シンとレンの十二の冒険 (kuraine)
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第一章 捜索編
第1話 初めての出会い


 主人公シンは戦闘センスはいいが、方向音痴なのがたまに傷の十八歳。シンは旅の途中で出会った美少女、レンと出会い一緒に旅をする事になった。シンとレンは一緒に旅をする中で、この世界の事や神器や魔具と呼ばれる人智を超えるものの存在がある事を知る。長い冒険を共にする中で二人は何を思い、世界はどうなっていくのかを描くオリジナル小説です。


 「まったく、ここ何処だよ!」

 

 シンは故郷の村から出て一ヶ月が経過したが、未だ、村どころか人にも会っておらず、絶賛迷子中だった。

 

「まったく、故郷を出て一ヶ月経ったのに、町や村どころか人にも会わないなんて、どんだけ田舎なんだ。昔、俺が五歳ぐらいの時に親父と一緒に町に行った時は歩いて、二週間ぐらいで着いた気がするんだけどなぁ。」

 

 この絶賛迷子中の男、シンの事を紹介すると、年齢は十八歳、身長は百七十七センチで顔は整っているが、絶望的に方向音痴なのがたまに傷の至って普通の少年である。だが、この時、この少年が後に歴史に名が残るほどの人物になるとはだれも予想していなかっただろう。

 

「まったく、十八歳になったから村を出て、世界各地を旅したいと子供の頃から想って十数年。ようやく、村から出れたと思った矢先に一ヶ月迷子になるなんて、幸先の良いスタート過ぎて、涙が出てくるな。」

 

 そんな事を思いながら歩いていると、シンはある事に気がついた。シンが気づいた事、それは念願の村だった。

 

「やっと村に着いたか……母ちゃんの弁当は一日目で食い終わっちまったからなぁ。」

 

 一ヶ月前

 

「あんたはすぐ道に迷うからねぇ。一週間分はリュックに詰めておいたから大事に食べる事!」

 

「分かってるって、母ちゃんはいつまで俺を子供扱いするんだ?」

 

 シンの母親はやれやれと言った顔をしていた。

 

「じゃあ、行ってくるよ。」

 

「ちょっと待ちな!」

 

 シンが行こうとしていたが母親に止められ、何か言われるのかとビクッとした。

 

「シン。気をつけてね。」

 

「おう。」

 

 シンは母親の言葉に笑顔で答えた。

 

 それから一ヶ月が経った今、シンは村の中にいた。

 

(リュックはボロボロになった上に無くしたからな、まずは、飯だな。とりあえず、人に聞くか。)

 

 シンはすぐ近くにいた村の人にご飯が食べられる場所がないか聞いた。すると、村人はこの村に唯一あるという、すぐそこの酒場を教えてくれた。

 

「ありがとう。」

 

 シンが礼を言った後、早速、酒場に行く事にした。酒場のドアを開けて中に入ると、席はほぼ満席状態だった。

 

「あの、すいません。何処か空いている席はないか?」

 

「それなら、そこにいる客の向かえの席しか空いてないから、自分で相席がいいか聞いてくれ、悪いな、にいちゃん。」

 

「ああ、いいよいいよ。」

 

 店主にそう言われ、その客の方に近づいていく。その客は黒いフードを羽織っていて、顔は見えなかったが体格と身長が百六十センチ前後ということもあり、おそらく女子だろうということは予想ができた。

 

「あの〜」

 

「……」

 

 話しかけると何も言わなかったが、こちらに顔を向けた。

 

「相席しても良いですか?席が空いてないらしんですけど、何週間もろくなもん食べてなくて、お腹が減っちゃって。」

 

「どうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 快く返事をしてくれた。予想通り、女子だった。シンは正面に座ると自分と同じぐらいの歳で黒髪のセミロングで女子というよりも、女の子という言い方があっていた。少し待っていると飯がきた。すると、数週間ぶりのまともな飯に、他人の目など気にせず一心不乱に食らいついた。

 その時、酒場のドアが荒々しく蹴破られた。すると、今まで盛り上がっていた客達が一斉に静まり返った。

 

「邪魔するぜ。」

 

 声がした方には柄の悪い男達がいた。すると、所々から聞こえるほとんどの客が同じことを言っている。

 

「あいつらあれだろ、王都の。」

 

「ああ、最近やばいらしいな、王都も。」

 

 どうやら最近、王都リネオスで反乱があったという事は分かった。今、入ってきた男達はその反乱勢力の一派らしい。

 

「なんで、あいつらがこんな遠くまで来てるんだ?」

 

「俺がそんな事知る訳ね〜だろ。」

 

酒場にいた客達が小言で色々会話をして、考察していた。

 

「お客様、申し訳ございませんが、只今、満席でして。」

 

「ん?俺には空いているように見えるけどな?」

 

 この店の店主が満席だと伝えると、男達が客達の方に視線を向けた。すると、酒場の異様な雰囲気を感じとった客達が次々と帰っていった。そんな中、残った少しおバカな人が二人いた。店主は残るとしても、飯を一心不乱に食べている人と、その向かえに座っている人は違う。はっきり言って、場違いだった。

 

「おい、そこのテーブルの客!!お前らいつまで食ってる!邪魔だ!どけ!」

 

 男達の一人がそう言った。だが、二人は何も言わず、その場に留まった。

 

「二人して黙り込みやがって……ああ〜分かったぞ。さてはビビって足震えて立てねぇのか?」

 

そこにいた、そいつの連れもみんな笑い出した。

 

「そこの黒いフードを被ったお前、いつまでフード被ってんだ?薄気味悪りぃなっ!」

 

 リーダーであろうその男がフードを取ろうとした瞬間、それは、一瞬だった。百八十後半はあるであろう身長に加えて、ゴツゴツとした体格の男が酒場の外まで突き飛ばされていたのだ。

 

「なっ!!??」

 

 そこに居合わせた誰もがそんな反応をしていた。

 

「てっ、てめ〜、女のくせにふざけた真似しやがって!」

 

 そういうと、男の仲間が懐から取り出したのは銃だった。男が銃を取り出すと、フードを被っていた彼女に銃を向けた瞬間、シンが動いた。シンは右足でその銃を蹴り上げ、そのままの勢いで回り、右足で男を壁まで蹴り飛ばした。

 

「お前ら、女の子に拳銃なんて卑怯だとは思わないのか?」

 

「ふざけた野郎どもだ!死ね!」

 

 そういうと男達は一斉に拳銃を取り出そうとした。その一瞬の隙を見逃さず、すかさず倒しにかかる。一人、また、一人と倒していく。最後の一人になった時、拳銃がシンの頭に向けられて、銃弾が放たれた。その瞬間、シンは懐から短剣を取り出し銃弾を斬った。

 

「なっ、バケモノっ!?」

 

シンは拳銃を短剣で斬り、男を左手で殴り飛ばした。

 

「ふぅ、久々の運動は疲れるな〜」

 

「あなた、なかなか強いのね。」

 

 シンが呼吸を整えていると、フードの女の子が話しかけてきた。

 

「まあな。それにしても、君だってあんな大男をあんなに突き飛ばすなんて。」

 

「まあね。」

 

「あんたら、悪いなぁ〜」

 

 二人で話していると、この店の店主が礼を言ってきた。その後は店を片付けて店を後にした。

 

「おかげでご飯タダになってよかった。」

 

「そうね。それにしてもあの連中、なんでこんなところに来たのかしら」

 

「それは俺も気になってたんだよな。話を聞くところによると、王都リネオスの反乱勢力の一派らしいけど、リオネスで何か起こっているのかもしれないな。」

 

 二人はそんな事を話しながら歩き、村を出て少し行ったところの分かれ道まで来ていた。

 

「そういえば、なんであなたはあの村にいたの?」

 

「道に迷ってたら、たまたまあの村があっただけで、特に理由は無いよ。」

 

「そうなんだ、ちなみにどこから来る途中で迷ってたの?」

 

「えっと、コナシ村っていう小さな村なんだけど、一ヶ月近くも迷ってたんだよ。」

 

 シンの告白に、女の子は唖然と同時に呆れている顔をしていた。

 

「私ここら辺の人じゃないから細かい事は分からないけど、コナシ村だったら地図でいうと四十分ぐらいで着く距離なんだけど……」

 

「……」

 

 シンは、女の子の言葉に驚きを隠しきれなかったが、何よりも自分の方向音痴が自分の十倍程酷かった事に驚愕し、自分自身に呆れていた。

 

「さ、さ〜てと、私はこっちだから、、」

 

「いや、ちょっと待てよ!」

 

 シンは女の子を止めた。

 

「だって、あそこまでできる人が、方向音痴にもほどがあるでしょ!?」

 

「うっ、」

 

 シンは何も言い返すことが出来なかった。

 

「まあ、いいわ。私はこっちの道に行くけど、あなたはどうするの?」

 

「俺もそっちの道だな。」

 

「そう、なら一緒に冒険しない?」

 

「そうだな〜、俺は何処に行きたいとか、行かなきゃダメとか、当てが無いからいいよ!よろしく頼むよ!えっと〜」

 

「私はレン。あなたは?」

 

「俺はシン。よろしくな」

 

 これが、シンとレンの初めての出会いだった。ここから、世界を支配できる程の人物になるのはまだまだ先の話なのだが、そんな事など知る由もない二人なのだった。

 

次回、神器と魔具と十二のダンジョン

 




今回が初投稿です。ちなみに読みづらすぎて書き直したんで内容が少し違いますが、そこまで変わらないようにしました。


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第2話 神器と魔具とダンジョン

 神器と魔具とダンジョンについて少し語られる。シンとレンの十二の冒険 第二話


 反乱勢力の一件から数日が経った。シンとレンは今、出会った村から南の方角に進み、次の町を目指して歩いている所だった。

 

「結構歩いたな。」

 

「そうね、あの町から結構歩いたわね。」

 

「本当に道は合ってるんだろうな?」

 

 その言葉を発した瞬間、レンがニコニコしてシンのことを見ていた。

 

「な、なんでも無いです。はい。」

 

「よろしい。」

 

(女って生き物はなんでこんなにも恐ろしいのだろうか…)

 

「どうかした?」

 

「い、いえ。なんでもないです。」

 

(バケモンかコイツ…)

 

「あっ、あれ!」

 

「どうした?」」

 

 レンは声と一緒に指を指した。レンが指を指した方向を観るとそこには町があった。

 

「あれが今、私たちが目指している町、シャリボアよ。」

 

「へ〜、やっと見えたな。」

 

「でもこれ、どうやって行くんだ?」

 

 シンが聞くのもそのはず、今、シン達は崖の上にいた。

 

「どうって、降りて行くのよ。」

 

「降りるところでもあるのか?」

 

 シンはレンに素朴な質問をした。

 

「そんなの知らないわよ。」

 

「はい?じゃあ、どうやって?」

 

「だ、か、ら、降りるのよ、ここから。」

 

「正気か?」

 

「何か問題でも?」

 

 崖といっても、滑って行けそうな角度ではあるが、普通ではあり得ないその選択にシンは啞然とした。

 

「分かったよ、諦めて降りることにするよ…」

 

「ほら、グダグダ言ってないで行くわよ。」

 

(俺はこの先、無事に冒険できるんだろうか、早死にしそうな気がする…)

 

 シンはそんな事を考えながら崖から降りた。そして、少し歩くと二人はシャリボアについた。

 

「あんなに周りは木ばかりだったのに、ここは町って感じだな。」

 

「当たり前でしょ!シャリボアは結構大きめの町なのよ?周りは山だから空気も水も美味しんだから。」

 

「観光地としても有名な町なのよ、あなた本当に何にも知らないのね。」

 

「俺の村は小さいしな。だから、情報が入ってこないんだよね。」

 

「ふ〜ん、まっ、いいけどね。それよりも、宿を探しましょう!」

 

「そうだな。」

 

 二人は宿を見つけて、少し休憩した後、この町を見て回ることになった。

 

「まずは、飯でも食おう。」

 

「そうね、私もお腹すいちゃった。」

 

 二人はご飯を食べ終わり、町を回ることにした。

 

「そういえば、あなたってなんで旅に出ようと思ったの?」

 

「・・・」

 

「あなたもダンジョンに興味があったとか?」

 

「いや、人を探してるんだ。」

 

「人って?誰を?」

 

「俺のにいさんだ。」

 

「へ〜、あなたお兄さんがいたのね。」

 

「ああ、俺は自分の夢って事もあるけど、にいさんを探すために旅に出た。」

 

「どうして、お兄さんに?」

 

「……、色々あったんだよ。」

 

「ふ〜ん、まあ、詳しくは聞かないことにするわね。」

 

「悪いな。」

 

「いいわよ、別に。」

 

「ところで…」

 

「どうしたの?」

 

「なあ、ダンジョンってなんだ?」

 

 その言葉にレンは言葉を詰まらせた。

 

「あなた…子供でも一回は聞いたことある常識よ?」

 

「仕方ないだろ〜、情報が入ってこないんだから。」

 

「いい?よく聞いてね?」

 

「おう。」

 

「ダンジョンって言うのは、世界の各地にある迷路?みたいな、迷宮?みたいな不思議な場所のことを示しているの。ダンジョンは世界各地にあるけど、同じ造りのダンションは無いと言われているわ。」

 

「ふ〜ん、それで何でそんなのが世界各地にあるんだ?」

 

「詳しいことは分からないけど、昔、ある時期から突如出来たって話よ。」

 

「何でそんなのが未だにあるんだ?」

 

「それは、壊れないのよ。」

 

「壊れない?」

 

「そう、ダンジョンを壊そうとした人は過去にも結構な数いたらしんだけど、誰も壊せなかったらしいわ。」

 

「そのダンジョンって、なんか存在する意味とかってあるのか?」

 

「存在する意味があるのか無いのかで聞かれたら、多分、無いわ。」

 

「無いんだ。」

 

「でも、」

 

「でも?」

 

「これは噂で聞いた話だから本当かどうかは定かでは無いけど、それぞれ一つずつダンションには、神器って呼ばれるものがあるって噂よ。」

 

「神器って何だ?」

 

「さあ、私もそこまでは詳しくは知らないわ、だけど…」

 

「神器は人の域を超えた何かを手に入れられると言われているわ。」

 

「へ〜、そんなのがあるのか。」

 

「それだけじゃ無いわ。」

 

 シンが驚いていると、レンが話を続けた。

 

「神器に似たものが他にもあるのよ。」

 

「そんなにすごいものに似た何か?そんなのがあるのか?」

 

「ええ、これも聞いた話だけど、魔具って言うものもあるらしいわ。」

 

「魔具?」

 

「何でも、神器って手に入れるのがダンジョンをクリアした人が初めて使えるものらしいの、それに対して魔具は何処にあるかは分からない代わりに何処でも手に入る可能性があるものらしいわ。」

 

「なら、魔具が神器と同じぐらいのものなら魔具の方が良くないか?」

 

「普通ならね。」

 

「普通ならって、どう言うことだ?」

 

 シンはレンの言葉の言い回しに疑問を覚えた。

 

「魔具って、悪魔の仮の形って言われているのよ。」

 

「使うと信じられないような力を得られる代わりに、使ったものには不幸が訪れるって噂よ。」

 

「なるほど、そんなのがあるのか。」

 

「少しは世の中について分かってくれた?」

 

「まあ、あくまで噂だからね。」

 

「覚えておくよ、一応な。」

 

「さ、少し長話しすぎたわね、帰りましょう。」

 

「ああ。」

 

 二人は宿に戻り、旅の疲れを癒した。

 

 

「…」

 

「・・ン」

 

「シン!」

 

「!?」

 

 そこにいたレンからは真剣な眼差しの中に、焦りが感じられた。

 

「大変なの、町が・・」

 

「こんな朝はやくからどうしたって・・・」

 

 その時、シンが目にしたものとは、さっきまでレンと一緒に見て回った町が、火の海になっている姿だった。

 

「なっ!?」

 

 そう、シンが驚くのもそのはず、朝早かったのではなく、燃えている町の火の明かりだった。

 

「どうなっているんだ!?」

 

「私もさっき起きて見たら、こうなってたの。」

 

「とりあえず、近くまで行って逃げ遅れた人がいないか見に行く。」

 

「でも、この火の中に人がいたとして、どうやって助けるのよ?」

 

「いいから行くぞ。」

 

「もう〜ちょっと、待ちなさいよ。」

 

 シンは窓を開けて飛び出した。それにレンも続いた。

 

 町は思ったよりも炎で覆われていて、消すのは恐らく不可能だろう。それでも、シンとレンは取り残されている人がいないか探した。すると、そこに、家の三階部分から顔だしている女の子がいるのを見つけた。

 

「あんな所に、女の子がいるわ。」

 

「分かってるよ。」

 

 そう言うと、シンは家の側面にあるちょっとした突起に掴まり家の壁を登って行く。

 

「フフフ、アイカトカゲ、やれ!」

 

 その声とともに、シンの体が吹き飛ばされた。

 

「なに!?」

 

 そう言って声がした方に顔を向けたレンはそこにいた体長30メートルはある、赤い肌をしたトカゲ型の生き物に驚いた。そして、その後ろから女が現れた。

 

「全く、せっかく町を燃やしたんだからダメじゃない、助けたら。」

 

「その口調だとあなたがその生き物を操って、町を燃やしたようね。」

 

「その通り、私がやったの、これ全部、どう?すごいでしょ?」

 

「ふざけた野郎だ!」

 

 そう言うと、シンが起き上がった。

 

「まだ生きてるなんて、タフだね、あんた。」

 

「生憎、俺は頑丈なんでね。」

 

「レン!あの子を頼む!」

 

「でも、あんな大きい生き物どうすんのよ!」

 

「どうにかするから、レンはあの子を!」

 

「分かった!」

 

(とは言ったものの、アイツどうするかなぁ)

 

「打ち合わせは、終わった?」

 

「おかげさんでね。」

 

「町は燃やしたから、やることがなくてね、相手してもらうよ、やれ!」

 

 そう言うと、アイカトカゲが炎を出してきた。シンは、それをギリギリでかわした。

 

(クッソ、なんかいい方法はないか)

 

 その時、アイカトカゲの尻尾がシンに当たり、シンを隣の家まで吹き飛ばした。

 

「グフッッ」

 

「あのトカゲ厄介だな。」

 

「待てよ、そうだ!」

 

「さてと、そろそろあの女でも・・」

 

「こっちだ!」

 

 不意をついたその一瞬が勝敗に大きく左右した。シンはそう言うと、手に持っていたものを投げた。

 

「しまった…」

 

 シンは油を投げて、空中で油の入ったビンを石を投げて割ったのだ。それにより、女は油まみれになった。その隙をついてシンは女を蹴り飛ばした。すると、女は燃えている家の方に飛ばされた。そして、家まで飛ばされた瞬間に、家を燃やしていた炎が女に燃え移った。

 

「あ”あ”あぁぁぁ」

 

「よし、上手くいった。」

 

「よいしょっと、シン!こっちはいいわよ。」

 

 そういうと、レンが女の子を無事救出していた。

 

「もう大丈夫よ。」

 

「ありがとうお姉ちゃん。」

 

「どういたしまして。」

 

「こっちもなんとか収まりそうだ。」

 

「やっぱり、思った通りだ、このトカゲはこの女の指示がないと基本的には動かない。」

 

「さっきの戦いでなんとなく違和感があったからな。」

 

 その時、アイカトカゲが光を発し、跡形もなく消えてしまった。

 

「これは!?」

 

「恐らく、この女が気絶したことによって、あのトカゲが消えたんだわ。」

 

「もしかして、これがさっき言ってた神器だったり、魔具だったりするのか?」

 

「ええ、恐らく魔具の一種なんじゃないかしら。」

 

「なんで、魔具って分かるんだ?町をここまで燃やした能力ではあるんだし、神器って可能性はないのか?」

 

「もし、そうだったとしたら、その女が弱すぎると思わない?」

 

「言ったでしょ、神器はダンジョンをクリアしないと使えないはずだって。」

 

「確かに、幾ら油を燃やした炎だからと言って、ダンジョンを攻略したやつがこんな簡単に気絶したりはしないか、それに、隙が多かったしな。」

 

「そう言うこと。」

 

「にしても、どうする?この町、もう半分ぐらい火の海だぞ。」

 

「ひとまず、この町を一度離れたほうが良さそうね。」

 

 

 

「アクアリウム!」

 

 

 この町を大きな雲が覆い、そして、雨が降った。

 

「ラッキー、雨か、助かった〜」

 

「この雨の量なら火は消えそうね。」

 

「ああ、でもいきなり降ってきたな。」

 

 あの一件から数日、町の復興をした。女の子はと言うと無事家族に届けることができた。そして、あの女はと言うと警備の人に身柄をお願いして、治療を受けるんだとか。それから、どうするかを決めるとのことだった。

 

「いや〜、なんとか出発できそうだな。」

 

「そうね、ここからさらに南に行って、王都リネオスに行きましょう!」

 

「王都リネオスか、あの時の反乱勢力のことも何か知ることができるかもしんないな。

 

「確かに、気になっていましたしね。」

 

 こうして、シャリボアを後にした二人であった。

 

次回、王都リネオス

 



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第3話 王都リネオス

 シャリボアの事件から四日ほど歩いたシンとレンは王都リネオスまであと少しのところまで来ていた。

 

「あと少しで王都リネオスのはずよ。」

 

「やっとか、それにしてもコナシ村から出てもう2ヶ月近く経ったか?」

 

「故郷が恋しくなった?」

 

「まあな、今までこんなに離れたことなかったからな。」

 

「ふ〜ん。」

 

「なんだか関心がない返事だな。」

 

「あっ、あれ!!」

 

「???」

 

 そこにあったのは今までシンがみたことがないほど大きな街だった。

 

「行きましょう。」

 

「ああ。」

 

 シンは初めて見る大きな街に感動していた。立派な家やたくさんの行き交う人、みたことない物などがいっぱいあった。

 

「ここが王都か・・」

 

「とりあえず、情報を集めましょう。」

 

「ああ、そうだな。でもどうやって?」

 

「そうね、とりあえず別れて探しましょう。そして、夜に宿で情報を整理しましょう。」

 

「わかった、じゃあ、夜また会おう。」

 

「ええ。」

 

 それから数時間の間シンとレンは街で情報を集めた。

 

「俺の方は有力な情報はなかった。そっちはどうだった?」

 

「どうやら反乱ってのは本当のようだったわ。なんでも今の制度に不満を持つ貴族が裏を引いてるんしゃないかって噂が流れてるみたいね。」

 

「なるほど、国民にとっては良くても貴族様は気にくわないってことか。」

 

「ええ、それと気になるのがもう一つ。」

 

「なんだ??」

 

「それが、この王都リネオスにダンジョンがあるって話なの。」

 

「ダンションが!?」

 

「ええ、ダンジョンから守るために街を作り神器が悪用されないようにしたんじゃないかって。」

 

「でも、誰が何の為に?」

 

「分からない、でもあるのは確かなはず。」

 

「ん〜、もしそれが反乱派に渡ったら大変なことになるな。」

 

「ええ、だからどうにかしたいのは山々なんだけど、なんせこの街は大きすぎてその中からダンジョンを探すのは・・」

 

「ん〜、困ったな〜、まあ、とりあえず今日はこんなところだろ。今日は休もう。」

 

「そうね。」

 

 〜翌日〜

「さてと、行きますかね。」

 

「行くって、どこに行くのよ?」

 

「ん?どこって、ダンジョンを先に見つけないといつ悪用されるか分からないんだろ?」

 

「それはそうだけど、場所が分からないから困ってるのよ!」

 

「実は昨日、別れたあと街を歩き回って思った事があるんだ。」

 

「思った事?歩いてる時にそんな変な場所なかったわよ?」

 

「そう、こんなに大きな街なのにどこを見ても綺麗に舗装されている。」

 

「どういう事?」

 

「つまり、下水だよ。」

 

「下水?」

 

「こんなに大きな街なのに下水に通じる道がないなって疑問だったんだ。」

 

「そんなのよく気づいたわね。」

 

「まあな。」

 

(昨日迷ってただけなんて言えない)

 

「とりあえず、地下に行けそうな場所を探してみよう。」

 

「ええ。」

 

 それから街を隈なく探した。

 

「あった!」

 

「これね!」

 

「行ってみよう。」

 

「ええ。」

 

 それから下水道に降り、何か手掛かりがないか探した。下水道は広く入り組んでいてまるで迷路のような作りになっていた。シンとレンは数時間彷徨ううちについにダンジョンの入り口らしきものを見つけた。

 

「これがダンジョンなのか?」

 

「多分そうだと思う。」

 

「行ってみよう。」

 

「ええ。」

 

 石造りのダンジョンらしく、入ってすぐ階段があったので降って行った。

 

「なあ、結構降りてるよな。」

 

「そうね、かれこれ二十分近く降ってるわね。」

 

「流石に長くないか?」

 

「ええ、変ね。一度戻ってみましょう。」

 

「ああ。」

 

 それからシンとレンは階段を戻ったがいつまで経っても入ってきた入り口につかなかった。

 

「これは、ループしてるのか?」

 

「そうでしょうね、まさか出ることも入ることも出来ないなんて。」

 

「何かあるはずだ、注意しながら降ってみよう。」

 

 それから、注意しながら階段を降りていた。

 

「何もないな。」

 

「どうすればいいのかしら。」

 

「さあ、分からん。一旦休憩しよう。」

 

「でもこのままだと一生ここにいることになるのよ!?」

 

「分かってるけど、どうしようも無いんだから仕方ないだろ?、よっこらしょっと、、」

 

 シンが階段に座った瞬間、大きな音がした。そして、次の瞬間、階段だったはずが階段が無くなり坂道となり、シンとレンはそのまま滑り落ちるしか出来なかった。

 

「一体どうなってんだ?」

 

「こっちが聞きたいわよ!何したのよ!」

 

「俺は何もしてねーよ。」

 

 そうこうしているうちに落ちている先から明かりが見えてきた。

 

「何の明かりだ?ここは地下だぞ!?」

 

 シンとレンは訳も分からないまま、ただ身を委ねるだけだった。

 

次回、ダンジョンの中



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第4話 ダンジョンの中

「ここは?」

 

「分からないわ、でも、ここがダンションってわけね。」

 

 シンとレンが見たのは地下のはずなのに、道の両端に鮮やかに輝きながら流れる水路、道の壁一面がツルで覆われている何とも不思議な光景だった。

 

「どうやらダンションの道の途中に落ちたらしいな。」

 

「「一体どうなってるのかしら?」

 

「こっちが聞きたいぐらいだなこりゃ、、訳がわからない。さっきの階段もそうだが、この水も何で光ってるんだ?」

 

「分からないけど、ここに居ても仕方ないわ、とりあえず進みましょう。」

 

「ああ、そうだな」

 

 シンとレンはその後、罠に注意しながら慎重に進んだ。だが、その心配とは裏腹に特に何か起こるということもなく進む事ができ、強いて言うなら、やたらと分れ道があるので、場所の把握や方向がイマイチ掴みきれないという事ぐらいだった。

 

「なあ?」

 

「どうしたの?こんな時に?」

 

「いや、ふと思ったんだが、、」

 

「???」

 

「レンは何で旅してるんだ?」

 

「…そっか、言ってなかったっけ?私はね、お金が欲しいのよ」

 

「お、お金?」

 

「ええ、ダンジョンは神器があるって前に話したと思うけど、それを売ればお金がいっぱい貰えるじゃない?だからよ」

 

「でも、自分で使おうとか考えないのか?すごいんだろ、神器?」

 

「私は神器がなくても困ってないもの。」

 

「まあ、そうだろうけどな。でも、神器を売るんだろ?そんなにお金もらってどうするんだ?」

 

「ん?それは、、、」

 

 その時、今まで歩いてきた道とは少し違う部屋のような場所に着いた。その部屋には台座があり、その上には古臭い小さな木製の宝箱があった。

 

「これは?」

 

「分からないは、でも今までとは明らかにここだけ作りが違うわね。今まで部屋なんて無かったのに。」

 

「よくここまで来れましたね」

 

 その声はここに居る二人以外である事は明らかかだった。その声の主は、光の中にいて姿をはっきりと見る事はできないが女性である事は声から分かった。

 

「誰だ!?」

 

「私はフロリアと申します。このダンジョンを守りし者です。」

 

「だとすると、俺たちをどうにかしたいってわけか、、」

 

「シン、ここは危険だわ!一旦離れましょう!」

 

「それは困りますね。」

 

 そういうと、どういうわけか壁一面に広がっていたツタがどんどん成長し、出口を瞬く間に塞いだ。

 

「・・くっ、どうするつもりだ!?」

 

「困りますね、ダンジョンを攻略した者に逃げられてわ。」

 

「!?」

 

 二人とも反応は同じだった。全く理解出来なかった。

 

「ダンジョンを攻略した者!?どういう事だ!?」

 

「簡単ですよ、ダンジョンを攻略したわけですから報酬を受け取ってもらわなくてわ。」

 

「でも私たち、迷いながら只々歩いてただけですよ?」

 

「あなたたちにとってはそうかも知れないけど、このダンジョンには迷路に加えて、罠はもちろんモンスターもいっぱいいたんですよ?」

 

「何!?」

 

(マジかよ、とんでもね〜ことしてくれてんな)

 

「あなたたちは奇跡的な選択をしていました。見ていて面白かったです。」

 

(見てたのかよ、タチ悪な)

 

「まあ、クリアはクリアです。喜んで下さい。」

 

「そうね、危険なことしなくて、クリアになったんならラッキーね。」

 

「まあ、そうなんだが…」

 

 唐突のことにシンは納得できていないようだった。

 

「さてと、それでは、宝箱をお開けください。」

 

「そうね、お言葉に甘えて開けてみましょう!」

 

「ああ。」

 

 シンとレンは一緒に宝箱を開けた。

 

次回、一つ目の神器



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第5話 一つ目の神器

 フロリアに言われた通り、木製の宝箱をシンとレンは一緒に開けたが、そこには予想通りというか期待ハズレというのかなんとも言い難い、この宝箱にふさわしそうな見た目をした磨かれていない宝石が埋め込まれているペンダントが入っていた。

 

「これは・・ペンダント?」

 

そうレンが言うのも無理は無い。それほどに古臭い感じがしていた。

 

「はい、これは大地の雫と呼ばれるペンダントを模した神器ですわ。」

 

「こんなのが神器なの?」

 

「はい、どのようなものかは私からは説明出来ませんが、ちゃんとした神器ですわ。それでどちらが持たれるのですか?」

 

フロリアがそう言うとシンはレンの方に顔を向けた。すると、レンも同じこと考えたのかレンもこちらに顔を向けてきた。

 

「レンが持てよ、お前にはこれを売ってお金にするって言う目的があるんだろ?」

 

「確かにそうだけど良いの?」

 

「ああ、俺は神器目的で旅してる訳じゃないし、お金にも困ってないからな。」

 

「ありがとう」

 

そう言うと、レンはペンダントに手を伸ばし、神器を手に取った。特に何か起こると言うわけでもなく、レンはペンダントを自分のポケットに入れた。

 

「なんか神器って言うからなんかこうあるかと思ったけど、特に何もないんだな。」

 

「神器の中にも種類がありますからね、この神器は少し特殊な方です。」

 

「特殊?それってどう言うことだ?」

 

「それは教えられません。ただ、彼女が持つのは正しいかも知れませんね。」

 

「どういう・・・」

 

そう言いかけた瞬間に今までフロリアがいた場所の光が徐々に無くなっていく。

 

「それは後に分かるかも知れませんね。神器は使いようで弱くも強くもなります・・・」

 

そういうと、そこにあった光が無くなりその部屋にはシンとレンだけがいた。

 

「いったい何だったんだ?それにその神器は結局どういう能力なんだ?」

 

「分からないわ。でも、これでとりあえずは落ち着いたわね。」

 

「ああ、とりあえず一度街まで戻ろう。」

 

「そうね」

 

それからというもの街に戻るまでは意外に簡単だった。宝箱のあった台座の後ろ側の蔦が無くなり、その後ろから通路が続いていた。そして、その道の通りに進んでいくと、どういう訳か自分たちがダンジョンに入った入り口から出てきた。それから、今まで通ってきた道を戻り、宿まで戻る事が出来た。

 

 

「それでこれからどうする?この神器のこともそうだけど、反乱勢力の奴らがどんな事をやるか分からないからな。」

 

「そうね、神器は反乱勢力が蠢いてる今じゃあ手放すのは危険すぎるわ。まだ、どんな能力かも分からない訳だし。」

 

「そうだな。とりあえず、数日はここで情報を集めながら、反乱勢力がどう動くのか様子を見よう。とりあえずは寝ようぜ。こんなに時間が経ってたんだな。」

 

「それもそうね」

 

こうして、二人の初めてのダンジョンは何事もなく、終わった。

 

次回、反乱勢力

 



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第6話 反乱勢力

 ダンジョンに行き、神器を手に入れてから三日が経っていた。あれからというもの、とりあえずは反乱勢力に神器が渡らなくて良かったと思うと同時に、結局のところ、この大地の雫と呼ばれるペンダントを模したとされる神器の使い方が未だに分からず、使うことは諦めていたが、勿体無いと言う事で身につけることにしたらしい。

 そして、神器に対して反乱勢力に関しての情報はというと、どうやら動きがあったらしく、聞く話によると何でもこの数日で今まで村やら町で暴れていた連中たちが突如としていなくなったんだとか。このことから今まで暴れられていた村や町にとっては平和な日々が訪れたわけで良かったと安堵する者も少なくないだろう。しかし、それは嵐の前の静けさを表していたのかも知れない。

 

「ん〜〜、朝か〜〜」

 

(にして、ここの所ずっと情報欲しさにあっちこっち行ったり、いろんな人に聴き込みなんかして普段慣れてないせいかすごく疲れるな。)

 

「ん〜〜〜、にゃむにゃむ、、、」

 

(にしても、レンは相変わらず警戒してない時は、よく寝るよな。まあ、メリハリがはっきりしているのは良いことだけど、にしても限度ってもんがある。と言うか、こうやって見るとレンってやっぱ美人だよな。瞳は青色で透き通ってるし、何と言うか出る所は出てて、引っ込んでる所は引っ込んでると言うか。戦闘と言う観点を抜きにしたら美人な女の子って感じだよな。)

 

 そんなことを思っていたらレンが目を擦り、欠伸をしながら眠たそうに起き、布団から体を起こした。

 

「ん〜〜、おはよう〜」

 

「おお、おはよう」

 

「なんでか、急に起きなきゃダメな気がした。なんでだろう?」

 

「へ、へぇ〜、そりゃまたなんでだろうな〜」

 

(別にやましい事は思ってないのに、この女、とんでもねぇ、間違いない。)

 

「ところで、今日はどうするんだ?また聴き込みするのか?」

 

「ん〜、そうね〜、だいぶ聴き込みもしたし、今日は町の様子でも見つつ散歩ね。」

 

「散歩って、そんな呑気な事言ってて良いのか?」

 

「しょうがないでしょ〜、反乱勢力に目立った動きがないし、それに、ここの所ずっと聴き込みとかだったからね。気分転換よ、気分転換。」

 

「まあ、それもそうだけどな。」

 

 それから、宿を出て適当に街をぶらついた。ここリネオスは円状の塀に囲まれていて入り口の関所を通らないと街に入れない仕組みになっている。また、王族のいる城はと言うと、円状の街のほぼ中心にあり、高い塀に囲まれて立派な立て構えをしていた。

 

「なあ、レン。なんだか今日兵士の数少なくないか?」

 

「そう言われればそうね。いつもならもう少しすれ違っても良いかもしれないわね。少し聞いてみましょうか?」

 

「おい、まさか兵士に直接聞くのか?」

 

「そりゃね?」

 

レンは当然でしょ?と言わんばかりに返してきた。そして、兵士の所まで歩いて行った。

 

「すいません。」

 

「何か?」

 

「あの〜、兵士の方がいつもより少ない気がするんですけど、何かあったんですか?」

 

「なんだ、知らないのか?今日は国王と王妃が四年に一度ある世界首脳会議でこの国を空けるため、兵士の半数が護衛としてついていくんで、こっちは大変だよ。」

 

「そうなんですか、すみません。お忙しいのにありがとうございました。」

 

 

「どうやら兵士が半分ぐらしかいないようね」

 

「そう言うことか。つまり、襲うにはベストタイミングってことか。」

 

「ええ、そう言うことになりますね。」

 

「今日は少し動きがないか外で見張ってみるか。」

 

「そうですね」

 

 それから城の入り口が見える少し遠い建物の上から監視することにした。それから少し時間が経ち、夜になった。

 

「特にこれといった変化は無いな。」

 

「そうですね」

 

とその時、街の北の関所の方から騒々しい物音が聞こえてきた。

 

「やっぱり来たか」

 

「そうですね、襲うなら今が絶好のチャンスですからね。」

 

 そんなことを話していると、異変に気づいたのか街に鐘の音が鳴り響いた。おそらく、何かあった時になる非常ベルとかの類だろう。その間に城にいた兵士達が続々と北の関所の方に向かって行った。

 

「結構な数だな」

 

「ええ、まあそりゃそうでしょうね。関所の方ってことは街に入れなかった蛮族とかでしょうね。」

 

「ああ、だけど少し変だな。集めた情報だと貴族達も絡んでいるとか聞いてたのに、わざわざ、街から離れさせるようにして、、、まさか、本当の狙いは北の関所に兵士達を集めること?だとしたら、、、」

 

 そんな事を考えていると街の西側と東側から兵士らしき軍団と先頭にはそれらを指揮しているであろう貧相の良さそうな奴が城の入り口に向かって走って行ってるのが見えた。

 

「あれは、貴族か?」

 

「ここは遠すぎます。急いで城へ向かいましょう。」

 

「ああ、急ごう。兵士が少ない上に兵力を分断させて撹乱なんて考えたな。」

 

「関心してる場合じゃ無いですよ!」

 

 こうして、反乱勢力と王族勢力、シンとレンの戦いが始まった。

 

次回、戦いの中で

 



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第7話 戦いの中で

 丁度、シン達が貴族達が城に向かって行くのを見て、後を追っている頃、城の中は慌ただしくなっていた。 

 

「エルフィン様!どうやら反乱勢力の者達がこの城に侵入したとの事です。」

 

「そうか、分かった。城の警備を固めつつ、ライラの身の安全を頼む」

 

 そう言い放ったのは、この国の王子、リネオス・エルフィンだった。エルフィンは二十一歳で金髪の緑色の瞳をした、所謂イケメンと言わざるを得ない面構えだ。

 

「はっ!エルフィン様はどうなされるのですか?」

 

「俺は貴族どもの相手をしよう。貴族とは言っても城に攻めて来るぐらいだ、腕に自信があるんだろう。」

 

「ですが、それでは、エルフィン様が、、、」

 

「俺にはこの血刀ティルボルグがあるし、心配ないさ。」

 

「、、、分かりました。くれぐれもお気をつけ下さい。」

 

 渋々兵士が了承した所に、今度は金髪のロングヘアでツヤがあり、緑色の瞳でスタイルの良い美人、ドレス姿がよく似合う十九歳のこの国の王女、リネオス・ライラだった。

 

「エルフィン兄様!」

 

「ライラか、ここは危ない。兵士と共に隠し部屋に行くんだ!」

 

「嫌です!エルフィン兄様も一緒に、、」

 

「ダメだ!兵士のみんなも戦ってくれている。なのに、一番力のある俺が戦わない訳にはいかない。」

 

「どうしても戦うのですね?」

 

「そうだ。」

 

「、、、分かりました。必ず無事に迎えに来て下さい。」

 

 そう言うと、兵士と一緒にライラが隠し部屋の方に逃げて行った。ライラを見送った後、エルフィンは侵入してきた貴族達がいるであろう階に向かった。

 

 その頃、シンとレンはと言うと城の入り口付近まで来ていた。

 

「追ったは良いものの、この後どうするの?」

 

「とりあえず、反乱勢力を鎮圧しつつ、この作戦の親玉を叩くぞ!」

 

「そうね、でも、国王も王妃もいないときに襲うなんて。」

 

「簡単ですよ!?戦力は出来るだけ少ない時に不意をつくのが戦の常識ですよ!?」

 

「誰だ!!」

 

 この独特の喋り方をする声の方へ視線を向けると、そこには貴族とは言いがたい、ガタイが良く筋肉がついているのが服の上からでも分かるぐらいゴツい。だが、それとはバランスがおかしい感じにお腹だけは中年のおっさん以上に出ていた男が城に入ってすぐの階段の上にいた。

 

「私は〜〜この国の貴族の〜アークっ!ライザッドともうしま〜す!」

 

「なあ、レン。この頭のおかしな貴族は何なんだ?」

 

「さ、さあ〜?」

 

「おやっ!?頭のおかしな!?貴〜族〜〜!?誰のことかね〜〜?」

 

「該当する奴はここに一人しかいないだろ。」

 

 シンは真顔でそう言った。レンはその会話を聞いたからなのか、目を細め、呆れた顔でシンの方を見た。

 

「おや〜、これは酷い言われようですね!?」

 

 そう言うと、ライザッドは腰にかけていた剣を抜いた。するとその瞬間から空気が変わった。ピリピリと威圧されるような感覚を覚えた。

 

「そこの!少年よ〜、時に!そこの少女とはどう言う関係かね?」

 

「どう言う事だ!?」

 

「ん〜?それはで〜すね!試したのですよ!?」

 

 それは一瞬だった。ライザッドは一瞬のうちに間合いを詰め、レンの背後を取り、人質という形で腕でレンの体を固定し、剣はレンの首元に向けられていた。

 

「若いです〜〜、さっきの質問はこの少女に人質の価値がある!のか試したのですよ!?少年は、少し体に力が入って体が動いた〜、それだけ分かれば大丈夫です〜」

 

(こいつ、戦い慣れしてやがるな。にしても、レンの奴なんで捕まったんだ?いつもだったらなんとかなりそうだけどな。参ったな。)

 

「私はこう見えてもこの作戦の主力ですからね!?舐めてもらって〜は困りますなあ〜」

 

「おい!レン。なんとかして抜け出せないのか!?」

 

「う、うるっさいわね。考え事してたのよ!」

 

「へっ!??」

 

「こんな状況で考え事とは〜舐めちゃってくれてますね!?」

 

 レンの言葉に、こんな時に何を考えているんだろうと言う疑問はあったが、それよりも、この状況を打破する方法を考えなければならない。

 

(筋力があるんだから、足が速いのは当然と言えば、当然か。足が速いのにパワーもあるってのは困ったな。いや、待てよ。)

 

 何を思いついたのか、姿勢を今より落としライザッドに向かってシンが思いっ切りジャンプし、それと同時に懐から短剣を取り出し剣を抜く。その一秒にも満たない僅かな時間がライザッドの油断を生んだ。視線は完全にシンに向けられていた。この状況で交渉や人質構わず向かって来る奴はいても、隙を作る上に行動が予測しやすいジャンプと言う選択は、幾ら戦闘経験が豊富と言っても、一瞬ギョッとし、驚く。その隙をみてレンが全力で肘をライザッドの鳩尾に食らわせ、腕が緩んだところで下にしゃがみ込み、次の瞬間、思いっ切り顎に向かってアッパーを食らわせ、体を宙に浮かせた。すると、今度はシンが短剣をライザッドの剣を持っている方の肩に突き刺し、体を足で蹴り飛ばした。

 

「大丈夫か!レン!」

 

「ええ、おかげさまで。」

 

心配していたシンだったが、レンはと言うと、笑顔を見せるぐらい余裕はあるらしい。

 

「これは驚いた!!飛び込んでくるば〜かもんがいるとは!?」

 

「こっちも立てに冒険してないんでね。」

 

「な〜るほど、確かに、そのようですね!?でも、これからですよ!?」

 

「その必要は無い。なぜなら、貴様にこれからなど無いからだ。」

 

そう言われた方に目線をやるとそこにはこの国の王子、リネオス・エルフィンの姿があった。

 

次回、王子と貴族の戦い




ライザッドをライザックと何回も間違えてイライラしながら書いてましたw。


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第8話 王子と貴族の戦い

 シンとレンが城の入り口で戦っている頃、エルフィンは城に攻めて来た反乱勢力を鎮圧すべく、貴族達が来るであろう階まで来ていた。

 

「王子と王女は殺すなよ。生かして人質として利用するんだ!」

 

「ですが、こうもあっさり入れるとは、思ったより簡単でしたな。」

 

 反乱戦力の指揮を取っているのは、シン達と戦っているライザッド。そして、貴族の二人がこの作戦の指揮を取っていた。そして、ライザッド以外の戦力は王子と王女を人質とすべく、城の王室付近までもう少しのところまで来ていた。

 

「父上と母上がいない時に襲って来るとは、舐められたものだな。」

 

 そこには、エルフィンが貴族達を待ち構える形で立っていた。

 

「これは、これは、王子自らお出ましとはありがたいですな。」

 

「お前らを捕らえて早くライラに会いに行かなければならないんでね。手加減はせんぞ。」

 

 そう言うと、エルフィンは手に握っていた刀を抜いた。刀の刀身の長さは他の刀と同じだが、刀身は鮮やかな真紅色をしていて、少し不気味さを醸し出していた。

 

「幾らあなたと言っても、この数相手に一人で相手をするつもりですか?」

 

「そうですよ?それこそ舐めてると言うものですな。」

 

 貴族達がそう言うのもそのはず、貴族二人を先頭として、後ろにも兵士達が数百人は居るだろうというぐらい、数の上では圧倒的な程差があった。

 

「おいおい、一人ではない。まあ、数の上で言うなら勝てないが、実力なら貴様らの兵士よりも、私の兵士の方があると思うがね。」

 

 そう言うと、反乱勢力を囲む形で鋼の鎧を纏い、大楯に剣を構える、統率の取れた兵士が数十人現れた。

 

「軽装の兵士は北の関所に行かせ、後は城の警備に回らせたからな。」

 

「ですが、あなた方の不利な状況に変わりはありませんよ?」

 

 そう言うと、貴族の二人が剣を抜いた。それに続いて兵士達の抜剣し、両者ともに戦闘態勢に入った。

 

「これより、王子を確保する。やれ!!」

 

 貴族のその掛け声が戦いの始まりの合図となった。だが、次の瞬間、エルフィンの持っていた刀が赤い輝きを放ち、景色が一変した。一体、何が起こったのか、そこに居た者は理解が出来ていなかった。エルフィンただ一人を除いては。そして、少し時間が空き、貴族二人が自分の置かれている状態に気づく。そこには、いつも当たり前のようにあった腕がなかった。そう、エルフィンは刀が赤く輝いた瞬間に貴族二人の腕を切り落とし、戦力と指揮を奪ったのだ。

 

「う”あ”あ”あああああぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 貴族二人の悲鳴が鳴り響く。痛みを必死に堪えるためか、人間の本能的な行動なのか床に蹲り、苦し悶えていた。

 

「次はお前達だ。」

 

 エルフィンが兵士達に刀を向ける。すると、今のを見てた兵士どもが恐怖に戦き、逃げ出す者、その場に蹲るものや泣き叫ぶ者すらいたが、誰一人として剣を向けて来る者はいなかった。

 

「さてと、ここの処理はお前達に任せる。私は、まだ城にいるかもしれない反乱勢力の残党と北の関所の様子を見て来る。何かあれば知らせに来い。」

 

「はっ!了解しました。先ほど城の入ってすぐの場所に貴族と少年と少女が戦闘をしているとの報告がありました。」

 

「少年と少女?仲間割れか?」

 

「いえ、どうやらそうではなく、貴族達の後を追って来た者達なのではないかと。」

 

「ほ〜、この状況になると踏んでいた奴がいたのか。分かった、俺はそっちに向かってから北の関所に向かうとしよう。」

 

 そうして、時は現在に繋がる。

 

「おや!?これは〜エルフィン王子さ〜ま!ではありませ!んか。」

 

「アーク・ライザッドか、お前が主犯だな。」

 

「いかにも〜そのと〜りですね!?」

 

 シンとレンは新しく現れた男に誰だろうと疑問を抱いていたが、ライザッドの発言でこの国の王子様と言うこと知ることが出来た。

 

「あなたがここにいると言うことは!??」

 

「先に来た貴族なら俺が止めた。」

 

「そうですか!?それは残念ですね!?後もう〜少しだったというのに。」

 

「お前もここで終わりだ。」

 

 そう言うと、エルフィンは刀を抜いた。それを見てか、ライザッドも剣を構える。シンとレンはこれから何が起こるのか分からないが、邪魔をしてはいけない。そんな雰囲気がまだ若い二人にも伝わって来た。

 

「その刀は〜変な色してますね!?」

 

「この刀は神器、血刀ティルボルグ。力と速さが高まり、この刀は血を吸い込むことで、この刀の効果を高め、刃毀れを直し、斬れ味を最大限に保つ刀だ。」

 

「あれが神器!?俺たちのと全然違うな。」

 

「ええ、私たちのは戦闘に向かない神器なのでしょう。」

 

 そんなことを話していると、エルフィンとライザッドの戦いが始まった。エルフィンとライザッドはほぼ互角と言っていい勝負をしていた。辺りには、刀と剣の当たった時の金属音と、火花が散っていた。だが、ライザッドの動きが少しだけ鈍くなって来た。おそらく、シンとレンとの戦闘で受けた傷が動きを鈍らせているのだろう。そして、刀と剣の攻防に限界が見え始めた。エルフィンの刀が、ライザッドの頰を少しだけ掠った。すると、それからは一つ、また一つと体に傷をつけた。どんどん早くなるエルフィンに対して、鈍くなっていくライサッド。そして次の瞬間、エルフィンの刀がライザックの剣を上に弾き飛ばし、丸腰になったライザックを左肩から右脇腹にかけて斬り、そこから全身に深い傷をつけた。すると、ライザックはその場に倒れた。

 

「ふぅ〜、手負いなのにタフなやつだったな。ところで君たちは?」

 

 シンとレンが呆気にとられていると、エルフィンはシン達に話しかけてきた。シン達はここに来た経緯や今まで旅してきて出会った反乱勢力のことを簡単に説明した。

 

「なるほど、そう言うことか。君たちには悪い事をしたね。」

 

「いえ、私たちが勝手にやった事ですから。」

 

「そう言ってくれると、ありがたい。」

 

 エルフィンは軽く会釈した。シン達は一国の王子がどこの誰かもわからない自分たちに頭を下げた事に戸惑いを隠せなかった。その当の本人はそんな事は微塵も気にしていない様子だった。

 

「さてと、私はこのまま北の関所に向かうが君たちはどうする?このままここに残るかい?」

 

「いいえ、俺たちも行きます。」

 

「そうですね、北の関所の方々が心配です。私たちも一緒に行かせてください。」

 

「そうか、なら俺について来てくれ!」

 

「はい!」

 

 エルフィンは北の関所に急いで向かうべく走った。シンとレンはそれに離されないようについて行った。

 

「、、、詰めが、、甘い、ですね!?」

 

 その声の主はライザッドだった。全身は傷だらけで血がドバドバと流れ出るぐらい出血していた。普通の人間なら生きているのがおかしいぐらいの傷だったが、大きな筋肉と厚い脂肪が致命傷を逃れたらしい。ライザッドは床に這いつくばりながらも、その手には西洋風の木製でできた拳銃が握られていた。そして、その銃口の先にはエルフィンの後ろを走っていたレンに向けられていた。声に気づき、振り向いた次の瞬間、銃声がした。

 

「危ない!!」

 

 シンはレンを庇うように銃弾の弾道を遮ってレンに背を向ける形で前に立った。すると、銃弾はシンの胸元に当たった。

 

「シンっ!!」

 

 レンは自分の事を庇ってくれシンが目の前で撃たれ、倒れていく姿を見た。シンの胸元からは血が流れ出ていた。レンの目からは自然と涙が流れていた。

 

「バカな、、人ですね!?イヒヒヒ」

 

 ライザッドのその人を馬鹿にした笑い声を聞いた瞬間、レンは涙を流しながらも、立ち上がり、涙を拭き、ライザッドに向かって走り出していた。レンは物凄い速さでライザッドの所まで行き、ライザッドの拳銃を持っていた手を足で押さえつけ、拳銃を奪い、銃口をライザッドに向けた。

 

「私が、、そんなにも憎いですか!?」

 

 ライザッドは笑いながらそんな事を発した。レンにとって、その笑い声は許し難く、癇に障る言い方だった。手は震え、視界は涙でよく見えていなかった。すると、横からエルフィンがレンの持っていた拳銃に手を触れた。

 

「君はこの引き金を引くべきでは無い。もう戻れなくなってしまう。こいつを倒し切れていなかったのは私だ。私が最後までやろう。」

 

 そう言うと、エルフィンはレンから拳銃を取り、刀を抜いた。そして、エルフィンはライザッドの腕に刀を突き刺した。すると、見る見るうちライザッドの血の気が悪くなり、肌の色も白になっていた。

 

「ここまで血を吸えば、何もする事は出来ないだろう。」

 

 レンはその場に座り込み、涙を流していた。その姿を見たエルフィンは声をかけることが出来なかった。

 

「う”う”う”ううう」

 

 その聞き慣れた声の正体にレンは驚きと喜びで涙が止まらなかった。エルフィンも驚いた様子でその声の方を見ていた。そこには、撃たれて死んだと思われていたシンの姿だった。

 

「これは驚いた。」

 

「シンっ!あなたなんで生きているのよ!?」

 

「いや〜、それが銃弾が当たって、俺も流石に死んだと思っていたんだが、たまたま懐にしまっていた俺の短剣に当たってな。短剣が折れちまった代わりに、俺は何とかなったって訳だ。」

 

 シンは震えている声に加えて、座り込みながら涙を流しているレンにどう接したら良いのか困惑していた。

 

「私は北の関所に行って、様子を見てくるから君たちはここにいるといい。」

 

 そう言うと、エルフィンは北の関所に早早と行ってしまった。残されたシンとレンはと言うと、レンがずっと泣いているのでシンが何とか泣くのを収めようと必死だった。すると、ようやく落ち着いてきたのかレンが泣き止んだ。

 

「少し落ち着いたか?」

 

「うん」

 

そこには今まで見た事がないくらい目元が涙で赤くなり、しょんぼりしたレンの姿だった。そんなレンの姿に内心、シンはドキドキしていた。

 

「死んじゃったんじゃ無いかと思って、私、心配で、心配で、、」

 

「大丈夫だよ!俺は運だけはいいからな。」

 

 今にもまた泣き出してしまいそうなレンに、シンは笑顔で答えた。

 

次回、レンが旅する理由

 



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第9話 レンが旅する理由

 反乱勢力の事件から二日が経った。シンとレンは国の大事に国を一緒に守ってくれた恩人という扱いで城に招待され、事件以降は城の部屋を一つ貸して貰っていた。

 

「もう、本当に大丈夫なんですね?」

 

「ああ、銃弾は短剣に当たったし、血も、そこまで傷が深くなかったから、無理に動かなければ心配要らないって、城の医者も言ってたろ?」

 

「それはそうですけど、、、」

 

(ライザッドに俺が撃たれてからというもの、やけに心配するんだよなぁ〜、レンのやつ。まあ、心配してくれるのはありがたいけど。)

 

 とその時、ドアがノックされた。

 

「どうぞ。」

 

 レンが返事をすると、そこにはエルフィンの妹、この国の王女様のライラだった。ライラは初対面だった、シンやレンにも優しく接してくれ、この城の案内を自ら買ってでてくれた。

 

 

「ご機嫌はいかがですか?シン様、レン様。」

 

「おかげさまでだいぶ良くなったよ。」

 

「ちょっと、シンってば!この国の王女様何だから言葉遣いをもっと、、」

 

「ふふふ、大丈夫ですよ。何だかお友達が出来たみたいで楽しいです。」

 

 おそらく、本心から言っているのだろう。ライラは本当に楽しそうな顔をしていた。

 

「ライラ、こんなところにいたのか。婆やが探してたぞ?また、抜け出したな?」

 

 今度は、ライラの兄、エルフィンがやって来た。

 

「ですが、婆やは少し失敗すると昔からすぐに怒るから苦手なのです。」

 

 何かの最中にこの部屋に来たのだろうかとシン達は疑問に思いながらも、この兄妹の会話聞いていた。

 

「全く、あまり婆やを困らせるなよ。」

 

「兄様だって、昔よく城を抜け出して困らせていたではありませんか。」

 

「だからと言って、抜け出して良い理由にはならないだろう。」

 

「ふんっ。説得力が無いですね。」

 

 ライラは頰を膨らませ、エルフィンとは逆の方を向き抵抗していた。それを見てか、エルフィンはやれやれと言った感じで小さくため息をついた。

 

「ところで、シンとレン。君たち二人に父上が礼をしたいと言っているのだ。父上のいる王の間まで案内するから、ついて来てくれ。」

 

「いえ、そんな悪いですよ。部屋まで貸して貰っている訳ですし。」

 

 レンはそう言ったが、恩人なんだから遠慮はしなくても良いとの事だった。シンとレンは悪い気がしたが、国を守ってくれた恩人なんだから受け取って欲しいという王様の心遣いを無下にもできないので、受け取る事にした。それから、エルフィンに案内され、国王のいる王の間まできた。

 

 

 そこに居たのは、如何にも王様と言わんばかりの白い髪に髭、王冠や身形など全てが王という貫禄を出していた。その横には、綺麗な風格をしたエルフィンとライラと同じ金髪で緑色の目をした、王妃がいた。

 

「あなた達がライラの話していた方々ね。私の子供達がお世話になりました。」

 

「いえ、俺たちこそ、助けて貰ってばかりで、申し訳ない。」

 

「私が城を留守にしている間、そなた達が反乱勢力抑制の手助けをしてくれたと聞いてな、礼を言う。そこでだ、此度の件、そなた達には世話になった礼として何か褒美をやろう思うのだが何が良いだろうか?」

 

 シンとレンはてっきり何か用意されているのだとばかり思っていたので、何も考えていなかった。

 

「何でも良いんですか?」

 

 シンが尋ねる。

 

「基本的には用意できるものならば何でも構わん。」

 

 シンは困った。特にこれと言ってすぐ欲しい物が思い付かなかった。

 

(短剣は街でも買えるからな。何かあるか?)

