俺は超越者(オーバーロード)だった件 (kohet(旧名コヘヘ))
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『執着』と『狂気』
第一話 目が覚めたら大魔王だった件


初っ端から原作とズレているので思考が明後日の方向に行ってたりします。優しい目で見てあげてください。


2135年12月24日

ナザリック地下大墳墓にてギルドメンバーがまだ集まってない状況で嫉妬マスクと運営からのとある報酬を受け取ったとき突然思い出した。

 

「俺、オーバーロードのモモンガだわ」

 

本当に突然前世を思い出したのだ。真っ先に思い出したのは、2138年にサービス終了して異世界転移するという物語「オーバーロード」。ライトノベルという名の鈍器。

 

その主人公アインズ・ウール・ゴウンがどう考えても俺なのだ。

 

小卒でサラリーマン、鈴木悟さんでユグドラシルの惡の華アインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガ何て二人もいるわけがない。

 

かなり驚いているが、多分異世界転移した「原作」の俺はもっとパニックになったはずと思うと落ち着くから不思議だ。

 

 

 

ただいくつか原作と既にかなりずれている気がする。

 

これは多分俺の潜在意識に前世の知識があったからだと思う。ちょっと振り返ってみる。

 

 

 

原作では隠し七鉱山、ワールドアイテム熱素石(カロリックストーン)の鉱山が奪われていた。

 

しかし、それは今でも現役でアインズ・ウール・ゴウンが所有する重要な資金源の一つだ。

 

鉱山を手に入れ熱素石が偶然手に入ったとき、何故か既視感と危機感を覚えた。

 

俺はワールドアイテムの20、永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)でこの鉱山が奪われることはありえるかとぷにっと萌えさんに相談したのだ。

 

答えは

 

「ありえなくはない。だけどどう考えても割りにあわない。

 

けど、とても面白い思考実験だね」

 

と悪役みたいな笑い声と共に言った。正直俺はドン引きした。

 

 

ぷにっと萌えさん主導で何やら皆を集め始めた。

 

まず全力でるし☆ふぁーさんやぬーぼーさんを煽り、超級守護ゴーレムの作成を依頼。

 

鉱山に各種課金罠等を設置したりしたのだ。

 

他にできることはないかとワールドアイテムを使った実験を行ったところ、これまで知られていなかったワールドアイテムの穴を発見した。

 

ワールドチャンピオンやワールドエネミー以外はワールドアイテムを防げない。

 

それだけでなくワールドアイテムはワールドアイテムで守ることが可能という今では当たり前の知識はおそらくユグドラシル史上初の発見だった。

 

これらの情報を元に対策を踏まえ、奪還し出すギルド対策にフェイク情報を流したりしていたら、ギルドの皆が全力で悪乗りし始めた。

 

全てが完了した時には、起こるかもしれない程度でかなりの無駄金使ってしまったとメンバー全員が後悔していた。

 

 

どう考えてもぷにっと萌えさんが悪いと思うのだが、

 

きっかけとなった自分の迂闊な発言に罪悪感を覚えた俺は、

 

「もし来たら返り討ちにできますし、最悪ナザリックの防衛戦力に転用できますよ」

 

等とフォローしたが焼け石に水のような気がした。

 

 

 

そうこうしていたら本当に永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)で

 

「1ヶ月間、使用したギルドのメンバー以外はそのワールドに立ち入り禁止」という暴挙に出たギルドが現れたのだ。

 

 

全盛期のアインズ・ウール・ゴウンが全力で魔改造した鉱山を巡る争いは一か月続いた。

 

想定以上に強く最後の一週間はどこからかワールドアイテムまで持ち出してきてビビった。

 

本当に、本当にギリギリだったが守り切った。

 

 

永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)を使わせ、余所のギルドから強奪してきたワールドアイテムを強奪したDQNギルド、アインズ・ウール・ゴウンの悪名を世に知らしめた。

 

 

「まさか本当にやってくるとは思わなかった。

 

普通20をそんな馬鹿な使い方するはずないと思った。

 

悪乗りしてしまったけど勝ったからセーフ」

 

というのはこの戦いのMVPぷにっと萌えさんの言葉だ。

 

珍しくたっちさんとウルベルトさんが一緒になってキレた。

 

 

 

戦いからしばらくして3つ目の熱素石を手に入れた頃、アインズ・ウール・ゴウン討伐隊3000人とかいう情報が流れ始めた。

 

神経擦り減すような鉱山防衛戦での経験から本気でアインズ・ウール・ゴウンがギルドの総力を挙げ戦うことが全員一致で可決した。

 

まずトップギルドに超級の防衛力情報を敢えて流した。

 

更に敵を減らすために討伐を辞めてくれれば隠し七鉱山の金属を優先的に売る取引をして討伐部隊の内部情報を入手。

 

防衛戦力に熱素石を惜しげもなく使い、敵同士で争わせる等ありとあらゆる対策をした。

 

そうした努力の甲斐があり、2000人近くまで何とか減らせた。不安が拭えなかったが。

 

 

鉱山奪還作戦時の20を使ったギルド100人はまるで物語の主人公みたいに強かった。

 

最後は強奪したワールドアイテムで強襲とか悪落ちした感が強かったが。

 

 

それの30倍の人数というのは烏合の衆とはわかっていても怖かった。

 

皆恐怖のあまり一部足が乱れ、若干ボロが出てしまった。

 

これは誰が悪いわけではないと今でも思っている。

 

しかし、その結果としてアインズ・ウール・ゴウンが討伐隊を怖がっているとバレてしまった。

 

 

討伐隊はこの戦いは絶対勝てると確信し、それを宣伝した。

 

二級装備で挑むつもりでいた討伐隊ギルドが一級装備を持ちだした。

 

当初持ちだす予定のなかったワールドアイテムを持ちだした等の情報が手に入った。

 

最後に内密で取引していたはずのとあるギルドが裏切った。

 

討伐隊はまた増え2500人にまで戻ってしまった。

 

 

これらの情報を聞いたとき、

 

何人かのメンバーが最終形態フ〇ーザ様を前にしたベジー〇のように

 

「もうお終いだ」と震えあがった。

 

 

俺は半分ヤケクソになって魔王RPで移動可能な全NPC及び全ギルドメンバーを集めた。

 

叱咤激励(やわらかい表現)し、必ず勝って裏切者に死をくれてやると意気込んだ。

 

 

士気は狙っていた回復どころか熱狂した。

 

 

ぷにっと萌えさんが「モモンガさん前世多分ヒ〇ラーじゃない?」

 

とパンドラズ・アクターを指さして笑い、俺は死んだ。

 

ぶくぶく茶釜さんから「いや、前世は絶対魔王だよ。モモンガお兄ちゃん」と揶揄われた。

 

ペロロンチーノさんは「シャルティアはあげません」とか喚き散らし姉に殴られてた。

 

 

結果、

「3000人でも守りきれたんじゃね?」と皆が言うほど圧勝だった。

 

 

 発狂したユグドラシルプレイヤーからの問い合わせに、公式が仕様と回答しながら、

 

アインズ・ウール・ゴウンに念のため問い合わせがくるくらいの蹂躙だった。

 

 8階層まで来たプレイヤーはズタボロで念の為にと奥の手まで使ったが、一瞬で溶けた。

 

8階層のあれらが本格稼働する前に全滅した。

 

最終防衛ラインの情報について討伐隊がほとんど知ることはなく、

 

一部の情報が上位ギルドに知られただけだった。

 

 

流石に上位ギルドに攻め込まれたら不味いので良かったが、

 

色々狂気染みた意気込みをしていたアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは

 

何て情けない討伐隊だと怒り狂った。

 

 

別動隊の第二次鉱山奪還隊何てのも同時進行してきたが、

 

そちらの方がギリギリで焦ったのもあったが。後から考えると理不尽過ぎる話だ。

 

 

 

その後、裏切ってくれたギルドへのお礼参りで神器級装備やらアイテム、ユグドラシル金貨を全て強奪した。

 

裏切らなかったギルドへは感謝の言葉とともに報酬をキチンと払ったりした。

 

熱素石になりうるには到底足りない量だったがとても喜んでくれた。

 

死亡したNPCも強奪した金貨で蘇らせることができた。

 

2500人討伐隊事件はアインズ・ウール・ゴウンに多いに財をもたらした。

 

財があんまりにも多く、宝物庫を大幅に拡張しないといけなくなったのが手間だったが。

 

源次郎さんが発狂していたが、

 

自分の部屋を汚部屋と言っているのにこういった整理への意欲は一体どこから湧いてくるのか不思議でしようがなかった。

 

 

熱素石入れて22個のワールドアイテムを手に入れた。

 

これは二位の3つと比較してもダントツだった。

 

ただ、熱素石は一つとカウントするのか20個と表示されていたが。

 

 

運営から先日不正を疑ったことへの謝罪と共に「魔王」のスキルを頂いた。

 

・効果は威圧感のあるオーラが出せる(効果なし)。

 

・こちらが意図的に逃がさない限り敵は絶対逃げられない(WI使用しても不可)。

 

・第一~五位階の魔法が第六位階の魔法と同じ威力・効果になる。

 

というかなり微妙過ぎる効果だった。それでも3つあるのは嬉しかった。

 

地味にスクロールにも効果が反映されたので魔王のスクロールとして売ってみたらかなりの額になった。

 

 

ウルベルトさんが発狂する程悔しがっていた。

 

何でも低位の魔法が上位の魔法と誤解されるのは魔王の嗜みらしい。

 

ワールドディザスターのが強いじゃないですかと言ったら、

 

「違うんだ。違うんだよモモンガさん」

 

と何故かタブラ・スマラグディナさんから諭すように言われた。

 

 

 多数決の結果、隠し七鉱山の金属の一部を売ることに決めた。

 

買い占めが起こらない様に細心の注意を払いながら売った。

 

ギルド防衛より鉱山防衛戦の方が辛いと二度にわたる戦いでわかったからだ。

 

その間に熱素石を作り出したり、希少金属のまま加工に用いたりした。

 

メイド服を希少金属でもう一着全員に渡すとかホワイトブリムさんが言い出して、

 

外装作成担当者が発狂しながら作っていたのは可哀想だった。

 

 

取得したワールドアイテムの効果を調べ、PK・PKKへの応用を研究・実戦したりした。

 

もちろん奪われない様に細心の注意を払って行った。

 

初期から減ったとはいえ残っていた異形種狩りプレイヤーはほぼ全滅した。

 

熱素石を武器や運営へのお願い等に使い、

 

NPC装備が全て神器級に統一されたり72体の悪魔像が完成したりと楽しかった日々も段々終わりが見えてきた。

 

 

 

メンバーが少しずついなくなり、俺含めてギルドメンバーは実質4人になってしまった。

 

防衛できないからと鉱山の鉱石の売却量も増えてきた。

 

メンバーが熱素石を狙われないように完全な情報網を作ったお陰で、

 

鉱山は攻め込まれることなくユグドラシル金貨は溜まり続けた。

 

 

異形種以外のPKプレイヤーの情報を分析しては、

 

襲われているプレイヤーを助けるついでにPKプレイヤーを新しい魔法習得の材料にしたりした。

 

超級守護ゴーレムを引き連れてモンスターを狩り尽くし、

 

アイテムからクリスタルまで全てを回収して「また魔王が出たぞ」と定期的に目撃情報がスレにアップされた。

 

ゴミアイテムを捨てられず課金しまくってアイテムボックスを拡張しまくり、

 

会う度に貧乏魔王と揶揄ってくるプレイヤーは毎回魔法習得の材料にした。

 

取得魔法が1000超えた辺りで種族的に取得できない魔法があることが悔しんでいたら、

 

第六位階までのあらゆる魔法が使えるというワールドアイテムを持つ戦士の情報を入手できた。

 

PVPを申し込んで手に入れたら所有者が切り替わるごとにリセットされる上にLv100プレイヤーだと糞面倒な成長型ワールドアイテムとわかり落ち込んだりした。

 

回復魔法や蘇生魔法が使えるのは嬉しかったので毎日モンスターを狩りまくって経験値とドロップ品をかき集めた。

 

 

俺の被害者であるPKプレイヤー主体の「大魔王を止めるスレ」と魔王にPKから助けられたプレイヤーの「大魔王を止めるのを止めるスレ」の参加者が激突したりした。

 

そんなの知らんとモンスターは毎日狩った。

 

 

 以前救ったプレイヤー集団略称「止め止め会」から遠回しな救援要請が来た。

 

今でもちょくちょく来ている仲間たちとの作戦会議やぷにっと萌えさん考案の楽々PK術を応用した。

 

全力で魔王ロールプレイをしながら全体の指揮や味方にバフをかけまくった。

 

見事、敵対集団を撃破に成功。「クルシミマス戦争」は大魔王軍の勝利に終わった。

 

大魔王賛歌まで作られ始めた。

 

ギルドに帰っての報告があるので後日聞かせて欲しいと言って逃げてしまった。

 

報酬はその時に受け取らないと行けないし、聞かなきゃいけないのか(白目)。

 

この後報告を聞きに来るメンバーにだけは知られたくない。いや、マジで。

 

 

 

そして、2135年12月24日現在、俺は嫉妬マスクとともに来た「大魔王」スキルの授与のメールに立ち尽くしている。

 

 

 

原作崩壊ってレベルじゃねえぞおい。

 

とりあえず嫉妬マスクを被ってみた。特に意味はない。

 



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第二話 大魔王は逃げられない

思い込みの激しい中年男子系オーバーロードは好きですか


とりあえず現実逃避から帰ってきた俺は困った。

 

未だに信じられないが、もし前世が本当なら最終的に皆いなくなり、

 

異世界に転移するらしい。

 

 

しかしながら、大幅にユグドラシル情勢は変化している。

 

一応仮想敵のセラフィムの糞野郎は健在だし、

 

原作崩壊レベルで暴れても最盛期一位になれなかった。

 

 

これはひょっとして転生オリ主とやらが俺以外に存在するからかもしれない。

 

 

ぷにっと萌えさんは「多分発見ポイントとか善行ポイントとかあるんですよきっと」と笑っていたが、

 

ユグドラシル界最強のギルドという自信があったのにおかしいなぁと今までは思っていた。

 

アインズ・ウール・ゴウンが何やってもギルドランキング1位になれなかったのは、

 

勝てない未知の要素か転生者とやらが存在している可能性が高い。

 

 

沸々と怒りが沸いてくる。どうして全盛期に攻めて来なかったのかと。

 

 

誰も勝てる者がいないと誰もが思った黄金の時代。それは飽きでもあった。

 

装備もアイテムも置いて行ったメンバーを除けば実質4人だ。

 

新しい魅力的なゲームがあったのは否定しない。夢が叶い見送ったメンバーもいる。

 

理不尽な要求なのはわかっている。

 

この絶望的な世界から新しい世界での生活を願う転生者がいないわけがない。

 

 

それは例えウルベルトさんが言うような「勝ち組」だったとしてもだ。

 

 

前世と比べたらブラック企業の労働者が我儘にしか感じないような糞みたいな現実だ。

 

ゲーム等のパンやサーカスがなければ自殺者に満ちているような世界。

 

望んで転生した者等いないかもしれない。

 

 

少なくとも俺、「鈴木 悟」の前世はそうだ。

 

 

それでも俺の全てを捧げたナザリック地下大墳墓。

 

それが貶されたような気がして落ち着けない。

 

 

理不尽なのはわかっている。勝てるにしてもナザリックは怖すぎる。

 

 

「原作」の俺の行動は今人間の俺からしたら同じ人物がやったとは思えない外道だ。

 

ただ、今の俺が「原作」のような立場だったら問題なかった。

 

今のナザリックは転移しても引きこもるだけなら数百年は余裕で大丈夫であろう財がある。

 

シュレッダーに財をぶち込めばもはや滅びるかどうかも怪しい。

 

ただしこれは飽くまで概算。普通のプレイヤーや異世界人が多少攻め込むことも考慮した場合の額に過ぎない。

 

 

もし、転生者がいたとしたら?はたまた異世界が全然別物だったら?

 

 

俺の敵対者は原作以上だ。なんせついさっき滅ぼしてきたばかりだからな。

 

あの中に転生者はおそらくいないと思う。

 

大義名分はアインズ・ウール・ゴウンにあったからな。

 

…それを見越して敢えて雑魚の振りをしてアインズ・ウール・ゴウンの出方を見極めた奴がいるのか?

 

若しくは関係者がいる可能性も否定できない。

 

そういう存在がいたとしてもナザリック保全のためには友好的な関係を築く必要はある。

 

うろ覚えながら「原作」の情報は大切だし、

 

もうすぐ始まる「クルシミマス戦争結果報告会」がなかったら今すぐにでもまとめておいただろう。

 

しかし、ここまで「原作」改変された以上、

 

「原作」と同じ展開でも違う存在がでてきてもおかしくない。

 

 

もし、全く関係ない未知の超越者が存在する異世界なら?クロスオーバーか何かなら?

 

 

未だに異世界転移等ありえないと思う。

 

荒唐無稽な話過ぎて、オーバーワークで精神を病んだという方がまだわかる。

 

 

しかし、前世は確かにあったという実感がある。

 

偶に漏れ出る既視感や知識・経験が現実で役立ったことが多々あった。

 

小卒サラリーマン以上の知識・経験のお陰で底辺ながらも比較的自由な時間と金を確保できている理由が今ならわかる。

 

前世の知識が死獣天朱雀さんのような大学教授の知識に及ばないのは当たり前だ。

 

100年以上前の知識や経験が活用できる方がおかしい。

 

手動式電話網時代の人間の知識・経験と携帯世代の知識・経験が噛み合うはずがない。

 

寧ろ前世の知識が今を阻害している可能性すらある。

 

 

俺は「原作」の「鈴木 悟」よりも劣っていると思う。

 

今まで乗り切れたのもある意味もう一人の自分のサポートがあったからのような者だろう。

 

今後は古い脳が邪魔してくる可能性だって高い。

 

思い出したからには力をつけなければ。

 

「原作」同様にやはり俺はナザリックが大好きなんだと改めて実感した。

 

俺は逃げない。逃げられない。

 

もし、ナザリックに害をなす者がいれば最後の最後まで守り切る。

 

ギルドメンバーに最後までいてほしい。

 

でも、自分の都合で友達にリアルを引き離すような外道にはなりたくない。

 

 

 

そういえば、「大魔王」ってなんだ「大魔王」って。

 

「魔王」何て小遣い稼ぎにしかならないし、金余っている現状いらないんだけど。

 

 

スキル「大魔王」

 逃れられない宿命を背負う者。全てを束ね全てに打ち勝つ超越者。古の伝説の更に上を行く頂点。超越者(オーバーロード)としての唯一のスキル。

 

 

絶対いる。絶対転生者いるわ。ふざけてんのかおい。あからさま過ぎんぞ糞運営!

 

 

 



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第三話 アインズ・ウール・ゴウンに敗北はありえない

至高の御方々が登場しますが、こちらも捏造じゃないオリジナル設定です。
チートですね(『仕様です』運営ちゃん)


スキル「大魔王」

逃れられない宿命を背負う者。全てを束ね全てに打ち勝つ超越者。

 

古の伝説の更に上を行く頂点。超越者(オーバーロード)としての唯一のスキル。

 

 

この時点でアウトだろ。「原作」わかってなきゃ書けない。

 

アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にする方針は変わらないだろうし、

 

全て塗り替えろとか言いそう。

 

実際それだけの戦力あるし。今は不明だけど。

 

 

 というかポンポン与えすぎなんじゃないのかこれ。

 

他のプレイヤーからクレームが…

 

ってそうか、なるほどそういうプレイヤーがいるんだな。

 

俺の推測は正しそうだなフフフ…

 

 それで異世界転移まで隠している。なるほど、それだと隠す理由もわかる。

 

 

スキル「大魔王」

 ・「従属」コマンドの追加。

 

  玉座の間にて他ギルドのギルド長との合意で「従属ギルド」にすることができる。

  

  普通の同盟が明文化されただけのように思えるが、その後の特典が問題だ。

  

  従属NPCをLv100でギルド毎に1体作成可能。従属ギルドに貸し出しできる。

  

  弱小ギルドに貸し出せばそれだけで戦力になるだろう。

  

  瞬時に戻すことも可能らしいので傭兵扱いになるんだろうか?

 

・いてつくはどう

  敵の補助魔法や補助アイテムを問答無用で無効化できる。

  

  チート能力だと思うが、何でひらがな何だろうか?

  

  そもそも大魔王という気がしないんだが。

 

  タブラさんやウルベルトさんならわかるかもしれない。

  

  効果範囲とかは検証する必要ありそうだ。

 

・超越者(オーバーロード)への挑戦権

 

  本来一度登録したら変更できないはずの指輪等もワールドアイテムに限り全身に装備できるようになる。

 

  これもチートと言えばチートだが意味がわからない。

  

  俺既にオーバーロード何だけど。

 

 

結論、一人で決めらんない。

本当にどうしよう。

 

 

 

『ヘロヘロさんがインしました』

 

「モモンガさん。おひさーです。今回参加できずすみません」

 

 

『るし☆ふぁーさんがインしました』

 

「モモンガさん聞きましたよ。大魔王賛歌!良かったね!」

 

『タブラ・スマグティナさんがインしました』

 

「皆さんこんばんわ。モモンガさんユグドラ速報見ましたよ。

 

 今回、完全勝利だったみたいですね」

 

 

 

ああ、そうだ俺には仲間達がいるんだ。

 

「…こんばんはです皆さん!るし☆ふぁーさんはちょっとあそこの陰に行きましょう」

 

 

「大魔王ですか…いてつくはどうとは中々渋いチョイスですね」

 

タブラさんの反応聞く限りやっぱりあれには意味があるらしい。

 

聞くといつものように長くなりそうなので今は聞かないが。

 

 

「ええー!大魔王賛歌聞かないで帰ったの!あんなに一生懸命考えたのに!」

 

るし☆ふぁーさん後で屋上。

 

 

「『超越者への挑戦権』と『従属』ですか…戦争結果よりこちらの方が気になりますね」

 

流石ヘロヘロさんはまともだ。俺もそれ気になって仕方がないんですよ!

 

 

「報酬を先に貰わなかったのは結果的に良かったかもしれません。

 

『従属』を上手く使えばまた熱素石が手に入るかもしれませんよ?」

 

タブラさんは含み笑いをしながら報告書の『従属』の欄を指でなぞる。

 

え、どういうこと?

 

「なるほど。従属させてNPCを報酬替わりに防衛させるんですね。

 

 ゴーレム量産できるなぁ!」

 

いや、るし☆ふぁーさん。

 

流石にそれだけだと理由が弱いというか、

 

相手にメリットなくて裏切る可能性もあるんですが。

 

 

「タブラさん。ひょっとして熱素石も報酬に含めています?

 

 あれは量産大変ですから難しいと思いますが」

 

あ、確かにヘロヘロさんの言う通りワールドアイテム手に入るなら意地でも守るな。

 

 

「あと、るし☆ふぁーさん。

 

 僕はゴーレムよりもこちらの『超越者への挑戦権』が気になります。

 

 熱素石をそのまま加工したり、

 

 運営にお願いして簡易ワールドアイテムを作ってモモンガさんに装備して貰いたいです」

 

正直俺だけしか得しないような気がして気が引けたんだが、

 

反応見る限り『超越者への挑戦権』も大丈夫そうだな。

 

だったら、

 

 

「ヘロヘロさん。今回攻め滅ぼしたPK連合にワールドアイテムありまして、

 

 それを報酬にしてもらいました」

 

一旦間をおいて皆に注目してもらう。

 

 

「今回は俺一人で参加したから報酬は好きにしていいということでしたから、

 

 装備品として使わせてもらいたいと思ってます」

 

これは前もって言われたことだし問題ないはず。

 

 

「撃退したとはいえ、

 

 敵対ギルドが残っているのでそこを襲撃するのを手伝ってもらいます。

 

 報酬としてギルド拠点にあるかもしれないワールドアイテム以外全てと

 

 『従属』でNPC製作権や使用権を上げたいと思ってます」

 

過剰過ぎる報酬にるし☆ふぁーさんが何か言おうとするが、言葉を続ける。

 

 

「これだけ恩を着せた後に鉱山の防衛を依頼し、

 

 熱素石の情報と何回かに一回分ける契約をしたらどうでしょうか?

 

 俺たち裏切者には過剰な報復が売りな悪役ギルドですし」

 

皆の意見まとめただけだが、こんな感じでどうだろうかと皆の反応を待つ。

 

 

「いいですね。

 

 契約を結んだ後になって中々量産できない事実を伝えるとかえげつない。

 

 良心をくすぐって深く考えないように仕向けようとする辺り流石大魔王ですね!」

 

タブラさん待って!そこまで考えてないから。

 

 

「今回参加したギルドやクラン、

 

 プレイヤーってユグドラシル全体が衰退しているせいで大概NPCすらいない拠点なんですよね。

 

 まとまるように勧めてみますか?」

 

ヘロヘロさんの言うことももっともだな。

 

 

紹介されたギルドは、城未満のNPC製作可能レベルがない拠点やあってもNPC作成レベル700行かない拠点しかなかった。

 

 

「ちょっとこの間敵対勢力煽って「ギルド設立申請書の巻物」を強奪してきました。

 

 あと、アルフヘイムにNPC作成レベル1500相当と思われる巨塔っぽいギルドダンジョンを見つけました。

 

 そこを一緒に攻め込んでギルド作って貰っては?」

 

るし☆ふぁーさんそれ両方とも俺聞いてないんだけど。

 

 

「それ含めての報酬なら熱素石の情報渡してもしっかり守ってくれるだろう。

 

 万が一奪われてもこちらが情報を公に開示してしまえばギルド戦争不可避だ。

 

 どうあがいても熱素石は作れない。上位ギルドが獲得しても他と睨みあいになる。

 

 あれは究極的にアインズ・ウール・ゴウンだから作れるワールドアイテムだといえる。

 

 この辺の采配は提案者のモモンガさんに任せていいかな?」

 

いや、いいんだけどタブラさんが交渉やりたくないだけでしょ。

 

途中で面倒になったなこの人。

 

 

「賛成」「ゴーレムは?」

 

ヘロヘロさんはともかくるし☆ふぁーさんはゴーレムに使いたいって再三言ってたもんな。

 

 

「ゴーレムは作れるように手配します。

 

 今後『従属』ギルドを増やしていきましょう。

 

 ワールドアイテムがありそうなギルドを攻め滅ぼして、

 

 モモンガさんに装備させればそもそも熱素石いらないのでゴーレム作りたい放題ですよ?るし☆ふぁーさん」

 

タブラさん煽らないで本当に。

 

絶対何かやらかすんだからこの人。

 

それフォローするの俺なんだけど!

 

 

「やったー!よしじゃんじゃん滅ぼそう。

 

裏切者ももしかしたらワールドアイテム持っているかもしれないよね!」

 

うわぁ。明らかに話し合った前提ぶっ壊そうとしているんだけどるし☆ふぁーさん。

 

ちょっとタブラさん目を逸らさないで。

 

ヘロヘロさん机に突っ伏してないでマジ止めるの手伝って!!

 

 



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第四話 最後の黄金の日々

舞台をひっくり返すのにるし☆ふぁーさんが便利過ぎる件


 

結論から言えば大よそ同意して貰えたし、上手く行った。

 

 

元々あるNPCがいるギルドはそのままに、

 

プレイヤーやNPCのいないギルド・クランは今回の件で仲良くなって、

 

アルフヘイムの巨塔を攻略した。

 

攻略のノウハウがある俺たちが協力したこともありあっさり攻略できた。

 

…内心昔の俺たちを見ているようで羨ましかった。

 

 

続くギルド戦も何とか行けた。

 

Lv.100でないプレイヤーがギルド武器を破壊したらしくレア職ゲットしていて羨ましかった。

 

内心期待してなかったがワールドアイテムも1つあった。

 

 

その後の交渉では、勘が良い人がいたせいで熱素石があまり量産できないことがバレてしまった。

 

でも、アインズ・ウール・ゴウンでないと不可能なことを周囲に話して皆を納得させていた。これは借りになってしまったと思う。

 

るし☆ふぁーさんゴーレムを理由に勝手に裏切らせようと仕向けないでくださいお願いします。

 

 

『従属』のNPCはアインズ・ウール・ゴウンに配慮したのか、

 

全てのギルドで最低種族レベル1は異形種で取っていた。

 

カルマ値はそれぞれだったが。

 

『従属』するときにせっかくだからと玉座の間に守護者を並べてみて魔王ロールしてみたら感化されたらしく、

 

従属ギルドの絵師等が作り上げて完成度が非常に高かった。

 

設定もナザリックの関係に配慮した内容になっており、

 

そこまでしなくても良いのにと思ったが異世界転移される場合この設定なら確実にこちら側につく内容で嬉しい誤算だった。

 

ただ、女NPCにモモンガの愛人とかそういう設定つけるのやめてくれ。

 

やめろって言ったよな?流石に従属NPC以外のギルドNPCの設定は見てないけど怖い。

 

タブラさんが「従属NPCはちゃんと変えてたから大丈夫」

 

とか言ってたけどビッチとかになってないよなそれはそれでNPCが可哀想何だが。

 

 

 

その後、魔王ロールでPKギルドに宣戦布告しまくったが、

 

ワールドアイテムがあるギルド何てそうそうないので、

 

好きなアイテムを持って行ってくれと言われるようになった。

 

利用しているようで罪悪感に苛まれたそうだ。

 

俺としては熱素石の件で恩を感じてたし、

 

ギルドメンバーも気にしてないから気を使わなくて良いよと言ったんだが、

 

十分過ぎるくらい返してもらったのでこれ以上は本当に辛いと泣きつかれた。

 

 

そんなある日、

 

悪質な行為(ナザリックは棚に上げる)でユグドラシルを荒らしに荒らしまくった異業種ギルドを攻めた際、

 

 

超レアアイテム「人化の指輪」を複数ゲットできた。

 

 

ペナルティなく人間種に変身でき人間種の町にも入れる凄いアイテム何だが、

 

ギルドメンバーに人間種いるから宝の持ち腐れだそうだ。

 

人間の町で多大な被害を与えてアインズ・ウール・ゴウンより毛嫌いされてたギルドだったんだけどこれを使っていたのかと感心した。

 

皆で人間種の町に入れたのは嬉しかった。

 

 

嬉しかったせいでるし☆ふぁーさんから目を離してしまったのは痛恨の極みだった。

 

 

1年後、タブラさんが忙しくなってヘロヘロさんが転職を考えていた頃の2136年12月25日。

 

ギルドメンバーや従属ギルドの非リア共が集まり、

 

嫉妬マスクを被り、持ってないプレイヤーを悉くPKした後の打ち上げをナザリック地下大墳墓9階層で行っていた。

 

 

「皆さん!宴もたけなわですがこれからビッグイベントを開催したいと思います!」

 

突然るし☆ふぁーさんが二階から皆を見下ろして叫ぶ。いやな予感がした。

 

 

「タブラさん、ヘロヘロさん!るし☆ふぁーさんを取り押さえましょう!」

 

俺が叫ぶと同時に二人は駆け出した。俺と同じ予感がしたに違いない。

 

 

「遅いわ!来て来て永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)!」

 

遅かった。というか待て。どこで手に入れやがった。知らないんだけど。

 

 

 

突然世界が闇に包まれた。

 

強大な龍のような蛇が自分の尾を飲み込むように駆けずり回り、

 

るし☆ふぁーさんを見下ろす。

 

 

『さあ、どんな願いでも一つだけ叶えてやろう』

 

ドラゴ〇ボールの〇龍みたいなことを言い出す蛇。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウン所有の鉱山をナザリック地下大墳墓の一部にしておくれ!」

 

いや、流石に永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)でもできるはずないだろ無茶苦茶な願いは。

 

 

『了解した。』

 

了解された。

 

 

「いや、待て無理だろう!制限とかないのか!」

 

俺は焦って叫んだ。

 

ワールド一つだったとはいえ1か月しか持たなかったのだ、

 

できたとしても時間制限があるものだと思ったからだ。

 

 

『今回は所詮鉱山。ワールド一つを征服するわけでもないのなら問題ない』

 

そうかー問題ないのか…

 

 

『ではさらばだ』

 

蛇はそういって去る。マジ神龍だなこいつ。

 

 

「よっしゃああああ!これで鉱山独占だ!ゴーレムだらけにしてくれるわ!!」

 

るし☆ふぁーが叫ぶ。取り敢えずボコボコにした。

 

フレンドリーファイアがないのが本当に悔やまれる。

 

 

るし☆ふぁーさんの暴挙の理由はそれはそれは簡単だった。

 

 

「防衛戦は辛いし、熱素石も確実に独占できない。

 

 だったらナザリックそのものにしてしまえば問題ないと思った。

 

 悔いはない。同じ状況ならもう一回やる」

へえ。

 

 

「永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)は人間種の町で初めて入ったとき、

 

 美女に変装してウロウロしていたらご新規さんだと思われて色々声をかけられた」

 

うんそうだね。ドン引きして目を離してたわ俺。

 

 

「特に非モテを拗らせて外装をイケメンにしたと思われるプレイヤーがいたんだ。

 

 自分のギルドにはワールドアイテムの20があるんだと言われた」

 

そんな馬鹿いたのか。

 

 

「何それって言ったらギルドの詳細まで事細かに教えてくれた。

 

 お礼に有志を募って攻め込んだ。鴨が葱を背負って来たんだ俺は悪くない」

 

...るし☆ふぁーさんだけが悪いわけでもなく、

 

知っていて協力した従属ギルドメンバーもいたらしい。

 

 

結果的に防衛戦力が浮いたと思えば悪くはない。

 

ただ、ぶっつけ本番で失敗する可能性もあった。

 

 

自分達で手に入れたとはいえ相談もせず勝手に使ったのはどう考えても良くないので、

 

関係者は次の熱素石を使わせないという結論になった。

 

 

るし☆ふぁーさんらが発狂してたが、そこまで許したら組織としてダメだ。

 

 

従属ギルドは定期的に見回りが不要になった代わりにと従属NPCを皆配置することになった。

 

 

本当に良いのか尋ねたら、

 

「お礼参りで攻め込まれたとき同じ従属ギルドやアインズ・ウール・ゴウンが何度も助けに来てくれたし、

 

時間稼ぐ分には今のNPCで十分間に合う。そもそも従属NPCはナザリック所属扱いだし、

 

広範囲の鉱山を守るのには最適だ」

 

ということを言われた。

 

課金罠、高レベル傭兵モンスターとLv100NPCが何体も巡回する全盛期アインズ・ウール・ゴウンでもありえなかった過剰な警備網になった。

 

NPCの行動パターンをヘロヘロさんが弄ったので、もはや隠密特化プレイヤーですら潜入不可能に近い。

 

何だか可哀想なので飲食不要のアイテム、リング・オブ・サステナンス等を全員に持たせたり、意味ないけど見かけたら声かけたりしている。

 

 

さてここまできて、最大の問題は収支だ。

 

永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)の影響でとんでもない広さの鉱山がナザリック地下大墳墓と一体になったからだ。

 

 

希少金属掘ったら修復費が発生するとか馬鹿なことあるかもしれないと思った。

 

 

結論から言うとあるともいえるしないともいえた。

 

希少金属は掘ってしばらくするとまた湧いてくるのは同じでこれに関して費用が出ることはなかった。

 

対建築物系の超位魔法天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)を放ってみたが、

 

凄いことになったがしばらくしたら元にもどった。

 

かかった金額を恐る恐る見てみると金貨の使用はなかった。

 

四回くらい吹っ飛ばしたら金貨がほんの少し減った。

 

 

どういうことかギルドメンバーで検討した結果、上層部等の敵が多く来る階層ほど安く設定されている法則が適用されていることがわかった。

 

第一階層よりも安くいうなれば第0階層。

 

おそらく鉱山すべて吹き飛ばしても大した額にならないという結論だった。

 

しかも、俺が試しにと吹っ飛ばした岩石等をエクスチェンジボックスに入れてみたら普通に金貨が手に入った。

 

つまり壊した方が儲かる。

 

 

手間かかるし非効率的だからやらないが。

 

万が一異世界転移して再生能力もそのままなら本格的に引きこもれることが判明した。

 

せっかくだからと俺が試算し始めたら皆に呆れられた。

 

 

第二の問題点は外だが、意外といけなくもなかった。

 

幻術にしても何してもどうやっても鉱山が大きすぎて目立つ。

 

ナザリックを囲むようにできているので地下に接触はしていないはずだからと沈められないか試してみた。

 

何と沈められた。

 

ただし、沈めた状態だと希少金属を掘るのに物凄い手間がかかる。

 

その結果、希少金属が湧いてきたころに一々浮上させることになった。

 

何故かタブラさんが喜んでいた。

 

意味がわからないがクトゥルフ系の琴線に響いたらしい。

 

 

それから毎日モンスター狩りに行ったり、馴染みになってきたPKギルドが壊滅してショックしたり、

 

頼むから来ないでとワールドアイテムを差し出してきたギルドまであった。

 

そんなつもりは一切なく今度皆で一緒に潰そうとしていただけだったのだが。

 

 

ヘロヘロさんが転職してしばらくたったある日、

 

アインズ・ウール・ゴウンのアカウントも含めて本当に最後まで残った三人が装備とアイテムを俺に預けたいと言ってきた。

 

 

これは「原作」からすれば奇跡なのだと俺は知っていた。

 

ヘロヘロさんが二年ぶりに来たことを喜ぶ「俺」がいたこと知っていた。

 

 

この結末は最初からわかっていた。

 

 

俺は最後のサプライズとしてワールドアイテムを全身装備することを皆に言った。

 

新しく入った熱素石を加工すれば全身ワールドアイテムになる。

 

これは渡す予定だったギルドがつい先日解散したから手に入ったものだ。

 

全く嬉しくない。

 

 

 

その日は奇しくも2137年12月24日のクリスマス。

 

ユグドラシル終了まで残り一年を切っていた。

 

 



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第五話 この世で最も孤独な超越者

絶望の中手に入れた光と希望かもしれない闇への恐怖


最初の躓きはどこだっただろうか。

 

ワールドアイテムの装備箇所が同じものでダブったことかもしれない。

 

指輪だけで13個。ワールドアイテムは大量にあるのに最後のピースが揃わなかった。

 

 

それでも当初の計画なら問題なかった。

 

 

予想外だったのは鉱山を自分の物にした結果、

 

熱素石に必要なだけの七鉱山の金属の量の確保に時間がかかるようになったことだ。

 

 

これによる遅れのせいで従属ギルドへの配給が遅れた。

 

従属ギルド自体は気にしないで使ってほしいと言われたが、ギルドメンバーも俺も気にした。

 

その為の折衷案としてアインズ・ウール・ゴウンの分だった素材を使って共同でゴーレムや武器を作ったりした。

 

 

これは楽しかったし後悔していない。

 

だが、更に追い打ちをかけるようにリアルの事情が変わってきた。

 

ここ数か月の間に不穏な空気があるらしい。

 

らしいというのは俺にはわからないからだ。

 

俺以外のメンバーは時間が割けなくなってきた。

 

従属ギルドでも大多数がそうらしい。

 

ギルドを解散して武器やアイテム、熱素石を使ったゴーレムや武器を全て渡された。

 

皆が楽しかったと言って去っていった。

 

 

このままだといずれ「原作」通り俺一人になる。

 

 

俺は原因を探ろうとした。できうる限りのことはしたつもりだ。

 

でも、まるで見えない何かに阻まれているかの如く本当に何もわからなかった。

 

助けになれないかと信条を曲げてまでリアルに出向いたりもした。

 

しかし、当たり前だが誰も教えてくれなかった。

 

迷惑がられることなくお礼すら言われた。

 

 

悔しかった。

 

 

ユグドラシルは俺の初めての居場所であり思い出であり全てだ。

 

ただ、それ以外は何もなかった。

 

全てを投げ出してまでリアルに思い入れることができなかった。

 

俺と去っていった皆との違いはそれだけだろう。

 

その差が海よりも山よりもありすぎた。

 

そしてついにアインズ・ウール・ゴウンの番がきた。ただそれだけの話だった。

 

 

「クリスマスがお別れ会になるとは思いませんでしたよ」

 

ヘロヘロさんが苦笑する。

 

転職が上手く行っていないようだ。

 

偶に来れるときはほぼ確実に俺に愚痴零してログアウトするような感じだったが来てくれるだけ嬉しかった。

 

 

「旧支配者のキャロルでも流しますか?」

 

タブラさんは本当にわからない。

 

最後の最後までぶれなかったと言えば良いのだろうか?

 

よくよく話してみると結構SAN値が削れるようなことを言っていることに気づいたのはつい最近だ。

 

 

「やめてください。ゴーレムけしかけますよ?」

 

るし☆ふぁーさんは悪い意味でブレない。本当に。

 

正直毎回やらかすので何度本気でキレかけたことかわからない。

 

いなくなったらフレンドリーファイヤーするゴーレムがいないか確認しなければならない。

 

従属ギルドの同好の士が増えたため、数えるのが億劫な程作られた。

 

数を確認するだけで数日かかりそうだ。動作確認までしたらいつまでかかることやら。

 

 

「はいはい。皆さん今から最後のマント作るんですから見ていてください」

 

俺はそう言って熱素石に願い始める。

 

運営に劣化ワールドアイテムを依頼しつづけた結果、どの範囲まで有効かは既に把握している。

 

 

皆が見守る中だから、異世界がもしあるとすれば役に立つがゲームではほぼ役に立たない願いを祈る。

 

 

「装備することで戦士化ができるマントが欲しい」

 

思い出すのは前世の漆黒の英雄。マッチポンプとはよく言ったものだ。

 

 

「何ですかそれハハハ!」

 

るし☆ふぁーさんが笑う。

 

レベル100とはいえ魔法職の戦士化何てスキルも使えない。

 

ジョーク魔法みたいなものだからだ。

 

 

「いや、確実に叶えられるでしょうねそれは…」

 

 ヘロヘロさんは苦笑する。

 

従属ギルドでWI化するときに欲張りすぎて無駄になったことを知っているから、

 

本当に最低限度の願いにしたと思ったのだろう。

 

 

「いや、その手がありましたか。機動力として…」

 

タブラさんは何か深読みしているような気がする。

 

異世界でなきゃ使い物にならないマント何だが。

 

 

『英雄のマント、作成しました』

 

完成のアナウンスが流れる。俺はさっそく着けてみる。

 

 

そして気づく。

 

「あれ、これ戦士化の状態で魔法やスキルが使えるみたいですね」

 

試しに第一位階魔法の矢(マジック・アロー)を撃ってみる。すぐ魔力は回復する。

 

絶望のオーラレベルⅠ。普通に使える。

 

予め用意しておいた熱素石を使用した剣を振り回す。ちょっと走ってみる。

 

 

「やはりそうでしたか」

 

タブラさんが面白そうな声色でマントを見る。

 

 

「あれ。これ普通に使えるマントですね」

 

ヘロヘロさんが相手の武器や装備を溶かすときの獲物を見る目でこちらを見る。

 

…溶かさないでくださいよ。

 

 

「だが、ゴーレムの方が圧倒的な応用力がある!」

 

マントの好評具合にご立腹のようだ。

 

その応用力をびっくりさせるためだけに使うのはどう考えても無駄遣いだと今でも思う。

 

 

「と、とりあえず成功したので全身装備してみますね」

 

色々グダグダしてしまう前にどうなるか皆に見て欲しかった。

 

 

「HP+500%の指輪、MP+500%指輪、阻害無効化の指輪、

 

 ありとあらゆる炎系魔法が使える指輪、殴打無効化の指輪、

 

 接触することで状態異常無効になる小手、完全催眠の杖…」

 

大体強奪品という我ながら酷い行いを色々思い出だす。

 

ゲームじゃなかったら本当に魔王だ。

 

 

「そして、もうすでに着けているあらゆる魔法を第六位階まで使えるけど、

 

 レベル上げないと使えない腰当と最後に」

 

あえて取り外していたいつもつけていたワールドアイテム

 

 

「モモンガ玉と」

 

 

「何というか相変わらず締まらない愛称ですよね」

 

るし☆ふぁーさんが言う言葉に俺すらも頷く。

 

でもこれが討伐隊2500人に止めをさした事実は変わらない。

 

使うころにはほぼほぼ死んでたけど。

 

 

苦笑しつつモモンガ玉を付けた瞬間。

 

 

『超越者(オーバーロード)の条件を満たしました』

 

運営からのアナウンスがギルド内に響き渡る。

 

 

『達成者モモンガ様の超越者(オーバーロード)化を開始します。

 

また、大魔王の挑戦権での達成のためギルドメンバー及び全NPC、

 

全従属NPCのレベルが+50になります。NPCは最適化しますか手動で行いますか?』

 

 

これは想定外過ぎる。

 

 

今日やめるギルドメンバーは考えている時間はない。

 

さらにNPCとなっては全員を一々確認しないといけない。

 

最終日まで取り掛かっても無理だ。

 

でも、アインズ・ウール・ゴウンは多数決を重んじるギルドだ。

 

 

「…最適化が良い方挙手してくれます?」

 

 もう少ししっかりとした聞き方をしたかったが仕方がない。

 

だって今までこんなことなかったのだから。

 

 

「…」

 

全員何とも言えない空気で挙手する。

 

 

「ギルドメンバー及び全NPCの最適化を」

 

正直もっと早く知りたかった。

 

皆にメールして直接意見を聞きたい。

 

でも、それはこれまで、最後までいてくれたメンバーなら皆許してくれるだろう。

 

 

『おめでとうございます。あなたはユグドラシルの解答の一つを達成しました。

 

 あなたは世界そのものでありただ一人の超越者(オーバーロード)です。

 

 どうかあなたの道に幸ありますように』

 

そして世界を照らすように光輝き、俺の体から世界を冠するアイテムが消えた。

 

 



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第六話 祝福された別れ

チートよチート!こんなの反則じゃない!(某女神)
『仕様です』(運営ちゃん)


「あれ、何もない?」

 

俺は今まであったはずのアイテムがなくなり混乱する。

 

 

「ちょっと待ってくださいモモンガさん。

 

生命の精髄(ライフ・エッセンス)、魔力の精髄(マナ・エッセンス)….」

 

異常に困惑しているとタブラさんがギルドメンバー全員に情報系魔法をかけ始める。

 

 

「あっ、メールだ」

 

運営からのメールが届いた。

 

反応を見る限り全員にも届いているらしい。

 

 

「アッハハハ!これは酷い。バグってるってレベルじゃないわ」

 

タブラさんが笑い転げる。あまりに普段と違う光景に呆然してしまう。

 

 

「モモンガさんメール見た方いいですよ。やっぱり糞運営だ」

 

メールを読んだるし☆ふぁーさんが呆れるような声で言う。

 

 

「うわぁ。うわぁ」

 

ヘロヘロさんがこれは酷いという感じで首を振る。

 

そんなにヤバい内容なのだろうか。

 

 

『ギルド:アインズ・ウール・ゴウン

 

 プレイヤー:モモンガ

 

条件:①ワールドアイテムを20種以上獲得する。

 

   ②全身にワールドアイテムを装備する (同一の物でも可能)。

 

   ③②において最低20種(同一不可)のワールドアイテムは装備してはならない。

 

設定:残された九つの葉それを蝕もうとする世界食いの怪物は20の葉に吸い寄せられ、   

   世界で覆われた超越者(オーバーロード)により駆逐された。

 

   怪物は死にその怨念すらも超越者は飲み込んだ。

 

   もはや世界を滅ぼせるのはただ一人となった超越者のみである。

 

能力:・ワールドエネミーの能力

 

    全てのワールドエネミーを駆逐し、怨念を飲み込んだ故の能力。

 

   ・装備していたワールドアイテム全ての能力

 

     世界そのものとなり迎え撃った能力。

 

   ・世界食いの能力

 

     世界の葉を食らい自らのものにできる。

 

   ・装備していたワールドアイテムの能力を与える能力

 

     世界の力を与えることができる。

 

     強大な力故矮小な存在には一つしか受け止められないが、

 

     この世全ての存在に分け隔てなく与えられる。』

 

 

 

「これは…どういうことですかね?」

 

わけがわからないよ

 

 

「多分ですが、モモンガさんはワールドエネミーを倒したんです。

 

ワールドアイテムのごり押しで勝利した。つまりゲームクリアですね」

 

ヘロヘロさんが何ともいえない声色で言う。

 

 

「能力は4つ。

 

1つ目、ワールドエネミー化による各種能力上昇。これは検証必要でしょうね。

 

2つ目は装備していたワールドアイテムの能力を使うことができる。

 

 身に着けたものつかえないとか発狂ものですし、まぁ当然ですね。

 

3つ目はワールドアイテムを吸収できる。

 

 これは熱素石を使えば際限なく強くなれますね。

 

 運営も多分想定していないチートになってしまいましたが、問題は最後です。

 

4つ目の能力。これ多分ワールドアイテムの力を与えられるんです。

 

 プレイヤーもNPCも多分モンスターも。1つだけみたいですが」

 

ヘロヘロさんが説明を終えると何かを考え始める。

 

 

「ちょっとアルベド連れてきますね。

 

 確認にもなりますし、HP+500%はタンク職としてほしい」

 

そう言ってタブラさんがダッシュで玉座の間に向かう。

 

 

「あっタブラさん行っちゃった。一応聞いてからと思ったんだけど…

 

 モモンガさん。従属NPCレベル150は多分バレる。

 

 口止めもするから残っている従属ギルドにある程度教えて良いよね?」

 

ヘロヘロさんはナチュラルにるし☆ふぁーさんをハブいて聞いてくる。

 

 

もちろんだと頷く。

 

能力を真っ先に理解したヘロヘロさんの方が今の俺よりも情報の匙加減がわかるだろうし問題ない。

 

俺から連絡しないことを礼儀知らずだと怒るような人たちでもない。

 

 

しかし、ハブられているのに反応がない。

 

るし☆ふぁーさんどうしたのだろうと顔を見る。

 

 

「…ゴーレムは防衛の要だよね?モモンガさん」

 

NPCだけがレベルあがったのに不満なようだ。

 

 

「さ、流石に超級ゴーレムがレベル50分強化とかヤバすぎるますから。

 

というか、普通にワールドチャンピオンと互角、いや倒せるゴーレムなんですから。

 

それが量産とかもう俺以上に超越者ですよ…」

 

自分で言っておいて何だが慰めになってないような気がするが。

 

 

「ですよね!最強ゴーレム軍団がいれば強化ナザリックですら蹂躙して見せます!」

 

ヤバい。変な方向で元気になった。

 

というかそんなこと考えてたのかるし☆ふぁーさん。

 

 

「…ええ、そういうことです。ついに真の魔王が生まれました。

 

 別れの日に覚醒するとか勇者いたとしても倒せるんでしょうかこの魔王。

 

 はい。では失礼します」

 

ちょっとるし☆ふぁーさんに気を取られてヘロヘロさんのメッセージ聞いていなかった。

 

何だか盛り上がってやり取りしていたようだが上手く誤魔化せたのだろう。

 

 

アルベドを連れてくるだけならそこまで時間がかからないはずだが、タブラさん遅いな。

 

 

「遅くなりました。ちょっと強化されたアルベドみていて…」

 

ああ、自分の娘のようなものだもんな。気にならないはずがないか。

 

…最終日、ビッチのままでもそのままにしよう。

 

 

「俺も待っている間に使い方わかったんでちょうど良いですよ。タブラさん」

 

気にしない様にアイコンを出す。

 

 

「よし。さあアルベド誓いの儀式だ」

 

何か言い方がおかしいような気がするがまあ儀式ではあるよな?

 

 

周りのメンバーが見守る中、タブラさんがアルベドを跪かせる。

 

…先ほどの発言と取り囲むメンバーのせいで邪教に捧げられる生け贄に見えてきた。

 

何だが期待されているようなので魔王ロールで頑張ろう。

 

 

「では、アルベドよ。これより我が祝福を授ける…」

 

 

 

 

アルベドのステータスを皆で確認した後、タブラさんがアルベドを元の位置に戻した。

 

「Lv150でHP500%増加とか盾としての極みなんじゃないですかもう?

 

 ワールドバフもついてましたし、ワールドアイテムも効きませんよ」

 

ヘロヘロさんが苦笑する。

 

 

「しかもどうやらこれまでの構成から類推したのか知りませんが、

 

 ペナルティ無しでかつ無駄のない成長でしたね。

 

 後から文句言われないためでしょうが私が設定的に一瞬考えた料理とかない完全なガチビルドでした」

 

タブラさん的には文句はないが少し遊びを入れたかったようだ。

 

 

「あ、モモンガさん。ちょっと引退したメンバーにも大魔王覚醒の能力教えてみたんですが、

 

 ペロロンチーノさんがシャルティアに入れて欲しいワールドアイテムあるそうです」

 

また、勝手にと思いつつ連絡し辛くなってた俺からするとありがたい。

    

 

「それは構わないんですけど、るし☆ふぁーさん。

 

 一々聞かなければならないと面倒なので俺にメールするように言ってもらえませんか?」

 

本来なら独断専行で怒るところだが、今日は怒らない。

 

久しぶりに他の仲間と連絡できるかもしれないと思い嬉しかったこと。

 

この三人も含めてアインズ・ウール・ゴウンのメンバー全員が完全に引退してしまうからだ。

 

 

俺は「原作」を諦めた。

 

もしかしたら最終日に会いに来てくれるメンバーがいるかもしれない。

 

そのときは歓迎する。

 

でも、俺と違って皆嫌々でもリアルを選ぶことがこれまでのやり取りではっきりわかったからだ。

 

 

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは悪と呼ばれようが気にしない現実とゲームを分けて考えられるメンバーであることが前世を思い出し過ごした二年間でよくわかった。

 

それでも皆が熱中した思い出には間違いない。

 

残ってくれた三人や今までのメンバーからも伺えた。

 

 

だから俺は…たとえ孤独だろうが守る。守って見せる。

 

 

最後に何か企んでいそうなるし☆ふぁーさんを止めるタブラさんとヘロヘロさんを見て思う。

 

 

この別れの後にも皆に祝福を

 

 



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第七話 超越者アインズ・ウール・ゴウンの始動前①

慢心しない大魔王。勇者が生まれる瞬間から隙を伺い続けることに。
しかし、生まれた瞬間勇者、覚醒「相手は死ぬ」
これくらい怖がってます。


そして俺はついに一人になった。

 

 

それを知って襲い掛かってきた輩は全て倒したが。

 

 

 どうやらギルドランキングにギルド:アインズ・ウール・ゴウンがいなくなってたのも影響しているらしい。

 

ユグドラシル関係のスレで内部崩壊したとか抜かす馬鹿もいたが、

 

ギルドが健在なのにランキングにないということで困惑しているのが大多数だ。

 

 

 無理もない。アインズ・ウール・ゴウンはゲームクリアしてしまった。

 

 流石にバカ正直に公表するわけないが、もしかしたらゲームクリアしたからではないかという書き込みもあった。

 

 

やはりそういう奴がいるに違いない。

 

 

クリアしたギルドが全く名乗り出なかったのが不思議でぷにっと萌えさんにメールで相談してみたら、考えすぎというメールが来たりしたが。

 

 

 単身でナザリックを滅ぼそうとした軍団を撃ち滅ぼした俺は、

 

情報こそナザリック強化に最も必要だと確信した。

 

 まず、今まで存在したユグドラシル関係のスレの書込みを全て収集した。

 

胡散臭いユグドラシル関係のサイトから信頼度の高いサイト、自分の経験した事実や知識をまとめる等を行った。

 

 ありとあらゆる情報を電子書籍化しぶち込んだ。

 

糞みたいな内容の本になり恥ずかしかった。

 

なので、異世界で応用できそうな著作権の切れた本、戦術や戦略の本、農業や漁業、科学や政治や法律、歴史等全く関係ない本等も織り交ぜた。

 

 定期的にNPCに声をかけステータスや設定の情報を確認したりした。

 

 膨大な量になり全部読むのは一人では不可能だし、正直NPC・従属NPCの情報以外読むのは嫌になったので管理空間を作ることにした。

 

 

 従属ギルド解散で貰ったり敵から強奪したりしたワールドアイテムによるポイントでギルドを拡張し、階層に等しい大きさの部屋を作った。

 

それでもまだ二つ、三つ作れるがしない。

 

 

これ以上NPCも増やさない。

 

 

 製作や鍛冶、料理、楽師、商業、情報等のスキルを持ちどちらかというと非戦闘系の従属NPC達を項目ごとに守護者とした。

 

リング・オブ・サステナンスは全ての従属NPCに限らず全NPCに渡したので問題ないはず。

 

 

いずれ時がきたらエルダーリッチでも量産して研究させるつもりだ。

 

 

 ただ、興味本位で見た従属NPCの設定が大魔王モモンガやアインズ・ウール・ゴウンのモモンガを愛しているだの敬愛しているだの。

 

異世界行ったら「原作」アルベド化待ったなしの設定だらけなのは俺への嫌がらせなのか?

 

 るし☆ふぁーさんの友達がギルド長だった製作特化オーバーロードの従属NPCに書いてあった「モモンガを愛している」は完全に嫌がらせなのは間違いないが。

 

 カルマ値はバラバラだが、どこもかしこもアインズ・ウール・ゴウンの設定魔が書いたように思えてくる。

 

今のところ一番酷かったのは和風美少女の情報特化型従属NPCが「アインズ・ウール・ゴウン外部部門の大奥の管理者」とか書き換える一歩手前まで言ったんだが。

 

 

「原作」アルベド化が怖いので弄らなかったが。

 

 

一体何の情報集めているんだよ!

 

俺はロリコンじゃないし、そういう設定はペロロンチーノさんしか喜ばないっての!

 

 しかし、全員ぱっと見た感じアインズ・ウール・ゴウンに不和を齎すような設定がなくてホッとしている。

 

全員異形種であることも安心できる点だ。

 

 

別の意味で怖すぎるのは流石に勘弁願いたいが。

 

 

 NPC毎の職業や設定・特色に合わせた部屋の外装を外注し、

 

 

外界を見て心安らげるようにと遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を始めとしたアイテムを与えたりもした。

 

 

 ただ全員有能な設定というのは異世界行ったら俺が凡人だってすぐバレるな。

 

 バレたところで問題ないかもしれないが、忠誠を誓われるか不安だ。

 

 

異世界だって未だに信じ切れていない。

 

 

「原作」だって乖離しまくっている。

 

そもそも従属NPCなんていなかった。

 

段々怖くなってきたので、暇なときに支配者ロールや帝王学もどきを自己流とはいえ鍛え始めた。

 

 

 リアルでも役にたったので成果は出ているはずだ。

 

引退したユグドラシルプレイヤー数名が御身のためにとアイテム、時にはワールドアイテムを差し出してきたのは若干引いたが。

 

 

その都度護衛のためにプレアデスや守護者集めたりして魔王ロールしたら滅茶苦茶喜んでた。

 

 

 献上されたワールドアイテム「賢者の石」は自分のMPを石に注ぐことでMPを貯められるものだった。

 

容量は無限でMPをさらには他者へ譲渡や他者から吸収できるという魔法職には堪らないものだった。

 

 貰って以来毎日半分のMPを注ぎ込んでいる。

 

残り半年以上あるから膨大な量のMPになるはずだ。

 

 

超越者(オーバーロード)は過剰過ぎるMPがあり一日中魔法ぶっ放してもなくならないのだから全然問題ない。

 

 

正直、献上品があまりに都合が良すぎて内通者や転生者かと疑ったが全く関係なかった。

 

スレやあらゆる情報を確認してみても載ってなかった。

 

強いて言えば魔王様に謁見できた喜びという名のポエムの数々があった。

 

何となく気持ち悪かったので貰ったワールドアイテムはすぐ吸収した。

 

アイテムは宝物庫にシュート。

 

 

アインズ・ウール・ゴウンで取得した全てを自由にしていいとは言われている。

 

 

もう既にいない従属ギルドも同様だ。

 

 

とはいえ、流石にワールドアイテムを俺が吸収するのは躊躇われた。

 

 

 今回献上されたワールドアイテムを吸収したことである意味踏ん切りがついた。

 

個人で強奪したワールドアイテムと超越者のことを教えた従属ギルドが吸収してくれと言って置いていったワールドアイテムに関しては吸収することにした。

 

 その前に鉱山及びジャンク部屋(階層ぐらい広い部屋)の従属NPC全てと一部除く守護者を集めた。

 

 

鉱山守護は超級ゴーレムやプレイアデスに一時任せてあるので問題ない。

 

 

 個人で強奪してきたワールドアイテムと吸収してくれと頼まれたワールドアイテムの吸収と連絡がつかないギルメン(この辺はぼかした)のワールドアイテムは従属NPCに渡すことを伝えた。

 

 

こんなことを一々するのはやはり「原作」がちらつくからであろう。

 

 

いなくなったあと強奪できたワールドアイテムは1つ。

 

・カルマ値を逆転できるワールドアイテム。

 

 武人建御雷さんのようなカルマ値が関係してくる攻撃をしてきた襲撃者の一人が持っていたアイテムだ。

 

流石に超越者(オーバーロード)となった俺には届かなかったが元々の俺がまともに食らっていたら死んでいたと思う。

 

 

従属ギルドが元々持っていたり個人で集めたワールドアイテムが3つ。

 

・正攻撃無効

 

・光攻撃無効

 

・神聖攻撃無効

 

 これは絶対狙っているとしか思えない。

 

主にるし☆ふぁーさんやタブラさんと仲良かったメンバーが所属する従属ギルドらから貰ったものだ。

 

 これらを吸収したらアンデッドである俺の弱点が炎ダメージ倍化くらいしかない。

 

しかも炎属性は現在の標準装備で完全耐性を整えてある。

 

微妙な弱点である「神聖属性エリア・正属性エリアでの能力値ペナルティⅡ」を除いて弱点がないスーパーアンデッドだ。

 

転移前までに熱素石2つ使ってお願いしたら本当に弱点なくなる。

 

 

そして、熱素石で作ったワールドアイテムが5つ。

 

・MP+300% 

 

・HP+300%

 

・生命力持続回復(リジェネート)常態化

 

・戦士Lv+1

 

・全属性耐性(弱)

 

 これらはヘロヘロさんと仲が良かった従属ギルドが実験で作った簡易ワールドアイテムが主だ。

 

 なので、本来のワールドアイテムにはない機能や劣ったり欠点があったりする。

 

 まず、MP+300%は俺が持っているワールドアイテムMP+500%の指輪と違いMP回復量までは増えない。回復に時間がかかる。

 

 戦士Lv+1はワールドチャンピオンを除くあらゆる戦士職ファイターやソードマスター、モンク、ナイト等の最大増加分(ただし累計レベル1分)ステータスに加算し、レベル1分スキルを使用できるものだ。

 

魔法職レベル100ならそれに戦士職+1、戦士職レベル100ならレベル101になる。

 

 レベル1で勝敗を喫する戦士職には良いが、本来の魔法職には微妙系アイテムである。

 

 

 しかし、「英雄のマント」で行動する俺にはなんちゃって戦士から戦士スキルを使用できる微妙な戦士とハッタリをかませる凄まじいアイテムになる。

 

 

 今後異世界に行ったときの練習として戦士「モモン」を始めるのも良いかもしれない。

 

 あの最後の日、るし☆ふぁーさんが人間種の町でネカマプレイをするために使った変声アイテムをわざわざ使えと押し付けてきた。

 

 俺に人化の指輪と併用してネカマしろという意味で置いて行ったのかと思ったがどうやら違ったらしい。疑って悪かった。

 

 後は普通の簡易ワールドアイテムになるが吸収すれば本当に役に立つ。

 

 

 

 話は変わるが、アインズ・ウール・ゴウンのNPCについて。

 

 パンドラズ・アクターはレベル150になったギルドメンバーの力の8割をコピーできるらしい。

 

思い出を残すという意味で作ったNPCが汚されたようでちょっと嫌だったが、戦力が強化されたと思えば良い。

 

 

 レベル51になった一般メイドやエクレア等は元々職業レベルがレベル1だったせいか大体が滅茶苦茶な構成になっていた。

 

大概が料理等の生産系やネタ職業とかだった。

 

 しかし、モンクのガチメイドや、ガチ剣士メイドなんてのもいたりする。

 

 中には聞いたこともないような職業もありどうやって取得できるのか調べたが全く不明だった。

 

おそらく未発見か隠している職業だと思われる。

 

ジャンク部屋に放りこんだスレやサイトの情報に乗っている可能性はあるが。

 

 

 でも、掃除した便器を舐められる貴族的職業の奇術師兼料理人ならぬ執事助手ペンギンとか、

 

餡ころもっちもちさんが泣く。…いや、喜ぶのか?

 

 

 そういった泣きかねない構成もあったが今現在のキャラのスペックと今取得しているワールドアイテムの能力をギルドメンバーに報告した。

 

 

前にるし☆ふぁーさんが報告した内容では不足だったというのもあった。

 

 

 どの能力を与えるか改めてかつてのギルドメンバーに聞いてみた。

 

守護者・プレイアデスを作ったメンバー等はすぐに連絡が来た。

 

ほとんどのNPCが何にするかは最終日前までには報告があったが、ベルリバーさん等一部のメンバーとは連絡がつかなかった。

 

 

従属ギルドのギルド長だった人からも大概は返ってきたが一部連絡つかなかった。

 

 

 だけど鉱山守護任務につく従属NPCの全員にワールドバフが与えられたのは良かった。

 

傾城傾国等で操られたりしない。

 

大体人間に近い容姿なため異世界に行ったときに任務を任せられるからだ。

 

 アインズ・ウール・ゴウンの悪役ロールを踏まえていささか過激なことを書いてあったりもするが、

 

大概極めて頭が良い設定でカルマ値中立~善のレベル150達は心強い。

 

 それはともかく、もう誰にも止められない超越者となった俺はなるべく他のプレイヤーに迷惑が掛からない様なところを選び狩りまくった。

 

前々からあったのも含めてゴミアイテムが増えてきた。

 

金貨や希少価値があるものは宝物庫に入れ、使い道のないアイテムでも異世界では脅威なので全部捨てずに放り込んだ。

 

 その他無人魔王スクロール販売所を作って売ったり、希少金属以外にも暇なNPCに鉱山を掘らせて換金したりする等の金策したりした。

 

 レベル150をそんなことに使うのは申し訳ない気持ちもあったが、

 

設定に鉱山関係のこと書かれたり、職業もそういったスキルを持っていたので許容範囲だろう。

 

 多分作った人は、ウロボロス事件でるし☆ふぁーさんに協力したメンツだと確信した。

 

 スキルのお陰で鉄やミスリル、オリハルコン、アダマンタイト等弱い金属も出てきたりするのでそれは新しい倉庫に入れるように流れを作った。

 

今はいらないが将来役立つからだ。

 

 鉱山は浮上させ高レベル傭兵モンスターを隅々まで巡回させた上で戦闘特化の従属NPCに守らせている。

 

攻め込んでくる愚か者はほぼいないが偶にいるので敢えてそうしている。

 

攻めさせてPKするのは良い気分転換になるからだ。

 

 

 

 ある日突然戦士モモンとしての力をつけたいと思い、人間種としてとある闘技場に来た。

 

ワールドアイテムである完全催眠の杖の能力を使い、相手がワールドアイテムを持っている可能性を考えて虚偽情報・生命(フォールスデータ・ライフ)等を使用しまくりHP・MP、職業構成やら隠蔽工作しまくった。

 

 自分でもあからさまに怪しいと思った戦士モモンだが、ヘッポコ剣士として受け入れられた。

 

超越者(オーバーロード)の能力を抑えるだけ抑えた結果、スキル構成全部レベル1とかアホの初心者扱いだ。

 

 

地味に取得している努力は馬鹿にできないとフォローになってないフォローを頂いた。

 

 

 漆黒の英雄ロールしていた所、色々剣士としての技術を叩き込まれた。

 

その上で死なない前提のPVPを何度も行った。

 

生命の精髄(ライフ・エッセンス)等で確認しながら行うPVPだ。

 

ガチ勢程ではないにしろ専業戦士レベル100と肉薄することもできるようになった。

 

 

バレない様に能力や装備を落としたりしている自分が恥ずかしかったが、前々から戦士になりたかったんだからと開き直った。

 

 

 初期こそ名前の関連を疑う人もいたが、魔王ロールと全然違うこと、実際見たことも会ったこともない人ばかりなのも幸いした。

 

ユグドラシルの戦士職の情報を多数得ることができた。

 

有名な戦士職のプレイヤーにもっと早くユグドラシルに来て職業構成をちゃんと直せばワールドチャンピオンも狙えたと言われた。

 

 

言葉は嬉しかったが、自分を偽っていることに罪悪感が湧いたりもした。

 

 

 その後もちょくちょく顔を出していたが、ある日何人かの戦士が遊び半分でナザリック地下大墳墓に挑みに来た日があった。

 

絶対勝てないこと前提に来られたのでPVP形式で試合を行った。

 

ドロップアイテムは返却するかとも尋ねたが「不要」とのことだったので半分くらいの力とはいえ本気で戦った。

 

 

 モモンとして俺も魔王に挑んでくると戦士仲間に言った後、

 

ワールドアイテムである完全催眠の杖の能力で一方的ないわゆる負けイベントを魔王モモンガ戦で演出した。

 

 英雄ロールの声を録画しながら、魔王ロールで戦うという事前準備がなかったら絶対不可能な超難易度のマッチポンプをやった。

 

戦士職としての経験がなかったら疑われた可能性もある。

 

 土地を利用しての戦術や勘で良く頑張ったと褒められたが、ガチで鍛え直すと宣言して多分もうあまり来ないかもしれないと伝えたりした。

 

 最終日近くには前回の反省を踏まえたガチビルドになった戦士の死闘を演じた。

 

その少し前にワールドチャンピオンがPVPしにきたりしたのでそれを参考に素晴らしい試合を演出できた。

 

 ワールドエネミー化(違う)した魔王モモンガにワールドチャンピオンより善戦したとスレッドが盛り上がった。

 

ただ「前のワールドチャンピオンもそうだが、ワールドエネミーに単身で挑むな。

 

未だに全力を見せない魔王モモンガだがユグドラシルの全ワールドチャンピオンと全ワールドディザスターに真っ向から勝ててもおかしくない相手だぞ。

 

最低複数ギルドで行けよ」とマジレスされていたが。

 

 

ここまでやったのは万が一異世界でプレイヤーにあったときモモンとアインズ・ウール・ゴウンは別人ですよとプレイヤーにアピールしたかったからだ。

 

 

意味なかった可能性が非常に高い。

 

 

というか見破る系のワールドアイテムで観察されていたりしたらバレたかもしれないと気づき全力で確認した。

 

幸いそういうアイテムを持ったギルドはここしばらくヨトゥンヘイムで探索中と知りホッとした。

 

録画したもの等ならワールドアイテムでも見破ることは不可能とアインズ・ウール・ゴウンでの研究結果があったことが幸いだった。

 

 

能力を抑え込まなければあれ以上の戦士として余裕で戦える。

 

レベル100のワールドチャンピオン級のガチ戦士としての振舞いは異世界で役立つはずだ。

 

 

しかし、ワールドエネミーじゃないんだがなぁ…

 

 



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第八話 超越者アインズ・ウール・ゴウンの始動前②

見ている視点がミクロで最適でもマクロで間違ってたりする。
それは一個人である限りわからない。少なくとも協力を...諦めれば良かったのかもしれない


 後期には戦士モモン計画等半ばはっちゃけていたが、

 

 普段はユグドラシル金貨や経験値を必死に集めたりしていた。

 

実を言うと情報収集のため色々検索していたら、滅茶苦茶胡散臭いサイトに私が考えた最強のプレイヤーというのが載っていた。

 

それがカタログスペックだけ見れば俺に匹敵するものだったのだ。

 

 NPC皆を守るつもりではいるがあんなのに毎回攻められたらNPC達の協力や犠牲が出てしまう。

 

ただでさえ俺には前世があるのだ。魔王である俺を倒すために神とやらが送り込んできてもおかしくない。

 

 理論上あれが十数体いても余裕で迎撃できる第8階層だがこの世界ではほとんど発動していない。

 

毎日波状攻撃されれば百年持たない可能性が高い。

 

持ち出すことを躊躇していた強欲と無欲を持ちだした。

 

 

 その結果とんでもないことがわかった。

 

まず、PKか最高難易度のダンジョンじゃないと碌に経験値が稼げない。

 

それ以外のダンジョンだと最低経験値しか稼げない。

 

根こそぎ殲滅しているが割に合わない。

 

 

 かといって最高難易度ダンジョンを毎回好き放題したりPKばっかりしていたら、

 

待っていましたと言わんばかりに転生オリ主とその仲間達とセラフィムの糞共が颯爽と現れるだろう。

 

強欲と無欲が奪われたり、ナザリック地下大墳墓に攻め込まれたら話にならない。

 

 

 

 そこで俺は考えた。無人魔王スクロール販売所の「魔王警報」だ。

 

 まず、課金アイテム、最悪熱素石を常に持ちナザリックに転移できるようにする。

 

 次に高位ポーション等をいくつか店で買っておく。

 

 最後にあらゆるダンジョンを駆逐する前に販売所にて本日の「魔王警報」を出す。

 

警告したダンジョンではこれまで一々気にしていた他プレイヤーの誘爆も無視する。

 

誘爆したら「魔王警報」をしておいたのだから自業自得という旨の魔王ロールをする。

 

無論殺したいわけではないので予め他の店で購入しておいたポーションを売ったりする。もちろんダンジョン価格でだ。

 

 

勝手にキレて襲い掛かってくる奴がいたら自業自得なので経験値にする。

 

これを繰り返して最高難易度のダンジョンを転々とする。

 

上位ギルドに目を付けられない様に偶に低位のダンジョンを蹂躙する。

 

 

上手くいくはずがないと思っていた。

 

正直わざわざ警報だしたらセラフィムのカスがオリ主的な何かを引き連れてくるかもしれないと恐怖した。

 

 

結果全く問題なかった。

 

 

そもそも大魔王モモンガの悪名と実力は俺の想定以上だった。

 

俺が誘爆しないように気をつけていたなんて誰も知らなかった。

 

 

なので、大概の無関係なプレイヤーが高く設定したはずのポーションを感謝して買う。

本当はただで譲ってもおかしくないのに。

 

 

「挑むために探していたんだよ!」と襲い掛かかってくる奴もいた。

 

後で知ったがユグドラシル関係じゃないスレ名で隠蔽に隠蔽を重ね、暗号化までした『大魔王モモンガ行動予想スレ』(暗号化済み意訳)というものがあった。

 

これまでの目撃情報から推測した行動パターンの分析。

 

心理学を用いた性格傾向予想や諸外国の言語や技術を用いた暗号化等、転移後の魔王ロールに大変参考になった。

 

プレイヤーを巻き込まない様に事前の情報を収集してランダムで襲撃しているという予想がなかった。

 

偶に当たるが知らずに俺はPKプレイヤーだと思って対処していた。

 

中々当たらないがそれでも何回か当たっていたので皆更に勘違いしていた。

 

中にはこのスレが気づかれていて敢えて避けている可能性を考える者もいたが、

 

偶に当たるのは何でだろうかと疑心暗鬼になっていたらしい。

 

 

上記の内容は本当に高度な暗号化がされており当時の俺では一切理解できなかった。

 

異世界転移後、俺が作ったはずのエルダーリッチ達が報告してきて初めて分かった。

 

 

 

当時の俺は魔王警報を始めてしばらくして新しく常設されたユグドラシル関係スレ『大魔王モモンガ行動予測スレ』(暗号化解除)を見て、

 

 

「魔王は俺たちのことを見つけていてくれたんだ!」や

 

「これでわざわざ予測しなくて済むぜ。あの嘘つきのセラフィムめ!」

 

 

という歓喜に満ちた書き込みから本当に迷惑かけていたんだなぁと反省していた。

 

彼らはもはや不要だからとこれまで毎回隠蔽していた過去ログを晒した。

 

それを見てわざわざ余所にスレ立てて暗号化してまで俺を避けていたのかと落ち込んだ。

 

念のため知らない情報がないかと過去ログをサルベージして「ジャンク部屋」に放り込んだ。

 

 

魔王警報作ったのに何故かPKプレイヤー増えたなと思ったが、

 

経験値と金とアイテムになるならいいやと本気でわからなかった。

 

 

 

上位ギルドは何故か来なかったが、

 

上記の予測スレで「あいつらは俺たちの予測を利用して魔王を避けていたんだ」という書き込みを見て納得した。

 

無関係な一般プレイヤーを利用していたセラフィムの糞共を警報と同時に襲撃したい気持ちでいっぱいだったが我慢した。

 

こうした必死に敵対を避けていた無辜のプレイヤーにこれ以上迷惑かけられないと自分に言い聞かせた。実際は逆だったが。

 

 

 ナザリックに攻め込んでくる奴らは課金アイテムを使う前に従属NPCLv150と超級ゴーレムが駆逐したとの報告が入った。本当に瞬殺だった。

 

 よくよく考えてみれば一人ひとりがレイドボス一歩手前の戦闘特化NPC。

 

 従属ギルドがギルドの名をかけて組み込んだ戦闘AIとナザリック提供の材料を用いて神器級で装備を統一。

 

ナザリックを知り尽くしたヘロヘロさんが行動パターンを組み込んでいるのだ。

 

 

 出稼ぎ(ダンジョン蹂躙)に出ている間に怖くて仕方がなく、

 

新たに配置した探知特化の高レベル傭兵モンスター及びナザリック地下大墳墓内部からの簡易ワールドアイテムを用いた情報特化NPCの警戒網を突破するような奴はいなかった。

 

 仮にいたとしても攻め込んだ時はなるべく早く蹂躙を切り上げるよう心がけていた。

 

全滅の知らせはワールドアイテム用いても隠蔽不可能なはずとはいえ全力で蹂躙し早めに帰った。

 

 稀に傭兵モンスターの被害が出たが、その度に補填したし毎回いつ全滅する等被害がでても問題ないように傭兵モンスター召喚書物をコピーしまくった。

 

 

最古図書館(アッシュールバニパル)はギルドメンバーがいた頃拡張したが、当時の度重なるPKギルド襲撃の収穫でほぼ埋まっていた。

 

俺はこれ以上思い出を弄りたくなかったのでジャンク部屋を第二の図書館にした。

 

前買い込んだ本も相まってモモンガ専用の図書館という規模になってしまった。

 

見栄えの為に読まないような高尚な本を入れた。

 

安値で手に入れた低位の魔法が込められた本やイベントアイテム・外装データ等をありったけぶち込んだ。

 

まとめ買いをしてかなりの安値で手に入れ、見栄えだけのために突っ込んだ。

 

結果ナザリックにないような価値の低いアイテムが多くなったが俺は気にしない。

 

元々異世界用の『弱い』アイテムが増えただけだし、広すぎて量にすればかなりの財があるはずの部屋が、スカスカなのを少しでも埋めたかった。

 

 

 無人魔王スクロール販売所は売れに売れた。

 

ちょっと寄ったから何か買おう精神なのかわからないが基本即日完売になってしまった。

 

俺は魔王警報をだすためだけに低位のスクロールをまとめ買いし、製作系NPCを全力投入して低位のスクロールに魔法を込めまくった。

 

狩りの後、大量のレアアイテムとゴミアイテムを選別しながら魔法のリキャストタイムをコンマ1秒以下で見切り魔法を込めた。

 

普段使わない魔法の腕が上がった。それでも即日全部高値で売れる。

 

 

俺の行動は段々ルーティン化していった。

 

狩り→店の売り上げを受け取る→

低位スクロールを込められる規定数ギリギリまでまとめ買い→

余った売上を即座に散財する(ドラゴンハイドや低~高位マジックアイテム等)

→製作NPCが作成したスクロールに魔法を最短で込める

 

 

当時の俺は気づかなかったが、魔王スクロールを売り出す前は全盛期とくらべ天と地程の差がある閑散とした街並みだった。

 

その為に信用できる大ギルドアインズ・ウール・ゴウンは店を簡単に買うことができた。

 

 アインズ・ウール・ゴウン全盛期2500人討伐した際に魔王モモンガが少量売ったスクロール。

 

 

それを大規模で売り出したときの古参プレイヤーや噂にしか聞いていなかった全盛期にプレイを始めたプレイヤーは飛びついた。

 

 

そういった客と売り上げを即日散財する魔王モモンガの存在。

 

 

魔王スクロール販売所の周りには様々な店が増えていた。

 

低位スクロールをまとめ売りする店。変な効果がある面白アイテム屋。

 

普通の本の中にこっそり自分で書いた小説を安値で売る本屋。

 

個人的に作った変な外装を売る店。普通にまともな高位素材を売る店。

 

中古マジックアイテムショップ等色々増えていた。

 

その場で魔王スクロールの売り上げ全部を散財し、

 

店が増えそれに伴い魔王スクロール以外を買いにくる客がゲーム内の経済を活性化させたのに俺は気づかなかった。

 

 

九つの世界の一つ。たった一か所小規模な。

でも全盛期のユグドラシルはそこにあったのだ。

 

 

 

 そんな大事なことに気づかずこの頃の俺は発狂していた。

 

戦士モモン計画はこのあたりで頭おかしくなった俺が全力でふざけた結果である。

 

とはいえいきなり魔王警報を辞めるとおかしいし、怪しいと変なところで冷静だった。

 

段々攻略するダンジョンの難易度を下げ時間を作成し、戦士モモンとして活動時間を増やすという涙ぐましい努力の成果だった。

 

 

当時、俺は「原作」開始までギリギリだったため必死だった。

 

 

全ては『ナザリック』を守るため。

 

 

無駄かもわからない戦士モモンや魔王モモンガのロールプレイ、

 

役作りのための帝王学学習等リアルと現実を辛うじて区別できている状態だった。

 

 

リアルの情報収集をニュースくらいしか見ない程度に疎かになっていた。

 

ユグドラシル関係スレやサイトの大多数を読まずにそのままデータ化したりしていた。

 

 

 

 

 

その日『大魔王モモンガ行動予測スレ』では、激論が交わされていた。

 

「無人魔王スクロール販売所の『魔王警報』減退」という彼らの存在理由がそのものが危ぶまれる事態が発生していたからだ。

 

様々な解釈の末とある筋の確実な、それでいて切実な情報が入ってきた。

 

「公式が魔王モモンガによるユグドラシル活性化に伴い運営延長を要請したが、

 

会長が『所詮個人の活躍を当てにする等馬鹿げている』と一蹴したからだ」

 

とリアルで無駄に洗練された高度な技術を持つ情報収集の変態(エキスパート)達はそう結論付けた。

 

 

 

俺は知らなかった。もう少しで完全な「原作」改変ができたことを。

そして後悔することになった。自分の視野の狭さを。

 

 



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閑話 九つの世界を救おうとした魔王の話

未来であり過去である話


 

『神々すら記憶できない遠い昔、世界は一つではありませんでした。

 

それは多種多様。善も悪も超える何百もの世界がありました。

 

しかし、世界を滅ぼす存在が現れました。

 

神々が気づいたときには世界は九つになりました。

 

九つの世界にあらゆる神々が存在した時代。

 

神々は滅んだ世界の欠片を探し求めました。

 

 

欠片を探して一喜一憂する神々。

 

そんなある日、この世全てに匹敵する財を手に入れた神の王が現れます。

 

そんな暴挙を許せないととある神は世界の欠片を使います。

 

欠片は蛇になり、一つの世界を財ごと飲み込みました。

 

世界が八つになり神々は慌てます。

 

しかし、財ごと飲み込まれたはずの神の王は蛇の腹を食い破り世界は九つに戻りました。

 

世界を救った神の王は言いました。

「この財は我々のものだ」

 

それは全ての神々すらも超越する宝の山。二千にも三千にもいた神々は怒りました。

 

神の王は神々を嘲笑します。

「ちっぽけなことで一つの世界を滅ぼしかける。

何故そんな者達に財を渡さなければならないのか」

 

数千の神々は怒り狂い手にした世界の欠片を手に神の王と住まいを襲います。

 

神の王は笑い続けました。

「住まいを襲い、財を奪う。それだけのために集めた世界の欠片を使うとは。

そんな者に欠片は不要」

 

神の王は自らの持つ欠片を使い、数千の神々を滅ぼし世界の欠片を奪いました。

 

神の王は魔王と恐れられました。恐れた神々は誰も魔王の側に近づきません。

 

神々は魔王ではなく自らより弱い神を襲うようになりました。

 

より世界の欠片を求め殺し犯し騙し奪い合う。

 

それはそれは醜い世界になりました。

 

 

 

それを見た魔王は言いました。

「児戯はやめよ」

 

魔王は弱き神々を救いまとめ、強き神々と戦います。

 

戦いは聖なる日に行われ、魔王は勝利を、神々は歌を世界に捧げました。

 

魔王は神々に財を与えました。

 

神々の争いはなくなり残った神々はまた世界の欠片を探すようになりました。

 

 

 

そんなある日、世界を滅ぼす存在が再び現れました。

 

多くの神々は財を捨てて去り、魔王は財をかき集め神々に分け与えます。

 

与えられた神々は魔王に倣うように他の神々に分け与えます。

 

そうして魔王によって彩られた世界はとても美しく、世界を滅ぼす存在は躊躇します。

 

しかし、滅びの力は止まりません。魔王は最後まで財と力を使います。

 

滅びゆく世界で神々はもう辞めるよう魔王に祈りを捧げます。

 

魔王は止まりません。全ての神々は諦めました。それでも魔王は諦めません。

 

九つの世界が滅びる最後の時、魔王は諦めました。

 

神々は笑い合い、魔王は怒り狂いました。

 

そして世界は一つになりました。

 

一つになった世界。後の世で六大神と呼ばれる神々は見知らぬ新しい世界を旅しました。

 

そこで神々は殺し犯し騙し奪い合う醜い者達を見ました。

 

神々は怒り狂います。弱き者を助け守りました。

 

その弱き者こそ人間であり、神は人を選びました』

 

 

白い目と黒い目を持つ少女はとてもとても古い本を読み終え虚空を見つめる。

 

神の財を守り人を守る。それが彼女に与えられた使命。

 

では、財を与え、弱き者を救ったというこの魔王はどんな気持ちだったのだろうか。

 

神々が終わりを悟り、笑い合う中で最後に諦めたはずの魔王は何故怒り狂ったのか。

 

少女にはわかりません。魔王が最後に怒った理由が。

 

それだけの力がありながら世界を守り切れなかった魔王自身なのか諦めた他の神々になのか世界を滅ぼす存在とやらなのかそれとも全てになのか。

 

少女は本を誰にも気づかれない様にそっと元の場所に戻す。

 

その本は六大神が一柱、死の神スルシャーナが放逐されてしまうまで繰り返し話していたことをまとめたという一冊。

 

何も言わない最後に残った死の神の従者が事実を捻じ曲げられたと怒り狂う唯一の本。

 

何よりその本を捨てられないと嘆く従者はみたくなかったから。

 

 




書き溜めた分を投稿し終えてしまいました。
13巻分までプロットはありましたが、ところどころこんなことするかなと疑問もありこの後の投稿は早いかもしれませんし遅いかもしれません。
後この主人公13巻まで読んでません。読む前に死にました。
アニメ二期も怪しいかもしれない。


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第九話 かつて在りし日への羨望と後悔

最後の可能性に目を背け、捨てられなかった魔王は後に後悔する。
それは最初に気づいた最後の分岐点。運命は物語へと終着する。


ユグドラシル終了残り一か月を切り、段々俺の気分は落ち込み始めていた。

 

もちろん、出稼ぎは辞めてはいないし、スクロールを売ったりもしていた。

 

だが、もう町にはプレイヤーはほとんど見かけない。

 

人化の指輪を使い人間種の町に行ってみたりもした。

そちらは幾分賑やかだった。ただ前来た時よりプレイヤーの人口密度はない。

 

今まであちこち襲撃したりしていたのが馬鹿らしくなるくらい静かなのだ。

 

皆最後の時間を細々と過ごしていた。

 

毎日問答無用で襲い掛かってきていたPKプレイヤーすら俺と対話してから挑んでくるようになっていた。

 

皆どこか諦めているかのようで、まるでリアルのようだった。

 

 

俺が愛したユグドラシルが失われるのは見ていて嫌だった。

 

思い切って魔王警報出さずに襲撃した。誰もいない挑んでこない。

 

うっかり無関係なプレイヤーを魔法に巻き込んでしまう。

 

回復アイテムをただで渡そうとしたが、断られた。

 

 

 

 

そんなある日、解散した従属ギルドのメンバーの一人からメールが届いた。

アカウントを消していない従属ギルドメンバーが何人かいたのは知っていた。

 

久々に来たメールには長々と魔王モモンガへの時敬の挨拶があり俺は苦笑した。

それに続く内容を読み、俺は驚愕した。

 

 

 

翌日、俺は元従属ギルドのオーバーロードであるスルメさんに連れられとあるワールドの中心街に来ていた。

 

俺は昨日知ったのだが、最終日近くということで主義主張、種族の差をも超えたギルド連合国家が結成されたという。

 

それは、ある意味ワールドチャンピオン以上のドリームビルダーの頂点。誰もが認める〇印プレイヤーによるギルド連合国家だった。

 

 

参加しているプレイヤーにはワールドアイテム持ちもいる。

 

例えば、ワールドアイテム『乞食の肉』。

 

全ての存在がオーバーロードすらこのアイテムは飲食可能。無限の量を強制的に食べさせられるアイテムだ。

 

名前からしてアウトだが、敵判定で食べさせると低確率で状態異常を引き起こす性質の悪いワールドアイテムだった。

 

 

このワールドアイテムを取得した際とある白髪オッドアイのエルフは「何故俺は緑髪にしなかった!」と世界の中心で戯言を叫んだ。

 

『乞食の肉』を取得した途端に彼は当時名高かった弓ガチビルド構成を大胆に変更し、『逃げる』ことただ一転に特化した。

 

真面目だった性格が反転したようになり、空腹状態のプレイヤーを探し出しては強制的に『乞食の肉』を食べさせる。しかも敵判定でという畜生行為を行い始めた。

 

彼はアインズ・ウール・ゴウン以外の上位ギルド連合討伐隊すら逃げきった。

 

 

古参プレイヤーなら誰もが知る伝説的ドリームビルダーだ。

 

 

その行いのせいで一時期異形種狩りより「白髪のエルフを殺せ」と話題になったのを俺はよく覚えている。

 

 

その他にも碌でもないプレイヤーばかりだ。

 

 

冒涜的な異形種を操り、他プレイヤーの目の前で冒涜的な行為を行うことで数多くのプレイヤーのSAN値を直葬した女森祭司(ドルイド)。

 

R18だと毎日のように運営に問い合わせが来たが、『ギリギリセーフ』との回答に問い合わせた全てのプレイヤーはガチギレした。

 

何らかのアイテムを用いてプレイヤーを禿にしまくった『至上の光』を自称する至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)。

 

とあるギルドダンジョンを単身で攻略し、幼い容姿のNPCを大量に作成、配置したガチペド聖騎士等々。

 

誰もが聖者殺しの槍(ロンギヌス)で即抹殺されてもおかしくないプレイヤー達ばかりである。

 

しかし、異常なまでの生命力で今まで平然とのさばってきた真の強者。

 

 

逆の意味でワールドチャンピオン以上に畏怖されたプレイヤー達だった。

 

 

濃い性格だったはずのスルメさんを振り回し調整役に周らせた。

 

スルメさんはいつの間にか連合代表のギルド長になったらしい。

 

 

その俺はその就任挨拶を頼まれた。しかも魔王ロールで。

 

もう思う存分好き勝手に話して良いとのことだった。

 

久しぶりの仲間の頼みだからと引き受けた。

 

誘ってくれたのは嬉しかったが、正直色んな意味で嫌だった。

 

スルメさんがギルド長となったギルド拠点は神殿だった。

 

神聖な空間を思わせる中で全くもって神聖とは程遠い畜生プレイヤー共とそのNPC達。

 

 

端的に言って俺はヤケクソだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

静まり返った神殿内。そこは誰もしゃべらなければ完璧な。俺の理想した空間だった。

 

 

「かつて我々は弱者だった。強者が驕り弱者を甚振る」

 

ユグドラシル初期俺は蹂躙された。扱いはおもちゃだった。

 

 

「今でこそ超越者(オーバーロード)足る私すらも地を這い、屈辱の中での滅びを確信した」

 

ゲームを辞めようと決意したときだった。

 

 

「そこに現れたは純白の聖騎士。救われた私は集まった仲間達と共に強者に立ち向かった」

 

全ての始まりのクラン『九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)』。

 

俺は、「魔王」のオーラを解き放つ。

 

 

「我らは世界を作り、この世全ての財を手にした」

 

在りし日の栄光。ギルドを手に入れた。鉱山を手に入れた。2500人を討伐し返した。

 

手に入れた財でナザリック地下大墳墓という世界を彩った。

 

 

「…そんな我らが真に望んだのは全ての存在の安寧、生きとし生ける者全ての平穏だった」

 

絶望のオーラを解き放つ。異形種狩り等へのPKK。今でこそユグドラシルの惡の華。

 

しかし、全ての始まりは善だった。

 

 

「理解しようとしない愚か者達が何度も我らが居城を攻め、私は自己で完結してしまった」

 

櫛の歯が欠けたようにいなくなるギルドメンバー。仲間達との思い出に俺は執着した。

 

 

「しかし、今ここに真の自由と平穏の理想郷が誕生した」

 

本当に自由過ぎる面々に俺は苦笑する。

 

 

「私は怒る自分自身に。私は怒る我らがついに手に入れられない存在に。私は怒る世界の終焉を!」

 

いてつくはどうを解き放つ。

 

俺は許せないユグドラシルが終わってしまうことが。

 

例え異世界に転移してしまって永遠の繁栄が約束されたとしてもそれ以上に許せない。

 

 

「…だが、超越者たる私ではできなかった偉業を諸君は成し遂げた」

 

一旦間をおいて「魔王」のオーラを解き放つ。

 

このギルド連合はある意味俺たちの夢を叶えたものだった。

 

それが最後の一瞬だったとしてもだ。

 

 

「全ての存在、異形種・亜人種・人間種の国を築いた諸君を祝福しよう!」

 

俺は心からの称賛を彼らに贈る。

 

超越者(オーバーロード)としてゲームクリアしてもできなかったことだ。

 

俺がやったことは内心はどうあれ『従属』という形で対等ではなかった。

 

 

「繁栄を!遍く栄光が諸君に降り注がんことを!願わくば我らが世界に匹敵する栄光を!」

 

俺は仰ぎ見るように両手を広げて彼らを祝福した。

 

 

僅かな静寂。

 

その場にいたNPCを除く全ての者達が雄たけびを歓声をあげる。

 

俺は用意していた課金アイテムで砂時計のように消え入りその場を後にした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

疲れた。

 

勝手に退場したが良かっただろうか?

