光る星に口付けを。 (夜月 黒隴)
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第一話-紲星あかり
目が覚める。俺も今日から高校生になる。中学の頃は友達を数人しか作らず、その友達は皆、別々の高校に向かった。正確にはもう一人、この学校に来る予定だったのだが、まあここまで言えば察せるだろう。まあそんな友達のことはさておき、早速学校の準備でもするか。
中学と同じ通り、朝食はパン。焼いてる間に学校の支度をする。けれど、今日は入学式。普段登校する時間より、ゆっくり学校に向かうことが出来る。少しゆっくりして行こう。
気がつけば8時半手前。早めに学校に着いていて損は無いので、早速向かうことにしよう。俺は鞄を持ち、玄関に行き靴を履く。玄関の戸を開け、家を後にする。
季節はもちろん春。ほんのりとした温かみを感じながら、桜満開の道を歩く。こういうのもなかなか良いものだ。とても今更になるのだが、この時間が暇なので少し自己紹介。俺は「
「きゃぁっ!?」
まさかのテンプレに出会ってしまった。けれど、幸いぶつかる事は無かった。ぶつかりそうになっただけだ。よく見ると自分の学校と同じ制服を着ている。もしかしてこの人も俺と同じ1年生なのか。
『大丈夫ですか?怪我ありませんでした?』
とりあえず相手の身の確認をする。ぶつかってはいないが、一応だ。
『は、はい…。こちらは大丈夫です…貴方は大丈夫でしたか?』
『はい、僕は大丈夫です。えーと…その…。』
相手は少しきょとんとしていたが、俺と同じ事を考えたのだろう。
「あ、まさか…「
『まあ、そうですね。貴方も一年生ですか?』
「はい。」
やはりか。まあ制服が似てるし、この時間帯にあの学校に向かうとなれば、一年生であることは確かであろう。
「私、「
『僕は「糸口 霧夜」。よろしく。』
取り敢えずお互いに自己紹介をする。まあこれは基本中の基本だから当然のことではあるが。
俺と彼女はお互いに話し合いつつ学校に向かうことになった。あまり女性と話すのは得意ではないのだが、彼女と話すのは苦ではない。むしろ楽しいぐらいだ。
くだらないことを駄弁りながら歩いていると、あっという間に学校についた。俺たちはそのままこの学校の講堂へと向かい、彼女とは別れ、指定された席に座る。やはり皆そわそわしているのだろう。辺りをキョロキョロと見渡している。俺は少し気になり、彼女の方に視線を向ける。どうやら彼女はもう周りの人と馴染めているようだ。前後左右の人と笑顔で会話している。それが彼女の取得なのかもしれないな。
──────────────
校長の話が長かった。ひたすらに長い。40…いや、下手すれば1時間はずっと話していた。どれだけ話せば気が済むんだ。周りの人もぐでっとしている。さ、明日からここで通うんだ。少し校舎を見て回ることにしよう。俺は颯爽と講堂を後にする。さて、この学校は学年ごとに校舎が分かれているらしい。わざわざ分ける必要もないと思うのだが。一年生はA館の4階。ひたすら登るのがしんどい。日頃運動しない俺にとってはかなり辛いものだ。
4階にあがってきた。見た感じ、A~J組まであるようだ。どんだけ多いんだよ、ここの受験者。さて、他も見て回ろうか。
「糸口君ー!」
俺の名前を呼ぶ声が後から聞こえる。俺は自己紹介をとある人のみにしかしていない。と言うことは、だ。
「やっと見つけたー…。探したんだから。」
『いやいや、何故僕を探すのですか?』
「糸口君真面目そうだから、校舎内見回ってるかなーって思ってさ。私も見て回りたいし、どうせならって思って!」
『結構です。』
「え」
☆★☆★☆★☆★☆★
即答だった。必死に校舎内を駆け回り、やっと見つけた人に校舎を見て回らないかと誘い、尋常じゃない速度で断られたのは生きてきてこれが初めてだった。
ちえっ…と…なんで?」
『あんまり他人と地域巡りとか好きじゃないので。』
「じゃあ私が勝手について行ってもいい?」
『…はい?』
「私は糸口君に着いていくだけ。一緒に行くんじゃなくて私は着いていくだけ。どう?」
『……そこまで一緒に行きたいんですか。』
「うん。」
『…ならいいですよ。そこまで一緒に行きたいなら行きましょ。』
「やったー!」
こうして私と糸口君は、お昼すぎぐらいまで校舎内を回ることになった(した)。
いちわおしまいまたかくよ
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第二話-散歩と買い物。
とあるひとによまれた ♂️
校舎内を見回りも終わり、学校を後にする。そして、私たちは十字路で別れた。明日また、彼に会えると思うと楽しみである。それかこの後、彼の家にでも突撃してみようかな、とも考えたが流石に迷惑にも程がある。やめておこう。
家に着くと鞄をいつもの位置にかけ、制服を脱ぐ。そしてシャツのままベッドにダイブする。
「ふぇ〜〜……。お腹すいたなぁ〜…。」
ごろりと寝転んだのは良いものの、お腹が空いてしまった。何か作ろうか、と思い自分の部屋から出てリビングに向かう。私は両親は海外でお仕事をしているので、中学2年生から一人暮らしだ。お金は両親から少し貰っている。下手に趣味やお菓子等に使えないのが少し残念。けれど、生活出来ているだけで十分なのである。さて、お昼を作ろう。
☆★☆★☆★☆★☆★
家に着き、靴を脱ぎ揃え、2階に上がっていく。戸を開け鞄を起き、明日の準備をしておく。さっさと準備しておかないと今日の予定が狂ってしまう。早めに昼食を取り、午後1時から買い物に行かなければならない。昼食は学校帰り、おにぎりを買ってきたので心配はない。制服を脱ぎ私服に着替え、1階にあるリビングに向かう。せっせと口に入れ、食べ終わったら歯磨きをする。あとの時間はニュースでも観ておこう。
──────────────
おっと、気がつけば1時手前じゃないか。鞄と財布と時計を手に取り、家を出る。今から向かうのは今後必須になるであろう筆記用具等だ。前使っていたものはノート以外全て破棄した。以前のものに囚われすぎては高校生活に支障が出てしまうという考えだ。自転車を漕ぎ、
☆★☆★☆★☆★☆★
「ご馳走様でした。」
簡易的な昼食をササッと作り、食器を洗う。これから何をしておこう。明日の準備は…夜でいいか。それなら少し、お出かけでもしようかな、と考える。この街に引っ越してきて1ヶ月。そろそろ見慣れた光景も出てきてはいるが、完全に理解した訳では無い。少し自転車でその辺をウロウロするのも、たまには悪くないだろう。そうと決まれば早速準備をしよう。善は急げって言いますしね!水筒に麦茶をいれ、少量のお金を持ち家を飛び出す。自転車置き場に向かい、自転車を前に押しながら勢いをつけて乗る。今日はあまり行かない東側に行ってみよう。
桜が綺麗な色をして、ちらちらと舞う。まだ4月の後半にも差し掛かっていないのに、もう散ってきているのだ。桜の寿命は短きもので、その間に様々な人を幸せにさせる、とても良いものだと私は思う。けれど、流石に散るのが早すぎるかな、とは多少なりとも思ったりする。なかなか考え深いものだ。さて、この辺りには何があるのだろう。まず近くに「
──────────────
気がつけばもう2時間はこの辺りを探索していたらしい。左腕につけた時計に横目をやり、「3」を短針が指していることに気づいた。そろそろ帰ろうか、と方向転換をして、自宅へ向かうため、また自転車をこぐ。
☆★☆★☆★☆★☆★
予想した通り、買い物の帰りは物凄い手荷物になってしまった。流石に買いすぎたか。自分一人では持てないのでかごの中に筆記用具等を入れ、ほかの大きいものは腕に掛ける。ここからまた自宅まで距離がある。正直疲れるのだが、これが終われば後は自由。好きな読書の時間だ。さっさと家に帰ってしまおう。
──────────────
『ふう…疲れた疲れた。』
30分程で家に着く。荷物を1階の玄関にパパっと起き、少し休憩をする。のんびりしたい気持ちにもなるが、まずは片付けをしなければならない。もう少しの辛抱だ、頑張ろう、と意気込んだものの、疲れ果てているのでやっぱり休憩を取ることにした。無理はあまり良くない。今日は用が終わればさっさと寝てしまおう。
おしまい。今回は結構二人の目線を描くように意識しましたモイ。
本当は二人はたまたま出会う予定だったんですけど、かけなかったですね()
前半深夜帯に書いたものなのでややおかしい箇所があるかもしれません。すみません。
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第三話-一緒。
翌日、私は今目が覚めてぼんやりとしている状態だ。その状態でそーっと時計に目をやると短針は7、長針は8を指している。つまり7:08…。うん、まずいね。私は急いで着替え、朝食のパンを焼く。その間に昨晩結局用意することの無かった学校の支度をし、まだ焼いているので顔を洗い歯磨きをする。普段は6時に起きるのに、何故かこの日は7時過ぎに起きてしまった。急がないと糸口君に会えなくなってしまう。そう思った私は急いでいるのをさらに急ぎ、12分までにはいつもの用意を終わらせ、朝食を取るのであった。