 

 そんな事を考えていると、顔を下に向けながら考えていたレンが口を開いた。

 

「私には、レイナという三つ下の妹が居るんです。ですが、レイナは半年以上前に不治の病にかかりました。私は何としてもレイナを不治の病から治して、また一緒にくだらない事を話をしたり、同じものを見て、いろんな話をして、そんな当たり前の日々をまた過ごしたい。その一心であるかどうかも分からない、不治の病を治せる薬を探して旅に出ているのです。」

 

 レンの口から語られたのは、シンが知らないレンの話だった。妹が居たことにも驚いたが、不治の病に冒され、それを治すための旅をしているという事に、シンは驚きを隠せなかった。

 

「うむ。では、そなたは妹の不治の病を治す薬が欲しいという事かな?」

 

「はい。」

 

「残念だが、我が国には不治の病を治せるような医術も薬も無いのだ。」

 

「そうですか。」

 

 レンはそれを察していたのか、目に見えて落ち込んでいる様子はなかったが、シンは、どこかレンが落ち込んでいるように見えて仕方がなかった。

 

「だが、ここより東にある国に、薬や医療が発達しているアルキトラという国がある。そこなら、もしかしたら、不治の病を治せる情報があるかもしれん。馬車を出すから行ってみると良い。」

 

「本当ですか!?ありがとうございます。」

 

 今まで探しても手がかりすら掴めなかったが、ようやく妹を救うことが出来るかもしれない手がかりを掴めた、ということが余程嬉しかったのだろう、レンの目が心なしか輝いているように見えた。 

 

「恩人に、それだけというのもなんなんでな、旅に必要な物資とお金を準備しよう。」

 

「ありがとうございます。」

 

「妹さんの病が無事に治ることを心より願っていますよ。」

 

「はい。」

 

 こうして、王都リネオスでの反乱勢力の件が終わり、レンの妹、レイナの不治の病を治すべく、また、新たな冒険に出るシンとレンだった。

 

 次回、新たな冒険



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第10話 新たな冒険

 シンとレンは、王都リネオスを出て三日が経ち、レンの妹、レイナの不治の病を治すべく、薬と医療が発達しているというアルキトラに馬車で向かっている最中だった。

 

「にしても、わざわざ馬車まで出してくれるなんて、良い人たちだったな。」

 

「そうですね、本当にありがたいです。」

 

「何だか、二人で歩きながら王都に向かって歩いてた頃が懐かしいなぁ〜。」

 

「そうですね〜、会ってからまだ一ヶ月ぐらいしか経ってないのに、何だかすごく昔から一緒に旅をしている。そんな感じがします。」

 

(そうだよな、まだ会って一ヶ月ぐらいしか経ってないんだよな。それに、意外と俺は、レンのこと知らなかったんだよな。)

 

 シンは王の間で初めて知った妹の事や、その妹が不治の病に冒されていた事など、レンのことが何も知らなかった事に、少しショックを受けていた。

 

「どうかしたの?」

 

 それを感じとったのか定かでは無いが、レンがシンに話しかけてきた。

 

「いや。ただ、俺はレンの事を何も知らなかったなぁ〜、と思ってな。」

 

「それは私があんまり話そうとしなかったからよ。」

 

 レンはシンの言葉を肯定せず、自分に非があるから仕方がないと言ったような様子だった。

 

「私ね、シンには迷惑をかけたくないなと思って今まで黙ってたの。余計な心配をかけて、もし、何かあったらどうしようかなって。だけど、結果的に迷惑をかけてしまってごめんなさい。」

 

「その事ならなんとも思ってない。どこに行くとか、当てがあった訳でもないしな。寧ろ、レンと一緒に旅が出来て良かったと思ってるよ。」

 

「そう言ってくれて、ありがとう。」

 

 二人は自分たちが思っていた事を伝え合って、前よりも良い関係になったとお互いが感じていた。

 

「なあ、そういえば聞きたいことがあったんだが。」

 

「なに?」

 

「ライザッドに捕まった時、考え事してたって言ってたけど、あんな時に、なに考えてたんだ?」

 

 それを言われた瞬間、レンは顔を合わせていたはずなのに下を向いた。

 

「そ、それはちょっと……、秘密です。」

 

 レンは照れているのを隠そうと必死だった。

 

「何でだよ?なに考えてたんだ?」

 

「な、何でもですっ!」

 

 今まで顔を隠していたが、耳まで薄いピンク色になり、顔を隠すだけでは足りないぐらい照れていた。

 

「レン、心なしか少し顔赤くないか?大丈夫か?」

 

 そういうと、シンはレンに手を伸ばし、レンの頰に触れた。すると、レンはさらに真っ赤になった。レンは内心ドキドキで頭が一杯だった。

 

「ん〜、特に熱は無さそうだな。体調には気をつけろよ?」

 

「わ、分かってるわよっ!!」

 

 レンはシンに少し強く声を発した。シンは何でレンが怒っているのか不思議だ、という顔をしていた。

 二人の長い旅はまだまだ続く。

 

次回、アルキトラ到着



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第11話 アルキトラ到着

 シンとレンはアルキトラまで後一日ぐらいのところまで来ていた。だが、シンは熱を出し、ぐったりしていた。

 

「シン、大丈夫?」

 

「ああ、横になっているからだいぶ楽だよ。」

 

 横になっているシンを看病しながら、レンは心配そうに言った。

 

「シン様、あと一日ほどでアルキトラなので、あと、もう少しの辛抱ですよ。」

 

 馬車を引いていたリネオスの兵士が声を掛けてきた。

 

「そうか、分かった。」

 

 シンの返事は心なしかぐったりしていた。

 

「王都の件と長い旅で疲れが出たんだろうな。」

 

「そうかもしれないわね。」

 

 そんな事を話していると、視界に古びた時計塔が見えてきた。時計塔の壁には蔦や苔が生え、天辺には大きな鐘があったが、全体的に古臭く、何十年も誰も手入れをしてないのが一目で分かった。

 

「随分と年季の入った建物ね。」

 

「この時計塔は壊れていて、ドアが開かなかったり、時計が止まっていたりしていて、誰も直してないんだそうです。」

 

「そうなんですか。」

 

「まあ、直ったところで誰に需要があるのか分かりませんしね。」

 

「へ〜、そんなもん誰が造ったんだろうな。」

 

「さあ。いつからあるのかよく分かっていないんですよね。」

 

「ふ〜ん。そうなのか。」

 

「いいから病人はしっかり休んでください。幸わい、アルキトラは薬が発達している国らしから良かったわね。」

 

「ああ。」

 

 それから一日程かけてアルキトラに到着した。アルキトラの周りを囲まれていたが塀には蔦が伸びていた。また、街の中の建物にも蔦が伸びていたが、生活に支障を来す程ではないからなのかここに住む人は特に気にしていない様子だった。

 

「凄いところですね。」

 

「そうですね、初めて来られる方は驚かれますね。このまま宿までお送りしますね。」

 

「ありがとうございます。」

 

 アルキトラに着いた頃にはもう夕方だったので、この日はシンが、熱ということもあり、宿に泊まることにした。

 

「ありがとうごいます。」

 

「いえ、我々はここまでしかお役に立てませんので。宿の手続きをした後、我々はリネオスに戻り、街の復興に戻りますが、何か他に困った事や頼みごとはありますか?」

 

「いえ、十分です。礼を言っていたとお伝え下さい。」

 

「了解しました。では、お気をつけて。」

 

 兵士達は宿の手続きを済ませ、リネオスに戻って行った。シンとレンはというと、部屋を借り、シンは相変わらず横になりぐったりしていた。

 

「私は街に薬を買いに行きますので、寝ててくださいね。」

 

「ああ、そうさせてもらうよ。悪いな、助かるよ。」

 

「いえ、それでは行ってきます。」

 

「ああ、行ってらっしゃい。」

 

 レンは街にでて薬屋を探した。道中には、リンゴやバナナなどの果物を売っていた果物屋。剣や防具を取り扱ってる武具屋や雑貨屋などがあった。レンが歩いていると本屋の軒の本が陳列している中に目を引く、赤い色をした見た目をした表紙に「ワールドブック」という文字が書かれていた。

 

「なんだろこれ。」

 

 レンが本を開くとそこには目次が書かれていた。

 

「え〜と、世界地図、世界の歴史、各国の特徴と文化、七つの罪人、危獣、会ってはいけない者?」

 

 レンは一目でなんとなく理解できるものから、よく分からないものまで書いてあるなと思った。

 

「すいません。」

 

「はい。」

 

 レンが声をした方を向くとそこには赤髪の二十歳ぐらいの男が立っていた。腰には剣を下げており、剣の鍔の部分が刀と垂直ではなく平行な円柱の形をした変わった剣が鞘に収まっていた。

 

「リネオスに行きたいのですが、どっちに行けばいいか分からなくて。」

 

「ああ、それだったら、」

 

 レンはリネオスまでの道を男に教えた。

 

「ありがとうございます。助かりました。」

 

 そういうと男は行ってしまった。

 

「あの人、どっかで見たことある気がするんだけど、気のせいかな。まあ、いっか。早く薬を買いに行こう。」

 

 レンはその後、街を歩き薬屋を見つけ、シンの薬を買った。

 

 

 次の日の朝

 

「ん〜〜、よく寝たな。もう朝か。おっ。」

 

 そこには、シンの看病で疲れて椅子に座ったままベットに寄りかかりながら寝ているレンの姿があった。

 

「レンには迷惑掛けちまったな。ありがとなレン。」

 

 そういうとシンはレンの頭を撫でた。

 

次回、レンの一面とシンの照れ



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第12話 レンの一面とシンの照れ

 シンの熱が治り、二人はレンの妹、レイナの不治の病を治す薬の情報を得るため、街に来ていた。 

 

「悪いな、俺の看病させちまって。」

 

「ううん。全然大丈夫だよ。」

 

 シンは自分の看病をしてくれたレンに礼を言ったが、レンは笑顔で返してくれた。

 

「ところで、何か薬に関する情報の当てはあるのか?」

 

「そうね〜、ここに来たのは初めてだからこれっていう当てはないけど、昨日、シンの薬を買った薬屋に行って、何か情報がないか聞いてみようと思って。」

 

「なるほどな。」

 

 それから二人はレンの薬を買った薬屋まで行った。その薬屋まで行くと外見は蔦で覆われていて、窓からは中が見え、瓶がズラリと並べられていて、中には薬だろうと思われる様々な色をした薬品などが置いてある棚がいくつかあった。ドアを開け、奥に入ると、メガネを掛けた老婆が椅子に座っていた。

 

「こんにちは、おばあちゃん。」

 

「おお〜、また来たのかい。薬は効いたかい?」

 

「おかげさまで、この通り、元気になりました。」

 

 そういうと、レンが笑顔でシンの背中を叩いた。

 

「いてぇ〜な。」

 

「そうかい、そりゃ〜良かったね〜。」

 

 シンがレンに叩かれ、渋い顔をしていると、老婆が笑顔で二人を見ていた。

 

「なら、今日はどうしたんだい?」

 

「実は不治の病を治せるかもしれない薬がアルキトラにならあるかもしれないというのを聞いて、リネオスからここまで来たんです。」

 

 その話を聞いた老婆は、考えこむように下を向き、少しすると顔を上げ、口を開いた。

 

「事情は分からないけど、すまないけど聞いたことがないねぇ〜。」

 

「そうですか。」

 

 老婆の話を聞いて、レンは表に出さないようにしていたのだろうが、シンにはレンが落胆しているのを、なんとなく感じ取っていた。

 

「そもそも、この街の薬はこの街から少し南東に行ったところにあるダンジョンから採って来ているからね〜。そこに行けばあるかもしれないけど、私がこの街で生まれ育って、七十年以上はいるけど聞いたことがないね〜。」

 

「そうなのか。この薬は全部ダンジョンから採って来てるのか。」

 

「私は行った事がないから分からないけど、行ってみるといいかもしれないね。」

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

「聞いた話だと、階層が分かれていてどんどん下に下がって行くんだそうだが、下に行けば行くほど危険になるって話だよ。」

 

 老婆が心配そうな目をしながら話してきた。

 

「行くのかい?」

 

老婆がそういうと、レンは何も言わず小さくコクリと頷いた。

 

「気をつけるんだよ。」

 

「おばあちゃん、ありがとうございました。」

 

 そういうと、レンは頭を下げて先に店を出た。

 

「薬、ありがとうございました。おかげさまで助かりました。」

 

「いいさね。それにしても、大事にされてんだね〜、あんた。」

 

 シンは何の事だろうと不思議な顔をしていると、老婆が話を続けた。

 

「昨日、あのお嬢ちゃんがうちに来た時、熱に効く薬を探してるんですって、すごく心配そうな顔をしていてね。だけど、私が薬を渡した時は、いい笑顔で『ありがとうございます』って言ってね、『大事な人でも風邪を引いたのかい』って聞いたら、『そうなんです。早く治ってもらいたくて』って言って、そりゃあ〜もう、いい笑顔で帰ってったんだよ。」

 

 シンは自分の知らないレンの一面を知れたことや、自分を大切に思ってくれていたことに、何だか嬉しくなった。

 

「ああいう子は手放しちゃダメだよ。中々あんなにいい子は居ないんだからね?」

 

「は、はい。」

 

 シンが照れながら答えると、老婆は見透かしているのか、笑顔でシンを見ていた。シンが礼を言って店の外に出ると、レンが待っていた。

 

「随分と長く話してたのね。何の話してたの?」」

 

「い、いやっ!?なんでもないけど!?」

 

「ん?なんか話してたんじゃないの?」

 

 シンは何だが恥ずかしくてレンを直視できなかった。レンは不思議そうにシンを見ていた。

 

「まあ、いいけどね。さっ、行きましょう?」

 

「おお。」

 

シンはレンの後に続いた。

 

次回、二つ目のダンジョン



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第13話 二つ目のダンジョン

 アルキトラから数時間ぐらい歩いた頃、薬屋の老婆から言われた、南東にあるダンジョンまで来ていた。

 

「これがダンジョンか。」

 

 二人が見ていたダンジョンの見た目は、石造りのドーム状の建物で屋根は崩れ、壁には蔦や苔がギッシリと生えていた。ここのダンジョンは森の中にあり、緑色の外見がうまく周りの景色に溶け込んでいた。

 

「とりあえず、中に入って見ましょう。」

 

「そうだな。」

 

 二人は入口らしきところから中に入った。すると、中には辺り一面に薬草が生えていた。

 

「これ全部薬草なのか?すごいな。」

 

「ええ、これだけあればいくら採っても無くならそうですね。」

 

 そう言って、レンが試しに一つ薬草を採ってみた。すると、採ったはずの薬草がすぐに生えてきた。

 

「これは一体、どういうことなんでしょうか?」

 

「分からない、でも、このダンジョンの一番下に行けば何か分かるかもしれない。」

 

「そうですね。早速、行ってみましょう。」

 

「ああ、多分、あそこの階段から下に行くんだろうな。」

 

「ええ。」

 

 そういうと二人は階段を降りていった。

 

「何だか、ダンジョンで階段があるとリネオスの時の事を思い出すな。」

 

「そうですね。あの時はずっと続いて大変でしたけど、今回のダンジョンは大丈夫そうですね。」

 

 そんな会話をしていると、階段が終わった。すると、そこには床も壁も天井も全てが蔦でできていた。

 

「何だこれは!?」

 

「すごいですね。リネオスのダンジョンは石造りだったのに、今度は蔦なんて。」

 

「ダンジョンっていうのはこういうものなのか?」

 

 二人が驚いていると、どこからかは分からなかったがダンジョンの中から「キーン」という金属音に似た音が聞こえた。

 

「今のは!?」

 

「分かりません。でも、良くない感じですね。」

 

「ああ、でも、行くしかないか。」

 

「そうですね。ここから先は光が届かないようですね。」

 

 そういうと、レンが腰に下げていたバックからジッポライターを取り出した。そのライターを点けると、辺りに光が照らされた。

 

「行きましょう。」

 

「ああ。」

 

 二人は奥へと進んで行くが、何から何まで蔦で出来ているせいか、足場が悪いのと、見た目が同じ事もあって、自分たちがどこに居るのか方向感覚が分かりづらかった。それでも、二人はダンジョンの奥へと進んで行った。道は一本道ではなくいくつかに分かれていて、行き止まりはもちろん、さらに道が分かれており、複雑な構造になっていた。何とか、迷いながらもダンジョンの奥へと進んで行く。すると、二人の前に下に続く階段が現われた。

 

「なるほどな、こんな感じでどんどん下に進んで行くのか。」

 

「おばあちゃんの行った通りでしたね。」

 

「そうだな。」

 

 二人は階段を降りていく。すると、造りは全部同じらしく、全て蔦で出来ていた。

 

「造りは大体同じみたいだな。」

 

「そうみたいですね。」

 

 二人は同じ要領で進んで行く。ただ、さっきの階よりも分かれ道が多いようで、さっきよりも長い時間迷っていた。特に此れと言って変わった事は無く、無事に階段があるところまで着くことが出来た。

 

「これ何階まであるんだ?」

 

「さあ〜、おばあちゃんもそこまでは言っていなかったですね。」

 

「とりあえず、降りて行くしかないって事か。」

 

 二人は階段を降りて、更に下の階層に行く。下の階層に着き、今までと同じ様に進んで行く。すると、今まで居なかった蝙蝠が天井にぶら下がっていた。

 

「ここで生き物に会ったのは初めてだな。」

 

「そうですね。リネオスのダンジョンでも私たちは何にも会っていませんでしたからね。」

 

 そんな会話をした後に、二人が蝙蝠の下に近づくと蝙蝠が二人の後ろの方に飛び立っていった。すると、蝙蝠を目で追っていた二人の視界に自分たちの後ろから何かが近づいてきているのが辛うじて視認できた。その正体とは、四足歩行で頭には角が四本生えた、例えるなら、サイに似ている動物がこちらに物凄い勢いで向かって来ていた。

 

「おい、おい、アレやばいだろ!?道の幅ギリギリじゃね〜か!」

 

「走って逃げましょう。」

 

 そういうと、二人は走りだした。だが、走っても走っても追ってくる。次第に二人との差も縮まって来た。

 

「何であいつこんなに暗いのに俺たちの位置が正確に分かるんだ?」

 

「おそらく、目が退化して、聴覚が異常なまでに発達したんじゃないかしら?」

 

「そういうことか。で、どうすればいいんだ?」

 

「それが分かったら、走ってないわよ。」

 

 そんなことを話していると二人の前に階段が現われた。

 

「ラッキー、あの大きさなら入って来れないだろ。」

 

「早く階段まで走りましょう。」

 

 二人は全速力で階段まで走った。間一髪、二人が階段に入った瞬間、サイに似た生き物はシンの思った通り入って来れずに、階段に挟まっていた。

 

「あぶね〜、間一髪だったな。レン、大丈夫か?」

 

「ええ、私は大丈夫です。シンも無事ですか?」

 

「ああ。にしても、今みたいなやつがこれから出てくるってことか。」

 

「そう思った方が良さそうですね。」

 

 二人はこのダンジョンの特徴と生き物に驚きながらも、まだあるこの先の階層にどんなことが待っているのかと不安を抱えていた。

 

次回、最下層と二つ目の神器

 



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第14話 最下層と二つ目の神器

 シンとレンは階段を下り、次の階層を歩いていた。

 

「あの生き物は一体何なんでしょうか?」

 

「さあな、ダンジョンに住む魔物ってところか?」

 

 二人がそんな話をしながら奥へと歩いて行く。分かれ道に迷いながらも歩いていると、二人の前に大きな広い空間のある場所が見えてきた。

 

「なんか、大きな空間のある場所があるな。行ってみよう。」

 

「そうですね。」

 

 シンが先頭に立ち、先に大きな空間のある場所に入り、その後をレンが付いて来ていた。すると、シンがその大きな空間に入った瞬間、シンが通って来た道に蔦が生え、道を塞ぎ、レンが通れなくなった。

 

「なんだ?」

 

「どうやら、蔦が生えてきて道が塞がれてしまった様です。」

 

「大丈夫か?」

 

「はい、私は他に違う道が無いか探してみます。」

 

「分かった。気をつけろよ。」

 

「はい。」

 

「じゃあ、また、後でな。」

 

「あっ、シン!これを持っていってください。」

 

 レンがそういって蔦の間から渡して来たものは、レンが持っていた光源のジッポライターだった。

 

「でも、ライターないとレンが困るだろ?」

 

「私は予備のライターがあるから。」

 

 そういって、腰に下げているバッグから予備のライターを出してきた。

 

「もう一個あるなら最初から一個、俺に渡してくれたってよかったよな?」

 

 シンが細い目をして、レンのことを見つめた。

 

「もしものことがあった時に、燃料がなくなったら困るじゃない?」

 

 レンが、ちゃんとした理由があるから仕方がないでしょみたいな顔をして、シンを見つめ返した。すると、シンは、そういう理由があるなら仕方がないけどみたいな顔をしていた。

 

「ありがとな。」

 

 シンが礼を言って、レンの手の平からライターを取った。

 

「どういたしまして。」

 

 レンが、それでいいのよみたいな顔をしていた。そして、シンは大きな空間の場所の探索。レンはシンのところまで行くための他の道が無いか探しに、二手に分かれた。

 

(にしても、この空間は何なんだ?)

 

 シンがそんな疑問を思いながら、この大きな空間の中央まで来た。

 

「キャア”ア”ア”アアアアアア!!」

 

 金属音の様な音がこの空間に反響して物凄い音になっていた。

 

「何だ!?」

 

 物凄い音にシンはライターを落とし、両手で耳を塞がざるにはいられなかった。

 

(どっかで聞いたことある音だと思ったが、この音は入って来た時に聞こえて来た音と同じだ。)

 

 シンがライターを拾うと、天井に赤く光る二つの何かが見えた。その赤い光はシンの方に近づいて来た。だんだん近付いてくるとそれが何なのか、正体を確認することができた。その正体は翼を持ち、耳が大きい、全長は翼を広げると二十メートルは超えている蝙蝠の魔物だった。

 

「あっぶね!」

 

 その魔物はシンに向かって足を突き出してきたが、シンはそれを避けた。すると、突き出した足が地面に当たった。その場所は、抉れていて、足には鋭い爪が生えていたのが避けた時に見えた。当たったらほぼ即死だろうとシンは思った。

 

「キャア”ア”ア”アア!!」

 

 当たらなかったのが気に入らなかったのか、また金属音に似た音を叫んだ。すると、今度は翼を広げて大きく羽ばたき、飛んだ。

 

「おいおい、また、飛びかかってくる気か。あんなの勘弁だぜ。」

 

 そういうと、シンは壁まで走り、壁沿いを走り始めた。暗闇の中で自分の位置を把握しつつ、あの魔物に気を払いながら戦うのは難しいだろうという考えだった。シンが壁沿いを走っていると、この空間には出入り口がいくつかあるということが分かった。すると、また、魔物が襲いかかってきた。今度は上にジャンプをして避けた。すると、さっきまでシンがいた所の壁が爪の形に抉れていた。

 

「マジかよ。」

 

(このままだったらいつかは当たってしまう。だが、逃げようにも、レンと会うと約束している以上、レンがここにくる可能性が高い。そうなったらレンが危ない。戦うしかないな。)

 

 シンが考えていると、魔物はまた襲ってこようとこちらに向かってきていた。シンは、それを見て、魔物の攻撃のタイミングで壁を蹴り、魔物の後頭部に乗った。シンは懐から短剣を取り出し、魔物に突き刺した。すると、魔物は暴れ出し、振るい落とされそうになる。シンは振るい落とされそうになるのを抑えながら、手に持っていたライターを横に半分に切った。ライターには燃料となるオイルが入っており、オイルが魔物に掛かった。シンは次の瞬間、ジッポライターのネジを回し、火花が散る。すると、火花がオイルに引火し、魔物が燃え始めた。

 

「よし、上手くいった。」

 

 シンは魔物から飛び降り、様子を見る。魔物には火が効いたらしく、壁を蹴ったり、叫んだり、飛んだりして暴れていたが、次第に動きが鈍くなった。その頃になると、火が最初より弱くなっていたが、トドメを刺すには十分なぐらい衰弱していた。

 

(トドメを刺すには今しかない!)

 

 シンは再び魔物に近づき、短剣を頭に突き刺した。すると、それが致命傷となり、魔物をは動かなくなり、倒すことができた。

 

「危なかったな。」

 

 シンが安堵していると、まだ燃えている魔物の近くの道の先が薄っすら光っているのが見えた。

 

「さっき、こいつが暴れた時にこの空間と他の道とが繋がったのか。」

 

 シンは気になり、光っている方に行って確認するとそこには階段があった。階段の下の方から青白い光が漏れていた。

 

「この光はリネオスで見たものと同じ感じだな。行ってみるか。」

 

 シンは、レンを待ってから行こうとも思ったが、魔物も倒し、あの空間から光が見えたことや魔物との戦闘の音で分かるだろうと踏んで、階段を降りた。階段を降り、下まで行くと、そこにはリネオスと同じような造りをしていたが、壁が石造りではなく、全て蔦でできておりこのダンジョンの特徴が出ていた。それに加えて、足元には膝下まで水が溜まっていた。そして、部屋の奥には台座があり、蔦でできた宝箱見たいなものがあった。

 

「こんなものまであるのか、ダンジョンってのは。」

 

 シンが驚いていると、突然、台座の前が光り始めた。

 

「お久しぶりですね。」

 

 その光の正体はリネオスでも会ったフロリアだった。

 

「フロリアだっけ?ダンジョンには必ずいるのか?」

 

「そうですね。基本的にはダンジョンが攻略された時に、ダンジョン攻略者に会いに行き、神器を渡すのが私の使命ですから。」

 

「そうなのか。」

 

「もうすぐここにあなたと一緒に入ってきた人も来るはずです。」

 

「レンのことか。」

 

「先に神器をお渡しします。宝箱をお開けください。」

 

「だけどまだレンが、、」

 

 するとフロリアは首を横に振った。

 

「前回は一緒に部屋に入ってきたので神器の所有者をどちらにするか聞きましたが、今回はあなただけですので、あなたにしか渡すことが出来ません。」

 

「だけど、後で俺が神器をレンに渡したら結局、同じじゃないのか?」

 

「言っていませんでしたね。神器とは、一番最初に攻略した者だけが使えるのです。他の人が持っても、その形の物としてなら使えますが、能力は使えません。」

 

 シンが神器の知らなかった能力に感心していると、フロリアは更に会話を続けた。

 

「神器は持ち主を理解しているのです。もしも、神器の持ち主以外の者が能力を使おうと思ったら、神器の持ち主を殺して、神器を使える権利を奪わないといけないのです。」

 

「なるほどな、そんな能力があったのか。」

 

「話が長くなりましたね。では、宝箱をお開けください。」

 

 フロリアにそう言われ、シンは宝箱を開けた。すると、そこには二本の短剣が鞘に収まった状態で中に入っていた。

 

「これは、短剣か?」

 

 シンは二本の短剣を手に取り、鞘から出して見ると、片方は、血刀ティルボルグまでは赤くないぐらいの薄い赤色をした短剣、もう片方は、薄い青色をした、赤い短剣と剣の作りが全く一緒の短剣だった。

 

「その短剣は<双子の短剣>と言って、赤い短剣はサニア、青い短剣をイニルと言います。」

 

「へ〜、ちなみにこの神器の能力は教えてくれるのか?」

 

「それは自分で試行錯誤して、使い方を試して下さい。私の説明で使い方に個人差があるとよくないので神器の使い方の助言は致しません。」

 

「まあ、だと思ったけどさ。」

 

 シンは無事にダンジョンをクリアし、フロリアから神器のことを教わった。

 

次回、現実

 



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第15話 現実

 シンはフロリアと会話をしている最中だった。

 

「ところで、レンは今どこにいるんだ?」

 

「あなたと一緒に入ってきた人は者はあなたが倒した魔物のところですね。」

 

「そうか。なら無事って事だな。」

 

 シンはレンが無事だったことに安堵した。

 

「では、私はこれで。」

 

「待ってくれ!」

 

 フロリアが何処かに行こうとすると、シンはフロリアを呼び止めた。

 

「まだ何か?」

 

「どうしても聞きたい事がある。レンが来るまで待ってくれ。」

 

 神器を渡したフロリアは何処かへ行こうとしていたが、シンの呼び止めた顔が真剣な眼差しだったので、その場に留まった。すると、そこにレンが降りてくる足音が聞こえてきた。

 

「シン!無事だったんですね。」

 

 レンがほっとした、といったような顔で階段を降りてきた。

 

「レン、無事だったか。」

 

シンはレンの顔を見て安心した。

 

「この部屋はリネオスのダンションと造りが似てますね。」

 

 レンが、この部屋に一言感想を述べたところで、シンがフロリアに聞きたかった本題を口にした。

 

「このダンジョンには不治の病も治せる薬があるかもしれないと聞いてここまできた。その薬があるのかないのかを聞きたい。」

 

 レンはその話を聞いて、最初は戸惑っていたが、落ち着きを徐々に取り戻した。

 

「フフフフ。」

 

「何がおかしい!こっちは真剣に聞いているんだ。」

 

 フロリアが笑っているのを不快に思ったシンが怒鳴った。

 

「これは失礼しました。不治の病に効く薬の有無でしたね。結論から言いますと、ございません。」

 

「……そうか。」

 

 シンは落胆していた。そもそもこのダンジョンに来た理由はレンの妹、レイナの不治の病を治すために来た。つまり、その当てが外れたということは、レンの妹のレイナの死を意味することになる。シンは、自分のことのように思い、肩を落とした。すると、レンはシンの肩に手を乗せ、悲しい顔でシンを見つめた。

 

「なんとなくだけど、そんな気がしてたの。不治の病に効く薬があるなんて、そんな都合のいい事があるのかなって、そう思ってた。半年も旅をして見つけられなかったんだから、仕方がないわ。」

 

 レンはシンを納得させる為にそう言っているつもりだったが、シンにはその言葉がレン自身を納得させるために言っているということに、すぐに気がついた。レンは今にも泣き出してしまいそうな顔で、目は涙で潤んでいた。

 

「おいおい、泣きそうな顔で言われても説得力がねぇぞ?。」

 

 シンはそう言って、笑顔でレンの目から涙を拭き取った。

 

「そうですね。」

 

 レンが笑顔で答える。

 

「あなた方にこれ以上情報を与え過ぎると、いけないので私は行きます。」

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

「妹さんに会いに行きなさい。妹さんはあなたの事を待っている筈ですよ。それでは。」

 

そういうと、今まであった光が消えた。

 

「私、一度妹に会いに故郷に戻ります。故郷を出て半年以上経ちました。もう会えなくなる前にもう一度、会いに行きたいです。」

 

「分かった。俺も一緒に行くよ。ここまで一緒に旅してきたしな。それに、レンのことも心配だ。」

 

 シンがそういうと、レンは笑顔で「ありがとう」と言った。レンの顔に涙がなかった事が、シンはとても嬉しかった。

 

次回、サニアの使い方

 



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第16話 サニアの使い方

 シンとレンは降りてきた階段を戻っていた。リネオスのダンジョンでは抜け道があったが、どうやらダンジョンによって違うらしく、ここのダンジョンには無かったため、今まで通ってきた道を戻っているところだった。

 

「このダンジョンは近道がなかったですね。」

 

「普通がこうなんじゃないか?とりあえず、上まで戻ろう。」

 

「そうですね。」

 

 二人は階段を登り終え、シンが倒した魔物の空間まで戻ってきた。

 

「この魔物はシンが倒したんですか?」

 

「ああ、結構ギリギリだったけどな。レンがくれたライターも壊しちまったし。」

 

「それなら大丈夫です。シンの役に立ったんだったら良かったです。」

 

 シンはレンのライターを壊してしまった事を気にしていたが、レンはそこまで気にしていなかったらしい。

 

「それにしても、今まで通ってきた道を戻るという事は、一つ上の階層のサイに似た魔物と戦わないといけないかもしれないですね。」

 

「ああ、他にも何があるか分からないからな、注意していこう。」

 

「はい。」

 

 二人は入ってきたダンジョンの入り口を目指して歩き始めた。すると、二人が異変に気付いた。

 

「こんな道あったか?」

 

「いいえ、通ってきた道をそのまま帰っているはずです。」

 

 この時、シンはあの大きな空間に入ろうとした時に、蔦が生えてきた時の事を思い出した。

 

「このダンジョンは生きているんだ。だから、入ってきた時と同じに戻っても違うところに行ってしまうって事か。思ったより厄介だな、このダンジョン。」

 

「なるほど、そういう事ですか。にしても、シンはこういう時の感は冴えてますよね。」

 

 レンがそう言うと、シンは目を細めてレンのことを見た。

 

「その言い方だと、他の時は冴えてないみたいに聞こえるんですけど。」

 

「そんな事は無いです。言い掛かりですね。」

 

 レンはそう言っていたが、明らかに嘲笑の笑みでシンの事を見ていた。

 

「おいおい、レンさん?」

 

「なんでも無いです。」

 

 レンはシンに笑顔を見せると、先に行ってしまった。シンは腑に落ちなかったが、レンについていった。しばらく進んでいると、平家と同じぐらいの、さっきの大きい空間よりは小さい空間の中央に階段があるのが見えた。

 

「階段がありましたね。行きましょう。」

 

「そうだな。」

 

 二人は階段に向かって歩く。すると、この空間に通じる自分たちがきた道以外の三つの道から、目が赤い犬の魔物が合計六匹現れた。

 

「一人辺り三匹討伐の計算だな。」

 

「私が全部倒してもいんですよ?」

 

「それだと、俺の立場がないだろ。それに試してみたい事がある。」

 

 シンは懐から宝箱から取った神器<双子の短剣>を取り出した。右手に赤い短剣サニア、左手に青い短剣イニルを持った。

 

「それがこのダンジョンで手に入れた神器ですか?」

 

 シンはレンがまだ見ていなかったと言う事を、聞かれて思い出した。

 

「ああ、そうだ。聞いた話だと双子の短剣って言って、赤がサニアで青がイニルって言うらしい。」

 

「色々聞きたい事があるんですけど、まずはこの魔物たちをどうにかしましょう。」

 

「そうだな。」

 

 レンがそう言うと、二人とも戦闘の体勢になった。すると、まず二匹が襲って来た。レンとシンはそれぞれ一匹ずつ戦った。シンはとりあえず、いつもの要領で使ってみた。犬の魔物がシンに向かって真っ直ぐ襲ってきたので、横に躱した後、魔物に向かってサニアを上から下に斬りつけた。すると、魔物は半分に切れた。ただ、切れ味が良いだけではなかった。斬りつけた剣筋の通りに、床や壁に傷がついていた。

 

「えっ!?」

 

「なんだこれ!?」

 

 レンは何が起きたのか分からなかったが、それ以上に当事者のシンの方が驚いていた。

 

「これがこの神器の力なのか。怪我ないか?」

 

「ええ、でもすごいですね。」

 

 今のひと振りで斬りつけた魔物と奥にいる魔物まで切れていた。レンの倒した分も入れると合計三匹倒していた。今のを見た残りの魔物が逃げ出した。

 

「どのぐらい射程があるのか試してみるか。」

 

 シンはもう一度魔物に向かってサニアを振り下ろした。すると、魔物を巻き込んで二十メートルぐらい先まで切れているのは見えた。

 

「一匹逃がしちまったな。」

 

 シンが魔物に近づくと、更に奥まで切れているのを確認する事ができた。そして、ある事に気づいた。

 

「なあ、レン。切れたところを見てくれ。」

 

「切れたところ?」

 

 レンが不思議そうにシンの言われた通り、切れたところを見てみると、いくつも傷がついていた。

 

「これは?」

 

「多分、何回も切れながら斬撃が飛んでいくんだと思う。」

 

「かまいたちみたいな事ですか?」

 

「そうかもな。まあ、そんな感じなものって覚えておこう。使い方にも注意しないとな。」

 

「そうですね。」

 

 二人は赤の短剣、サニアの事について知った。そして、二人は階段を登って行き、上の階層へと進んでいった。

 

次回、イニルの使い方と地上

 



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第17話 イニルの使い方と地上

 二人はサイに似た魔物がいた階層まで来ていた。

 

「この階層には俺たちを追ってきた、魔物がいたから早めに抜けたいな。」

 

「そうですね。また追われてるのは御免です。」

 

 二人が歩きながらそんな会話をしていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 

「まさか……」

 

 シンの予感が的中した。その足音の正体はサイに似た魔物がこちらに走って来ている音だった。

 

「くそっ、サニアで追い払えるか?」

 

 そう言うと、シンはサニアを振り落とした。すると、斬撃が振り下ろした方に向かって飛んでいった。魔物はそれを勘付いたのか避けようとしたが、道の幅的に躱すことが出来なかったらしく、魔物に当たった。すると、魔物は真っ二つに切れた。

 

「便利な能力ですね。」

 

「ああ、だけど、イニルの使い方がまだ分からないんだよな。次、魔物に会ったら使ってみるか。」

 

 二人はその後、歩いてダンジョンを進み、階段のあるところまできた。二人は階段を登り、上の階層へと進んでいく。

 

「この階層より上は魔物は出て来なかったよな?」

 

「そうですけど、油断は禁物です。」

 

「そうだな。」

 

 二人はまた階段を探して進んでいく。すると、小さな空間に出た。

 

「入って来た時には通らなかったな。」

 

「やっぱり、ダンジョン全部が変わっているみたいですね。」

 

 二人が話していると、後ろからグルルと言う威嚇に似た音が聞こえた。二人はその音がした方を向くと、そこには犬型の魔物が一匹だけいた。

 

「さっき逃したやつか。」

 

「そうみたいですね。」

 

 二人が戦闘体勢に入ると犬型の魔物の周りに黒い靄が現れた。すると、魔物の体が一回り大きくなった。

 

「そんなことも出来るのか。」

 

 二人が驚いていると、魔物がこちらに向かって走って来た。

 

「イニルを試してみるか。」

 

 シンはイニルを懐から取り出した。シンはサニアと同じようにイニルを振り下ろした。だが、何も起こらなかった。

 

「使い方が違うのか?」

 

「何やってるんですか、シン!」

 

 シンは何も起こらなかった事に思考をさいていると、レンに怒られた。すると、魔物がレンの方に襲いかかって来た。レンはそれを躱して、魔物の横腹を蹴り飛ばした。大きくなったせいかそこまで飛ばず、体勢を立て直して今度はシンに向かって来た。シンは懐からサニアを取り出し、振り下ろした。すると、魔物は避けたが、見えない斬撃に避けるのは難しかったらしく、魔物の左足に当たった。すると、怒った魔物がシンに向かって飛びかかってくる。シンはそれを躱しつつ、イニルで切りつけた。すると、魔物を真っ二つにするどころか跡形も無くバラバラになった。

 

「なんだ!?」

 

 さっきは何も起こらなかったのに、今度は魔物をバラバラにした事にシンは驚いていた。

 

「サニアよりも威力がありましたね。」

 

「ああ。」

 

 レンも驚きを隠せないといった顔をしていた。

 

「まだ分からない事だらけだな。」

 

「そうですね。世界にはまだ知らない事だらけですからね。」

 

 二人はその後歩いて階段を探し出して、上の階層に登った。この階層で魔物が出てくることは無く、階段を見つけて無事に入って来た薬草がいっぱい生えている所まで戻って来た。

 

「無事に帰って来れましたね。」

 

「ああ。それじゃあ行くか、レンの故郷に。」

 

「はい。それじゃあ一度アルキトラに戻って馬車を借りましょう。」

 

「そういえば、レンの故郷は何処にあるんだ?」

 

「ああ、言ってませんでしたね。私の故郷は海を渡って、更に北に行ったエルナという村です。」

 

「へ〜、どれぐらいかかるんだ?」

 

「一ヶ月以上はかかると思います。」

 

 それを聞いたシンは間に合うのかと思ったが、どっちにしろ行く事には変わりないので間に合う事を祈った。

 

「まずは、アルキトラに戻りましょう。」

 

「そうだな。」

 

 二人はアルキトラに向かって歩き始め、ダンジョンを後にした。

 

次回、道中

 



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第18話 道中

 ダンジョンを攻略してから数時間が経ち、二人はアルキトラの街の中にいた。

 

「朝に出たのにすっかり夜ですね。」

 

「ああ、そうだな。今日は宿に泊まって、明日、朝早くに出るか。」

 

「そうですね。この時間だと、馬車も出してくれないでしょうしね。」

 

 二人は今まで泊まっていた宿に戻り、この日はすぐに寝た。朝になり、朝食をとると馬車を出してくれる所に向かった。

 

「今回の目的地は、少し長旅になりそうだな。」

 

「そうですね。まずは、海を渡るために港町のレジアルという町まで行きましょう。港町だから新鮮な魚とか色んな物や人もいて凄く賑わっているところです。」

 

「へ〜、それは早く行ってみたいな。」

 

 レンの話にシンは想いを膨らませていた。すると、二人は馬車を出してくれる所に着いた。

 

「ここで馬車を出してもらえるか聞いてみましょう。」

 

「ああ。」

 

 建物の中に入ると、男がカウンターで紙に何かを書いている所だった。シン達が入ってくるとその手を止めて挨拶をしてきたので、二人も挨拶を返した。

 

「レジアルまで行きたいんですけど、馬車は出ますか?」

 

「それなら丁度出ますんで乗って下さい。」

 

「分かりました。」

 

「ラッキーだったな。」

 

「そうですね。」

 

 二人はレジアル行きの馬車に乗った。二人の他にも何人か乗っていて、馬車は馬が二頭で引いており、一人だけで馬車を引いて行くようだ。

 

「これからの予定はどんな感じなんだ?」

 

「とりあえず、村や町によって休憩しつつ、レジアルまで向かうって感じですかね。リネオスの兵士の人たちと違って、色々な所に寄りながら行くので遅くはなるけど、歩くよりはマシって感じですね。」

 

「なるほどな。」

 

 シンはレンからこれからの予定を聞いて、なんとなく旅の全貌を想像する事ができた。

 

 

 二人がアルキトラを出発してから四日が経っていた。

 

「アルキトラから出発して四日経ったけど、景色が変わり映えしないな。」

 

「当たり前でしょ?森の中をずっと通って来ているんだから。歩きで、道まで無かったらもっと大変だったんだからね?分かってるの?」

 

 シンが木ばかりの変わり映えしない景色に飽きて愚痴に近い言葉を発すると、レンが今の状況のありがたみを分かっているのかという顔をしながらシンを見ていた。

 

「それはそうだけどな。なんかこうパッとしないよな。」

 

「はぁ〜……」

 

 シンはレンの言う事も理解しているつもりだったが、少し前のダンジョンを攻略して神器を手に入れた時のことを思い出すと、馬車に乗って、ただただ座っている今との落差に自然と愚痴っぽい言葉が出てきた。レンはそれを察していたらしく、ため息が自然と漏れていた。

 

「ヒヒ〜〜〜ン」

 

 馬の大きな声が聞こえてきた。すると、馬車が止まって動かなくなった。

 

「何かあったのか?」

 

 そう思ってシンが馬車から外を見ると、そこには何処かで見た男達が道を塞ぎ、馬車を通れなくしていた。

 

「悪いがここを通りたいんだったら、あるもの全部置いて行ってもらおうか。」

 

 そう言うと、男達は剣や銃など様々な武器を取り出し、馬車を操っている男を脅していた。すると、シンは武装した男達のことを見て、その男達がレンと出会った村の酒場で脅してきた反乱勢力のチンピラ達だった事を思い出した。

 

「あいつら王都の件で捕まったんじゃないのか?」

 

 シンが疑問に思っていると、レンがシンの隣に来て同じく外を見た。

 

「あの人たちって私たちを襲ってきた反乱勢力の人達ですよね?」

 

 レンもこのチンピラ達の事を覚えていたらしく、シンと同じような事を思っていた。

 

「あいつらに襲われて人質でもとられたら面倒だ、先に降りて倒した方が良さそうだな。」

 

「それもそうですね。」

 

 シンとレンは馬車から降り、チンピラ達の方へ歩いて行く。すると、馬車を操っていた男がシン達のことに気づいて慌てて話しかけてきた。

 

「あんた達、何やってんだ!早く戻れ!」

 

 シン達に馬車を操っている男が危険を察して怒鳴った。すると、その声に気づいたチンピラ達が声のした方向を睨みつけた。

 

「おい、なんだ!?何やってやがる!?」

 

 チンピラ達が馬車を操っている男を怒鳴りつけた。すると、馬車で隠れていたシンとレンの姿が馬車からだんだん見えてきた。

 

「まったく、懲りない奴らだな。」

 

「本当ですね。」

 

 シンとレンが呆れたといった顔でチンピラ達の前に現れた。馬車から見えてきたシンとレンの姿にチンピラ達の顔がどんどん青ざめていった。

 

「お前ら捕まったんじゃ無いのか?」

 

「捕まる前にギリギリで逃げ出したんだよ。」

 

 シンが質問をすると、チンピラ達の一人が答えた。

 

「なるほどな。それでまだこんな事をしていると。」

 

「どうしようもない人達ですね。」

 

 シンとレンは呆れていると、チンピラ達は震えながら武器を構えた。

 

「こうなったら、やるしかねーだろ。」

 

 チンピラ達が震えた声でそう言って武器を構えていると、シンは懐からサニアを取り出し、横の森に向かって、サニアを横に振り払った。すると、サニアの剣筋通りに森の木が百メートル程薙ぎ倒されていた。それを見たチンピラ達は悲鳴を上げながらバラバラに森の方へ逃げていった。

 

「もう、悪さすんなよ〜〜!!」

 

 シンの言っている事など届く間もなく、チンピラ達は見る影も無く消えていった。

 

「シン!やりすぎです!こんなに木を切ってどうするんですか!?それに、人がいたら大変な事になってるんですよ!?もう!」

 

「俺もここまでやるつもりは無かったんだよ。まさか、こんなに強いなんてな、、」

 

 レンはシンのやりすぎた行動に怒りを露わにし、眉間を寄せていた。シンは弁解をするものの、レンはそれでも怒っていた。すると、馬車を操っていた男が話し掛けてきた。

 

「すいません。あなた方が危険に晒されてしまうと思い、つい怒鳴ってしまいました。まさか、こんなにお強いとは。」

 

「いえいえ、そんな事ないです。お気になさらず。この人がやり過ぎてしまって申し訳ないです。」

 

 馬車を操っていた男が謝罪をしてきたが、レンはそれを謙遜し、シンがやりすぎてしまった事に謝罪をした。

 

「いえいえ、助けて頂いたことに変わりは無いですから、お礼と言ってはなんですが交通費はタダで結構です。」

 

「タダですか?そんなの悪いですよ。」

 

「感謝の気持ちと思って受け取ってください。」

 

「そうですか?すみません……」

 

 レンは男の申し出に遠慮していると、感謝の気持ちということで受け取って欲しいと言われ、レンは申し訳ない気持ちはあったがありがたく受け取ることにした。

 

「シンはこれから神器の使い方には注意してくださいね。」

 

「はい……分かりました。」

 

 レンが少し怒った顔でシンに言うと、シンは反省して今回のことを肝に銘じた。

 

次回、深夜の村の訪問者

 



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第19話 深夜の村の訪問者

 反乱勢力のチンピラ達の件から一週間ほどが経過していた。二人は今レジアルまであと数日のところまで来ていた。

 

「もう後数日でレジアルっていう港町なんだよな?」

 

「はい、意外と早く着けるかもしれないですね。」

 

 シンの質問にレンがどこか少し嬉しそうに答えた。

 

「お客さん方、今日はこの先にあるニーテルって村で一泊していくんでそのつもりでいてください。」

 

 馬車を操っている男がそういうとシンとレンを含めた客が返事をした。それから少し経ってニーテルという村に着いた。この頃には辺りが暗くなっていた。この村は至って普通で宿があるのと家が十数件あるぐらいの小さめの村と言っていいところだった。

 

「さてと、じゃあ宿に行ってご飯食って寝るか。」

 

「そうですね。久々にベットで寝られます。」

 

 二人は長旅の疲れを癒すため、早速宿に入ってご飯を食べることにした。そして、二人はご飯を食べ終えると自分たちの部屋に行き、ふかふかのベットに吸い寄せられるように倒れ込んだ。

 

「疲れたなぁ〜」

 

「そうですね〜、ずっと馬車に揺られてたからこのふかふかのベットが気持ちいいですね。」

 

 二人がふかふかのベットに感動していると、旅で疲れていたのかすぐ眠りに落ちた。しかし、二人が目を覚ますことになったのはそれから少ししてからのことだった。

 

「キャーーーーーーー」

 

 それは外から聞こえてきた女性の悲鳴だった。その声でシンとレンは目を覚ました。

 

「なんだ!?」

 

 シンが飛び起き、声のした方の窓を開けた。すると、そこには村を襲う、赤い目を光らせた骸骨のアンデッドの集団がいた。

 

「あれはなんだ!?」

 

「あれは、アンデッドです。急いで助けに行かないと。」

 

 シンは初めて見るアンデッドに驚いていたが、レンは冷静に状況を判断していた。

 

「アンデッド!?そんなのもいるのか!」

 

「とりあえず、助けに行きましょう。」

 

 レンがそう言って部屋を出て、助けに行った。シンはそれに遅れないようについて行く。宿のドアを開けて外に出ると、アンデッドたちがこちらに向かって歩いてきていた。アンデッドたちの赤い目が左右に揺れて不気味さが更に増していた。

 

「シン、このアンデッドたちを倒したら、こうなった原因を探りましょう。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 レンは足でアンデッドを蹴り飛ばし、シンはイニルを使ってアンデッドたちを次々と倒していく。すると、倒されたアンデッドたちの目が赤に光っていたのがどんどん光らなくなっていき、しばらくするとただの骸骨の亡骸になった。それから、ある程度の時間戦っていると粗方片付いた。

 

「やっと落ち着きましたね。」

 

「ああ。幸い、怪我人も少なくてほとんど被害が無くて良かった。」

 

「なんでアンデッドがこの村を襲って来たのか、アンデッドたちの出所を調べましょう。」

 

 二人はアンデッドたちの出所を調べるために、まず、今までの事を思い返してみた。すると、アンデッドたちがこの村の東の森の方からきていた事を思い出した。

 

「もしかすると、東の森の方に行けばアンデッドたちが襲ってきた原因が分かるかもしれません。行ってみましょう。」

 

「そうだな。」

 

 二人はアンデッドの襲ってきた原因を探るため、東の森の方に向かって行った。

 

次回、アンデッドの原因

 



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第20話 アンデッドの原因

 ニーテルの村でアンデッドに襲われたシンとレンはその原因を探るためアンデッドたちが現れた東の森にいた。東の森にも何体かアンデッドがいたため倒しながら進んで行った。

 

「この森の中にもいるって事はおそらくこっちにこのアンデッドたちの原因があるはずです。」

 

「そもそもアンデッドってなんなんだ?自然にいるもんなのか?」

 

 シンはレンにアンデッドの事を聞いた。

 

「アンデッドは元となる骸骨が放置されて、何年もぞんさいな扱いをすると、魂が宿ってアンデッドになると言われています。なので、自然にアンデッドが生まれる事はほとんど無いんです。なのに、あんなにいるなんて、自然に生まれたとは考え難いですね。」

 

「なるほどな。じゃあ、この先に何かがあるって事で間違い無さそうだな。」

 

 シンはレンの説明を理解した。それから二人はアンデッドを倒しつつ進んで行くと、森が開けた場所に出た。

 

「ここは?」

 

 二人が見たその場所とは墓地だった。二人の目の前にある墓地は荒れ果てており、二階建ての高さはある大きな石に読めない文字が刻まれている石碑のようなモノと、普通の墓が数十基があり、文字が読めなかったり、壊れていたりする墓が月明かりに照らされて何とも不気味な雰囲気が漂っている場所だった。

 

「どうやら墓地のようですね。アンデッドが生まれる条件は揃ってそうですけど……」

「ご名答、だけど少し違うな。」

 

 その時、大きな石碑の後ろから肩ぐらいまで髪の長さがある、シンより少し背が低いくらいの黒髮の男が月明かりに照らされながら出てきた。

 

「誰だお前!何を知ってる!」

 

「私はウィップ。あなた方が倒していたアンデッドは私が作りました。」

 

 シンの質問に、ウィップと名乗る男は不気味な笑みを浮かべて答えた。

 

「そんな事をして一体何をするつもりですか!」

 

「アンデッドで村を襲い、死んだ人間をアンデッドにして更に数を増やして村や町を襲わせるつもりだったんですが、あなた方のおかげで予定が狂いました。」

 

 レンが質問すると、ウィップは顔を顰めて目的を話した。

 

「これ以上好き勝手やるなら力尽くでも止めさせてもらうぞ。」

 

「お好きにどうぞ。私は止めるつもりはないけどね。」

 

 シンは忠告したが、ウィップはシンの忠告を物ともせずに、左手を前に出した。左手の手首には黒のリングを付けており、ウィップが左手を前に出した時、リングから黒い靄が出てきて、リングを包んだ。

 

「なんだそれは!?」

 

 シンが驚いていると、リングを包んでいた黒い霧が地面に向かってゆっくり落ちていった。それを見ていたレンは不気味がっている。

 

「これはアンデッドを作り出す事が出来る魔具です。ここは骨があるのでアンデッドを作るのにかかる時間が少なくて済むので実にいい場所です。」

 

 ウィップがそう言うと地面からアンデッドが次々と出てきた。

 

「マジかよ。こいつ厄介だな。」

 

「困りましたね。」

 

 アンデッド達が地面から次々と出てくるのを見たシンとレンは困惑していた。

 

「さあ、アンデッドよ。そこにいる者を殺しなさい。」

 

 ウィップがそう言うとアンデットが二人に向かって歩き始めた。すると、シンは危険を察し懐からサニアを取り出した。

 

「レン、サニアを使うから剣筋に入るなよ。」

 

「そのぐらい、分かってます!子供扱いしないで下さい。」

 

 シンは心配して言ったつもりだったが、レンにはどうやら子供扱いしたように感じたのか、拗ねていた。

 

「そんなつもりで言ったんじゃないんだけどな。とにかく、気をつけてくれ。」

 

「分かってます……」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもないです。」

 

「そうか……?」

 

シンはレンが照れて声が小さくなった返事がなんと言ったのか聞こえなかった。二人がそんな会話をしているとアンデッド達がすぐ側まできていた。

 

「シンも気をつけて下さい。」

 

「おお、レンもな。」

 

 二人は戦闘体勢になった。

 

次回、シンとレンVSウィップ

 



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第21話 シンとレンVSウィップ

 二人は戦闘体勢になり、近づいてきたアンデット達はすぐそこまで迫っていた。すると、シンはサニアを薙ぎ払った。すると、アンデットの大半を上半身と下半身に分け、倒す事が出来た。だが、次々と地面からアンデットは出てくる。ウィップはというと、斬撃を避けるため上に飛んで躱していたらしく、ウィップ本人も運動神経はいいようだった。

 

「それは神器ですか?厄介ですね。せっかく出したアンデッド達がこれでは意味がありませんね。」

 

「くそっ、あいつ身の熟しがいいな。」

 

 ウィップの身の熟しにシンは苦い表情をしていた。

 

「私が近づいて接近戦を仕掛けてみます。シンは援護をお願いします。」

 

「分かった。」

 

 シンはレンの提案を呑むとサニアを振り下ろし、その剣筋にいたアンデッドを倒しウィップまでの道を作った。レンはその道を使ってウィップに近づいて行く。アンデット達も襲ってくるものの、神器の前ではほぼ無意味だった。すると、レンがウィップのところまで行き、右足でウィップを蹴りつけた。ウィップはそれを両手で防ぎ、右足でレンを蹴り返す。レンはそれを両手で防ぐと同時に後ろに飛び、攻撃を受け流した。

 

「あなた、接近戦に慣れているみたいですね。」

 

「私は元々近距離が得意なんですよ。」

 

 レンの言葉にウィップは得意げに答えた。

 

「レン、交代だ!次は俺がやってみる。」

 

 シンがそういうとイニルを懐から取り出し、右手にサニア、左手にイニルを構えて、ウィップに向かって走り始めた。レンはシンの提案に戸惑いつつも、シンの援護に回った。シンの邪魔になるであろうアンデットを蹴り倒し、シンのための道を作った。すると、シンはレンの作ってくれた道を通り、ウィップのところまで来た。

 

「手加減しないからな。」

 

「望むところです。」

 

 シンがウィップに言い放つと、ウィップも言い返してきた。すると、シンはウィップに向かってサニアを振り下ろした。ウィップはそれをすれすれで避ける。シンはそれでもサニアを振り続けた。二回、三回と次々と振り続ける中で、サニアの斬撃がウィップの右肩に少しだけ傷をつけた。シンはその瞬間、イニルを初めて使った時の事を思い出した。

 

(あの時もサニアで傷をつけてからイニルを振ったら効果が発動した。もしあの時と同じ条件で発動するとしたら・・・試してみる価値はある。)

 

 シンは頭の中で考えをまとめるとすぐに行動に移した。シンは今まで振っていたサニアではなく、イニルを振った。すると、イニルから斬撃が発動した。だが、斬撃は剣筋通りに切れるのではなくウィップに向かって飛んで行き、右肩から指先まで全てを切り刻み、右腕は斬撃によって跡形も無くバラバラに消し飛んだ。

 

「ぐう”う”うう。」

 

 ウィップは悲鳴を押し殺し、左手で右肩を押さえながら痛みに耐えていた。シンはというとイニルの追跡する能力と威力に驚いていた。

 

「私をここまで傷つけるとは。躱したはずなんだけどね。」

 

 ウィップはそういうと左手を前に出し、リングからはさっきよりも霧が多く出ていた。すると、地面から今までのアンデッドの数倍の大きさに、今までのアンデッドと同じ作りの頭蓋骨が三つ、赤い目を光らせ生えている、骨の槍を持ったアンデッドが出てきた。

 

「こんなこともできるのか。」

 

 シンが驚いていると、そのアンデッドは骨でできた槍を突き刺してきた。シンはそれを避けて躱す。すると、ウィップがレンの方に向かって走ってきていた。レンはアンデッドを警戒しつつ、ウィップに視線を向けた。すると、ウィップはレンに近づき、右足で蹴りつけると、レンはそれを両手で防いだ。それを見たウィップは自分の肩から出ている血を左手でレンの目に向かって投げた。咄嗟の事にレンは目を閉じるとその隙を見て、レンの腹部に蹴りを入れ、レンを蹴り飛ばした。

 

「卑怯な。」

 

「戦いは殺し合いだぞ?卑怯だろうと何だろうと勝てばいんですよ。」

 

 レンの言葉にウィップが我が物顔で言い放った。

 

「大丈夫か!?」

 

 シンがアンデッドの攻撃を避けながら言った。

 

「大丈夫です。アンデッドはシンに任せます。私はウィップを。」

 

 レンが目についた血を拭いながらシンに返事をした。シンはそれを聞いて自分のことに集中した。シンはサニアを振り下ろす。すると、アンデットは上下半分になった。大きくなった分、骨が硬くなっていると思っていたシンだったが、案外脆かったのか、サニアが強過ぎるのか分からなかったがサニアの斬撃が通用することがわかったシンはサニアを振り下ろした。それを何回か振り続けるとアンデットがバラバラになった。

 

「よし、レンは?」

 

 シンはレンの方を見るとウィップと戦っていた。だが、右肩から血がドバドバと流れ出ているウィップが押されているらしく、レンが優勢のようだった。シンはレンの加勢に行こうと思った時、バラバラになったアンデッドの骨が動き出し、元の姿に戻ろうとしていた。

 

「なんだ!?」

 

 シンが驚いているとバラバラになった骨が見る見るうちに集まっていき、元の姿まで戻った。

 

「再生能力があるのか。」

 

 シンが能力を考察しているとアンデットが槍を薙ぎ払った。シンもサニアを薙ぎ払う。すると、アンデッドの槍は二つに切れた。だが、すぐに元の槍の状態に戻った。すると、アンデッドを見ていたシンがある事に気づいた。アンデッドの三つある頭蓋骨の内、一つの頭蓋骨の赤い目が光っていなかった。

 

(今まで倒してきたアンデッドも倒した後は赤い光が無くなった。だとした、こいつも同じだとすると後二回倒せば、復活せずに倒すことが出来るかもしれない。)

 

 シンはイニルを振り下ろした。すると、斬撃がアンデッドに向かって飛んでいき、バラバラにした。だが、アンデッドは例の如く元の状態に戻った。シンはアンデッドの頭蓋骨を見ると、やはり赤い光が無くなっていた。アンデッドも攻撃をしてくるが神器の前になす術なしといった感じだった。シンはもう一度イニルを振り下ろす。アンデッドはバラバラになった。すると、シンの考えた通り復活する事は無かった。シンはレンの方を見ると、レンがウィップを蹴り飛ばしたところだった。ウィップは蹴り飛ばされたまま起き上がらずその場に倒れた。

 

「レン、大丈夫だったか?」

 

「ええ、何とかなりました。」

 

 シンがレンを心配して近づきながら聞くと、レンは笑顔で返事をしてきた。

 

「私の魔具は相性が悪かったようですね。それに、血を流し過ぎましたね。」

 

 ウィップが弱々しい声で言った。すると、左手に付けていた魔具が黒い霧を出し、次の瞬間、消えて無くなった。

 

「どうして…俺は…」

 

 ウィップは掠れて聞こえないぐらいの声で言った瞬間、目を閉じた。シンとレンは初めて人を殺めた事に命の重さを感じた。

 

「これで良かったんでしょうか?」

 

 レンが困惑した顔をしながら言った。

 

「分からない。でも、この事を忘れちゃダメな気がする。」

 

 レンの問いに、シンは真剣な面持ちで答えた。

 

「後の事は、兵士達がやってくれるだろう。」

 

「そうですね……」

 

 シンはレンが色々考えているのだろうという事が声色から分かった。

 

「にしても、随分荒らしちまったな。唯一壊れなかったのはあの大きな石碑みたいなやつぐらいか、良く壊れなかったもんだ。」

 

「そうですね。」

 

 シンはレンの気を逸らそうと思い言った。すると、レンはそれを感じ取ったのか、さっきよりは少し元気に返事をした。

 

次回、レジアル到着

 



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第22話 レジアル到着

 ニーテル村の件から数日経った頃、二人は森を抜けて、レジアルの町まで後少しというところまで来ていた。ニーテル村の事は、後から来た兵士達に説明してその後の事は任せた。それからはというと、レンは気を落としていたが徐々に元の調子を取り戻して、今はもういつものレンに戻っていた。

 

「もう少しでレジアルです。着いたらまず、エルナ方面に行く船があるかを聞いてみましょう。どうするかはそれを聞いてからですね。」

 

「了解だ。」

 

 シンがレンからこれからの予定を聞いてから少しして、太陽の光を反射して青く輝く海に、遠くからでも船が見えるレジアルの町並みが見えてきた。

 

「あれが港町、レジアルか。それに海を初めて見た。」

 

「へ〜、そうなんだ。」

 

 シンが初めて見る海や町並みに感動していると、レンが意外といった顔をしていた。

 

「川とかは見た事はあるけど、海ってなると遠くてこれなかったからな。」

 

 二人がそんな会話をしているとレジアルの町に着いた。

 

「あんた達、気をつけて旅して下さいね。」

 

「ありがとうございます。」

 

 二人は馬車を操ってくれ男に礼を言うとエルナ方面行きの客船があるかを聞きに船着き場の方に向かった。港町ということもあって今揚がったばかりの生きのいい魚や色んな所から来たであろう見たことのない果物も売っている店など色々な店が立ち並んでおり、活気に溢れていた。二人は客船の有無を聞きに近くにあった案内所のようなところに行った。そして、中に入ると女性の定員がカウンターに立っていた。

 

「エルナ方面行きの船に乗りたいんですけど、ありますか?」

 

「それでしたら、明日の昼頃に出ますの、その頃に船着き場に来て頂くと乗る事が出来るはずですよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 レンの質問に丁寧に答えてくれた女性の定員が笑顔で話しかけてきたのでレンも笑顔で返した。案内所を後にした二人はお昼を過ぎていた為、昼食を食べることにした。昼食は港町という事もあり、新鮮な魚を使った料理を食べた。焼き魚を始め、カルパッチョや刺身など港町ならではの料理を満喫した。その後、二人は今日泊まる宿を探しに町中を歩いた。この町の家は白の壁をしたものがほとんどだったが、海がすぐ側にあるこの町の雰囲気に合っていた。少し歩くと二人は宿を見つけ、今日の宿を決めた。部屋に入ると中にはベッドとテーブル、椅子が二つあり、窓からは海が見えていた。

 

「景色がいいですね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 レンは入って早速、窓を開けた。すると、海からの潮風が部屋に入ってきて、レンの髪を優しく靡かせた。

 

「ん〜、気持ちいいですね〜。」

 

 レンが髪を靡かせながら体を伸ばした。

 

「これからどうするんだ?」

 

「少し休憩したら、もうちょっとこの町を歩いてみましょう。」

 

「そうだな。」

 

 二人は部屋で少し休憩を取った後、宿を出た。宿を出た時には日が落ちかけていて赤い夕陽が町を包んでいた。二人は昼間に通った店で何かないか見に行く事にした。昼間の通りに行くと、人の数が昼に来た時より多かった。

 

「すごい人の数だな。」

 

「夕飯時ですからね。」

 

 二人はそんな会話をした後、人混みの中を進んで行った。

 

「こんなに人が居ると少しでも離れたら何処に行ったか分からなくなるので気をつけて下さいね、シン。」

 

 レンはそう言って後ろを向くとシンはいなかった。周りも見渡してみたが何処にもいなかった。

 

「ええ〜、どこ行ったの〜?」

 

 レンが困っている頃、シンは人混みに流されて、店などがある道から少し離れた場所に居た。

 

「参ったな、とりあえず、宿まで戻ってみるか?」

 

「ごめんなさい!」

 

 シンが迷っていると女の子の謝る声が聞こえた。

 

「なんだ?」

 

 シンは気になり、声のした方に行ってみると男二人が茶髪でボブヘアーの女の子に絡んでいた。

 

「おいおい、ぶつかって来てんじゃね〜よ。」

 

「ちゃんと前見ろよガキ。」

 

「ごめんなさい!」

 

 男二人が喧嘩口調で話していて、女の子は今にも泣き出してしまいそうだった。

 

「おい、可哀想だろう。」

 

「ああ?なんだてめぇ?」

 

 シンが話しかけると、男がシンに向かって鋭い視線を飛ばしてきた。

 

「もう大丈夫だぞ。」

 

 シンはそう言って女の子の頭を撫でた。

 

「偽善者気取りかよ!」

 

 そういうと、男がシンに向かって殴りかかってきた。シンはそれを躱して、男を突っ張り、後ろに飛ばした。

 

「こいつ、舐めやがって。」

 

 そういうともう一人の男がナイフを取り出した。

 

「マナ、こんなところに居ましたか。だから、気をつけなさいとあれほど言ったのに。」

 

「おじいちゃん!!」

 

 女の子がおじいちゃんと言うその人は、白髪で白い口髭を生やした、黒いバーテンダーの服装をした五十歳を超えたぐらいの男の人だった。

 

「なんだジジイ?」

 

「私の孫がお世話になったようですね。申し訳ない。」

 

「それだけで済むと思ってんのか?他にすることがあるだろう。」

 

「悪い事は言わないから逃げなさい。」

 

 おじいちゃんと呼ばれている人が男たちに忠告をした。

 

「舐めやがってジジイが!」

 

 そう言うと、男がおじいちゃんに向かって切りかかる。おじいちゃんはそれを軽々しく躱して、男を蹴り飛ばした。すると、勝てないと察したのか男たちは早々と逃げて行った。

 

「まったく、あれ程離れるなと言ったのに。」

 

「ごめんなさい。」

 

 おじいちゃんが呆れた顔をしていると、マナと呼ばれていた女の子が謝った。すると、おじいちゃんはマナの頭を撫でた。

 

「あなたにも迷惑をかけたみたいで、申し訳ない。お礼にこの近くに私の店があるので何か奢らせて下さい。」

 

「いえ、そんな、お気になさらず。」

 

「まあそう言わずに。」

 

 シンは遠慮したが、おじいちゃんに勧められて、この近くにあるという店に行く事になった。

 

次回、酒場の店主

 



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第23話 酒場の店主

 シンはおじいちゃんとマナについて行き、近くにあるという店の前まで来ていた。

 

「ここが私の店です。どうぞ、入って下さい。」

 

 そこには小さな建物に<酒場>と書かれた看板があった。シンは案内されるまま中に入って行く。中はテーブルの席とカウンターの席とがあり、カウンターの席の向かえには沢山のお酒が並んでいた。

 

「どうぞ、お好きな所に座って下さい。」

 

 シンはカウンターの席に座った。すると、シンの隣にマナが座ってきた。

 

「ありがとう!お兄ちゃん!」

 

「ああ。」

 

 マナが笑顔でお礼を言ってきた。

 

「申し遅れました。私はエンドール・コナンと申します。この町で酒場の店主をやっております。」

 

「俺はシンです。」

 

 おじいちゃんがコナンと名乗ると、シンも自分の名を名乗った。

 

「失礼ですが、年齢を聞いても?」

 

「十八歳です。でも、お酒はちょっと。」

 

 コナンが年齢を聞いてきた。十八歳で成人なのでシンはお酒を飲む事はできるがレンのこともあるのでお酒は断った。

 

「そうですか。では、お茶でもお出ししますね。」

 

 コナンはシンとマナの分のお茶を出した。

 

「ありがとうございます。」

 

 シンは礼を言うと、一口お茶を飲んだ。

 

「にしても、お強いんですね。大の大人をあんなに簡単に倒すなんて。」

 

「昔、ダンジョンを攻略しようと旅に出てまして、まだまだ若い者には負けない自信があるんですけどね。何十年も前の話ですからね、これでも体は鈍ってしまいました。」

 

「ダンジョンに?通りで強いわけだ。」

 

 コナンの話にシンは驚いたが、戦闘を見た後だったので、すんなり理解することが出来た。

 

「お恥ずかしい話です。シン様はこの町は初めてですか?」

 

「ええ。迷っていたら、マナの声が聞こえてきたので何かあったのかと思って来たんです。」

 

「そうでしたか。それは、申し訳ないことをしました。ところで、何処に行こうとしていたのですか?」

 

「それが、、」

 

 シンはコナンにレンの事や宿の事を話した。

 

「なるほど。そう言う事でしたか。では、宿まで案内いたしましょう。」

 

「すいません、お願いします。」

 

 事情を知ったコナンがシンの事を宿まで送ってくれる事になった。

 

「マナ、行きますよ。シン様は私について来て下さい。」

 

「はい。」

 

「は〜い。」

 

 コナンの酒場を出て、三人でシンの宿に向かった。外はすっかり暗くなり、町の街灯が道を照らしていた。少し歩くと、宿が見えてきた。

 

「あの宿で合ってますか?」

 

「はい!ありがとうございます。」

 

 すると、宿のところでレンが待っているのが見えた。少し近づくとレンもこちらに気づいて走って来た。

 

「シン!何やってたの!?」

 

「いや〜、道に迷ってたんだけどさ、」

 

 レンが頰を膨らませて怒ってきたので、シンは今までの事を説明した。

 

「なるほど、そういう事でしたか。心配したんですからね。」

 

「ごめん。ごめん。」

 

 心配そうにしてたレンにシンは謝った。

 

「では、シン様、レン様、私はこれで。店がありますので帰ります。」

 

「ありがとうございました。」

 

「何か困った事がありましたら、また来て下さい。マナのお礼はその時にしっかり返させて下さい。」

 

「はい!」

 

「じゃあね〜お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

 

 コナンとマナは酒屋に戻っていった。マナが手を振っていたので二人も手を振り返した。

 

「お腹空きましたね。」

 

「そうだな。宿で晩御飯だな。」

 

 二人は宿に入り、晩御飯を食べた。

 

次回、出航

 



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第24話 出航

 次の日の昼頃、二人はエルナ方面行きの客船に乗るために船着き場に来ていた。船着き場に着くとエルナ方面行きの客船を見つけた。見た目は木製の船で、大きさは海賊船と例えるのがピッタリなくらいの大きさだった。

 

「エルナ方面に行きたいんですけど、この船で合っていますか?」

 

「ああ、この船で合ってるよ。乗るかい?」

 

「お願いします。」

 

 二人は無事にエルナ方面行きの船に乗る事が出来た。

 

「これからの予定はどんな感じなんだ?」

 

「そうね、これからの予定は海を航海して、向こう側にある港町のラクタートまで行ったら、歩いて故郷のエルナに向かうって感じね。」

 

 その時シンは一つ疑問に思った事をレンに質問した。

 

「この船がラクタートって港町まで行くって事は分かったけど、故郷のエルナまでは馬車を使かった方が早いんじゃないのか?」

 

「そうなんですが、私の故郷のエルナは北寄りの村なので、基本的に寒くて、雪が降ったりもするので、馬にとっては少し厳しい環境なんです。なので、馬車は使えないんです。」

 

「なるほど、そういう事か。」

 

 シンはレンの説明で理解した。

 

「まずは、ラクタートまで一週間かからないぐらいの船の旅ですね。」

 

「そっか、了解。」

 

 二人がそんな事を話していると、船が帆を張り、太陽の光で輝いている海に出航した。

 

 

 二人がレジアルを出港してから二日が経った。辺りは何もなく、太陽の光が降り注ぎ輝く海と潮風が吹き、水平線が見えている。二人は今、船の甲板でその景色を見ていた。

 

「気分転換のつもりできたけど景色も良くて、ポカポカしてて、丁度昼寝をするには最高の天候ですね。」

 

「ああ。いい天気だな。」

 

 二人は過ごしやすいこの天気に浸っていた。

 

「なあ、エルナってどんな村なんだ?」

 

「どんな村ですか。ん〜、」

 

 シンの質問にレンは悩んでいた。

 

「エルナ村はこの前も話したかもしれませんが、基本的には寒いですね。雪はいつ降ってもおかしくない気候ですね。あとは、村の人はみんな優しい人達ばかりです。」

 

「へ〜、それは早く行ってみたいな。」

 

 レンの説明にシンは想像を膨らませた。すると、レンは少し悲しげな目をしていた。

 

「やっぱり、心配か?」

 

「ええ、レイナとはずっと一緒にいたので、半年も会わなかった事は初めてなんです。それに早ければもう……」

 

「大丈夫だ!半年も妹の為に頑張ったんだろ?なら、会う時間ぐらい神様が用意してくれるさ。」

 

「シン……ありがとう。」

 

 レンはレイナの事で不安で一杯だったが、シンの言葉に勇気づけられた。

 

「おう!……にしても、海って広いんだな。水面に太陽の光が反射して綺麗だし。」

 

 シンはレンに返事をしてから、海の方に体を向けて歩きながらそんな事を言った。すると、シンが見ていた海の水面に泡がブクブクと湧き出ていた。

 

「なあ、レン。あれなんだ?」

 

「なにかありました?」

 

 シンが指を指してレンに泡の出ている方向を指さすと、レンが歩いてきて、泡が出ている水面を見た。

 

「なんですかね?」

 

 レンが不思議に思っていると、泡がどんどん強くなっていった。すると、次の瞬間、泡が出ていた場所の水面が見て分かるぐらい海の流れを表していた。それは、泡の出ていた場所を中心に渦を巻き、どんどん大きさを広げていった。この海の流れの正体は渦潮だった。

 

「渦潮だー!!何かに掴まれー!!」

 

 船員がそう言うと、渦潮はどんどん大きくなっていき船が渦潮の流れに乗った。すると、船は大きく揺れ、何かに掴まっているので精一杯なぐらいだった。渦潮は更に大きさを広げて三百メートル以上の大きな渦潮になっていた。船も制御出来ないらしく、渦潮の流れに流されるままだった。すると、大きな渦潮の中心から白い何かが見えた。

 

「渦潮の中になんか見えたぞ。」

 

「何が見えたんですか?」

 

 船に掴まりながらシンがそう言った。レンはシンが言った何かを探そうと渦潮の中を見た。すると、渦潮の中心から白い石造りの建物が見えてきた。渦潮はその建物を中心に出来ており、どんどんその建物に吸い込まれていくように出来ていた。渦潮は次第に建物の姿を完全に見せ、その建物の周りの地面まで見えていた。渦潮は起きているのに中心には建物が見え、地面すら見えているという現実離れした状況になっていた。

 

「なんだあれ!?海ってこうなるのか!?」

 

「そんな訳ないでしょ!?普通じゃありえないです。」

 

 シンは初めての海にこれが普通なのかと思ったが、レンが否定したので普通では無いということが分かった。そんな事を話していると、船はどんどん吸い込まれて行き、もう少しで地面に着くところまで来ていた。

 

「このままだと地面に着いてしまいます。」

 

「でも、どうしようもないだろ!?」

 

 すると、船は地面を擦りながら減速していった。地面と当たっている為もの凄い揺れが発生しておりシンやレンを始め、船にいる全員が何かに摑まっていた。すると、ようやっと揺れが収まり船は止まった。

 

「とんでもね〜な。大丈夫か、レン。」

 

「はい、大丈夫です。それよりも他の人達は?」

 

 レンが船を見渡すと、怪我をしている人はいないようだった。

 

「これは一体なんなんだ?」

 

「分かりません。でも、こうなったのはあの白い建物のせいでしょうね。」

 

「まあ、状況から見てそうだろうな。行ってみるか。」

 

「そうですね。」

 

 二人は船に乗っている人の安否を確認してから乗員に説明した後に、白い建物に向かった。

 

次回、三つ目のダンジョン

 



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第25話 三つ目のダンジョン

 二人は白い建物に向かって歩いていた。周りは渦潮で覆われており、見上げると空が見えるが視界には渦潮が見えており、今いる場所が海底だという事を思い出させた。少し歩き、建物に近づくとその建物が百メートル以上の長方形で出来た建物である事が分かった。外壁は白だったが、所々に海藻が生えていて緑色になっている所もあったりして、それがこの白い建物が海にあったという事を思わせていた。

 

「なあ、レン。この建物どう思う?」

 

「渦潮の事といい、この建物が海の底にあったという事を考えると恐らくですが、ダンジョンなんじゃないかと思います。」

 

「やっぱりレンもそう思うか。」

 

 シンの質問にレンが答えると二人の予想が同じだという事が分かった。

 

「もしダンジョンだとするなら気をつけなきゃいけないな。」

 

「ええ。注意して進みましょう。」

 

 二人は警戒しつつ建物の前まで来た。近くまで来ると、この建物の見た目が神殿に似ている事が分かった。入り口は階段を上がった先にあり、中には道が続いているようだが二人からの位置だと入り口の先がどうなっているのか見えなかった。

 

「何かの神殿なんでしょうか?」

 

「分からない。見た目はそうだけど中身もそうだとは限らないからな。とりあえず、入ってみよう。」

 

「はい。」

 

 そう言うと、二人は階段を上がり、入り口の前まで来た。すると、入り口の先には道が続いていた。

 

「入りましょう。」

 

「おう。」

 

 二人が中に入ると、中の壁は石造りで出来ていた。だが、天井はシンより三十センチぐらい高いぐらいで横幅も二人で並びながら進んで行くならくっつきながらじゃないと進む事が出来ないぐらい基本的に狭い造りをしていた。

 

「随分、狭いな。」

 

「そうですね。なにか目的でもあるんですかね?」

 

「どうだろうな。まあ、とりあえず先に進んでみるか。」

 

「ええ。」

 

 二人は肩と肩をくっつきながら先に進んで行く。中はさっきまで海の中にあったせいか天井から水滴が落ちており、下に出来ていた水溜りに当たりポツンポツンと音を立てていた。壁も同じ理由からか湿っていた。道は何故か青白く光っており、明かりには困らなかった。二人は狭い道を進んで行くと、左、直進、右と分かれ道が見えてきた。

 

「分かれ道か、どうする?」

 

「分かりやすいので、真っ直ぐ進みましょう。」

 

「それもそうだな。」

 

 レンの提案にシンが同意し、二人はそのまま直進して行く。

 

「にしても、この道の狭さはどうにかならないのか。」

 

(レンが近いんだが、、、)

 

 シンはレンが近かったので内心緊張して、心臓がバクバク波打っていた。気を抜くと顔に照れが出てしまうぐらいだ。

 

「しょうがないでしょ?道が狭いんだから。文句言わないでよね。」

 

(どうしよう、顔に出てないよね?心臓の音聞こえてないよね?)