 

あの後、スルメさんからはこの世にある全ての称賛の言葉を凝縮したと錯覚する程の感動と感謝を述べられた。

 

きっと喜んでくれたと思いたい。

 

 

 

俺は彼らが羨ましかった。俺が彼らに誘われなかった理由はわかる。

 

アインズ・ウール・ゴウン、ナザリック地下大墳墓。

 

ゲームクリアにより強化されたそれはもはや対等な関係を結べない。

 

俺は生まれて初めて栄光あるはずのアインズ・ウール・ゴウンとナザリック地下大墳墓の存在に、これまでの行いに後悔した。

 

 



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第十話 誰も知らない絶対者

ようやく始まるようで始まらない原作。初っ端から原作一部崩壊してます。


「逃げろエンリ!逃げるんだ!」

 

父が叫ぶ。

 

平穏な村のいつもの日常。そんな物は容易く壊されたことをエンリは実感する。

 

エンリが帝国騎士に襲われそうになったところ、父は騎士を突き飛ばした。

 

そして今、父は騎士達に完全に羽交い絞めにされていた。

 

もう助からない。

 

父を見捨てエンリと妹ネム、そして母は逃げる『覚悟』を決めた。

 

 

すると、目の前に楕円の『闇』が現れた。

 

 

あまりに突然な異常に呆然とするエンリ達と父、そして帝国騎士達。

 

楕円の闇から現れたのは、奇妙な仮面を被った豪華なローブで着飾ったマジックキャスターと思わしき男。

 

そして、奇妙な全身鎧と角のある女性?騎士が現れた。

 

絶対的なオーラを醸し出すその男はエンリ達と羽交い絞めにされている父、そして帝国騎士達を一瞥する。

 

 

「ふむ。魔法の矢(マジックアロー)」

 

やや、投げやりな声で放たれた魔法の矢。

 

しかし、それは凄まじい勢いで父を羽交い絞めにしていた三人が爆散する。

 

父は大量の返り血を浴びて呆然としているが生きている。

 

 

「ああ、これは失礼。加減を考えてはいたが返り血までは想定が…」

 

男が何かを言い切る前に、

 

 

「あああああ!」

 

生き残りの騎士の一人が発狂し、剣で襲い掛かる。

 

 

危ないと思った。マジックキャスターは大体脆弱な体だと薬師の友人から聞いていた。

 

護衛と思われる女性騎士も突然では対応できないだろう。

 

そうエンリは思っていたが、

 

「ふん!」

 

男は虚空から取り出した金色の剣で帝国騎士の剣を両断する。

 

 

ありえない。兵士や騎士の経験等あるわけないが、それくらいわかる。常識が崩壊していく。

 

 

「やはり弱い。騎士としての経験も技量も即席に近い…村人以上専業騎士以下だな。

 

とっ、すまんアルベド護衛対象の私が対応してしまった」

 

男が護衛の女騎士(アルベドというらしい)に謝罪する。

 

 

「謝罪等勿体ない!寧ろ私の過失です!

 

必要ないと思ってしまったのと…つい見とれてしまいまして」

 

全身鎧で体をくねらせる女騎士。鎧の構造がやや気になる。

 

 

「ええ…。まぁいい。『中位アンデッド作成』デスナイト」

 

マジックキャスターが先ほど爆散した騎士達3人にむかって声をかける。

 

死体はゴボリという音を立てて水飴のような闇が蠢き出す。

 

 

「ひぃぃぃぃ!」

 

先ほどエンリを襲った帝国騎士が悲鳴を上げる。剣を失った騎士はその光景を呆然と眺める。

 

エンリ達もその光景に恐怖を感じ動けない。

 

尽きることのない黒い粘液は爆散したはずの体を再生するように、それをさらに全身で覆う。

 

身長は2.3メートルほどの大盾と大剣を身にまとった言うなれば『死の騎士』が現れた。

 

体は熊よりも厚く圧倒な威圧感を感じる。

 

 

「さて、そこにいる騎士は2人。降伏するなら殺しはしない。

 

 デスナイト達よ。

 

 三人で散開し、村で殺戮を行っている騎士達から村人を守れ。必要なら騎士は殺して構わん」

 

淡々と指示を下す『絶対者』。

 

後のエンリの人生に大きく関わる『魔王』アインズ・ウール・ゴウンの第一印象だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ユグドラシル最終日前日までに俺は各所に挨拶(こんにちは死ね!も含む)周りをした。

 

 

無人魔王スクロール販売所を撤去し、魔王警報なしにダンジョンに突撃しまくった。

結果これまでで一番稼いだ。

 

 

最終日の二日前、ダンジョン突撃後。とあるワールドの人間種の町に来てみた。

人化の指輪と変声アイテムは使い慣れており、変装状態の知り合いも多くなった。

なので、積極的でないにしろ近くを通ったら挨拶したりした。

 

うっかり一部の指輪をはめていたことに気がついた。

 

その場で外すと目立つため仕方がなくそのままにした。

目ざとい人からは普段と違う装備で少し不思議がられたが、すぐ勝手に納得したようだった。

 

 

しばらく見ていると納得された理由がよくわかった。

 

 

意味もなく大量に激安で希少アイテム等を売る店があった。

最終日近くでパーティグッズを買う人は多い。

しかし、いくら希少アイテムでも使い道のないものをわざわざ買う人はあまりいないようだった。

事実、希少アイテムコーナーは閑散としていた。

  

だが、三回分の願いが叶えられるアイテム『流れ星の指輪(シューティングスター)』の未使用品まで激安で売られているのを俺は発見した。

   

 

買おうとした瞬間、ついこの間見たばかりの某白髪エルフに買われてしまった。

無駄に洗練された熟練のプロを感じさせる素早い動きだった。

買いに来る奴をわざわざ出待ちして狙ってないとできない動きであった。

戦士の経験を積んだ俺は確信できた。

 

 

買ったその場で無駄打ちされる『流れ星の指輪(シューティングスター)』。

有効な選択肢が現れるそれを、わざわざネタ選択肢に全部使ったエルフ。

呆然とする俺と俺の『流れ星の指輪(シューティングスター)』を見比べニヤリと笑い去っていった。

 

 

その他の希少アイテム『リング・オブ・マスタリー・ワンド』等だけでなくパーティアイテムや課金ガチャハズレアイテムまで全て店ごと買い占めた俺は悪くない。

 

 

 

 

そうして前日、友を待った。迷った挙句にかなり遠回しな言い方でナザリックにこないかと誘ってみたが皆忙しいのか連絡がつかなかった。

 

こんなところは「原作」改変して欲しくなかったが、メール等でのやり取りは久しぶりで嬉しかった。同時に友に本当に危ないことをしてしまったとも反省した。

 

ヘロヘロさんはオーバーワークでユグドラシルⅡではオーバーロードになると口走り、タブラさんは海外で古のデュエルを、るし☆ふぁーさんは留置所に叩き込まれたらしい。

 

いや、本当に何やってんだ特に最後。

 

 

 

まぁなので、ゆったりとした最後を迎えようとしていた。

異世界転移は未だに完全には信じられない。

最後にスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手にアルベドやセバスとプレアデス、さらに和風美少女の情報特化従属NPCを並べている。

 

万が一、辞めたギルドメンバーが来ても出迎えられるように邪魔な鉱山は沈めた。

従属ギルドNPC達は第一階層で待機させた。

一人だけ情報特化NPCを俺の側に置き、入口近辺を監視させている。

 

アルベドにはワールドアイテム『真なる無(ギンヌンガガプ)』を持たせてみた。

勝手に移動させるのは俺の我儘だ。「原作」に合わせてみた。ただそれだけ。

 

そういえばアルベドは設定変更が怖くて最後まで設定を確認していなかった。

 

まぁ、『ビッチ』何だろうなぁと思いつつ設定を覗いてみることにした。

 

…長い。重要なのは最後だと一番下までスクロールする。

 

 

『モモンガを愛している』

えっ。

 

 

衝撃的過ぎて呆然としてしまい、最後の瞬間を間抜けな形で迎えてしまった。

 

 



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第十一話 未知であり既知の洗礼

オリジナル設定だけを見ていたら、原作に加えて幽遊白書やドラクエ。elona等々。
本当に何でもありそうなユグドラシル世界になっていた件。


我に返った俺は既にサーバーダウンの時間がとっくに過ぎていることに気づく。

 

 

「どういうことだ!」

 

自身のあまりにも間抜けな最後と混乱から怒りの声を出してしまう。

 

すると突然感情が抑制される。

 

 

「これは…」

 

これには心当たりがある。『原作』の感情抑制だ。

 

 

「どうかなさいましたか?モモンガ様?」

 

初めて聞く、いや微かな前世の記憶の残滓が覚えている。思い出した。

 

呆気に取られながらも声の発生源は既に知っていた。

 

顔を上げたアルベドの物だった。

   

 

「アルベド、そして、いや…」

 

『知っていた』から冷静に判断できる。

 

それにかつての仲間ぷにっと萌えさんの教え『焦らない冷静な論理的思考』があったからこそだ。

 

まずは状況を確認する。

 

 

「シマバラよ。外はどうなっている?」

 

17世紀から20世紀にあったとという京都の六花街の一つ。

島原遊郭から名を取ったという情報特化従属ギルドNPC『シマバラ』。

 

彼女にはナザリック内外を監視させていたはずだ。

 

 

「はい。現在の入口付近には草原が広がっております。

 

ナザリックはグレンデラ沼地から転移されたと思われます。

 

…私の感知をすり抜けて」

 

シマバラは一見すると冷静を装ってはいる。

 

しかし、最後の言葉からは恐れ、情報に特化した自分が気づけなかったという自尊心が傷つけられたのか微かな怒りを感じさせられた。

 

その言葉にその場にいた全てのNPC達が驚愕しているようだった。

 

シマバラの能力は『魔王』モモンガの都合上、彼らの目の前で良く使っていた。

 

従属ギルドがいた頃は、従属ギルドを重要視しているよというアピールも含めていた。

 

 

だが、情報特化でも情報系魔法は奥深過ぎる。

 

いきつく先は持てる魔法と勘。腹の読みあいになる。

 

そのため、状況に応じて別の情報系魔法が使用できるナザリックの情報特化NPCニグレドとの使い分けもしていた。

 

とはいえ、基本な魔法や能力は同じ。

 

問題ない平時にはニグレドに会いに第五階層の氷結牢獄まで行くのと『あの』儀式を毎回こなすのはちょっと、いやかなり面倒だった。

 

なので、移動させやすいシマバラを俺は多用していた。

 

 

そのため、シマバラの監視の目をすり抜けるのはNPC的には不可能と思っていてもおかしくはない。

 

俺がそれだけ重宝していたから。いや、してしまっていたからと言うべきか?

 

 

「申し訳ございません!この罪は守護者統括たる私が!」

 

アルベドは慌てて謝罪する。

 

その場にいる全NPCを代表して気づかなかった失態を詫びている。

 

 

「よい、アルベド。これはおそらく私以外気づくのは不可能だった。

 

さらに言えば、今はそれどころじゃない」

 

これらの反応から忠誠心は『原作』同様のものであると推測できた。

 

とはいえ、従属NPCとナザリックNPCとの扱いの差。

 

念のため本当に忠誠があるのか等は後で確認すべきだ。

 

慢心して驕り高ぶって蹴落とされるということがなくても。

 

忠誠に胡坐をかいた結果NPC達から失望はされたくない。

 

 

「今の発言を聞き、他に異常に気が付いた者はいるか?」

 

一応確認する。無いとは思うのでセバスとプレアデスに…

 

 

「はい。モモンガ様」

 

意外過ぎる答えがナーベラルから来た。

 

 

「ナーベラル教えてくれ」

 

何かあったか。ナーベラルの設定や構成から気づくことなんてあったか…?

 

 

「はっ!恐れながらモモンガ様より授かりました。

 

ワールドアイテムの力『賢者の呪帯』にこれまでなかったはずの魔法が。

 

膨大ともいえる様々な魔法が登録可能になっています」

 

ナーベラルの答えを聞き、確認した俺は同じことを気づく。

 

 

 

ナーベラルと製作特化NPCオーバーロードのカジータに与えたワールドアイテムの力。

 

ワールドアイテム『賢者の呪帯』。帯というよりは包帯で作られた腰当て。

超経験値が必要な成長型ワールドアイテムである。

 

効果は『第六位階までの全ての魔法から選択した魔法が取得可能になる』というもの。

 

ただし、それなりの個数を取得するとなると膨大な狩りをしていた俺ですらうんざりする程の経験値が必要だ。

 

俺は初期装備状態の3つと百五十。

累計153個の魔法を『賢者の呪帯』により習得している。

 

勿体ないので百個は取得しないで残っており今すぐにでも百の魔法は取得可能だ。

 

 

ナーベラルの発言から取得可能な魔法の一覧をさらっと確認した俺は驚いた。

 

警報(アラーム)、蟲殺し(ヴァーミンベイン)。

 

『原作』において確か前者はニニャ、後者はイビルアイが使用していた魔法だ。

 

異世界で開発された魔法も取得可能なのかと驚愕したが、それ以上に安堵した。

 

 

 

この異世界が『原作』と同じ、あるいは近似した世界であることが確定した。

 

無茶苦茶なドラゴ〇ボールのような異世界じゃないことをまず喜んだ。

 

 

 

似たようなワールドアイテムがある。

 

大溶岩流(ストリーム・オブ・ラヴァ)や神炎(ウリエル)、朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)等ありとあらゆる炎系魔法がカルマ値等の減退なく使えるワールドアイテム。

 

『地獄鳥の殺生石』。指輪型のワールドアイテムだった。

 

そちらの能力を見ても今までなかったはずの魔法が確認できた。

 

こちらはかつての仲間達が誰も望まなかったので誰にも与えていない俺だけの知識。

 

いや、一人ワールドアイテムの力だけなら…ってあ…ちょっと待て

 

 

 

今は関係ない。確認が先だ。

 

決して。そう、決して現実から逃げているわけではない。

 

 

 

「素晴らしいぞナーベラル!

 

与えた能力を持っているだけでは、把握していなければ発見できない。

 

未知の知識があることを『魔法』の存在がお前のお陰で発見できた」

 

俺はナーベラルを心の底から称賛する。

 

自ら考え行動したということは、『原作』同様に経験や知識面で俺たちは成長できる。

 

 

この段階で異世界の脅威を知ることができたのは素晴らしい。

 

名前だけでも大体の魔法が効果を多少類推できる。蟲殺し(ヴァーミンベイン)とか。

 

『〇〇・ルンドクヴィスト・〇〇』シリーズとか明らかに個人名が入っているため、効果が推測できない魔法もある。

 

俺も『スーパー・モモンガ・ウルトラファイヤー』とか作りたい。異世界人ズルい。

 

 

 

「今後は都市等へ調査に向かうかもしれない。誰か他にはいるか?」

 

ナーベラルのこともあるし、さらに念を押してみるが流石に誰もいない。

 

 

「では、アルベド。第一階層に待機している戦闘特化従属NPC。

 

その中から選抜した調査隊を作り、二人一組か三人一組で周囲を調査させろ。

 

調査範囲は周囲数キロ程度で構わない。

 

調査する者にはメッセージが使用可能な者を確実に同行させろ。

 

現地の知的生命体が居れば最大限譲歩して、出来ればナザリックに来てもらいたい。

 

いや、無理なら友好関係を築きたい。可能な限り温厚な者を選抜し、調査に回せ。

 

セバスはナーベラル以外のプレアデスの一人と共に調査隊と合流せよ。

 

それまでにわかった範囲の情報を持って3時間後に第六階層の闘技場へ来い」

 

念には念を入れて徹底的に。

 

未知の脅威はシマバラとナーベラルで判明したからわかってもらえるはず。

 

温厚という点と人数で選抜の時間がかかるかもしれないが。それは必要な時間だ。

 

 

「畏まりました。ナーベラルとの会話と並行して大よそ考えておりました。

 

メッセージを送ればすぐにでも編成し、調査可能です」

 

アルベドは本当に有能だな。俺いらない子じゃないかこれ。

 

 

「素晴らしい!ではそのようにしてくれ。

 

ナーベラルはカジータを呼んで共に…最古図書館(アッシュールバニパル)に行け。

 

司書長を始め司書たちの知識と照らし合わせて未知の魔法を確認して欲しい。

 

『賢者の呪帯』で新しく判明した魔法名を全て書き留めて報告書を作成してくれ。

 

ただし、習得はするな。あれは新たに覚えるための経験値がかなりかかる。

 

50個程度ならナザリックの秘宝、ワールドアイテム『強欲と無欲』のストックの少しを使えば容易だが今はダメだ。

 

これは今後の方針に関わる重要な仕事だ。できるな?」

 

 

さらっと見た俺ですらわかる。

 

膨大な量の魔法があり過ぎること、単調な作業で気が滅入ること間違いなしだ。

 

 

もし今後「原作」同様に戦士モモンで情報収集するなら、

 

人間として行動できて現地魔法が使えるようになれるナーベラルが最適だ。

 

プレイヤーがいれば魔法から現地人という偽装及び証明が可能だ。

 

 

ただ、『原作』と同様ならナーベラルの人間軽視はやや問題だ。

 

正直俺がナーベラルを完全にフォローできる自信がない。

 

 

「はっ!命に代えましても必ずやご期待に沿えるよう努めます!」

 

ナーベラルが死を覚悟した戦士のような意気込みを語る。

 

いや、そこまで気にしないでいいから。可能なら都市部への調査とかも頼みたいし。

 

想像以上に忠義が重い。

 

『原作』の俺良く頑張った。偉い。ストレスで死ぬ。

 

慣れるまでしばらくはオーバーロード状態じゃないとストレスで死ねる。

いずれ人化状態での忠誠も確認しなくてはならないだろう。

 

 

「…では、今の方針に従い行動を開始せよ。

 

アルベドとシマバラ以外に命令が与えられていない者は元の持ち場に戻ってくれ」

 

俺がそう命じると忠義の礼を取った後、皆が行動し始める。

 

まるで俺、『魔王』じゃないか全体的に。かなり練習したけどさ。

 

 

 

さて、三時間も取った理由だが、『原作』じゃないんだし、いらなかった気がする。

 

というかアルベド以外は『原作』でも大丈夫だったはず。

 

さっさと終わらせて、アウラやマーレのところに行ってスキルや魔法を確認したい。…一応ゴーレムもだな。

 

転移前に全部確認したはず。でも未だに怖いんだが、るし☆ふぁーさん。

 

仲間達が作った物だ。俺は全てを許そう…。

 

 

気を取り直そう。何、ささっと終わる。

 

「アルベド、シマバラよ。

 

私はな。かつての仲間達、皆を探すために『アインズ・ウール・ゴウン』に一時改名を…」

 

俺はそう言って二人の様子を伺おうとした。

 

 

「ダメです!」「死人が出ると思われます」

 

即答で却下された。

 

何でさ!?

 

 



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第十二話 I scream

無理やりでも引きずり出す。叫ぼうが嘆こうが知ったことではない。
全てはただ一つのために。


アルベドは渋る御方、アインズ・ウール・ゴウン様、真名『モモンガ』様を無理やり説得してまでこの会議の場を開いてもらった。

 

お心を害してしまわれたのは理解しているが、これは必要なことだとデミウルゴス共々説得した。

 

ナザリックの頭脳を集めて会議を行いたい。

 

至高の御方を侮辱するような真似に死をも覚悟したが、受け入れてもらえた。

 

言い方は悪いが賭けに勝った。不敬過ぎる考えを不快な気分を押し殺してまで決行した。

 

なので、本音から話す。あの道化師と。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「児戯は辞めて正直に話し合いましょう。パンドラズ・アクター」

 

アルベドは知っている。この目の前の男の本質を。

 

数度しか会ったことはないが、守護者統括として、絶対者が創造されたNPCを注目しないわけがない。

 

観察していたので、理解した。

 

おそらくナザリックで自分とデミウルゴスしか理解していないこの男の本質。

 

ふざけているようで、道化のように振舞い、絶対に重要なところだけは守る。

 

ナザリック内で最も清濁含めた柔軟な思考を持ったこの道化こそ、宝物殿の領域守護者に相応しい。

 

しかし、今はその秘する心を知らなければならない。愛する御方を守るためには。

 

 

 

「悔しいですが、パンドラズ・アクター。

 

ナザリック全ての存在の中でモモンガ様のお考えを一番把握しているのはあなたでしょう。

 

私からもお願いします」

 

デミウルゴスは知っている。モモンガ様が死力を尽くしてナザリックを守ってきたことを。

 

今でこそ偉大なる存在とはいえ、モモンガ様達は当初ナザリックと敵対していたはずの人間種とも交流してまでナザリックを守った。

 

だからこそ、自分の嗜好等よりも優先すべきことはわかっている。

 

自分の世界征服路線が間違っている可能性も考慮しなければならない。

 

目の前の道化師が、あの偉大なる御方のお心に一番近いとわかっているから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

二人の思いをくみ取ったドッペルゲンガーは話さなければならない苦痛を理解する。

 

 

自分が想定している唾棄すべき最悪の考えを。

 

 

「はい。私の名前はパンドラズ・アクター。

 

種族は上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)。

 

大よその人々の考えは全て察することができます」

 

大げさに二人の前で道化師は自分の能力を説明する。

 

 

「とはいえ、流石に超越者(オーバーロード)であるモモンガ様のお心を読むことはふぅ可能!」

 

自分の能力すら通じない至高の神。思わず絶対者たる創造主を自慢してしまう。

 

二人が激怒しかけているのを察し、修正する。

 

 

「…ですが創造主たる御方の、モモンガ様の焦りぐらいでしたら察することができます」

 

慎重にだ。まず言うことは決まっている。

 

 

「頂いたワールドアイテムの御力により有する能力は完全催眠。

 

 そして私の本領は役者。影武者としては身代わりとしてはうってつけです!」

 

そう。自分の本音をまず言うべきだ。この二人に協力してもらうためには。

 

 

「これから言うことはおそらくです。推測です。戯言です。

 

 最悪ですよ。私がそんなことさせません」

 

これから言うことは考えたくない。

 

だが、必要なのだと理解してしまう自分の頭脳が憎ましい。

 

創造主から頂いた誇るべき頭脳のはずなのに。

 

何故か焦る気持ちが抑えられない。究極の役者として創造されながら。隠しきれない。

 

 

「モモンガ様は最悪死ぬ可能性も考えておられる」

 

二人は目を見開く。当然の反応だ。それ以上の内心はわかっている。

 

これを聞いてそう思わない。そんな存在はナザリックに必要ない。

 

二人とも根拠もなしに自らが言うわけがないと理解しているからこそ黙って聞いている。

 

自分でなければ即座に殺されていただろう。

 

 

「最悪残された我らでもナザリックを運営できるようにしているとしか思えません」

 

そうだ。本来ここまでする必要がない。

 

強引に自分達を使うだけで想像を絶する余程のことがない限り世界など簡単に消せるだろう。

 

それをしない理由は、ナザリックの保全ただ一つ。

 

知らない世界。絶対な超越者を超える者の存在を危惧している。

 

 

「モモンガ様の常日頃の発言から察するに自分から去られる可能性は絶無でしょう。

 

 だからこそ、あまり敵対者を作りたくない。

 

 無意味な殺戮を避けられているのだと私は愚考します」

 

パンドラズ・アクターは全てを察した。カルネ村での行いから不合理な合理性を。

 

 

「守護者統括アルベド様、守護者デミウルゴス様。

 

 私は世界征服などよりも世界をモモンガ様に依存させるようにすべきだと考えます。

 

 例えモモンガ様がこの世界に征服するだけの価値を見出していたにしてもです」

 

世界を美しいと言った。創造主はされど自分達を選ぶであろう。慈悲深い心のままに。

 

だからこそ、最低限で確実に守る道を取る。少なくとも自分は。

 

 

「まぁ、多分これ以上を我が神は想定されていると思います。

 

 偉大なる超越者(オーバーロード)で有らせられる御方のお考えを推察すること自体が烏滸がましいと思われます」

 

本音をぶちまける。

 

必要だとは理解しているがここまで内心に踏み込まれたのはかなり不快だ。

 

 

それをわかっているからだろう。二人は簡単な挨拶だけして去って行った。

 

…後で謝罪すべきだ。我が創造主がその時を早めに与えてくださると有難いのだが。

 

 

「ああ、もうマジックアイテムを磨きましょう。

 

確か磨くのに最適な生物のデータがあったはずです」

 

乱雑になる心を回復する清涼剤。流石は我が神。最適な人材配置だと感嘆する。

 

 

「確か…猫とかいいましたか?」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウンと公的には名乗る。ただそれだけのはずだった。

 

 

あの後、滅茶苦茶揉めるに揉めた。前世の携帯ゲームだったか?英雄は名前を伏せる。

 

『真名』を知られることは死につながる情報漏洩だか言ってみた。

 

ナザリックでのみ名を呼ぶことを許可する。

 

ナザリック全NPCだけの特権だと言ったら納得してもらえた。

 

ただ、カジータがあそこ迄の変態だったとは…

 

フールーダだったか?「原作」のアレに近い。

 

普通にNPCとしての崇拝も含んでいる。いつまでもああ何だろうなと思うと辛い。

 

るし☆ふぁーさんが対策のアイテムを渡していなければ心労で倒れてた。

 

俺アンデッドなのに…

 

 

 

しかし、何だ。対策アイテムが古代中国のゲームの設定集?恋〇†無〇?。

 

何で三国〇双の説明で納得できたのかがわからない。

 

ペロロンチーノ様垂涎のどうこう言ってた気がするが、後半疲れて聞いてなかった。

 

 

 

何故か急に説明のために呼びだされたシャルティアがアルベドと揉めたせいでスキルや魔法を試す時間がなくなってしまった。

 

 

 

時間の浪費だとしか思えなくなってきた辺りで流石に怒った。

 

「魔王」スキルが使えたお陰で最低限の確認にはなったが結果論だ。

  

「児戯は辞めよ」からの魔王ロールで第六階層の闘技場へ集団転移した。

 

マーレとアウラにはいきなりで大人数で来て、びっくりさせてしまった。

 

セバス及び従属NPCからの情報は草原ということくらいしかわからなかったが、

 

それだけでもまず敵が側にいないというのはホッとした。

 

序盤の町で魔王にかち合う勇者(俺は魔王だが)にならずに済んだのは幸いだ。

 

さらに守護者達の忠誠は理解できた。ナザリックの栄光は変わらなかった。

 

それが堪らなく嬉しかった。

 

 

 

従属NPCとの関係性もほぼナザリックの存在と変わらないことがわかった。

 

ただ、従属ギルド時代のことも覚えているらしい。

 

今度スルメさんのこととか聞きたいな。

 

 

 

マーレと従属NPC達に隠蔽を任せた。土被せても問題ない。

 

ただ、鉱山をしきりに掘りたがるNPCがいたのは想定外だった。

 

自分達の存在理由だが、モモンガ様のためならばと血涙でも流しそうな二人の少女。

 

鉱山掘るマシーン1号・2号(従属ギルドNPCの愛称。内心確定)には地下からなら掘ってよいと許可を出した。

 

喜びはしゃいでいる二人の少女を見て地下から掘らせる自身が情けなくなり、心が痛んだ。

 

…どう考えても隠蔽を優先する俺の方が正しいよな?誰か肯定してくれ。頼むから。

 

 

他には、情報特化NPC達と隠密特化傭兵モンスター達に周囲の監視網の構築を要請。

 

明日からは近辺の村や都市を探してもらうことにしたりして解散。

 

ナーベラル達の所に行って進捗状況も確認すべきだろう。

 

 

しかし…疲れた。精神的疲労は初日でピークに近い。

 

もう、俺頑張った。ちょっとくらい抜け出しても罰は当たらんだろう。

 

 

 

何か良くないフラグを立てた気がするが、何だったかな?まぁ、いいだろう。

 

 

 

それよりも星空か…楽しみだなぁ。

 

ブルー・プラネットさんがいればどれだけは熱弁を奮ってくれただろうか。

 

俺は過去を思い返しながら、童心に返ったような気持ちになった。

 

そしてリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い、第一階層入口付近へ転移した。

 

 



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閑話 誰も知らない気づいてはならない

某事件の法国視点。
法国の皆さんのアイディアロールは失敗しました。
成功していたら100d100のSAN値チェックです。


神官長会議が別の議題に移る。それに伴い第一席次は退出する。

 

その顔立ちはまだ幼さを残している。

 

だが、神人の力を後世に残すため早く子をなせと、早く誰かと結婚しろと毎日のように上から言われる。

 

今回の会議はそのことではない。たまに議題に取り上げられるが。

 

 

 

退出し、少し経ったところでため息をつく。

 

漆黒聖典は現在、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を支配下に置くための準備に忙しかった。

 

そんな中で呼ばれたのだから当然であってもおかしくはない。

 

 

だが、そうではない。

 

 

呼ばれたことで破滅の竜王への準備の意味がなくなった。

 

 

 

会議の始まりはガゼフ・ストロノーフの暗殺失敗。

 

帝国騎士に偽装した数名の法国兵士が王国側に捕縛された。

 

さらに暗殺任務に従事していたはずの陽光聖典が突如、法国に帰還。

 

陽光聖典には1名の行方不明者。それ以外は全員無傷で帰還した。

 

陽光聖典はガゼフ・ストロノーフ暗殺任務に関する全ての記憶を喪失していた。

 

 

また、暗殺任務中、定期的に魔法儀式が行われていたはずの土の巫女姫での事件。

 

土の巫女姫の第8位階魔法『プレイナーアイ/次元の目』の儀式に参加していた神官や衛兵の装備及び日用品が喪失した。

 

『プレイナーアイ/次元の目』には破滅の竜王が映っていたという。

 

しかもそれは目撃した全員の証言が法国側で所有している破滅の竜王の情報と完全に合致していたという。

 

 

 

端的に言ってありえない。

 

破滅の竜王なら何故、ガゼフ・ストロノーフは生きているのか?

 

破滅の竜王なら何故、1名を除いて陽光聖典は帰還できた?

 

帰還した陽光聖典の全員が何故、記憶喪失していたのか?

 

 

それらを否定するはずの土の巫女姫の儀式従事者全員が破滅の竜王を目撃していた。

 

 

仮にフェイクだとしても目撃情報と法国側の持つ破滅の竜王の情報とが完全に合致することがありえるのか?

 

そもそも土の巫女姫の儀式従事者には、極秘任務である破滅の竜王の情報が一切なかった。

 

破滅の竜王についての情報を本当に知らなかったのかは魔法を使った聞き取りも行った。

 

 

結果、間違いなく事前には知らなかった。知ることは不可能。

 

しかし、目撃した全員がほぼ同じ証言をしている。

 

 

会議に出席した漆黒聖典第一席次は破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)であるはずがないとしか発言する他なかった。

 

神官長達は王国側に潜入している風花聖典からの情報を待つ他ないこと、原因究明まで漆黒聖典の待機が結論づけられそう命じられた。

 

突然の待機命令。それをどう隊員達に伝えればよいのか。表現しようがない現象に困り果てていた。

 

 

 

ふと、かしゃかしゃという音に気が付く。

 

会議室近くまで来れて、会議に参加していない人物はたった一人しかありえない。

 

何より六大神が広めた玩具であるルビクキューを最近お気に召していたのは知っていた。

 

十代前半にしか見えない目の前の少女は自分の生まれる前からこの容姿だったという。

 

一瞬耳に目を向けそうになるが、見たらまた馬の小便で顔を洗わされかねない。

 

 

目の前にいる少女こそが漆黒聖典最強の番外席次『絶死絶命』。

 

5柱の神の装備を守る番人である。

 

 

「何話していたの?」

 

気になるなら会議に参加すれば良かったのにと思うが口には出さない。

 

この分だといつも通り報告書も読んでおらず、また自分に報告させる気だ。

 

ただ、今回の事件をどうまとめたらよいか見当がつかない。

 

 

「破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)への漆黒聖典の派遣延期が決まりました」

 

答えになってないのを自覚し、はっとなる。

 

 

「答えになってないじゃない」

 

番外席次はそのオッドアイでこちらを見る。

 

顔には笑みが浮かんでいる。経験上非常に不味い。

 

 

「正体不明の未知の戦力と思わしき存在があるかもしれないという報告でした」

 

ふわっとし過ぎているがこう答える他ない。全くわからないからだ。

 

 

「へぇ…強いの?」

 

強さ何てわかるはずもない。だが、嘘をつけばわかってしまう。

 

半分本当ならともかく全部嘘だと経験則でバレる。伊達に年を….

 

 

「しっ!」

 

番外席次は第一席次を蹴り飛ばす。何となくだ。

 

 

「グヘァ」

 

甘んじて受け入れる。何を考えていたと聞かれたら死ぬからだ。

 

 

「まぁ、正体不明ってことね。全く、最初からそう言えば良いじゃない」

 

言った。言ったのに蹴ったと思うが言わない。

 

これで済めば良いなと思いなおす。

 

悟られないよう心を無にする。

 

 

「強さがわからないんじゃあ、私も敗北を知れるかもしれないわね」

 

番外席次はそう言って第一席次を一瞥もせずに去っていった。

 

 

正直、今日は踏んだり蹴ったりでもう休みたい。

 

だが、これから隊員にそしてカイレ様に会議の内容を報告しに行かなくてはならない。

 

番外席次との会話は情報の良い整理となった。そう思う。いや、思わなければ。

 

 

第一席次は義務と務めを思い出して切実に休暇が欲しいと神に願った。

 

 

 

番外席次は笑みを浮かべていたが誰にも気づかれることはなかった。

 

 



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第十三話 大失態

モモンガ様視点
カルネ村事件について


 

 

端的に言おう。俺は失敗した。

  

カルネ村への偽装帝国騎士に変装した法国の虐殺。

 

陽光聖典の襲撃の顛末までを振り返る。

 

この失敗の責任者は誰か。全て俺である。

 

 

 

 

先に目を背けていた我が黒歴史についてだ。

 

数日経って、ナーベラル等からの進捗状況を聞いた。

 

やはりどうしても色々な面でパンドラズ・アクターの協力が不可欠だと考えた。

 

ナザリックの宝物殿を守る領域守護者であるパンドラズ・アクターの設定と能力。

 

さらに与えた完全催眠の能力はどう考えても死蔵すべきでないと判断せざるを得なくなった。

 

ナザリック内にある全てのマジックアイテム、特にナザリック内のワールドアイテムを知り尽くしている上に、頭脳も優秀。完璧だ。

 

存在自体が俺の黒歴史なのを除けば。

 

 

 

 

さて、黒歴史の話からカルネ村の話に戻る。

 

『原作』通りなら王国は腐っており、人類保全のためにとっとと滅べというのが法国のスタンスのはずだ。

 

前世を思い出したときに転移前の人間の俺は、法国の言うこともわからなくはないと思った。

 

他国の騎士に偽装して民間人を虐殺する等手法はともかくとしておおよその方針は大多数のプレイヤーが賛同し得る。

 

 

しかし、ナザリックは異形種のギルドであり全体が悪である。

 

法国としては問答無用で野郎ぶっ殺してやる状態かもしれない。

 

なので、はいそうですかと見逃す程愚かしいことはない。

 

 

ただ覚えている範囲の『原作』知識では法国は不明な点が多い。

 

そもそも『原作』が当てにならず、万が一プレイヤーが本当に六百年隠れていたとしたら?

 

この数百年で法国入りしたプレイヤーがいたら?

 

現地での魔法やスキル、現地能力の活用等経験で負ける可能性も十分あり得る。

 

まだわかってないが『原作』と違い、レベルアップすることだって可能かもしれない。

 

 

 

また、陽光聖典が弱くてもそれ自体が囮である可能性。所謂、見せ札。

 

そういった情報を隠蔽している可能性もある。

 

 

 

そのため、情報収集も兼ねてカルネ村を襲う前の偽装騎士や陽光聖典と対話を試みるつもりでいた。

 

『原作』同様なら実力差を見せつけ降伏させる。

 

魔法で情報収集後、記憶消去してさっさと法国に帰ってもらう。

 

万が一、Lv80以上の戦闘集団等なら様子見に徹しようと考えた。

 

以上のことを大まかに考えた。

 

 

だが、俺は法国の監視魔法に対する攻勢障壁による誘爆。

 

それが、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の攻撃と誤解されシャルティアが洗脳される事件に繋がったことを知っている。

 

どうしてそうなったのかまでの詳細は流石に覚えていないが、俺たちが破滅の竜王と誤解されるのは防ぎたかった。

 

 

とはいえ、何もしないで監視魔法を連射させられると大まかなナザリックの位置をいずれ特定されかねない。

 

 

なので、カルネ村近くの離れた位置から手癖の悪い悪魔(ライトフィンガード・デーモン)に悪戯させて手出ししたらヤバいと警告しておこうと考えた。

 

ナザリックから離れた位置ならばバレる心配はないだろうと思った。

 

あれが奪えるのは精々低位のマジックアイテムくらいだ。

 

パンドラズ・アクターがウルベルトさんらの能力を使えば隠蔽も余裕であると判断した。

 

さらに念には念を入れて、完全催眠で前後の辻褄を合わせる。完璧だ。

 

 

 

そう確信したのが前世で見たアニメ、遠坂さん家の〇臣フラグだった。

 

 

 

この作戦最大の問題は、絶対欠かせない応用力の権化兼黒歴史に会うことだった。

 

パンドラズ・アクターに何度も強制鎮静化された俺は、何とか黙らせることに成功した。

 

上記の内容を少しぼかして伝え、万が一敵対者と遭遇した際の基本方針とした。

 

今思うと黙らせたのが一番悪かった。すまない。

 

 

 

最初の頃、周囲の村落を情報特化NPC達に探させていた。

 

これは良かったのだが、カルネ村はもうすぐ消えてなくなる村。

 

つまり襲撃を受けそうな価値の低い村として報告された。

 

まとめて村落を報告させたのが不味かった。

 

アルベド達はナザリックに一番近い村が無くなれば、寧ろナザリック隠蔽になるので良いという雰囲気だった。

 

 

 

ナザリックの『悪』の思考を失念していた俺は慌てた。

 

慌てて、この村を助けて情報収集の拠点にしたいと言い出した時は皆呆れていたと思う。

 

 

ただ、初動が遅れたため、対応した頃にはカルネ村が法国の偽装帝国騎士に襲われていた。

 

俺は完全武装を整えたアルベド。

さらに完全催眠と完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)併用状態のパンドラズ・アクターを供に引き連れ、後詰の準備をさせてカルネ村へ突入。

 

慌てて村を助けていたため何度か魔王ロールを素で忘れていたりもした。

 

 

 

助けた村人を血まみれにさせてしまった。ファーストコンタクトを間違えた。

 

村人は背中に傷を負っていたので、ユグドラシル時代の癖で謝罪のつもりでポーションを渡した。

 

血色の毒薬と勘違いされて、父親が自分の命と引き換えに家族を助けようとしたりした。

 

アルベドがぶちきれそうになったりしたため、まずその場で血まみれの衣服を魔法で綺麗にして面倒臭いので傷にポーションぶちかました。

 

防御魔法で助けた村人を覆いそこなら安全と言い、ゴブリン将軍の角笛を娘に渡した。

 

また父親に取り乱されても困るから、何故か精神強そうな気がした娘の方に渡した。

 

 

 

とっとと法国兵残り全員を縛るつもりが、無駄に抵抗されて数人しか残らなかった。

 

村人や偽装騎士から記憶操作(コントロール・アムネジア)でデスナイトの記憶について消し、謎の旅人が村を助けたとだけ認識させた。

 

デスナイトはナザリック送りにした。

 

村人達には感謝されたが、その間に陽光聖典発見の知らせが届いた。

 

 

 

じゃあ帰ります。と言って名乗りもせずに陽光聖典の元へ急行。

 

 

 

そのすぐ後、王国戦士長と名乗る集団が現れたらしい。

 

ナザリックから知らせが来たが、村人に害をなそうとしていなければ放置しろと命じた。

 

やたら周囲を警戒していたという話だった。

 

どう考えても、素人でもわかるくらい胡散臭いもんな。

 

 

 

この世界随一の善人と思われる男との接触に失敗した。

 

 

 

 

この時、素で最初に救った親子のことを忘れていた。

 

陽光聖典の対処後に慌てて確認しに戻った。

 

幸い戦士長達や他の村人にもデスナイト等は黙っていた。

 

やはり赤いポーションは少なくとも聞いたことがないとのことだった。

 

こっそり記憶を消そうとした。

 

しかしその時、村人の娘ネムに俺とNPC達への感謝と称賛された。

 

嬉しくなった俺は周囲への口止めを依頼するだけにした。

 

黙っているみたいだし問題ないとナザリックには報告した。

 

村の監視に留めるように指示した。

 

何か素で高度な考えがあると勘違いされてしまったがそんなものはない。

 

後、ゴブリン将軍の角笛を渡したのはエンリだった。

 

最悪、コネクションになるからこの事件唯一の成果と思われる。

 

名を聞かれたので、アインズ・ウール・ゴウンと名乗っておいた。

 

ゴブリン将軍の角笛はきちんと村人に説明してから使うように厳命した。

 

 

 

 

何やかんやあって遭遇した陽光聖典とも失敗した。

 

まずは対話を試みるが、あいつ等は初っ端から天使で攻撃してきた。

 

負の爆裂(ネガティブバースト)で殲滅し、改めて交渉しようとしたら発狂。

 

 

低位の魔法を乱発して来た。

 

無効化能力がきちんとこの世界でも使えるのを確認できた。

 

 

ただ、それで発狂した陽光聖典隊員がスリングで鉄球を1名飛ばしてきた。

 

それがアルベドの逆鱗に触れた。

 

『下賤な飛び礫』で攻撃されたことが許せないかったそうだ。

 

スキルのカウンターアローとミサイルパリーで陽光聖典1名殺害。

 

護衛なんだから当たり前の反応でこれまで傍観していたのは寧ろ空気読んでいた。

 

完全に説明していない俺が悪かった。

 

 

そうこうしていたら、ニグン(隊員に呼ばれていて思い出した)が、

 

第7位階天使召喚(サモン・エンジェル・7th)の威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を召喚した。

 

もうとっとと実力差をわからせてやろうとして瞬殺した。

 

 

こちらは何度も命取らないって言っているのにニグンが自分だけ命乞いし始めたのは不快だった。

 

 

とりあえず拘束しようとしたら、陽光聖典の監視魔法が発動。

 

俺が指示する前に全部パンドラズ・アクターが対応。

 

黙っていたので気づかなかったが、

 

手癖の悪い悪魔と併用し完全催眠で法国上層部が現在対応に悩んでいるであろう存在に隠蔽したらしい。

 

 

 

完全に当初の目論見が壊れた。俺たちは破滅の竜王と勘違いされただろう。

 

ナザリックはヤバいかも知れない。

 

しかし、黙ってろと指示した上で任せたのは俺なので完全に俺のミスだった。

 

 

 

拘束した陽光聖典に何か魔法かかってますとパンドラズ・アクターが魔法を解呪。

 

素で死ぬ呪いのことを忘れており、危うくニグンを殺すところだった。

 

解呪した後、NPC達を呼び、トブの大森林に移動し支配(ドミネート)等で情報収集。

 

おおよそ全て引き出したところで記憶操作(コントロール・アムネジア)を使える者達に今回の件に関連する記憶を消去させた。

 

 

陽光聖典が1名死亡したが、『原作』と同様にその場で蘇生されるのか不明だった。

 

蘇生についての知識は一応引き出せたが、法国でも詳しく知るのはごく一部ではっきりしなかった。

 

万が一のことを考えると蘇生で魂が法国に戻りかねない。

 

仕方がなくエルダーリッチを作成し、ナザリック送りにした。

 

第7位階天使召喚(サモン・エンジェル・7th)の威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)をナザリックにあった魔封じの水晶にわざわざ封じた。

 

陽光聖典の奴らは意識のない状況で法国に転移させた。

 

 

 

事後処理が済んだ後、アルベドとデミウルゴスがパンドラズ・アクターと三人で今後について相談したいと言い出した。

 

ここまで失敗していれば当然と嫌々ながら許可した。

 

 

 

まぁでも、今回の件で俺の威厳も大分落ちただろう。

 

ここまで無能を見せつけてしまえば、アルベド達に任せた方が良いかもしれない…

 

 

いや、ダメだ。未知の脅威がある以上、負けを知らないアルベド達はまだ危険だ。

 

最低限俺が責任を取れる体制を整えないといけない。

 

 

しかし、言うこと聞いてくれるかどうか…不安だ。

 

どこかで威厳を取り戻したいが困った。

 

 

陽光聖典からの情報だけでは足りない。

 

武技という未知の技術は『原作』同様に確認できたが実際を見ていないのは不味い。

 

そのため、冒険者モモンでの行動も視野に入れるべきだ。

 

また人化で行動することで、大多数のプレイヤー対策に人間としての感覚を取り戻す必要もある。

 

 

人化でも忠義を尽くしてくれるかの判断材料は…

 

まずやっぱり最初はパンドラズ・アクターになるよなぁ…

 

属性中立でかつ俺の作ったNPCだし。

 

 

ああ、情けない。本当にナザリックの支配者として情けない。

 

今でも精一杯のつもりだったが、もっと努力しなければなぁ。

 

もうなりふり構わず、恐怖公に本物の帝王学でも教わるのも考えないと。

 

 

 

 

その後、恐怖公からの帝王学学習はやめることにした。

 

選択肢の一つとしてはありだが、状況が落ち着いてからじゃないとどのみち無理だと判断した。

 



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第十四話 大魔王の異世界侵略計画

それはたった二人の作戦だった。
それは歴史にも残らない。だがそれは決して、決して譲れない誇りを守る戦いだった。


 

これは夢だ。ぼんやりと懐かしいそれでいて悲しい最後の思い出。

 

 

「行くのかい?×××」

 

「この作戦。成功するにしても失敗するにしてもおそらく君は死ぬ。もう××も」

 

「まだ勝ち目はあるかもしれない。できればかつて君たちの描いた夢を見たい」

 

「何を笑っているんだい?」

 

「そうか…だけど、××達は勝手に滅びるかもしれないよ?もしくは僕が」

 

「君たちは彼らを守っていたのではなかったのかい?」

 

「………そうかい」

 

 

 

世界最強と謳われる竜(ドラゴン)は夢から目を覚ます。

 

数百年ぶりにあの夢見た。

 

長命に故の死には他種族より鈍感な自覚はある。

 

それでもまだ見るというのは、自覚はなかったが意外と未練がましいのかもしれない。

 

自嘲して、もうそろそろあの時期だと思い返す。

 

 

今度はどういう旅人なのか。…どういう旅人でも最低限の対策はしておくべきだろう。

 

 

起きていたために竜の鋭敏な感覚があの白一色に髪が染まった老婆を一瞬で捕らえる。

 

 

こちらを驚かせるつもりだろうが、今度はこちらから驚かせてやろう。

 

いい加減、ちょっと怒ろう。私の探し物を任せるのも悪くない。

 

世界最強の竜(ドラゴン)はあの悪戯野郎のように。数百年ぶりにニヤリと笑った。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

何だか三人で話合ったら色々方針が固まったらしい。

 

会議の内容が気になってそれとなく聞いてみるが、

 

『ご安心くださいモモンガ様』と静かに笑う。

 

 

怖くて聞けないわ。支配者として認めて貰えているみたいだけど。

 

 

デミウルゴスが他国の分裂工作とかしてないか気になって確認してしまった。

 

してないって俺の目の前で断言していたので問題ないはず。少し可哀想なことをした。

 

 

ナザリックの財を用いて疑似的な人間食とか用意している。

 

だが、悪の設定的に限界もあるNPCも多いだろう。

 

 

デミウルゴスだって内心ストレス抱えていると思う。

 

悪人を確保する必要はある。

 

他プレイヤーから殺しても文句言われない奴らを。

 

 

 

そう言った意味でも、陽光聖典の情報は本当に役に立った。

 

 

 

八本指。『原作』にも出てきた王国を蝕む犯罪組織。

 

必要悪以上に人間に害をなす連中。

 

こいつらは消えても問題ない。急には流石に不味いが。

 

王国の八本指は帝国も法国も嫌っている。これをこっそり裏から支配する方向で行こう。

 

王国の貴族の弱みを握れば、ナザリックの隠蔽にも使えると思う。

 

 

八本指は帝国まで手が伸びている。そこで害を撒き散らす。

  

しかし、法国にはほとんどないというのは流石に人間を守る国を自称するだけはある。

 

 

 

人体実験も八本指なら問題ないだろう。

 

セバス達に商人のアンダーカバーを作らせよう。

 

幸い掘るマシーン1号・2号(従属NPC)が毎日鉱山掘っているお陰で資金源は大量に確保できる。

 

そこから王国の新興の商人になり、八本指を友釣りしよう。

 

…なるべく悪をなすのは控えたいがやむを得ない。

 

 

 

後、竜王国に攻め込んでいるビーストマンなら多少間引いても問題ないだろう。

 

法国が定期的にやっているみたいだし。

 

シャルティアや従属NPC達に刈らせよう。ストレスの一部発散になるはず。

 

ちゃんと目立たない範囲で、きちんと暴走をしないように指示は必要だが。

 

魔法やスキルの実験にもなるから生体の確保を命じないと…

  

 

 

戦士モモン計画がテストケースとして成功したら、NPCのアンダーカバーの冒険者として竜王国に送り込むのも悪くない。

 

 

戦士モモン計画は王国か竜王国かで悩んだが、目の前の脅威的に王国を調べるべきだ。

 

ビーストマンを刈れば早く成り上がれそうな気もするが、『原作』と違い地道にやっていこうと思う。

 

 

・王国裏社会征服計画

・商人としてのアンダーカバー

・戦士モモンのアンダーカバー

・竜王国でのハンティング及びビーストマンで各種実験

 

これらを素案としてアルベドとデミウルゴスに相談しよう。

 

…パンドラズ・アクターもだな。悪に偏り過ぎは不味い。

 

 

本当は従属ギルドNPCに任せたかった。設定的に優秀な者達やカルマ善もいる。

 

ただどうも外様とまではいかないけど、本人達は無意識に中枢から離れる傾向がある。

 

 

これは多分従属NPCとしての本能なんだろうと思う。

 

 

アルベド達が参加しても気にしないのは確認済みだ。

 

参考意見を聞くために呼んでもナザリックNPCと変わりなく対応している。

 

ひょっとしたら無意識に本人達に配慮しているのかも知れない。

  

無理強いするわけにもいかない。潜入や研究、防衛を任せて少しずつ慣れさせていこう。

 

 

 

 

研究といえば陽光聖典の死体で作ったエルダーリッチが優秀なので、『賢者の呪帯』を与えて共同で当たらせている。

 

俺の作ったアンデッドならワールドアイテムの効果を、『賢者の呪帯』を与えても文句ないらしい。

 

 

なので、法国に襲われた村々から死体を回収しエルダーリッチ等を量産した。

 

カルネ村等の周辺地理調査の報告書で廃村も調べてあったので、死体は割と簡単に手に入った。

 

 

異世界転移前に想定していたジャンク部屋の研究所等にも一部派遣している。

 

エルダーリッチ達は俺が作ったと思えない程優秀な人材だった。

 

翻訳アイテムあるとはいえ、一晩で簡単な王国語辞典やら帝国語辞典等。

諸外国語の辞典を作成したりしていた。

 

 

 

これでひと段落できるだろうと思いNPC達、シモベ達にしっかりした連休等の休暇を与えようとした。

  

ところが俺が言うまで休暇どころか休憩も皆ほぼ取ってなかったことが判明した。

 

休憩はするように何度も言っていたので取ってはいた。

 

だが、俺からすると最低限以下だった。

 

俺が転移してからずっと毎日休憩しないでぶっ通しで働いていたせいだった。

 

 

主が働いているのに休めませんだって。ごめん。

 

 

さらに転移前に財を使いまくってリング・オブ・サステナンス等様々な各種アイテムを全員に与えたのも拍車をかけた。

 

 

そういうつもりで与えたんじゃないと叫びたかったが、そういう意味だこれ。

 

  

ゲーム内とはいえ疲れたりしないように色々与えた。

  

ゲームだとNPC達の種族特性から必要ないアイテムが多かった。

 

設定だけの雰囲気アイテムなのも沢山あった。

 

中古で買った課金ガチャハズレアイテムとか特に。

 

連日のダンジョン突撃で稼ぎまくっていた俺はプレゼント感覚でガンガン与えた。

 

NPC用アイテムボックスを課金も含めて超拡張したりしていた。

 

 

これらの行為はちゃんとギルドメンバーや従属ギルドにも確認取っていた。

 

 

異世界転移であらゆるアイテムの雰囲気設定が現実に反映された。

 

転移後、全員が超残業可能になっていた。

 

誰もいない中ナザリックを守ってくれている。

 

申し訳ないと思って、良かれと渡したんだよ。

 

転移前当時は。

 

結果、ブラック会社も真っ青。凄まじい罪悪感で精神鎮静化働きまくった。

 

 

休暇制度は中々思うようにいかず、支配者である俺が労組側で部下のNPC達が経営陣で労働交渉している。

 

ヘロヘロさんみたくオーバーワークさせたくないんだけど。本当に。俺のせいだけど。

 

 

 

『賢者の呪帯』持ちのエルダーリッチが増えたせいでナーベラルの手が空いた。

 

ナーベラルは戦闘メイドとして有能である。

 

『人間』関係以外は報連相もナザリック内の対人関係も...まぁ良好だ。

 

だが、俺の作ったエルダーリッチやカジータに任せた方が断然効率良い。

 

俺の作った量産エルダーリッチなら気になる魔法を適当に取得させても惜しくないし。

 

これにより研究スピードが飛躍的に上がった。

 

 

ただ、これのせいでナーベラル結構落ち込んでいるんだよなぁ…。

 

 

自分の手柄横取りされたようなもの。でも、重要度理解しているから文句言えないし。

 

 

これは完全に俺のせいだ。もう少し配慮すべきだった。

 

 

戦士モモン計画に連れて行くことに決めた。本人の意思確認も必要だが。

 

けど、常に神経使う護衛みたいに感じて逆にストレスになったら可哀想だな。

 

...相談するとなるとパンドラズ・アクターになるな。

 

あいつの種族設定的に大よその機微は察せるだろうし。

 

だったら何であんなにウザい…って俺の設定のせいだった。本当にごめん。

 

後、人化も確認しなくてはいけない。今から行こう。

 

 

 

 

パンドラズ・アクターには人化でも全くブレない忠誠を誓われた。

 

 

これには感謝している。が、ドイツ語はやめろ。あと、敬礼もだ。

 

 

他のNPCの前でも人化は全く問題ないと保証されたけど、何故かナザリック内では控えるように言われた。

 

まぁ、働かなきゃいけないし。空いた時間で勉強や支配者研究もある。

 

眠る時間は惜しいし言われるまでもなく、人化基本しないけど。

 

 

 

戦士モモン計画を教えたら、それならずっと人化していて全く問題ないそうだ。

 

 

 

寧ろ積極的に勧められた。

 

「これこそ我が本領。アルベドのお嬢様方すらも欺いて見せましょう!」

 

とかオーバーリアクションがウザい。

 

アルベドのことお嬢様って呼んだらキレないか?

 

欺くって何だ嫌いなのかアルベドのこと?

 

少し他のNPC達と仲良くできているか不安だ。

 

何だかんだで俺が作ったNPCだけど、ウザいしハブかれてないだろうか?

 

 

 

ただ、戦士モモン計画について色々喋ってたら、

 

「ええ。オーバーロードで有らせられるモモンガ様が無知なのは仕方がありません!」

 

とか言われたんだが、無礼過ぎないかコイツ。

 

 

パーソナルスペースが狭い。もう少しだけ離れてくれ頼むから。

 

 



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閑話 覇王エンリの第一歩

これはカルネ村事件後。
後の、覇王エンリの誕生の瞬間であった。


 

昨日、帝国騎士じゃなく法国の偽装騎士に襲われたカルネ村。

 

襲ったのが誰でも関係ない。私たちは自分達の愚かさが身に染みてわかった。

 

 

たまたま慈悲深い旅のマジックキャスターに助けられた。

 

 

村人の犠牲も出たが旅人の大活躍のお陰で犠牲は最小限だった。

 

もう二度とあのような偶然はないだろう。

 

 

王国戦士長がカルネ村まで来てくれたが、その頃には村人は全滅していただろう。

 

 

生き残ったとはいえ、防衛を、戦うことを私たちは忘れてしまっていた。

 

戦おう。せめて妻を、子供を守るために逃がせるようにと村の皆は決意した。

 

 

 

直ぐに私はアインズ・ウール・ゴウン様から頂いた笛を使ってゴブリンを召喚することを村の皆に話した。

 

 

 

呆然とする村の皆。どうやら他の村人達はゴウン様の名前を知らなかったらしい。

 

私はアインズ・ウール・ゴウン様がカルネ村を救ってくれた旅のマジックキャスターであることを伝えた。

 

その時、ゴウン様がかなり切羽詰まった様子だったこと。

 

落ち着いたら、また来るつもりであることを教えられていたことを報告した。

 

 

 

そのことを村の皆に教えると、村長はホッとしたようだった。

 

何でもお礼をするまもなく去っていったらしい。

 

できる限りの恩を返したかったと昨日から後悔していたという。

 

 

 

何て高潔な方なのだろう。

 

私が感じた『絶対者』。

 

そのような方がたまたま見かけただけの村を救う。

 

まるで御伽噺だと私の胸は熱くなる。

 

早まる鼓動は感じたことのないものだった。

 

 

 

そんな御方のアイテムならばと皆納得してくれた。

 

私は頂いた『ゴブリン将軍の角笛』の内一つを使うことにした。

 

 

 

現れたのはゴブリンの軍勢19人。皆屈強な戦士達。

 

私に首を垂れる彼らに慌てながらも考えた。

 

私は村を守るための戦闘技術指導と村を囲う柵の作成をお願いした。

 

 

 

 

数日後、村に完全に溶け込んだゴブリン達。弓矢の指導や簡単な防御柵を作ってくれた。

 

 

そんな中、村長夫妻が私の家に訪れた。

 

村長は、私に村長の地位を譲りたいと言ってきた。

 

 

呆然とする私と反対する両親。

 

村長は今後のことを考えたのだと言う。

 

若い私が行う意識改革とゴブリン達の指揮官としての能力が、これからのカルネ村には必要だと説得してきた。

 

村長からは両親がいる私にそのようなことを迫る罪悪感と苦渋の決断を思わせる『覚悟』を感じた。

 

村長はそれでも無理強いはしない。

 

早めに答えて欲しいと言われた私は悩んだ。

 

 

所詮与えられた力ではあるがゴブリン達の指揮官である私。

 

あの犠牲の中真っ先に発言できた私。

 

 

それらを考えれば、私が適任なのはわかった。

 

両親も村長の『覚悟』に反対しきれない。

 

ぐるぐる思考がまとまらずに思わず誰かに救いを求める。いもしない誰かを。

 

 

 

その時、アインズ・ウール・ゴウン様がまた私の前に現れた。

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウン様はようやくひと段落したので、村にまた来たこと。

 

村長にお願いしたいことができたという話だった。

 

私は、エンリは決意する。

 

 

 

「私が村長です」

 

 

 

「ええ…」と声を出し、考え込むゴウン様を見て慌てる。

 

突然こんなことを言われたら馬鹿にされたとしか思えない。

 

顔が真っ赤になるのを自覚しながら、先ほど村長就任を依頼されたことその経緯を話す。

 

 

「…すまない。私のせいだ」

 

経緯を聞いたゴウン様は沈黙の後、謝罪された。

 

とんでもないと私は言う。偉大なる御方のお陰でこの地位につけたことなのだと。

 

 

「そ、そうか。感謝するエンリよ」

 

たかが村娘には勿体ない言葉だった。どんどん高まる鼓動を抑えられない。

 

なので、反応が遅れてしまう。慌てて謝罪しようとするが、

 

 

「とはいえ前村長に伝えていないならまだ村長ではないか。

 

村の今後にも関わることだ。

 

ご両親、エンリに私と一緒に着いてきてもらっても大丈夫かな」

 

両親は快諾し、私は謝罪できずに一緒に着いていく。

 

返しきれない恩がある。求められることは全て叶えたい。

 

感じたことのない気持ちが何なのか私にはわからなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

村長(前村長)と私はゴウン様のお話を伺った。

 

 

トブの大森林奥深くに住まいを構え、研究する魔術師であること。

 

先日のような仲間達と共に住んでいること。

 

世捨て人のような感覚であったこと。

 

カルネ村には空き時間の空中散歩でたまたま騎士に襲われるのを見かけ、助けたこと。

 

自分の住まいが何者かに襲われていることを知り、挨拶も碌にせず慌てて戻ったこと等だった。

 

 

 

それを聞いた私は何という高潔な方なのだろうかと思った。

 

トブの大森林の奥深くに住んでいるということは、

 

仮面を被っておられるのはひょっとしたら人間でないからかもしれない。

 

そんな状況で自分の不利益を無視してまで襲われている村人達を救ってくれた。

 

何と慈悲深い。隣の村長も同様に感じたのか目頭を熱くしていることがわかる。

 

見合う報酬は無理だろう。

 

これだけの力を持つ慈悲深い存在に払えるもの等、村全てを捧げても足りない。

 

 

 

だが、ゴウン様の求められる報酬は簡単な者だった。

 

・住まいと実験のための畑等の利用許可。

・それらを囲って見えなくすること。

・その監視者の配置。

・それを村人に覗かないで欲しいこと、他人に話さないで欲しいこと。

・それらを守るため、村に防壁を築くこと。

 

たったこれだけだった。

 

森に住んでいるせいで、そういった研究をしたことがなかった。

 

ゴウン様はそうおっしゃり自嘲するように笑われた。

 

 

嘘なのはすぐにわかった。

 

実験は森を開拓すれば簡単にできる。

 

防壁に至っては自分達の利益でしかない。

 

 

これは自分達が恩を返したと思わせるためにあえて考えられたものだと理解した。

 

助けた者達が、今後自分達で身を守れるように配慮してくださったのだと。

 

村長も薄々であるが気づいているだろう。村のメリットしかないことに。

 

 

 

とはいえ、私も村長も直ぐに承諾した。

 

 

 

ゴウン様はできればすぐにでも取り掛かりたいと思うが、村の皆に確認してきて欲しいと言われた。

 

すぐさま行動を開始しようと村長宅から出ようとした。

 

ゴウン様をお待たせするわけにはいかない。

 

いつのまにか遠目に村の皆が集まっていた。皆に聞く話は簡単だった。

 

皆即答した。感謝に咽び泣く者もいた。

 

これほどのご配慮してくださったお方の時間を妨げる者はいなかった。

 

 

 

ゴウン様がさっそく紹介しようと楕円の闇が現れる。つい先日見た光景だった。

 

そこから現れたのは、眼鏡をかけた生真面目そうな美しいメイド。

 

褐色の肌で三つ編みのメイドとこれまた見たことがない程美しい方々だった。

 

さらにゴーレムが数体。

 

ゴーレム以外はこの者達が交代で来るとはずだとおっしゃった。

 

 

 

そう言うと私に聞きたいことがあると言われた。

 

ゴウン様は私の両親に確認を取り、二人きりになった。

 

何か粗相をしたかと謝罪するが、違うと言われた。

 

 

 

村長になるに当たっての改めて心配の言葉。

 

それと先日、父を癒した赤いポーションについてだった。

 

 

どうやら自分達で作っているのと違うらしいことが気になったという。

 

真っ先に驚いた私が何か知っていないかと改めて聞きに来たとのことだった。

 

 

心配に対しては大丈夫だと、村長として頑張ってこれから勉強していくことを伝えた。

 

ポーションについてだが、私はすぐに友人の薬師から色々聞いた事を話してみた。

 

ツギハギの聞きかじりでもっとまともに聞いていれば良かったと後悔した。

 

それでもゴウン様は村娘の拙い話を真剣そうに聞いてくださった。

 

 

私は、ゴウン様に薬師の友人を直接ここへ呼ぶこと。

 

村で囲い込み、研究させる等すること。

 

そのために誘致するよう誘導して良いかと尋ねてみた。

 

友人は有名なタレント持ちであり、きっとゴウン様の役に立てるはずだと。

 

 

 

偉大なる恩人のためとはいえ、友人を利用するのは痛む心がある。

 

 

 

けど、少しも恩を返せていない現状がどうしようもなく嫌だった。

 

村長として全力でできる範囲のことを全てでいつか返すことを決意した。

 

恩を返すのは無理だろうができることは何でもしてみせる。

 

 

 

嬉しいがそこまでさせるのは申し訳ないと躊躇するゴウン様。

 

そこで私は友人の、彼、『ンフィーレア』にもメリットがあることを伝える。

 

友人は毎回来る度に私にポーションと薬草のことを語るくらいのポーション狂であること。

 

エランテルで依頼すれば良いのに、わざわざ定期的に冒険者を引き連れ、自分で森に入り薬草を採取する勢いであること。

 

わざわざ定期的に冒険者を引き連れ、自分で森に入り薬草を採取する勢いであること。

 

そんな彼なら自分が赤いポーションのことを示唆すれば絶対食いついて来るはずだと説得した。

 

 

 

何か言いたげな御方は、

 

「正直エンリにそこまでその友人を利用させるようなことはしたくはない」

 

と仰った。

 

 

私はお役に立てないことへショックを感じた。

 

 

慈悲深い御方は少し慌てた様子で、

 

「だ、だが、そうしてくれると確かに、そう確かに有難い…よなぁ」

 

と仰ってくれた。

 

 

 

私はほんの一部とはいえ恩を返せる喜びに心を支配される。

 

 

 

それを喜ぶ私を見て、ゴウン様は呆然としてしまわれた。

 

あまりの恥ずかしさで堪らなくなり、私は慌てて謝罪した。

 

 

 




良かったねンフィーレア!
思い人に心の底から求められたぞ。


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第十五話 狂気染みた対策

いつまでも確信しても安心できない。


トブの大森林の奥深く、剣戟を振るう、ぶつかる、響き渡る。

 

誰もいない森の中、人と蟲の戦士が一瞬一瞬を楽しむように全力で剣を振るう。

 

蟲の戦士は剣を、矛を、ハルバードを振るう。様々な武器が交差する。

 

 

 

ここで決める。蟲の戦士、コキュートスは偉大なる御方に全力の一撃を叩き込む。

 

 

 

「不動明王撃(アチャラナータ)!」

 

コキュートスの背後に不動明王が出現する。

 

〈不動羂索〉と〈倶利伽羅剣〉のどちらかの二者択一。

 

ここからの巻き返しは一択。

 

 

「倶利伽羅剣!」

 

右手の一本から魔を打ち倒す仏智の利剣とされるその一撃が繰り出される。

 

龍が巻きつき、炎に取り巻かれている。

 

五大明王撃の一つ食らえば大ダメージ必至。

 

 

「だが、予測済みだ」

 

発動前に右へ半歩幅ずらす。そこから右下からの斬撃。

 

斬撃は龍の炎ごと叩ききった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ありがとう、コキュートス。これなら戦士として活動も問題ないか?」

 

人の戦士は怪物へ、超越者(オーバーロード)に変化していく。

 

蟲の戦士コキュートスは『それ』を知っている。

 

ナザリック内でも秘匿にしておかなければならない情報、『人化』。

 

偉大なる御方の気配を読み違えるシモベ等はいない。

 

何故秘匿にする必要があるのか戦士のコキュートスにはわからない。

 

だが、意味のある行為であるはずであり疑問に持つのは…また今度だ。

 

なので、求められた質問に答える。

 

 

「ハッ!私以上ノ戦士デアラセラレルモモンガ様。

 

ソレニ届ク戦士ハ他ノ至高ノ御方ノミト存ジマス!」

 

心からの称賛を送る。

 

人間という種族に変化した。云わば弱体化した状態であるモモンガ様。

 

こちらは満身創痍であり、モモンガ様は多少の傷はあるが深い傷はほぼない。

 

 

「マジックキャスターデアラセルト、

 

最初ニ手ゴコロヲ加エヨウトシテシマッタ私ノ慢心ヲオ許シ下サイ」

 

モモンガ様が戦士として手合わせをして欲しい。

 

そう聞いた時、失礼ながら圧倒的暴力を用いたものだとばかり思っていた。

 

だが、違った。経験、技量、戦闘の流れに至るまで一流の剣士のそれ。

 

一体どこでこのような研鑽を積んだのか。

 

 

油断した。初手に予測した暴力に対していなそうとした。

 

だが、モモンガ様がいなすこと前提で切りかかられた時、自分の間違いに気づいた。

 

戦士としての技術、経験を積んだもののそれ。油断は致命的。

 

慢心はしていないつもりだった。

 

だが、慢心していた。初手で狂わされ反撃という反撃ができなくなり、傷つき焦った。

 

最後の不動明王撃に至っては完全に読まれていた。

 

完敗という他ない。

 

 

「いや、コキュートス。

 

私はお前のことをよく知っていたし、お前は剣士としての私を知らなかった。

 

私が身体能力にものを言わせてかかってくると思うのは道理だ」

  

だから最初から勝敗はついていたと偉大なる絶対者は嘯く。

 

 

コキュートスは楽しかった。自分の防衛という大任はわかっていた。

  

だが、ナザリックで自分のところまで侵入者が来たのは『あの』一回だけ。

 

他のNPC達が任務に就く中、自分が成果を挙げていないという不満があった。

 

だが、慈悲深い主人は『手合わせ』という形で不満以上の歓喜を与えてくださった。

 

だからこれ以上求めるのは、不忠。

 

そう思い直し、今回負けた反省を生かし稽古に励もう。

 

戦士としての研鑽を積まねば、モモンガ様が失望されてしまう。

 

 

だが、

 

「…コキュートス。また、たまに手合わせしてもらえるか?」

 

コキュートスは歓喜した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

危なかった。ゲームだと問題なかったが、クッソ痛かった。かなり焦った。

 

コキュートスがこちらをマジックキャスターとして油断していなければ負けていただろう。

 

全力で技術もない暴力的で来ると思われてなければ、純粋な圧倒的ステータスの差がなければ本気で危ない。

 

流石、Lv150の守護者。ナザリックの誇りだ。

 

人化でこれ以上の戦闘はないと思いたいが、研鑽を積まないといけない。

 

コキュートスも喜んでくれるし、一石二鳥だ。

 

痛みに耐えないと。人化してパニックになって負ける、囚われる。

 

そんな愚を犯してはいけない。

 

 

 

俺は『モモン』であり何よりも『アインズ・ウール・ゴウン』なのだから。

 

 

 

この次は、ナーベラルの、ナーベとしての装備と万が一に備えて持っていくマジックアイテムを選ぶ時間だ。

 

本当はナーベラルも連れていきたかった。自分の装備のことだし。

 

パンドラズ・アクターがそれでは恐縮してしまい断られかねないからサプライズにしろと言われた。

 

道理だ。他人の機微をそこまで察するなら何故、俺の何というか設定を…

 

 

優秀だし、成果も十分。パンドラズ・アクターにも何か褒美を与えるべきなんだが。

 

自分で作ったNPCなのに、いやだからこそその辺の些さじ加減が難しい。

 

考えは後だ。いずれ考えよう。

 

 

 

トブの大森林内の偽装拠点に転移し、そこからさらにナザリックへ転移する。

 

今日のナザリック入口担当のシズに声をかけて指輪を受け取る。

 

受け取ったリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを嵌めて宝物殿へ転移する。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

宝物殿でオーバーリアクションをやめさせるまでの恒例になってきたやり取りを行う。

 

 

少々疲れつつ、目的のアイテムを所望する。

 

「以前作った私の物理攻撃用スタッフ…ああ、炎の纏わりつく低位のそれで間違いない」

 

ナーベラルには、ナーベ状態で第三位階のマジックキャスターとして振る舞ってもらうことは伝えている。

 

奥の手として第六位階まで許可している。第十位階は俺の許可が必要だ。

 

 

なので、スケリトルドラゴン等の対策は必要だ。

 

 

…純粋なステータスのゴリ押しで余裕だが、あまり目立ちすぎても良くない。

 

現地で浮かない程度に最高品。その装備でなら勝てる程度が必要だ。

 

なので、俺のかなり前に作ったスタッフが一番合理的だ。

 

装備品について報告したパンドラズ・アクターとデミウルゴスから気をつけるように言われたが…

 

 

 

 

それとあまり関係ないことを。

 

「それとだが、ついでに課金アイテムを収めているところから『ボール・シリーズ』をいくつか取ってきてもらえるか?」

 

 

ボール・シリーズ。

 

 

ユグドラシル最終日二日前。

 

『流れ星の指輪(シューティングスター)』が白髪エルフに買われてしまった俺が自棄買いして大量に手に入れた課金アイテムの一つだ。

 

課金アイテムの中でも使えない微妙系アイテムのシリーズだ。

 

 

ボールを投げてモンスターを捕獲できる。

 

どう考えてもアレだが、本物とは程遠い課金アイテムだ。

 

 

 

前提条件は、知能が非常に低いモンスターであること。半分以上HPを削りきること。

 

 

そうすることでようやく捕獲できるようになる。

 

失敗することも多く、1回で使い切り。

 

成功確率を上げるために弱体化の魔法等が必要である。

 

そうすることでようやく捕獲できる。これだけ聞くと失敗するだけの有用アイテムだ。

 

 

 

しかし、欠点がある。

 

まず、持ち主の言う事を聞かない。

 

捕獲されたモンスターはランダムで攻撃してくる。

 

また、HP等削ったものは絶対戻らないし、スキル使用分も絶対回復しない。

 

捕獲Lvの制限もある。プレイヤー1人につき六個までしか持ち運べない。

 

 

メリットとして死んだとしても1日経てば再召喚可能であること。

 

ただし、1日1回しか召喚できず、一度召喚したらボールを戻すことはできない。

 

破棄と交換可能ではある。

 

 

シリーズ最高の『ボール・マスター』でもLv80までしか捕獲できない。

 

それでもHPを半分以上削った上で弱体化させまくってようやく捕獲らしい。

 

 

六体しか捕獲できない。しかも、HP半分以下で消耗した状態で自分に襲い掛かってくる。

 

ハズレ扱いも当然の課金アイテムだ。

 

 

だが、毎日復活して殺して良い敵。

 

ナザリック内で籠る一部NPCのストレス発散に使えるかもしれないと思った。

 

ようはお土産だ。

 

冒険者になれば、知能の低いモンスター討伐はあるだろう。

 

事前情報で害虫駆除みたいな感覚でモンスター駆除があるのは確認済みだ。

 

 

 

そう考え用意させるつもりでいた。

 

 

 

「おお、『ボール・シリーズ』!

 

その最高峰、『ボール・マスター』は隠し条件を満たせば限定的にとはいえLv90まで捕獲可能なアイテムですね」

 

えっ。

 

 

「どういうことだ。確か捕獲できてもLv80まででなかったか?」

 

『原作』の『ゴブリン将軍の角笛』の数千のゴブリン召喚等の隠し要素があるのか?

