ぐらんぶるに彼女持ちのリア充をぶち込んだら、どうなるか考えてみた (はないちもんめ)
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1 彼女とイチャイチャできないなんておかしいだろ!

あの学校でイチャイチャライフ何て送れるわけがない


「前から聞こうと思ってたこと聞いて良い?」

 

「何だ?また、何故突然服を脱ぐのかという話か?あれはしょうがないんだ。元々人間は服を着ないのが普通の状態であって」

 

「あ、うん、それはいいや。もう諦めたから」

 

「じゃあ、何だよ?」

 

「なーんでコウは私と付き合ってることを周りに隠してるの?」

 

「何だ、そんなことか」

 

やれやれと響孝二は首を振る。全く分かっていない。付き合ってから長いというのにこんなことも分かっていないとは。

 

ため息を吐きながら、彼女である飯田かなこに告げる。

 

「お前も彼氏をこんなことで殺したくないだろ?」

 

「待って。話が飛びすぎてない?」

 

残念ながら飛んでないんだよ、かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名前は響孝二。彼女の名前は飯田かなこ。

 

ハッキリ言って可愛い。めっちゃ美人。口説き落とした当時の俺を担ぎ上げたくなる程だ。

 

大学といえば人生のゴールデンウィーク。本音としては、美人の彼女とイチャイチャしながら、リア充ライフを満喫したいと心の底から思う。

 

「じゃあ、すれば良いんじゃない?」

 

「それが、そうもいかないんだよ…」

 

美人と言われて若干赤くなった顔を隠すようにそっぽを向きながらいう、かな。

 

可愛くてほんのりするが、した場合の未来予想図が絶望的過ぎて一瞬で現実に戻る。俺は何であんな大学とサークルに入ってしまったんだ…

 

「何でよ?」

 

「一瞬で元友人となるであろう殺人鬼たちに殺される」

 

「さ、殺人鬼って…何でコウの友達にコウが殺されるのよ」

 

「普段は友人だがな。お前と付き合ってることがバレたら一瞬で殺人鬼に変わる」

 

「どんだけよ…」

 

俺の顔からガチなのが伝わったのか若干引き気味のかな。いやいや、大丈夫だよ。普段は気の良い変態なバカだから。あれ、どっちにしてもヤバイか。

 

「てか、何で殺人鬼に変わるのよ」

 

「嫉妬だ…あのDTども、足の引っ張り合いと幸福者に対する仕打ちは半端ないからな」

 

奴等なら絶対に殺る。こんなリア充を許す奴等じゃない。バレた瞬間が俺の命日だ。

 

本当に何で俺はあんな奴等と知り合いになってしまったのだろうか。特に伊織。奴と関わり合いにならなければ、サークルでくらいはイチャイチャできたはずなのに。おのれ、あのクズ野郎…助けてやったのに、俺を無理矢理あのサークルへ引きずりこみやがって…

 

「俺の失敗だ。妙な仏心で奴を助けるのではなかった。あの時、他の奴等に加担して奴を埋めておけば、こんなことにはならなかったんだ」

 

「時々思うけど、コウも大概だよね。完全にその友達と同類だよね」

 

何てことを言うんだ。俺はただ、自分の幸せを追求しているだけだ。

 

「でも、そのサークル自体は気に入ってるんでしょ?服を脱ぐ習慣はついちゃったけど」

 

「まあなぁ」

 

かなの言う通り、あのサークル自体は好きなのだ。ダイビングはやってみると面白かったし、サークルのメンバーも良い人ばかりだ(伊織と耕平は例外)

 

ん?考えてみると、今からでも伊織を殺せば、あのサークルでイチャイチャすることは可能なんじゃないか?耕平は、カヤさんのコンサートチケット等を用意すれば簡単に買収できる。

 

そう考えると何も悲観することはない気がしてきた。素晴らしい手段が湯水のように浮かび上がってくる。夜道に奇襲をかけるか、毒殺するか、ダイビングの道具に問題を生じさせるか。古手川とヤッたという噂を学校中にばら撒くか。ただし、この方法には注意が必要だ。発信源が俺だとバレたら今度は俺が古手川に殺される。

 

しかし、リスクはあるが試す価値はあるように感じた。こうしてはいられない。善は急げだ。俺は準備を整えるために席を立とうとした。

 

「悪い、かな。用事ができたから今日はこの辺で」

 

「待ちなさい。何を考えてるか分からないけど、ろくなことじゃないでしょ」

 

心外だった。

 

「大丈夫だ。証拠は残さないようにする。コ○ンを全巻揃えてる俺には不可能じゃない」

 

「むしろ、何処が大丈夫なのかを聞きたいくらいなんだけど」

 

俺の服を掴みながら、かなはため息を吐く。

 

「まあ、そういうことなら、一応納得はしてあげる。浮気とかじゃなくて良かったよ。万が一だけど、もし、浮気とかするようなら先に言ってね」

 

「いや、しないし。そもそも、何だよその要望は?」

 

する予定もないが。何なんだそれは。あれか?覚悟をするためってことか?

 

「ううん。殺す算段をするための時間が欲しいから」

 

「…」

 

真顔で彼氏を殺す発言を聞くとは思えなかった。

 

飾らない直球発言は、その言葉が本気だということを俺に伝えてくる。

 

 

 

 

 

どうやら、友人だけでなく、彼女にも俺は殺される可能性があるようだ。

 




続くかは未定です!


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2 彼女がいるのに合コンに行くなんておかしいだろ!

こんな駄文に感想があったから続きを書きました。
続いたことに作者がビックリです。


響孝二は後悔していた。

 

何故ここにいることになったのか、心底分からなかった。

 

抵抗はした。抗った。だが全ては無駄だった。

 

こうなったら結果は変わらない。だとしたら、嘆いていても意味がない。

 

だとしたら、最善を目指すべきだ。より良い未来を選ぶべきなのだ。誰も幸せになれない結末を避けるために。

 

「おい、響。合コンなのに、何て格好してんだよ」

 

「全くだぜ。このままじゃ、俺たちもダサイ奴等に見えちまうだろうが」

 

そう。彼女がいるのに合コンなどに来てしまった男として、この合コンをハッピーエンドにするために。

 

~回想開始~

「おい、埋める場所は見つかったか?」

 

「問題ない。校舎裏のあの場所なら誰も来ない。犬に掘り起こされないか心配だが…こんなゴミどもを食べる生物などいないだろ」

 

「流石だぜ、響!」

 

「ああ!流石は北原を殺し隊のリーダーだ!」

 

「ふっ。そんなに誉めてくれるな」

 

「孝二キサマァ!!!」

 

「響!俺たちを裏切ったか!!」

 

「お前らに来世というチャンスを与えてやるんだ。感謝しろ」

 

「余計なお世話だ、馬鹿野郎!」

 

ふはははは。まさか、こんなに早く目障りなクズを殺せる日が来ようとは。

 

話は学園祭にまで遡る。学園祭での古手川の発言がきっかけで、古手川の彼氏認定された伊織は嫉妬に狂った童貞軍団に殺意を向けられる対象になった。

 

しかし、そこはドクズの伊織。何の関係もないはずの耕平を梓さんの彼氏呼ばわりし、被害者同盟を作り上げた。

 

もしかしたら、殺される対象を増やすことで自分が助かる道を広げたのかもしれないが甘い。考えが浅はか過ぎる。

 

対象が広がったのなら二人とも殺せば良いだけのこと。

 

学園祭という学生の貴重な思い出に、かなと二人で遊ぶどころか、汚い一物をぶら下げた露出狂共と酒を飲んでいた記憶だけを植え付けた伊織は極刑に値する。

 

別に伊織が酒を呑ませた訳ではないが、そんなものは関係ない。奴だけは許すことができない。

 

俺はスッと手を挙げる準備をする。飢えた野犬(クラスメイト)に餌(伊織と耕平)を食べる(殺す)合図をするためだ。

 

「さてと…準備はできてるか、お前ら」

 

「おうよ」

 

「決まってるじゃねぇか」

 

ニタァと笑いながら金属バットやスコップを力強く握り、準備万端であることをアピールする殺人集団。

 

頼もしい限りだ。これが自分に向けられたら怖いじゃすまないだろうが、他人に向けられるなら、これほど心強いものはない。

 

「愚問だったな。よし、今から」

 

「待て待て待て!落ち着け、響!早まるな!」

 

「安心しろ、耕平。話ならお前らが埋められた後、たっぷり聞いてやる」

 

「誰から話を聞くつもりだ!?皆、孝二に騙されるな!実は、こいつにも彼女がいるんだぞ!」

 

「「ナニィ!?」」

 

伊織の言葉に、二人に向けられていた殺気が俺のところに集まる。

 

とてつもない威圧感だが、対策を考えてある俺にとっては怖くも何ともない。

 

考えが足りないんだよ、伊織。一度、耕平に使った手が再び俺に通じるとでも思ったか。

 

「ほう、それは一体誰なんだ?」

 

「そ、それはだな…」

 

「言えないんだな。まあ、当然だ。俺には彼女など居ないのだからな」

 

クックック。伊織に女の知り合いなどほとんどいないのは把握済みよ。

 

伊織の女の知り合いは三人だけ。梓さんは耕平の彼女扱いにしてしまったし、古手川は伊織と付き合ってることになっている。残るは奈々華さんだが、もし奈々華さんと俺が付き合っていることにした場合、反撃として俺から伊織が奈々華さんと一緒に暮らしていることがブーメランとして飛んでくる。

 

そうなれば伊織は余計に悲惨な死に方をすることになる。だからこそ、伊織は具体的な女の名前を出すことができない。

 

「何だ嘘かよ」

 

「まあ、俺には分かっていたがな」

 

「そもそも、こんなクズに彼女がいるわけないだろ」

 

「ああ。北原に匹敵するクズっぷりだぞ、こいつは」

 

「よし、てめえら全員表出ろ」

 

冤罪も良いところだった。こんなに優しい俺を伊織と同等のクズ呼ばわりするとは。

 

やはり、DTを長くやっていると目が悪くなるのだろう。これは矯正してやらねばなるまい。

 

だが、俺たちがそんな話をしていると山本が入り込んできた。

 

「おいおい、お前ら目的を忘れるな」

 

呆れたように言う山本に対して当然のように俺たちは返事をする。忘れるわけがない。この学校に入学して以来の俺の悲願を。

 

「何言ってんだ、忘れるわけねーだろ」

 

「ああ、もちろんだ。今の話は全て」

 

「「「こいつら(伊織と耕平)を埋めてからの話だ」」」

 

「「ちょ、ちょっと待て!」」

 

話が自分達に戻ってきて、本格的に命を危険を悟った伊織と耕平は焦ったように声をあげる。

 

もう遅いんだよ。手遅れだ。

 

「分かった、分かった」

 

「話なら後で聞いてやるから」

 

「とりあえず、校舎裏で話をしようぜ」

 

「絶対に話をする気がないだろ!」

 

「ていうか、北原はともかく俺は誤解だ!響!お前なら知ってるだろ!」

 

「分かってる、分かってる。お前が梓さんと一緒の部屋で寝たことは黙っててやるよ」

 

「よーし、纏めて埋めるぞー」

 

「この腐れ外道がぁ!!!」

 

くくく。疑わしきは罰せよ。悪いなぁ、耕平。俺の幸福の犠牲となってくれ。

 

だが伊織はこの状況でも諦めていないのか、最後の抵抗と言わんばかりに声を発する。

 

「お、俺たちを殺すと後悔するぞ」

 

「そ、その通りだ」

 

「ほほーう?」

 

「命乞いか?」

 

直感的に嫌な予感がした。不味い。こいつらに、これ以上喋らせてはならない。

 

「「ご」」

 

「おい、こいつらに喋らせるな!今すぐ轡をして」

 

「「合コン組んでやるよ!!」」

 

「「「「今日から俺たち親友だ!」」」」

 

ちい!こんな手段で死から逃れるとは!

 

俺は思わず舌打ちをする。

 

こうなっては俺が殺そうと言った所でこのDT軍団は動かない。

 

伊織と耕平に合コンを開く手段があるかは知らんが、合コンという果実しか見えなくなったこいつらにそんなことは考えられないだろうし。

 

俺はため息を吐きながら、その場を去ろうとする。仕方ない。また、機会はあるだろう。

 

「そんじゃ、誰が行くか」

 

「まあ、響は確定にしてやらねぇとな」

 

「そうだな」

 

「エ?」

 

思わず足が止まる。不吉な単語を聞いた気がした。

 

そんな俺の心情に気づくはずもなく、近くにいた山本は俺の肩に手を回す。

 

「なーに、気にすんな!当然だろ?」

 

これまた近くにいた御手洗も逆方向方向から手を回す。

 

「だな!お前が一番あいつらを殺すことに貢献したんだ。それぐらいはしてやらねぇとな」

 

何なのこいつら。普段は糞なのに、何でこのことに限って紳士的なの?

 

行けるわけねぇだろ、バカが!んなことしたら、かなに殺されるだろうが!

 

「い、いやあ、俺はちょっと」

 

「何だよ、遠慮すんなよ」

 

「だな!」

 

誰も遠慮なんかしてねーよ。本心だよ。

 

「行きたいのに無理すんなよ!行きたくない理由でもあんのか?」

 

「まさか、響くん」

 

両肩に置かれた手の握力が尋常ではなく強くなる。周囲の俺に対する感謝の気持ちが殺気へと変わっていく。

 

「「「彼女がいるから、行けないとかじゃないよねぇ!?」」」

 

「ハッハー!ソンナワケナイジャナイカ!さあ、行くぞ野郎共!いざ、行かん決戦の地へ!今こそ、男を見せる時だ!」

 

「「「おおー!」」」

 

 

~回想終了~

 

はい!無理!あんなの行く以外の選択肢があるわけねぇだろ!

 

内心でため息を吐きながらテンションが上がりまくっている童貞と何か緊張している童貞を見つめる。あれ?違いが分からない?

 

「よし、行くぞ!戦いの舞台へ」

 

俺が考えに耽っていると他のやつらは行く準備を整えていた。

 

こうなっては仕方ない。別に浮気をするわけじゃないし、かなにバレるわけもないだろ。

 

俺は嫌な予感を拭い切れずに皆の後に着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…飯田かな子です」

 

「…響孝二です」

 

………

 

 

 

 

何でお前(かな)がいるんだよーーーーーー!!

 




続くかは未定です。いや本当に!


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3 彼女と合コンで会うなんておかしいだろ!

まあ、作者的に一番おかしいのは、この駄文の評価なんですけどね。
まだ二話しか書いてないのに、評価バーが赤なんですけど!感想の期待が凄いんですけど!


まずい…まずい…まずい…

 

響孝二は人生最大の危機に瀕していた。

 

「えっとさー、飯田さん」

 

「ん?何?」

 

隣に座っている山本が場を盛り上げようと、かなに話しかける。応えるかなは、笑顔である。

 

その笑顔に孝二は一筋の光明が見えた。

 

そうだ、彼女は俺のことを良く知っている。

 

俺が浮気などする男ではないことが分かっている。

 

そうだ、確かに俺は、かなに怒られないために合コンに行くことは黙っていたが浮気をしようと思ったことなど一度もない。

 

俺とかなの間には繋がりがある。こんなことで、その繋がりは切れたりはしないのだ。

 

その繋がりを確かに感じた孝二は背筋を伸ばす。恐れることなど何もない。俺は悪いことなど何一つしていない。

 

開始から吹き出していた冷や汗が少し収まる。その間にも会話は続いていた。

 

「今一番欲しいのは何?」

 

「んー、そうねぇ」

 

かなは、ニコッと孝二の方に微笑み応える。

 

「デスノ○トかな?」

 

……書く気だぁ!!この娘、本気で彼氏のことを殺すつもりだよ!ためらいないよ!一直線だよ!

 

収まっていた冷や汗が再び吹き出す。

 

何故だ…何故こんなことになってしまったんだ…

 

いや、原因は分かりきっている。こんなことになってしまった、いや、こんなことをしでかした元凶は

 

「おい、愛、いや、吉原さん?」

 

「ふあい!?」

 

どう考えてもテメエだ、愛菜ーーーー!!!!

 

先程、何とか話の流れを持っていくことで伊織たちがこの合コンを頼んだ相手が愛菜だということが判明した。

 

何てことをしてくれてんだ、このやろう!

 

しかも、こいつは俺たちのサークルに入ったらしい。

 

別に良いけど、よりによって何で俺が居ないときに入部するんだよ!何で俺が居ないときに、こんな話を進めてんだよ!

 

「何でこんなことをしてくれちゃってんのかなぁ?」

 

孝二はなるべく笑顔で接するように心掛けて声を発する…が、完全にひきつっている。

 

それを見た愛菜もひきつって焦りながら返答を探すが、孝二の質問を勘違いした木島が声を潜めて話しかける。

 

「おい、止めとけ、失礼だろ。もしかしたら全員物凄いブサイクなのを隠すためにあんな化粧をしてんのかもしれないだろうが」

 

そう。何故かかなも含めて全員がケバい化粧をしている。四人とも美少女なのを知っている孝二からしてみれば、完全に素材を殺しきる、この化粧には全く理解ができないが、前から愛菜がこのような化粧をしていた(止めた方が良いと何度も言っている)のは知っていたのでワルノリの結果だろうと予想はついていた。

 

しかし、そんなことを知らない木島からしてみれば、何でそんな化粧をしているのかということを聞いたように聞こえたのだろう。

 

「馬鹿、ちげーよ。そういう意味で聞いたんじゃねーよ」

 

「聞けよ。おかし過ぎるだろ、あんな化粧」

 

「聞いて欲しいのか、欲しくねーのか、どっちだお前は」

 

「二人で何を話してるの?」

 

ニコニコと楽しそうに、きっこが話しかけてくる。

 

わー、楽しそうだな、俺に恨みでもあんのか、きっこ。

 

「いや、大したことじゃないよ。ただ、さっきの質問てどういう意味かなと思ってさ」

 

「あー、なるほどね確かに」

 

「私も意味が分からなかったんだよね。どういう意味?」

 

お前らが意味を分からないわけねぇだろ、きっこと恵子。お前ら俺を見た瞬間爆笑してたじゃん。かなが無表情になって、愛菜が慌てまくる中爆笑してたじゃん。

 

そう言いたいのだが、女子たちと俺は初対面を装わなくてはならない。何故って?クズの童貞共がいるからだよ!

 

知り合いだということが分かれば、何時知り合ったのかという話になる。何時知り合ったのかがバレれば下手したらかなと俺の関係性もバレかねん。

 

何時も俺の学校の友達に会うことがあっても俺とかなが付き合ってることは言わないでくれと言っておいたのが幸いして、こいつらも俺の演技に付き合ってくれるようだ。

 

こんな童貞共のことを考えている場合ではないのだが、バレたら殺されるのだから考えない訳にもいかない。かなの誤解が解けても殺されたのでは意味がない。

 

正に、前門のかなに後門の童貞。やったね!モテモテだよ!

 

…泣きたくなってきた。

 

しかし、泣いていても解決しない。解決しなければ、殺される未来が待っているだけだ。

 

なので、孝二は顔をひきつらせながら答える。

 

「いやあ、こんな合コンをわざわざ開いてくれてありがとうってことさ。なあ、よ、吉原さん」

 

盛大な反語である。

 

「ど、どういたしまして!?わ、私もまさかこんなことになるとは思ってなかったのよ、孝二、いや、響君!本当だから!信じて!」

 

…どうやら、本当に悪気はなかったらしい。

 

つまり、これは愛菜が伊織たちの連れてくる合コンの参加者を知らなかったから起こった悲劇ということだ。まあ、分かったことで何の解決にもならないが。

 

こうなったら、会話の流れでさりげなーく、俺が来たくてこの合コンに来たわけではないということを証明するしかない。

 

そう判断した孝二は、目と動作で愛菜と会話を始める。

 

(分かってんだろうな、愛菜?お前に悪気はないのは分かったが、責任の一端はお前にある。何とか、かなの誤解を解いてくれ)

 

(無茶言わないでよ!?無理に決まってんでしょ!こんだけ負のオーラを発してる人に何しろってのよ!言っとくけど、隣に座ってるだけで怖いんだからね!?)

 

(そこを何とかしろってんだよ!言っとくけど俺、このままじゃリアルに次の朝日が見られないからね!リアルに「返事がない。ただのしかばねのようだ」になっちゃうからね!)

 

「二人とも楽しそうだね」

 

そんな風に俺と愛菜が目で会話をしているとかなが会話に入り込んできた。目だけ笑っていない冷たい笑顔で。

 

それと同時に俺と愛菜の頭上から不可視の霊圧が降り注ぐ。俺と愛菜の全身から謎の冷や汗が吹き出す。

 

((ラ、ラスボスが会話に入り込んできたー!!??))

 

ちょっと待って!まだ出てくるの早いよ!まだ俺たち卍解どころか、始解すら覚えてないよ!せめて、死神になれるまで待って!

 

「あー、もしかして愛菜、響君に惚れちゃった?」

 

きっこの発言で、降り注ぐ霊圧が更に強くなる。同時にかなが握っていたグラスに亀裂が走る。

 

((てめーは(あんたは)何でこの状況で無差別テロしかけてんだ(のよ)!!??))

