やはり岸波白野の青春ラブコメは王道か? (魔物Z)
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なぜか岸波白野に友達が出来にくい。

まずは一言、初めての作品なので温かい目で見てください

今後書いていくと誤字脱字が出ると思うので教えていただけるとありがたいです

それではどうぞお楽しみ下さい

つまらなかったらごめんねm(_ _)m


 

 

 

 

 

「いや~まさかこんなことになるとは…」

 

そんな小言を言いながら制服に着替え、ランドセルを用意して小学校への登校の準備をする。

 

ムーンセルのバグのせいか、それともいたずらか、よくわからないが戦いのない平和な世界に転生されたようだ。

 

まぁ、戦いが終わり分解されて終わるはずだった俺が二度目の人生を送ることが出来るのだから、嬉しくないと言ったらウソになるけどね。

 

それにこの世界で俺が五歳になった日を境に睡眠をしている間、共に聖杯戦争やサクラメイキュウ戦ってきたサーヴァント達や、他のマスターが使っていたサーヴァント達と、会話したり、遊んだり、料理や武術を習ったりすることが出来るようになった。

 

最初はホントに怖かった…。

 

『幼い奏者…』

 

『ショタなご主人様…』

 

『小さな子ブタ…』

 

『『『ゴクリッ』』』

 

あの後アーチャーが来なかったら間違いなく襲われていた。

 

ギルに限っては、俺を抱えて逃げるアーチャーと、怖い顔してその後を追って来るセイバー、キャスター、エリザベートを見て、椅子に座りワインを飲みながら爆笑していたし…。

 

なんだあのカオスな状態!?

 

五歳児にあれはトラウマでしかないよ。

 

あのせいで次の日寝るのがマジで怖かった。

 

それどもまぁ、今でも襲われそうになるがみんなで楽しくやっている。

 

登校の準備を終え自室出て家族のいる居間にむかう。

 

「おはようございます兄さん」

 

「おはよう桜」

 

この世界の俺の家族は父と妹の三人家族。

 

父は独身なのだが、俺と妹が別々のところから養子として今の家に来て家族となった。

 

誰一人血のつながりがない家庭だがいい家族だと思うし。

 

桜というこの少女は、ムーセルにいた健康管理AI桜タイプをそのまま小さくした感じの子で俺の妹だ。

 

桜にはムーセルの記憶がなく、予想あの桜/BBとは全く別の子らしい。

 

でもやはり桜は可愛いぜ!!シスコンと言われても否定はしない。

 

「桜、父さんはまだ寝てるの?」

 

「うん。昨日も手術とかで帰りが遅かったみたい」

 

父さんは医者をやっていて、世界でもかなり有名な名医らしい。

 

これもムーンセルのいたずらか、父はあのトワイス・H・ピースマンで、名前はトワイス・岸波。

 

まぁムーンセルのNPC・AI家族になったわけだ。

 

「わかった。桜朝食を作るの手伝うよ」

 

「ありがとう兄さん」

 

桜と一緒に朝食を作り始める。

 

家には母がいないため忙しい父さんのために家事は俺と桜が分担したりローテーションしてやっている。

 

「ホントに桜はよくできた子だな~」

 

そう言って俺は桜の頭を撫でると、桜は頬を赤らめ気持ち良さそうに目を細める。

 

桜はハッとして

「に、兄さん今ご飯の準備をしているのでや、やめてください///」

 

うん。やはり俺の妹が一番かわいいなぁ。

 

「ごめん。それじゃあ早くご飯作って、食べて学校に行こう」

 

桜の頭を撫でている手を放して朝食の準備を始める。

 

その後準備を終え朝食を食べて、桜と一緒にランドセルを背負い小学校へと向かう。

 

「兄さん、今日から新学期で兄さんは四年生だからクラス替えですよね」

 

「そういえば、そうだったな」

 

今年で俺は四年生で、桜が二年生。

 

確かに俺はクラス替えをする学年になった。

 

「新しい友達が出来るといいですね」

 

「…そうだな。新しい友達が出来ればいいんだけど」

 

自分で言うのもなんだが、俺には前世の記憶があるため結構というかかなり頭が良かったりする。

 

小学校レベルのテストは大抵は百点満点。一応授業の予習復習はしているよ。

 

戦闘で鍛えた洞察力や観察眼、ムーンセルにダイブしてアーチャーやアサシン先生とか色んな英雄達に効率のいい筋トレや武術をならって、家の中にある道場?で習ったこと試していたため、体育の授業や運動が他の生徒よりもかなり体力やテクニックにも差が出た。

 

最初はみんなから慕われていたが、日々が過ぎて行くたび『あいつ調子乗りすぎ』とか影で言われるようになりここ一年から半年ぐらいボッチ状態である。

 

仕方がないことだと思っている。

 

自分は見た目はかなり平凡だから、レオや凛のように『みんなの憧れ』のような存在にはなれない。

 

見た目が自分より下か、または同じくらいの奴が自分より優れていれば嫌になるのは当たり前だと思う。

 

「よし。がんばって友達を作ってみるか」

 

ここは前世と同じで、諦めることはしないポジティブに行こう。

 

『どんな状況でも前に進む』その考えは曲げたくない。

 

そんな感じ意気込んでいるうちに小学校に着き、桜と別れ新しいクラスへと向かう。

 

そして時間が過ぎ、始業式が終わり、教室に戻り、残りの時間を使い自己紹介が始まった。

 

こういうのは最初が大切だ。ボケの一つくらいは入れておけば…。

 

などと考えていると、名簿番号順で来るため早くも自分の番次に迫る。

 

「次の人どうぞ」

 

担任の先生が言う。

 

そして俺の番。俺は立ち上がり、前世で使ったアレをやる。

 

「フランシスコ・ザビ…」

 

「「「「「「「「「「…………………………………………」」」」」」」」」」

 

す、スベッたぁぁぁぁ!!

 

やっちまった。取り返しが付かない。誰もツッコんでくれない。これは今後のあだ名は『ザビ男』かな。まぁそれは嬉しいけど…。

 

「…すみません。岸波白野です。趣味、特技は特にありませんが家事などが出来ます…」

 

そして、席に座る。

 

「あ、はい。次の人どうぞ」

 

先生も何事なかったことのように次の生徒に進める。

 

大丈夫だ。こんな逆境は月の表や裏で味わっている。この程度では俺は諦めない。あれおかしいな、涙が出てきた。

 

自己紹介が終わり、担任の先生の話を聞いて今日は下校となった。

 

俺はこの教室にいるのが辛くなったため、誰よりも早く教室を後にし、家へと帰った。

 

「俺の小学校生活はこれにてジ・エンド」

 

 

 

 

 

 




こんな感じでどうでしょうか?

今回は白野くんの家族設定とムーセルの関係を少し、そして自己紹介で出だしからスベッたためクラスに居場所が出来そうにない状況になりました。

岸波家の家はFate/stay nightの衛宮邸をイメージして下さい。

次回はあの氷の女王のロリ時代が登場。

本編の奉仕部活動と高校生活のスタートはその次になると思います。


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続・なぜか岸波白野に友達が出来にくい。

今回はあの氷の女王の登場

白野くん友達を作るチャンスだ

今回は上手く終わらせることが出来なかったので、そこそこ長くなってしまいました

見るのも大変だと思いますが、楽しんでもらえたら嬉しいです


 

 

 

 

 

現在通っている小学校で誰よりも早く家に帰ったであろう俺こと岸波白野は、居間のテーブルに置手紙あった。

 

「父さんかな?なになに…」

 

『今日の仕事は明日まで帰れそうにないから、一緒に夕食を食べることが出来ない。すまないが今日も二人で食べてくれ。それと学校には遅れないように。父より』

 

まぁ、妥当だな。この家ではよくあることだ。

 

「というか今さらだけど、小学生の子供二人って結構危険じゃね?」

 

ムーンセル程ではないが、この世界も危険はあると思うし、どうしたものか。

 

「ただいま」

 

「ん?お帰り桜」

 

俺が今後のことを考えっていたら桜が帰って来た。

 

「兄さん帰ってたんですか?」

 

「ああ。誰よりも早くな!(キリ」

 

「?」

 

桜は俺が言った言葉の意味がわからず軽く首を傾げている。

 

なにこの生き物すごく可愛いんだけど。ハアハア。

 

おっと危ない。前世からある俺のオヤジの部分が出るところだった。

 

「桜。父さんは今日は帰って来ないから夕食は俺達だけで食べててくれだってよ」

 

「…わかった」

 

桜は俺から話を聞いて少し俯いてしまった。

 

やはり小学二年生には大人がいないと心細いんだろうな。

 

俺は俯いている桜を抱きしめて頭を優しく撫でる。

 

「兄さん?」

 

「桜。大丈夫だよ。桜はお兄ちゃんが守ってあげるから。また悲しくなったらこうして頭を撫でてあげるから。元気を出してくれ」

 

「あ、ありがとう兄さん///」

 

うん。やっぱり俺の妹が一番だな。

 

「それじゃあ、一緒に昼食を作ろうか」

 

「うん。あ、兄さん私午後友達の家に遊びに行くから」

 

「………」

 

「兄さん?どうかしたの?」

 

「…イヤ、ナンデモナイヨ…」

 

「でも、言葉が変だよ?」

 

「き、気にしないでくれ」

 

「…わかった」

 

桜に今日友達が出来なかったなんて言えない。まず妹に友達がいて、なぜ兄に友達がいないい。桜だって頭もいいし、運動もできる。俺との違いは、性別とビジュアルくらいのはずだ。

 

何がいけないんだ。ムーンセルの予選でも、月海原学園生徒会でもそこそこいい交友関係はできたはずなのに。凛とラニ、慎二やガトー、ジナコにレオ、あのユリウスですら友人になったはずなのに。

 

「…なぜだ。なぜいけないい」

 

俺が友人が出来ない理由を考えているうちに桜が台所で昼食を作り始めていた。

 

気が付くともう昼食が出来ていた。

 

「ごめん桜…」

 

「大丈夫だよ兄さん。兄さんすごく真面目な顔をして考え事してたし」

 

「ははは…」

 

「何を考えてたの?」

 

言えない。友達が出来ない理由を考えてたなんて言えない。

 

「あ、あれだよ。父さんが遅い時に子供二人だと危険だから、どうしようかってね」

 

「そうなの?」

 

「あ、ああそうだよ。大切なことだからね。まあ、この辺は結構平和だから大丈夫だと思うけど…。でも桜に危険なことがあったら、なにがあってもお兄ちゃんが助けてあげるからな。桜がやってほしい事があれば、俺の出来る範囲で叶えてあげるよ」

 

「ほ、ホントですか兄さん」

 

「ホントだよ」

 

「そ、それじゃあ、父さんが遅かったり、帰ってこない日は一緒のお布団で寝させてほしいです///」

 

桜は頬を真っ赤にしてお願いをしてきた。

 

ナニコノ子、メチャクチャ可愛インダケド。やばい。鼻血出そう。

 

「ダメですか…?」

 

顔を赤くしたまんま、涙目の上目使いで見てくる。

 

桜これ以上お兄ちゃんを困らせないでくれ。可愛さは正義だが罪でもあるな。

 

「だ、ダメじゃないぞ。むしろ大歓迎さ!」

 

そう言い親指を立ててグッドポーズをとる。

 

今の言動は我ながらバカだと思うよ。

 

「ありがとう兄さん」

 

子供の桜は俺の言動の意味がわかってないのが救いだ。

 

昼食を食べ終わり桜を見送った。

 

夕食の準備までヒマな俺はいつもより多いトレーニングメニューをこなして、食材や日用品の買い出しへ向かった。

 

俺や桜はあまり物欲がないため、父さんも安心してお金を預けてくれる。

 

時間は流れ、桜と一緒の布団で寝る。

 

そうだ。みんなに友達が出来ない理由と、友達の作り方を聞いてみよう。

 

でもセイバー達、女性サーヴァントは友達の作り方違うだろうから、男性サーヴァントに聞きに行こう。

 

訊く以前に、彼らに友人がいたかどうかに問題がある。英雄ってボッチなイメージがあるな…。

 

目を瞑ると意識が薄れていき、気付くといつもの部屋にいる。

 

ここは俺のイメージなのかとても居心地のいい部屋だ。

 

外は電子の海。1と0が泡のように上にあがっていく。

 

そして、この部屋はマンションの一室みたいな感じで、他の部屋に共に戦ってきたサーヴァントや、敵として戦ったサーヴァント達が住んでいる。

 

各部屋そのサーヴァントが過ごしやすい広さ、環境、道具が揃っている。

 

一番広かったのはギルとセイバー。逆に一番狭かったのはアンデルセン。

 

あと、このマンションには開かずの間が六つある。

 

予想はBBとアルターエゴの二人、ガトーのバーサーカーとトワイスのセイヴァーさん、最後は名前も知らないギルガメッシュと契約する前の俺のバーサーカー。

 

いつか開くといいけど…。

 

「よし。じゃあ遠い方から行こう」

 

順番はこんな感じかな。緑チャ⇒串刺し公⇒呂布さん⇒カルナ⇒アンデルセン⇒アサシン先生⇒ガウェイン⇒クーの兄貴⇒ギル⇒アーチャー

 

緑チャの答え。『生憎俺は一人でいることが多かったからな。友人なんかいねぇからわらん』予想通りの答えだなぁ。

 

串刺し公の答え。『友の作り方だと。我には妻さえいれば――――――』正直声も見た目も怖いから俺は逃げ出した。

 

呂布さんの答え。『%$#%@:#%$%&`+*@:.p:@"#$%'#+*`?*!!!』なにを言っているかわからない。

 

カルナの答え。『友人か…。オレは友に裏切られてな…、』悲しくなりそうだから聞かずに次へ行こう。

 

アンデルセンの答え。『お前は阿呆なのか。俺は友人にいい思い出などない。あと俺は忙しいんだ。……』この後忙しいと言ってたくせに長々と毒舌を聞かされた。

 

アサシン先生の答え。『呵呵呵呵呵。儂は戦いに生きた身、友などおらんは!』さすがアサシン先生!そこに痺れる!憧れるぅ~。

 

ガウェインの答え。『この身は我王に捧げた身。友など…ランスロットが…』悲しくなりそうパート2。

 

クーの兄貴の答え。『んなもん。テキトーにやりゃー何とかなんだろ』テキトーはあなたですよ…。

 

ギルの答え。『我の友はただ一人だけだ。アイツとは全力でぶつかり合ったまでよ』はいはい人類史最古のヤンキーマンガだね。

 

「って最後の一人になっちまったよ。やっぱり英雄たちには平穏な生活は向いてないせいか。最初から頼りにはしてなかったけど」

 

「最後はアーチャーか。アーチャーは常識人だし、親身になって聞いてくれそうだな」

 

アーチャーの部屋の前に立ちインターフォンを鳴らすと、アーチャーが出てきて部屋の中に入れてもらう。

 

「マスター今日はどうしたのかね?」

 

アーチャーに今の自分の状況を話しどうすればいいかを尋ねる。

 

「なるほど。だがマスター、マスターはいつものように振る舞っていれば自然に友人など出来ると思うのだが」

 

「俺もそう思ったよ。いつも通りやってるつもりなのに、どうしてもだめなんだよ」

 

「それならば、今と前の状況の違いを考えてみたらどうだ」

 

「なるほど」

 

ムーンセルにいたころは、戦わないといけない状況。

 

現在は、戦いもなく平和な状況。

 

これは交友関係は関係ないか。

 

「状況と環境はあんまり関係ないと思うけど?」

 

「なら今度は、ムーンセルでマスターと交友関係があった人間と今の君のクラスや学校の生徒の違いは?」

 

えーっと…、ムーンセルにいたマスター達はウィザードことプロのハッカーで、財閥の御曹司や、レジスタンスの宝、ホムンクルスに、ゲームチャンプとかetc、それにサーヴァント達とも仲がいい自身がある。そう考える、とみんな才能の持ち主であり、少し変わった人たちが多いよな。

 

でも学校の生徒は、俺が言うのもなんだが普通の子ども。天才の方が少ない。むしろ俺がその天才の部類に入るほどだ。

 

「嫌われる理由がわかっても、友達の出来ない理由がわからない」

 

「嫌われる理由とは何かね?」

 

「今通ってる学校は、お金持ちや各界で有名な人の子どもが多いんだよ。そういう生徒は学校から案内が来るけど、それ以外の生徒には入学するために試験や面接なんかもある」

 

俺や桜は名医トワイスの子どもとして案内がきたけど。

 

「みんなムーセルのマスターたちには及ばないけど、俺の住んでる市のエリートみたいなものだよ」

 

「なるほど。その学校の大半がプチ間桐慎二といったところか」

 

「そうだね。そこに見た目はかなり平凡なくせに、テストをいつも満点とって、体育の授業とかの運動を差をつけられればどうなるかな」

 

「間桐慎二ならケチを付けたり、嫌がらせをしてくるな。大半がそれならマスターが省かれるのは納得だ。だが、大半がそれなだけで、少数は違うのだろ?」

 

「どういうこと?」

 

「大半が間桐慎二なら、少数が君や遠坂凛、ラニⅧのような者がいてもおかしくはないだろ。それともいないのかね」

 

「前のクラスにはいなかった。今回からのクラスはまだわからない」

 

「なら探してみるのがいいと思う」

 

「わかった。がんばって探してみるか」

 

「そのいきだマスター。おや、そろそろ君の世界は朝の五時だ。朝のトレーニングを忘れぬようにな」

 

「うん。そういえばアーチャー?」

 

「なにかねマスター」

 

「アーチャーは俺が嫌われる理由はどう思うの?」

 

「君の話を聞くまではわからなかったが、君がムーンセルで好かれていた理由はわかる」

 

「?なにそれ」

 

「前に私が君には私以上の『女難の相』があると言ったが、実際君には『女難の相』よりかは、『人難の相』と言った方が的確だな」

 

「?」

 

どういうことだ?

 

「簡単に言うとだな、君は一癖や二癖ある厄介な人間に好かれたり、愛されたりするわけだ」

 

「ああ~、なるほど。なぜか納得できる気がする」

 

なんだろ…、全く嬉しくないな…。

 

「なに、マスターなら大丈夫だ。今日もいつものように前向きに行きたまえ」

 

「じゃあ、また夜に」

 

「ああ、またな。マスター」

 

俺はアーチャーの部屋を後にし自分の部屋に入る。

 

そして、自分の部屋で目を瞑る。意識が薄れていく感覚がある。

 

 

 

 

目を覚ますと隣で桜が寝ていた。

 

「えっと時間は…」

 

部屋の中にあるでじたる時計をみる。

 

5:04

 

「よし。身支度してから朝のトレーニングだ」

 

寝巻からジャージに着替えて洗面所に行き歯と顔を洗い、道場に向かう。

 

トレーニングを終えて、桜を起こし、登校の用意をし、一緒に朝食を作り、一緒に食べて、一緒に登校して、学校の玄関で自分達のクラスの下駄箱に向かうため別れる。

 

いつもと同じだ。

 

と思ったら、俺が在籍しているクラスの下駄箱を前に一人の女の子が立っていた。

 

気になったから話しかけてみよう。

 

「君、どうしたの?」

 

俺の声を聞いて女の子が振り向いた。

 

可愛い子だな。将来は美人になるかな。凛やラニとは違う感じの美人だな。

 

俺が知っている限りだとメルトリリスに近い感じだな。

 

「あなたは確か…」

 

おお。声も似てる。まだ幼さが残ってるが、成長するとあんな感じの声になるかな。

 

「あなたはザビエルくん」

 

「あ、ああ、ありがとう覚えててくれたんだ」

 

まさかそっちで覚えてるとは…。

 

「改めて、岸波白野です。えっと君の名前は?」

 

「あなた自分のクラスメイトの名前もわからないの。あなたバカなの」

 

え、なんで俺罵倒されてんの!?

 

「え、えっとごめん。昨日の自己紹介をスベッたせいで途中から聞いてなかったんだよ」

 

「ザビエルくんは本当にダメな人間のようね」

 

「ご、ごめん」

 

また罵倒された。しかもまだ名前がザビエルのまんまだし…。

 

「仕方がないわね。私の名前は雪ノ下雪乃よ」

 

「よろしくね雪ノ下さん。俺の名前は岸波白野だよ」

 

「ええ。よろしくザビエルくん」

 

この子聞こえてないのかな…?

 

「それで、こんなところで立ってどうしたの?」

 

「あなたには関係ないわ」

 

「いや。気になったし…。それに…」

 

「それに何?」

 

「なんか辛そうな顔しているよ」

 

「ッ!」

 

雪ノ下さんは驚いた顔をした。

 

「私、結構ポーカーフェイス得意な方なのだけれど、あなたにはそう見えたの?」

 

「まぁ、自慢ではないけど、自分の観察眼はかなりいい方だと思うけど。表情の変化とかもなんとなくわかるよ」

 

「そう…」

 

「それで、雪ノ下さんはどうしたの?」

 

「上履きがないのよ」

 

「え?」

 

「なに、あなたはバカなだけでなく耳まで遠いの?上履きがないっていたのよ」

 

「いや、聞こえてるよ。それって誰かの悪戯?」

 

「だと思うわ。まあ隠したのはうちのクラスの女子でしょうけどね」

 

「なんでそう思うの?」

 

「決まってるじゃない。私が可愛いからよ」

 

「すごい自身だね…」

 

このタイプの女の子はBB以来だなぁ。

 

「あらかた私の上履きを隠した女子の、好きな男子あたりが私のことを好きで、その腹癒せに私に嫌がらせをしようと考えたのでしょ」

 

「なぜだろう。確かに筋は通ってる気がする」

 

「当り前よ。見た目平凡で、おバカなザビエルくんにはわからないわよ」

 

「君は俺以外の人にもそんな感じで当たってたりするの?」

 

「あら、私の言葉を否定しないのかしら?」

 

「否定する前にその人当たりが気になりすぎる」

 

「いいわ。その話は置いておいて、私の上履きのことよ」

 

「置いておいたら困るんだけど、確かに上履きの方が大切だな」

 

「私の上履きが大切なんて変態ね」

 

「そういう意味じゃないよ。隠されたってことだよ」

 

「わかってるわよ」

 

「そうですか…」

 

「探すの手伝おうか?」

 

「いいわ。大丈夫よ。自分一人で探せるわ」

 

「探すなら人数は多い方がいいと思うんだけど」

 

「確かにそうでしょうけど、私一人で十分よ。探すのは放課後でいいから今日は職員室に行って来賓用のスリッパでも借りるわ。それじゃまた教室でねザビエルくん」

 

雪ノ下さんそう言って職員室にむかって行ってしまった。

 

「すごい変わった子だな…」

 

俺はため息交じりに自分の下駄箱を開いた。

 

「あれ?俺の上履きは?」

 

まさか、俺も隠された…。

 

「はぁ~。俺も職員室で来賓用のスリッパ借りよ」

 

俺も彼女を追うように肩を落とし職員室へと向かう。

 

 

 

 

 

スリッパを借りて教室について自分の席に着く。

 

教室の中は元のクラスの人と作ったグループと、昨日のうちに仲良くなった人で作ったグループなどの二種類グループが出来ている。

 

俺はどちらにも属せない。

 

男子と女子でグループの数は5、6グループはある。

 

そのグループの一つに雪ノ下さんがいる。

 

あれはグループではないな。

 

雪ノ下さんの周りに男子が集まっているだけだ。

 

好意丸出しで雪ノ下さんに話しかけている感じだな。

 

雪ノ下さんわかりにくいが、嫌そうな顔しているよ。

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが鳴り、みんなが自分の席に着く。

 

そして先生が入って来た。

 

「みんな。今日は一時間目から三時間目を使って抜き打ちで学力テストやるよ」

 

多くの生徒がブーイングをするが決まったものは仕方がない。

 

「明日にはテストを返すから頑張ってくださいね。教科は国語、算数、英語の三教科ね」

 

先生はそう言って教室から出て行った。

 

一時間目まであと十分、授業の間に十分づつあるし、予習復習もしたからどうにかなるか。

 

軽く教材に目を通し、テストに向けて頑張る俺なのであった。

 

 

 

 

 

最後の授業が終わり、帰りの準備をして、ランドセルを背負い、教室を出て行く雪ノ下さんの後を追う。

 

「雪ノ下さん。ちょっと待って」

 

「何かしらザビエルくん?」

 

「上履き探すの手伝うよ」

 

「朝に大丈夫だって言ったと思うのだけど」

 

「いや、それがね…」と俺は目線を自分の足に下ろす。

 

「俺の上履きも無くなってたんだよ」

 

「そう…。あなたも…」

 

雪ノ下さんが俺に可哀そうな者を見る眼で見てきた。

 

「だから、一緒に探そうよ」

 

「それならむしろ、バラバラで探した方がいいわ。だからあなたは自分の上履きを探すことだけに専念なさい」

 

「わ、わかった」

 

「それじゃあ、さようならザビエルくん」

 

そう言って、雪ノ下さんは俺から離れって行った。

 

なぜだろ、なぜ彼女は人と関わらず、人を頼らないんだろ?

 

「そんなことより、上履きを探すか。そうだ、あれ使おっと」

 

周囲に誰もいない事を確認して、俺はそれをイメージをすると、俺の右手の中にムーンセルで使ったあの電子手帳が出てくる。

 

物探しや探索は礼装『遠見の水晶玉』を使えばかなり楽だし。

 

ムーンセルでは、アリーナの全面とアイテムボックスの位置を標示するものだったが、この世界では、今自分が求めている物の位置を標示してれる。

 

「view_map()…えっと俺の上履きのある場所は…、あれ?二カ所ある。バラバラに隠されたか」

 

そして俺は歩き出した。

 

一つ目は体育館近くにあるゴミ捨て場。

 

「ゴミ捨て場ってひどくない。あった。あれ?両方あるぞ。ってことは、もう一カ所はもしかしたら雪ノ下さんのかな?」

 

そうだな。自分のを探してるついでに見つけたことにしよ。

 

また歩き始めた。

 

「次の場所は…ここか。まさかグランドの体育倉庫の上じゃないよな」

 

俺は近場の木に上り体育倉庫の上に飛び乗る。我ながら運動神経はいいな。

 

そしたらすぐに見つけることができた。

 

「上履きに名前書いてあるかな?あった」

 

『雪ノ下雪乃』っと丁寧に踵の部分に書いてある。

 

上履きを回収した俺は、遠見の水晶玉で、今度は雪ノ下さんを探す。

 

「彼女は今、一階をうろうろしているな」

 

体育倉庫から飛び降りる。

 

足が痛い…。

 

「よし。雪ノ下さんの所に行こう」

 

見覚えのある後ろ姿を確認。

 

「雪ノ下さん」

 

俺の声に彼女が振り向く。

 

「自分の上履きを探しなさいって言ったはずよ。見つからないからって私を頼らないでくれる」

 

「いや、見つかったよ」

 

「えっ?」

 

「俺のも、雪ノ下さんのも」

 

「えっ?」

 

「どうしたの?」

 

「あなた私と別れて、まだ二十分も経ってないのよ。私は見つけてもいないのに、何であなたがこんな短時間で私たちの上履きを見つけて、私の位置まで把握しているのよ。もしかしてあなたが私の上履きを隠した訳はないわよね」

 

そうだよな。さすがに早すぎだ。

 

「いや、俺は昨日はクラスの誰よりも早く帰ったし、今日も登校した時にはすでに雪ノ下さんがいたから、俺が隠すのは無理だよ」

 

「その証拠は?」

 

「昨日は教室にいるのが辛かったから早く帰った。登校の時は妹と一緒に来たから、妹が証人になると思うけど…」

 

「そう。それでは、なぜこんなにも早く上履きを見つけられたの?」

 

『魔法が使えるんだ(キリ』なんて言えないからなぁ。

 

「えっと、大体こういう嫌がらせで隠す場所は決まってると思うから」

 

「?」

 

「大体はその人への嫌がらせのための場所。または、普通に手の届かない場所とかかな?」

 

「なるほどね。それで、上履きはどこにあったの?」

 

「雪ノ下さんのは体育倉庫の上、俺のはゴミ捨て場の中かな…」

 

やっぱりひどくない!?

 

「なるほどね。ゴミ捨て場くんはその二カ所をすぐに見つけて、最初は体育倉庫、その次にゴミ捨て場に行ったのね」

 

「あの。ザビエルはまだしも、ゴミ捨て場ってあだ名はひどくはないですか…。でもまぁそんな感じだね。はい」

 

俺は雪ノ下さんに雪ノ下さんの上履きを渡す。

 

「ありがとう。ゴミ…いや、ザビエルくん」

 

ちょっとこの子なに、俺はムーンセルでもこんなに罵倒された覚えがないよ。

 

「まあいいや。また同じことがあるといけないから、今後は上履きは持ち帰った方がいいかもね」

 

「そうね。そうさせてもらうわ」

 

「あのさ、途中まで一緒に帰らない?」

 

「別にかまわないわよ。でも、私は車が迎えに来るから昇降口までだけどね」

 

そして、雪ノ下さんと一緒に歩き始める。

 

「ありがとう」

 

「お礼を言われるようなことは私はしていないのだけど?」

 

「それでも嬉しくて、俺こうやって人と話しながら帰るの久しぶりなんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ちょっと、いろいろあって友達がいないんだよ」

 

「あなたも悲しい人ね」

 

「自分でもそう思うよ…」

 

そんな話をしながら、職員室にスリッパを返し、上履き持ったまま玄関を出て昇降口の方え移動する。

 

「私の迎えは来てるみたいだから、これでさようならかしら」

 

そこには黒塗りの外車がある。リムジンだろうか。雪ノ下さんは前者の方の入学生なのかな?

 

「あの雪ノ下さん!」

 

「なにかしら?ザビエルくん」

 

よし言うぞ。

 

「あの俺と友達になってくれないかな?」

 

よし言った。雪ノ下さんは少し驚いた顔をしているが答えはどうだろ?

 

「いやよ」

 

えぇぇ~。

 

「また明日学校でね。岸波白野くん」

 

俺が意外な返答を受けて呆然としていると、雪ノ下さんはそう言って車に乗り、車は出て行った。

 

えぇぇ~…。

 

 

 

 

 




やっぱり長いですね

次回は今回の続きと、高校の始めくらいを書くつもりです

また長くなると思いますが

また見てください



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そして岸波白野にライバルができて・・・。

頑張りました。

予想以上に長くなってしまいました。

ちょっと、シリアスな展開を用意してみました。

長いですが飽きずに呼んでもらえると嬉しいです。




 

 

 

 

 

俺は重い足取りで学校へとむかう。

 

正直昨日の雪ノ下さんの言葉は辛かった。

 

『あの俺の友達になってくれないかな?』

 

『いやよ』

 

仲良くはなれたとは思ったのだが、何がいけないのだろう。

 

昨日の夜、ムーンセルで俺の行動の悪かったことを聞くために女性サーバントたちのところを訪ねたが、ドレイク姐さんは酔い潰れていたし、アリス/ありすは寝てた。

 

ネットゴーストだったありすは、ナーサリーライムの望んだ環境に大きく含まれていたのか、あの建物のなかに存在するらしく、よく三人で遊んでいる。

 

それを見たセイバーがよくハアハアしている。

 

エリザベートとセイバーは一緒に入浴中だった。やっぱり仲がいいな。

 

この前なんか二人で『アイドルユニットを作る』とか言って、ボイストレーニングしたらしく、他のサーヴァント達からすごい苦情が来たらしい。

 

おかしいな、あの建物の防音設備はかなり良かったと思うのだが…。

 

最後にキャスターのところに行った。

 

キャスターに雪ノ下さんことを話したら、『ご主人様。その女は私がコロコロしてあげますからね(ハート)』

 

みたいな感じで怖かったから止めてもらった。

 

なに一つ理由がわからないまま、今に至る。

 

「はあ~…」

 

「兄さん。朝から元気ないけど、どうしたの?」

 

桜が俺の元気のない理由を訊ねてきた。

 

友達がいないなんて言えないので、ウソをつく。

 

「昨日さ、抜き打ちでテストがあったから点数が気になってね」

 

「え?大丈夫だよ。兄さんは頭がいいから今回もいい点取れると思うよ。いつも満点だし」

 

「そうかな?ありがとう桜。桜のおかげで元気出てきたよ」

 

そう言い、桜の頭をやさしく撫でる。

 

「うう…///」

 

桜は気持ち良さそうに眼を細める。

 

桜の頭から手を離し、足を進める。

 

学校に着き桜と別れ、持ち帰った上履きを履き教室へとむかう。

 

教室には雪ノ下さんがいたが、周りに他の男子いたため話しかけるのは断念した。

 

 

 

 

 

一時間目は、昨日の実力テストが返ってくる。

 

「皆さん。すごいですよ!」

 

先生がやけにテンション高めで、喜んでいる。

 

「なんと!昨日の実力テストを抜き打ちにも関わらず、三教科ともに満点を取った人が二人もいます。私のクラスでこんなにいい成績を残してくれるなんて、私も鼻が高いです。昨日他の先生方に自慢してしまいました」

 

確かにすごいな、一人は俺だとしても、もう一人の子は本当にすごい。俺は前世の記憶があるから当たり前だが、その子は実力で満点を取ったんだな。

 

と言うか先生。自慢って、テスト前にあなたは授業をしてないですよ。

 

「まずはその満点の人たちから紹介しようかな」

 

こういうのは大抵名簿順で来るだろ。

 

「一人目は…雪ノ下雪乃さん!」

 

すごいな雪ノ下さん。ってあれ?雪ノ下ってことは、や行。俺は岸波白野だから、か行。

 

あれ?もしかしてミスった。ヤベ恥ずかしい。なにが『一人は俺だとして』だよ。

 

口にしてはないが、そう思ってしまった俺が恥ずかしいい。

 

俺が恥ずかしさで悶えそうな時、クラスのみんなが雪ノ下さんのことを褒めたり、影ながら舌打ちなどをしている。

 

よくある光景だろう。前のクラスの俺の場合は褒めはなく、ざわめきと、陰口だったが…。

 

「そして、もう一人は…」

 

先生がやけにためている気がした。

 

まあ、俺には関係ないがな。

 

「…岸波白野くん!」

 

えっ?名簿順は?関係ないのか?

 

でもよかった。

 

だが、クラスは雪ノ下さんのときと違いざわめいてる。

 

どうせ、内容は俺の陰口だろうな。

 

そうして、耳を澄ます…。

 

「岸波白野って誰?」

 

そっちかい!!えっ?何、一昨日の俺の自己紹介は何の意味も無かったの?

 

記憶にないって、無視されるより辛いかも。

 

それなら、誰が俺の上履き隠したんだ?上履きがひとりでにゴミ捨て場まで行ったのか?

 

そんなとき、前もクラスが一緒だった男子が舌打ちしてる。

 

よかった。いや、よくはないが、よかった。クラスの全員が俺を知らないわけではなかった。

 

「それじゃあ、満点の二人は前に出て」

 

先生が言ったように、俺と雪ノ下さんが前に出る。

 

それぞれテストを返してもらう。

 

「よく頑張ったね。偉いぞ」と先生が言う。

 

ああ、ダメだ。

 

「みんなも雪ノ下さんと岸波くんみたいに頑張るんだぞ」

 

先生、それはダメだ。

 

「みんなも頑張れば満点を取れるんだぞ」

 

こんなの公開処刑みたいなモノだ。人間は頑張ればなんとかなるのは事実だ。俺がそうだったように、頑張って諦めずに前に進む。そうすれば、道は開ける。

 

だが、誰しもがそういうわけだはない。ガトーが言っていたように、人間は怠けるものだ。

 

ジナコが言っていたように、どんなに頑張っても埋まらない実力の差はこの世には存在するのだろう。

 

なら人間はどうする…。

 

簡単だ。上にいる奴を引きずり落とせばいい。アヒルの中に白鳥がいれば追い出せばいい。

 

人は、それ実行する手段として『イジメ』や『嫌がらせ』を使う。

 

俺は去年までに馴れているし、家には桜や父さん、ムーンセルにサーヴァント達がいる。

 

俺には心の支えがあり、それよりも殺伐とした状況や場所にいた。

 

しかし、俺の横にいる女の子はどうだろう。

 

俺にいるような心の支えがいるのだろうか?頼れる仲間がいるのだろうか?今後、そういった存在は現れるのだろうか。

 

「それでは、みんなのテストを返します。二人は自分の席に戻ってね。今度のテストも頑張って」

 

「「…はい」」

 

そうして俺と雪ノ下さんは各自の席に戻った。

 

休み時間に入り俺の席の前に雪ノ下さんが来た。

 

「どうしたの?」と尋ねてみる。

 

「ザビエルくん、あなた私にウソをついてたわね」

 

「は?」

 

何を言っているんだ。昨日そんな会話した覚えがない。

 

「惚けないでくれる。あなた昨日私がバカと言ったときに否定しなかったわよね?」

 

「否定する前に君が話を終わらせたと思うんだけど?」

 

「あなた、そうやって私のせいにして、責任転嫁しないでくれる」

 

「いやいやいや、責任転嫁のつもりはないよ。むしろ事実だった気がするけど」

 

ホントにこの子はなんなのだろう。ムーンセルにはいなかったタイプだよ。

 

「まあいいわ」

 

「いいんだ!」

 

「ザビエルくん、あなた私と勝負しなさい」

 

これまた急展開。

 

「どうしてそうなったの?」

 

「決まってるじゃない。私が嫌だからよ」

 

「何が?」

 

「私はね。私と同じまたは私より上の立ち位置にいる人がいたらそれより上に立ちたいのよ」

 

「なるほど。それでどうして俺なの?」

 

雪ノ下さんは俺の返答にキョトンっとしている。

 

そして額に手を当てて、ため息をもらしながら、

 

「本当にあなたは実力テストを満点取ったのかしら?」

 

なぜ疑う。いや理由はわかっていた。互いに三教科ともに満点を取ったのだ。そのことを言っているのだろ。

 

「でも、君は俺を『友達』としては見てないのだろ?」

 

「そうよ」

 

「なら――――」

 

「でも、それとこれとは別よ」(実際は、あんなにストレートに言われたのは初めてだから、照れ隠しで断ったなんて言えないわ。)

 

「そんなモノか?」

 

「ええ、そんなモノよ」

 

それとこれとは別か。納得はいかないが、勝負も挑まれたのだ、誠意をもって挑むのが道理だろ。

 

「わかったよ。その勝負受けるよ」

 

「ええ、よろしく」

 

「それで、勝負って何するの?テストは互いに満点だったけど」

 

「そうね。ザビエルくん、確かあなた料理が得意と言ったわよね?」

 

「まぁ、言ったね」

 

「私も料理をするから、料理をしましょう」

 

料理か…、雪ノ下さん。俺はアーチャーとキャスターに頼んで料理を習っている。

 

食べたみんなも美味しいと言ってくれた。

 

一度サーヴァント達に料理が出来るか聞いて、出来ると言ったのが、アーチャー、キャスター、クーの兄貴、ドレイク姐さん、ガウェイン、エリザベート、セイバーの七人だった。

 

最初の二人はとても美味かった。お店に出すことも出来そうな美味さ。

 

次の二人が出してきた料理は『男の料理』だった。でも、普通に美味しかった。

 

最後の三人は願い下げた。ガウェインは料理?が残念みたいなことを生徒会で聞いたし、エリザベートは、わかっているよね?それでセイバーは、エリザベート臭がしたから。

 

それで、アーチャーとキャスターに習うことにしたのだ。

 

「で、いつ料理するの?」

 

「あなた先生の話聞いてたの?」

 

先生の話?なんのことだ?

 

「その反応は聞いてなかったみたいね。テストを返し終わった後、クラスの親睦を深めるために家庭科室で調理実習をするらしいの。作る物は『クッキー』だそうよ」

 

「いつやるの?」

 

「明日の五時間目、最後の授業の時間よ。同じ班になりましょう」

 

「いや、同じ班じゃダメでしょ」

 

「?」

 

雪ノ下さんは不思議そうに軽く首を傾げる。

 

ヤバい。桜以外の人のこの行動を可愛いと思ってしまった。桜ゴメンよ…。

 

「何がダメなの?」

 

「調理実習ってその班がみんなで力を合わせて料理を作るものだろ?」

 

「力を合わす、フッ。ザビエル君、あまり笑わせないでくれる」

 

なんで、俺バカにされてんの!

 

「わ、わかったよ。同じ班になります。いや、同じ班にさせて下さい」

 

「あら、口の利き方はわかっているようね」

 

ホントにこの子は、ナニ様なのだろう。

 

「雪ノ下さんその代わり、そろそろ名前で呼んでくれるかな?」

 

「名前?ザビエルくんじゃないの?」

 

「ウソ付け。昨日呼んだじゃないか」

 

「そうだったわね。ゴミ捨て場くん」

 

「そっちじゃないよ。俺もそろそろ泣くよ」

 

ウソじゃない。本当に泣きそうだ。まだメルトの方が可愛気があった気がするよ。

 

「わかったわ。え~と、なんだったかしらね」

 

ヤバい、目が潤んできた。

 

「……」(か、可愛い…。なにこの人畜無害な小動物オーラは?)

 

「ご、ごめんなさいね。岸波くん。冗談よ」

 

「じょ、冗談かよかった。本当に名前を忘れられたのかと思ったよ」

 

潤んだ目を擦って、笑顔を向ける。

 

「え、ええ、悪い事をしたわね」(やめなさい。その笑顔もっと困らせたくなってきたわ。)

 

「それじゃ、その勝負は負けないからね」

 

「こちらもそのつもりよ」

 

こうして俺、岸波白野と雪ノ下雪乃の勝負が始まった。

 

 

 

 

 

現在、家庭科室で自分の組みたい人同士で、六人グループを複数作った。

 

俺と雪ノ下さん以外は、雪ノ下さん目当ての男子が四人。

 

だが、雪ノ下さん自身、勝負しか眼中にないようで、男子が話しかけても、いつも以上に軽くあしらっている。

 

「始めて下さい」と先生が合図をした後すぐに、雪ノ下さんが。

 

「あなた達、今から私と岸波君どっちが美味しいクッキーを作るか食べてみてくれないかしら?」と男子生徒四人に言う。

 

そうしたら、「おお、わかった」などと同意する。

 

内心は、雪ノ下さんの手作りクッキーを食べれてラッキーなどと思っているのだろ。

 

そして、クッキーを作り始める。

 

前、アーチャーにいろいろなお菓子作りも聞いて、お菓子作りにはまって、今でもよくいろいろお菓子を作っている。

 

昨日の夜も、その復習も兼ねてアーチャーとキャスターに美味しいクッキーの作り方を聞いた。

 

他のグループは先生に作り方の説明を聞いたり、班の人と話し合って作っているが、俺たちの班は、俺と雪ノ下さんが黙々と作業をして、他の四人がその姿を呆然と見ているだけ。

 

作業が始まりニ十分、他のグループは、早くてやっとオーブンに入れるところ、遅い方はクッキーの型をどんな形にするかもめている。

 

そして、俺と雪ノ下さんのクッキーが出来た。

 

「さあ、あなた達どちらが美味しいか教えてくれるかしら?」

 

俺たちは自分の作ったクッキーを、お皿に載せてだした。

 

雪ノ下さんのは、見た目は手作り感があり、普通に人に振る舞うことが出来そうなクッキー。

 

俺のは、アーチャー直伝、見た目はお店にありそうで、絶対に美味しいクッキー。

 

ホントにこの子は凄いな。自分だけの実力で、ここまでできるなんて。まだ小学生だから上手くいかない事もあるだろうけど、成長すればかなり凄い人になるだろうな。

 

この子は、ムーンセルのマスターにもなれるだろう。それも、凛やラニ、あのレオにも劣らない程の凄い才能が彼女にはある。

 

俺にはそれがよくわかる。才能を持っている人間を何度も見てきたから。

 

「なら、まず俺は雪ノ下のから…」と一人が言うと、他の三人も雪ノ下さんのを食べる。

 

「美味い」、「これはイケる」などのよくある感想。

 

そして俺の番だと思ったが、誰も手を付けない。

 

「お前が先に食えよ…」、「いやだよ」などと、全員が俺の作ったクッキーを食べようとしない。

 

『マスター、料理は食べてもらう人に美味しいと思ってもらうために作るんだ。味はどうあれ、その気持ちはわかる者はわかってくれるからな』

 

『ご主人様、料理は愛ですよ。作ってあげたい人への愛です。私はご主人様に『美味しい』と思ってもらうために日々頑張っていますよ。キャッン!恥ずかしいです///』

 

『美味しく食べてもらいた』そういう気持ちで、みんなに作っても食べてもらわなければ意味もないな。

 

「雪ノ下さん。この勝負は俺の負けでいいよ」

 

「えっ?」

 

「人が食べられないモノを作ったからね。勝負は見えてるよ。このクッキーは家に持ち帰るから」

 

「ちょっとそれはどう――――」

 

そうして、俺は雪ノ下さんの言葉を聞かずに自分のお皿を下げた。

 

「先生、ビニール袋下さい。ちょっと失敗したので持ち帰りたいので」

 

「そうなの?わかったわ。前の机の横にあるから持って行っていいわよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

俺はお皿からビニール袋の中にクッキーを移した。

 

そうして、俺と雪ノ下さんの勝負は終わった。

 

 

 

 

 

教室にもどり、呆然と帰りの準備をしていると、雪ノ下さんが俺の席の前に来た。

 

気付いたら、他の生徒はもう帰って、教室には俺と雪ノ下さんしかいなかった。

 

「今度はどうしたの?勝負は君の勝ちのはずだけど?」

 

「なんで、あなたは今回の勝負挑まずに辞めたの?」

 

「雪ノ下さんも見てたと思うけど、あんなに嫌がってるのに、強制して食べてもらう方がダメだと俺が感じたからだよ」

 

「あなた、私のことを気にしているの?悔しいけど、クッキーの見た目からしてあなたの方が、私のクッキーよりも美味しそうに見えたわよ」

 

「いや、これは本心だ。美味しく食べてもらいたくても、相手が嫌だと思って食べたら、美味しいモノも不味くなる。相手の気持ちを考えずに暴走したら、本も子もないからね」

 

実際俺も、雪ノ下さんより美味しくできたと思った。勝てると思った。でも、ダメだった。あの場で「クッキーを食べてくれ」なんて俺には言えなかった。

 

「あなたは優しすぎよ」

 

「ハハ…、前も『優しすぎ』とか『お人好し』とか言われたな。でも、今回のは優しさと言うよりは、俺自身の心の弱さだから」

 

「…心の弱さ」

 

「そう、俺の心の弱さ。あの場で『美味しく食べてもらうために作ったから、食べてくれないかな』みたいなことは俺には言えない。だから俺は君に負けた。それでいいんじゃないかな」

 

そう。この世界に来てここ数年で分かった。この心の弱さはムーンセルでは味わえなかった。

 

月の表ではサーヴァントと共に目標のため、強敵に立ち向かう勇気を手に入れた。

 

そして周りに流されるだけの存在から、自分の意志で動ける存在になれた。

 

月の裏では仲間と力を合わせて、ときに助け、ときに助けられ、前に進むことができた。

 

そして月の裏に落ちたみんなを、桜/BB(サクラ)という少女を助けるという目標ができた。

 

俺には目標がありいつも仲間が傍にいてくれた。

 

しかしこの世界では目標がなく傍にいてくれる仲間がいない。

 

確かに心の支えになる家族やムーンセルのサーヴァント達がいる。

 

だがその心の支えはいつも一緒にいるわけだはない。

 

「俺は、俺は弱いから一人で前に進む勇気が持てない。俺の心情は『どんな状況でも諦めずに前に進む。』だけどそれは俺一人では出来ない。」

 

「そう…。でも、私はあんな勝ち方は認めない。私は、あなたに正々堂々と勝ちたいの。あんな不戦勝みたいなのは嫌よ。だから…」

 

「?」

 

「だから、あなたの作ったクッキーを私が食べてあげる。」

 

「え?」

 

「私が食べてあげるから。早く持ち帰ろうとしたクッキーを出しなさい。」

 

「う、うん。わかった。」

 

俺は、ランドセルからビニール袋に入ったクッキーを雪ノ下さんに渡した。

 

そして、雪ノ下さんはクッキーを一つ取り、口に運ぶ。

 

「悔しいけど、やっぱり私のより美味しいわ。もう一つ貰っていいかしら?」

 

ああ、涙が出てきた。

 

こうして食べてもらえることが、美味しいって言ってもらえることが、こんなに嬉しいなんて…。

 

「き、岸波くん。な、なぜ泣いているの?」

 

雪ノ下さんは、俺が涙を流していることに慌てている。

 

俺は流れてくる涙を抑えようと目を擦るが涙が止まらない。

 

「ご、ごめん。家族以外に、俺の作ったモノが褒めてもらえて、『美味しい』って言って食べて貰えることがすごく嬉しくて…。」

 

やっぱり俺はまだ弱いな…。

 

「そ、そうなの…。ねぇ岸波くん。今日の勝負は引き分けにしてまた他のことで勝負をしましょう」

 

この子は優しい子だな。

 

「うん。ありがとう」

 

頑張って涙を抑えて、笑顔で返事をする。

 

「一つのことじゃ、どちらが優れているかわからないから、いろんな事をたくさん勝負しましょう」

 

「わかった。それじゃあ、これからもよろしくね。雪ノ下さん」

 

そして俺は雪ノ下さんに右手を出す。

 

「ええ、これからもよろしく。岸波君」

 

雪ノ下さんは俺の右手を握り、握手をする。

 

こうして俺、岸波白野には友人よりも先にライバルができた。

 

 

 

 

 

俺たちは教室を出て玄関に向かう。

 

俺は気になっていたことを聞いた。

 

「雪ノ下さんはクッキー作るの上手だったけど、誰かに習たり、何度も作ったりしてたの?」

 

「いえ、今日作ったのが始めてよ」

 

「えっ!?」

 

「昨日寝る前に料理本を見て、作り方を覚えてきたの」

 

「す、凄いね…」

 

「私、大体の事は三日あれば完璧に出来るのよ」

 

「……」

 

やばい。ライバルと思ったが、性能に差がありすぎる。

 

「お、俺は、雪ノ下さんに負けない様に毎日努力して頑張らないと…」

 

「ええ、期待してるわ。あなたは『他の人と違う』ということをね」

 

「今の言葉どういう意味かわからないけど、その期待に添えるよう頑張るよ」

 

その日から俺は雪ノ下さんに負けないように努力を始めた。

 

こうしてこの世界で俺に目標ができた。

 

『雪ノ下雪乃という存在の隣ではなく上に行く』と…。

 

その後、雪ノ下さんとテストや体育、料理やゲームなどの、いろんな項目で勝負をやった。

 

途中で雪ノ下さんが海外に行くことになって、悲しかったが努力は怠らなかった。

 

中学三年のとき転入というかたちで、こっちに帰って来た。

 

その後もいろいろあったって、雪ノ下さんに俺が魔法(コードキャスト)が使えることがバレてしまったが、勝負は続いた。

 

そして俺は雪ノ下さんと同じ総武高校の国際教養科に入った。

 

ムーンセルの方も進展があった。

 

開かずの間は開かない癖に新しい部屋ができて新しい住人が三人増えた。

 

俺の知らない会ったことがないサーヴァント。なぜだ?

 

クラスはアーチャー、ライダー、ルーラーの三人。ルーラーってなに?

 

三人とも女性かと思ったら、ライダーは男性だし、年が近そうだがら仲はいい。

 

キャスターが新入りのアーチャーを見て『獣耳が増えちゃいました!!ご主人様』と言ってた。

 

真名はまた今度でいいか。

 

みんな個性的だったな。頭良さそうなのにおバカだったりするから、よく一緒に勉強をしている。

 

細身で足が速いのに大喰らいだったり、リンゴが好きらしく、よくアップルパイを作ってあげる。食べてる時の顔がとても可愛い。

 

見た目が女の子だったり、そう、見た目が女の子だったりな!これはかなり大切だ。だから、二回いや、最初の方を会わせると、三回か。

 

それで新入り三人の歓迎をすると言って、セイバーが宴会を開いたせいで、俺はその日寝坊して学校に遅れた。桜も起こしに来たらしいが、俺がとても幸せそうな寝顔をしていたらしく、起こさず先に行ってしまった。

 

料理を作ったのはもちろん、アーチャー、キャスター、それと俺だった。

 

そしてムーンセル電子手帳に新しい機能が追加された。

 

サーヴァント達とメール、チャット、電話ができるようになった。

 

チャットルームの名前は『SE・RE・PH(セラフ)』だそうだ。

 

他に変わった事は、雪ノ下さんが海外に行ってしまったあと、近所に中華料理屋が出来て、その店長があの外道神父のソックリさんで、名前も同じで、奥さんが外国人さん、俺より一歳年下の奥さん似の娘さんがいた。

 

あそこの激辛麻婆豆腐が美味しいため、行きつけの店になった。

 

この数年いろいろと変化はあったが、まだ俺には友達が出来なかった。

 

高校に入ったら、絶対に信頼できる友人を作ってやる。

 

 

 

 

 

「いや~、高校生活という新しい環境にテンションが上がったせいで、早く起きてしまった」

 

いつものトレーニングを終えて、朝食を先に作っといて食べた。

 

「いい時間になるまで、その辺をランニングしよう。」

 

パーカーとジャージのズボンのラフな格好で外を走る。

 

そして、そろそろ帰ろうと思ったとき、ガシャンと大きな音がした。

 

その方向にむかうと、黒塗りのリムジンと壊れた自転車、足を抑えて痛がる俺と同い年ぐらいの、総武高校の制服を着た少年と、その近くに小さな犬がいる。

 

「あのリムジン…、雪ノ下さんの家のか…?」

 

俺は着ているパーカーのフードを深く被り、足を抑える少年に急いで近付いた。

 

「君!大丈夫か!」

 

少年は痛みが酷いせいか俺の声が聞こえないようだ。

 

これなら大丈夫か…。

 

俺は彼が抑えている足に手を当てて、

 

「recover()…」回復系の中で最も良い赤原礼装のコードキャスト。

 

少年は痛みが引いて安心したのか気を失ってしまった。

 

一応完全回復ようのコードキャストだがまだ完治したかわからないから、救急車を呼んだ方がいいな。

 

ちょうどいいタイミングで運転手が出てくる。

 

まだ、今の状況が理解できないのか少し慌てている。

 

「運転手さん、まずは救急車を呼んだ方がいい。もしかしたら足が折れてるかもしれない。今は気を失っていますが、俺にはどういう状態かはわからないので…」

 

「わ、わかりました」

 

そして運転手は携帯電話を取り出し、救急車を呼ぶ。

 

俺は近くにいた犬を抱きかかえ頭を撫でる。

 

辺りを見廻しリールも持ってこっちを呆然と見ている少女を見つけた。

 

「ねぇ、君」

 

「…は、はい」

 

「このワンちゃんは君の?」

 

「そうです…」

 

彼女は俯いて答える。

 

「よかったね」

 

「え?」

 

「ワンちゃんが事故にならなくて」

 

「で、でも、あの人が…」と悲しそうな声であの少年方を向く。

 

「大丈夫だよ。じきに救急車が来ると思うから」

 

「それでも、私の不注意でサブレが轢かれそうになって、あの人がサブレを助けてくれて…」

 

「それならあの少年に感謝をしないと。そうだ。彼のところにお見舞いに行ってお礼するのがいいよ。クッキーとか作ってあげたら喜ぶと思うよ」

 

俺は抱えているサブレと言う名前の犬を彼女に渡す。

 

「俺は、この後用事があるからこれで」

 

彼女に抱えられた犬の頭を撫でて。

 

「サブレ。助けてもらえてよかったね」

 

犬は、気持ち良さそうに目も細めた。

 

そうして俺はその場を離れた。

 

 

 

 

 

家に帰り、汗をシャワーで流し、制服に着替えて自転車で家を出る。

 

桜の中学と、俺が通う総武高は方向が違うためこれから二年間一緒に通えないな。悲しいな…。

 

そして総武高に着き、自分のクラス1年J組に入る。

 

「俺の席は…っと、ここか。窓際の後ろって結構いいポジションだよな」

 

そんなバカみたいなことを言っていたら、雪ノ下さんが教室に入ってきて、俺の方へと近づいて来た。

 

「おはよう雪ノ下さん。今年もよろしくね」

 

俺が挨拶をすると彼女も挨拶を返してきた。

 

「ええ、今年もよろしく。それよりも岸波くん」

 

「?」

 

「あなた、今日の朝、七時くらいに学校付近にいたかしら?パーカーのフードを深く被って」

 

やっぱり気付いていたか。

 

「わかっちゃった?」

 

「やっぱり…。ごめんなさいね、迷惑をかけてしまって…。それとありがとう。彼は無事に病院まで行ったそうよ。ケガも、打撲と擦り傷程度に済んだそうだし」

 

「迷惑はなんてないよ。あれは俺が勝手にやったことだし。お礼を言われるよなことはしてないし」

 

「何を言っているのあなたは。あの力は人に見られたくなかったのでしょ。あんな所で使って人に見られたらどうするの?」

 

「そのことを人がいる教室で喋るのは、もっと困るのですが…」

 

雪ノ下さんは目立つからさらに困る。

 

「そ、そうね。私としたことが失念していたわ」

 

雪ノ下さんは俺と桜に対しては、前ほどきつく当たらなくなった。

 

「その話はまた後にするわ。それと岸波くん」

 

「なにかな?」

 

「あなた、入る部活は決めたのかしら?」

 

「いや。まだ、といくか入るかはわからない」

 

「私、部活を作ろうと思うのだけれど…」

 

「?」

 

「…私の部活に入らないかしら?」

 

「入るかどうかは、部活の内容によるかな」

 

「部活の内容は、あなたが大好きな人助けみたいなモノよ」

 

「別に、人助けが大好きって訳ではないけど…」

 

「あなたそれ本気で言っているとしたら、一度自分を見直してみなさい」

 

前より優しくなっても、まだちょっとキツイかな。

 

「でもその部活は面白そうだから、入ってみようかな」

 

「ええ、そう言ってくれると思ってたわ」

 

「部活の名前はまぁ、予想はついてるよ」

 

「言ってみなさい」

 

雪ノ下さんはあの人の後を追っているのはわかっている。

 

前にあの人が、雪ノ下さんが言っているような内容の部活をやっていると言っていた。

 

その部活の名前は…

 

「奉仕部」

 

「…よくわかったわね」

 

「俺は君のこと長い間、ライバルだと思ってたからね。まあ、今でもそうだけど。それで君が俺よりも敵視していて、なおかつ憧れている存在のあの人の後を追っているなんて、あの人に初めてあった日にわかってたよ」

 

「…そう」

 

雪ノ下さんは俯いてしまった。仕方がないか、雪ノ下さんはあの人の話はあまりされたくないだろうし。

 

「だけど、俺は君を応援するよ」

 

雪ノ下さんは顔を上げて俺の事を見る。

 

「俺は前君に助けられた。だから俺は君の願いを、君の思いを、君のやりたいことを応援したいと思うし、手伝いたいとも思う。君は人に頼ることを嫌ってるのも知っている。だけど、俺は君を裏切らない。君から離れて行った人たちは違う」

 

前にも同じことを言ったな。

 

「だから君は俺の事を信じて欲しい。俺を頼って欲しい。君は俺の大切な存在の一つだから」

 

「岸波くん…」

 

「?」

 

「あなたよくあんな恥ずかしい事を人前で言えるわね」

 

「え!?」

 

俺は周りを見渡すと今教室にいる生徒全員に見られている。

 

「なに、告白!」「入学初日から」「ウソ!すごくない」「あんな可愛い子に告白するとか、玉砕だろ」

 

は、恥ずかしーーーいぃ!!

 

ヤバい顔が凄い熱い。

 

恥ずかしさのあまり自分の机にうつ伏して恥ずかしさに悶える。

 

「…ありがと、岸波君…」

 

雪ノ下さんの声が小さく、俺が悶えてるせいもあり、何を言っていたのか全く聞こえなかった。

 

「それじゃあ、岸波君。奉仕部に入部するのね?」

 

顔はまだ赤いが雪ノ下さん方を見て答える。

 

「うん。入部させてもらいます。雪ノ下部長」

 

「ええ、これからよろしくね。岸波副部長」

 

そうして、俺たちは『奉仕部』作った。

 

 

 

 

 

後日俺の名は、入学初日に雪ノ下雪乃に告白して玉砕した男として、一月ほど有名になった。

 

 

 

 

 




次回は二年生。あの卑屈男が出てきます。

次回は短くはなるかな。

サーヴァントの追加でFate/Apocryphaのあの三人を選んだ理由は、僕があの三人のことが好きだからです。

外道神父とその娘は前から考えていたので入れました。娘の方はヒロインの一人にしようと思います。

雪ノ下さんは原作より少し性格が柔らかいですが、卑屈男はしっかりと罵倒しますし、白野くんもたまに?罵倒されるようになると思います。

次回も頑張って書くので楽しみにしてくれると嬉しいです。


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こうして岸波白野は二年生になり。

今回はあの人が出ます。

結局長くなった。この前ほどではないけど。

二年生がスタート。ここからは原作展開とオリジナル展開を出していこうと思います。

今頑張って、原作ラノベを読みながら書いています。

張り切っていきましょう。


 

 

 

 

 

「高校生活を振り返ってか…」

 

国語教師の平塚先生が授業で出したレポートの課題なのだが、どうもいい内容が思いつかない。

 

平塚先生とは、本名平塚静、俺が所属している奉仕部の顧問をしている先生。

 

美人でスタイルもいい優しい先生なのだが、どうも男性との縁が悪いせいか結婚が出来ない事が悩みらしい。

 

アニメやマンガが好きで、問題のあるできの悪い生徒には『肉体言語』なる手段で会話するらしい。

 

「振り返ってといわれても、まだ一年しか経ってないしな…」

 

高校に入って一年、二年生になった俺岸波白野は、この一年間を振り返る。

 

意外と充実してたな。

 

まずは、雪ノ下さんとの奉仕部での奉仕活動。

 

行き付けの中華料理屋の店長、言峰綺礼さんに頼まれバイトを始めた。まさか名前も同じとは…。

 

ついでに娘さんのカレンに『総武高に入るから家庭教師をして欲しい』と言われ、勉強を教えた。

 

カレンの名前を聞いたとき、月の桜に聞いた話を思い出した。

 

桜に問題があったときの代わりに健康管理をするAIの名前がカレンだったはずだが、確か彼女が保健委員の活動をしたら、マスターの生存率が著しく低下するんだったけ…。

 

まあ、大丈夫だろ。結構優しい子だし、よく俺に激辛麻婆豆腐を作ってくれるからな。

 

今は入学して俺の後輩だ。学校で会ったら話したりする。

 

十六歳になった日の夜、ギルがバイクの乗り方を教えてやると言ってきた。

 

『雑種。この王自ら貴様にバイクの乗り方と、そのテクニックを叩きこんでやろう。ありがたく思えよ』

 

ナニイッテンノ、コノAUOハ…。

 

『いいよそんなの。バイクとか危なそうだし』

 

『それではついて来い』

 

『ねぇ聞こえてないの!?ってわかった!わかったから天の鎖で俺を拘束して引っ張らないで!』

 

ギルの後をついて行くと、

 

『ねぇギル…』

 

『なんだ』

 

『あの建物の外は霊子の海、霊子虚構世界、特に何もなかったよね』

 

『そうだが』

 

『なんで、こんな車やバイクの教習所みたいな場所ができてるだ?昨日はなかったよね』

 

『この英雄王ギルガメッシュに掛かれば、このようなことは容易い』

 

そうなのか?AUOなんらムーンセルに教習所ができるのか?

 

『まずは、我が手本の見せてやろ』

 

ギルの背後の空間に波紋が生じ、そこからバイクが…、

 

『ってなんでバイク!』

 

『なに、昔レースに乱入してな、そのとき使ったモノだ』

 

『いつだよ。確かギルって俺に会うまで、月の裏で寝てたんだよね!?それに乱入って』

 

『森羅万象何事も、我が一番でなければ駄目なのだ!』

 

『なんだよその意味のわからないルールは…』

 

『フハハハハ!我がルールだ!』

 

もう、疲れた。

 

『それじゃギル、見本見せてくれよ』

 

ギルがバイクに乗りいろいろと見せてくれた。

 

確かにすごいな。あれ?ギルって騎乗スキルあったけ?

 

見た感じ騎乗Bくらいはあるかな。

 

ギルが俺の前に帰って来た。

 

『どうだ雑種。我のライディングテクニックは!』

 

『凄かったよ』

 

『よいぞ!賛美せよ。賛美せよ!』

 

『でもギル。騎乗スキルも無くここまで出きるって、今まで何をやってたの?』

 

『色々だ!』

 

色々ってなんだよ。

 

『面白そうなことしているではないか。余もやりたいぞ!』

 

セイバーが満面の笑みで近づいて来る。

 

『貴様。今この雑種は、この英雄王直々にバイクの乗り方を教えているところだ。邪魔するでない』

 

『よいではないか。余もこのバイクとやらに乗ってみたいぞ!』

 

二人とも引き下がりそうにないな。

 

『ギル、少しだけセイバーにも乗らせてあげない?』

 

『おお!奏者は話がわかるではないか!余は乗り物が得意でな、チャリオットの大会でも何度も優勝したぐらいだ!』

 

『へぇ、そうなんだ』

 

『うむ!』

 

セイバーが嬉しそうに話している。

 

『ギルどうかな。少しだけならいいだろ』

 

『仕方がない。貴様が言うのであれば今日だけは貸してやろう。王は寛大でなければならんからな』

 

『ありがとう』

 

まあ、寛大かどうかはしらないが。

 

『セイバーいいって』

 

『ホントか!話がわかるではないか金ピカ。奏者よ、余の美しい姿を目に焼き付けるといい』

 

セイバーがバイクに乗り始めた。

 

ギル程ではないが、上手いな。これが皇帝特権か。

 

そんなこんなで、ギルとセイバー、途中からドレイク姐さんと新入りライダーこと『アストルフォ』のダブルライダーにも教わった。

 

ある程度乗れるようになった次の日の朝、俺宛てにバイクが届いた。どうしてだ?

 

乗らないともったいないので、長期休みの間にバイクの免許を取ることにした。

 

今でもよく、遠い場所へ買い物などに行くときに使っている。

 

そしてこの一年、俺にとって一番大きかった出来事は、よくわからないプログラムを作っていることだ。

 

ある日、ムーンセルの俺の部屋に怪しい手紙と怪しい小包があった。

 

内容は、『憐れで可愛そうな先輩へ(ハート)

     現実世界で馴染めずにいる先輩が余りにも惨めなので、

     この超絶可愛い悪魔系後輩美少女からプレゼントです!

     頑張って作ってくださいね。

     おバカな先輩には結構難しいですよ。

     まあ、私なら三分で出来ますけどね。

                       あなたの可愛い後輩より(ハート)』

 

内容からして、BBなのだが開かずの間にむかってもどこも開いていなかった。

 

小包には何も入っていなったが、朝起きたら自分の枕元に大量の説明書と、プログラミング、ハッキング専用の小型のノートパソコンが置いてあった。

 

そして、俺は今でもこのプログラムを作っている。

 

何が出きるのだろ。

 

振り返ってみても充実はしてたなこの一年間は。

 

まあ、まだ友達はできないが…。

 

仕方がないから、なんとなく浮かんだことでも書いておくか。

 

書き終わったレポートを提出した。

 

 

 

 

 

そして今俺はなぜか平塚先生の前にいる。

 

「岸波。なぜ呼ばれたのかわるか?」

 

「いや、俺にはわからないのですが」

 

「君はよくできた生徒だよ。授業もしっかり受け、テストの点数も雪ノ下にも負けないぐらいだ」

 

まあ、それなりの努力をしてるからな。

 

「それに、先生方にも人気だ。頼んだ仕事を文句を言わずにそつなくこなすし、部活動でも頑張っている。なのになんだこれは」

 

平塚先生は一枚の紙を渡してきた。

 

「これって、この前のレポートですよね?」

 

「そうだ」

 

「内容でなにか悪い点でもありましたか?」

 

「いや。内容は悪くないよ。むしろごく普通の内容だ」

 

ん?なぜ呼ばれたんだ。

 

「だがなこれはいかんだろ」

 

平塚先生が俺のレポートの氏名欄を指差す。

 

「君の名前はいつから、偉人の名前に改名したんだ」

 

「フランシスコ・ザビ…。あ!ホントだ!」

 

「この反応は、本気で間違えたのか?君はこの偉人の生まれ変わりなのか?」

 

「い、いや~。ち、違いますよ」

 

「どうして、挙動不審になる。まあいい、今回は大目に見よう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「だが、今度同じ事をしたら…」

 

「同じ事をしたら?」

 

「私の拳が真っ赤に燃えて、君を倒せと轟き叫ぶ!」

 

「ゴッド・〇ィンガーは止めてください」

 

俺は本気で頭を下げた。

 

平塚先生の拳は的確に芯を突いてくるため、魔術を使わないでかわすのは難しい。

 

やられた事はないが、やられている生徒を見たことはある。

 

「ほぉ、君はGガン〇ムを知っているのか。意外だな」

 

「いや、知っているというよりは、平塚先生の言った言葉はそこそこ有名なので…」

 

「そうか、少し残念だ。だがいい作品だから今度見てみるといい」

 

「はい。考えておきます」

 

ムーンセルは、記録の宝庫。アニメの記録もあるだろうから、今度サーヴァントの誰かを誘って一緒に見るか。

 

「今度からは気を付けたまえ」

 

「はい。迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした」

 

「なに大したことではないさ、問題はこの次の生徒だ」

 

「この次?」

 

「ああ、君はもう部活にむかってくれ。それとだな…」

 

「それと何でしょう?」

 

「雪ノ下に新しい依頼を連れて行くと言っておいてくれ」

 

「わかりました。依頼人ではなく、依頼を連れてくるでいいんですね」

 

平塚先生は笑みを浮かべた。

 

「君はものわかりがよくて助かるよ」

 

「そうですか。それでは失礼します」

 

そう言って、俺は職員室を出て行った。

 

もしかしたら先生が言ってた問題児が入部でもさせるのかな。これが男子なら友達を作るチャンスだ。

 

 

 

 

 

俺は少し浮足立った気分で、部室にむかい、部室の戸をノックする。

 

コンコン。

 

「どうぞ」

 

聞きなれた綺麗な声が入室を許可する。

 

戸を開くといつもの場所で本を読む雪ノ下さんが目に入る。

 

「今日は遅かったわね」と雪ノ下さんが俺の方を見る。

 

「平塚先生に呼び出されてね」

 

「そう」

 

雪ノ下さんは再び本に目を落とす。

 

俺は、いつもの席に座り、ノートパソコンを取り出して、プログラミングを始める。

 

BBからのプレゼント?が来た日以降、俺は奉仕部の依頼のない時間はいつもこの作業をしている。

 

「そういえば雪ノ下さん」

 

「なにかしら?」

 

「平塚先生が後で依頼を連れて来るそうだよ」

 

「わかったわ」

 

「友達ができるといいな…」

 

「何のことかしら?」

 

雪ノ下さんは俺の言葉に疑問を持ったのか本から目を離し俺に顔を向ける。

 

「えーっと、平塚先生が依頼者を連れて行るじゃなくて、依頼を連れて来るって言たんだよ」

 

「それで?」

 

「依頼を連れて来るってことは。生徒じゃなく、平塚先生からの依頼になるわけだ。それに俺が先生に呼び出せれたときに、厄介に生徒がいるみたいな事を言ってたんだよ。」

 

「なるほどね。それで私たちにその生徒を任せるために、その生徒をこの部活に入部させて、その生徒を更生させるみたいな依頼だと推測したわけ。その生徒が男子生徒なら友達になれるかなと、あなたは考えたのね」

 

「さすがだね。そこまでわかるんだ」

 

「私もあなたと結構長い付き合いだから、あなたと同じで大体はわかるわよ」

 

流石は我がライバル、相手の考えを読むとはなかなか…。

 

「でも岸波くん。あなたの考えが当たっているかはわからないわよ」

 

「そこは、僅かな希望みたいな感じだよ」

 

そんな事を話していると、ガラリ部室の戸が開く。

 

「平塚先生。入るときにはノックを、とお願いしたはずですが」

 

いつものやり取りが始まる。

 

「それで、そのぬぼーっとした人は?」

 

「彼は比企谷。入部希望者だ」

 

お、ビンゴ!しかも男子これは友達ゲットのチャンス。

 

「二年F組の比企谷八幡です。えーっと、おい、入部ってなんだよ」

 

比企谷八幡と言う生徒を見たとき、入学式の朝の事を思い出す。

 

サブレという犬を助けた少年だ。よかった。一応元気のようだな。まあ、平塚先生が連れて来たってことは、なにかしらの問題がある生徒のようだ。

 

そんなんこと一人で考えているうちに、比企谷は平塚先生に言いくるめられ、雪ノ下さんに罵倒されている。

 

「そう言えば、お前は…」

 

比企谷が雪ノ下さんの罵倒から逃げるため俺に話を振ってきた。

 

「そうだな。雪ノ下さんは有名だから自己紹介はいらないだろうから、俺は…」

 

やっぱり、ボケとおくか。これは俺の性だ。

 

「フランシスコ・ザビ…」

 

やばい、平塚先生がシャドー・ボクシングを始め。雪ノ下さんが呆れている。

 

「彼は、岸波白野くん。この部活の副部長よ。岸波君。あなたは努力はしても成長はしないのかしら。同じ過ちを繰り返すなんて、愚かだと思わないの?」

 

違うんだ。あれは過ちではない。俺、岸波白野の性だ。

 

「…岸波白野です。これからよろしくな、比企谷」

 

「あ、ああよろしく、岸波。ん?岸波ってどっかで聞いたな。まぁ、どうでもいいか」

 

「ちょっと、ひどくないかそれ!!」

 

「俺は人の名前を、覚えるのが苦手なんだ」

 

「いや、ウソだ!」

 

「ウソじゃねえよ。ホントだ」

 

「わかった。信じるよ」

 

「へ?マジで」

 

「マジも何も、お前自身が言っているんだ。疑う必要がないだろ」

 

まあ、間違いなくウソだろうけど、こんな事はどうでもいい。

 

「比企谷。まずは席に着いたらどうだ。」

 

比企谷のために椅子を用意しようとしたら

 

「ダメよ岸波くん」

 

「え?なんで」

 

「そこの男の下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険感じるわ」

 

「いや、確かに目はアレだけど、別に危ない奴とは思わないけど?」

 

「そうだぞ雪ノ下。その男は目と根性が腐っているだけあってリスクリターンの計算と自己保身に関してはなかなかのものだ。彼の小悪党ぶりは信用してくれていい」

 

「なに一つ褒めてね…」

 

「…小悪党…なるほど…」

 

「なぜか凄くわかりやすく、的確に的を射てる感じの説明だな。平塚先生はやっぱりしっかり生徒を見てますね」

 

「なに、岸波これくらいは教師として当たり前だ」

 

「俺なしでここまで話が進んで二人共納得しちゃったよ…。俺は貶されてるだけだし」

 

そんなこんなで比企谷の入部が決まった。

 

 

 

 

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

平塚先生が出て行った後、部活当てクイズなるモノやり、比企谷は答えに辿り着けずに終わった。

 

「平塚先生曰く、優れた人間は憐れな者に救う義務がある、のだそうよ。頼まれた以上、責任は果たすわ。あなたの問題を矯正してあげる。感謝なさい」

 

まったく、雪ノ下さんは変わらないな。俺ならまだしも、君の事を知らない人間は…、

 

「こんのアマ……」

 

やっぱり…。

 

比企谷は言ってやるみたいな感じで説明を始める。

 

「…俺はな、自分で言うのもなんだが、そこそこ優秀だぞ?実力テスト文系コース国語学年三位!顔だっていいほうだ!友達がいないことと彼女がいないことを除けば基本高スペックなんだ!」

 

確かに、比企谷は慎二のプライドをへし折って、目を腐らせた感じではある。

 

あんまりいいとこない気が…。でも慎二も根はいい奴だった。比企谷も自分の身を挺して犬を助けたんだ。優しい人間だろう。

 

「最後に致命的な欠陥が聞こえた気がしたのだけど…」

 

その後『よだかの星』の話がなぜか入り、比企谷をバカにしている雪ノ下さんが、

 

「ごめんなさい。言い過ぎたわ。普通未満がというのが正しいわね」

 

「学年三位って聞こえなかったのかよ…」

 

「三位風情でいい気になっている時点で程度が低いわね。だいたい一科目の試験の点数ごときで、頭脳の明晰さを立証させようとしている時点ですでに低能ね」

 

「はん!知らん。お前が頭がいい事は知っているが、岸波よりは良いって自身はある」

 

マジかぁ。俺ってあんまり頭のいいイメージが無いかー。

 

「あなた。それを本気で言っているのならさらに低能よ」

 

「は?当たり前だろ。お前みたいに実力テストや定期テストで常に学年一位に鎮座する成績優秀者と違って、こんな見た目は少しかっこいいが特に特徴も無い奴には負けているとは思ってない」

 

かっこいいってこの世界で言ってくれたの桜だけだったから少し嬉しいかも。

 

「岸波くん。なにニヤツいているの。気持ち悪いわよ。」

 

「いや、妹以外にかっこいいて言われたのが始めてだったから、少し嬉しくて…」

 

「ほら、こんな間抜けっぽい奴に負けるとかはないだろ。どうせクラスで二位とかだろ」

 

「あら、よくわかったわね。少しあなたを見くびっていたわ」

 

「?急にどうした。そんな驚くことはねえだろ。で、岸波はどこのクラスで二位なんだ?」

 

「彼岸波白野くんは、私と同じ国際教養科二年J組の成績二位。つまい私の次に頭がいい学年二位ね」

 

「……………は?」

 

「全教科の合計点も私との差は一ケタ以内。大抵の科目の点数は私と同点よ」

 

「………………」

 

比企谷はバカにしていた俺の点数を雪ノ下さんから聞いて呆然としている。

 

「き、岸波こいつの言っている事は本当か?」

 

「雪ノ下さんはウソをつくのが苦手だし、俺が学年二位って言うのも間違いではないな。前は雪ノ下さんと同じ一位の時もあったけど、高校に入ってからは負け始めてね。それでも頑張って今の状態をキープしているんだよ」

 

部屋の中がなんとも言えない空気になってしまった。

 

「え、えーと、話を戻そうかって何の話だっけ?」

 

「そうね。小悪党君が変なことを言ったせいで部屋の空気が悪くなったわ」

 

「それって俺のことか!?」

 

「他に誰がいるの?」

 

「ぐぅ。確かに岸波とは言えん。むしろこいつは正義の味方って感じがする」

 

「ええ、あなたとは意見が合うのは非常に不本意だけど私もそう思うわ」

 

「正義の味方って…」

 

アーチャーじゃないんだから。

 

「そういえば岸波」

 

「なんだ?」

 

「お前こいつ…、雪ノ下と高校よりも前にいたのか?」

 

「ああ、いたよ。雪ノ下さんとあったのは小学四年生のときクラス替えで初めて出会った」

 

「幼馴染って奴か。へっ!高校まで同じクラスで一緒ですってどんなラノベだよ。付き合ってんのかこのリア充どもが」

 

「比企谷君。あなたは私と岸波くんの関係を勘違いしているようね」

 

「は?勘違い?その赤らめた頬でなにを言ってんだよ」

 

「いや、間違ってないぞ比企谷。恋人とかそんな甘い関係ではない」

 

「それじゃお前らの関係ってなんだよ」

 

それは勿論。

 

「「ライバル」よ」

 

「ら、ライバル?」

 

「そうだ。ライバルになった日は小四のクラス替えの後の学力テスト。俺が雪ノ下さんと同じ満点を取ったことが切っ掛けだ。俺は気にしてなかったが雪ノ下さんが自分と同じまたは上にいる人間は気に食わないから勝負をするってことになって、今に至る。まだ勝負は続いていて今でも勝負をしている」

 

「それで今までの結果が84勝84敗51引き分けね」

 

「どんだけやってんだよ!合計219回ってそしてうまいぐわいにいい勝負だな!そこまで来ると友情が目覚めそうだわ!」

 

「……うざ」

 

比企谷がなぜ熱くなったとき雪ノ下さんが「なんで生きてるの」という目をしている。

 

ガラッとドアが荒々しく開く音がした。

 

「雪ノ下と岸波。邪魔するぞ」と平塚先生が部屋に入ってきた。

 

「ノックを…」

 

「悪い悪い。気にせず続けてくれ。様子を見に寄っただけなのでな」

 

ウソだな。二人は気付いてたかはわからないが俺は廊下に平塚先生がずっといたことに気付いていた。

 

人特有の存在感という感じのモノだ。今さらだが俺はどこへむかっているんだろ。

 

「いたっ!いたたたたたっ!ギブッ!ギブギブッ!」

 

気が付くと比企谷が平塚先生に腕を捻られている。

 

あんたはゴルゴか!とか比企谷がツッコんでいるうちに話は進み。

 

「あなたのそれはただ逃げているだけ。変わらなければ前には進めないわ」

 

「逃げて何が悪い。変われ変われってアホの一つ覚えみたいに言いやがって。じゃあ、お前は、太陽にむかって『西日がきつくてみんな困っているから今日から東に沈みなさい』とか言うのか」

 

「詭弁だわ。論点をずらさないでちょうだい。太陽が動いているのではなく地球が動いているのよ。地動説も知らないの?」

 

「例えに決まってんだろ!詭弁っうーならお前のも詭弁だ。変わるってのは結局、現状から逃げてんだろうが。逃げてるのはどっちだよ。本当に逃げてないなら変わらないでそこで踏ん張んだよ。どうして今の自分や過去の自分を肯定してやれないんだよ」

 

「…それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」

 

凄いことになってんな。

 

「二人ともちょっといいかな?」

 

「「なに」」

 

「二人の話を聞いて俺からも意見だ。二人とも逃げが悪いみたいなことを言ってたな。比企谷は最初は逃げを肯定してたけど」

 

「そうだけど。それがどうした」

 

比企谷は俺に返答し、雪ノ下さんは黙っている。

 

「まずは、逃げは悪いことじゃない。むしろ大切なことだ」

 

「どうしてそう思うの?確か岸波君の座右の銘は『どんなときどんな状況でも諦めずに前に進む』よね。真逆じゃないかしらそれは」

 

「確かに俺の座右の銘は合っているが真逆ではないよ」

 

「「?」」

 

二人はわからないか。俺はムーンセルで何度も進むために逃げることをしたよくわかる。

 

「前に進むためには逃げることも大切なんだ。逃げなければ前に進めない状況もある。逃げていたから助かることもある。でも逃げたらその分を取り返さないといけないけどね」

 

「それと雪ノ下さん」

 

「なにかしら」

 

「人は変わらなくても前に進むことは出来る。俺がそうであるようにね」

 

「……」

 

「君ならわかってくれると思うけど、俺は君と出会ってからなに一つ変わらずに君に負けない様に努力をしてきた。今でも変わることなく君の上に行けるように頑張っている。才能の少ない俺が才能の塊である君に挑むために進んでいる」

 

「それと比企谷」

 

「…なんだ」

 

「人間は今の自分過去の自分を肯定しても変わっていくことはできると思う」

 

「……」

 

「確かに比企谷の言ったように変わることは自分への否定かもしれない。だけど肯定して変わることで前に進むことも出来ると思うんだ」

 

エリザベートがそうだったように、今までの多くの罪を知りそれを肯定して前に進んで行った。

 

まぁ今ではよく会っているけど。

 

「俺は君たちの考えは否定しなしバカにもしない、考えは人それぞれだ。だけど自分達の考えだけじゃなくて。他の考え方を探してみることもできると思うんだよ」

 

「これが俺の意見だ。どうかな?」

 

「「……」」

 

あれ?もしかしてやちゃった。地雷踏んじゃった。

 

俺は平塚先生の方をむくと平塚先生は微笑んでいる。

 

「やはり私の考えは間違ってなさそうだな」

 

「「「?」」」

 

「古来よりお互いの正義がぶつかったときは勝負で雌雄を決するのが少年マンガの習わしだ」

 

なにを言っているんだこの人は…。

 

 

 

 

 




ギルガメッシュってFate/シリーズでのキャラクターの変わり方が面白いですよね。

一番はCCCなのですが、カーニバル・ファンタズムのノリは結構好きです。

今さらですが、前書き後書きって何を書けばいいのでしょうか?

それではまた次回にお会いしましょう。


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これからガン〇ムファイト・レディー・ゴー!!

ガン〇ムファイト・レディー・ゴー!!

今回はガハマさんが出ます。

他にも出ます。

まだ、上手くキャラの持ち味が出せませんが頑張って書きました。

前回は誤字脱字の量が多かったので今回もあるかもしれないのであったらごめんなさい。

それでは楽しんで見てください。


 

 

 

 

 

『師匠ー!!』

 

『ド〇ン。だからお前はアホなのだ!』

 

「はぁー」

 

「どうしたの白野?ため息なんかついて。このGガン〇ムってアニメつまらない?」

 

「いやそうじゃないよアストルフォ。今日いろいろありすぎて気疲れしたけだよ」

 

今日平塚先生に言われたのでGガン〇ムをムーンセルの自室でアストルフォと一緒に見ている。

 

アストルフォを誘った理由は、ガン〇ムはロボット。ロボットは乗り物。乗り物はライダー。みたいな感じで誘った。

 

他のサーヴァントも誘ってみようと思ったのだが、皆こういうアニメ好きそうじゃなさそうだし、ギルは好きそうだがGガン〇ムの主人公と声が似過ぎていて変な空気になりそうだから誘うのはやめた。

 

この部屋には俺とアストルフォ以外にもう二人いる。それが…

 

「白野。われに新たなアップルパイを持ってきてくれ」

 

「この分数の掛け算は難しいですね…」

 

大食いとおバカだ。

 

大食いのほうは新入りのアーチャーことアタランテ。見た目は僕とアストルフォと同じぐらいの年だが少し古風な喋り方をする。セイバーはお気に入りみたいだ。

 

おバカのほうはルーラーことジャンヌ・ダルク。皆が一度は聞いたことがあるかなり有名な英雄だ。見た目は俺より年上で頼れるお姉さんみたいな感じなのだが…、この前小学生をマスターして今から中学生を…分数の掛け算っ中学生だったけ?

 

「ボクが白野の悩みを聞いてあげるよ!」

 

「白野。早くわれにアップルパイを」

 

「岸波さん。申し訳ないのですがこの問題を教えて欲しいのですが…」

 

アストルフォは可愛い笑顔で、アタランテは少し怒り顔で、ジャンヌは悩みながら俺に話しかけてくる。

 

これはGガン〇ムは見れそうにないな。

 

「わかったよ順番にね」

 

ということでまずは席を立ち作り置きのアタランテ用のアップルパイを用意する。今日はすでに八枚完食している。新しいの作らないとな…。

 

「はい。アップルパイ」

 

アタランテにアップルパイを渡すと目を輝かせて美味しそうに食べ始める。うん。こうやって笑顔で食べてくれる子って可愛いな。

 

「で、ジャンヌここの問題はこうすればいいんだよ」

 

「なるほど。ありがとうございます白野さん。流石ですね」

 

「でもジャンヌ」

 

「なんでしょう?」

 

「ここ。この前も教えたんだけど…」

 

あっジャンヌ目を逸らした。

 

「最後にアストルフォ。悩みって程ではないけど聞いてくれるかな?」

 

「うん。任せてよ!」

 

こうして俺は今日あったことアストルフォに話し始めた。

 

 

 

 

 

「古来からお互いの正義がぶつかったときは勝負で雌雄を決するのが少年マンガの習わしだ」

 

「いや、何言ってんすか…」

 

ホントにそうだ。俺も比企谷と同じ意見だ。

 

「それではこうしよう。これから君たちの下に悩める子羊を導く。彼らを君たちなりに救ってみたまえ。どちらが人に奉仕できるか!?ガン〇ムファイト・「レディー・ゴー!!」」

 

やば。ついやっちゃた。

 

「嫌です。で、岸波君もなぜ平塚先生と一緒に馬鹿をやってるのかしら?」

 

「岸波。やはり君はGガン〇ムを見ていたろ?あと雪ノ下。教師に対して馬鹿はないだろ」

 

「だから見てませんよ。そこそこ有名ですから知ってただけです。今週あたり見ようとは思ってますけど」

 

「そうかそれは楽しみだ。今度一緒に話そうではないか。なんなら私の家で見るか?」

 

「遠慮させていただきます」

 

なぜだろ。先生の家に入ったらエンディングが見えそうだ。人生の。

 

「そうか。まあ、とにかく自らの正義を証明するのは己の行動のみ!勝負しろと言ったら勝負をしろ。君たちに拒否権はない」

 

「「横暴すぎる…」」

 

比企谷と台詞が被った。まあ先生に対しては同じ不満を持ったからか。

 

まあ勝負するのはこの二人だし俺はそれを見ているだけだな。

 

「死力を尽くして戦うために、君たちにはメリットを用意しよう」

 

メリット?なんだろ。まあこういうときはあれか…なんでも

 

「勝ったほうが負けたほうになんでも命令できる、というのはどうだ?」

 

予想通りだな。この勝負の結果がどうなるか気になるな。

 

「なんでもっ!」

 

比企谷が喰いついたな。

 

雪ノ下さんは二メートルぐらい後ずさり、自分の身体を抱え防御態勢に入った。

 

「この男が相手だと貞操の危機を感じるのでお断りします」

 

「偏見だっ!高二男子が卑猥なことばかり考えてるわけじゃないぞ!」

 

そうだな。俺もそうだ。俺は友達になってもらうかな?

 

「まあ、二人とも頑張れ。応援してるぞ」

 

「岸波何を言っているんだ。お前もこの勝負に入っているんだぞ」

 

「へ?」

 

俺が入ってる?どうして?最初の流れだとこの二人の勝負だろ。

 

「君もさっきあの二人の会話に意見を述べたのだ。この勝負に入るのは必然だろう」

 

「ちょ平塚先s」

 

「いいでしょう。そこの下卑な目の男の安い挑発に乗るのは少しばかり癪ですが、受けて立ちましょう」

 

俺が平塚先生と話している間に比企谷が雪ノ下さんを挑発?したらしく雪ノ下さんが勝負を受けることにしたらしい。

 

「いや、俺なにも言っt…ごめんなさい」

 

ギロっと雪ノ下さんが比企谷を睨む。どんな挑発したんだ。

 

「どうする岸波。お前以外は勝負をするらしいがお前はどうする?その場合、君は不戦敗になってしまうが」

 

仕方がないな。あのとき俺が意見をしたのも事の発端だ。なら答えは一つ。

 

「その勝負受けましょう」

 

「君ならそう言ってくれると信じてたよ。それで君は何を命令するんだ?」

 

「そんなの決まってるじゃないですか。この二人を俺の友達にさせます。まあ命令というのが気に食いませんが他にいい命令も無いので」

 

「私は始めて君を可愛そうと思ったよ。君には友人がいないのか?」

 

「はい。小学生からずっと…」

 

「…。すまなかった。変なことを聞いてしまったな」

 

「いえ、気にしないでください。雪ノ下さんに五回ほど友達になって欲しいと言ったのですが全て『イヤよ』の一点張りで…」

 

「比企谷ならわかるが君に友人ができないというのが私には信じられないのだが」

 

平塚先生が比企谷を貶しながら俺にもわからない事を聞いてきた。小学生のときはなんとなくわかっていたけど、中学の途中からは違うところで避けられていたような気がするんだよな。

 

「おい、なんで俺に友達ができないって決めつけてんですか」

 

比企谷が平塚先生に反論しようとしたら雪ノ下さんが、

 

「あら比企谷くん。そんなの決まってるでしょ」

 

「なんだよ」

 

「あなたの目と性格が腐りきってるからよ」

 

「……」

 

雪ノ下さん。比企谷が黙っちゃたよ。

 

「まあ、俺や比企谷に友人が出来ないこと置いといて」

 

「置いとかないでくれよ」

 

「いや、そうじゃないと話が進まないだろ」

 

「そ、そうだな…」

 

ここは少し大きめに出てみるか。

 

「ここに宣言しよう。俺はこの勝負に勝って君たちを俺の友達にしてみせる」

 

「なんだよその『凄いこと言ってやったぜ』みたいな顔。内容が子どもすぎんだろ」

 

「ええ、望むところよ。そのあなたの願いを踏みにじってあげる」

 

「そしてお前はどんだけ岸波と友達になりたくねぇんだよ」

 

「おお。面白い展開になって来たな。私も楽しみだ」

 

「こうなったのは平塚先生のせいですよ。ってか俺まだ参加するとは言ってないんですが」

 

比企谷が的確にツッコミをいれる。

 

「次回から勝負スタートだ。私はこれで職員室に戻るから君たちももう帰りたまえ」

 

「あのー、俺の意思は…」

 

比企谷の質問に答える前に平塚先生は教室を出て行った。

 

「それじゃあ、そろそろ時間だから帰りましょう」

 

「そうだな」

 

「だから、俺の意思は…」

 

そうして今日の部活は終了した。

 

 

 

 

 

「あれ?白野。いつもとあんまり変わらないと思うんだけどどこが疲れたの?」

 

「ここはほんの少しだよ」

 

「ほんの少し?」

 

「そう。疲れたのはここから。家に帰ってからだ」

 

「家に帰ってから?何があったの?」

 

「それがね…」

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい兄さん。それが大変なんですよ」

 

ん?何が大変なんだ?

 

桜のほうを見て尋ねてみる。

 

「なにが大変なん…。ねぇ桜」

 

「何でしょう兄さん?」

 

「大変って言うわりには結構いい笑顔してるよ」

 

「そ、そんな顔してません」

 

「そうか?」

 

「そうですよ」

 

正直かなり嬉しそうだけど。

 

「で、なにが大変なんだ?」

 

「え、えーとですね…」

 

桜は頬を赤らめて自分のお腹の下らへんで両手を置く。

 

あれ?大変。笑顔。お腹の下に手を置く…。

 

ちょ、ちょ、ちょっと待て。今俺の頭に浮かんでいる言葉はあれだ。二文字のあれだ。その後結婚しちゃうあれだ。

 

いや、そんなはずはない。俺は桜を大事にしている。何があっても大切な妹に手を出すなんてありえない。桜はまだ中学三年生だぞ。た、確かに月の裏で好きになった女の子に似ていても妹だからありえない。とかじゃなくてあっちゃいけない。まずそういうことはしてない。

 

「さ、桜ウソだろ…」

 

「いえ、本当です」

 

俺の人生は終わったな…。

 

「今日から父さんが二、三年間アメリカに行くそうです」

 

「ごめんな桜。俺のせいで…。アメリカ?」

 

「はい。アメリカだそうです」

 

「父さんが?」

 

「はい。父さんが」

 

「じゃあ、その思わせぶりな態度は?」

 

「?何のことですか?」

 

「いやだって頬が少し赤かったし」

 

「そ、それは今日から二、三年間この家で、兄さんと二人暮らしで少し興ふ、緊張してしまって」

 

「手をお腹の前に置いたのは?」

 

「私はいつも兄さんと話すときはこんな感じだったと思いますけど?」

 

そ、そうかーよかった…。

 

「ってよくない!」

 

「ど、どうしたんですか急に」

 

「急なのは父さんのほうだ。どうして言ってくれなかったんだ!」

 

「私も帰ってきたらいつものように机にこの手紙が」

 

桜から父さんの手紙を受け取り内容を読む。

 

『白野・桜へ

 

 今日から私は二、三年ぐらいアメリカの病院へ行く。

 前々からそういう頼みがあったのだが、君たちがまだ幼かったから断っていた。

 だが白野が高校生になり大人のような扱いを受ける年になった。

 そしてこの一年間君たちの様子を見させてもらい、

 今回の頼みを承諾した。今の君たちなら何とかなる。

 これからは二人でこの家に住むことになるが、まあ、大丈夫だろう。

 私も一年に一回は帰ってこれると思う。

 話せなかったことは悪いと思っているが、こういうほうが面白いだろ。

 

                             父より。』

 

「面白くないよ!心の準備が出来てないし」

 

「私は大丈夫です。に、兄さんさえいてくれれば…///」

 

「ありがとう桜。ちょっと父さんに電話するよ」

 

俺は携帯を取り出して父さんに電話をする。

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません。…』

 

どうしてだ?この前というか昨日は使えたぞ。

 

「兄さん。父さんはなんと?」

 

「今までの電話番号は使ってないって…」

 

「……」

 

「……」

 

「えーっと兄さん…」

 

「桜ー」

 

「きゃっ!に、兄さん」

 

俺は桜を抱きしめて、

 

「桜。俺がお前を守ってあげるからな、心配するな」

 

「は、はい。ありがとうございます…。兄さんの香り…」

 

今日から俺たち兄妹の二人暮らしが始まった。

 

 

 

 

 

「た、大変だね」

 

「だろ…」

 

「白野。新たなアップルパイを!」

 

はや!

 

「わかったけど俺もう起きる時間だから。自分の部屋に持って行って食べてくれ」

 

「そうか…。白野またわれのために作ってくれるか?」

 

「うん。任せてくれ。他の二人も今日はここまで。また明日続きを見よう」

 

見ようと言っても見てるのは俺とアストルフォだけだが。

 

「うん。それじゃあねぇ白野。また明日呼びに来て」

 

「わかりました。それでは岸波さん私もこの辺で帰らせていただきます」

 

「それではの。白野」

 

「また明日ねアストルフォ、ジャンヌ、アタランテ」

 

三人は俺の部屋を出て行く。

 

「よし。起きるかな」

 

そして目を瞑り元の世界へ帰る。

 

 

 

 

 

比企谷が入部して数日。カレンに捉まり少し遅れてしまったがいつものように部室にむかう。

 

あれ。部室の前に女生徒が立ってるな。

 

「依頼人かな?」

 

俺はその女生徒に近付いて尋ねる。

 

「えーっと君は?」

 

「ひゃ!ご、ごめんなさい」

 

「いや謝らなくていいよ。こちらこそ驚かせるようなことをしてごめんね。君はこの部屋に何のようかな?」

 

あっ!この子あの犬の飼い主だ。髪の毛の色が変わってたから近づいて顔を見るまで気付けなかった。この子が依頼人ならこの部屋はすごい奇跡が起きてるな。

 

あの場にいた四人が揃うわけか。偶然ってすごいは。

 

「え、えっと。平塚先生から聞いたんだけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるって聞いて…」

 

まあ、間違ってはないけど少し違うな。でも依頼人ってことだな。

 

「そういうことなら中に入ってよ」

 

「えっでも…」

 

そうか俺のことは知らないもんな。

 

「俺はここの副部長をやらせてもらってるんだ」

 

「そうなの?」

 

「そうだよ」

 

なんか子犬みたいな子だな。

 

子犬いえばセイバーもそんな感じだけどセイバーとは少し違うな。

 

「入るけどいいかな?」

 

「ま、待ってまだ心の準備が…」

 

「わかった。準備ができたら言ってくれ」

 

心の準備が始まって一、二分、「よし。お願いします。」と彼女が言った。

 

コンコンいつもと同じようにノックをする。

 

「どうぞ」

 

聞きなれた綺麗な声が入室を許可する。

 

「遅れました。あと入口に依頼人がいたよ」

 

「し、失礼しまーす」

 

心の準備をしてもまだ緊張してるようだな。

 

「な、なんでヒッキーがここにいんのよ!?」

 

ヒッキー?ああ、比企谷のことか。ってことは比企谷と同じクラスか。いいなあだ名って、俺はこの世界だとあだ名は未だにザビエルか、ゴミ捨て場のどっちかだったし。桜は兄さん、カレンは白野先輩だからな。他の人は名字の岸波だし。

 

ムーンセルではいろいろあったな。奏者、マスター、ご主人様、雑種、子ブタ、etc…。

 

そんな事を考えってたら、比企谷が彼女の席を用意して、「まぁ、とにかく座って」と言っている。やっぱり優しいな比企谷。

 

「あ、ありがと…」

 

俺も座るか。

 

俺もいつもの席に着き依頼人の彼女のほうへむく。

 

「由比ヶ浜結衣さん、ね」

 

「あ、あたしのこと知ってるんだ」

 

へぇ、彼女の名前は由比ヶ浜さんって言うんだ。いつも思うけどすごいなよく全生徒の名前覚えてるな。

 

「そんなことないわ。比企谷くんのことなんか知らなかったもの」

 

「あれ俺の声出てた?それとも思考が読まれた」

 

それは俺の得意分野だと思ったのに…。

 

「なんで俺が貶されてんだよ…」

 

「比企谷くん。別に落ち込むことではないわ。むしろ、これは私のミスだもの。あなたの矮小さに目もくれなかったことが原因だし、何よりあなたの存在からつい目を逸らしたくなってしまった私の心の弱さが悪いのよ」

 

「ねぇ、お前それで慰めてるつもりなの?最後、俺が悪いみたいな結論になってるからね?」

 

「慰めてなんかいないわ。ただの皮肉よ」

 

この二人の会話はいつ聞いても癖があって面白いよな。

 

「なんか…楽しそうな部活だね」

 

「そうだろ。いつもこんな感じだよこの二人」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

「岸波くん。勝手に話を進めないでくれるかしら。…それとその勘違いがひどく不愉快だわ」

 

「いやなんというかすごく自然だなって思っただけだからっ!ほら、ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。ちゃんと喋るんだーとか思って」

 

「いや、喋るよそりゃ…」

 

まあ、俺もクラスでは雪ノ下さんぐらいとしか話さないけど。

 

「そういえば、由比ヶ浜さんもF組だったわね」

 

「え、そうなん」

 

比企谷マジか。俺ですらクラスの人の名前ぐらいは知ってるよ。

 

「まさかと思うけど、知らなかったの?」

 

由比ヶ浜さんが雪ノ下さんの言葉にぴくりと反応した。

 

しかも比企谷焦ってるよ。

 

「し、知ってるよ」

 

目逸らしてるよ。

 

「…なんで目逸らしたし」

 

「そんなんだから、ヒッキー、クラスに友達がいないんじゃないの?キョドり方、キモいし」

 

ん?ならなぜ俺には友人がいないんだ?クラスの生徒の名前は知ってる。生活もごく普通のはずだ。わからない。

 

「…このビッチめ」

 

「何言ってんだ比企谷。女の子にそんなこと言ったらダメだろ。この子はどう見ても処―――」

 

「う、うわわ!なな、何言ってんの君。デリカシー無さ過ぎ!!」

 

ごめん。つい俺のオヤジの部分が…。

 

「別に恥ずかしいことではないでしょう。この年でヴァージ―――」

 

「わーわーわー!ちょっと何いってんの!?高二でまだとか恥ずかしいよ!雪ノ下さん、女子力足んないんじゃないの!?」

 

「…くだらない価値観ね」

 

そうだな。むしろ俺はムーンセルでは守ってたくらいだし。

 

「にしても、女子力って単語がもうビッチくさいよな」

 

この後も、ビッチだの、死ねだの、キモいだのと醜い言葉が行き交った。

 

仕方がない話を戻そう。

 

「ねえ、由比ヶ浜さんは今日何しに来たんだっけ?」

 

「え?あ、ああごめん。ヒッキーのせいで言えなかった」

 

「なんで俺のせいなんだよ。このビッチが」

 

「比企谷そろそろ話を進めたいからその辺にしといてくれ」

 

「ああ、わるかった」

 

「うん。静かになったから再開しよう」

 

「部屋に入る前も聞いたけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるんだよね」

 

「そうなのか?」

 

「岸波くんウソを教えないでくれるかしら。」

 

「いや、そう教えたのは平塚先生だ。俺は部室の前で心の準備をしていた由比ヶ浜さんを中に入れただけだよ」

 

「そう。由比ヶ浜さん。あくまで奉仕部は手助けをするだけ。願いが叶うかはあなた次第よ」

 

「どう違うの?」

 

「ここは俺が言おう」

 

「なぜかしら岸波くん?」

 

「雪ノ下さんが言うと難しくて理解しずらいかなってね」

 

今までの会話の中で考えると、あまり難しいことを言うと由比ヶ浜さんが混乱しかねないからね。

 

「なら任せるわ」

 

「うん。由比ヶ浜さん」

 

「なに?」

 

「例えば君が、感謝したい人や好きな人に美味しいモノを食べて貰いたいとしよう」

 

俺の言葉に由比ヶ浜さんがぴくりと反応した。

 

ビンゴ。やっぱり考えてはいたんだなあのことを。

 

「だけど上手く作れなかった。そこで俺たち奉仕部の出番だ。仕事の内容は君に美味しいモノの作り方を教えることだ。最初の内容だと俺たちが美味しいモノを作ることになるからね」

 

こんな感じかな?

 

「な、なるほど」

 

由比ヶ浜さんも納得してくれたようだ。

 

「それで、あなたの依頼とは何なのかしら?」

 

雪ノ下さんが由比ヶ浜さんに依頼内容を尋ねる。

 

「あのあの、あのね、クッキーを…」

 

やっぱりね。まあそうだろうと思ったけど。

 

「よし。比企谷いくぞ」

 

「は?どうした急に」

 

「お前は人数分の飲みモノでも買いに行っててくれ」

 

「どうして俺がパシらないといけないんだよ。お前が行けよ」

 

「俺はあれだ。今から職員室に行って来る」

 

鶴見先生に家庭科室の鍵を借りに行く。結構鶴見先生とは仲がいいんだよ俺。よく娘さんの留美ちゃんに料理を教えに行くぐらいだ。

 

そして俺と比企谷は教室を後にした。

 

 

 

 

 




今回はかなりのキャラがキャラ崩れした気がします。

Apocryphaのキャラの喋り方を勉強しないといけませんね。

特にアタランテ。古風な感じが上手く出せない。

ジャンヌはここまでおバカではないと思いますが、ネタなので。

ジャンヌ好きの皆さんごめんなさい

この世界の桜は月の桜とBBを足して二で割った感じでいこうかと思います。

カレンとの会話はまだ少し後で。

それではまた次回に。


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やっぱりエプロン姿の女子っていいよね。

今回は前回の続き由比ヶ浜さんの依頼編。

この作品では由比ヶ浜さんは比企谷ルートなので、白野くんはフラグを立てません。

まぁそれに近い行動はしますが…。

それでは今回もよろしくお願いします。


 

 

 

 

 

「鶴見先生ありがとうございます。依頼が終わったら家庭科室の鍵を返しに来ますね」

 

「わかったわ。そうだ岸波君」

 

「何ですか?」

 

「その依頼が終わったらでいいんだけどお願い聞いて貰ってもいいかな?」

 

お願い?なんだろ。まあ、鶴見先生のことだから留美ちゃんのことかな。

 

「別に構いませんがお願いの内容はなんですか?」

 

「ありがとうね岸波君。内容は鍵を返してもらったときに言うわ」

 

「わかりました。それでは失礼しました」

 

鶴見先生から鍵を貸してもらい職員室を出る。

 

鍵は借りたから雪ノ下さんにメールしておくか。

 

『鶴見先生に家庭科室の鍵を借りたので先に行って待っています。

 比企谷が来たら由比ヶ浜さんと一緒に来て下さい』

 

こんな感じでいいかな。

 

「送信っと。そんじゃまあ、行きますかね」

 

クーの兄貴みたいに言ってみたけど…やっぱりしっくりこないな…。

 

 

 

 

 

「毎度思うのだけれど岸波くんは仕事が早いわね…」

 

彼からのメールの内容を見て感心する。

 

「どうかしたの雪ノ下さん?」

 

「場所の用意が出来たのよ。由比ヶ浜さん」

 

「場所?」

 

「あなたの依頼を遂行するための場所よ。岸波君が家庭科室を借りてくれたそうよ」

 

「は、はや!あたしの依頼はあの二人が出て行った後に雪ノ下さんにしか話してないのに!」

 

由比ヶ浜さんは驚いてるようね。

 

「彼は前から仕事をやるのが早いのよ」

 

「それにしても早すぎじゃないかな」

 

「岸波君は相手の行動パターンや言動、表情の変化などをいろいろ観察して、相手の次の行動などを推察するのが得意だそうよ。自称『観察眼』だったかしら」

 

「そ、それ少し怖いかも…」

 

そうね…。自分の考えが読まれるのは少し恐怖を感じるわね…。

 

「でも、考えすぎて空周りしたりもするけどね」

 

彼の焦った顔は見応えがあって面白いのよ。

 

「それでは由比ヶ浜さん。私たちは移動の準備を始めましょう。比企谷君が来たら家庭科室に行きましょうか」

 

「わ、わかった」

 

その後、比企谷君から私は『野菜生活』を由比ヶ浜さんは『俺のカフェオレ』受け取って三人で家庭科室に移動を始めた。

 

 

 

 

 

「みんな準備はしておいたけど、クッキーを焼くでいいんだよね?」

 

俺はみんなが来る前にある程度の道具や材料の用意を終わらせておいた。

 

「お疲れ様。内容はそれであってるわ」

 

「「す、すご…」」

 

比企谷と由比ヶ浜さんは驚いているようだな。

 

まあ、これぐらい出来ないと俺の前にいるこの女性には勝つことは無理だろう。

 

「ひ、ヒッキー。やっぱりやめた方がいいって、ここまで用意してくれたんだよ…」

 

「うるせえ。俺をパシらせたんだからいいんだよ」

 

「比企谷君。最低…、いやゴミね。ゴミ谷君。だから友達が出来ないのよ」

 

「お前には言われたくねえよ」

 

何やら後ろのほうで三人がもめているようだ。

 

お。比企谷が近づいてきた。

 

「ほら岸波お前の分の飲みモノだ。ありがたく飲んどけ。値段は三百円だ」

 

比企谷が嫌な笑みを浮かべながら俺に飲み物を渡す。って三百円って高!しかも缶だ。

 

総武高の自販機に缶なんてあったけ?

 

総武高の自販機はパック系の飲み物が主で全て百円で買えるはずなのだが、三百円の缶って…。

 

比企谷に渡された缶を見てみる。

 

「こ、これは…」

 

「岸波は何が欲しいとか言ってなかったから。一番高いヤツ買って来たぜ」

 

「ヒッキーがすごく嫌な顔してるんだけど…。キモッ」

 

「ええ。ゴミのような顔をしてるわね」

 

「比企谷…。お前…」

 

俺は比企谷の肩に手を置く。

 

「な、なんだよ」

 

「ナイスだ!いや、いいセンスだ!」

 

「「「は?」」」

 

「まさかホントに存在するとは…。この泰山の激辛麻婆缶」

 

すごいなこれ…。前に店長が言ってたけどホントにあるとは。後で写メるか。

 

「比企谷なんでわかったんだ。俺の好きなモノが」

 

「えっ、いや…そのー」

 

「そうだ。三百円だったな。あっ今手持ちの硬貨が五百円玉しかない。いいか。これには五百円以上の価値が俺にはある。比企谷お釣りはいらない」

 

俺は比企谷に五百円玉を渡す。

 

「あ、あのー」

 

「早く食べるか。スプーン借りよ」

 

ホントにすごいな。おっと写メらないと…。

 

携帯電話を取り出して写真を撮る。

 

「いやー。比企谷は本当にいい奴だな」

 

「……」

 

「私は初めて悪意の行動が善意に変わるところを見た気がするわ」

 

「あたしも…」

 

 

 

 

 

俺が麻婆缶を食べ終わりクッキー作りが始まった。

 

女の子の制服エプロン姿っていいよな。

 

「曲がってるわ。あなた、エプロンもまともに着れないの?」

 

「ごめん、ありがと。…えっ!?エプロンくらい着れるよっ!」

 

「そ、ならちゃんと着なさい。適当なことばかりしているとあの男のように取り返しがつかないことになるわよ」

 

と雪ノ下さんはなぜか比企谷に言い放つ。

 

「俺を躾の道具に使うな。俺はなまはげかよ」

 

そこから比企谷の頭皮の話に変わり、その二人の会話を聞いてくすくすと由比ヶ浜さんが笑う。由比ヶ浜さんはまだエプロンを着れてないようだ。

 

「由比ヶ浜さん。ちょっといい?」

 

「な、なにかな?」

 

俺は由比ヶ浜さん後ろに回り由比ヶ浜さんが着ているエプロンの紐を綺麗に結ぶ。

 

「これでよしっと」

 

「あ、ありがと。上手だね」

 

「まぁ今はもうやらないけど、昔は妹にもこうやってエプロンの紐を結んであげたんだよ」

 

「そうなんだ。ありがとね。えーっと岸波くん?」

 

そういえばまだ自己紹介してなかったな。

 

「うん。岸波白野。よろしくね」

 

「よろしく。岸波白野?どこかで聞いたような…。まあいいか」

 

「ねぇなんでみんなこういう反応するの!?比企谷のときもこんなことあったよ!」

 

俺ってあんまり人の記憶に残らないのか…。まあ俺自身、自分の名前以外全て忘れたことは何度もあるけど…。

 

「もういいや。よろしくね由比ヶ浜さん」

 

そうして俺は自分のいた席に戻ろうとしたのだが、他の二人から嫌な視線を感じる。

 

「な、何でしょうか。二人とも…」

 

「岸波くん。さっきの行動はセクハラということでいいのかしら?」

 

「どうして!?」

 

「このジゴロが。だがこいつは天然のほうか…」

 

「ジゴロってなんだよ!」

 

最後のほうは何を言ってたか聞こえなかった。

 

俺は自分の席に座るが他の二人の視線が痛い。

 

「あ、あのさ、ヒッキー」

 

「な、なにかね?」

 

助かった。由比ヶ浜さんが比企谷に話しかけてくれたおかげで痛い視線が…、まだ雪ノ下さんの視線はあるけど…。

 

「か、家庭的な女の子って、どう思う」

 

「別に嫌いじゃねぇけど。男ならそれなりに憧れるもんなんじゃねぇの」

 

「そ、そっか…」

 

それを聞いて由比ヶ浜さんは安心したように微笑む。

 

この反応は…。比企谷も隅に置けないな。でもこれってエリザベートの二つ目のSG『料理好き(愛妻願望)』と同じ臭いが…。比企谷に合掌。

 

「ねぇ岸波君」

 

「ん?なにかな雪ノ下さん」

 

「あなたも…その家庭的な女の子というのはどう思うのかしら?」

 

急にどうしたのかな?まあここは普通に答えるか。

 

「好きだよ。俺も料理はするから一緒に台所に立って料理とか憧れるかな」

 

桜とは毎日そんな感じだけどな。

 

「そ、そう」

 

雪ノ下さんからの痛い視線が収まった。なぜかはわからないけどよかったよ。

 

「よーしっ!やるぞ!」

 

由比ヶ浜さんは気合いを入れてブラウスの袖をまくり、クッキー作りにとりかかる。

 

うわーすごいなこれは。

 

比企谷は少し引いてるし、雪ノ下さんは青い顔をして額に押さえている。

 

そして俺は微笑んでいる。

 

よかったな比企谷。由比ヶ浜さんはエリザベート程ではないから死ぬことはないぞ。

 

由比ヶ浜さんのクッキー?作りは進み、インスタントコーヒーとか入れたり、いろいろとミスを繰り返し完成したのが、真っ黒なホットケーキみたいなもの。

 

「な、なんで?」

 

自分で作って愕然としてる由比ヶ浜さん。

 

「理解出来ないわ…。どうやったらあれだけミスを重ねることができるのかしら…」

 

雪ノ下さんは由比ヶ浜さんに配慮したように小声で呟く。

 

「見た目はあれだけど…食べてみてみないとわからないよね!」

 

「そうね。味見をしてくれる人も二人もいることだし」

 

「ふははは!雪ノ下。お前にしては珍しい言い間違いだな。…これは毒味と言うんだ」

 

「どこが毒よっ!…毒、うーんやっぱ毒かなぁ?」

 

由比ヶ浜さんは毒でいいのか?

 

「おい、これマジで食べるのかよ。それに岸波はこれを食べろって言われたのになんで平然としてるんだよ」

 

「これは可愛いもんだよ。俺はこの上…、いや、この十段階は上のモノを食べさせられたことがある…」

 

「な、なんだよそれ…」

 

「見た目は普通だが口に入れた瞬間に死を覚悟するパスタ、スープ、フルコースの三食を一日で食べさせられた…」

 

思い出したくない。思い出すだけで胃が焼けるように痛くなる。

 

「この世にはそんなモノを作る奴もいるのか」

 

正確にはこの世ではないがまぁいいか。

 

「それにこれは食べられないって程ではないよ」

 

「お前それマジで言ってんだな。ならお前が一人で食えよ」

 

「比企谷何言ってんだ。雪ノ下さんは俺たち二人に食べろって言ったんだぜ。それに感想を言う奴は多い方がいいに決まってるだろ」

 

「ぐ。岸波、俺から逃げ場を奪うな」

 

「大丈夫。材料は普通に食べれるモノだから死にはしないって」

 

そう言って俺はクッキー?を一枚?摘まんで口の中に入れた。

 

「まぁ、味は予想道理で美味しくはないけどこれぐらいなら俺は大丈夫だ」

 

俺に続いて他の三人もそれぞれクッキー?を口にする。

 

女子二人が口にしたのは驚いたが感想を言うのは多い方がいいからな…。大丈夫かな?

 

全員が食べた後クッキー?の残りは俺が何とかするということにした。

 

「さて、じゃあどうすればより良くなるか考えましょう」

 

「由比ヶ浜が二度と料理をしないこと」

 

「全否定された!?」

 

「比企谷君、それは最後の解決方法よ」

 

「それで解決しちゃうんだ!?…はぁ、やっぱりあたし料理に向いてないのかな…。才能ってゆーの?そういうのないし」

 

そうなるのか…。才能って単語は本当に怖い。その言葉一つで人の努力を無駄にすることがあるからな。その先にある可能性を人は見つけることをしなくなってしまう。

 

でもそんなこと言ったら彼女は許さないだろうな。まぁ俺も許さないが。

 

「…なるほど。解決方法がわかったわ」

 

「どうすんだ?」

 

「比企谷そんなの決まってるだろ」

 

予想彼女も俺と同じことを考えてるな。

 

「「努力あるのみ」」

 

「それ解決方法か?って言うか息ピッタリだなお前ら」

 

比企谷は努力は最低の解決方法って考えてるだろうけど、そうではない。

 

「努力は立派な解決方法よ。正しいやり方をすればね。由比ヶ浜さん。あなたさっき才能がないって言ったわね?」

 

「え。あ、うん」

 

「その認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には才能がある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者が積み上げた努力を想像できないから成功しないのよ」

 

その通りなのだが、ちょっと言い方があれじゃないかな。

 

「俺は雪ノ下さんみたいなことは言わないけど、俺は努力して来た人間だから才能って単語で終わらせて欲しくないかな」

 

「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。…やっぱりこういうの合ってないんだよ、きっと」

 

あのー俺やってるって言ったんだけど…。

 

「…その周囲に合わせようとするのやめてくれるかしら。ひどく不愉快だわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」

 

おお。すごいこと言ったな雪ノ下さん。そうやって人に思ったことが言えるなんてな、やっぱりこの人はかっこいいよ。

 

比企谷は「う、うわぁ」って小声で引いてるけど。

 

「……」

 

由比ヶ浜さんは俯いてしまっているけど、どっちに転ぶかな?

 

「か…、かっこいい…」

 

「「は?」」

 

「ぷっ」

 

ちょっと噴き出しちゃった。この女の子は俺と同じ考えか。意気が合いそうだから今度お菓子の作り方とか教えてあげようかな。

 

「建前とか全然言わないんだ…。なんていうか、そういうのかっこいい…」

 

由比ヶ浜さんが雪ノ下さんを熱っぽい表情でじっと見つめる。

 

「な、何を言っているのかしらこの子…。話聞いてた?私、これでも結構きついことを言ったつもりだったのだけれど。それと岸波くんはなぜ噴き出したのかしら?」

 

「由比ヶ浜さんと同じで雪ノ下さんをかっこいいと思ったからだよ」

 

俺の言葉に雪ノ下さんは驚いてから顔を赤くして俯いてしまった。

 

雪ノ下さんってたまに可愛い行動するよな。

 

「確かに言葉はひどかったし、ぶっちゃけ軽く引いたけど…。でも、本音って感じがするの。ヒッキーや岸波くんと話しているときも、ひどいことばっかり言い合ってるけど…ちゃんと話してる。あたし、人に合わせてばっかだったから、こういうの初めてで…」

 

この子も雪ノ下さんに救われたのかな?それなら前に進めるはずだ。

 

「ごめん。次はちゃんとやる」

 

「うん。それはとてもいい答えだと思う。俺も手伝うよ。こう見えて料理はまあまあ得意だとは思うけど」

 

「あ、ありがと。岸波くんって料理できるんだ。すごいね」

 

まぁ家事は俺と桜がやってるし、ムーンセルでは今でもよくアーチャーやキャスターに聞いているし、日頃上達してるしね。大体のことは小学生までに修得したけど。

 

「でも俺は今から先生に家庭科室を貸してくれたお礼の品を作りたいから雪ノ下さん頼んでいいかな?」

 

「わかったわ。一度お手本を見せるから、その通りやってみて。それと岸波くん。久しぶりに料理で勝負なんてどうかしら?」

 

それをここで持ってくるか…。まぁやるけどさ。

 

「わかった。お題はまたクッキーかな?」

 

「ええ、あれ以降の勝負も料理はしてもクッキー作りはしなかったもの。ちょうどいいわね。私かなり上手くなってるわよ」

 

怖いな…。

 

「お手柔らかに」

 

「おい、俺たち置いてきぼりだぞ…」

 

「う、うん。でもすごそうだね!」

 

そうだ。一応由比ヶ浜さんに言っておくか。

 

「勝負の前に由比ヶ浜さん」

 

「なに?」

 

「見本は雪ノ下さんが作るクッキーだからしかり覚えるんだよ」

 

「わ、わかった。がんばるね」

 

これでいいかな。それじゃあ俺はアレをどうにかしてみるかな。

 

「雪ノ下さん始めようか。俺は隣の机のほうで作るよ」

 

「ええ、今回はしっかりと判定してくれそうだから前のようにはならないわよ」

 

それって俺が負けるみたいに聞こえるぞ。

 

「それじゃあ、スタート!」

 

 

 

 

 

クッキー作りが始まり十数分。俺と雪ノ下さんが作ったクッキーが比企谷と由比ヶ浜さんの前に置かれる。

 

ホントに雪ノ下さん上手くなってるな。綺麗なキツネ色に焼かれたクッキーはお店に出しても大丈夫な程の出来栄え。

 

そして俺のは生地にアレを入れたから少し濃い茶色をしているが味は確かなはずだ。見た目も悪くないし。

 

「お前らすごいな。なにパティシエにでもなるの」

 

そういって比企谷は雪ノ下さんのクッキーを口に入れて、

 

「うまっ!お前何色パティシエールだよっ!?」

 

なんだその何色パティシエールって。

 

由比ヶ浜さんも雪ノ下さんのクッキーを食べて、

 

「ほんとおいしい…。雪ノ下さんすごい」

 

「ありがとう。岸波君。これは私の勝ちかしら」

 

「まだ、誰も俺のクッキーを食べてないからそう言うのはちょっと…」

 

「そんじゃあ、岸波のも…」

 

そして比企谷は俺のクッキーを手にとって口にした。

 

「これもうまい!なんつうか、程良い苦みがいいな。MAXコーヒーに合いそうだ」

 

「確かに甘い飲み物と一緒に食べたいかも。でもこれだけでも十分おいしい」

 

「どういたしまして。喜んでもらえて嬉しいよ」

 

やっぱり食べてくてる人は笑顔じゃないとね。

 

二人はどんどん俺と雪ノ下さんの作ったクッキー食べていく。

 

「それでは、どちらが美味しかった聞かせて頂戴」

 

雪ノ下さんの言葉に二人は目を逸らす。

 

「どっちかにしろって言われても…」

 

「両方ともおいしかったから…」

 

「「選べない…」」

 

雪ノ下さんはため息を漏らす。

 

「はは、今回も引き分けだね」

 

「…そうね。今回で84勝84敗52引き分けね」

 

「なんのこと?」

 

比企谷は知ってるけど由比ヶ浜さんは知らないもんな。

 

「俺と雪ノ下さん勝負してるんだよ。で、さっき雪ノ下さんが言ってたのが今までの勝負の結果だよ」

 

「えっ!そんなにやってんの!?」

 

「まぁ、付き合い長いからね」

 

「そうなんだ。すごいね!」

 

「ありがとう。それじゃ由比ヶ浜さんはクッキー作ってみようか」

 

「そうね。私が作ったクッキーは、レシピに忠実に作っただけ。だから、由比ヶ浜さんにもきっと同じように作れるわ。むしろできなかったらどうかしてると思うわ。さ、由比ヶ浜さん。頑張りましょう」

 

いちいち言葉に毒を入れるよね雪ノ下さんって。

 

「う、うん。…ほんとにできるかな?あたしにも雪ノ下さんみたいなクッキー作れる?」

 

「ええ。レシピどおりにやればね」

 

雪ノ下さんはしかっりと釘をさした。

 

二人が調理を始めたから、俺はお礼の品でも作るか…。まだアレが残ってるし。

 

「この材料ならマフィンを作れるかな」

 

俺も隣の机でマフィン作りを始めた。

 

「おい岸波。お前は何やってんだ」

 

「さっき言ったろ、先生にお礼の品を作るって」

 

「ああ、そうだったな…。なぁ、この黒い粉はなんだ?」

 

気付いたか。

 

「これはアレだよ」

 

今クッキーを作っている二人には聞こえない大きさで比企谷に教える。

 

「アレって、アレか。もしかしてお前が作ったクッキーにも?」

 

「入れたよ。でも美味かったろ?」

 

「マジか…。アレがあんなにもうまくなるもんなのか…」

 

「大切なのは心だろ比企谷」

 

俺は笑顔でマフィンの生地に残りの黒い粉ことアレを入れる。

 

「まぁ、そうだけど。それを入れるところだけだと悪意にも見えるな…」

 

「……」

 

うるさいよ…。

 

…確かにそうかも。

 

 

 

 

 




次回で由比ヶ浜さんの依頼は終了。

やっぱり岸波白野くんは相手のことには敏感だけど、自分のことには鈍感でないと行けませんよね。

わかってるかもですが、泰山の激辛麻婆缶はどの世界にも存在しないオリジナルです。

それではまた次回に!


