかなかいいスピードだね。でも——」

 

あたしの方が、速い。

 

心の中で呟いて、蓮香は台を蹴った。

目にも留まらぬスピードで怪獣の後ろに回り、その太い尻尾をむんずと掴む……というか抱きしめる。

 

「えい、やぁっ」

 

という、なんとも間抜けというか軽いというかな掛け声とともに投げ——るのではなく、一本背負いのようにして台に叩きつけた。

 

したたか腰と頭を打った怪獣はたまらず、

 

「まいっ、た……」

 

白旗をあげた。

 

「129番、天下一武道会出場決定!」

「やったー!」

 

競技台の上で抱きしめ合う悟空、蓮香、クリリンを見て、

 

「やれやれ、こりゃ準優勝するのも夢のまた夢、か」

 

とヤムチャが呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルマ、久しぶりー!」

「やだ、蓮香じゃない! 元気だった?」

「元気元気! 悟空もだよ」

「孫くんも久しぶりー、2人とも全く変わってないわね」

「……3ミリぐらいは伸びたはずだもん」

 

悪意がないとわかっていても、低身長をコンプレックスとしている蓮香は唇を尖らせた。

そんな仕草しても、幼さを助長させているだけである。

 

「んで、おぬしらは天下一武道会には出場できたのか?」

「うん!」

「オラも蓮香もクリリンも、それからヤムチャもだ!」

「やるじゃない!」

「相変わらず強いんだな」

「さすがですね」

「うむ、ようやったぞ」

 

ブルマ、ウーロン、プーアル、亀仙人に褒められて悟空と蓮香は胸を張り、クリリンは照れたように頰をかく。

 

『間も無く天下一武道会を始めます。選手8名は武道寺本館に集合してください』

「あら、あんたたち呼ばれてるよ」

「うん、じゃ行ってくる」

「またなー」

「がんばります!」

 

悟空たち3人が武道寺本館に向かった後——

 

「さて……」

 

亀仙人のつぶやきは、誰にも聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

天下一武道会に出場できるのは、8名。

今回、第21回天下一武道会の出場者は以下の通り。

 

・亀仙人(武天老師)の弟子、孫悟空

・同じく亀仙人の弟子、孫蓮香

・同じく亀仙人の弟子、クリリン

・元荒野の悪党、ヤムチャ

・産まれてから一度も風呂に入ったことのない男、バクテリアン

・頭にターバンを巻いた真面目そうな男、ナム

・8名の中で蓮香を除いた唯一の女性、ランファン

・間違いなく8名の中で最年長、ジャッキー・チュン(この名前を聞いた時、一瞬蓮香は偽名を疑った)

 

 

対戦相手を決めるくじ引きが始まる。

説明をしてくれたのは、サングラスをかけた若い男。この武道会の司会者だ。

 

「名前を呼ばれたらくじを引いてください。では……」

「あの〜」

 

司会者の男の言葉を、ジャッキー・チュンが遮った。

 

「わしゃこの娘さんと対戦したいんじゃが」

 

と、若く美人でグラマーなランファンの腕を掴んだ。

 

「わがまま言わんでください!!」

「この世界の男はみんなスケベか、そうか」

 

スケべな男に手厳しい蓮香がジャッキー・チュンに冷めた視線を送る。

 

「そうか……残念じゃのう」

 

そんな視線にも素知らぬふりで、ジャッキー・チュンは渋々ランファンの腕を離した。

 

「えー、ゴホン。それでは名前を呼びます……」

 

 

 

 

 

 

 

 

くじ引きの結果。

 

第1試合 ナムvsクリリン

第2試合 ジャッキー・チュンvsバクテリアン

第3試合 ヤムチャvs孫蓮香

第4試合 孫悟空vsランファン

 

となった……。

 

(天下一武道会が、始まる……とその前に)

 

「ねーねー昼飯は?」

「あたしたちお腹減ったー」

「え、君たちは試合前に食べるのかい? 試合が終わった後の方が……」

「オラは食う!」

「そんなに待てない!」

 

 

(腹が減っては戦はできぬ……ってね)




ギランには予選決勝戦で蓮香に負けてもらいました。
次回は第1試合と第2試合をまとめて書いて投稿します。


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32.第1試合、第2試合

大変長らくお待たせいたしました、すみません…。

第2試合と書いておきながら、ほとんどナムvsクリリンです。


「まもなく第1試合、ナム選手とクリリン選手の対戦を始めます! なお、優勝した選手には50万ゼニーの賞金が贈られることになっています」

 

武舞台に立った司会者の男が、マイク片手に観客の方へと話している。

その裏側で……

 

「頑張ってクリリン!」

「絶対勝てるからな!」

「あ、あぁ」

 

緊張を隠し切れないクリリンを、蓮香と悟空が鼓舞する。

そのクリリンの対戦相手、ナムと呼ばれたターバンの男は、神妙な顔つきで何かを拝むかのように両手を合わせていた。

 

それに疑問のようなものを感じたのは、選手の中で最年長、そして名前から蓮香が疑わしいと感じている、ジャッキー・チュン。

 

(天下一武道会はお祭りのようなもの。なんじゃ、あの超真剣(マジ)な顔は………どれ)

 

ジャッキー・チュンは、怪しまれない程度に、ナムの側へと近寄った——。

 

 

 

 

 

 

「それでは第1試合を始めます! ナム選手、クリリン選手、どうぞ!」

 

司会者に呼ばれ、クリリンはどこか強張った表情のまま、ナムは真面目な表情のまま武舞台の上へと登場した。

 

客達からは、チビでガキなクリリンが出場していることに驚きの声がいくつも上がっている。

 

「応援してるよ!」

「見てっからな」

「あぁ!」

 

修行仲間の蓮香と悟空が壁を超えて見ていることに気づいたクリリンは、少し緊張をほぐしてナムに向き合う。

 

(あ、あれだけ修行したんだ…簡単には負けない)

 

心の中の声は、自分に言い聞かせるものだった。

 

 

「第1試合……はじめっ!」

「ハーーッ」

 

すかさず攻撃に移ったのは、クリリンではなくナムだった。

滑り込みをするかのように、クリリンの足元に蹴りを入れる。

 

「うわっ」

 

しかしクリリンもその場で軽くジャンプすることで蹴りを流し、

 

「うりゃあっ」

 

そのままの勢いでナムの頭部に向けて蹴りを入れる。

そしてそれを素早く左手で抑えたナムは、そのままクリリンの足首を掴んで床に叩きつけた。

 

「グハッ…」

 

背中を打ち付けたクリリンは呻き声を上げる。

起き上がろうとしたところにナムの手刀が首に向かう。

 

「クァッ」

 

間一髪でそれを受け止めたクリリンは、ナムの右手首を掴んだまま足払いを仕掛けた。

その場に転びかけ、なんとか姿勢を保ったナムは後ろに大きく飛んでクリリンと距離を開く。

 

2人が、試合開始と同じ位置に立った。

 

「これはすごい! どちらも一歩も引きません!」

 

司会者の熱の籠もった声に、観客達から大きな歓声が上がる。

 

(こいつ強いぞ…! あんまり長引かせないほうがよさそうだな)

(少し強いばかりの少年だと思っていたが、なかなかに手強い…!)

 

そんな客達の歓声も耳に入っていないというように、クリリンとナムはお互い構えを取り合う。

睨み合うかのように隙を探り合うが、全く隙は見られなかった。

 

(よし…)

 

このままじゃ埒があかないと、クリリンは右側にほんの少しの隙を()()()()

 

「ハーーッ」

 

すかさず攻撃に移ったナムに……

 

「もらった!」

 

クリリンは素早く避けると、ナムの後ろに回り込んだ。

 

「らぁっ!」

 

そのまま背中に、渾身のひと蹴りを叩き込む。

ナムの体は木の葉のように吹っ飛び、場外に落ちた。

 

一瞬の静寂——

 

「場外! クリリン選手の勝利!!」

「やった!」

「クリリンおめでとう!」

「やったなクリリン!」

 

そして湧き上がった爆発のような歓声。

クリリンも思わずガッツポーズをあげる。

 

「初戦から素晴らしい試合でした! みなさん今一度、クリリン選手とナム選手に大きな拍手を!」

 

拍手と歓声に包まれながら、ナムが武舞台の上へと戻ってきた。

 

「素晴らしい蹴りだった。私の負けだ」

「ありがとう!」

 

ガッチリと握手を交わした2人に、拍手はしばらく止まなかった。

 

 

 

 

 

「これ、お主、最後まで見んと帰るのか?」

 

第1試合終了後、すぐに荷造りを始めたナムに、ジャッキー・チュンが声をかけた。

 

「え? あぁ、はい。私はのんびりとはしていられませんので……」

「帰るなら、ほれ。これを持って行くがよい」

「…?」

 

手渡したのは、

 

「ホイポイカプセルですか?」

「中身は何も入っとらんがな」

 

その言葉に、ますます首をかしげるナム。

 

「水が枯れて困り果てた村人のために、水を買って帰ろうとしておるのじゃろ?」

「!!」

「この辺りは水が豊富じゃ。買って行くなんて言ったら笑われるぞい」

 

衝撃を受けて固まるナムを気にせず、すぐ側の井戸を顎で指すジャッキー・チュン。

 

「水をカプセルに入れて小さくすれば、楽に持って帰れるじゃろ?」

「あ、ありがとうございます! しかし、何故そのことを?」

 

当然のように沸いた疑問を投げかけたナムに、ジャッキー・チュンは口角を上げて見せた。

 

「なぁに、わしは————じゃからの」

「!!」

「このことは、他言無用でたのむぞい。では、わしは試合があるからの」

 

2度目の衝撃で固まったままのナムに、ジャッキー・チュンは背を向けて武舞台に向かった。

司会者に名を呼ばれたのだ。

 

「本当に、ありがとうございます!」

 

ナムはその背中に向かって、もう一度深く腰を折った。

 

 

「何にお礼を言ってるんだろ…」

「ん? どうしたんだ蓮香」

「いや、なんでもないよ。それより、あのおじいちゃんほんとに闘えんのかなぁ」

「出場してるぐらいなんだぜ? そりゃ闘えるだろ」

「そうは言ってもね、クリリン……」

 

 

 

 

 

蓮香の疑問はあっさりと跳ね飛ばされた。

 

 

「おおぉぉぉっ」

 

観客達から歓声が上がった。

とんでもない悪臭を放ち、また巨体を持つバクテリアンを、老人のジャッキー・チュンがひと蹴りで場外に落としたのだ。

試合時間は30秒にも満たない。

 

今回の天下一武道会はレベルが高い。

 

そう、どこからともなくつぶやき声が漏れた。

 

(次はあたしだ。早く闘いたいなぁ!)




バクテリアンvsジャッキー・チュンは秒速で決着がつきました。
あっさりすぎだったかなぁ…(汗)


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33.蓮香vsヤムチャ

「続いて第3試合、孫蓮香選手、ヤムチャ選手の対戦です。両選手、登場してください!」

 

大歓声が上がる中、ヤムチャと蓮香が登場すると、歓声に所々戸惑ったような声が混ざった。

 

「お、おい、あんな小さな子が出てるのか?」

「しかも女の子だぜ? 見ろよ」

「うわ、可愛い子だなぁ。闘えんのか?」

 

などなど。

皆、蓮香の登場が予想を大きく超えていたのだ。

蓮香はおとなしくしていれば、お人形にも見える可愛らしく清楚な感じだ。

口を開けばただのじゃじゃ馬娘だが。

 

「最初から全力で行かないと、あっさり負けちまいそうだな」

「ふっふっふー、前とは比べ物にならない強さだからね?」

 

「それでは、第3試合……」

 

左腕、左脚を後ろに引き、腰を落とすタイプの構えを取るヤムチャに対し、蓮香は両足を軽く前後に開いただけで、ほぼ仁王立ちのような感じだ。

 

それでも、全く隙が見られない。

 

「開始!」

 

ヤムチャが真っ先に、地を蹴った。

 

「はぁぁぁぁっ」

「くっ……」

 

蹴りと打撃を勢いよく繰り出して行くヤムチャに、蓮香は防御一線だ。

両腕や両脚を素早く、的確に動かし、全ての攻撃を受け流して行く。

しかし、じりじりと後退はして行った。

 

「はぁっ」

「…あまい」

 

首元に飛んできたヤムチャからの手刀を受け流した後、蓮香は大きく飛び上がり、ヤムチャの背後に回った。

 

「はぁっ!」

 

決して長くはない……むしろ短く細い足から繰り出された蹴りは、ヤムチャの右脇腹を的確に抉り、勢いでヤムチャは吹っ飛ばされた。

選手たちが控えている建物にまっすぐ飛ばされたヤムチャは、壁を蹴ってなんとか舞台の上に戻る。

 

 

「さすがだ……速いし、強い」

「ヤムチャの手数の多さも相変わらず」

 

観客たちは、拍手も歓声も上げられず、ただポカンと蓮香を見ていた。

その容姿に見合わないあまりの強さに、皆驚愕していた。

 

「楽しい……やっぱ闘うのって、すっごく楽しいね!」

「は、はは……。蓮香が相手だと楽しいなんて思う余裕ないぜ、俺は」

「ふぅーん……ま、負けるわけには行かない、よ!」

 

そのまま、春に吹く突風のごとき速さで蓮香がヤムチャに迫った。

頭の位置が全くブレていない——素晴らしいバランスと体幹だった。

 

「攻守交代」

 

ニンマリと笑みを浮かべ、蓮香がヤムチャに猛攻を仕掛ける。

先のヤムチャの攻撃よりも、明らかに素早い。

手の大きさや腕の太さのハンデを全く感じさせない、鋭い攻撃がヤムチャの顔をや体を擦る。

 

「く…うぉぉっ」

「あっ」

 

ヤムチャが蓮香の両手首をなんとか掴んだ。

そのまま押し合うような形になる。

単純な力では、蓮香はヤムチャに勝てない。

蓮香の足が、ズズ…と下がって行く。

 

「……ふふっ」

 

突然、蓮香が小さく笑った。

 

「っ!!」

 

蓮香が、跳び上がったのだ。

力を緩めることもなく、その場にジャンプをする。

ヤムチャは思わず蓮香の手首を離してしまい、そのまま前につんのめる。

 

「やっ!」

「グァッ」

 

蓮香が空中から放った蹴りが、ヤムチャの左腕を捉え、ヤムチャは武舞台の上を転がった。

が、すぐに立ち上がる。

 

(くっ…なんて強さだ。……勝てる気がしない)

 

ヤムチャは蓮香に蹴られた左腕を庇うように抑える。

あの折れそうなほど細い足から放たれた蹴りは、自分の骨を砕く寸前の威力を持っていた。

——多分、いや、間違いなく加減したのだろう。

本気で蹴られていたら、ヤムチャの骨は完全に砕かれていた。

 

(ホントに、恐ろしい奴だ)

 

天性の戦闘センスなのか。

蓮香の強さに、ヤムチャは背筋が凍るような感覚を覚える。

 

「そうだ」

 

何かを思いついたかのように、蓮香がニンマリと笑った。

 

「あれ、使ってみようっと」

 

普段は愛らしい笑顔。

しかし今は、恐怖でしかなかった。

ヤムチャにとってはもちろん、見ている人たちにとっても。

 

「くっ……狼牙風風拳!」

 

ヤムチャは、狼のごとき速さで蓮香に迫った。

そのまま腕を大きく振りかぶり、爪で掻くように蓮香を攻撃……

 

「なっ?!」

 

できなかった。

確かに蓮香の体をかすったのに、自分が打ち込んだのは空気に対してだった。

 

「後ろだよ、ヤムチャ」

 

途端、ヤムチャの首元に衝撃が走り、なすすべなく彼は倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「孫蓮香選手の勝利!」

 

テンカウントが終わってもヤムチャは起き上がれず、蓮香の勝利となった。

 

「イェーッ!」

「やったぞー!」

「やったぜ蓮香!」

 

拳を振り上げた蓮香に、悟空とクリリンが駆け寄る。

 

「あ、あのぉ……さっきのは一体?」

「ん? あぁ、残像を残したの!」

 

なんてことはない、という言葉を体現したかのような態度で言い放つ蓮香に、司会者の男がサングラスの奥で目を見開いた。

 

「す…すばらしいです! なんと孫蓮香選手、恐ろしいスピードで動き、残像を残したのです! 本当に素晴らしい! 小さな姿に見合わない強さです!」

 

ワァァァァッ…と上がる歓声。

それに蓮香は……

 

(小さいは、余計)

 

 



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ドラゴンボール 四 34.第5試合——の前

第4試合、悟空vsランファンの試合は、蓮香の予想通り、いや、当然の結果で終わった。

 

ランファンは予選でも、ぶりっ子や色仕掛けで相手に隙と油断を作り、そこをすかさず攻撃という手段を使って勝ち進んできた。

天下一武道会に出場する選手は、過去を見ても男性が多い。

『女性』であることをうまく生かした闘い方ではあったのだが——1回戦目で当たった相手が子供では、この闘い方は通じなかった。

 

普通の少年なら通じたかもしれないが、運悪く、相手は孫悟空。

小さな体に見合わぬ圧倒的な力を見せつけられ、ランファンは呆気なく降参した。

 

ジャッキー・チュンvsバクテリアンの時と同じく、秒で決着のついた試合だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ランファン選手が降参しましたので、孫悟空選手、準決勝進出です!」

 

ワーーッと歓声の強まる観客たち。

当然ブルマたちも満面の笑みで手を叩いている。

 

「なんと、準決勝に進出した4名のうち、3名が同じ道着を着ている少年少女。少しインタビューしてみましょう! クリリン選手、孫蓮香選手登場してください!」

 

呼ばれて武舞台に上がったクリリンと蓮香。

クリリンはインタビューということと、大勢の人からの拍手で明らかに緊張している。

蓮香は全く、緊張のきの字も見られないが。

 

「3人とも準決勝まで来ましたね。おめでとうございます!

確かクリリン選手は13歳ということでしたが、悟空選手と蓮香選手は何歳なんですか?」

 

司会者は、まず悟空の口元にマイクを持っていった。

しかし、マイクを知らない悟空は、

 

「なに、これ? オラにくれんのか?」

 

観客たちがドッと笑う。

クリリンがギョッとしたように突っ込む前に、蓮香がいつも通り説明した。

 

「これはね、悟空。マイクって言って声を大きくする道具なの。ここにいる人全員に聞こえるようにね」

「へー、すげえなー」

 

準決勝まで勝ち進んだ強者とは思えない呑気な会話に、ますます笑い声が大きくなる。

 

「オラは12歳だぞ。蓮香もだ」

「で、ではお2人が今大会の最年少ということなんですね!」

 

ところで、と司会者が言葉をつなぐ。

 

「悟空選手と蓮香選手はご兄妹なんですか?」

 

これには蓮香が答えた。

 

「わからない。多分だけど、あたしと悟空は兄妹じゃないよ。だって、顔立ち全然似てないから」

「のんきで楽観的すぎる性格は似てるけどな」

「うるさいクリリン、悟空よりチビのくせに」

「うるさい! お前よりはチビじゃないぞ!」

「あたしはチビじゃなくて背が低いだけですー」

「同じ意味だろ!!」

「結局、2人ともチビってことじゃねぇのか?」

「「…………」」

 

またしても大きな笑い声があがる。

 

「き、君たちわざと漫才してるんじゃないだろうね…」

「「「??」」」

 

コホン、と一度咳払いをした司会者が再び質問した。

 

「君たちは同じユニフォームを着ていますが、どこの道場で習ったんですか?」

「僕たち道場で習ったんじゃなくて、武天老師さまに教えをいただいたんですよ」

「む、武天老師さま?!!」

 

マイクがハウリングする寸前の大声で、司会者が叫んだ。

笑い声を上げていた観客たちも、その名を聞いてざわついている。

 

「あ、あの武術の神と呼ばれている武天老師さまにですか?」

「え、ししょーって武術の神なの? 悟空知ってた?」

「いや、初めて知ったぞ。クリリン知ってたか?」

「そりゃ知ってるさ。武天老師さまは有名なお方だからな」

「「へーー」」

 

蓮香にとって亀仙人は、強いけどスケベすぎるじいさんである。

強くて有名なのは知っていたが、まさか武術の神と呼ばれているほどの人だとは思っていなかった。

 

「まさか武天老師さまのお弟子さんとは…! 強いわけですね。

さて、続いて第5試合、クリリン選手はジャッキー・チュン選手と闘うのですが、どうです、自信のほどは?」

「そう、ですね。相手はご老人なので、勝てるような気もします」

「でもさクリリン、ししょーもご老人だけど強いよ?」

「不安になること言うなよ蓮香は!」

「ごめーん」

 

さっきから真面目に質問に返すクリリンだが、蓮香が入るとどうも漫才感が入ってしまう。

蓮香は狙っているわけではないのだが。

 

「そしてその後の第6試合、悟空選手と蓮香選手の闘いですが、どうですか?」

 

悟空と蓮香は顔を見合わせ、ニヤリと笑い合った。

 

「手ェ抜いたら一生許さないよ、悟空」

「オラが蓮香相手に手なんか抜くと思うか? 久しぶりだからワクワクすっぞ」

「あたしも。楽しみで楽しみで仕方ない。とりあえず——絶対負けない」

「勝つのはオラだ」

 

この会話に、客席が既に何度目か、ワーーッと沸く。

しかしこの2人の実力を知っているクリリンやヤムチャ、ブルマたちは——悟空と蓮香が本気でやりすぎて会場を壊さないか、それだけがひたすら心配だった。

 

 

「それでは第5試合といきましょう! ジャッキー・チュン選手、どうぞーっ!」

 

 

(あの人、ジャッキー・チュン—どこかししょーに似てるんだよね……)




短め&戦闘描写無しでスミマセン。
次回はクリリンvsジャッキー・チュンですが、原作通りなのでもしかしたら簡単にまとめちゃうだけかもしれません。
やっぱ、原作通りでもキチンと文章にして書いたほうがいいですかね?


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35.悟空vs蓮香

結局、クリリンvsジャッキー・チュンは全カットいたしました。
楽しみにしていた方、申し訳ありません。


「クリリン選手、ノックアウト! ジャッキー・チュン選手が勝ちましたーーっ」

 

ワーーッと盛り上がる観客席と裏腹に、蓮香と悟空はやや呆然と武舞台を見ていた。

 

「クリリン負けちゃったね」

「あのじっちゃん、強えんだなぁ」

「かめはめ波使ったりしてたし……何者(なにもん)なんだろうね」

 

喋りながら選手の控えている屋内に戻ると、クリリンが目を覚ましていた。

 

「お、大丈夫か? クリリン」

「お疲れさま。いい試合だったよ」

「いてて…負けちゃったかー」

 

悔しそうに、それでもどこか清々しいような表情のクリリン。

彼にとって今の試合は、負けてもただ悔しさが残るようなものではなかった。

ジャッキー・チュンと言う名の老人は驚くほど強く、世界の広さを改めて感じたのだ。

 

「ジャッキーさん…? さっき最後に使った技、あたしが使ったのと同じだったね!」

「うむ。あれは残像拳と言う、れっきとした技じゃ。お主は知っておったのか?」

「へー、そんな立派な名前があったんだ。あたしそんなこと知らなかったよ? 修行の一環で恐竜から逃げてる時に練習したの」

「ほう、独学で生み出したのか」

 

感心したように頷いたジャッキー・チュンに、蓮香が視線をやや鋭くさせた。

 

「驚かないんだ?」

「驚いたぞ? そう簡単にできる技ではないからの」

「そこじゃないよ」

「ん?」

 

わけがわからない、と言う顔のジャッキー・チュン。

蓮香は器用なことに、視線を鋭くさせたまま笑みを浮かべた。

もともと、割と目つきの鋭い蓮香がそれをやると、年齢に似合わない圧力が生まれる。

 

「あたし言ったよね。『修行の一環で()()()()()()()()って」

「「あっ」」

 

ヤムチャとクリリンの声が重なった。

 

「クリリンと悟空は修行仲間だから知ってるし——まぁ、2人は逃げてないけど——ヤムチャにはさっき話した。

でも、あなたには初めて言ったよね? ヤムチャはこの話を聞いたときびっくりしてた。修行で恐竜から逃げるなんてありえないから」

 

そこで蓮香は一息ついて……でも、と続ける。

 

「あなたはそこには全く驚かなかった。何故か……あなた、あたしたちのししょーじゃない?」

「…蓮香もそう思うか? 俺も同じことを思った。やはりあなたは武天老師さまじゃ……」

 

ヤムチャもそう言いだし、クリリンと悟空は驚いたような声をあげてジャッキー・チュンを見た。

 

「ほっほっほっ。わしゃジャッキー・チュンじゃ。武天老師ではない」

「うそ! 美人なランファンさんと闘いたがるスケベなところも、クリリンの投げたパンツに飛びついたスケベなところも、観客席の女の人に見惚れてるスケベなところも、みんなししょーと同じじゃない!! おまけにかめはめ波も使えるなんてっ」

「「「…………」」」

「?」

 

蓮香があまりにまくし立てるので、驚きに固まったジャッキー・チュンはすぐにまた笑った。

 

「スケベな男は世にたくさんおるわい。かめはめ波も独学で修行しての。わしゃ、武天老師ではない」

「そんなっ、」

『それでは第6試合を始めます! 孫悟空選手、孫蓮香選手登場してください!!』

 

蓮香がなおも言葉を告げようとした時、アナウンスが響いた。

 

「あ」

「オラたちの出番だな」

「この話はまた後でね。今は悟空との闘いが一番大事」

 

そう言い切った蓮香は、これから悟空という強者と闘えることにワクワクし、興奮しているのが丸わかりだった。

 

「ぜってー、負けねぇからな」

 

その隣の悟空も、蓮香と同じ顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、残る試合は後ふたつ! この試合の勝者が決勝でジャッキー選手と闘い、優勝者が決まります!」

 

司会者の興奮に満ちた声に、観客たちも湧き上がる。

 

「孫くんも蓮香も頑張ってー!」

 

聞きなれた声に悟空と蓮香が客席を向くと、ブルマやウーロンが手を振っていた。

 

「第6試合で戦うのは、今大会最年少の2人です。なんと彼らは、先ほどジャッキー選手に敗れたクリリン選手と同じく、()()武天老師さまのお弟子さんなのです!」

 

()()武天老師さまがジャッキー・チュンなのかも知れないけどね)

 

蓮香は心の中でつぶやいて、スッと構えをとった。とは言っても、先ほどのヤムチャとの闘いの時と同じく、両足をやや開くだけだが。

 

悟空はヤムチャと似たような構えを取る。

 

2人は、この会場の誰よりも、興奮と期待に満ちていた。

思えば——2人でこうして全力で闘いあうのは、じいちゃんである孫悟飯が生きていた頃以来だ。

 

「絶対に勝つ」

「オラも負けねぇぞ」

 

一瞬の静寂——そして、

 

「試合、開始ィっ!」

 

真っ先に動いたのは悟空だった。

ニタリと笑ったと思うと、その姿がブレる。

しかし、悟空と姿は同じところにあって……

 

「たーーっ」

 

蓮香の背後から蹴りが回されたが、彼女は危なげなくそれをかわした。

悟空が初めに繰り出した技は、蓮香やジャッキー・チュンが使っていた、残像拳。

 

「あたしがさっき使った技なのに、通用するわけないでしょーが!」

 

鋭く拳を打ち込みながら、蓮香が言った。

 

「オラにも使えるか試してみたん…だっ!」

 

ヒョイヒョイと拳を避けていた悟空が、飛び上がって蓮香の額に向かって蹴りを出す。

 