「はぁーー…なんでこんな事に…。」
そう呟くも、完全に自分のせいである。昨晩特別夜更かしした訳でもない。単に昨日はしゃぎすぎただけなのかもしれない。牛乳をぐいっと飲み干し、家を飛び出した。走って十字路の所へ向かう。確か昨日来た時、この辺りでばったりと出会ったはず。そう思ってT字路を左に曲がる。すると、確かに一瞬。糸口君の姿が見える。私はそのまま走った状態で、糸口君の背中を追いかける。そして、漸く追いついた。
「糸口君!おはよう!」
私は糸口君の横目にちらりと入る程度に顔を覗き込む。突然音も無く来た私には微動だにせず、ちらっと私の方を見て、
『おはよう。』
とだけ、返事する。相変わらず冷静な人だ。
「そういえばなんだけれどさ。」
『ん?何。』
ひとつ、質問したいことがあるのだ。大したことではないのだが、次いつ話せるかなんて分からない。今のうちに聞いておこう。
「糸口君の家って何k」
『教えないから。』
また即答だった。昨日と同じで、興味のない事、面倒になりそうな事などは全て即切りなのであろうか。いや、きっとそうだろう。
「えー、なんで?」
『教えたくないから、ただそれだけ。』
「教えてくれたっていいじゃん!私も教えから!」
『君の家を知って俺に得がない。』
「むーー……。」
やはり、そう簡単には教えてくれない様だ。まあ、出会って1日。たった1日。そんな人にそう易々と教えれるものではないのかもしれない。まあ私はぜんぜん気にしてはいないのだけれどね。
──────────────
学校に着く。昨日と同じく、再び講堂へと向かうのだが、前とは違い、先輩達もいる。昨日ほど広くは使えないようだ。私が好きなゲーム実況者の「
☆★☆★☆★☆★☆★
漸く校長の話が終わる。長々と話し、特に俺達には何も関係の無い意味の無い話を聞かされ、俺を含め、他の生徒達もぐったりとしているようだ。しかし、ここから先。俺ら生徒には少しばかり楽しみな事がある。まあ俺にはどうでも良いことなのだが。それで、その楽しみな事というのは、"クラス替え"だ。先輩達にとっては嬉しい、楽しみな事のひとつだろう。仲のいい人と同組になれるか、気になるであろう。そんな事はどうでもいい。席を見てさっさと帰ろう。
──────────────
さて、例の組表まで来た。
『んーー…と。あった。D組か。』
どうやらD組の2番だ。まあ「
『は?』
どういう事だ、頭の理解が追いつかない。これが俗に言う、最悪 と言う奴なのか。
「あー、D組だー。」
後から
「糸口君!糸口君!」
捕まってしまった、本当に運がない。
『何だ。』
「一緒のクラスだね!」
『そうだな。』
「お隣さんだね!」
『そうだな(半ギレ)。」
☆★☆★☆★☆★☆★
少々怒りっぽい感じで言われてしまった。少し飛び回りすぎたか。でも、これ程
「ねーねー、糸口君。」
『なんだよ。』
「霧夜君って呼んd」
『無理』
即答だらけだこの人ー!!!喋らせる気がまるで無い。なかなか言いたくても最後まで言うことが出来ない。こういう会話をするのには慣れが必要っぽい。
「明日からよろしくね、霧夜君。」
『おいその名前を呼ぶな。』
「いい名前じゃん、霧夜って!」
『良くねぇから呼んで欲しくねぇんだよ。』
「やーだー!呼ぶもーん!」
『うぜぇ…。』
やはり鬱陶しい、といった風に思われてしまっているのだろうか。まあそれも仕方の無い。恐らく名前を呼んでいるうちに向こうも慣れてくるであろう。と、いつの間にか霧夜君は正門へと歩みを進めていた。私はその後を
今回は会話多めにしてみました。少しずつ二人の関係が近まってきてますね。
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第四話-意気込み。(午前)
7/20。タイトル名少し変更
……み。(前半)→→……み。(午前)
『ひとまずこれでよしか。』
と呟き、明日の授業の確認をする。この確認を怠ってしまうと忘れ物等、してしまうのだ。明日の用意が終わったところで、俺は1階に行き、リビングにあるテレビをつける。
『…。』
やはり、今最も取り上げられているのは今回起こった洪水、地震辺りの自然災害。この気温の高い中、こんな自然災害がさらに我らに追い打ちをかける。全く、ひどいものだ。
気がつけば時計の針はもう11時を示している。少し夜更かしし過ぎたか。今日は早めに寝よう、と思っていたのだが、そんな事に脳は気が付かなかったようだ。さて、寝る準備を…
「プルルルル…プルルルル…」
と、携帯が着信音を鳴らし、震える。こんな時間に一体誰だ、と思うが、もう大体予想はついている。なぜあいつはこの時間にかけてきたのだ。そう思いつつも、電話に出る。
『はい、もしもし。』
「こんばんはー、紲星あかりです。」
ほらみろ。絶対そうだと思った。迂闊に電話番号を見せてしまったのが今日最大の失敗だ。というかほんの少ししか見えなかったはずなのになんで全部記憶できたんだ。瞬間把握能力凄すぎるだろ。
『まあだろうな。それで、何の用だ。用がないなら切るぞ。寝るところだったんだから。』
「あー…そうなの。ごめんね。寝るところ邪魔して。」
『その言い方だと何も用が無かったっていう事か。』
「えーと…はい。」
何なんだあいつ。何がしたいのかさっぱりわからん。取り敢えずもう眠たいので、切ることにした。そのまま歯磨きをして就寝。
──────────────
子鳥のさえずりが耳に響き渡る。もう朝か。早い。時刻は5時すぎ。まあ普段通りだ。さて、顔を洗いに行こう。眠気覚ましにもなるし、今日も頑張る、と意気込むことも出来る。
今日の朝食はいつもとは違い、昨日帰りのコンビニで菓子パンを買ってきた。俺にとっては珍しい菓子パン。たまにはこういうのもありだろう、と思う。それに、菓子パンは焼かなくていい分、好きなことをできる時間を増やせる。あまり健康には良くないが、どうしても、という時は菓子パンに頼るだろう。さて、今日の天気予報、ニュース等見て、さっさと学校に向かおうか。今日から授業が始まるわけだし。
☆★☆★☆★☆★☆★
昨日は変な時間に電話してしまった。相手の事を考えず、ついつい自分勝手になってしまった。反省。今日は珍しく早起きしたので、読むに読めない小説を読む。あまり話の内容を奥深くまで理解する事は出来ないが、それなりに楽しめる。ついつい読みすぎて遅刻にならないように時計には一定の感覚で目をやる。小説は人を奥深くまで練り込ませる。本当に浸かってしまうと時間ら周りの事など全て気にならなくなってしまう。そこが小説の怖いところだ、と私は思う。
気がつけば7時。そろそろ学校の支度をしておかなければ。私はそう思い、いつもの支度をする。いい加減に前日に用意をするというくせをつけなければならないのに、一向にする気が起きない。明日でいいや、ってなってしまう。何故だろう。
いつもの時間帯になり、家を出て鍵を閉める。普段より少し遅めに出たので今日はゆっくり歩いて行くとしよう。
…おかしい。いつもの時間帯に来ているのに霧夜君が来ない。いつも…とは言ってもまだ2日だけだが、少し早めに出たのだろうか。霧夜君は真面目だから遅く出るということは無いと思う。もう会えないとなるのであればゆっくり進もうかとも思ったが、いち早く会いたい。なので…全力ダッシュである!
☆★☆★☆★☆★☆★
8時まであと10分。早めに来すぎたか。まあ良い、早めに行って損な事はあまりない、授業の用意をしてゆっくり小説でも読もう。今俺の中で熱いのは、ミステリー系小説。なかなかに面白い、考えるのが楽しいので沢山買ってしまった。セールスはずるいと思う。と、誰かの走る音が廊下から聞こえる。先生は基本的に走らないし、いち早く学校に来たい誰かだろう。って、おい。
「あ、おはよー!」
最悪だよもう。また
『おはよう。』
「今日はいつもより早いのね。」
『まあな。』
他愛のない会話をこなし、会話を無理やり区切る。あまりこいつと話していると周りから見られた時に付き合っているんじゃないか、とか思われそうだ。さっさと縁を切ってしまいたい。少しでも距離をとるために無視という選択肢もあるが、あまり無視はしたくない。できる限り友好関係を保った状態で縁を切る方法を探さなければ。ただの友達、という認識にしてもらわなければ困る。というか何故あんなに俺に構うのだ?普通ならば俺なんかにはあまり関わる人間など居ないのに。おかしい奴だ。
──────────────
漸く静かになった。あいつと話している間に皆着々集まってきている。もう21分か。早いものだな。さてさて、もうすぐ1限目、といっても説明が多いだろうが、頑張るとするか。
むりでした!
