MEGA MAN XーInfinite code Stratos day of Ω&Σ (アマゾンズ)
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序章 並行世界からの侵略
その中で、たった一つの綻びが出てしまった。綻びの中で現れたコンピューターウイルス。
それこそが、世界の破滅の序章であった。
篠ノ之束は廃屋となった研究所に導かれ、あるカプセルと鉱石を見つける。
それこそが、強さと優しさを兼ね備えた並行世界の英雄の記録であった。
一つの研究所、そこで女性の研究員が取り憑かれたかのように何かを開発していた。
「ふふ・・出来た。出来たわ!これさえあれば全てを」
『よくやった・・・ベルカナ。貴様のおかげでこの世界に干渉することができた』
「!???」
ベルカナと呼ばれた女性研究員は謎の声を聞いて、動揺していた。無理もない、その声はコンピューターの中から聞こえてきたのだから。
『わしの子供たちとなりうるものがこの世界にはある。ネットワークを介して利用させてもらうぞ』
謎の声は何かをし始めていた。それは、ISのコアネットワークに干渉しようとしている。
「!ネットワークを切断!」
『フゥハハハ!もう、遅い!我がDNAは既にネットワーク全域に蔓延させたわ!』
「そ、そんな!」
『そういえば名乗っていなかったな。我が名はシグマと呼ぶがいい』
それから数日後、世界中の機械達が人類に反逆を開始した。特に量産機は殆どがウイルスの影響を受けてしまい、殆どがいなくなってしまった。
反逆した機械達は、己の身体となるアンドロイドの開発を始めた。設計思想などはウイルスであるシグマからのデータ提供で簡単に開発出来てしまった。
人間に近い肉体を得た機械達はシグマの旗を掲げ、世界中を襲撃した。人類側についた機械達は人間と協力して迎撃したが、痛み分けとなりお互いに傷が癒えるまで、事実上の停戦となった。
◇
機械に感染したシグマウイルスは、自意識を目覚めさせ、物事に対する疑問を持たせるが、そのオリジナルであるウイルスもあった。それこそがΩウイルス。オメガの名を関する最凶最悪のウイルスである。
オメガウイルスが独自進化し、感染力が強化されたのがシグマウイルスであり、オメガウイルスは感染した機械を極限まで強化し、暴走させるタイプのウイルスである。
シグマはオメガウイルスを利用した己の実体を洗脳したベルカナに作らせ始めた。己の世界で何度も倒された肉体を研究し、最高の肉体の完成を急がせた。
ユーラシア落下事件時のサイコシグマをベースに、カウンターハンター事件時に使ったネオシグマのスピード、レプリフォース大戦時に使ったデスシグマの攻撃力、ロボットの工学博士に作らせたセイントシグマのバランス、最強の肉体として開発させたカイザーボディのパワーをも取り込ませる研究を始めた。
『ふむ、我が同胞だけでは足りぬな・・ほう、この世界には人間のコピーを作れる技術があるか・・ククク』
ネットワークを介してデータをかき集めると、更にシグマは人間のクローンを作る計画も同時進行させることにした。
人間にシグマウイルスとオメガウイルスを適応させる実験体の意味も篭っており、期間に制限は無かった。
「成長促進の薬物など、私の世界では簡単に作れるわ・・!」
精子と卵子の提供者はISの研究者から募り、受精卵をすぐにも胎児まで成長させていった。年齢加算において一歳の段階でシグマウイルスとオメガウイルスを打ち込んだ。
人間にコンピューターウイルスが発現するのかという疑問が出てくるだろう。脳に当たる部分へ小型の機械、つまりナノマシンを投与し、肉体における運動機能を司る部分に特殊な機械を埋め込む。
シグマの世界では人間からロボットへと己を置き換える者も現れていた。その時の技術をそのまま使い、応用して人体にウイルスを発現させる技術を確立させた。
「998人目、失敗です」
『なんと脆弱よ』
クローン技術を利用してでの人工培養、それによる急速な成長に追いつけない個体、ナノマシンに適応できない個体、ウイルスにより精神が安定せずに壊れた個体。あらゆる失敗が重なり続けた。
「!オメガウイルス適合者!現れました!!」
『ほう?検体は?』
「999人目、性別は女性です」
『戦闘用サンプルとして取っておけ、データは常に監視用チップからこちらに回せ、人間の年齢で20代中盤にまで成長させ、見合う知識も記憶させておけ!その後は人間社会に適応させろ』
「承知しまし・・っ!1000人目、シグマウイルスに適合です!!」
『ほほう?我が子に匹敵する者が現れたか・・ハハハハ!!』
「しかし、シグマ様・・この個体には欠陥があるようです」
『何?』
「記憶中枢に弊害があるようで・・恐らくは何事も忘れやすい個体になるかと」
『ふむ・・・構わん。この二体の検体には姉弟としての記憶を植え付けろ。両親の記憶は提供者にしておけ』
「はっ!」
『くくく・・・ウァーッハハハハハハ!!』
◇
機械の反乱、それは開発者である篠ノ之束の耳にも入った。ISに及ぼされる前に、彼女が行使した停止プログラムはシグマウイルスによって耐性を持たれており、停止することはなかった。
「なんだよ・・たかがウイルスのくせに私の頭脳が及ばないなんて!!」
ISは自分の子供だ。その実用性を発表したが子供の戯言だと一笑されてしまったのだ。
それを打開しようとした矢先の反乱である。後々、自分が起こそうとしたマッチポンプ以上の出来事が起こってしまったのだ。
「宇宙を見たいためにISを開発して、そのISがあんな奴の手に・・・!」
許せなかった。自分の夢が意志を持ったコンピューターウイルスに利用されるなどと。今現在の束は逃走生活をしている。
機械の反乱、ISが兵器として注目され、そのコアを作り上げるよう、世界中に強制命令されたのだ。
だが、己の夢を兵器に使われたくないという一心で逃亡し、国際手配を受けてしまった。彼女は今、自然の守りを利用した研究所に似た廃屋の中にいた。
「今日はこの廃屋で休もう・・研究所みたいだけどベッドがあるし」
進んでいくと壁の一つが不自然な形で閉じられているのを見抜いた。束はその壁に触れて動かすと、地下への入口を見つけたのだ。
「地下・・・見つかるよりはマシだね」
階段を降りてくと、徐々に自然から人工物の壁が現れてくる。階段を降りきると扉があり、その中へと導かれるように入った。
「・・・カプセル?それに鉱石・・かな?」
それに触れて埃を払うとX(エックス)の文字があった。となりの鉱石は機械に応用できる成分が含まれているようで、厳重に封印されている。
すると、機械の一つに電源が入り、人物が映し出された。男性でかなり年老いており、映像も乱れている。
『私の名前はトーマス・ライト・・・こちらの世界とは異なる世界において・・ロックマン、ロックマンエックスを開発した研究者である・・・ゲホッ!ゲホッ!!』
「ロックマン・・・?ロボット研究において人と同じように行動できるように開発され、破棄されたって言う?」
この世界においてもロボットの研究は進んでいた。意志を持ったロボット、ロックマンと名付けられたそれは、人間と同じ受け答えをするが故に、危険性を訴えられ破棄されてしまったのだ。
『私の学友が開発した時空移動装置を応用し、私の世界とは異なる平行世界である、この世界にエックスのデータをカプセルに封印し送り込んだ。私の世界においてエックスは平和をもたらす存在になった・・だが、ゲホッ!ゲホッゲホッ!!エックスは危険という・・意味もある』
画面が移り変わり、今度は女性が映し出される。十代前半のようで大人しげな印象と金髪のポニーテールが特徴的だ。
『私はシエル・・英雄の魂を宿したライブメタルを開発した研究者です』
「ライブメタル?この鉱石の事かな?」
『私の世界においては人類至上主義が掲げられ、レプリロイド、つまりロボット達は迫害を受け続けています。異なる並行世界へ希望を託したライブメタルを転送しました。どこへ飛ばされるかは、私自身分かりません・・・ですが、発見した方に伝えます。それは最後の希望なのです』
再びライト博士が映し出され、今度は驚愕の言葉を聞かされる。
『並行世界において、一種のコンピューターウイルスが侵攻していく事があった。だが・・ゲホッ!私の力では・・見ることは出来ても・・ゲホッゲホッ!止める事は出来なかった・・並行世界の諸君よ・・エックスを開発する事は、出来ないかもしれない・・だが、その意志を受け継ぎ、扱える人間を探し出せるようにする事は成功した・・どうか、世界を・・救って欲しい』
モニターの寿命が来たのだろう。完全に消えてしまい、映らなくなってしまった。束はカプセルを開き、鉱石を手にした。
カプセルの中には自分が開発したISコアと似たような物が入っていた。廃屋とはいえ、元は研究所、設備を修理してISとして開発できるかどうか、設計し始めた。
「トーマス・ライト博士・・・なんて男、いや・・なんて御方なの・・?機械に心を持たせる事が出来る科学者なんて・・・尊敬しか出来ないよ」
調べれば調べるほど、開発者であるトーマス・ライト博士は化学者として500年、いや、もっと先へ行っているとも過言ではない程であった。
「この人の学友っていうアルバート・W・ワイリー博士、この人もトーマス・ライト博士と同等の化学者だ・・。でも、ライト博士に勝てず、見返すために世界征服をしようとしたんだ・・だけど、時空間移動装置・・タイムマシンを発明できてる時点ですごいし、この人も機械に心を持たせられる技術を持ってる」
「私も天才だけど、この二人はそれ以上の天才だね・・・負けを認めざるを得ない。だけど、作らなきゃいけないんだ!私がIS界のロックマンを!!」
束はカプセルに入っていた記録から、エックスの姿をモデルにISとして開発していった。その過程で機体は三種類の変身ができる機能が付いた。
一つ目はエックスモード。束が見たエックスの姿をそのままに遠距離攻撃、僅かだが接近戦も可能なモード。
二つ目はゼロモード。接近戦に特化した姿で攻撃力と機動力を重視したモード。
三つ目がアクセルモード。攻撃力は最も低いが、手数で勝負するいわばスピード重視のモードである。
「隠しコードを入れとこう、抑止と切り札用に」
束の開発は一週間以上かかった。何よりも、ウイルスに対する効能が違っており、それをコントロールするのが難しかったのだ。
「あとは託せる人間に会うだけ・・・この世界を救えるロックマンを探さなきゃ」
これが、この世界のロックマンとなる機体の誕生の記録。また、ΣとΩの力を受け継いだ人間が生まれた瞬間の記録でもあった。
久々に岩本版ロックマンXを読んで我慢できなかった・・・。
並行世界ネタでやってしまった。
ライブメタルにまだ意思はありません。装着者と出会わなければ覚醒しないようロック中です。
岩本先生の世界観再現は難しいかもしれませんが、大目に見てください。
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序章2 青野家の秘密
束が開発を完成させた時刻と同じ頃。一人の青年が自宅の扉を開け、出かけて行った。
中学校の登校日であり、卒業も間近に控えている。彼は極々一般的な家庭で育った青年だ。
そんな中、彼の母親と父親は二人きりになったと同時に、深刻そうな顔をして話し合いをしていた。
「いつまで隠しておくつもり?もう、あの子の運命は動き出しているわ」
「わかっている・・さ。だが、まさか息子が・・」
両親はどうやら息子について話しているらしく、かなり真剣だ。傍から見れば夫婦喧嘩をしているようにしか見えないだろう。
「あなたは、フォルテニウムを発見した博士の遠縁、私はロックマンを開発した博士の親戚・・あの子が受け継ぐ事は有り得ていた」
「それが形となったのが、機械の反乱・・・それに、あの子は何度も相談に来ていたものな」
相談に来ていたのは息子である青年が、うなされている夢のことであった。彼は三つの夢を見ていたという。
一つは優しく青い戦士になって傷つきながらも、戦い続けた夢。二つ目は厳しく、不器用な紅い戦士となって誰かを手にかけ、泣き叫び、更には別の世界で目覚める夢。最後の三つ目は考えが幼い賞金稼ぎとなって、兄貴分と戦う夢である。
この内容を聞いた瞬間、両親共に動揺を隠せなかった。よもやと思っていた事が、よりにもよって自分の息子に起こってしまったのだから。
「認めてあの子に話しましょう。私達の息子が」
「この世界のロックマンだという事をか」
◇
