シロちゃんと馬が共闘するシーンを書いてみた (ジャンヌタヌキさん)
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シロちゃんと馬が共闘するシーンを書いてみた

廃ビルのフロアを全部ぶち抜いたような、だだっ広いコンクリートの空間。

連続的な銃声の中を、マネキンのようなロボット集団がわらわらとフロアの一角に集まってゆく。

その視線の先には機関銃を右脇に抱えた銀髪の少女。

頭のてっぺんに生えた双対のアホ毛が、威嚇するように逆立っている。

 

「寄るなぁぁあ゛あ゛あ゛」

 

怒りの籠った声をあげ、少女は機関銃を撃ち続ける。

右に左に、上に下に。

その小さな体では不釣り合いな程に巨大な獲物を振り回し、乱雑に弾を打ち出してゆく。

一見、射撃精度よりも手数を優先した打ち方だが、向かい来るロボットは一体、また一体とその場に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなっていた。

そのどれもが、確実に急所が破壊されている。

145.146.147…

動かなくなり積み上がってゆくロボットは小さな山を築き、それを乗り越えようとするロボットが急所を撃ち抜かれその場に崩れ落ちる。

246.247.248…

やがて乗り越えることを諦めたロボット達は、犠牲になった仲間の亡骸を押して距離を詰め始めた。

ズリ…ズリ…ズリ…

 

「いやぁぁぁ!!キモイキモイキモイ!!」

 

知恵を働かせたロボット達に悲鳴を上げながら少女は引き金を引き続ける。

が、その全ては無情にも壁に阻まれ、止まる気配を全く見せない。

ゆっくりではあるが確実に縮まっていく距離。

40メートルはあった筈が既に約30メートルにまでなろうとしている。

 

ーこれは本当にマズイかも…

 

迫り来る恐怖に、シロの頬を一筋の汗が流れ落ちた。

と、その時だった

 

「シロちゃん!」

 

くぐもった声と共に、1人の男が窓枠から滑り込んできた。

馬のマスクに青いスーツ。

颯爽と現れた珍妙な出で立ちの男を一瞥した少女は、撃つ手を止め機関銃を抱き抱える。

 

「馬遅い!」

 

もちろん、憎まれ口も忘れずに添える。

そんなシロに申し訳なさそうに謝罪しつつ、男はシロをひょいと抱き抱えた。

ロボット達は未だにゆっくりと距離を詰め続けている。

 

「行きますよシロちゃん」

 

踵を返した男は入ってきたばかりの窓枠に足をかけた。

見下ろせば断崖絶壁、高度も約数百メートルはあるだろう。

大の大人でも身がすくむ程の高さにシロは男の服をギュッと握りしめる。

 

「しっかり、捕まっててくださいね!」

 

言うや否や、男は背中を下にして身を空に投げた。

内蔵がふわりと浮く感覚と、間近な死への恐怖。

異変を察した脳がその動きを加速させ、シロの眼前の景色が徐々に動きを遅くする。

小さくなる窓枠の中心、異変に気づいたロボット数体、壁からひょっこり頭を覗かせている。

時間軸のズレたマヌケな彼らに対して、シロはニンマリと笑った。

 

ーバイバイ

 

カチッ

 

1秒の沈黙を経て、窓枠は大きく吹き飛んだ。

ポカリと空いた穴からは紅い煙が吐き出され、遅れてやってきた音の塊が鼓膜を揺らす。

 

「パラシュート開きますからね、シロちゃん」

 

馬マスクの言葉にシロはおでこをぐりっと押し付けた。

 

ー中略ー

 

「シロちゃんはここで待っていて下さいね」

 

ばあちゃるは朦朧としたシロの目を手で覆い、被っていたマスクを被せた。

 

「すぐ済ませますから」

 

銀髪にも似た白髪の青年はそれだけ言い、ゆっくりと腰を上げた。

振り向いた先には大柄な男。

その体の半分は機械に覆われ、顔には殺気が宿っている。

 

「妹を寝かしつけてあげるとは優しいお兄ちゃんだなぁ!」

 

嘲笑するように放たれた言葉に、青年は満更でもなさそうに片眉を上げた。

 

「今から貴方が殺されるのを見せるのは教育に悪いですからねぇ」

 

売り言葉に買い言葉。

2人を挟んだ空気は一瞬で凍りつき、殺意に満ちた2人は互いにゆっくりと距離を詰め始める。

 

「シロちゃんのお腹を殴った代償は死で償って貰いますからね

 

「遺言か?」

 

手を伸ばせば掴める距離。

左足を踏み出し男の間合いに入った青年に、男はノーモーションで右ストレートを打ち出した。

その体躯に似合わない程に繊細で無駄のない動き。

武道の達人でも甘んじて見逃してしまうほどの動きに合わせ、青年は身体丸ごと右にずらす。

 

ビュッ

 

紙一重で掠った拳に左手を当て、青年は重心ごと前に歩を詰める。

コンマ0.1秒。

前に出した左足を軸に体を反転させ、それまでダラりと落としていた右手を勢いそのままに突き出した。

針のように鋭く、正確に。

その指先は胸の中心を貫き、心臓に深々と突き刺ささった。

 

「あ、…あ?」

 

電光石火の早業に、突き刺された男は何も理解出来ないと言った表情を浮かべたが、やがて糸が切れた操り人形の様にその場にダラりと崩れた。

それに連動するように、深々と突き刺さった右手がズルリと抜け、ぽっかりと空いた穴から鮮血がドクドクと流れ出す。

 

「カウンターじゃないと勝てないんですよねぇ…」

 

言い訳のように独り言を呟いた青年は、真っ赤に染まった右手をプラプラと振りながらポリポリと頭を掻いた。



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