トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい (ミツホ)
しおりを挟む

トンネルの向こうに行かずとも不思議な世界

角を曲がったら、知らない町だった。

 

何を言っているか分からねーと思うが以下略としても千と千尋の神隠しだってトンネルっていうなんかこう非日常へと赴くための道が有るわけで角を曲がったら知らない町並みになって振り返っても知らない道ってちょっとひどすぎませんかね?

スマホを出したら圏外どころか時計の表示すらバグってて通信が必要な物全てが使えないってどういうこと…?

 

 

脳内にはトリップだの裏世界だのそういう系の文字が過ぎっていくけどアーアーちょっと何の事だかわかんないですね常識的に考えて白昼夢っていうか明晰夢っていうかもしかしたら熱中症で倒れたりとかしてこんな夢見てるのかもしれないし早く起きなきゃっていうかマジでどうしよう…。

 

日陰が碌にない住宅地を取りあえず抜けて見つけた公園に入る。

さっきからすれ違う人やここにいる人を見るに日本なのは間違いないからちょっと安心したけど…。

 

冷静になって考えれば流石にこの肌を焼く熱気や四方から響いてくる蝉や人の声が夢だと思わせてはくれない。

近くにいたママさん集団に怪しまれないよう『すみません迷子になったみたいで、ここらで1番近い駅はどこですか?』と聞いてみると丁寧に駅への道を教えてくれたのでお礼を言ってその場を離れる。

 

近道として教えてもらったのは太い道路に出ず住宅街の中を突っ切る道で、暑さのせいか日陰の無い道ですれ違う人は中々現れない。

道が合っているのか不安になりつつも進んだ道中に一際大きな家があって思わず視線を向ける。

 

こんなデカい家、維持するのが大変だろうなぁ…。

 

そんな事を思いながら顔を前に向ければこのちょっとハイソな住宅街に似合わないコスプレ男が歩いてくるのが目に入った。

 

「き、岸辺露伴!?」

 

髪型、服装全てが完璧に漫画から飛び出してきたかのようなハイクオリティに恐れ戦くがそれよりつい叫んでしまった事に気付いて回れ右をすべきか迷う。

イベント会場ならともかくこんな住宅街で堂々とあの格好をして歩ける人にあまり関わりたくない。

しかしこの暑さも問題で早く駅に向かって何か冷たい飲み物を飲みたい。

 

2つの思いを天秤にかけているうちにコスプレ男は2mの距離まで近付いていた。

 

「僕のファンか。 まさか家にまで押しかけてくるとは…サインでも欲しいのか?」

「えっ」

 

あっ。(察し)

なりきってる系の人だこれ関わったら駄目なタイプ確定ですねわかります。

 

「ア、ハイ、ファン…デス。 オアイ デキテ コウエイ デス。 シツレイ シマス」

 

全力で笑顔を浮かべその横を気持ちマッハで通り過ぎようとした瞬間…

『ヘブンズ・ドアー』

ちょ、そこまでなりきらな、く…て…

 

 

 

 

 

 

「おい」

「ギャアアアアァーッ!」

 

横をすり抜けたはずのコスプレ男が目の前にいて思わず悲鳴を上げる。

しかも気付けば手首を掴まれててしかもそれが結構な力なせいでこの男に私を逃がす気が無いのがよく分かって正直泣きたいっていうかもう涙目!

 

「お前はスタンド使いか」

「いいえ」

 

ぎゃーっ!

口が勝手に動い…スタンド使い?

 

「そうか。 とりあえず黙って付いてこい」

 

その言葉を聞いた瞬間声が出なくなり足が勝手に動き出す。

そのまま目の前に有った豪邸に入っていく男の後ろに付いて入り、クーラーの効いたリビングに通された。

 

「そこのソファーに座れ」

 

言われるがままに動く体がソファーに身を預けると同時に再び

『ヘブンズ・ドアー』

もしかしてこれ本物…の…

 

 

 

 

 

「なるほど、これは面白い。 この世界に来る前の事が読めないのは残念だがネタとしては中々に優秀だ」

 

さっきと同じように意識がふと戻れば目の前にスケッチブックを持った…岸辺露伴が座っていた。

 

……これ絶対ジョジョトリップじゃん…。

 

「おい。 何か話せ」

 

急に目線をこっちに向け声をかけて来た岸辺露伴に思わず固まれば機嫌を損ねたのか眉間に皺を寄せられとてつもなく気まずい。

 

「さっき書きこんだ内容は消した。 好きに動いて話せるだろう」

「なにそれこっわ…」

 

さっきの一連がスタンドの力だっていうのは何となくわかってたけどとんでもない事やっといて淡々と言葉にされると怖いの一言に尽きる。

そもそも岸辺露伴はヘブンズ・ドアーで私を読んだんじゃないの?

 

何を言えばいいのか分からないし、何でこうなっているのかすら分かってないのに何を話せと言うのかこの男は。

 

怪訝な表情になっている自覚はあったがじっとりと目の前の男を睨めば仕方がないというように口を開いた。

 

「フン。 君が異世界から来たのは分かった。 そして何故僕の事を知っているのに僕をコスプレ男だと思ったのかも見当は付いている。 1番気になっている異世界での記憶が何故か読めないのは手間だが仕方がない。 衣食住や帰る方法が欲しければ、詳しく話してもらおうか」

「ありがとうございます露伴先生何でも聞いてくださいね!」

 

こうして岸辺露伴と私の主従生活は始まったのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会い

ファンが家の前に来るというのはあまり珍しいことではない。

普段であれば岸辺露伴は家の前で屯するファンなど無視して家に入っただろう。

しかし家の前にいた人間はこちらを見て信じられないものを見るような目で露伴の名前を叫んだ。

 

その後なにやら葛藤するような様子で逃げも向かいもせずその場に留まる姿を見て露伴はその人間が自身のファンではない事と家の前にいたくせにこちらに関わりたくないと思っていることを察したが、そうなるとその人間は何がしたいのかがわからない。

 

露伴の頭を過ぎったのはスタンド関係だ。

 

自分に何かをさせたいのか、何かしにきたのか…。

もしくは、探りにきたのか。

 

仮説として1番上に上がってきたのは3つ目だ。

そしてあの様子からするに露伴自身には会いたくなかった。

つまりあの女は不在の間に家に何らかの仕掛けを施しているかもしれない。

これは自衛のためであり、誰にも文句を言われる筋合いは無いのだ。

 

あまりにも怪しい態度の女に対しそう結論付けた露伴は躊躇い無くヘブンズ・ドアーを使ったのだった。

 

 

そして女の顔が本となったのを確認した露伴はそのあまりのページの少なさに驚くが、それはスタンド能力で情報を制限されているのだろうとすぐに冷静になる。

岸辺露伴を探りに来たのであれば対策をこうじていてもおかしくはない。

 

まさか、読める部分だけでもと思い読んだ内容に更に驚かされるとは微塵も思っていなかったが…。

 

 

本は、嘘を吐かない。

 

 

間違いなくここに書かれたものは真実である。

しかしそれはこの本となった人物の主観であり、この女が本体ではなくただの露伴を油断させる罠として操られ弄られた存在である可能性も捨て切れはしない。

 

しかし。

あまりにも漫画としてありふれたような、気が付けば異世界という設定だけなら罠だと一蹴したかもしれない。

こんな設定で岸辺露伴の興味を引こうなどあまりにも陳腐だと、鼻で笑っただろう。

だがその中で露伴を見た瞬間の女の思考。

この岸辺露伴をコスプレイヤーと称し関わりたくないと思っているこの女を、もしかしたら本当にトリップしたのかもしれないと思いたくなるほど面白いと感じてしまった。

 

もし真実であるならそれはつまり、岸辺露伴がコスプレとして扱われてもおかしくはない名の知れた物語の登場人物として描かれている世界から来たという事になるのだから。

 

 

 

 

『自身の意志に関係なく岸辺露伴の言葉に従う』

 

余白にそう書き込み、スタンド使いではない事だけ確認すると露伴は躊躇い無く女を家に入れた。

 

というのも自身が炎天下の道端で読みたくなかったからだが。

 

自分が楽に読めるようにとリビングのソファーに座らせ、再び開いたページを空白すら逃さないように読み解いていく。

 

この女が角を曲がるより前はどうやっても読めなかった。

ページ自体が存在しないのだ。

 

もしもそこが本になっていたなら。

異世界で過ごす人間の人生だ。

露伴はその全てをこの女のプライバシーなど一切鑑みずに読み尽くしただろうがそれは叶わないらしい。

 

だが少なくともこの女にはヘブンズ・ドアーが使える。

つまり全てこの女に語らせれば良いだけとも言えるだろう。

読んだ中でこの女は帰還方法と今後の衣食住の心配をしていた。

つまりこれから行われる事は一方的な搾取ではなく、露伴が女の望みを叶えてやる為の対価をいただくだけである。

 

タダでヘブンズ・ドアーを使ってやる義理は無い。

だから露伴の望みを叶えるのであれば、ヘブンズ・ドアーで元の場所に帰してやろう。

 

……いつ飽きるかは分からないが。

 

 

勝算しか無い取引を持ち掛けるため、露伴はヘブンズ・ドアーで書き込んだ命令を解除すべく手を伸ばした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

腐ってるチーズ蒸しパンってもはやただの生ゴミ

「おい、ふざけるなよ…っ!」

「ごめんなさいごめんなさいだってこんな事になるなんて思って無かったんです」

「信じられん! こんな冒涜的な…っ、くそっ!」

「許してくださいもうしませんヘブるのだけは勘弁してください」

「僕のスタンド技を動詞にするな!!」

「ひえーっ!」

 

 

あれから早3日…。

初日は私が所持していたスマホを電池が切れるまでこねくり回し説明させられ、財布の中身は糸くず1本すら余すことなくひっくり返された。

そして平成25年のくすんだ100円玉を見つけた露伴先生がそれにいたく興奮していたりと余すことなく変人ぶりを見せ付けられた私はすでにお腹がいっぱいになっていた。

ちなみにこの世界は西暦2000年…平成12年ということで、異世界プラス未来という感動をスマホではなくその100円玉から受信したらしいさすが露伴先生今の私には理解できない。

 

そしてその後、怒濤の質問責めに襲われたんだけど…。

聞かれた事に答えようにも一般人な私には説明できないスマホの原理だとか平成何年に何があったかとかを聞かれても覚えているわけがない。

 

しかしリアリティの追求者岸辺露伴先生はその足りない部分の方が多い情報に非常に満足したらしい。

専門家でもない人間が必死に説明する姿がいい資料になったって楽しそうだった。

……こいつただのドSなのでは?

 

ま、まあとりあえず落ち着いてから露伴先生と今後について契約を交わす事になり、そんなに悪くない条件でまとまった。

 

・1ヵ月過ぎたらヘブンズ・ドアーで『ドアを開けたらこの世界に来た日の自分の部屋に戻っていた』と書く。

・1ヵ月の衣食住は全て岸辺露伴が負担する。

・岸辺露伴に従う。

 

悪くないっていうかとりあえず必ず帰してくれる事と衣食住の世話がされるなら諦めるしか無かったともいう。

私には露伴先生に逆らえる能力も度胸も無いけど必死で1ヵ月にまで縮めたのが『そんなに悪くない』の部分である。

 

だって『元の世界の元の時間に戻れるのなら1年ぐらい問題無いだろう』とか言い出したからねこの人!

 

なんとか1ヶ月という期間で話をつけられたものの3つ目の条件にヤバみしか感じない。

というかこの条件で首を振らせるために最初に1年とか言い出したんじゃないかという疑惑という名の確信が今盛大に産声をあげてこれ完全にハメられましたね気付きたく無かった…。

 

どうにでもなーれ状態というか諦めの境地というのを実感させられたものの、ぐったりした上にお腹が鳴った私を見て『衣食住の保証を約束したから』と素早く出前を取ってくれたのはありがたかった。

 

なんかこう…これ高いよねって一目でわかる桶に入ったお寿司が届いてすごく美味しかったです。

 

そして連れ出されタクシーに乗って付いたショッピングモールでポンと1万円札が詰まった財布を渡され、服や生活雑貨を買うように命令された。

何が面白いのか私の後ろを歩きながら私の様子を見ている露伴先生は終始御機嫌だったんだけど、時代的な問題で服の流行が私の感覚だと時代遅れでダサい…と零したらテンション爆上がりしたらしく、家に帰ったら滅茶苦茶質問攻めされて詳しくもない流行について話させられてなんかもう疲れたよパトラッシュ…。

 

とにかく私の言動をチェックしてスケッチブックにペンを走らせ…。

露伴先生は大変楽しそうでございましたがこちらにとってはただの苦行です言えないけど!

 

 

 

 

そしてあれやこれやと3日経ち…とうとう来てしまったのだ、処刑の日が。

 

 

「さて、今日はもう仕事も無い。 時間は十分にあるから『君の知っている僕が登場する物語』について教えてもらおうか」

 

 

非常に残念な事に私は露伴先生に嘘や誤魔化しを一切出来ない身体にされてしまった(なんかこう表現するとエロいけどヘブられただけ…この状況でヘブられるってのもエロい気がしてきたけど全然そんな事は無い)ので全てが明るみに出てしまった訳だ。

 

 

原作、アニメ等を一切見た事が無いという事実が。

 

 

まあ聞いて欲しいジョジョの独特の絵が苦手だった私は漫画の名前ぐらいは知ってたしジョジョ立ちとかだが断るとかぐらいはネタとして知っていた。

AAのポルナレフ(名前は知らなかった)がジョジョキャラだとかは知らなかったレベルの知識である。

そんな私がジョジョを知ったのはそう…2次創作サイトで好きな作者さんが当時ハマっていたジャンルよりも多くのブクマを持っていた小説が過去作の承花だったからだ。

 

ふーんジョジョかー。

読んだ事無いけどこの人の書く話なら読もーっと。

 

そんな感じで読んでハマって承花を読み漁り……花京院が死ぬ事も承太郎が結婚して徐倫ちゃんが生まれる事も原作一切読まずに承花で知識を得たわけですね。

そんでまあ2次創作だと混部が有るわけですよ。

というか部によってJOJOが違うってのも私が何となく知ってたのが3部だったってのも承花タグで培った知識で…。

 

まあどういう事かって4部の承太郎がほぼ死んでたけど延命されてた17歳の花京院を年下の叔父である仗助に治して貰ったり、普通に一命を取り留めた花京院が仗助とゲーム友達になってたりね?

で、そこに並列して仗露タグがあったりね?

 

つまり私のジョジョ知識は承花と仗露で出来ている。

3部と4部以外はほとんど知らない!

 

…で、それを包み隠せず吐いた結果冒頭なわけで。

そりゃ怒るに決まってますよね!

言い訳するなら原作は近いうちに古本屋で立ち読みするつもりでした!

でも腐ってるのは今後も変わらないと思います!

仗露が好きでそんな話読んでてスミマセンデシタ!!

 

しかし流石露伴先生、怒ってるのは仗露の事じゃ無かった。

それでも『僕が怒ってるのがそんな下らない事のわけ無いだろう!』とむしろ余計に怒らせる結果になってじゃあ何に怒ってるのって3部の事だった。

 

 

「空条承太郎のっ! 一族因縁の吸血鬼を倒す為の旅をっ! 真偽が不確かな2次創作でしか知らないなんてふざけているのかぁぁぁーっ!!」

 

 

本人に取材させてもらえないその部分を喉から手が出るほど知りたいらしい。

自分達が登場する4部も客観的な物語としてはどうなっているのか自分の知らない裏側で何が起こったのか知りたかったけど3部の存在を知ってしまえばもうそれが知りたくて知りたくてたまらないみたいでもうとんでもない勢いでのた打ち回っている。

この人こんなキャラだったんだ…怖、近寄らんとこ。

 

 

 

 

「つまり君は真偽が不確かな3部のあらすじと、4部に至っては僕と仗助関係ぐらいしか知らないんだな?」

「だいたいそんな感じですはい。 原作知識皆無です」

「……まあ良いだろう。 それでも多少の穴埋めにはなるはずだ」

 

あらすじだけでも分かる3部の壮大な旅に露伴先生は満足してくれたっぽい。

 

インスピレーションが湧いたと言って仕事部屋に向かった先生を見送り、やる事の無くなった私はこの無駄に広い家の掃除に手を付ける事にした。

ちなみに私の現在の肩書は、とある事情により1ヵ月居候する事になり対価として家事全般と取材の手伝いをしているというトリップの事を伏せて住まわせる理由を足されたものになった。

 

これは昨日、露伴先生が親友と呼ぶ康一君が来た時に先生が説明した内容だ。

今週の漫画の感想や借りていた画集の返却として訪れたらしく

『露伴先生の家に担当さん以外が居てしかも女の人!?』

とものすごく驚いていたんだけど露伴先生の説明の後の

『その事情が面白くてね。 それについても取材させてもらっているんだ』

という言葉に納得していた。

というか『あっ、その取材が目当てなんだ…』って顔になっていた。

 

流石親友わかっていらっしゃる…。

あとやっぱり背ちっさいね。

 

それはともかくとして衣食住世話になっているし他にする事もないのでこうして家事に勤しむわけですよ。

これまでは長期取材の間にハウスキーパーを頼んでいたらしいんだけど、これから1ヵ月は私がこまめに家事をする事に康一君が帰った後落ち着いたのだ。

 

そもそも露伴先生は売れっ子なので仕事部屋に籠ってる時間も短くは無い。

しかも思い立ったら即取材なので置いて行かれる場合もあるだろう。

その間に何をすればいいのか分からないのは困ると言えばじゃあ本当にハウスキーパーをやればいいという話になったわけだ。

 

1番の懸念だった原作を知らないどころか腐しか知らないという事は許されたみたいなので一安心だ。

 

 

 

……そう思っていた時期がありました。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、君は仗露が好きなんだろう? 取り合わせが生で見れたってのに何の反応も無いってのはどういうことだ?」

「ジョウロ? おねーさん園芸が趣味なんスか?」

 

今すぐチーズ蒸しパンになりたい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次元を1つ減らすことから萌は始まるのでナマモノは勘弁してください

……フェスティバルが開催された…ヘルフェスティバルが…。

 

カフェ・ドゥ・マゴのテラスに座っているのは私、露伴先生、そして…

 

「何スか?」

「……ナンデモナイデース」

 

仗助君ですねどこからどう見ても立派なリーゼントが『じょ~お~す~け~く~ん…ですよぉぉぉーっ!』って主張してる…。

 

 

おっかしいなぁ…。

露伴先生に誘われて『舞台』である社王町の散策をしてる最中に仗助君を見かけた時は生のリーゼントとその下の超絶イケメン具合と近付くに連れて(え…っ、デカくね…?)っていう若干の恐怖が綯い交ぜになりつつもワクワク感が止まんねーぜぇ!ってなってたのに何で今こんな地獄になってんだろう…。

 

私の想像では露伴先生と仗助君は馬が合わないからちょっとの嫌みの応酬が有ってそのままさよならだと思ってたのになァーっ!

なぁんで今こうやって3人でお茶してんのかなァーっ!

アタシ今体温何度あるのかなーッ!?

 

私さっきの露伴先生の発言で死んでるからだいぶ冷えてきてると思うんですがチーズ蒸しパンって常温だと何度なんですかね水分あるし気温よりは低いと思うんですけど。

 

 

「僕は腐女子ってのを実際に取材した事は無いんだ」

「先生」

「そもそも僕の書きたい少年漫画に必要じゃあ無かったしね。 でも今回みたいな状況は2度とお目にかかれないだろ?」

「先生」

「せっかくだからと思ってこうやって君の喜びそうな状況を作ってやったのに当人は全然分かってないしサア。 どういう事なんだい? 何で君は目の前に妄想源が有ったのに何一つ感じ入ること無く僕に無駄な時間を浪費させたんだ?」

「先生、もう許してください。 本当にもう生きててごめんなさい」

「君ナァ、何を勘違いしてるんだい? 僕は純粋に興味を持っただけで別に君を辱めたいワケじゃあ無いんだよ? 日本人なんて1000年以上前から筋金入りの変態なんだ。 堂々としてりゃあ良いじゃないか」

「余計に質が悪いです流石露伴先生。 そういう話を外でするのやめてくださいお願いします」

「君がさっさと答えりゃあすぐに終わる話だぜ?」

「3次元になった時点でその発想は微塵も起こらなかったというか何で私は萌えなかった事を怒られてるんです? 普通萌えて怒られるところじゃ無いですか? こんなの絶対おかしいよ」

「ふうん、なるほど…。 そういうもんなのか…」

 

頻りに頷きながらスケッチブックにメモを取る露伴先生の横で話について行けないながらも私がダメージを受けている事は察してくれているらしい仗助君に曖昧な微笑みを返す。

 

(何も聞かないで…)

(おう…)

 

というような感じのやり取りを雰囲気だけで行う。

初対面だというのにこの時だけは心が通じ合ってた。

 

外国の血が強そうな面立ちだけどこういう所は日本人感覚で良かった…。

ここでぐいぐい聞かれてたら私は羞恥のあまり憤死したかもしれん。

というか聞かれて理解されたらドラられてた可能性の方が高い気がする。

 

「あー、俺は東方 仗助っつーんだけど、アンタは?」

「ドーモ、ジョウスケ=サン。 渡利 京デス」

「あのよぉ…ミヤコは露伴に何か弱みでも握られてんのか?」

 

口ごもっておきながら放つ言葉がドストレート!