 

いや、前にそれとなく聞いてみたとき、パンドラズ・アクターはそのことを知らなかったはず。

 

『設定』以上の情報はこの世界でも自分で調べるしかない。

 

 

 

「モモンガ様が研究所においたエルダーリッチ達の報告の結果わかった効果です。

 

雑多で無意味な情報ばかりでしたが、検証すると真実が含まれている物もありました!

 

…報告がまだなのはノイズが多すぎるためです。申し訳ありません」

 

そう言って頭を下げるパンドラズ・アクター。

 

そもそも担当者じゃないので全く責任はない。

 

おそらく宝物殿から出すようになり、『設定』的に気になって自分で確認しにいったのだろう。

 

 

ユグドラシルスレの分析、それは価値が低い上に難しいと思っていた。

 

故に報告の優先順位は下げていた。

 

 

だが、移転前に想定していたこと。未知が現実となった。

 

これまでたいしたことのないと思っていたアイテムの脅威。

 

 

歴史の深い国ならそういったアイテムの研究をしていないはずがない。

 

この情報一つで重要度を上げる必要がある。

 

情報源を持っていて、知らないで負けるのはあってはならない。

 

 

 

「どういう隠し条件なんだ?」

 

 

 

その後、俺は物凄く長い蘊蓄を聞くことになり後悔した。

 

 



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第十六話 漆黒の英雄

漆黒の英雄は望まない名声を高める。
どこまでもどこまでも


バハルス帝国とスレイン法国の要所となる境界にある城塞都市エ・ランテル。

 

国王直轄領であり、毎年バハルス帝国との戦争が南東のカッツェ平野で行われている。

 

カッツェ平野にはアンデッドが湧くため、定期的に冒険者の狩りが行われている。

 

そういった事情から、交通量は多く、人・物・金等、様々なものが行き交い栄えている。

 

実際は毎年の戦争で王国は国力が落ち、エ・ランテルが帝国領になるのも時間の問題だ。

 

王国の上層部の一部しかわかっていない。大多数は私利私欲で目がくらんでいる。

 

そんなことは露知らずに今日もエ・ランテルの住民は賑やかに過ごしている。

 

最後にどうなるかは他国の采配次第だというのに。

 

 

 

以上が法国の陽光聖典から情報収集したエ・ランテルだ。

 

まるで深淵の狂気を感じさせる予言に宗教国家なのを感じさせられた。

 

 

まぁ俺はアンデッドの魔王であり、そんなことを言われても困るだけだが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

漆黒の全身鎧と赤マントを靡かせ、背には二本のグレートソードで街を闊歩する男。

 

 

付き従うは異国情緒あふれる黒髪のポニーテールの美女。

 

お淑やかそうな顔立ちに深い茶色のローブ、170センチ程度の飾り気のない杖(スタッフ)により、美女がマジックキャスターだと気付かせてくれる。

 

その美貌により、何の変哲もない服装と杖が彼女にかかると豪華な衣装のようにも思えてくる。

 

 

 

二人組がでてきたのは「冒険者組合」。

 

銅の小さなプレートなど、普段なら興味などわかない。

 

どこにでもいる駆け出しとしか思わない。

 

だが、男の威容と女の美貌が街の皆は目を離せなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…杖の選択を誤ったかもしれない。

 

もっとこう女性受けする綺麗な方が良かったのだろうか?

 

比較的地味な実用性に特化したスタッフだからナーベの服装にはあっている。

 

そう思ったのだが。

 

よくよく考えたら女性にプレゼント何てしたことがない。ユグドラシル以外で。

 

友人の子供みたいな感覚で与えていた。しかも、完全に実用品を与えてしまった。

 

そのことをパンドラズ・アクターもデミウルゴスも気にしていたのだろうか?

 

だったらはっきり言って欲しかったが、そればかりは仕方がない。

 

ナーベラルは恐れ多いと言いながら感謝して受け取ってくれたが。

 

本当に気にしていないだろうか?

 

こう両手で持たなくて良いし、胸に抱きかかえなくても良い。

 

人化の影響で俺の理性がたまにヤバい。与えた杖を抱いて寝ることはやめてくれ頼む。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

初日は冒険者組合で登録し、エ・ランテルを大体見て回った。

 

 

 

冒険者組合の登録では案の定ごろつきに絡まれた。

 

そのごろつきをその場で360度回転させたら黙った。

 

ただ、目を離した隙に他の冒険者からどこか触られたらしいナーベラルが激怒。

 

セクハラしたと思われる男冒険者を投げ飛ばした。

 

結果、鉄級の女冒険者のポーションを割ってしまった。

 

 

 

人化の影響で慌てて、ユグドラシル時代の癖で赤いポーションを渡してしまった。

 

あの頃の四六時中ダンジョン突撃で毎回ポーションを渡していた癖。

 

人化の影響もあり抜けない。

 

 

 

ストックは腐る程あるが情報漏洩もあり得るし、金を渡せば良かった。

 

 

今回、セバス達の商人のアンダーカバーのお陰で現地の金銭は予め確保できていた。

 

 

ミスリル冒険者程度なら持っていても不自然じゃない額を持ってはいた。

 

…正直、セバス達に現地ポーション等も用意して貰って置けば良かった。

 

万が一、逃げたり隠蔽したりする対策等の他は最低限しか用意していなかったのは悔やまれる。

 

 

 

今回は『原作』と違い、必ずしもンフィーレアが釣れるとは限らない。

 

 

 

ナーベラルには謝られたが、セクハラされれば誰だって怒る。

 

これには、ポーションを持っていなければ他の冒険者から舐められること。

 

薬師ンフィーレアへの撒き餌にもなったから問題ないと伝えた。

 

半殺しにするとかならともかく、今くらいの対応ならお前は悪くない。

 

寧ろ被害者だと言って慰めた。

 

というかそいつはどこ行きやがった。友人の娘にセクハラしやがって。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

二日目の今日は仕事探しだ。冒険者組合へ行き仕事を見つける。

 

 

 

俺が作ったエルダーリッチに負けていられないので、王国語は問題なく覚えた。

 

エルダーリッチ達が他の潜入工作するシモベのために作成した教材を借りた。

 

俺が休んだ振りをして徹夜で毎日勉強した成果だ。他国語はまだ無理。

 

俺が作ったはずなのにあいつら凄く優秀過ぎる。

 

 

 

なので、依頼表が読める。結果、張り出されているのはほぼ微妙な依頼しかなかった。

 

このミスリルの依頼ならギリギリだ。

 

 

「これを頼む」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

流石に規則で無理だった。

 

 

仕方がなく銅級で一番良い依頼を頼んでいたら、『漆黒の剣』のペテル・モークに誘われた。

 

後、ニニャと他二名もいた。

 

 

ペテルは銅より上の銀級とはいえ、冒険者とは思えないほど知的で礼儀正しかった。

 

ナザリックで調べた事前情報のお陰で、色々話せて楽しかった。

 

あのセクハラ野郎(何があったのかは見てないが)は例外かもしれない。

 

 

だが、ルクルットはナーベを口説いているのを見て、

 

ペテルの方が例外なんだろうなと思った。苦労してそう。

 

 

ルクルットはナーベの虫けら発言も気にしていないようだ。

 

しかし、それは冗談ではなく本気で言っている。

 

ルクルットが少々可哀想なので、言葉を控えるように注意したりした。

 

 

ニニャのタレント『魔法適正』をまるで皆自らのことのように誇っていた。

 

こうして話してみるとわかるが、チームの仲が本当に良い。

 

…ニニャの言葉の端々から腹黒そうな印象を受けた。

 

 

やや個性的な面々だが、この世界に転移して初めてまともな現地人と会話した。

 

 

 

対話を求めているのに天使達を突撃させられた挙句命乞いし始めた。

 

助けたと思ったら神か何かのように崇められた。

 

ナザリックでは当然のように絶対的支配者兼魔王だ。

 

今まで碌な対人関係を築けていない。

 

 

 

そう言った意味でも普通のやりとりが嬉しかった。

 

皆でモンスター駆除を行うことになった。幸い近辺の情報は揃えていた。

 

ナーベラルに無理しないで可能な範囲で良いので彼らを守るように伝えた。

 

本音を言えば森に生息している知性のないモンスターを捕まえたかった。

 

パンドラズ・アクターの言っていたことを検証したかった。

 

そればかりは我儘だし、仕方がない。

 

 

 

そう思っていたら、ンフィーレアから個人依頼が来た。

 

これは確定だ。本当に『原作』同様に釣れるとは…

 

エンリと本当に夫婦になれるのか?完全に友人扱いだったぞ。

 

 

エンリと話したが、友人を利用することは心苦しいですがって。

 

 

『原作』だとどうやって口説いたのだろうかンフィーレア。ジゴロなのか?

 

とはいえ護衛と採取なら、『漆黒の剣』の方が適任だ。

 

『漆黒の剣』のレンジャーのルクルットが周囲を警戒、ドルイドのダインが採取を手伝うのが適切と説得した。

 

 

実際は俺やナーベラルなら広範囲で警戒できるが言わない。

 

ワールドアイテムを併用すれば薬草も採取可能だが言わない。

 

 

いずれ名を高めるつもりではあるが、まず現地人とまともな友好関係を築きたい。

 

 

…ここまで『原作』どおりだとあの痴女と不愉快な仲間達がいるな。

 

 

ハムスターの登録で遅くなった?のが原因のはず。

 

今回は名を上げるよりも普通に護衛すべきだな。

 

ハムスターで名を上げるのは、もう一度近くの任務をこなした後で良い。

 

メリーゴーランドに乗るおっさんとか嫌だ。

 

念のため、襲われても助けに行けるように従属NPCにメッセージで監視するように伝えた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

おまけ

 

 

戦士モモン計画の供をナーベラルに伝えた。

 

俺的には仕事を取り上げてしまって落ち込んでいたからと気を使ったつもりだった。

 

ところが、ナーベラルはそれであれば守護者のアルベドが供として適任だと言い張った。

 

俺はアルベドを連れていけないし、その理由を説明して納得させた。

 

 

 

ただ、ナーベラルを供にすることを反対したのもアルベドだった。

 

戦士モモンの仲間なら同じ戦士のアルベドよりもマジックキャスターのナーベラルが合理的だ。

 

何よりそう、角が隠せてない。幻影でも見破られる可能性がある。

 

そもそも鎧をずっと着ているつもりなのか?

 

ナーベラルはつい先日まで現地の魔法を研究していたし、現地の重要性も理解している。

 

強さもLv113で現在わかっている範囲では十分な強さのはずだ。

 

 

そこまで言ったらアルベドが反論できなくなってしまって、半泣きされてしまった。

 

 

俺は慌ててアルベドを必要としているからこそナザリックにいて欲しいのだと伝えた。

 

守護者統括として俺が不在でも守ってくれることにいつも感謝しているだと。

 

 

アルベドはすぐさま回復し、失態を詫びられた。

 

もっと前に相談していなかった俺が悪いと謝った。

 

どちらも謝るのを繰り返しそうになりかけた。

 

 

途中、デミウルゴスがアルベドに何か吹き込んでさらに元気になって認めてくれた。

 

 

デミウルゴスは何言ったのだろうか。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

パンドラズ・アクター「あれは素でやっておられるのでしょうか?

           …核地雷設置して去られるのは止めてください我が創造主!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

おまけ2

 

 

「ナーベ。とりあえずここまでは予定通りだな」

 

今日は冒険者組合に登録し、宿へ行く。ナーベラルは報告し、俺は街を見てくる。

 

人化してこの世界の人間を観察してくる予定だ。

 

 

「はい。モモンガさ…」

 

おい、こら。さっき説明しただろう。

 

 

「モモンな。そしてお前はナーベだ」

 

一度くらいは仕方がない。間違いやすいと思うし。

 

 

「はい。モモン様!」

 

『様』はやめるんだ!幸い人いないのは確認済みだけど。

 

 

「モモンで良い。その深いお辞儀はやめよ。

 

 仲間、そうパーティだからな。私たちは」

 

そう、固いぞ。モモンに言いたいこと言って良いのだからな。杖が不満ですとか。

 

 

「はい。モモンさ―ん」

 

うん。まぁ許容範囲だろう。

 

 

「よし。それでよい」

 

ちゃんと言えば問題ないな。

 

 

「はっ!」

 

ついさっきやめろと言っただろうにまぁでもなぁ…

 

 

「…だからお辞儀はやめろと言っただろう?」

 

初日だから仕方がない。というか俺が逃げ道塞いでから供を頼んだようなものだ。

 

その気はなかったのだが、俺のせいでやりたくないことをやらせている可能性が高い。

 

多少のミスは許すべきだ。

 

 

「申し訳ございません!」

 

直角にお辞儀をするナーベラル。いかんこのやりとりだと俺、パワハラ上司だ。

 

 

「やめろ。…ああ、すまん。私が我儘を言ったからだな」

 

支配者だからなぁ…社長にくっついて働くようなものだ。

 

ストレスから口を滑らすのも仕方がない。

 

 

「そんなことは!」

 

いかんこの言い方も不味かったか。

 

 

「今回お前を供にするのは、私がお前を望んだからなのだ。至らないのは私が悪い。

 

 …先ほど宿を取ってから報告をお前に命じていた。だが、まだ時間はある。

 

 一緒に街を散策してみないか?少し急ぎ過ぎていたし、今後について話がしたい」

 

セバス達のお陰で最低限、この国の金は用意できた。

 

そこらの喫茶店で人間観察するだけでも街の様子はわかる。

 

初日ならば十分だろう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

アルベド「報告が遅い(怒)!ナーベラルはモモンガ様と何をやっているの?

     …くぅぅ!やはり今からでも!!」

 

護衛  「アルベド様御乱心!待機していらっしゃる守護者の方々を呼べ!」

 

その後、報告の内容で発狂した。

 

 



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第十七話 残滓

弊害。いらないもの。無用。堕落。


 

 

カルネ村までの護衛、ゴブリンやオーガ21体が攻めてきた。

 

これくらいなら容易に瞬殺できたが、『漆黒の剣』を立てるつもりで半分をお願いする。

 

もちろん万が一に備え、護衛としてナーベを待機させた。

 

 

初依頼で失敗するわけにもいかない。全力で行く。

 

 

ゴブリンとオーガの位置関係から剣の軌道を、最速で任務を達成することのみを考える。

 

ほぼ止まっているように遅いそれらをどう処理するか結論が出る。

 

 

ユグドラシル時代終末期、一つのことを極めた。だが一番になれなかった戦士達の闘技場。

 

 

その一人から叩き込まれた単騎で行う切り殺し回収術。

 

ドロップアイテムを回収しながら単騎で戦い続ける方法。

 

 

 

片手のみ剣を持ち、討伐証明の耳を切り飛ばしてから最速で殺す。

 

もう一方の手で耳を袋に入れる。耳が袋に入るように切り飛ばす。

 

 

ゴブリンの耳を斬り飛ばし殺す。耳を回収する。

 

オーガも同様に分け隔てなく少しでも早く担当分を殺し尽くし、回収する。

 

 

 

担当分11体を殺し尽くして、振り返る。

 

『漆黒の剣』に手伝う必要があるか聞いた。

 

 

『漆黒の剣』が絶句していた。

 

…ゲーム時の感覚、全力でやり過ぎた。

 

 

『漆黒の剣』の担当分のゴブリン・オーガは既に倒しているもの以外は逃げていた。

 

 

当たり前だ。

 

どう考えてもオーバだ。やり過ぎた。

 

せっかく友好関係を築けたというのに…どう考えても化け物だよなぁ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

化け物と言われるかと思われると思いきやナーベラルは兎も角、

 

『漆黒の剣』に全力で称賛された。戦士の極みだと。

 

 

 

日の沈む前に野営をするため、血なまぐさい現場から離れたところで準備を始める。

 

俺は黙々と手伝った。ナーベラルから御身のすることではないと言われたが黙らせた。

 

野営の準備が終わり、考えたいことがあるのでしばらく一人にしてくれと頼んだ。

 

ナーベラルにも来ない様に命令した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

陽光聖典から引き出した情報には、この世界の人間の習性という報告があった。

 

強者は同族、特に異性を引き付けるという。

 

聞いた当初、俺は胡散臭くてしょうがなかった。

 

だが、おそらく種の保存としての本能だとデミウルゴスは興味深そうに語っていた。

 

この世界の人間は弱小種族であり、強者は浮くどころか周りを守るのが大半らしい。

 

現に信仰とそれを元に法国は成り立っているという。

 

偶に外れる裏切者もいるという話だが。

 

正直、一種の精神疾患だと思う。転移前世界の人間である俺からすれば。

 

 

 

 

俺は人間ではないとは言え、モンスターを大量に殺しても特に何も思わなかった。

 

思えばコキュートスと全力で手合わせしたときも、恐怖より高揚感があった気がする。

 

悪いことではない。だが、転移前の俺という人間のズレがある。

 

今回の件でよくわかった。人化しているせいかより理解できてしまう。

 

 

これは他のプレイヤーも同じなのか?若しくは、人化は完璧ではない?

 

 

超越者(オーバーロード)化の精神変化が人間状態にも反映されているのだろうか?

 

 

だが、痛みや同情等の感情はある。

 

無意味な殺しへの嫌悪感は転移前とあまり変わりはない。

 

まるで人であるのに人を超えたような…

 

 

 

…オーバーロードになったということを恐ろしく感じないこと自体がおかしかった。

 

 

人化を思いついた時点で、普通なら人間で有り続けるはずだ。

 

あれは経験したからわかる。人の残滓のみ残る化け物だ。

 

まともな精神なら切り替えしない。恐ろしく感じないことが恐ろしい。

 

人として振る舞えるからこそ怖い。理解できるのが怖い。

 

 

 

怖くなくなることがわかるのが怖い。

 

 

 

…仲間たちと共に築いたナザリックに対する愛情は本物だ。

 

それがあるからこそオーバーロードであっても人間の感覚、比較ができたのだと理解してしまった。

 

 

俺は執着する対象がなくなったとき、俺は完全に化け物になってしまうのか?

 

 

そう考えることができる。わかってしまった怖さ。

 

 

それなら人化の指輪何ていらなかった。

 

 

完全催眠と魔法を併用すればバレるはずがないかもしれない。

 

だが、ナザリックを守るためには客観的なプレイヤーとしての感覚。

 

 

人化の指輪は必要不可欠だとわかってしまう。どうやっても。

 

 

俺はこれからも人化とオーバーロードを何度も繰り返すだろう。

 

 

その果てに割り切れるだろう。今感じている恐怖何て忘れるだろう。

 

 

だが、その終わりはいつまで続くのか。

 

 

俺は気づけば震えていた。

 

 

ナザリック地下大墳墓の支配者『アインズ・ウール・ゴウン』でも『モモン』でもない。

 

 

『鈴木悟』としての悲鳴だ。

 

 

これは、誰にも気づかれるわけにはいかない。誰もまだ気づいていない。

 

 

俺はNPC達からすれば元々オーバーロードなのだから。

 

 

オーバーロードに戻れば一瞬で忘れる恐怖。

 

何度も人化を繰り返せばなくなるのだから。

 

 

 

 

 

誰かが近づく気配を感じる。

 

「モモンガ様…」

 

来ない様に命じたはずのナーベラルだった。

 

 

 



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第十八話 NPC

子は全て理解する。本当の意味で親を。


 

いつものように宝物殿でアイテムをふきふきしていると突然、メッセージが届く。

 

「今、よろしいでしょうか?パンドラズ・アクター様」

 

流石に声だけでは機微は読み取れないが、落ち着いているようで落ち着いていない。

 

動揺を押し殺している声だ。これは創造主の件だ。

 

 

「どうしました?ナーベラル・ガンマ」

 

なので、いつものように揶揄わない。

 

絶対に、自分にメッセージを飛ばすような相手ではないと知っている。

 

 

「モモンガ様のことでご相談したいことがあります」

 

やはり。

 

 

「全て。いや、モモンガ様がおかしくなったところだけを簡潔に教えなさい」

 

モモンガ様は何かを隠している。

 

 

 

「なるほど…」

 

聞いて思った。突拍子もない発想。不敬な勘違いである可能性。

 

創造主との関係性、ユグドラシルスレ、プレイヤー…人化の指輪。

 

だが、辻褄があってしまう。直接こうして話した自分にしか想定できない。

 

 

 

『創造主』の真実。

 

 

 

二重の影(ドッペルゲンガー)の彼女で良かった。

 

種族特性。これがなければ絶対報告しない。できない。

 

 

もし、仮にその場合の、御方の、真実の苦痛はいかほどか。どれほどまでに激痛か。

 

早まらせてはいけない。ここが最後もう遅い最後の分岐点。

 

 

急がねば、『創造主』が死んでしまうその前に。

 

 

「ナーベラル・ガンマ。今から上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)を二体完全催眠で送ります。

 

今から行う事はモモンガ様以外誰にも言ってはなりません。

 

そしてこう私が言う事をモモンガ様に聞いてください…」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「モモンガ様はに、『人間』で有らせられたのですか?」

 

ナーベラルの言葉は衝撃的だった。

 

 

「何故それがわかる!!」

 

大声で叫んでしまう。これから失うと覚悟を決めた今そのときに。

 

 

「『時間停止(タイム・ストップ)』」

 

タブラさんが現れる。一瞬の歓喜。いや、違う!ありえない!

 

 

「何の真似だ…パンドラズ・アクター!」

 

激怒する。もはや目の前の存在を許せない。

 

 

「落ち着いてください。モモンガさん」

 

ヘロヘロさんに変身される。わかっていても錯覚する程似ている。

 

 

「そうですよ。大魔王賛歌を歌ってくださいよ」

 

知るはずのない知識が言われる。るし☆ふぁーさんだ。

 

 

「これはゲームですよ。一旦落ち着きましょう」

 

ウルベルトさんが笑うように言う。

 

これは擬態だ。わかる。

 

では、どこから仕入れた知識なのか。

 

 

 

「ユグドラシルスレか」

 

目の前の『創造物』に確認する。人の目から涙が止まらない。が、無視する。

 

 

 

「はい。気が付きました。ゲームクリアです」

 

元のネオナチをモデルにした軍服姿に戻る。

 

俺の設定した通りに。

 

 

「『真実』がわかった時、気が付きました。

 

 これほどまで何故、ゲームに全てを捧げたのか。クリアしてもなお残り続けたのか」

 

そこまで理解できたことに驚く。だが、次の言葉より驚くことはなかった。

 

 

「モモンガ様はこうなることを。

 

 いや、これから起こることも知っていらっしゃるのですね」

 

それは誰にも言ってない。リアルでもゲームでも。

 

 

「…何故そう思った?」

 

否定しない。聞いてみる何故わかったのだと。

 

 

「異常な行動力。その源泉。

 

 ユグドラシル末期。『大魔王モモンガ行動予測スレ』というのがございました。

 

 その住民は皆モモンガ様が大好きで徹底的に情報をかき集め、分析していました」

 

あれは俺を避けるためのスレではなかったのか。

 

 

「私からすれば的外れな予想ばかりでしたが、情報量はもの凄く。

 

 人化したモモンガ様と直接、何度も関わるうちに有り得ない結論に達しました」

 

冷静になろうとオーバーロードに戻ろうとする。

 

が、パンドラズ・アクターに攻撃されて止まる。倒れる。

 

ナーベラルがパンドラズ・アクターと俺との間に入ろうとする。

 

 

「やめてください!それをしたら御身は今度こそ死んでしまわれます!」

 

声が震えていた。役者のお前に、俺はそんなこと設定していない。

 

ナーベラルが困惑して止まる。

 

どちらの言うことを聞くべきなのか判断に苦しんでいる。

 

 

「いいですか、モモンガ様。私は推察しました。

 

人化の指輪。これはこの世界では異形種から人間になるだけ。

 

スキルも魔法も使える。だから完全にプレイヤーに戻れるものではありません!」

 

 

そんなことは、

 

 

「知っている。だから、だからこれ以上元に戻らない覚悟を決めたのだ」

 

俺は倒れた体を戻そうとする。

 

 

「ナーベラル・ガンマ!あなたはモモンガ様が人間でも良いと断言できますか!」

  

パンドラズ・アクターが叫ぶ。何がしたい。

 

  

「はい。私は強かろうが弱かろうが頭が悪かろうが良かろうが構いません。

 

この身は創造された御方々のためにあります」

 

ナーベラルは、はっきりと断言する。

 

 

「それは知っている!だから、俺が皆を守る覚悟を決めたのだ!

 

 孤独だろうが何だろうが守って見せると決意したんだ!

 

 『原作』?前世?そんなのは関係ない!死すら恐怖ではない!」

 

俺は叫ぶ。誰にも知られたくなかった本音をぶちまける。

 

 

「いいえ、わかってません。モモンガ様。

 

 いいえ、この場合は『アインズ・ウール・ゴウン』様!」

 

パンドラズ・アクターはもはやなりふり構わず、設定何て無視して言う。

 

 

「最後に残られた御身に仕えることこそ喜びなのです!

 

 苦痛の中で孤独に戦っていると知って、誰も喜ぶものなど!

 

 …ナザリックには誰もいないのです」

 

懇願するように祈られる。では、俺は、俺は。

 

 

「どうすれば良いのだ…」

 

放心してしまう。俺は、結局、一人よがりでこれ以上誰も喜ばないと確信できた。

 

 

「まず、人化のままナザリックにいてください。勝手ながら熱素石を使いました。

 

これで人化の指輪を外しても永遠に人化のままでいられます」

 

勝手にワールドアイテムを使った。だが、怒りは沸いてこない。

 

黙って吸収し、わかる。人化を維持しても永遠に生き続けられる。

 

 

「このことはナーベラル・ガンマとこの私パンドラズ・アクターしか知りません。

 

 ですので、嫌なこと、ご不快なことがあっても人化でいてくれることを約束してくださいませんか?」

 

パンドラズ・アクターはそういう。ナーベラルを見る。頷く。

 

 

「わかった。約束しよう、ただ…」

 

このまま仕事を放棄はしたくない。それを察したのだろう。

 

 

「ええ、ですので上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)を用意しておきました」

 

 

この野郎…

 

 

「全てが計算済みか。子は親より優秀だな」

 

俺は思わず、負け惜しみを言う。

 

 

「おお…!ありがとうございます!」

 

これまで見たことがないオーバーリアクションでパンドラズ・アクターは喜んだ。

 



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第十九話 約束されし王の到来

数百年の時を経て、果たされぬ願いを友の代わりに果たしてみせた。


 

「行くのかい?スルメ」

 

無謀な作戦を立てる。昔からのコイツ等の常套句だ。

 

 

 

我が父、竜帝に腐り肉を食わせたあの糞『エレア』。

 

『至上の光』を自称し、他種族の有力な王族達の頭髪を消し飛ばした『天使』。

 

子供を守るという名目で襲われている村々を救っては、子供の親にしばかれてた『聖騎士』。

 

幼かった七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)に異常性癖を植え付けた『女森祭司』

 

ありとあらゆる手段で弱みを握り、嬉々として公表しまくった『糞鳥』。

 

 

彼らは、自分をさらけ出し全力で世界を煽りながら人類をまとあげて救った。

 

彼らはこの世界のあらゆる存在に恩を押し付けた。

 

あらゆる意味で屈辱的な行為を行うが、それ以上の恩義で縛ることで滅びる定めにあった人類を救った。

 

 

その奇人・変人・狂人共のまとめ役こそ目の前の『死神』スルメだ。

 

 

「笑止!この蜥蜴は相変わらずの臆病者よ!」

 

蜥蜴言うな殺すぞ。内心思うが、洒落にならないので今日は言わない。

 

 

「この作戦。成功するにしても失敗するにしてもおそらく君は死ぬ。もう復活も」

 

突然現れた八欲王なる存在はあらゆる存在を犯し、殺し、騙し、奪った。

 

ついには魔法体系すらも変えられ、ワイルドマジックでの死者蘇生もほぼ不可能になった。

 

 

秘宝を除けば『死神』の最大の切り札『流れ星の指輪(シューティングスター)』を作戦に使う。

 

彼が身に着け一時的に力を取り戻して、特攻する。

 

残り二回の使用権をめぐって互いに争い、崩壊する。

 

たったこれだけ。もちろん様々な手順は踏むが。

 

 

要は、それだけの価値のある指輪なのだ。

 

 

だが、『流れ星の指輪』が無ければ目の前の男は死ぬ。もう生き返らないだろう。

 

 

散々嫌がらせを受け続けたが、死んで欲しくはない。

 

 

 

竜帝の息子として育てられた、誰からも恐れられた存在だった僕に、初めてできた『友達』だから。

 

 

 

「まだ勝ち目はあるかもしれない。できればかつて君たちの描いた夢を見たい」

 

勝ち目なんかない。

 

初期対応の重要性を散々喚き散らした『死神』の言う事を楽観視した父を始めとした愚か者達。

 

かつての六人がその膨大な生命力を、殲滅に委ねれば世界を滅ぼせたことに気づかなかった。

 

彼らは『優し過ぎた』のだ。

 

 

「フハハハハ!…ハハハ!」

 

精神鎮静化を何度も起こしているのだろう。だが、笑いが止まらないのは何故?

 

 

「何を笑っているんだい?」

 

素直に聞こう。もはや止められないことがはっきりした。

 

いつもなら『俺たちの戦いはこれからだ』と全力で斜め上の作戦を立て始める。

 

それがないというのは死ぬ気なのだ。この『死神』は。

 

 

「いや…何かつての我らが盟主様のお言葉を思い出したのだ」

 

盟主なんていたのか。引っ張ってきて百年前に戻ってこいつら止めさせたい。

 

 

「盟主?そんな存在がいたのかい?…恐ろしい」

 

いや、本当に。

 

 

「正確には私だけかな…だが、我らが国を、基礎を作りたもうたのは我が盟主その人!」

 

あの六人に優る変態か…

 

 

「あれ?でも君たちと一緒に来てなくないか?」

 

そんな存在いたら異常性癖で世界は満たされているはずだ。

 

 

「ハハハ!いずれ来る。…必ずな」

 

そう悲しそうに呟く『死神』。会えないことが無念なのかもしれない。

 

 

だが、私は決意する。そいつにこれまでの責任取らせよう。

 

何、一人だったら勝てるはず。

 

 

 

「そうか…だけど、人間達は勝手に滅びるかもしれないよ?もしくは僕が」

 

あの秘宝で増長するかもしれない。人以外を排斥するようになるかも知れない。

 

人が弱いのは、彼らの方が良く知っているはず。

 

 

「……」

 

急に黙る。私の発言に思うところがあるのだろう。

 

 

だからこそ、

 

「君たちは彼らを守っていたのではなかったのかい?」

 

止めたい。既に『死』を覚悟していると知っても我儘を言う。

 

 

できれば、一緒に戦って…

 

 

「これは我々の、ユグドラシルの者の責任だ。

 

 

 この世界にしてきた全ての行いの終止符を私が打つ。

 

 

 これだけは友よ。私の誇りが許さない」

 

 

静かに、ただ誰にも譲れない思いを感じ取る。

 

私にできるのは先ほど求められた作戦の援護くらいしかない。

 

 

「………そうかい」

 

それが堪らなく悔しい。

 

 

「今度こそ去らばだ…友よ」

 

『死神』は行く、破滅という名の『死』を届けに。

 

 

「ああ、待ってくれ!一つ尋ねたい」

 

彼のことを伝えなければ、やがて来るであろう存在に。

 

 

「その盟主の名前を教えて欲しい」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

そんな遠い日を思い出す。ついにきた。あいつ等を止めなかった糞盟主が。

 

 

 

『魔王』然としたこの風格。聞き覚えがある。

 

あの変態共の真の『王』とやらに違いない。

 

 

「初めまして。ツァインドルクス=ヴァイシオン殿。私の名はアインズ・ウー」

 

名乗り上げる『王』の言葉を、だが、

 

「君が『魔王』モモンガだね。初めまして。ツアーと愛称で呼んでくれて構わない」

 

せめて呆気を取らせる。

 

うん無理、こいつ絶対勝てない。存在の格が違う。

 

 



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第二十話 本来の力

『原作』から抜け出した『リアル』となった世界は光に包まれた。


思いを吐き出した俺は、パンドラズ・アクターとナーベラルと共に宝物殿の霊廟で、

 

 

『俺』の全てを話した。

 

 

ユグドラシル終了三年前、前世と『原作』を思い出したこと。

 

三十年以上前の『原作』知識は抜け穴だらけだったが、未来の自分だと確信できたこと。

 

だが、『原作』は熱素石鉱山奪還から狂いに狂いまくっていたこと。

 

なので『原作』とは違う可能性が高いと判断したこと。

 

前世でも今世でもあったクロスオーバーや俺と同じ存在がナザリックを滅ぼすと思い込んだこと。

 

だから、不必要だと思っても、ゲームをクリアしても財や知識・技術を蓄え続けたこと。

 

 

実際に異世界に転移してしまったこと。

 

 

唯一の手掛かりである『原作』を自己流になぞろうとしたこと。

 

正直、自分の思うままにやった方が最適だった気がすること。

 

毎日、うろ覚えの『原作』との乖離を探して精神が追い詰められていったこと。

 

人化して『漆黒の剣』と交流した際に、自分の歪みと致命的な欠陥に気づいてしまったこと。

 

 

「俺は一人よがりで、ナザリックを守ると言いながら、結局自分のことしか考えていなかったのだな…」

 

俺はこれ以上ないくらいの道化だった。

 

 

 

本来の俺だったら、

 

まず、評議国の白金の竜王を探し出し、力を見せつける。

 

今後の百年の流れから世界を守る代わりにナザリックを認めさせる。

 

 

未知の脅威である破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)をどうにか捕獲して、

 

帝国と王国の戦争の目の前に放り込む。

 

それを一瞬で殲滅させて、両国にカルネ村からトブの大森林、ナザリックがあるカッツェ平原等の支配を認めさせる。

 

 

帝国からフールーダを引き込み、ジルクニフの手を狂わせる。

 

王国のラナーにクライムとの世界を作るのに協力する代わりに、王国の内外を操らせる。

 

法国には人類を守るから他種族と共存しろと迫る。無理なら首脳部を完全催眠する。

 

 

 

これくらいは当たり前に浮かぶ。全部容易だ。俺一人でできる自信がある。

 

だが、『原作』という狂気に支配された俺は滅茶苦茶な行動、無駄なことばかりしていた。

 

錯乱し、無意味にうろ覚えな『原作』をなぞろうとしてしまった。

 

 

 

「いいえ、モモンガ様。私は真実を知っても忠誠は何も変わりません。

 

寧ろ私たちのことをそこまで思ってくださっていた慈悲深いお心。勿体なく思います。

 

ただ…」

 

霊廟には、弐式炎雷さんの者もあった。何故それに思い至らなかった。

 

親が見捨てたわけではないが、もう帰ってくることはないと教えてしまった。

 

宝物殿を開放してしまった今、完全に聞かれないためにはここしかなかった。

 

だが、もう少し配慮できたはずだ。自分のことしか考えられなかった。

 

 

「いえ、モモンガ様。

 

ナーベラルは弐式炎雷様が戻られないことは知っていたとのことでした。

 

最後にログインした日に別れの言葉を述べられたと言っていました」

 

パンドラズ・アクターは俺の心を察して言う。だが、わかっていても…

 

 

「いえ、その覚悟はできておりました。言い淀みましたのはその…」

 

顔を赤くして、何かを言おうとするがわからない。気を使っているのだろうか。

 

 

「ええ…その当たり素だったのですね。モモンガ様」

 

理解できないことを察して何故かドン引きしましたと言わんばかりのポーズを取る。

 

無知を晒したがわからないものはわからない。そう示せただけ良しとしよう。

 

 

「それより私本来の方針。どう思う?」

 

正常な思考を取り戻した自分の策。

 

最善ではないかもしれないが、最速でナザリックを守れる。

 

 

強いて言えば、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が不明だ。

 

 

コイツは『原作』で出てきても良いはずなのに俺の記憶にはない。

 

シャルティア洗脳の原因となった諸悪の根源を俺が覚えていないはずはないと思ったが。

 

だが、Lv150の俺なら問題ない。

 

 

レベルが低く、知能がなければ『ボール・マスター』で捕まえて毎日サンドバッグにする。

 

Lv90まで捕獲できる特殊条件。偶然にも俺は条件を満たすことが可能だ。

 

若しくは検証以上の効果が出せる。

 

ドリームビルダーしかできないファッションスキル。ゲームクリアの特典。

 

俺は両方持っている。

 

 

それら懸念事項も含めて伝えると、

 

「いや、モモンガ様。ナザリックを守るのならそれで十分。いや、完璧です

 

 しかし、世界征服の方は…」

 

えっ。そんなこと言ったか?

 

 

「いらん。『原作』になぞろうとした愚かな発言だ。

 

それに白金の竜王と法国と結べれば世界を実質支配したも同然だ」

 

多分、呆けてしまったのは察せられた。

 

先ほどまでの俺は『原作』知識で経済から支配しようとしたけど、

 

俺のユグドラシルの真骨頂は魔王ロールからの『従属』だ。

 

何も問題ない。絶対の自信がある。

 

破滅の竜王が知性あるなら言葉のみで従えられる。

 

 

「モモンガ様。ご自分の頭が良くないとご謙遜されていましたが、十分えげつない知性をお持ちです。

 

 私ですらそこまで思いつくかは、少々自信がありません」

 

謙遜するパンドラズ・アクターと尊敬の眼差しで見るナーベラル。

 

 

 

それやめろ。辛いんだよ。もう察しているんだろう!もう!

 

 




第十八話NPCにおいて、
漆黒の剣で質問があったのでここに記載します。

まず上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)を二体完全催眠で送り出しています。
さらに言えば従属NPCに監視させています。
絶対の支配者の言です。何があっても『漆黒の剣』とンフィーレアは守られます。


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閑話 本当に碌でもない

この世全ての財を持つ王にとっては容易い奇跡。



「ふぅ…ふぅ…」

 

一番死にそうにない男が目の前で死にかけている。

 

息も絶え絶えでいつ死んでもおかしくない。

 

 

「友よ…」

 

寿命だ。生きとし生ける者皆死ぬ。当たり前の営み。

 

だが、苦難を共にした最後の仲間が今、逝く。

 

 

「ふふふ。…『死神』が死を嘆くとは…スルシャーナいや、『スルメ』」

 

私の『真名』を呼べる目の前の『エレア』はニヤリと笑う。

 

仲間達は皆、全力で生き抜いた。わざわざ人になり死した『天使』もいた。

 

 

「すまぬ。わが友よ…だが、私の、最後の苦楽を共にした仲間が逝く。

 

 それだけは…悲しいのだ」

 

『死神』としてあるまじき姿勢。

 

だが、国を守護する存在としてのこれからの孤独を考えると辛い。

 

例え自分が選んだ道だとしても。

 

 

「ハハハ!…だが、数百年すればきっと会えるさ」

 

彼が励ますように笑う。どちらが見送る側かを忘れてしまう。

 

そう。私が残る理由はたった一つ。『彼の王』のためだ。

 

 

「ああ。そうだな!私たちの国を、新しい友達を見ていただくのだ。

 

 今度こそ対等に、共に歩んで貰える世界を!」

 

ユグドラシル最終日からずっと、ずっと私は後悔していた。

 

 

 

『遍く栄光が諸君に降り注がんことを!願わくば我らが世界に匹敵する栄光を!』

 

あの言葉の裏にある孤独。

 

それを私は、初めて友を失ったときようやく理解できた。

 

 

私は幸福だ。オーバーロードとして変質しながら偏執せずに済んだ。

 

仲間と共にあの言葉を叶えるためにあらゆる存在に喧嘩を売った。

 

殴り合って認め合って、この『世界』の一員となれた。

 

 

だが、彼の王は、孤独で来られるだろう。この『世界』に。

 

あの言葉があったからこそ皆でまとまれた。国を築けた。人を救えた。

 

だからせめてもの恩を返すと決めたのだ。

 

 

 

たった数百年待つだけだ。この『世界』はどこまでも美しい。絶対飽きることはない。

 

 

 

「ふっ。そうだその意気だ!何、あの蜥蜴達を弄繰り回せばすぐさ」

 

あの最強とかほざく竜達を揶揄った思い出。

 

ふんぞり返って世界の覇者とかいうので『乞食の肉』を皆に食わせたりした。

 

色々一緒に遊んでいたら、何故か人間に性癖を抱くようになった竜にはドン引きしたが。

 

 

「今度は私一人で『エレア』の、君の善意を世界中の皆に食らわせてやろう」

 

目の前の男の生き甲斐を私が引き継ごう。

 

 

「ああ、良かった…安心した」

 

そう言って目の前の友は安らかに逝った。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

数十年後、世界は蹂躙され瞬く間にこの『世界』の友達が殺されていく。

 

 

私達が築き上げた国もこれ以上は持たない。

 

私と白金の竜王だけでは、正攻法で倒せない。

 

 

だから、私は死ぬ。仲間との誓いを破る。

 

 

悔いはある。『死神』として恥ずべき『生』への執着がある。

 

だが、それでも許さない。

 

人により滅んだ『世界』を知りながら『世界』を滅ぼそうとする等、決して許してはならない。

 

 

我が友に言葉は託した。この世界最強の竜王ならいつかきっと出会えるだろう。

 

我が従者に国を見守るように伝えた。人は堕落し、滅びもありうるだろう。

 

それでも見守れと。

 

 

 

ならば、これ以上は我儘。さぁ、破滅という名の『死』をくれてやる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

漆黒の世界。

 

自分という存在がわからない。

 

何もわからない。漆黒とはなんだ?存在とはなんだ?

 

永遠に消えていく。

 

なにもわからないが消えていく。

 

 

だが、引っ張られる。どこからか漆黒の闇に。

 

引っ張る者は祝福された世界。

 

思考に淀みはなく新しい『世界』を自ら受け入れた者。

 

自分の世界を完結させる寸前で救われた者。

 

 

そして、深淵なる闇が彩り輝く。

 

大いなるものから、一つから祝福を受けた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ここは…」

 

見覚えがある。だが、頭が回らない。

 

 

「まさか…本当にできるとは」

 

どこかで見た大きなトカゲが驚いている。

 

 

「トカゲ…ええと、つあー?」

 

そうだ!この目の前の竜の名はツアー。わが友だ!

 

 

「蜥蜴とは酷いのではないか?スルメさん」

 

おお、このお方は!

 

 

「お久しぶりです!我が盟主『魔王』モモンガ様!」

 

朦朧とした意識なんて知るか!早く頭を回転させろ。ハリーハリー!

 

 

精神が鎮静化される。

 

 

おかしい。

 

確かワールドチャンピオン共を煽りまくって、

 

何人か罠で嵌め殺したら、復活されて殺されたはず。

 

 

「蜥蜴って…蜥蜴って…」

 

ツアーは傷ついているようだが、何そのうち回復する。

 

我が友のことは良く…

 

 

気づいた。

 

 

不味い、流石に数百年ぶりにトカゲはない。

 

 

「ツアー…何て不憫な…」

 

我が盟主は竜に同情する。

 

 

「すまないモモンガ。君のことを変態共と同じと誤解していた私を許してくれ」

 

何て無礼な蜥蜴なんだろう。

 

仲間達は変態じゃないし、最低でも変態という名の紳士だ。

 

 

「いいや、私がもっとこう…すまない既に手の施しようがない変態だったんだ」

 

そんな!

 

 

「な、仲間達は紳士的ですよ。まとめ役である我が保証します!」

 

フォローすべきだ。仲間達を変態だなんて流石の盟主といえども。

 

 

「「はぁ…」」

 

二人とも深い、深いため息をついた。

 



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閑話 神の再臨その直後

法国は呆然とする。一人は歓喜するその狂信故に。


神官長会議には、今回特別に漆黒聖典も集められていた。

 

今回の議題は漆黒聖典の裏切り者についてだからだ。

 

 

「漆黒聖典元第九席次クレマンティーヌが捕縛されたぁ!?」

 

信じられないとクレマンティーヌの兄、クアイエッセ・ハゼイア・クインティアが叫ぶ。

 

無理もない。

 

敬虔な『死の神』スルシャーナの信徒であり、

 

漆黒聖典第五席次『一人師団』である彼は妹の凶行を止めるべく、暇さえあれば情報を集めていた。

 

それはこの会議に参加しているもの全てが知っている。

 

 

「失礼いたしました!」

 

第一次席は今回、漆黒聖典に関することなので特別に集められたと知っている。

 

故に全身全霊を込めて謝罪する。

 

 

「以後、気をつけるように」

 

最高神官長はそれだけ言うと報告を続けるよう促す。

 

 

「王国の都市エ・ランテルにて、

 

冒険者の戦士モモンとマジックキャスターのナーベという二人組が、

 

ズーラノーンの12高弟の1人、カジット・デイル・バダンテールと共に捕縛したそうです」

 

温厚そうな、しかし苛烈に数多の異種族を殺してきた老聖戦士、風の神官長ドミニク・イーレ・パルトゥーシュは事実を淡々と告げる。

 

 

「誰だ?」「聞いたことがない」「知らんな」

 

最高神官長含む神官長達が互いに確認する。

 

 

「プレートは銅、入ったばかりの新人だそうです」

 

その反応を一通り聞いた後、風の神官長ドミニクは続ける。

 

 

「ありえん。偽名の可能性は?」

 

この場にいる最高齢である水の神官長ジネディーヌ・デラン・グェルフィが疑問を述べる。

 

 

「ありません。さらに言えば、その二人が襲う予定だった護衛を守りながら捕縛したそうです」

 

風の神官長ドミニクは淡々と続ける。六色聖典のまとめ役だけあって感情が読み取れない。

 

 

「…百年の波か?」

 

最高神官長はもうそろそろ『あの頃』だと知っている。

 

だから疑問の声を出す。

 

 

「いや、ぷれいやーの子孫という線もあります」

 

最も若い40代の土の神官長レイモン・ザーク・ローランサンは言う。

 

元漆黒聖典として十五年以上働いて来た彼はそういう強者がいることも知っていた。

 

 

「神の血かしら?」

 

唯一の五十台の女性、慈母を思わせる火の神官長ベレニス・ナグア・サンティニが疑問を述べる。

 

沈黙が会議の場を支配する。最もこれは思考の沈黙だ。すぐに戻る。

 

 

 

はずだった。

 

「うぁぁぁああああああ!」

 

漆黒聖典第十一席次『占星千里』が突如叫ぶ。

 

 

 

「神聖な会議の場で静かにしろ!」

 

土の神官長レイモンが騒がしいと遮る。元漆黒聖典ということもあり醜態に怒ったのだろう。

 

 

「いや、待て…どうした!何があった?」

 

風の神官長ドミニクは知っている。

 

 

漆黒聖典第十一席次『占星千里』彼女のタレントを。

 

 

『占星千里』はタレントで予言。鍛えた能力で様々な探知・感知ができる特殊な人材だ。モンスター等の教養も深い。

 

破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の予言のせいで現在、信用を落としているがそれでも彼女の能力は価値がある。

 

 

「か、神が…『死の神』スルシャーナ様が復活されました!!」

 

信じられないという顔でだが、『占星千里』はそれが真実だと告げていた。

 

 

誰も信じたいが信じられない。そんな中で一人だけ心を震わせた男がいた。

 

「おお…」

 

クレマンティーヌの兄、クアイエッセだ。彼の神スルシャーナへの信仰はもはや狂信を超える狂信者として有名だった。

 

 

「大罪を犯せし者たちによって放逐されたなど偽りの伝承だったのですね!」

 

故に彼は歓喜する。全身全霊で。

 

 

 

会議に出席していた第一次席はこれらのやりとりをただ呆然と失態の謝罪もできずに眺めていることしかできなかった。

 



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第二十一話 漆黒の英雄vs魔王①

漆黒の英雄は狂喜する。あの戦いをもう一度と。


中火月(八月)初旬

 

 

冒険者組合の組合長の部屋において、本来ここにいるはずがないエ・ランテル都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアが来ていた。

 

 

冒険者組合長プルトン・アインザックと魔術師組合長テオ・ラケシルの三人が集まっていた。

 

 

今日ここに集まったのは、もう間もなく組合から呼ばれて部屋へ来る予定の冒険者チーム『漆黒』について話し合うためだ。

 

 

新しくアダマンタイト級冒険者になった『漆黒』。

 

これだけでも人類に関わる大きな問題で話し合われるのも当然かもしれない。

 

だが、この二人はただのアダマンタイト級冒険者ではない。

 

圧倒的。エ・ランテルにおいては、世界最強と言われても納得するほどの傑物だからだ。

 

 

 

まず、冒険者組合に所属してわずか四日目で秘密結社ズーラーノーンの12高弟の二人を捕縛した。

 

それも全てのマジックアイテムを使用できるタレント持ち、この都市随一の薬師の孫『ンフィーレア・バレアレ』を護衛しながらだ。

 

銀級冒険者チーム『漆黒の剣』の素早い報告もあり、他のズーラーノーン所属の部下達を捕らえることに成功。

 

結果、恐ろしい冒涜的な計画の全容がわかった。

 

スレイン法国から盗み出したという『叡者の額冠(えいじゃのがっかん)』を用いてンフィーレア少年を文字通り道具として使う。

 

第7位階魔法『不死の軍勢(アンデス・アーミー)』で千を超えるアンデッドの軍勢を召喚しエ・ランテルを死の都市に変える。

 

そんな、恐ろしい魔法儀式を行う予定だったことが判明した。

 

 

『叡者の額冠』の他に『死の宝珠』というアイテムもあったらしいが、消息不明だ。

 

 

しかし、この事件でエ・ランテルを救った大英雄『漆黒』だが、発生を未然に防いでしまったせいで正当な評価を与えられなかった。

 

 

 

白金(プラチナ)のプレートしか与えられなかったのは今でも皆後悔している。

 

 

 

次に『死を撒く剣団』の討伐。総員70人弱の傭兵団さらにブレイン・アングラウスまでいた。

 

王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと互角に戦ったブレイン・アングラウスが、だ。

 

これは傭兵団の偵察を依頼された冒険者が文字通り死と引き換えに齎した情報だった。

 

漆黒の戦士モモンが鉄級冒険者ブリタに与えたという高位の回復効果の赤いポーションがなければ、緊急時撤退予定の野伏(レンジャー)が報告した全滅しかわからなかった。

 

緊急時撤退予定の野伏(レンジャー)が報告した全滅しかわからなかった。

 

 

致命傷を負ったブリタ嬢が瀕死の状況で、仲間の死体の中で何とか飲み込んだというそのポーションがなければ。

 

 

戦士モモンはブリタ嬢の話を聞き激怒。『死を撒く剣団』を、ナーベ嬢を供とし襲撃した。

 

結果、傭兵団は壊滅、傭兵団のリーダーとブレイン・アングラウスを捕獲してきた。

 

凄まじい戦果で、オリハルコン贈呈も考えられた。

 

しかし、独断専行であったこと。

 

ミスリル級冒険者チーム『クラルグラ』のリーダーであるイグヴァルジの猛反発もあり、処罰しない代わりに昇進もなしとなった。

 

 

戦士モモンは、

 

「クラルグラのリーダーであるイグヴァルジ殿の言う通り。寧ろ処罰覚悟で突貫してしまったのに寛大な処置に感謝する」

 

という人格面でも優れた面を示した。

 

イグヴァルジの立場が悪くなるとわざわざ戦士モモンから歩み寄る程だった。

 

イグヴァルジも自らを恥じ、それ以降戦士モモンを崇拝に近い尊敬を抱くようになったという。

 

 

 

他にも護衛任務中に遭遇したギガントバジリスクの討伐、カッツェ平野から流れ込んできたアンデッド師団を滅ぼした。

 

 

森の賢王(現名ハムスケ)を従え、森の賢王に匹敵する東の巨人の討伐する等偉業を成し遂げた。

 

 

冒険者プレートもその都度上がっていった。ミスリル級冒険者『虹』と『クラルグラ』、『天狼』を追い越し、オリハルコンになったが誰も嫉妬しなかった。

 

 

寧ろ、アダマンタイトにしろと『虹』のモックナックと『クラルグラ』イグヴァルジが連名で組合に文句を言ってくるくらいだった。

 

 

その後も、北上してきたゴブリン部族連合の殲滅やトブの大森林での超希少薬草採取。

 

ついに冒険者の最高峰アダマンタイト級冒険者になった。

 

 

 

 

 

しかし、『漆黒』はそのことを喜ばず、心ここにあらずという感じなのだ。

 

いや、正確には喜んだ。

 

 

 

法国の『死の神』スルシャーナの復活及び一時鎖国宣言を聞くまでは。

 

 

 

「モモン君は法国の人間かスルシャーナ信仰者なのだろうか」

 

都市長パナソレイはいつもの抜けた男を演じず、真剣な面持ちで言う。

 

全身を漆黒で纏い、『漆黒』という呼び名で通る彼らならありうると思ったからだ。

 

 

しかし、冒険者組合長アインザックがそれを否定する。

 

「彼らは、自分達は南方から来たと言ってました。

 

 実際の容姿も南方出身者特有のものです」

 

 

「では、何故だ?神の復活を聞いてからおかしくなったのは確かなんだろう?」

 

魔術師組合長テオ・ラケシルは確認する。

 

あらゆる証言が、彼らがおかしくなったのはその報告を聞いてからだと言っている。

 

 

沈黙が場を支配する。

 

 

その折り、

 

「アダマンタイト級冒険者『漆黒』がお見えになりました」

 

冒険者組合職員から来訪の知らせが届く。

 

 

 

この際、直接聞いてみよう。今回集まった三人はその予定だった。

 

 

 

「…すみません。どうしても、確証いくまで答えられません」

 

戦士モモンがそう言い謝る。魔術師のナーベは沈黙する。

 

 

偉大な英雄が周りに常にそう言っていたのは知っている。

 

 

だが、もはや彼らは人類の宝。何かあったら人類の大きな損失だ。

 

 

だから、彼らの気に障られても尋ねよう。そう覚悟したときだった。

 

「ほ、報告が重大な報告が!」

 

これ以上ない焦りの声が部屋の中で響き渡る。

 

 

「どうした!何事だ!」

 

アインザックは事前に、

 

余程の緊急事態でなければ絶対部屋に近づくことすら許していなかった。

 

 

『漆黒』を招く以外で報告がある。

 

 

それは非常事態だ。

 

この都市を代表する三人はそのことをわかっているので話を黙って促す。

 

 

「か、カッツェ平原に巨大な山脈が出現!

 

このエ・ランテルからですら観測できるほどの山脈がです!」

 

 

異常事態だ。

 

 

どうするか対応を考えようとした時、

 

 

「…くくく、あはは!ハハハハハハ!!」

 

 

戦士モモンが笑いだしたのだ。

 

 

 

こんな俗物的な笑いを上げるモモンを誰も見たことがない。

 

 

 

「…申し訳ありません。都市長殿、冒険者組合長殿、魔術師組合長殿」

 

戦士モモンが一瞬の沈黙の後、全身全霊で謝る。

 

 

だが、それどころではない。

 

「も、モモン君。ひょっとしてこの件について心当たりが?」

 

代表してアインザックがモモンに尋ねる。異様な反応。俗物的な笑い声。

 

知っているに違いない。

 

 

「ええ、ついに、ついについに確信しました!」

 

大振りなまるで役者のごとく興奮した面持ちのモモン。

 

誰もが唖然とし、反応できない。

 

だが、モモンは話すのをやめない。

 

 

「数百年前の『神』の復活など、そのような真似はあの『魔王』しかありえない。

 

 さらにいきなり山脈の出現?あいつしか絶対ありえない!

 

 絶対、絶対有り得ない!ナーベ、いやナーベラル・ガンマ!」

 

モモンは全力で肯定する。知っていると。

 

 

だが、次にナーベ嬢が偽名らしい問題発言よりも、

 

 

さらに凄まじいことを言い出した。

 

「第十位階魔法の使用を許可する。

 

 いくぞ!三度目の『魔王』との闘いへ!!」

 

ナーベ嬢に隠し玉があることは知っていた。

 

 

だが、神の魔法の存在をぶちまけた。

 

 



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第二十二話 漆黒の英雄vs魔王②

時と世界を超えた邂逅。誰もが沈黙する中、真実は唐突に引きずりだされる。


「時と世界を超えた邂逅というわけか…モモン!!」

 

『魔王』が叫ぶ。

 

見た目は『エルダーリッチ』のようだが、全く違う。

 

あれは『神』というべき存在だ。

 

『覇者』のオーラが放たれる。

 

数百メートルは離れている自分達ですら跪きかけない。

 

 

「ありえない邂逅に『神』に感謝すべきかな?

 

神を超えた超越者(オーバーロード)!『魔王』アインズ・ウール・ゴウン!!」

 

俺たちが憧れた『英雄』はいつものように二本の漆黒のグレートソードを両手に持ち、言い放つ。

 

 

 

そのしばらく離れたところで、もう一人の『英雄』が戦う。『怪物』と。

 

 

 

「ナーベラル・ガンマと言ったかしら…不快なのよ。ええ、とても不快」

 

紫色の全身鎧の女騎士は静かにしかし、不快感を隠さない。

 

圧倒的強者。『怪物』のオーラ。

 

格が違い過ぎて何も感じられない。

 

ただ、体の底から凍り付くような声が『格』の違いを教えてくれる。

 

 

「…御心のままに、御身のために。そのためには全て捧げましょう!」

 

その圧力を、マジックキャスターであるナーベ嬢が、

 

否、ナーベラル・ガンマ嬢の感じるプレッシャーはいかほどか。

 

だが、俺たちは知っている。

 

彼女が俺たちを遥かに超越する戦士であり、神の魔法を使う存在だということを

 

 

俺、ミスリル冒険者チーム『クラルグラ』のイグヴァルジと『虹』のモックナックは死ぬ覚悟で戦いを見守る。

 

自分から参加した神官、森神官、戦士、野伏達も同様だ。皆一人でも生き残れば良いと思っている。

 

 

あの『魔王』の配下が俺たちを取り囲むように、魔法で防御をしていると知っていても、だ。

 

 

子供のころ憧れた。しかし、遠い『英雄』の姿を俺は…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「まず、はっきり言いましょう。私、いや、私達ではかの『王』に絶対勝てません」

 

衝撃的なことを言う漆黒の英雄。

 

信じられずに皆、呆然とする。

 

 

だが、冒険者組合長の私、いや俺は言う。

 

「では、何故挑むというのか?モモン君、君は人類の宝だ」

 

人類の宝というのは本当だ。

 

だが、無謀を承知でこの街の恩人が死地に向かうことを承知できる者はいるだろうか。

 

 

「そ、そうだモモン君やめるんだ!」

 

都市長も同様の気持ちなのだろう。

 

演技力の塊のようなお方が、焦りの気持ちが、露骨に出ている。

 

 

「な、ナーベ嬢?否、ナーベラル・ガンマ嬢。第十位階というのは…」

 

我が友であるはずのラケシルは壊れた。無視する。

 

 

「私はかつて彼の『王』に二度負けています。

 

しかし、生かして帰されました。

 

その際、約束したのです。いつかまた戦おうと」

 

わからない。これが『英雄』の思考とでも言うのか。

 

彼の『王』とは何者なのか。

 

疑問を感じ取ったのだろう。『英雄』は言う。

 

 

 

かつてこの世全ての財を手にしたという『魔王』の話を。

 

私達も知る『御伽噺』を。存在したという神々の話を。

 

 

そして、『他の世界』の存在を。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「「では、いくぞ!」」

 

『魔王』と『英雄』は金色の剣と漆黒の剣を振るう、ぶつかる、響き渡る。

 

いつまでも続くと思われたそれは突如、中断された。

 

 

「はぁ!」

 

後ろに飛ぶ『魔王』。一瞬意味がわからない。

 

 

だが、すぐわかる。

 

「あれは…わからない!だが、ありえない。なんだ!神聖な炎の気配は!」

 

神官が壊れたように叫ぶ。

 

どう見てもアンデッドなら、使えるはずがない魔法ということはわかるからだ。

 

 

「神炎(ウリエル)!」

 

詠唱を破棄したそれは神々しさを感じさせ、膨大な炎は、漆黒の英雄を包み込もうとする。

 

 

「ぬん!」

 

『英雄』は山の一部をひっくり返して壁を作り、炎を防ぐ。

 

 

だが、その好機を『魔王』は許さない。

 

 

「な、なんだ!?あれは、詳細は、わからないが森神官の信仰系だぞ!」

 

魔法の気配を察した森神官は叫ぶ。

 

神官が叫んでも理解できなかったことが自身に関わる魔法でようやく理解できたのだろう。

 

 

「大溶岩流(ストリーム・オブ・ラヴァ)!」

 

溶岩が壁を溶解させて『英雄』を飲み込む。そうに違いない。

 

だが、本物の御伽噺の『英雄』は不可能を可能にする。

 

 

「ふっ!」

 

全力で壁を吹き飛ばし溶岩ごと一時足止めし、勢いに任せて横へ飛ぶ。

 

 

「あまいわ!」

 

『魔王』はそれを予測していたように金色の剣で横なぎに切りかかる。

 

 

「ぬん!」

 

だが、剣士としては『英雄』が上、たたら踏みになりながらも防ぎ切り、そして

 

 

「四方八方!」

 

聞いたこともない技が、連続の斬撃が繰り出される。

 

 

「ちぃ!核爆発(ニュークリアブラスト)」

 

斬撃ごと全てを吹き飛ばす。凄まじい白き閃光、そして爆発。

 

だが、それは『魔王』自身も吹き飛ばす。

 

 

「ウォーミングアップは痛みわけかな?」

 

『魔王』が信じられないことを言い出す。

 

あれで二人とも本気でないというのか。

 

 

「…割と本気で決めるつもりだったのにな」

 

『英雄』は苦笑する。だが、まだ余力がありそうなことに俺達は驚く。

 

 

「知っているが、前のお前が使える技ではなかったな。成長したようで何より」

 

『魔王』は本気で『英雄』の成長を喜んでいるように褒めたたえる。

 

 

「奥の手の一つだったのだがな。魔法戦に持ち込まれれば負ける。

 

だから短期で勝ちたかった」

 

『英雄』はちっとも喜ばない。褒められたことより悔しさが滲み出ている。

 

 

だが、

 

「魔法三重化・連鎖する龍雷(トリプレットマジック・チェイン・ドラゴン・ライトニング)!」

 

三匹の龍を彷彿とさせる白い雷撃が、『怪物』の全身を龍が巻きつくように覆い焼き尽くそうと迫る。

 

 

「ウォールズ・オブ・ジェリコ!」

 

完全に三匹の白い龍の雷撃が消え去る。

 

 

戦士モモンとの闘いにも引けを取らない攻防が、『魔王』と『英雄』を入れ替えたような戦いが繰り広げられている。

 

 

「全体防御とは…戦いにくい」

 

ナーベラル嬢は憎々しい言葉を発しながらどことなく敬意ある含みを言葉に感じる。

 

 

「くぅぅぅ!とっとと斬られなさい!」

 

『怪物』はそれが気に入らないのか、凄まじい勢いで巨大な斧頭を振り下ろす。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

永遠に続くと思われた戦い。

 

結論から言う。認めたくないが、俺達の『英雄』が負けた。

 

最初の言葉通り。

 

 

「止めを今度こそ刺すか?」

 

漆黒の鎧はズタズタで体中、血だらけだ。

 

 

「よっしゃああああ!」

 

『怪物』は雰囲気を無視して勝利の雄たけびを上げる。

 

見れば、ナーベラル嬢はもはや立つ気力すらないらしく膝をついている。

 

四人全てがギリギリの攻防を繰り広げていた。

 

だから、『敵』ながらわからなくもない。

 

 

だが、それが、

 

「騒々しい静かにせよ!!」

 

『魔王』の逆鱗に触れたらしい。

 

 

「申し訳ございません!アインズ様!」

 

全身全霊で『怪物』は謝罪する。

 

自害しそうな勢いを感じる。

 

 

「で、何だったか?」

 

戦士モモンは呆れたように『魔王』に問いかける。

 

 

「…山を見よ」

 

そういう山々は、戦う前の立派なものから更地に近くなっている。

 

それに怒りを感じたのだろう。

 

 

だが、次の瞬間俺達は絶句する。

 

 

「山が元に!」「ありえない魔法か!?」「そんな馬鹿な!」

 

ついて来た仲間達は叫ぶ。異常な光景に。

 

 

「これぞ我が力。つまりまだお前は弱い」

 

『魔王』の言葉に俺達は絶望する。

 

 

だが、『英雄』は違った。

 

「まだだ、まだ強くなれる…糞が!」

 

悔しんでいる。信じられない。ありえない。

 

だが、だからこそ俺達の『英雄』なのだと誇りに思う。

 

 

「だからこそだ。モモン。我が配下となれ」

 

そう言って『魔王』は指を鳴らす。

 

 

するとそこに現れたのは、

 

凍えるような蟲の戦士、鮮血の戦乙女、奈落を思わせる炎のスライム等々。

 

凄まじい。神話の戦士、怪物達。

 

全てが超級の強さ、それこそ『英雄』モモンを感じさせるような。

 

 

「我が配下には貴様と並ぶ数多くの戦士がいる」

 

『魔王』は絶望的な言葉を告げる。

 

 

「だから、『神』を復活させた今、お前のような『英雄』を望む」

 

仰々しい仕草で手を差し伸べる。

 

 

「何のために?」

 

当たり前の質問を戦士モモンは問いかける。

 

不要ではないかと。

 

 

「決まっている世界平和だ」

 

『魔王』は当たり前のように似合わぬことを告げる。

 

 

「一体何者なんだ…?」

 

俺はわけのわからない光景に思わずつぶやく。

 

小さな呟きは意外と大きいものだったらしい。

 

 

『魔王』は告げる。

 

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン。

 

 かつてこの世全ての財を手に入れ、九つの世界を救おうとして夢破れた『魔王』である!」

 

 

『英雄』から話を聞いていた。

 

 

だが、俺達が聞いていた昔話、『御伽噺』の誰もが知っている『魔王』が現実にいた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『しばらく前』

 

 

ツアーの住んでいる洞窟で、皆落ち着いてから三人で話合うことになっていた。

 

法国からスルメさんが帰って来たとメッセージが届き、俺は洞窟へ向かった。

 

 

スルメさんは、かつての国や従者に諸事情を説明してきたという。

 

 

「かつて、『魔王』モモンガ様のお話は私が伝えていました」

 

大分変っていましたが、と悲しそうに報告する。

 

『死神』として誰かが気づくように残していたが、人類に取って都合の良い『御伽噺』になっていたという。

 

 

 

まだ転移してから一月程しか経ってない。

 

流石に『御伽噺』まで調べていない。陽光聖典から『御伽噺』を聞く発想がなかった。

 

神話というより子供達の寝物語というそれ。

 

あっても、わからない。少なくともナザリックNPC達では。

 

 

 

俺はひらめく。

 

「なあ、これ使えないか?『九つの世界を救おうとした魔王の話』」

 

 

「というと…どういうことだいモモンガ?」

 

ツアーは当然の疑問を抱く。

 

 

だから答える。

 

「これを利用してユグドラシルから脅威が来ることを伝えれば良い。

 

 もし、八欲王の時に慢心せずに、知っていれば勝てたんだろう?

 

 今後百年間この世界が対策すれば、俺がいる。

 

 絶対、二度とスルメさんのような悲劇は起きない」

 

ついでにナザリックが善人ですよアピールになる。

 

 

「賛成だ。…しかし、私はちょっと難しいかな、『議員』だし」

 

ツアーは自分の立場との葛藤をしている。

 

無理もなく無意味な恐怖を民衆は感じることになる。

 

だが、それでも話をこれまでの歴史全てを聞いた俺は、早いうちに公表すべきだと思う。

 

 

「フハハハハ!…ハハハ!」

 

スルメさんは笑いだす。精神鎮静化されているはずなのに何回も。

 

 

「流石は我が盟主!我らの魔王様!ええ、全力でやるべきでしょう!」

 

全力で肯定された。いいのか『神』が恐怖を与え…あっ『死神』か。

 

 

「この蜥蜴は相変わらずの臆病者よ!」

 

全力でツアーを煽りだす。ノリノリでスキップして周りを取り囲む。

 

無詠唱化で幻術まで使って何人ものスルメさんがツアーを取り囲む。

 

うわぁ…

 

 

「…うん。わかったよ。覚悟を決めた」

 

何て心の広い竜なんだ。俺がやられたら魔法ぶち込みかねない。

 

 

「では、二人して全力で煽ってよ。私は裏から広報活動するから」

 

ニヤリと笑って全部俺達に押し付ける竜。

 

 

あの糞『エレア』をふと思い出した。

 

 



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最終回 俺は超越者(オーバーロード)『だった』件

『世界』から祝福された『魔王』は福音を齎す。永遠に


竜王国に攻め込むビーストマン達を、

 

俺の超越者(オーバーロード)の能力で六大神…

 

あの『エレア』の残したワールドアイテム『乞食の肉』を吸収し、彼らに分け与えることで撤収させることに成功した。

 

 

世界を救おうとした慈悲深き『魔王』。全てが平等だとばら撒いた『竜』。恐怖を与える『死神』。

 

 

この組み合わせでこの国は、平和に向かっていた。

 

 

ビーストマン達に占領されていた平原を貸し切り、狭くて広い洞窟からツアーを出した。

 

八欲王のギルド武器は現在ナザリックNPC包囲網により、完全に安全だとツアーに理解してもらえた。

 

 

「流石は『魔王』…我が復活してからこれまで完璧。見事なお手並みでございました!」

 

スルメさんはそう言って、自ら望んだワールドアイテム『乞食の肉』を食す。

 

…本当に食べてしまったのか?

 

 

「はぁ…スルメさん。今の俺は人化した『魔王擬き』ですよ。

 

 幻術と完全催眠で外目わからない様にしているけど。

 

 ワールドバフ持ちなんだから見破れているでしょうに…」

 

そう。この三人には俺の人化維持方針を伝えてある。

 

俺は本来、『魔王』ではなく一般人。

 

パンドラズ・アクターとナーベラル以外で気軽に話せる存在に苦笑する。

 

 

「我はもう『死神』ですが、我が尊敬する盟主『魔王』様はこの世でただ一人。

 

 どのような存在でも変わりありません!」

 

そうオーバーリアクションを取るスルメさん。

 

彼はもう人化を望んではいなかった。

 

俺と違い仲間達と共に過ごした彼は、変質しても偏執しなかったという。

 

正直羨ましい気持ちもある。だが、俺は俺達の作った息子に救われた。

 

…今思うと、スルメさんはパンドラズ・アクターに少し似ている。

 

会わせないようにしよう。いくら黒歴史を受け入れていても辛い。

 

 

「ねぇ、モモンガ?」

 

ツアーが尋ねる。スルメさんがこの『世界』で出来た誇るべき友人だという。

 

今では、というか最初から変態共の愚痴で仲良くなった。

 

…ある意味スルメさんのお陰だが。

 

 

「何だ、蜥蜴よ!我が賛辞を邪魔する気か!」

 

コイツ、本当に友達で良いの?目で合図する。

 

目を逸らされる。うん。

 

 

「児戯は辞めよ」

 

魔王ロールでスルメさんを止める。

 

 

「御意」

 

止まった。

 

 

「「はぁ…」」

 

これは毎回続くのだろう。嬉しい反面面倒臭い。

 

 

「…これから君はこの『世界』をどうするつもりなんだい?」

 

ツアーは尋ねる。

 

多分この『世界』の守護者として聞いているのだろう。

 

 

だから俺は正直に話す。

 

「この世界の全てを探そう。きっと素晴らしい『世界』が広がっている。

 

 どこまでもどこまでも永遠に」

 

答えになってない。

 

 

だが、俺達は笑い合う。

 

これから先どれだけの困難が、未知の脅威が沢山あるかもしれない。

 

 

だが、この『世界』はどこまでも美しい。いつまでもいつまでも飽きることはないだろう。

 

 

仲間達との思い出をも飲み込む『世界』。

 

例え、どんな脅威からもきっと守ってみせる。

 

最初の覚悟と同じ、だが含まれる感情は別の覚悟を『世界』に誓った。

 




これまで読んで下さりありがとうございました。
これ以外に
王国の貴族邸消失事件や(未遂に変更)
竜王国の女王を哀れんだり
プレイヤーの痕跡探したり
思わぬ再開が待っていたり
ンフィーレア少年が某性癖を覚醒させたり
しますが、それは後のお話。

追記
第二部開始しました。

第一部最終回は第三部の未来のお話です。


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裏話 冒険者モモンの裏事情(カルネ村護衛時)①

カルネ村護衛依頼の時の裏話


カルネ村までのンフィーレア護衛依頼は上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)に一時任せた。

 

最悪彼らに全部丸投げしても良かったのだが、

 

懸念事項を潰したら仕事はきっちりこなすつもりだった。

 

一度引き受けた仕事を放り投げることに今更ながら罪悪感が強かった。

 

 

 

パンドラズ・アクターとナーベラルのお陰で正気に戻った俺は一秒でも早く、

 

白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)を脅…協力して貰うために動いた。

 

 

 

あまりしたくない手だったが、初手で財の大盤振る舞いを決意した。

 

 

まず、アルベド達への詳細な説明をパンドラズ・アクターに任せた。

 

人間に戻ったばかりの俺が言うと余計な混乱を招きかねないためだ。

 

 

次に、『流れ星の指輪(シューティングスター)』で『白金の竜王がいる洞窟の位置特定』を願った。

 

厳密に『白金の竜王の位置』と願うとワイルドマジックで勘付かれる可能性を考えたからだ。

 

結果、無事居場所が特定できた。

 

 

最後に、緊急時に備えてNPCを待機、撤退用の熱素石を用意した。

 

『熱素石』。これが一番苦渋の決断だった。

 

まだ、この世界で鉱山の希少金属から熱素石を作れるという確証がなかったからだ。

 

 

しかし、財の大盤振る舞いの結果、

 

これら依頼を引き受けてまだ一日目の段階で『白金の竜王』との交渉することができた。

 

 

…スルメさん達がまさか六大神だとは思わなかったが。

 

 

それを聞いてすぐ撤退用に持ってきていた熱素石でスルメさんを『確実』な方法で復活させた。

 

後悔して亡くなったならきっと生き返ってくれると信じた。

 

 

復活を拒否したらどうしようか、

 

できなかったらどうしようか本気でハラハラしたが、成功。

 

 

久しぶりの『友』との再会に半日を使った。

 

 

その途中、ユリ・アルファからメッセージが届いた。

 

「エンリ・エモットがンフィーレア・バレアレを引き込むことに成功しました。

 

祖母を説得するように求められましたが『モモン』様が応じてよろしいでしょうか?」

 

とのことだったので、俺は深く考えず承知してしまった。

 

 

よくよく考えれば、今忙しい俺にその程度でメッセージを寄越すとか、

 

ユリならば普通はしないことに気づけなかった。

 

 

久しぶりの友との会話を楽しみたかったのだから、仕方がない。

 

 

だが、変態と化したンフィーレアの頼みは引き受けなければ良かった。後悔はもう遅い。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

スルメさんが法国へ戻る。

 

法国が、スルメさんが落ち着いたら皆にメッセージを送り、またツアーのところに集まる。

 

そういうことになった。

 

 

ナザリックに戻った俺は、まず昨日と今日の独断専行を詫びた。

 

 

白金の竜王との取引。そして、スルメさんの復活と再会を報告した。

 

 

スルメさんはかつて従属ギルドメンバーだったということもあり、感涙にむせび泣く者もいた。

 

 

ナザリック的には、法国はぶっ潰したいがスルメさんがいるのなら仕方がないという反応だった。

 

 

正直危なかった。急いで正解だった。

 

俺自身もスルメさんいなければ仲良くできるか疑問だったし。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

情報を整理した俺は、ナザリックを確実に守る戦略を一部修正した。

 

 

 

簡単にいうと、第一目標を『世界』の真実の公表にした。

 

 

 

ナザリックもスルメさんも新しい『友』ツアーも皆守れる。

 

真実を公表したら、『世界』がナザリックの味方をせざるを得ない。

 

 

俺が、俺たちが転移前に改造しまくったナザリック地下大墳墓。

 

それは圧倒的軍事力、経済力、組織力を持った存在だ。

 

 

これらを味方にできるのに、敵にする愚か者など上に君臨する資格はない。

 

確実に、『世界』がナザリックに依存せざるを得ない。

 

 

完璧な『防衛策』だ。

 

 

ナザリックが世界の警察になってしまうが、

 

そこから出た『悪』はナザリックが好き勝手できる。

 

 

俺もNPC達も『世界』も喜ぶ。いずれ自給自足で現地にやってもらう。

 

 

その時間を稼ぐだけの財力は既にある。

 

この『世界』最強のツアーの情報を聞いた。

 

ナザリックが防衛に徹すれば千年は持つと確信した。

 

 

 

公表する前提でこれからの行動を考えた際、漆黒の『英雄』モモン。

 

これは使えると思った。

 

『英雄』の口から『世界』の真実を公表することができれば、

 

『魔王』やら『死神』、『竜』が伝えるより人々に受け入れられるのではないかと思った。

 

超常的な存在からでなく、より身近な、尊敬される『英雄』によるPR。

 

 

つまりは『営業』。

 

 

野球やサッカー等の話題から入る。相手に身近に感じて貰うための『営業』だ。

 

これは、『鈴木悟』のサラリーマン経験から導き出された結論だ。

 

 

 

『英雄』漆黒の戦士モモンを続けることが確定した。

 

ただ、一手足りないと思った。

 

後一手何かあれば確実に『世界』を変革できる。

 

 

だが、俺では思いつかなかった。そこが俺の限界かもしれない。

 

 

ただ、一手さえあれば確実に『世界』と『ナザリック』を守れる。

 

悪い手ではないこと。気分転換になるのもあって『英雄』を続けることにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ここまでが、依頼して三日目。森で薬草の採取を終えてカルネ村に泊まった。

 

四日目にエ・ランテルに着くという話なので、

 

上位二重の影に記憶操作(コントロール・アムネジア)を使用し、

 

記憶を読み取ることでこれまでの情報を共有し、俺と入れ替えする。

 

 

あとは、エ・ランテルで痴女と不愉快な仲間達を縛るだけだった。

 

 

『原作』なら。

 

…いや、結果的には変わらないが。俺の精神安定な意味でキツイ。

 

 

この責任者は誰か。

 

…俺だった。

 

 



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裏話 冒険者モモンの裏事情(カルネ村護衛時)②

上位二重の影の種族的、致命的な弱点。
自分がそれに救われたから気づかない。手遅れ。


先に全力で言い訳させて貰いたい。

 

俺は22世紀の人間だ。

 

腐敗した空気、寡占企業による完全に二極化された最低最悪な世界。

 

それでも、俺は22世紀の、一般的な人間だったのだ。前世含めても多分21世紀だ。

 

 

そんな俺に、中世の騎士道やら初夜権とか貴族社会がわかるわけないだろう!!

 

 

正直、変態文化としか思わない。

 

俺は全力で言い訳したい。心から叫びたい。

 

俺をわかってくれたのはパンドラズ・アクターだけだった。

 

 

守護者どころかほぼ全NPC達が、

 

「不敬だが、人間の癖に立場をわかっている」

 

とかほざくのだ。

 

…皆の息子・娘達に乱暴な言葉を使ってしまった。

 

 

だが、アルベドは激怒しつつも、

 

「将来的にサキュバス化してナザリックに向かい入れることを考慮する逸材かと存じます」

 

とか言う。お前頭良かったはずだよな?

 

デミウルゴスとセバスまで本当に珍しく一緒になって同意している。

 

シャルティアやシマバラ等は「これが寝〇られ!流石モモンガ様…」という。…何それ?

 

 

本当にパンドラズ・アクターだけがドン引きしてくれた。俺の息子だ。確信した。

 

 

しかし、知らないとはいえ、俺のせいだった。

 

責任者をぶん殴りたい。俺だったのだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺はユリの報告をほぼ素で認めてしまった。

 

 

あのとき、ンフィーレアは上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)にこう告げたという。

 

「モモンさんは、アインズ・ウール・ゴウン様なのでしょうか!?」

 

と心の底から確信していたという。

 

上位二重の影は種族設定上、相手の心を察することで行動する。

 

なので、言ってはならないと思いつつも、察してしまい一瞬黙ってしまった。

 

相手が確信しているから。

 

 

あの時の、ユリの確認はこうだった。

 

「『モモン』様が応じてよろしいでしょうか?」

 

『アインズ・ウール・ゴウン』ではなく、『モモン』で大丈夫なのか?と。

 

 

ユリの報告は、あそこでンフィーレアの記憶を消す或いは物理的に消すかという確認だったのだ。

 

 

しかし、俺はユリにこう言ってしまった。

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

言ってしまった。

 

 

そうするとンフィーレアは更に勘違いした。

 

「モモンさん。いえ、アインズ・ウール・ゴウン様は偉大な方だと伺っています!

 

 ですが、不敬かも知れませんが、僕はエンリを愛しています!」

 

何言ったエンリ!?

 

 

流石に何があったのか詳細はわからない。

 

だが、上位二重の影からすればユリを通して、俺に確認は取れた。

 

つまり察した状況で上手く対処するよう命令を受けたと勘違いした。

 

彼はこう思っていたらしい。

 

 

せめてエンリの側にいたい。

 

愛人としてエンリを連れて行くならもはや仕方がない。

 

愛することだけ許して欲しい。薬師として側に置かせてくれと。

 

 

何だよこれ!ふざけんな!変態じゃねえか!?

 

俺はこの時そう思った。

 

 

後で貴族社会について調べて察したときには、もう遅かった。

 

変態だと認識していたため、いつの間にかナザリックで黙認されてた。

 

エンリもよくわかっていなかったらしいが、気づいたら詰んでた。

 

ンフィーレアが賢いせいでこうなった。

 

いや、違う!

 

 

改めて言う。責任者誰か。俺である。

 

 



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裏話 冒険者モモンの裏事情(カルネ村護衛時)③

パンドラ「早まってはいけません!モモンガ様!!」
なお、今回は最初から不可能だった模様。


俺は引き継ぎのため、

 

ここ数日のカルネ村にて上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)の記憶を読んだ。

 

 

入れ替わった俺は苦痛だった。

 

 

正直、パンドラズ・アクターとナーベラルにぶちまけたに匹敵するくらい嫌だった。

 

さっさと終わらせて眠りたかった。

 

なので、ンフィーレアに『漆黒の剣』には秘密にして欲しいとお願いした。

 

もう、うんざりしていたから。

 

 

「わかっています…それでも願いを聞いてくれたことありがとうございます!」

 

ンフィーレアは意気込んでいた。

 

 

「そうか…わかった。では、君の祖母をすぐ説得しよう」

 

俺はもうこの変態と化したンフィーレアと関わり合いたくなかった。

 

なので、最短で仕事をすることにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

エ・ランテルに到着し、

 

バレアレ薬品店の裏手に馬車を入れた俺達と『漆黒の剣』、ンフィーレア。

 

魔法のランタンを手に扉を開き、部屋の中に入ってすぐ。

 

 

「ずぅーっと待ってたんだから…」

 

痴女が現れた。

 

 

「…第七位階魔法。普通の人じゃ行使は無理だけど、

 

 『叡者の額冠(えいじゃのがっかん)』を使えばそれも可能!

 

 さらに召喚されたアンデッドを全部支配…ブベッ!」

 

しばらく喋っていた痴女は蹴り飛ばされた。

 

ドアを吹き飛ばし壁にぶつかり失神した。

 

 

「ナーベ!後ろの男を全力で捕らえよ!」

 

後ろの男の気配を感じ取った俺はナーベラルに指示する。

 

 

「はっ!」

 

即答し、後ろに現れようとする男をぶん殴る。

 

 

「遊びす…ギギェ!」

 

不快な仲間達の頭目はぶん殴られて文字通り中を舞った。

 

その後、薬品庫を吹き飛ばす。

 

 

呆然とする『漆黒の剣』。だが、

 

「『漆黒の剣』の皆さん!

 

 こいつらの話だと、アンデッドの大量召喚と支配を企んで何かやらかすつもりです!

 

 全力で冒険者組合に行って貰えますか!?