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料理は気持ちが大切です。

今回でガハマさんの依頼終了です。

あんまり納得していただけるかがわかりませんが、自分の考えなども含めて書かせていただきました。

なるべく気にせず楽しんでもらいたいです。


 

 

 

 

 

俺は予熱しておいたオーブンにマフィンの生地が入ったカップを入れる。

 

「後は焼けるのを待つだけだな」

 

こっちは済んだからクッキー作りのほうを見に行こう。

 

俺が作ってる間に雪ノ下さんが由比ヶ浜さんのミスを指摘しまくってたけど…。

 

「なんか違う…」

 

由比ヶ浜さんはしょんぼりと肩を落としている。

 

「そっちはどんな感じ?」

 

俺は雪ノ下さんに尋ねてみる。

 

「見ての通りよ。……どう教えれば伝わるのかしら?」

 

そこの皿を見ると最初のクッキー?に比べたら、形は歪ながらも十分と言えるくらいマシな頑張って作った手作りクッキーになっている。

 

「なんでうまくいかないのかなぁ…。言われたとおりにやってるのに」

 

由比ヶ浜さんは不思議そうにクッキーに手を伸ばし口に運ぶ。

 

「うーん、やっぱり雪ノ下さんのと違う」

 

「俺も一つ貰ってもいいかな?」

 

「え?別にいいけど…。雪ノ下さんや岸波君みたいにおいしくないよ…」

 

手作りの場合は美味しさも大事だけどそれは二の次だ。そのことは比企谷が言ってくれるだろ。

 

由比ヶ浜さんのクッキーを口に入れる。

 

「うん。これなら最初のクッキーに比べたら十分いいよ。それにこれから頑張っていけば美味しくなると思う」

 

「そうかな…」

 

由比ヶ浜さん納得していないような顔をしている。

 

「あのさぁ、さっきから思ってんだけど、なんでお前らうまいクッキー作ろうとしてんの?」

 

「はぁ?」

 

由比ヶ浜さんが「こいつ何言ってんの?」みたいな顔で比企谷を見る。

 

まぁ、それは納得いかないよな。食べて貰うなら美味しい方がいいのは当たり前だ。俺だってそうだ。だから頑張って努力して今に至るわけだし。それにいい先生が二人もいたからな。

 

「お前、ビッチのくせに何もわかってないの?バカなの?」

 

比企谷…。またそういうこと言う。

 

「だからビッチ言うなっつーの!」

 

「男心がまるでわかってないのな」

 

「し、仕方ないでしょ!付き合ったことないんだから!そ、そりゃ友達にはつ、付き合ってる子とか結構いるけど…そ、そういう子たちに合わせたたらこうなってたし…」

 

「別に由比ヶ浜さんの下半身事情はどうでもいいのだけれど、結局、比企谷くんは何が言いたいの?」

 

下半身事情ってなんだろ?単語の意味はわからないけで俺の中のオヤジが聞けと騒いでいる…。

 

「下半身事情?なにその単語始めて聞いたな。どういう意味なの雪ノ下さん?」

 

比企谷と由比ヶ浜さんが俺の言葉に軽く引いてるよ。

 

「岸波くん。そういうことはわからないからと言って女性に聞くのはどうかと思うのだけれど」

 

雪ノ下さんは冷たい目で俺を睨みながら言ってくる。自分で言ったくせに…。

 

「わ、わかった。あとでインターネットで調べてみるよ」

 

あと比企谷が言ってたジゴロってのも気になるな…。

 

「ふぅー、どうやらおたくらは本当の手作りクッキーを食べたことがないと見える。十分後、ここへきてください。俺が『本当』の手作りクッキーってやつを食べさせてやりますよ。」

 

比企谷は勝ち誇った笑みでそう言った。

 

「何ですって…。上等じゃない。楽しみにしてるわ!」

 

由比ヶ浜さんは雪ノ下さんを引っ張って家庭科室を出て行く。

 

「岸波。お前は出てかないのか?」

 

「俺はお前の行動はなんとなくわかってるからな。お前の言葉の意味もわかる。それにあともう少しで俺が作ってるマフィンができるから、みんなでお茶を飲みながら食べようか。比企谷の言う本当の手作りクッキーというか、由比ヶ浜さんのクッキーと一緒にね」

 

「お前本当にすごいな。なに名探偵の生まれ変わり?」

 

「いや、平凡で最弱だった魔術師の生まれ変わりだ。」

 

「…。お前まさか材木座と同じ人種か?」

 

「比企谷も材木座を知ってるの?」

 

以外ではないが材木座を知ってるのか。

 

「まぁ、知り合いたくはなかったな」

 

そういえば材木座で気になることがあるんだった。

 

「なぜかさ、あいつ前はよく話しかけてきたんだけど、一年の後半からやけにガンを飛ばしたりしてきたり、無視してくるんだけどなぜか知らない?」

 

なぜだろう?

 

「俺に聞くな…。俺とあいつでは全く違うから考えがわかるわけがないだろ」

 

「そうだな。悪かったな比企谷。今度は自分から聞いてみるよ」

 

「あとお前のその設定、魔術師の時点で平凡じゃないだろ」

 

「それもそうか。今度考え直さないとな…」

 

まぁ本当のことなんだが。

 

「そうだ。そろそろマフィンも出来るから俺はお茶の用意でもするか」

 

 

 

 

 

全員でお茶を飲み俺の作ったマフィンを食べながら机の真ん中にある比企谷の『本当の手作りクッキー』を見ていた。

 

そして女子二人の反応は。

 

「岸波くん。相変わらず腹立たしいほどに美味しいわねあなたの作る食べ物は」

 

「なぜ怒りたくなるほどなの?」

 

いつからかだったろう…。『なぜここまで美味しくなるのかがわからないのだけれど?少しムカつくわね』と言われるようになった。

 

美味しく食べて貰いたいだけなのにな。

 

「それに比べて…。比企谷くん。これが『本当の手作りクッキー』なの?形も悪いし、不揃いね。それにところどころ焦げているのもある。――――これって…」

 

雪ノ下さんは気付いたね。

 

「ぷはっ、大口叩いたわりに大したことないとかマジウケるっ!食べるまでもないわっ!」

 

由比ヶ浜さんは言われるまでは気付きそうにないな。

 

「ま、まぁ、そう言わず食べてみてくださいよ」

 

比企谷は少しキレそうだけど我慢して余裕の笑み?を崩さない。

 

「ねぇ岸波くん」

 

雪ノ下さんが二人に聞こえないぐらいの声で話しかけてきた。

 

「何かな雪ノ下さん?」

 

俺も同じくらいの声で返す。

 

「岸波くんはこのことをどのあたりで気付いてたのかしら?」

 

「比企谷が『本当の手作りクッキー』を作るぐらいかな?」

 

「そ、あなたはあの僅かな情報があればわかるのね」

 

「まぁ、俺も男だから男心ってのもわかるし。料理も作るからね」

 

「?…それでこの茶番はいつまで続くのかしら?」

 

雪ノ下さんはクッキーは由比ヶ浜さんのと気付いてはいるみたいだけど、比企谷の考えまではわからないようだな。

 

「茶番ではないよ。これが比企谷の依頼解決方法、それにもうじきわかるよ」

 

俺と雪ノ下さんは比企谷と由比ヶ浜さんのほうを見る。

 

「わり、捨てるわ」

 

「ま、待ちなさいよ」

 

「何だよ?」

 

「べ、別に捨てるほどのもんじゃないでしょ。…言うほどまずくないし」

 

「…そっか。満足してもらえるか?」

 

由比ヶ浜さんは無言で頷いて比企谷から顔を背ける。

 

顔を赤くして初々しいねぇ…。少し年寄りくさいか?

 

「まぁ、由比ヶ浜がさっき作ったクッキーなんだけどな」

 

「……は?…え?え?」

 

由比ヶ浜さんは比企谷の言葉に驚いているようだ。

 

「お前らはハードルを上げすぎてんだよ。ハードル競技の主目的は飛び越えるじゃない。最速とタイムでゴールすることだ。飛び越えなきゃいけないってルールはない。ハー―――」

 

「言いたいことはわかったからもういいわ」

 

雪ノ下さん最後まで聞いてあげて。とても大切なことだから。

 

「今までは手段と目的を取り違えていたということね。岸波くんもそうかしら?」

 

「いや、俺の場合は比企谷とは少し違うかな」

 

「「「?」」」

 

比企谷と雪ノ下さんは『比企谷の答えを理解していてわからない』、由比ヶ浜さんは『最初からわからない』みたいな顔をしているな。

 

「俺の予想、比企谷は『俺のために頑張ってくれた』って思わせる感じで、見た目、味が少し悪いぐらいのモノがいいって感じだろ」

 

「そうだな」

 

「悪いほうがいいの?」と由比ヶ浜さんは比企谷に尋ねた。

 

「ああ、上手にできなかったけど一生懸命作りましたっ!ってところをアピールできればいい。だけど岸波は違うんだろ」

 

「少しな。俺は比企谷と雪ノ下さんを足した感じだ」

 

「俺には料理を教えてくれる人が二人いるんだよ。でその二人は『料理は愛』とか『食べて貰う人の気持ちを考えて』とか教えてくれてね。俺も『料理は気持ちが大切』って思ってるし、そういう気持ちで料理を作って、それを美味しく食べて貰うって本当に嬉しいことなんだ」

 

「それに食べて貰うなら美味しいほうがいいのは当たり前だ。作った人も食べてる人も嬉しいからね。だから頑張るんだよ。上手くなるまで。自分が納得するまで」

 

「それがあなたの答えということ」

 

「そうだよ。美味しいクッキーを作って、頑張って作ったことをアピール出来るように頑張る。それが俺の答え。雪ノ下さんが美味しいクッキーの作り方を、比企谷が料理の大切なことを由比ヶ浜さんに教えたんだ、なら俺はその二つを使うまでだ」

 

「岸波。お前はなんか無茶苦茶だな」

 

「そうだな。前にも『無茶だ。』『無謀だ。』とか言われたこともあるけど…。俺はさ、目指している場所があって、そこへと行く道があるのなら無茶だろうと無謀だろうと前へ進みたいんだよ」

 

ムーンセルでそうであったように。

 

「俺には無理だな。むしろ岸波みたいなやつのほうが少ないはずだ」

 

「ああ知ってる。だから俺は俺の意見を由比ヶ浜さんや今後の依頼人たちにも強要はしないよ。比企谷や雪ノ下さんにもね」

 

この後由比ヶ浜さんは『今度は自分のやり方でやってみる』と言って帰っていった。

 

俺たちは由比ヶ浜さんが帰ったあと片付けをして家庭科室を後にした。

 

雪ノ下さんはあまり納得はしなかなかったみたいだけど、由比ヶ浜さんがどういうやり方をするかは彼女しだいからどうこう言うのはお門違いだ。

 

 

 

 

 

比企谷と別れて俺と雪ノ下さんは職員室へむかっていた。

 

「雪ノ下さんはなんで比企谷と帰らなかったの?」

 

「なぜ私が彼と帰らなければならないの?気持ち悪い」

 

「疑問を疑問で返すって。それに比企谷ひどい言われようだな」

 

「それにまだ私は納得がいかないのよ。今回の由比ヶ浜さんの依頼には。岸波くんの答えはわからなくもないけれど、比企谷くんの答えには納得がいかないの」

 

 

「まぁアレは雪ノ下さんは納得しないね。でもアレも大切な考え方で、立派な解決方法だと俺は思うよ」

 

「そんなものなのかしら?」

 

「そうそう。男心は単純で女心は複雑。それでいいだよ」

 

「でも岸波くんは、両方を取ったってことは女心を理解しているってことかしら?」

 

雪ノ下さんがたまにやる『いじめっ子の目』をしている。

 

「いや、俺は料理に関してだけだよ」

 

「なぜ料理だけなの?」

 

「それは俺に料理を教えてくれる人が『女性』と『オカン』だからだよ」

 

「?」

 

当たり前の反応だな。俺の家には母親がいないから『オカン』という存在がムーンセルにいるアーチャーだとはわかるわけがないだろう。

 

そんなことを話しているうちに職員室前に着いた。

 

「俺は鍵を返しに行くけど雪ノ下さんはついて来る?」

 

「いいわ。ここで待っているわ」

 

「わかった。急いで帰って来るよ」

 

「ええ、いってらっしゃい」

 

雪ノ下さんの笑顔に見送られ職員室に入っていく。

 

 

 

 

 

「失礼します。鶴見先生いますか」

 

「岸波君依頼は終わった?」

 

「あ、はい。おかげ様で。お礼にマフィンを焼いたので家で留美ちゃんと食べてください」

 

「ありがとうね岸波君。岸波君は料理が上手でいいわね。将来留美のお婿さんにならない?」

 

何を言っているんだか。

 

「鶴見先生。そういう冗談はダメですよ。もし冗談では無くても留美ちゃんの気持ちを考えないといけません。大切な一人娘でしょ」

 

「岸波君はお婿さんよりも、優しいお兄ちゃんって感じね」

 

「はい。俺は妹や妹分には優しいですよ」

 

「あら、岸波君ってもしかしたらシスコン?」

 

「否定はしません。むしろ肯定します。でも手は出しませんよ」

 

「なら大丈夫ね」

 

「?」

 

何が大丈夫なんだ?

 

「最初に言っておいたお願いの内容よ」

 

「そういえばそうでしたね。それで内容はなんですか?」

 

「今月末の土曜日ね私出張で日曜日の夜まで帰れないのよ」

 

「なるほど。だからその出張の間留美ちゃんと一緒にいて欲しいと」

 

「岸波君はすぐに理解してくれて助かるわ。それでどうかしら?」

 

「大丈夫ですよ。うちも親は一人だし小学生一人でいるのは心細いでしょうし」

 

「ありがとう」

 

「なら留美ちゃんを俺の家に来て貰う感じでしょうか。俺の家には妹もいますし」

 

「そうして貰えると嬉しいわ。生徒がバツ一の女教師の家に出入りしているなんて噂が流れたら危ないものね。ふふふ」

 

「笑顔でそういうこと言わないでください。それに留美ちゃんに料理とか教えに言っている時点で何度も家に上がらせてもらっていますし」

 

「それもそうね。それじゃ留美にも言っておくわ。マフィン美味しく頂きます」

 

「はい。それでは決まったらメールして下さい。失礼しました」

 

そうして俺は職員室を出た。

 

職員室を出た瞬間俺に冷たい目線で睨んで来る雪ノ下さんが…、

 

「え、えーっと雪ノ下さん?」

 

「岸波くんは鍵を返しに行くだけで五分以上かかるの?それとも岸波くんは職員室の中で迷子にでもなったのかしら?」

 

ご立腹のようで…。

 

「ええ、この私を待たせているのだからそれ相応のことはしてもらうわよ」

 

「笑顔でも内容が怖いよ。それに心が読まれた」

 

「それでは何をしてもらおうかしら」

 

「ちょ、ちょっともう俺が罰を受ける前提で話が進んでるよね!」

 

「?当たり前でしょ。あなたは何を言っているのかしら?」

 

「それはこっちの台詞なんですが…。でも待たせたのも事実だしな…。仕方ないか」

 

まぁいつもお世話になってるからいいか。

 

「わかった。罰を受けよう。罰の内容はどうする?」

 

「そうね……。どんな命令でも一回だけ聞くなんてどうかしら?」

 

「うん。止めようか。それじゃあ今やってる奉仕部の勝負の意味がなくなるよ」

 

「そう言えばそんなことをしていたわね」

 

「一番大事なことだよ!それがないとこの話終わったも同然だからね!」

 

「岸波くん何を言っているのかわからないのだけれど?」

 

「ご、ごめん。ちょっと取り乱しちゃった。」

 

その後もいい案は出ることなく俺たちは帰った。

 

 

 

 

 

比企谷が入部して初めての依頼が終わって数日。

 

俺はプログラム、雪ノ下さんと比企谷は読書に勤しんでいる。

 

こつこつと戸をノックする音が聞こえてそのあと、「やっはろー!」と元気のある声で入室する由比ヶ浜さん。

 

「……何か?」

 

「え、なに。あんまり歓迎されてない…?ひょっとして雪ノ下さんってあたしのこと…嫌い?」

 

「別に嫌いじゃないわ。…ちょっと苦手、かしら」

 

「それ女子言葉で嫌いと同義語だからねっ!?」

 

そのから由比ヶ浜さんが雪ノ下さんの話を聞かずに、最近料理にはまってるとか、雪ノ下さんと今度一緒にお昼を食べようとか、今度から部活を手伝うとか話していた。

 

あと雪ノ下さんのことを『ゆきのん』と呼んでいた。

 

いいことだ。料理を頑張ることにしたんだ由比ヶ浜さん。あと雪ノ下さんがお昼は一人で食べることが好きって言ってたから俺は今度から部室じゃない場所で食べようかな。

 

由比ヶ浜さんの怒檮の攻撃の様な言葉に戸惑う雪ノ下さんは俺と比企谷のほうをちらちら見て助けを求めて来る。

 

あ、比企谷が逃げた。

 

聞こえない声で「お疲れさん」と言って部室を出て行った。

 

その後を由比ヶ浜さんが追っていった。

 

「あの子はなんなの岸波くん」

 

「そんなの決まってるじゃないか」

 

「なに?」

 

「あの子は雪ノ下さんのことが気に入ったから友達になりたいんだよ」

 

「そ、そう…」

 

雪ノ下さんは頬を少し赤くして俯く。

 

嬉しいんだな雪ノ下さん。

 

比企谷と話が終わったのか由比ヶ浜さんが戻って来た。

 

「ねぇねぇゆきのん。あっそうだ、キッシー」

 

ん?キッシー…、俺のことか?

 

「えっとキッシーって俺のこと?」

 

「そうだよ。最初は『キッシー』か『はくのん』で悩んだけどキッシーにしたの」

 

おお、この世界初のまともなあだ名だ。

 

「ありがとう。嬉しいよ」

 

「ホント!よかった。それでキッシーにもこの前のお礼に、はいクッキー」

 

由比ヶ浜さんからクッキーを受け取った。

 

中を確かめてみた少し焦げている形の悪いクッキーが入っていた。

 

「頑張ってるみたいだね由比ヶ浜さん」

 

「ま、まぁ最近料理にはまっているからね。もっと頑張って上手くできるようになるよ」

 

由比ヶ浜さんは頑張ることを選んでくれたみたいだね。

 

そうだ。この前言えなかったことを言わないとな。

 

「ねぇ雪ノ下さんと由比ヶ浜さん?」

 

「なにかしら?」

 

「なに?」

 

「この前俺が作ったモノ覚えてる?」

 

「クッキーとマフィンよね。」

 

「あれ本当に美味しかったよね!私にも作れるかな?」

 

「頑張れば作れるよ」

 

「ホント!」

 

元気だなこの子は。

 

「うん。それで、二人に質問だけど俺が作ったモノの中にあるモノが入ってたんだよ」

 

「あるモノ?」

 

「なにかしら…。あのほのかな苦みみたいなモノ?」

 

「さすがだね雪ノ下さん。それじゃあその苦みの正体は?」

 

二人は考えているようだが、

 

「……わからないわ。教えてくれるかしら岸波くん」

 

無理だったみたいだね。むしろ気付いたらすごいかな。

 

「由比ヶ浜さんが一番最初に作ったクッキーだよ」

 

「「え!」」

 

二人とも驚いてるみたいだね。

 

「本当はこの前教えるつもりだったんだけどタイミングを逃してね」

 

「岸波くん。それ本当にいてるの?」

 

「タイミングを逃したのは本当だよ。比企谷にも言われたけど悪意ではないから気にしないでくれ」

 

「そっちじゃないわ。由比ヶ浜さんの作ったクッキーを入れたのかってことよ」

 

「そうだよ。それにもしかしてヒッキーは知ってるの?」

 

「ああ、入れたし。比企谷も知ってるよ。まぁ比企谷は俺が作ってるところを見に来たからね」

 

「それで、どうして入れたのかしら」

 

「それがこの前由比ヶ浜さんに言いそびれたことだね」

 

「あたしに言いそびれたこと?」

 

そう。俺が由比ヶ浜さんに言いたかったことは、

 

「『伝えてたい気持ちを間違えないで』ってことだよ」

 

「「は?」」

 

最近この反応多くない。俺一人可笑しいこと言ってるみたいじゃん。

 

「俺はね、最初は由比ヶ浜さんのクッキーを全部自分で食べるつもりだったんだけど、由比ヶ浜さんの選んだ選択肢が諦めるではなく、頑張って美味しく作るを選んだから混ぜたんだよ」

 

「それがどうして混ぜることに繋がるの?」

 

「最初のクッキーは『感謝したい相手に作って食べてもらいたい』って感じで作ってたけど、二回目は『雪ノ下さんのような美味しいクッキーが作りたい』と思って作ったと思うんだよ。まぁ俺の推測だけどね」

 

「そ、そうかも」

 

「それで岸波くんは私が由比ヶ浜さんの見本作ることになって、由比ヶ浜さんがそうなると見越したのね」

 

「そうだけど、当たっててよかったよ」

 

やっぱり俺の感は合っているとは限らないからね。

 

「でも言う前に由比ヶ浜さんは気付いてくれたから別に言わなくてもよかったんだけどね」

 

「岸波くんはそういう風に言うけど。そうさせるように仕向けたのではないのかしら?」

 

「雪ノ下さん。流石にそれはないよ」

 

実は雪ノ下さんの言っていることはかなり近いかもね。

 

「それでも、あたしのクッキーを入れる必要はなかったと思うけど」

 

「言っただろ。『料理は気持ちが大切』って、料理とかって作った人の気持ちが宿ると思うんだよ。だから俺は『由比ヶ浜さんの気持ち』が伝わりやすくするために工夫したんだよ。美味しくするって方法でね」

 

「私にはよくわからないわね。そういうの」

 

「それは仕方がないよ。これが俺のやり方で、雪ノ下さん。君のやり方ではないから」

 

「あたしもわからないけど…、だけど今度はキッシーの手を借りないで自分の気持ちを伝えられるように頑張るね」

 

それでいい。そうやって前に進んで行ってくれ。

 

「頑張れ由比ヶ浜さん。また、味見とかして欲しかったら奉仕部のみんなを頼ってくれ」

 

「ホント!な、なら今度ゆきのんとキッシーに他の料理とか教えてもらいたいんだけど…いいかな?」

 

「俺は大丈夫だけど、雪ノ下さんはどう?」

 

「構わないわ」

 

こうして今度俺と雪ノ下さんは由比ヶ浜さんに料理を教えることになった。

 

 

 

 

 




なんか比企谷くんより白野くんのほうが由比ヶ浜さんに近づきそうなんだけど…これはどうなるんだろうか…。

次回は材…なんとか君こと材木座君の依頼です。

ルミルミはその後かな。

それではまた次回に。


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小説の原稿の感想は素人よりも本職に。

今回は材木座の依頼です。

それでは楽しんで見て下さい。

前書きは書くことが浮かびませんね。


 

 

 

 

 

由比ヶ浜さんが来て数日。

 

今週末に留美ちゃんが家に泊まることが決まって、そのことについて鶴見先生に呼ばれて部活に遅れてしまった。

 

「ん?部室の中から騒がしい声が…」

 

この第08小隊の愛に生きるリーダーや、勇者王に乗ってそうな声は…。

 

「まぁいいか」

 

ノックしてから部室の戸を開く。

 

「遅れました」

 

「遅かったわね岸な―――」

 

「岸波ぃぃぃ!!貴様ぁぁぁ!!」

 

なんだ。よくわからないがモップを振り上げて俺に迫って来る材木座。

 

と言うかモップどこから出した。

 

そして材木座は俺に向かってモップを思いっきり振り下ろしてきた。

 

「危ない!」

 

由比ヶ浜さんの声が響く。

 

確かに危ない。けど材木座の攻撃は俺には遅すぎる。

 

俺は左足を後ろに下げて体を逸らし材木座の攻撃を避ける。

 

そして材木座の手を左手を手刀にして叩いてモップを落とす。落ちてきたモップを叩いた後の左手でキャッチする。

 

その後、突っ込んで来た勢いがある材木座の足を後ろに下げた左足を引っ掛けて転ばせる。

 

「ぐへっ」

 

その勢いのまま廊下へ転がっていった材木座。最後に戸を閉める。

 

この間、一秒とちょっと。他の三人には何が起きたかがわからないだろう。

 

「このモップこの部屋のかな?」

 

俺は左手に持ったモップを部室の後ろにある掃除ロッカーに入れてからいつもの席に座る。

 

「今日は依頼人来るかな?ねぇみんな」

 

「「「……」」」

 

「みんなはいつまで立ってるの?」

 

「「「……」」」

 

「……」

 

返事がない。ただの屍のようだ。

 

「誰が屍だ!」

 

「比企谷。俺の心を読むなよ。ただのドラ〇エネタだろ」

 

あれ?ドラ〇エだっけ?

 

「ね、ねぇキッシー。さっきなにしたの?」

 

「アレはただの防衛手段みたいなものだよ」

 

日頃の鍛錬と俺の目のおかげだね。

 

「俺には材木座が突っ込んで行って、そのまま転がってったようにしか見えなかったぞ」

 

「あたしも」

 

「私はなんとなくわかったけれど…、さすがに早かったわね」

 

「ゆきのんすごい。アレ見えたの!」

 

ガラガラ

 

戸が開き材木座が入って来る。

 

「くっ、我の斬撃をかわすとは…。だが、まだ終わらん!」

 

「いや、お前のボロ負けだろ。材木座」

 

比企谷が材木座にそう言い放つが、

 

「う、うるさぁぁい。八幡。我はこいつ…。岸波白野だけ許せんのだ!!」

 

材木座が鬼のような形相で俺を睨む。

 

どうしてだ?

 

「だそうだ。岸波。お前材木座に何かしたのか?」

 

「そうだよキッシー。あの人怒ってるみたいだから謝ったほうがいいよ」

 

「いや、俺には覚えがないんだけど…」

 

思い当たる節がない。

 

「それなら直接聞けばいいじゃない。ここにいるのだから。その材…なんとか君が」

 

まぁそれが一番だな。

 

「なぁ材木座。俺はお前に何かしたか?さっきみたいなことは俺からやったことはないし、お前に恨まれるようなことはしたことがないと思うんだけど」

 

「き、貴様という奴は…。ええい。この剣豪将軍・材木座義輝が貴様のその首を討ち取ってやる。くらえぇぇ!!」

 

材木座がまた突っ込んで来る。

 

けど今回は椅子に座ってるし、他のみんなにも迷惑がかかるよな…。

 

机を元に戻すのとか、みんな机から遠いからケガはしないと思うけど。

 

避けたり材木座を投げ飛ばすのも簡単だけど、その場合は材木座の気が晴れないだろうし…。

 

「光に、なれぇぇぇ!!!」

 

材木座は俺に殴りかかる。

 

仕方がない。避けずにくらうか…。

 

材木座の拳が俺の顔に当たり俺はバタンと後ろに倒れる。

 

痛いな、後頭部が…。

 

俺は立ち上がり椅子を戻して座り直す。

 

「気が済んだか材木座。これで俺がお前に何をしたか教えてくれるか?」

 

「「「「……」」」」

 

奉仕部の三人と殴った材木座本人も何が起きたのかが理解出来ないようだ。

 

「岸波。お前痛くないのか?」

 

「比企谷。殴られたんだから痛いに決まってるだろ」

 

それに痛いのはなれてるし…。

 

「なんで、さっきみたいに避けなかったの?」

 

「由比ヶ浜さん。今回は椅子に座ってたし材木座が机越しで来たから避けたら机とかが倒れたりして、みんなに迷惑がかかるからだよ」

 

「他にやりようがあったと思うのだけど」

 

「雪ノ下さん。その場合材木座の気が晴れないだろ。俺に怒ってるなら殴らせるぐらいはやらせてあげるよ」

 

「「「……」」」

 

俺の行動が異常なのかみんなが黙ってしまった。

 

「で、材木座。お前が俺に怒ってる理由は何かな?人を殴るくらいだからそれ相応理由だよな?」

 

「……」

 

材木座の顔色がどんどん悪くなっていく。

 

「ど、どうした材木座」

 

すごく心配なんだが。

 

「す…」

 

「「「「す?」」」」

 

「すみませんでしたぁぁ!」

 

そう言った材木座は綺麗な土下座を俺たちの前で披露した。

 

 

 

 

 

「なるほど。ただの逆恨みよね。それ」

 

「はい。申し訳ありません」

 

材木座が怒っていた理由は、同じようなボッチの俺の周りに美形が多いことに対して怒っていたようだ。

 

殴られた俺がバカみたいだ。

 

「でも、材木座。俺の周りに美形が多いのは認めるけど、お前が思ってる関係は何一つないぞ。それなら比企谷も同じようなモノだろ?」

 

「俺はお前とは違うぞ。岸波」

 

「いや。同じだろ。お前も奉仕部にいるなら違わらないだろ」

 

「おい止めろ。俺も材木座に殴られるだろうが」

 

「八幡は別にいい」

 

「ならなぜ俺はダメなんだ」

 

おかしいな。部室の中に美形の二人といるのに俺と比企谷で何が違うんだ。

 

「これを見よ」

 

材木座は携帯電話を取り出して、写真フォルダーを開く。

 

俺と雪ノ下さんが廊下で話している写真。

 

「これはいつもと変わらないと思うけど?」

 

「ってかそれ以前に盗撮だろ。これ」

 

「ゆきのん、警察に電話したほうがいいよ」

 

「ええ。そうするわ」

 

三人を放っておいて材木座が次の写真を見せる。

 

俺とカレンが一緒にお昼食べている写真。

 

「このリボンの色は一年生だな」

 

「うわぁ、この子綺麗だね。外人さん?」

 

「ハーフだよ」

 

「岸波君この子は誰かしら?」

 

雪ノ下さんの目が怖い。

 

「最後にこれだ」

 

材木座が最後の写真を見せる。

 

俺と桜がスーパーで買い物している写真。

 

「すげー仲良さそうだな」

 

「この子も美人さんだね」

 

「これ桜さんよね?」

 

「ゆきのん知ってるの?」

 

「ええ、この子は岸波君の妹よ」

 

「岸波と全く似てないな」

 

「比企谷君。人の家庭に口出すのはどうかと思うわよ」

 

「お、おお、わりぃ」

 

材木座が俺と身近の女の子の写真を見せ終えて一息ついてから。

 

「どれだけの女子と仲がいいだ貴様は!!」

 

「いや、三人だろ。しかも一人は妹だし」

 

「どうせ。携帯のメールアドレスの量も男子より女子のほうが多いのだろ」

 

ギクッ!

 

「ど、どうしてそれを…」

 

「当たりなのかよ」

 

「だ、だって俺に男友達が出来ないからだよ。いや、女友達もいないか」

 

自分で言って悲しい。

 

俺の携帯のメールアドレスの数は11。男子というより男性が父さんと店長こと言峰さんの二人。父さんとはもう連絡は取れないけど。

 

残りの9は全員女性。雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、桜、カレン、留美ちゃん、平塚先生、鶴見先生、店長の奥さんことクラウディアさん、雪ノ下さんの姉の陽乃さん。

 

ムーンセルのほうを合わせるとかなり増えるけど。

 

「キッシーって友達いないの?以外かも」

 

「平塚先生にも言われたよ」

 

「ヒッキーならわかるんだけど」

 

「それも平塚先生が言ってたよ」

 

「だから俺に友達が出来ないって決めつけるなよ」

 

「比企谷君。まだわからないの?」

 

「いや、もう言わないでくれ雪ノ下…」

 

なんでこんな話になったんだっけ?

 

まず材木座がなぜ奉仕部の部室にいるかだな。まぁ依頼だろうけど。

 

「…。材木座ってなんで奉仕部に来てたんだ?」

 

部室に入った瞬間から命を狙われたせいでようくわからなかった。

 

「確かにすごいことが起こりすぎて忘れていたわ。確か彼の病気を治すのではなかったかしら?」

 

「病気?それは奉仕部の管轄外な気がするんだけど」

 

「いえ、比企谷君曰く心の病らしいの。確か病名は…、ちゅーに病?だったかしら」

 

ちゅーに病?聞いたことないなそんな病気。

 

「岸波もその一人だろ」

 

「比企谷。俺もその病気に罹ってるのか…。初めて知ったよ」

 

「お前、この前自分は魔術師の生まれ変わりとか言ってたろ」

 

「確かに言ったな」

 

「そういうこの世ではありえない事が自分にはあるみたいに思っているヤツを『中二病』って言うんだよ」

 

いや、ありえてるよ。俺がそうだもん。今でも魔術(コードキャスト)は使えるよ。

 

「さっき俺を殴る前に言ってた剣豪将軍ってのか?」

 

「そうだ。材木座は室町幕府の十三代将軍・足利義輝をベースにしてるんだろ。岸波のは何かベースにしてきてるもんがあんのか?」

 

ベースも何も自分が体験してきたことだよ。

 

「そうだな。話は長くなるぞ」

 

「そんならいいわ。めんどいし」

 

そのほうがありがたい。雪ノ下さんは俺が魔術こと魔法を使えることを知ってるからな。

 

「まぁ、材木座はその中二病を治したいわけで来たのか?」

 

「ええ、比企谷君の話を聞いた限りはそうだったはずよ。それで、あなたの依頼はその心の病気を治すってことでいいのかしら?」

 

「…。八幡よ。余は汝との契約の下、朕の願いを叶えんがためこの場に馳せ参じた。それは実に崇高なる気高き欲望にしてただ一つの希望だ」

 

材木座は雪ノ下さんに話しかけられたら目を背けて、比企谷のほうを見る。

 

あれか、女性とあまり話さないから免疫がないのかな?いや、これは恐怖的な何かか?

 

「話しているのは私なのだけれど。人が話しているときはその人のほうを向きなさい」

 

雪ノ下さんが材木座の襟首を掴んで無理矢理顔を正面に向けた後、襟首から手を放す。

 

「…。モ、モハ、モハハハハ。これはしたり」

 

「その喋り方もやめて」

 

「……」

 

材木座は黙って下を向いてしまった。

 

その後雪ノ下さんが、材木座の時期外れのコート、喋り方、指ぬきグローブ、喋り方について注意していた。

 

俺も月の裏ではメガネやグローブとか付けてたっけ…。懐かしいな今度メガネ買ってみようかな。なんかPCのブルーライトを減らしてくれるってやつ。

 

「とにかく、その病気を治すってことでいいのよね?」

 

「…あ、別に病気じゃない、ですけど」

 

違うみたいだな。

 

「これって…」

 

比企谷が下に落ちている紙を一枚拾い上げる。あの紙…原稿用紙かな?

 

「ふむ、言わずとも通じるとはさすがだな。伊達にあの地獄の時間を共に過ごしていない、ということか」

 

俺も一枚拾い中身を読む。

 

「これって小説の原稿だよな。ってことは、これを新人賞とかに応募したいから俺たちに読んでもらって、その感想を聞きたいみたいなことか?材木座。それがお前の依頼か?」

 

「ぐぬ。なぜだ岸波、なぜそこまでわかるのだ」

 

「魔術師の生まれ変わりだからね」

 

これ口癖とかにしようかな。

 

「うわぁ、中二だよ」

 

比企谷に引かれた。やっぱり止めるか。

 

こうして、俺たち奉仕部と由比ヶ浜さんは材木座から預かった原稿を持ち帰り、読むことにした。

 

 

 

 

 

ある程度目を通した。内容はまだだけどこれならムーンセルでも読める。

 

ムーンセルには多くの記録が存在するが、材木座が書いたような小説の原稿、言わばまだ名が知られていない者の作品などは記録されない。だが俺の目を軽く通しておけば、その記録はムーンセルの俺の部屋に持っていくことは可能だ。

 

「それじゃ寝るか。あっそうだ。こういうのは本職の人に見て貰うのが一番だろ。アンデルセンに見てもらうか」

 

一応、人類史や色んな愉悦を楽しんだギルにも見て貰うか。

 

自分のことを『裁定者』とか言ってたし。

 

二人には感想をメールで送ってもらうか。

 

そうして俺は眠りについた。

 

ムーンセルで材木座の原稿を三つに増やし、アンデルセンとギルに渡し自室に帰り読み始める。

 

何とか読み終わり、そろそろ起きる時間だが…。

 

「…。ヤバいな…。これをあの二人に見せてしまった。材木座…死ぬなよ」

 

登校前に俺の電子手帳を確認したら二人のメールが届いた。ギルからは一通。アンデルセンからは山のように。

 

「由比ヶ浜さんは読んでないだろうから、無視でいいけど。雪ノ下さんと比企谷は絶対にいい事は言わない。それに俺の知り合いサーヴァント。毒舌と見下しのトップの二人もダメだろうから。俺はよかったことを言うか…。あったかな?」

 

 

 

 

 

部室には雪ノ下さんと向かった。

 

やはり徹夜したようでかなりウトウトしていた。

 

この雪ノ下さんはレアだな。

 

「岸波君。あなたあまり眠そうではないけど、しっかり読んできたのよね?」

 

「ああ、しっかりと読んだよ。今から材木座の原稿の内容言おうか?」

 

「いいわ。ただでさえ眠くて疲れているのにさらに疲れるわ」

 

「そうだね。よく頑張ったね」

 

自分でも気付かないうちに桜にやるように雪ノ下さんの頭を撫でてた。

 

ある程度撫でて手を離す。

 

「き、岸波君」

 

「ご、ごめん嫌だった?つい桜にやるくせがでちゃって」

 

「べ、別に嫌ではないけれど…。こういう人目に着く所では止めてくれる」

 

「わ、わかった」

 

最初のほうは声が小さくてなんと言ってたか聞こえなかった。

 

最後のほうは聞こえたがその言い方だと、目に着かない場所ならいいみたいになる聞こえるな。疲れているから頭が回らないんだろう。今度からはやらない様に気お付けるか。

 

部室に入り、他の二人と材木座が来るのを待つこと数分。

 

「お疲れさん」

 

比企谷と由比ヶ浜さん来た。

 

「…驚いた、あなたの顔を見ると一発で目が覚めるわね」

 

雪ノ下さんの言葉に比企谷が少し引いたようだ。

 

「その様子じゃそっちも相当苦戦したみたいだな。岸波は全く疲れたないな。お前しっかり読んだのかアレ」

 

「読んだよ。雪ノ下さんにも言われたよ。今から内容言おうか?」

 

「いや、止めておく」

 

由比ヶ浜さん読んでないな。

 

「徹夜なんて久しぶりにしたわ。私この手のもの全然読んだことないし。…あまり好きになれそうにないわ」

 

「あー。あたしも絶対無理」

 

「お前は読んでねーだろ。今から読め今から」

 

やっぱり読んでなかった。

 

さらに数分。

 

「頼もう。さて、では感想を聞かせてもらうとするか」

 

材木座は椅子にドカッと座り、腕を組む。

 

言う順番は雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、比企谷、俺の順番だ。

 

材木座は雪ノ下さんに滅多打ちにされ、由比ヶ浜さんにとどめを刺された。

 

「ぐ、ぐぬぅ。は、八幡。お前なら理解できるはずな。我の描いた世界、ライトノベルの地平がお前ならわかるな?愚物どもでは誰一人理解することができぬ深遠なる物語が」

 

比企谷が材木座に微笑んで、

 

「で、あれって何のパクリ?」

 

「ぶぶっ!?ぶ、ぶひ……ぶひひ」

 

材木座がのたうち回っている。

 

「これは、俺が言うまでも無いんじゃ…」

 

「いや、お前は由比ヶ浜のときに言ったろ、感想は言う奴は多いほうがいいって。言ってやれよ、これも材木座のためだ」

 

お前少し喜んでね?でも材木座のためか…。

 

「わかった。全力を持って行かせてもらう」

 

材木座は比企谷の言葉で戦意喪失しているが、仕方がないな。

 

「材木座。俺はこの原稿を読んだあと、みんながお前に酷いことを言うってのはなんとなくわかっていた。だから俺はこの作品のいいところを探そうと頑張った。だけど無理だったよ」

 

「……」

 

材木座はもう駄目だな。瞳から光が消えている。

 

「岸波…。お前は材木座に恨みでもあるのか?ひどすぎんだろ」

 

「比企谷くん。あなたは人のことは言えないわよ。それに岸波くんは理不尽な理由で殴られているわけだし、恨んでもおかしくないわ」

 

今回は二人を無視して材木座に語り続ける。

 

「だけど、それはそれでいいと思うんだ。俺たちに理解されなくても他の人が理解してくれると思うからな」

 

「岸波…」

 

材木座の瞳に光が戻った。

 

「ヌハ、ヌハハ、ヌハハハハハ!そうだ。そうなのだ。たった四人意見でへこむわけにはいかぬな!礼を言うぞ岸波」

 

「ああ、なぁ材木座。俺たちみたいな素人に感想をもらっても意味はないだろ」

 

「うむ。そうとも」

 

「だから、俺の知人の童話作家と多趣味の金持ち、自称『裁定者』の意見を聞いてきないか?昨日頼んで読んでもらったから、感想はもうあるぞ」

 

「ほ、本当か!き、聞かせてもらえるか!!」

 

「ああ、ただ死ぬなよ」

 

「「「「え」」」」

 

最初はギルでいいか。一通だし。

 

俺はズボンのポケットに手を入れてから電子手帳をイメージして取り出しす。

 

まるでポケットの中に電子手帳が入っていたように見せるため。

 

「まずは金持ちのほうからね。えっと、『我にこの汚物を見せるとは貴様も外道になったな。我の目が腐ったらどうするつもりだ。このようなモノ見るに耐えんは。この汚物は後で焼き払っておいてやろう』だってよ。ハハハ、ひどいこと言うな。」

 

「「「「……」」」」

 

次はアンデルセンだけど、これはかなり長いな。

 

「次は童話作家ね。この人は雪ノ下さん以上に毒舌だし、結構長いけど我慢して聞いてくれ、『まずは一言、このようなゴミを書くとは信じられんな。まだ幼児の遊びのほうが面白い。それから―――――――』」

                   ・

                   ・

                   ・

                  十五分後

「『―――ゆえにこのような展開はいいとはいえん。本当にゴミだな。まだ―――』」

 

「き、岸波」

 

「ん?どうした比企谷?」

 

「そ、そろそろ止めようぜ」

 

「感想は多いほうがいいだろ。まだ半分も来てないぞ」

 

「これで、半分も喋ってないってどんだけだよ。書いてない俺たちですら苦痛に感じたぞ。見ろあの雪ノ下でさえ青ざめて呆然としているし、由比ヶ浜に限っては泣いてるぞ」

 

「……」

 

「うぅっ…ヒック、ご、ごめん、なさい…グスン、生きてて、ごめんなさい…」

 

ホントだ。読んでて気付かなかった。

 

「み、みんなごめん。材木座のために読んだんだけどこんなことになるとは…。って材木座本人は?どこに行ったの?」

 

「ざ、材木座ならあそこだ…」

 

比企谷の指差したほうは教室の隅っこの角。そこに体育座りして真っ白になってブツブツと呟いている材木座。

 

「比企谷。この状況どうするか?」

 

「お、俺にはどうすることもできない。というか俺は俺の心が折れないよう頑張ることに生一杯だ」

 

比企谷お前もか…。

 

「え、えっとみんなごめんね。今日は解散にしようか」

 

今日という日は俺以外の奉仕部メンバーと材木座のトラウマとなった。

 

ホントにごめんね。

 

みんなに温かいココアをおごることにした。

 

ココアのおかげでみんなの心も体もポカポカになってある程度精神状態が落ち着いてきた。

 

そうして材木座が比企谷を見て、

 

「…また、読んでくれるか」

 

耳を疑ってしまうような言葉が聞こえた。

 

だがさっきよりもはっきりと力強く。

 

「また読んでくれるか」

 

「お前…」

 

「ドMなの?」

 

由比ヶ浜さんは比企谷の影に隠れて材木座を嫌悪の目で見る。

 

「お前あれだけ―――いや思い出したくない」

 

比企谷は自分肩を抱いて震え始めた。

 

それほどかアンデルセンの毒舌評価。

 

「確かに酷評されはした。もう思い出したくはないのだが、アレを岸波の口から聞かされている間、死ぬ方法がいくつも頭を流れた。というより死んだ気分だった」

 

もう宝具レベルだなアンデルセンの毒舌評価。

 

「だが、だがそれでも嬉しかったのだ。自分の好きで書いたものを誰かに読んでもらえて、感想を言ってもらえるというのはいいものだな。この想いに何と名前を付ければいいのか判然とせぬのだが。…読んでもらえるとやっぱり嬉しいよ」

 

そのときの材木座の笑顔はとてもいい笑顔だった。

 

「ああ、読むよ」

 

比企谷がそう言うと材木座は背を向けて「また新作が書けたら持ってくる。」といって部屋を出ようとしたが、

 

「待ってくれ材木座」

 

「ぬ。どうした岸波」

 

「さっきのアレの最後まで読まなかったろ」

 

俺の言葉に俺以外の全員が身体をビクつかせた。

 

「最後までいい評価はなかったんだけどさ。一番最後はいい言葉だと思うから言わせてくれ。『ここまで感想を言わせてもらったがこれが最後だ。この作品は作者の書きたいという気持ちが伝わった。また感想がほしければ読んでやる。だから出直してこい。』だってよ」

 

実は最後に『百年後にな。』が付くが、いいか。

 

「あ、ありがとう。だがやめておく」

 

「そっか。材木座、頑張れ。応援するよ」

 

そうして材木座は帰っていった。

 

 

 

 

 




はい。今回は白野くんの戦闘レベルが少しわかりましたね。

設定ではコードキャストを使わなくても不良レベルは軽く倒せます。

次回は早くもルミルミ登場。

そろそろ白野くんの進路指導アンケートを書きたいですね。

ではまた次回に。


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岸波白野と周りの女性たち。 その1

今回はオリジナル回。

面白いかはわかりませんが、楽しんでもらえると嬉しいです。


 

 

 

 

 

朝、携帯電話に二通メールが来た。

 

一つは鶴見先生から6時半頃に『留美のことよろしくね。それじゃあ行ってきます。学校はしっかり行きなさい』

 

うちの学校は進学校のため、第二、第四土曜日も授業がある。

 

返信は『わかりました。先生も出張頑張ってください』

 

もう一つは留美ちゃんから登校中に『白野。お母さんに聞いたから迎えに来て』

 

留美ちゃんはなぜか俺を呼び捨てにして、さらにタメ口なのだが別にもうどうでもいいか。

 

返信は『わかったよ。学校が終わったら迎えに行くね』

 

そんなこんなで現在は放課後、なぜか奉仕部の部室前に俺はいるわけだ。

 

休み時間、雪ノ下さんに『今日は部活には参加できません』と言って、理由を言おうとしたら雪ノ下さんが『そう言うことは放課後、部室で聞くわ』と返され、そのあとも話しかけたが無視された。

 

部室の戸をノックしてから戸を開く。

 

まだ部室には雪ノ下さんしかいないようだ。

 

「失礼します。雪ノ下さん。今日は用事があるから部活は参加できないんだ。だから今日は帰るね」

 

「ダメよ」

 

なんぜ?

 

「なんでダメなの?」

 

「理由がしっかりしてないわ。用事の内容がわからないから帰らせるわけにはいかないわ」

 

なるほど、さっきは言えなかったもんな。

 

「鶴見先生に頼まれてね。それで―――」

 

「ウソね。鶴見先生は今日出張でいないはずよ。ウソに鶴見先生を使うなんて、岸波くんは最低のようね」

 

ウソではないんだけど…。

 

「雪ノ下さん。なんか怒ってる?」

 

「私が怒っている。そんなわけないでしょ。まず私が怒る理由がないわ。もし私が怒る理由があるとしたら言ってみなさい」

 

絶対怒ってるよ。目と声が怖いもん。

 

でも、そろそろ学校を出ないと留美ちゃんに悪いしな…。

 

「あ、あの雪ノ下さん。俺、ちょっと急いでるからそろそろ帰っていいかな?」

 

「それなら本当の理由を言えばいいだけでしょ。それとも私には言えないことなのかしら?女の子と会うみたいな」

 

雪ノ下さん留美ちゃんのこと知らないのになんでわかったんだろ?

 

「そうだけど。なんでわかったの?」

 

俺の返答に雪ノ下さんはビックと身体を揺らした。

 

「やっぱり鶴見先生はウソだったみたいね」

 

あれ?留美ちゃんのことじゃないの。

 

「あの材…なんとか君が撮った写真の一年生の女の子かしら、名前は言峰カレンさんよね」

 

なぜここでカレン?確かに留美ちゃんを迎えにいた後バイト先で会うけど。

 

「いつから付き合ってるのかしら?」

 

「付き合う?」

 

付き合うってどっちだ?でも雪ノ下さんは俺に彼女はいないことは知ってるから、よく会う関係のことだよな。

 

そうなると、初めて会ったのは雪ノ下さんが海外に行った年でけど、よく会ったりするようになったのは中学生の後半。俺が三年生になったぐらいかな。そうなると…。

 

「二年以上は前かな」

 

雪ノ下さんは驚いたような顔をしたあと悲しそうな顔をした。

 

「そ、そう…。岸波くんはずっと私にウソをついてたのね…」

 

あ、あれ?なんか間違えた?

 

「わかったわ。それなら帰っていいわよ。なんなら部活を止めても構わないわ」

 

ええぇぇぇ!!

 

「どうしてそうなるの!?」

 

「この部活にいるよりも、その言峰さんと一緒にいた方がいいでしょ」

 

「いやいや。俺この部活気に入ってて楽しいし、カレンといるときも楽しいけど、それとこれは違うよ」

 

「ありがとう岸波くん。でもあなたがよくても私が嫌なのよ」

 

「なんで!」

 

「私の口から言わせないで…」

 

雪ノ下さんの目が潤み始める。

 

え、え、えっとーどうしてこうなったんだ。考えろ俺!!

 

………。

 

…………………。

 

……………………………。

 

ダメだ全くわからない。

 

「さ、岸波くん。そろそろ出て行ってくれないかしら」

 

雪ノ下さんが泣きそうな顔をしているのに、ここから出て行くのは俺には無理だ。

 

俺は雪ノ下さんに近付いて雪ノ下さんを抱きしめ頭を撫でる。

 

「そんな悲しそうな顔をされたら出て行けないよ」

 

雪ノ下さんは少し抵抗しながら

 

「離して、早く言峰さん…あなたの彼女さんの所に行ってあげなさい」

 

「か、彼女?」

 

「……」

 

「ねぇ雪ノ下さん」

 

「…なにかしら、岸波くん?」

 

少し涙声で雪ノ下さんが答える。

 

「なんか、勘違いしてない」

 

「えっ、勘違い?」

 

 

 

 

 

「なるほどね。岸波君。あなたってバカでしょ」

 

「いや、その場合雪ノ下さんもそうなるけど。ご、ごめんなさい。睨まないでください」

 

何とか収拾がついた。よくわからないけど雪ノ下さんは俺がカレンと交際している勘違いをして、今まで俺がウソを付いていたと思ったようだ。

 

「でもどうして雪ノ下さんは、俺がカレンと付き合ってるって思ったの?」

 

「材…なんとか君があなたと言峰さんが仲良くお昼を食べている写真を見たときよ」

 

「それにしてもおかしいよと思うよ。あの写真を見た他の二人はそう思ってなかったみたいだし。しかもあのとき俺は『誰とも彼氏彼女の関係じゃない』って言ったと思うけど」

 

「それだけではないわ。最近、岸波くんが私を避けていたからよ。」

 

「そんな覚えないよ。前にも言ったと思うんだけど、俺は俺からの意思で君から離れるようなことはしないよ」

 

そんなことは絶対しない。してはいけない。前に決めたことがあるから。

 

この女の子から絶対離れて行かない友人や仲間が出来るまでは、俺はこの子、雪ノ下雪乃を一人にはしないって…。

 

あんな家庭であんな親の下で育ったんだ、俺はこの子が信頼できる人が来るまでは絶対にこの子の味方でいたい。

 

「部活動では普通に接してくれたけれど、この数週間一回も部室でお昼を食べていなかったじゃない。前は少なくても週に二回、多くて毎日来ていたのに」

 

「いや、それは―――」

 

「それで、材…なんとか君の写真を見た次の日から今日まで、昼休みにあなたの後をつけていったら、大半は言峰さんと一緒に食べていたから」

 

怖っ!。メルトじゃなくてリップ方向ですか。メルトのほうも怖いか…。

 

ヤンデレだったけ?でも雪ノ下さんは俺にデレてないから…。

 

それってただ怖いだけだよね。もしかしたら後ろから刺されるかも…。

 

「あれはね、雪ノ下さんが一人で食べるのが好きって由比ヶ浜さんに言ってたし、由比ヶ浜さんと一緒に食べているのに俺がいたら邪魔になるだろうと思ったからだよ。それで、たまにカレンと会って食べてたこともあったから一緒に食べてただけだよ」

 

「そうだったのね。迷惑なことをしないでくれる岸波くん」

 

それはこっちの台詞だよ…。

 

「でも、誤解が解けてよかったよ。それじゃあ俺は本当に急いでいるからこれでね」

 

「待ちなさい」

 

まだあるのだろうか…。留美ちゃんに謝らないとな…。

 

「何かな?」

 

「その場合、今から会う女の子って誰かしら?」

 

だから目が怖いよ。

 

「さっき雪ノ下さんのせいで最後まで言えなかったけどさ…」

 

「責任転嫁は止めてくれるかしら?」

 

「いや、責任転嫁ではないと……。はぁ、えーっとね、鶴見先生に頼まれていたことで、鶴見先生が出張に行っている今日と明日の二日間、鶴見先生の娘さんを家で預かるからそのお迎えに行きたかったんだよ」

 

「それなら早く言えばよかったじゃない」

 

「言わせてくれなかったんだよ!君が!」

 

「だから責任転嫁は止めてくれない。怒るわよ」

 

もぉいいや。

 

「それじゃあそろそろ行くね。待たせたら悪いし…」

 

「岸波くん」

 

「まだなにかあるのかな?」

 

「まだ、あなたに罰があったわよね」

 

「罰?」

 

「由比ヶ浜さんの依頼が終わった後に職員室前で私を待たせた罰のことよ。忘れたの?ゴミねゴミ波くん」

 

そういえばあったな。ってゴミ波君!?

 

「ゴミ波君についてはあとでいいや。それでその罰がどうしたの?」

 

「今、その罰を決めたわ。あなたに拒否権は存在しないわ」

 

それはひどい…。

 

「その罰ってなに?」

 

「今度から昼休みは毎日私に飲み物を買ってきなさい」

 

「完全にパシリだよねそれ!しかも今度から毎日って…」

 

「わかったなら帰っていいわよ。嫌だったら今日は部活に参加して、部活が終わったら私を家まで送りなさい」

 

「それは本当に拒否権がないな」

 

これ以上留美ちゃんを待たせるわけにもいかないし。考えてた学校を出る時間より三十分もオーバーしたよ…。ん?ちょっとおかしいな。

 

「部活が始まって三十分過ぎてるのに誰も来ないっておかしいだろ。それに外に人の気配もないし…、ねぇ雪ノ下さん。今日は本当に部活あるの?」

 

雪ノ下さんが顔を背ける。

 

この反応は…、

 

「騙された!謀ったシャ〇!、じゃなくて雪ノ下さん!」

 

くそ!いつからだ。もしかして最初からか。

 

そうだとしたらかなりの演技力だぞ。俺の目を欺くとは…。

 

それに俺はかなり恥ずかしいこともしたけど!

 

「ええい、ままよ!それじゃあ俺もう行くからね!また月曜日、学校で」

 

「ええ、また学校で。帰るということは罰は決定のようね」

 

「今日部活もないのに!?仕方がないわかったよ。その罰を受ける」

 

俺は廊下を走りだした。

 

走っている途中、廊下を走っていたことを注意してきた平塚先生がいたのだが無視して走り抜けようとした。しかしラリアットを受けて俺は視界は真っ白に染まりかけた。

 

そのあと平塚先生に説教されて大幅なタイムロスをした。

 

「不幸だぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

学校から十キロ以上離れている鶴見先生の家まで頑張って走った。

 

いつもは自転車で登校するのだが、留美ちゃんを迎えに行くため今日は徒歩で登校したからだ。

 

移動速度を上げる礼装『強化スパイク』のコードキャストを使えばもっと速く移動できるんだけど、さすがにこの時間に使うのは人目に付くから無理だろう。

 

「ハア、ハア、つ、着いた…」

 

人の家の前で息を上げていると変態にしか見えないな…。

 

息を整えてからインターフォンを押す。

 

『どちらさまでしょうか?』

 

少し警戒した留美ちゃんの声が機械越しに聞こえる。

 

「岸波です。遅れてごめんね留美ちゃん」

 

インターフォンが切れて、廊下を歩く音が聞こえる。

 

鍵が外れる音がしてから戸が開く。

 

「遅い…」

 

軽く不機嫌な留美ちゃんはジト目で俺を睨んでくる。

 

「ごめん。俺の所属している部活の部長が話を聞いてくれなくて…。なかなか学校を出れなくてね。ホントにごめん」

 

頭を下げて謝る。

 

「そう。そのまま待ってて、荷物持って来るから」

 

「えっと…。頭を下げたまま?」

 

「そうだけど?人を待たせるほうが悪いでしょ」

 

雪ノ下さんといい留美ちゃんといいあまり待つのが嫌いなようだな。

 

「わ、わかったよ」

 

留美ちゃんは家の中に入っていく。

 

数分経って留美ちゃんが荷物を持って出て来る。

 

この体制で本当に持っていたため周りの人から変な目で見られたりした。

 

「白野。お待たせ」

 

俺は頭を上げて何事もなかったように振る舞う。

 

「鍵は掛けた?」

 

「うん。大丈夫」

 

「荷物持つよ」

 

俺が手を差し出すと、荷物ではなく留美ちゃんは手を出して俺の手を握った。

 

「手、繋いで行こ」

 

「別にいいけど、荷物は重くない?」

 

「大丈夫。どうせ着替えぐらいしかないもん」

 

そうだな。着替えが入ってるならさすがに男には渡したくないか。

 

「わかった。それじゃあ行こうか」

 

こうして俺と留美ちゃんは手を繋いで俺の家まで歩いて行った。

 

俺の家と留美ちゃんの家は総武高に行くよりも近く、徒歩ニ十分以内で着く。

 

留美ちゃんの歩くペースに合わせてゆっくりと歩き、最近あったことなどを話すながら家にむかう。

 

 

 

 

 

俺が留美ちゃんと仲良くなった俺が高校一年生の中頃、鶴見先生に頼まれて鶴見先生の家に行ったときからだ。

 

それに留美ちゃんは俺と同じだったからだ。

 

彼女には今友達がいないらしい。

 

前までは一緒にいた友人達にハブられたようで、そのことを相談された。

 

だけど俺は友人関係のことには自信がなくどう答えればいいのかがわからないため、『俺には友達がいないからちょっと難しいかな』と返答したら。

 

『白野も友達がいないの?だけど私とは違うと思う感じがする』

 

『それはね、俺には友達はいないけど親しくしてくれる人達がいるんだよ。そういう人達がいるから今みたいにいられるんだ』

 

『私にはそういう人はいない…』

 

『なら俺がなってあげるよ』

 

『え?』

 

『もし辛いことや、悲しいことがあったいつでも言って。俺が相談にも乗るよ。まぁ友達のことはまだ難しいけどね』

 

『ホント?』

 

『うん。頼んでくれたら家にも行くし、俺の家に来てくれても構わないよ。家に来れば妹の桜もいるからね』

 

そんなことから俺は留美ちゃんの家に行ったり、留美ちゃんが俺の家に遊びに来たりして桜とも仲良くなった。

 

それでよく留美ちゃんに料理や宿題を教えたりしている。

 

留美ちゃんはジャンヌよりも勉強の覚えがよかった。

 

ジャンヌ。ガンバ。

 

「ねぇ白野?」

 

「ん?なにかな」

 

「白野がお母さんに渡してくれたお菓子おいしかった」

 

あの由比ヶ浜さんのときに作ったマフィンかな?

 

「あのマフィンのことだよね」

 

「うん。アレの作り方教えてくれない?」

 

「いいよ。でも今日はバイトがあって帰りが十時くらいになるから、明日一緒に材料を買いに行って作ろうか」

 

まぁ、同じものは作れないけどね。

 

「わかった。約束だからね。…。ねぇ白野?」

 

「なにかな」

 

「お母さんが言ってたんだけど、白野の高校ってバイト禁止じゃないの?」

 

「……」

 

「……」

 

無言の俺を無言(ジト目)で睨む留美ちゃん。

 

どうしたものか…。

 

実際は禁止ではなく理由があり教師の許可さえ得れば時間の制限はあるがバイトはできる。

 

だが俺は許可をもらってはいない。

 

その理由は簡単。バイトをしないといけないような理由がないからだ。

 

「えーっとね、留美ちゃん」

 

「なに?」

 

「内緒にしておいてくれない?」

 

「なんで?」

 

「…。あのねバイト先の店長に頼まれやってるんだよ」

 

「ホント?」

 

すごい疑ってる目だよ。俺信用されてないのかな。

 

「お願いします。黙っていて下さい」

 

「わかった。その代わり…」

 

その代わり?

 

「明日の買い物はで何か買って」

 

「それでいいなら別に構わないけど。何が欲しいの?」

 

この場合買い物はスーパーよりも『ららぽーと』とかのほうがいいか。

 

ららぽーととは、さまざまなショップや、映画館、イベントスペースなどがあるレジャースポット。

 

カップルなどのデートスポットでもある。

 

よく桜かカレンに連れてかれたりしているわけだが、二人とも美人なため無駄に目立つ。

 

周りの男性の視線や憎悪がすごいから少し辛い。

 

「まだ決めてない」

 

「そうか。留美ちゃん。鶴見先生は夜まで帰って来ないって言ってたけど。明日って何時くらいに送ってけばいいかな?」

 

「決めてないけど、白野が送っていってくれるなら少しは遅くてもいいってお母さんが言ってた」

 

「なら夕食は食べていけるから…。大丈夫か」

 

「?」

 

「明日はマフィンの材料を買いに行く前に一緒にららぽーとまで買い物に行こうか」

 

「いいの?」

 

「いいよ。約束だしね。お金もそこそこあるし」

 

俺岸波白野の所持金はかなりある。

 

父さんから月に五千円のお小遣い、バイト先での給料が時給七百五十円で週に二回の四時間とその他もろもろ。

 

さらにムーンセルのお金のPPTとサクラメントが俺の通帳に¥として入っていた。

 

簡単に言えば高校生にして一千万円以上のお金を所持しているわけで、使い道がないわけだ。

 

大金のためこのことは誰にも話しておらず、通帳は俺の部屋の金庫の中に封印している。

 

俺は物欲があまりないため父さんからの五千円で十分足りる。

 

バイト代はお菓子の材料や私服等の生活費とバイクの燃料代に使っているのだが、それでも余るぐらいだ。

 

PPTとサクラメントは一銭も使っていない。

 

だから俺はかなりの財があるのだ。もうハサンとは言わせない。

 

「ありがとう白野。明日楽しみにしてる。桜さんと三人で行こ」

 

なぜだろうな。桜はさん付けなのに俺は呼び捨て…。

 

「わかった。それじゃあ家に付いたら桜に話してね」

 

「うん」

 

留美ちゃんはたまに見せてくれる可愛い笑顔をした。

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

玄関の戸を開いて中に入る。

 

「おかえりなさい兄さん。留美ちゃんもいらっしゃい」

 

「桜さん。今日と明日お世話になります」

 

留美ちゃんは桜に頭を下げる。

 

なぜここまで違うんだ。桜がお淑やかで大人っぽいからか?それとも俺が子供っぽいからか?

 

俺の身長は170センチはあるから内面が子供?いや、俺の内にはオヤジがいるしな…。

 

「白野どうしたの?」

 

「そうですよ兄さん。玄関で立ったまま何を考えているんですか?」

 

「気にしないでくれ。それじゃあ俺は汗を流して着替えてからバイトにむかうね」

 

「はい。気をつけて下さいね兄さん」

 

「白野。いってらっしゃい」

 

「まだ家にはいるよ」

 

俺はシャワーで汗を流しバイト用の服に着替えて自室に移動。

 

現時刻は17:09

 

バイトの時間は17:30から閉店21:30の四時間。

 

家からバイト先までは徒歩十分で着くし自転車なら五分もかからない。

 

そろそろ出ないとな。

 

自室を出て二人がいる居間にむかう。

 

「桜、留美ちゃん。俺もう行くから。ご飯は二人で食べててよ」

 

「わかりました。あと兄さん。さっき留美ちゃんから明日のことを聞きました。明日は私も大丈夫なので一緒に行きますね」

 

「わかった。それじゃあいってきます」

 

「「いってらっしゃい」」

 

こうして俺は家を自転車で出てバイト先へとむかった。

 

 

 

 

 

俺のバイト先の中華料理屋は個人経営で裏に言峰家がある。

 

言峰さんの家庭は三人家族で、父、母、娘とよくある感じの家庭だ。

 

ここに来る前は外国の田舎のような綺麗な場所に住んにいたそうなのだが、奥さんが言峰さんの住んでいた日本に行ってみたいとを言ったようで、旅行で日本に来て、気に入って移住を決めたそうだ。

 

言峰さんは昔、神父をしていたそうであまりお金は持ち合わせていなかったのだが、奥さんの実家はまぁ金持ちらしい。

 

それで中華料理というか麻婆豆腐を作るのが得意だから中華料理屋をやったらしい。

 

結構辛い物好きの人やお試し気分の人に人気でかなり繁盛している。

 

まぁ看板娘と奥さんが美人だしね。言峰さんもチョイ?悪な感じで人気だし。

 

そして俺がこのバイトを頼まれた理由は…。

 

いつものように好物の激辛麻婆豆腐を食べていると

 

『少年よ。君はバイトには興味はないかね?』

 

『バイトですか?興味はあります。でもうちの高校はバイトが禁止ではないですけど、そういうことには厳しいので考えてはいません』

 

『なに、ばれなければいいさ』

 

『言峰さん。俺はバイトは考えてはいないと言ったと思いますけど…』

 

『君は知らないと思うが、私は今でも昔の仕事を頼まれる事が多くてね。たまにこの店を休まなければならないのだよ』

 

『そう言えばたまにやってない日がありますね』

 

『それでなのだが、私のいない日に手伝ってもらいたのだが』

 

『それこそ無理ですよ』

 

『大丈夫だ。君は料理が得意だと娘から聞いている。すぐにこの店のレシピも覚えることができるだろう』

 

『もしそうだとしても、店長の代理で料理なんか作れませんよ。いつものように休むでいいじゃないですか』

 

『この店も結構有名になってしまったからね。不定期に休んだらお客も困るだろ』

 

『確かに行こうと思って行ったのにやっていなかったじゃ嫌ですね。俺は近所に住んでいますからいつでも来れますけど。少し遠いところや、市外、県外から来た人にしたら困りますね』

 

『そうであろう。だから私はこの麻婆豆腐を多くの者に食べてもらいたいのだ』

 

店長は珍しく笑みを浮かべたが、その笑みは俺が困っているときのギルや俺をからかった後のカレンがする感じの笑みだった。

 

あれだな。愉悦ってヤツだな…。やりたくねぇー。

 

『それでもお断りします。さすがに店長の代わりに料理を作るのは―――』

 

『マカナイで、麻婆豆腐を出そう』

 

『喜んで引き受けます』

 

という感じで今に至る。

 

現在では、休日や祝日に店長が昔の仕事の手伝いに行った場合のみ代理、他に週二回の学校帰りの四時間やって、長期休みの場合は、頼まれた日が空いていれば手伝うことになっている。

 

でもまだ店長の代理は二回しかやっていない。

 

店の裏口というか言峰家の玄関に着いてインターフォンを鳴らす。

 

すぐに玄関が開いてカレンが出て来る。

 

「白野先輩遅かったですね」

 

「いつもこんなものだったと思うんだけど…」

 

「白野先輩は私に口答えするとはグレてしまいましたか?」

 

「どういう解釈だよ」

 

「白野先輩は女性に対しては無駄に優しいので、そういうことは言わないと思っていました」

 

「無駄には余分だよ。それに男性のも優しいつもりだけど…」

 

「そうでしたっけ?」

 

この子もこの子でかなり癖があるよな。

 

「えっとそろそろ中に入れてくれるかな?」

 

「白野先輩。こんなところで私に性交を求めるなんて変態な鬼畜外道になったようですね」

 

「そんなことするか!バイトだから店の裏から入れてほしいんだよ」

 

「店の裏で入れるなんてマニアックすぎですね」

 

「バイトって言葉が聞こえなかったのかな!?」

 

「性交をするバイトなんて雇ってませんよ」

 

「知ってるよ!」

 

「白野先輩は冗談もわからないようですね」

 

冗談でも女の子の口から性交とか変な言葉は聞きたくないよ…。

 

「わかってるよ…。ハァ…」

 

カレンとの会話は楽しいときは楽しいんだけど、他は疲れるんだよ。

 

「フフ」

 

キタ、愉悦笑い。

 

「本当にいい表情をしますね。それでは店の中へどうぞ。バイトの時間も過ぎてしまったので急いで下さいね」

 

誰のせいですか。カレンさん。

 

さっきの不毛な会話は何の意味があったんだか…。

 

本当に俺の周りの女性って桜以外俺に厳しすぎないかな。

 

 

 

 

 




今回はルミルミとカレンの登場。

カレンは原作よりもかなり壊れた気がします…。

あと白野くんの声優さんネタはやりたかったから入れました。

今度は材木座くん辺りに『まずは、その幻想をブッ殺す』とか言わせたいですね…。

それではまた次回に。


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岸波白野と周りの女性たち。 その2

今回は前回の続きです。

面白くできていればいいのですが…。



 

 

 

 

 

バイトが始まり一時間。

 

そろそろ夕食の時間も近づいて客足が増える時間だ。

 

「あれ?店長」

 

「なにかね少年?」

 

「少し材料足りないと思うんですけど?」

 

「そういえばそうだったな。今日の発注する量を間違えたのか、数が少なかったことを忘れていた」

 

「なんでそういう大事なことを忘れているんですか…。もうじきお客さんの数も増える時間なのに」

 

「そのときが来たらどうにかすればいいさ」

 

どれだけ楽観的なんだ…。

 

「それでは今から君が買いに行けばいい」

 

「別に構いませんが、なんか嫌な予感がします」

 

「大丈夫だ。君のいない時間の分のバイト料を減らすだけさ」

 

「それひどくないですか?そちらのミスですよね?」

 

「小さいことを気にしていると友人がいなくなるぞ」

 

その友人が一人もいないんだよ。

 

それと嫌な予感はそれとは別な感じなんだよなぁ…。

 

「わかりました。材料は今の在庫量を自分の見た感じで少ない物だけ買いに行きますね」

 

「ああ、任せたよ」

 

俺は冷蔵庫の中を確かめて買う物のメモを取って厨房を出る。

 

厨房を出たあとすぐにカレンと目が合った。

 

「あら白野先輩。サボリですか?」

 

「俺はそこまで落ちぶれてはいないよ」

 

そこまで俺は信用がないか…。

 

「少し材料が足りないみたいだから買い出しに行って来るだけだよ」

 

「なるほど。そういう口実を使ってサボるわけですね」

 

「なんで俺がサボる前提なの!?」

 

「仕方がありません。白野先輩がサボらない様に私が見張り役としてついて行ってあげましょう」

 

「それこそサボリの口実に使ってない?」

 

「そんなわけないじゃないですか。私はただ白野先輩と一緒に居たいだけですよ」

 

う、ウソくさい…。

 

普通に言われたら嬉しい言葉なのに、この子が言うとウソに聞こえるよ。

 

それにかなり演技っぽかったし…。

 

「いや、俺は自転車で行こうかと思ってるんだけど…」

 

「それでは歩いて行きましょう」

 

「ねぇ、話し聞いてた!?」

 

「白野先輩。喋っている時間があるのなら早く行きましょう」

 

君のせいでしょうが…

 

カレンは俺の腕を引っ張って裏口から外へ出る。

 

仕方がなくカレンと歩いてスーパーに行くことにした。

 

カレンはなぜか一緒に歩くときは手を繋いだり、腕を組んできたりする。

 

それで他の男性からの負のオーラや鋭い視線で嫌な汗を掻いている俺を見て悦んでいる。

 

歩いて十分、よく桜と買い物に来るスーパー。

 

移動中でも辛いのに、こういう人の多いところで腕を組まれるとさらに辛い。

 

スーパーにいる奥様方が、『若いっていいわねぇ』とか『可愛らしい新婚さんですこと』みたいなことを言うし…

 

それとスーパーに入ってから男性とは違う、鋭い視線を背後から二つ感じる。

 

後ろを振り向きたくはないが、正体も気になるので振り向くと誰もいない。

 

「あれ?おかしいな…」

 

「白野先輩。どうかしましたか?」

 

「いや、いつも以上に怖い視線を背後から感じてるんだけど誰もいないんだよな」

 

『顔のない王』とか『圏境』の使い手か?

 

「…そういうことですか。フフフ」

 

なぜここで愉悦笑い?

 

「白野先輩」

 

「ん?なに、っ!」

 

いきなりカレンが抱きついて来た。

 

その瞬間、背後の鋭い視線が殺気に変わった。

 

ヤバい!この感覚ムーンセルで何度も味わったアレだ!

 

『逃げなければ殺される』と俺の第六感がそう叫ぶ。

 

カレンが抱きついていて走れないから仕方がない。

 

「すまないカレン」

 

「キャッ!は、白野先輩!?」

 

俺は買い物カゴをその場に置いて、カレンを抱えて(お姫様抱っこ)外へと逃げる。

 

スーパーと他の建物の間の通路の奥に行き、物影にカレンを抱いて隠れる。

 

『――さんを見失―――した…』

 

『――野、許さ――い…』

 

聞いた覚えがある感じ声だったが今はそれどころではない。

 

数分が経ち、殺気がスーパーとは違う方向に消えて行くのを感じ気が緩む。

 

「ふぅ。一時はどうなるかと思った…。カレンは大丈夫?」

 

「……」

 

俺の腕の中で大人しくなっていたカレンに問うが反応がない。

 

カレンの顔を覗いてみると、頬を赤らめて惚けた感じの表情をしている。

 

「か、カレン!?大丈夫か!?」

 

カレンの顔の前に手を振るって訊く。

 

「ひゃい。らいじょううれしゅ…(はい。大丈夫です)」

 

ダメだ。大丈夫じゃねぇ。殺気に当てられたせいか滑舌も悪くなっている。

 

でもいつもとのギャップか、すごく可愛いな…。

 

まぁカレンも、雪ノ下さんや留美ちゃんと同じで桜と同じくらい大事な妹みたいな感じだから、当たり前か。

 

「立てる?」

 

「……」

 

無理そうだな…。

 

それで俺はカレンの手を取り引っ張り上げる。

 

立たせたはいいけれどふらふらとしていて危なそうなので肩に手を回して支えてあげたら、顔を真っ赤にして殴ってきた。

 

カレンはあまり力がないから痛くはなかったが、怒らせてしまったかな?

 

このあと話しかけても無視したり、顔を背けたりで嫌われてしまったみたいだ。

 

どうしたものか…。

 

買い物を済ませて店に帰るまでカレンはずっとこんな感じだった。

 

帰って来た俺たちを見て奥さんは微笑んで、店長はニヤリっと愉悦笑みを浮かべた。

 

この家族の笑いのツボがわからない。

 

 

 

 

 

バイトも終わり家に帰ろうとしたのだが

 

「白野先輩」

 

やっとカレンが話してくれた。

 

こういうのは嬉しいな。

 

「なにかな?カレン」

 

「白野先輩は明日は暇ですか?」

 

明日は留美ちゃん達との約束があるから暇ではないな。

 

「ごめん。明日は用事があるんだよ」

 

「そうですか。友達のいない白野先輩が休日に用事とは驚きました」

 

「それひどくない…」

 

話せるのは嬉しいけど、俺をバカにするところは嬉しくないなぁ…。

 

「それじゃあ、また月曜日学校でね」

 

「はい。それではまた」

 

俺は自転車に乗り店を後にした。

 

 

 

 

 

家に着いて自転車を倉にしまって玄関にむかう。

 

「……」

 

なぜだろ…。この戸を開けてはいけない気がする…。

 

だけど入らないといけないのはわかっている。

 

「…よし」

 

そっと玄関の戸に手をかけてから、覚悟を決めて戸を開く。

 

「た、ただいまぁ…」

 

……………。

 

返事はない。もう二人とも寝たのかな?でも電気はついてるし、聞こえなかったのだろう。

 

戸を閉じ鍵を掛ける。

 

靴を脱いで居間にむかうと

 

「兄さん帰って来たんですか…」

 

「お帰り白野…」

 

いつもと変わらない表情で迎えてくれるのはいい…だけどなぜか怖い。

 

何と言えばいいのだろうか、シンジタンクからエリザベートを守った後のセイバーやキャスター、生徒会メンバーの女子から感じた寒気というか悪寒というか…

 

「ごめん聞こえなかったかな?ただいま」

 

笑顔で言ってみるが何も答えてくれない。

 

「俺がいない間に何かありましたか?お二人さん?」

 

桜は物静かな声で、

 

「何かですか…。そうですね。夫の浮気現場を見たって感じでしょうか…」

 

「あの…桜さん何を言っているのかわからないんですが…、まずは包丁を置きましょうか」

 

「ああ、すみません…。果物ナイフほうがよかったですか…?」

 

怖っ!どうした桜!俺の可愛い桜に戻ってくれ!

 

留美ちゃんのほうを見ると、

 

「白野…。許さない…」

 

何を許さないのか知らないけど、すごく怖い。

 

そのあと『たわしコロッケ』なるモノが出てきたり、台所で空の鍋を混ぜている桜がいた。

 

マカナイがあってよかった。

 

って!なにがあったんだよ!俺がバイトに行っている間に!!

 

 

 

 

 

「今日はいつも以上に疲れた…」

 

俺は布団の中に入り今日あったことを思い返す。

 

雪ノ下さんの勘違いに、留美ちゃんのお迎え、バイトでのカレンとのこと、スーパーでの殺気、最後に桜と留美ちゃんの変化、体力と精神が共に減っていった一日だ。

 

今夜はしっかり寝よ。ムーンセルでは何をしようかな…ん?この気配は留美ちゃんかな?

 

俺の部屋の前に人の気配を感じる。桜とは違うから留美ちゃんだろう。

 

布団から出て、自分の部屋の戸を開く。

 

「っ!」

 

俺が出てきて留美ちゃんは驚いたようだ。

 

「どうしたの留美ちゃん?」

 

「なんで私がいるってわかったの?」

 

どうしてかって言われても困る。

 

「カンかな?」

 

「?…ねぇ、白野。白野の部屋に入っていい?」

 

うっ!年下の女の子がパジャマ姿での上目使いはかなりヤバいな。

 

「べ、別にいいけど、どうかしたの?」

 

留美ちゃんは何も言わずに部屋に入って、俺の布団へ潜っていった。

 

「……」

 

どういうことだ?

 

ああ、あれか。人の家に泊まったはいいけど、一人で一つの部屋を使って寝るのが怖かったみたいなヤツかな?

 

確かにこの家の部屋数は多いからなぁ、留美ちゃんを一人にしてしまったから少し怖かったのだろう。うん。そうに違いない。

 

でもその場合、普通は桜のところに行くよな。

 

「……」

 

考えれば考えるほど謎だな。

 

「白野。寝ないの?」

 

「いや、留美ちゃんが俺の布団に潜ってるから、どうしたものかと悩んでた」

 

「白野がいけないんだよ。白野が…」

 

ヤバい、留美ちゃんからよくわからない黒いモノを感じる。

 

「え、えーっと…それでは俺はどうすればよいのでしょうか…?」

 

「一緒に寝て」

 

「……」

 

「早く」

 

「わ、わかった。今から布団を持って来るから」

 

「なにを言ってるの?同じ布団に決まってるでしょ」

 

なんだろうな…。バイトから帰ってから桜と留美ちゃんがすごく怖い

 

「…わかりました」

 

こうして俺は留美ちゃんと寝ることになったわけだけど

 

「留美ちゃん。枕はどうするの?」

 

留美ちゃんはこの部屋に来たわいいけど枕を持ってこなかったし

 

「大丈夫。白野の腕を使うから」

 

「……えっと」

 

「何」

 

こうして俺は留美ちゃんに腕枕をして寝ることになった。

 

なんか留美ちゃん将来、雪ノ下さんみたいな感じになりそう…。

 

『あなたには拒否権はないわ』とか言いそうだな。

 

「ねぇ白野?」

 

「どうしたの?」

 

腕枕をしているせいか留美ちゃんとの距離がすごい近いな。

 

「白野は好きな人とかいるの?」

 

なんだこの修学旅行の夜みたいな会話。まぁ、こういう会話をした覚えがありませんが…。

 

「そういうのはまだわからないかな」

 

好みと言われれば桜と即答する気もするが…。いやでもなぁ、うーん…。なんかこういうの難しいよなぁ。

 

「そうなの?…それじゃあスーパーのアレなんだったんだろ…」

 

『そうなの?』は聞こえたけどその後のほうは小さな声でもごもごと言っててよく聞き取れなかった。

 

「それじゃあ、白野は女誑し?」

 

「留美ちゃん。そんな言葉どこで習ったの?」

 

誰だ小学生に女誑しなんて教えたの!?

 

「お母さんが録画してる昼ドラを一緒に見てると出て来る。それでお母さんがその人のことを白野みたいな人だって言ってた」

 

鶴見先生!何言ってるんですか!!

 

「留美ちゃん。友達が出来ないような人にはそういう人はいないんだよ」

 

「でもその昼ドラの人も女の人以外からは嫌われてて、友達がいなかった」

 

「……」

 

もしかしたら俺って女誑し?

 

いやいや、確かに周りには女性は多いけど、みんな俺のことはそういう風には思っていないから大丈夫だろ。うん。大丈夫だ。

 

「留美ちゃん?」

 

「……」

 

どうやら俺がバカみたいに悩んでいる間に留美ちゃんは寝てしまったようだ。

 

俺も寝るか。

 

トントン

 

「?桜か?開いてるよ」

 

「あの兄さん。さっき留美ちゃんの様子を見にいったんですけど、留美ちゃんが―――」

 

桜は俺の横で俺の腕枕でスヤスヤと寝息をたてている留美ちゃんを見て固まった。

 

「兄さん…」

 

「な、なんでしょうかさ、桜さん」

 

「なぜ留美ちゃんが兄さんの布団で寝ているんですか?腕枕で…」

 

こ、怖い…。

 

「あ、アレだよ。怖かったんじゃないかな、一人で寝るのが」

 

「そうですか…。わかりました」

 

ふぅ、よかった。変な勘違いがなくて。

 

「それでは私も兄さんの布団で寝ますね」

 

「え!なんで?ご、ごめんなさい。なんでもございません」

 

すごく怖いせいで少し言葉がおかしくなった。

 

桜は普段は優しいのだが、怒ると雪ノ下さんよりも怖い。

 

兄妹として長い付き合いだが未だに桜の怒りの沸点がわからないんだよなぁ。

 

桜が布団に入って来るのはいいんだが、さすがに三人で一つの布団に入るのは狭すぎる。

 

「なぁ、桜。さすがに三人は狭すぎるから布団持って来ないか?」

 

「大丈夫です。私が兄さんにピッタリくっついて寝るので。…あの女の匂いが消えるまで…」

 

最後の言葉の意味がわからない。それに、それだと俺が大丈夫ではない。さっきも言ったが俺の女性の好みは桜がかなり近い。

 

あと桜は中学生とは思えないほどに発育がよろしいため、雪ノ下さんやカレンよりも胸が大きい。

 

この夜、俺の理性と俺の中のオヤジの戦いで一睡もできずに朝のトレーニングの時間をむかえた。

 

眠っていないためムーンセルには行けなかった。

 

明日理由を聞かれても答えられない。特にセイバー、キャスター、エリザベート、それとジャンヌとアタランテ、あの二人は最近前の三人と似た感じの雰囲気を出している。

 

他のサーヴァントは絶対の笑うよな、特にギルとクーの兄貴とドレイク姐さん。

 

アーチャーとアストルフォは別だ。彼らは親身になってくれるから。

 

絶対に二人みたいな友人を作ってみせる。

 

 

 

 

 

桜がしっかりと俺に抱きついていため桜が起きるまで布団から出れなかった。

 

ありがとう。俺の理性。人間として踏み出してはいけない道を歩まずに済んだ。

 

その後、寝ている留美ちゃんを起こさないように俺の腕と枕をすり替えて、いつもよりも遅い時間にトレーニングをした。

 

トレーニングを終えて風呂場で汗を流し、私服に着替えて居間に行くと少し不機嫌な留美ちゃんと上機嫌な桜が待っていた。

 

「おはよう。留美ちゃん」

 

「白野。なんで起こしてくれなかったの?」

 

「休日だし、気持ち良さそうに寝てたからね。それに家を出る時間は十時くらいのつもりだったから」

 

それに現時刻は8:30になる前だから十分時間はあると思う。

 

「そう。でも今度は起こしてね」

 

その場合また俺の布団で寝るつもりですか?

 

どう答えるべきか…、でもまぁ大丈夫だろ。

 

「いいよ。今度から気を付けるね」

 

「うん」

 

そして三人で朝食を食べて、出掛ける準備をして、十時前になり三人で駅へとむかった。

 

 

 

 

 

今日のお出掛けの移動費、昼食代は全て俺が出すことにした。

 

この二人はセイバーと違って高額のモノを欲しがらないのが救いだよ。

 

あまりPPTとサクラメントには手を付けたくないからな。

 

『ららぽーと』に着いて行先は女性二人に任せることにした。

 

二人は案内板のパンフレットを見ながら何処を回るかなどを話している。

 

俺はそれを少し離れたところで眺めていると

 

「あれ?白野くん?」

 

はぁ…、この声はあの人だな。

 

あの人は別に嫌いではないけど、雪ノ下さんのこととかでちょっと苦手なんだよな。

 

それにあの人は俺と同じくらい、いや、それ以上の目、洞察力があるからなぁ。

 

ため息混じりに俺が後ろを振り向き「久しぶりですね。陽乃さん」と挨拶をする。

 

「やっぱり白野くんだ!久しぶり!」

 

そんなこと言いながら俺に抱きついて来た。

 

「会うなり抱きつくのは止めてくれませんか。陽乃さん」

 

初めて陽乃さんに会ったのは俺が雪ノ下さんとの勝負が始まって一年、俺が五年生のとき。

 

雪ノ下さんを迎えに来た車に陽乃さんが乗っていて、そのとき陽乃さんが俺に興味を持って話しかけてきたのが出会い。

 

今でも思うが俺はバカだったと思う。

 

小さな頃から俺の観察眼は十分に優れていたため、陽乃さんの地雷をいきなり踏み抜いてしまった。

 

『雪ノ下さんのお姉さんですか?なんでウソで作ったような笑顔で話すんですか?』

 

それで俺は自分が言ったことで雪ノ下さんと陽乃さんが驚いた顔をしたことに気付いてから、

 

『すみません。そういうことは失礼でしたね。家庭の事情のようなモノ、周りの人間に良い印象を持たせるためにそうなってしまったんですよね』

 

さらに二人は驚いてしまった。

 

本当に我ながらバカだったよ…。

 

それから俺に興味を持ち始めて、中学になって雪ノ下さんと再会して以降、陽乃さんが俺に会うたびになぜか抱きついてくる。

 

アレだよな、雪ノ下さんへに悪戯みたいなものだよな…。

 

そうだとしたら今は必要なくない?癖みたいなものか?

 

「いいじゃん。白野くんは私のお気に入りだから」

 

たまにはやり返してみるか。

 

「そうですか。俺も別に陽乃さんのことは嫌いではありませんよ。妹に優しいお姉さんって感じで共感が持てます」

 

俺は陽乃さんの心の中にあるであろうことを言ってみた。

 

「…君って本当に私と同じって感じだよね」

 

さっきみたいにふざけた感じではない真面目な声で陽乃さんは答える。

 

「俺はあなたみたいに仮面は着けてませんよ」

 

「君の場合は仮面というよりも、壁かな?心の壁。他人、自分ですら通さない壁。だから君はいつも私の仮面のような人間でいられる。それもほとんどの人、あの雪乃ちゃんですらわからないほどの…」

 

本当にこの人は俺よりも良い目を持ってるよな…。

 

もしかしたらこの人は俺の過去、この世界で俺が父さん(トワイス)に出会う前の五年半のことを調べているかもな…。

 

桜も知らない、俺と父さんしか知らないことを…。

 

「それに私たちはお互い人の考えや心を読むのが得意だしね」

 

「そうでもありませんよ。俺はあなたと違って、人を操るのが不得意ですから…」

 

本当に俺もこの人と自分が似ていると思うよ…。

 

「前も言いましたけど、俺の前では仮面を外してもいいですよ。あなたの本当がどうであれ、俺はあなたを嫌いにはなりませんから」

 

「そっか…。やっぱり雪乃ちゃんには勿体ないな」

 

急に最初の明るいふざけた感じの声に戻る。

 

「そういえば白野くん」

 

「なんですか?」

 

「白野くんの後ろの二人がすごく怖いけど、どうしてかな?」

 

さっきから気付いていますよ。

 

「まぁ、わかって言ってるのは知ってますけど、陽乃さん。あなたが抱きついてるからでしょ」

 

「兄さん…その人は誰ですか…」

 

「白野。その女は誰」

 

怖っ!

 

「ふむふむ、なるほど」

 

今この人ニヤリと笑ったよ!この感じ昨日のカレンと同じ感じだよ!

 

そして陽乃さんは俺から離れて

 

「私は白野くんのかの―――」

 

「この人は雪ノ下陽乃さん。雪ノ下さんのお姉さんだよ」

 

「チッ。よろしくね…えっと…白野くんこの子たちはどちらさん?」

 

「なんで舌打ちするんですか!?」

 

「それは白野くんが私の告白の邪魔をしたからだよ。乙女心をなんだと思っているのかなぁ」

 

「俺にはその告白だかの前の顔が、悪巧みをしている悪魔の笑みに見えましたよ!」

 

この人もカレンと同じで俺をからかって喜ぶタイプだな。

 

少し違うか陽乃さんは喜んで楽しむ、カレンは悦んで愉しむだな。

 

「はぁ、えっと妹の桜と鶴見留美ちゃんです」

 

「よろしくね。桜ちゃんと留美ちゃん。鶴見ってことは鶴見先生の娘さん?」

 

「そうですよ。俺が鶴見先生と仲がいいので、留美ちゃんとよく会うようになったんですよ」

 

俺と陽乃さんが話していると、

 

「はじめまして、岸波桜です。雪ノ下さんにお姉さんがいたなんて初めて知りました」

 

桜は礼儀正しくお辞儀をして挨拶をする。

 

「……」

 

留美ちゃんは何も言わずに頭を下げて俺の後ろに隠れる。

 

「あれあれ?嫌われちゃったかな?」

 

「どうでしょうか?でもまぁ、誰だって初めての会う人にはこんな感じだと思いますよ」

 

「白野。早く行こ」

 

「そうですね。兄さん時間も勿体ないので早く行きましょうか」

 

なぜか二人が急かしてきたから仕方がないか。

 

「陽乃さん。二人が早く行きたいようなので、俺たちはこれで失礼しますね」

 

「これは完全に嫌われちゃったね。まぁいいか私の狙いはあくまで白野くんだしね。またね白野くん。チュ(投げキッス)」

 

陽乃さんは去っていった。

 

いまどき投げキッスって…。

 

「あの人は本当に変わらないなぁ。それじゃあ二人ともぉ…」

 

振り返って二人を見たら、なぜか昨日の夜と同じ感じがするなぁ。

 

「えーっと、どうなされましたか?」

 

「私はそろそろ兄さんの女性関係について、しっかり話し合おうと思います」

 

「白野。女の人と遊びすぎ、ハーレムでも作るの?」

 

「意味がわからないよ!どうしたらそうなるのさ!」

 

俺はセイバーじゃないぞ!それにハーレムってどう作るんだよ!俺に好意を持ってる女性がいないし。ムーンセルには五人ほどいるか…。

 

「あら白野先輩ではないですか」

 

このタイミングでカレン……

 

もぉ、ヤダ!

 

 

 

 

 

その後カレンがなぜか合流。

 

用事があるとは言ったけど、何処で、誰と、何をするとは言っていないのになぜわかった。

 

それからの時間が本当に苦痛だった。

 

美人を二人、美少女を一人を連れて買い物。周りの人間からの視線、三人からの恐怖を感じながら時間は過ぎていった。

 

胃がすごく痛い…。

 

買い物は、留美ちゃんには雪ノ下さんが好きな『パンダのパンさん』のぬいぐるみを買って、

他の二人は何故か指輪を欲しがってきたけれど、財布の中の都合上、指輪二つは無理なので千円代のネックレス、桜には桜の花、カレンには十字架のネックレスを買ってあげた。

 

あとは計画通りに進み、帰りにマフィンの材料を買って家で留美ちゃんに作り方を教えながら一緒にマフィンを作った。

 

夕食を食べ終え、今は留美ちゃんを家まで送った帰り道。

 

「昨日から一睡もしないで、よくここまでできたなぁ」

 

でも、すごく充実した休みでもあったな。

 

携帯の着信音が流れた。

 

「ん?この音は雪ノ下さんからのメールかな?」

 

なになに…

 

『岸波くん。さっき姉さんからメールがきたのだけど、今日、複数の女性と出掛けたようね。明日詳しく聞かせてもらうから。覚えておきなさい』

 

「……」

 

ムーンセルでも思ったけど…女の子って怖い。

 

 

 

 

 

この夜、俺がアーチャーのところを訪れて女の子との良好な過ごし方を聞いてみたのだが、『マスター。それは私にもわからないよ…』だそうだ。

 

 

 

 

 




今回は陽乃さんの登場。

俺ガイルの世界なので、白野くんにも触れられたくない過去的なものを考えてみました。
真相はいかに…。

次回は比企谷の嫁、戸塚回です。

誤字などがあったらよろしくお願いします。


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岸波白野の噂。

今回は戸塚くんの登場!
と白野くんのことを少々。

誤字などがありましたらすみません。大目に見て下さい。


 

 

 

 

 

「それで岸波くん、言い残したことはあるかしら?」

 

「いいえ、ありません」

 

「ゆきのん、もうこれでいいんじゃない?キッシー謝ってるみたいだし。理由はわからないけど」

 

そう俺は今、部室でお昼を食べている雪ノ下さんに土下座をして謝っている。

 

由比ヶ浜さんの前で…。

 

彼女が怒っている理由は昨日俺が複数の女性、桜、留美ちゃん、カレンと出掛けたことのようだが、別にそれで怒っているわけではない。

 

というよりどう考えても、雪ノ下さんが怒っているのは陽乃さんのこととみて間違いはないなだろう。

 

あの人のことだから、あることないこと言って雪ノ下さんを激怒させたにちがいない。

 

それで陽乃さんのことを怒りたくても由比ヶ浜さんいるから切り出せず、あまり関係ないことで怒っているようだ。絶対にそうだ。

 

「そ、ならこれで終わりにしてあげるわ。それと他にまだ聞きたいことがあるから部活が終わったら少し残るように」

 

絶対に陽乃さんのことだよな…。

 

今の説教タイムは意味なかったようなぁ。

 

「なにかしらその反抗的な目は」

 

「そんな目をした覚えがないのですが…、あ、そうだ。雪ノ下さん」

 

俺は土下座の態勢を止めて立ち上がる。

 

「なにかしら」

 

「この前の言ってた罰だけど、俺は何を買いに行けばいいの?」

 

「罰?」

 

由比ヶ浜さん意味がわからなそうなに頭を傾げる。

 

「それはあとでいいわ。それより岸波くんは今日は何処でお昼を食べるのかしら?」

 

「罰を終えたら、その辺を歩いて静かな場所を見つけて食べようと思ってるけど」

 

「それなら、今日はここで食べるといいわ。」

 

「それだと迷惑でしょ。雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに」

 

「私は別に構わないわ。…むしろ傍にいてくれたほうが…」

 

途中で声が小さくなって聞き取れなかったけど、雪ノ下さんはここで食べることは構わないようだな。

 

「由比ヶ浜さんは?」

 

「あたしも別にいいよ。というかキッシーのお弁当が気になる。ゆきのんのお弁当さ、すごいんだよ。自分で作ってるらしいんだけど、キッシーのもどんな感じかなぁって」

 

「俺も自分で作ってるよ」

 

家では毎朝俺が弁当を作る。というより桜は中学生だから弁当はいらないからな。

 

去年までは父さんの分も作っていた。それで弁当は俺、朝食は桜が担当。

 

「ホント!どんなのか見せて」

 

由比ヶ浜さんがすごい期待している目で見てくるぞ…。やばいな、緊張してきた。

 

俺は自分の鞄から弁当箱を取り出して中身を見せる。

 

「期待に答えられればいいんだけど…、どうかな?」

 

「す、すごい…なにこの料理本の見本みたいなやつ」

 

「岸波くんのお弁当は、彩りも栄養もバランスがしっかり取れるように考えてあって、いいお嫁さんになりそうね」

 

「俺は男だけどね…」

 

前々から『お弁当はしっかりバランスを良く』とオカンからならったからなぁ。

 

「まぁ俺の弁当のことはいいとして、罰のことだけど」

 

「ねぇ、キッシー?」

 

「ん?なにかな」

 

「罰ってなに?」

 

由比ヶ浜さんは知らないから当然気にはなるよな。

 

「罰ってのはね、この前俺が雪ノ下さんを待たせちゃったことがあって、それで雪ノ下さんが怒ったことがあったんだよ」

 

「それで?」

 

「それでその罪滅ぼしみたいな感じで罰を受けることにしたんだよ。その罰の内容が一昨日の土曜日に決まってね、その内容が昼休みのときに飲み物買いに行くってことだったんだよ」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

「もしよかった由比ヶ浜さんの分も買いに行こうか?」

 

「え、い、いいよ。あたしのことは気にしなくて、迷惑でしょ」

 

「別にそんなことはないよ。どうせ買いには行くんだし」

 

「で、でも…、あ、そうだ!」

 

何かいい考えを見つけたのかな?

 

「ゲーム!ジャンケンで負けた方が罰ゲームで買いに行くヤツで決めよ!」

 

「由比ヶ浜さん。それは止めた方がいいわ」

 

雪ノ下さんは由比ヶ浜さんを止める。

 

「え、どうして?」

 

「岸波くんはジャンケンが異常に強いのよ」

 

そう。俺はジャンケンが強い。

 

運がいいわけではない。初詣でおみくじを引いても『大吉』が出た覚えがない。

 

一番良くても『吉』。引いた内容に絶対に『女難の相』があった。

 

だけどジャンケン強い。運は悪いが、目が良いからだ。

 

これは観察眼や洞察力ではなく、動体視力のほう。

 

サーヴァントやエネミーとの戦いで鍛えられたせいか、本気を出せば人の動きぐらいならスローモーションで見えるくらいだ。

 

さらに目に魔力を集中させるともっとよく見える。

 

俺は魔力を使うことは礼装のコードキャストを使う以外はできないようで、身体のどこか一点に集めるみたいなことはできなかった。

 

だが目だけは別だった。目だけには魔力を集めてその力を底上げすることができた。

 

これは俺が知らないうちにムーンセルでの戦いで会得したスキルに近いかもな。

 

だから俺がジャンケンに強い理由は、相手の手の動きを見てから出す。

 

いわば『高速あとだし』だ。

 

雪ノ下さんはそれを知らないからなぁ。知ったら絶対に怒られるよなぁ。

 

それでも俺は一度だけジャンケンに負けたことがある。

 

相手はあの人、陽乃さんだ。

 

あの人は俺の目の動きでなにをしているのかを理解して、その対抗策を見つけ出したわけだ。

 

対抗策は一度だけしか使えないため、あれ以降は陽乃さんとジャンケンはしていない。

 

勝ち逃げをされているわけだ。

 

「ゆきのん。ジャンケンが強いって、ジャンケンって運でしょ」

 

「そうなのよ。彼は運はないはずなのになぜかジャンケンだけは強いのよ」

 

俺って雪ノ下さんからジャンケンだけが強いって思われているのかぁ。

 

もっと努力しないとな。

 

「ホントかなぁ。それじゃあ試しにキッシー、ジャンケンしよ」

 

「別にいいけど、今回は罰ゲームはなしでやろう」

 

そのほうがいいだろ。もし罰ゲームがあるなら俺は負けを選ぶし。

 

「わかった。よーしやるぞー」

 

由比ヶ浜さんはあのジャンケン前にやる怪しい行動をする。

 

あの両手を捻ってその隙間から何かを見るヤツね。

 

「見えた。ジャンケン・ポイ」

 

確かに見えた由比ヶ浜さんが腕を振っている間に、中指と人差し指が動くのが。

 

俺が出したのはグー、由比ヶ浜さんはチョキ。

 

「言ったでしょ。彼、ジャンケン強いのよ。」

 

「…。で、でも一回だけだし、もう一回。ジャンケン・ポイ」

 

俺はパー、由比ヶ浜さんはグー。

 

「……。もう一回。ジャンケン・ポイ」

 

また俺はパー、由比ヶ浜さんはグー。

 

そのあとも、何度もやったが俺が全勝した。

 

「ど、どうして…」

 

「え、えっと俺そろそろお弁当を食べたいから早く飲み物を買いに行ってくるよ。雪ノ下さんはいつもの、『野菜生活100いちごヨーグルトミックス』でいいかな?」

 

「ええ、よくわかったわね」

 

「一緒に食べてたときに、毎日飲んでたからね。由比ヶ浜さんは?」

 

「うーん。ジャンケンで強いとかあるんだなぁ…。え、ごめんキッシー、何か言ってた?」

 

「由比ヶ浜さんは欲しい飲み物あるかな?って」

 

「大丈夫。ていうかあたしが買いに行く」

 

「いや、罰ゲームはなしって言ったから」

 

「でもすごいモノを見せてもらったし」

 

まぁあれだけ勝てるのはすごいな。

 

「でもこれ俺の罰だから、由比ヶ浜さんにやってもらうのは…」

 

「それなら、あたしがゆきのんとジャンケンして負けたら買いに行く」

 

「なぜここで私が入ってくるのかしら?由比ヶ浜さん」

 

「だってキッシーがジャンケン強いから?」

 

理由関係ねぇ。しかも疑問形。もしかして気付いた?

 

「それにゆきのんとこういうことやってみたかったし」

 

「だとしてもやらないわ。自分の糧くらい自分で手に入れるわ。そんな行為でささやかな征服欲を満たして何が嬉しいの?」

 

ならなぜ俺をパシらせようとしているのかな?雪ノ下さん。

 

「ゆきのん、自信ないんだ」

 

由比ヶ浜さん。雪ノ下さんの挑発のやりかたわかってるな。

 

「いいわ。その安い挑発に乗ってあげる」

 

結果は由比ヶ浜さんがジャンケンに負けて由比ヶ浜さんが買いに行くことになった。

 

雪ノ下さんは勝った瞬間、無言で小さくガッツポーズをしていた。

 

本当にこの子はたまに可愛らしい行動するよな。

 

「キッシーは何が欲しいの?」

 

「俺のはいいよ。俺、お昼は水筒にお味噌汁入れてきてるし」

 

「キッシー、できるOLみたいだね!」

 

「俺は男だけどね…」

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

結局、由比ヶ浜さんはチャイムが鳴り終わるまで帰って来なかった。

 

予想は知り合い、比企谷あたりと出会ってしまい話しこんでしまった感じだろうな。

 

部室を出たとき息を上げて来た由比ヶ浜さんと鉢合わせて、雪ノ下さんが理由を問い詰めたら俺の予想通りだった。

 

 

 

 

 

放課後、部活で比企谷が面白いことを相談してきた。

 

「無理ね」

 

「いや無理って。お前さー」

 

「無理なものは無理よ」

 

比企谷はどうも今日の選択の体育の時間に戸塚彩加という男子生徒にテニス部に入部しないかと誘われたことを雪ノ下さんと俺に相談してきた。

 

体育の選択科目はテニスとサッカーで比企谷はテニスを選んだようだ。

 

で、そのテニス部に所属している戸塚くんに勧誘されたようだ。

 

一応俺も選択はテニス。

 

人気だったがジャンケンで決めたので当たり前に勝ち残った。

 

でもボッチの俺には相手がいないので体育教師でテニス部顧問の厚木先生と打ち合っている。

 

前、何故かムーンセルでみんなでテニスをしたことがあったから普通以上にできた。

 

というか英雄に勝てるわけないじゃん…。

 

この前の授業で基礎が終わって試合が始まったのだが、俺は多くの生徒に完勝しすぎて誰も相手をしてくれなくなった。

 

それで厚木先生からテニス部の勧誘されたが止めておいた。

 

さすがに部活の架け持ちできるほどの時間がないからな。

 

「岸波はどう思う?」

 

「うん。今の比企谷ならまだ無理じゃないか。理由は雪ノ下さんと同じだし、比企谷の悪巧みもわかっているからね」

 

「え、えーとなんのことでしょうか?」

 

比企谷は引きつった顔をした。

 

「岸波くん。その悪巧みってなにかしら?」

 

「比企谷はしらを切ってるみたいだから言ってもいいよな?」

 

「ちょっ、まっ―――」

 

「ええ、いいわよ。」

 

「俺の予想では、この話の流れをうまく利用し円満に奉仕部を退部して、テニス部に入部するようにみせかけてテニス部も少しずつ休んでいって、やらなくなるみたいな感じかな?」

 

「……」

 

「比企谷くん。言いたいことはあるかしら?」

 

「……。戸塚のためにもなんとかテニス部強くならんもんかね」

 

「あ、逃げた」

 

「図星だったようね。でも珍しいわね。誰かの心配をするような人だったかしら?」

 

「やーほら。誰かに相談されたのって初めてだったんでついなー」

 

それだけじゃないだろ。口元が緩んでるし。

 

「私はよく恋愛相談とかされたけどね」

 

雪ノ下さんが比企谷に対抗して自慢げに言ったが、次第に表情が暗くなる。

 

「…っていっても、女子の恋愛相談って基本的には牽制のために行われるのよね」

 

「へぇ、そうなんだ」と俺。

 

「は?どういうこと?」と比企谷。

 

「自分の好きな人を言えば、周囲が気を使うでしょ?領有権を主張するようなものよ。聞いた上で手を出せば泥棒猫扱いで女子の輪から外されるし、なんなら向こうから告白してきても外されるのよ?なんであそこまで言われなきゃいけないのかしら……(あと、恋愛相談者の六割が岸波くんの名前を上げてきたのよね…。それどころか今のクラスの女子のほとんどが岸波くんのことを意識しているし、彼は誰にでも優しくしすぎなのよ。少し腹が立ってきたわ)」

 

雪ノ下さんはいろいろと頑張ってたんだなぁ。

 

あれ?なぜか雪ノ下さんが睨んできたぞ。

 

「それでお前たちならどうする?テニス部を強くする方法」

 

「そうね…。全員死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かな」

 

笑顔が怖いな。

 

「ははは、雪ノ下さんらしいな…。まぁ俺の場合は人それぞれに合った練習メニューを考えてから、それをやってもらうかな」

 

「どうしてそうなるの?」

 

「簡単だよ。比企谷や雪ノ下さんが由比ヶ浜さんと同じ方法で友達を作れるかい?」

 

「難しいわね」

 

「いや、無理だろ」

 

「だからその人の長所や短所を見つけてそれに合った方法でやるんだよ。まぁ時間は掛かるけどね」

 

それともう一つ、これはムーンセルでわかったこと。

 

「または、自分よ―――」

 

ガラッと部室の戸が開いた。

 

「やっはろー!」

 

由比ヶ浜さんが現れた。

 

ボケはさて置き、由比ヶ浜さんの後ろにジャージ姿の女子生…いや男子生徒だな。

 

「あ…比企谷くんっ!」

 

「戸塚か…」

 

ああ、この生徒が戸塚彩加くんか。これで比企谷の反応も理解できるわ。

 

でも、アストルフォ以外にもいるんだな。男の娘。

 

「比企谷くん、ここで何しているの?」

 

「いや、俺は部活だけど…お前こそ、なんで?」

 

「今日は依頼人を連れてきてあげたの、ふふん。ほらなんてーの?あたしも奉仕部の一員じゃん?だから、ちょっとは働こうと思ってたわけ。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」

 

「由比ヶ浜さん」

 

「ゆきのん、お礼とかそういうの全然いいから。部員として当たり前のことしただけだから」

 

「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど…」

 

「違うんだっ!?」

 

「ええ。入部届をもらっていないし、顧問の承認もないから部員ではないわね」

 

「書くよ!入部届くらい何枚でも書くよっ!というかキッシーは知ってたの!?」

 

「え?まぁ、副部長だし」

 

「なんで言ってくんなかったの!?」

 

「こういうのって雪ノ下さんが言うかなぁって、それに前々から雪ノ下さんが『いつになったら由比ヶ浜さんは入部届を持ってくるのかしら』って言ってたし」

 

「岸波くん、あとで話があるから」

 

笑顔だけど怖い。オーラみたいなやつ?

 

「ゆ、ゆきのん」

 

由比ヶ浜さんは嬉しそうに涙目になる。

 

「由比ヶ浜さん、彼の言葉は忘れなさい。いいわね」

 

「わ、わかった」と言って由比ヶ浜さんは頷いた。

 

「わかったなら。早く入部届を出すように」

 

雪ノ下さんは頬を赤らめて目を逸らしながら由比ヶ浜さんに言う。

 

「うん!ありがと、ゆきのん」

 

由比ヶ浜さんはルーズリーフに丸い女の子らしい字で『にゅうぶとどけ』と書き始めた。

 

「で、戸塚彩加くん、だったかしら?何かご用かしら?」

 

「あ、あの…」

 

「戸塚くんはテニス部を強くしたいんでしょ?」

 

「えっ!?ど、どうしてわかったの?」

 

「さっき比企谷がそういうことを相談されたって、戸塚くんのためにもどうにかならないかな?って俺たちに聞いてきたんだよ。」

 

俺がそう言うと、戸塚くんが比企谷のほうをむいた。

 

「ほ、ホントなの比企谷くん?」

 

「お、おお」

 

比企谷が答えると戸塚くんは頬を赤くして比企谷の左手を両手で握って笑顔で

 

「比企谷くん、ありがとう」

 

戸塚くんの行動で比企谷も照れながら空いている右手の人差し指で頬を掻いている。

 

「いや、まぁ初めて相談されたからな、そ、それに…」

 

なんだろこの初々しい感じ。この二人で恋愛とか始まらないよね?

 

「ねぇ岸波くん」

 

「なにかな雪ノ下さん」

 

「何度も言うけど勝手に話を進めないでくれる。それで戸塚くん」

 

「は、はい」

 

比企谷の手を握っていた戸塚くんが雪ノ下さんの声で驚きながら比企谷の手を離し雪ノ下さんのほうをむく。

 

それよりも比企谷が戸塚くんに手を離されたときすごく悲しそうな顔をしたぞ。しかも雪ノ下さんのこと軽く睨んでるし…。

 

「戸塚くん、あなたは何を依頼しにきたのかしら?」

 

「あ、あの…、テニスを強く、してくれる、んだよ、ね?」

 

雪ノ下さんにむいていた視線も喋るにつれ比企谷のほうへと変わっていく。

 

「由比ヶ浜さんがどんな説明をしたのか知らないけど、奉仕部は便利屋ではないわ。あなたの手伝いをし自立を促すだけ。強くなるのもならないのもあなた次第よ」

 

「そう、なんだ…」

 

戸塚くんがしょんぼりと肩を下げると、比企谷が由比ヶ浜さんをちろっと睨む。

 

「へ?何?」

 

「何、ではないわ。あなたの無責任な発言で一人の少年の淡い希望が打ち砕かれたのよ」

 

雪ノ下さんの言葉に由比ヶ浜さんは首を傾げる。

 

「ん?んんっ?でもさー、ゆきのんとキッシーならなんとかできるでしょ?あとヒッキー」

 

「俺はおまけか?」

 

雪ノ下さんは由比ヶ浜さんの挑発?に乗って戸塚くんの依頼を受けることになった。

 

雪ノ下さんの方法で…。

 

「戸塚くんは放課後はテニス部の練習があるのよね?では、昼休みに特訓をしましょう。コートに集合でいいかしら?」

 

「りょーかい!」

 

「わかった。昼休みにすることもないから俺はいいよ」

 

「それって、…俺も?」

 

「当然。どうせ昼休みに予定なんてないのでしょう?」

 

これで明日から戸塚彩加テニス強化計画が始まった。

 

「そういえば岸波」

 

「どうした比企谷?」

 

「由比ヶ浜が入ってくる前に言ってた方法はなんだったんだ?」

 

「またはのあとに言おうとしたヤツのこと?」

 

「そうそう」

 

「あれは、『または、自分よりも強い相手と戦い続けること』だ」

 

「なるほどな、ゲームと同じってことか。もらえる経験値が違うからな、ああいうの」

 

「言い方はあれだけど間違いではない。基礎ができていれば強い人と戦い続けていく内に必然と強くなっていく。って感じだな」

 

シンジタンクのときがそうだったな。慎二もエリザベートも俺が強くなっているって言ってたし。

 

「でも、それは無理じゃねぇか」

 

「どうして?」

 

「だってよ、その強い奴がいないから戸塚が困ってたわけだし」

 

「探せばいると思うよ。強い相手が結構身近に」

 

 

 

 

 

戸塚くんは部活にむかうため部室を出る前に俺の方にやって来た。

 

「えっと、君が、岸波くんだよね?」

 

戸塚くんはアストルフォとは違うタイプのだな。

 

アストルフォが元気ッ子って感じで、戸塚くんはお淑やかって感じだ。

 

「そうだけど、どうかしたかな?」

 

「あ、あのね、岸波くんって怖いイメージがあったんだけど、優しい人でよかった。これからよろしくね」

 

「え?どうして怖いと思ってたの?」

 

「え、えっとね、岸波くんの噂話があって、それで怖い印象があったんだ」

 

「噂話?」

 

「「それだ!!」」

 

噂話という単語で比企谷と由比ヶ浜さん立ち上がり叫んだ。

 

そのせいで俺と雪ノ下さんと戸塚くんが驚いてしまった。

 

「急にどうしたの、驚かせないでくれる」

 

雪ノ下さんが冷たい視線で二人を睨む。

 

「いや、わりぃ。それであれだ、俺が入部したときに岸波の名前に聞き覚えがあったのがその噂話ってやつだ。由比ヶ浜もそうだろ?」

 

「う、うん」

 

「俺自身、その噂って知らないんだけど」

 

「私も知らないわ」

 

アレか、あの雪ノ下さんに入学初日に告白して玉砕したってヤツか?

 

「その噂が結構ひどいやつが多くてさ、でもキッシーのこと知っちゃうと全部出鱈目だってわかる。キッシーはそんなことをしない優しい人ってわかるもん」

 

「それってどういう噂か教えてくれないかな?」

 

「でもキッシーは嫌な気分になると思うよ…」

 

由比ヶ浜さん少し辛そうな顔をした。

 

「そうか、わかった。俺はそういうのは慣れているけど、君が辛いなら言わなくていいよ。ごめんね」

 

俺の慣れているという言葉に雪ノ下さんも辛そうな顔をしてしまった。

 

小学校や中学にあった俺の噂は大抵雪ノ下さんとセットで使われていた。

 

その九割が俺が悪役的な扱いをされていたせいで雪ノ下さんを少し困らせてしまったことがある。

 

悪いのは俺なんだから気にしなくてもいいって言ったんだけどな…。

 

「戸塚くん。部活に急がないともう始まっちゃうよ」

 

「う、うん。ありがとうね。みんな、明日からよろしく」

 

一人一人が戸塚くんに対してあいさつをしたら、戸塚くんは部室を出て行った。

 

「なぁ比企谷、お前なら俺の噂言えるか?」

 

「ん、ああ、お前が気にしないっていうなら構わないぞ」

 

「ちょっとヒッキー!」

 

「いいよ、由比ヶ浜さん。俺も周りからどう思われているか気になるし、みんなもその噂の真相が気になるでしょ?」

 

「う、うん…」

 

由比ヶ浜さんが納得してくれたようなので比企谷が話し始める。

 

「俺が知ってる岸波の噂は三つ。バカみたいなのが二つで、ひどいのが一つ」

 

「全部頼むよ。」

 

「バカみたいのは『お前がこの辺を縄張りにしてた暴走族を解散させた』と『中学時代に同じ中学の生徒を病院送りにした』ってのだ。それで最後の一つは『中学時代に平気で動物を殺してた』ってやつ」

 

そういうのか…。

 

「その噂は全部ウソみたいね。中学時代のことは私が知らないはずがないもの」

 

「だよねぇ。キッシーがそんなことするはずないもんね」

 

「いや、その噂は当たってはないけど似たことをした覚えはあるよ」

 

俺の言葉を聞いて全員の顔が青ざめた。

 

「今からその噂の真相を最初のほうから言うね」

 

「まずは暴走族のことだけど、あれは俺一人ではないんだよ」

 

これを言う場合は俺がバイトをしていることを言う必要があるな。

 

「実は俺バイトをしているんだけどさ」

 

「それは初耳だけど、暴走族と何が関係あるのかしら?」

 

「関係はないよ。バイト先の店長が関係してるんだよ」

 

「さらに意味がわからなくなったぞ」

 

「これは俺が高校に入って、バイトを初めて一月のことだ。俺は寝たら結構大きな音がしても起きないんだけど、その時期俺が住んでる周辺の地域を夜に暴走族がバイクを乗り回してたんだよ。」

 

「ああ、確かにあたしが一年生のときも結構うるさくて眠れなかったことがあったけど、ある日突然消えたのを覚えてる」

 

「俺はいつものように眠ろうと思ってたら、店長が俺の家まで来て『少年。それでは行くとしよう』って言ったきたんだよ」

 

「完全にわけがわからん」

 

「俺も意味がわからなかったから『何処にですか?』って聞いたんだよ。そしたら『私の安眠を邪魔する者は子供だろうと容赦はしないさ』と言って俺の腕を引っ張って俺を連れ出してったんだよ。俺寝巻だったのに。いやぁ恥ずかしかったなぁ暴走族の前に寝巻で立たされてるんだもん。で、店長が『さぁ少年よ、共にこの悪ガキどもに灸を添えてやろう』って言い始めていきなり開戦したわけだ」

 

アレは本当にシュールな絵面だったな。

 

ガチな暴走族五、六十人対中華料理屋の店主と寝巻姿の高校生二人。

 

「それで結果は?まぁ噂通りか」

 

「俺たちが勝ったな。無傷で」

 

「すご過ぎて意味わかんない」

 

「まぁ、俺が倒したのなんて一割程度で、残りの九割は店長が倒したし」

 

「店長何モンだよ!」

 

「趣味で八極拳やってたみたいだよ」

 

「趣味の域を超えてると思うけれど」

 

「それで店長がその暴走族のトップ、族長だっけ?まぁそんな感じの人の両腕両足を逆に曲げてその暴走族は解散したんだよ。解散理由を族長さんが事故ったことにして」

 

「だから店長何モンだよ!」

 

「でもまぁこれで一つ目は岸波くんが巻き込まれた感じの噂だったわけね」

 

「まぁそうだね」

 

「無傷で一割倒している時点でスゲェと思うけどな。お前んところの店長が異常すぎるせいかよくわかんねぇな」

 

次はアレだな…。

 

「次のは、二つの噂は一つとして考えてくれ。ただ気分のいいものではないのは噂の内容でわかってると思うけど、大丈夫かな?」

 

この話は俺も辛いし。

 

「私は構わないわ」

 

「俺も別にいいぞ。気にはなってたし」

 

「あ、あたしは……。ううん、聞く、あたしも聞く」

 

「ありがとうみんな。これは俺が中学二年生のこと、雪ノ下さんが海外へ留学していたときのことだ」

 

 

 

 

 

俺は雪ノ下さんとの勝負が無くなっていた間も努力はしていた。

 

でも時間はやっぱり余ってしまった。だからあるとき俺は近所にある神社に行ってみることにした。

 

神社の周りを散策していたら境内の裏から小さな鳴き声が聞こえて、鳴き声のほうをへ行ってみるとそこには段ボールがあって中に子猫が五匹いたんだ。

 

その子猫たちは衰弱しきっていて危ない状態だった。

 

俺はその段ボールを持って家まで走った。

 

家に着くと俺は子猫たちに食べ物をあげたり、温めたりして一生懸命看病をした。

 

そして朝になり、五匹全部がどうにか一命を取り留めた。

 

本当に嬉しかった。俺でも命を助けることができるんだって、守ることができたんだって。

 

ある程度元気になってから俺は新しい段ボールに毛布を入れ、それに子猫たちを入れて元いた場所に戻すことにした。

 

さすがに家で飼うことは難しいと思ったから。

 

それからは毎日のように子猫たちにご飯をあげに行ったり、雨の日は傘を差しに行ったりと頑張って面倒を見た。

 

だけどある日そこから子猫たちがいなくなってしまった。

 

猫だからひとりでにふらっとしていなくなったのかと思った。旅立ってしまったと思った。

 

でもそれが嬉しかった。俺が頑張ったからあの子猫たちは自立して前に進めたんだと。

 

だけどそれは違った。

 

次の日俺の下駄箱の中に五匹の内の一匹が血塗れの死骸になって入ってた。

 

 

 

 

 




最後は少し暗い感じ終わっちゃいましたね

次回は噂の真相の後半とテニスバトルくらいには持っていきたいですね

それではまた次回


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岸波白野の噂の真相とテニスの特訓。

前回の続きです
噂の真相と戸塚くんの依頼
書いた結果テニスバトルまではいけませんでした。

誤字があると思いますがあまり気にせず…

それでは!!