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第五話-意気込み。(午後)
ふう、漸く午前の授業4つが終了する。ひたすら説明だけなのもあり、寝ている人も少なからずいた。あいつら大丈夫かよ。しかしまあ、寝てしまう理由も分からなくはない。しかしまあ、午前の授業は終了した。これからは待ちに待った昼食、ということもあり、みんな前後左右の人達とわいわい話しながら食べ始める。フリーダムすぎると思うのは俺だけであろうか、といったところで俺も昼食を取ることにする。コンビニで買ってきた昼食が入った袋を取り出し、机の上に置く。飲み物はカフェインゼロの麦茶だ。これがまたうま…い。
「前、いい?」
恐らく自作の弁当か知らないが、それを持ち左の席から ひょい、っと顔を覗かす。俺は来るな、という冷たい視線を送るが彼女にはそんな視線など無意味だった。
「返答無し!それじゃあ前座るね。」
『いやちょっと待て、可笑しいだろ。』
いつの間にか前の席の赤口は居なくなり、別の席の友達と共に昼食をとっている。あいつなんで居ねぇんだよ。さて、俺の返信を聞いた奴はキョトンとした顔でこちらを見つめている。何故駄目なのか分からないのだろう。
『俺は一人で食べたいんだよ。分かるか?』
「分かんない。」
『即答かよ。』
「人の事言えないからね。」
『…。』
そういった会話をしながら何故か
『なんで勝手に食べようとしてるんだよ。』
「え、駄目?」
『誰がいいっつったんだよ。』
「返事無かったから…。」
『返事なきゃ勝手に食べていいって事じゃないんだよ。』
「別にいーじゃんー!」
♪♩︎♪♩︎♪♩︎♪♩︎♪♩︎
あの二人、仲良さそう…いいなあ。ついつい嫉妬してしまいそうになる。あの二人の中に、一緒に昼食食べないかと誘うことは出来ないであろうか、と悩む。しかしあの二人は今、喧嘩(?)しているので割り込むにもなかなか割り込むことが出来ない。いっその事割り込んで喧嘩(?)を止めに入った方が良いのではと思ったりする。そう思いつつ、お弁当を持ったままあの二人を眺める。
──────────────
漸くあの二人は落ち着いたようだ。喧嘩(?)は収まったのか、二人で仲良くお弁当を食べ出す。多少グチグチ言うものの、えーと、誰だっけ。あの
「あ、あの…。』
『ん?』
「はい?」
「わ、私…じ、20番の「
♪♩︎♪♩︎♪♩︎♪♩︎♪♩︎
急すぎる。あまりにも急すぎた。まだ会話したことの無い人に話しかけられ、それに加え昼食を一緒にいいですか、と聞かれたのは人生で初。多分
「はい!いいですよ!」
とか言い出した。意味不明なことを言うな、馬鹿野郎が。
『おま、急に何を…。』
「ありがとうございます!それじゃあ失礼しますね!』
『おいおいおいおい。』
あーもうめちゃくちゃだよ。どうしてこうなってしまったんだ。
♪♩︎♪♩︎♪♩︎♪♩︎♪♩︎
「あ、そういえばなんだけどさ、霧夜君。」
『ん?何だよ。』
「放課後、一緒にカ」
『絶対行かな』
「付いてきてね。」
『は?』
「え?」
なんなんだこのマシンガントーク…。この2人の特有の会話なのかな。見てて面白いけど、途中で止めたくもなってしまうこの気持ちは一体なんなのだろう…。
「付いてきてね。」
『はぁ…?何でだよ。』
「いいじゃん、美味しいパンケーキがあるの!」
『別に食べたくな』
「それじゃあ、放課後校門で待ってるからね!」
『…。』
これだけ聞くとただの強制連行である。可哀想に…。
♪♩︎♪♩︎♪♩︎♪♩︎♪♩︎
昼食、昼休憩が終わり午後の授業を再開する。お昼休憩をとったせいか、みんな眠たいのであろう。午前より寝ている人が多いように感じた。最初が肝心だというのに皆は何をしているんだ…。そんな中、先生は淡々と話を続ける。起きている人が偉いのではなく寝ている人が悪いのだ、といった思考であろう。さて、また長々と話を聞かされるのか…。
──────────────
やっと6限目が終了する。7限まである所もあるのだが、少なくともここは6限までだ。それにしても疲れた。話を聞いているだけなのに疲れたのは今までで初めてだ。やっと帰れ……ないのか。これから奴とカフェ(?)に行かなければならないんだった…。さっさと学校から飛び出して帰ってしまうのもありだが…、とふと隣を見るともう奴は居ない。
『逃がさねぇって事かよ…。怖い。』
どうやらもう行く運命は確定しているようだ。素直について行こう…。
深夜に書いたから文章おかしいと思うし目線切り替え多いですね
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第六話-パンケーキ。
学生さんの皆さんは夏休暇入りましたか?ぼきは入りました✌️
校門につくと、奴は既に立って待っている。何故か知らないが待たせた感がすごくて申し訳ない。
「あ、来てくれたんだ!」
『いや、待ってたじゃん。来てくれたんだじゃねぇよ。』
「えへへー…。」
奴はクスッと笑う。俺からしたら何が面白かったのか、はたまた別の事で笑ったのか知らないが、ほんの少し笑う。奴の癖なのか。
「それじゃ、行こっか。」
『へいへい…。』
あまり乗り気ではないのだが、付いていくことにする。どうせこっそり帰ったとしても明日また引っ張られるだろう。なら早めにこういう
二人で肩を並べ歩く。こういうのはてっきり付き合っている人達がするものと思っていたのだがそういうのではないようだ、あまりしたくないのだが奴がギャーギャーと
☆★☆★☆★☆★☆★
二人で歩いていると凄く緊張してしまう。私から誘ったのに何故かとても緊張してしまい、話す事があったとしても話す事が出来ない。普段ならスパッとこの無言の間を切り裂くことが出来るのに、
あともう少しで例の店に着く。中に入ればこちらのもの。定員さんとは仲が良く、気楽に話すことが出来るであろう。しかし、あと少しとは言え、この時間はとてつもなく長く感じる。1秒が1分、1分が1時間のようにも思える。人の感じることというのはとても不思議なものである。とても深い。
──────────────
「ここ、ここ。やっと着いたね。」
『あー…ここか。』
「霧夜君知ってるの?」
『昔に1回来たことがある。確かに美味しいわけだな。』
「なら話は早いや。」
そういった会話をこなし、二人は中に入っていく。戸を開けると「チャララ〜ン」と鈴の音がして、定員さんが挨拶をする。そのまま私と霧夜君は席につき、メニューを片手に互いにそれを見る。そういえばこの前、新しくメニューを追加したと言っていたが、予定通りパンケーキを頼むことにする。ここの店のパンケーキはとても美味しく、この地域ではとても有名なのである。ここに来たら先ずはこのお店、と名のつく程有名な店。そんなお店が近くにあるだなんて、案外恵まれているのかもしれない。
「飲み物どうするのー?」
『ブラックコーヒー一択だろ。』
「え。飲めない。」
『えぇ…。美味いぞ。』
「コーヒー牛乳でも厳しいのに、凄いなあ。」
『コーヒー牛乳で厳しいって…。どれだけ甘党なんだよ。』
「甘いの好きなんだもん。いいじゃん。」
『…まあ勝手にしろ。俺はブラックコーヒーな。』
「OK〜。」
とは言ったものの、私自身何にするかなんて決まってない。いつもならりんごジュースを頼むのだが、流石にそんな子供っぽい所を見せたくはない、という謎のプライドが私の心の奥底に芽生える。なので…いや、私もブラックにしようと思ったけど絶対無理だ。砂糖をどれだけ入れても無理だ。なのでここはレモンティーにでもしておこう。
──────────────
注文した品が男性定員によって運ばれる。ルックスの良い男性だ。ついつい見とれてしまう女性も多いであろう。私はそんなことは無かったけれど。
パンケーキを目の前に置かれる。ほんのりと漂う蜂蜜の香りと、ふわふわとした生地。その2つに加え、綺麗に置かれたシロップの上に赤いさくらんぼ。これらがすべて合わさったことにより、絶品料理へと変化する。これが癖で毎週、下手をすれば毎日来ていたこともある。そのおかげが定員さん…もう面倒だから名前で呼ぼう。彼の名前は「
「そういえば新夜さん。」
「ん?どうした?』
「新夜さんって身長高いですけど、何cmなんですか?」
「208cm。』
『えっ。』
「え。」
思いのほか…いや、予想異常に高い。高身長すぎる。恐らく私と霧夜君は同じことを思っていたのだろう。まさかの返答にお互いびっくりした顔を隠すことが出来なかった、
──────────────
『「ご馳走様でした。」』
2人とも食べ終わり、レモンティーを飲み干す。やはり、ここのお店のパンケーキは絶品であった。値段は少々高いが、それだけの価値はあると言っても過言ではない。さて、お会計を済ませて家に帰るとしようか。
『いくらですか?』
「1280円になります。』
『はい。』
「はい、丁度頂きました。』
「え、ちょっと!霧夜君!」
『あ?何だ。』
私が財布を鞄から取り出す頃には、もう会計は済まされていた。予想外の展開に、つい口から声を出してしまった。
「なんで1人でっ…。」
『当たり前だろ。女に払わせてたまるか。』
正直の所、少しドキッとしてしまった。男性からしたら普通なのだろうか。向こうもそうだろうが、私にとって異性の感情というのは理解し難いものだ。
そんなわけもあって、一緒に家まで歩く。いつもの十字路まで、特に他愛のない会話をしながら明るく照らす太陽が沈み、月が出てくるのを確かめながら歩く。気がつけばもう7時を過ぎている。もう当たりは暗くなり始め、街灯が少々つく。十字路に着き、そこで分かれる。今日は普段より楽しい一日になった。霧夜君も、楽しい一日を過ごしてもらえたと思えれば、とても幸せな気分になる。向こうはどう思っているかなんてわかりもしないのに。
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第七話-嫉妬。
学校生活に慣れてきたこの頃、少し慣れ始めてきた。登校する際には、いつもの十字路で待ち合わせ的なものになってしまった、というか奴が決めた。面倒ごとに巻き込まれてしまったのだが、まあいいだろう。俺は普通に行けばいいんだからな。
奴は毎朝、最初に出会った場所で立って待っている。話によると10分ほど前から待っているようだ。今は春なので割と暑い寒いの間ではあるのだが、その夏と冬はどうするのだろうか。夏は暑くて10分も待っていると汗だくになり、熱中症になる可能性だってある。冬は寒いし、雪も降る。下手に風邪をひかれてしまってもこれもまた、面倒な事になってしまう可能性もある。…って、なんでこんなに心配してるんだろうか。さっさと行こう。
──────────────
いつもの場所で合流して学校に向かう。特に何の意味も無い会話をしながら、行き帰りする道を歩む。
「昨日の課題さー、結構難しくなかったー?」
『そうか?』
「えっ、解けたの。」
『いや解けるだろ。』
「ええー。私解けなかったぁ…後で教えてよ。」
『……。まあいいが。』
こんな感じだ。ほぼ毎日と言ってもいいほど、こんな感じの会話を2人でしてる。気がつけばもう校舎は目の前にある。校門に立つ先生に軽く挨拶をして、靴が入っている下駄箱が沢山ある場所に向かう。俺の所は学校内土足禁止なのでいちいち外に行く度に履き替えなければならない。少し面倒である。
──────────────
教室に着くと、席に座りまず1限目の授業の用意をする。この前行った説明はもうすっかりと消えてなくなり、今は普通の授業だ。中学で習った知識を生かし、新たなことを学ぶ。こんな日常生活にはやはり、飽きを感じることは少ない。飽き性の俺でもなかなかに深くはまりこんでしまう。勉強とはいいものだ…。
☆★☆★☆★☆★☆★
教室に入って、先程話した課題のわからなかった所を教えてもらう。霧夜君はまず、席につくと1限目の用意をする癖があるのでそれを少し待ち、話しかける。
「おちえてー。」
『なんだその頼み方…。まあいいか、何処だ。』
なんやかんや言って霧夜君は優しい。無理だ無理だとはいうが最終的にその物事に付き合ってくれる、少しツンデレっぽい感じの人だ。こういう人はどうしても
──────────────
「あーー、成程ねー。」
『そういう事。解ったか?』
「うん!わかったー!」
