もしかしたらあったかもしれない、そんな未来 (サクサクフェイはや幻想入り)
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プロローグ

聞いてくださいよ皆さん。 オレ、気づいたんすよ、休載したやつを書く方法ってやつです。 馬鹿なんで、時間かかったっすけど。 書くためには違う作品を書けばいい。 それ以外の同じ原作を!

そんなわけで、新しいISです。 今回は前回と違いシリアス路線、出いけたらいいなぁ...... 最初の茶番は割と本気です。 前回と違う毛色の作品を書けば、やる気も起きるんじゃないかと

そんなわけで、始まります




おはよう、こんにちわ、こんばんわ。 どれが正しい挨拶かはわからないが、挨拶は大事だ、そう教えられてきた。 俺の名前は白石黒夜(しらいしくろや)、普通の高校生だ。 いや、この春から高校生になるわけだが。 時計代わりにつけていたテレビを見ると、日本代表がニュースに出ていた

 

「・・・・・・」

 

なんかのインタビューのようだが、俺はそれを見ることなくテレビの電源を切る。 中学も卒業し、高校に行くまでの春休み期間、何時もならゆっくりしているところなのだが、今日は違っていた。 先日、と言っても結構前の話になるのだが、世界で初めて()()ISを起動させたやつがいるらしい。 詳しくニュースも見ていなかったので、そのくらいの情報しかない。 あぁ、知らない人向けにISが何だと言われれば、女性にしか扱えないパワードスーツとでもいうのだろうか。 俺は男のため興味がないが。 男でもよっぽどのロボット好き、あるいはIS好きでしか情報は集めていないと思う。 男にとってISは、どうでもいいものそれか、()()()()()()だと思う。 男尊女卑、平等とうたいながらもどこかそんな風潮があった社会だが、ISの登場によってそれは見事に覆された。 そのおかげで、男性の冤罪の件数は確実に跳ね上がった。 女尊男卑、今の世界はまさしくそれだ。 全世界、全部の国や地域がそうと言うわけではないが、そんな感じだと思う。 かくいう俺も、何度痴漢ややってない窃盗などで捕まりそうになったことか。 そう言う世の中なのだ、今の世の中は。 だから男はISを気にしないどころか、恨みを持つ男が大半なのだ。 別に俺はそんなことはない。 毎日をただ生き、平和とはいいがたいが、退屈な日常を過ごすだけ。 話はそれたが、俺がなぜゆっくりもせずに出かける準備をしているとか言うと、今日ISの調査があるのだ。 簡単な話、一人が起動したのだから他の人間も行けるのではないだろうか? そんな話だ。 一人の男が偶然起動できた、そして他の男も起動できればそれにより男の権利復活を、そんな考えが見え透いていた。 実際、ネットでもそんな感じで騒がれている。 まぁ、いろいろな国や地域で同じような調査をしているのにもかかわらず、結果はゼロみたいだがな。 さて、学校についたわけだが、当然誰かに話しかけることはない。 周りの奴らは久しぶりに会った友達などに声をかけているが、俺にそんなものはいない。 一匹狼を気取っているわけでもなく、ただ単純に人付き合いが面倒なのだ。 ただでさえ、昭和のような瓶の底のような厚い眼鏡に、髪を後ろでまとめるほどに長くなった髪を持つ男に誰がすき好んで話しかけようか。 自分の恰好だが、俺だってそんな人に話しかけるのは嫌だ。 集まっているのが男だけということもあり、雰囲気はいい感じだ。 ここに女子がいれば、小間使いよろしく命令されることが目に見えているしな

 

「さて、これより体育館に移動してISに触れてもらう。 お前ら、絶対にいたずらなどするなよー!」

 

誰が女性の権利の象徴に好き好んでいたずらするんだ...... そんなことを思ったのだが、後で聞いた話によるといたずらしたやつがいたらしい。 なんと命知らずな...... 体育館に移動し、ISに触れて、反応なしが続く。 あるものはホッとし、あるものはがっかりし、あるものは普通通り。 そして

 

「・・・・・・」

 

俺の番がやってきた。 目の前にあるのは打鉄と呼ばれるISらしい。 さっきも言った通り、俺はISに興味がない。 この名前だって、さっき話をしているやつらの会話が耳に入っただけだ。 さっさと終わらせてしまおう、そう思って打鉄に触れる。 瞬間、俺の視界は暗転した

 

--------------------------------------------

 

おーい、起きろー。 俺を呼ぶ声がする。 壁を隔てているような声なのに、響いて聞こえる。 よくわからない声を聴き、俺は目を覚ます。 まず最初に感じたのは痛み。 と言っても物理的に痛いわけではなく、白い空間に慣れないためか目が痛かったのだ。 周りを見回し場所を確認するが、どこまでも白い空間が続いていた。 なんなんだろうか、ここは。 そして、誰かに呼ばれたような気がしたから目を覚ましたのだが、誰もいなかった。 なんなんだ、本当に

 

「お、起きたね」

 

「・・・・・・?」

 

全身が白い少女に、顔を覗き込まれていた。 ()()()()()()()()()なのに、白い少女に見られていたのだ。 しかも超至近距離で。 訳が分からない

 

「初めまして、でいいのかな()()()()さん」

 

「・・・・・・誰の事だ?」

 

「もちろん君のことだよ、白石黒夜」

 

「・・・・・・」

 

白い閃光、かつて俺がやっていたとあるゲーム内でとあるプレイヤーが呼ばれていた二つ名だ。 プレイヤーネームはUnknown。 名無しと言うわけではなく、そのままUnknown。 搭乗機体はネクスト、ホワイトグリント。 ACfaそのままだが、強さは本物だ。 過去にあった世界大会、四回開かれていた大会で二連覇を成し、三連覇も噂されていたゲームのトッププレイヤー。 まぁ、そのゲームも栄光も過去のものだ。 目の前の少女はニコニコしたままだ。 何を言っても無駄、か。 こんなへんてこな世界にもかかわらず、眼鏡はある。 別に度が入っているわけでもないそれを胸ポケットに入れ、少女を見据える

 

「何故知ってるんだ。 あのゲームは、ビルドファイターズはそう言う個人情報は完全に管理されていたはずだが」

 

ビルドファイターズ、それが俺がホワイトグリントを操り、二連覇を成し遂げたゲームの名前だ。 プラモデルを作り、それを特殊な機械に読み込ませることにより、自分が作ったプラモデルを操れるという画期的なゲームだ。 プラモデルはなんでもありで、ガンダムのプラモデルから始まり、アーマードコア、ゾイド、フルメタルパニック、機動戦艦ナデシコ、などいろいろなプラモが登場した。 つわものなんか、トラックから変形とかもいたな。 トランスフォーマーかよ、って当時は思ったものだ。 ともかく、初心者は作ったプラモでバトル。 俺たちのようなって言う言い方は嫌だが、プロになると専用の端末内にプラモの読み込みデータが入っていれば、持ち歩かなくてもバトル可能、なんてことも出来たのだ。 ここまでくればセキュリティー管理も相当なもので、当時出てすぐのISの操縦関連も取り入れていたということもあり、それと相まってセキュリティー管理もシビアだった。 俺ですら、世界二位のヘビーアームズのカスタム機使いの重腕さんの名前も知らないほどだ。 そのはずなのだが、この少女は知っていた

 

「ん? まぁ、ママンの手にかかればそこらへんなんか紙同然だから」

 

「ママン?」

 

「篠ノ之束。 聞いたことくらいはあるでしょ?」

 

篠ノ之束博士、その名を聞いてないものなどほぼいないだろう。 この社会、女尊男卑の風潮を作り上げたISの生みの親だ。 

 

「篠ノ之束博士の娘? そんなもの聞いたこともないが......」

 

「まぁ、娘って私たちが勝手に名乗ってるだけだしね。 とと、話が脱線するところだった。 あんまり時間もないみたいだしね」

 

勝手に名乗ってる? 私たち? 所々に引っ掛かりはあるものの、時間がないというのは本当なのか、なんだか世界自体が揺れている気がする

 

「単刀直入に言うよ? 僕に乗って、またあの頃のように自由に空を飛んでみない?」

 

「なに、を......」

 

いきなり目の前の少女はそんなことを言い始めたのだった




ちょいと設定を

ビルドファイターズ
言わずと知れた、ガンダムビルドファイターズのパクリです。 ただ、操作系にISの技術を使っているため、IS乗りが操作しても練習になる一品。 本編出気に入らなかったガンプラを使ってと言う設定はそのままですが、専用の端末さえあればガンプラも壊す心配なしです。 後ガンプラだけだと少し足りないので、プラモにしました。 少し矛盾点もあるけど見逃してねっ☆

そのほか、意見がある方は感想の方にでも


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プロローグⅡ

少女の言っている意味が分からず、俺が聞き返すと意外そうな顔をする少女

 

「うん?だからIS()に乗って、ビルドファイターズの時のように自由に空を飛び回らないかいって言ったんだよ」

 

「ビルドファイターズはゲームの話で......」

 

「でも操縦なんかはISをもとにしてるから、楽勝と思うよ?」

 

そう、アレはゲームの話だ。 急加速や急停止などをしてもGがかかることはない。 いくらISと言えど、Gを完全に殺すことなどはできない。 ましてや、ネクストなど普通の人間がその機動をISでやろうものなら、機体、操縦者両方とも廃人確定になる。 だがこの少女は、それをわかったうえで話しかけてきているのだ。 ある意味恐ろしい...... だが、それが分かっていても俺は、何処か惹かれていた。 またあの時のように、自由に空を翔け回る。 しかも、ゲームでは味わえなかった本物の風や空を

 

「僕は君の試合を見て育ったからね、だから君が望むなら君の翼になるよ」

 

「・・・・・・・いやいやいや、ちょっと待った。 なんだ、試合を見て育ったって」

 

「だってママンがはまっててさ。 ちょうど僕が開発中の時期だったからさ、試合ずっと見てたんだ。 君はバトルを楽しんでた、だから僕も興味がわいたんだ、君が見て、感じて、楽しんだものを知りたいって」

 

「・・・・・・」

 

これは意外な事実だ。 あの篠ノ之束博士が、パクリともいえるビルドファイターズにはまっていたなんて。 ともかく、言いたいことは分かった。 あの時、ビルドファイターズをやっていた時、確かに楽しかった。 その熱狂を、もう一度取り戻せるなら...... 俺は無意識のうちに、白い少女の手を取っていた。 少女は最初は驚いたようだが、徐々に笑顔になっていく

 

「僕の手を取ったということは」

 

「あぁ、これからよろしく頼む」

 

「やったー!」

 

子供のようにぴょんぴょん跳ねて喜ぶ少女に苦笑しつつ、大事なことを聞く

 

「そう言えば名前聞いてないんだが」

 

「ん、名前? 僕に名前はないよ? しいて言うなら、コアナンバーくらいだけど」

 

「そうなのか?」

 

「うん。 完成すると同時に、ママンにIS学園においていかれたわけだし」

 

「・・・・・・」

 

なるほどね。 俺が納得していると、何故か白い少女が俺の服の裾を引っ張る

 

「どうした?」

 

「名前。 せっかくだから君がつけてよ!」

 

「・・・・・・」

 

これまた、ヘビーな問題が。 名前を付けてくれと簡単に言うが、そんなもの簡単に思いつくはずもなく、俺は途方に暮れる。 周りを見ても真っ白だし、少女も白い。 まぁこうなれば、安直だが

 

「白」

 

「うん?」

 

「お前の名前だよ、白」

 

「白、白...... うん、そっか!僕は白!えへへ~」

 

嬉しそうにはにかんだと思ったら、そこらじゅうを走り回る白。 落ち着きがないと苦笑するが、そろそろ限界だった。 揺れが大きくなりすぎて、立っているのもやっとだ。 そんなこと関係ないと言わんばかりに、白は走り回っているが

 

「おい白、そろそろ」

 

「あー、そうだった!もうそろそろ限界だし、今日はここまでかな」

 

「やっぱり」

 

段々と意識が遠くなり始める

 

「今回はちょっと間借りさせてもらっただけだから。 学園で待ってるねー、黒夜!」

 

「あー、まぁ分かった。 それと最後に------」

 

最後の言葉が届いたかわからないが、視界が暗転する。 そして目を覚ませば。 呆然とする職員と、打鉄を装着した俺の姿だった

 

--------------------------------------------

 

こうして、俺の新しい生活が幕を開けた。 と言っても、元々俺は一人暮らし。 必要な荷物を持ち、すぐにIS学園に保護された。 流石にすぐにIS学園と行かず、数日はホテル暮らしだった。 護衛の人も、女ではなく男の人。 まぁ、呆然とした女職員もすぐに俺のことを捕えようとしていたくらいだったから、そこらへん配慮してくれたんだと思う。 そして、俺の事はニュースに流れていない。 いや、一瞬だけ流れてすぐに消えた。 大体の想像はつく。 女性利権団体だろう。 女尊男卑の過激派とでもいうのだろうか。 噂によると、国際IS委員会とかともパイプを持っているらしいし。 ともかく、これは護衛の人から教えてもらったことだが、俺はいろいろと危ないらしい。 最初の操縦者、織斑一夏は後ろ盾があるからいいのだが、俺にはそこらへんはない。 いや、過去の知り合いに当たればないことはないが。 普段から密に連絡を取っているわけではないし、こんな時だけ利用するのもおかしな話だと思うから。 話しはずれたが、俺には後ろ盾はない。 俺が孤児院育ちと言うのが主な理由だ。 対して織斑一夏は、ブリュンヒルデと言う大きな後ろ盾がある。 ブリュンヒルデと言うのはモンドグロッゾ、ISでいうオリンピックのようなものの事だがその優勝者に与えられる称号らしい。 それにそのブリュンヒルデ、女性利権団体にご神体なようなものとして奉られている。 もちろん、ISの生みの親、篠ノ之束博士もだが。 ともかく、その弟と言うこともあり、唯一の例外として認められた織斑一夏。 なら俺は? もちろん邪魔ものということだ。 護衛の人達も色々大変らしい。 お疲れ様です。 さて、今日なのだが、一応ホテルの軟禁から解放される。 行き先? もちろん

 

「君が白石黒夜か?」

 

「はい、そう言う貴女は?」

 

「IS学園の教師で、今日の君の試験官でもある織斑千冬だ」

 

一応筆記試験はホテルで受け合格、次に実技試験ということでIS学園を訪れていた。 最初からラスボス級の人が試験官ということだが、俺は大丈夫なのだろうか? 織斑先生に案内されながらIS学園を歩く

 

「今回の試験だが、私とISで戦ってもらう」

 

「・・・・・・初心者なんですが?」

 

「何も勝てと言っているわけじゃない。 実力を示せと言っているんだ」

 

それって同じことでは? そう思ったが、口に出さないでおいた。 ここで何か言って先方を怒らせることはないし、いろいろと面倒なことはしたくない。 ところで

 

「試験て聞いてますけど、ISの方は」

 

「む、そうだったな。 これが君のISだ」

 

そう言って渡されたISの待機状態でもあるネックレスをとれば

 

『やっほー、久しぶりだね黒夜』

 

『白か』

 

どうやら他の人には聞こえないようで、織斑先生は先に行ってしまっていた。 俺はそれを追いかけつつ、白と話す

 

『それで、この()はどういうことだ?』

 

『ん? 気に入らなかった?』

 

織斑先生から渡されたネックレス、その色は白だった

 

『あの時言ったはずだ。 白い閃光の名は譲った、と』

 



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第一話 初戦からラスボス級

あざとい!のほほんさんあざとい!アーキータイプブレイカー、今日の限定の本音シナリオあざとすぎ!!でも大好き、お菓子あげちゃう!

キモイこと言ってますが、気にしないでくださいね~


『メインシステム、通常モードで起動~』

 

『いや、あってるけど間違ってる......』

 

初戦前だというのに白の能天気な声を聞きながら、内心ため息をつく。 ISを普通に学内で展開すれば、校則違反で反省書や停学、最悪退学なんかもあり得る。 では練習するところは? と思うだろうが、アリーナと呼ばれる場所で練習ができるらしい。 詳しくは説明されなかったが、ISの操作を練習するところ。 そう覚えることにした。 まぁ、入学もしていないからな、説明されなくても問題ない。 アリーナのカタパルト、その上に立つ。 あぁ、懐かしい感覚だ。 あの、ビルドファイターズの時、毎回カタパルトから発進していた

 

『発進のタイミングは黒夜に譲渡したよ、いつでも行ける』

 

『そうか......』

 

まぁそうだな...... 目を閉じ、精神を集中する。 久しぶりの戦闘だ。 現役から離れて久しいし、それに今回は生の感触を感じる。 目を開け、目の前を見る。 ハイパーセンサーで強化された視界越しに、目の前を見据える

 

「それじゃあ行こうか。 白石黒夜、打鉄出る!・・・・・・なんてな」

 

『with白、発進!』

 

カタパルトの電圧が上がり、体が押し出される感覚がする。 そうか、これが機体を動かすということか。 初めての感覚に感動しながら、ブーストを点火する。 特に苦の感覚はせず、俺は空を飛ぶ

 

『どう、自分で初めて飛んだ感覚は?』

 

『悪くない。 あぁ、悪くない感覚だ』

 

少し興奮を覚えるが、そこはそれ。 下を見れば、打鉄を装備しこちらを見上げる織斑先生。 試験だし、下手に女性を待たせるわけにはいかない。 俺はブーストを調整し、そのまま織斑先生の前にゆっくりと降りる

 

「驚いたな、まさか初飛行で飛ぶとは。 それに、滑らかに飛んでいた。 何者なんだ、お前は」

 

『白い閃光だよ!』

 

聞こえるはずもないが、俺の代わりに応える白。 あぁ、ちょっと黙っててほしい。 味方のはずの白にちょっと頭が痛くなる思いをしながら、織斑先生の質問に答える

 

「普通の一般人ですよ。 時間がもったいないですし、始めましょう」

 

ISには武器を量子化させて保存できる特殊なデータ領域があり、その特殊な領域は拡張領域と呼ばれる。 そこから量子変換された武器を呼び出し、または収納することができるので基本ISは武器を持つ必要がない。 固定装備やらはあるが、基本的には武器は呼び出して使うのが一般的だ。 俺は拡張領域から打鉄の標準装備である、焔火を取り出し両手に構える。 まぁ俺の、現役時代の基本スタイルだ。 それに織斑先生は驚くも、近接ブレードの葵を展開することで応える

 

『それでは...... 始め!』

 

アリーナのスピーカーから女の人の声が聞こえたが、気にせずに俺は引き打ちに徹する。 スピードに差はないが、織斑先生は手加減しているのか、それともブレード一本しか必要ないのか、追加で展開する様子はない。 なら引き打ちを、そう思って距離を空けるが、一瞬で詰められる

 

『イグニッションブーストだ!』

 

「最初から逃げるとは、感心せんな!!」

 

「戦術、と言って下さい」

 

白が何か言っていたが、気にすることなく織斑先生に対応する。 ()()()()()()()()()で接近されたところで、恐れるにたらない。 それに動きを見れば直線だしな、見切りやすい。 上段から振り下ろしてきたブレードを半身ずらすことで避け、蹴りをいれて距離を空ける。 それにしても、遅い

 

『あのあの!』

 

『なんだよ白』

 

『遅いと思ってるみたいだけど、ACと比べられたらISなんてどれも遅いよ!』

 

大事なことを忘れていた。 俺が乗っているのはISであり、ビルドファイターズの愛機ホワイトグリントではない。 遅いのは当たり前だし、反応が悪いのも当たり前だ。 それは理解したが

 

『・・・・・・ブースト速度と反応速度だけでもなんとかならないか』

 

『うーん、ブーストはリミッターを外せば何とかなるけど、反応速度はこれで最大だよ!』

 

何故か楽しそうな白だが、それって俺からしたら割と絶望的なんだけど。 今も織斑先生に攻撃しようとライフルの引き金を引くが、俺の命令よりわずかに遅いため避けられる。 まぁ、ビルドファイターズの時は専用で調整してたし、仕方ないと言えば仕方ない。 それよりブーストが何とかなるって話だが

 

『ブーストの方はリミッターを外すせば何とかなるけど、エネルギーを大幅に消費するし、何より長い時間使えばブースト自体が焼き焦げて動かなくなるよ!』

 

『リミッター外せばって、もしかしてこれが通常の時の最高速か?』

 

『もちろん!さっきのイグニッションブーストを除けば、だけど』

 

『あのQB(クイックブースト)もどきか』

 

織斑先生の攻撃を避けながら、白と会話する。 それにしても、もう弾切れしそうだな焔火。 右手はフルオートで常に撃ちまくっているからあれだが、弾の消費が激しい。 感覚が鈍っていることを抜きにしても、あまりにも当たらない。 織斑先生の動きが上手いのもあるが、やはり反応速度の差か。 またもイグニッションブーストで迫ってきた織斑先生の葵を避け、蹴りをいれて距離を離そうとする。 だが、織斑先生は予想済みだったのか、後ろに飛ぶことで衝撃を殺し、すぐに向かってくる。 まぁ、そんなのはどうでもいいんですがね。 俺は右手の焔火を投げ、左手の焔火で狙い撃ち爆発させる。 向かってきていた織斑先生の目の前で爆発したが、ISには絶対防御があるので大丈夫だろう。 白の試算でも、あの程度の爆発で絶対防御が貫通されることもないと言ってたし。 それと、もう一つ忘れていた。 打鉄には肩部のミサイルが付いていないことに。 あぁ、それにしても弾切れ間近ではあったが、武装を一つ失ってしまった。 後あるのは、今左手で使っている焔火と、近接ブレード葵が一本。 ブレオンで戦えってか。 煙が晴れ、織斑先生の姿が現れる。 装甲がところどころ煤けているが、問題ないみたいだ。 俺が動かなかった理由は、織斑先生が動かなかったというのもある。 それに武装も、碌なのないしね

 

「お前は、本当にISに触れてまもないのか?」

 

織斑先生が睨みつけるように言ってくるが

 

「本当ですよ。 I()S()()()()()()()、まもないです」

 

『まぁ、ISにはね』

 

どうやら、ビルドファイターズの時データは学園には提出されていないようだ。 まぁ、世間一般的にビルドファイターズの時データが出回ることはないけどな。 それでもなお疑いの眼差しを向けてくる織斑先生に、面倒くさくなる。 早く終わらせて帰るか

 

『白、ブーストリミッター解除』

 

『りょうか~い!見せてみて、この機体での君の本気!』

 

白に言われるまでもなく、俺は眼鏡をとって右手に葵を展開する

 

「ほう、眼鏡をとったほうがモテそうだが、お前」

 

「顔の美醜なんかどうでもいいですよ。 見てくれしか見ない人にも興味はないですし。 おしゃべりはここまでです、()()()行きますよ」

 

腰を少し低くし、いつでも突撃できるような体制にしておく。 織斑先生は織斑先生で俺の雰囲気が変わったのが分かったのか、油断なくブレードを構える。 やっぱりこの人も本気ではなかったようだ。 今は見ればわかるが、どうやら本気のようだ。 別にバトルジャンキーと言うわけではないが、長く戦っていなかったせいか、何処か燃えるものがある

 

『それじゃあ、第二ラウンド開始と行こうか!行くぞ白!』

 

『了解!』

 

白に声をかけ、宣言しながら織斑先生に向かってブーストをさらに吹かした



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第二話 初戦からラスボス級 Ⅱ

リミッターを解除し、シールドエネルギーまで速度に変換しているブーストは先ほどまでとは違い、格段に速い。 そして、体にかかる圧力も

 

「っ!」

 

『感じたみたいだけど、体にまで負荷がかかるって相当だからね。 もちろん、機体にも相応の負荷はかかってるよ』

 

『お前は、それでいいのか?』

 

『僕はコアだからね。 機体に負荷がかかろうとも、コアにかからなければ大丈夫だし』

 

『そうか......』

 

白自身特に思っていないようだが、そこまで考えて白は俺に提案してくれたのだ。 元々負けるつもりはなかったが、なおさら負けられなくなった

 

『早い早い!』

 

さらにスピードを早くすれば、圧力はさらにかかるがようやく満足のいくスピードになる。 織斑先生は早すぎる接近に驚いているようだが、そこは流石教師と言うべきか、すぐに立て直しこちらに向かってブレードを振るってくる。 俺はそれを避けることはせず、受け止める。 だが、スピードはこちらが上だ。 逆に織斑先生の方が受け止めきれずに、体勢を崩す。 俺はそれを見逃さず、蹴りをいれて吹き飛ばす。 今のは対応できずに、蹴り飛ばされる織斑先生。 その飛ばされている織斑先生を追いかけながら、焔火を撃ち込む。 相応のダメージを受けたはずだが、体勢を立て直し再度ブレードを振るってくる。 俺は今度はブーストを逆噴射し、速度をゼロにすることで空振りさせる。 直ぐにブーストを戻し、勢いの乗ったブレードの一撃をたたき込む。 そこからは超インファイトで、織斑先生とブレード対決である。 それがブーストにものを言わせ後ろをとるが、反応してくる織斑先生。 だが、織斑先生もどこか動きが悪く攻撃を食らう。 俺のエネルギーは五割、織斑先生は白が計算した結果だと三割を切ったところだ。 織斑先生の動きは止まり、俺も機体の冷却のためそれに合わせる

 

「ここまで追いつめられるとは、な。 専用機があれば、何ていうのは言い訳か」

 

「どうでもいいですよ、そんなの」

 

織斑先生と会話をしつつ、機体の状況をチェックする。 スラスター関連は、もう数回使えば完全に使い物にならなくなるところまで来ていた。 機体自体も負荷をかけているせいか、各部の数値が異常を示していた。 まぁ、今回の戦闘が持てばいい。 どうせ入学まで時間はあるし、入学しても使わせてもらえるかわからないからな

 

「それで、お前は何者なんだ? いい加減答えてもらおうか」

 

「そんな質問は意味を成しません。 これで、最後です」

 

会話を打ち切り、腰を低くする。 織斑先生も構え、そして。 今回始めに動いたのは織斑先生で、イグニッションブーストで接近をしてくる。 それに対し、俺は引き打ちをするが元々被弾覚悟なのか、そのまま真っ向から向かってくる。 らちが明かないし、それに焔火の弾もない。 俺はブレードを投擲して、織斑先生の足を止めさせることを成功する。 上に弾かれたブレードは上空でくるくると回転している。 俺は焔火を投げる

 

「二度も同じ手が!」

 

焔火を斬ったことにより、煙が発生する。 俺はその隙にイグニッションブーストを発動し、剣をとると同時に()()()()方向転換。 機体や体が悲鳴を上げるが、それを無視してイグニッションブーストが切れたところで間髪入れず二回目のイグニッションブーストを発動。 織斑先生は俺の姿に気が付いたようだが、直撃コースだ。 流石に脳天はまずすぎるので、避けても触れるか触れないかのところを狙っているが

 

『そこまで!』

 

ここでは聞こえるはずのない男の人の声が聞こえたが、そんな急に止められるわけがないだろ!さっき無茶をしたせいで、スラスターはいくつか逝っている。 今更完璧な姿勢制御はできないし...... 俺は持っている剣を無理やり投げ捨て、地面に着地する。 ごく小規模なクレーターができたが問題ないだろ

 

「さて、説明を要求します。 織斑先生」

 

俺は眼鏡をかけながら織斑先生に言うが、織斑先生の顔も不満気だ

 

「私にもわからん。 とりあえず管制室に行くぞ、ついてこい」

 

織斑先生はISを解除し、さっさと歩き始める。 俺もISを解除し、歩き始める。 管制室に着くと、眼鏡をかけた女性と背の小さい女性、それと用務員のような恰好をした人がいた

 

「それで、これはどういうことでしょうか轡木()()()

 

「すみません織斑先生。 ですが、実力を測る試験にはやりすぎだと思いまして、止めさせていただきました」

 

背の小さい女性に話しかける織斑先生。 というか今、学園長って言ったか? なぜか違和感を感じる。 学園長と言うのなら...... そう思い、俺は柔和な笑みを浮かべている用務員の人を見る。 まぁ、どうでもいいことか。 俺が見ていることを気が付いたのか、こちらを見る用務員さんを尻目に、俺を視線を戻す。 学園長と呼ばれた女性と話している織斑先生を見つつ、モニターを見る。 そこにはさっきの試合が映し出されていた。 なるほど、さっきのは記録されていたと。 まぁ、些末なことか

 

「それでは白石黒夜君、ついてきてください」

 

「はい?」

 

なぜか俺が呼ばれていた。 話を聞いていなかった俺も悪いのだが、いきなり何ぞ?

 

「えぇーっと、聞いていなかったみたいなので説明しますと...... 学園長が話したいと言うことなので、ついてきてほしいってことなんですぅ......」

 

眼鏡をかけた女性が説明してくるのだが、俺が見た瞬間から何故か言葉がしりすぼみになっていく。 気持ち悪いとか、不気味と言われてことはあるが、何故か怖がられていた。 えぇー...... なんでさ...... ひそかにショックを受けつつ、説明してくれたメガネの女性にお礼を言い、学園長について部屋を出る。 その際、用務員のような恰好をした人も付いてきているが...... しばらく歩き、用務員室に通される。 なぜか来客用の高級そうなソファーに座らされたが、深くはつっこまないでおこう

 

「今回貴方を呼んだのは他でもありません、あの試合についてです」

 

「あー、貸し出されているISをボロボロにしたからでしょうか?」

 

なんか白自身、他の人では起動できないようにしたとか言っていたが、一応俺の機体ではないのだ、そこら辺の話しかと思ったのだが

 

「それについては直せばいいですから、気にしないでください。 それに、そのISは貴方が入学したら正式に専用機になりますから」

 

やはりと言うか、なんというか。 俺以外に起動できなくなったせいか、俺の専用機になるようだ。 まぁ、気心知れたやつだから嬉しいは嬉しいのだが。 それにしても、さっきからニコニコしたままいとことも発さない用務員の人の方が気になる。 話していて思うのだが、やっぱり

 

「さて本題に入りますが......」

 

「その前に一つ、いいでしょうか?」

 

「はい」

 

本題に入る前に、一つだけはっきりさせておかなければならない

 

「貴女は本当に学園長なんですか? 失礼は承知の上での発言ですが、そちらの用務員の恰好をした方のほうがよっぽど......」

 

「・・・・・・理由をお聞きしても?」

 

はじめて喋る用務員さんだが、やっぱり予想した通りだった

 

「昔、それなりに偉い人と会う機会がありまして。 その時にオーラと言うか雰囲気というか、そんなようなものを読むのが上手くなりましてね。 もちろん貴方が学園長にふさわしくない、そう言っているわけじゃありませんが」

 

顔を見合わせ頷く学園長と用務員さん。 だが、それもすぐに終わりを告げ

 

「まずは失礼を謝らせてください、すみませんでしたプレイヤーネームUnknown。 いや、白い閃光」

 



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第三話 過去の真実

そう言えば、前回書き忘れてましたが、主人公最初の試練だったでござるの巻。 もし主人公が試験で負けていれば、研究所送りでした。 逆に勝てば、それはそれで面倒なことに


「・・・・・・」

 

またもや出てきた俺の過去の二つ名にいい加減飽き飽きしながら、沈黙を保つ。 そんな俺の内心を知ってか知らずか、用務員さんはニコニコしていた。 その沈黙も数分も続けば、流石にため息をつきたくなる

 

「はぁ...... 俺の質問に答えてもらっていないのですが」

 

「おや? 何故私が、あのビルドファイターズのセキュリティ上知らないはずのことを知ってるか、気にならないのですか?」

 

「その二つ名は過去の話です。 それに、白い閃光は譲りましたしね」

 

「日本代表に、ですか? それこそ、私たちが認めません。 私たち、運営側がね」

 

にこやかに笑う用務員さんだが、その瞳は笑っていない。 存外に、今の日本代表が白い閃光にふさわしくない、そう言っていた。 そんなこと俺に言われても困るし、最早譲ったものだ、その後どう使おうがその人の勝手だ。 ・・・・・・無責任ではあるが

 

「・・・・・・俺にどうしろと?」

 

「別に白い閃光に戻れ、そう言っているわけではありません。 もはやあのゲームは過去のもの、時間は巻き戻りませんから......」

 

そう言う用務員さんの顔は悲しそうで、この人もまた運営として情熱を燃やしていたのだろうとわかった。 今も、あのシミュレーターどこかで使われていると噂はされているが、詳細は不明。 しかも、最後の世界大会で起こった暴走によって未来永劫、世に出ることはなくなったのだ

 

「でしたら、なおさら俺にどうしてほしいんですか?」

 

「今の日本代表を、白い閃光の名を騙る偽物をどうにかしてほしい、それだけです。 あのゲームを世に出れなくした者たちの手駒が、あの名前をあの機体を乗るのは生みの親として我慢ができませんからね」

 

「はい?」

 

なんか怒りに任せてとんでもないようなことを聞いた気がする。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 生みの親? まさか

 

「まさか、貴方が? 貴方が、あのゲームの生みの親?」

 

「ふふふ、お喋りが過ぎましたね。 ですが、貴方には知る権利がある。 世界二連覇を成し遂げ、三連覇確実と言われていたプレイヤーネームUnknown。 白い閃光」

 

「・・・・・・」

 

それから語られた真実は、ネットの中で予想された真実の一つだった。 ビルドファイターズ世界大会決勝、その最中に起きた暴走事故。 会場の全隔壁はロックされ、脱出不可能。 大会運営するための巨大ジェネレーターの暴走により、爆発寸前までなった。 それを止めたのは、俺ことプレイヤーネームUnknownと戦っていた重腕さん。 そして、外部から何とかアクセスできた世界大会出場者数名だ。 その裏側のはなし。 元々、ビルドファイターズはISの操縦関連の技術を使っているため、賛否両論であった。 もちろん賛成派は男が中心だった。 ヒーロー好きや、そんなことも気にしない女性たちも賛成派だったが。 そして反対派はISの登場により発足した女性利権団体。 その中でも、過激派と言われる奴らがひどかった。 女性優位の法案は当時なかったものの、強引な手法、時には犯罪まがいのことまでして強引に事を進めた。 まぁ、これもあったからこそ、ビルドファイターズは異常とまで言われるセキュリティをかすことになったのだが。 ともかく、最初のころは女性利権団体もおとなしくしていた。 当時はISも出始めということもあり、多くの代表候補生がシミュレーターで練習していたからだ。 一回大会の優勝者は、もちろん代表候補生だった。 だが二回目からは俺が優勝し、少し騒がしくなる。 どこからか情報が漏れたのか、優勝者が男ということで騒ぎ始める女性利権団体。 それに伴い、セキュリティも強化された。 そして第三回大会も俺が優勝、そこからだ女性利権団体の活動が活発になり、時には店のシミュレーターが破壊されたりもした。 そして三回大会、予想していた通り女性利権団体がクラッキングを仕掛け、システムは掌握され、世界大会は台無しになった。 女性利権団体の狙い通り、暴走を起こしたビルドファイターズは消え失せた、そう言うわけだ

 

「あの時はすみませんでした。 運営者として、生みの親としてビルドファイターズを維持できなくて......」

 

「・・・・・・」

 

目の前の用務員さんは本気で頭を下げていた。 こんな若輩者の俺に向かって。 それだけ彼はビルドファイターズを愛していた、ということなのだろう。 実際、当時アンケートなどをマメに行い、その都度アップデートや修正を繰り返していた。 それだけ運営がやる気を見せ盛り上げていたのだ、プレイヤー側もかなり盛り上がっていた。 だから、とても悔しかったと思う。 あんなことで、やめなければならなかったことが。 実際、資金面での援助やあのクラッキングの捜査などは有志で行われていたらしい。 そして、危険面の撤廃はあともう少しだと聞いていた。 まぁ、用務員さんに聞いた話ではそれすらも女性利権団体は横やりを入れてきたようだが。 俺が黙っている間、ずっと頭を下げ続ける用務員さん

 

「・・・・・・顔を上げてください」

 

「・・・・・・」

 

無言で顔を上げる用務員さんに構わず、俺は続ける

 

「別に、貴方の事は恨んでいません。 こんな言い方はしたくないですが、仕方なかったですから。 クラッキングがあって、安全面で確かに問題は出た。 だからって未来永劫、危険だから開発も改良もダメというのは納得いきませんが。 ですから、そんなに気に病まないでください。 女性利権団体は確かに恨めしい気持ちになりますが...... 俺は、貴方にお礼が言いたいくらいですよ。 貴方のおかげで素敵な人たちに出会えた、素晴らしい時間が過ごせた。 チームの皆さんは優しかったですし、素晴らしい人たちだった。 だから、そんな人たちに会わせてくれて、素晴らしい時間をありがとうございました。 これが、俺の本心です」

 

そう言って頭を下げる。 しばらく頭を下げるが、返事も何もないことを不思議に思い、顔を上げてみると用務員さんが泣いていた。 それを学園長は隣で支えていた。 俺はそれを見ないようにしながら、お茶を飲む。 しばらくすると、ようやく声をかけられた

 

「すみません、年甲斐もなく」

 

「いえ、別に......」

 

「さて、自己紹介が遅れました。 こんな世の中ですからね、男が学園長なんかをやっていればいろいろとやっかみも受けます。 なので、妻にやってもらってますが、学園長の轡木 十蔵(くつわぎじゅうぞう)です」

 

「知っていると思いますが、元白い閃光、プレイヤーネームUnknownこと、白石黒夜です」

 

俺の自己紹介に苦笑していたが、顔を真剣なものに戻す学園長

 

「さて、そろそろ本題に入りましょう。 何度も言いますが、今の日本代表、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を倒してください」

 

「日本代表を、俺が、ですか?」

 

「貴方になら出来るはずだ」

 

真剣な目で言われる。 正直言って、勝てるかどうかなんてわからない。 俺はI()S()()()()()()()はそんなに多くない。 それに、アイツ()に教えていた時以上の実力をつけているなら、ブランクが長い俺は不利どころの話ではない。 そして機体も......

 

「・・・・・・」

 

俺が口を閉ざしていると、学園長の電話が鳴る。 俺の断りを得て電話に出る学園長。 俺はどうするか迷いながらお茶を飲んでいると、電話が終わったようだ

 

「貴方に会わせたい人とモノがあります」

 

その言葉を受け、俺は学園長と共に学園長室の隠し部屋から地下に降りる。 そして、薄暗い通路を抜け俺の目の前に現れたのは

 

「・・・・・・」

 

「貴方は...... それにその機体......」



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第四話 ホワイトグリント

そこに居たのは、俺の現役時代チームラインアークのメンバーの一人の有澤さんだった。 ゲームACfaに登場する有澤重工を、現実で会社として作った人だ。 それに関しては笑ったが、会社としては超が付くほど優良企業らしい。 IS関連の武器も作ってはいるようだが、原作リスペクトかグレネード系しか作っていないためあまり人気がない。 まぁ、車両の頑丈さ、炸薬の優秀さで有名な企業でもある。 有澤さん自体もプレイヤーの一人ではあったが、俺と出会って引退。 それ以後は、プラモの武器を作るのに会社の人を貸してくれたり、宴会をやったり...... 無口な人ではあったが、一緒に居て退屈するような人ではなかった

 

「久しぶりだな。 大きくなった」

 

最後にあった時と同じ大きい手で握手を求めてくる有澤さん。 俺も懐かしくなり、握手をする

 

「お久しぶりです。 こうして会うのは、数年ぶりでしょうか」

 

無言で頷く有澤さんに、変わらないなと思った。 だが、有澤さんも忙しい人だ。 用件は何なのか聞くために学園長の方を向くと、ある方向を指し示される。 それは俺が見ないようにしていた方向で、そして懐かしい機体がある方向だ

 

「ネクスト、ホワイトグリント。 流石にPA(プライマルアーマー)の完全再現はできなかったが、それでも莫大なシールドエネルギーを消費することで展開は可能だ」

 

「・・・・・・」

 

『凄い、凄い!ホワイトグリント、君の機体だったんだよね!』

 

興奮している白は置いておいて、こんな機体どこから...... 見た感じ、塗装やデザイン等も俺のオリジナルのもののようだ。 いくら生みの親でデータをとっておいてあると言っても、この再現率は少し違和感を覚える。 そして、一番の問題がPAを展開可能というところだ。 機体そのもののシールドエネルギーを消費すると言っても、すぐガス欠になりそうだが、そこらへんはどうなのだろうか?

 

「PAを展開することで莫大なシールドエネルギーを消費する、ということでしたがそんなことをすればすぐにガス欠になるのでは?」

 

「そこについては問題はない。 アスピナの変態どもや、オーメルなども手を加えてはいるが有澤重工が責任をもって監修したからな」

 

すごく安心できない。 思わず真顔になってしまったが、安心できる要素が一つもない。 ゲームの中のようにアクアビット社やトーラスのような変態技術社がいないが、有澤重工(アナタ)のところも十分変態企業だからだ。 何故かプラモのパーツを作ってて、ライフルを発注したはずなのに、グレネードランチャーになっていたりしたのはざらだ。 本当に大丈夫なのかと思い学園長を見れば

 

「大丈夫ですよ、私も見ていましたから」

 

苦笑していた。 あー、多分かなり苦労したんだろう。 どこの変態技術者も、脱線するととことん脱線したままだから。 俺も、いろいろ苦労した。 俺の反応速度向上も、ほぼアスピナの悪ふざけの結果だ。 まぁ、そのおかげで異常ともいえる弾幕から逃げたり、撃ち落としたりしているのだが

 

「いろいろ脱線しましたが、貴方にホワイトグリント(これ)を受け取ってほしい。 これは、貴方のチーム、ラインアークに所属していた皆さんの願いでもあります」

 

「皆さんの?」

 

「私たちは大なり小なり、君に申し訳なく思っていた。 大人の私たちが何もできず、君たち少年少女の夢を奪ってしまったことを」

 

有澤さんも忙しい中、電話をかけてきてくれたことがあった。 それはラインアークの人達もだ。 責任を感じているのも知っていたし、別に俺はみんなに感謝こそすれど、恨み言などなかった。 そして、ラインアーク(みんな)がここまでお膳立てしてくれているのだ。 俺はかつての相棒でもあり、これから相棒となるホワイトグリントに触れる。 その時に、白の本体でもあるネックレスを手に触れる

 

『わぁ...... すごい......』

 

『当たり前だ。 ラインアーク(みんな)の思いが詰まっているんだからな』

 

瞳を閉じ、ホワイトグリントに触れ続ける。 そして、触れていた感覚がなくなり、目を開ける

 

『これで、名実ともに白い閃光に戻ったね』

 

『・・・・・・』

 

白の嬉しそうな声には答えず、俺は反応を確かめる。 あぁ、そうだ、この感じだ。 懐かしい、ビルドファイターズの時と同じ過敏な反応だ。 それこそ、フルスキンで全身が覆われているというのに、動きに全く邪魔にならない。 一通り感触を確かめ、ISを収納する。 展開しているとき、白はなぜかずっと興奮気味だったが。 お前は街中で好きなアイドルを見つけた少女か

 

『あながち間違いじゃないね!!』

 

『やかましいわ』

 

「どうですか?」

 

「驚きましたね、あのゲームのままの反応を持ってきてるとは」

 

「今日ここにはこれなかったが、当時の技術屋が集まって作ったからな」

 

それを聞いて納得する。 たぶん、こうなるならないにしても、かなり前から秘密裏に作っていたのだろう。 それを今の言葉で確信した。 だが、一つだけ言っておかねばならないことがある

 

「俺はもう白い閃光の名を託しました。 その二代目と戦うときだけ、俺は白い閃光に戻ります。 それでいいですね?」

 

「それだけで十分です。 ()()() としても、別に貴方を白い閃光に戻したいわけではありません。 ただ、今の日本代表の彼女が、白い閃光を穢しているのが許せないだけです」

 

「我々()()()も同じだ。 白い閃光にかかわっていたものとして、ラインアークとして、彼女の行いは到底許せるものではない」

 

二人には了承を得られた、ならば

 

「わかりました。 そう望むのなら、二代目との戦いの時、俺は本当の意味で白い閃光に戻りましょう」

 

--------------------------------------------

 

「それでは、失礼する」

 

「はい、お気をつけて有澤さん」

 

「十蔵さんも。 それと黒夜、近いうちにまた会おう。 君は非公式ではあるが()()()のテストパイロットなのだから」

 

「また、です有澤さん...... はい?」

 

無情にも閉まるドア。 なんか、最後の最後で聞き捨てならない言葉を言っていたような気がするが、聞けなくなってしまった。 というよりも有澤さん、そこにもドアがあったんですね。 俺と学園長が入ってきたドアと、別のドアから出た有澤さん。 そもそも、この部屋自体よくわからない部屋だが

 

「さて、私たちも学園長室に帰りましょう」

 

「えっと、はい......」

 

最早、さっきの企業連の非公式テストパイロットの話も聞くに聞けないので、俺は学園長の後をついていく。 それにしても、テストパイロットってどういうことだよ...... 学園長室につけば、学園長の奥さんが出した紅茶を飲む

 

「そう言えば、私のお願い、聞いていただけますか?」

 

「お願い? 二代目の話ではなく、ですか?」

 

「はい」

 

笑顔の学園長だが、ハッキリ言って碌な予感がしない。 ホワイトグリントを貰った手前断るに断れないが、聞いてみるだけ聞いてみることにした

 

「・・・・・・何でしょう?」

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。 簡単なことです、ホワイトグリントのテストをしてみませんか?」

 

「・・・・・・」

 

ほら、ろくなことじゃなかった。 確かにぶっつけ本番は心配ではあるが、あの反応を見る限り問題はなさそうだった。 いや、俺のブランクとかもあるけど。 なので、丁重にお断りしようと思ったのだが、ノックにさえぎられてしまう

 

「誰ですか?」

 

「更識です」

 

「どうぞ」

 

対応は学園長の奥さんがし、女子生徒が入ってきた

 

「さて、それじゃあ移動しましょうか」

 

そんな学園長の楽しそうな声を聞き、俺はいろいろとあきらめるのだった



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第五話

あー、今日七夕だったんすね...... 


