新☆まったり遊戯王伝 (ヴァーチャル)
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特別読み切り! 轟速の決闘者 AXEL!!

この話は昔書いた短編で、本作の前身的な立ち位置のものになります。第0話みたいなもんです。
気合い入れて書いたので、是非とも! よろしくお願いします!


 デュエル。それはカードを使った、魂と魂のぶつかり合い。

 歓声と怒号が飛び交うスタジアムの中央では、ふたりの男が、激しいデュエルを繰り広げていた。

 

「喰らえ、私の必殺コンボ! 3体の『無零怒』によって超ドロー! そしてこの3体からのぉ……!」

「……」

 

 3体の超強力モンスターが光となり、中を飛び交い、ひとつになる。

 

「エクシーズ召喚! 『熱血指導王 ジャイアントレーナー』ーっ!!」

 

 爆発と共に現れる、鋼の戦士モンスター。それを得意げに操る、太ったスーツの中年の男と、それに対峙する青年。このふたりのデュエルはワンサイドゲームであった。スーツの男の繰り出すモンスターはどれも攻撃力が高く、青年のカードでは歯が立たない。

 

「ジャイアントレーナーの効果発動! 素材を使ってドローし、相手に見せる。そしてモンスターが来る度に、お前に800ダメージを与えるのだぁ!」

「……」

「行くぞ、ドロー! モンスターカードォッ!!」

 

 青年を炎が包み、そのライフを削る。男の攻撃は止まらない。

 

「2枚目ぇっ! モンスターカードォッ!」

「……っ!」

 

 さらなる一撃。ジャイアントレーナーの効果はターンに3回までなので、次が最後。男はそれを引く。

 

「……くく、良かったなぁ小僧。モンスターカードではない」

「……」

「見せてやろうかぁ?私が引いたのは、これだぁっ!」

 

 男がドローカードをかざす。それは『RUM』、ランクアップマジックのカード。

 

「そのまま、発動! RUMシリーズのカードは、ただでさえ強力なエクシーズを更に強くする! 出でよぉっっ!!」

 

 赤い光に呑み込まれ、男のモンスターは禍々しい進化を遂げた。

 

「『CX 熱血指導神アルティメットレーナー』ーーーっっっ!!!」

 

 光を吹き飛ばし、阿修羅の如く風格で降臨する。攻撃力は3800。デュエルの世界には『神』と呼ばれるモンスターがいる。この3800という数値は、その神にもっとも近いという数値である。

 

「どうだぁ! これが私の、億の金がかかった究極コンボだ!」

「……」

「言葉もでないかぁ?戦意がないなら、とっとと殺してやる! アルティメットレーナーの効果発動っ!ドローし……」

 

 ドローカードをかざす。それはモンスターカード。

 

「モンスターならばお前に800ダメージだぁっ! おらぁっ!!」

「……っ!」

 

 青年の体勢が衝撃でぐらつく。出現しているモンスターは立体映像であるが、そのプレッシャー、緊張感は限りなくリアル。カードゲームでありながら、戦意の削り合いも闘いに加味される。

 

「クークックックゥ! しかもこれだけの攻撃をしながらも手札はたくさんある。次への備えも万全よぉ。ターンエンドだぁ」

 

 青年の場にしもべとなるモンスターはいない。その戦力差は歴然。対戦者の男は油断し、観客たちも一方的な展開に集中力を切らしていた。

 その、刹那。

 

「……ライブ……チャジ……ウォ……」

「ん?」

「……オメ……ガ……DDR……貪欲……」

「……んんっ!?」

「……フォ……ミュ……s……ho……oting……」

 

 大量にあったはずの男の手札は消し飛び、そして、青年の場に、新たなしもべモンスターが現れた

 

「な、なんだこれはぁぁっ!?」

 

 それはドラゴン。星の光の輝きに包まれた、神々しいドラゴン。天空へ舞い上がり、速度を増していく。速くなるにつれ、その全身を紅い光が包む。

 男は感じた。自分とそのしもべが、遥か上空からの攻撃の対象になったことを。そして、それが反撃の隙もない、不可避の速攻であることを。

 

「……行け」

「う……うぉぉぉぉっっ!?」

 

 アルティメットレーナーが破壊され、男のライフにダイレクトな一撃が入る。これで、勝負は決着した。

──ザワ……ザワザワ……──

 

「き、きき、決まったぁぁっ! あの大富豪決闘者のミスタータスミが負けるとは、なんという大波乱ぁんっ! 観客席のざわつきが聞こえてくるようです!

勝ったのはぁっ!?」

 

 スポットライトが勝者を照らす。20代になるかならないかといったところの青年が、勝ち誇るでもなく、ただ淡々とそこにいたのである。

 

「轟速の決闘者ぉ……AXEL!!」

 

 

 

「……」

 

 アクセルは決闘前に通って来た扉を確認する。さきほどまで閉じていたそこは、言ってよしと言うかのように開いていた。彼は扉の方へ歩みを進める。

 

「ま、待って! 待ってくれ!」

「……?」

「あ、あのターンは一体何が……」

 

 途中まで言ったところで、タスミは自力で応えにたどり着いた。デュエルは1ターンを1分以内に終えなければならない。アクセルはその時間制限にかからないため、言葉通り、目に見えないスピードでカードを展開した。

 

「……な、なるほど。君が時間制限のためにプレイスピードを上げたのは分かる! だが、あれほどの布陣を崩すとは、信じられん!」

「……あんたのカードも強かった。よく見えないデュエルをして悪かったな」

「い、いや、それはいいのだ! それより、せめて、せめてあのドラゴンの名前だけでも……!」

 

 この大会では、敗者は地下に送られ、労働させられることになる。そのアンティと引き換えに、勝者は勝つ度に財産を得る。そして優勝者にはこの街の支配者から褒美が与えられる。

 このルールにしたがって、タスミはどこからか現れた鉄仮面たちに掴まれ、引きずられていく。その最中の、必死の問いかけ。アクセルは彼を見つめ、口を開く。

 

「……クェーサー」

「……!?」

「『シューティング・クェーサー・ドラゴン』。宇宙で、最も輝く星の名だ」

「……そうか」

 

 タスミは満足げに笑い、地下へと落とされた。

 

「……」

 

 アクセルは、その様子を見つめていた。

 

 

 

「……な、なんだ今のデュエルは……!?」

 

 この大会の主催者と、その仲間が集うVIPルームでは、試合の模様が最新の巨大モニターで観戦できる。しかしそれでも、アクセルが何をしたのかは誰にも分からないでいた。

 

「い、今すぐあのアクセルという男のデータを……」

「だ、ダメです! どのデータベースにもデータがありません!」

「……くだらん」

 

 否、「誰にも」というのは適切な表現ではなかった。慌てふためく部下たちのことをくだらんと吐き捨てた男が、人を殺しそうな眼差しをモニター内のアクセルに向ける。

 

「……く、くだらないというのは……?」

「言葉通りの意味だ。どんな決闘者かなど、デュエルを見れば分かる」

「み、見えたのですか!?」

 

 発言した部下の全身が、氷に貫かれたような感覚に包まれる。

 

「……あれしきのスピードが、俺に見えないとでも?」

「し、しし、失言失礼しましたっ!!」

「……まぁ、俺も完全に見えたわけではない。だが大体は分かった。奴の戦法」

「さ、さすがです……社長!」

 

 畏怖と戦慄の塊のような男。この街の支配者、天(あまつ) 新海。彼はリストを手に取り、そこに書かれたタスミの名をバツで消す。

 

「富豪といえど容赦はするな。徹底的に、我々、リバースコーポレーションの力を刻み込んでやれ」

「合点!」

「今更言うまでもないことだが、バカな貴様らはすぐに忘れるからな」

 

 毒を吐き、新海は身を乗り出し、下々の者たちを見下ろす。

 

「……愚かな奴らだ。自分たちが遊ばれていることにも気づかない。そして、抗う力も意思も持っていない……はっ」

 

 ちょうど、アクセルが控え室に戻っていくところであった。アクセルと新海の目が合う。

 

「……」

「……ふっ」

 

 新海はアクセルの目から、何かを感じ、笑う。笑う社長を見、部下のひとりが語りかける。

 

「あ、あの、どうしたので……」

「くくっ。次の決勝、楽しみだ」

 

 自らに歯向かう者の目。それは、新海がもっとも嫌う種類の目だった。

 

 

 

「さぁー、始まりましたぁ! 長らく続いてきた、本大会の決勝戦!!」

 

 スタジアムを怒号が包む。凄まじいまでの騒音の中、対戦するふたりがステージに上がっていく。

 

「まずは、これまでのデュエル全てで敵を目にも見えぬスピードで瞬殺! 轟速の決闘者、アクセル!!」

 

 ブーイングが巻き起こる。デュエルのプロセス全てをスピードによって隠す彼のデュエルは、エンタメからはほど遠いものであったからだ。彼を応援するものは皆無だった。

 

「対するは、皆さん覚えておられますかな?デュエル塾ビジネスとプロを同時にこなし、数々の伝説を残したにも関わらず、プロの世界からいつしか去っていた謎の男を……。元エリート・プロ・デュエリスト! 『コマツ・デンジャラス』の登場だぁっ!」

 

 アクセルの時とは対照的な歓声。コマツは微笑みながら観客に手を振り、アクセルの前に立つ。

 

「やぁ。よろしく頼むよ」

「……あぁ」

 

 コマツはにこやかに手を差しだす。アクセルもそれに応じようと手を出すが、その時、彼の耳にかすかな銃声が届く。

 

「っ!? ぐぅっ!?」

 

 しかし、時既に遅かった。銃弾が彼の決闘盤を撃ち抜き、その機能が破壊される。

 

「……おやおや。どうしたので?」

「……」

 

 にやにやしながら笑っているコマツを見て、アクセルは彼もこの狙撃に一枚噛んでいると悟る。そして、VIPルームを見据える。

 

「……奴の差し金か……」

「ククッ。どうするね?アクセルよ」

 

 新海は手を上げ、スタジアムに潜ませていたスナイパーに、撤収の合図を出す。これで彼の目的は果たされた。アクセルの戦術をおおまかには把握した新海だったが、そのデュエルを普通のスピードでじっくり見たいという気持ちも確かにあったのだ。そのための狙撃であった。

 

「……なんとかやれる、か」

 

 しかしアクセルもただ撃たれるだけではなかった。ギリギリの反射神経で、致命傷は回避する。ディスクの処理速度は落ちたが、デュエルを普通にやるだけならばできる程度のダメージに抑えた。

 

「ん〜?どうしました?」

「いや。はじめようか」

 

 コマツの額に血管が浮かび上がる。「狙撃がデュエルもできないほどの破損になり、不戦勝になるかもしれない」と、入場の直前に新海に言われはした。不戦勝もラクができて良いとは思ったが、やはりどうせならデュエルで勝ちたい。そう思いはしたが、狙撃されたにも関わらず平然を装っているように見える目の前の青年は、彼のしゃくに触った。

 

「……うぜぇな。ビビって逃げりゃいいのによぉ」

「……そうかもしれないな」

 

 アクセルは微笑み、デッキを取り出し、ディスクにセットする。

 

「だが、デュエルからは逃げたくない」

 

 構え、決闘の準備万全ということを示す。

 

「……いいだろう」

 

 コマツも構える。会場を静寂が包み、そしてその静寂は、荒ぶる二匹の獣の咆哮によって破られた。

 

「デュエル!!」

 

 弾ける歓声。ディスクが、アクセルを先攻に指定する。

 

「俺の先攻。スタンバイ、メイン、そして、『ボルト・ヘッジホッグ』を攻撃表示で召喚」

 

 ボルトをまき散らし、攻撃態勢の獣が現れる。その攻撃力は800。アクセルはカードを1枚伏せる。

 

「これで、ターン終了」

「私のターン。ドロー! スタンバイ、メイン、そしてぇ、『暗黒の竜王』を召喚するッ!!」

 

 地球のコアからマグマが溢れ出し、この地上を包み込む。闇と炎が交わり、その名の通りの、暗黒の竜王が降臨する。

 

「よし、このまま攻撃すればこのターンを制することが……」

「どうかな?」

 

 VIP席では新海とその取り巻きのやり取りが行われていた。新海はアクセルの伏せカードを慎重に見つめる。

 

「疑問には思わんか?あんなザコを攻撃表示だ」

「た、たしかに……。誘っているのでしょうか」

「当然、狙いは明らかだ。あのリバースカードの罠にはめるための戦略。まぁ、コマツも分かってはいるだろうが……」

 

 しかし、コマツの目に迷いはなかった。

 

「バトルだ! 喰らえ、ダークドラゴンキングファイアッー!!」

「……っ!」

 

 攻撃力1500の炎が、アクセルとその僕を襲う。彼のライフが700削られ、7300となる。アクセルは炎を振り払い、笑う。

 

「……さすがだな。かまわずに来たか」

「当然だ。私は1枚の罠にビビっちまうようなチキン決闘者とは違うんだよぉ。カードを1枚伏せ、この辺でターンエンドとしておこう」

 

 アクセルのターン。彼はカードを引き、そして、しもべカードをディスクに置く。

 

「召喚、『スピード・ウォリアー』!」

 

 攻撃力は、900。コマツはせせら笑う。

 

「ふん。ザコが好きなのか?変わってるなぁ」

「あいにくだが、俺のデッキにはザコなんて入っていない」

「あはぁん?そういうのはさぁ、私の最強ドラゴンを倒してから言った方がいいんじゃなーい?」

「そうだな。なら、そうさせてもらおう。リバースカードオープン、『進化する人類』!」

 

 スピード・ウォリアーの筋肉がムッキムキになる。その攻撃力は、一気に上がり2400。

 

「な、なにぃっ!?罠じゃなかったのか!?」

「牽制が利かない相手だと分かったからな。ここからは、容赦はしない」

 

 アクセルの目に力が入る。コマツはその目に、若かった頃の、怖いもの知らずだった頃の自分を見る。

 

「……うぜぇ」

「装備魔法、進化する人類は、装備したモンスターの元々の攻撃力を2400にする。ただし条件として、俺のライフが相手より少なくなくてはならない」

「……そのためザコを攻撃表示にして誘っていたってわけか……!」

「さらに、スピード・ウォリアーの効果。バトルフェイズになると共に、攻撃力が2倍になる!」

「なんだとぉ!?」

「バトルだ!」

 

 さらに高められた戦士の力が、風になり、その足を包み込んで、竜に放つ渾身の一撃になる。4800の一撃を受け、竜王は粉々になる。

 

「ぐっ……うぉぉぉっ!!」

 

 コマツのライフは残り4700まで削られる。罠を覚悟はしていが、ここまでのダメージは想定外。しかし、それでもそのケアをするための策を隠していた。

 

「ちっ、トラップ、『ダメージ・コンデンサー』! 手札を1枚捨て、受けたダメージ以下の攻撃力のモンスターをデッキから特殊召喚するっ!」

「……ほう」

「来い、『アームド・ドラゴン LV3』!」

 

 攻撃力1200のドラゴンが現れる。ライフ逆転によってスピード・ウォリアーの攻撃力は戻るので、このドラゴンのそれを下回る。アクセルの絶対有利と思われた状況だったが、新たなしもべの登場によってまた分からなくなった。コマツのプロ決闘者としての力量の高さを、アクセルは実感する。

 

「……さすがだな。それに、凄まじい気迫だ」

 

 気迫というよりは、殺気という表現が適切とも言える、コマツのそれは、アクセルにも伝わっていた。

 

「当然だろう!? このデュエルに勝てば、天新海から褒美が与えられる! かつては掴めなかった夢が、富が名声がぁ、この手にもたらされるのだぁっ!!」

「褒美なんて信じているのか?」

「信じる以外に何がある!? たとえ奴らに遊ばれているだけでも、私のような力なき者は、それに従うしかない! 貴様もそうなんだろう!?」

「……カードを1枚伏せ、ターン終了」

「私のターン!」

 

 コマツのターン。彼のドラゴンの鼓動が、フィールドを震わせる。

 

「ドロー、そしてスタンバイ。ここで、アームドの効果発動!」

「っ!」

「自身をリリースし、次のレベルへと進化を果たす! レベルアップ! 特殊召喚、『アームド・ドラゴン LV5』っ!!」

「……!」

「メイン。そしてバトルでぇ……!」

 

 進化したドラゴンの攻撃力2400の足が、戦士へ迫る。

 

「攻撃! アームドパニッシャー!!」

 

 その一撃が、戦士を倒し、アクセルのライフを5800まで削る。

 

「HA☆HA☆HAー!! どうだぁ!?私のドラゴンの一発は!?」

「……きいたぜ」

「カードを1枚伏せ、エンドまで行く。だがこれでは終わらん。バトルでモンスターを倒したら、そのターンの終わりに、自身をリリースして進化する。それがこのLV5の効果だ!」

 

 渦に包み込まれ、ドラゴンが進化していく。

 

「疾風をまとい、進化せよ! 最強☆最高☆最高潮! 超絶無敵のキングだぜ! レベルアップだ!! 特殊召喚、『アームド・ドラゴン LV7』っ!!!」

 

 風が吹き、ドラゴンの方向が響く。攻撃力2800のドラゴンの目覚め。それは、アクセルを戦慄させる。

 

「ふっふっふっ」

「……ちっ、俺のドロー! スタンバイ、メイン……」

 

 高い攻撃力のモンスターに加え、伏せカードも2枚もある。うかつに攻撃はできない。

 

「モンスターをセット。ターン終了」

「私の番だなぁ。スタンバイで、リバースオープン、『リビングデッドの呼び声』! 墓地から、暗黒の竜王を復活させ、メインでリバース発動、『融合』!!」

 

 新海は口笛を吹く。

 

「ほー」

「……だ、ダブルリバース!」

「しかもどちらも攻撃を防ぐものではなかった。ふふっ、挑発的で良いなぁ」

 

 融合は複数のモンスターを合体させるカード。コマツは手札の『メデューサの亡霊』と竜王を融合させ……。

 

「メデューサの亡霊と暗黒の竜王ということは、『スケルゴン』か!?」

「くくっ、違うねぇ!!」

 

 ドラゴンの叫びが、フィールドを揺るがす。

 

「世界を支配せし獰猛なる力。母なる大地を揺るがす龍の脈動! この星に、新たな最強を生み出せ! 融合召喚! 出でよ、『始祖竜ワイアーム』!!」

 

 攻撃力2700の最強のドラゴンが現れる。

 

「バトルだ。やれぇぇぇっ!! 刃尾双挟!!」

 

 尾を振り、守備モンスターを薙ぎ払う。

 

「……ちっ」

「そしてぇ、アームドの攻撃! 喰らえぇっ!!」

 

 龍の牙が、アクセルを貫く。

 

「スーパーアームドパニッシャー!!」

 

 アクセルは吹き飛ばされ、そのライフは大きく削られる。残りライフ3000。

 

「ふっふー。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「……ぐぅ……」

 

 アクセルはふらふらと立ち上がる。しかし今は満身創痍。

 

「ふん。最後までゲームを続けるスピリッツは褒めてやろう。だが、ここから勝つなんて無理むーりー」

「……俺のターン! ドロー、スタンバイ、メイン。そして、『マッシブ・ウォリアー』を召喚!」

 

 攻撃力600の岩石の戦士が現れる。コマツは呆れたように耳をほじる。

 

「HA! 本当にザコ専だな」

「言ったはずだ、ザコではないと。このカードは、自分がモンスターを召喚したターン、特殊召喚できる。『ワンショット・ブースター』を守備表示で特殊召喚!」

 

 今度のモンスターは攻撃力も守備力も0。しかし、その特殊能力を把握しているコマツは、これまでのような蔑視はしなかった。

 

「……そいつは……!」

「自分のモンスターがバトルを行ったターン、自身をリリースすれば、バトルの相手のモンスターを破壊できる」

「な、なに!? くっそー、私のワイアームがやられてしまうぅ〜」

「誘導しようとしても無駄だ。ワイアームはモンスターの効果を受けないカード。ワンショット・ブースターの効果を使っても不発になるだけ」

「ちっ、気づいていたか……」

「行け、バトルだ! マッシブで、LV7を攻撃!」

 

 小さな岩石の戦士の決死の突進。それは観客の多くに、リスキーな賭けと思われたが、コマツはそうは思っていなかった。

 

「だが、私も気づいているぞ。そのモンスターはターンに1度だけ破壊されないうえに、そのバトルで発生するオーナーへの、つまりお前へのダメージは無効になるという効果をもっていたはずだ」

「その通り」

「つまり、攻撃力が低いにも関わらず一方的に私のモンスターを倒せるコンボが成立したわけだ。だが、そのコンボは無駄だ!」

「!?」

 

 攻撃を突如現れた渦が飲み込み、消滅させる。

 

「『攻撃の無力化』。攻撃を無効にした上で、バトルフェイズ自体をも終了させるトラップ!」

「……だが、まだ俺にはこれがある」

「?」

「魔法カード、発動!」

 

 フィールドに光の剣が振り注ぐ。

 

「『光の護封剣』。アンタの攻撃は3ターンの間だけだが、封じられる。ターン終了だ」

「……くだらねぇ」

 

 コマツのターンになると同時に、光の剣は早くも消えてしまう。アクセルの目が見開かれる。

 

「……!」

「『魔法除去』。このカードはどんな魔法カードも破壊できる。魔法効果なんか通用しないんだよねぇ」

 

 歓声が上がる。新海も、感嘆のため息をもらす。

 

「コマツの戦略は完璧だ。このデュエル、結果は見えたな」

 

 アクセルの前に、2体の最強ドラゴンが立ちふさがる。絶望的な状況。

 

「……」

 

 しかしそれであっても、その瞳の炎は消えない。コマツは舌打ちする。

 

「やはりうぜぇな。ガキって感じでよぉ」

「……あんたに一体何があったんだ?」

「なぜそんなことを聞く?今から負けるというのに」

「……悲しそうな目をしていたからから、かな」

「……」

 

 コマツはしばらく黙った後、フッと笑い、過去の振り返りを始める。

 

「……私はな、ドラゴンが好きだったのだ。その気持ちのままにデュエルをはじめ、プロになった。成績も悪くはなかったと自負している」

「……」

「やがて、ドラゴン塾という塾を開いた。ドラゴンの素晴らしさを伝えるために、世界最高のドラゴン使いになるために。だが、経営に行き詰まり、その迷いで成績を落とし、塾を手放さざるをえなくなった。そのまま堕落し、今は賭けデュエルでなんとか行き永らえているところだ」

「……」

「ドラゴン使いには良いデュエリストが多い。わざわざ私のところに来る奴などいないのだ。私の夢は死んだ」

「……」

「このくそったれな人生に革命を起こすには、ここで勝つしかないのだ! お前のような小僧は、完膚なきまでに潰すんだぁっ!」

「……そうか」

 

 コマツが、カードを振りかざす。それに風が宿り、そして、最強の息吹が吹きすさぶ。

 

「話のついでに、特別に見せてやろう。我が、切り札! このカードはLV7をリリースすることで、特殊召喚できる!」

 

 地が叫び、脈動する。

 

「天使の羽もぎ、悪魔の剣砕け。強者統べるこの大地に、新たな龍の風が吹く! レベルアァァァップッ!!」

 

 天に掲げられた旗に導かれるよう、天空から、真の最強が降臨する。

 

「『アームド・ドラゴン LV10』っ!!!!」

 

 攻撃力3000の咆哮。アクセルの全身を震わせるプレッシャー。いまだかつてないほどのパワーが、戦士たちを襲う。

 

「……くっ!」

 

 アクセルの場には2体の壁モンスターがいる。加えてマッシブは耐性持ち。しかしその事実が安全には繋がりえないことを、アクセルは決闘者としての本能で理解していた。そして、龍がその牙を剥く。

 

「行くぞ。LV10の効果、発動ぉぉぉっ!」

 

 龍の腕に風が集まり、それは巨大な竜巻になる。

 

「手札1枚を捨てることでぇ、相手の場の表側表示のモンスターを、全て! 破壊するぅぅぁっ!!」

「なにっ!?」

 

 竜巻がアクセルの場に放たれ、戦士たちを飲み込み、破壊していく。

 

「……くっ」

「これでお前を守るものは皆無! 終わりだ、LV10の攻撃!!」

 

 龍が突進し、その腕を振り上げる。

 

「ハイパーアームドパニッシャー!!!」

 

 叩き込まれる一撃。凄まじい衝撃波。

 

「ぐぅぅぅっ!」

「くくっ、ははははは!」

 

 耐えるアクセルと笑うコマツ。龍のプレッシャーが、会場を大きく揺るがす。アクセルの終わりの時に、新海は邪悪に微笑む。

 

「……終わったか」

「いや……まだだ!!」

 

 アクセルの絶叫。そして、衝撃波が彼を避けるように、その前で別れる。砂煙が上がり、アクセルの姿が隠れる。新海とコマツは信じられないという顔をする。

 

「……なんだ!?」

「これは……!?」

 

 砂煙が晴れ、アクセルの姿が露になったその時。

 

「トラップカード……『ガード・ブロック』!!」

 

 全ての答えは明らかになった。ガード・ブロックは、バトルによるダメージを1度だけ無効にし、1枚ドローするという効果を持つ。

 

「……たしかに、今使うのが最善のタイミングのカード。だが、なぜだ?そのカードを使うタイミングはこれまでもあったはず」

「LV3や5や7と言っているんだ。10がありそうと思うのは自然だろう」

「……たいした勘のよさだな。だが、ワイアームがまだ残っている! 攻撃だ!」

 

 ワイアームの突進を受け、アクセルのライフは200まで減る。

 

「これで、ターンエンド」

「……アンタは言ったな。夢が、死んだと」

 

 うすく笑みを浮かべながら、アクセルは顔を上げる。

 

「……それがどうした」

「俺の夢も聞かせてやりたいと思ってな」

「……ふっ。冥土の土産に聞いてやろう」

「俺の夢は、世界最速だ」

 

 その場にいた全てのものが、一瞬肩を震わせる。アクセルの顔は、これまでの静けさが嘘のように、躍動感に満ちていた。しかし、その言葉の突飛さが、微妙な空気感を生み出す。

 

「……くくっ、はははははっ! それはまた、無理難題というか、ガキらしい夢だな」

「あぁ。そう、よく言われるし、俺もそう思う。それを実感する度に、この夢は死にそうになる」

「……」

「だが、その度にまた追いたくなるんだ。この夢は何度でも蘇る。決して死なない」

 

 コマツは目の前の青年から逸らし、力なく呟く。

 

「……ガキだな。現実が何も分かっていない。私が苦しんできた世界は、お前の世界とは違う」

「そうだな。だが、俺たちは今デュエルをしている」

「……?」

 

 アクセルは微笑み、アームド・ドラゴンを指差す。

 

「現実離れしたモンスターが、あちこちを飛び回って、まるで冒険しているような気分になれる。それがデュエル。デュエルをしてる間だけは、俺たちはいくらでもガキになれるんだ」

 

 振り返り、自らの切り札を見つめるコマツの胸に、幼い頃の記憶が、かすかに蘇る。草原を風が撫でると、ドラゴンが空を飛び回り、火を吹いていて、どんな強い相手でも負けはせず、絶対に諦めずに闘う。そんな姿に憧れた記憶。

 

「……」

「今度は俺のターンだな。見せてやる、俺の切り札!」

 

 アクセルは笑い、上着を脱ぎ捨てる。そして、デッキに手をかける。その姿が、コマツにはまぶしかった。しかし、目は逸らさない。その眼に映った青年は、紅く、光り輝く。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 デッキの一番上のカードを引き、そして、天をめがけて投げる。カードが宙に舞い、その下で、その持ち主が胸に手を当て、叫びだす。

 

「解き放て、最強のスピード!このドローが、轟速の世界の扉を開く! 行くぜ……」

 

 アクセルが高速で体を回転させ、風を切り、そのままのスピードで。

 

「アクセルドロォォォッッ!!!」

 

 落ちてきたドローカードを掴む。それを一瞥し、彼は笑う。

 

「来たぜ……俺の相棒っ!! チューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン』を、召喚!!」

「……チューナー!? 貴様、まさか……!」

「そうだ。こいつが召喚された時、墓地から、レベル2以下のモンスターを特殊召喚できる。来い、『ドッペル・ウォリアー』!」

「……そいつは……ワイアームで倒したモンスターか……!」

「そうだ。この時のために墓地に送っておいた。そして……」

 

 チューナー。それはある召喚を行うための扉を開くためのカード。そう、これが、轟速の世界の扉を叩く1枚。アクセルの前に分厚いその扉が落ちてきて、彼を押しつぶさんとのしかかる。彼はそれを受け止め。

 

「墓地のヘッジホッグは、場にチューナーがいれば墓地から特殊召喚できる。復活!!」

「こ、これは……」

「これで俺の場に、チューナーと、チューナーではないモンスターが揃った。これ……でぇっ!」

 

 アクセルが扉を殴りつけ、破壊する。扉の向こう側、轟速の世界の猛者たちが、待ちわびたと言わんばかりに声を上げる。アクセルはディスクからカードを15枚取り出す。これはエクストラデッキという、メインデッキとは違うものである。彼はその中から何枚かのカードを引き抜き、それを上に勢いよく投げる。

 

「発動……アクセルデュエル!!」

 

 エクストラデッキが解放された闘い。それはさらなる次元の闘い。全てのリミッターを解き放った彼のデュエルを、人はアクセルデュエルと呼ぶ。

 

「レベル3のジャンク・シンクロンを、レベル2のドッペル・ウォリアーにチューニング!」

 

 チューナーモンスターとチューナーではないモンスターを墓地に送ることで、そのレベルの合計と同じレベルのモンスターをエクストラデッキから召喚する。

 

「轟速の世界より生まれし、ブレーキの横にあるものぉっ! ブンブンブーンの勢いで、ハートにズッキュン、デスティニーッ!!」

 

 アクセルは落ちてきたカードを掴み、それをディスクに置く。これが。

 

「シンクロ召喚! 正義を起こせ、シンクロチューナーモンスター! 『アクセル・シンクロン』!!」

 

 扉の向こうから、高速で司書が現れ、フィールドに突風を起こす。新海が笑い、コマツは目を見開く。

 

「……来たか。轟速の世界の力……シンクロ召喚!」

「……シンクロ使いだったとは……!」

「ドッペルがシンクロの素材になった時、場にレベル1のトークンを2体特殊召喚できる。さらに、アクセルの効果発動! デッキから「シンクロン」モンスターを墓地に送って、そのレベル分、自らのレベルを上げるかまたは下げる。レベル1、『ジェット・シンクロン』を墓地に送り、レベルを上げる!」

 

 アクセル─アクセル・シンクロンの方である─のレベルが元々の5から、6へ上がる。ジェットは墓地にある時、手札を1枚捨てて、自身を墓地から特殊召喚できる。

 

「手札の『レベル・スティーラー』を捨て、ジェット復活。そして今墓地へ送られたスティーラーは」

「場のレベル5以上のモンスターのレベルを1つ下げれば、墓地から特殊召喚できる、か」

 

 アクセルは落ちてきたカードを掴み、そのままディスクに置く。

 

「ジェットをトークンにチューング。今こそ光差せ。轟速の世界より生まれし希望の未来。新たな可能性を胸に、この大空へ翼広げフライアウェイ! シンクロ召喚! 正義の光、シンクロチューナーモンスター、『フォーミュラー・シンクロン』ーっ!!」

 

 2つの光から、新たなしもべが生まれる。そして、新たに落ちてきた2枚も鮮やかに掴む。

 

「このフォーミュラーがシンクロ召喚された時、1枚ドローできる。そしてアクセルのレベルを下げてスティーラーを復活させ、アクセルとスティーラーからシンクロ召喚。轟速の世界より生まれしサンゴよ。そのバッシャバシャのウォーターで、みんなの喉はトゥルットゥル!! 正義の潤い、『瑚之龍(コーラル・ドラゴン)』!!」

 

 レベル6のシンクロモンスター。そのレベルが下がり、スティーラーが現れる。そしてコーラルとスティーラーが激しい光の中で交差する。

 

「轟速の世界より吹く風が、奮い立つ勇者の息吹となる。今こそ光差せ! シンクロ召喚、『スターダスト・チャージ・ウォリアー』!!