真横に露伴先生いるのに若さって怖い!

 

まあ弱味というか逆らえないっちゃ逆らえないけど…

 

「人聞きの悪い事いうんじゃないよ。 対価を受け取ってるだけで嫌なら断ってくれて良いんだぜ?」

「頭が上がらないのは確かですが何の不満も不平もございません」

 

露伴先生は自ら約束の反故はしないだろうけど揚げ足取りで『君の方から反故したようなものだろう』とかネチネチきそうだから速やかに頭を下げる。

こちとら衣食住も帰る頼みの綱も露伴先生だけだから仕方ないね。

イニシアチブは常に露伴先生のものです。

 

「露伴…お前…」

「なんだよ仗助。 本人がこう言ってるんだしお前は関係無いだろう」

 

結局何でこんな状況になっていたのかも分からないまま途中から現れた康一君と3人で適当な話をし、露伴先生は時々康一君に話しかけたもののそれ以外はスケッチブックを相手にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いですか露伴先生私は2次元のジョジョキャラで萌えていましたそれに嘘偽りはありませんですがこの世界は3次元なんです例えば私が2次元に入って目の前に3Dになったキャラがいるトリップだったら最高にハイってやつになってたかもしれませんが3次元は違うんですよ岸辺露伴というキャラクターがそのお腹の出た服装で描写されていればちょっと不埒な妄想が捗りますけど今の私には『露伴先生イカレた格好してるな似合ってるけど』ぐらいの感想しか無いんですよ分かってください!」

「そうか。 それよりも帰ってきて人目を憚る必要が無くなったんだ君が何故男同士の創作恋愛を好むようになったのかを取材させてもらおうか」

「最低の向こう側って存在するんですね」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕組まれた出会い

初日、露伴が京から話を聞き分かったのは少なくとも彼女の世界はこの世界の一般人となんら変わりないという事だった。

 

露伴自身スタンドに目覚めなければスタンド事件の全てが知覚外の出来事として終わっていただろう。

つまりあちらの世界でも彼女の知らない所でもしかしたらスタンドという能力が存在するかもしれないのだ。

そう考えるとそのスタンドが異世界であるこの世界を知覚し、漫画として残している可能性も出てくる。

 

しかしその程度は露伴にとって些事でしかない。

『異世界に来た』と思っている人間を身近で観察できるなんて、有り得ない事が起こっているのである。

その切っ掛けに露伴が登場する物語というのが含まれているのは間違いないが、この数十分でそれを除いても面白いと確信できたのだ。

目論見通り1ヵ月という猶予を得た露伴は焦る事無く観察をする事にした。

 

 

ちなみに彼女の記憶には残っていないが、露伴はしっかり帰らせる事が出来るか確約を取り決める前に確認している。

露伴としてはもしヘブンズ・ドアーで帰らせる事が不可能なら衣食住の世話をある程度してやり、その後は就職の手助けをしてやって異世界で生活するトリッパーとして時折取材に行けばいいと思っていた。

しかし書き込んだ通り『渡利 京はドアを通り2年前の自室から発売日の最も新しい雑誌を持ってくる』事が可能であった。

このまま帰らして欲しいという言葉はページと共に破り捨てたが。

 

 

些細なことはともかく、買い物をする姿だけでも都会に来た田舎者やその逆とは一風違った反応を見せるのが面白く、露伴はその微妙な表情の変化を具に観察していた。

服のデザインや型については帰ってからも詳しく聞き出す程には興味深く、露伴はそれだけでも儲けた気になるほどであった。

 

そしてゲストルームを与え仕事部屋以外の出入りや使用の許可を与えた露伴は部屋に籠りインスピレーションの湧くまま様々な事を資料としてまとめたのだった。

 

 

後日、露伴の家に訪れた康一が京をみて酷く驚いた。

1部を伏せたせいで曖昧になってしまった説明でもあっさりと納得してくれる姿を見て、自身と康一の付き合いの長さを感じた露伴は機嫌が良くなる。

 

聡明な康一であれば露伴の家にいる女性について口外する事も無いだろうと結論付け、そのまま波に乗り今週分の原稿を終えた露伴は十分に空いた時間を最も知りたかった取材に宛てる事にしたのだった。

 

まさかその取材対象があまりに漫画に対して冒涜的な邪教徒だったとは思いもしなかったが。

 

 

 

 

そして有る程度の情報とその裏付けとなる部分をしっかりとピックアップし、露伴は康一を間に挟んで仗助を呼び出した。

 

話をそれなりに聞き終えた以上、次に気になるのは『キャラクター』に出会ったときの反応だ。

康一の時でも京は動揺しつつも目を輝かせ、一挙一動を見逃すまいと瞬きさえ最小限に留めていた。

ならば東方仗助や空条承太郎、ジョセフ・ジョースターといった『主人公』に会えばどうなるのか。

それを確認したい。

 

ついでに下手に勘繰られるぐらいならさっさと教えておく方が楽だと思い康一に『内密にして欲しいんだが…』と前置きをして誘導すれば、狙い通りの言葉を引き出せた。

 

「万が一の為に仗助君に伝えるべきでは無いでしょうか?」

 

露伴の顔が歪むのを見て取り繕うようにあのジョセフ・ジョースターや空条承太郎と連絡を取れる仗助であればという意味ですよと言葉を綴る親友の為に嫌々頷く…という体にすれば彼は露伴の気が変わらないうちにと仗助に連絡をとる。

あまりにも思惑通りに向かう筋書きに寧ろ不安になるほどだった。

 

この純粋で優しい親友にはアレぐらいイカれたプッツン由花子が傍に居て丁度いいのかもしれない。

あの女なら康一を守る為ならきっととんでもない勘を発揮するに違いない。

そんな事を思いながら露伴は仗助を説得する康一を眺めていた。

 

露伴は既に京をスタンド使いの差し金だとは思っておらず、完全に不可思議に巻き込まれたトリッパーだと認識している。

しかし当然ながらそんな事を信じ、認める酔狂な人間がそういない事も理解している。

漫画を読まない仗助や、様々なスタンド使いを相手にしてきた承太郎であれば先入観でスタンド使いによる罠だと言い切るだろう。

 

しかし、仗助だけであればその意見を変えさせるのは容易い。

単純で有り、正義感が強く、康一という存在がいる事で話を聞かせられるからだ。

思っていた通り、仗助を誘い出し康一と合流してからの話はとんとん拍子に進んでいった。

 

 

まず露伴は康一に理由をでっち上げて後から合流するように伝えた。

というのも京の反応を見る為という露伴以外からすれば下らない理由であったが、康一はすんなりとそれを受け入れ少し離れた所から様子見することを了承したのだ。

 

『もしスタンド使いの狙いが仗助だった場合、君が伏兵としていてくれた方が隙をつけるかもしれない。 それに近くにいるが故に気付けない不審な動きが無いか見張っていて欲しい』

 

そんな建前で作り出した『偶然』に見せかけた合流後、露伴は上辺のやり取りをしている間も京の一挙一動を観察していた。

 

 

しかし思惑と違い京は東方仗助に会ったことに対してのリアクションは有れど露伴が作り出してやった状況に見合う反応を全く見せない。

仗助の京への同情を誘う為だという大義名分を掲げ追い詰めるように問えばリアルには興味が無いという、リアリティの渇望者である露伴にとっては信じがたい理由が返ってきたがそれはそれで詳しく取材すれば良いだろう。

 

そして康一が合流するやいなや、京に向けてヘブンズ・ドアーを使ったのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

知らぬが仏

露伴は京の本状になった腕に素早く命令を書き込み、和やかに話が続いているように思わせる。

そして操り人形のようになった京を連れて4人でカフェを後にした。

カフェで意識の無い女性を男3人で囲むのは普通に通報されるからだ。

 

 

「……おい、露伴。 てめぇ取材したくなった一般人にこんな真似してねぇだろうな?」

「さあね。 お前に教える必要は無いだろ」

「仗助君、抑えて! それについて言及するのは後にしてよ! 先生もわざと仗助君を煽るのはやめてください!」

 

やいのやいのと言い合いながら露伴の家に着いた一行はリビングに直行し、京をソファーに俯せで寝かせると読みやすいよう背中を本にして紙を捲る。

 

「まずは仗助を見た瞬間から確認しようか。 もし彼女がスタンド使いの罠であるなら、SPWやジョースター家に関わりのある仗助に何らかの反応があるかもしれない」

刺客である可能性を露ほども思っていないくせに、『主人公』を見た京の内心を読みたいという欲求に従い露伴はそう提案した。

 

「そうですね。 この町で狙われる可能性が高いのは仗助君ですから」

思惑を知らない康一はあっさりと頷くが、仗助はむっつりと唇を尖らせ言葉を吐く。

 

「ったく、漫画だのトリップ?だのってありえねェんだからこんな回りくどい事しなくてもよぉー」

しかしその程度の反論は露伴も予測済みだ。

「良いか仗助、お前には分からないかもしれないがスタンドという能力なんざそこらを歩いてる人間からすりゃ異世界トリップと同等に有り得ない事だ。 不可解な事が起きたら全てをスタンドで片付けようってのはナンセンスだぜ」

「ちっ、わあったよ! とりあえず読みゃあいーんだろォ!」

 

渋々頷いた仗助も含め、3人で文字を覗き込む。

 

そして、パララ…と捲られ開いたページに康一と仗助は絶句した。

 

『たんだけど露伴先生何で頭にバ…おわぁーっ! ヤバいあの体格とリーゼント120%仗助じゃん! リアル東方仗助!! え、これ露伴先生とエンカウント? エンカウントする? 時間軸いまいち分からんし今のこの2人の関係どうなってんのか知らんけど露伴先生が絡んで行かなけりゃ大丈夫だよね? 露伴先生お願いだから面倒起こさないでっていうかヤバい近付いてくるリアル仗助ヤバいなんだあの顔面偏差値の高さカッケェェェーッ!! は? あんな生き物存在して良いの? 2次元>3次元の 法 則 が 乱 れ る !! お風呂上がりの露伴先生がただのイケメンになったときの衝撃もヤバかったけどヤバいヤバいヤバいこっちくんなその精悍さとやや残るあどけなさを併せ持つ麗しい顔はもはや凶器目が潰れ眩しい!! 超絶キラキラエフェクト!! はーっ! キレそうになるほどカッコイイ! 違うカッピョイイだっけ!? 仗助君カッピョイイ!! リーゼントとか漫画だとカッコイイけどリアルは流石に無理だろダサいわとか思ってたけどめちゃくちゃカッケェなぁおい! これが主人公の風格か!! ムッキムキじゃんジョースターの血ヤベェーっ! なんだあの二の腕! 夏サイコーだなおい!! ……くっ、落ち着け! 青少年をいかがわしい目で見るんじゃない!! じゃなくて筋肉が好きなだけであって別にいかがわしい目では見てないというか誰に言い訳してるんだ私は!! てかあそこまでムキムキだとワンパンで粉微塵にできそう…。 ……露伴先生よくあんなのに突っかかれるな!! 流石頭おかしい漫画家だぜそこに痺れる憧れるゥー!ってんなわけあるか! 露伴先生命知らずにも程があるよ! 露伴先生生存本能ある??? 露伴先生生存本能無さそう!!! 蜘蛛の内臓舐めるぐらいだもんな!! 小さい子みたいに何でも口に入れるんじゃありません!! っていうかこの世界の不良全てにも言えるけどよく喧嘩売れるな! 生存!本能!大事にしろ!! それとも街中を歩いてる不良も体格このレベルなの? 世紀末じゃん!! ジョジョの世界は世紀末だった!? ヒャッハーヤバいもう1人で外歩けない…アッー! 露伴先生普通に挨拶して! 枕詞にクソッタレつけるの止め』

「姿を見かけて挨拶するまでの間にここまで脳内で考えてたのか。 流石の僕も驚くぜ」

 

続きを読もうとページに手を伸ばした露伴の手を、康一と仗助は押し止めた。

 

「もう…十分です…」

「信じるからもうやめろ!! やめてあげろ!!」

 

痛ましいものを見たような顔の康一と、あのように思われていた事に照れたのか青い顔になりつつどういう原理か器用に赤くなっている仗助が京から露伴を遠ざける。

 

続き…仗露について聞いた辺りも気になる上にこの2人に読ませてみたらどんな反応をするのかを見てみたい露伴は不満げな顔を隠そうともしなかった。

 

「何だよ、ここからが良いところだぜ」

「正直な話気になるかならないかでいうと物凄く気になりますが他人の日記を読むよりも罪悪感というか良心の痛みが…とにかく結構です」

「何でコレをこのまま複数人で読み回そうと思えるんスか!? 鬼かアンタは!!」

「うるさいナァ。 まあ良い、仗助お前ちゃんとジョースターさんや承太郎さんに伝えておけよ。 彼女、あの2人の過去も能力も知ってるからな」

「俺ェ!? てかんなもん知ってるなんて聞いて無いっスよ!? めちゃくちゃヤバい情報じゃねーか!!」

「だから1ヶ月だけにしてるんだよスカタン。 そうじゃなきゃあもっと長く手元で取材したかったさ」

「それってもはや取材じゃなくって観察っスよね!?」

「とにかく僕からより君からの方があの2人は話をしっかり聞いてくれるだろ? 君が説明した後に『俺がちゃんと見張ってるんで安心してくださいっス』とか言っとけば丸く収まるんだよ」

「…! アンタ最初っからそのつもりだったな!」

 

 

 

言い合う露伴と仗助を置いて康一は京に近付き捲れたページを静かに閉じた。

初対面時の京を説明する露伴の顔を思い出し、先ほど読んでしまった内容を思い返す。

少なくとも京自身が自分を漫画の世界にトリップした人間だと思っていることも、こちらをキャラクターとして知っているということも間違いないだろう。

そして、露伴がそれを信じ心底面白がっている事も。

それらを知ってしまい、気付いてしまった康一にできること…それは…

 

「……頑張ってください…」

 

己の無力さを噛みしめながら、幸運とも不運とも言い難い状況下の京に激励の言葉をかけること。

それが康一にできる、唯一の気遣いだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

漫画のキャラぐらい好きに呼ばせてください

仗助君と会った日の夜、夕飯を食べてる最中に電話が掛かってきた。

ご飯がすっかり冷めた頃に帰ってきた露伴先生は何やら思案するような顔をしている。

露伴先生にこんな顔をさせる用件とは…?

漫画関係では無いだろうし、もしかしたらスタンド関係で露伴先生に要請が来たとか?

でも露伴先生なら既にSPWとかから依頼が山ほど来てそれを身も蓋もなく断り続けてそうなイメージもある。

 

まあ私には関係ないだろうと既に食べ終えていた食器を片付け、席を離れようとした時にこちらに向いた視線に思わず動きを止める。

 

「な、何ですか?」

「君、ジョースターさんや承太郎さんの事でこれなら自分がトリッパーだと証明できると思うネタは有るかい?」

「はい?」

 

詳しく話を聞いたところ、どうやら露伴先生が女性を一つ屋根の下に置いてるという話を聞いた2人が『もしや敵のスタンド使いからの刺客なのでは?』と疑い電話を掛けてきたらしい。

露伴先生みたいなスタンド使いは怪しいスタンド使いに狙われてもおかしくないし更に言うならSPWに見張られててもおかしくないですもんねと言ったらペン先が飛んできておでこにビシッと当たって痛かった。

刺さらないように投げる配慮じゃなく投げない方向でお願いしたい…。

 

とにもかくにも電話を掛けてきた相手は承太郎だったらしく、下手に言い訳をする訳にもいかず事実を教えたものの信じていないらしい。

で、私にネタを求めてきたと。

 

「つまりは敵も知らないようなネタを提供しろと…。 ジョースターさんのことはあんまり知らないなー。 お前は次にほにゃららと言うとか、飛行機に乗ると全部事故るとか、『ジョセフ以外はな』みたいなネタ…あー、テキーラ? テキーラの事なら…うん、ジョースターさんならナチス兵とテキーラの話でいいんじゃないかなぁ。 ナチス兵、テキーラの2ワードで通じると思う。 流石にタコスは覚えてないと思うし。 とりあえず仗助君には絶対に言わないから安心してくださいって付け足しとけば完璧」

「とんでもないネタだってことは分かったが、それ大丈夫なやつかい? 君がジョースターさんに秘密裏に消されるようなやつじゃあ無いだろうな」

「えぇー…いやちょっとした若気の至りみたいなやつですよ。 息子にかっこつけたいジョースターさんにとっては恥ずかしい程度の。 それよりも承太郎は…なんか地雷多そうで下手なこと言えない…。 あー、隠し芸とか? 火のついた煙草を何本か咥えてひっくり返して口に入れてシケらせずにジュースが飲めるみたいなよくわからん隠し芸を持ってるとか、相撲が好きとかそんなのでいい? たしか…千代の富士?だったかな? そもそもDIO様に見張られてたような旅だったっぽいし、承太郎に関しては何を言っても敵が知っててもおかしくないって一蹴されそう。 旅が始まる前…教師に焼きを入れて辞めさせたり無銭飲食したりみたいなのは地元民の有名なネタとかになってそうだし…」

「……それ、本当に承太郎さんの話かい?」

「露伴先生ですら信じたくない3部太郎の真実改めてヤバい! ちなみに私は3部太郎と6部太郎推しでーす」

「もう少し分かるように言ってくれ」

「高校生太郎と40代太郎が好き」

「いつも思うんだが君説明下手だな。 何も知らない人間にする説明じゃないぞ」

「前に説明したときに仗助君と露伴先生は4部のキャラだって言ったと思うけどつまり露伴先生が知ってるのは4部太郎。 ジョジョ好きの友達に原作ってどんな感じって聞いた中に3部太郎は周りが大人ばっかで言葉足らずでも察してもらえてたけど4部太郎は逆に周りが子供ばっかりになってコミュニケーション能力の低さのせいで大変な事になってるからそこを踏まえて読むとめちゃくちゃおもしろいって言われて寡黙な大人という評価が一転してダメオヤジになったんだけど実際どうでした?」

「僕に振るのはやめてくれ。 そもそも僕は承太郎さんとの接点なんて微々たるものだから判断のしようがない」

「あー、そうなのか」

「あと君呼び捨てにするのやめろよ。 もし承太郎さんが直接確かめるとか言い出して此処に来たときに馴れ馴れしく呼び捨てなんてされたら保護者の僕が睨まれるんだぜ」

「じゃあ空条さん? 空条博士?」

「そもそもジョースターさんは名字にさん付けのくせになんで承太郎さんは呼び捨てなんだい」

「うーん、たぶん一番呼ばれてた呼び方で覚えたから? スタクルメンバーは承太郎以外ジョースターさん呼びだったし、花京院がJOJO呼びじゃなくなったら全員承太郎って呼んでたからそれで覚えたっていうか…。 だからもし2部を先に知ってたらジョースターさんをJOJOかジョセフって呼んでたかもー? とりあえずこっちに居る間はキャラクターについての話は承太郎で、こっちの実物?については空条博士って呼ぶようにする」

「スタクルってなんだい?」

「スターダストクルセイダーズの略」

「君なぁ…。 何の略称か聞いてるんじゃなくてそのスターダストクルセイダーズってのが何なのかを僕は聞いてるんだよ。 言っとくけど和訳じゃないぜ」

「えーと、3部の主人公メンバーの事。 作中で『俺達はスターダストクルセイダーズだぜ!』みたいなやり取りがあったのか3部の副題がそれだったからなのかは知らないけど、スタクルメンバーといえば承太郎、ジョースターさん、アヴドゥルさん、花京院、ポルナレフ、イギーの5人と1匹。 あれ、アヴドゥルさん呼びは花京院しか居なかったのにさん付けしてるな…。 大人キャラだからか?」

「ジョースターさんにアヴドゥルさん、なあ。 君が本当に漫画でこの世界を知ったんだという事を示すワードにはなるかもな」

「へ? 何が?」

「ったく、君は説明も下手だし察しも悪いし良いところなんて無いんじゃあないか? 説明してやるからちゃんと聞けよ? 日本人とアメリカ人とエジプト人とフランス人、国籍がバラバラの集団が使う言語は何だ? 日本国外の旅の道中で出てくる登場人物や敵が日本語を喋れるか? そんな訳が無いだろう。 漫画だから読者に分かるように全てを日本語で表現してるが、実際は十中八九英語だ。 君が当たり前のように言う名言とやらも意訳されてるだろうね。 そういう部分で君が実際の旅については何一つ映像や音源では知らないっていう証になるんだよ」

「つまり……私が知る道中にあった数々の名言はDo you understand?(理解したか?)以外は実際と違ってたってことに…?」

えっじゃあスタープラチナがストゥアプラティーナみたいな発音だったかもしれないのか!?