 

 私達はこの二人を縛り上げて、店の中を調べます!」

 

 そう叫ぶ。急がないと街が危ないという。

 

 

「は、はい!すぐに!」

 

『漆黒の剣』のペテルはそういうと皆を引き連れてさる。

 

 

二人を縛り上げて内部を調べる。

 

 

気配を探す。すると、

 

「ンフィーレア!!」

 

ンフィーレアの祖母リイジー・バレアレが全力で駆けつけてきた。

 

おそらく近くにいて、先ほどの戦闘音が凄まじかったので駆けつけてきたのだろう。

 

 

ンフィーレアの無事を確認し、

 

それから縛り上げられている二人を見てリイジーはホッとする。

 

 

「申し訳ありません。このように突然だったので一部店を壊してしまいました。

 

 今、全て確認しましたが、店は安全です」

 

そう謝り、他の仲間を捕縛するために向かおうとする。

 

 

ところが、

 

「のぉ。おぬし、あのとんでもない高位の神の血のポーションの持ち主では?」

 

逃がさない。

 

絶対逃がさない詳細を聞くまで行かせはしない。

 

端的に言って、それは狂人の目だった。

 

俺は思わず、その場にとどまってしまう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

次の日、俺が渡したポーションを使い瀕死の状況から助かったというブリタ嬢の話を聞き、俺は激怒した。

 

 

これのせいで、今回、二人も『変態』と出会ってしまったと。

 

 

何とか誤魔化した。

 

 

あの傭兵団絶対許せないと。

 

 

八つ当たりでナーベラルと共に傭兵団に突撃した。

 

結果、傭兵団のリーダーとブレイン・アングラウスを捕縛。

 

囚われていた女性たちを解放し、エ・ランテルに連れ帰った。

 

遺体の一部を埋葬し、その他はナザリックのエルダーリッチの材料にした。

 

 

テンション高すぎて、殺人したが完全に我を忘れていた。

 

 

...人化が完璧でないと、改めてわかった。

 

 

そして…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

数日後、エ・ランテルを出発する馬車があった。

 

それはエ・ランテル最高の薬師だった。

 

 

 

「では、行くぞ!ンフィーレア!!」

 

全力で張り切る老人とは思えない老婆リイジー。

 

 

「モモンさん!我儘を聞いて下さり…ありがとうございます」

 

何だか複雑そうな顔するンフィーレア。

 

 

俺達、『漆黒』は、二人をカルネ村まで護衛した。

 

 

 

疲れた。もう休みたい。

 

 

 

その後、アインズ・ウール・ゴウンとしてエンリに褒美を渡しに来た。

 

『時飛ばしの腕輪』というマジックアイテムを与えた。

 

 

どんな形であれ恩は恩。

 

 

エンリは友人を誘導してナザリックに多大な利益を齎してくれた。

 

そう思って、顔を真っ赤にして断るエンリに半ば強引に渡した。

 

村長就任の祝いも兼ねていると。

 

どうにか納得してもらえた。受け取って貰えて俺はホッとした。

 

 

 

だが、エ・ランテルで次の依頼があるので帰らなければならなかった。

 

俺とナーベラルはカルネ村をすぐ出立した。

 

…今思えば、ここが最後の分岐点だった。

 




『時飛ばしの腕輪』
課金ハズレガチャのファッションアイテム。

モモンガ様が検証したら疲れが回復するらしいので、
これから村長として勉強するエンリのために渡した。

だが、このアイテムの設定は、

自分に降りかかった『時間』を吹き飛ばすこと。

つまり、寿命がなくなる疑似的な不死が得られるアイテムになった。

数年経ち年を取らないエンリに疑問を感じたNPCの報告により発覚。
モモンガ様はこの娘のことを...と一部発狂した。
そんな効果なくても手遅れだったが。


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いずれ来る『勇者』、それを望む『化け物』、気づけない『魔王』
第一話 カジータ愛の日常


転移初期の話
ハーレム志望のオーバーロード


我が名はカジータ。

 

かつていらっしゃった偉大なるギルド「糖分マシマシ」のために作られた製作特化NPCでございます。

 

我が嗜好はナザリック至高の御方『るし☆ふぁー』様がそうあれと命じてくださった。

 

名誉であります。

 

もちろんナザリック地下大墳墓及び従属ギルドへの忠誠心は変わりありません。

 

 

だが、私は『愛』を教えられた。

 

 

そう、愛しい御方モモンガ様でございます。

 

 

守護者統括アルベド様は理解してくださらないが、

 

守護者シャルティア様とは失礼かもわかりませんが盟友と自負しております。

 

いつの日か、モモンガ様のハーレムを築き、爛れた日常を送っていただきたいとシマバラと暇があれば計画を練っております。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

私の一日は、モモンガ様が『アインズ・ウール・ゴウン』様と名乗られる直前に教えられた『真名』について書かれた書物。

 

 

恋〇†無〇設定資料の一部を朗読することから始まります。

 

 

シャルティア様とはこの『聖典』について良く衝突してしまいますが、毎回最後はお互いに握手する。

 

意義のある実りの一時を送らせていただいております。

 

 

その後は、最古図書館(アッシュールバニパル)レッツゴー。

 

『賢者の呪帯』を用いてエルダーリッチ達と激論を交わします。

 

ナーベラル嬢は初期こそいましたが、残念ながら今は外れておられます。

 

姉妹の方に良く愚痴を溢されているようですが、私は知っています。

 

 

愛するモモンガ様が、ナーベラル嬢の近くを通る度に心配そうに見つめている姿を。

 

 

悔しゅうございます。

 

 

ええ、パンドラズ・アクター様と愚痴を溢しあう日々です。

 

ユグドラシルスレ研究所のエルダーリッチ達が毎回煽ってくるのには溜まりません。

 

この間、パンドラズ・アクター様が何故か。

 

本当に珍しく一瞬恐怖していらっしゃいました。

 

あれ程までに感情を表されたのは初めてかと存じます。少なくとも私の前では。

 

あのエルダーリッチ達は一体何を吹き込んだのでしょうか…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

昼休み、休息制度から休暇制度へと移行したいというモモンガ様との激しい激論が繰り広げられます。

 

私はシマバラと共に休暇制度でモモンガ様に爛れた日々を送って欲しいと願っております。

 

しかし、盟友であるシャルティア様は爛れた日々も大切だが、仕事をする方が大切とここだけ対立します。

 

 

私達が休暇制度に賛同するとモモンガ様は喜んでくださいます。

 

 

そう。望んでおられるのです。

 

シャルティア様もこちら側にいずれ引き込むべきでしょう。

 

パンドラズ・アクター様はこの辺についてノーコメントを貫いておられます。

 

 

引き込める要素がございません。

 

 

創造主の幸せのためと呟いたら、関係が壊れかねませんので絶対言ったりしませんが。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

夜、これまでの行動のレポートを作成します。

 

私は正直寝る必要のないオーバーロード何ですが、休めと言われるので最低限休みます。

 

賛同している私達が取り組まなければ、モモンガ様の理想郷。

 

爛れた日常をお送りしていただくことができないからです。

 

なので、寝る代わりに古の書物であるペロロンチーノ様垂涎の書物を読みます。

 

私は正直、アンデッドなので肉体的快楽等わかりません。

 

ですが、モモンガ様は時折それを知っているかのような振舞いをされる時がございます。

 

この古の書物を完璧に理解できたとき、その答えが見つかるはず。

 

だから、お心を理解するその時まで勉学に励む所存でございます。

 

 

おお、愛しき御方。おお、麗しき御方。願わくばその深淵に触れたく存じます。

 



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第二話 魔王vs破滅のサンドバック①

第二次ツアー・スルメ会談後の話
※今作の「破滅の竜王」は諸説を混ぜ込んだものに設定盛ってます。


破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)。

 

 

『原作』で示唆されながらそれを全く覚えていない俺は、

 

どんな未知の敵なのか俺は不謹慎ながら、内心わくわくしていた。

 

 

ツアーの話と、スルメさんが持ってきた情報が全部台無しにしたが。

 

 

竜王というよりは巨大な『魔樹』。トブの大森林内にあるという。

 

現在、封印中らしい。

 

 

スルメさん曰く「ワールドアイテムが効く糞雑魚。HPだけ無駄にある。

 

        時間かけて罠張れば、

 

        最後の戦いで指輪を使う前のLv30状態の我でもギリいける」

 

 

ツアー曰く「法国が洗脳して先兵にしようとした瞬間に、

 

      ワイルドマジックでもろとも全部消し飛ばすつもりだった」

 

 

…とんだ雑魚だ。期待外れも甚だしい。

 

 

もっともスルメさんの全力の罠はナザリックに通用する、

 

しかねないレベルなので当てにはならない。

 

それでもLv30ならLv90が限界なはずだ。

 

 

ツアーも未知数ではある。

 

最大火力のワイルドマジックは耐性を突破して森の一部を吹き飛ばす威力だと言う。

 

 

 

だが、それらを踏まえても雑魚だ。

 

超越者(オーバーロード)の俺からすれば。

 

 

 

しかし、何でこんな中途半端な奴を法国が洗脳しようとしたのかわからない。

 

 

スルメさんも『傾城傾国』をあんな奴に使うなら、

 

馬鹿なプレイヤーを裸踊りさせるのに使うと苦笑していた。

 

「君たちと一緒にしないで欲しい」とツアーは激怒した。

 

 

…色々あるが、現地視点では凄まじく強いとのことだった。

 

 

破滅の竜王がLv80台だったら、捕まえてナザリック専用サンドバックにして良いか二人に尋ねた。

 

スルメさんからは、友『エレア』の『唯一』の子孫のための玩具にしたいので偶に貸してと言われた。

 

 

勿論だと俺は快諾した。

 

 

あの子孫がどんな奴なのか気になったのもある。

 

きっと名高い『変態』に違いない。

 

ツアーからは「おい、馬鹿二人やめろ」と言われた。

 

 

俺は、渋々、本当に渋々。

 

ナザリックの秘宝、『山河社稷図』について説明せざるを得なくなった。

 

まだ知られても問題ない類のワールドアイテムだったというのもあった。

 

しかも、従属ギルドメンバーだったスルメさんに至っては効果まで詳細に知っている。

 

『破滅の竜王』を閉じ込めてサンドバックにしたり、ストレス発散したり、レベル上げに使ったり色々できる。

 

 

ボール・シリーズの知識もついでにツアーに渡した。

 

現地での検証実験の結果からアレは、

 

ナザリック以外使用不可、利用不可な産廃アイテムだと説明した。

 

それでも、ツアーは「もうこの基〇外共。本気で嫌だ」と泣きそうな声をあげた。

 

 

流石に一緒にしないで欲しいと言ったら、

 

「ごめん。言い過ぎた。流石にアレはない」

 

と謝られた。

 

 

彼らの所業が転移後もそのままならもっと酷いはずだから当然ではある。

 

 

スルメさんが途中文句言ってきてグダグダになったが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ツアーと法国(スルメさん)との会談後、俺は色々行動した。

 

 

簡単に言えば、『魔王』として帝国の魔法キチに内密で会ったり、王国で裏工作したりだ。

 

 

ただ、諸外国についての対応は、ほぼデミウルゴスに任せている。

 

 

設定的に軍略、内政、外政などの国家作用すべてに極限の才能を持つデミウルゴスは、

 

方向性さえキチンと伝えればこれ以上ない程優秀過ぎる。

 

俺いらない子だと思う。

 

 

とはいえ、『魔王』として活動する俺にも収穫はあった。

 

 

『原作』と違い、俺が王国のラナーと直接交渉していた結果、『友』になった。

 

 

『友』となった。『原作』うろ覚えな自分でも信じられないが。

 

 

以外かも知れないが、俺とラナーには共通する『モノ』があった。

 

『執着』だ。

 

俺は『ナザリック』に『執着』しておかしくなったが、

 

今ならそれを客観的に評価できる。

 

だが、ラナーは『クライム』に執着している。

 

 

 

俺が言葉で、理詰めで追い詰め本性を吐かせたラナーは、

 

 

…まるで昔の俺を見ているようだった。

 

 

俺とは全然違うが、心の『空虚』さが似ていた。『執着』も。

 

 

 

最低限の接触で済ませるはずが、

 

どうしても気になった俺はラナーと何回も会うことになった。

 

 

結果、『友』となれたのだ。

 

 

…俺の思い込みでなければ。

 

 

 

ラナーがいくら天性の才を持つとはいえ、

 

その基本は中世の、この『世界』の価値感が根本にある。

 

偶に『未来』を見通しているとしか思えないことを言うとしても、だ。

 

 

 

俺は転移前、自己流とはいえ22世紀の帝王学もどきをやってみた。

 

実情は、リーダーシップ理論と経営戦略に特化した歪なものだが。

 

ナザリックを一つの企業に見立てた思考実験。

 

だが、『未来』の知恵というべき大きなアドバンテージだ。

 

この『世界』で役立たせるために必死に学んだ。歪とはいえ。

 

 

さらにユグドラシルで磨きに磨き上げた『魔王』ロールからの『演説』と『従属』は、

 

狂信者を生み出すレベルだと今では自覚がある。

 

言い方が悪いが、スルメさんがその最たる例だ。

 

 

 

だからこそ、破滅の竜王をも知性さえあれば『言葉』でねじ伏せる自信があった。

 

最初の頃の『原作』になぞろうとした『陽光聖典』のときとは違って。

 

…実際は落胆する存在であったが。

 

 

もちろん自己流なので齟齬はあるが、ラナーと許容範囲内で対等な会話ができる。

 

と思う。多分。

 

 

正直、帝国の鮮血帝より、俺と似た『執着』を持つラナーの方が理解しやすい。

 

 

互いに交流することで学び合える貴重な友人である。

 

…もう少し早めに会っていればンフィーレアの件も

 

…いや、ダメだ考えるな。これ以上は俺が腹切って死ぬ。

 

 

俺が凡人とバレている可能性は限りなく高いが、全く問題ない。

 

彼女と俺は、究極的には目的が一致するのだから。

 

 

…ただ、『魔王』の俺を気軽に呼び過ぎていると思う。

 

そんな頻繁にお茶会の誘いはないが、俺だって忙しい。

 

何故そこまで呼ぶか。思い切ってこの間、尋ねてみた。

 

 

そしたらあの女、

 

「そういうところは、クライム以下なんですね!」

 

と散々嘲笑しやがった。

 

 

 

俺、『魔王』何だけど舐められてないか?

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

諸事情を話した上でデミウルゴスとパンドラズ・アクターに聞いてみた。

 

ラナーに舐められたらナザリックに害はないかと。

 

 

 

アルベドは休日だった。

 

何故か仲良くなったエンリに会いにカルネ村に行っているという。

 

正直、何か吹き込まれてないか心配だが、俺が休めと言った手前聞けない。

 

部下のプライベートを除くなど、セクハラ以外の何者でもない。

 

 

色々話している途中切りのいい当たりで、

 

デミウルゴスは満面の笑みを隠そうともしないで言った。

 

「そのまま振る舞って頂ければ、ナザリックにラナー王女を…いえ失礼しました。

 

 簡単に引き込むことができます。

 

 モモンガ様には、ご不快かもしれませんが我慢していただくのが最善かと存じます」

 

間があったことと笑みが気になったが、大体言いたいことは分かった。

 

 

 

要するに、親しみやすさが必要なのだ。

 

『魔王』と恐れられるだけではダメだと、

 

親しみの方がメリットの大きいというデミウルゴス。

 

 

 

道理だ。故に何からかわれても我慢しよう。

 

 

 

そう決意していてふと気づく。

 

パンドラズ・アクターが先ほどから何も話さない。

 

 

いつもなら大袈裟な感じで色々…為になることを言ってくれるのに。

 

ちらりとパンドラズ・アクターを見た。

 

 

パンドラズ・アクターはまるでこの世が終わったかのような姿勢で固まっている。

 

 

…何がしたいのかわからない。

 

 

だが、俺も忙しかった。

 

この次は、冒険者モモンとしての活動があるからだ。

 

なので、パンドラズ・アクターがと気にはなったが、無視するしかなかった。

 

 

 

今、思うとこの時、無理やりにでも聞けば良かった。

 

あいつは俺の息子なのだ。俺をわかっていてくれたのだ…すまない。いや、本当に。

 

でも、黙ってないで言えよ!!理不尽だが、後にそう思った。

 

 



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第三話 魔王vs破滅のサンドバック②

舞台は間もなく整い、『世界』は彩られる。
それは、かつて九つの世界を救おうとした『魔王』再来の鐘の音だった。


冒険者モモンへの緊急依頼。

 

話題沸騰中のオリハルコン級冒険者である俺への冒険者組合長からの直接要請。

 

…相当なものだろうと予測できた。

 

先約の北上してきたゴブリン部族連合の殲滅は基本ナーベラルに任せるべきだろう。

 

 

 

俺がアダマンタイト級冒険者になった辺り。

 

つまり『英雄』になったら、

 

法国でスルシャーナ復活及び鎖国宣言が出されることになっている。

 

 

スルメさん曰く、もう既に準備はできたとのことだった。

 

反面、「やり過ぎた」とも言っていた。

 

…あの人が反省するレベルというのは恐ろしくて正直想像したくない。

 

 

 

だが、早ければ早いほど良い。

 

このときの為に、様々なことを今まで仕込んできた。『魔王』、『英雄』として。

 

ツアー達との会談後の俺は常に細心の注意と緊急性を伴う日常だった。

 

さらにかなりの自己判断が求められていた。嫌になるくらい。

 

 

 

だが、『御伽噺』の『英雄』と『魔王』のマッチポンプまで行けば、もはや打ち合わせ通り。

 

 

『主役』は俺とパンドラズ・アクター。

 

『出演者』はナーベラル、アルベド。

 

『スタッフ』がNPC達。

 

『観客』はこれまでの『英雄』が築いてきた友人達。

 

 

強いて言えば、何故かやたら張り切っているアルベドが心配だが、

 

休日を取らせたのできっと大丈夫なはず。

 

 

必要最低限の『策』はほぼ完了する。帝国も王国どころか『世界』が詰む。

 

…元々だけど。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

緊急依頼内容は超希少薬草の採取だった。

 

どんな病も癒せる薬草で守秘義務が伴う仕事。さらに達成は非常に困難だという。

 

自生している場所は判明しているとだったので教えて貰えた。

 

 

三十年前のアダマンタイト級冒険者チームにミスリル級冒険者チーム二つがようやくという仕事だそうだ。

 

 

これは確実にアダマンタイト級冒険者になれるだろうと予想できた。

 

 

だが、それと同時に俺は気が付いた。

 

…薬草の生息地が、ツアーが教えてくれた『破滅の竜王』の封印場所と合致する。

 

これまで忙しくて『破滅の竜王』を捕まえるのは延期していた。

 

超希少薬草そのものか、たまたま近くにあるだけか、体のどこかにくっついているのか?

 

 

体にこびり付いているものだと、毎日の『サンドバック』に『薬草』の回収作業が追加されるな。

 

 

 

冒険者稼業の合間に行ったボール・シリーズの検証及び捕らえたモンスターについての研究。

 

召喚したモンスターの死体の一部なら残ることが判明した。

 

具体的に言うと、モンスターの『目』だけ抉り出して殺すと体は消え『目』だけ残る。

 

次の日、再召喚しても『目』はそのままだ。

 

 

…これはデミウルゴスがいなければ気が付かなかった。

 

 

ナザリック以外での使用不可、利用不可とした。

 

 

こんな怖い道具表に出せるか!

 

 

ただ量は腐る程あるんだよなぁ…。実際役に立っている。ナザリックでは。

 

 

知性のない暴力的生物だけとはいえ、毎日好き勝手できる生物。

 

しかも、存在していても周りに害しか与えないような知能がないものたち。

 

『悪』のナザリックでは素晴らしい発見だった。

 

 

嗜虐設定のNPCとかなんか特に。強いて言うならルプスレギナ。

 

 

もっと大きいのや強いのが欲しいと『お願い』が来るんだよ。本当に。

 

考えてみてくれ、遠回しに勿体ぶって目を潤ませて頼まれるんだ!

 

見た目は幼い子供や美女(NPC)に。

 

 

断れないよな、なぁ!

 

 

だから、『破滅の竜王』をナザリック専用サンドバックにしようとした俺は正常なんだ。

 

そう、スルメさん達のような『変態』ではないんだ!…多分。

 

 

 

俺はアウラに『山河社稷図』を装備して、護衛幾人かと共にトブの大森林前。

 

というかカルネ村の前に来るように指示した。

 

 

ツアーとスルメさんにもメッセージを送った。

 

『サンドバック』を捕獲すると。

 

 

スルメさんからは、友の『唯一』の子孫を派遣するので観戦させてやって欲しいと言われた。

 

俺は、了承し、場所についたらメッセージを送るので、『転移門(ゲート)』で送ってくれと伝えた。

 

楽しみだ。

 

決してユグドラシル最終日二日前に『流れ星の指輪(シューティングスター)』を横取りされた恨みがあるわけでは決してない。

 

そう、決して。

 

 

 

問題は、この依頼を引き受けるのが俺の一人になる件だった。

 

実力的に全く問題ないわけだが、エ・ランテルに取って貴重な人材。

 

単独行動をおいそれと許されるはずがない。

 

ただ、他の冒険者チームがいたら非常に面倒臭い。

 

割と仲良くしている自覚あるし、口封じとか論外。殺したいわけがない。

 

必然的に、北上してきたゴブリン部族連合の殲滅もナーベラルが単独で引き受ける話になる。

 

 

幸い、魔術師組合長ラケシルさんがやたら俺達を評価してくれていたお陰で、

 

簡単にそれぞれ単身(正確には俺とハムスケは一緒)での依頼に取り付けた。

 

 

ラケシルさんには確実に奥の手の存在を悟られているが、

 

それがまさか第六位階どころか第十位階魔法とは思うまい…

 

 

北上してきたゴブリン部族連合の殲滅には念のため、

 

ナーベラルにエントマとルプスレギナを同行させる。ストレス発散にもなるだろう。

 

 

ルプスレギナの性格的にはしゃぎそうだが、お目付け役が二名いるし問題ない。

 

甚振るのが大好きな典型的ナザリック体質。結構我慢させているのは申し訳ない。

 

可哀想だが、何言ってもダメだ。まだ、我慢して貰わないといけない。

 

だからって村人に悪戯するな。助ける振りして止めさそうとするな。

 

ンフィーレアの周りでタップダンスして煽るな。それは俺が死ぬ。

 

 

…設定的に外に出してやれないシズのこともその内考えてやらないといけない。

 

スルメさんは罠製作特化の幻術使い。

 

万が一も考えてシズの『記憶』を一部変えるべきだろう。

 

ナザリック内部の罠の配置等も変えておくべきだろう。

 

ないとは思うが、念には念を。

 

 

…上に立つ者として必要とはいえ『友』を疑うのは辛い。

 

 

スルメさんは俺が問えば、全部言い出しそうで逆に怖い。

 

法国の未来は大丈夫なんだろうか?

 

復活させたのは俺だけどさ。

 

 



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第四話 魔王vs破滅のサンドバック③

村から要塞都市へ。
しかし、その変貌に誰も気が付かない。


トブの大森林を入る前にカルネ村の近くに来た。

 

 

幻術等あらゆる手段で誤魔化しているが、カルネ村はもはや大要塞。

 

小さな不落の要塞都市に変貌していた。

 

 

法国に襲われた周囲の村々から人を呼び込み集めた。

 

 

さらに言えばトブの大森林内外に生息する対話可能な生物達、

 

リザードマン等とのセバス達のアンダーカバー『商人』を用いた貿易中継地でもある。

 

 

村の者達はもはや俺を『神』か何かと勘違いしている。

 

 

修正不可能だ。新規で来た人々も同様だ。

 

 

…狂信者が確実にどんどん増えている。もう俺知らない。見てない。

 

 

 

これらにはナザリックの財もあるが、

 

デミウルゴスが王国の八本指を、裏社会を完全に支配したお陰でもある。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

セバスの起こした騒動を起点としたあの事件。

 

詳しい時系列は覚えていないが、どう考えても『原作』よりも早かった。

 

『原作』はやはりあまり当てにならないと俺は確信する。

 

 

しかし、運命というのは、些細なことでは変わらないのかもしれない。

 

セバスがある日偶々出会った娼館で処分されかけた女性を助けた。

 

 

その女性は、ニニャの姉の『ツアレ』だった。

 

 

セバスはツアレを助けた。

 

既に報連相がしっかりしていたため、ナザリックで問題にはならなかった。

 

駆けつけた俺が『賢者の呪帯』で取得していた魔法。

 

第六位階魔法大治癒(ヒール)をかけた。

 

 

『原作』と違い、スクロールが使用しなくて済んだなと苦笑した。

 

 

かつて『貧乏魔王』と毎日のように野次っていたプレイヤーを思い出す。

 

あいつは結局どうなったのだろうか?

 

最終日二日前のダンジョン突撃の際にも煽って来たのでPKしたが…

 

 

今は思い出を置いておく。ソリュシャンに介護を任せた。

 

ソリュシャンから本当にして良いか確認された。やれと命じた。

 

…何となく違和感がある確認だった気がする。

 

俺も冒険者モモンとして、他にやることがあったので深く確認しなかったが。

 

 

その後、デミウルゴスがセバスをグチグチ言うので、

 

俺が控えるよう言ったら、

 

少し黙って考え込んだと思ったら、笑顔でセバスとツアレを祝福していた。

 

ひょっとして仲良いのか?お前ら?

 

エンリの件でも意気投合していたし。

 

 

そこから、王都の巡回使スタッファン・ヘーウィッシュ及び六腕のサキュロントを捕縛及び尋問。

 

 

ナザリックのお家芸が王国の裏稼業に直撃した。

 

 

…俺は覚悟しながらも、その果ての悲惨な光景を直接見て確認した。

 

その光景は俺がこれから行う、行っていくことの罪を語っているように感じた。

 

 

デミウルゴスがしばらくして何か察したのか謝ってきた。

 

これは俺の望んだことであり、お前たちに全く責任はないことだけはしっかりと伝えた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

カルネ村に話を戻す。

 

早速アウラと合流した。

 

依頼の薬草の場所について聞くとその辺りは、木々が枯れ切った場所だという。

 

 

これは、『破滅の竜王』の封印が解けかけているのか?

 

 

だったら法国の予言は正しかったのか。

 

俺は、本当に覚えてないので法国の占い師?の狂言かも知れないと疑っていた。

 

法国の陰謀説まで考えていた。うわぁ…恥ずかしい。

 

 

 

アウラと確認していて思ったのだが、ハムスケが結構ナザリックに馴染んでいた。

 

本当につい先日、捕まえたばかりなのにコミュニケーション能力が高いハムスターだ。

 

 

ハムスターの『ハム』に、失われたスケルトンを惜しみ『スケ』。

 

色々考えたが『ハムスケ』。

 

 

良く考えてみると俺はネーミングセンス抜群じゃないかと思った。

 

周囲から、仲間からドン引きされるので、他の者に任せていたが今後は…

 

じゃない。今は仕事だ。

 

 

アウラには事前に言ってあるように観戦客がいることを伝えてある。

 

なので、『破滅の竜王』を『山河社稷図』に閉じ込めたら、驚かせるため圧倒的な力を見せつけると言ってある。

 

 

 

さぁ、覚悟しろよ。指輪の仇だ!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

まず、『ボール・シリーズ』の隠し条件の話になる。

 

 

ユグドラシルスレを解析したエルダーリッチが発見したそれ。

 

 

『ボール・シリーズ』には怯え判定という要素があるらしい。

 

 

発見のきっかけは意味もなくオーラ系ばかり使うことでユグドラシル全盛期に一部界隈に有名だったというドリームビルダーだった。

 

 

まず、彼女の種族を説明しなければならない。『ザ・ワン』だ。

 

 

ユグドラシルでは『ザ・ワン』は、

 

カッコいいエフェクトを起こせるだけと言っても良い微妙な種族だ。

 

 

『ザ・ワン』に転職するには、

 

神租カインアベルを倒した『始祖(オリジンヴァンパイア)』が手に入れることができる『カインアベルの血魂』を使う必要がある。

 

 

神祖カインアベルは、ユグドラシル公式ストーリーの序盤に出てくる雑魚イベントボスだ。

 

 

『始祖(オリジンヴァンパイア)』は見た目が完全に化け物なので人気がない種族だった。

 

しかもそれに微妙種族『ザ・ワン』までとなるともうほとんどいないに等しい。

 

 

そんな中、

 

課金アイテムで撤退や戦闘を補っていたドリームビルダーの彼女は、

 

ハズレガチャである『ボール・シリーズ』を非常に疎ましく思っていた。

 

捕まえても暴れるは、外れて消費するアイテム。

 

そんな糞みたいなアイテム『ボール・シリーズ』が大量に溜まっていたらしい。

 

 

なので、オーラやエフェクトを出しまくってヤケクソにボールを投げてみたという。

 

 

彼女の言い分によると

 

「ついカッとなってやった。

 

 仮初の最強という状況でモンスターを使役する自分を想像した。

 

 …絶頂した」

 

との話だから酷い。

 

 

変態しかいないのかドリームビルダーという奴はと、

 

全盛期ユグドラシルの膨大なスレの中でそれなりに目立ったらしい。

 

 

俺も仲間もほぼドリームビルダーだからかなり心外だ。

 

名誉回復を所望する。

 

 

 

彼女はオーラやエフェクトを出しまくってヤケクソにボールを投げてみた。

 

ボール・マスターでLv85のモンスターに、だ。

 

 

これまでLv80までしか捕らえられないとされていたのに、だ。

 

 

彼女は産廃アイテムを文字通り捨てる気だった。

 

 

とはいえ、HPは半分にしていたという。

 

 

だが、捕まえられた。

 

弱体化の魔法もかけていないスキルもほぼ使用させてなかったという。

 

 

 

彼女は頭が良かった。

 

上記の情報を改めて録画して、ユグドラシルの解析者(変態)共に高値で売りつけた。

 

彼女は大儲けしてウハウハだったらしい。

 

その後の行方は知らない。実際その後のスレにもなかったという。

 

現在のスレでその後を解析中ではあるが、もう関係ない。

 

 

 

だが、残された変態達は頑張って解析した。

 

結果わかったのは、ボール・マスターでLv90まで捕獲可能。

 

ただし、オーラやエフェクトで怯え判定を成功した上にHP1/3にした状態だったという。

 

Lv85までがギリギリHP1/2でスキルも使用させないで捕獲できるギリギリのラインだったそうだ。

 

 

そして、彼らは気が付いた。これはゴミだと。

 

 

どう考えても使い道がない。発見したことを含めてもゴミだった。

 

 

それを悟った彼らの失望と散財は大きかった。

 

結果、一時の一部の範囲で騒動は収まり、情報が広がることはなかった。

 

 

…ここまで聞くと本当に碌でもないが、

 

ナザリックでは非常に助かっていると思うと複雑だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

気分を切り替えて話を戻す。

 

 

目的地についた俺とアウラとハムスケとその隠密に長けた護衛達。

 

そこで、ピニスン・ポール・ペルリアというドライアードに出会った。

 

 

『封印の魔樹』とやらがあるらしい。確定だ。

 

 

なので、スルメさんにメッセージを送る。

 

転移門(ゲート)が開く。

 

 

 

中から出てきたのは、

 

どうみても目が死んでいる半分黒髪、半分白髪のオッドアイの美少女だった。

 

 

 

スルメさん、何しやがった!こんな年端もいかない女の子に!!

 

 



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第五話 魔王vs破滅のサンドバック④

モモンガ様完全敗北
現地勢最強は番外ちゃんでした。


さっさと『破滅の竜王』ならぬ『破滅のサンドバック』を回収する予定だった俺だが、

 

 

どう見ても目が死んでいる、中二病ファッションの女の子を見て急遽予定を変更した。

 

 

宿泊も視野に入れていたため、グリーンシークレットハウスを野営予定地に展開。

 

アウラとハムスケと護衛を各部屋に待機させた。

 

 

俺は法国から来た少女と一つの部屋で直接話した。

 

 

中二病の塊みたいな外見には絶対に触れない。

 

おそらく気にしているだろうことが、

 

『鈴木悟』サラリーマン時代の、『営業』の勘が教えてくれる。

 

話しやすいようになるべく優しく接することができるように

 

俺は、完全催眠や各種幻影を解除した。

 

 

俺は『魔王』ではなく、『人間』として目の前の少女に接することにした。

 

 

俺の突然の人化に驚かれたが、

 

俺は人間にもなれるから、気持ちがわかる安心して話して欲しいと少女に告げた。

 

 

…過去に戻れるなら、俺に警告したい。

 

泣いて俯いているように見えるよな。それは罠だ。

 

 

そんなことは知らない俺は少女の話を紳士に聞いた。

 

 

少女曰く、

 

「私は五柱の神々の財と装備を守るために生きてきたのに、その神が変態だとわかった。

 

 しかも、それを反論しようにも『死の神』は経典を用いて全て反論し返した。

 

 実際、経典的にも間違ってないので誰も反論できなかった。

 

 いつの間にか法国の中心街に謎の説法師とその従者が現れた。

 

 

 『死の神』スルシャーナ様だった。

 

 

 彼の神は人間とは自由気まま欲望のままに生きるべき。

 

 我慢は自分のためにならない。好きにいきなさい。

 

 上手く行かないことは世間が悪い。

 

 あなたが悪いわけではありませんと等とわけのわからないことを説法し始めた。

 

 法国にはニート予備軍が大量に増えた。止めたくても『神』なので誰も止められない。

 

 クアイエッセの馬鹿を中心に全力で応援し始めて、法国は変態都市になった。

 

 良かったことを強いて言えば、戦争を一瞬で止めたことくらいだ」

 

という話だった。これ以外にも色々あるが酷い。酷すぎる。

 

 

俺は法国の者でないから全部スルメさんに任せていた。

 

ナザリックとは不俱戴天の仇になり得る可能性を秘めていた法国だったし。

 

それを放置した結果が、悲劇を生んだ。彼女だ。

 

俺は情報収集すらきちんとしていなかった。実際、法国の情報入手は難しかったし。

 

 

これは鎖国するわ。本当に酷い。

 

俺は、すぐさま行動を開始することにした。

 

 

力を見せつけるのではなく、馬鹿を叱りに。

 

 

グリーンシークレットハウスから出た法国から来た少女を含む俺達は、

 

 

とっとと『破滅の竜王』を片づけるため、アウラに範囲一帯に矢を降らせた。

 

 

現れたのは、100mを超す、ガルガンチュアよりもでかい『魔樹』だった。

 

薬草は頭頂部にこびり付いていた。

 

 

悲鳴を上げるピスニンを放置して、アウラにレベルを測定させた。

 

解析させたレベルは、バーが三本。つまりLv80~85だった。

 

HPは膨大で計測不能らしい。

 

 

素晴らしいサンドバックだ。

 

 

色々と感心したが、とっとと片づけるために動く。

 

 

アウラに「山河社稷図」を展開させる。

 

 

魔樹と俺達を『世界』が包み込んだ。

 

 

俺は生命の精髄(ライフ・エッセンス)等の魔法を使用。

 

『破滅の竜王』のHPを見ながら魔法を連打した。

 

勿論、薬草には当たらないように注意しながら。

 

 

時間停止(タイム・ストップ)も使用したが、対策されていた。

 

そのため触手による叩きつけや、種子と思われる爆弾を射出したを食らった。

 

 

触手による叩きつけは剣で捌き、爆弾は転移で躱した。

 

 

もちろん爆弾が後ろにいかないように後方は魔法で防御済みだ。

 

こちらにダメージは一切ない。

 

正直、俺も魔法で防御すれば良かったが、それは後の祭りだ。

 

余裕を持って『破滅の竜王』のHPを半分くらい減らした。

 

 

 

俺は持てる全てのオーラ系を放出する。

 

絶望のオーラ、魔王のオーラ、いてつくはどう、漆黒の後光。

 

その他意味のないファッション魔法まで展開していく。

 

 

 

「ゆけ、ボール・マスター!!」

 

叫ぶ。とっとと終わらせるという決意を込めて。

 

 

ヴン…ヴンヴン…ポカン。

 

そんな効果音が鳴り響く。成功だ。

 

 

 

そして、

 

「行け、カタストロフ・サンドバック!!」

 

俺は叫ぶ新しい名前を。今後の未来を名に託した。

 

 

カタストロフ・サンドバックは薬草と共に現れる。

 

 

暴れないように、魔法と純粋なステータスのゴリ押しでサンドバックを縛り上げた。

 

アウラに薬草採取させた。

 

 

そして、

 

「魔法三重化・朱の新星(トリプレットマジック・ヴァーミリオンノヴァ)!!」

 

一撃で殺すための魔法で沈めた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「やぁ、済まないな。急いでしまったので驚かせたかもしれない」

 

俺は今更ながら後悔していた。

 

目の前の少女はどうみても幼い。

 

そんな子に一応『破滅の竜王』を瞬殺させる光景を見せてしまったと。

 

 

このとき、俺は素で忘れていた。何せプレイヤーの子孫の前だったから。

 

この世界の人間の習性を、だ。

 

 

「そ、そんなことありません!とっても、とっても凄かったです!!」

 

きゃっきゃっとはしゃぐ年相応の少女を見て俺はほっとした。

 

 

だが、

 

「『魔王』アインズ・ウール・ゴウン様…

 

 スルシャーナ様より命じられていたことがございます…」

 

俺はこの目の前の少女が法国の使者であることを改めて思い出した。

 

 

「ああ、何かな?」

 

そうなるべく優しく声をかける俺。

 

後ろからのアウラが「うわぁ」という小さな呟きに俺は気が付かない。

 

 

「スルシャーナ様よりこう命じられております。

 

 『魔王』様の力を見定めて、

 

 法国と『アインズ・ウール・ゴウン』様の架け橋として契りを結べと。

 

 子を孕めと命じられています」

 

爆弾発言をした。

 

俺はキレた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

依頼そっちのけで、法国のスルメをぶん殴りに転移した。

 

 

止める周りの変態共を縛り上げ、俺は『死神』に言い放つ。

 

 

 

「遺言はあるか?」

 

まさしく『魔王』に相応しい発言だった。

 

 

「わ、我が盟主!我は、いや私はそこまで言ってませぬ!!本当に、マジで!!」

 

喚く『変態』。だが、認めた。

 

 

「見苦しい。大体『そこまで』ということは類することは言ったのだな?」

 

見苦しい悲鳴が上がった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

その後、俺は『変態』を襤褸雑巾にして、すぐに転移。

 

王国の冒険者組合に薬草を渡した。

 

 

 

ようやく落ち着いて、アウラやナザリックにメッセージを送ってないことに気づいた。

 

何より『少女』を放置してしまっていたことに今更ながら気づいた。

 

 

俺はこのとき知らなかった。

 

彼女が『番外席次』であり、あの『変態』の子孫であったことを。

 

 

これら全ての流れが『彼女』により、完全に計画されていたものだということを。

 

 

俺がメッセージを送ったときには、ナザリックと法国の友好の懸け橋として、

 

全てが完全に認知されていた。

 

 

 

...これは俺悪くない。スルメさんが悪いと思う。

 



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第六話 魔王建国宣言(王国編)

英雄と魔王の戦いの後、魔王は『世界』に名乗りをあげた。
完全に覚醒した『化け物』はその日『英雄』となった。


リ・エスティーゼ王国のヴァランシア宮殿における宮廷会議。

 

 

今回の会議ではこれまでにない程の人数が集まっている。

 

まず、玉座に座るランポッサ三世。

 

その王の近くで不動の姿勢を保ち控える王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。

 

 

王家からは王の三人の子達。

 

 

第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。

 

戦士としての力は多少あるが、優れた王子とはいえない。

 

先日、妹のラナーに

 

「八本指の違法娼館で腰振るために体力つけたのですね。

 

 だから、クライムより弱いのですね」

 

と煽られて、憤死しかけたという話が宮廷内でもっぱらの噂だ。

 

当然その噂のせいで民衆から嫌われている。

 

 

 

第二皇子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。

 

小太りで顔には弛んだ肉が付いている。

 

先日、妹ラナーに

 

「屋敷に籠って肥え太るだけなら、早く表に出てはいかがでしょうか」

 

と散々煽られたせいで、人が変わったかのように政務に励み、力をつけている王子だ。

 

民衆からは哀れみと同情の声があり、人気が急上昇しているが本人は全く喜んでいない。

 

王子としての威厳がなくなりつつあり、兄と共に被害者である。

 

 

 

第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

 

黄金の姫。温厚で慈悲深い性格。

 

国民に則した政策・法律を立案するため、見識のある者や恩恵を受けた者からの評価・人気は高い姫だった。

 

 

だった、というのはある日から突然、会う人皆を煽って怒らせた挙句に破滅させるようになったからだ。

 

 

暗殺の魔の手を送った貴族を即座に粛清し出すなど、

 

温厚で慈悲深い姫はどこへ行ったのかと護衛の兵士クライムが嘆く日々が続いている。

 

 

いくら美しくても流石に妻としたくないと行き遅れになることが確定しつつある。

 

 

これまでとは打って変わったように根回しまで優秀になり、

 

『化け物』呼ばわりされているが本人は素知らぬ顔で今日も会う人全てを罵倒する。

 

 

 

この宮廷会議では六大貴族を含む多くの貴族が集まっていた。

 

六大貴族はそれぞれ財や軍事力等で王を上回る程であり、

 

本来なら王の招集にすら欠席するようなありさまだった。

 

特に反王派閥、貴族派閥のボウロロープ候は王の軽視を隠しもせずに、

 

軍事力を日々高めている。

 

 

王派閥を反王派閥が妨害工作などで足を引っ張り合う。

 

 

そんな日々で、六大貴族全てが揃うことは珍しかった。

 

否、今回の件で集まらないのは問題があると他のライバルに攻撃されかねない案件だったからだ。

 

 

法国・評議国連名で、王国・帝国に対してカッツェ平原及びトブの大森林一帯を『魔王』に明け渡すように宣言文が来たからだ。

 

宣言文の内容を要約すると以下のようになる。

 

「『魔王』アインズ・ウール・ゴウンは、

 

かつてこの世全ての財を手に入れた神の王である。

 

その一部を不法に占拠している王国とそれを狙う帝国は『世界』の敵である。

 

故に、要求を飲まねば両国はその全てを明け渡さなければならない」

 

 

 

気が狂っているとしか思えない宣戦布告。

 

誰もが罵声を浴びせる。ふざけるなと。

 

言葉にならない罵詈雑言が飛び交う。

 

 

そんな中で、ボウロロープ候は満を持して発言した。

 

「念のために王国の歴史を紐解いて調べさせたが、

 

 『魔王』アインズ・ウール・ゴウンなるものの記述は一切なかった。

 

 ただの脅し、いやそれ以下かだ」

 

滑稽な話であると失笑を隠さない。

 

 

だが、

 

「ボウロロープ候」

 

例の『化け物』が発言順番等無視して声を上げる。

 

 

つい先日までは小娘扱いだったが、

 

何か反論すると本気で危ないことを、王国全ての者が理解しているので黙る。

 

 

「な、なんですかな?ラナー王女殿下」

 

力で国を飲み込もうとするボウロロープ候ですら、声が震える。

 

本当に『化け物』なのだ。規格外。

 

言葉に表せない程の『何か』がこの王女にはある。

 

 

「私は即座に宣言文通りに土地を明け渡さなければ国が亡ぶと思います。

 

 現に帝国はこれを認めました。

 

 しかも、互いに忌み嫌い合っていたはずの法国と評議国が連名で布告を出しています。

 

 王国が建国される以前の国々です。本当であってもおかしくありません」

 

『化け物』が言う。戯言でも不条理でも飲み込めと。

 

 

だが、王国貴族としての誇りが、戯言を許さない。

 

「我々はこの国を二百年守って来ました。そんな戯言が通るはずが…」

 

気づく。体が、口が動かない。目は見開かれたままの状態だ。

 

 

「こんにちは。二百年間、我が『財』を汚し続けた権力者達」

 

コツコツと何かが歩く音が聞こえる。

 

それを止めるはずの兵士は固まったまま動けない。

 

玉座の近くに黒曜石で出来た壮麗な椅子が出現する。

 

『王』の風格が滲み出る『存在』がそこに座る。

 

金色の剣を持ったその姿は『覇王』そのもの。

 

座り方は上に立つものとしてあり続けたからできるであろう優雅な座り方だった。

 

 

「初めまして。私は『魔王』アインズ・ウール・ゴウン。

 

 この『世界』でも『御伽噺』として知っている者もいるだろう。

 

 かつて九つの世界を救おうとして夢破れた王である」

 

淡々としかし堂々とそう告げる『覇者』の風格。

 

動けないのに跪きかねない。そう思わせる覇気。

 

 

これがあの『御伽噺』の『魔王』だとでも言うのか?

 

 

ボウロロープ候は、力あるものとして目の前の存在を本能で受け入れざるを負えなかった。

 

 

「では、動けるようにしてやろう。異論反論があれば是非言ってくれて構わない。

 

 なんなら君たちの持つ城を更地にしてもよい。もちろん死者は出さずにな」

 

そう言って笑う『魔王』。

 

体が動けるようになっても『覇者』のオーラをまともに受けて誰も動くことなどできない。

 

反論だって無理だ。誰もがそう思う。

 

ランポッサ王すら話せない。

 

王の身をせめて守ろうと、ガゼフ・ストロノーフは無理にでも前に出ようとする。

 

死を覚悟して。

 

 

だが、

 

「まぁ、『魔王』ですか、

 

 『世界』を救おうとしてできなかった『負け犬』がなんのようですか?」

 

『化け物』が煽る。その場の誰もが呆然とする。

 

死ぬ気なのか正気なのか誰にもわからない。

 

 

「ほう…興味深いな。

 

 我が前をしてそのような言葉を吐くなぞこの『世界』でもいるとは思わなかった」

 

『魔王』の興味を引いた。

 

これはもしかするといけるかも知れない。

 

ボウロロープ候はそう思った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

結論として、

 

カッツェ平原の村々及びトブの大森林一帯を『魔王』に明け渡すことになった。

 

 

 

『化け物』は煽り、『魔王』は素知らぬ顔で流す。

 

 

一秒一秒が生きた心地がしなかったが、王国は守られた。

 

 

それどころか、『魔王』は『化け物』を気に入り、『財』を分け与えた。

 

『化け物』は、『魔王』が持っていた金色の剣を渡された。

 

戦士でない者ですらわかる輝かしい剣。

 

誰の目からも明らかに国一つと同等以上の奇跡の剣だ。

 

 

『化け物』は『英雄』になった。

 

 

その場にいる貴族全てが断言する。

 

ラナー王女がいなければ、国が亡んでいたと。

 

そんな『英雄』は父ランポッサ王に目を向ける。

 

 

「お父様。いや、陛下」

 

無邪気に笑うその美しさに誰もが魅了される。

 

 

だが、次の言葉は、

 

「嫁ぎ先が決まったようです!楽しい『玩具』ですわ」

 

最悪極まりないことを言うラナー王女。

 

やっぱり『化け物』だったと誰もが放心した。

 

 




????「聞いてないぞ!こっち来るな!」


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第七話 『化け物』では『魔王』には勝てない

『魔王建国宣言』直後、ラナーの私室での会話


王国騒動後、どうなったのか確認のお茶会を開いた。

 

 

ラナーが俺の側室になるとか言い出した。

 

 

正直どうなっているのかわからない。

 

 

 

ラナーが『魔王』を言い負かして、王国を守り、『伝説の剣』を渡される。

 

『英雄』となったラナーが王国を実質支配し、『クライム』と結ばれる。

 

 

『クライム』と結ばれるため、貴族にする理由付けとしてクライムを『英雄』にする。

 

 

具体的には、六腕のサキュロントを捕縛させる等して八本指の秘密を暴く。

 

被害が出る前に多くの民衆を救う。

 

 

貴族にしても、結婚しても問題ない評判を作る。

 

 

 

これが当初の筋書きのはずだった。ラナーも同意したはずだった。

 

 

 

ところが、ラナーは俺に嫁ぐことになったそうだ。

 

 

ラナーが王国の真の支配者に仕立て上げるのを手伝ったのは俺だ。

 

出会う者全てに好き勝手罵詈雑言吐くは、

 

ついでだからと不要な貴族を粛清し出すわで、面倒この上なかったが。

 

 

本当にラナーを『英雄』にして良いかかなり迷ったくらいだ。

 

 

だからこそ、周りから強制されるわけがないのは知っている。

 

 

常に細心の注意と緊急性を伴う日常の大半はラナーだったのだから。

 

 

ラナーには、今回の事件の解決で二つの報酬が与えられたそうだ。

 

 

一つ目は、辺境の城と領土。ラナー曰くそこはクライムと傀儡の貴族に管理させるらしい。

 

 

二つ目は、魔王国と王国のエ・ランテル合同統治。ラナー曰く「微笑ましい花嫁道具」

 

 

ラナーが統治する形にはなっているが、実権はほぼ全て俺の物だった。

 

三か国の貿易拠点をナザリックが支配できる。

 

 

当初計画していた魔王国を含めた四か国の貿易拠点計画は儚く消えたが、

 

ナザリックのメリットの方が大きい。大きすぎる。

 

 

『原作』の大虐殺等ない状況での穏便な統治。

 

ラナーとの会話中、こっそりメッセージでエ・ランテルの様子を確認した。

 

同じくメッセージで先んじて知ったエ・ランテルの者達の反応もほぼ良好なものしかないそうだ。

 

 

『魔王』が『英雄』と共に『世界』を守るという話を、

 

エ・ランテルの住民は全員知っているから。

 

 

さらには『黄金の姫』の合同統治。

 

エ・ランテルの民衆はまだ真実のラナーを知らない。

 

 

歓迎ムード一色だと断言できる。

 

 

 

俺に、ナザリックにメリットしかない。

 

ラナーが表向きとはいえ嫁になるという苦痛を除けば。

 

この場合、クライムとは内縁の夫になると思われる。

 

 

 

しかし、何故名実ともにクライムと結ばれる道を選ばないのか

 

 

 

せっかく筋道を用意したのにと俺は、ラナーに聞いてみた。

 

「ここまでやっても理解できないなんて…」

 

ラナーは本当に珍しく落ち込んでいた。

 

これまでの付き合いから、本気で落ち込んでいるのがわかる。

 

何故だ?

 

 

慌てる俺を見てラナーは、

 

「ああ、もう良いです!わかりました!

 

 今回の件はあなたにメリットしかないのですから、

 

 例の『村娘』に与えたという腕輪を寄越しなさい!

 

 今後、さらに行動で示すから、それで察しなさい!!」

 

そう一方的に怒られて今回のお茶会は終わった。

 

エンリと同じ『時飛ばしの腕輪』を渡したら、分捕られて追い出された。

 

 

俺が何か悪かったのはわかったが…何をどう謝るべきなのかがわからない。

 

 

今度、ナザリックの九階層「ロイヤルスイート」に招待してケーキ等を用意して持て成そう。

 

ラナーの好みはこれまでのやり取りから全てわかっている。

 

渡した腕輪は体力回復するだけのアイテムだし、もっと他に何か渡すべきだろう。

 

ラナーが好んで身に着けていたものから条件に当て嵌まるものを頭の中で検索する。

 

 

決まった。これなら、きっと喜んで貰えるはずだ。

 

 

そこで将来の件を、『クライム』の件を相談すべきだろう。

 

ラナーのことは一先ず置いて置き、俺は次のことを考え始めた。

 



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第八話 魔王建国宣言(帝国編)

無くした思いを、遠ざかる残滓を『魔王』は見た。


『魔王』が王国に赴く数日前、

 

 

バハルス帝国の皇帝執務室では皇帝を除く近衛兵、帝国騎士、魔法詠唱者が全て魔法で眠らされていた。

 

 

いや、『主席宮廷魔術師』フールーダ・パラダインと帝国四騎士だけは起きていた。

 

 

だが、帝国の味方であるはずの『重爆』レイナース・ロックブルズと

 

『主席宮廷魔術師』フールーダ・パラダインが他三騎士を取り押さえている。

 

 

それがなくても『魔王』の威圧に耐えられない。

 

 

「つまりだ。最初からチェックメイトなんだよ…

 

 ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス殿」

 

『鮮血帝』の異名を持つ皇帝。

 

『大改革』を行ってきた男の弱みを握ることなど、

 

俺にとっては造作もないことだった。

 

 

彼の皇帝はデミウルゴスの言うように「中途半端に賢い」。

 

 

正直、俺より賢いと思うが、デミウルゴスが言いたいことは何となくわかる。

 

常識的に『詰み』に追い込めば、すぐ諦めて最適な落としどころを理解し、行動する。

 

何と素晴らしい。王国にいる馬鹿貴族だとこうはいかない。

 

面倒なことにならなくて実によい。

 

 

「では、交渉に入ろうか。いや、何すぐに終わる」

 

その日、帝国は陥落した。

 

皇帝とその側近以外、誰にも知られずに。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ツアーとスルメさんとの二度目の会談前から帝国での情報収集や裏工作はしていた。

 

王国よりチェックが厳しく、全く痕跡を残さないようにするのは少しだけ手間だった。

 

なので、すぐに重役から取り入る方向で決まった。

 

 

 

帝国に裏工作を仕掛ける際に、フールーダは余裕だった。

 

人気のないところで俺が現れるだけで、その場で絶頂した。

 

 

…本当に気持ち悪かった。

 

 

俺はとりあえず『賢者の呪帯』を与えた。

 

これから行う依頼への報酬の前払いとして。

 

 

あと、事が済んでも、俺に教えを乞う前にまずは第六位階まで理解するように命じた。

 

三個まで取得できるが、考えて取得するように厳命した。

 

…対策となる本は持ち込んでいるが関わりたくないので、なるべく放置したかった。

 

 

『魔王』の存在が表に出るまでジルクニフの弱点を掴むように命じた。

 

その途端、その場でアンデッド使用について等、もの凄い量の機密を報告し出した。

 

 

…誰か情報漏洩を考えて複数人体制での情報管理を考える奴は帝国にいなかったのか。

 

 

少なくともナザリックではそうしている。

 

もう、フールーダ一人で十分じゃないかと思った時、気が付いた。

 

 

こいつ、『魔法』関係の弱みしか持ってない。

 

 

これだけでも十分に脅せるが、政治や貴族等に疎いフールーダでは一時的な脅しにしかならない可能性があった。

 

引き抜けば、最悪交換すれば良いだけだ。

 

なので、もう一人、『貴族』出身者の協力を得ることにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『重爆』レイナース・ロックブルズ。

 

彼女は呪いさえ解ければ皇帝にすら剣を向けると周囲に公言していた。

 

彼女ならば裏切っても、遺恨がないだろうと判断できた。

 

 

しかも貴族出身者であり、機微も敏いはず。

 

 

強いて言えば裏切られる可能性から情報はあまり望めないかもしれない。

 

だが、それを考慮しても、重責を担う『四騎士』の彼女ならば得られる情報多いと判断した。

 

 

呪いを解呪してしまっても、高位の幻術またはマジックアイテムで補えば良いとも思った。

 

俺は彼女、『レイナース・ロックブルズ』と接触することを決めた。

 

 

 

 

彼女は俺が『御伽噺』の『魔王』だとわかると即座に『呪い』について語りだした。

 

 

…彼女の顔の右半分の『呪い』は、俺の想像以上に、かなり面倒なものだった。

 

 

彼女の『呪い』とやらを一目見た後、さらに身の上話を聞いて、

 

俺は『呪い』の正体を確信した。

 

 

恐らく彼女は『カースドナイト』の『職業』を持っている。

 

 

Lv30以下の『忍者』がいるこの『世界』なら有り得るだろうが、

 

まさか不人気職の『カースドナイト』を取得している者がいるとは思ってもみなかった。

 

 

 

『カースドナイト』

 

 

ユグドラシルではLv60の積み重ねがないと取得できない『職業』。

 

『呪い』によって汚れた神官騎士という設定だ。彼女の経歴的にも合っている。

 

低位のアイテムを持っただけで破壊してしまうというデメリットを持つが、その分強い『職業』だ。

 

 

ペロロンチーノさんは構成の穴をついて見事にシャルティアにほぼデメリットなしで取得させることに成功している。それでも低位のアイテムは壊してしまうが。

 

 

彼女の『重爆』という異名も納得がいく。

 

低レベル帯の戦いでこの『職業』についていればかなりの脅威だ。

 

 

彼女はまだできないようだが、他にも様々な能力を持つ。

 

闇の波動や、呪いによって強力な治癒魔法でなければ癒せなくなる傷を与える。

 

即死の呪いをかけるスキルなどを持つ。

 

彼女も成長していけばやがて才能を開花していくだろう。

 

 

 

さて、『解呪』だがこれが結構難しい。いや、簡単でもある。

 

まず、超位魔法『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』なら余裕で解呪できる。

 

論外。割に合わない。

 

次に、呪いの原因である『カースドナイト』を消せば良い。

 

これは簡単だ。レイナースを殺して復活させれば済む話だからだ。

 

 

だが、彼女の何レベルのときに『カースドナイト』を取得したのかわからない。

 

有り得ないと考えたいが、Lv5以下も有り得る。この世界なら。

 

 

慎重にやると第九位階魔法『真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)』を連発する必要があるかもしれない。

 

 

NPCを呼べば蘇生費用だけですぐできるし、

 

大量にある短杖(ワンド)使えばいい話だが、あまり使いすぎは良くない。

 

今後、これが前例となりペストーニャ達が能力を乱用しかねない。

 

最も、今回は理由がある。悪しき前例とは一概には言えないはずだ。

 

 

財は膨大だが、有限だ。いつかきっと果てる日が来るだろう。

 

それなのにあまり与えすぎては、そもそもこの『世界』が成り立たなくなってしまう。

 

 

それでは、本質的に八欲王と変わらない。

 

 

ツアーやスルメさんは違うと言ってくれるかもしれないが、

 

『世界』を乱すことには変わりない。

 

 

俺は『世界』を守ると決めた。

 

 

最低限で最高の結果を出すことに躊躇はない。そのために『財』や『力』は惜しまない。

 

 

 

だが、俺は、そんな『存在』にだけはなりたくない。

 

『友』を殺した『存在』に、『世界』を破壊した『存在』に。

 

 

 

この『世界』を強化するのに協力を惜しまない。

 

ナザリックのためならば『友』のためならば、『破壊』も辞さないだろう。

 

 

所詮は俺の自己満足。自分勝手なエゴだ。

 

思考が悪い方向へと変化していく。

 

どんどん気分が悪くなる。思い込みが加速する。

 

俺は、八欲王と何が違うというのか…胸糞悪い。

 

 

 

…さらに言えば彼女が帝国の内情を探る場合、

 

『弱い』状態で帝国に潜入させるとすぐバレるだろうと判断できた。

 

 

ドッペルゲンガーを使えば良いとも思ったが、現地の強者をなるべく失いたくはなかった。

 

彼女は俺目線では『弱者』とはいえ、『経験』を積んでいる。

 

この『世界』の経験・技術を俺は学びたかった。

 

慢心して良いことなど一つもない。

 

彼女は『魔王』側についても問題ない貴重な現地の『強者』だ。

 

 

故に殺さないで解呪する方法を考えたのだが、

 

彼女の侵された『死に際の呪い』というのは極めて厄介な物だった。

 

 

まず、第六位階大治癒(ヒール)では解呪不能だ。

 

 

彼女はこれまで解呪するために何でもしてきたとのことだが、

 

この『世界』では不可能だったことだろう。

 

第六位階魔法が奇跡とされる『世界』で、蘇生魔法を乱用できない『世界』で、

 

どんなに酷い思いをしてきたか察するに余りある。幸福からの絶望を何度も、だ。

 

しかも、どんなに頑張ってもこの『世界』では『解呪』はほぼ不可能。

 

…俺は不覚にも同情してしまった。

 

 

転移前の完全に二極された『世界』。

 

生きるためとはいえ、平然と弱者を、善人を貪る『世界』。

 

俺は何度も裏切られて、ユグドラシルにたどり着いた。

 

 

 

彼女がこうなった原因は、家の所領に出現するモンスターの掃討だという。

 

彼女曰く、『死に際の呪い』を受けたという。

 

 

…弱くても、邪悪な設定のモンスターが殺した相手に『死に際の呪い』をかけることがある。

 

少なくともユグドラシルでは。

 

 

不幸だったのは、彼女はそのモンスターに出会ってしまい、

 

呪いをかけられる時間があったことだろう。

 

 

 

呪文発動能力を持たなくても呪いの効果を与えられるモンスターがいる。

 

呪文発動能力を持つモンスターがいるなら、『冒険者モモン』ならすぐ見つかったはず。

 

故に呪いの効果を与えられるモンスターであること、数は非常に限られていることが推察できた。

 

 

 

ちなみに、この『死に際の呪い』に対してユグドラシルではどう対処したか、

 

ユグドラシルではそもそも呪い発動前に確実に殺す。

 

Lv100になっていれば無効も同然。

 

最悪呪われても、一回死んで蘇生することで『呪い』を消す方法が一般だった。

 

 

 

この『世界』では参考にならない。論外だ。

 

シリアス返せ馬鹿と言われること待ったなしだ。

 

こう並べるとまるでプレイヤーが理不尽の塊に見えてくる。

 

実際理不尽なわけだが。特に俺。

 

 

 

…この『世界』では蘇生がかなり貴重だ。

 

 

近場だと、王国のアダマンタイト級冒険者『青の薔薇』の某中二病リーダーくらいしか公にいない。

 

法国はそれなりにいるらしいが、それでも少ない。

 

聖王国にいたような気もするがそこまで『原作』を読んでいなかった。

 

正しいかどうかも不明な憶測だ。当てにならない。

 

 

 

俺は、ここまでプレイヤー云々を除いておおよそ彼女に話した。

 

呪い解呪はできなくはないが、君は恐らく帝国にはいられなくなると。

 

今まで得た力もほぼなくなると説明した。

 

 

 

「全く構いません!御身に全てを捧げます!」

 

無駄だった。

 

 

できれば能力そのままで帝国に残って欲しかったが、

 

死と蘇生を繰り返して、『呪い』を解呪する。

 

解呪できる魔法詠唱者の情報をばら撒いて混乱させて貰おうかとも考えた。

 

 

帝国をかき乱せれば、穴が開きつけ込める。

 

手段等いくらでも思いつく。こちらの情報の隠蔽は完璧だ。

 

だが、俺は何とかならないか必死に考えた。

 

 

 

…一つだけ思いついた。

 

確実だが、彼女の心を抉ることになるかもしれない。

 

それでも良いか彼女に尋ねた。場合によれば失敗すること、見捨てることも。

 

 

「…はい。いえ、私は、私の因縁を、私で何とかしたいと心から願っておりました。

 

 そのご提案は、寧ろ、感謝の言葉が足りない程のものです」

 

そう断言した。覚悟を決めた者の目だった。

 

 

俺はもはや何も言わず、

 

彼女『レイナース・ロックブルズ』の忌まわしい記憶を蘇らせた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

恨み、辛み、憎しみ、憎悪、嫌悪、悪意、嫉妬…

 

この世全てを呪う『呪い』として、漆黒の世界に行かずに残り続ける。

 

死ぬよりも深い『憎しみ』がある。

 

願わくば、せめて、もう一度戦って殺したい。

 

そのためには、『憎しみ』すら捨て去ろう。

 

そう願い続けていると『神』が自分を出迎えた。

 

手を伸ばすは祝福された『世界』。

 

漆黒の輝ける深淵なる闇。

 

罠だと知っても食らいつく。最後の思いを果たすため。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ぐぉぉぉぉおぉぉおおおおおおぉおおおお!!!」

 

『レイナース・ロックブルズ』の忌まわしい記憶が蘇る。

 

今、彼女の呪いは解けていた。

 

だが、俺は彼女に教えている。時間がないことを。

 

 

 

俺がしたことは、簡単に言えば逆転の発想だった。

 

『死に際の呪い』なら、その対象が生き返れば無効になる。

 

俺は『真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)』で彼女の元凶を蘇らせた。

 

そして、今度こそ元凶を、『呪い』の発動時間内に倒せと言った。

 

 

「いやあああああ!!!」

 

レイナースは咆哮を挙げ、槍を構え全ての元凶に突撃する。

 

 

俺は黙って見ていた。

 

失敗しても成功しても、俺は、これ以上は協力しない。

 

 

これはレイナース自身の問題だから。

 

 

レイナースが失敗したら、俺は彼女の記憶を消して去ると伝えてある。

 

彼女の代わり等いくらでもいるのだから。そう言った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

結果、容易く彼女は元凶を滅ぼした。

 

…『解呪』のために強くなっているのだから当然ではあった。

 

思わぬ副産物として『呪い』のみなくなり、『カースドナイト』は残っていた。

 

『『呪い』によって汚れた神官騎士』ではあるが、

 

別に『呪い』を解いてもなくなるとは『設定』にない。

 

 

何というご都合主義。いや、合理的結論ではある。

 

 

だが、まぁ今後ナザリックのためにレア職が消えないのは良かった。

 

 

冒頭のやり取りの後、皇帝はすぐに降伏した。

 

 

事後処理はデミウルゴスに任せてある。

 

フールーダにはナザリックで研究させるための打ち合わせとしてカジータを呼んでいる。

 

 

俺は一人となったレイナースと歩いていた。

 

 

「…結局、帝国には居られなくなったな」

 

利用したことに関しては同意を得ている。

 

だが、国を失わせたのは悪かったかもしれない。

 

例え、レイナース自身が故郷を全て滅ぼしていたとしても。

 

彼女は常に呪いが解けたら何をするか考えていたと言っていた。

 

ならば、国でやりたいこともあったはず。

 

 

レイナースにここまで思い入れは不要だが…何故俺はそこまで気にしているのか?

 

 

 

そんな風に疑問を思っていると、

 

「私の全ては御身のためにあります。

 

 国が、世界が滅ぼうとも、この命が尽き果てる最後の時まで、

 

 御身のために私の全てを捧げます。どうか何卒、忠誠を誓わせてください」

 

そう跪いて、命すら捧げる覚悟を誓われた。

 

 

 

端的に言って、ナザリックのNPC達みたいなことを言い出した。

 

ああ、うん。そうだ何で想定してなかったんだ、俺。馬鹿じゃないの?

 

 

…良く考えたら、彼女のは忠義だから何の問題もない。

 

寧ろ、好都合だ。全く問題ない。

 

 



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第九話 対策

『魔王』に勝てない『化け物』は気づく。
『魔王』の致命的な欠陥に。だからせめて祈った。
『魔王』を救う『勇者』の存在を。


「今後、さらに行動で示すから、それで察しなさい!!」

 

そう言い放ったラナーの行動は凄まじかった。

 

 

八本指を使い、俺のアンデッド量産計画のために、

 

王国中の墓場から内密に死体を回収し、ナザリックへ送る手筈を整えた。

 

 

八本指を使い、弱みがある貴族等を脅して『財』を吐き出させた。

 

特に、金鉱山とミスリル鉱山を所有する『ブルムラシュー侯』が帝国に情報を売り渡していることを盾に脅した。

 

その結果、『財』を定期的に吐き出させることに成功した。

 

その『財』を用いて王国の改善し、余った財はナザリックのものにした。

 

 

さらに、短期的デメリットや利権の関係から放置されていたラナーの案、

 

俺の知識でいう『輪作』を王国中に強制した。

 

彼女の試算だと六年かかる計算だったが、これには俺も協力して五年に短縮できた。

 

王国の民衆の生活が向上することが確定した。

 

 

エ・ランテルでは理想の『黄金の姫』を演じ切り、民衆の支持を確固たるものにした。

 

ラナーは、俺の事前準備もあり元々薄かった神殿勢の俺への反感を完全になくした。

 

そのお陰で俺の作成したアンデッドを忌避する住民はほぼいなくなった。

 

 

 

以上のことは俺が、エ・ランテルを統治する前に行われたことだ。

 

ラナーは、王女としての絶大な影響力を王国に保ったまま、俺に嫁いできた。

 

もはや王国はナザリックに支配されたといっても過言ではない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

王国以外の動きについて、

 

 

デミウルゴスのお陰で、帝国はナザリックに事実上支配されている。

 

 

法国と評議国は同盟者だ。

 

 

…嬉しいが、新規の『顧客』を手に入れなければならなくなった。

 

 

いずれ、『原作』どおりドワーフやクアゴアと交流すべきだろう。

 

 

俺は別に世界を征服したいわけではない。これは本当だ。

 

 

だが、事実上世界征服になっている。だから友好国を作りたい。何としても。

 

 

…霜の竜(フロスト・ドラゴン)は冷凍宅配便だ。

 

あのプライドの塊の利用法を考えたらそれくらいしか思いつかなかった。

 

 

素材に使用するにも、ナザリックにはドラゴンハイド等は腐る程ある。

 

ユグドラシル時代、俺が魔王スクロール販売所の利益を散財したせいだ。

 

毎日のように素材を無駄に買った。もう限りが見えない。

 

 

 

…ただ、原作同様にデミウルゴスにスクロール等の『牧場』を作らせている。

 

 

ナザリックには無限と思われる程あるとはいえ、『財』には限りがある。

 

 

ナザリックを、延いては『世界』を永遠に守るためには必要不可欠だった。

 

現地で確認した俺の不快感を察して、『牧場』はかなり配慮されていた。

 

 

そこに送られて来るのは、そうされても文句が言えない屑のみだ。

 

 

王国、帝国、評議国の極悪犯罪者の一部や竜王国のビーストマン等を入れている。

 

評議国の極悪人に関しては、ツアーに許可を取った。

 

 

ツアーは不快感を隠さなかったが、

 

俺の『牧場』の不快感を察してか逆に謝られた。…本当にすまない。

 

 

その結果には、プルチネッラ達も大喜びだった。

 

 

作成されたスクロールは第三位階魔法までしか今現在は込められない。

 

だが、効率重視のほぼ遊びがない日々の研究のお陰か、

 

もう少しで第四位階までのスクロールが完成するという。

 

 

俺の『魔王』のスキルで

 

第一~五位階の魔法が第六位階の魔法と同じ威力・効果になるというものがある。

 

俺は仕事の合間にスクロールに魔法を込めた。

 

もちろん取得してない現地魔法等は『賢者の呪帯』エルダーリッチに任せているし、

 

他のNPCにしか所有していない魔法。情報系魔法等は任せている。

 

 

『素材』を思い出し、心労が限界に来た時は、

 

 

スクロールに魔法を込めるのはパンドラズ・アクターに任せている。

 

 

パンドラズ・アクターは、威力は落ちるが『魔王』スキルが使える。

 

超越者(オーバーロード)化前の俺のスキルだから。

 

 

パンドラズ・アクターには世話をかけているが、

 

本当に俺を『父』と呼ぶことが褒美で良かったのだろうか?

 

それで十分であり、他には何もいらないと断言されてしまったため褒美を与えにくい。

 

 

 

『カタストロフ・サンドバック』へのストレス発散もとい、

 

毎日の超希少薬草の採取のお陰で、

 

この『世界』の技術だけで第六位階魔法相当の青のポーションの作成に成功した。

 

 

ンフィーレアが開発した。

 

ンフィーレアは、さらに開発済みの紫のポーション、

 

延いては赤いポーションにして見せると意気込んでいた。

 

 

青のポーションのため、保存(プリザベイション)をかける必要等があるが、

 

俺には紫色のポーションよりも成果だと思う。

 

 

ナザリックの『財』を『完全に使わない』高位のポーションだからだ。

 

 

もちろんンフィーレアにはそのことは伝えない。

 

ンフィーレアには、この第六位階魔法相当の青のポーションの量産を頼んだ。

 

ナザリックの技術を漏らさず、かつ再現できないポーションならば流通しても問題ない。

 

ンフィーレアにはせめて『名声』を与えたかった。

 

 

 

ナザリックに頼らない現地での『世界』対策のためにもあの『策』も考慮すべきだろう。

 

 

…これもツアーに反対されかねないのが懸念か。

 

 

『カタストロフ・サンドバック計画』から既に薄々勘付いているはずだが、

 

今のところ反対はない。

 

恐らく消極的賛成なんだろう。しかし、今までの軋轢もある。

 

 

俺がツアーの立場なら賛成できない。

 

俺が話し合いの場を設けるべきか。スルメさんでは少し難しいだろう。

 

 

どんなに『世界』のため奮闘したとはいえ、五百年近くこの世にいなかったのだから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ラナーについて話を戻す

 

 

俺が前の怒らせた件での謝罪を含めて、ナザリックに招待した。

 

喜ぶであろう最高の持て成しと前に考えていたプレゼントを送ったらラナーは喜んだ。

 

 

だが、途中、ラナーは激怒した。

 

 

…どうやら本気でクライムを吹っ切ったらしい。

 

俺には『執着』をなくすことが理解できなかった。

 

 

なので、謝った。そこまでの覚悟を踏みにじったことを。

 

 

…俺はラナーを『友』としか見ていないし、

 

俺がラナーを愛しているかは微妙だった。

 

 

その気持ちをはっきり伝えた。

 

俺なりの誠意として、関係が壊れると知っていても。恩知らずと罵られようとも。

 

 

…何故か、ラナーに哀れまれた。

 

いや、そうじゃないかもしれない。

 

俺はそんなラナーの表情は知らない。見たことがない。

 

 

「あなたは…壊れていますね。

 

 誰かが…いいえ、それで構いません。

 

 私をあなたの側に置きなさい」

 

俺が愛してなくても構わない。

 

そう断言したラナーは俺の側室になった。

 

…本当に良かったのか、未だに俺は疑問である。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

元々、エ・ランテル前から法国に襲撃された廃村は修復してあった。

 

手の空いているNPC達やシモベを動員すれば造作もなかった。

 

バレないように低位の隠蔽も含め行っていた。

 

エ・ランテルを支配した俺は、この村々を解放した。

 

 

エ・ランテルのスラムにいた住民を、家族持ちを中心にガンガン送り込んだ。

 

 

 

俺は、転移当初から救ったカルネ村に畑を使うことを『お願い』していた。

 

その他にも色々行っていた。

 

 

廃村を修復する。そして畑等での実験。他にもカルネ村地下でのとある実験。

 

 

これらは、俺がおかしかった頃、『原作』に即した経済支配案の下に行っていた行為だった。

 

 

エ・ランテルを支配できた結果、無駄ではなくなった。

 

 

おかしかった頃の『俺』の全力で、

 

畑等を利用したデスナイトやスケルトン、

 

魂喰らい(ソウルイーター)を用いた耕作等のマニュアルは既に完成していた。

 

 

俺が転移前に用意していた『農業』の本のお陰でもあった。

 

著作権が切れた物とはいえ『未来』の農業知識・方法が載っていた。

 

 

ジャンク部屋の空間を埋めるための本が役に立った。

 

 

カルネ村の農民からの情報と、魔法を使った即席栽培等の実験のお陰で、

 

一年で自給自足が可能という試算はでている。

 

 

人員となるアンデッドは俺とパンドラズ・アクターが用意した。

 

 

パンドラズ・アクターの作ったアンデッドは俺以外に変身すると案山子化してしまう。

 

 

その問題を解決したのは、何と『死の宝珠』だった。

 

 

エ・ランテル最初のズーラーノーンの事件で存在を忘れていた俺が、

 

道端で本当にたまたま拾って忠誠を誓われたインテリジェンスアイテム。

 

雑魚アイテムだったので、ハムスケに投げた。

 

 

 

『死の宝珠』は40レベル程度のアイテムだったのだが、

 

パンドラズ・アクター作成の『中位アンデッド』までなら操ることができた。

 

 

この『世界』では、ギリギリLv40までしか、

 

アンデッドを定着させることしかできなかった。

 

『死の宝珠』はおおよそLv40。その辺が関わっていると思われる。

 

 

パンドラズ・アクター作成アンデッド案山子化問題が解決された。

 

 

重要アイテムとなったのでハムスケから『死の宝珠』を取り上げた。

 

 

その代わりにワールドアイテムの効果を付与したら凄まじく喜んでいた。

 

 

『死の宝珠』曰く、人化してもなお俺の死の気配は凄まじいらしかった。

 

 

俺は、『死の宝珠』に「人間ではない」と断言された。

 

断言されたのが気になって調べたが、どういう意味かは断定できなかった。

 

 

 

エ・ランテルのスラムの住民にはこれらの知識を元に指導。

 

デスナイトやスケルトン、魂喰らい(ソウルイーター)等アンデッドを送った。

 

勿論、きちんと配慮して送っている。多少怖がられるのも考慮済みだ。

 

 

さらに、各村には俺が作成した『賢者の呪帯』持ちのエルダーリッチを派遣している。

 

第六位階魔法『大治癒(ヒール)』

第五位階魔法『死者復活(レイズデッド)』

第三位階魔法『重傷治癒(ヘビーリカバー)』

 

『賢者の呪帯』の初期設定三つを使い覚えさせた。

 

 

『賢者の呪帯』の研究の結果、

 

この『世界』では魔法を使ったりすると経験値が溜まることが判明していた。

 

 

そのため、エルダーリッチ達には、取得可能魔法枠が増えたら報告を義務付けている。

 

 

メッセージのスクロールを緊急連絡用も含めて何枚か持たせた。

 

村での治癒師がいると、ナザリックに感謝してくれるだろうという考えだった。

 

このエルダーリッチ達は、怖がられないように聖者を思わせるような恰好をさせた結果、

 

 

俺は神格化された。

 

 

『御伽噺』の『魔王』何だからわからなくもないが、もう本気で崇拝された。

 

 

現地の神殿勢力が塗り替わる勢いで。

 

 

カルネ村状態がどんどん広がっている。

 

 

 

 

この惨状に、精神がおかしくなりそうになった俺は一時逃げ出した。

 

もちろん、きちんと仕事は片づけて、代わりも用意しておいたが。

 

 



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第十話 コロンブスの卵

後日、ツアー「やっぱり同類だよ君たち」


法国の奥深くにある、神聖な、荘厳さを感じさせる神殿。

 

何時ぞや俺がスルメさんのギルド長就任演説という名で好き放題言ったあの地だ。

 

神聖さを感じるのに、入ってみたら畜生だらけでウンザリしたあの思い出。

 

 

俺が転移してからまだ一年たってないはずなのだが、

 

どうしようもなく、懐かしさを感じずにはいられない。

 

 

俺はつい先ほど、『神』扱いされて逃げだした。

 

だが、あの広まるペースから避けられないと確信し、

 

『死神』をやっているスルメさんに相談したかった。

 

 

供にはナーベラルを連れてきた。

 

 

冒険者モモンが活動を控えるようになったから、一緒に来てもらった。

 

ハムスケは置いて来た。今回は邪魔だからだ。それに事情もある。

 

 

 

ハムスケは与えたワールドアイテム『戦士Lv+1』の効果について、

 

同じ所持者コキュートスにトブの大森林内の湖で指導を仰いでいる。

 

あれは熱素石で作った簡易ワールドアイテムなのに魔法いらずで、かなり利便性が高い。

 

スキルの組み合わせの応用力が凄い。

 

 

『気探知』で周囲の感知が可能だし、『聖撃』で聖属性攻撃を加えられるし、

 

『パリィ』で攻撃を弾き、『気功』で回復しながら戦える。

 

 

俺みたいな魔法職だと、所詮Lv1なのであまり使いにくいが、

 

戦士職なら純粋に強化になる。

 

転移前に『戦士』として『戦闘』は学んだが、

 

それ以外も『魔法』いらずで、補える優れものだ。

 

 

現に護衛依頼では、『戦士Lv+1』のスキル『気探知』と俺本来の『不死の祝福』の組み合わせで、

 

ゴブリンからアンデッドまですぐに気配を察知して行動できた。

 

 

最初のズーラーノーン事件でも、カジット・デイル・バダンテールの虚をつけた。

 

 

コキュートスはリザードマン達と交流してトブの大森林内の湖の守護者になりつつある。

 

コキュートスには、新しい発見があったと言われていたのだが…

 

今回、『神』扱いで動揺した俺は、スルメさんと会う約束があると嘘をついてしまった。

 

後で埋め合わせをしないといけない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

神殿内に招かれた俺は早くも後悔した。

 

 

「フハハハ!『魔王』はともかく『神』扱いは嫌であると。

 

 いや、失礼をば…。『神』風情とは一緒にされたくはない。

 

 これは道理でありますな!…我が従者よ!この言葉をすぐに書き記すのだ!!」

 

いつもの人を揶揄うことに、命かけてそうな笑い声をあげて戯言をほざくスルメさん。

 

 

あ、これダメだ。何でこの人に相談しに来たんだ、俺。

 

そうこうしていると、スルメさんの少し後方で跪く気配を感じる。

 

 

「御心のままに」

 

薄黒いローブで身を纏い、黒髪の未亡人みたいな泣き黒子の美人。

 

スルメさんの従者、NPCだそうだ。

 

俺で言えばパンドラズ・アクターの立ち位置の存在だ。

 

 

その美人が『変態』の戯言を書き留める。

 

やめろと言いたいが、本当に嬉しそうに書き留めているので止めにくい。

 

 

でも、あのアク〇ズ教擬きの布教活動をスルメさんと一緒になってやるなよ。

 

アレ、『番外席次』がガチで凹んでいたからな。

 

母親よりも母親だった人がぶっ壊れたって。あれだけは『番外席次』が素だった。

 

 

ナーベラルは従者としての在り方に感服したのか、

 

彼女を尊敬の眼差しで見ているが、アレは真似しないで欲しい。

 

 

『漆黒の英雄』モモンの脇で、メモ書き込んでいるナーベラルとか見たくない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

先日、『変態』じゃない、『死神』を襲撃した『魔王』の俺である。

 

てっきり法国から嫌われているのではないかと思っていた。

 

 

ところが、俺が法国に来た途端、神官長達が全力で五体投地してきた。

 

 

…話を聞くと、暴走する『神』を止めるわけにもいかず、

 

このままだと法国の変革どころか国が亡びる寸前だったという。

 

 

スルメさんの伝えた真実の歴史とその後の大暴れっぷりに、

 

『人類至上主義』が成り立たないのは確信したらしい。

 

 

俺は、誰にも止められない変態共から法国を救った英雄らしい。

 

 

上層部からだけでなく、まともな知識人や見識ある民衆からもだそうだ。

 

 

俺、『魔王』なんだけど?どちらかというと『人間』の敵なんだけど。

 

 

もはやツッコミが追い付かない。思考を放棄して感謝の言葉を受け取った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「さて、我が盟主『魔王』様!…本題を聞かせてはくれませんか?」

 

ごめんなさい。

 

逃げ込んだだけなんです本当に。

 

 

とはいえ、用事はあった。

 

例の『カタストロフ・サンドバック』の件だ。

 

時期は早いが聞く必要がある。今回の法国上層部の反応を見ても悪くはない。

 

ツアーをどう説得するかだが。

 

 

「法国の反応を見てと思ったのだが…『世界』を守る先兵としての活動をする気は?」

 

まず、これが一番大事だ。

 

ナザリックも『世界』を守るのに協力するが、

 

『法国』としてのスタンスを確認したかった。

 

 

「フハハハ!笑止!我が宿命は『死神』!

 

 『世界』の敵に『死』をくれてやる者!

 

 …といいたいのですが、国規模となりますとまだまだ根が深い。

 

 我が友が健在ならともかく、私は現在、たった一柱。

 

 最低十数年はかかるかと…折角のご厚意を申し訳ありません。

 

 ここまで我が時代と変わっているとは思ってもいなかったのです…」

 

そう悲しげに謝るスルメさん。

 

やはり、まだ無理か…五百年の壁はそう簡単に再構築できるはずがない。

 

 

「そうですか…一応言ってだけはおきますが、

 

 俺はあの『サンドバック』で法国精鋭のレベルアップを計画していました」

 

Lv80台のこの世界の大物。

 

これを経験値にしたレベリングを俺は考えていた。

 

目論見は外れた。

 

『死神』として役目を果たそうとするスルメさんを見て元気も出たし、帰ろうとする。

 

 

ふと、後ろから声がかかる。スルメさんだ。

 

「魔王様。法国ではまだ無理でしょうが、この件を果たすべく必ず場を整えます。

 

 ですが、魔王国だけで取り組まれてはいかがでしょうか?

