『魔法神社』
それは、実在する神社である。
何故、この神社がこう呼ばれるようになったのか。
この地に伝わる昔話を語ろう。
先ず語らなければならないのは、中世欧州(ヨーロッパ)において行われた『魔女狩り』である。
先祖代々、陰で魔族と戦ってきた一族にも、例外無く矛先が向けられた。
理由は解らないが、一族を快く思わないものがいたのは確か。
魔族と手を組んでいる一部の人間の仕業とも言われたが定かではない。
一族は、祖国を追われ西へ西へとシルクロードをひたすら逃げた。
そして、東の果ての島国『日出ずる国』へと流れ着く。
しかし、島国では異国の人間は目立ち、更には嫌われた。
そう、この国でも一族に居場所は無かった。
各地を転々としていた一族が辿り着いた地。
そこは、死んだ村。正確には、生気が無く死人同然の人が暮らす村。
村のある家の前を通りかった時。中からすすり泣く声が聞こえた。
泣いていたのは父母と娘の三人。
何事かと、話を聞く一族の者。
宥(なだ)め、ようやく聞けた話は驚くものだった。
年に一度、山に住む鬼に若い娘を生贄として差し出す決まり。
その日が明日。
そして、この娘が生贄だと。
そう、そこは鬼達が巣食い支配する村。
残虐非道の鬼達の振る舞い。
鬼の所業を聞き、
「許せぬ!」
立ち上がったのは一族の姫。
「我ら一族は、人を護るのが代々の務め。例え、国が違えど見過ごせぬ。」
その言葉に、親子三人は涙し喜んだ。
姫の、
「愛の【魔法】で、皆を守ります。」
親子の心に希望の光を灯す。
迎えた次の日は、約束の日。
その夜。
村の入口に、置かれた大きな葛籠(つづら)に姫は娘の代わりに入る。
その様子を、影から見守る村人達。
満月に照らされた道を、鬼達が山から降りて来た。
今日の生贄と葛籠に手を伸ばした鬼達は驚く。
勢い良く開いた葛籠に。
「一族の名にかけて、その所業許せぬ!」
見栄を切ったのは、異国の娘。
鬼達の驚きは嘲笑に変わる。
「人間が、俺達鬼族に説教か?」
そして、大爆笑へと。
「ならば、見るが良い! 一族に伝わる【魔法】の力を!」
取り出したのは、一族の姫のみが使うことのできる家宝の品。
それは、手に収まる程の大きさの小箱。美しい宝石で装飾されている。
その小箱を右手で天に掲げ叫ぶ。
「○○○○○○○○○○○!」
当時の村人には、聞き取れない発音だったようで、記録も口伝も残っていない。ただ、叫んだとしか。
眩い光が姫を包み、気高く誇り高き戦う姿に変えた。
光り輝く異国の着物を纏う姿は、村人に美しい『天女(てんにょ)』に見えたと言う。
「□□□□□□□□□□□□□□□!」
全身で見栄を切り、
「正義の盾、ここに降臨。」
聞き取れたのは、最後の一文のみ。
戦う姿の姫。
その拳は大地を割る。
その蹴りは空を裂く。
それは、一族の姫にのみ伝えられた戦う魔法。
姫は、鬼共と戦う。
まさに『ちぎっては投げ、ちぎっては投げ』であった。
忽(たちま)ちのうちに鬼共は蹴散らされた。
その姿を見た村人は、
「あれは天女様ではなく、戦神(いくさがみ)の化身だ。」
と、祈りを捧げた。
救ってくれた一族を村へ迎え奉(たてまつ)った。
当然ながら当時の村人には、姫の『プリンセス』も、一族の名前の『キュリアン』も発音し難く…。
『プリンセス』を『ぷり』
『キュリアン』を『きゅあ』
と発音するのが精一杯だったという。
そして、敬愛の念を込め、
『ぷり = きゅあ』
の愛称で呼んだと言う。
この後に一族は、この村に住むこととなる。
そして、周囲の村からは、
「『東』の村は栄え『映』えている様だ」
と言われた。
姫はこの地で幸せに暮らし、生涯を終えた。
後に亡くなった姫のため、村人たちは社(やしろ)を建てた。
この時、姫が飼っていた動物の『タヌキ』を祀ることとした。
この『タヌキ』と話している姫の姿が度々目撃されていた。
更に『タヌキ』は立ち上がって二本足で歩いたり、宙に浮いたりしていたと言う。
後の調査結果に『タヌキ』ではなく、『タヌキ』に酷似した未知の動物であったとの未確認の報告もある。
姫が言っていた、
「私が使うのは[神通力]ではなく、人を守る【魔法】です。」
から、神社の名前を付けたと言う。
これが、
『魔法神社』
の謂(いわ)れである。
えっ?
似た名前のアニメが放送されているって?
それは、全く無関係ですよ。
何せ…
このお話は、
ただの、
『昔話』
ですからね。
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