ネイティブな発音だとスタープラチナ・ザ・ワールドをストゥアプラティナ・ザ・ワゥドって言ってたり?

 

「真面目に解説してやった僕が馬鹿だった」

呆れたと顔に書いてあるかと思うほどの呆れ顔を初めて見た。

これは今すぐ鏡を突き付けて露伴先生に見せてあげるべきなんじゃないかと思うほどの心底呆れた顔でこの顔をパネルにしてタイトルを付けろと言われたら100人中100が『呆れ顔』って付けるレベルの呆れ顔!

 

思ったことをそのまま伝えれば露伴先生はそれを見事に聞き流し会話を打ち切り冷めた料理を胃に収め、再び電話に向かった。

露伴先生曰わく『僕を心底呆れさせたのは別に君が初めてじゃあないんだよ』とのこと。

つまりとっくの昔にスケッチ済みであると。

流石露伴先生。

 

それにしてもまさか承太郎とジョースターさんが出てくるとは…。

この時代のジョースターさんはボケてるのかボケた振りをしてるのか真偽はいまいちよく分からないけど、テキーラ娘ぐらいは覚えてると思いたい。

そもそも本当に私ジョースターさんについてはさっき言ったぐらいしかわかんないしこれ以上証明できんし。

2部の知識なんて本当に現パロ腐向け混部ぐらいでしか知らないんだから。

4部のほのぼのイカサマ親子も若干読んだ事あるけどそれは全く当てにならんだろうし。

若ジョセフは本当にネタでしか知らないっていう…。

 

もし顔を合わせる事があったら挨拶ははっぴーうれぴーよろぴくねーとかを言ってみたい。

 

承太郎に至っては死亡キャラの名前を出すのが憚られるし…。

出会い頭にブ男呼びしてアヴドゥルさんをキレさせたとか、花京院の果たし状の誤字とか旅始まる前のネタはあったけど言い辛いわ…。

私にとってはキャラでも、向こうにとっちゃ故人だし…。

 

 

「……いや、そうじゃないんですよたぶんそれはキャラクターに対する敬称のような…え? ちょっと待…承太郎さ…」

食後の紅茶を入れても戻ってこない露伴先生を探しに行けばまだ電話に向かっていたんだけど、どうやら丁度電話を切られたらしく耳から離した受話器を片手にニヤリと笑っていた。

声は焦ってるように聞こえたけどあの顔は『計画通り』の顔に違いない。

 

「君の事を直接見に来るらしい。 もしかしたら連れてかれるかもな」

楽しそうにそんなことを言う露伴先生はこっちを見向きもせずに紅茶を用意してあるリビングにスタスタと歩き出す。

「うえぇっ? ど、どういう訳?」

慌てて後ろを追うけど……まさか売られたとか?

もう私に直接聞くことは無いから私を餌にジョースター家かSPWを釣るの?

『ちゃんと帰してはやるけど、その間ずっと僕が面倒見るとは言ってないぜ?』みたいな幻聴が今にも聞こえてきそう!

 

「君がディオ信者かもしれないとか言ってたぜ」

……ほわい?

 

「……DIO様って呼んだから?」

思い返して引っかかったのはそこだけだ。

というかそれも『ジョースターさん』や『アヴドゥルさん』と同じで『DIO様』とはキャラの誰も呼んでないんじゃ?

いやアレだ肉の芽院がDIO様って呼んでるかも?

いやいやいやいやだとしても!!

 

「だろうね。 漫画に対する理解が無い人間ってのは頭が固くて嫌んなるよ」

「マジかー…。 まー、じょう…空条博士からしたら身内の近くにDIO信者の残党がいるかもしれないってのは見過ごせないか。 ……もう面倒になる前に私を帰らせるってのは」

「そしたら僕が怪しまれるだろ。 明日にはこっちに着くらしいが…ま、君みたいなのが脅威になる訳無いってのは直接会えばわかるさ。 どうしようも無くなったら助け舟ぐらいはだしてやるよ」

 

 

この時点で露伴先生の助け舟が善意な訳が無いって気付かなかった私ってホント馬鹿…。

っていうかほんのちょっと前に計画通りの顔見たじゃん!

売られた!?って思ったことも忘れてもうすでにこっちに向かっているという最強のスタンド使いの行動力パネェと思いながら『どうせ無実だし露伴先生がいるんだから酷い事にはならんでしょ』なんて気楽に構えてた昨日の私に拳を叩きつけたい。

あと仗助君に会った事で高身長のイケメンに対する耐性付いたと思ってたけどそんな事は無かった。

 

 

空条博士、後ろ姿が完全にゴリラ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白クマとかギリシャ彫刻とかそんなもんじゃなかった

街中で歩いてる人を見て『ゴリラ!!!!!』って思う日が来るとは…。

仗助君見た時はそんな事全然思わなかったから多分歴戦のオーラが威圧感的なのを発しててそれがサイヤ人みたいな戦闘民族ゴリラ感を漂わせてるんだと思うけどそう考えると仗助君には杜王町のゴリラにはなって欲しくないからそれなりに平和に育って欲しい切実に。

 

何でそんな状況になったかって今日はてっきり空条博士待ちで家にずっと居るのかと思ってたんだけど露伴先生が

『2ヶ月も前から今日発売の画集を予約してるんだ。 取りに行くから君も来いよ』

って言い出して本屋の前に着くなり

『あそこの行列見えるかい?』

『あー、気にはなってたけど…』

『最近できたジェラートの店だ。 僕のは適当に君が選んどいてくれ』

と、万札を私に握らせ本屋に入っていきやがったからである。

 

すぅーっと足元を一瞬撫でる涼しい空気が満ちた本屋で欲しい物を手に入れられる露伴先生と炎天下で行列に並ばさせられる私を隔てて自動ドアは閉まった。

そして順番が来て漸くジェラートを購入して本屋近くの街路樹の木陰に入り自分用の分を食べながらふと周囲を見渡したらゴリラを発見した次第ですねはい。

 

 

そのゴリラが急に立ち止まり周囲を見渡した後にこっちを見て近付いてきたんだけど顔面を視認した瞬間思わず目を逸らしたよね。

 

 

仗助君の時はイケメン具合にむしろガン見したけど、空条博士の場合はイケメン過ぎてなんかもう直視できないわ。

歴代最強主人公は伊達じゃない何だこの世界一かっこよくて美しいゴリラ…。

4部と5部は衣装が白いから白熊とかってよく比喩されてたけど白熊っていうより白いゴリラだよこれ。

川で鮭よりジャングルでバナナがしっくりくる霊長類最強の風格がある。

 

よく見る承太郎描写にギリシャ彫刻だの芸術品だのあるけど私に芸術センス皆無なのか結局は2次元キャラへの描写で済むのかどっちだ!

 

 

っていうかこんな人に私が腐女子で故人と貴方を辱めて楽しんでましたとか言えねぇえええええええええ!!!

バイオゴリラが優しく思えるような恐ろしい終わりしか見えないよ!!!!

サマンサタバサの如く粉砕される!!

 

右ですか左ですかもしかしなくともオラオラですね!!

何で振り向いたの最強のスタンド使いの勘なの!?

 

このまま脇を通り過ぎてどこか行かないかなー…とか淡い希望を抱いてたんだけどやっぱりそんなことは無かった。

 

「お前が渡利京だな」

 

こ え が ヤ バ イ !!

顔面体躯声音の3アウト!!

 

ああああこれは無理だよ駄目なヤツだよ怖いよぉおおおおママーッ!!!!

 

どうすりゃいいの!?

DIO信者疑惑を持たれている私が今するべき行動は!?

①トリッパーである渡利京は時間差でスタンド能力に目覚めこの窮地を脱する。

②仲間はいないけど共通の知り合いはいるから誰かが登場して執り成してくれる。

③どうにもならない。 現実は非情である。

 

「ぅおわっ! じょ、承太郎さん!?」

内心ガクブルしながら固まっていたら空条博士の後ろから仗助君が登場!!

「あっ、京もいるじゃん。 え、どしたんスか?」

②を連呼する前に来たああああああ!!

でもよく考えたら共通の知り合いイコール空条博士と親しいんだから空条博士をスルーして私がそっちに近付いたら『こいつまさか人質を…』とか思われるような気がしてきたぞ…。

 

 

……露伴先生いいいぃぃぃーっ!!

助けてええええええええ!!

っていうかジェラートも溶けてきてるし!

自分用のチョコとピスタチオは何とか食べ終わったけど露伴先生のミルクとココナッツパッションが手をベタベタにしてきてるから!

こんなん絶対もう露伴先生食べないじゃん何で買いに行かせたのさ!

 

「お前達を信用してない訳じゃ無いが、この目で確認しなければ納得できない質でな。 真偽を確かめに来た」

「あー…、まあ事情が事情ですからしょーがないっスね」

幸いな事に仗助君の立ち位置は空条博士側。

下手に動かなければ疑惑を持たれることも無いと信じて現在マナーモードになってるけど手ぇめっちゃ震えてて恐怖で震えるっていうの初体験!!

 

露伴先生早く本屋から出てきて!

こっちに気付いて!!

あいつウィンドウ越しに全然姿見えないけどどこにいるんだよ馬鹿!!

 

「仗助君も承太郎さんもどうしたんで…す、か…。 あー…、京さん…」

 

これがスタンド使いは引かれあうってやつか超集まるじゃん!

 

唐突に背後から現れた康一君は目立つ2人を見つけてこっちに来て、この距離で私に気付いてついでに状況も察してくれたらしい。

流石康一君!

 

しかも私の心情を察して私と空条博士の間にすっと入ってくれる優しさ!!

小さな背中がめっちゃ頼りになるよ!!

康一君素敵!! かっこい

「康一君、後ろの女は……だ ぁ れ ?」

「あっ、由花子さん! えっとこの人はみや」

「露伴先生の下僕でございます露伴先生が親友を自称する康一様とは4日ほど前に初めてお会いしました直接会話をした事は3度あるかないかという程度の他人でございます後ろに立っているのも深い意味はございません!!」

ぴゃっと飛びのいて距離を取った私の俊敏さオリンピック級。

 

 

全員が何だこいつみたいな目をしてるけどだって声も雰囲気もめっちゃ怖かったからな!!

康一君が京さんなんて名前で呼んだ時点で弁明の余地なく髪の毛でキュッてされると思ったんですぅ~!!

由花子さんの情報は髪の毛でキュッてしてくるヤンデレって事ぐらいしか知らないしその上であんな声聞いたらキュッてされるとしか思えないんですぅ~っ!

 

ホールドアップのポーズになったせいで肘までジェラートが垂れてくるし踏んだり蹴ったりだよ!

そもそも空条博士でビビってるところにこんなコンボ畳み掛けられたら誰だってこうなる私だってこうなった露伴先生はやく来て!!

 

「オイオイオイオイ、何集まっ」

「露伴先生えええええええええええええええええええええええ!!」

「なん…オイコラやめろ! ベタベタしてキモチワルイぞ!!」

 

漸く現れた露伴先生の背後に回りしがみつこうとしたら腹出しスタイルのせいで汗ばんだ手が薄い腹にペトリと触れたし気持ち悪いとか言われて私もそんなもん触りたくなかったよ!!

 

「そんなお腹出した服着てる露伴先生が悪いっていうか何でそんなつんつるてん着るの似合ってるけどぉぉぉっ! 掴むところ無いし盾にしにくい!!」

「うわっよせ…ッ!」

 

仕方がないからそのままつまめる肉の無い腹に腕を巻き付け腰のあたりに頭をグッと押しつけ腰を落として足を踏ん張り絶対に逃がさないように力を込める。

 

炎天下で汗ばんだ腕と手がひんやりとした肌にぺっとりと密着して気持ち悪いけどかまうもんか!!

最強のスタンド使いに怪しまれて絶体絶命のピンチだけどうどんとそばどっちが好きとか聞かれなくってももうどんなことがあってもきみのそばをはなれないよ!!

 

 

 

 

……今思えばもう片方の腕は垂れるジェラートが服に付かないようピンと伸ばしていたから端から見ればとんでもなく珍妙な状態だったと思うけどそんな事を考える余裕なんて無かった。

正直あの辺りから記憶が定かじゃ無いけど露伴先生宅のリビングで対峙する面々の顔から察するに禄な事は言ってないってのは分かるよ!

 

分かるよ!!!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

傍観者の失策

「うわっよせ…ッ!」

汗ばんだ肌を巻き付けられ不快感に顔を歪めた露伴が京を遠ざけようとするも下手に暴れると左手のジェラートが滴となって飛び散った。

汚されたくないが故に動きを制限され、周囲もその左手を避けて距離を取る。

まさか1人にさせるために買いに行かせたジェラートが下手なスタンドより牽制力を持つとは流石の岸辺露伴も想像していなかった。

 

 

 

昨夜、説明するより直接聞かせた方が早いと密かに録音していた音声をそのまま聞かせれば、京がDIO様と言った部分でハッと息を飲む音が聞こえた。

露伴にとっては何の感慨も無いただのそういうキャラに敬称をつけただけの話で、実際知っている人間を呼び捨てにされることの方が気にかかる具合だった。

しかし当事者であると同時にこういった界隈に理解の無い承太郎はそのDIO様という一言だけで京を危険人物足る相手だと認識してしまったのだ。

 

実際現在進行形でDIOの残党に煩わされている承太郎にとっては無理もない。

 

だが、そんな事情を知らない露伴が多忙故に会わせられないだろうと諦めていた相手と京を引き合わせられると思い笑ってしまったことも仕方ないことだろう。

 

 

露伴は本を受け取った後、涼しい本屋に留まり雑誌を読む振りをしながらスタンド越しに京の様子を眺めていた。

 

あの後連絡がつかなくなったので仕方なくSPWを間に挟み『不意打ちの方が本性が見えるでしょう』などと嘯いて外で落ち合うことは伝え済みだ。

 

駅から露伴の家に向かう通りに本屋があるのでその近くで会えるよう取り計らう予定だったが、飛行機や新幹線、電車の時間を割り出してまで狙った邂逅が思っていたより混み合うジェラート屋のせいでちょうど京が店内に居る間に承太郎が通り過ぎてしまう事態となった。

仕方がないのでヘブンズ・ドアーで承太郎に合図を送り、視線を誘導すると京の周りを一周させて頭上に留まらせたのであった。

 

 

その動きで承太郎は京の存在と彼女にスタンドが見えていないことを察し、そして振り返った瞬間に京が自分を見ていたこともその後視線を逸らしたことも気付く。

 

漫画だの異世界トリップだのを鵜呑みにできるわけもなく、承太郎の中では8割方スタンド使いもしくはスタンド使いに操られた刺客という認識であったこともあり、その姿はあからさまに怪しい。

 

露伴のヘブンズ・ドアーすら騙し通している可能性。

スタンドが見えていない振りをしている可能性。

 

疑いはいくらでも湧き出てくる。

だからこそ、一片の油断もなく全てを見逃さないようスタープラチナを出して京に近付いた。

 

表面上は平静を装い、淡々と声を掛けたその時スタープラチナは大袈裟に腕を構え京の目を抉らんと指を突き出したのだった。

 

 

スタンドが見えていれば、間違いなく反応せざるを得なかっただろう。

眼球からほんの数ミリの場所で留めたが、京は何の反応も示さなかった。

その速さにより起こった風圧で瞬きをしたがそれだけである。

見えていなかったので当然ではあったが、これで承太郎は京をスタンド使い本体では無いという判断を下したのだった。

 

そしてその様子をヘブンズ・ドアー越しに見ていた露伴は寸止めを確認し自覚無く止めていた息を吐いてから、それに気付き改めて溜め息を吐いた。

 

スタンドが見える人間なら、例え承太郎を信頼する仗助や康一であってもスタープラチナの指が京の目を抉ると思い声をあげたであろう姿だった。

多少ではあるが承太郎の為人を知り、観察に長けると自負する露伴でさえ騙されたそれが京に見えていたとしたら腰を抜かすか……最悪失禁も免れなかっただろう。

 

ここまで荒っぽい確認をすると思っていなかった露伴が心の底から京がスタンド使いではなくて良かったと安堵の溜め息を吐くのも仕方がない。

 

これは様子見を切り上げるべきかと思ったが仗助が現れ街中でスタープラチナを出している承太郎に驚き、それによりスタープラチナは姿を消したので様子見を続けることにした。

しかし康一だけならともかく由花子までやって来たことを切欠に京の奇行が露呈し、面々が困惑することとなったのを見て普段より早い動きで渦中に向かうこととなったのだった。

 

 

まさか姿を見せた途端にすがりつかれるとは夢にも思わなかったが、傍観者であろうとした露伴の自業自得である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

荒ぶる心象

よせと言われたところで1人にされたせいでこんな目にあったのだという認識を持つ京がそう簡単に露伴を逃すわけもなく…

 

「だが断る!! もう無理マジ無理リアルジョジョ界怖い!! あーこのサイケデリックな落ち着きのない色合いに落ち着くぅ~っ! もう風呂トイレ仕事以外のおはようからおやすみまで露伴先生の背後にいる! トリップ特典も無いのにこんな世界でやってられるか! 普通転生とかトリップとか特典有るのがセオリーだろうが! 怠慢か!? トリップの神様怠慢か!? 保護者もひのきの棒も無しに歴代最強主人公にマイナスイメージから会わせるのやめろォ!」

 

むしろより強固に絡みつかれる結果となった。

 

 

腹同様無防備な背中に触れる前頭部の髪が擦れる感触に露伴の背筋がぞわりと粟立ち、それをどうにかしようと身を捩れば京はより一層拘束する力を強め頭をぐりぐりと押し付ける。

承太郎達はともかく、遠巻きにこちらを窺う赤の他人には京の話している内容までは分からない程度の声量なのは不幸中の幸いか。

 

この中で1番事情や状況が分からない由花子は京が自分と康一にとって取るに足らない人間で、露伴の関係者であることだけを理解し態度を軟化させた。

恋人の親友を自称するイカレた漫画家の関係者であるならこのよく分からない状況も大したことではないと結論をだしたのだ。

 

しかしそれ以外の人間はむしろ混乱が強まりつつある。

スタンドが見えていなかったにも関わらず声をかけただけでパニック状態に陥られた承太郎はもちろんの事、絡みつかれた露伴はたまったものではない。

そして仗助と康一は昨日の事を思い出しながら心の中で『岸辺露伴は渡利京が最も安心してはいけない相手なんだよなぁ…』と思い遠い目になっていた。

 

現状、傍観者であり漫画のネタやセオリーの分かる康一がこの面子で1番状況を理解している。

しかし理解しているから解決できるとは限らない。

どちらにどう声を掛けたものかと迷っている間にも事態は悪化の一途を辿っていった。

 

「よせって言ってるだろ! 君がみっともないのはどうでも良いが僕を巻き込むなッ!」

「嫌ああああぁぁぁぁーっ! 絶っっっ対にヤダ!」

 

一歩引いて見れば完全に男女の修羅場である。

女の方があまりにも残念な姿でしがみついていることと、男の格好がやや常軌を逸している事を鑑みれば完全に関わってはいけない案件だ。

しかし好奇心をそそるのも事実。

流石に立ち止まる猛者はいないものの、通り過ぎる者の目や耳が向くのは仕方のないことだろう。

 

「おいッ! くそ、仗助! こいつを引き剥がせ!」

「み、ミヤコ落ち着け! てか何でそんなパニクってんだ!?」

「全てに! 全てにパニックだよ分かれよ!!」

「京さん! 大丈夫だから露伴先生を放して! 承太郎さん京さんに何したんですか!?」

「……声をかけただけだ」

実際はちょっと過激な確認もしたが、京にとっては知覚外の出来事であるからその主張は見方によっては間違っていない。

 

何故ここまで過剰に反応されるのか、疚しいことがあるからこうなるのかなど様々な考察が過ぎったがそんなものはすぐに消し飛んだ。

 

「DIO信者じゃないから許してください私の知ってるDIO様はポンコツ吸血鬼か女王様かツンデレかWRYWRY泣くヘタレのどれかでジョナサンと追うか追われるかの一方的妄執を繰り広げ花京院に当て身くらわされてたり花京院にちょっかいかけて承太郎にボコられたりしてるのがほとんどなんですDIO様っていうのもDIO様カッコワライみたいな感じでネタとしての様付けっていうか吸血鬼じゃない状態をカタカナのディオ吸血鬼になってからをディーアイオーのDIOでDIO様っていうか空条博士の記憶のDIOとは全くの別物でとにかくさかなクンがクンまでが名前でありそれでいてさかなクンさんとは呼ばないようにDIO様は様までが名前みたいなもんなんですぅぅぅああぁぁーっ!」