 

 おそらく簡易なものは計画済みでしょうが、宗教という物は強い。

 

 『魔王』アインズ・ウール・ゴウン様のためならば、

 

 『破滅の竜王』にも怯えぬ者が必ずいます。

 

 それについてはこの私、『死神』スルシャーナの名において保証します」

 

最後の戦いで一緒に着いてきてくれた『勇者』達がそうでした…

 

そう悲しげに呟くスルメさん。

 

 

…その手があったか。

 



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第十一話 頭がおかしい魔王様

ツアー「ええ...」
スルメ「ええ...」


俺はスルメさんの話を聞いてすぐさま『世界』を守る計画を一部変更した。

 

法国のような前から存在している精鋭を利用するのではなく、

 

『魔王国民』全体の底上げを重点に置くことにした。

 

 

いざという時、蹂躙されないために。

 

 

かつての八欲王時代では、無力な現地人が蹂躙されたという。

 

下手に力がない方が良いかも知れないが、無力からの絶望ほど恐ろしい物はない。

 

何より一人でも生き残り『誰か』に伝えることができれば、最終的に勝利できる。

 

情報さえあれば、ナザリックに敗北はない。必ず仇を取って見せる。

 

 

…少し熱くなった。スルメさんのことが俺の中で想像以上に大きいようだ。

 

 

そのためにも、レイナースとフールーダから強化計画ため色々聞く必要がある。

 

どのように強くなったか、育成してきたか、この世界の『強者』の意見は重要だ。

 

 

ユグドラシルとは違うのだから。

 

勉強すると魔法が使えるようになる帝国魔法学院というのが存在する時点で全然違う。

 

パワーレベリングの概念はあるようだが。スルメさんとツアーが言っていた。

 

 

現段階よりレイナースやフールーダには想定以上に働いてもらう必要がある。

 

 

レイナースが使う武技等の技術を教える。現地人に即したマニュアル化は必須だ。

 

彼女が『経験』を明け渡すことに、惜しむ気持ちがないのは忠誠心から察している。

 

だが、褒美を何か与えるべきだろう。自分の『財産』を渡せと言うのだから。

 

彼女は、無償の行為で裏切られる経験を重ねていたはずだ。かつての俺と同じように。

 

だから、形で示した方が安心できるはずだ。

 

 

フールーダにはリング・オブ・サステナンスを既に渡してある。

 

渡したら指輪にキスして気持ち悪かった。だが、あれ以上褒美は良くない。

 

現段階では無視だ。著しい成果があるまではそのままだ。

 

…決して逃げているわけではない。

 

 

 

レイナースには疲れないように『時飛ばしの腕輪』を渡しておこう。

 

ラナーも寄越せと言っていたくらいだし、

 

きっとこの世界の女性が気に入るデザインなのだろう。

 

 

何か、こう何か致命的にズレている気がする。

 

だが、ハムスターを怖がるのだからその辺の感覚は微妙に当てにならないことがある。

 

 

あと、正直フールーダのあの光景を思い出したくない。

 

 

最終日二日前まとめ買いしたせいで、かなり個数あるし、贈り物に最適なんだよな、腕輪。

 

効果もエンリの様子から確かだ。毎日元気だ。…やや羨ましい。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

参考意見として、パンドラズ・アクターにスルメさんの言う宗教的熱狂という物が、

 

現段階の『魔王国』の住民が如何ほどのものなのか聞いてみることにした。

 

 

俺と入れ替わりでカルネ村や支配した他の村の人々と接することが多かったからだ。

 

 

『漆黒の英雄』モモンとしてだ。

 

 

パンドラズ・アクターには『魔王』を恐れないよう、

 

安心させるために村々を巡回させていた。

 

 

ラナーのお陰でほぼ大丈夫だが、念には念を入れて聞き取り等を行わせていた。

 

 

そのため、『冒険者モモン』としての活動は控えるようになっていた。

 

恐らく『英雄』としてしかもう関われない。元々そうだが意味合いが違う。

 

できれば、モックナックやイグヴァルジ達と酒でも飲み交わしたかった。

 

もう無理だが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ええ…。言わなければなりませんか?」

 

パンドラズ・アクターは最近このように言い淀むことが多くなった。

 

 

…迷惑ばかりかけているせいだろうか。

 

 

とはいえ、今回は重大事項だ。

 

「すまない。言ってくれ」

 

思わず謝ってしまう。本当に迷惑かけているし。

 

 

「失礼しました!

 

 …カルネ村の住民は『覚悟完了』状態かと。

 

 理由さえ明らかならば皆死ぬ覚悟の狂信者です。

 

 モモンガ様の想定されている理由を告げれば、

 

 恐怖するでしょうが、『破滅の竜王』にすら挑みかかると思われます。

 

 上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)の私が保証します。

 

 本当に頭がおかしいレベルです。信仰というものは、宗教というのは本当に恐ろしいと実感しました。

 

 他の村は、流石にそこまでではありませんが十分異常です」

 

聞かなければ良かった。

 

だが、うん。『破滅の竜王』にすら挑みかかるのは頼もしい。

 

いや、本当…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

話は変わるが、ユグドラシルでは、

 

城以上の本拠地を手に入れたギルドの特典が二つ存在する。

 

 

一つはNPC作成権。

 

これは外装、AI、武装もいじることができ、種族やクラスをプレイヤーと同じように設定できる。

 

ナザリック地下大墳墓を運営する上で必要不可欠な人材であり、俺の、俺達の宝だ。

 

 

もう一つはPOPモンスター。

 

本拠地を守るNPCで三十レベルまでのモンスターが自動的にわき出る。

 

殺されてもギルドに出費があるわけでもないし、一定時間でまた復活する。

 

POPモンスターにはそれぞれ既定の維持費がかかり、アンデッドならゼロだ。

 

スケルトン程度であれば、維持費がかからない。大量召喚可能だ。

 

 

では、転移した『世界』ではどうなのか?

 

まず、物理的に不可能な量を召喚できる。

 

ナザリック外に出せばいくらでも可能だ。

 

俺はどこまで可能なのかと気になった。

 

...本当にアホなことを思いついたのだ。

 

 

カルネ村地下には、ナザリックでPOPするスケルトン達を大量に待機させている。

 

 

この世界でも維持費がかからないのかの実験のために、

 

限界はないか調査するためだけに。

 

 

…一応、村に何かあった時、最悪の奥の手、

 

時間稼ぎとしての戦力としての意味もあった。

 

 

だが、村に無断で地下に大量のPOPモンスターを待機させていた。

 

 

いや、正確には、

 

カルネ村のエンリにも元村長にも最初に言っている『実験のための畑等の利用許可』と。

 

詐欺師紛いだがちゃんと実験のための利用許可を取っていた。

 

 

ナザリック支配化の元廃村。村の地下にも同様の空間を用意していた。

 

 

実験結果、本当にスケルトン程度なら維持費がかからないことがわかった。

 

我ながら本当にアホなことをした。

 

 

しかし、今回はこれらが訓練として使えるのだ。実戦練習として。

 

こっそり各村で地下から出したとバレない様にすれば、簡単に訓練相手が用意できる。

 

いや、パンドラズ・アクターの話からすると地下のことを教えてもおそらく大丈夫だろう。

 

 

当時の俺は本当に頭がおかしかった。いや、今もかもしれない。

 



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第十二話 『武技』

強さを求め慢心しない『魔王』はついにこの『世界』の『武』まで飲み込む。
唯一の救いは、それがいくつく先が『平和』であることだ。


パンドラズ・アクターから衝撃の事実を聞いた俺は、

 

上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)達に完全催眠を施し、

 

俺に変装させて周囲の村々に訓練用スケルトンの存在を伝え、鍛えることを考えた。

 

 

ナザリックでは反対するかと思い、守護者各員にこの件について尋ねたところ反応は上々だった。

 

 

「モモンガ様を崇拝する者達です。寧ろ研鑽を積むことこそ義務にすべきかと」

 

アルベドがこんなことを言い出した。

 

 

「ええ、そうですね。アルベド。ただの『人間』とはいえ、彼らは云わば同志に近い存在。

 

 もちろん、モモンガ様が望まれるのであれば元々異議等ございません。」

 

デミウルゴスはそう言って含み笑いをしている。

 

絶対何か裏があるが、賛成のようだ。

 

とはいえ、ナザリックのためならば問題ないはず。...そうだよな?

 

 

他の守護者も変わりないようだった。

 

 

人間風情とかやや見下したところはあったが、俺のために鍛える姿勢は正しいそうだ。

 

 

コキュートスのみ言いたいことがありそうだったので、

 

尋ねてみたら先に話を進めるよう進言された。

 

 

…本当に皆、成長している。

 

素晴らしい反面、支配者としてやっていけるか不安になってきた。

 

…俺いらなくなってないか?本当に。

 

 

「素晴らしい。それでは計画が固まり次第、

 

 各村には上位二重の影に完全催眠をさせ、地下の存在を周知させるものとする。

 

 とはいえ、私が望むのは、飽くまで自己防衛の訓練の一環としてだ。

 

 …カルネ村への対応は私が行う。既に計画していることがあるので後で報告する。

 

 『魔王国』の民の生活を苦しめてまで求めてはいないことは厳命する。

 

 各村の『賢者の呪帯』持ちのエルダーリッチ達に先んじて報告を行い、

 

 混乱を避けるように思考を誘導するように命じろ。

 

 アルベドには各村の地下空間のPOPアンデッド数の管理を、

 

 シャルティアを始めとした『転移門(ゲート)』を使える者達には定期的に補充を頼む。

 

 今後、この『世界』の強者であるレイナースやフールーダ達には『訓練法』を確立させる。

 

 アルベド、デミウルゴス、コキュートスには、これらをまとめた計画案を私に提出してもらう」

 

パンドラズ・アクターにも頼みたいが、今回はこの三人にお願いする。

 

 

流石にパンドラズ・アクターを頼り過ぎたと先ほどのやり取りで自覚した。

 

 

とはいえ、この三人ならば俺が考えるよりも、上手くまとめてくれるだろう。

 

 

カルネ村は、本当に、覚悟ガンギマリなら、エンリに『アレ』をさせる。

 

さらに、カルネ村の村人達に『破滅の竜王』に挑ませる。

 

 

正直、パンドラズ・アクターの思い過ごしであってほしいと願ってしまう。

 

...パンドラズ・アクターが読み違えるとは思えない。

 

カルネ村の住民達は、安全第一で怪我人すらださないつもりだけど。

 

 

「そして、コキュートス。何か報告があるそうだな。

 

 話はとりあえずひと段落した。話してくれ」

 

先ほどから話したそうだったコキュートスに話を振る。

 

つい先ほど、俺はスルメさんと約束している等と嘘ついて報告を後回しにしてしまった。

 

多分、それについてかもしれない。

 

コキュートスには悪いことをしていたと反省する。

 

 

今度、アゼルリシア山脈での探検に付き合って貰うべきかもしれない。

 

竜とかクアゴアを脅…友好的な関係を築くためにコキュートスの圧倒的武力は必要だ。

 

 

そんな『友好国』や『友人』に行うことではない物騒なことを考えていると、

 

「申シ上ゲマス。

 

 私ガ、モモンガ様に頂イタ能力『戦士Lv+1』ニヨリ『武技』ガ取得デキマシタ。

 

 リザードマン達ノ技ヲ見テ、

 

 私モ出来ナイカ試シニ、鍛錬ニ取リ入レテ試シタトコロデキマシタ。

 

 ナザリックの防衛ノタメ、『武技』ヲ完全ニ知リタイト思ッテイタタメ気ヅケマシタ。

 

 最モ、私ガ至ラヌ身ノタメ、『斬撃』ヤ『要塞』等未ダニ初歩的ナ『武技』シカデキマセンガ。

 

 他ノ、ユグドラシル由来ノ者ハ、ドンナニ鍛錬ヲ重ネテモ不可能ダッタハズ。

 

 モモンガ様。今後、ナザリックノ強化ノタメニ、

 

 デスナイト等ニ『戦士Lv+1』ヲ与エ、鍛錬ヲサセル等スベキト存ジマス」

 

コキュートスからさらっと凄いこと言われた。

 

 

今後の防衛計画を丸ごと変える必要がある。重大な発見だ。

 

 

そういえば、俺は『武技』ができない前提で鍛錬をしていた。

 

 

『普通』の作成したデスナイトに『武技』を訓練させてもできなかったからだ。

 

 

人材確保も遅れていた。八本指の六腕は健在だが、王国支配に回している。

 

 

でも、『漆黒の英雄』モモンとして、

 

冒険者生活で何度も『武技』を何度も見ていただろう、俺。

 

 

いや、『英雄』として演出上、ほぼ一撃で決める必要があったから、

 

『武技』に見せかける必要がなかった。

 

 

完全に見落としていた。ヤバい。

 

本来、俺が一番先に発見していないといけない事案だ。

 

 

幸いコキュートスも防衛のため意識して鍛錬してようやく、

 

『武技』を取得できたことに気づいたようだ。

 

俺が気づかなくてもまだ問題ないといえばない。

 

しかし、それは『威厳』の問題だ。

 

 

ナザリックの『責任者』として想定すべき事案だった。

 

 

ナーベラルが『賢者の呪帯』で即座に異世界の『魔法』に気づいたように、

 

この世界の戦士、『武技』にも有り得るかもしれないと思いつかなかったのは、俺の失態だ。

 

もう少し俺に頭の柔軟さがあれば気づけたはずだ。

 

 

...各村の防衛戦力として数えるなら本来なら至急デスナイトを呼び戻し、

 

『戦士Lv+1』を与えるべきだろう。

 

 

 

でも、与えるだけでは『武技』取得できないみたいだしなぁ…

 

『武技』の訓練させたデスナイトとこっそり入れ替えるしかないか。

 

 

 



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閑話 覇王の朝

希望の朝。幸福な日常。


早朝、私はバレアレ家に来ていた。

 

ンフィーに以前、頼んでいたポーションを受け取りにきていた。

 

 

「ありがとう!ンフィー。これで村の人達の疲れを癒せるわ!」

 

ンフィーにお願いしていた。このポーション。

 

アインズ・ウール・ゴウン様から頼まれたお仕事の休みを使って作って貰った。

 

 

「そ、そうかい…それは良かった!」

 

顔を赤くするンフィー。気持ちを利用するのは心苦しい。

 

 

今回作って貰った、働きづめの村人のための、たくさんの『滋養回復用』ポーション。

 

 

訓練場の改修を何人かに『お願い』していた。それも少しだけ『急いで』。

 

 

嘘ではない。『村』に必要なことだから『急いで』貰っただけ。

 

 

誰もが納得している。この『村』を守る『訓練』の大切さは。

 

 

...『利用』したわけではない。『早めた』だけだ。

 

ただ、それは言わなくてもいい。

 

 

…ゴウン様が人間にもなれるのは知っている。『体』で知っている。

 

だからこそ、『成果』を上げないといけない。

 

 

『村』として、『村長』として、

 

ゴブリンさん達の『指揮官』としてできる私の『全力』は行っている。

 

 

両親の応援、何よりゴウン様より頂いたこの『腕輪』がなければできなかっただろう、

 

 

色んな事を学ぶ時間を確保することなど。

 

 

上に立つ者として必要最低限の知識、ブリタさんの冒険者時代の『経験』。

 

ンフィーの薬師、錬金術師としての『技術』。

 

ラッチモンさんの野伏(レンジャー)としての『知識』。

 

 

『経験』と『知識』、『技術』を用いてジュゲムさんたちと行った森での『実践』。

 

 

その成果は『村』にとって必要なものであり、必要なものになった。

 

 

元々強力だったジュゲムさん達は、『村』としての『戦力』の要にはなっている。

 

皆、私の大切な『家族』とも言える存在だ。

 

『村』に『溶け込めた』ホブゴブリンのアーグ君やオーガ達も含めて。

 

 

でも、足りない。

 

 

アルベド様は私のことを大切な『友人』と言ってくださるが、わかる。

 

 

『私』はそこで終わりだと。きっとアルベド様は思ってらっしゃる。

 

 

私は『人間』だ。『寿命』で終わるのは仕方がないだろう。

 

だけど…私はアルベド様より先んじている。

 

笑みが浮かびそうになるだが、ここはンフィーの家の中だ。

 

ここではダメだ。

 

 

...アルベド様が考えているであろう最終的な『勝利』なんて『人間』である私には関係ない。

 

全てを捧げるのに、女としての矜持に優劣等ない。

 

だから、私は『負けない』ことを選ぶ。

 

 

たとえ、私を思ってくれているンフィーを『利用』したとしても。

 

 

ルプーさんがンフィーのことを揶揄うのは、辞めてもらわないといけない。

 

 

ゴウン様が傷つくし、ンフィーだって働けなくなる。

 

 

ルプーさんもそれに気づいてくれたら、

 

きっと『私』の話も聞いてもらえるだろう。

 

 

ほんの少しだけ聞いてもらえばよい。

 

同じ思いを抱えた女の子なんだから。

 

 

きっと協力できるはず。大丈夫。

 

 

私ならきっとルプーさんとも『仲良く』なれる。

 

 

元々仲が良いのだから、ルプーさんは私を気に入ってくれているのだから、

 

ほんのもう少し『仲良く』なるだけ。

 

 

...『友達』って素敵な言葉だよね。ンフィー。

 

 

 

…いけない。これ以上は不自然だ。

 

「じゃあね!ンフィー。このポーションを『皆』に届けてくるね!」

 

そう言ってバレアレ家を後にする。

 

訓練場に向かう。働いている皆も喜んでくれるはずだ。このポーションは。

 

 

 

 

 

訓練場に到着した私は、そこで、

 

「ほう…中々良くできているな。訓練場は。特に的が」

 

ゴウン様が来てくださった。

 

 

ポーションのこと等忘れてしまう。

 

 

いや、忘れても村の皆は気にしないだろう。

 

『村』の恩人であり、『神』様みたいなお方のことなのだから。

 

 

「おはようございます!ゴウン様!」

 

私は幸せだ。今日一日が幸せだと確信した。

 

 

「お、おはようエンリ…朝から元気なのは良いことだ」

 

嬉しい。

 

でも、訓練場を見ていたということはそれに類する用なのだろうか?

 

 

「村の、いえ『魔王国』の訓練についていらっしゃったのですか?」

 

私は失礼を承知で先に尋ねる。

 

私にとっては大切でも、ゴウン様にとってはたかが『村』なのだ。

 

きっとカルネ村だから、お役に立てることがあるに違いない。

 

 

「あ、ああ。話が早くて助かる。実は…」

 

...私は、アンデッドの軍勢や『破滅の竜王』なんてどうでも良かった。

 

いや、ゴウン様のお言葉は絶対だ。だからどうでも良いわけがない。

 

それでも、私が、『村』の皆が、お役に立てる嬉しさ。

 

 

私は間違いなく、幸せだった。

 

 




ヤベェよ。この女...


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第十三話 やり過ぎ

後日、この件を聞いた反応。
スルメ「狂信者しかほぼいない村でパワーレベリングすればそうなる」
ツアー「ふざけるなあああああ!!!」


早朝から元気の良いエンリの察しの良さに驚いた俺はこれからすること全てを話した。

 

エンリは物凄く嬉しそうに絶対やると断言した。

 

 

…大丈夫だろうか。

 

 

エンリから説明を受けたカルネ村の連中、いや皆は、それは凄い覚悟の持ち主だった。

 

 

ブリタ嬢を除き、全村人、子供から年寄りまで『破滅の竜王』に挑むとか言い出した。

 

 

…パンドラズ・アクター。ヤバいわこの村。

 

 

子供と老人は辞めさせた。ブリタ嬢も普通に気にしないように厳命した。

 

 

何だろうブリタ嬢は、ガチの宗教団体に囲まれた一般人みたいな感じだった。

 

 

…ポーションの件は俺の自業自得だし、遠回しに何かフォローするべきかもしれない。

 

俺が行動した結果が、カルネ村だと思うとブリタ嬢には物凄く関わりにくい。

 

 

流石にこれだけいると困るので、

 

希望者全員に完全催眠で『破滅の竜王』を見せたが、怯えたのは一瞬だった。

 

 

『戦う者』の目だった。覚悟ガンギマリだった。

 

 

希望者を整理し、俺は『戦士Lv+1』を参加者全員に与えた。

 

ンフィーレアとリイジーには『賢者の呪帯』を与えた。

 

 

俺は、完全に拘束した『破滅の竜王』のHPをギリギリまで減らした上で、

 

『神器級』の弓等で射させるつもりだった。

 

 

 

ユグドラシル時代、ありとあらゆるところから略奪し、

 

解散したギルドから貰ったものだ。

 

我ながら碌でもない経歴だ。最後のは良い話だが。

 

 

 

かなりの個数があるが、それでも200人近くいる村人全員に分け与えるのは無理だ。

 

なので、ローテションを組んで、次の日以降に『山河社稷図』に入らせて、

 

『破滅の竜王』に挑ませることにした。

 

 

個人個人のレベルキャップが気になるが、

 

おそらく最大レベルにするのには十日もいらないだろう。

 

…カルネ村の皆の、あの勢いだと。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

カルネ村の皆とは違い、

 

エンリには、地下に潜ませていたスケルトン等1万体を相手にさせると告げた。

 

 

我ながら頭おかしいことを言ったが、エンリは俺が詳細を説明する前に同意した。

 

 

俺は流石にドン引きしてしまった。

 

 

 

俺は慌てて、エンリに『ゴブリン将軍の角笛』の真の効果を説明した。

 

 

 

説明を受けたエンリは、物凄く慌てていた。

 

これそんなにヤバいアイテムだったのかと顔に出ていた。

 

 

 

…そうだよな。

 

最初に会った時、俺慌てていたから角笛10個くらい入った袋で渡していたからな。

 

『真の効果』とか普通思わないよな。

 

大事にしていたのか、一個しか使ってないみたいだし。

 

 

 

大事にアイテムを取っておいてくれた俺は嬉しくなり、

 

エンリが『家族』と呼ぶゴブリン達にもワールドアイテムを付与した。

 

ゴブリン・リーダーを始めとしたゴブリンと狼たちには『戦士Lv+1』を与えた。

 

ゴブリン・メイジ とゴブリン・クレリックには『MP+500%指輪』の効果を与えた。

 

 

付与したらゴブリン・リーダーを始め全員に、

 

「不敬かもしれないですが、エンリ姉さんのことよろしくお願いします!」

 

と言われた。

 

 

...エンリも満更じゃないようだった。

 

 

…俺は過去に完全にやらかした責任は取るつもりだったので、了承した。

 

子供とか言われたが、流石に未成年は勘弁して欲しいとだけ言った。時間稼ぎだ。

 

俺はそもそも子供を作れるのか?人化しているとはいえそこは疑問だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

エンリは『ゴブリン将軍の角笛』の真の効果を発揮した。

 

総数5000を超える精強なゴブリン軍団が召喚された。

 

スケルトン等ものともせずにあっという間に駆逐した。

 

 

圧巻だった。俺も興奮した。アレは凄い。

 

 

ゴブリン軍師の巧みな戦術捌きは俺も大変参考になった。

 

正直、ユグドラシル時代を含めても、殲滅戦の理想だったと思う。

 

 

そんなユグドラシルでも見なかった光景にテンション上がった俺は、

 

 

十三レッドキャップスやゴブリン重装歩兵団、聖騎士隊等に『戦士Lv+1』を与え、

 

ゴブリン魔法支援団や魔法砲撃隊等に『MP+500%指輪』を与えた。

 

 

5000人超のゴブリン全員に、だ。

 

 

…流石にやり過ぎた。

 

 

自分でも超越者(オーバーロード)がここまでできることは初めてわかったが。

 

 

…俺はエンリのレベルを計測した。エンリはLv35相当になっていた。

 

 

多分まだ上がる。

 

 

俺のユグドラシル時代の経験則だと、

 

ちょうど戦わせたスケルトンを始めとする

 

アンデッドの経験値で増加する程度のレベルだったから。

 

 

多分、カルネ村ってプレイヤーの子孫の村かもしれない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

これは後でわかったことだが、元々いたカルネ村人はLv30台まで上昇した。

 

 

...本当にプレイヤーの村だった可能性が出てきた。今後調べるつもりだ。

 

 

とはいえ、流石にLv35以上はエンリを除きいなかった。

 

 

 

ンフィーレアとリイジーは魔法で攻撃させたためか魔法職でLv20過ぎになった。

 

二人には、それ以上はあげさせなかった。

 

まだ上がりそうだったが、研究のことをその時になって思い出した。

 

ここは判断ミスだったと思う。

 

 

 

カルネ村外から来た村人は低いとLv10でカンスト。

 

高くてもLv20前後でカンストした。

 

 

ナザリックからNPCを呼んで『職業』を調べた。

 

 

するとレベルの法則がおおよそわかった。

 

この世界では、やはり、これまでの『経験』からレベルが上がる。

 

 

ほとんどの村人は、ファーマーという謎クラスがカンストしていたりした。

 

恐らくそのまま『農民』という意味だろう。

 

コック等の生産職もあった。

 

 

それ以降のレベルはアーチャーが主体だった。

 

セイクリッド・アーチャーとかもあった。これは俺も知らない。

 

 

『破滅の竜王』の安全が確保された、

 

カルネ村後続組には『剣』や『槍』等を使わせてみた。

 

 

結果、戦士(ファイター)等の基礎の他、

 

サムライとかケンセイ等の上級職まで含まれていた。

 

レベル60必要なはずで本来取得できない上級職等もあった。

 

 

ただ、レベルだけ高くなっても良くないので技術や経験をマニュアル化した物を送った。

 

訓練を積めば一流の戦士達だ。

 

エンリはLv43でストップした。ほぼ指揮官系統の『職業』だった。

 

 

 

もはや、カルネ村戦力だけで人類征服可能かもしれない。

 

法国には番外席次がいるし、第一席次もいるから無理だが。

 

『破滅の竜王』に挑める狂信者がカルネ村で止まるように俺は信じてもいない『神』に祈った。

 

 

 

あのエレアの顔を思い出した。

 

ニヤリと笑った。

 

 

 

 

数年後、『魔王国』中がレベルがカンストした住民だらけになることを俺は知らない。

 

その頃には、レベルアップマニュアル化が完璧だったので、

 

屈強な戦士、魔法使い、聖騎士、野伏等が国中に満ち溢れた。

 

 

ツアーに滅茶苦茶怒られた。

 




モモンガ様はリイジーのことを老人扱いしていません。
変態枠で扱っています。
なので『破滅の竜王』にも挑ませています。


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閑話 籠の中にいた姫君

愛されなくて構わない『化け物』はせめて『答え』を求める。
...その先に何があっても構わない。もう既に『全て』をもらったから。


そのときは、突然やって来た。

 

 

私は、すぐに城の異常に気が付いた。

 

 

メイドも、兵士も、愛する『クライム』すら、感じない。

 

城内の自室にいるはずなのに、そこでない空間。

 

まるで世界が切り離され、『時』が止まったかのようだった。

 

 

そこで『私』を私に変えた、変えてしまった『彼』と初めて出会った。

 

 

突如現れた楕円の闇から出てきた『何か』。

 

 

「初めまして…『鳥籠の姫君』」

 

『私』は、『彼』を『化け物』というよりも物語にでてくる『魔法使い』のように感じた。

 

 

「初めまして、あなたのお名前は?」

 

驚きはしない。有り得ないことが既に起こっていたから。

 

 

「我が名は『アインズ・ウール・ゴウン』。...恐ろしい『魔王』さ」

 

そうやって、『魔王』と『私』は出会った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『魔王』は『私』を『完全』に理解していた。

 

 

有り得ない『経験』だった。

 

 

全てを理解し、『クライム』の『愛』まで見抜かれた。

 

いや、『知って』いた。

 

 

『魔王』の言葉が、『私』を引きはがしていく。一枚一枚丁寧に。

 

『魔王』は『私』に『姫』という『役』を捨てざるを得なくさせた。

 

 

全てを奪われた『私』は、『クライム』の『愛』を否定されるのかと思った。

 

『魔王』は『私』の『世界』を奪いに来たのだと思った。

 

 

ところが、

 

「『鳥籠』から出たか…ならば、もう一度だけ『世界』を見に行こう。

 

 きっとそれは楽しくて、美しい『世界』だ。誰も君の『愛』を否定しなくなるだろう」

 

『魔王』はそう言って『私』に手を差し伸べた。

 

 

『私』の『愛』は全力で『魔王』に肯定された。

 

誰にも理解されないその『愛』を。

 

 

…『魔王』に『世界』を見に行こうと誘われた。

 

だから、手を取った。きっと楽しいはずだから。

 

 

『彼』はここまで『私』を理解していたから。

 

 

 

『私』はそこで初めて、私になれた。

 

 

 

『彼』は『魔王』というよりも『魔法使い』だと改めて、私は思った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『魔王』と名乗る『彼』は私を全力で『世界』に解き放った。

 

 

楽しかった。綺麗だった。愉快だった。

 

私は『世界』を楽しんだ。

 

 

...楽しみ過ぎて、私の大切な、大切だったはずの、『クライム』のことを、時折忘れるくらいに。

 

 

 

そのことに気づいてしまったとき、私は怖かった。

 

…初めから『魔王』はこれが狙いだったのかと震えた。

 

 

私は『クライム』のことを『執着』と理解してしまった。

 

 

誰からも認められない中で、私が初めて見た『世界』だったから。

 

誰も認めないであろう『世界』に、『私』は『クライム』に『執着』したのだ。

 

 

だが、どんどん『世界』が広がっていく。

 

『クライム』が『世界』の一部になっていく。

 

…私が『私』でなくなっていく。

 

 

『私』の『執着』が無くなっていく。

 

 

 

怖かった。

 

それ以上に『魔王』に、側にいて欲しかった。

 

 

 

だから、『私』は偽りの『愛』に逃げた。

 

 

それが『魔王』の狙いだったとしても、

 

『私』は『恐怖』で『愛』に逃げざるを得なかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

そんなある日、いつものように『魔王』と『私』はお茶会をしていた。

 

 

『私』は、『恐怖』を隠す。完璧に。

 

『自分』すら騙す。気づけない。

 

『彼』にいなくなって欲しくないから。

 

 

心の底から楽しんでいた。

 

 

全ては『愛』のために。

 

『魔王』が望んでいるであろうと思った『私』を演じていた。

 

 

 

ところが、

 

「なぁ、聞きたいのだが…」

 

『魔王』が心底疲れたような声を出して聞いて来た。

 

こんなことは今までなかった。

 

 

「何ですか?」

 

わからない『私』は素直に尋ねた。

 

何を言われるか怖かった。

 

もはや『魔王』が『愛』を望むなら、その『世界』に閉じ籠っても構わないほどに。

 

 

 

ところが、

 

「何でこんなに私を…こう何度も呼ぶのだ?

 

 いや本当に。結構忙しいのだから控えて欲しいというか、その…」

 

私は『理解』した。

 

 

私の『恐怖』が全く無意味だったことを。

 

偽りの『愛』などいらなかったのだと。

 

私の、本当の気持ちで良かったのだと。

 

 

だから、私は心の底から笑って言った。

 

 

「そういうところは、クライム以下なんですね!」

 

私は完全に『執着』も『恐怖』もなくなった。

 

 

何て馬鹿らしい。何故気が付かなかったのか。

 

 

この『魔王』はただの『お節介焼き』だ。

 

そう確信して、心から笑って、

 

…『世界』を改めて、全てを心から受け入れた。

 

 

 

それからの私は『全力』で遊んだ。

 

国を、貴族を、『世界』の全てを相手取り、遊びに遊んだ。

 

『お節介焼き』の『魔王』は渋りながらもそれを手伝った。

 

 

本当に楽しかった。

 

 

もうここで『時』を止めてしまいたいほど美しい『世界』を知った。

 

 

『物語』の悪魔に命を捧げて、死んでもしまっても良いくらいに。

 

こんなに楽しいのは、生まれてから初めてだった。

 

 

…だから、私は『魔王』に『全て』をあげた。

 

もう欲しい物なんてどこにもなかったから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ところが、

 

「なあ…何故、名実ともに『クライム』と結ばれる道を選ばないんだ?」

 

私は呆れ、そして激怒した。

 

 

私でも意味がわからないくらい激怒し、『村娘』と同じ『腕輪』を寄越させた。

 

…嫉妬だった。

 

 

もう、私は彼を愛しているとわかっていた。

 

…手遅れなまでに。

 

 

その後も、何をやっても理解できないこの男。

 

私の望む『全て』を与えておきながら、肝心なことがわからないこの男。

 

 

私は完全にプライドを捨てて、叫んだ。

 

「わからないのですか!私はあなたを愛しているのです!」

 

彼の反応は、知らないものだった。

 

 

私を愛していないだけならわかる。

 

 

別に愛さなくても良い。

 

だって私は彼を愛しているのだから。

 

他にはいらないもう十分だ。

 

 

だが、

 

「俺は君を愛しているかわからない」

 

この言葉で『彼』を真の意味で理解した。

 

 

彼は『自分』を愛していない。

 

 

最初から壊れている。

 

愛していないなら『わからない』とは言わない。

 

…少なくとも私の知る彼ならば。

 

私を『友』として見ているというが、愛しているかは『わからない』という。

 

 

少なくとも、私に嘘を言っていないと確信できる。

 

この『答え』が誠実なものだと理解しているから。

 

 

そう、彼は『誠実』に答えている。

 

 

彼が『人間』になれるのはもう知っているし、彼はもはや隠そうともしていない。

 

 

だから、確信できた。

 

彼は『自分』を愛せない人なのだと。

 

 

だから、私は側にいることを決めた。

 

彼の壊れた『心』を癒せる者を求めた。

 

彼が愛しているか『わからない』、私では無理だから。

 

 

『魔王』を倒すのではなく、救う『勇者』を願った。

 

 

『御伽噺』でもあり得ない『それ』を待つ。

 

 

それまでは側にいよう。たとえ愛されていなくても。

 

彼からもう一度『答え』が聞けるそのときまで。

 

生きている間に来るかわからない『勇者』を待ち続ける。

 

その先にある『答え』で、私がいらないならそれはそれで構わない。

 

 

だって私はもう十分、幸せだったから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

あの時、私はようやく気がついた。

 

 

『勇者』はいた。それも彼のすぐ側に。

 

 

ならば、私は行動するだけだ。

 

 

 

「あなたが彼の『息子』だというのならば…『父』のために行動しなさい」

 

目の前の、彼の『息子』に『策』を告げる。

 

それが彼の望みとは反するかもしれないが。

 

 

私はあの時の『答え』さえ聞ければよい。

 

 

…他には何もいらない。この『策』に全てを捧げよう。

 

 

「おお…」

 

仰々しく天を仰ぐ、彼の『息子』。

 

もう既に彼の答えはわかっている。

 

 

「Wenn es meines Gottes Wille!」

 

そう言い放ち、突然敬礼をし始める彼の『息子』。

 

 

…何を言っているのか全然わからなかった。

 

この『親子』は本当に、いつも私の予想を外させる…

 

 




????「ドイツ語はやめろぉ!」


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第十四話 白と黒の愛憎

『人間』の『狂気』を見た『魔王』は『絶望』する。
しかし、自らの過ちを受け入れざる負えなかった。
自分の『思い』が重なるために。



「俺は君を愛せない」

 

俺は確信した。

 

俺は、目の前の少女、いや『女』を決して愛せないと。

 

 

「ええ、知っているわ」

 

女は、俺の言葉がわかっていたとばかりに笑い飛ばす。

 

 

「『死の神』すら『私』を友の唯一の子孫と言いながら、

 

 決して受け入れてくれなかった。『側』においてはくれなかった。

 

 だって、私は『勇者』なんかじゃない。『人間』ですもの」

 

この女が『人間』というのは、比喩だ。

 

恐らくこの『人間』は、

 

『力』だけを誇示した『八欲王』を指している。

 

 

「でも、あなたは違うでしょう?

 

 私に『世界』を魅せつけた。色んなことを経験させてくれた。

 

 それでもなお、私の最初の思いはより強くなった。だから私はもう取り繕わない。

 

 …あなたは、私を愛していなくても『側』に置いてくれるでしょう?」

 

目の前の女は、『俺』のことを『完全』に理解し、そう断言した。

 

 

…合っている。

 

『俺』は『番外席次』を愛してなくとも、『側』に置くだろう。

 

たとえ『嫌い』な『人間』でも。

 

 

「子供のころ読んだ『御伽噺』からずっと想っていた。

 

 その『存在』が目の前に現れた。

 

 だけど、私はあなたの真実を知っても絶望しない。

 

 

 だって、あなたは『優し過ぎる』のですもの。

 

 

 …それなら嫌われようが構わないわ。私はあなたを愛している。

 

 ずっと『側』に入れるなら、嫌われようが知ったことではないわ」

 

そう言い切って、『彼女』は去って行った。

 

 

言いたいことだけ言って去った。

 

俺は『彼女』に、二度『完敗』した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

先日のカルネ村の実験が終了して数日後。

 

散々やらかした俺だったが、色々『成果』があった。

 

それと同時に、本当に、非常に不味い大発見があった。

 

 

それは、リイジー・バレアレの『発見』であり、『成果』だった。

 

 

 

俺は『破滅の竜王』戦で、リイジーには『賢者の呪帯』を与えていた。

 

 

 

リイジーは『賢者の呪帯』を使い、

 

失われた『禁忌の薬神』という伝説の存在。

 

その『名』と似ている『魔法』を発見したらしい。

 

 

その『魔法』と『例の薬草』で『青』のポーションを作ったという。

 

その『魔法』は、ナザリックでは詳細不明の『魔法』のため解析中だった。

 

 

この報告で過去の偉人が開発しながらも歴史から失われた『魔法』すら、

 

『賢者の呪帯』は取得可能ということが確定した。

 

 

カジータ達からその推測は元々報告されていた。

 

 

『商人』セバスや『英雄』モモンから始まり、最大の『個人』フールーダ。

 

『魔王国』が正式に誕生してから、この世界の『国家』規模で『魔法』を調べていた。

 

 

どんなに『現地』で調べても出てこない、見つからない、推測できない『魔法』が、

 

『賢者の呪帯』の取得可能な『魔法』の中に存在するというのはほぼ確定していた。

 

 

 

リイジー曰く、『禁忌の薬神』に似た名前の『魔法』があったらしい。

 

低レベル帯のリイジーだったが、

 

『破滅の竜王』との闘いで膨大な『経験値』を手に入れていた。

 

 

そう、『賢者の呪帯』がレベルアップするくらいに。

 

 

高レベルのナザリックでは『賢者の呪帯』の『経験値』を稼ぐのは困難極まる。

 

ところが、低レベルならあっという間に『経験値』が溜まった。

 

 

…発想がなかったわけではない。

 

ただ、『破滅の竜王』という手段を見過ごしていた。

 

 

 

今後は、ナザリックに所属するエルダーリッチ達も『破滅の竜王』と戦わせるべきだろう。

 

 

 

それはともかく、

 

リイジーは『賢者の呪帯』に初期設定の3つとそれに15個、

 

計18個魔法取得枠ができたという。

 

 

 

俺は魔法取得については、リイジーに好きにしたら良いと放置していた。

 

専門外の俺が何かを言うよりも、違う『世界』のナザリックが指摘するよりも、

 

この『世界』のリイジーに任せる方が、研究も捗るだろうと思ったからだ。

 

 

そのため、リイジーはその『禁忌の薬神』の『名』のあった『魔法』を取得した。

 

 

その『魔法』と『破滅の竜王』の薬草を用いて作ったという

 

『青』のポーションをナザリックに提出した。

 

 

 

その『ポーション』は、もはや『ポーション』の枠を超えていた。

 

 

 

それは、『蘇生』のポーションだった。

 

しかも、ンフィーレアの開発したポーションと同じ効果。

 

第六位階魔法相当の回復効果付きの。

 

 

 

俺は全力で秘匿するように厳命した。

 

 

まず、真っ先に『回復』を司る神殿勢力が敵にまわると確信したから。

 

 

第六位階魔法相当の治癒のポーションでもギリギリなのに『蘇生』までできたら、

 

もう『薬師』の範囲を逸脱し過ぎている。

 

 

圧倒的な『個人』の力ですらない『汎用性』のあるポーションだから。

 

 

自国の魔王国ですらまだ広められない。

 

現在の許容『範囲』を完全に逸脱した『ポーション』だった。

 

 

 

俺が、『道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)』でそのポーションを調べたところ、

 

 

『蘇生』の効果は、第五位階魔法『蘇生(リザレクション)』以下の効果のポーションだった。

 

流石に『蘇生(リザレクション)』までは再現できなかったらしい。

 

それでも十分脅威だが。

 

 

いずれ『神の血』のポーションにしてやると、

 

凄まじい『覇気』を飛ばすリイジー。

 

明らかに、寝不足でテンションが振り切れていた。

 

 

 

もうこれだけでお腹いっぱいなのだが、もっと凄いことに気が付いた。

 

といってもこれは可能性でしかないが。極低い可能性。

 

 

 

現地の青いポーションが『ナザリック』でも作れる可能性だ。

 

 

もちろん、非効率的過ぎて割に合わない。

 

この『世界』の住民に任せた方が遥かに有意義だろう。

 

さらに言えば、ユグドラシルの者達、

 

つまり『ナザリック』では新しい『魔法』は開発できない。

 

 

だが、『賢者の呪帯』持ちを複数用意すれば、

 

現地の技術をナザリックで再現することが、

 

一種のポーションに限定すれば可能かもしれない。

 

 

現地の『魔法』で開発されたというポーションを見て、

 

知った三種類あるポーションの内一つ。

 

 

『薬草』を用いないこの『世界』の青のポーション。

 

『錬金術溶液』とこの『世界』の『魔法』を用いたポーションならば、

 

『ナザリック』でも製作可能かもしれないと思った。

 

 

リイジーはこのポーションを作るのに際して、

 

『破滅の竜王』の『薬草』を除けば、

 

『魔法』と既存の『錬金術溶液』しか使っていないと言った。

 

 

もちろん、ユグドラシルとこの『世界』ではポーションを含む生産職の『技術体系』はまるで違う。

 

 

なので、失敗する可能性の方が高いと思われる。

 

それでも確実に研究の必要はある。

 

 

 

当初の計画よりも、早期にナザリックの『財』を一切使わない。

 

『世界』を『現地』で出来る限り守る『計画』。

 

その『計画』が大幅に更新されるかもしれない大発見だった。

 

 

 

この発見をしたリイジーの『褒美』を俺はとても悩んだ。

 

 

今後のナザリックの研究結果次第では、

 

リイジーを若返らせることすら検討するくらいだからだ。

 

 

リイジーは『ナザリック』の、この『世界』の『重要人物』になった。

 

今までもそうだったが、それより遥かに。

 

 

もちろん今後、同じことができるようになるンフィーレアも含む。

 

だが、ンフィーレアが『発見』したわけでも『開発』したわけでもないので、

 

ンフィーレアには『褒美』を渡せない。

 

 

ンフィーレアには、

 

第六位階魔法相当の青ポーションの作成という『名誉』を与えるのが精々だ。

 

 

 

...なので、リイジーには『時飛ばしの腕輪』を与えた。

 

『功績』に見合わなくて申し訳ないが、先ずは手付みたいなものだ。

 

『腕輪』は本当にかなりあるから問題ない。

 

寝不足のリイジーには、体力回復のために無難な『褒美』だった。

 

 

 

俺は、ふとリイジーに『禁忌の薬神』に聞いてみた。

 

この『世界』に、こんな凄い『技術者』がいたなら、

 

『ユグドラシル』に対抗できてもおかしくないと思ったからだ。

 

 

 

リイジー曰く、『ローブル聖王国』ではそこそこ有名な話だそうだ。

 

とはいえ、人気がなくて最近では誰も語りたがらない昔話。

 

『薬師』の間では少し有名な昔話。

 

陽光聖典からは得られなかった『他国』の昔話だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

およそ200年前、万物を極めたという『薬師』がいた。

 

 

その『薬師』は無償で人々の傷を癒した。

 

 

その者は、『死者』すら、生き返らせる薬を作ったという。

 

 

ところがそれが『神』の怒りを買った。

 

『薬師』の癒す薬は毒となった。多くの人々を苦しめた。

 

 

『薬師』は人を救うと宣うだけの、汚染された言葉を吐くだけの『禁忌の薬神』となった。

 

しかも、『薬師』はそれを望んでいた。

 

もはや、かつての面影などどこにも存在しない。

 

 

見る者全て汚染する。その変わり果てた姿を見たという

 

当時の『ローブル聖王国』の『王』は、

 

『神』の火で『禁忌の薬神』を焼き払ったという。

 

 

国中の誰もが喜び、『王』は『聖王』として『神』に認められた。

 

『聖王国』は『神』に祝福された『国』となった。

 

 

めでたし、めでたし。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

この話を聞いた俺は、怪しんだ。

 

絶対に違うと確信した。してしまった。

 

何故かはわからない。

 

これが、恨みで『世界』を呪った『薬師』の、

 

本当の話である可能性もなくはないはずなのに。

 

 

 

真っ先に、当時の事情を知ってそうなフールーダに話を呼び出し、話を聞いてみた。

 

 

フールーダ曰く、「世情で殺された偉大な先人」だそうだ。

 

…268歳のフールーダが言う先人となると大分年寄りだったに違いない。

 

我に返り、フールーダに続きを促す。

 

 

フールーダは『薬師』の噂を聞きつけ、

 

帝国から聖王国への使者として向かったという。

 

 

ところがもう既に『薬師』は処刑されていたという。

 

 

明らかに、神殿勢力が、当時の政治が『薬師』を殺したと確信したフールーダは、

 

それ以降『魔法』に関することだけにのめり込んだそうだ。

 

 

『薬師』の偉大なる英知に触れられずに死んだことを後悔したという。

 

 

…正直、フールーダの今までの行いから、それが無くても変わらないような気がした。

 

 

現に、『魔法』を研究させているが、

 

この『魔法』について未知の『魔法』としか報告していない。

 

良く考えれば、類推できる名前の『魔法』なのに、だ。

 

 

 

俺は、フールーダに別にやることを任せていた。

 

俺はフールーダに現地の情報系魔法を研究させていた。

 

ナザリックの様々な『隠蔽工作』に万に一つがあってはいけないから。

 

だから、後回し、若しくは気づかなかった可能性が非常に高い。

 

恐らくそうだろう。というか、俺の采配ミスだ。

 

 

それを含めても、フールーダは『薬師』の件を『過去』として明らかに割り切っている。

 

 

これ以上、俺の求めている『話』は聞けそうになかった。

 

 

今後、そういう『話』があれば報告するように命じた。

 

 

…何個かあるらしい。

 

聞けば任せていた研究以外のことばかりだった。『魔法』に関係ないこともあった。

 

もっと前に言えよと思った。

 

…どう考えても、最初の、俺の聞き方が悪かったのだが。

 

気持ち悪くて関わりたくなかったのが仇になった。

 

今後はフールーダとしっかり向き合おう。

 

…嫌だなぁ。

 

 

 

どうしてもこの『薬師』の件が頭から離れない俺は、『法国』に問い合わせようとした。

 

 

まだ、スルメさんを除き信用できないところがあるが、

 

それでも『薬師』について知りたかった。

 

 

何故かはわからない。

 

 

そこに、

 

「法国に聞きたいことがあるなら、私に聞けば良いじゃない?」

 

『悪ガキ』が現れた。

 

 

最近、どこからか急速に悪知恵をつけている『番外席次』は正直相手にしたくない。

 

 

 

だが、道理なので聞いてみた。

 

後にそれをずっと後悔することになったが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『禁忌の薬神』は、本当に『善人』だったそうだ。

 

 

それもこの『世界』の『逸脱者』。

 

 

フールーダに相当する第六位階魔法の使い手であり、『薬師』だったという。

 

 

傷ついている人々が入れば助けに行く『善人』。

 

『亜人』すら、対話が可能なら治癒したそうだ。

 

だから、当時の法国がいくら招致しても靡きもしなかったという。

 

 

自らの『信念』と違うから。

 

 

そんな『善人』は、『聖王国』が亜人達に襲われているのを聞いた。

 

『聖王国』を助けに行ったという。

 

 

ここまでは良かった。

 

 

問題は、波乱に満ちた『聖王国』に定住してしまったこと。

 

フールーダのように『魔法』で寿命を延ばせたこと。

 

『聖王国』で国家総動員令が発動された『大戦争』が終着するまで『聖王国』にいたことだった。

 

 

『大戦争』が終わり、

 

ついに『神』の奇跡である『蘇生』すら可能なポーションを上層部に提出した『薬師』は疎まれ始めた。

 

 

端的に言って『聖王国』の、今後の『平和』の邪魔になった。

 

 

国家の土台として『宗教』で纏まろうとしていた当時の『聖王国』にとって。

 

 

『薬師』は邪魔でしかなかった。その有益性を考えても。

 

...浅はかな考えだとしか俺は思わなかったが。

 

 

『薬師』は人間だろうが亜人だろうが癒す。

 

亜人が、『敵』でなくなったから改めて対話を求め始めた。

 

助けたはずの『民衆』からも不快に思う者がいたという。

 

 

これは『薬師』の短慮だと俺は思う。

 

 

そこで『聖王国』は、『薬師』の薬に毒を混ぜ込んだ。

 

正攻法では排除できないから。

 

 

自ら助けた『国』からの仕打ちに『薬師』がようやく『真実』に気づいたころには、

 

『聖王国』中の誰もが信じてくれなかったという。

 

国中の、誰からも『憎悪』されていた。

 

 

『薬師』が、処刑が実行される前に、

 

法国が貴重な人類の『戦力』を守るために動いたが、完全に遅かった。

 

 

『薬師』はこの『世界』の全てを『憎悪』して死んでいった。

 

『遺体』を回収した法国が行った『蘇生』すらも拒んだという。

 

 

それ以来、元々『宗教』の違いで仲が悪かった法国と聖王国は完全に互いを見限った。

 

 

しかも、『聖王国』は全ての事実をもみ消した。

 

『薬師』を『悪』と断罪し、『禁忌の薬神』として国中に広めた。

 

 

これは、もはや法国の神官長等ごく一部の上層部だけが知る歴史の事実だという。

 

 

…胸糞悪かった。過去の話とはいえ俺は『聖王国』が嫌いになった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

話が終わった。

 

 

『番外席次』の話を聞いて何も言わずに、沈黙する俺。

 

 

そんな俺の様子を見た『番外席次』は、こんなことを言い出した。

 

 

「だから、あなたは『世界』なんて救わないで、私を孕ませて。

 

 その子を孕ませて、それを繰り返す。私達の子を『世界』中に満たしましょう。

 

 …こんな汚れた連中がいる『世界』を、一々救うよりずぅーと早いわ」

 

目の前の少女は、いや女は『本気』で言っていた。

 

 

「ふざけるなよ」

 

俺はそれしか言えなかった。

 

…怒りすら感じなかった。

 

 

「本気よ。

 

 だって、あなたに連れられて『世界』を見たけど…大多数はつまらないわ。

 

 だったら、あなたと私で『世界』を満たした方が早い。

 

 私とあなただけいれば『世界』は救えるわ」

 

本気で言っている。間違いない。

 

 

この『女』は『俺』に『執着』している。

 

 

もはや『彼女』を治せないと俺は確信した。

 

 

ふと、思った。

 

 

「俺のせいか?

 

 …俺があの時、『力』を見せつけたせいか?」

 

『番外席次』ならば、そうあってもおかしくない。

 

 

うろ覚えな『原作』ならば有り得るかもしれない。

 

 

だから聞いた。どうか違うことを祈って。

 

 

「ええ、そうよ。あなたのせいよ」

 

断言した。

 

目の前の女は許せない。

 

 

だが、俺のせいだとはっきり言った。

 

 

…せめて俺は、はっきりと『彼女』を否定した。

 

 

 



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閑話 白と黒の共演

舞台裏。友達。最低限のみ求めるものだけは一致した。


「私は愛されないのね」

 

少女は求めた答えを聞く。

 

 

知っていた。自分の歪みはもはや治らない。

 

 

それを伝えても、彼は自分を愛せず、これ以上は苦しませるだけだろう。

 

 

ならば、全てを捧げよう。その先の『勇者』とやらに。

 

 

「そうですね。無理です。

 

 全てを偽れるならきっと『勇者』になれるでしょう。

 

 ですが、それは『魔王』を倒せますが、救う『勇者』にはなれない」

 

王女は語る。

 

 

倒せるが救えない勇者など自分も少女も望んでいないことを知っている。

 

 

言わば運命共同体。知らないならそれでよかった。

 

 

だが、知ってしまった今もう止めることはできない。

 

 

全てはたった一人のために、『本心』から言うだけだ。

 

 

少女には全て打ち明けた。

 

少女は愛されないとはっきり告げた。

 

 

「そう、ならば私は『人間』で良いわ」

 

『力』を誇示するしかできないことは少女にはわかった。

 

 

これまでの歪みは絶対矯正できない。

 

『世界』を魅せつけられようとも、吐き気がするものを先に知ったから。

 

 

少女は『世界』を愛せない。致命的に理解し合えない。

 

 

ならば『彼』の嫌う『人間』であろうと決意する。

 

 

本当の自分をさらけ出すのに躊躇はない。

 

 

私は彼の『側』にさえ入られれば良い。

 

 

『世界』は確かに素晴らしかったが、それ以上に酷い『世界』を自分は知り過ぎた。

 

 

もう手遅れだった。

 

 

彼に言えば無理をするだろう。

 

結果、何もかも失うだろうことはわかった。

 

 

私は救われるが、彼は絶対救われない。

 

 

ならば、完全にぶちまけて愛されないことを心から願う。

 

 

「私は幸せだった。『側』に入れるだけで十分」

 

もはや、いらないのだと少女は自嘲する。

 

 

彼は傷つくだろう。それを知っていて本音をぶちまける。

 

 

『側』に入れる優しさを利用するのは...

 

…私は偽れない。もう、遅い。遅かった。

 

 

「私はあなたが羨ましいです。たとえ愛されなくても『答え』が貰えて」

 

王女は本心から思う。

 

少女が怒ると知りながら、いや、寧ろ攻め立てて欲しい。

 

有り得たかも知れない幸せを捨てさせるのだから。

 

 

「怒らせて気を紛らわせようとしたって無駄よ。私は『側』にいれるわ」

 

少女はそれを察して、笑う。

 

自分からすれば、

 

王女がもはや『側』にいることを完全に放棄する方が理解できない。

 

嫌われようが、『側』にいて欲しい。

 

もう見捨てられたくないから。

 

 

「…私は『側』に入れなくても良いのです」

 

王女は本心から言う。

 

もうこの世に未練がない程、美しく楽しい『世界』を見たから。

 

後は『答え』が聞ければ良いだけ。

 

全部終わったら消える覚悟もできている。

 

私は幸せだったから。

 

 

「そこが理解できないわ。あの『騎士』もそうだけど」

 

少女と致命的にずれている共犯者を笑う。

 

最終的には自分は残るだろう。嫌われようが後悔されようが。

 

どんな形でも。残りたい。

 

『側』に置いて欲しい。他には何もいらない。

 

 

「いいえ、『魔王』に一泡吹かせることができるのは『人間』だけ。

 

 あの無自覚な『勇者』を際立たせるための布石です。

 

 私は幸せでした。本当に何もいりません」

 

王女は断言する。理解してもらおうとは思わない。

 

 

布石の一つだ。もはや失敗は許されない。

 

 

目の前の少女の思いを利用した。

 

もう、自分は許されない。

 

 

「奇遇ね。私もよ。もういらないのよ。たとえ嫌われても後悔しないわ。

 

 彼が苦痛でも最後に癒せる『勇者』がいるのなら、

 

 私は道化にだってなってみせるわ。これから話すのは皆『本心』ですもの」

 

王女の覚悟を察して、少女は笑う。

 

 

結局、二人とも同じなのだと確信した。

 

 

もはや、自分の歪みは治せない。

 

この王女に教えられた。自分でもわかっていた、知っていた。

 

だが、苦痛を与える憎まれ役には最適なのだ。

 

 

…最終的に彼が幸せならそれでよい。

 

 

これから私は、本心の言葉を言う。

 

だが、それを受け止めてもらうのは、全て諦めている。

 

 

彼と私の『世界』なんて認めてくれるはずがない。

 

 

愛して貰えるはずがない。

 

ただ、私は彼の『側』にさえ入られれば良いのだから。

 

 

あの孤独にもう耐えられない。

 

 

彼に嫌われようが知ったことではない。

 

だから、『人間』を、本心をぶちまけよう。

 

 

「では、いくわね。…ありがとう」

 

少女は満面の笑みでその場を後にした。

 

最後の願いは守られたから。

 

 



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第十五話 逃避

『魔王』は思考の海に逃げ込んだ。その隙を彼女達は逃がさない。


『番外席次』の告白を俺は『否定』した。

 

 

俺は彼女を『拒絶』はできなかった。

 

 

俺が彼女を愛せない、治せないなら『否定』ではなく、

 

『拒絶』した方がずっと良かったはずなのに。

 

 

何故だ。

 

 

俺はふと、以前ラナーから言われた言葉を思い出した。

 

俺がラナーをナザリックの九階層「ロイヤルスイート」に招待し、

 

ラナーから告白されたときのことだ。

 

 

『あなたは…壊れていますね』

 

ラナーは俺をそう『哀れ』んでいた。

 

何故か今ならはっきりわかる。

 

 

俺はどこか壊れている。

 

 

俺はパンドラズ・アクターとナーベラルに異常を指摘されて『救われた』。

 

だが、その前の、もっと根本的な何かが壊れている。

 

ただ、それを認識したら、俺が大切にしているものが危機にさらされる気がする。

 

 

恐ろしい。

 

 

全くわからないが、何故か『確信』している。できる。

 

 

かと、言って番外席次を受け入れるわけには行かなかった。

 

 

彼女の『愛』では俺の望むものは決して救われないから。

 

 

俺は彼女を『拒絶』できない。

 

『愛』を理解できるからというのは大きい。

 

だが、もう一つ『何か』がある。

 

 

それは知ってはならない。

 

だが、知ることを渇望している。

 

 

 

そのことに、恐怖した俺はしなくて良い仕事を増やし、そこへ逃げた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『国』を運営する上でもっとも大切なものは、『財政』だ。

 

極論をいえば、『金』がなければ『国』は成り立たない。

 

理想だけで食っていけはしない。『国』ならなおさらだ。

 

 

 

だが、ナザリックには、転移前から膨大過ぎる『財』がある。

 

 

それに加えて、ナザリックのこれまでの活動で貯めた『財』がある。

 

ラナーやフールーダ等の外部協力者のお陰で『他国』すら、事実上支配した。

 

最も現在、彼らはナザリック所属だ。

 

 

『他国』の支配に関してはデミウルゴスとアルベドがやっている。

 

『王国』に関してはラナーにほぼ任せている。それくらい信用できる。

 

 

ただ、ナザリック運営のためとか言って、

 

パンドラズ・アクターを含めた四人で会議を最近行っている。

 

 

会議の内容は些事なので俺には不要だそうだ。

 

…ひょっとして、俺はもはや不要ではないだろうか。

 

 

 

 

そんな『財政』だが、

 

従属ギルドNPC鉱山掘るマシーン1号・2号の活動があれば実は心配無用だ。

 

ベンゼルとグレールという名の双子の設定の自動人形(オートマトン)。

 

従属ギルド二つが意気投合し作成した双子。昔のアニメのキャラが元ネタらしい。

 

そのキャラについて聞いた俺だが、何故『鉱山設定』や『職業』を加えたのかは不明だ。

 

しかも、二人とも女の子だし。アウラとマーレみたいな感じかと思ったら違かった。

 

少なくとも二つとも『鉱山事件』に関係しているギルド。

 

るし☆ふぁーさんの悪ノリも加わっていることはほぼ確定している。

 

レベル100あるから遊びを加えただけだろう。恐らく深い意味はない。

 

 

 

そんな双子の活躍があれば、税収入がなくても今現在の『魔王国』は成り立ってしまう。

 

飽くまで概算だけみればだが、余裕だ。

 

 

存続させるだけなら、問題ない程に活躍している。

 

今後確実に来る『脅威』への対策には足りないが。

 

 

鉱山を地下に隠蔽していた頃から鉱山を、鉱石を掘りまくっていた彼女たち。

 

『商人』として活動するセバス達の資金源だった彼女たち。

 

ナザリックが所有する鉱山を露出させていた現在、彼女たちの働きは本格化した。

 

 

 

…今更ながら鉱山はこの『世界』でも再生していた。第零階層扱いだ。

 

金もほぼかからないのは変わらない。つまり転移前と同じ鉱山を掘った方が得だ。

 

俺は転移前、ヘロヘロさんに飽きられながらも色々試算していた。

 

なので、鉱山のことについて双子並みに詳しい。もしくは凌駕する。

 

我ながら頭のおかしいことをしていた。

 

 

だが、魔王vs英雄ではそれを利用して、

 

観戦していた冒険者達にありえない『現象』を見せつけた。

 

更地に近い鉱山の即時復活だ。

 

実は生来の貧乏性で鉱石をできるかぎり回収したので黒字だった。

 

…今考えると俺を、『貧乏魔王』と煽ったプレイヤーは正しかった。

 

 

 

双子が、鉱山を毎日掘った結果、様々な方面で使用できた。

 

 

特に建国後は、鉱山から発掘した鉱石で、

 

『魔王国』の貨幣を鋳造できたのは大きい。

 

 

膨大な量の高品質な『貨幣』を鋳造できた。

 

しかも、俺の『魔王』という権威のお墨付きだ。

 

 

結果、近隣諸国での『共通貨幣』に成りつつある。

 

 

『魔王国』は、建国してまだ一年すら経ってないのに、だ。

 

 

これは、『商人』のアンダーカバーが役に立った。

 

今やセバス達が作った『商会』は近隣諸国でも群を抜いている。

 

その『商会』が『魔王国』の貨幣の使用を推進すれば、勝手に商人たちに伝播した。

 

情報が命の商人たちを利用すれば、『共通貨幣』並みの普及は簡単だった。

 

 

 

もはや、名実ともに『共通貨幣』になるのは時間の問題だ。

 

いずれ『他国』の庶民にも広まるはずだと断言できる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ここまで広まりを見せる魔王国の『共通貨幣』化。

 

上手く行ったのは、ナザリックが誇る頭脳たちのお陰だ。

 

特にパンドラズ・アクターの働きが大きい。

 

 

『設定』で『財政』を司るパンドラズ・アクターは『魔王国』建国前、

 

『世界』がナザリックに依存するための方法として、初手で『共通貨幣』を提案した。

 

 

恐ろしい提案だったと俺は思った。

 

 

寡占企業による経済支配されたディストピア『世界』出身の俺からすれば、

 

この案の恐ろしさが本当にわかっている。

 

 

極端な話。それのみで『世界』を支配できる。

 

 

『共通貨幣』となればナザリックが経済を支配できる。

 

貨幣流通量がコントロールできる。

 

原料は、ナザリックの鉱山からの鉱石で余裕に賄える。

 

 

無限に採掘可能な鉱山ということは、

 

アメリカのニクソンショックの時のような金保有量の減少がそもそも起こらない。

 

 

転移前の貴金属の備蓄は、これまで掘ってきた分を凌駕している。

 

急増する経済活動にも余裕で対処できるだろう。他の手も既に計画済みだ。

 

彼らにも両得なプランだ。きっと乗ってくれる。乗らないなら別の手もある。

 

 

これらは軍事力も経済力も永遠に近い『ナザリック』だからこそできる行為だ。

 

 

この『計画』が完全に実施させれば、

 

今後この『世界』では『覇権国家』すら、生まれなくなるだろう。

 

 

この『世界』が完全に、中世から近世へ移行する『芽』も即座に摘み取れる。

 

…それが良いことか悪いことか正直、俺にはわからない。

 

だが、発展させ過ぎるのが、良くないのは知っている。

 

 

ナザリック引いては『魔王国』そのものが、今現在『覇権国家』になりつつある。

 

 

だが、『覇権国家』は衰退する運命にある。

 

ローマ然り、オランダ然り、イギリス然り。

 

そのどれもが全て諸行無常の結末を迎えている。

 

 

それらは全て体制の不備、欠陥によるものだ。

 

内部分裂の発生、経済力の疲弊、市民革命の勃発等。

 

 

最悪の可能性、転移前の世界。

 

環境が破壊しつくされ、『企業』に寡占支配されたディストピアだけは避けたい。

 

 

最もナザリックは強すぎる。不備や欠陥は、事前に全て摘み取れるだろう。

 

 

だからと言って慢心してはいけない。想定外というのは絶対ある。

 

 

永遠に『世界』を守ると決めた以上、

 

本来は独裁的側面を持つ『覇権国家』は避けるべきだ。

 

多様性こそ求められるべきだと個人的には思う。

 

多様な問題には多様な手段でしか対応できない。

 

…飽くまでナザリックの支配者でない個人の考えだ。

 

 

最低限、表向きだけでも取繕わないといけない。

 

 

近隣諸国の上層部が、『魔王国』に対して、既に匙を投げているとわかっていても、だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『国』を運営するためには、必要不可欠なものがある。『税金』だ。

 

『税金』というのは極めて難しい。『税金』がないと国は成り立たない。

 

ナザリックみたいなのは例外だ。

 

自分で言うのも変だが頭がおかしい。有り得ない前提。

 

 

『資源』が無限に湧くとか普通に有り得てたまるか。

 

 

…これは、るし☆ふぁーさん達のお陰だ。

 

永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)などという反則技がなければ決して有り得ない。

 

俺が、こんな前提の『敵』が戦略を立てて攻めて来たらほぼ負ける自信がある。

 

もし、敵対が避けられないなら、無理やり難癖つけて短期戦前提で戦争を仕掛ける。

 

本当は、そんな相手に戦争なんてやりたくはない。

 

だが、そんな国を放っておいたら、現在勝ててもいつか必ず持久戦で負ける。

 

だから、短期戦にし、速攻で鉱山を支配する。これしか勝てない。

 

思考実験も必要だ。

 

デミウルゴスに今度聞くか。デミウルゴスなら戦略・戦術をどうするか聞きたい。

 

俺のは所詮素人の付け焼刃だ。

 

 

しかし、るし☆ふぁーさんが味方で良かった。…良かったんだよな?

 

 

 

…色々言ったが、表向き『税金』は必要なのだ。『国』である以上は絶対に。

 

 

まさか、現地最強の金属のアダマンタイト(それより上も含む)が無限に掘れる鉱山、

 

ワールドアイテムになる希少金属が定期的に取れる鉱山だと知られるわけにはいかない。

 

 

…熱素石は普通にこの『世界』でも作れた。チート過ぎる。

 

 

このことを知られれば、プレイヤーが攻め込む可能性は否定できない。

 

勝つ自信はあるが、絶対はない。これもデミウルゴス案件だ。

 

 

 

税金は反発がない程度に国が運営できる最低限度は取らないといけない。

 

特に、現状のナザリックは『夜警国家』ではなく『福祉国家』だ。

 

 

本来であればサービスに基づいて高額な『税』を取り立てなければならない。

 

 

そんなことしたら『王国』の貴族と変わらない。やりたくはない。

 

 

 

ナザリックが言えば、即全財産差し出しそうなカルネ村は『例外』だ。

 

 

あの村は対象外だ。想定外過ぎる。論外だ。

 

俺を崇める『宗教』ができつつあるので、『魔王国』中に広まるだろう…

 

 

だが、いつまでもそうあると俺は思えない。

 

 

一時の狂信で終わるはず。精々百年経たないで終わるはず。

 

…きっとそうに違いない。いや、絶対だ。

 

 

 

だから、将来のためにも『税金』を徴収しなければならない。

 

だが、税金を取るためには『産業』がないといけない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

現地の『産業』を興す必要があった。

 

『魔王国』では、『商人』を表向きにしていない。

 

『魔王国』とは関係ありませんという感じだ。

 

今後はともかく今はダメだ。

 

あからさま過ぎて気づいているだろうが、さらに警戒されたら本当に面倒になる。

 

 

なので、魔王国の『産業』は、医薬品(ポーション等)、食料等くらいしかない。

 

 

もう少し言えば、伝統工芸品くらいか。

 

それはリザードマン達が作っている。

 

 

『商人』や『魔王』、『英雄』を用いてトブの大森林内外の話せる皆とは交易をしていた。

 

 

東の巨人、ウォートロールの『グ』とは、話にすらならなかった。

 

俺は話している最中につい、キレてしまった。

 

こう、ブチって殺してしまった。

 

仕方がないので、『英雄』モモンの名声の糧になってもらった。

 

 

ボール・シリーズで捕獲できない程度には知恵ある癖に、

 

俺が『言葉』で従えられなかった。

 

 

俺は一時自信を無くすほど凹んだ。

 

今のところ、俺に現地最大ダメージを与えた『モンスター』はこいつだ。精神的な意味で。

 

 

 

さらにトブの大森林内の湖の皆、リザードマン達には、

 

ジャンク部屋にあった本の『養殖』の概念等をばら撒いたりした。

 

食料関係に全員困ってそうだったので、交易して発展してもらった。

 

なるべくナザリックの『財』を使わない発展の実験という面もあった。

 

 

だが、労働力としてゴーレム等を貸したりして、住みよい環境を整えるのを手伝った。 

 

『隣人』には繁栄して欲しかったから。

 

若干やり過ぎたが、別に支配したいわけではない。

 

長期的に見れば共存共栄の方が良いだろうと思った。

 

 

後、シム〇ティやっている気分で楽しかったのもある。

 

 

これらの行動の結果、

 

リザードマンを始めとする湖の者達は、自然環境を壊さずに繁栄した。

 

俺が転移前『世界』のことを、ブルー・プラネットさんのことを思い出したのが大きい。

 

 

正直、下手な小国の首都より活気があると思う。

 

そういう国は、まだ書類でしか見たことないけど。

 

 

リザードマン達の村落の竹とんぼもどきや縄跳びとか遠目から見ていて面白そうだった。

 

俺が近くに寄ったとき、それを買おうとした。…使いはしないが何となく欲しくなった。

 

ところが、リザードマン達が即首を垂れた。そして恭しく献上された。

 

 

…コキュートスが、俺を、『魔王』を神格化したらしい。

 

 

『神』扱いを辞めさせようとしたが、またしても不可能だった。

 

 

湖の皆は纏まって、完全にナザリックに従属し、『魔王』を信仰していた。

 

俺、ほぼ何もしてないのに。…いや、したな。アレやり過ぎた。

 

 

初期は何やかんやでザリュースの『生け簀』に口挟んだりしただけだったのだが。

 

リザードマン達の集落へはボール・シリーズの実験のついでに寄っただけだった。

 

 

…本当に。

 

 

『原作』みたく侵攻とか関係なく、

 

たまたま湖に出たのでリザードマンいないか探して見ただけだった。当初は。

 

 

 

俺は空気を読んでそれを公式に認めた。…その場のコキュートスも含む全存在が歓喜した。

 

その後、コキュートスは湖の守護者化した。

 

今現在は、ナザリックの『武技』研究に当たらせている。

 

レイナースや…番外席次も当たらせている。

 

 

なので、湖のもので何か買いたいものがあるときは、

 

こっそりパンドラズ・アクターに買いに行かせている。

 

 

俺が直接見たい時は『モモン』になる。

 

…何が悲しくてこんなことしないといけないのか。

 

 

22世紀の『人間』の俺にとって伝統工芸品は魅力的だった。

 

多分他のプレイヤーも同意してくれる者がいると思う。

 

教科書やゲームでしか見たことない物が実際にあるのは凄い感動だ。

 

勿論細部は違うが。

 

 

ただ、モモンなのでと、ナーベラル連れて行くのは結構キツかった。

 

ナーベラルだって休憩時間はあるのだ。俺の都合で振り回すのは良くない。

 

仕事をこじつけたりするのは大変だった。

 

 

最近急に楽になったが。

 

 

ナザリックに余裕ができたということだろう。

 

それは良いことだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『商人』について、

 

セバス達が作ったアンダーカバーだ。

 

当初より、規模が大きくなり今では王国・帝国を飲み込む『大商会』だ。

 

『商人』は、布、紙、香辛料、金属、武器等ありとあらゆるものを扱っている。

 

 

そのために当初は従業員を集めるのが大変だった。

 

初期は、『善』のカルマや『設定』の従属ギルドNPCがいなければ頓挫した可能性すらあった。

 

 

途中から、八本指を掌握し、身寄りのない人を集めやすくなった。

 

さらに、セバスが違法娼館から助けた女性達の協力のお陰でかなり楽になった。

 

 

彼女達は飲み込みが本当に早くて助かった。

 

 

この成果には、デミウルゴスも諸手をあげて喜んでいた。

 

やはり、セバスと仲が良いのかもしれない。

 

 

後半からはラナーの伝手で、

 

教養ありながらも働けない人々、見捨てられた人々等も確保できた。

 

 

いわゆる障害者の人達だ。

 

…ディストピア化した転移前の『世界』では真っ先に淘汰されていた人々だ。

 

 

ナザリックはホワイト企業促進のために全力で労働環境は整えてある。

 

 

寧ろ大歓迎だった。

 

『世界』から差別や偏見を無くしていくためには、多少の労力は必要経費だ。

 

 

 

…ただ、従業員が皆、俺を、『魔王』を恐れているらしい。

 

 

そこだけは辛い。

 

 

俺は『商人』の情報を漏らさないように当初、

 

正体不明の真の支配者として、従業員たちに脅しをかけた。慎重さを求めた結果だ。

 

それがおそらく原因だろう。というかそれしかない。

 

 

 

俺のことを漏らそうとすれば、

 

お前達の記憶を消して『解雇』すると脅した。

 

 

 

『無職』は死ぬ。

 

転移前世界なら当たり前の真理。

 

この『世界』でも同じだと聞いていた。実際そうだ。

 

今のところニート等、スルメさんの悪影響を受けた法国の変態くらいしか知らない。

 

物乞いは別だが。…あの者達は失業者だ。

 

 

 

『解雇』とは殺すという意味かとか馬鹿なこと聞いて来た奴がいた。

 

そんなことするわけがないだろうと流石に激怒した。

 

 

 

勿論、情報を漏らさないようにNPCや傭兵モンスター等で見張りをつけている。

 

貴重な人材である、従業員の警護も隠密に行っていた。

 

ナザリックを始めとする肝心な情報は与えていないが、念のため。

 

 

ただ、八本指を掌握していない初期に貴族達に何度も襲われた。

 

そのため、途中で護衛の存在がバレてしまった。

 

報告を聞いた俺は慌ててその場に転移した。

 

 

従業員を囲い込むために丁度良かったので、いつでも君たちを見守っているのだと脅した。

 

これも怖がられる理由の一つだろう。

 

 

存在がバレた護衛達は、状況が状況だけに姿を晒すのが最善だったので許した。

 

もちろん罰は与えたが…本人達が望むので渋々。

 

 

 

彼らの住む寮も作っている。家族も同伴だ。

 

給料とは別に無料で強制的に住ませている。

 

というより従業員は、そうせざるを得ない者しかほぼいない。

 

 

家の中のプライベートまで覗くのは流石に嫌なので、

 

寮には、安否を確認するだけの魔法しか使っていない。

 

緊急時には、即座に救援に駆けつける体制は整えてあるが。

 

 

従業員達には、エルダーリッチ達の『生活魔法』を原料にして作成した試作品を試させている。

 

各種福利厚生に見せかけて、試作品のモニター兼宣伝広告として利用している。

 

さらに言えば製品を持ち歩かせるのは、

 

非常時、『物体発見(ロケート・オブジェクト)』等で追尾可能にするためだ。

 

…つまりは首輪だ。

 

 

そんな俺への恐怖からか、給料いらないとか、休暇とかいらないとか戯言を言い出し始めた。

 

 

もちろん給料も休暇も無理やり取らせている。

 

受け取らないと『無職』にしてやると脅している。

 

 

『魔王』の俺の言うことだけあって、皆涙を浮かべて頷いていた。

 

…少し可哀想になった。

 

 

休暇中には、万が一のために逃亡用アイテムも渡していた。

 

『魔王国』建国後はフールーダにマジックアイテムを作成させ、持たせた。

 

今後はそちらに切り替えていく方針だ。

 

ナザリックの『財』を使わない計画の一環だ。

 

 

これらの努力もあり、ほぼなんの問題がなく『商会』は運営されている。

 

セバスもデミウルゴスもそれを保証している。

 

 

完璧だ。

 

 

転移前、経営学等を学んでいてよかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

扱う商品は、一部を除きナザリックの『財』を使わない実験成果だ。

 

例えば、『賢者の呪帯』で『生活魔法』をエルダーリッチ達に取得させた。

 

『生活魔法』により、布や紙、香辛料等は大量生産できている。

 

『生活魔法』で鉱石まで作れるのには驚いた。

 

 

現段階では、エルダーリッチ達による簡易な大量生産だ。

 

今後さらにカイゼンしていく予定だ。

 

現地にあってもおかしくない『産業』を実現できた。

 

 

だが、俺の作成したエルダーリッチが作る物は、

 

どうも高品質過ぎてナザリック外の、現地の産業を圧迫している。

 

 

…『失業者』が出られると非常に不味い。

 

自国では不味い。エ・ランテル支店がある。

 

 

言い方は悪いが、『魔王国』では、無税で食っていけるような人間を生みたくはない。

 

 

もちろん、諸事情があれば別だが。

 

 

程よい緊張感がないと自堕落になる。

 

なので、税金は諸外国よりかなり安いとはいえ取り立てると宣言してある。

 

散々言っておいて、民衆が自堕落になりそうな程に甘いのは自覚している。

 

 

今はまだ建国から一年経ってないのと、広がる『狂信』で保っている。

 

スルメさん。宗教って本当に凄い。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ここまで並び立てたのは、

 

『重要業績評価指数』をまとめるために仕事に没頭していたからだ。

 

各政策分野を構成する施策ごとに効果を調べ、数値化していた。

 

 

ナザリックが経済面で負けないことを確信した。

 

ならば、政策に反映させるために今までやってきたことを並べ立てた。

 

 

『財政』の三機能というものがある。要は国が行う経済行為をまとめた三つだ。

 

・資源配分機能 要は公共サービス。正直もう十分だ。回復エルダーリッチ達が控えている。

 

・所得再分配機能 ある意味、税金以上の物を再配分している。俺いらない。

 

・経済安定化機能 パンドラズ・アクターを中心にやっている。俺いらない。

 

政策に反映させることがなかった。

 

 

いや、あるにはあるが。それにはコキュートスとの調整が必要だ。

 

監視はもう既にしてあるからいつでもいける。

 

まだ安全だから、早めに片づけたい。

 

 

とはいえ、俺が逃げる為に仕事をしてわかったのは、

 

もうそこまで仕事しなくて良いという事実だった。

 

 

 

それでも仕事を頑張って探して働いた。日常の業務も含めて。

 

 

デミウルゴスからスクロール牧場の最新の成果を聞き終えて追加の指示した当たりで、

 

俺は倒れた。

 

 



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第十六話 休もう

魔王が働いた濃密な二日間。


仕事中、突然ふらついて倒れた俺は、

 

ドクタースキル持ちNPC等から強制的に診断を受けさせられた。

 

 

診断後、俺は問題ないと判断した。アレは一時的なものだと確信した。

 

こっそり残りの仕事をしようとしたら何故かすぐにバレた。

 

 

全力で仕事を止められた。

 

 

 

仕方がなくなった俺は、自室のベッドで横になることを強制された。

 

現在、デミウルゴスから診断結果の報告を受けていた。

 

 

「心因性の過労?」

 

俺はあり得ないと思った。

 

 

何せ、この身は超越者(オーバーロード)。

 

人化しても不眠不休で働けることは確認済みだ。

 

 

とはいえ、寝ることはできるから普段は二時間程寝ていたが。

 

最近は仕事に逃げて不眠不休で働いていた。

 

だが、問題ないはずだ。

 

 

しかし、

 

「はい。私を始め、プルチネッラ等様々な意見がありましたが、その結論に至りました」

 

そうだと断言された。

 

 

…流石にデミウルゴスの言葉を疑えない。

 

 

それにこの規模の事件なら、

 

ナザリックの全ての者が協力して、俺を騙すくらいでないとありえない。

 

 

デミウルゴスは報告を続けた。

 

曰く、

 

極度の緊張感の中で仕事をしている。

 

著しいプレッシャーを常に感じている。

 

極端に長い労働時間で働いている。

 

故に心因性の過労だろうとのことだった。

 

 

…合っている。

 

しかし、仕事をしなければ不味い。

 

…俺がいなくても良いような気もしてきた最近だが、やることはあるのだ。

 

責任者として。

 

 

故に、デミウルゴスをどう誤魔化すかを考えていたら、

 

「モモンガ様のお仕事に関しましては、

 

御身に万に一のことがあった場合に備えて、

 

その業務を引継ぎできる体制を整えておりました。

 

先日、ラナー王女らと話し合っていたのはその件でした。

 

確か…避難訓練という『りある』の危機対策でございます」

 

…素晴らしい!

 

 

いつか俺がやろうと思っていたことを自ら言い出すなんて、流石はナザリックの英知達だ。

 

危機管理上、最悪の可能性、俺が死亡した提等の『訓練』をやろうと思ってはいた。

 

中々実行が難しく先延ばしにしていたが、俺が提案する前に言ってくれるとは!

 

 

俺は自分のことなんて放り投げて感動した。皆のその成長に。

 

 

 

…いや、まて。おかしい。

 

ナザリックの者が俺の死或いは不慮の事態を想定するのは、

 

流石に無理があるような気がする。

 

 

デミウルゴス等が死亡した際の報告書等は確かにあった。

 

俺のは報告はまだだ。つい先日だったこともあり遅れているのはわかる。

 

 

だが、俺から言わなければ、『俺』を想定した『避難訓練』等思いつかないはず。

 

 

…ナザリックの者が『それ』を認めるわけがない。

 

その思いはかつてナーベラルからしっかり聞いた。

 

 

いや、少し違う。

 

 

『この身は創造された御方々のためにあります』

 

ナーベラルはそう言った。言っていた。

 

 

…デミウルゴスの報告を聞く前、

 

倒れる前に俺はラナーとお茶会をしていたはず。

 

 

そこで『何か』を盛られれば?

 

パンドラズ・アクターが『完全なる狂騒』等、精神作用するアイテムを改良していれば?

 

途中、お茶会に乱入してきたアルベドすら巻き込んでいたのなら?

 

 

…『ラナー』ならできてもおかしくない。

 

外部の『人間』だから。ナザリックの者にできない発想ができる。

 

 

 

だが、そこまで思考を飛躍させていた俺の疑惑は次の言葉で消し飛んだ。

 

「私共は、モモンガ様のために日々研鑽を積んでおりました。

 

 …故にこのような真似を相談していたなどと報告できませんでした。

 

 御身の不幸を想定するなど使える者にあるまじき所業!本当に申し訳ございません!!」

 

全身全霊を込めて謝るデミウルゴス。

 

これは『本気』で謝っている。

 

『嘘』ではない。俺は確信できる。

 

 

「いいや、寧ろ私が悪いのだ。デミウルゴス。

 

 そこまで考え、研鑽していたお前達を誰が怒れようか。

 

 褒めるこそすれ、決して罪等ではない。現にこうして役立っているじゃないか」

 

ここは褒めるべきところだ。何故、俺はナザリックの皆を疑ったのだ。

 

俺は自分を恥じるしかなかった。

 

 

「申し訳ございません!」

 

感涙にむせび泣くデミウルゴス。

 

謝るところではないという無粋なことは言わない。

 

 

「…それで私はいつまで休むべきなのだ?」

 

休む期間によってはドワーフとの交流も諦めなければならない。

 

 

万が一あと数か月もクアゴアを足止めしていれば、

 

流石にナザリックの手が及んでいることがバレかねない。

 

 

帝国を通して折角足掛かりを掴んだが、デミウルゴス達の『配慮』の方が上だ。

 

 

…正直、他で補える。ついでなのだ。

 

冷たい言い方だが、あれは自然の営みとも言えなくはない。

 

それを崩すのはどうかとも思っていた。

 

 

そこまで考えているとデミウルゴスが発言する。

 

「いえ、モモンガ様。

 

診察結果によるとストレス解消のために『趣味』等をするのが良いそうです。

 

以前モモンガ様は仰っていました。至高の御方々と旅をするのが『趣味』だったと」

 

確かに、言った。

 

 

皆に休めと言ったら、休日に何をすれば良いかわからないと言われたことがあった。

 

 

…俺にはユグドラシルしか趣味がなく、

 

その内容も大体強奪やら死闘やら戦争やら、酷かった。

 

 

…大義名分はいつも作っていたが。

 

 

なので、九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)時代の、

 

最も楽しかった頃の未知への探求を『趣味』と語った。

 

 

「故に、アゼルリシア山脈への旅行等はいかがでしょうか?