 

 

 光が弾け、新たなしもべが姿を現す。さらに、アクセルがデッキに手をかける。

「チャージがシンクロ召喚された時、ターンに1度のみドローできる。同じく、コーラルも墓地に送られた時にドローできる効果を持つ」

 

 つまり、2枚のドロー。顔に力が入る。このドローがこのターンの結末を左右する。その事実を多くの者が理解していた。勝負に臨む青年を見て、コマツは目を細め、そして笑う。

 

「……ガキだな」

「ん?」

「ガキというのは後先考えないものだ。引けるものなら引いてみろ。お前の、切り札を呼ぶためのカードを!」

「……あぁ!」

 

 そのカードがデッキから顔を出し。

 

「……来たぜ」

「……ふっ」

 

 宇宙の果てに輝く星が、産声を上げた。最後の3枚が、宙を舞い、アクセルの手に舞い降りる。

 

「このカードは場にチューナーがいれば、手札から特殊召喚できる! 来い、気高き王者のしもべ、『シンクローン・リゾネーター』!」

「……レベル1のチューナーモンスターか……!」

「1のシンクローン、2のボルト、1のトークンより、シンクロ召喚! 轟速の世界より生まれし厳正なる時の番人。ビシビシビシィのジャッジで、ここに示せよユアジャスティスッ! 『虹光の宣告者』!! そして……」

「……ふっ」

「待たせたな」

 

 響く。ドラゴンの産声。コマツはドラゴン使いとしての本能で感じていた。とんでもない上物がやってくると。

 

「レベル6のチャージとレベル4の宣告者に、レベル2のフォーミュラーをチューニング!」

 

12の光が天に昇り。

 

「絆で紡がれし正義の星よ。輝け、交われ、ひとつとなれ! そして! 最強無敵の……ドラゴンとなれ!!」

 

 アクセルの足下に大きな筆が落ちてくる。彼はそれを掲げ、大胆に、しかし美しい字を、激しく、どこからか出てきた白紙に刻む。その文字は。

──正義!!──

 

「これこそが我が信念、我が魂!はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 星が煌めき、巨大な石版が落下してくる。彼はそれを受け止め、地に叩き付け。

 

「正義……降臨ぃんっ!! シンクロ召喚!!!」

「っ!」

「最速の証……」

 

 大量に流れる流れ星。天に昇る大量の花火。真紅の光をまとい、舞い降りる龍。その名は。

 

「『シューティング・クェーサー・ドラゴン』!!!!」

 

 世界の全てを優しく包む、至高の光を浴びて、フィールドが光り輝く。美しき赤色に。

 

「これが……」

「クェーサー。宇宙で、もっとも輝く星の名だ」

「……かっこいい……」

 

 その攻撃力は4000。さらに、アクセルの場に十字架が現れる。

 

「『死者蘇生』。蘇れ、アクセル! デッキからジャンクを落とし、レベルを8にし、そのレベルを下げスティーラー召喚。そして、チューニング!」

「……ふふっ」

「轟速の世界より響く王者の咆哮。列をなせ、永久不滅の正義の光! シンクロ召喚! 降臨せよ、覇者の魂!! 『レッドデーモンズドラゴン・スカーライト』!!!」

 

 炎の中から生まれる王者のしもべ。コマツは、耐えきれないといった様子で笑う。

 

「はっはっはっ! やりたい放題やってくれたなぁ。ここまでやられると、逆に気分が良い」

「ふっ。どうだ、俺のドラゴンは?」

「悪くはないな。だが、私のドラゴンの方がずっとカッコいい」

「そうか。じゃあ、決着をつけるとするか」

「いいだろう。来い!」

「行くぞ! レッドデーモンズで、ワイアームを攻撃!」

 

 攻撃力3000の王者の拳が風をきり、古の暴君が牙を剥いて迎え撃つ。牙が拳を捉えた、その時、拳に燃える炎が牙を溶かし、そのまま拳が牙を砕く。

 

「まだだ!」

 

 背後から忍び寄る鋭い尾が、王者を傷つける。しかし、王者はひるまず、灼熱の息吹で暴君を焼き払う。

 

「……行け」

 

 王者は全身をまとうパワーと炎で、自らを縛る呪縛を払い、そのまま暴君へと突進していく。暴君と王者が互いの拳をつかみ合い、そして、王者は最後の一撃のために口を開く。

 

「アクセル・ヘル・バーニング!!」

 

 燃やし尽くす、決着の炎。暴君は崩れさる。しかしその手は最後まで、王者と固く掴み合っていた。

 

「……行け、クェーサー!!」

「迎え撃て、アームド・ドラゴン LV10!!!」

 

 攻撃力の差は歴然。勝敗は見えている。しかしそれよりも大事なものが、二人にはあった。

 

「うぉぉぉぉぉっ!!」

「いっけぇぇぇっ!!」

 

 死力を尽くして闘ってくれる友の姿を、目に焼き付けたい。その美しさと勇敢さに胸躍らせていた。二人はこの時、まぎれもなくガキだった。

 

「正義創造! アクセル・クリエイション・バースト!!!」

 

 正義の星より注がれる紅い光に、アームド・ドラゴンは消えていく。その視線とコマツの視線が重なり、彼は笑う。

 

「……ひさしぶりだな。お前が、笑って見えるのは」

 

 コマツのライフは3400になる。

 

「……俺のライフはまだある。次のターンで……」

「クェーサーの効果! このカードはシンクロ素材となったチューナーではないモンスターの数だけ、1度のバトルに攻撃できる。つまり2回!」

「……」

 

 龍のアギトから、最後の光が放たれる。攻撃力4000のダイレクトアタック。コマツのライフは0になる。

 

「……ふっ」

 

 ふたりの視線が交わる。アクセルの目はまっすぐで、決して逸れない。コマツは、それを見ているうちに可笑しくなって、笑った。

 

「……お前の勝ちだ」

 

 このデュエルは、アクセルの勝利で決着した。

 

 

 

「いいデュエルだった。またやろう」

「……忘れたのか?敗者は連れられ、地下に送られる。これで終わりだ」

「あんたが終わりと思わないなら、終わりではない」

「……ガキが。ふん」

 

 踵を返し、自分からステージを降り、地下へと歩いていく。そんなこまつを見ているアクセルに、スポットライトが浴びせられる。

 

「おめでとうございます、アクセル選手ー!! さぁ、願いをどうぞ!! この街のリーダー、天新海様が、どんな願いも叶えてくださるでしょう!!」

「……あぁ」

 

 アクセルは笑い、VIP席の新海を見据える。交差する視線。そして、アクセルは地面に唾を吐く。

 

「潰れろ……」

「?なんですって?」

「ブッ潰れちまえ、こんなクソ大会ぁーっい!!!」

 

 アクセルが絶叫した瞬間、スタジアム全体が揺れ、そして、様々な咆哮から怒号が響く。新海は目を見開き、周りの者たちに怒鳴る。

 

「おい! どうなっている!?」

「え、えー……こ、これは……い、いやまさか……」

「さっさと言え! 焦らすな!」

「ち、地下の連中がゲートを突破し、地上へ溢れるように……」

「なーにー!?」

 

 監視カメラを切り替えると、なるほど、その通りの光景が広がっていた。皆、決闘盤をつけ、元気に走り回っている。

 

「……ちっ! とにかく観客を避難させろ!」

「は、はいぃっ!」

「……あの連中にそんなことができるはずが……誰が……!」

 

 新海は思い立ち、その男に目を向ける。コマツもまた、その男に驚きの目を向け、そして問いかけた。

 

「……お前が?」

「片棒を担いだだけだ。アンタも、さっさと行った方が良いんじゃないのか?」

「……手引きをするわりには、最後は粗いんだな」

「こんなところに来たのは自分なんだ。抜け出すのも自分の力で、っていうのが妥当だろう」

「……ふっ。厳しいなぁ」

 

 コマツは背を向け、そして、走り出す。そして、小さく。

 

「……また会おう、クソガキ」

 

 そう、呟いた。

 

 

「新海様、はやく逃げましょう!」

「……くくくっ」

 

 最後に、また目が合う。新海は額に血管を浮かび上がらせながら、視線を外す。

 

「……アクセル。シンクロ使いの決闘者……!」

 

 彼は笑っていた。口が裂けたのではないかと、部下に思わせるほどに、凄まじい笑顔だった。

 

「貴様は、いずれ俺が狩る」

 

 冷静になり、去っていく。その背に、龍と騎士が彼を守るように寄り添う。

 

「生と死の理すらも超越する我が召喚、『ペンデュラム召喚』でな……!」

 

 

「おーい、アクセール」

 

 アクセルが会場から出ると、そこには多くの、決闘盤を掲げた決闘者がいた。

 

「これで全員か?」

「うん。君がスゴい派手にやってたから、おかげで簡単だったよ」

「ふん。お前が困ってる人を助けたいーとか言ったんだから、大会にもお前が出ればよかったものを……」

「あはは。ごめんね」

「べ、別に謝ることでは……。で、バカどもは治ったのか?」

「うん。地下でこっぴどくしぼられて、普通のデュエルの良さを再確認したみたいだよ」

「そうか。バカは死ななくても治るときもあるんだな」

「毒舌だねー。えへへ、じゃあ、かえろっか?」

「あぁ……ん?」

 

 ふたりが話していると、決闘者が皆、ふたりを中心に集まってきていた。アクセルに先ほど敗れたタスミも脱出の時に協力した仲間と共に、肩を組み、笑っていた。

 

「おい、お前ら!」

「俺たち、地下から抜けれた記念にその辺でデュエル大会やるんだ!」

「お前らも来いよ!」

「アクセルー! 次は絶対負けんぞー!!」

 

 これらを言った者たちは皆、中年のおっさんであった。懲りているのかいないのか。ふたりはため息をつくが、アクセルが息をついたあと、勢いよく走り出していた。

 

「呆れた……」

「……ふっ、やっぱ決闘者は、みんなガキばっかだなぁ!」

「え?あ、待ってよー」

 

 デッキを取り出し、また、闘いの始まりのコールが響く。最速で最強。その男の名は。

 

「デュエル!!」

 

 轟速の決闘者、AXEL。

 

 




読みました!?ここまでたどり着いたということは読んだということでいいんですね!?やったー!!
えー、お読みいただき、ありがとうございました! 感謝、ただひたすらに感謝……っ!!
この話の主人公のアクセルが終遊黒、最後に話してた子が聖天斬、ということになります。この二人は「リンクアクセルゴールド」というナイトメアの前身的なのを始める時にボツキャラになったんですが、今回復活ということで、名前に「遊」を付けたりデッキを変えたり、まーいろいろありました。
亀更新かもしれませんが、頑張って連載していきますので、今後とも、どうぞよろしくお願いします!
では、また次回の更新で! ありがとうございました!



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第1話 覚醒のナイトメア

「闇の扉は開かれた」

 

 何もない草原。マントをはためかせ、笑みを浮かべながら、彼は目の前の敵を見据えていた。

 

「貴様は俺の心の領域を侵した。よってゲームを受けてもらう。闇のゲームだ」

 

 敵とは影。最近どこからともなく現れ人を襲う怪物、人はそれらをデュエルシャドウと呼んでいた。

 大地から、数十枚の石版が飛び出す。それらは宙を舞い、男の元へ。石版が砕け、中から出現するカード。それらが彼のディスクに装填される

 

「貴様は神が産み落とし賜うた命ではない。あるべき姿に還る時が来た」

「……?」

「つまり、悪夢タイムということだ」

 

 決闘─デュエル─。それは文字の通り、人の運命を決する闘い。ボクたちデュエリストはいつだってそれに自らの運命を託して、いや、ちょっと待っただ。これでは意味が分からない。これはボクが長い話をする時によく突き当たる問題なのだ。つまり、どこから始めたらいいかという問題である。

 よし、では少し時を巻いて戻し、事の発端から始めるとしよう。そう、それはオムライスに無性に飛びつきたくなるような午後だった。

 

 

 

 

「ハハハハハハ! 俺のターン!!」

 

 当時、彼は相当エキサイトしていた。ボクは本を読んでいたのでデュエルの内容はよく分からなかったが、彼が人参を追っかけてる馬みたいだということはよく分かった。

 

「く、くっ……!」

「『古のルール』。これにより召喚!」

 

 対戦相手の方へ同情の眼差しを送ってみたが、もはや手遅れのようだった。机から金色の龍が現れ、周りで静かに観戦していた子どもたちも目を輝かせる。

 

「『ゴールデン・レジェンド・ドラゴン』!!」

 

 うん、これは絶対的にかっこいいと言えるシロモノだ。その名の通りの黄金のボデーが太陽の光を受けて眩く輝く。その眼が、眼前の敵を睨む。

 

「ひ、ヒッ!!」

「終わりだ。ゴールデンデスティニージャッジメントぉ!!」

「うわぁぁぁっ!!」

 

 最強クラスの攻撃力を持つドラゴンが、閻魔様みたいに敵の全てを蹂躙する。

 

「ははははは! 俺の勝ちだ! あーっはっはっはぁ!!」

 

 言わなくても分かることを叫びながら、ドラゴン使いの少年が誇らしげに席を立つ。街中の喫茶店にセキュリティーの制服を着て来ているのだからセキュリティーなのだろう。それにしても若い。16くらいだろうか。

 

「では、セキュリティ権限において貴様を連行する! 来い!」

「れ、連行!? ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はただ」

「貴様のマナーの悪さは俺の癇に障った。それ以上の理由は必要ない。話は署で聞く、いいから来い!」

「待て」

 

 嫌がる相手の腕を掴み店から出ようとする少年を、ボクの隣に座っていた青年が呼び止めめる。少年は青年を睨む。なんだてめぇ、と目が言っていた。

 

「なんだてめぇ!」

「ハンバーグが残っている」

「あ?」

「食え」

 

 少年は少したじろぐ。青年の目が鋭く恐ろしかったからだろう。少年は何か言いたそうな顔をするが、やがてさらに残ったハンバーグを口でかっさらった。素晴らしい早業だった。

 

「ど、どうだ! これでいいだろ!」

「……」

「な、なんか言えよ!」

「もうお前と話すことはない。消えろチビ」

「〜!」

 

 少年は薔薇みたいだった。つまり真っ赤で美しいということだ。幼いが紛れも無い美形だ。それだけに身長がコンプレックスだったのだろう。恥で真っ赤になって、プルコギみたいにプルプル震えていた。

 

「お、覚えてろ! うわぁ〜ん!!」

 

 それを最後の挨拶とし、彼は店を去った。いやはや、なかなか印象的な少年だった。あの若さであの眼はちょっと普通ではない。道ばたに中身が全部入ったままのカップ麺が捨てられてるくらい普通ではない。地域によっては無くもないことだろうと思われるかもしれないが今はそういう話はしてないのでフィーリングで理解して欲しい。

 

「ふーん、金色 遊旗くんっていうのでござるか」

 

 彼の警察手帳を開くと無論名前が載っているわけなので、彼の本名を知ることができた。所属はデュエル部隊とある。なるほど、ならばデュエルの強さ、そしてデュエルで物事を解決する思考が強いのにも納得がいくというものだ。ちなみにデュエル部隊とはその名の通りデュエルが強い人たちによって結成される部隊で、犯罪者をデュエルで拘束するのがお仕事だ。

 

「……さて、あの少年、どう思うでござるか?遊黒くん」

「知るか」

 

 そう冷たく、冷やし中華みたいに冷たく返したのが、さっき遊旗くんを半泣きにした彼だ。白髪だがジジイという歳にはとても見えない、せいぜい20前後といったところだ。その頂点と対比するために選ばれたのかのような黒いシャツとズボン。シャレた装飾アクセサリーの類い一切なし。気難しいムッツリ野郎であることに疑いの余地はない。

 

「大体なんでお前が彼の手帳を持っている」

「拾ったのでござる」

「人の物を胸ポケットから取るヤツは嫌われやすい。ほどほどにしておけ」

 

 おい、会話しろよ。おっと、思わずそう、温厚なこのボクをしても思わせる本質的な冷たさが、彼にはあった。この冷たさははじめて会った時から変わらない。だがしかし、まるで全然、それだけじゃあないんだ。このボクが保証しよう。

 見るべきところは見たので手帳を閉じ、ボクは席を立つ。

 

「さて、この手帳を彼に返してこなくちゃね」

「マスター、地獄オムライスひとつ」

「……え?」

 

 ボクが店を出ようとした矢先、ムッツリは驚くべき発言をした。ボクは思わず彼に問いたださずにはいられなかった。

 

「き、君、今地獄オムライスって言わなかったかい?」

「言った」

「い、いや、やめといた方がいい。君は知らないんだ。あれはちょっと君には無理だ」

「へイラッシャイ!」

「さてな。食ってみなきゃ分からん」

 

 彼の気持ちはおおいに分かるというものだった。地獄オムライスは制限時間内に食べきればお代がチャラになる。きっと彼はそれを目当てにあんなシロモノを注文してしまったのだ。だが断言しよう、彼のその判断は断然間違いなのだ。あれは人間の食用に適していない。ひとたび口に入れればその名の通りの地獄の空が広がり、灼熱のマグマが地を走り、安らかな緑は死に絶える。つまりあれはそういうシロモノなのだ。

 

「無茶でござる!」

 

 彼の元にそれが運ばれる。彼は淡々とそれを口に運び。

 

「……」

 

 その顔は世界の真理を見て来た者の顔だった。そして、数秒の、しかし長く、体感にして永遠と思えるほどの沈黙のあと。

 

「……うまいな」

 

 彼の声が、店内に響いた。

 

 

 

「よこせ……カードをよこせぇっ!!」

 

 セキュリティの制服に身を包んだその男、金色遊旗が、さっき店から連れ出したオッサンに壁ドンしていた。壁ドンと言っても胸キュンムーブではなく脅迫ムーブの方であるので、彼の性癖への心配はご無用である。そもそも、オッサンは少し素行が悪かった程度でセキュリティーに連行されるほどの悪事はしていない。遊旗は最初から彼をセキュリティーに連行するつもりはなく、カードを強引に奪うために人気の少ない場所に連れ出したいだけだったのだ。遊旗はオッサンの胸ぐらを掴み、壁に叩き付ける。オッサンがうめく。

 

「うっ……!」

「寝るな! カードをよこせ……どんな敵だって倒せるだけのカードを! 俺によこせぇ!!」

「美しくないなぁ」

「っ!?」

 

 声の方へ振り向けば、そこには不敵な笑みが立っていた。赤い衣装に身を包んだ男。遊旗はそれを忌々しげに見つめる。

 

「……天……新海……!」

 

 天新海(あまつ しんかい)。それがその男の名だった。世界的大企業リバースコーポレーションの若社長にして、過去にデュエルチャンピオンになったこともある凄腕の決闘者だ。

 遊旗は新海に対して良からぬ感情を持っていた。なので彼への口調は厳しい。

 

「何の用だおまえ!」

「そうカリカリするな。フフフ、今日もお前に良い話を持って来てやったのだ」

 

 そう言い、新海は一枚の写真を遊旗に投げつける。遊旗は何か言いたそうな顔をするが、ひとまず話題に乗る。

 

「これは……さっきの!」

「知っているのか?」

「あぁ、俺をチビ呼ばわりしやがった野郎だ! 許せねぇ〜!」

「そうだろうそうだろう。俺も彼には多少恨みがあってね」

「それはどうでもいい。で、こいつがどうかしたか?」

 

 そこに映っているのは白髪の青年。たった今オムライスを食している、そう、あの男である。新海は嫌な笑みを浮かべながら語り出す。

 

「名は終 遊黒(おわり ゆうこく)。素性不明。分かっているのは、我が社のレジャー施設を破壊して回っている悪党だということだけだ」

「レジャー施設、ね」

「許せんだろう?」

「はっ!」

 

 遊旗が「はっ!」と言ったのには理由があった。新海のリバースコーポレーションが経営しているレジャー施設は数えるのも嫌になるくらいあるが、その大半は黒い噂に満ち満ちていた。不当労働・人身売買・事件事故、挙げていけばキリがないほどだ。しかしリバースコーポレーションは治安維持局、つまり警察組織とも深く繋がった企業であり、その漆黒の内情も看過されて来たというのが現実である。もちろん一警官でしかない遊旗にもどうしようもできない案件なので彼はこの件についてあまり深入りしないようにしていた。彼は権力の犬だった。だが反感は少なからずあったので「はっ!」である。

 新海は「はっ!」については微笑んでスルーし、話を続けた。

 

「単刀直入に言おうか。君も忙しいだろうからね。この遊黒という男、神のカードを持っている」

「……なっ……!?」

 

 突然の情報に遊旗は絶句する。この絶句は妥当であった。

 神のカードとは、デュエルモンスターの頂点に座する存在。それらを束ね、神の手札を揃えしもの、決闘王の称号を得る。来年辺りに教科書に載る予定なくらいの常識である。

 遊旗が求める力。神のカードほどそれに相応しい物はない。遊旗は我を忘れ、乞うように新海に歩み寄る。

 

「か、神のカード……神のカード! ほ、本当か!?」

「本当さ。喫茶店に反応がある」

「お、俺をだまそうとしてるんじゃないのか!?」

「いつも言っているだろう。俺は嘘はつかない主義だ」

「神のカード……それさえあれば! こうしちゃいられねぇ!」

 

 遊旗が走り出すのとオッサンが思わず声を上げたのは同時だった。

 

「あ、あの、俺は?」

「お前なんかもうどうでもいい! 消えろ!」

「えぇー」

「行ってらっしゃい。健闘を祈るよ」

 

 そしてそこには新海とオッサンのふたりが残った。言うまでもないが新海は高価な服を着ていて、身につけているものも高価なものが多い。対してオッサンは総合的に見てボロボロだった。なのでオッサンにちょっとした良からぬ感情が生まれるのは是非もないことだった。

 

「へへへ、兄ちゃん良い服来てるじゃねぇか。ていうかどっかで見たことあるな」

「鑑識眼があるんだね。良いことだよ。美しさが理解できない人間なんて猿以下だ。そう思わないかね?」

「あぁ、鑑識眼があるんだよ。だからよぉ、そいつが欲しくてたまらねぇんだよなぁ……!」

 

 オッサンの手にはナイフが握られていた。新海は横目でそれを眺め、薄い笑みを浮かべた。

 

「君は知っているかな?治安維持局と我が社が一心同体な理由。我が社がこの世界に不可欠な存在となっている理由を」

「……?」

「それはデュエルモンスターがこの世界に不可欠であり、デュエルモンスターのカードを生み出せるのが我が社だけだからだ。では、なぜデュエルが不可欠なのか?」

「……」

「それは……出るからさ」

 

 新海が銃の形をした決闘盤から何かを地に撒く。すると地面から、何かが出た。男の声にならない声が酸素に掻き消される。

 それは黒い影。それはやがて人の形に近づいていき、トカゲみたいな頭部を持った怪人になる。男の驚愕を見て新海は愉悦する。

 

「アハハハハハ! なかなかチャーミングだろう? この正体不明の影は人を闇に落としてしまうのさ」

「う、う、うわぁぁっ!」

 

 男は恐怖のまま、力いっぱいにナイフをそれに突き刺す。しかし微動だにせず。

 

「逃れる術はデュエルに勝利するのみ。勝てば大丈夫だ。さぁ、頑張りたまえ」

 

 男は震えながら決闘盤を構える。デュエルが始まる。影の強さは圧倒的だった。

 結果を端的に言えば、男は敗れ、影が勝利した。

 

「負けてしまったね。では、罰ゲーム!」

 

 男は影に捕食される。そして影は、その存在感を増す。男の肉体という器を手に入れ、新たにひとつの個としてここに誕生したのだ。この段階に至った存在のことを新海は「デュエルシャドウ」と呼んでいる。シャドウは不定期で街に出現し多くの人々を闇に落としている。その出自は謎に包まれている。

 新海はシャドウの誕生を喜び拍手する。その姿を鑑賞し。

 

「醜いなぁ。でも光栄に思っていい。君は真に美しき存在の礎になったのだからね」

「ウ……ア……」

「今ごろ遊旗が神のカードを手に入れるためにデュエルしているだろう。彼の勝利を信じないではないが俺は慎重でね。保険として君も送り込んでおく。力づくでも何でもいい、神のカードを奪え」

「ガ……ア……」

「ふむ。かすかに理性があるか」

 

 遊旗のように一目散に走り始めるのを期待していた新海は、なかなか言うことを聞かないシャドウに対して苛立ちを覚えた。しかし、彼はそれ以上は動じなかった。自分の人心掌握術に自信を持っていたからだ。優しく囁く。

 

「言うことを聞かなければ、君を殺す」

「……ウ……?」

「家族も殺す。いるならば恋人も。友人も親しい順に。俺の気が済むまでな」

「……」

「疑っているのかい?安心したまえ」

 

 新海は笑った。そして、その口癖を風に流す。

 

「俺は、嘘はつかない主義だ」

 

 

 

──その頃──

 

「いやぁ〜、あの地獄オムライスのウマさを理解してくれる人がいるとは! オジさん感激ぃ!」

「これまで味わったことがない味だった。辛さのその先、新しい世界の扉が開く音が……俺には聞こえた!」

「分かってるなぁあんた! ちょっと何言ってるか分からんけど! あ、そうだ、今度出そうと思ってる新メニュー、試食してみてくれよ!」

「いいんですかぁ!? えへへ、じゃあ早速」

「終遊黒ぅ!! カードをかけて俺とデュエ」

「うるせぇーっ!!!」

 

 愛すべきこの喫茶店の店主による飛び蹴りが、突然来店された金色遊旗くんに決まる。年齢を感じさせない見事な芸だった。テレビや漫画でよく見るが実際に見たのははじめてだ。遊旗くんはまるで意味が分からない旨を表明する。彼は勢いよく吹き飛ばされそれなりに痛そうだったので、彼の抗議にもいくらかの正当性はあったように思うのだが、それは店主によって却下される。

 

「ここは飯を食うところだ! デュエルならよそでやれ!俺の前でやるなぁ!」

「さ、さっきはデュエルしてても何も言わなかったぞ!」

「あのシラミ野郎を退治してくれるってことでおおめに見たんだよ。だがもうそういうのは品切れなんだ。もうデュエルは見たくねぇ。あとお前も結構うるさかったぞ」

「っ……だ、だったら店の外で」

「どのみち無理だ。デッキが無い」

「えぇー!?」

 

 ピシャリと音が聞こえて来たように錯覚させるほど、遊黒はそれをピシャリと言った。そう、彼はデッキを持ってない。手持ちのカードがないのだ。遊旗くんは明らかに動揺し、言葉を失っていた。仕方ない、ここはひとつ、ボクがひと肌脱ごうじゃないか。

 

「はーい、じゃあ提案! ボクとデュエルしようよ!」

「……え?」

「デュエルがしたいんでしょ?だったらボクが相手になろうじゃないか。物足りないかもしれないけど、きっと楽しいよ」

 

 彼をじっと見つめてみる。すると彼はまず何か言いたそうな顔になって、なにか考えてる顔になって、そして。

 

「わ、わかった。やろう。金色遊旗だ」

「ボクは聖天斬。よろしく。あ、これ落ちてたんだ。君の手帳。返すよ」

「あ! わー、ありがとうございます!」

「ま、待て待てーい!」

「ん、なんですか店主?」

「だから、わしの前でデュエル」

「マスター」

 

 コップをカウンターに置き、遊黒が店主に語りかける。

 

「俺の連れだ。おおめに見てくれないか?」

「……あんたに言われちゃあな。しかし、デュエルか……」

 

 その目は悲しみを宿していた。きっと過去に何かあったのだ。しかしそれについて追求する意思も暇もなかった。早く早くと急かす目で、ボクたちの方を見つめる子どもたちがいたからだ。やれやれだぜ。今日は他人の期待に応えデーか何かなのかといいたくなるというものだ。しかし、それも悪くない。

 

「さぁ、パーティータイムと行こうか」

「へ、俺様のビクトリータイムにしてやるぜ!」

「「デュエっ

 

 しかしその時、爆音が鳴り響いたのである。ドアが蹴り破られる音だ。

 

「バァァァァッ!!!」

 

 それは影。デュエルシャドウと言えばお分かりいただけるだろう。それを見るなり、店主が目の色を変える。

 

「て、てめぇ、あの時の! 許さねぇっ!!」

「ま、待て!」

 

 遊旗くんの制止むなしく、店主はシャドウに掴み掛かり、そしてあっさり突き飛ばされ、床に頬ずりする格好になる。シャドウはこの非紳士的なコミュニケーション法を良しとしなかったのか、店主に追撃のパンチをし。

 

「あ、危ない!」

 

 店主をかばい、遊旗くんが背中でそれを受けた。彼は血を吐き倒れる。

 

「ぐ……!」

「だ、大丈夫かあんた!」

「こ、こいつはヤバ過ぎる……みんな逃げ……」

 

 店内は狭く、ひとつしかない入り口の前にはシャドウがいる。小さな子どもが多く、皆が思い思いに叫んでいたので遊旗くんの声も届かない。ボクが駆け寄り傷の状態を確認できた時には、遊旗くんは酷い顔色だった。

 

「遊旗くん、大丈夫か!?」

「……俺はまた守れない……何も……!」

 

 体だけじゃない。心も彼を傷つけているようだった。

 

「ヴァ……ショクジ……ショクジノジカン……ヴァァァァッ!!」

 

 シャドウは言葉のようなものを発しながら、スゴいスピードで子どもたちに駆け寄る。そしてその口が裂け、長い、長い舌が出てくる。悲鳴が響き渡り、店内はさらに混沌を極める。それはまさに地獄の到来だった。

 ボクは懐を探る。2つのデッキケース、そのうちのひとつに指が触れた時、ボクの肩を制止の意の手が叩く。

 振り返れば、そこには遊黒。

 

「食事の邪魔をするのは心苦しいが」

 

 次の瞬間、ホワイトアウト。

 

 

「……アア?」

 

 それまでの混乱がまるで悪い夢か何かだったかのような、静かな場所だった。何もない草原。そこにはボク・遊黒くん・遊旗くん・店主・シャドウの5人がいるのみだった。

 

「な、なんだここは!?」

「どうなってんだ、店の中にいたはずなのに」

「あはは。ま、こういうことって稀によくあるよネ!」

「無いわ!!」

 