「クソ、嵌められた」

 

『僕は楽しみだよ!』

 

興奮した白の声とは裏腹に、俺のテンションは下がる一方だ。 やってきたのは、さっき織斑先生とテストをやったアリーナ。 もう後始末等はやってあったのか、クレーターはなくなっていた。 打鉄はさっきの戦闘で使い物にならなくなり、残るはホワイトグリント。 俺はホワイトグリントを展開し、カタパルトにて待機している。 装備は現役時代もっとも愛用していたアサルトライフル051ANNR、063ANAR。 ゲームの初期レギュで猛威を振るった専用分裂ミサイルSALINE05。 原作リスペクトと言うわけではないが、基本的にこの装備だ。 まぁ、何度も言っているがこれはビルドファイターズではなく、ISだ。 拡張領域なんかには、ゲームの中で見たことある装備がわんさか入っているのだが...... というか社長、一番最初に来ているのがOIGAMIというのは嫌がらせか? それに、左手に持っている063ANARなのだが、見覚えのないアタッチメントがついている

 

『なになに...... 説明によると、グレネードランチャーが取り付け可能なんだって!』

 

白により装備可能なグレネードがリストアップされるが、有澤重工製となっており、見るのをやめた

 

『みんな、この機体に思いを詰め込んでるんだね!』

 

どこか嬉しそうな白におれは

 

「そうだな」

 

そう答えて、準備が完了したカタパルトで空を飛ぶ。 OBでカッ飛んでいきたいところだが、そんなことをすればアリーナのシールドに激突することになる。 仕方なく、普通にブーストを吹かし、対戦相手でもある、更識楯無さんの前に降り立つ。 余談だが、普通にブーストを吹かすと言っても、打鉄のリミッター解除状態より早いのだが

 

「・・・・・・何なの、その機体」

 

更識さんは信じられないようなものを見る目で見てきているが

 

「こんなこと言ったら悪いけど、競技用のISとゲームとは言え戦争用に開発された機体の違いでは? ISの試合とかテレビで特番組まれてみますけど、あんなもの()()()()()()()()()()に等しいですし」

 

「・・・・・・()()()() 貴方みたいな機体が、他にもあると?」

 

「それこそ愚問でしょう。 正確に言えば、違いますが最たる例で行けば、現日本代表」

 

色々と思うところがあるのか、更識さんの顔は険しい。 別に更識さんたちの努力を認めないとか、そう言うことではない。 ただ、ビルドファイターズの世界大会を経験しているものからすれば、児戯に等しい、そう言うだけ。 実際、ビルドファイターズはゲームだったが、ISの登場により軍隊落ちとかもいたし、戦争屋だっていた。 ゲームとは言え、俺たちは情熱をもって本気でやっていたのだ。 だからこその児戯に等しい、の発言だ。 そして、俺はゲームと同じ動きができるのをさっき体感したばかりだ。 後は、ホワイトグリント(この機体)でゲームと同じ動きができるかだ

 

「さて、お喋りはここまでにしましょう。 もう俺と貴女がこの場に立っている時点で言葉などすでに意味をなさない。 始めましょう」

 

眼鏡をはずし、顔の部分の装甲を展開する。 メインブーストを点火し、少し上昇し様子を見る。 更識さんはさっきまで構えていなかった槍を構え、油断ない表情でこちらを見ていた。 そして、時は来た

 

『それでは、開始してください』

 

学園長の声が聞こえ、戦闘を開始する。 マルチロックオンを使い、両肩についている専用分裂ミサイルSALINE05を使う。 少し距離は近いが、分裂は問題なく行われる距離だ。 対して更識さんは、槍を使う。 ガトリングランス、とでもいうのだろうか。 槍に搭載されているガトリングガン四門より、弾幕を張る。 だが分裂したミサイルは十六と多く、しかも有澤重工製だ。 威力はバカにならない。 弾幕を張ったガトリングガンの流れ弾を軽くよけ、そのまま様子見をする。 何発か着弾したようだが

 

『うーん、ダメージはあまりなし、かな』

 

白が表示してくれた相手のエネルギーの試算を見ると、あまり減っていないかった。 まぁ、正面を見れば納得だ。 ISはそんなに知らないが、今まで見てきたISの中で一番装甲が少ない。 何かあると思っていたが、水を防御に使うとは。 詳しいことは分からないが、どうやら水を操るらしい

 

「っぅ...... 完璧には防げなかったようね」

 

「いや、有澤重工製のミサイルをそれだけのダメージで防げれば、かなり優秀だと思いますけど」

 

本当に、有澤重工製ミサイルとか、爆発関係はえげつない威力が出る。 実際、社長はダンクタイプを使っていたがその堅牢な守りと、大艦巨砲主義のロマン武装なはずなのに現役時代は上位をキープしていた。 本当に、おかしいですね、ありがとうございました

 

「でも、おねーさんもやられてばっかりじゃないわよ?」

 

「楽しみですね」

 

「・・・・・・」

 

俺の答えの何が気に入らなかったのか、いたずらっぽい笑みは鳴りを潜め、目を細める更識さん。 そして、イグニッションブーストを使ってきた。 何か仕掛けるとは思っていたが、いきなりイグニッションブーストとは。 正直言って、舐められてる感がしないでもない。 そのくらいの速さなんて、俺には通じないし。 何よりも、動きが直線的すぎる

 

『白、よく見てろ。 これがクイックブーストと二段クイックブーストの速さだ』

 

ブースターを瞬間的に高出力で噴射し、更識さんとすれ違う。 どうやらQBで体を持っていかれるような感じはするが、問題はないようだ。 この時クイックターンで、簡単に更識さんの後ろをとる。 そして、二段クイックブーストを発動する。 正直言って、さっきの比ではなく慣れてから使わないと、ヤバイ。 連続の使用も、今はまだ無理そうだ。 そして、イグニッションブースト中の更識さんに追いつき、蹴りを放つ

 

「っ!?」

 

驚いたようだが、イグニッションブーストの仕様上、すぐには止まれない。 そして、クイックブースト分の速度の乗った蹴りだ。 威力も大きいだろう。 そして、俺は無慈悲にもその背に分裂ミサイルであるSALINE05を放つ。 ミサイルは分裂し、何とか止まって態勢を立て直そうとする更識さんに降り注ぐ。 直後、大爆発

 

『お、おぉ!すごい!すごく速かった!!』

 

クイックブーストと、二段クイックブーストは白のお気に召したらしく、かなりのはしゃぎようだった。 俺はそれを聞きながら、爆発について考えを巡らしていた。 今の爆発はおかしかった。 水で防御するにしても、触れるか触れないかで爆発が起きたのだ。 それに、有澤重工製とは言えISの装備だ。 あきらか許容範囲外の爆発が起こるわけがない。 となると、更識さん側が何かをやったんだろうが...... 爆発、爆発ねぇ...... わからないが、注意はしておいたほうがいいだろう。 煙が晴れ、そこには所々装甲が煤けた更識さんが

 

「本当に、何者なのかしら!」

 

「さっきも言いましたが、言葉なんてすでに意味を成しません。 そんなに気になるなら、後で学園長にでも聞けばいいのでは?」

 

動きや、白の試算を見てもう少しで勝負がつくのは明白だ。 一気に決めるとしよう

 

「はぁ!!」

 

今度はイグニッションブーストを使わずに迫ってくる更識さん、だが俺は引き打ちをしつつ距離を保つ。 やはりと言うか、愛銃では水のシールドは突破できない。 だが、ミサイルを放とうにも距離が近くなりつつある。 クイックブーストで距離を離してもいいのだが、何かありそうなのだ。 なので、徐々に更識さんは迫ってくるが、そのまま引き打ちを続ける

 

「ここまで、くれば!!」

 

やはり何か秘策でもあったようで、様子を見る。 一気にブーストの出力をあげて迫ってきたと思えば、いつの間にか握っていた剣を俺の方に向ける。 だが、刃渡り的に届かない。 届かないはずだったのだが、剣が伸びる。 蛇腹剣、というやつか。 俺はそれを特に焦らずに、左手のアサルトライフルで撃ち落とす。 だが、それでも接近をやめない。 何かがおかしい。 俺の勘が警鐘を鳴らしているが、原因が分からない。 それに、少し熱い。 締め切っているところでやっているわけではないのだが...... そこまで思って、あることを思い出す。 水を操っていた、その方法までは分からないが。 なら、その水を何らかの形で発熱させて気化できれば?

 

『白、サーモに切り替えてくれ』

 

『あいあいさー!』

 

ブーストを吹かしつつ、サーモグラフィーに切り替え、周りを見れば、更識さんを中心に温度が急上昇していた。 なるほど、狙いは水蒸気爆発か。 たぶんPAなら防ぎきるだろうが。 それでは面白くない

 

「これで!」

 

サーモグラフィーで見れば、さらに温度が上がっていた。 どうやら水蒸気爆発をする気のようだが、俺はQBを吹かし、範囲外まで出る。 少しシールドエネルギーは持っていかれたが、致命傷は避けられた。 連続してのQBは流石に体に堪えたが、白が気を使って痛みを和らげてくれる。 そして、俺はOBを起動。 煙の中に突っ込んでいきOBのスピードが乗った右腕をたたき込む。 だが、それもさっきよりも厚く張られた、水によって防がれてしまう

 

「ふふっ、煙に紛れて攻撃しようっていうのは分かっていたわ!」

 

「なら、そこまでですね」

 

強力なシールド、例えばPAなどを貫通して攻撃するにはどうすればいいか。 答えは簡単で、そのシールドを超える攻撃をするか、弾幕を張って壊すかである。 俺の答えは前者で、()()()()()()()()()K()I()K()U()()()()()()()()。 直後

 

『試合終了です。 二人とも、お疲れ様でした』

 

試合は終了した。 勝ったのはもちろん俺で、空中で展開が解けてしまった更識さんを抱えつつ地上へと降り立った

 



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第六話 裏話

今回はちょっと短いです

Q.主人公は?

A.でません

2018.7.8 誤字報告ありがとうございます。 修正しました


とある女生徒は学園に呼び出され、整備棟に来ていた。 その女生徒はできる秘書のような雰囲気で、振る舞いや歩き方を見れば優秀なのがにじみ出ていた。 その女生徒はとある扉の前で立ち止まり、中に声をかける

 

「布仏虚です」

 

「あ、虚ちゃん、どうぞ~」

 

中から軽快そうな声が聞こえると同時に、虚ちゃんと呼ばれた女生徒は顔をしかめる。 それも一瞬の事で、すぐに部屋の中へと入る。 その中には水色の髪をした女生徒と、用務員の恰好をした初老の男性並んで二機のISを見ていた。 一機は水色の髪の少女、更識楯無のISでもあるミステリアス・レイディ。 そして、もう一機は純白のカラーリングになってはいるが打鉄だった。 だが、その純白の打鉄を見た瞬間、布仏虚は驚きの声をあげた。 パッと見ただけでも、スラスター関連は全部破損し、装甲も所々ひび割れているのだ

 

「これ、は?」

 

()()()が乗ったISです。 たった一回の試験でこうなったんですよ」

 

「たった一回で!? この機体が貸し出されるにあたって、整備等も完璧にやったんですよ? それが......」

 

「それだけじゃないわ、虚ちゃん」

 

更識楯無がタブレットを渡す。 そこには純白の打鉄の状態が示されており、とてもじゃないが整備なしでは使える状態じゃなかった。 オーバーホールはもちろんのこと、内部フレームの交換等、無事なところがないくらいの損傷だった。 驚くべきは、整備してからの稼働時間。 試運転を抜かせば、()()()()()でこの状態になったのだ。 はっきり言えば、異常、だった

 

「何を、何をすればこんなに......」

 

思わず、なのだろう。 この惨状を見て、布仏虚がつぶやく。 そのひとりごとに答えたのは、更識楯無だった

 

「彼自身が異常なのよ」

 

「お嬢様?」

 

「私も戦ったわ、ミステリアス・レイディ(この子)で。 でも、手も足も出なかった。 それどころか、本気にもさせてない」

 

整備されたミステリアス・レイディを触りながら、悔しそうに顔をゆがめている更識楯無。 その言葉に、布仏虚はさらに驚くことになる。 更識楯無はIS学園の生徒会長で、IS学園の生徒会長は代々最強がなることになっている。 つまりその最強ですら、そこが見えないと言っているのだ。 これを驚かないはずがない。 いや、一人だけ驚いていない人物がいる。 用務員の恰好をした初老の男性。 学園の創始者にして、本当の学園長、轡木十蔵だ。 会話中ずっとニコニコして表情は読めないが、だが、彼はどこか誇らしそうだった

 

「さて、お話もいいですが本題に入りましょう」

 

手をたたくことで注目を集める学園長。 二人の視線が学園長に向くと、満足そうに頷き続きを話す

 

「布仏虚さん、貴女にはこのISの修理をお願いしたい」

 

「修理、ですか? それは構いませんが、何故私だけに?」

 

布仏虚の疑問はもっともだが、学園長はあっけらかんと言い放つ

 

()の情報が大多数に漏れるのはあまり私どもとしても好ましくはないのです。 ですが更識、その従者の家系である布仏ならば話は別です。 更識の当主である楯無さんも、今回の件は納得していただいておりますので」

 

布仏虚が更識楯無を見れば、真剣な表情で頷いていた。 布仏虚が学園長を見れば、変わらずニコニコしていた。 布仏虚が了承をすれば、学園長は早速と言わんばかりに改造の仕様書のデータが入っているタブレットを渡す。 それを見た布仏虚はさらに驚くことになる

 

「なっ!? こんな異常なスラスター出力の機体に乗るんですか!?」

 

「えぇ、彼なら簡単に乗りこなすでしょう」

 

それもそのはずだ。 その仕様書の内容は、これまた異常だった。 内部フレームは異常なスラスター出力に耐えるために、企業連のものを使用。 そのスラスターも小型で大出力のものに変更、などなど...... もはや、外見は打鉄だが、中身、スペック、使用コンセプトまで打鉄ではないものになっている。 そして極めつけが、超小型スラスターによる旋回速度の底上げ等だ。 これは、使おうと思えばイグニッションブースト時の弱点、直線機動を解消するものではあるが、肉体や機体に大幅な負荷がかかる。 それのことを指して布仏虚は学園長に言ったのだが、ニコニコしたままそれを受け流す。 横から更識楯無はこの仕様書を見たようだが、苦い顔をしながら学園長の言葉に賛同していた

 

「えぇ、彼なら()()()()()()()()()()()()()わね」

 

「こんなもの、身体が!」

 

「実際、これよりもはやい速度で旋回、瞬間的に避けるのを確認しているもの」

 

試合のことを思い出しているのか、さらに苦々しい顔になるが、布仏虚は信じられないものを見るような目で見ていた。 彼女のこの感覚は間違いではない。 実際、布仏虚は整備課でも優秀な人材だ。 ISの整備のことを知っているのは当たり前だが、IS学園の生徒ならISの基本的な事は知っている。 その常識が打ち砕かれているのだから、無理もない

 

「さて、試合の方の詳しい話は楯無さんから聞いてください。 それで布仏虚さん、この依頼受けていただけますね?」

 

「・・・・・・」

 

布仏虚は考えているようだが、答えは決まっていた

 

「やらせていただきます」

 

彼女は技術者でもある。 ならば、この異常ともいえる機体を改修するのは二つ返事で受けるだろう



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第七話 初めてのIS学園(二回目)

長い半監禁生活、と言っても周りはいい人ばかりで全然苦じゃなかったけど。 も終わりを告げ、今日からIS学園に通うこととなった。 一応黒服さんたちにはお礼を言ったが、仕事なのでというプロフェッショナルな言葉をもらった。 いや、本当に感心する。 そんなわけで、黒服さんたちに連れられやってきたIS学園。 クラス担任の先生に連れられて、廊下を歩いていた。 すでにHRというか、顔合わせは始まっているらしく廊下にはだれもいない。 先生と二人きりで歩いているが、空気が悪いことこの上ない。 それもこれも、見れば不機嫌と分かるほど顔をしかめた担任のせいだ。 初めて顔を合わせた時、挨拶をしたら舌打ちをされた。 まぁ、女尊男卑思考に見事に染まった先生のようだ。 これは、何か問題を起こそうものならすぐに処罰されそうだ。 いや、問題を起こさなくてもそう言う可能性はある。 最初の一日目から割と人生がハードモードなのだが、大丈夫だろうか? 案内された教室は一年三組。 どうやらここが俺が所属するクラスのようだが、いいクラスであることを願う。 先生に待っていろと言われたので、扉の前で待つこと数分、許しが出たので中に入れば集まる視線。 好奇の視線は、すぐに侮蔑の視線に変わった。 あぁ、どうやら日常もハードモードが決定したようだ。 一つ言わせてもらうなら、勝手に期待しておいて勝手に失望しているだけ、なのだが。 自己紹介するように促され、一応自己紹介をしておく。 と言っても、聞いている奴らなんてほぼいないが

 

「白石黒夜です。 男でISを動かした二人目としてこの学校に通うことになりました、よろしくお願いいたします」

 

頭を軽く下げ、顔を上げれば侮蔑の視線はそのままだが、クラスの全員が興味がなさそうだった。 まぁ、興味を持たれても面倒なので、そちらのほうが楽なのだが。 席は、窓際の一番後ろ。 それはそれでありがたいのだが、脇を通るときに嫌そうな顔をするのはやめてほしい。 通らなければ、席までつけないし。 席につけば、廊下側の一番前から自己紹介が始まる。 興味はないが、覚えていないだけで何か言われたら面倒なので一応覚える。 クラス全員の自己紹介が終われば、軽い学園の説明だ。 IS学園は普通の学校と違い、ISを扱っている学園だ。 色々と規則やチェックなどが厳しい。 聞き逃せば、いらぬいさかいを生む。 なので、聞いておく。 説明が終われば、そのまま授業のようだ。 少し驚きはするが、IS学園は偏差値も高い。 しかもISも扱って、普通の公立高校のような一般科目も扱っているのだ、時間がいくらあっても足りないか。 まぁ、今回は授業ではなく、クラスの役員決め等なのだが

 

「それでは、クラスの代表をやりたい人は......」

 

誰も手をあげない。 まぁ、普通の学校でのクラス委員長みたいなものだ、面倒この上ない。 そんなものを進んでやる人はあまりいない。 だが

 

「あー、白石君でいいんじゃないですかー?」

 

「あ、そうだよね。 だって、クラス唯一の男子だし」

 

こうやってまつり上げられる。 明らかに半笑いでの推薦だし、唯一の男子で笑っている。 それに対して俺は特に反応することはない。 まぁ、分かっていたことだしね。 都合のいい時はこうやって使い、都合が悪くなれば逆切れ。 今の女尊男卑の世の中の女性の風潮だ

 

「クラスのみんなからの推薦だし、白石君どうかしら?」

 

言葉は柔らかいものだったが、表情は語ってますよ先生。 断ったらどうなるかわかってるんだろうな、みたいな顔してますよ。 教師にあるまじき行為だが、女性が偉いし仕方ないね

 

「・・・・・・皆さんからの推薦ですし、皆さんの期待を裏切らないように頑張りたいです」

 

「よかったー」

 

「さっすが男の子」

 

調子のいいこと。 明らかに笑いをこらえてないあたり、このクラスの者たちは性格が悪いらしい。 先生もそんなクラスに大満足なのか、笑いながらうんうん頷いていた。 そんなわけでクラス代表になった俺だが、直近でやることは特にない。 あると言えば、クラス対抗戦だろうか。 ISを使って、戦う。 という催しだ。 入ってすぐにやることでもないと思うのだが、国家代表候補もいるくらいだし、そう言う人から刺激を受けて、というのが本来の目的なのだろう

 

--------------------------------------------

 

「はぁ~い」

 

「更識会長」

 

クラスメイト達からの地味な嫌がらせと、先生による集中的に問題を指されるという地味に面倒なことをされ、ようやくの昼休み。 購買で食べるものを買いどこか食べる所を探していると、更識会長に声をかけられた。 あの嵌められて戦った時以来会っていないのだが、何か用なのだろうか?

 

「もう、更識会長なんて他人行儀じゃなくて、楯無さんとかたっちゃんとかたーちゃんとかいろいろあるでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

なんというか、面倒な人に捕まった。 それが正直な感想だった。 こんな容姿の俺だ、進んで関わってくる人はないかった。 しかも、こんなふうに馴れ馴れしく。 どう対応するか困ったものだが、まぁ普通に対応しようか

 

「それで、何か御用ですかたーちゃん」

 

「うん、自分で言ったけどなんか複雑ね」

 

溜息を吐いているところを見ると、お気に召さなかったらしい。 まぁ、俺もたーちゃんとかないわとか思っていたけど。 何ならもう面倒だから、タラちゃんでいいんじゃないか? 一見関係あるようで関係ないことを考えていると、俺の持っているものに気が付いたのか、声をかけてくる

 

「あら? それはお昼?」

 

「そうですよ。 どこかで食べる所ないかな、と探していたもので」

 

「ならついていらっしゃい」

 

俺の返事も聞かず、さっさと歩きだしてしまう更識会長。 なんというか、自由な人だ。 ため息をつきたかったが、つくことはせずにそのまま更識会長の後ろをついていく。 しばらく歩けば、とある教室の前で止まる。 生徒会室、と書かれていた

 

「さ、どうぞ」

 

更識会長はドアを開けると俺に入るように促す。 中に入れば、IS学園(ここ)の制服を着ているが眼鏡をかけた秘書のような人がサンドイッチを食べながら書類を見ていた。 俺に気が付くと、驚いた顔をしながらサンドイッチを隠す。 あぁー...... ばっちり見てしまったが、ここは何も見なかったことにした頭を下げて適当な椅子に座る

 

「そんなわけで、一名様ごあんなーい!」

 

「どういうわけですか!!」

 

秘書のような人が更識会長に詰め寄っているが、俺はそれを気にせずにおにぎりとお茶を出す。 何か言い合いをしているようだが、俺はおにぎりの包装をはがし食べ始める。 言い合いが一方的に秘書のような人が注意にシフトしたころ、俺はおにぎりをすべて食べ終えお茶を飲んでいた

 

「それで、彼は?」

 

「うぅ、虚ちゃんが怒った......」

 

「お嬢様?」

 

よよよとウソ泣きをしていた更識会長だったが、秘書のような人の怒気に沈黙。 真面目にするようだ。 というか、美人がマジ切れすると本当に怖いのな。 一つ勉強になった

 

「彼があの、白い閃光よ。 というよりも、男子が二人しかいないんだもの、虚ちゃんだって予想ついていたんじゃないの?」

 

「・・・・・・」

 

沈黙する秘書のような人。 だが、多分予想はついていたのか特に驚くことはなかった。 というか、また白い閃光が...... 何度も元だっていう話しているのに、毎回これだ。 いい加減修正する気もなくなる。 チラリと秘書のような人を見てみれば、真剣な表情でこちらを見ていた。 一応更識会長から紹介はあったが、自己紹介はしないとな

 

「さっき更識会長が言っていましたが、()白い閃光、白石黒夜です」

 

「私は布仏虚です」



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第八話 

ファーストコンタクトは悪かったものの、挨拶を済ませれば布仏先輩も気にしないようにしたのか、サンドイッチを食べきり仕事に戻る。 俺も自己紹介を済ませ食べ終わったのだから退出しようとしたが、許さない人がいた。 更識会長だ

 

「あら? もう行っちゃうの?」

 

「昼飯は食べ終わりましたから。 それに、部外者がいたら邪魔になるでしょ?」

 

不思議に思って聞いたのだが、何故か更識会長に不思議そうな顔をされた。 布仏先輩を見れば、頭を抱えていた。 あぁ、本当に苦労してるんだなぁ

 

「虚ちゃん、彼は邪魔?」

 

「いえ、邪魔ではないですが...... はぁ......」

 

「邪魔じゃないそうよ」

 

ため息を聞こえないふりしているのか、それとも聞こえなかったのか、更識会長は椅子に座るように促す。 たぶん後者なんだろうなと思いながら、布仏先輩に軽く頭を下げさっきまで座っていた席に腰を下ろす

 

「それで、何かお話でも?」

 

「もう、せっかちな子は嫌われるわよ?」

 

「元からこんな容姿ですので、どうでもいいです」

 

更識会長からの軽口を受け流し、本題に入るように伝える。 そうすれば、つまらなそうな顔をするが、すぐに表情を切り替える

 

「それじゃあ、真面目な話。 君は今、どういう立場かわかってるかしら?」

 

「どういう意味でしょう?」

 

「君が今、自分の状況を正しく理解しているかの確認よ」

 

自分の状況を正しく理解しているかの確認。 そんなことをいきなり言われてもわかるわけないのだが、多分相当やばい状況なのだろう。 あの学園長が信頼を置いている人なのだから、たぶんそっち系の人なのだろうから。 いきなりこんな話をされたにもかかわらず、布仏先輩が動揺していないところを見るとたぶん布仏先輩もそっち系の人なのだろう。 冷静に考えつつ、思い当たることを言う

 

「いきなり言われても困りますが、邪魔な()()()として、女性利権団体に狙われている。 そう考えたほうがいいですかね」

 

「えぇ、それはもちろんよ。 他は?」

 

「ほか?」

 

流石にこれしか思いつかなかったのだが。 一人目はあの織斑千冬の弟なのだ、女性権威の象徴としている織斑千冬の弟を狙うはずがない。 だから一人目は唯一の例外。 そして俺は邪魔な存在、消そうとか考えているのだろうが、それだけじゃない?

 

「どの国も貴方をサンプルとして狙っている、ということよ」

 

実験動物(モルモット)、というわけですか」

 

まぁ、ありえない話ではない。 俺は一人目みたく、後ろ盾はない。 ()()()()、とつくが。 ならどこの国でも貴重な男性操縦者として、欲しいに決まっている。 起動試験をしてからすぐにIS学園に保護されたが、そう言う背景だったのか。 情報を必要以上に漏らさないというのもあったのだろうが。 IS学園がこうやって動いている以上、日本が守ってくれるなんて甘い考えは捨てなければならないな。 まぁ、男性操縦者二人も独占なんて、他の国が許さないからなのだろうが

 

「なるほど、IS学園は一応どこの国、企業も手出しできない中立地帯みたいなところですからね」

 

「確実に安全、とは言い難いけど一応は安全だもの」

 

「それで、結局何が言いたいんですか更識会長」

 

「学園内で目立つようなことをしないでほしい、これが私の言いたいことよ」

 

結局何が言いたいのかわからずストレートに聞いてみると、おかしなことを言われた。 学園内で目立つようなことをしないでほしいって、元からしていないしする気もないのだが......

 

「してもいないし、するつもりもありませんよ?」

 

「それならいいけど」

 

流石に冤罪でっちあげられたらどうしようもないが、少なくとも自分から何かするつもりはない。 大体、中学時代もそうだったしな

 

「一応私たちもフォローするつもりだけど、問題を起こしたら一発でアウトだから。 そこらへん、肝に銘じておいて頂戴」

 

「わかりました」

 

まぁ、そうなるよなと思いつつ、話は次の話題に移る

 

「それじゃあ、真面目な話はここまで!次は、白い閃光になるまでの話が聞きたいなー」

 

扇子を口元に持っていき口元を隠すが、楽しそうにしているのがまるわかりである。 と言っても、特に語るつもりはないし受け流す

 

「ノーコメントで」

 

「えー、つれないわねー」

 

ぶー、ぶー、と文句を垂れているが、それ以上聞かないようだ。 分別のある人で良かったと思う一方、分別あったらそもそも会話に出さないかとも思った。 すると、今まで黙っていた布仏先輩が口を開く

 

「そう言えば、貴方に少し聞きたいことがあります」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「あの純白の打鉄、貴方が試験の時に乗った機体だって聞いているんですが」

 

「えぇ、そうですが」

 

今日朝のHRに少し遅れた原因は、直った打鉄を取りに行っていたからだ。 と言っても、学園長から渡された打鉄のスペックは、最早別機体と言っても過言ではないものになっていたが。 さて、あの純白の打鉄を知っているということは、布仏先輩も改修に加わったらしい。 お礼を言わなければ。 その前に、布仏先輩が何かを聞きたそうにしているので、そちらをこたえるのが先だが

 

「何をすれば、たった十分乗っただけであんな風になるのですか?」

 

「・・・・・・」

 

まぁ、予想はできた質問だ。 何をすればあんな風になったのか、答えは簡単で普通に乗った。 それしかないのだが、布仏先輩はそれでは納得しないだろう。 俺がどう言おうか考え黙っている間も、真剣な表情で見てくる

 

「まず前提条件として、俺の乗り方は今の競技用として行われているISの操縦と全く違う、それを覚えておいてください」

 

「・・・・・えぇ、分かったわ」

 

納得いかないような顔だが、一応は飲み込んでくれたようだ

 

「俺の動きは、過去のビルドファイターズでホワイトグリントに乗っていた時の動きをしていました。 もちろん、機体のスペック的に無理なQBやOBなどは抜きにして。 反応は遅いし、最高速度も高速戦闘をしていた俺には遅すぎた。 だから、打鉄自身にかかっているリミッターを解除して、速度を強引に上げた結果、あの状態になりました」

 

「待ちなさい。 リミッターを解除してと言ったけど、そんなことが可能なの?」

 

「可能ですよ。 実際、俺は解除して戦ってましたし」

 

更識会長が待ったをかけるが、実際俺はリミッターを解除してああなっていたのだから、信じるしかない。 だが信じられないのは、布仏先輩で

 

「ありえないわ。 たとえリミッターを解除して高速戦闘をしたとしても、身体が耐えられるはずが......」

 

「それについては、更識会長が誰よりも知ってるんじゃないですか? 身をもって体験したわけですし」

 

俺の言葉に布仏先輩が更識会長の方を向くが、更識会長は静かにうなづくだけ。 まぁ、イグニッションブースト発動して、その真横をQBで通り抜けて、後ろから二段QBで追いつかれているのだから、信じるも信じないもない。 そして、更識会長が頷くことにより、驚きを隠せない布仏先輩。 まぁ、普通の競技用としてやっているIS戦を見てたら、そんなものはあり得ないと思っても仕方ないことだけどな。 特に思うことはなく、俺は席を立ちあがる。 扉に手をかけ、出ようとしたところで思い出す

 

「あ、そうだ、布仏先輩」

 

「・・・・・・何かしら?」

 

一応ショックから立ち直ったようだが、少し呆然としている布仏先輩に声をかける

 

「打鉄の件、改修ありがとうございました。 おかげで少しは乗りやすくなりました」

 

そう言って俺は、生徒会室を後にした。

 



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第九話

えー、この場を借りてお礼を。 とるべりあ様、ほぼ全話にわたり、誤字報告ありがとうございました!(土下座 

いや本当に、感謝してます。 なのでこの場を借りて感謝を。

さて、本編ですが一言

主人公、鬼かよ(おまいう


午後の授業も集中的に当てられ、全部答えるというなんでもない日常を送り放課後。 クラス対抗戦もあるということで、俺は担任の元を訪れていた。 アリーナの使用許可がどうなっているのか、そこらへんが知りたくて聞きに来たのだが、自分で確認しろとのこと。 仕事が忙しいとか言っていたが、職員室に入るまで暇そうにしてたんですがね。 別にそれで目くじら立てるほどでもないので、素直にアリーナに確認しに行くことに。 アリーナの方に確認しに行けば、一週間空きがないとのことだった。 受付の人は申し訳なさそうに謝っていたが、そこは仕方ないと思う。 さて、練習をと思ったが時間が空いてしまった。 これからどうしようか考えつつ受付を出ようとすると

 

「あら?」

 

「更識会長」

 

見知った姿にあった。 更識会長が、受付に来たのだ

 

「すみません」

 

「予約よね、貸し切りになってるから安心して」

 

特に興味のない俺は、そのまま行こうとしたが何故か更識会長に腕をつかまれそのまま連行。 隣で会話を聞かされているというわけだ。 そしてアリーナに向かっているのだが、何故か腕をつかまれたまま

 

「あの?」

 

「それで、どうしてあそこに居たの? ISの練習とか?」

 

「まぁ、クラス代表になったので、一応練習でもしようかなと」

 

腕を離されたが、別にこれから何をしようとも思っていなかったので、そのまま更識会長についていくことにした。 強いてやろうとしたことと言えば、走り込みと木刀でも振ろうかと考えていたのだが、それは夜でも構わないしな

 

「クラス代表? 貴方が?」

 

「先生とクラスメイトから()()()()()()もので」

 

「あー、そう言うことね」

 

意図を納得したのか、更識会長は苦い表情になる。 どうも昼の話を聞いた限りじゃ、俺をどうしてもモルモットにしたいみたいだしな、多分これもその一環なのだろう。 適当なところまで進んだら、適当に負けるつもりだ

 

「貴方も難儀なものね」

 

「今の世の中の男性なんて、みんなこんなものでしょう? 俺は普通よりハードですけど」

 

更識会長と歩いていたが、段々アリーナが見えてきたので、俺は帰ろうと更識会長に声をかけようとする

 

「更識会長」

 

「何かしら?」

 

「それじゃあ俺はこれで」

 

「え? 練習していくんじゃないの?」

 

「はい?」

 

思わず聞き返してしまったが、何を言っているんだろうかこの人は。 アリーナの予約は一週間後まで埋まっていて、空きがないのにどうやって練習するのだろうか。 もしかして更識会長と一緒に? なんて思ったが、それはそれで面倒になるので御免こうむりたい

 

「だから、練習」

 

「いや、アリーナの予約は」

 

「ここ、私の貸切」

 

「誰かに見られたら、厄介なことに.......」

 

「ここ私の貸切、私以外こない」

 

「・・・・・・」

 

これはアレだ、意地でも帰さないつもりだ。 俺が呆れてものが言えない状態になれば、チャンスと思ったのか腕をつかんで引きずっていく

 

「はぁ......」

 

「ほーら、ため息つかないつかない。 こんなきれいなお姉さんと一緒に訓練できるのに、何がそんなに不満なのかしら」

 

「いらない軋轢を生みたくないだけですよ」

 

「それならお姉さんに任せなさい。 それに、貴方との模擬戦で修理後初稼働なのよ、ちょっとばかし手伝ってもらってもばちは当たらないでしょ?」

 

振り払おうと思えば振り払えるが、面倒なので引きずられたまま溜息を吐くと不満そうな更識会長。 俺が理由を言えば、あっけらかんと言い返してきた。 そして、最後の駄目押しとばかりに、いたずらっぽい顔をしながら俺が断り辛くなる理由を持ってきた。 その言葉に俺は、諦めるしかなかった

 

--------------------------------------------

 

着替えを行い、カタパルトからアリーナに向かえば誰もいなかった。 今回は打鉄で出撃しているため、まずは慣らしからだ。 スピードもかなり速くなっているが、問題なく操れる

 

『おぉー!もはや、スピード的に打鉄の皮を被った、別機体だね!』

 

白ははしゃいでいるようだが、全くその通りだった。 しかも、今回リミッターを解除しても壊れることはそうそうないらしい。 それに耐えうるパーツになっているらしい。 もちろん、戦闘が激化すればどうなるかは分かったものではないが。 ハード面は白がアップしてくれたらしく、ホワイトグリントを使っている時と遜色ない。 なんと驚いたことに、この改修布仏先輩が一人でやったらしい。 かなり優秀な人だったようだ。 お礼だけでは物足りないので、今度生徒会室に差し入れに行こう。 そんな風に試験飛行をしていると、逆側から更識会長が出てきた

 

「待たせたかしら?」

 

「いえ、こちらも試験飛行とかしてましたので、大丈夫です」

 

二人で地面に降り立つと、更識会長は満足そうな顔だ。 そこから、二人で更識会長のIS、ミステリアス・レイディの試験を始める。 と言っても、動きを確認するだけで、すぐ終わってしまうのだが

 

「それじゃあ、最後に試験、始めましょうか」

 

『まぁ、こうなるよね~』

 

白の暢気な声とは裏腹に、目の前の更識会長は武器を構えて臨戦態勢だ。 薄々そんな気はしていたが、本当に面倒だ。 だが試験ということで、俺はやらなければならないわけで

 

「はぁ、俺は面倒が嫌いなんだがな」

 

「ん? 何か言ったかしら?」

 

「いえ、別に」

 

武器を展開しながらつぶやいた言葉は、更識会長に聞こえなかったようだ。 まぁ聞こえていようがいまいが、どっちでもいいのだが

 

『システム、戦闘モード!』

 

『ちょこちょこ思ったんだけどさ、なんで主任?』

 

『え、だって最高じゃない?』

 

左様で。 今回の武装は右腕にX000KARASAWA、左腕にAM/GGA-206、どちらも重量はあるが、この機体の速さと装甲なら十分やれる。 そしてもう一つ候補があるが、それは右腕のKARASAWAが切れたときに展開しよう。 この装備に更識会長は

 

「なに、それ?」

 

「気にせず始めましょう」

 

俺はスラスターを吹かし、一気に距離を離す。 この際、右腕のKARASAWAのチャージを忘れない。 この武器の難点は、最大チャージまで行くと、そこからのチャージはシールドエネルギー喰うことなのだが、それまでに発射すればいい。 そして俺が離れると同時に、更識会長も槍についているガトリングガンを発射する。 だが、超小型スラスターにより、それを避けていく。 さながら気分はQBだが、速度が遅すぎる。 後小型にしている関係上、連続使用があまりできないのが難点だ

 

『これなんて、ネクスト?』

 

『俺もそう思う』

 

白と軽口を言い合いながら、左腕のガトリングガンを発射する。 かなりの弾幕に防げないと思ったのか、フェイントをいれつつ避ける更識会長。 避けきれないのは、水の防御に頼っているようだが、それじゃあだめだな。 ある程度の動きを見切り、最大までチャージしたKARASAWAを発射する

 

「なっ!?」

 

「ほらほら、次も行きますよ」

 

直撃は免れたようだが、被弾したようだ。 動きが止まったところにガトリングを撃ち続ける。 水の防御でもAM/GGA-206の弾幕は防げないのか、被弾を重ねる。 このまま削り終わりでもいいと思うが、更識会長はイグニッションブーストを使い、一気にアリーナの端まで行く。 このAM/GGA-206、

威力保証距離内で使えば強いが、それ以降は威力が格段に落ちる。 それを見切り動いたようだが、イグニッションブーストは悪手だと思う。 俺は無慈悲にも、半分くらいチャージしたKARASAWAを発射する。 見事イグニッションブースト中の更識会長に当たり、ISの展開は解除され戦闘不能になった



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第十話

無理やりと言うか、付き合わされた模擬戦で文字通り更識会長をボコボコにし、熱い再戦を何回か繰り返してようやく終了した。 武器を変え、戦法を変えてやったが全戦全勝、最後には駄々をこねた子供みたいになった更識会長を偶然通りがかった、というよりも探していた布仏先輩に預け俺は校内を散歩していた。 もう夕暮れ時なのだが、一つ思ったことがある。 俺の部屋ってどこだろう、大事なことを忘れていた。 ホテルは当然使えないし、学園の寮にしてもカギを貰っていない。 とりあえず散歩をしつつ、職員室を目指すことにした。 それにしても、ちょっとは手加減をすればよかっただろうか? まさかあそこまで粘られるとは思っておらず、最後には目尻に涙まで溜まっていた始末だ。 でも、手加減したら失礼だし。 延々とループしそうな考えはいったん辞め、ルームメイトを考える。 やはり同じ男なのだろうか? それとも、個別で一人部屋とか。 出来れば周りを気にしない一人部屋がいいのだが、まぁなるようにしかならないだろ。 ちょうど職員室に着いたので、思考を打ち切り声をかけて職員室に入る

 

『ノックして、もしもーし』

 

それを俺がやった場合、ふざけているのか!みたいな感じで修正が来そうである。 職員室を見回すが担任の姿はなく、出払っているのか試験の時見た緑髪の眼鏡の女性しかいなかった

 

「あのー?」

 

「は、はいなんでしょうか?」

 

いきなり声をかけたことに驚いたのか、多少どもったが、受け答えをしてくれる。 良かった、普通の人のようだ。 多いとは言わないが、今の世の中女尊男卑思考の人が多いからな、気を付けないとならない。 だが見たところ、この先生は普通のようだ

 

「あの一年三組の白石黒夜なのですが、クラス担任は何処にいるか知りませんか? 寮のことについて聞きたかったんですが」

 

「りょ、寮ですね!担任の先生は帰ってしまったので、私がカギを預かってますから」

 

妙におどおどしているが、もしかして男性恐怖症とか? いや、普通に会話しているから多分緊張しているだけなのか。 なんというか、ここまでおどおどされていると逆に申し訳なくなるというか。 山田先生の話を聞きつつ、そんなことを考えていた。 寮の簡単な説明を受け、鍵を貰う。 どうやら俺の部屋は今まで倉庫として使われていたらしく、急に決まったことなので掃除もしていないとのこと。 だが、一人部屋ということなので好都合だった。 別に山田先生が悪いわけでもないのにペコペコ頭を下げられ、逆にこっちが恐縮してしまいながら、お礼を言って職員室を出る。 素振りぐらいはできるだろうが、走り込みは今日は出来なさそうだ

 

--------------------------------------------

 

部屋について、鍵をひねる。 扉を開ければ埃っぽい空気と、ぽつんと部屋のど真ん中においてあるベッドや冷蔵庫などの家電製品の数々。 喧嘩売ってるのだろうかこれは。 ベッドは重そうなので一人では到底移動できなさそうだし、部屋が全体的に汚い。 壁紙の剥がれなどはないが、全体的に埃溜まってるし、蜘蛛の巣もある。 どうも倉庫として使われていたのは本当のようだ。 これには覗いていた女子も苦い顔をして、散らばっていく。 見るのは勝手だが、リアクションだけはどうにかしろ。 汚いって、俺のせいじゃないし。 唯一の救いなのが、俺の荷物がベッドの上にあるということか。 一応、掃除はされていないが、シャワールームもあるようだしそこは安心。 シンク等もあるから、部屋での飲食も大丈夫なようだ。 扉を閉め

 

「はぁ、やるか......」

 

制服やベッドなど、汚れたくないものには借りてきたブルーシートをかけ、掃除を始める。 こんな掃除も慣れたものだ。 元々俺は施設育ちで、一番上ということもあり施設の手伝いなどをしていた。 一応、片付けなどもあるだろうから、うるさくなるかもしれないということは隣の部屋の住人には説明済みだ。 すごく嫌な顔をされたが、一応了承はしてもらった。 まずは、上の埃等を落としていく。 その際、ついでだからとエアコンや電気なども掃除しておく。 球切れもしていたしな。 次に掃除するのは壁やシンク周りだ。 壁は湿った雑巾などで拭いておく。 シンク周りは比較的綺麗だったので、洗い流して終了。 後は、床周り。 これも借りてきていた掃除機を使い、ごみを吸い取る。 まぁ、こんなところだろう。 夕方からやって、結局夜になってしまった。 時計を見れば、食堂はとっくに締まっている時間だった

 

「うわ、なんか食べるものあったか?」

 

俺の荷物をあされば、非常用に取っておいてあった乾パンと水だった。 わびしい、そう思いながら乾パンを食べ終える。 というかこの部屋、ないものが多すぎる。 机もないし、冷蔵庫とかがまだあるからいいが。 これは担任に言ってもどうにもならないし、学園長に直接でいいか。 こうして、俺の学園一日目は幕を閉じる

 

『お休み黒夜』

 

『お前は寝るのかわからんが、お休み白』

 

 



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第十一話

早朝、走り込みを終え、俺は木刀を振る。 小、中と続けてきた剣道だが、IS学園(ここ)では部活動に入っていない。 小学生、つまりは施設に居た頃は、いい成績を修め褒められるのが嬉しかったが、中学で続けていたのは誘われるがままに、だ。 一応、これでも個人で全国優勝者だ。 小学校から何かと有名だったため、中学の顧問にもぜひと言われてはいったに過ぎない。 それでも、今もこうやって振り続けているのはなぜなのか。 褒められたいから、なのだろうか? 自分でもよくわからない

 

「・・・・・・もう一回最初からやるか」

 

雑念が入ったため、最初からもう一度やり直すことにした

 

--------------------------------------------

 

シャワーを浴び、身支度を整えて学食に来れば、混んでいた。 人混みは苦手というわけではないが、これだけの女子が学食に居るのだ、気後れしないわけがない。 毎朝こんなふうになるのかと少しげんなりしていれば、ようやく俺が食券を買える順番が回ってきたようだ。 納豆定食の食券を買い、食堂の人に差し出せばメニューが渡させる。 それにしても、好奇の視線と侮蔑、嘲笑がひどい。 表立って言っているわけではないが、小声で言ってるのが聞こえる。 わざとなのかと思いそっちを向けば、ばれたという顔をして顔をそむける。 わざとではないらしい。 ため息つきたくなる衝動をこらえ、座れる席がないかを探す。 これ以上注目は集めたくないので、どこかの死角を探せば

 

「おぉーい、こっちこっち!」

 

男の声がした。 反射的にそちらを向けば、もう一人の男子織斑一夏が俺に向かって手を振っていた。 その行動が注目を集めているのだが、本人に自覚はないようだ。 ここで反応しないのは織斑に悪いし、何よりこの不特定多数が見ている状態で無視はまずい。 なので、そちらに向かうことにした

 

「昨日は会えなかったけど、お前が二人目なんだろ?」

 

「あぁ、白石黒夜、よろしく」

 

「俺は織斑一夏よろしくな!」

 

人当たりがいいのか、笑顔を浮かべながら握手を求められた。 俺はそれに応じ、握手をする。 あぁ、ねたむ声が聞こえる。 そんなにお近づきになりたいのなら、声をかければいいだろうに。 そう思いながら織斑の対面に腰を下ろす

 

「いやぁー、男子が一人で心細かったんだ」

 

「クラスは別だけどな」

 

「でも、もう一人がどこかにいるって分ければ、つらさも和らぐだろ?」

 

なんというか、プラス思考なのだろう。 別に俺がマイナス思考というわけではないのだが、俺が現実的なことを言うと、それをプラスの方向にもっていこうとする。 まぁ、隣の女生徒の好意には気が付いていないようだがな。 隣の女生徒は、男子が一人で心細かったといったときに、顔をしかめた。 たぶんなじみか何かだろうが...... ん? この顔

 

「・・・・・・篠ノ之箒か?」

 

「む? お前と私は初対面のはずだ、何故私の名を?」

 

警戒心バリバリの篠ノ之箒だが、何故ときたか

 

「中学三年の剣道大会、全国の女子の部の優勝者だろう」

 

「なっ!? 何故それを!!」

 

大声でテーブルに手をついて立ち上がったため、大きな音と声で注目を集めてしまう。 その様子に隣の織斑は驚いているが、それにしても最悪だ...... めがねをしているからだいじょうぶだと思うが、しかめっ面を隠すように味噌汁を飲みながら、一言

 

「全国大会、男子の優勝者だ」

 

「え!? そうなのか?」

 

興奮したように織斑は立ち上がり顔を近づけてくるが、近えよ。 若干下がりつつ返事をすれば、箒の試合はどうだった、とうとう聞かれた。 本人には悪いが、アレは試合何て呼べるものではない。 本人も自覚があるのか、俯いて何も話そうとしない。 正直に言えば面倒ことになるのは必須、そもそも今も面倒だが。 なので、逃げの一手だ

 

「その時疲れていてな、表彰があるまで寝ていたから見ていないんだ」

 

「そっかー、みてないのかー」

 

自分のことのように残念がる織斑と、言われないことにほっといている篠ノ之。 面倒なことになったと思いつつ、食べる速度を上げたのだが

 

「相席、いいかな?」

 

ここでさらに面倒な事態になった。 織斑目当ての女子三人が、織斑に相席を申し出たのだ。 これは、確実に面倒なことになる。 そう思い、食べるスピードを速めるのだが遅かった

 

「隣、失礼するね~」

 

「・・・・・・あぁ」

 

マイペースな少女が、俺の隣に座る。 かなり言いたいことがあるのだが、一つだけ。 何で着ぐるみなんだ。 食堂に来ている生徒は着替えてきているのだが、少女だけは着ぐるみなのだ。 しかも、某ポケットなモンスターの黄色い電気ネズミ。 懐かしさすらこみあげてくるが、色々な意味で目立っていた

 

「私、布仏本音だよ~、よろしくね~」

 

「布仏? 布仏先輩の妹か?」

 

自己紹介をされて、びっくりして箸が止まる。 確かに、布仏先輩に似てるところがあるなーなんて思っていたが、まさか妹だとは。 まぁ、ある意味バランスはとれているのかもしれない。 姉はピシッとした秘書のような人で、妹はまったりのほほん系。 あぁ、いろんな意味で布仏先輩って苦労してるんだ。 もう少し、ゆとりを持たないと胃に穴が開きそうだ

 

「お姉ちゃんを知ってるの~?」

 

「あぁ、色々な意味でお世話になったからな。 自己紹介が遅れた、白石黒夜だ」

 

「なら、シロクロだ~!」

 

「「はい?」」

 

篠ノ之箒以外の全員の声が重なる。 シロクロ? なんだそれ

 

「あだ名だよ、あだ名~」

 

「あぁ、あだ名ね?」

 

えぇー...... あだ名でシロクロって、まんまやん。 ネーミングセンスもさることながら、どうしてこうなった感がすごいのだが

 

『随分独特だね!』

 

白も思わずといった感じで、声に出していた。 何かと絡んでくる一夏とのほほんさん(こう呼べって言われた)を適当にあしらいつつ、納豆定食を食べ終える。 篠ノ之箒? 彼女なら、相席が決まり少し経ったら席に行ったよ。 俺は立ち上がる

 

「ん? 黒夜もう行くのか?」

 

「あぁ」

 

「えー、一緒に行こうぜ!」

 

暑苦しいことこの上ない笑顔で言われるが、俺は一緒に行く気はない。 これ以上女子の嫉妬の視線にさらされるのが嫌なのと、時間がギリギリだからだ

 

「悪いが、俺の部屋は寮の端なんだ、急がないと間に合わなくなる」

 

「あー、それは仕方ないか...... また後でな!」

 

「・・・・・・あぁ。 それとのほほんさん」

 

「なに~?」

 

「こんなこと言うのはデリカシーがないし失礼かもしれんが、君も急いだほうがいい。 着替えの時間、無くなるぞ」

 

「はっ!」

 

後でというのは何か考えたくないが、本当に時間が無くなってきたから次にする。 のほほんさんに忠告をすれば、俺と時計を交互に見て、それまでの速さは何だったのかという速さでご飯を消費していく。 まぁ、本人がやる気になったのだから良しとしよう。 つまらないかが心配だが。 俺はそのまま食堂を後にし、部屋に戻るのだった

 



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第十二話

疲れた。 俺の昼休みが始まってすぐの感想だった。 女子の態度は平常運転(ひそひそ声での誹謗中傷など)、担任も問題あては今日も絶好調だったのはいつものことだが、それにプラスされた出来事があった。 一夏のクラス来訪だ。 何故か、何故か一夏は休み時間になると、俺に話しかけに来る。 

 

『なんで二回言ったの?』

 

白の言葉は無視をする。 クラスもそんなに近いわけじゃないのだが。 それのおかげで、女子からは質問攻めにされた。 ここで内容を一部抜粋しようと思う

 

「何でアンタみたいなのが、あの織斑君に話しかけられるのよ!」

 

「どうやって織斑君にすり寄ったの?」

 

「はっ!? まさか織斑君をダシに千冬様に近づくつもりじゃ!?」

 

等々、あることないこと言われた。 ていうかさ、その思考回路に脱帽だよ俺は。 呆れを通り越して、逆に感心するよ。 俺が丁寧に説明をすれば、何故か認めない。 どないせいっちゅうねん。 そして原因の一夏だが、周りからの視線を感じないのか俺と暢気に話している。 視線を感じて周りを見るも、大部分の女子はすぐに視線を逸らすので首をひねるばかり。 おかげで俺は、嫉妬の視線と陰口にさらされ疲れた。 そしてお昼なのだが、俺に休みはないらしい

 

「黒夜、こっちだ!」

 

「一夏!大声で呼ぶな!」

 

俺のことを目ざとく見つけ、大声で呼ぶ一夏。 そんな一夏を注意する篠ノ之だが、その篠ノ之も大声である。 注目を集めないはずもなく、俺は内心ため息をつく。 

 

『悪気がないのが一番厄介だね!』

 

白の言う通りである。 まぁため息をついた理由はもう一つ、篠ノ之の存在だ。 俺に厳しい視線を向けてくるのだ。 邪魔されて気分が悪いのか、それとも大会のことを言われたくないのか。 たぶん両方だろうが。 それにしても、今度からは食堂ではなく、購買にしよう。 まぁ、購買も食堂を通らないといけないのだが。 断るわけにも行かず、俺は片手をあげ一夏に合流する。 朝と同じように対面に腰を下ろせば、一夏が俺のメニューを覗いてくる

 

「お、うどんセットなのか」

 

「まぁ、美味そうだったからな」

 

見た目が美味そうというのもあったが、速く食べ終わるという利点もある。 まぁ食べ終わったところで、一夏が逃がしてくれるとは思えないが。 手を合わせて、食べ始める

 

「黒夜は授業の方はどうなんだ、ついていけてるのか?」

 

「まぁ、そこそこはな」

 

「そっかぁ...... やっぱ必読って書いてある教本を読んだからか?」

 

「? あぁ」

 

何を言ってるんだろうか、こいつは。 授業なんかはISもある分分かりにくいが、一般科目もある。 ちゃんと勉強していれば分かりそうなものだが、何なのだろうか? 少し意味が分からずに首をかしげていれば、そんな俺の様子を見かねてか、織斑が周りを確認すると、顔を近づけてくる。 いや、近けぇよ

 

「実は俺、必読って書いてある教本、捨てちゃってさ」

 

「・・・・・・」

 

どうやったら捨てられるのだろうか。 仮にも学校から配布された教本だ、別にしといたりするだろ。 それじゃあなくても、表紙にでかでかと必読と書いてあったのだ、捨てるはずがない。 呆れた表情をしていたのだろう、織斑が少し怒ったふうに言ってくる。 顔を近づけたままで

 

「な、何だよその呆れた表情。 俺だって、やっちまったかなとか思ったけど」

 

「・・・・・・わかってるならいい」

 

俺はため息をつきつつ、一夏の顔を俺の顔から離すように顔面を押す。 すると一夏も抵抗することなく、顔面を離す

 

『なんで興奮すると顔を近づけてくるのかな?』

 

『ホモだからだろ』

 

『そっか!』

 

納得してほしくなかったが、白は納得してしまったようだ。 まぁ、勘違いされても仕方ないと思う。 というよりも、篠ノ之も篠ノ之だ。 周りでひそひそ話されているのだから、一夏の方を注意したっていいはずだ。 自分だけ涼しい顔して、味噌汁を飲んでいるようだが。 自分だけ他人のふりとはいい度胸だった。 結局その後も一夏の相手をさせられ、休み時間いっぱいまで喋っているのだった。

 

--------------------------------------------

 

「整備箇所はほとんどないようですね」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ」

 

放課後、昨日の試合のことを更識会長から聞いたのか、布仏先輩が声をかけてきた。 俺も放課後は基本暇なので(練習したくてもできないとも言うが)、二つ返事で了承した。 ちなみに予約だが、昨日の帰りがけに取った。 一週間後になるが、何もしないよりましだろうということで。 そんなわけでいざ整備となったのだが、ISを展開して布仏先輩に見せてみるも、そんな言葉をいただいた

 

『まぁ、昨日の模擬戦、ほぼ被弾してないし。 そもそも、あのくらいの被弾なら整備しなくても問題ないしね。 超小型スラスターに関しても、黒夜無理しないように使ってたから問題なし!』

 

白に聞くも、布仏先輩と同じ様な返事が返ってきた。 なるほどねー

 

「あの出力なのに、ぶつけた後とかもないなんて......」

 

「まぁ、リミッターを解除していないですし、そもそもあのくらいのスピードならよそ見してても操れますから」

 

「・・・・・・」

 

考え込むような布仏先輩だが、俺は何か変なこと言っただろうか?