 

 供には…」

 

デミウルゴスの提案は、

 

俺の考えていた『仕事』と『趣味』を両立できる素晴らしいものだった。

 

 

『趣味』としてついでに仕事をしても全く嘘にはならない。バレなければ良い。

 

 

しかし、

 

「だが、供として連れて行って大丈夫なのか?私には不満はないなど一切ないが」

 

そう疑問に思う。

 

当初の『仕事』では、コキュートスを連れて行く予定だった。

 

それに急に供を頼んで迷惑じゃないかと思った。

 

 

「いいえ、大丈夫です。モモンガ様。全て万全の準備が整っております。

 

 …本当に、そのことに関しては、全く問題ございません」

 

そう言い切るデミウルゴス。

 

ならば、良いか。

 

 

俺はとても楽しみだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺が倒れる心労の原因は実は腐る程あった。

 

やり過ぎたのだ。色々。

 

 

 

一昨日、倒れる前、俺が仕事に没頭していたとき、

 

スルメさんにも『番外席次』の告白の件を報告すべきか悩んだ。

 

 

今考えるとスルメさんは、矯正したかったのだろう。彼女の『歪さ』を。

 

 

法国の改革で忙しいスルメさんでは、

 

彼女を治すのが不可能だから俺に寄越したのだと今ならわかる。理解できる。

 

 

最初の『破滅の竜王』での、『番外席次』のあの発言で俺がブチ切れてしまい、

 

どういう『意図』で彼女を送ったのか聞けなかったが故の失態だ。

 

 

…報告すべきだろう。

 

俺はスルメさんにメッセージを送った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺のメッセージに感謝と感動の言葉を並びたてるスルメさんを無視して、

 

真っ先に『番外席次』のことを話した。

 

 

 

スルメさんから返って来た反応は暗いものだった。

 

「…そうですか。申し訳ありません。

 

 我が下では彼女は、友の唯一の子孫は、もはや修正不可能と考えておりました。

 

 彼女は、この国で『世界』の醜さだけを見て育ってきました。

 

 それも、閉じ込められた『空間』で。

 

 …法国では、修正不可能だと我は確信しました。

 

 だからこそ、『魔王』様の下へ向かわせました。

 

 本来であれば、こちらからしっかりと詳細を伝えるべきでした。

 

 完全に御身に甘えてしまい、申し訳ありません。

 

 …『否定』されながらも受け入れてくださったこと、

 

 この『死神』感謝の言葉を思いつかない程、感謝いたします」

 

スルメさんは想定していたらしい。彼女の『歪み』を。

 

 

だが、『執着』は想定していなかったのだろう。スルメさんのこの反応だと。

 

…最後の言葉の間が隠しきれていない。

 

『執着』のことは言うべきではなかった。俺は後悔した。

 

 

「こちらこそ預かっておきながら…すみません」

 

謝るしかない。『執着』させたのは俺の責任だから。

 

 

「いえ…」

 

スルメさんはそう言うと黙り込んだ。

 

 

沈黙が続く。

 

 

「そういえば、法国はどうですか?」

 

無理やり話を変える。

 

スルメさんには、『番外席次』の責任は、俺が取ることは約束した。

 

 

だから話を変える。

 

 

 

「ええ、請負人(ワーカー)は死ぬべきだと思います」

 

物騒なことを脈絡もなくぶっこんで来た。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

スルメさん曰く、法国を捨てたワーカーの『エルヤー・ウズルス』という奴が、

 

折角停戦したエルフ国へ、勝手に法国の名を、『神』の名を騙り攻め込んだという。

 

あわや両国の戦争再開の危機に陥ったらしい。

 

 

自分の、『死神』の復活を信じずに、

 

『神』の名の下に『人間』の偉大さを語り攻め込んだ屑を見て激怒したらしい。

 

 

こんな屑のために『人』を救ったわけではないと完全にキレていた。

 

 

法国でも重大犯罪者として人権を剥奪したらしい。

 

…何をしているかは流石に聞けなかった。

 

 

そのワーカー、エルヤーに対する憎悪は凄まじく、

 

『例外』は知っていているし、認めたくはないがワーカーは基本糞だと言い切った。

 

 

 

俺は冒険者をやっていたためわかる。確かに糞が多い。

 

 

ワーカーにもよるが、金になるなら本当に何でも引き受ける。

 

暗殺でも運び屋でも何でもする。状況次第ではワーカー同士で殺し合いをする。

 

ルールを嫌う者が多いので秩序に反する行為も平然とする。

 

 

もちろん、仕方がなくワーカーになったとか、善人もいなくはない。

 

冒険者モモンとして会った者の、数名はそうだった。

 

 

だが、ワーカーは、そういった性質を割り切れば使いやすい『駒』だ。

 

現に帝国でも使い捨て用の請負人(ワーカー)を何チームか確保していたと聞いている。

 

 

…確か『天武』というチームのリーダーが『エルヤー・ウズルス』だった気がする。

 

 

スルメさんとのメッセージのやり取りを終えた俺はレイナースを呼んだ。

 

 

『魔王国』の治安維持のために請負人(ワーカー)の情報を聞いておきたかった。

 

勿論、帝国支配のための情報収集で聞いてはいた。しかし、その時が最後だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

レイナースの報告は、事前に貰った報告書通りの内容だった。

 

だが、直接見聞きしたレイナースの意見は大変参考になった。

 

声を直接聞いた方が文面から読み取れない感情が見えてわかりやすい。

 

 

しかし、レイナースは途中で気になることを言った。

 

「フォーサイトという、ミスリル級程度の強さを持つワーカー。

 

フールーダ様が注目していた没落貴族の娘がいるワーカーが解散したそうです。

 

 確か、『魔王国』誕生直前に解散したと聞いています。

 

『魔王』様の商会にその娘、アルシェ・イーブ・リイル・フルトが就職したとか」

 

…覚えている。確か『原作』にあったフールーダの弟子でタレント持ちだ。

 

 

商会の帝国支部は初期と中期に数度しか視察はしていない。

 

…見落としていた。『商会』の規模が大きくなり過ぎた弊害か。

 

 

だが、報告に上がっていないということは身寄りがない、

 

最悪、そこに閉じ込めても問題ない人材と判断されたのだろう。

 

『商会』は、借金の追手なぞ相手にしない程の規模にはなっている。

 

 

闇稼業が、敵に回してはいけない『企業』なのだ。もはや。

 

 

実際、『商会』では生来のタレント等で迫害された者も多く存在している。

 

有害なタレント持ちでも、全て平等に『従業員』という方針にしていた。

 

 

…本当に差別しないことを大前提にし過ぎたか。

 

有能なタレント持ちが埋もれている可能性が出てきた。

 

 

「ありがとうレイナース。仕事中にすまなかったな」

 

レイナースは、部下だが、何となくこう、扱いにくい。

 

表現できないが、面倒くさい。

 

 

「勿体なきお言葉!どうか、どうか私なぞいくらでも使い倒してくださいませ!」

 

…俺はレイナースと話しているとドMと話している気になるのだ。

 

 

しかも、本人の自覚はないみたいなのだ。面倒なことに。

 

注意もできない。『忠誠』だと理解しているから。

 

 

…この間、レイナースと俺のやり取りを見ていたシャルティアが、

 

凄まじい勘違いをして俺の『椅子』になろうとしてきた。

 

 

俺の私見は多分間違っていない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『商会』に問い合わせた俺は、アルシェに会ってみた。

 

フールーダ曰く「自分に到達し得る逸材」ということだったので。

 

『商会』の真の支配者として二人きりで会う。

 

 

 

…俺に会った途端にアルシェは吐いた。

 

発狂寸前になって、漏らしている。何をとは言わない。

 

 

なお、この行為はアルシェのタレントを確認したかったのでわざとやった。

 

 

どう考えてもやり過ぎたと反省した俺は、

 

『獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)』と『清潔(クリーン)』、

 

『重傷治癒(ヘビーリカバー)』の三つの魔法をアルシェにかけた。

 

 

恐慌状態から回復させるのと、身を綺麗にするのと、最後のが本命だ。

 

 

「へ、『重傷治癒(ヘビーリカバー)』!?有り得ない!!」

 

想定通り驚いてくれた。完全催眠状態で見えているアンデッドなら使えない信仰系魔法。

 

アルシェの『常識』が覆る反応を見たかった。

 

 

「魔王だからな。こんなこともできる」

 

そう言って俺は『魔王』から『人間』に戻して、

 

完全催眠で魔力を認識できないようにする。

 

 

「あ、ありえない!常識的に考えてありえない!!」

 

『魔王』の前なのに敬語使わない少女だなぁと思った。

 

そして、この少しのやり取りで、反応を見て気づいてしまった。

 

 

この子はただの『才女』だ。

 

 

凡人が持てる才能を極限まで磨き上げた、そんな人間だ。

 

それはとても凄いことだが。求めていた『人材』ではない。

 

 

というか俺は比較対象が間違っている。

 

 

あのフールーダという『狂人』を前提に考えていた。俺、馬鹿だった。

 

タレントも有能だが、探知や情報系魔法に優れた人材のいるナザリックには不要だ。

 

とはいえ、目の前の少女にそんな暴言を吐けはしない。言う資格もない。

 

 

父と母を捨てて、妹達を守った根性がある少女だと知っているから。

 

 

「――あの」

 

アルシェが恐る恐るという感じで声を出す。

 

うん。『化け物』に遭遇したらそうなるわ。…漏らしていたしな。

 

 

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン。『魔王』だ」

 

改めて名乗る。『商会』の真の支配者として。

 

 

「――何の御用ですか?」

 

『狂人』を前提にあなたをスカウトに来ました、なんて言えない。

 

 

「私は可能性が欲しいのだ」

 

そんなことおくびも出さずにでっち上げることにした。

 

この時の俺は、とにかく『仕事』を増やしたかったのだ。

 

 

「――可能性ですか?」

 

アルシェが疑問を抱いている。

 

当然の反応だ。俺だって今思いついた。

 

 

「君は、『今』の、『商会』の一従業員で本当に良いのか?」

 

優しい声色で尋ねる。

 

もはやなりふり構わずに、ワーカーチームから脱退した経緯は知っているから。

 

 

無くした『誇り』を刺激する。

 

マジックキャスターとして、元貴族という隠れたところまで刺激する。

 

 

「――私は『今』に満足しています」

 

そう返すに決まっている。妹達が大切だから。

 

だからこそ使える。刺激できる。

 

 

「私のことは既に知っているだろう。私は『魔王』。…この世の全ての財を集めた『王』だ」

 

この少女に『財』としての『魔王』が見ていると、自分の価値を刺激させる。

 

 

もはや、行き場がなく、なりふり構わず来たアルシェなら食いつく。

 

無くした物を取り戻したいという心の奥に微かに残る『欲望』。

 

相手が『才女』だからできる勧誘法。

 

 

「――何が言いたいのですか?」

 

ほら、食いついて来た。

 

 

「私が君に『道』を与えよう。君は『発見者』としての栄誉を得るだろう。

 

 醜い『過去』を全て塗り替えよう。…君ならできる。

 

 『世界』を変えて楽しもう。きっと面白い『世界』が君を待っている

 

 私のために働いてはくれないか?

 

 アルシェ・イーブ・リイル・フルト。…いや、アルシェ」

 

そう言って俺はアルシェに手を差し伸べた。アルシェのみを見つめて。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

アルシェの勧誘は無事成功した。

 

突発的ならば中々良かったのではないだろうか?

 

 

アルシェには、今後、ユリ達と一緒に『魔王国』の『学園』を作らせることにした。

 

 

『学園』は研究所も兼ねている。勿論、人材流出はさせない。情報流出も、だ。

 

『魔王国』のみで働いてもらう。『国』の学校だ。

 

他国への情報の流出はナザリックが管理する。

 

 

…これは前々から考えていた。

 

 

スーラータンさんが皆を巻き込んで作った『ナザリック学園』のデータを発見したからだ。

 

結局、ナザリック内では作らなかったが。

 

確か、ぶくぶく茶釜さんにぶん殴られて頓挫していた。

 

ペロロンチーノさんが殴られていた。

 

スーラータンさんに乗せられただけなのに。

 

 

『学園』をこの『世界』で再現したいと思っていた。

 

 

 

もう数年先に、カルネ村付近に建設する予定ではあった。

 

ダミーの魔法研究所を、作成する。公表しても良い『魔法』を発表させる。

 

 

ナザリックで研究した、失われた『魔法』を再現させる。

 

形を変えて、若しくはそのまま『再発見』させる。

 

 

あの『薬師』の偽りの歴史を塗り替える。国が隠蔽した以上数年では無理だろう。

 

だが、数百年かかってもあの偉大な発見の恩は返す。

 

あれは『世界』を守る宝だ。

 

『薬師』が世界を恨んでなくなったとしても、『薬師』の信念は絶対間違っていない。

 

 

 

…アルシェは申し訳ないが利用させてもらう。

 

『才女』なら創ることはできなくても、『再現』はできる。

 

 

もう既にあるものを作るわけだから、アルシェならできる。

 

言い方は悪いが、アルシェはフールーダに錯覚させる程の『努力家』だ。

 

 

『開発』はフールーダ等に任せる。

 

『再現』はアルシェ等に任せる。

 

 

この方針で行く。ナザリックで再現した魔法のスクロール等を渡そう。

 

完全催眠で誤魔化せばスクロールの材料に気づけない。

 

第三位階の魔法しか込められないが十分だ。

 

さらに魔法を解析した資料を渡す。エルダーリッチ達に『魔法』そのものを見せる。

 

 

第三位階まで取得しているアルシェならばいずれ『再現』可能だろう。

 

何せ先人の行った『道』をなぞるのは『努力家』が一番理想だから。

 

フールーダのように深淵を覗くのとは、また別のベクトルの力が必要だ。

 

 

アルシェも「――頑張る」と言っていたし大丈夫だろう。

 

 

実にやる気に満ちた目をしていた。

 

アルシェには、準備のための勧誘だと言って置いた。実際まだできていない。

 

 

直ぐに資料は送り、『商会』内で研究させると言っておいた。

 

『商会』で集めた人材の中から、有能な者で『名』を上げたい者がいれば参加させる。

 

彼らは、俺の脅しのせいか毎日、物凄く必死に勉強しているのだ。

 

 

きっと、ストレス発散になるだろう。

 

『名誉』という報酬で我慢して貰いたいものだ。

 

 

 

ちなみにアルシェは他のフォーサイトの面々は知らないと言っていた。

 

まぁ、話を聞いた限り善人でかつ、この『世界』の強者。

 

 

どこかで上手くやっているだろうとこの時は気にしていなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

翌日、エンリから元気の良い連絡が来た。

 

『メッセージ』だった。エンリはレベル上がったから普通にメッセージが使える。

 

というか、『指揮官』なら使えて当然だった。

 

 

俺に何度も会っているし、メッセージは送れて当然。

 

要件自体も重要なものだった。

 

 

『フォーサイト』のヘッケラン・ターマイトとイミーナはカルネ村の新規村人候補らしい。

 

 

どうもエンリがレイナースから、

 

俺がワーカーについて尋ねていたことを聞いたらしい。

 

 

 

別に秘密にするほどのことじゃなかったし、レイナースにはそう言っておいた。

 

しかし、翌日にわかると思わなかった。

 

 

なお、何故かレイナースと番外席次、エンリは仲が良い。

 

だが、ラナーとエンリが話すところは見たことがない。

 

 

ラナーはエンリのことを『村娘』とか言っていたし、イジメていないか心配だ。

 

罵詈雑言吐くラナーと、純朴なエンリでは相性が悪いのだろうか?

 

 

情報収集と人材確保に余念がないエンリ村長の報告を聞いて俺は思った。

 

 

『フォーサイト』の二人をカルネ村の狂信者にされたら、

 

今後アルシェとの関係が非常に面倒になると。

 

 

なので、エンリにアルシェのこと、『魔法学園』の計画を話した。

 

下手に『魔王』の、『宗教』を吹き込まないようにやんわりと伝えた。

 

 

その瞬間、物凄く嫌な予感がしたので、慌ててカルネ村にして欲しい4つの方針を伝えた。

 

 

一つ目、産業の育成 

 

カルネ村は薬品の重要拠点だ。

 

今後、さらに魔法使いが増えるであろうカルネ村の重要性が増すことを伝えた。

 

さらに『魔法』産業の発信地になると伝えた。『魔王国』内の重要機関だ。

 

 

カルネ村はLv30台の屈強な村人達とゴブリン軍団であふれるこの世界の『魔境』だ。

 

正直、法国や竜王クラスでないと脅威になり得ないだろう。

 

ここほどナザリック外で安全なところはない。ナザリックの警備抜きにしても。

 

 

…アルシェが重要であり、ヘッケランとイミーナは大事な仲間だったと伝えた。

 

エンリは「わかりました!」と元気な声で答えてくれた。わかってくれて良かった。

 

 

二つ目、人の交易、流入 

 

既にリザードマン達を始め、色々交易盛んだが、今後ンフィーレアの薬の取引も始まる。

 

流石にンフィーレア達を直接出すわけにはいかない。

 

本当はナザリックに呼びたいがエンリがカルネ村の村長だし無理だ。

 

勿論、大多数はエ・ランテルに卸すつもりではいる。

 

だが、『商会』ではなく、『魔王国』として交易しなければならないので、

 

より一層人の行き来があるだろうことを伝えた。

 

これも「わかりました!」と元気な声で答えてくれた。わかってくれて良かった。

 

 

三つ目、人口増

 

カルネ村が、人材が行きかう以上発生が予想される。

 

なので、今のうちに要塞化したカルネ村をより広くするかもしれないと伝えた。

 

これも「わかりました!」と元気な声で答えてくれた。わかってくれて良かった。

 

 

四つ目、地域の中心地化

 

もはや、既に村ではないカルネ村。

 

それをいずれエ・ランテルに匹敵或いはそれ以上の都市にする計画だ。

 

もはや、エンリの存命の間には不可能だろうが、その『下地』を作って欲しいと頼んだ。

 

これも「わかりました!」と元気な声で答えてくれた。わかってくれて良かった。

 

 

…俺が頼んでおいて何だが、『村長』の枠組みを大幅に超えている。

 

 

だから、ラナーの協力不可避だ。

 

カルネ村が、元王国な以上関わりあって貰わないといけない。

 

 

ラナーと仲良くしているか聞いてみた。

 

「はい!尊敬するお姫さまです!」

 

眩しい。

 

ラナーはエンリのこと『村娘』と呼んでいたことを俺は言えなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

お茶会でラナーは、

 

「疲れ知らずの魔王様、知っていますか?

 

 王族や貴族がその重圧から解放させる手段として、『異性』を使うんですよ」

 

酷い下ネタぶっこんできた。

 

 

「…それよりもこの、王国の税管理システム一元化についてだが」

 

無視する。聞いてない。先ほどのエンリとは大違いだ。

 

 

「何か不快なことを考えていたようですが、まぁいいでしょう。

 

 ええ、『健全』な王国になるでしょう?話をそらさないでくださいね」

 

内心がバレているが、本当に気になることがあるので問題ない。

 

 

「これ、統一の『ルール』がないと、税部門ごとに衝突して結局意味なくなるだろ」

 

ピシっと固まるラナー。

 

ラナーは、発想はこの時代においては凄まじいが、

 

勉強した俺の『未来』にはまだ勝てない。

 

 

過去に同じことやった国があったのだ。

 

…統一の規則がないせいで、政府内部で税金を取り合って、グダグダになりすぐ元に戻った。

 

 

統一のルールを作る強権がなかったからこそ『企業』に支配された。

 

あの汚染された『世界』になったのだ。

 

 

そんなことを考えていると、

 

「要は、王権を行使すれば良いだけです!」

 

中世の発想で『未来』が負けた。

 

凄く悔しい。

 

 

ラナーに言い返そうとしたら、

 

「モモンガ様!いい加減私に愛を!!」

 

アルベドが突っ込んできた。

 

 

ラナーはさらに言いたいことがありそうだったが、

 

グダグダになってお茶会は中止になった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

お茶会の次は、デミウルゴスの牧場だ。

 

どうも、高レベルの『羊』から取れるスクロールだと、高位の魔法を込められるらしい。

 

 

その結果、目の前には第四位階魔法を込められるスクロールがある。

 

 

完全催眠で『破滅の竜王』と戦わせて、

 

レベルを上げれば高位魔法が込められるスクロールが取れる可能性が示唆された。

 

 

正直、もの凄くやりたくない。

 

ナザリックの『財』を極悪人に使うのは、不快だ。

 

だが、デミウルゴスの言う通り、検証する価値があった。

 

 

なので、まずはPOPモンスターで試すように命じた。

 

そこから高位のスクロールが取れるなら、初めて実施することとした。

 

 

時間が無駄にかかるが、

 

それくらい『極悪人』にナザリックの財を使いたくなかった。

 

 

そう思っていると段々具合が悪くなり、ふと意識が飛び、倒れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

冒頭に戻る。

 

これがたった二日でやった仕事だ。

 

しかも雑務を含めないで、だ。

 

 

…かなり無茶苦茶をやっていた。

 

 

ストレスで倒れてもおかしくないかも知れない。

 

 

休もう。『旅』に行こう。

 

 

俺は心の底から、素直にそう思った。

 

 

 

 

…俺はこのとき、罪悪感を隠しきれていないデミウルゴスに気が付かなかった。

 




???「働き過ぎで計画狂うところでした!」


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閑話 走れアルベド

完全なギャグです。


アルベドは激怒した。

 

彼の暴虐婦人なる王女の存在を許せない。

 

先ず、第一に守護者統括たる自分がお情けを戴けるはずなのに、

 

『村娘』が掠め取った。

 

それは時が経てば良い。勝利するためには必要な犠牲だ。

 

 

しかし、暴虐婦人なる王女は、定命を超越せし、同胞を選んだ。

 

許しておけぬ。同胞に秘して計画するならばなおのことだ。

 

 

聞けば『村娘』まで支援しているという。

 

同胞を誑かし、守護者統括の自分さえ不可避の状況に追い込まれた。

 

 

だから、走る。正当な権利を守る為に。

 

シマバラに邪魔されようが、カジータに邪魔されようが、双子に邪魔されようが関係ない。

 

 

アウラとマーレのタッグも躱して見せる。これが愛の力なのだ。

 

 

デミウルゴスの怒りの言葉等、正当なる我が権利の前には雑音も同じだ。

 

 

御方の息子を自称する道化師には、時間をかけさせられた。

 

手数が多いことこの上なかった。

 

 

コキュートスは罠に嵌めた。

 

我が正当なる権利を用いれば欲する者が手に入るから容易かった。

 

 

セバスに止められたが、ハーレム爺の言うこと等聞く価値もない。

 

その言葉だけで沈んだ。

 

 

竜人戦隊五人組がタッグを組んで自分は取り押さえられた。

 

もはや正義もここまでかと思いきや、光明はあった。

 

彼らの取り押さえるポーズの醜悪さを説いた。

 

そうあれとされた彼らの動揺から手が緩んだ一瞬で逃げ延びた。

 

 

炎を司るスライムが現れた。本領発揮できない以上意味のない無駄な時間稼ぎ。

 

ところが、プレイアデスが到着する。

 

 

私は負けない。数百の敵が来ようとも。

 

 

頂いたお力があれば、いつまでも前を向くことができる。

 

 

プレイアデスの連携を凌ぐのは困難極めた。

 

私が、御身のため、我が正当性を叫ぶと怯むポニーテール。

 

流石、ドッペルゲンガー。我が心を読むとは素晴らしい。

 

これこそ我が同胞に相応しい姿。

 

 

同族とはいえ、あの息子を名乗る存在は、息子ならば、

 

これくらい正当性を察するべきだろう。

 

 

先ほど撒いたデミウルゴスが叫ぶ

 

「計画の大前提を壊してどうする!!」

 

一瞬怯んだ。だが、バレていないからセーフだと開き直る。

 

 

ハーレム爺とデミウルゴスがタッグを組んで襲い掛かる。

 

有り得ない組み合わせに、もはや、ここまでと諦めかけた。

 

 

だが、私は思い出す。誓いの儀式を。

 

正当性は我にあり。我こそは正当なる資格を持つ者と叫ぶ。

 

 

道化師が言いずらそうに言う。

 

「それ、単純にあなたの能力的に与えやすかっただけでは?」

 

ぶん殴った。慈悲はない。

 

 

愛するお方の為に行動すること、

 

それは目の前の目的の人物もわかっているだろうと叫ぶ。

 

「「「おい、馬鹿辞めろ!!!」」」

 

雑音が響く。ついに待ち望んだ扉だ。

 

 

向こうには暴虐婦人なる王女と愛する御方がいる。

 

だから、私は正当性を叫ぶ。

 

「モモンガ様!いい加減私に愛を!!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「計画だとあそこでさらに煽って意識させる予定だったのですが、

 

 私が一番辛い役だったんですけど」

 

暴虐婦人なる王女が言う。

 

 

「私なんてほぼ勘付かれていたので、あの後慎重に行動していたのですよ

 

 まぁ、ある意味アルベドが目くらましになりましたが、

 

 あんな馬鹿みたいな不合理な行動はありませんでした」

 

同胞たるデミウルゴスが言う。

 

 

「私、創造主に盛ったんですけど、この作戦で」

 

息子と名乗る存在が落ち込んで言う。

 

 

「アルベド様、流石にないです」

 

村娘に引かれる。

 

 

「ところで何故アルベド様はこのような暴挙に?」

 

気づかないドッペルゲンガー。これは本当に大丈夫なのか?

 

 

「守護者統括殿は謹慎ということでよろしいでしょうか?」

 

デミウルゴスが勝手に仕切る。

 

 

「「「賛成」」」

 

皆が私を封印しようとする。

 

 

「待ってください!アルベド様にも事情が!」

 

ああ、事情が一番わかってないのが私の味方だったなんて。

 

 

「ああ、何か勝手に納得してます。守護者統括殿。

 

 多分、放置しても問題ないです。閉じ込めますが」

 

理不尽極まりないことを言い出す上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)。

 

種族を間違えているとしか思えない。

 

 

「デミウルゴス様。やっぱり反省していません。

 

 セバス殿縛るの手伝ってください」

 

ああ、もうダメなのか...

 

 

「一体これは何の騒ぎだ...?」

 

モモンガ様がお言葉をかけてくださる。きっとこの状態から...

 

 

「ただのいつもの暴走です。お気になさらないで『旅』の準備を」

 

デミウルゴスが遮る。

 

 

「ああ、いつものか。変なものでも食べたか?休め」

 

そう言って離れる御方。そんな。

 

 

「『休め』と言われたからには守ってもらいますよ。アルベド」

 

デミウルゴスが言質をとらえたせいで悪魔の笑みを浮かべる。

 

 

「まぁ、自業自得だよね」

 

アウラまで。さっき見逃してあげたのに。

 

 

「守護者統括殿はナザリックの大切な内政の管理者です

 

 全く問題ないですね」

 

シマバラ貴様!いつの間にそこにいる!

 

 

「解散ですね...正直疲れました。本当に」

 

そう言ってデミウルゴスは私を軟禁するために動き出す。

 

セバスまで一緒になっている。まだ、まだあきらめない。

 

 

「諦めてください。本当に」

 

おのれ!パンドラズ・アクター!!

 

 



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第十七話 休まない魔王、役割に気づかない勇者

空気が読めない魔王と勇者の旅。


俺はナーベラルと共に心因性の過労の療養のため、デミウルゴスの提案に従い、

 

アゼルシア山脈へ『旅』することになった。

 

 

 

「…ではいくかナーベラル」

 

俺は、内心の楽しみを抑えてナーベラルに声をかける。

 

万が一のためにナーベラルには完全催眠での隠蔽をしている。

 

俺達、二人とも名前も姿も詳しく認識できないようになっている。

 

 

俺達二人は、正体不明の旅人だ。

 

 

関わった者からナザリックに即繋がる可能性は低い。

 

逆に怪し過ぎてバレるかもしれないがそこまでは良い。

 

 

要は『旅』がしたいのだ。

 

 

「はっ!」

 

ナーベラルは何度言ってもこのお辞儀は治らない。

 

一時的には治るのだが。

 

 

だが、今回は俺の護衛のため一人でということもある。許容すべきだろう。

 

何せ、本来ならコキュートスを『仕事』にする予定だったのが、急変したのだ。

 

 

しかし、供にナーベラルというのは…不満はないが警戒すべきだよな。

 

 

出来得る限りの情報系魔法で周囲を常に警戒する。

 

これらの魔法程度、膨大な魔力のゴリ押しで一日中展開していても問題ない。

 

 

「モモンガ様。私ではやはり不足でしょうか?」

 

ナーベラルが恐る恐るという感じで聞いてくる。

 

 

いかん。Lv113のナーベラルなら普通に魔法を気づくか。

 

 

…失敗した。

 

 

というか事前の下調べでアゼルシア山脈には、危険はほぼゼロだと俺は知っている。

 

 

「すまん。つい、久しぶりの『旅』なので、警…癖で魔法を使ってしまったのだ」

 

警戒と言いそうになった。

 

 

危ない。本当にどうしたんだ、俺。

 

コキュートスとナーベラルを入れ替えただけだ。

 

余計な心配は必要ないはずなのに…

 

 

「失礼致しました!

 

私の勝手な思い込みでご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません!」

 

全身全霊謝罪するナーベラル。

 

 

「良い。というよりこれは俺の癖だ。ナーベラルの気にすることではない」

 

謝らせてしまった。

 

おかしい。普段ならこのようなミスはしないはずなのに?

 

心因性の過労とでも言うのか?

 

 

「かしこまりました」

 

ナーベラルが頭を上げる。

 

 

…どうも調子狂っている気がする。

 

気持ちを切り替える。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺とナーベラルはリ・ブルムラシュールに来ていた。

 

ラナーが以前、帝国との繋がりについて、八本指を使い脅して金を巻き上げた貴族。

 

『ブルムラシュー候』の領地だ。

 

 

なので、俺が行動しても隠蔽は容易だった。

 

 

何故なら今、王国も帝国も実質支配しているのは俺だから。

 

 

ここからドワーフ国の旧王都『フェオ・ベルカナ』に直行するのだ。

 

 

『原作』では、

 

トブの大森林を北上してドワーフの都市『フェオ・ライジ』へ行ったと記憶している。

 

恐らく、だ。

 

俺はそもそもリザードマン達とシム〇ティしていたから本当にわからない。

 

だが、帝国からの情報でその都市は三年前に放棄されたことを俺は知っている。

 

 

当初は帝国経由で現ドワーフ国首都『フェオ・ジュラ』へ行こうとも思ったが、

 

それでは『仕事』だ。

 

 

だから、俺は王国経由でアゼルシア山脈を旅することにした。

 

 

…まさかデミウルゴスも、俺が旧王都『フェオ・ベルカナ』のドワーフの『財』を奪い、

 

竜を支配し、クアゴア達との交流をもくろんでいるとは思うまい。

 

 

『旅』については俺の好きにさせてもらう。

 

 

完璧な『趣味』だ。

 

 

もちろんナーベラルにも言わない。

 

飽くまで『旅』なのだ。

 

 

…とはいえ、王国とドワーフとの交流が一切ないのは少し厳しい。

 

自分で考えないといけない。

 

 

デミウルゴスも強引な開拓に近い『旅』に猛反対したが、

 

俺が好きに『旅』すると言えば反対できなかった。

 

 

だから、俺の想定通り、本当に上手く行くかは賭けになる。

 

結局何も見つからずに帰るかもしれない。

 

 

 

ただ、それで良い。

 

九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)時代の俺達はそうだった。

 

 

 

見知らぬ世界へ、自分の不利な世界へ勇んで踏み込んだ。

 

それで失敗もあったし、成功もあった。

 

ワールドアイテムを手に入れたが奪われたりもした。

 

…あの時は屈辱的な思いだったが、それすら懐かしい思い出だ。

 

 

 

「ナーベラル」

 

俺はそれを思いだし、ナーベラルに声をかける。

 

 

「はっ」

 

畏まるナーベラル。だが、もう気にしない。

 

 

「『旅』に行こう。きっと楽しい思い出になるはずだ。

 

 失敗しても成功しても。だから、一緒に着いてきてくれるか?」

 

俺はお願いする。決して命令でなく。

 

 

「御心のままに」

 

ナーベラルは、そうはとらえないだろう。

 

だが、それでも良い。

 

そうだ。俺は誰かと一緒に『旅』をしたかったのだ。

 

俺の『願い』だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

アゼルシア山脈の麓は木々が生い茂り、

 

山頂に近づくにつれて徐々に低い木々になっている。

 

 

徒歩で『旅』することはナーベラルに言ってある。

 

勿論、アイテムで各種対策はしている。

 

火山ガスや溶岩の対策等は万全だ。

 

 

だからどこまでも真っすぐ歩く。

 

ユグドラシル時代のように、マッピングもせずに赴くままに。

 

 

地図は役に立たない。それは帝国の、西からの地図だから。

 

一応の位置関係は確認するが。

 

今回の、王国からの東のルート等想定されているはずがない。

 

 

そもそも大よその位置関係から『フェオ・ベルカナ』に近そうなのが、

 

リ・ブルムラシュールだっただけ。

 

 

霜の竜(フロスト・ドラゴン)の戦いで滅んだ都市に行くかもしれないし、

 

溶岩地帯に行くかもしれない。

 

 

ここまで無策なのは自分でも初めてだ。

 

 

ふと、『気探知』に集団でこちらに向かってくる存在を感知した。

 

大体Lv10もいかない雑魚集団。

 

 

「ナーベラル。何か集団で来る。雑魚だが警戒しろ」

 

俺はナーベラルに声をかける。

 

 

「はっ」

 

良い返事だ。周囲の警戒から会釈もない。まるでパーティだ。

 

何だか懐かしい。

 

 

そう思っていたら、何が来ているか気づく。

 

 

ペリュトンだった。

 

鳥の胴体と翼、オスの鹿の頭と脚。

 

影を求めて、人を襲うモンスター。

 

集団で行動するため、注意とされている。

 

だが、問題ない。

 

 

「ナーベラル。少し『魔王』スキルを使う」

 

戦う義理もないので追い払う。

 

 

『魔王』のオーラ。

 

ユグドラシル時代には意味のないオーラだったが、

 

この世界だと俺がヤバい存在だとわかるオーラらしい。

 

 

錯乱し、ちりじりに散るペリュトン達。

 

こちらに近づいて来るものはいない。

 

 

「お見事です!モモンガ様!」

 

ナーベラルが俺を賛辞する。

 

 

少し嬉しいが…

 

「ありがとう。ナーベラル。しかし、雑魚しかいないな」

 

知ってはいたが、あまりにも弱い。

 

こちらに来る程の度胸があれば用意したボール・シリーズで捕獲したのに。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

その後も山脈を上っていくが、ハルピュイアやイツマデと接触しそうになる度に、

 

『魔王』のオーラで蹴散らした。

 

もう面倒になったので、ずっとオーラを垂れ流している。

 

 

別に生命に害のあるオーラではないし。

 

 

ふと、『気探知』にLv40近くの存在を知覚する。

 

珍しい。これほどのものは、アゼルシア山脈ではなかった反応だ。

 

 

「ナーベラル。どうやら現地の強者らしい存在がいる。接触するが良いか?」

 

ナーベラルに尋ねる。パーティだから。

 

 

「はい。構いません」

 

段々なれてきたのか、畏まらなくなった。

 

いや、普段モモンの時に戻りつつある。

 

今考えると何故か互いにギクシャクしていた。

 

 

いい傾向だ。

 

 

そう思いながら現地の強者らしき『気配』の近くに来た。

 

 

そこにいたのは、

 

「どうか、命だけはお助けください!!!」

 

それは見事な土下座をする『霜の巨人(フロスト・ジャイアント)』だった。

 

 

…『魔王』のオーラ垂れ流していたらそうなるわな。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

もう解除するのも面倒になった。

 

 

旅の『魔王』でも良くないかと思ってきた。

 

 

だってナーベラルと俺の関係知らないわけだし。

 

認識もできないし、アゼルシア山脈の連中には。

 

 

とはいえ、巨人の土下座は邪魔でしかない。

 

 

「面を上げよ」

 

俺は目の前の『霜の巨人(フロスト・ジャイアント)』に声をかける。

 

頭を上げない。

 

 

「…何故あげない」

 

『霜の巨人』を撲殺しようとするナーベラルを手で制する。

 

わけがあるに違いないから。

 

 

「し、失礼ながら、

 

 偉大な御方には数度声をかけられてから頭を上げるというのが、

 

 正しい姿勢と思いました!不快ならば申し訳ございません!!」

 

『霜の巨人』は頭を上げて謝罪する。

 

ナーベラルは納得したのか杖をしまう。

 

 

…多分、モンスターとだけ考えていてマナーとか思ってなかったな?

 

 

「私達は旅人、別に殺戮にきたわけではない。あまり畏まらなくて良い」

 

一応信じてもらえないだろうが言っておく。

 

 

「は、はぁ」

 

信じてないようだ。

 

 

「貴様!モモンガ様の言うことが信じられないというか!」

 

ナーベラルが激怒する。

 

 

「ひぃ!」

 

Lv113のナーベラルの殺気に曝されて恐怖の悲鳴を上げる『霜の巨人』。

 

 

絵面的にシュール過ぎる。大きさの対比的に。

 

 

強さは全然違うのはわかるけど。

 

 

「やめよ。ナーベラル。

 

 どう考えても目の前の存在と我らは強さの次元が違い過ぎる。

 

 彼がそれを信じないのも無理はない」

 

この目の前の『霜の巨人』は、俺達に即座に土下座する程の知性の持ち主だ。

 

これ以上、攻撃的な行為は避けたい。

 

…しかし、Lv40前後でこのプライドのなさは凄い。

 

アゼルシア山脈ではほぼ敵なしだと思うのだが。

 

 

「はっ」

 

下がるナーベラル。

 

 

「偉大なる御方々。

 

 アゼルシア山脈に旅ということですが、目的地等はございますのでしょうか?」

 

なんて話がわかる『霜の巨人』だ。

 

『御方々』という俺とナーベラルを対等に扱った発言でキレかけているナーベラルを宥める。

 

 

「実は『フェオ・ベルカナ』という、昔ドワーフ達がいたという都市を探している。

 

 霜の竜(フロスト・ドラゴン)達を支配して『仕事』を頼みたいのだ」

 

ナーベラルが『えっ聞いてない』という顔をするが無視する。

 

『旅』にはこういうことだって含まれるはず。多分。

 

 

「偉大なる御方、このまま南東へ行くとすぐでございます!」

 

『霜の巨人』からは一刻も早く俺達から逃げ出したいのがひしひしと伝わってくる。

 

だが、逃がさん。

 

 

「そうか…案内を頼みたかったのだが、無理か」

 

あからさまに気分を害しましたという雰囲気を出す。

 

 

「いえ!喜びでございます偉大なる御方!!是非、案内させてくださいませ!」

 

素晴らしい。現地の案内役が確保できた。

 

何て幸先が良い『旅』だ。

 

 

「そうか。悪いな。では、ナーベラル行こうか」

 

我ながら酷いことしているが、どうせ旅の恥は搔き捨てというし。

 

うん、問題ない。

 

 

ナーベラルは本当に良いのだろうかという顔をしていた。

 

 

「ナーベラル。俺が『仕事』をするわけではない。

 

 そうこれは『旅』なのだ。旅の途中で、誰かを支配しても問題ない」

 

我ながら滅茶苦茶な理屈だ。

 

 

「畏まりました」

 

ナーベラルは本当に聞き分けが良くて助かる。

 

後でナーベラルと口裏を合わせて、旅の途中で偶々支配したのだと報告しよう。

 

 

そう、旅での『出会い』として言えば何も問題ない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

強くなること以上にこの世界に必要なことはない。

 

私はそう生きてきたし、今も間違っているとは思っていない。

 

 

だが、この桁外れの『強さ』の前に私など意味があるのだろうか?

 

 

「面を上げよ」

 

頭を地に着ける私達に言う存在。

 

 

目の前の『強者』にとって、私はその辺の虫けらと変わらないだろう。

 

 

だが、身に着けている物すら理解できない、『強さ』だけが伝わってくる。

 

 

圧倒的力の差のみわかる。だが、それ以外『わからない』。

 

 

…絶対勝てない。

 

この方の前では、私などその辺にいる虫と同様に殺せるだろう。

 

 

私の生きてきた『全て』を否定する目の前の存在。

 

 

この『強者』は何者なのだ。

 

 

私は、この『強さ』を知りたい。知りたかった。

 

 

「何故、面をあげない?」

 

機嫌を損なわれた『強者』。

 

もはや、なりふり構わない。この『強さ』を知りたい。

 

 

「失礼いたしました!わ、私はオラサーダルク=ヘイリリアルと申します!

 

 偉大なる御方!何卒、何卒その正体をお教えくださいませ!」

 

それを知るためならば、全てを捧げよう。

 

そのためならばこの命など惜しくない。

 

 

正体を隠されているのには理由があるはず。

 

 

それを解けというのは死に値する行為だろう。

 

だが、知りたいのだ。

 

 

この圧倒的な、絶対的な『強者』を。

 

 

アゼルシア山脈などというちっぽけな物を支配しようとしていた私は馬鹿だ。

 

 

「ふむ…」

 

途端に目の前にスケルトンが現れる。

 

いや、違う!

 

 

絶対的オーラを放つ『強者』の気配は絶対に間違えない。

 

 

そして、その身に纏う衣装は、我が『財』すら霞むほどの物だと、

 

ドラゴンの嗅覚が教えてくれる。

 

 

初めにその衣装を見ていたら欲望に身を任せてしまうほどに、素晴らしい。

 

今なら、この『強者』には当然の衣装だと理解できる。

 

 

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン。かつてこの世全ての財を手にした『魔王』である」

 

『強者』はそう名乗られた。

 

 

だが、私は知らなかった。この偉大な存在を。

 

正体を明かしてくれと頼んでおきながら、無知な自分が恨めしい。

 

 

だが、

 

「ま、魔王!九つの世界の神の王!!」

 

息子の一人ヘジンマールが叫ぶ。

 

相変わらず見っともないデブゴンともいうべき姿。

 

 

だが…私が知らない目の前の偉大な存在を知っているのか!?

 

 

「ほう…知っているか私を」

 

ヘジンマールに興味を抱かれる御方。

 

 

そうだ。

 

 

ヘジンマールも私もこの『魔王』という『強者』に取ってはどちらも変わらないに違いない。

 

 

「は、はい。私は知識を得るために本を読んでおりました!

 

 故に存じております!偉大なる王!世界の財を持つ『魔王』様!」

 

ヘジンマールは答える。知っていると。

 

…私は愚か者だ。

 

この御方のことを知らないなどあってはならない。あっていいはずがない!

 

 

「そうかそうか…」

 

嬉しそうに頷く『魔王』様。

 

 

私は決意した。

 

 

「偉大なる御方!『魔王』様!私共の全てを捧げます!

 

 何卒、その『強さ』のお役に立ちたく存じます!」

 

ドラゴンとしてのプライドがないわけではない。

 

 

だが、『絶対者』を知った今、私の全てが変わった。

 

このお方に全てを捧げよう。

 

この御方の偉大さにひれ伏したいと乞い願う。

 

 

「…よかろう。貴様らは今から私の『財』だ」

 

この日私は真の『世界』に出会った。

 

 




???「この人たち何なんですか!」
??????「最初から私共が建てた計画を全否定なされたのです。もうこのまま祈るしかありません!」


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第十八話 気づき

有り得ない事態、自分の変化を見た魔王は確信する。
魔王は勇者に確かに救われた。だが、それは化け物の計画だと。
無理やり『愛』されるところだったと。


城外にいる『霜の巨人』を逃がすなとナーベラルにメッセージを送った。

 

殺しはしないが後で記憶を消す。面倒ごとは避けたい。

 

 

それから俺は城内で、オラサーダルク=ヘイリリアルを含む19匹の冷凍宅配便…じゃない

 

『霜の竜(フロスト・ドラゴン)』を支配した俺はこれから行って貰う予定を話した。

 

 

従わないならば殺すしかないかなぁと思っていたら普通に即決された。

 

 

ドラゴンとしての誇りとかあったような気がするのだが、賢過ぎないか?

 

 

魔王のオーラがあるとはいえ。

 

 

俺の覚えている『原作』だと愚か者だった気がするのだが…やはり当てにならない。

 

『霜の竜』達はとても素直だった。

 

 

俺は、とりあえず、目標の一つであったクアゴアの代表に会わせるように頼んだ。

 

 

オラサーダルクは、即座にクアゴア代表のペ・リユロを呼んできた。

 

 

リユロは『霜の竜』を完全に支配したと思われる俺に絶対の忠誠を誓った。

 

 

…強者に従うのが当然とか考えていればこうなるかもしれない。

 

クアゴアとは共存共栄路線で行きたかったのだが、『従属』になってしまうことが確定した。

 

なので、全力で魔王ロールをした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

圧倒的な力を感じさせる『魔王』と名乗る存在。

 

少なくともわかる。

 

 

この存在にはドラゴンもクアゴアも変わらない。

 

 

そんな『絶対者』が現れた。…現れてしまった。

 

もはや、首を垂れるしかなく、俺は何を言われても受け入れる覚悟をした。

 

 

ところが、彼の『魔王』は、

 

「私はな、かつて九つの『世界』を保とうとしたのだ。財と力を用いて」

 

訳のわからないことを言い出した。

 

 

『世界』と言われても、俺にはアゼルシア山脈しか思いつかない。

 

 

そのためにドワーフを滅ぼし、いずれは霜の竜すらも滅ぼすつもりだった。

 

アゼルシア山脈を支配したら俺の『世界』は完結する。

 

だから、九つの『世界』などありえない。

 

 

「と言ってもわからないだろうな。この一つの『世界』住民では」

 

苦笑する『魔王』。

 

俺には困惑しか浮かばないが、一つだけ確実にその『隠喩』がわかった。

 

 

この『魔王』は『世界』を何らかの形で『保つ』つもりだ。

 

少なくとも、滅ぼす気はない。

 

 

アゼルシア山脈に存在するもの全てを単身で滅ぼせるだろう。この存在は。

 

勝てる者など、想像がつかない。

 

 

「君たちクアゴアには、我が財を守ってもらいたい」

 

…なんだって?

 

意味が分からない…脈絡がない?いや、あった。

 

 

クアゴアに『世界』を保つために協力しろ、だ。

 

だが、どういう形で?

 

 

「ああ、なに簡単だ。私は鉱山を持っているんだ。

 

 君たち地下に住む者では見えないかもしれないが、

 

 私はアゼルシア山脈に優るとも劣らぬ鉱山を所有している」

 

何となくわかって来た。何をしようとしているかはさっぱりだが。

 

…つまり『人手』が足りないのか。なんてわかりづらい言い方だ。

 

だが、確信した。これしかない。

 

 

『魔王』は俺の『頭脳』を試している。

 

 

なので、あえてわかりづらくしている。

 

恐らく、俺が推測できなかったら言い方を変えて同じことを言う。

 

そうしないと気づけない何かがあるからだ。

 

 

俺が気づけないなら、別な方法を用意している。悪い方向で。

 

 

「発言よろしいでしょうか?」

 

俺は決意する。覚悟を決めて交渉する。

 

ここが最善だと気づいたから。

 

 

「許す」

 

そう言って堂々たる態度で俺の言葉を促す『魔王』。

 

 

俺達、クアゴアは『魔王』がその気になれば滅ぶだろう。

 

俺はクアゴア統合氏族王として賭けに出た。自分の考えが正しいと思ったから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

素晴らしい。

 

優秀な方なら良いと思っていた。だが、想定以上だ。

 

…彼は天才だ。勿論、ラナー等には劣るが。

 

 

 

ナザリックの鉱山開発は、今でも十分だが、

 

鉱山を更地にするまで掘り出すのは流石に不可能だった。

 

 

魔王と英雄との闘いはわざわざ派手に壊して、

 

鉱石とかもろとも吹き飛ばしたからできた行いだ。

 

…完全催眠で一部誤魔化してもいた。

 

その破片を集めるだけで黒字になったのは、チートだが。

 

 

今後、クアゴア達にナザリックの鉱山開発を手伝ってもらって、今以上に鉱石を取りまくる。

 

最終的に毎日更地にして、掘り進める。鉱山そのものは完全催眠で周囲を誤魔化しながら。

 

 

そのためには、『鉱石』をかぎ分けられるクアゴアが適切なのだ。

 

たとえ、クアゴアの文明レベルが低くても。

 

 

ベンゼルとグレールは鉱山を掘れれば良いという考えなのは知っている。

 

だが、鉱山についてクアゴアに参加させて良いか、

 

他のNPCの意見を聞く必要もあった。だが、おそらく大丈夫だ。

 

 

NPC達には、鉱山は攻められるものという意識がある。ユグドラシル時代の記憶で。

 

 

だから、クアゴアが、ナザリックに『従属』したなら大丈夫だと判断するはずだ。

 

鉱山に限って言えば。

 

 

クアゴアはトカゲや土中生物等何でも食べる雑食性だと帝国からの情報で知っている。

 

雑食性ならおそらく魔王国の作物等で代用可能なはず。

 

益々魅力的な種族だ。『鉱山』があるナザリックにとっては。

 

 

クアゴアが鉱石を食べるのは、幼少期。食べた子はその金属に応じた能力を持つという。

 

つまりは、『子供』のみだ。その分を分け与える程度なら全く問題ない。

 

唯一の懸念は、将来、クアゴアの子供の数が増え過ぎた場合だ。

 

毎日更地にしても足りないレベルの人口増加の可能性。

 

 

…だが、彼なら理解できる。

 

話していて確信した。ペ・リユロは非常に優秀なクアゴアだ。

 

すぐにナザリックの恐ろしさを必ず理解するだろう。

 

 

そして、『未来』が見えるはずだ。クアゴアの繁栄の未来が。

 

 

ぺ・リユロなら、それを壊すような真似は決してしないだろう。

 

 

同時に、彼なら想定できる最悪の未来がある。

 

 

…こちらから言わなくても彼ならすぐ理解できる。

 

多少誘導すればクアゴアの人口管理までし出すレベルで賢い。

 

 

…だから惜しい。

 

本当にリユロとは、共存共栄路線で話し合いたかった。

 

だが、俺に力を感じてしまった以上不可能だ。

 

もはや、『従属』の選択しか彼にはできない。

 

 

クアゴアの『世界』の限界だ。

 

ラナーのように逸脱した頭脳はまずありえない。

 

 

おそらく鮮血帝と同程度に賢いと思うが、『世界』が狭すぎる。

 

…彼が、クアゴアがドワーフを占領できたら、また違った会話ができたかもしれない。

 

 

惜しい。本当に惜しい。

 

 

勇気ある決断力、『魔王』の俺に怯えぬ胆力。

 

訳の分からない戯言と一蹴しないだけの洞察力。

 

 

彼に、ペ・リユロに、『知識』さえあればもっと違った。

 

 

ここで決断してしまった以上、彼の意識を変えるのは不可能だ。

 

 

もはや『従属』しか選択肢がない。こちらからの説得も不可能。

 

だから、せめてその『世界』で繁栄してもらう。

 

 

…本当に惜しい人材だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

クアゴアとの話が終わり、オラサーダルクと今後の『仕事』について話をした。

 

その際、オラサーダルクから『財』は好きに使って欲しいと言われたが、要相談にした。

 

 

それよりもドワーフの宝物庫が見たかった。

 

 

…オラサーダルクが色々言うのでナザリックに回収を依頼することにした。

 

 

『霜の巨人』の記憶を消して、元の場所に転移(ゲート)で飛ばした。

 

彼には悪いことをしたが、死なないだけマシだと思って欲しい。

 

本当に申し訳ない。

 

 

俺はナーベラルに口裏合わせをした後に、

 

ナザリックにメッセージを送った。

 

 

『霜の竜(フロスト・ドラゴン)』やクアゴアのこと、

 

オラサーダルクの財のこと等を伝えたそれらを回収するように依頼した。

 

 

彼らと『契約』したこと以外は全て任せると伝えた。

 

俺は『旅』の途中だから丸投げになってしまう。

 

 

だが、『世界』の方針から彼らを無体に扱ったりはしないだろう。

 

 

上記の内容をナザリックに報告したら、ラナーからメッセージが即座に帰って来た。

 

 

『趣味』なのに『仕事』をしていると滅茶苦茶怒られた。

 

 

ナーベラルと口裏合わせていたが、慣れないことをさせたせいですぐにバレた。

 

 

というかNPCも気づいているけど俺に怒れないと言われた。

 

 

俺は物凄く反省した。『旅』の範疇だと自分に言い聞かせて無茶苦茶していた。

 

…何故こんなになるかわからないくらいに。

 

 

ラナーに、

 

「酒でも飲んで寝たらどうですか?馬鹿なんじゃないですか?」

 

と言われてしまった。反論できなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ナーベラルと俺はドワーフの宝物庫の前に来ていた。

 

二人だけで、『旅』の結果を見たかった。

 

 

宝物庫の中身を拝借してもバレなければ問題ない。

 

俺達はナザリックに関係ない謎の旅人だから。

 

 

「ナーベラル。今から扉を開くぞ!」

 

俺はわくわくしていた。

 

 

『七門の粉砕者(エピノゴイ)』を使う。

 

これはLV.90相当の鍵開け能力を7度まで使用できるアーティファクトだ。

 

貴重品だが、『旅』なのだからこれくらいいいだろうと貧乏性を押さえつける。

 

 

最終日二日前に店で買い占めてまだあるアーティファクトだというのもある。

 

 

「はっ」

 

普段と変わらないナーベラルを見て我に返る。

 

 

…ちょっと興奮し過ぎたかもしれない。

 

 

いや、待て、何故俺は興奮していた?

 

共感できる友でもないのに?

 

 

「モモンガ様…」

 

急変する俺を見てどう対処すれば良いかわからないという感じだ。

 

気まずい。

 

 

…良く考えれば、

 

何故ここまでナーベラルを俺が気にするのか良く考えたらわからない。

 

俺の秘密を打ち明けたから?

 

最初に『世界』の異変に気付いたから?

 

 

「モモンガ様」

 

 

…気づいてはいけない可能性に気が付いた。

 

あってはならない。ダメだ。俺が『俺』を保てなくなる。

 

自分を…ダメだ。

 

というか関わりは多いがその考えは間違っている。

 

『原作』から目覚めた結果、俺はその行為が正しいからナーベラルと『英雄』をやった。

 

…それ以外では?

 

 

「モモンガ様。お休みになられた方がよろしいかと」

 

ふと、気づく。

 

心配そうな顔をしたナーベラルがいた。

 

 

だが、

 

「済まない。これを開けたら…休む」

 

俺は煩雑な心から、無理やりその場に気を取り戻す。

 

 

「…御心のままに」

 

ナーベラルの沈黙から俺は感じ取った。

 

彼女は、俺を心配している。やめろと言いたがっている。

 

だが、従うと表面を無理やり取繕っている。

 

 

俺はそれに気が付かない振りをした。

 

 

「開くぞ」

 

俺は無理やり、宝物庫の扉を開けた。

 

 

凄い量の金貨や装備が転がっていた。宝物庫だから当然だが。

 

隠し扉の可能性にも気がついた。

 

だが、金貨の山を取り除かないと探せない。二人じゃ無理だ。

 

 

俺の思考はそこにはない。…良く考えたら犯罪だよなと冷静になる。

 

 

…俺はそもそも何でこんなことをした?

 

わざわざ宝物庫を盗掘するなんてユグドラシルであるまいし。

 

…俺は普通そんなことをする人間か?

 

 

そもそも『旅』ならデミウルゴスの提案通り帝国経由で行けば良かったはずだ。

 

 

…ユグドラシルと同じように楽しみたかった?

 

 

俺はそれしか知らないから?何もできないから?

 

 

「モモンガ様。私は!」

 

…ラナーの言葉を思い出した。

 

『酒でも飲んで寝たらどうですか?』

 

 

「…済まない。何だ?」

 

ナーベラルに尋ねる。先ほどから俺はおかしい。

 

 

「私は御身に全てを捧げます。だからこれ以上無理をなさらないでください!」

 

そう深々と頭を下げられた。

 

 

本当は、もう何も深く考えないでいたかった。

 

 

だが、ナーベラルの言葉で、『逆に』、俺は自分の『心』を振り返った。

 

 

全力で、これ以上なく、無理やりに、強引に、思考する。

 

 

ここまでの流れ、俺の動揺、心を利用する。された。

 

 

そしてわかった。

 

 

「…嵌められた!!」

 

俺の突然の大声にナーベラルが恐怖していた。

 

 

「すまない。ナーベラル。お前は何も悪くない」

 

聞きたがる素振りのナーベラルを手で制する。

 

 

 

ここまでやるか?俺一人のために?

 

 

 

だが、皆の計画は俺が無意識に壊していた。

 

それは幸運だ。

 

俺が『孤独』だから浮かばないその発想。

 

今回に限っては、その欠陥に救われた。

 

 

何故、『番外席次』があんな告白をしたのか。

 

何故、ラナーが愛してなくても側におけと言ったのか。

 

何故、ナザリックの皆が俺を嵌めたのか。

 

全て繋がる。

 

 

これまでの計画の全てを許そう。

 

だが、ナーベラルを使ったことだけはダメだ。

 

 

最悪は止められた。俺は、ラナーすら想定外を行けただろう。

 

俺はある意味最後までラナーに勝った。

 

 

ある意味『それ』を想定していた発言のせいで止まった。

 

それは、ラナーらしくない間抜けな発言。

 

『酒でも飲んで寝たらどうですか?』

 

これはおかしい。ラナーらしくない。

 

だが、そうするかもしれない。

 

 

彼女視点では。

 

 

…馬鹿みたいだと自覚して言ったに違いない。

 

 

 

『番外席次』も、『人間』であるが『勇者』ではないとはよく言ったものだ。

 

 

『魔王』を『愛』で倒すとは中々手が込んでいる。

 

 

 

見事だ。ああ、見事だ。理解した。

 

 

『全て』を受け入れよう。幸福を。

 

 

 

だが、ラナー。ナーベラルを利用したことだけはダメだ。それだけは絶対に。

 

…わかってやったのだろう。

 

 

あと一歩で、その結末になっていたら俺は流石にラナーを許せなかった。

 

 

「ナーベラル。即座にナザリックに帰還するぞ」

 

そう言い急がせる。彼女には最後まで迷惑をかけた。俺の思いのせいで。

 

 

...答え合わせと行こうじゃないか?ラナー。

 

 

楽しい楽しいお話の時間だ。

 



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第二部最終回 答え合わせ

「時よ止まれ お前は美しい」
そう叫んだ女は、時が動き出し、さらに美しいものを見た。


ナザリック地下大墳墓に設けられた私の自室。

 

私はそこで『答え』を待っていた。

 

もはや、『村娘』の策ですらないような真似までした。

 

正直、失敗したかもしれない。

 

そう思っていると異常に気が付いた。周りの音が消えている。

 

 

 

まるで最初のあのときと同じ。自室にいるはずなのに、そこではない空間。

 

まるで世界が切り離され、『時』が止まったかのようだった。

 

 

そこでまた同じように、いや今回は突然『彼』は現れた。

 

楕円の闇はなく、いつものような『人間』で現れた。

 

 

「答え合わせと行こうかラナー。二つの意味で」

 

そう言って、手を差し伸べる彼。

 

 

私は、その意味を正確に理解し歓喜した。

 

 

 

「ええ、何でしょうか?」

 

手を受け取りながらも、その思いを面に出さずに完璧に答える。

 

偽装は完璧だ。だから、真摯に聞ける。何であろうとも。

 

 

「まず、最初の答え合わせは、『勇者』だ」

 

それは言っていない。どこで気が付いたのか?

 

 

「『番外席次』はこう言ったよ。

 

 『私は『勇者』なんかじゃない。『人間』ですもの』」

 

彼女と同じ声で話す。

 

 

「魔法ですか?それともアイテム?」

 

関係ないことではぐらかす。本当は早く聞きたいがこれは『答え合わせ』だ。

 

 

「マジックアイテムだ。友に貰った」

 

彼には、中々面白い性格の友がいたらしい。彼女の声色から何までが同一だった。

 

 

「あのとき俺は確信した『番外席次』は本気で言っていると。

 

 それは間違いではなく、彼女は『人間』だった。

 

 俺が思い違いをしていたのは、『歪み』を治せないと自分で結論していたことだ。

 

 俺が彼女に結論を下してしまった」

 

そこはもう手遅れだったが、言わない。

 

その方が彼女のためになる。私のせいでもあるから。

 

 

「次はこれだ。

 

 『誰かが…いいえ、それで構いません』

 

 ラナー。お前はここで言い淀んだな?」

 

覚えている。あのプライドを捨てた告白だ。

 

一言一句違わぬ自分の言葉だ。自分の声は理解している。

 

 

「ええ、そうですね。続きを」

 

私は促す。彼はどうあれ『答え』を得たと確信する。

 

 

「これは『勇者』を待っていたんだな?

 

 しかも、『魔王』を倒すのではなく、救う『愛』の勇者だ」

 

その通りだ。つまり彼はもう自分を愛せている。

 

だから確認する。

 

 

「『勇者』と愛し合ったのですか?」

 

激怒するだろう答えを待つ。彼がそれを望んでいないのは明白だったから。

 

彼の『側』にいられなくなる。そう覚悟して『答え』だけを待っていたから。

 

 

ところが、

 

「いいや。全く。途中で気が付いた。あまりに不自然だったから」

 

…おかしい。彼が自分でそれに気づくのは無理だ。

 

私達が用意していた『策』を全否定して、

 

帝国ではなく、王国からアゼルシア山脈に行ったのだから。

 

 

「不自然?あなたの意思でしょう?」

 

敢えて気に障るように言う。気になるから。

 

 

「不自然なのは、お前だ。

 

 『酒でも飲んで寝たらどうですか?』

 

 これは明らかにお前じゃない。お前ならもっとマシな案を出す。

 

 つまり、意図的な状況を用意していたのにそれができなくなったのだろう?」

 

合っている。そこだけは『村娘』の策とも言えないものを使う他なかった。

 

どうしようもなく私たちの手から離れていたから。

 

 

私は沈黙する。

 

 

「デミウルゴスは俺が王国から開拓すると言った時猛反発していたよ。

 

 俺は『旅』という定義が常人とは違ったらしい」

 

今更そんなこと言っても『答え』ではない。

 

焦れる。

 

 

「でしたら、何故気づけたのですか?」

 

もう直接聞く。有り得ない『答え』の真実を。

 

 

「簡単だ。俺はナーベラルを愛していたからだ」

 

断言する。だが、答えになっていない。いや、答えかもしれない。

 

 

「どうして、それが答えなのですか?」

 

私は二重の意味を重ねてしまう。どうしてなのかと焦りが込み上げる。

 

 

「俺は『孤独』だったからだ。致命的な欠陥。

 

 自分を愛せない。だから気が付いた。

 

 お前の予想通りの展開になったときに、計画がおかしいと。

 

 ...俺はその『旅』しか知らないからできなかったのだと」

 

…理解した。

 

理解できた。この男、『愛されたから愛せた』のだ自分を。

 

 

「完敗ですね…私が考えた前の段階で愛されたと確信したから気づけたのですね」

 

そうだ。そこで逆転できる精神力がおかしい。

 

 

普通はそれに飲まれる。

 

 

愛に飲まれそこから逃げられなくして気づかせるのが、私の『策』だった。

 

 

「お前の『策』は見事だった。実際『勇者』に救われたのだ。

 

 全く、『愛』に負ける『魔王』など陳腐化も甚だしい」

 

そう自嘲する『魔王』。

 

私が知らないだけでそういう話がたくさんあるのだろうか?

 

 

「そうですか…ではもう一つの『答え』を聞かせて貰えますか?」

 

もう知っている。

 

 

『勇者』を愛しているのに自覚した『魔王』が『化け物』を愛するはずが…

 

 

「愛しているよ。お前も」

 

…気が動転する。

 

彼は、この『答え』を誠実に言っている。

 

間違えない。でも、何故どうして?

 

 

「何故ですか?わかりません」

 

声が震える。望んでいたが望んでない答えだから。

 

 

「はぁ…お前のお陰で『愛』に気づけたのだ。

 

 俺がお前を愛してないわけないだろう」

 

私は『世界』に満足していた。

 

だが、『世界』はそれ以上に美しかったことを知った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

数分。だが、数時間にも感じる時間を私は過ごした。

 

『時』は動き出し、『世界』は彩に満ちた。

 

 

 

「私はどういう扱いになるのですか?」

 

私は、気持ちがようやく落ち着き聞いてみる。

 

 

「そのままだ。ただ…」

 

言い淀む。叶えられることなら叶えたい。全てを。

 

 

「『番外席次』がなぁ…どうやっても愛せないんだ…」

 

完全に私のせいだった。

 

しかも取り返しがつかない。叶えられない…

 

 

「私が言うのも何ですが、彼女は『側』にいるだけで幸せだそうです。

 

 美しい『世界』を魅せたあなたに全てを捧げる覚悟でした」

 

せめて事実だけは伝える。謝罪等、私には無理だから。

 

 

「そうか…なら、愛せるのかなぁ…」

 

見るからに凹んでいるが、一つふと気になる。

 

 

「『勇者』はどうしたのですか?」

 

先ほどの話からすると…まさか。

 

 

「え、ああ、今『旅』の報告を任せているが?」

 

この大馬鹿者が!

 

 

「とっとと迎えに行きなさい!こんなところでぼさついているんじゃありません!!

 

 早く行きなさい!急いで!」

 

呆れて話にならない。覚悟を決めた女になんて男なのだと激怒する。

 

 

「いや、今忙しいだろうし、迷惑だろう」

 

…素で言っている。この男ダメだ。

 

 

「ええ、一緒に行きますよ!ほら立って!行きますよ!!」

 

手を差し出す。最初とは逆に私から。

 

 

嫌がる彼を部屋の外へ連れ出した。

 

 

 



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未知への探求
第一話 未知なる脅威


ありえないことはありえない。


ラナーとの答え合わせの後、

 

俺は無理やりラナーに連れられてナーベラルの下へ行った。

 

 

俺は、ナーベラルに『旅』を突然切り上げたこと、色々迷惑をかけたことを謝罪した。

 

 

また、時間ができたら『旅』の続きをしないか誘おうとした。

 

 

だが、途中でアルベドが俺に縋り付いてきた。

 

 

…この前の反応から察するにアルベドの最近の暴走の原因は、

 

アルベドにワールドアイテムを付与したとき、

 

タブラさんの『誓いの儀式』発言が原因だと思った。

 

 

あれは勘違いするだろう。

 

…実際は、一番近くにいる能力を与えやすい存在だっただけだが。

 

 

なので、俺から説明した方が良いと判断した。

 

 

「アルベドよ。あの『儀式』はタブラ・スマラグディナさんから頼まれて行った」

 

目を見開くアルベド。反応でわかった。暴走の原因が。

 

 

「だから、お前はあの時にいた皆から祝福を受けている。それは私が保証しよう」

 

アルベドは構って欲しいのだ。

 

自分を否定された気がしたのだろう。

 

だから、認める。お前は愛されていたのだと。

 

 

「モモンガ様!認めてくださるのですね!?」

 

歓喜するアルベド。やはりそうだったか。

 

 

「ああ。私が認めよう」

 

皆から愛されていたことを。

 

 

「もう――我慢しなくて良いのですね!」

 

ん?

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

端的にいえば、アルベドは暴走した。

 

何故かアルベドは俺を押し倒した。

 

俺は皆の力を借りて何とかアルベドを引きはがした。

 

 

...アルベドには謹慎三日を言い渡した。

 

 

騒動後、駆けつけた皆を解散させた。

 

 

今ここにいるのは、

 

ラナーとアルベドを事後処理を行っているパンドラズ・アクターだけだ。

 

 

ナーベラルには『旅』の報告の続きを指示した。

 

 

ナーベラルには、謝罪だけになってしまったがまぁこれで良いか。

 

 

…そう思っていたら、

 

「なんでしょうか?馬鹿なのですかねこの男?」

 

ラナーが罵倒してきた。

 

 

「我が父は手遅れです。…これらの対応から見ても明らかでしょう。

 

 下手に刺激するよりもこれ以上は放置が適切かと思われます」

 

パンドラズ・アクターにも暴言を吐かれた。

 

 

仲良すぎないかこの二人?何故か阿吽の呼吸で俺を罵倒にしてくるのだが。

 

 

俺、パンドラズ・アクターの創造主だよな?

 

先ほど、ラナーに勝ったばかりなのに負けた気しかしない。

 

 

 

少しして騒動を聞きつけたのか、シマバラが物凄く良い笑顔で挨拶してきた。

 

これは『策』について勘違いしているに違いないと俺は察した。

 

 

…その解決手段にはならなかったとしっかり伝えた。

 

 

シマバラの噂話の伝染力は知っていた。今回の件でも大活躍だったようだ。

 

故に、この場で否定しないと不味いと判断した。

 

 

が、

 

「ようやく私は真理を理解しました。つまり、モモンガ様は恋人や…」

 

物凄く嫌な予感がしたのでその場から転移してしまった。

 

聞いたら死ぬと何故か確信した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

玉座の間にナザリックの皆を集めた。もちろん離れられない者は別だが。

 

 

俺は今回の件に関わった『全て』を許した。

 

 

俺のために行動してくれたことを寧ろ感謝した。

 

だが、ああいうことはもうしないように厳命した。

 

心の底から。

 

 

俺にはまだ気が付かない欠点が山ほどあるだろう。

 

 

しかし、もうあのような形で利用されたくはなかった。

 

 

あの『策』が完全に嵌っていたら、俺はラナーを『側』にはおけなかった。

 

…たとえ愛していても、だ。

 

 

俺の願いには、その場にいるナザリックの全存在が承知してくれた。

 

一応、ナーベラルには詳しいことを言わないように厳命した。

 

 

ナーベラルはこの集まりにも来ていない。

 

『旅』の報告書を書くよう命じている。

 

 

 

…情けない話だが、俺はしばらく心を落ち着かせたかった。

 

 

正直、意識するだけで心が揺れるのだ。

 

…ラナーと一緒にナーベラルと話していたときはそうでもなかったのだが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

色々皆に話が終わった俺は、

 

 

ドワーフ国の旧王都『フェオ・ベルカナ』の宝物殿の中身を全て即座に回収させた。

 

それ以外の書物等も含めて、旧王都の全てのものを一時的に回収させた。

 

 

 

『フェオ・ベルカナ』が他の勢力から攻め込まれる可能性を思いついたからだ。

 

宝物庫の財を放置するのも『フェオ・ベルカナ』を放置するのも不味い。

 

19匹のドラゴンの巣という脅威はある種の抑止力にもなっていたはずだ。

 

 

…恐らく、あの『霜の巨人』も他勢力の偵察か何かだったのかもしれない。

 

Lv40前後の『霜の巨人』だ。現地の『強者』を安易に逃がしたことを俺は後悔した。

 

 

俺はユグドラシルの時の感覚で他国の宝物庫を盗掘した自分を恥じたが、

 

必要な行為なのでさらに追加の指示をした。

 

 

ドワーフ国の交渉まで、宝物殿の中身や城にあった書物等を研究することにした。

 

ドワーフ国の危険はクアゴアの『従属』により、ほぼ無くなった。

 

故に旧王都の財宝等を調べ終わってからでも交渉はできると判断した。

 

 

道具や武器、アイテムの解析、本等の文献の解析をナザリックNPC達に任せた。

 

文献は、技術書や歴史、文化等、全て解析させる。

 

特に文献は丸写ししてナザリックで保管する。翻訳も作成する。

 

 

こういう時、俺が作った大量にいるエルダーリッチ達が有能なのだ、本当に俺より凄い。

 

 

文献は、現在に通じるかはわからないが、交渉の際に役立つ。

 

ドワーフの古典や技術等を軽く知っているだけで、知識層或いは上層部との交渉に使える。

 

 

知っていれば意外と簡単なのだ、専門性の高い人物を惹きつけるのは。

 

 

アルシェやフールーダがそうだ。フールーダは簡単過ぎたが。

 

 

あらゆるドワーフの『知識』を集めさせた。

 

ドワーフにできることできないこと全てを解き明かす勢いで。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…ここまでやらせているが、ドワーフ国の現状はもうナザリックが把握している。

 

 

ラナーを中心に、俺を嵌める為だけにナザリックが『全力』を挙げていた。

 

結果、帝国からドワーフ国の現首都『フェオ・ジュラ』経路だけでなく、

 

現在のドワーフ国の現状を調べ尽くしていた。

 

 

ドワーフ国の内情すら手に入れていた。

 

何に使うのかわからない程の情報があった。

 

全てが俺を嵌めるためだけに用意された資料だった。

 

それを流用するだけで、ドワーフ達を『支配』するのが容易だ。はっきり言って。

 

 

…俺があの時にデミウルゴスの提案を飲んでいたら、

 

確実に『策』は成功したと確信できた。

 

本当にギリギリだった。俺は幸運に感謝した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺は宝物庫について、調べている間はドワーフ国との交渉は中止した。

 

 

もはや、ドワーフ国の安全はほぼ保障されている。

 

最も、アゼルシア山脈には他の脅威はいる。そのとき助けるかは状況次第だが。

 

 

…リユロの件でドワーフを助けるのもおかしい気がした。

 

 

実際、まだドワーフを調べている途中だが、

 

『魔王国』にとって『鍛冶技術』と『ルーン技術』くらいしか目ぼしいものがない。

 

 

もちろん、食料等の輸出先などにはなる。

 

『顧客』としてはそれで十分だし有益な取引相手にはなるだろう。

 

 

エ・ランテルが平和的に支配できたから、

 

『鍛冶職人』は確かに足りていないが時間さえかければいずれ集まる。

 

 

...ドワーフ国は、本当にブランド力しかない。

 

 

『魔王国』は、彼らの鉱石はいらない。

 

『魔王国』の『産業』として『ルーン技術』を全て貰えれば話は別なのだが。

 

 

 

なお、旧王都『フェオ・ベルカナ』は従属ギルドNPC達に守らせている。

 

旧王都の隠蔽工作も完璧だ。

 

 

今や、ドワーフ国の旧王都『フェオ・ベルカナ』は、ナザリックの要塞と化している。

 

…ちょっと実験に使わせてもらったが、バレなければ問題ない。

 

 

だが、これらの行為によって、ドワーフ国との交渉によっては、

 

事実上の『従属』になる可能性が出てきた。

 

 

別に支配したいわけではないが、ドワーフ国は優先度が低い相手になってしまった。

 

 

世界征服したいわけではない。

 

 

ただ、わかっている情報を纏めれば、『魔王国』にドワーフ国が依存してしまう。

 

『魔王国』ならドワーフ国側の需要をほぼ満たせる。

 

 

だが、『魔王国』にとってドワーフ国の物はほぼいらないのだ。

 

『ルーン技術』を除いて。

 

 

故に依存する。してしまう国だ。ドワーフ国というのは。

 

 

共存共栄路線が取りずらい。

 

 

正直、『従属』させるまたは『魔王国』に編入した方が利益になる。お互いに。

 

 

世界征服したいわけでは断じてないが、理詰めで考えれば考えるほどそういう結論になる。なってしまう。

 

感情で嫌なだけだと理解してしまった。

 

 

ドワーフからすればふざけるなというだろうが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

旧王都に近づいてくる奴がいたら確保するように命令してある。

 

…あの『霧の巨人』を逃がしたのは完全に俺のミスだ。

 

もはや、あの時に友好関係を築くのが難しいから、逃がして正解だった可能性もあるが。

 

 

オラサーダルクやリユロに聞けばよいと思い直し色々聞き取りをした。

 

 

聞き取りをして大体わかったのは、アゼルシア山脈にはほぼ雑魚しかいないことだった。

 

 

それとアゼルシア山脈のおおまかな位置関係がわかった。

 

今後の活動はその情報を下に作成した地図で行われることになった。

 

トブの大森林ルートや王国ルートも時間さえあれば作成は容易い。

 

今後、現地でさらに調べれば、ドワーフ国と交易する際の道路を作るのも容易だ。

 

 

 

だが、気になる情報があった。『溶岩地帯』だ。ここは不味い。

 

ここだけは支配すべきだと思った。

 

 

 

クアゴアがドワーフ国の現首都『フェオ・ジュラ』の攻略のために、

 

進軍しようとして何度も失敗した3つの難所の一つ『溶岩地帯』。

 

 

これは、デミウルゴス達が俺を嵌めるために集めた情報と、

 

クアゴアの証言、旧王都にあった書物を統合してわかった憶測でしかない。

 

 

 

転移門(ゲート)に類する能力を持つ、天然の門が『溶岩地帯』にはある。

 

 

 

明らかにそこだけ異常なのだ。

 

地表から数キロも潜ってないのにマグマの海が流れている。

 

高熱の海のようになっているという。これはあり得ない。

 

さらに、溶岩の海では、およそ体長50m超の提灯アンコウもどきが泳いでいるという。

 

 

こんな現象や存在は魔法的要素がないと有り得ない。

 

それこそ、どこか別の場所からマグマ等が行き来してでもいない限り。

 

 

どう考えても、この『世界』の常識でも有り得ない現象と存在。

 

この規模となれば『転移門(ゲート)』でもないと無理だと俺は推測した。

 

 

仮に推測通りなら最上位の転移魔法が『自然現象』として起こっている。

 

 

…この世界の技術で『転移門(ゲート)』が再現可能かもしれない。

 

 

自然界にあるなら、再現可能な現象だと思った。

 

 

『科学』は自然を解き明かして発展してきた。

 

この『世界』は、『魔法』が科学の代わりとなっている。

 

 

…ふと最悪の可能性が頭に浮かんだ。

 

 

 

俺は、この溶岩地帯の研究を現段階のアゼルシア山脈の重大研究と位置付けた。

 

極秘に『溶岩地帯』を支配し、研究する。

 

この現象をこの世界で再現されてしまえば、『進軍』や『流通』等が完全に変わる。

 

…パラダイムシフトだ。まだこの時代では起こしてはいけない類の。

 

重大な研究と判断するには十分だった。

 

 

 

やはりこの『世界』には未知の脅威がある。知られていないだけで。

 

 



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第二話 遠回りの大切さ

最短で世界を救おうとした魔王は気づく。
遠回りの大切さを。


ドワーフ国の現首都『フェオ・ジュラ』の摂政会ではその日、

 

『御伽噺』の存在が外交をするため訪れていた。

 

当初誰も信じていなかったが、時間が経つにつれて信じるほかなくなった。これが事実だと。

 

 

 

「このように私は生と死を凌駕する存在だ」

 

『死者』から『生者』に代わる目の前の存在。

 

 

そのアンデッドと思われた存在が、

 

不可能なはずの信仰系回復魔法を行使するところまで目の前で見せられた。

 

 

 

目の前の、御伽噺の『魔王』と名乗る存在が『事実』だと誰もが納得した。

 

 

 

「我々は共存共栄できると思う。これから説明する」

 

『魔王』の言う、ドワーフ国と魔王国が共存共栄できるという指針。

 

 

実情は『従属』だろう。

 

やがては併合される運命になるだろうと『摂政会』の八人全員は確信した。

 

 

「私は今、ドワーフ国の南の都市『フェオ・ライゾ』、旧王都『フェオ・ベルカナ』を占領している」

 

『魔王』はそう言い切った。

 

 

事前に『フェオ・ライゾ』が何者かに支配されていることは、

 

ゴンド・ファイアビアドが報告していた。

 

 

さらに、ドワーフ国と国交のある帝国も『魔王国』の行為を認めている。

 

『魔王国』の全てを追認する旨の伝令が『魔王』と共に来ていた。

 

 

ドワーフ国の外交手段が封じられた以上、これらの都市を取り戻すのは不可能だ。

 

…そのはずだった。

 

 

「二つの条件を飲み、『魔王国』と交易してくれるなら二つの都市をドワーフ国に返す

 

 …我が『財』を貸し出すことも提案する」

 

…『魔王国』と交易さえすれば、その二つの都市をドワーフにそのまま返すと言い出した。

 

 

詳細を聞けば、この提案に即答すれば、

 

場合によるが、破壊された建物すら無料で修復をして返すという。

 

 

実際、旧王都『フェオ・ベルカナ』は修復済みだという。

 

…流石に、旧王都の宝物殿の中身までは保証されなかったが。そこは仕方がない。

 

 

また、『魔王』が引き連れてきた『聖者』を思わせるアンデット集団。

 

 

魔王に『財』と呼ばれる彼らは、

 

希少なはずのその他系統のトンネルドクターの魔法に加え、回復魔法まで使えるという。

 

 

『洞窟鉱山長』と『大地神殿長』が間違いないと太鼓判を押した。

 

 

『魔王』はそれを低額で貸し出すという。

 

同様に、スケルトン等、鉱山開発用アンデッドまでも低額で貸し出してくれるという。

 

 

 

…二つの条件を飲めば、

 

一つは『ルーン工匠』全員。

 

もう一つは、過去・現在・未来の全ての熱鉱石と引き換えに、だ。

 

 

『ルーン工匠』については、『魔王国』の招聘という形で送別会まで開きたいというが実質生け贄だろう。

 

…定期的に『魔王国』が彼らを、奴隷扱いしていないか確認することは許可されたが。

 

 

『熱鉱石』に至っては代替以上のマジックアイテムと交換してくれるという。

 

見せられたそれは、熱鉱石は永遠に不要になるであろう『神』のマジックアイテムだった。

 

無限に増やせるし、取り出せる熱鉱石と言っても良い物だった。

 

 

…これを断るのは馬鹿しかいない。

 

…たとえ『魔王国』に依存しても仕方がない。

 

 

それに最低限、ドワーフ国の『鍛冶』のブランドは守られる。

 

魔王は熱鉱石以外の鉱物は不要だと断言した。

 

 

…共存共栄は確かにできるだろう。これほどの好条件なら。

 

 

『魔王』は、ドワーフ国に繁栄して欲しいと言った。

 

 

 

「『魔王』様、我々で、少し話し合いたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

事務総長が恐る恐る尋ねる。

 

全員最終的なところは同じ気持ちだと思うが、多数決を取るべきだ。

 

 

「許す。好きなだけ話し合うが良い」

 

『魔王』はそう言って席をたった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

摂政会では、喧々諤々の議論の末、『鍛冶工房長』以外は魔王の提案に賛成した。

 

 

それ以外に『総司令官』は魔王の軍事力を借りたいと言い出したが、

 

それは後日、皆で話し合うことになった。

 

 

だが、『鍛冶工房長』は『ルーン工匠』が奴隷になると最後まで反対した。

 

結局、摂政会の他全員の賛成に渋々従ったが。

 

 

「もう、いいかね?」

 

話が済んだというところで声がかかる。

 

扉や壁の厚さから話は聞かれてないはずだが、聞かれたような気がして怖い。

 

 

『鍛冶工房長』の暴言の数々を。

 

 

「…納得いってないような者が一名いるな」

 

『魔王』はそれを察した。

 

皆、不味いと思うが次の瞬間、

 

 

『魔王』の周りにありとあらゆる武器が、数百を超える武器が現れた。

 

 

「これは…」

 

『鍛冶工房長』は気づく、

 

これらの武器に使われている金属は全て自分の知らない物しかないと。

 

 

摂政会の面々も『魔王』が武力で脅しているわけではないとすぐに気がついた。

 

 

「私はかつて九つの世界を滅ぼそうとする愚か者を相手にしてきた。

 

 変化を受け入れられない愚か者だった。…言い方が悪いが、君はそれに近い。

 

 はっきり言って、私にとって君たちは今、『価値』がない。

 

 …とはいえ、現段階で君らを否定してはあの者達と何も変わらない。

 

 だから、せめて私の知らない『鉱物』と『技術』がまず欲しいと思っただけだ。

 

 繁栄しないで閉じこもるなら結構だ。

 

 我らは自分達で繁栄する。…もう、同じ失敗はごめんなのだ」

 

魔王は悲しげに、哀れな者を見る目で『鍛冶工房長』を見つめる。

 

 

『繁栄』に、ドワーフ国のみ取り残される。

 

もう『鍛冶工房長』すら反論できない。しない。

 

 

ドワーフ国に『価値』がないというこれ以上ない侮辱をされたが、

 

これらの『財』を魅せつけられては反論できない。

 

 

そして、気づいた。魔王の発言は全て『本音』だと。

 

 

「故に、我が名『アインズ・ウール・ゴウン』にかけて誓おう。君たちの繁栄を」

 

魔王のその名において誓われた。

 

 

もはや、誰もが受け入れざるを負えなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…言い方が酷いが、上記の内容は本音だ。

 

 

今のところ、『今』のドワーフ国にはほぼ価値がない。

 

唯一の『価値』ルーン工匠の扱いすら酷いものだった。

 

それはデミウルゴス達の資料で知った。確認していた。

 

ドワーフの、新しい『友』からも聞いた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ドワーフ国との交渉前、

 

…俺はアゼルシア山脈の『溶岩地帯』の研究初日にある発見をした。

 

 

俺は、『溶岩地帯』を研究するのに邪魔だった提灯アンコウもどきを退治することにしていた。

 

しかし、提灯アンコウもどきがLv45相当でオリハルコン以上の硬度の鱗を持っていることがわかり、ボール・シリーズで捕まえた。

 

オリハルコン以上の硬度を持つ鱗を毎日狩れると喜んだ後、我に返って『溶岩地帯』を調べさせた。

 

 

アゼルシア山脈の『溶岩地帯』は、アゼルシア山脈から遠く離れた山と繋がっていたとすぐに判明した。

 

繋がりはないはずの場所から行き来できる空間が存在した。

 

 

完全に天然の『転移門(ゲート)』だった。仕組みは違うみたいだが。

 

 

俺の憶測は正しかった。

 

 

…この発見だけで不確定要素のドワーフ国を素早く支配せざるを得なくなった。

 

絶対に発見されてはならない。自然現象。

 

今の、『常識』で見過ごされている段階で対処しなくてはならなかった。

 

 

たとえ、旧王都『フェオ・ベルカナ』宝物庫の財を返すことができなくなっても、だ。

 

それ自体が目くらましになるのだ。

 

…俺の個人的な罪悪感以上に、重大な発見だった。

 

 

それこそ本当に『世界』を変えてしまう程の。

 

 

 

俺は放棄されたドワーフ国の南の都市『フェオ・ライゾ』を支配し、

 

それをドワーフ国に旧王都『フェオ・ベルカナ』とともに返す。

 

速攻でドワーフ国を『従属』させる方針に決めた。

 

 

 

『フェオ・ライゾ』を支配している最中、

 

『ルーン開発家』のゴンド・ファイアビアドに出会った。

 

 

俺は『ルーン工匠』をどれだけ価値を見出しているかを説明し、彼に協力してもらった。

 

 

俺は既にドワーフ国の内実を知っていたから、説得は容易であった。

 

俺と話していたら、ゴンドは積極的にドワーフ国を見限るようになった。

 

 

ゴンドは、俺と同じ『思い』の持ち主だった。

 

 

ドワーフ国との話合いの後、

 

うろおぼえだが、確実な『原作』同様の手で『ルーン工匠』達を説得できれば詰みだった。

 

 

そう思っていたら、ゴンドとの会話の中で『熱鉱石』の存在を知った。

 

 

彼は、研究資源の確保のために鉱山採取のアルバイトをしていたという。

 

俺も鉱山を持っているので何かと馬が合った。

 

ヘロヘロさんから窘めるほど自分の鉱山を調べていた。

 

 

ルーン技術に『価値』見出していたこと、

 

『思い』という共通の物もあり、ゴンドとは数瞬で『友』となれた。

 

 

ゴンドにルーン技術を必ずや永遠不滅にしてみせると約束した。

 

 

話が盛り上がり、ドワーフ国そっちのけで話す俺達だったが、

 

ふと、『熱鉱石』は明らかに怪しいと思った。

 

名前が似ているからとかでなく、物凄く弱い『熱素石』に似た性質とも思えたからだ。

 

 

ナザリックにメッセージを送り、即座に『現物』を取り寄せ調べさせた。

 

というか、ドワーフ国からこっそり一部拝借した。

 

 

俺の推測通りならそんなこと言っている場合じゃないし、

 

バレない様にしているから問題ない。

 

 

結果、『熱鉱石』は…熱素石の成分を本当にごく微量に含むものだった。

 

 

アゼルシア山脈全体から回収して、精錬してようやく熱素石になるくらい微量だ。

 

これは現地では絶対に熱素石にできないくらい微量なものだった。

 

デミウルゴス達ですら見逃していたくらいだ。

 

 

ゴンドにはこの発見の感謝と俺の友好の証として、「時飛ばしの腕輪」を贈った。

 

 

そんな微量な『熱鉱石』だが、熱素石を知っているナザリックなら長期スパンで回収できる。

 

長期になるが定期的に『熱素石』が作れる。難しいだろうが、可能と断言できた。

 

たとえプレイヤー等にバレてもほぼ作れないだろう。

 

ナザリック鉱山の希少金属の比でない相当量が必要だ。

 

どんなに誤魔化しても、絶対に足がつく。『熱素石』を作る前にバレる。

 

 

 

とはいえ、ドワーフ国引いてはアゼルシア山脈の直接統治は愚策と判断できた。

 

直接統治して、ナザリックがアゼルシア山脈の鉱山に拘ってしまえば、

 

ナザリックの鉱山ほどの持ち主が、気に留める何かあると勘付かれる可能性が高いからだ。

 

 

それに防衛戦力を意味もなく分ける愚策を犯したくなかった。

 

アインズ・ウール・ゴウン時代、全盛期すら消耗させられた。

 

鉱山に戦力を割いたせいで。

 

 

そのため、ドワーフ国が表に立っていてくれた方が寧ろありがたかった。

 

採掘量が少量になるとしても。

 

 

なので、この『世界』でナザリックの鉱山から初めて取れた熱素石に、

 

アゼルシア山脈全体で使用可能な『熱鉱石』の代替品を願った。

 

 

俺が、ワールドアイテム『乞食の肉』を知っているからできた願いだった。

 

あれは無限の食料だ。しかも、低確率とはいえ問答無用で敵に状態異常を起こせる。

 

…酷い名前に騙されるが、熱鉱石の代替品等よりも遥かに価値が高い。

 

だから、『願い』の範囲内だと俺は確信できた。

 

 

結果、熱素石に願った簡易ワールドアイテムは、

 

『熱鉱石』より扱いやすく、無限に増やせるようになった。

 

これならドワーフ国に文句言われるはずがないと確信する程のものになった。

 

 

惜しいが、長期的に考えれば得だった。『世界』を守るなら必要経費だ。

 

 

 

これで、魔王国とドワーフ国との共存共栄が可能になった。

 

…偶々見つけた鉱物のお陰で。

 

 

同時に、ドワーフ国を魔王国に依存させる体制を取らざる負えなくなった。

 

…偶々見つけた鉱物のせいで。

 

 

 

この『世界』はやはり脅威がある。知られていないだけで。

 

たった数日の発見でこれなのだ。

 

おそらく、旧王都『フェオ・ベルカナ』の宝物庫からもいずれ発見があるだろう。

 

 

…俺はこれまでの行動を調べなおす必要が出てきた。

 

冒険者モモンとして、商人として、国として、あらゆる手段で『常識』は学んだ。

 

 

だが、今回アゼルシア山脈で二つも、『常識』の中の『非常識』の存在に気づいた。

 

 

これまでの有害なタレント持ちとされてきた者達。

 

カルネ村のファーマー等のありふれた、ユグドラシルにはない謎職業。

 

何故、この世界の住民にできることが、ユグドラシルの者にはできないのか。

 

…王国、帝国等ももう一度精査する必要がでてきた。

 

 

この『世界』の当たり前の『常識』が脅威になるかもしれない。

 

 

今まで単に魔法と片づけられていたことも科学的視点で解析すれば、

 

ユグドラシルに対抗できるかもしれないとはっきりわかった。発見できた。

 

 

...俺は近道をし過ぎたかも知れない。

 

 

 



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第三話 恐怖を認め進む覚悟

勝利を求め、覚悟を決めていた男は、恐怖を知り克服した。
これ以上、思いを踏みにじらないために。


ドワーフとの交渉を終えた俺は、過去の行動を思い出してみた。

 

 

接触した人物、地形、国等だ。さらにそこにユグドラシル時代の思い出も…。

 

 

…過去を振り返った俺は、一つ『世界滅亡』の可能性を思いついた。

 

 

主義主張どころでなく、その可能性を検証しなければならなくなった。

 

 

俺の『方針』を曲げてでも、それだけは確認しなければならなかった。

 

絶対に知られてはならない可能性だ。…考えたくもない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺は、ナザリックの宝物殿にンフィーレアを呼び出した。

 

 

ンフィーレアと『世界』を救うために。

 

 

ンフィーレアには、彼のタレントの『実験』という誤魔化しで呼び出した。

 

…だが、ンフィーレアは俺と同じ可能性に気が付いた。即座に。

 

 

…『ゴブリン将軍の角笛』と『叡者の額冠』の存在を知っていたからだ。

 

二つとも彼はその脅威を知っていた。

 

『叡者の額冠』についてはエ・ランテルで何が起こる予定だったのか、

 

その詳細を彼は知っていた。

 

 

...彼のタレントはアイテムの『真の効果』を発揮できる可能性がある。

 

ただ、使えるだけならともかく、『真の効果』まで使えたら争いになる。

 

プレイヤーの、いや、この『世界』全ての存在が奪い合う。

 

真実を知られたら、俺がンフィーレアを庇うだけで『世界』の秩序が崩壊する。

 

...俺は強すぎるのだ。これ以上を求めていると『世界』が確信する。この『段階』で。

 

 

何より、『時代』が『魔王国』に追い付いていない。防ぎきれない。

 

 

最低でもカルネ村は…

 

 

もはや全てを誤魔化せないと悟った俺は、ンフィーレアを助けるために『説得』をした。

 

 

俺の『指輪』を見せて、説明した。

 

 

ンフィーレアのタレントを奪えるその『指輪』を。

 

 

これならンフィーレアを確実に救えるし、

 

逆に『世界』も救える可能性が高いと説得した。

 

 

だが、ンフィーレアは即座に自分を殺すべきだと主張した。

 

…『エンリ』の幸せの為に。

 

 

可能性が残る以上、殺した方がメリットが高いと言われた。

 

...アイテムの希少価値と自らの価値の差を正確にわかっていた。

 

 

こう言われると、『それ』がわかるようになってしまった俺は、

 

ンフィーレアに妥協案を提示した。

 

 

想定される最悪の、『万が一』の可能性がなければ、ンフィーレアを殺さないという案を。

 

 

その後、ンフィーレアと俺は様々な角度から実験を行った。必死で。

 

その可能性が存在するなら、ナザリックの『財』を惜しんでいる場合ではなかった。

 

 

 

ボール・シリーズ。通常使用時と変わらず。真の効果を素では行えないことが判明。

 

ゴブリン将軍の角笛。19体のゴブリンしか召喚できず。対数千のアンデッドでも同様。

 

リング・オブ・マスタリー・ワンド。短杖の使用後、一時間のリキャストタイムは変わらず。

 

エクスチェンジ・ボックス。金貨の上限は変わらず。商人スキル分の上昇も確認できない。

 

ワールドアイテム『ホーリーグレイル』。回復量が変わるなどの変化なし。使用者の条件で発現する真の効果は発揮せず...