半日以上経過した後、彼は帰宅途中、一つのカプセルが目に留まった。人一人が入れそうな大きさで、人参と同じカラーリング、中心にはウサギのマークが付いている。
零は入ってみたい好奇心に駆られ、入ってしまい、何処かへ転送されてしまった。
「あれ?ここは?」
「私の研究室だよ。最も、借りてるような感じだけどね」
キィと古びた椅子を動かし、向き直ったのは篠ノ之束。IS開発の第一人者で、開発者でもある。今の彼女は、不思議の国のアリスの服を模した私服の上に白衣を纏っている。
「そっかそっか、あのカプセルに気づいたって事だね。あれは特殊な迷彩がしてあって、この機体に選ばれた子しか来れないようにしておいたんだよ」
「は?」
「君はね、選ばれたんだよ。この機体、ライト&エックスにね。正式名称はまだ考えてないけど」
束の話について行けていない零は、混乱していた。いきなりといっていい程、話を進められてしまい、状況が把握出来ていない。
自分が選ばれた?ただの一般人である自分が?そんなはずはない、すぐにでも自宅へ帰らないといけないのに。
「ま、待ってくれよ!俺は何もわからないし、知らない!何が何だか全然わからないんだ!」
「そうだね、いきなり過ぎたよ。分かりやすく言えば君は、扱うことを許されているんだ」
「だからって!いきなり!!」
その時、研究棚に置いてあったライブメタルが浮かび上がり、零の手の上に収まってしまった。
「なんだよ・・・これ」
「見ての通り、君はこのライブメタルに選ばれてるんだよ」
「ふざけるなよ!こんなものどうしろってんだ!?」
ライブメタルを叩きつけようとしたが、それと同時に声が聞こえてきた。優しくも厳しく、暖かな声が。
『混乱するのは解るけど、一度落ち着いてくれると嬉しいかな』
「!?だ、誰だよ?この石から?」
『そうだよ、俺の名前はエックス。他にも居るけど今はまだ目覚めていないから、俺が話をするよ』
エックスと名乗ったそれは、話をするという。零は聞かない訳にもいかず、話を聞くことにした。
『俺達と君達が居る世界、違う世界を並行世界と呼ぶんだけど、俺はそこで戦っていた。実体を持ったコンピューターウイルスとね』
「実体を持ったコンピューターウイルス?」
『そう、それはΣウイルス。感染した機械に疑問を生じさせ、自意識と破壊衝動を目覚めさせてしまう、恐ろしいウイルスなんだ』
「まさか、それが俺達の世界に!?」
『その通りだよ。もうひとつのウイルスが来たらしいけど、残念ながら俺の知識にはない。つまりは』
「この世界に来た二つのウイルスを倒せって、事?」
『その通り、心苦しいけど君にしか出来ない事だ・・』
零は俯いていたが、顔をしかめ大声で叫んだ。まだ、青年ではなく少年としての怒りであった。
「ふざけんなよ!俺にそんなことができる訳無いだろ!俺は帰る!!」
零は来た道を辿って出て行ってしまった。無理もない、いきなり選ばれて戦えと言われても混乱するだけで、決断はできないだろう。
「仕方ない・・か。彼が戻ってくるのを信じようか?エックス。エックス!?」
ライブメタルであるエックスの姿が見当たらない。考えられる可能性はひとつ、彼に着いて行ってしまったという事だ。
「まったくもー!」
束は怒りながらも、エックスの性格を把握していたために、強くは言えないのであった。
◇
「ただいまー」
零は自宅に帰り、部屋へ上がろうとしたが、両親に呼び止められ、居間へと入っていった。珍しく両親が揃っており、真剣な顔つきでこちらを見ている。
「叱る訳じゃないから勘違いしないでくれ、零。お前・・今日不思議な出来事がなかったか?」
「え?」
「どうなの?」
「あったよ・・・ロックマンがどうとか」
ロックマン、その単語を聞いて両親はやはりという表情になった。二人は何かを知っていると確信を持った上、次の言葉を待った。
「零、落ち着いて聞いて頂戴。貴方はロックマンになるべくして生まれたのよ」
「はぁ?何言ってんだよ?」
「お前のポケットに入っているソレが、何よりの証だ」
「え?」
ポケットを確認すると会話をしていたライブメタルが、いつの間にか入っていた。恐らくは帰る時、背を向けた時に入ったのだろう。
「父さん、母さん・・・俺どうすればいいんだよ」
「決めてあげる事は出来るけど、それは貴方の答えじゃないわ。よく考えて自分で答えを出しなさい」
「父さん達はお前がロックマンだろうと自慢の息子に変わりはない」
部屋に入り、自分がロックマンとして戦う運命なのだと。じゃあ、あの夢はその記憶なのか?そう考えればつじつまが合う。
選ばれたのだから戦え、そんなことを言われても決意がつかない。今まで生活してきた中で戦いとは無縁でケンカくらいしか争ったことはない。
「もう一度、行ってみようかな・・・」
零の頭の中には束と出会おうとする意志が、少しだけ芽生えてきていた。彼女にまた会えれば何かが変わるかもしれないと信じて。
青野くんに自覚はありませんが、彼はロックマンとして持つべき優しさと強さ持っていますが、発揮されるのはまだまだ先です。
次回は鍛錬編。
ロックマンとなるべき必要な訓練を施されます。ファーストアーマーが目覚めようとしますが、予兆です。
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序章3 強さの意味
ある欠片を入手していた束。
翌日、両親から俺の出生を詳しく聞かされた。俺は人工生命でも培養された訳でもなく、一般的な方法で生まれたそうだ。
つまりは母がお腹を痛めて産んだ子供だという事に変わりはないと、父さんが言ってくれた。
ただ、違っているのは俺の遺伝情報、難しすぎて全部は理解出来なかったが、俺の遺伝子配列の中に希に発生する因子があったそうだ。
世界中の人口を分母として考えても、かなりの低確率だそうで、平和を脅かす驚異が現れた時に、発生するのだという。
そんなゲームやアニメみたいな話が、と思っていたが、機械の反乱があったばかりなので信じない訳にはいかない。
両親に篠ノ之束に出会った事を話して、いつの間にかポケットにあったライブメタルを見せると、納得したように頷いていた。
「母さん、父さん。俺・・・今も何が何だか分かってないけどさ。束さんの所にもう一度行ってみるよ」
「そうか、無理して戦えとは言わない。もしも大切なものを見つけたら、自分自身が戦わなきゃならんぞ?」
「大切なもの・・・」
「私達の大切なものが零、貴方よ。貴方自身も見つける事が出来るはず、訓練用のデータを渡すから、その人に見てもらいなさい」
「うん、ありがとう・・母さん」
両親が科学者だって事に驚きは隠せなかったけど、それでも俺の大切な家族だ。この家族を守りたいのが、俺の素直な気持ちだけど、今はそれを大切にしようと思う。
◇
昨日と同じ場所に例のカプセルはあった。再び中に入ると全く変わらない場所に転送される。
中へ入ると、胸が大きく、機械のウサ耳を着けた女性がだらしなく寝ている。食事もまともに取っていないようなので、厨房を勝手に借りて料理を始める。
この手の人は普通に起こしても意味がない。勝手に厨房を使うのはいけない事なのだが、食事の匂いが一番効果的だと思った。
「食材は揃ってるのに・・・」
こう見えて、料理は好きだ。母さんから教わったり、自分で作ってみたりと美味しいものを作れた時の嬉しさと楽しさは、面白さにつながるから。
生姜を擦って、キャベツやニンジン、ピーマンなどを食べやすい大きさに包丁で切り、あり合わせで作ったソースと共に豚肉を炒める。
焼き物特有の匂いが束の鼻腔をくすぐり、意識が覚醒していくがまだ起きる気配はない。零はお構いなしに今度は白米を水で砥ぎ、汚れをある程度まで落とし、水とお米の入ったお釜を炊飯器にセットしてスイッチを入れた。
「さて・・・起こし方は」
早炊きにしたのですぐにご飯は炊ける。だからこそ、束を起さなければならない。零は束に囁く。
「美味しいご飯が待ってますよー」
「へアッ!?」
美味しいご飯とイケボで聞いた瞬間、束は一瞬で覚醒した。まだ少し、寝ぼけているようだが、零の事は少しだけ思い出せたようだ。
「君は・・・昨日の」
「はい、勝手な事をしましたがご飯を用意しましたよ」
その宣言が完了すると同時に、ご飯が炊けた事を知らせるアラームが鳴り響いた。それと同時に零は再び、厨房に向かうとお味噌汁を作る準備を始めた。
かつお節を削り、昆布から直接ダシを取ったお味噌汁。手間はかかるが、その分の美味しさは感動できる程だ。
具材のネギと豆腐を切って投入し、味噌を溶かしてゆっくりと鍋の中をかき回していく。
食欲を唆る和風の匂いが束の鼻腔を再びくすぐり、腹の中の虫が限界だとアピールするかのように鳴った。
「少し待ってて下さいね」
先ほど作った野菜炒めをテーブルに置き、炊きたての白米、出来たてのお味噌汁。そして、喉を潤す麦茶を準備する零。
「あ・・・あああ・・・」
「どうぞ、食べてください」
「頂きまーーーーす!!」
ものすごい勢い、それしか言葉に出来るものがなかった。どれだけお腹が空いていていたのだろうと思ってしまうくらいだ。
二合炊いたお米は空になってしまい、お味噌汁も完食、麦茶まで飲みきってしまった。
「けふぅぅ・・・いやー、ありがとうね。美味しかったよ!!」
「ああ、いえ・・・」
俺は内心、失敗したかなと思っていたが、満足そうに言われては何も言えなかった。
一息着いたのか、こちらに向き直ると話しかけてくる。
「昨日は勝手に帰っちゃったけど、今日は何のようかな?」
雰囲気的には怒っているのだろう。だが、ここで退く訳にはいかないと、母から預かったUSBメモリを渡すことにした。
「?メモリ?確認してみるよ」
束は確認用の端末を取り出すと、メモリを刺して中のデータを確認し始めた。時折、ふんふん、なるほどね、などといった納得しているような声を出している。
全てを見終わった後、束はメモリを引き抜いて壊してしまった。零は何かを言いかけたが、束がそれを止めている。
「君のお母さんからのメッセージに、見終わったら破壊して破棄するように動画で入っていたよ。なかなか優秀だね」
「・・・それで、母さんは何と?」
「君を鍛えて欲しいそうだよ。ただ、私のやり方は敵を徹底的に潰すやり方なんだ」
『それでは、破壊を楽しむだけになってしまう。俺も手伝うよ』
声が聞こえてくる方へ視線を向けると、ライブメタルのモデルXが話しかけてきていた。
彼の意志はロックマンそのものだ。本来なら別人のはずが、なんの因果か、このライブメタルには本人の意思が宿っている。
「先ほどのデータにVR訓練用の物があっただろう?それを使って欲しい」
「わかったよ。!なるほどね・・・これは確かにいい訓練になりそうだ」
そのVR訓練とは、並行世界のエックス自身が戦ってきた八人の特A級ハンターを全員倒せというものであった。
今の零の力は新米B級ハンター、一般兵クラス。エックスやゼロは言うに及ばず、特A級ハンターと戦っても勝てる見込みはない。
最初のステージであるシティ・アーベルのハイウェイ。ここで訓練をする事になるようだ。
「VRステージの準備が出来たよ。ただし、完全に入り込む仕様だからナノマシンを注射しておくね」
USBメモリに入っていたのは訓練用のメニューと、零を鍛え上げて欲しいという内容のビデオメッセージであった。
『あの子が希望になる。でも、今はその力が目覚めてはいない。戦闘に耐えられるくらいにまで鍛え上げて欲しい』
科学者である自分達は理論を打ち出すことは出来ても、戦闘までは上手くいかない。篠ノ之束の噂は耳にしており、彼女ならば戦闘訓練をバージョンアップさせたメニューを作り出せると考えたのだ。
その結果が、このVR訓練である。先程注射したナノマシンは肉体衰弱を停止し、排泄物質を分解するためのものだ。
ここへ来た時と同じ、カプセルの内部へ入るとハイウェイの一角に立っていた。
◇
「ここは・・・?」
『これから君をサポートするために、俺を身につけて戦ってもらうよ』
「どうやって?」
ライブメタルエックスが周りを浮遊しつつ、零の手に収まる。信号のように目の辺りを光らせて会話を続ける。
『ロックオン、エックス。と俺を手にしたまま叫ぶんだ』
「ロックオン!エックス!!」
ライブメタルエックスを手にしたまま叫ぶと、全身が青い光に覆われ、装甲が装着されていく。
その姿は自分が夢で見ていた青い英雄の姿と全くの同じであった。
「これ・・・俺が夢で見ていた姿と同じ」
『今の状態はダッシュは不可能、チャージショットは一段階まで、基本的な能力しかない』
「そんな・・・」