 

 レンもシンが近いので内心緊張して、心臓がバクバク波打っていた。レンは顔に出てないか、心臓の音は聞こえてないかと心配になっていたが、レンの口調がタメ口になっていたことに本人を始め、シンも気づいていなかった。

 

「そうだけどさ。」

 

「だって、何かあった時に二人で並びながら歩いてた方が気づくのに遅れないし、見落としとかが無いようにするために仕方がないんだもん。」

 

 レンがふいっとそっぽを向く。シンにはレンが怒っているように見えていたが、そっぽを向いた本人は気恥ずかしく、顔に出てないか心配だったためだった。そうこうしているとレンの足元の石をレンが踏んだ瞬間、カチッと音がして少し下がった。

 

「え?」

 

「なんの音だ?」

 

「私が踏んだ石が下に少し下がって、」

 

 レンが今起こった事を説明しようとすると、ゴオオオォォという凄い音が二人の進もうとしていた方向からしてきた。

 

「なんかまずくないか?」

 

「うん。」

 

 すると、前の曲がり角から道一杯のもの凄い勢いの水が二人の方向に流れてきた。それを見た二人はそれから逃げるようにして走った。

 

「レンが前を走れ。」

 

「イヤよ、シンが前を走ってよ。」

 

 シンはレンを庇うという気持ちで言ったが、レンも同じ事を考えていたらしく、二人仲良く肩をくっつけながら走っていた。ただでさえ狭い道で走りづらいのに、そんな二人が逃げ切れる訳も無く、水に流された。水は二人を入り口近くまで押し流した。

 

「ゲホッ、まったく、エライ目にあったぜ。」

 

「コホンッ、そうですね。」

 

「大丈夫か、レ……ン!?」

 

 シンは自分の目を疑った。船に乗っている時は太陽も照っていて暑いぐらいだったので、レンは白のノースリーブにデニムパンツという格好をしてのだが、今ので服が濡れ、スケスケの服から水色がうっすらと見え、レンの体と相俟ってとんでもなくエロくなっていた。

 

「大丈夫よ。どうかしたの?」

 

「いや、その……」

 

 レンは自分がどうなっているのか気づいていないらしく不思議がっていた。レンの姿にシンは目のやり場に困っていた。それを見たレンがようやく自分の置かれている状態に気づいたらしく、顔を真っ赤に染めていた。

 

「この……、」

 

「ひっ!」

 

 顔を真っ赤に染めながら近づいて来るレンにシンは嫌な予感がした。

 

「エッチ!!!!!」

 

 レンはシンに思いっきりビンタをした。シンは顔に赤い紅葉の後を残した。

 

次回、ダンジョンの仕様

 



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第26話 ダンジョンの仕様

 二人は分かれ道の所まで歩いて来た。レンはさっきの件で怒っており、ムッとした表情を浮かべていた。シンは自分で羽織っていた黒色のマントをレンに貸していた。マントは濡れていたが、シンは目のやり場に困るのでレンに貸したという事もあったが、これ以上顔に赤い紅葉が増える事だけは避けたいというのがマントを貸した理由のほとんどを占めていた。

 

「見ましたか?」

 

「いや、見てないです。」

 

 歩いていたレンはその場に立ち止まり、シンの方を向いて頰をほんのり赤く染めながら言った。シンは本当は見えていたが、今本当の事を言ったら顔が赤い紅葉で一杯になると思い、嘘をついた。

 

「そうですか、ふ〜。」

 

 レンは安堵の溜め息をついた。シンも内心は、これ以上叩かれる事は無いと安心していた。

 

「罠があるだなんて、今までは無かったんですけどね。」

 

「そういや、そうだな。」

 

「どうしますか?罠があったので違う道を選ぶのか、それとも逆に罠があったからそっちの道を選ぶのか。」

 

「……罠があった道を行こう。少し危険だが、罠があるなら何かあるということも考えられるしな。」

 

 レンの問いにシンは少し考え、さっきの道を戻る事にした。

 

「分かりました。」

 

 シンの出した答えにレンが頷きながら答えた。

 

「レンは俺の後をついて来てくれ。」

 

「それだったら私が、」

 

「いや、罠があると分かった以上、何があるか分からない。さっきみたいになった時に、いち早く動けるようにしておきたい。前はなんとするから、レンは後ろを頼む。」

 

「わ、分かりました。」

 

 シンは建前上それっぽい事を言ってレンを後ろにさせたが、何かあった時にレンを先に逃がしてやりたいというのが本音だった。レンはというとシンの優しさを感じ、頭がぽかんとしていた。二人はさっき行った道を戻り、道なりに進んでいく。すると、突き当たりに出た。左の道は奥の方へと道が続いており、右の道はすぐに行き止まりで、道と言うより大きな窪みといったほうが適切な表現だと思わせるほど単純な道の造りだった。二人は例のとおり左の道を進んでいく。すると、少し歩いた時の事だった。前を歩いていたシンの足元の石が少し下がった。

 

「罠か!?」

 

 シンの予感は的中した。二人の後ろからゴロゴロゴロという何か重いものが転がってくるような大きい音がしていた。次の瞬間、後ろの壁を壊し二人の方へ道の大きさピッタリの岩が転がってきた。

 

「岩!?」

 

「レン、サニアで切るから避けてくれ。」

 

 そういうと、シンはサニアを取り出した。レンはシンの邪魔にならないようにシンの後ろに移動した。そして、シンは転がってきている岩に向かってサニアを振り下ろした。だがその時、シンはサニアの斬撃が飛んでいかない事に気がついた。

 

「なんでだ!?」

 

 シンが驚いている間にも岩はこちらに向かって転がってきていた。

 

「シン、とりあえず逃げましょう。」

 

 二人は転がってきている岩から逃げた。二人は走って逃げているものの、この道は一本道という事もあって横に避けることも出来ず、ただひたすら走り続けた。

 

「なんでこうなるんだ。」

 

「恐らく、そういうダンジョンか何かなんじゃ無いですか?」

 

 二人は走りながらこの建物の事について話した。その間にも、二人と岩の距離が縮まっていく。すると、その時二人の足元の石がパカっと分かれて二人は宙に浮いた。

 

「なっ!?」

 

「うわぁ!?」

 

 二人は突然の事に驚いていた。だがその間にも二人の体は落ちていた。落ちると言っても最初だけで、どうやらその落とし穴の罠は滑り台のような造りになっているようで、滑り落ちているという表現の方が正しかった。右に左に揺られてどんどん滑り落ちていく。少しすると、この落とし穴に終わりが見えた。そして、二人はこの落とし穴を滑り終わるとそこは体育館ぐらいの少し大きな空間だった。

 

「いててて、えらい目にあったな。」

 

「まったくです。」

 

 二人はぐったりしながらそんな会話を交わした。すると、二人の目の前に体長二十メートルぐらいの黒い鰐がいた。目は黄色く、肌はゴツゴツしており硬そうな見た目をしていた。

 

「なんだこいつ!?」

 

「これは鰐です。でも、こんなの見た事無い。」

 

 二人は鰐の大きさに驚いていた。すると、鰐は二人に向かって口を開け、襲いかかってきた。二人はそれを避ける。すると、シンはいつもの調子でサニアを鰐に向かって振り下ろした。

 

(そういや、使えないんだっけ……)

 

 シンはその時、さっきサニアが使えなかった時の事を思い出した。だがもうすでに振り下ろした後だった。すると、意味のないことをしたと思ったシンだったがサニアの斬撃は発動した。斬撃が鰐の体に大きな傷をつけた。硬い皮膚で覆われているせいか切断とまではいかなかったが、それでも凄まじい威力に違いはなかった。

 

「どういう事だ?場所によって使える場所があるのか?」

 

 シンはなぜ使えるのかと不思議に思っていると、今の攻撃で怒った鰐がシンに向かって大きな口を開けて襲いかかってくる。それを見たシンは懐からイニルを取り出し、振り払った。すると、イニルの斬撃が鰐へと向かっていき、鰐の体をバラバラにした。硬い皮膚を持ったワニではあったが、イニルの威力の方がそれを上回っていたようだ。

 

「一体、発動する時としない時の差はなんなんだ。」

 

「分かりませんが、ここは恐らくダンジョンでしょうからそういう罠があるのかもしれませんね。」

 

「それはありえるな。渦潮といい、あの鰐といい、普通じゃ有り得ないからな。」

 

 二人は神器の発動しなかった理由が罠か何かだろうと予想し、この建物がダンジョンだろうという事を確信した。

 

「先に進んでみましょう。ここがダンジョンならフロリアがいるはずです。」

 

「それもそうだな。行こう。」

 

 二人は色々疑問を感じたが、先に進めば分かるだろうという結論に達し、この空間を後にした。

 

次回、緑色の目の持ち主

 



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第27話 緑色の目の持ち主

 二人は鰐のいた空間から先に進んでいた。道の大きさは落ちてくる前の道とは違って余裕がある為、二人は並びながら前に進んでいく。

 

「み、道が広くて良かったな。」

 

「そ、そうですね。良かったです。」

 

 二人はなんとなく声色に残念という気持ちを込めながら話したが、気恥ずかしさからかそれ以上会話が続く事はなかった。無言のまま先に進んで行くと二人の前の道に、水が道の天井から流れて薄い水の壁が出来ているところにきた。辺りは水で濡れていて、足元には水が流れてきており、歩く度にぴちゃぴちゃと音をたてた。

 

「綺麗ですね。」

 

「ああ。でもなんのためにあるんだろう。」

 

 レンが流れている水の光景に感動をしている中、シンは理屈を考えていた。

 

「せっかく綺麗なのにそれだけですか?」

 

「それはそうだけど、この先がどうなっているか気になるだろ?」

 

 レンがシンの返事に眉を顰めていると、シンは薄い水の壁を手で遮って先に進んだ。レンもシンに置いて行かれないように後をついて行った。薄い水の壁の向こう側にくるとそこには、さっきの空間よりも大きなところに出た。その空間とは建物の中なのにも関わらず、地面が土の大地で緑の草が生えており、その緑の大地を分けるように何本もの小川が流れていて水の草原という表現が合っている。そして、このダンジョンの特徴だからなのか水が青白く光っており、神秘的な景色が広がっている場所だった。

 

「すごく綺麗ですね。」

 

「ああ。これは綺麗だな。」

 

 神秘的な光景にレンだけではなくシンも感銘を受けるほどだった。二人はこの空間の真ん中へと進んで行く。

 

「なんのためにあるんだろう?本当にダンジョンってのは分からんな」

 

「でも、綺麗だからいいじゃないですか。」

 

 シンが不思議に思っていると、レンは水を見ながら言った。水の光がレンの体を青白く映し、目も元の色と相俟ってさらに青白く光り輝いて見えた。シンはその光景に見惚れていた。すると、この空間の奥の道から何かが水を掻き分けながら近づいてくる音が聞こえてきた。

 

「何かくるぞ。」

 

「はい。」

 

 二人が警戒していると、そこに現れたのは全身が大きな樹木の幹で出来ていて、目は緑色をした、全長五十メートルはある大きな蛇だった。

 

「なんだあれ!?」

 

「蛇ですかね?」

 

 二人が驚いていると、その大きな蛇がこちらに向かってきていた。シンは懐からサニアとイニルを取り出し、レンは腰を落として二人とも戦闘体勢になった。大きな蛇が二人の近くまでくるとじっと見つめてきた。すると、視線を流れている小川の方を向き、顔を近づけ水を飲み始めた。その光景に二人はきょとんとした顔をして不思議がっていたが、その蛇は何をしてくるという事も無かった。二人はこの蛇が来た道に向かって、警戒しながら歩いた。だが、蛇の魔物は何もしてこないまま、この空間を後にした。

 

「あの蛇はなんだったんでしょうか?」

 

「分からないけど、襲ってこなかったから大丈夫だとは思うけど。」

 

 二人は結局あの蛇が何なのか分からず道を進んだ。すると、結構歩いたところで左右に分かれた突き当たりまで来た。左はさらに道が続いていた。そして、右にはさっきの空間に入る時と同じ、水が天井から流れており薄い水の壁を造っており、床は水が張っていた。

 

「また水のやつか。」

 

「中に何かあるかもしれませんね。どうしますか?」

 

「中に入ってみよう。」

 

 二人は水を手で遮って中に入った。すると、中には壁から水が流れていて、奥に水が湧き出ている台座があり、床は水でまるで鏡のようにうっすら天井を写していた。そして、台座の上には青白いクリスタル色の少し大きめの長方形の形をした宝箱があった。

 

次回、三つ目の神器と真相

 



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第28話 三つ目の神器と真相

 二人はこの部屋が神器がある最終目的の場所であるという事がすぐに分かった。二人は中に入ると、例の如く台座の前が光りだした。その光りの正体とはフロリアだった。

 

「お久しぶりですね。」

 

「ああ、そうだな。それよりもフロリアに聞きたい事がある。」

 

「なんでしょう?」

 

 シンがフロリアの挨拶をそうそうに終えると、シンは気になっていた事をフロリアに聞いた。

 

「そもそもここはダンジョンで合ってるんだよな?」

 

「はい。合っています。」

 

「なるほど。それで聞きたいんだが、神器を使った時発動しない事があった。それはどうしてだ?」

 

「そうですね。その事ならお答えしましょう。ダンジョンには神器が使用出来る場所とできない場所がございます。」

 

「それはどうしてだ?」

 

 ダンジョンの知らなかった仕様にシンは率直に聞いた。

 

「とある神器があるとダンジョンの難易度が急激に落ちるので道中の神器の使用を無効化しているのです。」

 

「とある神器?」

 

「はい。ですがその神器については何も言えません。」

 

 シンがとある神器の事について聞くと、神器だからなのかフロリアはそれ以上のことは教えてくれなかった。すると、今度はレンがフロリアに質問をした。

 

「さっき通ってきた道に蛇の魔物が現れたんですが、襲ってこなかったんです。魔物によって襲ってくるものと、襲ってこないものがいるんですか?」

 

「……」

 

 レンの質問にフロリアは何かを考えているようだったが、しばらくして口を開いた。

 

「あれは危獣と呼ばれる魔物ですね。」

 

「危獣?どっかで聞いたことあるような……」

 

 フロリアから危獣という言葉を聞いた時、レンはアルキトラで見た本にそんな事が書いてあった事を思い出した。

 

「危獣ってなんだ?」

 

「はい。危獣とは世界各地にいた存在自体が危ない獣の総称ですね。今の世界にはほとんど生息している危獣はいません。あなた方が見たその蛇の魔物とはその危獣と言われる魔物の一体ですね。」

 

 フロリアの説明に二人はそんな魔物がいるのかと驚いていた。すると、シンは疑問に思った事を質問した。

 

「だけど、あの魔物がそんな危険な魔物だとは思えないんだが?俺たちに何もしてこなかったし。」

 

「昔、あの蛇の魔物の名はシャレイペル・スネークと呼ばれていて、不老でほぼ不死の蛇です。温厚な性格なので何か仕掛けなければ何もしてきませんが、怒らせると厄介な危獣です。今はこのダンジョンに住み着いていますが、昔はここには居なかったんですよ?」

 

「不老でほぼ不死!?そんなのがいるのか。」

 

 あの危獣と呼ばれる蛇の魔物の事について知った二人は驚いていた。すると、フロリアは更に話を続けた。

 

「そもそも、危獣に会って生きて帰れるとすれば、お二人が会ったというその蛇の危獣ぐらいですから、運が良いですね。」

 

「そうだったのか。」

 

(良かった、攻撃しなくて……)

 

 攻撃を仕掛けなかった事にシンは安堵していた。

 

「話が長くなりましたね。それでは神器をお受け取りください。」

 

「今回はどっちでもいんだよな?」

 

「はい。構いません。」

 

「なら、レンが取れよ。俺はサニアとイニルがあるし。」

 

「そうですか?なら有り難く貰いたいですけど、神器って何個も同じ人が持ってもいんですか?」

 

「構いません。ダンジョンをクリアした報酬ですので。二つ持っていたとしても、神器はちゃんと発動します。」

 

「なら……」

 

 フロリアの説明に納得してレンは台座の上にある青白いクリスタル色をした少し大きめの長方形で出来た宝箱の前まで歩き、宝箱を開けた。すると、中には六十センチ位の夜色の扇子が入っていた。

 

「これは?」

 

「これは、鏡扇リナザクラです。」

 

「変わった名前ですね。」

 

 フロリアが神器の名前を告げるとレンはそんな感想を言った。すると、レンが神器を手に持った。レンは神器の扇子を広げてみた。すると、扇面が桃色で白色の桜の花びらが描かれていた。親骨と中骨、要部分が夜色で出来ており、まるで夜桜を見ているかのような鮮やかで綺麗な見た目をしていた。

 

「可愛くて綺麗ですね!」

 

 レンが目をキラキラ輝かせながらリナザクラを見ていた。どうやら気に入ったらしく、扇面を手で撫でていた。

 

「それでは、私はもう行きますね。階段を上がったら、出ている石を押してください。」

 

「それって、何の事だ?」

 

 シンがフロリアの言った事に質問すると、フロリアは強く光っていつの間にか消えた。すると、水が流れていた横の壁がゴオオオという音を立てて動き、階段が現れた。

 

「階段ってこれの事か?」

 

「みたいですね。」

 

 シンはフロリアの言っていた階段がこの階段の事を言っているのだろうと考えていると、レンがようやっと扇子を撫でるのをやめて返事をしてきた。

 

「じゃあ、階段を上がって先に進んでみるか。」

 

「そうですね。行ってみましょう。」

 

 シンの提案にレンが賛同した。レンはリナザクラを抱えてシンのところまで近づくと、二人は階段を登って奥へと進んだ。

 

次回、ダンジョン脱出

 



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第29話 ダンジョン脱出

 二人は神器を貰った部屋から階段をずっと登っていた。

 

「にしても、そんなにその神器が気に入ったのか?」

 

「はい!凄く気に入っています!」

 

「おお、そうか……」

 

 レンの今までにない情熱にシンは圧倒されていた。すると、階段を登っていた二人の前に壁が現れ、行き止まりに差し掛かった。壁は石造りで出来ており、一つだけ石が飛び出ていた。

 

「フロリアが言ってたのってこれの事か?」

 

「そうでしょうね。」

 

 シンはフロリアが言っていた事がこれの事かと疑問に思いながらも、飛び出ていた石を押した。すると、石がすっぽりと嵌り、おうとつの無い壁になった。だが、次の瞬間、今まで突き出ていた石を嵌めたせいなのか、他の石が飛び出した。

 

「おい、どうなってるんだ。」

 

「もう一回嵌めるんじゃないんですか?」

 

 そういって今度はレンが石を嵌めた。すると、さっきと同じように他の石が飛び出した。二人が何回か石を嵌めるのを繰り返すと、壁が崩れて二人が入ってきた入り口の近くの道に出た。

 

「へ〜、ここに出るのか。」

 

「入り口に近いところに出られて良かったですね。一度、船に戻りましょう。」

 

「そうだな。」

 

 二人は入ってきた入り口まで狭い道をくっつきながら歩いた。二人は緊張と気恥ずかしさからそっぽを向きなが歩き、入っていた入り口からダンジョンの外にでた。二人は密着した状態からすぐに離れたがドキドキが止まらず、顔を赤らめていたためお互い顔を見る事が出来なかった。そのまま階段を降りて下まで行く。すると、二人が地面に足を着いた時だった。ゴオオオという大きな音と共に辺りが揺れた。

 

「地震か!?」

 

「急いで船まで戻りましょう。」

 

「ああ。」

 

 そういうと、二人は走って船のある場所を目指した。すると、二人がある事に気がついた。渦潮がだんだんと縮まっていた。

 

「なあ、さっきより渦潮が縮まってないか?」

 

「ええ。急がないとマズイですね。」

 

 二人は急いで船に戻る。その間にも、徐々に渦潮は狭くなっていき、二人が船まで後ほんの少しというところで、渦潮が船に届き、流されようとしていた。

 

「ギリギリだな。レン、飛び乗るぞ!」

 

 そういうと、少し前を走っていたシンがレンをお姫様抱っこで持ち上げた。

 

「な……ッ!!」

 

 レンは真っ赤な顔をしてシンの顔を見た。

 

「仕方ないだろ……!?」

 

 すると、シンも顔を赤くしてレンの顔を見た。次の瞬間、シンはレンをお姫様だっこしながら船に飛び移った。すると、渦潮は船を動かした。船は渦潮の流れに乗って辛うじて海上に向かっていた。

 

「危なかったな……」

 

「……そうですね。……あの、下ろしてもらっても良いですか……」

 

 シンは照れくさそうな顔で言うと、レンは顔を赤くしながら下を向いて言った。

 

「ああ……、悪い……」

 

 シンが照れながらそう言うと、レンを下ろした。レンは下を向き、持っていたリナザクラで顔を隠し、しゃがみながら何も言わなかった。そうしている間にも徐々にだが船は海上に向かっていた。暫くすると、渦潮は小さくなり、二人がいたダンジョンを呑み込んだ。それからもどんどん渦潮は小さくなり、渦潮の流れが弱くなると船は無事に海上にでた。すると、渦潮は無くなりそこに何も無かったかのように静かになった。外は夕方になっていて、夕陽が凪の海に反射してキラキラと輝き、とても綺麗な景色だった。

 

「あんた達大丈夫か!?」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

 船の乗員が心配して二人に話し掛けてきたので、シンは返事を返した。

 

「レン?大丈夫か?」

 

 シンはしゃがみながら動かず、返事をしなかったレンを心配して聞いた。すると、レンはしゃがみながらシンの方に顔を向けた。

 

「エッチ……」

 

「な……ッ!?俺何もしてないぞ!?」

 

 しゃがみながら上目遣いで言っていたレンにシンはドキドキしながら、レンに誤解があると言う事を伝えた。シンはレンがその時どんな表情で言っていたのか真っ赤な夕陽で良く見えなかった。

 

次回、ラクタート到着

 



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第30話 ラクタート到着

 海の中にあったダンジョンを攻略してから四日が経っており、二人の乗っている船が丁度、港町ラクタートに着いたところだった。

 

「へ〜、ここがラクタートか……」

 

 シンが見ていたのは、赤いレンガで造られた家々が立ち並び、道は白の石造りで出来ていた。道の横には水路が迷路のように入り組んでいて、水路の上には石で出来た橋が所々にあり、道と道とを繋いでいた。この町の見た目を簡単に説明するなら、西洋の水の都という例えが一番合っていた。

 

「はい。ここラクタートは港町なのでレジアルと同じように色々な物や人がいますね。」

 

 レンがそういうと船から木製でできた桟橋に移動した。シンはそれに置いて行かれないようにレンについて行く。石造りの道まで歩くとシンはレンに質問をした。

 

「これからはどうするんだ?」

 

「そうですね、まずはこの町でエルナまで行くのに必要な物を買い揃えます。それが終わったらエルナに出発するって感じです。」

 

「なるほど、それでエルナまでは何が必要なんだ?」

 

 レンの説明を受けたシンがまた質問をした。

 

「まずは、服ですね。前にも話したようにエルナは寒い所なので寒さに耐えられる暖かい服を買います。」

 

「服か、確かにこの町ですら少し肌寒いからな。レジアルとは同じ港町と言っても気温はこっちの方が断然寒いな。」

 

 レンが服の事を話すと、シンは納得して手の肌を擦りながら言った。

 

「あとは、食料ですかね。エルナまでは一週間近く掛かりますから、服を買って着替えた後、買いに行きましょう。」

 

「分かった。」

 

 二人は会話を終わらせて町の中を歩いて行く。町中を歩いていると服屋に着いた。どこにでもありそうな見た目をしていて、ショーウインド越しに服が沢山見えていた。

 

「まずはここで服を買いましょう。」

 

「おお。」

 

 そういうと、二人は服屋に入っていった。服屋の中は男物から女物まで幅広く置いてあり、二人は中を見て回った。すると、冬服を置いてあるコーナーがあった。

 

「この中から選びましょう。」

 

「ああ。」

 

 そう言うとレンは女物の服を選び始めた。シンはという服屋に入ったことがほとんど無く、沢山ある服の種類や数に何を選べばいいのか迷っていた。

 

「どうですかね?」

 

 シンは声をした方に顔を向けると、レンが灰色のニットセーターにモッズコートを羽織り、下は動きやすそうなジーンズを穿き、首にはモフモフの白いマフラーを付けて、ほんのり頰を赤くしていた。

 

「似合ってるぞ……」

 

 レンの姿にシンは照れくさそうに言った。すると、レンはニコニコしていた。

 

「なあ、レン。服が決められないんだけど選んでくれないか?俺の村にはこんなに服が無くて何を選べば良いのか分からなくてさ。」

 

「良いですよ!何にしようかな〜」

 

 シンは自分で決められなかったのでレンにお願いした。すると、レンはニコニコしながら楽しそうに服を選び始めた。暫くすると、レンがシンに選んだ服を渡してきたので、シンはレンが選んだ服に着替えた。

 

「どうだ?」

 

 暫くすると、着替えたシンが試着室から出てきて照れくさそうに頭を掻きながらレンに聞いた。シンは白の服の上に黒のカーディガン、下はクリーム色のズボンにレンと同じモッズコートを着ていた。

 

「うん、似合ってますね。」

 

 レンはシンの格好を見て、満足そうな顔をしていた。すると、シンがとある事を疑問に思い、レンに聞いた。

 

「なあ、このレンと同じ服にしたのには何か理由があるのか?」

 

「え、ええっと〜、暖かいからかな……」

 

 シンの質問にレンがほんのり頰を赤くし、困惑した顔をしていた。

 

「なんか、同じ服を着てるとカップルみたいだなと思ってさ……」

 

 シンが照れながらそう言うと、レンは下を向き、二人の間に何とも言い難い沈黙が続いた。

 

「ま、まずは、買ってきましょうか。」

 

「そ、そうだな。」

 

 レンが沈黙を破ると二人は会計を済ませて、買った服を着て服屋を後にし、道を歩いていた。

 

(シンがあんな事言うから考えちゃったじゃない……)

 

(なんか言ってくれよ、恥ずかしいだろうが……)

 

 二人がそれぞれ、こんな事を考えながら道を歩いていると道で話していた主婦の集団から、若いわね〜、付き合ってるのかしら、と話しているのが二人に聞こえてきた。すると、二人は下を向いて顔を赤くしながらその場所を早々と阿吽の呼吸で歩き、離れた。

 

「はぁ〜、なんて事を言うんだ。」

 

 シンが頰を赤くしながら言った。シンがレンの方を見ると、レンはまだ下を向いたままだった。

 

次回、ラクタート出発

 



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第31話 ラクタート出発

 二人は町中を歩いていた。すると、道に色々な店が立ち並んでいる中、レンは手芸屋がある事に気がついた。

 

「そういえば、買いたい物があるんですけど寄って行ってもいいですか?」

 

「ああ、良いけどなんか買うのか?」

 

 レンが手芸屋を見て何かを思い出したかのようにシンに言ってきた。シンは何か買うものがあるのかと疑問に思いレンに尋ねた。

 

「はい。このリナザクラを入れる可愛い袋か何かがないかなと思いまして。それに、このままだと持ち運ぶのが少し大変なので何か良い物が無いか見てみたいんです。」

 

「ああ、なるほどな。」

 

 シンは何の為に寄るのかレンから理由を聞くとシンは納得した。中に入ると、そこには手編みでつくられた編み物が大半を占めていた。レンはその中を何かリナザクラを入れるのにいいものは無いかと物色していく。すると、今まで物色をしながら少しづつ前に進んでいたレンが、ぴたりとその歩みを止めた。

 

「どうしたんだ?」

 

 シンが急に止まったレンを不思議に思い尋ねてみる。

 

「この布の袋が柄も可愛くて大きさも丁度いいと思うんですよね。」

 

 シンはどれのことを言っているのかと思い、レンの見ていた目線の方に目を向けた。すると、そこにはリナザクラがすっぽり入りそうなぐらいの大きさをした、夜色で桜の花びらが桃色の、まるでリネザクラの為に作られたかのような見た目をした大きい巾着袋のような物がそこにはあった。シンはそれを見て、確かにこれなら丁度いいと言うのも頷けると思うほどだった。

 

「決めました。これにします。」

 

 そう言ってレンがその巾着袋のような物を手に取り、会計を済ませに店員のところまで行った。シンはその間暇なので手芸屋の入り口で待つことにした。だが、レンはなかなか出て来なかった。

 

「何やってるんだ?」

 

 シンはレンが中々来ないことにを不思議に思っていると、やっとレンが手芸屋の奥から出てきた。

 

「遅かったな。」

 

「少しだけ直してもらってたんです。」

 

 そう言ってレンが巾着袋を見せてきた。すると、巾着袋の対角線上に新しく赤の紐が付けられていて、肩に掛けられるようになっていた。

 

「店員に聞いてみたら快くやってくれたので良かったです。」

 

「そうか、それは何よりだ。」

 

 シンはレンが嬉しそうな顔をしていたのが内心、嬉しかった。

 

「それじゃあ、後は食料ですね。だとすると、その前に物を入れるリュックか何かを探さないといけませんね。」

 

「それもそうだな。探してみるか。」

 

 そう言って二人はまず、何か食料を入れられる物を探した。すると、町を歩いていた二人が雑貨屋を見つけた。

 

「ここにならありそうですね。」

 

「ああ、入ってみよう。」

 

 すると、入ってすぐの所に何種類かバッグが置いてあった。その中でも一番大きいサイズのリュックを買う事にした。二人は会計を済ませて外に出る。

 

「後は、食料を適当に買えば大丈夫です。」

 

「じゃあ、早速買いにいくか。」

 

 そう言って二人はその場を後にし、食べ物が売られている所まで歩いた。食べ物が売られている所に着くと肉や野菜などのエルナに行くまでに必要な食料を買った。

 

「これでエルナまでの道は何とかなります。」

 

「よし。じゃあ、行くか、エルナまで。」

 

「はい……」

 

 二人は町のはずれにある、ラクタートからエルナまで行く事が出来る道の前まで来ていた。

 

「やっぱり、辛いか?」

 

 シンが浮かない顔をしているレンに気づいて話し掛けた。

 

「はい。やっぱりどうしても心の準備が出来なくて……」

 

 レンは妹のレイナに会う為にここまで来たが、どうなっているかも分からない。レンがここまでくる間にも徐々にレイナの不治の病は体を蝕んでいく。もしかしたら、もう死んでしまっているかもしれないという恐怖と不安にレンは押し潰されそうになっていた。すると、浮かない顔をしているレンに、シンがレンの頭を覆うようにしてレンの事を抱きしめた。

 

「辛かったら俺を頼れ……、それで、レンが辛いことを俺に半分分けてくれ。レンが辛い事は俺も辛い。それと、辛い時こそ、笑え……、レンには笑顔が一番だ。」

 

 シンはレンを抱きしめながら耳元でそう言った。レンは何も言わなかったが、シンはレンが体を震わせている事に気づいていた。シンは抱きしめたまま頭を撫でる。たまに聞こえるレンの鼻を啜る音だけが、レンが今どんな事を思い、何を考えているのかを知ることが出来る唯一の方法だった。暫くそのままの状態でいると、レンの震えが徐々に収まっていった。

 すると、レンは顔を上げてシンの事を見た。

 

「シン……ありがとう……」

 

 そう言って、シンにありがとうと伝えたレンの顔は、涙で目元が赤くなり、まだ大粒の涙を流していたが、レンは満面の笑みを作っていた。

 

次回、エルナまでの道中

 



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第32話 エルナまでの道中

 二人はラクタートを出発して三日が経っていた。気温はラクタートよりも更に寒くなっていて、呼吸をすると白い息が自然と出てしまう程だった。周りの景色も気候が寒いせいか花はほとんど咲いていなく、雑草と一緒に白い小さな花が道の横に申し訳程度に咲ているくらいだった。道の周りの木も針葉樹がほとんどで、味気ない風景がずっと続いていた。

 

「なあ、レン。ここら辺の地域はいつもこんなに寒いのか?」

 

 シンが寒さから手に白い息を吹きかけながらレンに聞いた。

 

「そうですね。でも、まだ暖かい方です。」

 

「マジか……」

 

 レンの返事にシンは自分だったら暮らしていけるんだろうかと思った。

 

「ここからはもう少し寒くなるので気をつけて下さいね。」

 

「……」

 

 レンの言葉にシンは苦い表情を浮かべていた。

 

 それから数時間歩くと陽が落ちてきて、段々と辺りが暗くなってきた。

 

「今日はもう暗いのでここら辺で野宿ですね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 そういうと、二人は寝るための準備をした。焚き火をする為の木や燃えやすそうな草などを集め、それにライターで火を付けて暖まった。木は乾燥しているためかよく燃えるため、寒さに心配することは無かった。

 

「いつもこれだけ暖かいと良いのにな〜」

 

「そうですね〜」

 

 二人は焚き火に手を翳して、温めながら言った。辺りは真っ暗になっており、焚き火の光が二人を優しく包むように明るくしていた。

 

「そういえば、レイナってどんな人なんだ?」

 

 シンが尋ねると、レンは焚き火の方を見て何かを思い出しているかのような目をしていた。

 

「レイナは私にそっくりですね……。体格もほとんど一緒で、違う所は黒髮のロングヘアーで目の色は碧色、左の目元に泣きぼくろがあるというぐらいですかね。お茶目な性格だけどしっかり者で、村の人からは仲良し姉妹だとか、双子の姉妹だねとか言われてました。」

 

「そうか……、そういえば、レンの両親は何をしてるんだ?」

 

 シンはレンの話を聞いて焚き火を見ていたが、ふとレンの両親の事が気になりレンの方を向いて聞いた。

 

「私の両親は、私が五歳ぐらいの時に雪崩にあってもういないんです。その時、私とレイナは村の長老の家に預けられていて、それからは村の長老の家で育ちました。」

 

「そうだったのか……、要らん事を聞いたな……悪い。」

 

 シンはレンの両親がもう無くなっている事を知らずに聞いてしまった事に恨めしさを感じていた。

 

「ううん、大丈夫。こんな事シン以外の人には話さないよ。」

 

 シンは恨めしさを感じていたが、レンが首を横に振ってそう言ってくれた事に感謝していた。

 

「さっ、今日はもう寝ましょう。明日も結構歩くし。」

 

 レンはそう言うと、毛布を掛けて横になった。

 

「それもそうだな。」

 

 シンもレンに倣って毛布を掛けて横になり、その日は早めに寝た。

 

次回、レイナ

 



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第33話 レイナ

 数日が経ち、二人はエルナまで後数分というところまで近づいていた。ここまで来ると、気温は今までより更に下がり二人は厳しい寒さに曝されていた。

 

「とんでもなく寒いんですけど。」

 

「あともうちょっとでエルナです。我慢して下さい。」

 

 肩を手で擦って温めながら言っていたシンに、レンは寒さに慣れているようでほんのり顔が赤くなるぐらいで、今までと特に変わった様子も無く言った。暫く歩くと、二人の視界に村らしきものが見えてきた。

 

「あれがエルナです。」

 

「遂にここまで来たんだな。」

 

「ええ。」

 

 エルナが見えた時、二人は今まで一緒に旅をしてきた何気無い日々やダンジョンを攻略した時の事を思い出していた。だが、それと同時にレイナの事が気になった。二人はレイナの事を心配しながら歩き、エルナに着いた。エルナはログハウスが数十軒しかない小さな村だった。

 

「これがエルナの村か……」

 

「はい、こっちです。」

 

 シンがエルナの村を見渡していると、レンが先導して村の中を進んでいく。二人が村の中を歩いていると薪を運んでいた中年の男がこちらを向いた。すると、レンに気づいたのか薪を持っていた中年の男が薪をその場に落とし、慌ててこちらに向かってきた。

 

「レンちゃん!帰ってきたのか!」

 

「はい。たった今、戻ってきました。」

 

 慌てて近づいてきた男に、レンは冷静に返事を返した。

 

「今すぐに長老の家に行ってくれ。レイナちゃんが……」

 

「……ッ!!」

 

 中年の男がそう言った瞬間、レンが最後まで聞かずに走り出した。

 

「おいっ!レン!」

 

 シンがそう言ってもレンは止まらず、シンはレンに置いて行かれないように後を追いかけた。すると、レンがとあるログハウスの階段を駆け上がって、ドアノブに手を掛けた。レンはドアの前で少し止まっている。シンは何とかレンに追いつこうとしたが、階段を上ろうとしたところでレンがドアを勢いよく開けた。

 

「レイナ!!!」

 

 レンがレイナと呼びながら勢いよくドアを開けると中に入っていく。シンもその後を追い、中に入る。すると、シンの目に飛び込んできたのはベッドに横たわる痩せこけた女の子の右手を握るレンの姿だった。その横には恐らくレンの話していた長老とその妻だと思われる老夫婦が椅子に座っていた。

 

「レイナはもう一ヶ月近くは、水を辛うじて飲むぐらいで、食べ物を食べれていなんじゃ……」

 

「そんな……、レイナは今どんな状態なの……」

 

 レンが涙を流しながら長老に聞いた。

 

「レイナはいつ死んでもおかしくない状態だそうじゃ。ここ一ヶ月ぐらいからますます容態が悪化してな、医者にも診てもらったが施しようが無いと言われてしまったんじゃよ……」

 

「そん……な……」

 

 レンがレイナの右手を両手で握りながら泣いている。それを見ていたシンは何だか心苦しかった。

 

「あんた、レンのお連れさんだね?こっちに座りなさい。」

 

 長老の妻がシンに話しかけてきた。シンは言われた通りにベッドのそばにあったレンの後ろの椅子に座った。

 

「………」

 

 シンは何か自分にできる事が無いかと考えてはみるものの、どうしようも出来ない事に遣る瀬無さを感じていた。

 

「こればっかりはどうしようも出来ない事さね。あんたは何も悪く無いさね。見守ってやんなさい。」

 

 シンが重い面持ちでいるのを見た長老の妻が話しかけてきた。シンは何も言わずただただ頷いた。

 

「レンが出て行ってから、レイナはお姉ちゃんに会いたいと口癖のように言っていての、レイナが死ぬ前に戻ってきて良かったわい……、ワシらにはどうする事も出来んからの……」

 

「ごめん……レイナ……、見つけられなかったよ……」

 

 長老からレンがこの村から出て行ってからのレイナの事を聞いたレンは、責任を感じてか、涙を流しながらレイナに謝った。その時だった。レイナの目が薄っすらとだが開いた。

 

「……ッ!!レイナ!!!」

 

 レイナが目を薄っすら開けた事に気づいたレンがレイナの名前を呼んで、手を握りながらレイナの顔にレンが顔を近づけた。薄っすらと開いている目の隙間からは碧色の瞳が見えていた。

 

「レイナ!!聞こえる!?私よ!レンよ!」

 

 レイナに向かってレンが話しかける。レンの目からは大粒の涙が流れていて、頰を伝い、ぽたぽたとレイナの肌に落ちていた。まるで、レイナが涙を流しているように見えるぐらい、レンは涙を流していた。するとその時、レイナの口がほんの僅か動いた。

 

「…………ぇ……」

 

「…………うん」

 

 レイナは今にも消えてしまいそうな声で言った。そこに居た全員が何と言ったか聞こえなかったが、レンにはそれが何と言ったのか分かったようだった。レンがうんと言うと、レイナはほんの僅かだけ頰をピクリと動かした。すると、今まで薄っすら開いていた碧色の目が徐々に見えなくなっていく。

 

「レイナ!!!!」

 

 レンはレイナの名前を叫んだ。だが、レイナの碧色の目は徐々に見えなくなっていく。そして、次の瞬間、碧色の目が完全に見えなくなった。

 

次回、レンの涙

 



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第34話 レンの涙

「レイナ……ねえ……死なないでよ……」

 

 レンは体を震わせながら大粒の涙を流してレイナに言った。だが、レイナはピクリとも動かなかった。動かなかったというより、動けなかったという方が正しかった。レイナはもう死んでしまっているのだから。

 

「……」

 

 その場に居たシンは何も言えなかった。長老夫婦もレイナとは長い間一緒に暮らしてきた為だろう。その瞳からは涙が流れていた。シンはレイナとは直接的な関わりは無かったものの、ここに来るまでにレンからレイナの事を聞いて知っていたので、シンも切ない気持ちなっていた。

 

「私を……置いて……行かないでよ……」

 

 レンはそう言うと床に泣き崩れて女の子座りになり、手で顔を抑えた。顔は手で覆われていたが、涙が頰を伝いぽたぽたと流れ出ており、体は震えていた。

 

「レン……」

 

 レンの事が心配になったシンは立ち上がりながらレンの名前を口にした。そして、シンはレンの肩に手を回した。レンの体はシンの思っているよりも震えており、レンがレイナの事をどれだけ大切に思っていたのかという事が伝わってきた。

 するとその時、レンの首から下げていた磨かれていなく、輝きを失っていた大地の雫の宝石が急に虹色に輝き出し、宝石が砕けるとその光がどんどん強くなっていった。

 

「なんだ……!?」

 

「……!?」

 

 シンもレンもその場に居た誰もが何が起きたか分からなかった。すると、虹色の光は部屋全体まで広がり外に漏れ出し、余りのその光の強さに目を腕で隠す程だった。暫く宝石が虹色の光を放っていると、やがて虹色の輝きが弱くなり、なくなった。

 

「何だったんだ!?」

 

 シンがそう言った時だった。死んだはずのレイナがベッドに座り、何が起きたのか分からないといった顔をしていた。

 

「レイナ……!?」

 

 死んだはずのレイナが座っていることにレンが気づいた。

 

「レイナ!!!」

 

 レンが泣きながらレイナの名前を呼んで抱き付いた。シンも老夫婦も何が起こったのか分からず唖然としていた。

 

「お姉ちゃん……苦しいよ……」

 

 レイナは強く抱き付いていたレンにそう言った。だが、レンは抱き付く事をやめなかった。レンも何が起こったのか分からなかったが、死んだはずの妹が生きているという現実を確かめたいというのと、もう死なないでという気持ちなどがレンを無意識のうちにそうさせていた。レイナもそれを分かってか、それ以上は何も言わずレンの頭を撫でていた。

 

「これは一体どういう事なんだ?」

 

 シンが余りの現実離れした出来事にそんな言葉を発した。それもそのはず、レイナは生き返っただけでなく、恐らくレイナが健康な時であったであろう見た目をしていた。痩せこけていた時の見た目とはまるで別人のように変わり、黒髮のロングヘアーで髪には艶があり、碧色の目がしっかりと見えていた。左の目元には泣きぼくろがあり、レンによく似ている美人だった。

 

「私にも分かりません。ただ、まだ死んではいけないと言われた気がします。」

 

 シンが今の現状に思わず漏らした言葉に、レイナはそんな言葉を返してくる。すると、閉まっていたドアを開けて村人が入ってきた。

 

「すごい光だったぞ。何かあった……!?」

 

 大地の雫の虹色の光に何かあったのかと心配してきた村人がレイナの事を見て、言葉が詰まっていた。すると、突然の事に唖然としていた村人がハッと我に返り、村の方へ走っていた。

 

「みんな〜レイナちゃんが〜」

 

 外に走って行った村人が村中に聞こえるような大きな声でレイナの事を叫んでいた。

 

「流石に恥ずかしんですけど……」

 

 それを聞いたレイナが恥ずかしさから頰を赤らめていた。

 

次回、レンとレイナ

 



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第35話 レンとレイナ

 レイナが生き返り、元気になったという事が村中に伝わり、村にいる人が全員入れ替わりで見舞いに来るという事態になっていた。レンはというと、レイナに泣きながら抱き付いていたが、少しして落ち着いたのか泣かずに抱き付くのはやめてレイナの隣に座り、手を握っていた。レイナは色々な事が一気に起こって大変そうにしていたが、笑顔でお見舞いに来てくれた村人に対応していた。お見舞いが全員終わる頃には夜になっていた。

 

「ねえ、お姉ちゃん、もういいでしょ?」

 

「いやだ……」

 

 レイナが呆れたと言わんばかりに眉を顰めながら困っていたが、レンはそれでも一緒に居たいらしく手を繋いでいた。

 

「もうこんなに遅くなってしまったからね。すぐに何か料理を作るから待ってな。」

 

「ううん。久しぶりに私が作りたい。」

 

 お婆ちゃんがそう言うとレイナがそんなこと言った。

 

「ね、お姉ちゃん!久々に一緒に作ろうよ。」

 

「うん。一緒に作るなら良いよ。」

 

 レイナがレンに料理を一緒に作ろうと誘うと、レンはどこか不貞腐れながら言った。

 

「やった。」

 

 レンはふてくされ気味に言っていたがレイナは笑顔で喜んでいた。

 

「じゃあ、お願いしようかね。久々だから包丁で指を切らないように気をつけるんだよ。」

 

「はいはい、分かってるって。ほらやろう、お姉ちゃん。私、上に行ってヘアゴム持ってくるから待ってて。」

 

「う、うん。」

 

 そういうとレイナは吹き抜けの階段を上がり、二階に行った。レンは仕方なく了承した感じの返事をしていた。家は二階建てのログハウスでドアを開けると、レイナが寝ていたベッドがあり、ベッドに向かって右側に窓があり、窓からは村の道や家が見えていた。左側はリビング、その奥にはキッチンがあり、横にドアがある。ベッドの少し離れたところには暖炉が薪を燃やし部屋を暖めていた。更に暖炉のそばには木製のテーブルと椅子があり、恐らく食事はここで取っているのだろう。レイナが上がっていった階段は暖炉の向かえにあり、広過ぎず狭過ぎず、住みやすそうな家の作りをしていた。

 

「さあ、じいさんもレンのお連れさんもこっちの椅子に座って。この子たちが料理を作ってくれるそうだから、その間に色々話を聞かせておくれ。」

 

「それもそうじゃな。わしも気になるしの〜。」

 

「は、はい。それじゃあ。」

 

 おばあちゃんがそう言うと、テーブルに村長夫婦とシンが座った。

 

「あの〜、なんと呼べば良いですか?」

 

「この歳になって呼び方なんてなんでも良いさね。好きに呼びな。」

 

「はい。」

 

 シンはこれから話をしていく上でなんと呼べば良いか聞いたが、村長夫婦はなんでも良いらしかった。すると、上にヘアゴムを取りに行っていたレイナが階段を下りて戻ってきた。

 

「はい、これお姉ちゃんのね。こっちは私の。」

 

 そう言うと、レイナはベッドにいるレンに三日月の形をした上半分が水色で下半分が白色をしたアクセサリーが付いてあるヘアゴムを渡した。レイナはというと、星の形をした上半分が水色で下半分が白色のレンと付いているアクセサリーの違うヘアゴムを持っていた。二人はそのヘアゴムで髪を結んで、髪型をポニーテールにした。そして、二人は料理を作るためにキッチンに移動した。二人の後ろ姿は流石は姉妹というべきか、髪の長さとヘアゴムの違い以外はほとんど変わらなかった。

 

「似合ってるな。」

 

 シンは二人の姿を見て、率直な感想を言った。すると、二人はシンの方に同時に振り返った。

 

「そうですか?」

 

「ほんと!?やった〜」

 

 レンは照れくさそうにしており、レイナは純粋に喜んでいた。すると、レイナが何かを思い出したような顔をした。

 

「そう言えば、あなたが誰だったか聞いてなかったわね。」

 

「ああ、そうだったな。俺はシンだ、よろしく。」

 

「私はレイナ。レンの妹です。」

 

 レイナとシンは本当に簡単な挨拶をした。

 

「にしてもね〜」

 

 レイナはそう言うと、レンの方を見た。

 

「どうかしたの?」

 

 レンはレイナが自分の方を見たことを不思議に思っていた。

 

「いえいえ、なんでもない。じゃあ、早く作っちゃお!」

 

「変なの。」

 

 そう言うと、二人は料理を作り始めた。二人が料理をしている間、シンは村長夫婦と今までの事を話した。

 

次回、レンとお酒

 



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第36話 レンとお酒

 料理が出来るまでシンは村長夫婦と、レンに出会ってから今までの事を話していた。話している間、レイナとレンが楽しそうに料理を作っており、出来た料理からテーブルに並べられた。

 

「よ〜し、これで最後、みんなで食べよ!」

 

 そう言うと、レイナはテーブルに料理を置いて、席に着いた。レンもレイナに倣って席に着いた。シンの横にレンが座り、テーブルを隔てて向かえに村長夫婦とレイナが座るという席配置になった。

 

「では頂くとするかの。」

 

 村長がそう言うと、みんなが料理を装って食べ始めた。テーブルにはローストビーフやとりの照り焼き、葉物のサラダに魚の煮付け、たまごスープと木のカゴに入ったバケットが置かれていて、栄養バランスの取れた美味しそうな料理が並んでいた。

 

「そういえば、」

 

 暫く食べていると村長が何かを思い出したようにそう言って、キッチンの方に行き、床にある蓋のような所を開けて、床下貯蔵室からワインを持ってきた。

 

「こんな時ぐらいじゃないと飲まないからの〜。みんなで少し飲もう。」

 

 そう言うと、ワインをテーブルに置いてキッチンの横の食器が色々入っている棚からグラスを四つ持ってきた。

 

「レイナは今日の主役だけどまだ成人してないから飲んではだめよ。」

 

「分かってるよ。」

 

 おばあちゃんがレイナにそう言うと、レイナは口を尖らせながら眉を顰めていた。

 

「シン君はお酒は飲めるのかね?」

 

「一応飲めますけど、そんなに強くはないですね。」

 

 村長の問いにシンは答えた。すると、シンはとある事が気になった。

 

「そういえば、レンってお酒飲めるのか?ずっと一緒だったけどお酒の話とかしなかったからお酒に強いのかとか知らないんだけど。」

 

 シンはそう言いながらレンの方を見た。

 

「私は……そんなに強く無いですね。」

 

 シンの質問にレンは微妙な間を空けて言った。

 

「そんな、じゃないでしょ?というか、めちゃくちゃ弱いじゃん。お姉ちゃん、十八歳の誕生日に飲んだ時には一口でベロベロに酔っちゃったじゃん。」

 

 レイナがレンの言葉を聞いて、呆れたという顔をしながらレンのことを見てそう言った。そんな話をしている間に、村長が全部のグラスにワインを入れ終えた。

 

「あの時は初めてだったから仕方がなかったの。それに、今言わなくたっていいじゃん!」

 

 レイナの方を見ていたレンが、頰を赤らめて、シンの方を見た。それから、レンはレイナの方を向き直し、ワインの入ったグラスを手に持った。

 

「あの時から半年以上経っているんだから、もう飲めるもん。見てなさい!」

 

 そう言うと、レンはワインの入ったグラスを口元に近づけて、一気に全部飲み干した。すると、レンは見る見るうちに顔が赤くなっていき、目はとろんとしていた。

 

「ほら、見らさい!れんれん酔ってらいれす!」

 

 レンは完全に酔っていた。呂律が全然回っていなく、体が少しフラフラしていた。だが、レン本人は酔っているという自覚が無いようで、嘲笑したドヤ顔をしていた。それを見たレイナが困まり果てた顔をしてレンの方を見ていた。

 

「ああ〜、お姉ちゃんこれ何本に見える?」

 

 レイナはそう言うと、右手を出して指を二本開いてレンに見せていた。

 

「数字ろ、ご!」

 

 レンは元気一杯に答えて、右手を出して指を四本開いてレイナに見せていた。それを見たレイナは手を額に当てて、呆れたという顔をしている。

 

「はいはい。もう寝ようね〜」

 

 レイナはそう言うと、レンのところまで歩いて腕を持った。

 

「ほら、お姉ちゃん!立って!」

 

 レイナはレンを立たせようと腕を引っ張るが、レンは酔っているせいか全く動こうとせず、椅子に座ってフラフラしていた。

 

「れ〜、レイナとシンで連れれって〜」

 

「ほら、行くよ!お姉ちゃん。」

 

「俺もか!?」

 

 レンは酔っ払いながらレイナとシンの名前を呼んだ。レイナはそんな事気にせずにレンを連れて行こうとしていたが、シンは自分の名前が呼ばれた事に驚いていた。

 

「シン〜おれが〜い、ダメ?」

 

 酔ったレンがシンに上目遣いで言ってきた。レンの目はとろんとしており、髪を結んでいたレンの普段とは違う雰囲気にシンは顔を赤くした。

 

「分かった。分かったから。」

 

 そう言うと、シンはこれ以上レンの事を見ていると更に顔を赤くしてしまう気がしたので、レンの腕を自分の肩に回して、レイナと一緒にレンを二階のレイナの部屋にまで連れて行く事になった。

 

次回、レイナの考え

 



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第37話 レイナの考え

 二階に上がると一直線の廊下にドアが三つあった。廊下の奥に行くまでの右手にドアが二つあり、奥の突き当たりに一つドアがある。シンとレイナはレンが酔ってしまったので、レンの寝る部屋である廊下の一番手前にあるレイナの部屋の前まで連れてきた。シンは村長夫婦と会話をしていた時に家の中の事について聞いていたのでレイナの部屋が一番手前の部屋だという事を知っていた。因みに、シンの寝る部屋はレンの部屋でレイナの部屋の隣だった。突き当たりのドアはというと、中はトイレになっているらしい。

 

「おいおい、レン。大丈夫か〜?」

 

「ありがろ〜、らいじょうぶ。」

 

 シンが呆れた顔をしながらも心配してレンに話しかけると、レンは大丈夫じゃない口調で返事をしてきた。

 

「早くお姉ちゃんをベッドに寝かせてあげないと。」

 

 レイナは困った顔をしながらそう言うと、レイナの部屋のドアを開けた。部屋の中は正面に窓があり、月明かりが部屋に射し込んでいた。ベッドは部屋の左奥にあるが、レイナとレンが一緒に寝るらしいので、それにしては少し小さい気がするぐらいの大きさだった。真ん中には木製でできたローテーブルが置かれており、下には桃色のカーペットが敷かれていた。部屋の右奥は木製のクローゼットが置かれており、他には何も無く、女の子の部屋にしては意外とシンプルな部屋をしていた。

 

「なんか色々無くなってる気がするんだけど……、まあ、いっか……」

 

 中に入ると、レイナがそんな事を言ったので、恐らく、いくつか捨てられたので色々無くなっていて、部屋がシンプルになっているようだった。レンをベッドの所まで連れて行き、レンを寝かせた。すると、レンはスヤスヤと眠りに就いた。

 

「はぁ〜、ゴメンね。うちのお姉ちゃんが……」

 

「全然、大丈夫だよ。」

 

 レイナがレンをここまで連れてきた疲れなのか、レンに呆れてなのか分からない溜め息をついて、申し訳なさそうに謝ってきたので、シンは気にしてない事を伝えた。

 

「ありがとう。お礼と言っちゃなんだけど、お姉ちゃんの部屋の事少し教えるよ。」

 

「ああ。ありがと。」

 

 レイナがレンの部屋の事を教えてくれるらしいので、シンは有り難く説明してもらう事にした。二人はレイナの部屋を出て、隣のレンの部屋に入った。レンの部屋も作りは同じようで、正面に窓があり、月明かりが射し込んでいた。ベッドは部屋の右奥にあり、左奥には白の木製で出来た机と椅子が置かれていた。机の横には隙間が無く本が並べられている本棚があり、更にその横には白のクローゼットがあった。

 

「部屋の明かりは入り口のボタンを押せば明るくなるから。とりあえず、なんか分からない事があったら言ってちょうだい。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