 

『あのスピードでピンピンしてるほうがおかしいんだよ!』

 

そんなこと言われても困る。 ホワイトグリントなんかもっと速いしQBとかと比べれば、圧も大したことないし。 本当なら整備の仕方とかを教わりたかったところなのだが、真剣な様子で考え込んでいる布仏先輩の邪魔をしては悪いと考え視線を周りに向ける。 今の時期、学校の機体の整備で忙しいらしく空きがないということで、席を外しているこのところを間借りさせてもらったのだが、その子のISに目が行く

 

『あのIS気になるの?』

 

『んー、まぁ、打鉄やホワイトグリント、それにラファールぐらいしか見たことないからな。 そりゃあ気にならないと言ったらうそになる』

 

白と会話しながら、誘われるようにISへと歩いていく

 

『このISの名前は打鉄弐式。 山嵐、周りに浮いているミサイルポットの事だけど、そのミサイルポット六機八門からなる合計四十八発のミサイルと背中に搭載されている荷電粒子砲二門からなる機体なんだ。 近接武装は薙刀』

 

『四十八発かぁ...... 重腕さんには遠く及ばないけど、ミサイルが主武装って時点でどこか彷彿とさせるな』

 

そんな風に思いながら、打鉄弐式と呼ばれるISを撫でようとすると

 

「触らないで!」

 

後ろから鋭い声がした。 振り向いてみれば、水色の髪が特徴的で眼鏡をかけた女生徒がいた。 どこか更識会長と似ているが、姉妹か何かだろうか? 疑問に思いながら手を引っ込める

 

「君のIS?」

 

「そう、だから勝手に触らないで」

 

何処か気が立っているのか、ずんずん歩いてくるとISを守るように立ちはだかる眼鏡女子。 うーむ、まぁ勝手に触ろうとしたのはまずかったな。 反省だ

 

「勝手に触ろうとしてすまなかった。 確かに、自分のものを他人に触れられるのは嫌だな。 大事にしているのなら、なおさら。 すまなかった」

 

頭を下がれば、とたん困惑したような雰囲気になるが気にせず頭を下げ続ける

 

「簪様......」

 

「虚さん? どうしてここに......」

 

ようやく、再起を果たしたのか布仏先輩の声がしたが、どうやら俺のことではないらしい。 目の前の眼鏡女子は、どうやら布仏先輩の知り合いのようだ。 というか、俺挟んでシリアスな空気はやめて。 しかも謝ってる状態だから、頭上げるに上げられないから。そんな俺の困惑をよそに、話は進んでいく

 

「それは、彼の機体の整備に」

 

「整備? え? 何で純白?」

 

いやあの、驚くよりも俺のことを気にしてください。 頭下げっぱなしだから、辛いんですよ? しかもその機体、俺のだし

 

『眼中にないって感じだね!』

 

やかましいわ

 

「原因は不明ですが、何故かこうなったんです......」

 

「純白...... Unknownさんみたい」

 

「っ!?」

 

今この眼鏡女子はなんて言った? 心臓の鼓動は早くなるが、ここは冷静に。 何故、その名を知っているのか。 どうもこの学園に通っている女子は、ビルドファイターズのプレイヤーは少ないようで話にも上がらなかった。 まぁ、何年も前のゲームだから上がらなくても不思議ではないのだが

 

「そのぉ、簪様、そろそろ彼のことを......」

 

「彼? あっ......」

 

あっ...... って言ったぞこの子

 

『あっ...... って言われたね』

 

結局その日は何とも言えない空気になり、そのまま解散となった。 一つの謎を残して。 余談だが、勝手に触れようとした件は許してもらえた

 



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第十三話

整備が予想外に早く終わり、暇になったが考えたいことがあったので部屋に戻る。 その道中で考えるのは、あの眼鏡女子のこと。 名前までは分からないが、何処か更識会長に似ていた。 布仏先輩の知り合いだし、たぶん更識会長に聞けばわかるのだろうが。 それにしても、驚いた。 まさか、ビルドファイターズ時代の名前を聞くとは。 まぁ、学園長とか更識会長、白から散々聞いてはいるのだが一般生徒から言われたのは初めてだった。 ただまぁ、これで少し警戒しなければいけないのは分かった。 純白の機体を見て、Unknown()を連想したくらいだ、よっぽど強い思い入れがあると見える。 ということはだ、似たような奴がいれば、ばれる可能性があるということだ。 負けるのも嫌だが、適度に手を抜かねばならなくなったかもしれない。 流石に、操縦でバレるとは思いたくもないが。 やはり機体カラーを変えればと思い白に相談してみるも

 

『トレードマークだからね、変えるつもりはないよ!』

 

との事だった。 まぁ、最初から正直に変えてくれるとは思っていなかった。 それだけ思い入れがあって、既存のカラーから変えたわけだしな。 ともかく、色々考えたいことはあるが部屋でゆっくり休みたかった。 部屋の前の扉に立ち、鍵をひねり扉を開ける。 あぁ、ようやく休める。 だが、神様は俺を休ませてくれないらしい

 

「ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ・た・し?」

 

扉を思いっきり閉める。 なんか幻覚が見えた気がする、更識会長とか言う幻覚が。 うーむ、ストレートに言うが欲求不満なのだろうか自分。 ストレス等は感じるが、そう言うことは関係ないと思うのだが。 白、どう思う?

 

『幻覚じゃなくて、思いっきりいたね!付け加えるなら、エプロン装備の楯無が!』

 

幻覚であってほしかったのだが、どうやら幻覚ではないらしい。 白に確認を取れば、今も部屋の中、玄関のところでスタンバっているようだ。 ここはあれだろうか、不法侵入者として警察に通報したほうがいいのだろうか? まぁ、そんなことするはずもないが。 そんなことすれば織斑先生はもちろん、面倒なことになるのは目に見えている。 ここはあれだ、被害を最小限に抑えるしかない。 扉を開けて

 

「ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ

 

続きを言わせる間もなく、扉を速攻で閉め、鍵をかける

 

「・・・・・・」

 

あまりの早業に、ポカンとする更識会長だが、それを無視して横を素通りする。 なに、俺がとった行動は簡単だ。 被害を最小限に済ませるには、誰にも見られないようにすればいい。 なので速攻鍵を閉め、後は無視する。 部屋から閉め出してもいいが、それを見られた場合更識会長の格好的に俺が速攻で豚箱か研究所行きだ。 なので、面倒だがそのままというわけだ。 疲れているのにこの仕打ち、本当に疲れる。 少しほっとしたのは、横を通った際ちゃんと水着をつけていたことだ。 これで本当に裸エプロンだった場合、常識を疑っていた

 

『でも、ちょっとがっかりしてたよね?』

 

『ノーコメントだ』

 

白が何やら言っているが、ノーコメントだノーコメント。 一つ言うなら、俺にだって性欲くらいはある。 それはさておき、着替えたいのだが更識会長がいる。 いまだ玄関で固まっているようだが、いつ復活するかわからない以上着替えるのは得策ではない。 部屋を見れば、朝の日課の時に学園長と会ったのだがその時頼んでいたものがもう届いていて、セットまでされていた。 しかも、ベッドもちゃんと設置されている。 ・・・・・・なぜか二つだが。 どうも学園長の話では、倉庫として使われていたため、普通の部屋よりちょっと広いらしい。 そこだけはお得感がある。 まぁ、昨日掃除とかしたのだ、それくらいの贅沢は良いだろう。 とりあえず、昨日使っていたベッドには俺の荷物があったので、今日の予習復習を始めることにした。 したのだが

 

「もー、ノリが悪いわねー」

 

「・・・・・・」

 

なんというタイミングの悪さか、更識会長が復活したようだった。 猛烈にため息つきたくなるのをこらえ、更識会長の方を向く。 てか、まだ着替えてなかったのか

 

「ノリが悪いという前に着替えてください」

 

「なに? この格好は目に毒?」

 

そう言って、エプロンの裾を少しずつ上げていく更識会長。 日焼けとうはしていないが健康的な白い太ももが...... じゃなくて

 

「目に毒とかそう言うことじゃなくて、速く着替えてください」

 

『でも、まんざらでもない様子である』

 

白は黙っとけ。 注意をしてもなお、裾をあげるのをやめない更識会長。 ・・・・・・これは少し、怖い目にあってもらわないとだめかな? からかわれるのは癪だし、注意してやめないほうも悪い。 少し鬱憤も溜まってるし、いたずらしても許されるだろう、ということなのでいたずらを決行する

 

「茶番は終わりだ」

 

一気に距離を詰め、両手を素早く拘束し壁に押し付ける。 更識会長は抜け出そうともがくが、これでも剣道は全国大会優勝、護身術等もかじっているのだ。 そう簡単には抜け出せないし、抜け出させない。 何より腕力等も俺の方が強い。 気がかりなのはISの展開だが、それよりも早く気絶させればいい話だ

 

「男の前でそんな格好して、誘ってるんですか? 男は狼、昔から言われてるでしょう?  女尊男卑の世の中だろうが、そんなものは変わらないんですよ?」

 

「あの、その......」

 

予想外の出来事にどうも弱々しい。 もしかしてこの人、予想外の出来事には弱いのか?  そんなことを考えつつ、さらに畳みかける

 

「ISを展開しようとしても、この距離じゃ俺が更識会長を気絶させるほうが速いですよ。 それで、襲ってもいいんですか? というよりも、そんな格好して襲ってほしいんですか?」

 

「いや、いやぁ......」

 

ついには、目尻に涙が溜まってくる。 アカン、これ完全にやりすぎた感じじゃないですか。 もはや抵抗もないし。 演技の様子もないし。 白さん、どう思いますか?

 

『事案発生だね!通報しといたよ!』

 

いや誰にだよ。 てかヤメロ

 

『流石に冗談だよ!楯無のISに聞いたら、悪戯は日常茶飯事らしいしね、ちょっとお灸据えたほうがいいんじゃないかなーって僕も思ったし』

 

ISにお灸据えたほうがいいと思われるって、どれだけ悪戯しているのか。 逆に気になるが、そろそろやめるか。 後は悪戯控えるように言っとけばいいかな。 だんだんと顔を近づけ、そして......

 

「いたずらしすぎると、いつかこんなふうにされちゃいますよ」

 

耳元でそう言って手を離すと、何故かへたり込んでしまう更識会長。 いや、マジでどうしたんだ? 心配になり更識会長を起こし、顔を見る。 すれば、目を回していた。 アカン、やりすぎた。 気絶しているようだった

 

「どうしよう......」

 

『本当に事案発生させちゃったね。 通報しました』

 

いや、だからどこにだよ。 とにもかくにも、床に寝せておくのは非常にまずいので、横抱き、つまりはお姫様抱っこをしてベッドに運んでおいた。 そのままシャワーを浴び、着替えを済ませ勉強していればベッドの方から物音が聞こえた

 

「う、うぅん......」

 

多分起きたのだろうが、俺は気にせずに勉強を続ける。 もう少しでキリのいいところまで行くので、そしたら更識会長に謝ることにしよう

 

「「・・・・・・」」

 

何故か無言の時間が続くが、俺が勉強を終え更識会長の方を向くと。 掛け布団を頭からかぶる更識会長の姿が。 物音とかしなかったけど......

 

「あの、更識会長?」

 

「っ~~~~!? 正座!」

 

「はい?」

 

「だから正座!!」

 

俺が声をかければ、じたばたしていた更識会長だが、何故か正座を強要された。 聞き返せば、自分の目の前の床を指し、正座を再度強要された。 いやまぁ、正座しますけど

 



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第十四話

正座をすれば、更識会長は目の前に座り説教を始める。 お姉さんをからかったらダメ、女性は丁重に扱うこと、あんなことをすれば勘違いされる等々、色々なことを言われたが

 

「そもそも、更識会長が悪戯をしなければこんなことにはならなかったのでは?」

 

「うっ......」

 

俺の正論に言葉を詰まらせる更識会長。 いやまぁ、俺がやりすぎじゃないかと聞かれれば、やりすぎということもあるが。 そもそも、こんなことをしなければ...... ってやめよう、こんな話は無限ループになる。 まぁ、今回の事は更識会長にも責任があるし、俺にも責任がある、さっさと謝ることにしよう

 

「でも、今回は俺もやりすぎました、すみませんでした」

 

「私も、いたずらしてごめんなさい......」

 

俺が頭を下げれば、更識会長も頭を下げる

 

『反省してる割には着替えようとしないよね!』

 

いまだに動揺してるんだろ。 とりあえず、立ち上がり足をほぐす。 更識会長は、動く気配がない。 これ、言わないとだめか? 正直言ってかなり面倒なんだが

 

『もしここに誰か入ってきて、勘違いされてもいいんだったらいいんじゃないかな?』

 

それはまずい。 入ってくる人物なんて全く思い当たる人がいないが、勘違いされたら困る。 ため息をつきながら、更識会長に声をかける

 

「更識会長」

 

「なにかしら?」

 

「その格好、気に入ってるんですか?」

 

「・・・・・・」

 

自分の服装を見て、ようやく着替えていないことに気が付いたのか、赤い顔をしながら脱衣所へ向かった

 

「はぁ、どっと疲れが......」

 

--------------------------------------------

 

更識会長も着替えが終わったので、早速とばかりにこの部屋に来た目的を聞くことにした。 俺の見間違いでなければ、俺の見覚えのないものが増えてるし

 

「あの、更識会長、何をしにここへ? 俺の見間違いじゃなければ、俺が部屋を出るときよりも見覚えのないものが増えているんですが」

 

「あー、まぁ悪戯をしにと言うのもあったんだけど、本当の目的は貴方の警護をするためよ」

 

悪戯という言葉にお灸が足りなかったかなと思ったが、うんざりした顔をしたので何も言わないでおいた。 それにしても警護か。 たぶん、校内の女尊男卑思考の奴らへの牽制、と言ったところだろうか? 話を聞けば、盗聴器等も仕掛けられていたようであった。 いつの間にとも思ったが、スペアのキーなどはあるだろうし、それを借りれば誰でも可能か。 今は、監視カメラや盗聴器にダミーの映像やジャミングしているから安心らしいが。 織斑の部屋は...... 大丈夫か。 あの篠ノ之と一緒の部屋らしいし

 

「なるほど、オアシスだと思ってくつろいでいた部屋は、思いっきり監視されていたと」

 

「まぁ、私や十蔵さんで撤去とかしておいたから、これからは安心と言えば安心だけどね」

 

「ありがとうございます。 学園長の方にも、家具の事でお礼を言わないと」

 

「マメなのね、貴方って」

 

くすくすと笑う更識会長にそんなことはないだろうと思いつつ、更識会長に似ている子がいるのを思い出した

 

「更識会長って、妹さんいるんですか?」

 

「・・・・・・いるわよ。 簪ちゃんって言うんだけどね、とってもかわいい子なの!」

 

一瞬表情が固まったものの、饒舌にしゃべりだす更識会長。 妹のどこがかわいいか、どんな容姿なのか、何故か聞いてもいないのに話してくる。 本当に妹が好きなのはわかるが、妹離れしたらどうなのだろうか。 ・・・・・・まぁ、俺も人のことは言えないんだろうが

 

「もう本当にかわいいのよ!・・・・・・でも、この頃は私の前で笑ってくれることはないんだけどね」

 

いきなり泣き出しそうになる更識会長。 あぁ、()()()()なのか。 この人も妹の事で、()()()()()()()()()人なのか、そう考えると今までどこか温かかった心が、凍てつくのを感じる。 どうにも空気が悪い、更識会長もこれ以上語るつもりはないのか口を閉ざしたままだ。 俺は立ち上がると、キッチンスペースで紅茶を淹れる。 暖かいものでも飲めば、心も落ち着くだろうということだ

 

「どうぞ、布仏先輩のと比べるのもおこがましいほど、まずいですが」

 

「・・・・・・ありがとう」

 

布仏先輩の紅茶は本当においしかった。 飲む機会があったのだが、紅茶の香りを楽しむなんて、布仏先輩が出してくれた紅茶が初めてだった。 まぁ、布仏先輩みたく紅茶の勉強や淹れ方なんて知らないので、適当に淹れた代物だが

 

「温かいわね、美味しくないけど」

 

「そうですか」

 

更識会長も落ち着いたのか、普通に話せるようになってきたようだ。 いらない言葉が付いたが

 

「聞いてもらえるかしら、簪ちゃんがなんで私の前で笑顔を見せなくなったか」

 

「・・・・・・」

 

無言で頷く。 正直言って他人の事情に深くかかわっている場合じゃないのだが、どうも更識会長が聞いてほしそうだったから。 話されたのは、優秀な姉とその姉と比べられて育った妹の話だった。 昔から姉は優秀で、妹はそんな姉と比べられて育った。 でも妹はめげることなく頑張った。 姉は妹の事が大好きで、妹のことを溺愛し、いつも応援していた。 妹もそんな姉を誇りに思いつつ、自分もその背を負って頑張っていた。 姉妹の中はよかった、ある日までは。 その日、その姉妹の父親がいろいろな事情があり体が動かなくなる。 生きてはいるらしいのだが、体は動かない。 その家は特殊な家で、姉は家を継ぐことになった。 姉は余裕がなくなり、妹に酷いことを言ってしまったらしい

 

「無能のままでいなさい」

 

心にも思っていないことを言い、姉妹には溝ができた。 姉にようやく余裕ができ、気が付いた時にはもう手遅れだった。 妹は姉から距離を置き、姉は自分のせいでこうなってしまったことを自覚し、どうにもできなくなっていた

 

「こんなところかしら。 勝手よね自分で蒔いた種なのに......」

 

そう言ってうつむいてしまう更識会長に、俺の口は勝手に動いていた

 

「原因もわかってる、謝る気がある、妹も姉のことを気にしてる。 仲直りの機会なんて、どちらも一歩踏み出せばあるじゃないですか」

 

「黒夜君?」

 

「二人とも怖がってるんですよ、これ以上傷つくことに。 でも、怖がってるだけじゃ何も変わらない。 時には喧嘩したっていい、言いたいことを言い合ってすっきりすればいい。 お互いのわだかまりをなくせば、きっと......」

 

それはどこか自分にも言い聞かせているようで......

 

「・・・・・・そう、かもしれないわね。 うん、少なくとも私は怖がってた。 簪ちゃんとこれ以上仲が悪くなることに。 でも、それじゃあいけないのもわかってた。 だって、簪ちゃんの笑顔、私また見たいもの。 かわいく笑う、その笑顔を。 あーあ!年下の子に励まされちゃったわね!」

 

どうやら元気になった更識会長は、俺の肩をバシバシ叩いてくる。 地味に痛いが、まぁ元気になってよかった。 どうも、妹のことになるとセンチになるらしい。 俺も、更識会長も

 

「本当にありがとう、私、少しだけ頑張ってみるわ」

 

「・・・・・・そうですか」

 

唐突に抱きしめられ、俺は頭が真っ白になる。 声からもわかるように、どうやら悪戯ではないらしい。 それはそれで、別に意味で質が悪いのだが



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第十五話

二人とも落ち着き、そう言えば聞きたいことがあったのを思い出しそれを聞くことにした

 

「あー、そう言えば妹さんてビルドファイターズやってました?」

 

「? どういうこと?」

 

「いえ、俺の打鉄を見たときに、俺の現役時代のプレイヤーネームを言っていたので」

 

「うーん、ごめんなさい。 その時は私自分の事で精一杯だったから」

 

苦笑しながら、申し訳なさそうに言う更識会長。 いやまぁ、事情が事情だから仕方ないと思うが。 本人に聞きたいところだが、クラスが分からないから尋ねようもない。 整備課は各々自分の事が手いっぱいで俺のことを気にしている余裕などないだろうから、行ってもいいが。 用もないのに顔を出すのもどうかと思うし。 親しい人がいるなら別だが、特にいないしな。 だが、更識会長は思い出したかのように付け加える

 

「うーん、でもビルドファイターズの最後の世界大会って、今から三、四年前の話だったわよね?」

 

「はい、そうですが?」

 

「そのころ、簪ちゃんが何かにはまっていたのは覚えてるのよ。 もし詳しいことが聞きたいなら、本音ちゃんに話を聞いたらどうかしら? 彼女は簪ちゃん専属のメイドだから」

 

「のほほんさんですか...... まぁ、会う機会があれば聞くことにします」

 

ポンとメイドという言葉が出てきたが、特に驚くことはしない。 一応、更識家と布仏家がどういう関係なのかも、さっきの過去の話で聞いていたからな。 それにしても、のほほんさんが更識さん専属のメイドか。 ちょっとモヤモヤしつつ、その日は時間も遅いのでお開きになった

 

--------------------------------------------

 

「強いわね、剣道」

 

「まぁ、一応全国大会優勝者ですから」

 

早朝、昨日と同じ様に日課のランニングと素振りをしようと、同居人である更識会長を起こさないように脱衣所で着替えたのだが、何故か気を使った本人は起きていて何故かジャージに着替えていた。 何故そんな格好をしているのか聞いてみたところ、警護の一点張りで碌な答えが返ってこなかった。 仕方がないので、そのままランニングをこなし、素振りをしていたのだが、更識会長から試合をしようということになった。 そして、更識会長に連戦連勝し、現在に至る

 

「これでも学園最強を名乗ってるから、自信はあったんだけど、自信なくしちゃうなー」

 

「その割には、声が全然悔しそうじゃないんですが。 それどころか、いっそ清々したみたいな感じなんですが」

 

汗をぬぐうと、中断していた素振りを再開する。 更識会長は、道場の壁に背を預け、水を飲んで休んでいた。 どうも今日は朝練がないらしく、更識会長が先に借りていたらしい。 ここで少し嫌な予感がしたのだが、追及するのはやめておいた。 下手に藪をつつくことはないのだ

 

「でも、本当に強いけど、何か秘訣とかあるのかしら?」

 

「・・・・・・継続は力なり、それだけじゃないですか?」

 

目標回数まで降り終え、汗をぬぐいながら更識会長の質問に答える。 更識会長は疑わしそうな顔をしているが、嘘は言っていない

 

「・・・・・・剣道を始めたきっかけも、褒めてもらいたい、それだけでしたから」

 

「そう言えば貴方、施設の出身だったものね。 その関係?」

 

「まぁ、そうですね。 一番年上ということもあって、小さいやつらの面倒を大人と一緒に見ていたこともありましたから。 褒められる、ということがあまりなかったですからね。 いつの間にか、俺は何でも出来て、当たり前。 頼れるお兄ちゃん、というのが施設での俺でしたから。 息抜きで適当に木刀を振ってたら、剣道を勧められてそのまま、って感じですね。 今は褒められる相手もいませんから、だらだら続けてこの結果という感じでしょうか」

 

「あー、なんか過去のこと聞いちゃったみたいで、ごめんなさい......」

 

「気にしないでください、俺が勝手に話しただけですから」

 

汗をぬぐい、水を飲む。 時計を見れば、昨日と同じくらいの時間だった。 あまりぼさぼさしていれば、HRに遅れてしまう。 そろそろ行かなければ

 

「更識会長、そろそろ行きます。 それとも、更識会長はもう少し休んでから行きますか?」

 

「気を使ってくれてありがとう。 でも、私は大丈夫よ、行きましょう」

 

更識会長は立ち上がり、歩き始める。 俺はも歩き始めると、何故か隣に並ぶ更識会長。 まぁ、この時間なら誰かにみられる心配はないのでそのまま部屋に向かうことにした

 

「そう言えば」

 

「なんでしょう」

 

歩いていれば、更識会長が話しかけてくる

 

「更識会長、って言うのやめない? 簪ちゃんもいるわけだし、更識じゃ紛らわしいから」

 

「まぁ....... それは一理ありますね」

 

確かに一緒に居る所に話しかけることはないだろうが、更識は二人いる。 布仏にも言えることだが、本人たちから何も言われていないことだしそこは気にしない

 

「だから、前に言ったと思うけど好きに呼んでいいわよ? たっちゃんとかたーちゃん...... はなしね」

 

前に言った冗談をまだ気にしているらしい。 あの時のは冗談だったが、まぁいいか

 

「なら楯無先輩と呼ばせてもらいます」「うぅん、まだ硬いけど更識会長よりはましかしら。 それじゃあ改めて、よろしく黒夜君」

 

--------------------------------------------

 

食券を渡し、出された料理をとる。 相変わらず提供されるまでが速いが、この混みようだからだろう。 楯無先輩は流石に遠慮と言うか、多分妹と話に行ったのか隣にはいない。 でも、心は貴方のそばになんてふざけたことを抜かしていたので無視をしておいた。 一応探し人を探しつつ、なるべく人目につかないところで食事をとれる席を探す。 一応あるにはあったが、探し人がいた。 どうしようか歩きながら迷っていると、探し人がこちらを見つけたのか手を振っていた。 笑顔で手を振るのはいいが、袖がだぼだぼだ。 一応、IS学園の制服は改造OKということになっており、人によって制服が違う。 ロングスカートだったり、ミニスカートだったり。 校則とかどうなっているのかと言えば、あまり過度に派手でなければいいらしい。 女子高ゆえなのか、それとも校則が甘いだけなのか。 たぶん両方なのだが。 さて、探し人であるのほほんさんが手を振っているんだ、俺も無視するわけにはいかない

 

「おはようのほほんさん。 今日は制服なんだな」

 

「おはよ~シロクロ~。 私ずっときぐるみきてるわけじゃないよ~」

 

独創的なあだ名は本決まりらしい。 まぁ、いいけどさ。 制服を着ていることを言うと、頬を膨らましながら的外れなことを言う。 そう言うことではないのだが、苦笑いしつつ誤魔化しておいた。 のほほんさんはサンドイッチのようだが、俺は焼き魚定食。 早く食べなければ

 

「お~、朝から魚なんだ~」

 

「ザ・日本の朝食みたいな感じでいいだろ?」

 

「そうかもしれないけど~、私は魚は好きじゃないかな~。 骨をとるのがね~」

 

「それは分かる」

 

と言いつつも、骨を綺麗に取っていく。 実際、骨取りをしないと骨がつっかかったりして危ないのだ。 面倒でも、そこはとらなければならない。 俺がきれいに骨をとっていると、対面ではお~、とか、すご~いとか言われてるが、別に普通だ。 骨を綺麗に取り終えれば、何故か拍手された。 周りの視線は冷たいが。 とはいえ、そんな視線を気にしていたらもうとっくに死んでいるのだ。 ご飯を食べつつ、本題に入る

 

「のほほんさんに聞きたいことがあるんだ」

 

「ほぇ~? なにかな~?」

 

「楯無先輩の妹さんのことなんだが」

 

「・・・・・・」

 

返事がないので視線を向ければ、さっきまでの人を癒すような笑顔ではなく、薄く目を開きどこか真剣な表情をしていた。 いきなりすぎたが、のほほんさんの空気により、本題に入るのが遅れてしまったため、仕方ないのだ。 目を見れば、続きを促していたので続きを喋る

 

「ビルドファイターズの経験者なのか?」

 

「うん、そうだよ~。 ゲームセンターとかに一緒に行ってたから知ってるけど、プレイヤーネームとかは知らないかな~」

 

俺が小声でビルドファイターズのことを聞けば、のほほんさんは雰囲気を戻し、答えてくれた。 ふむ、経験者か



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第十六話

はい!誤字が多くてすみません!!(土下座

そんなわけで、とるべりあ様ありがとうございます!

本編始まるよー


四時間目の授業も終わり、昼休みになると同時にそれは起きた。 昼飯を確保して、何処か静かに食べようと思っていた俺は教科書を片付け、椅子から腰を浮かす。 ピンポンパンポーンと放送が入ったが、特に気にせずに教室から出ようとした

 

『一年三組、白石黒夜君、一年三組、白石黒夜君。 至急生徒会室まで来てください。 繰り返して.......』

 

この瞬間、教室内の空気がガラッと変わった。 あぁ、ついに、ようやくかという声が聞こえてくる。 待て待て待て、俺は何もやってないし、呼び出されるようなことはしていない。 冤罪とかで呼び出されるのは、まぁ仕方ないとして、呼び出したのは楯無先輩だ。 そんなことになる前に学園長に伝えると思うし。 あかん、マジで原因が分からん。 とりあえず、至急生徒会室と言っていたし、生徒会室に向かわなければ。 昼飯は、この際諦めるしかない。 最悪、放課後に少し小腹を満たせば構わないし。 そんなことを考えつつ、生徒会室に到着した。 ノックをすると呼んだ張本人が、切羽詰まった声で入室を促した。 そんなに俺の状況がやばいのか、やばい案件なのだろうか。 少し覚悟を決めつつ、生徒会室の中に入る。 だが、俺のそんな覚悟は一言目であっさりと砕かれた。 悪い意味で

 

「簪ちゃんと何をしゃべったらいいかわからないのよー!」

 

「あ、すみません帰っていいですか?」

 

「どうぞ」

 

楯無先輩に泣きつかれたが、それを引きはがし布仏先輩に告げる。 布仏先輩も呆れたように許可を出してくれたが、楯無先輩がそれを許さなかった

 

「待って、待ってくださいお願いします!!」

 

「人が何かやらかしたかと思って来れば、開口一番妹さんと何をしゃべったらいいかわからないとかいう人の相談に乗るほど俺は優しくないですよ」

 

「反省してます!というか、校内放送はやりすぎました!次は改めるから相談に乗ってー!」

 

「「はぁ......」」

 

自分でも校内放送はやりすぎだと思っているのか、次は改めるとのこと。 というか、次もあるのか? そのことに少しげんなりしながら、適当な席に着く。 布仏先輩は紅茶を出してくれた。 その香りをかぎ、少し落ち着いた。 布仏先輩にお礼を言いつつ、話を促す

 

「それで? 朝話しかけるって言って別れましたけど、その様子では駄目だったと」

 

「ええと、そのぅ...... はい......」

 

朝のことを思い出したら、おなかがすいてきた。 腹を抑えていると、何故か目の前にショートケーキが。 出した人に視線を向ければ、布仏先輩だった。 なぜに?

 

「あの?」

 

「お昼休みになってからすぐの呼び出しです、何も食べていないんじゃないですか?」

 

「いえ、まぁ、そうですけど」

 

確かに布仏先輩の言う通りで、これから昼飯買いに行くところではあった。 でも、何故にケーキ? というか、そもそも何で生徒会室にケーキがあるんだ? 来賓とかに出すとかならおかしくはないのだが、ここは生徒会室だ。 来賓とか来るはずもない。 そんな俺の疑問に、布仏先輩が答えてくれる

 

「本音の、私の妹の分です」

 

「本音と言うと、のほほんさんですか」

 

「あぁ、あの子のあだ名ですか。 知っているなら話は早いです。 あの子はお菓子が大好きなので、生徒会室に冷蔵庫を設置しそのなかにお菓子をため込んでいるんです」

 

のほほんさん

 

『随分アグレッシブだね!』

 

どうやら白と同じ感想になったようだ。 あんなにのほほんとしているのに、お菓子が絡むと人が変わるのか。 人は見かけによらない、まさにその言葉の体現者だろう。 というかそもそも、冷蔵庫の設置とか簡単にしてもいいのか? それも許可ださないといけないようなするが...... そう思い、ポンコツと化した生徒会長を見る。 あぁ、普通に許可出しそうだ。 なんというか、本当に布仏先輩苦労してそう。 それはそうと

 

「勝手に食べてもいいんですか?」

 

「本音は、お菓子を食べすぎるので、その......」

 

あー、少しでも減らせば食べる量も減ると。 最後まで言わなかったが、そう言うことなんだろう。 ぶっちゃけ、俺も腹が減りすぎてカロリーを摂取したいのだ。 のほほんさんには悪いが、いただくことにしよう

 

「まぁ、そう言うことなら遠慮なく。 ・・・・・・」

 

一口食べれば、口の中に甘さが広がる。 甘さが広がったのはいいのだが、想像以上甘ったるかった。 布仏先輩を見れば、紅茶を薦めてきた。 くそぅ、分かってて出したってことか。 紅茶を飲みつつ、今度はのほほんさんが心配になった。 少なくともケーキがこの甘さなのだ、毎日これくらい甘いものを食べていると仮定すると、糖尿病に良くかからなかったな今まで。 布仏先輩にお礼を言い、楯無先輩の話を聞くことにした

 

「それで、ダメだったの事ですが、どんな感じで? 二口目も甘いわ......」

 

「遠くから簪ちゃんを見つけて、話しかけようとしたんだけど、ある程度の距離まで行ったら頭真っ白になっちゃって」

 

「一応話しかける気はあるんですね、直前で駄目になるみたいですけど」

 

「それで、このままじゃいけないと思って休み時間とかも話しかけようとしたんだけど......」

 

「ダメだったと。 ところで休み時間話しかけようとしたみたいですけど、そんなに移動教室あるんでしたっけ?」

 

「それはもちろん簪ちゃんに話しかけるために!」

 

笑顔で言うことじゃないから。 布仏先輩を見れば、頭を抱えていた。 うんまぁ、やりすぎだろうな。 たぶん楯無先輩のこのシスコンぶりだ、毎時間話しかけようとして立ち尽くしてたパターンだぞ。 クラスの子たちも不思議だったんじゃないだろうか? なぜか自分のクラスの前に立ち止まっている上級生。 不思議すぎる

 

「一つ言っておきますと、度が過ぎればいくら家族と言っても、ストーカーと大差ないですからね?」

 

「ガーン!」

 

ショックを受ける楯無先輩だが、その横で布仏先輩は頷いていた

 

『白さんや』

 

『もちろん確認はバッチし!聞いてきたけど、毎時間だそうです!』

 

あー、やっぱりという感想しか出てこない。 というか、そもそも

 

「俺も妹と上手くいってないのに、相談するのが間違いじゃないですかね? ごちそうさまでした」

 

「はっ!」

 

今頃気が付いたみたいな感じだが、何故今更なんだ。 どっちかと言うと、俺じゃなくて布仏先輩に聞くべきでは?

 

「布仏先輩はどうですか? 妹さんと仲良さそうですし」

 

「確かに仲はいいですが、あの子の人柄、というのもありますからね」

 

確かに布仏先輩の言う通りだ。 のほほんさん、好き嫌いははっきりしてそうだけど、嫌いな人でも仲が悪いところが想像できない

 

「まぁ、話すにしてもほどほどにしておいたほうがいいですよ最初は。 喧嘩もしているわけですし。 それにあまりにしつこいと、ウザがられますよ」

 

「・・・・・・」

 

『返事がない、ただの屍のようだ』

 

どうやら言い過ぎたらしく、声をかけるも返事がない。 まぁ、楯無先輩の行動が極端だということが分かった。 今回の放送を含め。 用事も終わりかと思い生徒会長を出ようとすると、扉が開く

 

「あ~、シロクロまだいたんだー」

 

「あれ? のほほんさん」 

 

なぜかのほほんさんとばったりと

 

「あー!!」

 

いきなり騒ぎ始めるのほほんさんだが、視線を負えば机の上に置かれたケーキの包装紙の方に視線が。 あぁ、ケーキ食ったのバレた。 その後、新しいケーキを買うことで何とかのほほんさんの機嫌を直してもらった。 布仏先輩はそれを見て、俺に謝ってはいたが。 流石に代金を出すと言ったときは、食ったのは自分なのでいいと突っぱねたが

 



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第十七話

夜、もう少しで食堂が閉まる時間に俺は食堂に居た。 この時間は割と片付けなどで忙しい時間なのだが、手伝うという条件で俺は例外的に使わせてもらっていた。 仕事は厨房ではなく、食堂の机といすの拭き掃除だ。 アルコールで湿らせた布巾で机といすを拭くだけ。 もちろん数があるため時間はかかるが、食堂のおばさん何人かと手分けしてやっているため苦ではない。 流石に一人でやらされるのなら使う時間を改める所ではあるが。 どうも食堂のおばさんは女尊男卑思考に染まっていないらしく、男一人にやらせようなどとも考えもしない。 だからこそ、こうやって手伝っているのだが。 食堂のおばさんにお礼を言うと、何故か俺もお礼を言われた。 不思議に思って聞いてみると、食堂の利用時間ギリギリに来た生徒でも、手伝っていかないのは手伝っていかないらしい。 それなのに俺は毎日手伝ってくれているから、らしい。 いや、俺が毎回のように利用時間ギリギリに来ているからなのだが。 それでも、手伝ってくれるだけありがたいそうだ。 そんなふうにお礼を貰いつつ、俺は寮の廊下を歩いていた。 一番端にある俺の部屋だが、数日もすればなれるものだ。 まぁ、相変わらず女子からの視線が煩わしい。 まぁ、俺の部屋の付近までくればその煩わしい視線もほぼなくなるのだが。 だが今日は珍しいことに、部屋に行く前に呼び止められた

 

「あの」

 

「あぁ、更識さん。 こんばんわ」

 

「簪でいい、苗字あんまり好きじゃないから」

 

更識さん改め、簪さんに呼び止められた。 ここに簪さんがいるということは楯無先輩は話しかけるのに失敗したか、それとも昼のことを引きずっているのか。 まぁどちらにしろ、楯無先輩の事は置いておいて、今は目の前の問題を片付けなければ

 

「なら簪さんで。 何か用か?」

 

「ちょっと、話したいことがある」

 

俺の目を見てじっと言われるが、時折視線を周りに向ける。 真剣な話はいいが、ここで話したくないと。 まぁ、少なくなったとはいえ俺のことを見ている女子はいる。 俺の部屋でもいいのだが、流石に楯無先輩と引き合わせたら、まずいような気がする

 

「いいけど、何処で?」

 

「ここ」

 

手を引かれ、簪さんが背にしていたドアの中に入る。 ・・・・・・意外に近かったんだな、部屋。 生徒会長権限で調べられそうなものだが、あえて調べないのか、そのことを忘れているのか。 前者だといいが、後者のような気がする。 楯無先輩、妹のことになると途端にポンコツになるからな

 

「あ、かんちゃん探し人は見つかった?」

 

「うん」

 

どうやらルームメイトはすでにいるようで、ルームメイトと喋っていた。 挨拶せねばと思い歩き出すのだが、妙に聞き覚えがある

 

「あ、シロクロだ~」

 

「のほほんさんか」

 

「シロクロ?」

 

いやまぁ、分かってはいた。 のほほんさんは最初あった時のように、着ぐるみを着ていた。 どうやら、予想していたように寝るときに着るようだったようだが。 そんな俺とのほほんさんの会話を不思議そうに見る簪さん。 ていうかうん、やっぱり独特なんやな俺のあだ名

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな。 俺は白石黒夜、だからシロクロだ」

 

「あぁ、だから......」

 

納得したように頷く簪さんだったが、突然頭を振って真剣な表情で俺を見てくる。 なんだ?

 

「真剣な話があるの」

 

「・・・・・・あぁ」

 

話がしたいからと言って部屋に連れてこられたわけだが、のほほんさんの登場で忘れていた。 簪さんはそのことに気が付いたから、頭を振ったわけね。 のほほんさんパナイな

 

「貴方にはああ言ったけど、考えているうちにわからなくなったの。 私が本当にあの子を、打鉄弐式を大切にしていたのかどうかを......」

 

「かんちゃん?」

 

それっきり俯いてしまう簪さん。 それを心配そうに見るのほほんさんだが、次に俺を見る。 どうも事情を説明しろということらしい

 

「最初にあった時、俺が彼女のIS打鉄弐式に触れようとしたんだ。 それで、席を外していた彼女がちょうど帰ってきてな、触らないでって言われたんだ。 それで、そのことを謝罪するときに、大事にしているものを触ろうとしてすまないと言ったんだ」

 

「かんちゃん...... でも、かんちゃんは大事にしてると思うよ? そうじゃなきゃ、製作途中の弐式を引き取って自分で完成させようなんて思わないよ」

 

「でも、私は弐式を利用してる。 お姉ちゃんは一人でISを完成させた。 なら私も一人で完成させればお姉ちゃんと同じ土俵に立てる」

 

なんかいろいろと新事実が出てきているんだが、白

 

『はいはい、困った時の白だよ!まず弐式の製作途中ってはなしだけど、元々は倉持技研というところが製作をしていたんだ。 でもその倉持技研だけど、開発を途中で中断したんだ』

 

『なんで?』

 

『原因は君たち。 男と言う貴重なサンプルが出たことによって、倉持技研は国からの命令で男の専用機を作ることになった。 まぁ、それも芳しくなく白式を最終的に完成させたのはママンなんだけどね。 それで、白式にはママンの技術が使われてるってことで、弐式の開発は完全に凍結。 それを簪が引き取って、こないだ見た形まで仕上げたっていうところかな』

 

『まぁ倉持どうのこうのは、この際何も言わない。 で、楯無先輩がひとりでISを作ったっていうのは? たしかISって何人もチーム組んで作るものだろ?』

 

『その件はねー、簪の言うことは正解でもあるし、不正解ともいえる。 元々楯無のISは原型は完成してたんだよ。 グストーイトゥマンモスクヴェから得られたデータをもとに、フルスクラッチで組み上げた機体なんだ。 でも、意見は貰ってたみたいだし、完全に一人というわけじゃないみたいだねー』

 

『ふーん』

 

なんかいろいろ分かったが、俺が知りえない情報まで知りえてしまったようだが、まぁいい。 聞きたいことは別にある

 

『それで、弐式のコア自体はなんて言ってるんだ?』

 

『コア自体は気にしてないみたいだよ? 早く一緒に空を飛びたいみたい。 あー、でも心配はしてる。 毎日毎日、朝早くから夜遅くまでプログラムとかやってるみたいだし。 今日は、どこか上の空だって』

 

『コア自体は気にしていないが、本人が気にしてるか』

 

まぁ、なるようになるか

 

「君が何でそこまで必死になって打鉄弐式を組んでいるのかは知ってる」

 

「っ!? なん、で?」

 

「楯無先輩から聞いたからな」

 

部屋の温度が急激に下がった気がする。 ずっと簪さんを見ていたが、伏せていた目は親の敵とばかりに俺を睨んでいる。 正直言ってやらかした感が半端ないが、このまま押し切らせてもらう

 

「楯無先輩の言葉を受けて、君がどう思ったか、何ていうのは分からない。 君自身の気持ちだからな。 別に、あるものを利用して同じ土俵に立つのは悪いことじゃないと思うが?」

 

「貴方と話すことなんて、ない」

 

「君になくても、俺にはある。 君のIS、打鉄弐式のコアは、そんなこと気にしていないそうだ」

 

「貴方に、何が!」

 

「その通りだ、俺にはわからない。 だがな、白にはわかるんだよ」

 

「白?」

 

「何々呼んだー?」

 

「「!?」」

 

白の声が聞こえた瞬間、驚く二人。 声の主を探そうとキョロキョロするが、そんなことをしても見つかるはずがない

 

「あはは!そっちじゃないよ、こっちだよ、こっち」

 

今度ははっきり聞こえたのか、俺の方を見る。 俺は俺で、ネックレスを掲げる

 

「まさか......」

 

「そのネックレスが?」

 

「そうだよー!初めまして、かな? 僕は白!白石黒夜の乗る純白の打鉄のコアの意識と呼ばれる存在かな」

 



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第十八話

「コアに意識があるのは授業とかで聞いて知っていたけど、実際に喋るのは......」

 

「初めて、というわけか。 俺の場合、最初からこんな感じだからな」

 

「あはは、まぁ君は()()だからね。 ()()()()()()()()なんかにも関係するからね」

 

「白」

 

「はいはーい」

 

いらないことまで喋りそうな白を静止しつつ、簪さんとのほほんさんを見る。 まぁいまだに驚きなどから立ち直れていないのか、ポカンとしたままだが。 だが関係ないとばかりに、白は話を進める

 

「それで弐式のコアがなんて言っているかだっけ? まぁ、弐式もというより、僕以外のコアはみんなシャイだからね、話はしないけどね。 でも、利用されているのには気にしていないみたいだよ。 そもそも、IS自体色々な思惑に利用されているからね、いまさらそんなこと気にしないよ。 ちなみに弐式のコアがなんで利用されているか知っているかと言うと、簪プログラミングとかの時独り言多いみたいだよ?」

 

「待て待て待て、お前そんなにお喋りだったか? というか、要点だけ喋れ、話が脱線しまくってる」

 

今度は別に意味でポカンとする二人だが、そこまで白のマシンガントークがすごかったのだ。 俺との時はそこまで喋るわけじゃないのだが、鬱憤が溜まっているのだろうか? 白は俺が注意すると、別に気にした様子もなくそのまま話に戻る

 

「ともかく、弐式のコアは別に気にしてないって話。 それどころか、速く一緒に空を飛びたいと思ってるみたい。 あ、でも、空を飛ぶなら左足のスラスター関連の配線、組み直したほうがいいよ? 下手すると、飛行中に爆発なんてこともあり得るから」

 

「えっと、うん、わかった......」

 

言いたいことも言い終えたのか、白はそれっきり黙る。 うん、部屋の中が何とも言えない空気だが、どうしてくれるんだ白

 

『ガンバ!』

 

まぁ、確かにこれ以上白から言うことはないか。 この状況を何とかするべく、俺は口を開く

 

「あぁ、それと。 弐式のコアが心配していたらしい、毎日朝早くから夜遅くまで付きっ切りでプログラミングを組んでいたりしていたらしいな。 伝えるのはそれくらいか」

 

「・・・・・・ぐすっ」

 

「かんちゃん......」

 

ぐずりだした簪さんを安心させるように抱きしめるのほほんさん。 俺は手持ち無沙汰だが、流石にガン見するほど腐っちゃいない。 視線を、天井に向ける。 女の子の部屋だからな、下手に見回すとマナーにかかわるところだからな。 それから数分後、ようやく声がかかる

 

「もう、大丈夫」

 

「・・・・・・」

 

簪さんを見れば、目元は少し腫れているが、少しつきものが落ちたような感じだ。 のほほんさんも、少しうれしそうだ

 

「貴方のおかげで、少し気が晴れた。 ありがとう」

 

「・・・・・・どういたしまして」

 

「私からも、ありがとっ!」

 

お礼を言うなら白の方なのだが、白は別にと言いそうだし、素直に受け取っておいた。 さて、話も終わったわけだし、そろそろ消灯時間も近づいてきた。 お暇しようと声をかけようとすれば、白が思い出したかのようにしゃべり始める

 

「そうだ!簪ってさビルドファイターズやってたんだよね!」

 

「う、うん。 やってたけど?」

 

「プレイヤーネームは? 教えてよ!」

 

これまたストレートに聞きおって...... そう言えばのほほんさんから聞いてはいたが、プレイヤーネームまでは聞けなかったんだっけな。 まぁ、別に断ってもいいのだが、真剣に悩んでいる様子だ。 俺としても知りたいが、無理に聞き出そうとは思っていなかった。 だが、簪さんは答えた

 

「うーん、まぁいいかな? 弐式の事も教えてもらったし。 私のビルドファイターズの時のプレイヤーネームは重腕。 使っていた機体は、ヘビーアームズのカスタム機。 そこに飾ってあるのが、その時使っていた機体」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は金づちで頭を殴られたかのような衝撃に襲われた。 彼女が、簪さんが重腕? 指さした方向を見れば、最後の、あの最後の世界大会決勝時の、ヘビーアームズが飾ってあった。 あぁ、なるほどなるほど

 

「ククッ」

 

「シロクロ?」

 

「白石君?」

 

二人とも戸惑ったように名前を呼ぶが、そんなものは入ってこない。 思わず漏れた笑いだったが、それは喜びから来るものだった

 

「あはは!こんな事ってあるんだね!まさに運命ってところかな、戦う宿命にあった、みたいな!」

 

「そうかもな」

 

「え?」

 

「えぇー......」

 

俺が白の言葉に同意しながら眼鏡をはずすと、何故か戸惑う簪さんと信じられないようなものを見たのほほんさん。 だが、俺は気にせずに改めて自己紹介をする

 

「初めまして、それとも久しぶりかな重腕さん。 ここではあえて名乗らせてもらうよ、かつてホワイトグリントを駆り、世界大会二連覇。 プレイヤーネーム、Unknownです」

 

「うそ......」

 

簪さんが驚く中、白からの補足が入る

 

「本当だよ。 だからこそ、黒夜の乗る打鉄のカラーリングは白にしたんだもの」

 

「え? え?」

 

話について行けないのほほんさんはひたすら戸惑うだけだったが、段々と事態が飲み込めてきた簪さんは驚いたような顔から、挑むような顔になる

 

「まさか、こうやって会えるとは思えなかったUnknownさん」

 

「こっちもだよ、重腕さん。 さて、気が変わった。 君には今すぐにでも専用機を完成させてほしい。 機体は違うが、あの時の再戦、したいからね」

 

「あの時の、世界大会決勝の?」

 

「そう」

 

その話が出た途端、簪さんの表情が曇る。 どうしたのだろうか?