それを、大きく胸をそらすように避けた蓮香はそのままバク転で一度距離を置いた。

 

「あたしと闘うとき、飛び上がってまず放つ蹴りは必ず額に向かうよね、悟空って」

「連続のパンチは大体、下から上に放ってくるよな、蓮香は」

 

お互いが、お互いの癖を熟知した上での闘い。

見ている観客も、闘う本人の悟空と蓮香も、どちらが勝つか全く予想がつかなかった。

 

タッ、という軽い音ともに、両者が地面を蹴った。

そのまま、絡み合うかのように蹴りやパンチを炸裂させる。

きちんと避けているようで、それらの攻撃は互いに少しずつ当たっていた。

 

「うらぁっ!」

「でぇっ!」

 

蓮香の拳が悟空の左胸に、悟空の拳が蓮香の左胸に入り、2人の体が場外に落ちるギリギリのところに飛んでいった。

 

しかしすぐさま起き上がり、またしても接近戦。

互いの蹴りが頰をかすめ合い、2人は大きく跳ね上がって距離を置いた。

 

「はぁ……っ」

「は……っ」

 

大きく息をついた2人の右頬には、赤く、一筋血が走っていた。

 

「す……すごい! すごい!! すごすぎます!!! まさに息をつく暇もない大攻防戦! どちらも、一歩も引きませんっ」

 

司会者はさらに熱のこもった声で実況し、観客席からの歓声はもはや叫び声のようになっている。

 

ふいに、武舞台に影が落ちた。

悟空と蓮香以外の皆が上空を見上げると、先ほどまで広がっていた青空は厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだった。

遠くから、ではあるがゴロゴロと低い雷の音も聞こえてくる。

 

 

「さっさと、試合を終わらせなきゃね」

「あぁ、そうだな。あれ使うか?」

「やろっか。どっちが勝つかねー」

 

いたずらっぽい笑みを浮かべた2人は、スッと腰を落として同じ構えをとった。

両手首を合わせたまま手を開き、そのまま腰に持っていく()()構えだ。

 

「「か…め…」」

 

2人の両手のひらの間に、青白い光が集まった。

 

「へ?」

 

その様子に、司会者がマイクを通していることも忘れて間抜けな声を漏らす。

 

「「は…め…」」

 

全く同じタイミングで一瞬目を閉じた悟空と蓮香だが、カッと眼を開いて声を揃えた。

 

「「波ーーーっ!」」

 

青白い閃光が走り、ぶつかった。

あまりの眩さに、観客たちが目を細める。

 

スパークを飛ばしながら空中で押し合っていた青白い閃光は、いきなり爆発音とともに弾け飛んだ。

衝撃で、悟空と蓮香が吹っ飛ばされる。

 

「く…は……っ」

「引き分け……だなっ!」

 

武舞台に座り込んだ態勢で笑い合う悟空と蓮香。

 

「し、しし信じられません!! あの、武天老師さま以外にはできないと言われたかめはめ波の使い手が、ジャッキー・チュン選手以外にも2人……もう2人もいたのです! すごい、すごい!! とんでもないお子さま方です!」

 

完全に興奮しきった司会者の言葉。

暗さと寒気の増していく辺りと対するように、会場の熱気はますます高まっていく。

 

 

 

「う、らぁーーっ」

「クァッ」

 

先に立ち上がり、攻撃を仕掛けたのは蓮香だった。

悟空もすぐさま起き上がり、両手を胸の前でクロスさせて飛び蹴りの衝撃を散らす。

 

反動で宙を一回転した蓮香は、地に足がついた瞬間再び悟空に猛攻を仕掛けた。

 

もう、先ほどのかめはめ波でお互い気力を使い果たしてしまった。

決勝戦があることも考えずに。

今2人の頭にあるのは、悟空に、蓮香に勝つという思いだけだった。

体力が大きく削られた今、相手に勝つ方法はどれだけ相手を押すかだった。

その点、悟空よりも力で劣る蓮香は不利。

それを彼女は、手数でカバーしようとしているのだ。

 

しかし、簡単に負ける悟空ではない。

 

「は…タァーッ」

「く…セィアーッ」

「…っ?!」

 

蓮香は跳び上がって蹴りを放とうとしたが、逆に右足首を悟空に掴まれてしまった。

なんとか、左足で素早く悟空の顔面を狙うことで逃れる。

 

しかしこれによって、蓮香は態勢を崩してしまった。

それでも、縄跳びで鍛えたバランス力を駆使して、倒れないようなんとか着地の前に態勢を直すことに成功した。

が、一瞬の隙を生んでしまう。

 

たかが一瞬、されど一瞬。

悟空はその一瞬を見逃さなかった。

 

「やぁぁぁぁっ」

 

残った力を全て込めて、蓮香の右肩を突き飛ばした。

 

「あ……っ!!」

 

蓮香はそのまま吹き飛ばされ、観客たちの前の壁にぶつかり——場外に、落ちた。

 

「じょ、場外! 孫悟空選手の勝利ーーっ!」

 

ワーーッと、今日最大の歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「いったたた…。負けちゃったかぁ」

「大丈夫か、蓮香」

 

突き飛ばしたのは悟空だが、手を差し伸べてくる彼の顔はなんとも心配そうで、蓮香は思わず吹き出してしまった。

 

「ふふ、大丈夫だよ。あたしそんなにヤワじゃないもん」

 

清々しい笑顔で、悟空の手を借りて武舞台に上がる蓮香。

 

「おめでとう。あたしの負けだよ、悟空」

 

そう言った後、蓮香は悟空の手を握る右手に力を込めた。

そのまま、でも…と言葉を継ぐ。

 

「次は、あたしが勝つ」

 

それに悟空も、手に力を込めて言い返した。

 

「いや、次もオラが勝つぞ」

 

このやり取りを聞き、会場中に拍手と歓声と口笛が飛び交った。

 

「素晴らしい! 素晴らしい闘いでした!!」

 

まだ準決勝なのに、そうと思わせない盛り上がりで——と、その時、

 

 

ポツリ、ポツリとついに雨が降り出した。

それはどんどん勢いを増していき、黒雲を裂くように光が走った。

直後、轟く雷鳴。

 

——結局、決勝戦は翌日に持ち越されることとなった。

 

 

(やっぱり悟空は強い。あたしも、もっともっと強くならなきゃ)




私が書くと、どうしてもワンパターンになってしまう戦闘…。戦闘シーンを上手く書ける方、本当にすごいです。

余談ですが、蓮香の挿絵イラスト描こうとして、あまりの画力のなさに諦めました。


ちなみに、尻尾のことは忘れたわけじゃないです。


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36.決勝戦の前日

準決勝——悟空と蓮香の試合が終わったと同時に降り始めた雨は弱まる気配がなく、時間を考えた結果、決勝戦は明日に持ち越されることとなった。

 

試合に出ていた悟空たち4人は、応援に来ていたブルマたちと合流する。

 

「おつかれ、みんな」

「ほんと、疲れたー」

「ハラ減りすぎて倒れちまいそうだ」

 

蓮香と悟空はフラフラで、言葉通り倒れそうな感じだ。

 

「おいおい、大丈夫かよ」

「あれ、そういえば武天老師さまは……一緒じゃなかったんですか?」

「え? 亀仙人なら私たちも見てないわよ」

「もしかしてキレイなおねーさんにホイホイついて行って、あたしたちの試合観てなかったんじゃ……」

 

蓮香の言葉にブルマが、そうかもね…と言ったとき。

 

「何を言ってるんじゃ! わしゃちょっとトイレに行ってただけじゃわい」

「あ、ししょー」

「武天老師さま!」

 

スーツに帽子にサングラス、そして手に持つのは大きなスーツケース。

朝の亀仙人と同じ格好だ。

 

「試合もちゃんと観ておったぞ。クリリンも蓮香も惜しかったが、みんなよく頑張った」

「ありがとうございます!」

 

クリリンが亀仙人からの褒め言葉に心底嬉しそうな顔をする。

悟空と蓮香ももちろん嬉しかったのだが、今はそれどころじゃなかった。

 

「じっちゃん、オラ腹減ったぞー」

「あたしもー」

「オレの記憶ん中だとお前らいつもそれ言ってるよな」

 

呆れたように呟いたのはウーロン。

彼は、とっておきのカプセルハウスワゴンの食料を、悟空と蓮香の2人にわずか2日で食い尽くされた過去を持つ。

この2人の健啖っぷりを嫌という程思い知らされていた。

 

「手近なホテルに泊まって、そこで夕食をとることにするかの」

 

お前たちも一緒に来るか? という亀仙人の誘いに、西の都から来たヤムチャたち一行は一も二もなく頷いた。

……いや、ブルマだけが——

 

「その代わりパンツ見せろとか言わないでしょうね」

「大丈夫、その時はあたしが、ししょーだということを忘れてドロップキックだから」

「さすが蓮香! 頼りになるわね」

「………………」

 

女2人の会話に悟空以外の男たちが、引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「プヒャー、食った食った」

「あーー、この世の幸せだぁ」

「知ってたけど……お前らほんとめちゃくちゃ食うな」

 

チェックインしたホテルの部屋。

3人部屋ということで、悟空と蓮香とクリリンが同室になっていた。

なぜ女同士、蓮香とブルマの部屋が違うのかというと、西の都から来た組と亀仙人組で料金の支払い口が違うからだ。

ブルマは気前よく、全員分のホテル代を支払おうとしたが(ブルマはお嬢様だ)夕飯の相当な金額をブルマに払わせてしまったために亀仙人が遠慮した。

 

「ところでよ、悟空」

 

突然、クリリンの表情が真剣なものになった。

 

「ん?」

「明日、あのじいさんに勝てるのか?」

「闘ってみねぇとわかんねえなぁ」

「のんきだな……知ってるけど」

 

真剣な表情を呆れた表情にチェンジさせるクリリン。

 

「気をつけろよ。あのじいさんただもんじゃねえぜ。強かった」

「あぁ、見てて思ったさ。まぁ、負けないようにがんばるしかねえな」

「お前らしいな、頑張れよ」

「あぁ!」

 

 

修行が始まったころ、仲が悪かったなんて嘘みたいだな——クリリンは思った。

はじめの頃は何かと悟空に対抗心を燃やした。

嫉妬していたのだ。その強さに、その純粋さに、そして——いつも蓮香の一番近くに居られることに。

それが今や、親友と呼べるほど仲良くなっている。

クリリンにとって悟空は、今までにいないほど気の許せる友人となっていた。

それがとても嬉しかったし、大袈裟だが、まるで奇跡のようにも感じていた。

 

 

「雨、降り止むといいなあ」

「大丈夫じゃないか? 天気予報だと明け方前には止むらしいぞ」

「それなら大丈夫だな」

「……ところで、蓮香が静かじゃないか?」

「ん?」

 

確かに……と、悟空とクリリンは振り返る。

蓮香は、三つ並んだベッドの一番壁際のものに、大の字になっていた。

 

「いつも思うけど、蓮香って寝落ちるの早いよな」

「オラも寝付きはいいけど、蓮香はそれ以上かもな」

「……蓮香って黙ってると——」

 

その先の言葉は、声にはならなかった。

 

「ん? なんて言ったんだクリリン」

「いや、気にしなくていいさ。俺たちも寝ようぜ」

「あぁ、そうだな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

「うぎゃぁっ」

 

悟空はクリリンのあげた悲鳴で起こされた。

 

「なんだ、どうしたんだよクリリン」

「し、しししっぽ……」

「ん?あ……っ」

 

悟空の腰あたりから生えているのは、茶色のしっぽだった。

 

「しっぽだ、また生えた!」

 

悟空はそれを軽く握って嬉しそうな顔をする。

 

「やっぱオラ、しっぽがあったほうがいいなぁ」

 

そのままベッドから飛び降りて、片腕逆立ちをしたりする。

 

「れ、蓮香にも……」

 

未だ夢の世界にいる蓮香の腰からも、悟空と同じものが生えていた。

 

「お、お前ら人間じゃなかったのか?」

「さぁ?」

 

悟空のあっけらかんとした答えに、クリリンはしばし絶句した。

 

(zzz…)



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37.天下一武道会優勝者は……

第2章が完結したような気分です。


決勝戦はこれまでにないほどの盛り上がりを見せていた。

 

試合開始前、突然生えた悟空のしっぽに皆が困惑(驚愕)するなどの事態もあったが、つつがなく試合は開始。

初っ端からかめはめ波が放たれ、その後も2人からはオリジナリティに満ちた技が次々と繰り出される。

 

「息詰まるような熱戦が繰り広げられています。日も高くなり、熱気がどんどん増してきました……!」

 

司会者の実況が響く中、悟空とジャッキー・チュンは距離を置いて立ち、じりじりと相手の隙を伺っていた。

 

「今のところ、悟空選手がややリードといったところでしょうか。それにしても悟空選手、昨日よりも動きのキレがいい気がします!」

 

司会者の言葉に、観ていた蓮香は感心したような声を漏らした。

 

「よく見てるなぁ、あの司会者」

「悟空の動きが良くなったのって、しっぽが生えたからか?」

「うん、だと思う。今度は尻尾が生えてる今の状態で悟空と闘いたいなぁ」

 

なんともホワァンとした会話を交わす蓮香とクリリンの前では、悟空がジャッキー・チュンに猛攻を仕掛けていた。

普通の攻撃とは違う。

悟空はちょこまかと素早く動き、ジャッキー・チュンの顔を引っ掻いた。

その姿はまるで——

 

「お、おのれ……まるで猿かのようにちょこまかと動きおって」

「猿拳だもんねー」

 

キキッと猿のように笑う悟空。

 

「猿拳か。あたしにもできるかな?」

「蓮香の素早さなら悟空よりも猿っぽくなりそうだな」

「ふふっ、素早さならあたしの方が勝ってるもんね!」

「試合じゃ悟空に負けたけどな」

「…………」

 

蓮香は無言でクリリンの坊主頭を叩いた。

 

「お前ら静かに試合を観れないのか」

 

ヤムチャが、はぁっとため息をつく。

まるで子供のお世話をしているような気になるが、その2人が自分よりもずっと強いのだと思うと、なんとも言えない気分だった。

 

 

 

「お調子に乗りおって……よぉし」

 

呟いたジャッキー・チュンはスッと両手を挙げ、それをゆらゆらと動かし始めた。

 

「お前の負けじゃ、ごくあっさりとな」

「おぉっと! ここでジャッキー選手から勝利宣言が飛び出しました! いったいどんな技が出るのでしょうか!」

 

会場中が静まり返り、皆が息を呑む。

 

「な、なんだ……」

 

悟空も身構えるが、どんな攻撃が来るか全くわからない。

 

緊張感高まる中、ジャッキー・チュンは両手を不気味に揺らしながら、歌い始めた。

 

「へ?」

「子守り歌……」

「いったい何をする気だ?」

 

それはすぐにわかった。

悟空がばたりと倒れたのだ。

正しく言うと、突然眠りに落ちてしまった。

 

「名付けて、良い子眠眠拳じゃ」

 

ただの催眠術じゃん! 技じゃないじゃん! 武術じゃないじゃん!

蓮香は心の中で叫んだ(突っ込んだ)。

 

「あ、あのぉ。それは武術ではないんじゃ?」

「何を言っとるか。立派な武術じゃ。ほれ、はよカウントせんかい」

「イマイチ大会の盛り上がりが……」

 

司会者はブツブツ言っていたが、諦めてカウントをし始めた。

 

静まり返っていた観客席から、今度は悟空に向かって起きろコールが始まる。

しかし、悟空は目を覚まさない。

ジャッキー・チュンは余裕の表情で言った。

 

「無駄じゃ。わしが合図するまでは絶対に起きん」

 

ついに、カウントがファイブまで来た時、蓮香が突然叫んだ。

観客たちのあげる大声をかき消すほどの声量で、

 

「悟空ーーっ! ご飯の時間だよー! ラーメンと肉まんとチャーハンだよ!!」

 

その瞬間、今まで観客の大声にピクリともせず爆睡していた悟空が飛び起きた。

 

「どこどこっ?! ラーメンと肉まんとチャーハンどこにあるの?!」

 

そのままバタバタと武舞台上を走り回る。

 

「試合に勝ったら、ししょーが奢ってくれるよ!」

「な、何を余計なことを!!」

 

蓮香の言葉に、真っ先に反応したのはなぜか、ジャッキー・チュンだった。

 

「どうしたの、おじーちゃん?」

 

全て分かっているとでも言うような笑みを浮かべたまま、蓮香は首を小さく傾けた。

 

「悟空にししょーがご飯を奢るのに、何か不都合でもあるの?」

「い、いや。ただあの術を破ったことに対してじゃ」

「ふーん」

 

ジャッキー・チュンは思わず冷や汗をかいたが、蓮香はそれ以上追求しなかった。

 

「悟空選手、起きましたーーっ! 彼のことをよく知った蓮香選手のファインプレー!」

 

あちらこちらから、拍手やら口笛やら歓声やらが飛び交った。

まだ試合は終わってないのだが。

 

「試合が終わったらか。じゃあさっさと勝って終わらせねえとな」

 

言うやいなや、悟空は再びジャッキー・チュンに殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

なかなか決着がつかず、両者とも疲れの色がにじみ出てきた。

 

「やむおえん、危険じゃがあの技を使うか……」

 

もう何度目になるか、隙を伺うように距離を置いた時、ジャッキー・チュンは呟いた。

そして、スッと構えを解く。

 

「残念ながら、この試合はお前の負けじゃ」

「へ? さっきの寝ちまう奴ならもう効かねえぞ?」

「さっきの子供騙しのような技ではない。この技を使わせたのはお前が2人目じゃ……」

 

ジャッキー・チュンは静かな声で語りながら袖をまくった。

 

「1人目の名前は孫悟飯。つまり、お前と孫蓮香の祖父じゃ」

「えっ!」

「じいちゃんを知ってる、の?」

 

悟空がと蓮香が目を見張った時、ジャッキー・チュンは両手のひらをパンッと合わせた。そして、力を込めるように体を震わせる。

 

「あ……」

「電気……」

「かめはめ波じゃないぞ…っ!」

 

ジャッキー・チュンの両手が光り、パチパチとスパークが走る。

 

萬國驚天掌(ばんこくびっくりしょう)ーーっ」

「悟空、避けてーーーっ」

 

蓮香が叫んだが、悟空は逃げ損ねた。

悟空の体がジャッキー・チュンの放った電光によって宙に持ち上げられ、そのあまりのショックに悟空は絶叫した。

 

「早く『まいった』といえ! でないと死んでしまうぞ!」

「なんでそんな危険な技使うの?! やめてっ、悟空が死んじゃうよー!」

「悟空、もういい! まいったと言えっ」

「そうだぞ! 死んじまうぞ!」

 

ジャッキー・チュンに続いて、蓮香やヤムチャ、クリリンが叫ぶが、

 

「やっ、やだよ! オラまいっちゃいねぇ!」

「強情張るんじゃない!」

「絶対、降参なんかしねぇぞ…っ」

 

直後、悟空はまたも悲鳴をあげた。

 

「悟空! もういい、よくガマンしたぞーっ」

「もう降参しろー!」

「い、やだ……!」

 

ヤムチャやクリリンの他観客からも「降参しろ」や「よく頑張ったぞ」の声がかかる。

しかし悟空は、絶対に嫌だと首を横に振った。

 

「ごくうーーっ!」

 

その時、蓮香が叫んだ。

 

「かめはめ波だよ! なんとか打って!それは電気だから、気功波で穴を開けられるかもしれないっ」

 

あまりの大声に、観客たちは思わず黙る。

 

「それができなかったら、さっさと降参しろーーっ!」

 

蓮香はほとんど涙目になりながら、さらにそう叫び加えた。

 

「か…め…は…め…」

「なっ、まさか本当にかめはめ波を打つつもりか?!」

 

悟空は強烈な電気に顔を歪ませながらも、手をかめはめ波を打つ時のそれに構えた。

そのままきっと顔を上げて、手をわずかに震わせながらあげる。

 

「波ーーーーっ」

 

悟空の手から青白い光が迸った。

ジャッキー・チュンは慌てて電気を強めるが、悟空の体を包んでいた電気が弾け飛んだ。

 

「ば、萬國驚天掌を吹き飛ばしたっ?!」

 

悟空は重力に従って、どさりと武舞台の上に落ちる。

カウントが始まらないよう、なんとか立ち上がった。

 

「よかった…よかった、悟空!」

「蓮香、ありがとな!」

「またしても蓮香選手のファインプレーです! 悟空選手、ジャッキー選手の大技を破りましたーっ」

 

歓声は強まるばかり。

明日、観客たちの喉は枯れていないかと心配してしまうレベルの歓声だ。

 

「あのビリビリには注意しないとな!」

「あれを吹き飛ばすとは、信じられん奴じゃ」

 

くそうっ、と吐き捨てるように言ったジャッキー・チュンは、かめはめ波の構えをとった。

 

「かめはめ波じゃ!」

「く……っ!」

 

ジャッキー・チュンと悟空が同時に、両手を突き出した。

——が、青白い閃光はどちらの手からも放たれなかった。

代わりというように、ポスンっと気の抜けた音が鳴る。

 

2人とも、かめはめ波を放てるほどのエネルギーが残っていなかった。

 

「おおっと! 長時間にわたる大攻防戦で、2人とも疲労が限界に近づいているようです! この試合を制するのは、果たしてどちらなのでしょうかっ」

「……やはり武道たるもの、最後は体と体でぶつかり合えということ……」

 

 

そして、一瞬の間が空き——

 

「ハーーッ」

「でぇーーっ」

 

2人は大きく跳び上がった。

そして、ジャッキー・チュンの左足が、悟空の右足が、お互いの頰をえぐった。

 

 

「りょ、両者ともノックダウンです! ダブルノックダウンっ!」

 

司会者の声に、会場は一瞬水を打ったかのように静まり返り、すぐに両者を応援する声が飛び交い始めた。

 

 

 

 

 

 

「テンッ! 両者立ち上がれません。引き分けにはならないので、先に立ち上がって『優勝したもんねー』とにこやかに告げたほうが優勝とします!」

 

司会者の言葉に、悟空を、そしてジャッキー・チュンを応援する声はさらに大きさを増した。

 

「悟空、立って!」

「悟空ーーっ」

 

蓮香とクリリンが叫んだ時に立ち上がったのは——悟空だった。

 

「ゆ、優勝した…も…」

 

しかしそこまで言って、バタンっと後ろに倒れてしまった。

 

「あ、あーーっ! 悟空選手、ギリギリのところで倒れてしまいました。そしてジャッキー選手が立ち上がったーっ」

「ゆ、優勝したもんねー!!」

 

荒く息を吐きながらも、ジャッキー・チュンは両手でピースサインを作る。

 

「優勝はジャッキー・チュン選手です!! 天下一を決める舞台にふさわしい大熱戦を見せてもらいました! 皆さん、拍手をーーっ」

 

 

 

 

 

 

嵐のような歓声の中、悟空が起き上がった。

 

「オラ…負けちまったみたいだな」

「うむ。足が長いぶん、わしのキックの方が深かったみたいじゃ。しかしわしをここまで追い詰めたのはお前が初めてじゃよ」

「そっか……じいちゃん、オラもっともっと修行して強くなるからさ。また闘ってくれるか?」

「もちろんじゃ」

 

それを見ていた蓮香が、

 

「次はあたしが闘いたいな」

 

涙を浮かべて照れ臭そうにしながらも、微笑んでそう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「優勝おめでとうございましたっ」

「やっぱじいちゃん強いや!」

「今度は是非あたしの相手もしてくれると嬉しいな」

「うむ、お前たちもよく闘っていた。では次の大会でな」

 

そう言って、ジャッキー・チュンは悟空たちに背を向けた。

 

「ハラ減ったなー」

「武天老師さまのとこに戻ろうぜ」

「……悟空とクリリン、ちょっと先行ってて」

「? わかった」

 

蓮香は、パッと駆け出した。

 

 

「ジャッキー・チュンさん」

「…っ! なんじゃ、どうした?」

「偽名でしょ?」

「……何度も行ったじゃろ、わしゃ武天老師ではない」

「あたしは鼻がきく。知ってるでしょ? ししょーの匂いかどうかは香水が邪魔してわからないけど……接着剤の匂いがするよ」

「!」

 

ニヤリ、というよりはニッコリの方が似合いそうな笑みを浮かべた。

 

「大丈夫、悟空やクリリンに言うつもりはないから」

「やれやれ、お主は鋭いのう」

「えへへ、ありがと。

ししょーがわざわざ正体を隠して試合に出たのは、悟空かクリリンかあたしが優勝するのを防ぐため、だよね」

 

蓮香はややつり上がった切れ長の瞳をさらに少し細めた。

 

「優勝して、そこで修行に満足しないため。上には上がいるってことを、身を以て教えるため」

「その通りじゃ。悟空のヤツ、想像以上の強さで苦労したわい」

「……あたしがししょーと闘ってたら、もっと早く決着がついてた。あたしはまだまだ弱いよ。それが痛いくらいわかった」

 

いちど、ふうっと息を吐く。

 

「もっともっと修行する。悟空にも、ししょーにも()()()()ように」

 

ジャッキー・チュンの、いや、武天老師の瞳を真っ直ぐ見つめ、蓮香はそう言い切った。

一点の曇りもない目で。

 

「ありがとう、ししょー」

 

じゃあ先にみんなのとこに戻ってる、蓮香はそう言って、身を翻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、蓮香! どこ行ってたんだ?」

「ちょっと用事」

「武天老師さまがまたいないんだ。蓮香知らないか?」

「あぁ、ししょーならトイレだって。さっきすれ違った」

 

その時、ヤムチャが蓮香にそっと話しかけた。

 

「あのジャッキー・チュンってご老人が、武天老師さまではないのか?」

「違うみたい。なんか昔からの知り合いみたいだよ」

「なんだ、そうだったのか……」

「ここの世界って本当スケベが多いよね」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕食はその後合流した亀仙人が払うこととなった。

 

「ご、53万ゼニーいただきます」

「……へ?」

 

遠慮なく(いつものことだが)食べまくった悟空と蓮香のおかげで、亀仙人は天下一武道会の賞金を全て失った。

亀仙人=ジャッキー・チュンを知っている蓮香が、心の中で笑い転げていたのは言うまでもない。

 

 

「みんなはこれからどうするの?」

 

レストランを出て、こう問いかけたのはブルマ。

それに、悟空と蓮香は顔を合わせて小さく笑い合った。

 

「オラたちはまたドラゴンボールを集めようと思ってるんだ」

「じいちゃんの形見、ちゃんと見つけときたいから」

 

修行にもなるしね、と頷きあう。

 

「2人で探すの?」

「そのつもりだ」

「へー、そりゃ大変だな、頑張れよ」

「ウーロン棒読み……」

「クリリン、お主はどうするつもりじゃ?」

「まだすぐには決められないので、もうしばらく武天老師さまのところにいようと思います」

「そ、そうか(くそー、ランチちゃんと2人きりで住めると思ったのに)」

「ししょー……今なんて考えたのかなぁ?」

「え?! な、なな何も考えておらんぞ?」

 

亀仙人の慌てように、悟空とクリリンと蓮香が笑い声をあげた。

 

「そうだ、じいちゃん。そのカバンの中にオラたちの荷物入ってるか?」

「入っておるが…?」

「じゃあ蓮香、もうこのまま行かないか?」

「あ、そうしようか。少しでも早い方がいいしね」

 

悟空と蓮香は自分たちの少ない荷物を受け取って、筋斗雲を呼んだ。

約8ヶ月ぶりと言うのに、すぐさまどこからか飛んできてくれる。

 

「そのなんとかボール探すの大変なのか?」

 

クリリンの質問に、ウーロンが「かなりね」と答えた。

 

「オレもついて行ってやろうか?」

「いいよ。クリリン筋斗雲乗れないしな」

「ありがと、大丈夫だよ」

「そっか。それもそうだな」

 

クリリンは少し残念そうに引き下がった。

 

「ブルマ、ドラゴンレーダーありがとね」

「気にしないで。使い方はわかるわよね?」

「わかるわかる」

 

蓮香はカチカチとドラゴンレーダーのボタン(?)を押す。

 

「悟空、こっから東にだいたい1350公里(キロ)

「わかった。頼むな、筋斗雲」

 

悟空はポンポンと筋斗雲を優しく叩く。

そして2人は、笑顔でみんなの方を向いた。

 

「じゃあまたな!」

「また会おうねー!」

 

みんなからの「がんばれ」と言う声を受けながら、悟空と蓮香を乗せた筋斗雲は夜空の星に紛れて行った。

 

 

(また新たな冒険の始まりだ!)