 親切にしてくれたレイナにシンはお礼を言った。すると、レイナが何も言わずシンに近づいてきた。シンは何かまだ伝えたい事でもあるのかと不思議に思っていると、レイナはシンの腕に胸を押し当て、抱きついてきた。

 

「……ッ!!??」

 

 突然の事にシンは頰を赤らめて、驚きを隠せない表情をしていた。

 

「ねえ、シンさん。今だったら誰も来ないから邪魔されないよ?」

 

「な……ッ!?」

 

 すると、レイナは更に胸をシンに押し当ててきながらそう言った。シンはレイナが何を言っているのか何となくだが分かったが、シンは今のこの状況を早く何とかしないといけないという考えで一杯だった。だが、レイナはその状態を止めずに背伸びをして、顔をシンの耳元にまで近づけてきた。すると、今まで月明かりが射し込んでいて明るかった部屋が暗くなった。

 

「私といい事しませんか?」

 

 レイナは背伸びをして、シンの耳元で吐息交じりの小さな声でそう言ってきた。シンはただでさえ逃げ出したい状況だったが、更にレイナがそう言ってきて、益々状況は悪化してきた。シンは本格的に如何にかしてこの状況を逃げ出す策を考える。だが、この状況の所為かまともに考えられなかった。すると、背伸びをしていたレイナが元に戻り、シンの顔を見た。それと同時に月明かりが射し込んで、レイナの顔を明るく映した。すると、レイナは頰を赤らめているが、その瞳は何処か真剣な眼差しをしているようにシンには思えた。シンは冷静に考えて、レイナの顔を見た。

 

「そういう事はもっと大事な人とだけするんだ。いいな?」

 

 シンにはこれが、今考えられる最善の考えだった。すると、レイナは目を閉じて、そっとシンから体を離した。

 

「冗談です。あなたがどんな人なのか知りたかったの。試すような真似をしてごめんなさい。」

 

 レイナはそう言って謝ると、ドアを開けて部屋から出ていった。シンは冗談だったと言われて安心したが、もし自分が止めなかったらどうするつもりだったんだろうと思った。

 

「はぁ〜……疲れた〜……」

 

 シンは咄嗟の出来事に緊張が解けて、溜め息をした。今日一日で色々な事があったシンは疲れからかベッドに横になると、直ぐに眠りについた。

 

次回、レンの幼馴染

 



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第38話 レンの幼馴染

 次の日の朝。シンはまだ寝ていた。昨日の夜のレイナの事で疲れているせいか深い眠りについていた。シンは無意識のうちに寝返りを打った。するとその時、シンは顔の辺りに柔らかいプニプニした、何処かで嗅いだ事のある香りのする何かに違和感を感じて、目を覚ました。

 

「な……ッ!?」

 

 シンが目を覚ますと、そこには気持ち良さそうに寝ているレンの姿だった。そして、シンはこの時自分の顔の辺りで感じた違和感の正体がレンの胸だった事に気がついた。

 

「ん〜……」

 

 レンが今にも起きそうな声を発した。シンはその声にビクついた。すると、レンが目を擦りながら起き、欠伸をすると、シンとレンは目が合った。

 

「あ〜……、おはよう。」

 

 シンはどうしようも無いだろうと覚悟を決めて、挨拶をした。すると、レンは頰を赤くして、胸を守るように手で覆った。

 

「朝から人のベッドに入り込んでるだけじゃなくて、私の胸まで……」

 

 レンは頰を赤らめながらそう言い、眉間にシワを寄せていた。

 

「違う!これは俺の所為じゃ無い!朝起きたらレンが隣にいたんだ!」

 

 シンは何とか弁明しようと必死にレンに言った。

 

「へぇ〜、言いたい事はそれだけですか?」

 

 レンは目を細めながらシンの事を見ていた。シンは本当のことを言ったはずなのにと思ったが、これ以上何か言っても、返ってレンを怒らせてしまう気がして何も言えなかった。するとその時、ドアがノックされて開いた。

 

「シンさん、こっちの部屋にうちのお姉ちゃんがきてませんか?」

 

 ドアをノックして入っていたのはレイナだった。どうやらレイナはレンを探しに来たようだった。

 

「ここに居るよ……」

 

 シンは困った顔をしてレイナに言った。

 

「お姉ちゃんが居ないと思ったら、やっぱりこっちに居たのね。」

 

「レイナ聞いて。今シンが私の……」

 

「違う!これはそんなんじゃなくてだな……」

 

 レンがレイナに今あった事を話そうとしたので、シンはレンの言葉に被せるように言った。

 

「何も違わないじゃん!そもそもなんで私の隣にシンが居るのよ!?」

 

「はいはい、どうせ朝起きたらお姉ちゃんとシンさんが一緒に寝てたんでしょ?」

 

 レンが怒った口調でシンに話してきた。レイナはそれを呆れたといった顔をしながら、今あったであろう出来事を指摘してきた。

 

「そうだよ?朝起きたらシンが隣に居たんだもん……」

 

 レンはしょんぼりした口調で頰を赤らめながら言った。

 

「お姉ちゃんは夜中にトイレに行ってから、いつものように自分の部屋のベッドで寝ちゃったんでしょ!?」

 

「でも、それだったら覚えてるはずだし……」

 

 レイナの発言にレンがどんどんしょんぼりした口調になって、声が小さくなっていく。

 

「お姉ちゃんは昨日、お酒を飲んで酔ってたから覚えて無いんじゃ無いの?」

 

「うう〜……」

 

 レンはレイナの発言に何も言い返せなくなり、体を小さくしてしょんぼりしていた。

 

「別にお姉ちゃんが心配することなんて無いでしょ?シンさん、しっかりしてるから。」

 

「まあ、確かに信頼はしてるけど……」

 

 レイナはレンを見ながら話していたが、最後の事を言った時だけシンの事を見た。シンはその時、昨日の事かなと思った。レンはというと、反省したのかますますしょんぼりしていた。

 

「さてと、ほら!朝ご飯食べよ!先に降りてるからね。」

 

 レイナはそう言うと、部屋を出て行った。

 

「俺も悪かったよ。今度、なんかお詫びするからそれで元気を取り戻してくれ。」

 

「ほんとっ!?」

 

「おお……本当だ。」

 

「絶対だからね!」

 

 シンは自分にも非はあったかなと思い、レンに何かお詫びをしようと言ったが、レンが思ったより良い反応したので驚いていた。

 

「分かったよ。ほら、行くぞ。」

 

「うん。」

 

 シンとレンは下の階に降りた。すると、テーブルには朝食が並んでいた。

 

「よく眠れたかい?」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 シンはおばあちゃんにお礼を言った。すると、みんなが昨日と同じ席に座った。

 

「それじゃあ、いただきま〜す。」

 

 レイナがそう言って食べ始めると、みんなもご飯を食べ始めた。

 

「レンとシン君は今日、どうするんじゃ?」

 

 ご飯を食べていると、おじいちゃんが二人に聞いてきた。シンは特に何かしなければならない事がある訳でもないので、レンの方を見た。

 

「う〜ん、特に無いけど。」

 

 レンは色々考えたようだったが、何も無かったようだ。すると、村長夫婦が顔を合わせて、何かを考えているようだった。すると、おじいちゃんが頷き、何かを決めたようだった。

 

「実はな、今から三ヶ月ほど前の話じゃ。レンが旅に出てから三ヶ月近くが経ち、どんどん体調が悪くなっていくレイナの姿を見兼ねたグラートが、レンを連れ戻して来ると言って旅に出てしまっての。」

 

「グラートが!?」

 

 どうやらグラートという人物がレンを連れ戻すために旅に出た事はシンにも分かったが、そのグラートという人物が一体誰なのか全く分からなかった。

 

「グラートって誰だ?」

 

「グラートはお姉ちゃんの幼馴染で、結構やんちゃな所もあるけど面倒見の良い、優しい男の人かな。」

 

 シンがグラートという人物の事を尋ねると、レイナが教えてくれた。

 

「それでじゃ、レンがこうして戻ってきて、レイナも元気になった今、グラートが旅をしなくても良いという事になるのじゃが……」

 

「それを伝える手段が無いと……」

 

「そうなんじゃ。」

 

 おじいちゃんの説明でレンは何を言いたいか理解したようだった。

 

「旅をしてきて疲れてるとは思うが、グラートを連れ戻してきて欲しいのじゃ。」

 

 おじいちゃんは申し訳なさそうに頼んできた。

 

「何か当てはないの?」

 

「ん〜、とりあえずはどこか近くのダンジョンに行ったとかいう話は聞いたのじゃが、如何せん、レンがどこにいるか分からないかったのでな。グラートも何処に行ったかは何とも言えんのじゃ。」

 

 レンの質問におじいちゃんが答えたが、これといった情報はないようだった。

 

「因みに如何してダンジョンへ?」

 

「恐らくじゃが、レイナの為じゃろうな。昨日のような事ができるのは神器ぐらいじゃからのう。レイナを治せられればレンを探しに行かなくてもいつかは帰ってくると踏んだのじゃろう。」

 

「そっか……」

 

 おじいちゃんの考えにレンは何かを考えていたようだった。

 

「でも、ダンジョンに一人で行って大丈夫なのか?」

 

 シンはグラートが一体どんな人物なのか分からなかったので、身の心配をした。

 

「グラートは私よりも力はありますからね。多分、大丈夫だと思います。」

 

「へ〜、そうなのか。」

 

 シンはグラートの心配をしたが、レンの話を聞く限りだとその必要は無さそうだった。

 

「とりあえず、分かったわ。明日になったら、近くのダンジョンに行ってみましょう。」

 

 レンは何となく今の状況を把握して、シンの方を見てそう言った。

 

「それもそうだな。どこ行ったか分からない以上、何処に行っても同じだしな。」

 

 レンの提案にシンは快く返事をした。

 

「そうと決まれば、早速準備しましょう。」

 

「まずは、ご飯食べてね、お姉ちゃん?」

 

 レンがそう言うとレイナが目を細めて言った。

 

次回、姉妹の会話

 



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第39話 姉妹の会話

 朝食を食べてから時間が過ぎ、もうすぐで夕方になる頃だった。明日に備えて二人は荷物の準備をしていた。

 

「ところで、一番近いダンジョンってここからどのぐらいの場所にあるんだ?」

 

「そうですね、大体ですけど二日ぐらい歩いたところに一つあった気がします。」

 

「二日か……」

 

 シンがダンジョンの場所についてレンに聞くと、二日ぐらいと言う事は分かったが、二日も外の寒い空気にさらされながら歩いていかなければならないと考えると少し憂鬱だった。

 

「そのダンジョンはここより北に行く事になるので、更に気温は下がります。」

 

「ええ〜……」

 

 レンの発言に、シンは思わず険しい表情をしていた。

 

「でも、家にだったら温熱石があるのである程度は大丈夫だと思いますよ。」

 

「温熱石?」

 

 シンは初めて聞く言葉に、それがどんな物なのか気になった。

 

「温熱石っていうのは、熱を溜めて温度を保つ事が出来る石の事です。主に寒い地域の家庭には一個はあるんですけど、高価な上に壊れやすいのでほとんど市場には出回らない物なんです。」

 

「へ〜、そんな便利な物があるのか。」

 

 シンは自分の知らない温熱石という物に感心していた。

 

「で、その高価な物がレンの家には何個あるんだ?」

 

「私の家は二個あるので、丁度二人分ですね。正直、一個あれば十分なんですけど、さっきも言った通り壊れやすいので二個持っていきましょう。」

 

「分かった。」

 

 シンはどうやら温熱石というのは壊れやすいという事は良く理解した。

 

 二人はそれから、明日からの旅の準備を終わらせた。少しすると、みんなで晩御飯を食べた。それからは、お風呂などを済ませて後は寝るだけだった。

 

「明日は朝食を食べたら、直ぐに出発しましょう。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「すまんのう。疲れていると思うが頼む。」

 

「いえいえ、そんな事ないです。」

 

 シンとレンがリビングで明日の事を話していると、村長が謝ってきたのでシンは気にしていない事を伝えた。

 

「お姉ちゃんとシンさんはダンジョンに言った後はどうするの?」

 

 すると、レイナが心配そうな顔をしてそう言ってきた。

 

「そうね、戻って来るかな。」

 

「本当に!?」

 

 レンが戻って来る事を伝えると、レイナは嬉しそうに言った。

 

「でも、グラートがいなかったらどうするんだ?」

 

 シンはそもそもこの村を出たのが三ヶ月ほど前の事なら、もういない可能性の方が高いのでレンに聞いた。

 

「そうね。でも、どっちにしろ一度ここに戻ってきてから次に行くところを決めましょう。」

 

「分かった。」

 

 シンはこの後の予定をある程度把握した。

 

「さあ、明日は少し早いんだから、もう寝るとするかね。」

 

「それもそうね。」

 

 おばあちゃんがそう言うと、レンが相槌を打った。その後、みんなはそれぞれの寝る部屋に行った。

 

「お姉ちゃんと寝るのなんて久しぶりだね。」

 

「でも、昨日は私、こっちで寝てたんでしょ?」

 

 レイナの部屋で、レイナとレンがベットに横になりながら、向かい合って会話をしていた。

 

「でも、直ぐに寝ちゃった上に、気づいたらシンさんの部屋で寝てたじゃん。」

 

「うう……、それはそうだけど……」

 

 レンはレイナに恥ずかしい事実を言われて、何も言えなかった。

 

「ねえ、お姉ちゃん。」

 

「うん?」

 

 レイナがレンに話し掛ける。

 

「お姉ちゃん、シンさんの事好きでしょ?」

 

「な……ッ!?」

 

 レイナの突然のそんな言葉に、レンは顔を真っ赤にして、恥ずかしがっていた。

 

「見てれば分かるよ……、私は産まれてから今までずっとお姉ちゃんの妹なんだもん。」

 

 レイナは優しいゆっくりとした口調で言った。

 

「それは……そうだけど……、そんなに分かりやすい?」

 

 レンは毛布で顔を半分、隠しながら言った。

 

「そりゃあもう、直ぐに分かったよ。」

 

「そんなに……?」

 

「分かりやす過ぎて、てっきり付き合ってるのかと思ったよ。」

 

「うう……」

 

 レイナにそう言われると、レンは布団で顔を全て隠した。

 

「もう少し、素直になっても良いんじゃない?なんか、未だに硬い言い方の時あるし。」

 

 レイナはレンに提案をした。すると、レンは毛布を目が見える程度まで下げて、レイナの事を見た。

 

「でも、嫌われたりしないかな……?」

 

 レンは不安そうな口調でレイナに聞いた。

 

「大丈夫だよ。シンさんは一途な人だよ、きっと……」

 

 レイナは仰向けになり、昨日の事を思い出しながらそう言った。

 

「そうかな……」

 

「そうだよ。」

 

 レンが心配そうに言うと、レイナはレンを励ました。

 

「何だかレイナがお姉ちゃんみたいだね。」

 

「そうだね。しっかりしてよ?お姉ちゃん。」

 

 レンが微笑みながら言うと、レイナも微笑みながら言った。

 

「私は明日から少し家に居ないけど、体とか大丈夫?」

 

「……」

 

「レイナ?」

 

「う、うん。大丈夫だよ。」

 

 レンがレイナを心配して聞くと、レイナは微笑みながらそう言った。

 

次回、エルナ出発

 



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第40話 エルナ出発

 ダンジョンに出発する日の朝、二人は朝食を食べ終わったところだった。

 

「じゃあ、温熱石を準備したら行きましょう。」

 

「ああ。それで温熱石って、どんなやつなんだ?」

 

「ちょっと待ってて下さい。」

 

 シンがレンに温熱石の事を聞くと、キッチンの方に行って、床下貯蔵室から真っ黒な拳骨より少し大きな石を二個とアンティークランタンの容れ物のような物を持ってきた。

 

「それが温熱石なのか?見た目はただの黒い石みたいだけどな。」

 

「はい、でもこれを火で温めると所々が赤くなるんです。」

 

 そう言うと、レンは薪用のトングで温熱石を挟むと暖炉の火に温熱石を当て始めた。すると、真っ黒だった温熱石が所々赤くなり、熱を帯びているようだった。

 

「そしたら、温熱石をこの入れ物に入れて準備完了です。」

 

 そう言うと、レンは持ってきたアンティークランタンの容れ物のような物に温熱石を入れた。温熱石からは熱を帯びているのが分かるぐらい熱を発していて、名前の由来がなぜ温熱石なのか分かるぐらいだった。すると、レンはもう一つも準備をして、二個の温かい温熱石が完成した。

 

「これで後はリュックとかに付ければ準備完了です。」

 

「おお〜、確かにこれだけ暖かいと大分楽だな。」

 

 シンは温熱石からの温もりに感動していた。

 

「それじゃあ、行きましょう。」

 

 レンがそう言うと、レイナがレンに近づいてきて耳打ちをした。

 

「素直になるんだよ?頑張ってね、お姉ちゃん!」

 

「……ッ!?」

 

 レイナは耳打ちを止めるとニコニコしながらレンの事を見ていた。レンはというと、レイナの言葉に頰を赤らめていた。

 

「どうかしたのか?」

 

 それを見ていたシンが気になり、レンに聞いた。

 

「何でも無いです……何でも無い。」

 

「そうか?」

 

 レンは小恥ずかしそう言った。シンはそんなレンを見て不思議そうにしていた。その後、荷物を持ち、出発する準備が出来たので二人はダンジョンに行く方向の村の外れに向かう。レイナも村長夫婦もそこまで見送ってくれるようでみんなで一緒に行った。村の外れまで来ると、エルナに来るまでと同じで針葉樹が周りにある小さな道があった。

 

「気をつけて行くんだよ?」

 

「すまんがよろしく頼む。」

 

「うん。任せといて。」

 

 おじいちゃん、おばあちゃんがそう言ってきたので、レンは元気に返事をした。

 

「シンさん、お姉ちゃんをよろしくお願いします。」

 

「ああ。」

 

 シンはレイナが頭を軽く下げて、レンの事を頼まれたので笑顔で返した。レンは小恥ずかしそうな顔をしていた。

 

「じゃあ、行くか。」

 

「うん。」

 

 シンがそう言うと、レンは返事をした。

 

次回、吹雪と四つ目のダンジョン

 



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第41話 吹雪と四つ目のダンジョン

 レイナ達と別れて、エルナの村を出てから二日が経ち、二人は目指しているダンジョンの近くまで来ていた。辺りは雪が膝ぐらい積もっていて、進むのも一苦労な程だった。針葉樹にも雪が積もっていて、雪の重さからか葉の部分が曲がり如何にも重そうにしている。それに加えて、風も強く、葉に積もっている雪が風に煽られて飛んでくる所為もあるのか殆ど前が見えない程の吹雪に晒されていた。

 

「なあ、前が何も見えないんだけど……」

 

「そればっかりは仕方が無いから出来るだけ離れないようにくっつきながら進も。」

 

 レンはそう言うと、出来るだけシンに近づいた。シンはレンとくっつきながらいると緊張するのであまり近づき過ぎないようにしたいが、視界の悪いこの状況ではくっつきながら進むしか無かった。

 

「にしても、この温熱石が有って助かったな。風は冷たいし、雪も吹雪いてきて凄いけど、体は全然寒くなし、それどころか逆に暑いくらいだ。」

 

「そうね、この吹雪の中を普通に進むのは厳しかったかも。」

 

「後どれぐらいなんだ?」

 

「もう少しの筈よ。」

 

 二人がそんな会話をしながら吹雪の中を進んでいく。すると、吹雪の所為で見えなかったが、二人は山の麓にある氷で出来た洞窟の前まで来ていた。山は雪の所為で真っ白になっており、全貌は吹雪によって殆ど見えなかった。洞窟の入り口は、六人ぐらいが横になりながら進んで行けそうな幅に、高さは人三人分ぐらいで、入り口の天井には氷柱がいくつも出来ており、牙の鋭い動物の口のような見た目をしていた。

 

「これがダンジョンの入り口か?」

 

「場所的にも多分そうだと思う。行ってみよう。」

 

 二人はそう言うと、その洞窟の中に入っていった。洞窟の中はダンジョンだからなのか、何から何まで氷で出来ていた。そのおかげなのか中は光源に困らないぐらいには明るかった。そのまま先に進むと、少し大きな場所に出た。幾つか道が分かれており、上の方に続いている道もあれば、逆に下の方へ続いている道などもあり、色々な方向に分かれていた。

 

「どうしよっか?」

 

「う〜ん、とりあえず、上に行ってみるか。」

 

「了解。」

 

 二人は話していた通り、上に続いている道を選んだ。二人が選んだ道は少し上り坂で右回りに螺旋状に出来ているようだった。すると、ある程度上った所でシンが歩きながら気になっていた事をレンに聞いた。

 

「そういえば、レンは何で口調を変えたんだ?」

 

 シンはレンがエルナ村を出発してからというもの、今までの丁寧な口調を止めて自然な感じで話している事に疑問を感じていた。

 

「え……ッ!?それはその……」

 

 レンは突然シンに口調の事を指摘されて、頰を少し赤らめながら困った顔をして言葉を詰まらせた。シンはレンのそんな姿を見て不思議に思っていた。

 

「じ、実はレイナに『シンさんと長い間一緒にいるのに何でそんな堅苦しい口調なの』と言われたんです。なので、今までの口調を止めて、少し砕いた口調にしたんですけど……、嫌ですか……?」

 

 レンは心配そうな面持ちでシンに言った。

 

「いや、全然。ただ何でなのかなって気になっただけなんだ、レンがそうしたいならそうしてくれ。」

 

「分かった。ありがとう、シン。」

 

(本当は少しだけ違うけど……)

 

 レンは嫌われるんじゃないかと不安で一杯だったが、シンの言った言葉に安心した。

 

 その後も二人は道なりに進んだ。すると、螺旋状に出来ていた道が終わり、大きなホール型の空間に出た。その空間とは床が無く、下まで百メートル以上はある深さだった。更に、二人で並んで通るには細過ぎる幅の氷で出来た道が向こう側にある道までを繋いでおり、綱渡りを彷彿とさせる場所だった。また、下の床部分には剣山のように氷柱が隙間なく並んでいて、落ちたら間違いなく死ぬ事は明らかだった。

 

「おいおい、こんな所行けっていうのか……、冗談だろ?」

 

「確かにこれはちょっと怖いな……」

 

 二人は落ちたら助からないこの空間を見て、呆然としていた。

 

「どうする?引き返すか?」

 

「行きますか……」

 

 シンはレンにどうするか聞くと、行きたくないという事が伝わってくる口調で、苦い顔をしながら言った。

 

「嫌なら引き返してもいんだぞ?」

 

「ううん、この先にあるかも知れないし……行こう。」

 

 シンが心配してレンに声を掛けると、レンはどうやらこの道を行く事を決心したようだった。

 

「俺が先に行くからちゃんと付いて来いよ?」

 

「う、うん……」

 

 そう言うと、シンは手すりも何も無い氷の道を進んでいく。レンもシンに置いて行かれないように後ろを付いて行く。

 

「風が無いのがせめてもの救いだな。」

 

 シンはここが外ではなかった事に感謝していた。二人はそのまま氷の道の半分ぐらいまで進んだ。シンが不意に下を見ると、自分がかなり高い所にいるという事を改めて認識させられた。そして、もしも今ここから落ちた時のことを考えると生きた心地がしなかった。

 

「ちょ、ちょっと!下を見ないでよ……!もう……」

 

 シンはレンの方を振り向くと、レンはシンの様子を後ろで見ていて、怒っているようだったが、声はか細く、その表情は不安そうにしていた。それを見たシンが一つ疑問に思った事をレンに聞いた。

 

「もしかして、レンって高い所苦手?」

 

「高過ぎるのは……ちょっと……」

 

 シンの質問にレンは申し訳なさそうに言いながら、今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「とりあえず、後もう少しだから我慢しろ。ゆっくり進むから。」

 

「うん……」

 

 レンは弱々しい返事をした。その後、二人はこの氷の道を慎重にゆっくり進んでいく。レンが高い所が苦手だという事が分かったので、シンはさっきよりもゆっくり歩いた。暫くして、シンが渡りきった。

 

「ふ〜、よし、後少しだから頑張れ。」

 

 シンは安堵から深呼吸して荷物を下ろし、レンに声を掛けた。

 

「う、うん。」

 

 レンも後もう少しの所まで来た。その時、緊張と後少しという安堵からかレンの足が竦み、踏み外した。すると、レンは体のバランスを崩し、今まさに落ちようとしていた。

 

「あ……ッ!?」

 

 レンは自分がバランスを崩して落ちようとしている事を理解し、涙を浮かべ、恐怖の表情になりながら、左手を伸ばした。

 

「レン!!!!」

 

 それを見ていたシンが左手を精一杯伸ばして、レンの左手を間一髪で掴まえて自分の方に思いっきり引っ張った。すると、レンの体はシンの方に吸い寄せられるように引っ張られた。

 

「いててて……大丈夫か?」

 

 シンは倒れ込みながらレンの心配をした。レンはというと、シンに引っ張られたのでシンの体に重なる形で倒れていた。

 

「怖かったよ……ありがとう……」

 

 レンは泣きながら体を震わせて、シンに抱きついた。シンは泣いて体を震わせているレンの頭を落ち着くまで優しく撫でた。暫くすると、レンは落ち着いたのか震えが収まった。

 

「落ち着いたか?」

 

「……うん……」

 

 シンがレンに聞くと、何とか振り絞ったであろう声で返事をした。

 

「そうか……じゃあ、もう少ししたら行くぞ?」

 

 シンはまだ涙を流しているレンを見て、微笑みながら頭をくしゃくしゃ撫でた。

 

「うん……」

 

 レンはシンの微笑みに少し涙を流しながら微笑んで答えた。

 

次回、リナザクラの使い方

 



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第42話 リナザクラの使い方

 何とか氷で出来た道を渡りきった二人はそのまま道なりに進んでいた。道は下っていて、さっき通ってきた道と同じように螺旋状になっていた。この道を下まで下りてから道なりにある程度進むと、体育館ぐらいの大きさの空間に出た。すると、そこには四足歩行で歩いている熊の魔物がいた。その熊の体は白い毛で覆われていたが、腕と足は赤い毛が生えており、左目の部分に稲妻のような傷があった。大きさも人二人分はあり、手には鋭い爪をが生えている。

 

「あれは熊か?」

 

「少し毛の色が特殊ね。」

 

 熊の魔物に二人は目新しさを感じていた。すると、熊の魔物が二人に気づいたようで、段々と近づいてきた。それを見たシンはサニアとイニルを取り出した。

 

「くるぞ……!」

 

「うん。でも、試したい事があるからまだ攻撃しないで。」

 

「ん……?」

 

 シンがレンの方を向くと、レンが背負っていたリナザクラを取り出した。

 

「リナザクラがどんな神器か使ってみたいの。」

 

「それは良いけど……気をつけろよ?あの魔物の爪は危険だ。」

 

「分かってる。」

 

「グルルアアァァァ〜〜!!」

 

 二人が話していると、熊の魔物が四足歩行から二足歩行になり、手を横に大きく広げて威嚇してきた。すると、手足の赤い色が体の白い色を侵食して、白から赤っぽい印象を受ける見た目になった。

 

「色が変わった!?」

 

 シンが驚いていると、魔物が鋭い爪をシンに向かって振り下ろしてきた。シンはそれを後ろに飛んで避けると、魔物の攻撃は氷の床にあたった。すると、その部分を中心に氷の地面が割れ、熊の魔物の攻撃の強さが目で見てわかった。

 

「はあぁぁ!!」

 

 レンは魔物の攻撃で出来た隙を突いてリナザクラを畳んだまま魔物に向かって振り下ろした。だが、此れと言って何か起こると言う訳でなく、ただただ殴り付けただけだった。

 

「使い方が違うのかな?」

 

 レンがリナザクラの使い方を考えていると、殴り付けられて怒った魔物がレンに向かって右手を振り払ってきた。レンはそれを上に飛んで躱し、魔物の顔を踏み台にして後方に離れた。

 

「グルルルアアァァァ〜〜!!!」

 

 レンに踏み台にされて怒った魔物がさっきよりも大きな声で威嚇をした。すると、全身が赤色に変わり、生えていた鋭い爪が大きくなり、更に見た目の禍々しさが増していた。

 

「おいおい、マジかよ。レン!気をつけろよ!あんな爪で攻撃された一溜りもないぞ……」

 

「うん、分かってる。」

 

 シンが魔物の姿を見て心配していると、レンはリナザクラを広げながら言った。すると、魔物が四足歩行になり、姿勢を低くしてその場に止まっていた。

 

「何だ!?」

 

 シンが不思議に思っていると、次の瞬間、魔物がレンに向かって勢いよく飛び掛かってきた。魔物のいた場所の氷は飛んだ時の衝撃から粉々になっていた。魔物は物凄い速さでレンに向かって行く。そして、魔物はレンが近くになると、右手を後ろに構えて振り下ろした時の威力を上げていた。レンはというと、向かってくる魔物の攻撃を躱そうと姿勢を低くしていた。すると、魔物が右手をレンに向かって思いっきり振り下ろした。レンはそれを後ろに飛び躱す。だが、思いの外、振り下ろす速度が速かった為、レンに当たりそうだった。

 

「レン!!!」

 

 それを見ていたシンが叫ぶ。レンもこのままだと当たるという事はわかった。すると、レンは咄嗟に右手に持っていたリナザクラを魔物が振り下ろしてきた右手に向かって払った。その時、リナザクラの扇面に振り下ろした右手に当たった。すると、リナザクラの扇面が白く光った。

 

「この光は……!?」

 

 突然の光にシンは左腕で目を隠した。すると、次の瞬間、攻撃したはずの熊の魔物は向こう側の壁まで吹っ飛ばされていた。熊の魔物は人間の力では不可能なほど壁にめり込んでいた。

 

「何だこりゃ……!?」

 

「こんな力があるなんて……」

 

 二人は今起きた一瞬の出来事に驚いていた。

 

「大丈夫だったか?」

 

「う、うん……無事だったんだけど……、これは一体……」

 

 シンはレンの心配をしていると、レンは自分がやったであろう今の状況を見て戸惑っていたようだった。

 

「多分、これがその神器の能力なんじゃないのか?」

 

「そうみたいだね……」

 

 こうして二人は新しい神器、リナザクラの能力に驚きながらも先に進んだ。

 

次回、氷の兵士達

 



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第43話 氷の兵士達

 二人は熊の魔物を倒した後、氷で出来た一本道をまっすぐ進んでいた。

 

「にしても、その神器があんなに強いとは思わなかったな。」

 

「そうね、これでリナザクラの能力がどんなものなのか分かったしね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 シンがそう言うと、レンは何だか浮かない顔をしていた。

 

「どうかしたのか?」

 

 レンの顔を見たシンが気になり、レンに聞いた。

 

「うん、あの時、私が攻撃したから吹き飛んだと言うより、あの熊の魔物の攻撃がリナザクラに当たって、跳ね返ったような感じがしたんだよね。」

 

「跳ね返る?吹き飛ばしたとかじゃなくてか?」

 

 レンの言葉にシンはそんな印象を受けなかったので気になり、レンに質問をした。

 

「う〜ん、感覚だけどね……」

 

「そうか……」

 

 二人はリナザクラどんな条件で発動する神器なのか今一把握しきれなかった。そうこうしているうちに道が徐々にだが、上り始めていた。それからも暫く歩いていると、上り坂が終わり、少し前に空間があった。

 

「またさっきみたいに魔物がいるだろうから気をつけて行こう。」

 

「うん。」

 

 二人は警戒しながら前の空間に入って行く。すると、その空間はさっきよりも少し大きな、小さいグラウンドぐらいのドーム状の空間だった。更に、二人がいる反対側の壁側に奥へと続く道があった。二人は何かいると思い警戒しながら入ってきたが、それとは裏腹に何かいるという事も無く、不自然なほど静寂だった。

 

「特に何も無いけど……なんか変な感じだな。」

 

 シンは辺りを見渡しながらそう言った。

 

「そうね……、今までの感じでいうと何かあってもおかしくないけど……」

 

 二人が今のこの状況を不思議に思いながら歩いていた。二人は向こうの壁側にある道に行く為にどんどん進んでいく。すると、この空間の真ん中ぐらいまで進んだ時だった。二人が通ってきた道からガキーンという音をがした。

 

「今のは!?」

 

「何だ!?」

 

 二人は振り返り、何が起こったのか原因を探した。すると、二人が通ってきた道に横の壁から氷柱が突き出し、隙間無く入口を塞いでいた。すると、今度は二人が通ろうとしていた向こう側の道からもさっきと同じガキーンという音がした。二人は音のした方を振り向くと、例の如く氷柱が横の壁から突き出ており、道を塞いでいた。

 

「こっちもか……!?」

 

「何かの罠かも……」

 

 二人は荷物を置いて背中合わせになり、警戒した。シンは懐からサニアとイニルを取り出し、レンもリナザクラを取り出して戦闘体勢になる。すると、壁に近い床から、氷がまるで成長の早い植物のように生え、人の背の高さぐらいの小さな氷の木の茎のようにも見える氷が、周囲を囲むように生えた。

 

「これは……、なんか不味そうだな……」

 

「そうね……」

 

 二人はこの状況を見て、苦い表情を浮かべていた。すると、二人の予想は的中した。今まで木の茎のようだった氷が枝分かれし、氷の太さはどんどん増していたった。すると、氷は人型になり、目は青く光り、右手には中世ヨーロッパ風の氷の剣を持ち、左手には小盾を持つ氷の魔物が周囲を囲むように現れた。

 

「これがこのダンジョンの罠って事か……レン、サニアを使うからしゃがんでくれ。」

 

「うん。」

 

 レンはシンに言われた通りしゃがむと、シンはサニアを周囲の魔物全てに向かって薙ぎ払った。すると、サニアの斬撃は魔物を粉々にした。

 

「よし、もういいぞ。」

 

「氷で出来てるからか意外と簡単に倒せましたね。」

 

 レンはシンに言われて立つとそんな事を言った。

 

「だといんだけどな……」

 

 シンがそう言うと、さっきと同じように床から氷が生えてきていた。今度の氷はさっきよりも背が高くなく、半分ぐらいの高さだった。

 

「まだ終わりじゃ無いみたいね。」

 

「ああ。」

 

 すると、今度は氷で出来た目の青い、中型犬ぐらいの大きさの犬の魔物にさっきの人型の魔物をそのまま小さくした姿の魔物が背中に乗って数十体現れた。

 

「またか……」

 

 シンはそう言うと、サニアがレンに当たらない方向に薙ぎ払った。すると、犬の魔物に乗って身軽な為か、数体は上に飛んで躱した。

 

「そう簡単にはいかないか……」

 

「仕方ないよ、地道に少しずつ倒そう。」

 

 レンがそう言うと、魔物が二人に向かって一斉に走り出した。それを見たレンはリナザクラを広げた。一体の魔物がシンに向かって飛び掛ってきたので、シンはサニアを振り下ろした。すると、魔物は跡形も無く粉々に砕けた。だが、まだ結構な数の魔物がいる。今度はレンに魔物が数体飛び掛ってきた。レンはリナザクラをその魔物達に向かって広げて、魔物の攻撃を扇面受けた。すると、扇面が白く光り、魔物達を粉々にした。

 

「便利な能力だな。」

 

「そうでしょ!?」

 

 シンがレンの様子を見て羨ましそうに言うと、レンは自慢げな顔をしてシンに言った。その後も魔物の素早い動きに苦戦しながらも何とか全ての魔物を倒す事が出来た。

 

「やっと……全部倒せた〜」

 

「ああ……」

 

 二人は息を切らしながら言った。すると、今度は通ろうとしていた塞がっている道の前に、さっきまでとは大きさが明らかに違う氷が今までと同じように一本生えてきた。すると、その氷は人二人分ほどの大きさになり、人型の魔物が現れた。全身は西洋の甲冑を着た兵士のような見た目をしており、頭の兜の部分には悪魔の角のような物が左右に有り、目は今までの氷の魔物と同じように青色に光っていた。右手にはランスを持ち、左手に大盾を持ち、それらが全て氷で出来ている。

 

「いつになったら終わるんだ……」

 

「分からないけど、倒すしか無いでしょ……」

 

 二人はいつまで続くか分からない事に不安を感じていた。

 

 次回、グラートの行方

 



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第44話 グラートの行方

 二人が会話をしていると、人型の魔物が二人に向かって勢いよく走ってきていた。氷で出来ている所為か、さっきの犬の魔物よりは動きは鈍かったが、その大きさから迫力はあった。

 

「私がリナザクラで攻撃を受けるから、シンはその隙を見て攻撃して。」

 

「分かった。」

 

 二人は人型の魔物の攻撃に備えてレンが前でリナザクラを構えて、後ろでシンがサニアとイニルを構えていた。すると、二人まで近づいた魔物は右手に持っていたランスをレンに突き刺してきた。レンはそれをリナザクラで受け止めた。次の瞬間、例の如く攻撃を跳ね返し、ランスを持っていた右腕まで粉々にした。そして、その隙を見てシンはサニアを振り下ろした。だが、魔物はサニアの斬撃をすんでのところ躱し、後方に下がった。

 

「くそ……もう少しだったのに……」

 

 シンは顔を顰めながら言った。すると、粉々にしたはずの魔物の右腕が徐々に元の形まで戻り、武器のランスまで完璧に復元していた。

 

「氷だから体ごと飛ぶ前に壊れたみたい……」

 

「もう一度やるしかないか……」

 

 二人が魔物に苦戦して目を合わせながら話していると、魔物はまた二人に向かって走ってきた。二人はさっきと同じ陣形を取り、魔物の攻撃に備えた。だが、魔物はさっきとは違い、上に高く飛んでランスをシンに向かって投げつけてきた。それを見たシンはサニアをランスに向かって振り払った。すると、サニアの斬撃はランスを粉々した。

 

「そう簡単に倒させてくれないって訳か……」

 

 シンは今までと同じ氷の魔物だったらさっきと同じ攻撃をしてきたが、この魔物はそうでは無く、状況を判断して距離をとって攻撃してきた。このことから、他の魔物とは違って、より一層、苦戦を強いられるという事が予想できた。そんな魔物の行動にシンは自然と深刻な表情になった。魔物はというと、投げつけたランスの代わりに新たなランスを作って右手に持ち、二人に向かってランスを構えていた。

 

「シン、もしかしたら、一気に倒さないと無限に復活する魔物なのかもしれない。私が攻撃をリナザクラで受け止めるから、シンはサニアとイニルで魔物の隙を見て攻撃して。」

 

「物は試しって事か……分かった、それでやってみよう。」

 

 二人が魔物を倒すための作戦を話していると、魔物が大盾で体を守りながら二人に向かって走ってきた。魔物はそのまま二人のところまでくると、大盾を前にいたレンに向かって振り上げた。レンはそれをリナザクラで受け止めた。すると、リナザクラの能力によって大盾は粉々になり、左腕まで壊していた。たが、魔物はレンがリナザクラを構えている隙をついてレンの真上に飛び、右手に持っていたランスで突き刺そうと右腕を構えていた。シンはその瞬間、サニアを魔物に向かって薙ぎ払った。すると、魔物は上半身と下半身に分かれて、サニアの斬撃の威力から、二人の前方の地面に落ちた。魔物は体が上下に分かれていたが、すぐさま元の状態に戻ろうと復元を始めていた。

 

「シン、イニルで今のうちに粉々にして。」

 

「分かってるよ。」

 

 魔物を見たレンがそう言うと、シンはイニルを振り下ろした。イニルの斬撃は魔物に向かって飛んでいき、魔物を跡形も無くバラバラにした。

 

「はぁ〜、何とかなったな……」

 

「ええ……でもあんな魔物もいるなんて……」

 

 二人が魔物を倒して安堵していると、道を塞いでいた氷が砂のように細かくなり、崩れていった。

 

「これで先に進めるな。」

 

「うん、行こっか。」

 

 二人はこの空間を後にして先に進んだ。道は上り坂の一本道で二人はこの道をどんどん進んでいった。暫く進んでいると、道の先に空間が有るのが分かった。その空間とは氷で造られた台座があり、その上には同じく氷で造られた宝箱がある空間だった。二人はこの空間を見た瞬間に神器がある部屋だという事が分かった。すると、台座の後ろ光りだした。

 

「フロリアか……」

 

 シンが腕で目を隠しながらそう言うと、シンの予想通りフロリアが二人の前に現れた。

 

「随分と遠くまで来ましたね。」

 

「ここまで来たのはグラートという人がここにいるかも知れないので来たんです。何か知っている事はありませんか?」

 

 フロリアが二人に感心しているのかそんな事を言うと、レンがここまできた理由を簡単に説明し、フロリアに真剣な表情でグラートの事を聞いた。

 

「そうですね、そのグラートという人がどんな人なのかは分かりませんが、少なくともここには誰も来ていませんね。」

 

「そうですか……」

 

 フロリアの話を聞いてレンが少し残念そうな表情をしていた。

 

「この近くのダンジョンには誰か来てないのか?」

 

 フロリアの話を聞いたシンが他のダンジョンならとフロリアに訪ねた。

 

「そうですね……余り私から言うといけないのでこれが最後です。少なくとも、ここ数ヶ月は来ていないですね。私からはここまでです。」

 

「そうか……、だとしたらグラートは一体どこに行ったんだ……?」

 

 フロリアの話を聞いたシンはグラートの行方が更に分からなくなった。

 

「もしかしたら、何かあって行き先を変えたのかもしれない……、とりあえず一度エルナに戻りましょう。」

 

「そうだな。」

 

 グラートの行方が分からなかった二人は予定通りにエルナに戻る事にした。

 

「私から一つ質問しても?」

 

「質問?」

 

 話が終わった二人にフロリアが質問があると言ってきた。唐突なフロリアの意外な発言に二人は不思議に思った。

 

「妹さんは元気ですか?」

 

「ええ、おかげさまで元気です。やっぱり、知ってたんですね。大地の雫に死者を蘇らせる能力があるという事を。」

 

 どこか態とらしく聞いてきたフロリアに、レンは少し尖った口調で言った。 

 

「フフ……ごめんなさい。でも、私は不治の病に効く薬の有無しか聞かれていなかったものですから。その代わりに妹さんの所に行くことを勧めたので良いではありませんか。」

 

「むぅ……」

 

 レンはフロリアが全てを知りながら言わなかった事に怒っていたが、結果的にはレイナを救う事が出来たので強く言えずにいた。

 

「お話はここまでにして、それでは宝箱の中身をお受け取り下さい。」

 

 フロリアはそう言ってきたが、レンはまだ納得しきっていないのか不服そうな顔をしていた。シンはというと、そんなレンを見て困った顔をしながら頭を掻いた。

 

 次回、四つ目の神器

 



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第45話 四つ目の神器

 レンがフロリアに対して不服そうな顔をしていたので、シンが宝箱を開ける事にした。台座に近づいて氷で出来た宝箱を開けると、そこにはパッと見、黒い見た目をした穴あきグローブがあった。

 

「これは何て言う神器なんだ?」

 

「それは盗取、オリフレットシーフと言います。」

 

「へぇ〜」

 

 シンはフロリアから神器の名前を聞くと、宝箱からオリフレットシーフを取り出してよく見て見た。見た目は黒っぽい印象だったが、手の甲には手首からそれぞれの指に向かって白と青の線が交互に交わりながら波のような模様を作っていた。そして、手首の周りにも赤と白の線が交互に交わって波のような模様を作っていた。

 

「どうする?レンが使うか?」

 

「ううん、私は良いかな、シンが使って。」

 

 シンはレンにオリフレットシーフを使うか聞くと、レンはシンに向かって微笑みながら言った。

 

「なら、有り難くもらうよ。」

 

 シンはそう言うと、オリフレットシーフを手に嵌めた。シンは嵌めると何か起こる神器かと思っていたが、特に此れと言って何か起こるという訳では無かった。

 

「それではまた何処かでお会いしましょう。」

 

 シンはこの神器の使い方を考えていると、フロリアがそう言った後に光りだし、次の瞬間、光がなくなった。

 

「忙しない奴だな。」

 

「フロリアなりに何かあるんでしょうね。」

 

 二人は早々に消えたフロリアにそんな感想を言った。すると、台座の後ろの壁が砂のように崩れ、その先には下へと続く氷で出来た階段があった。

 

「これを行けって事か?」

 

「今までのダンジョンの事を考えると多分そうだと思う。行ってみよ。」

 

 二人は目の前に現れた下へと続く氷で出来た階段に戸惑いながらも、下へと進んでいく。それから二人は、二十分以上階段を下りていた。上ってきた距離を考えれば可笑しくなかったが、ずっとただただ階段を下りるというのも大変だった。それから暫く下りると、やっと階段が終わった。辺りを見渡すと、そこは二人が最初に通った分かれ道のある空間だった。

 

「ここに繋がってたんだ……」

 

「最初に来た時はこんな道無かったけどな。」

 

 レンが言った後、シンが直ぐに突っ掛かった。

 

「全く……、最初っからこうなっていれば楽なんだけどな……」

 

「そう簡単にいかないからダンジョンなんじゃない?」

 

 シンが呆れ気味に言うと、レンはシンのことを見ながら腰に手を当てて言ってきた。

 

「そうだけどな……」

 

 二人は会話を済ませてダンジョンを後にした。外に出ると風は収まっており、それによって雪も吹き荒れず、来る時とは違って周りが良く見えた。空は気候の所為なのか灰色に染まっており、周りの木々は雪によって緑から白くなっている。

 

「これから二日かけてエルナまで戻るのか……」

 

「仕方ないでしょ?」

 

 シンが面倒くさそうに言うと、レンは呆れた顔をしてシンに言った。

 

「それはそうなんだけどな……、それはそうとエルナまで戻ったらどうするんだ?」

 

「う〜ん、此れと言ってまだ決まってないけど、近くにいないんだったら遠くの街まで行ってみないといけないかも。」

 

「そうか……まあ、何処に行ったか分からないんじゃ、仕方ないか。」

 

 レンの話を聞いたシンは手を顎に当てながら言った。

 

「まずはエルナまで戻ろ?」

 

「ああ、そうだな。」

 

 二人はこうしてエルナまで雪道を戻った。

 

次回、次の目的地

 



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第46話 次の目的地

 二人がダンジョンを攻略してから二日が経ち、エルナに着いたところだった。エルナは出発した時とは違って辺りには雪が積もっており、何人かが外に出て雪掻きをしていた。

 

「やっと着いた……」

 

「帰りは雪が降ってなかったんだからよかったでしょ?」

 

 シンは怠そうに言うと、レンが呆れた顔をしながら言った。それから二人は自分達の家に向かった。そして、家の前まで行ってドアを開けると、中にはレイナと村長夫婦が椅子に座っていた話をしているところだった。

 

「あっ!お姉ちゃん!それに、シンさんも、おかえりなさい!」

 

 帰ってきた二人を見てそう言うと、レイナが椅子から立ち上がり、レンのところまで歩いてきた。

 

「ただいま!」

 

「うん。」

 

 レンが笑顔で言うと、レイナもそれに返すように笑顔で返事をした。

 

「そっちで話してないでこっちに座って話をしたらどうだい?」

 

「それもそうだね。」

 

 おばあちゃんがそう言うとレンが返事をした。それからレン達は椅子に座ってダンジョンに行って分かったグラートの事を話した。

 

「そうか……、では、グラートの行方は分からんかったか……」

 

「うん……」

 

 おじいちゃんが険しい顔をしながら言った。レンも心なしか重い表情をしている。

 

「仕方がないさね、急がなくてもそのうち帰ってくるさね。」

 

 そんな二人を見兼ねたおばあちゃんが二人にそんな言葉を掛けた。すると、おばあちゃんに言われた二人の表情が少し和らいだ。

 

「でも、これからお姉ちゃん達はどうするの?」

 

「う〜ん……」

 

 レイナにこれからの予定を聞かれたレンがどうするか腕を前に組んで悩んでいた。

 

「なんか手掛かりでもあれば良いんだけどな……」

 

 シンも何もグラートの手掛かりが無かったので、自然と腕を前に組み悩んでいた。

 

「とりあえず、近くの大きな街まで行ってグラートについて何か分からないか聞いてみようと思う。シンはそれでどう?」

 

「そうだな、急がなくては良いとは言っても流石に探してやらない訳にはいかないからな。」

 

 レンの提案にシンは了承し、グラートを探すために近くの大きな街に行く事にした。

 

「因みにここから行くとしたら何処の街になるんだ?」

 

「多分、ここから南西のサントリアという街が近いはずよ。」

 

「じゃあ、そのサントリアって街はどのぐらい時間がかかるんだ?」

 

「大体、三日とかだったと思う。」

 

「なるほどな……、じゃあまずはそこからって訳か。」

 

「うん。」

 

 シンはレンの話を聞いて何となくサントリアまでの距離を知る事が出来た。

 

「直ぐに行くの?」」

 

 すると、二人の会話を聞いていたレイナが心配そうな顔をして聞いてきた。

 

「う〜ん、明日には出ようかなと思うけど……」

 

「そっか……」

 

 心配そうな顔をして聞いてきたレイナに、レンは眉を八の字にして困った顔をしながら、言いづらそうに言った。すると、レイナは悲しげな目をしながら残念そうに言った。

 

「もう会えない訳じゃないんだから、そう悲しそうにしてないでよ……」

 

 悲しそうにしているレイナにレンがそんな事を言った。

 

「二人とも今日はゆっくり休みなさいな」

 

 グラートを探しに行ってきた二人におばあちゃんは労いの言葉を掛けた。それから二人は家の中で雑談をしながら休みを取り、夕飯を食べ終えると、二人は早めに寝床についた。

 

 そして、次の日の朝。二人はみんなで朝食を終えると、早速サントリアまでの荷物をまとめて準備をした。

 

「サントリアには何か必要な物とかあるのか?」

 

 シンはエルナのような寒い場所なら覚悟を決めておかなければいけないと思いレンに聞いた。

 

「そうね〜、サントリアはここよりも暖かいから軽装な格好でもしない限り大丈夫だと思う。」

 

「そうか。」

 

 指を顎に当てて上を見ながら何かを思い出すように言ったレンの言葉を聞いたシンは安心した。それから準備を済ませてから家を出てサントリアへと続く道まできた。前と同様、レイナと村長夫婦が見送りに来てくれた。

 

「無理せずにの。何でもサントリアでは今良くない出来事が起きているようでな……」

 

 村長が心配そうな顔をしながら言いづらそうに言ってきた。

 

「良くない出来事って?」

 

 おじいちゃんの言った言葉にレンが気になり聞いた。

 

「何でも最近子供が消えるという噂があってな……、レンとシン君には子供じゃ無いから関係無い話じゃが、それでもやはりそう言う噂がある所に行くとなればの……」

 

「大丈夫よ、私にはシンがいるしね。」

 

 心配そうに言ってきたおじいちゃんに対して、レンがシンの方を見ながら言った。

 

「お、おう……」

 

 シンはいきなりそんな事をレンから言われて頰をほんのり赤くしながら戸惑っていた。

 

「うちのレンをよろしく頼むよ。」

 

「はい。」

 

 村長の妻がシンに軽く頭を下げて言っていたので、シンは返事を返した。

 

「お姉ちゃんもシンさんも気をつけてね。」

 

 すると、今度はレイナが二人に話し掛けてきた。

 

「うん、レイナもあんまり無理しちゃダメよ?」

 

 心配してきたレイナにレンが返事をすると、今度はレンがレイナの心配をしてレイナに言った。

 

「分かってるよ。シンさん、お姉ちゃんをお願いします。」

 

 レイナは当然と言わんばかりに返事をすると、シンにレンの事をお願いしてきた。

 

「ああ、お願いされた。レイナも体に気をつけてな。」

 

 シンは快く返事をし、レイナの体を気遣った。

 

「はい。」

 

 レイナは笑顔で返事をした。

 

「じゃあ、行ってきます。」

 

「いってらっしゃい。」

 

 レンが言うとレイナが返事をした。こうして、二人はエルナを出発した。後ろを振り向くと村長夫婦とレイナが手を振っているのが見えた。二人はそんな三人に手を振り返すと、サントリアへと向かった。

 

次回、サントリアの街

 



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第47話 サントリアの街

 二人がエルナを出発してから三日が経ち、サントリアまで後もう少しという所まで来ていた。周りは緑の木々か立ち並び、エルナを出発した時の雪の白い景色はすっかり無くなっていた。

 

「そういえば、俺はグラートの事について詳しく知らないんだけど、どんな見た目をしてる奴なんだ?」

 

「ん〜、グラートは黒髮の短髪で、身長は百九十五センチの左の目元に一本、横長の傷がある男の人かな。」

 

 シンはグラートの事についてレンに聞くと、少し考えた後にグラートの見た目について教えてくれた。

 

「へぇ〜、結構身長が高いんだな。」

 

 レンからグラートの見た目について聞いたシンがそんな事を言った。

 

「そうね、結構高いかも。村でも一番背が高かったし、目元にも傷があるからシンでもわかると思う。」

 

 シンの感想にレンがそう言ってきた。そんな事を話していると、二人は開けた草原に出た。そして、その草原の先に二人が行こうとしていたサントリアと思しき街が見えていた。

 

「あれがサントリアの街よ。」

 

「へぇ〜、結構大きなそうな街だな。」

 

 シンが見ていたのは、石の塀で囲まれていたリネオスと同じような造りになっている円形状に石の塀が周りを囲んでいる街だった。

 

「サントリアに着いたら、取り敢えず、宿を見つけてそれからグラートの事を聞いてみましょう。」

 

「そうだな。」

 

 そう言うと、二人はサントリアまで続いている草原の中の道を進んで行き、サントリアの関所の前まで来た。関所には兵士と思しき二人が入り口に立っていた。

 

「中に入りたいんですけど、良いですか?」

 

「それは良いんですが……」

 

 レンが兵士に中に入って良いかと聞くと、兵士が何か言いづらそうに言葉を詰まらせていた。

 

「今この街では子供が消えると言う奇怪な事件が立て続けに起きていて、何も証拠が残らないもので対処のしようが無くどうする事も出来ないんです。なので、入って頂くには良いのですが、何か起きても責任は取れないので、証明書に署名をお願いしているんです。それでも良ければお入り下さい。」

 

「まあ、少し危険だけど仕方がないだろ。」

 

「そうですね。」

 

 兵士の言った言葉に二人は仕方がないと腹を括り、証明書に署名した。

 

「お気をつけて。」

 

「はい。」

 

 二人はそれから中に入った。サントリアの町並みは中世ヨーロッパのような町並みをしていて、街には人が行き交い、子供がいなくなる事件が起こっているとは思えない様子だった。二人はそれから街を歩いて宿を見つけると、部屋を借りて荷物を置いた。それから二人は宿の店員にグラートの事について一応聞いてみてから探す事にした。

 

「グラートという人がこの街に来ませんでしたか?」

 

「グラートね〜、そんな様な名前はごまんと居るからな〜、分かんね〜な。」

 

「そうですか……」

 

 レンがグラートの事について聞いてはみたが、やはり分からないようだった。

 

「だけど、もしかしたらウォーマットさんなら情報通だから知ってるかもな。」

 

「ウォーマット?誰だそれ?」

 

 宿の店員が言ったウォーマットという人物についてシンが眉を八の字にして質問した。

 

「この街で本屋をやってる爺さんなんだが、やたらと色んな事を知っててな。もしかしたら、知ってるかもしれないな。」

 

「へぇ〜、そんな人がいるんですか。」

 

 宿屋の店員からウォーマットについて聞いたレンが感心したように言った。

 

「場所を教えてやるからそこに言ってみると良い。」

 

「ありがとうございます。」

 

 それから二人は宿の店員から情報通だというウォーマットのいる本屋の場所を教えてもらうと、早速向かった。ウォーマットのいる本屋は、二人が泊まる宿から歩いて十分ぐらいの所にあるらしく、サントリアの町並みを見ながら向かった。すると、二人の視界に〈物知り本屋〉と書かれた如何にもと言った分かりやすい看板が見えてきた。

 

「あれの事だな……」

 

「分かりやすいですね……」

 

 二人はその看板を見て、呆れた口調で言った。そして、中に入ると、本がぎっしりと隙間無く並べられていた棚がいくつもあり、奥の方を見ると、本を読んでいる銀色のフレームをした眼鏡を掛けた見た目は七十歳ぐらいの白髪の爺さんがいた。

 

「あの〜」

 

 レンがそう言うと、その爺さんはレンの方を見た。

 

「どうした、お嬢ちゃん。何か人を探してそうな目をして。」

 

「なんで分かったんですか!?」

 

 レンは話しかけただけだったが、その爺さんはレンが人を探している事を見事に言い当てた。その事にレンは驚きを隠せないでいたようだった。シンも同じだったが。

 

「そりゃあ、何年も生きていれば何となくその人が何を考えているのか、どんな人間なのか分かるもんだ。」

 

 爺さんはさも当たり前かのように言ってきた。

 

「あんたがウォーマットか?」

 

「如何にも、ウォーマットとはわしの事だが。」

 

 シンが聞くとその爺さんがウォーマットである事が分かった。

 

「実はグラートという男の人を探しているんです。何か知っていることはありませんか?」

 

「うむ……グラートとな。」

 

 レンの質問をすると、ウォーマットは悩んでいるのか唸った。

 

「もしかしたら、目元に傷のある奴の事かの?」

 

「……ッ!?」

 

 二人はウォーマットの発した言葉にグラートの特徴が当てはまっている事に驚いた。

 

「その反応からして、わしの言っている人物と同じとみて良さそうじゃな。」

 

(何でわかるんだ?)

