どうやら私は強くなりすぎたらしいです。 (丸いピンクのアイツ)
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プロローグ(幻想郷入居前)
どうやらかなり昔の地球に生まれたらしいです。


初投稿です。


「は?」

 

気が付くと辺りは一面溶岩の海。

 

「え、なにこれ?」

 

 なぜ自分がこんなにも危険な場所にいるのか。そもそもこれほどの規模の火山帯が果たしてあっただろうか? そんな考えが頭をよぎったが、これだけ規模が大きいと、聞いたことぐらいあってもいいんじゃないかと思うんだけど...。とりあえず周囲の確認でもしようか。

 

 その時_______

 

「ん............ぇ?」

 

 ___自分が宙に浮いている事に気付いた。

 

「...うあああぁぁぁぁ!?」

 

 .....................あ、そうかこれ夢か。うん、夢以外考えられないな。そうこれは夢、これは夢。ゆっくり目を閉じて、そしてもう一度開くとそこは知ってる天井...............

 

 ......なんてことはなく、相変わらずの紅い世界。ならば、と頬をつねってみる。痛い。......何かの冗談だろう。今度は強めにつねってみる。

 

「っ~~~!!」

 

 めちゃくちゃ痛かった。

 

 え?なにこれ、夢じゃない?現実?現実ならもしこっから落ちたら死ぬぞ?それ以前に今自分はどうやって空なんて飛べ____

 

 飛べているんだ?

 

 そう考えようとした時だった。

 一瞬の浮遊感、そして直後に感じる下方向からの風。その感覚を理解したくなくなかったが、自身の体が相当の高さがあったであろうところから落ちているということを理解してしまい____

 

 そこで、死の恐怖に耐えきれなくなったのか意識を落とした。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「......ん、あ、れ?生きてる?」

 

 おかしい。間違っても運が良かったとかで生きてられるような高さじゃなかった筈だ。体に違和感すら感じない。

 ......ん?あれ?やっぱり手足の動きに違和感があるような......

 

「あ、あ、はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!?」

 

え、なんか体縮んでる!?てか何このかっこ!?ブーツは辛うじて茶色の革製だけど、それ以外が袖の広がった白の改造コート、白のショートケープ、白のマフラー、白のニーハイソックス、白のタイトスカート。......白ばっかじゃん!

 

 ほぼ真っ白だよ!え?何?『燃え尽きたぜ......真っ白にな......』とか言ったほうがいいの?

 

 ...駄目だ。思考がずれてきてる。...そうだ、忘れてたけど此処は火山のど真ん中だった。なんだってこんな暑い所で分厚い服着てるんだ。下はニーソとスカートだからともかく、上着は...............ちょっと待て、ニーソ?スカート?

 

 最悪を想定しながら恐る恐るスカートの中にずいぶんと可愛らしくなった自身の小さな手を入れる。

 

 __在るべき物の感触が無い。無情に告げられた事実に何かが壊れた音がした。

 

「あ...............ハハッ......アッハハハハハハッ!無い!玉も竿もなんにも無い!もう此処まで綺麗さっぱりだと寧ろ清々しくなってきた!」

 

 端から見れば、上下の体温調節に苦労するであろう格好の少女、いや幼女と言うべきだろうか。それが、火山の一角で鈴を鳴らした様な甲高い声で笑いながら現実逃避しているのだ。その姿はさぞかし滑稽だと思う。

 

 けどいくらなんでも、情報量が多すぎる。こうでもしないと頭を冷やせそうにない。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 あれから暫くして、漸く現実を受け入れられたので、少し状況を整理してみることにした。

 

 ・現在地は今なお猛烈な勢いで火山弾や火砕流を吐き出す火山地帯に空いた空白地帯

 ・目覚めた時は空を飛んでいた

 ・相当の高さから落下したが無傷

 ・自分の姿がほとんど白一色の服で統一された幼女になっている

 

 大体こんなものだろうか。

 まずは現在地についてだ。先程空から見た限りは、ここら一帯は火山ばかりで水や食料などが有るとは考えづらい。

 ついでに、理由は定かではないが少し息苦しく感じる。...まあこれはえらく上部に寄った服装のせいかもしれないが。

 

 次は空を飛んでいたことだ。これに関しては根拠は無かったが『何で自分は空を飛べているのか』と疑問を持った瞬間に落ちたことから、自分は空を飛べると考えることが大事なのではないかとアタリをつけてみると、どうやら正解だったようで、時間がかかったうえに僅かでしかないが、先程の感覚を元に空を飛ぶことができた。

 

 今度は落ちたのにダメージがなかったことについてだが、これは恐らく自分が“空を飛ぶ”とかいう明らかに人外じみたことが出来ることから、自分の体が人間の物ではなくなったと考えるのが妥当だろう。

 ていうか、それ以外の理由だったら、赤い配管工のおっさんも真っ青な紐なしバンジーして生きてられるとかどういうことなんだと小一時間、問いただしたい。

 

 最後に今の自分の姿だが、あれだ、さっきの通りの真っ白な服装に加えて髪の毛とかも改めて調べてみた。まずは、透き通るようなサラサラのロングヘアー。腰ほどまで伸びていて、何故最初に気付かなかったのかと思うほどに長く、艶がある。そこから髪の毛の根元の方へと手を滑らせると、よくわからないコサック帽のような物に触れる。勿論、これも白だ。

 鏡やそれに準ずる物が無いので、顔を見ることは出来ないがペタペタと自分の顔を触ってみたところそれなりに整った目鼻立ちであることがわかった。

 正直、何で最初に気付かなかったのかと思いたいが、火山と熔岩で溢れかえってた景色と空を飛んでいたことにかなり動揺していたんだろう。

 身体能力も検証してみたかったが、火山地帯のど真ん中で試せることもあまり無いので、一旦後回しとした。まあ、こんな暑い場所にいて汗ひとつかいていないことを考慮すると、既にぶっ飛んでいるが。