 

 

 

 

 

次の日俺の下駄箱の中に五匹の内の一匹が血塗れの死骸になって入ってた。

 

見た瞬間なにが起きたのかわからなかった。

 

唯一わかったことは、俺の下駄箱の中にいたのが俺が面倒を見ていた子猫だということだけだった。

 

俺はその子を抱いて走り出した。自分の家まで走り続けた。

 

泣きたかった。叫びたかった。だがそれよりもある感情が勝った。

 

怒りだ。

 

この子猫を殺した人にではなく、自分のバカさに、自分の弱さに、自分の不甲斐なさに。

 

俺は自分が許せなかった。

 

なぜ家で面倒を見なかった。なぜこの子を守れなかった。なぜこの子にこんな残酷な運命を与えてしまった。

 

そう、俺がこの子を殺したのだと。

 

けど希望もあった。他の子は逃げることができたのだろう。

 

家に着いて俺はその子を庭に埋めてあげた。そうして俺は学校へむかった。

 

でもその希望もすぐに消えた。

 

下駄箱を開けるとさっきあの子で見えなかったところに手紙があった。

 

『お前が邪魔だ。学校に来たら他の猫も殺すぞ』

 

それで俺は理解した。あの子は俺のせいで死んで、他の子も俺のせいで殺されるんだと。

 

だが俺は教室へに行った。犯人を捜すために、残りの子たちを救うために。

 

俺が教室に入ったとき、授業が始まっていたクラスがざわめいた。

 

俺の制服に血が付いていたからだ。

 

先生には登校の途中に鼻血を出してしまったとウソをついて授業に参加した。

 

すぐに犯人を理解した。いつも俺のことを影で文句を言ったり、バカみたいな嫌がらせをしてくる不良グループのような四人組。

 

俺が教室に入ったとき教師や他の生徒とは明らかに別の反応をしたからだ。

 

他の生徒は俺の制服の血を見て驚いて、ウソの理由を聞いて笑った。

 

犯人の四人は最初の俺の姿を見て笑みを浮かべ、ウソの理由を聞いてムカついていた。

 

休み時間になり俺はその四人に近付いて

 

『ねぇ君たちは俺に対して腹を立たせているのになんであの子にあんな酷いことをしたの?』

 

俺にすでに犯行がバレた四人は驚いたあと笑みを浮かべて

 

『放課後、お前が大好きな神社に来いよ。いいもん見せてやる』

 

その言葉の内容からすぐにわかった。

 

あの子たちを殺すのだろう。それを俺の前で見せてくるんだろう。

 

今にも何かが壊れてしまう気がした。そしてそこから嫌なものが出てきてしまう。

 

俺が止めさせようと声をかける前にその四人は教室を出ていった。

 

あとを追おうとしたが授業の開始のチャイムがなって、先生に退室を止められた。

 

最終的に俺はその四人を追うことができずに放課後になってしまった。

 

放課後、俺は急いで子猫たちの面倒を見ていた神社に行くと、その四人が三匹の子猫を殺して最後の一匹に手をかけようとしているところだった。

 

『遅かったな。お前が遅いからもう三匹殺しちまったよ。最後はどう殺すか』

 

『一匹目みたいに、ナイフで刺すか?それとも二匹みたいに蹴飛ばすのもいいな』

 

『いいね。でもさっきみたいに叩きつけるのってどうよ』

 

俺の目の前で行われているバカみたいな会話。

 

もう我慢の限界だ。こいつらを子猫と同じ目にあわせてやれ。/ダメだ。そんなことをしてはいけない。

 

何を言っている。目の前の奴らはゴミも同然だろ。/嫌だ。俺がいけないんだ。目の前の四人も子猫たちも悪くない。全部俺が悪いんだ。

 

大切なものがこれ以上傷つくのは見たくなだろ。/当たり前だ。だけど…。

 

なら守るしかない。力で大切なものを守るだけだ。だから使え。/やめてくれ。そんなことを言わないでくれ。それじゃあ前と同じに…

 

『岸波。こいつを殺してもお前が学校に来た場合は、お前の妹やよく話しているハーフの女にも同じことをするぞ』

 

ああ、壊れてしまった。俺の中の何かが…。出てくる、嫌なものが…。

 

気が付くと四人の内の三人がボロボロの状態で気を失っていた。

 

見てみるとその生徒たちの腕や足が折れている。服などがところどころ焦げたりもしていた。

 

俺が最後の一人のほうを向くと

 

『ヒッ!!』

 

残りの一人が涙目になって折れているであろう左腕を抑え、俺を見ながら後ずさっていた。

 

『危ない!』

 

俺が叫んだときはもう遅かった。

 

その一人が神社の階段を踏み外して落ちていってしまった。

 

 

 

 

 

「それでその生徒たちは病院に搬送されたんだよ。これがその噂の真相。俺が子猫たちを殺して生徒を病院送りにしたっていう」

 

予想あのとき俺は初めて人に対してコードキャストを使ってしまったのだろう。

 

あの後カレンが来たことは言わなくてもいいか。

 

それでカレンが生徒たちからその記憶を消した。カレンは魔術師だった。ウィザードではなくメイガスという俺のいた世界ではもう存在しえない魔術師。

 

実際に暴走族のときも店長がほんのわずかだが魔術を使ったのがわかった。

 

「「「……」」」

 

俺の話を聞いあと後誰も口を開かない。

 

「ごめんね。嫌な気分にさせたね」

 

「岸波くん、あなたが謝ることはないわ。今回の噂もすべてあなたが被害者じゃない」

 

「そんだよ!キッシーは何も悪いことしてないじゃん!」

 

「ありがとう。でも俺が間違った行動したせいで子猫たちも死でしまった。いや、俺が殺してしまった」

 

「岸波の行動は間違ってないと思うぞ。お前の話に出てきたヤツみたいのは岸波がどんな行動をしようと子猫たちを殺していたはずだ。お前が悔いて自分を責めるのは間違ってる」

 

本当にここにいる人は優しいんだな…。

 

俺の目にはここにいる人たちの言葉はウソではなく、心から想ったことを言ってくれているとわかる。

 

「みんなありがとう。少しだけ気が楽になったよ。それに死んじゃった四匹もしかりと同じ場所に埋めてあげたしね。あの子たちには本当に悪いことをしてしまった」

 

「仕方がないとは言わないけど、あなたは正しいことをしたわ。それは誇っていいことよ。それで最後の子猫がどうなったの?」

 

「最後の子は俺が家に連れて帰って育てたよ」

 

「それじゃあ、キッシーは猫を飼ってるの?」

 

「いや、あの子は野良猫って感じだから飼ってはないね。今でもよく遊びに来るよ。よく縁側で一緒に月見したり、日向ぼっこしたりしてるね」

 

今の話しに雪ノ下さんが少しだけ目をキラキラさせてる。前から猫好きだったもんなぁ。

 

明るい話にしよう。

 

俺は笑顔になってこの前のことを話す。

 

「でもこの前は驚いたよ。一週間ほど前のことなんだけどさ、一時期その子が来なくなって、どうしたのか心配してたらふらったやってきて、どうしてたか尋ねたら赤ちゃんが産まれたって言われたんだよ。その子猫たちは何処にいるか聞いたらさ、俺の家の倉にある毛布のところにいたんだよ。いやぁ、アレは驚いたな。まさかいつも使ってる場所にいたとは」

 

俺がこの前あったことを楽しげに話していると何故か他の三人が驚いている。

 

「ん?みんなどうかした?」

 

「いやぁなんか」

 

「キッシーのその話聞いてると」

 

「あなたがまるで猫と話せるみたいに聞こえるのよ」

 

「え?話してなかったけ?」

 

アレ?雪ノ下さんに言ってなかったけ?桜は知ってるし、カレンも知ってたよな。

 

「おかしすぎるだろそれ!何お前超能力者!?」

 

いや、魔術師の生まれ変わりだよ。

 

「そんな羨ま…そんなおかしな話は一度も聞いてないわよ」

 

「キッシーたまにおかしなこと言うよね。それっていつから?」

 

いつからだろう?アタランテにご飯作ったり、遊んだり、お菓子作ったりしてたせいかなぁ?

 

でも子猫たちが死んだときはなかったもんな。アレよりはあとだったな。

 

「雪ノ下さんと再会する前には話せてたね。まぁ話すというより、猫の言葉が理解できるって感じかな?それに前から動物には無駄に好かれてたから。犬とか、猫とか、キツネとか、竜とか、鬼とか、神とか」

 

それによく公園とかでぼーっとしてるといろいろな動物が集まってくるんだよなぁ。

 

セイヴァーさんみたいに悟りでも開いたかな?

 

「岸波、途中からウソ言ってるだろ。キツネはまだいいとして、竜っておかしいだろ。最後の鬼と神ってなんだよ!」

 

そうか?エリザベートには好かれているとは思ってるけど。

 

鬼は吸血鬼のモデルだったり、一騎当千の鬼のようは武人だったり。

 

それに俺の周りのサーヴァントって神の血が混ざってたり、神様の加護を受けてたり、神様の分身だったりとか、そんな人たちが多いんだよね。

 

「岸波くんのせいでかなり話が逸れてしまったけれど、その子猫は無事だったのね」

 

「そうだね。あの子だけでも救えることができて本当によかったよ」

 

「キッシーはその猫に名前とかつけてるの?」

 

「一応ね。名前は俺の知り合いの人の親友の名前からもらって、エルにした」

 

それにエルキドゥってなぜかすごくいい感じがするんだよな。なんか馴染むって言うか。

 

サーヴァントたちにどんな名前がいいか聞いて回ったら、やたら長かったり、センスがなかったり、神話の神様の名前だったり、とか変なのが集まって困った結果、ギルに頼んで親友の名前を使わせてもらった。

 

「岸波くん、今度その子を見に行ってもいいかしら?子猫も」

 

「あたしも見てみたいかも」

 

「別にいいよ。遊びに来てもいいし、休みなら泊まってても構わないし」

 

「岸波、お前すごいこと言ったな。女子に向かって泊まってもいいって」

 

「比企谷、お前も来てよ。多いほうが楽しいし、お菓子とかも作るし、ご飯も作る」

 

「至れり尽くせりだな」

 

「でもキッシーさすがにそれは無理じゃないかな?大勢で行ったら迷惑でしょ。ご両親とか」

 

そうか。俺が今桜と二人暮らしって誰も知らないわ。

 

「いや大丈夫だよ。今俺の家って妹と二人で住んでるし、部屋の数もいらないほどあるから」

 

「岸波くん、桜さんと二人暮らしって本当?トワイス医師はどうしたの?」

 

雪ノ下さんが少し怖いぞ。

 

「と、父さんは比企谷の入部した日に手紙だけ残して渡米して。もう連絡は取れないよ」

 

「それっておかしいだろ。絶対なんかあんだろ」

 

「そ、それじゃあ、お母さんは?」

 

「俺の家には、母親はいないよ」

 

雪ノ下さんは知っているけど、知らない二人は固まった。

 

「ご、ごめん。変なこときいちゃったね…」

 

「い、いや、大丈夫だよ。俺の家は少し複雑だから」

 

「複雑ってどう複雑なんだ」

 

「前に比企谷が材木座の写真に写ってる妹の写真見たて、俺と全く似てないって言ったろ」

 

「ああ、言ったな。それで雪ノ下に止められた」

 

「俺の家族さ、誰一人として血の繋がりがないんだよ」

 

「「え」」

 

二人は驚いた。まぁそうだろうな。そんな関係を家族だなんておかしいし。

 

「父さんはさ、仕事ばっかりの人で結婚とかしなかったんだよ。ずっと独身でね。そんなとき俺に出会って養子にとってくれたんだ。そのとき俺が五歳で、それから一年後妹が養子として来たんだ。それで今みたいな家族になったんだよ」

 

今は慣れてるみたいだけど、小学生になる前の桜なんておどおどしっててぎこちなくて、毎晩泣いてたもんな。

 

よく一緒に寝てたから、今でも俺の布団に入ってこようとするんだよな。

 

留美ちゃんのときは完全に入ってきたけど。思い出すだけであのときの桜の怖さが…。ガクガク

 

こうして今日の部活は戸塚くんの依頼と俺の噂の真相についてのことで終わった。

 

「そうだ。キッシーもう一つだけすごく気になる噂があるんだけどいいかな?」

 

「他になにかあるの?」

 

なんだろ?

 

「あたしが知ってる噂にさ、キッシーがキッシー宛てにきたラブレターを読まずに破って捨てた。ってのがあるんだけどホント?」

 

はい?

 

「…フッ、アハハハハ、ごめんね。笑い事じゃないね。でもそんなわけないよ。俺は、岸波白野は産まれてから一度もラブレターなんてもらったことなんかないよ。」

 

「え、そうだったの。意外かも」

 

「そう?俺なんてモテないと思うよ。顔も平凡だし、さっきみたいな噂があるから俺に対して好意を持ってくれる人はいないよ。いても妹の桜くらいだよ」

 

でもどうしてそんな噂が流れたのかな?

 

 

 

 

 

こうして俺は昼休み筋トレに付き合わされている。

 

参加者は戸塚くん、俺、由比ヶ浜さん、比企谷、材木座。なんで材木座がいるんだ?

 

材木座以外はジャージ姿。

 

雪ノ下さんは制服のままで指示だけをしている。

 

そんな筋トレの日々が過ぎて、今俺が戸塚くんとラリーをしているわけだ。

 

他のみんなはそれぞれ好き勝手に過ごしている。

 

雪ノ下さんは木陰で本を読んで、由比ヶ浜さんは雪ノ下さんの横で寝息を立てて、材木座は必殺魔球の開発、比企谷はコートの片隅でアリの観察をしている。

 

なんでこうなったんだ?

 

ラリーを続けていたが戸塚くんが打ったボールがネットに当たってしまった。

 

「戸塚くん、そろそろ休憩する?」

 

「だ、大丈夫だよ」

 

息を少しだけあがっているが大丈夫だろうか。

 

「でも、岸波くんうまいね。テニスとかしてたの?」

 

「前遊びでちょっとね。それに前から運動とかは少しだけは得意だったからね」

 

「そうなんだ。もしよかったらテニス部に入らない?」

 

なるほど、比企谷はこれにやられたわけか。

 

もう見るからに女の子にしか見えない子から上目使いで頼まれたわけか。

 

「お誘いは嬉しいけど、部活を架け持ちできるほど器用じゃないから、ごめんね」

 

ウソです。自分でもそこそこ器用だとは思います。

 

「そ、そうだね。無理言っちゃってごめんね」

 

「でも、練習に付き合って欲しければいつでも言ってね。俺も奉仕部のみんなも手伝うよ」

 

「ありがとう。岸波くん」

 

「うん。どういたしまして。それじゃ続きしようか。三カ所ぐらいから鋭い視線を感じる」

 

雪ノ下さんはサボっているから睨んでるとして、比企谷と材木座はなんで睨んだいるんだ?

 

アレか、俺が戸塚くんと話しているからか?

 

翌日、俺は雪ノ下さんの指示のもと戸塚くんが打ち返せないであろう場所にボールを打ち、転がっているボールを由比ヶ浜さんが拾い集めている。

 

「岸波くん、もっと戸塚くんの手が届かないように打ちなさい。由比ヶ浜さんは早くボールを集めて」

 

そんな感じで二十球ほどで戸塚くんがこけてしまった。

 

「うわ、さいちゃん大丈夫!?」

 

由比ヶ浜さんが戸塚くんに駆け寄る。

 

戸塚くんは擦りむいた足を撫でながら、にっこりと笑い無事を知らせる。

 

「大丈夫だから、続けて」

 

雪ノ下さんは顔を顰めて

 

「まだ、やるつもりなの?」

 

「うん…、みんな付き合ってくれるから、もう少し頑張りたい」

 

コードキャストを使えばすぐにでも治してあげたいけど、さすがに無理だよな。

 

「わかった。俺ちょっと保健室に行って救急箱借りてくるよ」

 

そういって俺はテニスコートを後にして、校舎へとむかった。

 

「で、雪ノ下さんはなんでついてきたの?」

 

「それはあなただけで行くのが非常に心配なのよ」

 

「俺ってそこまで頼りにならないの!?俺は方向音痴ではないと思うけど」

 

「あなたっていつもどうでもいいところでトラブルに巻き込まれるから、帰りが遅くなるでしょ」

 

「た、確かにそれは否定はしないけどそこまでひどくはないと思うよ」

 

「どうかしらね」

 

そんなことを話しながら保健室から救急箱を借りてテニスコートにむかう途中、テニスのユニフォームみたいなのとスコートを着た由比ヶ浜さんが右足を引きずって歩いてきた。

 

「ゆ、由比ヶ浜さん大丈夫!」

 

「大丈夫。少し捻ったただけだから。それでね、ゆきのんとキッシーに頼みたいことがあるんだ」

 

「「頼みたいこと?」」

 

 

 

 

 

「この馬鹿騒ぎは何?」

 

由比ヶ浜さんに頼まれて雪ノ下さんが由比ヶ浜さんと着ている物を交換して、今雪ノ下さんがユニフォームとスコート、由比ヶ浜さんが雪ノ下さんの制服を着ている。

 

いやぁさすがに外で着替えるのはダメだろ。俺は少し離れた場所で目瞑ってたよ。

 

ウソじゃないよ。ホントだよ。覗いてなんかいないんだからね!

 

「雪ノ下さん。トラブルに巻き込まれたのは俺じゃなくて他の人みたいだね」

 

「そのようね」

 

「あ、お前、どこ行ってたの?っつーかその格好なに」

 

比企谷が雪ノ下さんの今の格好について尋ねる。

 

「さぁ?私にもよくわからないのだけれど、由比ヶ浜さんがとにかく着てくれとお願いするものだから」

 

「このまま負けんのもなんかヤーな感じだから、ゆきのんとキッシーに出てもらうってだけ」

 

「なんで私が…」

 

「だって、こんなの頼める友達、ゆきのんだけなんだもん」

 

「とも、だち?」

 

「うん。友達。それでキッシーは大丈夫かな?」

 

「俺は大丈夫だよ。頼まれたら断る理由もないし。そうだ。由比ヶ浜さんあそこのベンチに座ってくれるかな?」

 

「いいけど、どうしたの」

 

「足を捻ったんだから、その手当。戸塚くんもいいかな?」

 

戸塚くんが審判の座る場所から降りてきた。

 

雪ノ下さんのほうを見ると何かぶつぶつ言ってるぞ。

 

「雪ノ下さん?大丈夫?」

 

反応がないなぁ。

 

仕方がないから雪ノ下さんの手を引っ張っていくか。

 

俺が雪ノ下さんの手を握ろうとしたら、顔を真っ赤にして手を引いてしまった。

 

俺ってスゲー嫌われてるんだな。悲しくなってきた。

 

「まぁ雪ノ下さんが気が付いたからいいか。まずはここから移動しようか」

 

そうして由比ヶ浜さんにベンチに座ってもらい、捻った右足を見せてもらい触ってみる。

 

「いたっ」

 

「ごめんね。それじゃあ、包帯とテープで固定するから」

 

俺は救急箱から包帯とテープを取り出してすぐに固定を始める。

 

固定が終わり、最後に「heal(16)…」コードキャストを使う。

 

捻った程度なら鳳凰のマフラーで充分だろ。

 

「キッシー、こういうのこともできるんだね。それで最後になんか言ってなかった?」

 

「おまじないみたいなモノだよ。痛いの痛いの飛んでけーみたいなの」

 

「子供みたい。でも本当に痛くない」

 

「うまく固定できたみたいだね。戸塚くんのもやってあげたいんだけど、そろそろ相手も待たせるのも悪いし、自分でできるかな?」

 

「う、うん。ありがとう。岸波くん」

 

「それじゃあ雪ノ下さん。行こうか仲間の借りを返しに」

 

俺は比企谷に近付いてラケットを借りる。

 

「なんでこんなことになったの?」

 

「よくわからんが、むこうさんがテニスで遊びたいんだってよ。それで勝った方が今後このコートを昼休みに使えて、戸塚の練習相手になるみたいなことになった」

 

「なるほどね。なら勝てばいいんだな」

 

「なんでそんな自信ありげなんだよ」

 

「自信なんかないよ。でも仲間を傷つけられたんだ、それ相応のことは受けてもらう」

 

俺は笑顔で答えた。

 

「たまに雪ノ下よりも怖いこと言うな」

 

「そんなんでもないよ。あれ見てごらんよ」

 

俺は雪ノ下さんと相手の女性が会話しているほうへ指をさした。

 

「雪ノ下サン?だっけ?悪いけどあーし手加減とかできないから。オジョウサマなんでしょ?怪我したくなかったらやめといたほうがいいと思うけど?」

 

「私は手加減してあげるから安心してもらっていいわ。その安いプライドを粉々にしてあげる」

 

雪ノ下さんがそんなことを言いながら笑みを浮かべる。その笑みで相手チームのペアが身構えた。

 

って相手の男子、葉山くんだ。久しぶりだな葉山くんとスポーツするの小学生以来かな。

 

「確かに、あっちのほうが怖いは」

 

「比企谷、相手の名前教えてもらえるかな?」

 

「確かうちのクラスのやつらで男子が葉山で、女子がお蝶夫人こと三浦だ」

 

お蝶夫人?なんかすごそうだな?

 

「わかった。それじゃあ比企谷はみんなと見ててくれ。面白いモノが見れると思うよ」

 

「あいよ。あとは頼んだ」

 

そう言って比企谷は手を振りながら、由比ヶ浜さんと材木座がいるほうへ歩いていった。

 

戸塚くんは手当てが終わり、審判の椅子に座る。

 

雪ノ下さんは三浦さんにむかって

 

「随分と私のとも………うちの部員をいたぶってくれたようだけれど、覚悟はできているかしら?念のために言っておくけれど、私こう見えて結構根に持つタイプよ?」

 

いや、みんなわかってると思うよ。

 

 

 

 

 

俺は屈伸や深脚などで柔軟体操をしながら相手を観察する。

 

さて、今の試合状況は三ゲーム中二つ取ったチームの勝ちのルールで、1:0で負けている。

 

勝つには残り二ゲームを取る必要がある。

 

で相手はサッカー部次期キャプテン候補でスポーツ万能のイケメン葉山隼人くんと、テニス経験者のお蝶夫人?こと三浦優美子さん。

 

一ゲーム終わっても息が乱れてないから体力はあるし、テクニック等も申し分なし。

 

でも、負ける気はしないな。ペアが雪ノ下さんだし、どんなにうまくても英雄たちほどでもないだろ。

 

「よし。やるか」

 

「ええ、サーブは相手からだそうよ」

 

「わかった。ねぇ雪ノ下さん」

 

「なにかしら?」

 

「雪ノ下さんはこういうのがうまいのは知ってるけど、体力がないから最初からとばさないようにね。俺もできるだけ君のサポートにまわるよ。だから俺を頼ってくれ」

 

笑顔で雪ノ下さんに言うと、雪ノ下さんが少しだけ頬をほんのりと赤くした。

 

「え、ええ、よろしく…」

 

「うん。それと後半は俺にもやらせて欲しいな。もう体育の時間じゃ誰も相手にしてくれないんだよね」

 

「それはどういうこと?」

 

「他の生徒たちに完勝しすぎたんだよ…。バカみたいに」

 

「……。この試合あなた一人で十分じゃない?」

 

「さすがにそれは……いや、そうかも」

 

自慢ではないが体力も十分あるし、サーヴァントを相手にするぐらいなら、人間を二人相手にした方が楽だ。

 

だけど…。

 

「だけど、こうして雪ノ下さんとライバルとしてでなく仲間として一緒に戦いたいんだよ」

 

「そ、私もあなたと一緒に戦えるのは嬉しいわよ」

 

雪ノ下さんが笑顔で答えてくれた。

 

「ありがとう。それじゃあ、仲間が受けた苦痛を返してあげるか」

 

こうして俺たちは自分達の定位置につく。

 

 

 

 

 




テニスバトルの手前ですね
ラブレターはまぁ予想は付いている人もいると思います

白野くんの『何か』は陽乃さんがいていた心の壁みたいなものです。実際は壁というよりも箱ですね。なかに『嫌なもの』を閉じ込めている感じです
その『嫌なもの』はまた別のときに書こうと思います

白野くんに猫と会話できるとかバカバカしいスキルを与えてしまった

次回はテニスバトル。たまには比企谷くん目線でも書きたいので、最初のほうは比企谷くんの目線で書いていこうと思っています

それではまた次回


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テニスで岸波白野の出番は少ない?

今回で戸塚回は終了
小説で言うと一巻が終わり、アニメでは4話目ぐらいかな?
原作でもあまりテニスバトルを長々と書いて無かったので、楽しめるかはわかりません

誤字もあると思いますので、あったら教えてもらえると嬉しいです。
それでは!!


 

 

 

 

 

俺はコートの二人を見て驚いた。

 

二人というよりも雪ノ下の笑顔を見てだが。

 

「あいつ、あんな顔もできるんだな」

 

思ったことが声に出てしまうほどに驚いてしまった。

 

「そうだね。ゆきのんの笑顔、あんなに素直な笑顔もできるんだね…」

 

由比ヶ浜も雪ノ下の笑顔を見たようだな。

 

「キッシーってすごいよね。あたしたちのできないことをやっちゃうんだもん」

 

「なにお前そのあとに『そこにしびれる。憧れるぅー』とか言うの?岸波を吸血鬼にでもしたいの?」

 

「何言ってんのヒッキー。キモいんだけど」

 

「…。うるせぇ」

 

由比ヶ浜にはまだジョ〇ョネタは早かったようだな。ってかキモいとか言うな。

 

「でも、憧れ、というより羨ましいって思う。料理も、ゆきのんのことも」

 

「まぁあいつら長い付き合いみたいなのがあるから、お前も雪ノ下とそういう関係になれんじゃねーの。料理は無理だと思うが」

 

「そうだといいなって料理のことは関係ないでしょ!ヒッキーマジでキモい!!チョームカつく!!」

 

「はいはい。そろそろ始まるみたいだな」

 

俺はごちゃごちゃ言ってる由比ヶ浜を無視しコートのほうを見る。

 

「あんさぁ、雪ノ下サンがしってるかしんないけど、あーし、テニス超得意だから」

 

サーブは三浦。三浦はテニスボールをバスケのドリブルの要領で投げては受けるを繰り返す。

 

三浦はにぃっと笑う。攻撃的な獣の笑顔。

 

「顔に傷とかできちゃったらごめんね」

 

…うわぁ、怖。

 

三浦のサーブ。ひゅっと鋭い風を切る音と、ボールを弾いた軽快な音がした。

 

打球は雪ノ下の左側に突き刺さる。右利きの雪ノ下にはリーチ外、左ラインぎりぎりに打ち込んできた。

 

最初の言葉はブラフか…。

 

だが雪ノ下はすでに迎撃態勢が整っているようで

 

「…甘い」

 

俺が見ている位置でぎりぎり聞き取れる囁くような声が聞こえ、左足を踏み込ませてそれを軸に、まるでワルツでも踊るかのように回転をした。

 

右手のラケットがバックハンドで打球を捕捉、居合抜きのような打球が一閃。

 

超高速のリターンエース。打ち返された打球は三浦の足元で弾けるように跳ね、三浦はそれに小さな悲鳴をあげた。

 

「あなたが知っているとは思わないけど、私もテニスが得意なのよ」

 

ここからじゃどんな表情をしているかわからんが、三浦が怯えと敵意が混じった目で雪ノ下を見ながら一歩下がった。

 

あの三浦があんなんだから、俺なんか死んじゃうと思うわ。

 

「ゆ、ゆきのんすごい」

 

「確かにあのブラフ見破って、アレを返したからな」

 

「ブ、ブラフ?」

 

馬鹿な由比ヶ浜にはブラフという言葉の意味がわからないようだ。

 

「ブラフってのはフェイントみたいなもんだ、相手を騙すためにわざとする細工みたいなことだよ」

 

「へぇ、そうなん…あ、あたしだって知ってるしそれぐらい!!そのグラフ?ってやつ」

 

「さいですか…」

 

すでに間違ってるよ。ブラフだよ。グラフじゃないぞ。いいや、由比ヶ浜なんてほっとこ。

 

それからも雪ノ下の攻撃は止まらなかった。防御すら攻撃。

 

打たれたサーブは確実に相手のコートに沈め、戻ってくる球は問答無用で押し返す。

 

「フハハハハハ!圧倒じゃないか我が軍は!薙ぎ払えーっ!」

 

勝利の臭いを嗅ぎつけた材木座がいつの間にかこっちに来て勝ち馬に乗ろうとしている。

 

とんでもなく腹が立つな。

 

だが実際、材木座がいるということは形勢が逆転したということ。

 

それにまだ岸波もいる。今回の依頼を見ていても岸波は戸塚よりもうまかった。

 

そんな岸波がまだ一球も打っていないところを見ると雪ノ下のすごさがよくわかる。

 

俺と由比ヶ浜、コートの中にいる岸波ですら完全にアウェー状態。

 

観客というか、観客の男子の多くは雪ノ下に熱視線を送っている。

 

雪ノ下は学園の広くに知られているし、あの美貌だ。

 

そんな雪ノ下を動かした由比ヶ浜は相当な勇気の持ち主だな。

 

その後も雪ノ下の活躍は止まることを知らず、岸波がサーブを打ってそれが返ってきても雪ノ下が打ち返し点にするみたいな感じになった。

 

岸波は打ち返したくてもそれを雪ノ下に取られて打ち返せずにゲンナリとしてるし…。

 

そうして雪ノ下のサーブ、高々と空へと放り投げる。ボールはコートの中央めがけて飛んでいく。雪ノ下の位置からは明らかに遠い。

 

ミスとも思ったが違う。雪ノ下は飛んだ。

 

右足を前に踏み出して、左足を送り、最後に両足で踏み切る、とてつもなく綺麗で軽やかな動き。

 

そうして空中でボールを打つ。

 

ギャラリーも、葉山も三浦も反応ができないほどにすごかった。

 

「…ジャ、ジャンピングサーブ」

 

俺はほとんど呆れながら口にしていた。

 

誰もが驚いたであろう、だが岸波はその速いサーブでも見慣れているかのようにただ平然としていた。

 

 

 

 

 

「で、雪ノ下さん。なんで最後の一点まで頑張ってるの?俺の番は?」

 

サーブ権は俺だが、なんかもう…って感じだ。

 

「ええ、私が出せる全力で体力の限界まで頑張ったわ。最後の一球は岸波くんに譲ることにしたわ」

 

「はぁ…、最終的には俺はまだ君の信頼には足りてないてことか…」

 

相手の行動や性格から相手の手の先読みなんてことができても、それをやる前に雪ノ下さんに全部持ってかれた。

 

「大丈夫よ。あなたのことを信頼しているからこそ最後はあなたに任せるのよ」

 

「言葉はいいようだね。まぁ雪ノ下さんは由比ヶ浜さんのために頑張ったから、文句は言わないけど」

 

さて、最後の一球はどうしたものか。サーブで決めてみるか?雪ノ下さんみたいにジャンピングサーブとか?ムーンセルで何度もしてるから十分できるだろうし。

 

「ねぇ岸波くん」

 

「どうかしたの?サーブ権は譲らないよ」

 

最後ぐらいは打たせてよ。

 

「そんなことはしないわよ。さっきも言ったけど体力の限界までやったから、サーブを打てたとしてもそれを打ち返されたら長引くでしょ、この勝負」

 

「じゃあなにかな?少し嫌な予感がするんだけど」

 

雪ノ下さんは俺に近付き小さな声で

 

「もしあなたがサーブをするとき魔法を使ったらどうなるのかしら?」

 

もしかしてこの大勢いるところで使えと?コードキャストを。

 

「もし、だよね?そうだなぁ…予想は俺以外は見ることができないぐらい速くて、人間とは考えられないほどの威力を持ったサーブになるかな?直接当たったら骨折じゃすまないだろうね」

 

「なるほど…」

 

雪ノ下さんが良からぬことを考えているぞ。

 

「雪ノ下さん、俺はそんなことしないよ」

 

そんなことしたらカレンに怒られる。前からカレンに馬鹿みたいに魔術を人前で使うなって言われてるんだよ。

 

雪ノ下さんにバレたときにカレンから受けたお仕置きが…。ガクガク

 

「岸波くん。今、私の前で私以外の女性のことを考えたでしょ」

 

「へ?」

 

雪ノ下さんは怖い目つきになり、そのあと笑みを浮かべて相手の葉山くんと三浦さんのほうを向いて

 

「あなたたちにチャンスをあげるわ」

 

やばい。これはやばいぞ。

 

「はー。チャンス?」

 

「まぁまぁ、優美子落ち着いて。それで雪ノ下さん。チャンスって何かな?」

 

「どうせ次、私たちが点を取れば私たちの勝ちになるでしょ」

 

「なに勝った気でいんの?」

 

「実際にそうでしょ。だからチャンスをあげるわ」

 

雪ノ下さんの言葉に三浦さんがムカついている。って雪ノ下さん絶対に俺にコードキャスト使わせる気だ!!

 

「次の彼のサーブを打ち返すことができたら。あなた達の勝ちにしてあげるわ」

 

雪ノ下さんの言葉に相手どころか、仲間やギャラリーもざわめく。

 

「ちょ、雪ノ下さん!?ご、ごめんなさい…」

 

睨まれた。やばい逃げ場がない。

 

コードキャストを使わずにサーブを打って、もし打ち返されたら負けだし。負けたせいで依頼放棄、由比ヶ浜さんの頼みを裏切る、雪ノ下さんからお仕置き。

 

だが使ったら使ったで、周りから恐怖で避けられる、カレンからお仕置き。

 

クソっ!どっちも嫌だ!

 

そ、そうか相手がこれを断ればいいんだ!それしかない。

 

「意味わかんないんだけど」

 

よーし。そのまま…

 

「あら、自信がないのかしら?」

 

それはダメだぁ!俺が見る限り三浦さんは雪ノ下さん程ではないけどかなりの負けず嫌いだ。それを言ったら絶対に乗ってくる。

 

三浦さんは雪ノ下さんの挑発を受けて雪ノ下さんを睨みつけた。

 

「いいしょ。そのチャンスだか受けてやるし」

 

も、もうやるしか…、ま、まだ葉山くんが…。

 

葉山くんに視線を送ると

 

ニコッ

 

「……」

 

その優しい笑顔が今は辛いよ…。

 

「それではチャンスを受けるってことでいいのね」

 

雪ノ下さんは相手に背を向けてこっちに戻ろうとした途中

 

「彼まだ本気出してないみたいだから、しっかりと見ておいた方がいいわよ。ボールが目では追えないほど速いみたいだから」

 

その一言でさらにギャラリーがざわめく。大半が馬鹿にしているような感じだが。

 

俺は戻ってきた雪ノ下さんに

 

「雪ノ下さん。本気でやらないといけない?こんなに人がいるのに」

 

「いいえ、使わなくてもいいわよ。相手に打たれなければ」

 

「……」

 

あれだな…もういいか、カレンにもバレなければいいんだし。

 

「わかった。それじゃやるけど、嫌わないでね」

 

「あなたを嫌いになるわけがないでしょ。今さら何をって感じよ」

 

「そうか。一人ぼっちになるわけじゃないなら大丈夫かな。周りがいなくなっても君だけでも残っていてくれるなら…。それじゃ少し離れて、というかコートから出た方がいいかな」

 

「ええ、よろしく」

 

雪ノ下さんは俺から距離を取りコートから出る。

 

「……」

 

俺は深呼吸をして息を整え、心の中を穏やかにする。

 

 

 

 

 

俺の異変にざわめきが消えた。

 

異変と言っても魔術の使えない人間の目には全くわからないだろう。

 

だが空気のようなモノ、悪寒や寒気のようなモノは感じ取れる。

 

まずはコードキャストのことについてだが、この世界と前の世界では大きな違いが二つある。

 

まずはコードキャスト、礼装の装備状態だが前は礼装は二つまでしか装備できなかった。だが今は、俺の電子手帳に礼装が収納されていて、それが全て装備されている状態になっている。

 

コードさえ覚えていればいくらでも使えるし、礼装の具現化もできる。

 

魔力の量に限っては下級サーヴァントぐらいはあるだろう。

 

もう一つはコードキャストの対象について。

 

コードキャストはサーヴァントのサポートに使うモノとして見ていいだろう。

 

だがこの世界にはサーヴァントはいない。この世界でコードキャスは人や動物、自分に使うことができるようだ。

 

入学式のとき比企谷の足を治したときも、さっき由比ヶ浜さんのときも。

 

そのとき使ったのは回復系のコードキャスト、人体になんの影響もなく使える。

 

今回使うのは強化系のコードキャスト。強化できるのは魔力、耐久、筋力の三つ。まぁ幸運もあげるモノもあるが。

 

まずは魔力の強化。これは滅多に使わない。これは魔弾などの魔術攻撃の威力を上げるためのモノで、コードキャストの威力が上がるわけだはないから俺が使う意味がない。

 

次に耐久の強化。これは魔力によって、服や装備、身体の作りを頑丈にして防御力を上げるモノ。

 

最後に筋力の強化。これは非常に危ない。魔力によって脳がやっている力の規制、リミッターを外して筋力を無理矢理上げる。

 

使ったら身体えらいことになる。簡単に言うとサーヴァントと人間では身体の作りが違うから、人間の身体では耐えきれないということだ。

 

中学のとき、子猫のを殺されたときや雪ノ下さんにバレたときの翌日、身体中が筋肉痛や肉離れでひどいことになった。

 

骨折や内出血などにもなるが、それらは回復系のコードキャストで何とかなる。

 

ただ、筋肉痛や肉離れは身体の疲労のため、コードキャストではどうにもならないわけだ。

 

明日は筋肉痛かな…。

 

今回使うのは筋力の強化、だがそのまま使うとアレなので最初に身体の耐久の強化をする。

 

「gain-con(32)…」

 

これは身代りの護符のコードキャスト、耐久を大幅に強化する。

 

自分の身体を守るように魔力を構築する。

 

次が筋力の強化。

 

「gain-str(32)…」

 

これは古びた神刀のコードキャスト、筋力を大幅に強化する。

 

実際はこの大幅に上げるモノでなく、普通の強化、守りの護符と錆び付いた古刀で十分に足りる。次の日のことを考えると使いたくはない。

 

だけどどうせやるなら本気でやってみたい。カレンにはバレなければいい。もしバレたときのお仕置きは怖いけど…。ええい、ままよ!もうどうにでもなれ!

 

目に魔力を送る。

 

準備は整った。

 

静まりったテニスコート。ギャラリーも誰一人として声を出さない。

 

俺は雪ノ下さんのようにテニスボールを上へと放り投げる。

 

ジャンピングサーブのモーション。俺はボール目がけて飛ぶ。

 

雪ノ下さんのように綺麗なものとはいかないが、力強く、俺の出せる全力を込めて打つ。

 

俺が振ったラケットはしっかりとボールを芯に捕らえた。そのときボールが消え、爆発音にも似た音を上げる。

 

俺の魔力を込めた目には見えるが、他の人には追うこともできないだろう。

 

速さは音速、マッハに入っていると思う。

 

俺は落下しながらボールの動きを見る。

 

ボールは葉山くんと三浦さんの間のラインの右、葉山くん寄りに着弾。そのまま地面を飛び上がり、後ろへと飛ぶ。

 

俺の計算では金網に当たらないようにグラウンドに飛ばすように打った。金網に当たったら、貫通してギャラリーから怪我人が出るはずから。

 

このままグラウンドに飛んでくと思ったボールはなぜか金網の上の鉄枠へ当たりこっちのほうへ…。

 

やばいな。もしかしたらこっちに返ってくるかな?

 

普通は入射角から考えて斜め上に飛ぶと思うんだけど…、俺の運の無さがここまでとは…。

 

俺が着地したときにはもうこっちのコート入る手前、テニスボールに俺のむかってくる。

 

避けれないな。避けれはするが、避けたら後ろにいる誰かに当たる。

 

それだけはさけなければ、そんなことを考えていると反射的にボールを掴もうと俺の左手が動く。

 

右手はさっきのサーブで感覚がないのでお休み中。

 

まだ筋力強化と耐久強化が残っているからなんとかなるかな?

 

左手でボールの衝撃を逃がすように引きながら掴むが、さすがに痛いし熱いし重い。なんかやばいぞ。

 

左手の皮が摩擦で焦げ、衝撃で骨が軋む。だがここで止めないと怪我人が出てしまう。

 

しっかりとボールを握り抑え込む。

 

…なんとか左手だけで取れたけど、指や掌の骨にひびでも入ったかな?だって痛いもん。

 

ここまでほぼ一瞬のできごと。ボールが消え爆発音にも似た音が起き、俺の着地時に手元に返ってきた。それと同時に鉄枠から異常な音が聞こえた。

 

常人にはなにが起きたかわからない。

 

この場にいる全員が呆然と俺のことを見ている…。恥ずかしいから止めてほしい。

 

「雪ノ下さん。これで俺たちの勝ちでいいのかな?」

 

「え、ええ、相手は打ち返せなかったみたいだし」

 

やれと言った雪ノ下さんですら今の状況を理解できてないようだが、どうしたものか。

 

「き、岸波」

 

おや?材木座が呼んでいるぞ。

 

「どうした材木座」

 

「さっきのは…」

 

「サーブだけど?」

 

「わ、技名はなんと言う?」

 

わ、技名?どうしようそんなの考えてないな…。

 

「え、えーっと『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』?(仮)で」

 

ごめんアーチャー。よくわからないけど技名を使わせてもらうね。

 

技名を言った瞬間、カラドボルグ…、とギャラリーがささやく。

 

「雪ノ下さん。この空気どうしよう?」

 

「私に言わないで、あなたがやったことでしょ」

 

「君がやれって言ったことだよ…」

 

もう終りにして、両手の治癒をしたいんだが…。

 

「えーっと、葉山くんと三浦さんだっけ?今回は俺たちの勝ちでいいかな?」

 

「え、あ、うん。岸波くん達の勝ちだね。みんなこれで終わりだ。帰ろうか」

 

葉山くんがそういうとギャラリーの人たちがどんどんと去っていく。

 

そうして一、二分で残されたのは奉仕部側の人たち。

 

「それじゃあ、俺たちも帰って授業の準備を…、どうしたのみんな?」

 

みんなが未だに理解ができないような顔をしている。仕方がないけど…。

 

「岸波。お前はさっきなにをしたんだ?」

 

比企谷はそう尋ねてきた。俺もなにを言われているかはしっかりと理解した上で。

 

「サーブだよ。俺が出せる本気のね」

 

「そうだとしても異常すぎるだろ。本気つっても限度がある」

 

「じゃあ、比企谷は俺がなにとしたと思う?」

 

「わからない。だから聞いてるんだ。ここにいる全員が、いや、雪ノ下は別みたいだが」

 

比企谷はここにいる全員の顔色で真実を知っている人間を当てたわけだ。

 

俺は辺りを見回し、人気がないのを確認。今残っている人間は奉仕部の四人と戸塚くん。材木座は帰ったようだ。

 

言った方がいいかな?でもさすがにまだ無理かな。ここにいる人間は優しい人たちなのは十分わかっている。だが、優しいからといって魔術を教えていいというわけではない。カレンのお仕置きが怖いし。

 

「また今度でいいかな?」

 

「ここで逃げるのか?」

 

「前の言ったろ、前に進むには逃げることも大切なことだ。まぁあと数カ月もすれば言うよ。絶対に」

 

あの日が来る前には絶対に…。

 

「…そうか。ならそのときが来るまで待つことにする。にしても、どうすればあんなことになんだよ」

 

相手コートには焦げた跡。鉄枠はボールが当たった部分が食い込むような形に曲がっている。

 

「岸波って『無我の境地』に入ったどこぞの王子様?」

 

「魔術師の生まれ変わりだよ」

 

「お前その設定好きだな。テニスにそんなもん関係ねぇだろ」

 

「確かにそうだな。もうじき昼休みも終わるから帰ろうか」

 

そうして各々のペースで歩き始めた。

 

 

 

 

 

俺は一番後ろを一人で歩いていると雪ノ下さんが俺の横に来た。

 

「どうしたの?」

 

「ごめんなさいね。私が勝手なことを言ってしまったせいで」

 

ならやらせないでよ…。でも

 

「謝らなくてもいいよ。最終的に俺の意思でやったことなんだし」

 

「あなたは変わらないわね」

 

「そうやって進んできたからね。」

 

実際、人間は多少の県境の変化では性格は変わらないと思うけど。

 

「そうね。ねぇ岸波くん。両手見せてくれないかしら?」

 

「ん?どうして?」

 

急にどうしたのかな?もしかして気付いちゃった?

 

「みんなはサーブのことで気が回らなかったみたいだけれど、サーブを終えてからあなたの右腕動いていないし、左手で握っているテニスボールに血が付いてるわよ」

 

「え?ホント!?」

 

ボールを見ると確かに付いてるな血。

 

「いつまでテニスボールを握っているつもり?」

 

「いや…、それが、指が全く動かないんだよね…」

 

そうなんだよ。さっきから動かそうと頑張ってるけど動かないんだよなぁ。

 

もしかしてひびどころか、砕けたかな?

 

「あなたの感覚で今の両腕はどんな感じ?」

 

雪ノ下さんが心配そうに聞いてきた。

 

「そうだなぁ。右腕は神経断裂。左手は各骨が粉砕骨折で、摩擦熱による火傷と出血って感じかな?あと明日は筋肉痛」

 

「岸波くん。それは重症っていうのよ。痛くはないわけ?」

 

「大丈夫だよ。痛さはないよ。というか感覚がないから痛さを感じないのかな?ちょっと待ってて魔法で治すから。recover()…」

 

赤原礼装のコードキャストを使うと身体の痛みが消えていく。

 

両手の指を動かしてみる。うん、動く。少しぎこちないがもう一回やれば完治できるかな。

 

「recover()…」

 

今度はしっくりとくる。右腕も動くし、左手が握っているテニスボールを右手で持って、左手を動かしてみる。大丈夫。

 

「完治できたみたい」

 

そう雪ノ下さんに告げると心配そうな表情が少しだけ和らいだ。

 

「そう。よかったわ。でもあなたのサーブ、どうして手元に戻って来たかはあの現状からなんとなくわかるけれど、あなたなら避けられたんじゃないかしら。私を助けてくれたときだって…」

 

雪ノ下さんはあのときことを思い出しているようだ。

 

「確かにぎりぎり避けることはできたかもしれないけど、避けたら後ろにいたみんなに被害が出ちゃうからね。狙いでは鉄枠に当たらずにそのままグラウンドに飛んでいくはずだったんだけど…、俺の不幸体質のせいだな…」

 

「あなたは優しいわね」

 

「普通だよ。自分のせいで怪我人を出すわけにもいかないだろ。そうわかっていたら誰だって俺と同じ行動をしたはずだ」

 

俺がそういうと雪ノ下さんは俺の正面に立ち、俺の左手を包むように両手で握って

 

「そうだとしても、自分の身体を大事にしなさい。魔法が使えてすぐに治せてしまうとしてもよ」

 

この子は俺のことを心配してくれるんだな。

 

「わかった。今度から気を付ける。でも、もし俺が魔法を使えなくても、大切なモノが傷つくことがあるなら、俺は自分の身体は二の次にするよ」

 

雪ノ下さんは俺の言葉で悲しそうな顔をしてしまったが、これだけはどうしようもない。これが俺の、岸波白野の生き方だから。

 

俺は雪ノ下さんの頭を撫でて

 

「まぁそんなことにはならないと思うよ。この世界は残酷ではあってもけして悪い世界ではないから見放されることはないよ。誰にだって救いはあるはずだ」

 

「あなたの言葉の意味はよくはわからないけれど、あなたが傷つくことはないのね?」

 

俺は笑顔で「そうだと思うよ」と答えた。

 

「でも岸波くん。今回は本当にごめんなさい。少し考えが足りなかったわ」

 

「珍しいね。雪ノ下さんがそんなことするって」

 

雪ノ下さんは呆れながら

 

「あなたって本当に変わらないわね。やっぱりあなたは少しは変わった方がいいんじゃないかしら?」

 

「どうして!!」

 

 

 

 

 

そうして部室に帰ると、廊下で比企谷が倒れていて、それを戸塚くんが心配そうに見ていた。

 

雪ノ下さんはそれを無視して部室内に入る。

 

「戸塚くん、比企谷はどうかしたの?」

 

「え、えっとね。比企谷くんが部室に入ろうとしたら中からラケットが飛んできたの」

 

うん。意味がわからないや。

 

耳を澄ますと中から会話が…

 

『ゆきのん。ヒッキーに覗かれた』

 

『やっぱり彼は一度、平塚先生にどうにかしてもらう必要がありそうね』

 

なるほど、比企谷が入ったときちょうど由比ヶ浜さんが着替え中だったわけか。

 

「比企谷、ラッキースケベだな!」

 

「……」

 

返事がない、ただのし―――

 

「だから誰が屍だ!」

 

まぁ俺は着替えを別の場所でするからラケットが飛んでくることはないな。

 

ん?携帯にメールの着信があった。送り主はカレン…。

 

機械音痴のカレンがメールって…。

 

内容は…。

 

『宝籠は梨がりあります』

 

なんだこれ?えっと『ほうかごはなしがあります』、『放課後話があります』かな?

 

変換ミス、携帯で?って絶対に説教だよな…。

 

「はぁ…」

 

俺は大きなため息をつく。

 

放課後、俺は大丈夫だろか…。

 

 

 

 

 




今回で軽くコードキャストについて書いてみました
白野くん少し人間の域を超えてしまった気がします

雪ノ下さんが言っていた『私を助けてくれたとき』とは白野くんが言っている『コードキャストが雪ノ下さんにバレたとき』のことです。これは過去話みたいな感じで書こうと思っています

次回は原作通りにチェーンメールの回を書こうか、それとも雪ノ下さんが白野くんの家に猫を見に行く話にしようか悩んでいます

それでは次回に!


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テニスの後とゴールデンウィークのこと。

原作通りか追加話かで悩んで、少し投稿が遅れました
結果、後者にしました

楽しんでもらえると幸いです



 

 

 

 

 

放課後、カレンに呼び出されたはいいけど、俺は何所に行けばいいんだろ。

 

場所がわからないとなると仕方がないからカレンのクラスにでも行くか…。

 

カレンは国際教養科だから一年J組に行けばいいかな。

 

俺が教室を出ようとしたら雪ノ下さんが

 

「岸波くん、一緒に部室に行きましょ」

 

「ごめん。ちょっと用事があるから部活には遅れるよ。それじゃあまた部室で…」

 

俺が雪ノ下さんの誘いを断りカレンを探しに行こうかとしたら、雪ノ下さんに腕を掴まれた。

 

「えーっと…、雪ノ下さん?」

 

なんだろ…、この威圧感。

 

「岸波くん、一緒に部室に行きましょ」

 

「いや、だから」

 

「行きましょ」

 

「……。はい…」

 

仕方がない。部室に鞄を置いてからカレンに会いに行こう。

 

一応メールしておくか。カレン、メールぐらいは見れるよな。変換ミスはあっても携帯の使い方は前よりはうまくなってるし、ついでに何処に行くか聞いてみるか。

 

『少し遅れるので、行く場所を教えてもらえると嬉しいかな』

 

こんな感じでいいかな。送信。

 

「岸波くん。歩きながら携帯を使うのは行儀が悪いわよ」

 

「ご、ごめん。少し遅れるってメールを送ってたんだよ」

 

「そんなに言峰さんに会いに行きたいのかしら?」

 

「会いに行きたくはないけど、あとが怖いんだよ」

 

まぁ行っても怖いが。

 

「それでどうしてわかったの?」

 

「あなたが部活に遅れる理由は頼まれ事がほとんどでしょ」

 

確かにそうだな。

 

「遅れるということは学校内にはいるということで桜さんの可能性はなくなり、メールを送る辺りで先生方ではない。そうなると奉仕部部員か言峰さんのどちらかになる。そして部員に会うなら部室で待てばいい。だからあなたが言峰さんに会うことがわかったのよ」

 

「すごい推理力だね」

 

「これぐらいは簡単よ。あなたや姉さんほどではないもの」

 

「俺は陽乃さんほどすごくはないよ」

 

「どうだか」

 

俺と雪ノ下さんが部室についてもカレンからメールはこなかった。返信ができないのか?

 

「それじゃあ、俺、少し行ってくるよ」

 

「ええ、いってらっしゃい」

 

俺は部室を出て電子手帳を取り出し「view-map()」遠見の水晶玉でカレンの位置を確かめる。

 

「ここって校舎裏だよな」

 

いかにもな場所に呼ばれたな…。

 

覚悟して行くぞ。前のお仕置きはかなり辛かったからな。今回はどうなることやら…。

 

校舎裏、カレンを発見。

 

「カレン、ごめんね。少し遅れたよ」

 

俺が話しかけながらカレンに近付くとさっきまで物影で見えなかった二、三人の女生徒。

 

女生徒たちは俺の姿を見てから少しざわめいた。

 

どういう状況?

 

「ほ、本当だったんだ」

 

「うそ…」

 

何がだろう?

 

「ウソではありませんよ。彼は、岸波白野先輩は私の彼氏ですよ。そうですよね、白野先輩」

 

「あ、はい」

 

ん?彼氏…?ええぇぇぇ!!

 

 

 

 

 

「ということです」

 

「そういうことですか…」

 

女生徒たちがいなくなった後、どういうことかをカレンに尋ねたら、わからなくもない理由であった。

 

どうやらカレンは一年のほうでは有名な方で、告白してくる男子も多いらしい。

 

カレンはその告白を片っ端から一刀両断しているため、カレンのことをよく思っていない女生徒達が「あなたモテるからって調子にのってない?」みたいに言われ。

 

告白を断っている理由は彼氏がいるからとウソをついたようだ。で、仲のいい俺に白羽の矢が立ったわけだ。

 

「他にいい手はなかったのかな?」

 

「恋愛に興味がないと言うのもよかったのですが、その場合だと相手からさらに文句を言われそうなので」

 

「それもそうか」

 

そうなるとカレンには俺が今日コードキャッストを使ったことがバレてはいない!

 

カレンはあの場にいなかったし、この学園の生徒は俺の名前は知らないはずだから、カレンにバレるはずがない。

 

この勝負俺の勝ちだ!

 

「ならカレン、用事も済んだみたいだから俺は部活にむかうね!」

 

俺は颯爽とこの場を去ろうとしたら、カレンに腕を掴まれた。ナニコレ、デジャヴ?

 

「それでは本題に入りましょうか。白野先輩」

 

「カ、カレンさん?ほ、本題とは?笑顔が怖いですよ」

 

「しらを切るつもりですか?あれほど使うなと言ったはずなのに」

 

「なんのことでしょう?俺にはわからないなぁ」

 

「わかりました。しらを切るというならこっちにも考えがあります」

 

ふ、カレン。俺はそう簡単には言わないさ、暴力だろうと罵倒だろうと耐えてみせる!

 

「今度からマカナイの麻婆豆腐を甘くしてあげましょう」

 

「すいませんでした!!」

 

俺は全力で土下座をした。俺の中で一番じゃないか?

 

麻婆豆腐が甘いなんて…。無理だ!考えたくない…。

 

エリザベートの料理を思い出すのと同じぐらい嫌だ。

 

それにカレンならやりかねない。麻婆豆腐がエリザベートの妄想(甘いケーキに甘いハチミツをかけた感じ)みたいな甘いスイーツに…。

 

「白野先輩。素直に謝ったことは許してあげます」

 

「カレンさん?」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「なぜ俺の頭に足を乗けて踏みつけてくるのでしょうか?」

 

俺が土下座してからずっとグイグイと踏みつけてきてるし…。

 

「主の命令を背くペットには躾が必要でしょうから」

 

「俺はいつからカレンのペットになったの!?それに俺のほうが目上だよ!」

 

「それは白野先輩が忠誠の誓いに私の足を舐めたあの日からです」

 

「そんな日はなかったよ!あとこれからも絶対にこないからね!」

 

「白野先輩、泣くなんて男らしくありませんよ」

 

「泣いてないよ!」

 

実は少し泣きそうだよ…。もしかしたら人が来るかもしれない場所で、後輩の女の子に踏まれている状況とか、知り合い、特に奉仕部メンバーには見られたくない。もし見られたら今後地獄だろ。

 

「顔を上げて下さい。白野先輩」

 

カレンがそう言ってくれるのだが…

 

「それなら足をどかして下さい。カレンさん」

 

「ああ、すみません。踏み心地がよかったもので、つい」

 

カレンは名残惜しそうに足をどけたので、俺は顔を上げる。

 

この角度はアレだな。カレンの下着が見えてしまいそうだ…。

 

俺も男だから女性に下着の色には興味はある。でも男である以前にカレンの兄のような立場。そんなことはしない。俺の中のオヤジは見たがっているが…。

 

俺は立ち上がろうとしたが

 

「頭は上げて下さいとは言いましたけど、立っていいとは言っていませんよ」

 

「……」

 

仕方がない。顔を逸らそう。

 

「白野先輩は話している相手の顔を見ないんですか?」

 

見れないんだよ!わざとか?わざと俺をからかっているのか?もしそうだとしたら相当の悪女ですよカレンさん。

 

もういい!いいだろう、からかっているのならこっちはそれを全力で受け止めてやるまでだ!

 

俺はカレンの顔を見る。ついでに下着が見えた。カレンは制服のときはいつもタイツを穿いているから正しい色はわからないが、白だ!俺の目に狂いはない。

 

サクラメイキュウでのSG回収のときも何故か一緒に好きな下着の色も調べていた俺の目にはわかる。というかなんで調べてたんだ?

 

まぁラニとBBとメルトは調べるまでもなかったような…。

 

でも白ですか…、カレンらしいといえばカレンらしい色だけど、なんだろうなぁもう少し…って何を考えてるんだ俺は。

 

「それでは約束も守れない白野先輩にはどんなお仕置きをしましょうか」

 

「あ、あのー、なしって方向性は…」

 

「可愛い後輩の下着に夢中な変態に拒否権があるとでも?」

 

気付かれていた!っていうか仕向けられてた!?

 

「カレンが可愛いのは認めるが、俺が変態のなのは間違い…ではない気がするな」

 

どうなんだ?俺ってオヤジがいなくても十分変態なのだろうか?

 

「って、気付いているならなんで何も言わずにいるの!?女の子なんだから恥じらいぐらい持ちなよ!!」

 

「白野先輩は自分のペットを相手に恥じらいを持つんですか?」

 

「そ、そういうことですか…。後輩からペット扱いっての俺って」

 

カレンにとっての俺って人間じゃあないんだな…。

 

まさかここまで辛いとは、こっちは妹のように思っていたのに、むこうはペットかぁ。スペシャル犬空間に落とされたりして。

 

そんなのは嫌だ!

 

なら俺の取る行動は一つ。俺は立ち上がる。

 

「白野先輩。どうして立ち上がるんですか?まだ座ってい―――」

 

「カレン!」

 

俺はカレンの肩に手を置く。

 

「は、はい」

 

「俺はカレンとの関係(ペットと主)を終わらせたい」

 

「え…」

 

俺の言葉にカレンは泣きそうになった。そんなに俺と対等になるのが嫌なの…。

 

「は、白野先輩は私のことが嫌いなんですか?」

 

「そうじゃない。俺は君を大切(な妹のよう)に思っている。だから、カレンには俺のことしっかりと(人として)見てほしいんだよ。今の(ペット)ままじゃ嫌なんだ」

 

今度は顔を赤くした。

 

「わ、私もそ、その、白野先輩と…そういうのは、とてもう、嬉しいですけど…、ま、まだ少し早いかと、それにこ、心の準備が…」

 

なんか少し会話がかみ合っていない気がするが、まだダメってことなんだな。

 

「そ、そうか…ごめんね。わかったよ。俺はもう少し頑張ってみる。カレンに(人として)認められるように」

 

なんかすごく重い空気になったな…。

 

「カレン。俺はどんなお仕置きを受ければいいかな?」

 

「い、いいえ。今回は許してあげます」

 

「え?」

 

「こ、今回だけですから。それでは…」

 

カレンは帰ってしまった。

 

「どうしたんだろう?助かったからいいけど、俺変なこととか言っちゃったかな」

 

 

 

 

 

カレンはあの日以降は特に変化もなく、前と同じように接してくれている。

 

こうして数日、ゴールデンウィークが始まり、俺は勉強とプログラムの息抜きに縁側でボーっと緑茶を飲んでいた。

 

数分前に元子猫ことエルが膝の上で寝ている。エルは野良猫とは思えないほど綺麗な毛並みをしている白猫(メス)。一人称はボク。俺のことを何故かマスターと呼んでいる。

 

俺はエルの頭を撫でたりして、お茶を飲んだりしている。

 

「いやぁ、平和だな。ん?」

 

なんか門のところに誰か立ってる。ってアレ雪ノ下さんだよね。

 

「エル少しどいてくれるかな?」

 

『どうしたのマスター?』

 

「知り合いの人がいたから話してこようかなって」

 

『そうなんだ。わかったよマスター』

 

エルは俺の膝の上から降りて俺の横で丸くなる。

 

俺が頭を撫でると気持ちよさそうに寝始めた。

 

「よいしょっと」

 

俺は縁側にあるサンダルを履いて雪ノ下さんに近付く。

 

「えーっと、雪ノ下さん?」

 

「ひゃっ、き、岸波くん」

 

「どうかしたの?」

 

「ええ、前言ったと思うけど猫を見に来たのよ。だからあなたにメールをしようと思ったのだけど、携帯を忘れてしまったから、入ろうか悩んでいたのよ」

 

なるほど…。

 

「予め連絡してくれれば迎えにいたのに、それに何もお持て成し用意してないよ」

 

「別に構わないわ。猫を見せてもらえて、泊まらせてもらえれば」

 

「そうかわかった。って泊まってくの!?」

 

「あなたが休日なら泊まってもいいて言ったじゃない。岸波くんは記憶力はまぁまぁいい方だと思ったのだけれど考え直す必要がありそうね」

 

「忘れてはないよ。それに泊まってもらえるなら俺も桜も嬉しいんだけど、さすがに急すぎたから」

 

俺はてっきりみんなで集まると思ってたし。

 

「それで、泊まっていってもいいのかしら?」

 

「いいけど荷物とかは大丈夫だった?」

 

雪ノ下さんは高校から親元を離れて一人暮らしをしているから家のことの心配は少ないけど。

 

「ええ、心配はいらないわ。しっかりと持ってきたわ」

 

携帯を忘れている時点で少し心配だよなぁ…。

 

「ここで立ち話しているわけにもいかないから中に入ってよ。それともエルに会う?」

 

「そうにならその猫に会わせてもらえるかしら」

 

「わかった。付いてきてよ」

 

俺は雪ノ下さんを連れてさっきまで俺とエルがいた縁側に行く。

 

雪ノ下さんは縁側で丸くなっている白猫を見て目を輝かせる。

 

「エル」

 

エルは俺の声を聞いてこっちを向く。

 

『なにマスター?その隣に人は今度こそマスターの彼女?』

 

今度こそってなんだよ。

 

雪ノ下さんにはニャーニャー言っているようにしか聞こえないだろうな。

 

「違うよ。この人は俺の…友達候補?」

 

『よくわからないけど、マスターがさっき言ってた知り合いの人?』

 

「そうだよ。この人は雪ノ下雪乃さんって言うんだよ。エルとエルの子どもたちを見に来たんだって」

 

『優しい人?』

 

「うん。それは大丈夫。この人はいい人だからエルも気に入ると思うよ」

 

それを聞いてエルは雪ノ下さんに近付いてじーっと見て観察を始める。

 

「岸波くん、さっきから何を話していたの?というより本当に話ができたのね」

 

「ウソだと思ってたんだね。でも話はできても会話は聞こえないんだよね」

 

「どういうことかしら?」

 

「俺は自分が話そうとしている猫と会話ができて、それ以外の猫同士の会話や話をしている対象の猫以外の言葉はわからないんだよ」

 

「なるほど、同時に会話したり猫たちが何を話しているかはわからないのね」

 

「そういうことだね。これから聞こえるようにはなるかもだけど」

 

エルは雪ノ下さん観察を終えて俺の胸に飛び込んできた。

 

「どうだった?」

 

『うん。この人は優しい人だね。少しマスターと似てるところがあるし、ボクと同じでマスターのことを信頼してると思う』

 

思うなんだ…。そこははっきりしてほしかった。

 

「そうか。はい、雪ノ下さん、エルが雪ノ下さんのこと気に入ったって」

 

俺は雪ノ下さんにエルを渡す。

 

「そうなの?」

 

「そうみたいだよ。それじゃあ俺は雪ノ下さんのお茶持ってくるからエルと遊んでて」

 

「ええ、わかったわ。それよりも桜さんは?」

 

「桜は今日は部活だって。もうじき大会もあるし今年が中学の最後だからね」

 

俺は中学のときは帰宅部だった。

 

桜は弓道部に所属している。顧問はあのムーンセルにいたタイガーこと藤村大河先生だ。

 

俺も同じ中学だから最初は驚いたけど、父さんや桜、店長がいたからもうどうでもいいかなって感じになっている。

 

「そう。何時くらいに帰ってくるのかしら」

 

雪ノ下さんはエルの顎を撫でてゴロゴロ言わせたり、肉球を触ったりしながら話してくる。

 

「そうだなぁ。終わるのが夕方くらいだから帰って来るのは六時ぐらいかな」

 

「そうなるとその時間までは私たちだけというわけね」

 

「そうだね。じゃあお茶持ってくるから待ってて」

 

 

 

 

 

「でも、驚いたな。今度って今日だったんだな」

 

お茶受けになりそうなモノはあったかな?今から作るのもさすがに時間が掛かるからな。

 

それにもうじきお昼の時間だからな。どこかに食べに行こうかと思ってたんだけど雪ノ下さんが来たなら何か作った方がいいよな。

 

「あ、そういえば昨日作ったプレミアムロールケーキがあったな」

 

ムーンセルの購買で売ってモノを自分なりに再現してみたんだよな。

 

桜も美味しいって言ってくれたし、自分でも自信作だって言えるぐらいには仕上がっていたからな。雪ノ下さんも満足してくれればいいけど。

 

「ポットと急須、緑茶の茶葉はあるから、雪ノ下さんの分の茶飲み茶碗を持って行けばいいかな」

 

俺はお盆に雪ノ下さんの分の茶飲み茶碗と二人分のロールケーキ乗せて持っていく。

 

紅茶のほうがいいかな?そうなったら紅茶を用意すればいいか。

 

それと今は快晴でかなりいい天気だから雪ノ下さんの寝る布団も干しとかないとな。

 

縁側にむかうとエルが雪ノ下さんの膝の上で気持ち良さそうに寝ている。

 

エルって寝るの好きだよなぁ、それだけ雪ノ下さんのことを気に入ったんだな

 

「雪ノ下さん、お茶受けとか持って来たけど紅茶のほうがよかった?」

 

「いえ、出してもらっているのだから文句は言わないわ」

 

「雪ノ下さんはお客さんだからそんなことを気にしなくてもいいのに。それにその要望に答えるのもこっちの仕事みたいなものだし」

 

「岸波くんはお嫁さんよりも執事のほうが正しかったかしら」

 

岸波白野、バトラーデビューか…。確かにアーチャーからあの服を貰ったけどさ、俺のサイズの。

 

俺のクローゼットの中には普通は着ないであろう服が二つある。執事服と店長のお下がりのカソック。

 

いつ着るべきだろか。この前着たみたら二つともピッタリでびっくりしたんだよな。

 

「執事って言っても仕える主がいないけどね」

 

お嫁さんだとしてももらい手がいないよ。それならお嫁さんをもらって専業主夫にならせてもらう。

 

「もし岸波くんが執事になったら、私のところで働かせてあげるわ」

 

「あ、ありがとう。なんかすごく現実化しそうで怖いよ。陽乃さんあたりから扱き使われた後、使い古された雑巾みたいに捨てられそうだな…」

 

「ふふふ、大丈夫よ。私は姉さんと違って最後まで使い切ってあげるわ」

 

それはそれで怖い。

 

「でもあなたが私の家で働くことはないと思うわよ。むしろさせないわ」

 

「どうして?」

 

「私のところで執事として働きたかったの?」

 

「いや、そういうわけではないけど、どうしてかなぁって思ったから」

 

「あなたにあんな家で働いてほしくないの。あなたにはあなたの生きたいように生きてほしいわ」

 

なるほど。そういうことか雪ノ下さんらしいな。

 

「ありがとう…。そうだ。このロールケーキ食べてみてよ。口に合うかはわからないけど」

 

雪ノ下さんにロールケーキが乗っているお皿とフォークを渡す。

 

雪ノ下さんはそれを受け取ってロールケーキをフォークで一口サイズに切って口に入れる。

 

「おいしい…。岸波くん、このロールケーキは何所かで買って来たのかしら?」

 

「いや、俺が昨日暇だったから作ってみたんだよ。昔さ食べたことがあったんだけどもう手に入らないだろうから、自分で作ってみようかなぁって」

 

「あなたはやっぱりすごいわね。ジャンケンと体力と料理だけは私よりも上だと思うわ」

 

「俺は君に勝っているモノって、その三つしかないんだね…。でも料理に限っては俺は君とそれほど大差なんてないよ。料理の勝負だってだいたいは引き分けだし、俺が勝っていたのだって君がまだ作ったことがない料理なわけだし」

 

「そ、あなたがそう言うならそうなんでしょ」

 

「それじゃあ俺は布団でも干すかな」

 

俺は立ち上がって客用の布団が入っている押入れに雪ノ下さんの使う布団を取りに行く。

 

布団を干し終わってからは、雪ノ下さんに使ってもらう部屋に案内して、一緒に昼食を作って一緒に食べた。

 

 

 

 

 

現在、二時半を過ぎ俺は雪ノ下さん一緒に倉庫へエルの子猫たちの見に行くことにした。

 

エルにはすでに話は済ましているため、雪ノ下さんは子猫たちから警戒されることはないだろう。

 

倉庫に入ってすぐに雪ノ下さんはあるモノに目が行った。

 

「岸波くん。このバイクってトワイス医師のモノ?前は無かったと思うのだけど」

 

雪ノ下さんは小学生のころはたまにこの家に遊び(勝負)に来ていたため、なんとなく覚えているようだな。あんまり変わらないからなこの家。

 

「このバイクは俺のだよ」

 

「岸波くん免許持ってるの?」

 

「一応ね。春休み中に取ったんだよ」

 

「どうして急にバイクの免許を取ろうなんて思ったのかしら?」

 

「このバイクが何故か俺宛てに届いたから、乗らないと勿体ないかなって思って免許を取ったんだよ」

 

さすがの雪ノ下さんも驚くよな。

 

「意味がわからないわね」

 

まさにその通りだ。ムーンセルの事情も知らない人からすればおかしいにもほどがある。

 

桜も驚いていたし、まぁ父さんは冷静に判断した上で俺に免許を取るように言ってきたし。

 

そのあとは雪ノ下さんは子猫たちを見て少しテンションが上がっているのか笑顔に見えた。

 

雪ノ下さん、グッドスマイル(良い笑顔)。

 

 

 

 

 




原作では一巻と二巻の間にゴールデンウィークなる連休があったみたいなので、そこを使わせてもらいました
次回はこの続きと、原作のほうの流れに入れればいいですかね

雪ノ下さんに猫についてをメルトのドールマニアのように熱論して欲しいですね
「猫はいいわ」から始まって、「グッドスマイル」で閉めてほしいです

それではまた次回!


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雪ノ下雪乃が泊まりに来た夜のこと。

前回の続きです
原作のほうには入りませんでした

それではどうぞ!

誤字があったらすみません


 

 

 

 

 

 

「同年代の知り合いが泊まりに来てくれるって嬉しいな」

 

今まで雪ノ下さんが遊びに来てくれたことがあっても泊まりに来たことはなかったし。

 

カレンはなぜか桜とあまり仲がよくないせいか滅多に来なかったからな。

 

どちらかで言うと桜のほうがカレンのことを嫌ってるのかな。

 

現時刻は20:16。夕食を食べ終わり、女性二人は今一緒に入浴中。うちのお風呂は大きいから五人までなら一緒に入っても十分余裕がある。

 

俺は縁側で大好物な餡蜜食べながらエルと一緒に月見をしている。餡蜜はサイコーだぜ!!

 

「エル、雪ノ下さんはどうだった?」

 

『撫で方がうまかったよ。アレはやり慣れているね。かなりのテクニシャンだよマスター』

 

「言い方が少しおかしいぞ。あと何処で覚えたのその言葉」

 

俺は教えてないぞ。

 

『歩き回っていると自然に覚えるだよ』

 

「ほ、本当か…?でも雪ノ下さんのことは気に入ったみたいだね」

 

『うん。あの人は心が綺麗な優しい人だよ。少し素直になれないところがあるけど』

 

そこまでわかるんだな。動物ってどういう人とか見分けるのに長けているのかな?

 

「ックシュン!」

 

急にクシャミが

 

『マスター、風邪?』

 

「いや、違うと思うよ。俺は風邪とかあまりひかないから。たぶん冷えちゃったのかな」

 

『冷えるって言っても、桜の花も散った春の半ばだよ』

 

「それもそうだな。ならどうしたのかな?」

 

やっぱり身体が冷えたんだろう。そろそろトレーニングでも始める時間だし、餡蜜も食べ終わってるから、行こうかな。

 

「エル。俺トレーニングに行ってくるよ。また明日」

 

『マスターは毎日頑張ってるけど、何のために頑張ってるの?』

 

何のためか…。

 

「大切なモノを守れるくらい強くなりたいんだよ」

 

俺は弱い。俺のことを何度も救ってくれた彼らのように強くなりたいんだ。

 

今度は俺が他の誰かを、大切な人たちを守れるぐらいには。

 

『マスターらしいね。あのときボクを守ってくれたように他の人を守るんだね』

 

でも他の子は助けられなかった。だから俺は弱いんだ。

 

『でもねマスター』

 

エルは俺に飛び乗り、自分の頬を俺の頬に擦りながら

 

『マスターが傷ついたら元も子もないんだよ。マスターが傷つくのを見て傷つく人たちもいるんだよ』

 

「……」

 

『だからここはマスターらしく、自分が傷つかないぐらい強くならないとね』

 

「…フッ。やっぱりエルは俺が育てたせいかすごく欲張りだね」

 

『ボクがこうなったのはマスターのせいだよ。子供たちには変な影響は与えないでね』

 

「エルもたまにひどいこと言うよね。誰に似たの?」

 

『お姉さんじゃないかな』

 

カレンか…。

 

エルはカレンのことをお姉さんと呼んでいる。桜は妹さんだったな。

 

確かにエルはよくカレンのところに行ってたとか言ってるし、そこでさっきみたいな変な言葉とか習ってないよな。

 

まぁ大丈夫だろ。

 

「エル、約束するよ。俺は大切な人たちと自分を守れるぐらい強くなる」

 

『マスター頑張れ。ボクも応援するよ』

 

「それじゃあ行ってくるよ。エルも来る?」

 

『ボクは帰るよ。子供たちも待ってるから』

 

「そうか。また明日ねエル」

 

『また明日マスター。明日も雪乃さんと遊ぶ約束もあるし』

 

そう言いながらエルは俺から離れて倉庫のほうへと歩いて行った。

 

へぇ、エルも人の名前を覚えるんだな。俺のことはずっとマスターだし、カレンや桜もあだ名みたいな感じだったもんな。

 

雪ノ下さんの猫好きが成した結果か?

 

 

 

 

 

クシャミの理由は、お風呂場、浴槽にて

 

「なぜかしら?」

 

「どうしたんですか雪ノ下さん?」

 

「いえ、気にしないでいいわ」

 

「はぁ、そうですか」

 

なぜかしら?二歳も年下な桜さんのほうが胸が大きいだなんて。

 

食べている物は今日見た感じでは私も作って食べているし、睡眠量も差はないはず。運動は桜さんは苦手なはずだし、体力だって私とは差がないはずよね。

 

そうなる岸波くんかしら?彼が桜さんのを…。彼はシスコンでたまに思考がおかしい時があるからありえるわね。

 

『ックシュン!』

 

「少し遠いところから、何か聞こえませんでしたか?」

 

「そう?私は何も聞こえなかったわよ」

 

もしそうだとしたら彼の去勢も止むを得ないわね。こういうことは本人に聞いた方が早いわ。

 

「ねぇ桜さん」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「あなた、岸波くんの性の捌け口にされてはいないわよね」

 

急に桜さんが顔を真っ赤にして

 

「な、なにを言っているんですか!?」

 

「なにをって、彼だって男性よ。そういうことがあってもおかしくはないわ。それに桜さんは妹とはいえ義理、血の繋がりがないのよ。桜さんみたいな可愛い子と一つ屋根の下で今では二人暮らし。普通の男なら泣いて喜ぶと思うわ。それに彼はシスコンだから」

 

「そ、そうだとしてもないと思います。兄さんはそういうことはしないはずです(で、でも兄さんがその気なら私は受け入れてしまうかも…)///」

 

「桜さん、頭から湯気が出てるわよ。湯あたりかしら?」

 

そう。岸波くんでもなかったようね。それなら遺伝的なもの?だとしても姉さんがアレだから…、私に問題があるのかしら?

 

……、わからないわね。

 

 

 

 

 

いつもと同じ筋トレのメニューをこなす。

 

トレーニングは筋トレやランニングなどの基礎をやった後、英雄の皆さんから習った武術の形などをやっている。

 

そしてテニス勝負以降は武術の型に強化型のコードキャストを混ぜながら取り組んでいる。

 

次の日、身体が筋肉痛で動かないみたいなことになったらバカみたいだから、毎日のように使えば慣れてくるだろう。

 

でも、英雄の皆さんは頼んでいないことを含めていろいろ教えてくれた。料理に勉強、格闘、射撃、罠の張り方、ギターなどの楽器、バイク、魚釣り、愉悦とはなにかとか色々。

 

最近では何故か俺とギルがアイドルプロデュース。黄金Pがエリザベートとセイバーをトップアイドルまで延し上げるそうだ。

 

『子ブタ、私たちの美声による歌はどう?よかったかしら?よかったわよね?』

 

『……』

 

『奏者よ!なにか言わぬか!それとも声にならないほどのよかったということか?』

 

『二人が美声なのは認めるけど、すごい音痴でした。音程を外しまくっていました』

 

『なんですって!!』

 

『おかしいではないか!余はエンディングを任されるほどの歌声のはずだ!』

 

みたいな会話があり、クラス・ゴージャスこと黄金Pが立ち上がった。

 

それで俺は二人のマネージャーをするはめに、マネージャーって何するんだよ。

 

よし。筋トレも終わったし、格闘の練習でもするか。大切な人たちを守れるように、エルとの約束、自分をも守れるくらい強くなれるようにならないとな。

 

でもいつ戦うのかな?あっても店長と一緒に迷惑な不良の退治とか?

 

「よし、筋トレは終わり。今日はアサシン先生と店長から習っている拳術だったな」

 

暴走族の件以降なぜか店長からも八極拳を習っている。休日とか店長が暇なときに家に来て道場で相手をしてくれながらいろいろと教わっている。

 

未だに勝ったことがない。というより店長はまったくダメージを受けていない。店長は絶対に中級サーヴァントぐらいなら倒せると思うよ。

 

俺が練習をしている格闘術は、アーチャーとガウェインから習っている剣術、クーの兄貴とカルナから習っている槍、アサシン先生と店長から習っている拳術の主に三つ。

 

毎日ローテーションしながら練習をしている。

 

練習時間は朝晩合わせて学校やバイトがある日は二、三時間、休日は四時間以上。筋トレなどの基礎を三十分づつ、計一時間。残りは格闘術。

 

深呼吸をしてから…。よし、やるか。「gain-con(16)、gainstr(16)」守りの護符と錆び付いた古刀のコードキャストで耐久と筋力の強化。

 

強化の効果が切れたら、また強化をして終了時間まで同じことを繰り返す。

 

習っている形にコードキャストを混ぜながら一人で黙々と続ける。

 

毎日単純な作業のように同じことを続けているが、単純な作業だろうと全力を尽くしていると意外と楽しい。

 

気が付くともう22:45。二十時半から二十三時前に終わらせることにしてるから今日はこれで終わりでいいか。

 

今日は雪ノ下さんがいたから早めにお風呂を焚いたから冷めちゃったかな。まぁいいか。

 

道場から出ようと振り向くと雪ノ下さんがいた。集中しすぎて気配に気づかなかった。

 

「ごめん。集中しちゃってたから気付かなかった」

 

「気にしなくていいわ。私が勝手に見ていたのだから」

 

「いつからいたの?」

 

「十五分ほど前よ。お風呂を上がったのは九時半ぐらいだけど、桜さんがあなたは道場で何らかのトレーニングをしているから呼びに行かなくても大丈夫と言っていたのよ。だから十時半ぐらいまで桜さんと話したりしていたのだけど、少し気になったのから見に来たのよ」

 

「なるほどね。そうなると桜は?」

 

「彼女は今学校の宿題をやっているんじゃないかしら」

 

それもそうか。中学は宿題があるもんな。高校は課題があっても不定期だし、毎日やっても自己的な感じだからな。俺は休み時間や休日を使ってやっているけど。

 

「それじゃあ俺も早くお風呂に入るか。冷めるのも勿体ないし」

 

「ええ、そうするといいわ」

 

「あ、雪ノ下さん」

 

「なにかしら?」

 

「雪ノ下さんの私服とかはたまに見るけど、そういうゆったりとした感じの部屋着を見るのは初めて見たから……、なんていうか、その、可愛くて似合ってるよ」

 

なんだろ。急に自分で言っていて恥ずかしくなってきた。

 

「そ、そう。ありがとう…」

 

雪ノ下さんも変なこと言われて恥ずかしいのか俯いちゃったし。

 

「「……」」

 

変な間が開いてしまった。今度からこういうことは言わないようにしないとな。場の空気がおかしくなってしまう。

 

「え、えっと、俺、道場の電気消してから行くから、居間とか行って桜に勉強教えてあげたりしてよ」

 

「わ、わかった」

 

そう言って雪ノ下さんは先に道場を出ていった。

 

 

 

 

 

お風呂上がりドライヤーで髪を乾かし終え時刻は二十三時半を過ぎたぐらい、ゴールデンウィークで明日が休みだとしても良い子は寝る時間だ。

 

俺は自室で布団を引いて寝る準備をしてから深夜零時になるまで勉強をしている。

 

俺の睡眠時間は五時間、零時から五時までと少し短い気もするがそうでもない。寝ている間はムーンセルに意識が行っているから、起きることもなくグッスリと眠れる。

 

でも小、中、高と成長するにつれ睡眠時間も少なくなっているから、ムーンセルでみんなといられる時間も当たり前のように少なくなっている。

 

昼寝ではッムーンセルには行けない。ムーンセルに行くには夜、月が出ている時間からじゃないと行くことができない。

 

逆に月が出てから寝てムーンセルに行けば、月が沈んで太陽が昇ってもずっとムーンセルにはいれる。

 

これを知ったのは小学生に入る前。なんどか試した結果このことがわかった。

 

みんなと一緒にいる時間が少なくなっても、みんなは変わらずに接してくれているのが本当に嬉しい。

 

「そろそろ寝ようかな。ん?この気配は…」

 

なんだろうな…。留美ちゃんのときもあったけど、そういう展開にならないよな。

 

俺は自分の部屋の戸に近付いて戸を開けると雪ノ下さんと桜がビクッと肩を上げた。

 

「どうしたの?」

 

「急に開けないでくれる。驚くでしょ」

 

「そ、そうですよ。開けるときは何か言ってくださいよ兄さん」

 

それはおかしいよ。俺のほうが部屋の中なのに俺が合図するんですか?

 

「え、えーっと、それでお二人は何かご用でも?」

 

「兄さん、それはですね」

 

「三人で同じ部屋で寝ましょう」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

どうしようか…。まぁ同じ布団じゃなくて同じ部屋なら大丈夫かな。

 

「別に構わないけど、俺は男ですよ」

 

「それぐらいは見ればわかるわ。それとも私があなたのことを女性として見ていたとでも?」

 

「そんなことは思ってはいないよ。俺が言うのは警戒のほうだよ」

 

「大丈夫よ。あなたはそういうことはしないわ。それともするの?」

 

なんだろう。質問が少しえぐいぞ。

 

「いや、しないよ。二人とも魅力的な女性ではあるけど了承を得ずにそんなことはしないよ」

 

「なるほど。了承を得れたら襲い掛かるのね」

 

「……。恋人とかそういう関係になってから了承を得たらするかも」

 

なにを言っているんだ俺は…。バカなのか。

 

「そ、なら大丈夫でしょ。桜さんいいそうよ」

 

「はぁ、そうなんですか」

 

いやぁ、どうなんでしょうか?

 

「それで何処の部屋で寝るの?」

 

「あなたの部屋よ」「兄さんの部屋です」

 

「……」

 

ですよねぇ…。そうくると思いましたよ。

 

 

 

 

 

で、どうしてこうなった…。

 

俺はてっきり一人一枚づつ布団を使うか計三枚使うと思ったら、布団は二枚。

 

俺が一枚でもう一枚を雪ノ下さんと桜が使うと思ったら、桜、俺、雪ノ下さんという順番で川の字で寝ることに…。

 

留美ちゃんのときと違って一人一人間隔はあるけども、緊張度があのとき以上だよ。

 

ね、眠れぇ…。完全に目が冴えてるよ。こうなったら二人が寝たら居間に行って寝よう。

 

桜はもう寝てるな。寝息を立ててるし。次は雪ノ下さんだが…。

 

俺は雪ノ下さんのほうに顔だけ向ける。

 

目は閉じてはいるけどどうだろう、寝てるよな。よし、脱出するか。

 

俺が布団から出ようとすると

 

「ねぇ岸波くん。起きてる?」

 

ね、寝てなかったぁ…。

 

「う、うん。起きてるよ」

 

「そう」

 

「……」

 

「……」

 

何か話した方がいいかな?そうだ。どうしてこんなことしたか聞いてみるか。俺の知っている雪ノ下さんなら何か理由があるはず。…誰だって理由ぐらいはあるか。

 

留美ちゃんは予想、一人が怖かったとか、桜は予想、兄離れできてないとかだろう。

 

「ねぇ雪ノ下さん」

 

「なにかしら」

 

「今聞くのもおかしな話なんだけどさ、どうして一緒に寝ようと思ったの?」

 

「岸波くんはどうしてそれを聞きたいの?」

 

「なんだろうなぁ。気になってはいたんだけどどうにもタイミングが掴めなくてね。それと」

 

「それと?」

 

俺は顔だけでなくに身体ごと雪ノ下さんのほうへ向ける。

 

「桜に聞いて欲しくないようなことかなって思ったんだ。本当は聞かないほうがいいかなって思ったんだけど、やっぱり気になってね。それに桜も寝ちゃったし」

 

俺の言葉を聞いて雪ノ下さんも俺に向かい合うように身体を動かす。

 

「あなたはすごいわね。それでどんなことだと思ったの?」

 

「わからないから聞いているんだけど…」

 

「本当かしら。実際はもうなんとなくわかっているんじゃない?」

 

俺はこの子ほうが十分すごいと思うよ。

 

「なんとなくだよ。当たっているかはわからないから言いたくないんだよ。間違えたら恥ずかしいし」

 

「でも言ってみないとわからないわよ。当たったら嬉しいでしょ」

 

「うーん、どうだろうな。俺の観察眼って自分の意思でやってはいるけど相手をいい気持にするようなものではないからねぇ」

 

「そ、でも私はあなたの口から言ってもらいたいわ。あなたもわかっていると思うけど、私ってあまり素直に自分の気持ちを言えないのよ」

 

気付いてたんだなぁ。

 

「わかった。当たってるかはわからないけど言うよ。でも間違ってた場合は訂正をお願いしてもいいかな?」

 

「場合によるわね」

 

「場合によるんだ…」

 

いいか、雪ノ下さんが言いたくないならそれで。俺が思ってることを言えば。

 

「予想だけど、温もりみたいなものかな」

 

「……」

 

「家族の温もり。俺は雪ノ下さんの家庭がどんなものかはそんなに知らないけど、君や陽乃さんを見ているとなんとなくわかるよ。自分にとって絶対的な立ち位置で逆らうことができない母親、どんなに頑張っても追いつこうとしても先を行っている姉、優しいけどいつも仕事でほとんど会えない父親」

 

父親に限っては俺の家とあまり大差なんてないか。

 

「そういう家庭で小さいころから過ごしていたから、当たり前の家族の幸せや温もりをあまり感じられなかった。それに今は一人暮らしだし、俺が言えたことではないけど君は友達と言える存在が由比ヶ浜さんと桜ぐらいだ、こういった家族の話は誰にも話さないからさ、俺にだって中学生まで話さなかったわけだしね」

 

まぁなんとなくは気付いてはいたけど。

 

「だからこういうことをしたのかなって」

 

「まだあるけれど、そんなところね。当たっているわ」

 

「そうか。それでまだってどんなこと?」

 

「言わないわ。頑張って一人で見つけ出しなさい」

 

場合にはならなかったわけですか。というか場合なんてないんじゃないかな?

 

「それでいつごろから気付いていたの?」

 

「最初の泊まりに来たでなんとなく、桜との入浴で半分以上、一緒に寝るで完全かな」

 

雪ノ下さんがジト目で睨んで来たぞ。少し不機嫌か?

 

「はぁ…。あなたって本当によくわからないわね。いつものように接しているのにすぐに違いとかに気付いて、それで相手を気遣いながらあなたもいつものように接する。(そんなに相手のことを見抜くくせに自分への好意には疎いって…)だからこそかしら?」

 

「なにが?」

 

「なんでもないわ。それでさっきの続きだけれど、そうね私があなたの家に泊まりに来たのは家族の温もりを、あなた達の温もりを味わってみたかったのよ。でも猫を見に来たのが主だけれど」

 

エルたちに負けた!!

 

「岸波くんが言ったように私はあまりいい家庭に生まれたとは言えない。家は金持ち、父は十分な地位にいる。私自身可愛くて才能もある」

 

急に自慢が入ったな。まぁそれが彼女の持っているトラウマに繋がるわけなんだが。

 

「でも家族には恵まれなかった。自分の監視下に縛り付けようとする母、憧れのままで超えることができない姉さん、仕事で忙しい父。知り合い、友達と言ってきた人たちは最後はみんな私のことを見捨てていなくなる。だけどあなたと桜さんは違った」

 

ここから今回の理由が始まるわけだ。

 

「あなたは私のことをライバルと言って競い合いながら私と同じ位置に、私の隣にいてくれた。桜さんは私を姉のように慕ってくれた。でもあなたたちの家庭のことを知ったときは本当に驚いたわ。誰一人として血が繋がっていない、なのに私の家よりも私が求めていた家族らしかった」

 

そういうことか、だから雪ノ下さんは気になったんだな。

 

「だから私は気になったの。あなたの家庭のことを知ったのは私が留学する前だったから確かめることができずにいたのよ。それで私がこっちに帰って来てから桜さんに聞いてみたの。『どうしてあなたの家族はそんなに仲がいいのか』って、そしたら桜さんは岸波くんがいてくれたからって言ったの」

 

「雪ノ下さんは桜の返答をどう思った?」

 

「すぐに納得したわ」

 

「その返答に俺はビックリだよ」

 

「そうかしら?桜さんに聞いてもあなたって桜さんが始めて会ったころから現在まで性格が変わってないそうだから、納得するしかないわ」

 

それだけで納得できるんだな。

 

「だからあなた達の、あなたの傍にいれば家族の温もりを感じられると思ったのよ」

 

「それでどうだった?」

 

「嬉しかったわ。家で同じようなことをしても絶対に超えられないほどにね」

 

「よかったよ。もしダメだったどうしようかと思ったよ」

 

笑顔で答えると雪ノ下さんが意地悪な笑みを浮かべる。これあれだろ何かくるぞ。

 

「でももう少しは欲しいかしら」

 

「な、なにをでしょうか雪ノ下さん?」

 

「家族の温もりよ」

 

そうか。ならどうすればいいかな?家族らしいことってなんだ…。

 

「確か桜さんから聞いたのだけれど、岸波くんて桜さんが困っていたり悲しんだりしているとハグしながら頭を撫でてあげるのよね?」

 

「そ、そうだけど、雪ノ下さんにも何度かやってる思うよ」

 

そういえば俺ってこのことを結構やってるぞ。えーっと、桜、雪ノ下さん、カレン。留美ちゃんと陽乃さんには一回だけやったかな。

 

「ならできるわよね」

 

そう言いながら雪ノ下さんは俺に近付いて来る。

 

「えーっとですね雪ノ下さん。もしかして寝ながらですか?」

 

「ええそうよ。よくやっているのでしょ」

 

いや、寝ながらなんて桜がまだ家に来て心細かったぐらいの一年間ぐらいだぞ。

 

あの頃は互いに小さかったけど今はまったくやってない。しかも相手は雪ノ下さんだし。

 

「岸波くんどうしたの?」

 

もう雪ノ下さんは俺にくっついてるし、なんだろうな、雪ノ下さんは俺のことが好きなんじゃないかって思えてくるけど、兄とか弟みたいな感じなんだろう。

 

もういいか、雪ノ下さんが寝たら外せばいいし、もし俺が寝たとしても明日の五時には起きるから何とかなるはずだ。

 

「わかったよ。それじゃあ雪ノ下さんを桜、妹のようにするよ。そうなった呼び方も今日だけ変えてみよう」

 

「?」

 

俺は雪ノ下さんを抱きしめながら頭を撫でて

 

「雪乃はいい子だね。今日までよく頑張ったね。今日はお兄ちゃんに甘えていいよ。だから明日からまた頑張って。辛いことがあったらまたやってあげるから。だから自分が、雪乃が信じているモノを、自分がやりたいことを精一杯、諦めずに頑張って」

 

そう優しい声で言う。

 

「あ、あり、がとう」

 

雪ノ下さんは少し涙声になってしまった。雪ノ下さんの頭の位置はだいたい俺の顎の下、首から胸の間にあるからどんな表情かはわからないが、少なくても嫌な表情ではないだろう。

 

それから俺は雪ノ下さんが眠るまでずっと抱きしめた状態で頭を優しく撫でながら雪ノ下さんに「雪乃はいい子だよ」「よく頑張ったね」などを繰り返し言い続けた。

 

 

 

 

 

そこまではよかった。問題は俺も疲れていたから寝てしまった。

 

気が付いたらムーンセルにいた。急いで戻ろうとしたらキャスターが部屋に入って来て

 

『ご主人様!またですか!また新しい現地妻を作って、この良妻系サーヴァントの私も怒りますよ!』

 

とか言って長々と説教が始まった結果、起床時間よりも長く寝てしまった。

 

現時刻6:12。いつもより一時間近く寝坊。雪ノ下さんはまだ俺の腕の中で寝ている。

 

桜のほうもまだ寝ているがいつ起きるかはわからない。

 

だから俺すべきことはこの状況からの脱出。

 

まずは俺の腕を雪ノ下さんから外す。

 

ジャラ

 

ジャラ?もしかして俺の手になにか付いてる?そういえばさっきから手首に違和感が…。

 

「これって手錠じゃないかな…」

 

雪ノ下さんが影になって見えないけど、両手首の違和感、ジャラという鎖ぽい効果音。

 

手錠だな。うん、手錠だろ。

 

オイ!誰だこんなことする奴!ムーンセルのほうの仕業か!?

 

「兄さん?なにをしているんですか?」

 

ビクッ!

 

こ、この声は桜さんですね。はい。絶対に桜さんですよ。間違いはありません。

 

「なぜ兄さんは雪ノ下さんのほうを向いているんですか?」

 

この前よりも怖い。ここは寝たふりを…

 

「寝たふりですか?わかっているんですよ。兄さんさっき動きましたよね。私しっかり見てましたよ」

 

「えーっと桜さん?」

 

「兄さんこっちを向いて下さい。私が話しているんですから。それとも私のこと見れないんですか?」

 

正直怖くて見れません。でも向かないとさらに怖い気がする。

 

俺は恐る恐る桜のほうに身体を向けようと寝返りをすると、桜の恐怖ですっかり忘れていた手錠のせいで、雪ノ下さんも俺にくっついてくる。

 

現在の状況、俺の上に雪ノ下さんがうつ伏せで寝ている。それを俺が抱きしめているように見える。手錠は掛け布団せいで見えない。

 

俺は首から上を動かして桜のほうを見ると笑ってはいるが、後ろから黒いモノを感じる。

 

やばいな。桜もやばいが、今は雪ノ下さんのほうがやばい。

 

この女の子特有のいい匂いとか柔らかさとかもういろいろとやばい。

 

あの普段ではわかりにくいあの胸も、こうくっついているとしっかりわかります。ええそれはもうしっかりと。

 

普通なら理性が無くなってもおかしくないが、桜がいるから何とかなっている。

 

桜、俺はやっぱりお前なしでは生きていけないかもしれないな。ありがとう桜。

 

「兄さん。どうして雪ノ下さんと抱き合っているんですか?」

 

「えーっとね話せば長いん――――」

 

「んっ。きしなみくん」

 

なんか雪ノ下さんが寝言で官能的な声で俺の名前を呼んでいるぞ。

 

だがその言葉は俺の人生の終わりかな?さよなら俺の人生。

 

「兄さん」

 

ぎゃああああぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 




次回からは原作の流れに入ります

雪ノ下さんはもう完全に白野くんが大好きになったでしょうね。間違いない
といってもこれからはこれ以上の進歩がなく後半まで行くでしょうね。進歩するには白野くん過去の話が出るまではないと思います。次はカレンかな

それではまた次回!


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やっとプログラムが完成した。

今回は原作で言うと二巻の始めと葉山くんの依頼までのことです

確認はしたつもりですがまだ誤字ある気が…。すみません
では後書きで…


 

 

 

 

 

ゴールデンウィークも過ぎ、じわじわと暑くなる時期。

 

ゴールデンウィークといえば雪ノ下さんが泊まりに来たことなのだが、なぜか雪ノ下さんが泊まった日の朝のことは何も思い出せない。

 

夜のことは覚えている。

 

少し自棄になった部分もあったが雪ノ下さんと前よりも仲良くなれた気がする。

 

俺が目指している友達の関係よりも少しずれていると思うが、まぁいいだろう。

 

ただ起きてから朝食を食べるまでの間のことを思い出せない。キャスターの長い話を聞かされ、ムーンセルからこっちの世界に戻って来て、気が付いてたら朝食を食べていた。どうしてだ?

 

思い出そうとすると何か黒い泥のような、禍々しいモノに呑みこまれたみたいな……。

 

まぁ夢でしょう。はい、夢です。ムーンセルに行くようになってから昼寝以外で夢を見たことがないけれど、あれは夢です。

 

だって途中から家の道場に似た場所で袴姿の藤村先生ぽい人と銀髪のロリブルマって人たちとどうでもいい会話したような気がするし。

 

残りのゴールデンウィークの過ごし方は、いつものようにバイトに行ったり、トレーニングをしたり、勉強したり、プログラミングしたりといつもと変わらない休日みたいな感じになった。

 

そして現在、俺は部室でいつものように謎のプログラムを製作中。何ができるか楽しみではあるが、BB?からのプレゼント、不安でもある。

 

部室内は俺と雪ノ下さんの二人っきり。さっきまで由比ヶ浜さんもいたのだが比企谷を探しに行くと出ていった。

 

雪ノ下さんはこの前の夜のことが無かったかのように今までと変わらずに振る舞っているから、俺が気にしても仕方がない。俺もいつも通りに接するようにしよう。

 

でも少しは変わったか。前より少しだけ距離が縮まったかな。並んで歩いているときの距離が60センチくらいから45センチくらいになった。そんなに変わらないか。

 

カレンみたいにピッタリくっつかれるとこっちが困るから、アレぐらいがちょうどいいかもな。

 

それにしても静かだな。この部屋で聞こえるモノといえば運動系の部活の声とか野球のボールを打った音ぐらいだ。

 

俺が使っているパソコンはキータッチの音が出ないため周りにあまり迷惑は掛からないと思う。いや、思いたい。

 

しかしこういう静かなのもいいな。比企谷や由比ヶ浜さんが入部する前はほとんどこんな感じだったけど。

 

みんなで喋りながらやるのもいいけど、静かにやるのもいい。

 

もうじき、頑張れば明日にはこのプログラムも完成しそうだし、完成したら次はこの時間は何をしようかな。

 

コンコンとノックの音がしたあと、いつものように軽い挨拶をして比企谷が入って来た。

 

「あれ?比企谷、由比ヶ浜さんと会わなかった?」

 

「なんで俺が由比ヶ浜と会うんだよ」

 

「だって―――」

 

「あー!ヒッキーいた!!」

 

この反応は行き違えたみたいだな。

 

「わざわざ聞いて歩いたんだからね。そしたら、みんな『比企谷?誰?』って言うし。超大変だった」

 

由比ヶ浜さんは比企谷を探していたことを余分な情報と一緒に言う。

 

「その追加情報いらねぇ…」

 

「超大変だったんだからね」

 

由比ヶ浜さんは大切だから二度言いましたね。

 

「なんだ、その、悪かったな」

 

「別に、い、いいんだけどさ…。そ、その…、だから、け、携帯教えて?ほ、ほら!わざわざ捜して回るのもおかしいし、恥ずかしいし…。どんな関係か聞かれるとか、ありえ、ないし」

 

「まぁそれは別にいいけどよ…」

 

そんな二人の会話を聞きながらプログラムを進める。

 

途中で雪ノ下さんも参加していた。

 

会話の内容は、由比ヶ浜さんの携帯の目が痛くなる?ほどのキラキラなデコレーションを施してあるみたいなこと、比企谷の携帯がスマートフォンで赤外線が使えないとか、比企谷宛てのメールは妹とアマ〇ンとマクド〇ルドからだとか、中学時代は女子とメールをしたとか…。

 

俺は女子としかメールをしたことがない…。

 

俺は無意識にプログラミングをする手を止めて勢いよく立ちあがり

 

「比企谷!」

 

俺は大きな声を出したせいでみんなが驚いてしまった。

 

「ご、ごめん。それで比企谷」

 

「ど、どうした」

 

「俺にも電話番号とメールアドレスを交換してくれ」

 

「べ、別にいいが、どうしてそんなことで大きな声を出す」

 

「ああ、少し取り乱しちゃったんだよ。俺って同年代の男性の電話番号とメールアドレスを知らないんだよ…」

 

「は?」

 

「自分で言っていて恥ずかしいんだけど、俺って自分からそういうことを言うのって少し苦手なんだ。だからどうしても相手待ちになっちゃうんだよ…」

 

「本当に岸波くんっておかしいのよね。困ってる人や泣いてる子とかには誰であろうと話しかけるのに、そういったことはできないのよ」

 

「なんか、キッシーらしいね」

 

そんなことはどうでもいい。まずは俺の携帯に同年代の男子のメールアドレスを!

 

「だから比企谷、俺にそ、その…」

 

「わかったよ」

 

「ありがとう。まぁ俺からメールするといっても部活にの事ぐらいになると思うけど」

 

「別にいい。何度もメールされても返事に困る。ほら俺の携帯、赤外線ないから」

 

俺は比企谷から携帯を借りて自分の携帯に比企谷のメアドと電話番号を入れる。

 

比企谷に『岸波白野です。これからもよろしく』という文章と電話番号を貼り付けて送信。

 

由比ヶ浜さんは不思議そうな顔で

 

「キッシーってなんで携帯二つ持ちなの?」

 

「いや、俺は携帯これ一個しかないよ」

 

「だってよくいじってるじゃん」

 

「もしかして電子手帳のこと」

 

俺はポケットに右手を入れてから、電子手帳を作りだしてから取りだす。

 

「そうそう、それ。で、その電子手帳ってなに?」

 

「俺もそれ気はなってたな。材木座のと、き……。いや、なんでもない」

 

アンデルセンの毒舌評価のことを思い出しそうになったのか?

 

「そうだなぁ。なにって言われたら。色んな機能が付いたメモリーみたいなものかな」

 

本当にこの電子手帳にはかなりの機能が備わっている。

 

「メモリーつっても、どれぐらいなんだ?」

 

「わからない。俺はこいつの限界を見たことがない。確実にテラバイトはあると思う」

 

ムーンセル産の代物だから相当の容量があるはずだ。

 

ムーンセルで集めた情報もあのままだし、礼装とかも入ってるし、アイテムも入ってる。使うことはまずないだろうけど。それにこっちに来て新機能も追加されてるしな。

 

「マジか。そんな薄いのに」

 

俺と比企谷はそんな話をしているが雪ノ下さんと由比ヶ浜さんはピンとこないらしいな。

 

「ゆきのん。テラなんとかってなに?」

 

「容量みたいなものじゃないかしら。どれぐらいの大きさかはわからないけれど」

 

「よくわからないけど、男の子ってああいうの好きだよねぇ」

 

それから他愛もない会話をしていたとき、携帯を見ていた由比ヶ浜さんが聞こえないぐらいのため息をついた。

 

ここにいた全員が気付いたであろう。そこで雪ノ下さんが「どうかしたの?」と本を読みながら由比ヶ浜さんのため息の理由を尋ねる。

 

せめて本からは目を外そうよ。というかいつの間に本を読んでいたの?

 

「あ、うん…何でもない、んだけど。ちょっと変なメールが来たから、うわって思っただけ」

 

「比企谷くん、裁判沙汰になりたくなかったら今後そういう卑猥なメールを送るのはやめなさい」

 

「俺じゃねぇよ…。証拠はどこにあんだよ。証拠を出せ証拠」

 

「比企谷、それは犯人の台詞だ。これじゃ完全に犯人扱いされてもおかしくないぞ」

 

「そうね。犯人の台詞なんて決まっているのよ。『証拠はどこにあるんだ』『大した推理だ、君は小説家にでもなったほうがいいじゃないか』『殺人鬼と同じ部屋になんていられるか』」

 

「最後、むしろ被害者の台詞だろ…」

 

完全に死亡フラグだな。DDの食卓のときかなりそれに近いことを言った気が…。

 

まぁいいか、思い出したくないし。

 

「いやー。ヒッキーは犯人じゃないと思うよ?」

 

「証拠は?」

 

「んー、なんていうかさ、内容がうちのクラスのことなんだよね。だからヒッキー無関係っていうか」

 

いや、比企谷同じクラスでしょ。

 

「俺も同じクラスなんですけど…」

 

「なるほど。では、比企谷くんは犯人じゃないわね」

 

「証拠能力認めちゃったよ…」

 

比企谷、不憫だな…。

 

こうして比企谷の無罪となった。それからはいつものように、俺はプログラム、雪ノ下さんと比企谷は読書、由比ヶ浜さんは携帯をいじったり、誰かと会話をしたりしている。主に由比ヶ浜さんがだが。

 

 

 

 

 

「…暇」

 

由比ヶ浜さんは携帯を閉じて、机にうつ伏した。

 

まぁ携帯は相手がいればいいけどいなくなればすることなんかないもんな。

 

そしたら雪ノ下さんが

 

「することがないのなら勉強でもしたら?中間試験まであまり時間もないことだし」

 

「そういえばそうだったね。もう中間試験か」

 

勉強はいつもしてるから心配はないけど点数を下げないようにしないとな、雪ノ下さんに鼻で笑われる。または怒られる。

 

その後由比ヶ浜さんは、勉強とか社会に出たら意味がなくないか?みたいなことを言って、比企谷にバカにされていた。

 

「由比ヶ浜さん。あなた、さっき勉強に意味がないって言ったけどそんなことはないわ。むしろ、自分で意味を見出すのが勉強というものよ」

 

かっこいいな。俺そんなこと考えずに勉強してた。

 

「ゆきのんは頭がいいからいいけどさ…。あたし、勉強に向いてないし…周り、誰もやってないし…」

 

その言葉に雪ノ下さんが目を細めて、由比ヶ浜さんを睨む。

 

「や、ちゃ、ちゃんとやるけど!…そ、そういえば!ヒッキーは勉強してるの!?」

 

「俺は勉強してる」

 

「裏切られたっ!ヒッキーはバカ仲間だと思ったのに!」

 

「失礼な…。俺は国語なら学年三位だぞ…、ほかの文系教科も別に悪くねぇ」

 

「うっそ…、全然知らなかった…」

 

まぁそうだろうな。この学校は結果は張り出したりはしないからな。雪ノ下さんみたいにみんなから注目を浴びていれば別だろうけど。

 

「ヒッキーが頭がいいだなんて…。そ、そうだ。キッシーはどうなの?」

 

「ん?俺?」

 

「そうそう。なんだかいつも平均点取ってそう」

 

由比ヶ浜さんの言葉に雪ノ下さんは呆れ、比企谷は苦笑い。

 

「由比ヶ浜さんって俺のクラスとか知ってたっけ?」

 

「キッシーのクラス?そういえば知らないかも。ちょっと待って、当ててみるから」

 

由比ヶ浜さんは俺のクラスを当てようと悩み始めた。

 

「あたしのクラスじゃないし、ゆきのんのクラスでもないでしょ…。そうなると、あと七つのどれかだよね」

 

もう答えには辿り着けないよ!俺、雪ノ下さんと同じクラスだし!

 

「予想でC組!」

 

「はずれ。答えは、J組。雪ノ下さんと同じクラスだよ」

 

「えっ!そうだったの!キッシーって意外に頭がいいんだ」

 

「意外なんだ!!俺ってそんなにバカっぽく見える!?比企谷のときもそうだったし、雪ノ下さんと初めて会ったときもそんな感じだったけどさぁ!」

 

「いや、バカっぽいというか岸波って普通って感じなんだよ」

 

比企谷に賛同するかのように残りの二人も頷く。

 

そうか。普通なんだな俺って。

 

「それで、キッシーの順位ってどんぐらいなの?」

 

「俺はね、雪ノ下さんの次。学年二位だよ」

 

「ええ!!ウソ!キッシーってそんなに頭いいの!?」

 

由比ヶ浜さんは雪ノ下さんのほうを向いて俺の学力の有無を尋ねる。少し失礼だなぁ。

 

「ええ、彼は比企谷くんと違って頭はいいわよ。点数も私との差なんてほとんどないもの」

 

「俺をお前らの対象に使うな」

 

「うぅー。あたしだけがバカキャラだなんて…」

 

「そんなことはないわ、由比ヶ浜さん」

 

「ゆ、ゆきのん!」

 

「あなたはキャラじゃなくて真性のバカよ」

 

「うわーん!」

 

それから由比ヶ浜さんを面倒くさそうに慰める雪ノ下さん。

 

泣き止んでから比企谷が勉強をしているのが意外だったらしく由比ヶ浜さんがどうしてか尋ねた。

 

その答えは、当たり前の進学のためとスカラシップを狙っているらしい。

 

だが、スカラシップを狙っていても親からは予備校の学費を貰って、それを自分のお小遣いに変換するらしい。

 

詐欺に近いような手口なのだが、実際に誰一人として損をしていないナイスな考え。

 

「進路、かぁ…」

 

由比ヶ浜さんは進路のことを悩んでいるみたいだな。

 

俺もまだそういうことは考えていないんだよな…。

 

進学校のここの生徒は大学に行くことを考えているだろうけど、俺はどうするかなぁ。

 

それにまだ予想の段階だけど、もしその予想が当たってしまったらそれよりも先のことを考ていいのか…。

 

「キッシーはどうするの?」

 

「え?何が?」

 

「だからキッシーはどういう大学を考えているのかなって。ゆきのんは国公立理系で、ヒッキーは私立文系だって」

 

「んー…。どうだろうな、俺はあんまりそういうのは考えてないかな」

 

「「「え?」」」

 

「どうしたのみんな?」

 

「岸波くんは進学を考えていないの?」

 

「進学はまぁ考えてはいるよ。だけど俺って最終的に何処にむかっているのかなぁーって」

 

「そんなの誰だってわかってないだろ」

 

「それもそうなんだけどさ、この先にある不安がどうなるかわからないから、それよりも後のことを先に決めていいのかわからないんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「俺って目の前にある壁を乗り越えてからじゃないと、次の壁をどう乗り越えるかを考えれないんだよ。実際この総武高に入学することを決めたのも中学三年のかなり後のほうだったし」

 

そうなんだよなぁ。先生に早く決めろって何度も言われたし…。

 

「よくそんなんで総武高の国際教養科に入れたな」

 

「それはいつも勉強してたからな。証拠に俺は雪ノ下さんが戻って来るまでは中学で学力はトップだったはずだ」

 

眠ればムーンセルにいい先生方もいらっしゃいますし。これこそ本当の睡眠学習だな!

 

「岸波って塾とか予備校に行ったりしてんの?」

 

「行ったことないな。お金も時間も勿体ないだろ」

 

「「「……」」」

 

「えっ?勿体ないよね?」

 

アレ?俺の考えっておかしいのか?

 

「ま、まぁこういうのは前向きにね。まだわからないことを考えているよりも、まずは目の前のことをどうにかしないと。中間試験のテスト勉強も始めないといけないし、そうだみんなで今度勉強会でもする?」

 

こうしてみんなでテスト勉強をすることになった。日程はまだ未定だけど…。

 

 

 

 

 

一日が過ぎ、部室で俺はついにあのよくわからないプログラムを後少しで完成するところまできた。

 

長かった。思えば去年の秋の終わり、冬に入る少し前の頃、ムーンセルの俺の部屋に怪しい手紙と怪しい小包を開けた日から今日までよく頑張ったと思うよ。

 

そして俺は最後の一行を入力してEnterキーを押す。

 

終わったぁー!!!他の人に迷惑が掛からないように心の中で叫ぶ。

 

で、なにが起きるんだ?

 

ん……。パソコンの画面に桜の花のマークが回転して、その中にパーセンテージが。

 

嫌な予感。

 

パーセンテージが100%になっ瞬間、前世、月の裏側で何度も聞いたあの無駄に明るい音楽が大音量で流れ始めた。

 

オイ!みんなが驚いてるぞ!

 

『ビィビィーチャンネ――――――』バタンッ!

 

フゥー、危なかったぜぇ。こんなところであんなのに出て来られたれら大火傷じゃ済まないからな。

 

俺が勢いよくパソコンを閉じて、額から流れてきた汗を拭い取っていると周りから視線を感じる。

 

「ミ、皆サン、ドウカナサイマシタカ?」

 

片言になってしまった。

 

「どうして片言なのかはいいとして、急にあんな大音量で音を流すから驚いたのよ」

 

「ごめん。俺の意思ではなかったんだよ。ちょっとした誤作動でね」

 

「そ、今度から気を付けてね」

 

「は、はい」

 

残りの二人も納得してくれたのか自分がさっきまでしていたことに戻る。

 

よし。じゃあまずすべきことはイヤホンをパソコンに刺して、イヤホンを両耳に付けてからまたパソコンを開く。

 

『センパイ、ひどくないですか?愛しのBBちゃんとの再会ですよ。いきなり閉じるとか考えられません。だからオトモダチが一人もできないんですよ』

 

余計なお世話だよ

 

『センパイったら強がちゃって、憐れですね』

 

ん?口に出してないのに会話ができた?

 

『はい、できますよ。サーヴァントとの念話に近いですね』

 

それじゃあ、BBのほうも音を出さずにこっちに会話することもできると?

 

『そうですね。センパイのパソコンが開いているならそう言ったこともできます』

 

ならさっきのは!?

 

『お茶目な後輩からイタズラでーす(ハート)』

 

………。よし!閉じよう!

 

俺がパソコンを閉じようとすると

 

『ちょ、ちょっと待って下さい!ただの冗談じゃないですか』

 

はぁ…。冗談ってこっちはかなりヒヤヒヤしたよ。こっちはムーンセルと違ってごく普通の世界なんだけど…

 

もう一度俺はパソコンを開き直す。

 

『ごく普通かは知りませんが、センパイは私との再会は嬉しくないですか?』

 

そんなことない、本当に嬉しいよ。久しぶりだねサクラ

 

あんな別れ方をされたら辛いし。サクラにありがとうとか、ごめんねとかいろいろと言いたいけどそんなことを言っていてら限がないから、今は再会できた嬉しさだけでいい。

 

『べ、別に私は嬉しくはありませんが、センパイがそう言うなら私がここに来たのも意味があるというものです。あと呼び方はサクラではなくBBでいいですよ』

 

わかった。それでだけどBBは何しに来たの?

 

『それでは私がこちらに来た理由を言いましょう。内容は二つ。センパイが作っていたプログラムについて。ムーンセルとセンパイについてです』

 

最初のプログラムについてはわかるけど、俺とムーンセルについてってなんのこと?

 

『センパイ。センパイはもうなんとなく気付いているんじゃないですか?』

 

やっぱりアレのことか…。俺の予想だけだったけど実現するんだね

 

『はい…。センパイがもうわかっているならこのことはもうでいいですね』

 

ああ、いいよ。だいたいの覚悟はできてたからね

 

『それでは気を取り直して!一つ目からいきま――――』

 

「岸波くん!」

 

「は、はい!なんでしょうか!?」

 

BBと念話もどきをしていたら雪ノ下さんが呼んできた。

 

『邪魔が入ってしまったのでまた今度ですね。私はセンパイに一通りのことを説明し終わらない限りはこのパソコンの中にいますから。いつでも呼んで下さいね』

 

そう言いながらBBは消えて行った。

 

変わらないな…。でもそれが嬉しいな。

 

俺はイヤホンを外してからパソコンを閉じる。

 

「ごめん。少し集中し過ぎてた。で、どうしたの?」

 

俺がそう言うと、雪ノ下さんが部室の戸のほうを向いて

 

「依頼人が来たのよ」

 

その言葉を聞いて俺も戸のほうを見る。

 

あ、葉山くんだ。

 

 

 

 

 




BBちゃんの登場
こうなると出番は少ないですね

次回はチェーンメールのことになりますね。
プログラムについて次回に書けるかな?もう少しあとかな?
と言ってどんなプログラムかは感想の返答に書いてしまいましたが…

それではまた次回に!!


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思ったより早く葉山隼人の依頼が終わった。

今回はチェーンメールの依頼です

原作よりも早い段階で依頼が解決します



 

 

 

 

 

「やぁ岸波くん、久しぶり。最後の会ったときはテニスのときだから久しぶりじゃないか」

 

いやぁ、爽やかな笑顔ですねぇ。俺の周りではガウェインぐらいか?

 

「久しぶりでいいんじゃないかな?それで依頼かな?」

 

確か葉山くんって比企谷や由比ヶ浜さんと同じクラスだよな。

 

なら依頼としたらあのことだろう。

 

「ああ、こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ。奉仕部ってここでいいんだよね?平塚先生に、悩み相談するならここだって言われてきたんだけど…、遅い時間に悪い。結衣もみんなもこのあと予定とかあったらまた改めるけど」

 

「や、やー。そんな全然気を遣わなくても。隼人君、サッカー部の次の部長だもんね。遅くなってもしょうがないよー」

 

と由比ヶ浜さんはたまに見せる薄っぺらい笑顔で笑う。他の二人、雪ノ下さんは少しピリピリしてるし、比企谷は今の周りの状況を見ながら考えているみたいな感じか。

 

なら俺が話を進めるか。

 

「別に時間については気にしなくてもいいよ。依頼内容のなんとなくわかってるし、行動に出るのは明日でもいいならこっちは構わないよ」

 

「「「え?」」」

 

雪ノ下さん以外の三人は不思議そうな反応をした。

 

「別におかしなことは言ってないと思うけど。それともみんな明日用事とかあるの?」

 

それなら考え直さないとな。

 

「岸波くん、そういうことではないと思うわよ」

 

ということは俺が依頼内容をわかっていることのほうか。

 

「まだ葉山は何も言ってないだろ。なんで依頼内容がわかってんだよ」

 

「まだ予想だけどね」

 

「なら言ってみてくれるかしら」

 

「予想でだけど、葉山くんの依頼はクラス内で回ってるメール、チェーンメールのことで、それをどうにかしてもらいたいってことでしょ」

 

葉山くんは驚いているようだ。ってことは当たりでいいのかな。

 

「岸波くん。それがどうしてわかったんだ?」

 

「由比ヶ浜さんから聞いたんだよ」

 

そう言うとみんなが由比ヶ浜さんのほうを向く。

 

「な、何言ってるのキッシー!あたしそんなのと言ってないよ」

 

「言ってたよ。『変なメールが来たから、うわって思った』『比企谷は犯人じゃないと思うよ』『内容がうちのクラスのことだから』ってしっかりと昨日言ってたよ」

 

「俺のところいらなくね…」

 

比企谷のことはまぁいい。

 

「それに葉山くんが依頼で来たってことは自分のことではなく、周り人たちのことだろうと思ったからね」

 

葉山くんは周りの人間関係を大事にする人だからな。

 

「そうなると由比ヶ浜さんが言っていた変なメール、クラスのことを書いたメール、クラスメイトの悪口が書いてあろうメールのことを解決したいんじゃないかなって自分なりに考えてみただけだよ。君はそういうのを見て見ぬふりをするのは嫌いだろ?」

 

「…そんな感じだよ」

 

「そうか。よかったよ。外していたらかなり恥ずかしいからなこういうの」

 

「岸波って本当に何者だよ」

 

「魔術師だからな」

 

「生まれ変わりはどこへいった」

 

「付けるの面倒くさくなった」

 

「何だよそれ…」

 

まぁそんなことはどうでもいい。

 

「で、葉山くんどんな感じのメールの内容なの?」

 

俺がを尋ねると、葉山くんは携帯を取り出して、カチカチとボタン操作をしてそのメールを俺に見せる。他の三人もそれを覗き込む。

 

なになに。

 

『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』

 

『大和は三股かけている最低の屑野郎』

 

『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』

 

などこの三人のことが書いてあるな。

 

「典型的なチェーンメールだね」

 

葉山くんがこのメールを改めて見ながら、微苦笑を浮かべた。

 

「これが出回ってから、なんかクラスの雰囲気が悪くてさ。それに友達のこと悪く書かれてれば腹も立つし」

 

この三人は葉山くんの友達か。そうなるとテニスのとき葉山くんと一緒に来ていた三人かな?

