ドゥンケルハイト・トップ (サバ缶みそ味)
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プロローグ こぼれた闇鍋

 やりたくてやった 超反省しています‥‥

 主人公キャラは4人です


 時は西暦2138年。

 

 数百年前に子供達に大人気だった不思議なポケットを持つタヌキかネコみたいなロボットの漫画にあったようなハイテクで光あふれる明るい未来‥‥とはかけ離れた世の中。

 

 環境汚染で空は霧に覆われ光を失い、海や川はドブの様に汚染され、人々はアーコロジーの中へと逃げて生活をしている。そのせいか政治と治安、統治、秩序が崩壊し裕福層と貧困層に二分されてしまい、殺伐とした社会に変貌してしまった。

 

 そんな世の中でも俺こと月山浩介は今を弱音も愚痴も吐かずに死に物狂いで生活をしている。なんせいくら下を見たってきりもないし、そんなことをしている場合ではないのだ。生活を続けるためにも今を、明日を見て生きなければならないのだから。

 

 しかし、尽きる事の無い労働でやつれていく人々にも救済があった。それは娯楽だ。

 

 巨大複合企業が制作したDMMO-RPGというものだ。その中でも爆発的な人気を誇り、日本は勿論世界中に注目を浴びたのは『ユグドラシル』。人間種、亜人種、異形種と700もの豊富な種族に、2000を余裕で超える職業、好きなアバター作成はおろか数えきれないほどの魔法や技‥‥と底を尽きないゲームだ。

 

 そして何よりも人気だった理由は仮想世界内で現実にいるかのように遊べる事だ。好きなキャラになりきり、ある時は冒険、ある時は戦闘、ある時はビルド、と非現実的だが未知で魅力的なゲームだった。

 

 

 そして今、俺はそのユグドラシルをプレイしている真っ最中だ。

 

 猛毒の状態異常を与える紫毒の毒沼の奥地にあるグレンデラ沼地にある遺跡跡地みたいな場所で突っ立っている‥‥否、観戦をしている。

 

 視線の先には遺跡跡地の入り口の前で超位魔法を絶え間なく放ち続けている大魔法使いチックな黒い装束の骸骨ことアンデットとそのアンデットが放った魔法を龍の頭が付い盾で防ぎ、金色の斧で弾き返している半裸筋肉鉄仮面の激戦を繰り広げているのだ。

 ある時はアンデットの放った魔法が直撃し、ある時は半裸筋肉鉄仮面が接近して金色の斧の一撃を与えたりとどちらも引けを取らない死闘をしている。ここで助太刀するのは野暮だし、あの二人には失礼だ‥‥が、半裸筋肉鉄仮面の体力が半分に達した。勝負ありだな。激闘の真っ最中に水を差してしまうのは悪いが止めないと。

 

 片手にノコギリナタ、片手で防壁魔法を展開して二人の間へと一気に駆けだす。

 

 

_

 

「はい、そこまで」

 

 放った朱の新星<ヴァーミリオンノヴァ>を幻想封殺<イマジナリーキャンセラー>で打ち消され、目の前に振り下ろそうとされていた金色の斧をノコギリナタで止められた。勝負を割り込まれたことに一瞬驚いたが、決着がついたことに気づいて冷静になった‥‥のだけど、あっちの方はカンカンに怒ってるみたいだ。

 

「おぉい!?ブラッド‼なんで止めやがる‼」

「言っただろ、アダー。どっちかが先に体力半分になった方が負けってルールだって。そんで決着がついた。モモンガさんの勝ちだ」

 

 そうだった。『どっちかが体力半分になったら負けな!』と決めての勝負だった。久しぶりの激戦だったからついつい夢中になっちゃったよ。

 黒く尖った帽子を深くかぶり、口はマスクで隠れ、薄汚れた黒緑のコートを着た男性‥‥ブラッドさんは嬉しそうに頷いた。

 ブラッドさんは異形種アバター『月の魔物<ムーンビースト>』のグレートハンターだ。かつて数百年か前に流行っていたゲームのキャラクターをモチーフにしているらしい。モチーフ元となったゲームのコラボイベント『血月闇魂・心折迷宮』とかいうイベントが開かれたくらいだ。

 

「流石モモンガさんだ。やっぱり強いなー」

「いやいやそんな、俺の魔法の発動が遅かったらアダーさんの勝ちでしたよ」

 

 お世辞ではなくホントに一手一手を慎重に見極めなければならない戦いだった。一歩間違っていたらあの金の斧<ゴールデンアックス>の一撃を諸にくらっていただろう。角のついた鉄の兜をかぶり、逞しい筋肉を見せる大男ことデス・アダーさんは駄々をこねる子供の様に仰向けでジタバタしだていた。

 

 デス・アダーさんは異形種アバター『半魔巨人<ネフィリム>』のヘルタイラントだ。

 

「ねーもう一回勝負しよー!もう一回やろー!も゛っ゛がい゛‼」

「おバカ。そんなする時間はないっての」

 

 ブラッドさんは駄々をこねる子供を叱る親のようにビシッとデス・アダーさんを叱る。ブラッドさんの言う通り‥‥もう時間がないのだ。

 

 かつて大盛況で栄えていたユグドラシルは時を流れるにつれプレイヤーの数が減っていき、過疎状態に。そして今日この日をもってユグドラシルは配信サービスを終了し幕を下すのであった。

 

「‥‥この日まで、このアインズ・ウール・ゴウンに最後まで真剣に付き合い、挑んでくれたのはアダーさん達だけでした」

 

 ユグドラシルで異形種狩りによるPKが多い中、異形種で結成されたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』と同盟を組み、理解してくれたのはアダーさん、ブラッドさん達の亜人、異形種で結成されたギルド『ドゥンケルハイト・トップ』だけだった。

 時にイベントや最難関ダンジョンを協力して攻略したり競争したり、時に攻防を繰り広げたり‥‥そして1500人のプレイヤーによるナザリック襲撃時は救援に駆けつけてくれたりナザリック内の修理復興に協力してくれたりした。本当にアダーさん達には感謝しています。

 

「毎日にナザリックに遊びに来て、一緒に冒険したり‥‥ギルドメンバーが次々と去っていく中でずっと付き合ってくれて嬉しかったです」

 

「ややや、モモンガさん頭を上げてくれ。後生の別れじゃないんだからさ」

「ブラッドの言う通りだぜ。ユグドラシルが終了してもまだまだ遊べるゲームはある。今度は俺達で新しいギルドを立てて、ナザリックのような‥‥いや、ナザリックを復活させようぜ!」

 

 

 ブラッドさん、アダーさん‥‥本当に、本当にありがとうございます‥‥

 

「っと、ヘロヘロさんがログインしたみたいです。会いに行かなきゃ」

 

「そっか‥‥俺達もそろそろギルドに帰ろうか」

「おう。もしかしたら俺達のメンバーもちゃっかりログインしてるやも‥‥そだ、モモンガさん。来週にアインズ・ウール・ゴウンの面子とドゥンケルハイト・トップの面子でオフ会をやるんだぜ」

 

「えっ!?」

 

 アダーさんが豪快に笑いながら告げた言葉に驚愕した。俺の知らない間にそんなことが行われるようとしていたのか。するとブラッドさんが慌ててアダーさんを叩く。

 

「ちょ、アダー‼それはモモンガさんへのサプライズプレゼントにしておくはずだったろ!?」

「いいじゃねーか、勿体ぶってちゃ面白くねえし。だからさモモンガさん、楽しみに待っとけよ?なんとサプライズゲストにたっry」

「わーわーわー‼それ以外の言ったらサプライズにならないでしょうが‼」

 

 ブラッドさんが物凄い速さで沈黙の怨念<サイレントヘル>をアダーさんにかけた。喋ろうとしたアダーさんは沈黙状態になって喋れなくなった。ど、どんなサプライズなのか少し気になるがここは楽しみに待つことにしよう。

 

 

「じゃ、じゃあそゆことで‼モモンガさん、また今度会おうね!」

 

「は、はい‥‥ブラッドさん、アダーさん、また会いましょう」

 

 ブラッドさんとアダーさんはマジックアイテム『キマイラの翼』を使ってギルドへと帰っていった。俺もヘロヘロさんのもとへ行かなきゃ。

 

 あの人達のおかげで毎日が楽しかった‥‥かつての盛況を誇っていたアインズ・ウール・ゴウンの時の様に‥‥そうだ、楽しかったんだ‥‥

 

___

 

「いやー‥‥ずいぶんとうちの所も過疎っちまったなー」

 

 アダーと俺は俺達のギルド『ドゥンケルハイト・トップ』拠点である針山の山脈の奥地にあるギルドホーム系ダンジョン『ルルイエ地下迷宮』の中の最下層にある『逢魔の王間』というギルメンの悪ふざけで作った場所でかつての頃を懐かしんでいた。

 

「ここにいるとあの日々を思い出すな‥‥」

 

 ここでダンジョン攻略の会議を開いたり、悪ふざけをしたり、ガチの喧嘩をしたり‥‥泣いたり笑ったりと色んな事があった。メンバーが増えた日もあれば、去った日もあった。

 

「なあ、ブラッド。まだやってない事があるんだが」

「うん?何かやり残したことでもあるのか?」

 

 ふとアダーが言い出して来た。何かやり残したことがあるのかと俺は首を傾げるが、アダーは王間の隅に立っている長い金髪で白いドレスを着たナイスバディのNPCをマジマジと見ていた。

 

 このNPCはセブンミッドナイトさんが作ったアルク・スカーレットムーンと名付けられた『死祖<オリジン・ヴァンパイア』であり、各階層の守護者統括を務めるルルイエ地下迷宮のNPCの中で最強の魔力を持つ。

 

 

 そんなアルクをアダーはマジマジと彼女の谷間を見つめた後、俺の方に顔を向ける。鉄の兜で顔はよく見えないが、恐らくリアルでは気持ち悪い笑顔をしているのだろう。

 

「おっぱい触ってもいい?」

「このおバカがっ‼」

「あわびゅっ!?」

 

 

 聞いた俺がバカだっと後悔しながらアダーを思い切り殴る。ユグドラシルは18禁に触れるようなことはご法度。触れてしまえば運営に即アカウント削除されるのだ。

 そしてこのおバカことデス・アダーは本当は性欲の塊のド変態だ。ネカマだった殺生inさんや数少ない女性プレイヤーのひとりスキマムラサキさんにガチ告白した事もあった。内容はいきなり『子・づ・く・り♪しましょ!』と謳いだすくらい惨劇だったよ‥‥ほんとそれで通報もせずギルドを去らなかった皆の優しさも垣間見れたけど。

 

 

 というかこんなことしている間にもそろそろサービス終了の時間が近づいてきてた。ふざけてる場合ではない。

 

「もうすぐ終わる‥‥皆が一生懸命に作ったこのギルドも、NPCも消えちまうのは本当に申し訳ないな」

「しゃーねえって。いずれ訪れる日が来ちまったんだ。それに楽しかったんだからいいじゃないか」

 

 アダーは笑いながら背中を叩く。ダメージ入ってるんですけど。だけどアダーの言う通り、楽しかった。この日々は忘れることは無いだろう‥‥

 

 

「ありがとな、アダー‥‥」

「こっちこそ。リアルでも遊びに来いよ?おっ、カウントダウンに入ったぞ。ブラッド、最後にあれやろうぜ?」

 

 アダーは金の斧<ゴールデンアックス>を掲げ、俺はその意図に頷いてノコギリナタを掲げる。二つの刃がぶつかりキンッと火花を散らして音を響かせる。

 

「「ユグドラシル万歳!ドゥンケルハイト・トップ万歳っっっ‼‼」

 

 

 そうだとも。このゲームが終わったって、俺達の『ドゥンケルハイト・トップ』は永劫に不滅だ。ずっとずっと思い出はこの胸の中に‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あるぇ?」」

 

 

 ‥‥‥おかしい。もうとっくに次の日の時間帯になって、画面はブラックアウトするはずなのに一向に変化がない。インテリアで置かれた時計は動いている。さ、サービス終了と見せかけて『ユグドラシル2』でも始まったドッキリなのか?そう思い、運営のお知らせを見ようとしたのだが異変に気付いた。

 

「な、何だ…どうなってんだ‥‥!?」

 

 コンソールはおろかチャットもGMコールもそしてログアウトもできない。気づけば自分の声も変わっているし、感触もある。一体何がどうなっているんだ!?

 

「た、大変だブラッド‼」

 

 混乱している最中にアダーが大騒ぎしだした。何だろうかアダーがいつもより迫力というか気迫というか雰囲気が変わっている気がした。

 

「アダー、何か気付いたのか!?」

 

「俺のご立派様がいつもよりもすげえご立派様になっててマグナムマンモスみたいでやべぇ‼」

 

「ちくしょう聞いた俺がバカだった」

 

 このおバカのおかげか冷静になれた。勿論、すぐに殴ったけど。ゲームになかった人を殴るような感触やアダーが「ぎゃふん」と言ってのたうち回るように痛みがある‥‥俺達の身に何が起こったんだ‥‥

 

 

「あの‥‥ブラッド様、デス・アダー様、どうかなさいましたか?」

 

「「ほへ?」」

 

 突然かけられた声に俺とアダーはキョトンとして声のした方へと恐る恐る振り向いた。そこには先ほどまで微動だにしなかったNPC、アルク・スカーレットムーンが動き、心配そうな表情でこちらを見ていた。

 

 

「「しゃ‥‥しゃべったぁぁぁぁぁぁっ!??」」

 

 

 なんということでしょう。普段、喋ることのないNPCが声を発し、表情を持ち、会話をしてきたのだ。これはもう本当にただ事じゃあない。

 

 

 

 




 デス・アダー‥‥ゴールデンアックスというゲームに登場する敵キャラです。某動画のとあるごちゃ混ぜ格闘ゲームではブロッキングのヤバイキャラに。あと変態の暴君とか

 \コロンビア/

ブラッド‥‥みんな大好きブラッドボーンから。友達に進められてやってみたら初見はSAN値直葬に。でも楽しい。漁村はこわかったけど

 人形ちゃんかわいい



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1杯目 状況整理

「いかがなさいましたか‥‥?何か異常の事態が起きたのですか?」

 

 あっけらかんととられて何を言えばいいのか戸惑っている俺とアダーを見てアルクはさらに不安そうな表情を見せて詰め寄って来た。

 揺れる胸、かすかに聞こえる吐息、ルビーのように輝く瞳、仄かに香る艶めかしい香‥‥単純動作のAIを持つNPCとは思えない。そう、これは生を得て生きているように見える。

 

 いけないいけない、マジマジと見つめている場合ではない。これ以上戸惑っていても埒が明かない。

 

「‥‥俺もよく分からないが予期せぬ事が起きているようだ。アルク、すまないが第六階層『狂気山脈』の守護者シュマゴラスを大至急ここに来るよう呼び、各階層に赴き各階層の守護者達に警戒レベルを最大に迎撃態勢で待機。ミリタリヴァルキュリア達には第七階層『千年城』を守備するように伝えてくれ」

 

「なんと‥‥‼まさか私共が気づていないうちにその様な大事に‥‥守護者統括の身でありながらこの失態、どうかお許しください」

 

 

 いや、ちょ、大失態を犯して死んで詫びますと言うかのような深刻な表情になって膝をついて頭を下げられても困るんだけど。ていうかこんなことをしている場合じゃないってば。

 

「か、顔を上げてくれ。今は事態を収拾することに集中し、挽回してくれればいい」

 

「ブラッド様‥‥御慈悲感謝いたします。では即急に参ります」

 

 

 御慈悲を頂けたと暗かった表情が一変してやる気に満ちた表情になり、アルクは転移魔法である異界門<ゲート>唱える。何もなかった場所から突然紫色の大穴が開き、アルクがその大穴へとくぐっていくと大穴は閉じて何もなかった空間へと戻った。もう何が何だか、情報の整理が追い付かない俺とアダーはポカンとあんぐりするしかなかった。

 

「‥‥なぁにあれぇ」

 

 アダーの言う通り、もうそれしか言葉が出ない。AIでしかなかったNPCが意志を持ち生きているというのはわかったが、恐ろしいほどの忠誠心で逆にめっちゃ引いた。元々NPCはプレイヤーを守る為に設定されている物だから忠誠はあるのはしかたないが、あれはうん引く。

 

「あれは驚いたが‥‥けども魔法は普通通りに使えるみたいだな」

 

 コンソールが表示されないが、どういうわけかこれまで習得してきた技や魔法、消費するMPの量、使う感覚というのは全て頭の中に入っているようだ。

 

「NPC…アルクがあんなにも忠誠心MAXだなんてな。という事は頼めば触らしてくれる!?あのプルゥンプルゥンを触れるってことだよな!?」

 

「やめんかおバカ!」

 

 デヘヘと下衆そうに笑うアダーをジャーマンスープレックスで〆る。18禁に触れるような行為、ましてやセブンミッドナイトさんが3徹して設定したアルクはおろか他の方々のNPCに手を出すようなことはさせん。このバカが変な気を起こす前に止めておかなくては。

 

 そんな事をしていると今度は天井から紫色の大穴が開き、そこから緑色の触手がウネウネと蠢かしながら俺達の前に降り、現れた緑色の太い触手を持った赤い一つ目のモンスターは俺達を見るとペコリと一礼した。

 

「第六階層守護者、シュマゴラス。御身の前に、でシュ」

 

「うひょああああっ!?めっちゃ蠢いてる!?」

 

 ユグドラシルプレイ時よりも更にリアルに蠢く触手とおどろおどろしい姿に思わずアダーがギョッとして悲鳴を上げて驚いた。はて?そんなに驚くものだろうか。俺はちっとも恐ろしくも感じないのだが。

 

 ルルイエ地下迷宮は本来四階層までしかなかったのだが課金して増築及び改築した。その増築した階層の一つ、第六階層『狂気山脈』。Mr.ストレンジさん、殺生inさん、ブラックハートさん、アァマドニさんが作成設定した百年前ぐらいに流行していたクゥトゥルフというホラー系ボードゲームをモチーフにした階層である。

 その階層守護者である『古のもの<エルダー・シィング>』のシュマゴラスは時空間魔法が特化され、ルルイエ地下迷宮外の索敵や近づいた者の襲撃は勿論、階層侵入者を外へと追い出すことだってできる。

 

 

「ブラッド様、デス・アダー様、シュマゴラスに何か御用時でシュ?」

 

「ああ実はルルイエ地下迷宮に何か異変が起きたらしい…お前のスキル、千里の瞳<サウザンドアイ>でルルイエ地下迷宮の外の周り、全階層を隅々まで見てくれないか?」

 

「お安い御用でシュ!シュマゴラスの瞳にかかればコバエ一匹も見逃さないでシュよ!」

 

 シュマゴラスは意気揚々と胸を張って(いや胸と呼ばれる部分があるのかわからないけど)ギョロリと大きい瞳を閉じ、体が緑色に光る。どうやら千里の瞳による索敵を始めたようだ。

 

「なるほど‥‥スキルもしっかりと発動できると」

「なあブラッド、外は分かるがなんで各階層の隅図まで見るんだ?」

「もしかしたら俺達の他にメンバーがいるかもしれないと思ってさ」

 

 なんたってユグドラシル配信最終日だ。アダーと俺は他のメンバーにもその事を伝えていた。もしかしたら名残惜しさに顔を出してたり、忙しい身だけどもかつての事を懐かしんでコッソリ来てたりしていたかもしれない。そうだとすれば俺達と同じように混乱しているはずだ。

 

「でもよぉ、朝からログインして各階層を探したがいなかったじゃねえか。そう簡単に‥‥」

 

 

「うおわああああああああっ!?」

 

 アダーの話を遮るかのように誰かの悲鳴が響いた。お年頃な女の子の声のようだが、俺とアダーは顔を合わせてハテナと首を傾げた。それもそのはず、あんな声のする女性のメンバーっていたっけな?グルグルと記憶を探っているうちにその悲鳴は次第に近づき、逢魔の王間の扉が勢いよく開かれた。

 

「おおっ!?ブラッド‼デス・アダー‼大変じゃ!大変じゃぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 こちらに涙目で駆けつけてきたのは赤いマントを羽織った黒い軍服を着た腰までの長さのある黒髪の女性。その姿を見て俺とアダーは目を丸くし、驚愕した。

 

「の、ノッブ!?」

「ノッブ‼お前いたのか!?」

 

 ノッブは異形種アバター『魔人<デモン>』のシックス・デモンズキングだ。ノッブとはリアルじゃ俺とアダーと子供のころからの仲で、考古学者を務めている。そんなリアルじゃ背の高かったノッブさんが背の低い女の子に‥‥

 

「と、というかノッブ‼どうしたんだ!?」

 

「ぶ、ブラッド‼大変なんじゃよ‼オレに生えてるものが生えてなくて、オレに付いてなかったものが付いてるんじゃ‼」

 

「Oh‥‥」

 

 俺は思わず顔を片手で覆った。ノッブさんがスース―すると言って内股になるわ、胸をわしわしと揉みしだくわ見てられない。けどもアダーはデュフフと下衆そうな笑みを見せて手をワキワキしてた。

 

「へーそいつは大変だ!ノッブ、そのパイ乙が本物かこの俺が試してry」

「やめんかぁっ‼」

「ひでぶぅっ!?」

 

 力を込めたアッパーカットが炸裂。打ち上げられたアダーは天井のシャンデリアに突き刺さり宙ぶらりんになる。シュールな光景だが今はノッブを慰めなくては。

 

「の、ノッブ、気を落とすなって‥‥その‥‥そ、その姿も結構カッコイイぞ?」

「そう?じゃ、是非もないヨネ♪」

「切り替えはやっ!?」

 

 先ほどまでめそめそと泣いていたのが嘘の様に満面の笑みを見せる。ま、まあノッブ本人も『過去にアーサー王とか沖田総司とか歴史人物や神話の神様を女体化させたゲームが流行ってたし』と目を輝かせて言ってたもんな。本人は『その女体化した歴史人物になりきりたい』とかも言ってたし、嬉しそうにしてるし満更でもないようなので問題なさそうだ。

 

 ノッブの事から精神はこのままで肉体はアバターの姿になってしまったという事か。五感があるという事はこの姿で何処か別のところへ転移‥‥考えたくはないが異世界か何かへ転移したのか?

 

「というかノッブ、いつからいたんだ?」

「うーん、5時間前くらいかのう。個室で敦盛ロックに熱中してたから気づかんかった」

「そうだよな…ギタリストの職業も入手するほど好きだもんな…」

 

 大のロック好きだし、ギタリストとかいう超レアで特殊な職業を手に入れそれ専用の武器も作ってたっけかな。てか敦盛ロックてなんだよ。

 

「ノッブ、今度は俺に嬌声ロックを聞かしてくれる?」

「アダー。言っとくがオレは見た目は女の子、中身おっさんだからな?」

「くそっ‼そうだった!ブラッド、俺の夢を返せ‼」

「何で俺なんだよ!?」

 

「ちくしょおおおおおおっ‼‼」

 

 アダーと取っ組み合いしている途中で今度は渋い声が響いてきた。まさかもう一人、他のメンバーがいたのか‼そう思って3人で扉の方へ眼を向けて待っていたのだが一向に姿が見えない。

 

「ちくしょうなんてこった‼気が付いたらシャットダウンできねえし、毛むくじゃらの獣のまんまだし、低かった背が更に低くなっちまったじゃねえか!」

 

「「「???」」」

 

 喧しい程の声がギャーギャーと聞こえるのだが辺りを3人で見回しても何処にも姿がない。透明人間か不可視系モンスターのアバターってあったけかな?

 

「‥‥おいコラ。もしかして見えてねえってか?お前らの足下を見やがれってんだこのすっとこどっこい‼」

 

 声のする方へと下を見下ろす。俺達の足下に、ノッブよりも更に背の低いオレンジ色の宇宙服みたいなスーツを着たこげ茶色の毛むくじゃらの獣‥‥アライグマが二本足で立ち腕を組んで睨んでいた。そうこのアライグマが誰なのかもう見当がついた。

 

「ら、ラクーンさん!?」

「ほ、本当にラクーンさんなのか!?」

「俺じゃなかったら誰だってんだ馬鹿野郎。てかノッブ、お前そんな声だっけか?」

 

 見た目と反して渋く荒い雰囲気のラクーンさん…『狂った獣<クレイジービースト>』のレイダーだ。狂った獣のモデルが何故アライグマなのか。ラクーンさん曰く、噛まれたら100%死に至る病気を持っいるからだとか。

 

 しかしリアルじゃ俺達よりも年上のラクーンさんが俺達よりも小さい姿のアライグマに。本人は激昂しているのだがこれじゃただプンスカと怒ってるようにしか見えない‥‥

 

 

「「ラクーンさん、ちいっ‥‥」」

 

 俺とノッブは思った事そのまんま言おうとしたがラクーンさんの目が鋭くなったのにハッとなって途中で口を閉じた。ラクーンさんに小さいとか背が低いという言葉は禁句だ。自分の身長が低いことにコンプレックスを感じている。その身長が更に低くなっているんだ、言われたら間違いなくブチギレる。

 

「ちっさ‼ラクーンさん、メッチャちっさ‼」

 

 ラクーンさんにその事を伝えたアダー。その刹那、ラクーンさんのドロップキックがアダーの顔面に炸裂。アライグマにしばかれる巨人て‥‥なんかシュールだ。アダーからマウントをとったラクーンさんが虚空に手を伸ばす。すると異界門と同じような黒い穴が現れ、手が穴の中へ。そして戻って来たと思いきやラクーンさんの片手には自分の体よりも大きい銃が握られており、銃口をアダーに向けた。

 

「おいデカブツ…次俺にドス豆ドチビスケとでも言ってみろ、今度はそのドタマに大穴開けてやる‼」

「イヤイヤイヤ!?言ってませんって!?そんな事言ってませんって‼」

 

 流石のアダーも冷や汗をかいて何度も首を横に振る。ラクーンさんを怒らせたら収拾がつかなくなってしまう。急いで止めなくては。

 

「ら、ラクーンさん落ち着いてください。その…ほらアライグマ可愛いですし」

「あぁ!?ブラッドてめえも俺を小動物扱いしようってかゴラァ‼しばくぞ‼」

 

「ねえねえ肉球とかフニフニしてるのか?触らせて触らせて!」

「うるせえ‼ノッブてめえを肉塊にしてやろうか!?」

 

「そんな事よりはやく助けて!?」

 

 ああダメだこりゃ。もうどんちゃん騒ぎで止めらんないぞこれ。一回睡眠をかけ‥‥いや全員耐性ついてたよな。

 

「あ、あのー‥‥ブラッド様、デス・アダー様、ノッブ様、ラクーン様。千里の瞳による索敵はお、終わりましたでシュ‥‥」

 

 

 シュマゴラスは俺達がやんややんやと騒いでる中いつお伝えしようかタイミングを伺って待っていたようだ。シュマちゃん本当にスマン。シュマちゃんの鶴の一声のおかげか他の3人も冷静になった。

 

「それでシュマゴラス、何か変った事があったか?」

「各階層の隅々を見ましたが異常はありませんでしたでシュ。でシュが外の景色が変わっていたでシュ。ルルイエ地下迷宮の周辺は緑の山々に囲まれ、その数キロ先は西に赤茶けた荒野、南に湖、東に山脈が見られ、上空は第5階層と同じ星空が広がっており、月が見えますでシュ」

 

「「「「は?」」」」

 

 

 シュマゴラスの報告を聞いて俺達4人は気が抜けた様な声が出た。そんなばかな、ルルイエ周辺は本来は針の山に囲まれている。緑の山々という事は木々が生えているという事、つまりはルルイエ地下迷宮そのものが全く違う場所へと転移したことになる。本当に異世界とやらに転移してしまったのか。

 

「やべえ、メッチャ見てみてぇ。皆で見に行こうぜ‼」

 

 アダーが遠足を楽しみにしている子供のように大はしゃぎしだした。ノッブもラクーンさんも興味あるようで是非とも見てみたいとのこと。

 確かに俺も気になる、現実世界の空は暗いスモッグのような雲に覆われて青空も星空も見る事できなかった。せめてギルド内で見れるようにと第五階層の設定を担当した宇宙ゴリラさん、あんこく零二式さん、ハルカンドラさんが本や写真、絵を基に一生懸命に作ってたっけな。

 

「それじゃ決まりだな。今すぐ異界門<ゲート>で‥‥」

 

「お待ちくださいでシュ。外へ向かわれるのであれば共をつけた方がよろしいかと思いますでシュ」

 

 む…確かにシュマゴラスの言う通りだ。今は何が起きたのか状況も整っていないし、もしかしたら外は自分達はちっぽけな存在というようはハードな世界かもしれない。警戒しながら外へ出た方がいい。

 

「そうつれないこと言うなよシュマちゃんよぉー。そんじゃシュマちゃん、一緒に来てくれるかなあ?」

 

 先ほどまでリアルに蠢く触手にギョッとしていたアダーが酔っ払いの上司の如くシュマゴラスに肩があるのかわからないけど肩を組む。シュマゴラスは目をギョロギョロしながら戸惑っている。

 

「え、シュ、シュマで宜しいでシュか?」

 

「シュマゴラスが適任だろ。敵が襲撃してきたら相手を遠方へ強制転移させたり空間圧縮するスキルがあるし、危険だったら瞬時に退散できる。だから自信持てや」

 

「ラクーン様‥‥有難き幸せでシュ。ではこれより至高の御方々のお供をさせていただきまシュ」

 

 うん?至高の御方々て。滅茶苦茶畏まり過ぎじゃないか。いろいろとツッコミを入れたいところだが今は外が気になる。異界門を発動させ空間に大きく開いた大穴をくぐっていく。

 

 

 

 

 

 

 大穴をくぐったら、そこは満点の星空が広がっていました。透き通ったような夜空に小さな宝石のように爛爛と煌めく星々、深緑の木々の生えた山々、現実では絶対に見る事がなかった景色に俺達4人は開いた口が塞がらなかった。

 

 

「「「「‥‥まじか」」」」

 

 

 うん、もうそれしか言えないやこれ。




ノッブ‥‥モデルはFGOよりみんな大好きくぎゅうううの方。かわいい、カッコイイ、イケメンと3拍子で個人的に好きな英霊。初めて課金してまでも手に入れたいと思い幾人もの諭吉を生贄にして大爆死。夏の方は手に入ったけど


ラクーン‥‥モデルはアメコミのガーディアンズ・オブ・ギャラクシーより最強のアライグマ。映画の英語の方は迫力があったのに‥‥吹き替えの方はもっと荒い方が良かったような気が。アライグマだけに(オイ


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2杯目 探索選抜

「それじゃあまとめるぞ?結論から言うと俺達はどっか別の世界にまんま移転したということだ」

 

 満天の星空に呆気に取られて暫く呆然と眺めていたが埒が明かないので一旦逢魔の王間に戻って話し合うことにした。自分達が異世界にどういうわけかきてしまったこと、この世界がどんなものなのか若しくは自分達の他にプレイヤーが存在しているのか調べる必要があること、これからどうするか決める必要もあったりとやる事が山程ある。

 

「一先ず地盤を固めておかないと…今後の方針によって俺達だけじゃなく、残された守護者達も左右するからな」

 

 慎重に決めて行かなければならない。この世界が俺達にとって危険な場所なのか、足を踏み入れるだけの安全はあるのか、見極めなければいけない。するといの一番にアダーがドヤ顔で手を挙げる。

 

 

「パイ乙ハーレム王国を築き上げていこうと思います‼名付けて、水龍けry」

「却下‼」

 

 

 

 案の定、アダーの下心満載の提案はブラッドの怒りの鉄拳と共に玉砕された。まあ当たり前だけどね。アダーがふざけてブラッドがツッコミを入れる…この光景は相も変わらず。どんなに変わろうともいつもの二人だと安心した。

 

しかしこうもアダーがおふざけを繰り返していてはブラッドがやつれてしまう。そろそろ助け舟を出さなくては。オレ…いや、ワシ?うん、これから一人称はワシにしておこうか。ワシがやらねば誰がやる。

 

「まずは周辺の探索をしてみるのはどうじゃろう。この目で確かめておく必要がある」

 

 アダーにヘッドロックをかましているブラッドがすっごく安堵した表情をみせた。そりゃあアダーが真面目に話を聞いておらんから仕方ないか。

 

「ノッブ、お前ならそう言ってくれると信じてたぜ」

「いやブラッド、泣きすぎじゃろ。まあアダーがあれじゃあね」

 

「外出ってわけだな!よっしゃ行こぜ‼ノッブ、バナナはおやつに入るか?」

 

 遠足を楽しみにしている子供のようにはしゃぐアダーはすぐにでも飛び出していく勢いだ。このまま4人全員で外へ出るのも悪くないのだが、今回は違う。

 

「そうしたいのはやまやまだが‥‥今回はワシとブラッドの二人で行こうと思う」

 

「なん‥‥だと‥‥!?まさか、逢引きっ!?」

 

「「なんでだよ!?」」

 

 ワシとブラッドのクロスボンバーがアダーに炸裂。気のせいだろうか、アダーのやつその姿になってから筋肉モリモリマッチョマンの変態になってるような‥‥もうラクーンさんは呆れて欠伸しておるし、さっさと理由をはなしておくか。

 

「ワシとブラッドならこの周辺の探索で人間に出会っても多少は問題にならずにすむはずじゃ」

 

「えぇー、俺でも問題ないと思うんだけどなぁ」

「フルフェイスの兜に上半身が素肌マントの大男だぞお前。絶対ビビるから」

 

 鏡を見ろとブラッドに言われてもそれでもアダーは納得いかなそうにぶつぶつ独り言をつぶやきながら首を傾げる。ラクーンさんは仕方ないがアダーがこのままの姿で人間に出会ったら間違いなく卒倒するだろう。人間態の姿であるブラッドとワシなら問題はなかろう。

 

「ワシらはレベルは100、戦闘になっても問題はなかろうし‥‥それに、もしもの時があった場合現ギルドのリーダーであるお前がいなくてはまとまらんであろう?」

 

 ダンジョン攻略時やPVPの時、行動する時はよくワシとブラッドで組んでたし今は強い魔法やスキルだってある。モンスターとの戦闘が起きた場合でも対処はできるだろう。それにもしワシらがやられてしまってもまだラクーンさんとアダーがいる。残ったNPC達を誰かが導く必要があるのだ。

 

「‥‥まあお前らなら大丈夫だろうが、心配かけるようなことはすんじゃねーぞ」

 

 アダーは渋りながらぷいっとそっぽを向いた。拗ねるような態度をとりながらもかなり心配してくれてるようだ。

 

「じゃ、お前らが探索している間に俺とアダーは各階層の守護者達を集めて現状を報告しておく。そいつらの様子が気になるからな」

 

 ラクーンさんの言う通り各階層にいる守護者と設定しているNPC達の様子も気になる。シュマゴラスやアルクと同じように独自の意思を持ち、忠誠心MAXなのだろうなぁ‥‥

 

「そろそろ参ろうかの。異界門の唱え方もおおかたわかったし」

「ノッブ、外へ出るのはいいが‥‥お供つけた方が良さそうだ。ほら、アルクがメッチャ不安そうな顔してこっち見てる」

 

 ブラッドが苦笑いしながらクイッと指をさす。玉座から少し離れた隅でずっと話を聞いていたアルクが『お供をつけずに外出するのは危険です…!』と言わんばかりの眼差しで見ていた。うわぁ‥‥忠誠心が引くレベルだこれ。

 

「そ、そうじゃな!誰かお供を連れて出た方が良いな!‥‥で、誰を連れて行こうか?」

 

 最低でも一人、連れて出れば問題はないのだがルルイエ地下迷宮の守備の為に各階層の守護者や領域守護者は今一人でも欠けるわけにはいかない。するとブラッドは察したのだろうか何もない空間に現れた小さな黒い穴に手を突っ込み小さな呼び鈴を取り出した。

 

「こういう時はミリタリヴァルキュリアを呼んでおくか」

 

 ああ成程、彼女らがいたな。彼女らなら問題は‥‥たぶんない、ないと願おう。だって彼女らを設定したツキシマさんとトゥーヤコさん、自分の好きな性癖とかネタとか色々と凝った設定をつけてたような気がする。そんな不安が過りつつもブラッドは呼び鈴を鳴らした。

 

 

 

 ミリタリヴァルキュリア。ルルイエ地下迷宮の第七階層と第八階層の守備を任せているミリタリー部隊の特戦隊で一応メイド(トゥーヤコさんの趣味)の仕事も担っている。トゥーヤコさんの設定でこの呼び鈴を鳴らせばすぐに駆けつけてくるという‥‥この移転された世界でギルメンがつけた設定も影響しているのか確認する機会に丁度いいし、彼女達のレベルは60~70ぐらいだしそれぞれ強いスキルを持っている。

 

「‥‥遅いのぅ」

 

 呼び鈴を鳴らして数分が経過した。逢魔の王間の入り口の扉は開かれず、ずっと静寂が広がっているままだった。

 

「‥‥あるぇ?」

 

 おかしいな‥‥呼び鈴を鳴らせばすぐに来るという設定があったのだけど、一向に来る気配がない。データを消したのか?いや、トゥーヤコさん達なら『それを捨てるなんてとんでもない‼』とか言って残すはず。それとも設定を変えたのか?

 

 そんな事を考えていたらふとどたどたと派手に急いで駆けている音が響いてきた。扉が開かれると白い軍帽に白いマント、そして白い軍服とスカートを身に着けている少女たちがギャーギャーと口喧嘩しながら入って来た。

 

「呼び鈴が鳴ったなら早く言いなさいよ‼おかげでコンディション最悪じゃないの‼」

「うるさいポンコツ。寝坊したあんたが悪いだろ」

「そーいうおめえもマニキュアしたり髪を整えたりちんたらしてただろうが」

「うぅー、もっとマカロン食べたかったなー★」

「そんな事よりボクの死体コレクション知らなーい?」

 

「」

 

 設定も影響しているのだろうかと気にはしていたが予想の斜め上すぎてもう口がアングリ。アダーはすっごくスケベそうにニヤニヤしてるけど。この子達個性的‥‥いや個性的すぎるでしょトゥーヤコさん。一体どんな設定をいれていたのか。

 

「貴女達‥‥至高の御方々の前で何を無様な醜態を晒しているの?すぐにそこへなおりなさい」

 

 ギロリとアルクが俺達の前でギャーギャーと騒いでいる少女達を睨み付けた。何という覇気だろうか。静かに激昂し、今すぐにでも惨殺するかの勢いだ。アルクの怒りに気付いたようで少女たちは血相を変えて膝をつき首を垂れた。

 

「も、申し訳ございません…っ!呼び鈴が鳴らされればいかなる時もすぐに御方々の前へ駆けつけるはずが…御方々の前でこの醜態。如何なる罰もお受けいたします」

 

 

 こ、こいつらもかぁ!?ここまで忠誠心MAXだとこっちが逆にくたびれてしまう。

 

「ままま、大目に見てやってくれよ。こ、今回は急ぎの用事なんだし、な?」

「ブラッド様‥‥分かりました。今回は見なかったことに。貴女達、ブラッド様の寛大な御慈悲に感謝しなさい」

 

「「「「「ブラッド様、寛大なる御慈悲、ありがとうございます」」」」」

 

 やめてっ!?その崇拝するような目で見ないで!?すっごく罪悪感を感じるから‼アダーは『羨ましい』と舌打ちするしラクーンさんは『お前そういう趣味だったの?』という目で見てくるし!誤解だからね!?