 

「どうかしたのか?」

 

「ISとビルドファイターズは違う」

 

「確かに勝手は違うが、操作系統は同じだ」

 

「ヴァーチャルとリアルは違う」

 

「あぁ、何だそんなことか」

 

確かに、あのゲームの動きができるかと言われれば否と答えるだろう、普通の人なら。 だが

 

「できる」

 

俺は言い切る。 なぜなら、楯無先輩との試合で俺は証明しているからだ

 

「ゲーム内の動き、完全とはいかないができる。 俺はそれを証明した」

 

「証明?」

 

「あぁ、楯無先輩との試合で」

 

その瞬間、部屋に何とも言えない空気が漂ったが、俺はそれを気にせずに話しかける

 

「気になるなら、楯無先輩に聞いてみるといい」

 

「・・・・・・百歩譲ってできるとして、当時の設定がない」

 

苦し紛れの発言だが、これも否である

 

「いや、ある。 実際、俺は有澤さんに当時の設定をISに組み込んでもらってる。 ラインアークのみんなが、作ってくれた。 簪さんも連絡を取ってみるといいんじゃないかな、昔のチームに」

 

「・・・・・・」

 

黙ってしまう簪さんだが、その瞳は迷っていた。 いつもの俺なら無理に背中を押すことはしないが、俺はもう一度、いや、何度でも重腕さんと戦いたいのだ。 一種の賭けだが、俺はかけることにした。 眼鏡を装着しつつ、俺は簪さんに背を向ける

 

「君がISにこだわるのならそれでいい、ぬるま湯の中に浸かっているといいよ。 だがもし、君があの時の、重腕としての戦いを望むなら、昔の仲間に連絡を取ってみるといい。 君にはその権利がある。 あぁそれと、君のISの腕は知らないけど、重腕としての腕なら楯無先輩よりもはるかに格上だよ」

 

「っ!? 待って!!」

 

扉に向かって歩き始める俺の背に、簪さんから声がかかる。 振り向けば、どこか不敵に笑う簪さんの姿が

 

「確かに、私にそう言えば火をつけることができる。 それをわかっててやったでしょ?」

 

「さて、どうかな?」

 

「ふふっ。 ありがとう、迷いが断ち切れた」

 

「楽しみに待ってるよ、君との再戦」

 

扉を閉め、早歩きで部屋に向かう。 鍵で扉を開け、同居人を無視しベッドにダイブする

 

「あぁ、やっちまった......」

 

さっきの自己紹介を思い出し、その後のセリフの数々を思い出し、一人で悶絶していた



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第十九話

俺は今、いや、俺たちは今アリーナに来ていた。 俺たちと言うのは、三組全員という意味だ。 どうも、他のクラスもまばらだが人は来ているようだ。 一応授業中のはずなのだが、まぁいいか。 何故俺たち三組がアリーナにいるかと言われれば、俺が一夏に誘われたからだ。 朝、昼、夜と一緒にご飯を食べ、休み時間も前ほどの頻度ではないが遊びに来る一夏。 その時に、クラス代表の話になったのだ。 俺は半場強制的に決まったわけだが、一夏の方はまぁ、何だ、不幸な事故とでも言えばいいのか。 一夏も俺と同じ様に推薦されたらしいのだが、それに反発した女子がいたようだ。 それが今回の相手、イギリス代表候補生セシリア・オルコット。 その時の様子を一夏が怒っていたように言っていたが、ほとんど聞き流しておいた。 だって、興味ないし。 それで、その時言い合いになって決闘になったらしい。 意味が分からん。 なので、楯無先輩に教えてもらった。 簡単に言えば、癇癪を起した子供の喧嘩という認識だろうか。 先に喧嘩を売ってきたのはセシリア・オルコットで、どうも男子を馬鹿にするついでに日本を馬鹿にしたらしい。 それで、一夏がセシリア・オルコットの国、イギリスを貶めるような発言をした。 まぁ、そうなる前に担任が止めればよかったのだが静観していたらしい。 売り言葉に買い言葉、ヒートアップしたところで担任がようやく止めたようだ。 それで今回のISバトルになったらしい。 なんというか、そんな私利私欲に使っていいのかと思うのだが、教師が許可したのだからいいらしい。 ウチの担任も、授業一コマ潰して観戦に来たくらいだし。 普通の学校なら考えられないが、IS学園は自由らしい。 このことを学園長に言ったら、頭を抱えていた。 なんというか、ご愁傷様です

 

「シロクロはどっちが勝つと思う~?」

 

「さてな、二人と同じクラスじゃないし、ISに乗ってるのも見たことないから」

 

話しかけてきたのは、のほほんさん。 クラスの女子と距離を置きたくて反対側に座ったのだが、何故か一組の観客席からも離れている俺のところまできてわざわざ座ったのだ。 気を使ってクラスの方は良いのか、と聞いたのだが友達に言ってきたから大丈夫だそうだ。 違う、そうじゃないのだが言っても無駄なのは経験則的にわかっているので好きにさせておいた。 その時、アリーナのカタパルトから、ISが飛び出してくる。 青を基調とした機体のようだ

 

『白、情報はあるか?』

 

『もちろん!』

 

白に聞けば、早速情報が表示される。 ブルーティアーズ、イギリスの第三世代型IS。 射撃を主体とした機体で、第三世代兵器「BT兵器」のデータをサンプリングするために開発された実験・試作機。 兵装は、レーザーライフルであるスターライトmkⅢ、遠隔無線誘導型の武器で、相手の死角からの全方位オールレンジ攻撃が可能なブルーティアーズ。 このブルーティアーズだが、換装装備によっては機体に接続することでスラスターとしても機能する。 装備数は6基で、4基はレーザー、2基はミサイルを撃つことができる。 最大稼働時にはビームの軌道も操る、要は曲げることができる。 接近戦用の武装、インターセプト。 これがブルーティアーズの情報だった

 

『まぁ、一応ISは競技として広まってるからね。 武装の情報とかならこんなに詳しくはないけど、ある程度なら載ってたりするよ? 興味があるなら僕に聞くか、自分で調べてね』

 

『わかった』

 

白にお礼を言いつつ、試合に集中するとしよう。 いまだ一夏は出てきていないが、試合前の情報収集だ。 この戦い、どちらが勝利しても俺といつか当たることになるのだ。 ここでの勝負は、大事な情報となる。 気になるのは、何故一夏がそんな大事なところに俺を招待したのかということと、ISに乗って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かということなのだが

 

「セッシーは準備万端なのに、おりむーは来ないね~」

 

「機体の準備に...... ってそれはないか。 訓練機は常に整備されているって話だし。 あー、そう言えば一夏には専用機が与えられるって話だったか。 それの輸送が遅れてるんじゃないか?」

 

「? 何でそんなこと知ってるの~」

 

「噂でもちきりだし、それに楯無先輩が部屋で書類とにらめっこしてたからな」

 

隣に座った時にお菓子をせがまれ、持っていた飴(たくさんの種類が入った一袋)をあげたのだが、それを食べ終え次のお菓子に入っていたのほほんさんが聞いてきた。 あぁ、ここ数日一緒に行動が増えたからわかっていたが、布仏先輩が心配していたのもわかるというものだ。 なんて、考えながら答えを言う。 ここ数日、何かと忙しそうにしていた楯無先輩。 理由を聞いてみれば、学園に入ってくるある積み荷に関することだった。 何故楯無先輩がとも思うが、忘れてはならないのが彼女の家の役職だ。 裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」の当主。 その積み荷が織斑一夏、ひいてはIS学園に入ってくるものなら彼女の出番ということだ。 毎日書類で大変そうだったので、紅茶を出したり甘いものを出したりしていたが。 そんな風に話していれば、セシリア・オルコットが出てきたカタパルトの反対側から一夏が出てきた

 

『白』

 

『ちょーっと、待ってねー。 よし、これだよ』

 

機体名は白式。 それ以外情報なし

 

『ちょっと待て』

 

『初運転の機体だし、仕方ないよー』

 

そう言うことなら、仕方ない、のか? 疑問は残るが、アリーナ内を見る。 白式、という機体の割にはカラーリングが白くないが。 一夏が出た瞬間、あがる歓声。 上がったのはもちろん、三組の方からだ。 その勢いに他のクラスの人達、主に一組の方が驚いていた

 

「わー、凄いねー」

 

「その棒読みはやめたほうがいい。 まぁ、三組(ウチ)は特に女尊男卑思考の連中が多いみたいだからな」

 

「シロクロも~、そう言う発言は控えたほうがいいかもよ~?」

 

のほほんさんの方を向けば、何時もの笑顔ではなくどこか悪戯っぽい笑顔だった。 そんな表情もできるのかと思いつつ、目の前を見据える。 試験以外のIS起動は初めて、初めて乗る機体で上手く飛んでいる一夏に感心しつつ、分析を開始する。 最初から武器、剣を展開しているところを見ると主兵装のようだが、射撃戦主体のセシリア・オルコットとどう戦うのか見ものだった。 まぁ、やり方はいくらでもあるが、一夏がどう戦うかは未知数だ。 まっすぐな性格から、真正面から突っ込んでいきそうな予感はするが。 剣を展開しているということは武器の展開が不得手と言うわけではないと思うが。 俺が分析をしていると、のほほんさんが話しかけてくる

 

「Unknownとしてはどうなのかな?」

 

「・・・・・・どこまで広がってるんだ、それ」

 

思わず苦い顔になってしまったのは仕方ないと思う。 まさかこんなところで呼ばれると思ってなかったし、周りには俺のせいで人がいないので安心だが

 

「う~んと、私とお姉ちゃん、後は楯無お嬢様、後かんちゃんだけかな?」

 

「まぁ、いいのか?」

 

真面目な様子ののほほんさんに、少しほっとする。 

 

「始まるみたいだな」

 

「そうだね~」

 

周りが少し騒ぎ始め、見ればセシリア・オルコットがライフルを構えていた

 

「見せてもらおう、お前の持つ力」

 



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第二十話

一方的になるかと思われた試合だが、一夏は健闘していた。 初弾、不意打ち気味に撃たれたレーザーを見事によけ、セシリア・オルコットに切りかかる。 流石に避けられると思ってはいなったのか虚を突かれたセシリア・オルコットだったが、一瞬で立て直し優雅によける。 一夏の攻撃は大振りだったため、大きく隙を見せるがセシリア・オルコットは距離を開けることに専念したようだ

 

「ふーん」

 

「? どうしたのシロクロ」

 

「いや」

 

()()()()()()()()()()はそう言う選択を選ぶのか、と俺は思っただけだ。 これでは、初心者の一夏と大差ないのではないだろうか。 がら空きの背中を狙撃せず、距離を開けることを専念するなど。 楯無先輩なら、水蒸気爆発(クリアパッション)や蒼流旋についているガトリングガンなどで、ダメージを与えつつ距離を開けるだろう。 俺の打鉄なら、多種多様な武器、例えば体制を大きく崩せるグレネードランチャーなどを撃って距離を開ける。 まぁ、色々やり方はあるが、距離を離すことに専念はしない。 初心者だからと侮っているのか、それとも実力なのか。 まぁ、見ていれば分かるものか。 思考するのを中断し、試合を見る。 仕切り直しと言わんばかりに剣を構え直す一夏だが、セシリア・オルコットは射撃に専念している。 一夏の動きは直線的で、正面から狙いに来るため、射撃側としては狙いやすいことこの上ない。 QBなどで左右に瞬間的に機体を振れるならいいが、生憎ISにそんなものはついてない。 仮に正面から行くのなら少し技術はいるが、緩急をつけるなりジグザグに機動するなりして近づくのがセオリーだが。 常にフルではないにしろ、同じ速度で走り続ければ見切るのも容易い。 まぁ、初心者に何を要求しているんだという話にはなるが

 

「つまらなそうだねぇ~」

 

「試合に集中したほうがいいぞ、のほほんさん」

 

何が面白いのか、俺の顔をじっと見てコロコロ笑うのほほんさん。 俺が試合に集中するように言えば、返事をして試合を見るのを再開する。 勝負に動きはなく、一方的なワンサイドゲームだ。 近づけばライフルの餌食になり、離れても攻撃手段がない。 まぁ、ブレオンで行くしかなかったとしても、選んだのは一夏だ、どうにかしてほしいものだ。 おかげで、ウチの女子連中が機嫌が悪い。 女尊男卑思考の連中だが、織斑一夏は特別。 そんな思考連中ばっかりだ、一夏が負けているのは当然面白くない。 だが、相手はイギリス代表候補だ。 文句が言えるはずもない。 今も、何も関係もないこちらを睨んでくる始末だ。 俺は何もやっていないのだがな。 試合が動いた。 と言っても、一夏が逆転できたということではなく、一方的なワンサイドゲームが終わりを告げようとしていた、という意味だ。 セシリア・オルコットはついに、そのISの名前の由来である主兵装、ブルーティアーズを使ったのだ。 四基の遠隔操作端末によるオールレンジ攻撃。 一夏は翻弄されているが、俺には見飽きた光景だ。 たった四基じゃ少なすぎる、それが俺の感想。 まぁ、ブルーティアーズ、つまりはファンネルだが、あれには適正がないと使えないらしい。 いや、正確に言うなら、適性があっても、使いこなせるかどうかは別問題らしい。 ファンネル自体、操縦者の集中力がいるようで、さっきからブルーティアーズを使っているセシリア・オルコットは止まっている。 まぁ、ブラフと言う可能性もないことはないのだが、何度も撃墜できるところを見逃している、いや、ライフルすら構える素振りがないところを見ると、ブラフではないだろう。 かといって、本選で当たる場合油断する気もないが。 ついに一夏の足が止まり、ブルーティアーズは一夏めがけて一斉射される

 

「よく見えない」

 

『へぇ......』

 

のほほんさんは試合の結果が気になるようだが、俺は白の感心したような声が気になった

 

『白?』

 

『ん? いやね、凄いご都合主義だなーって。 嫌いじゃないけど、物語の中だけだと思ってたよ』

 

白の意味深な言葉に、俺は目を凝らし煙の方を見る。 煙が段々晴れていき、そこに居たのは、白いISを纏った一夏の姿だった。 翼の形状や、色味が変わっているがどういうことなのだろうか?

 

一次移行(ファーストシフト)、授業でやったでしょ?』

 

『形態移行ってやつだったか?』

 

形態移行、搭乗者のデータ入力である初期化と、それによって機能を整理する最適化を行うことで搭乗者に最もふさわしい形態にする。 最初の設定が完了するのに大体30分前後掛かり、その結果起きる最初の形態移行を一次移行と呼ぶ。装甲の形状なども若干変化し、それによって初めてIS搭乗者の専用機となる。 だったか。 つまり一夏は、初期設定で今まで戦っていた、と

 

「へぇ、やるじゃない、それなりには、さ」

 

「シロクロ、シロクロ。 すごく悪役っぽいせりふ言ってるところ悪いけど、無表情で言われたら不気味だよ?」

 

隣でのほほんさんがなかなか心に来ることを言ってるが、聞こえないふりをしておく

 

『聞こえなかったみたいだから、録音しておいたよ!後で、たっぷり聞いてね!あとあと、その無表情も録画しておいたから!』

 

『オウ、死体蹴りやめーや』

 

容赦ない白に反論しつつ、試合の続きを見る。 さっきより、多少は動きの良くなった一夏だが、やはりブレオンのため被弾を重ねる。 どうやら一夏もブルーティアーズとセシリア・オルコットの穴に気が付いたらしく、攻めに転じている。 ブルーティアーズを次々破壊され焦るセシリア・オルコットだが

 

「慢心、だな」

 

「?」

 

「見てれば分かる」

 

試合前に相手の情報を集めていたのかわからないが、アレは調子に乗っている。 確かに、ブルーティアーズを()()破壊できたのは大きいが、残念ながらブルーティアーズは()()ある。 セシリア・オルコットは確かに焦っているが、まだ余裕はある。 おそらくギリギリまで引き付けて、残りのブルーティアーズを撃つつもりだろう。 一夏は無警戒に接近したところ、セシリア・オルコットはのこりの二基のブルーティアーズで迎え撃つ。 急停止をして発射されたミサイル一機は切ったが、残り一機は近くで爆発しいらないダメージを貰う

 

「・・・・・・知ってたの?」

 

「このくらい、調べれば載ってる情報なんだろ?」

 

あえて視線をのほほんさんの方に向けず、俺は試合の結果を見る。 いったん距離を離されはしたが、同じ手は食らわないと必死に食いつき、そして

 

「「・・・・・・」」

 

セシリア・オルコットを追い詰め、その刀、雪片二型、そのワンオフアビリティである零落白夜を振るう。 だが、当たる直前でブザーが鳴り響く

 

『勝者、セシリア・オルコット!』

 

会場内が何とも言えない雰囲気に包まれる。 俺は試合も終わったので、立ち上がる

 

「あれ? 行っちゃうの~?」

 

「試合は終わったからな」

 

すたすたと歩き、観客席を後にする

 

『いやー、最後のすごかったねー』

 

今にも笑いだしそうな白だが、俺は正直がっかりしていた。 一夏はしょうがないにしても、イギリス代表候補でもあるセシリア・オルコットがあの程度とは

 

『まぁ、黒夜と比較はやめといたほうがいいよ』

 

『そんなものは分かってるさ』

 

「まぁ、何にせよ」

 

外に出て、アリーナの方を振り返る

 

「なかなかやるじゃない」

 

 

 



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第二十一話

「カンパーイ!!」

 

にぎやかになる食堂、所々で弾んだ声が聞こえる。 食堂の一角を貸し切り、一夏のクラス代表就任おめでとう会が行われていた。 俺もなぜか一夏本人に招待され、この場にいるわけだが場違い感が半端ない。 たぶん呼ばれていないのだろうが、一組以外の女子や上級生もちらほらいる。 そう言う人から刺さるのだ、視線が。 一組の女子は比較的そんなものではないのだが、それ以外の女子がね...... なので招待されはしたが、俺は出来るだけはじっこでパーティーの邪魔にならないようにしていた。 しているのだが、一夏がちょくちょく声をかけてくる

 

「よう!楽しんでるか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。 主役なんだから、端っこの俺まで気にしなくてもいいぞ?」

 

「何言ってるんだよ、同じ男子だろ!」

 

何て言って肩を組んでくる一夏だが、俺のテンションはダダ下がりだ。 一組の女子はまだいい、黄色い声で騒いでいるだけだから。 いや、それも嫌なのだが。 だが問題は一組以外の、特に女尊男卑思考の連中だ。 俺の事殺さんばかりに睨んでるし、実際殺すとかちらほら聞こえる。 いつから世紀末になったのだろうか? 物騒なことこの上ないのだが。 このように一夏が絡んでくるため、俺は落ち着けない。 時々わざと俺のことを学校から追い出そうとしてやってるのかと勘繰ってしまうが、一夏の場合純度百パーセントの善意でやっているから質が悪い。 しかも本人は鈍感で、視線には気が付いていない。 思いっきりため息をつきたくなるが、我慢する。 そういえば

 

「なぁ一夏、聞きたいことがあるんだが」

 

「なんだ?」

 

「何で一夏がクラス代表なんだ?」

 

「「え? 今更!?」」

 

なんか一組の女子たちが、声をそろえて言っているが気になったものは仕方ない。 そもそも、同じクラスではないのだ。 昼間と言うか、午後から試合をやってその日の放課後にいきなり呼ばれたのだ、理由を聞く暇があるはずがない。 一夏に理由を聞けば、困ったような顔をして理由を教えてくれた

 

「いやまぁ、勝負には負けたんだけどな? セシリアが俺に経験を積ませるとか何とかで、辞退したんだ」

 

セシリア、ねぇ...... ついこの間まで、オルコットと呼んでいたはずなのだが。 戦いを通して友情でも芽生えたか?

 

「一夏さん、ここにいらっしゃったのですね」

 

「人気者だな、一夏」

 

件のセシリア・オルコットと、少なくとも俺が見かけたときはいつも一夏と一緒に居る篠ノ之箒だった。 というか、セシリア・オルコットとは友情以上のものが芽生えたらしい。 まぁ、一方的なもののようだが。 そして篠ノ之箒、男と話しているだけで人気者とはどういうことなのだろうか。 そこのところ、詳しく教えてほしいものである

 

「あら? 貴方は」

 

「・・・・・・初めましてセシリア・オルコット嬢。 ()()()の白石黒夜です」

 

「そうですの、貴方が二人目の。 一夏さんがあんなに熱い方でしたから二人目も、と思いましたが...... いえ、第一印象で決めるのは失礼ですわね。 初めまして白石黒夜さん、オルコットで結構ですわ」

 

「でわ、オルコットさんで。 こちらも白石でも黒夜でもどちらでも構いません」

 

小声で言ったつもりだろうが、こっちは耳がいいからばっちり聞こえている。 勝手に期待するのは結構だが、失望してそれを本人のせいにするのはどうかと思う。 まぁ、事を荒立てることもないし聞こえないふりでいいだろう。 自己紹介が終われば、話も終わりさっさと中心の方に一夏を連れていく。 やっと静かになった

 

「ふっふっふ~」

 

「満を持して登場みたいな感じで来てるけど、気付いてるからね」

 

一夏たちが中央に戻ると、少し離れたところで見守っていたのほほんさんがテクテクこちらに歩いてくる。 一応気が付いていたことを言うと、自信満々な表情から不満げなものに変わる

 

「ぶーぶー!そう言うのは気が付いてても、言わないのが優しさってものだよ~」

 

「それは悪かった」

 

そう言いつつ、適当なケーキを切り分けのほほんさんの前に置けば、瞳を輝かせてケーキを食べ始めた

 

『この子ちょろすぎない?』

 

『お前も大概だろうが』

 

白の言うことには同意するが、白も大概なので一応言っておいた。 そんな上機嫌でケーキを食べていたのほほんさんだが、ひそひそ話で俺の悪口が聞こえた瞬間、一瞬動きが止まった。 すぐにケーキを食べる作業は再開されたが

 

「他人のこと貶めないと居られないなんて、可哀想な人たちだねー」

 

「のほほんさんて、意外と毒吐くよな」

 

毒を吐いた時に表情を伺うと、笑顔だった。 まぁ、何時もののほほんとした笑顔ではないが。 この頃一緒になることが多くなりわかったことだが、のほほんさん意外に毒吐くのだ。 しかも笑顔で。 少し天然なところがあるのでアレだが

 

「毒なんて、失礼しちゃうなー。 私は、思ったことを言っただけだよ~?」

 

「それが悪意なしだったら、ね?」

 

紅茶を飲みつつ、眉をひそめる。 別に学食の紅茶がまずいわけではないのだが、一度布仏先輩の紅茶を飲むとどうしても味を比べてしまう。 それほど美味しいのだ、布仏先輩の淹れる紅茶は。 ちなみにこの会話、俺は紅茶を飲みながら、のほほんさんはケーキを食べながら行われている。 他人に聞かれる心配はない。 俺の周りに集まるもの好きはそんなにいないし、二人とも表情を崩さずに行っているため怪しまれない。 どっちにしろ、祝いの席でやることではないが

 

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~簪視点~

 

今日も弐式のプログラミングをして、食堂へと向かっていた。 あの日、白石君と話してから弐式のプログラミングの調子がいい。 なんとなくだけど、弐式と心を合わせてるからなのかな。 ビルドファイターズの頃のスポンサー、アナハイム・エレクトロニクス社に連絡を取ってみたら、ISへの参入予定はなかったけど私の機体、弐式だけは開発を手伝ってくれるらしい。 機体の方をいじると不都合が出るかもしれないということで、パッケージとして追加装備を作ってくれるという話もした。 これなら、世界大会の時のリベンジができるかもしれない。 かすかに希望は見え始めた

 

「あれ?」

 

食堂に着くと、少し騒がしい。 そちらを見ると、女子が集まっていた。 中心を見ると、そこには一人目の男性操縦者が。 前までの私なら彼を見たら怒りの一つでもわいてきたけど、今は彼には興味がない。 私が考えるのは、白石君との再戦だけ。 でも、一つ気がかりなのはあのゲームと同じ動きができるか。 白石君はできると言っていたけど、私は半信半疑だ。 一応、アナハイム社には昔の設定データがあるらしいのでそれもアップデートという形で弐式に組み込んで貰えるようにはなった。 白石君はお姉ちゃんと話せばわかると言っていたけど...... やはり、少しためらってしまう。 長年、避けてきた姉だ。 なのだが

 

「お姉ちゃん?」

 

食べるものを確保して、席を探そうかと思ったら、何故かこそこそしているお姉ちゃんを発見した。 その視線を追うと、白石君と本音の姿が。 意味が分からない、意味は分からないが、その姿を見てか、今までの考えが一気に馬鹿らしくなった

 

「お姉ちゃん、何してるの......」

 

「か、簪ちゃん!?」

 

私が声をかけると、お姉ちゃんはとっても驚いた様子でこっちを振り向いた。 顔は驚きから変わり、何故か目を合わせてくれない。 そんな姿を少しおかしく思いながら、近くの席に二人で腰掛ける。 私はうどんを食べているけど、お姉ちゃんは手持ち無沙汰らしく、手がせわしなく動いていた

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

 

「な、何かしら?」

 

「白石君と戦ったってホント?」

 

「・・・・・・本当よ」

 

瞬間、お姉ちゃんの雰囲気が変わった。 さっきまでのおどおどしてるようなお姉ちゃんじゃなくて、私が恐れた(私が憧れた)お姉ちゃんに。 今でも少し怖いけど、でも

 

「どう、だった?」

 

「とんでもない強さよ」

 

勇気を出して聞いてみた。 とんでもない強さ。 お姉ちゃんにそう言わしめる彼から、ビルドファイターズ時代の私ならはるかに格上、そう言われた時のことを思い出す

 

「その時のデータって、ある?」

 

「・・・・・・」

 

無言で差し出されたデータ。 それを受け取り、見てみる。 そこには、確かにビルドファイターズの時のように、動く白い機影があった。 中には、あのホワイトグリントも。 そっか、証明したって言ってたけど、本当に

 

「お姉ちゃん」

 

「なに、簪ちゃん?」

 

「ありがとう」

 

「っ!?」

 

お姉ちゃんが私を見て何に驚いたのかわからないけど、でも白石君ができたんだから、私も出来なきゃならない。 覚悟は決まった。 ちょうど食べ終わり、トレーを持ち立ち上がる

 

「お姉ちゃん」

 

「・・・・・・何かしら?」

 

「弐式が、打鉄弐式ができたら、私と戦って」

 

私はお姉ちゃんに挑むことにする。 そして、彼に。 その言葉を残し、私は食堂から出ていく

 

~簪視点 end~




最後はちょっと、無理やりになったかな(ボソッ


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第二十二話

一夏たちのクラス代表戦を終え、いよいよクラス対抗戦が迫ってきた。 今日は予約の日ということもあり、アリーナの受付に向かう。 向かったのだが

 

「え、予約? 悪いけど、そんなもの取ってないわよ?」

 

爪のマニュキュアをいじりながら、めんどくさそうに告げる女性。 あぁ、こっちが面倒くさい...... モニターも見ずによく言えるなそんなこと。 一応、あの時の人を疑っていたわけではないのだが、予約を入れる所を見ていたし、写真も撮っておいた。 まぁ、当然嫌な顔はされたが。 一応理由を説明すれば、この前の受付の人は許してくれたのだが。 話はそれたが、写真を見せるがとりあってもらえない

 

「どうせこんなのも人の予約加工でもしたんでしょ? とっとと、どっか行ってよね」

 

うんざりした口調で告げられ、それ以上とりあってもらえない。 受付ということもあり、人が集まっている。 こうなれば悪いのは俺で、陰口もたたかれる。 これ以上は俺の立場すらも危うい、そう判断してその場を後にしようとするのだが

 

「あら? どうしたの黒夜君」

 

「楯無先輩」

 

騒ぎを聞きつけたのか、偶然通りがかったのか、楯無先輩が現れた。 事情を説明すれば、予約の確認をする楯無先輩。 まぁ、当然俺の予約は見つかった

 

「彼の予約はあるようだけど?」

 

「あー、ほんとですねー。 でもどうしようー、他の人に貸しちゃってるしー」

 

ここまでくるといっそ清々しい。 どうやら、俺が取った予約は他人に使われていたようだ。 たぶん、俺に練習は必要ないだとか、無様な結果を出させるとかそんなものが狙いだろう。 だがまぁ、学園としてはちゃんとしてほしいところである。 学園長に責任がある、そう言っているわけではないが

 

「はぁ...... そっちのミスなんですから、その生徒には即刻使用を終了してもらって、彼に貸し出せばいいでしょう?」

 

「えー、でもー、それじゃあ可哀想じゃないですかー?」

 

やけに粘るなこの受付。 楯無先輩は生徒会長で、独自の権限を持っている。 俺の部屋とか、然りね? 普通ならここまで粘らず、非を認めて終わりだと思うが。 楯無先輩もいい加減呆れたのか、権限を持ちだした

 

「彼はどうなるのかしら? もういいわ。 なら生徒会権限でそのアリーナの予約、生徒会にしてもらえるかしら? 他の生徒は、もちろん立ち入り禁止で」

 

「か、会長!横暴よ」

 

「横暴なのはどちらかしら? どっちにしろ、元々の予約は彼のものよ? それを勝手に使っているんだもの、生徒会の予約にしても文句は言えないでしょう?」

 

周りに居た女生徒は声をあげたが、扇子で口元を隠し、笑みを絶やさない楯無先輩。 扇子には、問答無用の文字が。 なんか前と書かれている文字が違うが、気のせいだろうか。 流石に生徒会の権限には逆らえないのか、悔しそうに予約を変更する受付の女性。 というか、大事になってしまった...... 

 

「さ、行きましょうか」

 

「はい......」

 

歩き出す楯無先輩について行く。 後ろから聞こえる悪口や嫌悪の視線、どうしてこうなったのだろうか...... すると何を思ったのか、その女子たちに向かって楯無先輩が一言

 

「文句があるなら生徒会長になりなさい。 それなら誰も文句は言わないわよ。 もっとも、私が倒せれば、だけど。 今回、私は間違ったことをやったとは思っていないから。 それじゃあね」

 

『なんかこの人、喧嘩売ってるんですけどー』

 

『まぁ、最強の座を目指して奇襲とかはほぼ毎日あるらしいし、黒夜は気にしなくていいんじゃないかな?』

 

え? 何その楯無先輩の周りだけ世紀末スタイル

 

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「納得いかなーい!」

 

「いや、そんなこと言われても......」

 

そのままちょうどいいということで、模擬戦を何回かやったのだが全戦全勝。 そのことに休憩がてらドリンクを飲んでいれば、両手を上にあげ駄々っ子のようにそんなことを言い始めた

 

「これでもロシア代表なの!それなのに全戦全敗、対策を考えてもさらに対策される。 かといって、がむしゃらに近づこうにも距離は離されるし、遠距離は豊富なエネルギー系武器で封殺される。 納得いかなくても、おかしくないと思うの!」

 

「そんなこと言われましても、だてに世界大会二連覇してないですし。 正直、その程度の対策何て見飽きましたしねぇ......」

 

「うぅ~!」

 

『黒夜、黒夜。 言いすぎだよ!』

 

『うん、俺も思った』

 

ビルドファイターズの廃人どもから世界をとったのだ、その実力はだてじゃない。 と言っても、現役から離れて結構経ってるため、だいぶ動きが雑なのだが。 まぁ、バーチャルとリアルの違いというものもある。 そこは簪さんとの試合までにすり合わせをして行くしかない。 正直に告げれば、楯無先輩は恨めしそうにこちらを見ていた。 目尻に涙をためながら。 ぶっちゃけ、この人の場合冗談か、本気かわからないときがある。 とりあえず、ファローをしておかなければ

 

「いやでも、流石国家代表ですよ。 いくら対策を見飽きたと言っても、予想もつかないところで攻撃とかもありますし、危ないところはありましたから」

 

「それでも勝てない......」

 

「さっきも言った通り、世界大会二連覇してますから。 簡単には負けられませんよ。 まぁ、今は二つ名は二代目に託したはずなんですがね......」

 

「むぅ~」

 

どうやら、マジだったようだ。 一応フォローは出来たようで、今は頬を膨らましていた。 一応アリーナの使用時間も迫ってきているということで、打鉄を展開する

 

「それじゃあ最後に、やりましょうか」

 

「今度こそ勝つわよ」

 

楯無先輩もミステリアスレイディを展開し、臨戦態勢をとる。 さて、俺は何を使おうか。 頭の中で何を使おうか考えていると、何故か打鉄の重量が重くなる。 そして、重くなった背中を見てみれば不明なユニットが接続されていた

 

「そ、それは?」

 

背中に展開された武器を見て、楯無先輩も流石に顔が引くついている。 いや、俺もこんな物騒なものを使おうとは思っていない。 犯人は一人しかいないわけで

 

『おい白』

 

『不明なユニットが接続されました、直ちに使用を』

 

アカン奴やないか。 白が勝手に展開したのは、正式名称対警備組織規格外六連超振動突撃剣。 みんなのよく知る名前なら、グラインドブレードだ。 簡単に言えば6基の特大チェーンソー型超振動ブレードを円環状に並べたもの。 武器一覧にあったのは知っていたが、実際に使用したことはない。 だが、今展開して分かった。 マジで原作準拠だ。 動き始めていたグラインドブレードを収納しなかったら、リアル左腕と永遠の別れをするところだった。 こんなものを作って喜ぶか、変態どもが!

 

「気にしないでください。 真面目にやりましょう」

 

今回は楯無先輩の得意な距離で、こっちが不利な戦闘をしてみるということで。 背中に四連チェインガン二門、両腕には35ガド。 正直言って、近距離で押しつぶす気満々である。 俺の武装に、楯無先輩は顔を引きつらせつつも、表情を引き締める

 

「それじゃあ」

 

「行くわよ!」

 

 



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第二十三話

様子見など一切せず、イグニッションブーストを発動し一気に距離を詰める。 35ガトや四連チェインガンは距離が詰まるほど威力も集弾性もよくなるし、距離を詰めたほうがお得なのだ。 問題は楯無先輩のクリアパッションなのだが、そこは何とかしよう

 

「今回はいきなり距離を詰めてくるのね!」

 

楯無先輩は蒼流旋についているガトリングガンを撃ってくるが、超小型スラスターで難なく避け、近づいて35ガトを撃ちはじめる。 流石に過去の経験からか、水で受けとめず避ける。 何回もやったおかげか、楯無先輩の操縦技術が巧くなってきていることもあり、当たる数が最初に比べて少なくなっている。 まぁ、当たるだけ御の字なのだが

 

「はっ!」

 

しかもこの頃思い切りもよくなったのか、被弾覚悟で攻撃を当てに来ることもある。 まぁ、難なく避けるのだが。 なので今回は、その近づいてくるときにチェインガンを起動し、さらに被弾を増えさせる。 流石に35ガト、四連チェインガンの被弾はまずいと思ったのか、致命傷になる前にギリギリ射線に外れることに成功する。 ごっそりとはいかないが、半分くらいのSEを削ることができた。 仕掛けてくるとしたらそろそろだと思うのだが...... その考えは正しかったのか、白からの警告が入る

 

『温度が上がってるからそろそろだと思うけど、どうする?』

 

『このまま続行。 多少の被弾は構わない』

 

『りょうかーい!』

 

やはりクリアパッション、水蒸気爆発の準備は整ってきているようだ。 ここから慎重に立ち回らなければならないが、まぁなるようになるだろう。 そのまま作戦は続行し、四連チェインガンと35ガトの掃射を続ける。 楯無先輩は被弾を避けつつ、俺に攻撃を加えようとするが芳しくない

 

『来るよ!』

 

白の声と共に、左腕の35ガトが赤くなり始める。 俺はそれを楯無先輩に投げつけるが、中間あたりで爆発する。 やはりクリアパッションをやってきたようだ。 このままでは状況的にまずいので、短期決戦にするため距離を詰める

 

「今回は、クリアパッションの範囲内での戦いって言うことね!!」

 

「まぁ、そうなりますね」

 

接近しながらチェインガンを撃ち込むが、やはり避けられる。 さっきまでの弾幕を完璧にとは言わないが、避けていたのだ。 必然的に、弾幕が薄くなれば避けるのも容易くなる。 そのための接近なのだが、クリアパッションを無造作にいくつも発生されることで俺の足を止める作戦のようだ。 だが甘い

 

「まぁ、避けてくるわよね!」

 

イグニッションブーストや超小型スラスター使い、楯無先輩に接近して撃ち込む。 だが、楯無先輩も負けじと一番攻撃力の強い35ガトをよけ、チェインガンの弾幕を無視しつつ、蒼流旋のガトリングを撃ち近づいてくる。我慢比べというわけじゃないだろうが、ここで接近してくるとは

 

「ほんとに、思い切りがよくなりましたね」

 

「おかげさまで、ね!」

 

残りのSEは少ないだろうが、ここで勝負を決めるつもりか。 35ガトが撃てない距離まで接近し、蒼流旋を横なぎに振るう楯無先輩。 俺はいったん35ガトを収納し、その槍をはじき拳をいれようとするが水に止められた。 チェインガンを撃ってはいるが、どうも攻撃力的に破壊するまで行かない。 それに、拳を水に捕まれた

 

「捕まえた!」

 

瞬間、楯無先輩は離れ、大爆発が起る

 

~楯無視点~

 

一時的にミステリアスレイディの出力をあげて、ナノマシンを活性化して防御力をあげて拘束までしたけど、案外うまくいくものね。 そのおかげで、SEがほとんどなくなったけど。 私は油断なく槍を構える。 彼ならなんとかして脱出してそうだし、あれで終わりだとは思えない。 その予感は正しかったかのように、ロックオンの警告が

 

「っ!!」

 

その瞬間、水の盾を作るけど、何発かは食らってしまったみたいだった。 でも

 

「何で空の上から!」

 

~楯無視点 end~

 

「何で空の上から!」

 

「まぁそうですね。 終わらせてから説明しましょう」

 

『いやー、間一髪だったね!』

 

『ほんとだよ』

 

そう言いながら35ガトを構え直し、楯無先輩に接近する。 楯無先輩もただでは近づかせてくれず、クリアパッションを無差別に起こすことによって近づかせないようにしている。 だが今回は、元より被弾覚悟だ。 比較的爆発が小さいところを選びつつ、確実に楯無先輩に近づく

 

「っ!?」

 

これには驚いたのか、一際大きい爆発が起こるがそのころには

 

「まぁ、そうなるでしょうけど、流石に楯無先輩の近くまでは爆発圏内じゃないですよね」

 

「はっ!」

 

声をかければ驚いたような感じだったが、すぐに立て直し蒼流旋を振るってくる。 だが俺は、35ガトの引き金を引き、試合を終了させた

 

--------------------------------------------

 

「むー」

 

「「・・・・・・」」

 

「むーー!!」

 

「「はぁ......」」

 

むくれながら書類をやる楯無先輩。 そして、俺と布仏先輩はため息をつきながらそれを見ていた。 模擬戦も終わり、アリーナの使用時間も終わりということで、着替えて外に出たのだが、そこで布仏先輩とばったり会った。 そこで楯無先輩の居場所を知らないかと聞かれ、そこで楯無先輩が合流。 生徒会に連行という流れだ。 俺も楯無先輩にも布仏先輩にも申し訳なく、書類を手伝ったが俺の分は終わった。 楯無先輩は生徒会長ということもあり、日々雑務が溜まるらしい。 その関係でいまだ終わていなかったりする。 のほほんさん? のほほんさんなら

 

スカー......

 

寝ていた。 俺が入った時から寝ていたので、布仏先輩に聞いたら起こさなくていいとのこと

 

「むー!!」

 

「お嬢様、書類をやるなら静かにやってください」

 

「だって、だって!今日は勝ったと思ったのに、また負けたのよ!」

 

「それと書類は関係ありません」

 

駄々っ子になった楯無先輩に、ぴしゃりと言い放つ布仏先輩。 うん、まぁ、確かにその通りだけど...... 身もふたもなくないですかね、それ......