「…………」

 

記憶の中のDIOと京から聞かされたDIOの齟齬の激しさに流石の承太郎も思考を放棄せざるを得なかった。

 

「京さん! 承太郎さんが理解の範疇を超えて固まっちゃったからもうやめて!」

「じょ、承太郎さんを固まらせるなんて…!」

「オラオラだけは…っ! オラオラだけは勘弁してくださいっ!」

「ミヤコは承太郎さんに何をしたんだよ!」

「いや、お互いに何もしてない…はずだ」

 

先程の言葉で精神に多大な影響を受け、自分の知るDIOと京の語るDIOが全くの別物であると納得するまでに中々の時間を要したもののそれは意図せぬもので何かをしたつもりは京には無いだろう。

スタンド攻撃も京には知覚外の出来事で実質無傷なのだからあえて数えない。

自分も妥協したからお互いノーカンなのだという狡い大人の独自創作ルールが発現した瞬間であった…。

 

唯一全てを知る露伴だがそんなことより現状こそが問題だったためその遣り取りに関わる余裕も無く、あったとしても承太郎相手にわざわざ藪をつつくことは無いと素知らぬ顔を決め込んだことだろう。

 

「何でも良いからとにかくさっさと離せ!」

何せ未だに京に絡みつかれたままである。

 

 

もがく露伴。

離そうとすればするほど離すまいと抵抗する京。

何とかしようにも女性相手に手荒な真似はできず手を所在なさげに浮かべた仗助。

もはや何をするでもなく呆然と佇む承太郎。

…というお手上げ状態に途方に暮れる康一。

 

前4人はどうでもよかったが、康一の為になるなら由花子が動く理由としては十分であった。

 

「全く、ここは公共の場よ。 落ち着きなさい。 ほら、こっちに来るのよ」

 

現状に理解は無いものの、どうするべきか見当をつけた由花子は京に声を掛け、近付かずにやや離れたその場で手を差し伸べた。

 

 

男性陣にはその程度の声掛けでどうにかなると思えなかったが、予想に反して声に誘われ振り返った京は露伴から手を離して由花子の元へ向かい手を掴んだ。

離れると同時にジェラートは地面に落ち、引かれるままに由花子の後ろに回った京は必要以上にしがみつくこともなく手を握る力も弱くはないものの痛むほどではないようだ。

 

康一以外はいったい何故だと内心叫んでいたが、実際に叫ぶのは憚られたので何とか言葉を飲み込んでいた。

 

「どういう状況か分からないけど、寄って集って男に囲まれて落ち着く訳がないわ。 本来なら唯一頼られてる露伴先生が落ち着かせれば良かったのよ。 とにかく空条さんはこの人に近付かないで頂けるかしら」

 

同性故の着眼点か、とにかく元凶から離れる切っ掛けとなり更に守るように後ろに庇われたことで京もやや落ち着きを取り戻したらしいと分かり、意図せずとも女性を囲む形になっていたことを指摘され気まずい空気が漂う。

 

「すごいや由花子さん!」

「そ、それほどでもないわ。 でも康一君の為になったなら嬉しい…」

 

その空気もすぐに白けてしまったが…。

 

心の底からの賞賛を贈る康一とそれに照れる由花子。

並ぶと体躯はアンバランスに見えるが、その関係が盤石であるのは誰の目にも明らか。

『いちゃつくにしてももう少し後じゃ駄目だったのか?』

などと言える強者も居らず、ラブラブオーラ迸る若きカップルの横で辟易した男達は所在なさげに目線をそらし立ち尽くすのみであった。

 

 

 

 

「あ゛ー、惚れた。 これは惚れる。 由花子さん好き。 由花子さんと康一君マジベストカップル末永く幸せになるべき尊い」

「仗助アイツを今すぐぶっ飛ばせすぐに治せば問題ないだろ」

「問題大有りっスよ!?」

「……やれやれだぜ」




読者様より頂いたコメントへのQ&A
(という名の補足)
Q.
雑誌を持ってこさせることが可能なら、何故ジョジョを買ってこさせないの?

A.
持ってこさせなかった理由は取材として聞くことに意義を持っていたことと、まさか原作を知らない邪教徒だと思いもしなかったから持ってこさせる発想がまず無かった。
雑誌にしたのは時差の確認の為で、発行日を確認しただけで中身は読んでない。
邪教徒発覚後に悶絶してたのは買ってこさせるかどうかの葛藤。
金銭的問題で対価として衣食住の保証をしておきながら京の金を使わせるのは露伴のプライド的にはNGだった。
異世界であるので露伴の金を持って行かせると偽札になるのではという懸念により断腸の思いで断念。
取材対象がハズレだったと結論付け今はもうスッパリ割り切って京で遊ぶ日々を楽しんでいる。

ちなみに同じ理由で京の持ち込んだ金も家から持ち出さないよう決めてあるので京はガチの無一文だったりする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日本語特有の曖昧な表現で私を窮地に追いやるのやめろ

落ち着きを取り戻した私は待ち合わせ場所にたどり着く前にこちらを見かけたから巻き込まれてくれただけで実はデート予定だったという康一君と由花子さんを泣く泣く見送り、露伴先生のサスペンダーを握り締めて歩いて家まで帰った。

 

露伴先生はもんのすごぉ~く嫌ぁな顔をしたけどしがみつかれるよりはマシと判断したのか振り払われなかったので私は飼い主のリードを掴んで歩く犬と化したのである。

 

いやもう冗談言ってないとやってらんないよね。

私の背後にぬっしぬっしと歩く空条博士がいて正直ドキがムネムネで口から心臓がハローみたいな思い出すだけで怖い状態だったから…。

 

それにしても露伴先生がスタスタ歩いてくから私はそれにさかさか早歩きでついてってたワケで割と機敏な動きだったはずなのにぬっしぬっしと歩く空条博士とペースが変わらないというコンパスの差よ。

仗助君は普通に空条博士の後ろを歩いてたけど、スタスタさかさかぬっしぬっしドカドカと全く足並みの揃わぬ行進の注目度の高さたるやもはやエレクトリカルパレード。

 

そして現在、リビングで目の前に空条博士が座ってて呼吸の方法忘れそうになっているんですが、動悸息切れ眩暈がすごんいので誰か救心くだしあ……はっ!

 

いかんいかん落ち着け落ち着けまだ慌てるような時間じゃないクールになれクールになるんだ……ふぅ。

 

 

由花子さんの救いの手により何とか落ち着きを取り戻した気でいたけど全然そんな事は無かった。

というかデート中だったって聞いて私なんかの為に時間をとらせて申し訳なかった本当にゴメンって謝って見送るまでは冷静だったと思う。

康一君がすごいこっちを気にかけてくれてたのを追い払う勢いで『大丈夫だ、問題無い』って断言してこの様だよ。

 

……まあ仕方ないねあれ以上拘束してたら由花子さんきっと怒っちゃってたからね。

私が落ち着きを取り戻して手を離した途端にベクトルが康一君全振りになって颯爽と康一君連れて歩き出そうとしたもん。

康一君がこっちを心配して歩き出すのを躊躇った瞬間ちょっと髪の毛うねった気がしたからそりゃもう全力で送り出すわ。

全力でデートの再開を促したから由花子さんの印象は悪くないと思いたい…。

 

 

で、嫌がる露伴先生のサスペンダーを握り締め帰ってきた訳で…その間にSAN値はどんどん削れていくじゃん?

現状の横に露伴先生、斜め前に仗助君、目の前に空条博士って形のせいで目を上げたら例の御尊顔にぶち当たるからひたすらテーブルの上を見てるじゃん?

息を吸って吐くことがままならなくなるじゃん?

 

正直今すごいギリギリの精神状態なんだけど早く何らかの形で話が始まってくれないかな私から動き出すのは不可能だよ…。

 

「ミヤコ、大丈夫っスか? 顔色すげー悪ぃけど」

あー、仗助君良い子過ぎる…。

何この子めっちゃ愛でたい…。

 

っていうか声かけられて何も考えずに目線向けたけど視界の端に空条博士が入ってSAN値チェック入りまぁす!

 

「オイオイ、まだ何も始まってないだろう。 いい加減挨拶もできないのかよ君は」

「ハジメマシテ… コロサナイデ…」

「だから何でそうなるんスか!」

「いやだって無理だよ普通に怖いよ195cmの威圧感ハンパないってほぼ2mってもはや巨人だしワンダでも兵長でもないモブ女に抵抗する術が有るわけ無いんだから全面降伏するに決まってるだろこの世界を踏まえれば何の特典も持たない私はザコッパ戦闘力たったの5のゴミで間違い無い195cm怖い」

言ってから思ったけどワンダは巨人じゃなくて巨像だったわ…適当言ってごめん…。

ただ何が言いたいかっていうのは伝わるよね私と空条博士が戦闘力の比較をするなら凡人が巨像や巨人を相手にするが如く…つまりはとなりのトトロでメイに遭遇したまっくろくろすけの如くパァンってことさ!

 

「俺も195っスけど大丈夫じゃないっスか! 何で承太郎さんは駄目何スか?!」

「えっ!」

 

仗助ってたしか身長差が承太郎と10センチ以上あるのに体重が同じでつまり仗助の方がジョースター家の血が濃いから筋肉質みたいな話を読んだ記憶があるんだけど身長追い付いたの!?

195cm組に仗助も新メンバー参戦なの!?

まっくろくろすけとか言ってる場合じゃないなんだこいつ筍か!?

 

「せ、成長期? 4部って何年前の話!?」

 

西暦やら何やら覚えてなくて原作より先の世界なのは何となく理解してたけど詳しくは聞いてなかったなそういえば!

仗助達が高校生だったのは分かるけど何年生かは知らないんだよなぁ。

そういや露伴先生はちょうど20歳って設定をよく見た気がするな…。

 

「露伴先生今何歳です?」

「君はもうしゃべるな」

「はい」

 

何故か露伴先生が黙れとおっしゃるのでお口チャックチャック。

とりあえず口を噤んでちらりと見やれば確かに目の前の2人髪型や帽子でイマイチわからんが座高はほぼ一緒…。

これで立ち上がって空条博士の方が背が高かったらちょっとアレですね…うん。

 

「い゛っ」

とか現実逃避にくだらないこと考えてたら露伴先生におもいっくそ頬を引っ張られて目を合わさせられた。

もっと平和的に誘導して欲しい。

 

「君本当にいい加減にしろよ? 君ん中では繋がってるんだろうがこっちは君の脈絡の無い言葉を掴む事から始めさせられてるってのを何回言えば理解するんだい? 用語を解説もせずこっちに分かる前提で話すのもよせ」

「ひゃい」

「だいたい君の頭は鶏以下か? さっきまで承太郎さんに怯えていたくせに仗助の身長なんていうどうでも良いことで目の前の承太郎さんを意識からあっさり弾くんじゃない! 君の思考の散漫具合はいっそ尊敬するよ!」

ごえんあひゃい(ごめんなさい)ゆゆひえくらひゃい(ゆるしてください)

 

だって現実逃避してたんだからしょうがないじゃないっすかとは言えずにとりあえず謝る。

自己防衛だっていうのにその辺を考慮せず一方的に責められるのは納得行かないが露伴先生が割とガチで怒ってるっぽくて謝るしかない仕方ないね。

 

普通に返事できるけどワザとひゃいひゃい言って摘ままれてるせいでうまくしゃべれないっていうフリをしたんだけど手を放す時すごい忌々しそうな顔してたからバレてるね完全に…。

 

 

「やれやれ…そこまでにしておけ。 とにかくこっちは危害を加えるつもりはない。 落ち着いて質問に答えてくれればそれでいい」

「余計な話やくだらない表現も比喩もこっちに分からないネタもいらないからな」

「……はい」

神妙に頷いたら露伴先生に疑わしげな視線を寄越されて納得いかないでござる。

 

こっちに来てからどうにでもなーれの精神でレリゴ~なエルサの如く赤裸々な心のパンツ丸出し状態ではあるけど、どうせ読まれるしバラされるかもしれないんならもう取り繕う方が無駄じゃない?

1ヶ月経ったらさよなら確定だからこその暴挙ですよ。

ぶっちゃけ空条博士の前では大人しくしていたかった気がしないでもないけど現実は残酷だ…。

今更取り繕ったところでよ。

……開き直るのは任せろ!

 

でも質疑応答ぐらいはちゃんとしますはい。

露伴先生がすごい睨んでるのもあるけど空条博士相手にふざけらんないっす。

 

「名前は?」

「渡利 京」

「歳は?」

「25」

「えっ! マジっスか!? にじゅう…ごォ!?」

本気で驚いたらしい仗助君がこっちに人差し指まで向けているけどそこまで驚くか?

こちとら童顔とも老け顔とも言われたこと無いぞ。

 

「……25…だと?」

何で露伴先生まで驚いてるんですかね!?

 

「…出身地は?」

ここで淡々と次の質疑をねじ込んでくる空条博士、これがコミュ障の強みか…。

「生まれは○○県だけど育ちは○○。 今住んでるのは○○市○○区○○町○-○-○」

「郵便番号」

「○○○-○○○○」

「小学校から大学まで通ってた校名は?」

「1年生だけ○○小学校で2年生から○○山小学校、○○東中学校、○○高等学校調理師コース、○○調理専門学校イタリア料理1年制コースを卒業」

「職業は?」

「飲食店で接客担当してます」

「家族構成は」

「両親と兄と弟。 実家から通ってるのでさっきの住所に全員住んでます」

「家族の名前は」

「両親は広海(ひろみ)(とおる)、兄は(ゆう)、弟は(こう)

「字はどう書く?」

「広い海で広海、透明の透、悠久の悠に幸せ」

「最近家族間で起こった事件はあるか?」

「事件…? ……。 …あー、えっと、家の中だと幸が兄弟部屋に出たゴキブリを放置して逃げた報告を聞いて兄貴がマジギレして…あんまりにもうるさいから退治してやったら1000円リビングに置いてったことぐらい…ですかね。 2年以上前になりますが」

 

あれは酷かった…。

昼まで寝てた幸がようやくリビングに下りてきたと思ったら『ゴキブリ出た』って言った瞬間兄貴の顔がヤバくなったのに

『……殺したんだよな?』

『いや、殺してない』

退治してないことを聞いた瞬間の顔芸並の絶望顔よ。

『殺してないんなら言うなよ! 殺してないんなら言うなよ! 殺してないんなら言うなよぉぉぉっ!』

『天井にいたし…』

『何で報告した!! お前が言わなかったら俺も知らないままで安穏としていられたのに!! 部屋入れねぇじゃねえか! さっさと殺してこいよぉ!!』

『え…無理…』

『1000円やるから! 殺してこい!』

『ヤダ…』

リアルで大事なことなので3回言いましたを見たのは久し振りだった。

その後も男2人でギャーギャーもだもだしてたから冷凍スプレー持って私が部屋に向かって探して凍らしてトイレットペーパーで拾ってトイレに流したんだけど、いらないって言ったのにわざわざ1000円持ってきて置いてったのが面白過ぎて思い出すだけで笑える。

 

「君が弟を殴って骨に罅を入れた話の方が事件なんじゃないかい? ……()ッたいなオイ!」

「露伴先生、ちょっと静かにしましょうね」

スパンッ、と露伴先生の後頭部を叩いて文句を言う口を笑顔で黙らせる。

父から遺伝したこの『怒ると笑顔になる癖』は何でそんなに怖がられるんだろうと思ってたけどシグルイの名言に首がもげるほど納得したわ。

 

笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である、と。

なるほど分かり易い。

 

「今真面目に話をしてるんですよ。 ね? わかります? 私の歳もさっき知りましたよね? てことはその話がもう5年近く前の話だって分かってますよね? わざわざ誤解を招く言い方までして楽しいですか? 人が困ってる姿は愉快ですかそうですか。 人が真面目な対応心掛けてるのにそういうことをするんですね。 いえ別に悪いとは言いませんよそこが露伴先生の魅力でもありますから。 でも、ね? ほら、わかりますよね……露 伴 先 生 、良 い 子 に し て て く だ さ い」

 

もしこれでこの事件を掘り下げられたらジ・エンド・オブ私になるから必死にもなるよね露伴先生相手じゃなかったらこんな穏便に言葉で対応してないよあの時みたいにマウントとって殴りかかって骨に罅をいれてもおかしくないねこの場合罅が入るのは露伴先生であってほしい。

 

とにかく空条博士に早く弁明したいんだけど骨に罅入ったのは殴りかかった私で弟は軽度の打撲でむしろ私の戦闘技能はマイナスだから下手に危険人物認定しないでくださいお願いします!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

渡利家は極々一般的な家庭ですので! …たぶん

あーもうこの野郎マジふざけんな頭のバラン引き千切るぞ!

 

弟、幸を殴った話はそれ自体も問題なんだけどその原因をこの2人に説明することになったら私の精神は死ぬ。

この世界に居る限り死んだ目で『帰りたい…』しか言わなくなる未来が見えてる。

 

いや殴ったことは仕方なかったんだって理解してもらえると思うんだけどその起因が私が腐ってるが故のものだからもう社会的抹殺案件で死ぬしかないじゃない!って話なわけで…。

 

 

そう、アレは…5年ぐらい前のこと…。

 

我が家の人間が家族に対して割と何でもオープンで仲がいいことが徒になった事件だった。

 

どれぐらいオープンって恋人できたら普通に夕飯の席で報告するし兄姉弟間で漫画の貸し借りバンバンするし運ぶのが面倒だったら部屋に居座って読んだりするぐらいなんだけど、友達曰く未だにそれが普通なのは珍しいらしい。

 

兄貴は付き合い始めで普通に家に彼女連れてきて、普通にその時家にいた母さんに紹介して『付き合いたてで家族がいる家に連れて行かれて紹介されるとか重い…』ってフラレたし。

とりあえず世間一般的にはうちの家族は仲が良過ぎるらしい。

 

で、私が腐ってることは家族全員知ってる。

いや、これは単に部屋の掃除をしてくれた母さんが『京はやっぱり私に似てるわ~』と夕飯の席で言い出したからなんだけどね?

別に私からわざわざ話したわけじゃないし。

 

それからというもの兄貴が貸し借りしてる漫画のやり取りするときに『お前これだとどんなカップリングすんの? えっ、そこで…?』『何となくお前の好みの傾向が分かってきたぞ。 こいつは受けだろ? え? 違う?』みたいな会話が増えたり、弟の『ねーちゃんいつになったら彼氏つくんの?』が『ねーちゃんいつになったら3次元のチンコに興味持つの?』になったりしたんだけどネット上の腐友にそれを言ったら正気を疑われた。

いや弟はその都度殴ってたけどって言ってもそういう問題じゃないらしい。

 

で、私が腐ってることについて色々突っ込んで聞いてくる露伴先生に家族バレしてることとそんなやり取りがあった話をしたら面白がって家族関係についても根掘り葉掘り聞かれたわけで、その延長で弟を殴った話もしたわけで、これをこんなところで露呈させようとしやがったわけだよ!

 

 

家の中での殴るっていうのは小突く程度で本気で怒っても無いんだよ。

家の中なら

『ねーちゃんいいかげん彼氏作れよ。 生身の』

『紙粘土とかで良けりゃ俺が作ってやっても良いんだけどなー、ははっ』

っていう会話もおふざけで済むし拳骨1発で許してたし。

 

でも大学のサークル仲間家に連れてきて

『お姉さん超俺好みなんだけど、お前俺が義兄になったらどうする?』

っていう社交辞令と冗談を混ぜた発言に対し真顔で

『ねーちゃんチンコ2本無いと満足しないから』

とか目の前で言われたら普通に殺す気で殴りかかってもしょうがないと思うんだ。

ねーちゃん確かにチンコ1本のNL同人誌よりチンコ2本のBL同人誌の方が好きだけどその説明くっっっそ語弊あるし家族間なら笑って殴って終わるけど他人巻き込んだら闇落ちも辞さないに決まってんだろうが!

 

ぶん殴って倒れたところにマウントポジションとって殴ったら勢い余って床を殴って左手の中指に罅が入ったからね。

殴り合い初心者にマウントポジションは危険ってことだね。

実質私が殴ったの1発だけで即自滅してるからね。

 

骨折したのは自分だって言ったところで

『何を言われたらそんな骨折するほどの勢いで殴るんだ』

って聞かれたら詰むし…。

言わなかったら怪しまれるし、言ったら言ったで弟にそんなこと言われる姉とか無いわ…ってなるし弁解せずに淫乱の称号を得るか弁解して腐バレするかの究極の2択……死ぬしかないじゃない!