そういうと霧夜君はいつもの事をし始める。そのいつもの事というのは、読書だ。どうやらお気に入りの小説の最新作品が出たらしく、それに熱中している。ホラーサスペンスの分類に値するらしいのだが、私にはその良さが全くと言っていいほど理解できない。何故わざわざ怖いものを自ら味わいに行かなければならないのか、でも寧ろ、そこがわかればとても面白く、味を吟味する事が出来るのであろう、と考える。余談だけど、私はあまり小説を読むことはないのだが、読むとしたら恋愛チックなのばかりである。やっぱりそんな暗めな話よし明るい話の方が好きだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
──────────────
お昼休憩だ。いつも通りの如く、奴は俺の目の前の席で食べる。それに、今日は初音もいる。流石にひとつの机で3人同時に昼食を取るなど、物凄いアホらしいことだ。何故こんなことを思いつくことが出来るのか、俺には分からない。
『そういえばなんだけどさ、糸口君。」
『ん?何だ。』
『糸口君って、それで栄養足りてるの?毎日パンとかおにぎりばかりだけど…。」
少し意外な質問だ。…が、正直これでは腹も空くし栄養も足りない。夕食も大抵こういう風になることが多く、栄養が少し足りなくて倒れそうになる事もやや多い。しかし、身内にそんな迷惑はかけてられないので、無理をして生きる、それが俺の生き方だと思っているのだ。
『…まあ足りてるよ。』
『本当は足りてないんじゃないの?最近ふらつきそうになってる事多くなったと思うんだけど。」
全くの図星で何も言葉が出なかった。何だこいつ。テレパシー能力でも持ってるのかと錯覚する程だ。だがしかし、実際にその通りなのだ。
『まぁ…正直足りないな。』
『ならこれあげる。」
そう言い、出したのは少しのおかず。どうやら初音は俺の栄養面の事を心配して、少し分けてくれたのだろう。しかし、これもすべて自業自得。わざわざ作ったのか作ってもらったのかは知らないが、貰うわけにもいかない。
『いやいや、いいよ別に。俺が悪いんだし。』
『いいのいいの、食べて。」
「ずるい!私が作ったのは全っ然、食べてくれないのに!」
無言で聞いていた奴が口を開く。開いたと思えば
30分ぐらいで書いた手抜き作品すぎる
次話はもう少し丁寧に書きたいですね。深夜帯に書いたものなので誤字指摘、文章が何かおかしい等ありましたら是非指摘の程、お願いします。一応プロフィール(?)みたいな所に載せてはありますが、一応Twitter載せておきますので上記の事で何かあればこちらまで。>>@Kokurou_1017
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第八話-夕焼け小焼けで。
授業が終わり、漸く帰る時間帯になった。普段通りクラスメイトはぐったりとした者や、早く帰って用事がある者、ここで居座って駄べる者等、いろんな人がいる。その中で俺は、真ん中であろうか。さっさと家に帰って用事を済ませ、自分の好きな事を自由気ままに行う。それが毎日なのである。たまに
『さて…さっさと帰るか…。』
「あ、霧夜君。」
『…なんだ。』
「今日暇ー?」
『暇じゃない。』
生憎今日は本当に用がある。いつもなら適当に理由をつけてさっと帰り、返って捕まってしまうのだが、今回は別だ。この後に予定が詰まっている。ひとつでも遅れてしまえば最悪、就寝時間がおおおにズレてしまう。様々な理由を的確に言って、今日は返してもらおう。
「えー、そーなのー?」
『この後用事が切羽詰まってるんだ。すまんな。』
「嘘だあー。」
『今日は本当なんだよ。』
「怪しいなあ…。」
…変に返って怪しまれてしまった。どうしてこうなってしまったのかよくわからないが、俺は帰ることにした。素早く手に鞄を握り、椅子から勢いよく立ち上がる。奴がその椅子を引く音に驚いている間に、俺は教室から飛び出す。急いで階段を駆け下り、靴を入れてあるロッカーが沢山ある場所へと早足で向かう。流石にこのスピードには奴も追いつけていないはずだ。急いでロッカーキーのナンバーをズラしてロックを解除し、靴を取り出し履き替える。さっさと家に…。
「もー、急に立ち上がるからビックリしちゃったじゃん!」
予想以上の速度で追いついてきた。恐らく廊下を全力疾走していたのだろう。それかもしくは、こいつの運動神経が良かったのか。それはどうでも良いことなのだが…。
「今日、少しついてきて欲しいの。」
『あのな。今日は本当n』
「いいじゃん!ちょっと綺麗な場所見つけたから!!」
『いやでも用事g』
「それじゃあ早速しゅっぱーつ!」
『人の話聞けや!!』
奴は俺の手をすっと握り、早々とその場所へと無理やり俺を連れていった。
──────────────
普段通ることのない道を次々進んでいき、近くの山に入る。ここは日のあたりがちょうど良く、俺も昔ここに遊びに来たことが何回かある。指で数える程度ではあるのだが、思い入れのある場所のひとつだ。しかし、ここはハッキリと地形を覚えている。その中でそんな綺麗な場所なんてあったのだろうか…と考える程、そこまでの場所ではある。
『おい、何処まで行くつもりだ。』
「まだまだ先ー♪」
『は?』
少し疲れてきた。それにも関わらず、ずっと先頭を早足で駆ける。一体どこまで進むのやら。この辺りはあまり見かけたことはないが、一応一通りは確認したんだ。この辺りも知ってることには知っているのだが、やはり来たことがあまり無いため、この先がどうなってるかなどは明白に思い出すことが出来ない。そんな道をスラスラと歩いて行き、どんどん山の奥へと進んでいく。これ帰れなくなったらどうするんだ、流石にそれはないとは思うのだが、奴は結構方向音痴な為、既に迷っている可能性が無きにしも非ず。とても心配である。
──────────────
「ふー、着いた着いた。」
漸くその目的地に到着したようだ。辺りは少し日が暮れてきてる。もうそんなに山を歩いていたのかと、改めて知らされる。森が少し解放されていて、ここからは太陽が落ちるのが良く見える。俺も確認したとはいえ、この景色を見るのは初めてである。確かに奴のいうとおり、良い景色ではあるのだが…。
『おい。』
「ん?なーに?」
『もう帰っていいか?』
「え、まだまだ。これからだよ?」
『…は??』
これから、という言葉に驚きを隠すことなどできなかった。これはもう今日の用事を今夜で終わらす事など不可能に近いであろう。ここからどれほど待てば良いのかは知る由もないが、また帰るのに約50分〜1時間程度かかる。仮に午後8時から始めたとして、全力でしても60%程度しか終わらないだろう。それに加え課題と明日の準備等もしなければならない。奴のせいで計画が倒れたジェンガの様に砕けていった。
『どれくらい待てばいいんだよ。』
「ん〜…。日が沈み切るまで。」
『おい、それどれくらいの時間がかかるか分かって言ってるのか。』
「勿論だよ。」
どれくらいの時間がかかるか、知ってこの返信である。ド畜生にも程がありすぎる。このあとの用を全て諦めた俺は、大人しくここで待つことにしたのだった…。
──────────────
「あ、見て見てー。」
奴の言葉に意識を取り戻し、顔を上にあげる。長時間待っていたせいか、少しぼーっとしてしまっていたようだ。そして、その後に見た景色は、凄く綺麗な夕日が沈むワンシーンであった。日が沈む色に付け加え、この静かな山に生えた木々の葉と葉の隙間から染み出ている赤に近い橙のような色をした光が、辺りに散りばめられている。確かに綺麗な景色ではある。これは見たくもなるとは思うのだが、やはり時間がかかるという点でどうしても気になってしまう。
「どー?」
『…まあ、悪いものではなかったが。』
「えへへ、良かった。」
『良くはねぇんだよ。用事が全部明日やらなければならなくなったからな。』
「あ、本当にあったんだ。」
『だからあるって言っただろうが…。』
そんなくだらない話をしつつ、俺はすっと立ち上がる。奴は俺が帰るのを察したのか、荷物を手に持ちゆっくりと立ち上がり、俺のあとを着いてくる。1度見たこの景色は、忘れることはないだろう、と胸に染み込ませ、橙の光を浴びながら俺らは自宅へと、山を駆け下りていった。
長なってもうたヤデー
投稿遅れてごめんヤデー
誤字とか変な場所あったら教えてヤデー
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第九話-入部。(前半)
今日は少し面倒事がある。それは、授業が終了次第講堂に向かい、部活動説明会を聞かなければならない。俺はこの学校に入る前から入部する部活は決めていたし、説明等学校説明会の時などにある程度は聞いている。それなのに何故わざわさこんな事を聞かなければならないのだ。恐らく、俺以外にも俺と同意見の奴が数名いるであろう、と考える。
しかし時は残酷で、遂にその説明会の時間へと流れてしまう。糸口が入部するという部活動紹介まで、かなり時間があり、その部活動紹介が終わってからもまた、続けて紹介が流れてしまう。こんな苦痛に耐えれるかと思うが、耐えるしかない。そう決めた糸口は、静かに話をマジマジと聞くのであった。少し時間が経ち、漸く半分に差し掛かる頃、糸口が入部すると決めていた部活動の紹介が来た。彼が入部する部活動は、「歴史部」と言われるもので、その名の通り過去の人物や出来事についてなど、学ぶよりさらに奥深くまで進み込む部活の事だ。知識を蓄える事が好きな糸口にとって、この部活は宝のようなものだった。そこまでは良かったのだが、糸口はその部活動の部長に驚きを隠す事ができなかったのである。
『は…!?』
今、
『まじかよ…。以外だな。』
驚きを隠せないまま、糸口は次の部活動紹介の説明を聞き過ごす事になった。
──────────────
「霧夜君はどの部活に入るの?」
奴にこう質問されたまま、俺はずっと悩んでいる。たかが部活動であろうと、やっている/ないでは今後に響いてしまう。これがさらに分岐し、運動系、または文化系に入るかでも変わってくる。できることであれば点は取りたいが、生憎運動は苦手だ。なので文化系に入ると仮定したものの、何故こいつは自分が入部する部活を話そうとしないのか、分からない。試しに1度、聞くことにしてみた。
『そういうお前は何に入ろうとしてんだよ。』
「霧夜君と同じのに入ろうかなーって。」
『はい?』
最高に面倒事になってしまった。何故こいつと同じ部活で過ごさなければならないのだ。俺は入学当初、平凡な日々を暮らすと決めていたのに何故こんなことになってしまったのだろうか。兎にも角にも、この状況を突破せねばならない。
『なんで俺と同じのに入るんだよ。』
「えー…何となく。」
『何となくでついてくるな。』
「いいじゃん別にー。」
『俺が良くねぇんだ、分かれ。』
「分からないもーんだ。」
なんだこいつ、今まで以上にしぶとい。前ならこの辺りですっと引くのに、今回は別だ。なかなかしつこく、付き纏って来る。糸口はこれ以上会話する意味もないと判断し、好き勝手に放置することにした。今思えば、は彼女は入りたい部活を糸口自らが決断することでは無い、と思いこういう判断を行ったのであった。
──────────────
コンコン、ガラガラ…。
『失礼します。1年D組、糸口霧夜と申します。結月先輩はいらっしゃいますか。』
俺はノックをして戸を開け、先輩がいるかどうかの確認をとる。時刻はもうすぐ5時前なる。しかし今日中にやることは済ませておきたいので、今日入部することにした。
「んー、ゆかりんー?』
そう言って顔を出したのは、金髪の先輩であろう方だった。背は高く、まさに女性が目指すであろう体型をしていた。まあそんな事はどうでもいいんだ、それより部長が今いるかが気になる。
「ゆかりんなら
『ありがとうございます。えーと…。』
「あ、入っていいよー。』
『は、はい。』
そう先輩から指示を受け、俺は部室であろう場所の奥へと進む。奴は何故か知らないが、入口でひょこっと顔を覗かせこちらを見ている。さっさと入ってこればいいものの、入るタイミングを失ったとでもいうのだろうか。まあそれよりだ。
『結月先輩、いらっしゃいますか。』
『ん、はいはい。どなたでしょう?」
俺は先程の自己紹介を聞いていなかったのか、と思ったのだが、先輩も先輩で作業をしているのか、と思いもう一度改めて自己紹介をすることにした。
自己紹介をして一旦区切りつけるぜ!!!!