 ついでに言うと、下着も白一色だった。

 

 ...ふう。ちょっとは落ち着いたな。とりあえずこれからはなんとかして火山地帯以外の場所を見つけて食料を探しつつ、この体のこととかこの環境について調べるのを目的にしよう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 あれから体感数ヵ月。かなり空を飛ぶことにも慣れたので、色々な所を飛び回ったけど、大した収穫もなく火山ばかりが広がる景色にもそろそろ飽きてきた。現状は、落下した時のこぢんまりした空白地帯に小さな拠点を作って生活している。

 道具も無いのにどうやって拠点作ったんだって話は後でするとして、まず食料に関してだけど、どうやら食べなくとも平気らしく、空腹感は欠片も無い。当然、食べないので排泄の必要も無いけど、やはり何も食べないのは精神的にクる。

 あぁ、考えたら何か食べたくなってきた......。おうどん、お寿司、アイスクリーム、カレー、ハンバーグ、ケーキ、マカロン、シュークリーム............はっ!いけないいけない考えるな私。というか、いくらなんでも精神が女の子に引っ張られすぎでしょ!

 

 ............そう、最近の悩みがこれだ。少しずつ精神がこのロリぼでぃーに引っ張られて女の子みたいな好みになってきているのだ。だがしかし、この体のお蔭で助かったことは既に数えきれないので「こんな体!」とは言えないのだが。

 というか前世の体でこんな難易度ルナティックな世界来たら一日ともたずに死ぬ。それほどこの体はハイスペックなのだ。

 まず、おおよそ生物が生きられないであろうこの環境で少なくとも数ヵ月は生きている。

 これだけでも驚愕に値するのに、空をほぼ無制限で飛べるのだ。“ほぼ”なのは、この時ほんの僅かにエネルギー的なsomethingを使っていることに気づいたからである。

 只、私はこのエネルギーの量が尋常じゃ無さそう且つ、今まで一度も無くなりかけたことが無いので、“ほぼ無制限”なのだ。

 更にこのエネルギー、空を飛ぶ以外にも使えるようで、その辺の岩を両断するくらいの力がある。拠点もこれを利用して作った。

 ......まあ食事の必要が無いのでその実態は、目印の代わりと寝る時に、熔岩の光が邪魔にならないようにと小さな豆腐建築があるだけだけどね。

 

 はあ......スイーツ食べたい......。

 

 

 

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 あれから人間の感覚では途方も無い時が過ぎた。あの有名な五億年ボタンで体験することになる時間くらいは生きているだろう。

 まあ、あっちの何もない空間の五億年と違ってこっちの五億年は、えらく暖かくてシュワシュワする(多分人間の体では高温の酸)雨が長いこと降ったり、それで海が出来たり、暫くして冷えたその海にバクテリアだったか?が誕生したりで、飽きるようなことはなかった。

 かといってこの五億年、ぼーっと景色を眺めていただけではなく空を飛ぶ練習をしたり、ボール状にしたエネルギーを飛ばして遠距離の攻撃方法を確保したりした。

 お蔭で今では、地球一周に10分もかからないところまで速く空を飛ぶことが出来るし、エネルギーの扱いもかなり上達した。......代わりに、男としての感性は失ったも同然だけどね......。

 

 まあ、この五億年くらいで気付いたこともある。それは、この五億年間で起こった事象が地球の誕生後数億年の間に起こる事に酷似しているということだ。よって今まで見当もつかなかったここが何処で、いつの時代なのかのおおよその見当がついたのだ。ここが地球なら、最初に生物が誕生したのは2000年代から遡って、およそ三十五億年前になる。

 ......それで?って気がしないでも無いが、確かに大事なことだ。

 幸い、この体に寿命のようなものは感じられないのでいっその事、のんびりまったりスローライフでも楽しむとしよう。

 そうするとなると、平穏を護る為にもそれなりに力もつけるべきかな?

 

「そうと決まれば早速修行だー!」

 

 しかし、この時私は周囲に自分以外の大きな生き物がいなかったために気付かなかった。自分がどれだけ強くなったか比較する対象がいないことに......。

 

 

 




主人公のイメージ↓(ペイントによる初デジタル絵です。)


【挿絵表示】


※閲覧は自己責任となります。もし、閲覧により発作、吐き気等の症状が発生しても、作者は責任は取りかねますので御注意下さい。


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どうやら妖怪が産まれていたらしいです。

たくさんのお気に入り・感想・評価ありがとうございます!
これからも精進していきますのでよろしくお願いします!

......正直なところ一話目でこんなお気に入りつくと思わなかったから内心ビクビクしてます。




私が目覚めてから13億759万8760年と56日目。

 

 最近、空を飛ぶ事など様々な用途に用いていたエネルギー以外のエネルギーがまだあることに気が付いた。

 今までのエネルギーは半透明な白色だったけど、それとは別に赤いエネルギーが体の外側に近い場所と青色のエネルギーが体の中心にあるのだ。

 物は試しと放出してみると、前世の頃よくやってた東方の妖力弾と霊力弾にそっくりだったので、それぞれ赤い方を妖力、青い方を霊力とした。

 これを踏まえて白っぽいのにも適当に『白力』と名前をつけることにした。

 これで暫くの間、暇を潰せそうだ。

 

21億3424万1年と298日目。

 

 この頃、なかなか私の脳みそは性能が高いと感じている。

 理由は、カレンダーも無しに目が覚めてからの日数を数えて記憶したり、未だ体も人間だった時の知識やサブカルチャーに関する細かいネタを覚えているからである。

 ついでにあともう一つ、陸が出来た。多分後々ヌー大陸とか呼ばれて伝説になるやつ。

 海しかなくて流石に飽き飽きしていたので正直凄く嬉しい。

 この広さならエネルギーの増幅や操作の練習するのに不便は無いだろう。

 