 遊旗くん&店主はごまかされなかった。ボクはアハハ笑いをひとつやった後、遊黒くんを見た。パッと見た感じ普段と変わらないが、あれは完全に怒っていた。彼は感情が昂ると目が赤く変色し、髪形がギザギザに変形するクセがあるのだ。

 

「闇の扉は開かれた」

 

 遊黒くんは漆黒のマントをはためかせ、いつの間にか装着していた決闘盤を構える。

 

「貴様は俺の心の領域を侵した。よってゲームを受けてもらう。闇のゲームだ」

 

 ヨーイドンの直後みたいな勢いで、大地から石版が発射する。それらはカードとなり、遊黒くんのディスクに装填される。

 

「貴様は神が産み落とし賜うた命ではない。あるべき姿に還る時が来た」

「……?」

「つまり、悪夢タイムということだ」

「……ヴァアアアッ!!」

 

 シャドウが嬉しそうに咆哮する。その腕がグニャグニャと変形し、決闘盤となる。デュエルに応じる意思があるということだ。遊黒くんはそれを眺め、笑う。

 

「はじめに言っておく。俺は貴様を一撃で倒す」

「……ヴァアアアッ!!」

 

 ん?おお、これでようやく冒頭の場面に追いついたというわけだ。いやはや、思いのほか長くなった。

 では、つつしんで、終遊黒くんのデュエルを楽しむこととしよう。

 

「デュエル!!」

 

 闘いの火ぶたが切られる。先攻はシャドウ。

 

「魔法カード、『強欲で謙虚な壺』」

「あれは、デッキの上3枚から好きなカードを手札に持ってこれるカード。だが発動ターン特殊召喚はできないから、たいしたモンスターは呼べないはず。想像と違って大人しい出だし」

「『王宮のお触れ』ヲ手札二」

「全然大人しくねー!?」

 

 いきなり強力なカードが来た。遊旗くんが叫ぶのも当然と言えた。あの罠カードは一度発動してしまったら最後、場にある限り他の罠カードの効果を全て無効にし続ける。罠カード主体のデッキならここで花屋に電話してユリの花を予約して来るところだ。つまり死を悟るという意味だが。

 

「魔法カード、『二重召喚』」

「あれはモンスターの通常召喚を2回できるようにするカード。こ、これは……」

「モンスターヲセット、ソシテリリースシ、『威光魔人』召喚!!」

 

 黄金の光をまとりし魔人が、シャドウの元へ舞い降りる。

 

「……終わったんじゃねこれ」

 

 遊旗くんは絶望の顔になっていた。そしてその反応は妥当性の高いものだった。威光魔人はモンスター効果の発動を全て禁じる。モンスター効果主体のデッキならここで以下略。

 

「い、いや、だけどあいつの攻撃力は2400。モンスター効果なしでもなんとかなる可能性は……」

「魔法カード、『デーモンの斧』ヲ装備!」

 

 それは装備したモンスターの攻撃力を1000アップさせるカード。これにより威光魔人の攻撃力は3400となる。

 

「……ば、バカな……!」

「カードヲセット、ターンエンド」

 

 シャドウは手札を全て使い切った。よって今伏せられたカードは自然と王宮のお触れということになる。

 

「……」

「……!」

 

 遊旗くんの喉が鳴る音が聞こえた。店主も、デュエルのことはあまり詳しくなさそうだが、この状況のマズさは察しているようだ。

 しかし。

 

「良いターンだった」

「……ウ?」

「次は俺のターンだな」

 

 当の遊黒は微笑んでいた。今の彼はこれが命がけのデュエルだということもあまり覚えてないのではないかと思う。デュエルをしている時の彼はいつもそうだ。優しく、自らのデッキに手をかけ。

 

「ドロー!」

 

 運命の一枚を引く。彼がそのカードを引いてから視認するまで、コンマ数秒だが間があった。その間、何のカードが来るのか胸をドキドキさせてたに違いない。それはおおいに分かるというものだ。あれだけ悲観的だった遊旗くんだって、その目の光は消していない。

 

「……?」

 

 シャドウは首をかしげる。理解できないのだろう。ボクの、遊旗くんの、期待のまなざしの意味を。

 

「来たぞ、お前の悪夢が」

 

 自らが相対している相手の、無邪気な瞳の輝きを。

 

「『ナイトメアテーベ』召喚。そして魔法カード、『古のルール』」

「あれは、高レベルの通常モンスターを呼び出すカード!」

「ヴァアッ!」

「来い」

 

 空から、黒い影が来る。黒い巨体、鋭い四肢。そして何より象徴的なのはその眼。

 

「『真紅眼の黒竜』っ!!」

 

 竜が、遊黒くんの元へ舞い降りる。遊旗くんがまた息を呑んだ。忙しいなぁ。

 

「バカな……レッドアイズドラゴンだと!?」

「知ってるのか遊旗!?」

「あぁ! あれは伝説の超レアカード! なんであいつが!?」

 

 だがレッドアイズの攻撃力は2400。単体の攻撃ではこの状況は打破できない。ならば。

 

「レッドアイズとテーベの力を束ねるまでだ」

「……?」

「見るがいい」

 

 レッドアイズとテーベを魔法罠ゾーンに置き、そこから伸びる進化の道が、雲を貫き、オゾンを超えて。

 

「レボリューション・ロード!!」

 

 進化の道を切り開く。その道の先から。

 

「終わらない未来をここに捧ぐ。幻の夢より生まれし混沌よ、沈んだ大地に降り注げ」

 

 終わりなき悪夢の体現者が、朝焼けに降り注ぐ雪のように静かに。

 

「ユニバース召喚」

 

 この大地に降臨する。

 

「ハートにズッキュン・ディスティニー!!」

 

 遊黒くんが歯を剥き出しにしてフガフガ言っていたがそんなことはどうでも良い。重要なのはだ。

 

「覚醒、『ナイトメア・ブラック・ドラゴン』!!」

 

 そのドラゴンが素晴らしいシロモノであるということさ。攻撃力は2500。現世と幻想、その狭間から這い出でし黒い龍。

 

「……ナイトメアブラック。テンシノカード!」

「そう。レガシーを受け継ぎ生まれるユニバースカードだ。会えて嬉しいか?」

「ダガ、攻撃力ハ威光魔人ガ上ダァッ!」

「と、いう夢を見ていたのさ」

「!?」

 

 威光魔人が優位に立っていた所以、デーモンの斧のカードが、ナイトメアブラックのものになる。遊旗の場で魔法カードが発動していたのだ。

 

「『移り気な仕立て屋』。このカードは装備カードを別の対象に移し替える」

「ワガカードヲ利用スルトハ……!」

「良い夢は見れたか?残念だが、ここからは悪夢フルコースだ。ナイトメアブラックの攻撃!」

「ダガ、ライフハ残ル!!」

「ここで、レッドアイズの効果発動」

「無駄ダ、威光魔人ニヨリ無効!」

「都合の悪いことばかり起こる。それが悪夢だ」

 

 龍のアギトにエナジーが集まる。その攻撃力は3500……おっと、これでは描写に齟齬があるというものだね。ナイトメアブラックの攻撃力はさらに上がる。

 

「ナ、ナゼダ!?」

「レガシーフォースはモンスター効果の発動ではない。よって有効。ナイトメアブラックの攻撃力は2倍となる」

 

 魔法罠ゾーンのレッドアイズが光を放っている。その光がナイトメアブラックに力を与えているのだ。魔法罠ゾーンにレガシーとして置かれたカードはルール上魔法カードとして扱われる。よってこれはモンスター効果の発動には当たらず、威光魔人の妨害を受けない。つまり。

 

 

「コ……コ……攻撃力7000!?」

「夢から醒める時だ」

 

 偽りの光は世界から去り行き、真実の夜が訪れる。良い子も悪い子も思わず即寝の必殺の一撃。

 

悪夢失墜(ナイトメア・フォール)!!」

 

 世界は、漆黒の夜に落ちた。

 

 




主人公どんだけ悪夢好きやねん。

お読みいただきありがとうございました。ここまでたどり着いてもらえて感謝感激です。
一応言及しといた方が良いかもなので触れますが、ちょっと前に書いたやつのリメイク的な作品になってます。なんか書きたいのと違ったので書き直したらこうなりました。

亀更新だと思いますが良ければよろしくお願いします。



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第2話 マグロ! 終遊黒vs金色遊旗!!

 超大企業の社長にして悪の親玉である紳士、天新海は、背の高い丘からデュエルの様子を眺めていた。

 デュエルが決着する。自分が放った刺客があえなく倒されて新海は悲しかった。

 

「ユニバースカードか。ふ、つくづく不快な男だな、終遊黒。やつを見てると俺の内の獣がギャンギャンと吠え立てる。最高にエキサイトな気分だ」

「分かります。こう、たーかーなーる、って感じなのですね?新海様」

「まさしくその通り。ベストマッチ!な表現だ。新人だというのに俺のことをよく分かっている。もしかして以前にも会ったことが?」

「き、気のせいじゃないですかー?」

「そうか。同年代みたいだから学友かなにかだと思ったが、それなら俺が忘れるわけがないからなぁ」

 

 新海は後ろに少女を従えていた。彼女は白銀遊傑。コードネームはシルバー。彼女は最近雇った使用人兼ボディーガードである。新海は彼女を一目見て気に入り、独断で採用。自分の身の回りをさせている。歳は16。短い白い髪、大きな瞳、華奢な体、メイド服を着せてみれば冬の草原に漂う妖精のように、新海の心を震わせた。一言で言えば見た目が好みだった。

 新海は話題を変え。

 

「ところで、あの終遊黒という男なんだが。あぁ、勝った黒いマントの方だぞ。あのいけ好かないな」

「えー、イケメンだと思いますよ。クールで口数も少ないし、とっても素敵じゃありません?」

「君は男を見る目がないなぁ。まぁ顔立ちは良いとしてもだよ。今時あんな裾長いコートをバサバサやるヤツがいるかよ」

「あはは!」

「変わったくしゃみだ」

「笑ったんです。可笑しかったから、つい! ふふっ!」

 

 何が可笑しいというのか。まるで意味が分からんぞ。そうぼやきながら彼女の麗しい視線の行方を見定めてみれば、なるほど、天新海その人も遊黒みたいな裾長コートを着ていた。新海は客観的な眼を持つ紳士だった。だから俗に言う「お前が言うなよ(笑)」状態に自分が陥ってるという事実に気づくことができたのだ。

 彼は完全に体勢を立て直し、言葉を紡ぐ。

 

「わ、笑うのはその辺にしてだなぁ」

「アハハハハ!!」

「き、君なら勝てるか?あの終遊黒に」

「えー、やってみなきゃ分からないんじゃないですかー?まぁたぶん勝ちますけど! 私強いので! ビシィ!」

 

 決め顔とファイティングポーズを決め胸を張る彼女はとても可愛かった。新海は心の氷山が少しだけ崩れていくような気がしないでもなかったんだからね。

 

「……可愛いな君は」

「は、はひ!?」

「見ているだけで心が晴れる。真に美しいというのはこういうことなんだろうな」

「〜! ま、またまた社長、じょ、冗談ばっかり〜!」

 

 シルバーは照れを隠そうと新海をバンバンと叩く。しかしこれは悪手だった。新海はデュエルの様子を見るために丘の先端ギリギリのところに立っていた。そんな彼がバンバン叩かれたらどうなるか。ならば、答えはひとつ。

 新海はゴロゴロと転げ落ちた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 はいっ! みんな大好き聖天斬さんからお送りしておりま〜す! え、お呼びでない?そんなー。

 

「爆睡タイム。トゥナイト」

 

 遊黒くんはなんだかよく分からないことを言いながらマントを翻す。その背後でシャドウが砂になって消えた、と思ったらその跡にオッサンがポツンといた。なんかキョロキョロしているし、これは経験から言ってさっきまでの記憶は失っているパターンだろう。

 悪夢マンはスタスタと足早に去って行こうとするが、そこに遊旗くんが待ったをかける。まぁ、彼からすれば気になることてんこ盛りだろうから是非もない。

 

「ま、待ってくれ!」

「このチビぃ!!」

「なんでキレてんの!?」

「あのオッサンはシャドウになって日が経っていなかったのだろう。あの様子なら問題なく生活に戻れる。そして俺が今回使った権能についてはノーコメントだ。カッとなってやった。で、何が聞きたい?」

「聞きたいことを全部先回りで言われた! よし、じゃあいいや! 助けてくれてありがとう!」

「どういたしまして。良い夢見ろよ」

 

 対話は為された。遊黒くんは去っていく。これで一件落着に。

 

「いや、ならねーよ! 忘れるところだったぜ、俺とデュエルしろ終遊黒!」

「断る」

「早い!」

「前も言ったが俺にはデッキがない。無理な話だ」

「いや、今デュエルしてたじゃん」

「悪い夢でも見てたんだろう。遊旗くんは寝起きが悪いからなぁ。あははははははははは」

 

 テキトーにごまかして去り行く遊黒くんを遊旗くんはがっちりと掴む。ホールドユータイト、それは愛憎のラブロマンスの始まりを予感させる画だった。天国の空の接近を僕は感じていた。遊旗くんは断固として告げる。

 

「俺は寝起きは良い方だ!」

「そうか! 良かったね!」

「ユニバースカードにレッドアイズ、それだけの力があれば全てが変わる。そいつらを賭けて俺と闘え!」

「いやだ」

「なんでだ!?」

「だって、お前ケガしてるだろ」

 

 突然の優しさの風に吹かれて、夢中でバイクに走ったね。と言いたいところだったが、遊旗くんは優しさの風を感じはしてもバイクに走りはしなかった。

 

「だ、だけど、それでも! 俺には強いカードが必要なんだ!」

「知らん。興味がない。なんで強いカードが必要なんだ?」

「そ、それは、復讐のためだ! 俺には倒さなきゃならない相手がいる」

「くだらん。最低の理由だ。聞いて損した。帰りまーす!」

「ちょ、ちょっと待って! じゃあアンティとか無しでもいいから! ユニバースカードってやつがもう一回見たいんだ!」

「そ、そう言われると、弱いなぁ〜」

「あんなの見たことないぜ! かっこいい! もう最高〜!」

「……ほんとか?ほんとでござるかぁ?」

「見たい見たい!」

「よし、いいだろう!」

 

 い、いいんだ……?とボクは思わざるをえなかった。ふたりが向かい合い、決闘盤を構えたその時。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 人が、なんか坂の上の方から転がって来た。ボクの後ろにドシャリと落ちる。その物体は控えめに言ってボロボロだった。ボクは慎重に言葉を選びつつ、心配の念を示す。聖天の家のものは人が転げ落ちて来た時は大体そうするのがしきたりなのだ。

 

「えっと、生きてます?」

「ほげぇぇぇっっ!! はぁー、酷い目にあった! 俺じゃなかったら威厳が保てなかった局面だな!」

「今でも保ててませんよ。ケガはないですか?」

「ない、いや、ひょっとして足を捻ったかもだ」

「へー。なにかのスポーツ中だったんですか?最近暑いから気をつけてください」

「ありがとう。君は優しいな」

 

 なかなかの距離を転がって来たのだろう。その彼は汚れていた。だから正直触りたくなかったのでボクは彼から一定の距離を保ってこれらの対応を行った。可愛い子には旅をさせろ、という言葉もある。他人を助けるとはただ優しくすればいいというものではないのだ。時には厳格にあらねばなるまいと、ボクは考える。

 やがて、汚れは立ち上がり、遊黒くんの方を見やる。

 

「おっと、デュエルが始まるようだな。せっかくだ、観戦させてもらおうか」

「病院とかに行かなくて大丈夫ですか?ひどい有り様ですよ。ひどい有り様という表現が合ってればですけど」

「ふ、常人ならばひどい有り様かもだが、この俺様だからな。汚れた姿もワイルドだろぉ?」

 

 彼はマグロみたいな顔だった。つまりイキが良いということだが。特に今の彼は穫れたてのマグロだった。新鮮ピチピチのムッチムチだ。汚れに目をつぶってやれば、食卓を彩る魚の王者の威厳に満ち満ちた姿だった。

 そして、ここでボクは気づく。

 

「あ、もしかしてあなたは天新海!?」

「そうよ俺は天新海」

「わぁー! ボクあなたのファンなんです!」

「ほんとか!? ふふふ、俺も人気が出てきたなぁ!」

「あれ?でもなんで遊黒くんと敵対しているあなたがここに?」

 

 そうだ。遊黒くんは先日、このマグロが経営する施設を崩壊させた。そこは賭けデュエルの敗者たちを強制労働させている、控えめに言ってクソ施設だったわけなのだが、マグロにとっては大事な施設のはず。それを崩壊させた遊黒くんはマグロにとってめちゃくちゃ憎い敵なはずなのだ。なのになぜ。

 

「ヤツを我が社に迎え入れようと思ってな。ヤツの力は素晴らしい。我が社で使われるべきものだ」

「うーん、その手の話が通用するかなー。ちなみにどんな条件を持ちかけるつもりで?」

「この俺様の元で働けるのだ。これ以上と無い名誉、条件など無用」

「ちょっと待ったー!」

「うん?」

 

 ボクはここで待ったをかける。ここで会ったのも運命、彼の過ちを正してあげたい! そんな純粋な天使が、今! ボクの心に舞い降りる!

 

「ちょっと、言い方が良くないんじゃないかと思うんです」

「言い方だと?」

「はい。こう、ボクたちの仲間になろうよ!とか、アットホームな職場で一緒に働こう!とか」

「いやぁ、それはそれでうさんくさくないですか?ほら、俺の会社けっこう大企業だし、ちょっと強気な感じの方が良いかなーって」

「たしかに、下手に出過ぎるのも良くない。でも、俺様の元で働けるなんて嬉しいだろ?なんてスタンスは、はっきり言って古ーい!」

「がーん! 今の求人票とCMこのスタンスだけど!」

「全然ダメですね。最近どうです?新規採用の方は」

「ど、どうなんだシルバー!?」

 

 マグロが決死の形相で振り返った先には、いつの間にか可憐な少女が舞い降りていた。銀色の髪の美しい少女だ。うーん、可憐! あ、可憐はさっきも言ったんだった。

 ボクが美しさの表現に悩んでいるのをよそに、シルバーちゃんは地獄のお便りをマグロにお届けする。

 

「はい、ぶっちゃけ誰も来ねーです。CM評判悪すぎです。就職したら就職先が終わったビングしていたの巻〜!」

「そんなバカなぁ!? ど、どど、どうすればいいんだ!?」

「ふふふ!」

「そ、その不敵な笑みは!?」

 

 不敵な笑みingなのは無論ボクである。ボクの灰色の脳みその中にはシャーロックホームズもビックリの作戦があるのだ。あ、いや、少し言いすぎだったか。終遊黒もビックリ!ぐらいの方が差し障りがないか。うーん、でもそれじゃあスゴいんだかスゴくないんだか分からないからなぁ。

 

「なんだ!?考えがあるなら早くプリーズ!」

「ふふ、ありますよ。すんごい名案がねっ!」

「でかした! で、その内容は?」

「タダじゃ教えられませんね〜。どうです?ボクをスペシャルアドバイザーとして雇ってみるのは?あらゆる悩み事の解決をお約束しますよ。もちろん、報酬は成果に応じてで良いですし、気に入らなければすぐ解雇しても結構」

「よし採用!」

「やったー!」

「え、マジですか」

 

 呆然するシルバーをよそに、ボクとマグロは固い握手を交わす。これが後に伝説となる、そう、あの瞬間である!

 

「とはいえだ。何の試験も受けずに入社というのは許されない。なぜなら俺は社長だから」

「当然ですね。明日、入社試験があるはずですが」

「ふふふ、さすがに調べが早い。いいだろう、俺の権限で許してやる。明日の入社試験への飛び入り参加をなぁ!」

「やったー!」

 

 うーん、今日はミラクルが多いなぁ。ボクの人徳かな。シルバーちゃんはすごくアタフタしていた。話が急すぎたからだろう。世界はすごい速さで回っていく。乗るしか無い、このスピードに……!

 

「し、新海様……ほんとに良いんですか?」

「俺が良いと言えばそれは良いのだ。明日の試験の説明、お前がこの着物にしてやれ」

「か、かしこま!」

 

 シルバーちゃんがボクの元へ駆け寄ってくる。すごい良い匂いだ。アメリカンドリームって感じだ。アメリカンドリームという表現で正しければだが。

 

「ヤッホー! ボクの名前は聖天斬だよ」

「ホッホー! 私はシルバー。本名は白銀遊傑(しろがね ゆうけつ)、よろしくね!」

「こちらこそよろしく」

「わー、着物すごい綺麗! 近くで見ていいですかー?」

「もちろんだとも。君の服もすごい綺麗だね。でも暑くないの?」

「リバースコーポレーション製を舐めてはいけません! 見て下さい、この通気性!」

「お、おぉ!?」

「生地も、ほ〜ら!」

「ほ、ほえ〜!」

「ほ〜ら、ほ〜らほ〜ら!」

「わぁー、すごい! もっと見せて!」

「良いですとも! ほ〜らほら」

「うぉぉぉぉ! もっと見たい!」

「いや、よそでやれやぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

「外野が騒がしいけど気にしない挫けない諦めない! そんな終遊黒の第1ターンは、モンスターを裏守備表示、さらに伏せカードを出しターン終了!」

「へ、それだけかよ。さっきのデュエルでのすげー攻撃はどうしたぁ!?」

「とんだ初心者チストだな。先攻1ターン目は攻撃できない」

「それもそうか。俺は『ミスティック・ソードマン LV2』を召喚!」

 

 おっと、見逃しちゃあいけない。自然な流れで始まった、終遊黒と金色遊旗の世紀の決戦! デュエル初心者の遊黒くんと、発展途上臭プンプンの遊旗くん。成長中の若者たちの熱い闘い、うーん、これはすごいデュエルになりそうだなぁ。

 

「行くぜ、ソードマンの攻撃! こいつは裏守備モンスターを攻撃した時」

「攻撃対象をダメージ計算を行わず破壊する。ふ、良いモンスターを持っていたものだな」

「し、知ってたのか。なら砕け散れ!」

 

 小さな剣士の剣が守備モンスターに突き刺さる。ミスティックソードマンにかかればリバース効果が発動する前に相手を破壊できる。これは強い。しかし遊旗くんは気づいていない。

 

「あいにくだが」

 

 その剣が届いたビジョンが幻、いや、遊黒くん風に言えば、儚い夢だということを。

 ガラスのようにビジョンは砕け、本当の今が現れる。剣が届く寸前、剣士が踏み込んだ所で。

──カチっ──

 なんか色々察せられる嫌な音が響き。

 

「『万能地雷グレイモヤ』!!」

 

 剣士がぶっ飛ばされる。その様は花火のようだった。そういえば今年は花火してないなぁ。今からでもしちゃおうかしら。どうせならあの、ドカンと打ち上げるタイプのやつがいいな〜。うーん、でもあれは怖いからなぁ

 

「な、なにー!? 俺のソードマンがぁ!?」

「惜しかったな。罠は常に警戒することだ」

 

 遊黒くんのドヤ顔にイラッと来たが、遊旗くんが少しうかつだったのは事実。次のターン、遊黒くんの攻撃を凌げるか……ん、新海くん?あぁ、なんか自分で作ったソリッドビジョンの出来の良さに感涙してるよ。

 

「ち、カードを1枚伏せてエンド」

「『スケルエンジェル』反転召喚。その能力によりドロー。さらに『朽ち果てた武将』召喚!」

 

 スケルエンジェルはリバース効果で1枚ドローできる。ソードマンの効果で破壊されるとこの効果が使えなくなってしまうので、それを回避するためにグレイモヤを使ったというわけだ。

 さて、遊黒くんは3体のモンスターでダイレクトアタックをしかけ、おっと、説明が欠けるところだったね。朽ち果てた武将には特殊能力があって、自分を召喚した時に手札から『ゾンビタイガー』を特殊召喚することができるんだ。遊黒くんはその効果でゾンビタイガーを出し、3体のモンスターを揃えた。攻撃力は、武将が1000、ゾンビタイガーが1400、エンジェルが900。

 

「ち、賑や蟹しやがって……!」

「速攻で片付けられるのはお前のようだな。行け!」

 

 エンジェルと武将の攻撃が通る。そしてそこで、遊旗くんの足下から腕がニョキっと出て。

 

「え、なに?」

「武将の効果発動。貴様の手札を破壊!」

 

 腕が、遊旗くんの手札から1枚奪い取り、墓場に送ってしまう。そう、これこそが武将の特殊能力。直接攻撃をダメージを与えると手札1枚を墓地送りにしてしまう。破壊するカードはランダムで選ばれるが。

 

「あ、俺の『団結の力』がぁ! うぅ、この前ボーナスで買ったばっかなのに〜!」

「俺は運が良いぞぉ! だが嘆いてる暇はない、ゾンビタイガーの攻撃!」

「く、これ以上はやべぇ! 『ガード・ブロック』だっ!」

「なに?」

 

 ガードブロックは戦闘ダメージを無効にし、カード1枚をドローできる。なるほど、攻撃力が一番高いゾンビタイガーからのダメージを防ごうと思って温存してたわけだ。でも、う〜ん。

 

「……手札破壊が嫌なら、武将の攻撃の時に使えばよかったんじゃないか?」

「そうですね。ゾンビタイガーと攻撃力400しか違わないですし」

「たしかに。もしや何か狙いが?」

 

 しかしボクの予想に反して遊旗くんから告げられたのは、衝撃の真実。

 

「ぶ、武将の効果を知らなくて……う〜! ミスったーっ!」

「ズコー!!」

 

 ボクとシルバーちゃんと新海くんはずっこける。

 遊旗くんはジタバタしている。遊黒くんは言葉を探しているようだったが、結局見つからず黙っていた。彼は人と話すのがあんまり得意じゃないからなぁ。つーかぶっちゃけ下手。

 

「おい、お前なんか今恥ずかしいこと言わなかったか!?」

「言ってないよ♡」

「オェッ!! ♡つけんな気持ち悪い!!」

「さて、これで遊黒くんのターンは終わり。遊旗くんの番だね」

「勝手に終わらせるな! いや、まぁ終わりだけど」

「よし、俺のターンだ! モンスターとカード1枚を伏せてエンド!」

「……」

 

 意外にも遊旗くんのターンは静かに終わった。伏せカード1枚と裏守備モンスター1体。その正体は推理しようがなく、遊黒くんのモンスターの攻撃力はかなり低い。であれば。

 

「ゾンビタイガーの効果。自信を武将に装備し守備力を2000に上げる。さらに武将が破壊される時、ゾンビタイガーを身代わりにすることができる」

「守りを固めたか。ってことは」

「モンスターを全て守備表示に。カードを1枚伏せて終了」

 

 こうなる。遊黒くんはけっこう慎重派だからね。だけど。

 

「俺のターン。ここで伏せていたモンスターを反転召喚」

「その正体とは……」

「こいつだ! 『ミスティック・ソードマン LV4』!!」

 

 現れたのは、攻撃力1900守備力1600の屈強な戦士。守備力1600だから遊黒くんのモンスターたちでは勝てなかった。結果的には遊黒くんが攻撃しなかったのは正しかったわけだ。あれ、でもなんであんな攻撃力の高いモンスターをわざわざ一回守備表示で出したんだ?

 

「こいつは通常召喚する場合は裏守備でしか出せないという制約があるからな。だがその代わり、星4の中じゃ最高級のステータスを持ち、しかもバトルで相手を倒せばターンの終わりにレベルアップできる!」

「なるほど。ふ、なら攻撃してみるがいい」

「……ムムム!」

 

 イケイケドンドンだった遊旗ボーイの勢いが止まる。最初の攻撃で罠を警戒せず、ライフを半分まで削られた、その体験が勇気を削ぐ。遊旗だけに。遊黒くんの場には前のターンで伏せたカードがある。正体は未知数。それに雰囲気的に遊旗くんの手札には新たな壁モンスターも無さそうだ。もしあの伏せカードがまたグレイモヤだったりしたら、次のターン遊旗くんを守るモンスターはなくなり……。

 

「……ダメだ、攻撃できない……。 ターンエンド」

「俺のターン」

 

 遊黒くんのターン。メインフェイズ、彼は笑い、リバースカードを開く。

 

「『強欲な瓶』。カードを1枚ドローする」

「な!? モンスター除去カードじゃない!?」

「あぁ。お前をビビらせるためのブラフだ」

 

 これが遊黒くんの闘い方だ。慎重に相手の手持ちのカードを見極め、待ちに待ったところで切り札をきる。それがカードの強さを最も引き出せるやり方だと思っているんだ。今の攻防で遊黒くんは遊旗くんの手札を見極めたつもりになっている。となれば。

 

「ゾンビタイガーの効果。このカードを特殊召喚。そして、エンジェルと武将をリリース! アドバンス召喚!」

「7星以上の上級モンスター、まさか!?」

「そのまさかだ。来い」

 

 召喚されるのは、もちろんあのカードだ。可能性を宿し紅き眼、遊黒くんのデッキの主力。月に、海に、痛み、何より、あぁ、あなたに会いたい。的な感じで。

 

「『真紅眼の黒竜』!!」

 

 美しき黒いドラゴン、華麗に降臨だ。クールな遊黒くんも思わず笑顔。

 

「イヤッホォォォッ! アイムソーハッピー!」

「……攻撃力2400……最強クラスのドラゴン!」

「レッドアイズの攻撃でソードマンを倒し、ゾンビタイガーのダイレクトアタック。それでお前のライフは尽きる。終わりだ」

「ぐ、ぐぅ〜! そ、そこをなんとか!」

「そんなこと言われたって止めてやるものか! レッドアイズの攻撃!」

 

 細身の美しい竜のアギトが開かれ、紅蓮の炎が渦を巻く。そう、それはデュエルを決着させる終局にして究極の一撃。

 

「遊黒ファイヤーっ!!」

「ダ、ダセー!!」

 

 ボクは思わず叫んでしまった。ボクのかっこいい描写を返せ!って感じだ。これは抗議も辞さない。

 まぁそれはさておき、気になるのは遊旗くんの場の伏せカードだ。あのカードは冷静に考えて正体不明。そんな時にレッドアイズなんて大型モンスターを出しちゃって大丈夫なのかなー、ってわけで。

 おっと、遊旗くんが不敵に笑い出した。これはどうやら。

 

「……ふっ!」

「うん?」

「かかったな?行くぜ、トラップ発動!」

「こ、この悪寒、まさか!?」

「そのまさかだ。喰らえっ!」

 

 レッドアイズは空を飛んでいたんだ。だのに、突然地面がカチッとなって、そしたら、うん、お察しである。

 

「『万能地雷グレイモヤ』っ!!」

 

 爆・散である。レッドアイズのその眼が何か言いたそうだった。よし、今度良い弁護士さんを紹介してあげよう、そう思い、斬は涙を拭くのだった。べ、別に泣いてなんかないんだからね!

 あ、遊旗くんが遊黒くんのモノマネを始めた。

 

「惜しかったな。罠には気をつけることだ。……ぷっ! 」

「おぉー似てるー! 遊黒くんの恥ずかしい台詞超似てるー!」

「だろだろー!」

「……ムカつきすぎて叫びてぇぇっ!! うぉぉぉっ!!」

 

 遊黒くんは全力トーンで叫ぶ。

 

「オッパァァァァァィッ!!!」

 

 何言ってんだこいつ。その場にいた誰もがそう思ったところで、次回へ続くのであった。

 

 

 



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第3話 命の危険!?ナイトメアブラックvsゴールデンレジェンド!!