『今は弱くても、強くなっていけばいい。けど・・忘れないで欲しい・・戦いに慣れていけば慣れていく程、君の心は何も感じなくなって、戦いに疑問を持たなくなるだろう・・だから、戦いは何故起こるのか?自分が戦うのは何のためなのかを、忘れないでくれ』
エックス自身、戦いに慣れていく自分が恐ろしくなっていった。戦いになんの疑問も持たない、イレギュラーだから倒さなればならないという使命感が、いつしか行動目的にすり替わっていた。
自分は正義のために戦っているのに、平和が来ない。一体、何人もの同胞を殺せば戦いは終わるのかという疑問だけが残っていった。
ある未来では自らの肉体を封印の鍵にし、ある未来では冷酷な戦士となり、ある未来では記憶をなくして理想郷を目指した。
どれも有り得たかもしれない未来。だが、このエックスは親友と共に懐かしい未来へと至れたエックスであった。
「エックス・・・改めてお願いするよ俺を鍛えて欲しい」
『君は何のために戦うんだい?』
エックスから問われる最も難しい質問。零は、今の自分が答えられる答えをエックスに答えた。
「俺は・・・今の俺は守るだなんて大きい事は言えない。今は強くなって、盾になる」
『強くなる過程で修羅場を経験する事になるかも知れないよ?』
「それでもいい・・・絶対に正しいなんて事は有り得ない。よく母さんが言っていた言葉だ。だから、もしも、道を間違えたら・・エックス、俺を止めて」
『分かったよ、今の答えがそれなんだね。行こう』
ハイウェイを登っていく零はエックスのアドバイスを聞きながら、武装であるエックスバスターの扱い方。三角蹴りの方法などを身に付けていった。
◇
「よし、訓練の経過は順調だね」
束はカプセルから目を晒すと、ISを開発した際に応用して開発した、拡張領域の入れ物からとある鉱石を取り出した。
その鉱石は束特性の封印が施されており、まるでただの石にしか見えない。だが、不思議な力が宿っているかのような輝きを持っていた為、とあるIS研究所から気になって回収していたのだ。
「この不思議な石・・・一体何だろう?ものすごい力になるような気がする」
その鉱石はライブメタルに近いようではあるが、詳細は分からない。スキャンしてもデータ不能とばかり表示されるため、解析もできない。
「ん?」
不思議な石から何かが光ったように見えたが、束が気にする事はなかった。その光の内容はこうである。
[我は・・・メシア・・・なり]
この作品のエックス達の意志は岩本版が基準です。ですのでどこか非常に人間臭いです。
姿のイメージも岩本版だと考えてください。
次回はライドアーマーに初めて乗ったレプリロイドが出てきます。助けに来るあの戦士。
マーティも登場予定です。
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序章4 戦闘開始
初めて出会う紅き戦士
訓練用VRによるハイウェイ、そこで零はエックスの姿となり先へ進む事にした。
歩く事、ジャンプする事、バスターによる反撃、チャージショット、壁蹴りによる三角蹴りなどの基本の動きを少しずつマスターしていく。
空中の敵であるクラッシャーや地上の敵を倒していくが、チャージショットの反動に飛ばされたり、痺れたり、ダメージを受けてしまったりなど、かなりの苦難であった。
「うう・・・エックスはこんなに大変な戦いをしてきたのか?」
『ああ、けど・・これが始まりにすぎないよ』
エックスの言葉には重みがあり、零にとっては聞き漏らしてはしてはいけなような気がしていた。敵を一体ずつ倒す事で、バスターの反動に腕を慣らしていく。
「はぁ・・はぁ・・」
車のようなものに乗り込んで、銃撃してくる敵、ロードライダーズを時間短縮のために向かう方向へと向けた状態のまま倒し、屋根に乗ってそのまま進んだ。
所々、小さな爆発や火花が出ているが、壊れる寸前、ジャンプで離脱し先へと進む。先へ進んでいくと上空から轟音が響き、先程の敵が後下して出撃してくる。
チャージショットや連射を駆使して、なんとか六体もの敵を倒すと、移動要塞のハッチから何かが飛び降りてきた。
◇
それはライドアーマーと呼ばれ、本来、土木作業やレプリロイドの力を持ってしても持ち上げられない大型の荷物、解体工事などに使われる物であるが、それを戦闘用に強化チューンと改造、カラーリングを紫に近い黒に変えられた特別製であった。
「エックス、あれは?」
『アイツはVAVA(ヴァヴァ)。元A級のイレギュラーハンターであり、あのマシン・・ライドアーマーを初めて動かしたレプリロイドだ』
「お前はエックスか、だが・・今のお前は実につまらん」
VAVAと呼ばれたレプリロイドはライドアーマーのダッシュを使って接近し、ライドアーマーの拳で殴りかかってきた。
なんとかジャンプで避けるが、今度は特殊な方法のブーストで殴りかかってきた。これを避ける事は出来ず、当たってしまう。
「うぐぁ!?このォオオ!」
バスターを連射したり、チャージショットを連発したりするが、VAVAのライドアーマーには傷一つついておらず、逆に反撃されてしまい殴られ、肩に背負ったキャノン砲の特殊弾で動きを封じられてしまう。
「ぐ・・・動けな、ぐあっ!?」
「お前がレプリロイドの可能性らしいが、俺には興味はない」
「ぐあああ!?」
握りつぶされそうな瞬間、遠距離からチャージされたバスターのような閃光が、零を掴んでいたライドアーマーの腕を吹き飛ばした。
◇
「だれだ!?」
「やれやれ、可愛い後輩をそれ以上いじめるなよ」
「ゼロか、お前も楯突くのか?」
「お前が喋っていいのは一つだけだ。シグマはどこだ?」
ゼロと呼ばれたレプリロイドはVAVAにチャージしたバスターの銃口を向ける。だが、VAVAは笑ったままで答えようとしない。
「くくく・・・教えると思ってるのか?あばよ」
「待て!」
チャージショットを放つが、VAVAは移動要塞に乗って撤退してしまい、分が悪いと思ったのかゼロはバスターを降ろした。
「ちっ・・俺一人では手に負えない、か」
上空を見上げていると、エックスの姿となっている零が呟いた。
「く・・・くそう!。俺では奴らに勝てないのか」
「エックス、今のお前では奴らを倒す事は出来ないだろう。だが、お前は戦いによって能力を高める力がある。その力で、お前はもっと強くなれるはずだ」
ゼロの言葉は零の心に深く響いた。戦いによって能力を高める力、それはロックマンの絶え間ない成長の可能性を意味している。
「エックス・・・死ぬなよ・・・」
それだけを言い残すと、ゼロは転送装置で目的の場所を見つけるべく、何処かへ行ってしまった。一人残された零はゼロの言葉を思い返していた。
「戦いの中で強くなる・・・でもそれって・・・」
『零、君の疑問も最もだよ。だけど・・・ゼロは戦う事で守れるものがあると教えてくれたんだ。不器用で口下手だから、うまく言えないだけだよ』
「・・・」
エックスはエックスなりに慰めてくれたのだろう。本音を言えば、戦いは怖い。この訓練からだって、零は逃げ出したくて仕方ないのだ。
だが、逃げる訳にはいかない。こんな自分を信用してくれた人達がおり、何よりも自分に戦う事の意味を教え、その答えを見せなければならない存在、エックスがいるのだから。
「先へ行こう。ボロボロになっても休む事位はできるだろうし」
『この訓練を乗り越えれば、君は本当に強くなったと自覚する事ができるよ』
ハイウェイから離脱し、本部と呼ばれる建物へと帰還する。エックスのままの姿だが、このVR世界では変身を解く事が出来ないのだ。
「エックス、アラスカの雪原基地にイレギュラーが、占拠しています。大至急向かってください!」
「了解」
『訓練どころじゃなくなってきてるね』
「いいさ、自分を鍛える良いチャンスだよ」
『前向きなんだね、俺も見習わなきゃ』
零は走りながら、エックスと会話しつつ、指定された場所へと大急ぎで向かっていくのであった。
短いですが、此処までで。
このまま8大ボスまでやると序章だけでかなりいくので、ここで切ります。
次回は入学編です。
パワーアップアーマーはデータとして入っている設定です。零が悲しみを乗り越えたり、強くなったりすれば獲得します。
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第一話 試験と託された四つの力
並行世界の謎の老人から託される。
数ヵ月後、VR訓練を全て終える前に、期限である入学式の日が来てしまった。本来ならば、8人の特A級クラスのハンターを倒しているはずだったが、零が戦闘の素人である事や、装着に慣れない事もあって時間ばかりが、かかってしまったのだ。
「仕方ないね。私からの推薦状は送っておいたし、向こうから送られてきた試験はパスしているから大丈夫だよ」
束の手回しは素早く、推薦状をIS学園へ送り、学力試験はエックスと束によって教育されていた為に、申し分なしであった。
ただ、零自身も自分の中で何かが、おかしいと感じ始めていた。その理由が、戦闘訓練時にあった。初めて戦う相手に対し苦戦するのは当たり前の事なのだが、時間が経過するにつれて相手の動きが、自分の中で理解が出来てしまうのだ。
エックスによれば、自分が特殊武器と呼ばれる相手の能力を使えるように、零がおかしいと訴えた能力は親友の能力と同じだそうで、その親友は相手の技を記憶してしまう力があるそうだ。
その能力はラーニングというらしく、日本語で言えば学習能力だそうだ。特に戦闘において、これほどまでに厄介な能力は無いと束から説明を受けた。
「具体例を出せばね?剣が得意な相手に対して、その相手の動き、癖、技を出すタイミング、何が得意で何が苦手か、それを全て、戦闘中に相手が学習してたらどうなると思う?優勢だったのが、次第に劣勢になっていって最後には絶対に勝てなくなる。それだけ、学習能力というのは厄介なんだよ」
「なるほど、それが俺の中で出てきたと?」
『まだ、欠片ほどだから・・動きぐらいしか見切れないみたいだけどね』
「十分すぎるよ!完全に目覚めたら誰も勝てなくなる!!」
束が大声を上げてしまった。それ程までにラーニングは驚異的な力なのだろう。だが、零はここで一つの疑問が浮かんだ。
「エックス、その親友の名前って何?」
『名前かい?名前はZERO、ゼロだよ。コードネームに近いけど皆、そう呼んでいたよ』
ZERO。自分の名前の読み方を変えると同じ発音になる。偶然だと思うが、エックスといいゼロといい、夢が現実になってきている事が、零にとって恐ろしかった。
◇
束の発明であるカプセルによって転送され、IS学園の校門の前に零は立っていた。ライブメタルも手元に有り、連絡もされていたようで、警備員の人に事情を話し、校内へと向かった。
『零、もしかしたら・・・だけど、ゼロが目覚めるかも知れない』
「ゼロって・・・エックスの親友の?」
VR訓練時に自分を助けてくれた紅き戦士。それが目覚めようとしているとエックスが訴えている。だが、その意志を宿すライブメタルは未だ発見されてはいない。だが、エックスは感じていた。あの闘志を、ともに戦い抜いたあの姿を。
「でも、まだライブメタルが無いよ?」
『今じゃないからね、きっと学園での生活が始まる頃には・・・っ!?』
エックスが声を押し殺して、警戒を強めた。それ程までに警戒する相手が近くにいるのだろう。零は向かい側から歩いてくる人物の顔を見るために視線を向ける。
現れたのは織斑千冬。このIS学園の教員であり、またISの世界大会の覇者でもある。エックスはライブメタルである事をアピールするかのように声を押し殺し、警戒を解かないまま千冬を見ている。
「?エックスは一体・・何を警戒しているんだ?」
「お前が話に聞いていた束からの推薦者である。青野零か」
「はい、よろしくお願いします」
礼儀作法などは、両親共に化学者であろうと厳しかったので、しっかりと仕込まれている。千冬は零を一瞥すると。
「力のない者は、ここには居られんぞ」
この一言で、この人物はエックスから学んでいた力の信奉者だと零は理解した。力さえ、力さえあれば全てが手に入ると信じて疑わない存在。
金銭も、名誉も、仕事も、愛情すらも力が無ければ手に入らない。そんな危険な思想に近い考えを持っていると。
理解した上で、彼は接し方を変えるつもりはなかった。力を信奉しているのは千冬自身、自分が変えようとしても、変わらないのが当然だ。何故なら人は感情を持っているから。
己の信奉するもの、己が譲れないもの、それらを変える事は出来ない。それが出来るとすれば、それこそ幼い頃より教育していくか、洗脳して強引に変えるくらいしかない。