原作との大きな違い。
試合時間が午前中のため悟空が大猿化しない。
代わりに蓮香の助言で萬國驚天掌をかめはめ波で破る(この話の中で一番無理矢理感がある(-_-;)
あとは大体原作通りです。

誤字脱字、ひどすぎる矛盾などあったらおしらせください。


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38.赤いリボン

「あ、止まってっ」

 

蓮香のあげた声に反応して、筋斗雲が急ブレーキをかけた。

 

「この辺か?」

「うん、相当近い」

 

低空飛行させていた筋斗雲からヒョイと飛び降りて、蓮香はカチカチとドラゴンレーダーを操作した。

 

「んーと、こっちかなぁ」

 

わずかに唇を尖らせて、画面を覗き込みながら進み出す蓮香。

その後を悟空と慌ててついていった。

 

辺りは大変絵にしやすそうな田舎で、だだっ広い平野に山のような岩が多く見える。

家などはかなり少ない。しかしどういうわけか、明らかにカプセルハウスと思わしき小さな丸い家がいくつかあるのは見て取れた。

 

人はいる、といっても見えたのは2人だけ。

1人は二足歩行の狼だったが、服を着ているところを見るからに、人間と同じようなものだろう。

 

狼の丸焼きが好物の蓮香は、その二足歩行狼を見て思わず、焼いたらおいしそう——と小声で言ってしまい、慌てて首をブンブンと横に振った。

幸い、狼ともう1人の男は蓮香たちに気づいていなかったし、悟空は辺りをキョロキョロ見渡していたためかで、蓮香のつぶやきは誰にも聞かれなかった。

 

 

「あ…」

 

少し歩いたところで、蓮香は立ち止まってそばの茂みをゴソゴソと探りはじめた。

 

「ん? なんだこのガキどもは」

 

ようやく悟空と蓮香に気づいた男と狼が近寄ってきた。

よく見るとこの2人、物騒なことに銃を持っている。

 

「オッス、オラ悟空だ」

「邪魔だ。さっさとどっかに…」

「みぃつけたっ」

 

男の言葉を遮って、蓮香がかくれんぼをしている子供のような声をあげた。

 

「…なんだ、六星球(リューシンチュウ)だ」

「じいちゃんのじゃねえか」

 

彼女の小さな手に握られているのは——

 

「「ま、まさか、ドラゴンボール?!」」

 

叫んだのは男と狼(こちらも男らしい)だった。

2人とも、目をひん剥いて蓮香の右手にあるドラゴンボールを指差している。

 

「おっちゃんたちもドラゴンボール知ってんのか?」

「お前ら何もんだ……?」

「お、俺らが20日探しても見つけられなかったドラゴンボールをあっさりと……」

 

2人はしばし固まっていたが、すぐにその顔を悪人めいた笑みで染めた。

 

「まぁ、何はともあれラッキーだったぜ。これ以上長引くと俺らの命も危なかったからな」

「……なぁに? ヤバイ人にでも命じられて探してたの?」

「ふっ…何も聞かない方が身のためだぜ、お嬢ちゃん」

「その球をさっさと俺らに渡しな」

 

人間の方の男が、ガチャリと銃を構えながら蓮香ににじり寄った。

 

しかし蓮香は恐怖のきの字も見せずに鼻を鳴らす。

 

「いいよ……なぁんて、言うわけないでしょ?」

「くっ、コイツッ!」

 

蓮香のバカにしたような態度に憤慨し、男が蓮香に飛びかか……った瞬間、男の体は吹き飛ばされていた。

 

悟空が横から蹴りを入れたためだ。

 

「なっ?!」

 

それを見ていた狼男が驚声をあげた。

 

「クソっ…」

 

咄嗟に狼男は銃を悟空に向けたが、撃つことはできなかった。

 

「が、はっ……」

 

蓮香の鋭い手刀を首にもろ受けた狼男は、喉から掠れたような苦鳴をあげて倒れ込んだ。

 

「さ、行くか」

「……そう、だね」

「必要ないけど一応それも持ってこうぜ」

「うん」

 

再び筋斗雲に乗った悟空と蓮香の後ろで、最初に悟空に吹き飛ばされた男はフラフラと立ち上がっていた。

そのままよろよろと無線機を手に取る。

 

「シ、シルバーさん……大変なことが……」

 

 

 

 

 

 

 

「あの様子だと、さっきの男2人は雇われたって感じじゃなかった。何かの組織がドラゴンボールを集めて動いてるのかも……」

「悪い奴らか?」

「さっきの男たちがいい奴に見えた?」

「見えなかったな」

「んー……」

 

その時だった。

 

「わっ!!」

「きゃあっ!!」

 

悟空と蓮香の体は衝撃で跳ね上がった。

足元にあった筋斗雲が弾け飛ぶように消える。

 

「…った……なに?!」

「今のはお前の仕業かっ?!」

 

鍛え上げたバランス力と反射神経で、悟空と蓮香は宙で体制を整えて着地した。

その2人の先に立っていたのは、ブルマだったら黄色い声を上げそうな1人の男だった。

 

「ほう……生きていたか?」

「なに…殺すつもりだったの? だったらこっちも、」

 

そのつもりで行ってやるけど?

悟空よりも沸点の低い蓮香は不機嫌丸出しで睨みつけた。

幼い少女ではあるが、つり上がり気味の瞳と子供離れした雰囲気は、圧をかけるには十分だ。

 

「ふっ…ドラゴンボールを渡してもらおうか」

 

しかし目の前のこの男も、相当場数を踏んできたと思われる。

余裕の笑みを浮かべていた。

 

「亀仙人のじいちゃんからもらった大事な雲だったんだぞ! 人のもの壊しちゃうような奴にあげるもんかっ」

「悟空と同意見。さっさとあたしたちの前から消えて」

「……いいから、ドラゴンボールを渡せ」

「いやだって言ってんだろ」

「人にドラゴンボールを渡せとか頼む前に、筋斗雲を弁償してみなさいよ」

 

まぁ無理だろうけど——蓮香は吐き捨てる。

 

「このレッドリボン軍シルバー大佐をあまり怒らせない方がいいぞ」

「あまり孫蓮香と孫悟空を怒らせない方がいいよ」

「……あくまで逆らうと言うならば、カラダで言うことを聞いてもらおうか」

「…あたしが後ろに回って背中をやるから、追撃頼んだ」

「わかった」

 

シルバー大佐、と名乗った男が拳をこちらに繰り出した瞬間、蓮香が動いた。

 

素早く後ろに回り、背中に蹴りを入れる。

そして上体をよろめかせたシルバーに、悟空の追撃——腹に拳を受けたシルバーは、なすすべなく意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「筋斗雲なくなっちゃったし、どうする蓮香」

「アイツらカプセル持ってないかなぁ」

 

いい具合に近くにあったカプセルハウスに入り——中に人はいなかった——カプセルの入った箱を頂戴する。

 

「どれが何かわかるのか?」

「わかんない。まぁ、飛行機の1個か2個あるでしょ」

 

まずひとつめ……と蓮香が投げたやつは、ロボットだった。

 

「こんにちは」

「ナニカ用カ?」

「あたしたち飛行機が欲しいの」

「3番カプセルヲ投ゲテミロ」

「お、これだな」

 

今度は悟空がカプセルを放り投げる。

小さな爆発の後出てきたのは、確かに飛行機だった。

 

「蓮香、ヒコウキ動かせるのか?」

「……できない」

「…………」

「オレハ操縦デキルゾ」

「「助かった!!」」

 

 

 

 

 

 

「さ、さみぃ…」

「北ダカラ寒イノハ当タリ前ダ」

「視界も真っ白だしね。雪で……」

 

見渡す限り雪、山、山、雪…と言った景色だ。

 

「う、上着欲しい……あっ。も、もうこの辺でいいよ、降りてロボットさん!」

「…………」

「降りていいよー!」

「…俺ガ凍ッチャッタ」

「「え…っ?」」

 

突如、飛行機は急降下を始めた。

 

「うっひゃーーーーっ」

「キャアーーーーーっ」

 

 

(操縦してる奴が凍るなよ!!)

 

 

 




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ありがとうございます!!


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39.蓮香の行方

期末考査まで1週間ないのにこんなことしてていいのかな〜と思いつつ、執筆&投稿。


寒い。

寒いなぁ。

たくさんの雪、とても懐かしい。

あれ? でもあたし、雪なんか見たことないはずなのに…………いや、違う、孫蓮香の記憶じゃないんだ。

昔の——孫蓮香になる前の、『あたし』の記憶だ。

 

前に住んでた東京は、何気に毎年いちどは大雪が降ってたはず。

東京といっても、都心からはかなり離れてた、ような気が。

割りに広かった庭で、お母さんとお父さんと、雪だるまとかかまくらとか作った記憶も薄ぼんやりとある。

肝心の……お母さんとお父さんの顔は(もや)がかかったみたいで憶いだせないのだけれど。

 

それどころか、昔のあたしの名前ってなんだっけ———あぁ、思い出した。

流石に憶えてた。

 

と、いうか……あたし、なんでこんな『昔』のことばっか頭にあるんだろ。

もうずっと遠い記憶の中に埋もれてたのに。

そうだ、あたし、何してたんだっけ?

なんでこんなに、寒いんだろう。

ねぇ、どこ? どこにいるの?

……………悟空。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…れ……?」

「——っ、 母さん! 気がついた!」

 

暖炉で火が爆ぜる音、自分を包む柔らかい毛布の感触、美味しそうなスープの匂いで悟空の意識は浮上した。

 

途端、彼の耳に飛び込んできたのは、少女の元気な声。

 

「ここ…どこ?」

「ジングル村! あなた凍ってたのよ」

 

凍ってた。

それを聞いて悟空は、氷に包まれた自分を想像してしまう。

思わず、ぶるりと体を震わせてしまった。

 

「あら、あら、まだ寒いでしょ? これをお飲みなさい、あったまるから」

 

少女の母親と思われる女性が悟空に、美味しそうなスープの入ったカップを渡してくれた。

 

「運が良かったわねぇ。この()が見つけてくれなかったら、今ごろ凍え死んでたとこだったよ」

「凍え…死ぬ?」

 

その時、悟空は気づいた。

いつも隣にある気配が、ないことに。

 

「蓮香っ?!!」

 

叫ぶと同時に座らされていた椅子から勢いよく立ち上がる。

体にかかっていた毛布がずり落ちた。

 

「ど、どうしたの?」

「オラの他にもう1人倒れてなかったか?!」

 

悟空はいつもの穏やかさはどこへやら、鬼気迫るような表情で少女に詰め寄る。

 

「え……と、飛行機の残骸と壊れたロボットはあったけど、人はいなかったよ?」

「そんな……」

 

絶句した悟空に、少女は恐る恐る尋ねた。

 

「もしかして、あなたの他にも飛行機に乗ってたの?」

 

悟空は声が思うように出ず、首を縦に振ることで肯定を示した。

嫌な想像が彼の頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。

 

「オラ、探してくる!」

 

いてもたってもいられず外に飛び出そうとした時、扉が激しい音を立てて開いた。

 

入ってきたのは銃を構えた2人の男だった。

 

「「キャァァァァッ」」

 

少女とその母親が悲鳴をあげる。

 

「おいこぞう、お前いいもん持ってるらしいじゃないか」

 

1人の男が、悲鳴をあげる少女たちには目もくれず、悟空に不躾に質問をかました。

 

いつもなら『なんだおめえら?』と場にそぐわない能天気な声を上げそうな悟空だが、今はそうのんきではいられなかった。

 

「あ! おめえら蓮香のこと知らねぇか? オラと同じ格好のオンナだ!」

「んあ? ……そういや、さっき飛行機の周りでガキが1人見つかったよな」

「あぁ、ドラゴンボールを持ってるかもしれないからって基地に連れてかれてたぜ。死んでねぇのが不思議なくらいカチコチだったけどな」

「基地って……」

 

悟空はさらに質問しようとしたが、それは叶わなかった。

ガチャリと銃を額に突きつけられたのだ。

 

「それより、持ってるんだろ? ドラゴンボールを」

「…おめぇらもドラゴンボールを狙ってんのか……さっきの奴らの仲間か?」

「さっきの奴らってのが誰のことかは知らないがな」

「このガキと女が殺されるのを見たくなけりゃさっさとドラゴンボールを渡しな」

 

悟空の目の前にいる男とは別の男が、少女と母親に銃を突きつけていた。

少女たちはガタガタ震えて泣きそうになりながら抱きしめあっている。

 

「悪い奴らなんだな……」

 

そう呟いた後の悟空の動きは2人の男にも少女たちにもわからなかった。

ただ、男2人は体にとてつもない衝撃をくらい、何が起きたのかわからないと言う表情のまま意識を手放した。

 

「「へ…?」」

 

わけがわからないのは倒された男2人だけでない。

見ていた少女たちも、思わず間抜けな声を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

「あいつら、レッドリボン軍って言うんだな?」

「えぇ、そうよ」

 

再確認、と聞き返した悟空に少女——スノは頷いてみせた。

 

「ドラゴンボールっていうのを集めてる悪い人たちなの。この近くにもそれがあるみたいで、村の男の人まで使って必死で探してるわ」

「ドラゴンボールは7つ集めるとなんでも願いが叶えられるんだ」

 

悟空の言葉に、納得したというように頷いたのはスノの母親だった。

 

「それだわ。レッドリボンの人たちは何か悪いことを企んでいるのよ」

「……強いのか、そいつら」

「とっても強いわ! 銃も持ってるし……といっても、あなたはあっさり倒しちゃったけど……」

 

と、スノは縄で縛られ、今も気絶している先ほどの男2人を見る。

 

「それだけじゃない、村長さんまで人質に取られているのよ……」

「ほらあそこ! 見えるでしょ? あの塔が基地なんだけど、あそこに村長さんが捕らえられてるの」

 

窓の外、スノの指差した先には確かに塔が見えた。

悟空はそれを険しい表情で見つめた。

 

「基地ってことは、あそこに蓮香がいるのか……」

「ねぇ、あなたはどうしてドラゴンボールを集めてるの?」

「オラはじいちゃんの形見だから探してるんだ」

「蓮香っていうのはきょうだいなのかい?」

「いや……多分きょうだいじゃねぇと思うけど、大事な人なんだ!」

 

 

いつも、見える景色の中に蓮香はいた。

しかし今はいない。隣を見ても、後ろを見ても。

『凍え死んだ』かもしれないのだ。

悟空はそれを考えると、体に鋭い痛みが走るような感覚すら覚える。

 

(蓮香……)

 

悟空はキュッと歯をくいしばると、嫌な考えを吹き飛ばすように笑顔を見せた。

 

「オラが村長さん連れて帰ってきてやるよ。助けてくれたお礼だ。蓮香も連れて帰らなきゃだしな」

 

しかしこの提案はスノたちをひどく驚かせた。

当たり前だ。村ひとつ支配するほどの強さを持った軍に、年端もいかない少年1人で挑もうとしているのだから。

 

「やめたほうがいいわ! 無茶よっ」

「そうよ危険だわ」

 

スノと母親は必死で引き留めようとするが、悟空は絶対に行くとでもいうようにもう一度笑顔になった。

 

「どっちにしろ、蓮香があそこにいるなら行かなきゃなんねぇしな」

 

そう言われては、スノたちも引き止めることはできなかった。

 

「わかったわ……」

「でもそんな格好じゃまた凍えちゃうわ。私の服を貸すね」

「ありがとな!」

 

(蓮香……ちょっと待っててくれよ)




タイトルと中身が合っていないのはいつものこと。
次回から戦闘シーンがまた続きます(あくまで予定)

誤字脱字あったら教えてください。


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40.蓮香脱走

「さ…むっ……く、ない?」

 

蓮香はぶるりと身を震わせて、ゆっくりと目を開けた。

 

「どこ…ここ」

 

狭い部屋だった。

明かりは小さな机に置かれた照明だけ。

 

「取り調べ室……な訳ないか」

 

だんだんと意識が覚醒してきて、蓮香は自分が椅子に縛り付けられてるのがわかった。

 

「動けないなら机がある意味ないし……」

 

暖かいのは良かったけど、と蓮香はため息をつく。

 

(たしか、飛行機が落っこちて……寒くて……昔のこと思い出して……)

 

そこからなんだっけ? と蓮香は首をかしげる。

 

縄で拘束されているとは思えない落ち着きっぷりだ。

 

(悟空……まさか、あのまま雪に埋もれてたりなんか、しないよね)

 

一通りあたりの確認をして落ち着くと、心の奥がざわつくような恐怖を覚える。

縄で縛り付けられていることじゃなくて、悟空の行方がしれないことに。

 

「あーーっ、何で昔、ドラゴンボール読んでなかったんだろうなぁ」

 

はーー、と今度はさっきよりも大きなため息を吐く。

 

(とりあえず、縄は解くか)

 

えい、と気の抜けた声と共に力を入れると、見るからに丈夫そうな縄があっけなくちぎれた。

 

 

立ち上がって大きく伸びをすると、頭も幾分かスッキリする。

 

(さて、と。これからどうしようかなぁ)

 

チラリとドアの方に目をやると、一発蹴りでもいれれば難なく開きそうだった。

 

「ここを出ますか」

 

———バキッ!

 

鉄(おそらく)でできた頑丈な扉は、蓮香の蹴りであっけなく壊れる。

 

 

(あたしをここに連れてきた目的は、おそらくドラゴンボール)

 

持っていないことがわかり、捕らえたのだろう。

 

ドラゴンボール——つまり悟空を呼び寄せるためか、強いとの報告がきて恐れたのか。

 

(ま、どっちでもいっか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたりに慎重に……ではなくズンズンと進んでいた蓮香は、あるところでピタリと足を止めた。

目の前にはどこかの部屋につながっているだろう扉。

向かって左には、下りの階段があった。

 

部屋の中はのぞけないが、その扉にピタリと耳をつけると、中から声が聞こえてきた。

 

『な、なんということだ……あのバカどもめ…っ』

 

決して若くない男の声で、それに応える誰かの声は聞こえない。

 

中にいるのは、おそらく1人。

 

(どうしよっかなぁ。このまま中に突っ込むか、この部屋を無視して階段を降りるか)

 

ふむ、と考え込んだ蓮香は……

 

「突っ込も…えいっ」

 

またも、バキ——ッと扉を蹴破る。

 

はたからだと、かなりガラ悪く見える扉の開け方だった。

 

「な、なんだっ! 貴様は……っ」

 

驚いたような顔で瞬きするのは蓮香が想像した通り壮年の男だった。

白髪に、人相の悪い顔。セーターを着て首に赤いスカーフを巻いている。

 

「なんだ貴様は…っ、はこちらのセリフですー。ここどこ? なんで私を縄で縛ったりしてたの?」

 

んー? と微笑む。

扉を蹴破って入ってきたとは思えない、愛らしさ溢れる笑顔だ。

 

「こーんな幼気(いたいけ)な少女を椅子に縛り付けとくなんて……」

 

悪趣味にもほどがあるんですけど——

と一気に声を低くした蓮香に、男は一瞬顔を引きつらせた。

 

「ふっ……私の名はホワイト。レッドリボン軍の軍人で、ホワイト隊の隊長だ」

「赤だろうが白だろうが別にいいけどさ。悟空知らない?」

「さぁな……ただ、このマッスルタワーを登ってきている少年が1人いるぞ」

 

ホワイトが目で示したモニターに蓮香も目を向けると、そこには悟空が映っていた。隣にはやたらと大柄な男の人もいる。——悪い人ではなさそうだが。

 

「よかった、無事……っ」

 

ほうっ、と安堵したところで、蓮香は嫌な気配を感じて右に大きくジャンプした。

直後、蓮香が立っていたところに銃弾が撃ち込まれる。

 

「ほう……素晴らしいカンと動きだな」

「最悪な奴ね……まぁ、当たってたところでそんな弱っちい武器じゃあたしは倒せないよ?」

「ほう……負けるのはオレさまの方だと?」

「当たり前でしょ」

 

バカにしたように鼻を鳴らした蓮香に、ホワイトはニヤリと笑った。

 

「それはどうかな?」

 

途端、蓮香の立っていた床が突然消えた。

 

「な……っ!」

 

スイッチひとつで開閉する落とし穴……ちょうどその上に蓮香は立ってしまっていたのだ。

 

「くっ……」

 

鍛え上げた身体能力で、なんとか上手く着地に成功する。

 

蓮香はキッと顔を上げ、

 

「この卑怯者がーーっ! 落とし穴なんか使わず正々堂々戦えーー!」

「ふっふっふっ……すぐにお前の仲間もそこに行くさ」

 

ニヤニヤと笑うホワイトに、蓮香は顔をしかめる。

 

「勝手に抜け出してきた人質の子には仕置を与えなきゃいけないな」

「あたしがじっとしてるわけないでしょーが! ってか、仕置きされなきゃいけないのはあたしじゃないってのぉ!」

 

喚く蓮香の声を完全スルーして、ホワイトはスイッチを押した。

蓮香の落ちた穴が閉まる。

それと同時に、壁が開いていった。

まるで自動シャッターのようだ。

 

その奥から現れたのは……

 

「きもい…」

 

なんとも形容しがたい不気味さを持った怪物だった。

 

「はっはっはっ! 怪物ブヨンに食われてしまうがいい!」

「部屋抜け出しただけで怪物に食わせるなよ……」

 

はぁ、とため息をついた蓮香はブヨンと呼ばれた怪物に向き直った。

 

「あたしは簡単に食われないわよ?」

 

どんな時でも、戦闘は蓮香の血を滾らせる。

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、体ブヨブヨしすぎでしょー!」

 

蓮香はたまらず叫んだ。

自分の叫び声が部屋中に反響し、ウェッと顔をしかめる。

 

ブヨンは名前の通り、どこもかしこもブヨブヨ柔らかく、パンチもキックも、跳ね返してしまうのだ。

 

「ぅわ…っ」

 

ブヨンの太い尻尾が頭めがけて振り下ろされ慌てて蓮香は真上に跳んだ。

 

そのまま今度は目玉めがけて蹴りを放つ。

結果は同じだった。

トランポリンのように跳ね返され、反動で壁に叩きつけられる。

強かに顔面をレンガの壁に打ち付けた蓮香はたまらず、意識を飛ばしかけた。

 

しかしすぐさまブヨンが光線を放ち、蓮香は慌てて避ける。

 

「そーいう攻撃もできるわけですか」

 

蓮香は場違いに、こんな奴が天下一武道会にいなくてよかった、と思ってしまった。

 

「攻撃が効かない相手との戦いは戦闘とは言わないよね」

 

かめはめ波を打ったところで、跳ね返されて終わりだろう。

お腹の空いてきてる今、かめはめ波を打つのは命取りだ。

正直、勝てる気がしない。

 

(あんたが硬ければなぁ……)

 

半ば諦めて思考が停止ししかけた時、蓮香は閃いた。

 

「硬ければいいんだ!」

 

叫ぶと同時に頭上に降ってきた尻尾を慌てて避ける。

 

(さっきあの人はここが『マッスルタワー』って言ってた。ということは、ここは塔)

 

必死に攻撃を避けながら、蓮香は思考を回し続ける。

 

(ここの壁の外はきっと寒いはず! うまくいけば凍るかも…………って)

 

「んなことしたらあたしも凍るじゃん!」

 

つい、自分にツッコミが飛んだ。

 

それが隙となり、蓮香はブヨンの尻尾攻撃をもろに受けてしまう。

 

「ぐ…は……っ」

 

床に這った蓮香に伸びてくる、ブヨンの長い舌。

 

(食われる……っ)

 

その時だった。

 

「「うわぁぁぁぁぁ」」

 

悟空と、大柄な男が降ってきた。

 

(悟空と……誰?)

 

 

 

 

 

 

 

「蓮香!」

「ご、悟空……」

「よかった、凍え死んじまったかと思ったぞ!」

「はは、ちょうどいま食われて死ぬとこでしたぁ」

「?」

 

ところで、と蓮香が悟空の後ろを見る。

 

「その人は?」

「あぁ、ハッちゃんだ!」

「よ、よろしく」

「よろしくハッちゃん。あたしは蓮香……って、のんきに自己紹介してる場合じゃなかった」

 

蓮香は慌てて顔を上げる。ブヨンは人が増えたことで驚いたのか動きを止めていた。

 

『さて小僧!』

 

突然部屋にホワイトの声が響いた。

気づかなかったが、スピーカーがあるらしい。

 

『ドラゴンボールとレーダーさえ渡せば命だけは助けてやるぞ!』

「誰がお前なんかに渡すもんか!」

 

すぐさま悟空が断る。

 

『なら、ブヨンに殺されてしまうがいい。さぁ、ブヨン! 遠慮なくやってしまえ』

 

それを聞いて、今まで動きを止めていたブヨンが再びニヤニヤと笑いはじめた。

 

「なんだこいつ。さっさと倒しちゃおうぜ、蓮香」

「ダメなんだよ……パンチもキックも、攻撃は全部跳ね返しちゃう。多分かめはめ波も」

「えっ」

 

その時ブヨンが再び尻尾を振り下ろしてきた。

悟空と蓮香は慌てて避け、ハッちゃんは壁に張り付いて小さな悲鳴をあげる。

 

「ひとつだけあいつを倒す方法があるんだけどさ、それやっちゃうとあたしたちも死んじゃうかもしれないんだよね」

「どういうことだ?」

「ものすごく寒いの」

「?」

 

言葉の足りない蓮香に悟空は頭にハテナマークを浮かべる。

 

「オレは寒いの平気だ」

「え、ハッちゃん寒いの大丈夫なの?」

「オレは人造人間だからな」

 

思わぬカミングアウトに蓮香は目を丸くする。

が、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ハッちゃんのおかげであいつを倒せるかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきまーす!」

 

蓮香が元気に手を挙げて、

 

「えいっ」

 

気の抜けた掛け声に似合わない思いパンチがレンガの壁に大きな穴を開ける。

そこからヒュゥゥゥと外の凄まじい冷気が吹き込んできた。

 

悟空は蓮香が壁に穴を開けるのと同時に、天井に向かってかめはめ波を打った。

青白い閃光が天井にポッカリと大きな穴を開ける。

 

「よしっ!」

「ハッちゃん、懐に入れさせてね」

 

蓮香はハッちゃんの服の中に潜り込み、悟空は開けた穴から上に飛び出した。

 

『「なっ!」』

 

スピーカーからと、天井に空いた穴から、ホワイトの驚いた声がダブルで響く。

 

「よし、凍った」

 

蓮香はハッちゃんの懐から飛び出すと、寒さでカチカチに凍ったブヨンの体を思い切り殴った。

 

ピキッと入ったヒビが広がっていき、ブヨンの体はあっけなく崩れた。

 

「よっし! ハッちゃんあたしに捕まっててね」

「え…?」

 

困惑するハッちゃんの巨体を蓮香は軽々と抱え上げ、そのまま思い切りジャンプした。先ほど悟空が開けた穴から抜け出す。

 

蓮香と悟空は笑顔で拳を合わせ、驚きで固まるホワイトに向き直った。

そして悟空は険しい顔で叫ぶように言う。

 

「村長さんを返せ!」

 

 

(村長さん…って、なんのこと?)