この小説のタイトルですが長い上に意味がよく分からないので変えようと思います。候補はいくつかありますが『まったり遊戯王伝』になると思います。また、あらすじも変えますのでよろしくお願いします。


「青き龍は勝利を。赤き竜は可能性をもたらす。そして金色の龍がもたらすもの、それは新たな伝説なり」

「なにが言いたいのです?」

「君にゴールデンレジェンドを持つ資格は無いということだよ」

 

 ふたりの男のデュエルがあった。それは10年前。内容は極めて一方的で、勝敗は誰の目にも明白。負けている方の男は地を叩き、強く歯ぎしりし、慟哭する。

 

「その理由は、まぁじっくり考えることだ。では終幕」

 

 勝っている方の男の元に、龍が舞い降りる。それは勝利を司る龍。そのアギトに力がみなぎり、全てを打倒するブレスが放たれる。

 

「うわぁっ! ふ、ふぇぇ……全滅だー!!」

「私の勝ちだ」

 

 ゴールデンレジェンドは『トゥルースオリジン』に名を連ねる1枚である。この世界で流通しているカードの大半はリバースコーポレーションによって作られたものであるが、ほんの数枚だけ、はるか太古から伝わるカードもある。いつからか人はそれをトゥルースオリジンと呼ぶようになった。

 

「はぁ……はぁ……金色遊旗」

「うん?」

「あの小僧にゴールデンレジェンドを渡すつもりなのでしょう?この私を差し置いて、あの小僧にぃ!!」

「ふ、相変わらず調べが早いね。これからも私の右腕として、その力を活かしてほしい」

「ま、待って!」

「これから妻と出かける用があるのでね。私は失礼するよ」

「はぁ……はぁ……妻とデート……!?」

 

 敗北者は絶叫する。彼は二重の屈辱を感じていた。彼は最近妻と別居したばかりなのである。ふたりの仲は自動販売機から出た直後のコーラのように冷えきっていた。ちなみに彼は冷えたコーラが好きだった。

 勝者は去る。龍を引き連れて。その龍の眼は澄んだ青空のような、どこまでも続く自由を感じさせるような、そんな青色だった。

 

 

 そして──。

 

 

 

「……デュエルか」

 

 時は現在に戻る。

 遊黒行きつけの喫茶店の店主は、ひとりトボトボと歩く。もちろん、自分の店に向けてだ。お客さんたちにケガはないだろうか、店はどこか壊れてないだろうか、あの遊旗という少年の傷は、まぁ大丈夫そうか、などなど、いろんな思考がよぎる。

 その中で、ひときわ強く頭を支配するものがあった。それは1年前の記憶。彼の娘がシャドウに襲われて消息を絶つ、その瞬間の記憶。

 

「……っ」

 

 痛み。体ではない、心の痛み。その時のことを思うと、どうしようもなく胸が痛むのだ。

 心の痛みは他者には伝わらない。彼の場合、周りの人間は皆優しかった。家族を失ったものにかけるべき言葉の模範解答みたいな言葉をたくさんもらった。ありがたかった。しかし意地の悪いことに、その言葉の端々に宿る粗を探してしまう。そして粗を無理やり見つけ、決めつけるのだ。この人たちは自分の悲しみを知らない、この胸を刺す悲しみの何も理解しちゃいない、と。彼は幸福に暮らしている人間全てに嫉妬していた。

 そんな、自分でも分かるくらいに捻くれた考え方によって、彼は周りの人間を遠ざけるようになった。

 

「こんにちは。良い天気ですね」

「……あんたは?」

 

 それは中年の男性だった。店主も中年なので、ふたりのオッサンがここに出会ったということになる。店主は30半ばだったが男性は40〜50くらいに見えるので、店主は一応相手が年上という体で話すことにした。

 

「おっと失礼しました。私、リバースコーポレーションという会社で副社長をやっております、二宮 次郎と申します」

「は、はぁ。で、そんなお偉方が私に何か?」

「是非お耳に入れておきたい話があったもので。あなたの行方不明の娘さんについて」

「な、なに!?」

 

 店主は副社長の肩をガシッと掴む。すぐに無礼だと気づき手を離すが、副社長はこの一連の流れの間ずっと嫌な顔ひとつしなかった。だから店主はより恥ずかしくなると同時に、相対している相手のビッグさに感服した。

 

「も、申し訳ない、つい興奮して。あ、へ、変な意味ではないですよ」

「分かってますよ。娘さんを失ったのです、興奮くらい誰だってします。心痛、お察しいたします」

「へぇ」

「お店の看板娘で、調理にも関わってらっしゃったとか。さぞ辛かったことでしょうね」

「は、はい。店も継がせる気でしたし、あいつもそのつもりでいてくれて……って、何でそんなことを?」

 

 副社長は神経質そうな手つきで乱れた襟を直しながら答える。

 

「無論、シャドウ関連の事件の被害者に関することだからですよ。最近は治安維持局も本腰を入れて調査しているようですが、1年前の時点ではそもそもシャドウの実態を把握できてはいなかった。だからまともな捜査も行われなかったわけです」

「え、まともな捜査が行われてなかった……!?」

「はい。ですが我が社は情報網に自信がありましてね。そして今事件について重大な」

「ふざけるなぁっ!!」

 

 店主の絶叫が響く。以前から、治安維持局への不信感はあった。自分が「娘が怪物に襲われた」と証言した時のセキュリティーの人間たちの眼。哀れむような、虚ろなあの眼。自分を嘘つきだと思っていたのか。気が狂ったかと思っていたのか。そう思うと、もう怒りが止まらなかった。

 

「クソ、セキュリティーめ、許さん、許さん!!」

「話は最後までお聞き下さい。今、事件について重大な進展があったのです」

「はぁ、はぁ……進展?」

「えぇ。我が社は治安維持局よりも早くからシャドウを認知し、そのデータを採っていました。ふふ、こう見えて情報力には自信がありますので」

 

 副社長の語り口は不思議と店主を落ち着かせた。店主は怒りを抑え、副社長の言葉に意識を向ける。

 店主を一瞥し、副社長は再び語り始めた。

 

「娘さんの事件が起こった当時、我が社はシャドウを複製する技術の開発に取りかかっていました。そこである実験を行ったのですが実験体が逃げ出しましてね、そいつが街に出て人を襲ったわけです」

「なっ、じゃ、じゃあそれが!?」

「もちろん隠蔽しました。なにせ社をあげての実験だったので。もちろん実験の主導者は」

「天新海!!」

「その通り。全ては天新海の仕業なのです」

 

 店主の怒りは頂点に達した。そんな彼の肩に優しく手を置き、副社長はこれまた優しく呟く。

 

「新海社長に会いたいですか?」

「あぁ! やろうぶっ殺してやる!!」

「まぁまぁ落ち着いて。とはいえ、彼は臆病なので、滅多に人前には姿を出さないのです」

「なに?」

「つまりあなたが会うのも困難ということです。ですが私が手引きすれば」

「会えるってわけか。だがなぜあんたが俺のためにそこまで?」

「新海社長の悪行には愛想が尽きてたので。そして何より、正義感ゆえです」

 

 副社長は紙を店主に渡し、そのまま歩き出す。

 

「明日の朝9時、その場所でお待ちしております。では失礼」

「……」

 

 店主は呆然とその紙を握りしめたまま、ただただ立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

「オッパァァァァァィッ!!!」

 

 一方その頃、終遊黒は叫んでいた。よく声がでてるなぁ。健康の証だ。良いことだね。

 

「な、なんだぁ?」

「つまり、貴様をぶっ殺すということだ」

「意味わからん!」

「カードを2枚伏せ、魔法カード発動、『タイムカプセル』!!」

 

 タイムカプセルは山札からカード1枚を裏のまま除外する。そして発動から2回目の自身のスタンバイフェイズ、そのカードを手札に加える。タイムラグはあるものの、好きなカードを選んでゲットできることの強力さは言うまでもない。

 その場にいた誰もが封印されたその1枚を見つめ、その正体に思いを馳せる。

 

「あのカード、順当に考えればナイトメアブラックだが、さて」

「え?あ、そういえばさっきのデュエルで手札から出してましたね」

「あぁ。ユニバース召喚は手札から行う召喚のようだからな。これで遊旗はこれで焦らざるを得まい。ふ、良い仕事をしてくれることに期待するとしよう」

 

 新海くんとシルバーちゃんが仲良く喋っている。ふたりはとても楽しそうで、すごくキラキラしていた。うーん、こういうのを近くで見ると、幸せクラッシャーとしての血が疼る。でも大丈夫、なんとかかろうじて我慢できる。これがきっと大人になるってことなんだ。

 

「えっと、斬さん、とりあえずそのハンマー下ろしたら?」

「おっといけない。はははヤッホー、お気になさらず」

「ふふ、斬さんってとってもチャーミングですね。新海様もそう思いません?」

「そうだな。君みたいな元気で可愛い子が入ってくれたら我が社も華やかに、痛たたたたたっっ!?」

 

 絶叫が響く。誰の絶叫かというと、我らが若社長、天新海その人の絶叫である。彼はシルバーちゃんにつままれ、痛みに悶えていた。

 

「な、なな、なになに!?」

「可愛い……私以外の子が……可愛い〜!?」

「ぐぁぁっっ!! なんでなんで!?」

「あら〜。おふたりさん、お熱いですね〜。うっらやましい〜」

「どこかだ! あ、おいシルバー何持ってるんだ、お、おい待て待て待て」

「死ねぇぇっっ!!!」

「うわぁぁぁぁっっ!!」

 

 さて、ここでデュエルの状況をおさらいしよう。手札は、遊黒くんが1枚、遊旗くんは4枚。遊黒くんの場には攻撃力1400守備力1600のゾンビタイガーが攻撃表示で、さらに伏せカードが2枚、そしてタイムカプセルが発動している。遊旗くんの場には攻撃力1900守備力1600のミスティックソードマンLV4が攻撃表示。伏せカードは無し。

 遊黒くんのターンはこれで終わり。さぁ、行方が気になる遊旗くんのターン。

 

「ドロー! へ、タイムカプセルで何を狙ってるか知らねーが、その前に決めればいい話だ」

「道理だな。だができるかな?」

「できる! まずはこいつだ、『仮面魔道士』召喚!」

 

 ちょっと不気味なマスクマンが現れる。いや、マンじゃなくてもウーマンかもしれないが、真偽のほどは定かではない。ボクに断言できるのは、あのカードは攻撃力900守備力1400で、自身が相手に戦闘ダメージを与えたらドローできるという能力を持っているということである。

 ソードマンと魔道士がウサギみたいな速さでフィールドを駆ける。

 

「行け、攻撃だ!」

「……」

 

 遊黒くんの伏せカードは2枚。この攻撃に何の対処もできないとは考えにくいし、それは遊旗くんも承知のところだろう。

 だが、攻撃はどちらも決まることになる。ゾンビタイガーはソードマンに倒され、魔道士の直接攻撃も決まる。遊黒くんのライフは2600まで削られた。

 

「……魔道士の効果でドロー。ち、何もしてこねーってのが不気味だな」

「せっかく攻撃が通ったのだ。もっと喜ぶがいい。で、これでターンエンドか?」

「まだだ! 速攻魔法『ライバル・アライバル』!」

 

 あれはバトルフェイズにのみ発動できる魔法カード。モンスター1体をその場で召喚できるという効果を持っている。シンプルに召喚権を増やすために使うのも良いし、今みたいにバトルフェイズ中の連続攻撃に使うのも良い。優れたカードだ。

 ソードマンと魔道士が渦に包まれる。新たなモンスター召喚のためのリリースになるということだ。ん、あれれ?ということは。

 

「早速のご登場か。ふっ」

「伝説を超える新たな伝説よ、今こそ降り立て! 黄金の、光と共にっ!」

 

 それは温かな光だった。朝食のテーブルに流れてくるベーコンみたいに、見る者の心を癒すシロモノだ。その効力たるや、シルバーちゃんが新海くんの殺害を一時中断するほどのものだった。

 遊黒くんは映画の悪役みたいに笑っていた。それは、新たな伝説の生誕。

 

「『ゴールデン・レジェンド・ドラゴン』召喚!!」

 

 光の内から、荘厳なる龍が現れる。大きな剣を携え、巨大な翼翻し、青き天に舞う。それは美しい光景だった。新海くんは愛おしげにその龍を眺め。

 

「トゥルースオリジンの1枚、ゴールデンレジェンド。遊旗があれをどこまで扱えるか、そして遊黒がどう対処するか、興味深い。ふ、お手並み拝見といこうか」

「なにカッコつけてんだー!!」

「ほげぇぇぇぇっ!?」

 

 さっきの喫茶店でのデュエル、遊旗くんは『古のルール』からゴールデンレジェンドを出していた。古のルールは手札のレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚するというカードだ。とどのつまりゴールデンレジェンドは通常モンスターということになる。特殊能力がないということはそのステータスが重要になってくるわけだが、さて、あのドラゴンの攻撃力はいかほどか。

 

「ゴールデンレジェンド、攻撃力4000!!」

「ぶっ!!?」

 

 え、まじですか!?そんなに攻撃力高くていいんですか!?え、いいんですか?あぁそうですか。

 思わず吹き出してしまったボクとは対照的に、遊黒くんは不敵な笑みingだった。このタイミングのゴールデンレジェンドの登場を予見していた故の余裕か、いや違うだろう。きっともっと単純な気持ちだ。きっと彼は喜んでいるのだ、その本能で。未知の敵との闘いを。

 遊旗くんも笑う。遊黒くんと遊旗くんが興奮冷めやらぬ様子で見つめ合う。ラブロマンスの始まり?ノンノン、バトルロマンスの始まりさ。

 

「行くぜ! ゴールデンレジェンドの攻撃!!」

 

 龍が放つは、終局にして究極の一撃。

 

「ゴールデンデスティニー・ジャッジメント!!」

 

 光の嵐が巻き起こり、全てを呑み込む渦となり、遊黒くんへ向かう。それは文字の通りの一撃必殺。受ければもちろんひとたまりもない。

 しかし、遊黒くんは笑みを崩さない。であれば答えは明白というものだ。

 

「罠カード、『ガード・ブロック』!」

 

 遊旗くんもさっき使った、ダメージを0にしつつドローできるトラップだ。遊黒くんはさっき魔道士の直接攻撃を受ける時、このカードを使える状況にありながら使わなかった。魔道士の効果でドローされてしまうことを承知しながらだ。それはすなわち、このゴールデンレジェンドの速攻召喚をある程度予測していたということ。

 

「俺の思考を読んだか。やるなぁ」

「俺は勘が良いからな。しかし、攻撃力4000か」

「しかも守備力だって3000あるぜ! お前のレッドアイズを遥かにしのぐステータスだ。超ゼツ最強だぜ!」

「ステータスだけがモンスターの強さではない。それを教えてやろう」

「やってみやがれ! 俺はこれでターンエンド!」

 

 遊黒くんはカードを引き、そして、魔法カードを発動する。

 

「『思い出のブランコ』! このカードの効果により、俺の墓地から通常モンスター1体を特殊召喚する」

「通常モンスターってことは……」

「呼び出すのは当然!」

 

 レッドアイズが地の底から舞い戻る。言うまでもないがそのステータスではゴールデンレジェンドには太刀打ちできない。しかも思い出のブランコで復活したモンスターはこのターンの終わりにまた墓地に戻る。だがその紅く煌めく眼は、何かあるのではないかと感じさせるものだった。その傍らに、新たなモンスターが召喚される。

 

「『融合呪印生物ー闇』を召喚。レベル3、攻撃力1000」

「ふん、それがどうした」

「これで条件は揃った」

「なに?」

「レボリューション・ロード!!」

 

 レッドアイズと呪印生物が魔法罠ゾーンに置かれ、2体から放たれた光が形を成し、進化の道となる。

 

「終わりなき未来をここに。幻の夢より生まれし混沌よ、沈んだ大地へ降り注げ」

 

 黒い海が空から流れ込み、大地から亡霊たちが噴き上がる。それらは混じり、歪な四肢を織りなし。

 

「覚醒。『ナイトメア・ブラック・ドラゴン』」

 

 漆黒のドラゴンが誕生する。

 

「な、なんだと……!?」

「終遊黒の切り札。天使の守護龍!」

 

 ビビる遊旗くんに楽しそうな新海くん。対照的な対応だ。

 おっと、必要な説明が欠けていたね。ここでユニバース召喚の説明をすることにしよう。ユニバースモンスターはレベルと攻撃力の合計が自身以上になる組み合わせの複数のモンスターを魔法罠ゾーンに置くことで、手札から通常召喚と同じ扱いで召喚される。

 ナイトメアブラックは攻撃力2500でレベル10。素材の条件はレベル5以上の通常モンスター1体以上と効果モンスター1体以上。

 レッドアイズと融合呪印生物のレベル合計は10、攻撃力合計は3400。レベル攻撃力ともにナイトメアブラック以上。つまり、条件は揃った、というわけだ。

 

「ば、バカな! タイムカプセルの封印はまだ解かれてないのに、なんでそいつが手札にある!?」

「答えは明白。タイムカプセルで除外したのは別のカードということだ」

「……な、なら、あの中には一体なんのカードが……?」

「先のことを気にしてる場合ではない。お前の悪夢は今この時だ」

「っ!」

「悪夢失墜」

 

 暴威が巻き起こる。レッドアイズがそれに続く。先人の残した物、レガシーを受け継ぎ闘う。それがユニバースモンスターのやり方だ。レッドアイズのレガシーフォースはナイトメアブラックの攻撃力をターン終了時まで倍にする。つまり攻撃力5000。この2体の連携攻撃の前にはさすがのゴールデンレジェンドも白旗を上げざるをえない。

 と思われたが、遊旗くんの余裕は崩れていなかった。

 

「へ、同じミスを繰り返しやがって! 俺には伏せカードがあるぜ! トラップ、『万能地雷グレイモヤ』! もう一回、返り討ちだぁ!」

「とんだロマンチストだな。カウンタートラップ『ギャクタン』」

「なにぃ!?」

 

 ギャクタンはトラップを無効にする。これで悪夢の行進を阻む物はなにもない。黄金の光が色あせ、龍の肉体が腐敗し。

 

「ぐ、ぐわぁぁぁぁっ!!」

 

 そして全ては悪夢に呑まれる。遊旗くんは吹き飛び、大地に額をぶつける。

 

「ぐ、ぐぅ……!」

「ターン終了」

 

 遊旗くんは小刻みに震えている。ナイトメアブラックはどう見ても普通ではないモンスターだ。恐怖がその体を縛り付ける。なかなか立ち上がることができない。

 遊黒くんはそれを静かに見ていた。そして。

 

「うぉぉぉっ!!」

 

 絶叫が響き、遊旗くんの体が少しずつ上がっていく。

 

「俺は、負けねぇ! やつに、復讐するまでは!」

「そういえばそんなこと言ってたな。そんなにそいつが憎いか」

「憎い! 俺は許さない、俺の、大切なものを奪ったヤツを!」

「ならば来るがいい。それで俺に勝てるかどうか、確かめてみろ」

「俺のターン!!」

 

 決意の剣。デュエリストにとってのそれはカード。剣を携え、遊黒くんを睨む遊旗くんの姿は、まさに修羅。

 

「来たぜ、お前をぶっ潰すカードが!」

「そんなものは無い」

「いやある! 俺が信じたカードは、魔法カード『死者蘇生』!!」

 

 お、これは良いカードが来たものだ。あれは墓地のモンスター1体を自分の場に特殊召喚する。なんでもだ。

 現れるのは、もはや考えるまでもなかったか。黄金の龍が蘇り咆哮する。

 

「ゴールデンレジェンド、復活っ!!」

「しつこい野郎だ。そいつでは俺に勝てはしない」

「それはどうかな?」

「む」

「見ろ! これが、決着の切り札っ! 『魔界の足枷』!!」

 

 遊旗くんのこの自信、それはすなわち、すでに対ナイトメアブラック用の切り札を手札に用意していたということ。鎖が宙を舞い、枷が悪夢を縛る。

 

「これは……」

「この装備魔法は装備したモンスターの攻撃を封じた上で攻守を100にする」

「なに?」

「お前の効果はモンスターの攻撃力を倍にする。だが攻撃力100になれば、倍になっても200!」

「……そのカード、デュエル序盤から手札にあった。なるほど、この状況に備えて温存していたということか」

「へっ! 行くぜ、これで最後だ!」

 

 今再び、最強の一撃が放たれる。悪夢は消え去り、ハッピーな朝が訪れる。小鳥はさえずり、ニワトリが絶叫し、絶叫という表現で正しければだが、まぁそんな感じだ。

 しかし。

 

「……なんだと?」

 

 遊旗くんのうめき声が聞こえた。彼の視線の先には、そうもちろん、あのクールガイがいた。

 

「……まだ……生きてるよ」

「まきはら?」

「俺はまだ生きているぞ、ワーッハッハッハァ!!!」

 

 終遊黒は残りライフで踏みとどまっていた。なぜか。遊黒くんがその応えを告げる。

 

「融合呪印生物のレガシーフォース。戦闘する敵モンスターの攻撃力守備力をターンの終わりまで半分にする」

「ち、そんな効果まであるのかよ! そんな効果があるならなんでこれまで使わなかったんだ!?」

「レガシーフォースは1つ使えばそのターンの間、他のレガシーフォースは使えなくなる」

「な、なるほど。だがナイトメアブラックは倒したぜ!」

「ユニバースモンスターが場から離れる時、レガシーは墓地へ送られる。だがナイトメアブラックの効果により、俺はレガシーをひとつ残すことが可能。レッドアイズを残す」

 

 ターンが移り、遊黒くんのターン。いまだ魔法罠ゾーンに残るレッドアイズ、そして。

 

「タイムカプセルの封印が解かれる……!」

「魔法カード『愚かな埋葬』で2枚目の真紅眼の黒竜を墓地へ。そして」

 

 タイプカプセルで得たカードがきられる。そのカードとは……!?

 

「魔法カード『龍の鏡』!」

 

 あれは墓地の融合素材を除外することでの融合召喚を可能とする。そして呪印生物は融合素材の代わりになることができる。レッドアイズと呪印生物が墓地から除外され、そして。

 

「咲き誇れ、壮麗なる花よ! 紅き眼より生まれし可能性、天に届き、悪夢を貫く星となる!」

「な、何が来る!?」

「悪夢だ。フルコースでな。その名はっ!!」

 

 空にポッカリ空いた穴から、隕石がビューンと落ちてくる。フォーリンラブって感じだ。

 

「『メテオ・ブラック・ドラゴン』!!」

 

 攻撃力3500の超竜。そのまま、黄金の龍と相見える。

 

「だ、だが攻撃りょ」

「攻撃だ」

 

 その龍は恐れなど抱かない。攻撃力がドンドン上がっていく。

 

「な、なんでだ!?」

「レガシーは後の世に受け継がれる。ナイトメアが消えてもレガシーフォースは消えないということだ。俺は、レッドアイズのレガシーフォースをメテオブラックに使用!」

「と、ということは!?」

「メテオブラック、攻撃力2倍!」

「攻撃力……7000……!」

 

 ボクはさきほどゴールデンレジェンドの攻撃を終局にして究極と言ったが、あれは誤りだった。本当の終局とは、今この瞬間。

 

「遊黒ダーイブっ!!」

 

 メテオブラックの抗議の視線もいとわず、その技名が叫ばれる。うん、この件については要審議と言わざるをえまい。しかるべき矯正が必要だ。さて、どんな技名にしたものか。

 なんかそんなことを考えてたら遊旗くんのライフが0になってデュエルが終わってた。そんなわけで、遊黒くんの勝利が決まったのである。

 

 

「身に染みたか?怒りや憎しみで俺は倒すことはできない。俺は悪夢。俺を超える闇など存在しないだからな」

「ふ、ふざけんな! もう一度デュエルしろ!!」

「ガチで断、おい」

「あん?あ、う、うわぁー!!」

 

 突然地割れが起き、遊旗くんが地の底に落ちそうになる。

 

「し、死にたくない、死にたくないー!!」

 

 彼はきっと走馬灯を見たことだろう。ボクは死んだことがないからよく分からないが、死ぬ寸前ひとはそういう類いのものを見るらしい。楽しかったこと、悲しかったこと。彼はどちらの記憶が多いのだろう。ボクには分からないが。

 

「……お、俺にはまだやりたいことが、って、あれ、生きてる?」

 

 金色遊旗はまだ生きていた。なぜか。それは遊黒くんが彼の手を掴んだからである。

 

「クク、離してやろうか?」

「いや、そういうの要らないからー!」

「ふっ」

 

 そのまま遊旗くんを引き上げ。

 

「う、うぅ……ありがとう、ありがとう〜!!」

「勘違いするなよ。俺はお前のカードが失われるのを危惧したにすぎん」

「お、おまえ……」

「だがこれも良い機会だ。復讐はほどほどにして、楽しいことをたくさんしろ。この世には楽しい夢が満ちている。俺のような悪夢から見ても、うらやましくなってしまうほどにな」

「……」

「お前とのデュエル、それなりに楽しかった。ではさらばだ」

 

 少年は立ち上がり、去り行くマントへ叫ぶ。

 

「お前、良い奴だな! 本で読んだぜ、えっと、ツンデレってやつだな!」

「うるせぇ!」

「よし、決めたぜ! 当面の俺の夢、それはお前をぶっ倒すことだ!」

「無理な話だ。俺に勝てるものなどこの地上に存在しない。ハハハハハ!!」

「いや勝てる! うぉー、燃えてきたぜー!!」

 

 そんな、少年漫画チックな雰囲気の中、次回へ続くので、え、まだ続かない?

 

 

「ゴロニャーンッ!!」

「ごろにゃー?」

「ゴロニャー!! ステイ!!」

「ステイステイ……」

「アー……ペペストストコララ!!」

「っ!?」

「ワチャコラホッホーイ!!」

 

 描写が欠けていたが、デュエルと平行して新海くんとシルバーちゃんの格闘も続いていたようだ。ていうかイチャつきじゃねこいつら。

 謎の呪文の応酬。その果て、新海くんが勝利したようだ。超どうでもいい。彼は満足げな顔で服の乱れを正しながらこちらへ来る。

 

「ふ、終遊黒が勝ったか。順当だな。奇跡など起きない、それが勝負の常」

「遊旗くんが勝つ可能性もあったと思いますがね。なかなか良いデュエルでした」

「良いデュエル?そんなものに何の意味がある。勝負においての真実とは勝敗が決するその一瞬にしかないよ」

 

 彼は微笑みながら、全てを見下しながら、立ち去って行く。

 

「ユニバースの力、その全て、たしかに見せてもらった。その上で言おう、俺の敵ではないとな」

「すごい自信ですね」

「当然だ。この天新海こそが6次元の頂点。全ての敵はこの手で蹴散らす」

 

 そう告げる彼の背には、老練な竜騎士が付き従えていた。

 

「生死の理すらも超越する我が召喚、ペンデュラム召喚でな……!」

 

 

 



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第4話 天新海殺人事件

小説タイトルを「遊戯王ナイトメアアクセルゴールド」から「新☆まったり遊戯王伝」に変更しました。
急な変更で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。





 アール。それが金色遊旗の復讐の相手の女である。遊旗が彼女に奪われたものは3つ。1つ、切り札のカード。2つ、セキュリティーとしての誇り。3つめは、また後、語るに相応しい時と場があるだろう。

 それは一年前のことだった。シャドウに女性が襲われ、その父親からセキュリティー本部へ通報があった。現場は遊旗がパトロールするエリアだったので当然彼が向かうことになった。セキュリティーは基本的に二人一組で行動するが、遊旗のパートナーは不真面目な男だった。その日もいつも通りサボっていたので、遊旗はひとりで現場に向かった。

 その途中で、美しい女性に出会う。真っ赤なツインテールの、チャイナドレスのような服の女性。その妖艶な雰囲気に、遊旗は思わず息を呑む。歳は遊旗より少し上のように見える。ちなみに遊旗は17である。彼女は遊旗の前に立ちふさがる。

 

「そなたが金色遊旗か?ほお、これは随分とまぁ」

「……じゃ、邪魔しないでくれ。俺は今急いでて」

「可愛い眼をしている。ふふっ」

「……っ」

 

 そのまま、デュエルすることになった。遊旗は敗北した。術のようなもので動きを封じられ、切り札のカードも奪われる。抵抗してもアールは離してはくれない。むしろ彼女は抵抗する様子を楽しんでいるようだった。

 いくつもの辱めを受け、遊旗はアールの事しか考えられなくなり、やがて、意識が飛ぶ。

 目が覚めた時には、全てが終わっていた。

 

「ん、んん……」

「起きたか。ふふ、そなたの寝顔をもう少し見ていたかったが」

「はっ!? お、お前……!?」

 

 ベッドから飛び起き、遊旗は辺りを見回す。そこは彼の自室だった。来ていた服もパジャマに変わっていた。アールは優雅に椅子にもたれ、遊旗の一挙手一投足を愛おしげに眺めている。遊旗はそれに気づき、気恥ずかしさを感じながらベッドに腰掛ける。

 

「な、なんなんだよこの状況……」

「妾が説明してやろう」

「わらわ?」

「道端で倒れたそなたを妾が助け、そなたが最も安らげるであろう自室に送り届けた。が、心配だったのでこうして見守ってやっていたというわけだ。さぁ、感謝の言葉などを述べるが良い」

「ふ、ふざけんな! 元はと言えばお前が……あっ!」

「6時間ほど眠っていたか。ふ、シャドウの方はもう手遅れよなぁ」

「……!!」

 

 絶望する。セキュリティーとしての務めを果たせなかった自分への怒り。このアールという女への憎しみ。

 

「そなたが倒れた後、セキュリティー数人が現場に駆けつけるが、時既に遅し。影は去り、データの強奪にも成功した。全ては我らの思うがまま」

「クソ、てめぇ許さねぇっ!」

 

 遊旗は怒りのままデュエルを挑む。だがあっけなく敗れ、また動きを封じられる。アールはデュエルの感想を述べながら、怪しげな薬を取り出し。

 

「いやはや驚いた。さきほどより強くなっていたように感じたぞ?妾への怒りによって潜在能力を引き出しつつある、か。そなたは面白いな」

「く、ちくしょう……!」

「妾を楽しませた礼だ。褒美をとらす」

 

 彼女は薬を遊旗に飲ませる。やがて、遊旗の理性が飛び。

 

「アール……アールっ!」

「……遊旗……あ……ん♡」

 

 その後どうなったかは、遊旗の記憶からは消えていた。アールは姿を消し、いまだ見つかってはいない。

 遊旗のパートナーは責任を感じセキュリティーを辞めた。不真面目だが正義感はある男だった。

 事件は早急に片付けられた。隠蔽されたと言っていい。遊旗は事件の資料すら入手することができなかった。遊旗は自分の手で被害者を見つけると決めた。

 遊旗は同じ学校に通っていたことを活かし、天新海に接触した。目的は、事件の手がかりとアールを倒すための力を得るためである。

 