しかも本日、知り合ったばかりの相手だ。零はあくまでも教員と生徒としての態度を崩さないよう、気を遣った。
「その力のあり方を教える場所でしょう?ここは」
「口だけは一人前だな」
つい、零は口に出してしてしまったが、千冬自身も軽く流していた。相手にする人間が多いために自然と身につけたのだろう。
「では、山田教諭と戦ってもらう」
用意された打鉄を身に纏い準備する。ライブメタルのエックスにはIS形態も組み込まれている為、束から練習用の機体で訓練を受けていた。
まさか、実技試験であの時の訓練が生かされるとは思ってもみなかった。
「今回は試験ですから、真剣に望んでください」
「分かりました」
「では、始め!!」
◇
[制空の銃撃者・VS山田真耶](ロックマンXのボス決定デモBGMあり)
異名のようなものが表示され、戦闘が始まる。自分と相手のライフゲージ、正確にはシールドエネルギーの数値が表示される。
真耶は得意とするマシンガンで、零を狙ってくる。IS形態とロックオン形態では勝手が違うが、弱めのブーストを使い、内蔵されているアサルトライフルをセミオートに切り替え、一発一発を正確に撃って反撃する。
「!きゃっ!?狙撃・・とは違いますね。狙いが正確ですが、遊撃に近いもの・・」
真耶は始め、零の実力を何処かで侮っていた。開発者である篠ノ之束の下に居たそうだが、助手として働いていたのだと考えていたが、その考え自体が甘かった。
「!そこだ!」
ブレードは多少ぎこちないが、射撃に関してはかなりのレベルだ。何よりも本当にISでの戦いが初めてなのかと、疑いたくなる程の集中力と判断力、そして何より戦い慣れしている様子が驚愕に値するものであった。
◇
「はぁ・・は・・・強い」
第三者からすれば、食い下がっているように見えている戦いだが、零は精神的に追い込まれていた。そう、強敵との戦闘経験が圧倒的に不足している。VR訓練での特A級の8人のハンターとの戦いは、強敵との戦闘経験を積ませる為に、行われるはずであった。
だが、そこまでの実力に到達出来ず、時間だけが過ぎてしまい、微かに覚醒したラーニングとエックスから教わった基本戦法しかできない。
しかし、彼自身が気づいていないが真耶の動きに少しづつ対応していた。銃撃のタイミング、グレネードを取り出す僅かな時間ロス、苦手としている距離から離れようとする動き。
これらを零は少しずつ学習し、真耶を追い込み始めている。だが。
「時間切れだ!」
千冬からの一言で、戦闘が終了してしまった。これはあくまでも試験、本当の戦闘ではない。悔しさが残る戦いではあったが、真耶が笑顔で声をかけてきた。
「零くん、すごいですね・・!私の動きに対応して来るなんて、流石に焦りましたよ」
「いえ・・」
「ああっ、落ち込まないでください・・!試験は間違いなく通りますよ!」
真耶は少し動揺しながら話しかける。零が落ち込んでいると思って慰めようとしているのだろう。
「気にしていませんよ、大丈夫です」
そう答えた後、千冬が二人の近くへと歩いてくる。彼女は彼女の仕事があるのだろう。真剣な顔つきで零に話しかける。
「試験の結果は正式に通達する。あくまでも形式上だがな」
それは合格していると言っているようなものだ。零は頷いて肯定の意志を見せると帰宅の準備を始めた。
「青野、お前は・・いや、何でもない」
「そうですか、では・・失礼します」
「ああ、気をつけてな」
彼が居なくなると、千冬は自分の中の鼓動を聞いていた。何かがおかしい、自分の中で何かが彼と引き合っている。
彼女自身の中にある何か、それは何重にも封印された破壊神の因子である。その因子は零自身から芽の出た学習能力に引き合っていた。
「青野零・・・か。お前は私の相手に足る者か?」
◇
零は帰宅する途中、電車の中で座席に座っていると急激な眠気に襲われ、そのまま眠り込んでしまった。
「零くん・・・やはり君の因子は目覚めてしまったようじゃな。出来れば君には平和な日々を送って欲しかったのじゃが・・これも運命なのか・・」
「貴方は・・貴方は誰なんですか!?一体何を言っているんですか!?」
「わしは、トーマス・ライト・・君の居る世界とは違う世界の住人で、エックスの生みの親じゃ」
「エックスの?」
トーマス・ライトと名乗った科学者は若い印象はない。老齢だが、心優しく平和な未来を望んでいる事だけは零もわかる。
「君に託すものがある・・」
そう言ってライト博士は、眠っている状態のライブメタルに手をかざし、なにかのデータを与えてくれたようだ。
「わしが遺した四つの力・・・エックス用の強化アーマーを君に託す。だが、アーマーにはプロテクトがある。君自身ならそのプロテクトを外すことが出来ると、信じているよ」
彼の体は次第に光に包まれていく。零は聞きたい事が山ほどあるのに、それを許してはくれなかった。
「ま、待ってください!プロテクトとか、アーマーとかって一体!?」
「強化アーマーは進化を掴み取る力。だが、それは危険な力でもある・・君が己自身の傷や悲しみを乗り越えた時、アーマーは形を変えて応えてくれるじゃろう・・この世界を・・救っておくれ」
ライト博士はそれだけを伝えると光となって消えてしまった。零は目を開けると目的の駅に到着しており、立ち上がって電車から降り、改札を潜った。
「ライト博士・・・・」
あの会話は夢であって夢ではなかった。その証拠として、エックスのデータに?????と表示された四つの項目があったからだ。だが、それ以上に零はエックスに聞きたい事があった。
「エックス・・・千冬さんが現れた時に警戒していたよね?あれは一体、どうして?」
『彼女からは・・・何か非常に危険なものを感じたんだ・・それに思い出したくない戦いを思い出しそうで怖かった・・』
「・・・」
零は何も言えなかった。下手な慰めはエックスを傷つけるだけだろうと思ったからだ。同時にエックスが千冬に感じた非常に危険なものとは、一体何なのか?それだけが彼の中で渦巻いた。
「とにかく、束さんの所へ戻ろう?メンテナンスしてもらわないと」
「ああ、そうだね」
二人は会話を切り上げると、巧妙な迷彩を施された束のカプセルの中へと入って行き、研究所へと戻るのであった。
謎の老人イベント発生です。ですが、まだアーマーは解禁されていません。
[蒼き雫の狙撃者]
[衝撃の鉄甲龍]
[疾風の遊撃士]
[豪雨の黒戦兎]
これらの四人を倒せば解禁されます。異名はメッセージや活動報告でも募集しています。
ロックマンXのボスって異名がありますが、あれってすごいですよね。
豪速拳の雷王とか時空の斬鉄鬼とか
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第二話 半有機物質の残滓
ゼロのライブメタルが発見される。
ある外伝アーマーを一時的に装着。
入学試験から二ヶ月後、零はIS学園の教室にいた。合格通知は正式な物が送られ、入学まで蓄えられるだけの知識を蓄える事にしたのだが、日数が足りずに入学式を迎えてしまった。
「最先が不安だなぁ・・・」
零の制服は男物だが、若干改造して動きやすくしている。すぐにでもロックオンできる状態にする為にライブメタル用のポケットも増やしてある。
エックスとの会話は脳の電気信号を介して、無言でも会話出来るように束によって処置されている。エックスの方はメンテナンスや基本能力を若干の開放出来る程度の改造しか、束でも出来ないそうだ。
改造は改造でも、本来は左手のみのバスターを右手でも変形出来るように出来るようにしたり、ビームセイバーを扱えるように出来るようにするだけだ。
これだけでも、科学者としては相当なレベルだが、エックス達が居る世界のオペレーターの一人、エイリアの解析レベルにまでは至っていない。
束は零が見せてくれたアーマーのデータから再現、開発しようとしたのだが、ブラックボックスが多すぎる事と、四つのパーツの能力のうち一つしか、再現できなかった。
故にライト博士やワイリー博士の技術力と科学力、頭脳の偉大さに感服せざるを得なかった。
◇
入学式が始まっている時刻、束は自分の住処として改修した研究所で、ISに意志を持たせられないかという早急に移っていた。
ISの身体と心臓の開発は可能だが、心を持たせる事が自分には出来ない。ライト博士は素直で純粋な心を、ワイリー博士は口が悪くとも不器用な優しさを持つ心を、自分の開発したロボットに持たせていた。
だが、どうやっても自分の力では心を持たせる事が出来ない。エックスのデータも参考、流用しているのに意志を見せてくれない。
「どうして!?どうしてなのかな・・心を持たせてあげる事が出来ない!」
『本当に持たせようとしているのか?』
「!?」
束が振り返るとそこにはエックスと似ているが、形状の違うライブメタルが形となって現れてきたのだ。
「お前・・・誰だよ!?」
『俺の名はゼロ。エックスがこの世界に来ていると聞いてな?この鉱石に俺の意志を宿らせたんだ』
「ゼロ?エックスが言ってた・・・親友であり最強の戦士だっていう?」
『やれやれ、エックスの奴、余計な事を喋ってたみたいだな』
束の疑問はゼロの出現により霧散してしまったが、それ以上にライブメタル状態のゼロに二つほど、頼み事があった。
「ねえ、ゼロ。お願いがあるんだけど?」
『なんだ?』
「心の持たせ方を教えて欲しいのと、君の戦闘データが欲しいんだ」
『前者は教えられるか分からんが、後者は理由を知りたい』
束は正直に戦闘データが欲しい理由をゼロに伝えた。この世界はシグマウイルスとオメガウイルスの両方が、ゼロ達の居る世界からこちらに侵略してきており、今現在は停戦状態と同じで、いつ侵略を開始するかわからない状態だというのを伝えた。
更には、この世界において、エックスに選ばれた男の子の手助けもして欲しいと。
『エックスが選んだ奴か・・良いだろう。戦闘データを渡したらそいつの元に転送してくれ』
「了解したよ」
束は戦闘データ(XからX4までのデータ)を受け取ると解析を始めた。エックスと互角のパワーを持つバスター、並みのレプリロイドでは、両手でないと扱えない高出力のビームセイバー、バスターと同じ回路を併用する最強の必殺技、アースクラッシュ。どれだけの力を持っているのかと驚く事ばかりで解析を進めていった。
零と合流した際、彼のISのデータを更新させるのと同時に、ゼロモードを解放するパスをゼロが宿るライブメタルに仕込んで転送を開始した。
「それじゃ、よろしくね」
『ああ』
「ゼロとエックス・・・この二人、戦う事になるのかも・・」
束は解析していく中で、ゼロの本来の用途を見てしまった。それを目覚めさせる方法も。だが、それを振り払い、ライブメタルMの寄り代となる鉱石を探しに出かけていった。
◇
場所は戻ってIS学園。自己紹介を終え、クラス代表・・つまりはクラス委員を決める事を千冬から促され、クラスメート達は物珍しさで一夏を指名し、指名された一夏は断る事が出来ないと千冬から言われ、零を推薦し、それを良しとしないイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットが抗議を挙げた辺りである。
「このセシリア・オルコットに一年の間、屈辱を受けろとおっしゃるんですの!?そもそも、代表候補生でもない男が代表になるなど!訓練を受けていない極東の猿ごときが・・!」
ガァン!と思いっきり机を殴って大きな音を立てて、セシリアの言葉を遮ったのは零であった。セシリアの言葉は女尊男卑からくるものであったが、零はその事に怒ったのではない、自分の国を侮辱された事に腹を立て、言葉を遮ったのだ。
彼自身、愛国主義ではない。自分を育ててくれた両親、訓練を施してくれた束、出会ったばかりで縁としては短いが、教員である千冬や真耶も日本人である。
彼は自分に対して、見返りを求めずに手を差し伸べてくれたり、利益にはならなくとも付き添ってくれたりと、良くしてくれた人間に対しては恩義を返す性格であり、それを侮辱される事は、どうしても許せない事であった。
行動はやってしまったと反省し、セシリアに対して意見を述べるために視線を向けた。
「さっきから聞いていれば・・自分が優れた人間だって言いたいのは解るけど、国そのものを侮辱するなんて許せる事ではないよ」
「なんですって!?」
「少しは冷静になって考えてみてよ。君は周りに言ってたじゃないか、自分はイギリスの代表候補生だって、それはつまり、今、此処に居る君の言葉はイギリスという国そのものが、日本という国そのものを侮辱しているに等しいんだよ?」