 

聞かれたらどうするべきかと頭を巡らせようと思ったんだけど言い訳と絶望しか浮かばなくってオワタ…。

 

 

飛んでた意識を取り戻してみれば露伴先生の二の腕をがっちり掴み、顔もだいぶ近かった。

ヤンキーのメンチ切りの距離で笑顔で凄まれた露伴先生は固まってるけどこんな体験滅多にできないんだから喜んでも良いんじゃないですかね仗助君に殴られたときは喜んでたんだろほら自分が招いた結果だよ私まだちょっと怒ってるからねちょっとだけだけどまだ怒ってるんだよちょっとだけほんのちょっとだけね!!

 

「オイ、離せよいい加げ…」

「え? ごめん聞こえなかったからもう一度言ってみてくれる?」

「……離してくれ」

「…しょうがないな」

 

もしこの相手が幸か兄貴なら

『オユルシ クダサイ オネエサマ(ミヤコサマ)』

と言うまで耳を引っ張ってたね。

 

「あのさぁ、露伴先生の助け船ってつまりは私のやらかしたこととかを面白おかしく暴露して『こんなのが敵の刺客とかマジウケるんですけど~。 無いわー』的な流れにすることなんだな? 社会的に私を殺してくれようとしてるんだな? そういうことなんだろ?」

「ソレが1番分かりやすいだろう。 というか君、そこまで言うほどか?」

こいつ、全く悪びれて無い…だと?

反省のはの字も見えない喉元過ぎればなんとやらってか?

さっきの語弊を生む言い回しやらその態度やらが我が家の末っ子クソガキ様の幸を彷彿させてくるし最高に嫌過ぎる。

何で今思い出さなきゃならんのだ。

 

「お前深海から深海魚無理矢理引き上げたら死ぬに決まってんだろひっそり人目に付かないところで生息してる生物を日の目に晒そうとすんなバカ野郎! そういう所さえ露呈しなけりゃ私は至極真っ当で平々凡々な中流家庭で生まれ育ったただの人だから! 次にこういうことしたら洗濯した後のパンツ全部ひっくり返してタンスに直してやるから覚悟しとけよ!」

「舌の根も乾かない内に脅し文句が非凡なんだよなあ」

「いや、家事を任せている相手に喧嘩を売るってのはそういうことだからね。 パンツか靴下かズボンの耳かそれ以外かみたいなバリエーションは家庭ごとにあると思うけどさぁ」

「たぶんそれ君ん家だけだと思うぜ」

「まさかぁ。 そんなわけ…」

 

ないよね?と続けようとして目線を向けた仗助君の顔は完全に『何言ってんだこいつ…』だった…。

 

「いやいやいやいや待って。 え? 嘘だよね? 仗助君だってお母さん怒らせたらパンツとまではいかなくっても靴下裏返しのままタンスに直されてたりズボンの耳出っぱなしだったりしたことあるよね? もしくはちょっと苦手な味付けのおかずばっかり食卓に並ぶとか部屋の掃除されて秘蔵のアレコレをリビングに広げられたりとか有るよね?」

「や…無いっスね…」

「……マジ?」

「マジっスよ…」

「空条博士は有りますよね初めてお母さんをアマ呼びした日の夕飯のおかずとか次の日の洗濯物の違和感とか何らかのささやかな竹篦返しぐらいは有りましたよね? ねっ!」

「無いな」

嘘だろ承太郎…!

 

「ナアナア、君ん家のルールがローカルかメジャーかはまた後で検証するとしてさっきから気になるんだがズボンのミミってなんだい?」

「普通にメジャーだと思ってた…。 お弁当が日の丸ってのが代表みたいな感じでよく取り上げられるけど家事を担う人間を怒らせたらそういう報復が有るのは当たり前じゃないの…? ズボンのポッケがびろーんと出てるのをズボンの耳っていうのもメジャーじゃないって追撃まで食らって正直混乱してる…」

「僕が言うのもなんだが、確かに僕が何もしなくっても君って人間に脅威を感じるのが馬鹿らしいって分かってもらえそうで良かったじゃあないか」

「うるせぇ頭のバラン引き千切るぞ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おそ松くんが流行ってたのは1960~1980年代(Wiki調べ)

さて、間になんやかんやあったものの質問はアレからも続き、お茶も入れないままかれこれ2時間以上が経過した訳ですが。

質問の目的は私が嘘をついていないかを直に確認する為と聞いた情報から該当する人物や土地がこの世界に存在するかを調べる為に使われるらしいけど後者はともかく前者って……空条博士には嘘発見器が搭載されてる可能性が微レ存?

 

何ソレ怖い。

迂闊なこと言えないじゃないっすか…。

 

なんやかんやの部分についてはとにかくつっこまれる前に

 

『この話は終わり! 終わり! ただ言わせもらうなら殴りかかったのは私だけど骨イカレたのも私ですから! 私はゴリラじゃ無いので! 圧倒的弱者なんで! こんなくだらないことで危険人物認定されるとか無いとはまさか無いとは思いますけど勘弁してください! ね!』

 

という感じのことを笑顔でゴリ押して追撃を凌いだんだけどね。

うん、無理矢理終わらせたよ。

何か…何かというか具体的には落ち着きのある人間像が再建不能になるぐらいの致命傷を負ったけどね。

淫乱認定か腐バレかよりはマシだけどあまりにも辛い犠牲だったよ。

嫌な…事件だったね…。

 

「今データを送った。 この程度ならすぐに調査結果は返ってくるだろう。 次に聞きたいのは、どこまでこちらの情報を把握しているのかということだが」

 

正直もうこの場から逃げたいんだけど残念ながらそうは問屋が卸さない。

というかさっきのごちゃごちゃが有ってなお全くブレない空条博士と露伴先生に比べて私と仗助君の顔よ。

あの顔は『何で流れのまま俺もついてきちまったんだろう…』っていう顔だわ。

 

「ろ、露伴先生から聞いたのでは…?」

 

私の顔には差し詰め『もう今日は勘弁してください』って書いてあるだろうね。

「君から直接聞いて確認しないことには納得できない」

しかし空条博士それを華麗にスルー。

流石っすね…。

「はあ…そう、すか…。 どのあたりから説明すれば…?」

「君の知る、こちらの情報全てだ」

 

私の知ってる全ては承太郎と花京院もしくは仗助と露伴がメインで組んず解れつしてる世界による知識なんですが…。

 

間違ってもそんなこと口走れないからとにかく間違っていないだろう程度のジョジョのあらすじを選別して脳内から引っ張り出すことにする。

1部と2部は本当に知ってる情報少ないけど知らないものは仕方ないね…。

 

身内の実名で説明されると複雑だろうけどどういった説明をするべき?

絵とか有れば実在の人物とは違うって思いやすい…か?

 

そんな考えから露伴先生にスケッチブックの画用紙を1枚貰って、ついでに鉛筆を借りた。

いっつもペンタブだけど鉛筆でも描けないことはないし…。

 

「あー…、えー、まず私にとってこの世界は『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画の中の世界で…えー、結構な巻数が出てる漫画なんですけど、こう…1部、2部、みたいな区切りで主人公と時代が変わるんですね。 で、1部がジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーの話でー…、こんな感じの2人です」

ざっくりとデフォルメしたジョナサンとディオの顔を描く。

ゆっくりの髪型をキャラに合わせた程度の緩い絵だけど、絵があるだけでぐんと理解しやすくなるよね。

 

「私が知ってるのはディオがジョースター家の養子になって家を乗っ取ろうと画策したりなんやかんやで石仮面?というやつを使ってディオが人間をやめてー…、やめて…なんかこう…なんやかんやあってジョナサンに敗北?したような結局身体を乗っ取ってでも封印されて海の底にみたいな…多分そんな話です。 なんやかんやは誤魔化してる訳じゃなくってホントに分からないので…」

 

エリナさんとジョナサンの新婚旅行に実はDIO様も首だけでついてってたっていうのはどうなんだろうな…。

たぶん原作をものすごく拡大解釈をすればそんな感じになるんだろうけど、ここで言うには間違ってるよなぁ…。

1部2部はどれが正史でどれが2次創作のオリジナル展開か分かるほど読んだことないしどうしようもない。

 

「続けてくれ」

「あ、はい…。 2部がジョセフ・ジョースターが主人公で波紋戦士?がどうのみたいな? あ、スタンドっていう能力が登場するのは3部からで、1部と2部はその波紋っていうので戦ってたらしいです。 ジョセフとシーザーの波紋戦士コンビとその2人の師匠?のリサリサ先生とスージーQぐらいしかわかんないですけど。 どんな敵と戦ったのかすらよく知らないんですが、敵のカーズ様だけはこう…名前と見た目の合致はしてるんですがどういう理由でどんな戦いをしたのかは知らないです」

 

何でカーズ様を知ってるかってジョジョの混部MMDでけしからんセクシー褌男が登場したのを見てわざわざ調べたからである。

名前を知った後はそれで満足して小説系は探してないので本当に見た目と名前しか知らない。

 

個人的ジョジョキャラセクシーポイント上位に入るけしからん実にけしからん衣装です素晴らしい。

鳥山先生の生み出したビキニアーマーに並べても良いと思うそれぐらいロマンが詰まった衣装ですよ間違いなく。

 

スタープラチナとカーズ様の褌姿、花京院のパジャマ、承太郎の禁欲的な2本ベルト、露伴先生の腹チラ、仗助の制服姿の卑猥な妄想しか掻き立てない胸元のチャックとか……すごく良い、よね…。

たぶんこういうのをディ・モールト・ベネって言うんだろうなーって俄ジョジョファンながら思う次第ですはい。

 

そんなことを考えながらもザカザカ鉛筆を動かして2部のキャラを描いていく。

カーズ様は描かなくても良いか説明できるほど知らないし。

 

「あのじじいが主役…って、絵柄の差が激しいッスよ!?」

 

正直ジョナサンとジョセフの描き分けが髪のボリュームとツンツン具合しか無かったので判別しやすいようにジョセフとシーザーとスージーQを妖精さん風に描いたんだけど、リサリサ先生だけクールビューティーに他の5倍以上の描き込み具合である。

とりあえずリサリサ先生はすごい人で軽く扱ってはいけないっていう認識しかないからなんとなく妖精さんにし辛かっただけっていう。

 

「リサリサ先生はジョセフの母らしいので承太郎の曾祖母で仗助の祖母にあたる人ですね。 波紋の呼吸とやらで若いまんまらしいです。 波紋を使えるジョセフが歳をとってくのはスージーQと同じ時間を生きるためとかどうとか」

 

(・ワ・)(・ワ・)(・ヮ・)

と並んだ横に明らかに画風の違うリサリサ先生バストアップが並んで描いておいてなんだけどシュール極まりないなコレ…。

 

「この人が俺のばーちゃんッスか…。 んで若い頃のじじい……チコっと可愛すぎてよくわかんないッスね…」

「まあこんなの髪型だけだからね。 で、3部でもジョースターさんは活躍?してたっぽいけど、3部のジョースターさんはこんな感じでー…」

 

3部はおそ松さん風にして、並びはスタクルメンバーを登場順に並べて顔は長男から順にジョースターさん、ポルナレフ、アヴドゥルさん、承太郎、DIO様、花京院にしてみた。

イギーは普通に何の特徴もないデフォルメした顔だけだけど。

あと最後に描いたDIO様をあえて十四松にすることで『ほらDIO信者ならDIO様をこんな風には描かないでしょ!』というさり気ないアピールをしたんだけど伝わるだろうか。

 

ちら見した空条博士の顔は無表情で何考えてるか全く読めないけど、隣の仗助君の『こ、こんなのが承太郎さんの因縁の相手…?』という困惑顔にちょっと申し訳無い…。

そんなつもりでは無かったんだ本物のDIO様はラリってないよ最高にハイってやつにはなってるけど!

 

「……確かに…髪型は似ているな」

「ア、ハイ…なんか気を使わせてしまったみたいですみません…」

「ナア君これは全部模倣だろ? 将来的にはこういったデフォルメの強いキャラクターが流行るのか。 僕には関係ないが漫画史としては興味深いな。 等身だけでなく顔の作りを簡易にすることでこうした模倣パロディを素人でも描くことができるからか? それにしてもこの絵は」

「露伴先生後で! 後でいくらでも説明するからちょっと勢いを治めて!」

分かりやすくするつもりで描いたのに余計に混乱を招い

「というか君このキャラの元はおそ松くんかい? 君が来たのは世界は違えど17年先だっていうのに今の時代でも古いおそ松くんの模倣をするなんておかしくないか? それとも君の世界とこちらの世界の」

「漫画の話にうるさいだけだと思うけどそうやってなんにも考えずに私への疑惑を生み出すのなんなの?」

余計に混乱を招くのなんなの?

 

 

この後10分ぐらいおそ松さんについて説明させられたけど完全に放置を食らった空条博士と仗助君には本当に申し訳ないと思っています。

露伴先生の前で今後二度と絵は描きませんので許してください!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

公式ショタ化の顔が一切出てないって知るのは帰ってから

それにしてもおかしいなぁ……何でこんなに時間かかるの?

帰ってきてから3時間近く経ってるのに1番の問題のはずな3部から先が全く話せてないんだけど?

話脱線し過ぎじゃない?

私も悪いかもしれないけど露伴先生も悪い。

むしろ露伴先生が悪い。

 

そしてついさっき仗助君のお腹が鳴ったので露伴先生が仗助君を馬鹿にしつつ空条博士の為にと言って出前頼んだんだけどそこはもう帰らせて欲しかったな…。

今日はもうお開きで良かったじゃん…。

届く頃には2時過ぎてもはや昼食かおやつかわかんない時間だしさぁ…。

このままじゃ晩御飯までここに居るんじゃないの?

 

とにかく出前が来るまでの間も『話の続きはどうした?』という顔の空条博士に促され休む間は無かった。

 

「……はぁ、3部から続けますね。 3部は海の底に沈んだDIO様が解き放たれちゃって、何かの因縁でジョースターの血筋の人間にスタンド能力が目覚めたっぽいことで旅にでることになったっぽいです。 主人公が空条承太郎になって、そのDIO様復活の影響で突然目覚めたスタンドに振り回される承太郎と、アヴドゥルさんを連れて留置所まで来たジョースターさんと、DIOの刺客として送り込まれた花京院が集まったところでホリィさんがスタンドに目覚め切らずに?倒れちゃって、助けるにはDIOを倒さなければーみたいな感じで旅に出て、途中でポルナレフとイギーが仲間になってー…っていう。 多分このホリィさんが倒れた辺りで4部の主人公仗助も熱で倒れて例の憧れの人と出会ってるらしいですけど…。 で、3部はDIO様を倒して…終わりですね。 DIO様との戦いでスタープラチナも時を止められるようになって、部が進むごとに止められる時間が伸びてってるってのは知ってるんですが具体的な数字は覚えてないです」

「旅の内容は何処まで知っている」

 

承太郎と花京院がホテルの部屋割りで度々同じ部屋になって一線を越えたり目を負傷した花京院に承太郎がげふんげふん……原作沿いの承花の6割ぐらいはそんな話です。

いや待って残り4割から原作っぽい話拾いますので少々お待ちください…。

 

「えーと、50日の旅で、途中でアヴドゥルさんが死んだことになってパーティーから抜けたり、花京院が目を負傷して抜けたり…テレンスの魂を賭けたゲームだとか…死神?デスサーティ…サーティーン?を花京院がえぐい方法で撃退したり、潜水艦から脱出時のパンツー丸見えピシガシグッグとか…Q太郎とテンメイ…あー…それぐらいですかね…? 時系列とかも良く分かってないです」

「……死神13とやらの撃退に、花京院は何をやったんだ?」

「赤ん坊に見えるように離乳食?にオムツから取った排泄物を入れて食べさせたらしいです」

「……そうか…」

「あー、あとそういえばアレッシーは有名ですね。 幼児化したにもかかわらず承太郎がオラオラして倒したらしいってのは知ってます」

 

公式が幼児化をしてるなんて最高じゃないか! って思ったまま立ち読みしに行く前にここに来たわけなんだけど読みたかったシーンなんだよねアレッシー。

他にもテキーラと花京院のレロレロとズアッってキメポーズと4部のキメ台詞無茶ぶりシーンとネズミ狩りっていう話での承太郎屈指の萌えポーズとやらも気になってしょうがないんだよなぁ。

情報はあれどやっぱり実物が見たい。

公式ショタ化承太郎がどんな顔なのか知りたい。

数々の承花を渡り歩いた私のイチオシはショタおに承花だから特にアレッシーは気になるところなんだよなぁ~。

転生院設定が多いからどうしてもジョジョタグでショタを検索するとショタ院率が高い。

個人的にショタは攻めなので暇を見つけては検索ワードを試行錯誤してショタ郎を探すのが最近の日課だったのである。

筋肉は受けだと思ってた時期もあったし花承や仗承もイケないことはないしむしろ承承なんかは有りだったりするけど承花がイチバン落ち着くね。

 

「さっき言ってましたけど、次の4部ってのが俺が主役なんスか?」

「そうそう。 4部は東方仗助が主役なんだけど、あんまりストーリーは知らないんだよね。 吉良吉影はそこそこ分かるけど…。 ハイウェイスターは何かあの、女の子にめっちゃモテてる…名前が出てこない、えーと、ゆーちゃんとか呼ばれてるやつ…顎にアルファベットの鼻が利くキャラだっけ? あとはチンチロリンで岸辺露伴の家が燃えたとか、なんか本にされたやつとかそういう感じぐらいしか。 弓と矢の話がメインストーリー?なのかな? ネズミ狩りとか、透明になっちゃう赤ちゃんが…静ちゃん? あと仗助がジョースターさんから最後財布を盗ったりもしてるんだっけ? 由花子さんが康一君を監禁したとか、億泰と宇宙人のミキタカとトニオさんの料理、それぐらいしか知らないかなー。 大半の経緯は知らなくて、そういうことが有ったそういう人が居るぐらいの認識しかないけど」

「説明の絵は無いのかよ」

「露伴先生めんどくさいからもう描かない」

「はあ? 何言ってるんだい僕は君が僕たちをどんな風に描くのかを待ってたんだぜ? 良いから描けよ」

「ういーっす…」

 

どこからか『お前露伴先生の前で絵は描かないってさっき決めてたじゃねーか』という声が聞こえてきそうだけどさっきのは口に出してないからノーカンね。

うちのシマじゃノーカンだから。

 

……だって私露伴先生に逆らえないからしょうがないね。

露伴先生の前で描かないと思ったな…、アレは嘘だ。

 

……空条博士お許しください!

仗助君もごめんやでぇ…。

 

とにかくなんかのパロだと地雷があるかもしれんから特に何風でも無くミニキャラで簡単に顔を描いて並べていく。

仗助、億泰、康一君、由花子さん、承太郎、ジョースターさんまで描いて露伴先生はバランだけ描いてやった。

さっきのことはまだ許してないからこれぐらいで済むことに感謝するんだな!

逆らえないけど咎められない限り私は意趣返しや突っ込みをやめない!

 

ただ流石に2人には分かりにくいから吹き出し付けて『だが断る』って描いておいた。

あとのキャラはイマイチ覚えてない。

なんか吉良吉影って髪型2パターンぐらいあるけどあれってアニメと漫画とかの違いなのかな?

それとも弱ペダの御堂筋君みたいにイメチェンしてるだけ?

 

あっ、思い出したハイウェイスターの名前あれだ仗露タグにたまに付いてる噴露!

噴…噴上ユウヤだ!

下の名前の字はわからんけど思い出せてちょっとすっきりした。

 

「オイ、君それは僕に喧嘩を売ってるのかい?」

「分かりやすいじゃないですかその緑のバランおっと間違えたバンダナバンダナ」

流石にバランに吹き出しは腹に据えかねたらしい。

バンダナじゃなくモロにバランだから余計に怒ってるのかもしれんね。

 

仕方がないので地獄のミサワ風に描いて

『小学生が相手でもジャンケンに本気を出す

 それが僕の流儀だ』

と書いておいた。

 

ジャンケン小僧とやら相手に舞空術を使った壮大なジャンケンを繰り広げたというネタは知ってるんだけど、実際はどんなジャンケンをしたんだろうね。

 

覗き込んだ仗助君が噴き出しそうになったのを無理に抑え込んで『んぼふぁっ』みたいな声を出して顔を背けてマナーモードになったけどいっそ笑った方がお互いモヤモヤしなくて済むと思うなー。

露伴先生が君とは別の理由でマナーモードになってるんだよなぁー。

 

 

 

「少し思うんだが、君と露伴先生の関係は結局のところ何なんだ?」

急にどうした空条博士。

というか私と露伴先生の関係…?