 




ここで悟空の戦闘シーンも入れたらグダグダになりそうだったので、カットしました。
忍者ムラサキとの闘いを書けなかったのがちょっと残念です。


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41.ホワイト将軍の最期

「さあ、村長さんを出せ! じゃないとぶっとばすぞ!」

 

温厚な悟空が珍しく険しい顔でホワイトに言い放った。

しかし今の今まで捕らえられていた蓮香はなんのことかさっぱりだ。

 

「……ハッちゃん、村長さんってなんのこと?」

 

話がわからずポカンとしてるのも間抜けなので…と小声でハッちゃんに尋ねる

 

「ホワイト将軍、この村の村長さんを人質にしてるんだ」

「なるほど、悟空はあたしを探すついでに村長さんを助けに来た、と」

「そうだ。ソンゴクウいい奴」

「悟空、お人好しだし優しいもんね」

 

ホワイトと不穏な会話を交わす悟空の半歩後ろに立ち、笑顔で和む蓮香とハッちゃん。

 

 

その間に……

 

「このホワイトさまがお前のようなガキにやられるわけがないだろうっ」

「かかってこい!」

 

(ここは悟空に任せるか……負けるわけないし)

 

ハッちゃんと傍観に徹することを決めた蓮香。

悟空の勝ちを確信しているので、その表情には心配のしの字もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった。村長さんは返してやろう」

 

悟空に弁慶の泣き所を蹴られ、顔面を殴られ吹っ飛ばされたホワイトは、5分と経たず両手を挙げた。

 

「ソンゴクウ、強い。これで村のみんなも喜ぶ」

「ハッちゃんもうれしそうだねー」

 

 

ホワイト将軍の後についていく。

村長さんが捕らえられていたのは蓮香が最初にいた部屋とそっくりだった。

——村長は縄で縛られたりされていなかったが。

 

「出ろ。助けが来た」

「なんと…、こりゃ助かったわい」

 

人の良さそうな顔をした村長の老人は、うれしそうに立ち上がって上着を羽織る。

このあいだの油断がいけなかった。

村長、悟空、ハッちゃん、そして蓮香も、考えてはいなかったのだ。

 

ホワイトが、パワードガンを隠し持っているとは。

 

「動くな! 動くと村長の頭、卵みたいに吹っ飛ぶぞ!」

「「あっ!」」

「…油断したっ」

 

黒光りする銃口を村長の頭に突きつけ、ニヤリと口角を上げるホワイト。

 

「きたねぇぞ!」

「あんたの身体三枚に下ろしてやろうかー?」

 

悟空は拳を握りしめ、蓮香は唇を引きつらせて青筋を立てる。

 

「もうこんな悪いことやめてください!」

 

ハッちゃんは怒りというより悲しみの表情だ。

 

「ふっ…、何をいうか、弱虫の裏切り者め。お前も後で始末してやるからな」

「あんた全然『ホワイト』じゃないわ。ブラック! 真っ黒!」

「なんとでも言え。どうだ、手も足も出ないだろう」

「くっ……」

 

悔しいが、まさに手も足も出せない状況。

蓮香は唇を噛む。

 

「わしのことはどうなってもいい! コヤツを倒して村に平和を取り戻してくれ!」

 

勇ましく叫んだのは村長だった。

 

「ほんと?」

「それでいいならあたしたち遠慮はしないけど…」

 

しかし、村長も悟空と蓮香のこの返答は予想外だったのだろう。

 

「で、でも、できればわしも助けてくれると嬉しいなー、なんて……」

「……………」

「…………ですよねー」

 

こう言われると、村長を犠牲にしてしまうのは流石にできない。

蓮香は一瞬状況も忘れて苦笑いだ。

 

「ふっふっふ、そういうことだ。……さて小僧、村長を殺されたくなかったら後ろを向け」

「なんだよ…これでいいか?」

 

ホワイトに言われ、悟空は渋々背を向けた。

 

何故わざわざ悟空に後ろを向かせるのか、と疑問に思った蓮香は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべたホワイトを見て肩を震わせた。

 

「悟空よけて…っ!」

 

蓮香は反射で叫んだが遅かった。

ドウンッと重い唸りが響き、ホワイトが握る銃の銃口が火を吹いた。

狂わずまっすぐ放たれた弾丸は悟空の背中にあたり、悟空はその場にうつ伏せに倒れてしまった。

 

「あ、あぁぁ…」

「ソンゴクウーーっ」

 

蓮香が手で口元を覆って俯き、ハッちゃんは悲鳴をあげて悟空に駆け寄った。

場にそぐわない笑い声はホワイトのものだ。

 

「流石の小僧も、このパワードガンの威力にはかなわなかったらしいな!」

 

次はお前だ…と、今度は銃口を蓮香に向ける。

 

「よくも、悟空を……」

 

蓮香は俯いたままボソリと唇を動かした。

 

ドウンッと銃口が再び火を吹き、放たれた弾丸に蓮香の頭は撃ち抜かれる——ことはなかった。

スッと首を右に傾け、銃弾を避けたのだ。

銃弾は蓮香の髪を揺らし、後ろの壁にめり込んだ。

 

「なっ?!」

 

銃弾を——ましてや威力もスピードもあるパワードガンのそれを避けられるとは思っていなかったホワイトは、思わず体をのけぞらせる。

 

「死になさい」

 

無表情で淡々と言い放った蓮香。

瞬間、ホワイトの視界いっぱいに蓮香が広がった。

 

一瞬で間合いを詰めたのだ。

そして全身に走る激痛。

人体の急所を次々と蓮香の拳や蹴りが抉ってくる。

 

「じゃあね」

 

言うや否や、蓮香は自分の2倍3倍あろうかというホワイトの胸ぐらを掴み上げ、思い切り投げ飛ばした。

ホワイトの体はそのままマッスルタワーの壁を突き破り、雪山の方へと消えていった。

 

 

 

「わぁお…」

 

投げ飛ばした蓮香自身、そこまで力が出ると思わず、しばし呆然と壁に開いた大穴を見つめる。

 

しかしすぐにハッと我に返り悟空に駆け寄った。

 

「悟空、大丈夫?!」

「あぁ…ちょっとこたえたけどな」

 

悟空は目に見えてぐったりと力がない。

それでも血の一滴流れていないのは修行の賜物か。

 

「ソンレンカも、びっくりするほど強いんだな」

「あたしもししょーの弟子だからね。正直最後はあそこまで力が出るとは思わなかったけど」

「若いのにあっぱれじゃのぉ」

 

村長もけがはなく、ホッとしたように笑っている。

 

(一件落着、かな)




あと1話でマッスルタワーの回は終わりです


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42.西へ…

「おいしかったーー」

「ごちそうさまっ!」

 

見事村長を助け出し、ホワイト将軍を倒した悟空、蓮香、ハッちゃんの3人は、悟空を助けたスノという少女の家に招かれていた。

 

「いやいや、全く大したものだよ君たちは。大の男たちが一切逆らえなかったレッドリボン軍の奴らを倒したんだからな」

 

感心したように頷いたのはスノの父親。

 

「村のみんなも大喜びじゃったよ」

 

村長もニコニコと笑っている。

人質から解放されて気が緩んでいるのだろう。

 

「でも、結局ドラゴンボールはどこにあったんだろうなぁ」

「これだけ雪が積もってるんだから、見つけるのも一苦労だよね」

 

ブルマの作ったレーダーもないし、と蓮香は窓の外に視線を向ける。

 

「……オレが持ってた」

「えっ?」

「ハッちゃん、ドラゴンボールを持ってるの?」

 

ハッちゃんは懐から、オレンジ色の薄透明の球を取り出して、コトリと机の上に置いた。

中には2つの赤い星がある。

 

二星球(アルシンチュウ)だ…」

「これだよハッちゃん! どこで手に入れたんだ?」

「……オレ外に出た時、偶然これ見つけた。でもこれが見つかったらホワイト将軍、村人全員殺す気だった。だから隠してた…」

 

その驚きの事実に、一瞬シンとなる。

その静けさを破ったのは村長だった。

 

「えらいっ! わしゃ思いっきり気に入ったぞい!」

 

先ほどよりも笑みを濃くして、ハッちゃんの手を握る。

 

「わしゃぁ決めた! お前たちわしの家に住め!」

「え……っ?」

 

ハッちゃんは驚きでパチパチと目を瞬かせ、

 

「でも…、オレ人造人間」

「そんなことは関係ないわいっ。人間でも悪いやつは悪い!」

「よかったな! ハッちゃん村で暮らしてみたいって言ってたもんな」

「ハッちゃんはとっても優しくていい人だよ。あのホワイト将軍よりずっとずっと素晴らしい人間っ!」

 

村長、悟空、蓮香の言葉に、ハッちゃんは感極まったように涙ぐんだ。

 

「ありがとう…オレ、嬉しい……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たちも一緒に来るじゃろ?」

 

村長の言葉に、悟空と蓮香は首を振った。

縦にではなく、横に。

 

「オラたちはまたドラゴンボールを探すよ」

「これもじいちゃんの形見じゃなかったし、3年後の天下一武道会に向けて修行もしないとね」

「なんとっ。天下一武道会?!」

「悟空は前回の準優勝者だよー」

 

天下一武道会を知っている者は驚き半分納得半分で頷いた。

 

「そりゃあ強いわけだなぁ」

「へへへ。だから行かなきゃな」

「そうか…寂しくなるな」

「また会いに来るさ」

「うん、遊びにね」

「さぁさ、みんなもう疲れたでしょ。悟空ちゃんたちも、出発は明日にして今日は泊まっていって」

「「ありがとう!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

敷いてもらった布団の上で荷物を弄っていた悟空が、突然頓狂な声をあげた。

 

「どうしたの?」

「ドラゴンレーダーが動かねえんだ」

「え、うそ…ちょっと貸して」

 

焦ったような蓮香の声に、スノとハッちゃんが興味深げな顔で彼女の手元を覗き込む。

 

「ほんとだ、動かない……」

「ずーっと懐に入れたまま戦ってたからなぁ」

「あー、なるほどね…」

「それなんなの?」

「これはドラゴンボールを探すための道具なの」

「へぇー」

 

これがなかったらどうしようもないなぁ、と蓮香が眉を下げる。

 

「すまねぇ」

「いや、悟空は悪くないよ。あたしが持ってても多分壊してたしね」

「オレ、機械詳しい。直せるかもしれない」

「ホントっ?!」

 

 

 

 

「ダメだ…さっぱりわからない。これ作った人、天才」

「ブルマってそんなすごい人だったんだ……」

「ブルマんとこに行って直してもらうしかねぇな」

「スノ、西の都ってどっちにあるの?」

「西の都は……あっちかな」

「ありがと。じゃあ明日から西の都に向けて出発だねー」

「あぁっ!」

 

軽く言った蓮香と悟空に、スノが呆れたような声で言った。

 

「西の都ってすごく遠いのよ。この村には飛行機もないし…どうやって行くつもりなの?」

「歩いていくさ」

「歩いてかなー」

 

一瞬の迷いもなく言い切った2人に、スノは絶句した。

 

「信じられない……お弁当たくさんあげるわね」

「がんばれよ!」

 

(筋斗雲が壊されなければなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇっ! 歩いていくだって?」

 

次の日の朝、悟空と蓮香を見送りに、村人総出でスノの家の前に集まった。

そして、悟空と蓮香のあっけらかんとした言葉に何人もが驚きで叫び声をあげる。

 

「どうしても西の都に行かなきゃなんだけど…」

「筋斗雲が壊されちゃったからな」

「なに、筋斗雲だとっ?」

 

またもあっけらかんとした悟空の言葉に、数人の老人が驚きの声をあげた。

 

「おじいちゃん、筋斗雲知ってるの?」

「知ってるもなにも、わしの若い頃はたくさんあったもんじゃ」

「ただあれは完全に清い心の持ち主でないと乗れんから、この頃めっきり見なくなったのぉ」

 

あれに乗れるとは大したもんじゃ…と褒められる。

筋斗雲は武天老師からもらったありがたい雲であり、身近にあったものとは悟空も蓮香も露ほど思っていなかった。

 

「でも壊されちまったんだ」

「はっはっは、筋斗雲は無くなったりせん。呼んだらまた来るはずじゃ」

「「ホントっ?!」」

 

パッと笑顔になった2人に、老人は優しく言った。

 

「呼んでみなさい」

「あぁっ!」

「うん!」

 

悟空と蓮香は視線を合わすこともなく、しかしぴったりと息を揃えて空に叫んだ。

 

「「筋斗雲ーーっ」」

 

叫びは木霊となって雪をかぶる山が跳ね返してくる。

そして——

 

「あっ!」

「来た!」

 

つい先日大砲でバラバラにされてしまった筋斗雲は、何事もなかったかのように飛んできて、悟空と蓮香の目の前で停止した。

 

「会いたかったぞーっ」

「よかったぁ、無事で!」

 

愛馬ならぬ、愛雲との再会を喜び、ピョンと飛び乗る。

 

「おぉ、本当に乗れるわい」

「く、くく雲に乗ってる…」

 

懐かしげに目を細める老人たちと、驚愕で目を剥く若者たち。

 

「じゃあ、オラたち行くな!」

「みんな元気でね。また会おうね!」

「ソンゴクウ、ソンレンカ、色々ありがとう。オレの一番の友達だ」

「がんばって! 2人とも、レッドリボン軍なんかに負けないでねっ」

 

次々とお礼や激励の言葉を送ってくる村のみんなにもう一度手を振って、悟空と蓮香は筋斗雲に声をかけた。

 

「お次は西の都だ!」

「頼んだよっ」

 

心得た、とばかりに筋斗雲は高速で空へと駆け上がった。

 

猛烈な風圧に目を細めながら、悟空と蓮香はもう一度、村のみんなへの別れの言葉を山々に響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮香」

「んー、なぁに?」

「もう離れ離れになんないようにしような」

「ん?」

「蓮香がカチンコチンになって死んじまったかと思ったからさ」

 

悟空にしては珍しい弱音だ、と蓮香は思った。

しかしすぐに、当たり前か、とも思った。

幼い頃からずっと隣にいた気配がなく、生死不明だったのだから。

蓮香も嫌な想像をなんとか思考の片隅に押しやって、恐怖をしのいでいた。

 

「大丈夫。あたしはずっと悟空の隣にいるから。……まぁ、悟空に好きな人ができて結婚するってなったら流石に離れるけど」

「ケッコン…?」

「前に言った、一番好きな女の子と一緒に暮らすこと」

「あぁ、あれか」

 

悟空は一瞬、黙った後、

 

「オラは蓮香が一番好きな女の子だぞ?」

「なぜに疑問形…。まぁ、いずれかわかるよ。あたしも、今は悟空が一番大事な人だもん」

「今は……か」

「どうしたの? 悟空、さっきから妙に変というか」

「んー、別にオラ変じゃねえぞ?」

「ならいいけど……あ! あれじゃない? 西の都っ」

「あれっぽいな。でっけー」

「どうやってブルマを見つける?」

「なんとかなるさ!」

 

 

(あたしたちそういえば無一文でもあるんだなぁ。どうしよ……)




読み直してみたら、すごく会話文が多いなぁ、と感じました。


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43.西の都

「なんか、うるっせえところだなぁ」

「やっぱ人が多いねー。………東京より文明進んでるっぽいし」

「ん、なんか言ったか?」

「いや、なーんも言ってないよ」

 

会話をしながらも2人は顔を合わせず、田舎モン丸出しでキョロキョロ辺りを見回している。

 

悟空は都会への驚きと好奇心で。

蓮香は進んだ文明への好奇心と、ほんの少しの懐かしさで。

……と、その時

 

「こら、ガキども!! どこ歩いてんだよ、ばかタレッ!」

 

悟空も蓮香も気に留めていなかったが、2人は堂々と大通りを横切っていたのだ。

 

「うっわ、タイヤがない車だー」

「ねぇねぇ、ブルマんち知ってる?」

 

どこまでもマイペースな2人に、車に乗る男は唾を飛ばして再度叫んだ。

 

「俺が知るわけねえだろ! さっさと退け、轢き殺すぞ!!」

「こっわ。すいませんでしたー」

 

轢き殺す、などと脅された蓮香は眉をひそめながらも、気の無い謝罪をして車の前から退いた。当然悟空も後について行く。

 

2人が退いた途端、タイヤのない車は猛スピードで走っていった。

 

「なんであんなに急いでんだ?」

「……山暮らし長かったせいか都会の常識忘れた」

「??」

 

どうやってブルマを見つけりゃいいんだろう……と頭を抱える蓮香だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとまずね、悟空」

「ん?」

「都にいる限り、お金は絶対必要だと思うの」

「カネか? オラ持ってねえぞ」

「あたしも持ってないよ…。どうしようかねぇ」

 

うーん、と悩みこむ2人。

明るい山吹色の道着を着た子供2人が並んで唸っている様子は、なかなかに目立つ。

 

その時、2人の耳に歓声が飛び込んできた。

そちらに目を向けると、歩道の隅に人だかりができている。

 

「なんだろ?」

「行ってみっか」

 

好奇心を抑えようともせず、2人はその小さな体で押し進む。

 

人だかりの中心には、天下一武道会にいそうな格好をした男の人が立っていた。

 

「さあ、どうしたどうした? 挑戦者はいないのか?? 私と闘って勝つことができれば、10万ゼニーという大金がもらえるんだぜ!」

 

どうやら男は、賞金付きの力試しを行っているらしい。

 

「カネがもらえるのか」

 

天下一武道会みたいだな…という悟空の横で、蓮香は顔を輝かせた。

 

「悟空、これだよ。…おにーさん! あたしが闘う!」

 

蓮香は満面の笑みで元気に手を挙げる。

すると、ドッと上がる笑い声。

挑戦者を求めていた男も、思わずというように苦笑を浮かべた。

 

「冗談きついよー、お嬢ちゃん」

「あたしは冗談は言わない。…悟空、ちょっと荷物持っててくれる?」

「あぁ、がんばれよ!」

「任せといてー」

 

(はたから見ると)幼い少年少女の無邪気な掛け合いに、観客たちは微笑ましいものを見るような顔になる。

男も、やれやれというように首を振り、優しい顔で言った。

 

「オーケーオーケー、試合をしようか。本当なら試合料として1万ゼニーもらうんだけど、嬢ちゃんは特別だ。タダにしてあげよう」

「ホント?! ラッキー、あたしたち無一文だったの」

 

サラリと言われた言葉に、当人2人を除いた皆がギョッとして目を向いた。

 

「さ、やりましょ! あたしこう見えても強いからねっ」

 

挑戦的な笑みを浮かべる蓮香。

こうは言うものの、やはり彼女の見た目は変わらず普通の少女。

周りは蓮香の強さを微塵も予想していなかった。

 

 

「じゃあおっぱじめようかね」

「うん! ……ハァァッ」

 

——蓮香の一瞬の動きに、男も観客も目が追いつかなかった。

追いつけたのは悟空ただ1人。

 

「グ…ハ……ッ」

 

腹に拳を受けた男は、そのあまりの重さによろめいた。

 

「まいった?」

「は…はは、まいるわけないじゃないか」

 

そう言う男の目には、得体の知れないものを見るような恐怖の色が映っている。

それでも、プライドのせいか、引きつった笑みを浮かべていた。

 

「お、お嬢ちゃん、ちょっとだけどこかで拳法習ったみたいだねー」

「ふふ…じいちゃんと、ししょーにね。今度はそっちからどうぞ?」

 

先ほどと変わらない笑みの蓮香だが、それを見守る観客たちの表情はだいぶ変わっている。

 

「…あちゃーーっ」

 

気合の入った掛け声とともに、蓮香の首元に手刀が放たれる。

急所でもある首元を狙うのは、それほど蓮香が強いということをわかっているのだ。

しかし蓮香にとっては、遅い。

 

ヒュッと首を横に傾けて手刀を避けた蓮香は、そのまま勢いをつけて左足を振り上げた。

左足は男の膝裏を抉り、思わず転ぶ男。

 

「この…ガキィ……」

 

男は悔しさでか、ついに顔から笑みが消えた。

反対に、蓮香は笑みを浮かべる。もちろん、面には出さず心の中でだが。

 

それは、勝利を確信した笑み。

蓮香が心の中で笑みを浮かべたことに、悟空は気づいていた。

 

「チョアーーッ」

 

先ほどよりも気合の入った掛け声と、顔面に飛んでくる右腕。

蓮香は、避けなかった。

——パシッ、と言う音ともに、男の拳が蓮香の両手のひらに受け止められる。

 

「な……っ」

「ハァッ!」

 

そのまま蓮香に足払いを仕掛けられた男は、バランスを崩し倒れた。

 

「こ……の」

 

男が再び攻撃を仕掛けてくる前に、蓮香はタンっと地面を蹴って跳び上がった。

 

「せぇのっ」

 

そして相変わらず気の無い声をあげ、後ろの壁に蹴りを入れる。

レンガの壁は、一部があっけなく崩れてしまった。

 

「ま、まいりました……」

 

それを見た男は、さすがに白旗を揚げた。

 

「やったね悟空!」

「やったな!」

 

天下一武道会の時のように、笑い合う2人。

 

それを観客と男は呆然と見ている。

 

「お、お嬢ちゃん、どこで修行をしたんだい?」

 

観客の中から1人、年老いた男性が尋ねてきた。

 

「武天老師って言うししょーのところでね」

「オラたち天下一武道会にも出たんだ」

「悟空は準優勝だもんねー」

 

この2人の会話に、ただただ呆然とする皆だった。

 

 

 

 

 

 

 

「カネは手に入れたな! これからどうすんだ?」

「えっ……と。どうしよっか?」

「…………」

「…………」

 

お金は手に入れたとはいえ、ブルマの家がわかったわけではない。

人混みから離れ、しばらく歩いた時にそれを再認識した2人は、また唸り声をあげた。

その時、

 

「坊やたち、迷子?」

「へ?」

 

突然話しかけられ2人が顔を上げると、ベビーカーを押す女性が心配そうな顔で見ていた。

 

(ま、迷子……あたしたち12歳…)

 

内心でショックを受ける蓮香と裏腹に、悟空は無邪気に女性に尋ねた。

 

「ブルマんち知らねえか?」

「ブルマ……さぁ、知らないわね。警察官に聞いてみたらどう? あそこにいるわよ」

 

女性が指差す先には、蓮香が前世でも見慣れた制服を着た男性だった。

 

「あ! ありがとうお姉さんっ」

 

その手があった! と喜ぶ蓮香と、わけがわからない悟空。

 

 

 

その後、警察官のおじさんに連れて行ってもらい、悟空と蓮香はブルマの家の前に着くことができた。

 

 

(ブルマの家……で…っか)

 

 



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44.悟空と蓮香とブルマ Part2

「ブールーマーッ。来たぞー!! いないのかーーっ?」

「ご、悟空…うるさい……」

「こらこらキミ、そんな大声出さなくても、インターホンがあるじゃないか」

「え? なにそれ」

 

西の都のおまわりさんに助けてもらい、なんとかブルマの家に着いた悟空と蓮香。

ブルマの家——おまわりさん曰くカプセルコーポレーションというらしい——は、想像を絶するデカさだった。

 

(ブルマがお嬢さまなのは知ってたけど、こんなにとはね…)

 

呆れ半分、納得半分という顔でひとり頷く蓮香。

 

「ブルマサマハタダイマ学校ニ行ッテオリマス」

「な、なんで柱がしゃべるんだ?」

「あれはインターホンっていう機械だよ」

「へー、キカイってすげえなぁ。柱がしゃべるのか」

「柱がしゃべるのとはちょっと違うけど…ま、いっか」

 

通常運転でなんとも間の抜けた会話をする2人をしばしポカンと見ていたおまわりさんは、会話が途切れたタイミングで問いかけた。

 

「どうする、ここで待ってるかい?」

「うん! 多分すぐ来ると思うから。ありがとねー」

「おまわりさんはもう行ってもいいよ」

「そうはいかんよ。悪いやつを案内してしまったとなると大変だからね」

 

とはいっても…とおまわりさんは小さく笑って言葉を付け足す。

 

「君たちが悪いやつとは思えないがねぇ…」

「ふふ、まぁ当たり前だよね。あたしたちみたいな子供が、こんな大きな家のお嬢さまの友達なんて、簡単には信じられないでしょ?」

「まぁ、遠慮なく言ってしまうと、そういうことになるかな」

 

 

おまわりは、少女の子供らしからぬ率直な物言いに苦笑した。

見た目は7歳くらいの子供で、会話の内容も都会慣れしてるとはいえない2人。

しかし少女の方は妙に大人びたような印象を受ける。

 

(いや、不思議な子供たちだ…)

 

おまわりはヒゲを撫でながら、無邪気に話す少年少女に首を傾げた。

 

 

「ん?」

「悟空どうした……あっ」

「どうしたんだい、キミたち」

 

突然、空を見上げた2人に、おまわりが訝しげに声をかける。

 

「ブルマの匂いだ」

「帰ってきたみたい」

「え、匂い……?」

 

わけがわからないまま少年たちの視線を辿ると、空をかけてくる見慣れたエアバイクがあった。

 

(なんでこの距離で匂いがわかるんだろう…)

 

少年たちへの疑問が深まるばかりのおまわりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮香、孫くん! ひさしぶりねー、どうしたの? よくうちがわかったわねーっ」

 

再会するなり爆裂トークを仕掛けたブルマに、変わらないなと蓮香は笑う。

 

「このおまわりさんとかいうおっちゃんに連れてきてもらったんだ」

「ドラゴンレーダーが壊れちゃったの、直してくれる?」

「もちろんオーケーよ! 来なさい」

 

怒涛の勢いで話をまとめていく悟空たちを呆けた顔で見ていたおまわりさんは、自分そっちのけでちゃっちゃと中に入ろうとする3人に、やや慌てて声をかける。

 

「あのぉ、わしのスクーターも直してもらえんかな。どうも調子がイマイチで」

「いいわよ、どうぞー」

 

この会話を聞いていた蓮香、

 

(いいわよどうぞー…って、そんな二つ返事でいいのっ? いろんな意味で大丈夫? それともおまわりさんだからいいの?)