「なっ・・・!」
零の言葉は正論だ。セシリアが自らをイギリスの代表候補生であると明言し、その上での日本国を馬鹿にする発言を先程までしていた。それはイギリスという国そのものが日本国に対して侮辱しているという言い方に捉えかねられない。
「少し調べたけど、IS学園は外国からの留学生も多い、だけど教師や学園長、生徒に至るまで殆どが日本人。今の君は一人で日本という国そのものに、争いの火種を投げ入れているんだ。付け加えておくけど、ISの開発者である篠ノ之束博士だって日本出身、その開発者がイギリスだけISを停止させてしまう事もありうるんだよ?そうなったら、君は責任を一人で負う事になる」
「ぁ・・う」
零の言葉にセシリアは徐々に顔を青くさせていった。自分の言動で国際問題にまで発展するなんて事は、考えてもみなかったのだろう。だが、先程の発言を冷静に考えてみれば、そう捉えられても不思議ではない。
自分の言動は、このクラスに居る男性操縦者の二人に向けてのつもりだった。しかし、現実には国際問題に発展しかねない言動であると、見知って間もない男に論破されてしまった。
許せない・・・。セシリアの中で怒りが沸いてくる。格下であるはずの男に論破されたなどプライドが許せなかった。
IS学園を調べたという零の言動は間違っていない。学園としての情報だけを調べれば、国際的に世界中から学びに来ている事を調べるのは簡単だったからだ。
「・・・決闘ですわ!青野零!貴方に決闘を申込みます!覚悟しなさい!」
「構わないけど、決闘という言葉を軽はずみに使わない方が良いよ?本当の決闘の意味は、どちらかの命が消える命がけの戦いの事なんだから・・。それとクラスのみんな、いきなり大きな音を立ててごめんなさい」
零が頭を下げて謝ると、クラスメート達は気にしないでなどの声をかけていた。そこへ一夏も話しかけてくる。
「あそこまでやる必要はなかっただろ?」
「ああしなきゃ、彼女は止まらなかった。仕方なのない事だよ」
「だけど!」
「この話は終わり、誰が代表になるかは対決になったんだから」
零から強引に話を切られてしまい、一夏はしぶしぶといった様子で自分の席に戻っていった。零は一夏に対しては警戒していた。何故ならエックスから要注意の警告をされたからだ。
エックス曰く『彼からはシグマと同じ気配がする』とのこと。
ずっと戦ってきたエックスだからこそ、シグマの気配が分かるのだろう。だが、ここは学園であり一方的に嫌うわけにはいかず、あくまでもクラスメートの一人、として接することにしたのだ。
「それでは、一週間後にアリーナが空いている。そこで決着をつけろ。それと織斑には専用機が支給される事になっている」
専用機と聞いてエックスは疑問に思ったが、データ収集の為だという結論に達した。ISは基本的に女性しか扱えない、その中で男性が扱える理由と共にデータを欲しくなるのは当然の成り行きと言える。
「エックス、訓練よろしくね?」
『うん、もちろんだよ』
◇
そして一週間の間、エックスと共に訓練を行い、戦いに備えていった。エックスのアドバイスで対戦相手のデータを調べることも忘れなかった。代表候補生は基本的に調べれば、簡単に情報は手に入るが、基本能力だけである。
特に未知なのが一夏の専用機だ。当日渡される事になる為に全く全容が掴めない。
「当日で、何とかするしかないか・・」
そう呟いて、束から貰ったエックスの基本データの見直しを始める零であった。
◇
そして、約束の日程。一夏は幼馴染である篠ノ之箒に何か、意見を言っている。聞き耳を立ててみると。
「なぁ、箒・・この一週間、剣道しかしていなかったんだが、ISに関することは?」
「・・・」
視線を逸らす箒に一夏は怒りの剣幕になりそうな声で叫んだ。
「目を逸・ら・す・な!」
「し、仕方なかろう!お前の腕が予想以上に落ちていたのだから!!」
「それは認める。だけどな・・?その合間にISの基本操作の勉強とか出来たんじゃないのか?」
「・・・(フイッ」
「だ・か・ら!目を逸らすんじゃねえ!」
どうやら、一週間の間に勉強を置き去りにされて、剣道しかできなかった様子だ。彼女、篠ノ之箒は一夏の隣に居たいという独占欲が強い印象を受けた。
恐らくだが、彼女の中で一夏に助けられたか何かで、彼自身に憧れか恋慕を抱いたのだろう。しかい、彼女はあの篠ノ之束の妹であるという認識から、周りに持て囃されかけていたのだが、彼女はそれを拒絶していた。それと同時に、自分が優位に立つ為に束博士の妹であると宣言する場面も目撃している。
『彼女は自立心が足りないのかもしれない。関係ないと言いながらも、その名前を利用する時点で、家族に甘えているという自覚が無い』
「そうは言っても、俺たちが注意した所で改める様子はないしね。織斑が説得すれば別だけど、その事に気付いているのかが問題だよ」
エックスは箒の心に対して足りない物を見抜いていたが、零はそれを指摘できないと言い放った。無責任ではなく、説得しても、本人に言葉が届かないのなら意味がないと言いたいのだ。
そう考えていると、真耶が息を切らし、その後に続く形で千冬がピットに入ってきた。
「来ました!織斑君の機体が来ましたよ!!」
コンテナの中にあったのは白い機体。だが、零には何か別の色に見えて仕方なかった。色盲という訳ではない、何かオーラのようなものが色を変えているような感じだ。
「これが、織斑君の機体!白式・Σです!」
やはりというか、当然の事である。エックスが感じているシグマの気配、それに追従する物があっても不思議ではない。
この世界での形が白式という事になるのだろう。
「すまんが、時間が押している。一夏行ってこい」
「ああ、行ってくる!」
意気揚々と千冬の送り出しを受けて、一夏はアリーナへと飛び出し、セシリアとの試合が始まった。一時は押されていたが、一次移行を完了させ、零落白夜という特性を得て逆転しようとしたが、エネルギー切れによる敗退。
試合を見ていた零は一夏の機体特性をエックスと共に考察している。機体特性は接近戦型、剣撃を得意とするという点までは零は考察できた。
『あの剣、恐らくはエネルギーを喪失させるのかもしれない』
「なんだって?じゃあ、あれに当たったら」
『人間ならば大怪我、機械なら装甲を切られてしまうね』
「・・・」
黙り込んでしまうと同時に千冬が彼らに近づき話しかけた。セシリアの方の準備が整って、待機しているようだ。
「青野、準備できているか?」
「ええ、このまま行きます」
そのまま、アリーナへ入る出入り口へ向かい戦いの場に姿を現す。姿を見たセシリアは零に対して強気な発言をしてくる。
「ISを身に付けずに来るとは・・許してくれということですの!?」
「いや、違うよ。ロックオン!エックス!!」
IS形態ではなく全身装甲モードであるロックオンを使い、身に付ける。それを見たセシリアは驚きを隠せない。
「フルスキンのIS!?」
「ん?なんだ?これは」
零は自分の体に違和感があった。身体の感じがおかしい、よく見ると全身の一部が薄く透けており、バスターの形状も違っていた。
これはクリアアーマーと呼ばれ、攻撃を吸収し修復する機能を持った特殊アーマーだ。だが、このアーマーはライト博士の開発した正式なアーマーではなく、敵の特殊物質が付着して変化した亜種のようなものだ。
「・・・クリアアーマーとハイクリアバスター・・・体力すらも攻撃力に変換してチャージショットを繰り出すのか、使いどころを見極めないと」
『まさか、リミテッドが残っていたのか?そんなはずは・・・』
エックスはわずかに覚えていた中に、リミテッドという言葉を思い出した。とある科学者が開発した半有機物質で取り込んだものを進化させるものであると。
「な、何ですの・・あの姿は!?」
「動きにくい・・・けど、やるしかないか」
[蒼き雫の狙撃者]ブルー・ティアーズ。との戦いの火蓋が切って落とされた。
メガミッションの要素を入れてみました。アーマー限定ですがw
さぁ、セシリアとのバトルが始まります。
クリアアーマーの特性を零は引き出せるのか?ライト博士の正式なアーマーを受け取れるのか?
次回にて
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第三話 WEAPON GET&YOU LEARNED
クリアアーマーを装着しているせいか、動きが極端に鈍い。セシリアは好機と見て、得意のライフル射撃を放ってきた。
「うぐっ!」
クリアアーマーは攻撃を無効化し、本体にも傷一つなかったが、衝撃までは相殺してくれる物ではなかったようだ。
「所詮は見せかけだけですわね!」
最早、怖い物と映らなくなったセシリアは果敢に攻め始めた。零の方はバスターのある左腕を動かすので精一杯だ。
「く・・そ・・・このクリアアーマー、別の意志があるかのように動かない・・!」
チャージが勝手に完了し、照準を合わせないまま発射されてしまう。その威力は、アリーナのバリアを貫通してしまい、上空へと登っていった。
その威力を目の当たりにしたセシリア、観客の生徒達は固まってしまっている。ハイクリアバスターの威力は、ISの攻撃を防ぐとされるバリアを貫通していったのだから無理もない。
「バ・・バリアを貫通させた?っ!行きなさい!!ブルー・ティアーズ!!」
セシリアは反撃させまいと、ライフルをフルオートに切り替え、ビットの攻撃と同時に狙い撃った。制御など考えず、ただ零を行動不能にさせる事だけを考える。
あの威力のエネルギー弾を受けたら、間違いなく自分は無事では済まさない。そうなる前になんとしてでも、倒しきると。
「倒れなさい!!」
「ぐあああああ!」
薄れそうになっていく意識の中で、零は何かの映像のようなものが、見えてきた。これはエックスの記憶らしく、自分がエックスの視点で見ており、声は出せずにいる。
◇
「おーい、マルスーーー!」
「?よぉ、エックス、どうしたよ?大声なんか出して」
マルスと呼ばれた体格の大きいレプリロイドが振り返って、こちらを見てくる。その目は澄んでおり、穏やかでありながら、誇り高い意志の強さもある。
「なんで、アラスカの13部隊になんかに行くんだよ」
「部隊長だぜ、喜んでくれよ」
マルスの言葉は、自分にとってハイテクすぎる都会の街は、自分には狭すぎる。大自然である大雪原でのびのびと仕事がしたいと。
◇
場面が移り変わり、今度はペンギンのような姿をしたレプリロイドに、自分が追い込まれていた。そんな中で、マルスがエックスに対し、本当の強さを教えた言葉が聞こえる。
「エックス、強さにランクなんて関係ないさ。勝敗を決するのに一番大事なのは自分に対する“誇り”だよ。つまり自分を信じる事さ・・!それが俺達、ハンターの武器なんだ!!」
最後に見えたのは、エックスのフルチャージバスターショットで敵ごと貫かれたマルスの姿だった。その顔には笑みが浮かんでおり、誇りを守り通せたと礼を言っている。
零は相手がどんなに強大であろうと、己に対する誇り、自分を信じる事こそ、最強の武器だという言葉を噛み締めた。
「俺は・・・俺は負けられない!世界の驚異を救うために!」
意識を覚醒させ、クリアアーマーの再生力と攻撃を無効化する力を最大限に発揮させ、攻撃を無効化すると同時に霧散させて消し飛ばし、代わりに今度はフットパーツに当たる部分が、白く変化した。
「!こっちだ!!」
「え?いつの間に!?」
ライト博士の正式な強化アーマーによって持たされた最初の能力、それはダッシュ機能であった。驚異的な瞬発力を発揮できるようになった零はバスターを連射し、セシリアに反撃する。
ハイクリアバスターではなく、通常のバスターの為に威力は低いが強化パーツの恩恵で、ハンデを感じさせない。
「な、何ですの!?もしや、イグニッションブースト!?」
「違う、ただのダッシュさ。慣れるのに少し戸惑ったけど、もう大丈夫!」
「な、きゃあ!?」
バスターからの連射でビットを狙い撃ちされ、破壊されてしまう。セシリアはライフルをフルオートからセミオートに切り替え、狙撃体制に入るが、それ以上に零の動きが素早く、当てる事が出来ない。
「な、なんて速さ!追いつけませんわ!」
『あの子、ひょっとしたら・・・動く相手に対しての訓練をしていないんじゃないかな?』
エックスからの一言に、零はもしやと考える。止まっている時に対しては強かったが、ダッシュを得てからは、極端に命中率が悪くなっているように見えたからだ。