 

「うむ。ひ、一先ず気を取り直して挨拶からいこうかの」

「「「「「はっ‼」」」」」

 

 ノッブの鶴の一声のおかげで何とか場を流すことができた‥‥ノッブ、ありがと。さて、ミリタリヴァルキュリアの少女たちは今度は自信に満ち溢れた表情で誇り高く敬礼をした。

 

「ミリタリヴァルキュリアがバンビ・アイン!御身の前に!」

 

 長い黒髪を靡かせてバンビはドヤ顔でふんすと胸を張って敬礼をする。

 

「同じく、キャンディ・ツヴァイ、御身の前に」

 

 ホットパンツを穿き、金髪で5人の中でスタイルも良いキャンディは好戦的な笑みを見せて敬礼をした。

 

「リルティ・ドライ‥‥御身の前に」

 

 5人の中で一番小柄で金髪のおかっぱボブなリルティは多少だるそうに敬礼をする。

 

「ミーニャ・フィーファ、御身の前にー★」

 

 リルティとは反対に一番背の高いミーニャはほんわかとした様子で敬礼をする。

 

「ジゼル・フンフ、御身の前にー。後ミリタリヴァルキュリア隊長、ハリベラ・ヌル隊長はミリタリー部隊総司令官カイザー・ナックル様と共に第七階層『千年城』にて警備をしてまーす」

 

 黒く長い髪に頭に触覚のような長い2つのアホ毛がついているジゼルは敬礼を‥‥しないで元気よく手を振っていた。ジゼルの態度にアルクは怒りで目を見開いていたがノッブに宥められる。さ、さっさと本題に入ろうか。

 

「まーそのあれだ。ルルイエ地下迷宮がどこか別の場所へ移転された、今回はその探索としてノッブと共にお供を‥‥」

 

 『お供を』と言ったその瞬間、リルティを除いた少女たちは目を燦燦と輝かせた。その勢いに俺は一瞬ドン引く。

 

「サーチ&デストロイですね!お任せください!私のスキルで殲滅させてみましょう‼」

「強いモンスターの戦闘ならあたしに任せてください‼貫通させてやりますよ!」

「やったー♥マカロンが食べれるんですねー♥」

「ブラッド様、ボクと一緒にモンスターか人間のゾンビコレクションを集めましょうよー」

 

 こいつら殺る気満々すぎぃ!?‥‥騒がしい4人にリルティは五月蠅そうにため息をついていた。よかった、この子は比較的常識がありそうだ。

 

 

「ブラッド、ここはバンビをお供に連れて行こうかの」

 

 成程、大天使<アークエンジェル>のバンビは広範囲攻撃系の魔法を覚えているし爆発系の魔法を得意とし、爆発系魔法や攻撃を強化する職業『ボマー』も持っている。回復系魔法や蘇生魔法も覚えているしもしもの時も任せられる。

 

「確かにバンビが適任だな‥‥」

 

「よっしゃあああああっ‼」

 

 肝心のバンビは選ばれて物凄く嬉しそうにガッツポーズをとっていた。そしてバンビは恨めしそうに見ているキャンディ、ミーニャ、ジゼルにドヤ顔をする。

 

「見ててなさいあんた達、私が至高の御方々の為にこの身を尽くして私がミリタリヴァルキュリアでいっちばん有能であることを知らしめてあげるわ!」

 

「チッ…ボコられちまえ」

「バンビちゃん、お土産のマカロンお願いねー」

「死んだらゾンビにしてあげるから、調子に乗ってへまこいて死んでね!」

 

 キャンディは舌打ちして睨み、ミーニャは彼女の話は全く聞いてないし、ジゼルは‥‥ヤンデレ特有な恍惚な表情をみせてとんでもないこと言うし、仲いいんだよな?お前ら仲いいんだよな?大丈夫だろうかと気にしていたらリルティが少し心配そうな様子で伺ってきた。

 

「ブラッド様、オレは心配です…バンビ、ポンコツですし」

「ちょっとリルティ‼だれがポンコツよ‼」

 

 バンビはプンスカと地団駄を踏む。トゥーヤコさんは「ポンコツかわいいという言葉があり、それはとてもそそるものだっ!」とか熱演しながら設定してたっけかな。ま、まあレベルも高いし強いスキルも持ってるし大丈夫だろう。しかし作られた設定がどれだけ影響しているのか気になる。

 

「そ、それならもう一人‥‥」

「いやブラッド、バンビだけの方がいい。ほらアダーが嫉妬に満ちた目でこっちを見てる」

 

 ノッブが呆れた様子で指をさす。アダーが低く唸りながら体から黒緑の光、嫉妬のオーラを放ちながらこっちを見つめていた。アダーの嫉妬のオーラに気づいたミリタリヴァルキュリア達は再び血相を変えて騒ぐのをやめてビッシリと背筋を伸ばして直立する。いやいやいや、そんな緊張して怯えた表情にならなくていいから。アダー怒ってないから。

 

「あ、アダー、そろそろ行くからな。そっちは任せたぞ?」

 

「‥‥お土産。お土産持ってきてね!」

 

「子供かっ!」

 

 会社に出かけるサラリーマンじゃねえんだぞとツッコミを入れて異界門<ゲート>を展開してノッブとバンビと共にくぐっていく。

 

 ルルイエ地下迷宮の入り口、洞窟の外は満点の星空が見え静かな森が広がっている。遠くには深緑に溢れた山々が連なっていた。

 

「けっこう広いな‥‥十分に探索するのに時間がかかりそうだ」

 

「では手始めにこの近辺を焼き尽くしますか?」

 

 俺がボソッと呟いたのを聞いたバンビは自信満々な笑顔で片手に炎の球を展開して今にも投げようとしていた。いきなりのことで俺とノッブはギョッとして慌てて止める。

 

「待て待て待て!?やらなくていいから‼焼け野原にしなくていいから‼」

「そ、その通りじゃ!ほら、探索と情報収集は大事だからの!」

 

 それも大事ですね!とバンビは笑顔で炎の球を消す。よかった至高の御方でよかった。あのまま言う事を聞いてくれてなかったら間違いなくこの辺りが焼け野原になっていただろう。リルティの言う通り、ちょっと心配になってきたぞ‥‥

 

「ささ、ブラッド、とりあえず見て回ろうか。後衛は任せておけ」

「まー何事もないことを願うよ」

 

 俺はノコギリナタを片手に持ち、先頭に立ってノッブとバンビを連れて深い森の中へと進んでいった。





アルク・スカートムーン‥‥モデルは某型月から朱い月ことブリュンスタッド。色々と設定が綿密で細かいですが、にわかですので設定をマイルドにしてます。

 ところで、月姫リメイクはおろか月姫2はいつ出るのだろうか‥‥(白目

ミリタリヴァルキュリア達‥‥モデルはなん‥‥だと、で有名な漫画BLEACHから、見えざる帝国編のクインシー、『バンビーズ』。どの子もかわいい

 ただお気に入りのキャラがどんどん死んでいく(血涙


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3杯目 守護者だよ!全員集合!

 題名が闇鍋というように、キャラが多すぎてごちゃごちゃしているです‥‥すみません(焼き土下座)

 オーバーロード3期、OPからもう最高過ぎ‼
 ついに激おこモモンガさんを拝めれるのか‥‥!


 異界門をくぐったブラッド達を見送り再び静寂が戻った後、アダーは大きく息を吐いて玉座に深く腰を掛ける。鉄仮面でよく見えないが何となく気疲れしているように見えた。今だ外の安全が取れていないのだ、ブラッド達が無事に帰ってきてくれるかどうか心配しているのだろう。

 

「さ、あいつらが帰ってくるまで一眠りすっか」

 

「はたらけやっ‼」

 

 心配した俺がバカだった。早速居眠りをしようとするアダーに怒りの蹴りをくわえる。もろ顔面に直撃したアダーは「デジャブっ!?」と情けない悲鳴を上げた。

 

「てめえ、そのお花畑のドタマに大穴開けてやろうか?」

「ら、ラクーンさんっ‼ジョーク‼イッツジョーク‼」

 

 呑気に笑えるジョークを言っている場合ではないが、気を紛らわせるぐらいには丁度いいか。そろそろ真面目に取り組んでもらいたいのだが。

 

「今のドゥンケルハイト・トップのギルドリーダーなのはお前なんだ、しっかりやってもらわねえと困るぞ?」

「えー‥‥年上のラクーンさんじゃダメ?」

「あ゛ぁ?」

「うそうそ‼リーダーのお勤め大好き!頑張りますとも‼」

 

 甘ったれるなと喝を入れてやりたいが今回は目をつぶっておいてやろう。このあんぽんたんはああ見えて一人で煮詰める時もある、リーダーとして俺達やNPC達に負担をかけないように一人で突っ走ってしまうだろう。こんな状況でプレッシャーを感じているのだろうな‥‥変態だけど

 

「俺だけじゃない、ブラッドやノッブもいる。ちゃんとサポートしてやっから無理せずに頼れ」

 

「じゃあ‥‥ラクーンさんは男性の守護者達を呼び集めといて。俺は女性の守護者達を呼んでパフパフパーリィしとくから」

「お前の息子を消し炭にしてやろうか?」

「ほんっっとすんませんっ‼マジメにしますからっ‼その火炎放射器をしまってください‼」

 

 ああブラッド、ノッブ、なるべく早く帰ってきてくれ。このおバカ一人じゃ押さえきれない気がしてきた。次ふざけたらサテライトキャノンを撃ち込んで消し炭にしてやろうか。さっきから話が進んでいないから本題に入るとするか。

 

「それでアダー、守護者達は何処に集合させる?」

「第五階層『コズミックワールド』の星見の広間がいいんじゃないかな」

 

 成程、あそこなら全員を集めるには広さも雰囲気も丁度いい場所だ。ただ第二階層の守護者は‥‥難しそうだが仕方あるまい。

 

「そうと決まれば全員を呼ぶか。アルク、全階層の守護者達に知らせてくれ」

「かしこまりました。ラクーン様、領域守護者達にもお伝え致しますか?」

 

 階層守護者と違い各階層にある一定区画の守護を担うNPC達か。星見の広間なら巨体な領域守護者以外の者を呼んでも問題は無いが全員を呼び集めている間に侵入される可能性もあるな。

 

「いや、今回は階層守護者だけでいい。領域守護者達はこのまま待機。ミリタリヴァルキュリア、総司令官カイザー・ナックルは第一階層の守備を任せてもらおう」

「承りました、では各階層の守護者にお伝え致します」

 

 アルクは丁寧に礼をした後、異界門を開いてくぐっていった。ここまでキビキビやられるとなんだか肩が凝りそうだ。

 

「よし、俺達は先に第五階層に向かうぞ。アダー、異界門を開いてくれ」

「そ、その前に文章作成させて‼何て言えばいいのか分かんないんだけど!?」

「そんな暇はねえ。ぶっつけ本番だ」

 

 もっと気合い入れて胸を張れと此奴のふくらはぎを軽く蹴る。アダーは「そ、そんなー!?」と情けない声を出しつつ異界門を開いた。

 

 

___

 

 

「いやーラクーンさん、何度見ても壮大なスケールだよなここ」

 

 辺り一面に広がる様々な色に輝く星や青一色だったり何かの輪を纏う大小と様々なサイズの惑星を見て息を漏らす。第五階層『コズミック・ワールド』。課金してルルイエ地下迷宮の階層を増やし前ギルドリーダーだった宇宙ゴリラさんを中心に改装した階層だ。

 

 かつて人類が行けたという宇宙をイメージして星だったり惑星だったり、世界中で人気だったSF映画をモチーフにして作ったという。

 

 そしてそんな空間を寛ぎながら満喫しようと作られた場所が星見の広間だ。プレイヤー達で天体観測を楽しもうというのが目的であったのだが何故か玉座が。宇宙ゴリラさん曰く、『宇宙の支配者っぽいの作りたかった』とテヘペロして話して皆に怒られてたな。

 

「まだ階層守護者達は来てないみたいだし‥‥遊ぶ?」

「だからそんな暇ねえつってんだろ」

 

 いかんいかん。これ以上ふざけたらマジでラクーンさんがブチギレてサテライトキャノンが放たれるかもしれん。でも待つのは退屈なんだけどなー

 

 

「デス・アダー様、ラクーン様、お待ちしておりマシタ」

 

 おっ、宇宙空間を見上げてたら赤と紫の甲冑を纏った俺よりも遥かに体格がでかいのが降りてきた。第五階層の守護者、『ミュータント』のオンスロートだ。宇宙ゴリラさんが設定したキャラで何故か『うどんが好き』とかいうおかしな設定をいれてたような‥‥って、そんな事を考えてたらオンスロートが膝をついて物凄く深く頭を下げた!?

 

「至高の御方々の前でこの様な参上、申し訳ございまセン‥‥」

「オンスロート、そう固くならずともいい。他の守護者が来るまでゆっくりしていってね!!!」

「そんな命じ方するなバカ」

 

 ラクーンさんにまた太ももをパーンと蹴られた。おっかしいなー、オンスロートは堅苦しそうな性格だから気楽にしてもらおうと思ったんだが。

 

「あら?オンスロートしか来てないの?他の守護者達は何をちんたらしてるのかしら」

 

 ふと異界門が開かれると白い翼がついたショートな金髪に大きな赤いリボンをつけた黒のベストに薄桃色の服装の少女が出てきた。あたりにオンスロート以外の守護者達が来ていないのをキョロキョロと確認すると無邪気な笑みでこっちに駆けよって来た。

 

「至高の御方々様ぁ~♥」

 

 あの可愛らしい笑みで駆け寄ってくる少女は第一階層守護者、『聖なる悪魔<ホリーデビル>』の幻月。スキマムラサキさんが作成したNPCで守護者の中でも最凶最悪の魔力を持つ‥‥ってあの子、手に血がついてるんだけど!?

 

「待て待て待て!?げ、幻月!?その手にベットリついてる血はなに!?」

 

「これですか?誰も侵入者が来なくて退屈でしたのでジゼルの集めてた死体コレクションで臓器潰しや汚い花火ごっこしてる最中についたんだと思います」

「えげつねえ!?」

 

 そうだった、この子カルマ値悪に全振りだった。可愛く見えて悪魔な性格だったよ‥‥というかジゼルの死体コレクション盗んだのお前か。

 

「幻月、至高の御方々の前ダゾ、身嗜みを整えヨ‥‥」

「ごめんなさいねオンスロート、お遊びが楽しくてつい」

 

 オンスロートが何処から取り出したのか白いハンカチを幻月に渡すのだが幻月の無邪気な笑顔がすっげえ怖い。でもなんだろ、半魔巨人になったせいか全然身の毛がよだたない。ドン引きはするけど

 

「おお幻月!至高の御方々と遊びたくて早く駆けつけてきたのか?頬に血が付いておるぞ」

「…まだまだ子供だな」

 

 再び異界門が開かれると黄金の獅子の兜と鎧を纏い槍を携えた者とボロボロの青いマントと白銀の鎧を纏い長剣を背負った背が高い者が出てきた。

 

 こいつらは第三階層の守護者で金の鎧の方がオーンスタイン、銀色の鎧の方がアルトリウス。どちらも『深淵の獣<アビス・ビースト>』でブラッドが作成したNPCだ。ブラッドのやつ、こいつらの装備と武器を手に入れるために10徹し、「ボス強すぎ、素材ドロップしない、心折れそう‥‥」と嘆いてたな。そう懐かしんでる間に幻月はプンスカと翼をばたつかせる。

 

「う、うるさいデカノッポコンビ‼」

 

「はっはっは‼言われているぞアルトリウス‼」

「…それは貴公であろう?」

 

 オーンスタインは豪快な武人な設定で、アルトリウスは物静かな騎士的な性格な設定をしてるのだっけな?話をスルーされたと更に幻月がプンスカとしている間に異界門が開かれた。今度は4人と大人数で来たか、ということは第四階層の守護者達だな。第四階層は防衛の中間地点として4人それぞれの階層守護者を倒さないとドロップしないカギが無ければ次へは通れないギミックにしている。

 

「あまり幻月を弄ってやるな。癇癪起こして辺りを破壊してしまうぞ」

「だからあんたも子ども扱いしないでよ‼この魚頭‼」

 

 白いスーツを着たシャチという生き物の頭をしているのは『フィッシャーマン』のサカマタ。第四階層守護者の一人で4人のリーダーであり、守護者統括者の補佐または防衛時NPC達の参謀兼副司令という設定だとか。

 

「みこーん、呼ばれて飛び出てなんとやら。祭りの場所はここかしら?」

 

 うほっ、露出度の高い青い和服に青い大きなリボン、そして何よりも目立つモフモフとした狐の耳と尻尾をしているのは『キュウビ』のタマモ。いやはやすっげえドタプーンとエrrr‥‥いかんいかん、ラクーンさんにメッチャ睨まれとる…か、彼女は第四階層守護者の一人でサカマタの秘書を務めている。そして自称良妻賢母という設定があったな。是非とも俺にご奉仕しry

 

「デス・アダー様ぁぁっ‼遊ぼ遊ぼーっ‼」

「おぶぅっ!?」

 

 お、おうふ‥‥俺にめがけて懐へ飛び込んでダイレクトアタックしてきたのは金髪のショートボブに犬耳がついており、白と赤の生地の薄そうな肩と脇が露出した巫女服にピッチリした黒タイツと艶めかしい見た目の少女、第四階層守護者の一人『イヌガミ』のヴァジラだ。俺からマウントポジションをとったヴァジラは明るい笑顔で「遊ぼう遊ぼう」とゆすり、尻尾を振る。絶対に穿いてないピッチリ黒タイツ‥‥絶景です、はい。あラクーンさん、養豚場の豚を見るような目で見ないで。

 

「ヴァジラ、デス・アダー様困ってる」

 

 マウントとられている俺のすぐ傍で俺を無表情でしゃがんで見ているお椀くらいの下乳が見える黒のバンギャル的な服装に禍々しい巨腕の艤装、魚竜のようなメカチックな尻尾のついた赤いメッシュが一つついた銀色のショートボブの少女、『自動人形<オートマトン>』のグラーフ・シュペー。第四階層守護者の一人で物静かそうに見えて実はかなりの戦闘狂らしい。下乳‥‥素晴らしいです、はい。ちょ、ラクーンさんそのゴミを見下すような目で見ないで。

 

「お前達、至高の御方々の前ではしゃぎすぎだ」

「きゃー‼デス・アダー様とラクーン様とお散歩しーたーいー‼」

「わー」

 

 サカマタに首根っこを掴まれヴァジラはギャンギャンと吠えながらジタバタし、シュペーは棒読みのままブラブラするが無駄な抵抗に終わり持ち場へ戻された。まるで子供をあやすお父さんだな。サカマタを設定してたクジラ館長さん、育児が大変だと愚痴をこぼしていたがこれも影響しているのだろうか。

 

 もうちょっとピッチリ黒タイツと下乳を眺めたかったなと内心しょんぼりしている間に異界門が開き、アルクと彼女に続いてシュマゴラスが出てきた。この様子だとあらかた集まったようだ。第二、第七階層守護者は‥‥スケールがでかいのと最終防衛ラインで最後のストッパー役だから仕方ないか。

 

 アルクが俺達に会釈し膝をつくと他の守護者達も俺達の前で膝をつき頭を下げた。先ほどまで個性的で騒がしかった守護者達が急に静かになり空気があっという間に変わった。その様に圧倒しそうになったが現リーダーでありNPC達を引っ張っていかなければいけないのだからここはどしっと構えておかないと。

 

「お待たせいたしました、デス・アダー様、ラクーン様。第二階層守護者オレイカルコス、第七階層守護者オズマを除く各階層守護者、至高の御方々の前に推参いたしました」

 

 なんという光景だろうかNPC達が俺達の前で膝をつき崇め奉られているこの様は、ここまで崇拝されては肩身が狭いというか。ラクーンさんは兎も角俺なんかそんな偉そうな身ではないのだが。

 

 そんな事を考えていたらラクーンさんが小突いてきた。なんか言ってやれと顎で促される。うーむ、何て言えばいいのかまだ思いつかん。アルク達は俺が何を言うのかずっと頭を下げたまま待っている‥‥よっぽど俺達を信頼しているみたいだな。いや、信頼しなければならないのだろう。

 もし別世界に転移する前に俺達がログアウトしていたら、こいつらは存在が消えていたか或いはこの世界に取り残されていただろう。主と至高の御方々と崇拝する者を失ったら‥‥きっとまだよくわからないこの世界で路頭に迷い、自分達よりも強い存在に殺されていたかもしれない。こいつらの今後の為にも、そして生き続けるためにも俺がしっかりしてやんねえと

 

 

「面を上げろ‥‥よく俺達の下に集ってくれた。まずはこの事に感謝をしよう」

 

 あれ!?なんか赤いオーラが、憤怒のオーラが出ちゃってるんだけど!?緊張しすぎて思わず出ちゃった的なやつかこれ!?思わずおならが出ちゃったみたいなもんじゃねえぞこれ!?憤怒のオーラが出ていることよりも至高の御方々に感謝されたことに面を上げた守護者達は少し驚いている。ああもうオーラとか気にしてる場合じゃねえな。

 

「感謝など勿体なきお言葉。我ら創造主である至高の御方々に身を尽くす者達、デス・アダー様にとって取るに足らないことでしょう」

 

 おぅ‥‥こりゃあイエスマンを遥かに超えたイエスマンだなおい。『自害せよ』と命じたら喜んで『自害』しちゃうだろうな。守護者達の意識改革とか早速もうやらなきゃいけない事が見つかった。ま、今はそれを着にしている場合じゃない。

 

「うむ、お前達に集まってくれたのは伝えなければならないことがある。ルルイエ地下迷宮はどういう訳か別の世界へと移転してしまった。今現在、我が同胞であるブラッドとノッブがバンビをお供に周囲の外を探索している」

 

『   !?   』

 

 ちょっとー、守護者の人達驚きすぎよー。マジでか!?みたいな顔をするんじゃない。守護者ではなく至高の御方々自ら出向いてるもんな、しゃあないか。と思ってたらサカマタは冷静に落ち着いているみたいだな。

 

「まだ外に何があるのか分からない状況‥‥最大限の戦力をもって探索し場合によっては殲滅、ということですね?」

「え、あ、ま、まーそんなとこ、だよねラクーンさん?」

「おい俺に振るんじゃない。あいつらなら状況を判断できるし大丈夫だ、心配すんな」

 

 危ないと分かればすぐに戻ってくるだろう。もしもの時は‥‥全勢力をもって根絶やしにしてやるけど。

 

「探索を終えて戻り次第、今後ルルイエ地下迷の活動の方針を決める。それまで各階層の守護者達は持ち場で待機しておけ」

 

「畏まりました…我々階層守護者および領域守護者、至高の御方々の為に恥じない働きを誓います」

 

『――――誓います‼』

 

 うわぁお‥‥めっちゃガチじゃんこいつら。や、やる気満々であることは認めておこう。命令の出し方とか言葉とか考えて言わないといけないな‥‥

 

 なんかもう色々ありすぎてくたびれたな。とりあえず各階層の守護者達を見る事はできたし、一旦切り上げて戻ろう。ブラッド達から何か連絡があるかもしれないし

 

「ラクーンさん、一旦マイルーム館へ戻ろう‥‥シュマゴラス、引き続きルルイエ地下迷宮の外の周りを監視。サカマタ、念のため第二階層守護者オレイカルコスを起動しておけ、それ以外の守護者達は警戒を怠らず持ち場で待機せよ」 

 

 今はこれだけ命じておこう。異界門を開き、俺とラクーンさんは第八階層にあるマイルーム館へと向かった。

 

 

 

「ラクーンさん‥‥あいつらガチすぎてやばいんですけど」

「NPC達はプレイヤーに従順だから、きっとそうだろうと思っていたが想像以上だったな」

 

 俺とラクーンさんはマイルーム館の円卓テーブルに顔を突っ伏す。やる事が多すぎてもう呆然ですよ。まあはっきりわかったことは女の子のNPCはメッチャカワイイってこと‥‥じゃなくて忠義Maxだから命に代えても尽くすってことだ。

 

「一刻も決めなきゃいけないことは今後、ルルイエ地下迷宮をどういう方向に持っていくかだ」

 

 ラクーンさんの言う通り、残されたNPC達と共に我がギルドはどう動くかが課題だ。派手に行動するかそれともひっそりと静かに過ごすか。

 

「今はブラッド達が戻ってくることを願――――」

 

 言葉を遮るかのように頭の中でテレビ電話の通信音みたいな音が響いた。どうやらラクーンさんにも聞こえたようでハッとなって立ち上がっていた。というか何だこれ!?

 

《おっ?通じた?もしもーし聞こえるかー?》

 

「「ブラッド!?」」

 

 ブラッドの声が脳内で聞こえる。どういう事なのか疑問が浮かんでいるのだが今はブラッドが無事であることを安堵しよう。

 

「ブラッド、外の方は大丈夫なのか!?」

 

《ああ、外は思いのほか大丈夫だ。安全すぎてもうビックリ、ノッブもバンビも大丈夫だぜ》

 

 まったくこっちの心配も気にもしないで‥‥まああいつらが無事で外も安全であるならいいか。

 

 

「それで、何か収穫はあったのか?」

 

《ああ、この世界の事やこの辺りにある諸国の事、その他諸々大量に情報を得ることができた》

 

 でかした‼流石ブラッドだ、この短時間で多くの情報をゲットできたとは。それにしてもこのルルイエ地下迷宮の辺りに国があるのか。俺達にとって脅威な存在になりうる可能性もある、防衛の事も考えて今後の事を相談品ちゃいけないな。

 

「じゃあブラッド、ノッブ達を連れて戻ってきてくれ。今後のルルイエ地下迷宮の活動方針を決める必要がある」

 

《あー‥‥ラクーンさん、そのー‥‥》

 

 およ?ブラッドの奴ちょっと言葉を濁し始めたぞ?なんか少し嫌な予感がする…この様子だと何かやらかしたのだろうな

 

「どうしたブラッド?」

 

《うん、ごめん。野暮な事に突っ込んじゃった、テヘ》

 

 

 いやテヘじゃねーよ





オンスロート‥‥アメコミ、Xメンから。磁力チートのマグニートーと精神操作チートのプロフェッサーXがなんかチートな合成素材を使ってなんか合体してなんかできた究極生命体。
 アベンジャーズやファンタスティック・フォーやら多くのヒーローの命を引き換えにやっと倒せたというとんでもヴィラン。ゲームじゃ2段階進化する、あと空耳『うどんは日清』が有名

幻月‥‥弾幕ゲーム東方プロジェクト、旧作『東方幻想郷』から。EXボスであり、見た目はカワイイのに弾幕が鬼畜。発狂ていうレベルじゃねーぞこれ‼


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4杯目 遭遇

―————時はデス・アダー達が第五階層にて階層守護者達を集めている前よりも遡る。

 

「うーむ‥‥なんだかなー」

 

 月明かりと左手に持っている松明の明かりで照らされている中、夜空を見上げてため息をつく。警戒して外を探索しているのだが、思った以上に拍子抜けてしまった。かれこれ森の中を歩き続けた結果この辺りは俺達にとっては思いのほか危険ではなさそうだ。

 ただ変わっているとすればモンスターか?オーガやワイルドウルフ、ワイルドボアのようなモンスターが滅茶苦茶湧いていることだ。しかしレベルは俺達よりも遥かに低いようで一刀のもとで切り伏せられていく。

 

「モンスターは消えずに死体が残る‥‥」

 

 先程暗い森の茂みから襲い掛かって来てノコギリナタで葬ったワイルドウルフの死骸を見下ろす。倒した敵は消えることなく残り、クリスタルやアイテム、お金をドロップしない。ユグドラシルのアイテムがドロップできなくなるというのは問題だ。アイテムボックスやルルイエ地下迷宮の倉庫には大量に残っているが、いずれは尽きてしまう。この世界でユグドラシルのアイテムやらを作成できるかどうか実験をする必要があるな。

 

「おぉーい、ブラッドー!」

「ノッブ、ユグドラシルとは違うからといってあまり離れて行動をしないで‥‥って、そのキノコなに?」

 

 エネミーがバンビの援護が必要がないくらいあまりにも弱く単純作業と化していったので退屈になったノッブは少し離れて苔やら植物やらを興味深く調べ出していた。そして今、ノッブは可愛らしい笑顔で真っ赤な色をしたキノコを俺に見せた、というかそのキノコ食いかけなんだが。

 

「ノッブ、それ何?」

「うーん、何じゃろうな!食べてみたがあんまり美味しくなかった!」

「いや、いくら毒無効のスキルがあるからといって無暗に拾って食べちゃダメでしょうが」

 

 先程からノッブはそこら辺に生えてる派手な色をしたキノコだったり、明らかに毒草みたいな草だったり、食欲が失せるような色合いの木の実だったりとよく見てから食べていく。危険は無さそうなのだが見ているこっち側とすればハラハラドキドキしてしまう。

 

「お腹壊してもしらねえぞ?」

「だいじょーぶだいじょーぶ!そんな時はバンビの回復魔法で何とかしてもらうから!」

「いやいや‥‥バンビもノッブが変なの食べようとしてたら止めてもいいんだからな?」

 

 襲い掛かってくるモンスターは俺が先立って片付け、ノッブはあちこち歩きまわって草木を調べたりと援護もする必要がなくなっていたバンビに声を掛ける。俺達を守らんと辺りを見回しながら張り切っていたバンビはあわあわと焦りながら首を横に振る。

 

「と、とんでもございません!ブラッド様やノッブ様…至高の御方々の邪魔になるようなことをするなんて、も、以ての外です!」

 

「真面目過ぎるのぅ、そんなに畏まる必要なないぞ?ほれ、バンビも食べる?」

「やめなさいって」

 

 まったく、フィールドワークを堪能しすぎだ。アイテムの調合の検証するいい機会かもしれない、ノッブにいくつかキノコや木の実を採取してもらおう。

 さて森の中はあらかた探索はできただろう。モンスターがこのレベルならアダー達や他の守護者達も外へ出すのも大丈夫かもしれないな。だがこの周囲だけが比較的レベルが低い可能性もある、シュマゴラスが言っていた湖や荒野地帯にも赴いて調べるべきだろうか‥‥

 

「‥‥む?」

 

 遠くから茂みを搔き分ける音が聞こえてきた。激しく連続的に草木を搔き分ける音が響く、恐らく何かが急ぎ走っている。しかもその音は段々とこちらに近づく。先ほどまで採取し続けていたノッブは手を止めていつでも提げている刀を引き抜けるよう身構え、バンビも警戒態勢に入っている。

 

 先程と同じように腹をすかしたワイルドウルフか、気性の荒いオーガか、一体何が現れるか。モンスターが来るのかと、先制をとるために気配を察知‥‥したのだがどうも野性的獰猛な気配も、相手を殺さんという勢いの殺気も感じられない。どちらかというと何かから逃げている恐怖と焦りを感じられた。

 

 しかも敵意も感じられない。もしかしたら人に友好的な種族がモンスターに追われているのだろう、ここは俺に任せておいてくれとノッブに手で合図する。ノッブは頷いて刀を下した、よしこっからは俺にry

 

「はぁ‥‥はぁ…っ!助け――――っぱあああああっ!?」

 

「「えっ?」」

 

 何という事でしょう。茂みから飛び出して来たのは青い布の服を着たちょび髭の少しふくよかな人間の男性だったのだが、『助けて』と叫ぶその瞬間に世紀末な断末魔を上げて上半身が水風船のように吹っ飛んでしまった。刹那の事だったので俺とノッブは思わずポカンとアングリ。

 もしやと後ろを振りかえれば、ドヤ顔で魔法を放っていたバンビの姿があった。あれは第8位階魔法『破裂<イクスプロ―ド>』、内部から肉体を破裂させる魔法だがミンチよりもひでえや。

 

「ふん、下衆な人間が。至高の御方々に触れようなんて万死に値するわ」

 

「ええええええっ!?ちょ、バンビ!?今の明らかに殺しちゃダメだっただろ!?」

「明らかにさっき『助けて』って言おうとしてたよねあれ!?」

 

 間違いなくこちらに助けを求めていたし、しかも折角この世界で初めて出会う人間だ。この世界の事を色々聞き出せるチャンスだったというのに‥‥って俺達に叱られたと思ったバンビがポロポロと涙を流し始めて泣き出した!?

 

「も゛…申し訳あ゛り゛ま゛ぜん゛!この失態、この命を絶って詫びます!」

 

「待て待て待て!?大丈夫!大丈夫だから、ね!?俺達全然気にしてないから‼」

「そ、そうじゃぞ‼失敗は誰だってあるもんじゃ!次の機会で返上すればいい。ほ、ほれ泣くな泣くな」

 

 グスグスと泣くバンビを懸命に撫でて励ます。忠誠心が高すぎてちょっとミスしただけで死んで詫びようとするNPC、これは意識改革を考えておかないと今後大変になるな…一先ず意識改革は置いといて、今は爆散して血肉を飛び散らしている死体をどうかしないと。

 

「えーと‥‥これ、どうしよっか?」

「うーむ、どうすっかのぅ…」

 

 先ほどまで生きていたこの人間は俺達に助けを求めていた。一瞬でしか見えてなかったが藁にも縋る勢いだった。この人間を助けて色々と情報を聞き出す手もありかもしれない。

 

「ノッブ、俺はこの人間を助けて色々と聞き出そうと思うのだが」

「ワシもそう思っていたところだ。ましな人間ならこの先も生かす、そうでなければ利用し尽くして斬り捨てる」

 

 この人間を生き返らせてこの世界の情報を聞き出し、俺達の今後の活動の方針を決める。見た目が商人らしかったでこの世界のアイテム、流通も知ることができるかもしれない。中身がクズな人間だったら商業やら金銭やら利用できるだけ利用してその後は捨てておこう。

 

「んじゃ決まりだな。えーと、蘇生アイテムはっと」

 

 空間に現れる穴、アイテムボックスから手探りで蘇生アイテムを探す。バンビの蘇生魔法で蘇らせるのもいいが、ユグドラシルのアイテムが有効かどうか試しておく。ユグドラシルの蘇生アイテムは課金アイテムだが制作陣のこだわりなのか異形種用だったり亜人種用だったり全種族共通だったりと意外と種類が多い。取り出したのは3つに分かれた手のひらよりも大きな葉、『世界樹の葉』。

 

「ユグドラシルとは勝手が違うが、うまく蘇生できるか試してみるか」

「というかミンチより酷い事になってるけど生き返るのかこれ?」

 

 蘇生魔法『死者復活<レイズ・デッド>』よりも高位的でデスペナをある程度軽減する効果もある世界樹の葉、この世界の人間しかも肉体が爆散してしまった状態でも蘇生できるかどうか。残された下半身の死体に世界樹の葉翳す。

 ユグドラシルの時と同様に世界樹の葉は仄かな緑の光を発して消えると爆散していた上半身の肉体が時間を巻き戻すかのように見る見ると復元されていく。飛び散った肉、臓器、骨、身に着けていた服が再生されていき数秒で元の姿に戻った。

 

「う‥‥」

 

 意識も戻ったようだ。ちょび髭の男はまだ重い瞼をこすりながら起き上がる。しだいに意識がはっきりしてくるとようやく俺達の存在に気づいた。

 

「わ、私はどうして気を失って…それに貴方達は‥‥?」

 

 よかった、バンビの魔法でミンチよりもひどい最期を迎えてたことは覚えてないみたいだ。これで覚えてたら悲鳴を上げて逃げてただろう。ちらりと横目でノッブを伺い、ノッブは静かに頷く。自分達の素性、別の世界から来てしまった事とかルルイエ地下迷宮のことは伏せておこう。怪しまれるか、警戒されるか、なるべく折角であった人間に敵対されたくはない。

 

「俺達は遥か遠くの僻地から来た只の世に疎い旅人です。あての無い旅をしている最中に貴方が俺達に助けを求め倒れたので介抱していたところですよ」

「ワシの名はノッブ、こっちはブラッド、そして従者のバンビじゃ。して商人殿、他に痛むところはあるか?」

 

「い、いえ大丈夫です…寧ろ体が軽くなったような‥‥」

 

 世界樹の葉は戦闘中の蘇生でもHPを全回復させ死ぬ前にかかっていた状態異常やデバフを解除させた状態で蘇生をしてくれる。商人の男は手指や腕の動き、顔を触って確認すると深々と平伏した。

 

「か、介抱していただきありがとうございます。わ、私はペルガ・ミーノ、羊皮紙や毛織物の生産や売買をやっておりました」

 

 羊皮紙と聞いて俺とノッブはピクリと反応する。これは大当たりだ、羊皮紙は事前に魔法を込めておくとで一度だけその魔法を行使できるアイテム『巻物<スクロール>』の材料に必要な物。移転した世界でいの一番に欲しい材料が手に入りそうになるとは。

 

「だがその商人殿がなぜこのような森の中に?」

 

 ノッブが不思議そうに首を傾げる。確かにその通りだ、見る限りこんなモンスターが潜む森の中に羊皮紙の材料となる羊がいる気配もないし、彼の屋敷もあるはずがない。羊皮紙、毛織物の商人ことペルガは思い出したかのように身を震え、両手を強く握り絞めた。

 

「ここまでの経緯になるまで話は長くなりますが‥‥私は竜王国、その都市の一つ『アッタロス』で商いを行っておりました」

 

「「竜王国‥‥!?」」

 

 竜王国と聞いて俺は目を丸くするがノッブは目を爛爛と輝かしていた。あ、これ絶対行きたがるやつだ。まさか国が存在しているとは、しかも竜王国‥‥ドラゴンか竜人が治めている王国なのだろか。もしそうならノッブだけじゃなくアダーの奴も行きたがるだろうなぁ。

 

「のうのう!りゅ、竜王国とやらはドラゴンがおるのか!?」

「あー、ペルガさんすいません。こういった世の中の情勢を知らないもので、あははは‥‥」

 

 俺は苦笑いしながらはしゃぐノッブをアイアンクローで押さえる。ちょ、バンビが『至高の御方々を謝らせるなんて‥‥』と殺気を込めてペルガさんを睨んでるし!?ちょ、やめなさいって。

 

「い、いえ、竜王国は竜人である女王陛下が治めておられる人間の国で生粋のドラゴンは‥‥」

「そっかー‥‥すまんの。話を逸らした、続けて続けて」

 

 こらノッブ、露骨にがっかりしない。だからバンビ、『至高の御方を落胆させるなんて…』と殺気を込めて睨むんじゃない。ペルガさんキョトンとしているじゃないの。構わないで続けてと頷いて促しておく。

 

「ですが‥‥竜王国は近隣の国に住むビーストマン国家の侵攻に悩まされており、遂にアッタロスにまで攻め込んできたのです」

 

 内心驚きを隠せない、竜王国だけではなくビーストマンという種族がいる国があるとは。しかもその国と戦争中‥‥これはいち早く情勢や周りの国の事等の情報を収集する必要があるな。知らないままじゃいつかは俺達のホームの存在に気づき攻め込んでくる恐れがある。

 

「ビーストマンの侵攻は激しく、この侵攻で屋敷や生産場だけでなく家内と娘達を失ってしまいました‥‥」

 

 惨状と大事な家族を失ったことを思い出して震えていたのか。ペルガさんは頬に伝う涙を拭きとり話を続ける。

 