 

 ウォーマットが二人の反応を見て自己解決していると、シンは何故分かるのか不思議に思った。

 

「この街には来てないの。どうやら誰かと一緒にいたようじゃが、最近は一人でいるようじゃの。」

 

「何でそんな事分かるんだ?」

 

 この街には来た事が無いのにも関わらず、余りにも的確にグラートの事について言うウォーマットを不思議に思ったシンが尋ねた。

 

「企業秘密じゃ。」

 

「……」

 

 シンの質問にウォーマットは言葉を濁し、理由を言わなかった。シンはそんなウォーマットに対して、目を細めて渋い顔をしていた。

 

「じゃあ、今グラートは何処にいるんですか?」

 

「そうじゃの〜、エスタルトという村を知っておるか?」

 

 レンの質問にウォーマットがそんな事を言ってきた。

 

「いいえ。」

 

「うむ、エスタルトという村はこの街よりも南西にある村じゃ。そこにグラートという男はおる。そこに行ってみると良い。」

 

「わ、分かりました。」

 

 ウォーマットの余りにも的確な助言に、レンは戸惑いながら返事をした。

 

「ありがとうございました。」

 

「何のこのぐらいお安い御用じゃ。また何かあれば聞きに来ると良い。」

 

「はい。じゃあ、行こうか。」

 

「ああ。」

 

 二人は親切に教えてくれたウォーマットに礼を言い、この場所を後にしようと後ろに振り向き、歩き出した時だった。

 

「そこの少年よ。」

 

「ん?」

 

 ウォーマットがシンに声を掛けてきた。すると、シンはウォーマットの方に振り返った。

 

「お主は自分の信じてきた者の事をもっと信用してやる事じゃ。そうすれば自ずと問題は解決するやも知れんぞ。」

 

「何の話だ?」

 

 ウォーマットの突然の言葉にシンは不思議そうな顔をしながら聞いた。

 

「な〜に、年寄りの助言じゃ。わしの言った意味が分からん事を祈る。」

 

「ん?もう、行くぞ?」

 

 シンはウォーマットの言った言葉の意味が理解出来なかった。それから二人はウォーマットの本屋を後にした。

 

次回、誘拐事件

 



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第48話 誘拐事件

 二人はフォーマットの本屋を後にして、自分達の宿に向かっていた。この頃には夕陽が出ていて辺りは赤く染まっていた。

 

「それにしても、何であんなに分かるんだろう?」

 

「さあな、なんか未来でも見えてるんじゃないのか?」

 

 レンがウォーマットの事を不思議に思って考えていると、シンは呆れた感じの口調でふざけて言った。

 

「もう〜、人が真剣に考えてるのに。」

 

「でも、仕方がないだろ?あんな人見た事無いぞ?」

 

「そうだけどさ……」

 

 シンががふざけた感じに言っていると、レンが不服そうな顔をしてシンに突っかかってきた。

 

「取り敢えず、グラートがエスタルトっていう村にいるのが分かっただけでも良かったな」

 

「まあ、確かにね。」

 

 シンはウォーマットの話を終わらせようと、話題をグラートに変えると、レンは不貞腐れながら不満そうな顔をして言った。そんな会話をしていると、二人の前に子供達が五人で追いかけっこをして走ってきていた。四人が逃げて、一人がその後を追いかけていた。背丈から恐らく、六、七歳ぐらいだろうと予想がついた。子供が消えているという事件が起きているのに危ないなと考えていると、子供達が四人、二人の横を走って行った。それから直ぐに、後ろから追っていた鬼役の一人が二人の横を走り去った。だが、それを見ていた二人はある事に気がついた。逃げていたのが四人、追いかけていたのが一人の計五人いたはずの子供が、最後に二人の横を子供が通ってから見た時には、逃げていた一人がいなくなっていた。

 

「今、通った子供って五人じゃなかったか?」

 

「うん、五人いたはず。」

 

 二人が振り返った時に子供が一人いなかった事をお互いに確認し合っていると、子供達も気づいたようで不思議がっていた。

 

「お前達、さっき一緒に走っていた子供はどうした?」

 

「いなくなっちゃった。」

 

 シンが子供達に聞くと、女の子が一人泣きそうな顔をして言ってきた。

 

「レン、兵士の人達を呼びにこの子達と一緒に呼んで来てくれ。」

 

「分かった。みんな、私についてきて。」

 

 そう言うと、レンは子供達と一緒に兵士を呼びに行った。シンはその場で待ち、兵士達が来るまで何か手掛りが無いか辺りを見渡してみる。すると、そこにはいなくなった子供の物と思われるピンク色の花柄のついた白いハンカチが落ちていた。シンはそれを拾い、兵士達を待った。それから暫くして、兵士の人達が来て事情を説明した。

 

「またか……これでもう六件目だぞ……」

 

「突然消えるんじゃ対応の仕様が無い……」

 

 兵士達もこの不可解な事件に手を焼いている様だった。

 

「君達は私達が家まで送るから。旅の方も十分気をつけて。それでは。」

 

 そう言うと、兵士達は子供達を連れて行ってしまった。

 

「なあ、レン。ちょっと行きたいところがある。」

 

「行きたいところ?」

 

 シンが言った事に、レンは不思議そうな顔をして言った。それから二人はシンが行きたい所と言った場所に向かった。そこは看板に〈物知り本屋〉と書かれた、さっきまで二人が居たウォーマットの本屋だった。

 

「行きたい所ってここのことだったの?」

 

「そうだ。」

 

 シンはそう言うと、またウォーマットの本屋に入って行った。レンもそれに続いて中に入って行く。

 

「おお〜、また来いとは言ったが、こんなにも早く来るとはな。して、どうしたかな?」

 

 ウォーマットは驚いた反応はしたものの、顔色一つ変えずに言ってきた。

 

「実はこれの持ち主の居場所を聞きたい。」

 

 そう言って、シンが取り出したのはさっき子供が連れ去られた所に落ちていたピンクの花柄がついた白のハンカチだった。

 

「ほお〜、なんじゃ。連れ去られたのか?」

 

「やっぱり、分かるんだな?」

 

 ウォーマットの言葉にシンは予想をしていたのか、納得していたようだった。

 

「そうじゃの、今その持ち主はとある人物と一緒にいるようじゃの。」

 

「とある人物?」

 

 シンの質問にウォーマットが気になる言い方をした。

 

「うむ、その人物とは今は七つの罪人と言われておる。」

 

「七つの罪人?」

 

 ウォーマットの言ったシンの知らない言葉に思わず聞き返した。

 

「左様。どうやら知らない様なのでな、簡単に説明すると、人を殺し過ぎたり、色々な罪を犯して世界各国で指名手配されている人がこの世界には何人もおる。その中でも極めて危険度の高い人物が七人いての。其奴らが集まり、好き放題世界各地で犯罪を犯しているので人々はその七人の犯罪集団を七つの罪人と呼んで指名手配している訳じゃ。因みに、最近は此れと言って目立った事件が無かったんじゃがの……、何か企んでいるのかもしれんな。」

 

「へぇ〜、それで本にも書いてあったんですね。」

 

「まあ、知らん方が珍しいがの。」

 

 レンがウォーマットの話を聞いて感心していると、ウォーマットは嫌みっぽく言ってきた。

 

「それで、そんな世界に指名手配されている大犯罪者が何で子供なんか誘拐してるんだ?」

 

「うむ、それはじゃの。売っているのじゃよ。お主達は知らんかもしれんが、世界には人身売買が可能な国もある。勿論、明るみにはしていないがの。」

 

「な……ッ!?」

 

 二人はウォーマットの言葉に驚いていた。

 

「……じゃあ、さっきいなくなった子供も売られるって事か?」

 

「そうじゃ。」

 

 シンは重い面持ちでウォーマットに聞くと、真剣な表情で返事をしてきた。

 

「今はこの街の地下の牢獄にいるの。全部で六人。助けるなら、早く行く事をお勧めする。」

 

「何処にあるんだ?」

 

 シンは子供達のいる場所をウォーマットに聞いた。

 

「この村の北の方にある紫の屋根の民家の床下に隠し階段がある。そこは今は誰も住んでいなかったのでそこにしたんじゃろう。紫の屋根は一件しかないから直ぐに分かるはずじゃ。」

 

「分かった。レン、直ぐに行こう。」

 

「うん。」

 

 シンはレンにそう言うと、二人は店を出ようとした。

 

「それと、」

 

 すると、ウォーマットは二人に話し掛けてきた。

 

「七つの罪人じゃが、今は一人でいるみたいでの。銀髪じゃから直ぐに分かるじゃろう。だが、出来れば平和的な解決をする事を望む。」

 

「そうか、行こう。」

 

「う、うん。」

 

シンはウォーマットの言葉を聞いた後、早々とその場を後にした。

 

次回、七つの罪人

 



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第49話 七つの罪人

 ウォーマットの本屋を後にした二人は子供が捕らえられている紫色の屋根をした民家に走って向かっていた。

 

「あんな適当な返事で良かったの?」

 

 レンはウォーマットの言った言葉をあやふやな返事で済ませてきた事に心配していたシンに聞いた。

 

「分からない。でも、その場に行けばウォーマットの言った意味が分かるんだと思う。」

 

 シンも自分が適当な返事をしてきた事に気づいてはいた様だった。二人は暫く街の中を走っていると、前方に紫色の屋根の民家を見つけた。

 

「あれの事か。」

 

「どうする?真っ正面から中に入る?」

 

「罠か何かあるかも知れないけど、正面から行って直ぐに救出しよう。」

 

「分かった。」

 

 二人は走りながらどうやって家の中に入るかを決めた。そして、二人は正面からドアを蹴破って入ると、入って直ぐのところに下へと続く階段を見つけた。

 

「これの事か。」

 

「早く行きましょう。」

 

 二人は家の中に入ると、直ぐに階段を降りた。階段は意外と下まで長く続いており、レンがジッポライターを取り出して、辺りを明るく照らしながら行った。下まで着くと、そこには鉄格子で造られた牢屋があり、中には子供達が六人、一緒の牢屋に入っていた。

 

「お前達、大丈夫か!?」

 

「もう心配しないで!」

 

 二人が声を掛けると、子供達は泣きながら返事を返してきた。

 

「少し待ってろ。」

 

 シンはそう言うと、懐からイニルを取り出して鉄格子を切った。すると、子供達が一斉に中から飛び出してきて、レンの方に抱きついた。

 

「大丈夫?怖かったでしょ?」

 

 レンはそう言いながら子供達の頭を撫でていた。

 

「なんか、可笑しくないか?」

 

 そんなレンの状況を見ていたシンが目を細めながら言った。

 

「まあまあ。取り敢えず、この場所から出ましょう。」

 

 レンはシンの言葉に困った顔をしながら言った。その後、二人は子供達を連れて家の外まで戻ってきた。

 

「ウォーマットは子供達と一緒に七つの罪人がいるって言ってたけどいなかったな。」

 

「確かに、少し変かも……」

 

 二人はウォーマットの言っていた言葉を思い出し、不思議に思っていた。

 

「あのね、私たちを攫った人はね、瞬間移動するの。」

 

「瞬間移動?」

 

 攫われていた子供の女の子がそんな事を言ってきて、二人が不思議に思っている時だった。シンの背後に突如として、銀髪のロングヘアーに黒のドレス姿をした少女が白銀に輝くサーベルをシンに向けて振り下ろしている所だった。気配に気づいたシンは体を地面に倒れ込ませながら振り向き、サーベルから出来るだけ距離を稼ぎながら懐からサニアとイニルを取り出して、その攻撃を地面に倒れこみながらなんとか防いだ。

 

「私の邪魔をしないで。」

 

「ふざけるな!」

 

 シンはそう言うと、サニアとイニルでサーベルを押し返した。すると、銀髪の少女は一瞬のうちに距離をおいた。

 

「どうなってるんだ……」

 

 シンは立ち直りながらそう言った。シンが立ち上がると、銀髪の少女はサーベルをシンに向けた。

 

「私にはその子達が必要なの。だから返して。」

 

 綺麗な紫色の目をし、無表情で抑揚の無い話し方をする銀髪の少女にシンは何を考えているのか、いまいち把握出来ずにいた。

 

「なんの為にこんな事をするだ!?」

 

「それは言えない。そういう約束。」

 

 シンの問いに相変わらず、抑揚の無い口調で返事をしてきた。シンはそんな少女の反応に戸惑っていた。

 

「お前が七つの罪人の一人ってのは本当なのか?」

 

「そう。私は七つの罪人と呼ばれるうちの一人、サーシャ・レイオーネ。」

 

 シンが聞くと今度は拒むこと無く自分の名を言ってきた。

 

「やっぱり、お前がそうなのか。」

 

「早くしないと怒られちゃうから加減は出来ない。」

 

 シンがサーシャと名乗る銀髪の少女が七つの罪人だった事に納得していると、サーシャはそう言って、みんなの目の前から姿を消した。そして、次の瞬間、シンの目の前に現れてサーベルを振り下ろした。シンはその攻撃をサニアとイニルで防ぐ。

 

「同じ手は通用しないぞ。」

 

「なら……」

 

 そう言って、サーシャがまたみんなの前から消えた。そして、次の瞬間、レンの後ろに現れ、サーベルを振り下ろす。レンはそれを感じて、ギリギリのところで躱すとサーシャに向かって、右足で蹴りを入れた。だが、その時、サーシャはもうそこにはいなかった。次に、現れたのはシンから少し離れた所だった。

 

「あなた達、邪魔をするから嫌い。」

 

 サーシャはそう言うと、サーベルを二人のいる方向に向けてきた。すると、ここから少し離れた所から大勢の走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「なんだ!?」

 

 シン達も不思議に思っていると、その音の正体は兵士達がこちらに向かって走ってくる音だった。

 

「兵士達か、助かった。」

 

「面倒な事になった……」

 

 シン達は兵士達に安堵していると、サーシャはそんな事を言った。

 

「こうなったら……、」

 

 そう言うと、サーシャがサーベルを兵士達の方に向けた。

 

「でも……、分かった。」

 

 すると、今まで兵士達に向けていたサーベルを下ろし、独り言を言っていた。

 

「今度は邪魔しないでね。」

 

 そう言うと、サーシャはみんなの前から消えた。

 

「一体、何だったんだ?」

 

「さあ。」

 

 二人がサーシャの行動に不思議に思っていると、兵士達が来て今まであった事を説明した。

 

「ご協力感謝します。これで子供達を親の元に返す事が出来ます。」

 

「いえいえ。」

 

 兵士が嬉しそうに二人にお礼を言ってきたので、二人は謙虚に返事をした。ひと段落した頃には空は真っ暗になっていて、この日は宿に戻る事にした。

 

次回、サントリア出発

 



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第50話 サントリア出発

 子供達を七つの罪人、サーシャ・レイオーネから保護した次の日、二人は朝食を済ませると直ぐにウォーマットの本屋に向かった。

 

「ウォーマットにお礼を言わないとな。昨日は夜遅くになったから行けなかったし。」

 

「うん、色々教えてくれて助かったしね。」

 

 二人はそんな会話をしていると、ウォーマットの本屋に着いた。中に入ると、以前と同様、椅子に座って本を読んでいた。

 

「おお、お主達か、どうじゃったかの?」

 

 入ってきた二人に気づいたウォーマットが昨日の事を聞いてきた。

 

「無事に子供達は救出する事が出来たよ。あんたのおかげだ、礼を言う。」

 

「なあ〜に、このぐらい朝飯前じゃ。」

 

 シンが礼を言うと、ウォーマットは当たり前の事をしたまでと言わんばかりの口調で言っていた。

 

「私からもお礼を言います、ありがとうございました。」

 

「うむ。」

 

 レンもウォーマットに礼を言うと、目を閉じて頷いていた。

 

「して、何か聞きたい事でもあるのかな?」

 

 閉じていた右目を開けながら、そんな事を言ってきた。

 

「あんたのその何でも知っているのは何かの能力なのか?」

 

 シンはウォーマットの人智を超えている助言に疑問を抱いていた。すると、シンの質問にウォーマットは腕を組み、何か考えるようにして下を向いた。そして、何かを決心したのか顔を上げると、真剣な眼差しで重い口を開いた。

 

「あれは今から三十年以上前の話じゃ。わしはその時からこの本屋をやっていての、その日は雨が降っていてどんよりしていたのを今でも覚えておる。わしがいつもの様に店で本を読んでいると、昔からの友人が訪ねてきてな。そして、その友人は来て早々、預かって欲しいものがあると言ってこの眼鏡を渡してきたんじゃ。すると、その友人は何も言わずに行ってしまっての。それから今まで三十年の間、わしが持っている訳じゃが、ある日ふと、この眼鏡の事を思い出して、しまっていたこの眼鏡を手に持って付けてみた。すると、この眼鏡のレンズからは不思議な事に実際に見ているものの細かい事が映像として見えてきたんじゃ。例えば、林檎を見ると何処で育って誰に育てられてどうやってここまで来たのか事細かに映像として見る事が出来る。更にこれは言葉などでも映像を見せる様での、グラートという人物が何処にいるのか分かったのもこの力のおかげという訳じゃ。そして、この力は映像から映像に移動する事が出来ての。簡単に説明すると、映像の中に出てきたものの情報まで分かり、次から次へと情報を辿っていく事が出来るんじゃ。」

 

 ウォーマットの説明に二人は驚きを隠せずにいた。すると、ウォーマットが下を向いて何かを思い出す様に話を続けた。

 

「じゃが、最初につけてみた時にはこんな事にはならなかったのでな、不思議に思ったわしは鏡を見て、この眼鏡を見てみた。すると、この眼鏡が神器と呼ばれるものという事や能力について知る事が出来たのじゃが、この眼鏡を持ってきたわしの友人はもう亡くなってしまっていたという事も分かってな。当時は涙を流して悲しんだもんじゃ。」

 

「そんな事があったんですね……」

 

 レンは知らなかったウォーマットの過去を聞いて重い表情で言った。

 

「まあ、ざっとわしが何故色々な事が分かるか説明したが、何か質問あるかの?」

 

「いや、もう十分だ。世話になったな、ありがとう。」

 

「また、なんかあった来ると良い。年寄りの助言はよく聞くようにの。」

 

 二人はこうしてウォーマットとの会話を済ませると、本屋を後にした。

 

「しかし、あの少年は大丈夫かの〜、わしは会わない方が良いと思うがの……どうなるやら。」

 

 二人はその後、ウォーマットが言っていたグラートがいるというサントリアから南西にあるエスタルトへと向かい、サントリアを後にした。

 

〜時は遡る事、半日ほど前〜

 

 シンとレンに妨害に遭い、子供達を逃す形になってしまったサーシャ・レイオーネはサントリアから少し離れた森の中にいた。

 

「ごめんなさい。子供達を奪われた。」

 

「おいおい、あれは結構高く付くんだぜ。全く、分かってるんだろうな。」

 

「分かってる、次は失敗しない。」

 

「頼むぜ?」

 

次回、エスタルト到着

 



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第51話 エスタルト到着

 サントリアを出発してから四日が経ち、二人はエスタルトに着いた所だった。エスタルトは村と言いつつも、町より少し小さいぐらいの村にしては大きめな所だった。家は木製でできており、所々に家畜を飼うための囲いがあり、その中には鶏や牛などの家畜がいた。道には何人か行き来している人もいて、それなりに活気はあるようだった。

 

「ここがエスタルトか……」

 

「早速、グラートを探してみよう。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 村を見渡していたシンにレンはそう言って、村の中を歩いた。二人は歩いていると、前の方に〈食事処〉と書かれた看板のある店を見つけた。

 

「あそこでグラートの事を聞いてみよう。」

 

「そうだな、あそこなら何かと知ってるかもしれないしな。」

 

 二人はそう言うと、店の中に入った。中は至って普通で、テーブルと椅子がセットでいくつか置かれている。二人がこの村に着いた時間のためか客はいなく、店主の男だけだった。

 

「いらっしゃい、好きな所に座ってくれ。」

 

「どうする?ついでに飯も済ませるか?」

 

「そうだね、ご飯食べよっか。」

 

 二人はそう言うと、適当な席に座ってご飯を頼んだ。それから暫くすると、店主がご飯を持ってきた。

 

「はいよ。注文は以上だな?」

 

「ああ。」

 

 店主がご飯を出しながらそう言ってきた。

 

「お聞きしたい事があるんですけど、良いですか?」

 

「なんだ?」

 

 レンがそう言っていうと、店主が不思議そうな顔をして言った。

 

「実はグラートという人を探してさっきこの村に来たんですけど、知りませんか?」

 

「グラートさんを?」

 

 レンがグラートという名を出すと、店主は驚いた顔をしてグラートの名を口にした。

 

「知ってるんですか!?」

 

「知ってるも何も、この村を救ってくれた大恩人だ。」

 

 レンが驚きながら聞くと、店主がそんな事を言った。

 

「大恩人?」

 

「ああ、実はこの村はほんの数日前まで山賊が蔓延って酷い有様だったんだ。それを、グラートさんが退治してくれてな、この村もやっと平和になったって訳よ。」

 

 シンは店主の言葉を不思議に思って訊き返すと、そんな事を言ってきた。

 

「そうだったんですか……」

 

 それを聞いたレンがその大変さを思ってか、考えた表情で言った。

 

「まあ、でも、今じゃあご覧の通り店を開けるまでには回復したって訳よ。」

 

「なるほどな。それで、グラートは今何処に?」

 

「グラートさんなら王都リネオスに行くって言ってたよ。」

 

「リネオスに!?」

 

 店主の話を聞いた二人は驚いていた。リネオスと言えば、二人が最初に神器を手に入れた所でもあり、良くも悪くも色々な事があった思い入れのある場所だ。店主の話だとそこにグラートは行ったという事だった。

 

「ああ、何でも探している人がいるとかでな。三日ぐらい前にこの村を旅立っていったよ。」

 

「そうか……、色々聞けて助かったよ。ありがとう。」

 

「いやいや、なんの。」

 

 シンが礼を言うと、店主はそう言って厨房に戻って行った。

 

「まさかグラートがリネオスに向かったなんて。」

 

「そうだな、グラートが自分達の行ったことのある街に行くなんてな。」

 

 グラートがリネオスに向かってこの村を出発したという事を店主から聞いた二人はグラートの行動にもどかしさを感じていた。

 

「これから直ぐにリネオスに向かうのか?」

 

「そうね、じゃないとグラートがどこに行ったか分からなくてなるしね。」

 

 シンはレンにこれからの予定を聞くと考えた表情で言った。

 

「ご飯を食べたら村にリネオスまでの馬車があるか聞いてみよ?」

 

「そうだな。まずは早く食べちゃうか。」

 

 レンの提案にシンは相槌をすると、二人はそれからご飯を食べてた。それから暫くして、二人はご飯を食べ終わると、会計の為に店主の元に近づいた。

 

「あんた達は旅の人だろ?彼氏彼女で旅とは羨ましいね〜」

 

「……ッ!?」

 

「ん、ん……、そういう訳じゃない……」

 

 店主の突然の発言に、レンは顔を赤くして驚いていた。シンはというと、頰をほんの赤くする程度で咳払いをして、店主の発言を否定していた。

 

「お?そうだったのか?てっきり付き合ってるもんだと思ったぜ。」

 

 店主は意外と言ったか顔をしながら言った。すると、顎を手で触りながら二人の事をじっと見て何かを考えているような表情をしていた。

 

「……時間の問題だな……」

 

 二人の事を見ていた店主がそんな事を言った。

 

「……」

 

「……」

 

 店主の言葉に二人は顔を赤くするだけで何も言うことは無く、下を向いて、恥ずかしさからただただこの時間が早く終わるのを願っているようだった。

 

「まあ、仲良くな?」

 

 それをを見ていた店主が二人を見兼ねてか、呆れた感じで言った。

 

「ああ。……それはそうとして、この村にリネオスまでの馬車はないか?」

 

 店主の助言にシンは軽く返事をすると、話を変えて、レンと話していたリネオスまでの馬車の有無を聞いた。

 

「それなら村の外れに馬車を出している所がある。この店を出て右に真っ直ぐ行った所にオレンジ色の分かりやすい家が見えてくる筈だ、行けば直ぐに分かると思うぜ。」

 

「そうか、何回も聞いて悪いな。」

 

「良いって事よ。」

 

 こうして、二人は会計を済ませて食事処を後にした。それから二人は店主の言われた通りに村を進んでいると、前方にオレンジ色の木造の家があった。その家の横には馬を留めておく馬舎があり、現に今も馬が数頭いた。

 

「この家の事だよな?」

 

「うん。中に入って、聞いてみよう。」

 

 二人は店主から話に聞いていただけなので少し不安だったが、中に入って聞いてみる事にした。

 

次回、恩人の幼馴染

 



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第52話 恩人の幼馴染

 二人は家の中に入ると、正面にはカウンターがあり、その奥には家の廊下に繋がっている出入口があった。店主は四十歳ぐらいの顎髭の生やした男でカウンターに立っていた。中を見渡すと、カウンターに向かって左の方にはテーブルとイスが置かれていて、如何にもお店という感じがしていた。

 

「いらっしゃい。」

 

「あの〜、リネオスまでの馬車があるか聞きたいんですけど、ありますか?」

 

「リネオスか、ちょっと待ってな。」

 

 レンが店主に尋ねると、カウンターに置いてあった名簿のような物を見て確認していた。

 

「明日の朝ならあるけど、どうする?」

 

「明日か……まあ、良いんじゃないか?」

 

「そうだね、じゃあそれでお願いします。」

 

 店主からそう言われた二人は顔を合わせて、明日にこの村を出るという馬車に乗る事を決めた。

 

「じゃあ、明日になったらまた来てくれ。」

 

 店主がそう言うと、カウンターの奥から七歳ぐらいの黒髮でショートヘアーの女の子が出てきた。

 

「お客さん?」

 

「ああ、リアナか。」

 

 子供に気づいた店主がそう言った。

 

「こんにちは〜」

 

「こんにちは。」

 

 リアナと呼ばれていた女の子に挨拶をされた二人は挨拶を返した。

 

「二人は何処まで行くの?」

 

「リネオスまでだ。」

 

「リネオス!?」

 

 リアナの質問にシンが答えると、それを聞いたリアナが驚いた顔をして言った。

 

「そ、そうだけど……」

 

 リアナの驚いた様子にシンは不思議に思いながら言った。

 

「じゃあ、二人もグラートお兄ちゃんと一緒だね。」

 

「グラートを知ってるの?」

 

 リアナの話を聞いたレンが質問をした。

 

「うん。この村が山賊に襲われた時に、私が助けを呼びに村を出て森を走っていたら、たまたまグラートお兄ちゃんと会って、事情を話したら案内してくれって言われたの。それから、村まで案内したらグラートお兄ちゃんが山賊を倒してくれたんだ。」

 

「そうだったんだ。私はグラートと幼馴染なの。それで今はグラートに会うために旅をしてるんだ。」

 

 リアナからグラートの事を聞いたレンがそんな事を話した。

 

「へ〜そうだったんだ!」

 

 レンの話を聞いたリアナが驚いた顔をしながら言った。

 

「なるほど、それでリネオスまでの馬車を聞いたのか。」

 

「ええ。」

 

 レンの話を聞いた店主が納得したように言った。

 

「君たち泊まるところはあるのかい?」

 

「いいえ、無いですけど……」

 

「じゃあ、うちに泊まっていくかい?」

 

「良いんですか?」

 

 店主の提案にレンが眉を八の字にして言った。

 

「うちは全然大丈夫だよ。寧ろ、恩人の友人を泊まらせて貰えるなんて無いからね。」

 

「二人とも泊まっていってよ!」

 

「悪いな。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔します。」

 

 こうして、二人は店主の家に泊まる事になった。二人はそれから中に入り、リアナに二人が寝る部屋まで案内してもらった。部屋にはベッドが二つと、テーブルとイスがある寝室だった。

 

「二人はここを使ってね。」

 

「ありがとう。」

 

 リアナが笑顔で言ったのでレンも笑顔で返した。それから、二人は部屋に荷物を置くと、リアナに案内されてリビングに移動した。リビングはテーブルとイス、その少し離れた所に青のソファーが置かれていた。二人はイスに座ると、その向かえにリアナが座った。すると、リビングの奥の方からリアナによく似た黒髮のショートヘアーの女性がお茶の入ったコップをお盆に乗せて持ってきた。

 

「こんにちは。私はリアナの母のモナと言います。大したおもてなしが出来なくてごめんなさいね。」

 

「いえいえ、そんな事ないです。泊まらせて頂いてありがとうございます。」

 

 モナがそう言うと、レンは泊まらせてくれた事にお礼を言った。

 

「ゆっくりして下さいね。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 二人はそれからリアナとモナとお茶を飲みながら雑談をした。少しして、シンとレンはリビングでリアナとモナと一緒に雑談をしていると、店主がリビングに入ってきた。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったね、私はリアナの父でタークと言う。よろしくね。」

 

「はい、こちらこそ。私はレンです。」

 

「俺はシンだ、よろしく。」

 

 タークが簡単な挨拶をすると、二人もそれに挨拶を返した。

 

「二人も知っているとは思うけど、ここ最近、山賊に村が襲われてね、お客もなかなか来なくて暇してるんだ。」

 

「こればっかりはどうしようも出来ないですからね。」

 

 タークがそう言うと、モナが困った顔をしてタークに言った。

 

「そうだったんですか……」

 

 二人の会話を聞いたレンが同情してそう言った。

 

「でも、これからきっと元通りになるよ!」

 

「そうだな。」

 

 リアナはみんなの暗い雰囲気をなんとなく感じ取ったのか、元気に言うと雰囲気が明るくなった。タークはそんなリアナの頭を撫でて微笑んだ。タークに頭を撫でられたリアナも微笑んでいた。そんな親子の様子を見ていたシンとレン、モナも自然と笑みが溢れた。

 

次回、シンが旅する理由

 



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第53話 シンが旅する理由

 みんなで雑談をしていると、リビングの窓から夕陽が射し込んでいた。

 

「お母さん、お腹空いた!」

 

「そうね、そろそろご飯作ろっか。」

 

 リアナが元気に言うと、モナが席を立ってそう言った。

 

「私もお母さんのお手伝いする。」

 

「ありがとう。」

 

 リアナも席を立ってそう言うと、モナがリアナに笑顔でお礼を言った。

 

「私も何か手伝いますよ。」

 

「いえいえ、お客さんに手伝ってもらう訳にはいかないです。ゆっくりしていて下さい。」

 

 レンは何もしないのも悪いと思いそう言ったが、モナもお客さんに手伝ってもらう訳にはいかないと遠慮がちに断った。

 

「そうですか?ありがとうございます。」

 

「そんな、お気持ちだけで充分です。それに私にはリアナがいるので。」

 

 レンは申し訳なさそうにお礼を言った。すると、お礼を言ったレンにモナはきまりが悪そうに返事をした後、リアナの事を見て頭を撫でた。リアナは自分が頼りにされた事が嬉しかったのか満面の笑みをしていた。

 

「じゃあ、作ろっか。」

 

「うん!」

 

 そう言うと、リアナとモナはリビングの隣にあるキッチンに行った。

 

「仲が良いんだな。」

 

「ああ、うちも含めてこの村の人はみんな仲が良い人ばかりなんだ。」

 

「へ〜、良いですね。」

 

 仲の良い親子の様子を見ていて、二人は微笑ましかった。

 

「本当に、グラートさんには感謝しても仕切れないぐらいだよ。」

 

「そういえば、グラートは数日前にこの村を出たんだよな?」

 

 タークがそう言うと、グラートという名を聞いたシンが思い出してレンに聞いた。

 

「お食事処の店主から聞いた話だとそうだね。」

 

 レンはシンの問いに、店主から聞いた時のことを思い出しながら言った。

 

「会えると良いな、今度こそ。」

 

「うん。」

 

 シンがそう言うと、レンは頷いて返事をした。

 

「グラートさんならうちの馬車でリネオスまで行ったから追い付くのは厳しいな。」

 

「そうか……、まあでも、何も手がかりがなかった時と比べたら大分楽だからな。リネオスに行ったら一度、城に行ってエルフィンたちに会って探してもらうのも良いかもしれないな。」

 

「うん、お願いしてみよっか。」

 

 二人はタークからグラートが馬車でリネオスに向かい、追い付く事は難しいと聞かされたが、シンは楽観的に考え、リネオスにグラートが行ったのなら、エルフィン達にグラートを探すのを手伝ってもらう事を考えた。レンもシンの考えを聞いて、賛成した。

 

「二人はリネオスの城に知り合いがいるのかい?」

 

「えっと……」

 

 タークが二人の会話を聞いてそんな質問をしてきたので、リネオスであった事を簡単に話した。

 

「なるほど、そういう事だったのか。それなら、リネオスにグラートさんが留まってくれてさえいれば、会う事が出来るかもしれない。」

 

 二人がリネオスで何があったか説明されたタークがそんな事を言った。

 

「はい、後はリネオスに着いてからだね。」

 

「そうだな。」

 

 こうして、二人はリネオスに着いてからの予定を話し合った。すると、リビングにキッチンの方からリアナがきた。

 

「ご飯が出来たよ!」

 

「今、全部持ってくるので少し待ってくださいね。」

 

 リアナがそう言うと、後ろからモナが料理が盛られた皿を持ちながら言った。それからテーブルには次々と料理が並べられた。全て揃うと、モナもリアナも席に着いた。

 

「いただきま〜す!」

 

「いただきます。」

 

 リアナが先にそう言うと、みんなもリアナに続いて、夜ご飯を食べた。それから、夜ご飯を食べ終えると、順番にお風呂に入った。その後、二人はリビングでリアナ達と少し話をしていると明日に備えて早めに寝る事にした。

 

「それじゃあ、おやすみなさい。」

 

「おやすみ、レンお姉ちゃん、シンお兄ちゃん。」

 

「おやすみ。」

 

 二人はこうして挨拶をした後、リビングを後にして二人が寝る寝室に行った。寝室に行くと、二人はそれぞれのベッドに入った。ベッドはふかふかで、二人の旅の疲れを癒してくれるようだった。

 

「ねえ、シン。起きてる?」

 

「起きてるけど、どうかしたのか?」

 

 シンがベッドに横になっていると、レンが話しかけてきた。

 

「リネオスでグラートを見つけたらシンはどうするつもりなの?」

 

「そうだな……、俺は適当に旅をして兄さんを探すかな。」

 

「そっか……」

 

 シンの言葉を聞いたレンが何か考えているように言った。

 

「ねえ、聞いても良い?お兄さんの事。」

 

「……そうだな……」

 

 レンの問いにシンは何かを考えているようだった。レンはそんなシンの事をただじっと見つめていた。

 

「……あの日は雲が多くて、どんよりとした日だった。俺はその日、家に両親と一緒に居たんだ。いつもは兄さんと一緒に故郷の村の周辺を歩いて、動物を狩ったりして競争していたんだけど、その日は珍しく兄さんだけで狩りに行ったんだ。兄さんが家を出てから暫くして雨が降ってきたから家族で心配してたんだけど、夕方頃になって兄さんが帰ってきた。心配していた父さんが兄さんに近づいて行った時だった。朝、家を出て行った時には無かった腰に携えていた剣を父さんに突き刺した。剣は父さんの心臓に刺さって手遅れだった。そしたら今度は母さんに向かって剣を向けた。何が起こったか、咄嗟の事で理解が出来なかったけど、このままだと母さんも殺されてしまうと思った俺は、兄さんの手を抑えてなんとか防いだ。だけど、俺は兄さんに蹴り飛ばされた。そして、兄さんはこれさえあれば何でも出来るとかよくわけの分からない事を父さんを刺した剣を見ながら言って、そのまま何処かに姿を消した。これが、俺が兄を探している理由だ。」

 

「そんな事があったなんて……」

 

 シンの話を聞いたレンが驚きながらも、少し下を見て、落ち込んだ口調で言った。

 

「それから俺は父さんの埋葬を済ませて、色々と準備をしてから故郷を出て、兄さんを探す旅に出たって訳だ。こんな話をして悪いな。」

 

「ううん、そんな事無い。私こそ聞いちゃってゴメンね。」

 

 シンは人に話す事では無いと思いレンに謝ったが、レンはそんなシンに優しい口調で言った。

 

「そんな事ない。今日はもう寝よう。明日からまた馬車の旅が始まる訳だし。」

 

「うん、そうだね。おやすみ。」

 

「ああ、おやすみ」

 

 二人はこうして眠りに就いた。そして次の日の朝、二人はリアナ達と食事を済ませると、リネオスまで準備を済ませて馬車に荷物をのせた。

 

「俺は店があるからリネオスに送る事が出来なくて悪いな。リネオスまでは一週間程度だから気をつけてな。」

 

「ああ、世話になったな。ありがとう。」

 

 心配して言ったタークにシンがお礼を言った。

 

「グラートさんに会ったら、よろしくお伝え下さい。」

 

「はい。」

 

「レンお姉ちゃんもシンお兄ちゃんも元気でね。」

 

「うん、ありがと。」

 

 モナとレンが話していると、リアナが会話に入ってきた。レンはそんなリアナの頭を撫でると、リアナは満面の笑みで幸せそうな顔をしていた。会話を済ませて二人が馬車に乗り込むと、馬車が動き出した。すると、リアナ達が手を振っていたので二人も振り返した。こうして、二人はリネオスに向かい、エスタルトを後にした。

 

次回、二回目の王都リネオス

 



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第54話 二回目の王都リネオス

 二人がエスタルトを出発してから一週間ほどが経ち、特に此れと言って何かあったわけでも無く、関所を通って無事にリネオスに着いたところだった。辺りは相変わらず凄い人の数だった。

 

「久々に来たな、リネオス。」

 

「そうだね、反乱勢力の件があったから大変だったと思うけど街を見る感じ大丈夫そうだね。」

 

 久々に見たリネオスの街の様子を見て二人は安堵していた。

 

「それじゃあ、気をつけてな。」

 

「はい、ありがとうございました。」

 

 そう言って、馬車を操ってここまで送ってくれた男に礼を言って別れた。それから二人は城を目指して歩いた。

 

「この歩いてる途中にグラートが居ればいいんだけどな。」

 

「う〜ん、リネオスは広いからちょっと希望は薄いけどね。」

 

 シンがそんな事を言うと、レンは眉を八の字にしながら残念そうに言った。

 

「でも探さないより良いだろ?」

 

「それはそうだけどね。」

 

 そんな事を話した後、街にグラートがいないか一応探しながら城に向かっていると、当たり前だがグラートが見つかる筈もなく城の入り口に着いた。城の入り口には兵士が二人警備をしていた。

 

「あの、王様にお願いがあって来たんですけど、今お会いする事は出来ますか?」

 

「あなた方はシン殿にレン殿ではありませんか!少々お待ち下さい。確認して参ります。」

 

 レンが警備をしていた兵士に声を掛けると、兵士が二人に気づいて慌てた様子で城に向かっていった。それから二人は暫く城の入り口で待っていると、さっきの兵士が戻ってきた。

 

「確認して前りました。是非、通してくれとの事でした。ご案内します。」

 

「ありがとうございます。」

 

 二人は兵士について行った。城の中に入ると、王の間まで案内された。王の間にはいつかと同じように王様と王妃が立派な椅子に座っていた。

 

「では、私はこれで。」

 

 兵士は二人の案内を終わると自分の持ち場に戻って行った。

 

「久しいな、シンにレンよ。」

 

「ええ。」

 

「お久しぶりです。」

 

 王様の挨拶に二人も挨拶を返した。

 

「そなた達のお願いを聞きたいのは山山なのだが、私達は妹の件について何も聞かされていなかったのでな。どうなったか聞かせてくれ。」

 

「妹のレイナは無事に不治の病を治すことが出来ました。」

 

「おお、そうか。」

 

「それは良かったです。」

 

 王様の質問にレンが答えると、王様も王妃も微笑み、安堵しているようだった。

 

「ならば良かった。して、お願いとはなんだ?」

 

「実は今、グラートという私の幼馴染を探して旅をしているんですが、リネオスに向かったという情報を手に入れてここまで来たんです。なので、グラートがを探して欲しいのですが可能ですか?」

 

「なるほど、人を探しておるのか。この街は広いからの、良いだろう。そのグラートの特徴は何かあるか?」

 

「特徴ですか?う〜ん……」

 

 王様の質問にレンが手を顎に触れて考えていた。

 

「グラートは黒髮の短髪で身長が百九十五センチの左の目元に横長の傷がある男の人です。」

 

「うむ、それだけ身長が高ければ直ぐに見つかるだろう。」

 

 王様がそう言うと、横にいた兵士が王様に近づいて膝をついた。

 

「グラートというものがこの街にいるか探してくれ。」

 

「はっ!」

 

 王様に頼まれた兵士が王の間を後にした。

 

「この街にいれば直ぐに分かる筈だ。暫し待たれよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 グラートを探してくれた王様にレンが頭を軽く下げてお礼を言った。

 

「シン様、レン様、お久しぶりですね。お元気でしたか?」

 

 二人は聞いたことのある声をした方を向いた。すると、そこにはこの国の王女のライラが立っていて、その直ぐ後ろには眼鏡を掛けたメイド姿の婆やと思われる老婆が立っていた。

 

「ライラか、久しぶりだな。」

 

「はい。お元気そうで何よりです。」

 

 ライラを見たシンが挨拶をすると、ライラが笑顔で返事を返してきた。

 

「レン様もお久しぶりです。」

 

「はい、お久しぶりです。」

 

 ライラが笑顔で挨拶をしてきたので、レンも笑顔で返事を返した。

 

「今回はゆっくりしていかれるのですか?」

 

「今、私の幼馴染を探してもらっているんです。なので、まずは見つかってからですかね。」

 

「そうでしたか。」

 

 心配そうな顔をして聞いてきたライラにレンがそう言うと、少しは一緒に居られると思い安心したのかライラの表情が柔らかくなった。

 

「ライラお嬢様、お勉強の途中で抜けて来たんですからもう戻りますよ。」

 

「婆や、せっかくシン様とレン様が来て下さったのにもう戻るなんて……」

 

 ライラの直ぐ後ろにいた婆やがそう言うと、ライラは残念そうな顔をして婆やに言った。

 

「話はお勉強が終わってからでも出来るでしょう!?ほら、行きますよ!」

 

 婆やはそう言うと、ライラの背中を押して、元居たであろう場所に戻ろうとしていた。

 

「ええ〜、そんな〜、お願い、後一分だけ?ね?婆や?いいでしょう?」

 

「ダメです!そうやって今まで抜け出してきたではありませんか。ライラお嬢様の手にはもう乗りませんよ。」

 

「そんな〜……」

 

 婆やに背中を押されながら何とかこの場に留まろうとしていたライラだったが、今までの行いの所為からか婆やは聞く耳を持たずにそのままライラの背中を押して王の間を後にした。

 

「大丈夫か?」

 

「多分?」

 

 ライラと婆やのやり取りを見ていた二人が心配になってそんな事を言った。

 

「いつもの事なんだ。俺の時も似たような事が何回もあった。」

 

 二人はまた、声のした方を向くと、そこには王の間に続く階段から歩いてくるこの国の王子のエルフィンだった。

 

「見苦しいところを見せたな。それにしても二人とも久々だな。」

 

「お久しぶりです。」

 

「はい。」

 

 挨拶をしてきたエルフィンに二人も挨拶を返した。

 

「元気そうで何よりだ。ゆっくりしていくと良い。」

 

「はい。」

 

 歓迎してくれたエルフィンにレンが返事をした。

 

「エルフィンよ、帰ったか。して、どうだった。」

 

「うん、どうやら思った通りかもしれない。」

 

「そうか……」

 

 王様の問いにエルフィンが難しそうな顔で答えると、それを聞いた王様も難しい顔をした。

 

「何かあったのか?」

 

「ああ、一応、二人にも言っておいた方が良いな。」

 

 シンが王様とエルフィンの様子を見て気になりエルフィンに聞くとエルフィンは真剣な顔でそう言った。

 

次回、シンの兄

 



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第55話 シンの兄

「実はな、シンとレンをアルキトラまで送った兵士がリネオスに帰る途中で殺された。」

 

「なっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

 エルフィンからの突然の告白に二人は驚きを隠せなかった。まさか、自分たちを送ってくれた兵士が自分達と離れてから殺されたなんて夢にも思っていなかった。

 

「何があったんだ?」

 

 エルフィンの話を聞いたシンが何故殺されたのか理由が気になり聞いた。

 

「うん、どうやら二人を送り届けた後、リネオスに帰る途中にとある旅人と話していたと言う情報が手に入ってな。たまたまそこを通りかかったという人から聞いた話らしんだが、その人がそれを目撃した場所が兵士が殺された場所と一致していてな。恐らくだが、その旅人と会話をしている最中に殺されたのではないかというのが分かったんだ。それで我々は色々調べているとその人物の特徴が分かってきたんだ。それを今父上に伝えようと思ってな。」

 

「まさか、そんな事があったなんて……」

 

 エルフィンの話を聞いたレンが悲しそうな表情をして言った。

 

「して、その旅人の特徴はどうであった?」

 

「話を聞くと、赤髪で腰に剣を下げている男だとか。」

 

「赤髪に剣!?」

 

「どうかしたのか?」

 

 エルフィンの話を聞いたシンが驚いた顔で言った。エルフィンはそんなシンを見て不思議がっていた。

 

「もしかしたら、俺の兄さんかもしれない……」

 

「兄さん?どういう事だ?」

 

 シンの言った事にエルフィンは真剣な眼差しで聞いた。すると、シンは眉間に皺を寄せて目を横に向け、何かを考えているようだった。

 

「確証は無い。でも、俺の兄、ニールは赤い髪で腰に剣を下げているはずだ……、それに、兄さんならやり兼ねない……」

 

 シンは兄の事を思い出しているのか、重い表情で言った。

 

「ん〜なるほど、確かに目撃証言と一致しているな。」

 

 シンの話を聞いたエルフィンが顎に手を触れて言った。シンは自分の兄が人を殺しているとは考えたく無かったが、自分の父親ですら殺している兄が今更、人を殺す事を躊躇するのかと疑問に思い複雑な心境だった。

 

「……思い出した。私、その人にあった事あるかも。」

 

「何だって!?」

 

 シンとエルフィンの会話を聞いていたレンが急にそんな事を言った。シンはそんなレンの発言に驚いていた。

 

「私、アルキトラで赤い髪の腰に剣を下げている人に声を掛けられて、リネオスまでの道を尋ねられた事があったの。何処かで見た事があるような気がしてたんだけど、もしかしたらシンの面影があったからそう思ったのかもしれない。」

 

「兄さんが……」

 

「……」

 

 レンの話を聞いたシンが下を向いて唇を噛み、辛そうな顔をした。そんなシンを見たレンは心配になり声を掛けようとしたが、シンの初めて見る表情に声を掛けられなかった。

 

「まあ、聞いた限りだとシンの兄さんである可能性が高いな。もう少し情報を集めてみるか……」

 

「すまない。」

 

「気にするな。お前は何も悪く無い。」

 

 申し訳なさそうに謝るシンに、エルフィンは優しく声を掛けた。

 

「エルフィンよ、その赤髪の人物の情報をもう少し集めてくれ。」

 

「はい。」

 

「しかし、こうも殺人が起こるとは……世も末だな……」

 

「七つの罪人の件もありますからね、お身体に気をつけて下さい。」

 

 王様が腕を前で組みながら言うと、エルフィンが王様の身体を案じてそう言った。すると、階段の方から誰かが走って上がってくる音が聞こえてきた。その正体はこの国の兵士だった。兵士は階段を上がると、膝をついた。

 

「報告します。先程、仰せ付かったグラートの詳細ですが、それらしき人物を探し出す事が出来ました。」

 

「ほう、左様か。」

 

「グラートが!?」

 

 兵士の話を聞いていたレンがグラートが見つかったと聞いて驚いていた。

 

「して、何処に?」

 

「場所は此処より東方の関所の近くなのですが……」

 

「何かあったのか?」

 

 王様の問いに兵士が言葉を詰まらせた。そんな兵士の様子を見ていたエルフィンが不思議に思い聞いた。

 

「それが、話をしようとしているのですが、聞く耳を持ってくれないのです。我々は何とか足止めをするのが精一杯でして……」

 

「あ〜、ごめんなさい。グラートはあんまり人の言う事を聞かないので……」

 

 兵士の話を聞いたレンが申し訳なさそうに言った。

 

「一度会いに行ったらどうだ?その方が早いだろ?」

 

「そうですね。」

 

 エルフィンがレンにそう言うと、レンは返事をした。

 

「では、レン殿、私と一緒に来て下さい。案内致します。」

 

「はい。……シンはどうする?」

 

「……俺も行くよ。その為に此処まで来たしな……」

 

 レンはシンが辛そうな顔をしていたのを見ていたので聞き辛かったが聞いてみると、シンは兄の事があったからなのか、元気のない返事をしたが一緒に行く事にした。

 

「それではこちらです。」

 

 こうして二人は兵士の後をついて行ってグラートの元へと向かった。

 

次回、グラート

 



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第56話 グラート

 二人は兵士に連れられてグラートと思われる人物がいるという東の関所に向かっていた。暫く走ると、東の関所の近くまで来た。すると、二人の前に兵士に行く手を妨害されている黒髮で短髪の男がいるのが見えた。その男は紺青色のタンクトップに少しだぼだぼしている黒のシーンズを着ていおり、刃物で切られたような大きな痕のある左肩からはクリーム色のリュックを下げ、背中には刃が左右非対称の氷で出来ているような綺麗な見た目をした、肩から腰下よりある大きな戦斧を背負っていた。そして、道の端にはそんな男と兵士のやり取りを珍しがってか人だかりが出来ていた。

 

「あの人物なのですが、見ての通りで……」

 

 直ぐ側まで行くと、兵士がこの状況を見て困った顔をして言った。

 

「お前ら、何回言ったら分かるんだ!?俺はもうこの街を出るところなんだ!邪魔をするんじゃね〜よ!」

 

「グラート!!」

 

 男を見たレンが驚いた様子で言った。

 

「あ〜!?誰だ俺の名前を呼んだのは……って、レンっ!?」

 

 レンが男の名前を呼ぶと、兵士から目を離してレンの方を振り向いた。最初は自分の名前を呼ばれて怒っているようだったが、レンの姿を見て驚いたようだった。

 

「やっと見つけた、探してたんだからね?」

 

「それはこっちのセリフだ!一体何処に行ってたんだ!早くしないとレイナが……」

 

 レンが呆れた顔をしながら言うと、グラートはそれに反論をして暗い顔をした。

 

「レイナは私が神器で病気を治したの。だから、グラートが旅をしなくても良いの。」

 

「それは本当か!?」

 

 グラートはレンの言った事が信じられないといった顔をしていた。

 

「うん。奇跡的に何とかなったのよ。」

 

「そうか、それは良かった。このままだったら何も出来ないままレイナが死んじまうんじゃないかと思ってな。諦めかけてたんだが、助かったんなら良いんだ。」

 

 レンの話を聞いたグラートは安堵の表情を浮かべていた。

 

「それでレイナが助かったのにどうしてレンがここにいるんだ?」

 

「はあ〜!?あのね、あんたを見つけ出してレイナの事を伝える為に決まってるでしょう!?」

 

「お、おう。それはありがたいな……」

 

 グラートの言った事にレンが食い込み気味で、眉間に皺を寄せて指をグラートの方に指して怒りを露わにしながら近づけて言うと、それに圧倒されたグラートが体を後ろに少し反らして両手の平をレンに向けながら、困った顔をしていた。

 

「まったくもう……」

 

 レンはそんなグラートの様子を見てか、呆れた顔をしていた。

 

「そう、怒るなよ……。それにレイナが無事に病気が治ったんだったら、俺はエルナ村には帰らずにもう少し旅を続けようと思う。」

 

「え?どうして?」

 

 レンはグラートの自分が予想していなかった事に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 

「俺がレンを連れ戻すためとレイナの病を治す方法を探しながら旅をしている時に、とある事件があってな。」

 

「ある事件?」

 

 真剣な面持ちで話すグラートにレンも真剣な面持ちで聞いた。

 

「ああ、俺がエルナ村を出てから二週間ぐらい経った頃だった。ノズルと言う少し大きな町でレンの行方やレイナの病を治す手掛かりがないか情報を集める為に立ち寄ったんだが、事件はもう始まっていた。俺がノズルに着いたのは夜だったんだが、町に入って宿を探す為に少し歩いていると、町の外れの方から悲鳴声が聞こえてきてな。何かあったのかと思って悲鳴のした方に行くと、そこには全身を何かで刺された様な無数の穴が空いて血を流して死んでいる人が数十人分はあった。すると、その現実離れした状況に呆然としていた俺の視界に平然と倒れている死体を踏みながら近づいて来る男がいた。俺はその異常な行動に恐怖を感じていると、その男が腰に下げていた剣を抜いて、俺に振り下ろしてきた。その時に躱しそびれてついた傷がこの肩の傷だ。それからその男はどう言う訳か何も言わず姿を消した。あいつは普通じゃない……。これがノズルで起きた事件だ。それから俺はレンを探して、レイナの病気も何とかひと段落がついたらあの男の行方を探す為に旅に出ようと思ってたんだ。」

 

「そんな事が……」

 

 レンはグラートの自分が知らなかった出来事に深刻そうな顔をしていた。

 

「と言う事で、俺はこのまま旅を続ける。」

 

「……分かった、気をつけて。」

 

「ああ。それはそうとレンはこれからどうするんだ?」

 

「私はシンと一緒に旅をしようかなと思う。」

 

「シン?」

 

 グラートはシンと言う名を聞いて不思議そうな顔をしていた。

 

「そういえば、まだ言ってなかったね。今この人と一緒に旅をしているの。」

 

 レンがそう言ってシンの方を見た。

 

「ふ〜ん。」

 

「どうも。」

 

 グラートはシンの事をじっと見つめた。シンはそんなグラートに軽く頭を下げながら挨拶をした。

 

「なんかパッとしねぇな。」

 

「……」

 

「ちょっと、シンもあんたを探しにここまで来てくれたんだからお礼の一つぐらい言ったら?」

 

 グラートの発言にシンは目を細め、レンは呆れた顔をしていた。

 

「そうなのか?悪いな。でも、なんかこいつからは覇気を感じないんだよな……」

 

「なんとでも言え。」

 

「もう〜……」

 

 グラートと二人の険悪な雰囲気にレンは困った顔をしていた。

 

「とりあえず、レンにも会えたし、レイナの病気も治ったんだったら、俺はこれからノズルで会ったあの男の事を調べたいから行くぞ?」

 

「う〜ん……」

 

 グラートは出発する気満々だったが、レンは不満そうな顔をしていた。

 

「まあ、何だ、シンとかいうの。レンの事は任せた。」

 

「ああ、言われなくても分かってる。」

 

「そうかよ、じゃあな。また、どっかで。」

 

「あっ、ちょっと!?」

 

 グラートはそう言うと、東の関所に向かった行ってしまった。レンはグラートを止めようとしたが、聞く耳を持たず、止まらずにそのまま行ってしまった。

 

「前からあんな感じなのか?」

 

「うん、何かやると決めるとそればっかりに集中しちゃって、昔から大変だったんだけど、多分、今回もそんな感じなんじゃないかな。」

 

「ふ〜ん。」

 

「これでよろしかったのですか?」

 

 今までの事を聞いていた兵士がレンに聞いた。

 

「一応、グラートには伝えたい事は伝えられたので大丈夫です。」

 

「そうですか。では、このまま王城まで案内します。」

 

「はい、お願いします。」

 

 こうして、二人はグラートとの会話を早々に済ませて別れた後、王城に戻った。

 

次回、ガールズトーク

 



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第57話 ガールズトーク

 二人はグラートと別れた後、城に戻った。王の間に行くとエルフィンの姿は無く、王様と王妃が座っていた。

 

「して、どうであった。」

 

「はい、グラートに会う事が出来ました。ただ、そのまま旅に出ると言って、行ってしまいました。」

 

 レンが残念そうな顔をして言った。

 

「左様か。会う事が出来たのなら何よりだ。今日はもう泊まっていくといい。」

 

「いいんですか?ありがとうございます。」

 

 こうして、二人は王様の計らいで城に泊まらせてもらう事になった。それから前に泊まった時と同じ部屋に荷物を下ろし、少し休憩をとった。

 

「久々にここに泊まったな。」

 

「そうね、泊まらせてくれる王様に感謝しなきゃね。」

 

 二人がそんな話をしていると、ドアがノックされた。

 

「レン様、シン様、お食事の準備が出来ました。」

 

 ドアを開けたのはこの城のメイドだった。服装は黒と白の二色で出来た如何にもメイドっぽい服を着ていた。

 

「はい、今行きます。」

 

 二人はメイドに案内されて、食事が用意されている部屋に案内された。案内された場所に着くと、そこには長方形のテーブルに白のテーブルクロスが敷かれていて、その上には様々な料理が並べられていた。イスは座と背中が赤色で出来ており、本来は木で出来ているであろう部分は金で出来ていた。それから二人は王様達と食事を済ませた後、自分たちの部屋に戻った。

 

「それじゃあ、私はお風呂に入ってこようと思うけど、シンはどうする?」

 

「俺はもう少し後になってから入るよ。」

 

「そう?じゃあ、先に行ってくるね。」

 

「ああ。」

 

 レンはタオルと着替えを持って部屋を出ると、大浴場に向かった。この城が大きいため大浴場に行くまでに二分以上は歩かないと行けないかったが、それでも歩いているとやっと大浴場に着いた。レンは中に入り、脱衣所で服を脱ぐと大浴場に入った。中は大浴場ということもあって広々していた。温泉の湯気でよく前が見えなくなっていたが、そのまま真っ直ぐ進むと周りを石で囲まれた温泉があった。

 

「久々に入るけど、やっぱり大きいな〜」

 

 レンは目の前の大浴場にそんな感想を言うと、温泉に肩まで浸かった。

 

 「んん〜〜、久々の温泉は気持ちいいなぁ〜」

 

 久々の温泉にレンは体を伸ばし、堪能していた。すると、脱衣所の方から話し声が聞こえてきた。

 

「誰だろう?」

 

 レンが聞こえてきた声が誰のものなのか気になっていると、大浴場に入ってきたのはこの国の王妃と王女のライラだった。

 

「ライラと一緒に入るなんていつ以来かしら。」

 

「私がまだ十一歳ぐらいの時だったような気がします。」

 

「そうだったかしら。大きくなったわね。」

 

 王妃とライラがそんな事を話しながら、レンのいる温泉の方に近づいてきた。

 

「王妃様に、ライラ王女!?」

 

 レンは温泉の湯気でよく見えなかったが、二人が近くまで来た事で入っていた人物が王妃とライラだった事に気づいた。レンはまさか王妃とライラが入ってくるとは思わなかったので思わず立ち上がり、タオルで体を隠しながら言った。

 

「レン様じゃないですか。」

 

「まあ、ライラと久々の温泉だと思ったら、レン様もいたのですか。」

 

 二人もレンがいた事に気づいていなかったようで、レン程ではなかったが驚いていたようだった。

 

「すいません、二人が入浴するなんて思ってなくて。今すぐ上がりますね。」

 

「いえいえ、レン様も一緒に入っていって下さい。」

 

「でも……」

 

「そうですよ。一緒に入りましょう?」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 レンは二人の入浴の邪魔をしてはいけないと思って、温泉から上がろうとしたが、王妃とライラに誘われて、結局、一緒に温泉に入る事になった。

 

「それにしても、レン様、いつになったら私の事をライラと呼んでくれるのですか?」

 

「でも、王女様を呼び捨てにするのは、ちょっと……」

 

 ライラが食い気味にレンに言ってきたが、レンは困った顔をしていた。

 

「それに、私の事をレン様って、様付けしてるのに私だけ呼び捨てにするのは……」

 

「確かに……」

 

 ライラはレンにそう言われて一理あると思ったのか、悩んだ顔をした。

 

「だったら、私もレン様の事はレンと呼ぶので、ライラと呼んでください。これなら良いですか?」

 

「まあ、それなら……」

 

「本当ですか!?」

 

 レンは渋々承諾した感じだったが、ライラは嬉しそうな顔していた。

 

「これからもよろしくお願いします、レン。」

 

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします、ライラ。」

 

「フフ、二人とも良いですね。」

 

 二人の様子を見ていた王妃が微笑みながら言った。

 

「私もレン様の事を好きに呼んでも良いかしら?」

 

「は、はい!」

 

 レンは王妃の発言が意外だったので、驚いていた。

 

「では、レンちゃんと呼んでも良いですか?」

 

「王妃様がそれで良いのであれば構いません。」

 

「そうですか?ありがとうございます。レンちゃん。」

 

 レンは王妃の問いに答えると、王妃は笑顔で礼を言った。

 

「なんだか、こうやって一緒に温泉に入っていると、娘がもう一人出来たみたいね。」

 

「そんな!?とんでもないです。」

 

「いえいえ、本当の事よ?」

 

 レンは王妃の言葉に謙遜していると、王妃は楽しそうにして言った。

 

「レンちゃんはいくつになるのかしら?」

 

「私は十八歳です。」

 

「そう。ライラは十九歳だから歳も近いわね。」

 

「そうですね。」

 

「それにしても、ライラもあと少しで居なくなってしまうと考えると寂しいわね……」

 

「居なくなる?」

 

 王妃の話を聞いたレンが気になり思わず聞いた。

 

「王族の女性は何か特別な事が無ければ、基本的には他の王族の方に嫁ぐのが習わしになっているのよ。」

 

「へぇ〜、そうだったんですか。」

 

 レンは知らなかった王族の習わしを聞いて驚いた。

 

「私も元々はこの国の人では無かったのだけど、この国の王妃として嫁いで、もう随分経ちました。今ではエルフィンもライラも居てくれるので、良かったなと思っています。ライラにも是非幸せになって欲しいです。」

 

 王妃はそう言うと、ライラの頭を撫でた。

 

「はい、私もこの国を離れて、早くセシル様に合う良い妻になろう思います。」

 

「ライラはもう結婚相手が決まっているんですか?」

 

「はい、エルフィン兄様の親友なんですけど、とても優しい素敵な方です。」

 

「へぇ〜、そうだったんだ。」

 

 レンはライラに結婚相手が既にいると言う事に驚いていた。

 

「そういえば、レンちゃんはどうなんですか?」

 

「えっ!?私ですか?」

 

 レンは王妃の突然の問いに、顔を赤くして困惑した顔をしていた。

 

「それは私も気になります。」

 

「ライラまで……」

 

「レンちゃんはシン様の事をどう思っているのですか?」」

 

「それは……、その……」

 

 興味津々で聞いてくる二人にレンは恥ずかしくなり、温泉に口まで浸かり、ブクブクして顔を赤くしていた。

 

「どうやらそれが答えのようですね。」

 

「はい。」

 

 レンの様子を見ていた二人が笑顔で言った。

 

「二人とも意地悪です。」

 

「良いではありませんか。私たちだけの秘密です。」

 

 レンが口を温泉から出して言うと、王妃は笑顔でそう言った。

 

「シンはその……、なんと言うか、頼りになるし……、私が辛かった時に優しく声を掛けてくれたんです。だからその……」

 

 レンの話を二人はまだかと言わんばかりに楽しそうに聞いていた。

 

「……シンの事が……好きです。」

 

 レンは下を向きながら顔を真っ赤にして言った。

 

「そうですか。」

 

「レンは可愛いですね。」

 

 レンの話を聞いた二人が満足そうな顔をして言った。それを聞いたレンは顔を赤くして困惑した顔をしていた。

 

「でも、一つ気になる事があって。」

 

「気になる事?」

 

 レンの言った事にライラが不思議そうな顔をして聞いた。

 

「シンのお兄さんの事です。」

 

「なるほど、確かにそうですね。」

 

 レンの話を聞いた王妃が真剣な顔で言った。

 

「シンには私が助けて貰ったので、今度は私がシンの支えになりたいんです。」

 

「素敵ですね。」

 

 レンの話を聞いたライラがそんな事を言った。

 

「もし、本当にシン様が困っていて、辛いのならレンちゃんが居てくれるだけで支えになる筈です。レンちゃんが辛い時に一緒に居てくれるありがたみを感じたのなら、是非、シン様の側に居てあげて下さい。」

 

「はい。」

 

 王妃の言葉にレンは頷いて返事をした。こうして、レンは王妃とライラの三人だけの秘密の会話をした。レンはそれから先に温泉から上がり、自分の部屋に戻った。

 

「遅かったな。」

 

 部屋に戻ると、シンが心配そうな顔をしてレンに話しかけてきた。

 

「うん、ちょっとね。」

 

「ん?」

 

 微笑みながら言葉を濁したレンにシンは不思議そうな顔をしていた。

 

次回、ニールの行き先

 



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第58話 ニールの行き先

 次の日の朝。二人が目を覚まして着替えを済ませると、ドアがノックされた。すると、ドアを開けたのは昨日、夕食の時に呼びに来たメイドだった。

 

「シン様、レン様、朝食の準備が整いました。」

 

「分かった。」

 

 二人は昨日と同様、メイドの後を付いて行き、食事の用意されている部屋に入った。中に入ると、王様達が席についており、テーブルにはパンやスクランブルエッグ、スープなどがあり、如何にも朝食といった料理が並んでいた。

 

「おはようございます。シン様、それにレンちゃんも。」

 

「はい、おはようございます。」

 

 王妃が微笑みながら言ってきたので、レンも微笑んで返した。シンはそんな二人の会話を聞いて驚いていた。

 

「何だ?二人とも、それ程仲が良くなったのか?」

 

「私もレンとは益々仲良しになったんですよ?」

 

 王様が王妃とレンを見て聞くと、ライラが楽しそうに言った。

 

「ライラはともかく、母上まで仲良くなるとは思いませんでした。」

 

 席に座っていたエルフィンが会話を聞いて意外といった顔をして言った。

 

「昨日、偶々レンちゃんと話す機会があったんです。」

 

「そうでしたか。」

 

「仲が良いというのは良い事だ。さあ、まずは座りたまえ。」

 

「はい。」

 

 二人は王様に言われるまま席に座った。それから、みんなで朝食を摂った。朝食を終えると、メイドが全員分、用意されたカップに紅茶を入れてそれぞれに配った。

 

「エルフィンよ、あれから何か新たに分かった事はあったか?」

 

「調べたところ、どうやらニールと思われる男は一度このリネオスに来ているようです。」

 

「……ッ!?兄さんが?」

 

 エルフィンの話を聞いたシンが紅茶を飲もうとカップを持っていた手をピタリと止めて深刻そうな顔をして言った。

 

「ああ、それも兵士を殺してから歩いて真っ直ぐ来た時と時間がピッタリ一致する。多分、兵士を殺した後、歩いてそのままここまで来たんだろう。普通の人間なら隠れたりするものだが、堂々と殺した兵士の国まで歩きて来るとは正気の沙汰とは思えない。」

 

「……」

 

 エルフィンの話を聞いたシンは何か言うという事も無く、深刻そうな顔をして沈黙を続けた。

 

「して、その後はどうした?」

 

「この国で男が来てから特に目立った事件なども無く、一日程滞在した後に南の関所から出たという事までは分かったのですが、その後は不明です。」

 

「うむ、南の関所からか……、もしかしたら、南に何か用があるのかもしれんな。」

 

「はい。ですが、情報が少な過ぎて何とも……」

 

 ニールの行方が分からず、エルフィンと王様が難しい顔をしていた。

 

「南には何があったか……、誰かこの辺り一帯の地図を。」

 

「かしこまりました。」

 

 王様がそう言うと、この部屋の入り口の近くにいた兵士が一人、返事をして出て行った。

 

「お持ち致しました。」

 

 暫くすると、出て行った兵士が手頃サイズの地図を持ってきた。

 

「ご苦労。」

 

「は!」

 

 そう言うと、兵士は元居た持ち場に戻った。すると、王様は渡された地図をテーブルに置いて眺めていた。

 

「リネオスから南なら一番寄りやすいのはオルターベルンか。……確かこの町の近くにはダンジョンもあると聞く。何かと都合が良さそうだがどうしたものか……」

 

「……俺が兄を探します。その為に旅を始めたし……、これ以上、罪を重ねない為にも……」

 

「シン……」

 

 王様の話を聞いていたシンが辛そうな顔をしながら言った。それを見ていたレンは心配そうな顔をしていた。

 

「うむ。出来るだけの事は尽くそう。」

 

「ありがとうございます。」

 

 シンが王様に自分の意思を伝えると、その覚悟が伝わったのか頷いた。そして、了承してくれた王様にシンは頭を下げた。

 

「なに、構わん。それにしても、ニールがどこに行ったか分からない以上、一度ここら一帯を調べてみた方が良さそうだ。明日には各地に兵士を出し、情報を集める。皆にそのつもりで準備をしておけと伝えよ。」

 

「は!」

 

 そう言うと、王様の伝言を伝える為、兵士が一人出て行った。

 

「シンよ、そなたには先ほどにも言ったオルターベルンに行ってもらいたい。何か手掛かりがある可能性の高い町だ。ただ、その分危険が伴うだろう。兵士は同行させるつもりだか、町に着けば情報収集のため兵士達は町で聞き込みをさせるつもりだ。それでも良いかな?」

 

「はい。」

 

「うむ、では、明日に備えて今日は準備をしておくと良い。」

 

 こうして二人は明日の出発に備えて部屋に戻り、軽く準備を済ませてベッドに座って休憩をしていた。

 

「レンはどうする?正直、今回の件は俺の家族が問題だ。レンは俺と一緒について来なくても……」

 

「そうはいかないわよ。私たちをサントリアまで送ってくれた兵士が殺された訳だし。」

 

 シンが切ない顔で言うと、レンがシンの言葉を遮るようにして言った。

 

「それに、私もシンには色々迷惑を掛けちゃったし。」

 

「そんな事は無い。俺にはレンと一緒に旅をする事しか出来なかっただけだ。」

 

 レンの言葉にシンは思いつめた顔をして元気がなく言った。

 

「シン……」

 

 レンは明らかに元気のないシンを見て心配そうな顔をした。すると、レンはベットから立ち上がり、シンの隣に座った。そして、次の瞬間、レンはシンを背中から抱きしめた。

 

「……ッ!?」

 

 シンは急に抱きついてきたレンに驚いていた。

 

「……私ね、レイナの病を治そうと旅をしていた時、レイナはもう死んじゃってるかもしれない、不治の病を治す手段なんてないんじゃないかって、凄く悲しくて……凄く不安で……、当てが何かある訳でもないのに旅を続けてて……、凄く心配だったの。……でも、そんな時、シンに出遭って……、それから暫く一緒に旅を続けて凄く嬉しくて、楽しかったの。私がエルナまで行く事を決めてから不安な顔をしていると、シンは優しく声を掛けてくれた。私が辛くて泣き出しそうな時もシンは私の側に居てくれた。それは私にとってこれ以上無いぐらい頼りになったし、安心したの。……だから、私もシンが辛い時は一緒に居させて?少しでもシンの力になりたいの!」

 

「……ああ、もう充分、力になってるよ。」

 

 レンの真剣な話と思いに触れたシンが少し晴れた顔をしてレンの頭を撫でた。

 

次回、オルターベルンに向けて

 



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第59話 オルターベルンに向けて

 次の日の朝。朝食を済ませた後、旅の準備をしていた。すると、二人の部屋のドアがノックされた。

 

「どうぞ。」

 

 レンがそう言うと、ドアが開いた。ドアが開くとそこに居たのはエルフィンだった。

 

「すまんな。少し話しておきたい事があるんだ。」

 

「なんだ?」

 

 エルフィンの言葉にシンが眉を上げて聞いた。

 

「実はなここ最近、世界各地でよく無い出来事が多く起きている。二人も知っているかもしれないが七つの罪人と呼ばれている者達が関係している様だ。」

 

「七つの罪人か……」

 

 エルフィンの話を聞いたシンはサントリアで遭った七つの罪人の一人、サーシャ・レイオーネの事を思い出していた。

 