 

誰が誰だかはわからないけど。

 

「止めたいんだよね。こういうのってやっぱりあんまり気持ちがいいもんじゃないからさ。あ、でも犯人捜しがしたいんじゃないんだ。丸く収める方法を知りたい。頼めるかな」

 

丸く収めるのか…。少し難しいな。

 

「つまり、事態の収拾を図ればいいのね?」

 

「うん、まぁそういうことだね」

 

「では、犯人を捜すしかないわね」

 

えっ?どうしてそうなった!?

 

「うん、よろし、え!?あれ、なんでそうなるの?」

 

葉山くんも俺と同じで雪ノ下さんの言葉に驚いたが、すぐに微笑み、穏やかに雪ノ下さんの意図を問う。

 

俺はあそこまで早く切り替えられないだろうな。さすが葉山くん。

 

すると、雪ノ下さんは

 

「チェーンメール…。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の名前も顔も出さず、ただ傷つけるためだけに誹謗中傷の限りを尽くす。悪意を拡散させるのが悪意とは限らないのがまた性質が悪いのよ。好奇心や時には善意で、悪意を周囲に拡大し続ける…。止めるならその大本を根絶やしにしないと効果がないわ。ソースは私」

 

「そういうこと。雪ノ下さんの実体験ですか…」

 

俺はそういうの無かったな。知ってるメールアドレスの量が今より少なかったから…。

 

 

 

 

 

話は進んでいき、雪ノ下さんが犯人を捜すことにしたらしく葉山くんは「…ああ、それでいいよ」と観念したように言った。

 

そうして犯人の目星を付けるために雪ノ下さんが、葉山くんと由比ヶ浜さんと比企谷に何があったなどを聞いた結果。

 

「そうすると、職場見学のグループ決めが切っ掛けで、犯人はチェーンメールの対象になっている三人のうちの誰かということ。葉山くんのグループが四人、職場見学のグループが三人、結果一人がハブられてしまう。だからハブられたくない犯人は、他の人を蹴落とす手段としてチェーンメールを使ったと」

 

「そういういことになるわね。なら次はその三人のことを教えてもらえるかしら」

 

「いや、その必要はないよ。解決法を二つ見つけたから」

 

「犯人捜しの?」

 

「いや、犯人を捜さずに現状況をあやふやにする方法と、同じく犯人を捜さずに現状況を少しだけ改善する方法かな」

 

今回は全員が驚いているようだな。なんかごめんね。

 

「それって本当かい?」

 

「さすがにこんなところでウソは言わないけど」

 

「ならその解決方法を言ってくれないか」

 

そうなると葉山くんに現状を知ってもらわないとな。

 

「まず今回の話でわかったことは、犯人はグループの人を蹴落としてでも葉山くんと一緒に職場見学に行きたかった。ということはその犯人、またはその葉山くんの友達たちも他の二人を葉山くんの友達としか思っていないってことになるんだよ」

 

「なるほどな、そう言うことか」

 

さすが比企谷、理解が早い。

 

他の三人はピンと来ないようで、由比ヶ浜さんが比企谷に「どういうこと?」と尋ねている。

 

「簡単に言うとだ。葉山の周りの奴らは葉山は『友達』で、他の奴らは『友達の友達』ってことだ。俺は葉山のところをしっかりと見ていないからわからないが、葉山のグループは葉山がいないときは楽しそうに話していないと思うぞ。携帯をいじったりしてな」

 

「あ、ああ~、それすごくわかる…。会話回している中心の人がいなくなると気まずいよね。何話していいかわからなくて携帯いじったりしちゃうんだよ…」

 

由比ヶ浜さんは思い当たることがあるようだ。

 

その由比ヶ浜さんの袖をちょいちょいと引きながら小声で「……そ、そういうものなの?」と尋ねる。

 

由比ヶ浜さんは腕を組んでうんうんと頷く。

 

葉山くんはまだそれを受け入れられないような顔をしている。

 

「葉山くん、気を悪くしたら謝るよ。ごめんね。まぁこれは俺の推測でしかないから気にしないでね。それで解決法は今のところ二つあるけど両方とも聞く?」

 

「ああ、頼むよ」

 

「まずは一つ目、これは四人で行く方法だ」

 

全員が「は?」みたいな顔をしているぞ。

 

「岸波くん、あなたは話を聞いていたのかしら?グループのメンバーが三人までだからこういうことになったのでしょ」

 

「そう、だから二つのグループで行けばいい。三人、三人、合計六人で同じ場所に行けばいいんだよ。葉山くんのグループとどこかの仲がいい二人組と組めばいい。行く場所は生徒が自由に決められる。なら行く場所が被ってもおかしくはないからね」

 

「なんだか裏を掻かれた感じだな」

 

「ただこの場合はチェーンメールは消えると思うけど、現状況をなあなあにしたようなもの、葉山くん達の関係も今までと変わらないんだよ。そうなるとまた同じことが起きると思う。だからこの方法はあまりお勧めはしない」

 

「…なるほど。それならもう一つはどうなんだい?」

 

「二つ目は葉山くんしだいだよ。比企谷辺りはなんとなくわかってると思うよ」

 

俺がそう言うと比企谷はニヤリッと笑みを浮かべる。

 

「ってことは岸波も結構悪い奴だな」

 

「……」

 

考え方がおかしいじゃないか比企谷…。さっきの笑みがさらに邪悪な笑みになってるし、由比ヶ浜さんが「う、うわぁ…」って引いてるけど。

 

「な、なら比企谷言ってみてくれ、俺の二つ目の考え。よ、予想では比企谷と同じだから」

 

「おお、任せておけ。葉山、犯人を捜す必要がなく、これ以上揉めることなく、…そして、あいつらが仲良くなれるかもしれない方法が…。知りたいか?」

 

まるで悪魔の問いかけだな。葉山くんはそれに頷いた。

 

葉山くんは比企谷から二つ目の解決方法を聞いて、それを実行することに決めたらしく、部室を出ていった。

 

「いや、今日中に解決できてよかったね。俺たちもそろそろ帰ろうか」

 

「ねぇキッシー?キッシーの二つ目の考えってヒッキーのと同じだったの?」

 

「ああ。同じだよ。二つ目は葉山くんが他の三人とは行かない方法」

 

そうすると三人が一緒に行動することにもなるから、いい方向にもむかうことができる。

 

比企谷の考えは葉山くんを『ボッチ』にする方法とか考えているんだろうな。

 

「でもよく二つも見つけたな」

 

「一つはうちのクラスでやってるからな」

 

「そういうことね」

 

雪ノ下さんはわかったようだ。

 

「どういうこと?」

 

「国際教養科ってほとんどが女生徒で、男子なんて俺を入れて五人しかいないんだよ。で俺以外の四人は仲が良くて、その四人と女性二人で同じところに行って四人と二人で行動をするらしいから、必然的に俺が一人になるんだよ」

 

「なんか俺のほうが恵まれているように思えてくるな。戸塚いるし」

 

羨ましい…。俺はクラスの男子と話した数なんか両手の指で数えきれるぞ。

 

「それでこういうことになると岸波くんは最終的に私のところに来るのよ」

 

「そうですね。いつも頼りにしています…」

 

いつも最終的に雪ノ下さんのところに辿り着くんだよなぁ。

 

迷惑に思っていなければいいんだけど…。

 

そうして今日の部活は終わった。

 

 

 

 

 

夜、寝る前にBBにプログラムについて聞いてみようかな。

 

俺はパソコンを開いて起動させてから…。

 

いつでも呼んでくださいって言ってたけど、どうやって呼ぶんだ?念話みたいにやるのかな?

 

BBいる?

 

………。

 

声に出せばいいかな?

 

「BBいる?」

 

………。

 

違うか。ん、右の端っこに桜の花マーク…。何呼びかけてんだろ…、ちょっと恥ずかしいんだけど。ま、まぁ誰も聞いてはいないからな大丈夫だろう。

 

イヤホンを付けてっと、音を出さなくてもできるって言ってたけど心配なんだよな…。

 

桜の花のマークをクリックすると、あのBBチャンネルの音楽が流れる。

 

どうせ『ビィビィーチャンネルーーー』とか言うんだろうな。

 

『センパイ呼びました?』

 

………。なんか裏切られた気分だ。

 

まぁいいや、プログラムとか色々と聞きたかったから呼んだんだけど、大丈夫?

 

『前みたいに忙しいと言えないのが残念です』

 

っていうことは大丈夫なんだね

 

『はい。それでどういったご用ですか?あ、わかりました。私を夜のオカズにするんですね。私が可愛いのがいけないんですけど、センパイも少しは自重してください』

 

……。話聞いてたよね?プログラムとかについて聞きたかったんだけど?

 

『仕方がありません。少しだけですよ』

 

そう言いながら着用している黒い袖付きのマントを外してから、服のリボンを外そうと…。

 

って、なんで脱ぎ始めているの!?質問したいことがあるって言ったはずですけど?

 

『はぁ…。センパイ、冗談だってわからないんですか?』

 

もう冗談って感じじゃなかったけど…。それで質問なんだけどさ…、あの聞いていますか?

 

BBは俺の話を聞きながら?リボンを締め直し、マントを羽織る。

 

『はい。聞いていますよ。今夜のオカズのことですよね』

 

聞いてないじゃん。そろそろそのネタから離れようか

 

『わかりました。それではセンパイはいつも何をオカズにしているんですか?』

 

離れようよぉ…。なんで俺、BBとこんな男子高校生がしそうな話をしてるんだよ

 

『センパイこういった話をする男性のお友達がいないから私が聞いてあげてるんですよ』

 

どうでもいいよその気遣い。勝手に話を進めるよ。まず、BBって俺が寝ている間に行って場所にいるの?

 

『いいえ。残念なことにあそこにいられるのはセンパイとザーヴァントだけです』

 

やっと話が進んだ…。

 

じゃああの六つの開かずの間ってなに?

 

『アレはセンパイの思っている通り、私、リップとメルト、ガトーさんのバーサーカーさん、セイヴァーさん、センパイのバーサーカーさんのです』

 

後ろの三人はいいとした最初の三人、主にBBの分がある理由がわからないんだけど

 

リップとメルトはBBというAIから生まれたモノだけど、一応ハイサーヴァントとしても存在してもいるからな。

 

『あそこはセンパイが望んだからできた場所です。センパイが知らないうちに自分から願っていたため私たちの分まで用意をしたんですよ』

 

そういうことか…。なら納得がいくよ。じゃあ何でBBのところ以外は開かないの?

 

『まず、ガトーさんのバーサーカーさんですが、彼女は別の世界にいます。次にセイヴァーさんですが、彼は忙しいんですよ。神様なので』

 

ウソくさい…。別の世界って何処?俺が今いる世界ではないよね?そして忙しいからいないって…、単身赴任中のお父さんですか?

 

『それでセンパイのバーサーカーさんは、今のセンパイの記憶に存在しないためあそこにはいられないんです』

 

そうか…。少し悲しいな。俺と五回戦まで戦ってくれたサーヴァントだったのに、俺に記憶がないから一緒にいられないんだな…。

 

『最後にまとめて私たちのことですけど、私たちは月の裏側にいたころのようなスキルや権限をほとんどがなくなっているんですよ』

 

はい?

 

『ハイサーヴァントではなく、私の分身のAIのようなモノですね。簡単に言いますとセンパイのことが大好きな普通に近い女の子になったわけです。性格はあのままですけど』

 

性格があのままだと普通ではないと思うけど…。そうなるとBBたちは俺たちがいるところと別の場所にいるってこと?

 

『そういことでいいですよ』

 

ということはこのパソコンで話すこともできるんだよね?

 

『まぁできるんですが話したいですか?』

 

なんでそんなに嫌そうなの

 

『正直に言いますと、このセンパイとの会話はあの二人には内緒でやってるんですよ』

 

どうして?

 

『そ、それは…その、センパイとの会話を邪魔されたくないからです』

 

たまに見せるデレ。いいですね。はい、いいですとも。

 

でもよくバレずにできるな

 

『はい。それぐらいは簡単にで―――』

 

『BB、そこで何をしているの?』

 

おや、この雪ノ下さんに似た声はメルトだな。

 

『メ、メルト!わ、私は何もしていないわよ』

 

『そうかしら?私にはそこの画面のようなモノに向かって話しかけているように見えたわ』

 

『あ、あの…、お母様とメルトは何を話しているの?』

 

今度はリップの声だな。

 

『私が何をしようとあなたたちには関係がないことでしょ。いつもみたいに料理の練習をしたり、フィギュアやドールの収拾や観賞でもしてなさい』

 

なんか長くなりそうだから俺はもう寝るかな。

 

BB、俺はもう寝るからまた今度ね

 

『今の声はハクノの』『せ、先輩の声…』

 

『セ、センパイ!?何声を出して―――』パタンッ…。

 

パソコンを閉じる前になんか聞こえたけど、まぁいいか。

 

明日からあの時間は何をしようかな。

 

中間試験の勉強でいいか。

 

俺は布団の入って目を閉じた。

 

 

 

 

 




次回はサキサキこと川崎さんのことですかね

リップとメルトも軽く登場させてみました
それではまた次回!!


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試験前の部活停止期間でも奉仕部は活動をする。

今回は川崎さんの回です。と言っても川崎さんの登場は次回からですね

前書き書くことが浮かばない…


 

 

 

 

 

中間試験の二週間前を切り、雪ノ下さんから奉仕部のメンバー(なぜか比企谷抜き)で勉強会をしようと誘われたのだが先客がいたため断らせてもらった。

 

そして俺は学校の玄関で先客を待っているところだ。

 

先客と言うのはまぁ…。

 

「白野先輩、待ちましたか?」

 

「いや、大丈夫だよ。で何処で試験勉強をやるのかな?カレン」

 

「まずは歩き始めましょう」

 

そう言ってカレンが歩き始めたから、カレンの横に並んで歩く。学校の登下校が一緒になるときは腕を組んできたりはしないので気は楽だ。

 

今日はカレンと放課後に試験勉強することになっていたから徒歩で登校してきた。

 

カレンとはよく試験勉強をする。というよりは俺が教えて、ついでに試験の山を張らされる。

 

試験の出題範囲と試験を作成する教師を言ってもらえれば出題される問題はなんとなくわかってくる。

 

で、その問題をやっておけば試験で八十点以上の点数は取れる。中学のころから何度も試したから間違いはない。

 

残りの点数を取るには日頃の努力のみ。俺はそうして雪ノ下さんの次でいるわけだし。

 

そして俺は日頃勉強をしていない人のためには山は張らない。急激に点数が上がったらその人がカンニング疑惑みたいな感じで怪しまれるからな。

 

別にカレンが大切な妹みたい存在だからって甘やかしているわけではない。本当だよ。

 

それにカレンは頭もいいし、しっかり勉強はしているはずだから。

 

「そうですね…。私の部屋でもいいんですけど、その場合は白野先輩が私を襲ってくるかもしれませんから、どこかのお店にしましょう」

 

「カレンは俺を何だと思っているんだよ。それにそんなことしたら店長の雷鳴の如き一撃が俺の鳩尾を貫くことになると思うから絶対にしないよ…」

 

店長が本気を出せば、相手を一撃で吹っ飛ばせるだろうし、そして相手が飛んでいった場所にコンクリートの壁があったら、コンクリートの壁に大きなクレーターができるな。うん、間違いない。

 

「絶対に襲いませんか?」

 

「……」

 

なんで聞き返すんだよ。ここでの答えって結構大事な気がするな。

 

『絶対にしない』と言えば、カレンから信頼を得れる気もするが、考え方によればカレンに魅力がないと言っているようなモノ。

 

そして『絶対とは言い切れない』の場合は、カレンは魅力的だから仕方がないみたいな感じだが、別の考え方だと俺はカレンをいやらしい目で見ているということだ。

 

こうなると今後カレンからの受ける対応が変わってくるだろう。それは少し嫌だな。結構今の状況は俺なりに気に入ってはいるし。ペット扱いは嫌だけど。

 

そうなるとなんて言えばいいのかな…。

 

「白野先輩、黙るということは襲うかもしれないってことですね」

 

「いや、少し待ってくれ。これは結構大切なことだから」

 

俺の言葉にカレンはキョトンとしている。だが仕方がないんだよ。この件は慎重に考える必要がある。

 

……よし、答えは纏った。

 

「カレン、よく聞いてくれ」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「カレンは魅力的な女性だ。ついでに魅力的と言ってもいやらしい意味ではなく綺麗な女性って意味だからね。で、俺はそういう魅力的な女性に手を出したりはしない」

 

「どうしてですか?」

 

「それは…、大切にしたいからだ」キリッ

 

「……」

 

「……」

 

なんだこの沈黙。変だったかな?

 

「それでは今回はカフェで試験勉強をしましょう」

 

「何か言ってくれない。俺がバカみたいじゃん」

 

それからもカレンはさっきのことについてはノーコメントだった。

 

本当にバカみたいだな…。

 

 

 

 

 

カレンに連れられカフェに来ると学生客が込み合っていた。

 

「カレン、人が多いから場所変える?」

 

「いえ、勉強をしに来ているようなので静かでしょうから別に変えなくてもいいですよ」

 

「それなら席に着こうか」

 

席を探すため周りを見回すと見覚えがある顔が二つ。比企谷と戸塚くん。ってことは向かいには雪ノ下さんと由比ヶ浜さんかな?

 

最終的に比企谷は呼ばれたんだな。

 

「白野先輩。あそこにしましょう」

 

カレンが指差した場所は比企谷たちの後ろの向かい席。

 

まぁ勉強するだけだから問題はないか。

 

俺はカレンの後を付いて行き、比企谷たちの席の通路側である右横を通り過ぎようとした瞬間、目の前を銀色の閃光が…。

 

パシッ!

 

それを右手の人差し指と中指の間に挟んで止める。

 

その白銀の閃光の正体はフォーク…。

 

「「「おおぉぉ…」」」

 

横から比企谷、由比ヶ浜さん、戸塚くんのすごいモノを見たかのような感嘆の声が上がる。

 

「あの…、危なかったんですけど…」

 

「あら、こんなところで会うなんて奇遇ね岸波くん。少し手元が狂ってしまったわ」

 

「手元が狂ってなかったら直撃とかじゃないよね?」

 

「さあ、あなたの想像に任せるわ」

 

怖いんですけど…。

 

「白野先輩なにしてるんですか?」

 

カレンが俺が席に着くのが遅かったため、席から立ち上がり俺のほうにむかってくる。

 

そしてカレンと雪ノ下さんの目が合って一、二秒。

 

「ああ、白野先輩のお知り合いの方でしたか。話をしていたのにすみません。でも今日は白野先輩と私のデートですから白野先輩は連れていきますね」

 

カレンはニコッと可愛い笑顔で爆弾を投下した。

 

「何を変な爆弾落としているの!?俺たち試験勉強しにきただけでしょ!あ、すみません…」

 

勉強をしている他のお客さんに睨まれてしまった…。

 

「それより岸波くん。あなた試験勉強をすると言っていたけれど、後輩と勉強してもさほど意味がないと思うわよ?」

 

「大丈夫ですよ。白野先輩は一緒に勉強をするんではなく、私に勉強を教えるために一緒にいるので」

 

「だとしたら岸波くんのためにはなっていないのではないかしら?それにあなた、言峰カレンさんでしたっけ?言峰さんも岸波くんに教わっているだけではなくて自力で勉強をしたらどうかしら?」

 

「私の名前を知っているんですか。ありがとうございます。私はあなたには興味もありませんから名前を知りませんが」

 

カレンがフフフと笑いながら学園で有名な雪ノ下さんのことを興味ないから名前を知らないと切り捨てた。

 

簡単に言えばカレンにとって雪ノ下さんはどうでもいい存在と言うわけだ。

 

俺としては俺の大切な知り合い同士仲良くしてもらいたいところなんだが…。

 

「それとためにならないと言っていましたが、先輩はいつもいい点数を取っているみたいですから。それに私も中学では学年一位でしたし、総武高の受験も首席で合格しましたよ。私もそこそこ頭がいいので」

 

二人とも笑顔なんだけど…、怖いな。仲良くは無理そうだな。

 

「ってカレンが頭がいいことは知ってるけど、そんなにいい点取ってんの?」

 

「はい。白野先輩が手取り足取り教えてくれるので必然的に点数もよくなっていきますし、山を張ってくれますから」

 

『山を張る』という単語に由比ヶ浜さんが反応した。

 

「キッシーの山勘ってそんなにいいの?」

 

「キッシー?…あ、白野先輩のことですか?そうですねぇ…、白野先輩の山勘だけでも八十点は取れますね」

 

はぁ、言っちゃった…。

 

俺は額に手を当てる。

 

この場にいた全員。というよりこの話を聞いていた学生のお客さんたちも驚いているよ。

 

「なんだよその夢みたいな数字。山勘だけで八十って勉強している奴らがバカみてぇじゃねぇか」

 

「だから俺は勉強をしっかりしている人のためにしか山は張らないよ。しかも普通にテストで七十点以上取れる教科限定だ」

 

「ええ~。どうして」

 

「急激に点数が上がったら怪しまれるからだよ。山勘だけで八十点以上なんてふざけてるからな」

 

「自覚はしているのね。でも岸波くんって運は悪いはずよね」

 

「ここに運は関係ないよ。中間や期末みたいに出題範囲が決まっていて、問題を作る先生さえわかればだいたいの試験問題はわかってくる。俺の観察眼応用編みたいな感じだよ」

 

「岸波の探偵スキルか。ならなんとなく納得はできるな」

 

探偵スキルって…。そんな感じか?

 

「なので私と白野先輩は後ろのほうでいろいろとさせてもらうのでこれで。さぁ、白野先輩行きましょう」

 

カレンがそう言いながら俺の腕引っ張って行く。

 

「いろいろって試験勉強するぐらいだよ。あとは何か頼むぐらい…、ってここには餡蜜があるのか!」

 

神だ!セイヴァ―さんありがとう!運がない俺にもたまにはいいことあるじゃないか!

 

「カレン、先に座っていた待っていてくれ!俺は餡蜜を買ってくる!」

 

「白野先輩は餡蜜がお好きなんですか?」

 

「大好物だ。食べ物で順位を付けるなら、一位餡蜜、二位麻婆豆腐、三位は…、特にないかな?食べモノでの嫌いなものはあまりないし。それに俺は例え不味いモノでも俺のために作ってくれたモノなら最後まで食べようって、昔決めたんだ」

 

ああ、思い出すだけで涙が出てきた…。

 

「あ、お兄ちゃんだ」

 

ん?お兄ちゃん?

 

「……お前、ここで何してんの?」

 

比企谷の妹かな?髪の色も似てるし同じアホ毛があるな。アホ毛と言えばセイバーだな。アレってセンサーみたいになるらしいんだよな。

 

なんのセンサーだったっけ?

 

いや、それどころではない、俺は早く餡蜜を買うんだ!

 

俺はカフェのカウンターにむかい店員さんに「あの餡蜜一つ下さい」と注文する。

 

「申し訳ありません。つい先ほど最後の一つが売れてしまいまして…」

 

「そ、そうでしたか…」

 

マジですか…。やっぱり俺には運がなかったようだな。

 

はぁ…。席に戻るか。いや、でも何か買ってたほうがいいよな。

 

「ここのおすすめとかありますか?」

 

「こちらのショートケーキセットなどはいかがでしょうか?お飲み物はコーヒーと紅茶のどちらかを選べますよ」

 

「ならそれを一つ下さい。飲み物は紅茶でお願いします」

 

「かしこまりました。紅茶にはレモンかミルクどちらかをお付けできますがどうしますか?」

 

レモンかミルクか…。

 

「ミルクにします」

 

「はい。少々お待ち下さい」

 

そう言って店員さんは手際良く注文の品を用意する。

 

「六五〇円になります」

 

まぁ妥当な値段ではあるな。

 

俺は財布から千円札を出して、店員さんからお釣り、ケーキと紅茶が入ったティーポットとティーカップが乗ったトレーを受け取り席に戻る。

 

「で、アレが岸波だ」

 

戻る途中、比企谷に名前を呼ばれた。

 

「比企谷、どうしたの?」

 

「ああ、俺の妹に紹介してたんだよ」

 

「そういうこと。初めまして、岸波白野です。比企谷とはまだ友達ではありませんが部活仲間として仲良くさせてもらっています」

 

「どうもー、初めまして、比企谷小町です。いつも兄がお世話になっています」

 

「いや、俺は比企谷と部活ぐらいでしか会ってないから、そういうことは由比ヶ浜さんや戸塚くんに言ってあげて。じゃあ俺はこれで」

 

俺はこの場から離れる。といってもすぐ後ろの席にいますが。

 

それから俺はカレンに勉強を教えたり、ケーキを食べたり、紅茶を飲んだりしている。

 

まぁカレンに教えると言ってもカレンがわからない問題のほうが少ないから俺はゆっくりとしたティータイムを過ごす。

 

俺、勉強してないな…。まぁ今日はカレンの試験勉強に使うって決めてたからいいけど。

 

「白野先輩」

 

「どうしたの?わからないところでもあった?」

 

「そうではありません。白野先輩は女性の前で甘いモノを頬張っているんですか?」

 

「頬張ってるつもりはないんだけど、食べたかった?」

 

まだ三分の一ぐらいは残ってるからあげるか。でもカレンが気に入るかわからないし…。

 

少し食べてもらって美味しいか聞けばいいか。

 

俺はケーキをフォークで一口分ぐらいに切って、それをフォークの上に乗せてからカレンに近付けて。

 

「はいどうぞ」

 

カレンはそれをパクッと食べる。

 

「どう?」

 

「はい。おいしいです」

 

「そう、よかった。それじゃあ残りはあげるよ」

 

俺はケーキが乗っているお皿にさっき使ったフォークを置いてカレンに渡す。

 

カレンは残りのケーキを食べ始める。いやぁ、甘いモノを食べて嬉しそうにしている子は可愛いですねぇ。

 

俺は紅茶を口にしようとしたのだが、通路側の背後から何かを感じるな。

 

ま、まぁだ、大丈夫だろう。

 

前のカレンを見ると少し勝ち誇ったような顔をしてるし。

 

そのとき右肩を軽く掴まれるような感覚が…。下の感触は女性だな。

 

振り向くと笑顔な雪ノ下さんが…。うん、怖い。

 

「な、何でしょうか、雪ノ下さん?」

 

「ついさっき依頼が入ったからこっちに来てもらおうと思ったのよ。大丈夫かしらザビエルくん?」

 

「懐かしいなそのあだ名…。依頼なら話を聞きに行くけど、カレンは大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ。わからなかったところも終わりましたし、白野先輩からケーキを食べさせてもらいましたから、私はこれでは帰りますね」

 

「そうか。悪いね気を使わせちゃって」

 

「いえ、気にしないでください。白野先輩それではまた明日。ついでに雪ノ下さんも」

 

カレンは教材などを鞄に入れて席を立つ。

 

「あ、その前に喉が渇いたので紅茶を少しもらいますね」

 

そう言いながら俺が使っていたティーカップをから紅茶を少しだけ飲んでから、カフェを出ていった。

 

「「……」」

 

名前知ってるじゃん。あ、俺がさっき言ってたからか。

 

「ザビエルくん、あなたは本当に付き合っていないのよね」

 

「そうだけど、それがどうかしたの?それとまだザビエルくんなんだね」

 

「気にしなくていいわ。それじゃあ席を変えましょうか、ザビエルくん」

 

今日はずっとザビエルくんですかねぇ。

 

 

 

 

 

「なるほど。大志くんのお姉さん、川崎沙希さんが高校二年生になった辺りで不良化したからその理由を調べて、さらに元の優しいお姉さんに戻って欲しいと」

 

「はい。そうっす」

 

聞いた限りだと、帰りが五時過ぎ、たまにあっても喧嘩になって『あんたには関係ない』の一点張り、川崎さん宛てに『エンジェル』と付くお店の店長から電話が来る。

 

「まぁなんとなくで見えては来てるけど、まだ確信ではないな」

 

「なにがだ?」

 

「ん?川崎さんが不良化?した理由」

 

もう奉仕部の方々慣れたようだけど、他の三人はビックリですよねぇ…。

 

「岸波の仕事が早いから俺たちはいつも楽できるな。でなんで疑問形?」

 

「俺は実際の川崎さんを知らないからだよ。俺は人から聞いただけの情報で人を判断はしないようにしているんだ」

 

そうやってムーンセルでも驚いたこと何度もあるし。

 

雪ノ下さんと比企谷以外は「どうして?」と言いたげな顔で俺を見る。

 

「どうしてか知りたい?」

 

不思議そうな顔をしていた人たちが頷く。

 

「なら高校生の二人に聞こう。君たちが今一緒にいる俺と噂で聞いてた俺の違いは?」

 

「「そういうことか…」」

 

「噂では人は判断できない。だから本人を見て、本人と喋ってから其の人を見抜く。それが俺のやり方だからね」

 

由比ヶ浜さんも戸塚くんも納得したみたいだな。

 

「そして中学生の二人にはこの言葉を、『百聞は一見に如かず』実際は自分で見てみないとわからないってことだ」

 

というわけで部活停止期間ですが明日から川崎沙希さんの更生?をすることになった。

 

 

 

 

 

翌日、部室に奉仕部メンバーと戸塚くんが集まっている。

 

「少し考えたのだけれど、一番いいのは川崎さん自信が自分の問題を解決することだと思うの。誰かが強制的に何かをするより、自分の力で立ち直ったほうががリスクも少ないし、リバウンドもほとんどないわ」

 

確かにそうかもな。

 

「で、具体的にはどうすんだ?」

 

「アニマルセラピーって知ってる?」

 

意味あるかな?

 

「アニマルセラピーをするとしても動物がいないけど?」

 

「岸波くん。今から岸波くんのところの猫を連れて来なさい」

 

「いやエルは無理じゃないかな?最近子育てが忙しそうだったからな」

 

でも、大丈夫かな。いつもこの時間ってみんな寝てるし。

 

「だけど家に帰って聞いてみるか。無理かもしれないから他の人にも聞いてみてよ」

 

こうして俺は部室を出て、駐輪場から自転車に乗って家に帰る。

 

それから急いで自転車を漕いで数分。家に着いてから、自室に荷物を置き、携帯と財布は一応持って行こう。

 

それから倉に入って

 

「エル、いる?」

 

子猫たちはお休み中。エルは…、バイクの座席のところで寝てる。

 

「エル、起きてくれ」

 

と呼びかけながら軽く揺する。というか少しは警戒しなさい。どれだけ平和なんですか。

 

『…ん?どうしたのマスター』

 

「手伝って欲しいことがあるんだけど、ちょっと遠いところ、俺の学校に行くんだけど大丈夫かな?」

 

エルは子猫たちのほうを向いてから少し考えてから、

 

『わかったよ。行こうかマスター』

 

「ありがとう」

 

俺はエルを抱えてから、自転車のカゴにタオル畳んで中に入れてそこにエルと携帯と財布を乗せる。

 

「それじゃあ行こう」

 

俺は自転車を漕ぎ学校にむかう。

 

『いいねぇ。たまにはこういった感じなのも』

 

「そうなの?」

 

『そうそう。自分で走るのとは違って、風景を眺めながら移動するのは意外と楽しいね』

 

「確かにわからなくもないな。電車とかはそんな感じだし」

 

『じゃあボクは寝てるから着いたら起こして』

 

「風景を眺めるのはどうした!?」

 

それから十数分、学校に到着。なぜか皆さんはすでに校門にいた。

 

「どうして校門にいるの?」

 

「ええ、比企谷くんの家の猫を小町さんが連れて来るそうだから待っているのよ」

 

「そういうこと。一応エルは許可は得たから連れてきたよ。はいどうぞ」

 

俺はカゴで寝ているエルを雪ノ下さんに渡す。

 

『マスター、ボクは物じゃないよ…』

 

「ごめんごめん。じゃあ俺は自転車置いてくるから少し待っててよ」

 

俺はエルの頭を撫でてから自転車に乗って駐輪場に行った。

 

「猫を使うって言ってたけど、川崎さんが猫アレルギーだったりして。まぁそれはないか」

 

自転車を置いてみんながいる校門に戻った。

 

 

 

 

 




次回から川崎沙希更生プログラムスタートです
一応今回はゆきのんとカレンの初対面でしたけど、あまりヒートアップさせることができませんでした…。もう少しドロドロな感じにして白野くんがゲッソリみたいにしたかったんですけど、難しいですね
次回は依頼が解決するか、その前かって感じになりそうです

俺ガイルの八巻が出ましたが、このSSってアニメで放送された文化祭ぐらい、小説での六巻までにしようか、それとも小説で七巻、修学旅行に入ってもいいのか悩んでいます。

それではまた次回に!


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岸波白野バトラーデビュー(仮)。

川崎さんの回は次回に終わりになります。今回終わらせるつもりだったのですが無理でした

そして川崎さん。あまり喋らすことができなかった…。次回はしっかり喋りますよ



 

 

 

 

 

「まさか、本当に猫アレルギーだったとは…」

 

今、俺たち奉仕部メンバーは戸塚くんの考えで平塚先生に頼んで言ってもらうことにして、それを遠くから観察中。

 

『マスター、ボク来た意味あったかな?』

 

エルは俺の頭の上で疲れたような感じでだれながら、自分が今この場にいる意味を問いてきた。ってなんで頭の上なんだか…。重くはないから別にいいけどさ。

 

「ま、まぁ…、来た意味はあった…かな?比企谷の家の猫、カマクラと仲良くなれた?」

 

俺がそう聞くと、エルは少し考えてから

 

『仲良くはなれたとは思うけど、彼は少しだけ捻くれてるんだよね』

 

「そうなんだ。俺、話しかけるのをわすれちゃったからな」

 

『話しは面白かったよ。彼の家のこととか飼い主のこととか色々。マスターの家やお姉さんのところとはまた違ってて』

 

「へぇ…。今度俺も話してみたいな。ってみんなどうしたの?」

 

俺がエルと話していると、雪ノ下さん以外の三人がこっちを見てくる。雪ノ下さんはこっちが気になっているが平塚先生と川崎さんのほうを見ている。真面目だな…。

 

「どうしたもこうしたも後ろで猫と喋っている奴がいるんだから依頼よりもそっちが気になるんだよ」

 

「キッシー、本当に猫と話せたんだ」

 

「き、岸波くんって猫さんとお話ができるんだね」

 

「戸塚くんには言ってなかったもんな。でもおかしくはないよね?」

 

「いや、頭に白猫を乗せて、猫が『にゃーにゃー』鳴いた後、喋ってる奴はおかしな人間だと思うが」

 

「俺がエルを頭に乗せてるんじゃない。エルが俺の頭の上に乗ってるんだ」

 

そう。俺、自らエルを乗せたんじゃないぞ。エルが乗って来たんだ。

 

「そこはあんまし関係ないと思うけど…」

 

俺たちが話していると、雪ノ下さんがこっちを振り返って

 

「戸塚くんはまだしも、奉仕部の三人は真面目に依頼をやりなさい。平塚先生が可哀想なことになってるわよ」

 

雪ノ下さんの言葉を聞いて平塚先生のほうを向くと

 

「……ぐっ、くぅ………」

 

平塚先生の瞳が軽く潤んでいる。何を言われ…、結婚の事かな?絶対にそうだ。

 

雪ノ下さんが比企谷の背中をとんと押した。

 

「比企谷、ガンバ」

 

「はぁ…」

 

比企谷はため息は軽く吐いてから平塚先生に近付いて

 

「あ、あの……先生?」

 

比企谷が話しかけると、平塚先生はゾンビみたいな動きで振り返る。

 

「…ぐすっ………今日は、もう帰る」

 

そうして平塚先生はふらふらとした足取りで駐車場へよろよろ向かって行った。

 

可哀想だけど、これも人生なんだな…。

 

 

 

 

 

あれから一時間。俺たちは場所を変え千葉駅にいる。

 

エルはちょうどいいところにカレンと出会ったので、連れて帰ってもらうように頼んだら嫌な顔せず了承してくれた。それにエルもカレンに懐いてるから心配はない。

 

「千葉市内で『エンジェル』って名前がついて、朝まで営業してる飲食店は二つ。そのうちの一軒がここらしいけど…」

 

『メイドカフェ・えんじぇるている』…。

 

「比企谷。本当にここで合ってるのか?俺は絶対に違う気がするんだけど」

 

「俺もここに来てそう思った。だがアイツがここだって言ってたからな」

 

「アイツ?」

 

「うおんむ。呼んだか、八幡」

 

ああ、材木座か…。

 

「うわ…」

 

由比ヶ浜さんが少し嫌そうな顔をする。ただ呼んだ比企谷はさらに嫌そうな顔をしている。

 

材木座が来たとなると、材木座に何か心当たりがあるのだろう。そう信じたい。

 

俺は比企谷、材木座、戸塚くん、由比ヶ浜さんの会話を見ていると、袖を軽くちょんちょんっと引かれたのでそっちを向く。

 

「どうしたの?雪ノ下さん」

 

「岸波くん、ここってどういうお店なの?」

 

「俺も来たことはないけど、カフェの店員さんがメイドの格好をしてお持て成しをしてくれるお店だったかな」

 

「それって何か意味があるの?」

 

そう言われると、どんな意味があるんだろうか?

 

「たぶんだけど…、メイド服みたいなフリフリした格好が好きなんだけど、普段じゃ着れないからって感じな女性が店員で、メイドさんにお持て成しされたい男性がお客さんみたいな感じじゃないかな。こう考えると誰一人として損をしていないし」

 

まぁ実際のメイドさんはどんモノかは知らないけど。

 

「なるほど、ある一部の人間の自己満足のためのお店ということね」

 

「まぁ俺の考えではそうなるね。でも俺の考えを使っても川崎さんはここにはいない気が…」

 

「実際に中に入ってみないとわからないわよ。川崎さんがそういう趣味を持っているかもしれないのだし」

 

そうか?でも可能性はあるかな?

 

「確かにそうだね。じゃあみんなで入ってみるか。女性も歓迎されてるみたいだし」

 

『女性も歓迎!メイド体験可能!』って看板に書いてあるし。

 

 

 

 

 

とりあえず、男女6名で入店。

 

女性二人はメイド体験にむかい。残りの男子四人は席に案内された。

 

周りを見渡した感じ今は川崎さんはいないな。むこうに行ってる二人、主に雪ノ下さんがシフト表とかを確認してくれるだろ。

 

そうなると俺は何をするんだ?

 

比企谷は自分と戸塚くんの分のカプチーノを頼んで、材木座はなぜか緊張してるし。

 

俺は雪ノ下さんと由比ヶ浜さんのメイド服姿でも見るか、することもないし…。

 

ん?萌え萌えじゃんけん?何これ?じゃんけんにお金払うの?

 

「なぁ、材木座?」

 

「ど、どうしたのだ岸波」

 

「この萌え萌えじゃんけんって何か意味でもあるの?」

 

「うむ、大いにある」

 

マジか。このじゃんけんにそれだけの意味が、もしいい内容ならやってみようかな。

 

「この萌え萌えじゃんけんは、メイドさんと楽しく遊べて、勝てたら景品がある」

 

「楽しく遊べるはどうでもいいけど、景品はいい響きだな。何が貰えるの?」

 

「好きなメイドさんと一緒に写真が取れるし、ここのメイドグッズなどが手に入る」

 

「……」

 

どうしよ、あまり欲しいと思えない……。俺、別にメイドさんは嫌いではないけど、何と言うかそこまで好きでもないからな…。

 

その後由比ヶ浜さんと雪ノ下さんがメイド服で出てきて、川崎さんはこのお店にはいないとわかった。

 

「おかしい…、そんなことはありえぬのに…」

 

「何がだよ?」

 

「るふん。…ツンツンした女の子がメイドカフェで密かに働き、『にゃんにゃん、お帰りなさいませ、ご主人様…ってなんであんたがここにいんのよっ!?』となるのはもはや宿命であろうがぁ!?」

 

何それSG?五停心観で俺の左手が疼いちゃうよ。こっちの世界ではできないけど。たぶん。

 

「そうなると今日は収穫なしだね。また明日かな」

 

こうして今日は解散することになった。

 

帰り際、みんなの後をついて行くように歩いていると

 

「ねぇ岸波くん」

 

「どうしたの」

 

「さっきあなたから感想を聞けなかったのだけど、どうだったかしら」

 

「どうってメイド服のことだよね?」

 

雪ノ下さんは頷く。

 

「可愛いと思ったし、それ以上に綺麗だったよ」

 

「そ、そう。あ、ありがと…」

 

「うん。もう少しいいことを言えたら良かったんだけどね」

 

「大丈夫よ。あなたにはそういった期待はしてないわ」

 

「……そうですか」

 

やっぱり少し厳しいな。

 

 

 

 

 

翌日部室には七人。奉仕部の四人と戸塚くんと材木座の六人と、何故か葉山くんもいる。

 

「なんで葉山がここにいんの?」

 

比企谷も窓際で本を読んでいた葉山くんに疑問を持ち声をかけると葉山くんは本を閉じて、やぁっ!と手を振る。

 

「いやぁ、俺も結衣に呼ばれたんだけど…」

 

「由比ヶ浜に?」

 

「や、あたし考えたんだけどさ、川崎さんが変わっちゃったのって何か原因があるわけじゃない?だから原因を取り除くっていうのは合ってるとは思うんだけど、ああやって人の話聞いてくれないじゃそれも難しいじゃん」

 

「ん、まぁそうだな」

 

「でしょ!?だから逆転の発想が必要なわけよ。変わって悪くなっちゃったなら、もう一回変えれば今度はよくなるはずじゃん」

 

それはどうかはわからないけど、確かに一理ある。実際は変わってもよくなるとは限らないけどね。

 

「で、なぜ葉山君を呼ぶ必要があったのかしら?」

 

「嫌だなーゆきのん。女の子が変わる理由なんて一つじゃん。女の子が変わる理由は…こ、恋、とか」

 

なるほど…、由比ヶ浜さんのSGはエリザベート寄りだな。

 

由比ヶ浜さんは自分が言った言葉に恥ずかしがってる。

 

「と、とにかくっ!気になる人とかできたらいろいろ変わるものなのっ!だから、そのきっかけを作ればいいんじゃないかと…。で、隼人君呼んだわけ」

 

「い、いやそこでなんで俺なのかよくわからないんだけど」

 

葉山くんが苦笑交じりで由比ヶ浜さんに言うと、比企谷と材木座がほぼ同時に葉山くんを睨みつける。

 

「ほかにも女子に好かれそうな奴が、たくさんいるじゃん。この中にも…。戸塚とか岸波くんとか結構モテるだろ?」

 

「なんで俺?戸塚くんはまだしも俺はないだろ。今まで告白は愚かラブレターもないんだよ。おい、比企谷と材木座、俺を睨むな。本当にモテたことないから!ね、ねぇ雪ノ下さん」

 

「さぁ、私に聞かれても困るのだけど…。後輩に好かれているのだからモテているんじゃないかしら?ねぇモテ波くん」

 

「モテ波ってなんですか…。後輩ってカレンだけだし…、それに」

 

「それになにかしら?」

 

「カレンは俺のことペットって思ってるみたいだし…」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

場の空気が変わったというより止まった。これぞザ・ワー〇ド!アンデルセンに言ってもらいたい。

 

数秒後。そして時は動き出す。

 

「ぼ、ぼく、そういうのよくわからないから…」

 

俺の言葉がなかったかのように話が進んでいく。

 

「んー。さいちゃんもモテるとは思うけど川崎さんのタイプとは合わないと思う。キッシーは良いとは思うんだけど、相手を変える作戦なのに変えすぎちゃうっていうか」

 

「変えすぎるってなにさ!?変えてよくするじゃなくて変えすぎて悪くさせるってこと!?」

 

「まぁそんな感じかな(それにゆきのんがキッシーのこと好きそうだし)」

 

ひどい…。モテたこともないのに…。

 

こうして葉山くんは由比ヶ浜さんの頼みを受けて、『ジゴロ葉山のっ、ラブコメきゅんきゅん胸きゅう作戦!』が始まった。作戦名は比企谷が考えた。

 

帰る準備を整え、駐輪場に移動し川崎さんが来るのを待つ。

 

そして川崎さんは現れた。昨日はあまり観察はできなかったから、今しっかりと見て彼女を知ろう。

 

覇気がなく、ずるずると引きずるような足取りで、だるそうに歩く。たまに欠伸を噛み殺している。

 

で、鍵を開けたとき、タイミングよく葉山くんが現れる。

 

「お疲れ、眠たそうだね。バイトかなんか?あんまり根詰めないほうがいいよ?」

 

葉山くんの完璧な対応に川崎さんははぁと面倒そうにため息をついた。

 

「お気遣いどーも。じゃあ、帰るから」

 

そう告げ、自転車を押して去っていこうとする。

 

「あのさ…」

 

葉山くんの優しい声に川崎さんは足を止め葉山くんのほうに振り向く。

 

「そんなに強がらなくても、いいんじゃないかな?」

 

「……あ、そういうのいらないんで」

 

川崎さんは去っていった。

 

……。この作戦は成功はしないとは思ってはいたけど、なんだろうなぁ葉山くん可哀想…。

 

そのあと葉山くんが俺たちのところに戻ってきたら、比企谷と材木座が大笑いしていた。

 

「葉山くん。ごめんねこっちが頼んだのに、あの二人が…」

 

「大丈夫だよ」

 

「そうか。それとありがとう。なんとなく川崎さんのことがわかったよ」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

今回でなんとなく、彼女は不良ではないと思うところまでは至った。そうなると俺の考えで合っていると思う。

 

次は残りの店に行くことになるな。そこで何とかなればいいけど。

 

で、次の場所は大人らしい服で集合と言われたので一度家に帰って来たわけだけど…。

 

俺って大人っぽい服ってあったけ?父さんので着れそうな服は白衣ぐらいしかないし…。

 

こうなったらアレを着るか…。

 

 

 

 

 

「あとは雪ノ下と岸波だけか」

 

俺を含め残りの三人、由比ヶ浜、戸塚、材木座も到着している。

 

大人らしい格好でと言われたから親父のクローゼットから勝手に拝借した。と言ってもコーディネートをしたのは小町なんだか。

 

それぞれ大人っぽい格好で来たわけだが…。戸塚は可愛いラフな格好。材木座はラーメン屋さんみたいだし。由比ヶ浜は大人っぽくない、スタイル分を上乗せしても女子大生くらいだな。

 

「ごめんなさい、遅れたかしら?」

 

背後から声をかけられ、後ろを振り向くと雪ノ下がいた。

 

初めて奉仕部をに足を踏み入れたときのことを思い出すほどに、涼しげな魅力を放ったいた。

 

「時間通りと言いたいけど、岸波くんはまだ来てないようね。またいつもみたいに何所かで人助けでもしてるのかしら?」

 

何?岸波いつもそんなことしてんの?

 

「ふむ…」

 

雪ノ下はさーっと全員の姿を流し見て、材木座から順に指差して

 

「不合格」

 

「ぬっ?」

 

「不合格」

 

「…え?」

 

「不合格」

 

「へ?」

 

「不適合」

 

「おい…」

 

何故か合否判定されていた。しかも俺だけなんか違うんだが…。

 

「あなたたち、ちゃんと大人しめな格好でって言ったでしょう」

 

「大人っぽい、じゃなくて?」

 

「これから行くところはそれなりの服装していないと入れないわよ。男性は襟付き、ジャケット着用が常識」

 

そういうものか。

 

「すみません。遅れました皆様」

 

ん?聞きなれた声がしたから全員がそっちを向くと

 

「「「「「誰?」」」」」

 

誰?このメガネのイケメン執事。

 

 

 

 

 

「「「「「誰?」」」」」

 

「……」

 

ひどくない?桜にも言われたけどそこまでか…。

 

「ごめん。口調を変えたのが悪かったかも、俺だよ、岸波、岸波白野だ」

 

俺は掛けている黒いフレームのメガネを取る。

 

「えーっと、本当に岸波でいいんだよな」

 

「いや、俺が名乗ってるんだから間違いはないと思うけど?おかしかったかな?これ」

 

もう一度メガネを掛け直す。

 

「岸波じゃないな」

 

「おかしいだろ!?」

 

雪ノ下さんが近づいてきたから雪ノ下さんのほうを向く。

 

雪ノ下さんは俺の顔をじーっと見てから

 

「岸波くんと思って話すけれど」

 

「だから俺は岸波白野だよ」

 

「わかったわ。それで岸波(仮)くん」

 

「(仮)でもないよ。本物だよ」

 

どうして誰も信じてくれないの!?ただ執事服でメガネを掛けただけじゃん。桜にも『ほ、本当に兄さんなんですか?』とか言われたし。

 

「それでなぜ執事服とメガネなの?」

 

「それは、俺が持ってる大人らしく見える服が知り合いから貰ったこれしかなくて、父さんので俺が着れそうなのが白衣ぐらいしかないんだよ。メガネを掛けてるのは、こっちのほうが大人らしく見えると思ったから」

 

「最初のあの口調は?」

 

「あれは家を出るとき桜に『兄さん、その格好はとても似合っていていいんですけど、いつもの口調を変えてみてください。丁寧な口調だとさらに大人らしいですよ』って言われたからそうしてみただけ」

 

「わかったわ。じゃあ桜さんが言ったようにしなさい」

 

どうして?はぁ…まぁいいか。

 

「はい、かしこまりました。雪乃お嬢様」

 

「え、ええ」

 

「ね、ねぇキッシー?」

 

「なんでしょうか結衣お嬢様」

 

「お、お嬢様…、少しいいかも、じゃなくて、キッシーいつもとまったく違うけど、よくそういう格好すんの?」

 

「いいえ。このような格好は今日が初めてになります。こちらは私(わたくし)の知人に貰ったモノなのですが、いつ着ればよいか悩んでいたもので、それで今日この服を着てみようと思いまして」

 

「そ、そうなんだ。似合うというか別人で驚いた」

 

そこまで違うんだな…。一人称は私にしろって桜に言われたからやってるけど、なんか合わないな…。

 

ん?比企谷と材木座が睨んでくる…。戸塚くんはまだ疑っているみたいだし。

 

「どうなさいましたか?八幡様、義輝様」

 

俺が訊ねると、何故か比企谷と材木座が緊張気味になる。

 

「お二人とも緊張なさらずいつものように接していただけるとこちらも楽なのですが」

 

「い、いやぁ…、緊張するなと言われても…」

 

「う、うむ、どうも調子が狂ってな…」

 

なんでだよ。

 

「それでしたらこの口調を元にお戻しましょうか?」

 

「お、お願いします」

 

「はい。それでは…。これでいいかな?」

 

「ああ、声はいつもの岸波だな」

 

「やはりこちらの岸波のほうがしっくりとくるな」

 

「俺は多重人格者ではないけど」

 

みんなの反応少し失礼だよな。

 

「でも本当にすごいな…。メガネだけでここまで変わるか。顔は元からよかったけど、あまり目立つタイプではなかったからな。今なら葉山レベルか?」

 

「褒めてくれてるのは嬉しんだけど、いつもあんまり目立ってないんだな」

 

はぁ、今度からメガネを掛けて登校しようかな…。やっぱり止めよう。学校で一番長い付き合いの雪ノ下さんからもわからないって言われてるんだから、学校に行ったらさらにひどいことになりそうだし。

 

「ねぇねぇ岸波くん」

 

「どうしたの戸塚くん」

 

「岸波くんが来たとき駅のほうから来なかったけど、この辺に住んでるの?」

 

「いや違うけど、アレで来たんだよ」

 

俺はアレを指差す。アレとはそう、バイクです。

 

「「……は?」」「「……え?」」

 

雪ノ下さん以外の四人の頭の上に疑問符が出る。

 

「だからアレ、あのバイクで来たんだよ」

 

あのたぶんムーンセルから送られてきた高そうなバイク。

 

「岸波、本当に何者?」

 

「魔術師だ」

 

「なんかもうそれでいいじゃねって思っちゃうほどやってる気がするぞこのやり取り。だけどやっぱり関係はないだろ」

 

俺の変身が異常すぎたせい?で無駄な時間が過ぎてしまった。それで雪ノ下さんは由比ヶ浜さんを連れて自宅に着替えに行った。

 

そして俺の口調も雪ノ下さんに言われ執事モードにすることになった。

 

その間に俺たちは夕食を食べることにしたわけで。

 

「して、何を食す?」

 

そうだな。お金のことを考えるとなぁ…、電車代よりは安いが駐車代も取られるから、ここは無難に…。

 

「ラーメンだよね」「ラーメンだよな」「ラーメンですかね」

 

満場一致で夕食はラーメンになった。

 

 

 

 

 




僕だけでしょうか?白野くんがメガネを掛けたら、かなりのイケメンに見えるんですよねぇ
普段もかっこいいんですけど、メガネを装備しただけでさらにイケメンに…
これがザビ子がアーチャーの私服のときに言っていたメガネの凄さですかね?
なので今回白野くんにメガネを装備させてみました。実際はここまではならないと思いますがボケとして見て下さい

それではまた次回に!


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彼を知るために彼女は決意する。

今回で川崎さんの回は終わりです

バトラー岸波大活躍!!


 

 

 

 

 

改札前で義輝様と彩加様と別れ、八幡様と一緒に雪乃お嬢様と結衣お嬢様との待ち合わせ場所へ向かうことに。

 

この口調も馴れてきたせいでしょうか?考えもこのような話し方になってしまいました。

 

「それでは八幡様、ホテルの中に入り、お二人が来るのを待つことにしましょう」

 

「なぁ岸波」

 

「はい、どうなされましたか八幡様」

 

「いつまでその喋り方なんだ?」

 

いつまでと言われますと困りますね…。

 

「そうですね…。雪乃お嬢様から許しを得るまでか、この執事服を脱いだときでしょうか」

 

「お前はよく雪ノ下を第一に考えるよな」

 

「いいえ、そういうわけではありませんよ」

 

「そうか?俺はお前と今日まで、まだ二カ月ぐらいしか経ってないが、お前と過ごしていた間、お前の行動は『雪ノ下のために』みたいなことが何度かあったと思うけどな」

 

「はい。八幡様と出会ってから、いいえ、八幡様と出会う前から雪乃お嬢様のために行動をしたことも何度もあります。ですが私の行動は全て『誰かのために』のような感じでしょうか、誰か一人のために行動をするときもあれば、複数の人のために行動をしたこともあります。特定の一人にだけというわけではありません。とはいえ雪乃お嬢様を特別視してはおりますが」

 

「特別視?」

 

特別視。家族や仲間。私に、一人だった私に手を差し伸べてくれた人たち…。

 

「はい。雪乃お嬢様だけではありませんが、私が『大切な存在』と思っている方々です。その中には、八幡様、あなたや結衣お嬢様も含まれていますよ」

 

「なんで俺が入ってんだ?」

 

「私が仲間と思っているからです。ですので、今後あなたや結衣お嬢様がいい方向に向かっていたら見守りますし、悪い方向へと転がってしまったら手を差し伸べ、救い出したいと思います。無理矢理にでも、ですが」

 

「断っても、拒絶しても、お前は自分が良しとすることをするわけか…。自分勝手だな」

 

「はい。欲張りとも言われます」

 

ポケットの中にある懐中時計で時間を確認する。

 

「そろそろ集合時間ですね。エレベーターホール前に行きましょうか八幡様」

 

「なぁ、その八幡様は止めてくんね」

 

「では、この姿のときは比企谷様と呼ばせて頂きます」

 

「様は付くんだな…」

 

比企谷様と共にはホテルの中に入ってエレベーターホールへと足を運んだ。

 

 

 

 

 

比企谷様がソファに座っているため、その横に立ってお二人が来るのを待つ。

 

「お、お待たせ…」

 

お二人が来たようですね。

 

「な、なんか、ピアノの発表会みたいになってるんだけど…」

 

「ああ、由比ヶ浜か。誰かと思った」

 

「せめて結婚式くらいのこと言えないの?さすがにこのレベルの服をピアノの発表会と言われると少し複雑なのだけれど…」

 

「だ、だってこんな服着たの初めてだもん。ていうか、マジでゆきのん何者!?」

 

「大袈裟ね。たまに着る機会があるから持っているだけよ」

 

「普通はその機会自体がないんだけどな」

 

普段のように話せるようになったみたいですね。

 

「それでは全員が揃いましたので、上に参りましょうか」

 

エレベーターのボタンを押し、ポーンと音と共にランプが灯り、音もなく扉が開く。

 

ガラス張りのエレベーターで上に昇り、最上階に着いて再び扉が開く。

 

高級感溢れるバーのような場所、ステージでは白人の女性がピアノでジャズを弾いている。

 

ここからは緊張しないように冷静に行きましょう。

 

後ろを振り向き、三人のほうを向く。

 

「皆様、雪乃お嬢様は大丈夫かと思いますが、他のお二方、比企谷様と結衣お嬢様はなるべく緊張なさらないように。ですが、しっかりと背筋を伸ばし胸を張って、きょろきょろなさらないでください」

 

私の言ったようにお二人は姿勢を正す。

 

「はい。それでよろしいですよ。雪乃お嬢様お手を」

 

そう言い右肘を差し出す。

 

「ええ」

 

雪乃お嬢様はその右肘をそっと掴む。

 

「比企谷様と結衣お嬢様も、雪乃お嬢様と私のようにして下さい」

 

「「は、はい?」」

 

お二人ともわけがわからないような顔をしながら私たちと同じようにする。

 

「お二人はなるべく離れずに私たちの後ろについてきて下さい。では行きましょうか皆様」

 

雪乃お嬢様の歩調に合わせゆっくりと歩き始め、開け放たれた重そうな木製のドアをくぐる。

 

すぐさまギャルソンの男性が脇にやってきて、すっと頭を下げて、そのまま男性は一歩半先に行き、一面ガラス張りの窓の前の端のほうにあるバーカウンターへと導く。

 

そのバーカウンターには川崎様がバーテンダーをしていた。早く目標を見つけることができてよかったです。

 

川崎様はこちらに気付かず、コースターとナッツを差し出し無言で待つ。

 

「川崎」

 

比企谷様が小声で話しかけると、ちょっと困ったような顔をする。

 

「申し訳ございません。どちら様でしょうか?」

 

「同じクラスなのに顔も覚えられていないとはさすが比企谷くんね」

 

雪乃お嬢様は感心なされながらスツールに腰を掛ける。

 

「はい。そのようですね。比企谷様の気配遮断はアサシン並みかと」

 

「何の話だよそれ」

 

「すみません。このような話は私にしかわかりませんね」

 

こちらの世界の人々にはサーヴァントの話を出してもわかるはずがありませんね…。

 

「や、ほら。今日は服装も違うし、しょうがないんじゃないの」

 

結衣お嬢様は比企谷様にフォローを入れながらスツールに腰を掛ける。

 

開いている席はお二人の間の席が一つ。

 

「比企谷様、どうぞお座り下さい。私は執事ですので主の後ろで立っております」

 

「お前そのキャラ板に付いてきたな。モデルでもいんの?」

 

「はい。王に仕える太陽の騎士です」

 

「何また中二みたいなこと言ってんの」

 

「すみません。それにこういったことはやるからには限界まで挑戦してみたいので。ですから、どうぞお座り下さいませ」

 

最後の席に比企谷様が座り、私は比企谷様と雪乃お嬢様の間の一歩半後ろに立つ。

 

「捜したわ。川崎沙希さん」

 

「雪ノ下…」

 

「こんばんは」

 

「ど、どもー…」

 

「由比ヶ浜か…、一瞬わからなかったよ。じゃあ、彼も総武高の人?」

 

「あ、うん。同じクラスのヒッキー。比企谷八幡」

 

結衣お嬢様に紹介され、比企谷様は会釈をする。

 

「その後ろの執事は雪ノ下のところの人?」

 

私のことですか…。

 

「いいえ。今回はこのような格好をしておりますが、私もこちらのお三方と同じ高校生です。この話し方もキャラ付けのようなモノですから普段はこのようなことはしてはいません」

 

私の話を聞いた後、川崎様はふっと諦めたように笑う。

 

「そっか、ばれちゃったか」

 

「大丈夫ですよ。公言などする気はありません」

 

驚いたように皆様が私のほうを見る。

 

「どういうことかしら岸波くん」

 

「はい。では川崎様にわかるように今回の件からお話します」

 

「今回の件?」

 

川崎様は『何のこと』と言いたそうな顔をする。

 

「今回私たちは川崎様、あなたの弟、川崎大志様に頼まれてここにいるのです」

 

「なんで大志が…、ああ、最近やけに周りがうるさいと思ってたらあんたたちのせいか。大志が何か言ってきた?どういう繋がりか知らないけどあたしから大志に言っとくから気にしないでいいよ。…だから、もう大志と関わんないでね」

 

川崎様が睨んできましたがまだこちらの話が終わっていないので話を続けましょう。

 

「次に頼まれたことですが、川崎様を元の真面目で優しいお姉さんに戻して欲しいだそうです。この件については大志様の誤解があるので気にしないでください。それで最後にあなたが夜遅くまでこちらでバイトをしている理由をお当てしましょう」

 

ここからは私の推測…。当たっているかは川崎様しかしらないこと。

 

「川崎様は学費を稼いでいるのではないでしょうか?」

 

「…なんでそう思うの?」

 

最初は驚いた表情を出しましたが、すぐに元の強気の表情に戻しましたね。

 

「大志様から聞いた話では、『両親が共働き』『兄弟が多い』『川崎様が高校二年生から帰りが遅くなった』『そしてこのお店からの電話がくる』が主になります」

 

「それで」

 

「私の推測なのですが、川崎様の進路を大学への進学と考えさせてもらいました。こちらは当たっているでしょうか?」

 

「そうだよ…」

 

これで大丈夫でしょう。

 

「私たちの通っている総武高校は進学校ですから、予備校などに通うための資金が必要だったのという感じですよね。兄弟が多ければその分の生活費や学費が掛かります。その上大志様は今年から塾に通っているんじゃないかと思いまして、自分の予備校の学費を稼ぐためにバイトをなさっているのではないですか?」

 

完全に的を射ることができましたね。川崎様はさらに驚いた表情を見せる。そして次は解決方法…。

 

「……だとしても、バイトは止める気はないよ。ならあんた、あたしのためにお金用意できんの?うちの親が用意できないものをあんたたちが肩代わりしてくれんの?」

 

川崎様の言葉は奉仕部全員に向けられた。解決方法を言う前にこういうことを言われると思ってはいましたが…、その場合もすでに対策済みです。

 

「ええ、あなたがそう望むなら構いませんよ」

 

「「は?」」「「え?」」

 

ここに来る前、自分の部屋にある金庫から持ってきたモノを上着の内側のポケットから取り出し川崎様に渡す。

 

「こちら通帳の中には私の全財産の約三分の一が入っております。私の家族は関係なく、私だけのお金です。どう使おうと誰のにも文句は言われないのでどうぞ」

 

川崎様は中に書いてある金額を目にする。

 

「ご、五〇〇万…」

 

「「………は?」」

 

「約三分の一と言うことは一五〇〇万円近くのお金ね。どこで手に入れたかはわからないけど高校生ではまずあり得ない大金ね」

 

「私が持っている理由はいつか私の口から言わせてもらうので詮索は無用です」

 

話しても皆様は理解してはくれないでしょうし。

 

「川崎様、あなたが望むならあなたが欲しいだけの金額をお渡しします。貸すではなく差しあげます。なにも考えず、ただ欲しいと言えばいいだけです」

 

このようなことはやりたくはないのですが、これからの反応で川崎様の性質がわかる…。

 

「いらないよこんな大金。さっき言ったのは言葉の綾みたいなもんでしょ。何信じてんの、バカじゃないの?」

 

川崎様はそう言いながら私に通帳を手渡す。

 

「はい、信じておりましたよ。あなたがそう言ってくれるのを」

 

「……」

 

川崎様はまた驚いたような顔で黙り込んだ。

 

「大志様が言っていたようにあなたは真面目で優しい方ですね。ですから一度家族と話し合ってみて下さいませんか?『あんたには関係ない』なんて寂しいじゃないですか。川崎様もそのようなことを弟や妹、両親に言われたら辛いはずです。でももしまだバイトが止められないのなら、比企谷様からいい案がありますよ」

 

「は?なんで俺…」

 

急に話をふられた比企谷様は驚いてから諦めたように

 

「はぁ…、なぁ川崎。お前さ、スカラシップって知ってるか?」

 

 

 

 

 

「なぁ岸波」

 

「はい、何でしょうか比企谷様」

 

現在全員でエレベーターで下の階に下りている途中。

 

「話し方、元に戻してくんね」

 

「わかった。それでどうしたんだ比企谷」

 

「お前、もし川崎が金が欲しいって言ったらどうしたんだ」

 

「あげたさ。自分で言ったことだからな」

 

俺がそう答えると、比企谷どころか他の二人も驚いた。

 

「…岸波、俺にはお前がどんな人間かがわからねぇよ。俺は結構人間観察してそいつがどんな人間かは見分けるのが得意だと思う。だが俺は未だにお前がわからねぇ」

 

「そうだろうな。誰一人として俺を理解できる人間はいないと思う。長い付き合いの雪ノ下さんやカレン、妹の桜でも俺を理解するのは無理だと思うよ」

 

「岸波くん、それはどう言うことかしら」

 

「君たちは俺の真実を知らない。俺の過去を俺の未来を君たちは知らない」

 

だから、俺を理解するのは無理だろう…。

 

エレベーターのガラスに映る自分の顔は少し悲しそうに見えるな…。

 

一階に着いてエレベーターの扉が開く。

 

すぐさま気分を入れ替えよう。いつものように笑顔で話す。

 

「にしても緊張したな。こんなところ来たの初めてだよ」

 

「それにしてはしっかりとエスコートできていたけれど」

 

いつもと変わらないように話してくれる。

 

「必要最低限のマナーは習ってるからね」

 

「あれって必要最低限のマナーなのか?初めて知ったんだが」

 

「あたしも…」

 

そんなことを話しながらホテルの外に出る。

 

「もう十一時か…。バイクで帰ると言っても三十分は掛かるからなぁ。今日は試験勉強はできないな」

 

俺はみんなのほうを向き

 

「じゃあまた明日、って言っても試験前だからまず会わないか」

 

「そうだな。まぁまた明日でいいんじゃね」

 

「そうか。じゃあまたあ―――」

 

「その人捕まえて下さい!引ったくりです」

 

ん?少し遠いとかろから声が…。

 

振り返ってよく見ると女性物のバックを持って走ってる男とそれを追いかけてる女性。

 

女性の脚力で考えてもまず追いつくことはないだろう。むしろ距離が離れていくな。

 

「move-speed()」強化スパイクのコードキャスト。

 

一気に踏み込み全力で走る。

 

「速っ!」

 

移動速度が約倍に上がっているから、すぐに男の前に回り込む。

 

「退け!邪魔だ!」

 

男はそんなことを言いながらポケットからナイフを右手で取り出す。

 

ナイフか…。店長から習った技でもやってみるか。

 

俺も男のほうに向かって踏み込み距離を一気に詰める。

 

「なっ!」

 

男のナイフを持っている右手の手首を左手で掴む。そのまま左腕を引き、相手の懐に入り、その勢いで右肘を相手の鳩尾に打ち込む。

 

『六大開・頂肘』

 

「かはっ!」

 

そのまま相手の足を払い転ばす。といっても気絶してるか。魔力強化してなくても普通の人間があんなのくらえば気絶してもおかしくないし…。

 

店長ほど綺麗にできないけど、まぁ成功かな?

 

「「「「「「「「「おおおおおぉぉ!!」」」」」」」」」

 

周りから歓声が上がる。いやぁ、恥ずかしいですねぇ。

 

気絶している男からバックを取り上げる。

 

そして走ってきた女性にバックを渡す。

 

「どうぞ。あなたのですよね?」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「いえいえ、気にしないでください。俺が勝手にしたことなので。それでケガとかはありませんか?」

 

「だ、大丈夫です。あなたのほうこそ大丈夫ですか?」

 

「あの程度なら無傷でどうにかなりますよ。この人はあなたに任せますけど大丈夫ですか?」

 

「はい。本当にありがとうございます。あの…」

 

「何でしょうか?」

 

「どこかの執事さんですか?」

 

この格好だとそうなるよな…。

 

「はい。あちらの方々に仕えています。それでは」

 

そんなバカみたいなウソをついてみんなのところに戻る。

 

「ただいま」

 

「岸波、お前何者?最強の弟子?」

 

「魔術師だ。あと俺は最強の弟子ではないけど、武術の先生は最強レベルの方々なのは間違いないな」

 

なんせ英雄と中華料理屋の店長だからな!!

 

「なんか周りの人たちの視線がすごいんだけど…」

 

「仕方がないでしょ。大勢の前であんなことやったら注目されるのは当たり前よ」

 

「なんかごめん。帰ろうか…」

 

 

 

 

 

あのあと比企谷と別れ、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんを雪ノ下さんのマンションまで見送って、駐車場にある自分のバイクに乗って家まで帰った。

 

翌朝、ニュースで『謎の執事、引ったくり犯を撃退!!』みたいなことを騒いでいたが、まぁバレないでしょう。

 

最近の執事はハイスペックなのは当たり前だから、アレぐらいできてもおかしくないよね?

 

そして日は流れ、中間試験も終わり、休み明けの月曜日。試験の結果が全て返される日。

 

「うーん…。少し点数下がったかな」

 

ほとんどの教科は雪ノ下さんと大差がないんだけど…、国語が学年四位に…、もしかして比企谷より下かな?いや、下だな。

 

「岸波くん。あなた、あの比企谷くんに負けるとはね。情けない」

 

「いやいや、そう言われても、それに国語以外は雪ノ下さんと大差ないし、数学に限っては今回雪ノ下さんより上だよ」

 

「あら自慢?国語四位のくせに。私は数学以外は全部一位よ」

 

「俺は国語以外は一位か二位だよ」

 

なにこの不毛な会話。

 

「まぁこのことは置いておくとして、そろそろ行こうか」

 

今日は試験結果が戻ってくるだけでなく、職場見学の日でもある。

 

何故か俺と雪ノ下さんのグループの残りの一人の座を複数の女生徒が争っていた。

 

確かに雪ノ下さんはかっこいいから、クラスの女生徒から『憧れのお姉さま』のように見られていることが多いからな。ここは女子高ですか?

 

最終的に争っていた女生徒たちは全員、俺と雪ノ下さんと同じ場所に行くことになった。

 

女子率が高い!すごく居づらいんですが…。俺は殿をしよう。

 

職場見学場所は雪ノ下さんの意見でシンクタンクか、研究開発職のどちらかになったそうで、俺はそれについて行くだけ。

 

俺の意見を聞き入れる必要はないもんな。まぁ俺もそういうことに限っては意見言う気もないけど。

 

職場見学も終わりあとは帰るだけ、ためになるようなことを聞いても、実際に役に立つかはわからないよな。

 

ためになる話なら、寝て英雄に聞いたほうがいい気がしてきた。

 

あとそろそろ、BBにプログラムのこと聞かないと。結構はぐらかされるんだよなぁ。

 

「ねぇ岸波くん」

 

「ん?どうしたの雪ノ下さん」

 

一人で帰路に付こうと歩いていたら、雪ノ下さんに話しかけられた。

 

「この前の話しを聞きたいのだけど」

 

「この前?」

 

「ええ、川崎さんの依頼が終わったときの、あなたの話よ」

 

「……」

 

自分でもわかるぐらい、今の俺は嫌そうな顔をしてると思う。

 

「あなたが嫌だと言っても聞きたいの。あなたに嫌われても構わないわ。だからあなたの話を聞かせて」

 

「……。大丈夫だよ。俺は何があっても君を『人を嫌いにはならない』から」

 

そう。これが俺の秘密。陽乃さんが言っていた心の壁。俺が仕舞い込んだ人に対する負の感情。俺があの過去を経て、この世界で生きていくために、『人を嫌いになる』ことをやめた。

 

「だけど、ごめん。まだ言えない。でももし知りたいなら、少しでもヒントが欲しかったら」

 

「……」

 

「父さん、または陽乃さんから聞いてくれ」

 

陽乃さんの名前が出て雪ノ下さんの表情が曇った。

 

「どうして姉さんの名前が出るの」

 

少し強い口調で尋ねてくる。

 

「陽乃さんが、彼女が誰よりも俺を知ろうとしていて、誰よりも俺に近いからだよ。彼女は俺の過去を知っているかはわからないけど、俺の秘密は知っているんじゃないかな」

 

「……」

 

雪ノ下さんは黙り込んでから、何かを決意したような顔をする。

 

「わかったわ。なら私もあなたを知るために努力するわ。誰よりも早くあなたを理解する。姉さんや言峰さん、桜さんよりも早く」

 

「……、そうか。なら俺はそれを応援するよ。だけど…」

 

この先の言葉は俺の思い。

 

「だけど、俺を知っても嫌いにならないで、今までと同じでいて欲しいかな…」

 

 

 

 

 




次回からガハマさんの話になりますが…、皆さん疑問があるでしょう。それは…、ヒッキーがいつ小町からガハマさんのことを聞いたかです。さらにここのヒッキーは事故ってはいますが、大怪我ではありません。ですがここは原作通りに行きます

『六大開・頂肘』はFate/zeroのときマーボーこと言峰さんが舞弥さんに使った技です。かっこいいですよねアレ。

そして白野くんの心の壁については少し書いてみました。納得いかないかもしれませんが、納得してもらえると嬉しいです


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東京わんにゃんショーと言っても犬と猫以外もいるんだな。

今回からガハマさんの話。ですが今回はガハマさんは出ません
一応アニメではなく小説を元にしていこうかと思います


 

 

 

 

 

部活が再開して一週間。前と変わったことが主に二つ。

 

一つ、俺と雪ノ下さんの距離感。

 

前よりもまた少し距離が近付いた。まぁ他人が見た程度ではわからないぐらい。

 

そして…

 

「……」ジーーー。

 

雪ノ下さんが俺のことを知るために努力すると言ったあの日から、周りに人がいないときに、こうやってジーっと見てくるようになった。

 

確かに人を知るためにはその人を見た方がいいとは思うけど…、こう見られると、ねぇ。

 

部室の前に人の気配を感じるな。俺が入口の戸のほうを見ると雪ノ下さんも同じように見る。

 

部室の戸が開く。

 

「うす」

 

「…なんだ、比企谷くんか」

 

雪ノ下さんはふっと短いため息を吐いてすぐ雑誌に目を落とす。

 

これで俺の観察は終わりだな。アレ少し緊張するんだよ。最初のときはどうかしたか聞くと『気にしないでいつも通り生活しなさい』って言うし。そんなの無理でしょ。

 

「その、席替えしたときの隣の女子みたいな反応やめろ。わりと素で傷ついちゃうだろが」

 

そんな反応されてるんだ…。

 

「比企谷、気にしなくても大丈夫だ。さっきのは雪ノ下さんが無意識で言っただけだから」

 

「やめろ。さらに傷つくだろうが」

 

「ええ。岸波くんの言う通りで気にしないで。てっきり由比ヶ浜さんかと思ったのよ」

 

「ああ、そういうことか」

 

そう。もう一つの変化は、由比ヶ浜さんが部活に来なくなった。

 

だいたいは予想が付く。比企谷が由比ヶ浜さんを拒絶したのだろう。

 

そしてその元になる事件は、『入学式の日の事故』のこと、比企谷が由比ヶ浜さんの犬を助けたこと。

 

どうやってかはわからないが比企谷がそのことを知ったのだろう。

 

実際は大きな怪我はなくて済んではいたが、比企谷は入学式に出れなかったようだ。

 

だが由比ヶ浜さんが飼っている犬を助けたことには変わらない。

 

互い別々の考えや思いがある。片方は好意を持ち、もう片方は昔のトラウマによる拒絶。

 

故にすれ違いになってしまった。このまま放置してしまえば壊れてしまうだろう。

 

だから俺は認めない。そんなことで今までの空間を壊してはいけない。

 

というわけで俺は今、新しいプログラムを製作中。

 

今回は俺が自分で考えたモノ。由比ヶ浜さんの誕生日プレゼントにするモノ。

 

ムーンセルの技術を使えばすぐにできる子どものおもちゃみたいなモノだ。ある程度は済んでいるし、あとはプログラミングするだけ。今日には終わるだろう。

 

それで由比ヶ浜さんの誕生日なのだが、メールアドレスに使われている0618って数字から由比ヶ浜さんの誕生日が六月十八日と考えた。

 

間違っていたら、まぁ…、そのとき考える。

 

それに雪ノ下さんも考えてるんじゃないかな、由比ヶ浜さんの誕生日のこと。

 

そんなことを頭の中で考え、雪ノ下さんと比企谷の会話を軽く聞き流しながら、プログラムを作る。

 

我ながら昔と違ってハイスペックになったと思うよ。前は、ムーンセルでは最弱とか言われてたもんなぁ。

 

あと気になってはいたんだけど、二人の会話さっき『諍い』『戦争』『殲滅戦』って不吉な言葉が出てきてたよな。

 

「まぁ、こういうのはあれだろ、一期一会ってやつだな。出会いがあれば別れもある」

 

「素敵な言葉なはずなのにあなたが使うと後ろ向きな意味でしか捉えられないわね……。けれど……、確かに、人と人の繋がりなんて案外あっけないものよね。些細なことで簡単に壊れてしまう」

 

「そんなことはないさ」

 

俺がそう口を開くと二人は俺のほうを向く。

 

「雪ノ下さんが言ったようにあっけなく壊れるけど、逆に些細なことでまた結ぶこともできるよ。ですよね平塚先生」

 

俺が戸のほうを向いて、平塚先生の名前を呼ぶと、戸がガラッと開く。

 

「岸波…、君はいつから気付いていたんだ?」

 

「いつから気付いてたと言われれば最初から。平塚先生が廊下で二人の話を聞いていたときです。それで平塚先生が言いそうな言葉を言ってみました」

 

「君は私が今まで会ってきた生徒、いや人間の中でも最も驚かされる人間だな」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

「では岸波。なぜ私が来たかもわかるかな?」

 

平塚先生が挑戦的なことを言っているが…。

 

「まぁ予想でいいなら。平塚先生が来た理由は、由比ヶ浜さんが来ているかの確認と人員補充とかじゃないですか?」

 

「ほぉ…どうしてそう思った」

 

「はい。先生ならそう言うかなぁと、実際は人員補充というのは由比ヶ浜さんを連れ戻してこいって意味じゃないですか?先生はそう言わないとここの部員は動かないと思っているんではないかと」

 

「やはり君は恐ろしいね。そこまで相手の考えを読めてしまうというのは…」

 

「はい。魔術師ですから」

 

この決め台詞もそろそろ定着してきたんじゃないか?

 

「まぁ…、君の中二病発言は置いておくが」

 

まだ無理だった!!

 

「君たち奉仕部には月曜日までに一人、人員補充をしてもらう。岸波の言ったように由比ヶ浜を連れ戻すのも構わないが、他の生徒を連れてくるのも構わない。では私はこれで帰る」

 

そう言って平塚先生は出ていった。

 

月曜日までか…。まだ時間はあるからどうにかなるかな。

 

「じゃあ、俺たちも帰るか」

 

俺はパソコンを鞄にしまい、席を立つ。

 

「少し待ちなさい」

 

「はい?」

 

どうしたんだんだろ急に。

 

「平塚先生が来てからあなたが勝手に話を進めて、勝手に話を終わらせてしまったせいで、よく話を理解できなかったのだけど」

 

なるほどそういうこと。

 

「えーっとですね。平塚先生は月曜日までに由比ヶ浜さんを連れ戻すか、他の生徒一人を入部させろと命れ…依頼してきたわけだ」

 

「じゃあ岸波はどうして先生の考えがわかったんだ。魔術師はなし」

 

「魔じゅ……」

 

い、言えないだと…。

 

「はぁ…、君ら二人はあんまり意識してないようにしてるかもしれないけど、由比ヶ浜さんが来なくなった日、比企谷が少し違ったし、雪ノ下さんも少し元気なかったからね。平塚先生はそれに気付いていたんだろう。あの人も人を見ることには優れているし」

 

「「……」」

 

「それに、この部活には由比ヶ浜さんが必要だと思ったんじゃないかな。そして俺は由比ヶ浜さんを連れ戻そうと思う」

 

それが一番いいからな。

 

「だけど俺一人だと力不足だ。というより俺は必要ない。今回必要になるのは彼女が信頼を置いている雪ノ下さんと、由比ヶ浜さんが来なくなった原因の比企谷だな」

 

「なんで俺が原因なんだよ」

 

「比企谷、お前はわかっているだろうから言わないよ。まぁお前が原因って言うのは少し違うか。比企谷と由比ヶ浜さんのすれ違いが原因だな」

 

「では私も岸波くんの意見に賛成するわ」

 

「ありがとう。それに俺も雪ノ下さんが思っているように、この二ヶ月間は結構気に入ってるんだ」

 

雪ノ下さんは少し頬を赤らめ、比企谷は変な顔をしている。

 

 

 

 

 

そして土曜日。プレゼントはもう完成したしあとは渡すだけ。渡すのは月曜日のなるとかな。

 

で、現在俺は雪ノ下さんに呼び出され雪ノ下さんの住んでいるマンションの前で待たされている。

 

昨日の夜、メールで『明日10:00までに私の住んでいるマンションの前まで来てくれるかしら』っときて、理由を尋ねたら『明日話すわ。おやすみなさい』と返ってきた。

 

現時刻9:48。着いたのは9:45ほど。着いてすぐにメールで到着を告げた。

 

「岸波くん。待ったかしら?」

 

雪ノ下さんが出てきた。今日は髪を両側で結わえている。ツインテールってやつだね。

 

「いや、メール送ったときに着いたから、三分ぐらいしか待ってないよ」

 

「そ、なら行きましょうか」

 

そう言いながら雪ノ下さんは俺の横にくる。

 

「ど、何処にですか?」

 

「ここよ」

 

雪ノ下さんは手に持っているチラシのようなモノを見せてきた。

 

『東京わんにゃんショー』

 

「ああ…、なるほど。猫を見に行きたいわけね」

 

「それだけではないわ」

 

なに?他にも理由があるのか?

 

「最近あなたを観察していたのだけど。なにもわからなかったのよ」

 

「まぁあれだけでわかったら秘密じゃないからね」

 

「だから、他の方法で探すことにしたのよ」

 

「で、どうして『東京わんにゃんショー』なの?」

 

「いつもとは違う視点で見ることができると思ったからよ」

 

「……」

 

小動物を前にしたら俺の秘密が見れると思っているのかな?

 

「わかった。じゃあ一緒に行こうか」

 

「ええ。では駅からバスで行きましょう」

 

そうして雪ノ下さんと歩き始める。

 

「こうやって休日に二人っきりで出掛けるのって始めてだね」

 

「そ、そうね…」

 

よく二人っきりでいたことはあったけど、出掛けることはなかったからな。桜やカレンとはよく出掛けるけど。

 

 

 

 

 

それからバスに乗り十数分。『東京わんにゃんショー』の会場に着く。入場は無料、犬や猫の展示即売会らしい。その他にも珍しい動物などが展示してもいるらしい。犬と猫以外もいるんだな…。

 

気のせいだろか…。入場してから周りの動物たちから見つめられている。俺のスキル動物寄せが発動したか!?

 

動物寄せとは、俺が小学生のころ発現したスキル。前話したと思うが公園でぼーっとしていると自然に動物が周りに寄ってくる。

 

ムーンセルで動物のような方々と遊んでいたせいかな?たぶんそうだ。

 

「って雪ノ下さん!何処に行くの!?」

 

雪ノ下さんはパンフレット片手にきょろきょろしながら遠ざかっていく。

 

忘れていた。雪ノ下さん少し方向音痴さんでした。

 

俺は雪ノ下さんを追いかける。

 

「あら、岸波くん何処に行ってたのかしら?勝手な行動をされると困るのだけど」

 

「……。うん。ごめん」

 

ここは俺が悪いことにしよう。雪ノ下さんが猫見たさに勝手な行動をしたんじゃない。俺が周りの動物に気を取られていたのが悪いんだ。

 

「じゃあ、はい」

 

俺は右手を雪ノ下さんに差し出すと、雪ノ下さんはオレの手も見て「なにかしら?」と考え始めた。

 

「……」

 

何も言わずに手を握ってくるのは桜とカレンだからか。

 

「俺ガ迷子ニナラナイヨウニ手ヲ繋イデモラオウカナ、ト思イマシテ…」

 

「そ、そう。でもどうして片言なの?」

 

「そ、それは…」

 

い、言えない…。『『雪ノ下さんが方向音痴だからどこかに行ったら心配なんだ』って言うと怒りそうだから、ウソでも俺が悪いことにしたから片言になっちゃった』なんて言えない…。

 

な、何て言おうか…。

 

「あ、あれだよ。俺からこういうことを言うのって初めてだったから少し緊張したんだよ…」

 

「なるほど、………じゃ、じゃあ」

 

そうして雪ノ下さんが俺の右手を取ろうとしたとき

 

「あれって……雪乃さんと岸波さん?」

 

ん?この声はジナコ…、じゃなくて比企谷の妹の小町ちゃんの声だな。声のしたほうを向くと比企谷と小町ちゃんがいた。

 

俺は右手を軽く上げて右手を振る。

 

「やぁ二人とも、奇遇だね。ねぇ雪ノ下さん。ん?どうしたの少し不機嫌そうだけど」

 

「何を言ってるのかしら、別に不機嫌ではないわ」

 

どうしたんだろか?ああ、早く猫が見たいのか。まぁ会話が始まれば時間も長引くもんな。

 

「雪乃さん、岸波さん、こんにちは!」

 

「こんにちは小町さん」

 

「小町ちゃん、こんにちは。比企谷もこんにちは」

 

「よう。にしても、お前ら意外なところにいるな。何か見に来たのか?」

 

「…ええ、まぁ、そのいろいろと」

 

「俺は雪ノ下さんの付き添いみたいなものかな」

 

「あれ?デートじゃないんですか?」

 

「「「……」」」

 

小町ちゃんは何を言っているんだか。

 

「小町ちゃん。デートっていうのは付き合ってる男女がするもの?だと思うから、違うんじゃないかな?そんなことを言ったら比企谷と小町ちゃんもデートってことになるけど」

 

「小町はそれでも構いませんよ。あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「ポイント?」

 

何それ?それが貯まっていくとなにか起きるのかな?

 

「小町の口癖みたいなもんだよ。お前の魔術師みたいなやつ」

 

「アレは俺の口癖扱いなんだね。俺的には決め台詞のつもりなんだけど…」

 

「いかにも中二っぽいな」

 

剣豪将軍よりはましだと思うけどなぁ。俺は事実だし。

 

「それで、比企谷くんは、どうしてここへ?」

 

「俺は妹と毎年きてるんだよ」

 

「うちの猫と会ったのもここなんですよ!」

 

へぇ、確かカマクラだったけ。彼はここで買ったんだな。

 

「……相変わらず仲がいいのね」

 

雪ノ下さんは比企谷と小町ちゃんを交互に見て、透明な笑顔を浮かべる。昔、初めて桜に会った日にした表情だな。

 

この表情のときは陽乃さんのことを考えてたかな。比企谷たちと自分たちを比べたのだろう。

 

「別に、年中行事みたいなものだよ」

 

「そう。……じゃあ」

 

「おう、じゃあな」

 

まぁここでお別れか。

 

「また今度な」

 

「ちょい待ち、ちょい待ちですよ。雪乃さん、岸波さん。せっかく会ったんですし、小町と一緒に回りましょう!」

 

小町ちゃんは俺と雪ノ下さんのすそをくいくい引く。

 

「俺はそっちのほうが大勢で楽しそうだけど、雪ノ下さんは?」

 

「…邪魔じゃないかしら?……比企谷くんが」

 

どうして比企谷が外される。

 

「ちょ、ばっかお前何言っちゃってんの?俺、集団行動だとだいたい黙ってるから全然邪魔にならねぇよ?」

 

「比企谷、お前も俺と同じみたいだな」

 

「え?岸波。お前もこっち側?」

 

「ウソ…。岸波さんはお兄ちゃんと同じでボッチなんですか」

 

「あ、うん。友達がいないんだよ…」

 

そろそろ、友達できないかな…。

 

「……わかったわ、一緒に回りましょう。何か見たいものはあるの?と、特にないなら…」

 

「そうですねー…せっかくですし、普段見れないものにしましょう!」

 

閃いたように小町ちゃんはぽんと手を打った。

 

「……お前は空気読んでんのか読んでないのか全然わからないな」

 

「え?何が?」

 

小町ちゃんは首を傾げる。

 

「……それでいいわ。はぁ……」

 

雪ノ下さん、大丈夫。猫ゾーンはいつか行けるから。

 

 

 

 

 

それから俺たちは鳥ゾーンに行って、比企谷が鷲、鷹、隼などにテンションが上がっていた。それでその鳥たちが俺の肩や腕に乗ってきた。おかしいなぁ、『ふれあいコーナー』じゃないんだけど…。そして周りの人たちから写真を取られたし。

 

鳥ゾーンを出るとき、鳥たちが悲しそうに鳴き声を上げてたし。

 

そして今俺はさらに困っている。

 

「うわぁ、岸波さんすごいですね」

 

「そうかな…。はぁ……」

 

現在鳥ゾーンを抜けて小動物ゾーンの『ふれあいコーナー』。

 

最初俺の足元に子リスが来たから、屈んで正座になり子リスを掌に乗せて頭を撫でていたら、周りに他の小動物が集まってきた。

 

結果。

 

「どうしてこうなった?」

 

俺の頭の上だの肩だの腕の中だの膝の上だのに、ハムスター、ウサギ、フェレット、モルモットのような小動物で埋め尽くされている。ってか眠り始めてるし…。

 

「小町ここまで動物に好かれる人始めた見ました。兄とは大違いです」

 

「俺もここまでとは思っていなかったよ」

 

比企谷と雪ノ下さんは先に行った。雪ノ下さん俺の観察より猫のようだね。

 

「小町ちゃんは行かなくていいの?」

 

「いやぁ、小町ってこういうふれあいコーナーみたいの好きなんですよ」

 

「まぁそんな感じはするね」

 

なんか動物たちに俺のほうが頬ずられてるぞ。くすぐったい…。

 

「そういえばですね。この前大志くんがお姉さんと話し合いできたそうで、前みたいに戻ってくれたそうです」

 

「それはよかったね」

 

川崎さんはわかってくれたようだな。

 

「兄から聞いたら、ほとんど岸波さんが解決してくれたそうじゃないですか」

 

「いや、そうでもないよ。実際俺は川崎さんにきっかけを作っただけで、元に戻ろうとしたのは彼女の意思。それに解決方法を提示したのは比企谷だから」

 

そろそろ正座は疲れてきたな。小動物も集まればそこそこ重い。ん?今雪ノ下さんに助けを求められたような…。犬かな?

 

「岸波さんと雪乃さんってどういう関係なんですか?」

 

「俺と雪ノ下さんは幼馴染っていうほど長くはないけど、小学生四年のときクラス替えで知り合って、それからずっとライバルって感じかな」

 

「ライバルですかぁ…。なんか男の子チックですねぇ」

 

「そうかな?結構わかりやすいと思うけど。そろそろ重いな。係員さーん、この子たちをどうにかして下さーい」

 

俺じゃあこの子たちを退かすことができない…。退かそうとすると瞳を潤ませながら見つめてくる。とても心苦しくなる。

 

係員さん総掛りで俺の周りの小動物を離していく。みんなごめん。俺には君たちを養えるほどの財力は…、十年くらいはあるかな?

 

最後に俺が最初に出会った子リスを手放す。

 

ばいばい。なんだか君とは運命的なモノを感じるよ。また何所かで会おう…。

 

「そろそろ二人と合流しようか」

 

俺は立ちあがって小町ちゃんにそう告げる。

 

「そうですね。雪乃さんたちは何処にいますかね」

 

「猫ゾーンじゃないかな」

 

「ほぉ、といいますと」

 

「ここだけの話、雪ノ下さんはバレていないと思い込んでいるけど、彼女はかなりの猫好きだかね」

 

「なるほど!では行きましょう!」

 

この子は比企谷と違って社交的で明るい子だな。まぁ考え方がたまに似てる時があるからさすが兄妹って感じな部分もあるけど。

 

二人で猫ゾーンをむかうために歩き始めた。

 

「小町ちゃんは、俺の妹とも仲良くなれそうだね」

 

「岸波さんに妹さんがいるんですか?」

 

「桜っていうんだけど、俺には勿体ないほど可愛い妹だ」

 

「岸波さんはシスコンなんですね」

 

「ああ、否定はしない。むしろ肯定します」

 

「これまたお兄ちゃんと仲が良くなりそうですね」

 

比企谷もシスコンなんだな。まぁ一緒に出掛けるほど仲がいいんだし当たり前か。

 

「小町ちゃんは高校は総武高にするの」

 

「はい。頑張って受かりますよ!」

 

「ならもし受かったら桜と仲良くしてあげてね。桜も小町ちゃんと同い年だし総武高を受けるつもりだから」

 

「任せて下さい。小町的にも早く友達ができそうで嬉しいです」

 

「じゃあ今度紹介するよ」

 

猫ゾーンに行くにはここの犬ゾーンを通らないといけないわけか。雪ノ下さん大丈夫だったかな。

 

「きゃっ」

 

小町ちゃんが誰かに当たって転びそうになって小さな悲鳴を上げる。

 

俺は反射的に手を伸ばし小町ちゃんの手を掴んで引っ張り抱き止める。

 

「大丈夫?」

 

「は、はい…(こ、これはお兄ちゃんに勝ち目が見えないぞ…。捻デレさんが好きな小町でも少しドキドキする)」

 

「怪我とかしてなければいいんだけど…。本当に大丈夫?」

 

俺はそう言いながら小町ちゃんから離れる。

 

「だ、大丈夫ですよ。あははは…(しかもこの紳士な対応。大抵の女の子ならこれだけで一発KO。雪乃さんはこんなのを小四から…。お兄ちゃんのことは結衣さんにどうにかしいてもらおう)」

 

それから俺たちは猫ゾーンに移動しようとした途中、犬ゾーンの終わりぐらいで二人を確認した。

 

犬ゾーンの途中で平塚先生らしき人がキャーキャー言いながら犬の写真を撮っていた気がしたけど…、人違いだろう。絶対に人違いだ。

 

「およ、犬ゾーンに二人ともいますね」

 

「まさか予想が外れるとは…。まぁ合流できたからいいか」

 

俺と小町ちゃんが二人に近付くと

 

「そ、その……つ、付き合ってくれないかしら」

 

と雪ノ下さんは比企谷に向かって言う。

 

「「「……は?」」」

 

俺と比企谷と小町ちゃんが雪ノ下さん言葉に間の抜けた声を出してしまった。

 

急展開だな。何があったんだろう?

 

 

 

 

 




次回はプレゼントを買いに行く回ですね。ということは陽乃さんが出るかな?

ザビ男と小町がふれあいコーナーで話している間にガハマさんがゆきのんとヒッキーの関係を勘違いしているところになりますね

ではまた次回!!


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雪ノ下陽乃は着実に岸波白野の秘密に近づいている。

今回はガハマさんの誕生日プレゼントを買いに行く回です。

長くなってしまったせいで誤字が増えてしまったような…。今回も誤字報告お願いします。僕にはわかりません


 

 

 

 

 

「そ、その……つ、付き合ってくれないかしら」

 

「「「……は?」」」

 

まだ二人は俺たちに気付いてないようだな。ならこの場は少し離れよう。

 

俺が小町ちゃんにアイコンタクトとジェスチャーで『少し離れよう』と告げると、小町ちゃんは頷いてついてくる。

 

で、二人に気付かれないぐらいの距離に移動してから

 

「ねぇねぇ小町ちゃん」

 

「はいはい何でしょうか岸波さん」

 

「さっきの雪ノ下さんの言葉の意味はどっちだと思う?」

 

「そうですね…」

 

小町ちゃんは二人を観察してから

 

「小町的には何所かに付き合って欲しいって意味だと思いますよ」

 

「まぁそうだよな。でも感心したな」

 

「何がですか?」

 

「雪ノ下さんが俺と桜以外の人に対してああいうことを言うのって初めてだったからね」

 

いやぁ…、雪ノ下さんも成長したんだな。または比企谷がそれだけの存在になってきているってことかな?

 

「……岸波さんって雪乃さんのことをライバル以外ではどう思っているんですか?」

 

小町ちゃんがジト目で見てくる。俺ってこんな目でよく見られるよな。

 

「ライバル以外だと、妹のような姉のような…、うーん、まぁ家族に近い感じかな」

 

「……ではそういった感覚の女性は何人ほど」

 

「桜は入ってないよね」

 

「そうですね。本当の妹ですから」

 

そうだな…。

 

カレンだろ、陽乃さんだろ、留美ちゃんだろ、でも陽乃さんと留美ちゃんは、カレンや雪ノ下さんとは少し違うんだよな。どちらかで言うと由比ヶ浜さん寄りかな。

 

「桜抜きなら雪ノ下さんを合わせて二人かな?」

 

「疑問形なのは気になりますが、雪乃さんだけではないんですね(これは雪乃さんが岸波さんを手に入れるのは時間が掛かりそうだな。小町は雪乃さんの味方ですよ!)」

 

「それでこの質問は何か意味でもあったの?」

 

「いえいえ、小町が少し気になったでけです(岸波さんは鋭いようで鈍いなぁ…)」

 

「ならそろそろ合流しようか。もし何所かに付き合って欲しいって意味なら俺や小町ちゃんにも言ってくるだろうから」

 

「ほえ、どうしてですか?」

 

「俺の予想では雪ノ下さんは由比ヶ浜さんの誕生日プレゼントを買いに行こうと思っているからだよ」

 

こうして俺と小町ちゃんは二人と合流したら、俺の予想通り由比ヶ浜さんの誕生日プレゼントを買いに行くために誘われた。桜も連れて行こうかな。

 

 

 

 

 

今日も結構充実してたな。

 

『東京わんにゃんショー』に行って、いつものバイト、いつもと同じトレーニング。

 

そういえば今日はBBと会話する日だったな。

 

なんかあの日(リップとメルトにバレた日)以降、BBが『センパイ、今度から二日置きに話しかけて下さい』って言ってきたんだよな。

 

従ってはいるけど。BB達のほうもいろいろあるんだろうな。

 

俺はパソコンを開いて、桜の花のマークをクリック。

 

『あらハクノ、久しぶりね』

 

おや、メルト久しぶり。って、どうして今まで出て来なかったの?

 

『BBにしてやられたのよ』

 

BBのことだからまたどうでもいいような悪巧みだろうな。

 

『BBが、一日交替でBB、リップ、私という順番でハクノと会話することにすると提案してきたのよ。私は反対したのだけどリップが納得したせいで多数決で私の負け』

 

そういうことか。それだと俺が話しかけてない二日間にリップとメルトが入ってるから、君たちには会えるはずがないわけだ

 

『ええ、そういうこと。でも久々にあなたの顔が見れて嬉しいわハクノ…』

 

メルトが獲物を見るような目で見つめてくる。

 

あ、あのーメルトさん?もしかしてまだ俺のことを狙っているんでしょうか…?

 

確かBBがスキルや権限がなくなってるって言ってはいたけども性格は前のままとも言ってたからな、SGの加虐体質は残ってるんだよな…。

 

『ええ、あなたへの想いは変わらないわ。今にでもあなたの悲鳴を聞きたいぐらいよ』

 

ゆ、歪んでいる…。ブレてはないけど歪んでいるよその想い…。メルトはさらに鋭い視線で舐めまわすように見てくる。

 

『でもあなたと一つになろうとは思っていない。むしろ純粋にあなたと恋がしたいもの』

 

メ、メルトがデレた…。前のも一応デレになるのか?

 

え、えーっとまぁ…、メルトが俺を殺そうとしてくるわけではないからいいか。それでBBは何所にいるのかな?

 

『ハクノ、あなた私と話しているのに他の女の名前を出すってどういう神経してるの』

 

ご、ごめん。でもそろそろ俺が作ってたプログラムについて聞きたくてね。

 

『プログラム?……ああ、BBが言ってたわね』

 

何て?

 

『それは―――』

 

『メルト、やっぱりここにいたのね』

 

『あらBB、ハクノと会話させてもらってるわよ。あんな変なウソで騙されるのはリップぐらいよ』

 

BBが出てきたみたいだな。

 

『それにあなたが吐いたウソのせいで、リップがいろいろ壊してしまったから、今みたいに掃除するはめになってるんでしょ』

 

……掃除中だったんだ。結構家庭的ですねお二人とも

 

いろいろ壊したってスキルとかは無くなってるんだよね。もしかしてステータスはそのままとかじゃないよな。ステータスは幸運以外はEぐらいでお願いしたい。

 

『別に私は好きで掃除をしてないわ。まだ手、指の感覚はないもの』

 

そうなんだ…

 

『でも、あなたと会話できたから今回は大目に見るわ。それじゃあまた会いましょう、私の初恋の人』

 

メルトはそう言って何所かに歩いて行った。

 

で、BBなんで変なウソ吐いてんの?

 

『い、いやぁ、前言ったじゃないですか、センパイと話をするのは私だけでいいんです。でもメルトにバレちゃいましたねぇ。今度はどうしましょうか』

 

まだウソ吐く気なんだ!!そろそろ諦めて二人も連れてくれば?俺は別に……

 

いや、ちょっと待てよ。あの三人を同時に相手できるか?無理だろうな。間違いなく無理だ。

 

今まで通り日替わり式でお願いするよ。俺が今度から毎日話しに来るから

 

『わかりました。はぁ…、これでセンパイを一人占めできませんね』

 

そこはお姉さん?いや、お母さんなんだから我慢しようよ

 

『あんな自分勝手な子どもはいりませーん。あ、センパイとの子どもは欲しいですね』

 

はいはい、ありがとうね

 

『どうしてそんなに適当なんですかー。BBちゃん悲しいです。ぐすん』

 

なんか冗談ではないんだろうけどさ、俺がBBたちと会話できるようになってからずっとこんなことばかり言われてきたから、有り難さみたいなのが無くなってきた感じでね

 

『……(過度な愛情表現は逆にダメってことですか…)』

 

それでだけど、俺が作ってたプログラムについて聞きたいんだけど

 

『仕方がありません。センパイは甘えん坊ですねぇ』

 

……。まぁそれでいいや。だから教えてくれないかな

 

『詳細は今度の私の日でいいですか?』

 

まだ延ばすんだ!?

 

『こちらもいろいろ準備しないといけないんです』

 

準備ですか…。それなら仕方がないって言うしかないよな。

 

わかったよ。じゃあまた火曜日。

 

『ではそちらでの火曜日にお会いしましょう。センパイ』

 

BBが映っていた映像が消える。

 

「火曜日ねぇ……。そうなると由比ヶ浜さんの誕生日を祝った日の後だな。明日は由比ヶ浜さんのプレゼントを買いに行くんだよな。もう寝よ」

 

俺は布団を引いてその中に入り、瞼を閉じて眠りにつく。

 

 

 

 

 

「それじゃあ桜、行こうか」

 

「でも私も行って大丈夫なんでしょうか?」

 

そして今、俺は桜を連れて集合場所へむかうところである。

 

「桜、俺は友達がいないからどうかは知らないけど高校生活では友人が必要だと俺は思っている」

 

「はい。私もそうだと思います。でも兄さん、兄さんは私のお友達の心配よりも自分のほうを心配したほうがいいのでは?」

 

「……」

 

だってどんなに頑張っても裏目に出ちゃうんだよ。こういうのって。

 

「大丈夫だ桜、俺はもうお友達候補は何人もできているから」

 

「候補のままなのはどうしてですか?」

 

「……………どうしてだろう?」

 

あれ?どうしてまだ候補のままなんだ?どれくらいで友達って呼んでいいんだろう?

 

「桜」

 

「はい。何でしょうか?」

 

「俺の友達って誰ぐらいからなんだ?」

 

「はい?」

 

桜が『兄さんまた考え過ぎて変な方向に…』みたいな顔をしている。どんな顔かって、それは兄である俺にしかわからないんだ。

 

「まぁ桜は高校での俺の人間関係って雪ノ下さんぐらいしか知らないもんな」

 

一応カレンもそうなんだけど、カレンの名前を出したら桜が怖いんだよ…。

 

「なら、桜から見て俺と雪ノ下さんってどんな感じかな?」

 

「兄さんと雪ノ下さんですか……」

 

なんだろ、桜から黒いモノを感じる。これは話しを変えよう。

 

「ま、難しそうだから別にしよう。桜にとって雪ノ下さんってどんな感じ?」

 

「それは…、理想のお姉さんって感じですかね。猫をかぶってませんし、守銭奴でもありませんから」

 

なんかムーンセルでそんな人にあったような…………凛?

 

そんなことを兄妹仲良く話しながら集合場所に移動した。

 

現時刻10:00ちょうど。集合場所にはもう三人がいた。ゆっくりしすぎたかな?

 

「ごめん。少し遅れたよ」

 

「は、初めまして。兄さんの…、岸波白野の妹の岸波桜でしゅ…///」

 

あ、噛んだ。俺の妹は可愛いな。そういえば『俺の妹がこんなに天上天下唯我独尊』って本が生徒会室にあったような…。

 

「桜さん、久しぶりね」

 

「あ、はい。お久しぶりです雪ノ下さん」

 

雪ノ下さんと桜が挨拶をしている横で

 

「なぁ小町」

 

「なにかなお兄ちゃん」

 

「岸波の妹ってお前と同い年らしいけどさ、レベルの差を感じるんだが」

 

「お兄ちゃんも岸波さんとかなりのレベル差があると小町も思うよ。でもお兄ちゃんはダメなほうが小町も面倒のやりがいがあるよ。あ、小町的のポイント高いかも」

 

それから電車に乗り『ららぽーと』に向かう。まさかまたここにくることになるとは…。嫌な予感がするな。

 

電車の中で早くも小町ちゃんと桜が友達みたいになった。すごいな…これがコミュ力か。

 

 

 

 

 

「驚いた……かなり広いのね」

 

雪ノ下さんは案内板を見ながら考えるように腕を組む。

 

「いろいろあるからね。いくつものゾーンで分かれてるから目的は絞ったほうがいいかな」

 

「詳しいのね」

 

「桜やカレンと何度も来たからね」

 

「そ、どうでもいい情報ありがと」

 

「雪ノ下さん、踵で俺の足のつま先を踏むの止めてくれないかな。地味に痛い」

 

前はこんな暴力を振るう子じゃなかった!と思う……。

 

「あらごめんなさい。見えてなかったわ」

 

「さいですか……。って他の三人は」

 

辺りの見渡すと三人がいない。

 

「桜さんと小町さんは一緒に行動したいと言ってたわよ」

 

「じゃあ比企谷は?」

 

「彼は……」

 

雪ノ下さんが比企谷がいない理由を考え始めたとき、俺の携帯に着信音が。

 

比企谷八幡の名前が……。嬉しい!初めて同い年の男子から電話だ。

 

「もしもし」

 

『あー、岸波か』

 

「まぁ俺の携帯だし。で今何所にいるの?」

 

『俺は買うモンは決めたから、一人で行かせてもらうわ。集合は案内板の近くな。じゃあな』

 

「は?ちょっと、ま」

 

通話が切れた。

 

「どうしたの?」

 

「比企谷が一人で行動で由比ヶ浜さんのプレゼントを買うってさ。集合場所はここだって」

 

「意外ね。彼が由比ヶ浜さんにプレゼントを買うなんて」

 

「そうでもないよ。比企谷だって由比ヶ浜さんに感謝はしてるんだと思うよ」

 

「………そうね。では私たちもそろそろ買う物を決めないといけないわね」

 

「俺はもう用意してあるから雪ノ下さんの分だけでいいよ」

 

雪ノ下さんは驚いた表情をした後、いつものように呆れ気味に

 

「いつから用意していたのかしら」

 

「由比ヶ浜さんが来なくなって四日目ぐらいかな。その時には雪ノ下さんと同じように誕生日を祝おうって思ってはいたんだけど、今回は俺一人で頑張ってもまったく意味がないなって。平塚先生が来てくれなかったらどうしようかと思ったよ」

 

実際俺が由比ヶ浜さんにプレゼントを渡しても現状をどうこうできるわけがない。みんなで祝えば由比ヶ浜さんにも勇気を持ってもらえるだろう。

 

「あなたらしいわね」

 

「それで雪ノ下さんは何にするの?」

 

「まだよ。どういうものがいいかわからないのよ」

 

「それなら由比ヶ浜さんが使いそうな物を買えばいいんじゃないかな」

 

「彼女が使いそうな物?」

 

「そう。たとえば……」

 

 

 

 

 

案内板で場所を確認してから移動して目的地に着く。

 

「ここってキッチン雑貨のお店よね」

 

「ほら由比ヶ浜さんの依頼が終わって、その後に由比ヶ浜さんが来た日にさ『料理にはまってる』みたいなこと言ってたし」

 

「彼女の料理の腕前はかなり低いと思うのだけど」

 

「だからこそだよ。それに中に入れば意外といい物もあると思うよ」

 

「それもそうね。それじゃ中に入りましょう」

 

そして入店。

 

「おお、この包丁はいいな。あ、中華鍋まで」

 

目移りしちゃうよね、こういう店って。俺も料理をするから見るとテンションが上がる。アーチャーが銃や家電を見てテンションが上がるのも納得できるよ。

 

「岸波くん、どうかしら?」

 

雪ノ下さんのほうを向くとエプロン姿だった。

 

黒い生地で胸元に小さな猫の足跡があしらわれている。

 

「それは……、由比ヶ浜さんとは違うかな?だけど」

 

「だけど何かしら」

 

「雪ノ下さんにはすごく似合ってるよ」

 

やっぱり女の子のエプロン姿はいいね。

 

「……そう、ありがとう。それだと由比ヶ浜さんはこんなのかしら」

 

雪ノ下さんは自分が着ていたエプロンを脱いで丁寧に畳み、近くにあった薄いピンクの装飾の少なめのエプロンを手に取る。

 

「いいんじゃないかな。由比ヶ浜さんらしいと思うよ」

 

「そう、これにするわ」

 

そうして雪ノ下さんはピンクのエプロンと黒のエプロンをレジに持っていく。

 

自分のも買うんだ。まぁ似合ってたからいいと思うけど。

 

そのあと雪ノ下さんは途中にあったショップでパンさんのぬいぐるみを買っていた。本当に好きなんだな…。

 

集合場所に向かう途中、ペットショップで比企谷と鉢合わせした。場所で比企谷の買った物が予想がついた。

 

って場所決まってたのになんで今出てきたんだ?遅くないか。何所かで暇潰しとかしてなかったよな?

 

 

 

 

 

「白野くん。飲みたいものある?おごるよ。」

 

「いえ、さっき自動販売機でコーヒー買ったんで…」

 

で、俺は今陽乃さんに捕まってららぽーとの中にあるカフェにいる。

 

何があってこうなったかを説明しよう。

 

比企谷と鉢合わせし、三人でその辺の一服しようとしたため俺が飲み物買いに行くと言った。

 

『俺、飲み物を買いに行こうかと思うんだけど、二人は欲しい飲み物とかある』

 

『私は紅茶を』

 

『俺はMAXコーヒーで』

 

『わかった。待っててね』

 

こんな感じだ。

 

で、俺が飲み物を買いに行って戻ったら、二人がいた場所にもう一人いた。それが陽乃さん。

 

そこから弩濤のようだった。

 

俺が『あれ陽乃さん?』と言ったら、陽乃さんはいつものようにハグをしてきて、雪ノ下さんがお怒り……不機嫌に、だけど陽乃さんはそれをスルー、そのまま俺を連行し今に至る。

 

飲み物はしっかりと渡してきたから大丈夫。

 

というか前もこんな感じで雪ノ下さんの実家に連れてかれたな。いや、あれは拉致か。

 

陽乃さんがコーヒーを買ってきて席に着く。

 

「それで、陽乃さんどうしたんですか?いつも……こんな感じですけど、今日は友人(笑)と遊んでたんじゃないんですか?」

 

「(笑)ってひどくなーい。お姉ちゃんショック」

 

「陽乃さんが今日一緒だった人たちを友達とは思っているかわからなかったもので」

 

「白野くんってさ、私には厳しくない?雪乃ちゃんにはあんなに優しいのに。雪乃ちゃんが羨ましいなぁ」

 

「気付いて言ってると思いますが、陽乃さんには強めに出ないとこっちが陽乃さんのペースに呑まれてしまいそうなので、こうしてるだけです」

 

大抵の人はこの人を前にしたら、逆らえなくなるからな。

 

「じゃあ、私も雪乃ちゃんみたいにツンツンデレデレしてれば、白野くんは私にも優しくしてくれるのかな?」

 

「……。雪ノ下さん俺にデレてるんですか?アレで?」

 

デレって言うのは、セイバーの『余の婿に来るがいい』とか『告白するぞ……余は奏者が大好きだーーっ!!』や、キャスターの『もうっ、ご主人様ったらイケメン!』とか『マスター!一生ついて行きます』や、優しいときのギルの『見事だ!後で飴をやろう』とか『おい。…怪我ないな』みたいなアレでしょ?

 

「雪ノ下さんが俺にデレているかはまた今度いいです。まず陽乃さんが俺を連行した意味を聞きたいんですが?」

 

「なら、私が雪乃ちゃんみたいになったらどう接してくれるか教えてよー」

 

「そうですね……、何か裏があるか考えちゃいますかね。今までが今までなんで。それか、陽乃さんは気に入ったモノをとことんいじめたがりますから、その一環みたいなモノって考えますね。」

 

あれって本当に迷惑な場合もあるからな。対象は俺、雪ノ下さん、葉山くんが多い。

 

「俺の予想では比企谷辺り気に入ったんじゃないですか?」

 

「そうそう、彼、比企谷くん。あの子は面白くていいね。あの変に悟って諦めているような目は好きだなぁ。まるで白野くんの逆って感じで」

 

「俺の逆ですか」

 

「君は全てを悟っても諦めずに頑張るって感じだもん」

 

確かにそうかもな。俺はまだ道があるなら逆らおうと必死になる。

 

「比企谷の性格とか考えると、陽乃さんの仮面にも気付いてるんじゃないですかね」

 

「そうかもねぇ」

 

そんなことを話しながら、俺は自動販売機で買ったコーヒーを、陽乃さんはここのカフェで買ったコーヒーを飲む。

 

「で、何の話だったかな?」

 

「あなたが俺を連行した理由です。話したい程度のことなら二人がいた場所でもよかったでしょ。だから気になったんです」

 

「連行なんてしてないよー。もう白野くんは大袈裟なんだから」

 

「俺が断ろうとしたら関節技決めてきましたよね。合気道に関節技なんてありましたっけ?」

 

確か陽乃さんと雪ノ下さんは合気道してたよな、護身術として。

 

「アレは白野くんが勝手に動いちゃったせいだよ」

 

「勝手に動いたら、陽乃さんは相手の右手首を持ったまま相手の背に回り込むんで肩の関節を外そうとするんですか!?」

 

怖すぎだろ。

 

「でも白野くんなら抜けることもできたでしょ」

 

「……ま、まぁ俺もそれなりに鍛えてますし」

 

でもその場合って陽乃さんが怪我するかもしれないからな。

 

「君は優しいよね」

 

陽乃さんは俺の考えを読み取ってそう言った。そして真剣な表情になり

 

「本当に優しい…、誰にでも……、だから嫌いな人がいないんだよね。というよりは嫌いな人を作らなくなったんでしょ」

 

「やっぱり気付いてましたか。俺の心の壁の正体」

 

「人を嫌いにはならないってことは、好きになることもない。絶対にある一定の距離を保つ。それ以上近づこうとする人が気付かないフリをする。そうやって自分も騙す。だから自分をも通さない壁になる。というより箱だね。鍵を閉めてるみたいだし」

 

「……さすがですね」

 

「君みたいに人の心や考えに鋭い人間が自分への好意に気付かないはずないもん」

 

「そうでもありませんよ。俺は今でも好意を持ってくれている人はいないと思ってますし」

 

「さすがは女泣かせ。この唐変木」

 

ひどい言われようだな…。

 

「それで、どうしてそうなったかを調べてるんだけどどうにもまだわからないんだよね。君の過去、五年間の空白が」

 

「……」

 

久しぶりに嫌な汗が出てきたな。なんとなくこの人ならここまで来るとは思ってたけど、実際に来られるとすごい緊張感。

 

「で、陽乃さんは俺の過去を知りたかったから連行したわけですか」

 

それから陽乃さんはいつもの偽物の笑顔に戻る。

 

「そうそう、そういうこと」

 

「俺としては、頑張って自分で調べて下さいって言いたいんですけど……。雪ノ下さんにもそう言いましたし」

 

「へぇ…。雪乃ちゃんも白野くんのことを調べようと思ってるんだ。意外だね、雪乃ちゃんは気付かないかと思ってたよ。白野くんの秘密」

 

「いえ、まだ気付いていませんよ。ただ俺には秘密があるってことは最近わかったみたいですけど」

 

俺が自分で言ったからな。

 

「ふーん。じゃあまだ私のほうがかなりリードしてるみたいだね」

 

「そうですね。でも雪ノ下さんが知ってることで陽乃さんが知らないこともありますよ」

 

コードキャストのことだけど。俺のコードキャストについて知ってるのは、雪ノ下さん、カレン、桜、父さん、店長の五人。店長は俺を見てすぐに気付いたようだったけど。

 

「白野くんは秘密だらけだね。そうなるともっと君のことが気になるし、気に入るなぁ、君は本当にいい暇潰しになるよ」

 

俺はおもちゃですか?

 

「まぁ俺から言うことはないのでこれから頑張ってください。真実に辿り着いたら俺の口から言わせてもらいますので。雪ノ下さんと手を組んでもいいですよ」

 

「それは無理だよ。君もわかってるでしょ、私はそうでもないけど雪乃ちゃんは私を嫌ってるから」

 

嫌ってるよりかは、苦手になるんじゃないか?陽乃さんは雪ノ下さんの憧れみたいなところでもあるんだし。

 

「じゃあ俺はそろそろ帰らせてもらいます」

 

「ええー、もっとお話しようよー」

 

「それがですね……」

 

俺が携帯を取り出して陽乃さんに画面を見せる。

 

「着信が五三件。一分おきに雪ノ下さんからメールが…」

 

内容が『今何所にいるの』『姉さんと何してるの』みたいなのばっかり、途中で『姉さん』が『あの女』に変わってるんだけど…。

 

「う、うわぁ…、私の妹でもこれはちょっと……。白野くんが雪乃ちゃんをこんなにしちゃったんだよ。しっかり責任とってね」

 

「俺にできることなら最善を尽くしますけど…」

 

どうしろと?

 

「今回はこれで失礼します。雪ノ下さんから殺されかねませんし…」

 

「そっか。残念、じゃあまた今度あったらお話しよか。そうだ雪乃ちゃんと会ったら手を繋いで上げれば機嫌が少しはよくなると思うよー」

 

そ、そんなもんか?

 

「一応やってみます。それではまた何時か」

 

俺は席を立ってカフェを後にした。

 

遠見の水晶玉のコードキャストで雪ノ下さんを捜し、迷子になっていた雪ノ下さんと合流。比企谷は先に帰ったようだ。というより雪ノ下さんが帰らせたようだ。

 

その後は殺気立った雪ノ下さんと一緒に帰ることにし、何も言わずに俺から手を繋いでみたら殺気が収まった。

 

さすがお姉さん、妹の扱いは知っているな。そう言えば桜もこんな感じで収まるな。意外と似てるかもな、あの二人。

 

明日は由比ヶ浜さんの誕生日を祝うから、鶴見先生に家庭科室借りてケーキでも焼こう。そのために下準備しておくか。

 

 

 

 

 




雪ノ下さんもうまいことヤンデレ化し始めましたね
メルトとも少し会話をしましたし、そろそろリップとも会話をさせないとですね

次回はアニメではなかった遊戯部の回です。

それではまた次回!!


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俺のペアがいない……。

今回は遊戯部の回
ですが今回では終わりませんでした。ので次回も遊戯部の続きになりますね




 

 

 

 

 

現在俺は部室で比企谷と由比ヶ浜さんが来るのを待っている。

 

俺が作ったケーキは今家庭科室で待機中。あとで取りに行こう。

 

雪ノ下さんはいつものように本を読んでいて、俺をじーっと見て観察をするのをやめている。

 

何かわかったのかな?

 

昨日久々にリップと会話したのだが、あまり会話ができずに終わってしまった。

 

『…ひ、久しぶりです…。せ、せん』

 

リップは先輩と言おうとしていたようだが、言い止めて、

 

『久しぶりです。キシナミさん…///』

 

リップは顔を真っ赤にして俯いている。こういうとこは小動物ぽくって可愛いよな。

 

うん。久しぶりだねリップ

 

『あ、ありがとうございます…///』

 

そう言ってリップか消えて行った……。えっ?これだけ?

 

俺が発した言葉は『うん。久しぶりだねリップ』だけだよ。

 

ただ前と違う変化は見えた。

 

リップの腕や爪、あの人を傷つけてしまうモノがなくなって、普通の人の手になっていた。

 

でもメルトは足は……わからないな。画面の位置だと胸の少し下までしか映らないんだよな。付けたり外したりできるようになったってことかな?

 

メルトは見下すのが好きだから、あの足のままなのかな?今度聞いてみよ。

 

服装は前と同じで目のやり場に困るものだったが。

 

「ねぇ雪ノ下さん」

 

「なにかしら」

 

「由比ヶ浜さんは来るんだよね?」

 

まぁもう戸の前で立ってる気配はあるんだけど……。

 

「ええ、この前、土曜日に『部室に来て』と言ったわ。彼女なら来るわ、絶対に……」

 

「そうか。ならいいんだ」

 

土曜日って『東京わんにゃんショー』に行ったときか、でも俺は会ってないから、雪ノ下さんが比企谷と猫ゾーンに行ったときだよな。そうなると犬ゾーンで会ったってことだ。

 

なんかややこしい勘違いがありそうだぞ……。

 

ん?戸の前に気配が増えたな。この気配…比企谷だな。

 

最近さらに人間離れし始めたかな…。

 

ガラッとわざとらしく大きな音を立てて扉が開いた。

 

大きな音に少しイラッとした雪ノ下さんがぱっと顔を上げた。

 

「由比ヶ浜さん……」

 

「やぁ、久しぶり由比ヶ浜さん」

 

「や、やほー。ゆきのん…キッシー……」

 

由比ヶ浜さんは弱々しく手を挙げてわざとらしい明るい声で答える。

 

「いつまでもそんなとこにいないで早く入りなさい。部活、始まってるのよ」

 

雪ノ下さんは下を向いて隠しているようだが、頬が少し紅潮している。

 

嬉しいんだねぇ。

 

「う、うん……」

 

由比ヶ浜さんはいつもの先に座るが雪ノ下さんと少し距離があるな。

 

比企谷もいつもの雪ノ下さんの対角線上の席に座った。

 

それからみんないつものように自分の好きなことやるのだが、少しぎこちない。雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは互いを意識し合っているようだ。

 

誰一人として声を出さない長い沈黙。いつも由比ヶ浜さんが話しを出すことが多かったしな。なんか言おうかな…。

 

考えてみよう。沈黙を壊す方法は……、『!』そうだガトーのように振る舞えば…、嫌だ死ぬ。間違いなく死ぬ。

 

いや、大きな声で『神、サイコー!!』とか言ってみる?俺もザビエルと言われた(言った)人間だ。神を信じていてもおかしくないからな。

 

よ、よーし。言うz

 

「由比ヶ浜さん」

 

雪ノ下さんは読んでいた本をぱたりと閉じる。

 

い、言わずに済んだ……、ありがとう雪ノ下さん。俺はまた一つ過ちを増やすところだった。

 

「あ、あーっと……ゆ、ゆきのんと……ヒッキーのことで話がある、んだよね」

 

あれ?俺の名前がない?いや、だいたいはわかった。由比ヶ浜さんは雪ノ下さんと比企谷が付き合ってるって思ってるんだ。なんかここからの会話が少し面白、なんでもない。気になるな!マジで気になる!