「アッタロスが陥落した後もビーストマンの侵攻の勢いは止まらず、近隣の2つの都市も攻め落としていったのです。竜王国はアダマンタイト級の冒険者を中心に防衛しているのですがもう侵攻を食い止める事ができない、毎年救援に来てくれているスレイン法国もこの頃救援に来ていないようで竜王国が滅ぼされるのも時間の問題‥‥私はリ・エステーゼ王国、王都リ・エスティーゼにいる弟を頼りに残された財と従者達を連れて王都へと向かおうとしていました‥‥」

 

 ああ、この話だけで情報がごっちゃごっちゃと出てきた。王国に法国に冒険者やらやら、あとで詳しく聞いて整理しておこう。バンビはもう何が何だかと混乱して目をグルグルしてるし‥‥ポンコツかわいいなおい

 

「王都へと向かう道中の夜の事でした、幾十人もの野盗が襲ってきてきたのです。護衛として雇った者がならず者だったようで‥‥従者は皆殺され、私も殺されそうになり私は必死に森の中へと逃げたのです‥‥」

 

 そしてその逃げている最中に俺達を見つけて藁にも縋る勢いで助けを求めたというわけか。野盗も存在しているとは、まあ俺達の現実世界でもアーコロジー内で強盗やら暴動やら頻繁にあったもんな。ん、待てよ?野盗に襲われて逃げてたってことは‥‥察した通り、バンビが何かの気配を察して暗い茂みの方を睨む。

 近づいてくるポツポツと灯る光と足音、茂みからできたのは松明を片手に剣やら斧やらと武器を持った人相の悪い輩共。ペルガを殺しに追って来た野盗のようだ。

 

 野盗を見たペルガは「ひっ…‼」と悲鳴を上げ腰を抜かして後ずさる。野盗達の方はペルガには興味がなく、ノッブとバンビの方を見て低く笑っていた。

 

「へへへ…商人の奴を仕留めに追ってたらまさかこんな上玉に出くわすなんてなぁ」

「ひょろそうな見た目のくせにいいもんもってるじゃねえか。野郎を殺して金品奪った後でたっぷり可愛がってやるよ」

 

 こいつら、俺とペルガを殺してノッブとバンビでよろしくやろうと考えてんのか。片方見た目美少女だけど中身おっさんだぞ?というかノッブは状況がつかめずキョトンとして俺の方を見ていた。

 

「え?何?こいつらワシのこと可愛いと思ってんの?」

「ああ、お前とバンビでスッキリーしようとするつもりだぞ?」

「ふーん‥‥あっそう」

 

 ノッブは興味なさげに呟き、ペルガの方に顔を向けるとニっと笑みを見せた。

 

「のう、商人殿。ワシらを雇わないか?」

「え?」

「え゛っ」

「???」

 

 ノッブの突然の案にペルガは驚き、俺はギョッとし、バンビは何の事やらと首を傾げる。イヤイヤイヤ!?状況を打開する手でもあるがこの世界に魔法はあるのか、国やらを相手する時は俺達でも通用できるものか、まだ右も左も分からないのだぞ!?ノッブは構わず笑顔でペルガに話を続ける。

 

「こう見えてワシらは強いぞ?野盗を蹴散らし、おぬしを無事に王都やらへと安全にお連れしよう。それだけではない、おぬしの故郷をも取り戻してやってやろう!」

「えっ!?」

「え゛えええっ!?」

 

 凄くでっかく出たなおい!?商人の護衛は兎も角、竜王国とやらを救う気か!?まだアダー達に報告してないというのに‥‥楽しい事はすぐにしたい、ノッブの悪い癖がでちゃったなこれ。

 

「で、で、できる、というのですか‥‥!?」

「じゃがタダではないぞ?金は勿論、この竜王国をはじめ他の国の事や魔法の事‥‥そして商売のことも、ワシらの知らない事全てを教えよ」

 

 あの楽しそうな愉悦っぽい笑み、ああもうスイッチついちゃってんな。まあ商人に出会ったのだからラッキーと思えばいいか。

 

「おい、俺達を無視してんじゃねえよ‼」

 

 野盗の一人が背を向けているノッブに触れようとした。こいつらはやってもいい、俺はバンビに目で合図を出す。バンビが片手を翳し、『破裂<イクスプロード>』を唱えるとノッブに触れようとした野盗が「バワッ!?」と断末魔を上げて肉体を爆散した。目の前で仲間が爆散してどよめく野盗の前に立ち、ノコギリ鉈を構えて睨み付ける。

 

「大事な交渉をしてんだ、邪魔をすんじゃねえよ‥‥」

 

 人間ではなく月の魔物であるからだろうか、普段よりも畏怖の迫力を放っている気がする。異常さに気付いた野盗達は後ずさるをしている。

 

「‥‥妻や娘達の分まで生きるつもりだったのであろう?商人殿、答えを聞きたい。悪い提案ではないと思うのだが如何かな?」

 

 ノッブはニッと笑ってペルガに手を差し伸べた。ペルガは少し迷っていたのか暫く俯いて考えていたがすぐに勢いよくノッブの手を取り何度も頷いた。生きたいと願い、必死に生に縋る表情だった。ま、そうでなくても助けるつもりだったけどな。交渉成立となるとノッブは満足そうに頷き、不敵な笑みで俺の横に立つ。

 

「さあブラッド!手始めに蹴散らしてやろう‼」

「いいけどさ‥‥あんな取引しちゃってラクーンさんに怒られても知らねえぞ?」

「‥‥‥‥是非もないよね♪」

「あっ、てめっ、可愛く言って誤魔化してもダメだからな!」




【前回の続き】
オーンスタイン‥‥皆大好き心折ゲーム、ダークソウルから。金ぴかの雷属性と何処か『牙狼』っぽい見た目だけど、スモウさんという巨漢とタッグを組んで挑んでくる。スモウを先に倒すと巨大化する。鬼畜すぎぃ‼

アルトリウス‥‥同じくダークソウルから。見た目がかっこいい、強い、BGM好きと三拍子(?) シフという親友の狼がいるようで、アルトリウスの墓を守らんとプレイヤーに襲い掛かってくる。体力が減ると足を引きずり弱っていく。もう別の意味でプレイヤーの心を折ってくる(血涙)


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5杯目 全速前進DA‼ 前編

 今日の収穫は大漁だ。何日も前から用意していた甲斐があったものだ。

 

 仲間から竜王国のとある商人がリ・エスティーゼ王国へと逃げると聞いて商人が持っている財産の量や偽物の冒険者の手配や従者の数や用心棒の有無、どのルートを通りいつ頃抜け出すかと予め調べておいた。

 今回は用心棒もおらず力の無い従者ばかりだったため手早く有り金全てを回収することができた。今頃他の仲間がトロトロと逃げている商人を始末しているだろう。

 

 ここ最近ビーストマン共の侵攻が激しくなったため竜王国の兵や冒険者共はやつらの進行を食い止める事に精一杯で俺達のような野盗をしょっ引く暇がない。そして商人や貴族、金持ちの奴らはもう竜王国はいつ滅びるかわからないと怯えて他の国へと逃げていく。

 

 そのおかげでそいつらを襲い、大量の金や金目になる物が楽に手に入る。男を殺し女を好きなだけ抱ける。まあ用済みになれば捨てるか売り飛ばして金にするけどな。これだから野盗はやめられない。馬車も持ち帰って今晩も大酒飲んで宴だ。

 

 しかしあいつら遅いな。そろそろ戻ってきてもおかしくないはずなのだが。あの商人を殺して持っていた有り金をこっそり山分けでもしてるのかそれとも用でも足してるのか?おっとそんな事を考えてたら仲間の一人が茂みから飛び出して来た。

 

「おい一体何処で油を売ってやがったんだ?」

「長いしょんべんだったな?仕事前に酒を飲み過ぎだってあれほど言ったじゃねえか」

 

 仲間達はゲラゲラとそいつを笑っていたのだが、俺は気付いた。様子がおかしい。額から汗を大量に流し、息は荒く、顔は逃げること必死な形相で何か恐ろしい化物でも見たかのような恐怖で怯え震えていた。

 

「―――に、逃げろ‥‥!こ、殺される‥‥!」

 

 そいつは息を整えないまま必死に、そして怯えて告げた。他の仲間は何を言っているのだとポカンとする。もしかして商人を追っている最中にモンスターにでも出くわしたのか?だがこの周辺にでるとすれば餓えたワイルドウルフかちっこいゴブリン程度だ。森の奥まで行かない限り危険なモンスターに出くわすことは無いはず。

 

「おいおい、何から逃げるんだ?幽霊でも見たのか?」

 

「ち、違う!も、もっと恐ろしい奴らだ‥‥ばけry」

 

 言い切る前に何か破裂した音が響いたと同時にそいつの頭に小さな穴が開き、穴から血を吹きだしながら前へと倒れた。そいつはピクピクと数回体を痙攣した後動かなくなった。突然の仲間の死に全員がどよめく、一体何が起きたのか見当もつかない。

 

 

「ふむふむ…『紀州国友』も問題なく使えるな。よいよい」

 

 茂みから出てきたのは黒い分厚い布の服と帽子を身に着け赤いマントを羽織った赤い瞳の黒髪の女だった。その女()()()()()()()()()()()()()()()を持っており、その手つの筒から白い煙が立ち上っていた。

 

 この女が殺したのか?だとすればさっきのはなんだ、まさかこいつマジックキャスターなのか?女は戸惑い警戒する俺達なんか興味が無いようで先程からその鉄の筒を舐めるように見ている。

 

「おー盗賊がわんさかいるな。ひーふーみー‥‥だいたい20くらいか?」

 

 黒髪の女に続いて今度は薄汚れた皮の装備をした男が茂みから出てきた。その男はおぞましい見た目の鉈を持っており、鉈に血がべったりとついていた。深くかぶっている帽子と服とマスクで顔が伺えないが絶対に目を合わせてはいけないと何故か本能がそう言っていた。

 その男の後ろには鉄の筒を持っている女とは反対に白く分厚そうな布の服を着た長い黒髪の女があの商人を連れてついてきていた。その女は俺達を見ると不敵に、好戦的な笑みを見せた。

 

「ブラッド様、ノッブ様、こんな烏合の衆なんか私の爆発魔法で爆散してやりますよ!」

「バンビ待ってね。この数を破裂<エクスプロード>したらスプラッタよりもひどいことになるから、ペルガさんさっきみたいにゲロっちゃうから」

 

 やはり、商人を殺そうと追っていた仲間はこいつらに殺されたのか?まさか商人のやつ冒険者共を雇っていたとは油断した‥‥だが落ち着け、相手はよく分からない鉄の筒を持っているマジックキャスターと弱そうな装備をしている男女とたった3人だ。

 

「お前ら落ち着け、相手はたった3人‥‥数で押せばどうにかなる!」

 

 警戒している仲間達の士気を上げる。どうせこいつらは安いおこぼれにあやかろうとしていた底辺の冒険者ににがいない。気を取り直した仲間達は次々に武器を構えていく。いつものように商人と男は殺して、女は弱らして犯す。あの女二人はよく見りゃ上玉じゃないか、竜王国にこんないい女がいるとは。

 

 一方の鉄の筒を持った女は俺達を見ると不思議そうに首を傾げだした。

 

「うん?火縄でも撃てばびびって逃げるかと思ったかのだがなぁ?」

「鳥じゃないんだから‥‥この世界じゃ銃器は知らないんじゃねえの?奴さん達やる気満々だな」

「ふーむ、是非もナシ。さっさと片付けるかのぅ!」

「オッケー。バンビ、ペルガさんの守りは任せる。近づく奴は容赦なくやれ」

 

 その瞬間、皮装備の男が一気に俺達の方へとあっという間に迫って来た。呆気に取られた仲間に鉈を斬りつける、鉈の切れ味がとても鋭いのか仲間の首がきれいに上へ飛ぶ。男は勢いよく鉈を横へと薙いで3,4人と一瞬にして切り伏せていく。男の死角から襲おうとすれば鉄の筒を持った女がその鉄の筒を構えた。鉄の筒から破裂音が響くと同時に仲間が倒れる、奴の魔法かなんだろうか音が響くたびに次々に倒れていった。

 

 男が鉈を振るえば仲間の体から血しぶきが吹いて斬り崩れ、女が持っている鉄の筒から音が響けば体に穴を開けて倒れる‥‥あいつらよりも多くいたのにいとも簡単に仲間が死んでいく‥‥

 

 俺は悪夢でも見ているのか?こんな奴等がいるなんて聞いたこともない!こいつらいったい何者なんだ!?

 

 愕然として逃げる事も戦う事もできずにただただ突っ立っていた俺の前に男が迫る。俺にめがけて鉈を振り下ろしてくる寸前、俺はそいつの目と合った。ああ‥‥わかった。こいつらの正体が分かった。こいつらは

 

「―――化け物‥‥っ!」

 

 そして俺の視界は男から星空へ、そして落ちるように地面へと変わっていた

 

_____

 

「―――と、言う感じでさ。野盗を始末した後はこのまま王都へ向かう事になっちゃった」

 

『バカかお前』

 

 やっぱりラクーンさんのお叱りをくらってしまったよ。ノッブが勝手に進めていくから早めにアダーとラクーンさんに知らせなくちゃとダメもとで相手と連絡を取り合う魔法『伝言<メッセージ>』を使ってみたらうまくアダー達に繋がることができた。今後この魔法は有効活用できるな‥‥

 

「ラクーンさん、怒るならノッブに怒ってくださいよー」

『あいつが帰ってきたら正座させて叱る、ったく心配して損したぜ』

『ブラッド!お土産は!?持って帰ってくれる約束だっただろうが‼噓つき‼』

「ねえよ!つかそんな約束してねえだろ!?」

 

 アダーはほっといて‥‥取りあえずラクーンさんに外の状況と竜王国やビーストマンの国、その両国が戦争している事、冒険者という存在やその周りに他にも国がある事を話した。

 

『そいつは厄介だな‥‥ルルイエ地下迷宮の防御を固めておくか。他の国についても調べておく必要がある』

「商人から詳しい事を聞いておくよ。あとあの商人、羊皮紙の生産をしていた」

『でかした、スクロールの作成に必要な材料だ。今後再開できるかどうかも聞いてくれ。その商人、絶対に死なすなよ?』

『ねえねえ、竜王国の王女って竜人なんだって?なんか‥‥王女ってひびきエロいよねー、デカパイならそそる!』

『‥‥‥‥ブラッド、ちょっと待ってろ』

 

 ラクーンさんが突然喋らなくなるとドタバタと喧しい音と思い切り殴る音とアダーの悲鳴が響いた。すぐに静寂が戻るとラクーンさんがふぅっと一息つく。

 

『まあなんだ、こっちは任せておけ。ブラッドはまた新しい情報が入り次第報告をしてくれ、そっから今後ルルイエ地下迷宮の活動を決めておくさ』

「ラクーンさん、すまない‥‥こっちのやる事片付いたらすぐに戻るよ」

『気にすんな、ノッブにも考えがあっての行動だろう。無理せず頑張って来い』

 

 ラクーンさんはそう言って伝言を切った。ラクーンさんには感謝しねえと、アダーは‥‥まあいっか。さて野盗は後始末したし、この後はペルガさんを安全に王都まで案内してやらないと。この辺りだけでなく国やその周辺の地理も知っておく必要があるな。

 ノッブ達の下へと戻るとノッブは何やら難しい顔をしてまじまじと広げた羊皮紙を見ていた。何を見ているのか覗いてみるとよく分からない文字とマークがついた紙のようだ、もしかしてこいつは地図か?

 

「ノッブ、これ地図?」

「その通りのようじゃが‥‥うーん、全然読めん」

「まあそうだよな。ペルガさん、俺達は今どのあたりにいるんですか?」

 

「私達は今、国境の湖と山脈の間の道の中間辺りにいます。近隣国のスレイン法国領を経てエ・ランテルへそして街道を通り王都へと向かう予定でした」

 

 湖のすぐ隣あたりがスレイン法国か。ペルガさんの話では6人の神様を信仰している宗教国家とのこと、少し胡散臭そうな気がするし何よりも人間を優位と考え亜人種等を討とうと活動をしているとのこと。亜人種や異形種が多い俺達じゃ絶対に関わったら危険だ。ペルガさんは羊皮紙をその国へと送り続けていたようなのだが今はこの国に関わるのはやめておこう。

 

「遠回りじゃな‥‥面倒くさいし。このまま真っ直ぐ突き抜けて行こう」

 

 ノッブは現在地から一直線に指を伝ってエ・ランテルへと指し示す。真っ直ぐのルートならスレイン法国らに関わることなくそして短日でエ・ランテルへ着き、王都へと向かうことができる。

 最短ルートだと思われたがペルガさんは何やら顔を青ざめているようだ。はて、このルートは流石に無理過ぎたのか?

 

「こ、このまま真っ直ぐ行きますとカッツェ平野を通ることになるのですが‥‥」

 

「「カッツェ平野?」」

 

「は、はい、年中薄い霧に覆われた荒野なのですが‥‥あらゆるアンデッドが大量に出現する土地で、スケルトンやエルダーリッチだけでなくスケリトル・ドラゴンやデス・ナイトなど凶暴なアンデッドも棲息しているのです」

 

 ほほう、そんな不思議な土地があるのか。確かに普通の人間にとってはスケリトル・ドラゴンとかデス・ナイトとかは危険と感じるだろう。俺は危機感といよりか俄然興味が湧いてきた。ノッブも同じ考えのようで目をキラキラと輝かしてニッと笑う。

 

「面白そうじゃ、増々その道を通りたくなってきた!」

 

「で、ですがっ‼並大抵の冒険者じゃ倒せないモンスターがいるのですよ!?野盗よりもかけ離れた強さを持っているのですよ!?」

 

「だからこそ面白いのだ。安心せよ、ワシらはお主の思っている以上に強い」

 

 他の地域のモンスターやこの世界の人間がどの位のレベルの強さを持っているのかもっと知る必要がある。それに高レベルのモンスターが相手ならこちらはガチモードで戦う。

 

「それに‥‥真っ直ぐ進むしか方法はもうないしな」

 

 ノッブは楽しそうにくふふと笑った。あ、これなんか仕込んだなこいつ。荷物の整理と馬車の準備をし終えたバンビが戻ってくるとノッブは満足そうに頷く。

 

「バンビ、支度はできたかの?」

「はい、荷物は『収納ボックス』に全て纏めて馬車の馬達には『気力回復<スタミナヒール>』、及び『狂走<オーバーラン>』をかけておきました!」

 

 やっぱりやりやがったか。一体何のことかとペルガさんはキョトンとしているが要は馬車馬達は一定時間疲労することなく爆走するということ。まだ俺とアダーが低レベルだった頃、ダンジョン攻略の帰りから異形種狩りに襲われないようホームへと帰る為にやってたトンズラ方法、今回はPKも無いのでより細かい補助魔法をかける必要はない。ただこの『気力回復』と『狂走』だけだと少し問題がある。

 

 

 

 曲がれないのだ

 

 

 

 できないことではないのだがやろうとしたら絶対にこける。負荷はかかるが急停止はできるので曲がる時は一度停止しないといけない。でかしたと満足そうに頷くノッブに撫でられてバンビは物凄く嬉しそうにへにゃぁっと笑う。

 

「ノッブ、よりにもよって馬車で『狂走』はまずいだろ‥‥」

「問題なかろう、というか楽しいと思うぞ?手綱はよろしくネ♪」

 

 ノッブは可愛らしくウィンクしてペルガさんを連れて馬車の中へと入っていった。仕方ない、任されたからにはやってやろう。

 

「しゃあねえ。バンビ、お前は俺の隣に。馬車に近づこうとするアンデッドがいたら消し飛ばせ」

「お任せください‼アンデッド特攻は大得意です!」

 

 バンビはフンスと張り切る。バンビがいればワイトキングとかグランドフィッシャーとか面倒なスキルを持つ特殊なアンデッドが現れても問題はないはず。アンデッドが大量発生するカッツェ平野、果たしてどんな場所なのか内心ワクワクしている。

 

 さて出発だと手綱を引いて馬を走らせ‥‥たのだが馬車馬は赤い配管工の某レーシングゲームのロケットスタートをかますかの如く猛スピードで走り出した。

 

「はやああああああっ!?」

 

 イヤイヤイヤ!?予想外の速さで半端ないって!?ユグドラシルの時とは速さがシャレになってないって‼絶対に『狂走』のせいだろこれ‼まさか『狂走』の効果がユグドラシルとこの世界とでは効果が違うとは。いや俺はいいとしてバンビは大丈夫か!?

 

「ひゃああああ!?」

 

 案の定、予想外の速さにバンビもびびってた。馬車なのだから勿論シートベルトなんてない、ジェットコースターのようなスピードにバンビは涙目で必死に帽子を押さえていた。バンビちゃん、押さえる所違うでしょ?せめてスカートを押さえてなさい。アダーがここにいなくてホント良かった

 

___

 

 

「む‥‥?」

 

「どうしたアダー?」

 

「‥‥ラクーンさん、俺なんかシャッターチャンスを見逃したような気がする」

 

「寝言は寝て言えっ‼」

 

「あろっ!?」

 

 

 

 

 

 




【またまた4話目からの続き】

サカマタ‥‥モデルは僕らのヒーローアカデミア、ではなく逢魔が時動物園のシャチさんから。ギャングオルカもいいけど、水族館の方がなんだかマフィアっぽくて好き(コナミ感

タマモ‥‥Fateから皆大好きエロ担当のキャス狐さんですハイ。初登場だったエクストラでキャス狐を選んだ時はクリアするのに地獄でしたけど。本当は実際合切めちゃんこ強い英霊だとか
 ウスイ本も多いようで‥‥そんな本を読んでてふと気になるのだけどエキノコックスとか大丈夫なのかな?


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6杯目 全速前進DA‼ 後編

 竜王国出身、羊皮紙および毛織物商人のペルガ・ミーノは改めて思った

 

 

 

 

 ―————この人達無茶苦茶すぎる、と

 

 

 

 有り得ないくらいの速さで駆ける馬車に揺られてどれ位の時間が経過したのだろうか、いやそんなにかかってないような気がする。慣れない速さに酔って吐きそうになったが我が商人魂、人前でしかも命の恩人の前で戻すわけにはいかない。まあ突然盗賊が目の前で上半身を爆散させて肉塊になったのを目の当たりした時は戻しちゃったけど。

 

 ガタガタと激しい揺れに平然とし、外を楽しそうに眺めているノッブさんを改めてみる。鉈で軽々と切り倒していくブラッドさんといい、破裂音を響かせる鉄の筒でいとも容易く倒していったノッブさんといい、こんな人達は見たこともない。

 僻地から来たという旅人だというが、一体何処から来たのだろうか?ノッブさんと従者のバンビさんは黒髪‥‥もしかすると南方の出身なのかもしれない。

 

 しかし今はそんな事を考えている時ではない。私はずっと不安を抱えている。何故ならば今現在この馬車はカッツェ平野へと向かっているのだ。

 薄い霧に包まれた呪われた土地、どいうわけかアンデッドが大量に出現する場所だ。毎年平野から出て行くアンデットを王国や帝国の兵を出兵させて討伐を行い、金稼ぎで冒険者やワーカー達も討伐に向かうのだがそれでも多くの被害者を出している。

 それに魔法が効かないスケリトル・ドラゴンや一個隊の兵隊を壊滅させるほどの力を持つデス・ナイトといった危険なモンスターだって出現するのだ。いくら野盗を簡単に蹴散らしたノッブさん達でも歯が立たないはず、願わくばアンデットに遭遇することなく無事に平野を切り抜けていってほしい。

 

 

 

「のう、ペルガ殿。ちぃとばかし聞きたい事があるのだがよろしいかな?」

 

 ふとノッブさんが声を掛けてきた。先ほどまで子供の様にはしゃいでいた様子が一変、真剣な顔つきでこちらを見ている。この人はブラッドさんと違ってどこか不思議な人だ、無邪気な一面もあれば艶めかしく大人びた一面がある。この人の本当の顔はどっちなのか、気にはなるがこれは聞かない方がいいのかもしれない。

 

「ええ、構いませんが‥‥」

「竜王国はビーストマンの侵攻により風前の灯火、お主の様に他国へと抜け出しいく者は多いのではないか?」

 

「‥‥はい、ビーストマンにより3つの都市が堕とされこの国はもう滅びてしまうと考えた者は多く、私達商人をはじめ財のある国民や兵士、そして王女の臣下までもが抜け出していったとお聞きします」

「ふむ、して抜け出した者達は王国や法国の他に行先はあるのか?」

 

「王国や法国の他に、バハルス帝国へと向かう者がおりましたが‥‥?」

「バハルス帝国?」

 

「はい、王国や法国とならぶ人間の国家で今はジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスというお方が皇帝に就いており、彼の改革で大きく変わった国です。モンスターを討伐できるほどの兵力や大魔法使いを筆頭にした帝国魔法省や帝国魔法学院を設立させる程の大きな軍事力を持っております」

 

「なるほど‥‥この世界にも『魔法』があるのか」

 

 ノッブさんは皇帝の名前や国の軍事力よりも『魔法』という言葉を聞いて納得する様にニィっと笑って頷いていた。その笑みは何か含まれているような気がしたがどういう意味なのかは分からない。

 

 次にノッブさんは冒険者やワーカーについて尋ねてきた。一つ一つ答えていくがノッブさん達は王都までの護衛を終えたら冒険者にでもなるのだろうか。

 

「ふむふむ、正式に冒険者組合から登録され依頼や討伐を熟すのが冒険者で、組合から除外されルールなしで行動できるが自己責任なのがワーカーと‥‥」

「あの、ノッブさん達も冒険者かワーカーをなさるおつもりで…?」

「うーむ、まだ考え中じゃがお金稼ぎをする必要ができたら、かな?さて次に質問じゃが、この金貨で飯は食えるかのう?」

 

 ノッブさんはポケットから何かを取り出して渡してきた。それは一枚の金貨だ。ただの金貨ではない、見たことのないマークがついた金貨だ。王国や法国、帝国の金貨ではないのは確かだ。

 

「珍しい金貨ですね。これを一体何処で?」

 

 どこかの遺跡で見つけた金貨なのだろうか、少し興味があるので聞いてみたのだがノッブさんは目を丸くして驚いていた。

 

「む、ユグドラシル金貨は流通しておらんのか?」

 

 ゆ、ゆぐどらしる…?聞いたこともない名前だ。けれどもはっきりしているのはこの金貨では食糧を買う事はできない。

 

「この金貨ではどこも取引できません、ですが金として換金をすることはできますよ?」

「そっかー‥‥金稼ぎする必要ができたわー」

 

 ノッブさんはがっくりと肩を落としてどこか遠い眼差しで遠くを見つめていた。もしかしてノッブさん達は今無一文なのか。行く当てのない旅を続けて‥‥よし、無事王都へ辿り着いたら御礼に沢山用意しよう。ふかふかのベッドや温かい食事のできる宿も手配しよう。

 

「‥‥ところで、ペルガ殿。カッツェ平野とやらはスケリトル・ドラゴンも出てくると言っておったな?」

 

 先ほどまでしょんぼりとしていたノッブさんが突然無邪気な子供の様に目を輝かせて尋ねてきた。

 

「え、ええ。出現はしますが‥‥」

 

「捕獲してペットにできないかなー」

 

 

  

  え゛っ!?こ、この人は一体何を言っているのだ!?スケリトル・ドラゴンは優秀な冒険者、オリハルコンやアダマンタイトの冒険者じゃないと倒せないモンスターだ。捕獲なんて以ての外、カッパーでもないこの人達でどうにかできる問題ではないはずだ。楽しそうに笑うノッブさん、この人はスケリトル・ドラゴンの恐ろしさを知らないから言えるのだ‥‥

 

 すると馬車が突然急停止した。思わずぶつかりそうになったがノッブさんに片手で受け止められる。最初は何が起きたのか分からなかったが、まさかと察してしまった。

 

 

「ブラッド、止まるなら止まると言わぬか!ビックリしたぞ!」

 

 ノッブさんはプンスカしながら扉を開ける。目に映るは薄い霧に覆われた赤茶けた土の荒野‥‥間違いない、私達は今カッツェ平野へと入ってしまったのだ。

 

「いや内に言えないでしょ。というか目の前のアレにぶつかりそうになったから止めたまでだ」

 

 プンプンと怒るノッブさんに対してブラッドさんは冷静に答えて指をさす。目の前には我々を見下ろす人骨が集合してできた骨のドラゴン、スケリトル・ドラゴンが唸り声を上げていた。

 

 どこかの国で『噂をすればなんとやら』ということわざがあると聞くがまさにその通りになってしまった。目の前が真っ白になる。嗚呼、もうお終いだ‥‥

 

 

「このままじゃ通れないけど‥‥潰す?」

「いやいや、テイムできるか試してみる価値があるじゃろ?」

「それノッブが持ち帰りしたいだけじゃねえの」

 

「ブラッド様、ここは私が‥‥」

「バンビ、一体だけなら俺が片付けておくよ」

「だーかーら‼テイムしよって‼」

 

 絶望している私に反して、この人達は呑気に会話をしている。そんなことよりも今は回れ右して逃げるべきだというのに‥‥‼そんな事をしている間にスケリトル・ドラゴンが雄叫びを上げて襲い掛かって来た。

 

「よいかブラッドー!捕獲、捕獲だからねー!」

 

 はしゃぎながら応援するノッブさんに対してブラッドさんはため息をついて迫りくるスケリトル・ドラゴンに向かってスタスタと歩いた。何をしているのか、このままでは潰されてしまう。

 心臓をバクバクさせながら見ていたら、ブラッドさんが手を翳すと何もない空間から突然大きな金槌が現れた。ブラッドさんは凹凸のある面の反対側の突起の様な部分を引いた。突起が引かれた部分からメラメラと赤く灼熱を帯びた部分が露わになる。

 

 スケリトル・ドラゴンがブラッドさんめがけて前脚で踏みつぶそうとしてきた。ブラッドさんは軽々と躱してその勢いで高く跳び上がりスケリトル・ドラゴンの頭部に向けて金槌を叩き付けた。

 すると叩き付けられたと同時に爆発が起きた。衝撃と爆発で頭部が粉々になったスケリトル・ドラゴンは大きな音を立てて崩れ落ち、ただの骨の山となっていく。

 

「」

 

 目の前に起きた事にもう言葉が出ない。あの魔法の絶対耐性を持ち、オリハルコンかアダマンタイト冒険者でないと倒せないスケリトル・ドラゴンをたった一撃で葬ったのだ。しかも爆発を起こす金槌なんて見たとも聞いたこともない。呆然としている私を他所にノッブさんがプンスカと怒りだした。

 

「ブラッド‼だから捕獲と言ったではないか!」

「そんな暇はないでしょうが。今は平野から抜ける事を最優先にしないと、スケリトル・ドラゴンが欲しいならまた今度来れば‥‥あ、まずいな」

 

 プンプンと頬を膨らませているノッブさんを無視してブラッドさんが面倒臭そうな顔をしだした。よく見れば周りにゾンビの群れをはじめスケルトンやスケルトンウィーリアー、スケルトンメイジにエルダーリッチと薄い霧の中からうじゃうじゃと現れていた。馬車を囲うように近づいてくる、数で押し切られたら一溜まりもない。

 

「これじゃ作業ゲーになっちまうし前へ進めないな」

「それならワシの『三全世界・三段撃ち』で一掃しようか?」

「それもいいが‥‥バンビ、頼んでもいいか?」

 

「はい!お任せください‼」

 

 バンビさんはフンスと張り切ると片手を上へと翳した。彼女の手には赤い魔方陣が展開され轟々と燃える炎の球体が現れた。

 

「――――『魔法最強化<マキシマイズマジック>』、『爆炎豪雨<プロミネントレイン>』」

 

「「えっ」」

「えっ?」

 

 彼女が唱えた魔法にノッブさんとブラッドさんが目を丸くして私がキョトンとしている間に炎の球体は空高く飛んでいき、大空に真っ赤に輝いて大きな爆発を起こした。まるで巨大な炎の赤い華が開いたかのようだと見惚れていたら何かが落ちてくるのが見えた。

 

 目を凝らして見ると、それは轟々と燃える巨大な炎の球体。しかも一個だけでない、同じ大きさのものが沢山雨の様に降ってきていた。

 

___

 

「やっべ!ノッブ、ペルガさんを中に!」

「わかっとる!というかなんかマジでヤバそう‼」

「バンビ、全力で飛ばすから落ちないようにしとけよ!」

 

 ノッブが大慌てでペルガさんを馬車の中に入れ、俺は急ぎ馬を走らせた。そんな事をしている間に巨大な火球の一つがアンデットの群れに直撃、そして爆発を起こす。目の前に置きた惨状に俺とノッブはギョッとした。

 

「ええっ!?あれあんな効果だったっけ!?」

「イヤイヤイヤ!?シャレになんねえよあれ!?」

 

 巨大な火球が地面に落ちて爆発を起こす、馬車を猛スピードで飛ばしている間に同じような事が周りに起きている。『爆炎豪雨』、数分の間に敵や敵陣地に向けて業火の火球の雨が降り注ぐ第9位階魔法だ。ユグドラシルじゃ敵だけに影響のある魔法のはずなのだが、僅かな爆風や熱を感じるからしてこれは間違いなく敵味方関係なく影響を与えている。

 

「ブラッド様、ノッブ様、どうですか?」

 

 降り注ぐ爆炎の火球に当たらないように馬車で駆けている中、バンビはドヤ顔で嬉しそうに伺ってきた。バンビは対アンデッドの最高魔法職『ホーリー・バニッシャー』を持っている上に爆発系のスキルや魔法を強化させる『ボマー』の職を持つ。即ち『ボマー』の効果により『爆炎豪雨』は第10位階魔法に匹敵する威力があり、低レベルのアンデッドなら一瞬にして消し炭にしてしまうのだ。

 

 そして今、カッツェ平野は火球の雨が降りあちこちで爆発が起きている。そんなやべー事を起こしたバンビは知らないのかワクワクしながら俺達の答えを待っている。

 

「お、おお。えらい、えらいぞー‥‥」

「よく頑張ったぞー、次は威力を抑えてもいいと思うぞー…」

「えへへへ‥‥」

 

 俺とノッブに撫でられてバンビは嬉しそうにへにゃぁっと笑う。ま、まあユグドラシルとは効果が違う事を知らなかったしバンビも悪気がないのだから仕方ないか。被害が及ぶけど‥‥いや『爆炎豪雨』でまだましと考えた方がいっか、バンビが『核爆弾<ニュークリア>』を唱えてたらもっとシャレにならない状況になってたと思うし

 

 ってそんな事を考えていたら少し離れた先にある丘陵に見える大きな要塞らしき建造物に火球の雨がぶつかり爆発を起こし崩壊していくのを見てしまったよ‥‥俺とノッブは互いに顔を合わせる。どっかの国の建造物じゃないよね?と互いに伺う。

 

「あー‥‥ブラッド、ワシらは何も見なかった、いいね?」

「あっはい‥‥って、そんな事してる場合じゃねえ!?」

 

 

 俺は再び手綱をとって馬車馬を更に駆けさせる。どうやら術者には当たらないようで、雨のように降る火球の中を飛ばすことができた。

 爆風や爆炎に巻き込まれないようにと必死に駆けさせている間に赤茶けた荒野の殺風景がとは変わって辺りは緑の草原の景色の大地に変わっていた。どうやらいつの間にかカッツェ平野を切り抜けることができたようだ。

 

「よ、よかったー、無事に出れたみたいだな」

「ほれ、ワシの言う通り全速前進したおかげじゃろ?」

「ほぼほぼバンビのおかげだろ‥‥確かこの先にエ・ランテルとかいう場所があったよな?一先ずそこに行って一休みしよう」

「回りくどい、このまま一気に前進じゃ!」

「馬を休ませなさいって」

 

____

 

 私は一体何を見たのだろう‥‥目の前に起きていた惨状にただただ茫然とするしかなかった。

 

 大量に降り落ちてきた火球、直撃し爆散するアンデッド、地面に落ちれば炎を上げて爆発する。そして駆ける馬車の窓からバハルス帝国の大要塞や王国の砦が次々と火球に直撃し崩壊していった。まるで世界の終わりかと思えてしまった。

 

 スケリトル・ドラゴンを一撃で葬ったブラッドさん、見た事もない武器を持つノッブさん、見たこともない魔法を唱えたバンビさん‥‥この人達はタダ者じゃない。そして改めて思う。

 

 

 ―————やっぱりこの人達は無茶苦茶すぎる、と




【またまた続き】

ヴァジラ‥‥ソーシャルゲーム、グランブルファンタジーから。めっちゃピンときた。犬っ子、スカートも穿いてないピッチリ黒タイツってエロイと思う。でも持ってない
 石砕く→Rキャラだけor出ない→石砕く→召喚石、武器ばっか→石砕ry 無限ループってコワイ(血涙

グラーフ・シュペー‥‥同じくソシャゲのアズールレーンから。ちょっと怪獣っぽい艤装のデザインが好き。あと下乳好き(オイ
 イベ中の大型建造以外に手に入れるには60回も周回するとか‥‥(白目
 

 


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7杯目 外出(無許可)

「そうか、この世界にも魔法があるのか」

 

『そうそう!どの程度かわからんけど話を聞く限りユグドラシルと同じようなもんかも』

 

 伝言<メッセージ>を通してノッブがあの商人から得た情報を早速伝えてきた。ユグドラシルと同じ魔法だというのなら一つの仮説がでてきた。

 

「となると俺達の他に別のプレイヤーもこの世界にいるという事になるな」

 

 俺達だけじゃなかったと安心するがより警戒を強める必要もでてきた。友好的なプレイヤーならまだしも異形種狩りやPKを主とするプレイヤー或いはギルドがいるのならば危険だ。バハルス帝国とやらもどんな国なのか気にはなるが、慎重に事を進めなければな。

 

『ラクーンさんはどうするつもりじゃ?』

「俺か?お前らに変わって周辺の調査とホームの補強をする。ノッブ悪いが地図が欲しい、それに地理や棲息している種族の情報がいち早く知てえ」

『おっけー、明日にでもすぐに送る!』

「じゃ引き続き護衛頑張れや」

 

 俺は伝言を切って装備のポーチから『タバコ』と『ライター』を取り出しタバコに火をつけて一服する。やることが多すぎる。周辺の調査にルルイエ地下迷宮の防衛の強化、ユグドラシル金貨が使えないのでこの世界で流通している通貨の入手、ユグドラシルでのアイテムの生産やスクロールの生産の手段を調べ、プレイヤーがいないか周辺国の潜入調査に、そして俺達ドゥンケルハイト・トップの今後の方針‥‥他にも色々と数え切れないほどある。

 

 いくらここで頭を抱えて悩んでいてもらちが明かない、ため息まじりに大きく煙を吐く。ユグドラシルでは精神回復のアイテムだった『タバコ』が現実世界と同じように吸えるのは有難い、しかも現実世界の安っぽいタバコと比べてかなりいい品のようだ。

 

「‥‥しゃあねえ、一ずつ片付けるしかねえか」

 

 『携帯灰皿』に吸い殻を入れ、さっそく一つ目の作業に取り掛かるとする。今頃現場にあいつらが出てもう作業に取り掛かっている頃だろう。ルルイエ地下迷宮の入り口で一服し終えた俺は向かうことにした。

 

 ルルイエ地下迷宮の入り口のある山の周りに次々と大地がうねり上げるように隆起していき新たな山々が形成されていき、周辺には次々と木々が生い茂り樹海へと変貌していく。

 

「タマモ、上々だな」

 

 中々の出来栄えに術でルルイエ地下迷宮周辺のカモフラージュを行っているタマモに声をかける。タマモは嬉しそうに尻尾を振り振りさせて艶めかしくウィンクをする。

 

「ふふ、この様な作業私にとってお茶の子さいさいです♪私達の家を土足で踏み荒らす輩がおりますればもっとえげつない仕掛けもご用意いたしますよ?」

 

「あー、今回はカモフラージュだけでいいさ。ついでにルルイエ地下迷宮の入り口を不可視化させてくれないか?」

 

「お安い御用です♪」

 

 一先ず部外者になる者は近づけさせないようにしておく。そして本拠点を隠し、トラップやらを用いてルルイエ地下迷宮に手を出そうとする者を退ける。後は‥‥っと、空間に異界門が開いてシュマゴラスが来たか。丁度いいタイミングだ。

 

「ラクーン様、ご準備できましたでシュ」

 

「おうご苦労さん。あの子も連れてきたか?」

 

「はい、ユグドラシルの土地ではないでシュが初めて外の世界を目の当たりできて大はしゃぎでシュ」

 

 それもそうだよな、あの子は領域守護者であり第六階層最終門番だ。外へ出すことなくその領域をずっと守らせてきたから当然か。

 

「さ、アビー。こっちに来るでシュよー」

 

 シュマゴラスに招かれて出てきたのは自分の腕より長い袖の黒い服を着たオレンジと黒の水玉模様のリボンをつけた長い金髪の少女だ。彼女はクマのぬいぐるみを片手にキョロキョロと星空を木々を苔の生えた地面を目を輝かせながら見回しつつ俺の下へとトテトテと駆けよって来た。

 

「ラクーン様!お外はとても素敵な所なのね!初めてでとてもウキウキしているわ!」

「ダメでシュよアビー、至高の御方の前でシュ」

「いいさいいさ、構わねえって。アビー、散歩は楽しかったか?」

「はい!そ、その‥‥も、もっとお外を見て回りたい、です」

 

 彼女はアビゲイル、第六階層と第七階層を繋ぐ『銀の扉』の門番である領域守護者だ。重要な場所の守護を務めている事もあって実力とレベルは階層守護者と並ぶ。こんな幼い見た目の少女ではあるが油断することなかれ、この子を作成したのは殺生inさんだ。アダーに『ぅゎょぅι゛ょっょぃ』と言わせたほどのえぐさを持っているのだ。あとスキルによってはSan値直葬させてくることもある。

 

 それでもまだまだ幼い少女、NPCも学習できる機会があるのならこの子もどこか学校に行かせて色々な事を学ばせてあげたいものだ。俺はそう考えながらアビーを撫で‥‥撫で‥‥撫で‥‥っ!