 

「ちょ、ば、そんなわけないでしょ!?ねえ、本当に勘弁してきっこ!いや、マジで!」

 

「ははは、響の奴完全拒否されてるな」

 

「まあ、無理もない」

 

「ああ。こいつの隠しきれないクズさが滲み出ているんだろう」

 

愛菜の発言を勘違いした伊織たちがのどかな声をあげる。

 

何で分からねぇんだ、こいつら!?まさか、この霊圧を感じていないとでも言うのか!?

 

孝二は知らないことで幸せになれることがあるということを学んだ。

 

「へぇ、そうなんだぁ?愛菜って響君のこと好きだったんだ?ふーん?」

 

「違うから!勘違いしないで、かな子!お願い、信じて!」

 

半分泣きそうになりながら、かなに迫る愛菜。笑いながら見ることができている周りが羨ましい。これが俺に向けられたらと思うと震えが止まらない。

 

こうなったら、このまま愛菜を犠牲にして、この場を乗りきろう。暫くして頭が冷えたら、かなも話を聞いてくれるはずだ。

 

そう考えた孝二は傍観に撤することにした。ありがとう、愛菜。お前の友情は決して忘れない。

 

そんな孝二の態度に何かを感じたのか、愛菜は慌てて思い出したかのように喋り出す。

 

「そ、そういえば、かな子って彼女がいるのに合コンに来る人ってどう思う?」

 

裏切ったな、愛菜ーーー!!!

 

許せないと思った。俺は無二の親友だと思っていたのに、この女はそれを無下にしたのだ。後日、この制裁は行わなければならない。

 

…俺に後日などあるのだろうか。

 

「え?そりゃあ、許せないでしょ。ねぇ、響君はどう思う?」

 

笑顔の中に潜む圧倒的な威圧感に萎縮する孝二。今孝二が思うことは一つだった。

 

誰か~!!ヘルプミー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 




当初の予定だと、書いても次の話で完結のつもりだったんですけど…ありがたいことに期待が大きいんですよねぇ…最初は息抜きのつもりで書いたんですけども


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4 勇者のパーティーに味方がいないなんておかしいだろ!

とりあえず一区切りです。今週は仕事の余裕があったので結構続きが書けました。


状況を整理しよう。

 

生命の危機が刻一刻と近づいている孝二は改めて現状を見つめ直した。

 

考えるのだ。愛する彼女と合コンで遭遇したという、この悲劇的状況を打開するための策を考えるのだ。

 

しかし、幾ら考えても自分一人で何とかできるとは思えない。何故なら、自分一人で身の潔白を論じた所で聞き入れてくれるはずがないからだ。

 

そうなると誰かの援護は、この状況を打開するための最低条件。だが、その条件をクリアするためには、超えなければならない壁がある。誰が俺を助けてくれるのかを見定めなければならないということだ。

 

チラリとこの場にいる人達を見る。とりあえず、かなは除くとして…

 

童貞共…論外

愛菜…裏切ったばかり。制裁は後程考えよう

きっこ…どう考えてもこの事態を楽しんでいるので、味方になってくれるか微妙。てか無理。録な選択肢がいねぇ。

 

ふっ、何だ。選択は最初から決まってるじゃないか。

 

孝二は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて、恵子を見つめる。お前しかいないよ、マイ幼馴染。俺の味方はお前だけだよマイ幼馴染。

 

そんな孝二の視線に気付いたのか、恵子は孝二の方を見る。視線が交差する。孝二は黙って頷く。

 

伝わらないはずがなかった。この状況で言葉は要らない。恵子とは数多くの死線を共に乗り越えてきたのだ。彼女ではないとしても家族の次くらいに長い時間を過ごしてきたのだ。

 

その孝二の想いが伝わったのか恵子が喋り始める。

 

「でもさ、かな子。もしかしたらその合コンに来た彼氏にも何か言い分はあるかもしれないよ?」

 

「何かって何が?」

 

ムスッとした雰囲気で答えるかなが見えていないかのように平然と恵子は続ける。

 

「彼氏の方にも何か理由があったかもしれないってことよ。何があったかは知らないけど、話してみなければ分からないんじゃない?」

 

お前は天使だよ、恵子!!!

 

そうだよ、その通りだよ!彼氏にも言い分はあるんだよ!来たくてここに来たんじゃないんだよ!

 

「えー、そうかー?」

 

「下心があったに決まってるよなぁ?」

 

「ああ、勿論だとも」

 

「俺なら何があっても、彼女がいるのに合コンなんて行かないぜ」

 

てめえらは、黙ってろ童貞軍団が!男と女の関係に入ってくんじゃねぇ!

 

孝二は心中で考え得る限りの罵詈雑言をぶつけた。

 

そんな男共の反応を否定するかのように恵子は口を開く。

 

「うふふ。ダメよ、彼氏を信じないと。確かに私も彼女持ちの幼馴染と一緒にお風呂に入ったことがあるけど抱きつくくらいしかしてこなかったから」

 

幼稚園の時の話をしてんじゃねぇぞ、幼馴染ぃ!!!

 

突然の幼馴染の裏切りに、孝二は心の中で絶叫した。

 

てめえも最終的には面白がってんのかよ!幼馴染で遊んでんじゃねぇよ!遊びには、ルールがあるんだよ!洒落になってねえんだよ!

 

もう見てらんないよ、うちの彼女さん虚化してるよ!隣の愛菜がチワワみたいに震えてるよ!

 

「何処のクソヤロウだ!」

 

「何て、うらやま、けしからん!」

 

「既に自分のものがあるのに人のものに手を出すとは!」

 

「幼馴染と風呂だとぅ!?そんな、テンプレを叶える男がいたとは…」

 

お前らは黙ってろ!

 

孝二は殺意の籠った目で男共を見る。そんなことをしても意味は全くないのだが、今の孝二にはそれしかできない。

 

お前らの相手をしてる余裕はないんだよ!味方がいないこの状況で勇者は魔王を説得しなきゃいけないんだよ!

 

しかし皆が思い思いのことを騒ぐ大混乱の中、きっこが口を開く。

 

「んー、でも、私はなんとなーく、その彼氏のことを信じても良いと思うけどなー。抱きつくくらいで済ませたとかむしろ凄くない?」

 

その予想外の内容に助けられたはずの孝二は一瞬呆然とする。

 

ま、まさか、こいつが実は俺のパーティーだったのか!?そうか、こいつは物語の終盤に味方になるパターンの奴だったのか!

 

きっこ、お前って奴は…俺は信じてたよ!お前だけは俺の味方だって!良く考えたら色々と波長合ってたもんな。付き合いは、恵子よりは劣るけど長ければ良いってほどじゃないもんな。

 

「えー、そう?」

 

「そうだって。私も彼女持ちの彼氏と彼女と隠れてデートしたことあるけど、その時も手を握ったくらいだったもん。そうそう、晩御飯も奢ってくれたけど美味しかったなー」

 

てめえを信じた俺が馬鹿だったよ、きっこ!!

 

というか、何て絶妙な嘘と真実の中間のことを言うんだよ、こいつ!

 

いや、確かに二人で一緒に出掛けたことあるけど、それ競馬場じゃん!しかも偶然競馬場の中で会っただけじゃん!かなに黙ってたのも競馬に行ったら怒られるからってだけじゃん!手を握ったのも大一番の勝負で盛り上がってたからじゃん!晩飯奢ったのも俺が大勝ちしたから、負けたお前に気を使っただけだろうがーー!!!!

 

勇者のパーティーに加わる所か、戦場を散々荒らして帰っていきやがったあのテロリスト…

 

「へぇ、そうなんだ…私が彼女ならじっくり話を聞きたいなぁ」

 

もう彼女を直視できないよ!霊圧だけでビビっちゃってるよ!愛菜に至っては霊圧に当てられて倒れちゃったよ!

 

「あら、愛菜大丈夫?」

 

「きっと、飲みすぎたんじゃない?こういう場に慣れてないし」

 

お前らのせいだよ!そうツッコミたいのを孝二は必死に堪えた。

 

「じゃあ、愛菜倒れちゃったし、この場で解散にする?愛菜は私が運んどくわ」

 

「は?」

 

おい、このテロリスト変なこと言ったぞ。

 

「そうね、流石にこの状態で放っとくわけにもいかないし」

 

「いやいや、待って!?」

 

幼馴染!お前まで何言ってるの!?

 

「そうだな。そうするか」

 

「紳士としては女の子がその状態なのを放っておけまい」

 

「北原。お前おぶってやったらどうだ?」

 

「そうだな、気を失ってるみたいだし、女の子が持つのはキツいだろ」

 

お前らまでどうした童貞共!

 

お前ら一人倒れたくらいでそんなこと言う奴らじゃないだろ!むしろ、倒れたら倒れた奴らを肴に一杯やるのがお前らだろ!と言うか、この状態で俺に何をしろと!

 

こ、こうなったらさりげなーく俺もこいつらと一緒に帰る「ねえ、響君?」ことができるわけないですよねぇ!?

 

ギギギと音がしそうなくらいにぎこちなく、かなの方を向く。するとかなは、平然と告げた。

 

「私も酔っちゃったから帰り一緒に帰ろ」

 

…俺は帰り道に殺されるのだろうか。

 

孝二は首を振る。

 

いやいや、俺とかなは初対面の設定のはず!ならば

 

バッと山本の方を向く。

 

「山本!一緒にこっちから帰ろうぜ」

 

「いや、俺帰りはそっちじゃねーし」

 

こ、この野郎…かなが化粧モード(モンスター)だから全くかなに興味がねぇ…

 

「野島!」

 

「俺も反対方面だ」

 

「伊織!耕平!」

 

「吉原を運ばなきゃいかんだろうが」

 

「俺はこいつが送り狼にならんか見張らねば」

 

「私たちは愛菜を部屋に運ばなきゃだしね」

 

「流石に男の子に部屋まで運ばせる訳にはいかないからね」

 

え、ええ…ちょっと。

 

「じゃあ、待たな、孝二!」

 

「明日な!」

 

「ありがとう、今日は楽しかったよ響君」

 

「い、いやちょっと待って」

 

俺の制止にも関わらず皆は出ていった。

 

………

 

そして誰もいなくなった(孝二とかな以外)

 

直ぐに孝二は一縷の望みをかけて、かなに向けて全力の土下座をした。

 

「本当にごめんなさい!いや、今日のやつは誤解と言うか何と言うか色々とありましてですねぇ、しかし、決してかな様がお怒りになりるようなことは決して無いと神に誓います!」

 

孝二の命をかけた謝罪を聞いたかなは、無言である。

 

孝二からしてみれば無限に近い時が流れた。そして

 

「はあ。もう、良いわ」

 

奇跡の無罪の判決が出た。

 

「え!?良いの!?」

 

泣きそうな顔を上げて孝二は告げる。

 

「許さない方が良かった?」

 

「滅相もありません!」

 

再びため息をはく、かな。

 

「まあ、私もコウがいるのに合コン来ちゃったしね。それなのに、私だけコウを怒るなんてできないでしょ。それに恵子のこともね。二人が幼馴染なのは知ってるしね。あれは子供の時の話でしょ?」

 

「かな…」

 

涙が出そうになる。やはり、彼女は自分のことを分かってくれていたのだ。

 

「でも、あれ?じゃあ、何で怒ってたんだ?」

 

その質問にジト目になる、かな。

 

「分かってても、彼氏が合コンに来て機嫌が良い彼女がいると思う?」

 

「ですよねー」

 

至極もっともな答えを返される。

 

しかし、ようやく安心ができた。さて、じゃあ、仲良く帰ろうかと言おうとすると、かなに髪の毛を捕まれて首を上げさせられる。髪に隠れてかなの表情は見えない。

 

「いてて!何、何!?」

 

「でもね、1つだけ分からないことがあるのよ」

 

「はい?何でせうか?」

 

「きっこのデートの話は何?二人が会ったのは私と同時だったと思うんだけど?」

 

しまった、まだ地雷が一つ残っていた!孝二は必死に言い訳を考える。しかし微妙に真実な分嘘とも言えない。

 

「い、いやいや、あれはな」

 

「ふーん、デートに行ったのは本当なのね」

 

「ち、違う!あれはそんなんじゃなくて」

 

「ふーん、出掛けたことは否定しないんだ?」

 

「かな、落ち着こう!一回俺の話を聞いて!」

 

かなは、喋りながらも俺の髪を掴んだまま引きずって店の外に引きずり出す。

 

おかしいだろ、止めろよ店の店員と客!事件だぞ、これ!

 

「言い訳なら後でたっぷり聞いてあげるわよ、とりあえず…天誅!」

 

「ウギャーーーー!!!」

 

外に出ていきなり、かなの右ストレートを顔面に喰らい吹き飛ぶ孝二。

 

一晩中その周辺では男の悲鳴が止むことはなかった。

 

 

 




とりあえず完結です。
本来ならこれで完結のつもりで始めたSSだったんですけど、予想以上に感想と評価いただいたのでもしかしたら続き書くかもです。

ただまあ、作者的にはこのまま主人公死亡で終わらすのも良いかなーと思ってます笑


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5 俺の心配をしてくれないなんておかしいだろ!

本当は前回で終わらすつもりだったんですけど、続きを期待してくれてる方が何人かいたので、書いてみました。


雲一つない快晴。

 

ここまで良い天気なのは、それほどない。

 

まさに、絶好の運動日和だ。

 

普段、そこまで運動しない人たちも今日ばかりは外に飛び出すだろう。

 

大学生の運動サークルなら、尚更だ。

 

(一応)ダイビングサークルである、孝二達のサークルも例に漏れず外に飛び出した。

 

そう、こんな良い天気の日には

 

「こんな良い天気に恵まれたことに…カンパーイ!!」

 

「孝二がボロボロだが、生きてたことに…

カンパーイ!!」

 

「何でも良いからカンパーイ!」

 

「いや、あんたたち呑みたいだけだろ」

 

酒盛りである。いや、ダイビングしろよ。

 

 

 

 

 

 

 

孝二は相変わらずの先輩達と伊織と耕平にため息をはく。

 

ねぇ、もうちょっと構っても良いんじゃない?

 

おかしいよね?何でこんなにボロボロだと思う?もうちょっと仲間に関心を持っても良いんじゃない?

 

まあ、関心持たれても、この場じゃ一人を除いて怪我の理由なんて話せないから良いんだけども!

 

それはそれとして…

 

「ぶわーっはっはっはーー!!!」

 

「いや、あんたは笑い過ぎです梓さん」

 

孝二は青筋を浮かべながら自分を見て爆笑している梓さんに答える。

 

この先輩、最初は孝二の怪我を心配していたのだが、理由を知ると机を叩いて爆笑している。

 

許せないと思った。

 

「いやあ、ごめん、ごめん」

 

笑いすぎて出た涙を拭き取りながら、梓は続ける。

 

「合コン行くって言ってたけど、まさか、そんなことになるとはねぇ。私もその場にいたかったわ」

 

「絶対に余計なことしか言わないんで止めてください」

 

あんなカオスの場にこの人がいたら、より地獄を見る羽目になる気しかしない。

 

その言葉で梓は笑顔になる。

 

「言わないよ。可愛い後輩のためだもの。精々、胸掴まれた話をするくらいかな」

 

「いや、本当あの時はすいませんでした!マジで死んじゃうんでこれ以上は勘弁してください!」

 

孝二は全力の土下座をした。最近、土下座をしてばかりのような気もするが気にしてはいけない。

 

それを見て、梓はカラカラと笑いながら言う。

 

「大丈夫、大丈夫。冗談よ、冗談。可愛い後輩をそんなに簡単に売らないわよ」

 

「…「そんなに簡単に」の所に悪意を感じるのですが、気のせいですかねぇ」

 

「孝二。私は女の子の味方なのよ」

 

やだ、この先輩格好良い!俺が、女だったら迷わず惚れてしまうのは不可避である。

 

しかも加えて、この先輩とんでもなく美人で色気もたっぷりあるので、男だって迷わず惚れてしまうのは不可避である。

 

何だ、この先輩無敵じゃないか。

 

漫画の主人公なら男も女も夢中にさせる最強のハーレムを作り上げるだろう。俺だって、かなが居なかったら危うく惚れる所だった。あ、嘘、冗談だよ、かな!だから、無言でトンカチを振り上げるのは止めて!

 

ちなみに今更だが、梓さんは、サークル内で孝二が彼女持ちであることを知っている唯一の存在である。

 

何で知ってるのかと言えば、本人曰く「女の匂いがした」らしい。この先輩、何処まで凄いんだろうか。

 

なお、孝二が、それを聞いて青くなった後、全力の土下座で梓さんに、この事は黙ってくれるように頼んだのは言うまでもない。

 

「あら、孝二君、こんにちはっ…て、その怪我大丈夫?」

 

「大丈夫じゃないんです。でも今なら、奈々華さんが膝枕でもしてくれたら大丈夫になる気がします」

 

「孝二。あの子の電話番号って何番だっけ?」

 

「大丈夫ですよ、奈々華さん。俺だって男ですから。これぐらいの怪我ならへっちゃらですよ!」

 

そう良かったと言って、ホッと笑ってくれるのはサークルOGであり、このサークルの良心である奈々華さんである。

 

一応救急箱を持ってくるわねと言って、奥の方へと戻る。良い人や…何て良い人なんや!本当にアレさえなければ、完璧な美人なのに、どうしてアアなんだろう。

 

孝二はこの世の理不尽に思わず遠くを見てしまう。

 

「奈々華は相変わらず優しいねぇ」

 

「そうですねぇ」

 

「思わず惚れちゃいそうじゃない?」

 

「俺は報われない恋はしないんです」

 

どんなにあの人を好きになっても、絶対にあの人の中では二番目にしかならないのだ。

 

「相手がいる奴はドライだねぇ。奪い取らないの?」

 

「勝ち目があるとでも?」

 

「負け戦にこそ、美学があるんだよ」

 

「絶対振られるんですね。分かりました」

 

梓さんとの不毛のやり取りに、ため息が零れる。世の男も可哀想に…

 

「ところで、ちーちゃん遅くない?」

 

「さっき会った時、少し遅れるって言ってましたよ」

 

瞬間孝二は殺気を感じた。本能が全力で危険を訴える。

 

訳も分からず本能のままに、孝二は頭上に手を構える。そこに狙っていたかのように救急箱が降り下ろされる。

 

後少しでも、防御が遅ければ頭に救急箱が直撃していた事実に孝二は冷や汗をかく。

 

「ねぇ…何で千紗ちゃんが私じゃなくて、孝二君に遅れるって連絡したのかな?かな?」

 

「落ち着きましょう奈々華さん!偶然です!偶然、帰り際に会ったから古手川も言っただけです!」

 

奈々華さんの最大の欠点であるシスコンが発動した。本当にこれさえ無ければ完璧な美人なのに…!!

 

「奈々華は妹想いだねぇ」

 

「変な感動してないで、このシスコン止めてください梓さん!俺、怪我人なんですよ!?見てください、血が!血がまた滲んできてますよ!」

 

「誰がシスコンなの?え?そんな人いる?」

 

「自覚してないよ、この人!末期のシスコンなのに、自分でその事実を認めようとしてないよ、この人!」

 

「私はシスコン何かじゃないよ。ただ…私から千紗ちゃんを奪う人を悪・即・斬するだけだよ?」

 

「だけだよ?じゃないでしょうが!まずは、自分の考えが異常なことに気付け、このシスコンがあ!!」

 

そんな二人の様子を側で見ていた梓さんは、酒を飲みながら笑顔になる。

 

「平和だねぇ」

 

「どこがですか!?」

 

 

 

 




とりあえずはここまでです!

続きは書くかもですが…例によって、期待しないでください笑


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6 これが日常なんておかしいだろ!

これで再び一区切り。次の更新は未定です。


「さっきも思ったけど……響君一体何があったの?」

 

「何があったんだろうな。おい、そこにいるケバコ。何でだと思う?」

 

「‥ごめんなさい」

 

愛菜を連れてやって来た古手川が不思議そうに俺の怪我の様子を見る。

 

愛菜は俺の言葉に罪悪感を感じたのか、そっぽを向いてボソッと謝る。

 

奈々華さん?古手川が来るのを気配で感じて、速攻で離れたよ。お陰で助かったけどね。

 

そんなことを知る訳もない古手川は、無言で先程奈々華さんが武器として使用した救急箱を広げて何やらしようとしている。

 

何してんの、この子。

 

「古手川、何しようとしてんの?」

 

「何って‥治療だよ」

 

古手川は、首を傾げて、何を当たり前のことを聞いているんだろうという風な顔をする。

 

いや、それは知ってるんだけどね。

 

「いや、それは分かるが、お前怪我してんの?そんな風には見えないけど」

 

「私じゃないよ。響君の治療に決まってるでしょ。そんなに、ボロボロなんだし。ほら、腕出して」

 

そんなことを言いながら近づいてくる古手川の整った顔と優しさに思わず見惚れてしまう。

 

しかし、隠された古手川の狙いに気が付き、光速で離れる。何て恐ろしい奴だ‥こんな手段で来るとは‥流石は伊織の従姉妹だぜ。

 

「え、何で離れたの響君?」

 

疑問符を浮かべながら、顔を傾げる古手川。とても可愛い。だが、落ち着け俺!静まれ俺の煩悩!これは孔明の罠だ!