 

いろんな意味でびっくりしていた。

 

 

 

「オカエリナサイマセ、オ嬢サマ」

 

高級ホテルのエントランスのような入り口から入ると、メイドの格好をしたロボットが4人を出迎えた。

それにしても、玄関とは思えない広さだ。

 

「ブルマって、めちゃくちゃお嬢さまだったんだね……」

「お前んちでっけえなー」

 

悟空はもちろん、蓮香もこんな大きな家を直接見たのは初めてだ。

 

「父さんは?」

「オ庭ニイラッシャルト思ワレマス」

「……このロボットって人工知能でも搭載してるのかな…」

「変なヤツ……」

 

ロボットに興味を示す悟空と蓮香を置いて、ブルマはどんどん進んでいってしまうので、2人は慌てて追いかける。

山暮らしが長かったため方向感覚はいいほうだが、ここで迷子になるのは流石に嫌だ。

 

 

「あれ、行き止まり?」

「んなわけないでしょ」

 

ブルマが壁についているパスワードロックのようなものを慣れた手つきで操作する。

すると、壁だと思っていたところがシャッターのように開いた。

 

「うぇっ? また外に出たぞ?」

「外じゃないわよ、1階が庭なの」

 

なんてことない、という口調のブルマに、蓮香とおまわりさんが絶句する。

 

「普通、1階をまるまる庭にするかな……ねぇ、おまわりさん?」

「金持ちの考えることはようわからん……」

「同じくー」

「なんか変なのが飛んでっぞ」

 

悟空の指差した先——空中には、丸い小型カメラのようなものがふわふわと浮いていた。

 

「父さん探してきてちょうだい」

「ハーイ」

「カメラも喋るんだぁ」

「変なヤツ」

 

それにしても…と呟いたのはおまわりさんだ。

 

「イヌやらネコやらがたくさんおりますなぁ」

「……なぜか恐竜もねー」

「あぁ、父さんが捨てイヌや捨てネコや捨て恐竜なんかをあちこちから拾ってくるのよ」

「恐竜なんか誰が捨てるの?! こんな都会で?! ってか拾っていいの?! 」

「相変わらずねぇ、蓮香」

 

怒涛のごとくツッコミをいれた蓮香は、ハッと思い出した。

 

(そういえばここ、漫画の世界だった……)

 

 

「なんじゃブルマ、なんか用か?」

 

自転車をキコキコ漕ぎながら現れたのは、タバコを咥え、白衣を着た男性だった。

この人かブルマの父らしい。

 

「前に話したことあるでしょ、この2人が蓮香と孫くんよ」

「ん……? おぉっ、君たちか。なるほど、チビじゃチビじゃ!」

「おっす!」

「こんにちは……(いきなりチビって言われた)」

 

元気に挨拶する悟空と、若干落ち込む蓮香。

 

「あ、あなたがカプセルを発明したブリーフ博士?」

「えぇっ?!」

 

おまわりさんの言葉に、蓮香が小さく叫んだ。

あの、ホイポイカプセルを発明したのがブルマの父親だったことに驚いたのだ。

 

「こんだけお金持ちのわけだね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、直ったわ!」

「ありがとなっ!」

「よかったぁ」

「まったく、今度からはもっと丁寧に扱ってよね……。ってあれ? まだ2つしか見つかってないの。ずいぶんのんびりね」

「以外と見つけるの厄介でさ」

 

あはは、と笑う悟空と蓮香に、ブルマはしばし考えるように顎に指を当てた。

 

「私も探すの手伝ってあげるわ! 明日は日曜日だし」

「え、いいよいいよ。おまえがいると邪魔だもん」

「悟空、ハッキリ言い過ぎ…ふふっ」

「失礼ね、孫くん! 蓮香も何笑ってるのよ。私がいたら、四星球(スーシンチュウ)なんてとっくに見つかってるわよ!」

 

その自信はどこから…? 蓮香が小声でつぶやく。

 

「でもさぁ、おまえ筋斗雲に乗れないだろ? オラたちが担いでいくのか?」

 

まともに現実的な心配をしたのは意外にも悟空だ。

しかしブルマは、心配ない、と自信満々に笑った。

 

「これよ、これ! ミクロバンド!」

 

ビシィッと効果音がつきそうな勢いで左腕を構えたブルマの手首には、一見デジタル腕時計にも見えるバンドが巻かれている。

 

「なに、これ?」

「私が発明したのよ。ここを押すと……」

「ええぇぇっ!」

「あっ!」

 

ブルマの身体が10センチほどに縮んでしまった。

叫んだ後、そのまま衝撃でフリーズする蓮香と、

 

「へぇー、ネズミみたいに小さくなったぞ」

 

のんきな悟空。

 

「ブルマすごい……やっぱり天才なんだね(性格に少々難はあるけど)」

「フフンッ、当たり前でしょ。これなら持ち運びは簡単よ……ぎゃっ!」

「「あっ」」

 

小さくなったブルマの身体が突然誰かに踏まれた。

悟空と蓮香が顔をあげると、金髪の綺麗な女の人が立っていた。

 

「はじめましてーーっ。あなたたちが悟空ちゃんと蓮香ちゃんねー。ブルマのママでーーっす」

「お、おっす…」

「ど、どーも、はじめまして…」

 

悟空と蓮香は、ブルマ母のハイテンション且つハイトーンボイスに若干引き気味だ。

 

「キャッ!」

 

突然そのブルマ母が悲鳴をあげたのは、ブルマが元の大きさに戻ったためである。

 

「あなたママの足の下でなにしてるの?」

「母さんが踏んづけたのよ!!」

(ブルマのママ強烈な天然だ…)

 

 

「うるさい娘でごめんなさいねー、はい2人とも、お酒でもどうぞー」

「子供に酒飲ますな!!」

「んもうー、反抗期なんだからー」

「…………」

「ヤムチャやウーロンはいねぇのか?」

 

アーーッ、と叫びながら頭を思い切り掻いていたブルマは、悟空の言葉にピクリと動きを止めた。

どうしたんだろう、と首を傾げた蓮香に答えたのは、ブルマの母。

 

「ほらぁ、ヤムチャちゃんってお顔がいいでしょ? 街の女の子にモテてモテて…。この娘ったらそれが嫌みたいで、ケンカしてばかりなのよー」

「ペラペラと余計なことを喋らないでくれるっ?!」

 

あー、もうっ!

ブルマはそう言って、一気にまくし立てた。

 

「私、また蓮香たちとドラゴンボールを探しに出るわっ! それで、ヤムチャなんかより、もっともーーっとイイ男見つけてくるんだから!!!」

「あら、じゃあ私も一緒にイイ男探そうかしら」

 

再び炸裂したブルマ母のズレた発言に、蓮香は乾いた笑いを漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これでだいぶ速く走れるようになったはずじゃ」

「ありがとうございますっ。光栄です」

 

ブルマについて下に降りると、おまわりさんがブリーフ博士にスクーターを直してもらっていた。

 

「父さーん、私のカプセルケースどこだっけ?」

「わしの机の上にあるが……なんじゃ、どっか行くのか?」

「蓮香たちのドラゴンボール探し、手伝ってくるわ」

 

これを聞いていた蓮香。

 

(手伝うというより、実際は無理やりついてくるという感じだと思うわー)

 

「ほう、また7つ集まったら父さんにステキなギャルをくれ」

「夫婦そろっておんなじようなこと言うなっ!!」

(さすが親子…! さすが親子ーっ、あはははは…!)

 

 

ブルマのドラゴンボールへの願いが『ステキな男性(こいびと)』であったことを思い出し、内心で笑い転げる蓮香。

顔に出さないようにはしているが、若干口元がヒクヒクしている。

 

 

(ブルマの家族、面白すぎ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——そのころレッドリボン軍本部からは、各部隊に悟空と蓮香の写真が送られ、見つけ次第殺すよう、命令が出されていた。

 

 

 

 




久しぶりに4000文字超えたけど、オリジナル要素はほとんどないです。


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ドラゴンボール 五 45.ブルマの大失敗

レッドリボン軍から本格的に命を狙われているなど露知らず。

西の都から南東の方角にあるドラゴンボールを探して、海までやってきた悟空と蓮香。

そして、(ボール)探しを手伝うと言って2人に(無理矢理)ついてきたブルマ。

——3人に、新たな危機が近づいていた。

 

 

 

「うへぇ、暑いなぁ…」

「真夏だからねぇ。あー、海に潜りたいなぁ」

 

無理だけど…。

小さく付け足しながら、蓮香は眼下に広がる青い海を恨めしげに見つめる。

いくら見た目は7歳くらいとはいえ、12歳——精神的な年齢はもっと上——の蓮香は、裸で泳ぐのは流石に恥ずかしい。

 

「あ、ストップストップ! ドラゴンボールはちょうどこの下あたりよ」

「「えぇっ?」」

 

慌てて筋斗雲を止め下を覗き込むが、当然のように海が広がっているだけ。

 

「まさか、海底に沈んでるってこと?」

「そういうことね」

「潜って探すしかねぇのか……」

 

ドラゴンボールは一度願いをかなえると、バラバラに飛んでいってしまう。

当然、海に沈むこともあるのだ。

 

「ホッホッホ、そんな原始的な方法取らなくてもいいわ。とりあえず、近くの島にでも上陸しましょ」

「? あぁ、わかった」

「やっぱ、ブルマがいて助かったの、かも……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

3人が上陸したのは、さほど大きくない島。

しかし船があるため、無人島ではなさそうだ。

 

「あー、窮屈だった」

 

ミクロバンドを操作して、ブルマは元の大きさに戻る。

 

「で、潜水艇のカプセルでも持ってきてくれたの?」

「ふふっ、そういうことよー」

 

ルンルンでカプセルケースを開けたブルマは、中を見て短く叫んだ。

 

「ど、どうしたのブルマ」

「な、なな何で、1個しか入ってないのよ」

「誰かのと間違えて持ってきちゃったとか?」

 

ブルマはたっぷり数秒フリーズした後、つぶやいた。

 

「——父さんのだ……」

「その1個、何が入ってんだ?」

「わからない……けど、あまり見たくないわ。嫌な予感がするの」

「この世界的に、私も嫌な予感がする……」

「役に立つもんかもしれねぇぞ?」

 

悟空の言葉で覚悟を決めたらしいブルマは小さく頷きつぶやいた。

 

「信じるわ……父さん」

 

ぽいっとなげられたカプセル。

入っていたのは——

 

「…………あ、のクソオヤジィィィッ」

「やっ、ぱりなー」

「?」

 

大量のエロ本だった。

二度と信用なんかしないっ!!!

と叫ぶブルマの横で、

 

「変なの。なんでこいつらフロでもねぇのにハダカなんだ?」

「悟空は見ちゃダメ!!!」

「いてっ! なんで叩くんだよ〜」

「悟空にはまだ早いの!(ししょーみたくなられたら困る!)」

 

 

ブルマの父がカプセルに入れるほど大切にしていたエロ本は、ブルマの手によってビリビリに破られた。

おまけに(ブルマ)からの信用も完全に失った。

——哀れである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱオラが潜って探してくるよ」

「いってらっしゃーい」

 

悟空はちゃっちゃと服を脱ぎ、筋斗雲に乗って海の方へと向かった。

 

「……羨ましい」

「あんたは女の子なんだから、流石にやめときなさいよ」

「わかってるよー」

「私はちょっとその辺見てくるわ。カプセル売ってるところがあるかもしれないし」

「りょーかい。あたしはここにいるね」

 

ブルマが島の奥の方へ行ってすぐ、悟空が戻ってきた。

 

「見つけた?」

「ダメだ。海ってのは深えなぁ。息が続かねえや」

「ま、普通そうだよね。とりあえず服着て」

「あぁ。……ブルマどこ行ったんだ?」

「カプセル売ってるとこ探しに。あるかなぁ、こんな小さな島に」

 

その時だった。

 

「キャーーーッ! 蓮香、チカンよーーっ」

「あれ? ブルマの声だ」

「チカン? 悟空行くよ!」

「うわっ」

 

蓮香は悟空を引っ張って筋斗雲に乗り、ブルマの声が聞こえてきた方に飛ばした。

 

「いた!」

 

走って逃げるブルマと、それを追いかける小型飛行機が2機。

 

「あっ、蓮香!」

「悟空はブルマの回収をお願い。……あの人たち、レッドリボン軍だ」

 

言うや否や、筋斗雲から飛び降りた蓮香は飛行機のうち1機の上にバランスよく乗った。

 

「なにっ?」

 

突然不自然な揺れを感じた飛行機の操縦士は声を上げる。

 

「おい、誰かが上に乗って……コイツ、写真の小娘だ!」

「なんだとっ?!」

「あれ、あたしを知ってるんだ。じゃ、バイバーイ」

 

蓮香は笑顔で手を振り、ぴょんと飛行機から飛び降りた。

 

「お、おい前……!」

「え? うわぁーーーっ」

 

 

直後、ふたつの爆音が響いた。

 

「ふふ、よそ見運転は危ないですよーってね」

 

蓮香の視線の先には、彼女に気を取らたせいで大きな岩(?)に激突した飛行機2機が炎上していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何もチカンにそこまでやらなくてよかったんじゃない?」

「えーあたしなんもしてないよー」

「見事なまでの棒読みね……」

「でも実際、上に飛び乗っただけだし?」

 

白々しく笑う蓮香に、ブルマはやや引きつった笑みを見せた。

自分も大概とは思うが、この友人、かわいい顔してホントに強かだ。

 

「あ、オラいいこと思いついたぞ!」

「ん?」

「こっからじいちゃんの家、遠くねぇよな? じいちゃんならきっとなんか持ってるぞ!」

「亀仙人……亀仙人ね……」

「いい考えだろ?」

「まぁ確かに、ししょーなら潜水艇のひとつやふたつ、持ってるだろうけどねぇ」

 

 

(ししょーんとこ行くなら、さっきのカプセルに入ってたエロ本、破らなければよかったんじゃ……?)



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46.久しぶりのカメハウス

更新遅くなってすみません!


海底にあるらしい、3つ目のドラゴンボールを手に入れるため、亀仙人に潜水艇を貸してもらおうということになった悟空たち3人。

 

「あのスケべじいさんには何の頼み事もしたくなかったんだけどな…」

「あたしがいるから大丈夫だよ」

「頼りにしてるわよ、蓮香!」

 

任せて、と微笑む蓮香に、ブルマは安心の息を吐いた。

蓮香はブルマにとって、まだほんの数年の付き合いしかない友人だが、スケべな男に容赦がないのは知っている。

例え相手が、恩師である亀仙人だろうと関係ない。また、彼女は恐ろしく悪知恵が働くのだ。

 

「あー、見えてきたぞっ」

 

悟空の指差した先、懐かしい派手な色のカメハウスが建つ、小さな島が海に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 誰かと思えば悟空さんに蓮香さんではありませんか! お懐かしい」

「あ、帰ってたんだねー」

「ウリゴメじゃないか! ひっさしぶりだなー」

「悟空……」

「ウリゴメじゃなくてウミガメです」

「あ、そうだったな!」

 

無邪気な笑顔の悟空に、蓮香とウミガメも思わず笑みをこぼす。

 

「なんじゃ、誰か来たのか?」

 

ウミガメが誰かと話す声が聞こえ、キィっと扉から顔をのぞかせた亀仙人は、悟空たちの姿を見て驚きの声をあげた。

 

「ほう、もう孫悟飯の形見のドラゴンボールは見つかったのか?」

「それがまだなんだー」

「へへー、意外と大変でさ」

「——ちょっと、潜水艇でしょ!」

 

ほのぼのとした雰囲気にしびれを切らしたブルマが、突然蓮香の胸元で叫んだ。

 

「「えぇっ?!」」

 

突然、姿の見えない第三者の声が聞こえ、ウミガメと亀仙人が慌てたようにあたりを見回す。

 

ブルマは、ウミガメの前にぴょんっと飛び降り、元の大きさに戻る。

 

「「えぇぇぇっ?!」」

 

ウミガメと亀仙人はさっきの数倍大きな叫びをあげ、目をひんむいた。

 

「こんにちは」

 

化け物を見たかのようなリアクションの2人(1人と1匹)に、やや憮然と挨拶するブルマ。

 

「ど、どどどうしたんですか?」

「な、なんじゃ?!」

「これよこれ、私が作ったもので、小さくなったり元の大きさに戻ったりできるの」

「はぁ、すごいですねぇ」

「ほう、面白いのぉ」

「ふふ、でしょ」

 

目を丸くして感心する2人に、ブルマは得意げに笑った。

 

「んで、何用じゃ?」

「あ、あぁ。その、よかったらだけど、潜水艇なんかを持ってたら貸して欲しいのよ」

「潜水艇か。持っとることには持っとるが、何に使うんじゃ?」

「今探してるドラゴンボールが海の底なんだー」

「すっごく深くてオラじゃ息が続かねぇからさ」

「なるほどのぉ。ええぞい! 貸してやろう」

「センキュー」

 

あっさり貸すと言った亀仙人に、

 

(このスケべじいさんがすんなり貸してくれるとは思えないわ)

(ししょーがこんなにもあっさり貸してくれる気がしないなー)

 

女子2人は完全に疑いの眼差しだ。

 

「ただし……」

 

((そらきた!))

 

「その小さくなれる装置、おくれ」

「え、パンツじゃなくて?」

「よかったー! パンツ見せろとかくれとか、ぱふぱふさせろとか言われるかと思っちゃった!」

「「………………」」

「?」

 

女子2人の、心からの辛辣な言葉に亀仙人は思わず黙る。

ウミガメも隣で、決まり悪げな顔をして黙り込む。

悟空だけがわけわからずにぽかんとしていた。

 

「んー、でもこれがないと困っちゃうわ」

「筋斗雲に乗るときは私がおぶってあげるから大丈夫よ」

「あらそう? ありがと、じゃあいいわ」

 

あげる、とブルマはミクロバンドを外して亀仙人に渡した。

 

「ふっふっふ、サンキューサンキュー」

 

(この不気味な笑いは…? ししょー、何企んでるんだろ)

 

「さ、潜水艇のカプセルちょうだい」

「今クリリンがそれに乗って買い物に出かけていてな。もう少し待ってておくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリリンまだかなー」

「もうそろそろで帰ってくるはずじゃが…」

「ねぇ、私ちょっとトイレ借りるわね」

 

そう言ってブルマがカメハウスの中に入った途端、亀仙人の顔が紅潮した。

口元を不自然に引き締め——まるでニヤけるのを堪えているようにして、ミクロバンドを見つめている。

 

「さぁて、テレビでも見てくるかのー」

 

そしていそいそとカメハウスの中に入っていく。

瞬間、蓮香は亀仙人がなぜミクロバンドを欲しがったのかがわかった。

 

慌ててこっそり窓からカメハウスの中を覗くと、亀仙人がちょうどミクロバンドを操作して小さくなったとこだった。

引き止める暇もなく、亀仙人がトイレの方に駆け出す。

 

(やっぱり! トイレを覗くためだったんだ、このスケべじじい! 覗き魔!!…………)

 

心の中で散々師匠を罵倒した後、でも、と人の悪いの笑みを浮かべる。

 

(玄関からトイレは割と距離がある。そして小さくなるということは、さらに距離は伸びる。ししょーがトイレに着く頃には、多分終わった後ね)

 

ついでに落っこちちゃえ。

 

ふと、蓮香はそうも思った。

——そして同じ頃、亀仙人は足を滑らせて便器内に落ちていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、亀仙人さま、中でテレビ見てたはずなのになんでずぶ濡れなんですか?」

「なんかじいちゃんくさくねぇか?」

「うるさい! なんでもないわい」

 

パンツ1枚、ずぶ濡れの亀仙人に、蓮香以外が不思議そうな顔になる。

全てをなんとなく察した蓮香は亀仙人に近づき、

 

「これにこりて、もうトイレを覗いたりはしないようにね、ししょー」

 

亀仙人にしか聞こえないような声で、そして満面の可愛らしい笑顔でそう告げた。

全て悟られていたことを知った亀仙人の背に、冷たい汗が流れた。

 

 

「あれ、なんか来るぞ?」

 

悟空の指差す先には、なんとも不思議な形をした飛行機。

 

「お、クリリンたちじゃな。帰ってきたか」

「え、あれが潜水艇?!」

 

潜水艇なのに空も飛べるんだ…と驚く蓮香だが、今の時代当たり前のことだ。

 

「悟空、蓮香!!」

「まぁ」

 

潜水艇に乗ってたのはクリリンとランチ。大きな紙袋を抱えている。

 

「クリリン! ランチさん!」

「へへ、元気だったか?」

 

久しぶりの再会に喜ぶ、悟空と蓮香とクリリン。

 

「ランチさん、えらく遅かったのぉ」

「うふ、ついクシャミが」

「…………」

「???」

 

大変だった、と苦笑いするクリリンに、悟空と蓮香も同じような顔をした。

クリリンは修行時代から、ランチ(金髪)の被害に遭うことが何気に多い気がする。

 

「あ、お久しぶりですね! パンツさんでしたっけ?」

「ブルマよブ、ル、マ!!」

 

クリリンの、盛大かつズレまくりの間違いに、蓮香と悟空が大爆笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コホン、ところで悟空に蓮香、どうしたんだ?」

「実は………………(かくかくしかじか)で、潜水艇を借りにきたんだ」

「へぇー、そういうことか。……この辺りの海なら、ついでに海賊の宝とかも見つかったりしてな」

「え?! なにそれ!」

 

さらりと言ったクリリンの言葉に、ブルマが予想外に食いついた。

 

「昔この一帯を暴れていた海賊たちがどこかに宝を隠したらしいって話があるんだ」

「へぇ、いいわね! ロマンを感じるわ」

「宝探しとか面白そうだよな。俺もついていっていいか?」

「ほんと?! クリリン、ついてきてくれるの!」

 

パァッと顔を輝かせる蓮香に、クリリンは少し恥ずかしそうに頰をかく。

 

「武天老師さま、行ってもいいでしょうか?」

「うむ、悟空たちを手伝ってやれ」

「やったな!」

 

 

4人は早速潜水艇に乗り込み、カメハウスのある島を出発した。

 

そしてそんな彼らに、レッドリボン軍の青い影が忍び寄っていた……。

 

 

(海賊の宝かぁ。ふふ、楽しみ!)




ここのところ、オリジナル要素が薄いですね……。
冬休みに入ったので、もう少しだけ更新率を上げられるよう頑張ります!
誤字脱字などありましたら、ご報告お願いします。


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47.ブルー将軍攻撃開始

「あぁぁっ、しまった!!」

「ひょあっ」

 

飛行機——のような潜水艇が出発して数分、突然叫び声をあげたブルマに、隣の蓮香が奇声を発した。

 

「なんだ、どうしたんだ?」

「ドラゴンボールの入ったリュックサック、カメハウスに置いてきちゃったわ」

「なんだー、びっくりした。そんなことで叫ばないでよ」

「武天老師さまがいらっしゃるので大丈夫ですよ。……ランチさんもいますし」

 

老人と女性と亀だけが暮らしている、と聞くと非常に危なげだが、その老人と女性、相当曲者である。

 

「でも、()()()()()()()()()置いてきちゃったのよね…」

「ちょいブルマ! なんで気がつかなかったよ?」

「うるさいわね! 天才にも()()()()『うっかり』があるものよ!」

(ブルマの『うっかり』は()()()じゃない気がする…)

 

前のドラゴンボール探しでも、何度かブルマの『うっかり』に、ひどい目にあわされた……と蓮香は遠い目をする。

 

「ま、いいんじゃねえか?」

「そうだね、大体の場所は覚えてるし……」

 

ふ…と蓮香は窓の外に目をやる。

相変わらず海が広がっているばかりだが、ドラゴンボールの大体の場所は先ほど少しだけ上陸した島が目印となる。

 

 

 

「あっ。クリリン、ストップ」

「えっ?」

 

クリリンは驚きながらも、素早くブレーキをかけた。

キッと空中で停止する潜水艇(ひこうき)

 

「多分この辺りかなー。やや右前方に潜って」

「よし、わかった」

「蓮香…あんた記憶力いいわねー」

 

感心したようなブルマに、蓮香は嬉しそうに笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ、あの少年たち、やはりそうだったのね。今度は4人組か」

 

蓮香が目印にした島の砂浜に立ち、小型望遠鏡を除く1人の男性。

その男性に、もう1人の男が敬礼とともに声をかけた。

 

「ブルー将軍! 本部のレーダーによりますと、あの者たちのドラゴンボールはやはり、例の島にあるそうです」

「ふふ…思った通りね。あの島が敵の本拠地か。このわたしが全滅させてあげるわ……」

 

ブルー将軍と呼ばれた美麗な男性は、まるで女性のような笑い声をたてた。

 

彼らの言う『あの者たち』は悟空と蓮香。『例の、あの島』はカメハウスのある島のことだ。

そして彼らは——レッドリボン軍の者だった。

 

「よし、隊をふたつに分けるわ! わたしが指揮するA隊は少年たちを! あなたの指揮するB隊は敵基地を攻撃、いいわね!」

「はっ!」

 

悟空たち、そして亀仙人たちに、危険が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お、なんか深そうな溝があるぞ。ここに落ちちまったんじゃねえか?』

 

悟空たちは、海の底でドラゴンボールを探していた。

悟空は呼吸と会話ができるマスクをつけて潜水艇の外に出て、他3人は潜水艇の中から探す。

 

なかなかドラゴンボールが見つからない中、悟空が海底に見つけたのは溝だった。

 

「横から見たらこの辺ね……うわぁ、かなり深いわよ」

 

潜水艇を溝の側面に移動させたブルマは、思わずため息とも取れる声をあげた。

 

「潜れないの?」

『狭くてちょっと無理だ』

「どうしようかしら……」

 

途方にくれたように黙り込むブルマ。

そんな中、潜水艇の外に目を凝らしていた蓮香が、あっ、と小さく声をあげた。

 

「あれ……なんだか洞窟の入り口みたい」

 

指差す蓮香の先には、溝の側面の崖にポカリと空いた穴。

それは確かに洞窟の入り口のようだ。

 

「そうか! その溝は洞窟になって続いてるんだわ。そんでもって、あの大きな穴が入り口なのよ!」

『オラ、潜水艇に戻ったほうがいいのか?』

「えぇ、戻ってきてちょうだい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

レッドリボン軍、ブルー将軍の指揮する隊をふたつに分けた片方、B隊はカメハウスのある島へと飛行機で向かっていた。

 

「敵基地にいるのはどんな奴らですか?」

「なぁに、女とじじいだけだ。楽なもんさ」

 

その女とじじいが恐ろしく曲者なことに、当然だが彼らは気づいていない。

 

「見えてきたぞ、あれだっ」

「よーし、上陸するぞ!」

 

およそ10機の飛行機、そして10人とちょっとの軍の者が、カメハウスを囲むように上陸した。

 

「ん? お前さんたちは一体何もんじゃ?」

 

わけがわからず、亀仙人はのんきに首をかしげる。

 

「ふふ、貴様があのレーダーを発明した博士だと言うのはわかっているぞ」

「はて、なんのことやら」

「とぼけても無駄だぞ」

「とぼけてなどしとりゃせんよ。お前さんたちは、一体何もんじゃ?」

 

再度同じ質問を繰り返した亀仙人に、B隊を指揮する男はニタリと笑って言った。

 

「レッドリボン軍だ」

「ほう…」

 

しかし亀仙人は、少々の驚きは見せたものの、慌てるそぶりと怯えるそぶりは寸分も見せない。

 

「あの評判の悪い最低の軍団か。悪の限りを尽くし、正義をとことん嫌うという…」

「家の中にいたのはこの女だけです!」

 

亀仙人の言葉を遮るように、1人の男がカメハウスの中から出てきた。

男は銃をランチに突きつけている。

 

「して、そのレッドリボン軍がワシらに何の用じゃ?」

「まず、あのガキどもが置いていったドラゴンボールを渡せ。そして、奴らの持ってた高性能レーダーも渡すんだ」

 

はて、と再度首を傾げた亀仙人は、銃を突きつけられているランチに尋ねる。

 

「ここにドラゴンボールとレーダーなどあったかの?」

「あ、カバンが忘れられていたので、その中かも…」

「そうかそうか」

 

亀仙人は再びレッドリボンの男の方に向き直る。

 

「で、逆らったらどうなんの?」

「当然の事を聞くな。——死んでもらう」

 

男の残虐な笑みにも、亀仙人は当然動じることもなかった。

 