 

「「‥‥」」

「‥‥ラクーン様、どうぞ♪」

 

 必死に手を伸ばそうとしている俺を見たタマモとシュマゴラスは察して視線を逸らし、アビーは笑顔で屈んでくれた。くそっ!身長が低いし手が短くて届かねけぇ!畜生が、どうして二足歩行のアライグマなんだよ‼身長が欲しい‼

 

「そ、それでラクーン様、どうしてシュマゴラスとアビーちゃんを呼んだのです?」

 

 身長の低さで落ち込んでいる俺にタマモが気を使ってくれて話を進めてきた。うん、なんかすまねえな‥‥

 

「ブービートラップで偽のルルイエ地下迷宮を作ろうと思ってな。二人にはそのトラップを用意してくれた」

 

「まず簡単な洞穴を作成してその中でモンスターハウスへと転移させるトラップを仕掛けるでシュ」

「ラフムたちがいっぱいいるお部屋に案内するの!」

 

 『ラフム』と聞いてタマモは若干引き笑いしていた。ま、まあしゃあねえよな。『双貌の獣ラフム』、見た目がもうSan値ピンチものだし召喚に使う素材、職業レベルが十分にあれば大量に湧ける、敵だと厄介な奴だ。アビーは『降臨者<フォーリナー>』という特殊な職業を持っているのでラフムを簡単に召喚することができるのだ。

 

「それでアビー、どれくらい用意できた?」

 

「えーと‥‥33体です。素材の『黒い泥』は沢山あったのだけどもう一つの素材の『死肉』が足りなかったの」

「ジゼルの死体コレクションのほとんどを幻月がお遊戯で壊しちゃったでシュので全部使いきっても33体しか作れなったでシュ」

 

 ああ幻月にはもうちょっとまともな遊びをするよう言っておくか。それに今頃ジゼルは集めた死体コレクションが全部ロストして大泣きしてるだろうなぁ。こんど死体コレクション集めをアダーに手伝わせてやるか‥‥まあアビーの召喚でだいたい25~35レベルぐらいだろう、十分な数だ。

 

「上々だ。よし、偽の拠点を作成しこの近辺に状態異常トラップを仕掛けたら帰って休む‥‥」

 

 作業を終え次第拠点に帰ろうと告げる前にちらりとアビーを見てふと考えた。一度も外の世界に出た事がないのだから外で遊ばせてやってもいいのではないだろうか。折角リアルの世界でも拝めることの無かった星空と自然だ、堪能しても罰は当たりはしないだろう。俺は虚空に手を突っ込んでアイテムボックスの中を探り拠点作成用アイテム『グリーンシークレットハウス』を取り出して仮拠点を置いた。

 

「折角の外だ。今日の作業はここまでにして今夜はここでゆっくり休むとするか」

「‼ラクーン様、ありがとうございます‼」

「ははは、こらこら強く抱きしめるな、俺はぬいぐるみじゃねえぞ?それとタマモ、明日の朝食はパンケーキがいいな。作れるか?」

「お任せください、総料理長のキャットと並ぶ料理スキルを備わった良妻賢母の私に不可能はございません」

「それじゃ念のためにこの周辺に結界をはっておきまシュね」

 

 突然転移してからドタバタ続きだったからな、今日は休んで疲れをとっておこう。

 

 ただ心配なのは本拠点で待機しているアダーだ。あいつもじっとしてられない性分だからな、変な事をしでかさければいいのだが‥‥

 

____

 

「あ゛ー‥‥暇っ」

 

 ブラッドとノッブは王国へ向かい、ラクーンさんはなんか『ちょっと今夜は外で過ごすわ』とか言って外へ出てるし…俺はただ只管第七階層『千年城』の一室にある書斎室のソファーでグデグデしていただけ。やることなくてすっごい暇。

 

「俺も外出てえなー」

 

 俺も外出しても問題ねえと思うんだけどなぁ。上半身半裸マントの筋肉モリモリマッチョ鉄仮面マンで人が見たら卒倒するだぁ?失敬な、こんな素敵なボディのイケメン何処にもいねえっての!

 

「情報収集も大事だが‥‥異世界に来たからにはやっぱハーレム王国を設立すべきだろ!」

 

 そうだそうだ。ワイルドウルフやオーガがいるならどっかにエルフとか、竜娘とか、サキュバスとかいるに違いない!そんな選り取り見取りのカワイ子ちゃんを100人くらい集めて全員を嫁にして‥‥むふふふ

 

「デス・アダー様、笑い方が気持ち悪いですよー?」

「ぬわおっ!?じ、ジゼル、何時の間にいたのか!?」

 

 そうだった、この書斎室の近くにこいつらミリタリヴァルキュリアの部屋があったよな。危ない危ない、欲望ダダ漏れの呟きを聞かれなくてよかった。特にジゼルには‥‥って、なんかアホ毛をピコピコさせて恍惚な表情でこっちを見てきるし。

 

「そのぉ、デス・アダー様?溜まってるのでしたらボクがお相手いたしますよ?」

「やだ」

「そ、即答!?」

 

 だってジゼルは作成したトゥーヤコさんのせいで【性別不明】なんだもん。見た目が可愛いからトゥーヤコさんに問い詰めたら『ウミウシみたいなもんだ』と言って更に『女の子か男の娘か、こう見えるようで見えないようなアンノウンなラインが最高にそそるんだ‼』と熱弁して周りのメンバーをドン引きさせてたもんなー‥‥

 

「お、お望みでしたら生やすことだってできますよ!」

「うんジゼル、俺そんな趣味ないから一生生やさないままでいて」

 

 ジゼルは可愛い女の子可愛い女の子可愛い女の子‥‥よし、自分にそう言い聞かせて一旦落ち着こう。というかこの子達に手を出したら間違いなくラクーンさんに抹殺されるし、作成していったメンバー達の大事な子達だから手を出すわけが無い。

 

「というかジゼル、何か俺に用事があって来たんだろ?」

 

 こうまでして気配を消して誰にも見つからないように俺の所に来たのだ。おふざけは終わりと気づいたジゼルはシャキッと姿勢を正して膝をつく。こういう時は皆真面目なんだよなぁ。

 

「デス・アダー様、恐れながら外出の許可を頂けますでしょうか」

「‥‥ほう、その理由は?」

 

 興味深い、ブラッドの言う通りになったな。NPCは単純思考のAIが無くなった代わりに意思を持ち自ら考えを持つようになった。特に個性が強くマイペースな性格を持つジゼルとかはこうやって気ままに話しかけてくるのではないかとブラッドは俺に言っていた。俺にまじまじと見られてジゼルは少し言うのを躊躇いながらも顔を上げる。

 

「その‥‥ボクの死体コレクションがシュマゴラス様とアビゲイル様に全てラフム召喚の素材に使われてしまったので‥‥死体集めに‥‥も、勿論この外近辺で、遠出はしませんよ!?その辺の雑魚モンスターで我慢しますよ!?」

 

 幻月に暇つぶしに使われ、シュマゴラスとアビーにラフムの召喚に使われて底尽きてしまったというわけかー。まあこの近辺なら危険はなさそうだし‥‥いや、待てよ?ふふふ、いい事考えた。

 

「よし、ジゼル。外出は許可しよう――――その代り、俺も同行する」

「ええっ!?で、デス・アダー様がお手を煩わせるまでも‥‥」

「どんな場所でも十全に備える。それに単独行動は俺が許可せん」

 

 まだまだ調べる必要がある土地だし、うちの子をたった一人で出すわけにもいかない‥‥というのは建前で、これで俺も立派にお外デビューができるというわけだ。そしてできればナイスバディな可愛いエルフの女の子を見つけて‥‥

 

「デス・アダー様も出るのでしたらラクーン様にお伝えした方がよろしいですよね‥‥?」

「イヤイヤイヤ‼大丈夫、大丈夫!サッと行ってサッと戻ればダイジョーブ‼」

 

 うん、ラクーンさんに知られたら間違いなく俺が処される、絶対に処される。サカマタとかに知られたら間違いなくラクーンさんに知らされるだろうし知られないようにこっそりと出ないとな、まあ後は置手紙でも書いとけば分かってくれるだろう。『ちょっと出かけてくる』と置手紙を書いてさっそく異界門を開く。

 

「さあジゼル、死体集めにレッツラゴー‼」

 

 

「ジゼル、いつまで書斎室に籠ってナニを‥‥って、え?」

 

「あ、リルティごめーん♪デス・アダー様と一緒に外へ出かけるねー」

「」

 

 み、見つかったぁぁぁぁ!?よりにもよってミリタリヴァルキュリアの中でも一番真面目そうなリルティに見つかったぁぁぁ!?

 

「で、デス・アダー様、外出なさるのですか!?外出なさるのでしたらジゼルなんかよりももっと真面なお供をつけるべきです‼」

 

「むー!失敬な‼デス・アダー様はボクの死体コレクション集めを手伝ってくれるんだよ!」

 

 そういう場合ではない、慌てているリルティをどうにかしないと。しかし異界門にもう半分くぐっちまっているから止まらないし‥‥ああもう仕方ねえ!

 

「ちょ、ちょっと用事ができて外へ出るだけだ!え、えーと、そうだ!アルトリウス!アルトリウスに後で来るよう伝えておいてくれ‼とゆーわけで行ってくるなー!」

 

 これならたぶん大丈夫!置手紙も書いたし、大丈夫!きっと大丈夫、ラクーンさんに知らせることはないはずだ!もうどうにでもなーれっ!

 

 

 異界門をくぐった先は‥‥‥‥森からなんか樹海に変わってました。

 

 

「なぁにこれぇ」

 

 本当にナニコレ、最初見た時よりもなんか変わってねえか?こんなに密林っぽく生い茂ってなかったし、地面に苔とか生えてなかったし、空を見上げればもう夜は明けているみたいだがあまり陽がささってこないので薄暗い。ジゼルはクンクンと辺りを嗅ぎ、キョロキョロと見回す。

 

「この辺りにはモンスターも人間もいそうにないですね‥‥」

 

 そうだ、ラクーンさんがルルイエ地下迷宮を敵に知られないようにとカモフラージュをするためにタマモを連れて出てたんだった。この樹海もラクーンさんとタマモの仕業だろう。それにSan値が減りそうな不気味な雰囲気‥‥シュマゴラスかアビーによる精神異常トラップも仕掛けているみたいだ。それじゃモンスターもこの辺りをうろつかないわけだ。

 この辺りを歩きまわれないし、トラップに引っかかるかもしれないし、迷子になるかもしれないし、そしてラクーンさんに行き当たりばったりするかもしれない。ああくそっ、これじゃあ外へ歩きまわれねえ‥‥

 

「む‥‥そうだ、そんな時はこいつがあったな!」

 

 虚空に手を突っ込んでアイテムボックスの中を探り、ネックレスを取り出す。戦士職でも飛行<フライ>を詠唱でき空を飛ぶことができるネックレスだ。

 

「物は試しだ。『飛行<フライ>』‼」

 

 詠唱するとネックレスが光り出し、俺の体が羽の様に軽くなって一気に空高く飛びたてた。一定の高さで停まって浮遊し連なる山々に本拠点を覆い隠す様に生い茂っている樹海を一望する。中々の景色だ、中々リアルの世界じゃ見れない大自然に息を漏らす。このアイテムがあれば軽く遠出してもサッと戻って来れるな。

 

「なるほど空へ飛んで死体コレクションになりそうなモルモットを探すのですね!流石デス・アダー様です!」

 

 ジゼルは背中に骨の翼を生やして追いつき、ピコピコと翼をはばたかせて目を輝かせる。

 

「お世辞はよせ。ジゼル、ラクーンさんに知られる前にさっさと死体コレクションを集めるとすっか」

「そうですね!ですがこの樹海にはモンスターいそうにないですがここから匂いで探せば‥‥」

 

 ジゼルは風向きを探ってクンクンとうろうろしながら鼻を嗅いでいく。なんというか匂いを嗅ぐ様はまるでわんこみたいだな‥‥ヴァジラやタマモみたいに獣耳とモフモフした尻尾とか生やせないのかな、できたらモフモフしたいなー‥‥と、考えていたら突然ジゼルが燦燦と目を輝かせた。

 

「見つけました‼」

 

「もう見つけたのか!?早いな」

 

「はい!血の匂い、しかもたっくさんの血の匂いです‼」

 

 

「‥‥え?」

 

 思わず目が点になる。沢山の血の匂いはおかしい、大量殺戮や無暗な大量駆除はラクーンさんは望まないし好まない。だからそんな事はないはずなのだがジゼルがどんどんと恍惚な表情になって体をもじもじし息を荒げていく。

 

「それにこの血の匂いは人間‥‥大量の人間が死んで血を流してる‥‥あぁ、たまらない‥‥!はやく、はやく、はやく集めたい‥‥‼」

 

「あ、あのージゼル?そ、その匂いの下はどこかなー‥‥?」

 

「むこうです‼デスアダー様、はやく行きましょう‼」

 

 早くその場に向かいたいジゼルは先導して飛んでいく。かなりの速さなんだけど‥‥あれ?どんどん拠点から、樹海から遠ざかっていくぞこれ?これラクーンさんにバレたらヤバイレベルじゃないこれ?

 

「え、えーと、ジゼルちゃん?その場所って遠いのかなー?」

 

「結構遠くです!どんな遠くの場所でも血の匂いがあれば嗅ぎ付けることができますよ!」

 

 お前はサメか。ツッコミを入れたかったのだが拠点から離れていきかなり遠くまでとんでいることに気になってツッコミを入れている場合ではなくなっていた。下の景色は樹海から点在する森林と草原。ジゼルの言う通り、結構遠くの場所まで来てしまった。あー‥‥今日中に死体コレクション集めれるかなこれ‥‥

 

「デス・アダー様、あちらです!」

 

 ジゼルはようやく止まって指をさした。見下ろした先はまだまだ距離はあるが小さな村が見えた。なるほどあそこにジゼルの嗅いだ血の匂いが‥‥って、ちょっと待て。ジゼルが言うには大量の人間の血が流れているって言ってたよな。ならばなんで村で大量の血が‥‥

 

「待った、ちょっと嫌な予感がする。まだ突入すんなよ?」

 

 こう言っておかないと勝手に突撃しそうだからな。俺はアイテムボックスから偵察用の『遠隔視の手鏡』を取り出し、ついでに『鷹の目<ホークアイ>』と『隠密<シークリー>』のスクロールも取り出す。

 

「あの村を探索をする前に何があるか見ておかねえとな」

 

 見られている事を気取られないように『隠密』の魔法もかけて『遠隔視の手鏡』であの村を覗く。映し出された光景に肩を竦める。

 

「‥‥やっぱりか」

 

 手鏡に映っているのは村を荒らされ逃げ惑う村人に地面に突っ伏し血を流して動かない村人、腕を斬られた者や首を落とされた者と地獄絵図の映像。つまりはこの村は襲撃されている真っ最中なのだ。襲撃をしているのは人間、ではなく二足歩行をしているライオンやトラやヒョウやらと肉食獣だ。人間と同じように鎧を着て、剣や槍や斧と武器を持ち、馬?のような獣に乗り、次々と老若男女問わず人間を殺していっている。

 

「これはビーストマンですね」

 

 ひょっこりとジゼルが顔を覗かせる。ビーストマン‥‥あ、そういえばブラッドが言ってたっけな?竜王国となる国があって、その国はビーストマンに攻められているって。この村はビーストマンの軍かその一個隊に攻め落とされているってことか。じゃあ血が大量に流れているわけだと納得しながら画面をスライドしていくと、建物の隅で人間を喰らっているビーストマンの映像が映った。しかも一匹だけではない、幾つものビーストマンが殺した人間を切断してその肉を喰っているのだ。

 生きたまま人間の喉元にかぶりつく者、生きたまま人間の四肢を切断して四肢を喰らう者、女を犯しながら喰らう者、犯した後に屠殺して喰らう者、泣きわめく子供を頭から喰らう者と様々といた。

 

「こいつらは人間を食料としか見てないみたいですね。勿体ない、ボクだったらゾンビにするのに‥‥この村はどういたします?」

 

 どうすると言われてもなー‥‥リアルの世界の俺だったら怒って「この村を救うぞ!」と変な正義感を抱いてぬかすのだろうが、この身になってからはこの村人の地獄絵図に同情すらわかない。別に助ける義理もないし捨て置いても問題はないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 と、俺だけだったらそう考えるだろうなー‥‥

 

 

「ジゼル、アルトリウスに『伝言<メッセージ>』を繋いでこの地点に来るよう知らせろ」

 

 ほっといた事をラクーンさんが知ったら激怒するもんなぁ‥‥折角の貴重な情報収集となる場所を見捨てるなんて勿体ない。

 

 手鏡の映像をスライドすると村の外れへと逃げる少女が映った。懸命に走るがすぐにビーストマン共に追いつかれ囲まれる。その少女は剣を持っていたようで戦おうとするが、見た感じ剣の腕前はとても低くあっという間に剣を弾き飛ばされ少女の腕が斬られた。

 現場の音声は聞くことはできないが必死に命乞いをしているようだ。だがビーストマン共はどんどんと少女へと近づいていく。

 

「‥‥まずは此処へ行くか」

 

「ビーストを蹴散らすんですね!お手伝いしますよ、折角のコレクションをビーストマン達に喰いつかされてたまりませんしね!」

 

「ったりまえだ。グロシーンを見せやがって、エロは好きだがエログロは好みじゃねえっての‼」





 設定としてはルルイエ地下迷宮が転移された場所はだいたい飛竜騎兵部族の里と竜王国の間あたりにしております。
 本当に何番煎じの展開、申し訳ございません(焼き土下座


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8杯目 田舎に泊まろう(無許可

  

 いやだ‥‥‥いやだ‥‥いやだ‥‥‥死にたくない‥‥死にたくない‥‥!

 

 腕を斬り落とされ斬られた箇所から真っ赤な血が流れ出て止まらない。溶岩に手を突っ込んだような焼けるような激痛で私は声にならない悲鳴を上げ続ける。いくら叫んでも誰か助けにきてくれるわけがない‥‥今頃村はビーストマンの軍勢に落とされ村の人達は皆殺しにされているだろう‥‥その間に3,4頭のビーストマン達は薄ら笑いを浮かべてゆっくりと私へと近づいてきた。

 

「ひっ‥‥!」

 

 私は恐怖で動くことも後ずさることもできなかった。ああ、私はここで犯され嬲られ殺されそして喰われるんだ‥‥

 

「い…いやだ‥‥こないで‥‥こないで‥‥!」

 

 それでもお構いなしにビーストマン達はどんどんと近づいてくる。一番先頭にいた茶色毛のライオンの頭をしたビーストマンがずいっと顔を近づけてきた。

 

「そんな事を言うなよ嬢ちゃん、俺たちゃぁ竜王国の遠征討伐で長い事溜まってんだ。何処かで発散しなきゃいけないだろぉ?」

 

 私の顔の前で息を吹きかけてきた。独特の獣臭、血に飢え肉欲に飢えた獣の臭いだ。

 

「お前ら人間は食料だ。弱い者は強い者に喰われるのが俺達ビーストマンの条理だ。なぁに、お嬢ちゃんはなかなかの上玉、たっぷり可愛がってから喰ってやるよ」

 

 そのビーストマンは私に向けて手を伸ばしてきた。私はもうただただ恐怖するしかできない‥‥

 

 

 

 まだ‥‥まだ死にたくないよ‥‥!誰か――――――――誰か助けて―――――———!

 

 

「へへへ…いい表情だぜ。これからもっと悲鳴を上げさせて満足させ――――――ぺごぉっ!?」

 

 

 私の目の前で、私に手を伸ばそうとしてきていたビーストマンが突然押しつぶされた。空から何かが勢いよくこのビーストマンめがけて落ちてきたのだ。このビーストマンは踏みつぶされた芋虫のように血と肉を飛び散らせて肉塊となっていた。

 

「斧‥‥?」

 

 空から落ちてきたものは光輝く黄金の斧だった。こんな大きな斧、見たことない‥‥周りにいたビーストマン達はどよめきだす。一体何処から、一体誰の仕業なのか、警戒しながら辺りを見回した。

 

 その答えはすぐに分かった‥‥空から私の目の前に男が降りてきたのだ。ビーストマンよりも一回り大きく、上半身はマントだけを身に着けた逞しい肉体を持った鉄仮面の大男‥‥言葉では言い表せない程とても恐ろしく感じた。

 

「‥‥」

 

 鉄仮面の大男は何も言わず黄金の斧を軽々と引き抜く。ビーストマン達は警戒して身構えた。

 

「て、てめえ‥‥‼何者だ‥‥!?」

 

 大男はビーストマン達の威嚇に怯むことなくジロリと赤い眼光を光らせ彼らを睨み返す。この大男はタダ者じゃない‥‥!歴戦の戦士とかそういうレベルじゃない‥‥とても異常な、恐ろしい雰囲気を感じられ‥‥

 

「‥‥‥ハンバーグ」

 

「「「「「は?」」」」」

 

「てめえらのせいでハンバーグが食えなくなったらどうすんだこの野郎‼人前でグロいもん見せやがって‼」

 

 

 この大男は何を言っているのだろうか‥‥どういう意味で怒っているのか全く意味が分からない。私はおろかビーストマン達も面食らっていた。

 

「エロならまだしもエログロじゃおかずにもなんねえじゃねえか!ぷんすか!」

 

 人前でぷんすかと言いながら怒る人初めて見た‥‥というかそんな事を言っている場合ではない。先ほどまで戸惑っていたビーストマン達は威勢を取り戻してきた。

 

「どっから来たかわかんねえが‥‥俺達の邪魔をして生きて帰れると思うなよ?」

「冒険者か?それとも竜王国の兵士か?人間ごときが俺達に勝てると思ってんのか?」

 

 薄ら笑いを浮かべて剣や斧を構えるビーストマン達に対して大男はまるで興味が無いかのように軽く鼻で黄金の斧をビーストマン達に向ける。

 

「ふん‥‥死ぬ覚悟は出来てるわけか?」

 

「お前が死ねやぁぁぁっ!」

 

 大男の挑発にビーストマン達は苛立ち、雄叫びを上げながら大男に飛びかかる。成人のビーストマンは人間の10倍以上の力を持つ、普通の人ではビーストマン達に勝てるわけがない。私は『逃げて!』と叫びたかったがもう力が入ってこない。血を流し過ぎた‥‥大男は無残にも殺され私は嬲り殺され喰われるのだろう‥‥

 

「‥‥ふんっ‼」

 

 すると大男が黄金の斧を強く握りしめ、力一杯横へ薙いだ。そのひと振りで強烈な風が吹き上がる。ビーストマン達の動きが止まったかと思いきや、ビーストマン達の胴体がずり落ち噴水のように出血しながら倒れていった。

 

「え‥‥っ!?」

 

 目の前の光景に言葉が出ない。3,4頭いたビーストマン達をたった一振りで葬った。しかもビーストマン達だけでない、彼らの後ろにあった木々も斬り倒されていたのだ。

 ありえない、人間よりも遥かに力のあるビーストマンをいとも簡単に倒すなんて。この大男は一体何者なの‥‥!?私が驚愕しているのに対して大男は黄金の斧の斧を見て『うーん』と唸りながら首を傾げていた。

 

「こりゃあ力加減をコントロールしねえとなぁ‥‥思った以上の威力にびっくりだ」

 

「デス・アダー様ー、この子どうしますー?」

 

「ひっ‥‥!?」

 

 私の後ろに長い黒髪で触覚のような2つのアホ毛のついた少女がいた。いつの間に後ろにいたのか、私は驚いて後退りした。この少女、なんだか様子がおかしい。私をまじまじと見て、悦に浸った表情でにんまりと笑顔を見せてくる。

 

「ジゼル、この子を死体コレクションにするのはダメだ」

「はーい」

 

 し、死体コレクション‥‥!?今さらっと恐ろしい事を言い出してきた。大男は私に近づきまじまじと見つめてきた。ま、まさかこの大男もビーストマン達と同じような事をするつもりじゃ‥‥!?

 

「怪我してんな‥‥ほれ」

 

 大男は何処から取り出したのか血のように真っ赤な液体の入った小瓶を開けて私に向けてふりかけた。すると斬られた腕が元通りになった。それだけじゃない、体に負った傷の全てか完全に治ったのだ。

 

「うそ‥‥!?完全に治った…!?」

 

 自由に動ける腕に驚く私に大男は満足そうに頷き、私の剣を拾いその剣をまじまじと見つめだした。ただ変わってたとすれば私の剣を見て少し驚いているように見えた。

 

「この剣は‥‥お前さん、名前は?」

「は、はい、アストラル・クインリィです‥‥」

「そうかそうか。んでアストラル、この剣はどこで手に入れた?」

 

「えと‥‥200年前から代々受け継がれている剣で、お、おばあちゃんから授かりました‥‥」

 

「そうか‥‥」

 

 大男はそれだけ答えると唸るように深く考えだした。この剣を見てから雰囲気が変わった感じがするのだがこの大男は本当に何者なのだろうか‥‥

 すると空間に紫色の大穴が開かれ、その大穴から銀色の長剣を持った銀色のフルプレートの背の高い騎士がゆっくりと現れた。この騎士も大男と同じくらいの覇気を感じられ圧倒された。

 

「デス・アダー様、お待たせ致しました‥‥」

「おおう、アルトリウス。丁度よく来てくれたな」

「して、敵は‥‥?」

 

 アルトリウスと呼ばれた背の高い騎士はこちらを見てきた。銀色のフルフェイスで見えないが恐ろしい程の視線を一瞬感じた。

 

「今の討伐対象はこの村を攻めてるビーストマンだ。彼女含めて村人たちは保護対象、死なせるな」

「承知いたしました‥‥出遅れた穴埋めを致しましょう」

「それじゃデス・アダー様、ビーストマン達は死体コレクションにしていいんですね!」

「おうよ。アルトリウス、ジゼル、手加減をするな。完璧に仕留めるよう全力でやれ。人にエログロを見せたことを後悔させてやる」

 

 まさかこの人達は私達の村に攻めてきたビーストマン達と戦うつもりなの!?しかもたった3人で!?無茶だと言いたかったが言っても止まることはないだろう。だがその前に言うべきことがある。

 

「お、お待ちください‼」

 

 村へと向かおうとする3人に大声で呼び止める。彼らは止まってこちらに振り向いた。私は手を地について大きく頭を下げた。

 

「た、助けて下さってありがとうございます‥‥‼お名前は、お名前は何というのですか…!?」

 

「名前…?ふっ、俺は名乗るまでもなry「このお方は偉大なる覇王のお方、デス・アダー様だよー♪」ちょ、こらジゼル!かっこよく決めようと思ってたのにぃ‼」

 

 デス・アダーと呼ばれた大男はジゼルに遮られぷんすかと地団駄を踏む。先ほどまでの畏怖と覇気の雰囲気が一変、どこか親しみやすいような雰囲気を感じた。

 

「あーそうです‼この俺がデス・アダーです!以後よろしくこの野郎‼」

 

 なんかやけくそ‥‥?

 

_____

 

 

 

 あれは何者だ‥‥?

 

 ビーストマン王国が最強を誇る『十騎士』、9番隊副隊長アムル・レオパードは目の前の光景に目を疑っていた。

 

 遠征討伐によって減っていた食料を確保するため、竜王国の兵士達や冒険者達に守られていない村を攻めていた。ここは守りが薄く食料となる人間も多くいた、つまみ食いをする者もいたが楽にこの村を堕とすことができた‥‥と思っていた矢先、そいつは現れた。

 

 人よりも一回り背の高い銀色のフルプレートの騎士が村の外れから現れて銀色の長剣で部下たちに襲い掛かって来たのだ。抵抗しようと戦う者、女を犯している最中の者、人を喰らっている最中の者、村人を襲おうとしていた者、我々ビーストマンを一刀で軽々と屠っていく。

 ようやく異変に気付いた部下達が集まり武器を構えて警戒し、俺の指示を伺う。油断した、まさかこの村に兵士か冒険者がいたとは。だが相手はたった一人だ。

 

「憶するな!囲め‼」

 

 たかが人間ごときで我々ビーストマンに勝てるわけが無い。囲って槍で突きさすか袋叩きかにすればあっという間に方が付く。

 

「今だ‼殺せ‼」

 

 合図と共にフルプレートの騎士を囲った部下達は一斉に槍で突いた。このまま串刺しに‥‥なると思いきや、フルプレートの騎士は高々と跳んだのだ。あんな重厚な鎧を着ているのに軽々と動けるのか!?

 

 そして騎士は勢いよく急降下して長剣を振り下ろした。その一撃はとても強力で衝撃が放たれると部下達が肉片と血を散らして吹っ飛んでいく。フルプレートの騎士の勢いは止まることなく長剣を振るい次々と部下達を斬り殺していった。

 

「な、なんなんだ‥‥あいつは一体なんなんだ!?」

 

 我々ビーストマンよりも劣る人間が、我々の食料となる人間が、我々に抗い軽々と屠っていくなんて‥‥あんな人間がいたなんて聞いたことがないぞ‥‥!?人間に恐怖を与えていた我々ビーストマンが、あの人間に恐怖を抱いた。部下の幾人かは戦慄し後退りし、この場から逃げようとしている。

 

 これは異常事態だ。隊長に知らせなくては…だがこうなってしまった以上、私が逃げるわけにはいかない。覚悟を決めるか‥‥

 

「お前達、今すぐこの場を離れ事態を隊長に伝えろ‥‥俺が時間稼ぐ」

「で、ですが副隊長‼貴方を置いて逃げるわけには‥‥‼」

「指揮官が部下を見捨てて逃げるわけにはいかんのだ‼部下の命を守るのも指揮官の務め、お前達は生きて務めを果たせ‥‥‼」

 

 副隊長の替えなどいくらでもいる‥‥それに今は脅威になるやもしれない存在がいると隊長に知らせなければいけない。部下の幾人かは命令を聞いて走り出していった。あの速さならあのフルプレートの騎士でも追いつく事はできまい。

 

「『猛毒の擲槍<ベノム・ジャベリン>』」

 

 何処からともなく数本の毒々しい紫色の槍の形状をしたものが俺の横を通り過ぎた。俺の後ろから悲鳴が聞こえ、振り向くと隊長に知らせに逃げようとしていた部下達が紫色の槍に突き刺されて倒れていた。

 

「もー、ボクのコレクションになるんだから。逃げようとしたってダメだよぉー」

「アルトリウス、あとはこいつらだけか?」

 

 フルプレートの騎士の後方に、黒髪の少女とこの騎士と同じくらい体格の大きい大男がいた。少女は恍惚な表情を浮かべながら魔法陣を発動させ、大男の持っている黄金の斧には血が滴っている‥‥あの大男の発言からして村にいた他の部下達はやつらに殺され、残りはここにいる我々だけか‥‥どうやらもう逃げられないということか‥‥

 

「貴公は他のケダモノと違うようだ‥‥このような場で貴公と出会ったのが少し残念だ」

 

 無言で部下を屠っていった銀色のフルプレートの騎士が言葉を発した。本当に残念だ‥‥

 

「有難い言葉だが‥‥部下達の敵をとらせてもらう」

 

 わかっている、俺はここで殺される。だが一方的に殺されてたまるか。死しても一矢報いてやる‥‥ああレオ殿、貴方に剣の指導を願うことができなくなるのが残念です‥‥

 

「いくぞ‼」

 

 俺は駆けて一気にフルプレートの騎士の懐まで迫る。剣に力を込め、全身全霊の一撃を放つ。

 

「武技‼『剛斬』‼」

 

 副隊長に就任される前に、憧れていた尊敬していた『十騎士』の1番隊隊長のレオ・ライオネス殿から教わった剣技。

 

 命を賭して放った一撃は‥‥‥銀色のフルプレートの騎士には全く通じなかった。銀の鎧に弾かれ、剣は見事に折られた。

 

「‥‥いい覚悟だ」

 

 銀色のフルプレートの騎士アルトリウスはそう呟くと銀色の長剣を振り下ろした。いつ戦場で死ぬか、覚悟はしていたが、この男に歯が立たなかった…ああ、無念だ‥‥

 

____

 

「あ゛ー‥‥疲れた」

 

 ようやく村長との話を終えて村長の家から出た俺は背伸びをする。生き残っていた村長に自分達は遠方から、僻地から来た世に疎い旅人だと称し、たまたま通りかかった所にこの村がビーストマンに襲撃されていたのを見かけたから助けに来たと話した。

 ついでに助けたかわりに一息入れる場所の提供と路銀を少々、後はこの周辺の詳細を求めた。無償の施しは怖がられる、というかグロいのを見せられて怒っただけなんだけどなぁ。あそこまで拝めると逆に困るわ。

 

 あと長ったらしいのはあまり得意でもないんだがなぁー…そんな事考えて貸してもらった空き家に戻ったらジゼルがトテトテと駆けよって来た。

 

「デス・アダー様お疲れ様です!よかったらボクに発散してもいいんですよぉ?」

「ばかたれ」

 

 色気を発して艶めかしく誘ってくるジゼルにチョップを入れる。まったくなんでいつもこんな事を考えるのやら、いつもの俺なら「喜んでぇっ‼」とルパンダイブするが場所が村だししかも村人が入る前で言うもんだからとんでもないったらありゃしねえ。あぁ~タマモとかアルクとかにパフパフしてもらいてぇ~‥‥

 

「んでジゼル、ビーストマンの処理は終わったか?」

「はい!さっそく新しい死体コレクションにして送っておきました」

 

 『死霊使い<ネクロマンサー>』であるジゼルのスキルで死んだビーストマン達はゾンビにされてお持ち帰り。やっと死体コレクションを手に入れてジゼルはご満悦の様子。ビーストマンは死体でも利用価値はありそうだしな、問題はないだろう。

 

「ですがデス・アダー様、人間の死骸も手厚く葬らなくてもよかったのでは?」

 

 ジゼルは勿体ないと呟いて窓から外を見る。村人たちの死体はアルトリウスに集めてもらい手厚く葬らせておき、生き残った村人たちでビーストマン達に殺された村人たちの墓を建て、墓の前で生き残った村人たちが悲しみに泣き崩れ嗚咽と号泣の声を上げているのが聞こえた。 

 

「生き返らす事はできるが、聖人君主になるつもりはねえし神として拝められるのもまっぴらごめんだ。だからせめて礼儀として人としてやっておいた方がいいだろ」

 

 まあ今の俺達は人間じゃないのだけどな。皮肉だがここまで人間に対しては一切の同情もわかない。あったとしても小動物をめでる程度だ。だがだからといって人間を軽んじて見ているわけではない。

 

「ジゼル、人を甘く見ちゃいかんぞー。やるときゃやるのが人間だからな」

 

 まったく人間というものは想像以上の動きを時たまやるからな‥‥果たしてこの村人たちにはあるかどうかは分からないが。NPC達にも言い聞かせておかないとな‥‥そんな事を考えてたらアルトリウスが作業を終えて空き家に戻って来た。やっとひと段落つけそうだな。

 

「アルトリウス、ご苦労さん。今日は大活躍だったな」

 

「勿体なきお言葉‥‥デス・アダー様、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか」

 

「おう、なんなりと言ってみ?」

 

「何故、この村を保護対象に置かれたのでしょうか?村なら他にも点在しているはず、それなのにこの村を選ばれたのです?」

 

 流石はブラッドが作成したNPCだ、勘が鋭いというか作った奴に性格が似ているというか‥‥本来ならジゼルの死体コレクション集めでたまたまこの村を見つけたと言いたいが、別の理由が見つかった。

 

「‥‥剣だ」

「剣?あのアストラルという少女が持っていた剣のことですか?」

 

「ああ‥‥サイズは違っていたがあの剣は間違いなくユグドラシルの剣だ」

 

「「!?」」

 

 俺の言葉にジゼルとアルトリウスは驚愕する。正直言って俺もあれを見た時はびっくらこいた。あの紫色の刃に金の装飾…あの剣は見覚えがある。

 

「あの剣は『冥剣リベリオン』に違いねぇ」

 

 詳しい効果はあまり覚えてないが強力な闇属性を付与する超がつくほどのレアな武器だ。しかもその剣はとあるプレイヤーが所持していた。名前は忘れたが人間種の高レベルの女性プレイヤーだったのは覚えている。

 

「つまりその持ち主だったプレイヤーがこの世界に転移していたってことか‥‥」

 

 しかも200年前に、そして代々受け継がれてきたということはこの村に移住したのか、村を起こしてひっそりと子孫を残したということか。それにしてもユグドラシルの冥剣リベリオンはもう少し大きかったがあの少女に合うような大きさに変わっているのだろうか。

 

「つまりあの剣を手に入れる為ですね?今すぐあの子をゾンビにして従わせますよ!」

「いや‥‥恐怖による支配はダメだ。この村、この村人たちの信頼を得るのが大事だ」

 