 

「それに説明してもらってない!」

 

「「・・・・・・」」

 

まぁ説明はするという約束だったので、それはいいのだが。 俺は許可を取るべく、布仏先輩の方を向く。 布仏先輩もしょうがないという顔をしながら、頷いた。 OKは出たので、説明し始めることにした

 

「まぁ簡単な話、無理矢理脱出したんですよ」

 

「無理やり?」

 

「はい。 どうもチェインガンだけでは、最後のあの水の盾だけはどうにもならなかったので。 片方のチェインガンをパージして、それを撃って爆発させて、そのパワーとイグニッションブーストを合わせて無理矢理脱出を。 それで、死角になるなら上に逃げたほうがいいかということで。 どうせ、あの爆発じゃ見えなくなることは分かりきっていましたから」

 

「うー!!」

 

説明すれば説明したで、今度はうなりだす楯無先輩。 その様子を見かねてか、布仏先輩が俺のことを退出させる。 まぁ、仕方ないか。 俺はそのまま自分の部屋に帰ることにした



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第二十四話

クラス対抗戦もいよいよ二日後、ということでいろいろなところで盛り上がりを見せていた。 ここら辺は普通の学校と変わりないのかと思いつつ、賭け事がないのに安心する。 まぁ、賭け事をやったところで罰する人がいるので、やらないほうが賢明なのだが。 放課後になり、一夏との約束を適当に断りつつ、廊下を歩いていた。 まぁ、一夏との約束を断ったのは理由がある。 まず一つ目に、篠ノ之箒の存在だ。 よっぽど中学最後の全国大会のことをばらされるのを恐れているのか、俺が一夏と話しているだけで睨みつけてくる。 もっとも、これは俺の勘違いかもしれないのでそこは別にイイ。 二つ目は、一夏の周りに女子が増えたとの噂がある。 何故噂なのかと言われれば、この頃は一夏が話しに来る回数が減っているからだ。 どうも、二組で引き込まれているらしい。 クラスの女子が噂をしていた。 まぁ、それに関しても被害を被っている。 話に来れば文句を言っていたのに、今度は来ないことに文句を言い始めたのだ。 何故か俺に。 いい気なものですねー、本当に。 とまぁ、話は脱線したが、一夏の周りに女子が増えた噂だ。 その二組が原因らしい。 二組に転校生がやってきて、しかもその転校生が国家代表候補だとか。 楯無先輩あたりに情報を聞いてみよう。 前のセシリア・オルコットのような女尊男卑思考だと、また対応も違ってくるからな。 その二組の転校生だが、一夏の幼馴染らしい。 これはのほほんさんが言っていた。 前に食堂が騒がしかったが、一夏がいるあたりだったのでスルーしておいたが、正解だったらしい。 そして何より、これが一番の理由なのだが、他人、楯無先輩を除いてだが、練習したくない。 アリーナは不特定多数が利用するものであり、一夏と一緒に練習すれば多くの女子が見るだろう。 その中で俺の打鉄を展開すれば、不特定多数に顰蹙を買う。 クラス対抗戦は仕方ないにしても、その前までに変な顰蹙を受けたくないのだ。 一応、学園側としてはこうなった原因を試合に合わせて発表してくれるらしいのだが、それでも面倒ごとは起こるだろう。 俺は面倒が嫌いなんだ。 後は一夏のコーチには篠ノ之箒とセシリア・オルコットが付いている。 下手に藪をつつく趣味はないということだ。 この間の一件もあり、アリーナの受付の一部、女尊男卑思考の連中に睨まれている。 その中で一夏と一緒にアリーナに現れれば、俺だけ何か理由をつけて入れないに決まっている。 ともかく、俺が廊下を歩いていれば、通路をふさぐように人影が

 

「見つけた」

 

「はっけ~ん!」

 

簪さんとのほほんさんだった。 発見ということは、俺を探していたのだろうか? まぁ、教室に居たくないということもあるし、早く帰りたいから放課後はすぐに教室を出るようにしている。 そして、人通りのないところを歩きつつ、部屋に帰ると。 人通りのないところなど危険ではないか? なんて思うかもしれないが、一応学園長と楯無先輩がつけてくれた警護の人がいる。 もちろん、他の人にはバレないようにではあるが。 なので心配いらないし、俺自身護身術は嗜んでいる。 もし襲われても、対応は出来る。 まぁ、もし相手がプロの場合は拡張領域から木刀なりを出して応戦するが。 さて、話は飛びまくったが簪さんとのほほんさんだ

 

「何か用か?」

 

「来て」

 

「レッツゴー!」

 

「いきなりすぎる......」

 

簪さんとのほほんさんに両腕をホールドされ、ずるずる引きずられる。 いやあの、逃げないですけど。 ていうかのほほんさん

 

「シロクロ?」

 

「歩けるけど?」

 

のほほんさん、君のような勘のいいガキは嫌いだよ。 言葉には出してないけど、簪さんからも無言の圧力が。 女の子って、こういう考え敏感なのかなぁ...... 関係ないことを考えつつ、引きずられていく。 ようやくついたのは整備棟だった。 いやそれにしても、つくまで誰にも会わないとか奇跡だろ。 流石に整備棟に入る時に自分で歩くと言えば、二人は腕を離してくれた。 その二人の後ろをついて行き、俺と簪さんが初めてあった整備室の前までくる。 扉をくぐれば、打鉄弐式が展開されていた

 

「なるほどね、ようやく完成したと」

 

「うん。 弐式自体にはあまり手を加えてないけど、ようやく完成した」

 

俺を見る瞳は、どこか挑発的だった。 いやまぁ、ここでおっぱじめてもいいけどさ、それはそれで困るだろう。 何故かのほほんさんがお菓子広げてるし

 

「完成記念の~、お茶会だよ~」

 

俺の疑問に答えてくれたのか、そう言うのほほんさんだが、自分がお菓子を食べたかっただけじゃないだろうか? 少々疑問に思いつつ、手招きされているのでのほほんさんの近くに腰を下ろす

 

「本音は......」

 

のほほんさん特有ののほほんとした空気にやられてか、簪さんもどこか肩を落としながら近づいてきた

 

「かんちゃんもシロクロも物騒すぎだよ~」

 

「まぁ、ビルドファイターズ上位陣は何処か殺伐としてたからな」

 

「うん、私もようやく白石君と戦えると思うと、抑えが効かなくて」

 

お菓子をつまみながら、会話を楽しむ

 

「そんなのクラス対抗戦で決着つければいいんじゃないの~?」

 

「あ、俺本気でやるつもりないから。 適当にやって、適当に負けるし」

 

「・・・・・・そう言うことみたい」

 

もう組み合わせも発表されていて、初戦の相手は簪さんだった。 熱いバトルを展開したいところだったが、流石に本気でやれば女性利権団体が動く可能性がある。 流石にそうなれば、(アイツ)が出てくる可能性がある。 だいぶ慣れてきたとは言え、練習時間が少ない愛機(ホワイトグリント)に乗るのは避けたい。 なので今回は適度に結果を出しつつ、負ける。 そうしようと思っていたのだ。 今の俺は白い閃光を名乗ってないし、ISは初心者と言っても過言ではないのだ。 なので負けても大丈夫

 

「かんちゃんとシロクロ本気のバトルは見てみたかったのにな~」

 

「それについては問題ない。 ちゃんと日は改めてやるから」

 

「そうなの!?」

 

のほほんさんは俺と簪さんの本気のバトルが見たかったのか、どこか残念そうに言っていたが、俺の言葉を聞くなり身を乗り出して聞いてきた。 その勢いに押されつつ、俺は簪さんと頷く

 

「う、うん。 お姉ちゃんの後になっちゃうけど、いいよね?」

 

「俺は戦えればそれで」

 

簪さんが許可をとってくるが、別に俺に聞く必要はない。 まぁ俺は、言った通り戦えればそれでいい。 ただ心配なのは、それまでに勘が取り戻せるかだ。 お姉ちゃんの後と言っていたが、それは予想していた。 なんか楯無先輩が嬉しそうに帰ってきたときがあって、その時に話を聞いた。 まぁその直後、難しい顔をしていたのだが。 そんな風に、完成記念ということでお茶会を楽しみ解散となった



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第二十五話

待ちに待ったクラス対抗戦の朝、俺は何時ものように楯無先輩と武道場に居た。 まぁ別に待ってはないけどね、クラス対抗戦

 

「いよいよ今日ね、クラス対抗戦」

 

「そうですねー」

 

「学食デザート半年無料券待ってるから!」

 

「いやあげませんよ?」

 

「いけずー!」

 

頬を膨らませながらふざけたことを言う楯無先輩に相槌を打ちつつ、今日のことを考える。 相手は簪さんだが、適度に相手をしよう。 簪さんも本気で来るとは思えないし。 一応戦う前に本気でやらないと宣言したから大丈夫な、はず

 

「そもそも、俺が本気を出さないって知っているでしょ?」

 

「それもそうねー」

 

本気を出さないのを知っているからか、とたんに興味を失くした楯無先輩は立ち上がり、道具をまとめる。 俺はもうまとめ終わっているので、楯無先輩を待つ形だ。 道具もまとめ終わり、武道場から歩き出す

 

「そう言えば楯無先輩は今回のクラス対抗戦、参加するんですか?」

 

「参加したいのは山々なんだけど、運営とか警備の方も回らなくちゃならないからね、不参加よ」

 

「まぁ、そうなりますよねぇ......」

 

参加したらしたで、実力差がありすぎてつまらない試合になりそうだが。 そもそも学園最強である楯無先輩を倒している時点で、俺と対等に戦えるのは転校のため実力が分からない中国代表候補と簪さんだけだ。 まぁ、中国の方にはあまり期待はしていない。 今でこそ強くなってきている楯無先輩だが、最初の時の試合を思い出せば期待はできない。 なので実質は簪さんとだけだ。 その簪さんも、俺が不特定多数の前では実力が出せないのを知っているので、楽しい試合にはなるだろうが、実力のぶつかり合いにはならないと思う

 

「難しそうなことを考えている顔ね」

 

「ままならない、と思いましてね」

 

そのまま会話をしつつ、寮まで歩いた

 

--------------------------------------------

 

「こんなところに居て大丈夫なんですか?」

 

アリーナ近くのベンチに座って空を見ていれば、後ろから声をかけられる。 声的に学園長のようだ。 俺は空を見上げながら答える

 

「試合までは時間がありますしね、今は自由時間ですから」

 

「そうですか」

 

俺がそう答えれば、納得したように箒の掃く音が聞こえる。 その音を聞きつつ、お礼を言っていないことを思い出した

 

「そう言えば、会うことがなかったので言えませんでしたが、部屋の件ありがとうございました。 おかげで過ごしやすいです」

 

「いえ、元々はこちらの手違いであの倉庫になりましたから。 本当は掃除をして、部屋を整えてから渡したかったのですが」

 

「まぁ、そこは気にしなくても。 元々掃除は得意ですし」

 

それからまた沈黙。 まぁ、もともと喋ることがあるわけじゃないしな。 そのまま俺が空を見上げていれば、箒の掃く音が止まった

 

「今回の試合、どうするつもりですか?」

 

「どう、とは?」

 

質問の意味はなんとなく分かるが、あえて聞き返してみた

 

「今回の相手、更識簪さんは」

 

「重腕さん、でしょう?」

 

「・・・・・・知っていたのですね」

 

「本人も俺が白い閃光ってことは知ってますよ」

 

まぁ、色々と驚いたがそこはそれ。 もう知っていることを言うと、どこか声が残念そうなものになった。 もしかして驚かすつもりだったのか?

 

「なら話は早いですね。 ()()()()として戦うつもりですか?」

 

「そんなわけないでしょう」

 

視線を空から地上に戻し、学園長に顔を向ける

 

「俺は面倒ごとが嫌いだ、って言ったじゃないですか。 こんな不特定多数の見てる前で愛機(ホワイトグリント)なんか使ったら、女性利権団体もうるさいですし、俺をモルモットにしたい連中もうるさいでしょう?」

 

「そうなったらなったで手をうつから私は構いませんけどね」

 

ニコニコと何もない風に言い放つ学園長だが、よくないから。 騒がれても面倒だし、楯無先輩にも迷惑かかるから。 ともかく、強引に話をしめる

 

「ともかく、今回は本気を出しません。 程よく戦って、程よく負けます。 ある程度の結果を出せば女性利権団体はどうせ騒ぐでしょうけど、モルモットは避けられるでしょう?」

 

「えぇ、そうですね」

 

相変わらずニコニコしているため表情は読めない。 時計を見れば、そろそろ控室に向かわないといけない時間になっていた

 

「それじゃあ、そろそろ」

 

「えぇ、また」

 

学園長に背を向け走り出そうとすると

 

「あぁ、そう言えば」

 

「なんでしょう?」

 

走り出そうとすれば、声をかけられる。 一応返事はしたが、長話はちょっと勘弁してほしい。 まぁ、学園長もわかっているとは思うが

 

「試合は何時になりそうですか? Unknown対重腕の試合は」

 

「あぁ、そういえば言っていませんでしたね。 近日中には」

 

「そうですか....... 呼び止めてしまって申し訳ありませんでした」

 

今度こそ学園長に背を向けて走り出す。 それにしても、近日中に試合と言ったときの学園長の顔、まるで子供みたいだったな。 すぐ近くで休んでいたということもあり、アリーナの更衣室、もちろん男子更衣室にはすぐについた。 中に入れば、何故か一夏が肩を組んできた。 いや、入るなりなぜ肩を組むんでしょうかねぇ......

 

「黒夜遅かったな、こないんじゃないかってヒヤヒヤしたぜ?」

 

「俺は第一試合じゃないからな、急いで着替える必要もないから外で休んでた」

 

「はー、いいよなー。 俺なんて第一試合だぜ?」

 

一夏の話に適当に相槌をうちながら、着替え始める。 流石に着替えるときは離れてもらっている。 俺にそっちのけはないからな。 何故か、第一試合の一夏も俺の横で着替えているのだが

 

「まぁ、頑張ってくれ」

 

「おう!終わったら今度は黒夜との試合だしな!」

 

「? これ、総当たりじゃなくてリーグ戦だぞ?」

 

「そうなのか!?」

 

どうもこのクラス対抗戦のことを何も知らないやつがいたようだ。 まぁ元々、この大会の趣旨自体、ISをどのくらい動かせるようになったか、自分の実力や相手の実力に触れ向上を目指すという趣旨で開催されているらしいがな。 ここら辺は楯無先輩の受け売りだが

 

「あぁ。 ほら行ったほうがいいぞ、もうすぐ開始だぞ」

 

更衣室についている時計を見ると、もう試合まであと少しになっていた。 それを見て青い顔になる一夏。 ちなみに俺はもう着替え終わっており、備え付けのベンチで試合を見る準備をしていたりする

 

「や、ヤバイ!それじゃあな!」

 

「はー、ようやく一人になった」

 

モニターを見ながらつぶやく。 モニターには一夏対戦相手である凰鈴音がISを展開して待っていた。 なんかイライラしているように見えるが、何かあったのだろうか? 待ったと言っても少しだろうし、それくらいで怒るとは思えないが

 

『まぁ色々あったんだよ、色々』

 

白が笑いをこらえながら言っているのは気になったが、モニターに動きがあった。 一夏がようやく入場したようだ。 話し合っているようだが、一夏が構え、凰さんも武器である青龍刀を構える。 試合開始のアナウンスと同時に、二人はアリーナの中央で斬りあう



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第二十六話

~???視点~

 

「おー、いっくんと中国の試合、はじまったねぇー」

 

ハックしたカメラの映像を見ながら、私はつぶやく。 IS学園で行われているクラス対抗戦、私はいっくんがどれくらい成長したのかが楽しみで試合を見ていた。 まぁ、この後の()()()()()も気になるから見てるんだけどね!中国に苦戦しているみたいだけど、いっくんなら大丈夫だ。 いっくんの要求に白式が応えてきているのか、だいぶ龍砲も避けられるようになってきたし。 試合の展開、主にいっくんの活躍にウキウキしながら別のモニターを見る。 そこには控室にいるもう一人の男性操縦者がいた

 

「ねぇ、君は本物なのかな?」

 

モニターに話すが、当然返事は帰ってこない。 かつてビルドファイターズというゲームがあった。 そのゲームは自分たちに権利を主張する団体につぶされてしまったが、それでも素晴らしいものだった。 ISの操縦技術を使っているということで、ごみ屑が私の技術を使うなんてと思ったけど、とある試合を見てその考えは吹き飛んだ。 二度目の世界大会、その決勝。 UnknownVS重腕。 今もなお、マニアの間ではささやかれる神試合。 仮想空間だからできる機動だったけど、それでも素晴らしいものには変わりなかった。 私が目指したものとは違うけど、ISにはこんな可能性もあった。 そう思わせてくれるものだった。 そこから私は彼をUnknownを調べた。 まぁ、彼の事は置いておいて。 そのはまっているときに作った子が、彼の相棒だなんて思いもしなかったけど

 

「君がもし本物だというのなら証明して見せてよ。 そしたらその時は......」

 

別のモニターを見れば、()()()()()がもうIS学園に到着するところだった

 

「さて、いっくんは頑張ってね、敵は強大だよ!そして証明して見せて、君が本物だということを。 君が本物なら出来るはずだよ」

 

 

~???視点 end~

 

試合も終盤戦。 一夏のSEは残り僅かで、対戦相手である凰さんは余裕がある。 一見勝負は凰さんのほうが有利だが、一夏には零落白夜という切り札がある。 一発KOとまではいかないだろうが、大幅にSEは削ることができるはずだ。 凰さんの武装は見えない衝撃砲である龍砲に青龍刀二振りだけ。 一夏も後半は龍砲に当たることもなくなっていたので、油断しなければ勝てるかもしれない。 まぁ、その後当たるのが簪さんというのもかわいそうなものだが。 何か話しているようだが、ようやく話し終わったのか武器を構える二人。 龍砲を使わず連結した青龍刀を振りかぶり、一夏に向かっていく凰さん。 ある意味、男らしい。 一夏もそれに応え、雪片弐型を振りかぶる。 二人の刀がぶつかろうかというところで、轟音が響き渡った。 アリーナの中継は切れ、代わりに鳴り響くのは警報音。 何が起こったのかはわからないが、よくないことが起こっているのは分かる。 更衣室から出て通信をしようとするもつながらない

 

「白石君!」

 

「簪さんか。 どういう状況かわかる?」

 

「私も全然...... 通信しようとしてもつながらないし......」

 

どうやら簪さんも同じ状況のようだ。 だが、一人よりは危険が減った。 二人でどうしようか迷っていると、白が突然喋り出した

 

『うわー......』

 

『白? どうしたんだ?』

 

『今映像が送られてきたんだけど、正直言って君が見たら冷静ではいられないと思う』

 

珍しく真面目な白に少々驚きつつ、俺は映像を見せるように白に言う

 

『わかった』

 

目の前にホログラムのウインドが開かれ、そのウインドを見る。 あぁ、確かにこの状況は冷静ではいられない。 たぶん角度的にアリーナのどこかについている監視カメラの映像なのだろうが、その映像にはありえないものが映っていた

 

「そんな、でもあれはヴァーチャルの話で......」

 

「・・・・・・」

 

細かいデカールの貼り方、グラデーション等、俺の見たことあるものばかりだ。 極めつけは、エンブレム。 元々、ゲームでのホワイトグリントのエンブレムを少し色味を変えて使っていたわけだが、それが貼られていた。 そう、俺が現役時代に使っていたホワイトグリントそのものがISとして、空中に滞空していた。 もう一機ISがいるようだが、それの対処には一夏と凰さんが当たり、ホワイトグリントはまるで誰かを待っているように滞空していた。 これを誰が作ったとか関係なく、アレがここにあってはいけない

 

「白、行くぞ」

 

「了解!」

 

ISを展開する。 もちろん展開したのは、ホワイトグリントだ

 

「簪さん、ホワイトグリント(アレ)の対処は俺がする。 簪さんはもう一機のISを」

 

「・・・・・・わかった」

 

簪さんが打鉄弐式(IS)を展開したのを確認し、俺はOBを展開して一気に通路を翔る。 その際、扉とかがあったはずなのだが何故か開いていた。 一気に外に出ればロックオンの警告が出るが気にせずに、ホワイトグリントに突っ込む。 ホワイトグリントが何も動きを見せないところを見ると、ロックしたのはもう一機か? 構わずにOBしたまま、相手のホワイトグリントを蹴り上げ、アリーナのシールドから外に出す。 アリーナ内では、戦闘は狭すぎる。 だが蹴り上げた感触は、どうにも軽かった

 

『あー...... あっちのジェネレーター完成品みたいだね』

 

『ということは性能もこっちの何倍も上、しかもよりヴァーチャルに近いわけか』

 

『不利だねー、どうする?』

 

何処か面白そうに聞いてくる白、そんなもの決まってる

 

『真正面から叩き潰す。 相手がどうであれ、俺がホワイトグリント(これ)を展開した時点で負けは許されない。 相手が同じだったとしてもな』

 

『そう言うと思ってたよ!それと耳寄りな情報。 あれ、無人機みたい』

 

『無人機って...... ISは人が乗ってないとだめなんじゃなかったのか? 仮に無人機だったとしても、動きがいいように思えないが?』

 

『むふふー、それは凡人の話だったら、でしょ? さっきの映像だけど、送ってきたのは、ね?』

 

『なるほどな...... どういう意図でコイツを送ってきたのかは知らないが、目的は変わらん。 やるぞ、白』

 

『了解!じゃ、いっちょ行きますか!』

 

俺は両手に持ったライフルを握り、構える。 すると、向こうも同じように構える

 



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第二十七話

アーキタイプブレイカー、終わるんですってよ奥さん(ボソッ

かなり前から告知あったようですが、こうやって書くの忘れてました。 まぁ、一応アニメ見直して書くきっかけをくれたゲームだったので、それなりに思い入れは...... ないな。 ともかく容量重いし、かくつくし。 スマホアプリとしてやってましたが、ダメですね。 まぁ、ストーリー公開されてる20章までやらないとな。 一応、投げなければアーキタイプブレイカーのシナリオも書くつもりだし

そんなわけで長くなりましたが、本編です


示し合わせたわけでもなく、同時に動き出す。 一定距離を保った引き打ち、俺と無人機の選択は同じだった。 俺は紙一重で避けているが、相手はよける気配がない。 それもそうだろう、相手は強力なPAを展開しているのだから。 しかも、QBも細かく使い狙いを付けさせないようにしていた。 やり辛い、それが相対した感想だった。 こんな試合いくつもしてきたが、今回は特にだ。 QBで近づこうとすれば、相手は逃げる。 逆に近づかれればこちらも逃げるが

 

『こっちもだけど、相手にもダメージ入ってないよ』

 

『いわれなくてもわかっているさ』

 

だが焦りは禁物だ。 下手に突っ込めば返り討ちに合うし、逆に攻めてくるのを待てば完成度的にこちらが負ける。 無人機だが、かなり高度なプログラミングがされているようだ。 だが、あまり悠長にもしていられないのは事実だ。 だから、この流れを変える

 

「ここだ!」

 

高度なプログラミングをされているようだが、時々穴がある。 意図的に作られたのか、それとも見落としだったのかはわからないが。 その穴に合わせ、分裂ミサイルを発射する。 このミサイル、すぐに分裂しないのでミサイルを撃ち、意図的に爆発させる。 その爆発に隠れ、二段QBで一気に接近する。 今回打ち出したミサイルは、改造されたスモークミサイルだが。 と言っても、センサー類を狂わせるためISにも有効だ。 自分から効果範囲に突っ込んでいくため、予め敵の位置を予想しないといけないのが難点だが。  だが、相手は動いていなかった。 それどころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『っ!? 白、PAをすぐに展開してAA(アサルトアーマー)を!!』

 

『わかった!』

 

直後閃光に包まれ、強い衝撃が機体全体を襲う。 当たり前だ。こちらもAAを発動したとはいえ、あちらの方が速く展開したのだ。 殺せなかった衝撃があったのだろう。 機体状況を確認すると、今のAAでジェネレーターが故障、肩の分裂ミサイルは使用不可。 唯一使用できるのは、両手に持ったライフルのみだ。 対してあちらは、それほどダメージを負ってないようだ。 白が表示しているSEにも、あまり動きがない。 しかも、相殺は出来なかったとはいえ爆発を間近で受けたにもかかわらず、ジェネレーターの故障はないらしい。 唯一の救いは、PAが展開していないところか。 絶望的な状況だが、こんな状況いくらでもひっくり返してきたのだ。 俺はライフルを再度握りしめ立ち上がる

 

『いけるな、白』

 

『もちろん!』

 

一応OBは使えるようだが、必要ないな。 こちらを見降ろす無人機をにらみつけ、二段QBを使用し一気に距離を詰める。 だが相手も逃げるようだが、逃がさない!

 

『白!』

 

『出力は上げてあるから、追いつくはずだよ!』

 

いくら逃げようとしたところで、リミッターを外し急激に上がった出力には対応できないらしく、距離がグングン詰まっていく。 体にかかる圧も相応になるが、この戦いは負けられないのだ。 両手のライフルを突撃しつつフルオートで撃ちまくる。 QBで左右によけようとするが、さらにQBを発動することで回り込み逃がさない。 硬直など、俺には合ってないようなものだ

 

『左腕残弾30%!』

 

『問題ない!』

 

回り込むことでようやく追いつき、無人機の左腕を思いっきり蹴り上げる。 すれば、無人機の武器は宙を舞う。 そこに肩武装をパージし、残弾が残り10%を切った左腕のライフルを投げつけ、右手のライフルで狙撃する。 あのAAでよく暴発しなかったと思ったが、爆発させることに成功した。 有澤重工製の特殊弾頭ミサイルはさぞかし痛かろう。 ライフルをキャッチしながら、大爆発が起こったほうを見る。 大ダメージのようだが、よくないことも起こる。 PAが再展開したのか、煙が不自然に揺らめいでいた

 

『白』

 

『うん、PA再展開してるよ』

 

こんな状況だ、諦めてくれれば幸いなのだが、その気配はない。 武装だって、つぶしたのだが...... そう思っていた時期が、俺にもありました。 無人機は拡張領域から新たにライフルを展開した。 忘れていたが、これはISを使っているのだ、当然そう言うこともできる。 現役時代、武器がなければ相手の武器を奪うなんてことをやっていたから忘れてた。 まぁ、この貰ったライフルはありがたく使わせてもらうが。 ミサイルがなく、俺がPAを展開しないためか、近距離での銃撃戦を挑んでくる。 それにしてもこの戦い方、多分......

 

『なーんか、黒夜の現役時代みたいな戦い方だね』

 

『お前もそう思うか白?』

 

そう、そうなのだ。 俺の現役時代、原作リスペクトの引き打ちはもちろん、相手に合わせた戦い方をしていた。 もちろん、相手が嫌がりやり辛い戦い方を。 ライフル二本と肩の分裂ミサイル、AAでは大変であったがやっていた。 その戦い方と、無人機の戦い方が一緒なのだ

 

『まぁ、作った人が作った人だからね、やろうと思えば当時のデータなんてどうにでもできるんじゃないのかな?』

 

『なるほどな』

 

それを聞いて打開策が浮かんだが、それに頼りたくはない。 あくまで、()()()で、当時の俺にに勝ちたいのだ。 負けず嫌いとでもなんとでも言ってくれ。 QBで近づき、避けるを繰り返していると、目に見えてエネルギーの回復が悪くなる。 それを好機と見たのか、無人機のセンサー類のところのシャッターを下ろし近づいてくる。 逃げようとしたが

 

『黒夜、ジェネレーターが限界!』

 

『なら今の全力をAAに回せ!』

 

直後二度目の爆発。 さっきとは比べ物にならない衝撃が俺を襲う。 正直言って意識が飛びそうだが、ここで飛ばすわけにはいかない。 壊れそうな音を立てるスラスターで姿勢を制御し、AAを発動し無防備な無人機に向かってイグニッションブーストを発動する。 OBやるためのエネルギーはないし、そもそもスラスター類はほとんど死んでいる。 このイグニッションブーストだってSEから無理やり捻出したものだ。 交差する一瞬、展開した武器を振るう

 

『本当は使いたくなかったが、仕方ないか』

 

展開した武器は、近接ブレードの葵。 基本的にホワイトグリントの時、いや、そもそもビルドファイターズ時代は刀剣類の武器は使っていなかった。 だからこそ使いたくなかったのだが、このチャンスを逃せば俺は負けも同然だ。 白い閃光に戻った俺に、負けは許されない

 

『消えろ、偽物』

 

振り返り、無人機(ホワイトグリント)を切り捨てる。 真っ二つに切れたホワイトグリントは爆発を起こす。 ようやく終わったか。 爆発やリミッター解除のせいで痛む体にムチ打ち、人気のなさそうな場所に着地し、展開を解除する

 

『お疲れさん、白』

 

『黒夜もお疲れ様』

 

まずいことに、意識がもうろうとしてきた。 近くにベンチがあったので、倒れるように座る。 あー、もう限界だ。 意識が暗闇に落ちる。 その暗闇に落ちる間際、誰かに受け止められたような感覚と声を聞いた

 

「お疲れ様」

 

 

 



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第二十八話

~簪視点~

 

ホワイトグリントを展開し、OBで外に出た彼を見送り、私は弐式の待機状態である指輪に話しかける

 

「行こうか、弐式」

 

機体の状態を確認、すべてオールグリーン。 アナハイムでの起動以来、初めての起動だったから少し念入りに確認する。 夢現を展開する。 こっちも大丈夫みたいだ。 準備も整い、外に出ると通信が

 

『更識さん!? どうして!?』

 

声を聞いても誰だかわからない。 たぶん通信をいれてきているということは先生、何だろうけど...... ともかく、通信を

 

『援護しに来ました』

 

『さっきも不明機がもう一機の襲撃してきたISを外に連れ出しましたけど、危険です!教師部隊もそちらに向かってますから!』

 

『それはどのくらいできますか?』

 

『え?』

 

『それはどのくらいで来るんですか? 目の前の二人が倒される前に来るんですか?』

 

私は別に学園がどうこうとかではなく、冷静に判断をしているつもりだ。 教師部隊が来るのだったらもうとっくにきているだろうし、目の前にいる二人がこんな状況にもなっていないような気がする。 いまだに来ていないのは準備に手間取っているか、それとも何らかの邪魔があったか。 どっちにしろ、表示されている二人のSEは試合もやっていた影響もあり残り僅かだ。 救援に入るなら早めに入ったほうがいい

 

『小娘、貴様ならあれを倒せるというのか?』

 

別の人の声。 その声は厳しく、まるで私にはそんなことができないと言っているような感じだ。 でも

 

『できます』

 

出来る。 私の勘が、そう言っている

 

『いいだろう、好きにしろ。 ただし、二人は無事に帰せよ』

 

私は無事じゃなくてもいい、捉えようによってはそう言われているようなものだった。 アレだけ大きい口をたたいたのだから、そう言われても仕方がないのかもしれない。 どっちでもいい、許可が取れたのならやるだけだから

 

「行こう、弐式」

 

通信を切り、弐式に声をかける。 弐式は私に答えるかのようにスラスターを吹かし始める。 ありがとう。 心の中でお礼を言い、一気に加速し敵のISに肉薄する。 すると、それまでは二人に向いていたISは私をロックし始める。 次の行動は、右腕をあげる。 その右腕は砲門のようなものがあり、多分武器腕。 それも、ビーム。 その予想は当たり、ビームが撃ちだされる。 他の二人は驚いて声をあげ、織斑一夏はこちらに来ようとするけど、もう一人に止められていた。 別にそんな必要ないのに

 

「・・・・・・」

 

ビームの範囲は予想外だったが、減速するどころか加速して、ビームの範囲をよけ、肉薄する

 

「はぁっ!!」

 

薙刀である夢現を振るうけど、簡単によけられてしまう。 でも、別に問題はない。 あくまで本命は。 ミサイルポットのミサイルなのだから。 ロックは肉薄しているときにやっておいたし、元から夢現の一撃で決まるとは思っていなかった。 飛び上がった相手のISに山嵐の一斉射。 48発のミサイルをお見舞いする。 必死によけようとしているようだが、追尾式だ。 避けるのが無理と判断したようで、両腕のビームで対応しようとしているみたいだけど。 そこに荷電粒子砲を撃ち込み、狙いを付けさせない。 今度はこっちを狙ってくるけど、ミサイルが着弾。 爆発を起こす

 

「お、おい!あそこまでしなくても!」

 

「あの異常に硬いISの装甲なら耐えられる。 それよりも早く退避してほしいんだけど」

 

織斑一夏が焦っているようだけど、それには目もくれず着弾したところを見る。 どうなったかわからない以上、油断はできない。 山嵐に新たなミサイルをセットしつつ、そう言う

 

「なっ!? 女の子を置いて、自分だけ逃げれるかよ!!」

 

「実力もないのに?」

 

片目でチラリと見れば、酷く慌てた様子だった。 そう言うのは、自分より実力があって言ってほしい。 夢現を構えれば、ロックの警告が。 やっぱり、あれじゃ仕留められなかった。 ビームが発射され、それを避けつつ空に上がる。 そこにはボロボロになったISの姿が。 だがおかしい。 片腕が取れているが、人の腕などが見えない。 接近しつつ、ズームして注意深く見るが、砕けた装甲の隙間にはやはりどこにも人の体らしきものがない。 ありえないが、無人機。 それなら別に調整する必要もなく、春雷を起動し、腕に向かって撃ちまくる。 そして、頭から真っ二つにする。 ふぅ、終わった。 白石君の方はどうなったのだろうか?

 

~簪視点 end~

 

目が覚めればそこは知らない天井だった。 入ってくる光は茜色で、もう夕方らしい。 おかしい。 目が覚めた最初の感想はそれだった。 確か俺は人気のないところに着地して、ベンチに倒れ込んだはず。 誰かがいたみたいだが、その誰かが保健室に連れ込んだのか? 考えても仕方ないので、その問題をいったん考えるのをやめ、体を起こす。 すると激痛が走るが、我慢できないほどではない

 

「おや? 起きたみたいですね」

 

まさか目が覚めて一番最初に会うのが学園長とは、この学園美少女の方が多いんだから、そっちの方がよかった。 なんてキャラじゃないことを考えつつ、学園長に返事をする

 

「えぇ、今覚めたところですが」

 

サイドテーブルにあった眼鏡をかけつつ、返事をする

 

「せっかくの目覚めですから、美少女のほうがよかったですかな?」

 

「キャラじゃないでしょう、そういうの。 お互いに」

 

「そうですね」

 

おかしそうにに笑う学園長に、思わず苦い顔をする。 同じようなことをさっき思ったが、俺も学園長も、そう言うのはキャラじゃない。 それまでニコニコしていた学園長は鳴りを潜め、いきなり真面目な表情をする。 俺もそれに合わせ、背筋を正す

 

「さて、おふざけはここまでです。 まずいことになりました」

 

「まずいこと?」

 

俺が学園長の言葉を復唱すれば、重々しく頷き、タブレットを手渡してくる。 そこには動画が映っており、俺は中身を見る。 あぁ、確かにまず状況になった。 内容は、俺と無人機との戦い。 学園長が真面目なのも頷ける。 その動画を見つつ、俺はスマートフォンで検索する。 どうやら大手掲示板、動画サイトに同時配布されたそれは、大きく話題になっているようだ。 白い閃光の復活。 掲示板によっては、スレッドに大きくそう書かれているところもあった。 詳しく見れば、動きが二人とも同じだとか、本当の白い閃光だとか、色々詳しく書かれていた。 なかには。 あの時できなかった世界大会が、ISで実現するのでは? そんな書き込みも。 俺が寝ている間に色々と大変な事態になったようだ

 

「この動画は何時?」

 

「あの無人機襲来の後、数時間後。 我々が調べてみれば、宇宙にある人工衛星の一つから録画されたみたいですね。 当然、ハッキングの後はなし」

 

「暇な人もいたもんだ......」

 

そう言ってため息をつく。 本当に暇な()がいたものだ。 こんなことができるのは、この世で一人しかいない。 白からの情報、そして技術的に一人だ。 篠ノ之束博士。 ISの生みの親。 スレッドにも動きがあり、こんなのは偽物、ビルドファイターズ? 何それ美味しいの? という輩まで出てきている。 それに、女性利権団体(うるさい輩)まで。 この映像も、何処のものかなんて特定も安易だろう。 これは俺の予想、いや確信か。 近いうちに、面倒なことが起こる。 いよいよ俺も覚悟が必要、というわけだ

 

「今回の件は流石に私たちでも手の打ちようがありません。 警護等は強化するつもりですが、貴方もお気を付けください」

 

「肝に銘じておきます」

 

話は終わりなのか、学園長が背を向け、扉の方に歩いていく。 部屋を出るのかと思いきや、そのまま止まり声をかけてくる

 

「あぁ、そうでした」

 

「?」

 

「簪さんにはお礼を言っておいてください、貴方を保護して楯無さんの方に連絡したようですから」

 

「あー、なるほど。 わかりました」

 

「それと、有澤さんから連絡が。 機体の修理とジェネレーターの交換をするから、近いうちに会社の方に来てほしいと」

 

「了解です」

 

「日程が決まったら私に連絡お願いします。 楯無さんを護衛として同行させる都合もありますので。 それでは今度こそ」

 

その言葉を最後に今度から部屋を出て行く学園長。 俺はその背を見送り、ベッドに横になる。 今日はいろいろありすぎた、考えるのは明日にしようと目を閉じる

 



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第二十九話

あんな騒ぎがあった次の日でも、学園は通常通りに運営だ。 と言っても被害なんか、基本アリーナのシールドだけだし、校舎なんかには被害はない。 確かに、そんな状態では休校になんかならないか。 しかも、生徒は寮暮らしなので関係もないし。 と言っても、警備なんかは強化されたようだが。 ISを展開した教師部隊の人たちが、交代で見回りをしているらしい。 アリーナ内から現れたホワイトグリント(白い機体)対策らしいが。 まぁ、そんなのは無駄だ。 アレは俺だしな。 その俺は授業を受けている。 そう言えばクラス対抗戦だが、優勝者はなし。 だがデータはとりたいらしく、総当たり戦ということになった。 面倒なこと、この上ない。 普通に授業をやってはいるが、この後、午後からはクラス代表と希望者は観戦することができるらしい。 他は自習、または自由時間のようだが

 

「白石君、この問題を答えなさい」

 

「・・・・・・○○です」

 

「正解よ、チッ

 

舌打ちしたようだが、聞こえてますからね。 この頃本当に露骨になってきた。 ため息をつきたくなるのをぐっとこらえ、そのまま授業を受けるのだった

 

--------------------------------------------

 

午後、昨日ほどの盛り上がりはないが、アリーナの観客席は人が多かった。 どこを見ても、人、人、人。 おなか痛いから帰りたい気分だ

 

『そんなわけないでしょ、パイロット保護機能が働いてるんだから』

 

『気持ち的に、だ白』

 

俺があほなことを言えば、白がツッコミを入れてきた。 アリーナの中央、俺と簪さんは向かい合って立っていた。 ISは展開済み。 ISを展開したことで悪口もよく聞こえるようになったが、意識的にシャットアウトしておいた

 

「あ、昨日はありがとう」

 

「ううん、気にしないで」

 

昨日は結局あのまま保健室で寝てしまい、起きたら朝。 部屋に戻れば楯無先輩の姿はなく、そのまま食堂にという感じだったので、お礼を言っていなかったのだ。 お礼を言えば、気にしないでとのこと

 

「そう言えば、気になったけどさ。 昨日の無人機はどうだった?」

 

「弱かった」

 

聞けば、かなり威力のあるビームを撃ってくる敵だったようだが、簪さん曰く弱いらしい。 まぁ、容赦ないからね()()()()

 

「弱かったからすぐ終わって、白石君を回収できたぐらいだった」

 

「その件は、感謝しています」

 

俺がそう言って頭を下げれば、クスリと笑う簪さん

 

「私も気になったけど、()()だった?」

 

どうのところが強調されているが、いろんな意味で聞いてきているのだろう。 俺はそれに迷いなく答える

 

「強かったね」

 

「そっか」

 

言葉にすれば短いものだが、色々なものが詰まっている。 簪さんは分かるのか、静かに頷いていた。 そこからは互いに無言。 そして、試合開始のブザーが鳴る。 開幕、俺は逃げに徹する。 どのくらいの実力かわからない以上、様子見だ。 なんせ、本気は出せないからな。 だが、簪さんはすさまじいスピードで薙刀を振るってくる。 それを紙一重で避けつつ、打鉄標準装備のアサルトライフル、焔火をフルオートで撃ち込む。 今回、実力を出せば面倒なことになるのは分かっているし、この機体自体もいじってある。 打鉄の皮を被ったナニカと言うのをバレるわけにはいかない。 なのに、簪さんは本気のようだ

 

「随分、攻撃が鋭いね!」

 

「あの動画を見て、本気で戦いたくなった」

 

「昨日のあの動画ね!でも、無理!!」

 

元々打鉄は防御特化で、足はそこまででもない。 対して打鉄の後継機である打鉄弐式は機動力もある。 逃げようとしても、追いつかれる。 左手のアサルトライフルはフルオートで打ちつつ、右手のライフルはほぼ打てていない。 右手のライフルは、ほぼ薙刀をはじくのに使っている。 受ければ、多分真っ二つだしな。 それにしても、なんつー機動力だ。 近距離でフルオートで撃っているのに、少ししか当たらないとは。 流石重腕さんだが、今回は楽しめたものじゃない。 ちょっと気分が乗って本気を出そうものなら、たぶん昨日の今日だ、ばれる

 

「本気は、出さないの!」

 

「さっきから言ってるけど、出さない!」

 

今度は大きく飛びのき、フルオートで両手の焔火を撃ちだす。 だが、それを後退することで銃弾の雨を避ける。 距離は開けたが、事態は一向に好転しない。 好転するどころか

 

「っ!?」

 

ミサイルポットからミサイルを、砲門を展開し、一斉射してくる。 やはり打鉄の機動性では、対処が遅れる。 荷電粒子砲を何発か貰ってしまったようだ

 

『ボーっとしてる場合じゃないよ、ミサイル来てるよ』

 

『何発?』

 

『96...... じゃなくて48!』

 

『なんだよその間違い......』

 

迫ってくるミサイルを数えるが、48基。 本当に何の間違いだったんだよ......

 

『情報より少ない、楽勝です!』

 

そう、白が言った瞬間、追加のミサイルが

 

『リアル、だまして悪いが、やるんじゃない!!』

 

焔火で弾幕を張るが、弾切れで処理をしきれずあっけなくSEが底をついた

 

「むぅ......」

 

頬を膨らませる簪さんだが、苦笑するしかない

 

「いやいや、不完全燃焼かもしれないけど、本気出さないって宣言してたから」

 

「それでも、本気を出してほしかった」

 

「なら、また今度だね。 ホワイトグリント(アレ)の調整も必要だし、それにお姉さんとの決着、あるでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

返事を聞かず、背を向けて歩き出す。 闘志は収まったようだが、やはり不完全燃焼が抜けないのか、不穏な気配だ。 俺はそのまま、更衣室に歩きだす

 

--------------------------------------------

 

「負けちゃったな」

 

「そうだな」

 

更衣室に行けば、一夏がいた。 次の試合は、インターバルをはさみ凰さん対簪さん。 その次は、俺対凰さん、その次の試合が簪さん対一夏。 最後は男子対決となる。 まぁ、俺はどの戦いもいいとこまで行って負けるつもりだから、関係ないのだが。 簪さんは別だ。 こっちは諸事情により本気を出せないのに、本気ではないにしろ結構力入れてたみたいだし

 

「あの更識さん? だったか? 容赦なかったな?」

 

「そうか?」

 

別にそんなことは思わなかったのだが、一夏的には不服らしい

 

「だって、動きが止まったところにミサイルだぞ? しかも、着弾も確認してないのに次のミサイル撃ってただろ?」

 

「・・・・・・」

 

まぁ、現役時代を知っている身としては、別にあれぐらいのミサイル量では驚きはしない。 彼女、重腕を知っているのなら、なおさらだ。 それに、別に着弾を確認しないでミサイルを撃ったところで、別にそれはいいと思うのだが。 どこまでもヒートアップしていく一夏に、何処か冷ややかな感想を持ちつつ聞いていた

 

「なんか、反応薄くないか? 負けて悔しくないのかよ?」

 

「まぁ、本気でやって負けたら悔しいだろうな」

 

「だろ!」

 

別に本気でやってないので悔しくない、そう言ったつもりだが一夏はいい風に勘違いしてくれたようだ。 まぁ、それはそれで失礼な話なのだが。 モニターを見れば、次の試合が始まりそうだ

 

「一夏、次の試合が始まるぞ」

 

「おう、サンキュー」

 

一夏が勝手にヒートアップしてうるさかったから声をかけただけなのだが...... まぁいいか。 そして、何故か近い位置で二人で試合を見る羽目になった

 



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第三十話

凰さん対簪さんだが、結果は簪さんの勝利。 龍砲と言う不可視の衝撃砲を繰り出すも、簪さんには通用しなかったようでことごとく避けられていた。 龍砲を避けつつ、ミサイルポットを起動し発射。 攻撃に使っていた龍砲でそれを防ぐも、今度は薙刀による接近戦。 凰さんは近接武器を持っていたが、リーチが違いそれに戸惑っている間に片方の龍砲をつぶされていた。 接近戦も不利と悟った凰さんは近距離ながら龍砲を撃ち距離を離すことに成功したが、今度は荷電粒子砲を貰いもう一つの砲門も沈黙。 そこからは遠近両方の距離で立ち回られ敗退、そんな試合内容だった。 特に面白みもない試合だった。 そんなわけで俺の番が回ってきたわけだが

 

「鈴は強いからな、気を付けろ!」

 

「あぁ」

 

一夏から激励の言葉をもらい、更衣室を後にする。 強いから気を付けろって、何に気を付けたらいいのやら......

 

『ともかく気を付ければいいんじゃないかな?』

 

『戦ってれば気を付けるのは当たり前だろ』

 

『あはは~』

 

楽しそうに笑う白だが、俺はまったく楽しくない。 ともかく俺の試合だ、気を引き締めなければ。 ・・・・・・まぁ、凰さんには悪いが、俺の負け試合なのだが

 

アリーナに出れば、そこに凰さんの姿はない。 整備に時間がかかっているのか、それともただ準備しているだけなのか。 暇だが、やることがない

 

『なら僕と話そうよ!』

 

『まぁ、暇だから構わないが』

 

そんなわけで、白との会話になった

 

『あの無人機のホワイトグリントが使ってたジェネレーターあったじゃない?』

 

『あぁ、企業連の開発したジェネレーターよりも、かなりいい性能だった奴だろ?』

 

白の情報だと、あれでも未完成らしいが、無人機が使っているのを見た感じ、エネルギー問題は解決していたように見える

 

『あのジェネレーターね、爆発前に転送されたんだよ!』

 

『は?』

 

『だから、爆発前に僕に転送されたから、僕の手元に...... あっ!来たみたいだよ!』

 

『ちょっと待て!話を終わらせようとするな!』

 

重大なことをぽろっと言ったような気がしたが、本当に対戦相手の凰さんが来たらしく、相手をしなければならない。 くそぅ、早めに終わらせてさっきの話を詳しく聞かなければ

 

「アンタが対戦相手の白石? 冴えないわね

 

「それはどうも、中国代表候補生の凰鈴音」

 

「あーごめん、私思ったことハッキリ言っちゃうタイプだから......」

 

「それ、フォローしているように見えて、してないからな?」

 

「そう?」

 

そう言って首をかしげる凰さんだが、それって純粋に冴えないって言ってるってことだから。 別にいいんだけど

 

「さっきの試合は負けたけど、今回は勝つわよ!」

 

「お手柔らかに」

 

青龍刀を両手に構え、やる気満々と言った感じの凰さん。 それに対して、俺は焔火を両手に展開し、両腕を下げたまま

 

『温度差が半端ない』

 

『もともとやる気がないからな』

 

直後、試合開始のブザーが鳴る。 あー、衝撃砲が迫ってきているが、ここは受けることにする。 てか、いきなり顔面狙いとかえげつなくない? 絶対防御があるとはいえ、顔面に直撃する衝撃砲。 眼鏡は吹っ飛ばなかったようだが、顔面が痛い。 倒れないように後ろに踏ん張ったからいいものの、最初から無様に転倒するところだった。 文句を言おうとするも、連続で衝撃砲が撃ちだされていた。 とりあえず、顔狙いの数発は回避しそれ以外のところは、かすったりして受け流す

 

「へぇ、やるじゃない!」

 

「いきなり顔面狙いは、危ないと思うのだが......」

 

「いや、わざとじゃないのよ? 適当に撃ったら顔面だっただけで、それは謝る。 ごめん」

 

このご時世、素直に謝れることはいいことだと思うけど、逆に戦慄だよ。 適当に撃ったら顔面当たったとか。 嘘を言っている感じではないので本当なのだろうが。 ちなみに、こうして謝ってはいるが、攻撃の手は緩めていない。 まぁ、戦いの場だし謝ったりするほうがおかしいのだが。 文句は別にOKだと思うの。 世に平穏のあらんことを、別に信者じゃないけど。 SEも順調に削れてきているためか、今度は接近戦に移る模様。 俺は龍砲が止んだ一瞬のすきに、焔火をフルオートで撃ち、後退し始める

 

「逃がすわけ、ないでしょ!!」

 

両手の焔火が狙い撃ちされるが、右腕の方を避ける。 流石に、武器がなくなるのだけはつらいからな。 左手は直撃し、砕け散る。 簪さんとの試合の時も思ったが、やはり打鉄は重い。 スラスターを吹かすが、打鉄のスラスター出力に合わせている今のままでは離しきれない。 あっというまに距離を詰められ、青龍刀を振るわれる。 だが、俺も葵を展開し、一振りを受ける

 

「残念だったわね!双天牙月は一基じゃないのよ!!」

 

「っ!?」

 

見えているので知ってはいるが、二振りめで振り払われる。 勝負を決めようというのか、両手の双天牙月を振りかぶるが、流石にこのまま何もしないで負けなのは嫌だからね。 スラスターを吹かし、無理やり姿勢を整え右腕の焔火をフルオートで掃射する。 これには驚いたようだが、反応が遅すぎる。 急いでよけようとしたが、()()()()()()に龍砲の片方に直撃し、機能が停止したようだ。 急いで距離を離し、俺をにらみつけてくる凰さん

 

「アンタ、初心者のふりしてない?」

 

「いやいや、ISに触れてまもない初心者だけど?」

 

嘘言っていない

 

『だまして悪いが性分なんでな!』

 

それだと俺が詐欺師みたいだからやめようか。 あまり変わらないような気がするけど。 俺の言葉に厳しい視線を向けながら、突っ込んでくる。 だがさっきと違うのは、龍砲を放ちながら突っ込んでくるため逃げ場がない。 焔火を撃ちだすも、双天牙月を連結しそれを回すことで弾いていた。 思わず舌打ちしたくなったがこらえ、連結された双天牙月を葵で受け止める

 

「受け止めたわね、これで終わりよ!!」

 

龍砲を撃ちだしたぐらいでは、終わらないSEなのだが? なんて思っていると、白から情報が

 

『なるほどねー。 今回は威力重視でチャージしてるみたい』

 

『そんなことできるのか?』

 

『んー、まぁできるみたいだね。 ちなみに、さっき食らったのより数倍痛いよ。 しかもこのままだと顔に直撃だね!』

 

何やら白に恐ろしいことを言われるが、それなら回避しなければならない。 と言っても、白の話では近距離だし、普通によける時間はないとのこと。 まぁ、ダメージを少なくする方法ならいくらでもある

 

「何もできないで終わるのは嫌かな? はっ!!」

 

「っ!? でも遅いわよ!」

 

受け止めていた双天牙月を弾くも、鈴さんから遅いとの言葉が。 まぁ、遅いだろうね。 言ってるそばから、体勢を立て直してるし。 だが、さっきも言った通り何もできないで終わるのは嫌なので

 

「っ!? クッソ!!」

 

まだ体勢を立て直し切っていない、凰さんに向かって焔火を突き出す。 だが、それは明後日の方向で。 鈴さんは不信に思ったようだが、その焔火の方向を思い出し悪態をつくがもう遅い。 俺は龍砲に焔火を突き刺し、引き金を引く。 チャージされていたエネルギーに銃弾、それに内部破壊。 そんなことをすれば当然暴発するわけで。 直後爆発、俺と凰さんは巻き込まれる。 煙が晴れたころには、試合の結果も出ていた。 勝者は凰さん。 俺は目論見通り、敗者と言うわけだ。 まぁ、当初の目的通り、三分の二SEを削れているので良しとしよう。 何か言いたそうにこちらを睨む凰さんに手を振り、その場を後にする。 インターバルを挟めば、最後の試合だ。 まぁ、その前に一夏と簪さんの試合があるのだが



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第三十一話

一夏は負けた。 それはもう、可哀想なくらいだった。 普通の人ならね。 現役時代を知っている俺からすれば、慈悲すら感じたけど。 試合開始と同時に、ミサイルを発射され出ばなをくじかれた一夏。 呆然と立っていればいい的で、そこに荷電粒子砲を容赦なく撃ち込む簪さん。 数発ヒットしてようやく我に返ったが、そのころには48発のミサイルがすぐそこに迫っていた。 雪片弐型で応戦するも、数基撃墜しただけで大部分は直撃だった。 SEも残り僅か。 一か八かでワンオフアビリティである零落白夜を発動して特攻するも、簪さんは冷静に迎撃。 荷電粒子砲を数発ヒットさせ、雪片弐型をあさっての方向に吹き飛ばし、最後は武器を持っていない一夏にミサイルを直撃させ試合終了。 この通り普通の人から見たら容赦ないが、開幕フルバーストされるよりはましだと思う。 そんなわけで試合もすぐに終わり、俺の方は大した休みもなくすぐに試合と言う運びになった。 このころには観客も少なく、ほとんどの生徒が帰ったようだ。 俺にとっては好都合だけど

 

「ようやく、だな」

 

「そんなに楽しみだったのか、俺との試合?」

 

「当たり前だろ!」

 

まぶしい笑顔を浮かべているが、まるで意味が分からん。 同じ男子同士、初心者同士の試合だから楽しみとか? お門違いもいいところなのだが

 

「お前楽しみじゃないのか?」

 

「面倒だ」

 

逆に一夏が質問してくるが、俺は短くそう答える。 せっかく空を飛んで風を感じながら自由に戦えるというのに、邪魔なのは利権団体の手先とくだらない思考にとらわれた女子ども。 楯無先輩がいるからいいものの、楯無先輩が居なかったら俺は飛べもしなかったわけだ。 そう考えると、楯無先輩には感謝だ

 

『つまり、今の黒夜の心境を現すとこうだね!戦いの中にしか、私の存在する場はない。 好きに生き、理不尽に死ぬ』

 

『おう、やめーや。 誰が死神部隊のJだ、コラ』

 

少しテンションがおかしいが、まぁ大丈夫だろう。 俺の言葉を受け、一夏は首をかしげる

 

「面倒って...... 確かに、こうやって見世物になるのは面倒だし、俺だって遠慮したいけど......」

 

「違う、そうじゃない」

 

「?」

 

まぁ、分からないだろう。 織斑千冬(あの人)の栄光に守られて、のほほんと暮らしているお前には。 俺たちの、普通の男子たちが受ける理不尽な行為には。 もしかしたら、こいつもそう言う行いを受けたのかもしれないが、多分守られているほうが多いだろうから

 

「わからないならわからないままでいい、そのほうがいいだろう」

 

ブザーがちょうど鳴り、試合が開始される。 俺は焔火を展開し構える。 だが一夏は俺が構えたのを見て、雪片弐型を慌てて構える。 しょっぱなからやる気がなえたのだが、気を取り直して両手に持つ焔火をフルオートで撃ちだす。 その弾幕の中、まっすぐ突っ込んでくる一夏。 何か作戦があるのか、それとも

 

『作戦なんてないと思うよ? ただ愚直に、まっすぐに敵に切り込む。 そう言うタイプだよ、彼』

 

『・・・・・・』

 

大体が正面に弾幕を張り、引き打ちが主体の俺の戦法。 簪さん、凰さんの試合でやってきたはずなのだが。 それの対策すら立ててないのか?