そりゃあ当然…

 

「保護者と取材対象だな」

「露伴先生の下僕です」

 

しーん、と静まりかえることを天使や妖精や幽霊や死神等々架空の存在が通り過ぎたなんて表現があるらしいけど今回の沈黙は前者2つではないような気がする。

 

「オイオイオイオイ。 敬語も無くなって暴力や脅しまでやるやつのどこが下僕なんだよ。 君みたいなのをなんて言うか教えてやろうか? 厚顔っていうんだぜ」

「嘘も誤魔化しもできない体にされてて基本的に言うことは何でも聞きますが言われないことは臨機応変に対応してます。 露伴先生がおっしゃるなら常に敬語で傅かせていただきますけれども?」

「君ホントに図々しいな。 そんなことされても鬱陶しいだけだからやらなくていい」

「あと暴力とか脅しとか物騒な言い方してるけど悪いの露伴先生なんだからそこんところよろしく」

「君なあ、君こそいい加減にしろよ?」

「は? 露伴先生の傍若無人っぷりが悪いのでは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身を下僕と言うにしては露伴に対する態度がそうとは見えず、つい疑問を口にした承太郎はすでに後悔していた。

その横で聞いている仗助も目の前で子供の喧嘩のように言い合う2人を見て呆れ返りつつも、露伴相手にあれだけやらかせる京を見て少しだけほっとしていた。

カフェでの遣り取りやヘブンズ・ドアーによるプライバシーの侵害などからあまりにも京の人権が軽んじられているようなら自分と康一でなんとかしなければと思っていたのだが、どう見てもその必要は無いと思えたからだ。

 

「仗助、お前にはあの2人はどう見える?」

「なんつーか…ガキの喧嘩ッスね…。 取材対象っての以外はどれもトンチンカンっつーか…チグハグ?っつーか…。 ミヤコはもう露伴のトコに居てもらえばそれで良いんじゃないッスか? 期限は1ヶ月って露伴の野郎も言ってましたし…」

「そうだな…。 とにかく向こうから調査結果が届いたら俺は帰る。 ……やれやれだぜ」

 

こうして叔父甥の間でひっそりと行われた遣り取りに気付くことなく、ぎゃあぎゃあと騒がしい言い争いは出前が来るまで続いたのであった。




読者様より頂いたコメントへのQ&A
(という名の補足)
Q.
死神13のこと覚えてるのは花京院だけでは?

A.
承太郎の思考の補足となりますが、京の話を聞いた際に
(あの花京院がえげつないなんて言われるような撃退法をとった相手…? 死神の名を持つスタンドに覚えは無いが…)
と思った承太郎が
『……死神13(タロットの死神は13番なので13に断定)とやらの撃退に、花京院は何をやったんだ?』
と聞いたという流れとなっております。

離乳食というワードで砂漠でのあの赤ん坊がスタンド使いだったことを理解すると同時に
(……確かにそれはえげつないな…)
と思った故の
「……そうか…」
という発言に繋がる形です。


読み手に伝わりやすい文章となるよう精進させていただきますので、今後ともよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

間違った認識は大体n巡目設定パロのせい

露伴先生との諍いは出前が来たことでお開きとなった。

仗助君の生温い眼差しとか全然見てない。

 

それはともかく届いた出前は鰻重だった。

鰻がしこたま乗った見たこと無いような立派な鰻重とサイドメニューらしき出汁巻きも一緒に来てこれも絶対高いやつー。

更にお茶を用意しようと台所に行ったら露伴先生がついてきて棚から『貰い物だが…』と言いながら最中を出してきた。

なんで最中?って思ったらお湯を注いだらお吸物になるやつだった。

なんというオサレ。

インスタントのお吸物なんてまつたけのお吸物ぐらいしか縁がない私には初めましてだったわ。

 

そんなこんなでお茶も椀物も揃えて遅い昼食を始めたわけなんだけど、流石に食事時は休憩というわけで穏やかに時間は進んでいった。

 

まぁ食べ終わったら再開するわけなんだけどね。

 

 

「あのー、5部と6部って言っても大丈夫なんですか? 今が4部に含まれるのか5部が始まってるのか実は既に終わってるのか分かりませんが、6部って承太郎40代なんで確実に未来の話だしそもそも私カッ…あー、主人公とその相棒ぐらいしか知らないんですが…」

危うくカップリングって言いそうになった危ねぇーっ!!

 

ガチで5部に至っては混部パラレルでしか知らないんだよね。

基本情報だとコロネ君と矢印付きスパイダーマン頭巾君の顔と名前しか分からないしストーリーに至ってはギャングがどうのって話で主人公のジョルノがギャングスターでDIO様とジョナサンの子供(語弊有り)ってぐらいしか分からないし、そもそも混部でのジョルノ君は基本『うるさいですよパードレ』ってDIO様に対して塩対応の中学生だし、ミスタに至ってはほぼほぼ出ないからね。

たまにフーゴとかナランチャとかの名前は見るけど顔もどんなキャラクターかも全く…。

 

ただこのDIO様の子供っていうのが割と重い情報だよなぁ。

 

6部はまぁ…花京院生存パロの既婚もしくは離婚太郎の娘としての登場か…完全パラレルでの承太郎の妹になってる徐倫ちゃんとかぐらい?

アナスイと付き合うなんて許さん!みたいな話がほのぼの混部パロのアナ徐ですねー。

 

あと6部で世界が一巡するっていうのはよく文章として見るけど具体的にどうなるのかは知らない。

n巡目記憶持ち花京院もしくは承太郎による原作改変承花だとか、n巡目かで花京院が女の子になっちゃったよーみたいな話とかからとりあえずなんかループ系なイメージが強いんだけど。

よくキャプションで『n巡目で○○になった世界です』みたいな注意書きもあるし。

 

n巡目の活用凄ない?

1部~6部兄弟従兄弟設定とかスタンドの存在しない世界とか結構な確率でn巡目で平和になった世界って書いてあった気がするよ?

 

ただ流石に徐倫投獄とか承太郎が死ぬとか世界が加速?した中でも締め切りに間に合う露伴先生ってのは知ってる。

 

……娘投獄とか自分が死ぬとか5部とは比べものにならんぐらいヤバない?

 

 

「そうだな…これまでの話から君が知っていることが事実に限りなく近いというのは理解した。 だからこそその件については秘匿してもらいたいと思う」

 

パラドックスに対する危機感が有るようで何よりです!

これで話せって言われたらどうしようかと思ったよ!!

 

「えっ! 聞かないんスか!? 未来の話が判れば40代の承太郎さんが戦うスタンド使いを今の内に捕まえたりできるかもしれないじゃないのに?」

「本当にお前はスカタンだな。 判りさえすれば全てがうまいこと回るなんてお気楽過ぎるぜ。 承太郎さん、この件は早く解決しておきましょう。 今から僕がヘブンズ・ドアーで『この世界で未来に関する情報を他者に渡すことは出来ず、この命令は誰にも改変出来ない』と書くのでその目で確認してください。 こちらも疑われたくないので」

「そうだな。 それがいいだろう」

 

こっちとしてもそうやって徹底してもらえるなら安心だけどそれよりも問題としては

「書き込むのはありがたいけど余計なとこ読まな」

『ヘブンズ・ドアー』

ちょ、やっ、やめろぉぉぉーっ!!!...

 

 

 

 

 

「変なとこ読んでないですよね読んでないですよね読んでても読んでないって言ってください」

「…ゴリラ、か」

「承太郎さんが…ゴリラ…」

「ジャングルの王者JOJOを取り合うあの女子高生達はつまりアマゾネス…。 君の独特な語彙力はどんな環境で培われるんだ?」

「よんでないってゆってよ!!!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私の中に何かが居過ぎる

「何で止めるべき2人も読んでるんだろうね! プライバシーに対する配慮は無いの!?」

「…すまなかった」

「……チコっと好奇心が…。 で、でも露伴の野郎がミヤコを読んで未来を知ろうとしないかの確認も兼ねてたんスよ! それに承太郎さんと出くわした部分しか読んでないんで!」

「君がもし敵の刺客なら承太郎さんを見て何らかの反応があるだろ? まどろっこしい確認も済んである程度疑惑が晴れたからこそ、承太郎さんも書いてある内容を確認する気になったんだぜ?」

 

こいつ絶対それっぽいこと後付けしただけで実際は好奇心の赴くまま読んで読ませただけだろ。

そこを言及したって何の実りも無いのが分かるからもう突っ込まないけどさぁ…。

 

そんでこれが初犯じゃないのは小一時間くらい前に気付いてるからな。

 

いやー、今日途中で気付いたんだよ…何で仗助君そんなナチュラルにこの場に交じって普通に話理解してるのってね!

まあ気付いたのは4部の話を始める切っ掛けに仗助君が水を向けてきたからなんだけどね!

 

そりゃ確かに外で露伴先生を盾にしようとしたときトリップの神様くたばれ的な気持ちで何か叫んだ覚えはあるけど、漫画読まない仗助君がそれだけでこんなに話を素直に飲み込むとは思えないんだよねー…。

そこに至るまで気付かなかったあたり私の頭がどれだけ混乱してたかがよく分かるし、気付いた瞬間は逆にすぅっと頭が冷えたよ…!

速やかに気付かなかったことにする程度に!

 

私の情報はどこからどこまで誰から誰まで流れてるのかな!?

康一君は絶対知ってるだろうね!

願わくば腐ってる部分は流出していませんように!!

 

 

「…そうであるなら、私の疑惑は多少なりとも晴れたのでしょうか? 空条博士」

 

人間混乱し過ぎるとむしろ冷静になるっていうのは、深く考えることをやめるからだと思う今日この頃。

というか早く2人に帰ってもらってちょっと落ち着く時間が欲しい切実に。

 

「現時点で君がDIOの刺客だという証拠は無い。 だがこちらの実状を知り過ぎて居ることと、その理由となる異世界についてすぐに信じることも難しい。 そして、未だに向こうから結果報告が無いのもおかしな話だ。 先程も催促の連絡を入れたが、返事が来ない」

 

わーい、これ絶対すぐには帰ってくれないよぉ~クソがぁ~…。

返事が来ないとかどういうことなの…?

 

「何らかのトラブルがあちら側に起きているのでは無く?」

 

というかそうじゃないなら私が原因だしそれってすごい怖いんですが…。

えぇー…。

 

私の住所や家族構成や過去の思い出話なんかが何を引き起こすわけ無いと思うけど、実はそれに該当する人間が存在して私がスタンド使いにその人の人格をコピーして創り出された存在で頭の中に爆弾が!みたいな可能性無いよね?

お許しください案件は私だった…?

 

空条博士を誘い出すために過去の出来事を漫画として記憶に植え付けられたにしても私が敵のスタンド使いならこんなやつ絶っっっ対コピーしないけど。

いやまあもし適当に選んでコレだったとかならオリジナルさんがとんでもない情報を次々と暴露されてて可哀想過ぎるしそうじゃなくてやっぱり私がオリジナルなら私がこの話は止めよう今すぐにだ。

 

「その可能性も有るだろうが、…電話だ。 少し失礼する」

 

立ち上がり部屋から出て行った空条博士を見送り、何となく詰まっていた息を吐いた。

今日は遭遇してからというもの台所に行ってお湯を沸かしてる間ぐらいしか離れてなかったんだから緊張しっぱなしで全身ガチガチにもなりますわー。

 

ピンと伸ばしていた背筋をそっと緩め、前方からのプレッシャーにピリピリしていた眉間を手の甲で軽くグリグリと解してみる。

ふと目を上げれば此方を見ていた仗助君と目が合い、気まずさを誤魔化すように苦笑が零れた。

 

「あー、ごめんね仗助君。 私があんな風に取り乱したから一緒に来ようと思わせちゃったよね。 ここに着いてからも全然落ち着きを取り戻せなくって、居たたまれない思いばかりさせて本当にごめんね。 あんまり今の私に出来ることって無いんだけど、機会があったら何らかの形で埋め合わせさせてね」

「や、別に良いッスよ。 ミヤコのことも心配だったから、俺の勝手っつーか」

「ううん。 居てくれて本当に助かったよ。 ありがとう」

 

空条博士や露伴先生だけじゃなく疑惑の晴れない私のことも心配してくれていたなんて、本当になんて優しい子なんだろうか。

例え金を巻き上げようと露伴先生にイカサマ仕掛けたり髪型を貶されただけでバーサーカーになるとしても、私の中で君はすごく良い子だよ!

でも身内にはいなくて良いかな!!

 

「待たせたな。 あちらからの電話だったのだが、どうやら何らかの通信トラブルでデータが送れないらしい。 そのかわりに先程スタッフが1人こちらに向かって出立したらしく、明日の夕方には着くそうだ」

 

通信トラブル~?

ハッキングとか電波傍受とかそういうレベルの話だったりするの?

データを送ることで空条博士の居場所が敵にバレるからとかそういうこと?

この世界のセキュリティーや追跡技術がどんなのかわかんないけど、それぐらいの危険が有るからデータ送れないんだよね?

そうじゃないなら無理矢理にでもデータ寄越して空条博士を速やかに帰還へと誘ってくれませんかね?

私の心臓いくつ有っても足りないんですけど。

 

 

だいたい私の中のマンボウがこの数時間で何匹ストレスで死んだと思ってるの?

正直目の前に座られた時点でどれだけ逃げたいと思ったことか!

後ろめたいことなんて何1ついや私が腐っているということを除いてなんだけどDIO信者なんかじゃ微塵も無いから恐れる必要が無いというのに圧がすごいんだよ!

 

私の中の天使と悪魔が

『怖いのなら逃げても良いんですよ。 貴女がDIO信者では無いのは確かなんですからね』

『後のことなんて今考えてどうすんだよ。 逃げちまえ逃げちまえ。 向こうにだって証拠は無ぇんだぜ?』

って逃げることを推奨してる中で某中学生がずっと

『逃げちゃ駄目だ…逃げちゃ駄目だ…逃げちゃ駄目だ…逃げちゃ駄目だ…逃げちゃ駄目だ…』

って言うから我慢してたんだよ!?

 

「明日の夕方、ですか。 空条博士はご予定は大丈夫ですか?」

 

混沌とした内心をおくびにも出さず、これでもかと八つ橋に包んだ『帰って欲しい』という言葉を理解してくれる京都の方ー!

今すぐ空条博士の中に御来訪くださいませー!

 

 

「ああ、来日が決まった時点である程度予定の調整はしてあるからな。 余程のことが無ければ明日の日中はこの近場の海でフィールドワークをする予定だった」

 

どう足掻いても明日は結局この町に滞在する定めだったんですねクソが。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あー、なるほどね。 ここが何処か完全に理解したわ(理解した)

このまま見張るためにここに泊まる…なんてことは無かったんだぜ!!

やったぜ!

 

やったぜ!!!

 

とまあこんな感じで空条博士と仗助君が帰ってからというもの私のテンションは有頂天の鰻登りだ。

 

なんせ見張られなかった=空条博士の中では報告を見るより先に白寄りのグレーってことじゃないですかやったーっ!!

 

「君ってやつは、なんというか……幸せな人間だな」

 

あからさまに(頭が)っていう副音声がありきの言葉だけど今の私は寛大だから気にしないよ!

そんなことより今この解放された幸せをゆっくり噛みしめようぜ!!

 

「ああ、そうだ。 明日の昼まで僕の食事は用意しなくて良いし声もかけないでくれ。 あと金はいつものところにあるから後でコンビニに行って最低3種類のサラダを買って来ておいてくれよ。 君も何でも好きに買って良いからさ」

 

露伴先生も籠もるみたいだし万々歳!

でも出来るならもう外出したくない…。

外でばったりとか無いって言い切れないし…。

 

「サラダぁ? 家で作っておくのでも良いんならすぐできるけどなんでそんなややこしい注文を…」

 

買い物に行かなくっても種類が欲しいなら生野菜でもポテトでもドレッシングと和えてあるタイプでも和風のでもいくらだってバリエーションを揃えられる。

ドレッシングだってこの家に有る調味料で3、4種類はすぐに作れる。

 

だから外には行きたくない!です!!

 

「近く短編を1本描くんだが、登場人物の1人をベジタリアンにする予定なんだ。 自炊をしないタイプの人間にするつもりだから既製品じゃないと意味が無い。 容器の形なんかもしっかり見たいからな」

 

あー、はい…。

仕事の資料なら仕方ないね。

ちゃんとした理由が有るのに雇い主相手にごねるほど厚顔じゃないからね。

 

…はぁ、リアリティの追求者ってのも大変だなぁ。

 

「別にチキンやハムが入ってても良いから最低3種類だけは守れよ」

「ベジタリアンなのに?」

 

まあ、ベジタリアンと一口にいっても完全に動物性タンパク質を受け入れない人から少しなら食べる人までピンキリらしいけどね。

でも露伴先生がわざわざベジタリアンって言うんなら、それなりにしっかり?したベジタリアンだと思ったし意外性な感じがする。

 

「分かって無いナァ。 入ってるのをどうやって避けて食べるかまでをシミュレーションするんだよ。 とにかくそれだけやっといてくれたら後は好きにして良いから、邪魔だけはしないでくれよ」

 

なるほどー、そういうのがリアリティなんだなぁ。

よく分からんけど。

 

「りょーかいでーす」

 

まぁ、日が明るい内に洗濯物を干しておきたいしそれが片付いてから買いに行こうか。

 

 

 

そんなこんなで家事を終わらせると外はすっかり西日になっていた。

とりあえず行った覚えのあるコンビニ、オーソンに向かう。

バスを待つのがかったるいのでそのまま歩いて行くと、ちょうどオーソンの前で康一君とはち合わせた。

 

「あ、京さんあれから大丈夫でした?」

「やあ、康一君。 私はまぁ、なんとか致命傷で済んだよ」

「…………、全然大丈夫じゃなかったんですね」

 

流石康一君飲み込みが早い。

 

「1番の問題は大丈夫だよ。 私が敵のスタンド使いの刺客じゃないとは思ってもらえてるみたいだから」

「それなんですが、何故そんな事態に? 怪しまれるだけならともかく、明確に敵と思われていると京さんが思ったからこそあそこまで取り乱したんじゃないですか?」

 

康一君鋭過ぎるわー。

そりゃ承太郎も康一君だけは君付けになるわけだね。

 

「うん、それにはかなりの深い事情があるんだけどね。 まず康一君はどこまで私の事情を知ってるのかな? 仗助君と同じぐらいだとは思うんだけど」

「えっと…それはどういう…」

「君達、私がここをどう認識してるか知ってるよね?」

「……はい」

 

誤魔化しても仕方がないと観念したのか申し訳なさそうに頷く姿を見て露伴先生は康一君の爪の垢を煎じて毎日飲めと思った。

わりと真剣に。

 

「聞いたのか……読んだのかはあえて聞かないけど…」

「すみません…」

「いや、どうせ悪いのは露伴先生だと思うから気にしないで。 まぁ、それでね…」

 

軽くDIO様の件を説明したら沈痛な面持ちで

「それは…ご愁傷様でした…」

と労われた…。

優しさが…沁みる…。

 

「そういえば京さんは何でこんな時間から外に?」

立ち話の間にも影は伸び、空の色が朱くなってきた。

 

確かにどこかへ行こうなんて時間じゃあ無いね。

まあ用が有るのはそこのコンビニなんだけど。

 

「露伴先生のおつかいでね、漫画の資料にコンビニサラダを最低3種類買って来いってね」

「へえ、資料ですか」

 

何となく流れで一緒にコンビニに入りサラダコーナーに行くと、運悪く棚はスカスカ…。

有ったのは1種類だけだった。

私的にはコーンサラダという名の容器に詰まったコーン粒だけのこれをサラダにカウントするのは微妙なラインだけど商品名にサラダが含まれてるからこれはサラダで良いよね露伴先生にはそれでごり押そう。

 

並んだレジで店員に声をかけて仕入れ時間を聞くとまだだいぶ先の時間だった。

待ってられる訳もなく、とりあえずコーンを買って外に出る。

 

「コンビニハシゴ決定かー…」

「京さんこの辺りの地理は大丈夫ですか?」

「遠くなるけど駅の方に行けば有るでしょ」

「でも駅の方が商品が無くなるの早そうじゃないですか?」

「うーん、仕入れ数が勝るか客足が勝るか…どうだろう」

 

付き合って一緒に考えてくれる康一も良い子だなぁ…。

たださぁ…、刻々と傾いていく日に照らされる康一君は少なくとも高校生かそれ以上なはずなんだけど、なんか…見た目的なアレで、いやねカッコ良くて頼りになるのは分かってるんだけどさぁ…

 

「駅とは方向が少し違いますが、あっちにもオーソンが有りますよ。 案内しましょうか?」

「いやいや、もう遅い時間だから康一君は帰りなよ」

 

これ以上遅い時間まで連れ回すのが憚られる見た目なんだよねぶっちゃけると!