 ある日、新海との密会にて。

 

「……という喫茶店がある。知っているか?」

「ん?あぁもちろん。一回入ったことあるし、パトロールの範囲内だからな」

「張ってみろ。そのうちここで面白いことが起こる」

「お前が面白いっていうと、ろくなことじゃねぇんだろうな……」

「ははははは! よく分かってきたじゃないか」

 

 新海は口を大きく開けてバカみたいに笑っていた。しかしすぐに冷徹っぽい顔になる。遊旗はこの表情が急に変わるのが慣れなくて嫌だった。

 

「特にそこの店主に近づくヤツはチェックしておけ。特にうちの社員が来たら要チェックだ」

「なぜ?」

「その時が来れば教えよう。だがせっかくだ、ヒントをやろう。その店主、父親だ」

「?」

「娘は行方不明。一年前に姿をくらましたっきり」

「まさか……!」

「くくっ。健闘を祈るよ、おまわりさん」

 

──そして今──

 

 

 はははヤッホー! みんな大好き、聖天斬、参上っ! う〜ん、良い天気だなぁ。

 さて、遊黒くんと遊旗くんのデュエルが終わったわけだが。新海くんがかっこつけて去り、シルバーちゃんがそれをふらつきながら追っかけていく。その様を見ながらボクは笑顔になった、と思う。ボクは他人の幸せが好きだ。そりゃ嫉妬もするし殴りたくなったりもするが、最終的にはハッピーがそれをオーバーする。幸せはトゥゲザーするものだからね。

 

「お、おい斬、その手に持ってる爆弾は何だ!?」

「うん?ははは、そんなにビビるなよ。おもちゃに決まってるじゃないか」

「そ、そうか。じゃあ行くぞ斬。こんなところに長居は無用、オムライスのおかわりが俺たちを待っている」

「おかわり?んー、あんなことがあったんだし、今日は店ジエンドなのでは?」

「あのマスターがそんなタマかよ。よし食うぞー! いえぇぇいっ!!」

 

 そんなものだろうか。でも遊黒くんが断言するんだからたぶんそうなのだろう。

 ボクは遊黒くんを追う前に、遊旗くんも誘ってみることにした。

 

「ボクらは今からさっきの喫茶店に行くけど、君もよかったらどうかな?」

「折角だけど。そろそろ戻らないとヤバそうだ」

「そうか。じゃ、遊黒くんの行きつけを教えておくよ。これがあればこれからも簡単に会えるはずさ。書いておいたから、ほら」

「おぉ、気が利くな。ありがとう斬。これでいつでもあの野郎とデュエルできる!」

「どういたしまし、えっ!?」

 

 ボクは突然手を握られたことで驚いた。そりゃもうビビった。なんたって目の前の少年はすごい美少年。言動はバカっぽいけど身体は良い感じに鍛えられてるし、総合的に見ればかなりの上物だ。そんな上物にハンドキャッチされるのは本能的に来るものがあった。そして何より、ん、少し遠くから女の子が走ってくるなぁ。黒髪が肩にかかるくらいの、かなり可愛い子だ。ん、誰かに似ているような。

 

「ちょ、ちょっとお兄!!」

「ん?おー鎖月か」

「おー鎖月かじゃない! その人なんなの手なんか握って!?」

「あー?この人はさっき知り合ったんだ。すげー気が利く良い人なんだぜ! 斬っていうんだ!」

「今日遊旗くんと知り合った斬というものでござる。怪しくないでござる。ニンニン!」

「どうも、遊旗の妹の鎖月です。兄がお世話になってます」

 

 遊旗くんの回答が彼女にとって満足いくものでないことは分かったので補足してやると、シンプルかつ簡潔な挨拶が返ってきた。兄がアホっぽいから心配していたが、なかなかしっかりしていそうな子じゃないですかー。

 ボクがホクホクしていたら、なんか遊旗くんが彼女の頭を優しく撫でていた。

 

「今日も可愛いな。鎖月」

「ば、ばか、恥ずかしい……」

「あ、そうだ、今夜一緒に風呂入るか?」

「ブッヘー!!」

 

 思わずむせてしまった。どういう脈絡やねん。やがて、鎖月と呼ばれた少女が恥ずかしげに頬を染め。

 

「……うん」

 

 妹は妹でネジが外れているようだった。兄妹でこの距離感とは、ちょっとボクにはキツい物件だなぁ。なんて思ってたら鎖月ちゃんと目が合う。そこにはまだかすかに敵意が残っていたわけで、とどのつまり嫉妬している女の眼であった。ボクは愛想笑いをやりながら、ちょっと困る。

 

「ねぇお兄。この人とはほんとに何にもないの?」

「あん?どういう意味?」

「だ、だからその、なんていうか、い、いや、別になんでもない」

「?」

「話はまとまったようだね。ならボクはそろそろ、いや、ちょっと待っただ」

 

 去る前に、大事なことを伝え忘れていた。鎖月ちゃんの登場であまり詳細には喋れなくなったが、まぁそれは問題ない。ボクは遊旗くんへ告げる。

 

「今ごろ遊黒くんは店主と話をしているだろう。デートの相談だ」

「デート?」

「予定通りならそれは明日の9時。あの二人、見張っておいた方が良いかもね」

「なにを言っている?」

「アールさんの足取りも掴めるかもしれないし」

「……なに?」

 

 遊旗くんの顔色がサッと変わる。もう少し教えてあげたいが、今の彼に詳しい説明をすることはできない。なぜなら、彼は今の段階では部外者だから。これから始まる闘いのね。

 

「今はまだ私が話すべき時ではない。今日はこれで失礼する。なに、きっとまた会うさ」

「ま、待て!」

「6次元の運命をかけた闘い。それに、君が乗り込んでくる勇気があるのならね」

 

 遊旗だけに! 遊旗だけに!! そう心の中で叫びながら、ボクはクールに去ったのであった。

 

 

 

 

「やぁマスター。やってるな。早速注文したいんだが、いいかな?」

「あ、あぁ」

 

 喫茶店にて。終遊黒は店主の目の前のカウンターに座りながらメニューをパラパラとやりだす。彼は子どものような笑顔だった。

 店主は遊黒にどうしても聞きたくなった。

 

「あんた、そんなに俺の料理が好きか?」

「もちろん。美味しいし、それに……」

「それに?」

「上手くは言えないけど、こう、帰って来たー!って感じがする。こういう感覚はあなたの料理を食べてる時だけだ」

「……そうか」

「よし、今度はこの地獄チャーハンってやつにしてみるか!」

 

 遊黒はウキウキだった。先ほどまでの超人的な雰囲気は微塵もない。少しの間があいた後。

 

「客、他にも少しいるな。あんなことがあった後だというのに。ふ、この店の人気には舌を巻く」

「あ、あぁ。本当にありがたいよ」

「けど、入り口は見栄えが悪い。壊されてしまったからしょうがないが。よし、少し待って」

 

 遊黒は悪戯な笑みを浮かべ、唇に指を当ててシーをひとつやった後、シャドウに破壊された扉へと手をかざす。その扉はボコボコになり、現在は『修理中』の紙が貼られていた。しかし次の瞬間、扉は破壊される前の状態に早変わり。店主は息をのむ。

 

「こ、こりゃ驚いた!」

「はは、あまり大声を出さないで。本当はおおっぴらにやるのはマズいんだ。ま、特別サービスというやつかな」

「あ、あんたは一体?」

「天から舞い降りた天使」

「は?」

「ふふ、冗談です」

 

 遊黒は微笑み、穏やかに話し出す。

 

「さっき言ってたな。『てめぇ、あの時の!』って。どういう意味です?」

「……なんとなく分かってるんじゃねぇのか?」

「まぁ、なんとなくなら。でもそこまでだ」

「そうか」

 

 店主は遊黒に全て話してみることにした。なぜそんな気になったのかは分からない。なんとなく、誰かに話したくなったのだ。

 一年前、娘がシャドウに襲われ、それから消息不明になったこと。リバースコーポレーションの副社長から、復讐の機会を与えられたこと。それが明日であること。

 遊黒はチャーハンをガツガツやり終えたあと。

 

「そうか。で、あなたはどうする?」

「どうする、か」

「あぁ。ま、その副社長ってやつはめちゃくちゃ怪しいし、なんらかの危険は伴うと思うけど」

「危険か」

 

 店主はボンヤリと呟く。

 

「副社長に話を持ちかけられた時、頭が怒りでいっぱいになった。娘のために何かできるなら俺はどうなってもいい、必ず復讐するんだって、そう思った」

「……」

「でも、ここでメシ作りながら考えた。天新海の野郎は許せない。でも復讐しても娘は帰ってこない。それに、俺にはこの店がある」

「そうだな。あなたに何かあったら困る。俺も斬も遊旗も、みんな」

「だけど、こみ上げてくる怒りもある」

「そうか」

 

 遊黒は微笑み。

 

「俺は復讐もアリだと思う。前に進むための手段としてならね。でもできることなら、今あるものの大切さを分かった上で行動して欲しい。あなたはそれを分かってる。今のあなたが決めたことなら、俺は何も言わない」

「……まだ分からないんだ。どうすればいいのか」

「時間はたっぷりある。相談にのるよ。うまいコーヒーを淹れてくれるならね」

「ふっ。まいど」

 

 その後、斬が来店する。その時、店主と遊黒は談笑していた。とっておきのイタズラを思いついた、少年同士みたいに。

 

 

 

──翌日、朝9時!!──

 

 

「本日はようこそおいでくださいました」

 

 副社長は来訪者に背を向けたまま、淡々と挨拶の言葉を述べる。

 ここはリバースコーポレーションと隣接している工場の中の実験室だ。それなりに広いが無機質で、ふん、客を迎える場所としては不自然この上ない。

 

「場所をここに指定したのは、ここが私のホームだからです。あぁ、自宅という意味ではありませんよ。ここが私の主な仕事場なのです」

「……」

「さて、早速本題に入りましょう。天新海に会いたいんでしたね。ほら、ここにいますよ」

 

 副社長が足下の肉を蹴る。それは人間の亡骸のように見えたが、さて。副社長は邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「愚かな男だ。私を軽く扱うからこうなる。先代の頃からね、私は信用されてないんだ。裏切れるだけの力も与えられてない。だが天新海は死んだ! これで私が社長……この世界の頂点に立つことができる! 私こそが、新世界の王となるのだぁー!!」

「……」

「おっと失敬。ま、とりあえず私は暴力にうったえるしかなかったわけですよ。蹴りたければあなたもどうぞ」

 

 俺が無言なのを見てか、副社長はスイッチでが出入り口を閉じる。俺たちは密室で二人きりになったわけだ。やつは決闘盤を装着し、ニヤリと笑う。底意地の悪い笑顔だった。できれば二度と見たくないと思うほどにな。

 

「もちろん、暴力にはリスクもある。別の犯人を用意しなければいけませんからね。そしてあなたは私の身代わりに都合が良かった。動機もあるし家族もいない。そして何より頭が悪い。ここに来たのがその証拠」

「……」

「怖くて声も出ませんか。ではさらにひとつ、良いことを教えてあげましょうね。一年前のあなたの娘の事件、あれは私の仕業です。シャドウが人間を襲うことの意味、その結果何が起こるのか。そのデータさえあれば社内で認められると、当時の私は無邪気にも信じていたのでね」

 

 やつは饒舌だった。自分の世界に浸っているような、一方的な語りぐさだ。俺はやつが嫌いになった。

 

「悔しいでしょうね。あなたの娘の犠牲には何の意味もなく、あなた自身も私の身代わりになる。これからあなたの脳をいじり偽りの記憶を刻みます。自分が天新海をはずみで殺してしまった、という罪の記憶をね。そして自首する。ま、ひとり殺したくらいなら数十年で出れるし、余裕でしょ。どーせガキももういねーんだからさぁ!」

「……」

「世界は無情! 弱者は強者のエジキになるより他にない! ククク、ハハハハハ!!」

「こんなやつが副社長とは、新海も苦労しただろうな。ふ、まさかやつに同情する日が来るとは」

「ハハハハ……ハ?」

「あんたに品が無いって話だよ。オッサン」

 

 俺の様子にやっと疑問を抱いた副社長は振り返る。そこにいたのは!

──ババーン!!──

 終遊黒その人だった、というわけだ。

 

「な、なんだ貴様!? やつはどうした!?」

「終遊黒。代理の者だ。マスターは今ごろ、料理の準備でもしてるんじゃない?」

「ふ、ビビって逃げ出したか。自分の娘の仇が討てるチャンスだというのに。はは、臆病者はこれだから困る」

「それは違うな。人はそれぞれに相応しい闘いの場がある。喫茶店で料理を作ること、それが彼の闘いだ。お前に邪魔する資格はない」

「あん?」

「つまり、お前の相手は俺で十分だということだ」

 

 俺は決闘盤を装着し、床に指先をあてる。すると床からカードが手品で出てくる旗みたいな感じでスルスル出てきて、これでデッキが手元にアライブというわけだ。やつはそれを見て一瞬目を見開くが、すぐに通常営業に戻した。

 

「なるほど、貴様が例の化け物か。未知のカードを持っているという」

「俺を知っているか。なら話は早い。お前にはゲームを受けてもらう。闇のゲームだ」

「ほー。それは面白そうだ。だがその前に、そこの君、出てきたらどうかね?」

 

 気づいていたか。さっきから、俺の後ろの物陰にひとり隠れている。俺が入るのと同じタイミングで侵入したのだろう。そのまま出るタイミングを失ったか、副社長と闘うつもりで残ったか。面構えを見たところ後者のようだが。

 副社長の声を受けて、その男、金色遊旗が俺たちの前に歩み出る。やつは副社長を見つめ。

 

「……さっきの話は本当ですか?あなたが店主の娘さんを……」

「本当だとも。データが必要だったのでね」

「なぜ彼女を?恨みでもあったのか?」

 

 人は怒りがある一線を超えると逆に静かになる。今の遊旗がそれだ。やつの震える拳が、激しい怒りを訴える。

 そんな遊旗を嘲笑うように。

 

「バーカーかー君はぁ!?恨みなどあるわけがない。私と接点がある人間にしたら怪しまれる、だからランダムで選んだのだ。そうでなければあの女とガキにしたものを。あぁ、女とガキというのは別れた妻と息子のことだ。別れた後もカネカネカネと、私にたかってくるんだよ。昔少し殴ったくらいで人をネチネチと。恐ろしいやつらだ」

「恐ろしいのはあんただ。人を傷つけておきながら罪悪感のカケラも無い。続きは署で聞かせてもらう」

「そうするには私を倒すしかない。だがその場合、君にも相応のものを賭けてもらわねばなぁ。そうだ、頭をいじって一生私のしもべというのはどうだ?」

「……俺をどうしようが、セキュリティーの手からは逃れられない。無駄な抵抗だ。すぐに自首しろ」

 

 遊旗はセキュリティーとして真摯だった。やつは副社長をぶん殴りたかったかもしれない。だが個人的な怒り憎しみを抑え、自首を促す。俺はその姿をみて遊旗が少し好きになった。だが副社長はそうではなかったらしい。

 

「クク、本気で言ってるとしたら救いようのないバカだな。私はリバースコーポレーションの副社長だぞ。身代わりの犯人さえ用意できればどうにでもなる。むしろお前の上司たちが庇ってくれるさ」

「……!」

「良い顔だぁ。クククっ! しょせんお前らは権力には逆らえねーんだよぉ!! アヒャヒャヒャヒャー!!」

 

 これほどまで、怒りに燃えた顔というのは見たことがない。だが副社長が言っていることもひとつの真実だ。権力には人を屈服させる力がある。だから人はそれを求め、だから争いは絶えず繰り返される。

 だがそのループから抜け出す術もある。権力を超えて信ずるべきものを見つければいい。だが老齢の者であっても見つけられない者には見つけられないのだ。さぁ、遊旗はどちら側の人間か。

 やがて、やつは静かに。

 

「俺は貴様を倒す。そして罪を償わせる。力づくでもな」

「生意気いうなよ。小僧ぉ!」

「たしかに俺は小僧だが、死ぬより辛いことはいくつも知っている。それら全て、貴様の体で試してやるぜ」

「仮に私を倒したとしても、お前にそんなことはできん! セキュリティーにそんな権限はない!」

「セキュリティーじゃない、俺がするんだ。ありがたいことにここは人気もないし、遊黒も見逃してくれそうだ」

 

 遊旗は妖しく微笑む。副社長はビビっていた。ただの脅しじゃない、こいつならやりかねない。そう思わせるだけの説得力が、今の遊旗にはあった。もっとも、ほんとうにやるかどうかは俺には判断がつかないが。ま、いずれにしても。

 

「面白くなってきたな。だが遊旗、やつとデュエルするのは俺だぞ」

「あん?空気読めよ、完全に俺がやる流れだろ今」

「普段なら譲ってるところだが、今はマスターの代理で来てるからな。俺には闘う義務がある」

「それは分かるけど、俺にもセキュリティーとしての責務がある」

「ふふ、私の取り合いか。学園のマドンナ的な気分だよ。ではここでひとつ提案する。2対1のバトルロイヤルはいかがか?」

 

 俺と遊旗は顔を見合わせる。なるほど、たしかにこの人数でこの会話の流れとなれば、バトルロイヤルというのは一見自然に見える。しかも2対1でやれるならこちらが有利……のように見えるが、怪しいものだ。もっとも遊旗の答えはすでに決まっているようだが。そして、なんと俺の答えも同じだ。

 

「やってやるぜ、バトルロイヤル! サポート頼んだぜ、遊黒!」

「ふん。精々足は引っ張るなよ」

「決まったようだね。クク、仲が良さそうで何より。では、知っているとは思うが念のためルールを説明しよう」

 

 バトルロイヤルルールの説明を受ける。内容を要約するとこうだ。

 ターンの順番は、遊旗→副社長→遊黒→副社長→遊旗。全プレイヤーの最初のターンが終わるまで、バトルフェイズを行うことはできない。

 ゲーム開始時、副社長には10枚の手札と8000のライフが与えられる。俺と遊旗は通常通り手札5枚、ライフ4000でスタート。

 俺と遊旗の手札フィールド墓地は共有されない。仮に俺が「自分の墓地のカード」や「自分の場のカード」を対象とするカードを使う場合、遊旗のカードを対象にすることはできない。ただし俺の場にモンスターが無い状態で副社長からの直接攻撃を受ける場合、遊旗の場にモンスターがいれば、遊旗は自分のモンスターを俺の盾にすることが可能である。

 副社長のライフが0になれば、俺と遊旗の勝利が決まる。俺か遊旗のどちらかのライフが0になった場合はそのプレイヤーがゲームから外れ、それ以降は残ったプレイヤーと副社長が普通に1対1で闘うことになる。

 ルールの要点はこんなところかな。遊旗も決闘盤を付け、準備完了のようだ。最後に、俺も副社長に最後の説明をしてやることにした。

 

「言い忘れたが、闇のゲームでは敗者およびルールを破ったものには運命の罰ゲームが待っている。ご期待いただこう」

「ほーう。それは楽しみだが、結果は既に見えている。遊旗は一生私のしもべ、君は天新海殺人事件の犯人として逮捕! ククク、ハハハハハ!!」

「……夜が来る。お前に」

「俺と遊黒は負けねぇ! お前をぶっ潰す!!」

「ガキどもが。大人の怖さを教えてやる!」

「さぁ、闇のゲームの始まりだ」

 

 実験室に絶叫が響き渡る。絶叫という表現で正しければだが。それは開戦の合図。

 

「デュエル!!!」

 

 容赦なき血肉貪る闘争が始まった。まずは遊旗のターン。

 

「俺は『サイレント・ソードマンLV3』を召喚! さらにカードを1枚伏せ、魔法カード『タイムカプセル』を使う。これでターンエンド!」

 

 タイムカプセルはデッキ内から好きなカード1枚を除外し、発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ、そのカードを手札に加える。このバトルロイヤルにおいて2回目の自分のスタンバイフェイズは普段よりも遠い。そのためか、副社長の警戒の色はうすい。

 

「攻撃力1000のザコモンスターか。クク、早くも私の勝ちは決まったようだ」

「こいつはザコなんかじゃない」

「ザコだろ。仕方がない、では本当の強さというものを教えてやろう。 まずは魔法カード『融合』ぉ!!」

 

 いきなり来たか。融合召喚はターンを費やさずに上級モンスターを呼べるからな。やつの手札のロード・オブ・ドラゴンと神竜ラグナロクが融合し、黄金のモンスターが出現する。

 

「出でよ『竜魔人 キングドラグーン』!!」

「だ、だがまだ攻撃はできない!」

「構わないさ。私の狙いはこいつの特殊能力にあるのだからな。見るがいい、竜の王たるキングドラグーンの力! 効果発動! ターンに1度、手札からドラゴンを1体特殊召喚できる。レベルに関係なくなぁ!」

「ということは……!」

「さらに上級モンスターが増える! 来い『マテリアルドラゴン』!」

 

 キングドラグーン、マテリアルドラゴン、共に攻撃力は2400。俺のレッドアイズと同等の攻撃力を誇るモンスターがいきなり2体だ。加えてこの2体には厄介な効果がある。副社長はそれを自慢げに述べる。

 

「キングドラグーンがいる限り、相手はドラゴンを効果の対象にすることはできない! そしてマテリアルドラゴンがいれば、モンスター破壊効果は手札1枚をコストにすれば無効にできる。つまり今、ドラゴンを守る絶対防御の布陣が完成したのだぁ!!」

「な、なんてやつだ……!」

「さらに『アレキサンドライドラゴン』を召喚。カードを1枚伏せターン終了。さぁ終遊黒、お前のターンだ。最後のなぁ!」

「俺のターン」

「ククク、早くキングドラグーンを倒さないと、ドラゴンが際限なく増え続けるぞぉ?」

「カードを3枚伏せ、『カードカー・D』を召喚。その効果で自身をリリースして2枚ドロー、ターンエンド」

「……プッ」

 

 せきをきったような爆笑が響く。無論、副社長のものだ。やつは勝ち誇ったようにカードを引く。

 

「ハハハハハ! まさか壁モンスターすら出さないとは。がっかりだよ。実にがっかりだ。人生最後のデュエルになるかもしれないというのに。では幕引きといこうか。キングドラグーンの効果で『ラビードラゴン』を特殊召喚!」

「こ、攻撃力2950!?」

「ちっ」

 

 アレキサンドライドラゴンの攻撃力は2000。ラビードラゴンは2950。これでやつのモンスターの攻撃力合計が俺たちのライフを上回ったが。

 

「攻撃の前にこの魔法カードを使っておく、『ナイト・ショット』! 遊旗、お前の伏せカードを破壊!」

「なに!?」

 

 破壊されたのは『神風のバリア ─エア・フォース─』。相手の攻撃時に発動でき、相手の場の攻撃表示モンスター全てを手札に戻すという効果を持つ。対象をとらない上に破壊でもないので、発動に成功していれば副社長のモンスターたちを全て除去できたはずだ。だが、見破られた。

 

「ふん、ザコをわざわざ攻撃表示で出してきた時点でお前の狙いはお見通しだった。そんな見え透いた手に、この副社長がひっかかると思うかぁ!」

「……くっ!」

「終わりだ。キングドラグーンの攻撃!」

 

 ドラゴンたちの叫びが響き、閻魔様の到来を告げるみたいな突進が迫り来る。もはや勝負あったかのように見える。

 だが。

 

「……ふっ」

「遊黒……笑った?」

「ククク。やせ我慢かぁ!?」

「まさか。デュエルが思いのままに進んでいく、決闘者にとってこれほどの喜びはない」

「貴様、まさか!?」

「そのまさかだ。トラップ発動、『神風のバリア ─エア・フォース─』!」

 

 奇遇にも俺と遊旗の切り札は同じだったようだ。風が渦巻き、ドラゴンたちへ向かっていく。先述の通り、これが決まれば副社長のモンスターは全て消える。

 しかし。

 

「ククク。まさか同じ罠を伏せていたとは。意外とお似合いのパートナーかもねぇ。一緒に人生の終わりを迎えるんだ、それがせめてもの救いだ」

「わけわかんねぇこと言うな! これでお前の場はがら空きになるぜ!」

「うるせぇ! この程度の罠、私が読み切れないと思ったかぁ! カウンタートラップ『ギャクタン』っ!!」

「な、なに!?」

 

 ギャクタンはトラップを無効化する。つまり。

 

「これでエアフォースは無効となる。つまり私の勝ちだぁっ!!」

「それはどうかな?」

「あ〜ん?」

「ふふ、俺が伏せてるカードも……」

「ま、まさか!?」

「そのとーり。『ギャクタン』!!」

 

 俺のギャクタンがやつのギャクタンを無効化。結果、残るのはエアフォースの効果のみ。とどのつまり。

 

「……ヒッ!」

「ご自慢のドラゴン軍団、あいにくだが全員ご退場願おう。消え去れ!」

「うわぁぁぁっ!!」

 

 大いなる風の渦に呑まれ、ドラゴンたちは消え去る。キングドラグーンは融合モンスターなので手札ではなく融合デッキに戻る。他のドラゴンたちは手札に戻った。とはいえやつはまだこのターン召喚権を使っていなかったので、アレキサンドライドラゴンを改めて召喚し、そのままターンを終えることになった。

 副社長はこちらを忌々しげに睨みつける。さっきまでの上機嫌さが嘘のような悔し顔だ。

 

「ぜ、全滅〜!! 貴様、貴様ぁ!!」

「バトルロイヤルを吹っかけてきた時点でお前の狙いは明白だった。初期手札が多いことを活かして特殊召喚主体の戦法をとり、俺たちの連携が完成するより早く決着をつける。だろう?」

「わ、私の戦術を読んでいた……!?」

「ふっ」

 

 俺のスマイルが相当しゃくに障ったのだろう。その顔は紅潮していた。

 

「ゆ、許さん、許さんぞ終遊黒! 貴様は真っ先に葬って」

「おい、俺のことを忘れてもらっちゃ困るぜ」

「はっ!」

 

 遊旗のターン。ここでサイレントソードマンはレベルアップする。現れるのは、攻撃力2300を誇る、静かに佇む騎士モンスター。

 

「『サイレント・ソードマンLV5』!そしてさらに魔法カード『ダブルアタック』! 手札を墓地に送り、ソードマンの連続攻撃を可能にする! 行くぜ!!」

「や、やめろぉ!」

「沈黙の剣LV5、連続斬りっ!!」

 

 高速の斬撃。アレキサンドライドラゴンを切り裂き、そして、副社長へのダイレクトアタック。

 

「ぐわぁぁぁっ!!」

「どうだ! これが俺たちの結束の力だ!」

「……く、ククク……!」

 

 やつのデッキに眠る1枚のカードが怪しく輝く。そこには凄まじいエナジーが秘められている。そう、俺の手札に眠るナイトメアブラックが告げていた。

 

「調子に乗るなよぉぉ! 新世界の王たるこの副社長の恐ろしさ、とくと味わうがいい!!」

「……近づいているな……お前の悪夢が……!」

 

 どうやら、ナイトメアブラック真の姿を見せる時は近い。

 

──その頃!──

 

「シルバーちゃん! この問題の答え教えて!」

「ダメです」

 

 聖天斬とシルバーは入社試験の真っ最中。和やかな空模様を眺めながら、聖天斬は自身の不採用を察するのであった。ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 



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第5話 NEO UNIVERSE

「聖天斬くんへ。君がここに来るであろうことは分かっていたよ。なぜなら俺は社長だから。本来なら直接対面といきたかったのだが、少し緊急の用が入ってしまってね。手紙で失礼するよ。詫びといってはなんだが、君が欲しがってるであろう資料は全て机の上に置いておいた。こちらの都合で申し訳ないがコピー等は取れないので、読んだ後は元に戻しておいてくれたまえ。末筆ながら、君の健康と活躍を祈ります。天新海より」

 

 今読み上げたのが、天新海の机の上に乗っかっていた手紙である。ボクは、つまり聖天斬は、試験を抜け出して天新海の部屋にいた。

 ボクが採用試験を受けたのは見ての通り、この会社に侵入するためだ。新海くんの目的を探るため、そして他の世界の情報を得るために。情報力に関してはリバースコーポレーションはそりゃもうスゴいからね。

 ボクの計画が見破られてたのは少し面白くないが、ここはご好意に甘えることとしよう。資料は5つの束に別れていた。世界ごとに別れているのだろう。

 

「さて、GX世界は、お、あったあった」

 

 GX世界、5D's世界、ゼアル世界、アークファイブ世界、ヴレインズ世界。これらの世界が、ボクらが今いるこのオリジン世界からアクセスできる世界だ。ま、行ける世界がこれから増えてく可能性はもちろんあるけどね。世界の名称は天臨海という男がつけた。ろくでもないカス野郎だけどネーミングセンスは良い。

 

「……超融合神」

 

 思わず、口からその名が漏れる。これは良い子は真似しちゃいけない行為だ。どんな穏やか縁側にいたとしても断じてダメなアクションである。知識に勝る武器は無い。だがこの世には決して触れてはならない、知らない方がハッピーな存在というのはある。

 ま、今はちょっと興奮してしまっただけさ。ボクの知る限り最大の存在の資料を目の当たりにしてね。でも今のボクの鼓動はナット地震時の大地のように揺るがない。鋼鉄のハートで紙をパラパラやる。

 

「忍法、速読みの術! うぉー、はかどる、実にはかどるぞー」

「なにやってんですか斬さん」

「あ、シルバーちゃん。ちょっと待つでござるね」

 

 麗しのシルバーちゃんのジト目が突き刺さる中、資料を読み終え、トントンとやってから元に戻す。これぞ忍法、立つ鳥後を濁さず……っ!