 

「ええ、私たちの今後のことであなたに話を、」

 

「や、やー、あたしのことなら全然気にしないでいいのに。や、そりゃ確かに驚いたというか、その、ちょっとびっくりしたっていうか……。でも、そんな全然気を遣ってもらわなくても大丈夫だよ?むしろ、いいことだからお祝いとか祝福とか、そんな感じだし…」

 

「よ、よくわかったわね……。そのお祝いをきちんとしたかったの。それに、あなたには、感謝、していうるから」

 

「や、やだなー……感謝されるようなこと、あたししてないよ……。何も、してない」

 

「自覚がないのはあなたらしいわね。それでも、私は感謝してる……。それに、こうしたお祝いは本人が何かをしたいから行われるものではないでしょう。純粋に私がそうしたいだけよ」

 

「………う、うん」

 

面白そうって言った俺がバカでした。人が勘違いしているのを傍から見て笑うのは『愉悦クラブ』だけだ。あと陽乃さん。

 

「だ、だから……その」

 

雪ノ下さんが何かを言いかけようとして、少し黙る。

 

さらに微妙な空気になったなぁ。今度こそ言おうかな……よ、よーし、ん?戸の近くに人の気配。平塚先生とは少し違うな。

 

俺は立ち上がり戸に近付くとダンダン!と焦ったようなノック。材木座だな。間違いない。

 

俺が戸を開けると黒い大きな影、まぁ材木座が比企谷にむかって走って行こうとしたので、足を引っ掛ける。

 

材木座は盛大にズッコケながらも比企谷近付いて

 

「うおーん!ハチえもーん!」

 

「材木座…。なんか岸波にされたか?足とか引っ掛けられたんじゃねーか。それとその呼び方やめろ」

 

「ハチえもん、聞いてよ!あいつらひどいんだよ!」

 

比企谷はイラッときたのか、材木座を部屋の外に追い出そうと押し始めた。

 

今俺にアイコンタクトで『手伝え』みたいなこと言ってきたな。まぁ手伝うか。

 

俺は材木座の両肩を掴んで引っ張り、比企谷は押す。材木座は比企谷にしがみつこうと必死。

 

なんだこの絵面…。

 

さすがの材木座も二人の力に勝てるわけもなく、どんどん出口に近付いて行く。

 

「悪いな材木座。この奉仕部は四人用なんだ。な、ジャイアン?それと出木杉」

 

比企谷はジャンアンで雪ノ下さん、出木杉で俺を見た。

 

俺は出木杉くんではないよ。

 

「なぜ私を見るのかしら……」

 

雪ノ下さんは比企谷を怪訝な顔で睨む。

 

「俺は出木杉くんじゃない。出木杉くんは葉山くんだろ。」

 

それに出木杉くんはジャイアン側じゃないし。

 

材木座はもう廊下まで出ていて、俺と比企谷が頑張って押し出している。

 

「おい、待て八幡。ふざけている場合ではない。ハチえもんが気に入らないなら、忍者ハチとりくんでもいいから我の話しを聞け」

 

「一番ふざけた存在にふざけてるとか言われてしまった……」

 

比企谷が軽くショックを受けて力が緩む。

 

「ぬ、今だ!」

 

「させるか!」

 

俺は材木座の右腕を掴み、それを廊下に引っ張り出して、足払いをして体勢を崩させ、そのまま廊下側で転ばせてから、戸を閉める。

 

「ふぅ…。危なかったな。って俺たちはなんのために材木座を追い出したの?」

 

勢いに身を任せたせいで無駄過ぎる行動をしていた。

 

「まぁ、席にでも戻るか」

 

「ああ、そうだな」

 

俺と比企谷は自分の席に座ると、材木座がノックをせずに入ってきた。

 

「さて、諸君。今日は諸君らに相談があってまかり越した」

 

「本当にさっきの一部始終は無駄にも程があるわね」

 

「あははは……」

 

 

 

 

 

「なるほど、材木座はライトノベル作家は止めてゲームのシナリオライターになることにしたけど、それを遊戯部の部員にバカにされて、大人のようで大人じゃない材木座はその人が帰った後に、コミュに煽りの書き込みをしまくたからゲームで決着をつけることになったと」

 

「ゲームで決着なら健全でいいじゃんか。ばしっと決めてやれば?」

 

「ははははっ!それは無理な相談だな。……格ゲーだとむこうのほうが全然強いのだ」

 

「え?お前、すげぇ得意じゃねぇの?」

 

「それは、まぁ一般人に負けることはまずないだろう。だが、上にはいくらでもいる。八幡、お主知っているか?一流の格ゲーマーにはプロ契約をしている人だっているのだぞ」

 

「プロ……。そんなのあんのかよ。ってことはお前が前言ってた『白騎士』ってのもプロか?」

 

ん?白騎士……。嫌な予感。

 

「どうだろうな。白騎士殿は伝説の格ゲーマーだからな。そうかもしれん」

 

「な、なぁその白騎士って?」

 

俺は恐る恐る比企谷と材木座に尋ねる。

 

「白騎士ってのはな、この前俺が帰りに戸塚と一緒になったときにゲーセンに行って来たんだけどよ、そのときゲーセンに材木座がいて、そのとき材木座から聞いたんだよ。なんでも二年前に姿を消したこの周辺のゲーセンの伝説の格ゲーマーだそうだ」

 

「うむ。プレイヤーネームは『ホワイトナイツ』別名『白騎士』だ」

 

「へ、へぇ…」

 

お、俺だ……。プレイヤーネームと二年前で完全に俺と一致してるよ。

 

雪ノ下さんと再開するまで本当に暇だったからゲームセンターで格ゲーを勝ち続けてたなぁ。今思い出すと懐かしいなぁ。

 

『ホワイトナイツ』は、白野⇒野を夜⇒白夜⇒それを英語に訳したからだけど…。まぁ岸波白野の岸と白を逆に合わせて白岸⇒白騎士でもいいか。

 

まさか伝説のゲーマーになってるとは……。

 

「ホワイトナイツって白夜よね。白騎士ならホワイトナイトでしょう。単純な間違えね」

 

「いや、白騎士は勝手に言われてるだけらしいぞ」

 

当たり前だ。俺だってそんな間違いはしないよ。

 

話しが進んだ結果、俺たちは遊戯部に行くことになった。

 

材木座があの空気をブッ壊してくれたのはよかったんだが、奉仕部を挑発して雪ノ下さんがその挑発に乗ったからだ。

 

依頼内容は格ゲーではないゲームで、材木座が確実に勝てるものでの勝負。あるかな…。

 

 

 

 

 

遊戯部の部室前。

 

「じゃ、行くか……」

 

比企谷がそう言いながら全員を確認する。それで後ろで少し離れた位置にいる由比ヶ浜さんに「……お前は、どうする?」と尋ねる。

 

「い、行く……。行く、けど……ねぇ、ヒッキー彼女いないの?」

 

やっと勘違いが終わりそうだな。俺から言うのもおかしいからな。

 

「や、いねぇけど」

 

「愚問よ、由比ヶ浜さん。この男にまともな男女交際なんて不可能だわ」

 

これにて勘違い終了。わかっているともどかしいんだよな、こういうのって。

 

「あ。で、でもさ。ゆきのんと出かけてたりしてたじゃん?あれは?」

 

「この間『わんにゃんショー』のことなら偶然出会っただけよ。私と岸波くんは小町さんに誘われて一緒にいただけ。言わなかったかしら?」

 

言ってなかったんだろうね。勘違いしてるんだから。

 

「え?キッシーも居たの?」

 

「うん。雪ノ下さんの付き添いで一緒に行ってね。予想だと、俺と小町ちゃんが『ふれあいゾーン』にいたときに、雪ノ下さんたちと由比ヶ浜さんが会ったんじゃないかな?」

 

「じゃあ二人は別に付き合ってたりとかしないの?」

 

由比ヶ浜さんは比企谷と雪ノ下さんに向かって尋ねる。

 

「そんなわけねーだろ……」

 

「由比ヶ浜さん、私でも怒ることくらい、あるのよ?そ、それに私は……」

 

雪ノ下さんは由比ヶ浜さんに冷たい怒気を出したと思えば、なぜか急に口ごもる。

 

「あ、ごめんごめん!なんでもないんだ。じゃ、じゃあ行こっか」

 

由比ヶ浜さんは焦ったように戸に駆け寄り、上機嫌な様子でトントンと戸をノックする。

 

すると、「はいー」と気だるそうな声で返事がくる。

 

入室の許可だな。戸を開けると本や箱、パッケージなどが壁のように積まれている。

 

部屋の大きさは半分以下になるけど、ジナコの用務員室を思い出すなぁ……。

 

「まさかこの部屋には『引きこもりの蝸牛』と『施しの英雄』がいるんじゃ……」

 

「何言ってんだお前」

 

「岸波くんはたまにこうなるのよ」

 

材木座曰く、『積みゲーや積み読みは最も多く過ごす場所ほど高く積まれる』そうなのでそういう場所にむかうと、二人の男子生徒がいた。

 

学年の色は黄色、カレンと同じ一年生だな。

 

一年生の二人は俺と雪ノ下さんを見て

 

「あ、あれって二年の雪ノ下先輩と岸波先輩じゃ…」

 

「た、たぶん……」

 

「おや、雪ノ下さんはまだしも俺のこと知ってるの?」

 

少し嬉しいかも。

 

「はい。J組の言峰さんの彼氏って一年生の中ではかなり有名ですよ」

 

あ、ああ……、そういうこと、ねぇ……。

 

由比ヶ浜さん以外の三人から殺意にも似た鋭い視線が……。ガクガク

 

「岸波くん。少し話があるのだけど、廊下、出てもらえるかしら」

 

笑顔なのに怖い。由比ヶ浜さんに出した怒気よりもヤバいぞ。

 

「は、はい……。ちょっと用事ができたから、比企谷たちで話を進めてもらっていいかな?」

 

「ああ、任せておけ。このクソリア充が!」

 

「我の目の前から消え失せろ!!」

 

「さ、サイテーだこの二人。キッシーここは私たちに任せて」

 

由比ヶ浜さんは優しいな。他の人はアレだな。怖いな。人って怖い。

 

それから俺は廊下で雪ノ下さんにテニス対決のあとでのカレンとのことを話した。

 

説明し終わってもまだ少し不機嫌だったがあとで機嫌をどうにか直してもらおう。

 

そしてまた遊戯部の部室に入る。

 

「来たみたいだな。やるゲームは決まった」

 

比企谷が俺たちのほうをむいた。

 

「むこうがアレンジしたゲーム。名前はダブル大富豪だそうだ」

 

 

 

 

 

ダブル大富豪

 

1、すべてのカードをプレイヤー全員に均等に配る。

 

2、ゲームは親から始め、親の手札から最初のカードを出し、以降順番に次のプレイヤーがカードを出していく。

 

3、カードには強さがある。弱い順に3、4、5、6、7、8、9、10、J、Q、K、A、2。ジョーカーはワイルドカード。

 

4、場にある現在のカードより強いカード出さなければならない。二枚だし、三枚だしの場合はそれと同じ枚数で出さなければならない。

 

5、出せない場合はパスが許される。

 

6、他のプレイヤー全員がパスの場合、そのカードを出したプレイヤーが親になる。場にあるカードは流される。

 

7、以上を繰り返し、先に手札がなくなったプレイヤーから、大富豪、富豪、平民、貧民、大貧民の階級がつく。

 

8、大富豪は大貧民から良いカードを二枚取り上げ、いらないカードを二枚渡す。

 

9、ペアを組む。ペアでの相談は禁止。一ターンごとに交代で手札を出していく。

 

10、勝負は五試合。最後の順位で勝敗を決める。

 

11、ローカルルール

 

『革命』、同じ数字のカードを四枚出すことで、カードの強さが逆転する。

 

『8切り』、8を出したらそれまでのカードが流され、8を出したプレイヤーが親になる。

 

『10捨て』、10を出したとき、出した10の枚数に応じて手札から好きなカードを捨てれる。

 

『スペ3』、ジョーカーに対してスペードの3が勝つ。

 

『イレブンバック』Jを出したその回は、カードの強さが逆転する。

 

 

 

 

 

なるほど、ルールは理解したけど……。

 

「俺って誰と組むの?」

 

比企谷と材木座。雪ノ下さんと由比ヶ浜さん。遊戯部の二人。俺のペアがいない……。

 

「俺は参加できないの!?」

 

ここでも独りぼっち……。

 

「まっいいか。俺、運ないし。それにこのゲームには何か裏があるな」

 

俺の言葉に比企谷だけが反応した。

 

「なんだその裏っての」

 

「比企谷。脱衣ゲームって知ってるか」

 

「は?もしかして」

 

「ああ、俺の予想このゲームは脱衣式だ。最初に相手は負けてくる」

 

「本当にそうか…」

 

比企谷は疑いの目線を向けてくる。

 

「まぁやってみればわかるさ。俺はみんながやってるのを後ろで見てるよ」

 

俺は俺で全員の手札を確認できるから、それを見てるのも楽しい。どんなゲームでもそのプライヤーの性格が出てくるんだよ。チェスとか?

 

ゲームは進み、奉仕部が1、2フィニッシュ。

 

そして相手はベストを脱いだ。

 

予想通り脱衣式だった。

 

由比ヶ浜さんがそんなルール聞いてないと遊戯部にプンスカ怒っていると比企谷が「岸波どうしてわかったんだ?」と尋ねてきた。

 

「ああ、遊戯部の二人の目を見たこと……いやあんな目で仲間から見られたことがあるんだ」

 

「どういう意味だよ?」

 

「簡単だ。…………『ぱんつ はかせ ない』」

 

「は?」

 

はぁ…、今でも恥ずかしい。

 

 

 

 

 




次回はこの続きとできれば誕生日会ぐらいまでいきたいですね

それではまた次回!!


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あの日のことを……。

今回で遊戯部の回は終了です。でもダブル大富豪のプレイは書きません。というより書けません。原作でもあまり書いていなかったので……




 

 

 

 

 

「さて、二回戦目を始める前に奉仕部側集合」

 

俺が他の四人を呼び寄せる。

 

「どうしたんだ岸波」

 

「まず、この脱衣ルールは相手の作戦と考えていいだろう」

 

「作戦とはなにかしら?」

 

「相手は脱衣をルールに入れたことにより、このゲームに参加している男子を仲間にしようとしている。材木座辺りはいい標的になりそうだな」

 

女性の脱衣に興味がない男はいないからな。興味がない男は見慣れてるヤツか聖人ぐらいだ。

 

「な、何を言っているのだ!き、貴様は!!」

 

材木座は焦り声で反論している。まぁ無視しますが。

 

「それで相手はこっちの仲間割れを狙ってくるだろう。だからそれ未然に防ぐためにみんなを呼んだ」

 

俺たちの話を聞いていたのか、遊戯部の二人、秦野くんと相模くんが

 

「気づかれましたか。どうやらぼくたちも本気を出さないといけないようですね……」

 

「覚悟してくだいさい。……お遊びはここまでです」

 

結構序盤で本気を出すんですね。

 

 

 

 

 

本気って言うのも間違いではないようで、奉仕部側は負け続けている。

 

現在比企谷がパンツ一枚、材木座はコート、靴下、指ぬきグローブ、パワーリストを脱いでいてズボンとワイシャツは健在。

 

なんだろうなあの二人、不公平な気が……。

 

でもここから勝つのはほとんど運になるな。ジナコの言う『公平なゲーム』ってことだ。

 

今までで相手の攻め方はわかってるし、参加していない俺だけの権利『全員の手札の内容を見ることができる』これと俺の観察眼を使えば、ゲームの流れはだいたいは見えてくる。

 

俺は全員の手札を確認しながら、試合を見ている。

 

全員の手札を確認した。この勝負は……ん?なんか雰囲気が悪いな。材木座と遊戯部の三人だけど。

 

俺が最後の試合の流れを考えてる間に何かあったのか?

 

「ねぇ?なんでこんな険悪ムードなんだ」

 

俺がここにいる六人全員に尋ねる。

 

「お前、なんで聞いてねぇんだよ」

 

「ごめんごめん。この試合の結果を導き出していたもんで」

 

「何所のスーパーコンピューターだよ」

 

「月?」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

ここにいる全員が「こいつ何言ってんの?」みたいな憐れむ目で見てくる。

 

「な、なんですか。変なことを言ったのはわかってるけど、結果を導き出したのはウソじゃないぞ」

 

「それじゃあ先輩、その結果を言ってくださいよ」

 

これは挑発だよな……、よし乗ってみるか。

 

「いいね、その挑発。俺ってそういうの乗るタイプではないけど、今回は特別だ。この最後の試合に勝つのは奉仕部側だ」

 

自信を持って俺はそう告げる。

 

「へ、へぇ…。じゃあその証拠を見せてもらいましょう」

 

「うん、いいよ。今から俺がここの全員が出していくカードの数字から枚数、全てを言い当ててあげる」

 

遊戯部の二人は恐怖しただろう。

 

俺は何一つ間違えることなく、比企谷の『革命』や材木座のミスの『イレブンバック』、遊戯部のジョーカーに由比ヶ浜さんが『スペ3』で止めるところまで全て言い当てた。

 

「これで奉仕部側の勝ち。どうかな証拠はこれだ。実際に俺が当てて、奉仕部が勝ってみせたわけだし」

 

「そうね。でもよくわかったわね。ここまで」

 

「まぁゲームに出れなかったからねぇ。することと言ったら観察ぐらいだよ。で、なんでさっき雰囲気が悪かったの?」

 

まぁ俺のせいでさらに雰囲気が悪くなったんだけど。

 

それから俺は話を聞いた。

 

内容は、材木座の夢についてのことだ。言ってることは遊戯部のほうが正しい。それに彼らは努力もしている。

 

「なるほど、君たちの、秦野くんと相模くんの言い分は何一つ間違っていない」

 

「な、岸波、貴様我を裏切る気か!!」

 

「裏切るも何も間違いではないからな。でも、人の好きなモノを、夢をバカにしていいことにはならない。だから今度は俺と勝負しようか、二人とも」

 

「「は?」」

 

「いや、俺さっきの勝負何もしてないからさ、俺もやりたいんだよねぇ」

 

でも、それだけじゃあ勝負には乗らないか。

 

「君たちが俺に勝ったら材木座が土下座し、俺が君たちの命令を一度だけ聞いてあげるよ。そして俺が勝ったら君たちが材木座に土下座してもらおう。勝負は君たちが得意な格ゲーでどうかな」

 

 

 

 

 

そして勝負することになったな。

 

今、遊戯部の二人は格ゲーの準備中。TVとかゲーム機とかアケコンとか。

 

「岸波!!貴様、完全に我を土下座させる気だろぉぉぉ!!」

 

材木座が俺の肩を握ってブンブン振る。

 

「いや、だって条件がむこうに有利にしないとさ」

 

ああ、頭が揺れるー。

 

「それで岸波お前って格ゲーやったことあんの?」

 

「あははは、二年前までちょっとだけね」

 

俺は笑顔で答える。

 

「これは材木座の土下座は確定だな。ん?おい岸波。お前さっき二年前って言ったか?」

 

比企谷は気付いたか?

 

「ああ言ったよ。雪ノ下さんと再会する二年前までやってた」

 

「フッ、お前って結構捻くれてるよな」

 

「そうでもないさ」

 

他の三人は俺と比企谷の会話を理解できなようで。

 

「先輩。準備できました。でも本当に格ゲーでいいんですか?ぼくたち剣豪さんよりも強いですよ」

 

「わかった。負けないように全力でやらせてもらうよ」

 

「そうですか。剣豪さん土下座の準備しておいてくださいね」

 

俺は秦野くんの横に座る。

 

残りの五人は俺たちの後ろで立って見ている。

 

「それじゃあ始めますけど、本当にいいんですね」

 

「大丈夫、気にしないで本気でいいよ。あ、その前にコマンドとか書いてあるものない?」

 

俺はこの格ゲーの説明書を受け取り、コマンドやガード等を見は始める。

 

「この勝負どうなのかしら。私、岸波くんがこういうピコピコのゲームしてるの見たことがないのだけど」

 

「ピコピコってお前はおばあちゃんかよ……、俺の母親ですらファミコンっていうぞ……」

 

「だって、ピコピコ言うじゃない……」

 

「まぁゆきのんはゲームやんなそうだし」

 

「由比ヶ浜さんはやるの?」

 

後ろで楽しそうに話してるな。

 

それに俺だってゲームぐらいはするさ、ギルとかアストルフォとかと一緒に。英雄の皆さんはゲームとかあまりしないんだよな。あの二人はギルは多趣味だし、アストルフォは面白いのが好きだからな。

 

「よし、覚えた。ありがとう」

 

俺は説明書を渡す。

 

「覚えた程度では、ぼくには勝てませんよ」

 

「お手柔らかに……。そして見せてあげるよ、『ホワイトナイツ』の戦い方を……」

 

『ホワイトナイツ』って自分で付けたけど、店員さんが何か名前を付けて戦ってくれって言ったからやってるんだけどね。

 

 

 

 

 

結果、俺が圧勝したわけだ。

 

「「白騎士さん。またお手合わせしてください」」

 

そう言いながら遊戯部の二人は俺に土下座をしてくる。

 

「土下座の相手間違ってるから。ほら材木座」

 

俺が材木座を呼ぶと、材木座は土下座をした。俺に。

 

「し、師匠と呼ばせてください」

 

「いや、師匠にはならないよ。それに弟子はいらないから。それより早く仲直りしろ」

 

俺がそう言うと三人は互いに謝り始めた。

 

はぁ……疲れた。

 

俺がため息をしながら、奉仕部の三人のほうにむかう。

 

「そろそろ疲れたから早く部室に帰ろうか」

 

「岸波、お前って本当に何者だよ」

 

比企谷は珍しく笑顔で尋ねてくる。三人も土下座してる人間を見れたからだろうな。

 

「魔術師だよ」

 

俺も笑顔で返す。

 

「関係ねぇだろ。やっぱりお前は変なやつだな」

 

「比企谷は人のこと言えないぞ」

 

「な、おいお前、超常識人に向かってなんつーことを」

 

「それはどこの文化圏の常識なのかしら……。あなたたちみたいな変人と一緒にいるととてもつかれるわ」

 

あなたたちって俺も入ってるんだな。

 

「いや、ゆきのんも結構おかしいよ……」

 

由比ヶ浜さんはちょっと困ったような笑みを浮かべて言う。

 

雪ノ下さんはその言葉に怒るでもなく、優しい微笑みを浮かべる。

 

「そうね。私も岸波くんも比企谷くんもどこかまともではないようだから、……だから、由比ヶ浜さんみたいにまともな人がいてくれると、とても助かる、のだけど」

 

雪ノ下さんは頬をわずかに赤く染め、それを見ていた由比ヶ浜さんは少し瞳を潤ませ、雪ノ下さんの右腕に抱きつく。

 

「……う、うんっ!」

 

雪ノ下さんは「暑苦しい……」と小さく呟くが腕をほどくことをせずに、そのままにしている。

 

「じゃあ、部室に戻ろうか」

 

「そうだな」

 

俺と比企谷が先を歩いて、数歩遅れて雪ノ下さんと由比ヶ浜さんもついてくる。

 

前よりも仲良くなれたみたいでよかった。それにもし俺が離れても、もし俺が消えてしまっても大丈夫だ。もう彼女が一人になることはないだろう。

 

 

 

 

 

部室に着く頃には、夕日も沈む時間になっていた。

 

「けど、どうしようかしら……。せっかくケーキを焼いてきたのに」

 

雪ノ下さんがため息混じりに言う。

 

「あ、雪ノ下さんもケーキ作ってきたんだ」

 

「ええ、あなたが去年私にしてくれたように、それで岸波くんもケーキを焼いてきたの?」

 

「今は家庭科室にあるけどね」

 

去年は雪ノ下さんの誕生日を祝った。雪ノ下さんの誕生日は冬休みになるからな、小学生や中学生の頃は雪ノ下さんが実家に住んでいたから行けなかったけど、去年から一人暮らしになっていたから、雪ノ下さんのマンションに行って祝ったな。

 

プレゼントはブックカバーとパンさんのぬいぐるみをあげた。

 

由比ヶ浜さんは俺と雪ノ下さんの会話を聞いて呆けた顔で首を捻る。

 

「ケーキ?なんでケーキ?」

 

「まぁ由比ヶ浜さんには言ってないもんね。今日は由比ヶ浜さんの誕生日を祝おうって雪ノ下さんが」

 

俺がそう言うと由比ヶ浜さんは雪ノ下さんのほうを向く。

 

「由比ヶ浜さん、最近、部活に来ていなかったし……その、これからもしっかり励んでほしい、とそういう話をしたかったのよ。あとは、その……感謝の証、とでもいうのかしら」

 

雪ノ下さんは照れ隠しをしながら話していると、雪ノ下さんが言い終わる前に由比ヶ浜さんが雪ノ下さんに飛びつく。

 

「……ゆきのん、あたしの誕生日覚えててくれたんだ」

 

雪ノ下さんは俺と同じでメールアドレスから推測したんじゃないのか?雪ノ下さんは最初から知ってたのかな?

 

「でも、今日は無理そうね」

 

そうなるとケーキが少し悪くなちゃうかな、結構フルーツを使ったし。

 

「じゃあさ、外行こ。外」

 

「え、けれど外といっても……」

 

「お店の予約とかあたしがやっとくから気にしない気にしない。ケーキ用意してもらっただけで、もう充分嬉しい。しかも二つも。ゆきのんもキッシーもありがとう」

 

「別に俺にはお礼はいらないよ。俺が好きでやってることだから。お礼を言うなら雪ノ下さんに」

 

今回俺は何もしてないのだから、俺がお礼を言われる意味がない、感謝される必要がないのだ。

 

「岸波くんはまたそういうことを言うのね……」

 

「ほら、俺のことなんか今は関係ないから。それにケーキだけじゃないし、ね、雪ノ下さん、比企谷」

 

こうやって俺から話を逸らす。

 

「まさか、プレゼントも?」

 

由比ヶ浜さんの問いに雪ノ下さんは頷く。そして由比ヶ浜さんは比企谷のほうを向く。

 

「ヒッキーもプレゼントを用意してるなんて思わなかったなー。その、こないだから、ちょっと……微妙だったし」

 

比企谷は鞄の中から小さな包みを取り出して、由比ヶ浜さんに渡す。

 

「……いや別に、誕生日だからってわけじゃねぇんだ」

 

「え?」

 

「少し、考えたんだけど。なんつーか、これでチャラってことにしないか。俺がお前んちの犬助けたのも、それでお前が気を遣ってたのも、全部なし」

 

やっぱり比企谷はそのことを知ったんだな。だから由比ヶ浜さんを自分から離したんだ。

 

「だいたい、お前に気を遣われる謂われがねぇんだよ。事故はあったが、俺には擦り傷か打撲ぐらいしか怪我はなかったし、相手の入ってた保険会社からちゃんと金貰ってるし、弁護士だの運転士だのが謝りに来たし。だからそもそも発生する余地がねぇんだ。その同情も気遣いも」

 

比企谷は次の言葉を言おうとしてるが、とても心苦しそうに見える。

 

そして口を開いく。

 

「それに、由比ヶ浜だから助けたわけじゃない」

 

由比ヶ浜さんは一瞬、悲しそうな瞳で比企谷を見て、すぐに俯く。

 

「俺が個人を特定して恩を売ったわけじゃないんだから、お前が個人を特定して恩を返す必要ないんだよ。けど、その、こうなに、……気を遣ってもらってたぶんは返しておきたい。これで差し引きゼロでチャラ。もうお前は俺を気にかけなくていい。だから、これで終わりだろ」

 

「……なんでそうなふうに思うの?同情とか、気を遣いとか、……そんなふうに思ったこと、一度もないよ。あたしは、ただ……。……なんか、難しくてよくわかんなくなってきちゃった……。もっと簡単なことだと思ったんだけど……」

 

「難しいことではないさ。比企谷は由比ヶ浜さんを覚えはない。由比ヶ浜さんも比企谷くんに同情した覚えがない。最初から間違ってるんだよ。だから比企谷の『終わりにする』は間違っていない」

 

最初から違うんだから、正しい答えにはならない。

 

「でも、これで終わりだなんて……なんか、やだよ」

 

由比ヶ浜さんが呟いた。そして雪ノ下さんが口を開いた。

 

「……馬鹿ね。終わったのなら、また始めればいいじゃない。あなたたちは悪くないのだし」

 

雪ノ下さんに言われちゃったね……。でも、それは違う。

 

「雪ノ下さん、それは違うよ。『あなたたちは』じゃなくて『誰も』だよ」

 

今、俺の言葉の意味を理解できる人間は雪ノ下さんだけだろう。だから俺は今日この場で、あのときのことを全て明かす。

 

「もし君が比企谷と由比ヶ浜さんが被害者で、自分が加害者だと思っているのなら、それは間違いだ」

 

比企谷と由比ヶ浜さんは意味がわからないって感じの顔をしている。

 

「雪ノ下さん、二人に言うけどいいかな?」

 

「………ええ。構わないわ」

 

雪ノ下さんは辛そうな顔をしていたが覚悟を決めてくれたようだ。

 

ごめんね…辛い思いをさせて。

 

俺は二人のほうを向く。

 

「比企谷、由比ヶ浜さん。俺と雪ノ下さんもあの場にいたんだよ」

 

「え?」

 

由比ヶ浜さんは声を出して驚いている。比企谷も声は出してはいないが驚いているようだ。

 

「まずは雪ノ下さんだけど、雪ノ下さんはあの車に同乗していたんだよ。そして俺は比企谷の脚を治したんだ」

 

「……岸波、雪ノ下があの車に同乗していたってことはまだいいとして、俺の脚を治したってどういう意味だ?」

 

当たり前だろう。言ってる意味がわかるはずがない。

 

「ねぇ。比企谷。お前はあのとき、車から犬を助けたとき脚はどうだった?」

 

「痛かった、痛かったはずだ。だけど、俺が目を覚ました時には何もなかった」

 

「それじゃあ、その目覚める前は、気絶してたんだろ」

 

「ああ」

 

「気絶する前にお前に近付いてきた人間はいたか?」

 

「………いた。フードを被ってる男が話しかけてきた。でも痛くて何て言ってたかわからなかったんだ」

 

「そう。そのフードを被ってた男が俺だ」

 

これで俺が魔法を使えることを言うだけだ。

 

「そして俺が、比企谷の脚を治したんだよ、魔法で」

 

普通なら「何言ってんのお前」で終わるだろうけど、今回はそうでは終わらない。

 

「信じなくてもいい。比企谷の脚は完全に砕けてた。俺がその脚を治したんだよ。比企谷、お前がテニスのとき何をしたか聞いてきたときあったな」

 

「あの最後のサーブのことか。ときが来るまで言わないって言った」

 

「ああ、それが今だ。俺はあのとき魔法を使った。他にも、テニスのとき由比ヶ浜さんの足を固定したときも使った。引ったくり犯を追いかけるときにも、君たちが周りにいるところで四回使ったよ」

 

これで俺が魔法を使えることを知っている人が二人増えた。俺が信じると決めた人が増えたということだ。店長は……俺から言ってないから関係ないか。

 

「俺も雪ノ下さんもあの場所にいたんだ。雪ノ下さんは同乗していただけで故意でない。だから雪ノ下さんは加害者ではない。三人ともが被害者で、誰一人として加害者ではないんだ。もし加害者がいたとしたら、あの偶然を作りだした神が悪い」

 

神はいる。ガトーが教えてくれた。

 

「そう、だから君たちはこう思えばいい『間が悪かった』と」

 

「「「は?」」」

 

「『最後の最後で何言ってんだよこいつは』みたいな顔はやめなさい。これは俺が知り合いの僧侶が言ってたの!………でも実際にそうなんだよ。いや、そう思うだけでも救われるんだよ。人ってのは」

 

ガトーがジナコに言った言葉を言うか。ガトーのまんまだと『何そのキャラ。ウザッ』って言われそうだから俺らしく言うけど。

 

「自分も悪い。だけど周りも悪い。要は全てが悪かった。人生とはそんなものだ。全てが悪いのだから、悲観するのは馬鹿馬鹿しい。悲しいが、悲しいだけだ。それとはまた別のところに喜びもある。人生とは無意味と有意味のせめぎ合い。だからこう思うんだ。『ただ間が悪かった』のだと。すべての物事はたいていそれで片がつくって」

 

この言葉を聞いているときは誰一人として笑わずにそれを受け止めた。

 

「だから君たちのが入学式の前に起きた事故も全て偶然に起きただけだ。比企谷が由比ヶ浜さんの犬、サブレを助けたのも偶然。サブレの首輪とリールが壊れたいたのも偶然。そしてサブレが飛び出したとき雪ノ下さんが同乗していた車の前に出てきたのも偶然。複数の偶然が重なってできた不幸。誰一人として悪くはないんだよ。『ただ間が悪かった』だけだ」

 

そして俺は最後にこう言う。

 

「それにあの事故のときは悲しかったかもしれないけど、こうやってみんなが出会えたことは喜んでいいことなんだよ」

 

俺が話し終わるときには、みんな呆れ顔でありながら笑顔だった。

 

 

 

 

 




はい。ここでオリジナル展開です。今回で雪ノ下さんが同乗していたことを告げてしまいます。ということは、文化祭前の変な空気になることはないということになりますね

次回は由比ヶ浜さんの誕生会ですね。

それではまた次回!!


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由比ヶ浜結衣の誕生日会。

面白くできてるかわかりませんが、楽しく読んでもらえると嬉しいです


 

 

 

 

 

「それにあの事故のときは悲しかったかもしれないけど、こうやってみんなが出会えたことは喜んでいいことなんだよ」

 

俺が話し終わるときには、みんな呆れ顔でありながら笑顔だった。

 

「岸波くん。何その変な理論は……、あなたのせいで悩んでた私がバカみたいじゃない。けれど……、その、ありがとう…。あなたのおかげで勇気が出たわ」

 

そう言って雪ノ下さんは比企谷のほうを向く。

 

「比企谷くん」

 

「あ?どうした」

 

「謝って許されるとは思ってはいないけど、その、ごめんなさい」

 

雪ノ下さんは比企谷に頭を下げた。

 

「もっと早く言うべきだったのだけれど、勇気が出なかったの。本当にごめんなさい」

 

雪ノ下さんが頭を下げて、僅かな間があってから比企谷が口を開く。

 

「別に謝らなくてもいい。由比ヶ浜に言ったように、怪我はなかったというより岸波に治してもらったみたいだし、保険会社から金も貰ったし、弁護士だか運転士だかが謝りにもきた。それに岸波が言ってたように偶然でしかなかったんだ。お前が謝る必要はねぇよ」

 

比企谷の返答を聞いて、雪ノ下さんは頭を上げ「ありがとう」とたまに見せる素直で綺麗な笑顔で答えた。

 

「お、おう……。にしても岸波、お前本当に魔法使えたんだな」

 

比企谷は雪ノ下さんの笑顔を見たせいで話を逸らしてきた。確かにあの笑顔を見せられたら、いつものギャップでかなり戸惑うな。

 

「ああ、まぁ実際は魔術が正しいんだけど、魔法の方がわかりやすいだろ」

 

「そうでもねぇよ。魔法だか魔術だかは俺には全く無縁だからどう呼ぼうがなんとも思わん。で、どんな魔術?が使えんだ」

 

比企谷の目が少し輝いて見える。アレか昔、中二病?だったか。

 

「そうだなぁ…。俺が使えるのは、治癒系、強化系が主で、あとは物探しと移動速度を上げるもの、スタンガンみたいにビリッとくるやつだな」

 

スタン系は英雄が怯むんだから人にやったら完全に気絶する。

 

他に特殊な礼装があるけどこの世界ではまず使わないな。

 

「それとこれだな」

 

そう言って俺は電子手帳をポケットに手を入れず、みんなの目の前で出す。

 

「「え?」」

 

雪ノ下さんは知ってるけど、二人は知らないもんな。

 

「え?え?あれ?キッシーそれってどうやって出したの?」

 

由比ヶ浜さんがすごい食いついて見てくる。

 

「実はこれも俺の魔術の一つ。というよりもこれがあるから俺は魔術が使えるんだけどね。この電子手帳は俺の魔力によって作られてるものなんだよ」

 

でもアーチャーの投影とは少し違うらしいんだよな。

 

「魔力?なにそれ?」

 

「簡単に言うと俺の身体の中にあるエネルギーの一つ。さらにどういうものかを知るには結構難しい話になるけど」

 

「ど、どれぐらい難しいの?」

 

「今回の中間テストが簡単に思えるぐらい」

 

「ならいいや」

 

まぁみんな元通りになったみたいだし、それ以上に仲良くなれた気がする。

 

「じゃあ、この話はここでお終い。今日は由比ヶ浜さんの誕生日を祝うんだし、俺は今から家庭科室にケーキ持ちに行ってくるよ」

 

「そ、じゃあ私は平塚先生に人員補充完了の報告をしてくるわ」

 

俺と雪ノ下さんは廊下に出る。そして雪ノ下さんが戸を閉める前に

 

「由比ヶ浜さん、比企谷くん」

 

「何、ゆきのん」「なんだ」

 

「その、こ、これからも、よろしく」

 

そして戸を閉める。

 

なんか部室の中から由比ヶ浜さんの喜んでる声が……。

 

雪ノ下さんならもっと仲良くなれそうだね。雪ノ下さん、ファイトー!

 

「岸波くん。一緒に職員室に行きましょうか」

 

雪ノ下さんが歩き始める。俺も雪ノ下さんの横を歩くが、

 

「確かに鍵を取りに行くために職員室に行くけど、雪ノ下さんは電話でもいいんじゃないの」

 

「……。そんなこと別にどうでもいいでしょう」

 

「そうだけど。効率的では、あ、ごめんなさい。だから睨まないで」

 

なんでいつも睨むんだよ。

 

「ねぇ、岸波くん」

 

「ん?なにかな」

 

「本当にありがとう。あなたがあの場で言ってくれなかったら、私はまだ言えなかったわ」

 

「別に気にしなくていいよ。俺が好きでやったことだし、それに…」

 

ここは俺の感情的な部分なんだよな。少し恥ずかしい。

 

「それに、君が自分を悪いと思って、二人から距離を離しているところが見たくなかったんだよ。さっき言ったように君は何も悪いことをしていなかったんだから、それで自分を遠ざけているところを見たくなかったんだ」

 

そう。彼女は何も悪いことをしていないんだ。それで距離を離すのおかしい。だから雪ノ下さんにはあの二人としっかりと仲良くなってもらいたい。

 

俺の話を聞いて雪ノ下さんは、ふっと笑う。

 

「あなたは優しいわね。でも、あなたはその中には入らないのかしら」

 

「いや、俺も頑張るよ。友達が欲しいからね」

 

……こうやって俺はウソを吐く。陽乃さんが言ったように周りとある一定の距離を置いているくせに……。

 

前は気付くことはなかった。俺が無意識に人との距離を取っていた。それなのに友達が欲しいと言っていた。

 

俺がそうだと気付いてのは、エルたち、俺が育てていた子猫たちを殺されたときだろう。不良たちをボロボロにした後、今までの自分がウソであったことを知って泣き崩れたな。

 

あの後カレンが来てくれて慰めてくれたから、俺は持ち直せたんだ。

 

そして俺はまたウソを吐いて、今まで通りの自分であろうとしたわけだ。

 

そういえばあの日を境に呼び方を変えたな。

 

昔は『言峰さん』と『岸波さん』って他人行儀だったもんな。まぁカレンがそうしろって言ってきたんだけど。

 

陽乃さんが俺の秘密に気付いたのもあの日の後ぐらいだな。俺ですら気付かなかったんだから当たり前か。

 

そんなことを考えているうちに職員室に着いた。

 

「じゃあ、俺は鍵を借りて家庭科室に行ってくるから先に部室で待っててよ」

 

「わかったわ」

 

俺と雪ノ下さんは一緒に職員室に入ってから、それぞれの行動に出た。

 

 

 

 

 

俺が部室に戻るとみんなが楽しそうに話していた。

 

「何を話してたの」

 

「由比ヶ浜さんにも言ったのだけど、比企谷くんが自分が立派な人間だと言って譲らないものだから」

 

「優しい人とは思うが立派ではないだろ」

 

「お前もか!」

 

「だが、比企谷、人間に立派とかはないんだぞ」

 

みんなが『どういうこと』みたいな顔をしている。ここでまたガトーの言葉が使えるな。でも実際、俺もこれはどうかと思うんだよなぁ。

 

「『人間とは―――奪い、殺し、貪り、そして忘れるもの!おお、まさにスーパーニート!嘆かわしきかな、人間とはそもそもニートなのだ!』と俺の知り合いの僧侶が言ってた」

「ま、マジか!!」

 

「「……」」

 

比企谷は理解したようだが、女性二人は『何を言ってるの?この人』みたいな眼だぞ。

 

「ということは、俺は何一つ悪くないんだな!『働いたら負け』は正しいんだな!」

 

「いや、働くニートもいるらしいよ」

 

「それニートじゃねぇだろ!」

 

「岸波くんの知り合いって、変な人多いわね」

 

「うん、そうだね」

 

話が長引きそうだからこの辺でやめておこう。

 

「そんなことは、置いておいて、そろそろ行こうか」

 

「そうね。ケーキにフルーツを使っているから、新鮮なうちに食べた方がいいわ」

 

「俺もフルーツ使ったから、早く食べてもらいたいし」

 

「やった!ケーキだ!ゆきのん、キッシー、フルーツって何使ったの!?スイカ!?」

 

スイカって野菜だよな…。さすが由比ヶ浜さん。

 

 

 

 

 

そしてときは流れ、仲間が増えた。

 

比企谷が小町ちゃんを呼んで、小町ちゃん経由で桜が呼ばれ、遊戯部といろいろあった材木座がなぜか無理矢理入ってきて、最後に比企谷がすごい勢いで戸塚くんを誘いに行った。

 

計、八人。というか由比ヶ浜さんと戸塚くんって桜と初対面だけど大丈夫か?と思ったがすぐに仲良くなった。これがコミュ力。

 

現在は由比ヶ浜さんが予約したカラオケの前。

 

比企谷と由比ヶ浜さんと材木座が受付に行った。材木座邪魔しちゃダメだろ。

 

「兄さん」

 

「どうしたの桜?」

 

「今日初めて兄さん周りの人たちを見たのですが……」

 

どうして急に黙り込む。

 

「面白い人が多いですね」

 

「それって変な人って意味でしょ。桜それはひどいよ」

 

「い、いえ、そういう意味ではなく、個性的な人たちが多いというか」

 

「そう?俺はこれぐらいなら当たり前だと思うけど?」

 

雪ノ下さん(真面目過ぎ)比企谷(捻くれ)由比ヶ浜さん(おバカ)戸塚くん(男の娘)材木座(中二)。確かに普通ではない気が……。

 

だけどムーンセルにならこの数倍はいるし、これ以上や同じレベルの人なんて結構いたぞ。

 

「でも、兄さんが楽しそうで良かったです」

 

桜は優しいな。もう誰にもあげない。俺だけの妹だ。

 

 

 

 

 

比企谷たちが受付を済ませたようなので、ドリンクコーナーで飲み物を確保してからカラオケルームに入ってそれぞれグラスを持つのだが

 

「はぁ…何やってんだ俺は」

 

「キッシー、気になくていいよ。かなりおいしそうだし」

 

「いや、でもこれじゃあロウソク刺さらないし」

 

「手が込んでんな。なにこれ」

 

「見ての通り、フルーツタルトだ。なんでロウソクの存在を忘れてたんだろなぁ。はぁ……」

 

バカだな。まぁ雪ノ下さんのケーキは刺さるからいいか。はぁ……。

 

「桜ちゃん、岸波さんって、少しアレ」

 

「はい。兄さんはたいていのことはそつなくこなすんですが、……たまに、うっかりなところがありまして」

 

「岸波さん、ハイスペックだ。女の子に好かれるモノを山ほど持ってる」

 

「はい。そこも困ってるんです。手当たり次第にフラグを建ててるんで、勘違いしてる女性も多くて」

 

なんかシスターズが意味がわからない話をしてる。

 

まぁ俺の失態もありましたが無事に由比ヶ浜さんがロウソクの火を消して乾杯。そして拍手。

…………しばし沈黙…。

 

「え!?な、なにこの空気」

 

「なんだかお通夜ではしゃいじゃったーみたいな気まずさが……」

 

「なんででしょうね……」

 

由比ヶ浜さんが驚き周囲を見渡し、小町ちゃんが不安そうな表情で、桜も似た表情でそれに相槌を打つ。

 

「いや、みんなはどうかは知らないけど、俺って誕生日を祝ったことはあるんだけど、誕生日会に行ったことがないから、どうすればいいかわからないと言うか、慣れてないんだよ…」

 

「そうね。私もそんなところよ」

 

「誕生日会とか打ち上げとか何していいかわからないから対応に困るんだよな」

 

「激しく同意。もっとも我は打ち上げになぞ、誘われないがな」

 

俺はすべて裏方だったな。料理作ったりとか。

 

 

 

 

 

そしてケーキの取りわけをしてから血液型占いの話に。

 

戸塚くんA型、材木座AB型、由比ヶ浜さんO型、小町ちゃんO型、桜O型、雪ノ下さんB型、比企谷A型ときて、俺の番なんだが

 

「俺は調べてないからわからないんだよな」

 

「兄さんの血液型はAB型のRhマイナスですよ」

 

「なんで俺が知らないのに桜が知ってるの!?」

 

「父さんから聞きました。かなり貴重な血液型とか」

 

まぁ確かにAB型でRhマイナスは珍しいな。

 

「お前輸血とか大丈夫か?」

 

「うむ、さすがは師匠。我らとは別の次元にいらっしゃる」

 

「なぁ、そろそろ師匠は止めない。俺は材木座を弟子にする気もないし。まずその呼び方は恥ずかしいから」

 

「でも、キッシーのAB型でヒッキーでなくなった血液型占いの信憑性が元に戻ったね」

 

「そうなの?」

 

「うん。AB型って、たいていのことをそつなくこなす人だって。あと変わり者?」

 

「ああ、そうなると岸波って感じだな。材木座とは違って岸波にはピッタリだな」

 

そうか。俺ってAB型なんだな。

 

「それって俺が変人ってことだよね。材木座よりもおかしいってことだよね」

 

「実際に兄さんは普通とは違う思考で考えますから、あってるんじゃないですか」

 

ひ、ひどい!!桜が笑顔で言うところを見ると悪気があって言っていないのがさらに俺の心を抉ってくる。

 

「でも、俺以外にも変人はいるでしょ」

 

「確かにいるけれど、あなたほどではないでしょう」

 

それを雪ノ下さんが言うんですか……。

 

「はぁ……、俺って変人なんだな。唯一の取柄『平凡』だと思ってたのに……」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

みんな黙っちゃうんだ。

 

 

 

 

 

「んん~、ゆきのんの手作りケーキ、おいっしー!」

 

「そう、喜んでもらえて良かったわ」

 

「岸波さんのタルトもおいしいです!これは岸波さんと結婚したお嫁さんのハードルが高そうですねぇ」

 

そのとき、隣の部屋から大音量が轟いた。

 

「ひゃ!」

 

「またか……、お隣さん、ちょっと騒がしいな」

 

実はさっきから壁叩いたりとかいろいろあるんだけど

 

「なんとなくわかってきたな」

 

何が?みたいな表情の人が過半数、数名はまたか…みたいな表情。もう慣れてきたのか。

 

「お隣さんはある一つのことに反応してるんだよ」

 

「ある一つのことってなんですか?」

 

ここは試しに何か言ってみるか。

 

「じゃあ、『俺、実は彼女がいてもうじき結婚するんだ』」

 

ドンッ!

 

今までより大きく壁を叩かれた。

 

「と、まぁこの、よ、うに……、あ、あの皆さんなんか怖い顔してますよ。って雪ノ下さんと桜!ナイフを持たないで!」

 

その後、いろいろと死にそうになった。

 

「誤解が解けてよかったよ。それでまぁお隣さんは『結婚』」

 

ドンッ!

 

「という言葉に反応してるみたいだね」

 

で、そこから割り出される人物は俺の周りには一人しかいないんだけど。さすがに違うよね。

 

「なるほど、なら今度からその手の話題を出さなければいいんですね」

 

「そうだね。でも、タルトがおいしいって言ってもらえてよかったよ。日頃料理はしてるし、お菓子とかもよく作るから、料理には少しだけ自信があるんだ」

 

「あれで少しと言われると、女性としては複雑なのだけど」

 

雪ノ下さんがそう言うと、他の女性三人もうんうんと頷く。

 

「由比ヶ浜さん以外はみんな今でも料理がうまいんだし、由比ヶ浜さんだって努力すれば料理うまくなると思うよ」

 

「岸波、ウソを吐くのはよくないだろ。由比ヶ浜は壊滅的の間違いだろ」

 

比企谷が余計なことを…。

 

「ウソじゃないさ。俺だって昔は料理がおいしかったわけじゃないんだぞ。ねぇ桜」

 

「え?兄さんは私が小学生になったときにはもう、今ぐらいおいしかったと思いますが」

 

「え?そうだったけ?俺ってそんなに早く料理上達してた?」

 

あ、あれぇ……。おかしいなぁ…俺って中学入ったころに今の腕になったんじゃないの?

 

これはアーチャーとキャスターに感謝だね。

 

「うう、キッシーは小学生のときにはこのレベルだったんだ」

 

「え~、あ~、うん。なんかごめんなさい」

 

これは謝らないといけないやつだな。

 

「あ、料理で思い出したわ」と雪ノ下さんが鞄から買ってきた誕生日プレゼントを渡す。

 

雪ノ下さんがエプロン、戸塚くんと桜が髪留め、小町ちゃんが写真立て、材木座はない。本当に材木座は何しに来たんだ?

 

「最後は俺になるのか」

 

さっきから俺が最後になってばっかりだな。俺は鞄からプレゼントを取り出し、由比ヶ浜さんに手乗りサイズの包みを渡す。

 

「キッシー開けてみていい?」

 

「うん。いいよ」

 

開けてみると、立方体の機械。

 

「こ、これは……何?」

 

「まぁわからなくて当然だね。それを開けてみてよ」

 

「開ける?……こう」

 

由比ヶ浜さんは、よくわからないようだが、その立方体の機械を宝箱を開けるように開けると、この部屋を薄い青、電子の海に似たような色に変わり、白い雪のような光の粒が舞い落ちながら、綺麗な音色が流れる。

 

「綺麗…」

 

「そうね」

 

電子オルゴール。他にもいろんな機能があるけど、オルゴールとしてだけ使ってくれればいいや。充電無用、半永久に動くことができる。簡単にいえば空間内にあるエネルギーを糧にしているわけだ。人には害はない。むしろいい。安眠効果や疲労回復などなど。電子手帳を基準に作ってみた。

 

「なぁ岸波、あんな高そうな物を貰っても、逆に困るだろ」と比企谷が小声で言ってくる。

 

「何言ってんだよ。あれはタダだよ。俺が作ったんだから」

 

俺がそう言うと比企谷は驚いたあと、呆れた顔で

 

「お前って本当に何物だよ」

 

「決まってるだろ。魔術師だ」

 

 

 

 

 

「いやー、みんなほんとありがとー!今までで一番嬉しい誕生日かもしれない」

 

由比ヶ浜さんはプレゼントの山を見ながら言う。

 

そこから誕生日の話になったのだが、比企谷の家の親が適当だと言う話になり

 

「なんせ、俺が八月八日生まれだから八幡ってつけたくらいだ」

 

「ほんとに適当だ!」

 

「けれど、名前の付け方なんてそういうものではないの?私だって似たようなものよ。生まれたときに雪が降っていたからってだけだもの」

 

「あ、私もそんな感じでした。桜が咲いていたので桜と付けたようです。他にも理由はあったようですが、これが一番しっくりきます」

 

それから材木座の名前はじいちゃんに付けてもらったとか、戸塚くんは彩りを加えるで彩加とか人それぞれ名前を付けてもらった理由などを話していく。由比ヶ浜さんは知らないらしい。

 

「岸波くんの白野も珍しい名前よね。女の子らしくて」

 

「いや、俺より戸塚くんの彩加のほうが女の子らしいし、比企谷の八幡のほうが珍しいと思うけど」

 

「ボクそんなに女の子らしいかな?」

 

みんなが頷く。名前どころか性別以外は女の子だよね。

 

「まぁ俺も由比ヶ浜さんと同じで名前の由来はしらないね」

 

ムーンセルでモデルの人間から作られた情報体の一つで、生まれたころから岸波白野だったんだし、この世界でも俺自ら白野って名乗っただけだし、父さんの名字が奇跡的に岸波だったわけだし。

 

 

 

 

そろそろ飲み物がなくなってきたなぁ。取りに行くか。

 

俺が立ち上がったら、比企谷も立った。

 

「比企谷も飲み物取りに行くのか?なんなら俺が行こうか?」

 

「そうしてもらえたら楽なんだが、他のやつらのも取ってこようかと思ってな」

 

「なるほど、なら手伝うよ。さすがに八人分は多いだろ」

 

「おお、なら頼むわ」

 

俺が雪ノ下さんと桜の紅茶と小町ちゃんのコーラ。

 

比企谷が由比ヶ浜さんのコーラと戸塚くんのコーヒーと材木座の……カレー?だったっけ?

 

 

 

 

 

俺と比企谷がドリンクバーの前で頼まれた飲み物を用意していると、大音量で音楽と歌声が聞こえてきた。

 

「隣の部屋の人だな」

 

「そうだな。確か『結婚』だかで反応するんだよな。平塚先生か?」

 

「俺もそう思ったけどさすがに違うだろ。って比企谷、カレーがないぞ」

 

「マジか。仕方がねぇから材木座にはサイダーで我慢してもらうか。それより隣にあまり騒がれても困るから、ちょっと注意しておいたほうがいいかもな……」

 

「大丈夫か……?心配だから俺もついてくよ」

 

俺と比企谷は隣の部屋の前まで行ってから軽くノックをする。だが、音が大きすぎて聞こえないようだ。

 

「んー?聞こえてないのか?まぁ、ちょっと覗いてみるか」

 

そう言って比企谷は慎重にドアノブを回し、僅かな隙間から覗き込む。俺も比企谷の上から覗いてみると

 

「こ、これは……」

 

「あー、ああ、平塚、先生、か?うん、ひとりぼっちだし、平塚先生で間違いなさそうだな」

 

平塚先生はマイクを握りながらも、脱力した様子でぼーっと画面を眺めている。

 

「ふっ……ラブソングなんて詐欺で欺瞞でウソばかりだ……。歌う気にならないなぁ……。そのうえ隣は結婚だのなんだの楽しそうに騒いでるし……。リア充、爆発しろ……」

 

その言葉を聞いて、俺たちはドアを閉じた。だが、漏れる嗚咽の声は聞こえてくる。

 

「はぁ……。これは辛いな……」

 

「ふっぐっ、ぐすっ……ひ、平塚先生……。誰かもうほんと貰ってやってくれよおぉ……。っとお、やべ、こっちにくる」

 

ほんとだ、って比企谷もそこそこ気配を読むのうまいな。

 

俺と比企谷はドリンクバーまで走った。

 

そこへ疲れた表情の平塚先生がくる。

 

「はぁ、喉渇いた……。おや?比企谷、岸波。君たちがこんなところにいるとは驚きだな」

 

「お、お疲れ様です。せ、先生こそなんでここに……」

 

お、おいそれを聞いたらダメだろ。

 

「私か。私は……、ま、まぁそのストレス発散だ。君たちは……ああ、由比ヶ浜の誕生日会か。楽しんでいるかね?」

 

「はい」

 

「まぁ、そうっすね」

 

比企谷が答えると、平塚先生は穏やかな笑みを浮かべる

 

「……そうか。ああ、失礼、一服させてもらうぞ」

 

一言断ってから胸ポケットから煙草を取り出し、咥え火をつける。

 

「―――比企谷もここ最近で少し変わったのかな。以前の君なら誕生日会になどこなかっただろう。どういった経緯であれ、成長の兆しが見えるのは教師として喜ばしいことだ」

 

やはりこの先生はしっかりと生徒を見て、その本質を見極めているんだな。こんな優しい先生なのになんで結婚できないんだか。

 

「…先生。せっかくだし、顔、出していきませんか?」

 

比企谷が先生の言葉に心を打たれたのか、平塚先生を誘った。

 

「そうですね。平塚先生が来てくれればみんな喜ぶと思いますよ」

 

「ん?誘いは嬉しいのだが…(さっき、由比ヶ浜にはパーティーと言ってしまったしな…万が一にも婚活パーティーを追い出されたなんてバレたら)…いや、遠慮しておこう。水入らずを邪魔しても悪いしな」

 

「邪魔なんてことないっすよ。年代違い過ぎて全然知らない歌、歌われても拍手くらいはしますよ!」

 

「はい。しっかり……って比企谷!何言って――――」

 

「衝撃の、ファースト・ブリットォ!」

 

「ぐはっ!」

 

比企谷が倒れた。

 

「撃滅の、」

 

あ、クソッ!比企谷に気を取られていて、逃げるタイミングを逃した。ってなんで俺まで。仕方がない、ここはガードで…ま、間に合わない!

 

「セカンド・ブリットォ!」

 

 

 

 

 

「酷い目にあった……」

 

「岸波、お前なら避けれたんじゃね」

 

「タイミングが遅かった。平塚先生には魔術なしだと、クマに遭遇してそれを倒す気で挑まないといけないレベルだと思う」

 

「あの人何者だよ……」

 

平塚先生はサーヴァントにしたら、バーサーカーだな。あれ?ガトーのバーサーカーと声が似てるな。

 

俺と比企谷はそれぞれドリンクを持って自分たちのカラオケルームの前までくる。

 

「ちょっと待って、今開けるから」

 

俺はドア開ける。

 

「おかえり、八幡、岸波くん」

 

戸塚くんが笑顔でお出迎え。比企谷大喜び。

 

一人一人に飲み物を渡していき、カラオケなので歌うことになったのだが、俺ってムーンセルで楽器とかやったことあるけど、歌はあまり歌わないな。最近はマネージャーとしてセイバーとエリザベートのボイストレーニングに付き合わされてるけど。

 

あのユニットに助け舟としてキャスターを入れた。キャスターって歌うまそうだし、なんか文房具を武器にしそうなの声だし。

 

で、ペアで歌う流れらしく

 

「兄さん。私と歌いませんか?」

 

「いいけど、俺、歌がうまいかわからないよ」

 

その言葉をあの人はしっかり聞いていたようだ。

 

「岸波くん、勝負しましょう」

 

「え?どうして急に?」

 

「思ってみれば、私たちの勝負でまだカラオケはなかったわよね」

 

「そ、そうだった、かな?」

 

これはやばそうだな。雪ノ下さん絶対にうまいじゃん。

 

「そうよ。これが最後の勝負になりそうね」

 

「いや、まだ他にやってないこととかあるでしょう。……だが、勝負というなら受ける。俺には桜という美声の持ち主が付いているからな」

 

でも、美声=歌がうまい、ではないんだよな。いや、桜は歌がうまいのは知っているから俺が足手纏いにならなければいいだけ。

 

「それに俺も楽器ぐらいならいろいろやってるし」

 

「そうなの?」と由比ヶ浜さんが尋ねてくる。

 

「えーっと、ギター、ベース、ドラム、ピアノ、琴、ハープ、パイプオルガン、魔笛?……」

 

ムーンセルの英雄さん方から習っている楽器などを指を折りながら言っていくと

 

「おいおい!!途中から変なの入ってこなかった!?ハープまではいい、パイプオルガンと魔笛ってなんだよ!?」

 

「兄さん。本当に何時も何処で習ってくるんですか?」

 

「さすがAB型。ミステリアスですね」

 

「レベルが違うと思うけど……」

 

「ふむ、師匠はやはり別格だな!」

 

「と、まぁ勝負は受けるよ。雪ノ下さん」

 

俺がそう言ったあと、「まもなく、演奏を開始します」と機械の声が響く。

 

「ゆきのん、ほらほら、始まるよ!」

 

「由比ヶ浜さん、マイクを」

 

こうして由比ヶ浜さんの誕生日会は盛り上がっていくのであった。

 

 

 

 

 




次回は7.5巻の誕生日会のあとのゲームセンターの話にしようかな?

オルゴールの音はCCCのタイトル画面のBGMをイメージして下さい。ボクあのBGM大好きなんですよ

ザビ男の血液型ですが、決まりがないので、血液型占いで一番近そうなAB型にしました。
Rhマイナスは勢いです

それではまた次回!!


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ゲームセンターの話とプログラムについて前半。

少し投稿が遅れてしまいました。まさかパソコンの調子が悪くなったインターネットが繋がらなくなるとは思いませんでした

今回は次回の続いが少しと、久々にカレンさんを少しだけ登場と、プログラムについてを書きました
急いで書いたので誤字などが多くなってしまったかもしれませんが楽しんでもらえると嬉しいです



 

 

 

 

 

カラオケで歌い終わり俺たちは外に出た。

 

勝負は、まぁ勝てるわけないよねぇ。といってもいい勝負はできたと思う。桜に感謝。

 

その桜は今、雪ノ下さんたち女子四人で「また一緒に行こうね」みたいな話をしている。

 

「なぁ比企谷」

 

「なんだ」

 

「もしかしたら、俺たちの妹は百合の道には行かないよな」

 

「どうだろうな。俺が思うに雪ノ下は葉山の次に女子にモテる。見ろ、雪ノ下以外の女子を、みんな雪ノ下にベッタリじゃねぇか」

 

そうなんだよなぁ。みんな雪ノ下さんに抱きついてるんだよなぁ。まぁ雪ノ下さんになら桜を任せられるんだが……。ってことは雪ノ下さんみたいな男子が現れたら、その人に桜の彼氏になってもらうか。他はダメ。百歩譲ってアーチャーみたいな人かな。『女難の相』がなかったらアーチャー即決なんだけど。

 

「うーん。女子だけで行くなら、俺たちも男子だけで行ってみるか?」

 

「いいや。面倒く―――」

 

「ねぇ、戸塚くん」

 

「ホント!?楽しみだなぁ。ね、八幡」

 

「おお!!そうだな!今度、三人で来るか」

 

「あれ?我は?ねぇ八幡、我は?」

 

材木座、比企谷大好きだな。ん?背後から強者の気配。

 

俺が振り返ると、一緒に比企谷も振り向く。

 

自動ドアのところに人影。あれって……。

 

機械音と共に一人の女性が出てきた。

 

「はぁ、一人で長い時間過ごしてしまった。まぁ、帰っても一人なんだけど……。ふふっ」

 

「平塚先生?パーティーじゃなかったんですか?」

 

由比ヶ浜さんたちもこちらを見ていたらしく平塚先生にパーティーが何とかって。

 

「ゆ、由比ヶ浜!?き、君たち、まだいたのか!?」

 

パーティーって婚活パーティーかな?

 

平塚先生はあたふたした様子で俺たちを見比べる。

 

すると比企谷が

 

「パーティーってもしかして、婚活パーティーじゃ……」

 

「……うまくいかなかったのかしら」

 

「いや、追い出されたんだと思う……」

 

「もっとひどいな」

 

そんなことを雪ノ下さんと俺と比企谷が言うと、由比ヶ浜さんが慰めるように話しかけた。

 

「せ、せんせ?ほら、あのー。結婚がすべてじゃないですよ!仕事もあるし、先生強いから一人でもだいじょぶです。だから元気出してください!」

 

由比ヶ浜さん、それは慰めにならない。なぜなら

 

「う、ううううぅううぅ……。昔、まったく同じことを言われた……」

 

平塚先生は瞳に涙を滲ませて言った。

 

俺、前その話を一年の頃に聞かされたんだよ……。

 

そして平塚先生は突然、全力で走りだした。

 

「あ、逃げた」

 

遠ざかっていく平塚先生の声が夜の街に響く。

 

「はぁ……結婚したい……」

 

 

 

 

 

平塚先生が消え去って行ったほうに視線を向ける。

 

「『結婚したい……』か……。重い言葉だな」

 

「そうだな。先生が言うとさらにその重さを感じる」

 

なんだろう、少し気分が下がった。

 

だが、そこは小町ちゃんがうまく話を変えてくれた。そしてこの後も遊ぶみたいな流れに。

 

鬼ごっこやかくれんぼの話に。

 

「はぁ……、あんまりいい思い出がないな。鬼ごっことか……」

 

「岸波くんはそういった遊びをしていたの?」

 

「すごい昔にねぇ。追いかけてたら最後に化け物出してくる幼女二人組とか、すぐに消えちゃうヤンデレ巨乳とか、逃げないと殺そうとしてくる自称本当の理解者とか、初期化の波とか。他にも見えない暗殺格闘家に狩人、借金の取立ての騎士……。最近では皇帝と竜の娘と良妻狐だな」

 

これがトラウマってやつだな。

 

「意味がわからねぇ。なにそれ作り話?」

 

「そんなわけないだろ!俺がどんな思いで走ったか……」

 

ああ、涙が出てきた。

 

「に、兄さん!?泣かないでください。私にも意味がわかりませんが泣いちゃダメですよ」

 

「ウソじゃないんだ……、本当にあったんだ……」

 

わかってる、わかってるよ。この世界でムーンセルのこと話したって理解されるわけがないんだ。

 

 

 

 

 

話し合った結果、ゲームセンターに来た。

 

「うわぁ、懐かしいなぁ、二年ぶりだなぁ、まぁ格ゲーしないけど」

 

「なぜですか師匠!?師匠の腕ならここにいる彼奴ら全てを土下座さられるでしょう!?」

 

「そんなことするわけないだろ。なんだ材木座はここのプレイヤーに恨みでもあるの?それでそろそろ師匠はやめてくれ」

 

材木座とどうでもいいやり取りをした後、みんなでゲームセンターの中を見て回ってると、麻雀ゲームの前にくる。

 

「麻雀かぁ。俺って運ないからこういうゲームって少し弱いんだよな」

 

「運っつってもそこまで大きな差は出ないだろ」

 

「比企谷、わかってないな。俺の知り合いの金持ちとか海賊は結構強いぞ。天和とか普通に出してくるからな」

 

「お前の知り合いってなんなの?強運ってのはわかったけど、海賊って……」

 

「あ、お兄ちゃんがよくやってる麻雀ゲームってあれでしょ、勝つと服脱ぐやつ」

 

小町ちゃんが比企谷がよくやる脱衣麻雀の情報をみんなに聞こえそうな声で教えてくれた。

 

「おい、バカやめろ。この場でそれを言うんじゃねぇよ。戸塚に聞こえちゃうだろうが」

 

「女子よりも戸塚くんに聞かれるほうが心配なのか。……脱衣麻雀かぁ、少しだけ……」

 

俺も男子だし中身はオヤジだから気にはなるよねぇ。ただねぇ後ろに怖い何かがいるんだよねぇ。

 

「岸波くん」「兄さん」

 

背後から肩を掴まれた!これはやばい!!

 

「は、はい、な、な、なんでしょうか?雪ノ下さん、桜さん」

 

「兄さんにはまだ早いですからダメですよ」

 

「ええ、あのようなゲームは比企谷くんぐらい目が腐ってからにしなさい」

 

「おい。俺を躾の道具に使うな」

 

まだ早いって俺はもう高校生ですよ。きわどい衣装とかムーンセルで見慣れてるから脱衣ぐらいなら。

 

「わかりました。やりません」

 

怖いんだ。笑顔が怖いんだよ。

 

「わかればいいんです。エッチな本を一冊も買ったことがない兄さんには刺激が強すぎます」

 

「なんで俺がそういった本を買ったことがないって知ってるの!?」

 

「この前小町ちゃんが『妹は兄の女性の趣味を知ってて当然。だから部屋にあるエッチな本を探してみた方がいい』と教えてくれました」

 

なんだその理論……。でも、その場合だと俺がエロ本を持ってるかの有無しかわからないんじゃか?

 

「その話が本当なら小町は俺が持ってるエロ本については知ってるのかよ」

 

「お兄ちゃん、小町を誰だと思ってるのかな?お兄ちゃんのことならたいていはわかるよ」

 

比企谷の兄妹関係も少しズレてるよな。

 

俺が視線を麻雀ゲームのほうに向け直すと、見覚えのある女性の後ろ姿が……。

 

「あれって……」

 

俺の言葉に釣られみんなが俺の向いているほうに顔を向ける。

 

「お、今日引きいいなー。麻雀牌には好かれるんだけどなー。なーんで男の人にはすかれないかなー私。お、それポン、カン、シン、なんつってね、ははは、はぁあ……」

 

平塚先生だな。みんなも平塚先生を見ていたのか悲しそうな表情を浮かべる人も何名かいる。

 

「なぁ桜」

 

「何ですか兄さん」

 

「平塚先生に父さん紹介したほうがいいかな」

 

「確かに私も父さんには結婚してもらいたいのですが、なぜか父さんに結婚というイメージがないんですよね」

 

「そうだな。父さんが結婚しても奥さんは夫婦の幸せを味わえないな」

 

「はい。父さんは優しいんですけど家にはまずいませんから。それに父さんも結構モテますからね」

 

そうなんだよな。父さんはモテるんだよ。今でも医者なのにファンレターみたいなのが家に送られてくる。そして桜、『父さんも』じゃない『父さんは』だよ。

 

その後、小町ちゃんが候補がなんとかって言って、平塚先生を誘いに行った。

 

 

 

 

 

それからみんなでメダルゲームをやって、クイズマジックチバデミーの千葉検定を男女別々のチーム戦でやった。比企谷の健闘虚しく、ハンマーチャンスで女子チームに敗れた。

 

翌日の放課後、普通なら部室にむかうところなのだが、今日はカレンに頼まれて何かを手伝うことになった。

 

カレンに言われた待ち合わせ場所にむかうと、カレンが待っていた。少し遅れちゃったかな?

 

「カレン」

 

「白野先輩、待ちましたよ。女性を待たせるとはゴミ同然ですよ」

 

「……ご、ごめん」

 

そこまで言われるとは思ってはいなかったけど遅れたのは事実だから言い返せない……。

 

「それで、何を手伝うの?」

 

俺が呼ばれた理由を尋ねる。手伝う内容によっては断るが。

 

「では、私についてきてください」

 

カレンはそう言って歩き始めた。

 

なるほど、現場に連れていくことによって断れなくするわけか。ずる賢いな。

 

まぁ、外に出るようには見えないから危ないことではないだろう。カレンはあの店長の娘だから、たまにとんでもないムチャぶりをしてくることがある。

 

やってはないけど去年『女装して女物の下着を買いに行く』と、恐ろしすぎるムチャぶりをしてきた。本当に何を考えているかがわからない子である。

 

この世界で俺が考えを読み取りにくいと思っている人物は、カレン、陽乃さん、店長、父さんの四人かな。雪ノ下さんや比企谷もこの四人の中に入りそうだが、雪ノ下さんは正義感が強くて真っ直ぐだからわかりやすいし、比企谷は捻くれているが、店長や陽乃さんほど強敵ではない。

 

俺は黙ってカレンの後をついていくと、ある部屋の前に着いた。

 

「なんで生徒会室?」

 

カレンって生徒会役員じゃないよな。

 

「手伝って欲しいことは私ではなく、私と仲がいい先輩のお手伝いです」

 

「へぇ。で、どうして俺なの?」

 

「私の管轄外だからです」

 

「ってことは機械関係か」

 

「はい。そこで白野先輩の出番と思いまして、白野先輩は機械関係が何故か得意ですから」

 

そこはメイガスとウィザードの違いだろうな。カレンは気付いていると思うが、メイガスとウィザードはまったく違うモノらしい。魔力の質とかいろいろと違うって聞いた覚えがある。

 

「それで何を手伝えばいいの?」

 

「では、まずは生徒会室に入りましょう」

 

カレンが戸をノックしたら部屋の中からほんわかした声で「はーい、どうぞー」と声が聞こえた。

 

「失礼します」とカレンが言って戸を開けて中に入る。

 

俺もその後について「失礼します」と言って中に入ってから戸を閉める。

 

「あ、カレンさんと、それと……えーっと………」

 

この人は城廻めぐり先輩だな。俺でもわかる我が校の生徒会長さんですね。

 

城廻先輩は俺の顔を見て悩んでいる。なぜかって?初対面だからね。

 

「あ、初めまして。俺の名ま―――」

 

「こちらは今日、パソコンを修理してくれる私のペットの犬です」

 

「犬って言うな!それに俺はカレンのペットじゃないから!」

 

むしろ俺は………なんだろ?俺のイメージアニマルってなんだ?

 

「ってパソコンを直しに俺は呼ばれたの!?」

 

「そうですよ。実際に白野先輩は先生方から『総武高の何でも屋』と言われているじゃないですか」

 

「なんでカレンがその呼び名を知っているの?俺ですらつい最近知ったのに」

 

本当に驚いたよ。一年のころから先生方の仕事を無償で手伝っていたらその二つ名を貰った。荷物運び、物の修理が主だけど。去年一度だけ、調理実習の講師を頼まれた。あとよく結婚相談とか。

 

「その呼び名を私が付けたからです。最初は『総武高の使い魔(パシリ)』にしようか悩みました」

 

「…………さいですか」

 

犯人は君でしたか。はぁ……ってことはこの二つ名は今年出来たのか。

 

俺とカレンの会話を見ていた城廻先輩はニコニコした表情をしている。

 

「仲が良いねー。カレンさんたちは付き合ってるの?」

 

「いいえ、仮です」とカレンが即答する。

 

即答するんだ。事実だけど恥ずかしがったりしようよ。俺ですら少し恥ずかしいのに。

 

「仮?」

 

城廻先輩はわからないようなので、俺が説明をしよう。

 

「えーっとですね。カレンって美人じゃないですか」

 

「うんうん」

 

「それで結構一年の男子からモテるらしいんですよ」

 

「そうだね。前からそう思ってたし、前もそんな話を聞いたかなぁ?」

 

カレン、城廻先輩に自分がモテるって話したんだ……。女性にそれは自慢にしかならない気が……。でも、それをなんとも思わないということはカレンのことを理解しているってことだろうな。

 

「そこで、告白とかされても付き合う気がないからフッていたそうなんですけど、あまり仲がよくない女生徒から文句を言われたそうで、ならウソでも付き合っていることにすれば文句は言われないと考えて、その相手に仲がいい俺が選ばれたわけです」

 

と言うよりカレンと仲がいい男って俺ぐらいだし。

 

「そうだったんだね。納得したよー」

 

城廻先輩は納得したようだ。

 

「改めて、初めまして二年生の岸波白野です」

 

「あ、こちらこそ初めまして生徒会長の城廻めぐりです」

 

互いに挨拶を終える。それでは本題。

 

「それでパソコンを直すと言われても俺にも限界がありますけど大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だよ」

 

「わかりました。それじゃあ見せてください」

 

城廻先輩にパソコンを見せてもらい、俺にでも直せそうだったので直すことにした。

 

修理を始めて十数分経って何とか直ったかな。

 

「これで大丈夫だと思います」

 

「ありがとー。岸波くん、こういうの得意なの?」

 

「まぁある程度は。それじゃあ俺は部活に行くのでこれで。またなにか困ったことがあったらいつでも言ってください」

 

「うん、わかった。じゃあ岸波くんのメールアドレス教えて」

 

城廻先輩はポケットから携帯電話を取り出す。

 

「別にいいですよ」

 

俺も携帯電話を取り出して、城廻先輩とメールアドレスを交換した。

 

また女性のメールアドレスが増えた……。嬉しいけど、ちょっと複雑だなぁ。

 

「そういえば、他の生徒会役員の人は来ないんですか?」

 

「今日は生徒会が休みだから来ないよ」

 

「そうだったんですか。じゃあどうして城廻先輩はいるんですか?」

 

「それはね、生徒会室は静かだからお昼寝がしやすいから」

 

「…………」

 

お昼寝かー。なら仕方がないね。

 

「じゃ、じゃあ俺は部活があるので帰りますね」

 

「うん、ありがとー。またメールとかするねー」

 

城廻先輩はふんわりとした笑顔で手を振る。

 

「カレンはどうするの?」

 

「私は少しめぐり先輩とお話をしてから帰ります」

 

カレンが俺以外に先輩を付けて呼ぶ人がいたんだな。

 

「わかった。それじゃあまたいつでも呼んでください。俺がヒマなときならいつでも手伝うんで」

 

俺は二人に挨拶をしてから、生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

今日の部活は依頼もなく、いつもと変わらず自分の好きなことをやって終わった。

 

そして夜になり、俺はパソコンを開いて桜の花のマークをクリック。いつも流れる無駄に明るい音楽のあとBBが出てきた。

 

『はーい、可愛い可愛いBBちゃんの登場でーす。今日はセンパイが待ちに待ったプログラムについて説明しまーす』

 

BBたちと会話できるようになって一月は経ったからな。それで俺が作ったプログラムってなんだったの?

 

『それはですねぇ、ヒ・ミ・ツでーす』

 

………。今すぐにでも先輩チョップを喰らわせたい。

 

『まぁ冗談はこれぐらいにしましょう』

 

やっとだ。長かったなぁ。

 

『センパイが作っていたプログラムは一つではありません。たくさん作ってました』

 

そうだったんだ。確かにかなりの量だったからな

 

『私たちと会話をするためのプログラムと、大切なプログラムが二つ、面白くて楽しいプログラムが複数、恋愛ゲームを一つです』

 

……恋愛ゲームいらないだろ

 

『センパイはわかっていませんねぇ。今どきの男子高校生は恋愛ゲームを一度はやってるんですよ。センパイは後れてますねぇ』

 

それ絶対にウソでしょ。俺の知り合いで恋愛ゲームしてそうなの一人ぐらいしかいないぞ

 

『それはセンパイの周りがおかしいんじゃないんですか?』

 

なぜだろう、言い返せない。

 

お、おかしいのは認めるけど、今どきの男子高校生が恋愛ゲームを一度はやっているはウソでしょ?

 

『では、話を進めます』

 

む、無視された。

 

『面白くて楽しいプログラムは今後ヒマなときに話しますので、大切なプログラムについて話しますね』

 

BBにとっての面白くて楽しいプログラムって、こっちからしたら迷惑すぎる場合があるんだよな。月の裏側がそんな感じだったし。

 

『あ、そういえばセンパイは私たちのムーンセル側でのプログラムが魔術の術式のようなものって知ってましたか?』

 

まぁなんとなくね

 

『なのでセンパイが作っていたプログラムは使用するときに魔力を使うんですよ』

 

コードキャストってこと?

 

『はい、よくわかりましたねぇ。頭を撫ぜてあげたいところです』

 

あ、うん、ありがとう。そうなると恋愛ゲームするにも魔力を使うのか

 

『いいえ、恋愛ゲームはそちらの古い技術、そちらの技術を基に作っているので。ですがそちらよりも進歩していますよ』

 

確かこの世界って俺が元いた世界よりも過去に位置するんだよな。

 

『それに主に魔力を使うのは二つだけで他のモノは魔力を消費しませんので安心してください』

 

主の二つはBBが言ってた『大切なプログラム』ってやつ?

 

『その通りです。センパイがお利口になったせいで少し残念、前みたいにからかえないじゃないですか』

 

BBは頬を膨らませて怒っているみたいだが、頭がよくなって怒られるってなにさ。さらに怒られる理由がひどすぎないかな。

 

『はぁ。私が知っていたセンパイはもういないんですねぇ。これも全部、センパイが今いる世界の女、主にあの声がメルトにそっくりな人のせいですね』

 

いや、そこで雪ノ下さんは関係ないでしょう!ん?なんでBBが雪ノ下さんのことを知ってるの?

 

『こちらでセンパイの行動を見ることができるモノがあるんですよ』

 

アウトだよ!それはアウトすぎるよ!俺にもプライバシーぐらいあるんだよ!さすがそれはにひどすぎるよ!

 

『大丈夫ですよ』

 

いや、大丈夫じゃないよ!

 

『センパイの行動が見れるのは一日一時間、それに私だけしか見れません。ですがギルガメッシュさんはそういうのは関係なく見れると思います』

 

BBには子供のゲームの条件みたいなのが付いてるんだな。ギルはあとで話し合うか。

 

でも、BBたちがいるところの時間の流れってどうなってるの?

 

月の裏には時間の流れは存在してなかったようにムーンセルの中でも場所によっては時間の感覚が違うはずだ。だからこそ俺もこうしていれるわけだし。

 

俺が夜に行っているところは俺がいる間は俺の世界と同じで、俺がいないときは時間の流れが違うらしい。アーチャーから聞いた。

 

『私たちがいるところはセンパイと会話するこの部屋だけがセンパイのいる世界と同じ時間が流れて、それ以外は結構出鱈目な感じで、かなりゆっくりと動いてますね。私たちがセンパイと会話できるようになって二日目の半ばぐらいですね』

 

なんかこんがらがってきたな。そうなるとこの前メルトが言っていたリップがいろいろ壊したせいでしてた掃除は?

 

『まだやってますよ』

 

じゃあ、BBがメルトたちにウソを吐いた、俺の二日置き会話をするのはどうやってタイミングを計ったの?

 

『センパイ、私を誰だと思ってるんですか。私ならそれぐらいのことは簡単にできますよ』

 

もうそれでいいや。でもそうなると一日一時間ってどうなってるの?

 

『………では話を進めますね』

 

また無視した。いや、今度は逃げたか。

 

『まず一つ目、名前は『召喚プログラム・聖杯くん』でーす』

 

す、すごそうだなぁ。変な名前だけど……。

 

 

 

 

 




カレンの友達としてメグメグ先輩も登場。俺ガイルではメグメグ先輩は三番目ぐらいに好きなんですよねぇ。ザビ男の周りにはほんわかしたキャラが少ないというよりいませんからねぇ

ザビ男にイメージアニマルを付けるとしたら何になりますかね?桜とカレンは猫って感じですし。
ザビ子はエリザベート言ってた『子リス』はすごく納得がいくのですが、ザビ男は『子ブタ』のイメージではないようなぁ……。

このSSで体育祭について書きたいのに、俺ガイルのアニメ一巻の初回限定版、小説6.25巻を買っていない。棒倒しのとき、ザビ男に『比企谷、アレを(棒を)倒してしまっても構わんのだろう』って言わせたい!!今度中古屋に探しに行こうかな……

次回はプログラムの続きについて書こうと思います

それではまた次回!!


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俺の願いは……。

前回の続きプログラムの説明の回です。今回は誰一人俺ガイルの世界のキャラは出てきません






 

 

 

 

 

『『召喚プログラム・聖杯くん』でーす』

 

す、すごそうだな、変な名前だけど……。

 

『このプログラムは名前の通り英雄さんたちを召喚することができるんですよー』

 

それはすごいな。でもこっちの世界で召喚しても何をするんだ?

 

『やることはセンパイが決めればいいじゃないですか。それにまだ話は終わってませんよ』

 

他に何かあるの?

 

『まずこの『聖杯くん』には条件がありまして、

1、召喚できる英雄はセンパイが真名と姿を知っている者のみ。

2、このプログラムで英雄を召喚できるのは八体までで、二回に分割ができる。

3、召喚された英雄は召喚してから十二時間しかその世界に存在することができない。

4、召喚する英雄に必要な分の魔力を溜めないといけない。

だいたいはこの四つですね』

 

なるほど、なんとなくわかった。でも確認のために1から確かめるよ

 

『はい、わかりました。なんでも聞いてください。スリーサイズは言いませんよ』

 

大丈夫、知ってるから。上からB85/W56/H87で、身長156cm、体重46kgだよね

 

『な、なんで知ってるんですか!?スリーサイズどころか身長と体重まで!?』

 

ほら、SG集めていると他にもいろんな情報も付いてくるから

 

俺は電子手帳を取り出してBBのSGが書かれている画面を見せる。

 

『まさかここまで情報が出るなんて……、五停心観、恐るべきですねぇ。まぁセンパイにならここに乗ってる情報ならいくらでも教えますが』

 

さっきと言っていることが違うんだけど……。

 

話を元に戻そう。じゃあ『1、召喚できる英雄はセンパイが真名と姿を知っている者のみ』

ってのは、俺が夜に会っているサーヴァントたちってことだよね

 

『そうですね。ですがセンパイが真名と姿を知っている英雄さんなら誰でも連れて来ることができますよ。例えばガウェインさんが仕えていたアーサー王の姿をセンパイが知っているならセンパイがいる世界に召喚することができます』

 

でも俺はアーサー王の姿を知らないから

 

もし姿がわかっていても仲良くはなっていないから呼んでも互いに困るだろう、だから俺が夜に会っているサーヴァントたちを呼ぶだろう。間違いないな。

 

次にいこう。『2、このプログラムで英雄を召喚できるのは八体までで、二回に分割ができる』ってのはどうして?それと他にも召喚することができるプログラムがあるの?

 

『どうしてと言われると困りますが『3、召喚された英雄は召喚してから十二時間しかその世界に存在することができない』も同じ理由になりますが、英雄そのものが大きな魔力の塊。そのようなモノを何度もホイホイと出してしまうと、世界にどのような影響が出るかがわからないからです。それとセンパイの命令を聞かずに自分勝手に行動する英雄が出てくるかもしれないという理由からですかね。そのため時間制限などを付けているんです』

 

わからなくもないな。勝手な行動に出そうな英雄がいないわけではないな。心当たりがあるとしたらな。セイバー、アリス、アストルフォとかやんちゃな方々や、ギル、串刺し公みたいな暴走しそうな方々とか。

 

『そして二回に分割ができるの部分ですが、これは言葉の通り八人を4:4や3:5など分けることができます』

 

なるほど。でも分割する意味はあるの?

 

『そこはセンパイが『俺はこのサーヴァントと二人っきりで行動したい』みたいなことを考えるかもしれないじゃないですか』

 

俺のモノマネをしたつもりなのかもしれないけど、俺はそんなことはしないよ。行くとしたらみんなで行くよ

 

『そうですか。ではもう一つの質問の他にも召喚をするプログラムがあるかと言われれば、まだありませんが作ろうと思えば作れます。ですが先ほど言った世界に及ぼす影響などを考えてしまうと作らないほうがいいと思います』

 

それって俺が作る前提で話を進めてない?

 

『作らないんですか?』

 

うーん……どうだろうなぁ……。そう言われると作りそうでもあるけど、まぁ今のところはないかな。それと八体までってことはそれ以下でもいいってことだよね

 

『はい。そうですけど、出せるなら出せるだけ出したほうがいいんじゃないんですか?』

 

まぁ俺なら限界値まで出すね。でも『4、召喚する英雄に必要な分の魔力を溜めないといけない』の必要な分の魔力の量も少なくなるんでしょう

 

『そういうことです。なんかセンパイ、昔みたいな右も左もわからない感じのほうが可愛げがあったんですけど、こう鋭いとイジメがいがありません』

 

イジメ格好悪い……。

 

『ですがセンパイ。この必要な分の魔力も英雄によって変わってくるんですよ。センパイの知っている人たちでは、一番少ないのがアンデルセンさん。一番多いのがギルガメッシュさんですね』

 

それは何となくわかってたけど、どれぐらいの差があるのかな?気にはなるけど気にしたらダメだろうな。

 

それでどうやって必要な分の魔力を溜めるの?

 

『これを使います』

 

そういってBBはBBにそっくりな30cmぐらいのぬいぐるみを取り出した。

 

『これを毎晩ギューと抱きしめて寝てくだされば必要な分の魔力が自然に溜り、その溜まった魔力を使って英雄さんたちをセンパイがいる世界に連れてくることができます。なので大事にしてくださいね♡』

 

……………………無理だろ。べ、別にいやではないよ。本当だよ。俺ほど桜タイプのことが好きなやつはどの世界を探しても三人ぐらいしかいないんじゃないか?誰にも見られたいないなら構わないけど、もし見られたら本当に辛いぞ。BBにそっくりってことはこっちの妹の桜にもそっくりってことだからな。そうなると妹そっくりなぬいぐるみを自作して、それを毎晩欠かさず抱き続けるってことだ。知り合いに見られたら自殺ものだ。

 

あ、あのー、他にはないんでしょうか?

 

『えー。センパイ、文句を言わないでくださいよー』

 

いや、それもしっかり貰うから。大事に金庫にしまっておくから。他のにしてくれない?お願い

 

『金庫にしまったら意味がない気がしますが、仕方がありませんねぇ。ではこれでどうですか』

 

BBが今度取り出したのはブレスレットだった。

 

銀色のキューブ状のモノを数珠のように繋げてあり、八つだけ青色の玉になっている。

 

ビーズのブレスレットって感じだな。あれなら身に着けていてもおかしくないかな。

 

『このブレスレットは連れ出す英雄一人分の魔力が溜まったら、青色の玉に令呪のマークが浮き出るようになっていまして、全てに令呪のマークが出たら八体分の魔力が溜まったことになります』

 

なるほど画期的だな。なぜ最初からそれを出さなかったのか不思議なくらいだよ

 

『それで連れ出す英霊が決まってから連れ出す日の一日前までを勝手に計算して、その間の期間中にセンパイから平均的に魔力を吸い上げていきます。なので今までよりも魔力の量、MPが減るということですので、気を付けてくださいね』

 

魔力の量が減っても今までと変わらず生活はできるだろうけど。BBの気を付けてくださいがどうにも引っかかるな。今後何事もなく生活できればいいけど。まぁそんなことを今考えても仕方がないな。話を戻すか。

 

ということはそのブレスレットと魔力のパスが繋がっているって感じ?

 

『はい、その通りです。そして英雄さんを呼び出すときは『岸波白野が令呪をもって命ずる』とか何とか恥かしく言っちゃってください』

 

急に大雑把になったな

 

『それで、分割についてはこのブレスレットが決めた期間中にしかできません。期間中に令呪のマークが浮き出た分の英雄さんを召喚できます』

 

ということは期間以降での召喚ができないのか。

 

『では、今からこれをそちらに送りますね。それー』

 

BBが教鞭をクルクル回すとポンという効果音と共に、BBのぬいぐるみとブレスレットが来た。

 

やっぱりぬいぐるみは送ってくるんだな……。ん?今年中になんかこんなことなかったか?まぁ思い出せないから、どうでもいいことか、怖すぎたことのどちらかだろう。

 

『それでは次のプログラムついていきましょうか。名前は』

 

あ、ちょっと待って!

 

『何ですか?まだ何かあるんですか?』

 

そのさ『2、このプログラムで英雄を召喚できるのは八体までで、二回に分割ができる』の部分なんだけど

 

『はい』

 

少しBBが笑顔になった気がする。

 

英雄には制限があるけど、他のAIとかなら何度でも呼べるってことだよね

 

『ピンポーン!!ダイセーカーイ。なんと『聖杯くん』はAIもセンパイの世界に呼ぶことができるんでーす。回数は三回。ですからいつでも私とそちらで三回までならデートをすることができますよー』

 

そうなると今のメルトやリップ、桜や藤村先生、呼びたくはないけど言峰神父も呼べるの?

 

『センパイ、私の扱いひどくないですかー。BBちゃんショックです』

 

なんか陽乃さんとかぶったな。

 

『説明が悪かったですね。この『聖杯くん』で呼べるのは私とリップとメルトの三人になります』

 

どうして?君たち三人だけなの?その場合は桜でもいい気がするけど

 

『今回の場合はそちらの世界でセンパイが会っているAIだけなんです。それに私たちは昔の権限を無くされた人も同然なのであまり魔力を消費しませんし、センパイと魔力のパスが繋ぐことができれば永遠にそちらの世界にいることができます』

 

ああ、だからリップとメルトにウソを吐いてたのか

 

それなら納得。しかし魔力のパスを繋ぐ方法ってどうするんだ?聖杯戦争のときは凛かラニが俺に代わってセイバーやアーチャー、キャスターの魔力のパスを繋いでくれたけど。でももしパスが繋がればこの家が桜ハーレムになるな。なんか後々ひどいことになりそうだからやめておこう。死にたくないし。

 

『その通りです……。ですがこの『聖杯くん』で私たちを召喚するには英雄を呼んだあとにしかできないんですよねぇ。ですので最終的にバレていたと思います。ですがまだこのプログラムについては言っていないので大丈夫です』

 

こういうのって知らないうちにバレてるもんだよ

 

まぁ俺が今度二人に話すけど。

 

でもBBたちの召喚は難しいかもね

 

『どうしてですか?』

 

BBは首を傾げる。

 

俺がみんなを召喚する場合、俺の高校の文化祭の二日目にしようかと思ってるんだよ

 

『それで何がダメなんですか?』

 

その日があの日だからだよ

 

『………そういうことですか』

 

BBが悲しそうな顔をした。俺も辛いけど仕方がない。打開策が見つからないし、英雄のみんなも納得はしてはいないけど、受け入れてはくれているみたいだし。

 

『……ふ、……ふふふ』

 

ん?どうしたの?

 

急にBBが笑い出したぞ。

 

『センパイ、その打開策が二つ目のプログラムなんですよ』

 

え?ホント?マジで?俺が珍しく諦めていたことなのにどうにかなるの?

 

『名前は『お願いプログラム・叶えて聖杯くん』でーす』

 

……………BB、聖杯くん好きなの?

 

 

 

 

 

BBから『叶えて聖杯くん』の機能を聞いたあと俺は眠りについた。

 

サーヴァント、全員集合!のち、『召喚プログラム・聖杯くん』ことを全員に話した。そして俺の世界に連れていくサーヴァントは、セイバー、アーチャー、キャスター、ギルガメッシュ、エリザベート、ジャンヌ、アストルフォ、アタランテの八人になった。

 

というより人気殺到することなくすぐに決まった。皆さん、俺のいる世界に興味などないとか面倒くさいとかいろいろと言っていた。まぁあの人たちらしいけど。

 

そして現在、俺はムーンセルの俺の部屋に、俺のサーヴァントだった四人に来てもらいあの話を持ちかけた。

 

「前に話した俺のタイムリミットの話なんだけど」

 

俺のタイムリミット。それは俺が17歳になる日、俺の誕生日に月が出たとき俺があの世界から消えるというもの。

 

その俺が消える日が今年は文化祭の二日目になるということ。

 

仮説でいえば、俺にはムーンセルでの記憶がある。だけど記憶にあるのはムーンセルの中枢で俺の願いを書き込んだあとまで。そこから先の記憶がない。

 

俺は分解をされたのだろうとも考えられたのだが、俺がこの世界で記憶をもって生きているのだからそれは違うのだろうと考えた。

 

そして桜とのことだ。俺がみんなと一緒に殺生院キアラを倒した後、サーヴァントと別れて桜と会ったことまでは覚えていた。だけどその後、俺が桜と一緒にあの扉を潜ったあとの記憶がないのだ。

 

俺は自分のサーヴァントたちにどこまでの記憶があるか聞いたことがある。

 

それでみんな『俺がムーンセルの中枢に入った後』と『俺と別れた後』の二つを答え、前者でみんなに何かしようとしていたかと尋ねたら、みんなそれぞれ何かしらの行動に出ようとしていたらしい。

 

ということは俺はあの後に来るはずであろう出来事、あの世界でのエンディングをむかえていないということ。岸波白野はまだ中枢、または扉の出たところで時間が止まっている。俺が今生きているこの時間は一瞬で見ている長い夢なのだ。

 

俺は複数の岸波白野という人物の集合体のようなもの、そして彼らは16歳だったということ、そして俺が17歳を迎えれば、その止まっていた時間が流れるのではないか俺は考えたんだ。

 

もしそれが本当なら、俺という人間を形成している岸波白野たちが消えるなら、この世界の俺も消えることになるのだろう。

 

今までは仮説だったのだが、BBから俺の仮説は本当だと聞いた。

 

覚悟はできていたからあまりショックは大きくなかった。

 

「で、そのタイムリミットを打開する手段ができたんだけど。君たちはどうしたい?」

 

「奏者。どうしたいとはどういう意味だ」

 

「セイバーさん、ご主人様が言いたいことがわからないんですか?だから脳筋やらとバカにされるんですよ」

 

「な、何を言うのだ!な、ならキャス孤ならわかるとでも言うのか!?」

 

「当たり前です。アーチャーさんや英雄王さんですらわかってますよ」

 

セイバーがアーチャーとギルのほうを向くと、アーチャーは呆れ顔、ギルは笑みを浮かべ見下している。

 

「よ、余だってわかっているぞ!ホントだぞ!」

 

「セイバー、もうバレるウソを言わなくてもいいよ。俺の口から言うから」

 

軽く深呼吸をしてから

 

「『君たちが一緒に戦っていた岸波白野とのエンディングをむかえられなくなるかもしれないけどいいかな』ってことだよ」

 

「マスター、まず君が言っていた打開策を我々に教えてもらえないか」

 

「さっき話したBBに作らされたプログラムの一つあるでしょ」

 

「あの『聖杯くん』とか言う残念な名前のプログラムのことですよね」

 

「そうそう。それともう一つ『叶えて聖杯くん』ってのがあるんだけど、これが願望を叶える機能があるんだよ。発動条件が『聖杯くん』を使ってみんなを俺の世界に連れ出して、みんながムーンセルに帰ったあと、俺の持っている魔力の九割を消費してムーンセルに俺の願いを書き込むことができるんだって」

 

「では雑種、貴様は何を願う」

 

ギルってこういう欲望みたいなこと好きだな。

 

俺の願いは……

 

「俺の願いはこの世界で最後まで生きることだ。俺は生きたい。死ぬとわかっている運命から抗いたい。今も昔もこれが俺の願いだ」

 

 

 

 

 




今回は白野くんのタイムリミットについて書きました。納得いかないかもしれませんね。ごめんなさん。だってこの場合『転生』じゃないですもんね。まぁ『転生』って書いてあるってことはどうにかなるってことですね。これが主人公補正

『聖杯くん』のAIを呼ぶ機能は使わないかもですね。さらに修羅場になりそうだし、桜とBBで面倒くさそうですし、ゆきのんとメルトで面倒くさそうになりそうですもんね

それではまた次回!!


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岸波、女になるってよ。

ついにあのキャラが登場!って題名に書いてあるか

題名のままだと自分の意思でなったみたいだな……。まぁ意思もあったのかな?主に事故です


 

 

 

 

 

私は岸波白野。昨日までは男でした。

 

一人称が『俺』から『私』になってるのは気にしないで。

 

で、どうしてこうなったの……。いや、理由はわかっているけど。

 

昨日、ムーンセルで自分の意思を、願いを私のサーヴァントたちに告げた。

 

みんながそれを受けて入れてくれて、なぜか宴を開くとセイバーが言い始めて……。

 

 

 

 

 

宴が始まって三時間ぐらい、俺は前から思っていたことを口にした。

 

「アストルフォってなんで女の子じゃないの?」

 

「きゅ、急に何言ってるの」

 

「そうですよ、ご主人様。それではアストルフォさんが女性ならご主人様がアストルフォさんルートに入るみたいじゃないですか」

 

「そういう意味じゃないよ?」

 

「なぜ疑問形……」

 

「だって、こんなに見た目女の子なのに男って詐欺でしょ」

 

戸塚くんもそんな感じだけど……。一緒にお風呂とか入ったら絶望を感じそうだよ。

 

「と、言うことで。キャスター、呪術でどうにかならない?」

 

「なりません。いえ、どうにかはなりますが、やりません。と言うかご主人様?少しおかしくありませんか?頭のほうが。別の世界で変な病気にでも掛かりましたか?」

 

失礼だなぁ。俺以外にも同じことを思っている人がいたっておかしくないだろ。だってアストルフォにもスリーサイズが書いてあるんだぞ!まぁアーチャーとギルのも書いてあるけど。

 

そうだ、ギルならそういった財宝を持っているかも。

 

俺は辺りを見渡してギルを探すと、アーチャーとクーの兄貴と一緒にいる。

 

あの三人って仲良さそうではないけど、うまくやってるよな。ああいうのを悪友って言うんだろな。いや、友達ではないのか。

 

「ギルえもーん」

 

「雑種。なんだその不愉快な呼び名は」

 

「ギルえもんだとよ。坊主、それおもしれぇ名だ―――って危な!こんなとこで宝具使うな!!」

 

クーの兄貴がギルえもんをバカにしようとしたら、財宝をぶっ放した。

 

「貴様ら、人がせっかく用意をした料理を台無しにするな!」

 

二人の行動でひっくり返った皿を見てアーチャーが怒る。

 

「まぁいいから、ちょっと話を」

 

「よくはない!マスター、君も料理を作る者なら作った料理を粗末にされたらどうする!君には一から料理について教えなければならないな」

 

それから小一時間アーチャーから説教を受けた。

 

「して雑種。何の用だ」

 

「えーっとね……」

 

俺はアストルフォのことを話した。

 

「マスター、そんなどうでもいいことを……」

 

「どうでもよくない!これは大事なことだ!」

 

「きゅ、急にどうしたよ坊主」

 

珍しくクーの兄貴が怯んだ。それだけ俺の思いが強いと言うことだ。

 

「と、言うことでギルえもん、いい財宝を出してよ」

 

「そんな都合良い宝具なんて――」

 

「あるが」

 

ギルえもんが背後から液体が入った瓶を取り出した。何だろ、ポー〇ョンみたいだな。エリクサーよりもポー〇ョンに似てるな。たぶん。

 

「この秘薬は自分とは異なる性別になるモノだ」

 

「さすがAUO。何でも持ってるね!でも、それって本当に効能あるの?」

 

「ほぅ、我が財宝を疑うか雑種。では貴様が飲んでみるがいい。英霊でない人の身である雑種は一滴あれば一日は女になるだろう」

 

「一日は長くないかな?あ、でもこっちで女になってもあっちでは男のままなのかな」

 

なら大丈夫かな。

 

「どうもそういうことは我々もわからないからな、試してみるということで飲んでみてはどうかな。マスター」

 

「アーチャーにしてはノリノリだね。でも試しに少し飲んでみようかな。ギルその女体化薬をちょっとちょうだい」

 

「よかろう」

 

俺がギルから秘薬が入った瓶を受け取り、瓶の栓を抜いてから口元に近付けたその時

 

「奏者ぁーーー!!」

 

背後からもの凄い勢いでセイバーが突進(抱き付き)してきた。

 

そしてその勢いで秘薬を全て浴びるように飲んでしまった。

 

「「「あ」」」

 

アーチャーやクーの兄貴ならわからなくもないが、ギルにしては珍しい間抜けな声を出した。

 

「ぬ、どうかしたのか」

 

ん?でも何も起きないぞ。

 

「ねぇ、みんな。俺に変化起きた?」

 

「特に変化はないが、英雄王、これはどういうことだ」

 

「必要以上の量を飲んだせいで身体が反応をしないのだろう」

 

そんなもんか?でも実際俺の身体には変化がないらしいからその通りかもな。

 

「あ、そろそろ起きる時間だ。じゃあみんなまた明日。で、セイバー何のよう?」

 

「奏者が帰る前にハグをしたかっただけだ」

 

「……あ、ありがとう」

 

 

 

 

 

みたいなことがあった。ということはギルの秘薬はこっちの世界の身体に影響が出たということになる。

 

でも、どうしようかな。今から寝てもムーンセルには行けないし、この格好だと学校にも行けないよね。

 

「うーん……。一人で悩んでも解決はしないよね。ということで頼れる妹の桜に聞いてみようかな」

 

私は自室を出ようと立ち上がった。

 

身長が10cmくらい下がったかな?体格も本当に女って感じだから今までの服がぶかぶかで動きづらいし、なんか歩くとズボンが落ちる。

 

落ちるズボンを抑えながら、桜の部屋の前に辿り着く。

 

今の自分が冷静すぎて、桜に話しても疑われるかな?もしそうなった私しか知らない桜の情報を言えばいいかな?

 

それから桜を起こしてから説明をしてどうにか私だと理解してくれた。最初は男の私の彼女と勘違いして、何故かベットの下から包丁を取り出した。

 

そうそう、私は布団だけど桜はベットなんだよね。まぁどうでもいいか。

 

「それで兄さん?はどうして女の子になったんですか?兄さんが使える魔術?みたいな感じですかね?」

 

「どうだろうねぇ。実際に私もこうなるとなんて言えばいいかわからないけど、私が使える魔術にこういったモノはないから違うよ。それよりもなんだけど、この格好になっちゃうと学校にいけないんだけどどうすればいいかな?」

 

「それなら、まず平塚先生に頼んでみてはどうですか?それとこのことをなるべく多くの知り合いに話したほうがいいかと」

 

「どうして?そんなことしたらもっと大変なことになると思うけど」

 

「兄さんは学校に行くためには、少なくとも秘密をしる仲間を作っておいて自分の秘密を守るようにしたほうがいいです。一人で隠し通すのはまず無理だと持ったほうがいいです」

 

「なんかすごい説得力ある気がするな。そうなると奉仕部と平塚先生、言峰一家には話したほうがいいかな?」

 

「はい、それぐらいの人には話したほうがいいですね。学校で困っても奉仕部の皆さんや平塚先生は助けてくれそうですね」

 

カレンは入ってないんだな。

 

「なら、行動は早いほうがいいね。まずはみんなにメールをしてどこかに集まってもらおうかな」

 

そうだなぁ……。

 

「今日、学校を早めに来てもらって奉仕部部室に来てもらうようにしよう」

 

「あ、あの兄さん」

 

「どうしたの桜?」

 

「その……じょ、女性のときは『姉さん』って呼んでいいですか?」

 

「………」

 

すごい複雑な気分だなぁ。見た目も声も女の子なんだけど、心というか考えは男なんだよねぇ。

 

「べ、別に……い、いいよ」

 

「ありがとうございます。姉さん」

 

ふ、複雑……。

 

 

 

 

 

「ごめんね、みんな。こんなに早い時間に呼んじゃって」

 

私が奉仕部の三人と平塚先生の顔を見渡してそう言うと

 

「「「「ど、どちら様でしょうか?」」」」

 

「………」

 

そりゃあそうなるよね。

 

「フランシスコ・ザビ」

 

「岸波くんね」「ああ、岸波か」「岸波だな」

 

「え?え?どうしてみんなあれだけでわかるの!?この子、キッシーなの!?」

 

雪ノ下さん、平塚先生、比企谷はわかってくれたようだ。由比ヶ浜さんは納得した三人を見ながら驚いている。

 

「でも、驚いたわ。どうして急に女性になったの?」

 

「なんて答えればいいか私にもわからないんだけど」

 

「一人称まで変わってるな。なんだ水でも掛けられたか」

 

「私は別にら〇ま二分の一ではないけど」

 

「でも、岸波くんって小学生のころから水泳の授業だけは欠席だったわよね」

 

「それは別の理由だけどね。まぁ私が女になったことを踏まえて話すんだけど、これから私はどうやって学生生活を送ればいいかな?」

 

現在の私の格好は、男性用の制服を着るわけにもいかないので学校用のジャージを着ている。サイズはぶかぶかだけど。

 

「なぁ岸波」

 

「なんですか平塚先生?」

 

「君は今、下着はどちらを穿いているのかね」

 

「「「「……」」」」

 

平塚先生、あなたも心の中にオヤジがいるんですか?

 

「答えるなら男物ですね。私は今までが男なので女物の下着を持っているわけがないじゃないですか」

 

「マ、マジか……ゴクリ」

 

比企谷の反応に雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが距離を取る。

 

私なら比企谷の反応はわからなくもないけど、対象が私ってなると……、これも少し複雑だなぁ。

 

「だけど、キッシーには桜ちゃんがいるじゃん」

 

「い、いやぁ……、私、見た目も声も女の子になってるんだけどさ、心の中や考え方は男のままなんだ。そんな状況で妹の下着を着るってねぇ……」

 

「でも、背に腹は代えられないでしょう」

 

「桜にもそう言われたんだけど、………サイズが合わなかったんだよ。桜ってスタイルいいから」

 

「深刻な悩みね」

 

雪ノ下さんは陽乃さんのことがあるから納得してくれたようだ。

 

「それに、もし女の子の格好しているときに元の男に戻ったら」

 

「かなり嫌かも……」

 

由比ヶ浜さんもわかってくれたようだ。

 

「だが岸波。君は元の男に戻れるという確証はあるのかね」

 

「そこは何とも言えませんね。もしもということで考えているので。もしかしたら明日には元に戻るかもしれませんし」

 

それに夜に女体化薬を飲んだなんて言えないんだよね。

 

ここに来る前、電話でギルとキャスターにどうにかならないか聞いたのだが、こういうことは薬の効力が切れるのを待ったほうがいいと言われた。

 

それにあの量だ、間違いなく一月以上はこのままだと考えていいよね。

 

「んじゃあ、元の男に戻るまで学校を休むってのはどうだ」

 

「それだと授業に遅れるし、出席日数が足りなくなるかもしれないでしょ。一応昨日までは一度も休んでないんだから」

 

「そうだな。君は登校中、火事が起きた家に取り残された子供を助けてから登校してきたことがあったな」

 

「他にも下校中、銀行強盗を退治したというのもあったわね」

 

「そのことを私の武勇伝みたいに言わないでよ!私がちょうどいた場所にそういう事件や事故がよく起きるの!」

 

「本当にお前ってなんだよ。完全に正義の味方になってんじゃねぇか」

 

「はくのん、すごいね」

 

「「「「はくのん?」」」」

 

みんな揃って由比ヶ浜さんの言葉を聞き返した。

 

「うん。男の子の場合は『キッシー』で女の子の場合は『はくのん』」

 

「それは分ける意味があるのかしら?」

 

「由比ヶ浜の思考は岸波と違う方向に吹っ飛んでいるからな」

 

「その私を変人扱いしていることはこの前わかったけど、比企谷もかなり違う方向、斜め下の方向に思考が行ってるでしょ」

 

「おい、その頬を膨らませて睨み付けるのやめろ。ときめいちまうだろうが!俺にそういうことをしていいのは戸塚と小町だけだ」

 

「比企谷くん。岸波さんに手を出したら警察に突き出すわよ」

 

「雪ノ下さんが私を守ってるようなんだけど、今『岸波さん』って言ったよね?完全に私が女の子の状況を気に入ってるよね?」

 

た、大変だ。みんなが岸波白野・女を気に入り始めている。

 

白野♂より白野♀、『ザビ男』より『ザビ子』になっている。こ、これがザビ子推しというやつなの?

 

だけど、私は屈しない!私が女であろうと元は男!ザビ男なの!ザビ子じゃないんだからね!

 

 

 

 

 

「学校のことは平塚先生がどうにかしてくれるって言いたけれど、岸波さん、他にも困ることがあるのかしら?」

 

もう、岸波さんは決定なの?これ絶対に元の男に戻ったらがっかりされるやつだよ。

 

困ったことか……、アレだよね……。

 

「……レ」

 

「「「れ?」」」

 

小声だったせいで聞き取れなかったみたい。うぅう……恥ずかしい……。

 

自分でも頬が熱くなってるのがわかる。絶対に今、私は顔が真っ赤だと思う。目元も潤んできた。

 

「ト、トイレ……とか、お風呂が、少し困る……」

 

もう恥ずかしいから、みんなに顔が合わせられない。

 

「「……(か、かわいい)」」女子二人「……(まぁそりゃ困るわ)」比企谷

 

「大丈夫だよはくのん!あたしとゆきのんが教えてあげるよ!だから気にしないで!」

 

「う、うぅ……///」

 

「由比ヶ浜、だから岸波は困ってるんだよ」

 

「へ?ヒッキーどういうこと?」

 

比企谷はわかってくれてるみたい。

 

「岸波は元は男だ。さっきの下着のときもそうだったが、女物には抵抗がある。今までので何となくわかったが、岸波は思っている以上にうぶだ。高校生男子とは思えないほどにそういったことには免疫がない。この前のゲーセンで岸波の妹が言っていたが、こいつはエロ本すら読んだことがないんだ。そんな岸波に、女から女のいろいろを聞かされたら困るだろ」

 

「そ、そうだ。変な情報があったけど、実際にこれからの男に戻るまでは女として扱われると思ってるんだけど。私、心や考え方は男のままだから、女の子の習慣を女性から聞いたり、女性に手伝われたりするのは少し……」

 

心の中にオヤジがいるのにこういうことになると話は別。恥ずかしい……。それにいつ戻るかわからないから下手に女の子なこともできないし。

 

「岸波さん」

 

雪ノ下さんが近づいてきて私の肩に右手を乗せる。

 

「雪ノ下さん?もしかしていい案があるの?」

 

「こういうのは慣れていくしかないわ」

 

「………」

 

「というわけで、まずはトイレに行きましょう」

 

「い、いやだよ!」

 

逃げようとしたら腕をがっつり掴まれてしまった。

 

「由比ヶ浜さんも手伝ってくれるかしら」

 

「わかったよゆきのん。はくのん、慣れちゃえば大丈夫だから」

 

雪ノ下さんとは逆のほうの腕を由比ヶ浜さんに掴まれた。

 

「いやだ、いやだよぉー!比企谷、助けて!」

 

どんどん廊下側に連れていかれる。筋力も前よりかなり落ちてる!女の子二人に力負けしてる!

 

あ、比企谷が顔を逸らした。

 

そ、そうだ!コードキャストを使って筋力を上げれば「gain-con(16)、gain-str(16)」……は、発動しない!?どうして?このBBからもらったブレスレットのせい?でも確か魔力の量が今までの二割が消えただけだから、使えないはずがないのに!どうして!?

 

完全に身動きが取れない。

 

いや、いやぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

雪ノ下と由比ヶ浜が岸波(女)を連れ去って十数分。授業が始まるまでまだ三十分はあるな。にしても早く起きたせいで異常に眠かったのに、岸波の女体化で完全に目が覚めたな。女体化するなら戸塚にして欲しかったが。そして速攻で告って、速攻でフラれる自信がある。

 

ガラガラと戸が開いて雪ノ下と由比ヶ浜が帰ってきた。

 

「あれ?岸波はどうしたんだ?」

 

「彼女なら今、トイレの個室に籠ってしまったわ」

 

おいおい、岸波に変なトラウマ植え付けんなよ。可哀想に思えてくるだろうが。

 

「それにしても大変ね」

 

「そうだね」

 

「まぁ男だったやつが、急に女になったら大変だわな」

 

「そうではないわ」

 

「え?違うの?」

 

「そうだよ、ヒッキーそっちじゃないよ」

 

「じゃあ、どっちなんだよ。俺には全くわからねぇよ」

 

他になにかあんのか?

 

「岸波さんが」「はくのんが」

 

「「可愛すぎる」のよ」

 

「………」

 

こいつら大丈夫か?由比ヶ浜は雪ノ下が可愛いとか言ってたからわからなくもないが、雪ノ下もこんなこと言うのか。いや、岸波が好きってことは何となくわかってるから別におかしくはねぇか?いや、おかしいだろ。

 

「岸波くんのときとの差のせいなのかしら」

 

「うん。キッシーは守ってくれそうって感じで、はくのんは守ってあげたいって感じ?小動物みたいな、リスみたいで可愛い」

 

「そうね。リスという表現はぴったりね。今度、木の実でもあげてみようかしら」

 

完全にこいつら楽しんでるな。岸波が自分は不幸体質って言ってたのがわかった。俺もそこそこ不幸だがあいつほどではないわ。

 

「お前ら、岸波(女)のこと気に入ってるみたいだけど、男に戻ったらどうすんだ?」

 

「それはそれでいいでしょ。別に今までに戻ったって考えればいいのだし」

 

「そんなもんか」

 

「そうだよ。でも、さっきのはくのん可愛かったなぁ」

 

「ふふ、そうね」

 

由比ヶ浜がさっきあったことを思い出し、雪ノ下もそれに同意し笑みを浮かべる。

 

スゲェ気になるんだけど。

 

ガラガラ

 

岸波が帰ってきた。

 

「………グス、優しくして、くれるって言った、のに……」

 

スッゲェ気になるんだけど!!

 

 

 

 

 




ザビ男は夏休み前までザビ子ですね。7.5巻の柔道の回までってことになりますね。それでその柔道の回は次回です

それより僕の疑問は何故ザビ男よりザビ子のほうが人気なんでしょう?いや、可愛いからわからなくもないですし、僕自身もEXTRAのときはザビ子推しでしたし。やっぱり皆さんもザビ子のほうがいいんでしょうか?
一応、僕はCCCでザビ男に乗り換えました。ザビ男、格好良い

それではまた次回に!!


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ザビ子はモテまくる。

今回は柔道の話ですが、イベントは行いません。そうなると、いろはすこと一色いろはを出せません。どうやって出すべきでしょうかぁ……。この場合八巻のところまで出せない。まぁ今後考えっていきましょうか

そして今回でザビ子の出番は終わります。まぁ今後また出てくると思いますが


 

 

 

 

女になって一月が過ぎた。もうじき夏休みになるんだよねぇ。楽しみだなぁ……。

 

服装もすでに女性もの。初日で私の心は汚されてしまった。

 

初日、授業が終わった後、部活は中止になり、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんの二人と、何故か桜と小町ちゃんのシスターズに連れられて、いろんなお店に連れまわされ、「お人形さんみたい」とか言われながらいろんなものを着させられた。

 

女装趣味に目覚めたらどうするつもりなのか。いや、目覚めないよ。本当だよ。

 

ギルにどれぐらいで戻るか尋ねたら、だいたい夏休みになるくらいみたい。

 

その間は完全に女の子として生活をしているわけだ……。不幸だなぁ。

 

高校生活は平塚先生がうまいこと話を進めてくれたおかげで、今までと同じとはならないが平和的な日々を過ごしことができている。

 

成績優秀な生徒を別の高校と数日間(最終日不明)交換することにしたって感じだったかな?

 

期末試験は一人で別室で受けた。あれは悲しかったなぁ……。

 

それにこんなウソによく騙されたなこの高校。

 

で、今の私の名前は平塚先生が考えた『櫛花 木ノ実』という名前になった。

 

『キシナミ ハクノ』⇒『クシハナ キノミ』と岸波白野のアナグラムらしい。

 

平塚先生、変なところをこってるよね。たまに呼ばれても返事をするの忘れちゃうし。

 

まぁ私が岸波白野と知っている人は、知らない人がいないときは前と変わらない呼び方だけど。

 

あとみんなが私に対して優しすぎる。

 

男のときの十倍は優しい気がする。または男のときが厳しすぎるのかな?

 

なんか男に戻ったら鬱になりそう……。

 

でも、そんな私に厳しくしてくれる人が一人いるんだ。

 

それはメルト。彼女は女の姿より、男の姿のほうがいいって言ってくれた。

 

『ハクノ、私はその姿も嫌いではないけれど、その姿だとアーチャーのほうが好みだわ。なるべく早く戻ってくれないかしら』

 

この姿であんなこと言われたのは初めて。元に戻ったらメルトの言うことを何か聞いてあげようかな?別に私がMってわけではないよ。

 

そして、この姿になって一番困っていることは……

 

「櫛花さん。俺と付き合ってください」

 

この姿になってから、何故か無駄に男子にモテる。

 

今回で二十回目の告白だ。でも、私って男だから付き合う気は元からない。

 

当たり前にこの告白は断るのだが、今まで告白されたことがないのでなんと言えばいいのか困ってしまう。

 

いろいろ悩んだ結果

 

「ごめんなさい。私、好きな人がいるの」

 

こう答えるようにした。

 

「そうか……。その好きなやつってこの総武校のやつ?」

 

「違うよ。前の学校の人。何度も私のことを救ってくれた優しい人」

 

「そうか。じゃ、じゃあ仕方がないか……。俺、帰るよ」

 

こうして男子生徒は私の前から遠ざかっていった。

 

なんだろうな……すごい罪悪感……。

 

「私も部室に行こうかな」

 

こうして私は部室に移動を始めた。

 

 

 

 

 

部室の戸を開けるとお客さんが三人。

 

それよりも気になることは

 

「雪ノ下さん、髪型を由比ヶ浜さんとお揃いにしたの?」

 

「え、ええ、まぁ」

 

なんだかあやふやな回答ですね。

 

「それで、櫛花さん。今日はどうして遅れたのかしら?」

 

櫛花と呼んでいるわけは、依頼人であろう三人組がいるから。

 

って由比ヶ浜さんが『櫛花さんって誰?』みたいな顔をしているんだけど……。話したよね。

 

「いつもと同じって言えばいいかな?」

 

「そ、わかったわ」

 

「それで、こちらの三人は依頼人さん?」

 

私が三人のほうを向いくと

 

「柔道部の城山だ。こいつらは自分の後輩の……」

 

「津久井っす」

 

「藤野っす」

 

柔道部の人か。

 

「初めまして、こちらの高校の岸波白野という生徒と交換で一時的に通わせてもらっている櫛花木ノ実です。この奉仕部には仮入部として入っています」ニコ

 

笑顔で自己紹介をする。

 

「お、おお」

 

「かわいいっす」

 

「清楚系っす」

 

「彼氏とかいるんですか?」

 

「え?いませんけど……、私、好きな人がいるんで」

 

「告白する前にフラれたっす」

 

「玉砕したっす。自分たちが言わなくてよかったっす」

 

「うるさい、黙ってる」

 

「「うっす」」

 

なんだかよくわからないけど、面白い人たちかな?

 

「それで、どういったご用件で……」

 

「そのことについては私たちが先に聞いているから、後で話すわ」

 

「あ、うん。わかった」

 

「それでは、よろしく頼む」

 

そう言って、柔道部の三人は出ていった。

 

 

 

 

 

「なるほど、現在の柔道部の部員が減ってきているからどうにかしたいって依頼なんだね。で、その理由が、去年卒業した先輩が最近来るようになって、現在の部員たちを練習という名目でイジメているわけね。それに耐えきれなくなった部員たちが次々辞めていって、このままだと団体戦に出れなくなってしまうと」

 

「粗方そんな感じだ。で、岸波はどう思う」

 

「うーん……。実際に見にいかないとわからないけど。予想、その先輩をどうにかしたほうがいいかな」

 

「それだが、顧問も現三年生も無理だってよ。それに部外者の俺たちが言っても意味ないんじゃねぇかって、じゃが山言ってたな」

 

「じゃが山?」

 

そんな人いたっけ?