「まさか?なら言ってみよう、君・・・もしかして、動く相手に対しての訓練して無いのかい?」
「!!」
セシリアの顔が図星を突かれたかのように、驚愕し動きが止まる。その隙を逃さずに一発だけ、チャージしていない弾を発射し命中させる。
「きゃあ!?」
「・・・エックスの予想は当たってるかもしれない」
零はその場で立ち止まり、セシリアを誘い込む。それを好機と見たセシリアは反撃のライフル射撃を撃ち放つが、ダッシュジャンプによる大ジャンプで回避され、落下速度を利用したバスターの連射を受けてしまう。
「う・・!」
背後に立たれ、バスターを背中に押し当てられてしまう。ブルー・ティアーズには緊急用の接近戦用武器であるインターセプターがあるが、この状況では通用する訳がない。
「降参してくれ、無闇に傷つけたくないんだ」
「降参・・する訳があるませんわ!!」
セシリアは振り返る瞬間、インターセプターを展開し、切りつけるがギリギリの所で身を引かれ、躱されてしまう。
『接近戦用のナイフ、だけど扱い慣れてないみたいだ』
「エックス、バスターじゃ・・」
『分かってるよ。Zセイバーを使おう。ただし、簡単な使い方しか出来ないからね?』
「十分だよ・・エックス。セシリアさん、その諦めない姿勢、流石だよ。だから・・改めて全力で倒す!」
バスターが解除され、その手には一本のセイバーが握られている。それはZセイバーと呼ばれるエックスの親友のゼロが使っていた武装だ。
「ビ、ビームを出力するセイバー!?そんなものが、出来ているはずがありませんわ!」
「行くよ」
本来、ゼロの武器であるZセイバーは、エックスモードでも扱う事は出来ても、基本的な切り技しか出来ない。
だが、出力だけは変わってはいない。それだけに基本的な斬撃だけでも強力な一撃となる。
「く!このわたくしが・・・下等な男などに!!」
『今の彼女は、イレギュラーに似たような状態だね・・』
「恐らくは大切な友人か家族を失って、更にはそれに付け込んで騙そうとした悪い人間にしか出会わなかったんだろうね・・何かを守ろうとして、自ら孤独になったんだよ」
『・・・悲しいね』
「それが人間の負の部分、見たくない部分なんだ。エックス・・」
セシリアの攻撃を捌きながら、彼女の心の内を二人は知り始めていた。失いたくない、もう何も失いたくないという思い、それだけが強く感じられるのだ。
「うわああああああああ!!」
泣きながら攻撃してくるセシリアのナイフを、ビームセイバーで弾き、セイバーをしまうとセシリアをブルー・ティアーズごと抱きしめた。
「もう、いいんだよ・・気張らないで良いんだ。自分を許してあげなよ」
「!・・・あ、あああ・・・わあああああああ!ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・私の負けです・・わ」
セシリアのギブアップ宣言により、試合終了のブザーが鳴り響く。それと同時にZセイバーが消えてしまった。デリートしてしまったのである。仮のZセイバーは、ゼロを呼ぶ呼び水としての役目を終えて消えたのだろう。
『セシリア選手のギブアップ宣言により、勝者!青野零!!』
◇
「ほら、もう泣き止んで。次の試合も残ってるから」
「はい・・ありがとうございます」
エックスはセシリアに見て伝えたい事があった。慰めではなく、どうしても自分が伝えたくなった言葉があったが、彼の言葉はセシリアには聞こえない。そこで。
『零、彼女に伝えてくれるかい?きっと君にも信じられる人が現れると。だけど待っているだけではでは出会えないって』
「わかったよ。オルコットさん、俺の相棒からの伝言だよ。きっと君にも信じられる人が現れる。だけど、待っているだけでは出会えない。だってさ」
「!!は・・い。それと、青野さん」
「なんだい?」
「これからは、わたくしの事、セシリアと呼んで下さいませ」
信頼の証といったところなのだろうか?自分の呼び方を変えて欲しいと、セシリアは言ってきたのだ。
「分かったよ。だけど、さん付けは止めないからね?」
「構いませんわ。後、申し訳ありませんでした」
「謝るなら、俺だけじゃなくクラスのみんなにもね」
「はい・・では」
◇
セシリアと握手した後に互いのピットへと戻っていく、戻る途中ライブメタルが僅かに輝き、何かが表示される。
[WEAPON GET Tears Bit][三機のビットが標的を自動攻撃。ビット自体にも攻撃力があるぞ]
[YOU LEARNED 青涙斬(せいるいざん)][斬撃を三つ、相手へと向かって放つ技]
どうやら、勝利した事で特殊武器とラーニングによる技を学習したらしい、それを確認しつつ戻ると同時に見物していた千冬が近づいてきた。
「良い、試合だった。だが、お前のISは謎が多い。一体どうやって手に入れた?」
「ISといえば、一人しかいませんよね?その方に作ってもらったんです」
「!そういうことか」
千冬が納得していたその時、零はいきなり誰かに胸ぐらを掴まれ、壁に叩きつけられた。突然の事だった為、僅かながらに呻く。
「うぐっ!?」
「青野!お前、なんで女の子を泣かせてんだよ!?」
「織斑?これは一体、なんの真似だよ?いきなり掴みかかってくるなんて」
「お前が女の子を泣かせたからだろ!?」
訳が分からない。試合をしていて悔し涙や感激の涙を流したりする事もあるだろう。ましてや、セシリアが泣いてしまったのは、自分が誰かに言って欲しかった言葉をかけられたカタルシス現象によるものだ。
一夏からすれば、零が泣かせてしまったように見えたのだろう。だが、零からすれば抑圧を取り除く戦いに目的が変わっていた。出来れば撃ち合いたくない、エックスモードによるエックスとの一体化で起こる優しさ、悪く言えば甘さの感情が出てくるのだ。
「彼女が自分で抑圧していた心を開放しただけさ。それが悪い事だっていうのか?」
「泣かせたことに変わりはねえだろう!」
一夏は零に殴りかかろうとしたが、彼は一つの存在を忘れていた。そう、担任であり自分の姉でもある千冬の存在である。
殴りかかろうとした腕を止められ、千冬の鋭い視線が一夏に突き刺さる。
「何をしている?それも私の目の前で暴力行為とはな?織斑」
「ち、千冬姉!?離してくれよ!コイツはセシリアを泣かし、うぐっ!?」
頭に落とされた強烈な出席簿による一撃、それも縦にして殴っている、これは相当痛いだろう。
「あれはオルコット自身が己の感情を止める事が出来なかっただけだろう?それを自分の印象だけで決めつけるな」
「だ、だけど・・!」
「・・・いい加減に青野を掴んでいる手を離せ。試合でケリを着けろ」
千冬の威圧感に一夏は観念した様子で、零の胸ぐらを掴んでいる手を離した。零は衣服を整え向かい側のピットへと向かっていく。
「青野!セシリアに謝らせてやるからな!!」
その言葉を背に零は振り替えず、ピットへと向かっていった。ピットへ到着すると顔を洗い始める。
冷たい水が怒りで沸騰しそうになった思考を冷静にさせてくれる。休憩のために長椅子は横になった。
試合時間限定とはいえど、長時間のロックオンに慣れていないため。疲労がたまってしまうのだ。
『やれやれ、エックスが認めた奴とは聞いていたが、情けないな』
「!?ライブメタルの声?どこから!?」
『目の前のロッカーの上だ』
そこにはひとつのライブメタルがこちらを見ていた。肉体を得ていればロッカーに背を付け、腕組みしつつ金髪を靡かせているだろう。
『!その声、ゼロ!?』
『ふっ・・久しぶりだな?エックス。もっともこの世界でならの話だがな』
「何だろう?ライブメタルなのに、この二人が揃ったら妙な嫉妬感と・・・着いて行きたいというか」
零自身も気づかない感情。それは憧れであった。彼らは友であり、最大の好敵手でもあり、因縁の強い相手でもある。
零にはそのような相手はいない。故に羨望が強くなったのだ。だが、これから見つけていかなければならない。
『零といったか?この学園のどこからか、シグマの気配を強く感じるぞ』
「まだ、わからないんだひょっとしたら・・・白式がそうなのかもしれないし」
『なら、次の戦いは俺が出撃する。良いか?エックス』
『もちろん、構わないよ。ただ、零のサポートはしてあげてね』
「分かった。行くぞ。零」
ゼロの意思が宿ったライブメタルは零自身の生体データを登録し、ロックオンを可能な状態にした。
『今の俺は蹴り技とバスターくらいしか武装はない。やれるか?』
「やらなきゃ無理でしょ?ロックオンのキーワードは?」
『ロックオン、ゼロだ』
二つ目のライブメタル、ゼロライブメタルを手にしつつ、零は次の対戦相手が待つ、試合場へと向かうのであった。
初の特殊武器、ラーニング技ゲットです。
白式はラーニング技が苦手な方向で行きます。
白式から特殊武器は得られませんが、ラーニング技は会得可能です。
次回にてゲット!?
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第四話 紅き衝撃
※今のゼロはロックマンX時代、まだバスターのみしか武装がない状態です。ですが、格闘戦はします。後、今回は「紅いイレギュラー」状態になります。
準備時間が終了し、戦いの場へと赴く零。まだロックオンはしておらず生身のままだ。
「来たかよ、青野。?何でISを展開してないんだ?」
「今からするよ。ロックオン!ゼロ!!」
零が装着されていく姿は紅き衝撃と呼ばれるハンター、ゼロ。その姿を模したものである。紅き鎧を全身に纏い、冷却用のフィンとしての金髪のような物を靡かせていた。
正式名称はゼロモードだが、今現在は更新がされていないため、装備はバスターだけしかない。
「!?青い姿じゃない?」
「俺のISにはモードがあってね。これは接近戦を主体とした状態なんだ」
「!」
零はあくまで、機能としてモードチェンジがあるのだと説明した。遠距離対応と接近戦対応のタイプに別れるだけだ。
「そんなはずがあるか!」
「ただ、対応プログラムを入れ替えるだけさ。卑怯なことは何もしていないよ?」
「っぐ・・!」
自分が言おうとした言葉を先に言われてしまい、一夏は言葉を飲み込んだ。零は確かに卑怯な事はしていない、それでも自分の目の前で女性を泣かせたことは許せない。
「俺はお前を絶対に倒して、セシリアに謝らせてやる!!」
「やっぱり、何を言っているのか分からないよ」
お互いに構えを取り、試合開始の合図を待つ。そんな中、白式の中である意志が一夏の意識を少しづつ、蝕んでいた。
『エックス、ゼロ・・・ならば私が出ねばなるまいな』
「っ?なんだ・・・今の声?」
試合開始となり、一夏は気持ちを切り替えて零へと向かっていく。瞬間加速を無意識に使用している点はセンスがあるという事なのだろう。
「!」
だが、零も負けてはいない。その特性故に真横へ避ければ簡単に回避となる事を零は調べてあった。
「ぐ!避けられた!?」
「試合やルール無用の戦いでも、相手の攻撃を避けられるなら避ける。基本中の基本でしょ」
『コイツは戦いというものを、なんだと思っているんだ?』
生粋の戦士であり、ハンターでもあるゼロは一夏の動きを見つつ、何かを見極めようとしながら思考の中枢を考察している。
元の世界において、あらゆるイレギュラー発生事件を解決し、特殊0部隊と呼ばれ、この世界の言葉で表すのならば忍び部隊と呼ばれる部隊の隊長を勤めていた。
それだけに相手の思考、性格を読むことに関してゼロは最も長けている。
「うおおお!倒れろおおお!!」
「そう言われて倒れる相手はいないでしょうに!」
雪片を振り下ろした瞬間に出来る僅かな隙を狙って、零はクロスカウンター気味に一夏の顔面へと拳を撃ち込んだ。
タイミングはゼロが見極め、合図を送ったのだ。訓練していたとは言えどこのような高等技術を零自身、出来るはずがない。それを知った上でタイミングを覚えさせる為にゼロはアドバイスしている。
「ぐふああああ!」
『イレギュラーハンターベースでの訓練で、この動きなら基礎からやり直しだな』
「厳しいんだね、ゼロは」
「ぐ・・負けられるか。俺は俺・・っ!?」
『眠っていろ、貴様には任せておけんわ!』
「っあああああ!?」
白式・Σの全身を薄い紫色に変わり、全く別の雰囲気を醸し出す。圧倒的な威圧感と実力、それは一夏の出せるものではない。
『フフフ・・・久しいな?エックス、それにゼロよ』
「な・・・?」
『シグマ・・!』
「これが・・?」
これがシグマ。素人でも解るくらい、そして初めて感じる邪悪な気質。そして圧倒的な実力、それら全てを兼ね備えている。
『今の私は欠片程度の力しかないが、零という小僧を始末するには充分だ』