 

「止めろ!古手川!」

 

「何で?そんなボロボロなのに」

 

「お前の魂胆は分かってる……お前は……俺を惚れさせて殺すつもりなんだろう!」

 

「響君って、たまに物凄くバカになるよね」

 

古手川は呆れた眼で見てくるが、俺からしたら冗談ではない。円滑な関係を保ってきたと思っていたのに……数少ない仲間だと思っていたのに。こんな卑劣な罠を仕掛けてくるなんて。

 

古手川の作戦は恐らくこうだ。

まず、第一に‥

① 俺を古手川に惚れさせる

② 奈々華さんに報告する

③ 俺死亡

 

いや、もしくは‥

① 俺を古手川に惚れさせる

② かなに何とかその事実を伝える

③ 俺死亡

 

何ということだ、同時に二つの殺しの手段を考えるなんて‥

 

しかも、この手段を用いれば古手川は自分の手を汚さずに俺を殺すことができることになる。

 

古手川の恐ろしさを垣間見た気がした‥自分の美貌を活かして、こんな手段を考えてくるとは。

 

古手川の後ろで奈々華さんが鬼のような殺気を放っているにも関わらず、それを敢えて気付いていないようにしているのがその証拠だ。甘いな、古手川、そんなハニートラップにはかからないぜ!

 

しかし、だとすると古手川は俺が彼女持ちだということに気付いていることになるが‥一体どこから漏れた?

 

愛菜か?梓さんか?

 

いや、決めつけるのは早い。判断は、時期尚早だ。

 

もしかしたら、梓さんのように匂いで気が付いたのかもしれん。いや、もしくは疑っていて先程の行為は、俺の反応を見るために試したという可能性も‥

 

「ねぇ、梓さん、愛菜。響君急にブツブツ独り言を言い出したけど大丈夫かな?」

 

「放っておいて良いよ、ちーちゃん」

 

「完全に平常運転だから、放っとけば大丈夫だよ。‥本当に気持ち悪いくらいに平常運転だから。あいつ、このサークルでも変わらないんだね」

 

「あれ?愛菜は響君と前から知り合いだったの?」

 

「うん、まあ、色々あってね」

 

「てことは、愛菜は孝二のアレを知ってるんだ?」

 

「あ、はい。ってことは、梓さんも?」

 

「まあねぇ。本人は隠し通す気だったみたいだけど、孝二の分際で私に隠し事なんて100年早いよ」

 

「アレってなんですか?」

 

「それは本人から聞いてみて」

 

女性陣は和やかに話しているが、そんなことはどうでも良い。下手をすれば俺の命に関わる問題だ。

 

とりあえず、目下のところ俺の命を狙う一番手は奈々華さんだ。だがべつに奈々華さんは、俺のことを憎んで殺したい訳ではない。古手川のことを愛するが故の行動だ。

 

であれば、俺以上に古手川のことを狙う人間がいれば奈々華さんの注意はそちらにいくはずだ。ふう、やれやれ。俺は、あまり、こういう誰かを売るような行動は好きじゃないんだがな。

 

「奈々華さん」

 

「何かな?」

 

俺は、すすっと奈々華さんの側による。古手川も見ているので、今殺されることはないはずだ。

 

「古手川のことを心配する奈々華さんの気持ちは分かります。古手川は誰にでも優しいですからね」

 

「そうなのよ、本当に千紗ちゃんは優しいから心配で、心配で」

 

「だからこそ、俺は奈々華さんに古手川のことを狙う狼の存在を教えなくてはなりません」

 

「え?そんな人いるの?」

 

おう、早速殺気が出ていらっしゃる。さあ、告げましょう。その罪深い彼氏の名を。存分に殺してあげてください。

 

「そいつは北原伊織と言って、古手川の彼氏を名乗り「おう、孝二口がお留守だぜ!」どぇふごふ!?」

 

だが、言い終わる前に伊織が俺の口に酒瓶を放り込んできおった。ちっ、勘の良い野郎だ。

 

「あれ、伊織君?今、孝二君の口から伊織君の名前が出なかった」

 

「嫌だなぁ、奈々華さん!そんなことある訳ないじゃないですか!空耳ですよ、空耳!そんなことある訳ないじゃないですか!」

 

「ふふふ、それもそうね」

 

「いや、空耳なんかじゃ「おおっと、まだ足りないみたいだなぁ!」ごっふ!?」

 

反論しようとすると、再び口に酒瓶を放り込んでくる伊織。邪魔すんじゃねぇよ。

 

「すまんが、伊織。俺が助かるためなんだ。頼む、死んでくれ」

 

「何をあっさり親友を売ろうとしているんだぁ、孝二君!!??」

 

「伊織。俺は俺が助かるためならお前が死んでも構わない」

 

「ふざけんな、お前が死ね!」

 

「お前がもっと死ね、童貞野郎!」

 

「お前も同じだろうが!」

 

「お前と一緒にするな、生涯童貞がぁ!」

 

遂に取っ組み合いを始めた俺たちを千紗は呆れながら見ていた。

 

「また、馬鹿やってる‥」

 

「相変わらず低脳な奴等だ」

 

やれやれと言いながら、別のところで馬鹿騒ぎをしていた耕平が千紗と愛菜の所にやってきた。

 

「耕平。あんた見てないで止めなさいよ」

 

「面倒だが‥静かな酒を楽しむためにはしょうがないな」

 

そう言うと、耕平はすすっと笑いながら騒ぎを見ていた奈々華さんの側による。

 

「うるさい奴等ですね、奈々華さん」

 

「うふふ。本当ね」

 

「知能指数が低い奴等では話になりませんね。しょうがないので、俺が真実を伝えます。実は、あいつら二人とも古手川を狙う狼で「「おおっとすまん、耕平くぅん!身体全体が滑ったぁ!!」」どぇるふふ!」

 

隠れてとんでもない冤罪を擦りつけようとしてきた耕平に俺と伊織が同時に捨て身タックルを実行した。効果はばつぐんだ。

 

「何をするか、貴様らぁ!」

 

「こっちのセリフだ、耕平ぃ!」

 

「その通りだ、伊織はともかく俺は違うだろうが!」

 

「俺も違うわ!」

 

「お前は違わないだろうが!」

 

「この際だから、社会のクズを二人掃除しようとした俺の優しさが分からんのか!」

 

「「社会のクズはお前だろうが、この犯罪者予備軍がぁ!」」

 

「誰が犯罪者だ!ららこたんの価値も分からん、愚か者共が!」

 

「分かってたまるか!映像じゃ、心は満たされても身体は満たされねぇんだよ!」

 

「心も身体も満たされない、北原よりマシだろうが!」

 

「待てぇ、それは俺が一生彼女ができないという意味で取って良いんだな!?」

 

「「当たり前だろうが!!」」

 

異口同音で放たれた言葉に、伊織の中のナニカがキレた。

 

「お前らの罪を数えろぉ!」

 

更に激しい乱闘になった現場に愛菜は頭を抱える。

 

既に千紗は我関せずと読書をしている。

 

愛菜は楽しそうに見ている梓に声をかける。

 

「‥止めなくて良いんですか?」

 

「何時も通りだからねぇ」

 

「そうそう。あいつらは何時もあんな感じだ」

 

「アレがあいつらにとってのコミュニケーションだよ」

 

「時田先輩。寿先輩」

 

愛菜は笑いながら近付いてきた、先輩二人に挨拶をする。全裸なのは今日だけだと信じたい。

 

時田は、その挨拶を聞いて更に笑って告げる。

 

「これが俺たちのサークルの日常だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次はテニスの試合の話になりますかねー


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7 ダイビングサークルがテニスをするなんておかしいだろ!

久しぶりの投稿です。


外では雨が絶え間なく降っている。遠くでは、ゴロゴロと雷鳴の音まで聞こえてきそうな気がする。

 

そんな天気の中で、とある学校の一室で二人の男は向かい合って座っていた。

 

チャラついた色黒の男は、ニヤニヤ笑いながら一枚の写真を差し出した。

 

受け取った男は無言のまま。恐ろしいまでの無表情だ。

 

その無表情のまま、男は視線を受け取った写真に向けたまま色黒の男に尋ねた。

 

「…それで?俺に何をしろと?」

 

「へっ。なぁに、そんな難しい話じゃねぇよ。簡単なことだ」

 

ピカッと空に稲妻が走った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー…あそことテニスの勝負か…思うことはあるけど、それよりさ」

 

テニスラケットを構えた愛菜は、複雑そうな顔をしながらも後ろに振り返り、その中の一人の男を指差す。

 

「何で、言い出しっぺのあんたが出ないのよ孝二」

 

「指名されてないからな」

 

サラリと答える孝二。片手にはパソコンを持ち、完全にテニスをする気がない格好である。

 

そんな会話に、孝二の隣の耕平が乱入した。

 

「まあまあ、そんなに言ってやるなよ、ケバ子」

 

「何よ。てか、ケバ子言うな」

 

「運動に自信がないから恥ずかしいんだろ?やれやれ、情けない奴だぜ全く」

 

「存在が恥ずかしいお前に言われたかねぇよ」

 

話は、3時間前に遡る。突然、孝二にテニサーとのテニスの勝負をすると言われた伊織達は、全員でテニスをするためにテニスコートへと向かうことになった。

 

当然、最初は渋っていたのだが勝てば賞金が手に入ると聞かされ、面倒臭いと思いながらも行くことになったのだ。

 

「しかし、工藤達が孝二に連絡するとはなぁ」

 

「ああ、確かに。もしかして、顔見知りだったのか?」

 

「ええ、まあ、一度だけ」

 

自分たちと同学年の知り合いが後輩に直接連絡するのは意外だという先輩達に無表情のまま答える孝二。

 

そんな孝二の様子を愛菜は訝しげに見る。根拠はないのだが、何となく怪しい感じがしたのだ。

 

自分以外にも、同じ感想を抱いている人がいるかもしれないと思い、隣にいた千紗に声をかけた。

 

「ねぇねぇ、千紗。何となく孝二の様子が変じゃない?」

 

「響君?別にいつも通りだと思うけど」

 

話しかけられた千紗からすれば、何が違うのか分からないくらい、いつも通りである。

 

「何か気になることでもあるの?」

 

「いや、そんなことはないんだけど…でも、何となく変だなと」

 

「ああ、確かに俺も変だなと思ってる」

 

「伊織も?何処が変なの?」

 

後ろにいた伊織も会話に参加し、孝二の様子が変だと言ってくる。

 

自分がもしかしたら違和感に気付いていないだけではないのかと考えた千紗は、伊織に違和感の正体を尋ねた。

 

「賞金があるんだから、あいつなら毒を盛ったり、夜襲したりするはずなんだが…そんな様子が全くない…妙だ」

 

「響君をあんたと一緒にしないで」

 

呆れたように言う千紗だが、聞いていた愛菜も伊織の話を聞き自分も完全に同じ点が気になっていたのだと気付いたが黙っていたのはご愛嬌である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして試合が始まった。

 

最初は寿・時田ペアの試合。テニスは未経験だが、圧倒的な身体能力で相手を全く寄せ付けない試合運びは圧巻の一言である。

 

しかし、それは序盤までの話。現在は

 

「おっとっと」

 

「真っ直ぐ立つのがこんなに大変だとは…」

 

ただの酔っ払いと化している。当然、試合も逆に圧倒されているのは言うまでもない。

 

「だから呑むなと言ったのに隠れて呑んでやがったな…」

 

先輩達の体たらくに青筋を浮かべながら、イラつく伊織の肩を孝二は、ポンと叩く。

 

「細かいことを気にするな、伊織。あれが先輩達なんだ。しょうがない」

 

「そりゃあ、お前は良いだろうよ!試合出ねぇんだからな!見ろ、あのカメラを!あいつら、俺たちが負けたら俺たちの恥ずかしい姿を世間に晒すつもりだぞ!」

 

「そんなもん知っている」

 

「てめぇ、知っていて黙ってやがったな!」

 

「俺は勝ったら賞金があると言っただけだ。負けても何もないとは言っていない」

 

「ただの詐欺じゃねぇかぁ!」

 

こんな状態にも関わらず相変わらず喧嘩している伊織と孝二の間に呆れながら愛菜は割って入った。

 

「喧嘩してる場合じゃないでしょうが!何か対策を考えないと!」

 

「とは言ってもな。あれだけ酔っ払ってる状態から正常に戻すのは至難の技だぞ」

 

説教する愛菜の後ろから話しかけてきた耕平の言葉に愛菜は言葉が詰まる。確かに、あれだけの酔いをどうやって直すのか愛菜も分からない。

 

なので、ヤケクソ気味に怒鳴り散らす。というか、それしかできない。

 

「あー、もう!誰よ、先輩達に酒なんて呑ませた奴は!」

 

「あー、俺」

 

「…は?」

 

「だから、俺」

 

信じられない言葉に、ギギギと音を立てながら声の主の方向に首を向ける愛菜に再び孝二は自分が犯人だと告げる。

 

一瞬の沈黙があった。そして、

 

「「「何やってんだ(のよ)孝二(響)ぃ!!!」」」

 

次の瞬間怒号が響く。愛菜だけでなく、側で聞いていた伊織と耕平も一緒である。

 

そんなブチギレた三人を前にしても孝二は冷静に告げた。

 

「落ち着け。仕方なかったんだ」

 

「何がしょうがないだ!」

 

「裏切り者は腹を切れ!」

 

「開き直ってんじゃないわよぉ!」

 

「だから落ち着け。しょうがないだろ?脅されてるんだから」

 

意外すぎる孝二の言葉に怒り狂っていた三人も静かになる。そして、

 

「「「はあ!?脅されてる!?」」」

 




次回の投稿は何時だろうか…


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8 俺の優しさが伝わらないなんておかしいだろ!

久しぶりの投稿!


孝二の提案でテニサーと試合をしていた伊織達は、途中で孝二が脅されているという衝撃の事実を知った。

 

ふうとため息を吐き、孝二は呟いた。

 

「まあ、そんな訳だ。皆、俺のために頑張ってくれ」

 

「「「ふざけんなぁ!!!」」」

 

目の前の三人は自身を可哀想だとも思わず、ハンギレ状態で怒鳴ってくる。

 

酷い奴らだと思った。目の前で、苦しんでいる仲間がいるのだから、そのために頑張るのが仲間の役目ではないか。

 

そう考えた孝二はにこやかな笑顔で答えた。

 

「そんなこと言うなよ。俺たち親友じゃないか。困った時はお互い様だろ?」

 

その言葉は伊織たちの同情を買うのではなく、怒りを増加させるだけである。つまり、ようするに

 

「どの口がそれを言うか!」

 

「お前が原因だろうが!」

 

「試合にすら出てないあんたが何言ってんの!」

 

孝二の暖かい言葉は三人には響かなかったようだ。

 

孝二はため息を吐いた。現代人はこうも他人を助ける精神を失ってしまったのかと思うと悲しくなる。

 

そんなことを孝二が思っていると少し離れて話を聞いていた千紗は急いで孝二に近寄った。

 

「ねぇ、ちょっと響君!」

 

「そうだ!お前も言ってやれ、千紗!」

 

こんなクズに容赦などすることはないと伊織は千紗にも孝二を責めるように言う。しかし

 

「脅されてるって聞いたけど、大丈夫なの?何か私にできることない?」

 

「ありがとう古手川…こんなことにお前を巻き込んでしまってすまないと思ってる…」

 

千紗は責めるどころか脅されている孝二のことを心配する。孝二も伊織たちの時とは違い、非常に申し訳ないという態度で接しているので、それを見た伊織たちの顔に青筋が浮かぶ。

 

「晒し者にしようとしてる俺たちの方に謝れよ!」

 

「何でそんなクズを庇うの千紗!?」

 

「ていうか、古手川は響の奴に甘くないか!?」

 

「人間力の違いだろ。と言うかそもそもだ」

 

先程から暴言を吐いている伊織と耕平に向かって孝二は言う。

 

「仮にお前らが脅されて、俺らを売れば見逃してやると言われたらお前らならどうするよ?」

 

孝二の発言に伊織と耕平は暫し考える。そして

 

「さてと、じゃあ、どうやって勝つか考えるか」

 

「そうだな。まずは先輩たちの酔いをどうやって直すかだな」

 

「そこは仲間を売ることはできないって答えなさいよ!!」

 

自分たちも孝二と同じ行動をするだろうと結論づけた。

 

愛菜は正論を唱えているが、無視されて話は続いていく。常識人は苦労する世界である。

 

「ああ、その心配はない」

 

「どう言うことだ?」

 

孝二の心配ないと言う発言に伊織は首を傾げる。

 

そんな伊織の疑問に孝二はテニスのコートを指差して示す。そこでは

 

「勝者!ティンベル!」

 

試合が先輩達の負けで終わっていた。どうやら、孝二の話を聞いている間に試合が終わってしまったらしい。

 

「何やってんだ、あの先輩達はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「これで後がなくなったな。俺としても辛いぜ」

 

「心にもないこと言ってんじゃねぇぇぇぇぇ!」

 

勝てるはずの試合を馬鹿な行動で敗北してしまった先輩達に伊織は怒鳴るが、怒鳴ったところで現実は変わらない。

 

「え!?ってことは、ここで私たちが負けたら終わりってこと!?」

 

「そうなるな。まあ、負けてもクズ二人が恥を晒すくらいで済むんだ。気楽にやれ」

 

「「マジでぶっ殺すぞ、このクズがぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

孝二としては、若干緊張している愛菜をリラックスさせるつもりだったのだが、クズ二人の怒りを煽る程度の効果しかなかったらしい。人を励ますとは難しいことなのだと孝二は学んだ。

 

「大丈夫だよ、愛菜。響君。私たちは勝つから」

 

そんな空気の中試合の準備を終えていた千紗は珍しくダイビング以外でやる気満々という顔で試合会場へと向かっていく。

 

「頼むわ。期待してる」

 

「私と愛菜に任せて」

 

「千、千紗何でそんなやる気満々なの?」

 

「そりゃ響君が脅されたってこともあるけど、それ以上に」

 

そこまで言って千紗はチラリと孝二の顔を見る。

 

「響君の信頼に応えないとね。だって響君はこんな試合しないでも、伊織達のことを売って自分だけ助かることもできたわけでしょ?なのに、こんなことをわざわざしたってことは…私たちが勝つって信じてくれてるからじゃない」

 

だからあんな卑怯な奴らに私は負けられないと言い残し、千紗はその場を去っていく。

 

そんな千紗の後ろ姿を見ながら愛菜は千紗の優しさを感じながら感動に打ち震えていた。

 

そこにスッと梓が現れて、愛菜の肩を叩く。

 

「本当にちーちゃんは優しいわね」

 

「私…本当に千紗を見ると思うんです。人って素晴らしいなって」

 

「愛菜…何で絶対に後ろを振り向こうとしないの?」

 

「そんなの…決まってるじゃないですか」

 

愛菜は急に死んだ目になりながら話を続ける。

 

「その手があったかって言いながら血の涙を流してるクズを見たら人間に絶望しちゃいそうだからですよ」

 

「まあ、孝二だからねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま消えてしまいたい…

 

千紗はそんなことを考えていた。何故なら

 

「ナイスバディ、千紗!」

 

「ナイスバディだよぉ、千紗ちゃん!」

 

自分の応援をしているはずの人たちの恥ずかしすぎる応援のせいで、大勢の他の人が今の自分の姿を見ているからだ。

 

愛菜はジャージ姿だから良い…でも、自分の姿は…

 

自分の姿を改めて見直して、千紗は恥ずかしさでまともにテニスができなくなる。

 

響君の信頼に応えるためにも勝ちたい…とは言えこんな環境で…

 

千紗は半分勝利を諦めた。しかし、そこで

 

「チャージドタイムアウト!」

 

孝二の声が会場に響いた。え?と周りが騒つく中、孝二は気にもしないで紙袋を持ったまま千紗の元へと近づいて行く。

 

どうしたのと聞く前に孝二は千紗に紙袋を渡す。

 

疑問に思いながらも千紗が中を開けると、そこには

 

「長ズボンのジャージ…」

 

それも最新モデルの少し可愛いタイプである。バッと千紗が孝二を見ると孝二は黙ってうなづいた。そのまま、審判に彼女が服を変えるから待っててくれと伝えてくれる。

 

千紗は悟った。

 

孝二は自分が恥ずかしいのが分かって、自分のためにコレを持ってきてくれたのだと。私が全力を出せるように応援するために、コレを持ってきてくれたのだと。

 

孝二にお礼を言って千紗は即座に服を着替えに行く。今なら絶対に負けないと思った。

 

残された愛菜は訝しげに孝二を見る。果たして、この男は千紗のためにわざわざジャージを持ってきてくれたのだろうかと。

 

「ね、ねぇ、孝二?」

 

「あん?」

 

「あんた何でジャージを持ってきてくれたの?」

 

「はあ?そんなの決まってるじゃないか」

 

孝二はスッと応援席にいる奈々華さんを指差して続ける。

 

「色んなタイプの古手川の服装を見た方が奈々華さんも喜んでくれるだろ?」

 

「本当に色々台無しね、あんた!」

 

まあ、何はともあれ服を着替えた千紗は持ち前の運動神経を遺憾なく発揮。当然試合も

 

「勝者!ピーカブー!」

 

千紗と愛菜の勝利に終わった。

 

勝利した千紗は孝二へと勝利のVサインを送り、孝二もそれに応える。

 

それを見た愛菜は思った。

 

世の中には知らない方が良いこともあるのだと。




次の投稿もこっちは暫くかかりそうだなぁ…


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9 テニスなのにテニス以外が勝因っておかしいだろ!