続きはまた今度。
久々に書いたから少し目線を変えてみました。今回は三人称視点も入れてみたよ
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第十話-入部。(後半)
あと、今回から私のやりやすいやり方でさせて頂きます。勝手ながらご理解の程、よろしくお願い致します〜。(主に「 」の用途変更。)
「1-D-2番…。「糸口霧夜」君…か。」
自己紹介を終えた後、結月先輩はそう口にした。
俺はこの、「歴史部」に入ることにし、今、その部室へと足を運んでいた。
「ま、いいよ。これ入部届け。あかりちゃんにも渡しておいて。」
そういうと、先輩は俺に2枚の紙を渡し、再び部室の奥へと姿を消して行ったのだ。それより気になるのは、先輩が
「それ、明日以降にここに来て、その辺に置いておいてねー。」
金髪の先輩がそう口から発した。俺は返事をし、「失礼しました。」と言い、部室を後にした。
───────
「これ、お前のだ。」
「あ…ありがとう。」
「じゃあな。」
「ま、待って!」
奴は俺の足を引き止めた。俺は不思議そうな顔をし、奴に視線を向ける。すると奴は、言葉を詰まらせた。
…しばらく無言の時が刻まれた。そんなに経ってはいないのだが、長く感じた。
「なんだよ、止めておいて。何も用がないのか。」
「あ…えっ…と…その…。」
俺は奴の言葉を全て聞き終わる前に足を動かした。
校門を出ると、奴は走って俺のあとを追いかけて来て、俺の隣へと息を切らせながら移動してきた。
「あ、あのさ!」
「…。」
「私…入部しても…いい?」
「は…?」
予測不可能な質問に、今度は俺が言葉を詰まらせてしまった。自分で決めて入部する。それが部活の決まりと思うのだが、奴は違う。何故か俺に聞いてきやがった。まだ先輩に聞くのならば話は別。しかし何故俺に聞いてきたのだろうか、それを質問にして返す。
「何故俺に聞いてきた。先輩に聞けばいいじゃないか。」
「霧夜君嫌がるかな…って思って…。」
「別に…好きにすればいいじゃないか。」
奴は俺がそう言うと、嬉しそうに飛び跳ねた。わーい、わーい、と口にしながら数回ジャンプをする。そんなに嬉しのか、よく分かりはしないが、まあいい。今日は小説を買いに行きたいからいつもの十字路で別れを告げて、さっさと買いに行くとしよう。
───────
何故だ。
何故なのか。
何故今俺は。
カフェにいるんだ。
ついだ。仕方ないんだ。奴がカフェに来てくれるなら、新作のミステリーホラー小説、未開封の100冊限定についているオマケの短編小説。それを俺に寄越すと言いやがった。俺はそれを入手することができてなく、前々から悔しかった。だが、何故こいつはそんなものを…。
理由はともかく、貴重な物を入手することが出来た。多少のデメリットは覆うとするしかない。
「あのさ…。」
無言の空間を切り裂いた一言。それは微かに、小さいものだったが俺の耳に聞こえてきた。
「なんだ。」
俺が問い直す。奴は少しだまり、再びその口を開いた。
「…「歴史部」って何をするんだと思う?やっぱり過去の人とかについて調べたりするのかな。」
「そりゃそうだろ。「歴史部」って名前なんだから、その位は…。」
「どの辺まで深く探ると思う?」
「どの辺って言われてもな…。まだ分からないだろ、そんなもの。」
「そっかぁ。」
何処と無く自然な流れで会話する。時折飲み物を口にし、俺は話題を見つけ出す。あまり来ないカフェに来たんだ。それもいつも付いてくる女子と。それなら会話を持ってこないと奴も楽しくは無いだろう。こんな気遣い、いつもならしないのだが、何か言われる前に動かないと面倒だ。
───────
家に着いた。今日のカフェは一段と楽しかった気がする。私はベッドに制服のまま寝転がると、その気を抜いた。
「はぁ~~…。」
ため息をつくと、天井を見上げ、ライトを見つめる。何も無いのだが、ぼーっとしているこの時間が何故か好きなのだ。
それにしても、今日の彼はやけに積極的だった気がする。いつもは私から話題を提供するのだが、今日はお互いに話題を出し合い、楽しめた(と思う)。
「あ、入部届け書いおかなくちゃ。」
ふと思い出した私はベッドから起き上がり、机を向かいあった。ササッと学年番号名前を書き、印鑑を押す。そして部活名のところには…。
「「歴史部」…と。」
これで終わり。明日の放課後あたりに、霧夜君と一緒に持っていこう。
「部活の予定とかはどうするんだろう…。まあいいか!」
私はその疑問を切り捨て、再びベッドに寝転がり、携帯をにらめっこを開始したのであった。
変な感じがしますが許して
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第十一話-孤独。
季節は春から夏の間。この時期にやるものと言えば、そう。
「体育祭だー!!」
突如あげたその声は、家中に響き渡ったと同時に、彼女の気持ちを掻き立てた。
彼女は日々、運動をしている。そのせいか、体育科目は大抵得意だ。主に、陸上系のスポーツが好みで、彼女の友人に「陸上競技部」を進められていたらしい。だが、彼女は断った、言うまでもなく。
◼
彼女が年に一度の体育祭を楽しみにしている理由には、幾つかの理由が存在していた。1つは、当然の如く、体育関連のものであるから。そして、もう1つ、彼女には計画をしていたものがあった。
「ふふふ…絶対食べさせてやる…!」
そう、彼女は彼に、自分の食べた料理を食べて欲しかったのだ。
数日前、同クラスの「初音」は手作りの料理を彼に食べさせた。パンだけでは栄養バランスが崩れるから、といった理由だ。だがしかし、問題はそこではなかった。
彼は食べなかったのだ、彼女の料理を。同クラスの、しかも同じ性別の人から料理を食べているのにも関わらず、彼女の料理は決して食べない。果たしてなぜなのだろうか。彼女はその理由を、知る由もなかった。
───────
「今日は体育祭の事を決める日…楽しみだなあ。」
そう呟きながら、いつもの通学路を歩み、学校へと足を進める。彼女の生活の一部と化した、毎朝彼と会うというものは、生活の一部とはいえ、楽しみの一つでもあった。
彼を来るのを待っていると、いつも通りの曲がり角からノコノコとやってくる。今日はいつもより少し遅かったのである。
「どうしたの、今日。遅かったじゃん。」
「少し忘れ物をした。」
彼が忘れ物をするのはなかなかに珍しいことだ。だが、紲星あかりとは違い、自分でそれに気づくことが出来ている。ちゃんとした性格に、彼女は関心をした。
◼
待ちに待った6限。そこに何があるかと言うと、授業科目は「総合」である。この時間を先生は利用し、体育祭のことについて皆と話し合う。今日から始まるそれに、彼女は心を燃やしていた。
「皆さん、聞いてください。」
担任の東北先生が口を開く。すると、皆は口を一斉に閉じる。
「皆さんは、
東北先生は机をバン、と叩き、いえー!と興奮した口調で盛り上がった。先生が騒ぎ出すと、他の生徒も次々に騒ぎ立てる。先生は、生徒からかなり気に入られており、とても優しい先生なので人気が出るのも当然なのだ。
彼女もまた、騒ぎ立てたうちの一人であった。しかし、不意に横を見る。そこには、つまらなさそうな顔をした、糸口の顔があった。
「イヤなの?」
「苦手だからな、こういうの。」
そう質問に答えると、彼は伏せて顔を隠した。よっぽど彼女に顔を見られるのが嫌なのか、はたまた別の事情がその顔に隠されているのか。その答案は、教科書、辞書にも書かれていない。
───────
「はあ…。」
彼は長いため息をつく。やはり、体育祭という行事が憎たらしいのだろうか。
今日は一人で帰っている。彼女は用事があるからと言い、先に走って帰ってしまったのだ。彼は渋々、自己中心的な奴だ、と心の中で思い、その言葉はひっそりと隠しておいた。
そんな彼の様子を少し遠くから見ているものがた。それは、
「糸口君。だよね?」
振り向くとそこには、「歴史部」の先輩、「弦巻マキ」先輩が後ろに着いてきていた。思わず彼はびっくりして、咄嗟の反応が出てしまった。
「なんですか…吃驚しました。」
「あはは、ごめんごめん。」
「まあ構わないですけど…。要件があるのでしたら手短にお願いします。」
「まあまあ、そう固いこと言わないで。」
そういうと弦巻は、早歩きをし、彼の隣へと移動した。
体格差がある2人。その差は10cm以上にも及んでいる。そんな2人が、少しずつ夕焼けが出て来ている初め、歩行速度を合わせて帰宅しているのである。
「そういえばさ、さっきため息していたでしょ。」
糸口は無言で頷く。あまり察されたくない事実を今、彼女に知り渡れられようとしているのだから、当然のことなのかもしれない。
「体育祭関連のことじゃないの?」
「そうですが。」
やっぱり、と弦巻は呟く。その時の彼には、この発言の意味は判らなかった。しかし、次の言葉でその意味は正体を現す。
「いやー、ゆかりんも体育祭嫌いだからさ…。」
「えっ。」
あの結月先輩が、あの運動神経の良いと言われている結月先輩が体育祭を嫌っているとのことなのだから、驚くほかない。
糸口は疑問を生じた。果たしてそれは何故なのか、それを問い詰めようとすると、どうやら口封じをされているらしく、手にできる情報はそこで幕を閉じたのであった。
───────
弦巻と別れた糸口は、いつもの十字路で曲がった。学校でもあまり合わなかった彼女の姿はそこにはなく、いつもより静けさが感じられた。何処と無く不自然な感じがしてたまらない、そう思っている糸口に、
「こんばんは。」
と、声をかける者がいた。そう、その人物は…。