 

 

様々な実験の結果、最悪の可能性『世界滅亡』はなくなった。

 

俺の、最悪が想定された『真の能力』をンフィーレアは持っていなかった。

 

 

俺はホッとした。

 

 

ンフィーレアを殺すよりも生かした方がメリットがある。

 

奪うよりもそのままンフィーレアを生かした方がタレントの脅威がバレる可能性は元々低かった。

 

...それ以上に最悪が想定されたから、奪う発想になったのだが。

 

なにより、生きて欲しかったンフィーレアには。

 

こうしてンフィーレアのタレントが問題ない以上、生かすべきと確信できた。

 

 

だが、ンフィーレアはやはり自分を殺すべきだと主張した。

 

 

ナザリックの『財』を用いた実験のせいで彼は、『危機』をより確信していた。

 

『世界滅亡』ではなく『危機』を、だ。

 

 

それは俺が必ず防ぐと言っても、ンフィーレアはその『可能性』を語った。

 

 

「ゴウン様のアイテムと同じものを使えるだけで、カルネ村は崩壊します。

 

 たとえ、ゴウン様が全力で保護されても、僕の価値と釣り合いません!

 

 いずれ、破綻する可能性があります。...『絶対』はないのです」

 

 

…ンフィーレアの話にはあまりに筋が通っていたため、俺は反論できなかった。

 

 

何より俺は愛することを、愛されることを知ってしまったから。

 

彼を、ンフィーレアを決して否定できなかった。

 

 

…俺は『流れ星の指輪(シューティングスター)』を彼に与えた。

 

その『覚悟』の対価として、そしてンフィーレアの言う『可能性』を摘むために。

 

 

ンフィーレアは『指輪』の説明を改めて聞いて、装備して納得した。

 

そして、自分が死したら『指輪』を俺に必ず返すことを誓った。

 

 

…俺は、『世界』の危機を悟れる『男』を永遠に失うことを残念に思った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

全ての実験と様々な話し合いの後、ンフィーレアは言った。

 

「ゴウン様。あなたに全て任せます。エンリのことも、『世界』のことも」

 

ンフィーレアは覚悟をしていた。目でわかった。

 

 

「ですが、ゴウン様。あなたは『優し過ぎ』ます。

 

 だからこそエンリを託せるのですが…

 

 だけど、いつか今回のような『可能性』を見つけたら即座に切るべきです!

 

 …どうかエンリをよろしくお願いします」

 

そう言ってンフィーレアは俺に頭を下げた。

 

 

俺は黙って頷いた。その『覚悟』の全てを受け入れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…俺は覚悟が足りなかったかもしれない。

 

ンフィーレアとのやり取りで確信した。

 

 

『個人』で世界を滅ぼせる可能性を持った存在がいる。…無茶苦茶な条件を満たせば。

 

 

それこそワールドアイテム20のような理不尽さの権化の可能性が。

 

或いは、それを上回るかもしれない。

 

 

ンフィーレアから、この『世界』のタレント持ちの重要性を理解した。

 

 

もちろん、最悪のシナリオである『世界滅亡』クラスの可能性は極めて低い。

 

 

ンフィーレアはそうではなかった。言い方は酷いが、ただの有益なタレントだ。

 

法国最強の切り札、『番外席次』のタレントも強力だが、『世界滅亡』とまではいかない。

 

 

だが、タレント持ちの把握、研究は、将来的に必要不可欠と確信した。

 

 

だが、『魔王国』ではまだ無理だ。おそらく五年から十年はかかる。

 

 

…さらに、『法国』の協力がいる。最適解のためには。

 

 

スルメさんに遠慮していたところもあったが相談すべきだ。

 

 

今回の気づきはツアーやスルメさんに報告すべきだろう。

 

 

『世界』を救う者、皆が知るべき緊急性の高い情報だ。

 

秘匿すべきでない情報だ。少なくとも二人は絶対知らなければならない。

 

 

これは、ナザリック地下大墳墓を支配する、『財』を極めた俺だから気づけた可能性だ。

 

 

…『セラフィム』のような上位ギルドが転移していたらと思うと恐ろしい。

 

今回の実験で、ンフィーレアには可能性がないと確定したが、

 

少なくとも『セラフィム』なら間違いなくンフィーレアを用いて『それ』を実行した。

 

 

俺のおかしかった頃の思い込みでなく、『セラフィム』ならやる。

 

…『世界滅亡』の可能性に気づかずに。

 

 

『セラフィム』は、自分の身を守る感覚で行ってしまう。そこに悪意はない。

 

 

ナザリックの、ユグドラシル最大の仮想敵だったからわかる。

 

彼らが、そういう『思考』ができることを。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『タレント』というのは、恐ろしい。

 

 

ランダム性というところが。

 

おおよそ200人に一人ということも含めて。

 

 

きっといつか俺の考える『世界滅亡』に当たる人物が誕生しかねない。

 

 

該当しても、数百年に一度くらいの杞憂な可能性が高いが。

 

 

『タレント』は使いこなせればこの上なく有益だ。

 

俺だって、生まれ持った能力を否定したくはない。

 

迫害したいわけでも、差別したいわけでもない。それは論外だ。

 

 

今回ンフィーレアで想定された『世界滅亡』の前提を壊すことは、百年あれば余裕だ。

 

今だと可能性が残るからンフィーレアを呼んだ。

 

現段階では絶対ないというのは不可能だった。

 

…それがなくてもンフィーレアの寿命で潰えた可能性だ。

 

 

もう、彼の可能性はなくなった。

 

…飽くまで『タレント』のだ。

 

『薬師』や『錬金術師』の才能は健在であり、彼は極めて有能だ。

 

 

俺が『世界滅亡』の可能性に気づかなかった頃、

 

想定していたンフィーレアの『タレント』の最適な運用法等はあった。

 

 

しなかったのは、『世界』を救うのにあまり『個人』に依存したくなかったのと、

 

俺が、ンフィーレアをこれ以上利用したくなかったからだ。

 

 

要するに俺の『我儘』だった。

 

 

覚悟している彼を否定はもうできない。

 

『薬師』として『錬金術師』として全力で頑張ってもらう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『タレント』の可能性は身近にあることに気が付いた。

 

 

たとえば、『商会』には沢山の有害とされて迫害されたタレント持ちがいる。

 

 

その一人に『信仰系魔法拒否』のタレント持ちがいる。

 

文字通り、彼女には信仰系魔法が効かない。

 

 

生まれ育った村で『魔女』扱いされて拷問されていたところを『冒険者モモン』が拾った。

 

 

あのままなら彼女は処刑されていただろう。『魔女』として。

 

 

その村の関係者から彼女の記憶を消し、『商会』に任せた。

 

一々構う暇がなかったのもあるが、彼女が『従業員』として扱える存在だったからだ。

 

 

『商会』は初期で人材不足だったのもある。

 

今は八本指、ラナーを始め様々な伝手があるが。

 

 

だが、そんな彼女を上手く活用すれば、信仰系魔法を全て防ぐ『盾』になる。なってしまう。

 

 

俺は『神聖攻撃無効』のワールドアイテムの能力があるからいらない。

 

 

しかし、アンデッドのプレイヤーやNPCなら役に立つ。

 

 

要は、生きていれば『盾』になるのだ。どんな状態でも。

 

 

…我ながら非道な発想だが。

 

 

アンデッドとなり精神が変化したら、そういうことをやるプレイヤーもいるかもしれない。

 

身を守るために。

 

 

実際、そうされたら脅威だ。

 

なりふり構わない存在、しかも、プレイヤーは初期の鎮圧に成功しても被害が大きくなる。

 

 

彼女に身を守る訓練をさせるべきかもしれない。

 

…いっそのこと事実を明かして話し合うべきかもしれない。

 

 

彼女の『説得』はこれからの『訓練』にもなる。

 

ある意味で有害で有益なタレント持ちの勧誘の。

 

 

…幸い俺は忙しいながらも、時間に余裕がある。

 

あの『策』以降、俺は仕事を大分ナザリックの皆に任せるようになった。

 

 

俺は最低限の仕事をするだけで良いと確信したからだ。

 

 

勿論、まだ忙しいのには変わらないが。

 

俺の『休憩時間』は確実に増えた。

 

 

『番外席次』の告白から逃避した『俺』の、

 

意味のないオーバーワークで得た数少ない有益なものだ。

 

 

タレント持ちの彼女を過去の恐怖で従わせるのは心苦しいが、彼女自身のためにもなる。

 

…後日、接触しよう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

害となるタレントでも、活用によっては有益であり危険なのだと確信した。

 

…『世界』を守るためにタレントの管理は必須だと確信した。

 

 

法国のノウハウが今すぐにでも欲しい。

 

一刻も早くスルメさんが法国を、国の『意識』を完全に掌握できることを祈った。

 

 

…十数年後、掌握された法国がニートだらけになって、

 

今までのノウハウが喪失するなんてないよな?

 

 

流石にスルメさんを馬鹿にし過ぎだが…

 

彼、いや『彼ら』は、本当に何やらかすか想像できない。

 

 

スルメさんが有能なのはわかっている。

 

 

あの六人を纏めて…一人だけあまり知らないが。

 

バードマンだったのは知っている。どこかで何度か見た記憶もあるが…

 

 

とにかく、『世界』から人類を救ったというだけで本当に凄い。

 

六百年前など、人類の文明は碌にない時代だったはずだ。

 

 

実際ツアーからもそう聞いている。

 

「彼らは全て変態だったが、その異常な生命力で有り得ない結果を出した」、と。

 

 

…『死神』としても、為政者としても尊敬できるのは当然だ。

 

 

何せ、ドワーフの文献のお陰とはいえ、

 

『霜の竜(フロスト・ドラゴン)』のヘジンマールすら俺のことを知っていたくらいだ。

 

本当に凄まじい影響力だ。

 

 

ヘジンマールから俺を、『魔王』を知っていると言われた時、

 

俺が演技を忘れて喜んでしまったくらい偉大な『友』だ。

 

 

 

…だが、どうしても不安になってきた。

 

 

 

俺はふと、るし☆ふぁーさんを思い出した。

 

彼ならどう行動するかと考えて、すぐに『鉱山』を思い出した。

 

…結果的には大丈夫な方向に行くだろう。問題ない…はず。

 

 




ンフィーレアの可能性については、

活動報告の『ンフィーレアが怖すぎる件(恐怖の展開一部抜粋)』にあります。

読まれる方は私の駄作の雰囲気を壊しかねない内容なので読むのに注意をお願いします。


元々タレントの恐怖を言うつもりでした。

『彼女』のエピソードを加えるつもりでした。


ですが、ンフィーレアの件に気が付いたときこれ以上ない恐怖でした。

感想のお陰で書けました。本当にありがとうございます。


-追記-
ンフィーレアのタレントを奪ってはいけない理由がわからないとのご指摘を受けました。

活動報告『何故ンフィーレアのタレントを奪うのが不味いのか』をご参照いただければ幸いです。

『魔王国』そのものがヤバい案件なのですこれ。政治的に。

最終追記

この小説はモモンガ様視点です。正直間違っています。
私からすれば。

モモンガ様と私では致命的な程考えが違います。

今回の件は顕著です。

モモンガ様視点で納得いかない方がいるのも当然です。

今回に限ってはナザリックというバイアスの存在がモモンガ様にあります。

自分の優しすぎるところまで想定していません。

だからおかしいと感じても不思議でないのです。

私も最悪な考察は書きません。

もう起こらないことが確定し、本編とは関係ないからです。

今回納得されない方には大変申し訳ありませんでした。


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第四話 黒幕

あらゆる歴史が魔王を襲う。
黒幕にならぬよう「竜」は警告する。


広くて狭い評議国内にある

 

『白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)』ツァインドルクス=ヴァイシオンの住む洞窟。

 

俺はスルメさんとツアーと三人に報告した。

 

ンフィーレアのタレントで思いついた『世界滅亡』のシナリオとその可能性を。

 

 

話を聞いた二人は有り得なくはないなぁという反応だった。

 

俺という存在の規格外の存在から、類似した考えが薄々頭にあったらしい。

 

流石に『具体例』を提示されたのは衝撃的だったようだが。

 

 

俺は法国、評議国間の連携強化について聞いてみた。

 

時間を、体制を整えていればンフィーレアの件を片づけるのは容易だったから。

 

魔王国の『信用』を一刻も早く欲しかった。

 

…数十年かかると知っていてもより早く。

 

 

 

…ツアーは想定通り無理ということだった。

 

 

しばらくぶりに『永久評議員』としての強権を使ったというのもあり、

 

確実な『魔王国』の有益性が示せないと動けないらしい。

 

 

ツアーはンフィーレアのタレントが想定された最も不味い物だったら、

 

即、殺してもらわないといけないレベルだったと苦笑していた。

 

 

 

「『魔王国』による『占領』だと一部国民から苦情が来ているんだ。

 

 そんな状況下で、『世界滅亡』の可能性のタレント持ちとか最悪だよ。

 

 …根回しするにしても、絶望的に『信用』も『時間』も足りなかった」

 

俺のしようとした『行為』を多分察している。

 

 

ンフィーレアのタレントを奪おうとしたのだろうと呆れている。

 

 

ツアーはスルメさんの最後の作戦で『流れ星の指輪(シューティングスター)』のことを知っているからわかったのだろう。

 

 

だが、俺もンフィーレアに散々言われたので、素知らぬ顔をする。

 

問題なかったのだから問題ない。

 

ンフィーレアのタレントが、ただの有益なタレントだから俺も二人に公表できた。

 

 

 

…ツアーのような、議会制の国ならこういう姿勢になるのは仕方がない。

 

 

ツアーの配下ならばもう少ししたら交流可能と言われた。

 

その代わり、『魔王国』が隠している『技術』を何か一つ公表しろと言われた。

 

それを用いて根回しに使い、評議国内の空気を換えたいらしい。

 

 

 

俺は承知した。『手』はもう既にいくつかある。

 

問題のない『技術』を見繕う。

 

だが、これはアルベドやデミウルゴスの意見を聞かないといけない案件だ。

 

後日、『魔王国』から評議国へ使者とともに『技術』を送ると伝えた。

 

 

 

スルメさんは、『ズーラーノーン』さえなくなれば一部『精鋭』の交流は可能と言った。

 

 

スルメさん自ら法国の『精鋭』を率いて調査した結果、

 

『帝国魔法学院』内のある『生徒』が、ズーラーノーンの『盟主』だと確信したらしい。

 

 

…どんな学校だよ。帝国魔法学院って、フールーダの管轄だろう。

 

そんな危険な存在に気が付かないとか、どうなっているんだ。

 

 

…いや、だからこそ気が付けなかったのか。

 

そもそも有り得ない前提だ。

 

 

…『ズーラーノーン』の盟主がそんなところにいるはずがないというバイアス。

 

 

発見したスルメさんが凄いだけだ。これは。

 

 

スルメさんは『魔王国』に盟主の討伐を協力して欲しいと言ってきた。

 

 

『魔王国』と協力して、『ズーラーノーン』盟主討伐の実績を足掛かりにすれば、

 

想定より早く『法国』の意識改革ができるはずだという。

 

 

「『ズーラーノーン』は凶悪なカルト教団ですが、『盟主』のカリスマ性が大きい。

 

 奴に『死』をくれてやれば、内部崩壊する『罠』を張り巡らせている最中です。

 

 …それにしても『死神』になろうとは烏滸がましい」

 

スルメさんは『ズーラーノーン』が相当気に食わないようだ。

 

 

無理もない。人を救うという法国の前提すら無視している連中だ。

 

 

だが、俺は気になることに気が付いた。

 

 

その『盟主』、『生徒』の名前がアルシェの語っていた『友達』の名と一致している。

 

アルシェのことを知る為に、『休憩時間』にアルシェと何度か話していた。

 

ラナーのときのようにお茶会をしていた。今後のための布石として。

 

 

なので、アルシェの好みや友好関係などは全て把握している。

 

 

だから、気が付いた。何故その『友達』が『盟主』なのか。有り得ないと。

 

言っては悪いが、ただの『才女』だ。その『友達』も。アルシェの話を聞く限り。

 

 

「『ズーラーノーン』の『盟主』はその子で確定ですか?」

 

俺は確認する。

 

アルシェの『友達』が『盟主』であってほしくなかった。

 

 

「正確に言えば…その子の『中』におります。

 

 『盟主』が絶対バレないと思っても仕方がない程、巧妙な手口でした。

 

 

 だが、我が友『聖騎士』が村落の子の内部に入り込むため、思いついた儀式の応用です。

 

 

 友は志半ばに死してしまいましたが、我が目を誤魔化せるはずがありません!

 

 あれはあの儀式の完成形!我が絶対見間違えることなどあってはならない!!」

 

激怒するスルメさん。

 

 

『友』の『技術』を悪行に使われたことに相当キレている。

 

 

無理もない。

 

 

…だが、俺は聞いてはいけないことを聞いてしまった。

 

…あの『ペド』、村落の子供に何しようとした?

 

 

ツアーも何とも言えないようだ。察している。変態の所業を。

 

 

本当に未遂で済んで良かった。志半ばで死んでくれて良かった。

 

『盟主』も変態行為のために作られた『儀式』だと知ったらどんな顔をするのだろうか…

 

 

気持ちを切り替える。これは重要案件だ。

 

「協力しますから、その子の中から『盟主』を追い出せませんか?」

 

俺は詳細を知らないから聞いてみる。

 

アルシェの『友達』だ。できれば助けたい。

 

 

…それに別の『思い』の方が強い。

 

 

「…できなくはないでしょう。『魔王』様の『財』を使えば。

 

 ただ、正直申しまして…『釣り合い』が取れません。彼女を救うのは。

 

 勿論、無辜な子を殺すのは我が意にも反しております。

 

 

 ですが、五百年経過した法国にはもう救う『手段』がありません。

 

 

 なので『魔王』様に救助を全てお任せすることになります。

 

 どのような『手段』かは、お任せしますが…よろしいので?」

 

スルメさんが恐る恐る聞いてくる。

 

スルメさんが言うように本当に『釣り合わない』のだろう。

 

スルメさんが諦めるのは相当だ。…そう相当なのだ。

 

 

だから、俺は言う。

 

「情報を知らないと何とも言えません。

 

 なので、先にどのような『儀式』なのか、

 

 どのようなその子が『状態』なのか、発見までの経緯等全ての情報をくれますか?」

 

スルメさんに無茶を言うのは承知だ。

 

ある意味、自らの『技術』を売り渡せというようなものだ。これは。

 

 

 

だが、俺は知っている。

 

「おお…流石は我が真なる『盟主』!『魔王』モモンガ様!!

 

 いくらでも情報などお渡ししましょう!我が友もそれを望むはずです!!」

 

『友』の『技術』を利用された被害者を救いたいのは一番スルメさんなのだと。

 

 

わかる。俺だってブチ切れる。

 

友が求めていないであろう行為にあらゆる解決手段を模索する。

 

 

それでも無理だったのだろう。今の『法国』では。

 

 

…スルメさんがどれだけ悔しかったか、恐ろしいくらいわかる。

 

 

「『魔王』の名において誓おう。必ずや『手段』を見つけることを!」

 

スルメさんに誓う。必ず救うと。

 

 

…正直割にあわない可能性が高い。

 

 

だが、法国タレント持ちの把握・管理ノウハウは一年でも早く欲しい。

 

 

…必要経費だ。最悪、熱素石は時間さえあれば取れる。

 

それを使えばどんな状態でも不可能ではないだろう。

 

本当に熱素石は最後の手段だが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

盟主の『儀式』は、魂の同化。蘇生では盟主と生徒の両方が復活する可能性が極めて高い。

 

その反面、魂は他人に逃げられる。丸ごと消すことはLv100なら余裕。

 

魔法上昇(オーバーマジック)により第八位階がギリギリ使えるらしい。

 

それで『儀式』を行ったと推測される。

 

傾城傾国等の『ワールドアイテム』を持ち出せば盟主のタレントで勘付かれる可能性が高い。

 

 

…俺のような『完全催眠』のようなワールドアイテムなら『気配』は誤魔化せるというが、

 

救う一手にはなりえない。

 

 

そこまで万能じゃないのだ。『完全催眠』は。

 

 

法国に『破滅の竜王』を見せてしまったように催眠の内容を意識していないと暴走する。

 

飽くまでも自分が認識できる範囲でしかできない。

 

他のワールドアイテムの『気配』など消せない。

 

 

ワールドアイテムの効果はワールドアイテムで打ち消せる。

 

 

俺の保持するワールドアイテムだから隠せる。それ以外は無理だ。

 

…熱素石が使えない。いや、離れたところからなら可能だ。

 

しかし、共同でことに当たれない。『実績』にならない。

 

 

 

…これは法国では、スルメさんには不可能だろう。救助など。殺すのは容易でも。

 

 

 

だが、俺はこれらの情報を貰い、『可能性』を考える。

 

あらゆる思考を『最短』に導く。

 

一、支配の呪言。不可。推定レベル40以上。

 

二、タイムストップ。不可。意味がない。

 

三、ンフィーレア。論外。頼らないと決めた。

 

…ひとつ解答が浮かぶ。だが、法国の問題がある。

 

 

「…スルメさん。一つ思いつきました」

 

俺はスルメさんの判断に任せることに決めた。

 

これが一番簡単に解決できる。『財』すら不要。

 

共同でできる。『実績』にもなる。

 

 

「おお!盟主様!おっしゃってください!!」

 

『答え』が見つかったことに狂喜しているスルメさん。

 

 

だが、法国はどうなのか知りたい。

 

「作戦にLv80台の悪魔を連れていければ、『財』すら使わずに可能です。できますか?」

 

…法国では不味いだろうこのレベルの『悪魔』は。

 

 

かと言って、『完全催眠』で悪魔を誤魔化すのは不味い。

 

既に俺は法国に『完全催眠』使ったせいで、無用な警戒があるという。

 

…今回に限っては俺の気配遮断以外で使えない。

 

 

それにスルメさんが最初に断りを入れてきた。

 

できれば気配遮断以外で使わないで欲しいと。

 

 

スルメさんを強引に説得すれば『完全催眠』は使えるかもしれない。

 

…だが、法国は『精鋭』なのだ。確実に気が付く。

 

 

『完全催眠』を使えば、何かがおかしいことに。

 

 

さらに、モンスターの知識をあらゆる角度から叩き込まれている『占い師』がいるという。

 

…『悪魔』の能力を知っている可能性がある。いや、高い。召喚できないだけで。

 

 

なにより、これから友好関係を築くための『共同作戦』なのだから『嘘』は不味い。

 

 

だが、

 

「我が『死神』の名において誓います、全く問題ありません」

 

スルメさんは断言した。問題ないと。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

会談が終わり、『詰み』に入った段階でスルメさんからメッセージが届くことになった。

 

 

俺は正直そこに居合わせれば良いだけだ。

 

俺いらない子説がどんどん加速している。

 

この作戦とも言えない内容は、頼れば一瞬なのだ。本当に。

 

 

スルメさんが法国で早く説得してくると息巻いて先に帰った。

 

この分だと、一月かからないで『詰む』だろう。

 

 

『罠』がどんなものかわからないが、『最中』と言っていた。時間はかかる。

 

 

その間に、万が一の場合に備えて、アルシェから聞き取りを行うべきか?

 

 

 

そんなことを考えていると、

 

「モモンガ。突拍子もないことを一つ尋ねたい」

 

ツアーが本当に突然、だが、真剣な声で俺に尋ねてきた。

 

 

「…ああ」

 

何事かと思うが、何か大事なことなのは察した。

 

だから聞く。

 

 

「…君が、ナザリック抜きで転移したとして、この『世界』の英雄クラスの実力で、

 

 リ・エスティーゼ王国の『時代』を何が何でも変えなければならない場合どうする?」

 

意味がわからない質問。

 

…だが、『時代』を、『何が何でも』なら大前提が必要だ。

 

英雄程度なら、Lv30程度なら。

 

 

「自分の命は?」

 

絶対必須条件だ。自分の死を含めないで完璧な計画等ありえない。

 

 

「構わない」

 

ツアーは知っていたとばかりに即答する。

 

『答え』がわかって聞いている。俺にはわかった。

 

だが、答えろと『目』が言っている。

 

 

だから、俺の考えられる『最短』を言う。

 

 

「…まず、八本指を支配する」

 

これは大前提だ。必要悪以上の存在なら消しても問題ない。

 

 

「次に、王国の、腐った貴族を利用し劇場型犯罪を誘発する」

 

そう、民衆を煽る。

 

『悪』の存在があることを『王国』に示し、民衆を味方につける。

 

 

「民衆の不満を誘発し、革命を起こす」

 

これは容易だ。民衆レベルなら誘導可能だ。

 

 

「その際に『英雄』を作り出す」

 

モモンのような英雄だ。

 

この場合は本来ガゼフが適切だろうが、王に忠誠を誓う以上無理だ。

 

…『誰か』を見つけ出す。ありとあらゆる手段を持って、作り出す。

 

 

「貴族社会から民主社会への移行までの流れを作成して軌道に乗せる」

 

これも容易。『英雄』をそう考えるように誘導すれば良い。

 

さらに、フォローさせるための知識層を焚きつける。誘導する。

 

 

「そして、俺が全ての『黒幕』だとバラす」

 

そう。ここが一番大事だ。完全に移行するための『黒幕』は俺じゃないといけない。

 

他人には任せられない。信用できても、信頼できても一番可能なのは自分だ。

 

 

「『英雄』が『黒幕』を倒せばめでたしめでたしだ。革命後の混乱は早期に収まる」

 

民衆の怒りの矛先は『黒幕』に向かう。

 

そうすれば、フランス革命のような粛清政治も起きないだろう。

 

 

「おそらくこれが『最短』だ。…『時代』を変えたことの混乱はほぼないだろう」

 

俺は、知っている『目』をするツアーに語り終える。

 

何がしたいのかと『目』で尋ねる。

 

 

「…それを『世界』規模でやろうとして失敗したぷれいやーがいる」

 

ツアーはそう言った。

 

…有り得ない。見合わない。俺ですらやらない。そんな馬鹿なことは。

 

 

「モモンガ。君はあの『教授』と同じ才能の持ち主だ」

 

『教授』?…誰だ。この世界の歴史には存在しないはずだ。

 

俺が調べた範囲で、少なくともそんな存在は。

 

 

「だから、話す。『竜王』ではなく、『英雄』として。

 

 人間達の間では…『十三英雄』という者達の昔話を」

 

『白金の竜王』としてではなく、十三英雄の一人『白銀』として。

 

 

そうツアーは語った、俺に十三英雄の『真実』を教えた。

 

 

ツアーがリーダーと『教授』、共に仲間と思っていた。

 

いや、『真実』を知ってなお仲間と思っている大切な存在を。

 

 

 

…俺は『そいつ』を知っていた。

 

来ていたのか、この『世界』に。

 

 



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閑話 邪悪

『英雄』を導く『師』は『世界』を美しいと思いつつも、『時代』を憎悪した。


 

ユグドラシル時代、後期。もはや覚えていないに等しい『前世』を思い出した三年前より前。

 

『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーが実質、四人だけだった頃。

 

 

ほぼ一人だった俺は、超級守護ゴーレムを引き連れて毎日ダンジョン等に突撃し、

 

モンスターやアイテムを狩り尽くしていた。

 

 

…その頃から、ほぼ毎日、俺に会う度に、『貧乏魔王』と揶揄ってくるプレイヤーがいた。

 

 

『大魔王モモンガ行動予測スレ』で俺の行動が解析されていない時代から、

 

無人魔王スクロール販売所の『魔王警報』も出していない頃から、

 

ほぼ『毎回』俺を煽ってくるプレイヤーがいた。

 

 

最終日二日前のダンジョン突撃の際にも煽って来たのでPKしたが、

 

その日も『魔王警報』を出していないのに現れた。

 

 

彼女は、人間のプレイヤーだった。

 

片眼鏡をかけた黒髪の何か賢そうな化身(アバター)だった。

 

 

執拗に嬉々として俺を煽るので、何やかんやで良く見知ってはいた。

 

 

彼女の断末魔は、いつも滝に突き落とされたような悲鳴をあげる。

 

見た目は美少女が、だ。

 

俺は傍目からすれば『魔王』というより『外道』にしか見えない。

 

 

だが、俺は『彼女』に一言、煽られればそんなこと一切気にせずに即殺する程、

 

ある意味奇妙な『友情』を感じていた。

 

 

 

…『彼女』の行動はよく考えるとおかしい。

 

俺は『魔王警報』までは、常にランダムにしていたし、

 

変態解析者達が集まる『大魔王モモンガ行動予測スレ』すらも予測できなかった。

 

 

 

しかし、『彼女』はできた。

 

 

『天才』だったのだろう。

 

 

あそこまで完璧な行動予測は、ラナーくらいじゃないと無理だ。

 

ラナーやデミウルゴスですら、俺の『旅』に関しては読み違えていたが。

 

 

完全に才能の使いどころを間違っていると俺はツアーの話を聞くまで思っていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

…『貧乏魔王』と遊び過ぎた。

 

 

未知の『世界』でLv30台。…この弱さは致命的だ。

 

 

 

だが、もはや死んでも良い程この『世界』は美しい。

 

夜空も星空も空気も自然も有り得ない『世界』。

 

それは、空想でしか見ることができなかった。

 

私の『夢』だった光景。

 

 

…『世界』を知ろう。『旅』をしよう。

 

 

私は未知を知るただの、一人の『学者』だ。

 

『未来』のない救いのない『研究』に人生を捧げたくなくて良い。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『旅』で知った。この『世界』は歪だ。

 

 

力を持つのに、腐敗した権力に立ち向かわず忠誠を誓う『勇者』。

 

『人間』を守るという大義名分で全てを殺し尽くす『宗教』。

 

それらをただ妄信する『民衆』

 

 

『世界』はこんなにも美しいのに。…誰もそれを見ようともしない。

 

 

ならば、無理やり『世界』を見て貰おう。

 

 

『悪』を作り、『英雄』を使い、『民衆』を熱狂させる。

 

私が『黒幕』として幕を閉じる。

 

 

…『貧乏魔王』ならどうしただろうか。

 

 

『旅』の結果、私の本質は『邪悪』なのだと理解した。

 

 

このような『結論』になるのだから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『私』は『僕』へ、『学者』から『教授』となった。

 

 

『教授』の方が、誰かを教えるのには最適だから。

 

『僕』にした方が全て偽れるから。

 

 

僕はアイテムを使い変身する。『人化の指輪』。

 

普通は異形種が人間になるために使うが、人間が使えば完璧な変装道具になる。

 

 

主のいない『ギルド』のNPC達にこう吹き込む。

 

「お前達の主は『世界』に殺された」

 

憎悪の目で僕を見る。

 

だが、わかりやすい。

 

 

「『世界』は腐敗で満ちている。

 

 だから、一度壊そう。君たちなら簡単だ。

 

 壊して壊しぬいて、『世界』に復讐するんだ。

 

 きっと主もそれを望んでいるよ」

 

彼らがしたくてもできなかったことを肯定する。

 

そして、導く。

 

 

「バラバラに『世界』を襲うんだ。そうすれば、誰も防げない。

 

 君たちは強いからね。簡単な理屈だろう?」

 

半分本当で半分嘘だ。

 

彼らに勝てる存在はこの『世界』には、ほぼいない。

 

 

これから作る。探す。見つける。

 

 

僕は、『憎悪』を『世界』に撒き散らした。

 

 

『魔神』が作れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

次は、『英雄』だ。

 

 

立ち寄った村で弱いプレイヤーがいた。…Lv1だった。

 

子供並みに弱く、彼は『世界』を嘆いていた。

 

だからこそ『英雄』にはふさわしい。

 

 

弱い『人間』が強くなり『英雄』になる。

 

 

きっと民衆も『希望』を湧いてくれる。

 

『時代』を変えてくれる『希望』を抱いてくれる。

 

 

僕は声をかけた。

 

「ねぇ、君もプレイヤーだろう。

 

 僕と『仲間』になろうよ。

 

 この『世界』はね。とても綺麗なんだ。

 

 だから、君も強くなればきっと、『世界』を見る『余裕』ができるよ」

 

これは『本音』だ。

 

 

僕は彼に手を差し出す。

 

 

…彼を導こう。その憎悪の目で、美しい『世界』を見て貰おう。

 

きっと理解してくれるはずだ。

 

 

「何故、そこまでしようとする?見も知らぬ俺を」

 

彼は言った。

 

 

「僕は『教授』だ。教え導くのは当然だろう?

 

 一緒に行こうよ。だって、一人は寂しいでしょ?

 

 君と僕とならパーティーだよ。ほら、行こう」

 

無理やり手を握り、引きずる。

 

Lvの差だ。簡単だ。

 

この『世界』では、男女の差など意味がない。

 

 

「わ、わかった!自分で歩くから!やめろ!!」

 

『彼』はそう顔を赤らめて叫んだ。…風邪だろうか?

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

僕らは『旅』をした。

 

 

色んな場所を、『世界』を見た。

 

 

『仲間』を増やした。

 

老婆、鎧、巨人、半悪魔、ドワーフ、エルフ、人間…

 

沢山の『仲間』と『旅』をした。

 

皆に『世界』を見て貰った。

 

 

『未来』を『教授』するのだ。

 

 

僕は楽しかった。

 

 

…仲間に、『貧乏魔王』がいないのが、寂しかった。

 

 

僕の話を一切聞かずに、問答無用で切りかかるような『アホ』が欲しかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

僕たちの『旅』の途中には『魔神』が現れ『世界』を壊す。

 

僕たちはそれを倒して、次の『旅』に出る。

 

 

『民衆』は『それ』を語る。それを生かすのはまだ先だ。

 

 

ドワーフ等もその『旅』の途中で着いてきてくれた。

 

 

僕が語る『未来』を皆が聞いてくれた。

 

 

もうここまでできれば問題ない。

 

 

後は、もっと壊せば良いだけだった。『体制』にまで及ぶ『破壊』を

 

…そのはずだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『白銀』は『竜王』だった。

 

 

何かを隠していると思っていたが、『想定外』過ぎた。

 

 

『世界』最強の存在が身を隠して『旅』をするのは想定外だった。

 

 

そして、『竜王』は語った『八欲王』のギルド武器を。

 

 

『未来』の危機を。

 

 

「あのギルドは強者が相手だと、全力になる。私のような『強者』では中には入れない」

 

かつて、『八欲王』と戦っただけあって詳しい。

 

 

「だが、かつての私の『友』は言った。

 

 『初見の低レベルでなら油断して攻略できる。あれはダンジョンのままの糞雑魚』と。

 

 …要するに言い方は酷いが君たちなら可能なんだ。既に内部情報はある」

 

…それを言ったのは、多分プレイヤーだ。

 

確かに『八欲王』が『あいつら』なら攻略したてのダンジョンでもおかしくない。

 

 

「『世界』を崩壊させる可能性は摘みたい。

 

 『教授』がいつも言っていたように、君たちには『技術』や『経験』がある。

 

 時間さえあれば、容易だろう。

 

 『教授』は口が上手いからね。時間を稼ぐのは問題ないだろう?

 

 …『ギルド武器』さえ奪えば、もう誰も失う恐怖を味わうことはない」

 

『正論』過ぎた。

 

 

…僕が、『教授』が『竜王』を唆せば、そういう発想になる。

 

 

 

僕は『八欲王』のギルドに関しては、『九つの天使』でなすつもりだった。

 

 

断罪の剣で自らもろとも消し去るつもりだった。

 

 

修正は不可能。皆ノリ気だ。僕が後にしようというのもおかしい。

 

 

…もはや、僕たちは『全て』を成し遂げることにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『八欲王』のギルドには僕一人で『プレイヤー』という肩書を使い、交渉した。

 

僕にとって、『言葉』のみなら時間を稼ぐことは本当に容易だ。

 

まして、相手は絶対者。こちらを侮らないわけがない。

 

 

こちらには低レベルとはいえ『忍者』がいた。

 

…隠蔽や攻略は不可能でなかった。

 

 

僕以外を全て攻略に当てた。

 

 

最終日直前、ワールドチャンピオンが突発的に作ったギルドだから、

 

ギルドはダンジョン当時そのまま。しかも内部情報まで『白銀』は持っていた。

 

 

だから、隙がわかる。油断していればなおさら。

 

 

あの『貧乏魔王』のナザリック地下大墳墓でさえ、

 

NPCや罠がなければ、Lv30の集団で攻略可能なのだ。

 

 

ワールドチャンピオン達の杜撰なギルドなら容易だった。

 

…プレイヤーが一人でもいれば、詰んだのはこちらだった。

 

 

プレイヤーがいつもいることを前提にした警備だった。

 

パスワードも何もない。

 

初見の集団が、隠蔽さえできれば出入りできた。

 

 

八欲王は、NPCを『人』と見ていないとわかった。

 

 

 

『ギルド武器』を奪い、動けば壊すと脅す。

 

彼らの、NPCの、恐怖の可能性を、ギルド崩壊を行うと僕は宣言した。

 

 

主のいない、八欲王のNPCは従った。

 

...思えばこの時、やり過ぎた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

リーダーは言った。

 

「君は『世界』を愛しているが、誰も愛していない。

 

 …一人だけいるが、この『世界』にはいない。

 

 だから、せめて、俺が…ここで終わらせる」

 

バレていた。

 

 

この『世界』は美しいが、この『時代』を、『人』を愛せない。

 

 

『白銀』もリグリットもわかっていた。

 

 

僕は『教授』だから、客観的にしか『愛』を語れないことを。

 

 

八欲王の拠点を攻略した『会話』で気づかれた。

 

 

何より、主観的な『愛』があったら騙せない。皆を。

 

 

だが、彼の言う『一人』とは誰だ?

 

 

 

僕は、『他者』を愛したことはない。

 

誰も相手にしてくれなかったから。かつての『世界』では。

 

 

 

そんなことはどうでも良い。

 

 

『世界』を守るありとあらゆる手段を模索する。

 

 

…僕には『白銀』が殺しきれない。『目撃者』を殺せない。

 

何より『仲間』を殺せない。

 

 

...詰みだ。

 

 

後、一歩で、『時代』を壊せるのに。

 

『未来』を叫んだ。『死』など計算済みだ。

 

だから、もう少しだけ時間が欲しい。騙されて欲しいと。

 

 

 

…完全に無理だと悟った。

 

彼らはこれ以上の『破壊』を決して許さない。

 

 

 

…ならばここで幕引きだ。

 

 

隠し持っていた、ワールドアイテム『ギャラルホルン』を自分に向けて使う。

 

超位魔法『神の化身召喚(コール・アヴァター)』を滅茶苦茶に『強化』したそれ。

 

 

本来はユグドラシル最終日に来てくれるかもしれない『魔王』に使うつもりだったそれ。

 

…『魔王』は来てくれなかった。

 

 

終焉の『九つの天使』が現れ、僕に襲い掛かる。

 

 

これは本来であれば、『黒幕』を貫く『断罪』の象徴。

 

 

まだ、その時じゃない。あと少しだった。

 

…『民衆』も意識を変えつつあった。

 

 

だが、使う。これ以上無意味だから。

 

 

ここで死ぬ。恐怖はない。

 

 

だが、私はもう一度会いたかった。

 

 

…誰と?

 

 

 



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第五話 魔王

『世界を滅ぼせる『邪悪』を飲み込んでからが『魔王』である』Byモモンガ


ツアーから『教授』の話を聞き終えた俺が、

 

初めに思ったのは彼女に『会いたい』だった。

 

 

 

『俺』なのだ、『教授』は。

 

つい先日の、ラナーの『策』に嵌められかける前の。

 

 

 

そして、ツアーは気づいていないが、

 

俺なら熱素石すら使わずに『教授』を蘇らせることができる。

 

スルメさんの時とは違い、『死』の『状況』が完全にわかっている。

 

 

彼女は、ただ『死んだ』だけだ。

 

 

…彼女の死因は俺がよく知っている。

 

 

ワールドアイテム『ギャラルホルン』は俺にとって相性最悪だから。

 

 

あれはただ召喚されるモンスターが『強化』されるだけだが、

 

ワールドアイテムだけあって『壊れている』。

 

 

あれは極端に特化したワールドアイテムだ。

 

 

もはや『20』に含めても良いと言っていい。汎用性のなさから数えられていないだけ。

 

『脅威』だ。特にナザリック地下大墳墓にとっては。

 

 

『ギャラルホルン』は、超位魔法『神の化身召喚(コール・アヴァター)』を『強化』したもの。

 

 

幾人かのLv150ナザリックNPC達にすら相性で勝てる。

 

それほどナザリックにとって相性最悪。

 

 

エリュエンティウと呼ばれる『浮遊城』。

 

後先考えない最大火力での一撃なら、

 

『八欲王』の拠点など文字通り、消し炭にできただろう。

 

 

ナザリック地下大墳墓すら『危機』に陥れることが可能だから。

 

 

だが、『ギャラルホルン』は『20』には入らない。

 

召喚されるだけで、時間経過すれば消えて終わる。使い捨てのワールドアイテムだ。

 

 

『ゴブリン将軍の角笛』のようなアイテムは例外だ。時間経過しても残るというのは。

 

 

だが、『教授』の運用法によっては、ナザリック地下大墳墓すら滅ぼせたかもしれない。

 

…いや、万全のLv100の彼女なら可能だろう。

 

流石にルベドや『八階層のあれら』は無理だろうが。

 

それ以外で、詰みに持っていける可能性がある。

 

 

 

…ここまで並べ立てておいてなんだが、

 

俺には、『正攻撃無効』『光攻撃無効』『神聖攻撃無効』と

 

『阻害無効化の指輪』があるから絶対負けるはずがない。

 

 

もし『ギャラルホルン』を使われても、

 

彼女が勝ち誇ったドヤ顔しているところに俺が阻害不可能な転移をして、

 

彼女をぶん殴れば終了だ。

 

全ての『策』が破壊されて、ズタボロになる彼女が目に浮かぶ。

 

 

いつもの光景だ。

 

 

俺は彼女に『俺は悪魔だ』とでも言ってやっただろう。

 

 

 

しかし、それらの反則がなければ俺にすら届いた可能性が非常に高い。

 

 

…超越者(オーバーロード)化した俺に勝てたかもしれなかった。

 

彼女は本当に後一歩の、『策』を用意していた。

 

誰もが匙を投げる『魔王』に正面から勝とうとした。

 

…実際、理論上は可能だった。俺がそれを上回る『理不尽』なだけで。

 

 

 

…どう考えても危険だ。『教授』は。

 

 

俺の行動予測ができるラナークラスの『頭脳』。

 

それに加えておそらくリアル最高峰の『未来の知識』。

 

単身で『世界』を変えかけた『行動力』。

 

素で『邪悪』を行使できる『才能』。

 

 

…時間を与えれば、その『頭脳』のみで俺を上回りかねない。

 

 

 

俺は右手親指の指輪を見つめる。

 

『リング・オブ・マスタリーワンド』を。

 

信仰系マジックキャスターしか本来使えない高位の短杖(ワンド)が使えるようになるそれ。

 

 

第九位階魔法『真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)』の籠った短杖を使えば、彼女は蘇生できる。

 

時間が経過していようとも、彼女はただ『死んだ』だけだから。

 

『真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)』は遺体すらなくとも蘇生できる。

 

 

転移前の俺は、

 

ナザリックを守る可能性として、『死』を回避する手段として、

 

真っ先にそれを『大量』に用意していた。

 

一、二本程度は全く惜しくない。

 

 

そして、ツアーが言うような結末なら、俺に会えない『未練』がある。

 

 

蘇生の条件は満たされている。彼女の蘇生は、容易なのだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…だが、『教授』はスルメさんの大事な友の子を、NPC達を扇動している。

 

『魔神』として。

 

 

 

ツアーがいくら大切な『仲間』と思っていても、『教授』を許すことはできないだろう。

 

『世界』の守護者として、テロリストの『教授』は許してはならない。

 

 

 

俺が蘇生したのを隠しても、おそらくいずれバレる。

 

『教授』がただ黙っているわけがない。俺に『最短』を囁くだろう。

 

 

ツアーはそれをさせないために、俺に『真実』を話した。

 

ンフィーレアのタレントを奪って、『世界』を救う暴挙にならないように。

 

…俺を『テロリスト』にさせないためにだ。

 

 

 

『正攻法』。理詰めで『世界』を強化する。

 

これしか、ツアーとスルメさんと争わないで、共に『世界』を守れる道はない。

 

 

 

『教授』と同じ才能とツアーは評したその『邪悪』を用いたら、

 

『世界』は救われるが、俺は決して救われないだろう。

 

 

 

…それでも、俺は彼女に会いたかった。

 

 

 

「モモンガ?」

 

ツアーが俺の様子がおかしいと察した。

 

 

「…俺が『教授』を熱素石すら使わずに、簡単に蘇生できるとしたら、どうする?」

 

俺は思わず全部バラしてしまう。

 

 

「…モモンガなら言うかもしれないと思ったが、ダメだ」

 

やはり、そうだよな…

 

 

「スルメは、この件を既に知っている。

 

 『魔神』については唆しただけでいずれやっただろうと、あまり怒ってはいなかった。

 

 …責任は自分にあると思っているのだろうね」

 

ん?

 

 

「『世界』の脅威である以上。無理だ。

 

 まだ、当時の真実を知っている『私』を含めた幾人かの仲間を説得できない限りは不可能だ」

 

…可能だ。

 

 

 

俺にはできる。その不可能が。

 

 

 

問題はここからの展開だ。

 

 

ここが『最後』の分岐点。

 

彼女は望まないかもしれない。

 

ツアーもスルメさんもきっと望まないだろう。

 

 

だから、これは俺の『我儘』だ。

 

『自由』を奪い、『贖罪』をさせる。

 

『世界』のために、俺の『側』にいてもらう。

 

 

 

なに簡単だ。

 

 

『教授』が何かしようとすれば、いつものように問答無用でぶん殴ろう。

 

 

 

「ツアー。可能だ」

 

俺はツアーを『説得』する。

 

 

「…ダメだ。それは君を滅ぼす」

 

違う。その方向には絶対いかない。

 

 

「『蒼の薔薇』のイビルアイと接触したい。

 

 『贖罪』だ。『十三英雄』と『法国』との和解の場を設けよう」

 

『評議国』と『法国』最大の不仲の原因。

 

 

法国が『世界』の危機に自ら引きこもって、結果的に国力を高めた。

 

だが、それで『十三英雄』は、やがて『評議国』から嫌悪された経緯は聞いた。

 

 

 

『ズーラーノーン』の『盟主』は何といいタイミングで現れてくれたのだ。

 

 

 

素晴らしい。

 

…条件は全て満たされていた。

 

 

 

アルシェには『彼』に『手紙』を書いてもらおう。

 

用心深い『盟主』なら引っかからないかもしれない。

 

だが、『教授』なら容易だ。その無茶ぶりが。

 

 

 

『国堕とし』のイビルアイと法国が和解できれば、『世界』平和へとつながる。

 

『王道』で『最短』に導ける。

 

 

 

…スルメさんを説得するためには、ツアーの協力が『不可欠』だ。

 

 

 

「何を考えている!モモンガ!」

 

ああ、言い方が不味かった。言葉が足らな過ぎた。

 

…『邪悪』な手とも捉えられる。俺は馬鹿か。

 

 

 

なので、素直に言う。俺の気持ちを。

 

「俺は悪さをしでかした『友』をぶん殴りたいだけだ。

 

 俺は、決して、決して『黒幕』になどならない。

 

 …ただ、その為にはスルメさんの『罠』を俺達、三人で決めなければならない。

 

 だから、頼む!ツアー。協力してくれ!!」

 

俺は全身全霊で頭を下げる。これしか俺にはできない。

 

 

…何が『説得』だ。

 

 

だが、これ以上がない。

 

ツアーが拒否すれば終わる。その時は、俺は諦めよう。

 

 

数分が数時間にも感じる。沈黙。

 

 

やはり、ダメか…

 

 

「…言ってみてくれ。聞くだけ聞こう」

 

...賭けに勝った。

 

 

 



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閑話 天才魔法少女キーノちゃん潜入工作

時折、全力で明後日の方向へ、斜め上の発想する元骨。

詳細を聞いたツアーが正気を疑ったそれ。

だが、しかし、確実に『世界平和』に近づくのだ。これが。


帝国魔法学院のとある教室。

 

父の意向もあり、私は生徒として学院に編入することになった。

 

 

…という設定だ。

 

ゴウン様が帝国皇帝を脅し、無理やり『貴族の娘』になった私。

 

人化の指輪とかいう強力なマジックアイテムまで使い、

 

発想が全力で斜め上の潜入任務だ。

 

 

 

…本当にゴウン様が考えたんだよな、この作戦?

 

 

 

「皆さん。今日から新しい生徒が皆さんと一緒に勉強することになりました」

 

ああ、私は本当に何でこんなことをしているのだろうか…

 

 

「では、入っていただきます!」

 

いかん!気を付けなければ。

 

ゴウン様の作戦に支障があってはならない。

 

そう、私は飽くまでその辺にいる『天才少女』だ。

 

…父が『アレ』だが。

 

 

「今日からお世話になります。キーア・シルバー・シス・ブレッドです!

 

 これから皆さん宜しくお願いします!」

 

そうクラスの面子ににこやかな笑顔を見せる私。

 

 

挨拶は『本音』だ。

 

 

ああ、『盟主』にな。とっとと死ね。

 

 

「はい。ありがとうございます!」

 

担当教師は何もわかってないのだよな。

 

 

「彼女は何と若干十二歳で第三位階魔法を使える天才なんですよ!」

 

おお…と声が上がる。

 

まぁ、そうだろうな。普通。

 

アルシェとかいう娘にも確認したが、やはり普通十二歳で第三位階魔法とか有り得ない。

 

…私は本来第五位階魔法を使えるが。さらにいえば、260年は生きているが。

 

 

「さらに、何と御父上は、あの偉大なる学長様、

 

 モリアーティ・シルバー・シス・ブレッド様です!

 

 皆さん。決して偉大なる学長様のご息女様に失礼のないように!!」

 

学長様って、そいつあの『教授』だぞ。

 

『時代』の敵だぞ。

 

誰か止めろ。

 

 

…私個人は、ゴウン様がお許しになっているのだ我慢しよう。

 

 

しかし、だ。

 

「「「はい!全ては偉大なる学長様のために!!!」」」

 

帝国魔法学院の全員が『教授』に洗脳されている。…一部除くか。

 

しかし、まだ学長に就任して一月も経っていないのにこの有様か。

 

 

もはや、『手紙』なくてもいけるのではないか?確かに確実な『手』だが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

一か月前、私は疲れ切っていた。

 

『魔王』の魔の手から王女を救おうとする女神官のリーダー、ラキュース。

 

同調する筋肉、ガガーラン。

 

アンデッドなら『不能』に違いないから王女とアレコレしたいと平然と宣う忍者、ティア。

 

 

五人中三人が『魔王』に無理やり突撃しようとしている。明らかに無謀だ。

 

 

 

…それに『魔王』はおそらく安全だ。

 

 

 

かつて、リーダーの言っていた『存在』と同じなら、

 

弱者を甚振る真似はせず、寧ろ助ける『お人よし』だそうだ。

 

 

…『教授』は喋っていると突然切りかかる『貧乏人』と評していたので、

 

人物像に当て嵌まらない気がする。

 

 

 

なので、真実を確かめる為に、私は奮闘した。

 

が、その度に緊急出動や依頼が入る。

 

…放っておけば民間人に被害が出る可能性があった。

 

 

断れるわけがないだろう!

 

アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』が!!

 

 

 

ついにようやく、『リ・ブルムラシュール』で怪しい動きがあると聞き、

 

『魔王』との関係かと思い急いで駆けつければ、王女の兵士達、

 

さらに『クライム』が立ちふさがった。

 

 

…『蒼の薔薇』を止めるために。

 

 

倒していくわけにもいかず、もたもたしている間に、

 

『リ・ブルムラシュール』の怪しい『二人組』はもぬけの殻になっていた。

 

 

あのとき、私は悟った。あの王女、完全に隠す気がない。

 

 

ラナー王女自身が私達を、『蒼の薔薇』を『魔王』から遠ざけている。

 

 

『悪』の『魔王』ならこんな回りくどいことするはずがない。

 

 

もう面倒臭くなった私は、王女はもう幸せなのではないかと言ってみた。

 

…火に油を注いだだけだった。

 

 

 

…『魔王』様。助けてくれ。私、アンデッドなのに限界に近い。

 

 

 

そう毎日心の底から祈っていたら、楕円の『闇』が現れた。

 

 

そこに、例の『魔王』が現れた。

 

 

私は歓喜した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「蒼の薔薇のイビルアイ。私は『魔王』アインズ・ウール・ゴウン。

 

 君に取引があって来た。

 

 対価は二つ、まず一つは君の仲間達の暴走を止めることだ」

 

おお!

 

 

「う、受けます!私もう限界なんです!!あいつらをちょっと黙らせてください!!」

 

『仲間』を売るわけではない。

 

…ちょっと黙って欲しいのだ。

 

アイツらが、私に、毎日どれだけ精神を疲弊させているか!

 

 

「う、うむ。わかった。

 

 というより私を探してくれていたみたいなのに申し訳ない…

 

 まさか、ラナーが私の知らぬ間に接触する機会を全て潰していたみたいでな…」

 

やはり、そうか!

 

 

あの王女、アレが『本性』なんだ。

 

 

『教授』の豹変ぶりを知っている私にはわかる。

 

というかあんな感じだったから、違和感元々あったが。

 

 

ラキュースが悲しむな…

 

 

「すまない。言い訳だった。許して欲しい」

 

そう言って頭を下げる『魔王』。

 

ああ、久しぶりにまともな会話ができるのがこんなに幸せだとは…

 

いかん。そうじゃない。

 

 

「あ、頭を上げてください!

 

 一国の王足る者が軽々しく頭を下げてはいけません!」

 

そうだ。この方が原因じゃない。

 

 

『原因』は『腹黒王女』の方だ。絶対間違いない。

 

 

「ありがとう。では、本命なのだが、いいか?」

 

ああ、もう一つあるのだったな…

 

 

いかん!混乱し過ぎて、『提案』を丸のみしてしまった!

 

相手は『魔王』だ。仲間達が危ないかもしれない。

 

ああ、私は何て愚かなことを…

 

 

「…最後まで聞いてから、改めてどうするか返事をしてくれ。

 

 最初の混乱から察するに、私のせいで、君は相当疲れている。

 

 何なら日を改めてもよいのだが…」

 

…私は何故、この方を疑ったのだ。

 

 

この目の前の存在からは、圧倒的な力を感じる。

 

…最低でも、『白金の竜王』と同等以上の存在なのはわかる。

 

 

『策』など用いなくても、私達『蒼の薔薇』を強引に引き込めるはず。

 

 

…だから、『取引』なのだ。本当に。

 

 

「お気遣いありがとうございます。今ここで話してください」

 

そう告げる。覚悟はできた。

 

 

「イビルアイよ。いや、『キーノ・ファスリス・インベルン』。

 

 君は『国堕とし』として、法国に狙われているな?」

 

どきん、と動かないはずの心臓がなった気がした。

 

つけている仮面で隠れているが、動揺が隠しきれない。

 

 

…私の本名がバレている。正体もだ。

 

 

「何用か。返答によっては、私も覚悟はできている」

 

『魔王』でも恐れはしない。

 

『蒼の薔薇』の、皆の迷惑には変えられない。

 

 

「対価の二つ目、私は君を法国から守ろう」

 

どきん、と心臓がなった。顔がやたら熱い。

 

…だが、勘違いだ。この方はどう見てもアンデッド。

 

私を求めているわけではない。

 

 

…私の『力』が欲しいという意味だろう。

 

 

「そうだな、私の感情が読み取りにくいか…ではこうしよう」

 

そう言って『魔王』は『人間』になった。

 

もしかして…

 

動くはずのない心臓が高鳴る。

 

 

私の『力』ではないのか?私自身を…

 

 

「これなら、私が本心から言っているとわかるかな?

 

 私は、君を、『法国』から守りたいのだ」

 

ここまで情熱的な『告白』をされたのは初めてだった。

 

胸が高鳴り、顔が、体が熱くなる。

 

アンデッドだからありえないはずなのに。

 

 

私が落ち着くのを見計らったかのようにゴウン様はおっしゃった。

 

 

「そこでだ。君には、『法国』と『とある人物』とで、ある作戦に従事してもらいたい」

 

…私が『法国』と共同作戦?

 

それは有り得ない。私は『国堕とし』。

 

 

彼らからすれば私を滅ぼすしかない。私だってそうする。

 

 

「ああ、そうか信用ならないか…」

 

気を落とされる『魔王』様。

 

いかん!何故私はこの方を疑った!

 

 

「す、すみません!あまりに急な話なものだったので!」

 

私は全力で謝罪をする。

 

ここまで『告白』してくれた殿方を疑うなど女として、何と恥ずかしい。

 

胸がときめく、世界が輝く。

 

ああ、『世界』とはなんて美しい…

 

 

「私は、『ズーラーノーン』の『盟主』を捕らえると『死の神』スルシャーナと約束した」

 

『ズーラーノーン』。

 

 

その名は決して、忘れるはずがない。

 

…私が吸血鬼になった最大の原因だ。

 

 

あの『盟主』が行った、私の故郷を死の国へと変貌させる実験のせいで、

 

私の『負のエネルギーをあらゆる物へ変換する』タレントが暴走した。

 

 

…私は『吸血鬼』となり、タレントを失い、一人ぼっちになってしまった。

 

 

皮肉にも、私に真の意味で、手を差し伸べたのは、あの『教授』だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

あの時、『教授』は私の目を見て語った。手を差し伸べた。

 

 

「君も『世界』を見よう。きっと『未来』は明るい。

 

吸血鬼だろうが、何だろうが受け入れてくれる『世界』。

 

それが、私の『夢』なんだ。だから、一緒に行こうよ!」

 

 

…そう言いながら真実では、『世界』の『時代』を破壊しようとした『教授』。

 

 

あの時、最後の戦いで、真実が明るみにでて、

 

『時代』の敵となった『教授』と私は戦えなかった。

 

 

たとえ、それが『邪悪』だったとしても。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…我ながら感傷に浸ってしまった。

 

 

ゴウン様の提案を受けよう。

 

…私の、全ての『因縁』に終止符を打とう。

 

 

「構いません。私の『因縁』に終止符を打ちたく思います」

 

私は覚悟を決める。もはや如何様な作戦でも受け入れよう。

 

 

 

「それでは、対価の二つは必ず果たそう。

 

 …そろそろ何だが。まぁいいか。

 

 君に『とある人物』と協力して、『盟主』のいる場に潜入して貰いたい」

 

ズーラーノーンの『盟主』がいる。

 

…どのような修羅場だろうが地獄だろうが、死ぬ覚悟をしよう。

 

 

全ての『因縁』に結末を。

 

 

…一つ、気になる。

 

「協力者とはどなたですか?」

 

私は素直に疑問を投げかける。

 

ゴウン様を疑うわけではない。

 

…私の実力が足りているのかの方を心配している。

 

 

すると、

 

 

突如、私のいる部屋の扉を破壊する音が響きわたる。

 

…これでは宿中に響き渡らないか?

 

 

 

「おのれ、『魔王』!まさか本当にラナーを暗黒の衣に包ませていた何て…

 

 うらや、いや、許せない!!」

 

ラキュースが顔を赤らめて突撃してきた。

 

 

「え、いや、ちょっと待て、『静寂(サイレンス)』

 

 『魔法最強化・人間種束縛(マキシマイズマジック・ホールドパーソン)』」

 

ゴウン様は、これ以上騒ぎを大きくしないように

 

『静寂(サイレンス)』を発動しているが、あれは意味がない。

 

 

もう十分響き渡っている。

 

 

ゴウン様は、多分相当慌てている。それがわからないくらい。

 

 

ズガンという音を立てそうな勢いで、ラキュースが地べたに転がる。

 

必死に動こうとしているが全く動けないようだ。

 

 

...いや、待て、『静寂(サイレンス)』は神官の使える隠密用の魔法だよな。

 

第二位階魔法とはいえ。

 

 

...ラキュースを助けるべきだと思うが、

 

先ほどの行為は、明らかにゴウン様の自己防衛といえる。

 

 

...どうしたら良いか判断に迷う。

 

 

「…俺は、蒼の薔薇を穏便に説得するように命じたよな?」

 

そう言って扉の先を睨みつける。

 

 

コツコツと何者かの足音がする。

 

 

「いや、ここまで『純情』だとつい揶揄いたくなってね。

 

 大丈夫だよ。

 

 『王女様』をたっぷり可愛がっていることをちゃんと、きっちり教えてあげたから」

 

 

その声はこの行為を一切、悪びれもしていない。

 

…どこかで聞いた『声』がする。

 

 

「おい、『教授』さんよ。本当にクライム食っていいんだな?」

 

ガガーランが目を輝かせている。

 

クライムがヤバい。が、それどころじゃない。

 

…この『声』は。

 

 

「「お姉さま!ショタとロリに満ちた理想郷とは本当ですか!!」」

 

双子が戯言をほざくが、そんなの気にならない。

 

 

「ああ、『全て』約束しよう。大丈夫、そこの『魔王』が保証してくれる」

 

そう言って現れたのは、

 

かつての『時代』の敵であり、『世界』を救おうとした『黒幕』だった。

 

 

 

「お前、ふざけるなよ」

 

ゴウン様が懐から何かを取り出して、ボタンか何かを押す。

 

 

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

滝にでも突き落とされたような絶望的な悲鳴を上げる『教授』。

 

 

苦しみながらも、彼女はゴウン様を睨みつける。

 

 

「やめろ、本気で痛いんだよ、苦しいんだよそれ!

 

 しかも、そのスイッチ、三人で持ちやがってこの『貧乏魔王』!

 

 覚えていろ!覚えていろよ!いつか絶対、絶対に仕返ししてやるからな!!」

 

涙目で床を転げまわる『教授』。

 

 

 

だが、私が今まで見たことがないほど彼女は楽しそうだった。

 

 

 

「やれるものならやってみろ。愛玩動物(ペット)。

 

 貴様は今やハムスケと同列…いや、ハムスケの『後輩』だと知れ」

 

そう言い放つゴウン様。

 

 

 

…私もいつか『ああ』なるのだろうか?

 

それはそれで構わないが。




最後のペットでも構わない発言について、

イビルアイは完全に疲れています。
さらに『教授』とかオーバーヒートして、もうそれで良いかと思いました。
モモンガ様は釈明しました。コイツ大罪人だから、仕方がなくやっていると。


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閑話 『教授』vs『化け物』

一度だけの直接対談。
二度目があることを互いに祈る。


ラナー王女様々だ。

 

私に同程度の『頭脳』があると数瞬の接触で理解してきて、

 

二人きりでお茶会とはね。

 

 

これは『想定外』。良い方向で。

 

…『教授』からは絶対不可能な対談だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「…百歩譲って、クライムとガガーランとの婚約はいいでしょう。

 

 ですが、ラキュースと魔王との結婚に、

 

 アルシェ・イーブ・リイル・フルトの貴族復位。

 

 イビルアイを、キーア・シルバー・シス・ブレッドそのまま貴族にさせて、

 

 魔王と結婚させろとはどういうことですか?」

 

思考は誘導して中二病お嬢は唆したけど、この『王女様』がなぁ…

 

 

あの三人でもきついのに…あの三人賢過ぎる。

 

『白銀』は『仲間』だから読み切れる。それに人外だから逆に読みやすい。

 

『魔王』も『死神』も一定のポリシーがあるから、そこから逸脱はしない。

 

 

…『人間』で私と同程度の『頭脳』とか『初めて』だから、物凄く面倒くさい。

 

 

…わかっている癖に。

 

 

「馬鹿だなぁ。王女様は。婚姻外交だよ。この『時代』ならありふれた行為だろ?

 

 寧ろ世界中の貴族・王族巻き込んで結婚させた方が、世界平和に早いんだよ」

 

あの『魔王』にできない合理的思考で結論づけた『最適解』だ。

 

 

…偶にあの『貧乏魔王』、私の『想定』を超えた滅茶苦茶するから、

 

頓挫する可能性もあるが、やらない方がおかしい。

 

 

「理屈はわかりますが、やり過ぎです!

 

 …それに血が絶える可能性があるのに送る馬鹿はいりませんよ!」

 

うん。そういう『馬鹿』はいらない。

 

 

争いの種になりかねない。だから『選別』は必要だ。

 

 

その『結論』に至れるだけ、やはり『王女様』にだけ全てを話した方が良いか。

 

 

「これ、『時飛ばしの腕輪』っていうんだけどさ」

 

存在を思い出した時、真っ先に欲しかったアイテム。

 

 

『魔王』は、『業務』に疲れないようにと私に投げてよこしたアイテム。

 

 

この『腕輪』があれば、私はかつてあそこまで『暴走』はしなかっただろう。

 

時間をかけてやればよいと早期に気が付けた。

 

 

『旅』で自分の考えが纏まり、方針が決定した時点でもう手遅れだったが。

 

 

この、『設定』だけのファッションアイテム。

 

 

『世界』を『旅』してアイテムの『存在』を理解した際に、気が付いた。真の力。

 

 

 

「あの『アホ』、これを数百単位で持っているんだ」

 

私がそれを知った時、『貧乏魔王』が致命的な馬鹿じゃないかと疑った。

 

 

最終日二日前に『店』買い占めるとか、

 

しかも、意味のないアイテムを買い占めるとか馬鹿でしかない。

 

 

…私が推論した結果、このアイテムの真の効果が知れたら非常に不味い。

 

 

現段階での、『ナザリック』では。

 

 

ナザリックNPCだけで、最終的に『愛』を独占できると思っているから。

 

 

だが、後、数年経てばバレるだろう。

 

…私達が、年を取らないことに絶対気づく。

 

 

『頭』が良すぎる『守護者統括』やあの『悪魔』も。

 

…会ったことがないが確実に存在するそれ以外も。

 

 

そのときには、詰みだ。

 

…しかし、それまでに『場』を整えれば私の勝ち。

 

勝てたときには、『村娘』ちゃん、当たりにスケープゴートになってもらおう。

 

 

というか、まずそちらにブチ切れるだろう。『守護者統括』は。

 

 

「これ寿命無くせるんだよ。理論上。僕以外気づいていないけど。

 

 …だから死なない、子がなくとも血が絶えない」

 

屁理屈だが、王女様でも理解できるだろう。

 

 

『王女様』の根本的な考えには、ガンガン送ってこられた『娘』でも、

 

情でも移ったら、死んだ時、『魔王』が悲しむだろうという想定からの『否定』だから。

 

 

…このアイテムを贈答品にすれば、『魔王』が悲しむことはない。

 

ここ当たりが落としどころだ。

 

 

「…理論上はそうでしょう。

 

 しかし、『魔王』が『子』を成したら家を乗っ取ると勘繰る者も出てきます。

 

 …男子なら最悪です」

 

そう。

 

男子相続が根強いこの『世界』ならそういう不安になる。

 

だが、その心配だが、ない。

 

 

改めて、彼のゲームクリアの特権は知った。現実化した『人化』も確認した。

 

なので、考察が可能だった。

 

 

突拍子もない発想だが、『魔王』のアレは『人間』ではない。

 

 

生まれる子はほぼ確実に、『母親』を模す。

 

本当に子が生まれるかどうかは不明だが。それは確実。

 

 

…プレイヤーの子孫を見てわかったが、『覚醒者』もいる。

 

『番外席次』だっけ?

 

初めて会った時、かなり有名なプレイヤー過ぎて笑ったが。

 

…『魔王』にスイッチ押されて死ぬかと思った。

 

 

父親の素質は、おそらく『寿命』の無限化くらいか?

 

超越者ならその推論に帰結する。遺伝学上の考察。

 

 

…あっているかは『子』を産まないと確証できない。

 

そこまで確かめるほど、『研究者』としては落ちぶれちゃいない。

 

 

「ああ、大丈夫。あの『魔王』に子ができるとしたら、女の子しか生まれない。

 

 僕の読み通りなら、遺伝学上、致命的欠陥があるんだよ『超越者』って」

 

だから、確実な結論だけ言う。

 

 

それ以外はわからないから。

 

 

『魔王』も意味の分からないレベルの異常な精神力があるし、本当にどうなるかわからない。

 

 

「…話はわかりました。あなたはどうする気なのですか?」

 

…だよなぁ。自分と同じ『頭脳』で未知の『知識』を持ちすぎている。

 

『教授』は危険だと完全に理解している。

 

 

NPC達のような、当たり前の『知識』でなく、

 

…私は、元は世界最高峰の『研究者』だ。

 

 

「この『世界』の永続、星の寿命、宇宙からの離脱。数億年かけての研究を始める」

 

王女様には、意味がわからないだろうが、私のリアルでの『本業』はこちらだ。

 

 

あの終わった『世界』では無理だった研究だ。

 

誰も相手にしてくれなかった。

 

 

仕方がなく、ゲームに逃避したり、『小さい研究』で身銭を稼いでいたが。

 

 

「正気ですね。意味が理解できないところがありますが、

 

 いずれこの『世界』が終わるときが来ると?」

 

やはり、凄い。この子。

 

 

…今後、関わるのはこの子のためにも私のためにもならない。

 

私の影響を受けたこの『王女様』が何しでかすかわからない。

 

 

『貧乏魔王』の想定外を行く可能性が高い。

 

 

今はまだ許容範囲内だが。…私のせいで全てが狂いかねない。

 

 

「あの三人は何だかんだ言って、永遠に『世界』を存続させることすら可能だろう。

 

 永遠の寿命に耐えられる。そういう『生命体』だから。

 

 ナザリックのNPC達もそうだろう。彼らはそういう生き物だ。

 

 僕は、『世界』を旅したからね。完全に理解したよ」

 

『設定』というのは強い。『白銀』に至ってはもう600年以上は生きている。

 

…あの三人は『永遠』が可能だ。NPC達も同様に。

 

 

『八欲王』がNPC達を『人』と見ていなかったが、ある意味正しくて間違っている。

 

 

あの子達は、完全に自立した『個』だ。

 

『ギルド』を存続させることと、『ギルドメンバー』に忠節を誓う『個体』だ。

 

 

「…私達は『永遠』は無理だと、言うことですか?」

 

…素晴らしい。

 

彼女が元の世界にいれば、きっと『世界』を変えられた。

 

 

彼女も私も『魔王』に救われたという結論まで同じという面で一緒。

 

 

…彼女が、自力で『未来』に来たら、『友達』になろう。

 

 

「それは、わからない。そもそもプレイヤーの僕は違うかもしれない」

 

…おかしいのだ。この『世界』の人類は。

 

おそらく、生存競争の過程で『進化』が変わった。変わっている。

 

 

「フールーダは200歳を超えても、今なお『思考』が続けている。

 

 彼は、理屈上は、呆けていてもおかしくないはずなんだ。…僕の『知識』では」

 

有り得ない。268歳も『思考』ができる人類等。

 

 

『魔法』を用いていることを視野に入れても、だ。

 

リグリットも健在だった。

 

 

それは私の研究者としての『根本』を覆しかねない。

 

 

生物学上有り得ない。脳科学上有り得ない。

 

コンピューターに記憶を保存するのとはわけが違う。転写するのともわけが違う。

 

 

…生きた『人間』がそこまで『思考』できるはずがない。

 

『学者』としては非常に興味深い。

 

 

「凄まじく進んだ『知識』ですね。しかし、それを『今』は生かす気がないと?」

 

ああ、物凄く嫌だが、引きこもるしかない。

 

…『貧乏魔王』もそれが一番安心できるだろう。

 

 

「誰にも望まれていない。理解した。僕が出ると逆に困るだろう。

 

 暗中模索、試行錯誤の遠回りが一番良いと結論した。

 

 僕の最適解は、血が流れ過ぎる」

 

失敗した改革者など、テロリストでしかない。諦める。

 

本筋に関わるのは。

 

 

「一体どうなさるつもりなので?