久し振りの投稿です!


「さて、最後は伊織たちの試合で決まるのか」

 

「実際どうなんだ孝二?あいつらは勝てそうなのか?」

 

「正直微妙なんですよね…半分くらいの確率で勝てそうなので困ってます…」

 

「遂に露骨になってきたわねこのクズ…」

 

ゴミを見る目で愛菜は孝二を見てくるが、残念ながら孝二には責められて喜ぶ性癖はないのでそこに喜びは見出せなかった。

 

しかし側で聞いていた千紗は愛菜とは別の場所に反応した。

 

「半分くらいの確率で勝てるの?相手がテニサーなのに?」

 

「ああ、多分それくらいか」

 

「相手が弱いってこと?」

 

「それもある」

 

「それも?」

 

その言葉に千紗は首を傾げる。他にも何か要素があるのだろうか?

 

「ああ、一つは単純に」

 

同時にズバンという音が響く。孝二の話を聞いていた面々はその後に驚いて試合を見てみると、伊織が放ったサーブによって生じた音だと分かった。

 

千紗と愛菜が驚く中で孝二は当たり前のように続けた。

 

「アイツ(伊織)が強いってことだ」

 

あのバカの運動神経の高さは素晴らしいものがある。ぶっちゃけ、泳ぐこと以外なら何をやってもヒーローになれる程の運動神経だ。なのにアイツは何を思ってか自分が唯一できないものをサークルとして選んだ。

 

できないものに興味を持つのは良いが、恐らく普通に得意分野でサークルを選んでたら今頃ある程度はモテていただろう…いや、無理かもしれない。頭の運動神経が悪過ぎる。

 

「へぇ、伊織にこんな特技がねぇ…てか、この様子なら勝てそうだけど?」

 

話を聞いていた梓さんは少し驚いた顔で聞いてくる。

 

と言うか、近い。あなた自分のスタイルと容姿の良さを自覚して!変なところが元気になっちゃうでしょ!

 

「そうですね。シングルスなら問題なく勝てるでしょうね」

 

「へ?」

 

梓さんはきょとんとした顔をしたがそれすらも美しい…何ということだ美人は何をしても美人だと言うのか。

 

「ねぇねぇ。どういうこと?」

 

反対側の方から愛菜が俺の発言の意図を確認してくる。その様子を見て孝二は爽やかな笑顔になった。

 

「やっぱりお前を見ると安心するよ」

 

「(何でだろう…褒められてるのに褒められてない感じがするのは…)まあ良いわ。で?どういうこと?」

 

「どういうことも何も、そのままの意味だが」

 

「だからその意味を聞いてんのよ!」

 

チラリと周りを見ると愛菜だけでなく、古手川や奈々華さんに梓さんを含めた先輩たちまでうんうんと頷いている。

 

孝二は怪訝な顔になる。え?まさか皆知らないのか?

 

「まさか全員知らなかったとは…アイツも良く今まで隠し通せていたもんだ」

 

「アイツって伊織のこと?」

 

「んにゃ。もう一人の方」

 

孝二がそう言うと同時にチャンスボールが耕平に上がった。それを見た耕平は今だと言わんばかりにラケットを振りかぶった。

 

周りはオオッと歓声をあげながらその姿を見つめる。

 

だが

 

「うおらぁ!」

 

耕平のラケットはボールにカスリもせずに空振る。てん、てん、と転がるボールが寂しく映る。

 

え?と味方だけでなく敵である向こう側も目が点になって見つめる。

 

だが孝二だけはその様子を冷めた目で見ながら続けた。

 

「あの残念イケメンの運動神経は切れてるぞ」

 

何故か水泳だけはそこそこできるようなのだが。どうやら、他のスポーツというものをこの面子でやることがなかったので、皆は知らなかったらしい。よく考えたらこの面子ってダイビングやる時以外はほとんど酒しか呑んでねーや。

 

「ていうか、アンタそこまで分かってるなら交代してあげなさいよ!」

 

我に戻った愛菜は火を噴く勢いで俺に文句を言う。やれやれ、何も分かっていないなコイツは。

 

「阿呆か。アイツらが恥をかかせたいのは伊織と耕平なんだぞ?俺が出てってもアイツらが納得する訳ないだろ。俺も愉悦に浸れないし」

 

「清々しいクズね、アンタ!」

 

「まあまあ、愛菜も落ち着いて。ところで響君?それじゃあ、もう一つ聞いて良い?」

 

「何だ古手川?」

 

怒る愛菜を宥めながら古手川が質問をしてきた。

 

「今度はこのままじゃ、普通に負けそうだけど…何で半分くらいの確率で勝てるって言ったの?」

 

「え?当たり前だろ?」

 

「そうだねぇ」

 

「うむ、そうだな」

 

首を傾げる古手川とは対照的に分かっているのか先輩たちは楽しそうに試合を見物している。いやあ、流石は先輩達だ。

 

更に古手川は理解不能と言わんばかりに首を傾げるが次の瞬間、ボールが後ろのフェンスに直撃する音が響いた。

 

驚いた古手川と愛菜はコートを見ると伊織のサーブだと判明した。しかしある程度分かっていた面々は、直ぐに伊織達の作戦を見破った。

 

「なるほどノックアウト狙いか」

 

「まあ、順当だな」

 

「一番手っ取り早いからねぇ」

 

「そうねぇ」

 

「甘いなアイツも。一撃で仕留められないとは」

 

「「いや、ちょっと待って!」」

 

当たり前のように受け入れている自分たち以外の味方に古手川と愛菜は声を上げる。

 

「何だどうした?」

 

「どうしたも何も反則じゃないんですか!?」

 

「一応ボディ狙いだろう多分」

 

「ボディどころか顔面に向かってましたけど!?」

 

「そういえばドッジボールなら顔面セーフだけど、テニスならどうなの?」

 

「さあ?詳しくないんで知らんすけど、まあボディ扱いでしょう多分」

 

「良いのそれで!?」

 

良いに決まっている。そもそも、あのクズどもが普通にやれば勝てない試合で普通に試合をする訳がない。

 

しかし、あのテニサー達は碌な対策をせんな。まあ、普通にやれば勝てると思っての行動なんだろうが甘いとしか言いようがない。

 

周りの先輩達が盛り上がっている中、そろそろ動くかと思い孝二はこっそりと席を立ち上がった。

 

「あれ、孝二何処に行くの?」

 

しかし案外目敏い愛菜には直ぐに見つかった。何でそんなに俺の行動見てんだよ。何?俺のことが好きなの?

 

「ちょっとばかし仕込みをしとくことがあってな。それにもう大体結果は決まったしな。別にこれ以上試合を見る必要もないだろ」

 

孝二の予想外の発言に愛菜は驚愕の表情を浮かべた。

 

「え!?もう!?まさか、伊織達が負けるってこと!?」

 

「このままいくとな」

 

いくわけないという意味を暗に含んでの発言だということに流石の愛菜も気が付いた。

 

「…え?どうなるの?」

 

「さあな。ただ一つ言えるのはこの試合はテニスが強い方が勝つんじゃねぇ。クズ度が上な方が勝つ」

 

「…何か負ける気がしなくなったんだけど気のせい?」

 

「お前、結構酷いな」

 

正直、五分五分だと孝二は思っていたのだ。まあ、今となっては伊織達が負ける未来は見えないのだが。

 

どうやら愛菜目線だとクズ度での勝利は確実らしい。人望のない奴等だ。

 

そんなことを孝二は考えながらそのまま去ろうとする。その後ろ姿を見て慌てて愛菜は続けた。

 

「ま、待ちなさいよ!それでアンタは何処に行くのよ?」

 

「何を言ってるんだ?決まってるじゃないか」

 

孝二は顔だけ振り返り、ニコリと笑って言い放つ。

 

「俺は正義の味方をしに行くんだよ」

 

孝二のその顔が愛菜には悪魔にしか見えなかったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、伊織達の試合の結果はと言えば

 

「…本当にクズ度が上の方が勝ったわね」

 

伊織達の勝利に終わった。

 

勝ったのに未だに喧嘩をしている伊織と耕平を見て愛菜は呟いた。

 

伊織達が劣勢から勝利したのは、伊織が足手まといである耕平をサーブでノックアウトさせたのが理由である。

 

ある意味合理的な判断ではあった。人としての尊厳とかスポーツマンシップとか、そういうのを全部捨てればの話ではあるが。

 

「まあまあ。賞金は貰えたんだし良かったじゃない」

 

「…それはそうですが」

 

笑いながら微笑む奈々華に愛菜は納得できないように呟く。相変わらず常識人は生きにくい世界である。

 

「お?そういえば孝二はどうしたんだ?」

 

「そういえば見当たらんな」

 

喧嘩が一段落した伊織と耕平は今気付いたかのように疑問を発する。

 

それを聞いた愛菜は若干呆れながら返事をする。

 

「正義の味方をしに行くんだってさ。何をやるかは知らないけど」

 

愛菜のその発言に伊織がふーんと言った後に呟いた。

 

「そうか。死人が出なければ良いがな」

 

「何を言う北原。それは無理だろう」

 

「だよねぇ。ほどほどで済めば良いけど」

 

「まあ、今回は工藤も悪いから多少はしょうがないな」

 

伊織だけでなく、耕平や先輩達まで良く分からないことを話し出したことに愛菜は戸惑う。

 

「え?あの…皆は何の話を?」

 

「何だ?ケバコは何の話をしているか分からなかったのか?」

 

意外と言う表情を浮かべた後、伊織だけでなく愛菜以外の全員が呟いた。

 

「「「「「アイツ(孝二)(響君)がやられっぱなしで黙ってるわけないだろ(でしょ)」」」」」

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 




次の更新は多分そこそこ早いです


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10 隠したいことばかりバレていくなんておかしいだろ!

とりあえず投稿ですが…次の投稿は何時になるやら…


「クソ!アイツら汚い手を使いやがって!」

 

敗北したテニサーの工藤はダンと手を壁に叩きつける。

 

「やれやれ。アンタにはガッカリだよ。工藤先輩」

 

不意に背後から聞こえる声に工藤はバッと振り返った。

 

「て、テメエは!?」

 

「あの程度のクズ力でアイツらのクズ力に勝てると思ったのが間違いだったな。考えが浅すぎなんですよ」

 

自身が脅していた響孝二がいたことに工藤は少し戸惑うが、立場が優位である自分が何かをされることはないだろうと思い強気に笑った。

 

「はっ!なら次でボコボコにしてやれば良いだけだ!丁度犬もいることだしな!」

 

「犬?誰のことです?」

 

「お前に決まってるだろ!嫌とは言わせないぜ?俺にはお前の弱みが…アレ?」

 

ゴソゴソと自身のバックを漁るとあるはずの写真が消えていた。

 

「お探しものはこれですか?」

 

そう言うと孝二は懐から写真を出した。そこには孝二と孝二の彼女であるかなが手を繋いで写っていた。

 

「て、テメエ何で!?」

 

「奪ったからに決まってんでしょうが。普通にアンタのベンチに入って取ったんですよ」

 

孝二は手にした写真を再び懐に閉まってから告げた。

 

「ば、馬鹿な!?俺のバッグには触らせるなと後輩どもに言ってた筈だ!」

 

「ああ、居ましたねぇそんなのが。今頃は倒れてるんじゃないですか?」

 

何を馬鹿なと工藤が言おうとすると片方の手に持っているものに気付いた。それは自身が時田達を嵌めるために仕込んでいた強烈な酒だった。

 

「気付きました?そうですよ。見張りのスポーツドリンクの中にこれを混ぜたんですよ」

 

だから取るの何て簡単でしたよと告げる孝二に工藤は冷や汗を流しながら笑う。

 

「あ、甘いな。俺はスマホでこの写真を撮ったんだぜ?つまり、俺のスマホの中には元々のデータが「ああ。当然それも削除しました」なにぃ!!」

 

自身の脅しの道具がなくなったことで工藤は膝から崩れ落ちる。くそ、これで終わりかと呟く工藤を孝二は鼻で笑った。

 

「終わり?何を言ってんですか?始まりですよ?」

 

「は?」

 

「まさか?ひょっとして?ここまで俺を利用しといてどの程度で済むと思ってるんですか?」

 

ニコリと笑って告げる孝二に工藤は本能的に後ずさる。しかし、孝二の口撃は止まらない。

 

「アンタのスマホには色んな女の人のアドレスがあった。しかも殆どの人と仲良くしてたみたいですね。まあ、浮気してたってことですよねえ?正義の味方の俺からしたらそれは許されないと思うんですよ」

 

だからと言って笑う孝二は正義の味方どころか悪魔にしか見えない。

 

「ま、待ってくれ!まさか、お前」

 

「目には目を。歯には歯を。悪には悪を。女には女を」

 

その言葉に工藤は顔面を蒼白にし、縋るように孝二の足元に近寄った。

 

「ま、待ってくれ!響!いや、響様!話し合いを!話し合いをさせてください!」

 

「ああ。勿論構いませんよ」

 

ホッと溜息を吐く工藤には邪悪に笑う孝二の姿は映らなかった。

 

「俺ではなく。後ろの良く知ってる彼女たちとって話ですが」

 

え?と言ってから工藤が孝二の後ろを見ると夜叉のように怒りを露わにしている自分の彼女たちの姿が映った。

 

「ねえ、工藤君?これどういうこと?」

 

その中の一人が工藤に見せたメールには工藤と別の彼女が仲良く写っている姿とメールの内容が細かく記載されていた。

 

後ろの女子全員が目の輝きを失った状態で工藤に近寄っていくのを孝二は楽しそうに見つめた。

 

そして

 

「ギャィァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

工藤の断末魔が響く様子を微笑みながら見届けてその場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

はい。愛菜さんドン引きのご様子。

 

目的を達成して満足した孝二が皆の所に戻ろうとすると、思ったよりもずっと近くで皆が待っていた。

 

どうやら今までの一部始終を見ていたらしい。写真は見られなかったようなので孝二は心の中で盛大に安堵した。

 

それによりある程度自分の行動を予想していた他の人はともかく、愛菜だけは上のような反応になってしまっている。

 

「流石だなあ孝二」

 

「安定のクズ具合だ」

 

「クズの鑑だな」

 

「うっさいわ!」

 

その他の面々は褒めてるいるのかどうか分からない言葉を吐いている。大きなお世話だ。

 

「しかし少し意外ではあったな」

 

「ああ。連絡先の削除くらいで済ますかと思ったが、まさかメールの送信までしてるとは」

 

「結構手間だったんじゃない?」

 

「何か他に恨みでもあったのか?」

 

「…ないですよ、別に」

 

ふーんと言いながら会話が別の話題へと移る。

 

孝二の言葉に完全に納得はしていないが、ある程度は納得してくれたようだ。

 

まあ良い。それじゃ祝杯と行こうか!と完全に呑みのテンションになった他の面々はトイレに行くと言った孝二を残して先に入口の所で待ってると言って出て行った。

 

「…で?何で行かないんですか?梓さんは」

 

「んー。孝二に確認したいことがあってねぇ」

 

梓さん一人を除いて。

 

何の用だと訝っていると梓さんはガシッと孝二の肩を腕で組んだ。だから近いんですよ!良い匂いがするし!

 

「孝二にしてはらしくなかったよねぇ?あんな手間をしてまで念入りに懲らしめる何て」

 

「…まあ、たまには」

 

「ふーん。そっか。まあ、良いんだけどさ」

 

そう言うと梓さんはその場から離れて他の皆の所に戻ろうと歩き出す。しかし、そのまま孝二の方向を見ないで話を続けた。

 

「これは一人言なんだけど。実は私のサークルに新しい後輩が入ってきてね。可愛い後輩なのよこれが」

 

「…一人言なんですから、返事はしなくて良いですよね?」

 

「もちろん。で、その後輩は私たちのサークルに入る前にとあるテニサーに所属してたんだけど、どうやら結構酷い目に遭わされたらしいのよねぇこれが」

 

孝二の返事がないままに梓の独白は続いていく。

 

「私の別の可愛い素直じゃない後輩はその女の子と元から友達らしいから、そのテニサー達には思う所があったと思うのよ。だから…もし、そいつらに復讐できる機会があれば多分張り切って懲らしめてやろうとすると思うんだけど…孝二はどう思う?」

 

話終わってからニヤニヤと笑いながら顔だけ孝二の方に振り返った梓の問いかけに孝二は頭をかく。

 

「さあ?勘違いじゃないですか?」

 

「そっか。勘違いか」

 

梓はニヤニヤした顔のまま前に向き直り、そのまま手をひらひら振りながら続けた。

 

「それじゃあ、私はずっと勘違いをし続けたままにしとくわ」

 

 

 

 

 

 

 

梓が去った後、何とも言えない微妙な表情のまま孝二は溜息を吐いた。

 

「やり難い人だよ本当に。まあ、あの人なら他の人には言わんだろうから良いけどさ」

 

「私は聞いてたけどね」

 

「どっしぇい!?」

 

突然後ろから聞き慣れた声がしたことに驚いて、変な声をあげてから後ろに振り向くとジト目をした古手川が立っていた。

 

「古手川さん?一体何時から居たんです?」

 

「梓さんが一人言を始めた所から」

 

「…要するに最初からかよ」

 

気まずさを誤魔化すように孝二は頭をかく。その様子を見て古手川はため息を吐いた。

 

「梓さんだけ残ったから何かあるのかと思って聞いてたんだけど…そんな理由なら愛菜にも言ってあげれば良いのに。喜ぶよ?」

 

「俺に死ねと言うのか」

 

「いや、誰も言ってないけど」

 

話を変えるのを許してくれそうにない古手川の雰囲気を感じて、諦めたように孝二は話し出す。というか誠心誠意頼み込む。

 

「あー…アレだ。ほら、男の子の意地とか色々あってなぁ…だから愛菜には黙っていてくださいお願いします!」

 

お手本のように頭を下げて頼み込む孝二を見て千紗はクスッと笑った。

 

短い付き合いだが本当に変わった人だと思う。

 

普段はペラペラとあれだけ口が動くのに、必要な時にはどうやらほとんど機能しないらしい。

 

「そこまで言うなら言わないよ。だけど一言だけ言わせて。まあ、何時も言ってることだけど」

 

危なかったと安堵の息を吐いている孝二に千紗は笑いながら言う。

 

「響君って、たまに物凄くバカになるよね」

 




注意 千紗はヒロインではありません


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11 俺のバイト先にコイツらが来るなんておかしいだろ!