 

「なんでドヤ顔なんですか。ほら戻りますよ。試験の続きです」

「え?まだ試験するの?」

「はい。あなたの目的がなんにせよ、一度始めた試験は最後まで、です」

「ほげー」

 

 ボクはモニターをオフにし立ち上がる。モニターには今行われている、遊黒、遊旗、副社長のデュエルの様子が映し出されていた。音が出ないから会話の内容は分からないが、状況は大体分かる。副社長の足下にある亡骸は、新海くんの特徴とかなり合致していた。

 

「あ、ところで斬さん、新海くん見ませんでした?新海くんがいないと次の試験始められなくって」

「知らないけど、新海くんって呼んでるの?」

「あ」

 

 シルバーちゃんはしまった顔をしていた。あ、思わず出てしまった系のやつだったか。彼女は頬をうっすら染めながら。

 

「あ、あの、これは他言無用で! 特に新海くんには! お願いします!」

「オッケー。じゃあ行こうか」

 

 不自然な必死さだった。そもそもなぜ新海くんに隠す必要がある。答えはただひとつ。彼女は誰にも言えない秘密があり、それは特に新海くんにはバレてはいけない秘密ってことだ。

 ボクが話をさっさと切り上げたのが意外だったのか、シルバーちゃんは少し困惑していた。

 

「どうかした?」

「い、いえ。ただ、秘密を守ることの見返りを求められると思ってたので」

「ボクはそんなに細かくないよ。ま、あとで何か返してくれるなら嬉しいけどね」

 

 こちらの目的に関係あるか分からない秘密だ。そんなものを探るために他人の心を踏み荒らす趣味は無い。

 趣味はないけれど、でも、うん、おせっかいを少しだけ。

 

「王者というのは、大体2種類に別れる」

「?」

「周りの人間と共に歩む者と、ひとりで勝手に歩いてゆく者。彼はきっと前者だ。秘密なんて荷物は、最後は彼の背に重くのしかかる。捨てるなら早い方が良い」

「彼に秘密を明かすことはありません。それに新海く、彼は後者です。ひとりで大きな未来に歩ける人です。私の秘密なんて大きな問題じゃありません」

「なら良いけど。人と一緒に歩いて行くというのは大変なことだ。小さな歩幅のズレが大きな不和となり、やがて道は別れる」

「……」

「私の人生はそういった別れの繰り返しだった。ははははは。ま、相談があったらいつでも言うでござる」

 

 説教臭くなってしまった。慣れない話をするものじゃあないね。案の定シルバーちゃんに突っ込まれる。

 

「……なんか、感じ違いますね。それに、私?」

「おっと。そうそう、ボク実は自分のこと私って言う派なんだよね。でもこれは誰にも言っちゃダメだよ。ふたりだけの、ヒ・ミ・ツ」

「な、なんかエッチですね!」

「うん! これで互いに秘密ひとつずつ。貸し借り無しってわけだ。スッキリしたね」

 

 トテトテとついてくるシルバーちゃんにウインクし、ボクは足を速める。

 

「斬さん、試験会場と方向違いますよ?」

「どーせ新海くんがいなきゃ試験できないんだ。一緒に探そうよ」

「それもそうですね。よし、新海様ーっ! どーこでーすかぁー!!」

「どこにいるんだホー!」

 

 遊黒くんたちのデュエル、おそらくあれがトリガー。そこから始まるだろう。全ての次元の、運命をかけた闘いが。

 

 

 

 

 

「私は新世界の王だ! そして、私は神だぁっ!!」

「うるせぇ!」

「王と神どっちかにしろ!」

「ヒヒヒ、そんなことを言っていいのかぁ!? このカードが、目に入らぬかぁぁ!!」

「あ、あれは!?」

 

 絶叫する副社長、それを見ている遊旗と俺。この3人のデュエルは続いていた。遊旗はともかく、副社長のやつとご一緒するのは悪夢そのものだった。そんな悪夢に拍車をかけるように、副社長のやつはエクストラデッキからカードを1枚取り出す。

 

「あ、あれは!?」

「知っているのか遊旗?そしてなぜ2回言った?」

「リバースコーポレーションの深淵、前人未到の領域に、デュエルモンスターズ史上最強のモンスターが埋められているという言い伝えがあるが、まさか!?」

「そのまさかさ。もっとも、君たち相手なら使うまでもないがね。これを見せたのは実力差を示すため。大人しくサレンダーすれば、命だけは助けてやるぞ」

 

 俺と遊旗は目を合わせる。どうやらやつの答えも同じようだ。当然だがな。ふたり揃って啖呵をきる。

 

「は、それはこっちの台詞だぜ。てめぇの醜い脂肪がぶっ飛ぶほどのデュエルを見せてやる!」

「俺は貴様に与える罰ゲームを考えている。そしてその時は近い。楽しみにしてな」

「ガキどもぉぉ。私の覇道の礎となれぇっ!!」

 

 ここでデュエルの状況を確認しておこう。対戦形式はバトルロイヤル。遊黒&遊旗ペアvs副社長という形だ。

 今は遊旗のバトルフェイズ。遊旗はライフ4000。手札は1枚。場にはサイレント・ソードマンLV5と魔法カード『タイムカプセル』。次の遊旗のターンのスタンバイズ、タイムカプセルは破壊され、その効果によって除外されたカードが遊旗の手札に加わる。

 遊黒、つまり俺はライフ4000。手札は4枚。場には伏せカード1枚のみ。

 副社長は手札6枚。場にカードは無し。ライフは5400。

 と、こんなところかな。もっとも、これからまた変化があるようだが。遊旗のサイレント・ソードマンが光を放つ。

 

「行くぜ、サイレント・ソードマンLV5の効果発動! 直接攻撃に成功したターンの終わりにレベルアップする!」

「ほーう」

「LV5をリリース! 現れろ、『サイレント・ソードマンLV7』!!」

 

 現れる、攻撃力2800の騎士。沈黙に佇むその姿。研磨された力を感じさせる。強力なモンスターであることは誰の目にも明白。

 しかし副社長は笑っていた。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド! へへ、これで俺たちが圧倒的優位に立った!」

「えぇ、本当ですかぁ!?」

「あぁ。LV7になったサイレントはあらゆる魔法を無効化する。手出しはできないぜ!」

「そうですかぁ。では私のターン、『ボマー・ドラゴン』を召喚」

 

 副社長の場に、攻撃力1000の、その名の通り爆弾を持った竜が現れる。攻撃力は低いが、何やら不穏な気配を感じる。遊旗はそれをまだ感じてないのか、余裕の様子だった。

 

「へ、その程度の攻撃力じゃサイレントには勝て」

「ふふ、ボマー・ドラゴンで攻撃」

「なに?」

 

 圧倒的な攻撃力の差があるにも関わらずの攻撃。当然、騎士の剣が竜を切り裂き粉砕する。

 

「バカが! 敵じゃねーぜ!」

「バカはお前だよ。ボマー・ドラゴン効果発動!」

 

 しかし、竜が持っていた爆弾は処理しきれなかったようだ。竜は騎士にしがみつき、やがて。

 

「ボマーアベンジ!!」

 

 爆散。騎士は砕け散り消えた。

 

「な、何が起こった!?」

「バマー・ドラゴンは自分を倒したモンスターを道連れに破壊する。クク、ザコにはザコの使い道があるということだよ」

「だ、だが、戦闘ダメージは受けてもらうぜ!」

「遠慮するよ。ボマー・ドラゴンの戦闘で発生するダメージは0になるのでね」

「くっ!」

 

 結果、副社長は労せずサイレントの除去に成功した。攻撃力で勝てず魔法が使えない、そんな状況でも抜け道はある。見事と言っておくか。

 

「邪魔者が消えたので魔法カードを使うとしよう。『トレード・イン』で手札の『ラビードラゴン』を墓地に送り2枚ドロー。さらに『愚かな埋葬』だ。山札から『アークブレイブドラゴン』を墓地へ送る。カードを1枚伏せてターンエンド。さぁ遊黒、君のターンだ」

「くっそ〜、俺のサイレントがあんな簡単にやられるとは」

「でも無駄じゃないさ。結果として今、やつに壁モンスターはいない」

「あぁ。頼んだぜ遊黒!」

「俺のターン」

 

 このチャンスを活かせるかどうかは俺次第。やつが今伏せたカードは今のターンでドローしたカードだろう。でなければ前のターンで伏せてたはずだからな。推理材料は皆無に等しい。となれば、行くしかないが。

 

「『終末の騎士』を召喚。その効果で山札から『真紅眼の黒竜』を墓地へ。さらに魔法カード『死者蘇生』」

「この流れは……」

「ほーう」

「蘇れレッドアイズ! そして、レボリューションロード!」

 

 俺の場の2体が魔法罠ゾーンに置かれ、そこから伸びる進化の道の彼方から、漆黒の海がなだれ込む。地から沸き上がる亡者たちは交わり、龍の形をとり。

 

「ユニバース召喚、『ナイトメア・ブラック・ドラゴン』!」

 

 俺の切り札の姿となる。

 

「来た、遊黒の切り札! これで一気に……」

 

 しかし、様子がおかしかった。それは龍の形から崩れ、元の幻へと戻り、そして消滅する。ハッと副社長を見やれば、やつは笑いをこらえて小刻みに震えていた。

 

「……プッ! ククク、アハハハハハァ! アハァン!」

「貴様……!」

「イヒー! 無様だ、実に無様だね終遊黒!ネタばらししてやろうかぁ? 私はトラップ、『混沌の落とし穴』を発動したのさぁ!」

 

 俺は舌打ちする。あれは2000ライフと引き換えに、光属性か闇属性のモンスターの召喚を無効にし除外する、というカード。決まれば強力なカードだが、その発動条件は厳しい。光か闇のモンスターを使う相手にしか通用しないからな。ということは、おそらく。

 

「そいつのことは知っていたからね。対策のカードをデッキに入れていたんだよ。未知のカードだか知らんが、召喚する前はただのカード! 出る前に潰せば恐れるに足らず! ウヒャァッ!!」

「ち、やるな。俺はカードを1枚伏せ、ターン終了」

 

 結果論だが、レッドアイズと終末の騎士で攻撃してからナイトメアを出せば、やつは混沌の落とし穴の発動条件であるライフコストを払えなくなり、ナイトメアの召喚が通っていた。ナイトメアで攻撃する方がダメージがデカいのは事実だから、俺のプレイが完全にダメだったとは思わないが、勘が冴えなかった。いずれにしても、俺もまだまだということか。

 これで振り出し、いや、状況はさらに悪くなるだろう。やつが前のターンで墓地に送ったアークブレイブ、あのカードには恐ろしい能力が秘められている。でなければわざわざ山札の中から選んで墓地に送るはずがない。

 

「私のターン。お、良いカードを引いたな。おいお前ら、ジャンケンしろ」

「あん?」

「お前らのどっちを先に葬るか迷っていてな。決めさせてやる」

「くだらねぇ。俺たちはどっちも負けねぇ!」

「人の好意は素直に受け取っておいた方が良いぞ。お前らのどちらかは、このターンで確実に死ぬのだから!」

「なんだと!?」

 

 やつの墓地のアークブレイブが輝きを放つ。ち、やはり。

 

「このスタンバイフェイズに墓地のアークブレイブの効果が発動する。が、それにチェーンして速攻魔法、『ツインツイスター』を発動!!」

「マズい、あのカードは!」

「手札1枚を墓地に送ることで、魔法罠2枚を破壊する。さて、どれを破壊するか」

 

 魔法罠ゾーンにあるカードは、遊旗にはタイムカプセルと伏せカードが1枚。俺には伏せカードが2枚。この中から2枚破壊できるが。

 

「狙いは当然! 終遊黒、お前の場の2枚だ!」

「ちっ!」

 

 俺のトラップが蹴散らされていく。あれが今ドローしたカードというわけか。なるほど、たしかに良いカードだ。これで俺たちを守るのは遊旗の伏せカード1枚のみ。

 やつは得意げにまくしたてる。

 

「遊黒、貴様は最初から攻撃の意思が薄かった。となれば貴様らタッグの戦術は明白。遊旗が攻め、遊黒が守る! だがこれでその戦術は壊滅だ!」

「よく喋る野郎だ」

「これで終わりだ。アークブレイブの効果! このカードが墓地に送られた次の自分のスタンバイフェイズ、墓地のレベル7か8のドラゴンを復活させる!」

「ひ、ひどい」

「あー無情。ラビードラゴン、復活! さらに魔法カード『デビルズ・サンクチュアリ』でトークンを出しそれをリリース! 『マテリアル・ドラゴン』をアドバンス召喚!」

 

 俺のエアフォースで消えたドラゴンたちが、巡り巡って復活する。ラビードラゴンの攻撃力は2950。マテリアルは2400。この2体の集中攻撃を受ければ、たしかに俺か遊旗のどちらかのライフは尽きる。やつがさっき言ってたのはこのことだったのだ

 

「そ、そんな、あんなに苦労して全滅させたのに……」

「だから言っただろう、順番を決めておけと。だがもう時間切れだ。さて、どっちから消してやるか……」

 

 やつは俺のトラップにかかったことを少なからず根に持っている。とはいえこの状況なら答えは決まっている。

 

「お前だ。マテリアルで、遊旗に攻撃!」

「やはり俺か……!」

 

 当然だ。今の俺は場にカードもなく、切り札もさっき失ったばかり。やつから見て、倒す優先度は低い。対して遊旗はカードが残ってるしタイムカプセルもある。今遊旗を仕留めればタイムカプセルの効果も関係ないわけだから、ここは遊旗で決まりだろう。キレてるように見えて冷静だ。

 マテリアルの攻撃が遊旗に直撃する。

 

「く、ぐわぁぁっ!!」

 

 これで残りライフ1600。そして、ラビードラゴンがそれに続く。

 

「ゲームオーバーだ、小僧!!」

「遊旗っ!」

 

 思わず叫ぶ。ここまでか。

 

「……へっ!」

 

 だが、遊旗は笑っていた。驚いた。やつの目の炎は、この状況にあっても全く揺らがない。

 副社長はせせら笑う。

 

「虚勢もいい加減にしないと可愛くないぞ。貴様はこれで終わりなんだよ! 敗者に相応しい面をしやがれ!!」

「断る。俺は負けてねぇ」

「あ〜ん?」

「見せてやる。リバースカードオープン!」

 

 秘められた切り札、それが開かれる。そのカードとは。

 

「貴様の攻撃モンスターを除去する罠! 『次元幽閉』!!」

「バカが! モンスター破壊効果ならば、マテリアルで無効だ!」

 

 しかし副社長の勢いに反して、マテリアルはうんともすんとも言わない。なぜか。その答えはただひとつ。

 

「次元幽閉は破壊ではない。除外だ!」

「え、えぇー!?」

 

 時空の渦に呑まれ、ラビードラゴンは消滅する。これでもう攻撃できるモンスターはいない。副社長はターンを終えざるをえない。

 

「おのれ〜!」

「これで、勝機は俺たちの手に」

「はぁ?眠たいのか?こちらの場には攻撃力2400のマテリアルがいる。貴様らを仕留めるには十分すぎるモンスターだ!」

「お前はさっき言った。遊旗が攻め俺が守る、それが俺たちの戦術だと。だがそれが、除去カードを俺のトラップに使わせるための罠だとしたら?」

「ま、まさか貴様の狙いは……!?」

 

 やつは遊旗の場を睨む。そう、タイムカプセルは次のターンで開かれる。

 

「だ、だが、タイムカプセルで加えるカードを選んだのは第1ターン。この状況にフィットしたカードなど……」

「ダブルアタックは手札のモンスターをコストに発動する。そしてこれは最初の手札にあった。つまり俺は、上級モンスターを墓地に仕込む準備が既にできていた」

「それはサイレントが次の自分のターンまで生き残ってなければ成立しない話だ!」

「俺は信じていただけさ。遊黒をな」

「し、信頼……くだらん!」

「くだらねぇかどうか、その身で確かめろ! 俺が選んだカードは!」

 

 副社長は歯ぎしりする。信頼、それはおそらく、やつが求めながらも得ることができなかったものなのだろう。だからこそまぶしく、忌々しい。

 

「魔法カード、『死者蘇生』!!」

 

 憎しみの闇を突き破り、地の底より。

 

「伝説を超える新たな伝説。黄金の共に生まれ立つ、俺の切り札! その名はっ!」

「これは、まさか!?」

「『ゴールデン・レジェンド・ドラゴン』っ!!」

 

 天空めがけて、黄金の龍が駆け上がる。その体から剣が飛び出し、それを掴み、ビシッとポージングを決める。俺はそれに少なからずイラっとしたが、口には出さなかった。終遊黒は大人だった。

 副社長は俺とは違って取り乱していた。ゴールデンレジェンドの攻撃力は4000。マテリアルを遥かに超える。が、それだけではないようだ。

 

「ご、ごご、ゴールデンレジェンド!? き、貴様、遊旗と言ったな……まさか、性は金色!?」

「だからどうした! 行くぜ、ゴールデンレジェンドの攻撃!」

「待て! そうか、お前が金色遊旗か! ははは、私のものになるはずだったカードがついに」

「ゴールデンディスティニージャッジメント!!」

 

 黄金の閃光が、マテリアルを破壊し、副社長を吹き飛ばす。

 

「ぐわぁぁぁっ!!」

 

 やつは壁に叩き付けられる。大きな音を立て倒れ込み、床にキスする。残りライフは1800。そんな状態になりながらも爆笑し続ける様は、もはや狂気だった。

 

「キキィィィィィ!」

「うわ、気持ち悪っ!」

「そのカードは私のものになるつもりだったんだ!だが社長が、天臨海が! 私を認めなかった! 私の王としての器を恐れたんだぁ!」

「あー?意味わかんね。このカードは道端でジイさんから貰ったんだけど」

「貰った!? ふざけんな! 私はこれまでたくさん苦労して、それでもダメだったんだぞ! 許さない、許さなぁぁい!!」

 

 やつは懐から注射器を取り出し、それを自分の腕に突き刺す。注射器に入った液体色のヤバそうさからして、健康のための注射という線は無さそうだ。

 

「な、なんだぁ!?」

「しゃ、シャドウの力を私の中に取り込んだ……これで、う、うぐぅ!」

「なに?貴様、そんなことをしたらただではすまんぞ! やめろ!」

「俺は許さん、終遊黒、金色遊旗、そして天臨海! この腐った世界を塗りつぶす! うがぁぁぁっっ!!」

 

 筋肉が膨れ上がり、血管がブチぎれそうな、そんな様子になってしまった。元は180前後くらいだった身長は2mをゆうに超すほど伸び、その背から紫の翼が生え、肌も緑みがかかる。もはや元の面影はかなりうすくなってしまった。

 

「……ヒヒヒ、イヤッホォォォ! どうだ!? この雄々しき姿!」

「な、なんだよあれ……バケモンじゃねぇか……」

「貧しい頭だ。この素晴らしさを理解できないとは。私は貴様ら愚民とは違う! 私こそが超越者! 私こそが、新世界の王だぁ!!」

「愚かな。シャドウと人間は構造が全く違う。長く保つはずがない、死ぬぞ!」

「嫉妬かぁ?ふ、この私に限ってそんなことはない! 貴様たちに裁きを下してやる。王に歯向かった者は死あるのみ!!」

 

 やつはデッキに手をかけ。

 

「ドロォォォッッ!!」

 

 嵐を巻き起こす。やつはドローカードを一瞥し、それを乱暴に叩き付ける。

 

「『強欲で貪欲な壺』! 山札の上10枚を、裏側で除外し!」

 

 やつは荒々しい手つきで10枚を決闘盤から抜き取り、そして、あろうことか、それらを地面に叩き付けた。そして踏みつける。

 

「お、おい! 何やってんだ自分のカードに!」

「強すぎる力を取り込んだからだ。もはや体の制御がきかなくなっている。このままでは……」

「そして、カードを2枚ドローする! さらに魔法カード『成金ゴブリン』で、金色遊旗に1000ライフ与え1枚ドロー」

「ち、やたらドローしやがる。一体何が来る?」

「ではお待ちかね、ショーの主役の登場だ。世にも恐ろしい殺戮ショーのなぁ! 魔法カードぉ、『龍の鏡』ぁっ!!」

 

 床が割れ、ドラゴンたちが舞い上がる。それは墓地に眠るドラゴンたち。その魂はひとつとなり。

 

「デュエルの歴史の頂点に座する、絶対にして最強の竜! この、副社長と共に並び立つ!」

 

 地が揺れる。なぜか、それは超巨大な龍が現れたからだ。それは確かに質量を持っていた。歩みを進める。

 

「祝え……新たなる王の誕生を!」

 

 両手を広げ、龍の召喚を祝福する副社長の元へ、それは来てしまった。最強のパワー、最悪の欲望。重なってはならぬ力が重なる時、この地は地獄に変わる。

 

「カーモンベイベェ……『F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)』!!」

 

 悪夢の如き龍が、雄叫びを上げた。衝撃波のように、ビリビリと来るものがある。遊旗は思わず叫んでいた。

 

「な、なんだこの迫力! ソリッドビジョンだろ?立体映像じゃないのか!?」

「質量を持つソリッドビジョン技術はいくつかの次元にある。そしてシャドウはあらゆる次元の力を持つ。やつのモンスターがその力を得たか……!」

「ほーう、これは嬉しい誤算だ。ヒヒヒ、気にいらねぇやつら全員、このドラゴンでぶっ殺す!」

「ふざけんな! カードをそんな風に使うやつは、俺がぶっ潰す!」

「無理だ。なぜならば、ファイブゴッドの攻撃力は5000っ!!」

「な……っ!?」

 

 遊旗は絶句する。無理もない、元々の攻撃力でゴールデンレジェンドを超えるモンスターなどこれまで出会ってこなかっただろう。その攻撃力が絶対の自信、やつのデュエル観を構成する重要なピースのひとつだったはずだ。その自信が崩れた時こそが、決闘者の真価が試される時。

 

「……大丈夫だ遊黒」

「遊旗?」

「ゴールデンレジェンドがやられても、俺のライフは残る。まだまだここからだ!」

「……あぁ」

 

 そして遊旗はその真価を示した。その笑みは力強い。だが、それを嘲る笑みもあった。

 

「ヒヒヒ! 大丈夫、か。私も舐められたものだな。切り札とは最後の最後に出すもの。つまり今ここが貴様の最後なんだぁ!」

「っ!?」

「魔法カード、『巨大化』ぁ!!」

 

 ファイブゴッドは叫ぶ。その肉体は膨れ上がり、ただでさえ尋常ではなかったエナジーがさらに増していく。装備魔法カード巨大化は自分のライフが相手より少ない時、装備モンスターの攻撃力を2倍にする。つまり。

 

「バカな……攻撃力10000っ!?」

「儚い希望だったな。てめぇの貧しい人生じゃ二度と味わえないパワーだ。とくと楽しめぇ!」

「こ、ここまでか……!」

「私からゴールデンレジェンドを奪いやがった、てめぇから消す! 死ねぇっ!!」

 

 攻撃力10000の息吹が、龍の元で渦巻く。間もなく、その攻撃は放たれる。遊旗にも俺にも伏せカードはない。副社長の勝利は確定的。

 

「ははははは! 私は神だぁぁぁぁっ!!」

 

 勝利の喜び。決闘者にとっての至高の瞬間。あぁ、悲しいなぁ。こんな瞬間を邪魔するなんて。

 

「……ふっ」

 

 悪夢、冥利に尽きる。

 

「ゆ、遊黒?」

「な、なんだ?この状況で、何を笑っている!?」

「夢とは欲。夢を叶えるというのは、夢という器に欲を注ぐことだ。欲が強い人間は多くの夢を持つと良い。現実には限界がある。器が満ちた時、次の器に向かわなければ、それは悪夢に変わる」

「はぁ?意味わかんね、んん!?」

「お前は欲の数が少なすぎたようだ。もっと多くのものを見た方が良い。そして、多くの夢を持つが良い」

「ふぁ、ファイブゴッドの攻撃が止まる、なぜだ!?」

「今、お前の罰ゲームが決まった」

 

 世界から音が消え失せる。

 

「生まれ変わる季節を迎える。混濁に微睡む花は揺れ、星携えし空はひとつとなり、この世界に朝が届く」

 

 漆黒の龍が出現する。それは細く、弱々しく、悲しげな声を上げていた。

 

「ネオユニバース召喚」

 

 この手の天秤に積み上げられし罪と罰。それらは白い鎖に変わり、龍を包む。縛るのではない、優しき抱擁。やがて、龍は純白の光を放ち。

 

「見よ。これぞ我が魂、真の姿」

 

 悪夢の殻より、純白の龍が解き放たれる。生誕の時。天を貫く産声。天使の守護龍、神より賜わりしその名。

 

「『ナイトメア・ブラック・ネオユニヴァース』」

 

 綺麗な花のように笑って。星のように輝いて。この世界を羽ばたく。怖がらずに。

 

「一体何が起こっている……?」

「な、何だ、このモンスターは!?」

「ネオユニバースモンスター。ネオユニバース召喚によってのみ、相手ターン中にエクストラデッキから特殊召喚できる。その召喚条件は、通常モンスター1体以上と効果モンスター1体以上。加えて、ナイトメアブラックが墓地か除外ゾーンに存在しなければならない」

「召喚条件は元のナイトメアブラックに似てるけど」

「違いは、レガシーをフィールドだけでなく墓地除外ゾーンからも選べること。その代わり、相手モンスター1体の元々の攻撃力がレガシーの攻撃力合計を超えている必要がある」

 

 墓地から真紅眼の黒竜と終末の騎士を魔法罠ゾーンにレガシーとして置き、ネオユニヴァースは召喚される。この2体の攻撃力合計は3900。それより大きい攻撃力のモンスターが相手の場に存在する必要があったが、それも今ではクリアされている。よって、ネオユニバース召喚は可能となった。

 俺の説明を理解し、副社長はうなる。

 

「ということは、ファイブゴッドの召喚がトリガーになったのか……!」

「過ぎたる欲は身を滅ぼす。始まるぞ、お前の悪夢が」

「ふざけるな! そんな痩せ細ったドラゴンにどれほどの攻撃力がある!?」

「悪夢の体現者たるネオユニヴァースに実体は無い。このカードは選んだモンスターの元々のステータスをコピーする。選ぶのは当然ファイブゴッド」

「つまり、攻撃力5000!? すげぇ!」

 

 今ファイブゴッドの召喚がトリガーになったと言ったが、よく考えたらルール上は遊旗も相手プレイヤーとして扱うのだから、ゴールデンレジェンドが出た時点で召喚は可能だったな。ま、どうでもいいか。

 

「ネオユニバース召喚がバトルフェイズで行われた時、相手はネオユニバースモンスターに攻撃しなければならない。さぁどうする?」

「ククク! 驚かせやがって、結局ファイブゴッドに勝てないじゃないか! ならば望み通り、貴様から消してやる!」

「ゆ、遊黒っ!」

「消える?違うな。これから始まるのだ、お前の悪夢が」

「ほざけ! ファイブゴッドの攻撃!」

 

 新たなモンスター召喚によって中断されていたファイブゴッドの攻撃が、再び始まる。今度こそ放たれた、最強の息吹。

 

「ファイブゴッド・バースト!!」

 

 5色の嵐が吹き荒れ、5色の光がまき散らされる。それはシャワーのように降り注ぎ、副社長の、勝利への確信に満ちた表情を照らし出す。

 

「やったぁ! 私の勝ちぃ!」

「真紅眼の黒竜のレガシーフォース発動」

「なに!?」

 

 純白の龍は輝き、その光の密度が増していく。龍の背を押すものがあった。それは可能性宿し真紅の眼。

 

「ネオユニヴァースは他のユニバースが与えるレガシーフォースをコピーできる。ナイトメアブラックのそれをコピー」

「ってことは、戦闘する自分モンスターの攻撃力が2倍。つまり!?」

「ネオユニヴァース、攻撃力10000」

「……バカな……!」

「悪夢フルコース」

 

 ここに生まれる、もうひとつの最強。そして放たれる最強の一撃。

 

悪夢終幕(ナイトメアフィナーレ)

 

 純白の嵐と5色の嵐。それらは交わり、宙に架かる虹となる。虹色に輝く時の中、ドラゴンたちは静かに滅びゆく。主のためにその身を散らしてゆく。

 最期の花びらが、宙に舞う。

 

「こ、こんなこと、こんなことあっちゃあダメだぁ!」

「ありがとうネオユニヴァース。眠るがいい」

 

 花は、消えた。ファイブゴッド、ネオユニヴァース、攻撃力10000同士の2体が、相討ちとなって破壊される。

 副社長は膝を落とし、アリみたいに小さい声でターン終了を告げる。

 

「すげぇ、ファイブゴッドを真正面からぶっ倒した!」

「俺のターン。カードを伏せて終了。さぁお前のターンだ」

「き、キキ、キキィ……!」

 

 副社長のターン。やつのライフは1800。ネオユニヴァースの出現によりゴールデンレジェンドは生き残った。次の遊旗のターンまでに何らかの対抗策を講じなければ、勝負は決まる。そのプレッシャーからか、やつの手はガタガタ震える。

 

「わ、私の、ターン?」

「踏みにじられたお前のカードたち」

「っ?」

「お前のデッキに信じる心が残っているなら、逆転のためのカードを引かせるはずだが」

「……ど、ドロー」

 

 やつはドローカードを見る。その顔には先ほどの勢いはなく。

 

「……ターン……エンド……」

「俺のターン! ゴールデンレジェンドの攻撃!」

「ヒっ!」

「ゴールデンデスティニージャッジメント!!」

 

 審判の時。黄金の光が敵を呑み込み。

 

「う、うわぁぁ! 完敗だぁぁっ!!」

「へへ、遊黒っ!」

「ふっ」

 

 ハイタッチ。デュエルは俺と遊旗の勝利で決着した。

 

 

 

 

「こ、こんなこと、こんなことあっちゃあダメだぁぁ! せ、せっかく天新海を始末」

「せっかく、誰をどうしたって?」

「あ、あなたは!?」

「む?」

「えぇー!?」

 

 俺たちが見上げた先には、亡霊が突っ立っていた。その亡霊に名を付けるとすれば、そう、天新海!