 折角の情報収集に最適な村なんだ、それをすぐにぶち壊すなんて勿体ない。他に利用できないか検討する必要もある。ラクーンさんに‥‥いや、ブラッドかノッブに相談してみよっかなー‥‥間違いなくラクーンさんに勝手に外出したことがバレて処されるし。

 ま、後はアストラルって子は見た感じでは冥剣リベリオンを使いこなせていない。しばらく様子をみるのも一手だろう。

 

「さて、この村でやることは済んだ。一旦帰るとすっか」

 

 気が付けばもう日が暮れている、早く帰らないとラクーンさんに見つかって処される。何事もなかったかのようにするために急いで帰ろう。

 いざ異界門を開いて帰ろうとしたのだが、突然外が騒がしくなった。作業を止めて外を覗くと村人たちがどよめいていた。村人たちは焦り、声を荒げているようで村長が何とかして宥めているようだ。

 

「あー‥‥もうひと頑張りしなきゃいけないやつだこれ」

 

 嫌な予感を感じつつ外へ出て村長に伺う。

 

「村長殿、何かあったのですか?」

「デス・アダー様‥‥実は、新たなビーストマンの軍勢がこの村に近づいているようでして‥‥」

 

 あかん‥‥これ、すぐに帰れないやつだ。さっさ帰らないとラクーンさんに怒られるのに帰れないやつだ。




 異世界に転移して国を立ち上げ、名を広めたプレイヤーもいればどこかの村に住んでひっそりと生涯を過ごしたプレイヤーもいるんじゃないかなぁと思いました(コナミ感


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9杯目 ほうれんそうは的確に

 一難去ってまた一難。またしてもビーストマンの軍勢がこの村に近づいてくる。折角助かった命がまた危機にさらされる、今度は皆殺しにされると恐怖を抱いた村人たちは次々に声を荒げていく。

 

「村長!この村を捨てて逃げよう!この村はもうダメだ!」

 

「嫌よ!何処へ逃げたってビーストマンに追いつかれて殺されるわ!」

 

「じゃあみすみすあいつらの餌になれってか!?冗談じゃねえ!」

 

「今ならまだ間に合う!俺は荷物をまとめて逃げるぞ!」

 

 やんややんやと村人達は己の主張を述べたり反論したりと何とも言えない言い争いが勃発している。村長も悩んでいるのだろう。長く過ごした場所だ、ここを捨てるか若しくはここに残るか。捨てたとしても何処へ逃げればいいか、残るとしても抵抗か死を受け入れるか、どちらにしろどの道にも苦難が立ちはだかる。

 

「なんて言うか、醜い争いですねー」

 

 ジゼルは人間の言い争いなぞどうでもいいようで、「はやく自滅しないかなー」なんてニヤニヤしながら呟く。ジゼル、恐ろしい子っ‥‥

 しかしながらこんな所で言い争いをしても時間が過ぎるだけだ。俺はため息をついて村人達の言い争いを止める。

 

「‥‥お前達はこの村に愛着はないのか?」

 

「あ、愛着‥‥?」

 

 まあ俺の図体がでかいせいでもあるだろう村人達は静まり返った。ちょっとビビられてるのは少しショックなんだけどなー‥‥

 

「俺の故郷の話をしよう‥‥俺の故郷には沢山の仲間がいた。俺もそいつらも最初は力がねえ弱っちい半人前でな、幾度となく襲撃をされて何度も滅茶苦茶にされた。畑も建築物も大切にしていた物もぶち壊された。でもな、俺達は弱音を吐くことなく何度も何度も建て直していったよ」

 

「‥‥に、逃げ出したいとは思わなかったのか?」

 

「ああ、思わなかった。そこには仲間がいたからな。嬉しい事もあった、涙を流したいくらい悲しい事もあった、苦楽を長く共にし、共に思い出を過ごした。かけがえのない大切な物がそこにはあった‥‥それでお前達はどうだ?長く過ごし思い出の積もったこの場所を捨てる勇気はあるのか?ただ只管ビーストマン達に蹂躙されたいか?」

 

 俺の問いに村人達は言葉を発することなく俯く。すると村人の一人が顔を上げた。

 

「この村を捨てたくねえよ‥‥失いたくねえよ。この村で産まれてこの村で過ごしてきたんだ、簡単に手放したくない!」

 

 一人の村人の発言を皮切りに次々に村人たちが頷いていく。

 

「この村で産まれたんだ…どうせならこの村で死にたいさ!」

「あいつらに一方的に殺されてたまるか、一矢報いてやる!」

「どうせ何処へ逃げたって同じこと‥‥それならせめて大好きなこの村で果てた方がましよね!」

 

 先程の消沈していた村人達の活気が段々と戻ってきた。どの村人達も覚悟を決めたようだ。村長も覚悟を決めたようで俺に笑顔を向ける。

 

「デス・アダー様、私達はこの村に残ります‥‥皆でこの村で最期を迎えようと思います」

 

「そうかそうか‥‥ならこの村に愛着がわいたぜ」

 

 なんだかな、やる気に満ちた村人達を見てみるとかつての弱小ギルドだった頃、右往左往しながら必死に頑張っていた俺達を思い出した。

 

「そんじゃもう一仕事でもしようかね‥‥喜べ、最期を迎える時期じゃなくなるぜ?」

 

「そ、それはどういう事ですか‥‥?」

 

「ん?ちょっくら3人でこの村に来るビーストマンの方々に帰ってくださるようお願いしてくる」

 

「そ、そんな‥‥無茶だ!たった3人でビーストマンの軍勢を相手にするなんて無謀すぎる!?」

 

 どうだろうなぁ、ワンマンで戦ってみたがぶっちゃけ相手にならなかった。相手のレベルは低いのだろうか、それなら軍勢で来ても問題はないだろう。まあアルトリウスとジゼルがいるし、危なかったらマジでラクーンさん達呼べば何とかなるだろうし。

 それに相手の軍力がどんなものか知りたい。今後ドゥンケルハイトに脅威になる存在がいるのか、各国の力を把握し対策を練る必要もある。

 

「問題ねえよ、俺はめちゃんこ強いし。それに‥‥やられたらその倍に返すのが俺のモットーだし」

 

 今後この村は情報収集するための大事な拠点にするつもりだ。これ以上ビーストマン共に滅茶苦茶にされてたまるか、二度と来ねえようにしてやろう。ジゼルとアルトリウスについてくるよう目で指示し、さっそくビーストマンの軍勢をお迎えすべく向かおうとする。

 

「ま、待ってください‥‥!」

 

 ふと俺を呼び止める声が振り返ると村のはずれで助けた少女、アストラルが駆けつけてきた。

 

「で、デス・アダー様‥‥お、お願いします‥‥私もつ、連れてってください!わ、私もた、戦います!」

 

 アストラルは『冥剣リベリオン』を持って俺に懇願してきた。覚悟を決めている目ではあるが、体は恐怖に震えていた。

 

「‥‥アストラル、この村は好きか?」

 

 しゃがんでアストラルと同じ目線で尋ねる。言わなくても分かる、まだこの子の剣は未熟だ。連れていったとしても一方的に死ぬか、俺のゴールデンアックスに巻き込まれて死ぬ。

 

「は、はい‥‥!母もおばあ様も、先代も皆この村を愛してました。私もこの村が好き‥‥だからこの村を守りたいんです!」

 

「そうか‥‥気持ちはわかった。だがお前さんを連れてはいけねえな」

 

 アストラルは反論することなく俯く。自分は弱い、少女自身も分かっていた。俺はポンとアストラルの頭を撫でた。

 

「お前さんなら強くなれる、きっとその剣を使いこなせる。俺は応援してるぜ‥‥」

 

 まだまだ若い。これから少女は強くなるはずだ。話も大分長くなってしまった事だしさっさと向かうことにした。

 

「強くなるんですかねー‥‥あれじゃ低レベルのラフムすら倒せないと思いますよー?」

 

 後ろについてきているジゼルがチラっと俺達を見送っているアストラを見て呆れたようににやける。そんなジゼルをアルトリウスがぽこんとげんこつを入れた。

 

「言葉が過ぎるぞジゼル。あの娘は『冥剣リベリオン』を所持している。デス・アダー様にとって最重要人物なのだぞ」

「まー‥‥レベリングぐらい遠回しに手伝ってやるさ」

 

 見た感じからして『冥剣リベリオン』の効果は発動もしていない。所謂所有者認めるとか言うやつ?使いこなせばきっとあの子は剣聖とか剣豪とかになるだろう。使いこなせばの話だけど。まだまだあの子は若い、あともうちょっとボインでセクシーだったら俺が手解きをば‥‥げふんげふん

 

「それにしても救援すらこねえたぁ竜王国は滅びかけてるってわけか」

 

 ブラッドやノッブが言ってた通り、竜王国は風前の灯火。もう村や村人の救助とか国の防衛と兵力不足で手が回らないのだろう。下手したら来週ぐらいに滅んじゃったりして。

 

「そんなら国を興そうかなぁー‥‥」

 

「「!?」」

 

「‥‥なーんて、そんなこと言ったらラクーンさんにどやされるな、ははは」

 

 思わずこぼした俺の呟きを聞いたジゼルとアルトリウスはギョッと驚いたようにこちらに顔を向けていた。勝手にやろうとしたらラクーンさんに怒られてしまうもんな。ノッブはたぶんやる気満々になるだろうな、ブラッドは‥‥あいつは冒険の方が好きだし興味はないかも。

 

「さてと話はここまでにしてお出迎えの準備をしますか!」

 

____

 

「テイガー隊長、副隊長が向かった村はあちらです」

 

 部下の言葉を聞いてはるか先に見える村をじっくりと眺める。一見人間どもが建て貧弱そうな村だ。竜王国への遠征討伐を行った際に減った食料を確保するために副隊長であるアルムに一部隊を引き連れさせ食料の確保を命じたのだが、一向に戻ってこない。

 遠征で肉に飢えた兵士達もいたであろう、兵士達が我先にと人間どもを喰っているのか。いや、あのクソ真面目なアルムはそうはさせないはずだ。何よりも食料の確保を優先し、戻ってくるはずなのだ。

 

 なによりも一部隊の兵士達も戻ってこない。まさかあの村にアダマンタイトの冒険者が潜んでいてやられたのか?いや、あいつらは本隊とぶつかっている。こんな離れた村にいるわけがない。

 

 あのクソ真面目の生死なぞどうでもいい。どちらにしろやることはただ一つ、蹂躙だ。あんな貧弱な村なぞこの少数でも一瞬にしてぶっ潰す。人間がいたら喰ってやろう。ここ最近、人間の肉は喰ってない。どの兵士達も早く喰らいたいと舌なめずりしている。

 

「‥‥?」

 

 もう少しで村に着くといったところで軍の歩みを止める。俺達の行く手を阻むかのように、3人の人間が立っていた。一人は上半身にマントを付けた黄金の斧を持った鉄仮面の大男、一人は銀色のフルプレートで長剣を持った背の高い男、そして白い分厚い布の服を着ている2つのアホ毛のついた黒髪の女だ。

 

「ふむふむ、お前らがビーストマンの軍勢か」

 

「えーと‥‥200ぐらいです。これならゾンビアーミー作れちゃいますよ!」

「これを全部持って帰るのは諦めろ、ジゼル。また今度にしておけ」

 

 

 なんだこいつらは?俺達に喰われたい自殺願望者か?それともただのマヌケか?

 

「なんだお前ら?」

 

「おう、俺はデス・アダーっていうもんだ。聞くがお前らはあの村を襲うつもりか?」

 

「何を言い出すかと思えば‥‥その通り、これからあの村を潰し人間を喰らう」

 

 

 デス・アダーと名乗った大男はそうかそうかと呟いて頷いた。本当になんだこいつ。

 

「あの村に愛着がわいてな、今後俺のお気に入りの村にするつもりなんだ。今なら悪い事は言わねえ、俺の邪魔をしねえならさっさと帰れ。そんで二度とくんな」

 

 デス・アダーの発言に俺達は面食らい、兵士達は一斉に笑いだす。これを笑わないわけが無い、もう俺もおかしくてたまらねえ。

 

「ガハハハハ‼おまえ、何を言うのかと思えばっ‥‥本当に頭がおかしい野郎だな!」

 

 一瞬、銀色のフルプレートの野郎が動こうとしたがデス・アダーに止められる。

 

「お前ら下等な人間の願いなぞ聞き入れられると思うか!お前らは餌だ‼俺達に喰われる弱小な存在だ‼」

「そうか‥‥じゃあ俺のお願いは聞いてくれないのか」

「当然だ!お前達はこれから俺達に喰われるのだからな!そしてあの村の人間も喰ってやろう‼これは蹂躙だ‼どんなに泣き喚こうが命乞いしようが、貴様らはもう助からないのだからな‼」

 

 あの村の蹂躙より先に手始めにこのバカ共を嬲り殺してやろう。大男とフルプレートはさっさと殺して喰らい、あっちの女は犯してから喰ってやろう。

 

 するとデス・アダーが俺達よりも大きな声で大笑いしだした。恐怖で気でも狂ったか?

 

「いやー‥‥あれだ。所詮は獣の頭脳、ド低能すぎだしテンプレすぎてもう笑っちゃうわこれ」

 

 大笑いしたデス・アダーはすぐに黄金の斧の切っ先を俺達に向けた。先ほどのふざけたような様子が一変、殺意を込めた視線で俺達を睨み付けてきた。

 

「あの村を蹂躙すると言ったな?いい度胸じゃねえか‥‥お前らは容赦なく潰してやろう」

 

「ふん!たった3人でこの軍勢を相手できるわけがねぇだろうが‼」

 

 俺は剣を振りかざして兵士達に突撃の指示を出す。合図共に300の兵士達が一斉にデス・アダー達へと迫っていく。こいつらをぶっ潰してその勢いで村へと向かう、蹂躙の始まりだ。

 

 だが、デス・アダーはこの数を見ても臆することもなく、それどころかため息をついていた。

 

「あーめんどくさっ‥‥アルトリウス、ジゼル、下がっとけ」

 

 銀色のフルプレートとアホ毛の女が後ろへと下がるとデス・アダーは斧の切っ先を向け、魔法陣を展開しだした。

 

「『圧し潰す重力《グラビティ・フォール》』」

 

 奴が魔法を唱えたその刹那、迫っていた兵士達の大勢と彼らが立っていた地面が一瞬にして沈降した。まるで見えない巨大な岩でも落ちたかのように地面は抉れ、兵士達は血と臓物と肉片を撒き散らしトマトの様に潰れ肉塊へと変わり果てていた。

 

 なんだ‥‥何が起こったのだ‥‥!?300もいた兵士達が一瞬にして潰された!?それよりもなんだあの魔法は‥‥見た事も無いぞ!?

 

「き、貴様、何をした!?」

 

「あ?言ったろ、ぶっ潰すって。こちとら有言実行派なんでね、あとさっさ帰りたいからはよ終わらす」

 

 デス・アダーは呆れたように言い返すとゆっくりとこちらへと近づいてきた。残っている兵士達は先ほどの余裕が失せ、焦りと恐怖にまみれた顔をしている。

 

「な、何をしている‼剣がダメなら弓矢や魔法で殺せ‼」

 

 血相を変えた兵士達はあのデス・アダーを近づけさせないように弓矢を射ったり、魔法が使える者は魔法を放ったりした。奴に当たるかと思った瞬間、放たれた弓矢も魔法も障壁でも張っているかのようにことごとく弾かれていった。

 

「‥‥‥っ!?!?!?」

 

「悪いな、一定数値以下の攻撃力による攻撃も第6位階以下の魔法も効かねえんだわ‥‥てか拍子抜けすぎてがっかりなんだけど?」

 

 ふ、ふざけるな‥‥第6位階だと!?誰も踏み入れた事のない、踏み入れるはずのない領域の魔法。そんな位階魔法を使える奴なんているはずがない!?

 

「て、テイガー隊長‼こ、こ、ここは退きましょう‼あれは桁違いです‥‥‼我々では勝てません‥‥‼」

「何を恐れている‼俺はテイガー・ハーシン‼ビーストマン王国が『十騎士』の9番隊隊長だぞ‼」

 

 誰もが恐れる『十騎士』の中でも剛力、惨忍と恐れられ、数多もの人間共を喰らい殺してきた。名を聞けば人間共は震えあげ恐怖に立ち尽す。

 

「あぁ?知らんがな」

 

 デス・アダーという男は不機嫌そうに睨み返してきた。知らないだと‥‥!?こんな無知な男に、名も知らないたった一人の男に殺されてたまるか‥‥‼

 

 

 そうだ‥‥俺には『これ』があるじゃねえか‥‥‥念のために持ちだした甲斐があった

 

「!?て、テイガー隊長‼なりません!それは竜王国を攻め滅ぼすための数少ない兵器です‼」

 

「うるせえ!今ここで使わねえと意味がねえ‼」

 

 

 

 

「‥‥お?なんじゃありゃ?」

 

 

 なんかトラ頭の野郎が喚きだしたかと思えば部下の抑制も振り払って懐から何か取り出したな。なんか黄金色に輝く半透明の鉱石のようだが‥‥

 

「もしやあれは‥‥」

 

 恐らくだがあれは召喚石に違いねえな。まさか武器や魔法だけじゃなくてユグドラシルのアイテムもこの世界に存在してるとはな。なんというか外出して正解だったような気がする。

 確か召喚石には色でレア度がランク付けされてたな。ノーマルなら銅、レアなら銀、Sレアは金でSSレアは虹色…つーことはSレア、6、70レベル相当の召喚獣が出てくる可能性がある。

 

「これが俺の切り札だ‼」

 

 トラ頭が召喚石を掲げると金色に眩しく光り出した。光の中から現れたのは推定8mぐらいのでかさを誇るケンタウロスの姿をした石のゴーレムだった。およ?あんなモンスターいたっけな?まあ強そうっちゃ強そうだしいっか。

 

「ほー…面白そうなもん持ってるじゃねえの」

 

「こいつは4体のうちの一つ、本来は竜王国を攻めるために使う兵器だがお前をぶっ潰すのに丁度いいだろう!」

 

「あーうん、そっか」

 

 なんというか珍しいモンスターだ。ノッブ、こういうの欲しそうだしうまく捕獲して持って帰ろうかなー‥‥あ、いや持って帰ったらラクーンさんに勝手に外へ出た事バレるしなぁ。何てこと考えてたらなんかトラ頭がキレてた。

 

「いい度胸じゃねえか‥‥‼お望み通り潰してやるよ‼ゴーレムよ、あの愚か者を叩き潰せ‼」

 

 トラ頭の命令にケンタウロスのゴーレムは巨大な石の剣を手に持って雄たけびを上げながら俺めがけて振り下ろして来た。

 

 

 

 巨石の剣の一撃が響き渡る。大地を揺らし、亀裂を走らせる。完膚なきまで叩き潰せただろう。竜王国の僅か数日で3つの都市を攻め落とした程の力だ。俺達の勝ちは確定だ。

 

「ふははは‼ゴーレムにかかれば呆気なかったなぁ‼」

 

 あとは愚か者の潰れた死骸を拝見すれば‥‥‥‥‥おかしい、ゴーレムの持っている巨石の剣にひびが‥‥!?

 

 まさか‥‥いや、そんなまさか‥‥!?巻き上がる土埃の先を恐怖と嫌な予感を過らせながら目を向ける。土埃が消え失せると、そこには巨石の剣を片手で受け止めているデス・アダーの姿が‥‥

 

 

「うそ‥‥だろ‥‥!?」

 

「んんー‥‥いい攻撃だが、まだまだってとこだな。期待はしていたがこの程度か」

 

 デス・アダーが強く握り絞めると巨石の剣が亀裂を走らせ砕け散った。

 

「ありえん‥‥ありえない!?竜王国やミノタウロスの国を窮地に陥れた力をもつゴーレムだぞ!?こんな、こんな簡単にあしらえるわけがない!?」

 

「今度はこっちの番だ」

 

 デス・アダーは黄金の斧を強く握り絞めて思い切り縦へと振った。斧から金色の剣閃が飛び、吹き飛ばすような突風が通り過ぎたと思ったその刹那、ゴーレムが縦に両断され大きな音を立てて崩れていった。我が国の最高の兵器が、国をも攻め落とせるほどの力を持つ兵器が、目の前で一瞬にして崩壊した。

 

「い、一撃で‥‥‼!?」

 

「今のは『魔煌刃』というスキルなんだが‥‥ここで死ぬんだから教えても意味ねえか」

 

 

 デス・アダーは再びゆっくりとこちらへと近づいてきた。やっと今更になって確信した。こいつは人間じゃない、俺達と同じ‥‥いや、それ以上の化け物だ。殺される‥‥殺される‥‥‼

 

「ま、ま、待ってくれ‼い、いやお待ちください、で、デス・アダー殿‥‥否、デス・アダー様‼」

 

「あぁ?」

 

「わ、我々はも、もうあの村を襲いません、に、二度と近づきません‥‥‼それで足りなければお望みの額をは、払います‼で、ですから‼わ、私だけでもいい‼私の命だけはた、助けてくれませんか!?」

 

 デス・アダー様はピタリと動きを止めた。や、やはり金か…い、命だけ助かるのなら全額貢いでやってもいい…

 

 

「お前さ‥‥今まで喰ってきた人間の命乞いを聞いたことある?」

 

「‥‥へ?」

 

 デス・アダー様はとても呆れがこもった声で答えた。片手を上げると後ろに待機していた銀色のフルプレートの男とアホ毛の女もゆっくりとこちらに近づいてきた。3人から発せられている殺気ともう分かってしまっている結末に恐怖し、体が動かない

 

「お前の言ってたことを言い返してやろうか?これは蹂躙だ、どんなに泣き喚こうが命乞いしようが貴様らはもう助からないのだからな‥‥!」

 

 鉄仮面から見える赤い眼光に睨まれた‥‥恐怖で言葉が出ない、もう逃げられない

____

 

 

「ふぅー‥‥あー、終わった終わった」

 

 やっとこさ後片付けが終わった。気が付けば日は沈んで暗くなり、空には星が点々と輝いている。やばいな、これ早く帰らないとラクーンさんに殺される‥‥!

 

「デス・アダー様、ありがとうございました!おかげでボクの死体コレクションがたーくさん手に入りました!」

 

 ジゼルはとても幸せそうに満面の笑みで抱き着いてきた。あー可愛いなちくしょう。でも今は早くお家に帰ることに集中しなければ‥‥‼

 

「それでデス・アダー様、今後あの村には監視を置くのですか?」

 

 ちょ、アルトリウスがもうあの村の今後の相談をしてきたぞ!?まだ早いって!確かに考えなきゃいけないけど、今はお家に帰ることを考えて!?

 

「あー…うん!村づくりとかノッブ好きそうだしな!ノッブに相談しようかね!あ、でもラクーンさんにはちくんなよ‼」

 

「村づくり‥‥」

 

 なんか納得してくれたのはいい、もう適当にノッブに押し付けてやろうか。だがまたビーストマンの軍勢に攻められちゃ意味ないしな、なんとか強化しておくべきか。

 

「さてと‥‥お家に帰るぞ!ジゼル、アルトリウス。お前達は先にゲートを使って帰ってくれ」

 

「?よろしいのですか?」

 

 おそらくゲートをくぐった先にラクーンさんが笑顔で待ち構えているはずだ。ここは敢えて裏をかいてジゼル達とは別の方法でお家に帰る。いわば門限に遅れ、玄関で待ち構えている親父に見つからないように裏口から帰宅する作戦だ。

 

「ま、まあな俺は他にする事があるから。帰ったらゆっくり休め、あとラクーンさんには秘密な!」

 

「は、はあ‥‥?」

「‥‥」

 

 ジゼルとアルトリウスは納得してくれたようで、二人は先にゲートをくぐって帰っていった。さて、俺はこの『飛行<フライ>』を詠唱できるネックレスを使って、入り口から帰る!

 

「飛行<フライ>!」

 

 空へと高々と飛びあがり、空を切るように大急ぎで飛んで数十分。木々が恐ろしい程生い茂てできた樹海に隠されている我が家、洞窟の入り口へと辿り着く。

 

「ふぅー…なんとか早めに帰れたぜ。これならラクーンさんに外出してたってバレやしねえ‥‥」

 

 

 

 

 

 

「そうかそうか、勝手に外出はそんなに楽しかったか」

 

 

 

 

 ぞくりと恐怖と殺気を感じて恐る恐る後ろへ振り返る。そこには煙草を吸いながら楽しそうに笑っているラクーンさんがいた。いや、目が笑ってない…めっちゃ怒ってる。ラクーンさんは自分の体よりも大きすぎるバズーカ砲を取り出してリロードして銃口を向ける。

 

「ら、ラクーンさん…!?どうしてここに!?」

 

「あ?リルティから聞いたぜ、お前が勝手に抜け出したって。てめえの考える事は簡単すぎて分かるんだからな?」

 

 あー‥‥やっぱりリルティは報告したんだね。えらい、流石はミリタリヴァルキュリアの中でも常識人。ホウレンソウは大事だからね。

 

「さて、デス・アダー。何か言う事はねえか?」

 

「‥‥ゆ、許してちょ?」

 

「‥‥死に曝せやぁぁぁぁぁっ‼」

 

 ラクーンさんの怒声と共にバズーカ砲の引き金は引かれた。

 

 

 樹海の中に爆発音と俺の悲鳴が木霊する。




 
 報告することは大事だからね!

 なおビーストマンの死体はジゼルによってゾンビ化、またはラフム召喚の素材となりました


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10杯目 今後の方針

「全員集まったな?」

 

改めて全体を見回す。逢魔の王間にはアルクを始め各階層の守護者達や領域守護者達やミリタリヴァルキュリアとミリタリ部隊、各階層に住まうモンスター等々多数大勢が膝をつき頭を下げて待機していた。オレイカルコスやオズマといったサイズがでかすぎる者は階層で待機してもらっているが、改めて思うと物凄い数だな‥‥

 

 彼らは皆、玉座に立っている俺を注目している。ま、まあこのちっさい身長のせいで座らない方が示しがつくのだがな…って、誰がちびすけじゃゴラ‼‥‥じゃなくて今はこんな事してる場合じゃないな。

 

「あー‥‥皆、待たせてすまなかったな。顔を上げてくれ、まずは俺の号令に集まって来てくれたことを感謝する」

 

「ラクーン様、勿体なきお言葉。至高の御方々のお声があれば我ら、何処へでも駆けつけてまいります」

 

 一番先頭にいる階層守護者総括であるアルクが再度頭を下げる。堅苦しいのは苦手なんだけどなぁー‥‥まあこれが彼女達のやり方なのだろうだから多少は受け入れないと。

 

「今回皆に集まってもらったのは他でもない、俺達ドゥンケルハイト・トップの今後の活動方針についてだ」

 

 アルクを始め逢魔の王間にいる全員が真剣な表情になって俺を見つめてきた。自分達がどう動けばいいか、悩み考えていた者もいるだろう、彼らにとってこれは最重要事項なのだから。

 

「まず初めに地盤固めだ。この世界に転移してから俺達にはなんの情報もない。情報収集をしつつ、利用できるものは利用し、この世界に慣れていくことだ」

 

 ノッブやブラッドから聞いた話では()()()()()モンスターや人間のレベルは俺達よりもはるかに低い。だが俺達よりの他にもプレイヤーがこの世界にいたという痕跡が残っていた。考えたくはないが強いプレイヤーはワールドアイテムや激レア武器、激レアアイテム等々、俺達の脅威になるであろう物を使い国を興しているかもしれないし、そのプレイヤーが死んだ後この世界の住人達が使っているかもしれない。

 

 それに俺達の知らないアイテムやスキルや魔法もあるかもしれない。俺達はまだまだ手探りの状態なんだ、無暗やたらと突っ込むのは危険だ。

 

「そして情報が集まり、地盤が固まったのであれば、この世界でのドゥンケルハイト・トップを作り上げていく」

 

 俺の答えにアルク達は目を輝かせ喜びの声を上げた。郷に入っては郷に従え、ユグドラシルでのドゥンケルハイト・トップがあったようにこの世界での俺達の家を作っていこう。ブラッドは冒険好きだからあっちこっち飛び回っていくだろう、ノッブはリアルの世界でできなかった事をこの世界でのやり方なりに挑戦するだろう、デス・アダーは‥‥うん、考えるのはやめておこう。

 

「この世界で我が家を作っていくんだ‥‥お前達、力を貸してくれるか?」

 

 俺の問いに彼らは喜んだ。ある者はうれし涙を流し、ある者は拍手をし、ある者は歓声をあげる。良かった、皆ついて来てくれるようだ。

 

 さて、次の問題はこっからだ。皆、ちゃんと理解してくれるかどうか‥‥今後様子をしっかり見ていかねえと。俺が手をあげると彼らは静まり返る。

 

「その代り‼これだけは肝に銘じてくれ。決して相手を下と見るな」

 

 NPCの幾人かはカルマ値が悪よりの者がいるし、人間を含め俺達の邪魔をする輩はきっと下等生物だと見下している者もいる。世界は広い、例え弱者であっても俺達を倒す術やアイテムを持っている可能性は高い。そして何よりゲームの世界じゃない。経験値が高くともステータスが高くとも、それだけで雌雄を決するとは言えなくなっているのだ。

 

「どんな相手でも凌駕する力を持っている可能性を考慮しろ。あと、どんな相手でも甘く見るな。彼らにはお前達にない物を持っている」

 

 彼らはそれは何かと不思議そうな顔をしている。そりゃ当然だ、転移する前までは簡単なAIでしかなかった。

 

「それは『覚悟』だ。死を覚悟する者、何かを守ろうと戦う覚悟を持つ者、たとえ死しても一矢報いようと覚悟を決めた者、そいつらは時として牙を剥き一撃を与えてくる」

 

 懐かしいな‥‥かつてダンジョン攻略時、たった一匹のヒトクイ箱が倒される間際に『道連れ爆弾《フェロウ・ボム》』くらって全員死にかけたってことがあったな。そんで異業種狩りにも出くわすわで本当にやばかった。

 あとはデス・アダーがお家に空き巣が入って食べ物が無くなって、ブラッドとノッブが遊びに来てなかったら餓死してたってやつ。あいつ『死にかけると本や段ボールって食べれるんだね!』って言ったもんな。人間、死にかけると生きるために全力出すものだ。

 

「油断や慢心せず、心してかかれよ‥‥?」

 

 果たしてこの言葉をちゃんと理解してくれているだろうか、心配ではあるがしっかり見ておかねえと。

 

「それから‥‥報告はちゃんとすること!どんな些細な事や情報でもいい、必ず守護者達や俺達に伝えてくれ。自分にとってどうでもいい事が重大な事だという可能性もある、その時は躊躇わずちゃんと言ってくれ」

 

 見落としだけはしたくない。そのミスで彼らが怪我したりとかはして欲しくないからな。

 

「報告を怠ったり考えずに勝手に行動すると‥‥あのバカみたいになるからな?」

 

 俺はちらりと横目で睨む。隣には膝に重しをのっけて正座しているデス・アダーが。『私は勝手に行動しちゃいました』という看板を持ってしょんぼりしている。こいつは勝手に外出した挙句、ビーストマンの一部隊を一掃したり村を救ったりと先に行動してしまった。ジゼルとアルトリウスの報告を聞いた時は卒倒しかけたわ。

 

「俺達がいなかったらアルクやサカマタでもいい、必ず相談をするように。最後に‥‥思考を張り巡らせ、何でもいいから意見を述べて欲しい。俺達だって考えや行動に誤りもある、こっちの方がドゥンケルハイト・トップの利益になるのではないかと思う所があれば遠慮なく言ってくれ。ただ命令に従うのではなく、何が俺達の為になるかしっかりと考えて行動をして欲しい‥‥デス・アダー、リーダーであるお前は何か言うことねえか?」

 

「み、みんな無理しないようにね!が、頑張っていこー!」

 

 足の痺れを堪えながらデス・アダーはプルプル震えながら声をかけた。彼の答えに守護者達全員が必ずや期待に応えようと答えた。

 

 

 

 

「あ゛ー‥‥ラクーンさんお疲れさん」

 

 第8階層のマイルーム館にある『Bar.ニャルホテプ』にてくたびれているラクーンさんに労いの言葉とビールを渡す。おつまみは棚にあった柿ピー。

 

「あいつらやる気満々過ぎてコワイ」

「ラクーンさんがあれだけ言ったんだ、きっと分かってくれる‥‥かなぁ」

 

 俺達もNPC達もまだまだこの世界の事を理解してないし、NPCはちゃんと考えて行動してくれるだろうか心配ではある。そこは俺達でサポートしてやんねえと。ラクーンさんはビールを飲み干したのでおかわりを注いであげる。

 

「まーだからこそ、幾人かに指示は出しておいた」

「バハルス帝国へ潜入するチームと各国の情報を収集するチーム‥‥」

 

 今後の方針を伝えた後、幾人かに指令を出した。バハルス帝国へ向かい国内の調査と『魔法』の調査する者達と竜王国を始めその周辺の国の情報を収集していく者を選んで向かわせる予定だ。

 

「あいつらは準備が出来次第、知らせてくる。その際にいくつかスクロールとアイテムを渡しておく」

「ワールドアイテムは所持させておくか?」

「念のため‥‥な。後は俺達でバックアップする」 

 

 そうと考えるとなんかやる事が多すぎて漠然としそうだなこれ。俺の考えを察したのかラクーンさんが苦笑いして小突いてきた。

 

「俺達が弱音吐いてどうする。ノッブとブラッドはもう先に頑張ってるんだ、俺達もやんねえと」

 

 あの二人はユグドラシル金貨が流通してないのでこの世界の貨幣を手に入れるために動いているようだ。後はノッブが何かやりたい事があるみたいだが‥‥まあ今は気にしなくていいか。

 

「あいつらは『王都リ・エスティーゼ』で、俺達は竜王国とバハルス帝国、あとついでにビーストマン国とその周辺だ」

「ラクーンさん、なんか俺達の方がやる事多くない?」

「あぁ?お前がビーストマンに喧嘩売らなきゃこんなに増えてなかっただろうがよ。ま、あいつ等にも手伝わすからまずは俺達で、だ」

 

 ラクーンさんは笑い飛ばしながらバンバン肩を叩いてくる。ああ、上機嫌のようでなによりです‥‥

 

___

 

「さて、皆の者。ラクーン様達が仰っていたことをちゃんと理解できたかしら?」

 

 至高の御方々のお言葉をちゃんと胸に刻み込んでいるのか改めて全員に問う。全員が静かに頷いたのでしっかり理解していることを確認する。

 

「我々がやらなければならないこと‥‥ラクーン様は『この世界でのドゥンケルハイト・トップ』を創り上げていくと仰ってました‥‥それはつまり、『この世界に至高の御方々の国を立ち興す』ことであると‼」

 

 周りの者達は歓声の声を上げる。その通り、至高の御方々は私達に期待をしているのだ。ふと副総括であるサカマタが手を上げた。彼は必ず私に意見を言ってくる‥‥

 

「アルク、ラクーン様達は本当にそう仰っていたのか?私からすると少しばかり早とちりのような気がするのだがね」

「言葉を慎みなさい、サカマタ。これはドゥンケルハイト・トップの最終目標のはずよ。アルトリウス、デス・アダー様が仰っていたのでしょう?」

 

 あの時至高の御方々の傍にいて発言を聞いていたアルトリウスに確認をとる。アルトリウスは静かに縦に頷いた。

 

「間違いない‥‥デス・アダー様は竜王国の荒廃とビーストマン達の蛮行を嘆き、それならば己が代わって新たな国を興し覇を唱え、我々ドゥンケルハイト・トップと同じように人間も亜人も異業種も区別なく平等な国を目指すのだ、とお考えになられていた」

 

 優しいラクーン様もデス・アダー様のお言葉を聞いて決行したのでしょう。ブラッド様もノッブ様も自ら行動しておられる‥‥だからこそ私達は後れを取るわけにはいかない。

 

「至高の御方々のために、私達は尽くせねばならない‼皆の者、期待に応えるよう恥じない働きをしなさい‼」

 

 

 

 アルクの声に歓声が巻き上がる。確かに至高の御方々為に我々は尽くさねばならないのだが‥‥タマモがこっそり私に歩み寄ってきた。

 

「サカマタ様‥‥たぶん、これ違くね?」

「今更言ってももう遅い‥‥どちらにしろ最終目標なのだからやらねばならんだろう」

 

 

_____

 

「バンビ、ちゃんとついて来いよー」

 

 俺は地図と格闘しながら街中をどんどんと進んでいき、バンビは辺りを見回しながら散策を楽しんでいた。

 

「ったく、ノッブのやつ『ワシはペルガさんと色々と今後の話とかしなきゃならんから先にやっといて』とか言って押し付けやがって‥‥王都広すぎだろ」

 

 エ・ランテルによって一泊した後馬車馬に『狂走<オーバーラン>』をかけてぶっ飛ばしたこと2日、なんとか目的地である王都リ・エスティーゼへと辿り着いた。無論、馬は過労で泡吹いて死んじゃったけど‥‥ごめんね

 

 ペルガさんの弟さんも羊皮紙の生産を行っていたため共同で行うとか、自分の工場を建てれる費用が入るまで頑張るとか言ってたっけな。まあノッブが今後も用心棒やるとか言って報酬に羊皮紙が手に入るようになったのは良しとしよう。

 あとの問題は通貨の確保、俺達で冒険者となってギルドの依頼を熟していかなければならない。今はカッパーと底辺だから皆のために一層頑張らねばならない。あぁー‥‥アダマンタイトのランクになるまで励めば。

 

「だからと言って先に俺達に押し付けなくても‥‥楽しまなきゃ損だな」

 

 しゃあない、請け負ったからにはしっかりやりますかね。気分転換に王都の街並みを見ながら楽しもう。なんというかよくある中世ヨーロッパ的な世界観を思わすような街並みだよな。これぞファンタジーというやつか。

 

「バンビ、どうだ楽しいか?」

「はい!色んな建物やお城があって‥‥‥爆発し甲斐がありますよね!」

「待ってね、待ってねバンビちゃん。絶対に人前でそれ言っちゃだめだからね?」

 

 時折バンビの爆弾発言におっかなびっくりするんだが‥‥これがボマー、ってやかましいわ。というか誰だ!バンビに『爆発は芸術だ』とか教えた奴は‼間違った知識を吹きこませるんじゃない。

 とか考えてたらやっと到着した。お探しの場所、冒険者ギルド。ここでクエストを受注できるんだよな。いざ入ろうとする前にバンビはやる気満々でフンスと張り切っていた。

 

「いよいよブラッド様の伝説がここから刻まれるのですね‥‥!バンビ・アイン、何処までもお供します!」

「おバカ」

「あうっ」

 

 バンビにチョップをいれた。大きな声で言いだすから町の人達が一斉にこちらを見てるじゃないか。というかさっき言ってたこと忘れてるよ!?