「……じゃ、闘っちゃおっかなー」

「…ハックション!」

 

亀仙人の言葉の直後、ランチのくしゃみが響いた。

ウミガメの持つ草にくすぐられたのだ。

 

——数分後、カメハウスの周りには気絶した男たちが広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方悟空たちは。

 

「クリリン、あそこの穴に入ってちょうだい」

「よーし」

 

クリリンが潜水艇を操作し、洞窟の中に入ろうとした時——激しい爆音が響いた。

 

「な、なんだ!」

「あ、あそこに潜水艦があるわ! 奴らが魚雷でも打ってきたのよ!」

「きっと、レッドリボンの奴らだね」

「しつこい奴らだなぁ」

「「……ハァ?」」

 

まるで息を吐くかのようにサラリと放たれた蓮香の言葉に、ブルマとクリリンがぎこちなく首を回した。

 

「れ、れれれっどりぼん?」

「レッドリボンって、レッドリボン軍のことじゃないよな? な?」

「あ、2人とも知ってるんだー。レッドリボン軍のこと。有名なの?」

「あいつらもドラゴンボールを狙ってるらしくてさぁ。オラたちにケンカしかけてくるんだ」

 

悟空たちがなんとものんきな事を言ってる間にも、魚雷は次から次へと放たれる。

 

「じょ、冗談じゃねえぞ! レッドリボン軍って、世界最悪の軍隊じゃねえか!!」

「あ、あんたたち! そんな危険な奴らに狙われてるなんて一言も話さなかったじゃないのよーー!」

 

ものすごい剣幕のクリリンとブルマに、悟空と蓮香はキョトンと瞬きをした。

 

「そ、そんなこと言われてもよ……」

「き、聞かれなかったし、ねぇ?」

 

あはははは、と乾いた笑いの蓮香と、未だによくわかっていない悟空。

そして響く爆音。

 

 

「取り敢えず、洞窟の中に逃げ込むのよーーっ」

 

ブルマの叫びに、クリリンは慌てて潜水艇を洞窟の中へと走らせた。

 

(レッドリボン軍ってそんなに有名だったんだー)



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48.海の中の洞窟

ちょっと短めです。


「しめた! 穴が狭くなってるぞ」

 

必死の形相で潜水艇を操縦していたクリリンが、顔を明るくさせた。

 

「ほんとだわ! よかった」

「あいつらの船はでかいからここまで来れねぇぞ!」

「いや……」

 

喜ぶ悟空たち3人に対し、蓮香は警戒を緩めなかった。

 

「クリリン、このままとばして。あいつら世界最悪の軍隊なんでしょ? なら……潜水艦に小型艇くらい積んでるよ」

「あ、そっか…」

「ちょ、ちょっと! また魚雷でも打ち込まれたらどうするの?」

 

怯え、焦ったように叫ぶブルマに、蓮香は「それはない」と即答した。

 

「魚雷を打ち込むってのには洞窟が崩れるかもしれないリスクがあるから。あいつらも、わざわざそんな危険は犯さないと思うよ」

 

普段のんきな蓮香だが、頭は回る。おまけに度胸は化け物級なので冷静だ。

 

「とにかく、洞窟が行き止まりになってない事を祈るしかないよ」

 

慌てふためいていたブルマとクリリンは、蓮香の落ち着いた声に冷静さを取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、外に出ちまったぞ?」

 

蓮香の予想どおり小型艇に乗り換えてこちらを追ってきたレッドリボン軍。

奴らから逃げるために全速力で潜水艇を走らせていたが、突然水から出てしまった。

 

「外じゃない、洞窟の中よ! 空気がたまっているんだわ」

「ここからは走って逃げるしかない!」

「ブルマ、しっかりつかまっててね」

 

悟空、蓮香、クリリンの速さにブルマはついていけない。

それに気づいた蓮香がブルマを担ぎ上げた。

 

「うきゃぁぁぁっ」

 

自分より断然背の低い蓮香の肩に担がれ、おまけに恐ろしいスピードでブルマは情けない悲鳴をあげる。

 

「あ」

「ひぇぇぇっ」

 

突然キキィッと蓮香は急ブレーキをかけて止まった。

それに又しても悲鳴をあげるブルマ。

 

「蓮香! 何止まってんだよ。さっさと行かないと危ないぞー!」

「いや、逃げる必要ないじゃんって思って」

「はぁっ?」

「何言ってんのよ蓮香!」

「あぁ、そういうことか」

 

驚くクリリンとブルマだが、悟空だけが唯一蓮香の意図を汲み取った。

 

「闘えばいいんだな!」

「そーゆーこと」

「あ、相手はレッドリボン軍だぞ!」

 

クリリンの叫びも、そんなの関係ないよーと流して構える悟空と蓮香。

 

しかし、

 

「あれ、おかしいな」

「追いかけてこない…」

「ほら、敵の罠かもしれないわよ!」

「逃げるぞ、はやく!」

 

腑に落ちない、という顔の悟空と蓮香だが、ブルマとクリリンに急かされ洞窟の奥へと前に進み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルー将軍率いるA隊はその頃、

 

「敵は想像以上に手強いみたい。迂闊に襲っても返り討ちにあう可能性があるわ」

「で、でも相手はガキが4人ですぜ?」

「その中の2人にシルバー隊とホワイト隊はやられたのよ! おまけに敵基地を狙ったB隊は、老人と女に全滅させられたわ」

 

苦い表情で吐き捨てたブルーの言葉に、部下たちも驚きと動揺を隠せないでいる。

 

「様子を探りながら慎重に攻撃しましょう。……みてらっしゃい、今にこのわたしが全員始末してやるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここをずーっと行けばドラゴンボールがあるのか?」

「わからないわ。レーダーがあれば確認ができたんだけど……」

「ブルマがうっかり忘れたからねー」

 

ニヤニヤとうっかりを強調した蓮香に、うるさいわよっとブルマが眉根を寄せる。

 

「こう暗くっちゃなぁ」

 

そう漏らしたクリリンに、

 

「あんたの頭、明るいから先頭歩けば?」

「怒るぞ…」

「く、くくっ…ブルマおもしろっ!」

「蓮香も笑うな!」

 

世界最悪の軍隊につけ狙われているとは思えないのんきさだ。

まぁ、4人のうち3人は天下一武道会出場者。

そう気負わずにいられるのも当たり前かもしれない。

 

「お?」

「ん、悟空どうした?」

 

突然、先頭を歩いていた悟空が小さく声をあげ、最後尾の蓮香が素早く反応した。

 

「いや、なんかあるなーって。押しちまえ」

「え、は? ちょっ…」

 

蓮香が止める暇もなく、悟空が壁の『なんか』を押した。

 

「「「あっ!」」」

 

途端、暗かった通路が一気に明るくなる。

 

「ははっ! 明るくなったなー」

「なんで、電燈が……」

 

ラッキー、と笑う悟空と対照に、蓮香は訳がわからず顔をかすかにしかめた。

 

「誰かが、使ってるんだわ。この洞窟を……」

「で、でもここ海の中ですよ?」

 

うーん、と腕を組んで悩み始めるブルマとクリリン。

 

「なぁなぁ、蓮香」

「今度はな……キャァァァッ」

 

大変女の子らしい悲鳴をあげた蓮香に、ブルマとクリリンがギョッとしたように顔をあげた。

 

見ると、口元に手を当てて目を見開いてる蓮香。

そしてケタケタ笑う悟空。

悟空の手には……頭蓋骨(ドクロ)

度胸は化け物級の蓮香だが、突然頭蓋骨を見せられるのは流石に驚いたらしい。

 

「悟空……」

「ははっ! 悪い悪い、怒るなよー」

「ったくもう!」

 

蓮香は頰をうっすらと染めて顔をそらした。

驚きで悲鳴をあげたことを恥じているのだろうが、普段からのギャップも含めて可愛さが増しただけだ。

 

「そ、そそ孫くん、そんなものどこから持ってきたのよ」

「え、ここだぞ?」

 

悟空の指差した先には、海賊船長のような服を着た骸骨が。

 

「……この洞窟って、例の海賊の宝があるってこと?」

 

ポツッと呟いた蓮香に、皆があっと口を開けた。

 

「そ、そうよ! そうだわ! ここなら滅多に見つからないもの。宝を隠すにはうってつけよ!」

「すごいぞ……っ。こんなところにあったなんて。だ、大発見だ!」

 

ニヤッと目を合わせ、バンザーイと喜ぶブルマとクリリン。

 

「なぁ蓮香。海賊の宝ってうめえのか?」

「い、やぁ……金銀財宝だろうから、おいしくはないよ」

「なんだぁ…。オラはごちそうの方が嬉しいぞ」

「あ、でも宝を売ったお金でおいしいもの食べれると思うよ」

「ほんとかっ?!」

 

パァっと顔を輝かせた悟空に、蓮香もつられて笑顔になる。

 

「よーし行くわよ! 宝探しに!」

「おーっ!」

「ごちそうかぁ。腹減ったなぁ」

「レッドリボン軍のこと忘れてるでしょ……」

 

(罠とかありそうだし、大丈夫なのかなぁ?)




恥じらってる蓮香が書きたいなぁと思ったのですが、可愛らしさがいまいち表現足りなかったかも。


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49.海賊の罠と仕掛け

「お、道が良くなったぞ」

「黒い丸がびっしりって……なんか気持ち悪い」

 

歩きづらい岩の道からきちんと整備された道に突然変わった。

クリリンやブルマは嬉しそうな顔になるが、蓮香は少し嫌そうな顔だ。

それもそのはず、床には黒い小さな丸が、壁には直径7、8センチの穴がびっしりとあるのだから。

 

「なんか怪しい気がするなぁ」

「たしかに…変な道よねぇ」

「関係ない関係ない」

 

訝しむ女性陣の言葉を歯牙にも掛けず、クリリンはさっさと黒い丸の上に足を踏み入れた。

 

途端、カチッという小さな音——

 

「…うぇ……っ」

「「あっ」」

「キャッ!」

 

クリリンの間の抜けた声。

悟空と蓮香の小さな声。

ブルマの短い悲鳴。

 

「や、槍が……」

「な、なんだよ、これー!」

「おかしいと思ったらやっぱり…」

「海賊の仕掛けた罠」

 

切れ長の目をわずかに細め、囁くような声で蓮香が言う。

 

「そう簡単に、宝はくれないみたいだね」

「床の黒いの、ボタンだわ。踏むと横の穴から槍が出てくる仕掛けなのよ」

「おまえ、チビで助かったなー」

「お、おまえだってチビじゃないか!」

「ブルマだったらお陀仏ねー」

「……怖いこと言わないでちょうだい」

 

飛び出てきた槍はクリリンの頭上数センチのところをかすったのだから、ブルマだったら腹か胸に刺さっていただろう。

ブルマはつい想像してしまい、ぶるりと身を震わす。

 

「えげつない罠だわ」

 

海賊にえげつない、など今更の気がしなくもないが、つい呟いてしまうブルマだった。

 

 

「んで、どうするのよ」

「どうするって何がだ?」

「はぁ…孫くんあのね、これじゃ通れないじゃない! 後ろからはレッドリボン軍が来てるし」

 

眉根を寄せたブルマに、悟空はキョトンした顔で言った。

 

「跳べばいいじゃないか」

「はぁ?」

「あ、そっか」

「そういえばそうだな」

 

呆れと驚きの声をあげるブルマと、納得顔で頷く蓮香とクリリン。

 

「黒い丸いの踏まなきゃいいんだろ? 簡単じゃねえか」

 

と、言うや否や助走をつけて悟空は跳んだ。

ヒュウゥゥっと低空に姿勢を保ち、ボタンのない向こう側へと降り立つ。

 

「あ、呆れた……20メートルはあるのに」

「ししょーんとこで修行したあたしたちには余裕の距離だよ。ねぇ、クリリン」

「あぁ!」

 

クリリンはニヤリと笑い、悟空より長く助走をつけ、また勢いよく跳び上がった。

しかし——勢いをつけすぎたせいでジャンプが高くなり、天井にガンッと激突した。

そのまま勢いよく床に叩きつけられ、ボタンが数個押される。

仰向けで叩きつけられたおかげで、槍はクリリンの真上をすり抜けた。

 

「あ、あぶねー」

「高く跳びすぎだよ」

 

悟空に引っ張られ、クリリンもなんとか向こう側へと渡った。

 

「さてと…」

「ちょっと待って! 蓮香、私には無理よ、こんな距離跳ぶの!!」

 

置いていかないで、とものすごい形相で肩を揺すられ、蓮香の首がガクガク前後に振られる。

 

「ま、ちょ、置いてったり、しないから!」

 

べりっとブルマを引き剥がし、失礼しまぁすと気の抜けた声をかける。

 

「へ……?」

 

蓮香に横抱きにされたブルマは顔を引きつらせた。

 

「まさか、このまま跳ぶんじゃ……?」

「そのとーりー」

「ひ、えぇぇぇっ」

 

蓮香は助走をつけて跳び上がった。

ブルマは蓮香の首すじに抱きついて小さな悲鳴をあげる。

クリリンのように天井に激突することもなく、楽々と向こう側へと渡った。

 

「さぁ、行こっか」

「そうだな!」

「ふっふっふ。僕たちにかかれば海賊の罠なんてどうってことないな!」

「こ、怖かった……もういや、なんで、こんな……」

 

クリリンとブルマの様子に、蓮香は思わず苦笑をこぼした。

 

(ほんと、大丈夫かなぁ……)

 

 

悟空たちが先に進んだ後、4人を追っていたレッドリボン軍A隊が、海賊の罠にはまって全滅したことをブルマたちは知る由もなかった。

そして、1番厄介なブルー将軍は助かり、4人を1人で追っていることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかひれーとこにでたぞー」

「船がたくさんあるよー」

「海賊たちの港だわ」

「こんなところにあるなんてな……。ほんと、見つからないわけだぜ」

 

まさか、海底の洞穴にこんなものがあるなんて誰も思わないだろう。

悟空たち4人も、同じくだ。

 

「潜水艦がここにあるってことは、他に出口があるのね」

「いざとなったら、ここにある船を使って出ることも可能かもなぁ」

 

大きな潜水艦や小さな潜水艇まで数隻が浮かぶのを見てクリリンが言った。

 

「ん?」

「あ、」

 

その時、突然悟空と蓮香が顔をあげる。

その表情はわずかに険しい。

 

「なんだ、どうしたんだよ」

「何かの気配がするんだ」

「人間の気配じゃない……そこっ!」

 

蓮香が目を見開いて物陰を指差した。

瞬間、その物陰から不気味な何かが現れた。

 

骸骨のような顔に、大きな足。

そして右手に持つのはサーベル。

 

「海賊のロボットだ!」

 

いきなり仕掛けてきた初撃を避けた皆に、クリリンが叫ぶ。

 

その間にも、海賊のロボットは次々と攻撃を仕掛けてきた。

ブルマは慌てて物陰に隠れ、他3人は攻撃態勢をとる。

 

「クリリンはあのサーベルを折って。あたしは銃になってる腕を折る。悟空はそこをすかさず攻撃!」

「了解!」

「わかった!」

 

頭の回転が早い蓮香がすかさず作戦をとった。

 

まずクリリンが動いてサーベルを手刀で叩き折る。

蓮香は横から足技で弾を放っていた左腕を蹴り折った。

 

「うらぁっ!」

 

そしてすかさずロボットの胴に入る悟空の拳。

 

ロボットの体が揺らめいた。

 

「よしっ!」

 

パッと顔を明るくしたクリリンだったが——サーベルを持っていた方の手が彼の顔面を殴った。

 

「あ…っ」

 

同時に、ロボットの長い尾が蓮香の胴に絡むように叩きつける。

 

2人は衝撃で吹っ飛ばされた。

さらに、ロボットの赤い目からビームが放たれ、悟空たちは慌てて物陰に潜んだ。

 

「あいつ、強いぞ」

「意外と頑丈だし…」

「オラがあいつをなんとか倒す! クリリンと蓮香はブルマ連れて先に進んでくれ!」

 

悟空の言葉に、蓮香は一瞬だけ迷いの色を浮かべたが、すぐに頷いた。

 

「わかった。クリリン行くよ!」

「お、おう!」

 

クリリンも頷いたのを見て、悟空が真っ先に飛び出した。

そして、ロボットを水の中に蹴り落とす。

 

「今だ、行け!」

「よし!」

「ブルマも!」

「え、え?!」

 

混乱するブルマを蓮香が引っ張り、3人は港を出て奥へ進む道を走った。

 

「あいつ大丈夫かしら」

「悟空は大丈夫。あんな奴に負けるほど弱くない」

 

蓮香は全幅の信頼の上ではっきりとそう言った。

 

 

 

「ドラゴンボールは渡さないわよ!」

 

自分たちを追いかけるブルー将軍の影に、蓮香たち3人は誰も気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

「「「っ!!」」」

 

突然、地面がかすかに揺れ、3人は思わず足を止めた。

 

「今、何か爆発音が聞こえなかったか?」

「聞こえたわ! 何かあったのかしら」

「悟空……」

 

蓮香の瞳がほんのわずか、不安げに揺れた。

が、すぐに元に戻り、表情を険しいものとする。

——天井に、ヒビが入ったのだ。

 

「急がないと、洞窟が崩れるかもしれない。早く進もう!」

「あ! ほんとだ…っ」

「行きましょう!」

 

3人は再び奥へ駆け出した。

 

 

(悟空は大丈夫。絶対に、無事! ……無事でいて)




ロボットの目からビームはオリジナルです。
なんかあっさり倒しちゃいそうだったので( ̄▽ ̄)


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50.分かれ道

大変長らくお待たせしてしまい、すみません!
色々とありまして……(´ー`)


「道がふたつに分かれてる!」

 

ブルマの叫びに、蓮香はクッと顔をしかめた。

レーダーを持っていればドラゴンボールのある場所が大体どちらかわかっただろうが、あいにくそれはカメハウスだ。

 

「あたしが左に行く。クリリンとブルマは右に行って。違ったら全力で引き返すよ!」

「よしっ、わかった」

 

ブルマも頷き、3人は分かれて駆け出した。

 

 

 

 

 

「二手に分かれたわね…」

 

蓮香たちを追っていたブルー将軍は、3人が分かれたのを見て小さく唸った。

どちら側を追うか……。

悩み、多勢に無勢を狙って蓮香の進んだ左側へ進もうとしたブルー将軍は、はたと足を止めた。

1人だけガキではない女——ブルマは、見たところ拳法を習っているとは思えない。

そうなるとボウズのガキ——クリリンたちを追ったほうが勝ち目も高そうだ。

 

見た目によらず少女——蓮香の戦闘能力が高いことは、他の隊の全滅を以って知っている。

 

女と坊主が進んだ方向が正解であるかどうかは祈るしかない。

 

(とりあえず…)

 

ブルーは少年——悟空に教える体で足元に石で矢印を描いた。

矢印が指すのはもちろん少女が向かった左側だ。

 

「ふふっ、これでオーケーね」

 

ニヤリと笑い、ブルーは右側の道へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ、道が分かれてるな」

 

ブルーが走り出した数秒後、悟空が分かれ道まで追いついた。

困ったなぁとでもいうように首を振った悟空は、すぐに足元の矢印に気づく。

 

「お、こっちに行けってことだな!」

 

昔——ブルマやヤムチャたちとドラゴンボールを探していた時、矢印の罠に引っかかっていとも簡単にピラフたちに捕まったことなど、悟空はもちろん覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルマとクリリンの2人はレッドリボンの男が自分たちを追ってきていることなどつゆ知らず、崩壊が進んでいく洞窟の道をひたすら走っていた。

 

「あ! 行き止まりだわ……!」

「いや、何かあるぞ。……水? 井戸だ! こんなとこに井戸がある」

「ここを潜って行けってことね!」

 

警戒心が薄いのか、度胸があるのか、それとも両方か………ブルマもクリリンもためらうことなく井戸へと潜り込んだ。

 

 

暗い水の中の地下洞窟を泳ぎ進むブルマとクリリン。

そろそろ呼吸を止めるのが辛くなってきた頃、ようやく浮かび上がることができた。

大きく息を吸い目を瞬かせると、目の前の足場に大きな箱が置いてあった。

典型的な宝箱のそれに、2人は歓声をあげる。

 

宝箱に駆け寄り重くなった蓋をあげ、

中を覗いた2人はさっきよりも大きな歓声をあげた。

クリリンよりも大きい宝箱の中には、宝石、王冠、アクセサリーがぎっしりと詰まっている。

全てお金に変えたら城がひとつ建ちそうだ。

 

「ほっほっほ、宝を見つけたようね。その宝は、私たちレッドリボン軍がいただくわ……」

 

口調に似合わず低い声に、ブルマとクリリンの2人は同時に振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、なかなか崩れてきたなぁ」

 

これ、結構やばい状況なのかな?

と思いつつ蓮香は全速力で走っていた。

 

「…っとぉ、行き止まりかな……キャァ——ッ」

 

道が途切れて目の前が壁になったところで、蓮香は速度を緩めた。

その時、足元の床がなくなった。

落とし穴が仕掛けられていたのだ。

蓮香はかすかな悲鳴とともに暗い穴へと落ちていった。

 

来るであろう衝撃に備えて、空中で受け身を取る体勢になった蓮香だが、衝撃は思った以上に少なかった。

ボヨォンと妙な感覚に、蓮香は首をかしげる。

 

「ぶっふっふー、久しぶりの獲物だぜ」

 

どこか粘つくような嫌な声に、視線を下に向ける。

 

「タコ……」

 

蓮香が落ちたのは巨大なタコの上だった。

うねうねとうごめく8本の足は彼女の体より幅がある。

 

「でっか」

「おまえはチビだから大した腹の足しにはならないだろうな。もう少しデカければよかったものの。まぁいい、美味しく食ってやる!」

 

これを聞いた蓮香は、

 

「…………うん、あたしもお腹すいたよー」

 

とニッコリ笑った。

 

「はぁ?」

「かめはめ…波!」

 

情けも何もない。

タコが次の言葉を言う前に、蓮香は両手をタコに突き出していた。

青く眩い閃光が迸り、あたりが一瞬真っ白になる。

 

「これが本当のタコ焼きかな?」

 

程よく焼けた巨大なタコを前に、蓮香は可愛らしく微笑む。

 

「……あたしをチビ呼ばわりするからよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっかしいなー、オラが全力で走ってんのに全然追いつかねぇぞ。——って、あれ? 行き止まりだ……」

 

どうなってるんだ?

と悟空は首を傾げた。

途端、ガコッというかすかな音ともに床がなくなる。

 

「うわっ!」

 

蓮香の時と同じく、悟空は穴へと落ちていった。

 

 

重力に従って落ちていた悟空は、地面に近づいたところでくるりと一回転して着地した。

ゴツゴツした岩場のせいで、足がジーンとする。

 

「ん?」

「あ!」

 

悟空は目の前の光景に驚き、口をぽかんと開けた。

ところどころ焦げながら焼けている(あまり美味くなさそうな)巨大タコ。そしてその脚をちぎってかじりついている蓮香。

 

「蓮香、おめえ何やってんだ?」

「いやぁ、お腹すいちゃって! これが本当のタコ焼きだよー! ……美味しくないけど」

 

あはは、と笑う蓮香。

味付けも何もないのだから、タコは正直少し生臭い。

 

「何はともかく、悟空! 無事で良かったよ」

「あぁ! でも、矢印の方に向かったのになかなか追いつかねぇから不思議だったぞ」

「矢印?」

「道が分かれてるとこにさ、蓮香たちが描いたんじゃねぇのか?」

「いや……あたしたちは描いてないよ」

 

誰が……? 2人が顔を見合わした時、

 

「ぎゃーーっ」

 

岩に反響しながらも、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 

「今の……クリリンかブルマの声だと思う」

「あっちから聞こえてきたな!」

「ん、行こう!」

 

(いやな予感がする……)

 

 

 

 

 

 

 

「ほっほっほ、宝を見つけたようね」

 

その言葉に振り返ったクリリンとブルマは、はっと息を飲む。

立っていたのは若い1人の男。

 

「その宝は、私たちレッドリボン軍がいただくわ……」

「レ、レッドリボン軍?!」

「……まぁ!」

 

戦慄が走るクリリンの叫びと、ブルマの高く黄色い悲鳴が重なった。

 

「私のお好み!!」

 

叫ぶや否や、ブルマは男——ブルーに擦り寄る。

本当に警戒心がないというか……クリリンも驚きや恐怖を忘れて呆れる。

 

「き、気持ち悪いわね! 女は近寄らないで頂戴!!」

 

しかし幸か不幸か——この場合は不幸だろう、ブルーは女よりも男を好むたちだった。

 

「けげっ、なんだオカマか」

 

ブルマもヨダレを垂らしそうに緩んだ顔を元に戻して身を引く。

 

「オカマのレッドリボン軍だ……」

 

クリリンも思わずといったようにつぶやく。

しかしこの言葉が、ブルーの気分を害した。

もともとあまりいいとは言えない目つきを鋭くさせる。

 

「言ってはいけない言葉を口にしたわね……私を怒らせるとどうなるか、わかってるの?」

 

不機嫌を前面に出したブルーに、クリリンは臆せず立ちふさがった。

 

「ふっふっふ。やりたければやるか? ただ相手が悪かったな」

 

レッドリボン()を相手にするのはごめんだが、1人ならなんとかなる。

クリリンはそう考えていた。

何しろ自分は()()武天老師の弟子なのだから、と。

 

「ほう、大した自信ね」

 

ブルーの顔にわずかな獰猛さが映り、唇に笑みが刻まれる。

 

空気が凍りついた。

 

 

 

 

「ぐぁ……い、いちち……」

「ホォーッホッホ、さっきの勢いはどうしたのかしら?」

「く、そぉ!」

 

世界最悪の軍隊の名は伊達じゃない。

ブルーはクリリンの予想を大きく超えた強さだった。

 

「大きな口を聞いてた割に、たいしたことないわね!」

「く……その言葉、後悔させてやるぞ! ——どりゃあぁぁっ!」

 

ブルーに向かって駆け出したクリリンは、素早く、そして大きく飛びあがった。

残像を残すほどの素早さに、ブルーも思わず反撃の隙を見失う。

その一瞬の間に、クリリンはブルーの顔面を思い切り蹴った。

 

「ぐ…っ」

「やった!」

「へ、へへん! 思い知ったかっ」

 

しかし、これぐらいで倒れるほどブルーはやわではない。

右手で顔を抑え、よろめきながらも立ち上がった。

 

「け、蹴ったわね……私の高貴で美しい顔を……!」

 

この自画自賛っぷり。

おそらくブルマと同じ人種だ。

 

「し、しかも、血……鼻血まで……この、私が……」

 

ブルブルと身を震わせ、

 

「サイテーだわ! 私ったらサイテー!!」

 

天井を仰ぐように叫んだ。

 

「な、なんなんだこいつ……」

 

これにはクリリンもドン引きしたように口を半開きにしている。

 

「許せない……許せないわ、絶対に……」

 

キッと振り返ったブルーの目は憎しみと怒りに満ちていた。

ぞっとするような気迫を背負い、クリリンのことを睨みつける。

その、瞬間——

 

「うぐ…ぐ……」

 

瞬間、クリリンの体が動かなくなった。

金縛りにあったかのように、全身が鈍く痺れている。

 

「どう? 私の超能力は。恥をかかせてくれたお礼に……殺してあげるわ!」

 

 

(くっ……悟空、蓮香——ッ)




久しぶりでキャラの口調なんかが迷子になりました。


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51.一件落着

久しぶりに、少し長くなりました。


クリリン、ブルマの悲鳴が聞こえた方に向かう途中、走りながら悟空が蓮香に尋ねた。

 

「クリリンたちに何があったか、蓮香わかるかっ?」

「正直、わからない。さっきあたしが焼いたタコみたいな変なのがいたのかもしれないし、あるいは……レッドリボンの奴らに追いつかれたか」

「そっか、忘れてたけどレッドリボンにも追われてんだよなオラたち」

「悟空がこっちに来るよう矢印を描いたのも、レッドリボンの奴らかもしれない」

 

宝探しに方に意識向けられて、レッドリボンのことを忘れるなんて…!