 

『対策を立ててないじゃなくて、試合もただ見てただけ。 白式もそう言ってるよ』

 

試合を見ても感心するだけ、ね...... 上段から振り下ろされる雪片弐型を軽く避け、距離を離し引き打ちに徹する。 そうすれば

 

「くぅ...... やり辛いな」

 

険しい顔をしながら、それでもなお勝負を諦めていない一夏。 だが、一夏が一方的にやられる試合展開に観客席は盛り下がる。 中には、俺の誹謗中傷も。 あぁ...... 本当に面倒だ。 見え見えの攻撃に当たってやれば、観客席は歓声が。 零落白夜を常に発動させているのか、大ダメージだ

 

『どうするの?』

 

『もういい、冷めた。 茶番は終わりだ』

 

盛り上がっている観客席も、目の前の一夏もすべてどうでもよくなる。 早く帰って休みたい。 こんなストレスばかりの場所。 俺は両手の焔火拡張領域に戻し、葵を展開し、構える

 

「ついに剣の勝負か」

 

「一夏、一つだけ言っておく」

 

「ん? なんだよ?」

 

雪片弐型を構えながら首をかしげる一夏に

 

「これまでのようにいくとは思うな」

 

「っ!?」

 

イグニッションブーストを発動し、葵で加速した突きを放つ。 話していたことによって気を抜いていた一夏はこれに対応できず、もろに食らうことになる。 吹き飛ぶ一夏だが、俺はそれを待つほどやさしくない。 その一夏を追いかけ、横なぎに葵を振るう。 だが、かろうじて一夏はそれを受け止める

 

「話し中に...... 卑怯だろ!」

 

「で? それが何か問題でも?」

 

「は?」

 

目を点にする一夏。 その隙につば競り合いを崩し、また一撃を加える

 

「戦いの中にルールなんか存在しない。 あるのは勝ち負けだけだ」

 

「戦いって、何を!?」

 

「勝負事ってそう言うものだろ? それも理解していないお前に、俺は倒せない」

 

一夏の雪片弐型をはじき、尻もちをついた一夏に葵を振り下ろそうとするが、すんでのところで止まる。 試合終了のブザーが鳴ったからだ

 

『黒夜』

 

『わかっているさ、白』

 

一つ息を吐き、その場を後にする。 ストレスが溜まったからと言って、やりすぎたようだ

 

--------------------------------------------

 

「試合には全部負けるって聞いてたんだけど?」

 

部屋に帰れば、楯無先輩が楽しそうに聞いてくる。 帰りは誰にも会わないように人通りの少ないところを通ってきたし、最速で帰ってきた。 おかげで誰とも会わずに帰ってこれたのだが、部屋には楯無先輩が。 楽しそうなところ悪いが、俺は簡潔に答える

 

「あそこに居たくなかったんですよ。 女尊男卑(くだらない)思考の女子は、口を開けば俺の悪口。 織斑の攻撃が当たらなければ盛り下がる観客席。 逆に俺が当たれば、盛り上がる。 一夏自身は俺との実力差に気が付こうともせず、見え見えの剣を振るだけ。 作戦もなにもなく、ただまっすぐに俺に剣を振るうだけ」

 

「・・・・・・」

 

俺の独白を静かに聞く楯無先輩。 俺はそれっきり何も話すことはなく、服をとりシャワーを浴びる。 シャワーを浴び、着替えを済まし、ベッドに腰掛ける

 

「まぁ、ストレスが溜まったからと言って、あんなことはするものじゃないですね。 GW後が面倒そうですよ」

 

GW。 今日はGW前最後の授業であり、明日からは連休でもある。 なので、くだらない連中と会わなくて済むが、結局GW後に顔を合わせるのだから、猶予期間でしかない

 

「あまりため込んじゃ駄目よ。 貴方、そう言うタイプそうだもの」

 

「善処しますよ」

 

心配そうにこちらを見つめる楯無先輩にそう返事をし、そのまま横になる。 本当に疲れた

 



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第三十二話

GW初日、俺の姿は学園の外にあった。 本来なら外に出るという選択はしないのだが、用事があるから仕方がない。 ホワイトグリントの修理は学園ではできず、有澤重工本社でやるしかない。 学園でもやろうと思えばできることはできるが、調整など細かいことは有澤重工でやったほうが早い。 それに機密保持、と言う観点からでも有澤重工のほうが安心だ。 なので俺は外出をしている。 まぁ、そこはいい、そこはいいが

 

「なんで腕なんて組んでるんですか俺は?」

 

「気にしない気にしない」

 

妙に上機嫌に俺の腕をとっている女性、更識楯無先輩に声をかけるがとりあってくれない。 そもそも、こうして外を出歩くことになったのも、楯無先輩のせいである。 学園近くに有澤重工の車を向かわせると有澤さんは言ってくれたのだが、それではバレる可能性がある、そう言うことで途中までは徒歩、学園から離れたところで車に乗る手はずになった。 俺としても別にそれはよかったのだが、何故かこうやって腕を組んでくる始末。 それに、何時もの伊達眼鏡も外し、髪を少し整えて外出しているため周りの目がうざい。 それに、腕を組んでいるのが美女ということで、ヤローからもやっかみの視線が。 本当に面倒だ

 

「まったく、こんな美女と腕を組んでるんだから、もうちょっと嬉しそうにしたらどうなのかしら?」

 

ちょっと怒ったふうに言う楯無先輩だが、貴女のせいなんですけどねぇ......

 

「確かに楯無先輩みたいな美女と腕を組めるのは嬉しいですが、それによる視線がねぇ...... それにいつもの服装じゃないので、他の視線も感じますし。 正直言って、凄く面倒なんですが」

 

「・・・・・・そう言うことはすらすら出てくるのね。 視線なんか気にしててもしょうがないわよ?」

 

腕を組んでる関係上、小声で言っても聞こえるのだが。 ともかく、妙に赤い顔でぼそぼそいう楯無先輩をスルーし、視線なんか気にしても仕方ないねぇ...... 確かに一理あるし、気にしないで周りの景色を楽しむ。 こうやって学園の周りの景色など見たことなかったし、ちょうどいいかもしれない。 と言っても、おいそれと学園の外に出れる気はしないが

 

「どう? 気晴らしにはなるでしょ?」

 

そう言って笑顔を向けてくる楯無先輩。 なるほど。 俺に気を使ってくれたわけか。 昨日のこともあって、気晴らしが必要だと思ったのだろう。 急な予定変更はこういうことだったわけか。 まぁ、確かに気晴らしにはなる

 

「・・・・・・ありがとうございます

 

「? 何か言ったかしら?」

 

聞こえなかったのか、不思議そうにこちらを見る楯無先輩だが、二度も言うことはない。 そのまま何も言わず、歩き続ける

 

「ちょっとー? 何か言ったー?」

 

「別に何も? それよりも離れてほしいんですが?」

 

「い、や、よ!」

 

楯無先輩の答えを聞き、俺はため息をつきつつそのまま歩く。 何故か楯無先輩は終始楽しそうだったが

 

--------------------------------------------

 

「来たか」

 

「今日はよろしくお願いします、有澤さん」

 

アレから少し歩き、車に乗ってきたのは有澤重工本社。 何故か玄関には社長である有澤さんがいるのだが、そこまでしなくてもと思う。 とりあえず有澤さんに挨拶をすると、有澤さんは返事をして歩き始める。 俺と楯無先輩はそのまま有澤さんについて行く

 

「それにしても」

 

「どうかしました?」

 

何故かこちらを見て、ふっと笑った有澤さん。 それが気になり聞いてみると、あっさり答えてくれた

 

「なに、お前もそう言う年頃だと思ってな」

 

「そう言う年頃?」

 

俺がオウム返しのように言うと、俺と楯無先輩の組んでる腕を指す。 あぁ、そういうことね......

 

「離してくれと口を酸っぱく言ってるんですが、離してくれなくてですね......」

 

「そう言う関係ではないと?」

 

「なんでそんなに残念そうなんですかね?」

 

少し頭が痛くなりつつ、そう返すと今度は楯無先輩が騒ぎ始める

 

「えぇー、あの時言ってくれた言葉はうそだったの?」

 

「あの時ってどの時ですかね? あまりふざけたことばっかり言ってると、後でえらい目合わせますからね」

 

「あ、あははー......」

 

そう言うと、苦笑いを浮かべながら離れる楯無先輩。 ようやく離れてくれたか。 最初からこういえばよかったらしい。 そんな俺と楯無先輩の様子を、どこか嬉しそうに見る有澤さん。 しばらく歩けば、重厚そうな扉が。 有澤さんがセキュリティーのキーを読み込ませれば、扉が開く。 中には、懐かしい面々が。 チームラインアークのみんなが集まっていた。 まさかいるとは思わず、驚いた表情をしていたのが面白かったのか、みんなが笑いだす。 どこか、懐かしく感じる。 みんなに挨拶をすれば、撫でられるわ、生意気だとか軽く小突かれるわ。 本当にみんな変わっていないようだ

 

「さて、再会を懐かしむのはいいが仕事だ。 黒夜、ホワイトグリントを」

 

「はい。 それじゃあ、みなさんお願いします」

 

ホワイトグリントを展開し、みんなに見せる。 すると険しい顔をするが、それも一瞬のことで、みんなが仕事に取り掛かる。 その間暇な俺と楯無先輩は、有澤さんと話していた。 まぁ俺の場合、ちょこちょこみんなから聞かれることを入るのだ答えているのだが

 

「それにしても、あの機体、そんなに強かったのか?」

 

「有澤さんも動画見たんじゃないですか? 見ればわかるでしょ?」

 

「それもそうか......」

 

そう言って考え込む有澤さん。 まぁ、俺の現役時代を知っている有澤さんだ。 よくわかっているのだろう。 ホワイトグリントの損傷具合を確認し、頷いているし。 楯無先輩は気になったのか、聞いてくる

 

「あの機体、貴方が使ってるホワイトグリントに似ていたけど」

 

「似ている、じゃなくて同じ機体です。 完成度はあちらの方が上ですが」

 

「なるほどね...... でも、貴方があそこまでてこずるなんて、相当無人機の性能が良かったのね」

 

「性能、と言うよりも腕ですね。 アレに勝てたのは、運もありますしね」

 

「運、か。 確かに現役を離れて久しくないお前に、現役時代のお前の相手はつらいか」

 

「ちょ、ちょっと待って!それって」

 

俺や有澤さんの言葉を聞き、妙に焦ったような声を出す楯無先輩。 まぁ、言いたいことは分かる

 

()()()()()()を誰かが持っている。 そんなの、人物限られますけどね」

 

俺の言葉に、考え込む楯無先輩。 まぁ、今回の犯人は誰かは分かっている。 ちょうど今はジェネレーターの交換作業のようだ

 

「そういえば有澤さん、あのジェネレーターは?」

 

「匿名で届いたものでな」

 

そう言って、紙切れを渡す有澤さん。 そこには。 ジェネレーター(これ)は今回のお詫びだよ。 もしもの時の予備策、って感じかな。 君がもつジェネレーターは好きにしていいよ、兎さんより。 なんて書かれていた。 犯人なんて、分かりきったことで。 俺はそのまま手紙を握りつぶし、目の前を見る。 装甲の交換なども終え、たたずむホワイトグリント

 

「さて、あらかたは終わった。 この後は起動試験だ」

 

「了解です」

 

 



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第三十三話

「またこうなるのね......」

 

「いやなら構いませんよ? 別に、楯無先輩とやる必要はないんですから」

 

起動試験をもろもろ終え、今度は模擬戦だ。 ちょうどいいということで選ばれた楯無先輩だが、ちょっと嫌そうなので気を使って言ったのだが

 

「別に構わないわ。 この間の動画を見て、私もやりたくなったもの」

 

「そこらへんは姉妹なんですね......」

 

簪さんもそうだが、楯無先輩も動画を見て本気でやりたいらしい。 まぁあの時は不特定多数の目があったが、今回は秘匿された有澤重工本社(ここ)だ。 本気でやろう、そのほうがいいデータも取れる

 

「それじゃあ、やりましょうか」

 

「えぇ」

 

有澤さんのほうを向き、合図を送る。 程よい緊張感が場を包み、高まっていく

 

『白、PA展開』

 

『了解!』

 

ブザーが鳴ると同時にPAを展開、楯無先輩の放ったガトリングガンの弾を防ぐ。 このぐらいでは、PAを削ることはできないらしい。 流石天災科学者謹製と言ったところか

 

「それがPA? 全く攻撃が通ってる気がしないんだけど......」

 

「・・・・・・行きますよ」

 

楯無先輩の軽口には応じず、QBで一気に距離を詰める。 流石PAを展開したおかげか、ほとんど体に負荷を感じない。 一瞬で距離を詰めるが、このぐらいはいつもやっているので特に驚くこともなく、蒼流旋を突き出される。 俺はそれをアサルトライフルを突き出すことでそらし、引き金を引く。 この程度では、やはり水に防がれる。 やはり、楯無先輩とこの武装では相性が悪い。 PAは一定の攻撃力があれば破れるが、この楯無先輩の展開する水は、このアサルトライフルでは破れない。 PAなら、この距離の接射なら破れるんだが...... まぁ、やり方はいくらでもあるが

 

「相変わらず、容赦がなくてお姉さんこわーい」

 

「軽口が叩けるなら、まだまだ大丈夫そうですね」

 

「っ!?」

 

QBの乗った蹴りを放つ。 この近距離で、しかもQBを使って蹴り上げれば水を展開しても、吸収しきれないだろう。 俺の目論見通り、蹴り上げたことにより空中に浮く楯無先輩。 その間に、肩の分裂ミサイルを発射する。 楯無先輩は急いで姿勢を制御し、蒼流旋についているガトリングガンを放つが、ミサイルはすでに分裂している。 クリアパッションを発動して、一気にミサイルを爆発させるが、俺はそれを待っていた。 二段QBを発動し、一気に近づき

 

「あの映像の!?」

 

「そうですよ」

 

直後、楯無先輩と俺は閃光に包まれる。 と言っても、俺の方はセンサー類の保護シャッターが下りているため、一時的な機能不全に陥ることはない。 俺はその場を急いで離脱、状況の把握に努める。 楯無先輩に動きはない。 いや、動けないと言うべきなのかな? 機能不全で、ロック関係が一時的にダメになってるだろうし、そもそもあの光を見たのだから視界も確保できないだろうし

 

『PA再展開まであと一分!』

 

一分とは言うが、時間は着々と過ぎていく。 残り三十秒くらいだろうか。 ようやく楯無先輩が動き始める

 

「つぅ...... やってくれたじゃないの。 水の防御も意味なかったし、閃光のせいで目はちかちかするし、耳鳴りもひどいし」

 

「まぁ、そう言うものですからね」

 

残り十秒。 楯無先輩は機体状況を確認しているのか、動きはない。 その間に

 

『PA再展開、完了!合計で二分、てところかな』

 

『上々だろう。 前回のジェネレーターなら倍以上、もしくは撃ちきり。 QBは別口だから避けるのも問題ない』

 

『だねぇ~』

 

白との話もそこそこに、楯無先輩に声をかける

 

「まだ続けますか? こっちは確認できましたし、もういいのですが?」

 

「・・・・・・もういいわっ」

 

どこかすねたように言う楯無先輩に首をかしげつつ、有澤さんに終了の声をかけた

 

--------------------------------------------

 

あの後は結局、楯無先輩の機嫌は直らず学園に帰ってきた時点で別れた。 俺はそのまま学園を自由気ままに散歩だ。 もちろん、何時もの眼鏡装備だ。 こちらのほうがやっぱり落ち着く

 

『どうだった、新しいジェネレーター』

 

『予想以上、だな』

 

新しいジェネレーターにより、PAなどの問題は解決されたと言っても過言ではない。 動き、二段QBやドリフトターンなども問題なく行える。 連続の二段QBなども、体が慣れたのもあるがPAが常時展開できるようになったのも大きいだろう。 まぁ、そもそもホワイトグリントを使うような機会が多くないことを願うが。 だが、これでピースは揃った、か...... 皮肉にも()()()のお陰で、現役時代の勘は戻った。 ジェネレーターは未完成とは言え、かなりの完成度だ。 そして、みんなの思いが詰まった機体。 これで、(アイツ)との戦いに憂いはなくなった。 まぁ、その前に重腕()さんとの戦いの方が先だが。 たぶん近いうちに仕掛けてくるだろう。 そんな予感にも似た確信と共に寮に向かって歩く

 

『なんか嬉しそうだね』

 

『そうか?』

 

『うん!だって、笑ってるよ』



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第三十四話

GW最終日、アリーナを生徒会名義で貸し切りにし、関係者以外立ち入り禁止と言う徹底した管理のおかげで、このアリーナにはほぼ人がいない。 いるのはのほほんさんとその姉である布仏先輩のみ。 そんな中、俺の姿はアリーナではなくその観客席。 つまりのほほんさんと布仏先輩とこれから行われる試合の観戦と言うわけだ

 

「かんちゃん、この休みずっとアナハイム社行ってたみたいだけど、何か知ってる~?」

 

「さてね。 俺は知らないかな」

 

「簪様のことですから悪いことではないでしょうが......」

 

どうもこの休み中。 と言うよりも、あの総当たり戦以後、アナハイムの方に行っていたようだが、その理由までは知らなかった。 でも、これが終わったら俺と試合ということはある程度は予想ができる。 それよりも今は、目の前に集中だ。 二人はもうアリーナにISを展開した状態で立っており、後は試合開始の合図を行うだけ。 その試合開始の合図は、布仏先輩が行う

 

--------------------------------------------

 

~簪視点~

 

「それでは、始めてください!」

 

虚さんの合図とともに、試合を開始する。 お姉ちゃんは油断なく蒼流旋を構え、私は夢現を構える。 お姉ちゃんに隙はない。 だが、このまま硬直状態が続くのも好ましくない。 クリアパッション。 お姉ちゃんと戦うなら警戒しなければならない。 ならば。 春雷を展開し、距離を離しながら撃ち込む。 その隙に山嵐を起動し、発射体制を整える。 だがお姉ちゃんは焦ることなく春雷をよけ、蒼流旋についているガトリングで攻撃してくる。 でも、私だってそんなものには当たらない。 ある程度距離を離し、山嵐を全弾発射する。 48発のミサイルがお姉ちゃんに向かっていくけど、お姉ちゃんは焦ることなくスラスターを使い後方に回避する。 その際にガトリングで数を減らしていた。 次弾を装填しつつ、春雷でお姉ちゃんを狙うも、やはり避けられる

 

「やっぱり、手の内をわかっているから近づいてこないわね簪ちゃん」

 

「・・・・・・」

 

お姉ちゃんが私のことを()として認識してくれるのは嬉しい。 今まではどちらかと言えば、私のことを視界に入れないようにしていたから。 でも、今のままじゃ足りない。 お姉ちゃんを倒すには、その先の白石君を倒すには!!山嵐を撃ちだすと同時に、私は春雷を撃ちつつお姉ちゃんに接近する。 お姉ちゃんは真剣な表情を崩さず、迎撃してくる。 春雷を撃つがことごとく避けられるが、そこに山嵐のミサイル48発が到達する。 でも、クリアパッションで全部爆発させられてしまう。 そこまでは計算通りで、煙が立ち込めると同時にイグニッションブーストを使う。 煙に紛れてお姉ちゃんに接近したけど、回り込んだはずの私に蒼流旋を突き出してくる。 だが、その攻撃でも勢いは止まらず夢現を振り下ろす。 切ったものは槍ではなく、水。 水で受け止められてしまった。 でも、春雷がある。 春雷を向けた瞬間、春雷が爆発する。 クリアパッション。 武器は夢現以外使用不可

 

「できれば降参してほしいのだけど、簪ちゃん」

 

「・・・・・・やっぱりお姉ちゃんは強いね」

 

「・・・・・・」

 

お姉ちゃんを見れば真剣な表情でこちらを見ていた。 少し疎遠になっていたけど、お姉ちゃんの本質は変わってないみたいだった。 これ以上私を傷つけたくないんだと思う。 だけど

 

「だけど、私はその上をいくよ」

 

「っ!?」

 

お姉ちゃんは何かを感じ取ったのか、私から距離をとりつつクリアパッションを発動する。 装甲はボロボロ、SEもほとんどない状態だけどそれは関係ない。 だって

 

()()()の私じゃ勝てない。 だから弐式、力を貸して」

 

~簪視点 end~

 

--------------------------------------------

 

「かんちゃん!」

 

立ち上がり、観客席を出ようとするのほほんさんを手で制す

 

「シロクロ!」

 

「まだ試合は終わってないよ。 いや、むしろこれから始まる」

 

「何を言ってるんですか!クリアパッションが直撃ですよ!? お嬢様も何もあそこまで!」

 

二人が何か言っているが、気にせずアリーナの方を見る。 クリアパッションの爆発のおかげで見えはしないが、問題ないだろう。 それにしても、楯無先輩もよく反応できたものだ。 最後の口撃、容赦なく見えたがそうじゃない。 たぶん、俺と模擬戦しているからよくわかっているのだろう、簪さんの()()()()()()()()のが。 徐々に煙も晴れ、アリーナ内の様子が見えてきた。 そこには、見覚えがある(見覚えがない)姿の簪さんが

 

『おー!アレが重腕さんの愛機、ヘビーアームズ?』

 

『いや、少し違うな。 お前も見てたからわかるだろう?』

 

重腕さんの愛機、ヘビーアームズとは少し違う。 ベースは打鉄弐式だろう。 だが、各所につけられた追加装甲のせいで、せっかくの機動性が殺されている。 まぁ、スラスターは大型のものに換装されているので、機動性が少し下がったくらいだろうが。 胸部も追加装甲あるみたいだし、武装も増えたようだ。 両手には二連ガトリング、春雷も大型化され数も増えて四基に。 そして、一番目が行くのが8基のミサイルポットだ。 しかも大型化されている

 

「なに、あれ......」

 

「セカンドシフト? いやでも、そんな数値......」

 

「たぶん、アレがアナハイムに行ってた理由、じゃないか?」

 

俺がそう言うと、驚いた顔をしてみる二人。 いや、そんなに驚くことじゃないと思うけど

 

「行ってた理由?」

 

「まさか改修を?」

 

「たぶんそう言うことじゃないかな?」

 

アリーナ内に動きはないが、簪さんが一瞬こっちを見た気がした。 目と目が合った瞬間、俺は立ち上がる

 

「シロクロ?」

 

「俺も試合の準備をね」

 

「お嬢様の試合は終わっていないようですが......」

 

そう言って、いまだに動きのないアリーナを見る布仏先輩。 だが俺はそれに短く答える

 

「終わりますよ、すぐに」

 

そう言い残し、俺は観客席を後にした



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第三十五話

~楯無視点~

 

前々から言っていた、簪ちゃんとの対戦。 なんで戦うことになるのかは不思議だったけど、前に比べれば会話が増えたことで私は嬉しかった。 GW最終日、前々から完成はしていたけど、細かい調整が済まない打鉄弐式の調整が済んだということで、あまり予約のなかったアリーナを生徒会名義で貸し切りにして対戦をしていた。 確かに簪ちゃんは強かった。 クラス対抗戦が中止になり、後から行った総当たり戦。 その時の映像を後から見させてもらったけど、強くなっていた。 私は嬉しく思う反面、複雑だった。 あんな風に言った簪ちゃんは強くなった、それがもし私への強い恨みから来るなら、そう思うと怖くなった。 でも、瞳を見ればそんなものはなく、それどころか私を見ていないような気がした。 だからつい本気でやったけど、結果は私の勝利。 いくら強くなったとはいえ、私は国家代表。 そう簡単に負けは許されない。 唯一の例外いるけど。 そして、負けを認めるように言ったけど聞いてくれなかった。 それどころか、彼と同じ目をしていた。 強者の目。 それに圧倒されそうになるが、すぐに気持ちを切り替えクリアパッションを広範囲で発動する。 虚ちゃんや本音ちゃんが立ち上がるけど、許してほしい。 何をしてくるかはわからないけど、アレはまずい。 だが、クリアパッションは通じず、そこには打鉄弐式のようで、弐式じゃないISを展開している簪ちゃんが。 セカンドシフト? でもそんなんじゃない気がする

 

「惜しかったね、お姉ちゃん」

 

「・・・・・・」

 

簪ちゃんからの言葉は気にしていられない。 私の警戒心は、今や彼と戦う時と同じぐらいだ。 打鉄弐式は機動性重視だと聞いていたが、今や見る影もない。 ミサイルポットは数を増やし、大型化。 荷電粒子砲である春雷も大型化し、砲門も四門になっている。 各所には追加装甲、両手には二門で一つのガトリング。 全体的に重装甲になり、機動性は見るからに落ちていた。 だが、私の警戒心は上がるばかりだ

 

「こないの、お姉ちゃん? なら、こっちから行くよ!!」

 

「!?」

 

計四門から発射されるガトリングの物量は流石に防ぎきれず、避けながら蒼流旋に搭載されているガトリングを放つが、簪ちゃんには効果がない。 それどころか、ダメージを受けているようにも見えない。 装甲が硬いなら、爆発ダメージでとも思うが、簪ちゃんはクリアパッションの効果範囲を掴んでいるのか、ガトリングの物量で近づくことすらできない。 それどころか。 追加装甲が動き、中からはミサイルが放たれる。 クリアパッションで一気に処理するが、それが悪手だと気が付かされる。 ガトリングが正確に飛んでくるのだ。 何故とか考える前に水で防ぐが、防ぎきれずにSEが削られていく。 なおも飛んでくるミサイルに、防戦一方だ

 

「これが私、重腕としての私。 お姉ちゃんには昔から何をやっても敵わなかったけど、彼が私に勝ってるって言ってくれた。 だから私は、重腕に戻った。 お姉ちゃんに勝つために」

 

「別に私は、簪ちゃんをおざなりに思ったことは!」

 

「知ってる。 お姉ちゃんが優しいのは。 あの時、と言うよりもこの間まではショックだったけど、食堂でお姉ちゃんの姿を見ていろいろ吹っ切れて、考えたから」

 

簪ちゃんはその場から一歩も動かず、ガトリングを撃ち続けている。 こうして会話をしている間も撃っているのだから、弾切れは近いはず。 ただ気になるのが、使っていない山嵐。 それに春雷も

 

「でもこれはけじめ。 重腕に戻るなら、強くならなくちゃいけないから。 だから、お姉ちゃんを倒す!」

 

狙っていた弾切れだが、山嵐を撃ちだしてきたため隙を狙えない。 でも、爆発させれば関係ない。 クリアパッションの範囲内に入った瞬間、爆破しようと考えていたがそれすらも甘かった。 彼のミサイルと同じ様に、()()したのだ。 分裂数は四と彼の半分だが、八基のミサイルポットから八門の分裂ミサイル。 64個のミサイルからさらに分裂したのだ。 彼との比較にならないし、クリアパッション範囲の手前で分裂したため動揺して、爆破も甘かった。 何とか自分の目の前に来るまでに全部の処理は終えたけど。 またも煙で、簪ちゃんの姿が見えないけど

 

「どうして!!」

 

簪ちゃんは私が見えてるかのように、ガトリングを撃ってくる。 射角から考えて、さっきの位置から動いていないのはわかるけど、どうして!

 

「勘、だよお姉ちゃん」

 

今度は春雷まで撃ちだされる。 直撃はかろうじてないけど、それにしたって!

 

「お姉ちゃんならわかるでしょ? 白石君と戦っているんだもの」

 

勘。 時々彼もそう言って、理不尽に攻撃を当ててくることが多々ある。 野生の勘と言うのもあるんだろうけど、それは実力が裏打ちされた勘。 ISの搭乗時間は確かに短い。 でも、ビルドファイターズの時間では圧倒的にわたしがまけている。 戦績で負けているのもそうだ。 だからって言って!

 

「だからって言って負けられないわ!私は簪ちゃんのお姉ちゃんで、国家代表よ!意地があるわ!」

 

多少の被弾、と言うよりも被弾覚悟で近づく。 追加装甲分のミサイルは撃ちだしているのか、撃たれる気配はない。 ガトリングは避けられないが、荷電粒子砲だけでも避け、簪ちゃんに確実に近づいていく。 重くて動けないのか、それとも動かないのか。 どちらにしても、確実に距離は近づいていく

 

「それだけの武装を積んでいるなら!」

 

「・・・・・・」

 

クリアパッション。 火薬に引火したのか大爆発が起こる。 残りのSEはあと少しだが、大ダメージは与えられたはずだ。 そう思っていたけど

 

「進化した弐式、ううん、弐式改はその程度の爆発じゃびくともしないよ。 元々装甲は切り離すつもりだったし、手間が省けたかな?」

 

無傷とは言わなくても、SEが多少削れたぐらいでピンピンしている簪ちゃん。 簪ちゃんの言う通り、爆発の影響で吹き飛んだ装甲はあれど、次の装甲が現れていた。 リアクティブアーマーも考えはしたけど、多分違う。 装甲を追加し、その装甲に搭載された武装が使い終われば武装をパージして次の装甲で戦う。 簪ちゃんのISはそう言う機体。 こんなの

 

「・・・・・・」

 

「お姉ちゃん、私も同じことを言うよ? 出来れば降参してほしい」

 

装甲を展開し、春雷も構える簪ちゃん。 ミサイルポットも開き、いつでも全弾発射できる体制だ。 状況は絶望的だ

 

「・・・・・・」

 

でも、私は諦めることをしない。 姉として、国家代表として。 蒼流旋を支えにして立ち上がり、前を見る。 簪ちゃんの顔色は変わることはない。 まるで戦っているときの彼みたいだ。 クリアパッションを発動させようとした一瞬、その一瞬で近づかれた

 

「ぐっ......」

 

「油断大敵だよ、お姉ちゃん。 弐式改は動けないわけじゃない。 ましてや、追加装甲を付けたことで重くなったわけでもない。 確かに普通に移動する分には重いかもしれなけど、それだけ」

 

一瞬で近づかれ、薙刀の刃とは反対側で突かれる。 加速の乗った一突き。 だが、捕えきれないスピードで突かれたその一撃は軽くはない。 その一撃で私のSEはそこを尽きる

 

「私の勝ちだね、お姉ちゃん」

 

「えぇ......」

 

~楯無視点 end~

 



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第三十六話

2018.8.17 指摘がありましたので、文章の方修正しました。 通りすがりのファンAさま、ありがとうございます。 それと、誤字脱字を修正してくださる皆様、毎回ありがとうございます(土下座


俺がホワイトグリントを展開しアリーナに降りると、勝負はすでに終わていた

 

「終わったみたいだね」

 

「うん、補給したら始めよう」

 

そう言って弐式を展開したまま、アリーナから去って行く簪さん。 補給と言ってもすぐ終わるだろうし、、ここで待ってるか。 そう思い、立ちつくしている楯無先輩に話しかける

 

「楯無先輩、そこに居たら危ないですよ。 補給と言っても、すぐに終わるでしょうし」

 

「・・・・・・えぇ、分かったわ」

 

そう言って力なく笑い、アリーナを後にする楯無先輩。 簪さんに負けたのがショックなのだろうが、今はそれを気遣っている暇はない。 楯無先輩がアリーナから見えなくなると同時に、簪さんが戻ってきた。 そんなにかからないだろうと予想はしていたが、ここまで早いとは思わなかった

 

「さて、完全とは言えなけど世界大会決勝(あの時)の再戦だ」

 

「もう叶わないと思ってた」

 

俺たちは武器を展開しつつ、会話を楽しむ

 

「俺もだな。 そう考えると白には感謝だが」

 

「うん。 私も弐式に感謝かな」

 

「「・・・・・・」」

 

互いに武器を向け、睨みあう。 これ以上は言葉は必要ない

 

「これ以上、言葉は不要か。 始めよう」

 

「うん」

 

高まる緊張感。 俺と簪さんは姿勢を低くする。 そして、開始のブザーが鳴る。 すぐにホワイトグリントをQBを使い、後退させる。 俺が立っていたところには春雷が撃ち込まれており、地面がえぐれていた。 そこから空へ飛びあがり、射撃戦を始める。 あの見た目に反して簪さんの機体スピードは速い。 クイックターンで高速で後ろを向き、そのまま両手のライフルで攻撃するも、重装甲な弐式にはあまり効果がない。 今度はこっちの番と言わんばかりに両手のガトリングと追加装甲のミサイルを発射される。 おまけに春雷も。 いくらPAがあるとはいえ、この物量のガトリングやミサイルを食らえばPAも減衰しきれないし、一瞬ではがされる。 QBを使って回避しつつ、ライフルで攻撃する。 今回狙うのはスラスターやハッチが開いたミサイルだ。 まぁ、そんなわかりきった攻撃に当たってくれるはずもなく、スラスターはことごとく避けられ。 ミサイルは追加装甲をパージすることで誘爆を防がれる。 装甲を次々パージしているせいか、どんどん機動性が上がってきている。 と言うよりも、やっぱりそう言う戦い方なのね。 ISになっても、その戦い方は変わらないようだ。 合間に肩のミサイルSALINE05を発射するも、ガトリングによってことごとく分裂前に撃ち落とされる。 まぁ、あっちも俺の手は分かってるからな、やり辛い。 だがまぁ、やりようはある。 また肩ミサイルを発射し、同じように迎撃される。 だが今回は有澤重工特製のスモークミサイルだ。 センサーも働かないはずなのだが、正確にこちらの位置をつかんでいるのかガトリングの弾が飛んでくる。 ただまぁ、その程度想定の範囲内だ。 後ろのスラスターを展開し、OB。 高速で簪さんの後ろに回り込む。 流石にOBの進路は予想できないのか、明後日の方向を撃っている。 俺はスモークの中に突撃し、そのまま後ろから蹴りを放つ。 片腕のガトリングを盾にしたらしく、大したダメージはないようだ。 ガトリングは使用不能、簪さんは吹っ飛ばすことに成功した。 それにしても、蹴った感触が重すぎる。 あれは相当装甲を追加している。 長引くのはまずいかもしれない。 そのまま簪さんを追いかけるようにスラスターを吹かし、煙の外に出る。 だが、簪さんも何もしていないわけではなかった。 俺が煙から出ると同時に、春雷が飛んでくる。 それをQBで軽く避け、ミサイルを発射しようとする。 それよりも先に簪さんのミサイルポットが開き、すべてのミサイルが発射された。 64発のミサイルだが、ミサイルの大きさが大きい

 

「現役時代よりも凶悪になって帰ってきてるじゃないか!!」

 

大きいと思った瞬間、ミサイルの外装が開き、中から本命のミサイル四基が発射される。 256発のミサイルが俺に迫ってくる。 簪さんも姿勢を整え、イグニッションブーストで俺に迫ってくる。 俺はミサイルを発射しつつ二段QBで後退し、距離を開ける。 あまり使いたくはないが、こればっかりは準備ができなかったため仕方がない。ミサイルを引き付けつつ、AAを発動する。 爆発に包まれるが、その爆発が終わらない。 256発のミサイルだからと言われればそれまでだが、多すぎる。 煙に包まれ、辺りの確認はできないが、両手のアサルトライフルを前方に構え、そのまま水平に周囲に後ろまで打ち込む。 すると、何かが爆発する

 

「くそ、やっぱりミサイルの数多すぎだろ」

 

PA展開まで30秒、今ここに留まるのは危険すぎる。 上空に逃げようにも、アリーナのシールドがあり逃げることはできない。 問題は簪さんがどこから向かってくるかだが...... そう思っていると、夢現を持った簪さんがいきなり目の前に現れる。 反応が遅れたが、左腕のライフルを切られただけで終わる。 急いでQBで距離を離し、右手のライフルで牽制を行う。 追加装甲はだいぶなくなっているため、ダメージは通るはずだ。 簪さんも余計なダメージを負いたくないのか、避けながら春雷を撃ち込んでくる。 それにしても、今のは? 新しくなった打鉄弐式には俺が知らない機能が? 装甲が少なくなったことで機動性が上がるのは分かるが、それでは今のスピードは説明が付かない。 イグニッションブーストも考えるが、気を抜いてたとはいえ、目の前にいきなり現れるとは考えにくい。 ミサイルを撃ち込もうとすると、簪さんも同じ行動を。 同時に撃ちだされるミサイルだが、俺は中間、つまり簪さんのミサイルとすれ違うところで自分のミサイルを撃つ。 流石有澤重工製。 火力が違う。 俺のミサイルは大爆発を起こし、簪さんのミサイルを巻き込んでいく。 その大爆発の隙に、PAが展開される。 俺はそのまま簪さんに接近するが、またさっきのように急な加速をして目の前に現れる。 だが、タネは分かった。 そのまま薙刀を躱し、距離をとる

 

「なるほどね。 簪さんも結構無茶したね」

 

「・・・・・・」

 

「大型化した山嵐がそのままブースターユニットになるとは」

 

大型化した山嵐は、機動性も格段にアップしている。 それをハードポイントでも設けて、接続しているんだろう。 そのおかげで、異常な機動性を得ていたようだ

 

「結構な負荷、かかるんじゃないの?」

 

「貴方に勝つために」

 

そう言って山嵐のハッチが開き、ミサイルが露になる。 確かにそのミサイルもスピードも脅威だが。 ネタが割れているなら対策をするだけだ

 

「そのくらいで俺に勝てるなんて思わないでくれ。 早く動くとわかっているなら、それを踏まえて間合いを見計らえばいいだけだ」

 

拡張領域から新たにライフルを二本展開し、両手に持つ。 こう考えるとISは武器の補給が楽でいい。 それは簪さんも同じなのだろうが。 簪さんがミサイルを発射すると同時に、俺もミサイルを発射しさっきと同じ様に中間で爆発させる。 だが今回は、残っていた追加装甲分のミサイルと、春雷も撃ち出しているためか全部は処理ができなかった。 まぁ、関係ないのだが。 二段QBで簪さんに接近するが、簪さんも山嵐を接続してスピードをあげてきていた。 このままでは俺が薙刀の餌食になるが、ならそのQBをキャンセルしてやればいいだけだ。 俺でも成功率は高くないが

 

「なっ!?」

 

「残念」

 

この土壇場で成功させたのだ。 それにより空を切る薙刀を横目にQBで懐に入り込み、蹴る。 これはダメージが入ったようだが、容赦せずに両手のライフルをフルオートにして撃ち込む。 だが、そんな最悪の状態でも簪さんは諦めていない。 山嵐のハッチをオープンさせ、全弾発射しようとしていた

 

「でもね、その程度想定の範囲内なんだよ」

 

QBで一気に近づき、AAを発動。 大爆発を起こす

 



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第三十七話

「また負けた」

 

最後のAAでISが強制解除となり、簪さんを抱えて地上に降りているのだが、その顔は不満顔だ。 まぁ、勝負に負けたのだから当たり前なのだが

 

「いやいや、危なかったよ」

 

「嫌味?」

 

ジト目を向けてくる簪さんだが、別にそんなつもりはなかった。 純粋な賞賛なのだが、まぁ負かした相手に言われても煽ってるようにしか思えないか

 

「そんなつもりじゃないけど...... 気に障ったんなら謝る」

 

「ううん、分かってたから大丈夫」

 

「・・・・・・はぁ」

 

今度はこちらがジト目で見る番だ。 簪さんをジト目で見るが、簪さんは楽しそうに笑っていた。 そんなたあいもない会話をしているうちに、地上に着いたので簪さんを下ろし、ホワイトグリントの展開を解く。 いやぁ、本当に満足した。 地上に着くと同時に、アリーナの中にのほほんさんと布仏先輩が駆け込んでくる

 

「かんちゃん、大丈夫!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「本音、虚さんも大丈夫ですから」

 

二人とも慌てたように体の具合を確かめているが、確かめられている簪さんはどこか恥ずかしそうだ。 遅れて楯無先輩も入ってくるが、やはり元気がない。 そんな風によそ見をしていれば、のほほんさんに引っ張られる

 

「シロクロ!」

 

「ん? なに、のほほんさん」

 

「何じゃないよ!かんちゃんにあんなに酷いことして!!」

 

怒っているのか目を開けてこちらを見るのほほんさんだが、これはどうしたものだろうか...... まぁ、戦っているときは気にならなかったが女の子にしていい戦い方ではないわな。 だからと言って謝るのもそれはそれで違うし、どうしたものか。 頭を悩ましていると、その様子を見かねて簪さんがフォローに入ってくれる

 

「本音」

 

「かんちゃんは黙ってて!私はシロクロとお話してるの!」

 

「本音、私を心配してくれるのは嬉しいけど、それ以上白石君を困らせないで」

 

簪さんの強い制止を受けてたじろぐ本音さんだが、怒りは収まらないらしい

 

「でも、かんちゃんを蹴ったりハチの巣にしたり、爆破に巻き込んだのは事実だよ?」

 

「うん、それはそう。 でも、それだけ白石君が本気で戦ってくれたってことだから。 私は気にしない」

 

「む~!!」

 

頬を膨らまし、無言の抗議。 だが、簪さんは苦笑するだけだった。 やがてのほほんさんも諦めたのか、こちらを向く

 

「今回はかんちゃんがこう言ってるから何も言わないけど、次からはだめだからね!」

 

「気を付けます」

 

次があったとしても、これよりひどいことになりそうな気がするが、まぁなるようになるだろう。 そう思いながら、簪さんにお礼を言う

 

「助かったよ」

 

「ううん、さっきのは私の本心だから。 でも、次は勝つ」

 

「ははは、お手柔らかに」

 

--------------------------------------------

 

ホワイトグリントの整備を布仏先輩に手伝ってもらい、手早く終わらせて部屋へと向かう。 本当に、整備に関しては布仏先輩にお世話になりっぱなしだ。 この間通販で頼んだケーキを日頃のお礼ということで渡したら喜んでもらえたが、今度のお礼はどうしようか。 そんなことを考えながら、何処か閑散とした寮内を歩いていた。 にしても、明日から学校か。 そう考えると、面倒だ。 自分の部屋の前まで来てノックをする。 一応人の気配はあるが、ノックをしても返事がない。 楯無先輩ならいいが、他の人が入っていた場合厄介なので、静かに鍵を開け、慎重に中に入る。 部屋の中は薄暗いが、ベッドの中で何かがうずくまっていた。 いや、暗いからわからないけど。 人の気配がそこからするから、人以外の可能性はない。 電気をつけ確認すれば、膝を抱えた楯無さんがシーツを頭からかぶっていた。 どうやらまだ落ち込んでいたようだ。 そんな状況にため息をつきたくなるがぐっとこらえ、着替えをしながらいつもの調子で話しかける

 

「いるならいるで返事してくださいよ。 他の人が部屋に侵入したと思ってびっくりしたんですから」

 

「・・・・・・」

 

「ふぅ...... まだ気にしてるんですか? 簪さんに手も足も出ずに負けたことが」

 

「っ」

 

酷い言い方になるが、事実は事実だ。 ちゃんと受けとめてもらわなければならない。 俺の最初の言葉に無反応だったが、次の言葉には反応する。 体をビクつかせたと思えば、さらに膝を抱え込んで小さくなってしまう。 こういうのは、俺の役割じゃないと思うのだが。 そう思いつつ、ベッドに近づく

 

「仕方ないですよ。 簪さん、妹さんはISにもそこそこ乗ってますし、ビルドファイターズ経験者なんですから」

 

「・・・・・・負けたことを気にしているんじゃないの」

 

「・・・・・・」

 

どうやら楯無先輩は話す気になったようなので、そのまま話を聞くことにする

 

「油断は、してなかったと思う。 貴方と何回もやって、世界クラスの実力は分かってたから。 慢心も、なかった。 でも、心のどこかで私は簪ちゃんを見下していたのよ!簪ちゃんなら勝てる、そう思ってた自分がひどく嫌になったの!!」

 

「・・・・・・」

 

無意識に、ということなのだろう。 簪さん自身気にしないと思うが、そのことを気にしている楯無先輩。 本当に、こういうのは俺の役目じゃないのだが.......