 

「あ、すまん。城山だ」

 

「ふーん。なるほど、でも無理ではないと思うけど」

 

「はくのん、それってどういうこと?」

 

「いや、これは現状を見にいったあとに言うよ。明日行くんだよね?雪ノ下さん」

 

「ええ、だから今日はここまでね」

 

明日しっかりとその先輩を見極めることにしよう。

 

 

 

 

現在、私たちは柔道場を覗き見をしている。

 

そして柔道部の現状、先輩の態度などを含めて、私の出した結論は

 

あの先輩にこの柔道部からいなくなってもらうこと。

 

ということで早速行動に出よう。

 

私は奉仕部の三人が覗き見をしている間に、柔道場の入り口に移動をする。

 

移動中、「あれ?岸波は?」みたいなことが聞こえたけど別にいいか。

 

そして、柔道場の入り口を開けて

 

「頼もうー」

 

さっきまで柔道部に漂っていた不穏な空気が壊れ、変な空気になった。さっきまで私がいた場所から何か聞こえるけど、今は無視。

 

「さっきまでヒマだったから、この柔道部の様子を覗いていたんだけど、とてもいい雰囲気とは思えない。特にそこの偉そうな人」

 

まずは自分が奉仕部で依頼で来たことを隠す。ってなんだろこのキャラ?

 

「あなたのせいで柔道部員が私の知り合いみたいに目が死んだらどうするんですか。責任とれるんですか?社会に通用する以前に社会にすら出れませんよ」

 

さっきまでいたところから、文句を言う声と笑い声が聞こえるけど、これも無視。

 

柔道部全員が何を言ってるんだ?みたいな顔をしているな。そして今の私のキャラは自分でも意味がわからない。

 

「単刀直入に言わせてもらいます。そこの偉そうな人、私と勝負だ!」

 

 

 

 

現在、奉仕部の部室

 

「岸波さん。なぜあんな勝手な行動をしたのかしら?」

 

私は今、雪ノ下さんから説教を受けています。正座で。

 

一応、あの先輩はここにくると思うけど、やっぱり雪ノ下さんは怒るよね。

 

「あの……、えーっと……、テヘッ」

 

右手で自分の頭をコツンと叩いて惚けてみる。

 

あ、雪ノ下さんの目が鋭くなった。これは危ないやつだ。

 

「岸波くん。その行動は可愛いから今は許してあげるけど、次、同じことをやったら……」

 

ザビ子じゃなかったら、血を見るところだった。それに岸波くんって言ってるってことは本気で言っている。次やったら、完全にやられてしまう……。

 

「それで、どうしてあのようなことをしたのかしら?」

 

助けを求めようと周りを見回すけど、比企谷も由比ヶ浜さんも目を逸らす。

 

「岸波くん。早く言いなさい」

 

「…………わかりました。少しね……、彼らを、あの場所を見ていると過去の自分を思い出すんだ。ただそれだけだよ」

 

ムーンセルのあと、私(俺)の過去の五年間のこと。

 

「だから私は自己満足であんなことをしただけ。だけどしっかりと考えて行動したから、しっかりと今回の依頼は遂行できるよ」

 

「ねぇ、はくのん。その過去ってキッシーのときに言ってたやつだよね」

 

「そうだよ」

 

「それ、あたしたちに言えないこと?話してくれたら、私たち力になるよ」

 

力になるか……。

 

「ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどね。言う気はないかな。もし力になりたいなら、今までと同じように接してくれると嬉しいな」

 

「今までと同じようにって、岸波、お前……」

 

比企谷なにか引っかかったのかな。やっぱり比企谷は侮れないね。人を見ることは得意って言うのは間違いないかな。

 

「まぁ、そんな話は置いておいて、依頼の話しに戻すよ。私があの先輩と勝負をするってことだけど。簡単に言うよ。あの先輩に『ここがあなたのいるべき場所ではない』って思わせようと考えているんだ」

 

「それってあの先輩に言ってた挑発のことよね」

 

「岸波が言ってたのは挑発じゃなくて、事実だろ?あの先輩の顔、図星をつかれた感じだったし、完全にキレてたからな」

 

「でも、はくのんが言ってたことが本当なら、あの先輩ちょっとひどいかも……。ていうか、それよりもはくのん?あのときなにしたの?」

 

「あれはね」

 

みんなが言っていることは私があの先輩に勝負をするために、あの先輩の現状についてを私の予想して口にした。

 

というか、みんなもうあの先輩のことを『あの先輩』で決定なのかな?まぁあの先輩の名前を知らないから『あの先輩』としか言えないよね。

 

 

 

 

 

「単刀直入に言わせてもらいます。そこの偉そうな人、私と勝負だ!」

 

柔道場がざわめいた。

 

「君が言っていることがわからないんだが、これは柔道部の問題だ。部外者に文句を言われる筋合いはない」

 

まぁ予想通りな返答だな。

 

「そうですか。ですが偉そうなあなたはここの柔道部のなんなんですか?」

 

「俺はこの総武高を去年卒業した、ここの部員だ。スポーツ推薦で大学に行った」

 

ここも予想通り。私って悪女?なんか陽乃さんみたいだなぁ……。

 

「なら、文句はないじゃないですか。同じ部外者同士なんだから」

 

「な!?」

 

「卒業した先輩がどうして高校の部活に来ているんですか?」

 

「それは、こいつらに世の中の厳しさを」

 

「高校を出て半年も経ってないのに、社会の厳しさを人に教えられるなんてすごいですねぇ先輩。てっきり私は『大学でうまくいかなかったから高校の柔道部に逃げてきて、大学で貯まった鬱憤を晴らすために、後輩相手に八つ当たりをしていた』のかと思いました」

 

あの先輩は苦虫を噛み潰したような顔をした。私が元の男だったら胸ぐらを掴んできてもおかしくないぐらいの状態かな。

 

私、あまりこういうこと好きじゃないんだけど、言ってみよう。

 

「あ、もしかして先輩、図星ですか?怖いですねぇ。大切な後輩を八つ当たりの道具にしか思っていないんですか?先輩のそういう行動で迷惑している人がいるんじゃないんですか?しっかりと周りを見渡したほうがいいですよ」

 

なんかBBみたい。まぁアレぐらいのほうが人を怒らせるのにはいいかな。まずはこの人を怒らせて、私へ敵意を向ける。今の私は女だから中途半端に怒らせても意味がない。徹底的に怒らせる。

 

「あなたは自分の勝手な行動でここの部員が減っているって知っていますか?あなたは『こんなことで諦めるようなやつは社会に出ても通用しない。世の中はもっと厳しい』とか言っていたんじゃないんですか?迷惑にもほどがありますねぇ。あなたもその『社会に通用する人間』じゃないんですから」

 

「……うるせぇ」

 

先輩は小声で言う。

 

あと少し。もう少しで完全に怒る。

 

「また逃げるんですか?そうやって目を逸らして、今いる現実から逃げるんですか?惨めですねぇ。逃げてばっかりの弱虫さん」

 

「うるせぇ!っつってんだろう!」

 

先輩はそう大声で叫び、私にむかってすごい勢いで突っ込んできた。

 

城山くん率いる柔道部員が先輩を止めようとしたが間に合わず、すでに私の目の前までに来て掴みかかろうとしている。

 

 

 

 

 

「うるせぇ!つってんだろう!」

 

あの先輩は大きな声で叫び、岸波に向かって突っ込んでいく。

 

「おい、これヤベェじゃねぇか!?」

 

「あわわわ、はくのんが危ない!ゆきのん!ヒッキー!急がないと!」

 

「由比ヶ浜さん。危ないのは岸波さんじゃなくて、あの先輩のほうよ」

 

「へ?」「は?」

 

すでにあの先輩は岸波を掴もうとしている。が、そのとき、パンッ!という音が鳴り先輩が横に倒れた。

 

「え?今何が起きたの?」

 

由比ヶ浜が俺と雪ノ下を交互に見てさっき起きたことを尋ねてきた。

 

「俺にわかるわけないだろ。雪ノ下、お前わかるか?」

 

「いえ、何をしたかはわからないけど、彼女の護身術みたいな感じじゃないかしら?それより私たちも柔道場に行って岸波さんと合流しましょう」

 

そう言って雪ノ下が歩き始めた。

 

 

 

 

 

城山くん率いる柔道部員が先輩を止めようとしたが間に合わず、すでに私の目の前までに来て掴みかかろうとしている。

 

私は男のときよりも筋力は落ちて、さらにコードキャストも使えなくなっていた。

 

でも、動体視力と運動能力はあのままだし、私には英雄たちから習った武術がある。

 

私は今出せる力の全てを使い、先輩の顎を裏拳で擦る。

 

パンッ!

 

先輩はそのまま横に倒れ、柔道場は静まりかえった。

 

これは技名もないただの打撃です。それと、手の甲が痛い……。

 

手は後で湿布でも貼っておこう。それよりも次の段階に行こう。

 

「柔道部の皆さん。練習の邪魔をしてしまい申し訳ありません」

 

「い、いや、構わないが……、先輩はどうなってるんだ?」

 

柔道部を代表して城山くん返答をした。

 

「少し気絶してもらっただけです。あと三十分もすれば目を覚ますと思いますよ」

 

「すげぇっす」

 

「マジぱねぇっす」

 

この前一緒にいた後輩くんたちも声を上げる。

 

「こんな無理矢理な方法をしたことは悪いと思っています。それで、この先輩は私に敵意を持っていると思うので、先輩が目を覚ましてから、奉仕部の部室に連れてきてください。そのままうまく行けば、今後この先輩はこの部活に来なくなると思うので、それから来なくなった部員さんたちを連れ戻してみてはいかがでしょうか?」

 

「ああ、わかった」

 

「はい、それではこれで失礼します。本当に部活の邪魔をしてしまい申し訳ありません」

 

私は深く頭を下げて、柔道場を後にした。

 

これで今回は三通りの解決方法ができた。あとはあの先輩の心しだい。

 

移動中、奉仕部のみんなに会った。

 

「岸波さん。話はしっかり聞かせてもらうから、部室、行きましょうか」

 

笑顔だけど怖い……。絶対に背後に『ゴゴゴゴ』みたいな効果音が出てるよ。ガクガク

 

 

 

 

 

「と、まぁあとはあの先輩が来るのを待つだけかな」

 

「来ねぇんじゃねぇか?」

 

「え?どうして?」

 

「あの先輩はさっき完膚なきまでに岸波にやられて、心が完全に折れたと思うぞ」

 

「まぁその場合でも、もう柔道部には顔を出さない、いや、顔を出せなくなるからいいとは思うから依頼遂行にはなるんだけどね。あとはどうやって部員を増やすかになるけどね」

 

「そ、あの先輩が奉仕部に来ても来なくても、すでに柔道部の依頼はできるのね」

 

「うん。でも、私はあの先輩にはここに来てもらいたいな」

 

依頼はできても、あの先輩は救えない。だからこの方法はあまり好きではなかった。

 

絶対に何かを犠牲にしなければ何かを得ることはできない。ムーンセルの聖杯戦争で学んだこと。だけど、やっぱり気持ちのいいものではない。

 

だから、あの先輩には自分の過ちを受け止めて、しっかりと逃げた分も進んでもらいたい。私はあの先輩の心の強さを信じたい。

 

自分勝手なことを言っているのはわかっている。私はあの先輩のことを言える立場ではないね。

 

「はくのん。大丈夫?顔色あまりよくないよ……」

 

「そう、気のせいじゃないかな?」

 

由比ヶ浜さんは人の顔色を窺うのがうまいなぁ。少し不安なんだよね。でもこの結果がどうなるかがわかない以上、これが終わるまでは強がりたい。

 

そんなことを考えていると背後から誰かに抱きしめられた。

 

この感触は……

 

「大丈夫だよ、はくのん。はくのんは正しいことをしたんだからどんな結果になってもはくのんが気に病むことはないよ」

 

「ゆ、由比ヶ浜さん」

 

「なに?」

 

「む、胸が当たってるんだけど……」

 

大きさでいうと桜や陽乃さんより大きんじゃないか?

 

「え?女同士なんだから気にしなくてもいいじゃん」

 

「え?由比ヶ浜さんの中では男だった事実がなくなってるの?私、男だよ?」

 

「あ、そうか。ご、ごめん」

 

由比ヶ浜さんは少し頬を赤らめて、離れた。

 

「ただ、その、ありがとう、由比ヶ浜さんのおかげで少し気が楽になったよ」

 

「ホント!?」

 

由比ヶ浜さんは機嫌が良さそうな、明るい笑みを浮かべる。

 

いやぁ、危ない危ない。危うく由比ヶ浜さんのことを好きになるところだった。これがイケメン魂ですかねぇ?

 

「岸波さんは背中に胸を当てられて元気になる変態だったのね」

 

「なんで、そこを拾うの?さっきの言葉のほうに決まってるでしょう」

 

「いや、どうかな?岸波は中身は男なんだから元気になってもおかしくないだろ」

 

「なぜかあなたが言うと卑猥に聞こえるわね。エロ谷くん」

 

「そうだよ。ヒッキーのエッチ」

 

「なんで俺何もしてねぇのに罵倒されてんだよ!言われるべきは岸波のほうだろ!」

 

他愛のない話をしていると『こんこん』と戸をノックする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

いつものように雪ノ下さんが入室の許可を出す。

 

そして戸が開き、城山くんと後輩くん二名、最後に先輩が入室してきた。

 

「来ましたか先輩」

 

私は笑顔であの先輩の顔を見る、少し顔が赤い。怒ってるのかな?まぁ仕方がないよね。

 

先輩は他の三人の前に立ち、私へ一歩近づく。

 

そしてすごい勢いで土下座をした。

 

「ありがとうございました!」

 

「「「え?」」」

 

私以外の奉仕部の三人が思っていたことが違っていたのか、間抜けな声をだした。

 

そう、私の本当の狙いはこっち。先輩の改心。

 

三つの解決方法で一番難しい終わりかた。

 

一つ目は、比企谷が言ったように先輩の心を完全に折ってしまう方法。

 

二つ目は、先輩と勝負をする方法。そして私が負けて、先輩のストレスを無くさせる方法。

 

で、三つ目が、先輩を改心させて、前に進んでもらう方法。

 

あの場で私は先輩に三つの選択肢を用意させた。そして先輩は三つ目を選んだ。

 

「あなたのおかげで、今の自分を改めることができました。本当にありがとうございました!」

 

「そうですか。しっかりと自分の過ちを受け入れて前に進めますか先輩?」

 

「はい」

 

「なら、よかったです」

 

こうして柔道部の先輩との関係は丸く収まり、辞めていった部員も戻ってきたそうです。

 

めでたしめでたし。

 

あの後、柔道部の帰り際に先輩に告白されたが「私、好きな人がいるので」と丁重にお断りした。

 

 

 

 

 

そして夏休み!俺はついに男に戻れた。男に戻れたことを報告したら、全員から不満そうな答えが返ってきた。ほとんどの人が「もう元にも戻ったんだ。もう少し女の子でいてほしかったな」みたいな反応をしていたわけだし。

 

あのときは悲しかったなぁ……。枕を涙で濡らすところだった。

 

あの桜だって「もう姉さんじゃないんですね……。まだ一度も一緒にお風呂に入っていないじゃないですか!」と涙目で怒ってきたぐらいだ。

 

夏休みの課題は初めの一週間までに終わらせ、残りの日にちは普段通り、トレーニング、家事、バイト、自習などなど。

 

そして夏休みが始まり、二週間が経とうとした日のこと、珍しく平塚先生から結婚相談以外のことでメールが来た。

 

『明後日、奉仕部の強化合宿を行います。集合場所は後程お知らせするので忘れないでください』

 

相変わらずメールだと人が変わるよな。

 

「って、奉仕部の強化合宿ってなに!?」

 

 

 

 

 




次回は林間学校のお手伝いの回。久々の留美ちゃんの登場。と言っても次回は留美ちゃんの出るところまで書けるかな?

それではまた次回!!


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俺のライバルと義妹と後輩が怖すぎる。

今回は林間学校の場所への移動中のことを書いてみました
そしてついに修羅場に……





 

 

 

 

 

恐れていたことが起きた。

 

絶対にあってはいけないことだ。

 

薄々予想はしていた。

 

でも、本当に起きてしまうとは……。

 

「岸波くん」「兄さん」「白野先輩」

 

凍えるような鋭い視線を向けてくるライバル、背後から禍々しいオーラを発している義妹、今の俺の状況を絶対に楽しんでいる後輩(結果によってはお仕置き決定)。

 

「時間がないのだから」

 

「早くこの中から」

 

「選んでくれませんか?」

 

どれを選んでもバッドエンドでしょ。

 

俺のライバルと義妹と後輩が修羅場?いや、怖すぎる。

 

ま、まずどうしてこうなったかを説明しよう。

 

遡ること一日前……

 

 

 

 

 

「奉仕部の強化合宿って、泊りがけでボランティア活動をするってことか」

 

平塚先生から来た強化合宿についてのメールを確かめる。

 

でも、どの辺が強化合宿なんだ?あの先生のことだから何考えがあると思うけど……。

 

ああ、何となくわかってきた。

 

まず間違いなく多くの人と関わると考えていいから、奉仕部メンバー以外の人のグループとの接し方とかを強化するってことかな?

 

自分で言ってしまうと悲しくなるけど、完全に奉仕部って異常なグループだからな。普通なグループとうまくできるようにしたいのだろう。本当に気が利くいい先生だ。なんで結婚できないんだろ?

 

「でも、俺は行けないかな。俺が泊りがけでボランティアに行ったら、桜が家で一人になっちゃうからな」

 

ということで、その理由をメールで送る。

 

メールを送信して一分もしないうちに平塚先生から着信があった。

 

早いな……。なになに。

 

『では、岸波くんの妹さんも一緒に来てはどうでしょうか?』

 

うーん。人数が増えても大丈夫ってことか。そうなると奉仕部メンバー以外も来るってことだな。

 

当てはまりそうなのは、戸塚くんと比企谷の面倒見役として小町ちゃん、材木座は……ないな。

 

移動は車と考えるべきだな。さすがの平塚先生も大型車の免許は持っていないだろうし。車の大きさはワンボックスカーの七人乗りになる。

 

運転士の平塚先生と奉仕部の四人で五席が埋まる。残るは二席。残るは戸塚くんと小町ちゃんと桜。

 

一人分足りないな……。そうだ。俺がバイクで行けばいいか。

 

って、まだ誰が来るかわからないのにそんなことを考えても意味ないか。

 

「まずは桜を誘ってみるか」

 

その話を桜にしたら了承してくれた。

 

しかし、桜、嬉しそうだったな。

 

そういえば家族で旅行に行ったことってないな。

 

俺に限っては小学校も中学校も修学旅行や林間学校みたいなの行かなかったし。

 

 

 

 

 

時間は流れ、集合場所。

 

俺は桜と一緒に歩いてきたのだが、まだ人が揃っていないようだ。現在いるのは平塚先生と雪ノ下さんの二人。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます。私も呼んでもらえて嬉しいです」

 

「何気にするな」

 

「平塚先生。今日って誰が来るんですか?」

 

「今のところ、君たち奉仕部メンバー四人と、戸塚、岸波の妹の桜くんだが」

 

「そうですか。俺は比企谷の面倒見役として小町ちゃんも来ると思っていました」

 

俺が思っていたことを口にしたら

 

「ええ、それは私も考えているわ。でも座席の人数がオーバーしてしまうのよ」

 

「それなら、俺はバイクで行こうか?というより小町ちゃんがいないと比企谷はまず家も出ないだろうし」

 

平塚先生は少し驚いたような顔をした。

 

「ほぉ、岸波はバイクの免許を持っているのか?」

 

「まぁ一応、去年取りまして」

 

雪ノ下さんと平塚先生は少し考えてから、

 

「岸波、頼めるかね」

 

「わかりました。荷物はそちらに任せてもいいですか?」

 

「ああ、構わない」

 

「それならお願いします。あ、あとどこに行くか教えてもらえますか?」

 

まだどこに行くかは聞いてなかったんだよな。

 

「群馬県にある千葉市の保養施設の千葉村だ」

 

千葉村、何処かで聞いたことあるな。

 

「私行ったことありますよ。その千葉村というところに」と桜が口にした。

 

「え?そうなの?」

 

「はい。兄さんは学校のそういう行事は出てませんから覚えがないと思います。一応、中学の自然教室で行くんですよ」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

そういえば、卒業アルバムに書いてあったかもな、千葉村って。

 

「場所はわかったんで、今からバイク取りに家に戻りますね」

 

俺は携帯電話と財布を持って家に引き返した。って群馬かぁ。ガソリンあったかな?

 

 

 

 

 

家に着き、倉からバイクを取り出そうと思ったのだが、座席にエルが丸くなって寝ている。

 

「エル、起きてくれ。今からバイク使うから」

 

『ん?マスター、バイク使うの?』

 

「うん。使うの」

 

エルは欠伸しながら身体を伸ばしたあと、動くと思いきやまた丸くなって寝た。

 

「……」

 

前から思っていたけど、エルってよく寝るよねぇ。子猫のころからよく寝てたし。

 

俺は寝ているエルを抱え、前まで子猫たちが使っていた毛布の上に乗せる。そのあと頭を撫でる。

 

子猫たちは動きが活発になり、この家の敷地内をよくうろうろしている。そして気に入った場所で寝ている。やはり家族だな。

 

「それじゃあエル行ってくるよ。明後日の夕方に帰ってくると思うから」

 

『……いってらっしゃい』

 

って起きてんじゃん。なに?さっきの俺への嫌がらせ?

 

俺はバイクを押して倉から外に出す。

 

家の門を潜り外に出て、ヘルメット被ろうとしたそのとき、

 

「白野先輩。お出かけですか?」

 

ん?カレン。珍しいなここに来るとは。

 

「おはようカレン。まぁお出かけになるのかな。部活で、泊まりがけでボランティア活動するんだって。もしかしてカレン何か俺に用事でもあった?」

 

「いえ。昨日からお店が夏休みに入り、ヒマだったので散歩をしていただけです」

 

「俺、バイトなのにそれ知らないよ。まず夏休みって、俺がバイトに誘われたときの言葉を思い出すとあっちゃいけないと思うんだけど」

 

「ですが、白野先輩はお父様の考えにではなく、まかないの麻婆豆腐に釣られているので、あの言葉はなったことにしていいんじゃないんでしょうか」

 

「おかしすぎるでしょ!?どれだけ俺をバイトさせたかったんだよ!」

 

「白野先輩は見ていて面白いですからね。いい暇潰しになるんでしょう」

 

そんな理由でバイトさせないでほしいよ。別にバイトがいやではないけどさ。

 

「じゃあカレン、俺もう行くから。またね」

 

俺がバイクに跨ろうとしたとき、がっしりと肩が掴まれた。

 

「なんでしょうか?カレンさん?」

 

「そういえば白野先輩が泊まりがけでどこかに行くって珍しいですよね。修学旅行ですら休んでいたのに、どういう風の吹き回しですか?」

 

「どういうって言われても、行かない理由がなくなったから」

 

「………。ああ、なるほど」

 

カレンは少し考えてから、俺の言葉の意味がわかったように納得した。

 

さすがだな。頭がいいだけはある。

 

「現地妻を作りに行くんですね」

 

前言撤回。

 

「ってどうしてそうなったの!?まず俺には妻がいないよ!」

 

ムーンセルに行けば、自称、良妻と嫁はいるけどね。

 

「はぁ、私にあんな乱暴なことをして責任を取らないつもりですか?」

 

「ため息交じりにウソを言われても困るんだけど……。自慢じゃないけど俺って童貞だよ」

 

「本当に自慢じゃないですね。それで童貞の白野先輩はどこに現地妻を作りに行くんですか?」

 

「カレンの頭の中では俺は『現地妻を作りに行く』って前提で話が進んでいるんだけどさ、初めに話したと思うけどボランティアに行くんだよ」

 

「ボランティアで現地妻を作りに行くんですか?日本には面白いボランティアがあるんですね」

 

「だから、前提がおかしいでしょ!そろそろ『現地妻を作りに行く』から離れようよ」

 

「あの妹が一人にならなくなったから行くんですよね。そうなると一緒に行くってことになるんでしょうね」

 

「わかってるなら最初から言ってほしかったけどね」

 

実際にカレンは俺や陽乃さんほどではないけど、人の内を見るのがうまい。比企谷といい勝負かな。

 

カレンも比企谷と同じでまずは疑って人を見る。だから信じるという行為はあまり好きでないようだ。

 

「では、私も行っていいってことですね」

 

「まぁそうだ……ん?今、カレンも行くって言った?」

 

「それでは、私は用意したいので私の家まで連れて行ってください」

 

カレンはそういってバイクの後ろに乗る。

 

「……」

 

「さぁ白野先輩、急ぎましょうか」

 

こうしてカレンもボランティアに参加することになった。

 

 

 

 

 

カレンが用意している間に平塚先生にカレンが参加したいと言ってきたことをメールを送る。

 

そうすると一分もせずに平塚先生と雪ノ下さんと桜からメールが来た。

 

「あれ?平塚先生だけじゃないの?なになに……」

 

平塚先生から『わかりました。そうなると車の座席について困るので、一度戻ってきてもらいますか?』

 

雪ノ下さんから『今すぐさっきの集合場所に来なさい』

 

桜からは『兄さん、話があります』

 

何かあったのか?カレンが来てから急いで戻ろう。

 

そしてカレンが用意を終えて出てきたので、カレンにもう一つのヘルメットを渡し、荷物をバイクに取り付け、急いで集合場所の駅に戻った。

 

 

 

 

 

そして今、この回想を0.1秒で終わらせた俺は悩む。

 

車に乗れるのは七名。運転士の平塚先生を抜いて六名。

 

そしてここにいる平塚先生以外の人は、俺、雪ノ下さん、桜、カレン、比企谷、由比ヶ浜さん、小町ちゃん、戸塚くんの八名。

 

二人余ってしまう。だけど俺がバイクに乗れるから、一人が抜ける。

 

あともう一人は、俺のバイクの後ろに乗るわけだ。

 

俺は長時間女子にぴったりくっつかれたら困ってしまうので、男子の比企谷か戸塚くんに頼もうと思ったのだが、平塚先生曰く、比企谷は助手席で平塚先生の暇潰しをするらしい。だから戸塚くんにしようと思ったら、比企谷がダメって言うんだよ。

 

で、そうなると女子になるのだが個人的に由比ヶ浜さんは無理だろ。あれが背中に長時間当たるわけだし。そうなると桜もアウトか。

 

ってことは雪ノ下さんやカレン、小町ちゃんはある程度大丈夫だろう。

 

と思ったのだが桜から禍々しいものを感じたので、桜を外すのは諦めた。

 

クソ!誰を選んでも、死兆星が見えてしまう。一人しか選べないということは、二人から狙われるということ。

 

「は、八幡。ぼく怖いよ……」

 

「大丈夫だ戸塚。お前は俺が守ってやる」

 

「うわぁ、お兄ちゃんかっこいい。それにしてもここまでアニメみたいな修羅場が見れるとは、小町満足」

 

「お前、結構最低だな。さすが俺の妹」

 

「ヒッキー、自分が最低って認めちゃうんだ」

 

「なに、間違ってはいないのだからいいだろう。だが岸波も困ったものだ。比企谷とは違う意味で将来が不安になるな」

 

他の人は気楽でいいなぁ。俺のバイタル値…急激に低下しています!!

 

「さぁ、岸波くん。早くしてくれるかしら」

 

「そうですよ兄さん!早く選んでください!」

 

「白野先輩。ペットの犬が主に歯向かえばどうなるかわかってますよね?」

 

ペットの犬が主に歯向かったら?もしかして自爆コマンド?

 

いや、そんなことはどうでもいい。どれを選んでも『死』なのだから……。

 

…………死にたくない。

 

『!』閃いた!

 

「よし、決めた。俺は」

 

 

 

 

 

「平塚先生、俺は二人乗りなので高速道路で運転できないので国道で行きますね。少し遅れるかもしれませんけど大丈夫ですか?」

 

「ああ、構わんよ。安全運転で来てくれ」

 

「それに限っては大丈夫ですよ。俺一人ならまだしも他の人も乗っているので」

 

俺は後ろを振り返って同乗者のほうを向く。

 

「それじゃあ行こうか、小町ちゃん」

 

「はい。小町、一度乗ってみたかったですよ。平塚先生、兄のことよろしくお願いしますね」

 

そうして俺はバイクのエンジンを掛け、運転を始めた。

 

俺が選んだのは、小町ちゃんではなく、じゃんけんをして勝った人を選んだ。

 

俺が「俺は、俺と二人乗りをしたい人で一番運が強い人と乗る」と言った。

 

そういうと俺の意思で人を選ぶわけではないしな。

 

それで俺と一緒に乗りたい人って言ったら、雪ノ下さんは辞退した。そうなったらカレンと桜になるわけだが、小町ちゃんも乗りたいと言い出したので、三人でじゃんけんをしてもらった。

 

で、小町ちゃんが勝ったわけだ。

 

最初は比企谷が反対したが、平塚先生と小町ちゃんが「これ以上時間を使うわけにはいかない」とかいろいろ言ってくれたおかげでどうにか決まった。

 

よかった、よかった。危うく死ぬところだった。

 

 

 

 

 

岸波に小町を連れ去らわれて一時間。俺が乗っているワンボックスカーは高速道路を走っているのだが。

 

「「「……」」」

 

ヤバい。後ろの三人がヤバすぎる。てか誰だよあの三人並べたやつ!死にたいの?威圧感だけで殺されるぞ。

 

十分ぐらい前までは由比ヶ浜と戸塚が健気に頑張って話しかけてたけど、今では涙目だ。涙目の戸塚可愛い。

 

ん?平塚先生がアイコンタクトをしてきた。

 

俺にどうにかしろと?

 

先生は頷く。

 

どうにかしろって言われてもな、俺の会話スキルはかなり低い。……まずは話題を作る必要があるだろう。だが何を話題にする。

 

よし。ないな。この空気をどうにかできるような話題は俺にはない。

 

ならどうするか。それは決まっている。他の場所から持ってくればいい。

 

「平塚先生。ラジオとか聞きませんか?」

 

「構わないぞ」

 

平塚先生が車の前の機械を弄り、ラジオを流す。

 

『さて、次は『お悩み聞きます』コーナーです。今回の手紙は恋愛事が多いですね。それでは一人目の手紙です』

 

よくある感じのコーナーだな。それにしても恋愛事ねぇ……。嫌な予感がする。

 

『ペンネーム、カレイドルビーさんのお悩みです。『私に好きな人がいます。その彼はかなり鈍感なせいで私の気持ちに気づいてくれません。そのうえどうしようもない程のお人好しなせいで彼のことが好きな人がどんどん増えています。どうすれば彼が私の気持ちに気づいてくれるのでしょうか?いい方法ありませんか?』』

 

この『彼』って岸波じゃねぇよな。こんな岸波みたいなやつ他にもいるのかよ。というよりこの悩みはここで流れてよかったのか?

 

俺はルームミラーで後ろを確認する。

 

後ろの三人はがっつり食いついてるな。って由比ヶ浜も食いついてるし。あと平塚先生も……。なに平塚先生も岸波狙ってんの?いや、この人はもう後先考えてねぇだけか。もう誰か貰ってやれよ。

 

『なるほど。こういうアニメの主人公みたいな人っているんですね。解決方法は簡単です。既成事実。これを使えば簡単です。お人好しな人は責任感も強いですからうまく事が運べば結婚まではいけると思います』

 

「「「「「既成事実……」」」」」

 

このワンボックスカーに乗っている女子全員がその単語を口にした。怖い!怖いよ!今日の平塚先生からのメール以上に怖いよ!

 

はぁ今頃小町は岸波と一緒にいるのか……。もし小町に何かあったら岸波に後ろの三人を嗾けるか。

 

 

 

 

 

ビクッ!

 

なんだろう。嫌な予感がした。

 

「どうしたんですか岸波さん?」

 

「いや、少し寒気がしたんだ」

 

現在、俺は小町ちゃんを乗せてバイクで移動をしている。

 

俺の使っているヘルメットにはトランシーバーが付いているので乗っているときでも会話ができる。

 

「確かにバイクは風を直接受けますから、冷えちゃったんじゃないですか?」

 

「そうかも。もう少し行ったら何処かコンビニとか探して休憩しようか」

 

「はい。小町も少し休みたい気分です」

 

「ごめんね。気づいてあげられなくて」

 

「い、いえ、気にしないでください。お兄ちゃん以外の男性に長時間くっついたことがないから少し緊張しただけなので。それに小町からバイクに乗りたいって言ったんですし」

 

「でも気づいてあげられなかったのは事実だから、お返しってことで休憩のとき何か奢らせてよ」

 

「え?いいんですか?」

 

断らないところが比企谷と似てる気がするな。いや比企谷は『養われる気はあるが、施しを受ける気はない』とか言ってたな。

 

「うん、いいよ」

 

 

 

 

 

さっきまで聞いていたラジオが聞き終わり今はCMが流れているのだが、さらに空気が悪くなった。

 

なんだよ、どうやって相手を出し抜くとか、料理を作ってそこに媚薬を入れるとか、昼間から流すような内容じゃねぇよ。

 

結局、いい話題は見つからなかった。そしてCMが終わり、明るい音楽が流れ『ビィビィーチャンネルー!出張版。スタートでーす』と明るい声で次の番組が始まった。

 

「ん?なんかこのラジオの声、岸波の妹と声似てねぇ?」

 

というか最初に流れた音楽を一度何処かで聞いたことがある気がするな。

 

「そうですか?」

 

「あ、本当だ。桜ちゃんと声そっくり」

 

よし、少しはさっきの沈黙を壊した。

 

『この番組を進めるメインMCは、小悪魔系後輩ヒロインのこの私、BBちゃんでーす。そしてこの私をサポートするのは、私の妹のような娘のようなよくわからない私の分身のこの二人』

 

『パ、パッションリップです……』

 

『メルトリリスよ』

 

このクールで冷たさを感じる声を俺は身近なところで似ているやつを知っている。

 

「このメルトリリスというやつは雪ノ下と声が似ているな。ってか似すぎじゃね?」

 

「そうかしら?」

 

「本当ですね」

 

と岸波の後輩の言峰だったけ?まぁ言峰だかが言った。

 

「声が似てるというと、言峰さんもあたしのクラスの川崎さんと似てるかも。ねぇヒッキー、さいちゃん」

 

「あ、そうかも。八幡もそう思うよね?」

 

「お、おお、そうだな」

 

えーっと誰だっけ?一応うちのクラスらしいな。その川なんとかさん。

 

『ところでBB。なぜ私がこんなどうでもいいことを手伝わなくてはいけないの?それともこれを彼が聞いているの?』

 

『いいえ、センパイは今、部活仲間の妹と一緒にバイクで二人乗りしてると思うわよ』

 

「「「「「「「「………」」」」」」」

 

岸波のことじゃねぇよな。ここにいる全員がそう思ってると思う。

 

『こ、このラジオを岸、じゃなくて、あ、あの人は聞いて、いないんですか?』

 

『だから、センパイは今、部活仲間の目が死んでる国語が学年三位の自称まあまあイケメンな人の妹さんと一緒にバイクで二人乗りしていると言っているでしょう』

 

完全に岸波じゃねぇか。岸って言ってたし、なんか俺の情報まで出てきたぞ。いや待て、この条件を満たすやつなんて探せば山のようにいるはずだ。だから別人だ。

 

『文句はこれを終わらせてからよ。はい、メルト、これを読みなさい』

 

『はぁ、仕方がないわね。その代り彼との会話する日をBB、あなたから一日分もらうわよ……。この放送は月、ムーンセルの提供でお送りします』

 

月ってなに?もしかしてあの月?あの衛星の月?

 

『それで、BBこの番組は何をする番組なのかしら?』

 

『特に決めていないわ。一応、サーヴァントの皆さんからもらった愚痴などを書いてもらったのよ』

 

『お、お母様、でも私たちってあそこに干渉できないって……』

 

よくわからないことがラジオから流れている。

 

なんだよこのグダグダな感じ。これ聴いてたやつは絶対に違うのに変えるだろ。俺も変えるつもりだし。

 

俺が別の番組に変えようと前の機械を弄ろうとしたそのとき

 

「『『『ッ!』』』」

 

ラジオ番組の三人と岸波の妹が何かに反応をした。

 

「桜さん、どうかしたのかしら?」

 

「え、ええ。あのですね」

 

『メルト、リップ』

 

『ええ、間違いないわね』

 

『はい……』

 

「兄さんが」『センパイが』『彼が』『あの人が』

 

「『『『フラグを建てた』』』」

 

なんだ?この四人、連動してんの?

 

それから少しして俺の携帯にメールの着信が。

 

アマ〇ンか?いや小町からだ。

 

『大変だよお兄ちゃん。小町フラグ建てられちゃう』

 

……………は?

 

 

 

 

 




次回はこの続きからですね

小町は白野くんのことは『理想の男性』と思うだけで、白野争奪戦は参加するか曖昧な感じですね。どうしましょう?

それではまた次回!


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依頼、岸波白野の過去を調べる。

年末年始を遊んで過ごしていたせいで投稿が遅れてしましました。申し訳ありません m(_ _)m

本当に遅れてしまい申し訳ありませんでした



 

 

 

 

 

BBチャンネルだったか?さっきまで流れていたラジオを聞き終わり、俺が思ったことを口にした。

 

「岸波って何者なんだろうな」

 

あいつの場合はすぐに『魔術師だ』とか言いそうだが。

 

あのラジオで言っていた『センパイ』『彼』『あの人』は間違いなく岸波のことだろう。

 

さらに気になったことは最後BBってやつが言っていたことについて。あれは俺たちに向けて言ったのだろう。

 

『夜の森には危険がいっぱい。奥に行けば行くほど危険も増し、命に関わるかも。それではまたいつか会いましょう。センパイの周りの皆さん』

 

「確かに、彼には不思議な点が多いな」

 

俺の疑問に平塚先生も賛同した。

 

「そしてわからないことは、本人かその身近な人間に聞くのが一番だろう」

 

その身近な人間ってのは岸波の妹のことだろう。

 

ルームミラーで後ろを確かめると、由比ヶ浜と戸塚は背後からの威圧感で疲れたせいか寝ている。戸塚、可愛いぜ。

 

そしてその後ろの三人は起きているようだ。

 

「なぁ岸波の妹」

 

「なんでしょうか、小町ちゃんのお兄さん」

 

「岸波のことで不思議な点とか何かあったら教えてくんねぇか」

 

「兄さんの不思議な点ですか……。たくさんありますね」

 

たくさんってなんだよ。なにあいつ、妹にも内緒にしてることとかあんのかよ。俺は小町に内緒なんて…あるか。

 

「桜さん、その不思議な点とは何かしら?できる限り教えてもらいたいのだけど」

 

雪ノ下がすこし食い気味に聞く。

 

どんだけ岸波のこと好きなんだよ。だが、俺も岸波のことが気になるから俺もあいつのことを……やめろ!なんだこの海老名さんが好きそうな展開は!俺には戸塚がいるんだ!ん?あれ?戸塚も男……はぁ……。

 

「では、私が言える範囲で言いますね。まず前にも言ったと思いますが兄さんはいろんなことを習ってるんですけど、それを何時、何処で、誰から教わっているのかがわかりません。昔、父さんにも聞いたのですが父さんもわからないと言ってました」

 

家族ですらわからないってどうなってんだよ。

 

「これは前置きなんですけど、兄弟や家族って小さい頃は一緒にお風呂に入ったりしますよね」

 

「まぁそうだな」

 

「兄さんはそういったことをしてくれませんでした。理由も今思えばかなりひどかったです」

 

なんだ、スゲェ気になるな。

 

「兄さんはあのとき『桜、女の子が肌を見せていいのは心に決めて男性だけだよ。男は皆、心にオヤジがいるんだ。俺も例外じゃない。だからダメなんだよ』と言ってました」

 

「「「「……」」」」

 

あいつってたまにバカだよな。

 

「桜さん。それっていつのことかしら?」

 

「私が兄さんとある程度仲良くなってからですけど、私がまだ四歳のときです」

 

「六歳児が四歳の妹に言うことか、それ……」

 

「次に、兄さんの過去ですね。兄さんは私と家族になる前のことを隠しています」

 

それは前に聞いたな。あと未来とか言ってたな。

 

「それと最後に兄さんは誰にも自分の誕生日を教えてません。父さんにも」

 

「は?」

 

俺は声を間抜けな声を出してしまった。というより、この話を聞いていた全員が驚いただろう。

 

そして平塚先生は口を開いた。

 

「桜くん。岸波はしっかり戸籍登録されているし、学校などでも四月となっているが」

 

「戸籍上の誕生日は兄さんが父さんの養子になった四月なんですが、本当の誕生日は知らないってウソを吐いているんです」

 

「妹、それはおかしいんじゃないかしら」

 

言峰がここで声を出した。

 

「言峰さん、何度も言っていますがその『妹』って呼び方やめてくれませんか?私は兄さんの妹ですがあなたの妹ではないんですけど?」

 

岸波の妹は少し怒っているようだが、言峰はそれを無視して話を続ける。

 

「それでは白野先輩は、岸波家に入る前は戸籍がなかったように聞こえるけど。それとどうしてウソだとわかるのですか?」

 

「また無視ですか……。はぁ……、兄さんは昔戸籍を持っていなかったんです。だからどう調べようと兄さんの過去はそこで行き止まりになるんです」

 

戸籍を持っていなかった。普通に考えればまずありえないことだろう。考えてもよくわからん。戸籍がなかった?なんだよそれ。

 

「どうしてウソだとわかるのかは、私は四歳の頃から兄さんを見ているのでウソぐらいはすぐにわかります。それに、兄さんがウソを吐くときは何かを守るときか、周りの人に心配を掛けないようにするときだけなので」

 

岸波らしいと言えば、岸波らしいんだが、そうなると岸波は自分の過去を隠しているのは周りのやつのことを考えているからってことになる。

 

「不思議な点は他にもありますが、私から言えそうなのはこの辺ですかね。私も前に兄さんのことを調べようとしていたんですけど、これ以上は兄さんとの関係が壊れてしまいそうで嫌になってしまいまして……」

 

「桜さん、岸波くんはそれぐらいであなたとの関係を壊さないと思うわよ」

 

「そうじゃないんです。兄さんは変わらずに接してくれると思うんですけど、私が、私自身が兄さんの見方を今までと違うものにしてしまいそうで、そうしたら自分が嫌になりそうなんです」

 

それはよくあることだ。そいつの本質を知ったら今まで自分が作ってきたそいつの姿を壊すことになる。憧れていたやつが自分の思っていた姿と違ったら、その相手よりも相手に憧れていた自分が嫌になるのもわかる。

 

俺がそんなことを考えていたら、平塚先生がたまに見せる優しい笑みを浮かべる。

 

「だが、それを知ることでその相手がどのような人間かをもっと理解できるということでもある。なら知っていたほうがいいと私は思うぞ」

 

「ですが、私はこれ以上どうやっても調べれらなかったんですよ」

 

「それは君が一人でやっていたからだろう」

 

この展開は間違いない。

 

「この奉仕部に手伝ってもらえばいい。彼らは優秀だぞ。今回の相手は強敵だが、どうにかしてくれるはずだ」

 

はぁ……マジか。岸波の過去を探れってか?

 

「桜さんが構わないのなら、私たちに手伝わせて貰えるかしら」

 

「雪ノ下、お前、マジで言ってんの?」

 

「比企谷くん。私が本気じゃなかったことって今まであったかしら?」

 

「………なかったな」

 

今回は岸波抜きで、岸波の過去や秘密を探るってことか。かなり強敵だな。

 

「……それなら頼んでもいいでしょうか?」

 

「ええ、構わないわ」

 

決定のようだ。さて、まずはあいつのことをできるだけ調べておきたいんだが、まずすべきことが一つあったな。

 

「なぁ、お前ら」

 

「何かしら?」

 

「岸波が小町にフラグを建てようとしているらしいぞ」

 

ふ、岸波、お前には一度死んでもらおう。小町に手を出したらどうなるかわかってるんだろうな。

 

まぁ俺も背後から殺されるんじゃないかって感じの寒気を感じるが……。

 

 

 

 

 

「ハッ!こ、ここは……」

 

目の前が真っ暗で何も見えない。手も足も何かで結ばれているし、身体も動かない。ってこの振動は……車か?まさか誘拐?いや、それより俺の記憶がどの辺まであるんだ?

 

「岸波、目覚めたかね」

 

「この声は平塚先生ですか?」

 

「そうだ」

 

よかった。誘拐ではないんだな。

 

「それで、俺は今どうなってるんですか?あと何があってこうなったんですか?」

 

「覚えていないのも当然だな。あれは普通の人間には恐怖でしかないからな」

 

本当に俺に身に何が起きた?

 

まず記憶を辿ろう。

 

俺は小町ちゃんとバイクで移動して、ある程度来てから小町ちゃんとコンビニに寄って、そこで少しごたごたしたことがあって、そこからは普通に千葉村まで来て、平塚先生たちと合流……してから記憶がないぞ。

 

「先生。俺、記憶喪失みたいです。平塚先生たちと合流してからの記憶がありません」

 

「そのことは深く考えないほうが身のためだぞ」

 

「え?」

 

本当に俺の身に何が起きた!?

 

「わ、わかりました。諦めます。それで、俺は今どうなってるんですか?真っ暗だし、両手両足、というより身体も動かないんですが……」

 

「君は今、アイマスク、両手両足に錠、身体を言峰が持っていた赤い布で拘束されている状態だ」

 

「どうしてですか!?」

 

「どうしてそうなったかは、君自身が知っているんじゃないかね?胸に手を当てて考えてみてくれ」

 

「今は胸に手を当てることもできませんが……。で、今何処ですか?」

 

車は動いているみたいだから何処かに向かってるんだろう。

 

「オリエンテーリングのゴール地点にむかっている」

 

「オリエンテーリング?」

 

「ああ、君が気を失っている間に他の者には説明をしたのだが、この泊りがけのボランティアは小学生の林間学校のサポートだ。一日目はオリエンテーリングで私は車でお昼の弁当と飲み物を運んでいる。他の者は歩いて移動している最中だ」

 

「なるほど、それで俺はいつになったらこの拘束が外れるんですか?」

 

「それは彼女たちに聞いてくれ、あと比企谷だな」

 

何が何だかわからないんだが。これをやったのは比企谷と彼女たち、彼女たちって誰?身体に巻いてある布はカレンのらしいからカレンは入ってるよな。

 

考えている間に車が停まった。

 

「着いたんですか?」

 

「ああ、あとは皆を待つだけだ」

 

オリエンテーリングは始まってるってことは、小学生たちに挨拶はしてたって考えていいよな。

 

はぁ……どうしてこうなったんだか……。

 

「平塚先生」

 

「なにかな」

 

「このボランティアって他に誰が来ているんですか?」

 

「やはり、君は気づいていたかね」

 

「まぁ強化合宿ですから、予想だと葉山くんとかじゃないですか?」

 

「ふっ、当たりだ。君はすごいな。君はそういったことは陽乃よりも目敏いな。今回の参加者は君たち以外は、葉山、三浦、海老名、戸部の四人だ」

 

「葉山くん、三浦さんはわかるんですが海老名さんと戸部くんにはまだあったことないですね」

 

戸部って、あのチェーンメールに書かれていた人だよな。海老名さんはもしかしたらテニスのとき葉山くんたちのペアの後ろに立ってた眼鏡を掛けてた女の子かな?

 

「お、皆が来たようだな」

 

「よかった。これで俺は自由の身ですね」

 

と思ったのだが違うようで、俺は現在すべての拘束が取れてはいるのだが、車に隔離されている。

 

今、みんなは弁当の用意をしているのだろう。

 

 

 

 

 

「ねぇ、なんでキッシー出してあげないの?」

 

由比ヶ浜が梨につまようじを刺しながら話しかけてきた。

 

「何言ってんだよ。あいつは俺の小町を奪おうとしたんだぞ」

 

「出たシスコン」

 

「うるせぇ!あいつは…………今更だが、あいつ小町に何したんだ?」

 

「え?ヒッキー何も知らないで、キッシーを車に閉じ込めたの?うわぁ……サイテーだ」

 

小町が変なメール送ってきたから、深く考えずにあの三人嗾けたんだよな。

 

「おい小町」

 

同じくつまようじを刺している小町を呼ぶ。

 

「なに?お兄ちゃん」

 

「お前、あのメールの前に何があったんだ?」

 

「……言わないとダメ?」

 

小町が少し嫌そうな顔をした。おいおいマジかよ。小町が反抗期に入ったぞ。

 

「小町的には言いたいんだけど、岸波さんがみんなを心配させるって言うから言わなかったんだよ」

 

「何があったか言ってくんねぇか。今回、岸波のことで依頼があんだよ」

 

「え?そうだったの?」

 

「お前が寝ている間に岸波の妹から『岸波の過去について調べるのを手伝ってくれ』って依頼があったんだよ」

 

「キッシーの過去かぁ。あたしも気になってたけど、なんなんだろうねぇ」

 

知らないから調べるんだろう。何言ってんだよこいつ、バカなの?

 

由比ヶ浜は頼りならねぇな。

 

「それで、小町何があったんだ?」

 

「はぁ、お兄ちゃんの頼みは断れないねぇ。小町ちゃんマジ天使」

 

面倒くせぇ。なにこの妹、本当に面倒くさいな。まぁそこが可愛かったりするんだが。

 

「簡単に言うとね。移動中にコンビニに寄ったんだけど、そこで小町が不良さんたちに絡まれて、岸波さんが助けてくれたんだよ。で最後に『ごめんね。俺が少し離れている間に怖い思いをさせちゃって、もし小町ちゃんに何かあったら比企谷にあわせる顔がないよ。本当にごめんね』って言ってくれたんだよ。でそのあとアイス奢ってくれたんだ。しかもハーゲン〇ッツ」

 

「最後、完全に食べ物に釣られただろ。途中までよかったのに最後で台無しじゃん」

 

「いやいや、お兄ちゃん。小町的にはお兄ちゃんのことも考えてくれたことが嬉しかったんだよ。あ、今の小町的にポイント高い」

 

「……」

 

本当に最初はいいのに、最後をダメにすんだこいつは。

 

「ほら、お兄ちゃんってそう言ってくれる人っていなかったじゃん。だから岸波さんはお兄ちゃんを見捨てたりしないだって思ったんだ。小町はお兄ちゃんのこと大事に思っているから、これも小町的にポイント高い」

 

「ポイント、ポイントってお前はコンビニの店員か!?うるせぇよ」

 

「だから、小町みたいにお兄ちゃんのことを大事に思ってくれる人だったから、あのメールを送ったんだよ」

 

はぁ……岸波はスゲェな。雪ノ下みたいになんでもできて、由比ヶ浜みたいに周りの人間関係を大事にして、俺みたいなぼっちの気持ちを理解できる。

 

まさに誰からしても理想的な人間だ。雪ノ下陽乃の男バージョン。だが、あれとはまた違うからさらに困る。あの強化外装の仮面とは違い、素でやってるようにも見えてくる。だからあいつはわからない。どうしたらあんな風になるのか。

 

理想は理想でしかない、本当ではない。あいつは何かを隠している。それを知ってようやくあいつの人間性を理解できる。

 

「それで、小町は岸波狙ってんの?俺は認めねぇが」

 

「それはまだないかな」

 

「まだってことはいずれはあるかもしれねぇってことだよな」

 

「小町的には、お兄ちゃんのほうが優先順位が上だから、小町のお姉さん候補がある程度決まってからにするつもりだよ」

 

お姉さん候補ってなんだよ。なんだ小町は俺に彼女でもできるって思ってんの?……マジで?

 

「それで小町の狙い目は、岸波さんのことを狙ってる人たちが、岸波さんの鈍感さに呆れるのを待つか、共倒れしたところを」

 

そこそこ策士だな。さすが俺の妹。

 

「だが、俺は認めねぇ」

 

俺どころか、親父が認めねぇ。

 

「でも、お兄ちゃん考えてみて」

 

ん?何を言い出すんだ。俺は大抵のことじゃなびかねぇぞ。

 

「例えばだけど、小町と岸波さんがうまくいくとするでしょ」

 

「例えだから許す」

 

「それで小町の予想だと、岸波さんは将来いい職に就くと思うんだよ」

 

確かにあいつの成績や、技術を考えると間違いないな。

 

「そうすると、お兄ちゃんを養うお金も出てくると思うんだ」

 

「……」

 

な、なんだと……。そう言われると、クソ、何を考えているんだ俺は!かなりいいと思っちまった。

 

「だ、ダメだ。それでも……俺は」

 

「この兄妹、大丈夫かな?あたし心配になってきた」

 

「あ、由比ヶ浜いたの?」

 

「ヒドッ!ヒッキー、最初あたしと話していたのなんで忘れてんの!?マジありえない!死ね!」

 

死ねとか言うなよ。

 

由比ヶ浜は怒って、雪ノ下のほうへ歩いて行った。

 

「お兄ちゃん……、ダメダメだなぁ」

 

「何がだよ」

 

 

 

 

 

「やっと自由の身だ」

 

昼食の時間が終わり、俺は平塚先生に車の外に出してもらった。

 

「それで、何をするんですか?」

 

俺は平塚先生に尋ねる。

 

「次は飯盒炊爨だな。カレーを作る」

 

飯盒炊爨か。俺は機械頼りなところあるかなら。まぁムーンセルでアーチャーと緑チャにサバイバルのやり方は習ったな。いつ使うんだか。

 

「わかりました。キャンプみたいなことをするの初めてなんで少し楽しみです」

 

平塚先生笑みを浮かべて「そうか。それはよかった」と言ってから、少し暗い顔をする。

 

何か話すのだろう。

 

「岸波、君は家族にも隠していることがあるそうだな」

 

「そうですね。確かに俺は隠していることがあります。ですがもうじき話すと思いますよ。俺は誰か一人でも俺の秘密に辿り着いたら、みんなに言うつもりです」

 

「その口ぶりだと、もうじき君の隠し事を見つけ出す者がいると考えているんだな」

 

「はい。俺の予想では、陽乃さんが辿り着きますね」

 

「奉仕部や君の妹の桜くんや言峰ではなく、陽乃と思っているんだな」

 

「多分ですけどね。俺の予想外な展開がない限りは陽乃さんです」

 

「予想外のことか、もしかしたらその予想外のことが起きるかもしれないぞ」

 

「急に言われると怖いですね。何か心当たりでもあるんですか?」

 

「ふ、勘だよ」

 

勘ね。確かにあれはたまにすごいことを起こすからな。聖杯戦争でも予想とは違う結末を迎えたマスターたちもいたわけだし。

 

俺がその予想を壊したんだけど。

 

ってことは今度は俺が足をすくわれる番ってことだな。

 

「まぁどのような結果で終わっても俺は悔いはありませんよ。ただ俺以外の人が不幸になるのは嫌ですけどね」

 

「君は自分が不幸になってもいいと思っているのかね?」

 

「いえ、それは違います。俺だって人間ですから自分の幸せだって願ってます」

 

「では、どうして先ほどのようなことを言ったんだ」

 

「この世は争いの上に成り立っています。全てを手に入れようなんて無理ってこともわかっています。等価交換でしたっけ?『何かを得るには同等な何かを支払わなければならない』俺は昔、そういった場面に何度も出会いました。そのときは自分の思ったように動きました。そして今の幸せに過ごせている俺がある。なら今度は俺よりも大切な人に幸せになってもらいたい。という偽善者みたいな考え方です」

 

これが今の俺のあり方だ。

 

「それが君の考え方か……いい考えだとは思うよ。ただそれをよしと思ってくれる者はいないとも思うよ」

 

「はい。それもわかっています。だからそれも受け入れるだけの覚悟は待ちますよ」

 

暴君も、正義の味方も、妖狐も、英雄王も、他の英雄たちもそれぞれ覚悟を持って生きていたんだ。

 

彼らの中にも自分の生涯に悔いを持った人たちもいる。

 

それでも前に進んだ。

 

なら俺も自分の信じる道を覚悟を持って進む。

 

 

 

 

 




ということで小町ちゃんは争奪戦は未定ということになりますね

自分で書いてなんなんですけど、この白野くん、衛宮士郎くんに似た匂いがしますね

次回はカレー作りのところ、やっとルミルミの再登場ということで

それではまた次回!


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悪夢再来。

最近はヒッキー目線が増えてきましたね。今後はザビ男とヒッキーの目線で書いていこうと思います。たぶん。他のキャラは今考え中です

今回はカレー作りの回。そして今回は少しFate寄りかな?


 

 

 

 

 

カレー作りが始まりましたー!やったね!

 

一人、心の中でテンションを上げてみました。

 

カレーと言えばユリウス作、ハーウェイ・カレー。一度でいいから食べてみたかったな……。

 

まぁそれは置いておくとして、小学生の中に留美ちゃんがいたんだけど。

 

林間学校ボランティアは留美ちゃんが通っている小学校だったんだな。

 

留美ちゃんはまだ俺には気付いてないみたいだな。

 

今は平塚先生が小学生たちに炭に火をつける手本を見せているところだ。

 

まずは桜を探そう。

 

桜を探そうと振り向くと

 

「兄さん?どうかしましたか?」

 

桜は俺の真後ろにいた。

 

き、気付かなかった……。というより気配を感じなかった。まさかの気配遮断?

 

「いや、えーっとさ、留美ちゃんいるの知ってた?」

 

俺は小声で桜に尋ねる。

 

「留美ちゃんですか?」

 

桜は少し顔を動かして留美ちゃんを探し始めた。

 

この反応は知らなかったんだな。

 

「あ、いました。話しかけたほうがいいですかね」

 

「うーん……もう少し待ってみようか。留美ちゃんの現状も気になるし」

 

「そうですか……。わかりました。私も少し待ってみます」

 

「うん。ありがとう」

 

その後、平塚先生の説明が終わり男女別々で行動に出た。

 

男子が火の準備、女子が食料を取りに行った。

 

で、残ったのは俺、比企谷、戸塚くん、葉山くん、戸部くん。

 

「じゃ、準備するか」

 

葉山くんが声を出した。

 

葉山くんと戸部くんが軍手をはめて炭を積み、戸塚くんは着火剤と新聞紙を用意、俺と比企谷が余る。

 

「残りは団扇で煽ぐ作業なんだけど、一人できなくなるな」

 

「なら俺はいいから、お前やれよ」

 

「え、いいの?」

 

「ああ、別に構わねぇよ」

 

おお、比企谷いいやつだな。

 

「じゃあ、言葉に甘えてやらせてもらうよ」

 

俺は、パタパタと炭を煽ぎ始めた。

 

………?さっきの会話少しおかしいような……まぁいいか。

 

そして時間が流れ、俺は今、小学生たちに囲まれている。

 

少し前に、カレーの準備がある程度終わったとき、平塚先生が「暇なら見回って手伝いでもするかね?」と言ったので近くの小学生グループのお手伝いをしに行ったら、人気者になった。

 

俺は結構子供に好かれる。あと、大人にも好かれる。

 

別の言い方をすれば、同年代からはあまりいい風には思われない。

 

 

 

 

 

「岸波ってほんとよくわかんねぇな」

 

今回の依頼のために少し離れた場所から岸波は観察する。

 

岸波は葉山同様に子供の中心にいる。

 

俺から見てこの場においては岸波は葉山よりも上だ。

 

その理由は、あの一人でいる少女への気遣い。

 

岸波はあの弾かれている少女はしっかりと見て、現状を理解している。そして時を待っている感じだが、葉山はその少女、留美に話しかけた。

 

留美のことはまたあとでいろいろありそうだが、今は岸波だな。

 

何故、葉山より上のやつが俺や雪ノ下と同様のぼっちなのか。

 

いや、ぼっちではないか。実際にあいつの周りには友人はいないが、あいつを慕う人間がいる。

 

人を引き付けるカリスマ性みたいなものがあるってことだ。ならどうしてあいつは孤独ではなく、孤高でもない。

 

あいつは孤高(偽)ってことのなる。自分でそれを作り出している。

 

雪ノ下陽乃と似てはいるが、全くの別物。完成度は岸波のほうが上だ。

 

対人関係のために作られた『偽物の笑顔の仮面』と自分を周りから遠ざけようと作った『偽物の自分』ってところか。

 

でも何かが違う。孤高(偽)はいい線だが、あいつは偽物ではなく間違いなく本物だ。

 

岸波は素で、本心でいる。

 

そうなると最後に浮かび上がる答えは

 

「あいつは本心で自分を周りから遠ざけているのか?」

 

そしてその理由は周りに心配を掛けないよう、自分の周りの人間関係を壊さないようにするため。

 

いや、これも違う。理由はこれで合ってる。岸波の性格上これは絶対条件みたいなもんだ。

 

じゃあ、この理由を基に考えるか。………。クソ、わかんねぇ。今回はこれでやめだ。

 

人間観察は得意だがここまで面倒くせぇやつ今までいなかったから正直手詰まりだ。

 

その後、俺は鶴見留美ことルミルミと話をした。

 

 

 

 

 

またあの悪夢が再来するとは……。

 

俺は先ほど口にしたカレーをもう一度、口に運ぶ。

 

!!………抑えた。前みたいに口からロケット噴射して、後方に三回転とかしないから。

 

にしてもなんだこの味……テロいぞ。このカレーテロい。

 

みんなは普通に会話をして楽しそうに食べている。ということは俺だけか。

 

いや、カレーを最後に盛ったのは俺だったよな。そうなると残りのカレーは全てこれ?

 

エリザベートの召喚はもうできるけど、召喚はしてないし。

 

ん?ムーンセルからメールが。ああ、嫌な予感。

 

送り主はエリザベート……。

 

『子ブタ、今日、セイバーと一緒にカレーを作ったわ。イヤだったけど、ゴージャスに頼んでそっちに送ったから、あとで感想を聞かせてもらうわよ。だからしっかり味わってちょうだい。別にあなたのために作ったんじゃないんだから!それじゃあ夜に会いましょう。ダーリン』

 

…………。ヤバいな。ヤバいぞ。俺が食べているのはエリザベート、セイバー作のカレーってことだよな。

 

鍋の残りは間違いなく、このアイドルカレー。俺以外にこれを食べれる人間はいるのか?

 

「あら、白野先輩顔色が悪いですけど、どうかしましたか?」

 

珍しくカレンが俺の心配を……。

 

「い、いや、な、なんでもない、よ」

 

心配されないように、アイドルカレーを口に運ぶ。

 

うっぷ……。

 

俺は黙々とカレーを口に運び続ける。

 

「に、兄さん!?どうしたんですか!?すごい汗ですよ!」

 

桜の叫びに他の全員が俺のほうを向く。

 

「き、気のせい、だ、よ。アハ、アハハハ、ハァ……」

 

「気のせいと言うけど、顔はかなり辛そうに見えるわよ」

 

「ほんと、本当になんでもないから、気にしないでよ。ってあれ?戸部くんは?」

 

俺がアイドルカレーを頑張って食べている間に、戸部くんがいなくなっていた。

 

「ああ、戸部はカレーのおかわりに」

 

「ガハッ!!」

 

葉山くんが戸部くんの行方を話しているうちに、戸部くんの短い叫び声が聞こえた。

 

一人目の被害者が出てしまったようだ。

 

みんなで、叫び声のほう、というよりすぐそばだからわかるけど、倒れている戸部くんに近づく。

 

「おい戸部!大丈夫か!」

 

誰よりも早く葉山くんが戸部くんに近づき、安否を確認する。

 

完全に気絶してるな。

 

「事件ね。凶器は何かしら?」

 

「あのー、雪ノ下さん。推理はいらないよ。もう凶器?はわかってるから。それに事件では無くこれは事故だし」

 

「?なにその凶器とは」

 

「カレー」

 

俺はカレーが入っている鍋を指さす。

 

「それで事件ではなく事故とは」

 

「誰も悪気はなく、ただあってはならない出来事があっただけだよ」

 

「よくわからないわね。でも凶器がカレーというのは一理あるわ。毒殺ってことね」

 

「死んでないから。気絶してるだけだから。いや、気絶する時点でおかしいけど」

 

「こうなると証拠が必要になるわね。比企谷くん、あのカレーを毒見してくれないかしら」

 

と雪ノ下さんは比企谷にカレーを食べるように進める。

 

「は、なんで俺が」

 

「いいから」

 

「いや、だから」

 

「早く」

 

「はぁ……わかったよ」

 

比企谷がしかたなく受け入れ、そして皿にカレーのルーを少し盛り、そして一口。そして撃沈。

 

比企谷は静かに倒れた。

 

「お、お兄ちゃん!」「ヒッキー!」「八幡!」

 

小町ちゃん、由比ヶ浜さん、戸塚くんが驚きながら比企谷に近づいていった。

 

「凶器は間違いなくカレーのようね。でもここまで即効性の高い毒ってなにのかしら?しかも殺さずに」

 

雪ノ下さんは完全に探偵モード入ったようだ。

 

雪ノ下さん、これは毒じゃなくて純粋に不味いだけなんだ。

 

さて、俺がすべきことはこれ以上被害が出ないようにあれを処理することだ。

 

俺は残りのカレーを食べ始めた。

 

それから食べ終わるまでの記憶は定かではない。

 

ただ久しぶりに月の裏で一緒に戦ってきたマスターたちと話していたような気がする。

 

 

 

 

 

比企谷と戸部くんも目を覚まして、みんなで一服している。

 

いやー、平和ですねぇ。

 

と思っていた二十分ぐらい前の俺、人生そんなに甘くないよ。そんな平和も一本の電話で壊されるんだから。

 

えーっと次はこの辺かな。

 

俺は遠見の水晶玉のコードキャストを使い、電子手帳を片手に赤色の印の場所へむかう。

 

あ、いた。俺が発見したものはこの世界ではまず存在しないであろうモノ。ムーンセルのアリーナやサクラ迷宮にいたアレ、エネミーである。

 

あちらも俺に気付いたようで、赤く変色して近づいてきた。

 

俺はすぐに武器系の礼装、『破邪刀』と具現化し、刀を振り「rel-mgi(a)」空気撃ち/三の太刀を使用。

 

空気撃ちはエネミーに当たり、エネミーは蒸発するように消えた。

 

「これで十体目。はぁなんで俺だけバトル展開に入っているんだ」

 

俺は破邪刀を量子化し、電子手帳で次のエネミーの場所へ移動する。

 

空気撃ちはムーンセルではサーヴァントが撃っていたのだが、こちらでは俺が撃てるみたいで、一の太刀から三の太刀まで全部使える。なので一番燃費のいい三の太刀を使っている。

 

それに一応、俺はマスターレベルは99だからたいていのエネミーならこれだけで倒せる。

 

で、俺がエネミー退治をしているの理由はさっき言った一本の電話の会話でのこと。

 

相手はあのAUOです。

 

では少し時間を遡ること約二十分。

 

 

 

 

 

みんなが留美ちゃんのことを話してる最中でのこと。

 

俺の頭の中に電子音が流れた。これは英雄の皆さんから電話がきた場合流れる。

 

先ほどエリザベートからメールがきたけど、メールと電話では違いがある。

 

電話の場合は聖杯戦争のとき何度も聞いたあの電子音。メールの場合は電子音などは流れないが、『メールがきた』みたいな直感に近いモノを感じるようになっている。まぁガン〇ムのニュー〇イプみたいな感じかな?

 

俺はポケットに手を入れ電子手帳を作り出し取り出す。

 

ギルからだ。ムーンセルから俺に電話がくることが珍しいのにさらにギルからっていうのが不吉だな。なんかありそうだな……。もしかしてあのアイドルカレーの感想を聞くのか?

 

まぁまずは電話に出るか。

 

「ごめん。電話が来たみたいだから俺、少し席を外すよ。話は進めておいてよ」

 

「ええ、わかったわ」

 

雪ノ下さんが俺の言葉に返答した。

 

ということで、俺は森の中まで移動してから電話に出る。

 

『おい雑種。我を待たせるとはいい度胸だな。我は気が短い、電話はワンコール以内で出ろ』

 

無理は言わないで欲しい。俺にだって生活があるんだからせめてスリーコールぐらいお願いしたい。

 

「今回は許して下さいAUO。それでどういったご用件で?もしかしてカレーのこと?あれは前と変わらず凄まじかったよ」

 

『貴様の食べっぷりはいい暇潰しにはなったが、あの駄竜と雑種のカレーのことはどうでもいい』

 

なんだよ、いい暇潰しってこっちはあのカレーで二人も気を失ったっていうのに。

 

「じゃあ、どうしたの?」

 

『少々厄介なことになってな。今、貴様のいるその山中に山のようにエネミーどもが現れた』

 

「……」

 

『ほれ、AUOジョークだ笑え』

 

いや、笑えないから。

 

「え、なんでエネミーがいるの?」

 

『雑種。貴様は今、貴様がいる世界に残ると決意したが、あれがムーンセルの意思に背いたことになったのだろう。貴様も知ってはいるともうが、ムーンセル内のサーヴァント、AI、NPCはムーンセルを第一に考えなければならぬ。それに背いた場合は』

 

「排除するわけだね」

 

聖杯戦争での記憶で、俺のサーヴァントたちがムーンセルより俺を第一にしたとき、ムーンセルから使いとしてきた上位エネミーがいたな。あれと同じだろう。

 

「でも、どうして今まで来なかったんだ?」

 

それが疑問である。俺がこの世界に残りたいと決めたのはもう二カ月以上前のことだ。

 

『貴様が住んでいる場所はそこそこ都会であろう』

 

「まぁ一応」

 

『その分人目にも付きやすい。そうなるムーンセルも後処理が面倒くさいのだろう』

 

そんな理由……。まぁありがたいといえばありがたいけど。

 

「じゃあ、俺が他の人と一緒にいれば襲われないんじゃ」

 

『ああ、襲われないだろう。だがエネミーは単純でな、そばにいた者は迷わず襲うだろうよ』

 

「なるほど、じゃあ倒すよ」

 

即決。俺のせいで怪我人、結果によっては死人を出すわけにはいかない。

 

『ふっ、では我は貴様の戦いを見させてもらおう。頑張れよ白野』

 

「ちょっと待って」

 

『どうした』

 

「エネミーはどれぐらいいるのかな?」

 

これは結構大事だぞ。山中に山のようにいるらしいからな。

 

『数は三十以上。ほとんどは雑魚だが、一体だけ格が違う』

 

「格が違うってどれぐらい?」

 

『我にすれば全て雑魚だが、雑種のレベルを考えれば貴様と同等かそれ以上と言ったところだろう』

 

ということは店長よりは弱いわけだ。

 

「わかった。頑張ってくるよ」

 

そして俺は電話を切り、「view-map()」と遠見の水晶玉を使いエネミー退治を始めた。

 

 

 

 

 

「rel-mgi(a)」

 

と、俺はそんなことを振り返りながら二十体目のエネミーを倒す。

 

予想BBが聖杯くんを分割できるようにしたのはこのためだったのだろう。

 

「エネミーの数も半分を切ったし、少し休憩するか」

 

にしても、ギルも変わったな。前だったらこんな電話もしてこないだろうし。

 

そういえば俺が電話に出るって森に入ってすでに四十分が過ぎる。誰かに連絡を取っておくか。

 

ここは部長の雪ノ下さんかな。奉仕部としてここに来てるわけだし

 

俺は携帯を取り出す。

 

すごいメールの量がきている。怖い怖い。

 

まぁ四十分もいなかったら心配するか。

 

でも、エネミーを退治してるなんてメールおかしいよな。なんて説明しよう。

 

うーん……。

 

『森のクマさん(名前は金時の予定)に遭遇。仲良くなったから遅くなるね』

 

なんか俺ならありえそうだけど、ダメだな。林間学校どころじゃなくなるな。

 

『人間関係に疲れたので森の中で癒されてから帰ります』

 

鬱患者みたいだな。やめよう。

 

『美人な女性を見つけたので仲良くなってから帰ります』

 

………。寒気を感じた。やめよう。

 

『いつも通り厄介ごとに巻き込まれたので帰りは遅くなります。心配しないでください』

 

まぁこれが一番だな。ウソじゃないし。じゃあ送信。

 

「よい、次行くか。view-map()」

 

また俺は移動を始めた。

 

 

 

 

 

「『いつも通り厄介ごとに巻き込まれたので帰りは遅くなります。心配しないでください』だそうよ」

 

雪ノ下に岸波からメールがきたようで、その内容をこの場に残っている俺らに知らせる。

 

この場に残っているのは、平塚先生と葉山グループの四人以外の全員。葉山は岸波を待とうと言っていたが三浦と戸部がそろそろ戻りたいと言ったからそれに一緒に戻った。

 

いつも通りってなんだよ。それでなんで全員納得してんの?どんだけあいつ不幸なんだよ。『幻〇殺し』付いてんの?あ、声似てるぞ。

 

「それではちょうど岸波くんもいないことだし、桜さんの依頼の話をしましょう。何か今までの彼の行動や言動からわかったことや推測できることがあったら言ってくれないかしら?」

 

わかったことねぇ。正直言ってない。そして今まで行動、言動つってもそこまで記憶してねぇよ、完全記憶能力みたいなのない。それに俺は超高校級の探偵じゃねぇし、じっちゃんの名もかけてねぇ。限度がある。今の俺にはこれ以上は無理だ。

 

「ねぇ八幡」

 

戸塚が話しかけてきた。おいおい可愛いな。ちょっと緊張しちゃうだろ。

 

「どうした戸塚?」

 

「その、雪ノ下さんが言ってた桜ちゃんの依頼って何のことかなぁって」

 

「そういえば戸塚も聞いてなかったな。今日移動中に岸波の秘密について調べてくれみたいな依頼があったんだよ。それで今がその調査報告みたいなもんだよ」

 

「そうだったんだ。でもそうなると八幡たちは今回二つの依頼を同時にやるってことだよね」

 

そう。今回は奉仕部に入って初の二つの依頼を同時にやっている。

 

まず、岸波の過去。さらに鶴見留美の現状の解決。

 

ルミルミのほうは何とかできると思うが、岸波はほぼお手上げだ。

 

「だが、過去を暴くのは置いておいたほうがいいな」

 

「それはどういう意味かしら?」

 

「簡単だよ。過去を調べるって言っても俺たちはただの高校生と中学生でしかない。限界がある」

 

俺の言葉に岸波の妹は俯いてしまった。

 

「だから、他の場所から話したほうがいい。まずはあいつの人間性についてだ」

 

「キッシーの人間性?」

 

由比ヶ浜がそれに疑問を持ったようだ。

 

「ああ、だいたい人間っていうもんは子供の頃の環境で性格が決まってくるからな」

 

「そうね。あなたが今みたいになったのもそういうことだものね。ヒキ、ヒキガ、ヒキガエル君だったかしら?」

 

「おい、なんで俺の小四の頃のあだ名知ってんだよ。………。まぁいい。だから岸波の人間性を」

 

俺が話している途中ものすごく気になってしまったものがあった。

 

それは言峰の森のほうを見つめながら顔色を悪くしていることだ。

 

「おい、言峰。大丈夫か」

 

「……あ、はい、気にしないでください。(森から大きな魔力が二つ。片方は白野先輩。もう片方はよくわかりませんが私やお父様とは別の岸波先輩に似た魔力。厄介ごとってこのことですよね。白野先輩は大丈夫でしょうか……)」

 

「気にするなって言うならいいが、それで岸波の人間性について」

 

ドゴォッ!

 

「あん?」

 

森の奥のほうから爆発音のようなものが聞こえた。

 

外にいれば聞こえる程度のものだが、まず聞こえちゃおかしい音だ。

 

「ね、ねぇ今の音ってなに?森の奥のほうから聞こえたんだけど」

 

由比ヶ浜も気になったようだ。

 

ちょっと待てよ。森の奥のほう?

 

「おい、雪ノ下。岸波は何処にいるんだ?」

 

「わからないわ。厄介ごとの巻き込まれたとは書いてあったけれど、何処でとは書いてなかったもの」

 

「その厄介ごとが今森の奥のほうで起きてんじゃねぇのか?あのBB何とかで言ってた『夜の森には危険がいっぱい。奥に行けば行くほど危険も増し、命に関わるかも』ってこのことか?」

 

「確かにその可能性はあるけど。そうだとしたらなおさら森には入れないわよ。それにあれは私たちへの警告であって、岸波くんに対して言ったモノではないはずよ」

 

「お前は岸波が心配じゃねぇのか?」

 

「そんなわけないでしょう。でももし私たちが岸波くんのもとにむかったら、逆に彼を危険な目に合わせるだけよ」

 

雪ノ下の今の言葉は何故かとても強く感じた。こいつは昔、今と同じことがあったのだろう。だからこの言葉に俺は納得をしてしまった。

 

 

 

 

 




まさかのバトル展開。最初からこういう展開は作るつもりでした。『バトル展開はマジねぇわ』みたいな方はごめんなさい。まぁ予想してた方もいたかもしれませんが

次回はザビ男の戦いから書き始めようと思います。相手はレアエネミーの『NEPHILIM』です。『NEPHILIM』はあの片手が長い、一つ目、人型のエネミーです。あれ?あってたっけ?

そんなことよりエリザベートのカレーを食べた後に戦えるの?のような疑問は聞きません。

留美ちゃんの会話をまだ書いてない。次回は絶対に会話させます

それではまた次回!


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どうして俺だけバトル展開に……。

今回はまさかのバトル展開
と言ってもあまりうまく書けた気がしませんが……
大目に見てくると嬉しいです。


 

数分前

 

久々に自分を褒めたいな。エネミーの数は残り一体。

 

残りの一体はギル曰く俺と同等またはそれ以上のエネミーらしい。そこで気になることと言えば俺の現状の強さなわけだ。

 

エネミーは英雄と戦うような化け物。それと戦える時点で俺はもう人間ではない気がしてきた……。

 

まぁ日頃のトレーニングや筋トレ、体力作りなどなど。最近では強化系の魔術を使っても筋肉痛が出なくなってきたし。

 

体力や運動能力は一般高校生のレベルを完全に越してしまったわけだ。

 

確かアーチャーって未来の英雄みたいな感じだったよな。そうなるとアーチャーの高校生時代はこんなもんかな。

 

でもアーチャーって大衆が望む『正義の味方』という概念が人のカタチで起動したモノだったっけ?故に『正義の体現者』で、個人ではないって言ってたな。

 

そうなると俺は少し頑張りすぎたか。父さんの養子になってから、ほぼ毎日欠かさずに続けてきたからな。

 

よし、この辺だな。気を引き締めろ。相手は今までとは違う。

 

そして反応がある目的地に着く。

 

ここだけ木がないのか。

 

周りを木で囲まれている草原のような場所。その中央にいるのが最後のエネミー。

 

あれってレアエネミーだよな。

 

ムーンセルで何度か戦ったことがある『NEPHILIM』っていうレアエネミーだ。

 

そして一目でわかった。

 

こいつ、強い。強すぎる。俺の上なんてレベルじゃない。サーヴァントですら少し手こずるレベル。

 

この感覚いつ以来だろう。

 

『怖い』

 

『怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い』

 

今すぐにでも逃げたい。みんなのいる場所に戻りたい。

 

そうだ。聖杯くんで誰かを呼べば………

 

いやダメだ。何故だろう。この場でこれを使ってはいけない気がする。ここで使ったら後々後悔するような。

 

ならどうする。目の前の敵は完全に倒せる気が……ん?

 

あるものが俺の目に入った。

 

俺の右20M先ぐらい見覚えがある機械が……。

 

その機会の上に『MPS』と書いてある。

 

ああ、頭が痛くなってきた……。

 

金か?金なのか?この世は全て金なのか?『この世、全ての金(アンリマユ)』なのか?

 

さっきまで『怖い』とか頭の中で連呼してたのに、急にバカバカしくなってきた。

 

『遠坂MPS』ではないから凛は関係ないだろう。にしてもこれはない。ムーンセルに気を遣われたような。俺を排除しに来たんじゃないのか?

 

……い、一応ね。

 

俺は『MPS』に近づくと、機械の声で「対象エネミーのレベルを引下げします。あなたの貯金の全額を振り込んでください」と……。

 

「………」

 

「対象エネミーのレベルを引下げします。あなたの貯金の全額を振り込んでください」

 

「………」

 

「対象エネミーのレベルを引下げします。あなたの貯金の全額を振り込んでください」

 

俺は破邪刀と守り刀を具現化。そして

 

「ハロー……ワークッ!」

 

壊した。

 

破邪刀と守り刀で『MPS』を斬りつけ、バックステップで距離をとる。

 

ドゴォッ!

 

『MPS』は爆発した。

 

「『MPS』はなかったことにしよう」

 

貯金の全額って……凛だってしなかったのに。ムーンセル、なんてやつだ!

 

だけど、気分は幾らか楽になった。

 

俺は眼を閉じ、深呼吸をする。

 

あのエネミーが攻めてこない理由は、俺がまだあいつの視認距離に入っていないからだろう。

 

そして一度戦闘が始まったら、もう離脱は不可能と考えてもいい。

 

なら今のうちに気持ちを落ち着かせ、身体を楽にする。

 

「よし……」

 

眼を開き、眼に魔力を送る。

 

「gain-con(16)、gain-str(16)」

 

守りの護符で身体の耐久力を上げ、錆び付いた古刀で筋力を上げる。

 

戦闘の準備は整った。相手の動きを見て、展開に応じてコードキャストを使う。

 

あとは心を強く、怖気ず、前へ進む。

 

昔、ムーンセルで言った言葉を思い出す。

 

『始めから自分に戦う力なんてない。今まで残れたのは多くの仲間の助けがあったから。勝ち進めたのは自分を支えてくれるサーヴァントがいてくれたから。………そうだ。自分には戦う力なんてない。できる事はただ、前に進む事だけだった。それだけを頑なに守ってきた。それだけが、自分の誇りだったのだ。だから――、前に進めるうちは、体がまだ動くうちは、自分から止まることだけはしたくない!』

 

そう、俺には戦う力はなかった。だから前に進むことだけはやめなかった。

 

この志だけは変えない。でも、今の俺には、戦う力がある。

 

この世界に来て、コードキャストを使えるようになったとき俺は決めた。

 

『もし今後、俺に大切な人や大切な仲間ができたとき、これを使って大切な人たちを守りたい』と、そしてそれが今だ。

 

もしかしたら死ぬかもしれない。それは嫌だ。でも、俺のせいで大切な人が傷つくのはもっと嫌だ。

 

「だから、この戦いが終わったら田舎に帰って結婚するんだ」

 

おっとこれは死亡フラグだった。

 

「だから、俺はここでお前を倒して新しい仲間たちと楽しく過ごす」

 

ムーンセル。俺はこれからも自分の意思で自分の進む道を決め、自分の力で前に進む。

 

そして俺はエネミーにむかって走り出した。

 

俺がエネミーの視認距離に入る。

 

エネミーの色が変わる。

 

まず前提でこいつの攻撃は一撃でも受けたら間違いなく重傷だろう。

 

それに俺はこいつの攻撃を防御できるとは思わない。なら全てをかわす必要がある。

 

または、相手に攻撃をさせる隙を与えないようにするか。……無理だな。

 

という事で俺の戦闘スタイルは相手の攻撃を的確にかわし、邪魔をする。そして隙を作り打撃、剣撃などで相手を地道に疲労させ、ダメージを与えていく。

 

「まぁ初撃は俺がもらうけど」

 

俺がエネミーの間合いに入る前に破邪刀を振る。

 

「rel-mgi(b)」空気撃ち/二の太刀

 

空気撃ちはエネミーに当たったが倒せない。まぁ予想はしてた。でもしっかりスタンは掛かった。

 

スタンが解ける前にできるだけダメージ与える。

 

俺は破邪刀と守り刀で攻撃をする。

 

四回ほど斬りつけて相手のスタンが解けた。

 

もう空気撃ちを撃てるような距離じゃないから、ここからは隙を作り攻撃を与える。ただこれを繰り返す。

 

さて、頑張るか。

 

 

 

 

 

あの爆発音から何分経っただろう。

 

あれから誰一人として口を開かない。長い沈黙。

 

この場にいる全員が岸波を心配……

 

今更だが何故俺は岸波を心配しているのだろう。俺にとって岸波は同じ部活の部員でしかない。なら心配するのも心配されるのもおかしいんではないだろうか。

 

そう、おかしい。

 

「話の続きするか」

 

俺が声を出すと全員がこっちを向く。

 

「じゃあ、岸波がどんな奴か――」

 

「ヒッキー!」

 

急に由比ヶ浜に怒鳴られた。まぁ理由はわかってるが。

 

「急にどうした?話は最後まで聞けって先生や母親から習わなかったのか」

 

「習ったけど、ってそうじゃない!」

 

「はぁ、わかってる。どうせ岸波が心配じゃねぇのかみたいなことだろう。さっきはそんなことを言ったが、今は心配じゃねぇよ」

 

「え?」

 

「それに岸波の妹の依頼は岸波がいないところでしかできねぇんだから今しかできねぇ。なら今のうちにできるだけことはしておきてぇんだよ」

 

俺がそういうと、小町が呆れ声で

 

「お兄ちゃん捻デレてるなぁ」

 

「変な造語を作んな。てかデレてねぇし」

 

さすが俺の妹。俺の心の中を読んだようだ。シンクロ率は100%を超した。暴走確定だな。

 

他のやつは意味が分からないみたいな顔をしている。そりゃそうだ。俺を理解できる人間なんて小町ぐらいだ。いや、岸波とかならわかっちまいそうだが。

 

「俺は岸波は心配しねぇよ。だが信頼はしてるかもしれねぇってだけだ。あいつは『心配するな』ってメールしてきたんだから心配すんのは筋違いだろ。この俺ですらあいつを信頼しようと思ってんだから、お前らもあいつを信頼してやれ」

 

俺が話すと雪ノ下と由比ヶ浜が意外そうな顔をしている。

 

「なんだよ」

 

「いえ、あなたも変わったと思ったのよ」

 

「うん。前のヒッキーなら絶対言わなかったよ」

 

「変わってねぇよ。それにお前らは俺とあってまだ四カ月しか経ってねぇんだから俺がどういう人間かなんてわかんねぇだろ」

 

「性格が捻くれていて、目が腐っていて、留年の可能性がある人でしょう」

 

クッ、言い返せねぇ……。

 

「あとシスコン」

 

シスコンじゃねぇ。妹への愛情が深いんだ。ん?

 

「確か岸波ってシスコンだったよな」

 

「そうね。彼は間違いなくシスコンよ」

 

「なら今回の依頼は終わったも同然だな」

 

俺の言葉の意味はほとんどのやつは理解してないみたいだが雪ノ下と言峰は理解したように見える。

 

「ヒッキーそれってどういう意味?」

 

「簡単だ。わからないなら聞けばいいんだよ」

 

「誰から」

 

「岸波本人からだよ」

 

 

 

 

 

どれぐらい経っただろう。

 

俺が戦闘を始め、どれぐらいの時間が経っただろう。

 

相手の攻撃をどうにか紙一重でかわし、隙を見つけては斬る。これをどれほど繰り返しただろう。

 

実戦が初めてのせいか本当に長く感じる。

 

最初に使った強化系のコードキャストが解けていないということは十分も経ってないということだ。

 

本当に長い。時間がこれほど長く感じたのはいつ以来だろう。

 

まぁ長く感じる分、相手の情報もわかってくる。

 

このエネミーは左腕だけしか使わない。それに俺から攻撃をないしからこいつはガードはしない。基本は左手で殴ってくるだけ。あとこいつは動きが大きいから隙も大きい。

 

俺は相手の攻撃を見ながら分析しつつ隙を見つけては斬る。

 

もう二十回以上は斬ったが、傷は深くないようで相手はまだ健在。

 

あとどれだけ斬ればいいんだか。それとまだこいつの技、スキルを見ていない。

 

ムーンセルで何度か見たが、この『NEPHILIM』タイプのエネミーがスキルを使うとき『溜め』のようなモーションがあり、その後、前宙のようなことをしてからスキルを発動する。

 

スキル名は『オーバースペック』。ダメージを与えるスキル。

 

かなり隙だらけなのだが、スキルを発動されたら避けれないだろうな。

 

だからこれを使われるとわかった場合はすぐに『生徒会長の腕章』で相手を止めて大技を掛けよう。たぶん相手もスキルはここぞってときに使うだろうし。

 

 

 

 

 

一方その頃ムーンセル。ギルガメッシュの部屋

 

「ご主人様、ファイトー!」

 

「奏者!そこだ!」

 

「なかなかやるじゃない。子ブタも成長したっていうことね」

 

などなど声が上がっている。

 

ギルガメッシュの部屋にて、岸波白野の戦いを大スクリーンで上映中。

 

「しかし、マスターは大丈夫だろうか」

 

「贋作者(フェイカー)。貴様は己がマスターを信頼はせぬのか」

 

「まさか英雄王から信頼などという言葉を聞くとは思わなかった。まぁ彼は信頼はしている。だが彼はサーヴァントではない。身体は紛れもない人間だ。一つ間違えたら死ぬ」

 

「ああ、だがあの世界で雑種が死ねば、中枢にいる雑種と我たちの時間に戻るということだ。我らにはさほど大きな変化はない。さらにあの世界から雑種の記録も記憶も全てが消え、雑種の存在そのものがなかったことになり、誰一人として気付くことなくそのまま生活を続ける。故につまらぬ。こういい酒の肴を手に入れたというのにそれを手放すなど愚行よ」

 

そう言いギルガメッシュは酒を飲む。そしてあるものを見つけた。

 

「ほぉ、これはまた厄介なことになる。さて雑種はどう動くか見物よな」

 

「どうした英雄王」

 

「あと二分ほどすれば雑種が戦っているあの場に人間が来る。数は一、小娘だ」

 

 

 

 

 

もうじきで倒せる。相手の動きも鈍くなってきたし、攻撃の威力も見た感じ弱くなっている。

 

ダメージも十分蓄積されてるようだし、そろそろ大技を

 

『マスター』

 

何故か頭の中にアーチャーの声が流れた。

 

え!?どういうこと!?おっと危ない。

 

アーチャーの声に少し驚いたせいで、相手の攻撃に少し反応に遅れた。

 

『君が戦っている最中にすまないのだが、もうじき君のいる場所に人が来る』

 

確かにそれは困る。アーチャーありがとう。こっちももうじき終わるから、どうにか人が来る前に倒す。

 

『ああ、健闘を祈る』

 

それじゃあ、今、俺が使える大技で終わらせよう。

 

相手が左腕で殴りにきたのでそれをかわす。そして斬るのではなく。後ろに飛び跳ね距離を取る。

 

そして破邪刀と守り刀を量子化させる。

 

「gain-con(32)、gain-str(32)」身代わりの護符と古びた神刀で耐久と筋力ともに大幅に上げる。

 

相手は俺が距離を取ったことにより、スキル技を発動させようと『溜め』のモーションに入ろうとした。

 

「hack-skl(64)」生徒会長の腕章を使い相手のスキルの発動を止め、「move-speed()」強化スパイクで移動速度を上げ、そして思いっきり踏み込み、一気に相手の懐に入る。

 

そして打撃を三度与える。

 

アサシン先生の技

 

『猛虎硬爬山』

 

最初に左手の突きと左足の蹴りを同時に、次に右手で全身で押し出すような突き、最後に同じく全身で押し出すように左肘を打ち込む。

 

ここで応用。

 

最後の一撃を打ち込みながら「shock(128)」破邪刀のコードキャストを撃つ。

 

打撃による衝撃とコードキャストによる爆発のような衝撃を同時に与える。

 

そしてエネミーは蒸発するように消えていった。

 

「はぁ……疲れた……そして死にかけた……」

 

俺は大きなため息を吐きながら仰向けに倒れた。

 

「綺麗な星空だなぁ」

 

俺が住んでるところだとあまり星空って見えないんだよねぇ。

 

服の左肘のところ焦げちゃったよ。

 

今日はもう戦えないぞ。魔力はまだ半分近く残ってるけど、体力と精神力が大幅に削られた。

 

ここで寝たい気分だけど、戻るか。

 

俺は立ち上がると同時に背後からガサッと何かが動くような音が聞こえた。

 

たぶんアーチャーが言っていた人だろう。

 

振り向くとそこには

 

「白野?」

 

留美ちゃんがいた。

 

「あれ留美ちゃん?どうしたのこんなところで?」

 

「白野こそどうしてここにいるの?」

 

「え、えーっと、人間関係に疲れたから自然に癒されてたんだ」

 

「ウソ」

 

「ま、まぁそのうち教えるよ。それで留美ちゃんはどうしたの?」

 

俺が聞くと俯いてしまった。

 

「白野はわかってるくせに聞くんだ」

 

「……部屋に行ってもみんなとうまくいかないから外を歩いてたの?」

 

留美ちゃんは頷いた。

 

「それじゃあ、俺とその辺を散歩しながらお話ししようか」

 

俺は留美ちゃんに右手を差し出す。

 

そして留美ちゃんは俺の右手を左手で握った。

 

 

 

 

 

留美ちゃんとお話ししながら歩いて帰ったら

 

「岸波くんにとって厄介ごととは小学生と手を繋いで歩くことなのかしら」

 

「いいえ、違います。それ(厄介ごと)とこれ(留美ちゃんのこと)は別です」

 

俺は正座で雪ノ下さんから怒られています。今年で何度目だろう……。

 

「留美ちゃん、兄さんになにもされませんでしたか?」

 

「う、うん」

 

俺って桜に年下好きって思われいるの?まぁ嫌いではないけど。でもロリコンではないよ。

 

「白野先輩」

 

「な、何にかなカレン」

 

「ビジターハウス裏に行きましょうか。お仕置きのお時間ですよ」

 

「嫌だ!嫌です!楽しい林間学校でそんな怖いことしないで!」

 

さっきまで命を懸けてたけど、カレンのお仕置きは死ねないからさらに怖い。

 

「……駄犬の分際で主人に逆らうなんて。去勢するところですよ、この早漏」

 

「だから女の子なんだからその完全にアウトな発言はやめなさい!それに俺そういったことしたことないからどうかわからないし。って俺何ってんだ」

 

それに去勢って聞くとキャスターの『呪法・玉天崩』またの名を『一夫多妻去勢拳』を思い出す。

 

意味の知らない留美ちゃんと言い出したカレン以外の女の子が顔を赤くしてるし。あと戸塚くん。比企谷は少し引き気味。

 

そう言えば俺ってカレンと会話しているとき高い確率で下ネタになる気がする……。

 

「それで岸波くん、今回はどんな厄介ごとだったのかしら?」

 

雪ノ下さんが話を変えた。

 

「ショッ〇ーと戦ってた」

 

「お前は仮面ラ〇ダーかよ。それにショッ〇ーが通じるのは平塚先生ぐらいだ。俺らぐらいの年齢はイ〇ジンだろ」

 

比企谷がそうツッコムのだが。

 

「イ〇ジン?何それ?」

 

「はっ?お前仮面ラ〇ダー〇王見てねぇの?その後にプリ〇ュア見てねぇの?」

 

「プリ〇ュアは名前ぐらいしか知らないな。初期のふたりはプリ〇ュアは見てたけど、あまり記憶にないかも」

 

「はぁ…ダメだな」

 

え?俺、呆れられた?どうして?

 

「まぁいい。なぁ岸波お前の過去教えてくんね?」

 

急展開だな。

 

 

 

 

 




次回は水着回。
そして岸波白野の過去は明らかになるのか?次回で明らかになりませんけど

『猛虎硬爬山』はアサシン先生がバーサーカー状態のとき使う技です

それではまた次回!


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岸波白野の過去への秘密。

さて、今回はどうなるのか?さほど驚くような展開はありませんが楽しんで読んでもらえたらうれしいです




 

 

 

「簡単だ。わからないなら聞けばいいんだよ」

 

「誰から」

 

「岸波本人からだよ」

 

そう、あいつが正真正銘のシスコンであるのなら簡単だ。

 

「でもヒッキー?どうやってキッシーから聞き出すの?」

 

由比ヶ浜が疑問に思ったようなので俺が言おうとしたその時言峰が立ち上がり

 

「簡単ですよ由比ヶ浜さん。少々耳を貸してください」

 

言峰は由比ヶ浜に近づいて

 

「比企谷さんは白野先輩の妹に………」

 

そして由比ヶ浜の耳元で小声で何かを話している。そして由比ヶ浜の顔はみるみる赤くなって

 

「ヒッキー、サイテー!!桜ちゃんに何させようとしてんの!」

 

「はぁ!何のことだよ!ってか俺は何も言ってねぇんだから言峰の言葉を信じるなよ!それにお前は由比ヶ浜に何を吹き込んだんだよ」

 

「比企谷さんは女性の口から聞いていいことと悪いことがあるって知ってますか?もしかして比企谷さんも白野先輩同様の鬼畜外道という事でしょうか」

 

言峰はそのあと「フフフ」と怪しい笑みを浮かべて笑っている。

 

こいつ、俺が今まで見てきた女の中にいなかったタイプだ。そしてこいつは黒い。雪ノ下陽乃と似ているが全く違うタイプの黒。

 

「茶番はこれまでにして、早く話を進めましょう。それで比企谷くん、岸波くんのシスコンをどう使って解決しようとしてるのかしら?」

 

「簡単だ。ある言葉一つであいつは話すはずだ」

 

 

 

 

 

「なぁ岸波お前の過去教えてくんね?」

 

急展開だな。

 

それに比企谷も俺の過去を知りたいのか?思ってもいなかったな。

 

「まさか比企谷からそれを聞くとは思わなかったよ」

 

「いや、俺はお前の過去とかそういったことには興味はねぇよ。今回の依頼だからな」

 

依頼。この単語でだいたいは把握した。

 

「桜から?」

 

「ああ、そうだ。お前の妹からの依頼だ。それでもう一度聞くがお前の過去を聞かせてくんね?」

 

「そうだなぁ……もう少し待ってほしいかな。誰か一人でも俺の過去に辿り着いたらみんなに話すつもりだから」

 

俺がそう答えると、比企谷が桜のほうを向いて「だそうだが、どうする」と聞く。

 

それを桜は「嫌です」とキッパリ一言、俺の返答を跳ね返す。

 

そして決め手に

 

「兄さんは『私と兄さんの過去どっちが大切なんですか?』」

 

「………い、今なんと?」

 

「兄さんは『私と兄さんの過去どっちが大切なんですか?』」

 

や、やられた……。こう言われたら『桜』としか言えない。

 

でも桜がこんな悪女みたいなことを言うとは……。

 

これは桜は言わないというより思いつかないはずだ。そうなると。

 

「ひ、比企谷。もしかしてお前が、桜に……」

 

「ああ、こうすればお前は絶対に話さなければならない。じゃなきゃお前はシスコンじゃねぇ」

 

ひどい。桜を悪女にして。まさか小町ちゃんとかに言われてたのか。小町ちゃん恐ろしい子!

 

それにたぶんだが、俺は雪ノ下さんでもカレンでも、たぶん陽乃さんでも、いやこの場にいる人にこれを使われたら答えなければならなくなる。

 

俺にとって大切と思える人にこれを言われたら、俺は自分の過去よりも大切な人を選ぶ。そして選んだ場合は過去を話さなければならない。

 

話さなかったら、それは過去のほうが大切ってことになる。

 

「はぁ……わかった。言うよ。ただこの林間学校の間は待ってくれ。心の準備の時間が欲しい。それに今日は疲れたからお風呂に入って眠りたいし」

 

平塚先生の勘は当たったってことか?誰かが過去を見つけてくるんじゃなくて、俺自身から話さないといけない状況にするとは。完全に裏を掛かれた気分。

 

というよりズルくない?クライムバレエ並にズルいよ。

 

俺がその場を離れようとしたら

 

「岸波くん。大浴場は女子が使うから、男子は管理人棟にある内風呂だそうよ」

 

「あ、うん。教えてくれたありがとう。まぁ最初から内風呂で済ませるつもりだったから」

 

「そ、ならいいわ。でどうして最初から内風呂を使うつもりだったのかしら?何か隠してるの?」

 

「………」

 

墓穴を掘ったかな?いや、どうせ話すことだからいいけど……。

 

「えーっと、桜。留美ちゃんの目を両手で隠してくれ」

 

「は、はい」

 

桜が留美ちゃんの目を隠す。

 

「白野。白野も私を仲間外れにするの?」

 

「いや、違うよ。今回のことは少々、留美ちゃんのような小学生には厳しいかと」

 

「?」

 

俺は周りを見渡し。覚悟を決めて今着ている服の裾を胸部の下あたりまでたくし上げる。

 

そしてこの場の空気が一気に冷める。

 

そう、俺の身体はボロボロなのだ。

 

火傷、切り傷、刺し傷、継ぎ接ぎのような縫った痕。人に見せられるようなものではない。

 

そして俺は服の裾を戻す。

 

「これが俺が隠してきたもの。そして今度俺が君たちに話すことは俺がどうしてこうなったかってこと。これで雪ノ下さんと桜が疑問に思っていたことが一つわかったんじゃないかな?」

 

俺が桜とお風呂に入ったことがないのも、小学生のころから水泳の授業が休みだったのも、それに桜がいたってのもそうだが、俺が学校行事の修学旅行などに行かなかった理由の一つだ。

 

 

 

 

 

岸波白野は知らない。自分が身体を見たあとに『かっこいい』とか『鍛えてるなぁ』とか『少し色っぽく感じる』とか『艶めかしい』とか『エロい』などとみんなが考えていることを。

 

 

 

 

 

はぁ……困った。

 

俺、岸波白野はシャワーを浴びながら考えていた。

 

まぁ陽乃さんが答えに辿り着いてから、いや、文化祭までには言うつもりだったから少し言うのが早かっただけで別に後悔は……あるな。

 

実際こんな身体を見せられたら今までの関係も壊れて、みんなの俺に対する接し方も変わりそうだよな。

 

それだけは嫌なんだよな。

 

これを見られたくなかったからある意味距離を置いてたんだし。それにこれを見せてしまった以上、俺の過去を話さないといけないんだよな。

 

一人は嫌だ。だけど近すぎるのも怖い。ムーンセルの英雄たちは傷ついている者のほうが多いし、この程度の傷ではなんとも思わないだろう。だけどこの世界では俺は異常だ。それを受けてもらえるだろうか?

 

その苦悩があったから、嫌われないようにそして好きにならないように自分の知らないうちにそういった感情をしまい込んだ。

 

そしてそれがあのとき(子猫が殺されたとき)に壊れた。

 

『あの不良たちは嫌いだ。俺の大切なものを壊そうとする』みたいな子供のような感情が俺の今までを壊した。

 

まぁあれがなかったら今でも俺は人に対しては戦おうとは思わなかっただろう。だから人を助けたりもしなかっただろう。

 

善悪を決めずに、ただそれを傍観してるだけだっただろう。

 

そう、だから壊れてよかったのだ。それ故に今は大切なものを守ろうとも思える。

 

ただ、そこで疑問に思えるのは、どうして俺は俺が作った心の壁が存在したときに、『桜は俺が守る』とか『雪ノ下さんに友達になって欲しい』とか思ったのだろう?

 

桜は前世の記憶があったからって考えたもいいし、俺の人生で初めての妹のわけだしな。でも雪ノ下さんはどうしてだ?俺に近いモノを感じたからだろうか?

 

たぶんそうだ。それにこの世界で初めて出会った同年代の多才の持ち主。ムーンセルのマスターのような人物だったからだろう。

 

だから俺は彼女に初めての友人になってもらいたかったんだ。

 

もし俺が自分の過去をみんなに話して受け入れてもらえたら、みんなに友達になってもらおう。もう俺が距離を置く理由はなくなるのだから。

 

 

 

 

 

俺が風呂に入ったのは一番最後だったので、男子のみんなは布団を敷いて寝る準備をしていた。

 

「岸波くん、風呂出たんだね。ごめんな一番最後で」

 

と葉山くんが気を遣ってくれた感じの台詞を言ってくる。いい人ですね。

 

「別にいいよ、一番最後でも。俺がみんなと話し合いをしている間にどっかに行ってたんだし」

 

俺は葉山くんと話をしている間に周りを観察。

 

やはり俺が身体を見せた二人、比企谷と戸塚くんは少し俺を警戒というか、気遣ったような感じかな?

 

「そいえばさぁ、隼人くんはき、きしなみくん?だったけ?知り合い?」と戸部くんが葉山くんに質問をする。

 

「あぁ、岸波くんとは知り合いかな?俺の憧れでもあるよ」

 

「「「は?」」」「へ?」

 

戸部くんどころか、比企谷、戸塚くん、そして俺本人が驚いた。

 

本当に驚いた。俺は憧れになるような人物ではないし、それに葉山くんのほうが俺よりも上の部分も山のようにあるはずだ。

 

「いやいや、岸波くんにはわりぃけど、隼人くんのほうが上っしょ」

 

「戸部くん、別に悪くはないよ。俺もそう思うから」

 

たぶん俺が葉山くんに勝ってるのは、勉強と運動の二つ。それに国語に限っては確か葉山くんのほうが上になるはずだし(期末試験では国語は三位になった。たぶん比企谷の上か同点か)、サッカーも絶対に勝てない。周りの人間関係も葉山くんのほうがいいし。それに顔がいい。マジでイケメンですよ。それに葉山くんもたいていのことはそつなくこなすタイプ。俺みたいなうっかりミスはしないタイプのはずだ。

 

そんな葉山くんがどうして俺を憧れるのだろう?

 

「君は俺にできないことができるからだよ」

 

なるほど、猫と話したり、動物を寄せ付けたり、魔術を使えるもんな。あれ?葉山くん全部知らないよな。

 

そんな話をしたあと、電気を消して眠ることにした。

 

まぁ眠れないんだが。

 

なんだろう緊張してるせいか眠れない。

 

それにみんなもまだ眠らないようで、戸部くんが「好きな人の話しようぜ」みたいな修学旅行のようなことを言っている。まぁ行ったことはないんだけど。それにこういう会話をした覚えがありませんが。いや、あるな。

 

戸部くんは海老名さん。戸塚くんはいない。比企谷は飛ばされて、葉山くんがイニシャルがYだそうだ。

 

葉山くんの周りでYって、三浦さん、由比ヶ浜さん、雪ノ下さん、陽乃さんってところだよな。

 

陽乃さんは姉って感じだと思うし、由比ヶ浜さんは比企谷のことが好きって知ってそうだよな。

 

そうなると三浦さんか雪ノ下さんのどっちかだったりして、これ以上深入りするのは葉山くんに迷惑だろうからやめておこう。

 

「岸波くんは好きな人いるん?」

 

矛先が俺に変わった。

 

「またどうして俺にそんなことを聞くの?」

 

「いやぁ、だって岸波くんの周りって美形多いっしょ?」

 

「確かに多い」

 

「ってことはさ、気になる子ぐらいいたっておかしくないっしょ」

 

おかしいでしょう。でもまぁ答えるとしたら

 

「今は好きな人はいないかな」

 

「なんだ、今はって昔はいたのか?」

 

比企谷が話に混ざってきた。

 

「いた。結構俺って恋多き男でな。好きな人は何人もいたよ」

 

「へぇ、意外だな。俺はお前はそういうのないと思ってたわ。なんだフラれたことあんのかよ」

 

これって『うん』って言わないといけないやつだ。だってこの世界での話じゃないし。

 

「………う、うん」

 

それにどちらかでいうと相手からアタックされてそのままって感じだよな今まで。

 

セイバーやキャスターがそうだし、桜もなんだかんだでそれに近いし。

 

あれ?俺から告ったことって……あるな。全部、告ってる。そしてうまくいって、何故かここにいるんだよな。

 

ちょっと理不尽じゃないか?まぁ俺がここにいるのを望んでいるんだし、理不尽ではないか。

 

「そんじゃあ、どんな子がタイプなんだい?」

 

まさかの葉山くんも聞いてきた。

 

「隼人くん寝るんじゃねぇの?」

 

「岸波くんの好きなタイプが気になったんだよ」

 

タイプねぇ……。

 

「可愛い子なら誰でも好きだよ、俺は」

 

どうよ。アーチャーの言葉。

 

「「「「……」」」」

 

「あれ?みんな?どうしたの?今のはウソだよ」

 

「岸波、それを女子の前では言わないほうがいいぞ」

 

「わかってるよ。だから男子だけのときに冗談で言ったんだよ」

 

「その冗談は通じないと思うから気を付けたほうがいいよ」

 

葉山くんが言うんだから間違いないな。

 

それからどれぐらい経ったか、葉山くん、戸部くん、戸塚くんは寝息を立てている。

 

比企谷は「こりゃ、寝れる気がしねぇな……」と言って外へ出ていった。

 

どういうことだ?

 

まぁ外にはもうエネミーはいないから大丈夫だろう。

 

そして俺も目を瞑り、寝ることにした。

 

 

 

 

 

朝、いつも通り五時に起きトレーニングをしたいところだけど、昨日の戦いでちょっと無理をしたから、散歩でもするか。

 

俺は外を歩きながら昨日の寝ている間にアーチャーに言われたことを考える。

 

『今後ムーンセルがどう動くかはわからない。ただ今回のようなことがまた起きるかもしれない。だから気を付けてくれ。こちらでも対策を考えておく』

 

でも今の俺にできることは、何かが起きるまで待つことだけなんだよな。

 

推測はできても何時、何処で起きるかがわからないんだから、どうすることもできない。

 

それから時間は流れ、みんなと一緒に朝食を食べて、平塚先生から今日することを聞いた。

 

で、今、キャンプファイヤーの準備を終え、自由時間になったのだが俺に自由はない。

 

「さぁ、脱ぐのです」

 

「嫌です。で、なんでカレンがその言葉知ってるの?それ俺のトラウマに近いんだけど」

 

今、俺はカレンの持っている赤い布?のようなものでグルグルに巻かれ、木にぶら下がっている状態。ミノムシ状態である。それにこの布絶対に魔術関係だろ。

 

そしてカレンは水着姿である。黒のビキニで腰に白のフリルが付いている。カレンは黒が似合うよね。

 

「白野先輩、今は自由時間で、皆さんが水着でキャキャムフフの状態になるのですよ。それなのにどうして白野先輩は服を脱がないのですか?」

 

「そんなの決まってるでしょ。昨日カレンも見たと思うけど」

 

「大丈夫です。白野先輩のいやらしいエロい身体は誰も引いたりはしません」

 

「今の言葉でさらに脱ぐ気がなくなったよ。なに?俺の身体ってみんなにエロいって思われたの?」

 

なんだか、すごい嫌だ。

 

「はい、鍛えられた肉体にアクセントを加えるような傷や火傷。興奮が止まりませんね。ハァハァ」

 

「もう、絶対に脱がない」

 

それにハァハァの部分が棒読みだったぞ。

 

「ですが白野先輩。合法的に女性の半裸を見ることができるのに、あなたは何の代価も払わずに見れると思っているんですか?」

 

「と言いますと」

 

「白野先輩は私の水着姿を見ている時点で、私にも白野先輩の水着姿を見る権利があるということです」

 

「意味が分からないから。まず俺、水着を持ってないし」

 

勝ったな。そう俺は水着を持ってきていないのだ。

 

「大丈夫ですよ兄さん。私が持ってきました」

 

あ、負けた。

 

「ってなんで?おかしいよ。生まれてこの方水着を買った記憶がないのにどうして桜が俺の水着を持ってるのさ」

 

桜の水着は、薄いピンクのビキニ。そしてやはり目に入るものといえば

 

桜、胸大きいね。本当に中学生?

 

「さぁ、兄さん。早く着替えて一緒に遊びましょう」

 

「ねぇ、桜はどうして俺に水着を着て欲しいの?」

 

「そ、それは兄さんとこういうので遊ぶのは初めてですし…昨日、初めて兄さんの身体を見て……」

 

そして桜は顔を赤くして俯いた。

 

反応は可愛いし、普段なら間違いなく即決なんだけど、どうしてだろう。カレンが言ったことを聞いた後だとダメだ。

 

「お前どうした?」

 

「おお、比企谷。今の俺状況は気にしなくていいけど、比企谷は水着持ってきてないのか?」

 

「気にするなってミノムシ状態のやつに言われてもな、気になって仕方がねぇよ。それで俺は水着を持ってきてないんだよ」

 

「そうか、なら比企谷もミノムシ状態になるか?」

 

「嫌だわ!どうして水着を持っていなかっただけで、お前みたいにならんといけねぇんだよ!」

 

比企谷がそういうと、カレンが比企谷の肩を叩いて

 

「ええ、水着を着ていない人はこうなる運命なんですよ。合法的に女性の半裸を拝めるなんてそれ相応の代価を払うべきではないでしょうか?」

 

「代価ってなんだよ」

 

「簡単ですよ。同じ状態になるか、見ないか、吊るされるか、死ぬかです」

 

「最後の二つおかしいだろ。死ぬってなんだよ」

 

「そして比企谷さんはすでに私やそこの妹の半裸を見たということ。もう、半裸になるか、死ぬかのどちらかですね」

 

「おい、吊るされるはどこにいった。それに俺水着持ってねぇから死ぬしか残ってねぇじゃねぇか」

 

「あら、本当ですね。では死にますか?」

 

「死なねぇよ。岸波、こいつおかしいだろ」

 

俺はカレンと比企谷のやり取りを見ていたのだが、比企谷が俺に話を振ってきた。

 

「まぁカレンはいつもこんな感じだから、むしろカレンがこうなるのって俺以外にいないと思ってたから、少し俺も驚いてるかな」

 

「たぶん、私が白野先輩よりも早く比企谷さんと出会っていたら、比企谷さんを玩具にしてました」

 

俺、カレンの玩具なんだ……。ペットよりもひどいな。

 

「なんで俺がお前の玩具になるんだよ」

 

「それは単純に私が愉しそうだと思うからですよ。フフフ」

 

ここで愉悦笑い。比企谷はカレンの笑みにゾクリと悪寒を感じたのか身体を震わせた。

 

その後他のみんなもここに来たようなので、俺はみんなの水着姿を見る。

 

雪ノ下さんの水着はパレオで隠しているのでどういう水着かはわからないが、雪ノ下さんの綺麗な身体のラインはわかる。

 

由比ヶ浜さんは青いビキニで下はスカートのようになっている。

 

小町ちゃんは薄い黄色のビキニでふちにフリルがあしらわれている。

 

平塚先生は白のビキニ、さすが大人の女性。完成しきった身体。なぜ結婚できないんだろうか?

 

「岸波くんはどうしてそのような格好なのかしら?」

 

「カレン曰く、合法的に女性の半裸を見るのだからそれ相応の代価を払う。で払える代価がないから吊るされているんだよ」

 

「代価ってなに?」

 

と由比ヶ浜さんが聞くのだが、どっちの意味だろ?代価っていう言葉の意味を尋ねているのか、何を代価にするのかと尋ねているのか。

 

「代価っていうのはな、ある事柄を成し遂げるために生じた犠牲や損害っていう意味だ。簡単に言うと買い物の時に払う金だな。欲しいものを得るんだから、それに必要な分の金を払うだろ」

 

と比企谷が懇切丁寧に前者のほうの説明をしてくれた。

 

「へぇそうな……って知ってるから!ヒッキーバカにしないでよ。そうじゃなくてそのお金のほう」

 

「代価は、同じように半裸になるか、見ないか、吊るされるか、死ぬかのどれかだったな」

 

「ものすごくバカバカしい代価ね」

 

呆れ声で雪ノ下さんが正論を言う。

 

「では皆さんはここのゴミ、ではなく、ここの残念なお二人の半裸は見たくないのですか?」

 

「「今、完全にゴミって言ってたよな」」

 

俺と比企谷が同時に同じことをツッコム。

 

「黙りなさい、この駄犬ども。去勢しますよ」

 

「「すみませんでした」」

 

怖いよ、カレン。

 

それより、みんな何故悩む?男の半裸の何がいいんだ!?

 

「ああ、そういえばこの手段がありましたね。白野先輩」

 

「な、なんでしょうか?」

 

い、いやな予感。

 

「白野先輩、この場にいる人たちと自分の身体どっちが大切なんですか?」

 

「ねぇその質問さ。もう答えわかってるでしょ。それに自分の身体って答えたらナルシストみたいじゃん」

 

こうして俺は水着を着ることを決意した。

 

何?このどうでもいい決意。

 

 

 

 

 




今回は水着回でした。と言っても次回もこの続きですが

そして白野くんの秘密を公開。過去も話すことになりました
最初は白野くんが着替えているところを誰かに見つかってみたいなことを考えておたんですけどねぇ
白野くんの過去は二、三話後になりそうですね。まずは留美ちゃんですね

書いてて思ったのですがカレンとヒッキーっていい感じな気がするんですよね

それではまた次回!


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君なら正しい道を選べるよ。

投稿が遅れて誠に申し訳ありません。何故かたまにパソコンの調子が悪くなるんですよね

今回は肝試しの準備のところまで書きました


 

 

 

俺はカレンから赤い布の拘束を解いてもらい、桜が何故か持っていた俺の水着を受け取り、ビジターハウスに着替えに行くことにいした。

 

移動しているとき三浦さんと海老名さんとすれ違った。

 

三浦さんは蛍光色っぽい紫のビキニ、海老名さんは競泳水着だった。

 

この合宿でこの二人とはあまり話してないな。まぁこの二人は悪い人ではない。三浦さんはテニスのときで何となくわかってきてたけどね。それで海老名さんは、腐女子?だったけ?

 

まぁ二人のことはいいや、まずは自分のことだな。

 

ビジターハウスに近くに来て、男子三人と出会った。

 

「あれ?岸波くんどうしたの?」

 

俺がビジターハウスにむかっているのを不思議に思ったのか戸塚くんが葉山くんと戸部くんに「先に行ってて」と言って俺に近づき話しかけてきた。

 

「まぁ、いろいろあって水着を着ないといけなくなったんだよ」

 

「え?でも……」

 

戸塚くんは俺の身体のことを気にしているのか、申し訳なさそうに口ごもる。

 

まぁ、それはそうだよな。カレンがおかしいだけだよな。

 

「すこし不謹慎かもしれないんだけど、岸波くんの身体カッコいいと思うよ」

 

「へ?」

 

「僕ってあまり筋肉とかも付いてないし男らしくないから、岸波くんみたいな身体カッコいいと思うんだ」

 

「………う、うん、ありがとう?」

 

あ、あれぇ~?おかしいぞ。俺は俺の身体の傷とかは気持ち悪がられると思ってたんだけど……。

 

別に嫌と言うわけではない。むしろ良い。(セイバーをマネてみた)似てないな。

 

嬉しいんだけど、なんだろう自分が思っていた反応と違うせいか。変な気分だ。

 

「ねぇ戸塚くん」

 

「どうしたの?」

 

「どうして俺の身体を見てプラスの反応が出たの?俺はマイナスの反応が出ると思ってたんだけど」

 

俺の質問に戸塚くんは少し悩んだようで、数秒してから答えを出した。

 

「最初は驚いたけど、岸波くんだったからかな」

 

「俺だったから?」

 

「うん。みんな岸波くんは優しい人だってわかっていたから」

 

優しい人か……。

 

本当にそれは正しいのだろうか?俺は人から優しいと言われても実感がないんだよな。

 

でも褒め言葉ではあるんだから嬉しいんだけどね。

 

「そう言ってもらえると嬉しいかな」

 

「それに今までおかしいことが多かったことが」

 

「…………」

 

俺ってそんなにおかしかった?

 

そして戸塚くんは俺が着替えるのを外で待っていてくれた。先に行ってもよかったんだけど。戸塚くんのほうが優しい人だと思うよ。

 

 

 

 

 

 

俺が着替え終わり、戸塚くんと川に向かい、初めにカレンに出会った。

 

カレンが俺の姿を見て一言、残念そうに

 

「何故上着を着ているのですか?」

 

「なんで残念がっているのかはわからないけど、俺の身体のことを知らない人もいるんだからそうそう見せたりはしないよ」

 

「まぁいいですけど、何故水着を持っていない先輩がそのいかにも水で遊びますみたいな上着を持っているんですか?」

 

「まぁいろいろとね」

 

この上着はギルの『わくわくすいまー』の上着である。

 

俺の電子手帳の中には月の裏側で手に入れた服等も入っている。だから俺は実際は水着を持っているのだ。

 

そして、桜が何故か持っていた俺の水着とわくわくすいまーの上着を着たわけだ。

 

上着は俺の身体サイズよりも大きいのでしっかりと身体の傷を隠すこともできる。

 

そしてみんなと合流すると今度は比企谷が吊るされていた。

 

「は、八幡!?大丈夫!?」

 

戸塚くんは驚きながら比企谷に近づいて行った。

 

なるほど、俺が水着になったからあの赤い布は比企谷に使ったんだな。

 

「上着を着てるんですか……」と桜も残念そうに言ってくる。

 

「桜、なんで残念そうなの?俺のほうが残念だよ」

 

俺はため息を吐く。

 

「あ、そんなことよりですね」

 

小町ちゃんが今の空気を換えるため話を変えよと何か話題を出そうとしている。

 

「岸波さんて巨乳派ですか?貧乳派ですか?」

 

な、何という質問だ!

 

それに何人かこっちを見ていないけど、聞き耳を立てている気がする。

 

「あのぉ小町ちゃん?どうしてそんな質問になるの?」

 

「先ほど三浦さんが雪乃さんの胸を見て勝ち誇っていまして、その後桜ちゃんの胸を見て悔しがっていたので岸波さんはどっち派かなぁっと」

 

なるほど、全くわからない。

 

「まぁ桜は中学生か疑うくらいのスタイルの良さだからな。それに頭もいいし、家事全般もこなせるし、性格もいいし、面倒見もいいし、美人だからな。たいていの女性は桜の何処かに嫉妬するだろうな」

 

「小町はある程度割り切っているのでそういったことはありませんけど、桜ちゃんは苦手なものとかあるんですか?」

 

「桜は運動が苦手なのかな?まぁだから守ってあげたいと思うんだけどね。か弱い女の子って感じで」

 

「相変わらずのシスコンぶりですねぇ。でも岸波さんにしたらほとんどの女性がか弱いと思いますよ」

 

「そうかな?」

 

まず英雄の皆さんは俺よりも強いからな、それにこっちでも平塚先生とか陽乃さんは強いと思う。

 

「それで、岸波さんはどっち派ですか?」

 

やっぱり聞くんだ……。ここは返答は間違えられないな。と言っても答えは決まっている。

 

「どっち派って言われても、あまりサイズとかでは判断してないしな」

 

「煮え切らない答えだなぁ。なら強いて言うならどちらですか」

 

どんだけ気になるんだ?

 

「そうだなぁ。強いて言うなら………」

 

まず、ムーンセルで俺が好きになった人は、セイバー、キャスター、桜。全員胸は大きいよな。でも彼女たちは胸とかで見てなかったし。

 

なら他の女性から考えよう。

 

巨乳といえば、リップ、キアラとか。うーん……嫌いではないけど……。

 

じゃあ貧乳といえば、メルト、エリザベートってところか?同じく嫌いではないけど……。

 

「やっぱりその人にあったスタイルが一番。バランスが一番だよ。アンバランスなのは……別に悪くはないな。アレ?俺ってどっち派なんだ?」

 

「まさかの疑問から新たな疑問が生まれるなんて……この人は格が違うな。じゃあ、ここにいるメンバーで一番のタイプは?身体的な意味で」

 

その月の裏側で聞かれた質問をここで聞かれるとは……。

 

「ここにいるメンバーと言いますと?」

 

「そうですねぇ。雪乃さん、桜ちゃん、カレンさん、結衣さん、平塚先生、小町の六人からでお願いします」

 

「パスで。それ」

 

当たり前でしょう。こういう質問は周りに人がいないときに聞かなくちゃいけませんよ。

 

何故か何人かガッカリしてるな。

 

「というより、川で遊ぶにしても何をすればいいのかな?俺って水泳の授業とかしたことないからこういうとき何をするのかわからないんだよ」

 

まぁ電子の海に放り出されたことはあるけど。

 

「基本は水をかけ合うとかじゃないですか」

 

水をかけ合う。何か意味があるのか?