36億375万64年と193日目。

 

 大陸が沈んだ。

 

 結果としてただの一度もオカルト的な超文明や海底都市などが造られる事は無く、それ以前に生物すら現れる事は無かった。

 それ以来、寝なし草の日々を過ごしていたが、景色も良くて自然豊かな山を見つけたのでそこに根を下ろす事にした。

 土壌はあまり良くなかったが、土壌に注入すると野菜の育ちが良くなったり、火山を強制的に噴火させることができる等、私が思ってるより便利だった『白力』を使って農業をし、野菜を作ってみよう。

 実のところ、今の体には食事や睡眠などは必要のないものだが、できるだけ人間らしい生活することにしている。

 

 そして今回の発見から謎の白いエネルギーを、『白力』改め『自然力』とすることにした。

 

 明日は家でも作ろうか。

 

39億4398万4571年と116日目。

 

 近頃、一人が寂しいと感じる気持ちが強くなってきた。

 これだけの時間を過ごして何を今更と感じるだろうが理由は分かっている。

 

 やることがなくなってしまったのだ。体に溢れる三色のエネルギーは、これ以上増えそうにも無いし、制御に関しても大きさ、速度、形状自由自在にできるようになった。

 人間性を保とうと始めた人間らしい生活は、この体になる前には当たり前にあった他人との関わりが一切ないことに気づき、一人の寂しさを一層感じさせただけだった。

 

 

 

 

 いつまでこんな日々が続くのだろう。

 

39億9741万42年と348日目。

 

 最近、雪が続いている。何度目かの氷河期に入ったんだろう。氷河期は嫌いだ。この虚しいだけの日々から更に景色までも奪ってしまう。

 

 

 この苦痛を少しでも和らげる為には寝るぐらいしか出来そうにない。

 

39億9999万1008年と3日目。

 

 ようやく氷河期が終わった。

 そう思いながら既に、惰性となりつつある畑の手入れをしようと、山の麓に建てた家を出ると犬耳の天狗とばったり出会った。

 嬉しさのあまり、泣きながらその天狗に抱きついていたら天狗はいつの間にか気絶してしまっていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 私は哨戒天狗の一人「楓」。今日からが初めての哨戒任務だ。

 哨戒の任に就くと知ったときはとても嬉しかった。何故なら哨戒を任されるということはそれほど信頼されているということに他ならず、一人前として扱われる事になるからだ。

 重圧が無いとは言えないが、それよりも認めてくれたという事実に気分が高揚していた。

 

 配属先は新しく縄張りとした山の麓近くの前線付近。戦闘の危険性がかなり高い場所になるが、それははつまるところ、余程私の技量を信頼してくれてる証でもある。

 

 そんな初めての哨戒任務で早速私はある建物を見つけた。

 人一人が住むのには少し大きいが二人が住むには小さすぎると言った具合の家ではあるが、気になるのはその様式で、壁は木製ではなく石を薄く伸ばしてあるなど、河童達ですら出来ないだろう技術だ。

 そこらの人間達が造るには技術力が高すぎる。

 

「これは...一体?」

 

 巡回経路からは少し離れているが私達の縄張りであることに変わりはない。人がいるならば早急に立ち去って貰おう。

 

 そんなこと考えて謎の家に近づいた時だった。

 

 ソレは現れた。

 

 自分より一回り程小さな身体。あどけなくも、何かを悟ったような顔。一見しただけでは人畜無害にも見える見た目からは、強者が力を抑える時に見せる、全身を包む、熟れた紅葉のような紅い妖力。

 その(あか)は私達の上司の鬼達の誰よりも美しく、されど禍々しい真紅に輝いて見えた。

 

 ――間違いない、アレはこの山の全員を以て立ち向かう敵だ。一個人で勝てる相手では...無い。

 

 今し方起きたばかりなのだろうか。幸い、向こうはまだ此方には気付いていない。今すぐ皆に報告をすれば間に合うかも知れない!

 

 そう思い、報告に戻ろうとした時。

 

 ソレと目が合ってしまった。

 

 恐怖で視界が歪む。足が思うように動かない。相手は此方の様子を楽しんでいるのか、未だ動きを見せない。

 

 逃げろ。早く、伝えなければ。動け。

 

 ソレが此方の方へ駆け出す。私の身体に抱きつく。視界が黒く染まって、そのまま意識も闇の中に沈んでいくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___気が付くと、ソレと見つめ合っていた。

 

 何故まだ私は生きてるのか、まさかコイツ意識があるままの相手を食べるのが好きだとかそういう悪趣味な妖怪なのだろうか。そんな死に方をするくらいなら自害した方が、いやそれは悪手だ何としてでもこの危険を皆に__

 

 意識を取り戻した直後とは思えない速度で様々なことを一瞬の内に考えていたが、ソレの様子を見ると自分が決定的な思い違いをしていたことに気づく。

 

「よかった...気がついた...!」

 

 ソレ...いや、彼女は目尻に涙を貯めてながら、とても嬉しそうにそう言ったのだ。

 そしてそのまま涙を流し始めた。その顔は見た目相応の子供の様で、とても此方に害をなすようには見えない。

 単に私が未熟で彼女の思惑に気付いていないだけかもしれないが、私には彼女がまるで人肌恋しい一人ぼっちの子供にしか見えなかった。思えば、気を失う前にぼんやりと見えた彼女の動きも、傷ついた母親を心配する子鹿に似ていた気がする。

 ...この山で最強の強さを持っている鬼の四天王の御仁達よりも色濃い妖力から、とても守られる立場ではないのだろうが。

 

 一体、彼女に何があったのか。何故これ程までに過剰な反応を見せるのだろうか?