頭では分かってるんだけど視覚的情報が夕日と相俟った相乗効果で気持ちがアウト!

小さ…小さいんだよ康一君!

一瞬躊躇ったけど小さいんだよ!!

器も背中もでっかいのは理解してるんだけどそれはそれこれはこれなんだよ!!

 

「でも女の人が1人で慣れない場所を」

「康一君。 君は男女で考えるけど、私は大人と子供で考えるから平行線を辿るしか無いよ。 君は未成年だし、一緒に来て遅くなった結果家の前まで送られるのは嫌でしょ? 帰りはバスを使うし、簡単に場所を教えてくれたら大丈夫だから」

「そう、ですか。 わかりました。 この道を真っ直ぐ行って…」

 

矜持を傷付けないようにやんわりかつ断固として引かない姿勢で構えれば、康一君はすんなりと道を教えてくれた。

こんな良い子息子に欲しい。

相手も予定も微塵もないけど。

 

……なんか宝くじ買わずに宝くじ当たらねーかなーって言ってるようなものだねこれ…つらたん…。

 

 

 

くだらないことはさておきそのままお礼を言って別れ、教えてもらったオーソンに向かう。

 

もしそこにも無かったら駅に向かおうと思ってたけど、幸いそこにはさっきのオーソンには無かったサラダがちょうど3種類有ったので3個のサラダと適当に食べたくなったおにぎりやサンドイッチ、炭酸のペットボトル、ついでに食べながら帰ろうとアイスも買って外に出た。

 

 

横着して歩きながらアイスの袋を剥いて腕に通した袋にゴミを入れようとしたらスルリと逃げられ、しかもうまい具合に風に乗り逃走を続けたそれは脇道に入っていく。

 

やけにスルスルと地面を滑る袋を追い掛け、足で捕まえたそれを拾おうと屈んだ瞬間。

 

 

 

後ろから、私を呼ぶ、声がした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幽霊の小道

承太郎達が帰った後、露伴は沸き上がるインスピレーションを余さず己の物にするため仕事部屋に籠もることを決めた。

 

改めて聞いたものだけでなく、初めて聞いたものも多々あった京の話とあの空条承太郎の狼狽した姿。

そして思いもよらなかった京の醸し出した威圧。

それらが露伴の創作意欲を刺激して止まなかったのだ。

 

あれだけの近距離で笑顔の怒りを体験できたのは非常に良い誤算だった。

漫画的に表現するなら背後に般若が浮かんでいただろう。

 

京が聞けば『反省!しろ!』と言いそうなことを考えながら露伴はペン先を走らせる。

 

異世界人で、この世界を漫画の中と認識し、男同士の恋愛を好む。

それ以外は多少一風変わった家庭に住んでいようと極々つまらない人間だと思っていただけに、新しい発見は露伴にとってちょっとしたお得感のようなものを感じさせていた。

 

というよりは、落ち着きの無さから社会人ではなく大学生だと決め付けてそれ以上の個人情報に全く興味を持っていなかっただけに今更知ったことがやけに面白く見えてきているというのが正しい。

とにかく今後は今までよりも様々な方向から遊ばれることが確定したわけである。

 

 

 

そして…気が済むまで紙を埋めた露伴が部屋を出たのは次の日の昼などとうにこえ、夕方に差し掛かろうとする頃だった。

京が買ってきたであろうサラダを資料兼食事にするつもりで部屋を出て、キッチンに向かう。

 

 

しかし、開いた冷蔵庫の中にサラダは無かった。

 

調理台やダイニングテーブル、果てはリビングのテーブルまで見ても置かれてはいない。

 

買ってくるのを忘れたのか、昨日の露伴に対する抗議活動か。

そう思い苛立ちが募った露伴は、それをぶつける先である京を探す。

 

しかし家のどこにも京は居らず、露伴は電話に足を向けることとなった。

 

 

承太郎へ京が消えたことを伝えた露伴は、人手を求め康一へと電話を掛ける。

 

露伴は事件や事故に巻き込まれる以外、京から進んで姿を消す理由が無いと確信していた。

丁度買い物に出掛けているという可能性も有ったが、完全に乾いた状態ではためく洗濯物と食器かごに置かれたままの4つの椀。

片付けられていないそれらが告げる不自然さを露伴は見逃さなかったのだ。

 

露伴が知る限り渡利京はかなり几帳面な性分だ。

食事を食べる時には調理器具の一切合切が既に食器かごに入り、食後1時間も経たないうちに全てが収納場所に片付けられている具合である。

洗濯物に関しては昨日からだと断言できないが、少なくとも乾いた食器を丸1日放置するような人間ではない。

更にゴミ箱の中も確認したところ1番上に吸い物の空袋が有ったので、あの後一切の食事もしていないことになる。

 

おかしなことに巻き込まれたと露伴が考えるのも道理であった。

 

 

 

『ええっ!? 京さんなら昨日の夕方オーソンで会いましたけど…まさかその後に!?』

 

そしてなんという偶然か、昨日の夕方に康一はサラダを買いに出ていた京と会ったという。

康一が購入を見届けたサラダが家に無いことから少なくともその後帰ってきておらず、露伴の見立て通り行方知れずになってから丸1日近く経っていることが確定した。

 

もう一度承太郎に連絡しなければ…と考えながら更に詳しく話を聞いた露伴は、京が次に向かったというオーソンがどこか理解すると同時にとある可能性に気付く。

もうどこにもいない少女の面影とともに。

 

「そこは、例の小道近くのコンビニかい?」

『そうです。 っ、まさか…』

「鈴美が成仏してから全く見なくなったが、無くなったかどうかは分からない。 世界を渡ってきた彼女なら、もしかすると…」

『そ、そんな! 僕、そんなつもりは』

「落ち着きたまえ康一君。 振り返ってはいけないことを知らない、なんて可能性は限り無く低い。 少なくともあの道は、僕らにとって吉良吉影を見つけるためになくてはならない存在だった。 それだけ重要な部分なんだ。 世界を渡る体質のせいで出られなくなっているだけで、まだそこに居るかもしれない」

 

昨日の話でも出てはいなかったが、以前聞かなかった話も新たに幾つか出ていたので思い出せず話さなかっただけかもしれない。

勿論知らない可能性が低いだけで、ありえないとは言えない上に、出られなくなる理由も憶測でしかなかった。

 

それでもそんなことを言ってしまったのは、自身を責める親友を慰めたかったからに過ぎないのだ。

 

 

誰に言うでもなく心の中で御託を並べた露伴は康一に承太郎もしくは仗助への連絡を頼み、返事も聞かずに電話を切った。

 

 

着いたその先、乱れた呼吸を鎮めようとする露伴の目に映るもの。

あの日を境に消えたと思っていた例の小道が、さも当然のような顔をしてそこに在った。

 

 

 

 

そしてその道からスタスタと京が出てくる。

 

「うわっ、露伴先生!? え、どうしたんです? もしかしてサラダ急ぎだったとか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

岸辺露伴は後にこう語る。

『あの瞬間から僕は彼女に対する容赦が無くなった』

と。

 

そしてそれを聞いた人間全てが

(それまでは容赦してるつもりだったのか…)

と内心驚愕していたことを本人は知る由もない。




誤字報告をしてくださる方、ありがとうございます。
自身でも投稿前に何度も読み返してはいるのですが気付かないだけでなく誤用している漢字等も有り、作品を読み込み訂正してくださる方がいるのは本当にありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

落ち着けない高校生

露伴が京を見つけた頃、2人の高校生が岸辺邸の前に佇んでいた。

 

康一の連絡により現状を掴むことができ、少なくとも足取りが掴めたことと、下手に追い掛け擦れ違いが起こるよりは露伴が帰ってくるのを待つ方が確実だとなったからだ。

 

こうなったのは自分の責任だと感じ不安そうな康一。

待つだけとなったことをもどかしく思い落ち着かない仗助。

 

一方承太郎はどこに居るのかというと、岸辺邸への道中で掛かってきた電話によって仗助だけを向かわせどこかへ消えた。

 

何の説明もなく

「後でそちらへ向かう」

とだけ告げて承太郎が別れたことにより、頼れる大人が居ない2人は寄る辺無く待つしか出来ないのだった。

 

 

「京さん…大丈夫かな…」

「まぁ…ミヤコのことを1番知ってる露伴が大丈夫っつったんなら、大丈夫だと思うけどよぉ…」

「僕が一緒に行ってれば、こんな事態には…」

 

もう少し自分が食い下がっていれば或いは…、と思わずにはいられない生真面目過ぎる康一の顔色は悪くなっていく一方だ。

仗助自身も不安や心配で精神的な疲労を感じてはいるが、目の前で深く落ち込んでいく康一を励まそうと慌てて口を開いた。

 

「お、おい、落ち着けよ康一。 こればっかりは誰が悪いっつー話じゃ無ぇだろ。 それにお前、前あの小道で露伴に助けられたっつってただろ? そんならそん時みたいによ、露伴がミヤコを助けるかもしんねーし、お前が気に病んでどうにかなるっつーワケでもねーし…、っや、ほら気にすんなよってことなんだけどな! ミヤコはなんつーか、ほら、露伴相手に引くどころかグイグイ行くぐらいしぶといヤツだから、案外けろっと帰ってくるかもしんねーからよっ!」

「…うん、そうだよね。 ありがとう、仗助君」

 

やや微妙な発言も含めてそれが友人の心遣い故だと分かる康一は、気が楽になるのを感じ弱々しくはあるが微笑みを浮かべた。

仗助も自分の拙い言葉で友人が僅かでも気を取り直したことが分かり、自分自身の不安が軽くなったような気持ちになる。

 

うまい具合に気持ちの整った2人は、無意識ながらもそれを保つために軽口の応酬を始める。

落ち込んでいるよりは、空元気と紙一重であろうとそうしていたほうが遙かに良い。

 

その内容が専ら京の言動のことであったのは、恐らくそれがネタとして新鮮だったからだろう。

 

.

.

.

「ええっ! 弟さんとの喧嘩で骨折!?」

「らしいぜ。 どんだけ殺伐としたキョーダイなんだろーな」

 

.

.

.

「京さんは多分、何もなければ普通の大人の人なんだと思うんだけどなぁ…。 初めて会ったときや昨日なんかは、本当に普通の人だったんだよ。 状況と、相手が悪…難有りなだけでさ…」

「康一が言うんならそうかもしれねーけど、なんかもうイメージがなあ…」

 

.

.

.

「チコっと思ったんだけどよぉ…」

「どうしたの? 仗助君」

「アレだよな、露伴とミヤコってよ…ああ見えて一応大人の男と女なんだよな?」

「……あぁ…」

「……なぁ…」

 

「「無いなぁ」」

 

他言して欲しくなかったであろう姉弟喧嘩の話や、完全に変な人間としてイメージが固まった京へのフォローはともかくとして、直接的な表現が無いにしてもだいぶ失礼な上に当人達に聞かれたら怒られそうなことを言う高校生達を咎める大人はどこにもいない。

だが、男女一つ屋根の下というシチュエーションだと今更ながらに認識された上で箸にも棒にも掛からないと思われる2人も大概である。

 

 

「何の話をしているんだ?」

「「承太郎さん!?」」

 

そんな中漸く現れた大人だったが、てっきり来るとすれば駅の方からだと思っていたことも有り真逆から声をかけられた2人は体が跳ねるほど驚いた。

 

「何でそっちから…、ん? そっちの人は誰ッスか?」

「うちのスタッフだ。 1人でここまで来れると言っておきながら迷ったと連絡をしてきてな…。 下手に駅から離れたせいで目立つ目印も無く、おかげで手こずったぜ」

「やー、大丈夫だと思ったんですけど。 でもほら、目的地には近かったじゃーないですか」

 

細い体躯の男が承太郎のすぐ隣で佇んでいたことに驚く2人だが、その態度により驚かされる。

畏まった様子が無いどころか、迷惑をかけた上であまりにも気安い。

これが承太郎よりも遙かに年上であれば年功序列によるものかと多少は納得できたかもしれないが、むしろ承太郎より仗助達の方が歳が近いと思えるほど若いのだ。

 

承太郎も多少は腹に据えかねるのかその頭を軽く叩いてはいたが、あまりにも承太郎相手にそぐわない態度に仗助と康一はたじろぎ何も言えないでいた。

 

そんな2人に気付くことなく、承太郎はまだ露伴が帰っていないことを確認すると男に声をかけた。

 

「先生が帰ってくるまで動きようが無いな。 おい、持ってきた資料を出せ」

「あ、それはねー…、あー…、例の人が居ないことにはちょっ…あっ! アレ、あそこの!」

「っ!! 露伴先生! 京さ…京さぁぁぁん!?」

「ちょっ、みっミヤコォォォーッ!?」

 

全員が男が指し示す先へ視線を向ければ、確かにこちらへと向かってくる露伴と京の姿が有った。

京の無事が分かり、喜び勇んで迎えの声をかけようとした高校生の言葉は残念ながら驚愕の叫びへと変わったが、無理もない。

 

「オイオイオイ待てよどこに行くんだ!?」

 

京はこちらを認識した瞬間無言で進行方向を180度変更し、全速力で走り出した。

突然のことに露伴も呆気にとられ、手を伸ばすこともなく後ろ姿を見送るしかない。

 

何の返事も無くとてつもない勢いで角を曲がり消えた京だったが、その逃亡劇はすぐに終わった。

 

「のわっ! は? あ? え? ……ぎゃーっ! 高い! びくともしない! え…、マジでびくともしない…怖い…」

「何故逃げようとしたのか、じっくり聞かせてもらおう」

 

京が承太郎に俵担ぎされ角から姿を現したことにより、スタープラチナ・ザ・ワールドが使われたことは明白。

そして京は急激に視点が変わったことよりも、それに混乱し暴れても揺るがない拘束に恐怖を感じすぐに大人しくなった。

 

「え? は? え? 今承太郎さん…、え?」

 

目の前に居た承太郎が消えたかと思えば遙か遠くの角から現れたことに激しく動揺する姿に、康一は後ろに立つ男が承太郎のスタンド能力、もしくはスタンドそのものを知らないと気付く。

 

しかし康一が落ち着かせようと声を掛けるよりも、男が叫ぶ方が早かった。

 

「しゅ、瞬間移動? いや、つーか……

 

ねーちゃん何で逃げてんだよ!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ありのまま今起こった事を話す。

「死んだと思っていた弟が生きていた」

…何を言っているのかわからないと思うけど私自身も何が起こってるのかわかってない。 たぶん頭がどうにかなってる。 催眠術だとかスタンド能力だとかじゃなく幽霊だと決めつけたらそんなチャチなもんじゃあ無かった。 生きてる人間がもっとも恐ろしいとかいうけどたぶんその片鱗を味わった気がするし私をトリップ主人公と仮定するなら設定詰め込み過ぎだろこれ…。


「君なあ! サラダ買ってくるだけにどれだけ時間かけてるんだよ! これぐらい5歳児だって出来る仕事だぜ!?」

 

露伴先生激おこなう。

幽霊の小道から抜けたと思ったら露伴先生が居てすごい怒ってて何がなにやらわからんのだけど、私が察せなかっただけで家事なんぞ後回しにして早くサラダを買ってきて欲しかったでファイナルアンサー?

 

「えぇー…。 明日の昼まで声をかけるなって言ってたしそんな急ぎだとは…」

「僕がそう言ったのは昨日だ!」

「…………きの…っ、ぁ!? は? え? き、昨日ぅ!?」

 

つまり私は丸1日、あそこに居たと?

そんな馬鹿な…。

いや、嘘だとは思ってないよ。

ここまで怒ってる露伴先生を目の前に疑うわけが無い。

 

なんというか正直そんなに時間の流れが違うとは思わなくって驚いただけでね?

 

「とにかくさっさと帰って承太郎さんに連絡するぞ! 君が消えたって伝えたからもしかしたら逃げたと思われて詰問されるかもしれないが僕は知らないからな!」

「え、え、あ、ぅ…。 ご、ご心配おかけしました」

「ハアアァァァー!? 誰が! 君の! 心配を! するっだってぇ!? 思い上がりも甚だしいぞ! 君がかけたのは迷惑だ! 馬鹿を言ってんじゃあないよ!」

 

 

後から思い返したときは字面だけで考えたらツンデレっぽかったなって思ったけど勘違いしてはいけない……ガチギレだった。

普通にマジで怒ってるから茶化す気にもなれないぐらいのキレっぷりにひたすら小さくなるしかなかったし、後になっても当人を前には笑い話にできないレベルのお怒りだったからね。

 

露伴先生があれほど怒ったのはその後1回ぐらいしか見てない。

 

 

「も、申し訳ございません…」

 

ひたすらに、ひたすらに小さくなって露伴先生の後ろをついて歩く。

無言の露伴先生怖い。

怒りのオーラ半端ない…。

 

というか丸一日あんな所に居たという事実もヤバい。

すぐに通り抜けずに居ただけで丸一日っておま……浦島太郎先輩に鼻で笑われそうなプチ竜宮城だね!

ゴミが亀の代わりなの?

もっと可愛い猫ちゃんとかにして!

 

いやもう本音を言うならもう二度と出てこないで欲しいんだけど正気度ロール回してる間は知能指数低下させないとチェック失敗した瞬間即発狂しそうになるので許して…。

 

とにかく私は背後に這い寄る混沌さん(仮)から無事逃れて正気も保ってるよ!

 

 

バス停に着いた露伴先生は時刻表を見て舌打ちをするとそのまま歩き出す。

たぶんバスが行った直後なんだろうね時計の無い私には時刻表を見てもわからんけど…。

 

ふと何で露伴先生ケータイで空条博士に連絡しないんだろうと思ったけど、よく見たらケータイどころか財布も持ってないね…。

ああ、本当に心から申し訳ない…。

 

あそこに来たってことはたぶん康一君から聞いたんだろうけど、あのオーソンが小道に近いって気付いて急いで来てくれたんだとしたら、そら私が呑気に出てきたらキレるのもしょうがないよね…。

 

今日はもうひたすら、ひたすらにもう本当にひたすらに大人しく謝罪と報告をしよう…。

他の人がソファーに座ってる中カーペットを避けてフローリングの上で正座するぐらいのつもりで反省の意を示そう…。

 

 

バスを使わないとそこそこ時間がかかる道を歩くペースは始めの方こそ置いて行かれそうな勢いだったのが、今では普通の足取りに戻っている。

むしろ私の普段のペースよりも遅い。

露伴先生は周囲を観察しながら歩くのが癖とかで歩くのがゆっくりな気がしないでもない。

それにしたって空条博士に連絡とか言ってたんだからもっと急ぎ足になりそうなもんだけど。

 

「ナァ」

「はい」

 

まあ、何か帰る前に話があるのかなーとは薄々察してましたはい。

 

「君はあの道が何か知ってたのか?」

 

幽霊の小道の話はしなかったもんなぁ。

私が知ってることをちゃんと話してればここまで迷惑かけなかったのだろうか。

 

「どこかのオーソンの近くにあの道が有るのは知ってましたが、入って後ろから声を掛けられるまでは存在すら忘れてました」

「鈴美のことは知ってるか?」

「…はい」

 

一瞬レイミって誰かと思ったけど、アレだね……スズミさんじゃ無かったんだね…。

ずっとスズミさんだと思ってたわ…。

 

まあ、す…鈴美さんのことはむしろ知ってるからこそ話さなかったんですが。

 

「どこまでだ?」

「吉良吉影に殺された女の子、ですよね」

 

そして露伴先生は鈴美さんに助けられたけど、鈴美さんのことを覚えていなかった。

 

「鈴美の話が出なかったのは忘れていたからか?」

「……部外者が知ったように語るのを憚られる話は出してません」

 

故意に話さなかったのはアヴドゥルさん、イギー、花京院の最期。

そして仗助君のお祖父さんと億泰君のお兄さん、鈴美さんのことだ。

 

嘘や誤魔化しはできずとも、黙秘というのはできる。

露伴先生に掘り下げられない限りは、死が絡む話をしたくなかった。

私が語るのはキャラクターの話だけど、ここにいる人にとってそれは身近な人の死の話だ。

軽々しく口にできるものじゃない。

 

「僕らには故意に話さなかった。 道に入ったのは偶然、ということか」

「はい。 落としたゴミが風に流されて、それを拾いに入ったのがあの道でした」

「誘われたのか、偶然か。 ……ナァ、君さっき声を掛けられたって言ったよな」

「はい」

 

ああ、流石露伴先生。

聞き流さないんだなぁ。

 

「声を掛けられて、幽霊の小道を思い出した。 君、誰に何て声を掛けられた?」

 

 

「……若い男の声で、『ねーちゃん』と…。 ……弟は2年前に海で…」

「…そう、か」

 

露伴先生は、何も言わず歩き続けた。

 

 

 