 

「慰めることはしません、それに対する言葉を俺は持ち合わせていませんから。 何を言っても、楯無先輩は気にするでしょうし。 でも、まぁ一緒にはいますよ。 一人よりも二人のほうが心細くないでしょう?」

 

そう言って俺が使っているベッドに座る。 隣に座ればポイント高いんだろうが、生憎その気はない。 小説を片手に寝転がる。 鼻をすするような音は聞こえるが、泣く様子はない。 別に泣いたところで二人しかいないのだから、気にしなくてもいいと思うのだが。 いや、聞かれるのは恥ずかしいか

 

「こういう時は、隣で慰めるものじゃないの?」

 

「俺と楯無先輩はそう言う関係じゃないでしょう?」

 

横目で見れば、泣きはらした顔でこちらを見る楯無先輩。 これでも最大限の譲歩なのだが、楯無先輩は不満らしい。 かといって、俺もこれ以上何かするつもりはない

 

「女の子が困っているのに、薄情ねっ!」

 

「年下に慰められるなんて、不憫なお姉さんでですね」

 

俺は興味を失くし、小説の字を追うのに視線を戻す。 楯無先輩が移動する気配がするが特に気を留めず、そのままにさせておいた。 おいたのだが、それが失敗だった。 俺の隣に寝転がってきたのだ。 これは流石にひとこと言わなければと思い視線を向けると、シーツをかぶったまま俺の服の裾をつかんでいた

 

「何やってるんですか?」

 

「お願い、今だけはこうさせて」

 

「・・・・・・はぁ」

 

思わずため息をつくと、それを返事と受け取ったのか抱き着いてくる楯無先輩。 本当に、俺と楯無先輩はそう言う関係じゃないのだが...... まぁ、否定もしなかった俺も問題か。小説を脇に置き、天井を見上げる。 楯無先輩を見れば、肩が上下していた。 寝てんのかよ。 それと気が付いたが、いつの間にか楯無先輩の頭をなでていた。 いや、本当に気が付かなかった。 昔の癖、だろうな。 頭を振って気を取り直し、寝ることにする。 それにしても

 

「汗かいたから、シャワーを浴びて寝たかったのだが......」

 

どちらにしろ、楯無先輩が抱き着いている時点でそれは諦めたほうがよさそうだ。 流石にこの状況、楯無先輩を起こさずに抜け出すのは不可能だし。 早々に諦めて、俺は眠りにつくのだった

 



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第三十八話

いい加減更新しないとと思ったのと、完結してないで放置は気持ち悪かったので更新しますた。 一応、止める前に何本か書き溜めていたやつなので、大丈夫のはず。 一応こっちもちょこちょこ更新していくつもりです


昨日のしおらしさは何だったのだろうか、と言うぐらい朝から元気な楯無さん(こう呼べって言われた)。 まぁ、隣で落ち込まれているのよりはいいんですけどねぇ...... 朝も俺より早起きして、俺がいつものランニング行くの待ってたみたいだし。 そもそも、起こしてくれても構わないのだが。 そんな風に上機嫌な楯無さんと一緒にランニングをして武道場に入ると、意外な先客がいた

 

「簪さん」

 

「白石君? それにお姉ちゃんも」

 

「おはよう、簪ちゃん」

 

そう、簪さんだ。 毎日使ってはいたが、俺や楯無さんの他に朝早くから武道場を使っている人はいなかった。 意外に思ったが、別に使用は自由だ。 俺は気にせずに持ってきた竹刀を振るう。 簪さんは薙刀か。 まぁ、簪さんの近接戦闘での主武装夢現は薙刀だ、練習していても不自然ではない。 俺が竹刀を振るっていると、休憩なのか汗を拭きながら近づいてくる簪さん

 

「朝早くから運動?」

 

「ああ。 毎日走り込みして、ここで竹刀振って、楯無さんと数本手合わせやって食堂って感じかな」

 

「へー」

 

横目で俺の隣で竹刀を振る楯無さんを見つつ、答える簪さん。 その視線が若干、羨ましそうなのはたぶん気のせいだろう。 その視線を受け、若干竹刀がぶれる楯無さん。 それを横目で見つつ、俺は竹刀を振るう

 

「私も参加してもいい?」

 

「別に俺の許可とらなくても」

 

「なら私も明日から走り込み参加する」

 

「か、簪ちゃん? やめておいたほうがいいわよ? かなりの距離朝から走るし」

 

あの、簪さんの発言に驚いたからと言って、竹刀放り投げて目の前に出るのやめてくれます? 危うく、面を打ちそうになりましたよ? 一歩下がることで回避したが、危ないところだった。 そんな俺の内心ヒヤヒヤしたのを気にせずに、楯無さんは簪さんの説得を続けていた。 まぁ、芳しくないみたいだけどな。

 

『498、499......500!お疲れ様、黒夜』

 

『数えてくれてありがとな白』

 

白にお礼を言いつつ、汗を拭く。 説得は...... 楯無さんが折れたみたいだな。 肩をがっくり落としているし。 そんな楯無さんを気にせずに、簪さんはこちらに近づいてくる

 

「素振りは終わったの?」

 

「終わり」

 

「なら、手合わせ、いいかな?」

 

「まぁ、楯無さんは終わってないみたいだし、構わないよ?」

 

そう言って俺と簪さんは竹刀と薙刀を構える。 まぁ武器は違うけど、ここはスポーツマンシップに則って勝負ということで

 

--------------------------------------------

 

「負けた......」

 

「仕方ないわよ簪ちゃん」

 

微妙に落ち込んでいる簪さんを慰めつつ、一緒に食事をとろうとする楯無さん。 いやいや、ちょっと待て

 

「なんで俺と同じテーブルに座ってるんですか?」

 

「何でって、なんで?」

 

ナチュラルに対面に座る楯無さん。 その隣では、簪さんも頷いている。 いやいやいや

 

「俺目立ちたくないって言いましたよね? こんななりで女子と相席してたら嫌でも目立ちますよね?」

 

「今更だと思う」

 

いやまぁ、簪さんの言うことも一理あるが、それはそれこれはこれである。 心なしか、GW前よりも注目されている気がするし。 その分、視線も嫌悪するものが増えている。 これ以上事を荒立てたくないし、楯無さんや簪さんが悪く言われるのも避けたいのだが...... 

 

「簪ちゃんの言う通り今更だし、それに......」

 

そこで言葉をいったん切り、小声になる楯無さん

 

「あの総当たり戦の件で、貴方にチョッカイかける輩もいないとも限らないわ。 なら、近くで見ていたほうが貴方も安全だし、私も余計な手間が減るもの」

 

まぁ、そう言われればそう、なのか? ちょっと丸め込まれているような気もしないでもないが、まぁいいか。 これ以上問答しても時間すぎるだけだし、せっかくのご飯が冷めてしまう

 

「はぁ...... 良いですよそれで。 いただきます」

 

「じゃあそう言うことで。 いただきます」

 

すでに食べ始めている簪さん。 俺はそれを横目に、食べ始める。 楯無さんも、話が付いたことで食べ始めた。 本当に、毎日うまいなここのご飯は。 そんなことを考えつつ、朝飯を食べ進める。 すると、聞き覚えのある声が

 

「あー、かんちゃんみつけた~!ひどいよ~、何も言わずに行くなんて~!」

 

ぷんぷんと言う擬音が尽きそうな感じで怒るのほほんさんにほっこりしつつ、声をかける

 

「おはよう、のほほんさん」

 

「あ~、シロクロ。 おはよ~!」

 

今日も元気に萌え袖をぶんぶんしつつ、挨拶をする本音さん。 ほんとにいつも思うのだが、その袖で日常生活不便じゃないのだろうか? 前に聞いた時は、かわいいから大丈夫!なんて言っていたが。 ナチュラルに隣に座るのほほんさんのことを気にしないようにしつつ、朝飯を食べる

 

「おはよう本音。 それとわざと置いて行ったわけじゃなくて、起こしても起きなかったから置いて行ったね?」

 

「む~、何時もなら起きるまで待ってくれるのに~」

 

「今日は白石君やお姉ちゃんと一緒だったから。 これから毎日そうなるからね?」

 

「えぇ~、そんなぁ......」

 

若干涙目になるのほほんさんだが、自分で起きれば問題ないのでは? と思いつつ、ご飯を食べ終えた

 

--------------------------------------------

 

「アンタ何様のつもりよ」

 

「えっと、どういうことでしょう?」

 

教室に行ったらいきなり絡まれた。 まぁ、どういう意味かは分かっているが。 GW前、俺が一夏に花を持たせなかったことを怒っているのだろう。 覚悟していたが、教室に入っていきなりとは。 まぁ、分かっていたことだ。 適当に相手をして、適当に終わりにしよう

 

「はぁ!? わからないの!? 自分のしでかしたことが!?」

 

「えっと、はい......」

 

「アンタはね一夏君、ひいては千冬様の顔に泥を塗ったのよ!!それくらい分かれよ!!」

 

胸ぐらをつかまれる。 ひー、怖いわー。 今どきの女子高生、怖いわー。 別にこのぐらい構わないが、どうでもいいし

 

「泥を塗ったと言われましても、自分でも何が何だか...... 後から言われましたけど、イグニッションブーストだって偶然できたものですし、葵だってスピードに引っ張られて当たっただけですし。 織斑君がワンオフを使用してなかったら、彼の方が圧勝だったと思いますけど......」

 

自分で言ってても、これないわーとか思うけど、目の前の女子は納得し始めている。 うせやろ? まぁ、好都合なので畳みかけるが

 

「ただ振っただけでSEもかなり減りましたし、自分の前の試合、日本代表候補である更識簪さんの試合の時に計器とかに不具合が出たんじゃないでしょうか?」

 

「そう、ね。 そうかもしれないわね!おかしいと思ったのよ、アンタみたいな素人に一夏君が負けるなんて!」

 

うわ、ちょれー。 まぁいいや。 思ったよりも穏便に済んだし。 女子たちはそれで納得したようだ

 

「でも、まぐれ勝ちで調子に乗るんじゃないわよ? アンタなんか一夏君の足元にも及ばないんだから!」

 

「は、はぁ......」

 

調子をよくした女子は、俺に興味がなくなったのかそれ以上突っかかってくることはなかった。 はぁ、これでしばらくは平気か? あとは

 

「皆さん席についてくだい」

 

この担任か

 



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第三十九話

更新ですー。 これも凍結する前に書いていたやつだから大丈夫なはず



今日は朝以外は平和だった。 結局担任もうまいこと騙し、それ以上追及はなかった。 それからは何時もの通り、こそこそ陰口をたたかれながら授業と言いうわけだ。 昼は昼で、何故か楯無さんに生徒会室に呼ばれて食べたし。 あぁ、そう言えばその時転校生が来たとか言っていたな。 転校生は二人、一人はシャルル・デュノア。 もう一人はラウラ・ボーデヴィッヒと言うらしい。 シャルル・デュノアは男らしく、これで世界で三人目の男が見つかったわけだ。 だが、どうにもきな臭い。 午前中はしょうがないにしても、午後から女尊男卑の連中の巣窟であるウチのクラスの女子が珍しく騒がなかった。 俺は()()()だからという理由で、陰口を今でも叩かれているのだが。 まぁ、それはお置いておいて、ラウラ・ボーデヴィッヒはもちろん女だ。 まぁ軍隊所属で、ドイツの代表候補生らしい。 まぁ、転校生が来たからと言って、俺の生活が変わるわけではないが。 午後の授業もつつがなく終わり、放課後。 とっとと荷物を整え教室から出る。 なんというか、中途半端に休みを挟んだ影響か、今日はいつもより疲れた。 さっさと部屋に帰り、休もう。 そう思っていたのだが

 

「ちょっと面貸しなさい」

 

凰さんに捕まった。 いや、道具を詰めていたとは言え、結構早く教室から出てきた。 それなのに俺よりも早いって...... まぁいいか、そんなことは。 顔を見れば真剣な話と言うのは分かる、用件は...... この間の総当たり戦のことだろうか? 疑っている、気に入らないという顔だったし。 それはともかく

 

「えっと、どういう用件で?」

 

「わかってるんでしょ、この間の総当たり戦の時のことよ。 色々と話したいことがあるの、一夏との戦いも見たことだし」

 

「・・・・・・」

 

絶対に逃がさない、表情がそう語っている。 逃走は簡単だが、ところかまわず声をかけられるのもよろしくない。 あることないこと吹聴するとは思えないが、人の噂というものは情報が正しく回るとも限らないからな

 

「わかった、屋上でもいいか?」

 

「ええ」

 

先に歩き始めた凰さんについて行く。 本当にどうしてこうなったのやら。 自分がしでかしたことだ、自分でけつふけということだろう。 屋上につき人気を確認。 どうやら誰もいないようだ。 鈴さんがこちらを振り返る

 

「用件は分かってるわよね」

 

「休み前に行われた総当たり戦。 それについてでしょ?」

 

「わかってるならいいわ。 私、回りくどいの嫌いだから単刀直入に聞くけど、なんで手を抜いたの?」

 

「・・・・・・」

 

やはり、と言う感想だった。 最後の反撃は怪しんでいたのだ、一夏との試合を見れば手を抜いていたというのもわかるか。 クラスの女子は素人ばかりだから何とか誤魔化せたが、凰さんは国家代表候補だ。 それなりに経験を積んできているから誤魔化しようがない

 

「最後の龍砲つぶし、偶然にしては出来すぎよ。 あの時はまぁそう言うことがあるかとも思ったけど、一夏とアンタの試合を見て確信したわ。 アンタは手を抜いている、ってね。 それで、理由は?」

 

「お見事、と言うべきかな。 ちなみに一夏には?」

 

「手を抜いたってこと? 言ってないわよ。 言ってたらアンタのところに飛んでいくでしょうからね」

 

「確かに」

 

安易に想像できるところが嫌だ。 さて、雑談はここまでにしよう

 

「手を抜いた理由、ね。 俺は目立ちたくないんだよ。 総当たり戦で()()すれば嫌でも目立つ、そうだろ?」

 

 

「・・・・・・へぇ、全勝ね。 随分自信満々じゃない」

 

プライドが高いのか、それとも負けず嫌いなのか、凰さんは目を細め、こちらの真意を見抜こうとしている

 

「実際、本気の簪さんに勝ったからね」

 

「うっ......」

 

簪さんの名前を出すと、途端に表情が曇る凰さん。 どうやら、簪さんとの試合はトラウマのようだ。 うんうん、現役時代と寸分たがわず、トラウマを生み出してるみたいだな簪さん。 結構簪さんのプレイスタイルにあこがれる人は多々いたらしいが、機体の重量、ミサイルの誘爆などでやめる人は多数いた。 後は対戦してトラウマを植え付けられる人が多数

 

「あともう一つは、俺が勝つと色々と角が立つからね」

 

「角?」

 

「例えば、女性利権団体の息のかかった人間。 くだらない考えに共感し、自分が偉いと思い込んでる馬鹿な奴ら、とかね」

 

「・・・・・・」

 

凰さんも思い当たるところがあるのか、押し黙る。 別に全体的な割合が多いわけではないが、それでも女性が偉いと思ってる人は大多数いる。 この学園でもな。 おかげで肩身が狭いこと狭いこと

 

「まぁ、そう言う理由もあって、俺は本気を出さなかった。 そう言うわけだ。 癪に障ったのなら謝る、すまない」

 

「別に、謝ってほしかったわけじゃないけど......」

 

理由を知ってしまえばなんてことなく、しょうもない理由だ。 どこか納得していない凰さんだが、それで納得してもらうしかない。 さて、話も終わったことだし帰ろう。 そう思い、凰さんに背を向ける

 

「あ、ちょっと!」

 

「あれ? まだ何か話し合った? 終わったから帰ろうかと思ったんだけど」

 

「確かに話は終わったけど、納得できない。 だから、私と勝負しなさい!」

 

「・・・・・・簪さんとの勝負に勝った俺と?」

 

「そんなの相性の問題かもしれないじゃない!」

 

なーんか、かなりめんどくさいことになった気がする。 こういう人って言っても諦めないし、受けるしかないかぁ...... 

 

「わかった。 アリーナの許可が取れたらこっちから連絡する」

 

「わかったわ!いい? 今度は本気でやりなさいよ!!」

 

そう言って扉から出て行く凰さんに、俺は一人大きなため息をついた

 

--------------------------------------------

 

「黒夜」

 

「一夏か」

 

屋上からの帰り道、一夏とばったり会ってしまった。 会ったのはいいが、後ろに誰か連れていた。 制服は男のだが、男装か? 男と女では骨格や線の細さで大体わかるが、何故か女が男の制服を着ていた。 かなりの厄介ごとだな、かかわらないほうが吉だ

 

「この間の総当たり戦だけど」

 

「あぁ、その話な。 あの日は調子悪くてな、ちょっと受け答えとかボーっとしていた時があったんだが、俺ナニカしたか?」

 

調子など悪くなくある意味絶好調だったが、白々しく聞く。 別に一夏からどう思われようがどうでもいいのだが、一般的にはフォローが必要だろう。 そして人がいい一夏のことだ

 

「あぁ、何だそうだったのか。 だからいつもと雰囲気が違ったのか。 でも、そういう時は無理しないほうがいいぜ?」

 

「あぁ、まぁ気を付ける」

 

こうやって騙される。 人がいいのは聞こえがいいが、だまされやすいということだ。 もうちょっと人を疑うことを覚えたほうがいい

 

「あの一夏、この人は?」

 

「あぁ、シャルルにも紹介しないとな。 こっちは二人目の男性操縦者で、別のクラスの白石黒夜」

 

「白石黒夜だ、よろしく頼む」

 

「それでこっちが、シャルル・デュノア。 転校生で、驚くことに三人目らしい」

 

「シャルル・デュノアです。 よろしくね、白石君」

 

「あぁ、よろしく頼むデュノア」

 

互いに一夏の紹介で自己紹介を済ませる。 それにしても、三人目、ね。 よく今までメディアが騒がなかったこと。 まぁいいか、俺には関係ないしな

 

「それで? 一夏とデュノアは何をしてたんだ?」

 

「ほら、シャルルって転校してきたばかりで学校は不慣れだろ? だから案内しようと思ってな。 あ!黒夜もどうだ?」

 

「悪いがパスさせてもらう。 休み明けの学校ってことで、少し疲れた」

 

「そう言うことなら仕方がないな」

 

「デュノアもそう言うことだ。 悪いな」

 

「ううん、気にしないで」

 

「そういうことで、またな」

 

「おう!」

 

「うん、またね」

 



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第四十話

これで書き溜め分は終わりですー。 次のお話からちょっと、変わるかも?


「鈴ちゃんにバレた、ねぇ......」

 

部屋に戻ってゆっくりしていると、楯無さんが帰ってきた。 早速ということで、荷物を置いた楯無さんにそう切り出す。 難しい顔をしながら、視線で話の続きを促してくる

 

「代表候補生ですし、流石に自分の後の試合だからわかったみたいですね」

 

「もう一人いるわよ、代表候補生。 まぁ、今日で増えたけど」

 

「実際に戦っていないから、だと思いますよ」

 

「まぁ、そうね」

 

納得しながら、かばんを置いて中のものを出していた

 

「それで? 私にその話をするって言うことは、何かあるんでしょう?」

 

「申し訳ないですけど、生徒会名義でアリーナの予約を取っておいてほしいんですよ。 別に何時でもいいので」

 

「まぁ、それくらいなら構わなけど」

 

「すみませんがお願いします」

 

これで凰さんとの件は片付いた。 後は実際に予約を取って、戦えばいいだけだし。 話も終わったので、ベッドに寝転がる。 何をするわけでもなくボーっと天井を見ていると、楯無さんから話しかけられる

 

「随分お疲れみたいね」

 

「まぁ、クラスでは相変わらず肩身が狭いですからね。 休み前の出来事で、特に。 それで放課後凰さんに、一夏と会いましたし。 あぁ、そう言えばシャルル・デュノア。 あれって本当に男ですか?」

 

「どういうこと?」

 

寝転がりながら視線を向ければ、意味が分からなそうにこちらを見ていた。 あぁまぁ、いきなりすぎたか

 

「いや、一夏と会ったときに互いに自己紹介をしたんですが、どうにも男に見えなくて」

 

「私は実際に会ってないからわからないけど......」

 

「なら遠目から見ることをお勧めしますよ。 何が目的で学園にもぐりこんだか、までは知らないですけど」

 

 

考え込む楯無さん。 俺はそこまではなし、また視線を天井に戻す

 

「学園長から特に何も言われてないけど、調べるだけ調べましょうか。 一応、生徒会長だし」

 

そんな楯無さんの言葉を聞きながら、俺は瞳を閉じる。 思っていたよりも疲れていたらしく、俺はそのまま眠ってしまった

 

--------------------------------------------

 

次の日の朝、いつも通りの時間に起きランニング。 昨日の宣言通り、簪さんとは寮の入り口で合流しそのまま一緒に走ることになった

 

「まさか、本当に今日から一緒にやるとは」

 

「冗談で言ったつもりはないよ」

 

「結局こうなるのね~」

 

三人で走っているが、今日はいつもよりペースが遅い。 簪さんが日本代表候補と言うのは知っているが、体力とかわからないしね。 なので、今日はどのくらい体力があるのか様子見、と言う形でいつもよりぺーずを下げて走っている。 まぁ軽く走った感じだが、普通の人よりは体力がありそうだ

 

「もしかして、私に合わせてる?」

 

「ん? まぁ、そうでもあるし、そうでもないと言えるかな。 昨日みたいに試合回数が増えるなら、走る量も減らさないと疲れるしね」

 

「ふーん、そう言うことにしておく」

 

別に気を使ったわけではないのだが、そういう風に言えば少しすねたように走るペースを上げる簪さん。 楯無さんはそんな俺と簪さんをニヤニヤしながら見ていた

 

「なんですか、その顔」

 

「別にー」

 

そう言って楽しそうに笑う楯無さんは、ペースを少し上げ簪さんに追いつく。何やら楽しそうに話をしているが、何なのやら。 俺も走るペースを少し上げ、二人の少し後ろを走る。 ランニングが終われば、次は武道場に行き素振りだ。 毎日決めた回数を素振りする。 流石に薙刀は分からないので、そっちは簪さんに決めてもらい練習を。 それが終われば練習試合だ。 そして終わるころには

 

「二人ともお疲れですね」

 

「いやいやいや、貴方の体力がおかしいだけだから。 それにそんなに汗かいてないし」

 

「私は、今日、始めたばっかりだから」

 

比較的余裕のある楯無さんと息を整える簪さん。 楯無さんはこのところの積み重ねがあるが、簪さんは意外にも体力があった。 これなら、今日より少し早いペースでも大丈夫そうだな。 そう思いつつ、二人に声をかける

 

「さて、そろそろ行きましょうか。 あまり遅すぎても食堂こみますし」

 

「私はいいけど......」

 

「鬼ぃ......」

 

簪さんがかなり失礼なことを言ってきたが、息を整え終えたようで俺の後をついてきていた。 楯無さんはその横で、楽しそうに笑っていた

 



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第四十一話

何事も突然起こるものだ、目の前の光景を見て能天気にもそんなことを思う。 いつものように授業を終え帰ろうかと思えば、一夏から練習を見てほしいと頼まれる。 まぁ、そんなこと了承するはずもないのだが一夏もしつこかった。 そのしつこさに負け、アリーナの観客席から見ていることを条件に一夏の練習を見ていた。 どこから噂を聞き付けたのか、いつの間にか楯無さんが少し離れたところかに座っていたのだが。 一夏に適当にアドバイスしつつ、何故一夏が俺を呼んだのかわかった。練習を見るというかアドバイザーというか、そういうのがいるのは知っていたがここまで酷いとは...... 言わずもがな、篠ノ之箒、セシリア・オルコットのことだ。 今日はそこに凰さんも加わっているようだが。 セシリア・オルコットは一夏が初心者にも関わらず専門用語を使い細かいダメ出しをしている、篠ノ之箒は訓練機で剣の振り方や間合いの測り方などを教えているが、素人に毛が生えた程度だ。 そもそも、あんなに自分で教えるのを嫌がっていたのにも関わらず、どういう心変わりなのか。 凰さんは、まぁ、感覚ありきだ。 それは一夏も困惑するというもの。 だからと言って、自分が誰に教わるとはっきり意思表示をしないから悪いのだが

 

『それはどうかなー』

 

『どういうことだ、白』

 

白がどこか面白がるように言うので、気になって聞いてみる

 

『篠ノ之箒は専用機持ってないからわからないけど、セシリア・オルコット、凰鈴音は気の強い子たちだよ?』

 

『あぁ、一夏の意思は関係ない場合があると』

 

『ま、そういうことだね』

 

今はシャルル・デュノアに教わっているようだが。 そんなふうに白と話していれば、少し周りが騒がしくなる。 何事かと指のさされている方向を向けば、ラウラ・ボーデヴィッヒがISを展開状態で一夏たちを見降ろしていた。 一夏の話では昨日いきなり頬をはたかれたと言っていたため、幾ら人のいい一夏でも彼女を誘うとは思えない。 そもそも、ラウラ・ボーデヴィッヒの瞳に友好的なな色はない。 あるのは、ただ一夏への敵意だけだ

 

「それにしても」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒもよくやること。 ここには生徒会長がいるというのに。 案の定ラウラ・ボーデヴィッヒはドンパチを始めようとして、アリーナを監視していた職員に注意されていた。 まぁ、その監視は俺を監視するものみたいだったんですけどね

 

----------------------------------------------------------------

 

「それで、直接見た感想はどうでした楯無さん」

 

「そうねぇ......」

 

その夜、楯無さんにシャルル・デュノアを見た感想を聞いてみれば、苦い顔をしていた。 やはり楯無さんもシャルル・デュノアは男には見えなかったようだ

 

「そもそもよ、デュノアの家に子供がいたという記録がないのよねぇ」

 

「へー」

 

意味深なことを言い始めた楯無さんを軽くスルーして、俺は小説を読み始める。 明らかにこっちを伺っているような視線を感じるが、無視をしておく

 

「・・・・・・気にならないの?」

 

「俺は面倒ごとが嫌いですから」

 

チラリと本から楯無さんに視線を移せば、あきらかに不満げな顔をした楯無さんだが一般市民の俺が聞いたところで何かできるはずもない。 そもそもだ、この情報を楯無さんに言ったのは俺なのだからはなから丸投げする気満々なのだ

 

「まぁ、調べるとしても慎重に事を運ばないとね。 フランスの政府も絡んでいるんでしょうし」

 

うんざりしたような楯無さんの声を聞きながら俺は本を読んでいた。 数分後、ドアをノックする音がする。 思わず俺と楯無さんは顔を見合わす。 そもそも、俺がいるこの部屋に尋ねてくるやつはいないからだ。 いや、いるにはいるが俺から遠慮してる。 ともかく、楯無さんには隠れてもらい、応対をする

 

「はいはい、どちらさんって一夏か」

 

「おう、こんな時間に悪いな」

 

正確な部屋の位置は教えていなかったはずなのだが、尋ねてきたのは一夏だった。 というより、もう消灯時間も結構近いんだが......

 

「それで、どうした?」

 

「あー、その大事な話があってな」

 

「それは、後ろについてきてるデュノアも関係してるってことでいいか?」

 

「あぁ」

 

どこか周りを伺うように見ているデュノアを見て一夏に質問すると、一夏は真剣な表情で返事をする。 かなり面倒そうな感じもするが、まぁいいか楯無さんいるし。 そんなわけで、一夏たちを部屋の中に招く。 一夏はきれいにしてることをほめていたが、そんなもの当たり前だろうに。 ともかく二人に紅茶を進め、適当に座る

 

「それで? 何で尋ねてきたんだ?」

 

「実はな、知恵を貸してほしいんだ」

 

そう言って一夏が語り始めたのは、シャルル・デュノアの正体だった。 愛人の娘であり、母親が死ぬと同時期に父親に引き取られたこと。 そしてISの適性があり、今回のIS学園潜入が計画されたこと。 シャルル・デュノアを見れば、難しい表情をしていた。 とりあえず、楯無さんが必要としていた情報は得られたわけだ。 まぁ、一つ言うなら、こんな爆弾のような情報外部に漏らすのもどうかと思うが

 

「まぁ、用件は分かった。 それで?」

 

「それでって、今の話聞いて何も思わないのかよ!」

 

「いや知恵を貸してほしいって言われてもデュノアがどうしたいのか聞いてないし」

 

「僕は、僕は帰りたくない......」

 

「ふーん。 それで、一夏はなんて言ったんだ」

 

「IS学園には特記事項がある。 その中にありとあらゆる国家企業に帰属しないってあるから」

 

「問題を先送りにしてるだけだろ、それ」

 

「それ、は」

 

「それにIS学園は中立って言ってるが、それが本当に守れるのかは別問題だと思うぞ。 今回のデュノアの件、あきらかに国が絡んでる。 国からの介入をIS学園が突っ張れるかどうか」

 

「何でそうやってシャルルをいじめるんだよお前は!」

 

「いじめるも何も、間違った考えを正してるだけだろ? 今この瞬間にも、デュノアのこれがバレてる可能性もあるんだぞ。 デュノアの他に諜報員がいたら? デュノア自身に盗聴器が仕込まれていたら? 可能性なんか上げたらきりがないけどな」

 

俺は手をあげ、降参のポーズをとる。 シャルル・デュノアを見てみれば、分かっていたのか薄く笑うばかりだ。 まぁ、今言ったのはほんの一例だ。 どう思おうが一夏の勝手だが。 その一夏も一夏で、シャルル・デュノアに声をかけ出て行ってしまう

 

「シャルル・デュノア」

 

「な、なに?」

 

部屋を出ようというシャルル・デュノアの背に声をかける

 

「お前が何もかも捨てる覚悟で本当に助かりたいと思うなら、この番号に電話すると良い。 悪いようにはされないだろう」

 

そう言って楯無さんの電話番号を書いた紙を渡す。 驚いた顔をしているが、一夏に呼ばれ部屋を出て行くシャルル・デュノア。 俺はその背を追い、ドアの鍵を閉める

 

「もういいですよ、楯無さん」

 

「まさか向こうから来るとはねぇ...... 調べる手間がなくなったのはいいけど、どうしましょうかしら?」

 

「まぁ、さっきの番号楯無さんの携帯なんで、助けを求められたら助けるくらいでいいんじゃないですか?」

 

「なんてことを......」

 

「もし面倒だったら、良いテストパイロットが見つかったと言って有澤さんとこに投げてもいいですし」

 

「それもいいわね」



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第四十二話

いやー、昨日ランキングを見てびっくり。 ランクインですよ。 皆さんに感謝ということで、更新です


ある意味でIS学園は退屈しない、つくづくそう思う。 もちろん、いい意味でも悪い意味でも。 昨日は小競り合いがあったというのに、懲りずに今日も一夏とラウラ・ボーデヴィッヒは問題を起こしたようだった。 だったというのは、今日はその現場にはいなかったからだ。 担任から呼び出しを食らい何事かと職員室に行けば、今回の学年別マッチ、ツーマンセルでやることになったらしい。 まぁ、俺のペアは誰か知らないのだが。 担任の話によると、どうせ俺と組む人はいないのだから抽選にしただとか。 そんなくだらない用事を終え生徒会によってみれば、楯無さんや虚さんが忙しくしていた。 理由を聞いてみれば昨日の小競り合いとその問題を起こしたと聞いた。 楯無さんや虚さんもその場にいたわけでないので詳しいことは分からないそうだが、アリーナで練習しようとしていた凰さんとセシリア・オルコットにラウラ・ボーデヴィッヒがいちゃもんを付けたらしい。 それで喧嘩になっただとか。 それだけならかなりの書類を処理しなくて済んだのだろうが、一夏がそれをアリーナの観客席から目撃、シールドを破りアリーナに突撃したそうな。 けが人が出なかったからいいものの、当時観客席には人もおりそんなことをすればどうなったかわからないのだろうか。 聞いた時はそう思ったものだ。 そのツケを楯無さんと虚さんが支払うのだからままならない。 まぁ、そんなことがあっても一夏とラウラ・ボーデヴィッヒの処分は、反省文の提出と今日俺が担任と話していた対抗戦までの私闘禁止というもので済んだようだ。 学園長はともかくとして、ドイツの軍人と織斑千冬(ブリュンヒルデ)弟だから処分が軽いというところか。 それを見かねて寄ったのも何かの縁ということで、何故か生徒会室で寝ていたのほほんさんを叩き起こし俺が処理しても問題ない書類を処理していた。 楯無さんも虚さんも半泣きになりながらお礼を言ってきたときにはさすがに引いたが。 そんなわけで、正規の役員ではない俺は早く帰され、時間もちょうどよかったので食堂に行くことにした

 

「黒夜」

 

「ん? あぁ、一夏か」

 

件の問題を起こした一夏は俺を見かけるなり、苦い顔をしていた。 まぁ、昨日の夜の件があるからな。 というよりも、何故こいつがこんなギリギリの時間に。 救いなのはギリギリの時間ということもあり、女子の姿がほぼいないことだ

 

「お前いつもこんなギリギリの時間に飯食べてるのか?」

 

「勉強とかしてたら気が付いたらこんな時間、というのは多々あるな」

 

「なるほど、だからいつも夜は見かけないのか」

 

納得したふうの顔をしているが、お前と時間をずらしているだけだよ。 まぁそんなことは言わないが。 席につき、俺の盆を見るなりぎょっとする一夏

 

「・・・・・・お前ってそんなに大食いだっけ?」

 

「まさか。 知り合いが忙しそうでな、差し入れを持っていくだけだよ」

 

「だよなー」

 

たははなんて言って笑う一夏。 一応、お前が誘うせいで飯を何度か一緒してるはずなのだが

 

「それにしても一夏がこの時間なんて珍しいな」

 

「あー、その、反省文書かされてたからな」

 

世間話として話を振れば、頬を掻き苦笑いしている一夏。 反省文と言えば

 

「アリーナの騒ぎか」

 

「知ってるのか?」

 

「割と噂になってるぞ、詳しくは知らないけどな」

 

実際、生徒会室から出てこの食堂にくるのに噂になっていたのは事実だ。 女子は噂好きということだろうか?

 

「実際、なんでボーデヴィッヒがあそこまで俺にこだわるのか......」

 

別に語ってくれと頼んではないが、その時のことを語ってくれる一夏。 一夏がアリーナについた時には凰さんもセシリア・オルコットもボコボコにされていたらしい。 IS自体のダメージレベルはC、ダメージ的に微妙なラインだったらしい。 それをまるで一夏に見せつけるようにやっていたため、瞬間湯沸かし器の一夏は何も考えずにアリーナに突っ込んでいったらしい

 

「まぁ、ラウラ・ボーデヴィッヒは悪いが、一夏はもう少し周りを見たほうがいいぞ」

 

「どういうことだ?」

 

「明らかな挑発行為に乗って突っ込んでいくのはいいが、アリーナと観客席のシールドぶち破っていくのはまずいだろ」

 

「鈴やセシリアが!」

 

「どうどう。 あまり暑くなるなって。 山田先生が言うには一応展開自体は大丈夫だったんだろ? アリーナ、そん時客席に人いなかったのか?」

 

「それは......」

 

「言葉に詰まるって言うことはいたんだろ、もしラウラ・ボーデヴィッヒが砲撃してきたらどうするつもりだったんだ?」

 

「そんなもの俺が!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒのAICに止められたのに? これは一夏が自分で言ったことだろ?」

 

「・・・・・・」

 

瞬間湯沸かし器なだけあってすぐに暖まったものの、俺が正論を出すと黙ってしまう一夏。 こいつ自身が巻き込まれる分には自業自得で済むが、他の誰かが巻き込まれれば怪我じゃすまない。 そこらへん反省文も書いてることだしわかってると思ったんだが、どうやらそうじゃないらしい。 確かこの喧嘩の仲裁に入ったのは織斑先生だったはずだが、そこらへん何も言ってないわけね。 ともかく、食べ終わったので席を離れることにする

 

「悪い一夏、俺差し入れ行かなきゃ」

 

「あぁ、またな」



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第四十三話

とーきはながれてー。 冗談はさておき、タッグマッチ選当日となった。 俺のパートナーは運命のいたずらかのほほんさんで、パートナーになった時は楯無さんに仕組んでないか確認しに行ったものだ。 もちろん、答えは仕組んでいないと言っていたが

 

「よろしくねー、シロクロー」

 

「ある意味のほほんさんも災難だな」

 

「なんでー?」

 

マイペースなのほほんさんは更衣室なのに制服でお菓子を食べていた。 ツッコミどころが多すぎて処理しきれないので、無視して世間話をしているわけだが

 

「俺と組んだというのもあるが、負け試合だから」

 

「あー、なるほどー」

 

あまり興味がないのか、また上機嫌でお菓子を食べ始めるのほほんさんに苦笑しつつモニターを眺める。 まだ誰と当たるのか組み合わせが発表されておらず、それ待ちなのだが

 

「それにしても発表されないな」

 

「うーん...... 確かにそうだねー、何か不都合なことでもあったのかなー」

 

誰が当たるかは当日のお楽しみということだったのだが、予定時間を過ぎても発表されない。 流石におかしいと思うのだが、発表されなければこちらも動けないので仕方ない。 と、そんな思いが通じたのか、モニターの電源が付く。 が、映っていたのは組み合わせではなく白い機体

 

「白石黒夜、いるんだろう...... 出てこい!!」

 

「・・・・・・」

 

「どうするの、シロクロ?」

 

そこにはのほほんとした雰囲気ではなく、いつかのように薄目を開けたのほほんさんの姿が。 まさかこんな場所で、こんな事をされるとは思わなかったが。 観念したほうがいいということだろう

 

「どちらにしろ決着はつけなければならないんだ、それが遅いか早いかの違いだ」

 

そう言って席を立ち、アリーナに歩き始める。 随分と考えたものだな、利権団体の連中も。 そんなくだらないことを考えつつ、アリーナに出る。 視線が刺さるが、ゆっくりと周りを見回す。 やれやれ、満員だよ。 こんな状態で正体を明かせば大荒れになるだろうが、仕方ない。 そして、俺の視線はある一点で止まる。 このタッグマッチ、企業のお偉方やメカニック等が来る。 早い話が将来有望な連中につばを付けておきたいということだ。 だが、招かれざる客もいるようだ。 俺のことを見下すように見る視線は無視し、今度こそ白い機体に目を向ける

 

「久しぶりだな」

 

「・・・・・・」

 

無言で俺に向けて右手に持つアサルトライフル051ANNRを構える白い機体。 なるほど、問答無用ってわけね。 眼鏡をとりつつ、声をかける

 

「挨拶はなし、ね。 まさかお前がこんなに失礼な奴になるとは思わなかったよ、なぁ()()()

 

「っ!!」

 

『白、頼む』

 

『あいあいさー!』

 

容赦なく右手のライフルを撃ってくる白い機体だが、俺もISを展開しライフルを無効化する。 煙も晴れ、俺の姿があらわになる。 すると観客席は騒がしくなるが、俺はそんなのを気にせず高度を合わせるように上昇を開始する

 

「今までなら、別に気にしなかったさ。 白い閃光はお前に託したものだし、ISの世界は俺に関係なかったからな。 ただ、今はそうじゃない。 悪いが、お前に託したものは返してもらおう」

 

「今更!!」

 

「そう今更だ。 本当はもっと早くこうしてやるべきだったな......」

 

そう言って目を閉じる。 優しかったはずのお前が、こうなってしまったんだからな。 その言葉を飲み込み、右手に持つアサルトライフルを構える

 

「構えろ。 これ以上言葉は不要だろう?」

 

センサー保護のシャッターを下ろしAAを発動した



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第四十四話

『白、ジェネレーター出力を最大まで引き上げろ。 手加減は不要だ』

 

『了解!PA再展開まで一分だよ!』

 

センサー保護のシャッターをすぐさま上げ、状況を確認する。 どうやらすぐさまAAを発動したようだが、完全には相殺しきれずにSEはダメージを受けたようだ。 動きも鈍いようだが手心を加えてやるつもりはない右手の051ANNRをフルオートで撃ちまくり、左手に持っている063ANARにつけたグレネードランチャーからグレネードを撃ちだす

 

「ほら、動かないとマッハでハチの巣になるぞ」

 

「バカにして!!」

 

事実なんだがな。 言葉に反応してか動き始めるが、グレネードが着弾し大爆発を起こす。 うわぁ、流石有澤重工製威力がえげつない。 そんなことを考えつつ次のグレネードを放ち、両肩から専用分裂ミサイルSALINE05撃ち込む。 着弾し大爆発を起こし、煙の中から純白のISが落ちていくが特には反応せず、少し離れたところに着地し声をかける

 

『PA再展開完了、いつでも撃てるよ!』

 

『了解だ』

 

「こんなもので終わりか、二代目」

 

「・・・・・・」

 

「さっきも言ったが白い閃光の二つ名は返してもらおう。この名前を使ってやりすぎたんだよお前は」

 

こうして話していても日本代表からの返事はない。 俺は構えを解き、ゆっくりと近づく。 だが、いきなり事態は急変した

 

「っあ!?」

 

「なんだ?」

 

あと一歩近づけば手が届く距離ではあったが、いきなり起き上がる日本代表。 それにしては、少し様子がおかしい

 

『わからないけど、なんかまずそうだね』

 

白の感想に同意し、一応構えておく。 直後、ISの装甲が飴細工のように溶け出し、その姿を変えていく

 

「お兄ちゃん、助け......」

 

その声を最後に、(日本代表)の気配が完全に消える。 それと同時に、姿を現したのは姿かたちが全く同じ機体

 

『またこのパターンか』

 

『まぁ、いい加減飽きたよねぇ...... あ、データが送られてきた』

 

『データ? なんでまた』

 

『はーん、VTシステムみたいなものなんだアレ』

 

『VTシステム?』

 

『まぁ簡単に説明すると、黒夜を再現したものだね。 パイロットの状態なんかまったく気にしない代物だけど』

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は意識を切り替える

 

『白』

 

『助けるの、あの子? 君の二つ名を穢してたのに』

 

その問いに俺は

 

『もちろんだ。 助けて、って言われたからな』

 

『存外甘い男だよね、黒夜って』

 

俺の答えに満足したのかは知らないが、白の声はどこか弾んでいた

 

『それで、どうするの?』

 

『どうせ現役時代のデータしか入ってないんだろ? だったら叩き切るまでだ。 ところで白、取り込まれてるんならなんとか表示できないか?』

 

『それって取り込まれた日本代表を?』

 

『あぁ』

 

『もっちろん!任せてよ』

 

その声と同時に妹の人影と思われるものが表示される。 ふーん、ちょうど頭一つ分違うのか。 なら首から上を切ればそこから助かられそうだな。 作戦が決まったのなら、後は助けるだけだ。 姿勢を低くすれば、相手も同じように姿勢を低くする。 勝負は一瞬だ。 OBを発動し一瞬で肉薄する。 それを相手もわかっていたのか、スラスターを吹かすが、出力上勝てるはずもなくあっけなく追いつかれ首と体が分かれる。 そこから手を突っ込み妹を救い出す。 ついでにISのコアも見えたのでそれも回収し、距離を開け肩の専用分裂ミサイルSALINE05を撃ち込む。 煙が晴れるとそこには何も残っていなかった。 俺は来賓席を一瞥すると、ISを解除しそのまま出入り口に向かって歩き始めた

 

----------------------------------------------------------------

 

「黒夜!」

 

「一夏か、悪いが構ってる暇はない」

 

妹を医務室へと運ぶ途中、ISスーツの一夏が俺の前に立ちはだかる。 その後ろにはシャルル・デュノアが申し訳なさそうに立っていた

 

「お前、アレが女の子にやることかよ!!」

 

俺のISスーツをつかむと、そのまま顔を近づけてくる一夏。 うっとおしいやつだな

 

「部外者は黙ってろ!これは俺とコイツの問題だ。 それにこっちは医務室に急いでるんだよ」

 

頭突きしてやれば、直撃したでこを抑える一夏。 俺はそれを気にせずに通り過ぎ、医務室に向かった



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第四十五話

医務室に常駐している養護教諭に妹、白石桃華を見せれば気を失っているだけで命の別状はないということ。 ホッと一息つきつつ、パイプ椅子を引っ張りベットの近くに座る

 

『そう言えばさ黒夜』

 

『なんだ?』

 

『助けてって言われたときお兄ちゃんて言ってたけど』

 

『あぁ、その話か。 まぁ、少し長くなるがたまにはいいか。 昔話も』

 

----------------------------------------------------------------

 

俺は捨て子なんだ。 白石孤児院ってところに捨てられててな。 俺の苗字が白石なのも、そこからとられてる。 生まれてそんなに経ってない状態で捨てられたらしくてな、育てるのには苦労したって聞いたな。 

その孤児院には俺と同じ様に生まれてすぐ捨てられた子供や身寄りのない子供が多数いてな、共同生活を送っていたというわけだ。 施設は決まりにうるさくてな、外で遊ぶ時間以外は室内で勉強だとか運動なんかばっかりだったな。 まぁそんな厳しい施設だったが、貰い手が見つかったりして結構入れ替わりが激しい施設だったんだが、俺は例外でな。 結構長い期間いたからみんなから兄貴分として慕われてたわけ。 その中の妹の一人が、桃華だったというわけだ。 こいつは特にべったりでな、嫌な事があれば泣きに来たし嬉しいことがあったら褒めてもらいに来たりもしてたな

 

『でも、それにしたってなんで白い閃光を?』

 

『まぁ、小学校に入って自由時間が増えてな。 そこでISの発表もあって、あのゲームが出来た。 それで、小学校高学年になっても俺の後をくっついてくる癖も治らなかったら』

 

『あぁ、なるほどねー。 一番間近で戦い見てたわけだし、教えるのも楽だからね』

 

『まぁ、そう言うことだ。 あのゲームがなくなったが、ならISで自分がって張り切ってたからな。 それがなんでこうなったのか』

 

そうやって頭をなでていれば、薄く目が開く

 

「おにい、ちゃん?」

 

「あぁ、久しぶりだな桃華」

 

「っ!?」

 

ベッドから跳ね起きると、俺と距離をとる桃華。 思ったよりも元気そうだな。 そう思い、俺は椅子をたたんで席を立つ

 

「何でアンタがここに」

 

「何でも何も、ここはIS学院の医務室だ。 お前がVTシステムとやらに飲み込まれて、それを救出してここに運んだに過ぎない」

 

「・・・・・・」

 

睨みつけてくる桃華を気にせず、俺は眼鏡をかけると出入り口に向かって歩き出す

 

「待ちなさいよ」

 

「まだ何かあるのか......」

 

飽き飽きしながら桃華の方を振り向けば、俯いていて表情を伺えなかった。 だが、さっきより幾分かは口調は和らいだような気がする

 

「なんで、今更......」

 

「今更、ね。 本当にその通りだが、まさかISに乗れるなんて思わないだろ?」

 

「ずっと、ずっと探してた。 あの施設を出て、連絡も取れなくなって......」

 

「施設を出てって、半場追い出されたようなものなんだが......」

 

女性利権団体なんてものが出来て、施設はその煽りを受け少数の男を残し俺達を追い出した。 どちらにしろ貰い手が付かなかった俺は、そのうち追い出されていたわけだが

 

「私ずっとお兄ちゃんを探してた、でも見つからなくて...... そのうちにISの適性が見つかって」

 

「・・・・・・」

 

「頑張って代表になればお兄ちゃんが見つけてくれるって。 でも、お兄ちゃんは!」

 

多分、俺が施設を離れてこいつは一生懸命探し回ったんだろう。 そんなときISの適性があって、あれよあれよという間に代表に決まったのだろう。 褒めてくれる相手もおらず、毎日毎日心を擦り減らせていた。 それが、さっきの戦いの結果なのだろう。 だとしたら、俺のせいか

 

「ごめんな」

 

そう言って、俺は桃華を抱きしめる。 桃華は力が抜けたように、俺に体重を預けてくる

 

「ずっと不安だった、寂しかったよ、お兄ちゃん」

 

そう言って、ずっと泣き続けた

 

----------------------------------------------------------------

 

「あら、まだ生きていたのね」

 

「・・・・・・・お久しぶりです、院長」

 

医務室に姿を現したのは、数人の部下(?)を引き連れた院長改め、女性利権団体幹部だった

 

「汚らわしいわね、そんな風に呼ばないでほしいのだけど」

 

「・・・・・・」

 

その言葉を聞いて黙り込む。 遠い記憶の院長は...... いや、思い出せない。 院長は俺の横を通り過ぎ、眠っている桃華を一目見ると、部下と何やら話していた。 それも数秒のことで、部下のような人は桃華に触れようとしていた。 それを俺は叩き落とす

 

「「・・・・・・・」」

 

無言で睨みあう俺と院長。 だが、譲る気はない

 

()の分際で、私に刃向かうつもりかしら」

 

I()S()がない貴女に何ができるんですか?」

 

拡張領域から木刀を取り出し、数回振るう。 院長の元に戻せば、こいつはもとの生活に逆戻りになる。 それは避けなければならない。 たとえここで、俺がどうなろうとも。 実際、四人の部下は俺を取り囲んでいる。 その目に憎悪を浮かべながら。 過激派でも、さらに過激な連中か? だが、俺は引かない

 

「何やら来賓の方がいないと思ったら、穏やかな状態じゃないですね」

 

「学園長」

 

偶然通りかかったわけではないだろう。 こうなるか、こういう状況を予想していたのだろう。 それならもっと早く来てくれてもよさそうなものだが。 心の中で悪態をつきつつ、俺は木刀を拡張領域にしまう

 

「勝手に歩き回られては困りますよ?」

 

「日本代表がここに運び込まれたと聞いたものですから、回収を」

 

笑顔で二人とも会話をしているが、互いにけん制し合っている。 ひー、こわいこわい

 

「心配なさらずとも、さっきの件と合わせて調査していますので、ご安心を」

 

「さっきの件、あぁ、正体不明のシステムですか。 怖いものですね」

 

「えぇ、怖いですね。 ですがご安心ください。 ここはISでも最新のデータがそろうところ、責任をもって調査しますので」

 

「・・・・・・それは心強い」

 

俺に聞こえるような声で、舌打ちをし去って行く院長。 その院長と一緒に退場しようとした学園長(妻)は一瞬だけ俺を見ると、頭を下げる。 そして、そのまま何事もなかったように医務室の扉は閉まった

 

「はぁー......」



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第四十六話

「またすごいことに巻き込まれてたみたいね」

 

そう笑いながら扉から姿を現したのは、楯無さんだった。 少し楽しそうにしているのは気のせいということにしておこう。 ひとしきりクスクスすると、真面目な表情を作る楯無さん。 それにつられて俺は姿勢を正す

 

「さて、ここからは真面目なお話よ。 その子のことだけど、どうするつもり?」

 

「答えなんて、分かってるでしょう?」

 

「えぇ、分かってるわ。 だからこそ、聞くのよ」

 

そう言う楯無さんの顔は、生徒会長としての顔ではなかった。 なるほど、楯無としての件も絡むと。 まぁ、妹を保護するというのは簡単だ。 だが、具体的にどうするのかという話はまた別だ。 一応、俺の今の肩書は二人目というものだけだ。 なんの後ろ盾もない一般人。 それが今までのうのうとIS学園で生活していられたのは、学園のサポートと楯無のサポートがあったからだ。 答えようによっては楯無のサポートがなくなるということだろうが