新刊出てテンション上がったので久しぶりに投稿します!短めですが笑


「バイトをするだぁ?」

 

また妙なことを言い出したものだと孝二は訝しげに伊織と耕平を見つめる。自分たちがどれほど難易度が高いことを言っているのか分かっているのだろうか。

 

こんな馬鹿どもにでもできる仕事を提案することがどれほど難しいか考えてから発言して欲しい。

 

「クズのお前なら知らないか?楽に稼げるバイトとか」

 

「クズ仲間しか知らない秘密のルートとか持ってないのか?」

 

「そんなルートがあったら、お前らの方が知ってるはずだろクズども」

 

そうだった。馬鹿の上にクズだった。

 

自分たちが頼んでいる立場であることを忘れたかのような発言に孝二は目の前のクズどもの評価を下方修正した。まだ下があったとは驚きだ。このクズどもに限界という概念は無いのかもしれない。

 

思うことは色々あったが、幸二はペラペラとそこら辺にあったタウンワークをめくっていく。この貸しは何十倍にでもして返してもらうと決めていた。

 

そんな孝二の姿を見た愛菜は、まさかと思う気持ちを抑えきれず孝二に近寄って話しかけた。

 

「言っとくけど、何も聞かずにドアの見張りをするバイトとか白い粉を運ぶバイトとかはダメだからね」

 

「そんなバイト知ってる訳ねぇだろ」

 

本当に愛菜は人のことを何だと思っているのだろうか。今度、真剣に考えの隔たりを埋めた方が良いのかもしれない。

 

「しかし、探してみると良さげなもんは無さそうだな」

 

やはり、コイツらの知能指数が問題なのだろう。可愛げがある分、猿の方が需要がありそうな気がする。

 

「そうなんだ。中々、楽に稼げるバイトが見つからない」

 

「ああ。何故、自宅警備員のバイトがないのか意味不明だ」

 

「いや、そんなもんあるわけないでしょ」

 

至極、尤もな愛菜のツッコミは無視されて、クズどもの話は続いていくが中々良い案は出ない。そろそろ、自分たちに理想的な仕事などないということを悟った方が良いのだが、それには気づかない。だって、クズだもの。

 

収拾がつかなくなりつつあることを悟ったのか、傍観していた梓がスッと助け舟を出す。

 

「自分たちが得意なことから探してみたら?やってみたら案外上手くいくかもよ?孝二は客観的に見て二人の得意なところを挙げる感じで」

 

「梓さん、ナイスアイデア!」

 

梓の案に、おおという顔を浮かべて愛菜は手を叩いて賞賛するが中々に難題である。

 

コイツらの得意なことねぇ…

 

伊織と耕平と孝二は互いの顔を見つめると、暫し考えて同時に言葉を発した。

 

「土下座」

 

「夜襲」

 

「カンニング」

 

「それをどうやってバイトに役立てるつもりよ!真面目にやりなさいよ!」

 

愛菜は三人の言葉に怒鳴り立てるが、残念ながら三人とも至極真面目に答えた結果である。

 

「そんなこと言われてもな。後は一気飲みと服を脱ぐ速さくらいしか思いつかんぞ」

 

「ここは何のサークルよ!?ダイビングとかあるでしょう!」

 

言われてみればそんなものもあった。しかし、古手川クラスならともかく、別にダイビングが得意と言ったところでバイト先候補が見つかるとも思えないが。

 

そう考えると急にコイツらが可哀想になってきた。得意なことを考えても碌に出てこないだけでなく、生涯童貞で終わることか半ば確定しているのだ。こんな底辺どもには優しく接してあげなくてはならないのではないだろうか。

 

そう思った孝二は笑顔で告げた。

 

「諦めて動物園でバイトしたらどうだ?知能指数はそんなに変わらんから猿の仲間になれるかもしれないぞ」

 

「じゃあ、お前はクズ代表として展示されろ!」

 

「ゴミとして清掃会社に回収されてしまえ!」

 

孝二の言葉を皮切りに汚い言葉のラリーが始まった。それで当然済むわけもなく、三人は取っ組み合いを始めて完全にバイトのことなど地平線の彼方に放り投げられてしまった。

 

愛菜はそれを見て頭を抱える。何故、コイツらはこの僅かな時間ですら集中することができないのだろうか。

 

「止めなさい、見苦しい!あんたらバイトの話をしてたんでしょうが!」

 

「そうそう。それに孝二。あんた、そろそろバイトの時間じゃないの?」

 

梓の言葉にそういえば、もうそんな時間かと時計を見た孝二はしょうもない争いを止めて荷物を手に取るが、孝二がバイトをしているということを今知った伊織と耕平は多少驚いた。

 

「孝二の奴バイトしてたのか」

 

「一体何のバイトをしてるんだ?」

 

「そう言えば私も知らなかった。何のバイトをしてるのよ孝二?」

 

「薬を売ってるのよ。愛菜も知らなかったとは意外ね」

 

孝二に投げかけられた問いだったが、答えを知っていた梓はあっさりと答えた。

 

梓の言葉を暫し咀嚼すると、三人は孝二の側に近寄った。

 

「自首しよう孝二」

 

「捕まる前に決断するんだ」

 

「大丈夫。アンタが罪を犯しても私はずっと友達だから」

 

「薬局でバイトしてるだけだ馬鹿野郎」

 

孝二には理解不能だった。品行方正で通っている自分が何故そのように思われるのだろうか。何か誤解をされているとしか思えない。

 

「馬鹿な…このクズが普通に社会的活動を行うだと…!?」

 

「このクズにそんな善性が備わっているのか…?」

 

「アンタら流石に失礼よ」

 

劇画調で驚きを表現する伊織と耕平に言いたいことは山のようにあったが、そろそろバイトに行かなければいけない孝二にそんな時間はない。クズに割ける時間など持ち合わせていないのだ。

 

お先〜と言いながら孝二はそのままダイビングショップを後にする。その後ろ姿を見送ってから伊織と耕平は無言で立ち上がった。

 

「あれ?アンタらもどっか行くの?」

 

「そりゃ、そうだろ」

 

「奴の後をつけるに決まっている」

 

「何でそんなことを当たり前みたいに言うのよ…」

 

愛菜には理解できなかったが、伊織と耕平にとっては常識のような行動らしい。常識って何なんだろう。

 

「アイツが働いてるバイトだぞ?何か特殊なバイトに決まっている」

 

「ああ。何か特別な理由があるとしか思えん」

 

「そんなことないと思うんだけど…」

 

「孝二って普通に頭良いんだけどねぇ」

 

そんな愛菜と梓の言葉を無視して伊織と耕平は店を出て行く。

 

その姿を見てため息を吐きながら愛菜も立ち上がる。クズ三人を放置しておくわけにはいかないという責任感からだ。

 

「あれ?愛菜も行くの?」

 

「はい。アイツら放っといたら何をするか分かりませんから」

 

「なるほどね。じゃ、保護者役よろしくね〜」

 

「不安しかないんですけどね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きの投稿は何時になるか不明です…


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12 俺の仕事ぶりが疑わしいとかおかしいだろ!

新作読んでテンション上がったため、投稿!


「此処が奴のバイト先か…」

 

「そのはずだ。おい、耕平。何時でも電話をかけられるようにしておけよ」

 

「ああ、分かっている」

 

「…一応聞いとくけど何処に電話する気よ?」

 

「「警察だが?」」

 

何を当たり前のことをと言いたげな二人の顔に愛菜は何も言えなくなった。

 

この二人は友人のことを何だと思っているのだろうか。

 

そんなことを愛菜が思っている最中でも伊織と耕平は周囲を警戒しながら慎重に孝二のバイト先へと向かっていく。

 

BGMがあれば確実にミッションインポッシブルが流れているだろう。友人のバイト先に向かっているだけなのだが…

 

「北原。店の中の人物を確認した。どうやら奴以外には成人男性が一人だけのようだ。恐らく店長だな」

 

「そうか。何か脅されてる気配はないか?」

 

「見た限りでは確認できない。普通に仕事をしている風に見える」

 

「そりゃ、そうでしょ…」

 

当たり前のことを確認している二人に愛菜は疲れた風にツッコミを放つ。ここに来るまでの過程で既に疲労が伺える。

 

可哀想なことだがこの場にツッコミ要員は愛菜一人しかいないので頑張ってもらうしかない。

 

「甘いぞ、ケバ子。アイツのバイト先に行くのに注意力が不足している」

 

「アンタらの警戒が異常なだけでしょ!!どう見てもただ薬局でバイトしてるだけじゃない!」

 

テキパキと動きながら接客と店頭の品揃えを確認している二人の男。どう見ても通常の接客風景だ。

 

「確かにな…だが、もう一つ別の可能性も視野に入れるべきだ」

 

「そうだぞ、ケバ子。恐らくだが、あの店長は既に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響に洗脳されている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でそうなんのよ!!」

 

真剣な顔でバカなことを言いまくる二人に愛菜は正常な反応を返す。

 

しかし正常でない二人には意味がなく、愛菜の声に疑問符を浮かべる。

 

「そうとしか考えられんだろう」

 

「ああ。あの社会不適合者を雇う人間などそれくらいしか考えられん」

 

「うるせぇぞ、クズども。営業妨害だ」

 

騒いでる二人に対して向けられるさっきまで聞いていた気がする声に三人はバッと正面を向く。

 

そこにはゴミを見る目で伊織達を見る孝二と店長と思われる男性がいた。

 

「おや、孝二君のお友達かい?」

 

「「「いえ、初対面です」」」

 

「何でそんな意味ない嘘をつくのよ!」

 

何でも何もこんなクズどもと友達と思われたくないからに決まっている。

 

そんなことを孝二は思ったが、言ったところで理解されないこと請け合いなので黙っていることにした。

 

なお、伊織と耕平も同意見であったことは余談である。

 

「まあ、良い。わざわざ良く来たな。ほらよ」

 

孝二はそう言うと伊織と耕平にオレンジジュースを渡したが、物凄く怪訝な顔をされた。

 

失礼な奴等だと思った。

 

「その顔は何だ」

 

「毒でも入ってるんじゃないだろうな?」

 

「良く見ろ。未開封だろ?」

 

「確かに。毒を入れた痕跡は見当たらないな」

 

「当たり前だろ?わざわざここまで来た奴等にそんなもの渡すかよ」

 

誠に心外である。何故、俺がそんな扱いを受けねばいけないのだろうか。

 

孝二の言葉ではなく未開封であることに安心した伊織と耕平はゴクゴクとオレンジジュースを飲んでいく。

 

「ねぇ、私の分は?」

 

「悪いが二本しかない。これで我慢してくれ」

 

「って、ただの水じゃない!」

 

「しょうがないだろ。ちょうど良いのが無いんだから」

 

「あー、いいなぁ、二人とも」

 

そう言って愛菜は美味しそうにオレンジジュースを飲んでいく二人に視線を向ける。

 

「美味いか?」

 

「おお、何か妙な味がするけどそれはそれで美味い」

 

「ああ。こう言うものだと割り切れば結構イケるな」

 

「そうか…なるほどな」

 

そう言うと孝二はクルリと後ろを向いて店長に告げる。

 

「店長。やっぱりあの賞味期限切れのオレンジジュースそろそろヤバいみたいです」

 

「そうですか…なら廃棄処分にするしかないね」

 

伊織と耕平は二人の話を聞いて思いっきり吹き出した。

 

その飛沫を孝二はさっと避ける。

 

「おい、店で吐き出すな。汚いぞ」

 

「「何つぅ物を飲ませてんだお前はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

顔中に青筋を浮かべた二人が怒鳴ってくるが素知らぬ顔で孝二は告げる。

 

「嘘はついてないだろ。毒は入れてない」

 

「おい、開き直ってるぞコイツ!」

 

「安心しろ、別に多少賞味期限が切れてた所で死にはしない。死んでも別に構わないがな」

 

「お前が死ね!二度と帰ってくるな!」

 

「おい、俺にそんなこと言って構わないのか?」

 

「当たり前だろ」

 

「貴様のようなクズに何を言ったところで罪悪感などカケラも湧かん」

 

「別にお前らが良いなら食費に困ったときに賞味期限切れの商品をこっそり回しても良かったんだけど」

 

「「ありがとうございます、響様!!」」

 

「そこは人として断りなさい!」

 

手のひらを返したかのように土下座して喜ぶ伊織と耕平に愛菜は人としての尊厳を持てと怒鳴っているが、このクズ二人にそんなものがあるわけがない。

 

「しかし、こう見てると薬局のバイトというのは中々ありだな」

 

「確かにな。涼しいし、そんなに動かなくても良いし快適そうだ」

 

そうだとすれば二人の行動は一つだった。

 

「「どうでしょうか店長さん。このクズよりも俺の方を雇っては?」」

 

「ついさっきまで響様とか言ってた口で…」

 

クズ二人の変わり身の早さに愛菜はドン引きしているが、この二人はこんなものである。

 

「有難いんだけど、孝二君は覚えが早くてね。一人で二人分の仕事ができるんだよ」

 

「ほう、そうですか」

 

「一人で二人分ですか」

 

その時、伊織と耕平の頭の中に雷鳴の如き閃きが起こった。

 

「つまり、奴を殺せば…」

 

「二人分の仕事が発生するわけか…」

 

「そんな訳ないでしょうが!とにかくその手に持ったバットを置きなさい!」

 

ニタリと笑いながらとんでもないことを口にし出した二人に対して愛菜は烈火の如く否定の言葉をあげる。

ニコニコ笑いながら見てたことから店長は気付いていないが、愛菜はこの二人が本気であることを気付いたが故の反応だ。

 

慣れって怖いね。 

 

「そもそもアンタらに薬局のバイトなんて無理だから」

 

「失敬だな」

 

「やる前から決めつけるな」

 

「じゃあ、簡単なクイズから。薬はお酒と一緒に飲んで良い?悪い?」

 

「「良い」」

 

「いきなり間違ってるわよ!悪いに決まってるでしょ!」

 

常識問題を初っ端から間違えた二人に愛菜は頭を抱える。

 

こんな二人を薬局で働かせていては近辺の人に迷惑がかかること請け合いである。

 

しかし、とはいえ…

 

チラリと愛菜は働く孝二を見遣る。

 

自身の友達の彼氏であり、愛菜本人としても良く知る友人であるのは間違いないがその人間性に問題がないかと聞かれれば間違いなくあると答える。嫌な信頼である。

 

よって、伊織と耕平とは別の意味で薬局でバイトをするには問題がある人間だと言える。まあ、働きぶりに問題はないようだが。

 

友人としての使命感に駆り立てられた愛菜は孝二に聞こえないように店長に話しかけた。

 

「あの、孝二って本当にちゃんと働いていますか?」

 

「ああ、そうだよ。お客さんにも人気がある」

 

「そうですか…一つ聞いても良いですか?」

 

「何だい?そんな真剣な顔をして」

 

「今まで孝二が関わったお客さんの中で消息不明になった人はいませんか?」

 

「…彼女は何か勘違いをしていないかい?」

 

「いえ、全く」

 

「奴を知る者であれば当然の疑問です」

 

店長からすれば意味がわからない愛菜の質問に対して伊織と公平に疑問を投げかけるが、何故か真顔で肯定している。

 

この子達の人間関係に疑問が生じたが、まあ、何か誤解でもあるのだろうと考えた店長は思った通りの回答をした。

誤解でもないことは知らない方が幸せなのだろう。

 

「孝二君は働き者だよ。今だってほら」

 

店長はすっと孝二を指差す。そこでは孝二は薬の名前を確認しながら配列している所だった。

 

「薬の名前とかを覚えるのに一生懸命でねぇ。何時だって真剣だからこっちも応援したくなるよ」

 

「そうなんですか…」

 

その話を聞いて愛菜は少し己を責めた。友人を疑うとは何たることであろうか。

 

少し伊織と耕平の影響を受け過ぎているのかもしれない。これは気を付けるように心掛けようと決意した。

 

「とはいえ、最初は不安だったんだけどね」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、実はウチはパソコンで薬の在庫とかを管理してるんだけど…

 

 

 

 

最初の方は何故か青酸カリとか媚薬とか劇薬とかそんなことばっかり調べていてねぇ。まあ、興味があっただけなんだろうけど」

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことはありません」

 

「それが奴の本性です」

 

「それと、この近辺で何か犯罪が起こったら警察を呼んでください。アイツが犯人です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今から最新刊が楽しみです!


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13 古手川に文化祭のチケットをあげるなんておかしいだろ

新刊出たので久しぶりの投稿!


「何!?愛菜が古手川に文化祭のチケットをあげたのか!?」

 

信じられないものを見るかのように自分を見てくる彼氏にかな子は首を傾げる。

 

「う、うん、そうだけど…何、その反応?」

 

「浅はかなことを…何故俺に相談しないんだ!」

 

「コウに相談して何があるのよ?」

 

「俺のチケットで古手川も一緒に入れば良い。それで解決だ」

 

「それで何が変わるのよ…」

 

孝二の発言をイマイチ理解していないかなはジト目で孝二を見遣る。

 

だが、孝二からしてみれば何故自分の発言の真意が分からないのか理解できない。こんなものどう考えても明白だ。

 

「クズの童貞共が群がってくるのを防げることに決まってるだろ」

 

「何も決まってないよね」

 

残念ながら決まっているのである。

 

あの童貞どもの執念。

 

愛菜のポンコツっぷり。

 

これはバレて騒ぎになる未来しか想像できない。

 

「というか、別に皆で一緒に行けば良いじゃない」

 

「絶対にやだ」

 

「何でよ」

 

「理由は二つある。まず俺がかなとイチャイチャしながら学園祭を回れなくなる。かなだって困るだろ?」

 

「いや、流石に私は知り合いばっかりのところでそんなにイチャイチャしたくないから別に良いけど」

 

「そうだよな、困るよな。それが一つ目の理由だ」

 

「話聞いてないよね!?」

 

聞いているが、照れ隠しに決まっているので無視することにした。きっとそうに違いない。

 

「二つ目の理由は…少し複雑でな…」

 

カランと音をたてながらグラスを置いて空を見上げた孝ニを不思議な目で見ながらかな子は続きを促す。

 

「どんな理由なの?」

 

「俺は見たくないんだよ…あいつらの…

 

 

 

 

 

 

 

 

嬉しそうな不細工な面なんて」 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こういう所さえ無ければなぁ)

 

目下、自分の彼氏の人間としての器の小ささがかな子の悩みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

などと思っていた孝二だったが、学校に着いてチケットの行方を調査して直ぐに心は安穏としたものに変わり、ゆったりと落ち着きながら授業を受けていた。

 

(まさか、こんな俺にとって都合が良い流れになるとはな…やはり、俺の普段の行いの良さが原因か)

 

孝二はラピュタに乗ったムスカ大佐のような気持ちで愚かな童貞どもを見下していた。

 

勝った。最早、負ける要素などカケラも見当たらない。やはり、正義は勝つのだ。

 

誰が正義なのかはとりあえず置いておいても、孝二がチケットを手に入れることは他人から見ても既定路線だった。

 

理由など簡単だ。千紗のチケットで学園祭に一緒に行ける人を千紗が決められるというルールが追加されたからである。

 

千紗の孝二に対する評価は信じられないレベルで高い。

 

そして伊織を含め、他の男子クラスメートの評価は信じられないレベルで低かった。

 

何故、千紗の孝二への評価がそこまで高いのか理解できない周囲は時折、議論を交わしているのだが誰も満足のいく結論は導き出せない。

 

当人である孝二でさえ、完全には理解できていないのだから当然と言えば当然である。

 

孝二が全く良い行為をしていないわけではないのだが、それ以上にクズ行為を繰り返している。しかし、理解不能な千紗フィルターによって孝二のクズ行為が本人に全くその気がない節度ある行動へと翻訳されているのである。

 

なお、本人からすると自らが認識していない正しい行為を千紗だけが見てくれていると思っている。

 

完全な誤解である。

 

とにかく、そのような事情から孝二は完全に安心しきっていた。後はこの授業が終わった後で古手川に学園祭に一緒に行こうと誘えば終わりだ。

 

自身がかなから貰ったチケットは無駄になることになるがそんなのは些細なことだ。

 

あの童貞どもを喜ばせるくらいなら、このチケットも消滅した方が本望だろう。

 

そんな安心感からか眠くなってきた孝二はウトウトとし始め、首がかくんと下に崩れた。

 

その直後、先ほどまで自身の頭があった箇所の後ろにコンパスが刺さっていることに気付いた。

 

眠気は一瞬で覚め、何が起こったのかと意識を覚醒させる。

 

「おう、すまねぇ。配られた紙を渡そうとしたんだが間違ってコンパスを投げちまった」

 

前の童貞が意味の分からない言い訳をほざきながら、ハハハと笑って謝ってくる。

 

偶然…か?

 

得体の知れない悪寒を全身で感じながら孝二は気をつけろと紙を貰う。

 

その瞬間、今度は隣から物凄い速さで分度器が投げつけられるのを寸前で回避した。

 

「お、すまねぇ。俺も手が滑っちまった」

 

「おいおい、お前もか」

 

「全くこんなこともあるんだなぁ」

 

穏やかな会話を繰り広げているが、孝二はその笑顔の下に隠されたドス黒い感情に気が付いた。

 

そして、それに気がつくと連鎖のように自身を取り巻く周囲の殺気に気が付いた。

 

孝二は全身に冷や汗をかく。間違いないこの童貞どもは

 

(俺を…殺す気だ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー授業が始まる少し前ー

 

「おい、どうした北原?急に全員呼び出して」

 

「いや、ちょっと話しておくことがあってな」

 

伊織と耕平に呼び出された面々は要件を中々話さない伊織に怒りを覚える。

 

何時もなら構わないが今日はそんな時間などないのだ。一刻も早く少しでも古手川の好感度を上げる必要がある。

 

「ちっ、用がないなら帰るぜ。俺は忙しいんだ」

 

「何か用でもあるのか?」

 

「当たり前だ!こんな暇があるなら古手川さんに賄賂でも渡しに行くんだよ!」

 

「止めておけ、そんなことをしても無駄だ」

 

好感度を上げるために賄賂を渡す段階でクズだが、ここでは主題ではないので無視する。

 

「何が無駄なんだよ!」

 

「そんなことをせずとも、古手川が選ぶ奴なら響に決まっている」

 

「はあ、何でだよ?彼氏の北原なら分かるが」

 

「俺と奴との好感度では比較にならない」

 

「ああ。そこらに落ちている犬のフンとエメラルドくらいの違いがある」

 

「「「お前、本当に彼氏だよな!!!???」」」

 

彼氏とは何なのだろうかと疑問に思う発言だが真顔で肯定する伊織と耕平を見ると真実であることだけは伝わった。

 

だが、それを理解した童貞どもは嘆きの声を上げながら地面へと膝をつく。

 

何故、あのクズだけが美味しい思いを味わうことを神は許したのだろうか。

 

「顔を上げろお前ら」

 

「北原…今村…」

 

崩れ落ちた童貞どもには自信に満ちた伊織と耕平の在り方は神のように見えた。実際にはただのクズが汚い笑みを浮かべながら立っているだけである。

 

「何か手があるのか…?」

 

「当然だ。なあ、北原」

 

「ああ。ゲームが始まる前に奴の勝ちが決まっているのならば…

 

 

 

始まる前に殺れば良い」

 

 

 

 

 

伊織の発言に崩れ落ちた童貞どもの間にざわめきが広がる。

 

倫理観や道徳などを放り投げれば伊織の発言は間違ったものではない。

 

やれば負けることが決まっているゲームに負けたくないのであれば、やらなければ良いだけの話だが、勝ちたいのであればルールを変えるかゲームを始める前に細工をするかどちらかしかない。

 

この場合、その細工がクズどころか完全に犯罪者の思考なのが問題なのだがこの面子に限って言えば

 

「まさかとは思うが、この中に」

 

「学園祭のチケットよりも奴の命の方が大切だと宣う臆病者は居ないだろうな?」

 

「「「笑止!!!」」」

 

そんな倫理観を備えている人間などいるわけがない。今更だが全員クズなのだ。

 

「ふっ、流石だなお前ら」

 

「あたぼうよ」

 

「あんなクズ居なくなった方が世のためだぜ」

 

クズをクズと呼ぶクズどもは武器を高らかに掲げて叫ぶ。

 

「「「さあ、行こう!俺たちの幸せのために!!!」」」

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

(あの、クズ童貞どもがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)

 

孝二は信じられない思いで一杯だった。

 

何故、奴等は自分の幸せのために他者を蹴り落とすことが平然とできるのだろうか。

 

人として失ってはいけない大事な部分が欠損しているとしか思えない。

 

お前だよとツッコミたい気持ちはよく分かるがここではスルーして欲しい。

 

奴等が童貞なのが非常に良く分かる腐った思考回路に自称真っ当な人間である孝二は驚きを隠せないが、そんなことをしている場合ではない。

 

悠長にこんな処刑場に居続ければ間違いなく死ぬ。

 

思い立ったが吉日と言わんばかりに孝二はスッと手を上げる。

 

「先生。少しお腹の具合が悪いので早退してもよろしいでしょうか?」

 

「おや、それは大変だねぇ」

 

当然のごとく仮病だが、それを理由に孝二はこの場から逃げようと試みる。

 

「あの先生。ちょっと良いですか?」

 

「俺もです、先生。ちょっと良いですか?」

 

「何だい山本君と野島君?」

 

「響は俺達の親友なんです。心配なので俺達も早退して良いでしょうか?」

 

(何が親友だ、このクソ共が!!!)