口を噤んだ露伴先生の背中に構わず零すように言葉を続けたのは、慰めが欲しかったのか、ただ話すことで整理したかったのか…。

少し感傷的になり過ぎていたのと、そんな自分に酔っていただけのような気もする。

 

ただ…そんなセンチメンタルが消し飛ぶようなことがこの数分後起こるなんて微塵も思わず私は語っちまったんだよなぁ~。

思い返すだけで奇声を上げたく…。

あぁ~、(ちゅら)過ぎる…。

 

 

「そのたった一言だけなら道を抜ける前に振り向きたくなったかもしれないんですが、最初の声を皮切りにいろんな声が私を『ねーちゃん』って呼ぶんですよ。 私にはいったい何人の弟がいたんだっていうぐらいずーっと呼ばれて、ふと思ったんです。 弟の声、どんな感じだったっけ?って…。 あは…まだ全然、3年しか経ってないから忘れてないつもりだったんですけど、幸がどんな声だったのかもう分からなくなってるって気付いて…。 いやー、ははは……なんか、聞いてれば思い出せるかなって思ったら、抜けられなくて…。 あ、でも流石に丸一日なんていなかったですよ! でもたぶんそれが原因ですね。 まあ、皆さんに迷惑を掛けたのは本当に申し訳ないと思うんですけど今回のこれでちょっと弟のこと吹っ切れたっていうか…まあ、忘れていくものなんだなって、納得できたというか、まあ、あの、そういう感じでした、はい」

「……。 ふん、お涙頂戴の話で承太郎さんが誤魔化されてくれるかは知らないが、康一君や仗助なら同情してくれるかもな。 言っとくが僕は誤魔化されてやらないからな。 この借りはきっちり返してもらうから、忘れるんじゃあないぜ」

「えぇー…。 いや、まあらしいっちゃらしいですけど…」

「貸し1つ、忘れるなよ」

「……、あぁ。 あー、はい。 分かりました。 憶えておきます。 返すまでは」

 

なんかね、このまま終わってたらね、ものすごくこう…なんか銀魂のシリアス回みたいな感じで終わったかもしれないんだけどね、残念ながらそうは問屋が卸してくれなくってね…うん。

 

角を曲がって露伴先生の家が見える道に出たら家の前に人影が(たむろ)ってるのが見えて、影の大きさ的に康一君と仗助君と空条博士がいるな~、って思ったところに空条博士の影から幸がひょこっと出てきたら本気で逃げるに決まってるんだよなぁ~。

 

化けて出てきたと思うのもしょうがないと思うんだ。

 

吹っ切って忘れるとか言ったから化けて出てきたのかと思って思わず逃げたら確実にスタンドを使ったであろう空条博士に俵担ぎされてて私の小鳥のような心臓が10羽ぐらい飛び立ったし、混乱して結構暴れたつもりだったんだけど万力の如くガッチリ固定されてびくとしなかったし空条博士マジゴリラ。

 

 

 

「ねーちゃん!」

「分かった分かったまず落ち着いて成仏しろ話はそれからだ」

「それ話す気ねーじゃん!」

「おい、どういう状況なんだこれは。 ミユキ、説明しろ」

「いや、これ俺のねーちゃんなんですよ」

「待って待って待って待って何で空条博士幸をミユキって呼んでるんですかむしろこれはこの世界の私の弟でパラレルワールド的な感じで私の弟であって私の弟じゃない的な話?」

「ねーちゃん何言ってんの? 2次元への憧れが過ぎてトチ狂った感じ?」

「えー無理もう無理意味が分からん待ってお前が本当に私の弟の幸ならそれを証明する元の世界の話なんでもいいからしてみて現在未発行の漫画やアニメでも家族の話でもなんでもいいから」

「えー。 あー、ほらアレ。 ねーちゃんが俺を殴って骨を」

「おいやめろ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

に、偽物の可能性が有るから…(震え声)

「やべー! マジでねーちゃんじゃん! やべー! 本物!? うわー、マジでねーちゃんですよ承太郎さん! やばくないっすか!?」

 

幸との会話が始まった辺りで地面に降ろされたことにより目の前でしげしげとこっちを見下ろしてくる幸(暫定)がお前それでも成人男性か?というレベルの発言しかしなくてたぶんコレより康一君の方が100万倍賢い。

 

「やべぇのはお前の語彙力だよ…。 というか何? 空条博士グルなんですか?」

「いや…、こちらも現状を理解できていない…」

 

空条博士にこの状況について聞きながら顔を窺おうとして速攻で諦めた。

逃走防止にがっちりと掴まれた肩が示すその至近距離から空条博士の顔を見るには身長差が有り過ぎて首が…。

 

声音やさっきのやりとりから空条博士も想定外らしいのは顔見なくても分かるし首痛いしふと確認したら私の目線に腹が有るんだけど…わあ、ゴリラ大きい…。

 

152cmと195cmのリアルな差ってこの距離で体感すると普通に怖いしそれを知る前から空条博士は怖い。

 

「つーかねーちゃんがなんか際どい情報知ってるとか承太郎さんが直々に動いたとか色々聞いたんだけどさー。 何でねーちゃんがそんなこと知ってんのか俺もわかんねーし、皆にすげー詰め寄られたし、むしろ俺のが説明して欲しいんだけど。 てか見た目はマジだけどマジでマジのねーちゃん? そっちこそなんか証拠的なのねーの?」

「その思ったことをそのまま垂れ流すの外ではやめようって何度も言ったよね? 家では良いけど外でそれは他人のフリしたくなるからやめなさい。 証拠になるかはわかんないけどお前が中3にもなって蝉ファ」

「わーっ! 待った待った待った! わかった! 本物! お許しくださいお姉様! 疑ってしまった愚かな愚弟をお許しください!!」

 

その慌てようと変わり身の早さに向こうで康一君と仗助君が驚きの声を押し殺そうとしたのが聞こえた。

つまり全然隠せてないし表情が声よりも雄弁に語ってるし露伴先生が『ほほぅ』みたいな感じでこっちを観察し始めたのが見えてるけどとにかく先ずは目の前の幸だ。

自分がオリジナルなのか疑わなきゃいけないスタンドという何でも有りな世界ではたしてこれは本当に弟なのかそれとも何らかのスタンドが作った偽物なのか…。

 

これで偽物だった場合私の闇落ちが確定するんだけどしても何もできんし闇落ちでスタンド覚醒したら速攻でオラオラからのご臨終なオチしか見えんし私に対しては空条博士のワンパンで十二分にオーバーキルだしどう足掻いても絶望だし…。

 

「愚かな愚弟ってお前、頭痛が痛いとか音速のソニックみたいな…」

「あー、なんだっけ、ワンパンマンだっけ? 遠足のピクニックさんが出てくるの」

「何でお前は頭良いのに馬鹿なんだろうね? 無駄にうまいこというのやめろ意味も合っててちゃんと韻も踏んでてちょっと感心したけど今はもう一撃男から離れて久しいから呟く相手がいないんだよもったいないと思わされたことが腹立つわ…」

「主人公のハゲが強過ぎることと、ねーちゃんが好きなキャラが単眼とサイボーグとゾンビだった記憶しか無いわー」

「何でそんなこと覚えてるんだよ。 自分が気に入ってたシルバーファングとかを覚えてろよ」

「少年漫画は流し読みしかしねーもん。 ねーちゃんが無駄に語ってくるキャラぐらいしか記憶に残んねー」

「……そう…。 もしお前が偽者だったら中の人すごい頑張ってるなぁ…」

「何で俺が疑われてんの!? 今全然そんな流れ無かったじゃん!?」

 

いやもう本当にこれ偽物だったらスタンド使い本当になんでもありだなぁ…。

 

というか本物だったとして何でここにいて生きとったんかワレ!展開になってるのか疑問が尽きないし偽物には思えないけどこんなのが弟だとこの状況で認めたくない。

姉としてはもう少し賢そうな登場をして欲しかった…。

そんな登場してきたら偽物確定だけど。

 

「想像を超える姉弟関係だぜぇ…」

「ものすごく濃い繋がりを感じるね…」

 

康一君と仗助君の顔がもうアレっていうか違うよ幸はともかく私は状況が悪いだけで普段は真っ当に大人してるよ本当だよそんな目で見るのやめて!!

 

「……こ、コレが私の弟であるという決定的な証拠はまだどこにも無いから…」

「今この場で君らが姉弟じゃない可能性が有ると思ってるのは、間違い無く君だけだぜ」

「いやだってふわっとしか知らないけど3部にも4部にも姿をコピーする的なスタンド出てたしスタンドって何でも有りだしそう簡単に生きてたって納得して感動の再会とはいかなくて当然というか」

「今この場で君らが姉弟じゃない可能性が有ると思ってるのは、間違い無く君だけだぜ」

「何で2回も同じこと言うの」




読んでくださる方々大変お待たせしました。
申し訳ないのですが諸事情により3月半ばを過ぎるまで更新不安定が続きますが今後もお付き合いいただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

英語の成績? さんきゅー(Thank you)までならなんとか

流石にこれ以上往来でくだらない応酬を続けられないと思ったのか、露伴先生が家に向かって歩き出したのでその後ろを全員でぞろぞろとついて行くかたちとなった。

 

家に入ってから気付いたんだけど高校生2人は時間的に帰宅を促すべきでは?

 

そう思って声を掛ければ家に電話をしてあっさりと外泊許可を貰い『話を聞くまで帰らないぞ』という感じに構えられる。

 

仗助君だけなら露伴先生が追い出したかもしれないけど康一君が居るし心ぱ…迷惑をかけた手前ここからは関係無いんだから帰れとは言えず…。

 

昨日のようにテーブルを挟んだ向こうに仗助君と空条博士が座り、私が露伴先生の隣に座ればあとは当然あっちに幸が座ってこっちに康一君を呼ぶ形になると思うんだけど

 

「お前が座るのはあっちでしょうが」

スパンッ!

「痛ってー!」

 

空気を読まずに私の隣に座ろうとした尻を叩いて向こうに行かせようとしたら周りの目が刺さる刺さる…。

思ったよりも大きな音が鳴ったせい…?

コイツが大袈裟に痛いって言っただけでコレ全然痛くないからいや本当に何でそんな目でこっち見るんすかね…。

 

「アタシのキュートでハニーな尻な軽々しく触らないで貰えますぅ!?」

「うわぁ…」

「おえ…」

 

康一君も仗助君もドン引きしてるんだけどごめんねうちの弟家でも外でもノリが変わんないんだ…。

 

「健全な青少年の前で不気味な本性を晒すのやめなさい」

「本性じゃねーよ!! 人前でスパンキングしたねーちゃんが悪いだろ今の!」

 

あのもしかしてさっきの視線そういうことだったりする?

教育的指導であって君達だって小さい頃は……いやコイツももう小さくは…無いけど……無駄にデカくなっただけで中身は…ほら、ね…?

う、うちはうち余所は余所なんで!!

 

「スパ…悪ガキのケツシバいただけのことを卑猥な表現するのどうかとねーちゃんは思うよ。 そもそも何でこっちに座ろうとしたの」

「別に弟が姉の隣に座るのは普通だろ!?」

 

座るに座れずいつのまにか康一君は仗助君の傍らに移動していたようで、視線の端に『悪ガキ…?』『見た目によらず歳の差が…?』とボソボソ呟きながらわりと明け透けにこっちを見る高校生が映った。

そして露伴先生は家に入ってからというもの野球延長のせいで見たい番組がなかなか始まらないみたいな顔をしてるんだけどそんな顔するぐらいなら何か言って。

というか空条博士は今すぐ幸の手綱を引いてそっちで管理して。

 

「お前は今空条博士側の人間なんだからあっちに座りなさい」

「あっち承太郎さんとデカい方の子が座ってて既に超狭いじゃん! サイズ的にXL XLであっちに座ってんだからSSの子があっちに行ってM SのこっちにLの俺が来るべきだろ!」

「殊勝なこと言っときながらそっちが本音かよこのクソガキ! ほら! あっち行きなさい!」

 

なにが姉の隣だこの野郎腹立つわー…。

でも確かにあっちギッチギチだしそれと比べてこちらのゆったり具合よ。

仗助君可哀想に…他は知らん縮め。

 

「ちぇー、ねーちゃんのケチー」

 

ぶつくさ言いながらあっちに収まった成人男性が弟とか世も末ェ…。

これはもうケツシバかれても仕方無いよね。

 

「……あのさぁ、お前今いくつ? ねーちゃんの知る限りでも少なくとも21歳だよ? 時代は違えど時の流れが同じだとしたら今23? 確かに家で甘やかし過ぎたのは否めないけどさぁ…」

「大丈夫だって。 俺今SPWで雑務やって衣食住賄ってるけど真面目な日本人で通ってるしちゃんと社会人してるからさー」

「今ちゃんと社会人してないというかお前の隣の人SPWでVIPみたいなイメージなんだけどそんな人の隣でよくあんな姿晒せるよね」

「いやいやいや、俺向こうではちゃんとしてるから。 ね? そっすよねー、承太郎さん」

「英語で会話をしているときは普通だな。 俺しか居ないときでも英語で話せと何度も言ったが改善された試しが無い」

「やっぱ母国語の方が落ち着くじゃないすか。 タイラーには『お前は英語と日本語で言語中枢のIQが30は違う』って言われた事あるけどどんだけーみたいな」

 

タイラー誰だよっていうか日本語のときは上司相手でも真っ当じゃないことを明言されてねーちゃん弟の行く末が心配なんだけど。

 

そしてコイツが今まで英語圏にいたっていうのが分かってねーちゃんびっくりだよ。

自分がそっちじゃなくて本当に良かったわ。

空条博士は日本語が分かるばかりに幸に絡まれたんだろうなぁ…。

なんかもうほんと…うちの弟がすみません。

 

そして一生弟の賢い姿を見ることがなさそうっていうのはわかった。

 

「何で母国語の方がIQ70しか無いの」

「何で英語の方を平均値に合わせるんだよ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私の握力は53です

漸く全員が座って話が進むかと思いきや、無言で資料に目を通し始める協調性の無い空条博士。

 

そういうとこやぞ。

せめて一言『おれっち資料確認しとくから状況確認よろしくおっぱっぴー』的なことを仰々しくでも淡々とでも良いから言うのが大人としての最低限のコミュニケーションだと誰か教えてあげるべきでは?

 

私は無理。

だって怖いもん。

 

こういう経緯で空条博士のコミュニケーション能力が伸びなかったってはっきり分かったね。

現実は残酷だ…。

 

 

何はともあれ空条博士が幸の出した資料にざっと目を通すのを待つ間に簡単な自己紹介と端的な情報交換をしたところ、幸はこっちの世界に来てからSPWの超常現象調査部というところで身元預かり的な状況で、仕事の斡旋もしてもらいつつ帰る手掛かりを探していたということが判明した。

というか今までの生活全部アメリカで今回トリップ後初の日本らしいんだけど日本の海水浴場で溺れてアメリカにトリップって世界を越える過程でどんな事故があったの?

あと戸籍とかパスポートどうなってるの?

 

漫画の世界に野暮なツッコミかもしれないけど色々ぶっ飛び過ぎで白目向きそうになったわ…。

 

そして私の場合はテーブルの上に乗せたコンビニ袋から出したサラダが真夏に外気温でほぼ丸1日経ったと思えない新鮮さだったことから、この家を出てから体感2時間ちょっとという説明があっさり認められた。

それはともかくとして露伴先生が嘗め回すようにサラダを観察しだしたのはちょっと引いた。

 

あと空条博士の隣でふんふんと頷きながら聞いてた幸が幽霊の小道でねーちゃんと呼ばれた件の所で『幽霊すげー!』みたいな顔になって遺憾なく我が家のクソガキ幸っぷりを発揮してて疑うのも馬鹿らしくなってくるっていう。

こんなの世の中に2人もいらん。

 

「それにしてもお前、よく空条博士にあんな絡み方できるね。 立場とか人柄とかどれを取っても普通無理だと思うんだけどそもそも絡む機会があるのが驚き」

「だって日本語使えるってだけで話し掛けたくなるじゃんか。 スタンドって人災?を扱ってる部署のド偉い人ってのは知ってるけど、俺のいる超常現象調査部の直属上司でもないしそこまで畏まる必要性無さそうだったからさー。 俺が日本人来たって聞いて話しかけに行ってからは何でか俺が承太郎さんの対応任されるようになったし、そっからは順調に仲を深めたっつーか?」

 

……想像するにお前は仲良くなったつもりかもしれないけどたぶん空条博士はスルースキルの成長ないし諦めることにしただけだと思うよ。

あと超常現象調査部の職員ちょっと待て。

 

「それ他の職員が怖くて対応できないからお前の不敬を見逃して対応ぶん投げたんじゃない?」

 

私が言えたことじゃないけどそれでいいのか…?

私の読んできた2次創作だとSPWってジョースター家クラスタとか過激派とかバリバリ研究員っていうか承花の仲を引き裂こうとしてるか花京院をジョースター家の依頼もしくは内密で生き長らえさせてるか……よく考えると結構振り幅広いな。

スタンド関係無かったら触らぬ神に祟り無しというか畏れ多くて下手に対応できないとかなのかね。

 

「えー? 別に承太郎さん怖くなくね? 俺は承太郎さんとねーちゃんのどっちが怖いって聞かれたら迷い無くねーちゃんなんだけど。 うちのねーちゃん怒るとすげー怖いから君らも気ぃつけろよー。 言ってもわかんねーと思うけど笑顔に敬語で淡々と詰め寄ってくるのマジでヤバいから。 顔はすげー笑顔だけど背後に魑魅魍魎悪鬼羅刹背負ってっから。 例え承太郎さんでもあのねーちゃんには勝てねーと思うわ…」

 

勝てるわけねーだろ例え私が平将門だったとしても空条博士の一睨みで速攻成仏するわ。

 

「お前はねーちゃんを何だと思ってるの。 常識的に考えて空条博士に私が勝てる要素なんて何一つ無いからね。 普通に怖いわ」

「いやいや承太郎さんはちょっとでけーけど別にそこらの人と変わんねー普通のおっさんだから」

 

……言ってる事が分からない…イカれてるのか?

 

「弟が乙女ゲームに転生トリップ成り代わりの何れかをして本来の主人公を押し退けて無自覚に最難キャラを落とす女の子みたいなこと言い出した……無理…怖い…」

 

いやもう冗談抜きで今の幸の発言今年の戦慄したオブザイヤーナンバーワン確定なんだけど世界広しといえども空条博士を普通のおっさん呼びできるのコイツぐらいなのでは?

 

頭は前からアレだったけど空条博士の外見を認識した上で普通のおっさん呼びはもしかしたら私と違う世界を見てるのかなって心配になるから勘弁して欲しい。

……怖いからちょっとあとで確認しよう…。

 

「ちょっ、やめろよ気持ち悪ぃ! 例えが嫌過ぎる! 俺にそういう系の変な冤罪かけるんなら住み込み家政婦やってるねーちゃんだって『俺の槍を磨け』的な展開が有りそうじゃんか! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」

「誰がアルゴニアンじゃボケ」

「問題はそこじゃねぇぇぇーっ!!」

 

ならアルゴニアンメイドで例えるなよというか予想外の所から刺されてこっちも吃驚したから変な返事になったんだよ!

どこをどうやっても私と露伴先生がどうこうなるわけが無いしその発想は無かった!

目から鱗が100枚ぐらい落ちた気分だわ…。

 

「露伴先生もこんなのに手を出すほど好色家じゃないし失礼だからそういう発言はやめなさい。 康一君と仗助君に露伴先生が変な目で見られるようになったら責任とれるの?」

「あ、いや、大丈夫ですよ? 僕達おふたりがそういう関係じゃないって分かってますから…」

「そうっスよ! 普段の姿見てりゃあそういうのじゃねえって分かりますから!」

 

うん、あの遣り取りを知ってたらそうだよね。

ちょっと安心したけど世間の目について後で露伴先生と話し合わないとなぁ…。

まあ露伴先生は漫画に関係しなければ下らない噂だって一蹴しそうだけど。

この2人からの変な誤解が無くて良かった良かった…

 

「いやいやいやいや待った。 君達のご両親は君達の前では親の顔かもしれないけど君達が居る時点で男と女の顔も持ってるわけでつまりこの2人が夜は君達の知らな」

「幸 ち ゃ ん」

「ちょ、何で急に怒っ」

「ち ょ っ と 静 か に し ま し ょ う ね」

「あ、ちょ、まっ、承太郎さん助け、てかほらやっぱねーちゃんの方が怖…き゛ゃ あ゛あ゛ー っ ! 痛い痛い痛い痛い! 当たって…ちょっ、骨! 骨! 肩がもげ…っ、握力ゴリあ゛あ゛あ゛ー っ! 鎖骨やめろ!!」

 

ヘぃちょーが ゅってた 躾にきくのゎ ぃたみだって

このバカマヂ無理…躾ιょ



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。