 

 理由は分からないが何か深い訳が在るのかもしれない。

 

 

 

 と、彼女が話し掛けてきた。どうやら話し相手になって欲しいらしい。私は少し悩んだが、二つの理由から了承することにした。

 

 一つは彼女が本当に悪意を持っていないか多少なりとも見定めるため。私としては問題ないと確信しているが職業上優しそうだからと言うだけで素通りさせる訳にはいかない。

 

 もう一つは完全に個人の好奇心でしかないが、私自身が彼女を気になって来ていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 やっと、やっと話が通じる相手が見つかった。この娘が気を失った時はどうなるかと思ったけど、どうやら無事みたいで良かった。

 今思えば、初対面の人(?)に飛び付くなんてびっくりされても可笑しくない。気絶するくらいに驚かれるのは心外だけど。

 

 ...にしてもこの和装みたいな格好と白っぽい髪と犬の耳、まるで東方Projectで見た白狼天狗みたいだ。そういう世界線なのかな?

 もしそうなら、あそこの天狗ってかなり縄張り意識が強くて排他的主義な一族だった気がする。

 いつの間に。少なくとも250万くらい前は何にもいないただの山だったから、私の寝てる間にこの近くにみんなで住み始めていたのかな?

 

 それとも気付かない内にここ(私の家の周り)も天狗の領地になっていたのだろうか。

 

「あの、起きてすぐで悪いけど天狗さん」

 

「何でしょうか?」

 

 私を追い出す為に来たのか不安になり、目の前の天狗に聞いてみると、

 

「この辺りは、つい一昨日に領地にしたばかりですね」

 

 やっぱり。あと数日寝っぱなしだったら、いつの間にか天狗に殺されていたかもしれない。

 自分以外の知恵ある生き物に会えたのは嬉しいけど、家に住めなくなるのはちょっと困るなあ。ダメ元でこの辺りには手出ししないようにしてくれないか聞いてみようか。

 

「うーん、この辺の木がない所くらいでいいから、どう

にか手出ししないようにしてくれないかな?」

 

 そう聞くと白狼天狗は、

 

「いえ、私達も貴方ほどの妖怪がいるとは知らず勝手な事を。とはいえ、私もまだまだ下っ端の身。上方に掛け合って来ます故、暫しお待ち下さい」

 

 と言って、山の上へと登って行ってしまった。

 

「あ、名前聞いてなかった...」

 

 そういえば、と思った頃にはあの娘の姿は見えなくなっていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 10分程経っただろうか、白狼天狗の娘が戻って来た。

 

「この土地の話についての話ですが...」

 

 了解は貰えたのか、貰えなかったのか。全てはこの娘の次の一言で決まる。

 

「一つを此方からの要望をのんでくれれば、許可してもいいとの御達しが降りました。」

 

 そんな私の張り詰めた気持ちはあっさり霧散した。

 え、そんな言うこと一つ聞くだけでいいのかな?...あ、要望の内容にも寄るのか。

 もし、『山の住民との一切の交流を禁ずる』などと言われたら40億年近く待ち焦がれた希望が遠のいてしまう。

 どうかそれだけは許して欲しい。

 

「要望の内容ですが...そのですね...」

 

 ...気のせいかな、何だか困ったような、呆れたような表情をしている気がする。

 若干のタメと溜め息を経て、白狼天狗が要望の内容を口にする。

 

「此処の山の鬼の四天王の一人が少しばかりの手合わせを頼みたいと仰られまして...申し遅れましたが、勝ち負けに関しては問題ないそうです。唯自分より強い奴と闘いたいだけらしいので」

 

 どうやら、杞憂で済んだみたいだ。それにしても手合わせかぁ。今までずっと一人きりだったから、どれくらいの実力があるかも確認しておきたいな。

 それにしても、何でこの娘はこんなに疲れたような表情をしているんだろ。

 

「...はぁまた私達が後片付けをしないといけないんですね...あの人毎回全力だから周囲を気にしなさすぎるんですよ...」

 

 少し気になっていると、死んだ目でボソボソとそう呟いているのが聞こえてきた。

 ...上司に参ってるのは上下関係がある限り、どこでも同じらしい。

 

「はぁ......手合わせの場所ですが山頂で、今すぐやりたいとのことなのでついてきて頂けませんか?」

 

 特に断る理由もないのでコクリと頷いた私は、会話と言う名の愚痴を聞く代わりに、山についての詳しい説明や『楓』と言う名前などを聞き出しつつ、山の頂上へと案内されるのであった。

 



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どうやら鬼とのタイマンらしいです。

お久しぶりです。先ず始めに、様々な諸事情により執筆活動に取り掛かれなかったことをお詫びしたいと思います。これからはこのような事が無いよう、頑張って行きますのでどうかこれからもこの小説を読んでくださると幸いです。

再開に当たり、2話の内容を大きく変えました。お読みいただけると幸いです。



 地上からは楓さんと同じ白狼天狗達や淡い青色の服と緑の帽子を被った河童達、空からは筆と紙の束を握った烏天狗達といった何処かで見た覚えのある山の住民達を尻目に、山を登る事数時間。

 三十分程にして吐き出す物を出し切ったのか楓さんの愚痴もすっかりとなりを潜め、ほんのりと秋めいた木々がひしめくばかりだった変化の無い光景は突如、拓けた土地に姿を変える。その広さはサッカーをするには少し小さいが、野球なら十分と言った面積を持っていた。

 広場と言って差し支えない山の頂上付近に突き出た台地の周りには、いつの間に情報を得たのか天狗の記者や様々な種族が入り交じった野次馬達が既に陣取っている。

 その中央にて待ち構えていたのは、一本の長い角を生やし、銀杏の色合いを彷彿とさせる髪を腰まで伸ばした旧製の運動着姿の女性。

 運動着という時代に似合わぬ締まらない格好だが、その気迫と特徴的な角からは彼女が力の強さを自慢とする種族である鬼であることが容易に解る。

 その女性は私を数秒じっと見て、何か納得したような顔をし、

 