 

「バンビ、さっきも言ってたがここでは俺は一介の冒険者ブライ、そしてお前はそのお供バンビだと」

 

 もしプレイヤーがこの世界にいてそれが異業種狩りのプレイヤーだった場合、名前を知られると襲いかかってくるかもしれない。だから偽名を使って無暗に本当の名前を広めないようにしなけばならない。

 

「あと、ここではブライ様じゃなくてブライさんと呼ぶように」

「はーい!わかりました、ブライ様さん‼」

「分かってるよね!?大丈夫だよね!?」

 

 流石トゥーヤコさんお墨付きのポンコツカワイイ子。なんだかちょっと心配になってきたぞ?そんな不安を拭えないままギルドへと入っていく。

 

 やはり国の中心地というべきか施設内は広く、多くの冒険者で賑わっている。布の装備や軽装備の者、鎧を身に着けている者と老獪や若者やら様々だ。あーよかった、フルプレートにしなくて正解だったわ。たぶんすっごい目立ってただろうな‥‥狩人の服はあまり目立っては無い

 

 と思ったら冒険者達は後ろについてきているバンビを注目していた。『うは、カワイイ』とか『あの男にもったいねえ』とか『ヤリたい』とか言っている。うん、たぶんノッブきたらもっと騒がしくなるぞこれ。

 

 彼らの話は無視して受付へと向かう。クエストボードらしきところに色々と張り紙が張ってはあるが読めないので、受付嬢に教えてもらったほうがいいな。

 

「申し訳ない、クエストを受けたいのだがカッパーのクラスで一番難しそうなクエストを教えて欲しい」

 

 受付嬢は不思議そうに首を傾げたが気にせず笑顔でリストを取り出してくれた。あー‥‥よかった一応通じたようだ。後ろでは『あんなおんぼろそうな皮装備でやるのかよ』とか『田舎者か?』とクスクスと笑っている。バンビ、女の子が中指を突き立てちゃダメでしょ?

 

「それでしたら‥‥こちらのリストにございます討伐クエストがカッパーのクラスで高難度かと、どれをお受けいたしますか?」

「全部だ」

「へ?」

「それもクエストの一つ二つではない‥‥全部だ」

 

「」

 

 あ、受付嬢が物凄く困ったような顔をした。そうだよな、ユグドラシルでは低ランクのクエストやミッションは一括で受けることも可能だったが、ここでは道理が違う。

 

「も、申し訳ございませんがお、お一人で受けるには流石に無理が‥‥」

「ごめんね、確かに無理だったよね。じゃ、これとこれとこれの3つ。あ、二人でやるからいいよね?」

「み、三つ!?」

 

 み、三つもダメなのか!?でも今はどうしても稼がなきゃならん‥‥止むを得ん、ごり押しで行くか。

 

「ダイジョーブダイジョーブ!一日で3つで我慢すっから。あとお供のバンビがいるから2人だし3つでいいよね?」

「で、ですから3つは‥‥」

「カッパーのクラスでも3つはできるよね!?いやー、3つぐらいやんねえと腕がなまっちまう!3つでいいよね?」

「あ、あの‥‥」

「ありがとー、助かるよ!流石は受付嬢さんだよ!ね、3つでいいよね?」

「あ、あうぅ‥‥」

「3つでいいよね?」

 

「は、はいぃ‥‥」

 

 

 ブラッドさん大勝利。おーし、皆の為にがんばるぞい

 




 
 ごり押しというか‥‥うん、生活かかってるしシカタナイネ!(視線を逸らす


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11杯目 社畜

「あ゛ぁ~‥‥足りない、全然足りない」

 

 酒場のカウンターでバンビが美味しそうにサンドイッチを食べている横で俺は憂鬱気味にカウンターに突っ伏す。王都に滞在して10日程経過し、だいぶここの生活に慣れてきた。俺は相も変わらずギルドに行ってはクエストを受け、すぐにクエスト達成して、報酬を貰うというループを繰り返していた。

 

「なんやかんやでアイアンにランク上げしてもらったけど稼ぎは変わらねえなー‥‥」

 

 一日に3つのクエストを一日で達成を毎日し続けたせいか、冒険者組合の組合長であろう人からカッパーからアイアンのクラスにランクアップしてもらった。

 これでカッパーの時と比べてマシになったと喜んだのも束の間、クエストの報酬は高難度であってもカッパーの時との差は雀の涙程。毎日お外でモンスターを狩ったり、モンスターを狩ったり、採取したり、モンスターを狩ったりと最早作業ゲーになりかけている。低ランクのクエストはいえ、なるであろうなぁと危惧していた。なるべく飽きないように心掛けている。

 そのせいか時折受付嬢さんから『これ、疲労に効くポーションですよ…』とポーションを貰ったり、冒険者の人から『お金が必要なんだろ?このクエスト、譲ってやんよ』と何故か譲ってくれたり、組合長さんが駆けつけてきて『無理だけは、無理だけはしないでくれ‥‥!』と気にかけてださったりとなんかギルドの人達が心配しだしてきた。

 

 それもこれもお金が圧倒的に足りないのがいけないのだ。ノッブはギルドを手伝ってくれるのかと思いきやペルガさんとその弟さんとこの用心棒を務めることになったのと、この国の土地を調べるとか言っていたので手伝ってくれるのは大分先になりそうだ。用心棒としての報酬と俺とバンビで稼いだ分を合わせても、ノッブは『まだまだ足りん、もっと必要じゃ』と難しい顔をして悩んでいた。

 

「俺達の小遣いは無しとして‥‥ノッブのこれからやるとかいうなんかの費用と守護者達全員のお小遣いとバハルス帝国へ潜入するチームへの費用と‥‥あー他にも色んな経費が次々と出てくる。足りなさすぎるよこれ」

 

 やはりミスリル、オリハルコン、アダマンタイトのクラスじゃないとより稼ぐ事はできないか。これら上位のクラスになるためにはクエストを数熟していかないと‥‥なんとかして1日5つ、いや10程のクエストを受けることができないか組合長さんに直談判してみるか。思い立ったが吉日、今すぐにギルドへ行って頼んでみようか!

 

 

「あんたが1日に3つもクエストを熟す命知らずかい?」

 

 さっそくギルドへと向かおうと考えていたところ声をかけられた。ちらりと声のした方を見ると大きな鎧を身に纏った筋骨隆々で逞しい体つきの女性がいた。一目でわかる、この女性は歴戦の戦士或いはそこら辺のごろつきとか冒険者とは格が違う。直ぐに思い浮かんだのはアマゾネス、漢女(おとめ)といったところか。

 

「ギルドの人達が噂してるとすれば確かに俺ですけど‥‥どちら様でしょうか?」

 

 よく見ればアダマンタイトのプレートをつけているじゃないか。これまた大層な相手に声をかけられたもんだ。高圧的な態度はとらず、かといって舐められないように相手をしなくては、何回か酒場とか食事処でごろつきとか冒険者の人達がバンビ目当てに俺に絡んできて店員さんに『それ以上いけない…!』と止められるまで〆てしまったが。

 

「俺はガガーラン、冒険者チーム『蒼の薔薇』の一人だ」

 

 蒼の薔薇‥‥あぁ、確かギルドでも話題になってる女性だけの冒険者チームで全員アダマンタイトのクラスの冒険者だっけな。王国でも最強だとか、そんなアダマンタイト冒険者の人が俺に何の用だろうか?

 

「蒼の薔薇の‥‥いやぁすいません、田舎者なので無知故このような態度をとってしまって申し訳ございません」

「あーいいってことよ。堅苦しいのは苦手でね、普段通りにしてくれりゃいい」

 

 ガガーランさんはガハハと笑って肩をバンバンと叩く。なんだろうか、姉貴じゃなくて兄貴みたいな人だな。こういった豪快快活な人は話してて楽しい。

 

「おっと、自己紹介が遅れましたね。俺はブライ、そんで隣で(2皿目の)サンドイッチを食べてるのがお供のバンビです」

 

「ほぉー、お前さんなかなか可愛らしいお供を連れてるじゃねえの」

 

「あら?筋肉にしては見る目があるじゃない、そうよ私こそがブライ様の最強のお供!バンビ・アイry」

「バンビ、今日の晩御飯無し」

「ふええっ!?」

 

 危ない危ない‥‥最近は人間に対して傲慢な態度はとらなくなったけれども時折ボロを出すのでハラハラする。ああもうほらほら泣かないの、ちゃんと晩御飯用意すっから。ほら、サンドイッチのおかわり頼んでおいたからね?食べてちょうだい。

 

「‥‥それで俺に何の御用で声をかけたのです?」

「一日で3つのクエストを毎日やってる自殺志願者がどんな野郎か見てみたくてな、お前さんどうしてそんな事を毎日繰り返してやってんだい?」

 

「あー‥‥今後の生活のためにどうしてもお金が必要でしてね、骨身を削る程やんないといけないんですよ」

 

 守護者達全員のお小遣いとか今後の活動のためにもこの世界の通貨が必要だから、こつこつと溜めて行かなければ。ガガーランさんは納得してくれたのだろう、静かに頷く。

 

「なるほどねぇ‥‥見たところ今のアイアンのクラスじゃ賄えないみたいだな?」

「あはは、お恥ずかしながら‥‥でも決められたルールですから不満はありません、まずはオリハルコン目指してこつこつとやっていきますよ」

 

 それにしてもアダマンタイトとか上位のクラスになる為には何か条件とかキークエストとかあるのだろうか。丁度アダマンタイトの冒険者がいるのだからガガーランさんに尋ねてみようか。そんな事を考えていたらガガーランさんが二っと不敵な笑みを見せた。

 

「それならどうだい?お前さん、俺ら蒼の薔薇のクエストをちょっと手伝ってみないか?」

「えっ!?で、できるんですか!?」

 

 いきなりの提案に俺はギョッとする。アダマンタイト級のクエストといったら低ランクのクラスの冒険者じゃ倒せないと言われているモンスターの討伐だったり、希少アイテムの採取を始め、国の防衛や侵攻、他国に襲撃されている村や集落の救援等王族や貴族からの依頼もあるため報酬はかなり大きい。驚いている俺にガガーランさんは豪快に笑いながらバシバシと背中を叩く。

 

「遠慮するこたぁねえ、それに上位のクラス冒険者と同行すればたとえ低ランクの冒険者でも上位のクエストを受ける事が可能だ。まあそれでも低ランクの冒険者の報酬は少ないがな、ちなみに報酬は7:3でどうだい?」

「異論なんてありませんよ、寧ろ嬉しいくらいです」

 

 なんとも棚から牡丹餅な話か、少ない報酬ではあるが低ランクのクエストの報酬と比べてたら有難いくらいだ。それにアダマンタイトの冒険者はどれほどの腕前なのかじっくり拝見できるいいチャンスだ。話によれば英雄の領域に片足突っ込んだ程の強さと聞くのだから、もしかしたらユグドラシルのアイテムとか武器とかを所持しているかもしれない。情報収集のためにも観察しておかねば。

 

 それからはガガーランさんからクエストの内容を聞いた。どうやらある貴族の『品物』を北の村へと運ぶ輸送と護衛の任務のようだ。一見容易そうに見えるが道中で野盗とかが襲い掛かってくる可能性もあるから油断はできない。

 そして約束として『品物』の中身は見てはいけないとのこと。まだまだこの王都の内部事情とか知らないし、今の段階で巻き込まれたくないから余計な詮索はやめておこう。明日の明朝から決行のようで集合場所を地図で教えてもらった。

 

「――――とまあ任務の内容はこんなもんだが、質問はあるか?」

「いいえ、問題はありませんよ。弱輩ながら貴女達の足を引っ張らないよう励みます」

 

 上位のランクと低ランクの冒険者が混合するクエストの場合は、足を引っ張らないよう頑張るしかない。ユグドラシルの時でもレイドボスだったかな、高レベルから低レベルのプレイヤーが混ざったクエストはなにぶん注意しなければならなかった。足を引っ張ってしまった時、高レベルのプレイヤーが優しくアドバイスや励ましてくれる時もあれば、暴言吐かれて即キックされ追い出されることもあった。

 

「アハハハ‼お前さんの場合は遠慮しなくていいだろ!ま、当日よろしく頼むぜ」

 

 ガガーランさんは豪快に笑いながら背中をバンバン叩いて席を立ち、上機嫌に酒場を出て行った。それにしても()()()()()()に注目されてしまったな、やっぱ毎日3つはいかんかったか?よし、目立つのなら一日3つクエスト受けるのは2日に一回くらいにしておこうかな‥‥

 

 

 

 

 酒場を出てまずは一息つく。まさか何の疑いもなく、話に乗ってくるとは思いもしなかったがな。

 

「ガガーラン、何故あのよく分からない奴を誘った?」

 

 後ろの影から、というよりも背後から声がかかる。こいつずっと気配を消して俺とブライの奴の話を聞いていたみたいだ。

 

「別に気配を消してついてこなくてもよかったのによぉ、ティナ」

 

背後の影から姿を現す。軽装備、二人が言うには『忍び装束』とらしいが蒼の薔薇のメンバーの一人、二人の忍者で赤い方のティナがジト目でこちらを睨んできた。

 

「あのブライのやつ、時折視線を俺の影の方に向けていたからたぶんお前が隠れていた事に気づいていたろうな」

「もしそうだとすればあの男は只者じゃない‥‥そんな奴をどうして誘う」

「まあ金欲しさに欲張る冒険者にクエストの厳しさを叩きこむ‥‥てのは建前で、お前も知ってるだろ?あの男の噂」

 

 ティナは目を細めて静かに頷く。噂が出だしたのはごく最近だ。『ギルドに一日3つの依頼を熟す男がいる』、それだけ聞けばただの命知らずか金にがめつい野郎だと思われるが異様なのはその先だ。

 普通3つもクエストを受ければ大抵の低ランクの冒険者じゃ早くて5日もかかるところをあの男はそれを受けたその日に達成しているのだ。しかもそれを毎日やっている。アダマンタイトの俺でも討伐、移動を含めて2日はかかる。

 もう一つ、怪しいところは『まだ足りない』と嘆いていた事だ。あれだけのクエストを熟しているのだからアイアンのクラスでも食っていけるには十分の金を得ている。それなのにあいつは装備すら買わずに毎日毎日通い詰めている。手に入れた金は何処へやっている?

 

「疲労の色すらない‥‥噂じゃあいつらは化け物か亡霊じゃねえのかって言われてるぐらいだぜ?」

「アンデッドが金稼ぎ‥‥?」

「どうだかな‥‥んでラキュースも耳にしてな、もしかしたらそいつらは『八本指』の野郎で金をかき集めてるんじゃねえかって」

 

 八本指、この王国に根付く裏社会の地下犯罪組織。奴隷売買を始め麻薬取引や密輸、賭博、金融、窃盗とあらゆる悪事を撒き散らす巨悪な存在。最近の法律で奴隷売買は禁止されたが奴等は見つからないよう密かに行っている。それに噂じゃブライとかいう奴は夜な夜な街中を徘徊し、奴等がいそうな場所にまでうろついていると聞く。

 

「今回の任務、あの二人が八本指の一員かどうか確かめるのか?」

「ああ、あの二人を輸送任務と嘘ついてイビルアイが見つけた奴等の仕事場の一つへと送り込むのさ」

「八本指だったら皆で襲撃してまとめて始末。違ったら見殺しにしておく?」

 

 危険な火種は早々に始末しておかなければいけない。だが残る問題が一つ‥‥敵対してしまったら倒せる相手かどうかだ。

 

「いや、一応助けるつもりだ‥‥でもなぁ、戦うとなるとかなり厳しいぞ?」

「手を焼く相手か?見た感じそうには見えなかったが」

「影でこそこそ見てたお前じゃ分かんねえって。間近で見たら分かる、ありゃあ只者じゃねえって‥‥ま、戦士の勘なんだがな」

「筋肉の勘じゃわからない‥‥その時は鬼リーダーとイビルアイがいる、どうにかなる」

 

 だといいのだがなぁ‥‥いい男だったし、普通の冒険者だったら詫びて抱いてやるか。

 

___

 

 どうもデス・アダーです。私は今ルルイエ地下迷宮の外、恐ろしい程に生い茂っている樹海におります。はい、またラクーンさんの目を盗んでお仕事サボってこっそり出て行きました。

 

 これで見つかったらまたお説教獄門待ったなし。だがしかし、何度も素直にやられるつもりじゃあない。ちゃーんと対策を立ててこっそり外出しているのだ。

 

「わーーーい‼デス・アダー様ー!あそぼ、あそぼーっ!」

「ヴァジラ、はしゃぎすぎ‥‥」

 

 俺の下にヴァジラとシュペーがとてとてと駆け寄ってくる。ふふふ、ヴァジラとシュペーを連れて来たのだ。『二人がお外で遊びたいから外へ連れ出した』と言い訳を言えばちびっ子たちに甘いラクーンさんも渋々首を縦に振るだろう。上目遣いで尻尾をふりふりするヴァジラとジトーッと見てくるシュペー、あぁ‥‥尊い

 

「よーし、遊んでやろう!ここにフリスビーがあるじゃろ?」

 

 フリスビーを見せるとヴァジラは目を輝かせ、犬耳をピコピコさせ尻尾を更に速くフリフリしだす。

 

「これを‥‥そおぉいっ!」

「わふーっ!」

 

 フリスビーを投げたらヴァジラは大喜びでフリスビーを取りに駆け出していく。その横でシュペーは黙々とその場に生えていたシロツメクサにそっくりな花を摘んで編んでいく。

 

「デス・アダー様、できた」

 

 フリスビーを取って来たヴァジラにもう一度フリスビーを投げて取りに行かせたその後にシュペーはふんすとジト目ながらも嬉しそうにシロツメクサ(?)の冠を見せてきた。これを俺に被せたいのかよいしょよいしょと腕を伸ばして被せようとしだす。屈んであげて届くようにしてあげた。冠は小さかったので兜の角に掛けられる、それでもシュペーは嬉しそうにしてた。

 

「デス・アダー様、にあってる」

「そうかなー、でも嬉しいな。ありがとよシュペー」

 

 優しく撫でてあげると普段顔色をあまり変えないシュペーもこれにはへにゃぁっと笑みをこぼす。あぁ~尊い。

 

「デス・アダー様、お外楽しい。連れてくれてありがとうございます」

 

 まあな。ずっとこもりっきりじゃつまらないだろう、守護者達とちゃんとコミュニケーションとったりスキンシップしたりしておかないと退屈するだろうに。後は守護者達は務めすぎるだろうからお休みも取ってもらわねば。

 

「デス・アダー様ー!もっと投げて投げてー!」

 

「おーし!今度はこのゴムボールだ。とってこーい!」

「わーーーい‼」

 

 ソフトボールぐらいの大きさのゴムボールを取り出して投げる。それを尻尾を振りながら取りに駆け出していく。あぁ~もう少しで見えっ‥‥ゲフンゲフン

 

 話を変えて、そういえば村へと襲撃しようとしていたあのビーストマンは召喚石を持っていたな。その時はレベルが低いケンタウロス型のゴーレムだったが‥‥他にもそれ以上の高レベルの召喚石を持っている恐れがあるな。

 

 やはり召喚石には召喚石で対抗すべきか?広い所だし召喚石を試してみるか。えーと‥‥俺も召喚石を持ってたしアイテムボックスの中に突っ込んだままにしてたし、何処やったっけな?

 

「?デス・アダー様、何をしてるの?」

「あー今な、召喚石を探してるんだがなー‥‥何処だ?」

 

 空間にできた穴に手を突っ込んで手探りで探している様を見てシュペーが不思議そうに首を傾げる。見ててシュールなんだろうなぁ、ああくそっちゃんと整理整頓すればよかった!漸く召喚石らしきものを掴んだので取り出して見ると虹色に輝く突起が多い召喚石だった。

 

「虹色?確かSSレアだったか‥‥」

「綺麗‥‥」

 

 俺とシュペーが珍しそうに見ていると虹色の召喚石がビシビシとひびが入り、割れて何かが飛び出した。出てきたのは4つの角を持った手のひらサイズの昆虫だった。

 

「‥‥カブトムシ?」

 

 パタパタと飛んでる昆虫に俺は目が点になる。SSレア級の召喚石から現れたのがこんなにもちっこいカブトムシみたいなモンスターだとは拍子抜けだ。まあ運営の悪ふざけでSSレアの召喚モンスターには強さがピンからキリまでと様々あって当たりはずれが激しい。

 

「わー!待て待てー!」

 

 そしてパタパタと飛んでるカブトムシをヴァジラが大はしゃぎで追い回す。あれ位なら問題はないようだ、というよりもなんであんなのをアイテムボックスの中に入れっぱなしにしたのやら。

 

「あ‥‥逃げちゃった」

 

 ヴァジラが追い回しているうちにカブトムシは空高く飛んで逃げていった。しょんぼりとするヴァジラに軽く撫でてあげる、ペットにしてもいいサイズだったし今度そっくりなカブトムシがいたら捕まえてプレゼントしてあげるか。

 

「デス・アダー様、あれ外に放って大丈夫?」

 

 シュペーがキョトンとして尋ねてきた。あのサイズなら別に逃がしても問題はない。

 

 

「あれ‥‥『タイラントマジヤバスオオカブト』だよ?」

 

 

「」

 

 

 あ‥‥やばい、大問題だこれ

 

 

 タイラントマジヤバスオオカブト‥‥ユグドラシルのとある夏イベント『甲虫王者ムシパンデミック』のレイドボスだ。運営の悪ふざけで作られたモンスターで、あのサイズでもレベルが高く圧倒的な攻撃力で初心者初見殺しと新参プレイヤー達にトラウマをつけさせたモンスターだ。

 

 そして何よりも恐ろしいのは倒されるたびに3段階進化して巨大化するということだ。マジヤバスからメガヤバス、ギガヤバス、そして凶悪なテラヤバスに進化するのだ。第2フェーズのギガヤバスまでなら蟲特攻のスキルが有効で倒せる。だが最終フェーズのテラヤバスはレベルが90相当になり耐性もつくし、すごく巨大化する。最終フェーズのレイドボスを倒せば確率でそいつの卵がドロップでき、テイムできるのだ。

 

 そうだ、皆で力を合わせて倒して卵を手に入れた俺は記念にマイルームで飾ろうとアイテムボックスの中に入れたままほったらかしにしてしまったんだ‥‥

 

「見つかったらヤバイな‥‥」

 

「何がヤバイんだ、あ?」

 

「」

 

 なんということでしょう、俺の真横にはラクーンさんがいつの間にかいた。ラクーンさんはニコニコと笑ってこぶしを握り締めている‥‥うん、怒ってる。

 

「い、いや、ら、ラクーンさん‥‥!こ、これには訳が‥‥!」

 

「あぁ?お前が仕事サボるためにヴァジラとシュペー連れ出して口実にしようたって考えは丸わかりだぞ?」

 

 よ、よかったー!タイラントマジヤバスオオカブトの事は知らないみたいだ!いや良くない、ラクーンさんに見つかった時点で何も良くない!助けて、ヴァジラ!シュペー!

 

「二人ともお外は楽しかったか?」

「うん!楽しかった!」

「また遊びたい」

 

「よしよし、キャットとタマモがプリン作って待ってる。手洗って食べに行ってこい」

 

「わーい!プリンだー!」

「ラクーン様は一緒に食べないの?」

 

「ん?ちょーっとアダーとお話してから行く、先に行きな」

 

 ニコニコとヴァジラとシュペーを見送ると、ラクーンさんはギロリとこちらに顔を向ける。俺にもニコニコと優しい笑みを見せて欲しいなー‥‥ああもう遅いや

 

「さて、アダー?なにか言うこたぁねえか?」

 

「‥‥ゆ、許してニャン♡」

 

 その直後、俺の絶叫が樹海に木霊した。




 マジヤバスとヘラクレスってなんだか響き似てるよね(オイ

 ドゥンケルハイト・トップのちびっ子達はヴァジラとシュペー、あとアビゲイルくらい。
 デス・アダーさんは見てて「尊い!」と言ってくねくねします


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12杯目 好き‼

 明朝に集合とは言っていたが、そいつらは既に来ていた。

 

「あ、おはようございますガガーランさん!」

 

 ブライの奴は俺らが来たのに気づいてにこやかに軽くお辞儀してきた。となりのお供のバンビはうつらうつら眠たそうにしているのだが‥‥

 

「随分と早いじゃないか、いつから来ていたんだい?」

「日の出前くらいですかね」

 

 いや早いよ、真面目か。まあ早く来てくれた方が仕事も早く済むからいい。

 

「ところで蒼の薔薇の方々はガガーランさんと‥‥」

「ああ紹介し忘れてた、こいつはティナだ。他のメンバーは少しばかり手が空いて無くてな、まあ俺とティナの2人でも十分な任務だから心配すんな」

「よろしく、お前達の事はガガーランから聞いている」

 

 よろしくとブライは挨拶するとティナを物珍しそうにまじまじと見ていた。なんだ?忍者を見るのは初めてなのか、その職業が珍しいのか?

 

「任務の荷物は屋敷の庭に置かれている。すまないが取りに行ってくれないか?」

「チラリと見ましたがあの荷車に連れているやつですね?すぐに取りに行きますんで!」

 

 ブライの奴は鼻歌まじりに屋敷へ入り荷車へと向かった。俺とティナはあいつを見送ったが途端にティナがため息をついた。

 

「本当に只者じゃない奴なのか?」

「まー‥‥そうらしいがな」

「拍子抜けだぞ、特に奴の武器を見てみろ」

 

 ティナは呆れながらチラリとブライの携えている武器を見る。ブライの武器はバンビって子が携えている軍刀みないた刀とは違い、鉄製の太めのステッキだ。殴打にしか使い道がない、寧ろ戦闘には向かないステッキを何故持っているのか見当がつかない。

 場違いだとティナは呆れているが、俺はどうも引っかかる。何か隠しているのではないか、戦士としての勘がやけに鼻を利かせていた。

 

「まあどちらにしろ、奴等を見定めるのは変わりはないぜ?」

「‥‥わかった。鬼リーダー達に決行と伝える」

 

 ティナはこっそりと合図を送る。屋敷の二階、隅の窓のカーテンが揺れた。ここはラキュースのお屋敷、奴等の行動を監視するために待機している。ラキュース達は遠くから気づかれないようについてくる予定だ。

 

「お待たせしました!さあ参りましょう!」

 

 ブライはウキウキ気分で荷車を引いてやって来た。随分と楽しそうだな‥‥まあいい、お前さんの化けの皮、剥がせてもらうぜ。

 

____

 

「それで俺の知り合いに忍者やってた人がいまして、その人は『~でござる』とか『ニンニン』が口癖なんですがこちらでは忍者ってみんなそんな口調なんですか?」

 

「い、いや‥‥聞いたことが無い」

 

 本当にこいつは何なんだろうか‥‥目的地に向かう道中、ブライは半日ずっと楽しくしゃべっていた。辺りの景色を楽しみながら、俺ら蒼の薔薇の功績を尋ねたり、よくわからない事を尋ねてきたりと口数は全く減らない。

 流石のティナも動揺している。いままでこんな相手はしたことないだろう。それにしても面白いほどはしゃぐなこいつ。ティナは嫌がっているようだが俺は悪い気はしない。退屈そうにしているバンビにちょっと聞いてみるか。

 

「なぁ、あのブライってのはあんな調子なのか?」

「‥‥ブライ様…さんは慈悲深きお方であり探求と人を何よりも愛すお方よ。私達を害さない限り、お怒りにはならないわ」

「お、おう‥‥」

 

 バンビは無愛想に告げるとそっぽを向く。言っている意味はよく分からないが、要は優しくて探検好きってことか?なるほどよく分からん。

 

「私達の為なら骨身を砕いてお勤め続ける誰よりもお優しいお方、だから私は力になるべく忠誠を誓っているのよ」

 

 バンビの話を聞くからして、どっかの没落した貴族か騎士なのだろうか?それなら生活するために金がいると合点はつくがそれが理由だとは思えない。または元ワーカーだったのだろうか、いやいくら理由が思いついたとしてもどれも当てはまらない。

 

「お?もしかして目的地の村ってあれですか?」

 

 ブライは気づいて指をさす、草原のど真ん中に建つ木製の壁に囲まれた物見櫓がやけに多い村があった。あの場所が八本指の連中が麻薬を製造している隠れ家のひとつ、今回の征討任務の場所だ。

 

「ああ‥‥あれが目的地だ」

 

「それじゃ早速向かいましょう。夕暮れになってますしあちらで夕飯にします?」

 

「あー…ブライ、悪いんだが先に行っててくれねえか?」

 

 ハテナとブライは不思議そうに首を傾げる。本当に疑う様子すら見えないから余計に罪悪感を感じた。俺に見兼ねてティナがジト目でブライを見つめる。

 

「この周辺に凶悪なモンスターがうろついていると情報があった。私達は見回りをしてから向かう、お前達は荷物の安全を優先しろ」

「なるほど…暗くなってきてますし気をつけてくださいね?」

 

 自分の身の心配よりも相手の身を気に掛けてきた。本当に変わった奴だな‥‥

 

「それから村人たちは野盗の襲撃があって警戒している、合言葉を言わない限り入る事はできない。『バジリスクの瞳の色は』と聞かれたら『石化の瞳』と答えろ、来た目的を尋ねられたら『例の荷物を届けに来た』と言え。そうすれば中へ入れてもらえる」

 

 これはラキュースとイビルアイが事前に入手した八本指の麻薬取引する連中の合言葉だ。こいつ自身すでに知っている可能性はあるかもしれないが、別に言っても構わない。ブライは何の疑いも無く潔く了解してくれた。

 

「分かりました、失礼ながら先に行かせてもらいますね」

「おう、気をつけてな‥‥」

 

 さて、問題はここからだ。ブライ達が八本指の仲間か、そうでないかこれではっきりできる。奴等が八本指ならば既に控えているラキュース達と合流し一気に攻めて捕える。

 

「ガガーラン、情に流されるなよ?」

 

 ティナがジッと睨んで慎めてきた。そんなことは百も承知だ、奴は演技で俺達を騙しているかもしれない。ただバンビが言っていたことがどうも拭えない。

 もしあいつらがただの冒険者だったら‥‥八本指の連中は騙されたと怒りブライ達に襲い掛かってくるだろう。いくら強いと言われても複数相手じゃ敵わない。薬漬けにされて殺されるかもしれない‥‥あいつらが冒険者ならば真っ先に助けてやらねえと‥‥!

 

___

 

「どうして私達を先に行かせるんですかね‥‥全く、失礼な連中です」

 

 バンビはプンスカと怒りながらチラリと遠くにいるガガーランさん達を睨んだ。

 

「仕方がないさ、俺達になるべく危ない目に遭わせないように気を遣ってくれてるんだろう」

 

 相手は俺達よりも遥か上位の冒険者で上位の任務に低ランクの冒険者をも同行させてるいるのだ、彼らに危険が及んでしまった時に死なせてしまってはいけない。だからこそ安全を優先して俺達に先に村へ入るよう指示したのだろう。

 

「今は俺達を心配してくれてるガガーランさん達の好意を受けないとね」

「むぅー‥‥絶対ブライ様の方が強いのに!」

「郷に入っては郷に従え、この世界でのルールに順応していかないと」

 

 さてさてそんな事を話してたら門前に着いた。ノックした方がいいのかとちょっと戸惑っていたら真上の物見櫓から松明の光が。見ればこちらに弓矢を構えている人達の姿が見えた。

 

「てめえ、何もんだ‥‥‼」

 

 はて?村人の方々なのだろうか、どうもみんな荒くれ者のような形相をしてるなぁ‥‥いや、見た目で判断しちゃいけない。きっと村の用心棒か力自慢な人なんだろう。相手は警戒しているってティナさんが言ってたんだ、敵意がないことを示さないと。

 

「えーっと、例の荷物を届けに来ました!」

 

 俺の答えに村の人達はピクリと反応した。荷物の中身は見ちゃいけないって言われてたけど、もしかして支援物資なのかな?野盗とか凶暴なモンスターに襲われて荒らされたとか、または中で病気が流行ってるとか?

 

「例の荷物‥‥おい!合言葉を言え!バジリスクの瞳の色は?」

 

「石化の瞳、でしたっけ?」

 

 合言葉を答えると村人たちはざわざわと話し合いだした。え、えーと…もしかして間違ってた?

 

「よし‥‥ちょっと待っていろ‼」

 

 物見櫓にいた村人たちはドカドカと音を立てながら降りていく。直ぐに開くのかなと待っていたが中々開く様子がなく、何やら村の中の方でざわざわと騒がしい声が聞こえてきた。あれなのかな?歓迎の準備だったりして。

 ちょっと期待に胸を躍らしていると漸く門が開いた。美味しいご飯でも用意しているのかなと思っていたがそんな様子は無く、大勢の武骨でいかつい面の男達が低く笑いながら待っていた。みんな剣や斧やら武装してるし、本当に村人?あ、もしかして戦闘民族の人達なのかな?

 

「へへへ…新参者か?待っていたぜ」

 

 村長さんかな、ガガーランさん程ではないが逞しい体つきの男性が不敵な笑みを見せてやってきた。確かに新参者だけど‥‥

 

「じゃあさっそく荷物を見させてもらうぜ?」

 

 村人の一人が荷車に近づいて木箱を開けた。気になっていた中身だったが‥‥木箱の中にはなんと何も入っていなかった。不審に思った村人は麻布の袋も荒々しく開ける、同じくその袋の中身も空だった。

 

「なっ!?何も入っていねえじゃねえか!?」

 

「おいてめえ‼どういうことだ!?」

 

「およよ?どうもこうもさっぱりですね‥‥」

 

 村人達も驚いていたが俺も驚いていた。ガガーランさん達も気付かなかったのだろうか?それとも貴族さん達のミス?

 

「おい!ライラの粉末はどうした!?それからタマイの葉や苗もねえじゃねえか!?」

 

「「粉末?葉っぱ?」」

 

 俺とバンビはハテナと首を傾げた。もしかしてそれが持ってくるべき荷物だったのかな?なんのことだかさっぱりわからん。すると村人の一人が俺を見て何か気付いた。

 

「アッ!こいつアイアンのプレートを持ってやがる!こいつ、冒険者だぞ‼」

 

 すると村人たちが一斉に警戒して武器を構え出した。え?冒険者に家族でも殺されたの?というかこの人達本当に村人なのか?なんだか怪しくなってきたな。

 

「はっ‥‥どうやって嗅ぎ付けたかわらねえが、手柄と金と名声に欲が眩んだ雑魚か」

「俺達を八本指と知っててたった二人で乗り込んできたのかぁ?」

 

 ゲラゲラと村人達は嘲笑いながら俺達を囲んでいく。八本指?それはよく分からないが漸く分かった、所謂悪の秘密結社的な奴等か。王都内を夜回りして探索した甲斐があった。

 どんな国でも光があれば影もある。栄えている場所があれば貧しい場所があり、治安がいい所があれば悪い場所がある。夜中も王都を歩き回ってみて、娼館みたいな所があったり薬中毒で路地裏で倒れている人もいたりときっとマフィアみたいな組織があるのではないかと考えていた。それが八本指か‥‥いい情報を得ることができた。

 

「それで、俺達をどうするつもりだ?」

 

「お前は十分に痛めつけたら薬漬けにしてやるさ。最高な気分で天に召されるぜ?そんでそっちの女は中々の上物だからなぁ‥‥好きなだけ犯してから奴隷売買の連中に売り飛ばしてやるさ。なぁに十分可愛がってくれるぜ」

 

 なるほどなるほど‥‥みんなバンビが好きなんだなぁ‥‥バンビの方はもう殺る気満々で準備万端のようだ。

 

「ブラッド様、どうします?」

 

「アダマンタイトの冒険者にはこういった組織の討伐の任務があるって聞いたことがあるしね‥‥バンビ、懲らしめてやりなさい」

 

___

 

 ラキュース達と合流し静寂になっている奴等のアジトの襲撃の準備に移る。見張りはいないようだ、俺とラキュースは門前へ、ティナとティアは気配を消して物見櫓へと目指す。

 

「彼はうまくアジトへ入ってくれたわね‥‥」

 

 今頃連中は空箱に驚かされているだろうに、ブライが奴らの仲間なら俺達が来ていることを告げて裏へと逃げる。裏側で待ち構えているイビルアイと戦闘になっているだろう。もし八本指の仲間じゃなかったら‥‥

 

 その時、村の中から爆発が起きた、連続した爆音が喧しく響き地を揺らす。いきなり何が起きたのか驚きを隠せなかった。

 

「何の爆発だ!?」

「奴らのアジトの方よね‥‥!ティナ、ティア!様子が見えるかしら!」

 

「鬼ボス、奴等が怒ってブライとバンビに襲い掛かっている‥‥!」

 

 これであいつらが八本指じゃないという事ははっきりした、だが今は安堵している場合じゃない。いくらアイアンの冒険者でも大勢で襲い掛かられてたら一溜まりもない、急いで助けに行かねえと‥‥!

 

「ティナ、ティア!急いで門を開けろ!もしくは俺がぶち壊してあいつらを助けに行く‼」

 

「‥‥いや、その必要がない」

 

 ティナの言葉に咄嗟に驚いて睨んでしまった。まさか間に合わなかったのか‥‥!?

 

「どういうこと‥‥?」

 

「あいつらあの数に渡り合ってる‥‥いや、たった二人で一掃してる」

 

 ‥‥は!?言ってる意味が分からねえぞ!?たった二人でそんなことができるわけがない。

 

「ガガーラン、兎に角今は彼らを救援することを優先するわよ!」

 

 そうだ、兎に角今は助けに行くことを優先しねえと。鉄砕きで思い切り門をぶち破って中へと突撃した。何時でも戦えるようラキュースも駆けるが目の前の光景に俺達は足を止めてしまった。

 

 ティナの言う通り、ブライとバンビの2人で襲い掛かて来ている連中を軽々とあしらっていた。バンビは軍刀で斬り倒し、片手で魔法を唱えていた。今放たれたのは第3位階魔法『火球《ファイヤーボール》』‥‥のはずなんだが、着弾すると物凄い爆発を起こした。い、今の本当に『火球』なのか?あんな爆発なんてしないはずなんだが‥‥

 ブライの方は、携えていた鉄のステッキを使って相手を叩き、突き、撃ち払いと軽々と相手を打ちのめしていく。そんなブライに向けて奴等は四方から一斉に飛び掛って来た。いくら鉄のステッキでもこれでは相手にできない。今度こそ助けなければ、そう思って駆けようとした。その刹那、ブライは鉄のステッキを思い切り縦に振った。

 

 その瞬間、鉄のステッキが何枚も連なる刃をもった蛇腹剣へと変貌した。振りますように振るうと鞭のように撓り四方から襲い掛かって来た敵を切り刻んでいく。あれはただの杖じゃない、仕込み杖だったのか…‼

 なんて面白れぇ戦い方をしやがる、ここでぼさっと突っ立っている場合じゃねえな!俺は居ても立っても居られず思わず駆け出していた。

 

「おらぁぁっ‼」

 

 ブライの背後へと飛び掛ってきた奴をフルスイングでかっ飛ばす。俺が来たことにブライは目を丸くしていた。

 

「ガガーランさん!ここ八本指とかいうアジトだったみたいので正当防衛は問題ないですよね!」

「おうよ、もとより知ってて来たんだからよ!説明は後だ、ここを一掃してこのアジトの偉い奴を捕まえるぞ!」

 

 ラキュース達も加わり麻薬製造所及びアジトの破壊と征討、ここの親玉は裏口と逃げていたが待ち構えていたイビルアイに捕まりあっという間に終わった。

 

 

「ほんっっっとうにごめんなさい!」

 

 ラキュースが代表して頭を下げた。ブライ達が怪しくてもしかして八本指の仲間じゃないかと疑っていた事、任務と称し二人を囮にして使わせたこと等々、事情をブライに全て話した。

 

「成程‥‥そういう事だったのですね」

 

 ブライは納得して頷いていたが、バンビは「ブライ様を騙した」と殺気を放って俺達を睨み付けていた。今すぐに襲い掛かって来そうな勢いではあったがブライに静止されている。

 

「まあ仕方が無いことですし、気にしないでください」

 

「え、怒っていないのですか‥‥?」

 

 怒る様子が全く見えないブライにラキュースがキョトンとした。怒ってなかったら本当にどんだけお前は聖人君主なんだよ‥‥

 

「そりゃまあ気に障ることですが、俺達も貴女達に怪しまれるような事をしたからこちらにも非がある。ですのでお相子でいいんじゃないですか?」

 

 ブライは本当にあまり気にしていなかったようだ。それでもこちらの非が大きい、ラキュースは少々戸惑っていた。

 

「で、ですが貴方達を危ない目に遭わせてしまったのですよ?」

「覚悟の上ですし突っ込むのは好きですね、それにこれで報酬が貰えるのですから」

 

「ところで報酬で手に入れたお金はどうするんだ?」

 

 俺達がずっと気にしていることをずっと黙って見ていたイビルアイが尋ねた。ブライは悩む様子すら見せずニッコリと笑う。

 

「(今後の活動の資金やお小遣いで)困ってる大事な仲間や子達に送るんですよ」

 

 ブライの答えと笑顔で漸く分かった。こいつは生活に貧しい子供達や人達の生活の為にただ只管クエストを受け続けていたのか。本当にこいつはどれだけ優しいバカ野郎なんだ‥‥そんな奴を俺達は危ない橋を渡らせた。ラキュースも理解したようで頭を下げさ。

 

「そうだったのね‥‥せめて何かお詫びをさせてちょうだい、このまま無かった事にするのは気がすまないの」

 

「そうですね‥‥でしたらまたクエストに誘ってください」

「そんなのでいいのか?ラキュースならポケットマネーで賠償金を渡せるぞ?」

「ちょっとガガーラン!」

 

 ラキュースはプンスカと俺にポカポカと叩く。軽いジョークだっての。

 

「冒険したり皆さんとクエスト受ける方が楽しいので、今後とも御贔屓によろしくお願いします」

 

「ははは!ブライ、お前本当に面白い奴だな!気に入った、俺が抱いてやろうか?」

 

「あ、それはいいです」

 

 即答しやがって、遠慮すんなっての

 

____

 

「やっぱり3割でも結構な報酬だな」

 

 王都へ戻った俺はルンルン気分で星空が綺麗な夜の街中を歩く。思った以上の量の報酬で嬉しいのだ、蒼の薔薇の人達もみんないい人だったしまた今度一緒にクエストを受けたいくらいだ。

 

 そういえばとチラリと後ろ見る。後ろではバンビが不機嫌そうについて来ていた。まあしょうがないか、俺はあまり気にはしていなかったが、バンビはとても怒ってたし。

 

「バンビ、もう許してやってくれないか?」

 

 バンビはムスッと頬を膨らませてプンスカと怒りだした。いや泣いてるのか?いや怒りながら泣いてるのか?