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第十二話-月明かり。
「こんばんは。」
糸口に声をかける一人の人物。
日が沈んできて、そろそろ夜になろうとしている時間帯に、夜のお決まりの挨拶をかける人物がいた。無論、それが誰だかは糸口本人が一番知っている。
「なんだ、こんな時間に。」
「ちょっと会いたくて。」
不思議な意味を込めたかの様な言葉を発する彼女は、にへっと笑うと、ゆったりと糸口に近づき歩き始めた。
2人の影が夕焼けに照らし出され、近づいていく。ひとつの影は微動だにせず、じっと様子を伺い、もうひとつは歩いている。ふたつの影が近づいてくる中、それをじっと見つめるもうふたつの影がそこにあった。
「やっぱりあの二人、デキてんじゃん…!」
「しー!マキさん、気づかれますよ…!」
その正体は結月ゆかりと、弦巻マキ。
どうやら、二人の関係性が気になり、連絡を受けた結月ゆかりは弦巻マキと集合し、2人の様子を見つめていたようだ。
その様子に気づいていない紲星あかりは、
「ねえ、一緒に帰らない?」
と言う。だが、糸口は恐らく否定するであろう。彼は彼なりの事情がある。それも断然承知の上で、紲星あかりは誘ったのだ。
「糸口君、チャンスですよ…!」
結月ゆかりは遠くで応援をしている。コソコソ隠れながら2人の恋愛事情を見るのも悪くないと悟った結月ゆかりは、これから毎日見続けてみよう、と思った。
が、しかし。
▪️
「なんで、こうなってるんですか…。」
「さあ…ゆかりんのせいじゃない…?」
「お二人方です。」
結局最初からバレバレだったのである。
二人はコソコソと隠れていたつもりだったのだが、生憎弦巻マキの髪の色が黄色なのもあり、それが目立ってしまった様だ。バレてしまった時に彼女は、あー、結んでおけば良かった〜、と言っていた。
今、こうして
「これがウワサのパンケーキですか〜。」
「みてみてゆかりん!美味しそうー!!」
二人はパンケーキを見て、子供みたくはしゃいでいる。先輩たちのそういった所も可愛い、と思う紲星あかりはふいに糸口の方を見る。糸口はそっぽを向き、窓どうしの自分と睨めっこをしている。
「マキさんマキさん!はい、あーん。」
「あーん。」
結月ゆかりから受け取ったパンケーキを弦巻マキは口にする。味を噛み締めながらモグモグと食べる弦巻マキには、とても愛嬌があり、もうひとつの部活の活動中の時と正反対の表情をしていた。そういえば、と結月ゆかりは呟くと、糸口の方を見る。糸口は結月ゆかりに顔を向け、結月ゆかりが言霊を造るまで待ち待機していた。
「糸口君とあかりちゃんって、どういう関係なんですか?」
にやにやとしながら二人はの事情を聞くと、紲星あかりはボッと煙を上げ、顔を夕焼け色に染めた。
「ただの友達です。」
冷静に答える糸口に対し、何かを
「付き合っているんじゃないの?」
「違います。そんな関係じゃないです。」
へぇ〜、と関心をあげる弦巻マキだったが、未だに疑っている結月ゆかりは、本当に?本当に?と何度も問いつめる。その度、糸口ははい、と答えるしかない中、紲星あかりはずっとその状態だった。
▪️
月光に照らされた道を歩く二人。そのシルエットは家の塀に映し出され、隣を歩いているため、ひとつに重なっていた。
特になんの会話もない。今日のカフェの感想や、あの二人についての話題もない。ただただ夜道を無言で切り裂く二人はいつもの十字路に着き、その場に立ち止まった。
「じゃあね。霧夜君。」
「…ああ、また明日な。」
別れを告げ、それぞれの家へと向かって歩を進める。街灯が所々にあり、その度、彼の影がシルエットとなり、再び消える。その繰り返し。糸口は無言でただただ歩き、家に向かって歩いていく。
一方で紲星あかりは、ゆっくりと歩き、俯きながら歩いている。
「はぁ〜…何も喋れなかった…。」
ため息を着き一言呟くと、顔を上げ、頑張るぞ、と意気込み、走り出した。彼女の銀色にたなびく髪がゆらゆらと揺れ、それは月明かりによって、さらに銀色を増し輝いていた。
んーーーおわりーーーー!!!!(?)
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第十三話-月明かり-Another。
紲星あかりと別れを告げ、家に帰る糸口。彼が行先は家ではなく、近くのコンビニだった。
自動ドアが開き、いらっしゃいませー。と掛け声と共に、入室時の音が流れる。そんな音には一切興味はなく、スタスタと店内の奥へと入っていく。
「今日は疲れた…。弁当にでもするか…。」
料理をするのは嫌いではない、がしかし、今日は疲れている。好みではない体育祭のことを決め、オマケに紲星あかりにカフェにまで連れていかれた。さっさと夕食を済ませ、お風呂に浸かり睡眠を取りたいと思った彼は、その頭が回る前にレジへと並び、会計を済ませていた。
▪️
「ただいま。」
誰もいない部屋に響き渡る声、その発生元は糸口だった。
暗い廊下の灯火をつけ、当たりが見渡せる状態になる。靴を脱ぎスタスタと歩き、自室へと向かう。戸を開け荷物を置き、机の前にある椅子に座り、一息ついた。
「はぁ…。」
最近、調子が出ないのだ。体育祭の事を決めてからなのかは分かりもしないが、糸口の体調は良くはない。その事もあってか、食欲すら湧かず、ただただぼーっとしている時間が多くなっている。兎にも角にも、今夜は夕食をとろうと考えた彼は、先程購入した品をリビングへと運んだ。
▪️
「ご馳走様でした。」
そう言うと、空になった弁当箱をゴミ箱に捨てる。ガサッと音を立てゴミ箱に入った弁当箱は役割を果たし、焼却炉にて処分されるのであろう。きっとそうだ。
夕食を食べ終わった彼は、お風呂に入る事にした。今日一日の疲れを
プルルルル・・・プルルルル・・・
携帯が音を立て、震えている。これは恐らく、電話であろう。この時間にアラーム等は設定していないし、本来ならなるはずの無い音楽なのだから。
「はい。」
糸口は何も考えずに応答する。相手が誰であろうと関係も無しに。
「あ、糸口君?」
「…結月先輩…?」
電話の相手は紲星あかりでは無く、「歴史部」の部長「結月ゆかり」であった。電話番号を教えていないにも関わらず、何故結月ゆかりが自分の携帯に電話をかけれているのかに違和感を抱く。がしかし、その時の彼にとってはそんなことはどうでもよかった。
「で、なんですか?疲れているんで早く寝たいんですが。」
「まぁまぁそう言わず。少し部活のことについて話そうよ。」
「部活…歴史部についてですか…?」
うん、と答える結月ゆかりはペラペラと喋り出す。相槌を打つ糸口だったが、その内容は一向に頭に記憶されない。だが、そんなことは結月ゆかりが知るわけがない。その一方的な彼女の言霊は、糸口に届くことはなく、1時間が経過した。
▪️
「…以上です。分かりましたか?」
「途中から結月先輩の自慢話だったじゃないですか。」
「そっ、そんなことないです!兎に角、明後日、明後日ですからね!部室に来てくださいよ!」
「分かりました。」
「それでは、ぐっない〜。」
「おやすみなさい。」
トゥルン、という音がして電話が途切れる。その時の部屋の様子は静寂で、先程まで聞こえていた女性の声は当然ながらも、そこには無い。その空間のベッドの上に座り込む彼は、そのままパタリと倒れ、朝を迎えることにした。
が。
プルルルル・・・プルルルル・・・
再び電話がかかってきた。もう就寝前だと言うのに、忙しいことこの上ない。既に消していた部屋の明の電源を入れ、部屋中に光を与える。震えている電話を手に取り、電話の応答に出る。
「霧夜君?起きてる?」
「起きてるから出たんだろうが。」
その相手は紲星あかり。紲星あかりはこの間も夜に電話を押しかけてき、さらにその時は用が無いのにも関わらず電話をしてきた。その出来事を経験しているからか、若干糸口は警戒気味だった。
「また用がないのに電話をしてきたんじゃないんだろうな。」
「ち、違う違う!今度はちゃんと用が~~。」
紲星あかりが喋っている最中に、そうか。と呟きパタリとベッドに再び倒れる。今回は用があって話しかけてきたので、要件なしに電話をかけてきてはいないのだという安堵と共に、これからまた会話をしなければならないという嫌悪に包まれ、彼はその一夜を過ごしたのであった。
▪️
「こんばんは。」
「こんばんは。」
現在の時刻は夜21時。夜中に糸口霧夜に電話をかけた紲星あかりは、見事外へと誘い出すことに成功した。これから何をしようかと考えながらいつもの十字路へ向かっていた紲星あかりは、とあるひとつのことを思いついたのだ。考察中の紲星あかりに対し、糸口霧夜は未だに疑問を抱いていた。勿論それはこれから何をするかだ。用があると言われ外に出て、いつもの場所へ集合と言うものだから、仕方なく出てきたのだ。
「それじゃあ、行こっか。」
「行くって、何処に。」
「着いてきて!」
何もわからずじまいのまま、糸口霧夜は言われるがままに着いて行った。これから観るモノが、心に残るひとつの物になろうとも知らずに。
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第十四話-「この丘の上で。」
タッタッタッタッ。
夜を駆ける二人の内一人は、焦るように小走りで先を走る。一方手を引かれる彼は、先走る彼女の後を着いて行き、これから何をするのかすら想像つかない状況にあった。夜中の街灯は所々消えており、また、チカチカと点灯するのも存在する。そんなものには目もくれず、彼女は前を見つめ、急いで山の方角へと二人で足を運んでいたのであった。
「おい、どこへ行くんだ。」