「来たか...自己紹介なんて野暮ったいもんは置いといて、さっさとおっ始めようぜ......来な...!」

 

 それだけを言って腰を低く落として、戦闘の態勢を整えた。

 

 それに習って私も構えを取るが、恐竜やら獣等を今まで相手にしていた為、対人に関しては未だ素人なので私の構えは見様見真似の付け焼き刃でしかない。ただ、相手はこちらの初撃を見るようで、今は全く動きを見せない。

 初撃を受けてこっちの力量を推し量ろうというところか。なら、こっちも本気で行くべきだろう。

 凡そ二十米の距離を三歩で詰め、渾身の右のストレートを放つ...はずだったが、

 

「――っ!」

 

 致命的とも言えるだろう。私は攻撃の瞬間、無意識に力を抜いてしまった。

 前世では喧嘩の一つもした事がないのもあり、初めての対人戦で躊躇してしまった。何だか初めて動物を狩ろうと恐竜を相手にした時も同じミスをした記憶がある。やはりそう簡単に(性格)は変わらないのだろう。

 既に私は攻撃を止められた後、如何に素早く防御に移れるかを考えていた。

 私が多少力を抜いたところでその威力は相当の強さであると自負しているが、相手は伝説に語られるあの鬼だ。力比べで勝てるとは到底思えない。

 

 

 

 ――そう思っていた時期が私にもありました。

 

 いつまでも防御をされた時の衝撃が来ないことを疑問に思い、ふと意識の海に沈みかけていた思考を現実に引っ張りあげると、四天王と呼ばれたはずの鬼が周りにいた野次馬の中に吹っ飛んでいく姿が見え、私は思わず右腕を振り切ったまま固まってしまった。

 

どうやら私は自分の予想以上に力があるらしい。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 口に溜まった血を吐き出して、心配の声を掛ける部下達を制し、目の前の白い少女に再び目線を向ける。試合前に見た時は私と同じ程度だった妖力が、明らかに増えている。

 成程、楓から相当の強さだとは訊いていたが、本来の強さを隠して生活してたみたいだな。こんな近場に私以上の強さを持っているかもしれない奴が住んでんのかと思ってたが、妖力の扱いは相当のものみたいだな。まさか私以上の力が出るとは思ってなかったけどな。

 ...何故だか殴った本人も驚いてる気がするが。

 唯、これ程の力を持っている癖に動きは素人同然。まるで初めて他人と闘ったみてえな、違うな。技術を磨く必要がなかったってとこか?

 まあ、今目の前の勝負には関係無い事。今すべき事はこの闘いを全力で楽しむ事よ。

 そうと決まれば攻撃有るのみってねえ!

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 最初の一撃以降相手も本気を出したらしく、嵐のようなラッシュを放ってくる。実際、一撃一撃に風圧が伴っていて危険極まりない。

 私の頭の回転の速さのお陰で躱すことこそできているものの、攻勢に移ることが出来ずにいる。力こそこちらの方が上だが、なにしろこっちは対人に関しては全くの素人。戦闘のいろははからっきしである。

 この状況をどう脱却するか考えている間にも右から左から殴打と蹴撃が舞い踊る。その暴力の嵐をなんとか躱し、ようやく一瞬の合間を見つけることが出来た。

 この機会を逃すまいと反撃の一撃をねじ込むが、最初の一撃の衝撃ですっかり萎縮してしまった私の一撃は簡単にいなされてしまい、カウンターの掌底を顎に貰うことになる。

 その掌底は鬼を吹き飛ばす力を持った強靭な身体に傷をつけることこそ出来ないものの、揺らされた脳は平衡感覚を失い世界が歪む。その直後、急に天地がひっくり返り背中に衝撃が走る。恐らく背負い投げだろう。歪んだ世界の中で無意識に地面を転がり勢いで立ち上がる。

 ぼやけた世界が元通りに戻る。自分の身体の回復の早さに自分で感謝しつつ、地面を這ってなお汚れの一つもなく真っ白な衣装の袖を振り牽制の為に火力の殆どを削った妖力弾を放つ。

 やっぱり、自分には技術が足りない。原因はよく分かる。今までは技術が無くとも力だけでどうとでもなったし、今放った妖力等の扱いに重きを置いていた。それ以外にも原因は多々あるが、最大の原因は間違いなく対人戦の経験が一切とないことだ。けど、今その事を嘆いても何も始まらない。

 

 ――なら、今ここで学習するしかない。幸い、動きを見切るだけの目とそれを実践出来る身体能力はある。そして、学ぶための例は最高のものが目の前にある。

 

 

 

 

 ――学べ、勝機はそこに或る。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「いやーほんっと、楽しかったよ!」

 

 そう言いながら、とんでもない度数の酒を浴びるように呑む目の前の鬼は先程、激闘を繰り広げた女性、星熊勇儀。

 

「あれだけ本気を出したのは何時以来かねぇ?全く、とんでもない速度で人の技を真似しやがってぇ。えぇ?」

 

 帽子を脱いだ私の頭を撫でて揶揄う勇儀と私の周りでは新しい山の住民を歓迎する妖怪達が食べて呑んで騒いでいる。

 ここは山の頂上から少し降りた屋敷の中の宴会場。今回は闘いを終えた私と勇儀を主役とした宴会を開いている真っ最中である。

 といっても私はこの身体になるより前ですら酒を呑んだことの無い身。だから会場の中央を離れ縁側で月を眺めていたのだが、私と話をしに先程勇儀がやって来たのだ。

 

「もーやめて下さいよぉ、私のほうが年上なんですからね」

 