 副社長の足下に転がっていた亡骸はフッと消える。それはデュエル終了時にモンスターが消えるのと同じ消え方だった。

 

「しゃ、社長、ど、どうして!?」

「自分の死体というのは見てて気分が悪いなぁ。ソリッドビジョンとはいえ」

「え、えぇ!? で、でも確かに感触が」

「質量を持ったソリッドビジョンか。ふ、他次元の力をもう使ってるとは。さすがだな新海」

「天使に褒めていただけるとは光栄だ。まだ発展途上だがね」

 

 絶句する副社長とは対照的に、天新海は愉快そうに笑っていた。

 

「さて。副社長、いくつか聞きたいことがあるのだが」

「ひ、ヒ、殺される……殺されぇっ」

「黙れ」

「ヒッ!」

「君が放ったシャドウに襲われた女性はどうなった?」

「た、たた、他次元に飛ばされました。か、神召喚のための生け贄となるでしょう」

「そうか。君は無論クビだし制裁も受けてもらいたいが、先約があるようだからね。では謹んで、罰ゲームとやらを見物するとしよう」

「え?」

 

 俺は副社長の前に立つ。どうやら新海への恐怖のあまり、俺との約束を忘れていたようだ。

 デュエルの敗者には罰ゲームが与えられる。その時が来た。

 

「悪夢を与える。少し長い、な」

「あ、う、助けて、助けてください社長ーっ!!」

「運命の罰ゲーム!」

 

 やつを指だし、告げる。

 

GREED(グリード) ─欲望の幻像─!!」

 

 やつの目に夢が映る。それは悪夢。

 

「う、ほげぇぇぇぇぇっ!!」

 

 やつの肉体からシャドウの力は失われ、平常時のそれに戻る。俺の処置がなければあと数分で死んでいただろうな。ふ、罰ゲームに救われるとは皮肉なものだ。

 この特殊な眠りは半日ほど続く。その間、俺なりに考えた、欲望のはけ口の開拓を助ける夢を見る。ただ、残念ながら俺の見せる夢は必ずショッキングな映像を含んでしまうので、見てる間は少しばかり辛いだろう。まぁ頑張って欲しい。

 俺が副社長の今の状態などを伝えると、遊旗は少し意外そうな顔をした。

 

「えっと、じゃあ半日立てば元通り?何もかも?」

「そうだけど、なにか?」

「いや。ただ、もっと残酷な罰なのかと思って。だってこいつすげー悪いやつだったし、お前も怒ってただろ」

「別に悪いやつだとは思わなかったが」

「へ?あれが?」

「さっきも言っただろう。欲の注ぎ方が間違っていたのだと。むしろあの素直さは評価できるくらいだ。目を覚ましたら人助けに目覚めるかもな」

「ま、マジでー?」

 

 ハテナマークを浮かべる遊旗へ、新海が語りかける。

 

「ははは。遊旗、終遊黒に俺たちの価値観は通用しないよ。そいつは人間じゃなくて天使だからな」

「て、天使?人間じゃ、えぇ!?」

「そういうことだ。善悪にはあまり関心がなく、その魂を見定める。ま、お前はかなり人間に寄っているようだが」

「俺が人間に?ふ、父さんにあまり冗談をいうんじゃない」

「お前は俺の父親ではない。俺の父の名は天臨海。この世界のデュエルの創造主であり俺の前の社長。母の死後、会社を飛び出しそのまま行方不明になっている。ま、遊旗にゴールデンレジェンドを渡したのは恐らくやつだろうから、案外近くにいるかもだが」

「そんなことはどうでもいい」

「だろうな」

 

 その時だった。ファイブゴッドのカードが禍々しい光を放ち、どこかへ飛んで行った。

 

「あ、えぇ!?」

「我が社に封印されしカードか。あれは持ち主の心を映し出す。次の持ち主を探して旅立ったか」

「な、なるほど!」

 

 新海がドヤ顔でそれっぽい解説をし、遊旗がそれにウンウンと頷く。バカの会話って感じだった。

 一通りビックリし終えた後、遊旗はセキュリティーに応援を呼ぶ。副社長は様々な事件の参考人および被疑者として連行されるのだろう。

 遊旗は新海へ向かい。

 

「お前も署に来てもらうぞ。殺人未遂の参考人としてな」

「殺人未遂?ソリッドビジョンをナイフで刺すのが殺人未遂?ははは、遊旗は相変わらず冗談が上手いな」

「そ、それ以外にも聞くことがあるんだよ! ち、心配して損したぜ!」

「心配してくれてたのか?ふふ、それはありがとう。さすがは我が友だ」

「このハゲ! ろくでなし! いいから来い!」

「天新海は留守です」

「あぁ?」

「これから旅行なのでね。ただの旅行じゃないよ、次元旅行だ」

 

 新海の後ろに、ファンタジー映画に出てくるみたいな扉が出現する。やつがそれを開けば、その先に広がるは漆黒。

 

「見ての通り、他次元へ行けるゲートだ。俺はこれから5D’sの世界へ行く」

「た、他次元!?」

「あぁ。このゲートはなかなか厄介でね、強大なデュエルエナジーがないと動かない。だから、我が社の近くで激しいデュエルをしてもらう必要があった」

「俺たちのさっきのデュエルか……!」

「左様。ちなみに一度に使えるのは2人までで、今使えば明日の今ごろまでは使えない。改良の余地ありだ」

 

 やつの説明が終わると同時に、実験室のドアが開き、新たな客がこの空間にやってくる。

 

「はははヤッホー! あ、新海くんいたよシルバーちゃん!」

「わぁ、ほんとだ! 斬さんスゴーい!」

「あはははは! 聖天斬、聖天斬でございます! お困りの際は、聖天斬にお声がけ下さいませ〜!」

「そうかい。じゃあ斬くん、早速頼みがあるんだが」

「お、新海くん。なにかなー?」

「そのうるせぇ口にチャックしろ!」

「やだ」

「な、なにぃ〜!?」

 

 ブチぎれてる新海の元に、メイドの格好をした少女が駆け寄る。たしかシルバーと言ったか。おっぱいがデカい。し、身長のわりにはなんだからね!

 

「ま、まぁまぁ。落ち着いてください新海様」

「ちくしょうあの野郎、あの野郎〜!」

「新海様! 斬さんは女性です、野郎じゃありません!」

「あ、そうか。す、すまない、さっきから無礼な発言を」

「はははヤッホー。ま、気にするなでござるよ」

「……ありがとう」

 

 新海と斬は微笑み合う。なんだこの時間、って感じだが、ひとつ分かったことがある。それは、斬のやつが新海をあまり良く思っていなかったということだ。斬はどんな相手にも変わらず明るく接する。だがさっきのやつの目には少し険があった。ほんの些細なものだったし、たぶん俺以外のやつは気づいていないが、他の人間に対しての目とは違ったのだ。

 でも今は普段通りの目に見える。

 

「シルバー、俺はこれから5D’sの世界へ行く」

「は、はい。お、お気をつけて」

「お前にも来て欲しい」

「え?」

 

 俺たちのデュエルエナジーで動くゲートとのことだったが、副社長が俺たちをここに呼ぶタイミングは副社長にしか分からない。つまりゲートがいつ使えるかは新海には分からなかった。だから突然の話になってしまったわけか。

 

「お前の都合が悪いなら明日でもいいが、どうだ?」

「い、いえ、私は今すぐでも大丈夫です! で、でも」

「でも?」

「ど、どうして私と一緒に?もっと良いサポーターもいるのでは?」

 

 彼女は突然の話になったことよりも、自分が同行者に選ばれたことに驚いているようだった。当然の疑問だ。

 新海は答えを考えているようだった。そして。

 

「……俺はこれから夢を叶えに行く」

「は、はい」

「夢ってのは叶えることも大事だが、もっと大事なことがある。それは、叶った瞬間を誰に見せるかだ。誰と分かち合うかだ」

「……」

「その時を想像した時、俺はお前が一番良かった。ま、それだけの話」

 

 そっけない口調だったが、新海の頬はうっすら朱に染まり、目は泳ぎ気味だった。すごく殴りたい。ていうか俺たちは何を見せられているんだろうか。

 シルバーがコクンとうなずく。

 

「……私、その、とっても嬉しいです」

「じゃ、じゃあ!?」

「はい! 私、5D’sの世界に行きます! ゴートゥゲザーです!」

「おぉー! ありがとう、ありがとう〜!」

「えへへ。私がしっかりサポートしてあげるからね」

「あぁ!」

 

 そこで、シルバーの表情は一変する。忘れていたすごい重要なことをハッと思い出したみたいな、そんな様子だ。唇を噛みうつむく。しかし喜びのダンスを狂ったようにやっている新海はそれを見てはいない、ように見える。彼女はすかさず表情を戻し。

 

「では、お供させていただきます」

「うん。じゃあ行くか」

 

 うっとうしい会話が終わり─終遊黒だけに─ふたりはゲートに向かって歩き出す。そのまま、ゲートの中へ消えていった。

 遊旗は目の前で起こった出来事を処理しきれてない様子だった。しかし気の毒だが俺もすぐ行かなければならない。

 

「遊旗、頼みがある」

「な、なんだよ?」

「今日ここで起こったこと全て。マスターに報告しておいてほしい」

「別にいいけど、なんで?」

「俺は今すぐに5D's世界に行かなければならないからだ。向こうとこちらでは時間の経ち方が違う。こうしてる間にも一年くらい経ってるかもしれない。新海が何かやらかしてから行ったのでは遅いからな」

 

 遊旗は俺の説明をなんとか理解してくれたようだ。その上で、根本的な疑問を告げてきた。

 

「で、でもさ、あのゲートってのは明日の朝まで使えないって言ってたぜ?」

「俺は自力で行く手段がある。斬にもな」

「そ、そっか」

 

 とどのつまり、明日の朝の分は余ったということだ。ここで俺は遊旗の思考が読めたので、一応釘を刺す。

 

「まさか、お前も来るつもりか?」

「……そ、それは」

「やめておけ。特別な探し物があるならともかく……もしかして前言ってた復讐の相手か?」

「ギクっ」

 

 遊旗はセキュリティーだ。やつが見つけられない相手であれば、別の次元に飛んでいる可能性はあるな。でも、いくらなんでもそこまでしますかー?って感じだ。なので聞いてみることにした。

 

「お前、そいつに何されたんだ?」

「……」

 

 やつはうつむく。わずかに見えた顔は、真っ赤に染まっていた。なんで?

 

「う、奪われた……」

「?」

「奪われたんだ……俺の……くちびる……!」

「うん?」

 

 斬が会話に参加してくる。

 

「おー、遊旗くんも悲しい宿命を抱えていたんだねー。そっか、アールちゃんがなぁ〜。めっちゃ美人だよね」

「う、うん。やわらかくて、すごくあたたかかった」

「気持ちよかった?」

「……ま、まぁな」

 

 俺の心配を返しやがれ。それしか言うことはない。斬が復讐の相手のことを知っているようで遊旗がそれに食いついていたが、もうどうでもいい。

 

「斬、お前昨日も言ってたな。アールお姉ちゃんを知ってるのか?」

「お姉ちゃん?」

「はぁ!?俺があのくそったれをお姉ちゃんなんて呼ぶか!」

「そ、そうだね、その通りだ。まーボクもあんまり彼女のことは知らないんだけどね。彼女なら5D’sの世界にいるよ」

「ほんとか!? よっしゃあ、俺も行くー!」

 

 明るい雰囲気ではあったが、遊旗の表情は少し固い。他次元に行くこと、その危険を少しは理解しているようだな。であれば、俺が言えることはただひとつ。やつに歩み寄り。

 

「遊旗、お前が5D’sの世界に行くのは勝手だ。けどそうなった場合どうなるかは分かるだろう。1日ある、よく考えることだ」

「……あぁ」

「俺はもう行く。斬、お前は?」

「ボク?ま、少し散歩でもしてから」

「そうか」

 

 斬は去っていった。それなりの付き合いだが何を考えてるのかよく分からん。

 俺は最後に遊旗を見やる。

 

「俺はもう行く。マスターへの伝言、頼んだぞ」

「あぁ、任せとけ。じゃあな」

「うん。来るにせよ来ないにせよ、お前は何かと闘い続けるのだろう。健闘を」

「ありがとう。お前に会えて良かったぜ、遊黒」

「……ふ、少しは素直になったじゃないか」

「う、うるせー」

「お前とのタッグ、悪くはなかった。またいつか、デュエルしたいな」

「……あぁ!」

 

 俺たちは微笑み、そして別れる。遊旗が副社長を連れて去った後、俺の体は消えていき、異なる世界へと動き出す。

 ふと思い出し、懐から小さな黄金の天秤を取り出す。それは遠い昔の贈り物。何か特別なことをする度にこれに向かい祈りを捧げるのが、いつしか習慣になっていた。

 

「……全ては貴方のために」

 

 終遊黒は、5D’sの世界へと旅立った。

 

 

──そして──

 

「ははは、ヤッホー、ヤッホッホー」

 

 聖天斬はゆっくりと歩く。その背後から猛スピードで迫る物があった。

 

「超融合神が復活するまでには間がある。今GXの世界に行くのはダメだな。ふふふ、世界を移動するのに順番が決まってるというのは面倒だ」

 

 それは紫の輝きを放っていた。だが斬に近づくにつれて色が変わっていき。

 

「新海にシルバーちゃん、そして終遊黒。よし、彼らに付き合ってみるとするか」

 

 斬は手を上げ、背を向けたまま、飛来するそのカードを掴む。それに宿るは混沌の力。

 

「さぁ、パーティータイムだ」

 

 その細指が描けば、漆黒の扉はそこに現出する。それに身を任せ、この世界から消えた。

 

 

 




お読みいただき、ありがとうございました。とりあえず序章?的なのは終わりです。次回から5D’s編です。
最後なのでちょっとお話を。この第5話ですが、「なんか長くねー?」と思われた方も多いかと思います。実際多くて、文字数でいうと1万6千文字くらいです(普段は1万前後くらい)。
今後は「〜世界編」というのが多くなってくると思うので、この作品のオリジナルキャラたちの基礎情報が一通り詰まった回をやりたかった、というのが理由です。この5話さえ見返せばオリキャラのことはおさらいできる、というのが理想ですね。努力はしましたが、最後ちょっと冗長な感じがしたのは実力不足かなと。

次回以降は本家遊戯王のキャラクターをお借りするということで。気を引き締めていきたいと思います。
話は今も考えてる段階です。次の5D’sも、シグナー全員のデュエルをやるのかどうか迷ってたりします。


今回遊旗が結局まだ旅立ってなかったですね。あとアールと過去に何があったのか、鎖月との混浴はどうなったのかも不明です。その辺の話は、それ専用の番外編的なものを作ってそちらに投稿しようと思ってます。R15か18です。内容はお察しいただければ。番外編無しでもストーリーを追う分には問題ないように努めて作りますので、どうぞご了承下さい。
タイトルは未定ですが、新まったり遊戯王伝の文字は入れるので分かりやすいかと思います。投稿し次第また後書き等で告知します。

では最後に、5D’s世界編の予告的なやつを。映画の宣伝的なやつです。では、どうぞ!



「ちょっと遊星、女の子の手をとってたってホントなの!?」
「それには俺が答えるぜ!」
「我こそが、シグナーの原点にして頂点!」
「ジャック・アトラス、確かにお前はキングだ。だがキングではダメだ、神でなけ」
「クリムゾン・ヘルフレア!」
「新海さまが……死んでる!?」
「龍可……すごい可愛い」
「えへへ……龍亞のエッチ♡」
「おっと、これはゴールデンな時間がやってきたかぁ?」
「オゾンより下なら問題ない」
「妾の名はアール。迷子です」
「ふ、とんだナイトメアタウンに迷い込んだようだな」
「集いし決闘者の魂よ! 光差す道となれ!」
みんな「ライディングデュエル・アクセラレーション!!」

かみんぐすーん!







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遊戯王5D’s編
第6話 終遊黒vsクロウ・ホーガン


本作の5D’s編はアニメ5D'sの最終回デュエルの直後の話になります。


 

 天の川浮かぶ背の低い丘。その男はたたずみ、彗星に想いを馳せる。しかし同時に、その想いは叶わぬものだと理解する。彼はあまりに多くの知識を身につけた。その時代、はるか太古の世界において、彼に並び立つ者はいない。その眼は寂しげだった。

 

「……美しいな。肉体は滅びるが、星の輝きは朽ち果てない」

 

 その丘は彼の墓標となる。訪れる者はもういない。

 この世界に染み込んだ悪意。争いは決して絶えることはないと、彼は理解していた。だからこそ探していたのだ。星の輝きのように消えない、人々の心を繋ぐものを。人の心をあたたかく照らすものを。しかしそれはついに見つからなかった。

 彼の力は後世へ受け継がれる。彼は己の力をいくつかに分け、後世へ託した。救世を夢見て。

 

 

 そして時は現代。ネオドミノシティー郊外。その墓標はまだあった。

 

 

「あ、斬せんせーだ! 久しぶり!」

「やっほー龍亞くん。今日も元気だね。でもその斬せんせーってのは止めてみない?ボクはほら、バイトみたいなものだから」

「いいじゃんいいじゃん! へへ、今日も俺たちの授業やってくれるの?」

「いや、今日は高等部の授業だけだね」

「え〜!? ちぇっ、アキ姉ちゃんがうらやましいなぁ」

 

 ボクは、つまり聖天斬はだが、このデュエルアカデミアの臨時講師?的なお仕事をしていた。なぜこの仕事をしているかと言えば、リバースコーポレーションというブラック企業に採用されてしまったからである。お試し気分で採用試験を受けてみたら、なんてこったホー、受かってしまったわけなのだ。

 ボクはオリジン世界と呼ばれる場所から来た。ここは5D’s世界。つまり別世界である。ボクは採用試験を受けた直後にこの世界にちょっと旅行でやってきてて、到着した直後にシルバーちゃん、つまりブラック企業の手先から採用のお知らせを受け、それからは命令されるがままにアカデミア運営のお手伝いに従事、というわけである。本当にあった怖い話。ちなみにそのシルバーちゃんっていう娘は超かわいい。

 

「ま、ボクの授業なんてそんなに珍しくもないさ。これからいくらでも受けれる」

「……ううん、受けられないんだ」

「え、どうして?」

「俺、もうすぐ海外に行くんだ。両親が海外に住んでて、一緒に暮らすために」

 

 この子は龍亞。ディフォーマーというカード群を愛用する決闘者だ。かつてこの地で大きな闘いがあった。その闘いとは過去からの宿命、未来からの警鐘。いずれにしても『シグナー』と呼ばれる、伝説の赤き龍に選ばれた者たちがその闘いに勝利し、この世界を救ったのだ。 話の流れから察することができるだろうが、この龍亞くんもシグナーだ。また、彼の妹である龍可ちゃんもシグナー。兄妹揃って過酷な闘いに身を投じていていたのだ。

 

「そっか。寂しくなるね。じゃあ龍可ちゃんも、ってあれ、今日は一緒じゃないの?」

「……あ、あぁ、龍可は、その、なんていうか」

「体調でも悪いの?」

「ま、まぁそんなとこかな」

「そうか」

 

 彼はしどろもどろだった。おそらく龍可ちゃんは人に言えない状態にあるのだろう。それが人智を超えた力によるものなのであれば、ボクに相談してもしょうがない。だから言わないのだろう。友達としては、ここは追求しないでおいてあげたいところだが、ボクにも目的があるからなぁ。龍可ちゃんの案件がそれに繋がる可能性はけっこう高い。

 

「じゃあ、ボクはこれで。龍可ちゃんによろしくね」

「う、うん。じゃあね、斬せんせー」

 

 というわけで放課後! ボクの『龍亞くん尾行大作戦!』は始まったのであった! デデーン!

 彼は街中を駆け回っていた。追いかけるボクの方が疲れてしまったくらいだ。たぶん何か、っていうか誰かを探していた。たぶん龍可ちゃんだろうけど。

 

「やっぱりダメか。あ、もうこんな時間! 行かなくっちゃ!」

 

 龍亞くんは叫び、スタコラと走り出した。ボクもヒーヒー言いながら追いかけると、最終的に郊外のさびれたデュエルスタジアムにたどり着いた。そこには人だかりができており、その中にはセキュリティも何人かいた。モヒカンの集団と言い争っているようだ。

 

「アヒャヒャヒャヒャー! おうおうおーう、おまわりさんよぉ! 俺らはまだ何にもやってねぇだろ〜!!」

「語るに落ちたな! まだということは、そのうち何かするつもりなんだろうこの野郎! この街は生まれ変わるんだ! お前らのようなチンピラは邪魔なんだぁ!!」

「なんだとてめぇー!!」

 

 なんだかもうメチャクチャだった。そんな中、黒いDホイールが駆けつける。ちなみにDホイールというのはデュエルに使うバイクである。

 

「おうおう。どうしたどうした」

「クロウ! いいところに来てくれたぜ!」

 

 クロウと呼ばれた男はセキュリティの男の知り合いのようだった。彼はめちゃくちゃ私服だしセキュリティではないようだが、セキュリティの男とは親しげだった。

 

「このモヒカン共が何したってんだ?」

「いや、まだ何もしてないんだが」

「はぁ?」

「だ、だけど俺が『これから何するつもりなんだ?』って聞いたら、こいつら答えやしねえんだ。俺はピーンと来たね。こいつらは何か良からぬことをやらかす、そんな予感だ」

「あのなぁ、お前のそういう決めつけてかかるところは直した方が」

「頼むぜクロウ! 元同僚のよしみで! なっ!?」

 

 元同僚ということは、あのクロウという青年もセキュリティだったということか。歳も20前後で若いし、たぶん辞めてからそんなに長くないのだろう。

 ボクが状況分析につとめているところで、モヒカンがクロウに絡み始めていた。

 

「おっ、てめぇが噂のクロウか! へへ、鉄砲玉のクロウともあろう者がセキュリティの犬とは。安くなったもんだ」

「あぁん?えっと、すまん、どっかで会ったか?」

「いいや。だがサテライト育ちなら知らないやつはいないぜ。チームサティスファクションといえば俺たちの伝説だからな」

「へへ、ちょっと照れるな」

「だが俺たちの親分には遠く及ばないぜ! このナイトメア団のリーダー! 新たな伝説の登場だ! そーらホイ!」

「イエェェェイッ!!」

「ヒャッハァー!!」

 

 モヒカンたちがブレイクダンスを始める。絶叫が響き渡る。それはまさに悪夢のような光景だった。そんな地獄の中に。

──カッコーン!──

 新たな男が登場。黒いバサバサコート、ハットを深く被っていて顔はよく見えないが、つけ髪が大量に付いている。それはひとつひとつが違う色で、まるで虹みたいだ。目がチカチカする。そんな、この世のものとは思えない変な風貌の男が出てきた。うーん、これはカオスだなぁ。

 クロウは問う。

 

「お前は?」

「終遊黒」

 

 ふーん、終遊黒くんかぁ。遊黒、ん?遊黒!?

 

「ゆ、遊黒くーん!?」

「あ、斬せんせーじゃん! こんにちは!」

「こ、こんにちは龍亞くん。どうしてこんなところに?」

「クロウにちょっと相談があってさ。ここで待ち合わせてたんだけど、なんか変なことになってきちゃったなー」

「そ、そうだね」

「あの遊黒って人、斬せんせーの知り合い?」

「う、うーん、まぁ、友達」

 

 ボクにも世間体があるから認めたくなかったが、認めざるをえない。あんなファンキーな格好の人じゃなかったと記憶しているのだが、よく見れば顔とか背丈は完全に遊黒くんだからなぁ。困惑してるボクに、龍亞くんは好奇心いっぱいの眼差しを向けてくる。

 

「ねぇねぇ、あの遊黒って人も強いの!?」

「う、うん、強いよ。ボクと同じくらいかな」

「えー、じゃあすごい強いじゃん! そんな人とクロウのデュエルか〜!」

 

 龍亞くんはエキサイトしているようだけど、あの二人が闘う理由なんて無いと思

 

「デュエルだ」

 

 なんでやねーん!

 声にならない叫びを上げるボクをよそに、遊黒くんはベラベラと喋り出す。

 

「そこの彼の勘は正しい。我々ナイトメア団がある計画を実行しようとしているのは事実だ」

「そーら見ろクロウ! 俺の言った通りだろ!」

「だが俺たちはまだ何もしていない。君たちも手出しはできないはず」

「ぬぬぬ!」

「そこでどうだろう。デュエルで俺が勝ったら、君たちは俺たちを見逃す。そちらが勝ったら俺たちは計画の全てを白状する。というのは?」

 

 セキュリティ隊員の彼はフンフンと頷き、勢いよくクロウの手を握りしめる。クロウはめっちゃ困惑していた。

 

「お、おい、まさかこの流れは……」

「そのまさかだクロウ! 頼む、あいつとデュエルして勝ってくれ〜!」

「俺はセキュリティを昨日で辞めた。もう隊員じゃねぇんだ」

「お前より強いやつなんて隊員にいないんだ。責任は全部俺がとる。頼む、頼むよクロウ〜!」

「な、泣くなって。それに俺はこれから人と会う約束を」

 

 会う約束とは龍亞くんのことだろう。だが当の龍亞くんがクロウに駆け寄り、

 

「クロウ!」

「る、龍亞! すまねぇ、なんか変なことに巻き」

「俺、こんなとこでクロウの全力デュエルがまた見れるなんて思わなかったぜ!」

「あ?」

「頑張れクロウ! 俺応援しちゃうからさ!」

「……お、おぉ」

 

 トドメを刺した。クロウは大きなため息をつき、悪役面の悪夢と向き合う。

 

「あー、こっちは俺が出ることになった。俺はクロウ」

「噂には聞いているよ。ライディングデュエル世界大会『WRGP』を制した、チーム5D’sの一員だと」

「そういうお前は見たことねぇ顔だな。デュエルギャングの頭になるようなやつは大体知ってるやつなんだが」

「俺はここの住民じゃない。ここには探し物にやってきた」

「探し物?」

「あぁ。貴様らシグナーをな」

「なにっ?」

 

 スタジアムの扉が開く。照明がバッバッと光るその会場は、もうデュエルする準備万端ですよ顔だった。

 

「てめぇ、何者だ?」

「お前が勝ったら教えてやるよ。さぁ、悪夢のライディングデュエルの始まりだ!」

 

 遊黒くんの元に虹色にビカビカ輝くDホイールがやってくる。あんなもの持ってなかったはずだから、たぶんこの世界で調達したのだろう。しかしやばいセンスだ。

 ボクたちはみんな観客席に向かう。野次馬の人たちも、クロウがデュエルすると聞いて眼の色を変えて走り出していた。あのクロウという人の人気は凄まじいな。

 

「よーし、頼んだぞクロウー!」

「親分ー! セキュリティの犬なんかに負けるなー!」

「なんだとぉ!?」

「あぁん!?」

 

 今の時点ではけっこう空き席はあるはずだが、なぜかボクらはセキュリティとモヒカンとご一緒することになってしまった。まぁ世の摂理だと思って諦めよう。ボクは隣の龍亞くんに語りかける。

 

「そういえば龍亞くんも5D’sの一員だったんだよね。じゃあクロウくんは友達なんだ」

「うん。うるさい時もあるけど、最高の仲間さ!」

「……仲間か」

 

 今、ボクは自然と遊黒くんを応援しようとしていた。なぜか。そうだ、ボクは遊黒くんが好きだ。変な意味じゃなく。だから。

 

「このデュエル、クロウが絶対勝つぜ!」

「龍亞くんには悪いけど、ボクは遊黒くんを応援するよ」

「友達だから?」

「仲間だからさ」

 

 最強の相手に挑戦する彼を、見守ることができるのだ。

 遊黒くんとクロウくんはスタート地点につく。

 

「フィールド魔法、『スピード・ワールド・リミテッド』、セットオン!!」

──デュエルモード・マニュアルモード・スタンバイ──

 

「行くぜ! 俺のブラックフェザーがてめぇをぶっ潰す!」

「バッドドリーム、トゥナイト」

 

 ふたりのDホイールから火花が散る。スタートランプは点滅し、やがてその時は訪れる。会場中が叫んだ。それは開戦の合図。

 

「ライディングデュエル・アクセラレーション!!!」

 

 爆音轟かせ、2つの鉄の塊は信じられないスピードでコーナーに突っ込んでいく。ライディングデュエルでは最初のコーナーを制したプレイヤーが先攻を取ることができる。デュエルの行方を左右するその瞬間には、鬼気迫るものがあった。これがライディングデュエルか。2台の加速はほぼ互角だが、わずかにクロウが先行している。

 

「ブラックバードと競り合うとは、なかなか悪くねぇパワーだ!」

「それはこちらの台詞だ。だが」

 

 コーナー内側への鋭い突っ込み。通常ならばコーナーへは外側から角度をつけて侵入するのがセオリー。アウトインアウトというやつだ。だが遊黒くんはクロウくんを抜くため、最初からインに突っ込んでいった。これでは相当スピードを落とさなければコーナーはクリアできない。

 

「俺のレインボーサティスファクションの真価はここからだ。はぁぁぁっ!」

「な、なに!?」

 

 Dホイールの後輪タイヤが華麗にスライドし、鮮やかにフィールドを駆けていく。

 

「慣性ドリフト!」

 

 良いDホイールだ。低重心と軽量化がバッチリ行われているからこそ、ハードなドライブも可能になる。レインボーなんとかがブラックバードの内側をぶち抜いた。

 

「うぉぉぉぉっ! さっすが遊黒の親分!」

「く、クロウ〜!」

「へー、斬せんせーの友達もかなりやるじゃん!」

「……だけど、クロウくんはまだ諦めていない」

 

 ブラックバードのタイヤがギャンギャンと吠え、獲物を見つけた燕がくちばしで突つくように、レインボーなんとかの更にインを攻める。

 

「そんなスピードで行けるわけが無い。死ぬ気か?」

「んなわけあるか! 行くぜっ!!」

 

 常軌を逸したスピード。その漆黒の鉄が巻き起こした風は疾風となり、観客席にまで届く。

 

「無理だ! 親分の勝ちだぜ!」

「いや、これは!」

 

 遊黒がジリジリと外に出ていく。踏ん張りきれていない。スピードが乗りすぎているのか。だが黒い疾風は。

 

「バカな、つきやがったァー!?」

「ラインがクロスするぞー!!」

 

 モヒカンとセキュリティの絶叫が響く。うるせぇと思ったが、この凄まじい光景を目の当たりにしては仕方があるまい。彼らの実況の通りラインはクロスし、この一瞬で勝負は逆転。クロウくんが第1コーナーを制したのだ。遊黒くんは自分の前に出ていくクロウくんを鬼のような悔し顔で見ていたが、コーナーを立ち上がった時は愉快そうに笑っていた。

 

「そうか、これが鉄砲玉のクロウか。ははは、面白い」

「お前も良い突っ込みだったぜ。だがお前の走りが、俺の導火線に火を付けた!」

「光栄だ。だがデュエルでは遅れを取らない。さぁ、来るがいい!」

「あぁ! 行くぜ俺のターン!」

 

 クロウくんが勢いよくカードを引き、直後、互いのスピードカウンターが1になる。そして。

 

「永続魔法『黒い旋風』発動!」

 

 その名の通りの黒い旋風が彼のフィールドを包む。あのカードがある限り、クロウくんは場にBFを召喚する度、それより攻撃力が低いBFをデッキから手札にできる。これで手札切れの心配はなくなったか。

 

「『BF−大旆のヴァーユ』を守備表示で召喚! デッキから『BF−蒼天のジェット』を手札に加え、さらに『黒羽の宝札』を発動。ジェットを除外して2枚ドローだ」

「手札を整えたか。だがヴァーユは守備力0。嵐の前の静けさと思えばいいのかな?」

「へ、安心しな。クロウ様のデュエルはまだ始まったばかりよ。俺は『強欲なカケラ』を発動。これでターンエンド」

 

 強欲なカケラ。自分のスタンバイフェイズごとにカウンターを1つ置き、2つカウンターが置かれたこのカードを墓地に送り2枚ドローする。1ターン目から後の展開のための布石を十分に敷いている。さすがだ。

 

「俺のターン。『ライオウ』を召喚し、ヴァーユを攻撃」

 

 ライオウは攻撃力1900。その雷が降り注ぎ、ヴァーユを破壊。

 

「カードを2枚伏せ、ターン終了」

 

 ここで、龍亞くんが話しかけてきた。

 

「ねーねー斬せんせー。あの遊黒って人はどんなデッキなの?」

「罠で相手の切り札をやっつけてから安全に攻撃するデッキさ。あの3枚の伏せカード、おそらくミラーフォースのような強力なトラップ」

「ふーん。じゃあクロウとは真逆だね。クロウは速攻が得意だからさ」

「そうなんだ。でも速攻だとトラップが邪魔だね。クロウくんにとっては相性が悪いか」

「いいや! クロウの旋風はトラップなんかぶっ飛ばしちゃうぜ!」

「……なるほど。お手並み拝見」

 

 龍亞くんからの熱いエールを受け取ったのか、クロウくんは勢いよくカードを引く。そして、笑った。

 

「俺は『BF−暁のシロッコ』を召喚!」

「いきなりレベル5を召喚だと?」

「こいつは相手の場にのみモンスターがいれば、リリース無しで召喚できる」

「なるほど。ヴァーユを倒させたのはその能力があったからか」

 

 シロッコの攻撃力は2000。ライオウを上回る。攻撃力が高いので、黒い旋風でサーチできる範囲も広い。

 

「BFの召喚により、黒い旋風の効果発動!」

「無駄だ。ライオウ特殊能力」

 

 旋風が吹き荒れる、と言いたいところだが、それはクロウくんの呼びかけにウンともスンとも言わない。

 