彼女は少し息を切らしながら走っている。それを気にかけた彼はその質問を無へと返した。
▪️
どれほど時が経っただろうか。実はそれほど経っておらず、ほんの数分走っただけかもしれない。しかし、二人にとってその数分というのは長く、長く感じた。山の
「この丘の上で、星を観るの。」
この言葉の意味は、真相など隠されておらずそのままだった。
丘と言うより山ではあるが、それの上に登り星々を眺める。それのためだけに二人は走ってきたのであった。時刻は21時16分。限りのある時間をそれのために使うと思うと、彼は少しがっかりしていた。
「そんなもののためだけに、俺をここに連れてきたのか?」
彼女は首をゆっくりと縦に振る。ニコッとしながら青い瞳で見つめ、反応を伺っている。期待に満ち溢れたその瞳は星の光の反射で、キラキラと輝いていた。そんな彼女の期待は次の瞬間に崩れ落ちることとなる。
▪️
山の草木を切り分け、徐々に上へと進んでいく。彼女を待ち受けている頂上には少し、見渡しの良い野原が拡がっているのだ。それを彼女は知っていた。だから、誘った。しかし今、ここに居るのは彼女一人のみ。理由を聞くまでもなく、泣きじゃくりそうになりながらも奥へ奥へと進んでいく。遠くに空の暗い光が見え、
満点の星空が一人の少女の瞳に、映し出された。
彼女はその光景を見た瞬間、立ち止まってしまった。この光景を彼に見せたかった。その想いが悔やみ、気がつけば彼女の瞳は少し潤んでいた。
▪️
「この丘の上で。」
その言葉は今でも頭の中に過ぎる。あの時、一緒に行けばよかったと思いつつも、彼は彼女と別れた後にゆっくりと歩く。行こうと思えば行けるのだが、彼は行こうとしなかった。その考えは、結論から先に公開するとするのならば、良くはなかったのである。だがしかし、その時の彼は気づくことは無く、気づくことさえ許されることは無かった。
そんな彼に対して、空は答えた。曇りがかった空から、ほんの少し見える小さな灯。それを見た彼は気がつけば後ろを向き、元いた位置へと向かって歩み、そして走り出した。
山の麓へ向かい、先程いた位置より奥に走っていく彼。彼女が先程まで通っていた道を後追いし、明らかに人が通ったという痕跡が残っている道を走っていく。木々を分けた跡があちらこちらに見え、靴の足跡も残っている。この時間帯に来る人といえばもう、彼女一人しかいないと確信している彼は、切り傷など気にせず無我夢中で目の前の目標地点まで走っていた。
▪️
開けた空間に広がる光景は、彼の目を圧倒させた。ただ、それより彼女の事が心配になってしまっていた。辺りを見渡し、銀色のあみあみに結んだ髪の毛を持つ女の子を見つけ、少し急いで駆け寄る。サッサっと草むらを駆ける音を聞いた彼女は少しピクっと動くが、何事も無かったかのようにそのまま三角座りを続け、星をじいっと見つめている。2~3メートル離れた場所に立った彼は、彼女に対し後ろから呟く。
「さっきはすまなかった。」
「…。」
なんの返信も来ない。あたりは静寂に包まれており、そこにはただただ星々が白く輝いている様に見える光景が、目の前に広がっているだけだった。
数分経ったように思わせた。すると、彼女はすっと立ち上がり後ろを向き、二人は顔を合わせた。その時の彼女の目は先程と打って変わって、少し深い青に染まりつつあった。
「遅い。遅刻だよ。」
「お前が早すぎただけだ。」
紲星あかりはニコッと微笑んで、その暗くなりつつある瞳の色をかっと変えて、明るい、いつもの青い色にハイライトが差し込んだ。彼女はすすっと彼の横へ行き、そこにポンっと座り、星空を見上げた。彼女が自分の隣の席をぽんぽんと叩くので、彼は成すままに座り、二人で肩を揃えて宇宙に輝く星達を数分見つめていた。その想い出は、今後二人の間で語り継がれるものとなるのである。
\(*ˊᗜˋ*)/♡
ええやん
展開早いですけどね…
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第十五話-ふたりの時間。
体調管理、気をつけましょう…!
春という春も終わり、5月の頭になった頃。いつも通り学校から帰っていた2人は、明日の課題は云々だ〜、とか明日のこの授業は面倒臭いな〜、等と学生らしい会話をしていた。その2人の最近の日課は帰りに喫茶店による事だったのだ。紲星あかりに誘われ行き始めた喫茶店は前にパンケーキを食した場所であり、それは糸口霧夜の脳内に味がびっしりと記憶されていたのである。2人は今日も喫茶店に寄り、課題を黙々と進めるのであった。
「ここ違うぞ。」
「うぇっ、ほんとぉ…?」
「何でだよ。ちゃんと図を見ろ。」
基本的には糸口霧夜が指摘をし、それを紲星あかりは真に受けて課題は進む。お世辞にも紲星あかりは頭が良いとは言えず、紲星あかりの方から自分の回答を見てほしいと頼まれたので糸口霧夜は仕方なく見てあげる日々を繰り返している。然し、そんな日常にも飽きは発生せずただただ課題をいつもの場所で解く。そんな日々を繰り返していても糸口霧夜は
■
チャリーンとベルを鳴らし、戸は開く。学生2人はその戸を潜りいつもの十字路へと足を運んでいる。学校の課題を終えた2人自身に与えられた課題は、「帰宅」
「今日、時間ある?」
「いつも無いが。」
「そんな事言わないでさ。」
紲星あかりは疑問を投げかける。時間の有無を彼に問い、少し遊びに行かないかと誘う。糸口霧夜は面倒事があまり好きではない。自分にとって面倒事に認定されたものに興味は持てなくなり、その事に対するやる気もゼロになってしまう。そんな性格の彼にとって紲星あかりからの何かしらのお誘いは、殆どが面倒事になるのである。
「あったとしたら何なんだ。」
「少しおでかけしない?」
「喫茶店はそのお出かけに含まれないのか…。」
「含まなーい!」
糸口霧夜はこうなる事を目には見えていた。だがしかし、断っても無理やり連れていかれるだろうと、そう考えた。というより、そう考えるようになってしまったのである。それもこれも全て、奴のせいでこうなってしまったのだ。
「…まぁ、構わないが。」
「ほんとー!やったぁ。」
渋々承認をした彼は左腕に着けている腕時計を見る。短針は4辺りを指し、長針は6を指す。普段であれば時刻を確認した上でこの決断を下すだろう。だがしかし、今回はいつもとは異なり、決断を下した上で時刻を確認した。この行動を意味するのは、彼の心の移り変わりなのかもしれない。
■
夕日が少し傾き始めている時間帯。スーパーの前は人で混み始め、最も忙しい時刻だと言えるだろう。2人は入店し品々を見て回る。彼ら達が通っている学校とは少し離れた場所にあるため同校の者は居ず、そこに通う者でここに普段から来るのは彼ら2人だけであった。
「今日、お肉特売なんだ…。」
紲星あかりがポツリと呟くと、蒼い瞳をきらきらと輝かせている。彼女が云うには自身は食べる事が好きらしく、好きなものを食べるために生きている、とまで食すことが好きなのだ。そんな彼女にとって、好物の肉の特売というものは見逃せない情報の1つであるに違いない。しかし、生憎お金はあまり使ってしまうと、今後の生活に支障をきたす可能性は十二分にある為、紲星あかりはそれを見逃し諦めるのであった。
買い物を終え、店を後にした2人は直結で十字路に向かった。なんの会話もなくただひたすら前を見て、影が次第に伸びていくのを瞳を通して感じていた。ある刻、袋のガサッという音が度々鳴り無言を切り裂くキッカケになった。
「ねぇ、霧夜君。」
ふと呟いた。そのキッカケを元に、会話は進んでいく。
「まだ、時間…ある?」
頭だけを少しこちらに向け、返信を伺っているようだ。歩みは止めず、いつもの待合所まで再び無言は訪れた。
「何故だ。」
「…。」
問いをかけた紲星あかりは無言になってしまう。糸口霧夜から視線を逸らし、道端に生えている花を見つめてしまった。
「…帰るぞ、また明日な。」
そう糸口霧夜は言葉を発す。彼は彼女に背を向け、自宅へと歩みを開始する。数歩進んだところだろうか。紲星あかりは糸口霧夜の脳内になかった言葉を声に出して言う。
「もう少し…もう少し一緒に居たくてっ…!」
糸口霧夜は歩みをとめた。その言葉を耳にした途端、目を丸くし後ろを振り向いた。
「は…?なんて?」
「だ、だから!一緒に居たいの!」
その言葉を境目に、2人の距離は縮まった。
少し短いですけど、お願いしゃす…
久しぶりでなかなか文章、思いつかないのです…ゴメンネ
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第十六話-落ちる夕日ともうひとつ。
紲星あかりは後悔していない。
まだ、まだ付き合ってすらいない人物に対して、一緒に居たい等と言ったことを。
彼女は後悔なんてしていない。すると分かっているものを、する必要は無いのだから。
■
無言の時間がただ続く。足音と袋のガサッと言う音のみが響き渡る、いつもの通り道。普段のルートからは外れ、近くの公園へと足を運んだ。公園内には子供はおらず、少し運動をしている年配の方が1人居た。ぱっと見た感じ男性だろうか、歳をとっているのにも関わらず元気な人だ、等と糸口霧夜は心の中で思っていたが紲星あかりはそんな状況では無かった。自分があんなことを言ってしまったが為に糸口霧夜は今、此処に居る。彼の時間を使ってしまうのも申し訳なく思い、どう別れを告げようか頭を必死に張り巡らせていた。しかし、そんな考えも虚しく、思考することを辞めることとなる。
「…。」
糸口霧夜は無言でブランコへと向かう。久しぶりに公園に来たのか懐かしく思っている様子であり、荷物を持ったままブランコに腰を掛ける。紲星あかりは気づいた。瞳の先には紲星あかりが映っている事に。紲星あかりは少し頭を悩ませながらも、糸口霧夜とは別のブランコにへと座る。