蓮香は悔しそうに唇を噛む。

余裕があったのは、自分たちの強さを過信していたのもあるかもしれない。

だが、悲鳴が聞こえてきたということは楽観できる事態ではないのだろう。

 

「……大丈夫だ」

「え…?」

 

ほんの少し前を走っていた悟空が、立ち止まって力強く言った。

悟空に合わせて足を止めた蓮香は、その自信はどこから…? と言いたげに首をかしげる。

 

「なんとかなるさ!」

 

そのあまりの楽観さに、しばしポカンとした蓮香は吹き出して笑った。

 

「そ、だね。なんとかなる!」

「あぁ!」

 

ニカッと笑う悟空に、蓮香は状況も忘れて心が和むのを感じた。

 

「お…そういや、この水ん中潜ってけば近道になるんじゃねぇか?」

「あ、たしかに! 泳いでいけば、多分クリリンたちに合流するよ」

 

2人はクッとうなずき合い、水の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと! 超能力なんてズルいじゃない!!」

「ズルい……ふふっ、ステキな言葉ね」

 

ブルマのわめきに、ブルーはうっとりとした顔で微笑む。

 

「あなたはこの坊主のガキの次に殺してあげるわ」

「ひ、ひぇ…そんな……」

 

怯えたように壁に張り付くブルマを見て満足げな顔をしたブルーは、金縛りで動けなくなっているクリリンを思い切り蹴り上げた。

追撃に重く拳を叩きつけ、クリリンは衝撃で壁に激突する。

 

「ぐ……ゲホッ……」

 

クリリンは意識朦朧としながらも、心の中で叫んでいた。

 

(……悟空、蓮香——ッ)

 

 

「さて、そろそろあの世にご招待かしらね」

 

ふふっと楽しそうに笑いながら、ブルーは足元の大きな石を軽々と持ち上げた。

 

それをクリリンに向けて大きく振りかぶる。

 

「いってらっしゃ———」

 

その時だった。

 

バシュッッと派手な水しぶきをあげて、悟空と蓮香が飛び出した。

 

「な……?! あなたたちは!」

「蓮香っ、孫くんっ!」

「ご、悟空…蓮香……」

 

2人の登場に、三者三様の反応を見せるブルーたち。

 

「クリリン、大丈夫?」

「あぁ……来てくれて助かったぜ」

「おめぇだな、クリリンをやっつけたのは」

 

傷だらけで地面に倒れこむクリリンに蓮香が駆け寄り、悟空はブルーを思い切り睨みつけた。

 

「レッドリボン軍の1人だね」

 

そして蓮香もブルーに向き直り、愛らしく微笑んで見せる。

 

「よくも、やってくれたじゃない」

 

しかし、毎度のことながら、愛らしいのは表情だけ。

低い声はとても見た目に釣り合わない迫力と気迫を備えている。

 

「ふ、ふふ…よくここがわかったわね、あなたたち」

 

その蓮香の気迫にほんのわずか圧倒されながら、ブルーは手に持っていた石を投げ捨てた。

 

「今からこのガキにとどめを刺すとこだったのだけど、邪魔されちゃったわね。先に殺されたいの?」

「くっ、こんにゃろーっ! やっつけられんのはオメェの方だ!」

「……悟空、あたしに戦わせてくれると嬉しいな」

「え?」

「さっき、悟空は海賊ロボット相手にしたでしょ。だから次はあたしの番」

 

ね? と微笑む蓮香に悟空も、そうだなと笑って身を引いた。

そのままクリリンを引っ張ってブルマの方による。

 

「ってことでー、あなたの相手はあたしだよ」

「ホ—ッホッホッホ、舐められたものね! いいわ、私の恐ろしさをイヤってほどに教えてあげる! そしてドラゴンボールはレッドリボン軍(われわれ)のものよ!」

「ドラゴンボール……渡すわけないでしょ!」

 

蓮香はパッとブルーに襲いかかった。

まっすぐ飛び上がり、ブルーの頭にかかとを落とそうとする。

しかしブルーもバカではなく、蓮香の足を掴もうと体を前に倒しながら腕を挙げた。

しかしその行動は、結果的に蓮香が期待した動きそのものだった。

ニヤリと獰猛に笑った蓮香は、空中で身をよじる。

そしてかかと落としをしようとしていた体勢を変え、つま先の方で思い切りブルーの後頭部を蹴った。

 

「グエッ」

 

ひしゃげたカエルのような声で倒れかけたブルー。

蓮香は目にも留まらぬ素早さで倒れこむ寸前のブルーの前に回り込み、その無防備な腹に思い切り拳を打ち付ける。

その細腕から繰り出されたとは思えないほど威力を持ったパンチに、ブルーの体はなすすべなく吹っ飛び壁に叩きつけられた。

 

「言ってたほど、大したことないんだねー」

 

苦しげに呻くブルーに、蓮香は挑発たっぷりに言い放った。

 

「う、うそ……」

「す、すげぇ、天下一武道会の時より格段に強くなってる」

「蓮香もやるなぁ。あの男、手も足も出てねぇや」

 

驚きで固まるブルマとクリリンの横で、悟空は当たり前だと言わんばかりに頷いた。

 

「この……ゆる、さないわ!」

 

ブルーは憎々しげに蓮香のことをキツく睨みつけた。

その目つきに何か異常さを感じて、蓮香は無意識に眉をひそめる。

 

「……っ! 蓮香、そいつの目を見ちゃダメだ——っ」

 

ブルーの()()に気づいたクリリンが慌てて叫んだが、遅かった。

 

「んんっ?!!」

 

蓮香の体が一瞬びくりと震え、そのまま硬直したのだ。

 

「な、動かない……どうなってるの……?」

「ふふふ……いかがかしら、私の超能力は。さっきはよくもやってくれたわね」

「超能力? 弱者が使う姑息な手ね。この卑怯者…!」

「言いたければ言ってなさい……!」

「くぁっ!」

 

ブルーに思い切り蹴られ、蓮香の体が宙に舞った。

そのまま天井に激突し、硬い石の地面に叩きつけられる。

 

「が……はっ」

「「蓮香!」」

 

クリリンとブルマの悲鳴じみた声。

ブルーは悠然と笑いながら、蓮香にさらなる攻撃を与えようと歩き出した……その時。

 

「よくもやったなぁ——」

 

悟空が、いつのまにかブルーの前に立ちふさがっていた。

 

「邪魔よ、どきなさ……」

「お前なんか、こうだーーっ!」

 

そして炸裂した悟空のパンチ。

先ほど蓮香が放ったものとは比でないほどの威力だ。

それを顔面に受けたブルーは、岩の壁にヒビが入るほどの勢いで激突し、ついに意識を失った。

 

「いっ…つぅ……」

「蓮香、大丈夫か?!」

「ん……だいじょーぶ。まさか超能力が来るとはねぇ」

「悪い蓮香、俺が言わなかったから……」

「平気だって! クリリンも大丈夫?」

「あぁ」

 

クリリンが頷いた、その時

 

「キャァァァッ」

「マズい! 洞窟が……」

 

先程から少しずつ崩れてきていた洞窟内が、いよいよ本格的に崩れてきたのだ。

大小の岩が降ってきてかなり危険な状態となってしまう。

 

「は、早く逃げましょう!!」

「悟空、蓮香!」

「…ブルマ! ドラゴンボールがどこにあるかわかるか?!」

「えぇっ? そ、そんなのわかるわけないじゃない!」

「悟空! 一か八かだよ。あの水溜りの中にあるかもしれない。潜って探そう!」

「あぁ!」

 

頷きあう二人を見て、ブルマがありえないというように叫んだ。

 

「そんなことしてる場合じゃないわ! 洞窟が崩れたら私たちみんな死んじゃうのよ!!」

「2人は先に逃げててくれ!」

「あたしたちも後で追いかけるからっ」

 

ブルマとクリリンに返答させる間も持たせず、悟空と蓮香は水溜りへと飛び込んだ。

 

「あぁもうっ! クリリン、行くわよ!」

「あいつらは……ったく!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはーっ」

「はぁっ…はっ……やったね悟空!」

「あぁ! でも、四星球(スーシンチュウ)じゃねえや」

三星球(サンシンチュウ)だね……うぁっ!」

 

目の前に大きな瓦礫が降ってきて、思わず仰け反り悲鳴をあげる蓮香。

 

「早く行かねぇと崩れちまうな!」

「うん! 急ごうっ」

 

 

猛スピードで駆け出す悟空と蓮香。

その蓮香の足元を何かが通り過ぎた。

 

「んんっ?」

 

持ち前の反射神経を駆使して、蓮香がその何かを掴む。

 

「ネズミ?」

 

蓮香に握られてチューチューと手足をばたつかせる割と大きなネズミ。

洞窟内に住み着いているのだろう。

 

「蓮香! 何してんだよ、早く!」

「あ、うん! …このままじゃ洞窟崩れちゃうから、ちょっと握られてても我慢してね」

 

蓮香は早口で手の中のネズミにそう言い、再び駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

出口が塞がれて逃げられなくなったブルマとクリリンは、なんとか側にあった潜水艇へと乗り込んでいた。

エンジンもかかり、あとは逃げるだけとなったのだが、悟空と蓮香が帰ってこない。

 

「悟空、蓮香、まだかーーっ?」

「もうこれ以上待つのは無理だわ! 蓋を閉めて、潜るわよ!」

「2人を見殺しにする気ですか?!」

「何言ってんのよ、私はっきり言って、世界一大事なのは自分の命だわ! あんたはどうなのっ?」

「た、確かに自分の命は大事だけど……2人を見捨てて逃げるわけには行かないですよ!」

 

クリリンがそう叫んだ時、瓦礫の落ちてくる音に混じって悟空と蓮香の声が聞こえてきた。

 

「来たっ! 戻ってきたぞ!」

「よかった!」

 

悟空と蓮香はありえないスピードで駆けてきて、なんとか潜水艇へと乗り込んだ。

 

「潜るわよ! 蓋閉めて」

「ま、間に合ったー」

「ギリギリセーフ」

「お前らな! あんまり心配させんなよなぁ」

「悪りぃ悪りぃ。でも、ドラゴンボールは見つけたぞ」

 

ヘヘッと呑気に笑う悟空に、クリリンは呆れを隠さずため息をつく。

 

「蓮香は手に何持ってんだ?」

「ネズミー。見つけたからさ。置いてったら死んじゃうし」

「お前らほんとに呑気だな……」

「あ! 横穴だわ、あそこから海に逃げられるかも!」

 

ブルマが嬉しそうに速度を上げた……が、すぐに減速を始める。

 

「「「え?」」」

 

そして完全に停止してしまった。

 

「ブルマ、なんで止まるの?」

「ね…燃料が、切れた」

 

刹那、潜水艇内に沈黙が降りる。

 

「う、嘘だろーっ?! 死にたくないよーーっ」

「わ、私まだキスもしたことなかったのにーーっ!」

「え、ブルマってキスしたことないの? すごいしてそうなのに」

「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!! バカなの蓮香はっ!」

 

ブルマに涙目で叫ばれて、蓮香は少し困ったように笑った。

 

「大丈夫だよ、心配しなくて。あたしに考えがあるから。悟空、手伝って」

「?……っ、あぁ!」

「クリリン、このネズミ持っててくれる? 死なせたくないから」

「お前呑気を通り越して能天気すぎないか?」

「失礼な」

「息止めとけよー」

 

いそいそと立ち上がった悟空と蓮香は、2人して後方を向く。

そしてお馴染みのポーズをとった。

 

「「か…め…は…め……波——っ」」

 

青白い閃光がほとばしり、潜水艇の蓋が吹っ飛ぶ。

2人の放ったかめはめ波の威力を勢いとした潜水艇は、ものすごいスピードで前進し、あっという間に海へ、そして海上へと飛び出した。

潜水艇から宙へと投げ出される4人。

 

「キャァァァァァ」

「うわぁぁぁぁぁ」

「筋斗雲——っ」

 

ブルマとクリリンの悲鳴に負けない声量で叫んだ悟空の声に応え、筋斗雲がどこからともなく飛んできた。

まず悟空を、そして蓮香を拾った筋斗雲はブルマとクリリンのもとに向かい、悟空と蓮香それぞれで2人をキャッチする。

 

「た、たすかったーー!」

「ばんざーーい!」

 

 

(これぞ、一件落着ってね!)

 




更新が遅れてた間にもお気に入り数が増えててとても嬉しいです。


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52.盗まれる!

遅くなりましたっ! すみません。


「ひゃーっ、危ねぇとこだったなぁ」

「いやー、流石に疲れたわぁ」

 

危機一髪、崩れる洞窟からかめはめ波を使って逃げ出した悟空たちは、小さな島に上陸していた。

 

「でもほんと、助かったわ。蓮香、孫くん! いいお友達を持てて幸せよ」

 

満面の笑顔で明るく言うブルマに、クリリンが小さく呟く。

 

「見捨てようとしてたくせに……」

 

しかし幸い(?)ブルマも悟空も蓮香も、その言葉は聞こえなかった。

 

「でもあのお宝は惜しかったよなー。もう少しで大金持ちになれたのに」

「あれだけお金があったら、美味しいものもたくさん食べられただろうなぁ」

 

ご馳走を思い浮かべた蓮香のお腹がぐうっと鳴る。

 

「ふっふっふ……」

 

不敵な笑みを浮かべ、ブルマは悔しがる2人の後ろに立った。

 

「じゃーーんっ! これ、なーんだっ?」

 

そしてブルマが()()()()から取り出したのは、

 

「「!!!」」

 

大粒のダイヤ。握り拳くらいありそうだ。

 

「うわー、綺麗だなぁ」

「あ、あのどさくさに紛れて拾ってきたのっ?! ……女にしてはやけに股間がもっこりしてると思ったら………」

「ブルマって、大金持ちのお嬢様なのに、そういうとこ抜け目ないというか……あの状況でよくそんな余裕あったね」

 

純粋にダイヤを褒める悟空と、呆れつつも納得のクリリンと、半目で呆れかえる蓮香。

ブルマはそれら全てを褒め言葉として受け取り、もっと褒めなさいと言わんばかりに高笑いする。

 

「どう見ても、数百億ゼニーの価値はあるわよ!」

「……ダイヤが手に入ったのは良かったけど、今回のドラゴンボールも四星球(スーシンチュウ)じゃなかったんだよねー」

「苦労して探したんだけどなぁ」

 

眉根を寄せて悔しがる悟空と蓮香の2人に、ブルマが目を丸くする。

 

「まさかあんたたち、まだドラゴンボール探しを続ける気?」

「あったりまえだろ!」

「ブルマ、それは愚問だよ?」

 

言葉通り、当たり前だと言い放つ2人に、ブルマとクリリンは絶句した。

 

「命知らずにもほどがあるわよ。あのレッドリボン軍が探してるってのに!」

「お前ら、命がいくつあっても足りないぞ」

「大丈夫だよー」

「あぁ、なんとかなるさ!」

 

ニカッと笑って、悟空が言う。

 

「能天気ねぇ……私はもう手伝うのはごめんだからね!」

「そもそも頼んでない……ってか、勝手についてきたのはそっちでしょーが」

「レッドリボンが狙ってるなんて知ってたら来なかったわよ!! 教えてくれてもいいじゃない!」

 

憤慨したように叫ぶブルマに、蓮香は愛らしく首をかしげて言った。

 

「聞かれなかった、から?」

 

あざとい。

ブルマは毒気を抜かれたようにため息をつく。

この友人、見た目は幼いのにあざとい。

毎度毎度のことではあるが。

命の危険があるのだから、聞かなくても話してほしいものだ。ブルマはため息をついて諦めたように口にする。

 

「そーゆー奴だったわね、あんたは」

「えへへー、ありがとー」

「褒めてないわよ!!」

「……とりあえず武天老師さまのとこに帰ろうぜ。レッドリボンの飛行機もあるしよ」

「あたしたちのこと命知らずとか言うくせに、レッドリボン軍の飛行機を盗むことにためらいはないんだね、クリリン……」

 

 

 

 

 

 

悟空と蓮香の乗った筋斗雲と、ブルマとクリリンの乗った飛行機が島を飛び去った後——それを不敵な笑みで見つめる男の姿があった。

 

「例の基地に帰るつもりね……ふふ、逃さないわよ………っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?! このダイヤをわしにくれると!!」

「えぇ。私、大金持ちのお嬢様だし」

「……なら、危険を犯してまで宝に執着したのは何故なんだろう」

「ブルマさんって……謎、だよな」

「うん」

「??」

 

ダイヤを持って喜ぶ亀仙人と自慢げに胸を張るブルマを横目に、クリリンと蓮香がどこかポツンと会話を交わす。

そして悟空はいつも通り首をかしげていた。

 

「ま、毎日ストリップに行っても使い切るのは何年後に……」

「へぇぇぇ……ししょーはあたしたちが命がけで持って帰ったダイヤをそんな風に使うんだぁ……ふふ、ふふふふ」

「ま、待て蓮香!! 冗談じゃ! 冗談じゃからそんな恐ろしい目で見るんじゃない!」

「——ウミガメさん。ダイヤの管理は任せた!」

 

突然蓮香に話を振られたにもかかわらず、ウミガメは即答で頷いた。

 

「わかりました。武天老師さまに任せておくと、ろくな使い方をしませんからね」

「うん。全部エロ本に使ったとかシャレになくありそうだし」

「確かに武天老師さまならそんなふうに使いそうですね……」

「じっちゃんすけべだからなー」

 

同居亀と弟子たちに好き勝手言われ、亀仙人は唾を飛ばす。

 

「お主ら揃いも揃って、わしが信用できぬと言うのか!!」

「「はい」」

「うん!」

「はははっ」

 

速攻で返ってきた肯定と笑い声に、亀仙人はガクリと肩を落とす。

それを見てブルマが一言。

 

「天下の武天老師にしては、ほんと情けないわね……」

 

その時、だった。

 

「てめぇら……そのダイヤをこっちによこしな。死にたくなかったら動くんじゃねぇぞ」

 

ニヤリと笑いながら銃を構えるのは、金髪のランチ。

 

「へ?」

「し、しまった。おっかない時のランチちゃんじゃった」

「これは手に負えませんよ……」

「あららー」

「どうする?」

 

わけがわからないブルマ、慄く亀仙人とクリリン。悟空と蓮香は相変わらずと言えばいいのか、特に何の動揺もしていない。蓮香に至っては気絶させる気満々だ。

 

「まぁ、良い子になったら戻って来るじゃろ」

 

亀仙人はそう言って、至近距離で銃を向けてくるランチにビクビクしながらダイヤを渡した。

 

「へっ! あばよ!」

 

ランチはニヤッといい笑顔のまま、クリリンたちの乗ってきたレッドリボン軍の飛行機に乗り、行ってしまった。

 

「ちょっ、ちょっとちょっと! あの人仲間でしょ? それにあんな金髪だったっけ?!」

「ランチさんはくしゃみをすると人格が入れ替わるんですよ」

「そ、そんな変な人だったの……」

「ランチさん面白いよねー」

 

ケラケラと笑う蓮香に同意する声は、一つもあがらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっとも帰ってこんのぉ」

「なぁ蓮香。そろそろオラたち行かねえか?」

「ん、そだね。早いとこ四星球探さなきゃ」

「私も都に帰るわ。飛行機、貸してくれない?」

「飛行機ならもうないぞ。ついでに船もない」

 

さらりと言った亀仙人に、ブルマは一瞬ぽかんとした後、えぇっ! と大きな叫び声をあげた。

 

「じゃあどうやって帰ればいいってのよ?!」

「わしの愛人になってここに住むか?」

「やなこった!!!」

「ししょー、答えになってないし」

 

嘆くブルマを横目に、蓮香は筋斗雲を呼ぼうとする。

その時、ぞわりと背筋に嫌な気配を感じ、蓮香は身構えた——が、遅かった。

 

「えっ?!」

「わ……っ」

「な、なんじゃっ」

 

おもいおもいに叫び声をあげる5人とウミガメ1匹。なぜなら、突然縄が飛んできて体を縛り上げたから。

 

「ホーーッホッホ! どうかしら、私の超能力、第2弾は」

「レ、レッドリボン軍の……」

「生きてたのかっ!」

「悪運強いねー……お互い」

 

ブルーに驚く皆と、睨みつける蓮香。

 

「失礼して、ドラゴンボールを探させてもらうわよ」

 

そう言って家の中へと入っていくブルー。

 

「や、やばいわよ! 今度こそ殺されるわよ!」

「ギギギ——ッ、ほどけねぇ!」

「気配に気づくのが遅かったなー」

「武天老師さま、なんとかならないんですか!」

「ゆ、油断しとった。しかし恐ろしいやつじゃ、気配を悟らせず、またこの縄は力が入りにくいように縛られておる」

 

悔しそうな亀仙人の言葉に、皆も押し黙った。

今度こそ絶体絶命かもしれない。

 

「ふふっ、ドラゴンボール3個、確かに見つけたわ。ついでにレーダーもね。もらっていくわよ」

 

ドラゴンボールの入ったカバンを持ったブルーを、蓮香は笑顔を浮かべて呼び止めた。

 

「ちょっと聞きたいんだけどー」

 

そして、スゥッと目を細める。

 

「あんたたち、ドラゴンボール集めて何がしたいの?」

 

その姿と声は、恐怖を与えるのに十分なものだったが、ブルーは怯みもせずに笑って言った。

 

「さぁね。レッド総帥のお考えなんて、私たちの知るところじゃないわ」

 

その答えに、蓮香はチッと舌を鳴らす。

 

「さて、あなたたちにはずいぶんお世話になったし……いいものをあげるわ」

 

そう言ってブルーが悟空たちの近くに置いたのは、

 

「強力な時限爆弾ちゃんよ。5分後に爆発するから、たっぷり恐怖を味わいなさい」

 

ブルーの残忍な言葉に、ブルマがヒェッと悲鳴をあげる。

しかしブルーはその悲鳴を嬉しそうな顔で聞き、さっさとカプセルで出した飛行機に乗り込んだ。

 

「じゃあね。残り数分の人生を楽しみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! どうすりゃいいんだよ!」

「ほどけねぇ……っ!」

「後3分ないわよ!」

 

みんなが焦ったような声で暴れる中、蓮香が小さく、何かを思いついたような声をあげた。

 

「いけるかな……」

「蓮香はなんでそんなに落ち着いてるんだよ!」

 

クリリンの叫びに蓮香は

 

「ちょっと試してみる」

 

と、いつもと大して変わらぬ落ち着いた声で言った。

 

何を試すんだ? クリリンがそう尋ねる間も無く蓮香は大きく息を吸い、

 

「か…め…」

 

そのつぶやくような声を聞き、亀仙人とブルマが驚きの声をあげる。

 

「まさかこの縛られた態勢でかめはめ波を打つつもりかっ?」

「ちょっと、そんなの爆弾に打ち込んだら、ここで爆発しちゃうじゃない!」

 

しかし蓮香は気にせず、手に()を溜めていく。

 

「は…め…」

 

蓮香の()()()()()に、青白い光の玉がぼわりと灯る。

蓮香はそれをすぐには打ち込まず、そのまま手にキープさせた。

そして——バチバチとスパークする気弾に、蓮香の手を縛っていた縄が切れた。

一ヶ所切れれば縄も緩む。

蓮香はバッと駆け出し、思い切り爆弾を空へと蹴り上げた。

 

「波ーーーっ!」

 

そして、右手に溜めていた(かめはめ波)をその爆弾に打ち込む。

空中で、大きな爆発が起きた。

 

助かったことも忘れ、皆は唖然と口を開く。

 

「なんてやつじゃ……」

「悟空!」

「あぁ。——波っ!」

 

悟空も蓮香に倣って手に気を溜め、縄を切った。

 

「「筋斗雲っ!!」」

 

そして、呼び声にすぐさま駆けつけた筋斗雲に飛び乗る。

 

「ま、待てっ! 深追いするな……っ」

 

そういう亀仙人の言葉も無視して、2人は筋斗雲を思い切り飛ばした。

 

「あんな悪い奴に、ドラゴンボールを渡すか!!」

「やられっぱなしは性に合わないし………見つけた!」

 

 

(ふふっ、倍にしてお返ししてやるよー)



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53.ペンギン村

筋斗雲を飛ばして、ものの数分でブルーに追いついた悟空と蓮香。

 

「見つけた! 待ちなさい、このドロボーッ」

「ドラゴンボールを返せ——!」

 

ぐんぐん飛行機との差を縮めながら、2人は叫ぶ。

 

「まったく……しつこいガキどもね!」

 

ブルーは煩そうにチッと舌を鳴らすと、一気に飛行機を加速させた。

 

「ホーッホッホ!! ドラゴンボールは我々のものよ!」

 

さすがは、世界最悪の軍隊(レッドリボン)の持つ飛行機。

あっという間に筋斗雲を引き離した——が、

 

「へへーんだ、逃すもんか!」

「それが最速? こっちはまだまだ速くなるよ!」

 

最速はマッハ1.5の筋斗雲では、相手にもならない。

 

「な…そんなバカなっ! これに追いつくなんて………」

 

絶句するブルーに、悟空は不敵な笑みで如意棒を構えた。

 

「——でいっ!」

 

そして勢いよく振り下ろすが、紙一重のところでブルーはUターンで逃げてしまった。

 

「あっ!」

「……筋斗雲、追って!」

 

絶対に逃がさないからね、と蓮香は獰猛な笑みを浮かべる。

 

そしてまたしても追いついたのだが——

 

「あれ、諦めたのか? あいつ」

 

ブルーがエンジンを切ったのか空中で停止する飛行機に、悟空は首を傾げた。

 

「おかしい……エンジンが切れたなんてことはないだろうし……」

 

蓮香は訝しみながらも、停止した飛行機の後ろに筋斗雲を向かわせる。

 

「? エンジン………あっ!」

 

ブルーが飛行機を止めた理由にピンときた蓮香は、慌ててその場を離れようとしたが遅かった。

 

「ロケットエンジン点火!!」

 

ブルーの嬉しそうな声をかき消すように、飛行機のエンジンがかかる。

悟空と蓮香は避け切れず、それの直撃を受けてしまった。

 

「も、ほんっとにめんどくさいやつっ!」

 

しかしやわな体とは程遠い2人は、筋斗雲から落下しただけでほぼ無傷だ。

 

「おっ?」

「ん?」

 

その直後に聞こえたのは、盛大な爆発音。音の方に目を向けると、どうやらブルーの乗っていた飛行機が山に激突したそうだった。

 

「……バカなやつ」

「ハハッ、間抜けだなー、あいつ」

「ドラゴンボール無事だといいなー」

 

とても、上空3000メートル近くから落下中とは思えない普通の会話を交わした2人は、そのまま空中で数回転して見事着地した。

 

「筋斗雲ーーっ」

 

そしてすぐさま筋斗雲に飛び乗って、ブルーが激突した山に向かう。

 

 

 

 

「かぁっくいー!!」

 