 

心配顔の裏に見える殺意に気付かない孝二ではない。即座に前言を翻し、席に座るとこの場を切り抜ける別の方法を考える。

 

(正攻法では無理だ。アプローチを変えよう。そもそもコイツらがここまで必死なのはまだこのゲームの勝者が決まっていないからだ)

 

この場合の勝者とは言うまでもなく古手川と一緒に学園祭を回れる者である。

 

逆に言えば勝者が決まってしまえば孝二を狙う理由がなくなる。嫉妬で狙う奴等も多いかも知れないが少なくても今よりはマシだろう。

 

であればさっさと古手川と連絡を取り、一緒に学園祭に行ってくれるように頼めば孝二の場合それで勝ちが確定である。

 

周りのクズどもの攻撃を掻い潜り、古手川と会話をするのは不可能だが文明の利器を使えば攻撃を避ける必要などない。

 

そう判断した孝二は携帯を手に取り、古手川へと連絡を取るが何故か一向に届かない。

 

不思議に思い、良く見れば携帯が圏外なことに気が付いた。

 

(変だな…?この教室で圏外なんてことはあり得ない…)

 

直後、孝二はある可能性に思い当たり周囲を見渡す。そこでニヤリと笑う耕平が持っている物に気が付いた。

 

(妨害電波か!!!)

 

ギリっと孝二は歯軋りをする。

 

あのクズどもがそこまでの備えをしていたことに憤慨するが、直後に携帯に見切りをつけて古手川の姿を探す。

 

直ぐに見つけることはできたが、側にクズの総本山である伊織が座っていた。

 

これでは何か紙を投げたとしても叩き落とされるのがオチだ。

 

(マズイ…詰んだ…)

 

幾ら考えてもこの場を打開できる策は思い浮かばない。そうこうしている内に授業の終わりが近づいてくる。

 

(くっ…やむを得ない!)

 

授業が終わればいよいよ物理的に殺される。それを避けるために孝二は授業の終了直後に窓へと突き走る。

 

「「「「殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」 

 

さらにその直後に怒りに狂った童貞どもは隠し持っていた武器を孝二に向かって放り投げる。

 

圧倒的な殺意に恐怖を覚えるが立ち止まることはできない。立ち止まれば待っているのは死のみだ。

 

それを知っていた孝二は減速せずに3階の窓から身を投げ出した。

 

「「「「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」」

 

その行動は予想外だったのか驚きの声を上げながらクズどもは窓へと近づき、木をクッションにして無事に着地した孝二の姿を忌々しげに睨む。

 

「まさか、あの自己保身に長けたクズが3階から飛び降りるとは!!」

 

「自分の身だけは第一に守るクズがこんな手段を!」

 

妙なベクトルで驚いている周囲を尻目に伊織は冷静に指示を飛ばす。

 

「待て、慌てるな」

 

「北原…!?しかし…」

 

「落ち着け。あのクズがこんな手を使ったということは逆に言えばそれしか逃げる手段がなかったからだ。奴には手が無い!範囲を徐々に狭め確実に滅ぼせ!!」

 

「「「「おおよ!!!」」」」

 

伊織の声に謎の連帯感を強めたクズどもは揃って孝二を殺しに外へ出る。

 

そんな姿を黙って見ていた千紗はジト目で伊織を見る。

 

「で?今度は何の騒ぎ?」

 

「気にするな。ただの鬼ごっこだ」

 

「いや、響君しか逃げてなかったけど」

 

「少し特殊なルールがあってな」

 

「どんなルール?」

 

「鬼は一人で逃げて周りの奴等が鬼を追い詰めるんだ」

 

「いや、その段階で鬼ごっこじゃないから。ただの鬼いじめだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




話の都合上、原作の時系列を少しイジる予定です


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14 俺がクズ共から狙われる何ておかしいだろ!

例によって新刊出てテンション上がったので投稿です。


孝二はあり得ない出来事に頭を抱えていた。

 

何故こうなるのだろう?何処で間違えてしまったのだろう?

 

しかし、幾ら考えても明確な解答は得られなかった。孝二には自分が間違っていないという確固たる自信と自負があった。

あの童貞軍団の喜ぶ顔が見たくないという人として当然の感情は正当化されてしかるべきものであるし、古手川からの信頼が高いのも普段の行いとして仕方がないものだった。本当に人徳というものは本人の意図せざる結果を招くものだ。

 

しかし、あの童貞どもは嫉妬の対象を間違えていると言わざるを得ない。あの類人猿どもと孝二はそもそも種族というカテゴリーにおいて違いがあり、比較する対象ではないのだ。奴等が比較をするとしたらパン君やコンボイが先であり、間違っても自身と比較すべきではない。

 

はあ、とため息を吐く。いや、考えるのは止そう。たかが学園祭に行くという性欲しかない目的のために誰かを殺そうとする常軌を逸した行動をする連中の心境など分かるはずもない。今、大切なのはこの状況をどう乗り越えるかだ。しかし、事態を打開する方法を模索するが碌な考えが出てこない。ほとんど盤面的に詰んでいるのだから当然といえば当然である。

 

孝二としてもこれは完全勝利は諦めざるを得ない。しかし、戦略的な勝利まで捨てるわけにはいかない。何があったとしても、かなとイチャイチャするという最終目標だけは達成してみせる。そのためにはあのクズどもを絶滅させたとしても構わなかった。発想は完全にクズどもと同列だった。

 

孝二は携帯が未だに圏外の状態であることを確認すると、すっと懐からある物を取り出した。それにメモを貼り付けるとそのまま目立つ場所に配置した。設置後、そのままある場所で待機し自分の想定通りの人物が現れることをじっと待った。暫くすると思い描いた人物が現れたことを確認する。孝二はニヤリと笑う。第一段階クリアだ。

 

「来たか。お前だとは思っていた」

 

「だろうな。なあ、耕平…俺と取引をしないか?」

 

孝二が設置した水樹カヤの写真に見事にハマった耕平は孝二が指定した場所にやって来た。騙し討ちも当然考慮したがそれでは旨味がない。殺るべきクズはまだ山のように溢れているのだ。水樹カヤへの興味が先行し、他人への興味が薄い耕平はこの状況を打開するために最適な利用相手と言えた。耕平ならば水樹カヤのライブが見れれば自分が何をしていようと興味など持たないだろう。

 

「ほう?見返りは何だ?」

 

「文化祭のチケットだ。それの権利をお前にくれてやる」

 

「話にならんな。お前が古手川のチケットを取る前に死ねば終わりだろう」

 

「誰が古手川のチケットだと言った?俺は俺のチケットをお前に渡すと言ったんだ」

 

ピクリと反応した耕平に証拠と言わんばかりに懐からヒラヒラと文化祭のチケットを見せびらかす。これは偽物でも何でもなく正真正銘本物のチケットだ。耕平とて信じざるを得ない話だ。

 

「貴様…何故そんな物があるのを先に言わない?」

 

「奴等が悔しがる面が拝めるんだぞ?当然だ」

 

「なるほど、理解した」

 

何をどう理解したのか意味不明だが、クズにはクズにしか伝わらない何かを持っているのだろう。

 

「落ち着いて考えろよ、耕平。良い取引だと思わないか?俺を殺したところで古手川のチケットだけでは全員行くのは無理だ。どの道、争奪戦は避けられない。だが俺のチケットで一緒に行ければ俺の結果がどうなろうとお前は文化祭に行けるんだぞ?」

 

「良い取引だ。なら、担保としてそのチケットを俺に渡せ」

 

「論外だ。お前、渡したらそのまま逃げる気だろ」

 

議論は平行線だった。協力体制を取ることを提案してはいるがこの二人はお互いのことをカケラも信じていない。お互いがクズだということを骨の髄から知っているからこそ現物という名の担保を欲していた。信頼などという何処かで聞いたようなキレイな言葉など存在しなかった。

 

だが、そんなことなど最初から知っていた孝二に手抜かりなどない。

 

「だからこそ…これだ」

 

「こ、これは…!?」

 

孝二は懐から水樹カヤの写真をスッと見せた。先程の宣材写真とは違う、プライベートな水樹カヤ写真だ。

 

何故、こんな物を孝二が持っているのかと言えば単に彼女の姉であり、度々会うことが多いからである。孝二にとって頭が上がらない数少ない人物の一人ではあるが写真を撮ることは比較的簡単に可能だ。利用できる時のために何時も持ち歩いていたのである。

 

「担保の代わりにこれを渡すと言えばどうする?」

 

「俺は何をすれば良いんだ親友」

 

「物分かりが良くて助かるよ、親友」

 

孝二は邪悪に笑った。ククク、やはり世の中は俺の都合の良い風に回るのだ。信頼?信用?人間関係に必要なものはそんなものではない。人間関係にとって必要なのは利用価値とそれをどう活かすかだ。それを世の中の大半の連中は理解していない。だから奴等は俺に負けるんだ。

 

人でなしの社会不適合者は目の前の利用対象に今後の作戦を告げた。とは言え、その利用対象も社会不適合者のことを金脈としか考えていないので大して問題はない。お互いの利用価値でのみ手を結ぶ青春の象徴たる学生とは思えない関係である。

 

「さて…ゲームスタートだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、今村!アイツが見つかったってのは本当か!?」

 

「本当だ。だが、俺一人では逃げられる可能性があるからな…お前らに来てもらった」

 

耕平に案内されて着いてきたクズ共は耕平が指差すドアの前で笑いながら武器を構えた。勿論、孝二を殺すためであり彼等にそれを止める倫理観など持ち合わせていなかった。

 

「さあ、行くぞテメェラァァァァァァァァ!!」

 

先頭のクズが率先してドアを開ける。後ろのクズ共も続いてドアを開けた。そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「乾杯ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」」

 

全裸の筋肉がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クズ共はこの世で最も見たくない光景を見て異常な吐き気に襲われた。筋肉など彼等が忌避する対象であるのにそれに加えて全裸だ。最早、有害物として通報することを考慮に入れなくてはならない案件だ。

 

「お、お前達が孝二の言ってた参加者か?」

 

「え?」

 

筋肉の一人が理解できない言葉を発した。

 

「よし、孝二の知り合いならとりあえずコレだな」

 

別の筋肉が無理矢理手にコップを持たせて謎の飲料を入れてきた。水に見えるが本能的に水でないことを理解した。同時に本能が此処にいては危険だということを全力で訴えていた。

 

逃げようとするクズどもの前に立ち塞がる筋肉は彼等を容易く制圧すると、とてつもなく汚い笑顔で共に飲むことを強要してきた。避けようがなかった。

 

「よし、じゃあ、全員持ったな!じゃあ、もう一度改めて乾杯ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

その部屋に入ったクズ共の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処が今村が言ってた響の隠れ場所か?」

 

「そのはずだが」

 

別の場所に呼び込まれたクズ共の別部隊は居るはずの男がいないことに焦燥感を募らせていた。

 

「クソ、あのクズ何処にいきやがった!おい、お前らも早く探して…」

 

後方のクズの声がしないことから前方のクズは後ろを振り向くと、後方のクズが軒並み倒れている姿が見られた。

 

孝二の仕業かと周囲を警戒するが、そこには孝二ではない人物の声が響いた。

 

「あー、ごめんごめん。ボールぶつけちゃったな」

 

必死で孝二を探す彼等の背後から数人のテニスラケットを構えた男達が見られた。その男達は笑顔なのだが、その笑顔の裏側に強烈な殺意が感じられた。

 

「しかし、まだこんなに残ってたのか。おい、お前らもっとボールを持ってこい!」

 

リーダーと思われる褐色の男は舌打ちをしながら背後の後輩に命令を飛ばす。残ったクズ達は総じて冷や汗を浮かべる。何だ?一体何が起こっている?

 

「お、おい、何だアンタら!?何で急にこんなことを!?」

 

「何で?お前らがそんなことを知る必要はない…ただ…」

 

褐色の男はドス黒い笑顔を見せる。逃げるべきだとすぐに判断した。しかし、全ては遅過ぎた。褐色の男達は補充されたボールにラケットを打ち付けながら叫んだ。

 

「俺達の平和のために死んでくれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

別働隊のクズ共の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手くいったようだな」

 

双眼鏡で見えた光景にほくそ笑みながら孝二は目の前の惨劇を見つめている。

 

「数には数だ。俺の人望を利用すれば造作もないことだ」

 

「しかし先輩達はともかく、あのテニサー達はどうやって協力させたんだ?」

 

「分かっていないな耕平。人間とは助け合う生き物なんだ。誠心誠意頼み込めば協力してくれるものさ」

 

「なるほど、つまり、脅したのか」

 

?理解不能だ。

 

「誰もそんなこと言ってないだろ。一生懸命頼み込んだんだよ。最後には快く土下座してお願いを聞いてくれたし」

 

「だから脅したんだろ?」

 

違う、そんな非人道的なことはしていない。

 

確かに先日の騒動の際に入手したメールデータの一部を偶然持っていたので彼等に返そうとしたが、それは間違いなく善意からの行動であり間違っても彼等を脅す材料に使用する気などカケラも無かった。

 

仮にこちら側の心からの願いを無碍にされれば傷心のあまり、そのデータをインターネットに曝露しようとしてしまったかもしれないが飽くまでもそれは仮定の話であり、現実とは関係ないフィクションだと断言できる。

 

だとしたら、やはり俺は脅しなどしていない。どの角度から見ても自分の正しさを証明できると思われるが耕平は俺が脅したと誤った前提を信じ切っているため証明に耳を傾けるとは思えなかったので止めにした。大人の男である。

 

「大方のクズ共は今ので消え去ったし…後は伊織達か」

 

「また同じ手を使うのか?」

 

「いや、奴等には通じないだろう」

 

猜疑心に全ての感情を振っている連中だ。少しでも疑問があればすぐにでも疑いをかけるため、安易な誘いには乗ってこない。

 

「では、どうする?」

 

「そうだな…まあ、分かりやすく正面突破で良いだろう」

 

「まだ5対2だぞ?」

 

「くくく…傍目にはそうだな」

 

耕平の指摘に孝二はニヤリと笑う。側から見たらそうとしか見えないだろう。だが、現実は違う。丁度良い、勝負とは始まる前の準備の段階で決まるということを教えてやろう。

 

「お前…完全に悪役の顔だぞ」

 

「知らないのか?悪は正義の隣人なんだよ」

 

正義面した奴ほど他人に当たりやすい上に、自らの行動が正しいと疑わない。SNSで悪意をばら撒いている連中がそれに該当するだろう。それが正義だと勘違いしているならば彼等こそ悪であり、悪に見える自らこそが正義なのだ。

 

意味が分からない論法だが、本人的にはそれで納得しているので話を進めよう。

 

「さて、行くぞ耕平。俺達の勝利は目前だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回で終わらせるつもりでしたが長くなりそうなのでできませんでした…大まかな流れは決まってるので次は早めに投稿かもです(できるとは言ってない)


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15 こんな誤解のされ方っておかしいだろ!

予定通り、早めに作成できたので投稿します!
次回は冬…かなぁ。(約束できず)


「四人…か。纏まってくれてるとはあのクズ共楽をさせてくれるじゃないか」

 

今村と最初に追い詰められた教室へと向かうと、その付近で目標の5人のうち4人が視界に入る。

 

「北原の姿は確認できないが何処だ?」

 

「古手川の所だろう。俺と古手川が会話したら終わりだからな」

 

奴等の勝利条件を考えれば古手川のガードは必須だ。となれば古手川の所に俺を一番良く知る伊織を置くのは悪くない選択肢だ。

 

「確かにな。では、残りの四人が集まってるということは俺がこちら側についたのはバレてると言うわけか」

 

「恐らくな。だが、確かなことは分かるまい。何の証拠も無いのだからな」

 

確かめようがない以上、疑いがあっても確定はできないだろう。俺にやられた可能性とて十分に考えられるのだから。

 

「北原が居ないとはいえこっちの倍だ。どう攻める?」

 

「とりあえず不意打ちだ。そこで2人倒せれば残りは同数。何とでもなる」

 

「そんな都合良くいくのか?」

 

耕平は怪訝な顔を浮かべる。まあ、こんなガバガバの作戦なら不安にもなるだろう。

 

「いかなくとも問題ない。次の策はある。良いか?仮にピンチになったらこう叫べ」

 

孝二は耕平にある単語を伝える。それを聞いても耕平は怪訝な顔を崩さない。

 

「それが何なんだ?」

 

「お前には意味がなくとも奴には意味がある単語だ。良いな…行くぞ!」

 

そう言うと同時に孝二と耕平は扉を開け放つと同時に教室の中へと侵入し、即座に攻撃を行った。

 

完璧な奇襲だった。2人の攻撃は流れるようなスムーズな動きで行われており、常人では回避することは不可能だった。

 

しかし

 

「「ふん!」」

 

孝二の金属バットと耕平のスタンガンは中にいた4人の内の2人ーーー野島と山本によって止められていた。

しかも素手だ。人間業ではない。

 

「この野郎…コレを止めるかよ」

 

「ふん、当然だ。お前の行動はシュミレーション済みだ。今村が裏切った理由は不明だが、別にどうでも良い。古手川さんのチケットを手に入れるための障害が減っただけなんだからなぁ!」

 

俺たちが止められている間に残りの2人が背後に回ろうとしてくる。はっきり言って普通に考えれば詰みの状況だ。

 

飽くまでも普通に考えればの話だが。

 

「耕平!」

 

「分かっている!」

 

2人はすうっと息を大きく吸い込む。

 

「「俺たちは大橋りえを知っている!!」」

 

「突然、何を…なっ!?」

 

良く分からない名前を叫んだ2人に山本と野島は首を傾げるが、目の前の光景に目を疑った。

 

「「藤原ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

残りの2人のうちの1人がもう1人の手によって打ち倒されたのだ。予想外過ぎる展開に思考のリソースの大部分がそちらにもっていかれた。

 

その隙を見逃す2人ではない。瞬時に攻撃態勢へと移り、スタンガンと金属バットを相手にぶちかました。

 

「敵を前に注意力を疎かにするとは愚かな」

 

「それよりも俺はコイツがこっち側についた理由の方が気になるんだが?」

 

くいっと指を俺たち側についた男に向ける。

 

「何言ってんだ?親友だからだよ。なあ?御手洗?」

 

「当たり前だ。当然だろう」

 

孝二がサムズアップしたのに合わせて御手洗もサムズアップで答える。流石は親友だ。孝二は満足げに首を振る。

 

「さーて、それじゃ北原を殺しに行くか」

 

「いや、お前には別の役割がある」

 

「ん?何をするんだ?」

 

「決まってるだろ?」

 

そう言うと孝二は耕平からスタンガンを借りて御手洗に渡し、サムズアップした親指を下へと向ける。

 

「自害しろ」

 

「…は?」

 

孝二の発言に御手洗はダラダラと汗を大量に流す。普通に考えれば聞き間違いだと思うレベルの案件だ。しかし、このクズを知る御手洗から見れば今の発言は本気だとしか思えなかった。

 

「つ、つまんない冗談を言うなよ響。笑えないぞ?」

 

「安心しろ。冗談じゃないからな」

 

冷や汗を垂れ流す御手洗に向けてニコリと孝二は笑顔を向けた。クズの笑みである。

 

そもそも孝二からしてみれば連れて行くなどという約束は全くしていない。していないのであれば、当然連れていかれないことを考慮に入れるべきであり、それを考慮に入れていなかった御手洗に全ての責任はあると言える。

 

少なくとも孝二の視点から見ればそうだった。ほとんど詐欺師と同じである。

 

「な、何で俺を自害させる?北原を殺すには俺が必要だろ?」

 