「いやなぁ、確かにその妖力なら私よりも年上なのは納得なんだが、流石に40億近いとなるとどうにも実感が湧かなくてなぁ」

 

 昨日の敵は何とやら。あの闘いを終えた私と勇儀は親友のような間柄になっていた。まあ、これからも何度か本気でやり合おうと約束を取り付けているのだけど。

 まだまだ学べることは沢山あるし、将来人を攻撃しなければならない時に躊躇する訳にもいかないだろう。

 

「そういや、まだアンタの名前を聞いてなかったな。なんて名前なんだ?」

 

 思い出したように尋ねた勇儀の質問に困惑してしまう。

 

「えっと...今までずっと一人だったからまだ名前は無いんだよね」

 

「おっと、そういやそうだったな。...なら今決めればいいんじゃないか?」

 

 名前かぁ。今後は山の住民との付き合いもあるし名前が無いと何かと不便かな。でも自分で決めるとなると迷うなー......そうだ!

 

「私はちょっとイメージ湧かないから、勇儀が付けてくれない?」

 

「いめえじ?なんだそら。っていやいや、他人に名前付けて貰うのはやめとけ」

 

「?なんでですか?」

 

 勇儀ならいい感じの名前付けれそうなのに。

 

「名は体をあらわすって言うだろ?特に妖怪は名前の影響受けやすいんだよ。だから自分がどう生きて、どういう意志を持って行きたいかが名前で大方決まるから、極力自分の家族がこうあって欲しいって付けたり自分自身で名前付けんのがいいんだよ」

 

 そっか、どう生きて、どんな意志を持って行きたいか、ね。そうだなぁ、

 

「私は...私は、今までの一人きりの時間を取り戻すくらいに世界と...皆と楽しくしたいかな」

 

「ふふっ、そうだな。何か妖怪らしくはないけど、アンタらしいな」

 

「あっ、今笑ったなー」

 

 私は勇儀が笑ったことに若干の不服を申し立てつつ、生前遊びの代表にまでなった、ゲームの中でも遊びを極めた存在を思い出す。ゲームの全てを遊び尽くす、ツールを用いた人達の総称。Tool Assisted Speedrun又はSuperplay略してTAS。正体不明にしてその正体は諸説あるが、一説にはロシア人の金髪幼女とも言われる。

 なんの因果か私の姿もロシアの民族衣装のコサック帽に近い物や防寒具を着て、金色の髪を持っている。

 それなら、遊んで遊んで遊び尽くすために、遊びを極めた遊び人の名前を使わせてもらおう。

 

「......ツィール・アステード・ラプレイン。私は今日からそう名乗ることにする」

 

 並び替えただけの適当な言葉。だけど、意味を持った私の名前。

 

「そうか、いい名前だ」

 

「あ、ありがとう」

 

 勇儀の心からの感想と今までと違う少女然とした笑顔に少し気恥しくなり、空を見上げると金色に耀く月と白く流れる天の川が綺麗私の瞳に映った。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、見つけましたよ!えーっと...」

 

「おっ楓か。こいつの名前か?それならついさっき、ツィールなんちゃらって名前に決めたぞ」

 

「へー名無しだったんですねぇ。唯、ついさっき決めたばかりの名前を忘れるのはどうなんですかね」

 

 ...出来ればしばらく静かにしてて欲しかったかな。雰囲気ぶち壊しだよ。

 

「ツィールさんは呑まないんですか?」

 

「えっいや、お酒はまだ呑んだこと無くて」

 

 酒に呑まれるって言われるくらいだからなんだか飲む勇気が出ないと言うか...

 

「いいじゃねえか、ほら何事も挑戦だって」

 

 そう言いながら私の肩を押さえつける勇儀の手には、大分キツイ匂いのする徳利が握られている。

振りほどこうにもまだ力の加減がつかないこの身体では下手をすることも出来ない。

 

「ほら、一気に行ってみろ。大丈夫大丈夫、水みたいなもんだ!」

 

「そうです。最初は不味くてもその内、美味しくなってきますから!」

 

 それ二つとも酒呑みの自論だから。大概ダメなやつだから。

 あっ、何だか酒の匂い嗅いでたら頭がふわふわしてきた。本格的にヤバいやつだこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の事を自分では覚えていないがどうやら私は妖怪、それも頭に大がつく強さにも関わらず、その辺の弱小妖怪よりも酒に弱いらしい。そして酔った時は男女構わずベタベタと甘えにいくとのことだった。

 これを酒を呑まない理由と勘違いしたのか勇儀と楓ちゃんが謝りに来たが取り敢えず気にしないでと言っておいた。

 

 




うちの子裏設定その1

 今回飲まされたお酒は鬼のお酒ということもありますが、主人公ちゃん改めツィールちゃんは現世の缶ビール一本で顔真っ赤になる程度の弱さです。クソザコ。


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どうやら幻想の世界の始まりらしいです。

 お久しぶりです。今回は一気に時間が飛びます。それぞれのキャラとの馴初めは番外とかでやりたいと思います。
 月組さんやら神様達との絡み期待してた方々は申し訳ありません。



 普段通りの一日を送っていたある日、私は不意にある力に気付いた。

 

 “遊びを極める程度の能力”

 

 それが私の能力として現れたのだ。

 能力の内容は名前の通り。遊びを極め、遊びの中でならどんな結果でも引き出す事が出来るというもの。私は最初に実験の為、有志を募って一緒に色々な”遊び“をしてみた。

 

 

 ――まず、サイコロ勝負では私の予想する出目が外れることは一度も無かった。

 

 次に行ったかけっこでは、遮る物など無いかのように木やら家やらのありとあらゆる障害物をすり抜け、天狗のスピードもお構いなしに、ぶっちぎりの1着。

 

 その他、後ろ向きに走る、平然と瞬間移動をする、当たり判定を消す。

 