「これから旅に出る二人にはそれなりに危険が伴う事だろう。一応、そういう事が世界各地で起きていると言う事を頭に入れといてくれ。」

 

「ああ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「いや、特にお礼を言われる様な事はしていない。それに、母上もライラも二人には仲良くしてもらっている様だしな。」

 

「いえいえ、こちらこそ仲良くしてもらって楽しかったです。」

 

 お礼を言ってきたエルフィンにレンは微笑んで言った。

 

「シン。」

 

「ん?」

 

 エルフィンに名前を呼ばれたシンは不思議そうにしていた。

 

「これから兄の事で大変な事が沢山あるだろう。何かあったら俺たちを頼れ。出来るだけ協力はするつもりだ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

 そう言ってくれたエルフィンにシンは礼を言った。

 

「城の前で馬車が止まっているはずだ。準備が出来たら行ってくれ。俺は見送りは出来ないが健闘を祈る。」

 

「ああ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 二人がエルフィンに礼を言うと、エルフィンは頷いて、部屋を出て行った。

 

「じゃあ、王様達にも挨拶してから行きましょう。」

 

「そうだな。」

 

 二人はそう言うと準備を済ませ、荷物を持って部屋を後にした。それから歩いて王の間に行くと、王様がイスに座り兵士と話をしているところだった。

 

「では、頼んだぞ。」

 

「は!」

 

 話を終えたのか兵士が返事をした後、階段の方に歩いて行った。

 

「おお、そなた達、準備が出来たか。」

 

「はい、挨拶をしてから出発しようと思いまして。」

 

「うむ、左様か。シンにレンよ、そなた達には色々と手数をかけるな。」

 

「いや、今回は俺の家族の問題だ。兄さんを止める事が俺の責任だと思ってる。」

 

 王様の言った事にシンが深刻そうな顔をして言った。

 

「まあ、そう自分を責めるな。そなたの所為ではない。」

 

「……」

 

 王様がシンにそう言ったが、シンは相変わらず深刻そうな顔をしていた。

 

「シンの所為じゃないわよ。これ以上、シンのお兄さんが罪を重ねないようにする為に早く見つけ出さないとね。」

 

「……ああ、そうだな。」

 

 レンの言葉にシンは少し明るい顔をして言った。

 

「では、シンにレンよ。後の事は任せたぞ。」

 

「はい。」

 

「ライラとサリアが二人を見送ると言って少し前に馬車のところへ向かったはずだ。」

 

「サリア?」

 

 シンは王様が言ったサリアと言う名前に疑問を持ち聞いた。

 

「そういえば言ってなかったな、私はリネオス・エルフォード。サリアは私の妻の名だ。」

 

「王妃様の名前だったんですか。」

 

 王様の言ったことにレンが驚いて言った。

 

「なんだ、仲良かったのに知らなかったのか?」

 

「うん、名前で呼ぶのはちょっと抵抗あったから聞けずにいたの。」

 

「サリアなら喜ぶと思うがな。それでは、暫しの別れだ。気をつけてな。」

 

「はい。」

 

 二人はこうして王様との話を済ませて城を出ると、馬車が用意されている城の門の前まで行った。すると、城の門の前に数十という数の馬車が待機しており、兵士が数人ずつ分かれて乗っているようだった。そして、城の門の前にはライラとサリアが立ってシンとレンの事を待っているのが見えた。

 

「シン様にレンちゃん、今回の旅は大変だとは思いますが、気をつけて行って下さいね。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 二人がライラとサリアに近づくと、サリアがそう言ってきたのでレンが笑顔で礼を言った。

 

「シン様、レン、また来て下さいね。」

 

「ああ、また来るよ。」

 

 ライラが笑顔でそう言うと、シンも微笑んで言った。

 

「あの、王妃様。王様から聞いたんですけど、サリアという名前なんですか?」

 

「ええ、そういえば言ってなかったわね。ごめんなさい。」

 

「いえ。それでお願いがあるんですけど……」

 

「どうかしたの?」

 

 レンが言いづらそうにしていると、サリアは不思議そうな顔をして言った。

 

「あの、サリアさんって呼んでも良いですか?」

 

 レンが心配そうな顔をして言った。

 

「ええ、勿論です。」

 

「本当ですか!?」

 

 サリアが笑顔で答えると、レンは頰を赤らめて言った。

 

「ええ、レンちゃんは短い間だけど、私の娘のように思っています。何かあったら気軽に話して下さいね。」

 

「はい。」

 

 サリアが笑顔で言うと、レンも笑顔で返事をした。すると、話していた四人の元に兵士が一人近づいてきた。

 

「お話中のところ申し訳ございませんが、シン様、レン様、もう出発しますので、準備をお願いします。」

 

「分かった。」

 

「それでは、二人とも気をつけて下さいね。」

 

「また会いましょう。」

 

「ああ、またな。」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、ライラもサリアさんも体に気をつけて下さいね。」

 

「ありがとうございます。」

 

「はい。」

 

 挨拶を終えると、二人は馬車に乗り込んだ。

 

「それではこれより近辺の調査を始める。それぞれの場所に出発せよ!」

 

 兵士の一人そう言うと、馬車が一斉に動き出した。こうして、二人はリネオスを後にして、オルターベルンに向かった。

 

次回、花の街、オルターベルン

 



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第60話 花の街、オルターベルン

 二人がリネオスを出発してから三日が経っており、もう少しでオルターベルンに着くところだった。リネオスからオルターベルンに向かう間の道は森になっていて、周りに木々しか無く、特に代わり映えのしない殺風景な光景だった。だが、森を抜けてからオルターベルンに行くまでは花畑になっていて、華やかな景色が続いていた。

 

「綺麗な花がこんなに咲いているなんて知らなかった。」

 

「そうだな、俺もこんなに花が咲いているのは初めて見た。」

 

 二人は馬車に乗りながら、視界一杯に周りに広がっている花畑に感動していた。花畑は赤色や橙色、黄色や水色、紫色に桃色など見えているだけでも多種多様な花が綺麗に咲いていた。

 

「オルターベルンは花が有名な町なんですよ。見ての通り、オルターベルンの周りには多種多様な花が咲いていて、観光などにも人気な町なんです。」

 

「へ〜、そうなんですか〜、確かにこれだけの花が咲いているなら観光で見に来たくなるのも分かります。」

 

 兵士の話を聞いたレンが花畑に目を向けながら言った。そんな話をしていると、馬車の進んでいる先に町が見えていた。

 

「あれが我々が目指しているオルターベルンです。」

 

「いよいよか。」

 

「うん、気を引き締めて行こう。」

 

「ああ。」

 

 二人は気を引き締めてシンの兄であるニールを探す決心をした。それから二人はオルターベルンに着いた。馬車から降りると、辺りは中世ヨーロッパ風の町並みをしており、サントリアに似た町並みをしていた。だが、花が有名な町ということもあってか、どの家の周りにもプランターに様々な色の花が色鮮やかに咲いており、町の中なのにも関わらず、ほのかに花の香りがしていた。

 

「町の中なのにこんなに花を育てているなんて、さすが花で有名な町なだけあるな。」

 

「そうだね。どこを見ても花が咲いていて綺麗な町だね。」

 

「そうだな。」

 

「それでは私たちはこれより町の住人に聞き込みをしますが、シン様とレン様は如何なさいますか?」

 

 オルターベルンの風景に関心している二人に兵士が話し掛けてきた。

 

「そうだな〜、取り敢えず、この町を歩いて俺も兄さんの事について聞いてみるかな。」

 

「左様ですか。では、何かあればお知らせ下さい。我々も何か分かり次第、お伝えに参ります。」

 

「分かった。」

 

「では。」

 

 兵士達はそう言うと、早々に二人の前から居なくなり、聞き込みを始めていた。

 

「じゃあ、俺たちも歩いて何か手掛かりが無いか聞いてみるか。」

 

「うん。」

 

 二人はそう言うと、町を歩き始めた。町を歩いていると、二人の前に噴水があるのが見えた。

 

「あれは噴水か。」

 

「見ても良い?」

 

「ああ、良いけど、そんなに好きなのか噴水?」

 

「私の村は寒くて水が凍っちゃうから噴水とかは珍しいんだ。」

 

「そういえば、そうか。」

 

 シンはレンにそう言われて、エルナ村の事を思い出していた。そうこうしていると、噴水の近くまでまできた。

 

「変わった見た目をしてるな。」

 

「確かに。」

 

 二人が見ていた噴水はドラゴンが二足で立ちをして、両手の手の平を上にして前に出し、口を開け、そこから水が出ている少し変わった石像のある噴水だった。

 

「誰がこんな石像を造ったんだろうな?」

 

「さ〜?」

 

 二人は見た事の無い個性が溢れるこの噴水を見て不思議に思っていた。それから、噴水を後にして食事処に寄る事にした。お腹が空いていたと言う事もあったが、今までの旅で食事処の人から何かと有力な情報を聞いた事があったからという事もあったからだ。二人は歩いているとこの町にある食事処まできた。中に入ると、テーブルとイスがある至って普通の食事処だった。お客も何人か入っていて、食事を摂っていた。そして、カウンターらしきところには四十歳ぐらいの女性が立っていた。

 

「いらっしゃい。好きなとこに座っておくれ。」

 

 二人は言われるがまま適当な席に座った。それから二人は何を食べるかを決めて女性を呼んだ。

 

「ご注文は?」

 

 女性にそう言われて二人は自分達のご飯の注文をした。

 

「以上でいいかい?」

 

「あの〜……、申し訳ないんですけど、お聞きしたい事があるんですけど良いですか?」

 

「なんだい?」

 

「私たち人を探してるんですけど、赤髪のこの人に似た人がこの町に来なかったか聞きたいんですけど、どうですか?」

 

 レンは話の途中、シンの方を一度見て女性に伝えた。

 

「あんた達、リネオスの兵士たちが聞いてる事と同じ事を聞いてるんだね。さっきお客さんがそんな事を言ってたからね。そうだね〜、この町はどうかは知らないけど、少なくとも、うちには来てないね。」

 

「そうですか……、ありがとうございます。」

 

「悪いね、力になれなくて。」

 

「いえ。」

 

 すると、女性は二人から離れて厨房の方に向かっていった。

 

「そう簡単にはいかないか。」

 

「何か分かれば良かったんだけど、これじゃあ、兵士の人達も大変ね。」

 

 二人はそんな会話をした後、ご飯を食べて店を出た。

 

「さてと、これからどうするか……」

 

「そうね〜……」

 

「シン様〜、レン様〜。」

 

 二人が店の前でこれからどうするか悩んでいると、少し離れたところから走って二人の名前を呼ぶリネオスの兵士が見えた。

 

「ここにおられましたか。実は気になる情報が手に入りました。」

 

「何か分かったのか?」

 

 兵士の言葉にシンは兄の事に関する事が分かったのかと期待した。

 

「実は一ヶ月ほど前にとある不思議な事があったと。」

 

「不思議な事?」

 

 兵士の言葉にレンが不思議そうな顔をして聞いた。

 

次回、青白い光

 



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第61話 青白い光

 「たまたま目撃した住人の証言では剣を持った赤い髪の男と青い髪をした女の子が夜中にこの町で何かを話しているのを見たと言うものがおりました。」

 

「剣を持った赤い髪!?」

 

 兵士の話を聞いたシンは驚いていた。

 

「それから話している二人を見ていると、男が手に持っていた剣を女の子に向けて振り下ろした様なのです。」

 

「そんな!?それじゃあ、その女の子は……」

 

「兄さん……」

 

 兵士の話を聞いたレンは悲しそうな顔をし、シンは険しい表情をしていた。

 

「いえ、それが……」

 

「ん?」

 

 シンは兵士の言葉が詰まった様子を見て不思議に思った。

 

「どうやらその女の子は剣が振り下ろされる時に青白い雷を体から放ち、男の動きを止めると、男はその場から離れてどこかに行ったらしいのです。」

 

「兄さんが?」

 

「一体、その女の子は何者なんでしょうか?」

 

 兵士の話を聞いた二人がそれぞれ色々な疑問を思った。

 

「恐らく、赤髪の男というのは我々の探しているニールで間違いないと思うのですが、何処に行ったかは分からずに見当がつかないのです。なので、その謎の女の子に話しを聞きたいのですが……」

 

「どうかしたのか?」

 

 言葉を詰まらせた兵士にシンが不思議そうに聞いた。

 

「はい、それが、どうやらその女の子は赤髪の男と会った後、この町出て、ここから少し離れた西にあるダンジョンの方に歩いて行ってしまったと、目撃者から話しを聞いた兵士が言っており、その方向にはダンジョン以外、特に何も無いのでダンジョンに向かったと思うのですが、どうしたものかと思っていたのです。」

 

「ダンジョンか……」

 

 兵士の話を聞いたシンが難しい顔をしていた。

 

「ダンジョンまではどれぐらい掛かるんですか?」

 

「馬車を使えば一時間ほどで着くかと思われます。」

 

「一時間か……、レンはどうする?俺は行こうと思うが……」

 

「私も行く。まだ居るかどうか分からないけど、何か手掛かりがあるかもしれないし。もし会えたら、その謎の女の子に聞いてみよう。」

 

「ですが、危険が伴います。よろしいのですか?」

 

「ああ、多少の危険は覚悟のうえだ。」

 

「分かりました。では、案内しますので馬車まで行きましょう。」

 

「ああ。」

 

 二人はこうして兵士の後に付いて行き、馬車のところまで戻ってきた。

 

「何名かこの町に残して聞き込みを続けますので、ダンジョンには私を含め兵士が三人とシン様とレン様になります。」

 

「分かりました。」

 

「それではお乗り下さい。」

 

 二人はこうして馬車に乗るとオルターベルンを後にし、この町から西に位置しているというダンジョンに向かった。

 

「それにしても話しに聞く、その謎の女の子は何者なんだろう。」

 

 馬車に乗り、ダンジョンへと向かう道中でレンがそんな事を言った。

 

「分からない。ただ、一つ言えることは、何らかの理由でその女の子が兄さんと戦ったって事だ。」

 

「うん。取り敢えず、ダンジョンに行ってみないとね。」

 

「ああ。」

 

 二人は馬車の中でそんな会話をした。

 それから四十分ほど馬車を走らせると、周りは花畑が無くなり、木々が生えている森の中にいた。

 

「そろそろダンジョンに着きます。」

 

「分かった。」

 

 兵士の言葉にシンが返事をすると、馬車は開けた場所に出た。そこにはピラミッドの様に段々で出来ている石造りの土台の上に正方形で出来た小さい神殿が建っていた。外見は翠色をしていて、上の神殿までは階段が続いていた。

 

「これが話していたダンジョンです。」

 

「ここまで連れてきてもらって悪かったな。」

 

 馬車が止まったタイミングでシンが兵士に礼を言った。

 

「いえ。」

 

「ダンジョンへは俺とレンだけで行こうと思う。」

 

「ですが、それではもしもの時に……」

 

「ダンジョンが危険なのは百も承知だ。だからこそ、そんな危険な場所にあなた達を連れて行く訳には行かない。」

 

「それはシン様達にも同じ事が言えるではありませんか。」

 

 シンの案に兵士は険しい顔をして、納得していない様子だった。

 

「確かにそうかもしれませんが、シンの言いたい事も分かってあげて下さい。私もわざわざ危険と分かっている場所に連れて行くのはちょっと心配です。それに、私達には神器もありますし、何度かダンジョンも攻略していますから。」

 

「ん〜……」

 

 レンの話しを聞いた兵士が眉間に皺を寄せて悩んでいた。

 

「俺たちがダンジョンに入っている間、外で何か起きたり、手掛かりがないか、兵士のみんなで見張っていて欲しい。俺たちが余りにも戻って来ない様なら何かあったと思ってくれ。その後どうするかは任せる。」

 

「……分かりました。では、我々はここで見張りをして待機しています。お気をつけて。」

 

「ああ。」

 

 兵士は不服そうではあったがシンの案を承諾した。それから二人は馬車を降り、神殿を目指して歩いた。階段を上がって神殿の入り口まで行くと、その両端に壁と同じ翠色で出来たレンの肩ぐらいの高さの円柱状の棒の上に、逆さになった正三角錐があるオブジェクトがあった。

 

「中に入るぞ。」

 

「うん。」

 

 こうして二人は神殿の中へと入った。入り口から入ると直ぐに下へと続く階段があった。二人は辺りに何もない事を確認すると、階段を下りて行った。前にもあったが、ダンジョンだからなのか翠色に明かり、光源に困ることは無かった。馬車を降りてから神殿に入る為に上った階段分ぐらい下に下がると階段が終わり、開けた場所に出た。

 

「これは?」

 

「どうなってるんだ?」

 

 二人が見ていたのは逆さになった階段や正面を見た時に横になって出来ている道が上下左右にある摩訶不思議な造りをしたダンジョンだった。

 

次回、五つ目のダンジョンと可愛い生き物

 



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第62話 五つ目のダンジョンと可愛い生き物

「これ、どうやって進めば良いんだ?」

 

「さぁ〜、取り敢えず先に進んでみようか?」

 

 二人は目の前に広がる魔訶不思議な光景に困惑しながらも先に進んだ。幸いな事に一本道だった為、道に迷うことは無かった。だが、シンが不意に振り返ると自分達が通ってきたはずの道が垂直になっていた。

 

「このダンジョンは一体どうなっているんだ?」

 

「これはなんか凄いね……」

 

 振り返ったシンの事を見たレンが同じ様に振り返ると、垂直になっている道を見て驚いていた。

 

「何だかここまであべこべだと自分が今、何処にいるのか分からなくなるな。」

 

「うん。でも、シンは普通に行方不明になるからあんまり変わらない気もするけどね。」

 

「おい……」

 

 シンの話を聞いたレンが微笑みながら面白がって言うと、シンはレンの様子を見て目を細めていた。

 

「ごめん、ごめん。行こっ!」

 

「お、おい。」

 

 レンが微笑みながらシンに謝ると先に進んだ。シンはそんなレンに置いて行かれないよう後をついて行った。暫く道なりに進んでいると、このダンジョンは重力が少し特殊で、側から見た時、階段に宙吊りで引っ付きながら歩いている変わった人達に見えるが、その事で階段に吸い寄せられる様に重力が働いているダンジョンなのだと言うことが分かった。すると、二人の進んでいた道が神殿の奥へと続く道に続いていた。

 

「ここから先は今までのダンジョンと同じ様な造りだね。」

 

「そうみたいだな。」

 

「気をつけて行こう。」

 

「ああ。」

 

 二人はそんな会話をして中へと進んでいく。今までの道は視界を遮るものは何も無かったが、二人の進んでいるこの道は翠色の壁で出来ていた。暫く真っ直ぐ奥へと進んで行くと、二人は開けた場所に出た。

 

「ここってもしかして……」

 

「ああ、道は違う様だけど、さっき俺たちが通っていたよく分からん空間だな。」

 

 周りを見た二人が困惑した様子で言った。

 

「でも、真っ直ぐ進んだはずなのにどうして……?」

 

「このダンジョン自体が普通じゃないって事だな。」

 

 レンが不思議に思っていると、シンがそんな事を言った。

 

「取り敢えず、今のところは一本道だから迷う事は無いだろうから、このまま先に進もう。」

 

「うん……」

 

 シンがそう言って先に進むと、レンは心配そうな顔をしてシンの後について行った。二人が進んでいると、また奥へと続く道まできた。

 

「こんな感じで進んで行って方向感覚が分からなくなるっていうダンジョンなのか?」

 

「どうなんだろう。」

 

 二人はこのダンジョンに疑問を抱きながら先に進んだ。暫く真っ直ぐ歩くと、二人はワイ路の別れ道のあるところまで来た。

 

「分かれ道か……、参ったな……」

 

「どうしよっか」

 

 二人はどちらの道に進むか頭を悩ませていた。

 

「クア〜〜」

 

「ん?」

 

 二人が悩んでいると、右の道の方から可愛らしい感じの声が聞こえてきた。すると、二人の前に右の道の奥から全身が白の毛で覆われた、頭に青色の角が一本、申し訳程度にちょこんと生えており、青の丸い目をした片手に乗るサイズのイタチの様なフォルムをした可愛らしい見た目の魔物が現れた。

 

「魔物か!?」

 

「クア〜」

 

 その魔物の首には紫色のハートのアクセサリーが付いているネックレスをしていた。そして、狼の様な三角形の耳をピクつかせ、白の尻尾を左右に振りながら四足歩行で近づいてくる。

 

「か……かわゆい!!」

 

「え……っ?」

 

 シンはこの魔物を見たレンが、初めてリナザクラを見た時ぐらいに目を輝かせているのを見て驚いていた。

 

「クア?」

 

 そんなレンを見た魔物が首を傾げた。

 

「さ、触っても良いよね……」

 

「お、おい。」

 

 首を傾げた魔物の愛くるしい姿を見たレンが目を回し、手を出して魔物に触ろうとした。シンはそんなレンを見て止めようとしたが、もう遅かった。レンの手は魔物の体に触れていた。

 

「クア〜」

 

 すると、魔物は瞼を瞑り、満足そうにしていた。

 

「おい、大丈夫なのか……」

 

 シンは魔物に触れているレンを見て不安に思っていた。

 

「うん、大丈夫だよ。この子、大人しいし。それにこんなに可愛いんだよ!?ね〜?」

 

「クア!」

 

「いや、可愛いから触っても良いとか無いからな……」

 

 レンが幸せそうに魔物に触りながら言うと、それに応えるように魔物も嬉しそうに相槌をした。そんな様子を見ていたシンは呆れた顔をして見ていた。

 

「シンも撫でてみなよ、可愛いよ。」

 

「ええ〜……」

 

 レンは幸せそうな顔をして話してきたが、シンは魔物に触れるという事に本当に大丈夫なのかと疑問に思い、少し危険を感じていた。

 

「ね!ね!」

 

「おお……、まあ、じゃあ……」

 

 目を輝かせながら余りにも勧めてくるレンの勢いに押されて、シンは少しだけ撫でてみる事にした。

 

「クア?」

 

 シンが右手を魔物に近づけると、それを見ている魔物が首を傾げていた。そして、シンは右手の平で魔物に触れた。

 

「クア!!!」

 

 すると、シンが魔物に触れた瞬間、魔物は大きな声で威嚇し、全身からパチンと音を立てて、青白い電気を放電した。

 

「痛っ!?」

 

 シンは魔物から放電された電気が右手に当たり、驚いていた。

 

「クア!」

 

 魔物はシンに向かってもう一度威嚇すると、素早く動いてレンの肩に乗った。

 

「なんでシンの時だけ威嚇したんだろう?」

 

「俺が聞きたいよ……」

 

 レンの話を聞いたシンが溜め息混じりに言った。

 

「クア!」

 

 すると、魔物は頭でレンの肩を突き、魔物が来た方の道とは別の道に顔を向けていた。

 

「こっちに行けって事?」

 

「クア!」

 

 レンが魔物に聞くと、魔物は頭をコクリと頷いた。

 

「魔物の言う事を信じるのか……?」

 

「どっちに行って良いか分からないんだから、どっちに行ったって良いでしょ?それにこの子が教えてくれた道だしね。」

 

 シンの問いにレンは魔物の顎を人差し指で撫でながら言った。すると、撫でられた魔物は幸せそうな顔をしていた。

 

次回、魔物VS魔物

 



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第63話 魔物VS魔物

 二人はワイ字に別れた道を魔物の教えてくれた教えた通りに左の道を進んでいた。暫く歩くと、またさっき通った開けた空間に出た。

 

「本当にこっちの道で合ってたんだろうな?」

 

「そんな事言わないでよ。」

 

「クア!」

 

 シンが呆れた感じの口調で言い、魔物に疑いの目を向けると、レンは魔物を擁護して不服そうな顔を浮かべていた。そんなレンに魔物は同調して満足そうにしていた。

 

「……」

 

 シンはそんな様子を見て不満そうな顔をしていた。それから二人は道を進んでいく。道は二人が通ってきた道から向こう側の道まで真っ直ぐ一直線上に出来ている単純な道だった。それから二人は開けた空間の道を進み終わると、先へと進んだ。暫く進むと、今度は今までの開けた空間とは違い、体育館ぐらいの広さで長方形の造りをした空間に出た。この空間の壁には等間隔にちょっとした窪みがあり、この窪みには緑色に光る石が置かれており、空間をその色に染めていた。

 

「クア!!」

 

「どうしたの?」

 

 空間の中に入ると魔物がレンの肩から下り、毛を逆立てて威嚇をしていた。その様子を見ていたレンが不思議そうな顔をして見ていた。すると、空間の奥にある道から何かがこちらに向かって来るのが見えた。

 

「なんだ!?」

 

 シンは向こうからやって来る何かに懐からサニアとイニルを取り出し警戒した。シンが警戒していると、徐々にこちらに近づいて来る何かが、この空間の壁にある窪みから光る緑色に照らされてその正体がハッキリと見えてきた。それは四足歩行の赤い目をしたサーベルタイガーに似た、全身をサファイア色の毛が覆い、一つ一つの毛が透き通っているためかキラキラと輝いている魔物だった。手足からは鋭い爪が生えており、その鋭さから爪が当たっている床に傷がついていた。また、上顎からも鋭い牙が二本生えていて、顔の下の方まで伸びていた。

 

「魔物か。」

 

「うん。」

 

 魔物を見た二人はそう言うと、レンが肩から背中に下げていた巾着袋からリナザクラを取り出した。

 

「グルルルルル〜」

 

「クアアア〜」

 

 レンがリナザクラを取り出すと、魔物同士が睨み合い、威嚇をしていた。

 

「この魔物はこんなに小さいのに何でここまで啀み合えるんだ?」

 

「この子だって私達と一緒に戦ってくれようとしてるんだから、そんな事言わないでよ!」

 

 睨み合っている魔物を見たシンがそう言うと、レンが眉間に皺を寄せて言ってきた。

 

「そうは言っても、あんなに小さい体なのにどうやって戦うんだよ……」

 

 レンに言われたシンが呆れた感じで言った。

 

「グルルア〜!!」

 

 すると、サーベルタイガーに似た魔物が睨み合いに嫌気が差したのか、イタチに似た魔物に向かって走り出した。魔物は見る見るうちに距離を詰めて、あと少しで噛み付ける距離まで近づいていた。

 

「クアアア!!!」

 

「なんだ!?」

 

 イタチの魔物は自分のところまでサーベルタイガーの魔物が近づくと、大きな声と共に体から大量の電気を放電した。その威力は凄まじく、空間全体が青白く光り、近くまで近づいていたサーベルタイガーの魔物はもろにその電撃を食らい、体から黒の煙を出して痙攣していた。

 

「クア。」

 

 すると、体から黒い煙を出している魔物を見て、目を瞑り、片方の口角を上げて、キメ顔を満足そうにしていた。

 

「この魔物、マジか……」

 

「凄い!」

 

 シンはそんな魔物の様子を見て困惑していたが、レンは目を輝かせていた。

 

「グルル〜〜〜」

 

「!?」

 

 イタチの魔物の威力に二人は感心していると、黒い煙を上げていた魔物がさっきよりも荒々しい声で唸っていた。すると、上顎から生えている二本の鋭い牙から黄色い澱んだ液体がポタポタと床に垂れた。その液体の垂れた床は溶けて白い煙が上がっていた。

 

「あれに咬まれたら相当ヤバイな……」

 

「うん……」

 

 二人は魔物の牙から垂れている液体の様子を見て警戒していた。

 

「クア!!」

 

 魔物の様子を見ていたイタチの魔物が体から全身に青白い電気を纏う様に放電した。すると、魔物の電気は体に電気を帯びた状態を保っていた。

 

「グルルル〜」

 

「クアアア〜」

 

 お互いに警戒しているのか睨み合い、様子を伺っている様だった。魔物同士の戦いを初めて見た二人はそのピリピリとした雰囲気に息を呑んだ。すると、サーベルタイガーの魔物が先に動いた。それに呼応するようにイタチの魔物も動き出す。二体の魔物の距離が縮まり、お互いに噛みつけるまで近づいた瞬間、サーベルタイガーの魔物がイタチの魔物に向かって口を大きく開け、牙で今にも噛み付こうとしていた。だが、それをイタチの魔物は体に覆っている電気の力を強くしてさっきよりも青白い光りを放っていた。すると、電気に当たったサーベルタイガーの魔物が黒く焦げて横に倒れた。

 

「これが魔物の力なのか……」

 

「クア!」

 

 シンが魔物同士の戦いを見て驚いていると、イタチの魔物は体に電気を帯びたまま二人の方を向いて鳴いた。

 

「私達の出る幕は無かったね。」

 

「ああ。」

 

 二人がそんな会話をすると、魔物の体を覆っていた電気が無くなった。二人はこうして魔物の強さを目の当たりにして、この空間の奥にある道の先へと進んだ。

 

次回、性格の悪い奴ら

 



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第64話 性格の悪い奴ら

「にしても、この魔物があんなに強かったなんてな。」

 

「うん、私もびっくりした。」

 

「クア。」

 

 道を歩きながらさっきの戦闘で見たイタチの魔物の感想を言うと、当の本人はしてやったぜ顔をしていた。それから二人は暫く道を歩いた。ずっと一本道だったので迷いはしなかったが、このダンジョンの特徴上、真っ直ぐ歩いているつもりでも他の方向に向かっている可能性はあるので安心は出来なかったが……。

 

「あれはなんだ?」

 

「どれ?」

 

 道を進んでいるとシンが唐突にそんなことを言った。気になったレンはシンの向いている方を向いた。すると、シンの見ていた先に左右に分かれ道があり、突き当りの壁の近くに何かが書かれた看板があるのが見えた。

 

「なんだろう、あれ。」

 

「さあ〜」

 

「クア?」

 

 レンがその看板を不思議そうに言うと、イタチの魔物も一丁前に不思議そうにしていた。それから歩いて近づくと、看板に何が書かれているのか見えてきた。そこには汚い字で<左を進むべからず、右の道を進むべし>と書かれていた。

 

「なんなんだ?この汚い字で書かれた看板は?」

 

「何かの暗号かな?」

 

「クア〜」

 

 看板を見た二人が不思議がっていると、魔物も渋い声を出して考えている様だった。

 

「この看板の通りに行くなら右に行った方が良いんだろうけど……、なんか怪しくないか?」

 

「確かに……、今までこんなことなかったのになんでこのダンジョンだけは親切に書いてあるんだろう?」

 

「クア〜」

 

 今までのダンジョンとは違い、親切に看板がある事に対して二人は不思議に思っていた。勿論の事、魔物も。

 

「どうする?明らかに怪しいけど、この看板通りに従うか?」

 

「う〜ん、どちらが正解なのか分からない以上はどちらを選んでも一緒だし、もし、間違った道だったらここまで戻って来れば良いし、看板通りに右の道に行こう。」

 

「それもそうだな。じゃあ、行くか」

 

 二人はこうして看板の書かれた通り、右の道に行く事にした。二人が右の道を進もうとすると、イタチの魔物がレンの肩から下りて看板の前まで戻り、不思議そうに看板を眺めていた。

 

「どうしたの?」

 

 レンはそれを見て看板の所まで戻った。

 

「おい、何やってんだ?先に行くぞ〜」

 

 シンはレンと魔物の様子を見て、呆れた感じで言った。

 

「クア〜?」

 

 イタチの魔物が看板の方を向いて鼻をピクピクさせて臭いを嗅いでいる様だった。

 

「何か気になるの?」

 

 レンは魔物のそんな様子を見て魔物に話しかけた。

 

「クア!!」

 

 すると、今まで臭いを嗅いでいた魔物がシンの方を向いて鳴いた。

 

「ん?」

 

 シンはその声を聞いて後ろを振り向きながら前へと足を運んだ。次の瞬間、シンの足元が崩れ、落とし穴が現れた。シンは既に体の重心が落とし穴の方に掛かっていて、体勢を戻す事が出来ずに落とし穴へと落ちた。

 

「シン!!!」

 

「クア!!」

 

 それを見ていたレンと魔物が急いでシンの落ちた落とし穴に向かった。そして、落とし穴の所まで行き、穴の下を覗くと、五メートルぐらい下に、穴に落ちたシンがいた。

 

「大丈夫!?」

 

「あ、ああ……」

 

 レンが呼びかけると、シンは頭を打ったのか、頭を押さえながら返事をした。

 

「生きてて良かった……」

 

 レンはシンの様子を見て安心していた。すると、シンの落ちた穴の先の道から何かが近づいてくる足音が聞こえた。その音は徐々に近づき、その大きさを増していった。

 

「シン、何かがこっちに向かってきてるの。早く上がってきて。」

 

「早く上がってってな……」

 

 シンの落ちた穴はそれほど大きな落とし穴では無く、深さもそれほど無い為、一人で出ようと思えば出る事が出来た。だが、シンはレンに急かされた事に若干苛立ちを感じていた。そうこうしている間にもその足音は徐々に近づいていた。すると、その足音の正体がなんなのかが見えてきた。それは、全身を黒い毛で覆われた人の背丈の二倍は優にある、筋肉質の体つきをしたゴリラの魔物が二匹、こちらに向かって近づいていた。

 

「シン、魔物が……」

 

 魔物の姿を見たレンが心配そうな顔をしてシンに声を掛けた。

 

「マジかよ……」

 

 レンの言葉を聞いたシンは苦い顔をした。すると、こちらに近づいてきた二匹のゴリラの魔物がレンの居る所まで後、もう少しというところまで距離を詰めていた。

 

「こうなったら、」

 

 レンはシンが穴から出でくる前に魔物と戦う事になると思い、肩から背中に下げていたリナザクラを取り出した。

 

「リナザクラで時間を稼ぐしか……、そう言えば……」

 

 レンはリナザクラでシンが穴から出てくるまで時間を稼ごうと思ったが、レンはとある事を思い出した。それはレジアルからラクタートを航海をしていた時にたまたま寄る事になった三つ目のダンジョンの時の事だった。シンがダンジョンの道中でサニアを使おうとした時、斬撃が発生せず、神器が使えなかった。後でフロリアに聞くと、ダンジョンの道中では神器は使用出来ない造りになっていると言っていた。つまり、今の様な状況ではリナザクラの能力が発動しないという事だ。レンがそんな事を考えているうちに魔物はとうとうレンの居るところまで来た。レンは警戒して姿勢を低くした。すると、ゴリラの魔物はレンに興味を示さず、真っ先に落とし穴を覗いた。

 

「なんだこいつら!?」

 

「ウホ!」

 

「ウホホ!」

 

 シンは苛ついた感じて言うと、魔物は落とし穴に落ちているシンのことを見て、指を指して笑っていた。

 

「こいつら人を馬鹿にしやがって……」

 

 シンが魔物の様子を見て怒っていると、魔物は更に嬉しそうにして、腕を組みスキップしながらその場をクルクルと回っていた。

 

「お前らちょっと待ってろ、今そっちに行ってやる……」

 

「ウホ!」

 

「ウホホ!」

 

 シンは懐からサニアとイニルを取り出ながらそう言った。それを見ていた魔物はハイタッチをすると、来た道を戻って行った。

 

「クソッ、あいつらどこに行きやがった。」

 

 落とし穴から何とか抜け出したシンは自分の事を馬鹿にした二匹のゴリラの魔物に苛ついていた。

 

「シン、大丈夫……?」

 

「ク、クア?」

 

 そんなシンを見ていたレンとイタチの魔物が、シンの雰囲気に躊躇いながら聞いた。

 

「ああ、何とかな。それにしても、何だったんだあいつらは。」

 

「さあ〜、シンの事を見て楽しそうにしてたけど……」

 

「取り敢えず、後を追おう。」

 

「う、うん……」

 

 シンの熱意にレンは困りながら返事をして、魔物の後を追った。

 

 次回、ゴリラの魔物

 



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第65話 ゴリラの魔物

 二人は二匹のゴリラの魔物の後を追って道を進んでいた。すると、道の先に明るい光りが見える所まで来た。

 

「随分明るいね?」

 

「ああ、そうだな。」

 

 二人はダンジョンの中なのにも関わらず、まるで外の様に明るい光りを見て不思議に思っていた。そして、二人がその外の様に明るいところに行くと、そこには緑色の木が生えて森の様になり、上を見上げると青い空に、白に光り輝く球体があった。

 

「ここは一体……」

 

「ダンジョンの中なのにこんなに木があるなんて……」

 

 二人はダンジョンの中なのにも関わらず、まるで外の様なこの空間に驚いていた。

 

「ウホ」

 

 二人が現実とは思えないこの空間に驚いていると、木の上から一匹、ゴリラの魔物が二人の事を見ていた。

 

「お前!」

 

「ウホ!」

 

 シンが魔物に気づいて声を揚げると、それに反応する様にして逃げ出した。

 

「逃すか!」

 

 シンはそう言うと、懐からサニアを取り出して魔物に向かって振り下ろした。すると、サニアの斬撃は魔物のいる方に向かっていき、剣筋にあった木が次々と切れていった。だが、サニアの斬撃は魔物には当たらなかったらしく、魔物は木から木へと飛び移りながらどんどん森の奥へと離れて行った。

 

「クソッ、体が大きい割にすばしっこい動きをするな……」

 

 シンは身軽そうに離れていく魔物を見て苦い顔をしていた。

 

「まあまあ、後を追おう。」

 

「ああ。」

 

 二人は魔物が逃げて行った方に向かって走って追い掛けた。

 

「にしても、このダンジョンは不思議な事が色々と多いな。この空間もそうだけど、魔物もあのゴリラみたいなよくわからん奴もいれるし。それに、結局まだその魔物が何なのか、今一よく分からないし。」

 

「このダンジョンの事はともかく、この子は大丈夫よ。」

 

「クア、クア。」

 

 シンの言った事にレンが不服に思ったのか、不機嫌そうな顔をして言った。そして、レンの方に乗りながら魔物も首を縦に振り、そうだそうだ言わんばかりに主張していた。

 

「……そうだといんだけどな。」

 

 シンはレンと魔物の様子を見て目を細めながら言った。すると、前を走っていたシンの足が、蔓に引っかかってバランスを崩しそうになっていた。

 

「おっと、」

 

 シンが必死にバランスを戻そうとした時、シンの頭上から蔦で出来た網の様な物が落ちてきて、シンを捉える様な形に覆い被さった。

 

「何だこれ!?」

 

 シンは突然、降ってきた謎の蔦の網を手で払いながら言った。

 

「ウホ」

 

「ウホホ」

 

 すると、木の上で二匹のゴリラの魔物がシンの事を見て拍手をしていた。

 

「また、あいつらか……」

 

 シンは魔物の声を聞いて呆れていると、魔物はその様子を見て余程嬉しかったのか、一匹は片手で逆立ちをして、もう一匹は前屈みになり、筋肉を見せる様にして決めポーズをしていた。

 

「あれは一体、何なんだろう……」

 

「クア……」

 

 魔物の奇怪な行動を見たレンとイタチの魔物が呆れた顔をして見ていた。

 

「はあ〜、やっと全部取り終わった……」

 

 魔物が決めポーズをしている間に、シンが自分に覆い被さった蔦を全部払い、疲れた様子で出てきた。

 

「ウホ」

 

「ウホホ」

 

 すると、シンの様子を見たゴリラの魔物が奇怪な決めポーズを止めて、木の下に飛び降りた。ドスンという重そうな音と共に魔物が飛び降りたところの地面が少し割れ、その重さを表しているかの様だった。

 

「やるって事か……」

 

「クア。」

 

 シンは今まで逃げていた魔物が逃げずに木から下りてきたので、懐からサニアとイニルを取り出した。レンも魔物を警戒して、肩から背中に下げていたリナザクラを取り出して構え、イタチの魔物はレンの肩から下りて、姿勢を低くして警戒している様だった。

 

「ウホッウホッウホッウホッ」

 

「ウホッウホッウホッウホッ」

 

 すると、シン達の様子を見た魔物が手を胸に当ててドラミングをした。ドラミングは魔物の大きさもあり、叩く度に空気が振動する程の威力だった。

 

「ウホ」

 

 ドラミングを終えると、魔物はお互いの手を持って、片方がその場で回り始めた。もう片方はただただ掴まっているだけで、回しているものが魔物というところを除けば砲丸投げの様にも見えた。

 

「何をするつもりなんだ?」

 

 シンが魔物の様子を見て不思議に思っていると、回していた方の魔物が手を離して、回されている方の魔物が二人に向かって飛んできた。

 

「ウホ」

 

 遠心力が働いて物凄い速さで二人に近づいてきた。レンはそれを見てリナザクラを広げ、返り討ちにしようと思い、リナザクラを飛んでくる魔物に向かって構える。飛んでくる魔物はそのままの勢いでレンの構えているリナザクラまで一直線に近づいていた。そして、飛んでくる魔物とレンが構えているリナザクラの距離が近づき、今まさに当たるといった瞬間だった。飛んできた魔物がリナザクラの親骨と中骨の部分だけを器用に蹴った。すると、リナザクラは扇面で攻撃を受けていない為か、今までよりも弱い光を放ち、魔物を後方に少しだけ飛ばした。

 

「そんな!?」

 

 レンは魔物の攻撃の受け流し方に驚いていると、吹き飛ばされた魔物は体を丸くして転がり、体勢を取り直した。

 

「ウホ!」

 

「ウホ」

 

 すると、魔物同士が顔を合わせて何か話している様だった。

 

「シン、この魔物達は運動神経がとても良いのかもしれない。」

 

「ああ、見ていてそう思った。こいつら今までの魔物とは少し違うな。」

 

「うん。」

 

 二人は二匹の魔物との戦闘の中で今までの魔物とは少し違うという事を感じていた。

 

次回、魔物のプライド

 



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第66話 魔物のプライド

 二人がゴリラの魔物の動きを見て話しをしていると、ゴリラの魔物の方も話し終わった様で二人の方を向いていた。

 

「ウホ」

 

「ウホホ」

 

 すると、魔物は横に並び、二人に向かって一緒に走ってきた。

 

「俺がサニアで攻撃してみる。それで、こいつらがどう動くか見てみよう。」

 

「分かった。」

 

 二人は話を終えると、シンが魔物に向かってサニアを薙ぎ払った。魔物達はそれを見て、器用に空中に飛んで回転しながら躱した。

 

「だめか……」

 

「クア!」

 

 シンが魔物達に苦戦していると、イタチの魔物が前に出て体に電気を帯びていた。そして、次の瞬間、イタチの魔物は自分の体から電気をゴリラの魔物に向けて放った。

 

「ウホ〜〜」

 

 すると、一方の魔物が体を丸くして盾になり、もう片方の魔物がその後ろに隠れて電撃を防いだ。

 

「ウホホ?」

 

「ウホ!」

 

 後ろに隠れたいた魔物が盾になった魔物に話しかけると、盾になっていた魔物は元気そうに返事をして、また筋肉を見せる様な変なポーズを決めていた。

 

「クア!クア!クア!」

 

 その様子を見ていたイタチの魔物が自分の電気が効かなかった事に腹を立てているのか、何かを猛烈に訴えていた。

 

「ウホ」

 

「ウホホ」

 

 すると、腹を立てていたイタチの魔物の様子を見たゴリラの魔物が体全身を使って左右に動き、まるで馬鹿にしているかの様な態度をとっていた。

 

「ク、クア〜……」

 

 そんな魔物の挑発にイタチの魔物が体を震わせて、如何にも苛立っているのを露わにしていた。そして、体を震わせているイタチの魔物は全身から電気が溢れ出るかの様に放電していると、次の瞬間、電気を空に向かって放った。その威力は絶大で辺りが青白く染まるほどだった。

 

「ウホ!」

 

「ウホホ!」

 

 すると、その電気を見ていた魔物が手を頭に覆うように被せて姿勢を低くしていた。

 

「今の凄いな。」

 

「この子はどれだけ強いんだろう。」

 

「クア〜!」

 

 二人はイタチの魔物が放った電気を見てそんな事を思っていると、当の本人が空に向かって鳴いた。すると、何も無かった筈の空に青白い光りと共にゴロゴロという音が聞こえた。そして、次の瞬間、空にあった青白い光りが広がり、ゴロゴロという音と共に雷になって全ての方向に向かって広がり消えていった。

 

「何がどうなってるんだ!?」

 

「分かんない。」

 

 二人は余りにも強い青白い光りと音に、視界と音を遮断させられていたが、少しして元通りになった。そして、二人が目を開けると、そこには彼方此方に雷が落ちた後があり、所々で燃えている木さえあった。

 

「完全にやり過ぎだろこれ!」

 

「クア!」

 

 周りの様子を見たシンがイタチの魔物に対してそう言うと、雷を起こした元凶の本人は特に反省した様子もなく堂々としていた。

 

「ウホ!」

 

「ウホホ!」

 

 そんな事を話していると、ゴリラの魔物がイタチの魔物に近づき、何かを訴えるかの様に手の平を上に向けて話し掛けてきた。

 

「クア!」

 

「ウホ?」

 

「ウホホ」

 

「何を話してるんだ?」

 

「さあ〜?」

 

 何か話しをしている魔物同士の様子を見て二人はただただ見守っていた。

 

「クアッ」

 

「ウホ〜」

 

「ウホホ〜」

 

 すると、話しをしていた筈のイタチの魔物がプイッとそっぽを向き、それを見ていたゴリラの魔物が何かを訴えるかの様にしていた。それから暫くゴリラの魔物は顔を合わせて何かを話し合っていた。そして、話し合いが終わったのか、二人の方を向くと、頭を下げて森の中へ帰って行った。

 

「一体、何があったんだ?」

 

「取り敢えず、ひと段落ついたんじゃない……?」

 

「クア。」

 

 二人が魔物達の様子を見て話していると、イタチの魔物はいつもの様にレンの肩に乗った。

 

「これからどっちに進めば良いんだ?」

 

「クア!」

 

 シンがそう言うと、魔物が頭を動かして教えている様だった。

 

「こっちに行けばいいの?」

 

「クア。」

 

 レンが魔物に聞くとコクリと頷いた。それから二人は魔物が教えてくれた通りに進んだ。暫く歩くと、森を抜けた。そして、森を抜けた先には緑の草原が広がっていた。

 

「今度は草原か。」

 

「シン、あれって……」

 

「ん?」

 

 シンはレンの指差した方を向いた。すると、そこには草原の中に翠色の石で出来たちょっとした休憩場の様な建物がポツンとあった。

 

「あれは?」

 

「行ってみよう。」

 

「ああ。」

 

 二人は草原にポツンとある場違いな建物に向かった。建物の近くまで行くと、そこには翠色の台座の上に翠色の宝箱が置かれていた。

 

「これって……」

 

「ダンジョンの最終目的地の宝箱がある空間と似てるな。」

 

 二人は建物に着いてそんな事を言った。二人は今までのダンジョンとは違う形式に、ここがダンジョンの最終目的地なの不安だった。だが、二人が不安に思っていると、それを察したかの様に台座の後ろが光った。

 

次回、青髮の女の子

 



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第67話 青髮の女の子

「お久しぶりですね。」

 

「ああ。」

 

 台座の後ろが光ると、フロリアがいつもの調子で挨拶をしてきたのでシンは簡単に返事を返した。

 

「あら?」

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、懐かしい顔が居ると思いまして。」

 

「何の事だ?」

 

「いえいえ。何でもないです。」

 

 フロリアが何かに気づいた様な反応をしていたのでシンが気になって聞くと、フロリアは返事を渋った。

 

「実はフロリアに聞きたいことがあるの。」

 

「何でしょう?この間話していたグラートなる者の件ですか?」

 

 レンがフロリアにそう言うと、フロリアは前回会った時に話したグラートの事を話しに出した。

 

「いいえ。グラートとはリネオスで無事に会えたから大丈夫です。」

 

「そうでしたか。それは良かったではありませんか。では、聞きたい事とは何でしょうか?」

 

 レンの話を聞いたフロリアが本当にそう思っているのか分からない返事をして聞いてきた。

 

「むぅ……、今私たちはオルターベルンという町にいたという青髮の女の子を探しているんです。それで、目撃者の話によるとその女の子はこのダンジョンの方角に向かってオルターベルンから出たと言っていたんですけど、何かその青髮の女の子について何か知っている事はありませんか?」

 

 レンはフロリアのそっけない返事に目を細めて不満そうにしていたが、いつもの調子に戻り、フロリアに聞きたかった謎の青髮の女の子の事について聞いた。

 

「青髮の女の子ですか?確か……、ふふふ……そういう事ですか……」

 

「ちょっと!真剣に聞いてるんんですけど!?」

 

 レンの話しを聞いたフロリアが何かを思い出していた様だった。フロリアが少し考えていると、何かを思い出したのか、嘲笑にも似た笑い方をすると、自分だけ解決して納得している様だった。そんなフロリアの反応にレンは少し怒った口調で言った。

 

「ごめんなさい。何というか、あなた達はついているのかいないのか、どっちなんでしょうね?」

 

「どういう意味だ?」

 

 フロリアの言葉を聞いたシンが疑問に思って聞いた。

 

「青髮の女の子ですよね?あなた達の話を聞いただけでは同じ人物とは限りませんが、場所的に同一人物でしょうね。」

 

「何か知っているんですね?」

 

 フロリアが何か意味深な言い方をすると、それを聞いたレンが真剣な表情でフロリアに聞いた。

 

「ええ。何も言わなかったのね。でも、あなた達も知っているはずですよ?」

 

「ん?」

 

 フロリアは自己解決すると、二人に対してそんな事を言ってきた。二人はそんなフロリアに不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「青髮の女の子とは恐らく、あなたの肩に乗っているその魔物の事だと思いますよ。」

 

「あなたの肩って……、この子の事ですか!?」

 

「クア。」

 

「どういう事だ!?」

 

 フロリアの話を聞いた二人は驚きを隠せずにいた。

 

「もう数十年も前になりますかね。私はいつもの様にダンジョンを攻略した者の元に現れた時のことです。そこにはあなた達と同じぐらいの歳の女の子と魔物が一緒に居たのです。それを見た私が珍しいと思っていると、その魔物は姿を変えて人間の姿へと変化したのです。そして、その時の魔物のこそ、あなたの肩に乗っているその魔物です。」

 

「この子が?」

 

「クア。」

 

 フロリアの話を聞いたレンが魔物の方を見て不思議そうにしていた。すると、魔物はレンの肩から下りた。そして、次の瞬間、魔物の首元に付けていたネックレスの紫色のハートのアクセサリーが紫色に光り出すと、辺りはその光りに染まった。

 

「何だ!?」

 

 シンもレンも突然の紫色の光りに両手で目を隠した。そして、光が収まり、二人が目を開けると、さっきまで魔物のいた場所に、髪色が空の様な明るい青色で、毛先がパーマにかかった様にふわっとしている髪の毛が胸ぐらいの位置まであるロングヘアーの女の子が立っていた。身長は百五十センチぐらいで、身長の割に大きな胸をしている為か、レンに引けをとらないぐらいスタイルの良い体をしていた。瞳は髪色よりも濃い青をしていて、丸みを帯びた優しそうな目をしている。服装は白のキャミソールワンピースを着ていて、首元からは魔物の姿の時にも付けていた紫色のハートのアクセサリーの付いたネックレスを付けていた。

 

「もぉ〜、せっかく変身して驚かせようと思ったのに〜、フロリアひど〜い!」

 

「これは一体、どうなっているんだ……?」

 

「……分かんない……」

 

 子供の様な無邪気な声で話す女の子の様子を見て二人は戸惑っていた。

 

「私は聞かれた事に応えただけです。」

 

「もぉ〜〜」

 

 フロリアの話しを聞いた女の子が頰をぷくっと膨らませて不服そうに言った。

 

「まっ、もう良いけどね。私はレイリライトクール・ウィーズル・サレサって言うの!よろしくお願いします!」

 

「は、はいっ!よろしくお願いします。」

 

「お、おう。」

 

 サレサと名乗る女の子が丁寧に元気よく挨拶すると、それを聞いた二人は面を食らっていた。

 

「ところで二人のお名前は?」

 

「俺はシンだ。」

 

「私はレンよ。よろしくね。」

 

「シンお兄ちゃんに、レンお姉ちゃんね?よろしく!」

 

 サレサの質問に二人が答えると、サレサは名前を聞いて満足そうな笑顔で言った。

 

次回、ニールの行方とオリフレットシーフの能力

 



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第68話 ニールの行方とオリフレットシーフの能力

「ところで二人は何で私を捜してたの?」

 

「それは、今私たちは赤髪のニールって人を捜してるんだけど、オルターベルンでそれらしき人物が居たっていうのが分かったの。それで色々兵士の人から話しを聞いたら、そのニールらしき人物と謎の青髮の女の子が何か話しをしていたっていう事が分かったの。でも、それからニールがどこに行ったか分からなかったから、行き先を知っているかもしれないその謎の青髮の女の子に話しを聞こうと思って、その女の子が向かったかもしれないこのダンジョンまで来たの。」

 

「へぇ〜」

 

 サレサの質問にレンが答えると、レンの話しを聞いたサレサが驚いたといった顔をしていた。

 

「何か知っている事はないか?」

 

「赤髪か〜……」

 

 シンの問いにサレサが難しい顔をして思い出している様だった。

 

「……あっ!思い出した!」

 

「本当か!?」

 

 サレサがそう言うと、シンが真剣な感じで聞いた。

 

「うん。少し前にオルターベルンに寄った時にあった人が確か赤髪だった気がする。」

 

「じゃあ、本当に……」

 

 サレサの話しを聞いたシンが複雑そうな顔をしていた。

 

「その時の事をもう少し詳しく聞かせて?」

 

「うん!えっとね〜、確かあの時は私がオルターベルンの町にたまたま寄った時だったんだけど、その日はもう辺りは真っ暗で人もあんまり歩いていない時間だった気がする。私が町を歩いていると、前から赤髪の男の人が歩いてきたの。それで、私とすれ違うぐらいまで近づいたら、その赤髪の男の人が私に話しかけてきたの。」

 

「なんて話しかけてきたの?」

 

「うんとね〜、トレミアムっていう町までの行き方を聞かれたの。」

 

「トレミアム?何処だ?」

 

「トレミアムは確かここからずっと南西に行ったところにある町の筈よ。」

 

「そのトレミアムっていう町までどれぐらいあるんだ?」

 

「分からない。」

 

「分からない?何でだ?」

 

 レンの話を聞いたシンが不思議に思って聞いた。

 

「確かトレミアムって砂漠の真ん中ら辺にある町だった気がする。だから、馬は使えないの。それに加えて、足場も砂で悪いからどうして時間が掛かるのよ。」

 

「そう言う事か……」

 

 レンの話しを聞いたシンが難しい顔をしていた。

 

「それでね!私はそのトレミアムって町が何処なのか分からなかったから『分からないです。』って言ったの。そしたらいきなり腰に下げていた剣を抜いて、私に振り下ろしてきたからびっくりしてつい、電気で攻撃しちゃったの。そしたら、その赤髪の男の人に電気が当たって何も言わずにさささって居なくなっちゃったの。」

 

「兵士から聞いた話しとほとんど一緒だな。」

 

「うん。この子が私たちの捜してた青髮の女の子みたいね。」

 

 サレサの話を聞いた二人は謎の女の子の正体がサレサだというを確信した。

 

「ところで、何で二人はそのニールって人を捜してるの?」

 

「それは……」

 

 サレサは首を横にしながら二人に聞いてきた。レンはサレサの質問を聞いて、シンの事が気になって言葉を詰まらせた。

 

「ニールってのは俺の兄さんだ。」

 

「へぇ〜」

 

 シンの話しを聞いたサレサが関心した感じの返事をした。

 

「そして、殺人を犯した人物でもある。」

 

「あの人、そんな怖い人だったの?」

 

 シンの話しを聞いたサレサは困った顔をしていた。

 

「昔はあんなんじゃ無かった。突然変わっちまった。」

 

「そうなんだ。詳し事は分からないけど、確かにシンお兄ちゃんに似て優しそうな目をしてた様な気がするよ。」

 

「……そうか。」

 

 シンの話しを聞いたサレサがそう言うと、シンは思いつめた顔をしていた。それを見ていたレンも悲しげな顔をしていた。

 

「二人とも!そんな顔しないでよ?これからそのニールって人を止めてあげれば良いじゃん。だから、元気出して?」

 

「お前……」

 

「……そうね。ここでグズグズしてても仕方ないしね。」

 

「……そうだな……」

 

 サレサの言葉を聞いたレンが元気を取り戻して笑顔でそう言った。シンもレンに倣って微笑んで言った。そして、それを見ていたサレサも嬉しかったのか笑顔でいた。

 

「話しはひと段落つきましたか?」

 

「ああ。」

 

「それでは、神器をお渡しします。宝箱をお開け下さい。」

 

「神器か……、そういえば、結局、このオリフレットシーフだかの使い方が分からなかったな……」

 

「あ〜!その手袋〜!」

 

 フロリアから神器と言う言葉を聞いたシンが思い出す様に手に履いている神器を見ながら言った。すると、シンの様子を見たサレサが指を指しながら言った。

 

「どうした?」

 

「その手袋に触れたら体から力が抜けていったの。だから私驚いちゃって電気を放っちゃった。ごめんね?。」

 

「あの時か……」

 

 シンはサレサの話しを聞いて、さっき魔物の状態のサレサに触れた時に電気を食らった時の事を思い出した。

 

「別に何とも思ってない。というか、力が抜けたってどういう事だ?」

 

「なんかね、こう〜、そのシンお兄ちゃんの履いている手袋に力が吸い取られる様な感じ?」

 

 シンがサレサの言った事を聞くと、サレサが体全体で一生懸命表現しながら言った。

 

「う〜ん、この神器の能力に何か関係するのか?」

 

 シンはサレサの言った事が今一理解出来なかった。

 

「もしかしたら、誰かに触ったら発動する神器なのかも。」

 

「そうなのかもしれないな。本当はここに居る本人から聞きたいところだけどな?」

 

 シンはそう言いながらフロリアの方を見た。

 

「ふふ、ごめんなさいね。自分たちでその神器の使い方を試して下さいね。」

 

「まあ、そう言うと思ったけどな……」

 

 フロリアがそう言うと、シンは呆れた様に言った。

 

「取り敢えず、神器を貰うか。どうする?今回はレンが貰うか?」

 

「う〜ん、そうね。私が貰ってるおこうかな。」

 

 シンがレンに神器をどうするか聞くと、レンは迷いはしたものの神器を貰う事にした。そして、レンは翠色の宝箱を開けた。

 

次回、五つ目の神器

 



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第69話 五つ目の神器

「これは、本?」

 

 レンが開けた翠色の宝箱には濃い青色の表紙をした無地の本が中に入っていた。そして、レンはその本を手に取って開いてみた。

 

「その神器は収留、フィニットブックと言います。それでは、また何処かで会いましょう。」

 

 フロリアはそう言うと、光りと共に居なくなった。

 

「相変わらずだな。それで、その本には何が書かれてたんだ?」

 

「それが……」

 

 シンがレンに本に何が書かれてたか聞くと、レンは言葉を詰まらせて戸惑っている様だった。

 

「どうかしたのか?」

 

「うん。この本、何も書かれた無いの。」

 

「本なのにか?」

 

 レンの話しを聞いたシンが不思議に思い、困惑した表情を浮かべていた。そして、シンはレンに近づいて本の中を確認してみた。すると、本には何も書かれていなかった。レンが試しに他のページも見てみたが、どのページに何も書かれていなかった。

 

「本当に何も書いてないな。」

 

「うん。今度、この神器の使い方を色々試してみないとね。」

 

「そうだな。」

 

「これからどうするの?」

 

 二人が神器について話しをしていると、サレサが二人に近づいて首を傾げて聞いてきた。

 

「そうね。取り敢えず、上に待っている兵士のところまで戻らないと。」

 

「ふ〜ん。ねぇねぇ!二人について行っても良い?」

 

 レンの話しを聞いたサレサが目をキラキラさせて上目遣いで聞いてきた。

 

「うん!良いよ〜」

 

 サレサの様子を見ていたレンが心を打たれたのか、笑顔で頭を撫でながら了承していた。

 

「おい、そんな簡単に了承して大丈夫なのか?」

 

「シンお兄ちゃんはダメなの?」

 

「う……」

 

 簡単に了承したレンを見てシンが渋い顔をしていると、サレサが目をうるっとさせながら首を傾げて聞いてきた。シンは目に小粒の涙を浮かべているサレサに罪悪感を感じていた。

 

「分かったよ。じゃあ、これからは三人旅だな。」

 

「うん!」

 

 シンは仕方がないといった感じで了承したが、サレサは満面の笑みを浮かべていた。それから三人はこのダンジョンから出る為にさっき通ってきた森まで戻っていた。

 

「そういえば、どうしてサレサはこのダンジョンに来たんだ?」

 

「うんとね。お腹が空いたからダンジョンの魔物を食べようと思って。」

 

「え……?」

 

 シンの質問にサレサが答えると、その理由にシンが若干引きながら反応した。

 

「オルターベルンに寄ったのもお腹が空いたから寄ったんだけど、よくよく考えたら私、お金持ってなかったんだよね……」

 

「お、おう。そうか……」

 

 シンはサレサの話しを聞いて、サレサがどこか抜けている天然だという事が分かった。それからも三人は森の中を歩いていた。すると、三人が歩いてる先の木がガサガサと音を立てて揺れていた。

 

「なんだろう?」

 

 木の様子を見ていたレンがそう言うと、その揺れている木からさっき逃げていったゴリラの魔物が二匹現れた。

 

「ウホ」

 

「ウホホ」

 

「あれ?あなた達どうしたの?」

 

 魔物を見たサレサが不思議そうにして話し掛けた。

 

「ウホ」

 

「ウホホ」

 

「ああ〜もう、怒ってないから良いよ。」

 

 魔物の話しを聞いたサレサが笑顔でそう言った。

 

「サレサは魔物の言葉が分かるの?」

 

「うん。でも、分からない魔物もいるんだけどね。この子達は頭が良いから話しやすいんだ。」

 

「へ〜」

 

 レンの質問にサレサが答えると、シンとレンが関心していた。

 

「ウホ」

 

「ウホホ」

 

「そうなんだ。ありがとう!元気でね。」

 

 サレサが笑顔でそう言うと、ゴリラの魔物が森中に帰って行った。

 

「なんて言ってたんだ?」

 

「うんとね。遊びたかっただけなんだ。色々と迷惑かけて悪かったって。」

 

「へ〜、そんな事言ってたのか。」

 

 サレサの話しを聞いたシンが関心していた。それから三人は森を抜けて翠色の壁の道まで戻ってきた。

 

「ここまで戻ってきたな。」

 

「うん。後は来た道を戻るだけだね。」

 

「じゃあ、私はこの姿から変身して魔物姿になるね。」

 

「そういえば、どうして魔物の姿になるんだ?」

 

「うんとね。魔物の姿にならないと力を全力で発揮出来ないの。だから、もしもの時のためにダンジョンでは魔物の姿でいる事にしてるんだ。」

 

「へ〜」

 

「でも、魔物の姿になると、話す事が出来なくなるから会話が出来ないのが残念だけど……」

 

「大丈夫よ。」

 

 シンの質問に答えていたサレサが残念そうな顔をして言った。そんなサレサを見て、レンがサレサの頭を撫でながら言った。

 

「うん!」

 

 レンに頭を撫でられたサレサが嬉しそうな顔をしていると、サレサは二人から少し離れた。すると、首元に付けていた紫色のハートのアクセサリーの付いたペンダントが紫色に光り出した。その光りは辺りをその色に染めると、サレサの居たところに魔物の姿に変身したサレサが居た。

 

「クア!」

 

 すると、サレサはいつものようにレンの肩に乗り、レンの頰に自分の顔をくっつけてすりすりしていた。

 

「擽ったいよ。」

 

 レンはサレサにすりすりされると笑顔で言った。シンはその微笑ましい姿を見てなんだか安心した。

 

次回、旅に出る前日

 



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第70話 旅に出る前日

 シン達は来た道を戻り、ダンジョンをもう少しで出られるところまで来ていた。

 

「やっとここまで来たな。」

 

「うん。」

 

 二人が外に出ると、辺りは月明かりに照らされて薄暗い夜になっていた。下の方を見ると兵士が三人、警備をしながら待っていた。

 

「おお、シン様にレン様!」

 

 ダンジョンから帰ってきたシンとレンに一人の兵士が気づくと、他の兵士もその声に気づいて二人の事を見ていた。そして、二人が階段を下りると、そこに兵士達が近づいてきた。

 

「ご無事でしたか!」

 

「ああ、待たせて悪かったな。」

 

「いえいえ。ところでどうでした?」

 

「ああ、どうやら兄さんはトレミアムっていう町に向かったと思う。」

 

「トレミアムですか……、少し遠いですね……」

 

 シンの言葉を聞いた兵士が難しそうな顔をしていた。

 