「残念ながら伊織を殺すのにお前は必要なコマではないんだ」

 

友人を指すのにコマという言葉を示す時点で人として終わっているが、今更なので省略する。

 

「お、俺たち親友だろ?」

 

「勿論だとも。だからこそ自害という自主性を重んじた方法にしているんじゃないか」

 

殺すのであれば耕平と2人がかりで行っても構わないし、何なら奴の秘密を暴露するのも面白いだろう。そうなれば奴は嫉妬に狂った童貞達に殺されることになる。その様を愉悦に浸りながら見物するのも一興だった。

 

それをしないで敢えて自害を選ばせているのだからこれは優しさ以外の何者でもない。自分という人間は何と慈悲深い人間なのだろうか。これは聖人と言っても過言ではないのではないか。

 

無論、過言であり、聖人に滅ぼされる側の立場であることは言うまでもない。

 

「か、考える時間を…」

 

「生憎と時間がない。後、10秒で自害しなければあの子との関係を学校中に知らせることになるだろうな」

 

9、8という残酷なカウントダウンが孝二の口から放たれた。そんなことになれば自分の命運が尽きることを御手洗は良く知っていた。故に選択肢など無かった。

 

「こ、この腐れ外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

この断末魔を最後に御手洗の意識は途切れた。

 

それを確認した後に孝二は床に落ちたスタンガンを耕平に渡し、大きく伸びをする。

 

「さーて、後は伊織だけか」

 

「結局、あの名前の子は誰だったんだ?」

 

目の前の惨劇を見ても耕平は特に思うことはなかったため気になっていたことを尋ねた。だって、クズだもの。

 

「聞かないでやってくれ。自害したクズへのせめてもの情けだ」

 

特にこの情報を利用して再度お願いをしない等という約束はしていないため、今後も最大限利用するためにも情報の流失は抑えておきたかった。情けでも何でもなかった。

 

「貴様にそんな感情があるのか?」

 

「何を言っている。俺ほど慈悲深い人間も珍しいぞ。まあ良い。あのクズに別の策を練られても面倒だ。先を急ぐぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、何かがおかしい!嫌な予感がする!」

 

「私から見れば何かどころか全てがおかしいんだけど」

 

何が起きているのか全くわかっていない千紗から至極真っ当な言葉が漏れるが伊織にはそれに返事をする余裕が無かった。

 

本来であれば圧倒的な人数差によってとっくに孝二がやられた報告が届いてもおかしくないにも関わらず、全く報告が上がってこない。不気味以外の何物でもなかった。

 

「まさか全員やられたのか?あのクズは方法を選ばん。あり得ない話ではないが…」

 

クズを良く知るのはクズと言うべきか伊織は現状考えられる最悪の展開を想像しながら、次回の打開策を模索していく。と言っても、この段階まで来れば取れる手段など限られているが。

 

「本当に何が起こってるの?」

 

「千紗のチケットで誰が一緒に行けるのかの争奪戦だ」

 

「それに何で響君が?」

 

「何でって行きたいからだろ」

 

「響君ってチケット持ってるはずだけど」

 

「…何?」

 

千紗からの予想外の回答に伊織は驚きの表情を浮かべる。

 

「何で千紗がそれを」

 

「愛菜が言ってたの。私が響君を誘って行こうかなって言ったら響君は自分でチケットを持ってるって」

 

だから別に私のチケットが無くても響君は行けるはずなんだけど、と千紗は続けるが伊織はその以降の言葉は聞こえていなかった。

 

もしや、自分は前提を間違えているのではないか?追い詰められた伊織の頭脳は高速回転を始めた。

 

なら、何故アイツは俺たちから逃げている?別にチケットを持っているなら逃げる必要など無い…いや、違う!あのクズの心境に立って考えるんだ!俺があのクズならどうする?自分のチケットがあっても千紗のチケットまで手に入れれば他の奴等に有利に立てる…であれば、多少無理をしてでもやる価値はある…奴ならそう考える。であればチケットを持っていてもこのゲームに参加していることに違和感はない。

 

そして、そうであるならばこの状況において俺が取れるルートは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴がいるのは此処のようだな」

 

「どうする?数はこちらが上だが」

 

「普通に攻める。それで終わりだ」

 

数は力だ。どのような策を練ったとしてもこの前提だけは変えることはできない。

 

「いいな?3で一斉に行くぞ。1、2、3!」

 

孝二と耕平は3と同時に飛び出し、伊織を打ちのめそうと武器を振り上げる。だが

 

「ありがとうな、孝二ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

満面の笑顔で良くわからないことを宣う伊織に孝二と耕平の手が止まる。何かの作戦か?と考えている間に伊織は立て続けに言葉を発する。

 

「いやあ、流石だよな孝二は!流石は俺の親友だ!」

 

「響君と今村君?2人揃ってどうしたの?」

 

伊織が意味不明なことを宣っている間に大声で釣られた千紗が側によって来るが様子から見るに千紗も伊織が何を言っているのか理解していないらしい。

 

「おお、千紗!お前も聞いてくれ!何と孝二が俺たちと一緒に文化祭に行こうって言ってくれてるんだ」

 

何言ってんだコイツ。

 

ありもしない幻想のようなことを話し続ける伊織に孝二は顔を顰める。そんなことが起こるはずもなく、そんな気すら孝二には無い。

 

そう、それは確かに幻想でありそんなことは現実には起こり得ない。

 

「そうなの?でも、何であんなことをした伊織達と一緒に?」

 

しかし、何事にも例外というものが存在する。

 

「やっぱり、皆で楽しんだ方が良いと思ったんだってさ。千紗も知ってるだろ?コイツはこういう奴なんだよ」

 

現実には起こり得ないことでも全てを良い方向に解釈し、クズを善人へと昇格させる機能を人々はこう呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に優しい人だよね…響君って」

 

千紗フィルターと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのドクズがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

目の前で天使の微笑みを見せている古手川を見ながら孝二は内心で絶叫していた。

 

以前にも触れたが千紗フィルターは孝二の行為を全て良い方向に解釈する機能だが、孝二にも詳しいことは分かっていない。

 

分かっていないということは制御することも不可能ということだ。つまり、孝二の行動は例外なく全て良いものとして捉えられてしまうということになる。

 

今回の件も自分達のことしか考えていない伊織達を孝二が諭し、皆で一緒に楽しもうと提案したと解釈されている。

 

意味が分からない?大丈夫だ、皆、分かっていない。

 

分かっていないとしても現実としてそう解釈されてしまっているのだ。

 

「本当は伊織達と一緒に行くと迷惑かけられそうだから嫌だったんだけど響君がそこまで言うならしょうがないよね」

 

言ってないよという台詞が喉元まで出てきたがギリギリで声にはならない。

 

古手川のことを無視して伊織を殺せば良いのではないかと思うのだろうが、それをした場合千紗の反応がどうなるか想像がつかないという問題が出て来る。

 

確かに千紗フィルターがあるので殺したところで良い方向に解釈されるのかもしれないが、先程も言った通り全容が分かっていない以上、絶対ではないのだ。下手をすれば千紗の孝二への信頼が崩れ落ちる懸念がある。

 

そんなもの無視するのが孝二だが、古手川千紗だけは例外である。幼馴染から彼女に至るまであらゆる人間にクズ呼ばわりをされ続け、常に疑念を向けられている孝二にとって千紗のような純粋な信頼を向けられることはひどく稀なことであった。

 

その信頼を破るということは、サンタを信じる子供にサンタの存在を否定することに等しい行為だ。流石の孝二も行動を躊躇ってしまう。

 

「ふふっ。本当に響君って素直じゃないんだから」

 

千紗の純粋な好意は響の良心に剣となって突き刺さり、徐々に、しかし確実に孝二のメンタルにダメージを与えていく。それはまるで塩によって弱るナメクジのようであり、エンジェモンの光を恐れるデビモンのようであった。

 

それは伊織が計算した結果通りであり、全ては伊織の予想通りに事が進んでいた。

 

しかし、その伊織に余裕があるかといえばそんなことはない。

 

笑顔ながらも、その背には冷や汗をかき続けており良く見れば笑顔も若干引き攣っている。

 

これは当然ながら千紗フィルターを利用した作戦ではあるのだが、千紗フィルターの全容が明らかになっていない以上、利用することなど誰にもできない。

 

つまり、千紗が予想通りの行動に出るという保証は何処にもなく、下手をすれば3対1の状況で襲われる可能性も十分に考えられた。

 

しかし、この学園祭に行かなくては命に関わる可能性がある伊織には賭けをする以外の選択肢はなく、しぶといことにこの綱渡りのような状況を見事に乗り切っていた。

 

だがまだ終わっていない。孝二が千紗よりもクズさを取る可能性は十分に考えられる状況だ。ごくりと唾を飲み込みながら伊織は状況を見守っていた。

 

究極の決断を迫られている孝二は冷や汗を流しながらそっと目の前の千紗の肩に手を置く。何かないのか…?この状況で二兎を得る方法が…!?考えろ!全神経を集中させろ!

 

「あ…あー、古手川。お前は何かを誤解してると思うんだが冷静に聞いてくれ」

 

「うん、そうだよね。誤解なんだよね大丈夫、分かってるから」

 

「違う!良く分からんがお前の言う誤解と俺の言う誤解は果てしなく食い違っている気がするぞ!」

 

海以外の対象で浮かべる事が初めてなのではないかと疑う程の満面の笑みを浮かべている千紗を見てカケラも誤解が解けていないということを

孝二は本能的に察した。

 

「私…響君のそういうところ好きだよ」

 

ヘブンズナックルが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数日後〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、そうなの。皆で学園祭に行くことになったのね!」

 

「そうなんですよ!やはり、学生は共に学び、楽しむことを大切にしないと!」

 

「私は嫌だったんだけど、響君の優しさを裏切るわけにはいかなかったから」

 

「そう、良かった。ところで…」

 

チラリと奈々華は隣を見る。

 

「どうして孝二君は悔しそうに俯いてるの?」

 

奈々華の問いに孝二ではなく、微妙な顔をして孝二を見ていた愛菜とニヤニヤしている梓が回答する。

 

「因果応報と言いますか…」

 

「身から出た錆ってやつだねぇ」

 

 

 

 

 

 

 




闇は光に勝てない


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16 俺の愛情が理解されないなんておかしいだろ!

新刊出たので投稿です。次は…秋かな?


「で?何か申し開きをすることはある?」

 

不動明王のような顔を浮かべた愛菜は、目の前で正座をさせられている男を見下して話しかける。

 

その目は完全にゴミを見る目つきだ。間違っても、人間相手に浮かべる顔ではない。

 

「僕は守りたかっただけなんです」

 

「何をかなぁ?」

 

頬が引き攣りそうになるのを愛菜は懸命に堪えた。

 

「僕の彼女が下衆な男どもの視線に晒されることです。それを守る義務が僕にはあると思います」

 

「そっかぁ。でもさあ」

 

愛菜は懐から薬のような物を取り出す。

 

「その方法がカフェの食事に薬を盛るとか突飛過ぎるでしょ!?何考えてんの!!」

 

犯罪行為に物申す愛菜の至って当然の叫びがカフェの中にこだました。

 

事は一時間ほど前に遡る。愛菜達は文化祭の出し物としてカフェの準備をしていたのだが、それを孝二は手伝うと申し出たのだ。それを条件に特例として開演前に文化祭に参加した孝二だが、愛菜達からは当然の如く、疑われていたため徹底的な監視の元で作業をする羽目になった。その結果、上記の犯罪が看破された訳である。

 

「もう、コウったら。私のことが心配なのは分かるけどやり過ぎよ」

 

「かな子は黙ってなさい、このバカップル!何を照れてんの!?言っとくけど、これ犯罪以外の何物でもないからね!?」

 

「本当よ。全く、私たちのためにここまでするなんて」

 

「だよねー。モテる女は罪作りだわ」

 

「お前らは好きなだけ男に視姦でもされてろ馬鹿どもが。何ならお持ち帰りされたって一向に構わねぇ」

 

調子に乗って会話に割り込んできた恵子ときっこに吐き捨てるように言い放つ。その言葉には執念深い怨念のようなものが感じられた。

 

「そんな、酷い!」

 

「私たちが何をしたって言うの!?」

 

「合コンでしまくったよなぁ!!助けを求める俺にお前らは何をした!」

 

孝二の額に青筋が浮かぶ。絶対に忘れない。コイツらは何も悪くない俺を助けるどころか地獄へと突き落としたのだ。許されざる行為だ。何度も言うが、絶対に許さない。孝二は非常に根に持つ性格だった。

 

「え?合コン?それっていつの話だっけ?こないだ?半年前?去年?」

 

「んー、どの話かなぁ。とりあえず、思い当たる事全部話して良い?」

 

「お前らのことを俺が心配するなんて当たり前だろ?マジ許せねぇんだけど!そんな奴ら俺がボコってやんよ!」

 

過去の話のような終わったことを根に持っても良いことなど何もない。そんなことより未来を見るべきだ。この二人は孝二を確実に滅ぼせる黒歴史という名の核爆弾を何発も所有している常任理事国だ。核不拡散条約を結んではいるものの、気分を害せば孝二の未来はない。そもそも、友人を一度の誤解で恨むなど見当違いも甚だしい。友人を大切にする孝二にはあり得ない行動だった。

 

「だよね。良かったわ。そういう所が好きよ孝二」

 

「そうそう。やっぱり人間は前を向いて生きていかないとね」

 

穏やかな空気で談笑し始める3人とは異なり、愛菜は頭が痛そうな表情を浮かべている。非常に、真っ当な反応である。

 

「アンタらね…」

 

「あ、あはは。仲が良さそうね相変わらず」

 

「アレを仲が良いと言って良いの…?」

 

一般人寄りの感性をしているかな子は彼女ではあるのだが、その輪の中には加われず引き攣った表情を浮かべていた。そんな中、一人の人物がカフェの入り口からひょこっと顔を出す。

 

「あの…こんにちは。愛菜と孝二君ってここにいませんか?」

 

「え、私?って…千紗?何でここに?」

 

「あ、愛菜。良かった。響君が手伝いするために早めに行くって言うから私も手伝おうかなって。少し遅れたけど」

 

「本当!?ありがとう!でも、コイツが手伝いねぇ…実際、邪魔しかしてないけど」

 

冷めた目で愛菜は孝二を見る。どう見ても、邪魔をしているようにしか感じない。今、愛菜が一番手伝ってほしいことがあるとしたら孝二をここから連れ出すことだ。

 

「千紗って…もしかして、古手川千紗さん?」

 

「え、あの古手川さん?」

 

「あの噂の?」

 

「噂って…どういう?」

 

隣で話を聞いていたかな子だけでなく、少し離れた所にいた恵子ときっこも加わり、興味津々と言った表情で近寄る。しかし、噂と言われても千紗には心当たりが全くなく、事情を知っていそうな愛菜は別方向を見つめている。

 

「まあまあ、気にしないで」

 

「コウ、いや、響君と仲良くしてくれてるんでしょ?ありがとう」

 

「幼馴染として許可するけど、変な事やったら刺しちゃって良いからね」

 

果たしてどんな幼馴染が人のことを刺して良いという許可を下せるのだろうか。少なくとも法治国家ではあり得ない。その筈なのだが、誰もそのことに関して異議を唱えない。圧倒的に自身に対する優しさが足りないと孝二は内心憤慨した。自分が責められることは耐えられない男なのである。

 

「あ、あの響君は変な事はしますけど悪い事はしないので大丈夫ですよ?」

 

「あれ?もしかして孝二間違いしてる?」

 

孝二間違いって何?人間違いとかそんな感じ?

 

「確かに勘違いされ易いとは思いますけど、それだけじゃ無いですよ」

 

「そうだね。勘違いじゃないからね」

 

もう黙ってて欲しい。自身のことを見誤ってる俗物の声など聞きたく無い。孝二は雑音を排除して、千紗の声に耳を傾けた。

 

「響君って優しくて他人のことを思いやっちゃう所があると思うんです」

 

「ごめん、それってどの世界線の孝二の話?」

 

「この世界線じゃ無い事は確実よね」

 

「古手川さんって世界線を跨げるの?」

 

千紗の説明に反射で3人は否定の言葉を口にする。「優しい」「他人を思いやる」等の評価はあのクズに最も似つかわしく無い言葉だ。「自己愛」「自己中」と言った言葉の方が相応しい。

 

「ぱっと見はそう見えないのかもしれないですけど、優しいんですよ?この間も進んでゴミ掃除をしてましたし」

 

真実はクラスメイトという名のクズどもをゴミの中に閉じ込めるために集めていただけである。

 

「勉強が分からないクラスメイトに勉強を教えてあげていたり」

 

実際は対価を受け取っているので殆どバイトと同じである。しかもぼったくりレベルの対価を。

 

「お姉ちゃんにも詳しくは知らないけどプレゼントを渡してますし」

 

千紗の好感度爆上げと比例して上がっていく殺意を減らすための行為だ。しかもプレゼントは千紗の隠し撮り写真である。

 

「だから、良く見てあげてください。本当は優しい人なんです」

 

「「「古手川さん…」」」

 

千紗の説明に3人は涙を流す。まるで信者が聖女を見たかのような反応だ。相変わらず理論の埒外の行動を取る連中だと孝二はため息を吐く。かなは分かる。彼氏が正当な評価を受けていて、嬉しいのだろう。だが、恵子ときっこは理解不能である。何故、自らの良い話を聞いて自身でなく、千紗の好感度が爆上げになるのか。論理構造に支障があるとしか思えない。

 

「何を感動してるんだか…古手川は当たり前の現実を受け止めてるだけだろ?」

 

「黙りなさい。アンタが加わったら優しい世界が穢れるわ」

 

「優しい世界って何だよ…」

 

理不尽な塩対応を受けた孝二は渋々黙って、カフェの開店の準備の手伝いを始めていく。無論、愛菜はその一挙手一投足を観測している。間違っても、このカフェで警察沙汰など起こさせないためだ。一瞬の油断もできない。

 

「愛菜も、もう少し響君に優しくしてあげれば良いのに」

 

「いや、今までの対応見て何をどう優しくしてあげられるの!?」

 

「そりゃ、ちょっとやり過ぎかもしれないけど」

 

愛菜の怒り様を見て、千紗は苦笑する。

 

「響君なりに気遣ってのことでしょ?だったら、怒るだけじゃなくてその辺のところも見てあげないと」

 

「それは…そうかもしれないけど」

 

確かに、良く考えてみればこれは愛の一種である。

 

かなり過剰な反応の気がしなくも無いどころか、完全に犯罪行為だが、これは孝二なりにかな子のことを思いやっている結果である事は間違いない。

 

勿論、千紗のように完全なる善意であるとは全く思わないが少しくらいは善意の心で見てやっても良いのかもしれない。

 

愛菜がそんなことを思いながら見つめていると準備を終えた孝二は金属バットを構えて、号令をかけた。

 

「さあ、オープンだ。気合い入れろよ、お前ら!店に来た男全員ぶち殺すぞ!」

 

孝二は店から摘み出された。所謂、出禁である。

 

 

 

 

 




文化祭の準備に部外者が入れるの?とかはスルーでお願いします。


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17 俺のことをクズと呼ぶ奴らが増えていくなんておかしいだろ!

例によって新刊出たので投稿します!