 どうやら、私が遊び感覚で何かを始めたり、一般的には遊びとは言えなくとも、途中で楽しくなったりするといきなり生物構造や物理法則に喧嘩を売ったような動きが起こるようで。

 

 ―――まるでTASさんのような力。

 

 名は体をあらわすといういつかの勇儀の話は本当だったのだろうか。

 ついには過程をすっ飛ばして結果だけを実現させる(デバッグルームを呼び出す)など世界を改変する行為までやってのけてしまい、頭が痛くなる。

 

 理論上の最速。もしくは、変態挙動を以て数々の偉業(異形)を縦とした存在の体現。

 

 私は名前の由来となった者と同じ力を手に入れ、遊びを極めた(TASさんとなった)のだった。

 

 まるで万能のような能力を手に入れたが、多少の制約はあり、四五六賽を何度振っても1、2、3は出ないように、100%と0%の確率は変えられない。

 それでも、起こりうるものであれば宇宙の法則さえも変える程の能力。一歩間違えてしまえば何が起こるか分からない。

 が、それ以上にもたらす力は大きい。いざという時に使えるくらいにはしておきたい。

 

 ......デバッグルームは本当に危険な時以外は使わないようにしよう。下手したら世界が崩壊しかねない。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 時の流れは早く、江戸と呼ばれた時代も終わり、明治と言う時代が始まった頃。

 

 ツィールの能力が発現したあの時から能力を自在に扱える程度には月日が経った。同時に、その長い時間の中には数々の出来事もあった。

 どっちが本来祀られていたのかいまいち分かりづらい二柱の神が興した巨大な都を見つけ。呪いを振り撒く妖怪桜を封印し。月の民に戦争を仕掛けたりもした。

 

 同時に、数々の出会いがあった。

 彼女はもう、一人の寂しさに縮こまる必要も無い程の友に囲まれている。

 

「.........貴方ねぇ、あの気持ち悪い移動をいい加減辞めなさいよ」

 

「自分の能力を使って何が悪いんですか、そっちだって能力使って楽してるじゃないですか」

 

 唯、友人が増えるという事はその分衝突も増える訳だが。

 

「貴方のは他の妖怪が怖がるのよ!」

 

「あなたのも目がギョロギョロしてて怖いじゃないですか!」

 

 声のボリュームはドンドン上がり、罵詈雑言の嵐か吹き荒れ、互いの言葉はそれに比例するかのように稚拙なものになっていく。

 けれどもここは家主の許可無しには入れない結界の中にある、現の者に隠された幻想郷の中で更に隠れた場所。そこで口論を交わす二人のインチキ能力者を止められるような者はいない。

 

「どう思いますか!藍さん!?」

 

「えっ」

 

 そんな中自分には関係のない事、と巨大台風からこっそり逃げ出そうとしていた一匹の妖狐もツィールからの問答によって争いの渦中に巻き込まれる事となった。

 

「そ、そうですね能力を使っているという点ではどちらも同じですし......問題は無いかと...」

 

 胡散臭い妖怪――八雲紫を主とする妖狐――八雲藍は従うべき主人の意見を肯定することなくあくまで中立、と言うよりか若干ツィールに寄った意見を出した。

 

 哀れ紫。だが、一年の半分以上を冬眠して過ごし仕事の大半を藍に押し付ける主人と、訪れる度菓子折りを渡してくれて仕事まで手伝ってくれる客人とではどちらに付くかは一目瞭然である。

 

「...チッ、まあいいわ。今回貴方を呼び出したのはこんな事じゃないの」

 

 さっきの話は終わりと言わんばかりに放った紫の言葉によって客間の雰囲気が引き締められ、自然と皆が口を閉じ、紫の次の言葉を待つ。

先程のような事があろうと彼女は幻想郷を束ねる賢者の一人である。当然カリスマ性はその辺の妖怪と比べ頭一つ抜きん出ている。

 

「...幻想郷に新たに結界を敷こうと思うの」

 

狐と白いのの二人の目線を独り占めしながら紫が口をゆっくりと開く。

 

「それは、今ある結界とはまた違うものですか?」

 

 幻と実体の境界。それが現在幻想郷の周囲に張り巡らされており、その効果は幻の存在を引き込む――ざっくりと言えば妖怪や神仏の類が結界内に入りやすくなる――といった代物で、過去に人間の勢力が強まった時に外界から妖怪を呼び込もうという目的によって作られたものである。

 

「当然だけどそうなるわね。知っての通りここ最近、妖怪や神仏の力が弱まってきているの。原因は恐らく人間が幻の存在を信じなくなっている事ね」

 

「つまり、『幻の者達を守る為の結界』を作ろうって事ですか」

 

 人を糧に生きる妖怪達は、人々に存在の否定されると力を失っていき最後は消えてしまう。つまり、人々が知恵をつけて妖怪の仕業と畏れられてきた物が科学的に証明されてしまった時、荒唐無稽な話だと鼻で笑われるようになった時、妖怪は死んでしまう。その為、一見格下の人間に自身の存在を肯定してもらう事が必要になるのだ。

 

「ご名答よ。今日は貴方に新しく作ろうとしている結界の仕組みについて意見が欲しいの」

 

「意見ですか、紫の作る結界に私が意見を出せる様なところも何もなさそうですけど...。仕組みはきまってるんですか?」

 

「そうね、具体的な形までは決まってないけど、おおよその形としては、幻想郷を世界から切り離して、そこに今までの結界も利用して、妖怪達とまだ妖怪達を信じている人々を結界の中に呼び込むって感じかしら」

 

「殆ど決まってるじゃないですか...ただ、それだと妖怪達の数と妖怪を信じている人の数の差が大きすぎて食糧難が起きそうですね...」

 

「あ、そこは藍にスキマでその辺の死体でも取りに行かせるわ。それで人里を正式に人々の安全地帯にしつつ、人と妖怪の均衡を保つって形よ」

 