「それはそうと、レン様の肩に乗っているその魔物は一体?」

 

「この子はサレサ。オルターベルンにいた青髮の女の子の正体です。」

 

「この魔物が?!」

 

 兵士の質問にレンが答えると、兵士が驚いた顔をして言った。

 

「クア!」

 

 すると、レンの肩からサレサが下りて、首元のアクセサリーが紫色に光り、変身して人間の姿になった。

 

「これは?!」

 

「驚いた……」

 

 サレサの姿を見た兵士達が驚いていた。

 

「私はサレサ!よろしくお願いします。」

 

「はあ……」

 

 サレサが軽い自己紹介をして、頭を軽く下げて丁寧に挨拶すると、その様子を見ていた兵士が呆気にとられていた。

 

「と、取り敢えず、オルターベルンまで戻りましょう。」

 

「そうだな。」

 

 こうして、シン達はオルターベルンに向かって馬車を走らせた。

 

「おお〜、早〜い。」

 

「落ちないでね?」

 

「は〜い」

 

 馬車に乗っていると、サレサに馬車から落ちそうなぐらい体を乗り出して外を見ていたので、レンが心配してサレサに言った。

 

「ところで、これからシン様たちはどうなさるおつもりですか?」

 

「う〜ん、兄さんがトレミアムっていう町に向かったっていうのが分かった以上、後を追ってトレミアムまで行こうと思う。」

 

 兵士の質問にシンが真剣な面持ちで言った。

 

「そうですか。我々は一度、リネオスに戻ってこの事を伝えに行こうと思っています。シン様達も一緒にリネオスまで戻ってからトレミアムまで向かいますか?」

 

「いや……、オルターベルンに戻ったらトレミアムの近くまで行ける馬車でも見つけて、それに乗って行こうと思う。」

 

「そうですか。では、我々で馬車の手配をしておきます。今日はもう遅いので、最短で明日の朝になるのでそのつもりでいてください。」

 

「ああ。悪いな。」

 

「いえいえ。」

 

 それから、暫く馬車を走らせると、オルターベルンに着いた。

 

「それでは、我々今まであった事を町に残っていた兵士に伝えるので、先に宿に行ってお休み下さい。」

 

「ありがとうございます。」

 

「それでは私たちはこれで。」

 

 兵士はそう言うと、シン達から離れて町の中に向かって行った。

 

「それじゃあ、俺たちは宿に行くか。」

 

「うん。」

 

 それからシン達は宿に向かった。そして、宿に着くと部屋に入って荷物を置いた。部屋にはベッドが二つにあり、テーブルとイスがある何処にでもある部屋だった。

 

「早く休みたいけど、お腹減ったな。」

 

「私もお腹空いた〜」

 

「じゃあ、ご飯食べよっか。」

 

 シンが言ったことにサレサも同調すると、そんな二人を見たレンが微笑んで言った。それから宿にある食堂でご飯を頼んで待っていると、少ししてご飯がきた。

 

「やった〜、ご飯だ〜」

 

「いただきます。」

 

 ご飯を見たサレサが嬉しそうにしていると、レンがそう言ってみんながご飯を食べ始めた。すると、サレサが余程お腹が空いていたのか、ずっと何も食べていない子供の様にむしゃむしゃとご飯を頬張っていた。

 

「そんなにお腹空いてたの?」

 

「うん!」

 

「もう少し落ち着いて食えよ?」

 

 レンがサレサに聞くと、サレサはご飯が食べれて満足そうに笑顔で言った。そんなサレサを見て、シンが呆れた感じで言った。この時、シンとレンは後にサレサの食欲に頭を悩ませるとは思ってもいなかった。それからご飯を食べ終わったシン達は自分達の部屋に戻った。

 

「サレサは私と一緒に寝よっか。」

 

「うん!」

 

 レンがそう言うと、サレサは嬉しそうにしていた。

 

「じゃあ、今日は疲れたし、寝るとするか。」

 

「うん、お休み。」

 

「お休みなさい。」

 

 三人はこうしてベットに入って、その日は眠りに就いた。

 

次回、三人旅の始まり

 



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第71話 三人旅の始まり

「ん〜〜」

 

 次の日の朝、シンは目が醒めると体を伸ばして欠伸をした。そして、目を擦りながらふと横を見ると、布団を覆って寝ているレンの左腕にサレサが抱き付いて気持ち良さそうに寝ていた。

 

「何だか親子みたいだな。」

 

 シンはそんな様子を見て思わず微笑みながら言った。

 

「ん〜、おはよう、シン。」

 

「ああ、おはよう。」

 

 体を伸ばして眠たそうにして言ってくるレンにシンは返事をした。

 

「にゃむ、にゃむ。もう、食べられない……」

 

「サレサは夢の中でもご飯を食べてるんだね。」

 

「全く、食いしん坊な奴だな。」

 

 寝言でそんな事を言ったサレサを見て、シンとレンは微笑みながら言った。

 

「顔を洗ったら朝ごはんにするか。」

 

「うん。サレサ、朝よ、起きて。」

 

 レンがシンに返事をすると、寝ていたサレサの体を揺さぶって起こそうとしていた。

 

「う〜ん……、あと少しだけ〜……」

 

「え〜、ちょっと、サレサ?起きなさい。」

 

 サレサが布団に包まって更に寝ようとすると、レンがサレサの布団を剥ぎ取った。

 

「うう……」

 

 すると、布団を取られたサレサが寒そうにして体を丸く縮めていた。そして、布団を取られた事に気付いたのか、体を起こして眠そうに目を擦りながら起きた。

 

「はぁ〜、おはよ〜う。」

 

「おはよう。」

 

「おはよう、良く寝てたな。」

 

「うん!」

 

 起きて挨拶をしてきたサレサに二人が返事を返すと、サレサは元気良く笑顔で返事をした。それから、三人は身支度をして、宿で朝食を摂っていた。

 

「にして、昨日といい、サレサはよく食べるな?」

 

「うん!」

 

 シンはサレサのご飯をむしゃむしゃと食べている様子を見て呆れた感じで言うと、当の本人は何も気にしていない様子で元気に返事をした。すると、町へと続く宿のドアが開いた。そして、中にリネオス兵士が入ってきた。

 

「ここに居ましたか。」

 

「おお、それでどうだった?」

 

「はい。トレミアムまでは砂漠があるので、馬車で行けるのは砂漠の近くにあるドーラという町までだそうです。」

 

「そうか。分かった。準備が出来たら直ぐにそっちに向かう。」

 

「はい。では、オルターベルンに入って来た時の入り口でお待ちしています。」

 

「悪いな。」

 

「いえ、それでは。」

 

 そう言って、兵士が宿から出て行った。

 

「ドーラか。どんな町なんだろう。」

 

「行ってみれば分かるよ!」

 

「ふふ、そうね。」

 

 シンの言った事にサレサが元気に言うと、レンがサレサの様子を見て笑いながら笑顔で言った。

 それから三人は部屋に戻って荷物を持つと、宿を後にした。そして、三人は兵士が言っていた場所まで歩くと、そこにはドーラ行きの馬車と兵士たちが居た。

 

「待たせたな。」

 

「お待ちしておりました。こちらの馬車です。」

 

「悪いな、何から何まで任せちまって。」

 

「いえいえ、我々はこれからリネオスに戻って、この町であった事を伝えに行きますが、これから先は何があるか分かりません。ドーラまでは一週間ほどかかるらしいのでお気をつけ下さい。」

 

「ああ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ありがとう!」

 

 親切にしてくれた兵士に三人がお礼を言った。それから、三人はドーラ行きの馬車に乗り込んだ。

 

「王様たちによろしく伝えてくれ。」

 

「はい。それでは我々もリネオスに向けて準備を進めますのでこれで。」

 

「ああ、世話になったな。」

 

 こうして、シンとレンはサレサが新たな仲間になり、オルターベルンを出発して、トレミアムに向かう為に、まずドーラへと向かった。

 

次回、今までの冒険

 



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第72話 今までの冒険

 オルターベルンを出発してから一日が経ち、オルターベルンの周りに咲いていた色鮮やかな花々から、緑色の木しかない単調な景色が広がっていた。

 

「ねぇねぇ、シンお兄ちゃんとレンお姉ちゃんはいつから一緒に旅をしているの?」

 

「う〜んと〜、どれぐらいだろう?」

 

「なんだかんだ、もう結構な時間、一緒に旅してるよな。」

 

「うん。」

 

「へぇ〜、そうなんだ。二人はどんな旅をしてきたの?」

 

「どんな旅か……」

 

 サレサの質問にシンが今までの旅を思い返すように言った。

 

「簡単に説明すると、レンと初めて会ってからは、まず王都リネオスに行って、国の方針を良く思わない反乱勢力の暴動を止めたって事かな。それからは、レンにはレイナっていう妹がいるんだけど、不治の病に罹っててな。それを治すためにダンジョンを攻略したり、色々不治の病を治す方法を探してみたんだけど、中々上手くいかなくてな。それから、俺たちは治す方法が分からなかったけど、レンの故郷のエルナって村に戻る事になったんだ。」

 

「へぇ〜、それで、それで。」

 

 シンの話しにサレサが興味津津に聞いてきた。

 

「それから、色々あったけど、俺たちは無事にエルナ村に着いた。そして、レイナに会うと、そこには今にも死んでしまいそうな程弱っているレイナがベッドに横たわってたんだ。レイナに会うことは出来たけど、何も出来ない現状に遣る瀬無さを感じていると、レイナがゆっくりと目を閉じた。」

 

「ええ〜、それじゃあ、レンお姉ちゃんの妹は……」

 

「ううん。それがね、」

 

 シンの話しを聞いたサレサが悲しそうな顔をして言うと、レンがそんなサレサを見て話し始めた。すると、レンの言葉を聞いたサレサがレンの方を向いた。

 

「ダンジョンを攻略した時に手に入れた神器が死んだ人間を蘇らせる能力だったの。だから、レイナは今も元気にしているはずよ。」

 

「そうなんだ。良かった〜」

 

 レンの話しを聞いたサレサが安堵の表情を浮かべていた。

 

「それから、今度は旅に出たレンを連れ戻すために村を出たグラートって奴を探す為に、色々なところを旅したんだ。そして、リネオスでやっとグラートに会う事が出来てひと段落ついたんだけど、今度は今も探している俺の兄のニールを追って、旅をしているって訳だ。」

 

「へぇ〜、なんか聞いただけでも色んなところを旅してるんだね。」

 

 二人の今までの旅をの内容を聞いたサレサが関心したように言った。

 

「そうね、思い返せば色々な事があったな〜。」

 

「また今度、二人の旅の話しをゆっくり聞かせてよ。」

 

「うん。」

 

 サレサのお願いにレンが快く返事をした。

 

「そういうサレサはどんな旅をしてたんだ?」

 

「私?う〜ん、ここ数十年は特に何も無かったかな〜」

 

 シンの問いにサレサは頭を悩ませながらも答えた。

 

「規模が凄いな……」

 

「でも、昔、女の子と一緒に少しだけ旅をした事があったの。」

 

「へぇ〜」

 

 サレサの話しを聞いたシンが意外といった顔をして言った。

 

「その女の子は銀髪のショートヘアーに、目は綺麗な紫色をして、年齢はレンお姉ちゃんと同じぐらいだったんだけど、私が立つのも儘ならぐらいの怪我をして森の中で倒れていた時に、たまたまその女の子が通りかかったの。それでその女の子は私を見ると、手当てをしてくれてね。それから、怪我が治るまで私の看病をしてくれたの。だから、私は怪我が治ると、その女の子に看病してくれたお礼がしたくて、暫く一緒に旅をする事にしたの。それで、その旅の中で、たまたま手に入ったのがこのペンダントなんだけど、魔具っていう物らしくて、人になれる代わりに力が最大限、発揮出来ないっていう能力なんだけど、今は結構、使ってるから気に入ってるんだ〜。」

 

「へぇ〜、それ魔具だったのか。」

 

 サレサの話しを聞いたシンが、サレサの首につけていたペンダントが魔具だと知って関心していた。

 

「それでその女の子とは結局どうなったの?」

 

「うんとね、ダンジョンも一緒に攻略したりとか、色んな町にもを行ったりしたんだけど、暫く一緒に旅をしたある日、女の子が故郷に帰らなくちゃいけないって言われて、本当はもっと一緒に旅をしたかったんだけど、仕方がなく別れる事になったの。それから、一度も会ってないけど、もう何十年も前の話だから、多分、もうその女の子は死んじゃってるかも。」

 

「そっか……、そんな事があったんだね。その女の子の名前は知らないの?」

 

「フラージュって言うの。」

 

「名前を知ってるんだったら、会いに行けたんじゃないの?」

 

「うん……、多分、捜そうと思えば捜せたと思う。でも、会いに行って良いのか、とかを考えているうちに、なんだか会いに行きづらくなっちゃって……」

 

「そっか……」

 

 サレサの話しを聞いたレンが考えた表情をして言った。

 

「でも、また会えるなら会いたいな。」

 

「そうね。」

 

 三人はドーラに向かう馬車の中で過去の話しをした。

 

次回、集結?

 



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第73話 集結?

 シン達がオルターベルンを出発してから三日が経った頃、シン達と行動を共にした兵士達がリネオスに着き、オルターベルンであった事を王様であるエルフォードに伝えていた。

 

「うむ。では、ニールはトレミアムに向かっているという事か……」

 

「はい。いかがなさいますか?」

 

「どうしたものかの……、本来であれば直ぐにでも兵を出したいところだが……」

 

「何か気になる事でもあるのですか?」

 

「うむ。どうやら、七つの罪人が集結しつつあるという情報が入ってきてな。何をやらかすか分からん連中だ。最大限の注意をしなければならん。」

 

「あの七つの罪人が?!」

 

 王様の話しを聞いた兵士が驚いた表情で聞いた。すると、階段からエルフィンがやってきた。

 

「父上、ノズル周辺で七つの罪人と思われる者が数名、確認されたとの事です。」

 

「うん……、そうか、分かった。」

 

 エルフィンの話しを聞いたエルフォードが考え込んだ表情をして言った。

 

「ニールの件は今出ている兵士が戻り、準備が整い次第、トレミアムに向けて出発すると伝えておけ。それまでは城で待機せよ。」

 

「はっ!」

 

 そう言うと、兵士は王の間から出ていった。

 

「父上、七つの罪人の件ですが、如何なさいますか?」

 

「うむ……、七つの罪人は全員が神器を持っていると聞く。下手に兵士を出しても、無駄死にさせてしまうだけだ。一筋縄では行かないだろう。」

 

「ですが、これ以上の被害を抑える為にもいつかは対処しなければならない事です。」

 

「分かっておる。前回の世界会議もほとんど七つの大罪の事で持ち切りだったからな。……神器を持っている者達に集まってもらうのが良いのかもしれんな。」

 

 こうして、エルフォードは七つの大罪に対抗する為、色々と思考を巡らせていた。

 

 一方で、ノズル周辺にある森のとある一軒家。辺りは緑の木に囲まれていて、人が誰も行き来しない隠れ家のような家の中に、世界の誰もが一度は聞いた事のある犯罪集団、七つの罪人のメンバーが三人居た。

 

「全く、あいつらどこで何をやってんだ!?」

 

 四十歳を超えてるであろうワイルドなおじさんの声が家中に響いていた。

 

「煩いわね?もう少し、静かに出来ないの?」

 

 その大きな声を聞いて、三十歳ぐらいのお姉さんの声で鬱陶しそうに発せられた。

 

「あいつらがいつまで経ってもこねぇのが悪いだろ〜?」

 

「それはそうだけど、もう少し静かにしなさいよ!全く……、レイオーネもなんか言ってやってよ。」

 

「……」

 

 二人の会話を聞いてたサーシャは顔色一つ変えず、特に何も言わなかった。

 

「もう!釣れないわね。」

 

「まあ、良いじゃね〜か、そいつはそういう奴なんだ。」

 

「分かってるわよ。もう随分と一緒にやってるんだから。」

 

「それもそうか。ガハハハ!」

 

 二人がそんな会話をしていると、ドアがガチャっと音をたてて開いた。

 

「相変わらず、下品な笑い方だな……」

 

「おお、やっと来やがったか?待ちくたびれたぜ、クソ野郎!」

 

 二十代の男性で話すトーンに余り変化の無い声で、笑い方を馬鹿にしながら入ってくると、それを聞いた笑い声の主も罵倒仕返した。

 

「俺は四番目か。」

 

「そう。」

 

「他の奴はどうした?」

 

「知るか。」

 

「そうかよ!相変わらず、癇に障る野郎だ!」

 

「これでやっと四人ね?他の三人は何をしてるのかしら?」

 

「知るかよ?!どうせ、また、じじいと変態野郎は一緒に居るんじゃね〜のか?リーダーは何処で何やってんのか見当もつかね〜し。」

 

「待つしか無いという訳か……」

 

「いつも通りだけどね」

 

「いつも通りになっちまってるのがおかしんだろうが?!」

 

 サーシャが言ったことにワイルドな声の男が苛立ちを露わにして言うと、サーシャはふいっと横を向いた。

 

「全く、どいつもこいつもろくな奴がいねぇ〜な。」

 

 七つの大罪のメンバーは全員集まるまでこの家で待っているのだった。

 

次回、フィニットブックの使い方

 



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第74話 フィニットブックの使い方

 オルターベルンを出発してから五日が経ち、後二日程でドーラに着くという頃。三人は夜になり、馬車を走らせる事が出来ない為、焚き火をしてご飯を食べていた。

 

「サレサは相変わらず食べるな……」

 

「私は直ぐにお腹が空いちゃうんだよね。」

 

 サレサの食いっぷりにシンが呆れた顔をしていると、サレサは笑顔でご飯を食べていた。

 

「元気が無いよりは良いんじゃない?」

 

「まあ、そうなんだけどな。」

 

「美味しかった〜」

 

 レンの言ったことにシンが渋い顔をしていると、サレサが満足そうな笑顔を浮かべてご飯を食べ終えた。それから二人もご飯を食べ終わると、レンがとある事を思い出した。

 

「そういえば、ドーラに着く前に試しておきたい事があったんだった。」

 

「ん?なんだ?」

 

 レンが何かを思い出したように言ったのでシンが気になり聞くと、レンは馬車に行き、右手にフィニットブックを持って戻ってきた。

 

「この神器の使い方を知っておきたくて。」

 

「ああ〜、そういえば、どんな能力なのか知らないな。」

 

「なになに?何かするの?」

 

 神器を持ってくると、サレサが二人の近くに寄ってきて興味を示していた。

 

「今からこの神器の使い方を色々と試そうかなと思って。」

 

「へぇ〜」

 

「そもそも本だから、攻撃をするとかいう神器では無いと思うんだけど……」

 

 そう言って、レンは右手に持っていたフィニットブックを地面に置いて本をを開いた。そこには、勿論何も書かれていなく、真っ白なページだった。

 

「何か試しに書いてみたらどうだ?」

 

「確かに、それ良いかも。」

 

 シンの提案に賛同して、レンはシンの持っていたリュックから万年筆の様なペンを取り出した。

 

「これで何か分かれば良いんだけど……」

 

 そう言いながら、レンは元いた位置に戻ると、何も書かれていないページにペンで書き込もうとした。そして、レンの持っていたペンの先がページに触れた瞬間、レンはとある違和感に気づいた。その違和感とは、自分の持っているペンがそのページに吸い込まれるような感覚だった。すると、レンの持っていたペンが実際にページの中にどんどん吸い込まれていった。

 

「何これ?!」

 

 レンは身の危険を感じてペンを手から離すと、見る見るうちにペンがそのページに吸い込まれていき、ペンを全て呑み込んだ。

 

「どうなってるんだ?!」

 

 驚いたシンが見ていたのは、何も書かれていなかったページに吸い込まれたペンが描かれていて、その周りに文字が浮かび上がっていた。その浮かび上がってきた文字には、吸い込まれた物の名前と説明が書かれていた。

 

「これがこの神器の能力なのか?」

 

「なんだか不気味な能力なんですけど……」

 

 レンはこの神器の能力を見て不気味がっていた。

 

「まあ、でも、これがあればもしかしたら、荷物を持ち運ばなくても良いかもしれないぞ?」

 

「確かにそうかもしれないけど……、なんか可愛くない……」

 

 シンが不気味がっていたレンを見てなんとかこの神器の使い方を言ってみたが、レンはどうやら余り嬉しくなかったらしく、微妙そうな顔をしていた。

 

「というか、これどうやって取り出すの?」

 

「さあ?」

 

 レンの質問にシンは首を傾げて答えた。

 

「触ったら私まで吸い込まれるかもしれないって事でしょ……?」

 

「まあ、可能性は無いとは言えないけど、持ち主まで吸い込みはしないんじゃ無いか?」

 

「でも、もし吸い込まれたら?」

 

「それは……なんとかする……」

 

「どうやって?」

 

「……どうにかして……」

 

 余程触るのが嫌なのか、レンはシンの言った事に反論していた。安心だという確信がない以上、シンも大丈夫とは言えないので困っていた。

 

「取り敢えず、振ったりしてみたらどうだ?」

 

「そうね……」

 

 シンの提案に乗ったレンがフィニットブックを持って、振ったり、逆さにしたりしたが、吸い込まれたペンは戻ってこなかった。

 

「どうしよう……、触るしかないの……?」

 

「多分……」

 

 明らかに嫌そうに言うレンを見て、シンは困った顔をしていた。

 

「じゃあ、私が触ってみるよ。」

 

 そう言うと、サレサが勢いよく、ペンが吸い込まれたページを触ろうと近づいた。

 

「サレサ!危ないから!」

 

「おい!」

 

 二人は止めようとしたが、サレサの手は既に本のページに触れていた。すると、サレサは触れていた手から徐々にフィニットブックの中に吸い込まれた。

 

「ええ〜?!助けて〜!」

 

 サレサは吸い込まれながら叫んで、手をブンブンと振り回して何とかしようと試みてはいたが、その結果は虚しくフィニットブックの中に全身吸い込まれた。

 

「おい?!どうすんだよ?!」

 

「どうするも、何も、こうなったら私が何とかするしかないでしょ?!」

 

 目の前でサレサが吸い込まれてパニックになっている二人だったが、レンは落ち着いてフィニットブックを拾った。すると、そこには、困った顔をしたサレサが描かれていて、そのすぐ近くに名前や体重などが書かれていた。

 

「でも、どうすれば良いんだろう……」

 

「どうなってるんだ?」

 

 レンがサレサの描かれているページを見て悩んでいると、シンは何が書かれているのか、中が気になって見ようとした。

 

「ダメ!」

 

「え?何で?」

 

 シンが本の中を見ようとすると、レンが物凄い勢いでシンの見えないところまでフィニットブックを離した。そんなレンの様子を見たシンは驚いた顔をして言った。

 

「乙女の秘密。」

 

「何だそりゃ?」

 

 シンはレンの言葉を聞いて、困惑していた。

 

「とにかく、一回触れてみるから、何かあったらお願いね?」

 

「お、おう。」

 

 覚悟を決めたレンを見て、シンも覚悟を決めた。すると、レンはサレサの描かれているページを触った。すると、次の瞬間、辺りを覆う程の白い煙がそのページから発生した。

 

「ケホホ……ッ」

 

「ゲホ……ッ、どうなったんだ?」

 

「こわか”った”よ”ぉ〜〜!!!」

 

 二人は突然の煙に何が起こったのか分からず困惑していたが、そこには大声で泣きながらレンに抱きついてくるサレサの姿があった。

 

「サレサ!良かった〜、本当に心配したんだから。」

 

「ごめんなさい!」

 

 心配しているレンにサレサが泣きながら謝っていた。それから、少しして落ち着くと、ペンにもサレサの時と同じ様にレンが手を触れた。すると、サレサの時と同じ様に小さな煙を出して、取り出す事が出来た。

 

「これがこの神器の能力で間違い無いみたいだな。」

 

「うん。これがあれば移動の時が結構、便利かも。」

 

「取り扱いは注意しないといけないな。」

 

「うん。」

 

 こうして、ちょっとした事件があってフィニットブックの使い方が分かった。因みに、この後、サレサはレンにこっ酷く怒られ、目に涙を浮かべながら反省し、もう今回の様な事はしない事を心に誓った。

 

次回、ドーラ到着

 



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第75話 ドーラ到着

 シン達はオルターベルンを出発して一週間が経ち、ようやくドーラに着いたところだった。砂漠がある地域の為か、気温は今までの比じゃないぐらい暑く、ただ立っているだけでも汗が出てきた。上を見ると、太陽がぎらぎらと輝いていて、より一層、暑いということが実感できた。そして、ドーラの町並みは木で造られた家では無く、壁が白の石で造られている家がほどんどで、地面も家の壁に似た石を使っている様だった。

 

「随分と暑いな。」

 

「ここら辺の地域は一年中このぐらい暑いみたいで、夜になるとそれなりに涼しくなるみたいだけど、ここら辺の地域に住んでない人からしたら十分暑いから気をつけてって、馬車で送ってくれた人が言ってた。」

 

「あっついよ〜」

 

 三人はドーラの気温の暑さにやられていた。

 

「取り敢えず、トレミアムまでの食料とか必要な物を買おう。」

 

「そうね。」

 

「暑いよ〜」

 

 それから、三人はドーラの町を歩いていくと、目的だった食料を売っているところに着いた。辺りには、精肉屋や八百屋などがあり、一通り必要そうな物と水を多めに買った。

 

「そういえば、あの本の神器の中に入れたら、どうなるんだろうな?」

 

「どうなるっていうのは?」

 

 シンの質問にレンが不思議そうに聞いた。

 

「例えば、生の肉を普通に放置して置くのと、神器の中に入れて置くのだと違いがあるのかなって。」

 

「確かに、言われてみれば試してなかったね。」

 

「うんとね、多分、時間は進んで無いと思う。」

 

「何でそう思うんだ?」

 

 二人の会話を聞いていたサレサがそう言うと、シンは不思議そうに聞いた。

 

「私があれに吸い込まれてからレンお姉ちゃんに助けられて出てくるまで直ぐだったから?」

 

「なるほど。じゃあ、食べ物とかも神器に入れた方が良さそうだな。」

 

「じゃあ、人目の付かないところでね。」

 

 そう言うと、今いた場所から少し離れたところまで行ってフィニットブックの中に荷物などをしまった。

 

「後は何か必要な物とか無い?」

 

「う〜ん、フード付きの薄手のローブみたいなのかな。」

 

「え〜、暑そう〜」

 

 シンの言葉を聞いたサレサが嫌そうな顔をして言った。

 

「親父から聞いた話しなんだが、何でも太陽の光が肌に直接触れるのが良くないんだと。それと、砂漠は夜になると寒くなるから暖かい服装も必要だから大変だって昔言ってた。」

 

「へぇ〜、そうなんだ〜」

 

 シンの話しを聞いたサレサが関心した様に言った。

 

「じゃあ、服も買いに行かないとね。」

 

 それから、三人は砂漠の厳しい環境を克服する為、服を買いに行った。そして、服屋に着くと、早速中に入り、色々と見て回った。

 

「どうせだったら服も色々と買っちゃおっか。」

 

「まあ、別に良いけど。」

 

「本当?!じゃあ、もう少し見てみる。」

 

「おお……」

 

 嬉しそうに言ってきたレンを見てシンは少し驚いた。それから、暫くしてそれぞれが服を選んで買った。

 シンは黒のズボンに黒のティーシャツ、黒のショップコートを着て、黒尽くしだった。レンは袖が無い白のレースブラウスにデニムパンツを履いていた。サレサは元々、涼しげな服装だったので服は買わなかった。

 

「シン……、髪も黒いのに全身まで黒ばっかりだったら、黒じゃないところが茶色い目しかないじゃない……」

 

「まあ……、ほら、白のローブがあるから……」

 

「まあ、似合ってない訳じゃないから良いけども……ね?」

 

「う〜んとね、まあ、いんじゃないかな?」

 

「……」

 

 シンの格好を見て、何とも微妙な反応をする二人を見て、シンは何も言えずにいた。

 

「まあ、新しい服が買えて良かったね、二人とも。」

 

「おう。」

 

「そうね。」

 

「レンお姉ちゃんも良く似合ってるよ。」

 

「本当に?ありがとう。」

 

 サレサがそう言うと、レンが嬉しそうにしてサレサの頭を撫でた。

 

「似合ってるよね?シンお兄ちゃん?」

 

「……ッ!?」

 

 シンは笑顔でサレサにいきなり話しを振られて驚いていた。そして、シンがふとレンの方を見ると、頰を少し赤らめて、目を少し逸らしていた。

 

「ああ……、似合ってるぞ……」

 

「ありがとう……」

 

 シンが照れくさそうに言うと、レンも照れくさそうに返事をした。

 

「じゃ、じゃあ、出発するか?」

 

「そうね……」

 

「行こう〜!行こう〜!」

 

 こうして、三人はドーラを後にして、トレミアムに向かった。

 

次回、砂漠

 



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第76話 砂漠

 ドーラを出発してから一時間ほどトレミアムに向けて歩くと、辺りには木は一つも無くなり、地面の所々に砂があった。

 

「そろそろ砂漠が見えてくるはずだけど……」

 

「今のうちにドーラで買ったローブを着けておこう。」

 

「それもそうね。」

 

 そう言うと、レンはシンの背負っていたリュックからローブを取り出し、それぞれにあったサイズのローブを渡した。全員がローブを着ると、サレサは自分の姿を見て、似合っているか見ていた。

 

「これでよし。後はトレミアムまで歩いて向かうだけね。」

 

「そうだな。」

 

 二人が話していると、自分の姿を見ていたサレサが二人に近づいてきた。

 

「どれぐらい歩くの?」

 

「一週間ぐらいだと思うよ。」

 

「一週間か〜、暑そう〜」

 

「仕方がないでしょ〜?我慢してね?」

 

 レンの話を聞いたサレサが嫌そうな顔をすると、レンが困った顔をして言った。

 

「う〜ん……」

 

 レンの話しを聞いたサレサは仕方がなさそうな顔と返事をした。それから少し歩くと、道が緩やかな上り坂になり、木の無い小さな山のようになっていた。三人はそれからも緩やかな坂道を進むと、山の頂上が見えてきた。

 

「あれが頂上か。」

 

「やっと、終わった〜」

 

 山の頂上を見たサレサが一目散に頂上に向かって走って行った。

 

「気をつけてよ?」

 

「うん!」

 

 レンの心配を他所にサレサは喜んで頂上に走って行った。

 

「本当に分かってるのかな?」

 

「大丈夫だろ。」

 

 自分の話しを聞かずに頂上に向かって走って行くサレサを見たレンが眉を八の字にして言うと、シンがそんなレンの様子を見て納得させるように言った。

 

「シンお兄ちゃ〜ん!レンお姉ちゃ〜ん!凄いよ〜!」

 

 二人が話していると、先に走って山の頂上に着いたサレサが二人に手を振って呼んでいた。

 

「どうしたの〜?!」

 

「砂漠が凄〜い!」

 

「今行くから待ってて〜!」

 

 そう言って、二人も山の頂上に向かって走って行った。

 

「早く!早く!」

 

「分かったからちょっと待って。」

 

 走って向かっている二人をサレサが急かした。そして、二人は山の頂上に着いた。すると、その時、砂交じりの強い熱風が吹き、二人は目を閉じ、両腕で目を覆った。そして、その風が収まると、目を開けて山の頂上からの景色を見た。

 

「これは?!」

 

 シンが目を開けると、そこには見渡す限り砂の世界が広がっていて、点々とシンの背丈よりやや高い岩があり、砂が集まって出来た大小様々な砂の山が地平線まで続いていた。

 

「ね?凄いでしょ?」

 

「確かに……」

 

 レンは今まで見た事の無い砂漠を見て驚いていた。

 

「トレミアムまではこの砂漠を超えていかないといけないって事か……」

 

「うん。」

 

「夜になる前に出来るだけ進もう。夜進むのは危険だ。」

 

「そうだね。」

 

「しゅっぱ〜つ!」

 

 三人はこうして夜になるまでの数時間、太陽の光りが降り注ぐ砂漠を進んだ。それから、三人が砂漠を歩いていると、もう少しで太陽の陽が落ちる頃になっていた。

 

「今日はもう陽が落ちるし、ここら辺で休もう。」

 

「うん。」

 

「ふぅ〜、やっと休めるよ〜」

 

 シンが今日はもう休む事を伝えると、気が抜けたのか、サレサは近くの岩に寄り掛かりながら座った。

 

「明日はもっと歩くぞ。」

 

「え〜……」

 

 シンはサレサの様子を見てそう言うと、シンの話しを聞いたサレサが困った顔をしていた。それから三人はフィニットブックからしまっていた荷物などを取り出して、ご飯や寝るためにテントを張ったりして準備を進めた。そして、それらが粗方終わると、ご飯を済ませた。

 

「後は寝るだけだな。一応、寒い時用の服を着てから寝るか。」

 

「そうね。その方がいいと思う。」

 

「あ”あ〜〜、疲れた〜」

 

「早めに寝るか。」

 

 眠そうに大きな欠伸をしているサレサを見て、この日は早めに眠る事にした。

 

 次の日の朝。レンが目が覚めると温かそうな服を着て寝ているシンと同じような温かそうな服を着て大の字になって寝ているサレサがいた。それから、レンはテントから出ると、焚き火の火がまだ薄っすらと赤くなっていて、空には太陽が少し顔を見せ、辺りを徐々に暖かくしているのが分かった。

 

「少し早く起きちゃったかな。」

 

 レンがそう言うと、テントの中がガサガサと音を立てた。すると、テントからシンが眠たそうな顔をして出てきた。

 

「早いな?」

 

「うん、目が覚めちゃって。起こしちゃった?」

 

「いや、俺もたまたま目が覚めただけだ。」

 

「そっか。」

 

「サレサが起きたら朝ご飯を食べて出発しよう。」

 

「うん。」

 

 それから二人はサレサが起きてくるまでの間、たわいのない話しをした。それから少しして、サレサが起きてきたので朝食を済ませ、準備をして出発した。

 そして、数時間経った頃、太陽は三人の真上に昇り、気温の高さもピークになっていた。

 

「流石に熱いな。」

 

「うん。」

 

「あっついよ〜」

 

「少し休憩するか。」

 

「やった〜」

 

 シンの話しを聞いたサレサが今までの疲れが吹っ飛んだかのように喜んでいた。それから三人は近くにあった波のような形をして日陰が出来る程の大きな岩の下で休憩をとった。

 

「涼しい〜」

 

「日向と日陰でここまで違うんだね。」

 

「うん。」

 

 岩の下で休憩をとっていると、レンとサレサがそんな会話をしていた。

 

「もう少し休憩したらまた進もう。」

 

「うん。」

 

「う〜ん……」

 

 シンの話しを聞いたサレサは渋い顔をして返事をした。すると、その時、ゴオオオという大きな音が三人の近くから聞こえてきた。

 

「何の音だ!?」

 

 突然の大きな音に三人は警戒していると、次の瞬間、三人のいる地面が崩れ落ちるようにして穴が空き、三人はそのまま穴の中に落ちていった。

 

「どうなってるんだよ?!」

 

「きゃあああ〜〜!!!」

 

「何これ〜〜?!」

 

 突然の出来事に三人は何が起きたか分からなかった。

 

次回、六つ目のダンジョン



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第77話 六つ目のダンジョン

「何とか助かったな。」

 

「ふぅ〜……」

 

 三人は穴に落ちると、落ちたところに砂があり、クッションとなったためゲガをする事は無かった。

 

「大丈夫か、レン?」

 

「全然、大丈夫じゃない……」

 

 シンがレンに尋ねると、レンは涙を流しながら返事をした。

 

「レンお姉ちゃん、高いところ苦手なの?」

 

「うん……」

 

 サレサもレンに尋ねると、レンは弱々しく答えた。

 

(ここは一体何処なんだ?)

 

 シンは辺りを見渡した。すると、辺りは薄暗く、天井まで三十メートルぐらいの高さがあり、この空間を支えるように無数の太い、神殿の柱の様な物があった。自分達が落ちてきたところを見ると、岩が穴を塞いでいたが、隙間から光りが漏れていて、似たような光りが天井の所々から漏れ出していて、その光りが、この空間の光源となっていた。

 

「レンお姉ちゃん元気出して?」

 

 そう言って、サレサはレンの頭を優しく撫でていた。

 

「ありがとう。もう大丈夫だよ。」

 

 レンは優しくしてくれたサレサに笑顔でお礼を言った。

 

「元気になったか?」

 

「うん。」

 

「そうか、それは良かった。」

 

 シンはいつも通りのレンの調子に戻って安心した。

 

「ここが何処だか分かるか?」

 

「ううん。」

 

「そうか……、サレサはなんか分かんないか?」

 

「さあ〜?何処だろうね?」

 

「まあ、そりゃそうか。」

 

 三人は突然放り込まれたこの場所が何処か分からないでいた。すると、この空間の奥の方からビューという音を立てて、強い風が吹いてきた。

 

「地面の中なのに風が吹いてるって事はもしかしたら外に通じてるのかもしれない。」

 

「行ってみよう。」

 

「おお〜」

 

 こうして、三人は風が吹いてきた方に進んだ。

 

「もしかしたら、この先、暗くなるかもしれないから一応、ライター渡しておくね。」

 

「おお、ありがとう。」

 

 シンはレンからジッポライターを受け取った。それから数分歩くと、三人の前に壁が見えてきた。

 

「アレなに?」

 

 サレサが何か気づいたようで、前の方を指差した。そこには、規則正しく造られた長方形の石で出来た壁に、人間が使うには明らかに大き過ぎる、床から地面までの両開きのドアがあった。

 

「ドア?」

 

「そうみたいだね?」

 

 三人は不思議に思いながらもそのドアの近くまで行った。すると、そのドアの壁の左右にはそれぞれ何かの生物が彫られていた。左には大きな鳥が羽を広げて飛んでいる姿が彫られていて、右には無数の足に鋏が体の左右に二本生え、尻尾には尾節がある蠍のような姿をした生物が彫られていた。そして、その生物たちが彫られている下にそれぞれ人間の右手が丁度嵌りそうなくらいの窪みがあり、ドアの隙間からは風が漏れていた。

 

「これは何だろう?」

 

「この先を進めって事じゃないか?」

 

「でも、どうやって開けるのよ?」

 

「丁度、手が嵌りそうな窪みがあるから、そこに手を入れるんじゃないのか?」

 

「でも、明らかに怪しくない?」

 

「そうだけど、他にどうしようもないだろ?」

 

「色々、試してみれば良いんじゃない?」

 

 どうするか話している二人を見てサレサが会話に入ってきた。

 

「う〜ん、分かったよ……」

 

 レンは渋々といった返事をした。そして、大きな鳥が彫られている下の窪みにレンが立ち、その後ろにサレサが近づいた。蠍のような生き物が彫られている下の窪みにはシンが立った。

 

「じゃあ、一緒に触れるぞ?」

 

「うん。」

 

「せ〜の。」

 

 二人はそう言って、同時に窪みの中に手を入れた。すると、その瞬間、手の触れた場所からドア全体へ青い光りが広がっていった。

 

「これ本当に大丈夫なの?」

 

「さあ〜?」

 

「さあって……」

 

 シンの返答にレンが呆れていると、青い光りがドア全体まで広がり、次の瞬間、その光は二人を呑み込むように強い光を放った。

 

「レンお姉ちゃん!」

 

 その様子を見て心配になったサレサがレンに触れた瞬間、ドアの前には誰もいなくなった。

 

次回、鳥の魔物



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第78話 鳥の魔物

「レンお姉ちゃん!起きて!」

 

「う〜ん……」

 

 レンはサレサに体を揺さぶられて目を覚ました。すると、サレサは心配した顔をしてレンの事を見ていた。

 

「良かった〜、心配したよ〜」

 

 サレサは目を覚ましたレンを見て、安堵の表情を浮かべていた。

 

「ここは?」

 

「分かんない。でも、さっきまでいた場所では無いみたい。」

 

 レンが周りを見渡すと、後ろにはさっきまでいたところと同じ壁があり、前の方には真っ直ぐ奥の方まで道が続いていて、どこかの広い通路の途中に自分たちがいるという事が分かった。

 

「そういえば、シンは?」

 

「私が目が覚めた時には何処にも居なかったの。」

 

「そんな!?大丈夫かな……」

 

 サレサの話しを聞いたレンは心配そうな顔をしてシンの心配をした。

 

「シンお兄ちゃんならきっと大丈夫だよ!」

 

「うん……、そうだね。」

 

「私たちは私たちで道を進もっか?」

 

「そうね、ここにずっといても仕方がないしね。」

 

 サレサに元気付けられたレンはいつもの調子に戻り、二人は道の先に進むことにした。明かりは壁が不自然なぐらい明るい明かりを灯しており、光源に困ることはなかった。それから暫く二人が先に進むと、開けた空間に出た。すると、その空間はグランドぐらいの大きさで建物の中だからなのか屋根のある円形の観客席がある闘技場のようになっている場所だった。

 

「ここはどんな場所なんだろう?」

 

「広〜い!」

 

 レンは建物の中なのにも関わらず存在するこの場所に疑問を持っていた。それに比べてサレサはというと、この場所を見て、ただ単純に思った事を言っているだけだった。それからレンは辺りを注意深く見ていると、自分達が出てきたところと反対側のところに石で出来た鳥のような石像の下に同じような入り口があるのが見えた。

 

「あそこに行けば良いのかな?」

 

「行ってみようよ。」

 

「うん。」

 

 二人は向こう側にある入り口に向かって歩いた。すると、二人がこの場所の真ん中まで歩いた時、二人を囲むようにして火がボッという音を立てて燃え始めた。

 

「どういう事?!」

 

「なんかヤバいかも。」

 

 二人は突然火が点いて燃え始めた事に警戒していた。すると、二人を囲むようにして燃えていた火が観客席の上の方まで燃え移り、周りがどんどん火の海になっていった。二人がその様子を見ていると、今度は入り口の上にある石像にバキッという音を立ててヒビが入った。

 

「何が起きてるの?!」

 

「レンお姉ちゃん、私変身するね?」

 

 レンが今のこの状況に不安を感じていると、サレサは何かを感じ取ったのか、魔具の能力を使って魔物の姿へと変身した。

 

「クア!」

 

 サレサの行動を見て、レンも警戒をしてリナザクラを取り出した。すると、ヒビの入っていた石像に更にヒビが入り、どんどんヒビの大きさが増していった。そして、次の瞬間、ヒビの入った石像が崩れた。崩れた石はそのまま下に落ちて入り口を塞いだ。

 

「キイイイイイ!!!」

 

 石像のところからは、急ブレーキをした列車の様な声を発しながら、緑色の羽毛で赤い目をした、頭に黄色いアホ毛が二本生えている体調三十メートル程の鳶の様な見た目をした魔物が飛び降りてきた。

 

「魔物!?」

 

「クア!!!」

 

「キイイイイイ!!!」

 

 魔物の姿を見た二人に羽を大きく広げて威嚇をした。すると、次の瞬間、大きく広げていた羽を自分を守るようにして体の前で重ねると、アホ毛が黄色に光り出した。

 

「サレサ、私の近くまで来て!リナザクラで防ぐから!」

 

「クア!」

 

 サレサはレンの言われた通りにレンの肩に乗ると、魔物の黄色に光っていたアホ毛から黄色の電気が放電された。それを、レンは構えていたリナザクラで受け止めた。すると、魔物の放った電気は魔物の方に跳ね返り、電気を放った魔物自身に当たった。だが、魔物は自分の放った電気を羽で受け止めると、羽を勢い良く開いて、ジッと二人の事を睨みつけていた。

 

「サレサ、大丈夫だった?」

 

「クア!」

 

 レンの言葉にサレサは頷いて返事をした。そして、二人は魔物の方を見ると、お互いに目が合った。こうして、二人は突然の出来事に戸惑いながらも、魔物との戦いが始まった。

 

次回、サレサの力



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第79話 サレサの力

 魔物は二人を睨みつけていると、また羽を大きく広げた。そして、次の瞬間、大きな羽を羽ばたかせ、それによって突風が起きた。二人は体が飛ばされそうなぐらい強い突風にその場で耐えていた。

 

「この風、早くどうにかしないと、」

 

 その時だった。レンが魔物の突風に耐えながらこの状況の打開策を考えていると、何かがレンの方に飛んできて、リナザクラを構えているレンの近くを結構な速さで通り過ぎ、レンの頰に切り傷をつけた。

 

「痛っ、今何かが飛んできて……」

 

 レンは自分の頰を触り、血が出ているのを確認すると、飛んできた何かが通り過ぎた方に目をやった。すると、そこには緑色をした十五センチくらいの魔物の羽根が地面に刺さっていた。

 

「これは羽根?あの魔物、自分の羽を突風と一緒に飛ばしてきているの?!」

 

 レンは羽根を拾い上げて、羽を閉じてこちらの方をジッと見ている魔物の方を見た。触っている羽根は普通の鳥の羽根の硬さとは比べ物にならないぐらい硬く、体に当たったら間違いなく擦り傷では済まされないというのが容易に分かった。

 

「サレサ、気をつけて。この魔物、風と一緒に羽根を飛ばしてくるみたい!」

 

「クア!」

 

 レンがサレサに今分かった事を伝えると、サレサは頷いて返事をした。その時、サレサの方に魔物の羽根が突風に乗って勢い良く飛んできた。

 

「クア!!」

 

 サレサは魔物が羽根を突風と一緒に飛ばしてくるのを見ると、体から大量の電気を魔物のいる方に満遍なく広がるようにして放電した。すると、サレサの放電した電気に魔物の羽根が当たり、次々に地面へ落ちていった。そして、サレサの放電した電気はそのまま魔物にまで届いた。

 

「キイイイ!!」

 

 サレサの電気が魔物に当たると、魔物は悲鳴にも似た声で鳴いた。サレサの電気に当たった魔物の全身は青白い電気を帯びていて、今も魔物の体からビリビリと漏れだすように電気が出ており、魔物を痺れてさせていた。

 

「流石ね……」

 

「クア!」

 

 レンが魔物の今の状態を見て、サレサの強さを改めて感じていると、本人はしてやったぜ顔をしていた。二人がそんな事を話していると、魔物はなんとかしようと体を動かそうとしていた。だが、サレサの電気が余程強かったのか、思うように動けないようで生まれたての子鹿のようだった。

 

「今のうちにあの魔物を倒さないと。」

 

 レンが動けない魔物の様子を見てそう言うと、魔物が今度は何も動かず、その場にジッとしていた。すると、魔物の二本のアホ毛が黄色く光り始めた。

 

「まだ何かするつもりなの?!」

 

「クア?!」

 

 二人が魔物の行動に驚いていると、魔物の体から漏れ出していたサレサの電気が見る見るうちに無くなっていった。そして、それとは対照的に魔物の二本のアホ毛はどんどんその黄色い光を増していった。二人はそんな魔物の行動を警戒しながら見ていると、遂に、魔物体に帯びていたサレサの電気が完全に無くなった。

 

「キイイイイイ!!!」

 

 魔物は体の痺れが無くなったからか、二人の方を向いて威嚇をした。

 

「この魔物は自分以外の電気を吸収して、自分の電気に変換できるの?!」

 

「クア〜」

 

 二人は魔物の様子を見て驚いていた。そんな二人に今度は魔物が二本のアホ毛を黄色に光らせて攻撃を仕掛けていた。魔物の放った電気は最初に放った時の電気の大きさとは比べものにならないぐらい大きく、電気の威力がサレサの電気を自分の電気に変換した事によってその強さを増していた。

 

「クア〜!!」

 

 魔物の電気の威力を見たサレサはそれに対抗するべく、体に電気を帯び、次の瞬間、魔物に向かって放電した。すると、お互いが放った電気が丁度、お互いの中間の位置で打つかった。その衝撃は凄まじく、お互いの電気が打つかった位置から全方向へ跳ね返るように電気が外れた。周りはその電気によって当たった部分が削れていて、粉々になっていた。

 

「キイイイ!」

 

「クア!!!」

 

 サレサと魔物が啀み合っていた。レンはそんな両者の様子を見て息を呑んだ。そして、次の瞬間、魔物は羽を大きく広げて羽ばたき始めた。それを見たサレサも魔物に対抗するように体に電気を帯び始めた。すると、魔物は足で地面を蹴り、羽ばたいてこの場所の天井ぎりぎりまで飛び上がった。サレサはその間、体に電気を帯びさせていて、電気の大きさがどんどん増していき、大きな岩ぐらいまで広がっていた。

 

「クア!クアクア!」

 

 すると、サレサがレンの方を見て、向こう側の遠い方に行けと言うかのように首を振ってきた。

 

「危ないから向こうに行けって事?」

 

「クア!」

 

「……分かった。気をつけて!」

 

「クア!」

 

 レンの言ったことにサレサは頷いた。レンは心配だったが、サレサの瞳からは何かを決めたような気概が感じられたので、反対する事なくサレサを信じる事にした。そして、レンがその場から離れると、魔物が羽を羽ばたくのを止めて羽を閉じ、サレサ目掛けて勢い良く飛び掛った。サレサはというと、体に電気を帯び、さっきよりも更に大きな電気を纏っていた。そして、次の瞬間、サレサ目掛けて勢い良く飛び掛ってくる魔物が体勢を変えて、足の爪をサレサに向けて飛び掛ってきた。すると、サレサは今まで体に溜めたいた電気をその魔物に向かって放電した。サレサの放った電気は魔物の大きさを優に超えていて、魔物を電気の中で跡形も無く消し去った。だが、サレサの放った電気は勢いそのままこの場所の天井に当たり、ドーンという大きな音と共に地面を揺らした。

 

「うわぁ?!」

 

 レンはその衝撃から立つ事が出来ず、その場に尻餅をついた。すると、サレサの首から下げていた魔具が紫色に光だして人間の姿になった。

 

「レンお姉ちゃん!大丈夫!?」

 

 サレサは尻餅をついたレンのところまで走ってくると、レンの心配をした。

 

「うん。大丈夫。それにしても、サレサも大丈夫だったの?」

 

「うん。でも、一杯力使ったからお腹減っちゃった。ご飯頂戴!」

 

「それは良いけど、まずこの場所から離れよう?」

 

「う〜ん……分かった、我慢する!」

 

 レンの言った事にサレサは渋々と言った感じで納得した。

 

(あれだけ大きな衝撃があったのに天井には何も傷がついてないなんて……。それに、サレサって一体魔物の中でどれぐらい強い魔物なんだろう?)

 

「それじゃあ、行こっか。」

 

「うん」

 

 二人はそれからこの場所に入ってきたところから反対側にある入り口まで歩いた。塞いでいた石はさっきの戦闘で粉々になったようで先に進む事が出来た。

 

次回、蠍の魔物



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第80話 蠍の魔物

 時は少し遡り、三人が謎の大きなドアに触れてから少しからの事。シンが目を覚ました。

 

「ここは?」

 

 シンが目を覚ますと、そこにはさっきまでいたような広い場所で無数の柱があった。

 

「レン、サレサ、どこだ?」

 

 シンは辺りを見渡しながら二人の名前を呼んでみた。しかし、どこにも二人の影は無く、返事どころか物音一つしなかった。

 

「二人はどこに行ったんだ?もしかして、別々の場所に飛ばされたのか?」

 

 シンは今の状況をなんとか理解しようと今の状況をまとめていた。

 

「取り敢えず、明かりには困らなくて済みそうだ。二人を探しながら少し歩いてみるか……」

 

 明かりは壁や柱が光っていたので困る事はなかった。シンは二人を探す為、辺りを歩いてみることにした。しかし、二人はどこにも居なかった。

 

「流石に居ないか、ここから離れて先に進んでみるか。」

 

 シンはそう言って、その場から離れ、先に進む事にした。シンが先に進むと、柱が同じ様な距離を保って等間隔で並んでいた。どこまで進んでも同じ様な造りをしていて、代わり映えのしない景色にだんだんと自分がどこに居るのかが分からなくなってきた。

 

「さっきもここを通った様な……」

 

 シンはふと周りを見渡した。すると、無数の柱が等間隔に並んでいるだけの単純な造り。シンは完全に迷っていた。自分が今どこに居て、どっちが北でどっちが南なのか、自分の位置と方向感覚が麻痺していた。

 

「参ったな……、レンが居ないと直ぐに迷っちまうな〜」

 

 シンは頭を掻いながら改めて自分が方向音痴だというを認識した。それから小一時間、シンはこの空間から出られずに彷徨っていた。

 

「クソ……、いつになったらここから出られるんだ?」

 

 シンがどこに行けば良いのか分からず、道に迷いながらそんな事を言っている時だった。突然、シンの向いている方からドーンという大きな音と共に地面が揺れた。

 

「なんだ!?」

 

 シンは突然の事に何が起きたか分からなかった。シンはそのままその場で待機していると、大きな音も揺れもあの一回だけで、それ以降起こらなかった。

 

「なんだったんだ?行ってみるか。」

 

 シンは何が起きたのか気になり、大きな音のした方に向かって歩いた。そして、歩いてから暫くすると、前の方に壁があるのが見えた。そして、その壁の途中に大きな何かの石像があり、その下に入り口らしきものがあった。

 

「お!やっとここから出られる!」

 

 シンはようやっと見つけた入り口に安堵していた。そして、シンはこの空間から出るために入り口に向かって歩いた。すると、その時、入り口の上にある石像にヒビが入った。

 

「ん?」

 

 シンはいきなりヒビの入った石像を不思議に思っていた。そして、シンがその場で石像のヒビが見る見るうちに広がっていく様子を見ていると、石像は崩れた。

 

「なんだ?!

 

 シンは何もしていないのにも関わらず、崩れた石像に驚いていた。すると、石像のあった部分から紫色をした硬そうな殻で覆われた二つの大きな鋏に、尻尾の先端には鉤状の尾節のある体長二十メートルぐらいある蠍の魔物が無数の足を動かして地面まで降りてきた。

 

「なんだこいつ!?」

 

 シンは突然現れた魔物に驚きながらも懐からサニアとイニルを取り出して警戒した。魔物はというと、大きな二つの鋏を開いたり閉じたりして、ガシンという音を立てながらシンの事を見ていた。すると、魔物は右の鋏をシンに向けて腕を伸ばし、攻撃してきた。それを見たシンはサニアでその鋏に向かって振り下ろした。サニアの斬撃が当たった鋏はその衝撃から軽く後ろに飛ばされた。

 

「サニアの斬撃で切れないのか?!」

 

 シンは今までの魔物だったら鋏ぐらい簡単に切っても可笑しくないと思っていた。だが、この魔物は切るどころか、傷すらつかず、軽く跳ね返るぐらいだった事に驚いていた。シンが魔物の硬さに驚いていると、サニアの斬撃を受けた魔物は自分の鋏を見て開けたり閉めたりを繰り返し、大丈夫な事を確認しているかの様だった。

 

「サニアが駄目ならイニルで攻撃するしかないな。」

 

 魔物の硬さを知ったシンはイニルの威力なら傷をつけられるかもしれないと考え、イニルを振り下ろした。すると、イニルの斬撃が魔物に向かって飛んでいった。だが、魔物はそれを見て鋏を二つ、自分の前に出して自分を守る様にした。そして、イニルの斬撃が魔物に当たると、魔物の鋏には少しの傷が付く位だった。

 

「イニルの威力でも駄目なのか……」

 

 シンは魔物の鋏の傷を見てどうやってこの魔物を倒すか考えていた。

 

次回、蠍の魔物の弱点



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第81話 蠍の魔物の弱点

 蠍の魔物がイニルの斬撃を二つの鋏で防ぐと、魔物は両方の鋏を開いたり閉じたりしていた。

 

(イニルの斬撃でも大した傷は出来ていない……、どうすれば良いんだ……)

 

 シンがこの魔物の倒し方を考えていると、魔物が今度は自分の尻尾を伸ばして鉤状の尾節をシンに向けて勢いよく突き刺そうとした。

 

「あぶね!」

 

 シンは魔物の攻撃を横に飛んで躱すと、魔物の鉤状の尾節が当たったところが白い煙を出していた。

 

「あれ食らったらヤバイな……」

 

 シンは魔物の攻撃が当たった部分を見て、そんな事を言った。すると、魔物は尻尾を引っ込め、鋏を上手く使って大きく上に飛んだ。

 

「そんな事も出来るのか!?」

 

 シンが驚いていると、魔物はどんどんシンに向かって落ちてきていた。それを見たシンはサニアを魔物に向かって振り払いながらその場を離れた。だが、サニアの斬撃を魔物は鋏で軽々防ぐと、シンのいた場所に鋏を使って器用に降りた。そして、逃げているシンに向かってそのまま追い掛けてきた。

 

「クソ……、でかい割りに器用だな……」

 

 シンは魔物様子を見てそんな事を言った。

 

(あの魔物、サニアやイニルの攻撃は必ず鋏を使って防いでくる。特に警戒する事の無い攻撃だったら、わざわざ何回も鋏を使って防いでこないはずだ。もし、体本体はそこまで硬くなくて、サニアやイニルの攻撃を鋏で防ぐしか守る方法が無いんだとしたら、それに、あの魔物は攻撃するときに必ず体から距離の取れる攻撃をしてくる。如何にかして攻撃をあの魔物の体に当てる事が出来れば、倒す事が出来るかもしれない。一か八か、やってみるか……)

 

 シンは走っていた足を止めて振り返り、イニルを魔物に向けて薙ぎ払った。すると、魔物は追いかけるのを止めて、両方の鋏を前に出してイニルの斬撃を防いだ。イニルの斬撃はさっきと同様、少し傷がつくぐらいでしかなかった。だが、シンは魔物がイニルの斬撃を防いでいる間に魔物の近くまで近づいていた。そして、魔物は自分の近くまでシンが近づいていた事が分かると、腕を伸ばして鋏をシンに向けて勢いよく挟むと、シンは魔物の攻撃を上に避けて腕に乗った。すると、シンは魔物の腕を伝って魔物の体の方へと走った。魔物もそれを阻止しようともう片方の腕でシンを攻撃した。シンはそれをイニルとサニアを振り下ろして腕を弾いた。そして、体までもう少しというところで魔物が尻尾の尾節をシンに向けて突き刺そうとした。だが、シンはそれを器用に回転して躱すと、遂にサニアとイニルに攻撃が当たるところまできた。

 

「よし!これで!」

 

 シンがサニアとイニルを魔物の体に向かって振り下ろそうとした時、それを察したのか魔物が大きく暴れ出し、シンを振り落とそうとした。シンはなんとか振り落とされないように魔物の体にしがみ付いた。すると、今度は魔物が鋏を使ってさっきと同じ様に空中に向かって大きく飛んだ。

 

「うわ!?」

 

 シンは何とかしがみ付きながら落ちないようにした。そして、上まで飛ぶと、だんだん落ち始めた。

 

「仕方がない、こうなったら。」

 

 シンは魔物にしがみ付きながらそう言った。だんだんと落ちていく中でシンはタイミングを見計らっていた。そして、シンが今だと決めた時、シンは足で魔物の体蹴ると、そのタイミングでサニアとイニルを薙ぎ払った。すると、サニアとイニルの斬撃が魔物の体に当たった。シンの思っていた通り、体は鋏よりも硬くなかったようで、蠍の魔物を真っ二つにした。

 

「上手くいった。」

 

 シンは魔物の様子を見て、上手くいった事に安堵していた。

 

「ここからだな。」

 

 シンは魔物が上に大きく飛んだ事によって結構な高さになっていてそのまま落ちると、怪我をするだろうと何となく思っていた。シンは今魔物を蹴った事によって無数にあった柱の一つに向かいながら落ちていた。そして、次の瞬間、シンは柱を蹴り、魔物の方に向かって飛んだ。すると、シンは魔物まで戻り、落ちる時のクッションとして魔物を使った。それから、ドスンという音と共に地面に落ちた。シンは魔物を落ちた時の衝撃のクッションにした為、特に怪我などもする事無く、魔物を倒す事が出来た。

 

「ふぅ〜、何とかなったな……」

 

 シンが安堵していると、倒した魔物がどんどん石化していき、次の瞬間、砂のように崩れ、跡形もなく消えた。

 

「一体どうなってるんだ?」

 

 シンは不思議に思いながらもこの空間を後にして、先に進んだ。

 

次回、矛と盾の扉

 



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第82話 矛と盾の扉

 シンが蠍の魔物と戦っている頃、レンとサレサはさっきまでいた闘技場のような場所から暫く奥に進んでいた。道はここに来るまでと同じ造りで出来ており、真っ直ぐな一本道が続いていた。

 

「レンお姉ちゃん!お腹空いた〜!」

 

「ああ、ごめんごめん。ちょっと待ってね。」

 

 レンはそう言うと、肩から背中に下げていたリナザクラ用の巾着袋に入れていたフィニットブックを取り出した。

 

「そういえば、今すぐに食べれる物が無いけど……」

 

「え〜、生のお肉とかもないの?」

 

 レンがそう言うと、サレサは困った顔をしながら聞いた。

 

「生のお肉?あるけど……、食べるの?」

 

「うん!」

 

 レンは心配してサレサに聞くと、サレサは笑顔で返事をした。それを見たレンが渋々、フィニットブックから生の肉を取り出すと、サレサに渡した。

 

「やった〜!美味しそう……」

 

 レンから肉を貰ったサレサは目を輝かせ、涎を垂らしながら肉を見ていると、じゅるりと音を立てて自分の涎を啜って齧り付いた。

 

「おいしい?」

 

「ん!」

 

 レンがサレサに聞くと、飯を何日も食べていない子供の様にむしゃむしゃと食べながら返事を返してきた。それからサレサは肉を食べながら奥へと進み、レンはそんなサレサの様子を見て困った表情を浮かべていた。それから少し進むと、二人の前にこの場所に来た時と同じ様な扉があるのが見えた。そして、二人は扉の近くまで行くと、扉には盾の模様が彫られていて、その下にはここに来る時に触った扉同様、手を嵌め込むことが出来る窪みがあった。

 

「この扉さっきの扉と同じだね?」

 

「うん。」

 

「ここに来るまで他に道も無かったし、この扉の窪みに手を触れて先に進まないとダメなのかも。」

 

「シンお兄ちゃんどこに居るんだろうね?」

 

「う〜ん、その内会えるんじゃないかな?」

 

 サレサの言った事にレンはどこか不安そうな声色で答えた。

 

「私たちはシンを信じて先に進もう。」

 

「そうだね!」

 

 そう言うと、サレサがレンの体に触れた。そして、レンが扉の窪みに触れると、前回同様、触れたところから青い光りがドア全体へと広がった。すると、青白い光りが二人を包み込んだ。

 

 その頃、シンは蠍の魔物を倒し、道の奥へと進んでいた。真っ直ぐな道で壁には何かの太くて長い蛇の様なくねくねと波の様にうねっている、だが、どこか違う様な何かの生物の様な模様があった。シンはそれを横目に見ると、先へと進んだ。すると、前の方にここに来る時に触れた扉と同じ様な扉が見えた。

 

「また扉か……」

 

 シンは面倒くさそうにしながらも扉に近づいた。そして、シンは扉を見ると、中世ヨーロッパの様な剣とどこにでもありそうな槍が交差するように描かれていて、その下には手が嵌りそうな窪みがあった。

 

「またこの窪みに手を嵌めろって事か?」

 

 シンはそう言いながら窪みに手を嵌めた。すると、ここに来た時同様、触れたところから青い光がドア全体へと広がり、次の瞬間、シンを青色の光が呑み込んだ。

 

 

「ここは?」

 

 シンが目を覚ますと、そこにはシンの視線の先に今までと同じ扉があった。この空間は縦長の長方形のような造りになっていて、壁には松明がこの空間を明るく照らしながら奥にある扉のところにまで等間隔に置かれていた。

 

「次から次へと他の場所に飛ばして何の意味があるんだ?」

 

 シンは不思議に思いながらも扉に向かって歩き出した。扉までは五十メートルぐらいあり、横幅は十メートルほどの今までの部屋と比べると大して大きく無い空間だった。それから、シンが扉の方に近づくと、扉の両隣の壁にそれぞれここに来る時に見た剣と槍が描かれていた。

 

「あの模様、さっき見たな。」

 

 シンが扉の横の壁に描かれている剣と槍を見ていると、何か違和感を感じた。その違和感とは、この空間に来た時の扉に描かれていた剣と槍を見た時と今とでは素材の違いというのか、物凄く本物に近い見た目をしていた。すると、次の瞬間、剣と槍が壁から落ちた。

 

「何だ!?」

 

 シンは金属のような音を立てて落ちた剣と槍の方に目を向けた。その時、動かないはずの剣と槍が床に傷をつけながら一人でに動き出した。

 

「どうなってるんだ?!」

 