 

「簡単に言えば周りの空気に流されて、バカをやればいいんだよ」

 

吊るされている比企谷がそう言ってきた。

 

「なるほど、でも俺には少し難しいかもな」

 

「それってどいう意味だ?」

 

「俺は何事にも真剣に取り組みたいんだ」

 

「お前らしいといえばお前らしいんだが、この場においては今の発言が一番バカっぽいな」

 

「うん。俺もそう思う」

 

それから、何をすればいいのかわからない俺は、少し離れた場所でみんなを観察しながら自分のすべきことを考えることにした。

 

結果わからなくなったので、俺は比企谷の吊るされている場所に戻ることにした。

 

「ダメだ比企谷。俺には何をするべきか分からない」

 

「まぁ無理だろうな。さっきまで雪ノ下もそんな感じだったが、由比ヶ浜のおかげで今じゃ、女子全員でウォーターバトルが開幕してる」

 

確かに雪ノ下さんが一人でいたから近づこうと思っていたのだが、由比ヶ浜さんのおかげで雪ノ下さんは一人ではなくなったしな。

 

カレンもそうなると思っていたのだが、驚くことにすでに桜とウォーターバトルしてたし。

 

確か「あなたにはあげません」とか「妹の分際で何を言っているのやら」とか言い合ってたな。

 

意外と仲がいいんじゃないんだろうか?

 

「なぁ、岸波」

 

「どうかした?」

 

「そろそろ、この状態から抜け出したいんだが」

 

「さすがに吊るされてる状態は辛いよな」

 

どうにか比企谷を助け出し、一緒に木陰で休もうとしたとき小道のほうから見知った女の子が現れた。留美ちゃんだ。

 

 

 

 

 

「やぁ」

 

「よっ」

 

俺と比企谷が声をかけると留美ちゃんはうんと頷き、そのまま俺たちが座っている木陰に歩いてきて座る。

 

座っている順は、比企谷、俺、留美ちゃんの順だ。

 

「留美ちゃん。どうかしたの?」

 

ある程度は予想がつくけど、聞いておこう。

 

「朝ごはん終わって部屋に戻ったら誰もいなかった」

 

「そうか」

 

俺は留美ちゃんの頭に手を乗せて軽く撫でる。

 

「ねぇ。白野と八幡はどうしてあっちに行かないの?」

 

留美ちゃんが話をするようなので俺は撫でるのをやめる。

 

「呼び捨てかよ。まぁあれだ。水着持ってきてねぇんだよ。」

 

「ふーん。白野は?水着着てるみたいだけど」

 

「俺は何をするべきか分からなかったんだよ」

 

「白野らしい」

 

留美ちゃんは少し笑みを浮かべる。

 

「なぁお前らって面識あんの?」

 

比企谷は当然のように疑問を持ったようだ。

 

「ああ、面識どころかメールアドレスを交換し合ってるぐらいは仲はいいよ。他にも料理や勉強を教えてるかな」

 

「スゲェ仲いいな。家族ぐるみの付き合いでもあんのかよ」

 

「家族ぐるみと言うよりは、留美ちゃんは鶴見先生の娘さんだから」

 

「は?」

 

比企谷はそれを聞いて留美ちゃんのほうを向くと、留美ちゃんは頷く。

 

「意外と身近だったな」

 

比企谷は驚いた後たまにある、脱力のような状態になる。

 

俺たちが話していると、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが近づいてきた。

 

桜とカレンはまだ戦っている。

 

そこに小町ちゃんと平塚先生も参戦している。

 

由比ヶ浜さんが留美ちゃんの前にしゃがむ。

 

「あの……留美ちゃんも一緒に遊ばない?」

 

留美ちゃんは首を横に振る。まぁそうなるよね。

 

「だから言ったじゃない」

 

雪ノ下さんがそう言ったあと、何故か留美ちゃんが一言。

 

「白野と八幡と話してたほうが楽しい」

 

お、おかしいな。空気が重くなったぞ。

 

「岸波くん」「ヒッキー」

 

「「は、はい!」」

 

怖いぞ。なんだろう?雪ノ下さんはたまにあるからいいけど、由比ヶ浜さんはそうそうないぞ。対象は比企谷でよかったと思ってしまった。

 

でもやはり雪ノ下さんのほうが怖いな。夏なのに寒気を感じる。少し身体でも冷やしたかな?

 

仕方がないここは俺の華麗な話術で話の流れを

 

「ね、白野、八幡?二人って小学生のころの友達っている?」

 

留美ちゃんがどうにかしてくれた。

 

「いない、な……」と比企谷の答え。

 

次は俺なんだが。

 

「俺は友達はいないけど、一応、小学生からの付き合いがある人なら目の前の雪ノ下さんがそうだね」

 

「ええ、そうね。岸波くんとは友達ではないけれど、小学生からの付き合いがあるわね」

 

雪ノ下さんが『付き合い』の部分を強調していたような気がしたが気にしないでおこう。

 

「俺も比企谷も小学生のころの友達はいないことになるな」

 

「それ以前に友達と呼べる人間がいないんだが……」

 

まさにその通りです。

 

「簡単に考えれば友達がいないと、俺や比企谷みたいな感じの高校生になるわけだ」

 

それを聞いて留美ちゃんは悲しそうな顔になり「………嫌だな」と呟く。

 

「なんでそんな泣き出しそうなんだよ……」

 

同じく、自分で言っておきながら小学生の女の子にこうなりたくないと言い返されたのだ。それは辛い。

 

俺と比企谷が項垂れる。

 

「何故かしらね。この二人ところどころ似てるわよね」

 

「うん。あたしもそう思う」

 

「そうかな?」「は?」

 

俺と比企谷の類似点って、友達がいないこととシスコンなことぐらいじゃないか?

 

「まぁ俺も留美ちゃんには俺や比企谷みたいにはなって欲しくないな。もう少し普通な子に育ってほしいよ」

 

「なんかキッシーお父さんみたいになってるよ」

 

「それだと自分を異常と言ってるようなものよね」

 

「お父さんって……。そこはお兄さんにしてくれない?それにもう俺も諦めはついてるから、俺は普通ではなく異常だって。でも異常ってアブノーマルっていうから少し格好良くない?」

 

「いや、格好良くねぇよ。お前は箱〇学園13組の生徒か」

 

そうか……格好良くないか……はぁ……。

 

俺はため息を吐く。

 

それから比企谷が留美ちゃんに小学生の頃の友達は切り捨てても構わない誤差だとかいろいろと説明していた。

 

確かにそういう考え方もある。ただ本当にそれでいいのだろうか?

 

いいのだろう。今回の場合は間違いなく比企谷の考え方は正しい。今は悪くても将来に希望があるのならそういう考え方は正しいはずだ。

 

でも、

 

「やっぱり小学生の頃には誰かと一緒にいたほうがいいと思うよ」

 

俺がそういうとみんなが俺のほうを向く。

 

これは間違いないからな。

 

「実際に俺にもそういう人はいたし、比企谷にも一応、小町ちゃんがいたからな。身近な人とかそういう人は大切だ。留美ちゃんは一人っ子だし、鶴見先生も仕事とかで家にいる時間のほうが少ないかなら。そうなると友達みたいな人は必要だよな」

 

「岸波くん。どうして鶴見先生が……そういうこと。この子が鶴見先生の娘さんってことね」

 

「え!?」

 

雪ノ下さんは留美ちゃんが鶴見先生の子供だとわかったようだ。それで由比ヶ浜さんは比企谷と同じように驚いている。

 

それから留美ちゃんは俺に前話したことをこの三人にも話し始めた。

 

自分が惨めだと。それが嫌で辛いと。留美ちゃんは自分が周りを見限ってしまったことを後悔しているのだ。

 

そして比企谷は立ち上がり、一言言って去っていった。

 

「……肝試し、楽しいといいな」と。

 

俺は比企谷の考え方をすでに理解していた。

 

比企谷は壊すのだろう。留美ちゃんが今までいた偽りの空間を。

 

俺にはできないことだ。たぶん俺には比企谷みたいなことはできない。

 

なら俺は留美ちゃんに言っておこう。

 

「留美ちゃん」

 

俺が留美ちゃんの名前を呼ぶと留美ちゃんは俺のほうを向く。

 

「留美ちゃんにはある選択肢が出てくると思うけど、自分が正しいと思った方を選んでね。君は人に手を差し伸べることができるぐらい強い子だから、自分が選んだ道を信じて歩いて。それは何があっても間違いじゃないからさ。君なら正しい道を選べるよ」

 

俺の言葉はこの場にいた全員が意味が分からないようで小首を傾げている。

 

俺は留美ちゃんの頭を軽く撫でてから、立ち上がる。

 

そろそろ着替えるか。身体冷えてきたし。そういえば川で遊んでないな。まぁいいか。

 

 

 

 

 

さて、肝試しの用意をしているわけだが。

 

「それで、どうするの?」

 

雪ノ下さんが留美ちゃんのことの口火を切った。

 

そこで葉山くんは『みんなで話し合いをさせる場をもうける』や『一人ずつ話し合えば』ととても優しい解決方法を出してみたが、由比ヶ浜さんと海老名さんに却下された。

 

そして比企谷が「考えがある」と言って、雪ノ下さんに即却下された。

 

雪ノ下さん、話聞こうよ。

 

「でも、比企谷。本当にそれでいいのか?俺は別に構わないけど」

 

「おい、俺何も言ってねぇんだけど。なんでお前はわかっちゃうんだよ」

 

「何言ってんだよ。俺とお前の仲だろう。……いい。これは新展開があるかも。ぐふふ」と海老名さんが言う。

 

どういうことでしょうか?

 

まぁいいや。俺が推測した比企谷の考えを述べる。

 

「比企谷の場合だから、誰かに不良役でもやらせて、五人グループの彼女らに三人置いていけとか言わせる。そして仲良しグループ(仮)のような彼女たちの空間そのものを壊す。そして問題の解決ではなく、問題の解消をするとかじゃない?」

 

「はぁ、お前はスゲェな。お前にわからないこととかあんの?」

 

「それはあるよ」

 

「例えば?」

 

「そうだなぁ。平塚先生の婚期とか?」

 

「ああ、確かにそれはわからないな」

 

「何がわからないって?」

 

ビクッ!

 

俺と比企谷が背後から危険を感じ逃げようとしたが遅かった。

 

「撃滅の、セカンド・ブリットォ!」

 

背後から俺の芯を打ち抜くような一撃がきた。

 

ああ、時が見える……。

 

俺が倒れた後、比企谷もやられたようだ。

 

 

 

 

 

数分後、復活した俺と比企谷は、他のみんなに説明をする。

 

みんなは比企谷の性格が悪いと思っている者もいれば、俺が比企谷の考えを当てたことに驚いている人もいたようだ。

 

一応、みんなはこの比企谷の考えに乗ってくれるようだ。

 

これからは葉山くんが頑張ってくれるようだ。葉山くんは「みんなが一致団結して対処する可能性に賭ける」と言っていたが、たぶん無理だろう。

 

確かにみんな根は良い子だ。ただ根が良くたって人は人なのだから自分が助かることだけを考えてしまうだろう。

 

そしてあの中で唯一行動に出れるとしたら、それは留美ちゃんだ。留美ちゃんは優しいからな。絶対に他の子たちを救ってくれるだろう。

 

ただ残念なのは今回俺にはやることがないことだ。俺には結果が出るまで何もできない。

 

 

 

 

 

「肝試しを盛り上げるために、君たちに怪談をしてほしいというリクエストがあった」

 

平塚先生にそう言われた。

 

「これは桜とカレンの出番だな」

 

「では、その二人から怪談をしてもらおう」

 

それからみんなで、二人から怪談を聞いた。

 

結果。

 

「ゆ、ゆきのん、どうしよう。今日寝れないかも」

 

由比ヶ浜さんは涙目になり雪ノ下さんに抱き付いている。

 

「はぁ、由比ヶ浜さん。怪談は全て偽りなのだからそこまで怖がらなくてもいいじゃない。でも仕方がないわね。今日は一緒に布団で寝ましょう」

 

雪ノ下さんも怖いようで。

 

「小町は桜ちゃんと寝ます!」

 

そして小町ちゃんは桜に抱き付いている。

 

「小町ちゃん、大丈夫ですよ。今の怪談は本当にあった話らしいですけど、ここではないので」

 

「「「え?」」」

 

三人ともそれを聞かされ少し驚いている。

 

「フフフ、いいですね。恐怖に怯えている人たちを見るのは」

 

カレンは愉悦笑みを浮かべている。

 

「このレベルなら、小学生たちも満足じゃないですかね平塚先生」

 

俺がそう平塚先生に聞くと、さっきまでいたところに平塚先生がいない。

 

「あれ?平塚先生?」

 

辺りを見渡してみると、後ろにいた。

 

平塚先生は冷や汗を掻いているようだ。ああ、怖かったんだ。結構可愛いところあるなぁ。

 

これはあれだな。少し刺激が強すぎるかな?

 

まぁそれくらいがいいよな。最近の小学生はあまりそういうの怖がらないみたいだし。

 

 

 

 

怪談は桜とカレンに任せるだろ。それで比企谷と葉山くんが留美ちゃんのグループをどう誘導するかなどを話している。

 

不良役は葉山くん、三浦さん、戸部くんがやる。

 

本当にすることないな。

 

ただもしかしたら俺にはある役がくる場合がある。

 

それはまたエネミーが来るかもしれない場合だ。これだけは何があっても起きちゃいけないことだ。

 

だから俺がすることは、何事もなくこの作戦がうまくいくことを祈ること。

 

 

 

 

 




もうザビ男、エネミーが来るフラグ建ててますよねぇ
留美ちゃんのことは原作通りヒッキーに解決してもらいます

CCCの抱くならダレ?の質問はザビ子を使ったときは選ぶのが辛かったですね。まぁサーヴァントしか選んでませんが。ザビ男の場合はサーヴァントか桜でした。今思うと他の人を選んだらサーヴァントたちはどういう回答をしたのか気になってきましたね

それではまた次回!


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月が善からぬモノを送ってきたようだ。

今回は前回ザビ男が建てたフラグ通りエネミーが来る!

楽しんで読んでもらえると嬉しいです


 

 

 

「あたためますか?」

 

「なんだよ、それ」

 

俺の言葉に比企谷は『こいつ何言ってんの?』みたいな目で見てくる。

 

「俺もあまり好きではないんだけど、むしろ苦手なんだけどさ、これを着たら言ったほうがいいかなって」

 

「意味わかんねぇよ。それに完全にお前はコスプレだろ。そのカソック」

 

そう俺は今、カソックを着ている。肝試しに用意されていたモノではなく、俺が店長から貰ったお下がりのやつ。俺は持ってきた覚えがないのだが何故か入っていたので今着ている。

 

「でも、これを着ている人はたいてい怖い人だから肝試しの持ってこいだよ。たぶん」

 

俺は笑顔でそう言う。

 

「いや、それ以前に神父って脅かすもんでもねぇからな」

 

「確かに……」

 

で、でもこれを着てると完全にフランシスコ・ザビ……。

 

とまぁそれは置いておくとして、今コスプレではなく、肝試しの衣装を着ているのが雪ノ下さん・浴衣(雪女?)、由比ヶ浜さん・ヘソ出しの悪魔?の衣装、小町ちゃん・猫耳や肉球の手袋等(化け猫?)、海老名さん・巫女服、戸塚くん・魔女(戸塚くんの場合は魔法少女って感じ)。

 

他にも衣装があるようだし、残りは今怪談を小学生たちに話している桜とカレンの分かな?

 

何々、修道服か、カレン用って感じだな。

 

で、もう一つは………アイマスクとボディコンスーツって、サクライダー?

 

「…………」

 

着せさせるかぁ!!!

 

誰だ!俺の可愛い桜にこれを用意したやつら。カソックの中に何故かあった黒鍵で……柄しかないから無理か。

 

店長から貰ったときに聞いたけど『その場で作れば問題はない』とか言ってな。どう作るんだ?魔力を流したりするのかな?まぁ使うことはないか。

 

でも、もしもの時の為にカレンあたりに聞いてみよう。

 

このサクライダーの衣装は処分する。あとで破邪刀で丁寧に切り刻んでおこう。

 

 

 

 

 

カレンと桜の会談で数名泣いてる子もいたけど肝試しは決行されるわけだ。

 

俺は変わらず神父のコスプレしてはいるが、比企谷が言ったように神父って脅かすものではないよな。

 

「あら、白野先輩。それはお父様から貰ったものですか?」

 

背後からカレンに話しかけられた。

 

「うん。何故か俺の持ち物に入っててね。それで着る機会もないだろうから着てみたんだよ」

 

俺は振り返ってカレンに言う。カレンは修道服を着ていた。

 

「カレン。似合ってるね」

 

「ありがとうございます。褒めなかったら嬲り殺しですけど」

 

「いちいち怖いよ。ところでさ」

 

俺は周りに人がいないことを確認してからカソックの中にある黒鍵の柄を取り出す。

 

「黒鍵ってどうやって使うの?」

 

俺がカレンに黒鍵の使い方を尋ねたら、カレンは少し驚いたような顔をしている。

 

「白野先輩は黒鍵を知っているんですか?と言うよりどうして持ってるんですか?」

 

「持っている理由は、店長がこのカソックをくれたときに一緒に入ってたんだよ。十二個。全部柄だけ。で、知ってる理由は一度見たことがあって、更に店長から聞いたからだよ」

 

「そうですか。ですがどうしてお父様が白野先輩に渡したのでしょうか?」

 

「さぁ?それは俺も聞きたいけど、持っているからには使いたいんだよね。それで店長に前聞いたんだけど『その場で作れば問題ない』としか教えてくれなかったんだよね」

 

「ですが、たぶん白野先輩には使えませんよ」

 

カレンがバッサリと俺の望みのようなモノを断ち切った。

 

「え、えぇー。どうしてですかカレンさん?」

 

「理由で言いますと白野先輩には魔術回路がないからです」

 

そ、そうだったのか。俺には魔術回路がないのか。

 

「言い方が違いますね。魔術回路とは別の回路のようなものがあると言うべきでしょう」

 

サーキットのことだろう。

 

「白野先輩は理解してると思いますけど、白野先輩と私たちの魔術は根本から違います。この黒鍵は私たちの魔術のモノなので先輩の魔術では使えない。と私は考えます」

 

「確かに筋は通ってるな。でも使える可能性はあるんでしょ?」

 

「確かに可能性ならあります。魔力には変わりませんし、白野先輩の魔力保有量は異常なほど多いですから、黒鍵の刀身を作ることもできるかもしれません」

 

一応Lv99だし、礼装全装備だからね。魔力量は多いはずだよね。

 

「ですが、白野先輩は黒鍵を何に使うんですか?」

 

「………投擲」

 

「何を当たり前のこと言ってるのやらこの駄犬は……。私は何に対して使うのかと聞いたんですよ」

 

「………今後、何かに襲われたときよう。最近物騒だから」

 

「昨日の夜のあれですか?」

 

カレンはわかっているようで……。

 

「カレン、見てた?」

 

「いいえ、ただ森の中に白野先輩と似た魔力を複数感じたので」

 

「もしかしたら今後もああいうのあるかもしれないから気を付けてね」

 

「わかりました。まぁ今日はそういったものは感じないので大丈夫でしょうけど」

 

「そうか」

 

ならよかった。でも気は抜けないな。

 

「じゃあ、そろそろ肝試しの定位置に行こうか」

 

俺はそう言ってカレンと別れ、森の中に入って行く。

 

さて、どうやって小学生たちを驚かそうかな?

 

 

 

 

 

小学生たちが森の中かに入り始めて数分。

 

そろそろ留美ちゃんたちの番だよな。

 

というわけでどういう結果で終わるか気になるのでその場に向かうことにしよう。

 

今更だが俺では小学生たちを驚かしたり怖がらせたりできないと思うので、小学生たちが通るタイミングを見計らって物音を立てたりしているだけ。基本このカソックを着ている意味はない。

 

移動していると浴衣を着ている女性を発見。

 

「やぁ、雪ノ下さん」

 

「ひゃっ……き、岸波くん?」

 

「えーっとごめんね。驚かせた?」

 

「いいえ、驚いてないわ」

 

う、ウソだぁ。まぁ本人が驚いていないと言っているのだから驚いていないことにしよう。

 

「それで、岸波くんはどうしてここにいるのかしら?あなたの場所はもう少し前だったと思うのだけど」

 

「留美ちゃんたちのことが気になってね。しっかりと最後は見ておきたいんだよ」

 

「そ、なら行きましょう」

 

そう言って雪ノ下さんは歩き始めようとしたとき

 

「あ、ゆきのん、キッシー」

 

後方から由比ヶ浜さんが俺たちを呼びながら小走りで近づいてきた。

 

「やぁ、由比ヶ浜さんも留美ちゃんのことが気になったの?」

 

「うん。キッシーとゆきのんも?」

 

雪ノ下さんは「ええ」と返答し。

 

俺も頷き、自分の意思を伝える。

 

「それじゃあ、一緒に行こ」

 

そうして俺は二人と一緒に移動していると、比企谷たちを発見した。

 

「比企谷くん。状況は?」

 

雪ノ下さんが小声で比企谷に話しかけると、比企谷は振り向いた。

 

「今、葉山たちのほうへ向かってる。俺は見に行くけどお前らどうする?」

 

「当然行くわ」

 

「あたしも、行く」

 

そして俺の番。

 

「俺も―――」

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

 

きた!

 

森の奥のほうからバーサーカーのような咆哮が聞こえた。

 

あの方向なら人と接触することはないだろう。だけどもしものことを考えると行った方がいいよな。

 

「おい、岸波どうした?」

 

「え?………いや、なんでもない」

 

比企谷には聞こえてないのか?いや、まずあれが聞こえてたらこの辺一帯が大騒ぎになるか。

 

そうなるとこれは俺にしか聞こえてない。たぶんカレンは魔力とかでわかるのか?

 

でも、こうなると留美ちゃんのことは無理そうだな。

 

「ごめん。用事ができた。だから俺は無理そう」

 

「「え?」」「は?」

 

全員が驚いた。当たり前だな。

 

「結果はあとで教えてくれないかな?それじゃあ」

 

俺は走り出そうとしたら、腕を掴まれた。

 

「岸波くん、待ちなさい。急にどうしたの?さっきまで気になっていると言っていたじゃない」

 

「えーっと、トイレ」

 

「ウソね。それ以前に方向が違うでしょう」

 

ごもっともです。

 

ならこれでどうだ。

 

俺はすました表情をして

 

「月が善からぬモノを送って来たようだ」

 

「どうしてここで中二ぶる」

 

比企谷にツッコまれた。

 

じゃあ今度はこれで。

 

俺は前髪を人差し指でクルクルいじりながら

 

「なんかぁ~あっちの方ってぇ~いい感じなんだよねぇ~」

 

「キッシーがチャライ!」

 

「岸波くん。ふざけないでしっかり答えなさい」

 

雪ノ下さんの俺の腕を握っている力が強くなった。

 

痛くはない。でも、雪ノ下さんが出せる全開の力って感じだ。それだけ本気なのだろう。

 

「………はい。わかりました」

 

俺は観念して本当のことは言えないが、ある程度説明しよう。

 

「昨日の夜、俺が森で厄介ごとに巻き込まれたんだけどさ、今日もそれが来たみたいなんだよ」

 

「そ、わかったわ」

 

よかった。雪ノ下さんは納得してくれたようで。

 

「今回は私も一緒に行くわ」

 

ちょっと方向性を間違えたな。

 

「え!?ちょっ」

 

「比企谷くん、由比ヶ浜さん、ごめんなさい。私たちは別行動するけどいいかしら?」

 

「ああ、構わねぇよ」

 

「え!?」

 

「ゆきのん、キッシー頑張って!」

 

「え!?」

 

「さぁ岸波くん。行くわよ」

 

え?マジですか?

 

 

 

 

 

比企谷と由比ヶ浜さんと別れ、俺は森を走っている。

 

雪ノ下さんを抱えながら(お姫様抱っこ)。

 

雪ノ下さんは最初は怒っていたが今では頬を赤くして俯いて静かである。

 

少々機嫌が悪いのかな?そういえば前もあったな雪ノ下さんを抱えて走ったこと。雪ノ下さんを助けた中学三年とき。

 

今更だが、カソック姿で女の子を抱えて森の中を走るってどんなゲームだよ。

 

それに雪ノ下さん浴衣姿だし。

 

『マスター』

 

昨日と同じようにアーチャーの声が脳内に流れる。

 

アーチャーこれってどうやって話してるの?

 

『これについては後で話そう。エネミーのことだが今回は一体しかいないがマスター、君では絶対に勝ち目がない』

 

言ってもらえて助かるんだけどさ。引くにも引けないんだよね

 

『ああ、わかっている。だから十分耐えてくれ。エネミーと戦い始めて十分だ』

 

アーチャー、別に倒しても構わんのだろ?

 

『マスター、それは死亡フラグだ。十分間耐え抜くことだけを考えてくれ』

 

はい、わかりました。だけど、勝ち目がない相手に十分か、無理にも程があるな。まぁ頑張ってみるよ

 

『済まない。あともう一ついいかマスター』

 

何?

 

『どうしてマスターはカソック姿で浴衣を着た女性を抱えて走っているのかね?』

 

こっちにもいろいろあるの!俺だって、一人で行くつもりだったんだよ……

 

『まぁそれも君の『女難の相』が引き起こした結果として受け入れたまえ』

 

他人事と思って。同じ呪い(女難の相)の持ち主だろ。

 

『それではマス――――』

 

アーチャーが話している最中にザザザザとテレビの砂嵐のようなノイズが流れる。

 

『センパイ元気でした?BBちゃんと話せなくて寂しくなかったですか?』

 

今度はBBちゃんですか……。何の用ですか?

 

『その反応ひどくないですかぁ?もう少し感動してくれてもいいじゃないですかぁ?もぉBBちゃんも怒っちゃいますよぉ。プンプン』

 

可愛いなぁ。BBちゃん世界一可愛いよぉ(棒読み)

 

『もうセンパイったら。世界一可愛いなんて当たり前のこと言われても嬉しくないですよ』

 

なんか嬉しそうな声だな。

 

それでどうしたの?

 

『今回はセンパイのお手伝いをしてあげますよ』

 

お手伝い?

 

『はい。まず、センパイとエネミーが戦う場所を結界のようなモノで隔離します。あとはセンパイが作ったプログラムの一つを使えるようにします』

 

あの複数作った面白くて楽しいプログラムってやつ?

 

『そうです。で、そのプログラムを一つ使えるようにしますね。センパイの電子手帳に送っておくのでしっかりと見ておいてくださいね』

 

わかった

 

『ところでセンパイ?』

 

何?

 

『どうして、センパイはカソック姿で浴衣姿のメルトと声がそっくりな女を抱えて走ってるんですか?』

 

もう、気にしないでよ……

 

『あ、そう言えば。センパイどうして昨日『MPS』を使わなかったんですか?せっかく私たちのいる場所のリソースを使って作ったっていうのに』

 

BBだったのか……はぁ……

 

『何故ため息を吐くんですか?(おかしいですね?センパイのために用意したのに)』

 

で、あとどれくらいでエネミーのところに着くのかな?

 

『もうじき着きますよ。その辺でその女を下して行った方がいいですよ』

 

わかった。さすがに雪ノ下さんを戦闘に巻き込めないからな。それじゃあBBまたあとで

 

『はい。センパイは死なない程度に頑張ってください。もうプログラムは送っておいたので結界のようなモノの中で確認してくださいね』

 

そしてBBとの通信が切れた。

 

『―――ター!マスター!どうした!?』

 

焦ったアーチャーの声が流れてきた。

 

ごめん、アーチャーとは別の何かが話してきたからそっちに返事をすることができなかった

 

『別の何かとは何かね?』

 

BBだよ。それじゃあアーチャー、そろそろ着くみたいだからそっちの準備みたいのが終わったらまた返事を頼んでいいかな?

 

『BBか……。ん、ああ任せたまえ。マスターまた後で連絡する』

 

そしてアーチャーとの通信も切れた。

 

俺は立ち止まり雪ノ下さんを下す。

 

「き、岸波くん?急にどうしたの?」

 

まだ頬の赤みが取れない雪ノ下さんが俺の方を見て尋ねてくる。

 

「そろそろショッ〇ーと戦わないといけないから、雪ノ下さんはここで待ってて」

 

俺はそこに雪ノ下さんを置いて目的地に走る。

 

といっても雪ノ下さんから十数M離れてところで、BBが言っていた結界のようなモノが出現。

 

こ、これは!全自動脱衣式オープンロック特許申請中!!

 

何でBBこの俺のトラウマみたいなのを出してくるんだ……。

 

でも、今回は俺ではなく俺以外の人に対して使われているわけか。

 

「岸波くん?この巨大な扉は?」と雪ノ下さんが急に出てきた巨大な扉を見て少し驚いたような声が聞こえる。

 

「雪ノ下さん。もうこれ以上は入れないんだ。だからそこで待ってて」

 

パッと見た感じでは扉以外の部分は何もないように見えるが、透明な壁のようなものがあるようだ。

 

「嫌よ。いいからこの扉を開けなさい」

 

「無理なんだ。俺にはこの扉は開けられない」

 

「どういうこと」

 

「この扉を開けるには………雪ノ下さんが下着を脱がないといけないんだ!!」

 

「………」

 

「………」

 

今ので完全にシラケたな。

 

「………岸波くんもう一度聞くのだけれど、この扉を開けなさい」

 

「俺には無理なんだ。雪ノ下さんが下着を脱がないとこの扉は開かないんだよ」

 

「………」

 

「………」

 

またシラケた。

 

「あなた、それ本気で言ってるの?」

 

雪ノ下さんは呆れ声だ。そりゃあ呆れるよねぇ。

 

「そう言われても真実だから。これは俺にはどうにもできないんだ。だから雪ノ下さんはそこで待っててよ」

 

俺は電子手帳を取り出して、BBから送られてきたであろうプログラムの内容を確かめる。

 

 

 

 

 

これは結構使えるな。ただあまり日常では使えないけど。

 

俺は移動を始めた。そして昨日と同じような草原のような空間に出る。

 

中央にはエネミーの姿がある。

 

なるほど、これは倒せないな。

 

そこには巨大な化け物。ありすたちが出した『ジャバウォック』と似た姿をしている。

 

これはたぶんサクラメイキュウの17Fにいた『NOCTURNE』ってやつだな。

 

もし『ジャバウォック』だったら完全に倒せないけど。ヴォーパルの剣持ってないし。

 

今回は十分戦い抜けばいい。または戦い始めて逃げたり避けたりして時間を稼ぐのもいいだろう。相手は昨日よりも強いが俺が倒さなくてもいいのだからまだ気が楽だし、新しい力も手に入ってるんだから大丈夫だろう。

 

それじゃあ、行こう。

 

俺はエネミーに近づこうと思ったのだが、背後に人の気配。

 

「き、岸波くん……」

 

もしかして………。

 

俺は後ろを向くとそこには、顔を赤くしてもじもじしている雪ノ下さんがいた。

 

まぁ一言で言うならば『可愛い』だよね。

 

ただ今はそれどころではない!

 

「雪ノ下さん!どうして来ちゃったの!?」

 

ここに入って来てるという事は、雪ノ下さんは今『ぱんつ はかせ ない』の状態なわけだが……。

 

「まさか、本当に………を脱いで扉が開くをは思わなかったのよ……」

 

脱ぐの前が聞こえなかったがたぶん、パンツとか言っていたんだろう。

 

「た、確かに冗談にも聞こえるかもしれないけどさ、でも、俺真剣に言ったと思うんだけど?」

 

「そうだったかしら?」

 

真顔で返された!さっきまで顔を赤くしてたのに!

 

「そんなことより。雪ノ下さん、ここは危ないからここから離れたほうがいいよ」

 

雪ノ下さんは真剣な顔つきになった。

 

「そんなこととは何?岸波くん、今私は下着を脱いでいるのよ。いいえ、あなたに脱がされたと言ったほうが正しいわね」

 

「え!?そっち拾うの!?普通は危ないってほうでしょ!?それに俺が脱がせたっておかしいよ!?雪ノ下さんは自分の意思で―――いえ、なんでもありません」

 

俺が反論しようとすると雪ノ下さんはいつものように凍えるような冷たい視線で睨んでくる。

 

何で睨むのさ。

 

「はい、俺が悪かったです。ですから雪ノ下さんは扉の前で待っててください。俺は今からアレと戦わないといけない。だからこの辺は危険なんだ」

 

俺はこっちに気付いていなエネミーを指さして雪ノ下さんにここは危険だから戻るように言う。

 

雪ノ下さんは今までエネミーが俺と重なっていて見えなかったようで、今初めてエネミーの姿を目の当たりにした。

 

「何、アレ?生き、物?」

 

「一応、分類的には生き物って括りには入らないよね?たぶん、ゴーレムみたいな感じなのかな?」

 

「ゴーレム?」

 

「実際は敵性プログラム、エネミーって言うんだけど、俺はアレを倒さないといけないと思うんだよ」

 

「思うって確定ではないのね。それで何故、エネミー?だったかしら。エネミーはこっちを襲ってこないの?」

 

「エネミーは単純でね。一定の距離に入ってこないと襲ってこないんだよ。でも、その一定の距離に入ったら、自分より強い相手以外は見境なく襲うんだ。だから俺はアレと戦わないといけないんだよ」

 

「よくわからないけれど、あなたはアレを倒せるの?」

 

「無理だね。間違いなく負ける。いや、殺されるね」

 

俺は真実を述べる。大切な人は悲しませたくはないんだけど、ここでウソは吐けない。

 

俺の言葉を聞かされた雪ノ下さんは、怒りたいのか泣きたいのかわからない表情を浮かべる。

 

ただとても辛そうなことだけはすぐにわかった。

 

俺は雪ノ下さんに近づいて抱きしめる。

 

「大丈夫だよ。しっかりと秘策みたいなのもあるみたいだから。俺は戦い始めて十分間、耐え抜けばいいんだ。絶対に生きて帰るからさ」

 

「まさか普通に生きてて、そんな映画みたいな台詞を実際に聞く日が来るとは思っていなかったわ」

 

「俺も、この世界ではないと思ってたよ」

 

「この世界?」

 

「それはまた今度かな」

 

俺は雪ノ下さんから離れて、笑顔で

 

「だから雪ノ下さんは俺のことを信じて待っててよ」

 

俺の笑顔を見て雪ノ下さんも気分が少しは楽になったのか、笑みを浮かべた。

 

「ふふ、そうね。私は一応、あなたのことは誰よりも信頼しているもの。信じてあげるわ」

 

雪ノ下さんはそう言ってこの場から離れて行く。

 

 

 

 

 

と、その前に気になったことが。

 

「雪ノ下さん」

 

「何かしら?」

 

「今聞くようなことじゃないんだけどさ。いいかな?」

 

「ええ、私の答えられる範囲でなら構わないわよ」

 

「そうか、なら聞くんだけどさ」

 

俺が雪ノ下さんを抱きしめたときある疑問が生まれた。

 

それは

 

「雪ノ下さんって『ノーブラ』派なの?」

 

「………殺すわよ」

 

「ごめんなさい!」

 

渾身の土下座。

 

俺の土下座を見て雪ノ下さんは呆れながら答えてくれた。優しいな。

 

「あなたが下着を脱げば扉が開くって言ったから脱いだのよ」

 

おや?

 

「ってことは上も下も両方?」

 

雪ノ下さんはまた顔を赤くして頷いた。

 

「そうだったのかぁ。あはははは」

 

俺の説明が悪かったな。パンツって言わなかったせいで雪ノ下さんは今、浴衣の下は何も着ていないのかぁ。

 

うん、エロい。

 

ただ、このことは言わないでおこう。死にたくないからな。

 

 

 

 

 




「あたためますか?」って一度でいいから使ってみたかった
そして秘策とプログラムはどんなのになるか!?次回のお楽しみ!

脱衣トランプでゆきのんの脱衣ができなかったので、ここに来て下着だけを脱衣。「ぱんつ はかせ ない」

それではまた次回に!


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プログラムと秘策。

ザビ男頑張ります

楽しんで読んで貰えたら嬉しいです


 

 

気になってたことも解消したことだし、行こうか。

 

電子手帳を取り出して、BBから送られてきたプログラムを起動させる。

 

そしたら頭の中に『き、起動するまで、さ、三分待ってください……ごめんなさい……』とリップの声が流れた。

 

これはさっきのアーチャーやBBとは違う感じだな。録音のような設定された感じ。

 

何?これも待つの?まぁ分かれば対策もできる。

 

「move-speed()」強化スパイクで移動速度を上げる。

 

今回は避けに徹すればいいので戦わなくてもいい。だから筋力や耐久の強化はしなくてもいいよね。

 

いや、もしものことを考えるとやっておいた方がいいか。

 

「gain-con(16)、gain-str(16)」

 

守りの護符で身体の耐久力を上げ、錆び付いた古刀で筋力を上げる。

 

「準備完了」

 

じゃあ、エネミーに近づこう。

 

俺は歩いてエネミーに近づいていく。そしてエネミーとの距離が10Mぐらいになったとき、エネミーがこちらに向かって走ってきた。

 

思っていたよりも速い。

 

エネミーは右腕を振り上げ、俺に向けて振り下ろす。俺は後ろに跳ね相手の一撃を避ける。

 

ドン!

 

地面が凹んだ。

 

マジか!ここまで筋力あるの!?

 

エネミーの攻撃の衝撃で石の礫が飛んでくる。

 

俺は反射的に腕で前で組み、石の礫をガードをする。

 

動きは昨日の相手のほうが速いから完璧に避けれるけど、一撃が重すぎる。

 

攻撃の威力を考えると、昨日は重傷、今回は死だな。

 

俺は着地と同時に方向転換。そのまま

 

「逃げる」

 

逃げると言ってもこの場を離れるんじゃなくて、相手と距離を取るって意味ですよ。ここ重要。

 

まずは距離を取って相手の観察をする。

 

エネミーは走らず、歩いて俺を追う。俺との距離が10Mぐらいになったら走るって感じだろう。

 

というわけで、試そう。

 

俺は逃げるのを止める。そしてエネミーとの距離が10Mぐらいになったときエネミーは俺に向かって走ってきた。

 

予想通りだな。

 

エネミーはまた右腕を振り上げ、振り下ろす。

 

俺は今回、相手の振り上げた腕の逆、俺から見ての右側に跳ねる。

 

ドン!

 

また地面が凹み、石の礫が飛ぶ。

 

飛んでくる礫を左腕でガードする。

 

そして着地し、相手の懐に向かって踏み込む。

 

逃げてるだけじゃダメだな。俺も攻撃する。

 

まずは足。

 

エネミーの左脛を思いっきり踏む抜く感じで右足で蹴る。

 

『斧刃脚』ついでに「shock(128)」破邪刀のコードキャストを撃つ。

 

更に、体勢を低くし、前後に両手を開くように相手の腹に掌底を打ち込む。

 

『打開』同じくついでに「shock(128)」破邪刀のコードキャストを撃つ。

 

もう一撃。『打開』と同じように低い体勢をし、今度を肘打ち。

 

『裡門頂肘』また同じくついでに「shock(128)」破邪刀のコードキャストを撃つ。

 

俺の攻撃を受けてエネミーはよろめく。

 

あれでよろめく程度ってどんだけタフなんですかね。

 

なので、もう一撃。

 

俺は左手を地面について、ほぼ真上、エネミーの胸辺りを右足で蹴り上げる。

 

『穿弓腿』これもついでに「shock(128)」破邪刀のコードキャストを撃つ。

 

普通ならこれで相手を浮かせて次の技を掛けるんだけど、エネミーは重いから俺ではエネミーを浮かせることができない。

 

だが、エネミーを仰向けに倒すことはできた。

 

俺はエネミーの横に着地。ここまで来たらもう一撃。

 

エネミーの腹を思いっきり踏み抜く。

 

『震脚』やっぱりついでに「shock(128)」破邪刀のコードキャストを撃つ。

 

『震脚』は普通、地面にやり、その衝撃波みたいなもので相手をよろめかすための技なので、お腹にやったらいけないよ。

 

そしてここまで出した技は全て、店長から習った八極拳である。

 

さて、やるだけやったので逃げに徹しよう。

 

俺は倒れているエネミーから距離を取る。

 

今更だが、昨日の奴ならこれで倒せていたような気がする……。

 

いや、今回の相手は動きが昨日の奴よりも遅いからできただけで、普通はここまでうまくはいかない。

 

それ以前に何で、こいつはこんなに攻撃を受けても平気なんだよ。

 

俺は立ち上げるエネミーを見ながらそんなことを考えていた。

 

そして俺はふと思ったことを口にする。

 

「今、何分経ったのかな?」

 

 

 

 

 

岸波くんと別れて二分。この扉の向こう側からは何も聞こえてこないけれど、大丈夫かしら?

 

いえ、彼なら大丈夫。彼は結構ウソは吐くけれど裏切ることはしないもの。

 

でもそうなると暇ね。

 

何か私にできること、するべきことって何かあったかしら?

 

私は自分のすべきことを考えてみて、一つだけやるべきことがあったわね。

 

「下着を着ないと………」

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

 

逃げろ逃げろ逃げろ!

 

俺がやった八極拳の連続攻撃のせいでエネミーが怒ったのか、先までを歩いていた距離でさえ全力で走って追って来る。

 

木を薙ぎ倒し、地面を殴り、咆哮を上げる。まさに化け物。

 

本当どうしてこうなったんだよ。マジで怖い。

 

俺が移動速度を上げながら全力で逃げている途中、『三分経ったわ。プログラムを起動してあげるから泣いて喜びなさい』とメルトの声が頭の中を流れた。これも起動準備のときリップ同様、設定された感じのヤツだな。

 

「って、やっと三分!?十分ってどんだけ長いんだよ!」

 

俺はエネミーから逃げながらあることに気が付いた。

 

エネミーが破壊したところが直っている。

 

地面も木も数十秒で何もなかったかのように元通り。

 

そうなるとこの戦いで壊れたモノは元通りになるってことか?それともそれはエネミーだけ?

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

 

そんなことを考えていたら、エネミーが結構近いところまで来てる。

 

まだ、攻撃が当たる距離ではないから大丈夫だ。

 

ちょっとプログラムの効力を試してみよう。

 

俺は走りながら右手でカソックの中にある黒鍵の柄を三つ、指の間に挟み取り出す。

 

言峰神父が使った黒鍵を想像し、作り出す。

 

「おお、本当に出来た。黒鍵の刀身が作れた」

 

エネミーから逃げながらだけど、こういうのができると感動するよね。

 

というわけで

 

「投げる!」

 

俺は少し身体をエネミーの方を向くように捻り、右手の指の間に挟んでいる黒鍵を三つとも投げた。

 

二つは腕で弾かれたが、一つだけ刺さった。初めてにしては上出来じゃないか?

 

ただ刺さったはいいけどあまりダメージがないみたい……。

 

いや、落ち込むことはない。まだ柄は九つあるし全部投げてやる。それに弾かれて落ちてるやつを再利用しよう。

 

それから逃げながら、隙などを見つけては黒鍵を投げ、弾かれたら逃げながら黒鍵を拾いまた投げるなんてことを続けてどうにか十二本全部刺したわけだが……。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

 

「全く効いてない」

 

むしろどんどん荒くなって手が付けられない感じ……。

 

刺さり方が悪いのかな?

 

それよりも俺が最初よりもリラックスした感じでいられることに驚きだよ。

 

これが人間離れってやつかな?

 

『マスター』

 

アーチャー、やっと十分経ったの?

 

『いや、あと一分だ。そして二十秒前になったら動かずにじっとしてもらいたいのだが大丈夫か?』

 

無理を言わないでください。この状況で動くのを止めたら、俺死んじゃうよ

 

『……そうだな。悪かった。では相手を二十秒足止めできる方法はないか?』

 

それ言ってること同じだから。でも、足止めする方法はある

 

『では、相手をどうにか二十秒足止めを頼む』

 

わかったよ

 

ただアレってどれだけ魔力を使うのかわからないんだよな。それにできるだけ相手と距離を取っておきたい。まぁ距離もどうにかできるか。

 

『十秒前……八……七……六』

 

ここで俺は振り返りエネミーの方を向く。そして今度は彼女の技を想像し、大声で

 

「女王ーービィーーム!!」

 

凛のコードキャスト『call-beam(256)』である。これがプログラムの力。俺が見てきたマスターの使ったコードキャストや技を使うことができる。(BBやメルト、あとキアラVer.神は無理)

 

だから、言峰神父の黒鍵も使えたってことだ。

 

プログラムの名前は『誰のでもコードキャスト』そのまんまだな。

 

女王ビームはエネミーに直撃。エネミーは後方に吹き飛ぶ。

 

流石は女王ビーム

 

『二』

 

二十秒間の足止めに使うのは

 

『一』

 

決着術式(ファイナリティ)

 

「聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)」

 

エネミーを囲むように炎の壁が出現。

 

レオがBBと戦うときの使った術式。圧倒的な魔力消費量と操作難易度からレオですら三分間しか展開できないが、破壊するには聖剣レベルの攻撃力を必要とし、尚且つ転移等のあらゆる魔術を遮断する高密度の炎の壁を作り出す事が出来る。

 

今の俺なら三分は無理でも、二十秒ぐらいならできるはずだ。

 

あの時はレオも炎の壁の中にいたが、俺は炎の壁の外にいる。

 

あとは二十秒動かずに待つだけだ。

 

秘策って何なんだろうな?

 

『それはだなマスター』

 

アーチャー説明してくれるんだ。それなら最初から言ってくれればいいのに……

 

『済まない。こちらにも準備が必要なんだよ。それにしても聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)とは驚いたよ』

 

まぁ俺自身の力ではないからね。俺は魔力消費とコードキャストをコントロールするだけで、必要な術式は全て別の場所で用意してくれるらしいから

 

『そのことはまた後で聞くことにしよう。もうじき時間だ。秘策については説明をしなくともすぐにわかるさ』

 

何でそんなに大雑把?

 

『それではランサー』

 

ランサーってクーの兄貴のことかな?

 

『ってランサーが死んだ!』

 

「この人でなし!って、えええぇぇぇぇ!?」

 

何で兄貴死んだの!?

 

あれ?アーチャー?アーチャー!?返事してよ!

 

ダメだ。アーチャーからの通信が切れたようだ。

 

そして、聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)も消えた。魔力はまだ残ってるけどコントロールが難しい。

 

炎の壁が消え、エネミーは俺に向かって走ってくる。

 

逃げたほうがいいよな。でも、動いちゃダメなんだろ。どうしよ。

 

いや、もう遅い。

 

エネミーは俺に向かって殴り掛かってきている。避けれない。

 

すでにエネミーの拳は俺の前まで来ている。

 

ああ、終わりか……。

 

 

 

 

 

キンッ

 

金属音にも似た音が響いた。

 

ただわかったことは俺が無事だという事。

 

何かがエネミーの攻撃を弾いたのか?

 

「ご主人様の良妻サーヴァント、キャスター!ここに罷りこしましたー」

 

ああ、この聞き覚えのある声。そうかこれが秘策か。

 

俺のサーヴァントの一人。キャスターが助けてくれたんだ。

 

「はい。どうですか?この新感覚。ついに私はご主人様と一心同体~。タマモ嬉しいです」

 

?どういう意味だろうか?確かに違和感がある。

 

キャスターの声は聞こえるが、キャスターの姿がない。それと俺の声が出ない。それとキャスターの武器の鏡が俺の周りを回っているような……

 

「それもそのはず、今ご主人様の身体は私が使っているんですよ♡」

 

はい?

 

「簡単に言いますと、秘策とはサーヴァントがご主人様の身体を使って代わりに戦うって感じのヤツなんです。しかもスキルも宝具も使用可能。まぁ魔力を消費するのはご主人様ですが」

 

なるほど、シャー〇ンキ〇グの憑依〇体か。

 

「あらがち間違いではありませんが違いますよ。っとそれより先にこれを片付けちゃいましょう。これはあまり長くはできないので」

 

そうなの?

 

「はい。なのでさっさと終わらせちゃって、イチャイチャお話でもいたしましょう」

 

実際傍から見たら変な奴だけどね。

 

「では皆々様?血も凍る、大宴会を開くとしましょう……。ご主人様、宝具開帳を」

 

あれ?発動条件は?

 

「愛の前ではそんなものどうでもいいんです」

 

そんなもんか?まぁいいか。キャスター頼む。

 

「はい、お任せ下さいまし。『ここは我が国、神の国。水は潤い、実り豊かな中津国。国が空に水注ぎ、高天巡り、黄泉巡り。巡り巡りて水天日光。我が照らす、豊葦原瑞穂の国。八尋の輪に輪を掛けて、これぞ九重天照。水天日光天照八野鎮石』」

 

その後、古びた神刀で筋力を大幅に強化し、『呪法・玉天崩』×5回でエネミーは蒸発した。

 

今の状況でわかったことは、俺の意思では身体が動かせない。ただコードキャストは使えた。

 

本当に不思議な気分だ。

 

「ご主人様~、終わりましたよ。残り時間まで一杯お話を致しましょうね♡」

 

残り時間って制限時間みたいのがあるの?

 

「サーヴァント次第ですかね?私の場合は三分です。残り一分ぐらいになっちゃいましたね」

 

そういうこと。キャスターで三分ってことは他の人はもう少し短くなるのかな?

 

「最初はですねぇ。凛さんのランサーさんが来るはずだったんですけど、不慮の事故で昇天してしまったので代わりにこのタマモが来たんですよ」

 

そうだったんだ。不慮の事故ってなに?

 

「そ、それは………」

 

顔を伏せた。俺の身体だからよくわかる。

 

こいつ!確信犯だ!

 

「バレてしまったら仕方がありません。そうです。ランサーさんを来れなくしたのは紛れもなくこの私。ラブリータマモちゃんです」

 

内容が全くラブリーではないけどね。

 

「考えてみてくださいご主人様。もし私では無かったら、ランサーさんがご主人様の身体の中に入ったという事を!」

 

別にいいよ。代わりに戦ってくれることには変わらないんだし。

 

「いいえ、ダメです。ご主人様の初めては私のモノです」

 

ねぇ?何の話?

 

「おや?そんなことを話していたらもう時間ですか」

 

え!?まだわからない事ばっかりなのに!?

 

「ああ、言いそびれていましたが。この秘策には副作用のようなものがありまして、まぁ身体に影響があるわけではありませんから気にしないでください」

 

それも初耳だよ……。

 

「それともう一つ」

 

何?

 

何故か空気が凍り付くぐらいの寒気を感じた。

 

「ご主人様が戦う前に女とイチャ付いているのは知っていますので、今夜詳しく………」

 

そうしてキャスターは俺の中から消えたようだ。本当に不思議な感覚だな。

 

俺は夜空を見上げて一言。

 

「今夜は寝たくないな」

 

 

 

 

 

俺は落ちている黒鍵の柄を全部拾う。

 

全部元通り。さっきまでここで戦っていたのがウソのようだ。

 

本当に今夜どうしようかな。本気で寝たくないんだけど……でも明日は帰るからバイクの運転もやらないといけないし、寝ないと支障が出るよな……。

 

それに秘策の副作用って何だろ?

 

「はぁ……」

 

俺はため息混じりに出口の全自動脱衣式オープンロック特許申請中の前まで移動する。

 

すると自然に扉が開いた。

 

一番に目に入ったのは雪ノ下さんだ。

 

雪ノ下さんは俺の顔を見るなり嬉しそうな顔をしたのだが、それは一瞬のこと。

 

今の雪ノ下さんは不思議そうに俺の顔をまじまじと見ている。

 

いや、頭か?

 

そして雪ノ下さんは俺に近づいてきて一言。

 

「別に嫌いではないのだけれど、どうして猫ではないの?」

 

「どういう意味!?」

 

「何?岸波くんは今自分の身に起きていることに気付いていないの?」

 

「俺の身体?」

 

「ええ、これの事よ」

 

雪ノ下さんはそう言いって俺の頭に両手を伸ばして、モフっと何かを握った。

 

「きゃ」

 

思わず女の子みたいな声を出してしまった。

 

「って、なんだこれ!!」

 

雪ノ下さんに握られて初めてわかった。俺の頭にキャスターと似た狐耳が生えている。

 

「あら、これって神経が通っているの?面白いわね」

 

「面白くないよ!ってもしかして……」

 

俺は恐る恐る背後をっというより、俺の腰辺りを見ると……。

 

「生えてる……」

 

尻尾もか……。これがキャスターが言っていた副作用か。

 

雪ノ下さんも俺に狐の尻尾が生えていることに気付いて、耳から手を離し、今度は尻尾に手を伸ばしモフる。

 

「ひゃっ」

 

また女の子みたいな声を出してしまった。

 

「この尻尾、温かくて、ふさふさしていて、肌触りも良くていいわね」

 

「良くないよ!男で獣耳と獣尻尾はないよ!」

 

「そこではないと思うわよ」

 

「特に俺が今カソック姿だから狐耳と狐尻尾は合わない」

 

「確かに場違い感はあるわね」

 

雪ノ下さんは尻尾をモフモフしながら返答する。

 

「そろそろやめてくれない?くすぐったいんだけど……」

 

「やっぱり神経が通っているのね。そうなると動かせるってことよね?」

 

「いや、だからそろそろ離そうか」

 

雪ノ下さんは渋々尻尾から手を離した。雪ノ下さんって猫好きじゃなかったけ?

 

「でも驚いたわね。傷ついて帰ってくるかと思っていたのに、まさか尻尾と耳を生やして帰ってくるとは……。ある意味あなたは私を裏切ったわね」

 

「裏切ったつもりもないけどね。でも流石にこれは恥ずかしいな」

 

本当に誰得って感じだよ。……キャスターかな?

 

キャスターか……はぁ……眠りたくない……。

 

それから雪ノ下さんと一緒に帰るとキャンプファイヤーが終わった後だった。

 

狐耳と尻尾は取れたり消えたりすることなく健在だったため、みんなに見られて、バカにされたり、写メられたりと酷い目にあった。

 

俺はみんなに写メられながら比企谷に留美ちゃんたちがどんな結果に終わったかを確かめた。

 

しっかり留美ちゃんはみんなを助けることができたんだな。

 

そして俺は結局寝ることにした。

 

結果、俺はその夜ムーンセルで、聖杯戦争が優しく思えるぐらいの地獄を体験した。

 

俺の睡眠時間が六時間だったのだが、本当の六時間だったのか?実は一年経っているのではないのか思えないほど長かった。

 

どんなことが起きたかはまた今度。だって思い出したくない。だたあれを一言で表すなら、あれは

………世紀末?

 

 

 

 

 

林間学校の手伝いのボランティアもこれで終わりか。

 

一応、朝になったら狐耳と尻尾はなくなっていた。よかった。一生あのままだったら家から一歩も出れないな。

 

そういえば、俺って今日帰ったらみんな?に俺の過去を明かさないといけないんだよな。

 

まずは帰るわけだが、来るとき同様じゃんけんをしてもらった。

 

結果

 

「私ね」

 

雪ノ下さんになった。てっきり帰りも辞退すると思っていたのだが。

 

平塚先生が解散場所は学校だと言っていたので、学校を目指すわけだ。

 

雪ノ下さんと二人乗りして三十分ほど。みんなが乗っているワンボックスカーは既に高速道路を走っているだろう。

 

「ねぇ岸波くん」

 

雪ノ下さんが尋ねてきた。

 

「ん?何かな?」

 

「あなたの過去について教えてくれない?」

 

「帰ったらね。そういう約束だから」

 

「でも私は前『誰よりも早くあなたを理解する』と言ったはず。自分の力では無理だったけれど、あなたが話してくれると言うのなら話は別よ」

 

「それは傲慢じゃないかな?」

 

「ええ、それでも別に構わないわよ。それに今話さないというなら私のも考えがあるわ」

 

「考え?」

 

何だろ嫌な予感。ってかまたあれだろ。

 

と思っていたのだが、少し違った。

 

雪ノ下さんは珍しくしおらしい声で、俺を抱きしめている力を少しだけ強くして一言。

 

「あなたは私のことが嫌いなの?」

 

「………」

 

ギャップってやつだよね。そりゃあ可愛いですよ。

 

『可愛い子なら誰でも好きだよ、俺は』これ、あらがち間違ってないんじゃないかな?

 

俺もう喋っちゃうよ。女の子にこんな事言わせたらダメだと思うもん。

 

こんなバカバカしいのノリでいいのか?ダメだろう。

 

最終的にはみんなに話すわけだし、今ここで話しても変わらないか。

 

「まぁいいか。話すよ。帰り道もまだ長いんだし」

 

「そ、ありがとう」

 

「ただ、話し終わったと少々嫌な空気になると思うけど大丈夫?」

 

「それぐらいは覚悟してるわ」

 

「そうか、なら話すよ。俺の過去を」

 

 

 

 

 




次回はついにザビ男の過去が……

今回出た八極拳の技。『斧刃脚』『打開』『裡門頂肘』『穿弓腿』『震脚』はFateの格闘ゲーム、Fate/unlimited codes で言峰神父が使う技です
他にも『黒鍵』『女王ビーム』『聖剣集う絢爛の城』『水天日光天照八野鎮石』『呪法・玉天崩』等色々出させてもらいました

プログラムの『誰のでもコードキャスト』は簡単に説明すれば、アーチャーの投影のコードキャスト版って感じですかね?だから最初は名前を『イメージするのは常に最強の自分だ』にしようか悩みました

最初秘策は、魔法少女の『クラスチェンジ』とか、知ってる英雄の宝具をレンタルとか考えてたんですけど、何故かシャー〇ンキ〇グの憑〇合体擬きに……

それではまた次回!


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岸波白野の過去。

今回は、ザビ男が過去を話します。




 

 

 

俺はある家庭に生を受けた。

 

とても貧しい家庭。子供の面倒を見ることも出来ないぐらい貧しい家庭だった。

 

たが、俺は祝福された。

 

俺を産んだ母も、それを見届けた父も喜んだ。

 

そして俺の両親は誓いを口にした。

 

『この子だけは絶対に幸せにしたい』と、『辛い思いをさせるかもしれないが、私たちの大切な子だ。絶対に幸せにしよう』と。

 

その誓いを守るため、父も母も頑張っていた。

 

俺はとても幸せだった。貧しい家庭でも両親の優しさが本当に嬉しかった。

 

でも、幸せはすぐに壊された。

 

俺が三歳になるころ、両親を目の前で殺されたのだ。

 

犯人は人身売買を目的としていた集団。俺はその集団に誘拐され、ある場所に売られた。

 

日本ではない、紛争が絶えない国に俺は売られた。

 

そこでは子供が当たり前のように銃を持ち、人を殺す。紛争地域ではよくある話だ。

 

そんなところに売られた俺は当たり前にそのための訓練を受けさせられた。

 

ただ俺はもう人を殺すことはしたくなかった。だから歯向かった。

 

それからはほぼ毎日が拷問だった。

 

致命傷にならない程度に蹴られ、殴られ、叩かれ、斬られ、刺され、焼かれた。自分が生きているのが不思議なぐらいだ。

 

ただ、死のうとは思わなかった。自分の意思で生を投げ捨てるようなことはしたくはなかった。

 

俺は自分に言い聞かせた。

 

『大丈夫だ。辛いのは今だけ。頑張って生きていれば絶対に楽しい日々がある。彼らと一緒に過ごしていた日々と同じような楽しい時間が絶対にやってくる。だから、死なない。いや、死ねない。俺を産んでくれた両親の為にも』

 

それから二年、俺が五歳になったときある変化が訪れた。

 

『幼い奏者…』

 

『ショタなご主人様…』

 

『小さな子ブタ…』

 

『『『ゴクリッ』』』

 

まぁこのことはいいや、正直拷問のような毎日よりその後の光景のほうが怖かった……。

 

俺は五歳になった日、俺は魔術が使えるようになった。

 

そして俺はここから逃げ出すことを決意した。

 

そこから抜け出すときに多くの人を傷つけた。自分の感情を押し殺して、自分が生きて幸せになれることだけを考えて人を傷つけた。

 

でも、無理だった。五歳になったばっかりの俺には一人で抜け出すことができなかった。

 

抜け出そうとした俺には更に酷いことをされた。

 

けど、そんな地獄のような毎日も半年で終わりを迎えた。

 

疲れ果てて寝ていた間にそこは壊滅した。

 

原因は不明。

 

俺がいた場所は俺以外の人間が全員死んでいた。

 

だから俺はその場を離れた。

 

走り。走り疲れたら歩き。歩き疲れたら這いずり。生きることだけを考えた。

 

それから数日後、俺はあの人に、父さんに出会った。

 

 

 

 

 

「と、まぁこんな感じかな?俺が父さんと出会うまでの日々。俺が隠してきた過去」

 

目の前で両親を殺され、誘拐され、知らない国に売られて、拷問のような毎日。しっかり話せばもっと長くなる話だけど、今はこれぐらい短い説明でもいいだろう。

 

今更だが、あの一夜で俺がいた場所が壊滅した理由は昨日の憑〇合体だろうな。

 

英雄にもなれば、三分なくてもアレぐらいなら壊滅させてもおかしくない。そうなると俺はこの手で人を………。

 

「それで、俺の過去を知った感想はどうかな?」

 

少し意地悪な気もするけど、これは聞いておきたい。

 

「………確かに簡単に話していいような話ではないわね。辛いことを話させてごめんなさい」

 

「謝らなくてもいいよ。いつかは話さないといけなかったわけだし」

 

「それと………ありがとう」

 

「はい?」

 

どうして感謝?

 

「ねぇ、あなたの話で気になることが二つあるのだけどいいかしら?」

 

感謝の理由は教えてくれないんだ。

 

「まぁ、気になることがあるなら答えるよ」

 

「一つは、何故あなたは、そんな小さい頃のことを明確に覚えているの?」

 

「………バカにしないでね」

 

「女性になったり、獣耳や尻尾を生やしたりした人が今更何を言っているのだか……」

 

それもそうだけど……。

 

「実は俺、産まれたころから既に自我を持っていたっていうか、既に人格形成できていたというか、前世?みたいな記憶を持っていたというか」

 

「それって……どういう意味?」

 

「これを転生って言うのかはわからないけど、それに近いのかな?」

 

「あなたって本当に不思議な人ね。私の常識の範疇を超えてるわ」

 

ご尤もです。自分だってそう思う。所々ぶっ飛んでるし、ぶっ飛んでいる人たちと絡むとこうなるんだね。

 

「では二つ目。あなたはどうしてそれほど辛いことがあったのにそんなに人に優しくできるの?」

 

「それも俺に前世、昔の記憶があったからかな?人がどういうモノかも知っているし、物事をどう受け止めるかもわかっていた」

 

たぶん俺にムーンセルでの記憶がなかったら、俺は既に死んでいるだろうし、または人を殺してるだろう。そういう世界にいたのだ。

 

それにもう十年以上前の話だ。引きずったままじゃダメだろう。でも忘れはしない。だからこそ身体の傷は残しているわけだし。まぁもう完全に古傷って感じで痕しか残ってないけど。

 

「受け止める?話を聞いてる限りそう簡単に受け止めるなんてできないと思うのだけど」

 

「前に言ったよね。『間が悪かった』って思えばいいって。それに……俺が信じていたように今みたいな楽しい日々を過ぎせているんだから、信じていてよかったよ。奉仕部メンバー、血の繋がりないけど本物のような家族、嫌がらせが好きな後輩とその家族、他にも親切にしてくれる先生方や同級生。色々な人に出会えて本当に今が楽しいよ」

 

でも、もうじきそれが終わってしまうかもしれない。

 

どうにかできるかもしれないけど本当に大丈夫だろうか?いや、考えるのは止めておこう。確かそういう死亡フラグがあったな。

 

「そ、それはよかったわ。ねぇ岸波くん」

 

「何?」

 

雪ノ下さんが俺の名前を呼んで少し間を開けてから俺に一つのことを尋ねてきた。

 

「あなたは…岸波くんは私と出会えてよかったと思っているの?」

 

 

 

 

 

「ねぇ岸波くん」

 

「何?」

 

私は彼に聞いておきたかったことがあった。

 

とても心苦しかった。

 

彼はいつも私に優しくしてくれる。それが本当に嬉しかった。辛いときや悲しいときに彼が見せてくれる笑顔に私は何度も救われた。だから岸波くんの近くにいたかった。

 

だけど私が近くにいると彼は周りの人間から標的にされる。

 

初めて私が彼に出会ったとき彼も私同様に嫌がらせを受けていたけれど、彼の性格を考えればそんなのすぐになくなったはず。でも私がいたから今まで彼には友達ができなかった。

 

だから心苦しかった。

 

でも彼から離れたくなかった。

 

留学している間も彼の事ばかり考えていた。留学してやっと私は彼のことが好きだと自覚した。

 

思い出すだけでも顔が熱くなるわね……。

 

だから私は彼に聞いておきたかった。

 

それは……

 

「あなたは…岸波くんは私と出会えてよかったと思っているの?」

 

「当たり前だよ」

 

即答された。

 

「雪ノ下さんがどういう考えのもとそれを発言したかはわからないけど、俺は君と出会えてよかったと思っているよ。というより俺はこの世界で君と出会えていなかったら、今まで作ってきた人間関係全てがなかったことになるとも思ってるし、君がいなかったらここまで努力をしてこなかった。本当に君には感謝してもしきれない」

 

「………あなたはいつも何故こんなに恥ずかしいことを普通に言えるの?」

 

「え!?何で俺がそんなこと言われるの?雪ノ下さんが聞いてきたから答えたのに!?」

 

「ふふ、そうね。………ありがとう」

 

感謝を彼には聞こえないくらい小さな声で述べる。

 

「何か言った?」

 

「いえ、何でもないわ。そろそろ千葉に入るわね」

 

「ん?そうだね。後一時間ぐらいすれば学校に着くかな?途中で休憩の為に何処に寄る?」

 

「いいえ、別にいいわ。そのまま帰りましょう。他の人を待たせるのも悪いでしょう」

 

「わかった」

 

この夏休みはたぶんもう彼や由比ヶ浜さんたちとは会えないと思うけれど、いい思い出を作れたわ。

 

「ねぇ雪ノ下さん」

 

「何?」

 

岸波くんは私に質問でもあるのかしら?

 

「俺の過去も話したことだし、もう一度聞きたいんだけどさ」

 

そして岸波くんは私に何度か言ったあの台詞を言った。

 

「俺と友達になってくれない?」

 

答えは今までと変わらない。

 

「嫌よ。何度も言わせないで私はあなたと友達っていう枠組みに入るつもりはないわよ」

 

 

 

 

 

雪ノ下さんからお友達をお断りされて一時間と少し、総武校前に到着した。俺と雪ノ下さんはバイクから降りて既に到着しているメンバーのもとに近づくと、何故かあの人がいる。

 

「はーい、白野くん、雪乃ちゃん」

 

「何で陽乃さんいるんですか?」

 

「姉さん……」

 

やっぱり、苦手そうだな。

 

まぁいいや、まず俺が取るべき行動は……陽乃さんから距離を取ろう。

 

いつものように抱き付かれたら死ぬかもしれないからな。

 

「あら?白野くん何で距離取っちゃうの~?いつもみたいにハグしようよ」

 

「絶対にアレはハグじゃないですよ。完全に陽乃さんからの一方的な嫌がらせじゃないですか」

 

「白野くん、あれ嫌だったの?」

 

「いや、別に女性から抱き付かれるのは嫌いではありませんけど周りの人たちから悍ましい視線を感じるんですよ」

 

本当にアレは嫌だ。死線を見られてるんじゃないかってぐらい嫌だ。モンスターさんの『直死の魔眼』かよ。

 

「今の発言は完全にアウトの部分があった気がするんだが」

 

比企谷がそう言うが、何処かアウトだった?

 

「まぁ俺のことはどうでもいいんですけど、陽乃さんはどうしてここにいるんですか?雪ノ下さんのお迎えですか?実家への」

 

「流石は白野くん、よくわかってるね。好きになっちゃうよ」

 

「ありがとうございます。それでもう一つ何か用事がありそうですね」

 

「……素で流さないでよ~。乙女心を何だと思ってるの?お姉ちゃん怒っちゃうよ」

 

「俺に用事でも?」

 

「うわぁ完全にスルー。白野くんのいじわる~。まぁいいか、白野くんに用事があってね。答え合わせに来たんだ」

 

答え合わせ……。たぶんアレだろうな。

 

「俺の過去のことですか?」

 

「あれ?あまり驚かないね」

 

「いろいろありまして、今日みんなに言うことになったので心の準備がもうできているんですよ」

 

「ふーん。ちょっと残念だなぁ。白野くんの秘密を私だけのモノにしたかったのに」

 

「その言い方すごく怖いんですけど」

 

何?俺の秘密を手に入れたら何か脅しにでも使う気?

 

「答え合わせはまた今度でいいや。そうだ白野くん今度家に来てよ」

 

「えぇ……」

 

「何でそこまで嫌がるのかな?」

 

昔、陽乃さんに拉致られたし……。

 

ただ、陽乃さん次言った言葉で行かなければならなくなった。

 

陽乃さんは俺に近づいて耳元に顔を近づけて小声でこう言った。

 

「昔のご両親の情報とかもあるよ」

 

…………。

 

「わかりました。いつ行けばいいですか?」

 

「やったー、白野くん来てくれるんだねぇ。お姉ちゃん嬉しいな。そうだ、お礼に」

 

そう言って陽乃さんは俺の頬に「ちゅ」と言いながら唇を軽く当てる。

 

そのとき俺は死を覚悟した。

 

いつも通り、雪ノ下さん、桜、カレンから悍ましいオーラを、ただそれ以上のオーラを放っているのが……。

 

「岸波……歯を食いしばれ……」

 

平塚先生だ。

 

平塚先生の大量の黒いオーラが平塚先生の右手に集まり始める。

 

「抹殺の、」

 

今回は避けずに食らうか……。

 

だってこれ避けたら、他の人たちから殺されちゃう気がするんだ。

 

「ラスト・ブリット!!!」

 

 

 

 

 

俺が目を覚ますのそれから五分後ことだった。

 

既に雪ノ下さんと陽乃さんがいなくなっていた。

 

平塚先生の一撃は俺の芯を捉え、鳩尾にクリティカルヒットしたようだ。まだ痛い。

 

それより俺五分間、校門前で気を失ってたんだよな。すごく恥ずかしいんだけど。

 

「あ、兄さん起きたんですか?」

 

桜が心配そうな声で俺に近づいてきた。よかった桜はいつも通りの優しい桜だ。

 

「もし兄さんが起きなかったら………さっきの女のこと問い詰められませんから……」

 

怖い!

 

「おい岸波」

 

比企谷が俺を呼んだ。助かった。

 

「比企谷どうかした?」

 

「どうかした?じゃねぇよ。みんなお前待ちだ。教えるんだろお前の過去」

 

「そうだね。じゃあ話すけど場所変えない?」

 

流石に校門まで話すようなことじゃないからな。

 

平塚先生に頼んで校内に入れてもらい、奉仕部の部室でみんなに俺の過去を話した。

 

俺の過去を聞いたメンバーは、桜、カレン、比企谷、由比ヶ浜さん、平塚先生、小町ちゃん。

 

戸塚くんは用事があったようで来なかった。まぁ聞いて気持ちのいい話ではないから来ないのが一番だ。

 

平塚先生は俺の身体を見ていないので俺の身体をもう一度披露する羽目になった。

 

そんなわけで俺の過去(魔術の部分は話さなかった)を話し終わったら、やはり重苦しい空気になった。

 

「で、どうだった?」

 

「いや、まぁ……何っていうか、本当に聞いてよかったのか?」

 

「今更何を言ってるんだよ。それにどうせいつかは言うつもりだったから気にしなくてもいいよ」

 

「「「「(気にするなって方が無理だぁぁ!!)」」」」桜とカレン以外の四人。

 

みんなが何かを心の中で叫んでいるぞ?何となくわかる。

 

桜は少し涙目だし、カレンは逆に高揚しているのか頬を赤くしている(少し息が荒い)。

 

まぁなんだかんだ、みんな受け入れてくれた。本当に優しいねみんな。

 

 

 

 

 

帰り道、俺はバイクを押しながら桜とカレンと一緒に歩いているのだが、なんだろうな、すごく空気が重い。

 

俺の過去の話もそうだが、陽乃さんがやったキスのせいだな。

 

そう言えばいつ陽乃さんの家、雪ノ下さんの実家に行けばいいんだろう?まぁあとで連絡くれるか。

 

特に話すこともなく、カレンの家の前まで来た。

 

「それでは白野先輩と妹、また後日会う日があったら」

 

会う日って次のバイトの日だろけど。

 

「うん、また今度ねカレン」

 

「さようなら言峰さん。それと私はあなたの妹じゃないですからその呼び方はやめてください」

 

カレンは桜の言葉を聞き流して家の中へ入っていた。

 

「それじゃあ、残りはバイクで帰る?」

 

「はい」

 

家までの残りの距離をバイクで移動しているのだが、やっぱり桜の胸は大きいな。

 

押し当てられていると妹でも変な気分になりかねん。

 

無心になれ俺。

 

「兄さん?」

 

「ひゃい」

 

変な声を出してしまった……。

 

「すみません、兄さんの過去がああいうものとは知らなかったので……」

 

そんなこと気にしなくてもいいのに。

 

「さっきもみんなに言ったように別に気にしなくてもいいんだよ。別に俺は変わるわけでもないんだから、今までのように接してくれれば」

 

「嫌です」

 

まさか雪ノ下さん同様に拒絶されるとは……。

 

「今までと同じは嫌です」

 

桜は俺を抱きしめる力を強くする。故に更に胸が……。

 

おい俺。桜は見た目は間桐桜やBBにそっくりでもこの子は俺の妹だぞ。

 

「じゃあ桜はどうなりたいの?」

 

「そ、それは……言えません……」

 

言えないんだ。

 

そんなこんなでもう家の前まで来た。

 

バイクから降りて門を潜って中を見ると、何故か玄関前に女の子が立ってた。

 

年は五歳くらいかな?

 

髪は茶髪でロング、色は俺よりも少し薄いかな?

 

背中には年のわりには少し大きめなリュックサックを背負っている。

 

ただ他人とは思えない。

 

何故かって?

 

女のときの俺をそのまま小さくした感じ。

 

女の子は俺たちに気付いたのか、こっちを向いて驚いた表情を浮かべてからダッシュで俺に突っ込んできた。

 

女の子の頭がお腹にジャストヒット!

 

「グハッ!」

 

「に、兄さん!!」

 

桜が心配そうに俺に声をかけてきた。ありがとう。

 

そんなことよりもだ、この子誰?

 

「………君はダレ?」

 

俺は女の子に尋ねると、女の子は背負っているリュックサックを下して、中から手帳を取り出してボールペンで何かを書いている。

 

声が出ないのかな?

 

そして手帳にはこう書いてあった。

 

『わたしの名前は岸波白乃。あなたの娘です』

 

「「………」」

 

俺に娘?

 

「兄さん?少々家族会議をしましょう」

 

「………はい」

 

身に覚えがないがこの子は俺の娘らしい。

 

というわけで、岸波白野、十六歳。娘ができました。

 

 

 

 

 




ザビ男の過去、いろいろ考えて末こんな感じになりました
最初酷い虐待とかも考えていたんですけど、ザビ男を産む人は善人であるべきと思ったのでかなりぶっ飛んだ感じになりましたね

さて、ついにザビ子がザビ子として出てきましたね。未だになかった感じの親子です
でも本当は親子ではありません。少々事情有、内容はまた次回。一応ザビ子にはザビ男同様に記憶を持っています

それではまた次回!!


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岸波白野、娘ができました。

ザビ子登場。ザビ男どうなる!


 

 

「それで兄さん、この子は誰との子ですか?」

 

「誰との子と言われても身に覚えもないんだけど……」

 

俺は今、桜から家族会議という名の尋問を受けている。

 

場所は居間。

 

机を挟んで俺と桜が向かい合うように座っている。俺の娘(仮)俺の膝の上に座っている。

 

「兄さんに酒癖があったなんて……」

 

「飲んだことないから!」

 

何その『酔った勢いでいくとこまでいっちゃった』みたいな感じ。

 

「じゃあ誰ですか?雪ノ下さんですか?言峰さんですか?それともあの雪ノ下さんのお姉さんですか?」

 

「いや、違うから」

 

だって俺童貞だし。

 

「それに桜、普通に考えてみてよ。俺は17歳(戸籍上)だよ。そしてこの子は見た感じ五歳くらいじゃないか」

 

俺がそういうと女の子は手帳に『四歳。もうじき五歳になる』と書いた。

 

なるほど、この子は四歳か。

 

「そうなるとだよ。俺はこの子を親だとしたら(戸籍上では)12~13歳でそういう行為をしたってことになるんだよ。普通に考えればこの子は俺の子ではない」

 

俺がそう言うと、俺の娘を名乗る『岸波白乃』という少女は涙目になりながら、俺を見つめてくる。

 

えぇ……マジか……。

 

「兄さん!何で責任を持とうとはしないんですか!?兄さんの子供でしょう!」

 

「もう俺の子って決まってるの?」

 

「だって、兄さんですし」

 

「俺だったらこの年で四歳の娘がいてもおかしくないの!?」

 

桜には俺に隠し子がいて当たり前って思われていたのか?

 

ちょっとどころか、すごくショックなんだけど……。

 

「じゃあ桜、別の考え方をしよう」

 

「別の考え方ですか?」

 

「そう。この子が生まれる前だから五年前ってことかな?五年前、俺は小学校六年年生ぐらいだ」

 

「はい、そうですね」

 

「ここでさっき桜が何故かこの子の母親候補にあげた三人を入れてみると、雪ノ下さんは留学、カレンとはまだ仲良くない、陽乃さんは………知らない。だからこの三人は違うってことに……」

 

「それは違います!」

 

桜がダン〇ンロ〇パみたいな感じで、俺の矛盾?を打ち抜く。矛盾あったかな?

 

「何か違うの?」

 

「もしですけど、雪ノ下さんの留学の理由が兄さんの子を身籠ったからだとしたら………」

 

「………マジか」

 

俺は頭を手を当てて悩み始める。

 

「いや、悩むまでもない。それだけはないよ」

 

「はい、私もそう思います」

 

「なら言わないでよ」

 

桜ったら冗談とか言っちゃって、可愛いな。

 

でも、これ以上はわからないな。どうしたものか。

 

「簡単な方法があったな」

 

えーっとなんて呼ぼう。まぁ白乃でいいか。

 

「ねぇ白乃。白乃のお母さんって誰?」

 

今更だが、本人に聞いた方が早い。

 

しかい、自分と同名の人を呼ぶって変な感じだな。しかもそれが娘って……。

 

俺の質問を聞いた俺の娘こと白乃は俺の膝から降りて、リュックサックの中を漁りはじめた。

 

そして一枚の封筒を取り出して、俺に手渡す。

 

「これを読めと?」

 

「………」コクコク

 

白乃は頷く。

 

やっぱりこの子って喋れないのかな?

 

俺は封筒を開けて中に入っていた手紙を読む。

 

『 私の大切な人へ

 

 私はもう長くはありません。ですからこの子はよろしくお願いします。

 身体の弱い私を許して。

 今でもあなたを大切に思っています。

                               Mより 』

 

「………」

 

Mって誰?

 

五年以上前に出会った頭文字がMの人………いないな。

 

雪ノ下雪乃、岸波桜(一応)、言峰カレン、雪ノ下陽乃。

 

一応、カレンのお母さん、クラウディアさんも入ってるか。絶対に手は出さない自信はある。だって死にたくないから。

 

このメンバーの中でMが付く人がいない。

 

そうなると導き出される答えは、月の方だな。

 

英雄の人たち(女性)でMが付く人は……いないな。

 

ネロ・クラウディウス、玉藻の前、エリザベート・バートリー、フランシス・ドレイク、ナーサリーライム、ジャンヌ・ダルク、アタランテ

 

最後の二人が入ったのは俺が中学二年の後半、三年に上がる前。だから違う。

 

そうなると……BB、リップ、メルト。 ん?メルト? もしかしたら……違うな、再会したのは今年だし。

 

だとすれば俺の周りの女性ではないんだな。

 

じゃあ誰だ?

 

M………ムーンセルか? 可能性は………あるな。

 

俺は白乃を見ながら考える。

 

この子は間違いなく俺と関係はある。

 

見た目からして女のときの俺にそっくしだから。

 

そうなるとこの世界でこの子を産むことができる人物は俺の元両親。だが既に殺されてしまったから違う。

 

だとすればムーンセルが関わっているってことは間違いないと思う。

 

そこまではいいけど、情報が足りないな。

 

そういうことになると俺がすべき行動は………この子を近くに置いておく必要がある。

 

なので怖いのを我慢してウソを吐こう。

 

「桜……この子は俺の娘ってことでいいかもしれない」

 

「兄さん……誰とですか?」

 

桜から禍々しい感じモノを感じる。ガクブル

 

「わ、わからりましぇん」

 

怖すぎて噛んだ……。

 

「だ、だけど桜も見たらわかるかもしれないけど、この子って女になったときの俺のそっくりでしょう。なんて言うか他人とは思えないんだよ」

 

俺がそういうと桜から禍々しいモノが消えていく。よ、よかったぁ。

 

「確かに姉さんにそっくりですけど……それじゃあどうすればいいんですか?」

 

どうすればいいって何を? 俺への処罰とか?

 

「この子は家で育てよう。俺が父親としたら桜は……母親代わり?」

 

「に、兄さん」

 

桜は顔を赤くして俯いてしまった。心なしか嬉しそうに見える。

 

ただ、それを反対する者が出ていた。

 

俺は肩を叩かれたので、そっちを向くと白乃が頭を横に振っている。

 

白乃は手帳に字を書き始めた。そしてそこにはこう書いてある。

 

『桜はわたしの嫁。お父さんでもそれは譲れない』

 

「………」

 

流石は俺の娘。

 

 

 

 

 

あの後昼食を取り、白乃に家の構造を教えたり、エル紹介したり、三人でスーパーに買い物に行ったりした。

 

現在、俺はいつも通りのトレーニング(今日は八極拳)。桜はなんだかんだで白乃のことが大好きになり、一緒にお風呂に入っている。

 

じゃあ、白乃のことを考えるとしよう。

 

まずあの子は何処から来たか?そしてどうして俺を知っているのか?

 

答えは紛れもなくムーンセルが関係してだろう。

 

あの手紙のMはムーンセルって仮定して考えると、一昨日や昨日のエネミーと同じ感じでいいのだろうか?

 

俺を殺すための何か……。

 

いや、違うと思う。手紙の内容やあの白乃という女の子の行動はそういったモノではない。

 

そうなると敵ではないのかな。

 

敵味方って判断よりはあの子同様に家族って考えよう。桜も気に入ったみたいだし。

 

一応、あとでみんなに相談してみるか。

 

「今日のトレーニングはこれぐらいでやめにするか」

 

俺は八極拳の型をやめる。

 

人の視線を感じる。

 

視線の方を見るとそこには、お風呂上がりの俺の愛娘?の白乃ちゃんがいるわけだ。

 

白乃は今、子供の頃の桜の服を着ている。捨てなくてよかった。

 

何故かあの大きなリュックサックの中には服など日用品は入っておれず、手帳、ボールペン、俺に渡した手紙、そしていろんな種類の飴が大量に入っていた。白乃曰く、大好物だそうだ。

 

「どうかした?」

 

「………」コクコク

 

白乃は頷いてから、手帳に書いてある文字を見せる。

 

『お父さん、お風呂入っていいよ』

 

「知られてくれてありがとう」

 

俺はしゃがんで白乃の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。

 

そして撫でるのを止めると白乃はまた手帳に文字を書き始める。

 

手帳にはこう書いてあった。

 

『さっきのお父さん、アサシン先生みたい』

 

 

 

 

 

さて、俺は湯船に浸かってさっきの白乃の台詞を思い出す。台詞というより文字か。

 

「『さっきのお父さん、アサシン先生みたい』か……」

 

アサシン先生。ユリウスのサーヴァント『李書文』を知っている。

 

これで完全にムーンセル側なんだが、アサシン先生を知っているってことはユリウスと戦ったことがあるってことになるんだよな。

 

そういえば、俺が女になったときのメルトの言葉が少し不思議だったな。

 

『ハクノ、私はその姿も嫌いではないけれど、その姿だとアーチャーのほうが好みだわ。なるべく早く戻ってくれないかしら』

 

この台詞だとメルトは女の姿の俺を知っているってことになるんだよな。

 

そうなると、名前、姿、記憶などを含めて考えるとあの女の子、岸波白乃は俺、岸波白野と同一人物に近い存在ってことだよな。

 

まぁわからない場合はBBに聞けばいいか。むしろ白乃をBBに合わせればいいのか。

 

思い立ったら即行動と行きたいが、今日は疲れたからもう少しゆっくりお風呂に浸かるか……。

 

『―――パイ、センパイ』

 

ん? BB?

 

『はい、センパイが大好きなBBちゃんですよ~。先程先輩が私に聞きたいことがあるっと考えていたみたいなので、話にきました』

 

最近思うのだが、俺の思考や行動がムーンセル側に漏れすぎてると思うのだが本当に大丈夫なのだろうか?

 

『大丈夫じゃないですか?こうやってセンパイと話す条件は、センパイを見ていないとできないようですし』

 

…………そうなるとBBは今、俺の入浴を覗いているってこと?

 

『………では話を戻しますけど』

 

戻すな!ちょっといいかな?流石の俺も入浴を覗かれたら黙ってないよ

 

『だ、大丈夫ですよ、センパイの大切な部分はお風呂場の湯気とか怪しい光の線とかで隠れてますから』

 

何その最近のアニメの隠し方みたいなの?それに俺の裸を見たがる人なんて………いない、よね?

 

『どうでしょうか? セイバーさんやキャスターさんは暴走しそうですし、エリちゃんやリップは顔を真っ赤にしながら目を手で隠しながらも指の間から見てるイメージがありますね。それでメルトは舐め回すように』

 

いや、もういいです

 

何故だろう、BBが言った光景が想像できてしまう……。

 

えーっと、それじゃあ……何の話だったけ?

 

さっきの衝撃がデカすぎて吹っ飛んでしまった。

 

『センパイが私に聞きたいことあるみたいだったのでそれを聞きに来たんですよ』

 

確かにそんな感じだった。

 

じゃあ、BBが俺の生活を見ている前提で単刀直入に聞くんだけど岸波白乃、俺の娘と名乗っているあの女の子は何者?

 

『あの人はセンパイですよ』

 

なるほど予想してはいたけど、そういうことか。

 

『岸波白乃はセンパイ、岸波白野の女の可能性です。センパイには複数の可能性があります。例えば、センパイのサーヴァントがいい例です』

 

俺にはセイバー、アーチャー、キャスターっていう可能性があり、場合のよってはバーサーカーって可能性があったわけで、それが月の裏側では代わりにギルガメッシュになったわけだ。

 

『センパイに複数の可能性があるので、女性の可能性があってもおかしくないってことですね』

 

おかしいと思うけど、今回は置いておこう。

 

やっぱり白乃には聖杯戦争や月の裏側での記憶があるんだね

 

『はい、あちらセンパイにもムーンセルでの記憶はあります』

 

でも、どうして俺の娘って名乗ってるわけ?

 

『それはセンパイの子供ですから』

 

………はい?今何と?

 

今のBBの言葉が信じがたいものだったのでもう一度聞き直す。

 

『ですから、白乃センパイはセンパイの娘さんですよ』

 

そ、そんな………俺、童貞なはずなのに知らない間に………

 

ショックが大きい。なんでかって?平塚先生が可哀想だから。それと気になることが。

 

それじゃあ、俺のお嫁さんは誰ですか?

 

『私です。と言いたいところですけど、いませんよ』

 

そうなの?

 

『はい、白乃センパイはムーンセルがセンパイの遺伝子で作ったんです。それで今の四歳の姿になった白乃センパイをそちらの世界に送り出したって感じです』

 

白乃はムーンセルによって機械的に作られた子供ってこと?

 

それ以前にムーンセルは何で俺の遺伝子を勝手に使って子供作ってんだよ……。

 

『そんな感じですね。ですから白乃センパイはセンパイと違ってこの世界に生まれたというよりは、気が付いたらこの世界にいたって感じになるんでしょうか?』

 

そうなると疑問があるな。

 

それならBB、どうして白乃は俺を父親って思ってるんだ?

 

BBの説明だと、元の世界から来ただけで、俺が父親だという情報は得ていないはずだ。

 

『たぶん、ムーンセルが白乃センパイがこちらの世界に来るとき教えたんじゃないですか?』

 

途中でムーンセルの介入があったわけか……。そうなるとあの手紙のMって言うのはムーンセルって考えで間違ってなさそうだな。

 

ねぇBB?ムーンセルって何がしたいの?

 

『と言いますと?』

 

だってさ、俺を転生させてと思えば、殺そうともするし、それに今度は俺の娘を送ってくる、何を考えているのかわからないんだけど

 

『神の頭脳は人には理解なんてできませんよ。ただですね、ムーンセルには複数の思考が存在したりもするんですよ』

 

複数の思考?

 

『センパイを生かそうとする考えや、センパイを殺そうと考えなどがあるってことです』

 

この発言から、手紙は俺を生かそうとした思考のほうのでいいのだろう。そうなると白乃は俺を殺そうとしていたエネミーとは違うわけだ。そういうことが分かればいいか。一応、BBに尋ねておこう。

 

なら白乃は特に俺に害をもたらしたりはしないんだね

 

『親に害をもたらす娘なんて………いるといえばいますね』

 

間違いなく今リップやメルトのことを考えたな。まぁ白乃は娘のとして接していればいいってことだな。

 

ありがとうBB何となくだけどわかったよ。白乃は父親として大切に育てるよ

 

『あ、はい、わかりました。そういえば、センパイはサーヴァントの皆さんや白いのとのエンディングを迎えていませんよね』

 

そうだけど、それがどうかしたの?

 

『たぶんですけど、白乃センパイは全てのエンディングを迎えていると思いますよ』

 

え?マジで?

 

『ただ、その代りコードキャストやムーンセルにダイブするみたいなことをできないと思います』

 

思いますってことは確信を得てはいないんだね

 

『私にもわからないことぐらいあるんです。それではセンパイまた今度お会いするときまで』

 

こうしてBBとの通信が切れた。

 

そろそろお風呂から上がろうか。

 

 

 

 

次の日

 

昨日BBから白乃の情報をある程度もらったわけだけど、わからないことはまだあるんだよね。まぁそれは後々本人が話してくれるだろう。

 

「それじゃあ行こうか」

 

今日は白乃にこの周辺をブラブラと歩きまわりながら説明しようと思っている。

 

白乃はいつものようにコクコクと何も喋らずに頷きだけで返答。

 

俺は白乃と手を繋いで家を出た。

 

今回一番の目的は俺や桜が学校に通っている間に白乃を預かってもらおうと思っている場所に連れて行こう。

 

そう、ここだ。

 

家から白乃の歩幅に合わせて歩いて十五分くらいで、俺は通いなれたあの店の前まで白乃を連れてきた。

 

『お父さん、ここって料理屋?』

 

白乃は手帳に文字を書いて俺に見せる。

 

「そうそう、たぶん俺や桜が学校に行っている間に白乃がお世話になるかもしれない場所」

 

『?』

 

手帳にクエスチョンマークを書いて小首を傾げる。手帳に書く意味あった?

 

「まずは中に入ろうか」

 

俺は扉に手を掛けて「お邪魔します」と言いながら中に入ると。

 

「いらっしゃいませ。って白野先輩ですか」

 

カレンは嫌そうな顔を浮かべる。え?もしかして俺って嫌われてる?

 

「カレンさん、そこまで嫌そうな顔をしないでも………」

 

「いえ、別に白野先輩が嫌いってわけではありませんよ。ただ、無駄な労働になりそうだと思っただけです」

 

それってどうなんだろうか?

 

「大丈夫だよ、今回は客としてきたわけじゃないから」

 

俺がそう言うとカレンはキョトンとした顔をしてから、俺の横にいる白乃を見てから嫌な笑みを浮かべる。

 

「白野先輩ついに誘拐ですか?」

 

「違うから!」

 

「それでは隠し子?」

 

「………」

 

あらがち間違ってないよな。

 

俺の変な間をカレンは感じ取ったようで、少し焦ったような表情をする。

 

「え、もしかして白野先輩、本当に……」

 

「俺の家の、新しい家族と言えばいいのかな?」

 

俺は白乃に視線を下すと、白乃は手帳に『私は岸波白乃。お父さん、岸波白野の娘です。これからよろしくお願いします』と書いて、カレン見せる。

 

「ということらしいからよろしくね」

 

もうどうしようもないから笑顔でそう言っておこう。

 

そしてカレンは聖母のようなとても優しい笑みで

 

「白野先輩、店の裏に来てください」

 

今までのカレンからは感じたことがないような感覚だなぁ。ああ、何故だろう、すごく怖い。

 

「いや、ちょ、ちょっと話し合わない?」

 

「ですから店の裏に来てください」

 

「………わかりました」

 

俺は白乃に「少し待っててね」と頭を撫でてからカレンの後をついていく。

 

そのあと、俺はカレンからあの赤い布『マグダラの聖骸布』とか黒鍵とかいろいろと使われ怖い思いをした。

 

半ば死にかけたが、どうにかカレンに白乃のことをわかってもらった。

 

店の中に入ったら、白乃が店長とクラウディアさんととても仲良さそうにしていて、麻婆豆腐を食べていた。まぁお金はしっかり支払させられた。

 

 

 

 

 

あのあと店長に俺が学校に通っている間に白乃の面倒を見てもらえるかを尋ねたら「ああ、いいだろう」と即了承してくれた。

 

この人はなんだかんだで頼りになるかな。

 

それから俺は白乃と一緒にその辺をブラブラと歩き回っている。

 

そして総武校付近に来た時、背後から聞きなれた声が聞こえた。

 

「あ、キッシー?」

 

この声、この俺のあだ名を呼ぶ人物は。

 

俺は振り向くとそこには停車している車から顔を出している由比ヶ浜さんがいた。

 

「あれ?由比ヶ浜さん何処か出かけるの?」

 

俺は白乃と一緒に由比ヶ浜さんが乗っている車に近づくと由比ヶ浜さんも車から降りてきた。

 

「あ、うん、今から家族旅行に行くんだ」

 

「へぇ、それはよかったね。いい思い出作りになって」

 

「それで、さっきヒッキーの家にサブレを預けに行ったんだ。サブレ、ヒッキーに懐いてるみたいだし」

 

まぁ命の恩人みたいな感じだからな。

 

「キッシーはこんなところでどうかしたの?ってその子……ああ!はくのんそっくり!」

 

ナイスリアクションって感じの大声ですね。

 

「この子は、俺の妹みたいなもんかな?」

 

俺がそういうと白乃は頭をプンプンと横に振ってから、手帳に『妹じゃなくて、娘でしょ。お父さん』と記す。

 

「「………」」

 

確かにその通りなんですけどね白乃さん、普通にこの年で娘がいるって結構大事ですよ。

 

「ま、まぁそんな事とは置いておくとして、それじゃあね由比ヶ浜さん」

 

「あ、う、うん。またねキッシー」

 

こうして俺は由比ヶ浜さんに別れを告げて、歩き始めようとすると「ちょっと待ってキッシー」と由比ヶ浜さんに呼び止められた。

 

「ん?どうかしたの?」

 

「あのね、ゆきのんのことなんだけど……ゆきのん」

 

「やっぱり実家で大変だったりするの?」

 

「うん、そうみたい。電話も留守電だったり、メールも返信が遅かったりするの………」

 

やっぱりあの家はいろいろと大変なんだろうな。

 

由比ヶ浜さんも少し暗い顔してるし。

 

「大丈夫だよ。だからそんな顔しないで、今から家族旅行に行くんでしょ。それに由比ヶ浜さんは今まで通り雪ノ下さんのことを大切に思っていれば、うまくいくと思うから。だからいつもみたいな元気な由比ヶ浜さんでいてよ」

 

「う、うん……ありがとう」

 

由比ヶ浜さんは笑顔になってくれた。やっぱり彼女は笑顔が似合うな。

 

「キッシーそういうこと言う相手はもう少し考えた方がいいと思うよ」

 

え!?何で俺そんなこと言われるの!?

 

「そういえば、キッシー。その子の名前なんて言うの?」

 

そのことは白乃の事だろう。

 

「この子は字は違うけど、俺と同じで白乃って言うんだよ」

 

「へぇ、兄妹で同じ名前なんだね。どういう字なの?」

 

由比ヶ浜さんがそういうので教えることにしよう。白乃はさっきから『妹じゃなくて、娘!』と手帳を由比ヶ浜さんに見せようと頑張っている。

 

「字は、俺と同じ『白』と雪ノ下さんの『乃』で白乃って書くんだよ」

 

「ゆきのんの『ノ』ってカタカナじゃないの?」

 

それって、名字の方を言ってるのか?

 

「ごめん、言い方が悪かったね。雪ノ下の『ノ』じゃなくて雪乃の『乃』だよ」

 

「へぇ、それってキッシーとゆきのんの子供みたいだね……あれ?さっきこの子、娘って……」

 

おやぁ……雲行きが怪しいな……。

 

「えーっとキッシーもしかしてその子って、キッシーとゆきのんの」

 

「違います。考えてみて、俺まだ17歳(戸籍上)だよ。さすがに娘は」

 

「あははは、そうだよね。それじゃあキッシーまたね」

 

「うん、また今度」

 

こうして、由比ヶ浜さんは車に戻っていた。

 

由比ヶ浜さんの車が去っていくのを見送ってから

 

「ねぇ、白乃さん。確かに君は俺の娘なんだけどさ、さすがに年齢の問題があるんだ」

 

俺がそういうと白乃は首をプンプンと横に振る。

 

『お父さんはお父さんなの。だから私は娘』

 

意味が分からない文なのだが、何となくわかる。

 

「はぁ……わかったよ」

 

俺は白乃の頭を撫でながら今後のことを考える。

 

これからどうやってみんなに俺とこの子の関係を説明するべきか………。

 

はぁ……今後もっと大変になりそうだな。

 

 

 

 

 




今回はザビ男の娘となったザビ子がどんな感じの子かを説明する回でしたね。といっても、まだわからないことが多いですね

次回はまたザビ子とその辺をブラブラと散歩をします

それではまた次回に!


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雪ノ下家への訪問。

今回は一気に話を飛ばしてラーメン屋のくだり、そしてザビ男は雪ノ下家に訪問します。今回は陽乃がメインになります



 

 

 

現在11:30

 

自習を終え、昼食を何にするか考えながら居間に戻り俺はカレンダーを見て思ったことを口にする。

 

「夏休みの終わりが見えてきたな」

 

留美ちゃんの小学校の林間学校のボランティアを終えた日、俺は自分の過去をみんなに話して、更に俺の娘と名乗る四歳の女の子、岸波白乃が家に住むようになって既に数日が経った。

 

そういえば陽乃さんが俺の元両親の情報を教えてくれるとは言っていたが、未だに連絡がないんだよな。自分から連絡をしていいのかわからないのでこの案件については陽乃さんに任せることにしよう。

 

白乃は既にこの家に慣れて、今は縁側でエルとその子供たちと一緒に日干ししていた布団の上でお昼寝をしている。そして桜は学校の友達と勉強をするために図書館に行っている。

 

「さて、今日は何しようかな……」

 

白乃が起きてから作るとして、手軽にパスタとか?

 

それに昼食を食べた後は何をしよう。

 

こういう長期休みは暇で仕方がない。

 

高校の課題は初めの一週間以内で終わらせるし、自習も午前中やっている。トレーニングは決めた時間にやるようにしてるし、生憎今日はバイトもない。そして遊ぶような友人もいない。

 

「暇だ………」

 

いっその事俺も白乃と一緒に昼寝でもしようかな。

 

と、そんなことを考えていると寝起きの目を擦りながら寝ぼけ気味の俺の愛娘の白乃ちゃんが居間に入ってきた。

 

「おはよう白乃。昼食食べる?」

 

白乃はいつものように喋らずにコクリと頷く。

 

この前話せないか聞いたのだが『今は無理みたい』と手帳に書いて見せてくれた。今は無理ってことは今後話せるようにもなるってことだよな。

 

「それじゃあ、今から用意するから待って、ん?」

 

俺が用意を始めようとしたとき、白乃は手帳に文字を書き始める。

 

そしてそこには『お父さん、外食しよう』と書いてある。

 

「外食ねぇ」

 

娘の願いを聞くのも父親の仕事だと思うのだが甘やかしすぎるのもなぁ。うーん、どうしよう。

 

「白乃は何か食べたいモノあるの?」

 

俺が作れる範囲のモノなら家で我慢してもらおう。

 

白乃は少し悩んでから、手帳に『ラーメン』と書いて見せる。

 

ラーメンか、なら仕方がない。

 

「行こう」

 

『おーう』

 

 

 

 

 

俺は白乃とバイクでラーメン屋に向かうことにした。

 

バイクで移動する理由は白乃にどんなラーメンが食べたいか尋ねたら、『こってりしたとんこつで』と書かれたからだ。本当に四歳児か?

 

記憶があるから頭の中は高校生ぐらいだとしても、胃袋など身体に関しては子供なのにね。

 

そして移動中に見知った人物とドレスを着た綺麗な女性が歩いていた。

 

あの人たちって比企谷と……ひ、平、塚先生かな?少し自信がないが、比企谷といたところを見ると平塚先生でいいと思う。

 

でも、どうしてドレスなんだろう……。知り合いの結婚式の帰りかな?うん。たぶんそうだ。

 

そして俺が目的としていたラーメン屋は比企谷と平塚先生の目的地だったらしく、二人と鉢合わせした。

 

「お久しぶりです平塚先生。比企谷も久しぶり」

 

俺が挨拶をすると比企谷は「よう」と軽く手を挙げて返事をする。

 

「おや、岸波はこんなところでどうしたんだ?」

 

平塚先生は俺がここにいることを疑問に思ったようだな。

 

「それはですね」

 

俺は俺の後ろにいる白乃を二人に見えるように身体を動かす。

 

「この子がとんこつラーメンを食べたいと言ったので連れてきたんです」

 

白乃はコクリと頷く。

 

二人は白乃を見つめて一言。

 

「「何処かで見たことがあるような……」」

 

でしょうね。

 

一応紹介するか。あれから白乃と話し合った結果「この子は家の養子の子です」と説明することにした。

 

こうすれば、白乃は俺の娘ってことも間違いないし、俺がこの年で隠し子がいるみたいな変な誤解も招かないだろう。

 

「養子ってことはお前の妹ってことか?」

 

そう比企谷が尋ねる。確かにそう思うよな。俺はそれでもいいんだが白乃がそれを譲らない。

 

「いや、そうじゃなくて俺の養子だよ」

 

「は?」

 

「まだ俺の年齢じゃ無理なんだけどさ、一応養子ってことで」

 

俺が軽く説明をすると白乃は『これからよろしく』と手帳に書く。

 

そんなことを比企谷と話していると、平塚先生からものすごく暗い怒りではなく悲しみのオーラが滲み出ている。

 

「あ、あのー、平塚先生?」

 

「……グスン。また、生徒に……しかも、まだ高校生、の生徒に先を……ウッ……」

 

な、泣いている。

 

なんていうか非常に申し訳ないんだが、可愛いよね。強気な人が見せる悲しそうな顔ってさ。セイバーとかそうだよね。とそんなことを考えてはいけない。

 

俺は平塚先生の頭を撫でながら慰めようと頑張る。

 

「ひ、平塚先生、そんなに気にしないでください。まだ俺は結婚とかしないですし、いや、今の生活は、桜(嫁)と白乃(娘)でかなり新婚みたいですけど」

 

『だから、桜はわたしの嫁』

 

わかってますよ白乃さん。

 

「また、先生の相談を聞きますから、元気出してください」

 

「……うん」

 

ほんと俺も悲しくなるよ。誰か貰ってあげてよ。

 

その後、四人で一緒にラーメンを食べるわけではなく、俺と白乃、比企谷と平塚先生と別れて食した。

 

見た感じだが、比企谷と平塚先生は結構いい感じだよな。

 

平塚先生の唯一?の救いは比企谷だったりして。でもたぶん由比ヶ浜さんも比企谷のこと好きだよな。比企谷も『女難の相』持ってたりしてな。

 

 

 

 

 

家に帰り、白乃はエルと追いかけっこを遊んでいる。俺の携帯に一通のメールが届いた。

 

送り主は陽乃さん。

 

内容は『明日、予定に空き時間ができたから話しに来てね。時間は三時、私の家で』とのこと。

 

それと何故か、雪ノ下さんと陽乃さんのドレス姿の写メも貼られていて『どっちが好み?』みたいなことも書いてあった。たぶん、父親関係でのパーティーにでも着いて行かされたのかな?

 

ただこの写真、陽乃さんのは自分で撮った感じなんだが、雪ノ下さんのは雪ノ下さんの目線とか撮影角度とかがすごく隠し撮りって感じがするんだが……。

 

返事は『わかりました』で簡単に済ませるとして、どっちが好み?って言われてもな……返信に困る。

 

ここは陽乃さんならわかってくれそうだから冗談で『二人とも結婚したいぐらい綺麗なんで決められません』と書いてみた。

 

「まぁ送らないけどね」

 

俺が書いた文章を消している途中、背後からエルと追いかけっこをしていた白乃が俺に激突。

 

アレ~?デジャブ?前もこんな感じで面倒くさいことになったな。

 

こうして本当面倒くさいことになる。

 

携帯が俺の手から落ちて、更にうまく落ちた携帯が送信画面になり、送信ボタンにエルの肉球が……そしてうまい感じに『二人とも結婚したい』で送信してしまった。

 

「………いや、陽乃さんならわかってくれるよね。一応、間違えましたって返信を」

 

返信しようと思い携帯を拾ってすぐに陽乃さんから電話が……。

 

「もしもし陽――」

 

『白野くん?私嬉しいな~。まさか白野くんから私たち姉妹を二人同時にプロポーズなんて面白そ、凄く嬉しいよ~。あ、今からお父さんに白野くんのこと話してくるね♡ 明日が楽しみだね。それじゃあねぇ』

 

そして電話が切れた。

 

俺は急いで電話やメールをしたのだが全部着信拒否された。

 

たぶんこの人は間違えとか、冗談とかわかったうえでやってるよな………。面白そうって言いかけけてたし。

 

そうだ。雪ノ下さんに連絡を……今は止めておこう。何か嫌な予感もするし。

 

はぁ……すごく面倒くさいことになってきた。

 

俺が項垂れていると、白乃とエルが心配そうに俺を見つめてくる。

 

「白乃……もしかしたら、もしかしたらだけど、変な方向に話が流れたら……お母さんができるかも」

 

『歓喜!おめでとうお父さん。桜はわたしに任せて』

 

喜ばないでください。

 

 

 

 

 

どうしてこうなった?

 

現在、雪ノ下さんの実家近くの合気道の道場。

 

「白野くん頑張れー」

 

陽乃さんに応援されながら俺は今、戦うことになりました。

 

相手は陽乃さんと雪ノ下さんの合気道の先生。

 

さて、思い出そう。

 

俺は昨日のやり取りのあと、重い気分で一日を過ごし、行きたくない気持ちを抑えながら雪ノ下さんの実家に向かい、そして雪ノ下さんの家に着くなり雪ノ下さんたちの父親に会わされ、「君が私の娘たちに相応しいか見てやる」みたいな感じの展開になった。間違いだと説明させてもらう時間ももらえずに、三つの試練みたいな感じで、学力、武力、家柄の三つを判定されることになった。

 

既に学力の項目は終えてあり、普通にいつもの努力の成果を発揮して合格。

 

で、武力は体力テストだったのだが、完全に高校生の上を行っている俺は当たり前に合格してしまった。

 

ただ納得がいかなかったようだったので、今、俺は戦わされているわけだ。

 

今更だがなんで俺全力で頑張ってるんだよ。手を抜いてればそこで終わって、自分の両親の話を聞いて帰れたのに……。

 

まぁ仕方がない。ここまで来たら全力で戦おう。

 

全力と言っても魔術を使うわけではないから大丈夫。

 

俺は店長から習った八極拳の型を構える。

 

「なるほど、君は八極拳をやっているようだね」

 

構えを見ただけでどの武術かを判断できるようだ。さすが教える側の人。

 

さて、相手は合気道だ。相手の力を生かして戦う武術。合理的な体の運用により体格体力によらず『小よく大を制する』ことが可能。言わば柔って感じかな?

 

対して俺は魔術なしだから基本打撃技になる。なので剛って感じになるだろう。

 

正直相性は悪い。

 

ただ、相手の力は店長以下だろう。技量ぐらいなら俺でもすぐにわかる。魔術なしの俺でも十分にやりあえると思う。

 

なので、早く終わらせたいので終わらせるには一撃で決める。

 

「それでは」

 

よくわからないが、審判みたいな人も出てきたな。ちょっと楽しんでないよね?

 

まぁいい、俺と相手の距離は七メートル。すぐに懐に入れる距離ではある。

 

「勝負始め!」

 

俺は合図とともに距離を詰める。

 

投げ技は基本、相手の腕や胸元などを引いたりして相手の軸がぶれたところを狙ってやるもの。

 

なら、掴ませなければいい。いや、掴まれる前に打ち込めばいい。

 

相手は早く動いても常人レベル。俺は英雄や店長みたいな人間以上に化け物みたいな人たちに習ってるし、この前だってエネミーと戦わされた。

 

自分でいうのも悲しいが俺は高校生レベルではなく、常人レベルを越してるわけだ。

 

相手との距離は残り三メートルくらい。

 

俺は畳張りの床を思いっきり蹴り、前に跳ねて距離を一気に縮める。

 

『絶招歩法』

 

そしてその勢いのまま相手の胸に向かって拳を突き出して攻撃をする。

 

 

 

 

 

はい、負けました。

 

俺は畳の上で仰向けの状態で天井を見ている。

 

俺が天井を見上げていると相手していた雪ノ下さんたちの合気道の先生が俺のことを見下ろしてくる。

 

「ねぇ君はどうしてあのとき打撃技を撃たなかったの?」

 

相手の雪ノ下さんたちの先生に聞かれた。

 

そう俺は攻撃しなかった。何故かって?相手が女性だからです。いや正しく言えば、相手が人だからです。

 

「いえ、確かに『絶招歩法』で距離を詰めたまではいいんですけどその後の攻撃で使うつもりだった『金剛八式・衝捶』は結構危ない技なんで使うのを止めたんです」

 

結果、俺は綺麗に投げ飛ばされた。傍から見たら俺が攻撃を止めたなんて気付かないぐらいに綺麗に投げられた。

 

八極拳はアサシン先生や店長を見てわかるように破壊技なんだよな。

 

「ふーん、君、優しいんだね。陽乃ちゃんや雪乃ちゃんが気に入る訳だ」

 

俺が手加減したのを見切っているようで。そしてあの二人に気に入られている?玩具的な意味で?

 

「そうだ。勝負は私が勝ったけど、二人のお婿さんに推薦しようか?」

 

「いや、大丈夫です」

 

「そうなの?だって君は今日、二人の内のどちらかの貞操を奪いに来たんでしょ?」

 

「違いますよ!なんですかそれ!?」

 

「それでデキ婚して、雪ノ下家の財産を」

 

「だから違いますから!」

 

変な方向に話が進んでるぞ。これじゃあ完全に悪人じゃん。

 

あれ?もしかして……

 

「あの……その話ってどこで聞いたんですか?」

 

「これは、陽乃ちゃんからだね。この話は結構広まってると思うよ」

 

「………」

 

俺、もしかしたら千葉から消されるのかな?

 

「陽乃さん!!悪ふざけで俺の人生を終わらせないでください!!」

 

俺は応援?に来ている陽乃さんに大声で怒鳴ると「てへっ」と陽乃さんは右手でコツンと頭を軽く叩いて舌を出す。

 

「「てへっ」じゃないですよ。今日俺、両親の話聞きに来ただけなのに、人生の大勝負みたいな展開に巻き込まれてるんですか」

 

この試練クリアしないと千葉から抹殺(いろんな意味で)されるだろう。

 

「ほら、男の子ってこういう熱い感じ好きでしょ。静ちゃんも好きそうだし」

 

「熱くないですよ!死しか見えませんよ」

 

「大丈夫。全部終わったら私か雪乃ちゃんの彼氏ってことで人生スタートできるから」

 

「確かに二人みたいな美人の彼氏ってのは嬉しいですけど、それとこれは違うじゃないですか」

 

「えー。だって白野くんが昨日『二人とも結婚したい』って言ってくれたじゃん」

 

と陽乃さんは笑顔で言うのだが、この笑顔、絶対に間違いだと見抜いたうえで面白そうって理由でやってます。って感じの笑みだ。

 

「………陽乃さん、気付いて言ってますよね」

 

「なんのことかなー。私にはわからないなー」

 

もうヤダ。俺泣きたい。

 

 

 

 

 

結局、最後の試練まで来ました。

 

最後は家柄なのだが、俺が名医トワイスの息子だって言ったら即OKをもらった。

 

こうして俺は雪ノ下さんか陽乃さんと付き合う権利をもらった。いらないわけではないが、使い道がないな。

 

いろんな意味で疲れた俺に陽乃さんは抱き付いてきた。

 

「やったね~白野くん。これでお父さん公認カップルだ」

 

「……あ、はい……嬉しいです。ほんと……すごく嬉しいですよ……はぁ……」

 

「それじゃあ、今から私の部屋で……お話しようか」

 

陽乃さんは真面目な声色で話す。

 

やっとか、やっと俺は今日の目的を果たせる。

 

俺は陽乃さんの案内の元、雪ノ下さんの家の中を移動している。やっぱり広いな。

 

「ここだよ。私、お茶持ってくるから中で待っててよ」

 

「いや、気にしないでください」

 

「お客さんはしっかりおもてなしをしないと。だから中で待ってて」

 

そう言って陽乃さんはお茶を取りに行った。

 

何だろう、嫌な予感がするんだが。

 

ダメだな。こう用心深いのも問題だな。陽乃さんが言ったように中に入って待たせてもらおう。

 

でも、やっぱり心配なので俺は扉にドアノブに手を掛けてゆっくりと扉を静かに開けると、そこには……

 

パンさんのぬいぐるみを抱きながらパソコンで猫の画像を見ている雪ノ下さんがいた。

 

俺は静かに扉を閉める。よかった。雪ノ下さんは俺に気が付いていないようだ。

 

「陽乃さんの部屋じゃないじゃん……」

 

仕方がない。廊下で陽乃さんの帰りを待とう。

 

十分後。

 

陽乃さんは来ない。

 

もしかしてだけどさ、陽乃さんの狙いって俺と雪ノ下さんをこの部屋に二人っきりにさせるつもりだったのかじゃないよな。

 

仕方がない。俺から陽乃さんの方に出向くか。

 

俺はポケットに手を入れて電子手帳を作り出す。

 

「view-map()」遠見の水晶玉のコードキャストで陽乃さんを探すと、ここから部屋三つ離れた部屋にいるようだ。

 

俺はその部屋の前まで移動して、中にいる人に気配を感じ取る。

 

……人の気配は一人、そうなると中には陽乃さんだけか。さっきは俺を騙したので仕返しにノックもせずに戸を開けようかな。

 

そして俺はノックをせずに扉を開ける。

 

そこには着替え中の下着姿の陽乃さんがいた。雪ノ下さんとは違ってしっかりと目も合った。

 

あの陽乃さんが珍しく顔を真っ赤にしていく。でも叫ぼうとはしない。いや叫べないのかな。驚きすぎて叫べないのだろう。

 

「………お邪魔しました」

 

俺は戸を閉める。

 

桜にも負けないぐらいのいいモノ見せてもらいました。はい。

 

 

 

 

 

俺はその場を動くこともできずに、陽乃さんの着替えている部屋の前で立って待っている。

 

数分後、扉が開き、陽乃さんは扉からまだ赤みが抜けていな顔だけを出してジト目で睨んでくる。

 

「白野くん。私に恨みでもあるのかな?」

 

「着替えを見ちゃったのは謝りますけど、今日のことについては恨みだらけですけどね」

 

「へぇ~。そういうこと言うんだ。私の着替えを見たのに」

 

「だって、陽乃さんが雪ノ下さんがいる部屋に連れていくから」

 

まずあんなことがなかったらこんなことにはならなかったはずだ。

 

「責任取ってね」

 

あるある展開だな。

 

「責任てなんですか?もしかして結婚してとかですか?」

 

「別にそれはいいや、そうだなぁ………」

 

陽乃さんは悩み始めた。そして閃いたらしくポンっと手を叩く。

 

「今後私と雪乃ちゃん以外にはフラグを建てちゃダメってことにしよう」

 

ムーンセルでもそうだったけど別に建てたくて建ててるわけでもないし、自分が正しいって思ってやったことやったら立ってたんだよ。それ以前に俺はこの世界ではフラグは建てていないはずだ。

 

「陽乃さん俺は死亡フラグとかはよく建てますけど、恋愛方面ではフラグは一度も建ててませんよ」

 

「白野くんはそろそろ自分が一級フラグ建築士だって自覚を持った方がいいよ。そうしないといずれ身近な女の子の誰かに背後からグッサリいかれるよ」

 

グッサリなんてもう五歳までに慣れたし、コードキャストも使えるから怖く……いや、怖いな。マジ怖いです。

 

「そ、それじゃあ俺はどうすればいいですか陽乃さん。さすがに身近な人間に背後からグッサリなんてシャレになりませんよ」

 

俺は頼りになる自称お姉さんに懇願する。知り合いに殺されたくないから。

 

「まぁ立ち話もなんだから中に入ってよ」

 

確かにずっと廊下で話してるわけにもいかないな。

 

「はい、ではお言葉に甘えて部屋の中に入れせてもらいます」

 

こうして俺はやっと部屋の中には入れた。

 

ただ問題発生。

 

「あのー、何で水着姿なんですか?」

 

何故か陽乃さんはビキニの水着を着ている。

 

「サービスは大切だからね。それでどうだったかな?お姉さんの水着は、えいえい」

 

俺の頬を人差し指で押しながら答えにくい質問をしてくる。

 

なんか本当の面倒くさいから頭に浮かんだことを棒読みで伝えよう。

 

「いいと思いますよー。水着も陽乃さんに似合ってると思います。それにスタイルもいいですから興奮しますよー(棒読み)」

 

「棒読みとか白野くん酷い、グスン。お姉さん白野くんを誘惑するために恥ずかしい思いしてるのに~」

 

陽乃さんは両手で顔を覆いウソ泣きをする。

 

何で誘惑しようと思ってるんだろうこの人……。

 

まぁ確かに着ている水着はキャスターの『せくすぃーびきに』ぐらいの布の面積だし、しかも陽乃さんはセイバーと同じぐらいのスタイルの良さはある。似合わないと思うが『あかいいなずま』を着てきたらセイバーのとき同様鼻血を出すかもしれない。

 

だが俺はそう簡単に誘惑には負けないぞ。

 

と言ってもだ、陽乃さんは雪ノ下さんが憧れるように凄い人だとも思う。性格も正直言って無理とかも思わないし、陽乃さんぐらいの腹黒さなら普通に仲良くできる自信もある。

 

予想はしていたけれどこの人は自力で俺の過去を見つけ出したんだよな。やっぱりこの人はすごいよな。

 

「それじゃあ陽乃さん。そろそろ本題に入りましょう」

 

俺は陽乃さんの水着姿に触れないでおいて話題を切り出す。

 

「俺はどうすれば、背後からグッサリをされずに済むんでしょうか」

 

「そっちを最初に聞くんだね」

 

それはそうでしょ。殺されるかもしれないって言われてるんだからその対処法を聞くのは当たり前だよ。

 

陽乃さんに「ここに座って」と言われたのでベットに腰を掛けると陽乃さんも肩を並べる様に横に座った。何故だ?ここは普通向かい合ってでしょう?

 

「簡単な方法は今まで建てたフラグをへし折ればいいんだけどね」

 

「フラグをへし折る?」

 

なるほど、ラニ考案の『感情抑制装置フラグブレイカー』を使うわけではないんだな。

 

「そうそう、自分のことを好きであろう人物の嫌がることをすれば折れると思うよ」

 

俺のことを好きな人か……いないからまだ大丈夫だな。

 

「じゃあ次行きましょう」

 

「待った。今度は私の番だよ。白野くんばっかりじゃ、ズルいでしょ」

 

確かにそうだな。

 

「はい、わかりました。俺の過去の答え合わせでいいんですよね?」

 

「うん。OKだよ」

 

こうして俺は陽乃さんに俺の過去を話し始めた。今回も魔術のことは伏せておくけど。

 

話し終わる頃には俺は上半身を裸にされていた。

 

こ、これは仕方がないんだ。傷を見せるのは仕方がないと思ってるから、問題は俺の着てきたTシャツや上着を陽乃さんに奪われてしまったことだ。

 

現状、この部屋にはビキニ姿の女子大学生と上半身裸(傷だらけ)の男子高校生がベットに腰を掛けて話しているという異常な空間。

 

ま、まぁ今は自分のするべきことに集中しよう。

 

「えーっと俺の過去はどうでしたか?」

 

「……え?」

 

陽乃さんは俺の顔をぼーっと見ていたようで話を聞いていなかったみたいだ。

 

「いや、だから俺の過去を聞いてどう思ったかなって?それに陽乃さんの答え合わせもかねて」

 

「そ、そうだね~。私が手に入れてたのは情報だけであとは私の想像と推測で考えた結果だったんだけど、粗方合ってたかな……」

 

やっぱりこの人はすごいな。手に入れた情報を基に想像と推測だけで真実に辿り着くんだから。陽乃さんはマスターに向いてるかもね。

 

「ねぇ白野くん」

 

「なんですか?」

 

「多分なんだけど……私は君の事………」

 

 

 

 

 




次回はこの続きから、そしてザビ男の過去の情報が出てきます

『絶招歩法』と『金剛八式・衝捶』マーボーこと八極外道神父、言峰綺礼の技になります。どんな技かと説明しますと、Fate/Zeroで言峰が切嗣の心臓を破壊してときの技です

それではまた次回に!


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雪ノ下陽乃は岸波白野の未来を知り、岸波白野は過去を知る。

今回はまさかの急展開が!あるかも
楽しんで読んでもらえると嬉しいです


 

 

「多分なんだけど……私は君の事………」

 

俺の事?