「警備員さん!こっちです!此処に女装をして男を誑かしてる変態がいます!」

 

「ちょ、ま、待ってください!俺は此処で命じられて働いているだけで…」

 

「犯罪者は何時だってそう言うんです。無視して摘み出してください」

 

「このクズがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

警備員さんに連行されていく伊織の姿を見て、孝二はようやく溜飲を下げることができた。

 

先程まで孝二は周囲の不当な扱いによって機嫌を大いに損ねていた。自身の正当な行為を褒めるどころか、店から追い出す口実にし、店にいる権利を奪うなど決して許される所業ではない。

 

本来であれば正当な報復としてあの店を営業停止にまで追い込む所だが、それをすればかなも悲しむ可能性がある上に、あの非道な女どもによって自身の命か社会的地位が営業停止になりかねない。

 

だからこそ、苛立ちながら周囲を散策していたのだが丁度そんな所に女装した変態の姿をかな達の出店先であるカフェに確認した。

 

放ってはおけないと感じた。

 

こうなった経緯は意味不明だが、あんな変態をかなと古手川の側に置いておいて良いはずがない。純粋な正義感から、孝二は他のクズどもと伊織の行動の一部始終を盗撮し、それを警備員さんに見せることで伊織を青女の外に追放することに成功した。

 

あのクズの追放される姿は非常に目の栄養となり、孝二の精神状態は非常に良好な物へと変化した。

 

一部女性陣からは「コイツ…!?」という目線を向けられている気がしたが、気のせいだという確信があった。何も悪い事をしていない自信が批判を受ける点など全く見受けられない。つまり、全ては自意識過剰ということだ。

 

カフェに出禁を喰らった孝二が長居すると、自身も追放される危険があるためその場を離れたがイライラも治っているため菩薩のような気持ちで学園祭を見て回ることにした。

 

「さてと…この時間まで何すっかねぇ」

 

自身の懐に収まっているライブのプレミアチケットを見ながら孝二は一人呟く。

 

将来的に自身の義姉になるであろう人物から貰ったプレミアチケットだが、始まるまでに少し時間があった。本来であれば、かなと学園祭を見て回る予定があったのだがあのカフェの繁盛具合から考えて今抜け出すのは厳しいだろう。古手川も同様だ。

 

何か良い暇つぶしは無いかと考えていると、背後から声をかけられた。

 

「ねえ、ちょっとそこのアンタ。久しぶりじゃない」

 

何なら馴れ馴れしく声をかけて来たそこそこ容姿が整った女性に孝二は怪訝な顔を浮かべる。全く見覚えなどなかった。美人局の類だろうか。

 

「何処かで会ったことがあったか?」

 

「覚えてないの?」

 

何やら思わせぶりな事を言っているが彼女は孝二の記憶にいなかった。もしかしたら何処かですれ違ったことくらいはあるかもしれないが、流石にそんな女性を一人一人覚えているわけがない。

 

「工藤君の所でよ。アンタあの場にいたでしょ」

 

「あの場?」

 

「浮気男の処刑現場よ」

 

「ああ」

 

そう言えばそんなこともあった。手当たり次第に女に手を出している女の敵に社会的制裁を加えたのだった。

自称正義の使者である孝二には当然の行動だったこともあり、それほど印象深い記憶でもなかった。

 

「あそこにいたのか。それは申し訳なかったな。興味がなかった」

 

「アンタ本当は喧嘩売ってんでしょ」

 

酷い言いがかりだった。この平和主義が動いているような人間にそんな気などあるはずがない。

 

「落ち着け。そっちは工藤先輩に騙されてたんだろ?それを教えてやったんだ。むしろ、感謝して然るべきじゃないのか?」

 

「んな訳ないでしょ。あんなのキープ4号ってところよ。本気でもないんだから怒りもしないわよ」

 

ああ、なるほど。唐突に孝二は理解した。これはつまり、そういうことだ。

 

「何だお前もクズだったのか」

 

「他人のこと言えるのアンタ」

 

大体ねぇ、とその女は続ける。

 

「私は菜摘よ。アンタにお前だなんて言われる筋合いは無いわ」

 

何という高圧的な女だ。気が弱い孝二はこういう人間が苦手だった。

 

「お前だって言ってるだろ?人の行いを注意する前に自分の行いを振り返ろよ」

 

「アンタ、ブーメランって知ってる?」

 

知っているが、この場において適切な使い方だとは思えない。異性間交友にしか興味がない所為で言語知識に過不足がある可能性があった。

 

「それに此処で私にそんな言葉違いしない方が良いわよ。私のアッシー君達がたくさんいるんだから」

 

「おい、大概にしろよ」

 

孝二の正義感に静かに火が灯った。人をアッシー君扱いするなど良心が痛まないのだろうか。少なくとも、真っ当な人間であればそんなことは考えて良い筈がない。

 

「間違っている奴に注意するのは当然の義務だろ。力にビビるなんて男じゃねぇ」

 

「じゃあ、アンタの名前は?」

 

「北原伊織だ」

 

息をするように嘘をついた。個人情報を大切にする孝二にとって見ず知らずの人間に本名を告げるなどあり得ないことだった。

 

決して大勢いるアッシー君にビビった訳ではない。繰り返し言うがそんなことはあり得ない。あっさりと友を売ったクズは自己弁護を始めていた。

 

「ふーん、北原か。アンタ面白いじゃない」

 

「まあ、確かにそうだな」

 

アレだけの知能レベルの低さと目を覆うほどのクズさは確かに生物学的に見れば面白いという部類に入るだろう。興味深いという言い方の方が適切かもしれない。

 

菜摘は孝二の言い回しに違和感を覚えたが、これからライブ会場の手伝いに出向く必要があるため此処でこれ以上時間を費やすことはできなかった。

 

「?まあ、良いわ。それじゃ、私これからライブの準備に行くから」

 

「ライブ?それって水樹カヤのか?」

 

「そうよ。何?アンタもファンなの?」

 

「まあな。と言うかまだ終わってなかったのか」

 

ファンと言うと少し異なるかもしれないが、カヤさんのことが好きなのは間違っていない。

 

「何か遅れてるみたいね。と言うかアンタ暇なら手伝ってよ」

 

今度デートしてあげるからさと言って距離を詰めてくるが、孝二は即座に距離を取った。

 

やはり、美人局だったか…

 

警戒の目を向ける孝二に、菜摘は怪訝な顔をする。

 

良い匂いがするし、何か柔らかいので孝二も普段であれば嬉しいのだろうが此処では例外だ。

 

此処はかなのホームだ。何かの間違いでこの部分だけを切り取られて、かなに伝わればその日が自分の命日になる。そんな危険しかない橋を渡る勇気は孝二には無かった。

 

本来であれば無視して勝手にやらせる所なのだが、カヤさんのライブとなればそうはいかない。作業の遅れはカヤさんの迷惑になる。それは避けたかった。

 

「デートは必要ない。だがまあ、手伝うかどうかは置いておいて、俺もそっちに用事がある。手伝いならお前のアッシー君達にでも頼め。何なら丁度良いアッシー君達を紹介してやっても良い」

 

暇を持て余した力だけは有り余っているクズどもを知っている。恐らく外に追放されたままなので、交換条件といえば喜んで手伝うだろう。

 

そう思い、電話を手に取ると微妙な顔を浮かべている菜摘が映る。

 

「何だその顔は」

 

「他人のこと言えるほど立派な性格してるわけじゃないけどさぁ」

 

呆れた顔を浮かべながら菜摘は続ける。

 

「アンタって割とクズなんじゃない?」

 

最近、多くの人にこんな誤解を受けるのだが何故なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしいな。やはり、青少年が額に汗して働く姿というのは良いものだ」

 

「誰が原因でこうなったと思ってんだ、このクズがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

自分が協力したおかげでもう一度学祭に入場できたクズどもが働いている姿を見つけたので、褒め言葉を投げかけたのだが何故か全員から罵声を浴びた。意味がわからない。何故、自分のおかげで再入場できたというのに文句を言うことができるのだろうか。倫理観が狂っているとしか思えない。

 

「そもそも、お前が原因で追い出されたんだろうが!」

 

「いや、ちょっと待て。響、この女の子娘誰だ?」

 

怒り狂っている伊織を抑えて、山本が自身の隣にいる菜摘のことについて尋ねる。孝二のお陰で、ライブの準備をする必要がなくなった菜摘は自身と一緒にダラダラと学祭を廻りながら此処まで来たのだ。

 

その菜摘は響?と呟きながら俺を見てくるがとりあえず無視する。

 

「菜摘って言うらしいぞ。俺もさっき会ったばかりだ」

 

その言葉に目の前のクズどもの怒りのボルテージが限界を振り切る。

 

「貴様、俺たちが労働している中ナンパをするとは」

 

「随分と良いご身分だなぁ…!!!」

 

そうだコイツらはクズであると同時に童貞だった。俺のような成功者を妬む気持ちがあるのは当然であり、理解できるがこのままでは俺が死ぬ。

 

「待て、落ち着け。お前らが良ければこの娘が友達と一緒にご飯をしてくれるそうだ」

 

「はあ!?」

 

聞いていないという顔で俺を見てくる菜摘だが、対処法はしっかりと考えてある。

 

「何だよ、さっきお前の代わりにライブの手伝いをしてやったろ?」

 

「アンタ、カケラも働いてないじゃない」

 

協力してやったのに酷い女だ。まあ、良い。まだ別の手段がある。

 

「加えて、あのイケメンも一緒に誘うことが可能だ」

 

そう言ってチラリと先程から一生懸命働いている耕平を指差す。どうやら、ライブの準備の遅れは取り戻せたようだし、休憩がてらライブまでの時間なら食事をすることは可能だろう。

 

「私、アンタのことは最初から信頼できる奴だと思ってたわ」

 

「俺もだ。信頼感しか無いと思っていた」

 

打算しかない関係の二人が何か言っていた。どうやら、この二人にとって信頼と打算は同じらしい。日本語って難しいね。

 

菜摘が食事に前向きになってくれたお陰で、童貞共も怒りが収まりだらしない下品な顔になっている。

 

耕平も呼んだし、自分の役割は特にない。そもそも、こんな危険な場所で他の女の子と食事などしたくない。

 

孝二は隙を見て集団から脱出し、カヤさんの所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 




恐らく次回は来年の春ですかね…?


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18 俺のことを庇ってくれる人が少ないっておかしいだろ!

新刊出たので例によって投稿


 

「てい!」

 

楽屋のカヤさんに挨拶した直後、何故か唐突にチョップされた。

 

「何ですか、いきなり」

 

「また、悪いことしたでしょ」

 

また、と言うのも理解不能だし、悪いことと言うのも理解不能だった。

 

「いや、何の話ですか」

 

「カフェでの話。友達にあんな悪いことしちゃダメでしょ」

 

「友達に悪いことなんてしてないですよ」

 

何故なら、奴等は友達ではないし、あれは悪いことではないからだ。

 

だと言うのに、カナさんは深くため息を吐いた。何故、ため息を吐かれるのか理解できなかったけども。

 

「私の未来の義弟ながら全く…どうして、こうなんだろう?」

 

「こう」の意味が不明だが、良い意味に違いないと解釈することにした。

 

「そんなことよりカナさん。ライブの準備をしないで良いんですか?」

 

「そんなことでもないんだけど…うん、大体終わってるよ。後は本番を待つだけかな」

 

待つだけとは言いながらも、集中力を高めているのが伝わってくる。このライブのために努力・準備してきた時間の全てはこのライブのため。このライブが上手くいかなければ全て消える。大変な仕事だ。

 

「相変わらず、大変そうですねぇ。倒れたら元も子もないんで、頑張るのもほどほどにしてくださいよ?」

 

「分かってないなぁ、孝二は。そんなの無理に決まってるじゃない」

 

そう言うと、満面の笑顔になりカヤは続ける。

 

「頑張るよ?だって、私のこと待ってくれてるファンがたくさんいるんだもん」

 

そのカヤの笑顔は誰よりも輝いて見えた。

 

「本当すげーですよね。カヤさんは」

 

「ふふん。義姉のすげー所見せてあげるから楽しみにしてなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?響君?」

 

「よう、古手川。奇遇だな」

 

カヤさんへの挨拶を終えて少し軽食を済ませた後、ライブ会場へと向かっていると偶然、古手川と遭遇した。

 

そう言えば、古手川もカヤさんからチケットを貰っていると言っていたのを思い出した。つまり、古手川もライブ会場へと向かっているのだろう。

 

「愛菜たちは居ないのか?」

 

「愛菜達はカフェのシフトの関係とかで少し遅れてるみたい。私は手伝いだからって、先に行かせてくれたけど」

 

「なるほどなぁ。それじゃ、一緒に行くか」

 

美人と一緒に行動するというのはそれだけで嬉しいし、役得である。目的地も一緒ということであれば提案しない理由はなかった。

 

「うん。やっぱり、響君は優しいよね」

 

「は?」

 

急に笑顔で良く分からないことを言われた孝二は疑問の声を上げた。

 

孝二には知る由もないが、古手川からすると孝二の誘いは非常にありがたいものだった。伊織から離れて行動し出した途端、ナンパの誘いが後を絶たなかったからだ。

 

断るのも非常に面倒であったため、響の誘いはそれを念頭に置いたものだと考えたのだ。今日も千紗フィルター全開である。

 

そんな千紗の誤解など知らない孝二は疑問しかなかったが、優しいと言われているのだから別に良いと判断して、とりあえずライブ会場に千紗と共に向かうことにした。

 

そこまで遠いわけでもなかったので、すぐに着きそうだったのだが

 

「何してるんだアイツ」

 

「…さあ?」

 

ライブ会場の入り口で何か泣きながら土下座している耕平の姿を見つけた。

 

千紗と目を合わせて他人のフリをすることを了承し合ったが、あまりにも大声で泣き喚いているため事情が自然と耳に入ってしまった。

 

「今村君がカヤさんのチケットを無くす…?」

 

同じく聞こえていたのだろう千紗も首を傾げている。

 

孝二もあり得ないと思った。自分の命を無くすことがあったとしても、こいつがカヤさんのチケットを無くすなど想像がつかない。

 

となれば、何かがあったのだろう。何があったのかについては、流石に想像はできない。それに自分には関係ない話だ。

 

何時もの孝二なら、そう考えて忘れるだろう。

 

しかし、この世の終わりのような顔で俯いている耕平を見て呆れる気持ちと同時に、率直に羨ましい感情も抱いてしまう。

 

ここまで何かに熱中したことは自分の人生においてない。

 

「く…カヤ様のライブがもう始まるというのに!」

 

「止めろ、通行の邪魔だ」

 

「止めるな響!カヤ様のためなら命など惜しくない!」

 

「お前の命とカヤさんの歌声が等価な訳ないだろう」

 

クズの命のいくら捧げてもゼロだ。当たり前のことだった。

 

「なら全てだ!全てを捧げてでも俺はこのライブに参加する!」

 

「そこまでするなら、このライブは諦めて他のライブに複数参加する方が有意義だと思うが」

 

しかし、理解はできないが納得はできている。損得勘定ではないのだろう。この馬鹿には今のライブが全てなのだ。

 

カヤさんのことが好きな気持ちで負ける気はないが、声優「水樹カヤ」を好きなのは間違いなく耕平だろう。

 

先程のカヤさんの笑顔と言葉が蘇る。同時に懐に入っているチケットに手を触れる。

 

『頑張るよ?だって、私のこと待ってくれてるファンがたくさんいるんだもん』

 

あのカヤさんの言っているファンというのは間違いなく耕平のような連中のことだ。そこに俺は含まれていない。何故なら俺はカヤさんが声優を辞めても別に構わないと思っている。カヤさんはカヤさんだ。あのプライベートのカヤさんを知らないとは全く可哀想な連中だ。可哀想過ぎて高笑いしたくなってしまう。

 

だから、俺は別に声優「水樹カヤ」に会いたいわけではない。

 

だから、俺は別にコンサートに必ず行きたいわけではない。

 

だから、これはただの気まぐれだ。

 

孝二は先程から手に触れていた懐のチケットを徐に取り出して、耕平に見せびらかした。

 

「そういや、何かさっきこんなの拾ったな。これ、お前のか?」

 

「こ、これはカヤ様のプレミアチケット!?何故、お前がこれを!?」

 

「拾ったって言ったろ。んで、どうする?お前のじゃなければ落とし物案内にでも届けるが」

 

「むう、しかし、席番号が違うような…?」

 

「それじゃ、これは落とし物案内行きだな」

 

「俺のだな。記憶が間違っていた。俺のものに違いない」

 

間違っているのはコイツの存在だ。目的のためなら平然と嘘を吐く神経は人として終わっている。

 

「お前のでもそうじゃなくても俺には関係ないし、まあ良いだろう。貸しにしといてやるよ」

 

「命にかけて返そう!」

 

正に神速のスピードで孝二からチケットを受け取ると、耕平は脇目も振らずに飛び出していった。

 

まあ、アイツならあの反応になるだろうと考えてた孝二には驚きはない。それよりも問題は…

 

「…」

 

「…」

 

き、気まずい…

 

それによって、古手川と二人きりになってしまったことだ。

 

何なの古手川!?その微笑ましいものを見るような目は!?何なの、その少し楽しそうな表情は!?

 

「いや、違うからな?」

 

「私、何も言ってないけど」

 

いや、言ってるじゃん!確かに何も言ってないけど、全身で言ってるじゃん!

 

「落としたの拾っただけなんでしょ?それで自分の分は落としちゃったんでしょ?」

 

「…そーだよ」

 

「うん、そーなんだよね」

 

アカン、ダメだ。何を言ってもこの空気を何とかできる気がしない。

 

「そ、そうだ、古手川。お前はライブ行かなくて良いのか?そろそろ始まるぞ?」

 

「残念だけど、私もチケット落としちゃったみたいなんだよね」

 

…私「も」ってとこに悪意を感じますよ、古手川さん。

 

そこまで言うと、古手川は珍しく少し意地悪そうに笑う。

 

「だから、時々、ものすごーく頭が悪くなる人に付き合おうかな」

 

「物好きめ…」

 

負け惜しみのように孝二は呟くが、それすらも面白いのか古手川はクスクスと笑っている。別に面白いモンでもないだろーに。

 

そんなことを考えている孝二の背中にバシンと衝撃が走る。

 

嫌な予感が頭を過ぎるが、嫌々顔をその方向に向けると予想通り良く見知った顔がニヤニヤと笑っている。

 

恵子ときっこはニヤニヤとした汚い笑顔を浮かべたまま詰め寄ってくる。

 

「あれ?もしかして、プレミアチケットを無くしちゃった孝二君?」

 

「偶然、プレミアチケットを無くしちゃった孝二君?久しぶり〜」

 

一部始終を見ていたのだろうが、そのニヤケ面を見ていると青筋が浮かび上がってくる。

 

全てを理解しながらこのような台詞を吐くコイツらの精神はヘドロのように濁っている。

 

まだ手伝いが終わっていないのか愛菜の姿は見当たらないが、この二人の良心を凝縮した天使のような個体であるかなも近くにいたので何とかしてくれと目で訴えるが、笑ったまま何故か特に関わろうとしない。

 

良いだろう。であれば徹底的に口撃してその笑顔を泣き顔に変えてやろう。孝二はそんな顛末を思い浮かべてほくそ笑んだ。そんな顛末になったことなど一度もないと言うのに学習しない男である。

 

結果が見えている孝二vs恵子&きっこの論戦を側から見ていたもう一人の常識人千紗は慌てて止めようとする。

 

「あ、あの、待って!響君は」

 

だが、そんな千紗の前にかな子が移動すると黙ってウインクして笑顔のまま口に人差し指を当てる。

 

その姿を最初はポカンと見ていた千紗だったが、その意味を理解すると思わず苦笑する。

 

つまり、そう言うことなのだ。

 

「つまり、響君の友達ってことですね」

 

「つまり、古手川さんもね」

 

3人の論戦を傍目に二人の間には優しい空気が流れる。思わず心が暖かくなるそんな空気だ。

 

「響君、時々物凄く頭が悪くなりますからね」

 

「本当にね」

 

とは言え、そんな孝二の一面は万華鏡の一欠片のようなもので基本はクズだ。そんな一欠片を孝二の全てと思っている千紗に何も言わないとこに、良心が咎めないこともないがそれはそれで良い気がした。

 

一欠片だろうと万華鏡は万華鏡なのだ。

 

「よろしくね」

 

「何をですか?」

 

「色々とね。学校が違うから全部のフォローは難しいしさ。私も恵子もきっこもずっと側に居られるわけじゃないから」

 

愛菜は側にいると思うが振り回される気しかしないし、こんなメチャクチャなクズを一人で何とかしろと言うのは可哀想以外の何物でもない。

 

「響君、誤解されやすいですからね」

 

「いや、誤解しているのは古手川さんなんだけどね」

 

「そこは同意しろよ」

 

何のフォローもしない彼女に孝二は意見の撤回を求める。彼女が彼氏をフォローしないなど有り得ない。

 

「あ、負けたの?」

 

「戦略的撤退だ。負け戦を続けるのは馬鹿のすることだ」

 

「要するに負けたってことでしょ?」

 

その理屈で言えば勝てる見込みのない戦を始めた孝二も馬鹿ということになるが、特に訂正はしない。孝二が馬鹿なのは周知の事実だ。

 

「負けてない。まあ、良い。とりま、愛菜迎えに行こうぜ。その後は飯でも食おう」

 

「いいよー。その後ライブ終わったら耕平君も加えて晩ごはんに行こうよ」

 

「あら、良いわねそれ。だったら伊織君達も呼びましょうよ」

 

孝二との論戦が終わって会話に加わったきっこと恵子が妙な提案をしてくる。危ない提案だ。奴等の危険性を理解していないが故の発想だ。

 

「おい、待て。あの童貞どもと一緒に飲む?危険すぎるぞ」

 

常時発情期の猿のような連中だ。そんな中に女性が加われば、何をされても不思議ではない…いや、そうでもないか。発情期の前に童貞だ。奴等から先に、女の子に手を出す勇気はないだろう。

 

「あら、それなら大丈夫よ」

 

「そうそう」

 

「その自信は何なんだよ」

 

自身と同じ結論に至ったのだろうか?

 

そんなことを孝二が考えていると、悪巧みを考えていそうな顔で二人は顔を見合わせると笑ってそのまま答える。

 

「「そういう奴等はボコってくれるんでしょ?」」

 

何とも言いにくい笑顔で、先程自分が言ったセリフを引用して図々しい言葉を宣う二人に孝二は頬を引き攣らせる。

 

確かに言った…言ったけども!

 

訂正しようかと思ったが、今更言ったところでこの二人は聞きはしないだろう。

 

要するに、余計なことを言ってしまった自分の負けなのだ。

 

ついでに言えば微笑ましそうに会話を聞いている古手川とかなを説得できる気もしない。

 

孝二はため息を吐いて、青く綺麗な空を見上げる。

 

まあ、良いか。

 

たまにはこんな日も悪くないと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 




たまに感想で千紗ヒロインの話を見たいと意見があるのでアンケート書いてみました。

個人的にはこれ以上好感度上がって付き合ったら、甘々になってぐらんぶるらしさが減るのでは…?と思っているのですが読者の方はどう考えているのかな?と思いまして。今後の参考にいたします。


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