 シンはそう言って、懐からサニアとイニルを取り出すと、剣と槍が空中に浮いた。そして、何が起こったのかと困惑しているシンに向かって槍が飛んできた。それをシンは左手に持っていたイニルで弾いた。すると、槍は後方へと弾かれたが床に落ちるという訳でも無く、空中に浮いたままだった。

 

「何が起きてるんだ?」

 

 シンは突然の事に何が起こっているのか分からずに困惑していた。

 

 次回、剣と槍の正体

 



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第83話 剣と槍の正体

 空中に浮いている剣はシンが困惑しているのも御構い無しに攻撃をしてきた。剣はシンに向かって振り下ろすと、シンはその攻撃を右手に持っていたサニアで受け止めた。すると、剣は空中に浮いているだけにも関わらず、力強くシンを徐々に徐々に後ろに後退させた。

 

「ただの剣の筈なのに何でこんなに力があるんだよ!?」

 

 シンは剣に押されながらそう言った。すると、今度は槍がシンの隙を見計らったかのようにシンを目掛けて飛んできた。それを見たシンは左手に持っていたイニルで槍の攻撃を受け流した。そして、その後、シンは剣をサニアとイニルを使って後方に弾いた。

 

「これじゃあ、キリが無いな……」

 

 シンはそう言うと、サニアを剣に向かって薙ぎ払った。サニアの斬撃が剣に向かって飛んでいくと、斬撃は剣に当たり、この空間が狭い所為、その後ろの壁にあった松明にまで斬撃が飛んでいき、松明の火が消えた。

 

「効果は無しか……」

 

 シンは剣を壊せないかと期待したが、そう簡単には行かず、空中にはほぼ無傷の剣が浮いていた。

 

「ん?何だあれ?」

 

 シンはよく見ると、剣の持ち手の部分に今までは見えていなかった薄っすらと白い透明な何かが見えた。すると、剣はシンに向かってまた攻撃を仕掛けてきた。剣はシンに向かって振り下ろすと、それを左手に持っていたイニルで受け止めた。そして、その時、シンは剣をよく見ると、さっき持ち手の部分に見えていた白い透明な何かは無かった。

 

「気のせいだったのか?」

 

 シンはイニルで剣の攻撃を受け止めながらそう言った。すると、さっきのサニアの攻撃で消えた松明の火がボッという音を立てて火が点き、松明の辺りを明るくした。

 

(そういえば、俺がサニアで攻撃した時、松明の火が消えて周りは少し薄暗くなっていた。それに、この部屋には松明がズラッと並んでいる。それに加えて、消えたはずの松明が一人でに火が灯った。)

 

「もしかしたら!」

 

 シンはそう言うと、剣を弾き、サニアで松明に向かって薙ぎ払った。サニアの斬撃は松明に当たり、松明によって明るさを保っていた部分が暗くなった。すると、そこには白のカーテンのような外見に黄色の丸い目があるだけのオバケを連想させる魔物がいた。暗い部分ではよりはっきりとその姿を見る事ができ、腕が無く、剣と槍を手だけで持っているような状態でその場に留まっていた。

 

「こいつが剣と槍の正体か!」

 

 シンは空中に浮いていた剣と槍の謎を知って驚いていた。すると、正体を見破られたオバケの魔物がシンから身を隠すようにまだ火の点いている松明のほうへ逃げようとした。

 

「そうはさせるか!」

 

 魔物の動きを見たシンがそう言ってサニアを薙ぎ払って松明の火を消した。サニアの斬撃によって松明の火が消えると、魔物の白のカーテンのような体が更にはっきりと分かるぐらい見えた。

 

「これで逃げれないだろう。」

 

 シンはしてやったぜ顔をしながら言うと、魔物は逃げられないと腹を括ったのかシンに向かって剣と槍を構えた。そして、魔物は剣をシンに向けて振り下ろした。シンはそれをサニアを薙ぎ払い、斬撃で攻撃すると、魔物の剣を持っていた手が切れて剣を落とした。

 

「なるほど、見える状態で攻撃すると、実体を捉えて攻撃を当てる事が出来るのか。」

 

 シンが魔物の能力を考えていると、魔物が槍をシンに向けて突き刺した。それをシンはさっきと同じ要領でサニアを薙ぎ払って攻撃すると、槍を持っていた手が切れて剣と同様、槍を床に落とした。

 

「これで終わりだ。」

 

 シンはそう言ってサニアを振り下ろした。すると、サニアの斬撃は魔物の白のカーテンのような体を切り、縦に真っ二つにすると、左右に揺ら揺らと揺れながら床に落ちた。魔物の様子を見ると、ただのカーテンのようになっていて、まるで元からそこに落ちていたかのようになっていた。

 

「これで先に進めるな。」

 

 そう言うと、サニアの斬撃で消えていた松明に火が点き、辺りを元の明るさに戻した。すると、魔物の姿は見えなくなった。それからシンは先に進み、ドアの前まで行った。

 

「流石に疲れていたな……。いつまでこんな事を続けなきゃならないんだ……」

 

 シンはそう言いながらドアにあった窪みに手を嵌めると、今までと同様、青い光がシンの触れている部分からドア全体へと広がっていき、次の瞬間、シンを青い光が飲み込んだ。

 

次回、盾の魔物

 



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第84話 盾の魔物

 シンがオバケの魔物と戦う事になる少し前、レンとサレサは一足先に先へと進み、新しい場所に飛ばされていた。

 

「また違う場所だね。」

 

「うん。何処に行けばいんだろう?」

 

 二人は辺りを見ながらそう言った。周りは何処まで続いているのか分からないぐらい真っ暗で、壁があるのか無いのかすら分からない程だった。二人の居る場所は透明な床が円形状に白色の光を放っていて、自分たちが今何処に居るのかを知ることの出来る大切な光源となっていた。だが、その他の光っていない床の部分は真っ暗になっていて、何処までも下に続いているように見えていた。

 

「ていうか……、よくよく見たらこの場所……もしかして……高いんじゃ……」

 

 レンは周りを見ると、自分が高い場所に居るのではないかという感情に襲われ寒気がした。すると、レンは見る見るうちに顔色が悪くなり、目には涙が溜まっていた。

 

「レンお姉ちゃん?!大丈夫だよ!?周りが暗いから高いところに居るように見えて、実は大したことないと思うよ……?」

 

 サレサは何の根拠も無かったが、このままだとレンが泣いてしまうと思い、気を遣って困った表情を浮かべながらもレンに言った。

 

「ほんと……?」

 

 レンはサレサの方を向き、何とか涙を流さないように堪えながら言った。

 

「う、うん。勿論だよ。」

 

 レンの表情を見たサレサは何の根拠も無く言っている事に罪悪感を感じながら答えた。

 

「見ててね?」

 

 サレサはそう言って手に持っていた、レンから貰った肉を食べた時に残った骨を試しに暗闇に落としてみた。すると、骨は何処までも下に落ちていき、下に落ちた時に聞こえるはずの音は何も無かった。

 

「……えっと〜、大丈夫だよ……」

 

「うぅぅ……」

 

 サレサは苦し紛れに苦笑いをしてそう言ったが、レンは涙を流しながらサレサの方を見ていた。

 

「……なんでこう高いところばっかりなの……?」

 

「……何でだろうね……」

 

 レンの言葉にサレサは苦笑いをして誤魔化すしか無かった。

 

「取り敢えず、辺りを探索してみよう?」

 

「う……、うん。」

 

 サレサが言いづらそうに言うと、レンは涙を拭きながら返事をした。それから二人はこの場所から進むべく、自分達がいる床の光っているところの縁に沿って歩いてみた。

 

「レンお姉ちゃんは少し内側を歩いて良いからね?」

 

「うん。」

 

 それから二人は光っている床のギリギリをサレサが歩き、その少し内側をレンが歩いた。すると、外側を歩いていたサレサの足元の暗闇の部分が光り始め、少しだけ暗闇の方へ続いていた。

 

「レンお姉ちゃん!ここから先に行けるかも。」

 

「……ここを通って行くの?」

 

 レンはサレサの方を見ると、人が三人は並んで通れるぐらいの横幅がある道が出来ていた。

 

「大丈夫だよ。結構広いし。」

 

 サレサはそう言って、新しく光って出来た道の方に進んだ。すると、サレサが進んだ分、新たに光、道が続いた。

 

「ちょっと……、ちょっと待って……」

 

 レンは今にも涙を流しそうな顔でサレサに言った。

 

「分かってるよ。今そっちまで行くから一緒に行こう。」

 

「うん。」

 

 サレサはレンの所まで戻り、一緒に先に進む事にした。サレサが先頭で進み、その後ろをレンがサレサの服を掴みながら、ピッタリとくっついて進んだ。二人が先に進むと、進んだ分、新たに道が光り、どんどんその光りの道の通りに進んだ。

 

「レンお姉ちゃん、大丈夫?」

 

「う、うん。何とか……」

 

 サレサは心配してレンに聞くと、レンは不安そうな表情を浮かべながら、自信がなさそうに返事をした。それから二人は先に進んで行くと、光の道が人が一人ずつ入れるぐらいの大きさの洞窟の入り口のような穴に差し掛かった。

 

「何だろう?」

 

「先に行けば何かあるかも。」

 

「行ってみよっか。」

 

「うん。」

 

 そう言って二人は洞窟のような入り口から奥に進んだ。途中、サレサが壁を触れると、どうやら壁は真っ黒な石で出来ているようで、表面はザラザラとしていた。それから二人が先へと進むと、何処か開けた場所に出たようだったが、光っている道の明かりだけでは壁があるのかどうか分からなくなった。

 

「レンお姉ちゃん、何処かに出たみたい。」

 

「そうなの?」

 

 サレサの言った事にレンが心配そうに言うと、次の瞬間、前の方が白に光った。

 

「うわっ?!」

 

「何?!」

 

 二人は暗闇から突然白く光った為、手で目を覆った。そして、暫くすると、その光が収まったので二人は覆っていた手を外し、目を開いた。すると、二人の前に黒の甲冑を着て、白銀の大楯を左手に持ち、大楯の配色と似ている白銀の長剣を右手に持つ、人型の魔物がいた。辺りを見渡すと、暗闇だったこの場所が体育館ぐらいの広さのドーム状の空間で床も壁もさっき魔物が放った光を吸収して薄っすらと白く光っているようだった。そして、床を見るとさっきまでの様に落ちる心配は無さそうだった。

 

「あれは魔物?!」

 

「そうみたい。」

 

 二人が突然現れた魔物を見て驚いていると、サレサの首につけていたネックレスが紫色に光り、魔物の姿へと変身した。

 

次回、コンビネーション



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第85話 コンビネーション

「クア。」

 

 魔物の姿に変身したサレサに倣って、レンも肩から背中に下げていたリナザクラを取り出した。

 

「この魔物を倒さないと先には進め無さそうね。」

 

「クア。」

 

 レンはここに辿り着くまでに分かれ道は無かった事から魔物を倒す事によって進む事が出来るようになると予想した。レンの話しを聞いたサレサはコクリと頷いて返事をした。二人がそんな会話をしていると、人型の魔物が左手に持っていた白銀の大楯を二人の居る方に向けた。そんな魔物の行動を見て二人は身構えた。すると、白銀の大楯が光出し、白い光を放った。その光は二人の視界を奪い、目を閉じざるを得なかった。

 

「サレサ、気をつけて!」

 

「クア!」

 

 レンの言葉にサレサが返事をすると、サレサは体に電気を帯び、魔物のいた方に向かって放電した。サレサの放った電気は人型の魔物の方へ一直線に向かっていった。すると、人型の魔物はサレサの放った電気の方に大楯を構えると、今まで光っていた光が収まった。そして、次の瞬間、サレサの放った電気が魔物の大楯に当たった。すると、サレサの放った電気が大楯に吸い込まれるように吸収された。

 

「クア?!」

 

「サレサの電気を吸収するなんて!」

 

 二人は魔物がサレサの電気を吸収した事に驚いていた。すると、人型の魔物が腰を下げ、大楯を二人の前の方に出し、右手に持っていた白銀の長剣を後ろに構えた。そして、次の瞬間、魔物が右手に持っていた長剣を二人の居る方に向かって振り下ろした。その瞬間、魔物の振り下ろした長剣からサレサの放った電気と同じぐらいの質量の電気が放たれた。

 

「クア?!」

 

「危ない!」

 

 レンは咄嗟の判断でサレサの前に立ち、魔物の放った電気をリナザクラで受け止めた。すると、電気が当たったリナザクラが光を放ち、魔物の方へ跳ね返した。それを魔物は横に躱した。

 

「あの魔物の剣、サレサと同じような攻撃をしてきたから、もしかしたら、あの盾で受けた攻撃をそのまま剣で使えるのかもしれない。」

 

「クア〜」

 

 レンの話しを聞いたサレサが唸っていると、魔物が再び剣を振り下ろした。すると、さっきと同様、剣から電気が放たれ、二人は魔物の攻撃を左右に分かれて避けた。

 

「サレサ、思いついた事があるから試していい?」

 

「クア?」

 

 レンの言った事にサレサが不思議そうにしていた。

 

「私に向かってサレサの電気を放って欲しいの。」

 

「クア!?」

 

 レンの言った事にサレサは驚きを隠せないといった表情をしていた。

 

「サレサの電気を私のリナザクラで跳ね返して魔物に攻撃しようと思うの。」

 

「クア?」

 

 レンの話しを聞いたサレサは不安そうな顔をしていた。

 

「物は試しよ。さっき私が跳ね返した電気を盾で吸収しないで避けたからっていうただそれだけなんだけどね。」

 

「クア〜?」

 

 レンの話しを聞いたサレサが渋い顔をして、心配しているようだった。二人がそんな会話をしていると、魔物は剣を構えた。

 

「まあまあ、そんな顔しないでよ?」

 

「クア〜」

 

 レンがサレサの顔を見て困っていると、サレサは渋々了承したようにため息交じりの返事をした。二人の会話がひと段落すると、魔物は構えていた剣を振り下ろした。すると、魔物の剣からは電気が放たれた。それをレンがリナザクラで跳ね返すと先ほどと同様、魔物は大楯を使わずに躱した。

 

「サレサ、お願い!」

 

「クア!!」

 

 レンがそう言うとサレサは覚悟を決め、体に電気を帯び始めた。そして、サレサの体に電気が帯びると、サレサはレンに向かって電気を放った。サレサの放った電気は青白い光と共にレンの居る所まで一直線に向かっていった。それをレンはサレサの攻撃をリナザクラで受けた。すると、リナザクラの扇面が白に光った。その瞬間、レンは人型の魔物に向かってリナザクラの扇面を向けて、サレサの攻撃を跳ね返した。リナザクラで跳ね返した攻撃は魔物へと向かっていった。それを見た人型の魔物が一瞬、横に躱そうとしたが、避けきれないと踏んだのか動くのを止め、大楯を構えた。すると、魔物の構えた大楯にレンがリナザクラで跳ね返した攻撃が当たった。リナザクラで跳ね返した攻撃は、サレサの電気が元々強力だったと言う事もあり、物凄い威力で魔物の構えた大楯を粉々に破壊した。そして、リナザクラで跳ね返した攻撃はそのまま魔物の体を貫通した。

 

「上手くいった。」

 

「クア!」

 

 上手くいった事に安堵しているレンを見て、サレサは驚いたといった表情をしていた。すると、人型の魔物は長剣と大楯と一緒に粉々になった。

 

「これでやっとひと段落ついたね。」

 

「クア。」

 

 レンの言葉にサレサが返事をすると、魔物の姿から人間の姿へと変身した。

 

「レンお姉ちゃんが私に攻撃してって言った時はビックリしたよ〜」

 

「そうだね、ビックリさせちゃったね。」

 

 サレサの言った事にレンは微笑んで返事をした。二人がそんな会話をしていると、この空間に入ってきた位置の反対側の壁が少し崩れ、扉が現れた。

 

「これって……」

 

「まだ、先があるみたいだね。」

 

「うん。」

 

 二人はそれから現れた扉に近づいた。すると、扉には今までと同じ様に手を嵌められる窪みがあった。

 

「また、これだね?」

 

「うん。」

 

「私に捕まって。」

 

「うん!」

 

「わぁ!?」

 

 レンに言われてサレサは笑顔でレンに抱きついた。

 

「もう〜、しょうがないな〜、今だけだからね?」

 

「うん!」

 

 レンは困惑しながらも微笑んで言うと、サレサは満面の笑みを浮かべた。そして、レンは扉の窪みに手を嵌めた。すると、窪みの部分から扉全体へと青い光が広がっていった。それから、扉全体まで青い光が広がると、青い光が二人を呑み込んだ。

 

次回、合流



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第86話 合流

「ここはどこだ?」

 

 シンが気がつくと、またどこかわからない場所に飛ばされていた。周りを見ると、黄土色で出来た石の壁が奥の方まで続いていて、シンは何処かの通路の行き止まりにいる様だった。

 

「また今までみたいに魔物がいるんだろうな……」

 

 シンは呆れた口調で言った。すると突然、シンの横に青い光が発生した。

 

「なんだ?!」」

 

 シンは突然の事に驚きながらもその青い光の方を向き、自分の両腕で目を覆いながら目を瞑った。

 

「ここはどこだろう?」

 

「あ〜!シンお兄ちゃんだ!!」

 

 シンが目を瞑っていると、少し前までよく聞いていた聞き慣れた声が聞こえてきた。シンがその聞き慣れた声の方を向いて目を開けると、そこには一緒に旅をしているレンとサレサの二人が、レンにサレサが抱きついている姿で居た。

 

「おお!二人とも無事だったか!ていうか何してるんだ?」

 

 シンは二人の姿を見て安心したと共に、サレサがレンに抱きついている姿を見て困惑した。

 

「これは、その〜、サレサが……」

 

 シンに聞かれたレンが困った顔をして言った。

 

「え〜〜、でも、レンお姉ちゃんだって良いよって言ってくれたじゃん!」

 

「それはそうなんだけど……」

 

 サレサがレンに抱きつきながらレンの顔を見て、少し怒った顔をして裏切られたと言わんばかりに言うと、それを聞いたレンが困った顔をして言った。

 

「まあ、無事なんだったら良かった。二人とも怪我はしてないか?」

 

「うん、大丈夫。」

 

「私も元気だよ!少しお腹空いたけど……」

 

「サレサはさっきお肉食べたでしょ?!もうお腹空いたの?」

 

 サレサの話しを聞いたレンが思わず驚き、呆れた口調で言った。

 

「だって、魔物の姿で電気を使ったら直ぐにお腹が空くんだもん。」

 

 レンの話しを聞いたサレサが仕方がないと言わんばかりに主張した。

 

「ん〜……そうなのかもしれないけど……まあ、一杯戦ってくれたから良いか……」

 

 サレサの主張を聞いたレンが仕方がなさそうに言った。すると、レンの話しを聞いたサレサが笑顔を浮かべ、満足そうな顔をしていた。

 

「まあ、色々あったんだろうけど、それは後で聞くとして、取り敢えず、先に進もう。」

 

「うん。」

 

「そうだね。」

 

 それから三人は奥の方まで続いている道を進んだ。

 

「二人もやっぱり魔物と戦ってここまで来たのか?」

 

「うん!鳥の魔物と黒の鎧を着た人型の魔物と戦ったよ!」

 

「へ〜」

 

「そういうシンはどうだったの?」

 

「俺か?俺は蠍みたいな魔物とオバケみたいな消えたりする魔物だったな。」

 

「オバケ?!何それ?怖そう……」

 

 シンの話しを聞いたサレサが嫌そうな顔をして言った。

 

「なんだ?そんなに嫌なのか?」

 

「うん。私、オバケとか怖いのか苦手なの。」

 

「へ〜、そうなのか。」

 

 サレサの話しを聞いたシンが意外といった顔をした。そんな会話をしていると、三人の歩いている道の前方に高さ二メートルぐらいの木製で出来た濃い茶色をした両開きのドアノブだけが金属で出来たドアがあった。周りを見ると、他に行けそうな道はなかった。

 

「今度はドアか。」

 

「そうみたいだね。」

 

「また戦わなきゃいけないのかな?」

 

「さ〜、取り敢えず、中を開けて見ない事には何とも言えないな。」

 

 三人はそんな会話をしながら、石で出来ていた通路に不自然にある木製のドアの前まで歩いた。

 

「何があるか分からないから注意していこう。」

 

「うん。」

 

「そうだね。」

 

 シンの問いかけにサレサが返事をすると、首につけていたネックレスが紫色に光り、魔物の姿へと変身した。

 

「開けるぞ?」

 

「うん。」

 

「クア。」

 

 シンはそう言って、ドアノブに手を掛けた。

 

次回、本当の実力



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第87話 本当の実力

「何だこれ?!」

 

 シンがドアを開けると、そこには地面より少し上の壁の正面の部分に大小様々な形と色をしたガラスが黒い色で区切られているステンドグラスがあった。そして、そのステンドグラスは後ろから光りを浴びている為か、それぞれのガラスがくっきりと色鮮やかに写し出され、神秘的な雰囲気を作っていた。道の真ん中には、床に赤のカーペットが敷かれていて、その両脇に茶色の木製で出来たイスが等間隔に並べられていて、ステンドガラスの方を向いている教会を思わせるような場所だった。

 

「綺麗な場所だね〜」

 

「クア〜」

 

 二人は中の様子を見て、感銘を受けているようだった。それから三人は中に入った。

 

「ここは外にでも繋がってるのか?」

 

 シンは色あざやかなステンドガラスを見て、そんな事を言った。

 

「どうなんだろうね?」

 

「クア。」

 

 どうやら二人も同じような事を考えていたようで不思議がっていた。

 

「割ってみるか……」

 

「ダメだよ!」

 

「クア!」

 

 シンの提案にレンとサレサが一緒になって言ってきた。

 

「でも、もしかしたら、外に繋がっているかもしれないだろう?」

 

「だからといって、こんなに綺麗なものを壊すなんて勿体無いじゃない。」

 

「クア。」

 

「え〜……」

 

 シンは理由を聞いて渋い顔をした。すると、開いていたドアがバタンと音を立てて、独りでに閉まった。

 

「ん?何だ?」

 

 シンは一人で閉まったドアが気になり、ドアまで歩いてドアを開けた。

 

「開かない?!」

 

「え?!」

 

 シンが全力でドアを開けようと努力したが、ドアはピクリとも動かなかった。

 

「罠だったか?」

 

「試しに蹴破ってみるからちょっと避けて。」

 

「おお。」

 

 そう言ってシンがドアから離れると、レンがドアに蹴りを入れた。だが、さっきと同様、ドアはピクリとも動かなった。

 

「やっぱりダメか……」

 

「木製のドアだからシンのサニアとかなら壊せるかも。」

 

「確かに、やってみるか。」

 

 シンはレンに言われたように懐からサニアを取り出した。

 

「危ないから下がっててくれ。」

 

「うん。」

 

 レンがドアから離れると、シンはサニアを振り下ろした。すると、ドアが壊れるどころか、サニアの斬撃が発動しなかった。

 

「何でサニアが発動しないんだ?!」

 

 シンがサニアが発動しない事に驚いていると、今度は三人の背後にあった色鮮やかなステンドガラスの方からパリンというガラスが割れた時の様な大きな音がなった。

 

「何だ!?」

 

 シンはそう言いながら後ろを振り返った。すると、シンの視界にステンドグラスを割って勢い良く自分の方に飛びかかって来る、頭が前後左右と四つあり、剣と刀を持った腕が全部で八本、前後左右に二本づつ付いている阿修羅の様な見た目をした、目が赤く、黒い体をした人型の魔物が今まさにシンに襲いかかろうとしていた。

 

「何だこいつ!!」

 

 シンは魔物の姿を見て懐からイニルを取り出そうとしたが、間に合わなかった。

 

(このままだとマズイ!!)

 

 魔物の剣が当たりそうになりシンが焦っていると、サレサが体から電気を魔物に向かって放った。サレサの電気は魔物に当たり、一瞬、動きが止まった。シンはその隙に懐からイニルを取り出し、足で魔物を蹴り飛ばした。すると、魔物はシンの攻撃を前の二本の腕で受け止め、スタンドグラスの方に離れた。

 

「サレサ、助かった。」

 

「クア!」

 

 シンがサレサに礼を言うと、サレサは笑顔で返事をした。

 

「どうやらこいつがここの魔物らしいな。」

 

「そうみたいね。」

 

 シンはサニアとイニルを構え、レンもリナザクラを取り出し、魔物の攻撃に備えた。魔物をよく見ると、中世ヨーロッパの剣の様な見た目をした剣を左手が持ち、鞘の部分が黒く、鍔が金色で反りが殆ど無い、至って普通の刀を右手が持ち、全部で剣を四本と刀を四本を持っていた。上半身は何も着ていなく、下半身は黒の半ズボンの様なブカブカの服を身に付けていた。

 

「試したい事がある。」

 

「何?」

 

 シンの言った事にレンが不思議に思っていると、シンがサニアを魔物に向かって振り下ろした。すると、いつもなら発動する筈のサニアの斬撃が発動しなかった。

 

「やっぱりか……」

 

「どう言う事?」

 

「何でか分からないけど、どうやらここでは神器が使えないらしい。」

 

「そんな?!じゃあ、どうやってあの魔物を倒せば……」

 

 シンの話しを聞いたレンが重い表情で言った。

 

「クア!」

 

 すると、サレサがレンに近づき、自分の存在を伝えるかの様に言った。

 

「そうだったね、ごめん、ごめん。サレサが居たね。」

 

「クア。」

 

 レンがサレサに謝ると、サレサは快く返事をした。

 

「いくらサレサが居るからといっても、神器が使えない以上、そう簡単には倒せないだろうけどな。」

 

「クア〜!!」

 

 シンがそう言うと、サレサは少し怒った様にシンに訴えた。

 

次回、三人VS魔物



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第88話 三人VS魔物

 三人が話していると、人型の魔物がレンに向かって切りかかってきた。その攻撃をレンは開いてないリナザクラを使って受け止めた。

 

「能力は使えなくても、普通の物としてなら使えるみたい。」

 

 レンが魔物の攻撃を受け止めながら言った。すると、魔物の後ろ側に付いている両腕がレンに向かって剣と刀を突き刺そうとしてきた。

 

「レン!危ない!」

 

 魔物の攻撃を見たシンがレンを守る為に魔物に向かってサニアとイニルを振り下ろした。だが、シンの攻撃を魔物は右側に付いている両腕で防いだ。すると、サレサも魔物の攻撃を見て危ないと感じていた様で、魔物に向けて電気を放っていた。サレサの攻撃を見た魔物はサレサの攻撃を避ける様にしてレンから離れた。

 

「二人ともありがとう。」

 

「ああ。」

 

「クア!」

 

 レンが二人にお礼を言って二人が返事をすると、魔物の全ての腕が武器を構えて腰を落とした。

 

「何かしてくるぞ。」

 

「うん。」

 

「クア。」

 

 魔物の行動を見た三人が身構えると、魔物は勢いよく三人のいる方に向かって走ってきた。そして、どんどん距離を詰める魔物があと少しで三人に攻撃が当たるぐらいの近さまで近づいた時、いきなり魔物がくるりと右に回転し始め、見る見るうちに回る速度を上げた。

 

「何だ?!こいつ!」

 

 今までにない攻撃の仕方に驚いていると、三人に攻撃が当たる頃には、剣と刀で八本あった筈の武器が回転する速さから、一本の繋がっている武器の様に見えていた。

 

「範囲が大きいからバラバラに離れよう。」

 

「ああ。」

 

「クア。」

 

 レンの言葉に二人が返事をすると、三人はバラバラになる様に離れた。すると、魔物はシンに向かって突撃してきた。

 

「俺か……」

 

 シンは魔物の攻撃に備える為にサニアとイニルを構えると、魔物はそんな事を意図せず、そのまま真っ直ぐシンに向かってきた。そして、魔物がシンに近づき、魔物の持っていた武器が当たる範囲まで近づくと、シンの持っていたサニアとイニルが魔物の持っていた武器と当たり、大きな火花が散っていた。

 

「こいつ、凄い力だ!!」

 

 シンは魔物の攻撃を受け止めながら徐々に徐々に後ろに下がっていた。

 

「シン!!」

 

 シンの様子を見たレンが心配して声を掛けた。

 

「分かってるよ!!」

 

 シンはそう言って、魔物の攻撃受けながら、魔物の持っている武器を上に弾かせる様に力を思いっきり入れた。すると、その瞬間、シンの力によって魔物の武器が上に弾かれ、胴体に隙を作る様にして一瞬、動きが止まった。

 

「今だ!!」

 

 シンは魔物に出来たほんの一瞬の隙を突いて胴体を蹴り、魔物をシンの前方へ蹴り飛ばした。すると、魔物は手に持っていた刀と剣を刃の無い部分を器用に使って受け流し、体勢を立て直した。

 

「こいつ、なんだか戦い慣れてるみたいな身のこなしだな。」

 

 シンが魔物の様子を見て渋い顔をしながら言った。

 

「シン!大丈夫!?」

 

 レンが心配そうな顔をしながらシンに近づいて言った。

 

「ああ、大丈夫だ。にしても、あの魔物ほとんど隙が無い。三人で上手くやらないと返り討ちにあっちまう。」

 

「うん。サレサの電気を戦いの中で上手く当てないとね。」

 

「クア!」

 

「俺たちがなんとか隙を作るからサレサはその隙を見て電気で攻撃してくれ。」

 

「クア!」

 

 シンの話しにサレサがコクリと頷いた。三人が作戦を話し合っていると、魔物が武器を構えて三人に向かって走ってきた。

 

「私がリナザクラで魔物の攻撃を止めるからその隙にサレサが電気で攻撃して。その後はシンが攻撃をして。」

 

「分かった。それでやってみよう。」

 

「クア。」

 

 三人が話し合っていると、魔物がすぐ近くまで迫っていた。そして、魔物は三人に攻撃が当たるまで近づくと武器を上に振り上げた。それを見たレンはリナザクラを開いた状態で魔物の前に立って構えた。すると、魔物はレンに向かって振り上げた武器を振り下ろした。レンはそれをリナザクラの扇面を使って受け止めると、魔物が先ほどと同様に背後の両腕をレンの方に向けて武器を突き刺そうとした。

 

「サレサ!今だ!」

 

「クア!」

 

 シンの掛け声に合わせてサレサが返事をすると、サレサは体に帯びていた電気を魔物に向かって攻撃した。サレサの電撃は魔物の方に一直線に向かっていくと、レンはサレサの電気が魔物に当たりそうになったタイミングを見計らって後ろに飛んだ。すると、レンと魔物が接触していないタイミングで魔物にサレサの電気が当たった。

 

「上手くいった!」

 

「クア!」

 

 サレサの電気に当たった魔物は体が痺れて上手く動けない様でフラフラしながらその場を行ったり来たりしていた。その隙を突いてシンは魔物に近づくと、サニアとイニルを構えて魔物に突き刺そうとした。魔物もシンの攻撃を防ごうと腕を動かそうとしていたが、上手く動かなかった様で、サニアとイニルが魔物の胸の辺りに突き刺さった。

 

「よし!」

 

 作戦通りにいったシンがそう言うと、サニアとイニルを抜いて魔物の鳩尾を蹴ると、魔物はシンの前方に蹴飛ばされた。そして、シンに蹴飛ばされた魔物はシンに受けた傷が致命的だったのか先ほどの様に受け身をとると言う事も無く、床に倒れた。

 

「何とかなったな……」

 

「うん。」

 

「クア。」

 

 倒した魔物を見ながら三人が安堵の言葉を口にした。すると、倒して横になっていた筈の魔物が剣と刀を床に突き刺しながら支えにして立ち上がった。

 

「こいつ?!まだ立ち上がれるのか!!」

 

「まだ、戦わないといけないの!?」

 

「クア!?」

 

 魔物の姿を見た三人が魔物に対して不安や焦りなどを感じていると、シンが胸の辺りに付けたサニアとイニルの傷が見る見るうちに白い煙を上げて回復して元の状態に戻った。

 

「な……っ?!」

 

 魔物の様子を見た三人が唖然としていると、今度は魔物の背後にあった顔と両腕が砂の様に崩れ落ち、手に持っていた剣と刀もガチャンと言う音を立てて床に落ちた。

 

「どういう事……?」

 

 魔物は四つある顔と八本の腕から三つの顔と六つの腕へと姿を変えた。

 

次回、二回戦

 



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第89話 二回戦

「もしかしたらこの魔物、顔の数だけ復活するのかもしれない。」

 

「じゃあ、後三回は倒さないといけないって事?」

 

「多分……。この魔物、ニール村の時に戦った、三つ頭があるアンデットと似ている気がする。」

 

「ああ、あの時の……」

 

 レンはシンの話しを聞いて、ニール村の近くにあった墓地の時の事を思い出していた。

 

「ただ、腕が減ってる分、多少は倒しやすくなっている筈だ。」

 

「うん。」

 

「クア。」

 

 シンの言った事に二人が返事をすると、魔物が武器を構え、三人に向かって近づいてきた。

 

「気を引き締めていくぞ!」

 

「うん!」

 

「クア!」

 

 三人がそう言って気を引き締めると、魔物が電気でやられた事を根に持っているのか、サレサに向かって武器を振り払った。それをサレサは後ろに飛んで躱すと、体に電気を帯び始めた。すると、それを見た魔物がサレサの電気を帯びる事を阻止しようとして、勢いよく足元を蹴り、サレサに向かって突撃してきた。

 

「そうはさせない!」

 

 レンはそう言うと、魔物の前に立ち、リナザクラを開いた状態で構えた。すると、魔物の攻撃はレンの持つリナザクラの扇面に当たった。そして、レンは魔物の攻撃がリナザクラの扇面に当たった事を手に伝わる衝撃で確かめると、魔物がいる扇面とは反対側のレンが構えているリナザクラの扇面にレンは蹴りを入れた。魔物はレンの蹴りの力で後方へと押し飛ばされた。

 

「よし!」

 

 魔物がレンによって押し飛ばされると、シンがサニアとイニルを魔物に近づいて薙ぎ払った。すると、魔物はシンの攻撃を左右の四本の腕に持っていた武器で受け止めた。

 

「流石に倒せはしないか……」

 

 魔物に攻撃を受け止められたシンがそう言うと、魔物は正面の両腕に持っていた武器をシンに突き刺そうとした。

 

「今だ!」

 

 魔物がシンに武器を突き刺そうとした瞬間、シンは魔物の武器を上に弾いて、後方に飛んだ。すると、魔物の後方からサレサが放った電気が魔物に向かってきていた。それを見た魔物は躱そうとするがサレサの電気を躱す事が出来ずに体に当たった。魔物の体はサレサの電気によってさっきと同様、筋肉が痙攣し、動きを止めていた。それを見たシンは透かさず魔物に近づき、サニアとイニルを魔物の心臓目掛けて突き刺した。それからシンは魔物からサニアとイニルを抜くと、魔物がその場に倒れ込んだ。

 

「上手くいった。これを後二回繰り返さないといけないのか……」

 

 シンは魔物から少し離れ、額に汗をかきながら少し疲れた顔をして言った。

 

「シン、大丈夫?」

 

「ああ、何とかな」

 

 シンの様子を見ていたレンが心配した顔をして聞くと、シンは平気な顔をしながら返事をした。シン達がそんな会話をしていると、魔物は先程と同様、武器を支えに使いながら体を起き上がらせ、立ち上がった。すると、魔物の左の顔と左側に付いていた両腕が砂の様に崩れ落ち、持っていた武器が床に落ちた。そして、シンの付けた傷は白い煙を上げながら修復した。

 

「もう一度やるぞ!」

 

「うん!」

 

「クア!」

 

 シンはそう言うと、魔物に向かって走り出した。それを見たサレサも戦闘に備えて再び体に電気を帯び始めた。魔物はというと、シンの動きを見て武器を構えていた。そして、シンが魔物の近くまで近づくと、サニアとイニルを振り下ろした。魔物はそれを右側の腕に持っていた武器で受け止めた。すると、魔物は正面に持っていた武器でシンに向かって突き刺した。それをシンは後ろに飛び、魔物と距離を取りながら躱した。

 

「サレサ!」

 

「クア!」

 

 シンの掛け声にサレサが返事をすると、サレサは魔物に向かって電気を放った。魔物はサレサの攻撃を避ける為、後方に飛んで躱した。すると、サレサの攻撃は魔物の元いた場所に当たり、辺りの床を粉々にした。

 

「はあああ!!」

 

 レンは魔物がサレサの電気を躱す事が分かっていたので魔物の背後まで近づき、リナザクラで攻撃をした。魔物はレンの攻撃を正面に持っていた武器で受け止めた。すると、魔物の背面がシンの方を向いた。シンはその隙を突いて背後に勢い良く近づくと、サニアとイニルを魔物に向かって突き刺した。サニアとイニルは魔物の背中に刺さると、シンは素早く抜き、後ろに飛んで離れた。

 

「はあ、上手くいったな。」

 

 魔物は背中に刺された傷から床に左膝をついて、剣を支えにして痛みに耐えている様だった。

 

「サレサ、今よ!」

 

「クア!」

 

 レンがサレサにそう言うと、サレサは傷ついている魔物に向かって今まで溜めていた電気を放った。すると、魔物にサレサの電気が当たった。サレサの電気は今までよりも強力だったらしく、魔物の全身を黒く焦げさせ、全身から黒い煙を出しながら倒れていた。

 

「次で最後だ……」

 

「うん。」

 

「クア。」

 

 シンの予想通り、魔物は黒焦げになりながらも武器を支えにして震えながらも立ち上がった。すると、魔物の右の顔と右側についていた両腕が今までと同じ様に崩れ落ち、持っていた武器が床に落ちた。すると、魔物は全身の傷が見る見るうちに治った。

 

「ん?なんか、様子が……」

 

 シンが見ていたのは今までとは違い、魔物の体からサレサの電気を食らった時とは別の白い煙が全身から出ていた。

 

「シン、あれって……?」

 

「分からない。でも、嫌な予感がするな……」

 

 二人がそんな事を話していると、魔物の筋肉が徐々に徐々に大きくなっていった。そして、魔物は今までの魔物の姿とはまるで違い、全身が筋肉室でガタイの良い、如何にも力がありそうな見た目をし、体からは白の煙を出していた。

 

次回、戦いの先に

 

 



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第90話 戦いの先に

「クア!」

 

 魔物の姿を見たサレサが体に電気を帯び始め、警戒している様だった。

 

「ちょっと、まずいかもな……」

 

 シンはサニアとイニルを構えながら言った。すると、魔物は全身から白の煙を出しながら武器を構えた。

 

「二人とも気をつけて!」

 

「ああ。」

 

「クア。」

 

 レンの掛け声に二人が返事をすると、魔物が三人に向かって走り出した。その速さは今までの比ではない程であっという間に三人との距離を詰めた。

 

「こいつ、明らかに動きが俊敏になってやがる……!」

 

 魔物の俊敏性に驚いていると、魔物がサレサの方に近づいた。

 

「クア!!」

 

 サレサは魔物に向かって電気を放った。だが、魔物はサレサの電気を横に躱すと、透さずサレサに蹴りを入れた。

 

「クア……っ」

 

 サレサは魔物に蹴り飛ばされると、ドアの方まで勢い良く飛び、ドアに当たってようやくその勢いを無くした。

 

「サレサ!!!」

 

 魔物に蹴り飛ばされたサレサを見て二人が声を掛けた。だが、サレサは魔物の攻撃が余程強かったのか、ドアの近くでぐったりしていた。すると、今度は魔物がレンに向かって勢い良く近づき、持っていた武器を振りかぶるとレンに向かって振り下ろした。レンはそれをリナザクラを閉じた状態で受け止めた。だが、魔物はそれを予測していたかの様な速さで腰を落とすと、右足でレンの鳩尾に蹴りを入れた。

 

「くぁ……っ」

 

 レンは魔物の攻撃を受けると、その場にしゃがみ込んだ。

 

「レン!!」

 

 シンがレンの名を叫ぶと、魔物はしゃがんだレンに向かって勢い良く蹴りを入れた。すると、レンはしゃがんだ状態でなんとか両腕を蹴ってくる魔物の足に向かって構えると、魔物の蹴りはレンの構えた腕に当たった。魔物の蹴りを受けた止めたレンは、直接体に蹴りが当たらなかったものの、その威力は絶大でレンを壁まで飛ばした。

 

「う……」

 

 壁に当たったレンはその場に倒れてぐったりとしていた。

 

「お前!!!」

 

 シンは怒りの表情を浮かべながら言った。すると、魔物はシンの方に振り向き、武器を構えた。

 

「レン、サレサ、今手当てしてやるから待ってろよ。」

 

 シンはそう言うと、魔物に向かって走り出した。そして、シンは魔物の近くまで行くと、サニアを魔物に向かって突き刺した。それを魔物は左手に持っていた剣でサニアを弾いた。そして、今度は魔物が右手に持っていた刀でシンに向かって薙ぎ払った。すると、シンは魔物の攻撃をイニルで受け止めた。そして、シンは魔物に向かって左足を一歩踏み出すと、右足を魔物の顎に向かって下から蹴り上げる様に攻撃した。シンの攻撃は魔物の顎に当たり、魔物を少し後方に蹴り飛ばした。

 

(筋肉の所為か重いな)

 

「シン……」

 

「レン!大丈夫か?!」

 

 弱々しい声のレンにシンは心配そうな表情を浮かべながら言った。すると、蹴り飛ばされた魔物がレンの事に気づき、レンの方に目線を向けた。そして、次の瞬間、魔物はレンに止めを刺す為、レンの方に勢い良く走り出した。

 

「クソっ!!こいつ!!」

 

 シンは魔物の後を追う様に走り出した。だが、魔物が先に動いた分、距離が出来ており、このままだと、魔物の方が先にレンのところに着くのは必然だった。

 

「レン!早くそこから離れろ!」

 

 シンがレンに強く言うが、レンは今までの疲れやダメージからか立ち上がれず、その場に倒れ込んでいた。すると、魔物が先にレンのところに近くと、大きく上に飛び上がり、武器を下に構えて、レンに突き刺そうとしていた。

 

「レン!!!!」

 

 このままだと魔物の武器がレンの体を突き刺してしまう。そう思ったシンはレンの名を叫んだ。徐々に徐々に魔物がレンに向かって落ちていく中、シンは一心不乱にレンに向かって駆け寄っていた。すると、魔物がレンに武器を突き刺す前に着く事が出来た。だが、魔物は後少しでレンの体を突き刺すぐらいまで近づいていた為、シンはレンの盾になる事しか出来なかった。

 

「ぐは……っ」

 

 シンは右肩と左脇腹の辺りに魔物の武器が突き刺さり、口からは大量の血が出ていた。そして、シンの血が辺り一杯に飛び散り、魔物に刺された傷口からは今も血が流れ出ていた。

 

「シ……ン……?」

 

 レンは自分にシンの血が大量についている事など気にもせず、唖然の表情を浮かべ、自分の事を庇って血を流しているシンの姿を倒れ込みながら見ていた。すると、魔物はシンから武器を抜き、シンから距離をとった。

 

「く……っ」

 

 シンは痛みを堪える様にその場に蹲った。

 

「シン……」

 

 レンは血を流しながら蹲るシンの姿を見て、涙を流し、恐怖の表情すら浮かべていた。

 

「くは……っ、大丈夫か?」

 

 シンは血反吐を吐きながらも、レンに向かって苦しそうな表情を浮かべながら言った。

 

「私の心配よりも自分の心配してよ……」

 

 レンは涙を流しながら震えた声で言った。

 

「大事な人が目の前で死ぬのは……もう、沢山なんでね……」

 

 シンが今にも消えてしまいそうな声で言った。すると、距離をとっていた魔物が止めを刺そうとシンに向かって走ってきた。

 

「シン……、お願い……逃げて……」

 

 レンはぼやける視界の中で見える魔物の動きを見て、震えながら言った。だが、シンは魔物に受けた傷によって動けずにいた。そして、魔物はシンに近づくと、シンに向かって武器を振りかぶった。

 

「シン!!!」

 

 レンがそう叫んだ瞬間、魔物に青白い電気が当たった。

 

「クア!!!」

 

 サレサは電気を全身に帯びながら、魔物に近づいていた。魔物はというと、サレサの電気によって全身が麻痺しており、筋肉が増えた分、前よりも大きく痙攣していた。すると、怒った表情を浮かべながら魔物に近づくサレサの体から溢れ出るように電気がバチバチと音を立てていた。そして、次の瞬間、サレサは体に帯びた電気を魔物の真上に放った。すると、電気は魔物の頭上で留まり、バチバチと弾けるような音と青白い光を増していった。そして、次の瞬間、魔物の頭上にあった電気が魔物に向かって物凄い速さで大きな音を立てて、青白い光と共に落ちた。すると、魔物の居たところには塵一つ無かった。

 

「クア。」

 

 サレサの首につけていたネックレスが紫色に光り、人間の姿になった。

 

「大丈夫!?」

 

 サレサが走って二人の元に駆け寄った。

 

次回、シンの思い



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第91話 シンの思い

「私は大丈夫。でも、シンが……」

 

「取り敢えず、何かを傷口に当てて血を止めないと。」

 

 レンが涙を流しながら言うと、サレサが冷静に言った。すると、レンはフィニットブックに取り出し、シンの手当に必要な道具が入っているリュックを取り出した。

 

「シンお兄ちゃんは取り敢えず仰向けに寝そべって。」

 

 シンはサレサの言われた通りにその場に仰向けに寝そべった。すると、その間にレンが白の布を取り出し、脇腹の部分に強く当てた。すると、白だった布がシンの血によって赤く染まった。

 

「サレサは肩の傷をお願い。」

 

「うん。」

 

 レンがそう言うと、サレサが白の布を取り出し、シンの肩の傷の部分に強く当てた。すると、さっきと同様、布は白から赤に染まった。

 

「く……っ」

 

「シン、大丈夫?!」

 

 痛そうにしているシンを見て、レンが心配そうな顔をして言った。

 

「なんとかな……」

 

 シンはいつもよりも荒々しい息遣いで小さな声で返事をした。それから暫くの間、傷口を押さえていると、血が止まった。

 

「やっと血が止まった。」

 

「悪いな。」

 

「怪我人は黙って安静にしてて!もう……心配させるんだから……」

 

 レンは自分に謝ってくるシンに最初は怒った口調で言ったが、その後の言葉は優しい口調で、レンの顔には安堵の表情があった。すると、レンはリュックの中を漁ると、中から液体の薬品の入った小瓶を取り出した。

 

「これを飲むと、痛みが多少和らいで傷にも良いはずだから飲んで。」

 

 レンはそう言うと、小瓶の蓋を開けてシンの頭を持って少し傾けさせると、シンの口元に近づけた。すると、シンは小瓶に口をつけて、中に入っていた薬品を飲み干した。

 

「後は新しい布にして、他の布で傷口を押さえている布を体に固定させてあげれば大丈夫。」

 

 それから二人はシンの傷の処置をした。

 

「ふぅ〜、何とかなったね。」

 

「うん。」

 

 それから二人はレンの言った通りの処置をシンにした。

 

「大分、楽になった。二人ともありがとう。」

 

「ううん。」

 

 シンが二人にお礼を言うと、レンは首を横に振りながらそう言い、サレサはお礼を言われたからかニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「にしても、サレサは良く落ち着いていられたね?」

 

「うん。前にも話したけど、私、大怪我をした時に手当てしたもらった事があったからそれでね。」

 

「そっか。」

 

 レンの質問にサレサがそう答えると、レンはなるほどといった感じで納得していた。

 

「一度、シンの怪我を見てもらうためにリネオスに戻った方が良いかも。」

 

「うん。私もそう思う。」

 

「……待ってくれ。もう少しで兄さんの足取りが分かるかもしれないんだ。だから、」

 

「だからじゃない!私たちがどれだけ心配したか分かってる?!一度、リネオスに戻ろう?ニールは今すぐじゃなくても良いじゃない。それに、そんな怪我で行ける訳無い!」

 

「確かにそうかもしれないけど、あと少しで兄さんに会えるってところまで来たのに、簡単に諦める訳にはいかない。」

 

「シンの言いたい事も分かるけど、私はシンが心配なの!だからお願い!今は我慢して。」

 

「……分かった。」

 

 レンの真剣な表情にシンは考えを改め、そう言った。

 

「取り敢えず、後少しはここに居ないとね。シンお兄ちゃんの傷もそうだけど、私、疲れちゃったよ〜。」

 

「……そうだね。」

 

「ああ。」

 

 サレサの言った事で重い雰囲気が少し和らぎ、二人は返事をした。

 それから三人は十数時間、今までの戦いの疲れを癒す為、その場で休憩をとった。

 

「ん〜……、そういえば、あの後、直ぐに寝ちゃったんだっけ……」

 

「起きたか?」

 

 レンが目を覚ますと、シンが体を起こしていた。

 

「シン?!まだ、安静にしてないとダメじゃない!」

 

「いや、薬が効いたのか、走ったりしなければ大丈夫そうだ。あの薬はなんだったんだ?」

 

「実はアルキトラにいた薬屋のおばあちゃんがおまけだからってくれたの。傷によく効くからもしも大きな傷が出来た時に使いなって。」

 

「ああ〜、あのばあさんか。」

 

 レンの話しを聞いたシンがアルキトラにいた薬屋の老婆を思い出していた。

 

「んん〜〜、おはよう〜」

 

 二人が話していると、サレサが眠そうにして起きた。

 

「シンお兄ちゃん、もう動いても大丈夫なの?」

 

「ああ、多分、歩くぐらいならな。」

 

「そっか、良かった〜」

 

 シンの話しを聞いたサレサが微笑んでそう言った。

 

「大分、時間も経っただろうし、いつまでもここに居る訳にもいかない。先へ行こう。」

 

「本当に大丈夫なの?」

 

「ああ。戦う事は出来ないけどな。」

 

 それから三人は準備をすると立ち上がった。

 

「まず、あの扉が開くかどうかだな。」

 

「うん。」

 

 そう言うと、三人はこの空間に入ってきたドアの前まで近づいた。

 

「開けてみるね。」

 

「お願い。」

 

 そう言うと、サレサがドアノブに触り、ドアを開けた。すると、今まで開かなかった筈のドアが簡単に開いた。だが、ドアを開けると、そこには入ってきた場所とは全く別の場所で、下に続いている階段があった。

 

「これは?」

 

「もしかすると、この空間ごと移動したのかもしれないな。」

 

「へぇ〜、すご〜い。」

 

「行ってみよう。」

 

「うん。」

 

 それから三人は階段を下った。

 

次回、六つ目の神器?



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第92話 六つ目の神器?

 階段は黄土色の石で出来ていて、ここに来るまでにあった石と同じ石の様だった。また、壁も階段と同様、黄土色の石で出来た長方形の石が規則正しい綺麗な壁を造っていた。それから三人が階段を下っていると、階段の終わりが見えた。

 

「何処かに繋がってるのか?」

 

「どうだろうね?」

 

 シンの言った事にサレサがそう言うと、三人は階段を下り終えた。すると、目の前には台座から砂が湧き水の様に溢れていた。そして、ふと横に目線を移すと、上から下に砂が滝の様に流れていて、溜まっている砂に流れていた。だが、どういう訳か溢れ出すと言う事も無く、一定の量を保っており、台座から溢れ出ている砂も床を伝ってそっちの方に流れていた。

 

「これは、なんだ?」

 

「さあ?」

 

「多分、フロリアが居る所じゃない?」

 

 シンとレンがこの場所を見て不思議に思っていると、サレサがそんな事を言った。すると、台座の近くが光りを放ち、三人は眩しさから腕を目を隠した。

 

「お久しぶりですね。」

 

 光が弱くなると、そこにはフロリアが居た。

 

「フロリアか。」

 

「はい。」

 

「ここはダンジョンだったの?」

 

「ええ。まあ、あなた方は気づいていない様でしたけどね。」

 

「じゃあ、さっきまでいた所で神器が使えなかったのはダンジョンだったからか?」

 

「はい。あなた達がさっきまでいた場所は神器を無効化する部屋です。なので、自分自身の力が試されるダンジョンでも少し特殊な場所でした。」

 

「なるほど、だから神器が使えなかったって訳か……」

 

 フロリアの説明を聞いたシンが納得したと言った口調で言った。

 

「そういえば、この部屋は宝箱が無いね?いつもフロリアが出てくる場所には神器を渡すからって宝箱があるのに。」

 

「ああ、その事ですか。」

 

 サレサが言った事にフロリアは何かを思い出したかの様に言った。

 

「無くて良いのですよ。というよりも、宝箱に入らない神器なので。」

 

「そんなに大きな神器なのか?」

 

「ええ。あなた達に渡す神器は、ダンジョンでもある神器です。」

 

「ダンジョン?」

 

「それはどういう意味だ?」

 

 フロリアの言っている事に三人は意味が分からず、不思議に思ってシンがフロリアに聞いた。

 

「あなた方に渡す神器は、普通の神器とはちょっと違い、特殊な神器です。ダンジョンでもあるため注意しながら最深部まで行って下さい。後はなんとかなる筈です。」

 

「何とかって……、そんな無責任な……」

 

「それで、そんな大きな神器なのにどうやって俺たちに渡すんだ?」

 

 フロリアの話しを聞いたレンとシンが渋い顔をして言った。

 

「フフフ、安心して下さい。あなた達三人を神器のある場所にまで飛ばします。」

 

「なんか凄そう〜」

 

「飛ばす?」

 

 フロリアの話しを聞いたサレサが楽しそうな顔をして言っているのに対し、シンが眉を顰めて言った。

 

「はい。これ以上は言えないので後は実際に行ってから自分たちで何とかして下さい。」

 

「そんな他人任せな。」

 

 フロリアの言った事にレンがそう言うと、三人のいる床に黄色い光りを放った魔法陣が三人を囲む様に現れた。

 

「何だ?!」

 

「おお〜」

 

「神器の名は空中移動要塞ルネイリアです。」

 

「空中?!」

 

 フロリアの言葉を聞いたレンが顔を引き攣ると、三人を囲んでいた魔法陣がより一層光った。すると、次の瞬間、三人はその場所から居なくなった。

 

 

「ここはどこだ?」

 

「さあ〜?」

 

 気がつくと、三人は屋根のある正方形に出来た、壁が無い代わりに白の太い柱がある神殿の様な造りをしているところに居た。

 

「空中……」

 

「ど、どうした?」

 

 シンがふと横を向くと、レンが蹲って震えていた。

 

「見て見て〜!凄いよ〜!」

 

「ん?」

 

 シンがサレサの声がする方を見ると、サレサが後少し進むと緑の地面が無くなるという崖の様なところで手を振っていた。

 

「危ないな……、ていうか、ここって、」

 

 シンが手を振っているサレサを見ていると、とある事に気づいた。それは、辺りには物どころか雲一つ無い快晴の空が遥か向こうまで見えていた。そして、視線を少し下にずらして見ると、雲が自分よりも下のところにあった。

 

「ここは雲よりも上の場所なのか?!」

 

「怖いよ……」

 

 シンが驚いていると、レンがしょんぼりして言った。すると、サレサが二人に近づいてきた。

 

「あのね!下で雲がず〜と繋がっててね、ふわふわで柔らかそうな見た目をしてんだよ!」

 

「そうか……」

 

 サレサが目を輝かせて言うと、シンが返事をした。

 

次回、信頼

 



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第93話 信頼

 レンの為に暫くその場に留まっていると、大分落ち着いたようで体の震えは止まっていた。

 

「落ち着いたか?」

 

「うん、ありがとう。」

 

 シンがレンに聞くと、レンは苦笑いで答えた。それから三人は神殿の様な場所から少し離れた。すると、三人の視界に、緑の大地に聳える洋風の城があった。その城は石で出来た円形の外壁があり、何処かの王族が住んでいてもおかしくない程、立派な見た目をしていた。

 

「これがフロリアの言っていたダンジョンなのか?」

 

「多分そうでしょうね。」

 

「立派な建物だね。」

 

 三人は城を見ながら驚いていた。

 

「取り敢えず、近くまで行ってみよう。」

 

「うん。」

 

「行こう〜」

 

 それから三人は城に入る為に近くまで歩いた。三人が居た神殿の様な場所から城までは歩いて十分程度で着いた。すると、城の外壁の一角に分厚そうな石で出来た高さが二十メートル程ある両開きの扉があった。

 

「近くまで来るとやっぱり大きいね。」

 

「うん。」

 

「というか、こんな大きい扉誰が開けれるんだよ。」

 

 人が開けるには大き過ぎる扉を見てシンがそんな事を言っていると、閉じていた石の扉がゴオオオという音を立てて一人でに開いていった。

 

「何で勝手に開くんだよ。」

 

「中に入れって事なんじゃない?」

 

「……」

 

 罠の可能性を疑ってシンが渋い顔をしていると、開いていた扉が完全に開いて中に入るのを待っているかの様だった。

 

「覚悟を決めて行くしかないのか……」

 

「多分ね?」

 

「どっちにしろ、私たち帰り方分からないから行かないとね。」

 

「ああ……、そういえばそうだったな……」

 

 サレサの言った事にシンが思い出した様な反応をすると、面倒そうな表情を浮かべた。

 

「じゃあ、行くか……」

 

「うん。」

 

「うん!」

 

 それから三人は扉の向こう側へ歩いた。すると、そこは緑の地面に一本だけ緑の葉が生い茂っている木がある中庭の様な場所だった。そして、中庭の様な場所の先には木製で出来た両開きの扉があり、城の中へ入れる様だった。

 

「二人にお願いがある。」

 

「ん?」

 

「どうかしたの?」

 

 三人が中庭を歩き、城へと続く扉に向かって歩いていると、シンが唐突にそんな事を言ってきた。すると、突然の事に二人は不思議な顔をして聞いた。

 

「ダンジョンっていうからにはそれなりに危険も伴うだろうし、魔物もいる筈だ。だけど、俺は一緒になって戦うって事が出来そうにない。それどころか、走る事さえ儘ならない。だから、色々と迷惑を掛けると思う。」

 

 シンが神妙な面持ちで二人に言った。

 

「何だ、そんな事?大丈夫よ!今更改まらなくても。」

 

「そうだよ。シンお兄ちゃんは怪我人なんだから本当は安静にしてないといけないんだからね?」

 

 シンの言った事に二人が微笑みながら言った。

 

「おお……、そうか?悪いな。」

 

 シンは二人の反応を見て、キョトンとした顔をしていた。

 

「困った時は助け合うのが仲間でしょ?」

 

「うん、うん。」

 

 レンの言った事にサレサが同調する様に首を縦に振っていた。

 

「そうだな。」

 

 シンは二人が快く言ってくれた事に感謝していた。そんな会話をしていると、三人は城の扉の前に着いた。

 

「いよいよだな。」

 

「うん。」

 

「ダンジョンって最初っから分かってるんだったら万が一の時に備えて置かないと。」

 

 三人が扉の前で中に入る決心を決めていると、サレサが二人から少し離れたところで魔具の能力を使って魔物の姿へと変身した。

 

「クア。」

 

 サレサが魔物の姿に変身すると、二人の近くに近づいてきた。

 

「じゃあ、開けるぞ。」

 

「うん。」

 

「クア。」

 

 シンが扉のドアノブに手を掛けると、扉を開いた。すると、開いた扉の先には奥の方まで続く、赤のカーペットが敷かれた長い廊下があった。そして、廊下の右側の壁には窓が等間隔で並んでいて、そこから太陽の光が射し込んでいた。

 

「入るぞ。」

 

「うん。」

 

「クア。」

 

 そう言って三人は扉を通り、城の中へと入った。すると、その瞬間、一人でに開いた外壁の扉がゴオオオという音を立てて勝手に閉まった。

 

「なんとなく予想はしてたけど、やっぱり閉まったな。」

 

「うん。これで益々、このダンジョンを攻略しないといけなくなったね。」

 

「ああ。」

 

「クア。」

 

 三人はそんな会話を済ませると、廊下の奥へと進んだ。

 

次回、七つ目のダンジョン



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第94話 七つ目のダンジョン

 三人は奥の方まで一直線に続く廊下を進んでいくと、左側の壁に時々、木製で出来た扉があった。

 

「この扉一つ一つになにかしらの罠とかあるのかな?」

 

「どうだろうな?試しに開けてみるか?」

 

「いや、自分たちから態態開ける必要はないでしょ!?」

 

「お、おう。」

 

 シンが言った事にレンは眉を寄せながら、怒った口調で言った。シンはその様子を見て驚いていた。それからも三人は、廊下の奥へと進んでいくと、突き当たりに差しかかった。左の道も右の道も造りが一緒だった為、三人は立ち止まった。

 

「突き当たりか……」

 

「どっちに行く?」

 

「う〜ん。」

 

「クア!」

 

 どっちの道を行くか二人が迷っていると、サレサが左の道の方に首を振ってそっちの道に行く様に誘導している様だった。

 

「なんか理由でもあるのか?」

 

 シンがサレサにそう聞くと、サレサは首を横に振って否定していた。

 

「ふ〜ん。まあ、左の道を行ってみるか。」

 

「うん。」

 

 サレサにシンが理由を聞くと、特に理由は無いという事が分かってサレサの野生の勘なのだろうかと思った。それから三人は左の道を進んだ。造りは今までと同じで長い廊下が向こうの方まで続き、左の壁に窓があり、そこから光が射し込み、右の壁には木製で作られた扉のある部屋がいくつもあった。三人がある程度進んでいると、二階へと続く木製で出来た螺旋階段があるちょっとした空間まで来た。

 

「階段か。」

 

「そういえば、この城って何階まであるんだろう?」

 

「さあ〜?どうだろうな?外からこの城を見た感じ結構ありそうだけどな。」

 

「クア!」

 

 二人がそんな事を話していると、サレサが螺旋階段の中間辺りで二人に向かって急かすかの様な口調で言ってきた。

 

「今行くから待ってて。」

 

「クア!」

 

 それから二人はサレサの後を追う様に螺旋階段を上がっていった。二人が螺旋階段を上り終えると、そこには木製で出来た扉がある部屋が等間隔に並んでいて、廊下は右奥にずっと続いており、左は行き止まりだった。二人が二階の様子を見ていると、サレサが一つの扉の前にいた。

 

「何で扉の前に居るんだ?」

 

「クア!」

 

 シンがサレサに聞くと、サレサは体から電気を少し出して何かを伝えようとしていた。

 

「この先に魔物でも居るの?」

 

「クア。」

 

 レンがそう聞くと、サレサが首を縦に振った。

 

「よくそんなの分かるな。」

 

「クア!」

 

 シンがサレサに感心していると、サレサが嬉しそうな顔をしていた。

 

「今までの経験上、魔物を倒していくと先に進む事が出来たけど、このダンジョンはどうなんだろう?」

 

「ん〜、ダンジョンとはいってもある程度規則性はある様な気はするから、多分このダンジョンもそうなんじゃないか?」

 

「う〜ん……」

 

 レンは眉を顰め、両腕を体の前で組みながらどうするか悩んでいた。

 

「私が扉を開けるから、シンとサレサは私の後ろについて来て。シンは戦えないから私とサレサで何とかしてみる。」

 

「分かった。二人とも頼む。俺は状況把握しつつ、何か分かったら直ぐに伝える。」

 

「うん。」

 

「クア。」

 

 シンの言った事に二人が首を縦に振ると、レンが先頭に立ち、リナザクラを持ってドアノブに手を掛けた。

 

「開けるよ!」

 

「ああ。」

 

「クア。」

 

 レンはそう言って、ドアを開いた。すると、ドアの先には一つの小さな部屋では無く、床に赤い絨毯を敷いた、大きな大ホールぐらいの物が何一つ無い部屋だった。しかし、そこの部屋の真ん中に人ぐらいの大きさで顔が無く、耳がコウモリの様な形をした猿に似た見た目をした魔物がいた。その魔物の全身は、まるで返り血を浴び様なぐらい赤く、手と足の爪が鋭く尖った鶴嘴の様な見た目をしていた。

 

「あれが魔物?」

 

「クア!」

 

 レンが思った事を言うと、サレサは首を縦に振った。

 

「……行くよ。」

 

 レンがリナザクラを構えてそう言うと、シンとサレサはコクリと頷いた。それから、三人はレンを先頭に部屋の中へと入った。すると、全員が部屋の中に入った瞬間、魔物が耳をピクつかせた。その魔物の動きに三人が警戒しながら見ていると、魔物は一瞬にして視界から消えた。

 

「どこに行った?!」

 

 全員が見ていた筈の魔物の姿が一瞬にして消えた事に三人が全員驚いていた。それから三人が周りを見渡してみるが、魔物の姿は無かった。だが、シンがふと後ろを振り向いた瞬間、その魔物はシンの後ろでただジッとその場に留まっていた。

 

次回、速い魔物



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