 

「許さないです!至高の御方を騙し、剰え捨て駒として扱い、ブラッド様を危ない目に遭わせた所業!あいつら絶対に許さないもん!」

「しょうがないさ、俺達では当たり前だったことがこっちでは異常だった。それに気づけなかった俺が悪い」

 

 ユグドラシルじゃ複数のクエスト受注はランク上げするのに当たり前だったが、あっちはゲームだからこそ出来た事。この世界じゃやり過ぎてはあの様な人達に怪しまれてしまうようだ。うん、こちらでは当たり前であることや常識を無暗に押し付けるべきではないか‥‥注意しないと。

 

「だから俺に免じて許してはくれないか、バンビ?」

 

「うぅ‥‥ブラッド様は優しすぎます、あんな人間に情けをかける必要ないですよ‥‥」

 

「人間だからこそだ。あの人達は、この世界ではいい人達だ」

 

 人間というものはいい人と悪い人がいて、それがとっても複雑に絡み合っている。なので見分けが付けることなんて難しい。でもガガーランさん達の顔や活気を見てみるとはっきりと分かる。

 

「そうだな‥‥俺達ドゥンケルハイト・トップやモモンガさん達アインズ・ウール・ゴウンに攻めてくるプレイヤーにはな、『異業種狩りを狩る物騒な奴らだからぶっ潰しちまえ』と中指立てるプレイヤーもいれば『楽しかった!また挑戦したい!』と喜んでくれるプレイヤーがいる。アインズ・ウール・ゴウンの1500人の襲撃時やドゥンケルハイト・トップへの二次襲撃時、本気でギルドをぶち壊してきた奴もいれば襲撃後一緒に修復や支援をしてくれた奴もいた‥‥そんな感じかな?だから俺はいい人間も悪い人間も全部ひっくるめて好きだ」

 

「‥‥わ、私にはまだよく分からないです」

 

「じっくり理解していけばいいさ、考えてたらきりがないくらいだし人間というのは複雑なもんさ。あ、でもバンビ達に害を及ぼす奴には容赦ないけどな」

 

「でも‥‥ブラッド様はお優しいから、無茶だけはしないでください‥‥」

 

 バンビはキュンと上目遣いで見つめてくる。まさかここまで心配してくれるとは‥‥可愛いなちくしょう、バンビをわしゃわしゃと撫でてあげた。

 

「心配してくれてうれしいぜ。そうだバンビ、報酬もたっぷり貰ったし贅沢に豪華な料理とスイーツ食いに行くか!」

「え!?い、いいんですか‼やったーっ!」

 

 先ほどまでの怒りと心配が嘘のように消え、バンビは大喜びではしゃいだ。まあ今回は手伝ってもらたんだ、たんとご褒美を上げないとな。この辺りで一番値段の高く料理もうまいと言われているお店へと向かった。

 

 尚、貰った報酬の8割を使ってしまい、その後ノッブに「ワシも連れてけよバカ野郎」とプンスカと怒って説教を滅茶苦茶くらった





 ノッブはお金を使われたことよりも美味しい料理をたくさん食べたかった模様


 仕込み杖のモーションや仕組みとか、蛇腹剣とかロマンがあって好き

 


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13杯目 開拓、ダ〇シュ村

「なるほどなるほどー‥‥ペルガ殿のいう事は頷けるのう」

 

 ノッブさんは私の話を聞いて何度も頷き、メモを取っていた。私達は王都から南端へ王都内にある自然地区、薄紫色の花を咲かすリィンゲーを始め様々な花が多く咲く土地にある養蜂場へと来ていた。私の弟の友人が養蜂と花の栽培をやっていると聞いたノッブさんは目を輝かせて是非とも見たいと仰ったのでお連れしたのだ。

 

「ふむふむ‥‥このリィンゲーの花はレンゲと似てるのう、この花の蜜を蜂に集めさせ蜂蜜を作っておるのじゃな?」

 

「はい、こちらの養蜂は厚板の箱、巣礎のある巣枠の入った巣箱で巣を作らせその後女王バチの管理や産卵や餌、内部での害虫や病気の有無を確認し、一定の期間後巣枠を回収しあちらの加工所で採蜜を行い蜂蜜を製造していきます」

 

「ほほー…む?そのできた蜂蜜は何処へ売られるのじゃ?市場や雑貨には見かけんのだが」

 

「王国では蜂蜜は大抵大貴族や貴族の下へ売られるので市民の方へはなかなか回らないのですよ。また蜜蠟は蠟燭として貴族の他に教会へ、後はポーション製造のために売られます。出回るとすれば味の悪い粗悪品ぐらいですね、ですがそれでも蜂蜜は高価で市民にはなかなか買うことができません」

 

 王国では領土の3,4割が大貴族や貴族に占められ、蜂蜜や蜜蠟などの品々は貴族が買い占めていく。また政治にも貴族達の影響力が強く、中には蜂蜜欲しさに養蜂場を独占する貴族や蜂蜜に税をつけようと言い出した貴族だっているのだ。彼らは選民意識が強く、市民や領民をあまり大事にしていない。更には八本指が密猟を行い養蜂場を荒らしたり、盗んでいくといった被害もある。

 

「むぅ、蜂蜜だけに自分達だけ甘い蜜を吸うとは‥‥どうにかこう上手く市民達にも買えるようにできればいいのだがなぁ」

「難しいですねぇ‥‥あ、でもバハルス帝国の方では改革により、貴族達による養蜂の独占は禁じられ市民にも蜂蜜が買えるようになっていると聞きますね」

 

 お恥ずかしながら、私も蜂蜜を食べたことがない。自分の贅沢よりも共に働いてくれる者の生活を優先していたからなかなか買う機会もなかった。

 

「ふぅむ‥‥ハチノコぐらいは食べれたなー」

「ハチノコ‥‥?」

「蜂の幼虫や蛹のことじゃ。見た目はあれじゃが食べると意外と美味いんじゃこれが!炒っても美味いし甘辛く煮たのも美味いぞ!」

 

 ノッブさんは楽しそうに笑う。よ、幼虫や蛹って食べれたの!?あれを食べようとは思いもしない、ノッブさん故郷の食文化は奥が深そうだ‥‥

 

「ところで、管理の方じゃが害虫や病気以外に何か気をつけていることはあるのか?」

「そうですね‥‥時々、蜜の匂いに誘われ昆虫型のモンスターが飛んでくることがあります。中には危険な中型のモンスターもいますのでその場合は冒険者達に討伐の依頼を出してます」

 

「なるほどー…ペルガ殿、大変勉強になった、感謝するぞ!」

「いえいえ、ノッブさんも養蜂を始めたいのですか?」

「ははは、まあそんなところかのう。養蜂の他にもいろんな事をやってみたいから沢山学ばねばならん!」

 

 ノッブさんは無邪気な子供のようにニシシと笑う。時折この人が本当に女性なのだろうかと思ってしまう、まるで冒険心と好奇心を募らせている少年のようだ。そしてこの人が一体何をやろうとしているのかもまだ見当がつかない。

 

___

 

 私達の村、ダーシュ村にビーストマンの襲撃が起き、突如現れたデス・アダー様達がお救いになられて幾十日、あの日以降ビーストマンやこの辺りに生息するモンスターの襲撃は起きていない。

 村は救われたがそれでも傷跡は深く残った。家屋の多くは壊され、徴税の対象である小麦畑もほとんどが荒らされた。そして何よりも死者は多かった。

 生き残った村人は4割程、この人数では小麦畑の修理はできるが家屋を建て直すのは難しい。けれども愛した村だ、ここから離れるなんて考えられない。数少ない人数で今では生きる事を優先として生活を続けている。

 

 けれども今日は違った。早朝に剣の特訓をしようと外へ出たら村の入り口へとある3人の姿が見えた。銀色のフルプレートの騎士、2つのアホ毛のついた黒髪の女性、そして鉄仮面の大男、間違いなくあの人達だ。

 

「よっ、アストラル。また来たぜ」

 

「で、で、デス・アダー様ぁぁぁ!?」

 

 思わず叫んでしまった。ビーストマンの軍勢から村を守る為に戦いに出てから帰って来なかったデス・アダー様達が再びこの村にやってきたのだ。私の声に反応したのか他の村人達もぞろぞろと集まって来てデス・アダー様達が来れられたことに驚いていく。村長が焦りながらデス・アダー様に尋ねる。

 

「ど、どうしてこの村に‥‥?」

「言ったろ、この村に愛着がわいたって。余計な世話かもしれんが復興(村弄り)しに来た」

 

 よく見れば村の入り口の隅に大量の建材や木材が積まれていた。村の襲撃があっても竜王国から支援物資は全く来なかった、どうやって治せばいいのかと困っていたがこれは助かる。

 

「で、ですが人手が足りなくて建て直すにはなかなか‥‥」

「村長さん、そこら辺も気にすんなって。他の奴も呼んであっから」

 

 誰か来るのかと周りを見るがいらしているのはデス・アダー様とアルトリウス様とジゼル様だけで来ている様子は見えなかった。それも束の間、何もない空間から突如歪みながら紫色の丸い空間が現れたかと思えばそこから生地が薄そう赤い布の服を着た腰まで長い黒髪の女性と黄金の鎧と獅子の兜つけたアルトリウス様と同じくらい背の高い騎士が現れた。

 

「おいーっす!待たせたのう!」

「ここがデス・アダー様がお救いになられた村か、なるほどなるほど!」

 

「紹介する、黄金の騎士の方はオーンスタイン。そんであっちがノッブ‥‥って、ノッブ!?何だよその恰好は!?」

 

「む、何だとはなんじゃ。これはワシお気に入りのBusterTシャツじゃぞ?力仕事するから動きやすい恰好になったまでじゃ」

 

「生地は薄そうだし、スカートだし‼畜生、俺を惑わす気かこの野郎!?」

「言っとくけど見た目は美少女、中身はおっさんじゃぞ?」

「チクショオオオオオッ‼」

 

 デス・アダー様は突然大泣きしてどこか走り去っていった。一体何が何だかと私達は啞然としていた。一方のノッブと呼ばれた女性はニシシと私達に楽しそうに笑みを向ける。

 

「あれは気にするな、それよりわしらが来たからにはもう勝ち格未来永劫大開拓商売繫盛‥‥ん、商売繫盛は違うのう‥‥まあ何とかなるから任しておけ!」

 

 ノッブさんはえっへんと自信満々に胸を張った。よく分からないのだけど本当に大丈夫なのだろうか。少々心配している間にデス・アダー様がジゼル様に手を引かれて戻って来た。

 

「ほら、頑張りましょデス・アダー様!ボクが応援してますよ!」

「うん頑張りゅ‥‥ノッブ、始めてくれ」

 

「さて、まずはひーふーみ‥‥30くらいでいいか」

 

 ノッブさんが何処からともなく平たい釜を取り出して何かを数えだしたかと思えば手を翳すと、地面に大きな魔方陣が展開された。そして片手に持っている釜を大きな魔方陣へと投げ込んだ。

 

 

「『サモン・モンスター・ちびノブ』‼」

 

 

 地面に大きく展開された魔方陣から現れたのは‥‥‥小人だ。

 

 ノッブさんを小さくしたような、ぬいぐるみのような見た目をした小人たちが次々と魔方陣から現れていく。黒い分厚い布の服を着た小人や水色の布の服を着た者、中には金ぴかだったり銀色だったり様々な小人が現れた。

 どの小人も人語を話さずノッブさんと似たような声で「のぶー!」とか「のぶッ!」とか「のぶ!」としか言わない。それでもなんだか見た目が可愛い‥‥

 

「村長殿、しばらくはこの者達が村の再興と防衛を手伝ってくれる。見た目はあれじゃが結構強い。言葉も通じるしお主達の力になってくれるぞ」

「えっ?えっ!?あ、は、はあ‥‥」

 

 流石の村長も戸惑っていた。村の人達も反応がばらばらで奇妙な姿の小人を可愛いと思う人が入れば、本当に大丈夫なのと心配になってきた人など様々。デス・アダー様も鉄仮面で表情が見えないが、少し呆れているようだ。

 

「ノッブ、もうちょっとマシなのはなかったのかよ‥‥」

「デスナイトと匹敵する強さじゃぞ?それともなんじゃ、デスアーミーでも召喚すればよかったか?」

「デスナイトやデスアーミーじゃ村人達も怖がるだろうし‥‥ああもういいや、続けて」

 

 デス・アダー様がまさかのさじを投げた。さり気なくあのデスナイトと匹敵とか言ってたような‥‥この小人、見た目と反してかなり強いの!?

 

「さて、お主達には壊された家屋の撤去と家屋の建設、防壁をクラフトする組とデス・アダー達と共に木を切って木材を作成し運ぶ組に分かれて行動してもらう。デス・アダー、何か言っておくことはあるか?」

 

「間違えて城は造るなよ?うっかり城を造っちゃダメだからな‼」

 

 デス・アダー様の号令で小人達は一斉に「のぶー‼」とちっちゃい手を掲げて叫んだ。というかこの数でもうっかり城を造っちゃうの!?

 

___

 

 ちびノブ達は「のぶのぶのぶ」と珍妙な声を発しながら作業に励んでいく。自分よりもはるかに大きな木材や岩や倒木を軽々と運んだり、倒壊された家屋の撤去を軽々と行ったりと小さな見た目に反して力がある事に村人達は驚愕する。

 しゃあないよな、『平蜘蛛の茶釜』をベースに召喚されるたこいつらは元となったゲームのコラボイベントで小さな見た目と反してふざけんなと言いたいくらいの強さを持っていた。見た目に騙されて犠牲となったプレイヤーで死屍累々の阿鼻叫喚でもう怖った。皮肉にもノッブのアバターの特有のスキルか、『平蜘蛛の茶釜』があれば召喚できる。

 

「ほれ、アダーも励め励め」

 

 伐採した木を片手に持ってちびノブ達の作業を見ていた俺をノッブがニシシと楽しそうに笑いながら足蹴した。ノッブはスカートからジャージに穿き替えており、片手に鍬を持っている。

 

「ノッブ、何それ?というか何すんだお前?」

「うむ、ちいとばかし土いじりじゃ。小麦畑が壊され使えなくなった畑を貸してもらってのう、土や肥料を調べて耕すのじゃ。後々養蜂する為の花を植えようかと考えとる」

「花?養蜂?なんだ蜂蜜でも作るのか?」

 

 蜂蜜でも作って売るのだろうか、今のところまだノッブのやりたい事が俺には分からなかったが養蜂がやりたかったのか。

 

「それもあるが‥‥ユグドラシルの回復薬の調合がこの世界でもできるかどうか試してみる、まずこれが目的の一つ」

 

 なるほど、ユグドラシルには回復ポーションが全回復からほんの少し回復だったり種類が様々在るが、中でも体力を全回する赤いエクスポーションよりも回復力はエクスポーションよりも劣るが緑のグレートポーションの方が

調合しやすいのだ。材料がポーションとコバルトマッシュそしてハチミツ。コバルトマッシュはルルイエ地下迷宮でも栽培でき入手は困らないがこの世界での蜂蜜が合うかどうかが疑問だ。

 

「それと他にも花や蜂蜜が村の特産にならないかなーって」

「特産?」

「うむ、村長に聞いた話では小麦と農作物を主に置いていたが此度のビーストマンの襲撃で大打撃をくらってな、村の人口も減らされたし人口を回復するために何か人を呼び寄せる物がないかと考えているのじゃ」

 

 村の再興と更なる発展を目的に移民を募らせてる。特産物も確かにいい考えだが何か人が惹くものとすれば少々薄い。なにしろ近くにビーストマンの国があるからな、再度竜王国に攻めてくることもあるし中々人が寄らなさそうだ。

 

「うーん‥‥温泉とか?」

「いい考えだが、それは流石に急すぎる。もう少し村と人手が落ち付いた頃に出来るかどうかやってみようか」

「こういった考えはラクーンさんがいりゃあ助かるんだけどなー‥‥」

 

 こういう仕事はラクーンさんが得意そうだが生憎ラクーンさんはこっちには来れない。今頃バハルス帝国の街中でバハルス帝国へ潜入調査するためのチームの拠点にするお屋敷を購入する手続きをしている。人化の指輪を持って出かけて行ったがラクーンさんの人間の姿とか超見てみたかったなー‥‥

 

「花はユグドラシルの物を植える予定じゃ。植えるのはラヴェンディ、ローズマリア、百日花、ナノハノハナ、リリーホワイトスノウ、どれも王国の植物図鑑には載ってなかったし、この世界の土でも栽培できるかどうか試してみる」

「後は蜜蜂がちゃんと寄って養蜂できるのかとそれらの花はちゃんと育って売れるのかどうかが問題だな」

 

 いわばギャンブルだ。こちらの世界の常識とかがそうすんなり通用するわけがない、やることは難しいだろうが挑戦して試行錯誤するのは楽しいだろう。色々と挑戦しようとしてるノッブがちょっと羨ましいな

 

「まあこの村ではこれらを試す」

「え、まだ何かやりたい事があるのか!?」

 

 この村ではって‥‥村かなんか手に入れたら別のことをやるつもりか。ちびノブを召喚できるしまさか城を造ろうとしてるんじゃねえだろうな!?

 

「さ、長話してる場合ではないぞ?建設してるちびノブにクラフトを任せておるがついうっかり要塞ができてしまうやもしれん」

「あっ、そうだった!って目を離してた間に何かでかい物見櫓ができてる!?」

 

 急いで止めないと、本当に城か砦を造るぞ此奴ら‼ルルイエからの資材を少しとブラッドが一生懸命集めた金で買った建材を無駄にしてたまるか。伐採した木を片手に急ぎちびノブ共の下へと向かった。

 

 

 

 なんということでしょう。ビーストマンの侵攻で壊された木の柵はあっという間に以前よりも厚く密で強固な木の柵へが建てられ、堀も掘られておりより強固なものへと変わりました。そしていつの間にか2棟ほどの物見櫓もできていました。今度は木々を組み立てていき何か大きな建築に取り掛かろうとするちびノブ達にデス・アダー様がでかい丸太片手に急ぎ駆けつけてきた。

 

「こらーっ‼お前ら隙を見て城を造ろうとするんじゃない!お家!まずは家を建てろ‼」

 

 デス・アダー様はプンスカと怒りながら丸太を振り回し、ちびノブ達は「のぶーっ!?」とあたふたと逃げだして家屋の建築に取り掛かりだした。重そうな丸太を軽々と片手で振り回すなんて、やはりデス・アダー様は想像を絶する怪力の持ち主だ。

 この後はデス・アダー様が現場監督のようにちびノブ達に指示を出していった。壊された家屋を村人達と一緒に撤去していき、石工、石切、大工、左官、レンガ、タイルに茅葺きと分担して家を建てていく。

 最初は村の人達はこの小人達にどう対応したらいいか困惑していたが、一緒に作業をしていくうちに打ち解けていった。それでもちびノブ達は「のぶのぶ」としか言わないがなんとなーく言ってることが分かってきた‥‥ような気がする。

 

「アストラル、少しいいか?」

 

 そこへアルトリウス様が声をかけてきた。その隣には黄金の鎧を纏っているオーンスタイン様が。背の高いお二人が並ぶと何か凄い威圧を感じて焦った。

 

「え、えとなんでしょうか‥‥?」

 

「少しばかりお前の剣の鍛錬をしてやろうと思ってな」

 

 え、ええ!?アルトリウス様から直々に、ですか!?あのビーストマン相手に無双をした騎士に剣を教えてもらえるなんて何よりもうれしい話だ。

 

「ぜ、ぜひ‼ご指導ご鞭撻宜しくお願い致します!」

 

「夕暮れまでしか付き合えないが、ある程度の事は指導してやる」

「ははは‼まあ簡単にレベル上げができるかどうかのテストなのだがな!」

 

 豪快に笑うオーンスタイン様にアルトリウス様の裏拳が炸裂した。レベル上げ?何の話かはよく分からないけど指導してくださるのだから全力で受けないと!

 

___

 

「腰が引けているぞ、体重をかけろ」

「は、はいっ!」

 

「剣に注意が引きすぎだ、拳や脚も武器になる事を考えろ」

「あ、あいたっ!?」

 

「疲れと弱みを見せるな、相手になめられるぞ」

「はぁはぁ‥‥は、はいっ!」

 

 正直言って想像をはるかに絶するほどの厳しさだった。木の剣での組手ではあったが何度も挑んで何度も返り討ちにされた。アルトリウス様はその場を動かないまま簡単にあしらっていく。そして何より超がつくほど手加減をされていた。それはしかたない、なんたってたったひと振りでビーストマンを両断するのだから。

 隅で見ていたオーンスタイン様は時折『タマを狙えー』とか『お色気で気を逸らせー』とか謎のアドバイスをし、アルトリウス様が木の剣をオーンスタイン様に投げつけていった。

 

 あれやこれやと撃ち込まれていってもう夕暮れ時になっていた。私は体力尽きて大の字に仰向けに倒れる。本当に色々と学ぶことができた気がする。

 

「‥‥まずは体力と筋力をつけることだな」

 

「は、はい‥‥がんばり‥‥ましゅ‥‥」

 

「はははは‼アルトリウスのやつはツンデレだから上手くは言わん、本当はある程度の基本が出来るようになって喜んでおるぞ!」

 

 オーンスタイン様は豪快に笑いながら私にポーションを渡し、物凄い速さで迫るアルトリウス様から物凄い速さで逃げて行った。

 

「また村へ来る‥‥鍛錬は怠るな」

「…え?」

「明日から私とオーンスタインはデス・アダー様と共に竜王国の冒険者として首都に滞在し、今後ビーストマンの侵攻の防衛と進軍に努めていく」

 

 そうだったのか‥‥だからこの村に訪れたのか。なんだろうか、この人達なら大丈夫な気がしてきた。というかビーストマンを追い払うどころか逆に侵攻しそうな気がする。

 

「おーい、アルトリウスよ!そろそろ帰るらしいぞー」

「そうか‥‥ではまたな」

 

 どうやらそろそろお帰りになるようだ。ここで寝転がっている場合ではない、デス・アダー様達をお見送りしないと。私は急いでポーションを飲み干して後を追った。

 気が付けば壊された家屋の撤去がほとんど済んでおり、新しい家屋が5棟ほど出来上がっていた。ちびノブ達の力には本当に驚かされる。

 

「村長殿、ちびノブ達は少食だから食糧は心配ない。ただチョコをあげたら分裂して増えるから」

「えっ、ちょ、チョコ‥‥?」

 

 チョコとはどんなものなのだろうか。それをあげると分裂して増える‥‥ますますこの小人達の生態に謎が深まる。

 

「デス・アダー様、村を救うだけでなく私達の為に村の復興まで‥‥なんとお礼を申し上げたらいいのか」

「いいんだって、村長さん。俺はこの村に愛着がわいたって言ったろ?気持ちだけで十分さ。ちびノブ達が建設や栽培とか色々力を貸してくれる、だからもう大丈夫だ‥‥だけど城を造らせないように注意してね?」

 

 デス・アダー様達は楽しそうに笑って村を後にした。私達の為にここまでしくださるなんて‥‥デス・アダー様はなんと慈悲深きお方なのだろうか。かの人達の為に何かご恩を返さなければ

 

 今は村の再興と剣の修行に励んでいこう。今できる恩返しはこれぐらいだ。いつかきっとアルトリウス様のような強い騎士になりたry

 

「のぶー」

 

 

「‥‥‥」

 

 私や村長、村の人達は一斉に一匹(?)のちびノブの方を見た。

 

 ‥‥どうしよう、なんか一匹大きくなってるんだけど!?




 
 メンバーが1人抜けてから最近見てないなー‥‥


 本当は蟻人やコボルトとかを召喚しようか考えていたけど召喚するのノッブだったからちびノブにしました。反省はしている(土下座


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14杯目 襲来、タイラントマジヤバスオオカブト ①

「ふー、ここも修理完了だ」

 

 今日で45件目の屋根の修理と掃除が終えた。

 

 あれからギルドでは一日に3つのクエストを受注することをやめ、普通通りにクエストを受けることにした。そのおかげかギルドの人達の心配している眼差しが消え、どこか安心したような視線を感じるようになった。

 

 クエストを受ける数を減らしたから貰える報酬は前回よりも減ってはしまったが時折蒼の薔薇のガガーランさんやラキュースさんがクエストを誘ってきたりしてくれるのでそれなりに報酬は貰える。それに彼女達との話を聞いてて楽しく、おかげで誰かと話す楽しみが得られた。

 

 またまわりではアイアンのクラスなのにあのアダマンタイト冒険者と同行しているからそれなりの実力を持っていると感心する人や羨ましがる人や、彼女達にこっそりついていって報酬を貰っている腰巾着だと卑しい目で見てくる人が増えた。話しかけたりすると卑しくみられ相手にされなかったり、唾を吐かれ追い払われたり(その直後バンビがその人を半殺しにしようとして焦った)、気軽に話してくれたりしてくれたりと様々だ。

 

 話は逸れてしまったが、ある時討伐や採取クエスト以外に何かあるのかと調べていたら王都の街内の屋根の修理及び掃除とかいうクエストがあった。興味本位で受けてやってみたらこれが意外と楽しかった。瓦詰みや汚れ落としやら最初は戸惑ったがやり方さえ分かってしまったらあっという間にできてしまう。おまけに屋根から一望できる王都の景色はいいものだ。

 

 最近はついついこれをやり過ぎてしまったせいで、沢山の街の人から頼まれたり街中で声をかけられたりと余計目立ってしまった。でもまあ屋根の修理と掃除は楽しいから仕方がない。でもなんか最近は壁の修理とか掃除とかやらされているような‥‥気のせいだよね?

 

 さてと後はギルドに報告をして報酬を貰ってと‥‥おや?今日はいつもより冒険者の数が多いしざわついてるな。こういう時は受付嬢にでも事情を聞けば分かるかな?

 

「なにやら騒がしいようですけど何かあったんですか?」

「あ、ブライさん‥‥遠方の探索から戻って来た冒険者や旅人の話でアベリオン丘陵に凶暴なモンスターが出現したみたいですよ?」

「‥‥はい?」

 

 話を詳しく聞いてみると、アベリオン丘陵は法国の領土にある場所でそこにはオークやオーガをはじめ様々な亜人達が住んでいるとのこと。その場所で山が崩れていたり、一部の集落が全滅したり、森林地帯が荒らされていたり甚大な被害が起きていたようだ。更に詳しく聞けば、集落にいた亜人の体が何か貫通されたかのようにぽっかり穴が開いていたり、山という山がチーズのように穴が開けられていたり、森が一直線に荒らされて何か通った跡のようになっていたりと珍妙な話だった。

 更に受付嬢曰くその似たような被害が王国領土内でも起きており、アベリオン丘陵からどんどん北上し王都へと近づいているとのこと。ギルド本部はそのモンスターの調査クエストを出したようだ、だからこんなに人が多いわけか。もしかしたら蒼の薔薇の人達も受けるのかな‥‥?

 

「ブライさん、調査クエストを受けてみませんか?」

「いえいえ、今は屋根の修理と掃除が楽しいので俺は遠慮しておきますよ」

 

 今はまだこの世界のモンスターや人達がどの程度強いのかじっくりと観察すべきだ。アダマンタイトの冒険者は英雄の域に片足ついてると聞くが、個々がどのレベルなのかがはっきりしない。ガガーランさんから聞いた話では蒼の薔薇のメンバーであるイビルアイさんはかなり強いとか。そういえば彼女とはあまり話をしてないな‥‥今度会えたら話をしてみよう。

 

「おぉーい、ブライ!」

 

 さてどうしようかと考えていたところへノッブがバンビを連れて上機嫌にやってきた。そういえば今日は『やっとワシもクエストが受けれるぞ!』と張り切ってたな。

 

「ほほぉー、ここがギルド本部かぁー!ついにワシも冒険者デビューというものじゃ!新たなる旋風を巻き起こすからよう見ておけよ!」

「お任せください!このバンビめがノッブ様の神々たるご活躍を一部始終見届けます‼」

 

 楽しそうで何よりです、はい。でもね、結構目立ってるからね?なんだこの女の子はという目で見てる人もいるから。あ、いやらしい目で見てる人もいたわ‥‥中身おっさんなんだよなぁ

 

「よぉーし!ブライよ、このなんか強そうなモンスターの絵が描かれてるこのクエストを早速受けよう!」

「ノッブ、それカッパーの冒険者じゃ受けれないクエストだから」

 

「なん‥‥じゃと‥‥」

「ちょっとそこの受付嬢!ノッブ様にも受けれるようにしなさいよ!」

 

 オーバーに驚くな、あとバンビちゃん受付嬢を脅さないの。ルールはルール、ちゃんと規定に則ってクエストを受けないと。

 

「わ、ワシなら第3位階魔法以上も唱えられるしそれなりの腕があるんじゃが、ダメかのう?のう?」

「あんた、首を縦に振りなさい。じゃないと‥‥爆破させるわよ?」

 

「だから脅すな」

 

 とりあえずノッブとバンビにげんこつを入れる。受付嬢さん、本当にごめんなさいね?

 

「しゃあない、俺が選んでおくから。まずは簡単な討伐クエストでいいか?」

「むぅ‥‥止むを得ん。ローマは一日にして成らずというからのう」

 

 こうして俺はノッブとバンビを連れて王国から北東で出没しているモンスターの討伐へと向かうことにした。

 

 

 王都を揺るがす事件が起きたのはその後の事だった。

 

___

 

 今夜もただただつまらない湧きつぶしになりそうだ。

 

 王都の南にある無駄に広い花畑が広がっている養蜂場。あちこちに大きな篝火がついてありその炎の明かりに群がり焼け死ぬ虫達を眺める。

 今夜は湧きつぶしの作業。要は蜂蜜の香りにやってくる昆虫型モンスターの討伐だ。貴族直属の養蜂場もあって湧きつぶしのクエストは行事の様で報酬もそこそこあり多俺達の様なカッパーやアイアンの底辺冒険者が多く集まっている。

 

 受ける冒険者の数も多いので討伐数とモンスターの大きさで報酬の量が決まる。しかし大抵の昆虫型モンスターは蜥蜴くらいの大きさで全くと言って程弱い。たまに兎程の大きさの虫がいるが先を越される。

 

 くそっ、見つかるのはちっさくて弱っちい虫ばかりだ。何か大きい虫がいないか探さないと今日の貰える報酬は少ないぞ‥‥!

 

 焦りが募りだしたその時、どこかでバキバキと何かが壊された音が聞こえた。恐らく巣箱を昆虫型のモンスターが壊したのだろう。巣箱が壊されたとなると怒られるのが山々なんだけど、折角虫モンスターを見つけたチャンスなので無視はできない。

 

 気づかれないように慎重に近づいて正体を探る。剣を持って慎重に慎重にモンスターの様子を伺う。

 

「‥‥なんじゃこりゃ?」

 

 4つの角がついた兎くらいの大きさの昆虫型モンスターだ。しかしこんなモンスターは見たことがない、これは新種か?黒い光沢のある甲殻だがあちこち傷だらけで角の一本は先端が折れている。そしてこのモンスターは只管巣箱の蜂の巣を食べてこちらに気づいていない。

 余程弱っていたのか腹が減ってたのか。だがこれはチャンスだ。新種っぽいしこれは高額報酬が得られそうだ。俺はニヤリとほくそ笑んで、剣をそのモンスターにめがけて振り下ろした。

 

 

 ガッキィィィン

 

 え!?ちょ、堅っ!?振り下ろされた剣が大きな音を立てて弾かれた。冗談とは言えないくらいの頑丈さで剣が振動し腕まで震動が伝わった。

 

 そしてその昆虫モンスターは俺の存在に気づくとこちらに体を向けて物凄い勢いで飛んできた。一本の鋭そうな角を突き立て、俺の体を貫通して飛んでいく。

 

 胸に大きな穴がぽっかり開き、そこから大量の血が噴き出て全身に激痛が走る。悲鳴を上げたいが口まで血が逆流してもう大きな声が出せないし意識がもう遠のいていく‥‥畜生‥‥だから湧きつぶしはいやだったんだ‥‥

 

 

 一人の冒険者が何やら昆虫型モンスターに殺されたらしい。そいつの近くに冒険者が気づくがその冒険者も体に穴を開けられて殺された。

 あのパタパタと飛んでいる黒光りする4本角の昆虫型モンスターの仕業のようだ。そいつが勢いよく飛んでつぎつぎと冒険者達の体を貫通して穴を開けていく。もしや‥‥噂にあったあのアベリオン丘陵に出現したという凶暴なモンスターか!?

 

 一人の冒険者が指示を出して来た。あのモンスターは危険だ、全員で協力して倒せと。本当なら誰がお前なんかの命令なぞ聞くかと思うが今はそれどころじゃない、下手したらあのモンスターに皆殺しにされる。俺の様な魔法職の冒険者も何人かいるから補助したり魔法で攻撃していこう。

 

「『速度低下《スピードダウン》!」

 

 まずはあいつの飛ぶ速度を遅くさせなくては。勢いよく飛んでいたモンスターは徐々に遅くなっていく。その隙に剣やハンマー、弓で攻撃をするが弾かれる。何という頑丈なやつなんだ。

 

 だが魔法は効いているようだ。幾人かのマジックキャスターが『魔法の矢《マジック・アロー》』を唱え、放たれた光球が直撃していく。

 傷だらけのこともあって『魔法の矢』を当て続けていくとようやく剣や弓矢が刺さるようになった。飛び回るあいつがだんだんとフラフラと飛ぶようになった、相手は弱っている。これはチャンスだ。

 

 誰かのマジックキャスターが『火の粉《ファイヤー》』を唱えたようで、あの昆虫モンスターは火だるまになった。パタパタともがくように飛んで暫くするとポテッと地面へと落ちた。

 

 これがあの噂の凶暴のモンスターの正体だったのか?何というか楽勝だったな‥‥いや結構な数の冒険者が殺されたからかなり凶暴だったと言うべきか。

 

 

 なんとも呆気ない幕引きだったな‥‥

 

 

 

 って、あれ?火だるまになってたあのモンスター‥‥なんか、でかくなってない?いや気のせいじゃない、でっかくなってる!?

 

 纏っていた炎が勢いよく消し飛ぶと姿を現したのはオーガ程の大きさの赤銅色に輝く甲殻を持った4つの角を持つ昆虫モンスターだった。え?さっきの昆虫モンスターがでっかくなったのか!?

 

 エメラルド色に輝く目がギラリと光る。やばいやばいやばいやばい‼もう見ただけで分かる、あれはやばすぎる‼俺の様なちんけな冒険者じゃ勝てねえ‼

 

 何と言うか本能的に俺は一目散に逃げ出した。全力疾走で走っていくと後ろ遠くから大きな音が響いた。恐る恐る後ろを振り向けばあの赤銅色の昆虫モンスターが魔法を唱えたようでそいつの周りから地面から鋭く尖った岩があちこち飛び出して冒険者達を次々とぶっ飛ばしていき、広大な花畑に尖った岩があちこち突き刺さり地獄絵図となっていた。

 

 あれ‥‥本で読んだ事があるぞ、確かあれは‥‥第5位階魔法『巨石の刃《ストーン・エッジ》』!?あ、あのモンスターはそんな高位な魔法も唱えれるのか!?

 

 赤銅色に輝くそいつは邪魔者が失せたことがわかると翅を広げた。赤銅色の翅と茶色いガラスの様な薄翅をはばたかせ、低空飛行して飛んでいった‥‥って、あいつ王都の街へと飛んでいくぞ!?

 

 あんな化け物が王都へ暴れたら‥‥間違いなく、王国が一夜で滅ぶかもしれん

 

「‥‥こいつは‥‥まじヤバス」

 

 どうしてだろうか、呆然とした俺は思わずわけのわからない言葉が出てしまった。




 どこかの宇宙の帝王さんのようにあと3回進化するタイラントマジヤバスオオカブトさん

 まずは一段回目、赤銅色に進化。
 
 イメージとしてはカブトムシの中でも気性の荒いコーカサスオオカブト

 個人的にヘラクレスより好きなカブトムシです


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15杯目 襲来、タイラントマジヤバスオオカブト ②

 巡回を務めて15年。今までに一度も王都内に魔物が現れることなんて一度も無かった。大抵は外から近づいてくる魔物どもを防壁から射殺すか冒険者を要請して退治されるかだ。だからこそ王都内に魔物が暴れる、なんて絶対にありえない。

 

 だがその常識はこの夜に覆された。王都の街に魔物が出現し、街を壊している。遠くからでも見える、それは赤銅色に輝くオーガ程の巨体を持った昆虫型のモンスター。今までに見たことがないモンスターだった。

 

 突進をして家のあちこちを破壊し、このモンスターを倒そうと駆けつけた冒険者や王都の兵士達を角や爪を振り回して蹴散らし、魔法を唱え地面から鋭く尖った岩を飛ばし蹂躙していく。

 

 そして何よりも驚くのは奴の甲殻の硬さだ。彼らの剣や槍や弓矢の攻撃や魔法による攻撃に傷一つすらついていない。

 

「臆すな‼何としてでも食い止めるのだ‼」

 

 この兵団の長であろう男がいくら攻撃しても手応えがないことに臆しだた兵士達をなんとかして奮い立たせる。確かにここで食い止めないと奴は王都の中央に侵攻し被害が拡大し兼ねない。しかしいっぱちの兵士である俺でも分かる。あれは俺達じゃ食い止めることができない。

 

 そんな事を考えていたら奴が低空飛行して勢いよくこちらへと突進してきた‼

 

 次々と轢き飛ばされる兵や冒険者達‥‥やばいやばいやばい‼こっちに来るぅ!?