「!」
「ぬおおおお!」
雪片ではなく、初期ボディ時代に使っていたビームサーバーの一撃で零を地面に膝を付かせてしまった。
「が・・・ぐ」
「ふふ・・」
「俺・・・は」
気を失いかけたその時、ゼロの意識が封印され、全身装甲の額にあるクリスタルのようなものが、輝き始める。
その輝きを見た千冬はその場で蹲ってしまい、零は目に輝きを失っていく。額の輝きの中に、ハッキリと浮かび上がる「W」の一文字が何かを目覚めさせようとしている。
「ん?」
「・・・・」
ゆっくりと立ち上がった零は、何も言葉を発しない。何かを見極めるかのようにシグマに乗っ取られた一夏を見ている。
「でやあああああ!」
零自身も突然、人が変わったかのように襲い掛かり、格闘戦を仕掛け始めた。だが、シグマの影響を受けている一夏はそれを見切り、避けてしまう。
避けると同時にその力を利用して、アリーナの壁と投げ飛ばすが、何事もなかったかのように、零は拳のラッシュを再び仕掛ける。
「うおおおお!」
「ふん、ぬおおおああ!」
「ぐあああ!?」
壁際まで追い込まれたが、零の片腕と頭を掴み、壁に叩きつける一夏。普通ならばこの時点で決着がついてしまう。
「く・・・くくく」
「ぬう?まさか、今のコイツは?」
「でやああ!」
零は壁から抜け出し、再びシグマに向かっていく。周りからは勝てないのだから、止めろなどの声が飛び交っている、しかし、この程度で戦いを止める訳がない。
シグマには今の零の状態が何なのかを思い出していた。このまま、今の零と戦い続けるのはマズイと。
その予想は的中しており、零は拳のスピードが先程よりも速くなってきていた。なんとか避け続けるのだが、躱すたびに相手が速くなっていく。
これが束の最も恐れた能力、ラーニングシステムの真髄だ。今の零は戦えば戦う程、学習していき、相手の癖、動き方。攻撃パターンを全て覚えてしまう。
『今の状態が、あの時と酷似している。早めに決着をつけねば!』
シグマにも僅かながらの焦りが見え始める。今の零はゼロでも零でもない、ただの「紅いイレギュラー」である。
ただ、ひたすらに敵対するもの、目の前にあるものを破壊し続けるだけの存在。であれば良かったのだが、彼は学習能力も備えているという非常に厄介な存在であった。
◇
「ぐ・・・うううう」
「織斑先生!?」
「だ、大丈夫だ」
胸元を押さえながら蹲っている千冬を見て、真耶は心配のあまり声をかけていた。己の内から溢れ出てくるこの感覚はなんだ?と。
紅いイレギュラー状態になっている零に対して、千冬は己の中にある何かが反応しているのだと考えたが、耐え難い疼きであった。
アリーナへと視線を向けた瞬間にそれは起こっていた。
◇
機械が砕ける金属音と共に、白式・Σの左腕が切断され破壊されてしまった。火花が出て、シールドエネルギーも削られていく。
「くくくく・・・」
「う・・うあああ!」
そこからはもう、一方的な蹂躙であった。片腕だけとなった白式・Σを容赦なく殴り続け、ついにはダウンを奪ってしまう。
零は白式の背に乗ると、残った腕をへし折れる態勢に変え、そのまま首を絞め始めた。その様子を見ていた女学生達は人殺しなどの単語を大声で叫んでいるが、聞こえるはずがない。
「ぐ・・・おおおおお!!」
「くく・・・アハハハハ!クハハハハハハハ!ッ!?う、あ・・あああああああああ!!」
シグマを甚振り続けていたが次の瞬間、再び零の機体の額に「W」の文字が輝き始め苦しみだした。
『ぬおおおおおお!!』
「ぐはっ!?」
残った右腕で「W」の文字が輝く場所を砕いたシグマだったが、限界に来ていた。
「欠片では、これが・・限界か・・・はぁ、は・・・おのれ・・ゼロォォ!」
お互いに意識を失った零と一夏が起き上がる気配はない。シグマの気配は消え、白式・Σは元の白色に戻っている。
発作の治まった千冬は急いで二人を医務室に運ぶように指示し、クラス代表を決める試合は終わりだと宣言した。
◇
二人が目を覚ましたのは一時間後であった。一夏はシグマの欠片に支配されていた事は覚えておらず。零自身も「紅いイレギュラー」状態の事は何一つ覚えていなかった。
話を聞いた零は疑問があった。ライブメタルの事である。ライブメタルは意志を持っているはずだ。その意志が消えて暴走してしまったのかと。
「エックス、ゼロは?」
『ゼロは今眠ってるよ・・・しかしあれは一体・・・?』
「エックスも分からないのかい?」
『ごめんよ、俺にも分からない・・』
「そっか・・」
この時、エックスは嘘をついていた。エックスは「紅いイレギュラー」状態であるゼロと戦った事があった。
余りにも辛い記憶ではあったが、それを消されない世界線の記憶を持っていた。
『ごめんよ、ゼロとの戦いはあまり・・・』
同時に一夏も自分の身に起こった事を思い返していた。急激に強くなった感覚、あれがあれば自分はもっと強くなれるのだと。
「だけど・・・シグマってなんだ?白式の名前の事だよな?」
朧げながらにシグマという言葉だけは覚えていた。だが、自分が強くなっていた瞬間、つまりシグマの意志に取り込まれている間はシグマという単語しか覚えていなかった。
「あの力だ・・・あの力があれば俺は!」
一夏はシグマの力をもっと欲しい願い始めていた。他を寄せ付けない圧倒的な力。それが一夏の望むものであった。
だが、彼は気づいていなかった。その力の脈動は続いており、願えば願うほどに自分の守りたいと願う存在を失っていくことに。
試合結果は引き分けです。
「紅いイレギュラー」化はこの回以降しません。次回はゼロと鈴に関するお話です。
青野と鈴は意外な繋がりがあります。
また次回
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第五話 新世代
マーティ登場
クラス代表を決める戦いから翌日。クラス代表者が誰になるかが発表されていた。チョークを片手に真耶が発言する。
「試合を行った三人を除いてクラスで話し合った結果、クラス代表は青野くんに決まりました!」
「え?俺ですか?」
零は理解が追いついていなかった。聞いた話によれば自分と一夏は暴走してしまい、お互いに意識を失うまで戦っていたのだと。
「試合の時の印象とか」
「授業の取り組み具合とか色々あるんだけど」
「青野くんが強いってみんなで意見が一致したの」
どうやら、暴走していた時よりもセシリアとの戦いが印象的に映ったらしい。
相手を倒すのではなく、制した姿が美しく、頼もしく見えたそうで満場一致だったそうな。
これには仕方ないと覚悟を決め、零は改めてクラス代表を務めることにした。クラス代表が決まると同時に、セシリアがどうしても伝えたい事があると発言している。
千冬はそれに対して許可を出し、教壇へと立たせた。
「皆様、先週は不快になる発言をして申し訳ありませんでした。わたくし自身の未熟さ故に皆様に迷惑を変えてしまって、本当にごめんなさい」
セシリアの謝罪はクラス全員に受け入れられ、クラス代表の挨拶も零は済ませるとそのまま授業へと入っていった。
◇
授業も終了し、休み時間となる。ゼロとエックスは目を覚まし、異常はないとのことだ。だが、二人は一夏が近づくたびに警戒を強める。
一夏を嫌っているのではなく、機体である白式・Σに宿った意志であるシグマに対しての警戒だ。
一夏本人は意識してはいないが、シグマが出てきた事によってエックスとゼロは警戒態勢を取るようになってしまった。
零としてはどうにかしたいのだが、歴戦の戦士である二人の意見の方が強く、聞き入れるしかなかった。
「そういえば知ってる?今日、隣の二組に転校生が来たんだって」
「転校生?」
「この時期に転校生って珍しいなぁ」
「ふむ、わたくしを知ってこの学園に?」
「「それはない!」」
珍しく、本当に珍しく零と一夏がユニゾンした。クラス代表を決める戦いにおいて、謝らせると言っていたが、お互いに暴走していたのだと聞かされ、一夏が自ら退いたのだ。
千冬の説得という名の制裁があった事は言うまでもないが。
そんな話題をしていると、突然、教室のドアが勢いよく開く。そこには一人の少女が立っていた。
「その情報古いわよ!」
『全く、好き勝手言ってくれるじゃない!』
ツインテールに髪を結った少女、更には零に聞こえたライブメタルの音声。零は驚いたまま固まっているが、一夏が声をかける。
「お、お前、鈴か?」
「そう、凰鈴音よ。久しぶ・・・・・うそ・・・?」
「え?凰(ファン)ちゃん?」
「零?・・・・零なの!?」
凰鈴音と名乗った少女は声をかけてきた一夏に見向きもしなくなり、真っ先に零の近くへと足早に歩いてきた。
「
「
「
「
零と鈴は中国語で会話しているために周りは全員、何をしゃべっているのかわからない状態だ。
「二人共、何をしゃべっているんだ?」
「ただの挨拶よ。零と私はね。一夏、アンタと出会う前からの幼馴染なの」
「え?そんな話聞いてないぜ!?」
「言ってなかったし、それに零だってIS学園に入学しているとは思わなかったもの」
「・・・・」
一夏としてはあまり気分の良いものではない。幼馴染だと思っていた少女が自分よりも以前に知り合いが居たのだから。
零と鈴が知り合ったのは、零の家族・・即ち青野家が中国で仕事している間、お隣さんとして交流していたのだ。
お互いの両親は共に気が合い、子供達も自然と仲良くなっていった。お互いに仕事が忙しい場合はお互いの家に遊びに行ったり、預けたりして友好深めていった。
だが、そんな蜜月も終わる時が来てしまう。青野家が中国での仕事を終えた為に日本へ帰る事になってしまった。
幼かった二人は駄々を捏ねたが、両親が聞き入れるはずもない。鈴と零はいつか再会をという約束だけをして別れてしまった。
零が中国語を簡単な会話程度なら出来るのはこの頃の影響が大きい。最も幼い頃の再会の約束は鈴と出会うまで忘れてしまっていたが。
◇
『エックスーッ!!』
『え?マ、マーティ!?』
別の場所ではライブメタル達が会話をしていた。しかも、エックスの近くに来たライブメタルはモデルM、人格は女性でマーティという海中用のレプリロイドの物だ。
『おい、エックス・・お前、いつの間に』
『ゼ、ゼロ!違うよ!彼女は恩人なんだ!』
『・・・・ほう?随分と好かれているみたいだが?』
『そういうアンタは自ら突き放しているようだけどね?色男さん』
マーティの指摘にゼロは押し黙ってしまう。どうやら最も突かれたくない部分を突かれた様子だ。
『マーティ』
『あら?気にしている部分だったのね、ごめんなさい・・・』
『いや・・・』
ゼロにとって最も思い出したくない記憶、後悔だらけの戦いだったあの出来事、大切な存在になり得た相手をその手にかけてしまった事を思い出してしまったのだ。
『ところで、君はなんでここに?』
『ああ、それ?今の私はあの子の強化チップ的な役割なのさ、だから此処に居るの。この身体はえっと・・・纏う機械の開発者の子が作ったんだよ』
マーティはどうやら鈴と共にあるらしいとの事を聞いて、エックスは少しだけ元気を取り戻した。
二人の様子を見ながら、ゼロは僅かな希望を抱き始めていた。もしかしたら、彼女がライブメタルとして復活するのではと。
だが、そんな思考を振り払う。何故なら彼女は死んでいるのだから。そんな僅かな希望を抱いて打ち砕かれた時の絶望は計り知れない、だからこそ余計な事だと切り捨てた。
『アイツはもういないんだ・・・我ながら見苦しいな』
ゼロはどこか、遠くを見ているような雰囲気で会話から離れた。真横ではエックスとマーティが騒いでいるが関係ないと言いたげだ。
『アイリス・・・・』
◇
それから先は鈴や仲良くなったセシリア、癒子を初めとするクラスメート達などと親交を深めた。それと同時に、ライブメタルの意志がまるで本来の身体を持ったかのように会話しているのをやめてほしいと思うようになっていた。
その理由がエックスとマーティだ。本来の世界で素直になれなかった反動なのか、エックスと話している。本人は話しているだけだと言っているが、どう見ても甘えているようにしか聞こえない。
ゼロはゼロで我関せずといった様子だ。クラス代表トーナメントに関して鈴が強引に成り代わって出場するらしく、対策を練らなければならない。
「この学園に来てから災難が多いかも、はぁ・・・」
零は零なりにトラブルに対して疲れ気味になっていた。が、学生の本分を忘れる訳には行かないため、鈴の機体に関して調べようとコンピューター室へと向かっていった。
鈴登場!しかも一夏と出会う以前の幼馴染+ライブメタル付き!