 

「俺は(コイツ)を守りますよ」

 

「なぜ?」

 

「こいつのこと待たせましたからね。 それに、いい加減兄としての責任を果たさないと、そう思ったからですよ」

 

「・・・・・・」

 

「それに......」

 

そこでいったん言葉を切り、掛けていた眼鏡をはずし楯無さんを見る

 

「今回の一件で、俺の正体を隠す意味はなくなりましたしね」

 

「白い閃光」

 

「それは譲ったままにしますが、知れ渡ってしまったからにはそれ相応の対処が必要でしょう?」

 

そう言って肩をすくめる。 すると、楯無さんの表情も苦笑に変わる

 

「まぁ、そうよねぇ...... そうなると、企業連に?」

 

「これから話を通すつもりですが」

 

「まぁ、貴方は分かってるだろうけど日本政府から命令が来たわ。 端的に言えば、厄介なものは消せってね」

 

「どうします?」

 

そう言って、わざと両手をあげる。 それでも楯無さんは何かをやってくることはなく、苦笑してるだけだった

 

「わかってるくせに。 まぁ、長という立場もあるけど、その前に生徒の長だもの。 生徒は守る義務があるわ」

 

「甘いですねぇ」

 

「本当よね」

 

何て二人で笑い合う。 ひとしきり笑い合った後、真面目な表情になる楯無さん

 

「さて、ついてきて頂戴。 もちろん、妹さんもつれてね」

 

----------------------------------------------------------------

 

いつか来たことがあった用務員室、そこから通じる通路を歩きセキュリティーカードを通し、前にホワイトグリントを受け取った部屋にたどり着いた。 そこには前回と同じように有澤さんがいて、違うことがあるとすればシャルル・デュノアがいることだろうか

 

「来たか」

 

「どうも、有澤さん。 で?」

 

「ん? あぁ、娘になった」

 

「・・・・・・」

 

説明を省きすぎである。 この人口下手なところがあるからなぁ....... なんて俺が思っていると、見かねてシャルル・デュノアが説明に入る

 

「えっと、ね。 あの日、電話番号受け取ったでしょ? その電話番号にかけたらそこの楯無さんにつながって」

 

「なるほど、自分で選んだか」

 

「うん。 だから、白石君には感謝してる。 ありがとう」

 

真正面からお礼を言われるのはこそばゆい感じがするが、それを表には出さずに続きを促す

 

「それで楯無さんにデュノアのことや今回のことを話したんだけど」

 

「一応この学園の生徒だし、さっき貴方に言ったようなことを彼女に言ったの。 それで、デュノアを調べるにあたってウチの人員と有澤さんを頼ったというわけ」

 

「同業、とは言い難いがそういう情報に詳しいものに心当たりはあった。 それで調べさせてみたら、意外な事実が分かってな」

 

有澤さんが言うには、デュノアの件はあくまでもデュノアを()()()()()()()()()()らしい。 要約すると会社の中で派閥争いが激しいらしく、それから遠ざけるためらしい。 それと同時に内部告発をし、不穏分子の一掃。 今回の事で罪を問われるであろうデュノアの社長は、そういうことから守り抜くためにデュノアを学園に送ったのだとか。 そこまで考えているのならと、有澤さんがデュノア社がなくなってからのラファールの管理とかを引き受けたらしい。 それと同時にデュノアのことも。 それが娘になった顛末らしい

 

「相変わらず口下手というか、なんというか」

 

「・・・・・・すまん」

 

「さて、デュノアさんの事情はそんな感じです。 白石君、今回の事ですが」

 

それまで黙っていた学園長が不意に口を開く

 

「ご苦労様でした」

 

「いえ、どちらにしろ遅かれ早かれこうなっていたでしょうし。 それは」

 

「それで、彼女をなぜここに?」

 

学園長は視線を細めつつ、俺に背負われている妹を見る

 

「そのことですが...... 白い閃光は、妹に譲ったままにします。 それを言いたくて。 ()()は、俺が最後まで面倒を見ます」

 

「・・・・・・」

 

学園長は厳しい視線のままだが

 

「ならば、私から言うことはない」

 

昔から俺や、後ろについてきていた妹のことを知っている有澤さんはそう返事をした。 学園長はふっと厳しい視線を緩めて、苦笑いする

 

「当人たちの問題ですからね、私から言うことはないですよ。 ですが、同じことを繰り返すようなら」

 

「そうなれば.......」

 

気まずい沈黙が流れるが仕方ない。 俺は空気を換えるために、有澤さんに話しかける

 

「有澤さん、テストパイロットの話ですが、正式に公表してください」

 

「それは今回の事を受けて、か?」

 

「はい。 どちらにしろ、今回の件で俺が白い閃光ということは知れ渡った。 なら、何らかのアクションが必要になってくる」

 

「手配する」



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第四十七話

「あら、珍しいわね」

 

「随分早いもんですね、楯無さん」

 

朝、何時ものようにランニングをしていれば楯無さんが合流する。 と言っても、何時もより合流するのが速いような気がするが。 そして俺の顔を見るなり、驚いたように言ったのだ。 まぁ、それもそのはずだ。 いつもならかけている眼鏡を外したまま走っているのだから

 

「おはよう」

 

「簪さんもおはよう」

 

前まではランニングが終わるころにはぜえぜえ言っていた簪さんも、いつの間にやら息が上がらなくなっていた。 なれって怖いよな

 

「まぁ、もうかける必要もなくなりましたからね」

 

そう、昨日有澤さんに頼んだ企業連のテストパイロット発表の件はもとから準備してあったのかすぐに行われた。 これで俺は晴れて姿を隠す必要がなくなり、眼鏡等もお役御免となったわけだ。 まぁ、公表した分表立ってのやらせ等はなくなるだろうが、裏ではどうなることやら。 まぁ、学園長ももしもの時には備えると言っていたし、楯無さんもいるので安心は安心なのだが。 一人でいる時は気を付けないとな

 

「なんか難しそうなことを考えてる顔ね」

 

「まぁ、これからのことを少し」

 

「そう言えば、学園に入るんだっけ彼女」

 

少しむすっとした顔で言う簪さんに苦笑しながら、俺たちはランニングを続けたのだった

 

----------------------------------------------------------------

 

「今日は編入生の紹介です、入ってきてください」

 

「はい」

 

そう言って入ってきたのは、俺の妹でもある白石桃華。 今回、妹のISに搭載に搭載されていたVTシステム。 その搭載がどこでされたのか、そういうのを調査するためにISとその身柄を一時学園預かりとしたのだ。 まぁ、十中八九搭載元は日本であり、その首謀者は女性利権団体の幹部ということで調べはついているのだが。 それをあえて公表せず、こちらの学園に入学させた、そういう絡繰りだ。 そもそも、昨日の件があった時点で桃華は日本代表の座から降ろされたのだが。 トカゲのしっぽ切、そう言うことだ

 

「席は...... 黒夜君の隣でいいわね」

 

「はい」

 

黒夜君、ね。 まるで腫物を扱うかのような担任の言葉に、思わず笑ってしまいそうになる。 昨日までの態度はどこに行ったのやら、そう思わずにはいられなかった。 朝のHRも終わり、次の準備時間としての短い時間、桃華が遠慮がちに話しかけてくる

 

「あの、お兄ちゃん」

 

「授業は大丈夫なのか? 一個上になるんだから」

 

「えっと、大丈夫」

 

俺が普通に返事をすれば、少しぎこちないが返事を返してくれる。 ・・・・・・まぁ、昔のようには行かないな、当たり前だが

 

「教科書は?」

 

「見せてもらえる?」

 

「あぁ」

 

こんな会話をしているが、クラスの雰囲気は最悪だ。 大きく言って二つに分かれる。 担任と同じ様に腫物でも見るかのような視線か、恨みがましく見る視線か。 まぁ、どうでもいいか

 

----------------------------------------------------------------

 

放課後になり、今回は生徒会名義でアリーナを貸し切りにしてもらった。 と言っても、いるのは俺と桃華だけなのだが。 今回は、流石に簪さんは遠慮してもらった。 毎日毎日やるのも流石にというわけだ。 それに

 

「ふぅ...... やっぱりか」

 

「一応、病み上がり......」

 

「一日安静にしてれば大丈夫だって知ってるぞ」

 

元々、気にはなっていたのだ。 桃華の素の実力というものを。 なんというか、機体に頼りっぱなしだというのは分かった。 打鉄を借りて試しにやってみたが、基本からなっていなかった。 そもそも、教えたのもかなりスパルタだったから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。 だが、あのスパルタと自分のセンスで勝っていたのだから、ちゃんと教えれば化けるかもしれない

 

「これから特訓だな」

 

「うん。 お兄ちゃんに迷惑かけるわけにはいかないから」



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第四十八話

「本気で行くわよ!」

 

「・・・・・・お手柔らかに」

 

ある日の放課後、俺と凰さんはアリーナにてISを展開し向かい合っていた。 いつかの再戦というわけだ。 俺はあの時と同じ純白の打鉄を展開し、向かい合っている。 ホワイトグリントは...... もはや乗ることはないだろう。 一応公式戦等は乗らないとまずいだろうが、積極的に乗ることはしない。 白い閃光は譲ったし、あの機体もゆくゆくは桃華に譲るつもりだ

 

『開始!』

 

生徒会名義で貸してもらっているので、楯無さんの声で開始の合図がされる。 まぁ、生徒会名義で関係者以外立ち入り禁止にしているのにもかかわらず、一夏が観客席に居るのが意味が分からないのだが。 凰さんの甲龍はこの前の試合で当たっているわけだし、傾向も癖もわかりきったものだ。 不可視の龍砲を躱し、確実に距離を詰めていく。 代表候補というだけあり冷静に対処はしているようだが、距離は縮まる一方だ。 しびれを切らした凰さんさんは、双天牙月と呼ばれる青龍刀を連結してこちらに接近してくるが、それを待っていた。 イグニッションブーストで一気に距離を詰めこちらから先に間合いに入る。 驚いたようだがすぐに立て直し、双天牙月を振り下ろしてくる。 イグニッションブーストは都合上直線的な動きしか出来ないのだが、それはあくまで他の人の話だ。 俺はサイドブースターを起動させ、少し横にそれ振り向きざまに浮いている龍砲を切る。 まずは一つ目。 そのまま二つ目を切ろうとするも、ショックから立ち直った凰さんは残った龍砲で攻撃してくる。 俺はそれを躱し、再度距離を開ける

 

「アンタ、イグニッションブースト中にそんな動きしたら」

 

「悪いが、そのくらいじゃなんともない。 なんせ、これより速い機体でこれより激しい軌道をやってたからな」

 

葵を拡張領域に戻し、両手に焔火を構える。 と言ってもこの焔火、有澤重工の特注品である。 火力が段違いだし、そもそも下にアタッチメントが付いてるためグレネードも装着可能だ。 もちろん、有澤製のだ

 

「さて、そろそろ勝負を付けようか」

 

「っ!!」

 

龍砲を撃って接近してくる凰さんだが、今度は俺が射撃に徹する。 焔火で牽制しつつ、足が止まったところにグレネードを撃ち込む。 やっていることは地味だが、有澤重工製の火力だ、どんどんダメージが蓄積されていく。 それでも諦めず向かてくる凰さん

 

「らぁぁぁぁぁ!!」

 

「その負けん気には感服したよ。 君はきっと強くなるだろうね」

 

両手の焔火からグレネードを撃ちだし、迎撃する。 結果は明らかで、グレネードは直撃し凰さんはISを解除される。 俺は地面に倒れる前にそれを受け止め、立たせる

 

「あ、ありがとう」

 

「いや別に、気にしないで」

 

そう言ってISを解除しようとすると

 

「待てよ!」

 

何故か一夏がアリーナ内に白式を展開して立っている。 放送室の方を見れば、楯無さんも呆れ顔でこちらを見ていた。 なるほど、楯無さんも予想外なわけだ。 ともあれ、相手をしないとな

 

「なんだよ」

 

「なんであんなになるまで鈴のことを攻撃したんだ!」

 

「何でも何も真剣勝負だ。 相手が戦うことを望んでいるなら、どんな状況でも最後まで戦うのが礼儀だ」

 

「でももう鈴のISはボロボロだったんだぞ!あんな攻撃したら!」

 

「そんなこと考えずに攻撃するわけないだろうが。 一応、最後のグレネードは一番威力が低いものに換装してあった。 コレでも企業のテストパイロットだ、そのくらいはわきまえてる」

 

「ならこの前のは!」

 

「黙れよ」

 

いい加減にしてほしいものだ。 何も知らないやつが、上から目線で。 家族のことにずけずけと

 

「御託はいい。 俺のことが気に入らないならとっととかかってこい。 凰さん、危ないから避難してて」

 

近くに居た凰さんにそう言って、俺は葵を展開する。 すると一夏はワンオフを発動しながら切りかかってくる。 相変わらず、まっすぐに

 

「お前は何も学習してないのか?」

 

「ぐっ!?」

 

イグニッションブーストで一気に距離を詰め、がら空きの腹に蹴りをいれる。 何をされたかわからない一夏はそのまま後ろに吹っ飛ぶ。 俺は葵を拡張領域に戻し、グレネードランチャーを構える。 そして壁にぶつかった一夏に容赦なくグレネードランチャーを撃ち込む

 

「前にも言ったかが口出しをするな。 お前には関係ない話だ」

 

さっきより爆発音が大きいが、流石最大火力を求めたことだけはある。 まぁ、そのせいで弾頭が重すぎて予想よりも飛ばないのだが。 撃ち尽くしたところで、一夏の様子を見る。 ISは強制的に解除されたようだが、怪我もないようだ。 気絶しているのか動かない。 俺は打鉄を待機状態に戻す

 

「一夏さん!」

 

「一夏」

 

ちょうどいいタイミングで取り巻きも来たようだし、俺はその場を後にしようとする

 

「あそこまでやらなくてもいいじゃないですの!?」

 

「何を言いだすかと思えば。 本来なら、関係者以外立ち入り禁止であるはずなのに、ここに居て、アリーナまで乱入してきたお前たちが言えたことか?」

 

「だがここまでやらなくてもいいはずだ!!」

 

「確かにな。 だから言っておけ、俺と桃華、妹の件に口を出すなと」



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第四十九話

日曜日、俺は街に買い物に来ていた。 本当は一人で、いや護衛もいるので厳密には一人ではないのだが、買い物に来る予定だったのだが少し大所帯になってしまった。 護衛ついでにくると言って聞かなかった楯無さん、その楯無さんから聞きつけた簪さん。 いや、聞きつけたという言い方はおかしいのだが。 そもそも今日の買い物、月曜からの臨海学校に向けての買い物だ。 旅館でゆっくりしていればいいのではと思わなくもないのだが、桃華から遊ぼうと言われてしまい水着を買いに来たわけだ。 話はそれたが、のほほんさんも簪さんについてきたというわけだ

 

「いーなーいーなー、羨ましいなあ!」

 

「臨海学校は毎年のことで、貴女も去年行ったでしょう」

 

「それとこれとは別」

 

「お姉ちゃん、恥ずかしいからやめて」

 

「あ、はい」

 

面倒な絡み方をしてくる楯無さんを適当に相手をしていれば、簪さんからの言葉でおとなしくなった楯無さん。 なるほど、今度からこうすればいいわけか。 一人納得をしつつ、デパート内を歩く。 デパート内は女性ものばかりで、男性物は少ない。 しかも入り口から遠くにあるので、探すのがとても面倒である。 簪さんたちには先に水着を見ていいと言ったのだが、俺についてくるということでこうなった次第だ。 おかげで視線が。 いやそもそも、()とは言え日本代表を隣に連れて歩いてるし、この前の映像もカット編集され流されているので目立つのも当然だ。 それに、長くいろんなISのパイロットが自分を売り込んだにもかかわらず、長いことテストパイロットが決まらなかった企業連のテストパイロットになったのだから当然か。 ようやく目当ての店についたので、思考をそこで打ちきり店の中に入っていく。 当然のように簪さんたちもついてくるが、気にしないことにした

 

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突然だが、女性の買い物は長い。 思い当たる諸兄もいるのではないだろうか? 俺は今それを身を持って体験している。 水着を選ぶのに、かれこれ一時間は経っている。 俺の場合、見た目が派手でもなければあまり気にしなかったため、周りの意見は封殺しすぐに会計だったのだが。 遠くから見ているが、桃華が着せ替え人形になっていた。 胸の前に水着を当て、気に入らないからと言って商品を戻す。 もはや見飽きた光景だった。 桃華自身も困惑していた。 そもそもだ、あまり桃華とは仲良さそうには見えなかった簪さんや楯無さんも難しい顔で桃華の水着を選んでいるのだからよくわからない

 

「なんかよくわからないって顔だねー」

 

「相変わらずのエスパーかな?」

 

「眼鏡がなくなったから表情が読みやすくなっただけだよー」

 

隣に座っていたのほほんさんが、足をプラプラさせながら声をかけてきた。 のほほんさんが俺の隣に座ているのは、さっさと水着を決めて出てきたからだ。 いや、水着と言っていいのかわからないのだがのほほんさんが買ってきたものは。 長い付き合いなだけに、こうなるのは予測済みでありさっさと選んだそうだ

 

「やっぱり女の子だもん、かわいく見られたいからねー」

 

「・・・・・・そうか」

 

「今の間は何かなー?」

 

笑顔なのだが、オーラが違った。 どうやら俺の言った意味が理解できているようなので、俺はそのまま視線をのほほんさんから桃華に戻す。 俺が施設を出てからは知らないが、施設を出るまでは貧乏な暮らしだった桃華だ。 もちろん女の子らしくかわいいものは好きな桃華だが、着るものに対しては割と無頓着だった気がする。 そもそも、そんな余裕がなかったしな。 戸惑いながらも嬉しそうに水着を選ぶ桃華にほっこりしつつ、俺はつぶやく

 

「でもやっぱり長いわ」

 

「それは、まぁ、仕方ないかもねー」

 

心なしか、少し元気がなくなったのほほんさんの声を聞きつつ、水着が選び終わるのを待つ俺とのほほんさんだった



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第五十話

バスに揺られること数時間、長いトンネルを抜ければ海が見えてくる。 今日は臨海学校の日、二泊三日という日取りでほぼ遊びに来たようなもの俺はそう思っている。 そんな楽しい楽しい臨海学校のはずなのに、バスの中の空気はどこかおかしいものだった。 まぁ、そもそも俺は楽しみではないが

 

「お兄ちゃんは海に来たことある?」

 

「ないぞ」

 

まぁ、桃華は楽しみなようでさっきから窓の外を見ていた。 俺がいたころから相変わらず、あの施設は規律が厳しかったようだ。 それに桃華はついこの間まで日本代表だったのだ、自由時間なんてほとんどなかっただろうに。 なので、少しはしゃいでる妹を微笑ましく思いながら一緒になって窓の外を見ていた

 

----------------------------------------------------------------

 

「元気だなぁ......」

 

こちらに手を振ってくる桃華を見て、思わずそう呟いた。 太陽からの直射日光で暑く、夏のため気温も高い。 熱中症対策にペットボトルは持ってきてはいるが、最早ぬるい。 これなら海に入っていたほうが涼しいのだろうが、そんな気も起きず。 俺は砂浜に座りつつ、桃華を見ていた

 

「暑くないの?」

 

そんな俺に声をかけてくる人物がいた、簪さんだ。 見るとパラソルを片手に、不思議そうにこちらを見ていた

 

「いや、暑くないのか聞かれれば暑いが...... そのパラソルは?」

 

「貸し出しやってたから」

 

ほらと言われ、指さした方向を見てみれば泊る予定の旅館が無料で貸し出しをやっているようだった。 いっきに力が抜けるのを感じつつ、立ち上がる。 もはや行く気力も削られた感じだが、借りないと暑いしということで重い腰をあげたのだが

 

「あれー? シロクロどこ行くのー?」

 

「どこって、パラソル借りに......」

 

「心配ごむよー、かんちゃんもそのために借りてきたんだし」

 

なんて本音さんが言うので簪さんを見てみれば、静かにうなづいていた。 そういうことならと、砂浜に軽く穴を掘りそこにパラソルを刺し埋める。 日影ができたことで、幾分か暑さがましになった

 

「シロクロって、結構おっちょこちょいなところあるよねー」

 

「事実なだけに言い返せない」

 

「黒夜は海に入らないの?」

 

「気分が乗らないからな」

 

そう言いつつ、はしゃぐ桃華を見る。 それを見て簪さんも納得したのか、上着を脱いで海に入っていく。 本音さんはとも思ったが、逆に今の着ぐるみ型水着(?)で泳ぎに行かれても心配なだけなので声をかけなかった。 本人はクーラーボックスに入ったお菓子に夢中なようだし



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第五十一話

臨海学校二日目。 専用機持ちのパイロットは今日から本格的なテストということで、ビーチから少し離れたところに集まっていた。 他の生徒は、勿論海で遊んでいる。 臨海学校とはいったい

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

そしてここ、かなり空気が悪い。 なんせ、一夏が俺のことを睨んでくるからだ。 この間の一件が決め手となり、一夏は俺のことを敵視している。 中立のシャルロットはなだめようとしているが効果はないし。 そんな空気が悪い中、ようやく先生である織斑先生と山田先生が到着する

 

「織斑、お前はここに何しに来ている。 私情など捨て置け」

 

「でも千冬姉、こいつは女の子に!」

 

「織斑先生だ!」

 

バコンと鈍い音を響かせ、織斑先生の拳が一夏の頭上に炸裂する。 体罰問題になるんじゃないかとも思うが、何時ものことらしいので静観する。 一夏の見せしめのおかげで、篠ノ之箒、セシリア・オルコットがこちらを睨みつけてくるのをやめる。 それに合わせて桃華もやめたようだ。 簪さんと凰さんは我関さずといった感じだったので何の問題もない。 さて、ひとつ気になるのだが、何故篠ノ之箒がここに居るのか。 アイツは確か専用機を持っていなかったはずだ。 そんなことを考えていると、少し騒がしくなる

 

「~~~~~~~~ちゃーん!」

 

「はぁ......」

 

何処からか声が聞こえ、それと同時に織斑先生が頭を抱え始める。 どうやら知り合いのようだな。 織斑もその声を聞き、首をしきりにかしげている。 その声の主はまっすぐこちらに向かっているようで、段々と声が近づいてくる。 シルエットが見えるが、よくわからない。 織斑先生に勢いよく突っ込んでいくが、織斑先生は受け止めず体を横にずらす。 すると、その声の主はそのまま通りすぎ...... 近くの岩場に激突した。 あまりの出来事に揃って声を失うが、気にした様子もなくその声の主は起き上がる

 

「もー、ひどいなーちーちゃんは」

 

てへぺろみたいな顔をしているが、結構な速度で岩と激突しているのに怪我一つないとは、類は友を呼ぶということだろうか。 会話を聞きつつ、そんなことを思う

 

「まったく、自己紹介をしろ」

 

「えー、めんどくさいなー。 はーい、大天才の篠ノ之束でーす、これでいいでしょ?」

 

「はぁ......」

 

その言葉に驚きはするも、織斑先生と一夏の共通の知り合いと言ったら限られてくる。 それにしても、篠ノ之束博士の登場とは

 

『すごいでしょう、ママン』

 

『いろんな意味でな』

 

白が楽しそうに俺に語り掛けてくる。 いやまぁ、ISなんてぶっ飛んだものを開発したのだ、製作者がぶっ飛んでいてもおかしくないのだが...... さて、今回篠ノ之束博士がわざわざこんなところに来たのは、妹である篠ノ之箒に会いに来たらしい。 それともう一件別件があるのだとか。 その時俺の方を向いたような気がしたが、気のせいだろう。 今は篠ノ之箒の専用機である紅椿のフィッテングを行っていた。 それに合わせ、各自それぞれの兵装の試運転が開始され、俺も企業連のテストパイロットのためそれをこなしていく。 まぁ言ったら悪いが企業連、ロマン兵器ばっかり今回の試運転任せてきやがった。 そんな中果敢にもセシリア・オルコットが篠ノ之束博士に話しかけるも、それを無視し俺のほうにやってくる

 

「やぁ、()()()()君」

 

「・・・・・・残念ながら人違いですよ、白い閃光ならあそこに」

 

そう言って、新たに専用機となったホワイトグリントを操り空を飛ぶ桃華を差す。 だが、そんな俺にも笑みを崩さぬまま篠ノ之束博士は話しかけてくる

 

「そうだったね。 白い閃光は()()()んだったね」

 

何を言いたいのかわからず、俺は目を細める。 すると篠ノ之束博士は満足したのか、指パッチンをする。 すると、さっきの紅椿を運んだようなものが篠ノ之束博士の真横に浮遊する

 

「ふふ、これまでのお詫びかな。 だから君には、すべてを()()()()()()()()の君にこれを受け取ってもらいたい。 私が開発した、最初で最後の()()()IS。 NS-WGを」



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第五十二話

「束、これだけは言っておく、お前は自分で何を言っているのかわかっているのか?」

 

「もちろんだよちーちゃん。 でも、今更じゃないかな? 競技用と言いつつも、その枠を超えたISは日々生み出されている。 そして、競技用と言っても人を殺すには十分な威力を持ってる。 だからそれに対する抑止力、という感じかなー」

 

それまでの雰囲気は霧散し、篠ノ之束博士に厳しい表情を向ける織斑先生。 それはそうだろう、ISの生みの親が自らの夢とは真逆のもの、()()()のISを生み出したともなれば。 顔は笑っているものの、言葉の端々に現状のIS開発に対する思いが見え隠れする篠ノ之束博士。 そもそも、だ。 何故俺に戦闘用のISを預けようというのか、それが分からない。 それを見透かすかのように、篠ノ之束博士はこちらを向く

 

「なぜかわからない、そう思っているでしょ?」

 

「・・・・・・はい」

 

「一つはお詫びかな。 女性利権団体(クズ共)がいなければ、君は今でも...... いや、君たちは今でもビルドファイターズをやっていただろうから。 勝手な私利私欲にまみれた屑どもを止められなかったお詫び、そういう気持ちかな」

 

「貴女は、篠ノ之束博士は女性利権団体の行為を容認していないと?」

 

「まさか。 アレが今の女尊男卑(この世)の風潮を作り出したんだよ? 私の(IS)を使って、それを私が許すとでも?」

 

ニコニコとした笑顔から一転、吐き捨てるようにいう篠ノ之束博士。 この人も今の世の中には、いや今のISの現状には思うところがあるようだ。 だがそれも一瞬で、またニコニコとした顔に戻る

 

「それともう一つは、単純に君に興味があるから、かな」

 

「興味?」

 

「まぁ、知りたかったら後で個別にでも連絡してよ。 ただ、君は真実を知れば今のままでは居れなくなる。 それだけは気を付けたほうがいいよ。 さーて、コアを出してー!」

 

「え、えぇ......」

 

雰囲気に飲み込まれ、俺は待機状態の白を篠ノ之束博士に渡す。 それにしても、真実とは。 今のままでは居れなくなる、それがどういう意味なのか俺にはわからなかった

 

「はーい、それじゃあ展開してみて」

 

白を渡され、俺は白を見つめる。 特に待機状態には変更がないようだが...... そして

 

『白』

 

『むふふー、これはまずいね。 まさに世界を滅ぼす力だよ』

 

どこかそんなことを上機嫌に言う白に辟易しながら、展開を開始する。 正式名称NextStage-WG(ホワイト・グリント)という名前らしい。 このネクストは原作にかけているのかわからないが...... 純白だった機体は黒く塗装され、細かいところもとがっている。 それに全体的に性能が

 

「お気に召したかな、黒い鳥君」

 

「・・・・・・貴女は俺に何をさせたいんです、こんなものを渡して」

 

「力をどう使うかなんてその人次第、さっきも言ったようにお詫びだよ」

 

あくまで本心は語らないようだ。 それにしても、こんなもの人類が扱えるものじゃない。 それこそ、十分に機能を発揮させるならAIなどを使ったほうがよっぽどいいだろう。 白の話ならあの無人機の開発者は篠ノ之束博士だ、無人機での運用も出来るはずだ。 そんなことを考えながら収納すれば、いつの間にか山田先生と織斑先生が離れたところに居た。 他の奴らは...... 織斑は何か言いたそうにこちらを見ていた。 他は専用のパッケージを試したり、思い思いに活動しているようだった

 

「お前たち、稼働試験などは中止だ!やってもらいたいことがある」



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第五十三話

旅館に戻った俺たちに説明されたのは、アメリカの軍用ISシルバリオゴスペルの破壊指令だった。 起動試験中に暴走、そのまま人の手を離れまっすぐとこの旅館に向かっているらしい。 しかもこのIS、驚くことに無人機だそうだ。 まさかと思い関係者以外立ち入り禁止なのにもかかわらずこの場に居る篠ノ之束博士に視線を向けるが、コアの停止作業で忙しいらしい。 にしても、このタイミングでの無人ISの暴走...... どうにもきな臭い。 まさかこのことを予見して篠ノ之束博士は俺にこの機体を預けたのだろうか

 

「ふぅ...... やっぱり駄目だね。 こっちの操作は一切受け付けない。 たぶん、暴走したら外部の操作は一切受け付けないようにしたんだろうね」

 

「やはり迎撃するしかない、ということか」

 

迎撃、その言葉で雰囲気が重くなる。 俺を除いて、いや、俺と桃華、簪さんを除いて他のISは競技用だ。 出力や装甲など、色々なものが違いすぎる。 桃華の使っているホワイトグリントに関しては、リミッターの解除を行えば装甲面などを除いてそれ以上の出力となるが。 これは簪さんの方も同様だが、その際体にかかる負担は想像できないものとなる。 そして俺のISは篠ノ之束博士が戦闘用に作ったものだ、多分勝負にならないだろう。 まぁそもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()のか、というのがそもそもの問題だが。 確かこの近くにはISを配備した基地があったはずだし、そもそもその逃げ出してきた基地が協力すれば撃破も出来るはずだ。 なのになぜ、()()()()()()()()()

 

「はい」

 

「なんだ白石桃華」

 

「この近くにはISを配備した基地があったはずです。 そこから緊急出動させれば、私たちが出撃しなくても間に合うはずです。 なのになぜそれをしないんですか?」

 

「そういえば......」

 

そう言ってキーボードを操作する山田先生。 だが、その顔は厳しいものだった

 

「オーバーホール? このタイミングで?」

 

「ということだそうだ」

 

織斑先生はそれを知っていたのか、淡白な返事だった。 オーバーホール、全機一気にか? 近くで起動実験を行うというのに? いよいよきな臭くなってきた。 となると今回の件、かかわっているのは日本政府か? 女性利権団体の連中が動いているのは確実だろうが、それだけか? そんな風に考えていると、視線を感じる。 見ていたのは篠ノ之束博士で、その顔はすべてを解っているかのように微笑んでいた。 ・・・・・・考えても無駄だな

 

「それで、作戦は」

 

「シルバリオゴスペルの推力的に参加できる機体は限られるわよ。 一夏に簪、それとアンタの妹ってところかしら」

 

「後は箒ちゃんの紅椿もかなー」

 

ぎょっとして凰さんと共に篠ノ之束博士の方を向けば、にこにことしているだけだった。 本気なのか、篠ノ之束博士は? 自らの妹を死地に向かわせるようなものだぞ? そして視線は、俺の方を向く

 

「後は黒い鳥君の機体、かな?」

 

「それは許可できない。 お前の作った戦闘用の機体だぞ? そんなよくわからないものを」

 

「ふふっ、まぁちーちゃんの好きにしたらいいんじゃないかな?」

 

篠ノ之束博士は特に怒りもせず、織斑先生の言葉を受け流す。 それはどこか結果を解りきっているようなものだった

 

「・・・・・・誰がやるにしても、まずはシルバリオゴスペルの詳細なデータが欲しいです」

 

「構わんが、これをみだりに誰かに話したりすれば...... わかるな」

 

全員が頷き、データを見る。 やはりと言っていいのか、競技用のISより全体的に高水準だ。 まぁ、倒せないこともないが

 

「これを見る限り長期戦は不利ね。 そもそも軍用のISだもの、出力が違いすぎるわ」

 

「一撃で沈めないとこっちが不利になりますわ...... ということは」

 

全員の視線が一夏に向く。 だが当の本人の一夏はポカンとした顔をしていた

 

「お、俺か?」

 

「他に誰がいる。 貴様のワンオフである零落白夜は相手の絶対防御すら切り裂く。 それを利用せずしてどうする」

 

「た、確かに」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒに言われて気が付く一夏だが、本当にこれは大丈夫なのだろうか

 

「いっくんのワンオフは燃費が悪いから、運ぶ役を作ったほうがいいんじゃないかなー。 それなら失敗して立て直して二撃目も出来るだろうしー」

 

さらっと作戦立案に参加している篠ノ之束博士だが、本来なら関係者以外立ち入り禁止では?

 

「私的には紅椿、箒ちゃんがおすすめかなー」

 

「篠ノ之束博士、それは危険だと思うんですが」

 

「・・・・・・」

 

簪さんがそう言っても、篠ノ之束博士はニコニコと笑うだけだ。 もはや決まりと言っても過言ではないだろう。 織斑先生も考えているようだが、決まったようなものだ。 まぁ、そもそもこの作戦で俺が出ることはないのだから見物させてもらうとしよう



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第五十四話

出撃準備も整い、一夏と篠ノ之箒は飛び立っていった。 俺たちはそれを見送り、再び旅館の作戦指令室に戻ってきた。 セシリア・オルコットが一夏たちが映ったモニターを祈るように見ているが、俺は興味がないのでそれを眺めていた

 

「お兄ちゃん」

 

「どうした桃華?」

 

よっぽど暇そうに見えたのか、桃華は俺の横に腰を下ろし話しかけてきた。 その際、織斑先生がこちらを見たが気にせず話しかけてくる桃華

 

「今回の作戦、どう思う?」

 

「どうって?」

 

「成功するかしないか」

 

「ふむ...... そもそも作戦と呼べるようなものじゃないからなこれ」

 

そう言った瞬間、部屋の温度が下がったような錯覚を受けるが構わず続ける

 

「オーバーホール中とはいえ基地にはISが残ってるはずだし、逃げ出した基地からISを引っ張ってくればそこそこの戦力になるはずだ。 俺たちに協力を求めるならまだしも一任だしな。 そして、出撃は二人。 かたや新しいおもちゃが与えられて勘違いしてる人間と、片や実力が半端者。 不意打ちということを考えても、成功する確率は低いと思うぞ」

 

「おお、毒舌だね黒い鳥君。 なら君なら成功すると?」

 

ここで話に加わってきたのは篠ノ之束博士で、何が楽しいのかニコニコとしている

 

「あの機体を作った貴女なら、分かりきってるんじゃないですか?」

 

「さて、どうだろうね? 君次第じゃないかな?」

 

「まぁ、そうですね」

 

「織斑君、篠ノ之さん、もう少しでシルバリオゴスペルと接敵します。 そろそろ準備を」

 

その山田先生の声に、俺たちはいったん話をやめモニターを注視する。 位置が記されているモニターを見れば、言われた通りシルバリオゴスペルとの距離は縮まっていた

 

「接触まであと五秒」

 

一夏が雪片弐型を変形させ、ワンオフを使うと同時に雄たけびを上げる

 

『うおぉぉぉぉぉ!!』

 

「何やってるのよあのバカ!?」

 

「アレじゃあ気づかれるよ!」

 

「ふん」

 

それをシルバリオゴスペルが気付かないはずもなく、一夏の攻撃は宙を切る

 

「あのバカ.......」

 

織斑先生は拳を握っているが、それどころではないと思うのだが?

 

「織斑先生」

 

「なんだ更識」

 

「彼等を後退させて次の攻撃部隊を編成すべきです。 織斑一夏のワンオフはSEを大量に消費します、それは彼を使い続けています。 なら補給をして次につなげれば」

 

「確かにそれはそうだが、だが一夏がいない間誰がアレを相手する」

 

「私、白石兄弟が先に向かい足止めと後退を支援して、第二部隊としてシャルロット・デュノア、セシリア・オルコット、ラウラ・ボーデヴィッヒを向かわせれば戦力的には十分だと思います」

 

「ダメだ」

 

「何でですか!」

 

「白石黒夜は認められない」

 

あくまで冷静に言い放つ織斑先生に違和感を感じる。 確かに篠ノ之束博士が作った戦闘用のISは危険だが、この状況撤退支援にはもってこいのはずだ。 なのにもかかわらず、ここまで否定するということは...... 日本政府から何か言われたか、それとも俺を出したくない何かがあるのか。 そんなときでも状況は刻一刻と進んで行く

 

「織斑先生!!」

 

「今度は何だ?」

 

「戦闘海域に船が!」

 

「なに!?」

 

見れば戦闘海域、それも一夏達が戦っているすぐそこに船がいた。 一夏はそれに気が付いたのか、船を守りながら戦っているが...... SEの残量を見れば、もう数分も戦えば切れてしまうところまで来ていた。 通信ログを見る限り、篠ノ之箒は船を気にせず戦うことを言っているようだが、一夏は譲らないようだ。 それにしても、船の進みが遅い。 よく見れば、船は後方から黒煙をあげているような気がする

 

「山田先生、あの船から救援信号って出てます?」

 

「えっと、少し待ってください。 信号を確認、あの船からです」

 

「たぶんあそこ等の海域に出てたけど、エンジントラブルかなんかか」

 

「そんな冷静に!」

 

山田先生は俺を泣きそうな顔で見るが

 

「申し訳ないですけど、指揮権を持っているのは織斑先生なので俺にはどうにもできませんよ? さっきから俺は出撃出来ないって言ってますし」

 

「織斑先生!!」

 

山田先生にそう言えば、織斑先生は俺のことを殺さんばかりに睨んできたが俺は肩をすくめる。 さて、船はおろか一夏の命まで見殺しにするかが見ものだな

 

「・・・・・・貴様なら、あの状況をどうにかできるのか?」

 

「当たり前でしょう。 ぶっつけ本番にはなりますが、あの機体の特性は理解していますし」

 

「・・・・・・いいだろう、とっとと行け!!」

 

「了解です」

 

『白』

 

『いやー、ぶっつけ本番とは黒夜らしくないね!』

 

『事情が事情だ、仕方ない』

 

 



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第五十五話

「これは!? 思っていたより!」

 

『これでもPA発動してるし、パイロット保護は最高クラスだよ?』

 

「本当に、何て機体を作ってるんだ!!」

 

『それを乗りこなしてる君に言われたくないな黒い鳥君』

 

旅館から飛び立ったのはいいものの、最高速度を維持したまま戦域に向かっているので体にかかる負荷が半端じゃない。 この頃あのホワイトグリントに慣れたとはいえ、かかる負荷はそれ以上だ。 加えてこいつの操縦はホワイトグリント以上に繊細だ。 白にも出力調整はしてもらっているが、ピーキーすぎる。 そしてナビゲーターは篠ノ之束博士だ。 俺が文句を言えば、それを軽口で返してくる。 本当に冗談じゃない

 

『目標戦域まであと少しだよ、戦闘の準備を』

 

「簡単に言ってくれる!!」

 

専用装備であるアサルトライフル051ANNR、063ANARを拡張領域から出す。 型式は同じだがホワイトグリントで使ったものよりも大型化され、口径も大きくなっている。 取り回しは少し悪いが、与えるダメージは向上した。 シルバリオゴスペルは一夏に夢中なのか、俺が目視できるところまで近づいてきているのだがアラートが出ない。 まぁ、好都合だけどな。 スピードを落とさず接近し、アサルトライフルの有効射程内に入った瞬間二丁のアサルトライフルをフルオートで撃ちまくる。 無防備な背中に当たったそれは背中のスラスターを壊し、シルバリオゴスペルは海に落ちていく。 アイツの回収もあるが、まずは

 

「そこの二人は撤退だ」

 

「なっ!?」

 

「なんでお前がここに?」

 

二人の反応はそれぞれで、一夏は心底ほっとしたように、篠ノ之箒は俺のことが言ったことが信じられないような感じで睨みつけている

 

「お前たちと、あそこの救難信号出してる船の撤退を支援するためだ」

 

そう言って船を差すと、船はもう完全に止まっていた。 ふむ、やはりエンジントラブルか

 

「救難信号? ふん、犯罪者も都合のいいものだな」

 

「箒!」

 

「犯罪者かどうかなんてどうでもいいだろう。 ISと普通の人間が対峙すれば結果は分かりきっている。 そういう力のないものを守るのが、力があるやつの務めだ。 それとも何か、通信で言っていたように()()()()()()その命はどうでもいいと? 確認もしていないのに?」

 

「貴様!!」

 

「どうでもいいから撤退しろ。 俺はあれの回収もかねて」

 

『黒夜、沈黙していたシルバリオゴスペル、出力再上昇したよ』

 

「チッ」

 

その白の声と共に破壊されたスラスターはそのままに、新たな翼を持ったシルバリオゴスペルが浮上してきた

 

「な、何だあれ!?」

 

「どうでもいいからお前らは撤退しろ、邪魔だ」

 

「貴様の世話にはならん!!はああああ!!」

 

雄たけびと共に切りかかる篠ノ之箒だが、その刀は掴まれビームの砲撃を食らってしまう篠ノ之箒。 近距離ではあったが、流石第四世代と言った所か。 本人は無傷だった。 それでも、気絶したようだが

 

「箒!!」

 

一夏も一夏で、周りを気にせず一直線で篠ノ之箒を助けに行っていた。 それをシルバリオゴスペルが予想していないはずもなく、その一夏を狙ってさっきの砲撃を放とうとしていた。 正直言って助ける義理はないのだが、織斑先生に文句を言われても面倒なので一瞬でシルバリオゴスペルに近づく。 俺が動いたのによほど驚いたのか、一瞬動きが止まった。 動きが人間臭いが、どうでもいい。 一夏も爆発範囲から脱出したみたいだしな

 

『白』

 

『はいはーい!AA起動!』

 

大爆発がシルバリオゴスペルを包み込む。 閃光が晴れれば、シルバリオゴスペルは少し離れたところに滞空していた。 動きはないみたいだし、今のうちに

 

「おい一夏、何をボーっとしてる。 早くそれと船をこの海域から脱出させろ」

 

「お前、俺たちも巻き込むつもりで......」

 

「爆発範囲から離脱していたのは確認していた。 それより.......」

 

一瞬で一夏の横に移動し、頭を掴んで放り投げる

 

「早くあの船を牽引して、この海域から離脱しろ!戦えないやつがいても足手纏いだ」

 

「うお!?」

 

流石にこの短時間では再展開するはずもなく、移動には体にかなりの負荷がかかる。 むせながらも、一夏に指示を出しシルバリオゴスペルに向き直る。 一夏はわめいているが、気にせずにシルバリオゴスペルに近づく。 たぶん、今ならシステムに何らかの障害が起きているはずだ。 この隙に...... そう思ったのだが、あと一歩のところでシルバリオゴスペルは動き出す。 俺は両手にアサルトライフルを構え撃ちながら距離を離す。 俺を掴もうとしていた片手はこれで破壊した。 ビーム砲を躱しながら、周囲の状況を確認する。 周囲に人影や、生物の反応はなし、と

 

『白、PAの効果範囲を広げろ』

 

『うん? そんなことしたら、防御の意味がなくなるよ?』

 

『もう一つの効果を試す。 篠ノ之束博士』

 

『うん、何かな?』

 

映されたモニターには、相変わらず笑顔の篠ノ之束博士

 

()()を試します』

 

『りょうかーい!私はこっちのモニターを誤魔化せばいいんでしょ?』

 

『・・・・・・ええ』

 

この機体のもう一つの武器、それは

 

『ジェネレーター出力上昇!』

 

ジェネレーターの出力を急上昇させ、P()A()()()()の敵を攻撃する

 

『機体温度上昇してるけど、こっちで調整しておくから後はご自由にね、黒夜』

 

『助かる。 と言っても、シルバリオゴスペルはそこまでもたないようだがな』

 

シルバリオゴスペルは自分の体に何が起きているのかわかっていないのか、戸惑うばかりだった。 だがその間にも、()()()()()は上がり続ける。 そう、この機体の完成したジェネレーターだからできたことだ。 PAを広範囲に展開し、ジェネレーターの出力をあげることによって過剰に散布。 過剰に散布された粒子はなぜか発熱を起こす。 それがこの機体発熱の絡繰りだ。 この機体は温度上昇に対する対抗策を持っているが、普通のISにはそんなものはない。 いや、あるにはあるがこの機体ほどではない。 これがこの機体を戦闘用と言わせる要素だ。 他にも細かな要素はあるものの、割愛させてもらうが。 そろそろ装甲も融解して来たようで、近づく。 そしてこれの凶悪なところは、この機体に近づけば近づくほど温度が高くなるということだ。 シルバリオゴスペルは抵抗らしい抵抗をせず、そのまま飛んでいる。 俺は直前でジェネレータの出力を普通の状態に戻し、コアを回収した



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第五十六話

旅館に降り立てば、そこには険しい顔をした織斑先生が立っていた。 他にも気絶していたはずの篠ノ之箒や、一夏もだった。 俺はそれを無視し、旅館の中にある作戦司令部に報告に行こうとしたが

 

「待て」

 

織斑先生に腕をつかまれ止められた

 

「なにか?」

 

「報告はどうした」

 

「そんなもの、ここでする必要があるんですか? 中の司令部でまとめて報告すれば済む話だと思うんですが?」

 

「お前、千冬姉にそんな態度!」

 

「そんな態度も何も、当たり前のことをいっただけだと思うんだが?」

 

織斑先生に捕まれた腕を振り払い、俺は旅館の中に入って行った

 

----------------------------------------------------------------

 

結局あの後、報告をするも空気は最悪だった。 おもに織斑先生や一夏たちなのだが。 ともかく、シルバリオゴスペルを撃破。 そのコアを回収してきた旨を伝えたが、コアは篠ノ之束博士が持っていくこととなった。 今回のコアがどうして暴走を起こしたか、その開発者である篠ノ之束博士が原因究明したほうがいいだろうという判断だ。 あの機体を使った影響か、異常に疲れたため気分転換に砂浜を歩いていた。 流石にあの機体は早すぎたためか、山田先生や他の奴らが心配そうに俺の体の調子を聞いてきたのには少し面食らったが。 そのことで、学園に帰ったら精密検査だそうだ。 一応、簡易的には篠ノ之束博士が体の状態をスキャンしてくれたが

 

「やっほー、黒い鳥君」

 

「篠ノ之束博士」

 

ぼんやりと歩いていると、月をバックにこちらを見降ろしている篠ノ之束博士の姿が。 美人なだけに似合うが、会ってからずっと微笑みを浮かべているためどこか居心地の悪さを感じる

 

「どうしたの、こんなところに」

 

「散歩です」

 

「ふーん、そっか」

 

高台のようなところにいるためか、座り込み足をプラプラさせてこちらを見る篠ノ之束博士。 周りにはだれもいないし、気配も感じない。 聞くなら今か?

 

「篠ノ之束博士」

 

「うん、なにかな?」

 

「なぜあの機体を俺に? いえ、そもそもなぜあの機体を作ったんですか?」

 

「・・・・・・」

 

少し驚いたような表情をしたものの、すぐに微笑みに戻る

 

「うーん、まぁ言った通りお詫びというのは本当。 女性利権団体(クソども)の暴挙を止められず、君たちの好きだったものを奪ってしまったことに対するお詫び。 で、何故作ったかだけど」

 

そこで言葉を切り、笑みをより一層に深める

 

「それは()()()かな」

 

「俺次第?」

 

「そう、君次第だよ黒い鳥君。 そのまま日常を謳歌するか、それとも世界に復讐するか」

 

なんだ、何を言っているんだ篠ノ之束博士は。 篠ノ之束博士の言葉に、俺は焦り始める。 自分でもよくわからないが、この話は()()()()()()()。 そう思った。 だが同時に、聞きたいと思う俺もいるのだ。 それが何なのか、分からないが

 

「世界に復讐? なにを......」

 

「君にはその権利があるってことだよ、黒い鳥君。 と言っても、それを知ってしまえば君は今の日常を捨てなければならないけど」

 

ほんの少し、ほんの少しだが笑みに陰りが生じる。 でもそれも一瞬で、すぐに戻ってしまった

 

「まぁ、そう言うことだよ!」

 

「っ!?」

 

そう篠ノ之束博士が言うと同時に、突風が吹く。 あまりの突風に目を閉じてしまう。 急いで開けるとそこに篠ノ之束博士の姿はなく、一枚の紙が俺のほうに風に乗って流れてくる。 それをとる。 そこには『君が知りたいと思うなら、君の持ってるコアに言って私に連絡を取ってね。 それとこのリストだけど、それはヒントかな。 君がかつて、家族と呼んでいたもののリストだよ。 篠ノ之束より』と書かれていた。 その下には、住所が載っている

 

「かつての家族? いや、まさか」

 

俺は漠然とした不安を覚えたまま、しばらくそのリストを見ていた



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