数メートル離れたところに建つ家の玄関先で、1人の少女と2人の空飛ぶ赤ちゃん(?)が自分たちを見ていたことなど、悟空たちは知る由もなかった。

 

「いっしょにあそんでちょ——っ!」

 

無邪気な笑顔を浮かべ、筋斗雲並みの速さで走って追いかけてきていることも、もちろん気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラゴンボールの入った袋も、あいつもいない……逃げられた」

「くそーっ、生きてたのか!」

「でも無傷ではないはず……どこ行ったんだろ」

 

蓮香があたりを見回した時、割と近くの方からキーーーンという風を切る音——否、誰かの声が聞こえてきた。

 

「誰かこっちに来る……?」

 

そう、首を傾げた時

 

「おーーい!」

「あ!」

「ん?」

 

悟空たちの方に走ってくる3人の子供。

そのうち2人は人間ではなさそうだ。

 

「「はや……」」

 

足の速さには自信がある悟空と蓮香が、思わずそう呟いてしまうほどのスピードでこちらに向かってくる少女。

 

「んちゃ!」

「お、おっす!」

「こんにちは…?(なんか見たことあるような気が)」

 

悟空は突然現れた超俊足少女に圧倒されながらも挨拶を返す。

蓮香の方はなんとなく見覚えのある姿に眉をひそめ——

 

「……うぇえぇぇっ??!」

 

あたりに響き渡るような絶叫した。

 

「ア、ア、ア……」

 

そのまま目を大きく見開き口をパクパクさせる。

 

「蓮香……変なもんでも食ったみたいになってるぞ……?」

「ほよ?」

 

若干引き気味の悟空と、ぽやっとした顔で頭にハテナを浮かべた——大きなメガネをかけて、羽のついた帽子を被っている——少女。帽子とTシャツに書かれた文字は『ARALE』。

 

「……ア、アラレちゃん?!」

 

そう。

すでに前世の記憶の7、8割は失くしている蓮香だが、思い出したのだ。

目の前の少女が、某国民的ギャグ漫画の主人公であると。

 

「うんっ。あたしの名前はアラレだよー」

「やっぱり! あたし確か、中学の時アラレちゃんの筆箱使ってたし! 漫画も全巻持ってた!……気がする」

「ほよ?」

「?」

 

珍しく声のトーンが高い蓮香に、悟空は不思議そうに首をかしげる。

何を言ってるのか全くわからない。

 

(オラ、蓮香のことならなんでもわかると思ってたけど……今の蓮香は全くわからねぇな……)

 

内心で若干落ち込む悟空だが、わからないのは当然だ。今の蓮香は三分の一くらい彼女の前世が前に出てきているのだから。

 

「ってことは、ここはえっと………ペンギン村?」

「そうだよ!」

「蓮香、よく知ってんな」

「あはは……ぐ、偶然だよ」

 

偶然村の名前を言い当てるなんてありえないが、素直な悟空は、

 

「そっか!」

 

あっさり納得した。

 

「けど、まいったなぁ。レーダーもあいつにとられちまってるし……」

「でも、あの男、飛行機壊れちゃってるよね。だったら、飛行機をまず手に入れるんじゃないかな……」

「飛行機かぁ」

 

黙り込んだ悟空たちに、アラレが無邪気に尋ねた。

 

「ここで何してあそんでるの?」

「オラたち遊んでんじゃねえぞ。大事なもん盗んだやつを追っかけてるんだ」

「ほえー」

「飛行機……あ!」

 

飛行機のありかを考えていた蓮香は、ふとある人物を思い出してアラレに向き直った。

 

「ねぇねぇ、えっと……はかせの家に連れてってくれないかな?」

「ほよ?」

「あたしたちが追ってるやつが、飛行機奪いにはかせのとこに行くかもしれないからさ」

「うん。いいよ!」

 

頷いたアラレに、蓮香はやった! と微笑む。

 

「あたしもそれに乗せてちょ!」

 

そこでアラレが指差したのは、ふわふわと浮かぶ筋斗雲。

 

「これか?」

「うん!」

 

ワクワクとした感じがまっすぐ伝わってくる表情で、アラレが悟空たちを見る。

 

「いいけど、乗れっかなぁ」

「この3人ならきっと乗れるよ。ところで……ごめん、その子たちの名前なんだっけ?」

 

そう言って、蓮香がアラレの横に浮かぶ赤ちゃんたちを指差す。

 

(さっきから記憶を探ってるのに、全く思い出せない!)

 

「ガッちゃんだよ」

「あぁぁっ、そうだった!」

 

すっきりしたぁ、と微笑む蓮香。

悟空は訳がわからず、ますます首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、楽しかった!」

「「クピー!」」

「へへ、すげえだろ!」

「気持ちいいよねー」

 

筋斗雲を十分に楽しんで満足げなアラレとガッちゃんに、悟空と蓮香も嬉しそうに笑う。

 

「あ! あそこにいるのがはかせだよ」

 

アラレの指差す方に立つのは、やや丸い体型の男性と、すらりと美しい金髪の女性。

 

「うわぁ、見覚えがある! ……名前覚えてないけど。——こんにちは!」

「おっす…じゃなくて、こんにちは!」

「はい、こんにちは」

「こんにちは」

「こんにちはでしゅ」

 

明らかに1人分多く返ってきた挨拶に蓮香が上を向くと、

 

「赤ちゃんが空、飛んでる……」

「ターボ君は不思議な力が使えるんだよー」

「へぇ……(2人に子供がいることすら覚えてないわー)」

 

赤ちゃんに驚く蓮香だったが、ハッと目的を思い出してはかせ——則巻千兵衛に声をかけた。

 

「あたしの名前は孫蓮香。こっちは悟空。えっも、はかせ、飛行機って持ってる?」

「飛行機? あぁ、持ってるぞ」

「なら、金髪に青い目の男が飛行機盗みに来なかった?」

 

まだ幼い(見た目は)少女から、遠回しだが犯罪者は来なかったかと尋ねられ、はかせは目を丸くした。

 

「い、いや来てないが」

「そっかぁ。……チッ、読みが外れたかな」

 

可憐で清楚(見た目だけは)な少女が当たり前のように舌を鳴らし、はかせは目を丸くした。

 

「蓮香、どうする?」

「どうしようか……ドラゴンボールを持って逃げたってことは、そんな大怪我はしてないはずだし。空を飛ぶ手段もないから飛行機をもらいに来ると思ったんだけどな」

「なぁ、この村で他に飛行機持ってるやつとかいないか?」

「……隣の町に行けばあるだろうがなぁ」

 

なにぶん田舎なペンギン村のため、飛行機もそうそうない。車はあるが。

 

「あーもうっ。爆弾くれた仕返し(おれい)も早くしたいのに!」

「な、何もんだこの子は……」

 

はかせは驚きを通り越した呆れの眼差しで蓮香を見る。人は見た目によらないというが、本当にその通りだと、改めて実感する。

 

「ちょっと厄介なやつらを敵に回しててねー」

「レッドリボンって奴らなんだけど、おっちゃんたち知ってる?」

「いや……聞いたことないな」

「そもそも世界が違う……同じ作者だけど」

「?」

 

と、その時だった。

 

「ホーッホッホッホ! また会ったわね!」

「「あっ!」」

 

甲高い笑い声をあげて、アラレの頭にナイフを突きつけたのは、おなじみの金髪青目——ブルー将軍だ。

 

「いつのまに……ぐっ」

「また、超能力……」

 

体が痺れたように力が入らず、動くことができなくなる悟空と蓮香。

 

「おいおいどうしたんだ」

「超能力でしゅよ」

「あの人もお友達?」

「さ、さすがはペンギン村だ……」

 

蓮香は状況も忘れて思わず苦笑いを浮かべた。

 

「この飛行機は貰っていくわよ」

 

ブルーはアラレにナイフを突きつけたまま、そばにあった飛行機にドラゴンボールの入ったリュックをのせた。

 

 

ふふっと邪悪に微笑むブルー。

アラレはナイフを突きつけられたながら、まだよくわかっていない顔をしている。

 

「アラレちゃん!」

「ほよ?」

「その人と、思いっきりプロレスごっこをしてあげて」

 

金縛りにあいながらも、ニコッと効果音のつきそうな笑顔の蓮香にアラレは一瞬首を傾げたが——

 

「ほーい! きゃっほーっ」

 

15秒後、ブルーは空の彼方へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

「お、お前すげーなぁ」

「へへへ〜」

「さすが! よかったよ。ありがとね」

「さ、さっきの人、よかったのか?」

「大丈夫だよ、はかせ。あの人あたしたちを殺そうとした人だから」

「「え……っ?」」

 

千兵衛とみどりが驚きで固まったのは軽く横目にスルーして、蓮香はブルーが乗ろうとしていた飛行機を覗き込んだ。

 

「あった! ドラゴンボール!」

「ほんとかっ!」

「レーダーもあるよ……よかった! 壊れてない」

 

やったやったー! とはしゃぐ悟空と蓮香を、ポカーンと眺めるアラレたち。

 

「色々とありがとね。お邪魔しました!」

「い、いやいや。別に大したことはしとらんよ」

「じゃあそろそろ行くか。筋斗雲——っ」

 

悟空の呼び声に応じて、黄色の雲が空が高速で飛んできて2人の前に止まった。

 

「あ、おまえ、今度天下一武道会があったら出場しろよ」

「ほよ?」

「悟空……それは……ね(アラレちゃんが出ると試合にならない気がする)」

 

その状況を想像して乾いた笑いを浮かべる蓮香。

 

「じゃあそろそろ行くな!」

「バイバイ」

「バイチャー!」

 

次のドラゴンボールの場所はここよりずっと西。悟空と蓮香はアラレたちと別れて筋斗雲を飛ばした。

 

悟空と蓮香を乗せて高速で空へ飛び立って行った雲をぽかんと眺めていた千兵衛は、ポツリと一言こぼした。

 

「結局あいつら、なんだったんだ……?」

 



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54.四星球発見!

ようやく8巻に入りました。
評価・感想・お気に入り登録などしてくれた方、本当にありがとうございます!!


「レッド総帥」

 

レッドリボン軍の総本部である、豪華な城にも似た建物。その最上階に近く位置する広い一室で、背の高い黒人の男がもう1人の眼帯赤髪の男に声をかけた。

 

「例のガキ2人は、西に向かっているようです」

「イエロー大佐のところか……」

 

背の高い方の男の名はブラック。レッドリボン軍の参謀である。

そして、眼帯赤髪の背の低い男の名はレッド。世界最悪の軍隊、レッドリボン軍の総帥である。

 

「それにしてもイエローのやつ、ドラゴンボールをすでに見つけているときいたが、それなのにまだ手こずっているのか?」

「はい。依然として、手こずっているようです」

 

表情をあまり変えず、生真面目に返答したブラックの言葉に、レッドは苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。

 

「まったく…どいつもこいつも……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「このあたりだな」

「森の中に落ちてるのかな……。まぁ、海の底にあるよりはマシか」

 

ペンギン村から西へと筋斗雲を飛ばしていた悟空と蓮香は、鬱蒼と続く森の上空で速度を落とした。

 

「この音は……?」

 

そう遠くない位置から聞こえるエンジン音に、蓮香がやや右前方に目を向ける。

そこには空中で停止する小型の飛行機があった。

 

「なんだ、あれ?」

 

悟空も同じ方向に目を向け、呟いた。

そしてそれに被せるように聞こえてきたのは、悲鳴。

 

「たすけて…父上——っ!」

「……?! 筋斗雲、あの飛行機に向かって飛んで!」

 

蓮香の声に反応して筋斗雲がスピードを上げた。

 

「蓮香、あれなんだ?!」

「あの飛行機は……レッドリボン軍!」

 

飛行機に近づいた蓮香は、確信をもって叫んだ。機体の側面にあるR Rの文字は、間違いなくレッドリボン軍を表している。

乗っているのは人型のトラと、幼い子供だ。

先の悲鳴は子供があげたものだろう。

 

「なっ?! おまえらは……」

 

トラがあげる驚いた声には反応せず、蓮香は素早く下を見た。

ほぼ真下の位置に森のひらけた場所があり、そこには大柄な男が1人立っていた。

その手には、オレンジ色に輝く何か——ドラゴンボールがある。

 

「なるほど……そういうことか」

 

子供を人質にして、ドラゴンボールを渡すよう脅迫しているのだろうと蓮香はすぐさま予想し、筋斗雲から飛行機へと飛び乗った。

 

「っ!!」

「こんにちは〜」

 

驚愕するトラに、ニコッと微笑む蓮香。

 

「この……っ」

 

すぐさま銃を構えたトラだったが——

 

「はい、正当防衛成立だね」

 

笑みを深めた蓮香の放った1発のパンチ。それにより、トラは飛行機から投げ出された。

 

「悟空、その子を!」

「あぁ!」

 

悟空は素早く、降下を始めた飛行機から子供を筋斗雲に引っ張った。

それを見た蓮香は、飛行機に乗ったまま片手に気を貯める。

 

「はぁっ」

 

そして跳ね上がり、手にためた気を飛行機へとぶつけた。

飛行機は地に落下する前に爆発し、蓮香と筋斗雲に乗った悟空と子供は地面に足を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「息子を助けてくれてありがとう」

 

息子——ウパを肩に担いだ大柄な男は、穏やかな笑みで悟空と蓮香に礼を言う。

 

「オラたちはレッドリボンのやつをやっつけるついでに助けただけだよ」

「あの飛行機の奴らは何気に因縁のあるやつなんだよね。無事でよかったよ。ところでさ、」

 

蓮香は男の左手に目をやった。正確には、左手に握られている球を、だが。

 

「それ、ドラゴンボールだよね」

「あ!」

 

蓮香の視線をたどって()()を見つけた悟空は、蓮香の言葉を聞いて思わず叫んだ。

 

「ドラゴンボール?」

「うん。ちょっとそれを見せてくれない?」

「お前たちもこの球が欲しいのか…?」

 

訝しげながらも蓮香にドラゴンボールを渡す男。

蓮香はそれを見て——

 

「やっ……た……四星球だよ! 悟空、四星球だ!!」

「ホントだ! じいちゃんの四星球が見つかったぞーーっ!」

 

ついに見つけた祖父の形見に、悟空と蓮香は手を取り合って大興奮する。

 

(面倒なことが特になく見つかってよかった!)

 

蓮香はそう、心の中で一安心する。

闘うことは大好きだし、自分の強さの糧となるならどんな大変な事態も嫌と思わぬ蓮香だが、ここ最近は怒涛のごとくいろいろなことが起こるので流石に疲れていた。

 

——しかしそんな蓮香の胸の内を嘲笑うかのように、知らぬところでは確実に、2人に危険が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……7つ集めるとどんな願いも叶う、か。それで奴らがムキになってこの球を奪おうとしてたのだな」

 

悟空と蓮香の2人から球——ドラゴンボールについて聞き、男は納得したように深く頷いた。

 

「でも、オラたちは何か願いを叶えたくてこれを探してたわけじゃないんだ」

「あたしたちのじいちゃんの形見がこの、四つの星のドラゴンボールなんだよね。見つかって本当に良かった。あいつらに渡さないでいてくれてありがとね」

 

にこりと純粋な笑みを浮かべる蓮香。

男も同じように笑みを返して、いや、と手を振った。

 

「正直ボールを渡すか渡さないかはどうでもよかったのだ。私はこの聖地カリンを守る身であり、その聖地を荒らす奴らを許すわけにはいかなかった」

「それでもボールを守ってくれたことに変わりはないからね。……聖地カリンって何?」

 

笑みを消し、代わりに好奇心を露わにして蓮香が問う。

 

「あの塔を見てくれ」

 

男が、皆の立つすぐそばを指差す。

そこにあるのは、天をも貫く高い塔。

 

(なんか、折れそうで怖いな……)

 

「あの聖なる塔の名はカリン塔。この塔の頂には仙人と呼ばれるお方がいて、自らの力でのぼりつめたものは聖水をいただけるらしい。そしてそれを飲めば、己の力が何倍にもなると言われている。……そして、私の一族は先祖代々、この聖なる塔を守っている番人なのだ」

 

その話に、悟空はぽかんと口を開き、蓮香は目を瞬いた。

 

「力が何倍にもなる聖水かぁ。すっごぉ……」

「おじさんものぼったことあるのか?」

「若い頃に一度挑戦したが、ダメだった」

 

どこか残念そうな声音で言った男に、悟空はほぇーっと声を漏らす。

 

「たっけえもんなぁ。筋斗雲使っちゃダメなのかな」

「ダメだよ、悟空。自らの力でのぼりつめたものにしか聖水は与えられないんでしょ?」

 

それに……と蓮香はニヤリと笑って言葉を続けた。

 

「こんな高い塔、自分でのぼってこそ達成感があるんだよ、きっと!」

 

それも修行の一環でしょ! と顔を輝かせながら蓮香は塔を見上げる。

前世の彼女では考えられない思考だが、今の彼女にとっては強さを得ることが至高の喜びである。

 

(なんだっけ、あの……東京なんとかツリーよりも高いのを自力でのぼるってのと同じだもんね。死ぬほど疲れるのは目に見えてるけど、楽しそうっ)

 

余談だが、彼女は前世(むかし)から高いところが大好きな人間である。

 

「ねぇ悟空。四星球も見つかったし、のぼってみない?」

「そうだな! のぼってみっか!」

 

天気がいいから散歩に行こっか! 程度のノリでカリン塔への挑戦をあっさり口にした少年少女に、男は目を剥く。

 

「……この塔の頂を見たものはまだ誰もいないと言われている。力が何倍にもなる聖水も、ただの迷信かもしれんぞ?」

「別にいいよー。どうせ暇だしね」

 

そのあまりに軽い蓮香の返答に、男とウパは内心の呆れを隠さず黙る。

 

「じゃ、カリン塔、のぼろっか」

「そうだな!」

「「…………」」

 

 

(あ、でもその前になんか食べてから行きたいかも)



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55.世界一の殺し屋、参上

大変間が空いてしまい申し訳ありません。
ただ、最近思っていたよりも忙しく、毎話の更新ペースがこのくらいに落ちると思います。
更新を待っていてくださる方、本当にすみません。


「のぼる前になんか食べといたほうがいい気がするなー」

 

と蓮香が漏らしたつぶやきに、

 

「聞いた話でしかないが、上にいる仙人さまはたどり着いたものに、ありがたいご馳走をくれるらしい」

「「ありがたいご馳走っ?!」」

 

男の言葉にブンと頭をあげる悟空と蓮香。

 

「ほ、本当かどうかはわからないがな」

 

その勢いに気圧されつつも頷く男。

 

「そっかー……余計のぼるのが楽しみになってきた!」

「蓮香、さっそくのぼるぞ!」

「あー、でも待って」

「へ?」

 

予想もしなかった蓮香の「待って」に、悟空がぽかんと口を開ける。

そんな悟空の表情に蓮香は苦笑し、

 

「いや、のぼるはのぼるよ。ただこの塔、何気に細いから2人同時にのぼり始めるのは難しいかも…と思ってさ」

「あ、確かにな……」

「ってことで、悟空が先にのぼり始めちゃっていいよ。多分、こういうバランス力とスピードはあたしの方があると思うし」

「そうだな。じゃあ、オラが先にのぼり始める。先に着いたらちゃんと待っとくな!」

「うん、抜けがけ禁止、だからね?」

 

ニコニコと無邪気に笑い合う2人に、男とその息子、ウパは呆気にとられて黙り込む。

『たどり着かない』や『途中で諦めることになる』という結果は2人の頭にはないのだろうか、と。

 

「じゃあ、体内時計で悟空が出発してから5分…10分……? そんくらいで私も出発するよ」

「そうだな。じゃあオラは行くぞ。

——と……っ」

「「?!」」

 

ピョーンと大ジャンプをして塔にしがみついた悟空。その悟空のジャンプ力に、男とウパが目を剥く。

 

「いってらー」

 

蓮香のどこか気の抜けそうなあいさつを背に、悟空はぴょんぴょんと跳び上がりながら塔をのぼり、あっという間に3人の視界から姿を消した。

 

「な、なんと……」

「すごいや……」

「すごいでしょっ——ん、なんか聞こえる?」

 

ゴ———ッという風を切る重い音がどこからか聞こえ、蓮香は鋭い目をさらに鋭くさせる。

 

「ち、父上! なにかがこっちに飛んでくる!」

 

真っ先に()()に気づいたのはウパだった。

男と蓮香もウパの指差す方へと視線を向ける。

 

「誰か人が乗ってる…………あぶないっ!」

 

何か重い石の筒か何かの上に、派手な桃色の道着のようなものを着た男が立っているのを蓮香は見た。

直後、それが自分たちの方へと突き刺そうと向かってきて、3人は慌てて避ける。

 

(やっぱり道着……拳法をやっている人かな? でも、胸元の数字が『殺』か……物騒だなぁ)

 

可愛らしい桃色に似合わない、赤黒い『殺』の文字に、蓮香は表情を消して警戒する。

 

「だれ?」

 

蓮香の短い問いに、男はニヤリと笑って答えた。

 

「世界一の殺し屋、桃白白……!」

「……殺し屋、だと? 殺し屋がこの聖地に何の用だ」

 

すっと槍を構えて低い声を出す男に、桃白白と名乗る男はさらに邪悪な笑みを深めた。

 

「この地には何の用もない。用があるのはそこの小娘だ。あと1人、ガキがいると思ったが」

「——レッドリボン軍から依頼されたのかなぁ」

 

視線は鋭いまま、小さく口角を上げてみせる蓮香。

 

「頭の回転が早くてたいへん結構。ボール拾いの邪魔をする、お前を殺すのが目的だ」

「……その少女は我が息子を救ってくれた恩人だ。早々に立ち去らないというならば、私が相手になろう」

 

そう言って前に歩みでたのはウパの父親。

 

「いいよ、おじさん。あいつはあたしに用があるって言ってる」

「いや、この聖地を守るのが私の役目だ。任せてくれ。……2人は離れていろ」

 

「はいっ」

「わかった」

 

ウパは慌てて近くの木の陰に身を潜めた。

蓮香は少し後ろへとさがり、桃白白の技量はいかほどかと、2人を見つめる。

 

「ふっふっふ……馬鹿な男がいるものだな。わざわざ死を選ぶとは」

「——さぁ、来い!」

 

長槍を構えた男に、桃白白は不敵な笑みを浮かべた。

 

「では、遠慮なくこちらから行こう」

 

途端——ブンッと桃白白の姿が消えた。

一瞬の後、現れた彼は……

 

「あっ!!」

「は、や……っ」

 

男の前へと回り込み、構える槍を片手でつかんでいた。

そのあまりの速さに、男と蓮香は絶句する。

 

(速すぎる……あたしでも、その姿を完全に捉えることができなかった……!)

 

「ぐ……ぅぬ……!」

「ほれほれどうした? うごかんぞ」

 

筋骨隆々な男が必死で力を入れるも、桃白白に()()()押さえ込まれている槍はビクともしない。

 

「どれ、こちらから動かそうか……」

「…っ……おじさん手を離して! ——あぁっ!」

「わっ!!」

 

蓮香の叫びは間に合わず、男は桃白白によって空へと投げ上げられてしまった。

 

「っ、きんと……」

「槍を返そうか!!」

 

慌てて蓮香が筋斗雲を呼ぼうとするも、桃白白がつかんでいた槍を空に投げる方が早かった。

 

「ぐあぁっ」

 

上空で聞こえたのは、男の苦鳴。

そして沈黙。

重力に従って落ちてきた男の左胸には槍が貫通しており、一目で息絶えていることがわかった。

 

「……ぇ……?」

 

あまりのことに理解が追いつかず、呆然と立ち尽くす蓮香。

 

「ち……父上——っ」

 

ウパが木の陰から飛び出し、叫びながら横たわる男にすがりつく。

 

「お、まえ——っ」

 

蓮香が、髪を逆だたせて桃白白を睨みつけた。

 

「殺すっ」

 

地面を蹴って桃白白の方への猛烈なスピードで蹴りや拳を繰り出す蓮香。

しかし——

 

「ははっ、こんなものかぁっ!」

 

一度も当たらない。

 

「うるっさい!」

 

蓮香は表情をさらにキツくし、大きく跳び上がった。

空中で体をひねり、桃白白の頭を思い切り蹴り飛ばす。

 

「ぐぁっ」

 

初めて攻撃が当たり、初めて桃白白が呻いた。

 

「この、ガキがぁ……!」

 

直後、桃白白が足を振り上げ、蓮香の体を思い切り蹴る。

 

「ぅあ!」

 

蓮香の小柄な体は木の葉のように宙を舞い、カリン塔へと激突する。

しかし蓮香はすぐに立ち上がった——荒く息を吐きながら。

 

(勝てない……今のあたしじゃ。せめて、悟空がいれば……いや、2人いても敵わない。ここは帰ってもらわないと……!)

 

「せめてもの抵抗……してやる」

 

ごくごく小さな声でつぶやいて、蓮香はいつものあの構えをとった、

 

「か…め…は…め……」

「?」

「波——っ」

「!!」

 

青白い光が蓮香の手に生まれ、それはまっすぐ桃白白の方へと向かう。

——しかし、

 

「……おのれ、私の服を……!」

「やば……っ」

「どどん!!」

 

一瞬だった。

こちらに向けた桃白白の指先に光が灯るのが見えた蓮香は、身の危険を最大限に感じ、ほんの僅かに体をひねる。

直後、脇腹に激痛が走り、蓮香の体は大きく飛ばされた。

そして、意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

「蓮香さん!!」

「ウ、パ……?」

 

桃白白が聖地カリンを去ってからほんの1、2分後に蓮香は目を覚ました。

 

「良かった! 死んじゃったんじゃないかって……」

 

涙で顔をぐしゃぐしゃにするウパの頭を、蓮香は優しく撫でる。

 

「とっさに身を捻ったから、掠るだけで済んだみたい……いたっ……」

 

左の脇腹のとこの服が破れ、出血している。身を捻らなかったら腹を貫通させられていただろう。

 

「おじさん、は?」

「父上は……」

 

ウパはその先の言葉を継げなかった。

蓮香も、ピクリとも動かない男の体に、顔を歪めて小さく謝る。

 

「あたしが、もっと強かったら……。あの時、戦いを譲らなかったら……」

 

蓮香も孫悟飯——祖父を亡くしている。

父親を亡くしたウパの気持ちは痛いほどにわかった。

 

「ドラゴンボール……」

「……え?」

「ドラゴンボールは、七つ集めるとどんな願いも叶う。あたしが、あたしと悟空がおじさんを必ず生き返らせてあげる! 約束する!!」

「……!」

 

ぽかんとあっけにとられていたウパだが、すぐに表情を暗くした。

 

「でも、蓮香さんのドラゴンボールが入ったカバン、あの男にとられちゃったよ」

「まだ、悟空の懐に四星球があるよ。……ウパ、よく聞いて。あの男はこの聖地カリンにまた来ると思う。あたしは今からこのカリン塔をのぼって、悟空と上で仙人様のすごい水を飲んでくる。それまでは、姿を潜めて、いないように振舞って」

 

蓮香の真剣な表情に、ウパもコクリと頷いた。

 

「でも……蓮香さん怪我してるのにカリン塔をのぼるなんて……」

「こんなのかすり傷だよ、大丈夫。……何か布をもらえないかな」

「ちょっと待ってて!」

 

 

テントの中からウパが持ってきた布を腹巻のようにして傷に当て、蓮香は不敵な笑みでカリン塔を見上げた。

 

「ウパ、気をつけて待っててね」

「うん。蓮香さんも気をつけて!」

 

 

(桃白白……今日受けた傷、何十倍にして返してやる……!)

 



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