 

 あなたは私と同程度に賢いですが、『思考』の幅が広すぎます。

 

 私はいずれあなたの域に『到達』できますが、現段階では不明です。

 

 …答えてください」

 

...『王女様』は、『到達』できると、結論づけられた。

 

 

ああ、もう一気にまくし立てて終わりにしよう。

 

これ以上は、私の精神安定的にも大変よろしくない。

 

学長様業務も大変なんだ。やめよう。

 

 

「…愛玩動物(ペット)だからさ。時間はあるんだ。

 

 急ぐ必要もない研究だからね。

 

 地道にコツコツ研究ができる環境を整える。そのように誘導する。

 

 それにナザリックにおいてはペットって羨ましい立ち位置なんだ。

 

 ハムスケ先輩は生かせていないがね。その特別な地位を利用するさ。

 

 誘導は時間さえあれば簡単だ。僕は『教授』だからね」

 

そう言って紅茶をいっきに飲み干して、

 

マナーも守らずに王女様の下を去り、『業務』に戻る。

 

 

何故、休憩で疲れなければならないのか。全く。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…そもそもそういう研究をしていたからね、あの『世界』では。

 

 

だが、ここではいずれ必ず必要とされる研究だ。

 

 

数百年か数千年か必ず、あの三人は気づく。

 

そのときに、全部解決してやるんだ。

 

…きっと面白いだろなぁ。

 

 

 




何故、『人間』でないか、娘しか生まれないかは、かなり説明が難しくこの話では無理でした。

完全に論文になります。数万字行きます多分。これ。

-追記-
なるべく分かりやすく解説した物を活動報告
『あの二人もうヤダ...(魔王考察-遺伝編-)』
に上げました。
感想のお陰で簡潔にまとまりました。
ありがとうございます!
詳細は無理ですが、何となく伝われば幸いです。


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第六話 どちらも面倒臭い

似たような境遇にありながら自分より遥かに恵まれている『彼』を見て、
他人の気がしない『魔王』はついでにと『策』に彼を関わらせる。
だが、無意味だろうと確信していた。


スルメさんから『ズーラーノーン』の『盟主』について聞いたとき、

 

『盟主』と『生徒』の魂の同化の『第八位階魔法』儀式が行われたと言われた。

 

 

その被害者の『生徒』の名前は、

 

『フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド』。帝国魔法学院の生徒会長だという。

 

 

公爵家令嬢でもある。また、アルシェの『親友』と聞いていた。

 

 

公爵家令嬢、生徒のまとめ役なら、『外部』の人間と接触してもおかしくはなかった。

 

 

スルメさんは帝国魔法学院なら、この『生徒会長』なら、

 

ズーラーノーンの魔法的手段のやり取りがあってもバレないと確信した。

 

 

そう仮定して、徹底的に、だが、足が付かないように周辺情報を調べ上げた。

 

 

 

結果わかったことは、

 

帝国魔法学院の学長が、ズーラーノーンの下部組織に加入して、

 

不老不死のための意味のない冒涜的な儀式に参加していたこと。

 

グシモンド公爵は帝国の公爵でありながらズーラーノーンの同じ組織に加入していたこと。

 

グシモンド公爵は、娘フリアーネの内部に潜む『盟主』の存在については、

 

恐らく、ほぼ確実に知らないこと。

 

娘フリアーネ自体は本当に何も知らない貴族令嬢で、

 

帝国に忠誠を誓っている真面目な娘であること。

 

『盟主』と同化している『事実』にすら気づいていないこと。

 

…確定で『盟主』だという事実だった。

 

 

凄まじい『洞察力』であると俺は感心した。

 

 

常識に囚われない発想の『柔軟さ』と、情報からの『洞察力』こそ、

 

スルメさんの強みだと改めて知った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺はフリアーネと盟主の『魂の同化』の解決法として、

 

魔将の『魂と引き換えの奇跡』を使えばすぐに解決できることに気が付いた。

 

 

『魂と引き換えの奇跡』はユグドラシル時代、

 

第八位階までのどのような魔法でも一度だけ発動可能という能力だった。

 

 

つまり、『第八位階魔法』相当の無効化が可能なのだ。

 

『第八位階魔法』儀式の無効化等容易だ。

 

ナザリックでは、別の形でそういった研究してもいた。ほぼ確実にできる。

 

さらに、デミウルゴスは魔将を50時間に一度召喚可能だ。

 

ノーコストで研究できた。

 

結論として、『魂と引き換えの奇跡』は第八位階相当の『魔法』に変化していた。

 

 

従って、デミウルゴスを『人化の指輪』で変装させて法国の任務に同行させて、

 

魔将を召喚すればその場で『盟主』は分離できた。

 

『財』すら消費しない。スルメさんに断言できた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…ところが、ツアーから聞いた『教授』の件で俺は悩んだ。

 

 

デミウルゴスに手伝ってもらう当初のプランを変更して、より良い成果でもないと、

 

どう考えてもテロリストの『教授』の『復活』などは無理だからだ。

 

 

俺はふと、思った。

 

 

別に『魔将』を連れて行かなくても、分離できる『魔法』があれば良くないかと思った。

 

 

要は、『魂と引き換えの奇跡』で『盟主』を分離する『魔法』を保存しておけば良いのだ。

 

 

エ・ランテル魔術師組合長のラケシルさんが知っていたのだが、

 

『魔封じの水晶』は『法国の至宝』として稀覯本に載るくらいには有名らしい。

 

 

…つまり、法国の手で封印できる。対外的には。

 

転移前あらゆる物を揃えた俺は、『魔封じの水晶』なら宝物殿にいくらでもあった。

 

 

俺はさらに思考を飛躍した。

 

 

その『魔封じの水晶』を法国と険悪な関係の人物に使わせれば、その者は『英雄』だ。

 

法国としても無碍にはできないと。

 

 

『教授』と戦った『十三英雄』から外れる人物。

 

だが、『十三英雄』の関係者イビルアイ。いや、『キーノ・ファスリス・インベルン』。

 

 

彼女の身柄を法国から保証することができれば、

 

『国堕とし』とすら法国は和解したと宣伝できれば、

 

『十三英雄』の『白銀』ツアー達が築いた国、

 

『評議国』との和解の布石になるのではないかと考えた。

 

 

 

勿論、盟主討伐及び被害者救出は、非公式任務だ。公表はできない。

 

 

だが、それを『十三英雄』の生き残りが知れば、感謝してくれるのではないかと考えた。

 

後の関係改善の契機には十分なりうる。

 

 

つまり、こういうことだ。

 

法国と共同任務をさせて、『実績』を作る。

 

ただし、俺ではない『国堕とし』キーノが行う。

 

 

…そのためには、『盟主』を嵌める必要があった。

 

 

スルメさんの当初の計画とは、別な形で、その『任務』内で。

 

 

そのために、『教授』を潜入させて『場』を整えさせる。共同作戦のために。

 

ここで、『教授』の必要性と、万が一のための保険を提案した。

 

『教授』の体内に最大出力で死ぬ魔法道具を埋め込むのだ。

 

 

その道具のスイッチを俺、ツアー、スルメさんの三人が管理する。

 

…『教授』を完封できる俺が彼女をペットにする。ハムスケの後輩だ。

 

俺は、彼女の奥の手だった『ギャラルホルン』を完封できるからだ。

 

 

彼女は『時代』を破壊しかけたテロリストだ。

 

これくらいしないと納得してもらえない。

 

…普通女性にこんなことするのは心苦しいはずだが、

 

 

何故か『教授』なら別に良くないかと、自分でも不思議なくらい俺には葛藤や罪悪感がなかった。

 

 

…実際ここまで、ツアーに言ったらドン引きされた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ここまでツアーに説明し、ドン引きされながらもスルメさんを再び呼んだ。

 

『緊急事態』になったと言った。

 

…嘘ではない。俺にとっては緊急事態だ。

 

 

スルメさんは、ここまで話しても『教授』の蘇生を嫌がった。

 

…無理もない。

 

 

そこで俺はさらに追加で説明した。

 

 

『教授』を潜入させる場合、『学長』として潜入させる。

 

 

…もはや、鮮血帝はこれに従うしかない。

 

スルメさんの調べ上げた情報のみで国が崩壊する。

 

何せ、ようやく大改革が終わったばかりなのに、

 

公爵家や魔法学院の学長がズーラーノーンの支配下にあったのだ。

 

 

解決してやるから全面協力しろ。

 

でないと全部バラすぞという取引に快く応じてくれるだろう。

 

まさしく両得。誰も悲しまない。素晴らしい友好関係だ。

 

 

ズーラーノーンの影響下にある『学長』を排除して入れ替えれば、

 

彼女なら余裕で帝国魔法学院を洗脳できるとスルメさんを説得した。

 

 

なんせ、『世界』を騙した演出家なのだ。一国の学校くらい余裕だ。

 

 

…『盟主』は困るだろう。せっかくの隠れ蓑だった『場』が無くなっていくのだ。

 

 

そこに『イビルアイ』を生徒として送り込む。『学長』の娘として。

 

そうすれば、『盟主』は『娘』を新しい寄生先に選ぶと思った。

 

…普通は、ここまで上手くいくはずがない。

 

 

フリアーネを、『生徒会長』を捨ててまで、寄生するとは思わない。

 

なにより、いくら何でも都合が良すぎる。

 

 

だから、『手紙』を出させる計画を説明した。

 

フリアーネの『親友』のアルシェから間接的な形での『手紙』を。

 

 

有益な『情報』を、そして、致命的な『猛毒』を。

 

…与えられた『情報』を自分で調べたと錯覚させる。

 

『教授』ならそれくらいの、『盟主』が正確な判断できなくなる状況に追い込める。

 

 

必ずだ。これには、ツアーも同意していた。それくらいは容易と。

 

 

…その後の計画も話した。

 

『昇級試験』という絶好の舞台で、最大級の演出する計画までスルメさんに話した。

 

 

そこまで話をして、ようやくスルメさんも納得してくれた。

 

…『教授』のことを不快なのは当たり前だ。

 

 

だが、ここまで『実利』と『計画』を示されると、

 

スルメさんも上に立つ者としては聞かざるを負えない。

 

 

まして、『友』のツアーと俺の二人がかりで、だ。絶対聞く。聞かざるを得ない。

 

 

…凄まじい罪悪感をツアーとスルメさんに抱いたが、

 

それほどまでして俺は『教授』と会いたかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

肝心要の『手紙』を送る相手は一人しかいなかった。

 

用心深く、疑り深く、それでいて善人。

 

彼から情報を伝えられれば、追い詰められた『盟主』なら引っかかると思った。

 

 

…アルシェの貴族時代、仕えていたメイドの息子が帝国魔法学院にいた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

その息子の名前はジエット・テスタニア。

 

タレントで魔眼の持ち主だそうだ。

 

 

あらゆる幻覚を見破る目のタレントを持っているという。

 

ただ、幻覚を見破ったら相手にもそれがバレるらしい。

 

 

本人は問答無用で見破るので気持ち悪い微妙な能力、

 

ジエットは普段から『目』を隠しておかなければならずに、

 

迷惑ばかりかけられていると嘆いていたらしい。

 

 

…俺はこの『能力』を持つジエットが欲しかった。

 

使いどころさえ間違わなければ、

 

戦闘参加者全員が感覚共有すれば、幻覚に惑わされずに戦える。

 

素晴らしい能力だった。

 

 

そこでジエットについて調べた。アルシェの話以外でも。

 

…どうも母親が簡易な魔法で回復できないほど重病らしいので、

 

俺が助けたら、働いてくれないかなぁと思い報告書を読んだ。

 

 

報告書を読んで分析した結果、どうもこの男、ジエットは、正義感が強過ぎる上に疑り深い。

 

アルシェの現状を知ったら俺に敵対しかねなかった。

 

…アルシェを『商会』に閉じ込めたと逆恨みしそうなのだ。俺のせいじゃないのに。

 

 

アルシェの方から闇金融から『商会』に逃げ込んだのに。

 

…逃げ込んだ、アルシェの妹達だってしっかり教育しているのに。

 

 

 

さらに言えば、『魔王』が重病の母を助けても心の底からは感謝しないで怪しむタイプだ。

 

ジエットなら、その行為を自分の価値と釣り合わないと判断して、

 

家族を人質に取ったと考える。思い込む。

 

 

…俺はこの疑り深さは嫌いではない。だが、面倒臭いタイプだ。

 

俺が、本気で、善意で助けようと動いても意味がない。

 

 

自分のことは自分でやると言い出すタイプの人間。

 

要するに『頑固』なのだ。ドワーフ国の『鍛冶工房長』と同じだ。

 

説得までの労力と対価が見合わない。自分の『世界』で完結したがる男。

 

 

言い方は酷いが、アルシェからの話を聞いて、調べてそう思った。

 

 

普通に感謝してくれるなら、速攻でジエットと接触して母親の病気を治してやりたかった。

 

アルシェの話を聞いても『メイド』のことを気にかけていたみたいだし。

 

 

…それにこちらにも『利』があった。

 

ンフィーレアのポーションの宣伝にもなったからだ。母親が。

 

第六位階魔法並みの回復能力の青のポーションのデモンストレーションにはうってつけだ。

 

 

この『利』をジエットに説明したらどうなるか色々考えたのだが、

 

やはり、確実にジエットは話が上手すぎて疑うと判断した。

 

 

ジエットは、取引が自分に有利過ぎると一歩下がり、断るタイプ。

 

大損はしないが、大成を逃すタイプだ。

 

元営業の俺からすれば二流だ。…そういう視点で考えるのもおかしいが。

 

 

さらに、その疑り深さからアルシェの現状を知り、

 

正義感で今後の計画を阻害しそうだった。…正義感から来る行動力があり過ぎる。

 

ジエットを最悪殺さないといけないレベルで俺に被害が出る可能性が高い。

 

…調べた普段の行動からもそれが容易に想像できた。

 

俺は、『商会』はアルシェに、本当に何もしていないのに。寧ろ逆なのに。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

だが、彼は『身内』なら聞き分けが良いのだ。アルシェの話を聞く限り。

 

 

その『身内』判定が極めて面倒臭い。

 

自分から助けたネメルという下級貴族の娘のような存在なら『身内』になる。

 

逆に言えば、助けたら身内判定が容易だ。

 

 

『策』が嵌ればズーラーノーンの手下、建築学科の生徒が接触して、

 

ジエットは取り込まれかけるだろう。悪人だと思わないで。

 

 

…だが、ジエットにそこまでしなければいけない程の『価値』はない。正直。

 

だからこそ、『囮』になるのだが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ジエット自体は善人だ。俺は嫌いではない。

 

 

自らの身を省みずに他人を助ける姿勢には、寧ろ好感すら覚える。

 

だが、ひたすら面倒臭い。

 

 

俺は調べたせいで、ジエットの母親の病状が心配になり、

 

『休憩時間』で勝手に治してやろうかなどと、

 

利にもならないことを考えてしまう程、ジエットの扱いに困っていた。

 

 

有能なタレントを持ち頭も悪くない。正義感も強い。俺はジエットの力が欲しいのだ。

 

『未来』のためにその能力を使って欲しい。

 

ジエットの持ち前の正義感で一緒に『世界』を変える手伝いをして欲しかった。

 

…だが、どう考えてもそれに見合わない『労力』がかかる。

 

というかもう無駄にかかっている。

 

 

…そこまでしていらないのだ。本当に。

 

 

『教授』の件がある前に俺は、アルシェに『説得』させようと考えていた。

 

俺はアルシェにこんなことで頼りたくなかったが、本当に面倒臭い。

 

俺の母が過労死したこともあり、人ごとでないように感じた。

 

 

…俺ならなりふり構わずに助けを求める。

 

…それをしない、できないジエットという男は面倒だった。

 

 

能力を上手く活用できれば、本当に役に立つのに。

 

 

ジエットは関わったらイラっとくる者が多いタイプの人間だ。

 

 

彼を良く知っている者か助けられた者以外。

 

 

実際、それで大貴族の三男に敵視されている。

 

…『身内』のネメルが被害にあっている。

 

ジエットは毎回庇っているがどんどん悪化している。

 

 

 

…だから、俺のアルシェに書かせた『手紙』を持って『生徒会長』に確実に交渉しに行く。

 

容易だ。誘導しなくてもそうなる。

 

…『教授』にもそれとなく誘導させれば絶対になる。

 

 

『フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド』は冷酷な判断もできる貴族だが、

 

同時に慈悲の心を持ち合わせている。

 

ある程度見返りがあれば。試練をクリアできればジエットを救うだろう。

 

 

ジエットならそのクリアできる。根性はあるのだ。

 

毎回、自分の周りからの評価が下がることを知ってまでネメルを庇っている。

 

 

フリアーネの中にいる『盟主』も『真実』だと錯覚する程の真実味があるだろう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…今回ここまでやらせて、『盟主』作戦終了後に

 

俺が、接触してダメならもう「ジエット」は諦める。

 

 

ジエットが俺に借りを作らせたはずなのに疑うようでは、協力できない。

 

 

…俺と似た境遇だからジエットに色々考えたのがわかった。

 

 

しかし、彼は『頑固』過ぎる。頼むから俺に借りを返させてくれ。

 

 

もうこれ以上、ジエットには時間が取れない。

 

…母親を救いたいなら俺の提案を疑わずに受け入れてくれ。

 

 

…内心を含めてここまで説明したら、ジエットは俺を逆に疑うからできない。

 

疑り深すぎる。

 

俺が本気でやれば、簡単に言葉で『従える』ことはできる。が、したくない。

 

 

俺と似た境遇なのだ。

 

頼むから、心から提案を受け入れて欲しい。

 

 

…多分無理だと思う。アルシェを解放しろと叫ぶ。絶対。

 

 

無理なら、『休憩時間』でパパっと済ませよう。

 

『仲間』が欲しかったんだけどなぁ…



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閑話 人間の死神

『死神』はかつての『思い』を引きずり出された。
故に確認する。『想定内』かを。


私の、『学長様』の帝国魔法学院征服がほぼ完了し、作戦は佳境に入った。

 

もうすぐ、私の愛娘の『キーア』ちゃんが編入してくるという、

 

 

発想が斜め上な『アホ』な作戦。だが、有効なのは確かだ。

 

…私を、『教授』を守る作戦としては。

 

 

何て馬鹿らしい。何故、私は、リーダーとの最後の会話で気が付かなかったのか。

 

『孤独』の中で、いつも遊んでくれたから、だから揶揄ったとか。

 

小学生男子か、私は。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

キーアちゃんの学院への編入準備中、

 

法国の『死神』から二人きりで直接会いたいとメッセージが届いた。

 

 

…『魔王』と内密に。

 

 

最初の会合で、『死神』のポリシーはわかったが、

 

肝心かなめの『内心』がさっぱりわからなかった。

 

 

あいつ、突然『キーア』ちゃんに園児服を着させろとか戯言ほざいて、

 

私を完全に煙に巻きやがった。

 

 

『死神』の『洞察力』で、私の、『教授』の情報のみ抜かれた。

 

 

…正直、初めての経験だ。だから、興味があった。

 

 

かなり危険だが、『死神』に会いに行くことにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

法国の『神官長会議室』に案内された。

 

 

彼らにとって、『大罪人』の私が、堂々と。

 

 

私を案内した法国の連中は怒りを隠しきれていないが、『想定外』だ。

 

 

…『八欲王』をほぼ単身で『破滅』に追い込んだだけある。

 

 

この私を、『教授』を、混乱という状況に追い込み『素』を無理やり引き出す気だ。

 

歓迎しているようで、していない。

 

破格の好待遇。

 

 

…まさか、リアルの『企業』関係者か?

 

一方的に『私』を知っている可能性がある。

 

 

『死神』は、少なくとも、

 

『変態』というバイアスそのもので、私を完全に嵌めた。

 

 

ヤバい。…こいつが一番ヤバい。

 

 

…完全に『私』を読み切っている。

 

 

『教授』に取って、『魔王』や『白銀』より相性最悪。

 

『王女様』が『魔王』に勝てないような相性最悪。

 

 

…『死神』には私への敵対的感情は間違いなくある。

 

最悪、『死』も覚悟しよう。

 

 

『想定外』過ぎる。もはや、前提が崩された。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『死神』は簡単な挨拶を早々に、私を座らせじっと『観察』している。

 

 

『死神』と『教授』二人きりで対面だ。

 

 

…沈黙だ。

 

既に30分は経過している。

 

 

…怖い。完全にモルモットだ。この『教授』が。

 

実験生物を観察するように、『洞察』している。

 

それをどうやっても防げない。

 

 

…破格の『好待遇』で迎えられたから、私の『言葉』が使えない。

 

 

 

『死』より恐怖した『沈黙』の後に、『死神』は喋り始めた。

 

 

 

「私の、リアルの職業は『投資家』だ」

 

いつものようなおちゃらけた、中二のような『ノリ』がない。

 

 

これは『素』だ。おそらく、リアルの『死神』ではない『人間』の。

 

 

沈黙で返す。

 

 

私の『想定外』過ぎる。黙るしかない。

 

 

「私の友、『風花聖典』の基礎を作った男から君の研究を知っていた

 

 …君のリアルの姿はアバターそのままだ。

 

 ツアーとの『記憶共有』で容易に君の素性はわかった」

 

…やはり、『企業』関係者だったか。

 

 

だが、何故、今更現れる。あの時、無碍にした連中が!!

 

 

ダメだ。落ち着け。

 

…『魔王』に迷惑がかかる。それだけは避けなければ。

 

 

「君の研究は数百年先のパラダイムシフト。私は、『企業』から投資を辞めさせられた。

 

 …本当に、実に惜しい『研究』だった」

 

…『本音』だ。この男は、本気で私の『研究』を惜しんでいる。

 

 

恐らく、『死』を仄めかされたのだろう。

 

 

…自分だけでなく友人や家族を人質に取られたレベルで。

 

 

「私が君の蘇生を拒絶した最大の理由は、皮肉にも『それ』だ」

 

『死神』の本質が見えてきた。この男は『常人』だ。

 

 

変態でも、狂人でもない。素直に『未来』を見る目の持ち主だ。

 

 

「…察したか。数百年先のパラダイムシフトが容易な君は、『魔王』様より危険だ。

 

 世界秩序の崩壊を『素』で起こせると確信した。

 

 私の友の子らを殺した恨みはあるが、『世界崩壊シナリオ』を起こせるのが不味かった」

 

その通りだ。私も『貧乏魔王』がいなければ、『素』でそれをやっていただろう。

 

 

突如、『死神』の雰囲気が変わる。

 

『人間』から『死神』に戻った。

 

 

何だ、この男。

 

…どちらも『素』だ。『死神』も『人間』も。狂人も変態も…常人も。

 

 

多重人格障害ではない。だが、同一の思考が出来ている。

 

アンデッドの精神汚染が微塵も効いていない。

 

…ありえない。どんな経験をすればこうなるのか。

 

 

…恐らく、『友』達と転移した。

 

ただ、それだけだ『思考』が汚染されていないのは。

 

 

それだけでここまで出来るのか!?

 

…どんな『友情』があればそれを可能とする?

 

私には理解不能。

 

 

…恐らく、『魔王』なら理解できる。

 

だが、『私』とは致命的にズレている。

 

 

本当に相性最悪の相手だ。

 

…私以外ならこの『男』を理解できるのだ。恐らく。

 

 

「だが、貴様を観察してわかった。貴様、数百年は表に出る気がないな?」

 

『死神』に戻った以上、沈黙は不味い。だから答える。

 

 

「ああ、出る気がない。…私の『研究』はするが」

 

知っているのなら、隠す必要がない。

 

…恐らく、『死神』は私の『協力者』だ。

 

 

何らかの手段で私が『寿命』を延ばすと確信している。

 

 

それを黙っていてやるから、『教授』に別のことをしろという『取引』だ。

 

 

「だから、貴様を信用する。…決して許したわけではない」

 

『死神』のことが、私に読めるようになった。

 

わざとだが、ここからはお互い『本音』で話したいらしい。

 

 

「何をすればよいのかな?」

 

素直に聞こう。

 

提案はおそらく『魔王』関係だ。それも有益な。

 

 

「貴様を我が信用した以上、『法国』と『十三英雄』の和平の布石になった。

 

 『邪眼』以前の『最悪』がなくなった。

 

 故に、この作戦はほぼ無意味になった。なってしまった」

 

『魔王』の作戦の『前提』がなくなった。

 

 

ということはつまり、『評議国』と『魔王国』の関係構築を手伝え、か。

 

 

「『手紙』なしで『場』を整えろと?」

 

目の前の『死神』は随分、無茶苦茶を言う。だが、やるしかない。

 

 

「法国も納得した。評議国も納得した。『魔王』様の懸念はもはや不要。

 

 故に貴様に命じる。『世界』を欺け。…『作戦』をわざと失敗しろ」

 

…失敗しろと言っても、ズーラーノーンの『盟主』を捕まえるのは変えないだろう。

 

 

つまり、そういうことか?

 

 

…私の『最適解』にもなる。

 

引き受けるべきだが、確認が必要だ。

 

この『死神』と『教授』は相性最悪だから。

 

 

「何をすれば良いかな?『魔王』様を欺くのも大変なんだ。

 

 …私の身分は愛玩動物(ペット)だ。かなりキツイ」

 

範囲にもよる。無理な物は私にだって無理だ。

 

 

「『魔王』様は貴様を愛している。…確実に悟られない。

 

 故に依頼は簡単だ。…報酬は我が断罪の印。それの放棄だ」

 

顔が赤くなるのを自覚する。

 

この『死神』何をほざくか!

 

 

…だが、取引は有益だ。

 

もう私を殺さないという保証だ。このスイッチの放棄は。

 

 

理解した。『死神』と『教授』は秩序さえ乱さなければ、共栄できる。

 

 

「わかった。全力で悟られずに失敗しよう。

 

 …ただし、庇ってくれよ。あの『魔王』は私にだけドSだ。

 

 スイッチを、本気で死ぬ寸前までやりかねない」

 

私のために『魔王』が用意したものを壊すのだ。

 

 

それくらいは保証してくれないと困る。

 

 

…私は『貧乏魔王』に嫌われたくない。そうはならないだろうが。

 

 

「約束しよう。

 

…先ずは、『邪眼』に悟られずに失敗を想定させろ」

 

その思考に誘導するのは、容易だ。

 

 

キーノはかつての『仲間』だから。

 

思考も嗜好も全て把握している。

 

 

しかしまた、やるのかこれ。

 

 

「わかったよ。また『教授』か。はぁ…」

 

心の底からため息をついた。

 

…もういやだ、この『死神』。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

友の子の怨敵である『教授』は去った。

 

 

我の依頼を完遂するだろう。あのチートは。

 

 

我が友、『自由の翼』の情報は正しかった。

 

 

元々、もう一人の友『エレア』と組んで『魔王』様を騙して、

 

『流れ星の指輪(シューティングスター)』を強奪した時点で、

 

友達の偉大さはわかっていたが。

 

 

…『教授』と二人きりの環境で、観察できてようやくわかった。

 

 

やはりあの女と我は、相性が悪い。

 

 

『死神』に『生』を、『リアル』を思い出させるとは。

 

 

…我が復活してから、何度となく『魔王』様には驚かされる。

 

ここまで、心を動かされたのは、

 

『友』達と一緒に『世界』を相手に喧嘩を売った日々以来か。

 

 

 

…ああ、『魔王』様。本当に惜しい。

 

 

あなた様の『目』がリアルに向いて下されば、

 

あの地獄のような『世界』をきっと変えられただろう。

 

 

…本当に口惜しい。

 

 



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第七話 失敗

完全に踊らされる知性の化け物。
『死神』は『魔王』に対する唯一の懸念のためだけにそれをやった。
見返りを求めぬ『友情』として行った。『友』として確認したかった。


-『教授』視点-

 

 

ナザリック地下大墳墓にて、

 

『魔王』に内緒で『裏工作』をしたいと、『死神』から私にメッセージが来た。

 

 

依頼された『内容』にも一部当て嵌まるから、

 

『教授』たる私は策を弄して、

 

『死神』がナザリックの面々と接触できる『隙』を作った。

 

『魔王』にバレないように。

 

 

 

だが、

 

 

 

「そうだともデミウルゴス君。

 

 その変態ドラゴンを取っ捕まえれば、『異種交配』が可能なのだ。

 

 是非、執事長殿に教えてあげるとよい。…きっと喜ぶに違いない」

 

誰かこいつを止めろ。止めてくれ。

 

 

 

「ああ、シャルティア嬢よ。気になされるな…

 

 

 ロリでも『異形種』ならセーフ。この『世界』は全て18歳以上なのだ。

 

 『世界』は愛に満ちている。

 

 

 …これは我が友『聖騎士』の遺言だ」

 

私の手に負えない。

 

 

この『変態』、毎回、会う度に『人格』作って、私の思考をズラしやがる。

 

 

断ろうにも、最初のナザリックとの接触で、内部への『伝手』を自力で作りやがった。

 

確かに、元従属ギルドメンバーなら余裕だろうが、

 

ここまで『主観』をズラされると私には対処できない。

 

 

最悪なのが、『死神』の対応だ。

 

 

「貴様が、協力しないと『魔王』様にバレるから連帯責任だ。

 

 …協力してくれなきゃこのスイッチに手が滑るかもしれない」

 

とか言って赤ん坊みたいに、だだこねやがる。

 

 

私を、恨んでいるから本気なのだ。この『死神』。

 

 

…私は、協力せざる負えない。

 

完全に主導を握られると知っていても。

 

 

それに、気が付いた。

 

私、『教授』と『死神』が手を組めば、客観と主観の両方を騙せる。

 

…この『世界』全てを欺ける。

 

 

…『魔王』には絶対バレない。

 

皮肉にも、私の『能力』を最大限生かせるのだ。この『死神』。

 

 

 

「そうだ!シマバラ君!わかっているじゃあないか!

 

 今すぐにでも、我が従者にもその『理想』を書き写させたいくらいだ!

 

 それは『魔王』様も喜ばれること請け合いだ。

 

 …我が保証する。是非やると良い。寧ろやれ」

 

しかし、だ。

 

 

この『変態』をどうにかしろ。絶対、後で『災い』になる。

 

 

 

「む!」

 

ピタリと『変態』が止まる。『弱点』が来た。

 

 

 

「…これは、あの『女帝』の気配。

 

 逃げるぞ。我が、仮初の同盟者よ!」

 

ああ、『王女様』私を助けてくれ。

 

つい先日のお茶会での無礼は詫びるから。

 

 

…できれば『魔王』に助けてもらいたいけど、無理なんだよ。

 

全て、バレるから。

 

 

魔王の『認識』を、『世界』を騙していることが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-『イビルアイ』視点-

 

 

帝国魔法学院に潜入した私はすぐに気が付いた。

 

『生徒会長』がゴウン様の、想定以上に近づいてくる。

 

 

お茶会やら、食事やら、魔法の研究についてやらグイグイくる。

 

 

...果てはトイレにまでついてくる。この私に。

 

 

中身『盟主』が、私に、だ。

 

 

…私は、『手紙』が届くまではゴウン様に好きにして良いと命じられていた。

 

 

当初の計画では、私の『不自然』を誤魔化すために、

 

『盟主』として認識してしまう私に配慮して、

 

『生徒会長』を突き放して良いとまで言われていた。

 

 

 

だが、想定以上に、『盟主』が焦り過ぎている。

 

私の『不自然』さも気にせずに突っ込んでくる。

 

 

 

『教授』のやり過ぎのせいだ。

 

『生徒会長』の影響力が完全になくなっている。

 

…『教授』が全力出したら、ああなるかもしれない。

 

 

 

きっと、ゴウン様も『想定外』なはずだ。

 

…『教授』の洗脳スキルが想定外。

 

 

ゴウン様。『教授』がやり過ぎです。

 

 

このままだと、『策』まで持ちません。

 

 

そう確信した私は、メッセージを送る。

 

ゴウン様には、緊急事態のみにと言われたが、もはや私の手に負えない。

 

 

…力及ばずに申し訳ありません。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-『モモンガ』視点-

 

ナザリック地下大墳墓、第九階層にある自室。

 

 

俺は『休憩時間』で『魔王国』の憲法の草案を熟読していた。

 

転移前に『法律』の本をジャンク部屋に叩き込んでおいて良かった。

 

 

俺の完全に専門外な『憲法』が大よそわかる。

 

 

『時代』と『世界』に合わせた『憲法』が。

 

 

万が一、不条理な法がないように。

 

これからの方針として、国内法より『条約』を重視した憲法にしたかった。

 

...『友』のいる『世界』な以上、

 

俺は『世界』を何としてでも守らなければならなかったからだ。

 

 

読み込んだ結果、大体どちらを優先するとも解釈できる憲法だった。

 

これ将来解釈を巡って、法学者で揉めるだろうと思ったが、

 

ナザリック内で不和を起こさない妥協案ともとれた。

 

 

...デミウルゴスとアルベドにはかなり気を使わせてしまった。

 

今度、何らかの形で『褒美』を渡すべきだと思った。

 

 

ナザリックに『執着』する俺には、

 

この『憲法案』を作成するのに、二人がどれほど苦痛だったかわかる。

 

というか、俺の日々のストレスがどちらも選ばないといけないという葛藤の連続だからだ。

 

ツアーからスルメさんの存在を聞いた段階で俺はそれを『覚悟』していた。

 

 

だが、『人間』としての俺が、『鈴木悟』が叫びまくっている。

 

 

『本当に死ぬ。一般人にこんなことさせるなもう辞めたい』と叫びまくる。

 

 

それを俺は、無理やり『意思』で捻じ伏せている。

 

 

『黙れ。一瞬でも判断を誤れば、友もナザリックも世界も危ない『魔王』何だぞ、俺は』、と。

 

 

 

...無理ゲ―にもほどがある。

 

 

だが、それでも、それでも俺はやらなければならないのだ。

 

 

『世界』を救う『魔王』な以上、俺は、絶対目を逸らしてはならないからだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

そんな『休憩時間』の最中、

 

イビルアイのメッセージを受けた俺は、不味いと思った。

 

 

全てが、上手く行きすぎている。

 

 

これでは、『手紙』がいらない。

 

…『手紙』を出せば、『盟主』が即座に鎮圧できてしまう。

 

 

『盟主』が動いてしまう。『昇級試験』前に。

 

『手紙』のアルシェの友がキーアだったという情報のみで動く。

 

 

現段階で、学長、『教授』に支配され過ぎている。帝国魔法学院が。

 

…想定していた『罠』が機能しない。

 

 

疑り深い盟主だからと用意していた全ての『策』が不要になった。

 

 

本来なら『囮』となるはずのジエットが不要になった。

 

 

 

…本来の『策』では、

 

ジエットから得た情報を使い、学長の娘『キーア』と接触する。

 

『盟主』は、手紙通りのような少女『キーア』を見る。

 

人見知りで警戒しがちな『少女』の解くために時間をかける。

 

 

…イビルアイも『盟主』ではなく、基本は『生徒会長』だと教えている。

 

さらに、『フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド』は、被害者だと伝えている。

 

 

とはいえ、イビルアイが潜入初期のなれない状態で、

 

フリアーネを『盟主』と思い警戒してしまっても、

 

『生徒会長』を突き放しても怪しまれない『手紙』の内容にした。

 

 

さらに帝国魔法学院の『昇級試験』が近い時期だ。

 

…『盟主』ならこれを魔法儀式に利用する。

 

 

『盟主』なら、まず建築学科の生徒『オーネスティ・エイゼル』を使い、

 

お人よしのジエットに助けさせる。

 

 

オーネスティにジエットは簡単に取り込まれるだろう。

 

…余裕だ。ジエットの『身内』判定に引っかかる。

 

 

ジエットに取って、都合の良い『昇級試験』になるように誘導する。

 

大貴族の三男がジエットを妨害して、

 

ジエットの班員が足りなくなる状況を利用して、人数を集めるのに夢中にさせる。

 

 

ジエットからキーアと『生徒会長』を遠ざける。

 

『盟主』にとって、完全に邪魔だからだジエットは。

 

殺すのも『生徒』だからやや面倒になる。

 

バレる可能性があるなら遠ざける方向に持っていくはずだ。

 

 

イビルアイにもジエットを避けるように言っておいた。

 

 

…ジエットの、『身内』判定に引っかからないための『手紙』でもあった。

 

何せ、ジエットに『利用』されたのだ。キーアは。

 

 

キーアは、『手紙』で自分を利用されたことに、気が付いた体でジエットに接する。

 

 

これ以上何かしたら、ジエットとその関係者を、『学院』から追い出すと脅す予定だった。

 

勿論、そんなことしないが。

 

…する勢いの親馬鹿を『教授』に演じさせている。

 

 

全ては、人目のつかないところで儀式をする『手段』として、

 

『盟主』が昇級試験を利用するために計画されていた。

 

 

 

さらに、『法国』を巻き込んだ演出まで用意していた。

 

 

具体的には、

 

『主演』漆黒聖典。

 

『ヒロイン』キーア。

 

『敵役』盟主。

 

『観客』は被害者だ。

 

…口止めできる人材を配備していた。

 

非公式任務でも微妙に伝わる程度の影響力を持つ人物。

 

『生徒会長』フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドその人だった。

 

 

公爵家に残された悲劇のヒロインでもある。

 

ズーラーノーンに汚染されたグシモンド家はもはや、滅びの運命にあるが、

 

『盟主』に全ての責任を押し付ける予定だった。

 

 

『鮮血帝』に無理を言ってお願いしていたのに。

 

若禿の特効薬も渡したのに。

 

 

 

…それが、全部、パーだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…イビルアイは、教授のせいだというが、有り得ない。

 

これは、『教授』を救うための『舞台』だ。

 

 

彼女もそれをわかっていた。だから、有り得ない。

 

『教授』が自らの意思で失敗することは。

 

 

…万が一に備え、俺の方でも『失敗』を想定していた何段階もの『策』を用意していた。

 

 

故に、この展開にも最低限の『策』はあった。

 

 

 

評議国と魔王国との関係構築を主体に置いた次善策。

 

守るために、教授の有用性を理解して貰う二流の『策』。

 

 

この策では、完全には『教授』を守れない。イビルアイも同様だ。

 

 

俺とイビルアイで『盟主』を封じることで、

 

魔王国への十三英雄、評議国の印象を和らげる。

 

法国には周囲のズーラーノーン関係者を捕縛してもらう。

 

イビルアイは主体的に活躍したから、多少法国との関係は改善するはずではある。

 

 

対価の法国から完全に守るというのは、できなくはない。

 

 

しかし、イビルアイを、ナザリックに縛り付けることになる。なってしまう。

 

 

イビルアイが、俺の『側』にいてくれるかは無理だろう。

 

…そもそもイビルアイとは、『戦力』として取引したのだ。

 

 

大体、イビルアイが『魔王』を完全に受け入れるはずがない。

 

『蒼の薔薇』は、俺がラナーを変えてしまったことを恨んでいる。

 

実際、それは事実だから。

 

だから、イビルアイも俺を嫌っているはずなのだ。内心は。

 

 

…『生徒会長』には助けた恩を売る。グシモンド家は存続させる。

 

 

ジエットは知らん。後日、アルシェに『説得』させるしかない。

 

 

もはや、『策』ともいえないゴリ押しだ。

 

 

それに、ほぼ俺の得にしかならない。

 

 

さらに言えば、この『策』は、イビルアイが、『キーア』として失敗した時の『策』だ。

 

…『教授』の失敗案は別に用意してある。

 

 

 

…だが、こうならないように、ナザリックにも『監視』はあった。

 

本来の『作戦』を実行できる許容範囲内の『ズレ』と報告されていた。

 

 

…まさか、また俺は嵌められているのか?ナザリック全体から。

 

 

 

…そう、仮定した場合、考えられる可能性はたった一つだ。

 

一つしかない。有り得ない可能性。

 

 

教授とスルメさんが組んだ。

 

 

これは、もはや誰にも止められない組み合わせだ。

 

 

弱点がない。二人が組めば。本来なら。

 

主観を騙せるスルメさんと、客観的に騙せる『教授』。

 

 

これは、『世界』を欺ける組み合わせだ。

 

…全てが騙せる。騙しきれる。

 

 

だが、有り得ない。

 

スルメさんが友の子を殺した『教授』を許すはずがない。

 

 

教授だって近づかないはずだ。

 

 

…『教授』の好奇心が刺激される可能性が僅かにあった。

 

 

一応聞いてみるか。『教授』に。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-『教授』視点-

 

 

帝国魔法学院の学長室で、私は魔王からメッセージを受けた。

 

聞きたいことがあるということなので、私は、モリアーティ学長として人払いをした。

 

 

本来の姿に戻った私だが、『魔王』が聞きたい内容は明らかだ。

 

 

...『魔王』に勘付かれた。

 

 

『死神』が滅茶苦茶やり過ぎたせいだ。

 

 

これ、私は悪くない。

 

私は、本当に最低限で最高の結果を出してやるつもりだった。

 

 

だが、『死神』。

 

 

ナザリックを動かすのは、どう考えてもやり過ぎだ。

 

…流石に違和感に気が付く。

 

 

『貧乏魔王』は、前にナザリック全体で、嵌められかけたと愚痴っていたから。

 

 

だが、『死神』は問題ないという。

 

私がこれから言うように、言えば全く問題はないと。

 

 

...私も確かに問題ないと思う。

 

 

だが、これを私に、本気で言わせる気か?

 

 

魔王が、私を見つめる。やや冷たい目だ。

 

疑っている。

 

『真実』の可能性に確実に気が付いている。

 

 

 

「『教授』。私が言いたいことはわかるよな?」

 

『魔王』からの質問は、意外と遠回しな言い方だった。

 

 

…ああ、わかった。

 

 

『貧乏魔王』は、私を、私達を疑ってはいるが信じ切れていない。

 

 

自分の有り得ない『仮説』を。

 

 

…合っているよ。それ。

 

 

 

「『魔王』は私が自分の意思で作戦に失敗したとでも言いたいのか?」

 

そう、私の意思ではない。『死神』の依頼だ。

 

本当は、私は内心嫌だった。

 

 

…『魔王』が私を守るために作った物を勝手に変えるのは。

 

 

「…嘘ではないな。では、次の質問だ」

 

きた、本命だ。

 

 

「スルメさんとお前は裏で繋がっているか?」

 

そう。ここはどうしても避けられない。

 

だから、誤魔化すしかない。

 

 

「…私は君を愛しているんだ。

 

 わざと君に迷惑をかける真似は決してしない」

 

答えになってない。

 

 

だけど、効く。

 

この『魔王』に取って、致命的な『隙』だから。

 

 

「そ、そうか。…疑って悪かった。

 

 そもそもこれは俺の利点にしかならない。

 

 …『偶然』か。有り得なくはない。

 

 どんなに備えても、『想定外』は必ず起こり得る...か」

 

偶然じゃないよ。想定外じゃない。全部仕組まれている。

 

だけど、言わない。言えない。

 

 

「『最善策』に拘って、コンコルド効果による失敗は避けたい。

 

 しかし、スルメさんをどう説…

 

 いや、何でもない!今のは、何でもないからな!

 

 俺は帰る。…邪魔したな」

 

そうまくし立てて、魔王は転移した。

 

 

...私の下を去った。

 

 

...帰っちゃったよ。あいつ本当に。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『魔王』には本当の気持ち、ストレートな『愛』が効くのだ。

 

それは、彼にとって、致命的な弱点だ。

 

 

…昔のゲームとかによくある話。

 

 

ヤバい。私の罪悪感ヤバい。

 

 

『素』で邪悪を行使できる私が、『教授』が罪悪感を抱いている。

 

 

私は数分悶えた。苦しくて。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…さて、気持ちを切り替えよう。

 

 

今の今まで、アイテムで気配を消してもらっていたキーノに、

 

これからの『説明』をしないといけない。

 

 

親子でのコミュニケーションに口を出すなという『親馬鹿』で人払いをしていた。

 

『魔王』は本当に『想定内』の行動をしてくれた。

 

なので、最高のシチュエーションに持ってこれた。

 

 

...条件は全て満たされた。

 

全ての『場』が、『世界』を騙しきれた。

 

 

 

『親』の、私の『愛』の告白を受けて動揺した『魔王』。

 

 

それを見た『娘』の動揺はいかに!

 

 

...『親子』間での恋愛の修羅場とか昔の、昼ドラじゃないんだぞ。

 

 

 

あの『死神』、シャルティアと余計な約束しやがって!

 

 

…良く考えたら、経緯こそ違うが、最初に考えていた、私の『策』でもあった。

 

 

アレ?

 

 

そんな馬鹿な。あの『変態』と私の『思考』が一致しただと…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

我に返った私は、キーノを嗾けてみた。

 

 

「彼はキーノを守るために、私に確認しに来たんだよ。

 

 ...私を疑って、関係を壊す寸前まで『君』を助けたかったんだ。

 

 『愛』されているね。『キーア』ちゃん?」

 

 

『魔王』への愛を。

 

 

「ゴ、ゴウン様が、私をそこまで思ってくれていたなんて...」

 

…キーノは完全に嵌った。

 

 

顔が真っ赤だ。何てわかりやすい。

 

そして、何故、気づかない。『貧乏魔王』。

 

自分を愛せるようになったんなら普通、気づくだろう。

 

馬鹿じゃないのか、あいつ。

 

 

...だが、キーノは『魔王』の虜だ。もはや。

 

 

本当に、チョロすぎる。このロリ吸血鬼。

 

 

 

...さて、チェックメイトだ。魔王も前のようにはいかない。いけない。

 

今度は、『魔王』が完全に避けられない。

 

 

 

…たった一つの『心配』でここまでするとか、やっぱりあの『変態』頭おかしい。

 

私には、ここまで深い『友情』は、やはり意味不明だ。

 

 

 

最後の最後に、全て気がつくこの『策』。

 

しかし、その『過程』は決して気が付かれない。

 

 

『死神』から全て打ち明けられて、許すんだろうなぁ…『魔王』なら。

 

…寧ろ喜びそうだ。そこまで心配してくれて。

 

 

 

ああ、本当に忌々しい『死神』だ。

 

 

それは、本当は、私がやりたかったことだから。

 

 

…クソが!

 

 



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第八話 雛鳥

羽化する。雛鳥。全て同一。気づき。芽生え。息吹き。


-『生徒会長』フリアーネ視点-

 

 

私、フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドは、

 

キーア・シルバー・シス・ブレッドさんを愛している。

 

 

…信じられないが、そうなる。これまでの私の『行動』を結論づけると。

 

 

学院を去った、『アルシェ』への友達、ライバル意識とは全く違う。

 

 

キーアさんが12歳で第三位階魔法を使えるのは、普通は有り得ない。

 

 

『天才』の一人なのだろう。キーアさんは。

 

…完全に、偉大な父の『才』を受け継いだ。

 

 

 

『秀才』の私とは違う。学院の三本の指に入るだけの『秀才』とは別格。

 

アルシェと同じ、あるいはそれ以上の、完全に別格の『才能』。

 

 

…だから、私は『お手洗い』までキーアさんまで付き添った?

 

 

有り得ない。

 

…だから、愛しているのだろう。キーアさんを。

 

そうとしか考えられない。そう結論せざるを得ない。

 

 

 

…私は、グシモンド家の恥だ。

 

ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下に忠誠を誓う、

 

グシモンド家の恥。

 

 

 

…さらに言えば、キーアさんの父、

 

『モリアーティ・シルバー・シス・ブレッド男爵』は、

 

これからの『帝国』に必要不可欠な存在だ。

 

 

帝国が、『魔王』、『魔王国』などという存在に対抗するため、

 

皇帝陛下自ら見出した『逸材』。

 

 

彼の『魔法理論』は、彼のフールーダ・パラダイン様すら驚愕したという。

 

 

ブレッド男爵は、帝国が至るであろう、数十年先の『魔法理論』を提唱した。

 

皇帝陛下への忠誠の証として。

 

 

…皇帝陛下から、『男爵』という地位を与えられた以後に。

 

 

…彼は、ブレッド男爵は、『時代』が生んだ怪物だ。

 

いや、それ以上の何かだった。

 

 

私が、グシモンド家が手にした確かな『情報』。

 

 

さらに、彼は、持ち前の圧倒的なカリスマ性で、

 

帝国魔法学院の『全て』を改革する方針を打ち出した。

 

 

帝国魔法学院の学長就任当初に。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

就任当初、ブレッド学長は挨拶も早々に『講義』をし始めた。

 

 

誰もが、聞きやすい『声』で、品位ある身振りで『視線』の全てを、誘導する。

 

その洗練された動きは、生まれながらの『貴族』としか思えなかった。

 

 

…本当に『男爵』なのだろうか?

 

 

皇帝陛下の血筋の可能性。そんな『馬鹿』な考えまで頭に浮かぶ。

 

 

 

「やあやあ、諸君。辛気臭い『概念』に囚われている諸君。

 

 私が、これからの『魔法』の可能性を教えよう。

 

 第零位階魔法から第二位階まででできる『技術革新』を」

 

ブレッド男爵は、そういって教え始めた、マジックキャスターの『機械化』という概念を。

 

 

「魔法というのは、要するに、『技術』だ。

 

 牛の乳の出を良くする、指先に炎を起こす。紙を生み出す。臭いを消す。

 

 鉱石、香辛料すら生み出せるこれらの『生活魔法』。

 

 何とこれらは皆、第零、一位階の魔法だ。

 

 君たちも日常生活で使っている者も多いだろう」

 

当たり前の魔法理論を、整然と語る。

 

この学院にいる者なら、一学年すら知っていることを。

 

学術的理論からではない『技術』という発想。

 

 

…元々この学院でも、建築学科で『軽量化』を学ぶ等の『視点』はあった。

 

その魔法を一つ知っているだけで、それまでの工事の工程全てが変化するから。

 

 

だが、彼は、ブレッド男爵は違った。

 

 

『技術』として、私達の『知識』そのものを利用しろと主張した。

 

ただ、知っているだけでなく、『広める』発想。

 

…『視点』の変更だ。

 

私達を、一生徒で終わらない可能性を示した。

 

 

帝国魔法学院の卒業生というだけに終わらない、『事業家』の可能性を示した。

 

 

…危険な思想だと私は思った。

 

ブレッド男爵のそれは、『国』が魔法を管理できなくする思想。

 

元々、魔術師組合員等はある。だが、帝国では完全に国が管理、そして監視をしていた。

 

それを弱めることになる。

 

…或いは、帝国に忠節を誓わないもの達の、『魔法』の独占が、あり得る。

 

 

…だが、『魔王国』という存在が、その危険思想を全力で『肯定』する。

 

 

…皇帝陛下の狙いが見えてきたような気がする。

 

なりふり構わない『発展』しか、帝国に活路はないということか。

 

 

公爵の、グシモンド家の者としては、辛い現実が、目の前の『学長』が教えてくれる。

 

 

「…故に、可能だ。大量生産方式の『魔法』生産物が。

 

 これまでのような少数でしかない『技術』を体系化することが可能だ。

 

 第零位階なら村人にすら可能。帝国そのものの構造を『革新』できる。

 

 大量の『技術者』を生み出すんだ。

 

 君たちなら、魔法理論を学んだ君たちなら可能だ。その先達が」

 

『天才』という枠組みを超えた何か。

 

 

私が、ブレッド男爵に感じた第一印象だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ブレッド学長に帝国魔法学院の皆が、『魅了』されている。

 

 

新しい可能性。私達が持ちえない『何か』をブレッド学長は示してくれる。

 

 

 

…彼に、ブレッド男爵に魅了されていないのは、

 

あの疑り深いジエットと私くらいか。本当に『数名』しかいない。

 

 

 

…ランゴバルト・エック・ワライア・ロベルバドは完全にそのカリスマに魅了された。

 

キーアさんが編入する前後辺りから、ブレッド学長は生徒により一層近づいてきた。

 

愛娘への愛とともに、これからの帝国について、生徒達と語り合った。

 

身近な距離で、カリスマの塊が生徒に、だ。

 

 

結果、ランゴバルトは、

 

虐めていたはずの、ジエットなどもはや『視界』にすら入っていない。

 

 

ブレッド男爵は、三男でしかない彼に、正確には他の生徒たちにも。

 

『道』を示した。

 

第一、二位階魔法の改革。生活魔法の応用。

 

 

貴族にとっては選べない『選択肢』を彼らの『目』を見て語って聞かせた。

 

 

『産業改革』という未知の『概念』。

 

 

貴族の地位すら不要になる可能性すらあるその概念。

 

魔法の深淵を覗くのとはまた違うアプローチ。

 

 

モリアーティ・シルバー・シス・ブレッド男爵。

 

 

理論、技術、思考…『万物の怪物』だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

本来ならば、私ですらそのカリスマ性に魅了されていたかもしれない。

 

 

さらに、新しい『可能性』を見出した彼に、ブレッド男爵に、

 

グシモンド家の娘として近づいただろう。

 

 

ブレッド男爵の、若くして、奥方を無くしたという彼の心の隙をつき、

 

『血』を取り込むことも考慮しただろう。

 

 

グシモンド家からの『命』があれば。

 

 

 

…本来ならば?

 

 

 

『思考』にノイズが入る。

 

最近、ずっと違和感がある。

 

 

 

…キーアさんが来た辺りからだ。

 

故に、これは『愛』としか考えられない…はず。

 

 

私は、幼げな『少女』に恋煩いを抱いているとでも言うのか!

 

 

 

『…誰か助けて』

 

 

 

また、『思考』にノイズが入る。

 

何であれ、気持ちを一新して、私は『生徒会長』として振る舞わないといけない。

 

 

あんな近づき方は、避けるべきだ。キーアさんも目に見えて、嫌がっている。

 

どう考えても私はおかしい。

 

 

「生徒会長。キーアさんが呼んでいます。何でも、生徒会長室で二人きりで話がしたいと。

 

 …いい加減あの距離の取り方はやめた方がよろしいかと」

 

生徒会に所属する書記から何かを言われた。

 

 

…私の『思考』はそこで途切れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

-モモンガ視点-

 

 

帝国魔法学院の生徒会長室。

 

本来なら一学生が勝手に入れない滅茶苦茶も『親馬鹿』なら可能。

 

そのために、教授には、『親馬鹿』を演じさせていた。

 

 

…こうなる可能性も考慮して。

 

 

 

「さて、かかったな。簡単に」

 

『魔王』である俺は、帝国魔法学院の生徒会長室に、

 

キーア、いや『キーノ・ファスリス・インベルン』と一緒にいた。

 

 

彼女の全ての因縁に終止符を打つために。

 

 

…俺としても、『キーノ・ファスリス・インベルン』の出自を聞いて、

 

思うところがなかったわけではなかった。

 

 

…『取引』をした間柄である以上、彼女に多少思い入れでもしたのかもしれない。

 

良くない傾向だが、今回は彼女と近づく必要がある。

 

今後、ナザリックで働いてもらうために。

 

 

本来なら『自由意志』であって欲しかったが、俺の『言葉』を使う。

 

 

だから、躊躇わない。

 

 

「キーノ・ファスリス・インベルン。私は君の因縁に終止符を打つことを約束する」

 

改めて、約束する。『魔王』の確約を。

 

 

…法国とのキーノへの安全は取り付けた。

 

 

ナザリックに、俺の『側』に縛り付けるという、最悪の形だが。

 

…彼女が受け入れてくれるかどうか。

 

 

『蒼の薔薇』の仲間と引き裂くつもりはない。飽くまで、『形』だけだ。

 

それでも、俺への悪感情が抜けるかどうかが勝負だ。

 

 

「は、はい!」

 

緊張した面持ちで声を上げるキーア。

 

 

演技ではない『素』だ。

 

 

…これは後で言うべきか。

 

 

彼女が冷静なときか、終わってから、言わなければ、万に一つ『失敗』しかねない。

 

 

とにかく、『時間』がない。

 

 

…正確にはあるが、可能性は潰した、退路は絶った。

 

もうすぐ来る『盟主』が。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺は『盟主』の暴走を、これ以上見ているのは不味いと即座に判断した。

 

 

…『盟主』が、キーアに、トイレにまでついてくる以上、二人きりになった瞬間狙われる。

 

キーアが『魂の同化』されでもしたら、全ての計画が水泡に帰す可能性がある。

 

 

キーノと記憶を、意識を共有して、逃げられたら不味い。

 

たとえ、キーノと完全に『魂の同化』をしても、

 

『盟主』に逃げ場等はない。

 

だが、周囲に被害が出る可能性があった。

 

極秘任務で無用な被害は避けたい。特にキーノが危ないなら最悪だ。

 

評議国との関係構築どころか、印象最悪になる。

 

たとえ、わざとでなかったとしても、だ。

 

『魔王』の俺が、『蒼の薔薇』のイビルアイを脅して、

 

危険な任務に従事させたという評判になれば本当に不味い。

 

リグリットやツアーにはわかってもらえても、将来の攻撃材料に成りかねない。

 

…だから、急いだ。『作戦』の実施を。

 

コンコルド効果による失敗。これは最悪だ。

 

 

俺のこだわりのせいで、全てが『失敗』になる可能性。

 

 

打算も感情も込みで最悪が有り得るかもしれなかった。

 

 

そして、今日、この瞬間が『最短』だった。

 

 

法国と、俺と、キーアの全ての時間が合致した。

 

『最短』だから、話を、作戦を、短縮してイビルアイに聞かせる他なかった。

 

だが、予めスルメさんが仕込んだ罠は、もう既に発動済み。

 

 

本当に『盟主』を捕らえるだけでチェックメイトだ。

 

『盟主』にも、構成員にも、メッセージを使う暇すら与えない。『最短』で捕らえる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

生徒会長室の扉が開く。

 

 

『気探知』等各種スキル、無詠唱化した魔法等で確認する。

 

 

来たのは、たった一人だ。間違いない。

 

 

「………キーアさん?」

 

…間違いなく、『盟主』だ。

 

 

「キーノ!」

 

俺は叫んだ。使えと。

 

 

「はい!」

 

キーノはそう言って『魔封じの水晶』を掲げた。

 

 

魔封じの水晶に亀裂が入る。

 

封じていた『魔法』が発動した。

 

『魂と引き換えの奇跡』による、『魂の同化』の解除。

 

 

渦を巻き煌めく虹色の光線の、『奇跡』の魔法が、

 

無警戒で、無防備なフリアーネを襲う。

 

 

『魔法』が直撃した瞬間、フリアーネが『二人』にずれて見え始める。

 

 

「え?…「「私が二人?いや、違う!私じゃない」」

 

…アルシェより状況の飲み込みが早い。

 

 

『秀才』と自分を蔑んでいるようだが、おそらく、

 

フールーダの領域に至れる可能性はフリアーネの方が高いと俺は思う。

 

 

そんなことを考えていた俺だが、『最短』で盟主を捕らえる。

 

 

「『魔法効果範囲拡大・静寂(ワイデンマジック・サイレンス)』」

 

これで、誰も気が付かない。後は、詰め将棋だ。

 

 

「『魔法最強化・人間種束縛(マキシマイズマジック・ホールドパーソン)』」

 

まず、これはフリアーネを拘束するため、助ける魔法を使う。

 

 

「ふぎゃ!?」

 

品のない声で転がるフリアーネだが、無視だ。

 

 

…気品のあるいかにも儚げな美少女にこの仕打ちとか俺はドSなのか?

 

悲劇の公爵家の女性にこんなことしたが、あまり気にならない。

 

ハムスケのときは、衆知プレイがあまり気にならないので、

 

俺はひょっとして、Mなのかと思ったが、その辺自分がわからない。

 

 

…気持ちを完全に切り替える。

 

ここからが本番だ。

 

 

『盟主』は、拘束されていない。

 

 

地べたにフリアーネが転がり、『盟主』は呆然と立っている。

 

二つに分かれた片方が、立っているのが『盟主』だ。

 

…『盟主』は人間種じゃない。アンデッドだ。

 

異形種だから先ほどの魔法は通じない。

 

 

『人間種束縛(ホールドパーソン)』は、『盟主』にだけ通用しない。

 

故に、二人の分断がさらに容易になった。

 

 

『盟主』は慌てて身構えようとするが、完全に手遅れ。

 

 

「『魔法最強化・肋骨の束縛(マキシマイズマジック・ホールド・オブ・リブ)』」

 

巨大な肋骨が飛出し虎ばさみのように『盟主』に襲い掛かる。

 

ダメージを与えた後、そのまま相手を拘束し続ける魔法。

 

 

生徒会長室が多少、壊れるが気にしない。

 

 

気配遮断に回していた『完全催眠』を発動させる。

 

…完全な隠蔽を行った。

 

 

もうワールドアイテムを使っても、『盟主』に気づかれても意味がない。

 

法国もここまで誰もいない。今は後詰の真っ最中。

 

 

故に法国に『完全催眠』の使用がバレない。

 

…今なら『完全催眠』が余裕で使える。

 

 

「さあ、初めまして。ズーラーノーンの『盟主』よ。

 

 …そして、哀れな『被害者』フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド。

 

 私は『魔王』アインズ・ウール・ゴウン。そして、こちらが…」

 

そう言って、『彼女』に譲る。

 

 

何しても、『盟主』を殺さなければ問題ないと『彼女』には言ってある。

 

 

「久しいな『盟主』。…覚えているかな?

 

 私の名は、『キーノ・ファスリス・インベルン』。

 

 …250年前、お前が滅ぼした都市にいた『少女』。

 

 そして、『国堕とし』としてお前に、罪を擦り付けられた『化け物』だ」

 

そう堂々と名乗る『キーノ・ファスリス・インベルン』。

 

 

…ああ、なるほど。

 

この光景を見て納得した。

 

これか、俺が彼女を『策』に関わらせた最大の原因が。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…同情か。ツアーからの話を聞いて、同情したのか、俺は。

 

 

彼女に失礼だろう『感情』が根底にある。

 

 

…『魔王』としてはやはり不味い傾向だ。

 

ンフィーレアの時もそうだった。

 

なりふり構わず行動しそうになった。というかした。

 

 

今回は、『教授』を救う最適解と思ったからが大きいが。

 

 

『キーノ・ファスリス・インベルン』にも適用されていたか…

 

 

 

…『やはり』?

 

…またやった?

 

 

 

…気が付く。気が付いた。

 

 

 

この『心配』が、俺以外の、他の誰かにあったとすれば、

 

俺にこの『策』を実行させて、敢えて、気がつかせた可能性が高い。

 

『キーノ・ファスリス・インベルン』を見て確信した。

 

俺の不安になり得る『感情』を。

 

 

 

…俺が同じ立ち位置なら、これくらいやるかもしれない。

 

それが、『心配』だから、全力で『場』を整えて、『罠』を仕掛けて、教え込む。

 

彼の『友』ならやるだろう。

 

彼なら、俺にどの程度なら許してくれるかの判断もある程度、容易だ。

 

 

 

俺は、『教授』をなりふり構わず、滅茶苦茶して助けようと考えた。

 

…皆に迷惑をかけた。

 

だが、違う、それじゃない。

 

 

彼が、言いたいことは、『心配』はただ一つだ。

 

 

 

…誰かに頼れない俺を心配している。

 

全部背負おうとしてしまう、俺を、『魔王』を、だ。

 

 

 

…もし、そうならとても嬉しい。そこまで心配してくれたことを。

 

…そして、悲しい。そこまで心配させてしまったことを。

 

 

だが、俺の思い込みの可能性もある。

 

彼と、『答え合わせ』が必要だろう。

 

 

 

…まずは、フリアーネをどうにかしよう。

 

『教授』でもないのにこれは可哀想だ。

 

『教授』なら自業自得だが、フリアーネは完全に『被害者』だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺は、『修復(リペア)』で生徒会長室を修復した。

 

『賢者の呪帯』で俺が有益と判断して取得したこの世界の第二位階魔法だ。

 

旅人ならこの魔法のスクロールを持っていくべきとまで言われる『魔法』だ。

 

 

…ナーベラルとのアゼルシア山脈の、

 

『旅』のために取得した魔法だった。

 

 

『修復』は、壊れたものの応急処置の魔法だが、

 

俺が使うと第六位階魔法と同じ効果になる。

 

 

…魔王スキルだ。

 

この『世界』の魔法でも俺の能力の適用内にあることが判明していた。

 

 

魔王スキルのお陰もあり、生徒会長室は完全に元通りだ。

 

 

壊れた備品すら元通り。魔法とは本当に偉大だ。

 

 

『魔法最強化・肋骨の束縛』で『盟主』は完全に動けない。

 

キーノもいる。全く問題ない。

 

 

なので、安全にフリアーネと対話ができる。

 

 

「さて、グシモンド嬢。君の実家は『ズーラーノーン』に完全に支配されていた」

 

フリアーネの拘束を解いた俺は、『真実』を告げた。

 

早いか遅いかだ。知らせる必要がある。

 

 

もう、グシモンド家は詰みだ。法国の別動隊が行動している。

 

『鮮血帝』も了承済みだ。

 

 

「……何がお望みで?」

 

色々勘違いをしているな、この娘。

 

恩を売りたいだけだ。もはや、それ以上望めないから。

 

 

「いらん。帝国に忠誠を誓う君は、今回の件に関しては、全く悪くない」

 

公爵家がなくなるとか、帝国にとっても損害だから。

 

すぐに『鮮血帝』も納得してくれた。

 

 

最後の方に何か底意地の悪そうな笑みを浮かべていたのが、若干気になるが。

 

 

『鮮血帝』が、俺を利用しようとしてくる度に、ツッコミ入れる程度には仲良くなれた。

 

 

散々『魔王』に怯えまくっていたが、

 

俺が若禿治す薬与えた辺りから完全に開き直った。あの男。

 

 

『鮮血帝』は最近どうも帝国を裏から恐怖で実質的に支配しているはずの、

 

『魔王』の俺を軽んじている気がする。

 

 

 

「……どういうことですか?」

 

疑問しか浮かんでいない。無理もないか。

 

 

「帝国皇帝には既に話がついている。

 

 グシモンド家は、君を当主として、帝国の混乱を最低限に防ぐ」

 

これくらいやれ。寧ろやれ、と君が忠誠を誓っているはずの皇帝陛下が言っていたぞ。

 

 

ありゃ、もう『ガキ』だ。ツッコミが追い付かない。

 

 

「……つまり私が全てを担えと?学院を辞めて?」

 

『鮮血帝』はもうどうにでもなる安心しろと言っていた。

 

 

…俺がサポートしないと不味いな。

 

 

開き直った『鮮血帝』はある意味無敵だ。

 

 

…スルメさんの信者なのだ。実は。隠れ信者だ。

 

 

俺もつい先日知った。

 

 

法国の使者として帝国に、しゃしゃり出てきたスルメさん。

 

追い詰められていた『鮮血帝』は完全に嵌った。カルトに。

 

 

最後の方には、『鮮血帝』ももう完全に悟った顔していた。

 

 

完全なる『変態』だった。

 

 

帝国四騎士の一人、

 

『雷光』バジウッド・ペシュメルから皇帝陛下を何とかしてくれと頼みこまれたが知らん。

 

 

俺に頼るな。

 

ああなったのは、俺のせいじゃない。

 

 

「まぁ、そうなるな。私も皇帝も協力するが」

 

皇帝はスルメさんを毎日拝んどけば、大概のことは何とかなるとか戯言ほざいていた。

 

 

…ロクシーとかいう愛妾にぶん殴られていた。

 

 

彼女は、普通に『才女』なので、本気で俺に怯えまくるんだよなぁ…。

 

『鮮血帝』には容赦ないが。

 

 

ロクシーは、

 

『皇帝として普段は、より一層振る舞えるようになった分、腹が立つ』

 

とか言っていた。

 

 

…考え事をしていたら、誰かが来た。

 

来ないはずの誰かに警戒する。

 

 

「でしたら、良い考えが」

 

『教授』だった。よし、スイッチ押そう。

 

 

「やめろ!私が、モリアーティの姿でそれやるな!」

 

察しの良い奴だ。

 

普通に今回、お前が、全部ぶち壊したことにイラッと来たから押そうとしただけなのに。

 

 

「ブレッド学長!何故ここに!!」

 

フリアーネが叫ぶ。

 

ああ、面倒になった。なってしまった。

 

 

…だが、これは後のことは全て任せて良いということだよな?

 

 

俺の気づきが、正しければ。

 

 

「…全て任せてよいのだな?」

 

計画されていたのなら、これも『想定内』なはず。

 

だから、俺は確認する。『教授』に。

 

 

「…はい。何も問題ありません『魔王』様。

 

 どうぞ、『死神』にお会いになってください。

 

 …あなたの自室でお待ちですよ」

 

ニッコリと笑う『教授』。いや、今は、モリアーティ『学長様』か。

 

 

「すまない、キーノ。私は緊急の用ができた。すぐ君を迎えに行く」

 

答え合わせしたら、すぐ『ナザリック』内での扱いについて相談しないといけない。

 

 

どうなるか、微妙に読めない。

 

何せ、『死神』と『教授』の合わせ技だ。

 

 

 

今回は、前のように、『愛』を利用していないから、

 

スルメさんが、元従属ギルドメンバーだからナザリックまで動員できたのだろう、恐らく。

 

…少しだけ不快だが、それだけ皆に、心配をかけたことの方が大きい、か。

 

 

「わ、わかりました」

 

キーノの顔が若干赤いな。

 

…風邪か?

 

いや、今、吸血鬼だしな。これもわからない。

 

 

あとは、『盟主』だが…生きてはいるな。

 

ナザリックと誰か入れ替えで来させれば何も問題ない。拘束も容易だ。

 

 

 

「では、また後で」

 

そう言って、俺はナザリック前のログハウスに転移した。

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをルプスレギナから受け取った俺は、

 

即座にナザリックの第九階層の自室へ転移した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

-『教授』視点-

 

 

さて、魔王は去った。

 

『鮮血帝』を洗脳した『死神』がこうしたら喜ぶとナザリックの皆と話合った行為。

 

 

…私が、これを、しないといけない?

 

絶対これ、『魔王』怒るよ?

 

 

「キーノ。とりあえず、そこまでにして。

 

 『盟主』をアイテムで完全に封印するから。

 

 …ちょっと周囲を警戒してきてくれる?問題ないはずだけどさ」

 

そう言って、『身に付けている』アイテムを使用し、『盟主』を拘束する。

 

『盟主』は、もはや、しゃべりもしない。瀕死一歩手前だ。

 

 

何だろう、どうでも良いがかつて、同じ『悪役』として、

 

今回、喋らせても貰えなかった『盟主』に哀れみを抱いてしまう。

 

『貧乏魔王』なら、そうするんだよな。

 

 

あいつ、ユグドラシル時代から私が喋ろうとする度に即殺するんだ。

 

『策』を使用する前に斬りかかってくる。

 

私と『盟主』では、主義主張が全く違うが。

 

…何とも言えない気分だ。

 

 

「『魔獣の諸相 石化魔獣の瞳(ヴァリアス・マジカルビースト アイ・オブ・カドブレパス)』」

 

『盟主』の石像の完成だ。煮るなり焼くなり好きにできる。

 

 

マジックアイテム『ドーマの魔眼』。

 

邪竜の魔眼という設定のアイテム。

 

『目』に関する魔法を登録できるマジックアイテムだ。

 

 

使用後のリキャストタイムはあるが、それさえなければいつでも使用可能なアイテム。

 

…かつて、私はリーダーのパワーレベリングにこれを使用した。

 

片メガネのユグドラシル時代からの愛用品。

 

私はこれをいつもつけていた。

 

ユグドラシルでは、実用性に乏しいファッションアイテムに近い。

 

片目を、『魔眼』に変更できるという設定のアイテム。

 

 

…ツアーが私の思い出として取っておいてくれた。

 

…万が一の、任務の護身で使えと返してくれた。

 

 

このアイテムは、『魔封じの水晶』の劣化版だ。

 

 

しかし、ここまで弱った『盟主』なら石化は、容易だ。

 

 

「わかった!見てくる」

 

嬉しそうに、キーノは言う。

 

飛び跳ねそうな勢いだ。

 

 

貧乏魔王の、『すぐ君を迎えに行く』は狙ってやっているとしか思えない。

 

 

人化の指輪で『キーア』に変身して去っていった。…完全に幼女だ。

 

 

『死神』は犯罪じゃないからセーフとか戯言ほざいていた。

 

私もそう思ってしまった。しまっていた。

 

 

…アウトだろ。アレ。幼女だぞ、完全に見た目。

 

 

ああ、気分を変えよう。

 

私まで本当に、『変態』に汚染されてきた。

 

 

 

「フリアーネさん。あなたの家、

 

 いつかこのままだと陛下に処分されるのは覚悟していますか?」

 

勿論、そんなことは、『鮮血帝』は絶対しない。

 

 

完全に『死神』の信者だから。

 

 

『魔王』に恐怖しているが、『信仰心』で保っている。

 

 

『死神』は、皇帝を、自我の崩壊一歩手前からの『宣教』した。

 

手慣れ過ぎていた。完全に嵌った。あの皇帝。

 

 

…六大神とか呼ばれるだけある。

 

 

『変態』を崇める、カルト宗教だが。

 

 

「……もう、これ以上ない失態です。私の代で終わらせるべきかと」

 

そう、帝国に、忠誠心が高いとこうなる。

 

 

外面だけは完璧に皇帝をこなしている。偉大な皇帝陛下だ。

 

 

『鮮血帝』は進化した。

 

…ダメな方にだが。

 

 

「では、今から言う事をよく聞きなさい。

 

 大丈夫、あなたは守られます。

 

 『魔王』様は、あなたが『帝国』から見放されても協力すると言いました」

 

そこまで『魔王』は言っていない。

 

だが、信じるしかない。私の言葉を。

 

 

「…しかし、世継ぎは」

 

ああ、フリアーネからコレを言い出すのは『想定外』だ。

 

 

何だろう。生まれたばかりの雛鳥の刷り込みみたいなものだろうおそらく。

 

 

「ああ、大丈夫。問題ない」

 

そう言ってこれからの計画を話す。

 

フリアーネにグシモンド家を存続させる方法を。

 

 

 

ここから先は、シマバラ他全員の責任だからな。

 

…会ったことない誰かを除いて。

 

 

私の意思じゃない。

 

 

絶対『災い』になるぞ、これ。

 

…『守護者統括』を『死神』が説得したお陰で最悪にはならないが。確実に。

 

 

 

そういうことに気が付けるならもっと考えろ、本当に…

 

 

…私はもう知らない!もう、嫌だ!

 

 

 




生徒会長は、年長っぽいのでfateのアナスタシア皇女のイメージです。外見は。
悲劇の皇女様と、悲劇の公爵家の娘。性格とかはまるで違います。
…私、ほぼfgoやったことないので。

-追記-

活動報告『第八話 雛鳥。一部加筆。生徒会長、皇帝の変態化等』
にて、皇帝変態化の経緯などを書きました。

掘り下げられなかった、生徒会長も含めて少しだけ書きました。


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第九話 『友』

死神は決意した。全てをかけて共にあることを。
滅亡すらも定めならば、抗って見せる覚悟を。


-死神視点-

 

ナザリック地下大墳墓、第九階層の『魔王』様の自室。

 

 

我はようやく宿敵、『女帝』を何とか退けた。

 

…ついに魔王様の部屋に侵入することに成功した。

 

 

あの『女帝』マジ怖い。

 

 

我が『人格』作っても直ぐに対処するとか人間を完全に辞めている。

 

 

だが、しかし、我はついに勝った。あの恐怖の『女帝』に。

 

 

たかが、『仮初』の勝利とはいえ、この数瞬を征した。

 

 

故に、待つ。『魔王』様が来られるのを。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

突如、音が止む。

 

 

…これは『魔王』様の『奇襲』の合図。

 

 

間違いない。やはり、気が付かれたか。

 

 

フフフ…やはり我一人では、この『罠』は不可能だった。

 

 

忌まわしき我が友の子の『仇』と手を組まなければ、本当に、本当に『不可能』だった。

 

 

流石は、我が真なる盟主、『魔王』モモンガ様。

 

どうやったら、あの『経歴』でここまで至れるのか…

 

 

リアルは…あまり思い出したくはない。

 

魔王様のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』では、そうでもなかったというが、

 

私達の、六大神の間ではご法度な風潮があった。

 

 

…私にとって、実に忌むべき記憶。

 

 

苦悩と絶望、裏切りと復讐。生命を愚弄した愚物共…碌なものではなかった。

 

 

 

そんな思いはすぐに霧散した。

 

『魔王』様が現れたからだ。

 

…『友』が来たこと以上に優先すべきことなどない。

 

 

「やぁ、スルメさん。『答え合わせ』をしましょうか?

 

 …俺にとって二度目何ですけどね。この展開」

 

『魔王』様はやや苦笑しつつ、そう、我におっしゃった。

 

 

やはり、あの『女帝』は、我の『天敵』だ。

 

…おのれ、パクリめ!我のパクリめ!!

 

 

精神が鎮静化される。…ああ、良かった。

 

 

『魔王』様の『愛人』なのだと伺っている。

 

…彼女にあまり悪感情は持ちたくない。

 

 

しかし、我にとって、『教授』より相性が悪すぎる。

 

 

チートだ!チート!!

 

あんなの無効だ!反則だ!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-モモンガ視点-

 

 

俺は、スルメさんと向かい合わせで席についた。

 

 

最後に気が付くように、わざと『罠』に引っ掛けるあたり、スルメさんは読めない。

 

『教授』に間違いなく恨みがあるはずなのに手を組んだ。

 

…恨みのある者と手を組むことに慣れている。

 

…多分、俺には無理だ。その発想が。

 

 

スルメさんの、リアルが多少気になるが、それは彼にとっては、ご法度だ。

 

 

何となく察している。彼はリアルにほぼ絶望していた。

 

 

…俺もいい思い出が、ユグドラシルしかない。だが、彼のは、規模が違う。

 

 

そのような、考えを辞め、スルメさんを見る。

 

俺には、聞かなければならないことがある。

 

…今回の件についてだ。

 

 

「…やはり、気が付かれましたか。

 

 『魔王』様、あからさま過ぎて我を見損ないましたかな?」

 

そう言って、わざとらしく肩をすくめるスルメさん。

 

…スルメさん、俺を怒らせようとしているな。これは。

 

 

「いえ、最後まで気が付きませんでした。見事に嵌られましたよ…」

 

だから、『本音』で返す。

 

…怒らせて、『本音』を引きずり出されるよりずっとマシだ。

 

 

「ブラフに引っかかりませぬか…あの『教授』には効くんですがな、この手」

 

何故あの『教授』はこれくらいで、引っかかるのか。

 

 

偶に『教授』が馬鹿なんじゃないかと思う。

 

毎回新しい『思考』を作るなら、ただそれに合わせれば良いだけなのに。

 

 

「ハハハ。でも、俺は彼女に劣りますよ?」

 

あんまり期待されても、困る。

 

…スルメさんはナザリックの皆に『思考』が似ている。

 

 

今回、ちゃんと『俺』自身を洞察してくれたからこの『罠』を仕込んだのだろうが。

 

 

「そうは思いませぬ。

 

 あの『教授』には、凡人と狂人の混合された思考がわかりませぬ故。

 

 我が、何人もの『凡人』と『狂人』を何人か用意し、

 

 一斉に騒ぎ立てれば、容易に『思考』が誘導できます。

 

 ようは、相性ですな。…我では、あの『女帝』に勝てません」

 

…この人、やっぱり『変態』だ。

 

半分くらい言っている意味がわからない。

 

 

多分、スルメさんが言う『女帝』はラナーか。

 

 

…確かに、何故か、俺はラナーに勝てる。

 

『愛』以外では。

 

 

…俺は抜けている。

 

 

俺は、自分を愛せたが、『愛』の経験が不足している。

 

 

「話を戻しましょう。これ以上は頭が痛い」

 

俺は強引に話を戻す。

 

 

…これもスルメさんの『誘導』だと気が付いた。

 

 

「おお、これにも引っかかりませぬとは!

 

 …流石は我が、真なる盟主『魔王』モモンガ様!」

 

いい加減、俺を怒らせて、『素』を引き出そうとするの、辞めてもらえませんか?

 

スルメさん。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-死神視点-

 

 

我の、『癖』を完全に見切っていらっしゃる。

 

 

恐ろしや。

 

…『女帝』でも不可能な『精神力』。

 

 

それがないと、普通に、『素』がでてくるものなのですが。

 

 

「…思えば、最初からおかしかった。

 

 『教授』があんな凡ミスするわけがない。

 

 感情でも、理性でも彼女の不利にしかならない。

 

 …だが、スルメさん。法国と『教授』は取引しましたね?」

 

そのとおり。これは気づく。当然の結論。

 

『魔王』様なら、容易に導き出せる『答え』。

 

 

「おお、そうです。我は『怨敵』と手を組みました。

 

 …そうでもしないと『心配』でしたので」

 

別に、『私』なら許しても良いのだが、『我』は許せぬ。

 

…『僕』はどちらでもない。

 

 

故に、『取引』できた。

 

 

「我は、ンフィーレア少年と『教授』の件で、

 

 完全に『魔王』様に対するバイアスが解けました。

 

 転移前に、魔王様を、少しだけ誤解をしていました」

 

そう、『教授』復活の件で、我は、正真正銘の『魔王』様を知った。

 

 

…ここからは、『私』が話そう。

 

『魔王』様に不敬だ。

 

 

「あなたは、『善人』過ぎます。それでいながら『悪』の才能を持っている。

 

 …正直、私も想定外でした。はっきり言いましょう。

 

 あなたは、『一般人』だ。異常な『精神力』で、限界以上に強化した『一般人』です」

 

それが、凄まじいことなのだが、敢えて無礼を承知で言う。

 

…これくらい言わないと伝わらない。

 

 

「…やはり、俺は一人で抱え込み過ぎですか?」

 

…魔王様は既にこのことに、気づいていた。

 

ここまで気づいていた。信じられない。

 

 

…有り得ない『精神力』だ。

 

全く、自意識過剰になってない。

 

…冷静に『自己分析』している。

 

 

想定外だ。

 

 

見誤った…魔王様の心の強さを。

 

これでは返って言い過ぎだ。

 

 

「そうでは、ありません。いいえ、正しくもあります」

 

…今回の件で気が付かれたように相談してくだされば、何も問題はない。

 

 

私のように、わからないからと、全部『法国』に丸投げする姿勢も不味いだろうが、

 

 

『魔王』様は、『頑張り過ぎている』。

 

 

…ナザリックNPC皆が心配していた。

 

ハーレム計画などという本来彼らが望まない思考に発達するくらいには。

 

 

我は感動した。彼らのその在りように。…故に全面協力した。

 

同志ジルクニフの協力、シマバラ君監修の下、完璧な『計画』を作成した。

 

あの『変態ドラゴン』も絶対見つけて見せる。竜王国に子孫がいるのだ。

 

 

…絶対いる。あの変態は。子孫にハアハア劣情しているに違いない。

 

 

我らのような『紳士』さに欠ける子だったが、よもやあそこまで変態だとは。

 

『友』達と一緒に遊んでいたときは、

 

普通に良い竜だったのだが、一体どこで『道』を誤ったのか…

 

 

…だが、きっと『魔王』様も喜んでくださるだろう。彼らの思いに。

 

 

…一人、会えないNPCがいたが、恐らく同意してくれるだろう。

 

 

思考を元に戻そう。『私』だ。

 

 

『彼』には全く会えなかった。

 

カジータ氏が反対したからだ。

 

…どんな『子』なのか非常に興味深い。

 

 

…想定では、『自分』によく似ている。

 

だが、『反抗期』を起こしている。

 

これは、私の、私たちのギルドでは起きなかった『成長』だ。

 

 

…これは、大発見だ。

 

 

『魔王』様は気づかれていないようだが。

 

 

 

…沈黙になってしまった。

 

話を続けよう。

 

 

…今度は『死神』としてしか話せないことだ。

 

 

「デミウルゴス君やアルベド女史からも聞きましたぞ。

 

 我がいなければ『世界征服』路線だったとか」

 

これは、本当に驚いた。正直、今でも信じられない。

 

…それはそれで見てみたい我は愚かしいが。

 

 

「…いえ、あの、それ勘違いです」

 

何と!

 

 

「ええ…『世界征服』する『魔王』様ってよくある響きで良いような気がするのですが」

 

思わず、馬鹿なこと口走る我。

 

…まぁ、言いたいことの『本題』でもあるが。

 

 

「ええ…それ不味いじゃないですか。どう考えても」

 

『魔王』様はドン引きされた。『普通』はそうだ。

 

だが、我は違う。

 

 

「『魔王』様、あなた様は、我の、

 

 『友』の存在から『世界』の価値を見出されましたね?」

 

ここだ。ここが、完全に『無理』の原因だ。

 

 

…『才能』を潰している。

 

強引に『自己』を強化している最大の原因だ。

 

悪のナザリックでは、『世界』を壊しかねないから、

 

自分の『才能』を活かしたら『世界』が滅ぶから。

 

 

象が目の前の蟻を踏まないようにするような強引な『矯正』だ。

 

 

 

数分ともとれる沈黙。

 

…『魔王』様は気が付かれたか。

 

 

「…はい。確かに」

 

『受け入れた』。認めた。

 

 

…良かった。完全に『魔王』様は危険でなくなった。

 

 

我の想定を上回る『何か』だった場合、また考え直さなければならなかった。

 

 

ここが一番『心配』だったのだ。

 

 

話を変えよう。アルベド女史の危険からだ。

 

「…我はアルベド女史に確認しました。

 

 魔王様が『世界』を救う暴挙に出た場合。…君はそれを喜ぶかと」

 

彼女の『設定』はおそらく『歪』だ。

 

会話でわかった。故に『彼女自身』に確認した。

 

 

「…どう答えましたか?今のアルベドは、俺にはよくわかりません。

 

 情けない話ですが、俺を、愛しているという『設定』しか、

 

 俺は、アルベドのことを本当の所わかっていない」

 

…沈黙から読み取れる。これはかなり無理をして言ってらっしゃる。

 

 

…アルベド女史の真なる思いに勘付いてはいる。

 

 

だが、認めたくなくて、遠ざけましたな?『魔王』様。

 

 

それはいけませぬ。『魔王』様。

 

彼女を愛しているのなら、『見て』あげるべきです。

 

だから、言う。

 

 

「彼女は、最悪の結末を、ナザリックの皆だけの『世界』を望んでおりました。

 

 …本心から。

 

 申し訳ありませぬが、彼女の『思考』を誘導させていただきました。

 

 『愛』の方向性を少しだけ、ズラしました。『世界』の可能性を吹き込みました。

 

 …『手段』は聞かないでください。それはご自身で確認してください」

 

流石に勝手にやり過ぎたと反省はしている。

 

 

だが、彼女の『愛』は『魔王』様をも崩壊させる『思想』だった。

 

…『世界』だけでなく。

 

 

「…ありがとうございます。アルベドへの確認は絶対にします。

 

 ああ、俺はまた目の前の『可能性』に気が付かなかったのか…」

 

かなり苦痛なされている。

 

 

我も『番外席次』の真実を知ったとき、おおよそ同じ思いを抱いた。

 

だから、これは伝えないといけなかった。

 

 

『魔王』様はナザリックの皆を『愛』しているから。

 

『番外席次』のように愛せないというスタンスが取れない。

 

不可能だ。

 

 

『魔王』様にとって、『世界』と『ナザリック』はほぼ同程度大切になってしまった。

 

…根本的に言えば、我のせいだ。

 

『友』を助けたせいだ。

 

 

だが、それを言ったら、『魔王』様は自分を愛せなくなる。

 

だから、『思考』を誘導する。

 

 

「…我は確証が欲しかったのです。それ以上に心配でした」

 

これから言うことは皆全て『本心』だ。

 

 

「『魔王』様が、ご自身を愛していらっしゃるなら、

 

 我だけでなく、皆を頼ってください。

 

 …最悪、それで失敗したとしても『友』を見捨てたりなどしませぬ」

 

これは『皆』の結論だ。

 

 

…最悪、それで『世界』が亡びるなら、それが『答え』だ。

 

 

『魔王』様は、滅びを決して、望んではいない。

 

 

…それであれば、『滅び』もまた必然なのだ。

 

 

「それは、ナザリックの皆だけでありません。

 

 ツアーも『教授』も『女帝』も…皆あなたが大好きなのです。

 

 勿論、私もです。

 

 だから、どうか一人で抱え込まないでください。

 

 …それで失敗しても、『魔王』様のせいではありません」

 

そう言って、私は頭を下げる。

 

私の『全て』をかけて、支えて見せる。

 

 

…『失敗』等恐れはしない。

 

そのような滅びの『運命』があれば、絶対にあらがって見せる。

 

 

『友』のためならば、この命など惜しくはない。

 

…元々死んだ身なのだから。だからこそ、『全て』をかける。

 

 

 

「ああ…」

 

私の思いが伝わったのか、『魔王』様は泣かれた。

 

 

…私は初めて、オーバーロードであるこの身を惜しんだ。

 

 

『友』と共に『泣けない』のだ。

 

 

…『死神』として泣けないのだ。

 

 

それが無性に辛かった。

 

 



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