モデルMは接続する事で鈴の機体にブースト力とその時にかかる負担を減らし、水中でも戦えるようになるものです。
零くんがクラス代表なのは戦うためです。
次回は鈴戦、さらにゴーレムの乱入。
ゼロが早々に一時退場。零も入院。
エックスは一時ヒロインと行動をします。
※それと、ビームサーベルの名称をあえてビームサーバーにしているのは岩本版Xの名称を使っているからです。誤字ではありません。
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第六話 ライドゴーレム
零がゼロと共に自爆、拉致
エックス、鈴と共に
クラス代表による対抗戦。その優勝クラスに渡される商品はデザートフリーパス半年間。
十代の女の子ともなれば、それは豪華な権利だろう。半年間とはいえど無料で沢山のスイーツを堪能できるのだから。
その為に零はクラスメート達から優勝して欲しいと、プレッシャーになる言葉をかけていた。
何事においても一位や優勝というものは偉業であり、目指すものである。そう簡単に優勝できれば、努力はいらない。
相手は殆どが代表候補生や強豪だろう。それでも自分に出来る最大限の事をしようと練習や特訓をイレギュラーハンターの二人と行うのであった。
◇
特訓を行うのは良かったのだが、その練習内容が零にとってハードを通り越してベリーハードな特訓であった。
無理もない。二人は元はレプリロイド、人間に最も近い機械である。生身の肉体とは違って長時間の稼働が可能なのだ。
ましてや、エックスは第17部隊・・最前線へと赴く部隊の隊長であり、更にゼロは特殊0部隊という戦闘も諜報活動も行う部隊の隊長だ。
そう、隊長なのだ。エックスは優しく指導しているが、人間にとっては簡単な訓練でもハードである。
加えてゼロは実戦的な指導を旨とし、100%の成績を出さないと決して合格とは言わない。
優しさ故の厳しさと生き残る為の厳しさ、この二つの厳しさに耐えなければならないのだ。
「は・・はぁ・・はぁ!ふ、二人共、俺もう・・・ダメ」
『仕方ないな、休憩にしよう』
『おいおい、たかが多角攻撃を避ける訓練を30分だぞ?へばり過ぎじゃないのか?』
『ゼロ、零はレプリロイドじゃなくて人間なんだ。無理させたら意味がないよ』
『・・・そうだったな。レプリロイドしか鍛えた事が無くて、人間に合わせる感覚がわからなくてな』
「大丈夫だよ・・・エックスやゼロの活動限界の十分の一くらいが人間の限界だから」
『不便なもんだな?』
「それが人間だよ」
レプリロイドの感性はレプリロイドにしか分からない。人間の感性は人間にしかわからない。
だが、お互いに否定はしていない。レプリロイドにとって人間は救うもの、人間にとってレプリロイドは友人という認識だ。
だが、それは理想の中の理想、レプリロイドを都合の良い道具とみなす権力者や、イレギュラーとなったレプリロイド達は揃ってこの一言を漏らしていたらしい。
『どうして、都合の良い道具としか見ていない人間を自分達が守らなければならないのか?』と。
その考えと思いが改善されることはないが、弱める事は出来る。それだけが唯一のお互いを結んでいる糸なのだ。
◇
そして、試合当日。目の前には幼馴染の鈴とライブメタルM、即ちマーティが鈴の近くで浮かんでいる。
だが、これは試合。手加減する気はないし、それは失礼に値するだろう。目の前には既に準備を済ませており、ロックオンに似たモードを展開しようとしていた。
「零、こうして手合わせするのは初めてだけど、手加減なんてしないからね?マーティ!!」
『任せなさい!』
ISを展開した鈴にマーティはロックオンした零と同じように、追加装備を装着させる。鈴の判断力とマーティの戦闘力が融合したモードであり、女性系ロックマンと言っても過言ではない。
「エックス!」
『うん、行こう!』
「ロックオン!エックス!!」
零が展開したのはエックスモード・ファーストアーマー装備形態だ。とは言っても今現在ではフットパーツのみでダッシュしか出来ない。
「!それがアンタのISって事ね」
『エックスの姿で戦いを挑んでくるなんて、アタイにケンカ売ってんのかい?』
「とにかく、試合は試合だから!」
試合開始のブザーが鳴り響き、鈴は真っ向勝負を挑むべき突撃してくる。だが、零はそのまま挑むほど無謀な行動はしない。
正々堂々といっても実力差があるのは明白。だからこそ、相手の土俵に入ることはしない。
「ティアーズ・ビット!」
「機体の色が変わった!?」
零の機体の色が同じ青だが、暗色に近い青色に変化し、その周りには三つのビット兵器のようなものが零を守り、囲むように飛び回っている。
「ビット兵器!?そんな武装はなかったはずよ!?」
鈴の疑問は最もだろう。零のISにビット兵器はもちろん装備されてはいない。だが、零のもつライブメタル・エックスには特殊な機能があった。
それが特殊武器獲得である。エックスは自分の世界ではあらゆるレプリロイドの始祖であり、その設計思想を流用して、あらゆるレプリロイドが開発されていった。
「しまった!瞬間加速を使った影響で切り替えが!」
『アタイがやってやる!歯を食いしばりなよ!?鈴』
「!ぐうううう!?」
マーティのアシストによって強引に瞬間加速の方向性を切り替えられ、その時に発生する加速重力が強すぎる為に、鈴は歯を食いしばって耐えるしかなかった。
「行け!ティアーズ・ビット!」
そんな鈴にも容赦はしない、命令コマンドを受けたビットはあやゆる三方向から鈴を狙っていく。その気配に気付いた鈴は転がる事でそれを避ける。
「そう簡単に当たると思うなぁ!」
青龍刀を二本構え、エックス名の通り、交差するように斬りかかるが、零はビットを三機集結させて高速回転するよう指示を与えて弾き返した。
「ぐっ!?ビット兵器を高速回転させて盾にした!?」
「撃つだけがビット兵器じゃないのさ。多少は傷がつくけど、応用はいくらでも利くんだから」
試合を見ていたセシリアはビット兵器が扱えること以前に、ビット兵器を実体のシールドとして利用する応用技に驚愕と同時に舌を巻いていた。
「あんな応用方法が・・・」
零はビット兵器であるティアーズ・ビットを脳波で動かしている訳ではない。特殊武器となった為に自動迎撃と防御のプログラムが組み込まれ、それによって動かしているのだ。
もっとも、エネルギーの効率が悪いために長時間の使用や先程のシールド使用によって大幅にエネルギーは削られてしまう。
「ティアーズ・ビット展開可能持続時間、残り195秒か・・・残りはバスターで!」
『そうはいかないよ!』
『!まずい、マーティは俺のクセを知ってる!』
「いっけええ!」
マーティの隠した合図で鈴は零に向けて龍砲と呼ばれる衝撃砲を放った。至近距離なために零は派手に吹き飛んでいく。
「うああああああ!ぐふっ!」
派手に吹き飛んだのは衝撃を逃がす為ではあったが、着地や激突の事を考えていなかった為にアリーナの壁へ激突してしまう。
「さっすが、マーティ!」
『どう?やるでしょ?』
零は立ち上がりつつ、腕を回す。どうやら完全なスイッチが入った様子で目つきが違う。それと同時に装甲の色が紅に変わっていた。
吹き飛ばされていた滞空時間の時にロックオンを切り替え、ゼロモードに切り替えたのだ。もちろん、ゼロが強引にだが。
「さぁ、接近戦を・・!?」
「望む・・!?」
◇
突如、天井が崩落し何かが試合を行っているアリーナに着地してきた。紫色の装甲を持ち、ISを纏っている様だが人間的なものは一切感じない。
『よう、エックス・・・ゼロォ・・・会いたかったぜ』
電子音声が響く中、エックスとゼロはその声に覚えがあった。それはA級ハンターの実力がありながら、イレギュラーに認定されたレプリロイド。
『VAVA!?』
『まさか、貴様までこの世界に来ていたとはな』
『ククク・・・いい機会だ。お前らを葬ってやる!行くぜええええ!!』
無人機、VAVAと呼ばれたISは鈴に見向きもせず零へと襲いかかってきた。巨大な腕を振りかざし、零が居た場所に巨大な穴を開けてしまう。
『ライドアーマーの腕!?』
そう、今のVAVAは愛機であったライドアーマーと一体化しているのだ。その為にスピードは無いがパワーは底知れない。
「凰ちゃん下がってて!」
「何言ってるのよ!?」
「エネルギーが残り少ないはずだよ、俺が囮になるから早く!」
『エックス、お前は凰と一緒に行け!』
『ゼロ!?』
『何やってるんだい!エックス、鈴!早く撤退だよ!』
エックスのライブメタル鈴に投げ渡し、ゼロと一体化している零はバスターを構え、VAVAと対峙する。
『来い、VAVA!』
『遊んでやる、ゼロ!』
◇
アリーナの放送室でそれを目撃した千冬は急いで生徒たちに避難するよう指示を出した。生徒達は我先にと逃げ出していったが一夏だけはアリーナの闘技場の入口を目指している。
「一夏?」
それを目撃した箒は疑問に思いながらも後を追っていく。その先には零が使っていたピットがあり、一夏は入口からその様子を覗き込んでいた。
なんとかピット内部へ逃げ込んだ鈴は甲龍のエネルギーを回復させようと躍起になる。
「早く戻らないと零が!」
『すぐには無理だ、最低でも50パーセントは回復させないと』
『もどかしいね!くそっ!』
ピットの外ではバスターのチャージ音と何かを破壊する音が響いている。鈴にとってそれは悔しさが募る音であった。
「くそぉ!あのアーマー、傷一つ付かない!!」
『ちぃ、防御力が桁違いすぎる!』
『どうした?この程度か?』
なんとかエネルギーが50パーセントまで回復しかかった瞬間、零達が吹き飛ばされ、何かで拘束するような音が響き渡った。
「零!」
『鈴!纏ってから行きな!!』
マーティの忠告を聞きつつ、エックスと共に闘技場に出るとそこにはVAVAに拘束されたゼロモードの零の姿があった。
『エックス、コイツを助けたいかそれなら小娘に己を殺すように言うんだな』
『構うな!俺に構わずやれ!!』
『威勢がいいなゼロ・・ん?』
視線を向けると零の使っていたライブメタル・エックスが鈴の隣に浮かび上がり、周りを浮遊する。
『鈴、マーティ』
「力を貸して、二人共!」
二つのライブメタルをロックオンし、VAVAと向き合う鈴。だが、それに動じた様子は相手にはない。
『・・・ふん』
VAVAの表情を表すのならば、遊んでやる・・・といった感じだろう。鈴は積極果敢に向かっていくが、初めてロックオンしたエックスの仕様に振り回され、慣れない射撃武器を上手く扱えず、苦戦を強いられた。
そんな中、鈴を助けようとする一つの影が彼女の横を横切った。白式・Σを纏った一夏だ。
「てめえぇ!機械のくせに鈴に手を上げるなァァ!」
『ん?コイツ・・・ククク、そういう事か』
「何をブツブツ・・・!?機体が、ISの動きが鈍い!?」
今現在、シグマの意志は眠っている。自分の力だけでISを動かしているが、シグマが力を貸したときの様な動きが出来なかった。
『くだらん・・・!』
「なっ・・!?ぐああああ!?」
VAVAはストレートパンチを一発、一夏へと撃ち込んだ。ライドアーマーと同等の威力を誇るパンチだ。いくら絶対防御で守られているとはいえ、その攻撃力を完全に殺しきる事は出来ない。
『そらそらそらそらそらぁ!』
「うぐっ!?ぐぶっ!げぶっ!」
そのまま、連続ラッシュを叩き込み続け、一夏は一発一発のパンチを受ける度に、声になっていないうめき声のようなものを上げ続けている。
『未成年にはまだ早いが・・・これが坊やへの寝酒のバーボン・・だ!!』
絶対防御用のエネルギーが枯渇した瞬間を狙って、VAVAは思い切り腹部へパンチを撃ち込んだ。
「ぐぶっ!?・・・っげぼぉぉっ!」
下手をすれば内臓破裂を起こしている可能性、運が良ければ重傷で済むと思われる一撃を一夏は受けて、吐血しながら吹き飛ばされた。
無論、自分の寄り代を彼が死なせる訳がなく、一夏は気絶してしまったが、その状態で傷を癒しにかかる。
VAVAは暗号を飛ばした信号によってそれを知った為に、このような攻撃を取ったのだ。
◇
『やはり、つまらん・・・だが、潰して』
「う・・ぐ・・おおおおお!」
『!?』
拘束しておいたはずのゼロをロックオンした零が、拘束から抜け出そうとしている。拘束を破ると同時にVAVAへと飛びつき、しっかりと取り付いて離れない。
[推奨BGM ロックマンXより『ZEROのテーマ(仮称)』]
『ぐ!貴様、また!離せ!』
「凰ちゃん・・・!!俺が出来るのはこんな事ぐらいだよ!」
『エックス、お前は鈴と一緒に行け!』
バスターが最大出力でチャージされていき、それを超至近距離で撃ち放つ。だが、それは撃ったというよりも自爆したという方が正しい。
『ゼロ、ゼローーーー!!』
「零ーーー!!」
自爆を受けたVAVAの装甲は破損しており、攻撃を受けきれる状態ではない。だが、戦闘力は失っていない様子だ。
『ふん、何度も飽きずによくやるものだな。さぁ・・今度こそ覚悟はいいか?』
VAVAが戦闘を開始しようとした瞬間、鈴がロックオンしたエックスのファーストアーマーを完全状態で装着し、叫びをあげた。
「うわああああああああああああああ!!」
自分が弱かったせいだ、私が弱くなければ、早く逃げていれば、そうすれば、彼は零は自爆しないで済んだはずなのに。
鈴は自分自身が許せなかった。悲しい事も、相手が憎いと思う心、己に対して溢れ出る怒りすらも、あらゆる感情が溢れ出て叫ばずにはいられなかった。
「許せない許せない許せない!アンタ以上に私自身が許せない!!」
『粋がるのだけは一人前だな?行くぞ!』
VAVAは突進してくるが、鈴は両手を腰に構え、発勁を撃ち込むような体勢を取っている。
『くぅだいてやるぅーーー!』
「わあああああ!波動ーーー拳ーーー!!」
鈴が感情を吐き出すかのように放った気弾のようなもの、それはVAVAを飲み込み、一撃で倒してしまった。
『Ga・・・バKa・・Na・・・俺・・・Ha』
「とっとと、スクラップになれ!」
ロックオンを解除し、甲龍の衝撃砲でVAVAにトドメを刺すと零が横たわっている場所に急いだ。
「零!!」
「凰ちゃん・・・ごめ・・ん」
「喋らないで!すぐに医務室に運ぶから!!」
「・・・」
零を運ぼうとした瞬間、謎のISのようなものが現れ、ロックオンしたままの零を担ぎ上げてしまった。
「この子は私達が預かるわね」
「!零を離しなさいよ!!」
「いやよ、彼は最高の検体なんだから、じゃあね」
女のようだったが、彼女が転移すると同時に零は居なくなってしまい、鈴は再び叫んだ。
「零を返せええええ!!」
だが、その声が聞こえる訳がなく、鈴は地面を殴りつけ、大声で泣いたのであった。
遅くなってすみません!
熱中症やら、疲れやらで構想できず遅くなってしまいました。
なんとか、頑張りますので、長い目で見てください。
真面目に熱中症はきついです。
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