 

よく見たら陽乃さんの頬が少し赤い気がする。

 

陽乃さんはそこから先を言うことを躊躇っているのか口を閉じてしまった。

 

気にはなるけど言いたくないのなら無理に聞く必要はないよな。

 

「えーっと、次の質問をしてもいいでしょうか?」

 

「………うん」

 

なんか、いつもの陽乃さんと違うぞ。

 

あの仮面、偽物の表情ではなく、普通の女の子らしい表情というか、大人しいような、しおらしいような、何とも言えばいいのかわからない。

 

ただ、言えることは今の表情が『本物の彼女』なのだろう。

 

やっぱり雪ノ下さんに似てるな。雪ノ下さんもたまに二人っきりのときとかにこういう表情を見せてくれる。

 

そうなると陽乃さんは今、俺と雪ノ下さんが二人でいるときと同じような気分なんだろうな。

 

「それじゃあ、今日の目的であることを」

 

俺が陽乃さんに質問しようとしたとき、コンコンとこの部屋をノックする音がした。

 

嫌な予感がするので小声で陽乃さんに話す。

 

「……陽乃さん」

 

「ん?何かに?」

 

さっきまでの表情がいつもの偽物の笑みに変わる。

 

「この状況って結構危なくないですか?陽乃さん水着姿ですし、俺は上半身裸ですから、それと早く俺の服を返してください。平然を装っていますがかなり恥ずかしいんで」

 

それと口にはしてはいないが、陽乃さんの胸や肌が直に俺の肌に当たるので俺の中のオヤジな部分が久々に目覚めそうなんだ。

 

「えー、別にいいじゃん。白野くんの身体、私は好きだよ」

 

陽乃さんは俺の気持ちを知っているのかそれとも知らないのか更にくっ付いてくる。

 

ただ、この表情は面白いからって感じの表情わかってやってるな。

 

俺は賢者でも聖人でもないのでこの状況はそろそろアウトになりそうなので、陽乃さんの両肩に手を置いて、陽乃さんの身体を押して俺から離す。

 

「からかわないでください。陽乃さんも女の子なんですからいろいろと困ることになるでしょ」

 

「私は別に構わないよ。ほら私たちはもうお父さん公認カップルだから別に部屋で裸で抱き合おうが問題ないと思うよ」

 

「大問題ですよ」

 

主に俺の精神面が。

 

コンコンと心なしかさっきよりノックの音が大きくなったような。

 

『姉さん、いるの?もうすぐ時間なんだから早く用意して出てきてくれないかしら?』

 

ノックしてきてる人は雪ノ下さんのようだな。

 

でも陽乃さんの返事がなかったので雪ノ下さんはこの部屋を無人だと思ったのか扉の前から移動したようだ。

 

そういえば雪ノ下さんがもうすぐ時間って言っていたな。何かあるのかな?陽乃さんに聞いてみるよう。

 

「もうすぐ時間ってこの後何かあるんですか?」

 

「一応、この後またパーティーがあってね。それでドレス着ようと思って着替えてた時に白野くんが乱入してきたから」

 

ああ、だから着替えてたのか。そういえばメールにも予定に空き時間が出来たって言ってたもんな。そうなると後に何かがあるって意味でもあるもんな。

 

でも、そうなると

 

「なんで今水着姿なんですか?普通ならドレス姿だと思うんですけど……」

 

「白野くん、私が言ったこと忘れたの?サービスよ、サービス」

 

サービスって別に頼んでないんだけど……。嫌ではないですけど。

 

「それに雪乃ちゃんのは見たんだよね?」

 

雪ノ下さんの?今までの流れで考えると水着ってことでいいのかな?

 

「水着姿ですか?」

 

「うん、仕方がないことだけど雪乃ちゃんの方がリードしてるからね。私は雪乃ちゃんよりも会える時間が少ないし……」

 

「リードって何をですか?」

 

俺は疑問に思ったことを尋ねてみる。

 

そしたら陽乃さんはジト目になる。

 

「私の目は誤魔化せないよ。気付いてるでしょ。私や雪乃ちゃんの気持ち……」

 

「何のことですか?」

 

俺がそう答えると陽乃さんは真剣な顔になる。

 

「本当に隠しきれると思ってるの?他の子はまだ気付いてないと思うけどいずれは見破られるよ」

 

……俺は自分の呪い(女難の相)を恨むよ。どうしてこうなっちゃうんだろうな。

 

「はぁ………他の人には内緒でお願いします。正直に言います、俺は雪ノ下さん、カレン、桜、陽乃さんの気持ちに何となくですが気が付いてますよ」

 

鈍感なフリをしてきたつもりはないけど、何となくだけど気付いていた。たまにみんなからセイバーとかキャスターとかエリザベートとか桜(月)とかBBとかリップとかメルトとかに似た感じを何度も感じたことある。

 

さっきの陽乃さんがそんな感じだ。

 

でも別に俺は陽乃さんよりも雪ノ下さんがリードしてるとか考えてはいないけどね。

 

「やっぱり……白野くんってSだったりする?」

 

「どうでしょうね。俺は基本受け手だと思いますけど、別にMではないですよ。本当にMじゃないんで」

 

ここで俺がMって勘違いされたらなんか今後変な展開になりかねないから。

 

「う、うん。わかった白野くんはMじゃないんだね」

 

あの陽乃さんが少々引き気味。でもそれぐらい主張しないとイジメられそうなんだ。

 

「でも白野くんがMじゃないことわかったけど、女の子の恋心を理解したうえで見て見ぬふりをしてるんだよね。それってかなり外道だよ」

 

ですよねぇ……でもまだ俺には不安要素がある……。

 

「だけどさ、どうして過去のことはみんなに話し終わってるのにそれを続けてるのかな?」

 

「それは……後のことを考えるとこれ以上距離を縮めていいものか」

 

「前じゃなくて後、過去じゃなくて未来ってことだよね」

 

「はい」

 

俺が今年の本当の誕生日に消えるかもしれないなんて言うわけにもいかないし、俺が消えたら悲しむ人だって出てくるだろう。だからこれ以上近づいてしまったらダメだろう。

 

そして俺が引いた距離のラインが俺が思っている『友達』という距離感。これ以上はアウトだと思っている。

 

でも、雪ノ下さんはどうにも友人にはなってくれないんだよな。

 

そこがわからないんだよな。たぶん俺の考えや陽乃さんの言い方とかで何となくだが、雪ノ下さんは俺のことを好いてくれているって思ってもいいんだよね。じゃあどうして友人になってくれないのだろう。

 

人を見ることは結構うまくなったと思うんだけどな。

 

「ねぇ白野くんその未来について私に教えてくれない?」

 

「別にいいですよ」

 

俺があっさり了承したことが意外だったのか陽乃さんは驚いている。

 

「え?いいの?私はてっきり白野くんが前みたいに嫌がると思ってたんだけど」

 

過去を話したからからこそ未来のことを話す決意ができているんだよ。

 

「ただ、条件があります」

 

「条件?……あ、もしかしてお姉さんの処女?もう白野くんのエッチ」

 

「いえ、違います」

 

陽乃さんの言葉を真顔で返した。

 

何で俺が陽乃さんの処女を奪うみたいな考えに至ったんだ……。冗談で言っているってわかっているけどさ。

 

「条件は簡単で俺が今から話す事を誰にも言わないでください」

 

「それって私と白野くんだけを秘密みたいな感じ?」

 

「いや、そうじゃありません。この事は陽乃さん以外の人に尋ねられても教えるつもりです。ただ俺の口から説明したいんです」

 

「ふーん、それは残念だなぁ。私と白野くんだけの秘密が欲しかったんだけど」

 

陽乃さんが拗ねたような顔をしている。今の表情は本物の表情だな。普通の女の子のような可愛らしい表情。

 

いつもこうしてればいいのに。まぁ今までのことを考えるとまだ無理かもね。

 

「それじゃあ話しますね」

 

 

 

 

 

そして、俺は俺が消えるかもしれないということを陽乃さんに話してみた。まぁムーンセルのことは伏せた。前世の話とかもしちゃうと時間が足りないのだ。

 

「うーん……よくわからないんだけど、その白野くんの本当の誕生日、今年の総武校の文化祭二日目の夜に白野くんは死んじゃうかもしれないってこと?」

 

「いえ、死ぬんじゃなくてこの世界から消えるんです。『俺の記録、俺のことを知っている人や生き物の記憶からも俺という存在が消える』かもしれないって感じです」

 

かもしれないと曖昧な言い方をした理由は心配を掛けたくないし、それにこれを防ぐ手段を見つけたからだ。

 

「何でそんな曖昧な言い方なの?」

 

やっぱりこの人はそういうところは見逃さないな。ここはウソを吐いた方がいいだろう。

 

「まぁ……予知、みたいな感じなんで曖昧な言い方になったんです」

 

「ふーん、予知、ねぇ……」

 

この言い回し俺がウソを吐いてるって気付いてるな。でもこの人なら次は

 

「それなら仕方がないね」

 

って言うと思ったよ。

 

この人はそういう人物だ。深入りせずに相手の手の内を見抜いたような感じ。

 

たぶん俺が確信していると見抜いた。そしてそれをどうにかして乗り越える手段を持っているのも見抜いたのだろう。

 

これだからこの人と会うと手の内の読み合いになる。

 

「でもなぁ」

 

「どうかしましたか?」

 

陽乃さんは何か思うことがあるのかもしれないので、どうしたのか尋ねてみた。

 

「ほら、もしかしたら白野くんいなくなっちゃうんでしょ」

 

「もしかしたらですけどね」

 

「そうなると思い出が欲しいなぁって」

 

俺が消えたら思い出もなくなるんだけどね。まぁそういうことになるよな。

 

なら俺にできることはやってあげたい。

 

「それじゃあ今度、何処か行ったりして思い出作りでもしますか?」

 

俺がそう言ったら、陽乃さんが意地悪な笑みを浮かべる。

 

「今度じゃなくて……今、しちゃおうか」

 

俺の小動物の部分が危険を感じ取った。これはキャスターがたまに出すあの感じだ。獲物に狙い襲いにくる感じ。

 

逃げなきゃ……やられる!

 

俺は反射的に陽乃さんから距離を取ろうとベットから腰を上げて陽乃さんと別の方向に移動しようとしたのだが、陽乃さんの方が少々上手のようで、俺が跳ねるときの軸足を払い、俺のバランスを崩させ俺を倒そうとする。だが俺もここで倒れるほど弱くはない。

 

バン!と大きな音を立てながら俺は右手で床に掌底を打ち込み、その衝撃の反動と右手の力を使い、ロンダートをして陽乃さんに距離を取りつつ体勢を持ち直す。

 

掌底はある程度力を加減しているから凹んだりはしてないだろう。

 

しかし危なかった。久しぶりの死とは違う恐怖を感じる。

 

「白野くんの運動神経いいね。まさか倒れそうな状態から体勢持ち直すなんて、でも私の勝ちだけどね」

 

な、なん……だと。

 

「白野くんは私から逃げれるかもしれないけど、そんな格好でこの家、この部屋から出れるとでも」

 

「ま、まさかそのために俺の服を……」

 

なんて恐ろしい人なんだ。そう考える陽乃さんの今の格好は汚れてもいいからみたいな感じかな?

 

ふっ、可憐な小鳥と思っていたのだが、その実、獅子の類であったか。

 

「ですが、陽乃さんはもうじきパーティーに行かなければいけないはず。そちらにはタイムリミットはある。それに俺はあえて手を床に着けるときに大きな音を立てることにより、この家にいるであろう雪ノ下さんにこの陽乃さんの部屋に何かがあると思わせることもできたはず」

 

俺はある程度の勝利を確信した。制限時間まで逃げ切るか、雪ノ下さんがもう一度この部屋を訪れればどうにかなる。この部屋は間違いなく防音性が優れているはずだから話し声は聞こえないだろうが、さっきの掌底の音は聞こえてるはず。

 

「でも白野くん、雪乃ちゃんが今の私たちの姿を見たらどう思うかな?」

 

「………」

 

ミスった……。もし見られたらこの部屋が血の雨だ。主に俺の血で……。

 

「あ、あの……どうしましょう」

 

「……(いやぁ可愛いなぁ白野くんは)」

 

陽乃さんが俺を猫を見てるときの雪ノ下さんみたいな笑顔で見ている。

 

「今日はいいや、まだ時間はあるんだし。白野くん襲わないから身構えなくていいよ」

 

本当に襲う気だったんだこの人。それに今日はってもしかしてこれから狙ってくるのか?そう考えるとまだ危ないかもしれない。

 

「信じていいんですか?」と陽乃さんに尋ねる。

 

「あれ?お姉ちゃん白野くんからの信用なくなっちゃった?」

 

「いえ、陽乃さんのことは信頼しています。ですが保身としてです。そして大丈夫だって言えるのなら俺のTシャツと上着を返してください」

 

こうして俺は服を返してもらった。Tシャツだけ。

 

一応、俺はお気に入りのTシャツに袖を通す。あのムーンセルでも着てた黒地のスマイルマークが書いてあるあのTシャツだ。

 

「あの……上着は」

 

「あ、白野くん。今から私着替えるから部屋の外で待っててよ」

 

聞いてない。いや、まぁ分かっていましたけど。

 

「それとも私の着替え見る?」と陽乃さんが意地悪な笑みで言う。

 

「いえ、出て待ってます」

 

「………このチキン」

 

陽乃さんが小声で毒づいているが、気にしないでおこう。

 

そして俺はこの部屋を出た。

 

 

 

 

 

部屋から出て十数分。廊下に立ってはいるのだが雪ノ下さんには会わない。

 

そうなると俺の掌底の音は聞こえていなかったのだろう。また猫の画像でも見てるのかな?

 

と考えていたら、陽乃さんの部屋の扉が開いた。

 

俺が扉の方を向くとそこには昨日の写メに映っていたドレスを着ている陽乃さんがいた。

 

「水着姿もよかったですけど、そっちも綺麗で似合ってますよ」

 

俺は思ったことをそのまま陽乃さんに言う。

 

「ありがとね。でも水着のことはもっと早く言ってほしかったなぁ」

 

仕方がない、あの時はいろいろとあった後だったから。

 

「じゃあ白野くん、今日はこれでお別れだね。また今度」

 

「はい、また今度……じゃないですよ。今日の目的はたしてないじゃないですか」

 

そう、俺はまだ両親の話を聞いていない。

 

「ああ、アレね、アレはウソ」

 

「………」

 

俺は何しに来たんだ?

 

今日唯一の成果って、雪ノ下さんの父親に雪ノ下姉妹と付き合ってもいい権利をもらったぐらい?

 

何だろう、この絶望感に似た虚脱感。

 

おかしいな。嬉しくも悲しくも痛くもないのに涙が出そうだ。

 

「白野くんは泣き虫だなぁ」と陽乃さんが言いながら俺を抱きしめながら俺の頭を撫でる(陽乃さんの胸に顔を埋める感じ)。

 

あなたのせいでしょう!って怒鳴る気力もないや……。

 

「……岸波くん?」

 

ん?陽乃さんの後ろの方から雪ノ下さんの声が聞こえた。

 

俺は顔を上げようとするが陽乃さんがそうさせてくれない。というか俺を抱きしめている力が増している。

 

この人はまた面倒くさいこと思いついただろう。それと苦しいです。あと声が出せない、息もできない。

 

「姉さん。何でここに岸波くんがいるの?それに岸波くんはどうしてそ、そのね、姉さんのむ、胸に顔を埋めたまま」

 

「あれれ?雪乃ちゃんわからない?白野くんは巨乳好きで、母性に飢えていたからお姉ちゃんの胸に顔を埋めているのんだよ」

 

ちょ、それはおかしい!!確かに巨乳は嫌いではないけど、小さいのも好きですよ。それにその言い方だと俺から陽乃さんの胸に顔を埋めているみたいじゃないか。

 

でも母性に飢えているは何となくわかるような。

 

考えてみれば俺は小さい頃に両親を殺されてるし、この世界では俺のことを褒めてくれたり、甘やかせてくれる人ってあまりいない。むしろ俺の方が褒めたり、甘やかしたりする方だし、それに俺がしっかりしないとみたいな感じで頑張ってきたから。

 

正直、今の状況は何となく気持ちが落ち着……かないな。

 

陽乃さんはいいんだけど、雪ノ下さんがいるであろう方から冬なんじゃないかってぐらいの寒い風のようなものを感じる。

 

ただ、陽乃さんから離れられない。逃げ出すのは簡単なんだが、やっぱり怪我をさせちゃいそうで。そして俺そろそろ息が出来なくて限界なんだが……。

 

「白野くんは雪乃ちゃんみたいな貧乳には興味がないの」

 

うん、今、雪ノ下さんの怒りが頂点に達したな。それと俺の意識も薄れてきたな。

 

息もできないのに何ん、で俺が母性、に飢えてると、か考え、て……。

 

そこで俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

目を覚ましたときには既に真っ暗だった。

 

俺って最近よく気絶するよな。

 

たぶん俺は今、布団かベットで寝ている状態だろう。

 

目を覚ましてから一、二分。ようやく暗闇で目が慣れてきた。

 

「知らない、天井だ」

 

いや、見覚えはあるな。たぶんここは陽乃さんの部屋かな?

 

そうなると、もう陽乃さんと雪ノ下さんはパーティーに行ったのか?

 

俺は上半身を起こして辺りを見渡す。

 

ここは陽乃さんの部屋ではないようだ。そうなるとここは客室ってことか。

 

今何時だ?俺は携帯が入っているズボンのポケットの手を入れたのだが、携帯がない。

 

もしかして落としたかな?または家から持ってくるのを忘れたのだろう。

 

仕方がない。電子手帳で見るか。俺は手帳を取り出して時間を確認する。

 

「22:04……」

 

長時間気を失ってたな。俺がこの家に来たのが十五時、それから二時間近くが変な試験に使われて、それから陽乃さんの部屋で一時間半ぐらいいた。

 

そうなると俺が気絶したのは十八時半から十九時の間。そこからムーンセルに行かずに三時間も気絶していたのか。

 

あの平塚先生の全力の一撃を無抵抗で受けたときでも気絶して目覚めるまでに費やした時間は十分だったのに。

 

薬でも飲まされたか?そんなはずはない。実際この家に来てから何も口に入れていない。だから違う。

 

「……考えすぎか」

 

まだ、雪ノ下さんたちは帰って来てないのかな?

 

それに俺も帰らないといけないし。

 

俺はベットから出ると、机の上に置手紙があることに気付いた。

 

でも、流石に暗すぎて字は見えないか、電子手帳の光で照らせばいいか。

 

俺は電子手帳の画面の光で手紙を照らす。

 

手紙は二枚、雪ノ下さんのモノと陽乃さんのモノだな。

 

まずは雪ノ下さんの方から。

 

『この手紙を読んでいるってことは無事に目を覚ましたということね』

 

一文目が怖いよ。何?俺死にかけてたの?もしあれで死んだらムーンセルも楽だろうに。

 

『今日岸波くんがこの家に来たことはある程度姉さんから聞いたわ。まぁ本当か嘘かはまたあなたに尋ねるから覚悟しておきなさい。それとまた姉さんが迷惑を掛けたようだからそのことは謝るわ』

 

と、書かれていた。

 

次は陽乃さんの。

 

陽乃さんの手紙は短かった。

 

『白野くんなら友達になってもいいよ。また遊ぼうね』

 

と書かれていた。最後にキスマークが付いていたけど。

 

一応、返答は書いておこうかな。

 

雪ノ下さんには『わかりました、覚悟しておきます。ですが優しくしてください』

 

陽乃さんには『ありがとうございます。俺も陽乃さんが友達になってくれるなら嬉しいです』

 

「まぁこんな感じでいいかな。ん?」

 

よく見たら陽乃さんの手紙の右下に小さく『裏を見て』って書いてある。

 

手紙の裏を見てみると、そこには『白野くんが寝ていたベットの下にいいモノがあるよ』と記されていた。

 

いいモノ?

 

手紙を机の上に置き、さっきまで俺が寝ていたベットのまで移動して、ベットの下を電子手帳の光で照らしながら覗いてみると。そこにはA4サイズの封筒と俺の携帯があった。

 

俺の携帯がなかったのって陽乃さんのせいか。

 

封筒と携帯を取り出す。携帯は俺のだから持ち帰るとして、陽乃さんのいういいモノってこの封筒でいいんだよな。

 

俺は携帯をポケットに入れて、封筒を持ってこの部屋を出た。

 

そしてこの家を出ようと思って玄関に向かって行く途中、雪ノ下姉妹の母親に会った。

 

俺は寝てしまったことを謝罪と寝かしてくれたことをお礼、そしてこれからも娘さんたちと仲良くさせてもらいたい(友人的な意味で)と告げてから、この家を出た。

 

やっぱりあの二人の母親だけあった美人ですね。雪ノ下さんや陽乃さんが言うほど怖い人には見えないんだよな。ムーンセルので起きたこととかのせいでアレぐらいなら可愛いモノみたいに思ってしまうのだろう。

 

帰り道の俺は自分の携帯見て驚いた。

 

桜からの着信は五十通以上あったのだが、それよりも驚いたことが俺の携帯の待ち受けが人には見せれない画像に変わっていたことだ。

 

「俺、襲われてないよな……」

 

いや、大丈夫なはずだ。服とか乱れてなかったし。

 

少し怖くなってきたので、携帯の中のそのての画像は全て消した。

 

「あ、そういえば、上着返してもらってないや……」

 

上着はもういいか、何故かって、あの家にはもう行かないってことを心に決めたからだ。

 

 

 

 

 

家に着いたのは二十三時を過ぎたころになった。

 

桜は俺のことを心配して待っていてくれた。白乃は既に眠ってしまったようだ。

 

俺はその後、軽くトレーニングをしてから風呂に入り、自室でベットしたにあった封筒を開けると中には俺の昔の情報が書いてある紙が入っていた。

 

そして俺はその紙は読み始めた。

 

今の戸籍から、過去の戸籍、両親のお墓の場所や、昔の俺が死人として扱われていること。そして父さん、トワイスからの手紙も入っていた。その手紙には俺と出会った場所、時期について書かれていた。

 

そうなると陽乃さんは父さんと手紙のやり取りをしたのか。でもどうやって……。

 

たぶん葉山くんの母親に頼んだろう。

 

父さんは仕事に熱心だから、仕事仲間とはやり取りはしているはず。そして葉山くんの母親は医者をしている、それに父さんがいた病院は葉山くんの母親も務めていたはず。

 

本当に陽乃さんは凄いな、一人でここまでやったんだな。

 

俺は陽乃さんが集めた情報の全てに目を通して、あることを想った。それは………両親のお墓参り行こうということ。

 

夏休みだし、お金はある。俺は明日、両親のお墓参りに一人で行くことにしよう。

 

「行こう、俺の生まれ故郷。俺の育つはずだった場所へ。冬木市へ」

 

 

 

 

 




ザビ男が気を失っている間に何があったのかは皆さんのご想像にお任せします。一応まだ童貞ですよ

そして次回、まさかの冬木市にザビ男が行く!か悩んでいるんですよね。冬木市行ったら俺ガイル関係なくなりますし、どう頑張っても俺ガイルのキャラを出せないでしょうし。
なので次回はザビ男が両親のお墓参りをして帰ってきて花火大会に行くところになるかも

しかし、冬木市を出した場合いろいろと不思議に思うことがあると思います
例えば、間桐桜がいるのか?とか確か岸波桜の通っている中学校にはタイガーいるせいで、冬木の虎がいないんではないのか?とか言峰家は冬木市と関係があるのか?とか聖杯戦争起きてないの?とか色々と出てきますよねぇ
まぁその辺は気にしないでもらえると嬉しいです。ただ、もし冬木市のところを次回書くとしたらその辺は頑張ってクリアしないとですね

それではまた次回に!


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そうだ冬木に行こう。

今回はザビ男が冬木市に行った話です。まぁ冬木市の話はこれが最初で最後って感じになるでしょうけど……



 

 

「はぁ……まさか両親の墓参り来ただけでここまで疲れるとは……」

 

俺は今、千葉に帰るために新幹線に乗り、自分が座る席に座った。

 

千葉に帰るまでに五、六時間ぐらいだろうから、乗換える駅まで眠ることにしよう。冬木市では全く眠ることができなかったからな。

 

眠る前に冬木市であったことを思い返してみる。

 

まず一昨日、陽乃さんから俺の生まれ故郷の情報を貰い。

 

昨日、家に桜と白乃だけにするのも心配だったのだが、二人が大丈夫だと言ってくれたので俺は昼に駅から電車に乗り、冬木市に向かった。

 

冬木市に着いたのがだいたい夕方ぐらい。

 

そして両親のお墓がある冬木教会に行き、そこで優しそうな神父さんに会った。名前は言峰璃正さん。何と店長のお父さん。ということはカレンの祖父ってことだ。

 

璃正さんに冬木に来た理由と言峰家のことを話したら温かく迎え入れてもらい、冬木にいる間は教会で寝泊まりしていいと言ってくれた。

 

そして俺は人生で一度は行ってみたかった『泰山』に行き麻婆豆腐を食べた。

 

ここまではよかった。両親の墓参りできて、泊めてもらう場所も貸してもらい、泰山の麻婆豆腐を食べることもできた。本当によかった。ここまでは、そう、ここまではよかったんだ。その後、すぐに教会に帰ればよかった。あの後冬木市を観光しようなんて思わなければよかった。

 

 

 

 

 

泰山で麻婆豆腐を食べ終わり、観光気分でブラブラと歩いているのだが、この街って結構危ないかもな。

 

何となくだが視線を感じる。でも人の視線というよりは動物のような感じなんだよな。でも動物の目を通して誰かから見られているような感じ。

 

この感覚はアレだな。『使い魔』に違いない。

 

俺は動物に好かれるから動物に見られるのは日常茶飯事なんだが、ただそれとは違う。

 

まぁカレンや店長にはよく使い魔を使われるんだよな。そのせいで前よりも視線に敏感になった。

 

俺が使い魔越しに観察、監視されてるってことはこの街には魔術師がいるってことだよな。

 

俺は歩くのは止めず、そのまま辺りを観察する。

 

ネズミ、蟲、梟……使い魔の種類などを考えて少なくとも三人以上はいるよな。

 

さて、どうしようかな………。

 

「うん、逃げよう」

 

俺は走り始める。

 

知らない土地でも『遠見の水晶玉』を使えばどうにかなる。今は何処でもいいから走って俺を監視してる魔術師から逃げることにしよう。

 

俺が走り始めて早三十分。未だに監視は解かれそうにないな。

 

もういいか、どうせ見られて困るわけでもないし。それに普通にしてれば相手も何もしてこないだろう。

 

そして俺は冬木大橋っていう赤い鉄橋の近くの公園に来ていた。

 

公園の名前は『海浜公園』。

 

近くの自動販売機で飲み物でも買ってここで一休みしてから教会に帰ろう。

 

俺は近くで自動販売機を見つけて、あることに気付く。

 

「へぇ、ここにはMAXコーヒーないんだ」

 

別にショックではないけど、千葉にはあって当たり前って感じで比企谷が良く飲んでるからなぁ。

 

ペットボトルのお茶を買い、公園の中のベンチに腰掛けて休憩する。

 

時刻は二十一時になるくらいだな。

 

俺がお茶のキャップを開けようとしたとき前から聞いたことがある声がした。

 

「そこのあなた」

 

「ん?」

 

俺は声をした方を向くとそこには

 

「り、凛?」

 

ムーンセルではライバルになったり、仲間になってくれたりした女の子。

 

どうしてここに……ん?でも何かが違うな。なんだろ?

 

俺は彼女を観察して一つの答えを導き出した。それは

 

「………ああ、胸か」

 

うん、ムーンセルの凛の方が胸が大きいな。

 

俺の言葉を聞いてこの少女は笑顔で「ど、どうして私の名前を知っているのかはいいとして、人を見るなりそれはどうかと思うわよ」と言う。

 

笑顔だけどたぶん怒ってるな間違いない。それにこの凛の名前も凛らしいな。

 

「それよりあなた魔術師でしょ」

 

なるほど、この凛は魔術と関係があるんだな。たぶんウィザードじゃなくてメイガスの方だろう。

 

ここでそうだよとは言わないほうがいいだろう。

 

なので「魔術師?何それ?」と白を切っておこう。

 

「白を切る気。あなたほどの魔力量の人間が一般人なわけないでしょう」

 

バレた。そういえば俺って魔力量が多いから魔術師に見られてらすぐにバレるんだった。

 

「あなたが魔術師って前提で話すけど、この冬木に何をしに来たのかしら?」

 

その口ぶりだと、この冬木って魔術的に何かある土地なのかな?まぁウソを吐く必要はないな。

 

「ちょっと教会に」

 

俺がその後『両親の墓参り来た』と言おうとしたのだが、この凛のそっくりさんは『教会』という単語を聞いて俺を睨みこう言った。

 

「冬木市第三位の霊脈である言峰教会を狙いに来たってこと」

 

あれ?何それ?

 

「そうなると、遠坂の名に懸けてあなたをこの冬木から追い出すわ」

 

「ちょ、ま」

 

俺が慌てていると、この少女は俺に右手の人差し指を銃のように向けて

 

「ガンド」

 

黒い弾丸のような魔力の塊が彼女の人差し指から飛んできた。

 

その黒い弾は俺の顔の横をかすめる。

 

「………」

 

「今度は当てるわよ」

 

ほんと、もう嫌だ。

 

戦うって選択肢はないから逃げたいんだが、ベンチに座ってる時点で動きが少し遅れる。実際昨日の陽乃さんがいい例だ。ならどうしよう。

 

考えて末、これしかないか。勿体ないけど……。

 

少女がまたガンドを撃ってきたので、俺は手に持っているペットボトルを投げる。

 

投げると同時に腰を上げて、走り出す

 

ガンドの弾にペットボトルが直撃、そして破裂。そのまま、まだ一口もつけていなかったペットボトルの中身のお茶が少女にむかって飛んでいく。

 

「―――え」

 

その後すぐにビシャという効果音が聞こえたが既に走り出していた俺にはどうなっているかは知ったことじゃない。

 

ペットボトルがなかったら危なかったな。たぶんガンドは俺の身体の何処かに当たってただろうし、当たってなくても追撃があっただろう。

 

ただ、公園を出たときに物騒な言葉が聞こえたのでそのまま逃げた。

 

いやぁ、どの世界でも凛は凛はだな。

 

公園から逃げ出してからどれくらい経ったかな。

 

なんかあの凛から逃げてから使い魔越しからの視線が更にきつくなった気がする。

 

どうにか撒けないかな?普通に教会に帰るの得策なんだろうけど、逃げてるうちにどんどん離れている気がする。

 

でも、戻るにしてもまた誰かに会いそうだし……。

 

そういえばさっき凛があの教会がこの冬木の第三位の霊脈って言ってたな。

 

ってことはやっぱりこの冬木市って魔術関係の街なんだな。

 

そして俺はある場所に辿り着いた。

 

「ここって学校だよな」

 

名前は『穂群原学園』か。

 

俺は校門から中を確認すると何となくだが『月海原学園』に似てるな。そういえばあの冬木教会も、青崎姉妹がいた教会と似てたな。

 

あれ?あそこにいるのってエネミーじゃないでしょうか?うん。エネミーだ。

 

グランドの真ん中にあのクジラ型のエネミーがいるんですが……。

 

名前は『MOBYDICK』か『BARCAROLA』だったな。

 

もしかして俺、あいつ倒さないといけない感じ?

 

『そのまさかだマスター』

 

アーチャーの声が俺の頭の中を流れる。

 

「はぁ……」

 

こうして俺はクジラ狩りをする羽目になった。

 

 

 

 

 

「その心臓……貰い受ける!!刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

兄貴/俺が突いた赤い槍がクジラの心臓?に刺さり、そのままクジラは蒸発するように消えた。

 

「じゃあな、坊主。また月で会おうや」

 

うん、ありがとう兄貴。助かったよう。

 

「にしてもよ、どうしてこの街なんだか……」

 

どういうこと?

 

「気にしなくていいぜ。ただの独り言だからよ」

 

クーの兄貴は俺の中から消えたようだ。

 

今回は兄貴との憑〇合体でエネミーを撃破できた。

 

「そろそろ帰ろうかなって確か副作用があるんだったな」

 

俺は近くにある窓で自分の姿を見ると、俺の髪が青色で、目が赤い。

 

「うわぁ……不良みたいだな……」

 

キャスターのとき同様に時間が経てば直ればいいんだが。

 

「じゃあまずはこの学校の敷地からでるか」

 

俺は入ってきた校門に向かって歩き始めた。

 

校門をに着き、柵の上を飛び越えるとそこには怖い顔をしたこの世界の凛と優雅な雰囲気な男性と璃正さんがいた。

 

「え、えーっと、こ、こんばんは……」

 

「こんばんは。ちょっと君に聞きたいことがあるのだが、構わないかな?」と優雅な人に言われた。

 

ここはやっぱり……

 

「わかりました」って言うしかないよね。

 

この場に璃正さんがいるってことは教会には帰れないってことだ。

 

と思ったのだが、目的地は冬木教会だった。

 

教会に着いてからは質問攻めにあった。

 

俺が何者なのか、何を目的としてこの街に来たのか、俺が戦ったあのクジラは何なのか、そしてあの憑〇合体についてとか、俺が前世のことを話したら、それについても聞かれた。

 

現時刻03:48。質問などに費やした時間は五時間近く。副作用も切れて元の俺に戻った。

 

さて、ある程度のことも終わったしそろそろ眠りたいんだけど。

 

『おい、雑種』

 

今度はAUOですか……。今までアーチャーかBBだったのにな。

 

どうかした?まぁ何となくわかっているけど

 

『ああ、またエネミーだ』

 

ねぇ二回って多くない?この街はメイガス的には結構いい場所らしいけど、ウィザード関連のエネミーが来るのっておかしくない?

 

『ふ、ここは貴様が住んでいる場所よりもいろいろと都合がいいのだろう』

 

もうここまでくると千葉から出たくなくなるな。

 

 

 

 

 

エネミーのタイプは『SERENADE』。あの『セレナのひみつ』を持っていたレアエネミー。

 

エネミーがいた場所はこの教会の敷地になる墓地。

 

俺は凛、時臣さん、璃正さんが見守る中戦いに挑む。

 

なんで三人とも見てるんだか。

 

今回は誰が憑〇合体してくれるのかな?

 

まぁそれはお楽しみってことにしよう。

 

そして俺はいつも通り目に魔力を送り、身体の筋力と耐久の強化をして、破邪刀と守り刀を持ち戦闘を始めた。

 

今回で四度目の戦闘。人生生きている内に命を懸けた戦いなんてそうそうすることじゃないんだけど、俺は夏休みの間に四回も経験したのか……。

 

この世界はいたって普通の優しい世界なんて考えていた頃も俺にもありました。

 

本当に生きるって大変だね。

 

 

 

 

 

さて、時間ももうじき十分になるな。

 

「聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)」

 

エネミーを中心に炎の壁を作りエネミーを隔離。そして憑〇合体の準備を整える。

 

そして十分。

 

「では、今回は私が行こう」

 

やぁアーチャー。後は頼んだよ。

 

俺は『聖剣集う絢爛の城』を解く。

 

「ああ、任せたまえ。――――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)」

 

アーチャー/俺の両手に黒と白の夫婦剣、干将・莫邪を作り出す。

 

その夫婦剣で相手の攻撃を弾いたい、相手を斬りつけたりする。

 

「―――Steel is my body, and fire is my blood(血潮は鉄で、心は硝子)」

 

「―――I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)Unaware of loss.(ただ一度の敗走もなく)Nor aware of gain(ただ一度の勝利もなし)」

 

アーチャー/俺はエネミーから距離を取り、弓と矢として飛ばす剣を投影し、それを相手に向けて放つ。

 

「喰らいつけ、赤原猟犬(フルンディング)!」

 

赤原猟犬はエネミーに当たり、エネミーの耐久を下げる。

 

「―――With stood pain to create weapons.(担い手はここに独り)waiting for one's arrival(剣の丘で鉄を鍛つ)」

 

アーチャー/俺は弓を持ったままこの身体で飛べる限界の高さまで飛び上がり、新たな剣を投影する。

 

「我が骨子は捻れ狂う……偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

偽・螺旋剣もエネミーに直撃し、爆発し粉塵を巻き上げる。

 

そして着地し、次の詠唱をする。

 

「-――I have no regrets.This is the only path(ならば、我が生涯に意味は不要ず)」

 

さて、アーチャーの宝具の発動条件が整ったようだ。

 

「ではマスター、このエネミーを片付けるとしよう」

 

じゃあ、俺も言うことにしよう

 

「なにをだね?」

 

アーチャー、アレやって、アレ!あいあむざぼーんおぶまいそーど!

 

実はこれ言ってみたかったんだよな。

 

「なるほど、確かにそれ言われると俄然やる気がなくなるな……。まぁいい。それでは行くぞマスター!」

 

アーチャー/俺は右手を自分の胸の前に持っていく。

 

「―――My whole life was“unlimited blade works”(この体は、無限の剣で出来ていた)」

 

この詠唱を終えると同時に何かを展開するかのように右手を振るうとそこは、燃えさかる炎と、無数の剣が大地に突き立つ一面の荒野が広がり、空には回転する巨大な歯車が存在する場所へと変わっている。

 

「こ、固有結界……」

 

背後からこの戦いを見ていた少女の声が聞こえる。

 

アーチャー残り何分?

 

「私が君の身体を使える時間はだいたい二分半、そしてこれを発動させるまでに使った時間はおおよそ二分といったところだろう」

 

残りは三十秒か……。なら言えるな。

 

「またろくでもない事かね?」

 

まぁそうだね。

 

「ならそれは後にしたまえ」

 

あ、うん。わかった。じゃあアーチャー終わらせよう。

 

そんなことを話していたせいかエネミーが俺たちに向かって来ている。

 

アーチャー/俺の右手に眩い光と共に一本の剣を作り出す。

 

「禁じ手の中の禁じ手だ………!この投影、受け切れるか!この光は永久に届かぬ王の剣………永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!」

 

 

 

 

 

「それでマスター私に言いたいこととは何だね」

 

永久に遥か黄金の剣でエネミーを倒して、無限の剣製を解いたアーチャーに言われたので言うことにしよう。

 

あ、うんそれがね、アーチャーのスキルに新しいスキルが追加されているんだよ

 

「ほう、それはどういったスキルなんだマスター」

 

この憑〇合体もスキルやステイタスなどを見ることができる。たいていは俺よりも強く、英雄よりも弱いって感じの値になるんだけど、今回はそれとは違うんだよな。

 

これってたぶん俺とアーチャーの相乗効果って感じなのかな?その名も『女難の相:★』だって

 

「………」

 

確か★ってBBの測定不可能なレベルの値だよな。

 

まさかEXを越して★なるとか……これはもう笑うしかないね。ねぇアーチャー。ん?アーチャー?

 

アーチャーはもう俺の中から消えているようだ。

 

別れるときぐらいなんか言ってくれればよかったのに。

 

 

 

 

 

今回の副作用で俺が褐色肌の白髪になっている。

 

一晩で結構変わったな。

 

「どうでした?間近で見た感想は?」

 

俺は俺の戦いを見ていた三人、凛、時臣さん、璃正さん尋ねる。

 

「正直に言うけど、あなたの力は危険すぎる。近くにそれを管理する人間がいるべき、なるべくこの街から出したくないわ」と凛に。

 

「私も凛同様にそう思うよ。白野君、君の力は異常だ」と時臣さんに。

 

「確か今君の住んでいる場所には綺礼がいるようだが、やはり綺礼だけでは……」と璃正さん。

 

簡単に言えばこの街に住んで自分たちの目の届くところにいろってことだよな。

 

まぁ確かにその通りだな。実際にこの力を持ってる俺はこの街にいるはずの人間なわけだし。

 

「そう言われるとは思っていました。でも、まだ俺は今住んでる場所にいたいのでもう少し待ってください。高校と大学を卒業して、自立できるようになったらまたこの街に来ようと思うので」

 

俺がそう言ったら、まぁそう言うと思ったって感じな表情をされた。

 

それから俺が帰るまでの残りの時間は全て凛に振り回された。魔術の特訓とか、買い物とか、いろいろと付き合わされた。

 

ただ、彼女から感じたモノは恋愛というよりは友人って感じのモノだった。

 

たぶん彼女は好きな男性がいるのだろう。なら俺は彼女を応援しよう。それが友達ってことだろう。

 

 

 

 

 

そんなことがあったせいで眠れなかった。

 

俺は動き始めた電車の窓から冬木市の眺めを楽しむ。

 

凛に一応、俺の携帯電話の番号とメールアドレス教えたけど携帯とか使えるのかな?

 

「まぁカレンがあれだから、凛じゃ無理だろうな」

 

そう言えば、あの蟲の使い魔を使ってた魔術師って誰なんだろう?

 

俺の感覚だと梟が時臣さんか凛、ネズミが璃正さんだろう。そうなると蟲って誰が使ってたんだろうな。

 

まぁ今はもう関係ないか。

 

「ふあぁ……」

 

欠伸が出てきたな。そろそろ眠ろうかな……。

 

あ、そうだ。眠る前に携帯に来てる着信を調べておこうかな

 

電話の着信はナシ、メールの着信は一件。桜からだ。

 

内容は『兄さん、今日帰ってくるんですよね?もしよかった私と白乃ちゃんと一緒に花火大会行きませんか?』

 

「そういえば、今日は花火大会だったな……」

 

 

 

 

 




さて、次回は花火大会の話です

それにしても今回ザビ男は二度も憑〇合体をしたわけですけど、たぶん文化祭が終わるまではもうバトルはないので見納めってことで二度やりました

『女難の相:EX』の二人が合わされば必然的に『女難の相:★』になる、はず……

それではまた次回に!


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花火大会と過去のできごと。

今回は花火大会の話です。と言ってもそこまで深くは書きません。申し訳ない……


 

帰ってきた……。

 

現在俺は家の門の前に立っている。時刻も五時を過ぎているので家で少し休んでから桜たちと花火大会に行く。

 

「少年よ」

 

俺が門を通ろうとしたとき背後から店長の声がしたので振り返る。

 

「あれ?店長どうしたんですか?」

 

ここにいるのは別に珍しいことではない。たまに俺に八極拳を教えに来てくれるし。

 

「父上から聞いたが、君は冬木の地へ行ったようだな」

 

「はい」

 

「そうか、では一つ尋ねよう」

 

店長が真面目な表情になる。

 

大切な話になるのだろう。それ相応の返答をしないとな。

 

「『紅州宴歳館 泰山』には行ったか」

 

「はい……」

 

「ふっ、ならばよい」

 

「……」

 

俺の返答に店長は納得したようだ。

 

大切な話だったな……。

 

「少年」

 

「今度はどうかしたんですか?」

 

「厄介な蟲を連れて来たようだな」

 

「蟲?」

 

蟲って冬木にいた使い魔の奴か?もしかして俺まだ見られてるの?気付かなかった。

 

「どこにいるんですか?」

 

店長に尋ねると店長は何処から出したのかわからないが、黒鍵一つ出して、「あれだ」と言いながら黒鍵を俺の真上に向けて投げる。

 

俺の上でグシャという音がなり、俺の近くに冬木で見た蟲が黒鍵に貫かれた状態で落ちてきた。

 

本当だ。それにしても……気持ち悪いな。

 

「あ、店長これって誰の使い魔なんですか?」

 

「冬木で蟲を使うのはマキリだろうな」

 

「マキリ?」

 

「現在は間桐と言う。当主の名は間桐臓硯」

 

間桐……。この世界での慎二との関係者かな?

 

「では、私はこれで帰るとしよう。少年よ、残り短い人生だ楽しむといい」

 

店長はそう言って歩き始めた。

 

あれ?どうして店長が知ってるんだ。

 

「ちょっと待ってください」

 

「何かね?」

 

「なんで店長がそれ知ってるんですか?」

 

「知り合いに君のことをよく知る人物がいるのだが、その者から聞いたのだよ」

 

俺のことをよく知る人物?でも俺の未来の話を知っているのって陽乃さんだけだけど、たぶん二人は関わりはないはず。

 

「その人って誰ですか?」

 

「英雄王だ」

 

まさかのAUO!

 

「今でもよくメールをやり取りしている」

 

しかもメル友!

 

「え、え、なんで店長がギルガメッシュと知り合いに?」

 

理由を尋ねたら店長はためらうことなく話してくれた。

 

店長の話はこういうモノだった。

 

店長がまだ聖堂教会にいた頃、ある紛争地で兵士として育てられている子供が魔術を使ったという噂を確かめるために、その地に出向いたときのこと。

 

そこで店長が目にしたのは、一帯を吹き飛ばすような一撃と、その一撃の発動元に立っていた金髪の五歳ほどの少年だったそうだ。

 

その子供は自分のことを『英雄王』と名乗ったそうだ。

 

そこでいろいろと話したり交渉したりして、ギルとメル友になって今に至る。

 

うん、意味がわからない。

 

話とか交渉の内容は話してくれなかったし。

 

まぁその子供は、俺の身体に憑依した英雄王・ギルガメッシュさんなんだろうけど。

 

もっと詳しく聞きたいのだが店長は既に帰った。

 

あとでギルに聞きけばいいか。

 

それよりも早く家に入ろう。

 

家に入ると、浴衣姿の桜と白乃がいた。

 

「お帰りなさい、兄さん」

 

『お父さん、お帰り』

 

「うん、ただいま。二人とも似合ってるよ。それじゃあ行こうか」

 

店長と話をしていて休む時間が無くなっちゃったからな。

 

「あ、兄さん。あの小町ちゃんも一緒に行くことになったんですがよろしいでしょうか?」

 

「別に構わないけど、どうして小町ちゃん?」

 

小町ちゃんのことだから比企谷と行くと思うんだが。

 

「それが、未来のお姉ちゃんの為だとか言ってました」

 

「未来のお姉ちゃん?」

 

とても大切そうな気がする。

 

 

 

 

 

「なるほど、そういうことだったんだ」

 

俺は桜と小町ちゃんが決めた集合場所で小町ちゃんに理由を聞いた。

 

理由は由比ヶ浜さんのために比企谷を花火大会に行かせたのだが、やっぱり心配になったそうだ。別に自分も遊びたいからという理由ではない。

 

「それに同じ受験生の桜ちゃんも行くのなら、小町も行きたっていいんじゃないかと思いまして」

 

そう、別に遊びたいわけでは……ない、はず。お兄ちゃんのことが心配な可愛らしい妹のはずだ。

 

俺が自分にそう言い聞かせていると、小町ちゃんも俺たちを見て疑問に思うことがあるようだ。

 

「岸波さん?そちらの小さい女の子は?」

 

小町ちゃんは桜と手を繋いでいる白乃を見て質問する。

 

「俺の養子で白乃って言うんだ」

 

と俺が白乃を紹介すると、白乃はコクリと頭を下げる。

 

「よろしく白乃ちゃん。それにしても岸波さんはいろいろとすごいですね。もう子供がいるとは……(岸波さんルートに入っている女性は前途多難だなぁ。小町もお兄ちゃんが無事にうまくいったら、そのルートに入る可能性があるんだよなぁ)うん、頑張ろう」

 

小町ちゃんは何かを決意してようだ。

 

「それにしても混んでるな……」

 

俺は辺りを見渡しながら呟く。

 

「そうですか?いつもこんな感じだと思いますけど」

 

「いや、実は俺って一度も花火大会に行ったことないんだよ」

 

「え?そうなんですか?」

 

小町ちゃんは俺の発言に驚いたようだ。

 

「簡単なことで一緒に行くような相手がいないし。うちの縁側からもここ花火ってよく見えるから」

 

「でもどうして今回は行くことにしたんですか?」

 

「誘われたからだね。俺は用事がないようなときに知り合いに誘われたらどこにでも行くよ」

 

そう、用事がなかったらどこにでも行く。ただブッキングだけは防ぐ、死を見る気がするから。

 

「じゃあ、今度兄と遊んであげてください」

 

「それは俺も嬉しいな。俺、未だに同年代の男子とは遊んだことないし。でも、夏休みもう終わるんだよな」

 

今日で残り三日。遊ぶなら明日が最後って感じになりそうだが、比企谷は動かないだろうな。

 

「大丈夫です。小町に任せてください」

 

「え?あ、うん」

 

もしかして俺、今小町ちゃんに思考を読まれたか?小町ちゃん恐ろしい子。

 

 

 

 

 

現在、俺、桜、白乃、小町ちゃんは花火大会の屋台を見て回っている。

 

そして俺はターゲットも発見。

 

「お、比企谷と由比ヶ浜さん見つけた」

 

「え、何処ですか?」

 

「あそこ」

 

俺は人差し指で比企谷たちがいる場所を指さす。

 

「あ、いますね。でも……ちょっと雲行きが怪しいですね」

 

確かにそうだな。

 

浴衣姿の由比ヶ浜さんが浴衣姿の女子と話しているんだが、その女子は比企谷のことを嘲笑したように見えた。

 

それに由比ヶ浜さんとの温度差を感じるな。友達と思っている由比ヶ浜さんと、それに近いがそれとは別の何かを想っている女子。

 

「よし、ここは俺が鍛え上げた観察眼を使った読唇術であそこの会話を再現しよう」

 

「おお、岸波さんすごい」

 

『お父さん。そんなことできるの?』

 

「兄さん。どんどん変な方向に進んでますよ」

 

桜に言われてしまったが、正直依頼と戦い以外にこの観察眼を生かせる場所ってないんだよ。

 

「じゃあ、ちょうど比企谷が話し始めたから始めるよ。『焼きそば、並んでるみたいだから先行くわ』『あ、うん。すぐ行く』」

 

そして比企谷がその場を離れた。

 

「「「………」」」

 

「もう少し早いタイミングで始めればよかったね」

 

その後すぐに由比ヶ浜さんが、女子と話し終え比企谷の後を追い始めた。

 

「……追跡は止めようか。由比ヶ浜さんのためにも」

 

「そうですね。結衣さんにならお兄ちゃんを任せられます」

 

小町ちゃんがそう言うと、桜が小町ちゃんにあることを尋ねた。

 

「小町ちゃんは、お兄さんが他の女性のもとに行っても何とも思わないんですか?」

 

意味深ですね、桜さん。

 

「確かにお兄ちゃんが小町から離れるのは悲しいけど、それは仕方がないことだし、それよりもお兄ちゃんが幸せになってくれるのが小町は嬉しいから……」

 

小町ちゃんは少し悲しそうな表情をしているが、すぐにいつもの笑顔になり、お決まりのあの台詞を言う。

 

「あ、これ小町的にポイント高い」

 

 

 

 

 

俺たちは花火が見えそうな場所に移動を始めたのだが、やっぱり人が多いな。

 

そして、みんなと別れないようにするために手を繋いだりした結果、右手は桜、左手は小町ちゃん、白乃は肩車。完璧だね。

 

「それにしてもどこに行くべきだろう?」

 

すると、白乃に頭をポンポンと叩かれた。

 

「ん?白乃どうかした?」

 

俺が尋ねると白乃はある方向指さす。

 

「白乃が指さす方に行けってこと?」

 

コクリと頷く。

 

「どうする?」

 

「私はいいと思いますよ」

 

「小町もいいですよ」

 

二人も了承してくれたので白乃を信じるか。

 

「じゃあ、白乃よろしく」

 

『任された』

 

辿り着いた場所は有料エリアの近くだった。

 

ここに着く頃には既に花火は始まっていたのだが、歩きながらでも見れたので別に問題はなかった。

 

ただ、ここは人が少ないけど、有料エリアに近いからやめた方がいい気が……あれ?

 

俺は有料エリアの奥の方に比企谷たちを見つけた。

 

なんでいるんだろう?……ああ、あの人がいるからか。

 

それは陽乃さんだ。

 

たぶん、今回は父親の代理とかかな?

 

みんなが花火に夢中な中、俺は有料エリアにいる比企谷、由比ヶ浜さん、陽乃さんの三人の方を見ている。

 

俺は先ほど失敗した読唇術で、三人の会話を盗み聞き?をする。

 

悪いことってわかってるけど、元はハッカーだから仕方ないよね。

 

会話の内容は雪ノ下さんのことが主になった。俺の話も出たようだが、俺の未来については話さないでくれたようだな。

 

そしてクライマックスのゴールデンシャワーが始まる、花火大会もはもうじき終わりを迎える。

 

「そろそろ移動しようか。混み始めて身動き取れなくなったら困るし」

 

「はい」

 

「小町も賛成です」

 

白乃もコクコクと頷く。

 

このあと面倒なことに、美少女二人と美幼女一人を侍らせていたように見られたのか、三人組の不良に絡まれた。

 

俺って女の子といるときよく不良に絡まれるけど、それって俺が悪いのか?

 

まぁいつものように撃退すればよかったのだが、人の目に付くところでそんなことはしたくないので、白乃は肩車のままで、桜を右腕、小町ちゃんを左腕で抱えながら逃げるという離れ技をしたわけだ。一応、強化スパイクのコードキャストを使ったのでしっかり逃げ切った。

 

たぶん、三人の体重を合わせれば100Kg近い重さになると思う。

 

それよりも謝らないとな。

 

「二人ともごめんね。恥ずかしい思いさせちゃって」

 

普通は恥ずかしいよな。人前で抱えられるって。

 

「いえいえ、小町は気にしてませんよ。それより岸波さんって見た目よりも力待ちですよね」

 

「そうですね。まさか私たちを抱えたまま逃げ切るとは思っていませんでした」

 

『目指せサーヴァント』

 

流石に無理だろう、憑依してもらえば話は別だが。

 

「まぁ鍛えているし、三人とも軽いから大丈夫だよ」

 

『おお!』

 

「「……(軽いと言っても同時に抱えている時点で軽くはない気が……)」」

 

それからはみんなで楽しく会話をしながら小町ちゃんを家まで送った。

 

そして会話の中である約束をした。

 

「それでは、桜ちゃん、白乃ちゃん、岸波さんまた明日。小町、明日楽しみです」

 

「はい、また明日です。私も楽しみです」

 

『また明日』

 

「それじゃあ、明日、駅まで迎えに行くね」

 

「よろしくお願いします」

 

小町ちゃんは手を振りながら比企谷宅に入っていた。

 

小町ちゃんと交わした約束は、明日、小町ちゃんが桜と勉強会をするついでに、岸波家に泊まっていくことになったのだ。

 

 

 

 

 

久しぶりに夢を見た。

 

ここは俺の過去。

 

知らない国で拷問のような毎日を繰り返していたときのこと。

 

なのにどうしてだろう。俺の過去なのに俺が知らないことが起きている。

 

『よくも我の所有物を汚したな、汚物どもが』

 

ああ、これはあの日のことか。

 

『貴様らには過ぎた一撃だがな。切り裂いてくれる!』

 

俺/ギルガメッシュは右手に英雄王・ギルガメッシュの切り札『乖離剣・エア』を持ち、一突き。

 

そしてそこら一帯を吹き飛ばす。

 

物も、建物も、人も原型を留められないほどの一撃。

 

まさに神話そのものだろう。誰一人としてこれから逃れることができなかった。

 

だがそれは違っていたようだ。その場に一人の人間が現れた。

 

その人物は俺/ギルガメッシュの背後に立っている。

 

『待っていたぞ、言峰綺礼』

 

俺/ギルガメッシュが振り返りながらその人物の名を呼ぶ。

 

『ッ!何故私の名を知っている。貴様は何者だ』

 

そこにはカソック姿の若い店長―――言峰神父がいた。

 

『我は絶対にして初まりの王……英雄の中の英雄王、ギルガメッシュ。と言いたいところだが、この身体の本当の持ち主は我ではない。いや、雑種は我の所有物、ならこの身体も我のモノ同然か』

 

いや、俺の身体だよ。

 

『まぁいい。言峰綺礼、貴様に命令だ。今後この身体の持ち主、岸波白野に危険がないよう監視し、守れ』

 

これが店長が言っていたギルとの交渉か。

 

『貴様は何を言っている。今回の目的は貴様、その身体の持ち主である子供を連れて帰ることだが、それとは別の意味だろう英雄王』

 

『その通りだ。残りの時間ぐらいは雑種の好きなように生きさせるだけのこと。だが、雑種の力はこの世界では存在しえない力、それを求めてくるゴミ共が現れるだろう。それもここにいたのよりも厄介なのがな』

 

『それらからその子供を守れと?では、英雄王に尋ねるが私がその命令とやらを受けるとでも』

 

『ああ、貴様はこの命令は受ける』

 

『どうして言い切れる』

 

『決まっている。この身体の持ち主、岸波白野は面白い。この我ですら飽きないほどの人間だ。それを逃すなど愚の骨頂よ』

 

それから話は続き、言峰神父はこの話を了承した。

 

了承した理由はギルが用意した秘薬だった。話を聞いてわかったが、このときカレンの母、クラウディアさんは病気を患っていたようだ。そしてギルがそれを治すことができる秘薬を渡した。

 

『英雄王、別に私にこの子供を育てろと言うわけではないのだな』

 

『ああ、雑種は朝になったらこの場から離れ、そして数日もすれば雑種を育てる人間が現れる。あとのことはメールで送る』

 

その後『これが我のメールアドレスだ』とか背後から波紋を生じさせながら一枚の紙切れを取り出して渡した。

 

なるほど、ここから二人はメル友になったんだな。

 

ここで夢は終わり、俺はムーンセルの自室にいた。

 

「今更だが、昔店長から聞いた千葉にいる理由はウソで、本当は俺を監視し守るためにいたんだな」

 

なんだろう、ギルといい、店長といい、急にいい人に思えてきたな。

 

あの二人は俺の不幸を見て喜んでるだけの人たちではなかったんだな。

 

「よし、今からギルにお礼でも言いに行くか」

 

こうして俺はあの日々から抜け出した理由を知った。

 

 

 

 

 

朝になり、いつも通りのトレーニングをやり、桜と白乃と一緒に朝食を食べて、小町ちゃんが使う布団を日干して、昨日メールアドレス交換したから小町ちゃんが駅に着く時間を尋ねて、その時間に間に合うように桜たちと家を出て小町ちゃんをお迎えに行く。

 

そして駅に着くと、そこには、小町ちゃんと小町ちゃんの分の荷物を持った比企谷が立っていた。

 

「あれ?比企谷も家に泊まるの?」

 

「決まっているだろう。お前から小町を守るために俺も一緒に行く」

 

そういうことか。昨日、小町ちゃんが言っていた「任せてください」ってこういうこと。

 

「比企谷も一緒に来てくれるなら俺も嬉しいけど、比企谷の言い方だと俺が小町ちゃんを狙ってるみたいに聞こえるんだが………」

 

「なんか岸波って泊まった女子と一緒に寝てそうだからな」

 

「………い、いや、そ、そんなことはしないよ」

 

そうそう、俺からはしない、いつも女の子の方からだから。

 

と言うか、比企谷なぜそんなピンポイントで見抜いてくるんだよ。俺ってどんなイメージな人間なんだよ。

 

確かに月では毎日、セイバーかキャスターと一緒のベットで寝てたけどさ……。

 

「まぁ、案内するから着いていてよ」

 

家までの移動中はいつものように他愛無い話をした。

 

そして岸波家に到着。

 

「デカいな、おい」「桜ちゃんたちのお家大きいな」

 

比企谷兄妹は予想通りの反応をしてくれた。そう言えば初めて留美ちゃんが来た時もこんな感じだっな。雪ノ下さんは実家が俺の家よりも大きいからそこまで大きな反応はしなかったけど。

 

「大きいだけで特に面白いモノはないんだけどね」

 

「そうですね。部屋の数は多いのに家族は私と兄さんと父さんの三人、今父さんはアメリカですから実質二人。ですが父さんのその代り白乃ちゃんがいますから、家族構成としては前と変わらず三人ですね」

 

「部屋数はどれぐらいあるんだ?」

 

比企谷は当然のように気になったようだな。

 

「それは自分の目で確かめた方がいいよ」

 

こうして、俺は比企谷と小町ちゃんに岸波家の案内を始めた。

 

 

 

 

 

「はぁ……お前の家って金持ち?部屋数の多さにも驚いたが、まさか土蔵に道場もあるとは」

 

現在、岸波家の間取りを教え終わり、俺と比企谷は居間で休息を取っている。

 

桜と小町ちゃんと白乃は、土蔵にいるエルと戯れている。

 

「雪ノ下さんの家ほどではないけど確かに金持ちの部類に入るだろうな。父さんは仕事してばっかりだから、お金をあまり使わないしな」

 

「お前の父親って何やってんの?」

 

「医者、比企谷も知ってるんじゃないかな?名医トワイス」

 

「え?マジで?」

 

「うん。マジで」

 

さて、ここからだ。ここからどうする。

 

俺の家に同年代の男子が遊びに来ているんだ。どうする。

 

ここは本人に聞いた方がいいのか?

 

「なぁ比企谷」

 

「なんだ?」

 

「比企谷はこういう状態どうするればいい?」

 

「こういう状態ってなんだよ?」

 

「自分の家に同年代と男子が遊びに来ているとき何をすべきかってこと」

 

「いや、知らねぇよ。俺もそんな経験ないし、同年代と知り合いの家に入ったのも初めてだしな」

 

「そうか」

 

「ああ、そうだ」

 

「「(まさか互いにこの状況の対処法を知らないとは、シスターズ、早く帰って来い)」」

 

どうする……。この状況を看破する方法。

 

誰かから聞けばいいか。この状況をどうにかする方法を。

 

そう、誰かに聞けばいいんだよ。簡単じゃないか、誰かに聞けば……。

 

無理だ。そういえば俺の携帯には、こういう状況をどうにかできそうな人のメールアドレスがない。

 

ん?比企谷は携帯をいじり始めたぞ。確かに暇だからな。だが、比企谷はすぐに携帯をいじるのを止めて、俺のほうを向いて口を開いた。

 

「なぁ岸波。お前、何かゲームとか持ってるか?」

 

「ゲーム?」

 

「ああ、ゲームだ。暇なときはそういったことをした方がいいだろう(さっき戸塚にメールして聞いたら、ゲームとかはどうかって薦めてくれたしな)」

 

なるほど、ゲームか。

 

「ゲームはあるけど、あってもトランプ、将棋、オセロ、チェスぐらいだけど」

 

「確かに二人でできるが、俺とお前じゃスペックに差が出るからダメだ」

 

「え?俺ってそこまで強くないぞ」

 

「ウソは止めろよ。お前が弱いわけないだろう」

 

「いや、ほんとだって前やったけど負けたし」

 

そう、あの『最強厨』の方に負けたからな。

 

「じゃあ、やってみるか」

 

そして、比企谷と勝負をした結果。全勝しました。

 

「何が弱いだ!俺、一勝もできねぇじゃねぇか!」

 

「おかしいな?本当に俺、弱いはずなんだが……」

 

「もうゲームは止めだ。俺は本を読む」

 

「待って、待ってよ。俺が悪かったからそれだけは止めて」

 

比企谷は鞄から本を取り出して始めたので、俺はどうにかそれだけは止めてもらった。

 

「じゃあ、何すんだよ。お前の家にあるゲーム類ってそれだけなんだろ。俺は勝てない戦いには挑まないようにしてるんだよ」

 

「わかった。ちょった考えさせてくれ」

 

ゲーム、ゲームだろ。俺が持っているゲーム………。

 

「あ、あるかも」

 

そうだ、一つだけあるじゃないか。

 

「比企谷ちょっと待っててくれ」

 

俺は居間を出て、自室に向かう。

 

俺はゲームで思い当たるものが一つだけあった。それは

 

 

 

 

 

俺は自分のパソコンを開いて、桜の花のアイコンをクリック。

 

『あら、ハクノ。今日は随分早い時間ね』

 

『キ、キシナミさん……』

 

こんにちはメルト、リップ。それにしてもどうしたの二人一緒って珍しいね

 

『そうかしら?この部屋が唯一あなたと関われる空間。私たちが揃っていてもおかしくはないわ』

 

まぁ本人たちが言うならそうなのだろう。

 

それよりBBに、頼みた、いことが……

 

BBの名前を出したら二人の視線が鋭くなった。

 

『キシナミさん……約束、覚えていますか……?』

 

『ええ、ハクノ忘れたとは言わせないわよ』

 

そうだったな……。話している本人以外の女性の名前を出したらいけないんだった。

 

もし出したら、一生忘れられないトラウマをまた植え付けるとか、なんとか。

 

いや、ちょっと待った。それって夜の会話のとき限定でしょ?まぁBBがダメなら二人にお願いしたいんだけどさ、いいかな?

 

俺が二人にお願いだと言うと二人はキョトンとした顔で「「お願い?」」と小首を傾げる。

 

この二人も月の裏側のときと違って、丸くなったよな。

 

そうそう、お願い。二人に持ってきてもらいたいものがあるんだよ

 

『も、持ってきてもらいたいモノ、ってなんですか?』

 

それは、俺がBBに作らされたゲームなんだけど。わかる?

 

『ええ、何となくだけどわかるわ。それでどうしてそれが欲しいのかしら?』

 

俺は二人に事情を説明する。

 

『そういうこと。仕方がないから持ってきてあげるわ。感謝しなさい』

 

『私も、持ってきます』

 

一分後。二人は俺が作らされたゲームを持っていた。

 

『二つあったけど、どっちをご所望?私的にこっちをやってもらいたいんだけど』

 

メルトが出してきたゲームのタイトルは『全ヒロインヤンデレ間違いなし サクラファイブ』ってゲーム。

 

流石に、それは止めておきます。比企谷とヤンデレしかいないゲームはやりたくないんで

 

『そうなると、こっちってことよね』

 

そしてそのゲームのタイトルは

 

『ドキドキ 総武学園』

 

………もしかして、うちの高校がモデルかな?

 

 

 

 

 




今回はAUOとマーボーが出会って、実はマーボーは白野くんを守っていた?みたいな感じになりました

そして次回はザビ男、ヒッキー、そしてザビ子三人で、ただただ恋愛ゲームをするだけのお話。完全なるオリジナルなので面白いかはわかりません。ゲームキャラの名前は考えていないので、その役職を名前にします。(例え:妹キャラ⇒妹、幼馴染キャラ⇒幼馴染。みたいな手抜きな感じで)

しかし、自分で書いてなんですが『サクラファイブ』やってみたい……

それではまた次回に!


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これ普通の恋愛ゲームじゃないよね。

 

 

よし、ゲームはこれでいい……のか?

 

今更だが、比企谷と一緒に恋愛ゲームをやるっておかしいよな。

 

でも仕方がない。この家に暇つぶしできそうな物ってあんまりないし。

 

じゃあ、比企谷を俺の部屋に呼ぼう。流石に居間でやるわけにはいかないし。

 

自室から出て居間に行くと比企谷と白乃が向き合っている。

 

俺は「なにやってるの?」と尋ねながら二人に近づくと机の上に白乃のメモ帳が置いてあり、いつも通りそこには文字が書いてある。

 

内容は……『比企谷さん、小町さんをわたしにください』

 

なにをやってるんだ俺の娘……。

 

「えーっと、この状況説明してくれ」

 

お父さんは娘が百合に目覚めても文句は言わないし、それからの人生を温かく見守ろうとは思う。けど理由は欲しいです。

 

「岸波の娘は妹が欲しいんだとよ」

 

「妹?」

 

俺が聞き返すと白乃はコクリと頷いてメモ帳に文字を書き始める。

 

『そう、わたしは妹が欲しい。お父さんはわたしの嫁、桜という妹がいるのに私にはいないなんて不公平。それならわたしにもわたし専用の妹をこの手に』

 

と右手をグッと握りしめながら力説?いや、力筆する。

 

『というわけで比企谷さん、いや、お兄ちゃん。小町ちゃん頂戴』

 

「やらん。小町は俺だけの妹なんだよ。それに妹が欲しきゃ父親である岸波に頼め」

 

『だってお父さん周りに女の子とかいるくせに誰にも手を出さないチキンだから、子供なんて私が中学生になってもできそうにないし』

 

まさか娘にそんなことを言われるとは、お父さんショックです。

 

『この前だって、お母さんができるみたいな思わせぶりなことを言うわりには童貞だし』

 

「あのー白乃さん?俺って父親だよ。流石にひどくないかな?」

 

「それよりも本当の四歳児かよ……」

 

『頭の中は既に十七歳以上だから』と白乃はドヤ顔で字を書いているが、それってドヤ顔することなのだろうか?

 

前世の記憶を持っているってことだから自慢はできるか。公言はできないけど。

 

「まぁ妹については今度にして、ゲームするために俺の部屋に行こう」

 

『ゲーム?わたしもやる』

 

というわけで、白乃も俺の部屋に来た。

 

「で、何のゲームすんだ?」

 

「俺が知り合いから貰ったゲームなんだけど、これ」

 

俺は自分の勉強机の上に置いてあるパソコンの画面を指さす。

 

パソコンの画面には『どきどき 総武学園』のタイトル画面が映し出されている。

 

「……ギャルゲーかよ」

 

「いやぁ、俺の家ににあるものだとこれしかないんだよね。大丈夫、俺もこのゲームは一度もやっていない初見プレイだし」

 

「そういう問題じゃねぇよ」

 

「それにこの三人がいるのなら必然的にこういうゲームだろう」

 

「何が必然だ。それに年齢制限とかいろいろあんだろ。お前の娘に見せてもいいのか」

 

『大丈夫。見た目は子供でも中身は大人だから』

 

「何処の名探偵だよ」

 

「でも、これ以外することがないんだよな。それじゃあ比企谷、俺と一緒にお菓子作りでもするか?」

 

「………」

 

最終的に比企谷が「わかったよ。やってやる」と呆れ気味に了承してくれた。

 

俺がマウスを動かして、スタートをクリックするとこのゲームの説明が出てきた。

 

「なになに……『ごく普通の生活をしていた高校二年生の主人公にモテ期が訪れた』」

 

「なんだかありきたりだな。どうせこの主人公はリア充みたいな奴だろ」

 

「いや、そうでもないぞ」

 

「は?」

 

俺は説明の続きを読み始める。

 

「『だが、主人公は誰とも付き合う気もない。当たり前に結婚なんて考えてすらいない。養う気も養われる気もない、稼いだお金は自分の為にしか使わないと決めているほどの人物であった。そう、このゲームは主人公に近づいてくるヒロインたちを拒絶し続け、モテ期の終わりまでヒロインたちをフリ続けるゲーム』」

 

「………ギャルゲーじゃあねぇな、これ。それにタイトルとのギャップの差がデカいな」

 

その通りだな。

 

『難しいゲーム。フラグを建てて回収するわけではなく、建っているフラグを折り続けるゲーム』

 

白乃がそう言うのだが

 

「でも、既に目的はわかったるんだから、結構簡単でしょ?」

 

『お父さんはわかっていない。一度建ったフラグはそう簡単には折れたりはしない』

 

なぜだろう、すごい説得力。

 

「お、難易度ってのがある」

 

難易度は三つ、デレデレ、普通、ヤンデレの三種。

 

「このゲームはヒロインをフル前提なんだから、一つ目と三つ目はねぇから二つ目の普通が安定だろうな。っていうかヤンデレって……」

 

まぁこれを俺に作らせた人物はそれに近いから仕方がない。

 

「じゃあ、普通で始めよう」

 

俺はマウスを動かして普通を選択。そしてゲームが始まりだした。

 

 ? 『――なさい。起――さい』

 

誰だ、俺の安眠を邪魔するのは。

 

 ? 『起きなさい。人がせっかく起こしに来たあげたというのにまだ眠れるとはいいご身分ね』

 

う、この声は……。

 

眠いため目を少し開けて、声の主を見ると、やはりそこには俺の幼馴染がいた。

                                           』

 

「なぁ岸波、この幼馴染キャラ、なんか雪ノ下に似てるような気がするんだが」

 

比企谷はゲーム画面に映し出されているキャラクターのCGを見て言う。

 

「まぁ何となくわかる気が、それに口調も似てるかも」

 

俺も何となくだがこのキャラクターが雪ノ下さんに似てる気がする。まぁ続きをやろう。

 

 幼馴染 『やっと目を覚ましたようね。毎日起こしにきているのだから進歩して欲しいわね』

 

俺は付き合うとか結婚とかそういうことはしたくないが、この上から目線を無くせばいい女って部類になるんだけどな。

 

 主人公 『俺に進歩を望むのは無理ってもんだろ、俺自身変わろうなんて思ってもいねぇし。変わっても何の得にもならねぇんだかから変わる必要はないんだよ』

 

俺はベットから身体を起こしながら自分の思っていることを口にした。

 

 幼馴染 『本当にあなたは変わらないのね。仕方がないわ、私があなたを変えさせてあげるわ』

 

 主人公 『は?何言ってんの』

 

 幼馴染 『私と付き合いなさい』

                                          』

 

「早いな、始まって五分も経たないうちに一つ目の選択肢。しかもそれが告白かよ」

 

選択肢は①わかった。付き合う ②嫌だ、お前とは付き合わない

 

「まぁこのゲームの目的としては②を選ぶってことだよね」

 

「そうだな」

 

『いや、ここは①がいいと思う』

 

「え?どうして」

 

『嫌な予感がする』

 

「目的は②だろ」

 

俺と比企谷は②、白乃は①がいいと別れた。

 

多数決で②を選択することになった。

 

 主人公 『嫌だ、お前とは付き合わない』

 

俺は誰とも付き合う気がないんだ。幼馴染であろうとそれは変わらん。

 

 幼馴染 『そ、私のモノにならないのなら……死になさい』

 

グサリと俺の左胸、心臓に包丁が刺さる。ああ、短い人生だったな……。

                                          』

 

「「ええぇぇぇ!!」」

 

『予想通り』

 

画面に『BAD END』の文字が浮かび上がっている。

 

理不尽だ。理不尽すぎる。殺されるって酷すぎる。

 

「あれ?難易度・普通にしたよね?これ完全にヤンデレでしょ?」

 

スタート画面に戻り難易度を確認したら、普通のままだった。

 

このキャラはヤンデレが売りなのかな?

 

「そうなるとさっきの選択肢は岸波の娘の言う通り①だったってことか」

 

「目的は違うけど、目的通りになる補正がでるのかな?」

 

ということで、さっきの選択肢の場所まで戻る。

 

 主人公 『わかった。付き合う』

 

こいつには結構世話になってるし、自分のどうでもいい考えなんて捨ててもいいか。

 

俺が幼馴染の告白を受けれたとき、俺の部屋の扉がガチャリと開いた。

 

 妹 『お兄ちゃん……ダメだよ。お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんだから』

 

妹が俺の部屋に乱入してきた。その手にはナイフが……

                                          』

 

そこからはさっきと同じ。

 

「詰みだな。これ」

 

「そうだね。普通を選んだはずなのに、完全にヤンデレしかいないね」

 

たださっきと違うの『BAD END』の代わりにエンドロールが流れている。

 

「にしてももうエンディングか……」

 

「まぁほぼ自作ゲームだから仕方がないと思うけど。そう言えば、さっきの妹キャラは少し小町ちゃんに似てたかもね」

 

「まぁ何となくな」

 

そしてエンディングが終わると、スタート画面に戻らなかった。

 

 ? 『―きて。お兄――ん、朝―よー。起―て』

 

身体を揺すられて目が覚める。

 

ん?ああ、夢か。まさか夢で妹に殺されかけるとは……。

 

 主人公 『俺の可愛い妹よ。もう少し眠れせてくれ。あと五分、いや、今日一日』

 

 妹 『サボる気満々だね。妹的にはそれでもいいんだけど、幼馴染さんが怒っちゃうから』

 

 主人公 『あいつか……なんでいつも俺の行動を縛ろうとするんだ?』

 

 妹 『お兄ちゃんがダメダメだからだよ。それに私同様でお兄ちゃんのことが好きなんだよ』

 

 主人公 『おう、ありがとう。でも俺誰とも付き合う気ないから』

 

俺は付き合う気はない。付き合っても何の得にもならない。むしろ損の方が多いだろう。

                                          』

 

なるほど、夢オチにしたのか。それにしても

 

「この主人公は捻くれてるよね。自分がモテてるとわかっていてこういうこと言ってるんだから」

 

「そうだな。捻くれ方もある意味俺よりも重傷だろ。俺はトラウマとか色々あった上でこうなったが、こいつは説明文からして最初からこういう感じだろうな。なんでこんな奴がモテるんだ?」

 

そこからゲームは進んでいき、いろいろとヒロインたちが出ていた。

 

幼馴染、妹、クラスの人気者の女の子、世話焼きの女教師、幼馴染の姉(大学生)、不良っぽい女の子、天然な生徒会長、何故か親しくなった小学生の女の子、男の娘、自称剣豪将軍の中二病(何故か女子)、白衣を着た後輩、主人公をライバル視するツインテールの帰国子女、ノーパン主義の褐色肌のメガネ帰国子女、白髪のシスター、狐耳の巫女、どこぞの国の皇帝の娘、正義の味方に憧れる少女、自称王の金持ち、アイドルも目指している貴族、などなど他にもまだまだ出てきた。

 

「このゲームいろいろぶち込みすぎて変なことになってるな。途中で本当に日本なのか疑いたくなるようなヒロインも出てくるし。最初のごく普通って設定自体がウソに思えるほどだな」

 

比企谷が言ってることはよくわかる。それに何となくだがそのヒロインたちを知っているような気がする。しかも男だった人たちも女になってるし……。

 

「ってそろそろ昼食の準備しないとな。俺、昼食作りに行くけど何か注文とかある?」

 

「いや、お前に任せるよ」

 

『同じく』

 

任せるか……。冷蔵庫の中にあるもので考えるとオムライスかな。

 

「じゃあ、このゲームは二人で進めててよ」

 

「いいのか?こういうのって途中が抜けてるとよくわかなくなるだろ」

 

「俺はいつでもできるから、大丈夫だよ」

 

俺は自室を出て、今の奥にある台所に移動をする。

 

 

 

 

 

わたしは岸波白乃、転生者です。

 

現在わたしはお父さんの部屋で、お父さんの友達?の比企谷さんと一緒にゲームをしている。

 

ゲームをしながらお父さんと比企谷さんの関係を観察してみたのだが、よくわからない。

 

仲はまあまあ良さそう。普通に友達と言ってもおかしくないくらいの仲だとは思うんだけど、友達みたいな関係じゃないような……。

 

『比企谷さんの名前ってなんていうの?』

 

わたしは比企谷さんの肩を叩いて質問をする。

 

「あ、八幡だけど」

 

『ハチマンの漢字は?ちょっとこのメモ帳に書いて』

 

ハチマンさんにメモ帳を渡して名前を書いてもらう。

 

ハチマンは『八幡』って書くのか。

 

『八幡さんはお父さんと友達?』

 

「いや、俺とあいつは友達じゃねぇな。そこまで仲良くはないし」

 

『家まで来て一緒にゲームしてるのに?』

 

「俺がここにいるのは小町が心配だったからな」

 

『そうなんだ』

 

お父さんの友達じゃないのか。今お父さんは楽しそうだからいいけど。

 

ここへ来る前ムーンセルに教えてもらったことが本当だったらお父さんは友達もいない状態でこの世界を去らないといけないんだよね。

 

でもそんなことはさせない。そのためにわたしがこの世界に来た、わたしはお父さんを守りに来たんだ。

 

 

 

 

 

台所へ行くと、桜と小町ちゃんがいた。

 

「あれ?二人ともどうしたの?」

 

「あ、兄さん。勉強ばっかりだと疲れてしまうので気分転換に料理でもしようかと」

 

「はい、小町も頑張っちゃいますよ。岸波さんはどうしたんですか」

 

「俺はそろそろ昼食の準備をしようかと思ってね。でも、二人が作るなら俺は邪魔だったかな?」

 

女の子二人で料理をするんだから男である俺は入るのは無粋だろ。ここは部屋に戻るか。

 

「いえ、岸波さんと一緒に料理とかしてみたかったんで小町的には問題ありませんよ。女として岸波さんの料理の腕をしっかり見てみたかったんで」

 

「私も大丈夫ですよ。今日は人数が多いですから兄さんに手伝ってもらえると嬉しいです」

 

「お言葉に甘えて入らせてもらうよ。それで何を作るの?」

 

「そうですねぇ。一応、小町ちゃんとは一緒にお菓子とか作るつもりですけど、昼食は冷蔵庫の中から考えるとオムライスとかでしょうか」

 

流石は我が妹の桜さん。お兄ちゃんと考えることは同じだね。

 

「じゃあ、俺が昼食を作るから二人はお菓子を作るといいよ」

 

「え?岸波さんは一緒に作らないんですか?」

 

「お菓子って作るものによって時間がかかるからね」

 

それからいろいろと話し合い、最終的には三人で昼食を作って、昼食を終えてからお菓子を作ることになった。

 

「あ、そうだ。岸波さん」

 

「ん?何かな」

 

「さっき桜ちゃんと話したんですけど、他の人もこの家に呼んじゃいけませんか?」

 

「別に構わないけど、呼ぶって奉仕部メンバーとか?」

 

「はい、雪乃さんや結衣さん、戸塚さんとか呼ぼうかと」

 

雪ノ下さんは来れないと思うけど、人がたくさん来てくれるのは嬉しいことだ。

 

「部屋数は余るほどあるから構わないよ」

 

たぶん、女の子は全員同じ部屋に寝るんだろうし。

 

というわけで、小町ちゃんは先ほどの名前を挙げた人物にメールを送ったようで、三人とも来るそうだ。雪ノ下さんは遅れてくるそうだが来れるとは思ってもいなかったな。

 

 

 

 

 

昼食の作り終えたので自室に比企谷と白乃を呼びに行くか。

 

「そういえば、お兄ちゃんは今何をしてるんですか?」

 

「俺の部屋で白乃とゲームしてるよ。俺もさっきまで一緒にゲームしていたし」

 

「え!お兄ちゃんが誰かと一緒にゲームですか!」

 

「え!そこまで驚くこと」

 

「はい、それはもう。今までのお兄ちゃんならその辺で本を読んでますよ」

 

と小町ちゃんは居間の隅を指さす。

 

部屋の隅っこで本読んでるって……。

 

「ま、まぁ最初は本を読むつもりだったらしいし、俺がゲームしようって頼んだんだよ」

 

「それでも小町は驚きますよ」

 

そこまで比企谷って人と関わろうとはしないんだな。

 

「じゃあ比企谷呼んでくるよ」

 

「わかりました」

 

俺は居間を出て自室にむかい、ノックしてから部屋に入る。

 

自分の部屋に入るのにノックするのって変な感じだな。

 

「二人とも昼食の準備できたよ」

 

「おう、わかった。そんじゃあ行くか」

 

白乃はコクリと頷く。

 

思っていたよりも早く仲良くなった。

 

そういえばゲームってどこまで進んだんだろ。

 

俺は机の上に置いてあるパソコンの画面を確認するとそこには

 

 神父 『これより聖杯戦争を行う。喜べ少年。君の望みはようやく叶う』

 

と店長にそっくりなキャラクターが怪しい笑みを浮かべている画像が映し出されていた。

 

「え?どうしてこんな展開に?完全にごく普通の生活じゃなさすぎるでしょ」

 

どうしよう、すごく気になるんだけど。

 

でもこのあと三人分の布団を用意してから、桜と小町ちゃん一緒にお菓子作りをしないといけないんだよ。

 

今度、一人でやろう。

 

「あ、そうだ。比企谷」

 

「なんだ?」

 

「あとで、奉仕部の二人と戸塚くんもこの家に泊まりに来るって」

 

「マジか。戸塚、戸塚が来るのか」

 

「あ、う、うん。小町ちゃんが呼びたいって言ってたから」

 

「ナイスだ小町」

 

今日見た比企谷で一番の笑みを浮かべている。どれだけ戸塚くんが好きなんだろ。

 

でも、俺も嬉しいな。たくさんの人が遊びに来てくれるっていい思い出になるな。

 

もしかしたら最後のこれが夏休みになるかもしれないから。

 

 

 

 

 




次回は岸波家に他の三人が来て、みんなで遊ぶだけです。恋愛ゲームはもうやりません
白乃がこの世界に来た理由は、文化祭中に書くと思います

それではまた次回に!


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同じ名前でこの格差……。

やっとインターネットが繋がりました。引っ越し先がインターネットの工事が済んでいなかったせいで、投稿がかなり遅れました

今後も少々投稿が遅れる時があるかもしれないのでその時は申し訳ありません




 

 

昼食を食べ終え、桜と小町ちゃんと一緒にお菓子作りを開始して一時間くらい、そろそろお菓子作りも終わりそうだ。

 

作っているお菓子はロールケーキだ。……ロールケーキってお菓子か?

 

まぁ後で来るみんなの分も考えて分けれるものを選んだんだけど。それに少し手間も掛かるしね。

 

俺たちがお菓子作りをしている間、比企谷と白乃は俺の部屋で午前中同様にゲームをしている。

 

やっぱり続きが気になる。本当にどうすれば聖杯戦争なんて展開になるんだろうか。仕方がないから今度、時間があるときでいいから一人でやろう。

 

オーブンからいい匂いがしてきたな。

 

あとは焼けた生地に生クリームを塗ってフルーツを乗っけて巻けば出来上がりだな。

 

桜と小町ちゃんには生地が焼けるまで桜の部屋で勉強するように言ったら少し嫌そうな顔をされた。

 

楽しんでるとき勉強の話をされるのは嫌なのは俺も同じなんだけど、一応二人とも受験生なので。

 

さっき小町ちゃんに聞いたが由比ヶ浜さんと戸塚くんは駅に三時くらいに着くそうなので、この家に着くのはだいたい三時半前。お茶の時間にはちょうどいいかな。

 

雪ノ下さんは遅れてくるみたいだから、約五時を目安にしてもいいだろう。

 

最初の二人は駅まで迎えに行くけど、雪ノ下さんは自分で来れるだろうから迎えにかなくていいのかな。それとも迎えに行った方がいいのかな。

 

メールして聞けばいいんだけど、たぶん雪ノ下さんはまだ母親の監視下にいる。でも遅れて来るってことは監視下から出れるってこと。

 

今日マンションに戻るつもりだったのかな。そうなるとマンション一度戻ってから来るのか、実家から直接来るのかのどっちかになるんだけよね。

 

「……ん?お、生地が焼けた。じゃあ、二人を呼んでこようかな」

 

俺はオーブンから生地を取り出してから、桜の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

「出来たー」

 

「はい、美味しそうにできましたね」

 

小町ちゃんと桜が嬉しそうな声でロールケーキの完成を喜ぶ。

 

俺はロールケーキの端の部分(お店で捨てられたり、安く売れたりする部分)をつまみ食いをしながら、喜んでいる二人を見ている。

 

最後の方は俺は二人が作っているのを見ているだけだった。

 

いやぁ、女の子が料理をしている姿はいいものだね。しかもエプロンを着ているのは白野的にポイントが高いです。はい。

 

「兄さん」「岸波さん」

 

「「味どうですか?」」

 

二人は打ち合わせをしたのか疑いたくなるぐらいピッタリと同じこと尋ねてきた。

 

「美味しいよ。俺が食べたのは端の部分だけどその部分でも充分美味しい。俺が今まで作ってきたロールケーキよりも美味しい気がするよ」

 

「フルーツが入ってるからでは?」

 

と桜に言われたのだが、そうではない。

 

「何を言っているんですか桜さん。確かに俺はフルーツ入れたことはないけど、俺が食べてる部分は端だからフルーツ入ってないし」

 

「そうでした。ではどうしてですか?」

 

「うーん………これは、アレだな」

 

「「アレ?」」

 

二人は揃って小首をかしげる。

 

そう、アレとは……

 

「女の子が作ってくれたからだな」

 

「「はい?」」

 

「味覚は気分や場所の空気で変わったりもする。だから自分が作ったものよりも女の子が作ったものの方がいいはずだ」

 

同じ料理の腕で同じものを作った場合、間違いなく自分のものよりも他の人の方が美味しく感じる。

 

いい例で雪ノ下さんがそんな感じ、雪ノ下さんは俺の料理が自分の料理より美味しいと言ってくれるのだが、俺は雪ノ下さんの方が美味しいんじゃないかと思う。

 

こんな感じで味覚はどうにでもなるのだ。不味いものは不味いけど。

 

本当は最初『愛だ』とかボケをかまそうと思ったのだが、今どき女子中学生の二人にはドン引きされそうなので止めた。

 

「じゃあ、そろそろ駅に向かって由比ヶ浜さんと戸塚くんを迎えに行こうか。それで帰ってきてからみんなでお茶にしようか」

 

「そうですね。雪乃さんがいないのは残念なんですけど……」

 

小町ちゃんが残念そうに言う。

 

「それは仕方がないことだから、雪ノ下さんにもいろいろあるんだよ。家庭の事情とかさ」

 

「家庭の事情ですか…(今の発言は岸波さんは雪乃さんの現状をある程度把握しているってことでいいのかな?やっぱり岸波さんは雪乃さんルートに入りかかってる。雪乃さんと壁は大きいな……どうすればいいんだろう)」

 

なんだろ。小町ちゃんから何かを感じる。

 

「二人のお迎えに比企谷も来るかな?」

 

「戸塚さんがいますからたぶん行くと思いますけど、大人数で行くのもあれですからお兄ちゃんと白乃ちゃんには残っていてもらいましょう」

 

「……そうだね。比企谷たちには残っていてもらおう」

 

こうして俺は、桜と小町ちゃんの三人で駅に向かった。

 

駅で由比ヶ浜さんと戸塚くんと会って家まで連れてきた。

 

二人も比企谷たちと同じで様な反応をしてくれた。

 

桜と小町ちゃんに由比ヶ浜さんと戸塚くんを先に居間へと連れて行ってもらった。俺は比企谷と白乃を呼んでくるか。

 

俺は自室に向かい、二人を呼びに行くと。

 

「おーい、二人とも。由比ヶ浜さんと戸塚くんが来たけど、お茶の、時間に……何してるの?」

 

何故か比企谷と白乃が疲れている様な感じで項垂れている。

 

「ん?ああ、岸波か……」

 

「どうかした?」

 

「このゲーム、完全に無理ゲーだわ。詰んだ」

 

「恋愛ゲームに詰みとかあるの?」

 

「知らねぇよ」

 

俺はパソコンの画面を見ると『BAD END』と出ている。

 

「聖杯戦争ってので詰んだの?」

 

俺が知っている聖杯戦争はかなり過酷なものだから、死んでもおかしくないだろう。

 

「いや、聖杯戦争とは違う展開で詰んだ」

 

おや?てっきり聖杯戦争で死んでしまったのかと思ったんだが。

 

「聖杯戦争も終盤って感じのところまで行ったんだが、化け物みたいに強い美人が三人、ヒロインじゃなくて敵として出てきたんだけどよ」

 

「なるほど、そこでその三人の誰かと戦うみたいな選択肢が出てきたってこと?」

 

「ああ、だから全部選んでみたんだが、全部瞬殺された」

 

「え、えーっとその三人はどういう名前なの?」

 

俺が尋ねると、白乃が手帳を渡してきた。

 

何々……『1、真祖の姫 2、直死の魔眼(日本刀装備) 3、宇宙戦艦』の三択。

 

意味不明な選択肢だな。しかしなぜだろう、この選択肢の人物をなんとなく知ってる。

 

「ま、まぁゲームはこれで止めて、お茶の時間にしようか」

 

『おやつ?』

 

「そうそう、今日は桜と小町ちゃんが作ったロールケーキだよ、それでさっきも言ったけど由比ヶ浜さんと戸塚くんももう来てるから一緒にお茶にしようかなって」

 

戸塚くんの名前を聞いた瞬間、比企谷はすぐに居間へと向かっていった。

 

比企谷は本当に戸塚くんのことが好きなんだなぁ。由比ヶ浜さんは前途多難だ。

 

「じゃあ白乃、行こうか」

 

俺が白乃に右手を差し出すと、白乃はコクリと頷いて俺の右手を取る。

 

いやぁ、白乃がこの家に来て二週間程度だが早くも親子が板についてきたと思う。

 

傍から見たら年が離れた兄妹って感じだろうけど。

 

 

 

 

 

戸塚くんと改めて由比ヶ浜さんに白乃を紹介し、早くも白乃は人気者になりました。

 

ロールケーキをお茶請けに紅茶を飲みながら、林間学校のボランティア以降はどんなことをして過ごしたなどよくある会話をした。

 

そんな会話の最中は由比ヶ浜さんは時計を見て疑問に思ったことを口にした。

 

「そういえばキッシー、ゆきのんはいつ来るのかな?」

 

「ん?それについては俺よりも呼んだ小町ちゃんの方が詳しいと思うけど……小町ちゃん、雪ノ下さんがいつ頃来るとか連絡あった?」

 

「いえ、それがまだないんですよね。小町が思うに岸波さんの方に来てそうですけど」

 

「確かに雪ノ下さんのことだから家主代理である俺に連絡をしそうだな」

 

たしか携帯は自室で充電したまんまだったよな。

 

「ちょっと携帯取ってくるよ」

 

自室にむかい、携帯を手にして着信があるかを確認する。

 

メールが一件、送り主は雪ノ下さんからだ。五分ほど前にきたようだ。

 

『十八時前には駅に着くから迎えに来てもらえると助かるわ』

 

これは……俺一人で迎えに来いってことか?もしかしてバイクでかな?

 

文面にはそんなことを書いてはないが何故だろうそうしないといけない気がする。

 

……バイクで迎えに行こう。

 

と、いうことだからまずはみんなに言っておくか。

 

俺は居間に戻る。

 

「雪ノ下さんから五分前にメールがあったよ。十八時前に駅に着くらしいんだけど、俺一人でバイクで迎えに行くけど構わないかな?」

 

全員異議なしのようだ。ただ桜が少し不機嫌のようだけど。

 

さて、現時刻は16:17

 

雪ノ下さんを迎えに行くのはバイクなので一時間半はゆっくりできる。

 

なので、まずは由比ヶ浜さんと戸塚くんに家を案内しながら家の間取りを説明しようか。

 

「じゃあ二人とも家の中案内するからついてきてくれるかな?」

 

こうして、由比ヶ浜さんと戸塚くんにも比企谷たちと同様に家の中を案内した。

 

みんな思うことは同じらしく

 

「敷地内に道場があるなんてすごいね」

 

「もしかしてキッシーの家ってお金持ち?」

 

「雪ノ下さんの家ほどではないけどね。父さんもそれなりに有名な人だからお金は結構稼いでるよ」

 

家の中の案内も終わり居間に戻ると比企谷と白乃が会話をしている。

 

「ヒッキーって子供から好かれるの?」

 

由比ヶ浜さんも比企谷に白乃が懐いているように見えるようだ。

 

「そんなわけねぇだろう。普通の子供なら俺に近づこうともしねぇよ」

 

「そうかな?八幡は優しいから好かれると思うけど」

 

「戸塚、それは違うぞ。俺は子供からも冷たい目で見られるからな。たぶんこいつが異常なんだろ。岸波の娘だし」

 

と白乃の方を向きながら言う。

 

それってまるで俺が異常みたいな言い方なんだけど……いや、認めるけど俺が異常なのは。

 

時間は流れ、現在俺は駅で雪ノ下さんの到着を待っている。

 

時刻は十八時になろうとしている。

 

俺はあたり見渡し目的の人物である雪ノ下さんを発見する。

 

雪ノ下さんも俺を見つけたようで歩いて近づいてくる。

 

「やぁ、雪ノ下さん。久しぶり」

 

「ええ、こちらこそ久しぶりね岸波くん」

 

「それじゃあ、みんな家で待ってるから行こうか。一応バイクで来たけどよかったかな?」

 

俺がバイクで来たことを言うと、雪ノ下さんは少し驚いたような表情をした。あれ間違えたかな?

 

「いえ、そんなことはないわ。私が驚いた理由はなんでわかったのかの方よ」

 

今、俺も驚いてるけどね。考えを読まれた。

 

「いやぁ、メール見たときにバイクで来ないといけない気がしたんだよ」

 

「そ、岸波くんは早くも雪ノ下家に仕える気になったのね」

 

「なってないよ!」

 

「この前岸波くんが帰った後、父が岸波くんを家で雇おうか本気悩んでいたわ。仕事内容は私と姉さんの身の回りの手伝いとボディーガード。まぁ執事ね」

 

高校二年にして早くも就職口を手に入れた。これはクラス・バトラーになる日がまた来そうだな。

 

「でも、雪ノ下さんも陽乃さんも大学を卒業したら独り立ちするつもりでしょ?」

 

中学の卒業アルバムには『父の地盤を継いで立候補』って書いてたけど。

 

「どうかしらね。まぁ、父の話なんて真に受けなくてもいいわ」

 

そう言った後に雪ノ下さんが笑顔で

 

「ただ、もしうちで働きたいのなら止めはしないけれど、そのとき姉さんを選んだ即解雇だから」

 

笑顔で怖いこと言うな。

 

「それって雪ノ下さんを選べってことだよね」

 

「そうよ、あなたが姉さんの物になることだけは絶対に許さないわ」

 

あれ?俺って雪ノ下さんから物扱いされてるの?

 

俺って女性からあまり人間扱いされないよな。物とかペットとかおもちゃとか……はぁ……。

 

 

 

 

 

「ゆきのん!」

 

家に到着してみんなのいる居間に行くなり雪ノ下さんに由比ヶ浜さんが抱き付いた。

 

「ゆ、由比ヶ浜さん」

 

雪ノ下さんは「暑苦しい……」と小声で言っているが嫌がっているわけではないようで由比ヶ浜さんを振り解こうとはしない。

 

いやぁ、仲がいいねぇ。ん?机の上に見覚えがあるおもちゃがある。ルーレットでやる双六ゲーム。そこのマスに書いている人生を送っていくあのゲーム。そう『人生ゲーム』。

 

「あれ?それどうしたの?」

 

「は?これお前のだろ?」

 

「え?」

 

そんなの知らないぞ。

 

「なんだよその知りませんみたいな態度。これお前の娘がお前の部屋から持ってきたんだぞ」

 

「白乃が?」

 

白乃がいる方を向くと白乃がコクリと頷く。

 

俺の部屋に俺の知らない物があるってことは、間違いなくBBかAUOのどっちかが関わってるな。

 

ゲームの中身がすごいことになってそうだな。

 

「ねぇ岸波くん」

 

由比ヶ浜さんに解放されたのか雪ノ下さんが俺に声をかけてきた。

 

「何かな?」

 

「あの小さい子ってもしかしたらあなたの子供だったりするのかしら?さっき比企谷くんが『お前の娘』とか言っていたけれど」

 

「そうだよ。いろいろあって俺の養子になったんだ。名前は白乃って言うんだ。漢字で書くと俺の『白』と雪ノ下さんや陽乃さんの『乃』で白乃って書くんだよ」

 

「そ、そう……(その言い方だとまるで……)」

 

俺が白乃の紹介をすると白乃も雪ノ下さんに近づいてから少し観察してからいつも通り手帳に文字を書き始める。

 

そして書き終わったようでそれを雪ノ下さんに見せる。

 

何々……『問おう。貴方がわたしのお母さんか』

 

この子は何を言っているんだろうか。

 

「岸波くん。この子は私が面倒を見るわ」

 

雪ノ下さんは白乃を抱き締めて驚き発言。

 

「え!?急にどうしたの」

 

「この子はあなたに任せられないわ」

 

なんだろう。俺が白乃を育てるとダメになるって言われているみたいだ。

 

「雪ノ下さんダメです。白乃ちゃんのお母さんの変りは私がやるんですから」

 

と、桜が言うと白乃がいつもと同じで『ダメ。桜は私の嫁だからお母さんにはなれないの』と桜は私の嫁宣言をする。

 

「もう手遅れだったみたいね」

 

雪ノ下さんが俺を冷たい目で見てくる。

 

白乃のこれって俺が悪いの?

 

 

 

 

 

さて、みんなで人生ゲームをすることになった。みんなも俺と雪ノ下さんが来るまでやっていなかったらしいから、この人生ゲームはどんな内容なのかはわからないそうだ。

 

まぁやり方は基本と変わらないだろうから大丈夫だろう。

 

ルーレットを回す順番は俺、雪ノ下さん、比企谷、由比ヶ浜さん、戸塚くん、桜、小町ちゃん、白乃の順。

 

お金の単位は何故かムーンセルのPPTで、最初の所持金は30000PPTからスタート。

 

「じゃあ、回すよ」

 

俺はルーレットを回し、出た数字の分だけ進む。

 

「えーっと『両親が他界。全財産500000PPTを受け取るが、周りの大人たちに所持金をほとんど奪われ異国へ売られる。所持金は1000PPT』―――なにこれ……」

 

なんだこの出だし。もうゲームオーバーにしか思えないんだけど。

 

「ま、まぁゲームだから仕方がないよね。確かお金は銀行に渡すんだよね」

 

みんなが俺を憐みの視線で見てくる。

 

全財産を銀行に置く。ああ、早くも路頭に迷った。

 

次、雪ノ下さんがルーレットを回す。

 

「『父親が会社を設立し、成功。県議員にもなる。50000PPTを貰う』だそうよ」

 

何この格差!俺泣いちゃうよ。

 

次、比企谷がルーレットを回す。

 

「『両親が妹には優しいのだが、自分には厳しい。もしかしたらこの世界は俺を見捨てたのだろうか。3000PPTを払う』意味が分からねぇけど岸波よりはましか」

 

「次、あたしだね。『両親に大切に育てれた。5000PPTを貰う』やった。お金増えた」

 

「えっと僕の番だよね?あ、由比ヶ浜さんと同じマスだ。そうなると追突しちゃったからお金払うんだよね」

 

このゲームは追突した場合は、5000PPTを払うみたいだな。

 

「よかった。一応、プラスマイナス0だ」

 

「おい、由比ヶ浜。戸塚から金巻き上げてんじゃねぇよ」

 

「ヒッキー、なに怒っての。ゲームなんだから怒らなくてもいいじゃん」

 

この後、少々罵り合いがあったが戸塚くんと小町ちゃんが仲裁に入って収まった。

 

「では、私の番ですね。『養子に出され、知らない土地で辛かったが優しい義兄ができた。4000PPTを貰う』変なマスじゃなくてよかったです」

 

「小町は、なになに『両親に兄の分も可愛がってもらえた。6000PPTを貰う』」

 

その6000PPTの内3000PPTは比企谷の分だったりして。

 

次は白乃の番。白乃は話せないのから俺が代理でマスの文字を読もう。

 

「『後ろ盾に皇帝、正義の味方、大妖狐、英雄王を得て、銀行の支配権を得る。今後このゲームには参加できないが、PPTの設定を自由にできる。やる場合は職業カードを取る。やらない場合は100000PPTを貰う』……なにこのチート?」

 

同じ名前でもこの格差ですか……。というより英雄のみんな甘すぎだから!俺には後ろ盾になってないくせに!

 

まぁ白乃はゲームをやめる気がないようなので100000PPTを受け取った。

 

一周して、次は俺の番。

 

手持ち金額は、上から白乃130000PPT、雪ノ下さん80000PPT、由比ヶ浜さん40000PPT、小町ちゃん36000PPT、桜34000PPT、戸塚くん30000PPT、比企谷27000PPT、俺1000PPTってことになる。

 

俺だけ貧乏すぎやしませんか?これがハサン……。

 

逆転してみせる。いや、億万長者じゃなくていいから人並みの幸せを掴んでみせる。

 

 

 

 

 




次回は人生ゲームの続きです

恋愛ゲームで出てきた敵は皆さんが知っている型月最強ヒロインの人たち。最初は『ヒロインX』も入れようか悩んだんですが、『ヒロインX』は唯一ザビ男が会っていないから抜きました
三人の名前も『路地裏さつき[ヒロイン十二宮編]』の名前を使ってみたかったんですけどね

それではまた次回!投稿が遅れないように頑張ります


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―――金の貯蔵は充分か。

前回書きそびれましたが人生ゲームのルーレットの数字は1~12です。




 

 

 

さて、意気込みは置いておいてゲームは楽しんでやらないとな。

 

今更だけど俺が完全な運ゲームで勝てるなんてはずがないんだよ。

 

どんなに足掻いても運が上がるなんてないんだし。いや、幸運値を上げるコードキャストがある……けど元が低いから意味ないな。

 

俺はルーレットを回し、出た数字の分だけマスを進む。

 

着いたマスはプラスマスでもマイナスマスでもないマス。これは『スキルマス』だったっけ?

 

俺は説明書を手に取りそのマスについて読み上げる。

 

「『スキルマス』所持金を半分払ってスキルを手に入れる(所持できる数は三つまで)」

 

スキルはサーヴァントたちが持っているモノの名前を使っているようで、そのスキルを持っていることでマイナスを回避したり、貰う金額上げたりもできるみたい。

 

「『スキルマス』に来た場合は『スキルカード』というカードを一枚引いてから、そこに書いてあるスキルを得るか、手放すかを決める」

 

なるほど、スキル内容を見た後に手に入れるかを決められるのか。

 

それじゃあ引こう。

 

俺は詰まれている『スキルカード』の一番上のカードを一枚引く。

 

「俺のスキルは……『『戦闘続行』・スキル内容、自分のターンの終了時、所持金がプレイヤーの中で一番少なかった場合40000PPT貰う』――――か。俺の運にしては結構いい引きじゃないかな?よし、手持ちのPPTも少ないからこのスキルを手に入れよう」

 

ということで俺の所持金は500PPTになるのだが、『戦闘続行』の効果で所持金が+40000PPTになる。

 

「なるほどね。このゲームはこの『スキル』と言うカードが今後を左右しそうね」

 

「みたいだな。だが、後半になればなるほど所持金の半額を払うなんて大きなリスクは避けるのが普通だ。ってなると必然的にスキルを三つなんて所持するのは難しい」

 

『だから前半のうちにできるだけ多くスキルを手に入れる。または強力なスキルを一つ手に入れる必要がある』

 

と、雪ノ下さん、比企谷、白乃がこのゲームとスキルのことを考察している。

 

「なんか、ゆきのんとヒッキーはそういうこと言うのわかるんだけど、白乃ちゃんもそういうこと考えるんだね。って本当にこの子四歳児!?」

 

『頭の中は17歳以上ですから』と白乃は胸を張る。

 

「岸波くん……」

 

雪ノ下さんが白乃が書いた文字を見て、俺をゴミでも見るような目で見てきた。

 

この目で見られるの久しぶりだなぁ……まったく嬉しくはないけど。

 

「まぁいいわ」と雪ノ下さんがルーレットを回し、出た数字の分前に進むと俺のマスの前だ。

 

「惜しい……『小学生、クラスに馴染めず友達がいない。一マス下がる』――――何かしらこの物凄く不愉快なマスわ。ま、でもスキルは手に入るってことよね」

 

と、雪ノ下さんは俺のいるマスに下がる。

 

この時、雪ノ下さんは俺に追突したことになるので、俺に5000PPTを払うことになる。

 

これで俺の所持金は45500PPTになり、雪ノ下さんは75000PPTになる。

 

そして雪ノ下さんはスキルカードを引く。

 

雪ノ下さんが引いたスキルカードは『黄金律』たぶんこのゲームでも上位に入る強力なスキルカードだろう。

 

スキル内容は、自分のターンの終了時に15000PPTを貰える。

 

強いな。俺の『戦闘続行』は発動条件があるけど、雪ノ下さんの『黄金律』は発動条件がなく確実にPPTを手に入れることができる。

 

雪ノ下さんは躊躇なく所持金の半分を払い『黄金律』を取得。

 

雪ノ下さんの所持金は『黄金律』の効果で+15000PPTなので52500PPTになる。

 

俺とは違ってPPTがかなり減っているけどまだ序盤だから別に苦でもなさそうだな。それにスキルも手に入ってるわけだし。

 

次は比企谷の番だが、比企谷も雪ノ下さんと同じマス『小学生、クラスに馴染めず友達がいない。一マス下がる』に止まった。

 

ということは、俺と雪ノ下さんに追突したということになるので5000PPTづつ払うことになる。

 

これで俺の所持金は50500PPT、雪ノ下さんが57500PPT、比企谷が17000PPTになるが、ここは『スキルマス』場合によっては増える確率だってある。

 

さぁ、比企谷が引いたカードは……

 

「『気配遮断・スキル内容、追突したときはPPTを払わなくてもよい(貰うことはできる)。またすれ違ったプレイヤーから3000PPTを盗み取る』――――まあまあなスキルだな。誰かとすれ違う度に3000PPT貰える。そうなると岸波や雪ノ下かに払ったPPTも六割返ってくるしな」

 

「なんかお兄ちゃんのスキル……スリみたいだね」

 

「おい、やめろ。俺も自分でそう思ってたんだからよ。『貰う』じゃなくて『盗み取る』って完全にスッてるだろこれ」

 

「そうね、とてもスリ谷くんらしいスキルだと思うわよ」

 

「スリ谷ってなんだよ。生まれて一度もそんな犯罪を犯したことはねぇぞ」

 

そんなやり取りをしているが、このスキルも強いな。文面上アサシンクラスを馬鹿にしてそうだけど、かなりの高確率で発動するスキルだし。

 

比企谷も迷わずに所持しているPPTの半分を払った。

 

比企谷の所持金は8500とかなり少ないがどんどん増えていくだろう。

 

しかも比企谷の金額からして俺の『戦闘続行』のスキルは発動しない。

 

『戦闘続行』は受け取る金額はかなり大きいけど発動条件が難しい。勝つにはもう一つはスキルが欲しい。

 

あれ?俺、勝つつもりはなかったのにどうして勝とうとしてるんだろ?

 

もしかしたら俺って思ってたよりも負けるのが嫌いなのかな?雪ノ下さんを『負けず嫌い』なんて言えないな。

 

 

 

 

 

人生ゲームも進み、みんな大学生以上になっており、一つはスキルを持っている。

 

現在の順位は1位 雪ノ下さん。2位 白乃。3位 桜。4位 由比ヶ浜さん。5位 小町ちゃんと戸塚くん。7位 比企谷。そして最後は俺。

 

やはり俺には運がない。

 

そしてみんなが持っているスキルは――――

 

雪ノ下さんが『黄金律』が二つ。(自分のターンの終わりに15000PPT×2を貰える)

 

白乃が『皇帝特権』スキル内容・自分のターンに他のプレイヤーのスキルを使える。ただし使えるのは一ターンに一度。(基本は『黄金律』を選択)

 

桜が『魔眼』スキル内容・自分より前にいるプレイヤーを休みにできる。(ゲームの中では誰よりも早い人生を送っている)

 

由比ヶ浜さんが『精霊の加護』スキル内容・貰えるPPTは五割増し、減るPPTは半分になる。(由比ヶ浜さんは計算が苦手なのでいつも雪ノ下さんか俺が計算している)

 

小町ちゃんが『二重召喚』スキル内容・二つの職業に就くことができる。(簡単に説明すると、職業が二つになると給料日に貰えるPPTが二倍になる。ただ、まだ大学生なので就職はできていないからスキルは発動していない)

 

戸塚くんのスキルが『仕切り直し』スキル内容・嫌なマスならルーレットを回し直すことができる。(しかし戸塚くんは運がいいのか未だにこのスキルを使っていない)

 

比企谷のスキルが『気配遮断』。(このスキルを取ってからどんどんと所持金を増やしているが、マイナスマスが多いせいか現在の順位になった)

 

最後に俺は『戦闘続行』と『聖者の数字』スキル内容・PPTを貰うとき500PPTを払いルーレットを回す。そして三の倍数の数字が出た場合貰うPPTが三倍になる。(三分の一の確率で成功するはずなのだが、俺の運の無さは折り紙つきのようで未だに成功してない)

 

――――と、いうことで現在スキルを二つ持っているのは俺と雪ノ下さんだけなんだけどかなりの差がある。スキルは大切だけどそれ以上に運は必要だね。

 

今、白乃のターンが終わり、俺の番だ。

 

俺がゲームの中で大学生になっている。まぁ桜は既に大学を卒業して就職している。

 

そして俺はルーレットを回し、出た数字分だけ前に進む。

 

「『彼女ができた……のだが他の女性が邪魔をするので彼女との距離は進展しない。だが彼女ができたから一応5000PPTをやろう』ってなんで上から目線?」

 

……しかし、もし俺が普通に生きていければ大学生ぐらいで彼女ができるのかなぁ。

 

何故かこのゲームは自分たちのことではないのかと思うようなマスに来ることがあるため、もしかしたら自分の未来もこんな感じなのではないかと考えてします。

 

「そうですか。兄さんに彼女が……」

 

「岸波くんは大学生になったらどんな人と付き合うのかしらね……」

 

「い、いや、ゲームだから。それにまだ誰かと付き合おうとか思ってないから」

 

俺の言葉に雪ノ下さんと桜が残念なのか、嬉しいのか複雑な表情をしている。

 

空気が少し重いから早くゲームを再開しよう。

 

俺は『聖者の数字』を使い500PPTを払いルーレットを回すと『5』が出た。三倍にならず。

 

さらに最下位の俺は『戦闘続行』が発動して+40000PPT。そこに『聖者の数字』。500PPTを払いルーレットを回す。出た数字は『7』。三倍にならず。

 

と、こんな感じで『聖者の数字』が宝の持ち腐れ状態なんだよな。

 

現在トップの雪ノ下さんは『黄金律』のおかげでマイナスにはならない。

 

俺が雪ノ下さんに追い付くには大金を貰うときに『聖者の数字』を成功させないといけない。

 

そしてこのゲームで大金を貰うのは給料日、結婚での祝い金、ゴールした時のボーナスくらいだろう。

 

ただゴール時のボーナスは早い者勝ちでどんどん値段が下がっていく。桜がいるため一番目で到着は無理だから二番目にならないといけない。

 

そうなるとルーレットを好きな数字で止める必要があるよ。

 

だけどそれは難しいこと。ルーレットは運。自分が出したい数字がそう簡単に出るはずがない。

 

しかし自分で回すとなると話は別だ。感覚さえ掴めば好きな数字で止めることも不可能ではないはず。

 

これまでどれぐらいの力で回せば何処に止まるのかをしっかりと観察させてもらった。

 

さぁ反撃だ。

 

行くぞ銀行――――金の貯蔵は充分か。

 

 

 

 

 

結果は……最下位でした。

 

まさかルーレットだけではなくルーレットに書かれている数字もランダムで動いているとは……。

 

完全に俺の『観察眼』『洞察力』のことを見越して作ってあったなこのゲーム。

 

そして俺が着いた結婚マスが物凄くおかしかった。

 

その内容が『結婚!!さぁルーレットを回して結婚相手を決めよう。1と7は幼馴染。2と8は義妹。3と9は後輩。4と10は幼馴染の姉。5と11は親友の妹。6と12はいっそのこと全員と。ルーレットを回さない場合は祝い金はなし』

 

なんで結婚相手をルーレットで決めないといけないだろう。しかもこのマスに止まった時の周りの空気が酷かった。

 

なのでルーレットは回せずに祝い金も貰えなかった。

 

いろいろと酷かったりもしたが、楽しかったからいいか。

 

「じゃあ、負けたキッシーは罰ゲームだね」

 

「え?そんなの聞いてないけど」

 

「でも、ルールに書いてあったよ」

 

と、由比ヶ浜さんがルールが書いてある説明書を持って教えてくれた。

 

俺は由比ヶ浜さんから説明書を受け取りルールに目を通す。それより由比ヶ浜さんが説明書を読んでたことに驚いたけど。

 

「あ、あった。『最後に最下位の者は秘密にしていることを一つ暴露する』または『一位の人の言うことを聞く。薄い本(ソリッドブック)みたいに!!薄い本(ソリッドブック)みた―――』」

 

俺は説明書を丸めてゴミ箱に投げ入れる。

 

この場にいた何人かは「薄い本(ソリッドブック)って何?」みたいな反応をした。

 

俺が周りを見渡した感じ『薄い本(ソリッドブック)』がどういうものかを知っている人は比企谷と白乃は確実。小町ちゃんはもしかしたらって感じだな。

 

「ねぇヒッキー?」

 

も、もしかして由比ヶ浜さん。それを比企谷に聞くのか……。

 

「キッシーがさっき言ってた何とかブックって何かの本?」

 

比企谷がすごく困った表情をして、俺の方を睨んでくる。

 

仕方がないじゃないか。書いてあることをそのまま読んだんだから。

 

「それに関しては専門外だ。……気になるなら材木座か海老名さん辺りに聞け」

 

なるほど、他の人に投げたな。

 

この後、絶対に由比ヶ浜さんは海老名さんに聞くだろうな。

 

「薄い本(ソリッドブック)は置いてくとして、『一位の人の言うことを聞く』はありきたりだから、暴露の方でいいよね」

 

俺は勝手に話を進める。

 

さて、自分で選んだけど暴露するって何を言えばいいだろうか?俺が秘密にしていることって俺が消える可能性があること、俺の本当の誕生日、俺に前世のようなものの記憶ぐらいだけど。

 

消えることは聞かれたら答えるけど自分から言うのはなんか嫌だし、誕生日を言った場合、なんか『その日に俺を祝ってくれ!』って言ってるみたいだから言いたくないし。

 

そうなると、アレだけだな。

 

「ここだけの話、実は俺には前世の記憶があるんだ」

 

「「「「はい?」」」」

 

ほぼ同じ人間の白乃と前に教えた雪ノ下さん以外は『何を言ってるんだこいつ』みたいな顔をする。

 

「はい、暴露はこれでOKだね。それじゃあご飯にしようか。夏だけどお鍋でもする?」

 

一度でいいから普通の鍋パーティーというものをやってみたかったんだよね。

 

本当はムーンセルでもうやったけど、普通じゃなかったから。

 

あのときは闇鍋をして、多くの英雄が食卓(戦場)で散っていった。

 

歴史にも名高い英雄たちが「生前の死に方の方がよかった」と思ったぐらいの暗黒鍋だった。

 

あのときギルが「この程度の鍋、飲み干せなくて何が英雄か」とか言ったせいで英雄としての誇りを持っている人たちが無残なことに……。

 

しかも、言った本人は食べなかったし。

 

なので、俺は普通の鍋パーティーをしたい。

 

俺は、台所に向かうために立とうとしたら「おい、ちょっと待った」と、比企谷に止められた。

 

「比企谷、もしかして鍋嫌い?材木座はいないけどしっかり男女分けて作るよ」

 

「別に鍋が嫌いとかじゃねぇよ。まぁ材木座がいなくても男女を分けるって心掛けはいいことだが」

 

「八幡、岸波くん。その言い方だと材木座君が可愛いそうだよ」

 

と戸塚くんが材木座を庇うのだが、しっかりと理由があるんだ。

 

由比ヶ浜さんの誕生日を祝った日、雪ノ下さんが作ったケーキを誰が切るかを決めるときに由比ヶ浜さんが材木座に『手を洗ってきてほしい』と間接的に汚そうとか言ってたからな。

 

「じゃあ何が不満なのさ?」

 

「不満とかじゃなくて、岸波が前世の記憶があるってことにだよ。むしろ驚いてねぇ雪ノ下と岸波の娘はどうかと思うが」

 

比企谷は雪ノ下さんと白乃を見る。

 

「そのことなら私は岸波くんの過去を聞いたたもの」

 

『わたしは知ってたよ。知った経緯は話せないけど』

 

この展開だとムーンセルでのことを話す展開になるかな。

 

話すのは別にいいんだけど、時間が掛かるから話さないでおこう。

 

「前世のようなものの記憶があるっていうのは教えたけど、内容は教えないよ」

 

俺の言葉に違和感を持った人が二人いるな。

 

でも、その気づいた人たちも今はやめておこうと思ったのか口は開かない。

 

「さて、気を取り直して鍋を作ろう」

 

 

 

 

 

 直死の魔眼 「……生きているのなら、神様だって殺してみせる」

 

その一撃は確実に俺を死を与えた。

 

――――ああ、俺、は死ぬ、んだ………

                                          』

 

そしてパソコンな画面は暗くなり『BAD END』の文字が浮かび上がる。

 

「やっぱりダメだな。何処かで選択肢を間違えただろ」

 

『そんなはずない。これがおかしいの。今まで選んできた選択肢が最良のはず』

 

「でも、実際に三人全員と戦っても全部『BAD END』じゃねぇか」

 

「八幡も白乃ちゃんも喧嘩しちゃダメだよ」

 

現在、俺、比企谷、戸塚くん、白乃は俺の部屋で恋愛ゲームをしている。

 

何故そんなことをしているかというと、夕食のお鍋は女性陣が作るそうでみんなスーパーに出かけた。

 

結果、残された男性陣+白乃は夕食が作り終わるまで午前中同様に恋愛ゲームに勤しんでいるというわけだ。

 

「しかし本格的に詰んでるよな。どうすれば死なずに済むんだろう」

 

「一番は聖杯戦争だけの参加しなければよかったと思うがな」

 

『八幡、何を言っているの。聖杯戦争に参加しなかったら妹が……妹が他の男に寝取られるかもしれないんだよ!』

 

……どうしたらそこから聖杯戦争が始まるんだ?

 

というか未だかつてそんな理由で聖杯戦争に参加した人間がいただろうか。

 

「そういえばサーヴァントはどうしたの?」

 

聖杯戦争なんだからサーバントがいて当然だろ。サーヴァントがいればどうにかなると思うけど。

 

俺がサーヴァントの話を切り出したら比企谷と白乃が申し訳そうな表情をする。

 

「いや、サーヴァントは」

 

『うん、サーヴァントは』

 

「ねぇみんなサーヴァントって何?」

 

戸塚くんは途中参加のためサーヴァントがどういうものかを知らないので頭に疑問符を浮かべている。

 

「サーヴァントって言うのはこのゲームで自分を守護する奴のことだ」

 

あらがち間違ってはいないかな?

 

「それでサーヴァントはどうしたの?」

 

「………死んだ」

 

「え?どうして?」

 

どうしてサーヴァントが死んでしまったのか理由を尋ねると、白乃が説明してくれた。

 

その理由は簡単、最初に紹介したヒロインの中に数名主人公のサーヴァントがいたらしく、誰が主人公のサーヴァントを務めるかで争いが始まり。その争いは他のマスターや相手のサーヴァントも巻き込んで最終的に主人公と数名のマスターを残し全滅したそうだ。

 

「………」

 

迷惑にも程がある。呆れてものも言えないとはこのことだ。

 

「あれ?サーヴァントは全滅したなら聖杯戦争は終わりじゃないの?」

 

『お父さん、それは勝手な思い込み。聖杯戦争は聖杯を手に入れるまでが聖杯戦争』

 

「ということは聖杯を取りに行こうとしたときにさっきの三人に出会ったってことか」

 

コクリと白乃は頷く。

 

それにしてもこのゲームは本当にカオスだな。

 

 

 

 

 

いろいろとやり直した結果、聖杯戦争にはどう動いても『BAD END』しかないらしい。

 

流石は聖杯戦争。どの世界でも死亡率がズバ抜けている。

 

 

 

 

 




今回出してスキルの本当の内容の紹介。

『戦闘続行』:戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

『聖者の数字』:午前9時から正午までの3時間、午後3時から日没までの3時間だけ力が3倍になる。

『黄金律』:人生においてお金が付いて回るという宿命。

『気配遮断』:アサシンのクラス特性。自身の気配を消す能力。

『精霊の加護』:武勲を立てうる戦場に限り、精霊の加護によって危機的局面において幸運を呼び寄せることのできる能力。

『仕切り直し』:戦闘からの離脱。または不利になった戦闘を初期状態に戻す。

『魔眼』:魔眼を持っている者スキル。

『二重召喚』:二つのクラス別スキルを保有することができる。

『皇帝特権』:本来持ち得ないスキルを、本人の主張で短時間だけ取得できる。

EXTRA以外のサーヴァントのスキルを使っちゃいました。
使った理由はこの人はこのスキルが似合いそうだなぁみたいな感じのイメージです。
ただ、白野くんの『聖者の数字』、戸塚くんの『仕切り直し』、桜の『魔眼』は違います。
白野くんは勢いで、あとの二人には似合いそうなスキルが思いつかなかったので……。

次回でお泊り編終了。やっと本編、六巻の文化祭に入れますね。


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