 

 

「おぉぉぉぉらぁぁぁぁっ‼」

 

 その時、低空飛行して突進していた奴の横から鎧を着た筋骨隆々な逞しい女性が持っていた巨大な刺突戦鎚を奴の横っ腹めがけて思い切りぶつけ、力いっぱいスイングした。突進していた奴は金切り声をあげてスピンしながら吹っ飛んで家屋へとぶつかった。

 

 あの女性は‥‥アダマンタイト冒険者、『蒼の薔薇』のガガーラン‼他にも2人ほど同じメンバーの姿も見える‥‥アダマンタイト冒険者がいれば勝てる‥‥‼

 

 

 

 

「‥‥っ」

 

 あの魔物は一体何だ‥‥?クエストを済まして帰ってきたら王都内に魔物が現れたと聞いてかけつけてみりゃぁ見たこともない昆虫型の魔物が暴れてやがっていた。挨拶混じりに奇襲をかけて思い切りぶっ飛ばしたのはいいものの、なんつぅ硬さだ。振動で腕が痺れてやがる。

 

「ティナ、ティア。お前らあの魔物は見た事あるか?」

 

 同じく駆けつけて来たティアとティナに尋ねる。案の定、二人は首を横に振った。

 

「あの魔物は初めて見る」

「ガガーランのあの一撃をくらっても動けるモンスターは久々にみた」

 

 赤銅色に輝く魔物は体勢を立て直しこちらに標準を定めたようだ。最初の一撃を耐えたのはギガントバジリスク以来だな。

 

「あの硬さからしてクナイや手裏剣、飛び道具は効かないみたい」

「でもガガーランの攻撃は効いてる。私達は支援する」

「頼んだ。やっべ、久々に苦戦を強いられる相手かもな!楽しくなってきた‼」

 

 確かにあの魔物には効いてる。二人の援護がありゃ何とかして倒せるかもしれねえ‥‥または別行動してるラキュースとイビルアイが駆けつける時間稼ぎにもなりそうだ。

 

「行くぞ‼」

 

 奴が攻撃を仕掛ける前に先手を打つ!奴のヘイトを稼ぐために真正面から迫る。見てからして奴の動きは鈍重だ、その分攻撃はくらったらシャレになんねえかもしれねえが。真正面から向かってくる俺に向けて奴は突進してきた。

 

「不動金縛りの術‼」

 

 ティナが忍術を使って奴の動きを止める。奴の動きは止められたが、奴は力尽くでも動こうとキリキリと音を響かせながら脚を動かしていく。

 

「っ!?ち、力強すぎ‥‥‼」

 

 術をかけているティナが何とか動きを止めているが強引に解かれられそうになっている。解かれる前に奴のご自慢の角をへし折ってやらぁ‼

 

「ふん―――――っ‼」

 

 奴の顔面に向けて鉄砕きを思い切りぶつけた。思った通り鈍い金属音が響き、腕から体にかけて鈍い振動が伝わる。頑丈すぎんだろうが‼

 奴が奇声をあげたと同時にティナの金縛りの術が解かれた。腕の痺れで怯んでる場合じゃねえ、このまま角で突かれる前にもう一撃くらわせねえと!

 

「おらあああっ‼」

 

 今度は下から上へと鉄砕きを思い切り振り上げる。ガツゥン‼と鈍い音が響いたと同時に奴は仰け反った。

 

「今だ!」

 

「『爆炎陣』‼」

 

 ティアの対象を爆破させる忍術、『爆炎陣』が奴の腹に見事に直撃。奴は先程とは比にならない奇声をあげる。やっぱりな、赤銅色に輝く甲殻がない所は防御が薄い。これならいける‥‥‼

 

「このままガガーランが奴をひっくり返し続ければ倒せる」

「無茶言うなっての。あいつの甲殻、バカになんねえほど硬てぇんだぞ?」

「筋肉馬鹿ならできる」

 

 だから無茶言うんじゃねえ。そんなこと言ってる間にも奴は起き上がると、魔法を詠唱したようで魔法陣が展開され鋭く尖った岩が大量に飛んできた。

 

「やべえ!?」

「「不動金剛盾の術‼」」

 

 ティアとティナが七色に光る六角形の盾を生み出して飛んできた岩を防いでいく。まさか魔法まで唱えてくるとは思いもしなかったぜ‥‥

 

「あれって第5位階魔法『巨石の刃《ストーン・エッジ》』」

「第5位階‥‥!?そりゃあ相当やべえモンスターだな‥‥俺らでやれる相手か?」

「防御が薄い所を何度も攻撃すれば倒せる‥‥かも」

 

 正直俺ら3人でもあのモンスターには苦戦を強いられる。あの二人が駆けつけてくれば勝ち確なんだが、倒せない相手じゃねえから何とかして倒さねえとな‥‥‼

 

「もう一度仕掛けるぞ‥‥‼」

 

 俺はもう一度真正面から奴へと迫り、ティアとティナは頷いて奴の横へ駆ける。奴はもう金縛りされてたまるかと『巨石の刃《ストーン・エッジ》』を飛ばしてきた。ティアとティナは不動金剛盾で防ぎつつ、俺は避けたり迫る巨石は鉄砕きで砕いて奴へと迫った。

 

 前方へと飛んできた巨石を砕いたその時、奴が真正面から突進してきた。まずい、反応が遅れた。このまま刺し違えてでも奴に一撃いれてやるか‥‥!体に赤銅色に輝く角が突き刺さる寸前に奴の体が止まった。

 

「ったく、遅せえよ」

 

 ティナが金縛りの術で何とか動きを止めてくれた。危なかったー‥‥突き刺さるかと思って冷や冷やしたじゃねえか。

 

「ガガーラン、今だ!」

「あいよぉぉぉっ‼」

 

 奴の顎めがけて力を込めて思い切り振り上げた。鈍い音が響いたが強烈な一撃を加えることができた。奴は体をひっくり返されジタバタともがく。この隙に仕留めねえと‼

 

「オラオラオラオラオラオラァァァァッ‼」

 

 ティアとティナが奴の腹部めがけて『爆炎陣』を何度もぶつけまくっている間に俺は複数の武技を同時に発動させた鉄砕きの連続攻撃、『超級連続攻撃』を放ち続けた。

 ガツンガツンと鈍い音と奴の奇声が響くがそれを聞いている暇はない。ありったけの力を此奴にぶつけまくることに集中した。スキルを使い果たした頃には漸く奴の奇声は響かなくなり、もがき動いていた脚は止まっていた。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥仕留めたか?」

 

「‥‥や、奴から‥‥奇声は響かなくなった‥‥」

「なんとか‥‥倒せた‥‥かも」

 

 ティアとティナも術を使い切って息が上がっていた。軽く突いて奴が動かないことを確認する。俺らが全力を使い切ってやっとか‥‥なんつう化け物だったんだよ‥‥

 

「ふぅ‥‥これで、あの二人が駆けつけてくるまで待てるな」

 

 なんとか魔物を仕留めて漸く一息‥‥‥

 

 

「!?ガガーラン、離れろ!奴が動いたぞ!?」

 

 ティアの声に俺は咄嗟に後ろに下がった。仕留めた魔物がピクピクと脚を動かし始め体勢を立て直した。マジかよ‥‥あれだけやって動けるのか!?いや違う‥‥奴の体が光り出した‥‥!?

 

「何なんだよこいつは‥‥!?」

 

 奴は光を放ちながらどんどんと大きくなっていく。光が消えると、奴は銀色に輝く甲殻を持ち、ギガントバジリスクよりも大きい巨体へと変貌した。琥珀色に輝く目を光らせ金切り声を響かせる。

 

「‥‥足止めはできそう?」

「まずいな‥‥どうやって止めようか考えてんだが、勝てる気がしねえぜ」

 

 

 先程の赤銅色の奴と比べて銀色になった此奴からは比にならない強さが感じられた。何とか時間稼ぎができるかどうか‥‥

 内心焦りながら考えていたその時、奴は琥珀色の目をギラリと光らせる。その瞬間奴の周りに魔法陣が展開されたと同時に大地から無数の棘が突き出してきた。

 恐らく第5位階以上の魔法だ、くらったらやばい。ティアとティナより動きが遅い俺は兎に角防御して無数に突き出してくる大地の棘を防いだ。

 

 

「ガガーラン!無事か!?」

 

「痛ぅっ‥‥防具のおかげでなんとかな‥‥」

 

 生半可な防具だったら間違いなく貫通してお陀仏だった。思った以上にくらいすぎた‥‥立って瘦せ我慢するのがやっとだ。

 

「ガガーランにも真っ赤な血が流れてたんだ‥‥てっきり青い血が流れてるのかと思ってた」

「何言ってやがる‥‥まだまだ人間やめてねえっての」

 

 とりあえず持っているポーションを飲んで回復する。さて‥‥どうやってあの化け物を止める、か。さっきの大地の棘で辺りはひどい惨状だ。奴は地響きを響かせながらゆっくりと侵攻していく。

 たぶん俺らじゃ足止めにもなんねえ、このまま奴は王都を破壊しつくすに違いない。だが勝てないからって尻尾巻いて逃げるつもりはねえ、玉砕覚悟で一秒でも奴の侵攻を止める。

 

「死ぬ覚悟で突っ込むぞ‥‥!」

「もう覚悟はしてる」

 

 

 正面へと迫る。銀色の化け物は羽虫を払うかのように角を振り上げてきた。あ‥‥こりゃあ死ぬな‥‥

 

 

「『最強化《マキシマイズマジック》』、『水晶の短剣《クリスタル・ダガー》』!」

 

 何処からか水晶でできた短剣が飛来し奴の目へと突き刺さる。奴は奇声をあげて怯みだした。

 

「超技‼『暗黒刃超弩級衝撃波《ダークブレードメガインパクト》‼」

 

 どことなく長い武技を述べて黒い大剣を銀色の化け物に角に向けて振るう剣士の姿が見えた。黒い剣の刃は角に直撃すると爆発を起こす。角は折れることはなかったが奴には大きなダメージを受けたようで奇声をあげて後退りした。

 

 俺は目の前に現れた剣士と真紅のローブを羽織った仮面の少女を見て安堵して苦笑いする。

 

「ったく来るの遅せえよ。ラキュース、イビルアイ」

 

 蒼の薔薇のリーダーのラキュースと恐らく魔法を使える中で一番強いイビルアイ。これで全員揃ったな‥‥

 

「遅くなってごめんなさい、あとは私達に任せて」

「いや、ラキュース。お前でも苦戦を強いられるだろう。お前のその剣でも傷がついてない」

 

 イビルアイの言う通り、ダメージは受けているが奴の銀色の体には傷一つついていない。なんつう頑丈な甲殻をしてやがるってんだ‥‥

 

「こいつはお前達より強い‥‥そしてこいつは私より弱い」

 

 イビルアイはそう言って前へと、突進してくる銀色の化け物に向かって歩いた。確かにイビルアイは強力な魔法詠唱者だが、あの化け物に何か勝てる手があるのか‥‥?

 

「そしてこいつが虫の化け物なら尚更だ」

 

 イビルアイは突進してきている奴に向かって手を向ける。

 

「『蟲殺し《ヴァーミンベイン》』‼」

 

 白い魔法陣が展開されそこから白い煙の様なものが噴き出てきた。白い煙が銀色の化け物に包んだ瞬間、そいつは奇声をあげてもがきだした。奴は苦しんでいる‥‥!

 

「やはり有効だな‥‥今のうちに全員で攻めるぞ‼」

 

 なるほど、虫のモンスターに有効な特殊な魔法か。これならいける‥‥‼俺達は奴が苦しんでいる隙に攻撃をしていく。頑丈な甲殻をしてるが僅かにもダメージになっているのなら当て続ければいずれ倒れる!

 

 白い煙から逃れようと奴は後退りし、『巨石の刃《ストーン・エッジ》』を飛ばしてきた。

 

 

「『水晶防壁《クリスタル・ウォール》‼」

 

 イビルアイは俺達の前に水晶でできた壁を発現させて飛んでくる巨石を防ぐと高く飛んで壁を飛び越え、奴の真上から『蟲殺し《ヴァーミンベイン》』を放っていく。真上から散布された白い煙に奴は奇声をあげて苦しみだした。

 

 この隙に再び攻めていく。赤銅色の時よりも頑丈であるが銀色の甲殻がない箇所、顎下や胸部、腹部は比較的ダメージを与えれそうだ。

 

 俺は鉄砕きを思い切りぶつけ、ラキュースは何か長ったらしい武技名を叫んで黒い大剣を振るい、ティアとティナは忍術をぶつけ、イビルアイは『蟲殺し』の魔法の他に水晶の槍やら散弾やらを飛ばしていく。

 

 奴がまた動き出したらイビルアイが『蟲殺し』を放って足止めさせ、奴が苦しんでいる隙に俺達が一気に攻める、そしてまた動き出したら『蟲殺し』‥‥の繰り返しだ。イビルアイとラキュースの二人が駆けつけてきていなかったら一方的にやられていただろう。特に『蟲殺し』を唱えてくれるイビルアイがいるおかげで勝機が見えてきた。

 

 

 それからかなりの時間がかかったが、だんだんと奴の奇声が弱くなり動きが鈍ってきた。いよいよ大詰めか。奴は最後の力を振り絞ったのか勢いよく突進してきた。

 

「無駄だ、『蟲殺し《ヴァーミンベイン》』‼」

 

 イビルアイの放った白い煙に包まれて奴は苦しみもがく。奴の動きが止まった隙にイビルアイは高く跳ぶ。狙いは奴の甲殻の隙間。

 

「『最強化《マキシマイズマジック》』、『水晶騎士槍《クリスタル・ランス》』‼」

 

 イビルアイが発現させた魔法陣から水晶でできた大きな槍が飛び、水晶の槍は奴の甲殻の隙間へと突き刺さる。奴は断末魔の如く大きな奇声をあげ、地響きを響かせ倒れた。

 琥珀色の目には光が消え、もがくように動いていた脚と口はしだいに動かなくなった。

 

「や、やっと倒せたわね‥‥」

 

 ラキュースもティアとティナも息が荒くなっていた。あんな頑丈すぎる化け物と戦ったのは初めてだ。イビルアイのやつはまったくピンピンしてやがるけどな‥‥

 

「ふぅ‥‥お前にとっちゃ敵じゃねえってか、イビルアイ?」

「ふん‥‥それよりこの魔物は一体どこからやってきたんだ?」

 

 そういえば、こいつはどこからやってきたんだんだろうな‥‥帝国か法国か、いやどちらにしろこんな化け物を操れるような魔法や道具を使う奴は聞いたことがねえし、寧ろ凶暴なこいつを操れるはずがねえな。誰かが意図的に放ったのか‥‥

 

 今は気にしない方がいいか。遠くから王都の兵士達の勝利の歓声が聞こえる。まあほとんどがイビルアイのお手柄なんだけどな。

 

「どうするの?片付けるといっても頑丈すぎるし‥‥燃やす?」

「いずれも後始末が面倒だな。このまま放置するわけにもいかないが‥‥」

 

 イビルアイとラキュースがこの化け物の後始末をどうするか相談したその時だった。

 

 

 奴がぴくりと動き出した。

 

 

「っ!?まだ動けたか‼」

「今のうちにとトドメを‥‥いや待って、何か変よ!?」

 

 ラキュースが異変に気付いたように、銀色の化け物の体が再び光始めた。光っている間に奴の体がだんだんと巨大化していく‥‥

 

 光が消えるとそこにいるのは‥‥先程よりも何十倍も巨体をほこる、黄金に輝く甲殻を持った4本角の虫型の化け物。こんな巨体は…巨人を思わせるようなスケールのでかさ‥‥いや、こんなばかでけえ化け物は初めてだ。

 

「ウソだろ‥‥こんなにバカでかくなんのかよ‥‥」

 

 俺だけでなくラキュースもティアもティナも絶句した‥‥恐らく遠くで見ている兵士や冒険者達、王都の街の人々も絶望しいるに違いない。いや、『蟲殺し』を唱えれる、虫に有効な魔法を持つイビルアイなら‥‥俺はイビルアイへと視線を向けた。

 

 

「‥‥お前達、なるべく遠くへ逃げろ‥‥」

 

 仮面をつけているからイビルアイの顔が伺えなかったが、なんとなくわかる。こいつも絶句して驚愕しているんだろうな‥‥

 

「はやく遠くへ逃げろ‼この化け物に滅ぼされるぞ‼」

 

 黄金に輝く化け物はガーネットに輝く赤い目を光らせ、咆哮した。




 赤銅色、タイラントメガヤバスオオカブト
 銀色、タイラントギガヤバスオオカブト
 そして最終形態、金色のタイラントテラヤバスオオカブト
 イビルアイよりつおい

 あれ?タイラントマジヤバスオオカブトの後にゲヘナって…王国やばくない?


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16杯目 襲来、タイラントマジヤバスオオカブト ③

「はっはっは‼いやーノッブさん大勝利じゃったな‼」

「ええもう輝かしい大活躍でしたねノッブ様‼」

 

 ノッブは満足そうに高笑いをし、バンビが目を輝かせ大喜びしだす。やっと王都に帰ってきた時にはもう日も沈んで夜中だ。漸く着いたと俺はほっと安堵する。

 

 簡単なモンスターの討伐をしこれから帰るとういうのに、ノッブが『物足りない』とか言いだしてさらに北へと遠出し他のモンスターにも戦いを挑んだり、あちこち調べ出したり、道端に生えてるキノコ食べたりとあっち行ったりこっち行ったりと縦横無尽に駆けだして大変だった。

 

「後はギルドに行って報告したらクエスト完了だ‥‥あー長かった」

「のうブラッド、報酬もろうたらそのお金で一杯飲みに行こうか!」

「ダメでしょうが。貰った報酬は村や竜王国にいるデス・アダーと帝国調査組の資金なんだからな‥‥っておや?」

 

 ギルドへと向かおうとしたのだが街の様子がおかしい。あちこちから逃げ惑う市民、市民を誘導したり大勢引き連れて何処かへ向かおうとする騎士や冒険者達。特に騎士達は緊迫した面持ちの様子。というか遠くから何か地響きとか甲高い奇声みたいなものが聞こえてくるんだが‥‥

 

「なんじゃろなぁ?お祭りでもしとるんか?」

「お祭りならこんな慌ただしくないでしょ」

 

家族で荷物を担いで逃げる者や急ぎ馬車に乗り込む者、なんかこの世の終わりだとかこの国はもうダメだとか叫んでる者と見るからしてどうやら尋常じゃないことが起きているようだ。兵士達も大勢何処かへ向かっているようだし何事なのだろうか‥‥

 

 不思議に思っていると、ペルガさんが荷物抱えて大急ぎで駆けつけてくるのが見えた。

 

「ブラッドさん!ノッブさん!ここにいらしたんですね!」

 

「おぉペルガ殿、これは一体何のお祭りなんじゃ?」

 

「ま、祭りどころじゃないです‼い、急いで王都から脱出しましょう!」

 

 へ?ここから逃げる?ペルガさんの焦り様から事態は深刻な状況だと漸く知ることができた。まさかどっかの国か場所でプレイヤーがいて、世界征服だとか言いだし手始めにこの王都に侵攻し始めたとでもいうのか?

 

「ペルガさん、一体何が起きたのですか?」

 

「お、王都の街に巨大な黄金のモンスターが現れて破壊しつくしているんだ‼」

 

 巨大な黄金のモンスター?しかもそれが突然現れて大暴れしていると。この世界でも巨大なモンスターが存在するのか‥‥いやしかし、そんな物が突然現れるはずがない。巨大ならばすぐにでも分かるはずだが‥‥

 

「今、アダマンタイト冒険者や王国の兵士達が戦っているがあのモンスターを食い止められないんだ。今すぐに逃げましょう!」

 

「ほほぅ巨大なモンスターと‥‥それは面白そうじゃな!」

 

 あ、ノッブに火が付いたぞこれ‥‥やっぱり退屈だったんだな。まあ確かに俺も気になるし‥‥確かめる必要があるな。敵わない相手ならトンズラすればいいし。

 

「ペルガさん、俺達で何とかしてみます。ペルガさんは安全な場所へ避難してください」

 

「いやしかし‥‥‼あれはスケリトル・ドラゴンと比べられないくらい巨大なのですよ!?」

 

「ははは!心配するでない、わしらはそんなやわじゃないから安心して任せておけ!ブラッド、バンビ、確かめに参るぞ‼」

 

 ノッブは先に屋根へと高く跳んでいく。ああもう、勝手に先に行きやがるんだから!しょうがない、ペルガさんに心配かけるが行くとするか。

 

 俺とバンビもノッブに続いて高い屋根へと跳んでいく。遠くではあちこちで建物が破壊され煙が上がっているのが見える。さて例の巨大な黄金のモンスターは‥‥いたいた。巨大で黄金に輝く‥‥あれ?あの四本角の昆虫型のモンスター、どっかで見覚えがあるぞ?ノッブも気づいたようで少しばかり驚いていた。

 

「ノッブ、あれって確か‥‥」

「間違いない‥‥マジヤバスじゃ」

 

 

____

 

「急げ‼早く逃げろ‼」

 

 先程の奴とは比べ物にならないくらいの禍々しい気を感じた。はっきりわかる。あれはラキュース達でも私でも勝てる相手じゃない。こんな巨大な化け物、今まで見たことがないぞ!?

 

 ラキュース達が漸くこの化け物には勝てないと気付き退却を決断して走ろうとしたその時、黄金に輝く化け物が片脚をあげて思い切り地面を踏んだ。踏んだ弾みで大きな亀裂が逃げるラキュース達を追うかのように走り出したと同時に亀裂から光が漏れ出す‥‥いや、これはまさか第9位階魔法『大地の怒り《ガイア・バースト》』‼あいつ、詠唱や魔方陣を展開しないで使ってきたのか!?この魔法はまずい‥‥‼

 

「『最強化《マキシマイズマジック》』『水晶の盾《クリスタル・シールド》』‼」

 

 逃げるラキュース達に水晶の障壁を掛ける寸前、大地の亀裂から強力な爆発が起きた。私は寸前のところで何とか避けて掠めたがあいつらは無事か!?

 

「ガガーラン!?ガガーラン、しっかりして‼」

 

 

 舞い上がる煙が消え、見えたのはうつ伏せに倒れているガガーランを起こそうとしているラキュースの姿が見えた。くそっ‥‥間に合わなかったのか‥‥‼

 

 

「くぅ‥‥超痛てぇな‥‥イビルアイの魔法障壁があってもこのダメージかよ‥‥」

「っ‼良かった、無事なのね!」

「死んだかと心配した」

 

 良かった‥‥あの様子だと爆発の寸前、ガガーランがラキュース達を庇ったのか。まったく、心配かけさせてくれる‥‥

 

「ラキュース、ティナ、ティア‼ガガーランを連れてここから逃げろ‼」

 

「イビルアイ、貴女はどうするの!?」

 

「私が囮となって時間を稼ぐ!その後隙を見て逃げるから心配するな!」

 

 ラキュース達が安全な場所へ逃げるまで私一人であの化け物を足止めするしかない。何とか危険な攻撃を避けたり引き付けたりして‥‥数分はもつかもたないかもしれないな。いや、どうにかして止めるしかない。

 

「‥‥わかったわ。でもこれだけは約束して、絶対に生きて帰ってくるのよ!」

「‥‥‥イビルアイ‥‥死ぬんじゃねえぞ‥‥」

「これは鬼ボスの命令、絶対に聞く事」

「鬼リーダーを泣かせたらダメだから」

 

「そんな事は分かってるさ‥‥さあ行け‼」

 

 やれやれ、心配性な奴等だ‥‥これじゃあ絶対に死ねないじゃないか。あいつらが遠くへ、この化け物が追いかけてこない場所まで逃げるまで守ってやらないと‥‥!

 

「『魔法抵抗突破最強化《ペネトレートマキシマイズマジック》』『水晶の短剣《クリスタル・ダガー》』‼」

 

 防御突破の効果のついた水晶の短剣を奴のガーネット色に輝く目を狙って放つ。勢いよく飛んだ水晶の短剣は奴の目に刺さることなく砕け散った。防御突破の効果がついても奴にダメージを与える事はできなかった‥‥が、奴がこっちに気を向けたのには成功した。

 

「来い化け物‼私が相手になってやる‼」

 

 私は逃げるラキュース達とは反対の方向へと駆ける。その間にも奴の気を引く為に何度も水晶の短剣を放っていく。奴は黄金に輝く脚を動かして私の方へと追いかけ始めた。いいぞ‥‥このままこっちへ来い!

 

 だんだんとあいつらから距離を離していく。この調子で私を追いかけて来い、もう一度お前の嫌いな魔法をぶつけてやる!奴が再び片脚をあげて地面を思い切り踏み、私を追うように大地に亀裂が走る。『大地の怒り』が放たれる直前に私は『飛行《フライ》』を発動して奴の顔へと迫った。

 

「これでもくらえ‼『蟲殺し《ヴァーミン・ベイン》』‼」

 

 奴の顔めがけて昆虫モンスターに特に有効な魔法を放つ。白い煙が奴の顔を覆っていく、これで奴はもう一度苦しみもがくはず‥‥と思ったその時、奴は白い煙を吹き飛ばして黄金の角を横へと振ってきた。

 

「なっ!?がぁっ!?」

 

 小さな体に巨大な鉄の塊を勢いよく飛ばして当てた衝撃よりも強力な一撃が、激痛が体全体に走りだす。

 

「――――っ、『損傷移行《トランスロケーション・ダメージ』!」

 

 苦し紛れに何とか体に負ったダメージを魔力ダメージへと変える。が勢いよく飛ばされた私はそのまま家屋へとぶつかる。

 

「くっ‥‥魔力ダメージが予想以上に大きすぎたか‥‥」

 

 魔力は枯渇しないくらいほどあると自信はあったが思った以上にダメージが大きい。だがこんな事で弱音を吐いてる場合じゃない‥‥何とかより多く時間を稼がないと‥‥‼

 

 兎に角動こうとしたその時、奴は角を高々と上へ翳す。黄金の角が光ったその直後、私の足下やその周辺が青白く光り出した。私の周囲がバチバチと電気が走っていく‥‥

 

「まさか『轟雷《サンダーボルト》』か‥‥っ!?」

 

 急ぎこの周囲から離れようと駆け出すが地面から天へと数え切れないほどの雷が発生した。まだ『飛行』の効果が残っていたためギリギリのところを飛んで躱すことができた。『轟雷』が放たれた場所は黒く焦げている‥‥あと数秒遅れていたら黒焦げになっていたかもしれない。

 ほっとしたのも束の間、奴は片脚をあげてもう一度地面へ力強く踏む。今度は地面から鋭く尖った棘が次々と現れ私を追うように棘が次々と生えていく。周囲を巻き込みながら対象を狙う範囲魔法、『大地の刺槍《アース・スパイク》』か。

 

「『水晶盾《クリスタル・シールド》‼」

 

 球状の水晶の障壁を張って『大地の刺槍』を防ぐ。一定のダメージを防ぐ防壁だが振動と衝撃、そして私の体に痛みが走る。水晶盾を張ってもこのダメージか‥‥張っていなかったら即死だったかもしれん。

 

 頑丈すぎる防御力、角を振り回したり踏みつけたりするだけでかなりのダメージ、『蟲殺し』が効かないし更には第9位階魔法を使えるという黄金に輝く化け物。私一人で奴を止める事はできないのか‥‥?いや、まだ奥の手がある。一か八かやってみるしかない‥‥!

 

「『最強化《マキシマイズマジック》』、『砂の領域・全域《サンドフィールド・オール》』‼」

 

 最大限に魔力をまわして奴の全体に砂を纏わりつかせて目晦ましさせ、私は距離をとる。奴は単純思考な魔物ならこの砂嵐を真っ直ぐ突き抜けるはずだ。この間に全魔力を集中させる。

 邪魔な砂にイラついたのか奴は咆哮し、地響きを鳴らしながら真正面へと砂嵐の中を抜け出して来た。よし、想定通りだ‥‥‼

 

「『魔法抵抗突破最強化《ペネトレートマキシマイズマジック》』、『龍雷《ドラゴン・ライトニング》‼」

 

 切り札の一つだった『龍雷』に防御突破の効果をつけ、魔力を強く注ぎ込んだ強力な一撃。放たれた白い雷撃は奴の顔面に直撃しバリバリと白い電気を放つ。これで奴に少しはダメージが―――――

 

 

 その時、私の真上から黄金に輝く角が振り下ろされた。

 

 

「あがぁっ!?」

 

 私は羽虫の様に叩き落され地面へと直撃した。叩き付けられた全身から激痛が走る、いくら強固な装備とはいえこれはシャレにならないくらい痛い。何とかしてもう一度『損傷移行』をしようとしたのだが、仮面の一部が割れて少し鮮明に見えてきた私の視界に奴が私を踏みつけようとしてきたのが見えた。

 

「っ‼‥‥『水晶盾《クリスタルシールド》』‥‥っ‼」

 

 咄嗟の判断で球状の水晶の障壁を展開させギリギリのところ防ぐことができた。この隙に何とか逃れようとするが奴は私を殺す気で何度も踏みつけてきた。奴の足が水晶の障壁にぶつかる度に衝撃が走る。

 

 そして4度目の踏みつけでついに水晶の障壁にヒビがはしる。

 

「ひっ‥‥!」

 

 吸血鬼になってしまってから数百年、捨てた感情が段々と蘇ってきた。それは死への恐怖、この水晶の障壁が壊れたその時が私の最期なんだと‥‥

 奴は立て続けに踏みつけていき、障壁に段々とヒビが広がっていく。全身の痛みなのか、恐怖でなのか体が動けない‥‥

 

「や、やだ‥‥っ」

 

 今更少女の心に戻って何になる‥‥こんな状況で誰も助けには来ない‥‥ああ、ラキュース達は泣くだろうな‥‥ガガーランは怒るだろう‥‥

 何度目かの踏みつけで遂に水晶の障壁が砕け散った。奴は狙いを定めて脚をあげていく。

 

「っ‥‥!」

 

 そして黄金に輝く足が私めがけて振り下ろされた。まさかこんな化け物に殺されるなんて――――――いやだ‥‥誰か、誰か‥‥!

 

 

 

 

 

 その時、鈍い金属音が響いた。踏みつぶされる音はこんな音なのか‥‥いや、違う。痛みがない。何が起こった?私は恐る恐る目を開けた。

 

 

「―――――な、なんとか間に合った‼」

 

 私の眼の前にいたのは土埃で薄汚れた赤いコートを着て帽子を深くかぶった男、確かよく一緒にクエストを受けているブライ‥‥!?

 驚くことにブライは奴の踏みつけを仄かに緑色に光る大剣で防いでいた。

 

「ふんごぉぉぉぉっ‼」

 

 ブライは力を込めて大剣で押して奴の足を弾く。奴のバランスが崩れたその隙をついてブライは再び大剣を振る。すると大剣から緑色の剣閃が飛び、奴の顔面へと直撃した。奴は奇声をあげて少し後退した‥‥あの巨大な化け物にダメージを与えたというのか‥‥!?

 

「っらあ!もう一発!」

 

 再び大剣を軽々と数回振り緑色の剣閃を飛ばし、その都度奴は奇声をあげて後退した。初めて見た。ブライ‥‥さんが本気になって戦っている姿。見ただけで分かる、ブライさんは私よりも遥かに強い。そして逞しくて‥‥ってイヤイヤイヤ!?私は何を考えていたんだ!?乙女の心なんて数百年前に捨てたというのに‥‥

 

「イビルアイさん、無事かい!?」

「ひゃ、ひゃい‼」

 

 奴が怯んでいる隙にブライさんが突然駆け寄って来た。か、顔が近いから思わず変な声がでてしまったではないか!

 

「怪我をしてるじゃないか‥‥兎に角、今は一旦安全な場所へ離れないと」

「え?‥‥ひゃ、ひゃあっ!?」

 

 いきなりブライさんは私を抱きかかえ、姫抱っこしだした。な、なんということでしょう‥‥人生で初めて姫抱っこされるなんて‥‥なんと、何と心地いいものなのだろうか。なんか乙女の心が蘇った私を祝福するかの様に周りが白く‥‥バチバチと‥‥ん?バチバチ‥‥?

 

「ま、まずい‼ブライさん、『轟雷』だ‼」

「しっかりつかまってろよ‼」

 

 雷撃が放たれる寸前、ブライさんは私を姫抱っこしたまま勢いよく跳んだ。そのまま屋根という屋根を飛び伝ってどんどん遠くへと離れていく。

 

「さ、ここなら安全だ」

 

 あの黄金に輝く化け物から遠くへ離れた場所で私を降ろし、懐から血の様に真っ赤なポーションの様なものを渡してきた。

 

「これを飲めば怪我も完治する。あのタイラントテラヤバスオオカブト相手によく頑張ったな」

「あ、あう‥‥」

 

 ブライさんは私を優しく撫でてくれた。なんだろう‥‥心の中が温かくなって、体が少し火照ってきた‥‥まさかこれが、これが‥‥

 

「よし、ここからは俺達に任せてくれ」

「え…!?まさかあの化け物と戦うつもりなのか!?」

 

 ブライさんはあの巨大な化け物と戦うというのか!?無茶だ、あの巨大な化け物を一人で相手するには厳しすぎる!

 

「大丈夫、俺の仲間と一緒に戦う。あれは協力して戦わないと攻略できないボスだからな‥‥それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一度戦った‥‥?ブライさんはあ、あの巨大な化け物と一度戦ったことがあるのか!?し、しかしそれでもあの巨体相手に‥‥

 

「イビルアイさん、必ず戻ってくるから。どんと胸張って待っててくださいね!」

 

 ブライさんはもう一度私を撫でた後颯爽と黄金に輝く化け物の下へと駆けていった。あの背中を見て分かる‥‥ブライさんは幾度も窮地を抜けてきた、私よりも遥かに屈強な戦士なんだと‥‥私は信じて見送ることしかできない‥‥

 

「‥‥がんばれ、ブライ様‥‥」

 

 

 頑張って‥‥そして無事に帰ってきてブライ様‥‥

 

____

 

「悪い、待たせたなノッブ」

 

 あの金ぴかから少し距離を離した場所でノッブとバンビと合流する。

 

「大丈夫じゃ、あれをどうやって攻略するか考えていたところじゃ」

 

 ノッブはにっ笑って首を横に振る。確かに考える必要があるよな‥‥ユグドラシルなら簡単な動作で済む相手なのだが、相手も思考を持ってリアルに動く。ゲームとは違う、もはや本物の化け物だ。巨体というものだから本当に迫力があるよな‥‥

 

「それで、わしら3人でいけるか?」

「ちょっと難しいな‥‥相手はあのレイドボスでしかも最終形態だ」

 

 90レベル相当の相手だ、簡単にはいかないだろう。あの攻略法でいけるとしたら、もう一人応援が欲しい。だとすれば‥‥俺は早速『伝言《メッセージ》』を発動する。

 

「‥‥聞こえるか、アダー?」

 

『おぉっ!?びっくりしたー‥‥なんだブラッドか。なんかあったのか』

 

「四の五の言わずこっちに来てくれ。説明は来てから話す」

 

『はあ!?たった今竜王国に来て冒険者登録してやっとこさ宿に泊まれたというのにこいって急すぎだなおい‼』

 

「お前の力が必要なんだ。急いできてくれ」

 

『‥‥ったく、しゃあねえなぁ‼くだらない事だったら激おこぷんぷん丸だぞ?』

 

 

 

 竜王国でやっと宿が取れてさっそくカワイ子ちゃん呼んでキャッキャウフフでもしようかと考えた矢先にブライからこっちにこいと言われた。

 断ろうとしたけど何やら急ぎの用事らしく、兎に角来いと。アルトリウスとオーンスタインを宿に待機させ、『異界門《ゲート》』を開いてブラッドの下へと向かう。なんだろうな、しょうもない事だったらプンスカして帰ってやる。

 

「おう、待たせたなブラッ――――」

 

 異界門を抜けたら辺りは戦場のように滅茶苦茶に壊れた景色が見えた。そんで遠くには黄金に輝く昆虫型のモンスターが‥‥‥‥あるぇ?あれ、なんかすっげえ見覚えのあるぞー‥‥

 

「アダー、お前も覚えてるよな‥‥あれはタイラントマジヤバスオオカブト。しかも最終形態のタイラントテラヤバスオオカブトだ」

 

「」

 

 

 あかん‥‥絶対に俺がついうっかり召喚して逃がしたやーつだあれ‥‥誰だよ、誰がこんなにまでしやがったんだよ!?

 

「アダーも驚くよな。まさかユグドラシルのモンスターまでも存在してるなんてな」

「ウン、ソウダネ」

 

 違うんです。あれ、俺が召喚しちゃった奴です。どうしよう、これバレたら処刑もんじゃね?特にラクーンさんにバレたら拷問、処刑コース間違いなしじゃね?

 

「ふふふ、アダーが武者震いしとるのう。それもそのはず、2匹目が手に入るチャンスだものな」

「ひぃっ!?お、覚えてるのかノッブ!?」

 

なんということでしょう。ノッブさんが鮮明に覚えてました。やばいよやばいよ、これ俺が召喚した奴だとバレたら非常にヤバイよ‼マジヤバスだよマジヤバス‼

 

「デス・アダー様‼私も協力します、一緒にあのでかい金ぴかを討伐しましょう!」

 

 俺の焦りに気づいてないようでバンビちゃんが物凄くやる気満々。そうだ‥‥バレる前に倒せばいいんだ。と、兎に角証拠隠滅しねえと‥‥‼

 

「アダーも呼んだし、ついでにラクーンさんも呼ぶか?」

「ノッブ、いい考えだな。ラクーンさんもいれば更に効率がいい。そんじゃさっそく‥‥」

 

「待て待てーい‼ら、ラクーンさんは呼ばなくていいよ‼ほ、ほらあっちは忙しいし、ラクーンさんにはゆっくりしてあげなきゃね!」

 

 うん、ラクーンさんは勘が良すぎるからな。絶対にバレてしまう!ラクーンさんに見つからないように、ノッブとブラッドが気づく前になんとか、なんとか倒さねば‥‥‼

 

「よ、よーし‼ブラッド、ノッブ、バンビ‼俺達で力を合わせてあのタイラントテラヤバスオオカブトを倒すぞ‼」

 

 

「‥‥のうブラッド、アダーの奴やけにやる気満々じゃな?」

「あれじゃないのか?あいつ昆虫好きだし、ユグドラシルのあいつにも出会えてテンションが上がってるんだろ」

「そうかそうか‥‥楽しそうで何よりじゃな‼」





 イビルアイさんの死亡フラグは回避‥‥されたのかな?

 果たしてアダーはバレずにタイラントテラヤバスオオカブトを討伐できるのか…


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