「!?」

 

 当然のように雑事を押し付けられた藍。堪らず抗議の声を上げるも彼女の主人は何処吹く風で取り付く島もない。よよよとくずれおちる藍を横目にツィールは今度お稲荷さんを作ってこようと決めた。

 

「どうかしら。勿論、まだ粗が多い所もあるし、この結界が未来、誰も妖怪を信じなくなった時に万一破壊されれば沢山の妖怪達が犠牲になるわ。だから、前の結界よりもうんと強い結界を作らなければ駄目なの。もし、その時が来たなら是非、貴方にも真の幻想郷を創る者達――そうね、賢者とかでいいかしら。その一人として手伝って欲しいものね」

 

「賢者...ですか。それはちょっと...」

 

「貴方も少しは上の者として相応しい肩書きを持つべきよ。大体、貴方は山の妖怪達からも十分な信頼と実力があるのよ。あんな多種多様な妖怪達の殆どに信頼される、並の妖怪には到底出来っ子ないわ」

 

 ツィールの線の細い白い顔がほんのり紅くなるのを見てここぞとばかりに紫がツィールを褒めちぎる。

 

「そう言う紫様ももう少し仕事をサボらなければ部下にももっと尊敬されると思いますけどね」

 

 しかし、今度は藍が先程仕事を押し付けられた仕返しとばかりに紫を窘める。

 

 そして、それを皮切りに始まった、紫とその式の喧嘩を呆れたように眺めるツィールの表情にほんの少しだけ幸せそうな笑みが浮かんでいた事に気付いた者はいなかった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 その日、私は何時もの様に家の植物達の世話をしていた。もう、私が知っている作物は河童達だけで栽培できるようになったので、作物を育てる必要はないけれど、長い間色々なものを育てる内に、愛着が湧いてきてしまったのだ。

 

「ふう、今日の予定は特に無し、と」

 

 あの後、結局紫に根負けして賢者の一人になったけれど、私は今までの生活となんら変わらない日々を送っていた。

 

「うーん、人里の茶屋にでも行こうかな?」

 

 この時代の人里はまだ妖怪の立ち入りを禁止しているのだけど、私は立ち入りを許可されている。

 紫に話を聞いても何も話さないけれど、いたずらが上手くいった子供のような顔をしていたから、彼女が手回ししてくれたんだと思う。

 普段、彼女は胡散臭いだのなんだの好き放題言われている。が、実際は半ば無理矢理賢者の役職を押し付けてた事を悪く思っていたので、何時だったか話した私の前世の事を思い出してちょっとしたプレゼントにした、ということらしい。(PN.九尾さんからの情報)

 

 そう言えば最近贔屓の団子屋の前に蕎麦屋が出来たとか。団子屋さん蕎麦屋に客とられたって泣いてたなぁ。あそこの団子美味しいのに...あ、思い出したら食べたくなってきた。今日は団子屋にしよう。

 

「こんにちはー!文屋でーす!」

 

 あ、文屋の烏天狗さん。そっか、今日だっけ

 

「はーい、これ今月の分です」

 

「毎度あり!今後も御贔屓に!」

 

 ひとまずこれを読んでから団子屋行くことにしよう、楽しみは後に取って置くのが一番だ。

 

「えと、『遂に博麗大結界敷設へ』『川に河童現る、正に河童の川流..."博麗大結界"?」

 

『そうそう、ツィール。博麗大結界を張る日は形だけでもいいから来て頂戴。流石に賢者が出席して来ないのはほかの妖怪に格好がつかないわ』

 

 あ、そういえばいつだったかに紫がこんなこと言ってたっけ。

 

「今日だったんですか...。やっぱり新暦に慣れた記憶だと旧暦は馴染みづらいですね...団子屋は明日かぁ...」

 

 少なくないショックを受けながら、私はいつか紫に団子を奢ってもらおうと心に決めつつ(八つ当たり)、辺りを見回す。適当に見つけた次元の隙間に飛び込んで地面をすり抜け、地中の当たり判定に体を滑り込ませ地面の判定が自分を押し出すのを利用しを滑るように移動。するとおよそ5秒で、

 

「お待たせしました!」

 

 現地に到着。予定の八分前、常識の範囲内かな?

 

「いらっしゃい、移動の仕方こそあれだけど貴方は時間は絶対守るタイプだから気楽でいいわぁ。他は呑気なのばっかりで纏めるのが大変なのよね」

 

「はは、大変ですね...」

 

 ほぼ一月分遅刻しそうでした...なんて今更言えないなぁ...。これ以上心労をかけると紫の性格上ろくな事にならないし。

 

「はあ...ホント大変よ。...全く、漸く来たわね。遅いわよ!」

 

 しばらく紫の愚痴を聞いた後、やって来た二人目に苦言を呈す紫。私たちみたいな長生きのめんどくさいのを今まで纏めて来ただけあって、まだ予定の五分前にも関わらず真面目だ。

 ...普段からそれだけ真面目ならもう少し藍さんにも尊敬されると思うんだけどな。

 その後も、賢者たちがやって来る度に注意するが、他の賢者のだれも紫の口撃を真に受ける人はいなかったけど、なんとか全員遅れることなく集合を果たす。

 

 最後に紫の背中から出てきた隠岐奈さんへの説教をとうとう諦めた紫が一言。

 

 

「――じゃあ、始めるわよ」

 

 

 たった一言。だが、それだけで周囲の雰囲気が引き締まり、結界を張る為の儀式が始まり、

 

 

 

 遂に幻の者達の幻想郷が完成した。

 

 




 久々で書き方が変わってたり、話がグダグダってなってたらご指摘お願いします。
 それと、設定等原作と違う点もあるかもしれませんがどうか目を瞑ってくださるようお願いします。


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