烏のカァー、カァーという鳴き声が、無言を切り裂く。だがしかし、それは人間界には関係の無いことであり、あくまで動物内での亀裂となっている。彼らはただひたすら無言でこの時間を過ごし、あっという間に今のものは過去のものへと変わっていった。
■
「霧夜君。」
「…ん?」
「…ごめんね、何の用だってないのに。」
「いいさ、別に。」
紲星あかりは謝りつつも、心の中で罪悪感を渋々感じていた。表面は明るく元気に振る舞う姿を拝見できるが、内面は暗く、明るく見せようとしているただのマネキン同様の性格なのである。頑張り屋な彼女にとって、自分の内面を他人に晒すなどといった行為はしない。それは、今隣にいる人に見せることもない。結末から言えば、
「霧夜君はさ、私と居て…楽しい?」
「急に何を。」
「ほら、私って、凄く絡みに行くじゃない?」
「あぁ。」
そう呟くと、楽しいのかもしれない。と言い、紲星あかりとは反対の方向に目線を向けた。これが、照れ隠しなのか何なのかは紲星あかりなのかは分からない。糸口霧夜にしか分からない。
少し時間が経った。紲星あかりが立ち上がり、「もう帰ろっか。」と言う。糸口霧夜は無言で立ち上がり、2人で公園内を出た。紲星あかりも心を切りかえたのか、会話を無理やりにでも弾まし彼を暇させない様にしていた。先程とは打って変わって、袋のガサつき音のみではなくなった為、糸口霧夜も会話をする。普段通りの2人に戻ったのか、紲星あかりも罪悪感というものは薄々消えていった。
いつもの十字路に着くと、すぐに別れた。もう時刻は5時半前になる。長時間公園内で過ごしてしまった為、互いに早歩きで家へと向かう。
■
" 自分の気持ちに正直になれない。"
そんな自分がイヤだった。
分かっている。分かっているのだ。
もう、自分に嘘なんて付かなくていい。
だって、嘘なんて付けてないのだから。
あの時、一緒に居たいと言ったのも、それのせい。
自分の心には素直になろうよ、私。
紲星あかりは足を止めた。
悩み、悩みめぐらせ、やっとの思いで言えた言葉。
それを言って得たメリットは少なかった。もう一度、もう一度リベンジをすると、今ここで彼女は心に誓う。そう決意した彼女は前を向き歩くことにした。立ち止まったって良い、少しずつでいい、一歩ずつでいいから、
紲星あかりは家に着いた。彼が今どうなのかは分からない。今、彼のことを考えるのはナンセンスである。早めに夕食を取り、今日は少し長めのバスタイムにしよう、と玄関の外で鍵を開けながらそう思っていた。
「ただいま。」
誰も居ない家に響く、1人の少女の声。廊下の灯をつけスタスタと歩いていく。自室に入り荷物を置くと、下着一枚になりハンガーに掛ける。家着に着替えてリビングに向かいテレビを付けニュースを確認。椅子に座りながらぼんやりとしていると時間はあっという間に過ぎ去る。今日はただでさえ時間を食ったのだ、ぼーっとしている時間なんて彼女には無い。夕飯の支度を開始し、腕をかけて料理を開始した。
「ご馳走様でした。」
自作料理にご馳走様、と言い水につけ洗面所へと足を運ぶ。お風呂の掃除を軽くしてお風呂を貯め始める。その間に明日の学校への準備をしようと考え、自室へ戻る。
「ブーッ。ブーッ。」
携帯が振動している。この振動は大体電話がかかってきた時にしかならないはずなのだが、紲星あかりはもしかして、と考えた。そして電話に出た紲星あかりは、もしもし、と喜んで返信を待機する。
「もしもし。」
相手は糸口霧夜。先程まで隣に居た人物であり、先程別れた人物だ。
「何か忘れ物でもしたの?」
「いや…。」
糸口霧夜は口を詰まらせる。まるで、
「お前みたいに、何も用は無い。ただ、電話をかけただけだ。」
「何それ、私の真似?」
電話越しであったが、糸口霧夜が笑っているのが目に見える。だって、紲星あかりも笑っているのだから。そのまま少し話し数分の時が経っただろうか。お風呂が貯まった時のサインとなる音楽が聞こえ、紲星あかりと糸口霧夜は電話をやめた。そして彼女は今、入浴中である。
■
「…。」
彼女の顔は紅に染っている。それは何故なのか。
もう、理由は定かある。
彼女は、
彼が、
好きなのだ。
修正しました(誤字)
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第十七話-準備。
ほんのり暖かくなってきた頃、紲星あかりは楽しみにしていることがある。それは、毎年行われる「体育祭」だ。年に一度行われる唯一無二の存在であるこの行事は、彼女にとってもっともといってよいほど、喜ばれるものであった。
今日はそれの前日であり、準備期間となっている。
「明日は体育祭かぁ〜。楽しみだな。」
そっと呟き、時計を見る。まだ短針は「5」を指している。少し早起きしすぎただろうか。しかし、楽しみなものほど寝れず、早起きしてしまうものでもあろう。そんな経験、あなたにも無いだろうか。
───────
「おはようー!」
「おはよう。」
いつもの十字路で顔を合わせ挨拶をする。
登校時間に余裕を持って来た二人は、校舎に着くと上履きに履き替え教室へ向かう。この時間には人はあまりおらず、今日は一番手のようだ。二人きりの教室、そう思うと意識をし始め、彼女は次第に彼と話すのを拒否する。一方、普段から話しかけられている糸口霧夜にとってこの行動は違和感があり、なにか企みがあるのかとこっそり疑っていたのであった。
ある程度時間が経つと、教室にぞろぞろと生徒が集まり始まる。こうもなると賑やかになり、彼女も容易に話せるようになる。その反面、糸口霧夜は安堵していた部分もあり、何かあったのかと心配していた箇所もあるが、杞憂であった。
「はーい、席について〜。」
担任の東北先生が室内に入ってくると、その返事で生徒は皆動く。東北先生は皆からの信頼も厚く性格も良好であるため、その指示に逆らうものは一握りあるかないか程。黒板の前に立ち荷物を教卓に置くと、皆に問いかける。
「今日、明日は何の日かわかる人ー!」
「はぁーーーい!」
勢いよく飛び出したのは彼女、勿論、紲星あかりであった。余っ程楽しみだったのだろう。今朝とは打って変わって元気ハツラツな表情は先生も気に入り、
「じゃあ紲星さん、明日は何の日ですか!」
「明日は体育祭ッ!ですッ!」
「気合入ってるね〜!」
紲星あかりが燃えていると、その熱気は周りに広がる。まず真っ先に火がついたのは担任であった。そして、例のごとく皆盛んになってくるのである。唯一、燃えていない生徒が一名存在していた。その名も、糸口霧夜。彼は運動が苦手で、彼にとって体育祭というのは面倒な行事なことこの上ないものであり、気だるさが増し続けている、今も今も。
───────
「紲星さ〜ん、こっち手伝ってー!」
「はぁーい!」
運動着を着衣し汗を垂れ流しながら校庭を駆け回る彼女は、その楽しみ故に身体を動かしていた。楽しみなものほど身体は自然に動くもので、時間が経つのも早く感じる。彼女は準備段階から楽しみで、その場の作業が終われば次へ、次へと手伝いに向かうのであった。
「……。」
沈黙している彼は、一向に手伝おうとする気はなかった。頑張ろうともしないその姿勢は
「きーりーやーくん!」
「…げ…。面倒なやつに。」
「誰が面倒だってー!」
面倒と発言をされた彼女はムキになり、頬をぷくっと膨らます。これ以上サボる事は出来ないと感じた彼は、しぶしぶ手伝いに参加するのであった。二人はあちらこちらを走り回り、できる限りで手伝える分だけ手伝った。片方は手伝わされたと言っても過言ではないのだが、そこは今となっては気にする必要性は感じられない。
午後になり、昼食を摂る時間になると、糸口霧夜は室内でぐでっとしていた。それもそのはず、自ら拒否している体育祭の手伝いをさせられ、挙句の果てには彼女がとある発言をしたせいで放課後、残ることになっている事が確定しているからである。
「紲星さん、放課後、手伝ってくれる?」
「勿論です!霧夜君も手伝ってくれるよね!」
「え、あ…ああ。」
「やったー!」
その場の勢いで流されてしまったが、もし仮にここで手伝わなかった場合、担任からの信頼等々を見損なわれるかもしれないと考えた糸口霧夜は、仕方なく放課後を彼女と共に過ごすことにしたのだ。
───────
「ああ…疲れた…。」
夕日が傾き始める頃、ようやく終わったのだ、手伝いが。
紲星あかりは何か言っているが、今の彼にとってそんな物は聞こえていないも同然。恐らく、明日の体育祭が楽しみ、だとか今日は有難う、などといったそんな所だろう。そういった考えのため、糸口霧夜は何も聞かないようにしていたのだが、とある言葉が彼の心に響いた。
「明日、お弁当一緒に食べない?」
「…は…はあ?」
突然の
「ほ、ほら!私達いつも一緒だし…。」
「一緒に居るつもりは無いけどな。」
「えー!」
そんな会話をしていて、返事をしないままいつもの帰路に着く。糸口霧夜はその場を茶化し、自宅へ着く。一方で、紲星あかりは少し悔しがっていた。やはり、好きな人に返事を貰えないままその日を過ごすというのは辛く、早く返事が欲しいと幾度もメッセージを送ってしまっている、そして現在も。
「むぅ…。」
返事が一向に来ない彼女は、今朝と同じくぷくっと頬を膨らますと、湯を浴びに浴室へと向かう。その間、紲星あかりが喜ぶであろうメッセージが届いている事、それを見て紲星あかりが喜ぶのは、お風呂から出た後のお話。
お久しぶりです、いぇい。
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