「なに?」

「ライオウがいる限り、デッキからカードを手札に加えることはできない。これが遊黒バリアーだ」

「だが、俺の手札にはこいつらがいるぜ! 来い『BF−疾風のゲイル』!」

 

 攻撃力1300の新たなブラックフェザー。あれは場に自身と違うカード名のブラックフェザーがいれば手札から特殊召喚できる能力を持つ。さらに特殊能力がある。

 

「こいつはターンに一度、相手モンスター1体の攻守を半分にできる。ライオウを選択だ!」

「ちっ」

「そしてこいつも、場にブラックフェザーがいれば特殊召喚できる!『BF−黒槍のブラスト』!」

 

 これで3体のブラックフェザーが揃った。ブラストは攻撃力1700。ライオウの攻撃力は950になったので、クロウくんの攻撃がまともに通ればライフは0にできるが。

 

「ご自慢のブラックフェザーがそろい踏みか。確かに召喚スピードは素晴らしいが、俺のリバースカードを攻略できていない」

「安心しな。クロウ様のデュエルはな、最初っから弾けてんだよ! 行くぜ、手札からトラップ発動!!」

「な、なんだと!?」

「手札から!?」

「トラップを発動ー!?」

「『デルタ・クロウ─アンチ・リバース』!!」

 

 トラップは場に伏せてから1ターン待たなければ使えないはず。だがその漆黒の嵐は速攻で場に吹き荒れていく。

 

「お、親分のトラップが破壊されていくー!?」

「このカードは場にブラックフェザーが3体いれば、手札から発動できる!」

「ば、バカな……親分が負ける……!」

「……面白い。こんなトラップがあったとは。だが」

 

 地獄の深淵より、亡者の叫びが轟く。それは溢れ出し、フィールドに満ちていく。

 

「これは……」

「お前が手札から罠を使うならば、俺は墓地から使うまで。『ミラーフォース・ランチャー』の効果発動」

「墓地からトラップだと!?」

「セットされたこのカードが相手に破壊された時、このカードと『聖なるバリア ─ ミラーフォース ─』を俺の場にセットする。そしてこの効果でセットされたカードは、セットしたターンに使うことができるのだ」

「……くっ!」

 

 漆黒の泥からカードが2枚生まれ、遊黒くんの場にセットされる。ミラーフォースは相手の攻撃宣言時、相手の攻撃表示モンスターを全滅させる最強のバリア。龍亞くんはうなる。

 

「しかもミラーフォース・ランチャーまで復活したから、アンチ・リバースみたいなカードをまた使ったとしても同じことになる。斬せんせーの友達、めちゃくちゃスゴいじゃん!」

「はははホッホー。えっへん」

 

 どうやら、君の成長スピードはボクの予想より上らしい。なるほど、これは面白くなるかもな。クロウくんもボクと同じように思っているようだ。楽しそうに笑っている。

 

「なかなかやるじゃねぇか。俺の速攻がこんな風にかわされるとは」

「デュエルはまだはじまったばかりだ。じっくりと、楽しもうじゃないか」

「そうさせてもらうぜ。ターンエンドだ」

「俺のターン」

 

 言葉に反して、遊黒くんの眼は鋭くギラついている。瞬殺されかかったことが、彼の闘争心に火をつけたのだ。クールに見えて、意外とその辺は熱い。

 

「装備魔法、『月鏡の盾』!」

 

 黄金の盾がライオウの手に掲げられる。これに龍亞くんが反応する。

 

「あ、装備魔法! そっか、このルールのライディングデュエルだと使えるんだもんな〜」

「龍亞くんのデッキは装備デッキ主体だもんね」

「うん! パワーツールは最強だぜ! あの月鏡の盾ってカードはどんな効果なの?」

「装備モンスターの攻守はバトルする時、バトルする相手モンスターの攻守の高い方の数字に100を足した数値になるんだよ」

「えぇっ!? じゃあバトルに絶対負けないじゃん!」

「しかもライオウは自身をリリースすれば相手の特殊召喚を無効にできる。ミラーフォースも場に生きている。クロウくんの動きは大きく封じられた」

 

 ボクらの話を聞いてたのか、セキュリティが顔面蒼白で絶叫し、モヒカンたちのポップコーン・ダイブ・トゥー・お口のスピードが速まる。

 

「そ、そんな、クロウが負ける!? う、うわぁぁぁぁ!!」」

「ギャハハハ! これはもう親分の勝ちで決まりだぜぇぇ! ポップコーンうめぇ!」

 

 ここで、セキュリティへ龍亞くんの喝が入る。

 

「オジさん、クロウの仲間なんでしょ? クロウを信じてあげなよ!」

「し、しかし、こんな状況ではもう勝ち目は……!」

「いや。クロウの眼はまだ死んでないよ」

 

 龍亞くんの言う通り、クロウくんの眼はまだ生きてる。まだ生きてるよ。まだ生きてるんだよ。

 遊黒くんは全身から邪悪なオーラを滲ませながら笑う。

 

「ククク。どうやら勝負あったようだな。お前には伏せカードも無い。ブラックフェザーはライオウ1体になすすべなく粉砕されるのだ」

「そいつはどうかな。俺の最後の手札、この1枚は必殺の切り札だぜ!」

「戯れ言を。貴様のブラックフェザー、1体残らず! 焼き鳥にしてやるぜぇぇっ!!」

 

 最大最強の雷がライオウに注がれ、その力が高まっていく。ブラックフェザーたちの頭上に暗雲が立ちこめる。そして、その時は訪れる。

 

「これで終わりだ。ライオウの攻撃!」

「くっ!」

 

 天が裂け、暗雲の向こうから放たれる。

 

「ワールドエンド・ボルテックス!!」

 

 世界の終焉を告げる究極の雷。スタジアムに降り注ぎ、コースを揺らす。爆発音がけたたましく響いている。フィールドで容赦なく行われる破壊の渦の中心で、クロウくんのDホイールはまだ走っていた。しかしその眼前、最大の雷が彼に迫り。

 

「ぐ、うぉぉぉぉっ!!」

 

 クロウくんの絶叫と共に煙がモクモクと立ちこめる。煙の中から遊黒くんは勢いよく飛び出すが、クロウくんの姿はない。

 

「……クロウが……負けた……?」

 

 セキュリティの彼がそう呟く。しかし龍亞くんの顔を見れば、はははヤッホー、その眼は天を見据えていた。

 

「上だ!」

「なに!?」

 

 ボクたちの目線は下の方にばかり向いていた。忘れていたのだ。翼とは、天を舞うためにあるものだということを。

 

「ハハハハハ! クロウ様はここだぜー!」

「ジャンプで雷を回避していたか。だが、俺の攻撃を防げていない!」

「残念だが、俺のトラップが発動してるぜ」

「バカな。貴様の場にリバースカードは無いはず!」

「あぁ。だがこいつもまた、場にブラックフェザーが3体いれば手札から発動できる!」

「なに!?」

「『ブラック・ソニック』だ!!」

 

 華麗な着陸。その瞬間、疾風が吹き荒れる。それは雷を吹き飛ばし、暗雲を消し去り、悪夢を払う黒い疾風。

 

「な、なにが起こっている!?」

「ブラック・ソニックはブラックフェザーが攻撃された時、相手の攻撃表示モンスターを全て除外する!」

「なんだと!?」

 

 疾風が、遊黒くんへ吹きすさぶ。彼も良いテクニックを身につけてはいるがクロウくんには及ばない。踏ん張りきれず。

 

「ぐ、うぉぉぉぉ!!」

 

 スピンし、壁に激突する。

 

「お、親分……おやぶーん!」

「やったぁ! クロウの勝ちだ!」

「いや、まだだ!」

 

 龍亞くんの言葉の通り。高笑いが響き、虹色の閃光がクロウくんを追い走り出す。かなりのダメージがあったはずなのに、その勢いは全く衰えていない。その姿、まさに悪夢と呼ぶのに相応しい。

 

「月鏡の効果発動。500ライフを払い、このカードを山札の下へ送る」

「へ、なかなかのライディングテクじゃねぇか。誰から教わったんだ?」

「少し、お前を侮っていたようだ。いいだろう。ここからは悪夢フルコースだ」

「あぁん?」

「『ユニオン格納庫』発動」

 

 あれはフィールド魔法カード。新ルールでは各プレイヤーは1枚までずつ、自身のスピードワールドに重ねてフィールド魔法を発動することが可能。その場合そのフィールド魔法の効果とスピードワールドの効果は両方発揮される。

 それは名の通りの格納庫。遊黒くんの後ろに出現し、怪しく振動する。クロウくんも感じているはずだ、禍々しき悪夢の気配を。

 

「格納庫の効果で山札から『A−アサルト・コア』を手札に加え、そのまま召喚。さらに格納庫の効果で山札より『B−バスター・ドレイク』をアサルトに装備。これでターン終了」

「ユニオンモンスター。そして場にはAとB、まさか!?」

「勘が良いな。そう、Cが来た瞬間こいつらは合体する。その時こそ、貴様の命運が真に尽きる時だ」

「……面白ぇじゃねぇか! 俺のターン!」

 

 格納庫の扉の隙間。そこから霧が漏れ出し、新たなモンスターの眼光がクロウくんに突き刺さる。恐ろしい何者かの誕生、その前振りかのように、格納庫はガタガタと揺れる。しかしクロウくんの顔に恐怖は無い。闇を振り払うように、カードをきる。互いのスピードカウンターはこれで5。

 

「強欲なカケラを墓地に送り2枚ドロー。さらに『Sp−エンジェル・バトン』で、2枚ドローして手札1枚を墓地に送る」

 

 これで準備は整ったと、クロウくんの顔は言っていた。会場中に緊張がはしる。デュエルを知っている者ならば感じるだろう、大いなる力の高鳴りを。

 

「俺はレベル3のゲイルをレベル5のシロッコにチューニング!」

「来るか……!」

「黒き疾風よ! 秘めたる想いをその翼に現出せよ!」

 

 そして、満を辞し。

 

「シンクロ召喚! 舞い上がれ、『ブラックフェザー・ドラゴン』!!」

 

 現れるシグナーのドラゴン。思わず魅了される観客。当の遊黒くんとクロウは、どこまでも不敵に笑っていた。

 

「ブラックフェザーの絆の力、見せてやるぜ遊黒!」

「夜が来る。お前に」

 

 ここでボクは重大なことに気づいた。遊黒とクロウ、このふたり、なんと! ど、どっちも名前にクロが付いてるー! 聖天斬は、そんなことを思ったのであったー。

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。
原作キャラを扱うということで結構悩みました、特に龍亞の会話は想像の何倍も難しかったです。
本作の5D’s編ではデュエル構成の都合もあってオリジナルのスピードワールドを使います。効果は以下の通りです。

『スピードワールド・リミテッド』
<フィールド魔法>
①このカードはあらゆる効果を受けず場から離れない。
②お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズに時に1度、自分用スピードカウンターをこのカードの上に1つ置く(最大12個まで)。
③プレイヤーが1000以上のダメージを受けた時、そのプレイヤーは受けたダメージ1000につき1つ、自分の『スピードワールド・リミテッド』に乗っているスピードカウンターを1つ取り除く。
④先頭のプレイヤーから見て周回遅れになる度、このカードからスピードカウンターを1つ取り除く。取り除けない場合、自分はデュエルに敗北する。
⑤自分用スピードカウンターを取り除くことで、以下の効果を発動する。この効果はメインフェイズにのみ発動できる。⑤の効果はターンに1度しか発動できない。
4個:相手プレイヤーに800ポイントのダメージを与える。
7個:カードを1枚ドローする。
10個:フィールド上のカード1枚を破壊する。

という感じです。バーン効果にスピードスペルが必要なくなった代わりにターン制限がついて火力が固定されました。また、スピードスペル以外の魔法も普通に使えます。スピードカウンターはアニメだと先攻1ターン目は増えないんですが、本作では増えます。デュエル構成の都合ry。

これまでと違って本家のキャラを扱うということで、想像よりも書くのが大変でした。遊戯王小説書いてる皆さんの凄さを改めて実感しました。
亀更新っぽいですが、今後もよろしくお願いします。


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第7話 C'est La Vie

「黒き疾風よ。秘めたる想いをその翼に現出せよ! シンクロ召喚、舞い上がれ『ブラックフェザー・ドラゴン』!!」

 

 遊黒&クロウのデュエルは続いていた。

 現れるのは、細い体躯、鋭い爪、大きく広がった黒と赤の翼。ブラックフェザーの特徴をおおいに有したモンスターであると言えよう。ドラゴンだけど。攻撃力は2800。

 強力なモンスターが相手の場にも現れたにも関わらず、遊黒くんは余裕を保っていた。不敵に笑う。

 

「クク、それがシグナーの竜か。美しいな。だがミラーフォースはまだ俺の場に生きている。攻撃を宣言した瞬間、ドカンだ!」

「忘れちゃいないぜ。しかもミラーフォース・ランチャーもセットでな。アンチリバースも通用しねぇってわけだ」

「その通り。さぁ、どう来る?」

「なら、俺は絆で対抗するぜ!」

「絆?」

 

 ここでデュエルの状況を整理しておこう。今はクロウくんのメインフェイズだ。

 スピードカウンターは互いに5。

 クロウはライフ4000。手札は3枚。場にはブラックフェザー・ドラゴンと『BF−黒槍のブラスト』の2体。伏せカードは無し。

 遊黒はライフ3500。手札は2枚。場には『A-アサルト・コア』と、それに装備された『B−バスター・ドレイク』。さらにフィールド魔法の『ユニオン格納庫』。伏せカードは『ミラーフォース・ランチャー』と『聖なるバリア─ミラーフォース─』の2枚だ。

 ミラーフォースは相手が攻撃した瞬間に発動し、攻撃モンスターを全滅させるという最強クラスのトラップ。そしてミラーフォース・ランチャーはセット状態で破壊されればミラーフォースと共に場に復活する。もはや遊黒くんのミラーフォースから逃れる術はない、ように思われたが。

 

「見せてやるぜ、チーム5D'sの絆の力! 俺は装備魔法『白銀の翼』を、ブラックフェザー・ドラゴンに装備!」

「あ、白銀の翼だー!」

「ん、あのカードがどうかした?」

 

 龍亞くんが反応したのが気になったので聞いてみると。

 

「あのカードはさ、元々は遊星のカードなんだ。でも俺たちチームだからさ。互いのデッキのカードを交換したりして、カスマタイズしたんだ!」

「良いチームワークだったんだね。……もしかしてカスタマイズ?」

「あ、ま、まぁ、そうとも言う。で、でも最初からそうだったわけじゃないよ。ユニコーンっていう強いチームと闘って、そこから色々学んだんだ。ひとりは皆のために、皆はひとりのために、ってさ」

「皆のために、か。龍亞くんは5D'sが大好きなんだね」

 

 ボクがそう言うと、龍亞くんはさすがに照れたのか赤くなってしまった。余談だがこの時の龍亞くんの顔には本能的に来るものがあった。

 

「ま、まぁ、そりゃ好きさ。でも絆にしがみついてるだけじゃダメだってことも、ジャックから教えてもらった。だから俺たちはそれぞれの道に進むんだ」

「そうか。ボクも楽しみにしてるよ。龍亞くんがプロとしてバリバリ活躍する日をね」

「へへ、まっかせてよ!」

 

 仲間。その言葉はボクに突き刺さるものがある。ボクはかつて仲間を失った。その時の記憶が頭をよぎる。龍亞くんはおそらく気づいていただろう。でもそこには触れないでくれた。優しい子だ。

 ボクは絆の力の真価をまだ知らない。遊黒くんも、絆の力という言葉にピンと来ていないようだ。その力が人をどれだけ強くするのか。その答えは、このデュエルの中にある。そんな気がする。

 

「絆、絆か。そんなものでデュエルに勝てるならば苦労はないがな。クロウだけに!」

「だったら見せてやるぜ、俺の絆パワーってやつを! ブラストを守備表示に変更」

「なるほど。ミラーフォースの効果は守備表示モンスターには及ばないからな。だが、それでは何の解決にもなっていない!」

「白銀の翼は装備モンスターが効果で破壊される時、身代わりになることができる」

「なに!?」

「行くぜ。ブラックフェザー・ドラゴンの攻撃!」

 

 白と黒の翼がはためき、赤い光がはしる。竜のくちばしに風が渦巻き。

 

「ノーブル・ストリーム!!」

 

 漆黒の嵐が放たれる。音速、不可避の一撃。ミラーフォースは開かれることなく。

 

「く、ぐぅ!」

 

 嵐は直撃する。その迫力は凄まじい。アサルト・コアは守備表示だったのでダメージは発生しないが、遊黒くんは少しバランスを崩しそうになっていた。しかし。

 

「く、ククク!」

「何を笑って、な、アサルト・コアが破壊されてねぇ!?」

「バスター・ドレイクは装備モンスターが破壊される時、自身を身代わりにすることができる」

「へ、お前も白銀の翼と同じ効果で来るとはな」

「だが同じなのはここまでだ。バスター・ドレイクが墓地に送られた時、『C−クラッシュ・ワイバーン』を手札に加える」

「なに?」

 

 これでABCが揃った。だが合体モンスターはフィールド上で合体するのが基本。アサルトが墓地に行った今、合体の危険はないと、クロウくんの顔は言っていた。彼はカードを2枚伏せてターンを終える。そして遊黒くんのターン。互いのスピードカウンターはこれで6。遊黒くんはミラーフォース・ランチャーを発動し、その効果を発動する。

 

「手札のクラッシュ・ワイバーンを墓地に送り、ミラーフォースを手札に加える。さらに『マジック・プランター』発動。ランチャーを墓地に送り2枚ドロー」

「自分でCを墓地に送るとはな。合体は諦めたってわけか?」

「慌てるな。間もなく訪れる、お前の悪夢は」

「?」

「『デビルズ・サンクチュアリ』発動」

 

 あれはトークンを1体特殊召喚するカード。トークンの攻守は0。おそらくあれは新たなるモンスター召喚の布石。ボクの予想に応えるように、アサルト・コアとトークンが生け贄の渦に飲まれていく。

 

「2体のモンスターをリリースし、アドバンス召喚!」

「ここで最上級モンスターか」

「出でよ『真紅眼の黒竜』!!」

 

 天より舞い降りる漆黒のドラゴン。ブラックフェザー・ドラゴンと睨み合う。2体とも「黒が似合うのは俺の方なんだぞ!」と言っている、ようにボクには見えた。いや、メスの可能性もあるから「俺」じゃないかもしれないけれど。

 会場から大歓声が沸き上がる。この世界においてもレッドアイズは伝説のレアカード。もはや失われたのではないかと思われていたカードが突如現れたのだ、その興奮は凄まじい。龍亞くんも相当エキサイトなう。

 

「す、すげー! すげーすげーすげー! 斬せんせー、あの人は一体!?」

「神様の使い。天から舞い降りた天使」

「え?」

「いや。でも、驚くのはまだ早いかもね」

 

 クロウくんも驚いていた。しかしその闘気は微塵も揺らがない。

 

「……最高だぜ。まさか伝説のカードと闘える日が来るとはな!」

「勢いが良いな。ふ、だがそれもいつまで続くか」

「レッドアイズは攻撃力2400。俺のドラゴンには及ばねぇ。しかも白銀の翼は装備モンスターの戦闘破壊をターンに2回まで無効にする!」

「気づいていないようだな。すでに悪夢は、お前の未来を浸食している」

「?」

「ククク。ABCはフィールドだけでなく墓地からも合体することができる」

「なんだと!?」

 

 墓場から溢れ出した。破滅の気配。3つの輝く鉄は虹色の放物線を描き、今、ここに結実する。

 

「滅びの光に導かれし鉄の魂。終わりなき悪夢となりて、この世界に降り注ぐ」

「くっ!」

「行くぞ。超☆悪夢合体ーっ!!」

 

──ガチョーン! ガチョガチョガチョーン!!──

 

「『ABC-ドラゴン・バスター』!!」

 

 禍々しい機械竜が現れる。その攻撃力は3000。ブラックフェザー・ドラゴンを上回る。クロウくんの頬に汗が流れる。感じているのだ、圧倒的な破壊の力を。

 

「やってくれるぜ! まさか墓地から合体とはなぁ!」

「ドラゴン・バスターの効果発動。手札を1枚捨てることで、場のカードを1枚除去する」

「なに!?」

「消えろ、ブラックフェザー・ドラゴン!」

 

 破壊の光線が黒翼の竜に突き刺さらんと駆ける。白銀の翼がそれを阻むように輝く。

 

「白銀の翼は破壊を無効にする! もちこたえろぉ!」

「ドラゴン・バスターの効果は破壊ではない、除外だ!」

「ば、バカな!?」

 

 抵抗むなしく、光がブラックフェザー・ドラゴンに炸裂し、フィールドから消してしまう。クロウくんはエースモンスターを失い、対して遊黒くんの場には最強クラスのモンスターが2体。クロウくんは歯を食いしばる。

 

「……くそっ!」

「バトルだ。レッドアイズで黒槍のブラストを破壊。そして、ドラゴン・バスターのダイレクトアタック!」

「く、くっ!」

「遊黒バスター!!」

 

 最強の一撃が、クロウくんとブラックバードに叩き込まれる。

 

「く、ぐぉぉぉっ!!」

 

 その凄まじい衝撃に、さすがのクロウくんもスピンし、スピードも当然大きく落ちる。

 

「ははははは! 今度こそ、俺の勝ちが決まったようだな。これ以上は醜態を晒すのみ。サレンダーしろ」

「……へへへ、ははははは!!」

 

 クロウくんは笑う。苦し紛れや虚勢じゃない。お腹からの、力強い笑い声だ。遊黒くんはクロウくんを不思議なものを見るように見る。

 

「……人間の思考には、まだ俺が理解できていない部分があるようだ。なぜ笑う?」

「だって面白ぇじゃねぇか。世界にはまだまだ俺の知らないカード、知らない相手がいるんだって分かったんだからな。最高だぜ!」

「ふ、その感情なら理解できるよ。だが喜んでばかりもいられまい。このデュエル、もはや全てにおいて俺がリードしている」

「懲りねーやつだな。目線が下がってるぜ?」

「?」

「へ、上を見てみろ!」

 

 クロウくんの言葉に反応し見上げれば、そこにはブラックフェザーのモンスターが2体。

 

「な、なに?」

「『BF−天狗風のヒレン』の効果。このカードが墓地に存在し、俺が直接攻撃によって2000以上のダメージを受けたとき、こいつと墓地のレベル3以下のBFを特殊召喚できる!『BF−疾風のゲイル』と共に復活!」

「いつの間にそんな、エンジェル・バトンの効果か!」

「そうだ。ヒレンはレベル5チューナーで、ゲイルもチューナー。シンクロ召喚への布石は整ったぜ」

 

 状況を理解し、遊黒くんは笑う。シンクロ召喚はチューナーだけでは行うことはできない。次のドローでチューナーじゃないモンスターをドローできなけば意味はない。その余裕の笑みだ。しかも。

 

「ドラゴン・バスターの除去能力は相手ターンでも使うことが可能。シンクロモンスターは確かに脅威だが、召喚前の素材を消してしまえばどうということもない。貴様に、奇跡は無い!」

「それはどうかな?」

「?」

 

 ここで遊黒くんは気づいただろう。通常ならばスピードワールド・リミテッドの効果により、1000以上のダメージを受けたプレイヤーのスピードカウンターは減ってしまう。しかしクロウくんのスピードカウンターは減らない。いや、それどころか。

 

「バカな、スピードが上がっている!? まさか!?」

「転んでもタダじゃ起きねー、それがクロウ様のデュエルよ! 俺は遊黒バスターを受けた時、トラップカード『デス・アクセル』を発動していた!」

 

 あれはダメージを受けた時に発動できるトラップ。そのダメージによってスピードカウンターは減らず、ダメージ500につき1つスピードカウンターを増やす。ダメージは3000。

 

「そ、それって、つまり!」

「スピードカウンター12だと!?」

「マックススピードだぁーっ!!」

 

 黒い彗星がフィールドを駆ける。最大最強のスピードで風をきる。クロウくんも、そしてブラックバードも、見ているこっちが気持ちよくなってしまうような、素晴らしい走りだった。速く、強く、美しい。

 しかし遊黒くんは揺るがない。現状を淡々と告げる。

 

「もはやスピードカウンターが増えることに意味など無い。お前は手札0。ミラーフォースもまだ場に生きている。逆転は不可能だ」

「お前、すげー強いクセにつまんねーこと言うな」

「?」

「だからこそ燃えるんだよ。それにスピードは俺たちライディングデュエリストの命、意味がないなんてありえねー。ライディングデュエルではな、デュエリストのスピードが魔法になるんだよ!」

「……!」

 

 そうだ。たとえ敗北が決定したとしても最後の最後まで全力疾走。それがライディングデュエリストの魂。そう聞いてはいた。だけど、ボクも遊黒も、その魂に直接触れるのは初めてのこと。遊黒くんは表情に困惑の色を残しながらも、微笑み。

 

「好きになってきたよ。クロウ、お前のことがな」

「ぶっ! な、なんだよ気持ちわりぃ!」

「まだ俺のターンは終わっていない。スピードワールドの効果。スピードカウンターを4つ取り除き、相手に800ダメージ!」

「ちっ!」

 

 これでクロウくんのライフは残り200。ライフ800はスピードワールドの効果ダメージによって敗北するデッドライン。それを超えてしまった。しかも次のターンで遊黒くんのスピードカウンターは再び4になる。それでジエンド。まさに絶体絶命。

 

「さらに魔法カード、『封印の黄金櫃』を発動」

 

 あれはデッキから好きなカードを1枚選んで除外し、発動から2回目の自分のスタンバイフェイズにそれを手札に加える、というカード。デッキから好きなカードを探してこれるというのはスゴく便利だけど、その選択肢の広さは逆に迷いを生むこともある。遊黒くんの眼は迷いを宿していた。クロウくんはそれを見て取り。

 

「へ、迷ってるみたいじゃねぇか。有利なんだ、ゲンでも担いでスパっと決めちまうのもアリだぜ?」

「ふ、有利だなんて気持ちは消えたよ。俺はお前ほど強くはない。さすが、世界の頂点に立った男だと思っている」

「俺たちは頂点になんか立っちゃいない。デュエルは時の運。1回の勝ちじゃ足りねー、満足できねーんだ!」

「……満足か」

「だからこそ俺は自分の力を試す。海外で、世界で! そしていつか遊星やジャックも倒し、このクロウ様が最強になるのよ!」

 

 力強い言葉。だがそれに反して、ボクらの横のセキュリティの彼は泣いていた。

 

「く、クロウ〜! だ、だからってセキュリティをやめなくたっていいじゃないか〜!」

「お、オジさん……泣かなくたって」

「俺は! クロウのデュエルをもっと間近で見てたかったんだよ〜!」

 

 その時、セキュリティの元にモヒカンが数名集まる。そして。

 

「アヒャヒャヒャ! げへへ、おまわりさん泣いちゃってるぜ! ダッセ〜!」

「う、うるせー!」

「ほら、食えよ」

「こ、これは、ポップコーンじゃないか!? い、いいのか!?」

「げへへ。悲しい時はな、食うのが一番なんだぜ。俺たちサテライト民はいつもそうしてきた。どんなにつらいことがあったってさ、上を向いてりゃなんとかなるもんさ」

「……あ、ありがとう」

 

 セキュリティはポップコーンをムシャムシャやる。そして。

 

「お前の気持ちも少しは分かるぜ。遊黒の親分もそうだからな」

「え?」

「やるべきことがあるから、チームには長くいれない。そう言っていた。でも、だからこそ、別れる時はスッキリ送り出してやりたいじゃねぇか。そいつとの思い出が、いつまでも輝いていられるようにさ」

「……そうか。ま、まぁ、そんなことお前に言われるまでもないのだが」

 

 鼻を鳴らし、セキュリティは手元のカップを掴む。それを持ち上げ。

 

「ほら、飲めよ」

「こ、この色、まさかコーラ! しかもキンキンに冷えてやがる! おいおい、いいのかよ!?」

「お互い様だろ?こういうのは」

 

 と、まぁこんな感じで隣はすごい盛り上がっていた。少し暑苦しいかもだけど、でも分かったこともある。良いデュエリストは良い仲間に恵まれる。良いライバル、良いカード。

 

「……」

 

 遊黒くんと目が合う。俺たちもクロウたちのようになれるだろうか。そう、言っている気がした。だとすれば答えはひとつ。ボクはその答えを強く思いながら、微笑みを返す。

 

「……ふっ!」

 

 遊黒くんも笑う。もはや彼に迷いはないようだ。

 

「あ、斬せんせー笑ってる!」

「はははヤッホー。面白くなってきたぁ!」

 

 本当の勝負はここからだ。遊黒くんは笑い。

 

「俺が黄金櫃の効果で封印するのは、『真竜機兵 ダースメタトロン』だ!」

「感じるぜ。ヤバい気配がガンガンとな。そいつがお前の最強カードってわけか!」

「そうだ。だがこいつの出番があるかどうかは次で決まる。さぁ、お前のターンだ!」

「あぁ! 行くぜ俺のターン、ドロー!」

 

 スピードカウンターはクロウくんは12、遊黒くんが3。スピードカウンターの数が多ければ多いほど強力なスピードスペルを使うことができるが、その利点を活かせるかどうかはこの一瞬にかかっている。クロウくんが引き当てたのは。

 

「俺が引いたのは『Sp−アクセル・ドロー』。このカードはスピードカウンターが12ある時のみ発動でき、カードを2枚ドローする!」

「魔法にしたか……スピードを!」

 

 クロウくんは2枚引き、そして。

 

「スピードスペル、アクセル・ドロー発動!」

「2連続だと!?」

「さらに魔法カード『ハーピィの羽根箒』! お前のミラーフォースを破壊する!」

「ぐっ!」

 

 あれは相手の魔法罠を全て除去するカード。これでクロウくんを長く苦しめてきた罠地獄は終わり、そして、スピードワールドのさらなる効果が発動する。

 

「スピードカウンターを10個取り除くことにより、場のカード1枚を破壊。俺が選ぶのは当然、ドラゴン・バスター!」

「ちぃ、ならばお前のモンスターも道連れだ! ドラゴン・バスターの効果発動、手札1枚を捨て、疾風のゲイルを除外!」

 

 シンクロ召喚を警戒しチューナーを潰す作戦か。しかし、クロウくんは微笑んでいる。

 

「残念だがハズレだぜ。トラップカード『ブラック・チャージ』! 場のBFチューナー2体を除外し、カードを2枚ドローする!」

「ち、シンクロ狙いはブラフか! だが、ドラゴン・バスターにはまだ最後の効果が残っている! 自身をリリースし、除外されたユニオンモンスター3種類を特殊召喚!」

「ち、んな効果まであるのかよ! インチキ効果もいい加減にしやがれ!」

「アサルト、バスター、クラッシュ、全て守備表示で復活! だがこれで、お前のシンクロ召喚を阻むものはなくなったな」

 

 遊黒くんは闘争心を燃やしながらも、クロウくんの次の一手に期待しているようだった。その視線に応えるように、新たなブラックフェザーが現れる。

 

「チューナーモンスター、『BF-極北のブリザード』召喚! その効果で墓地のブラストが蘇る。さらに黒い旋風の効果で『BF−鉄鎖のフェーン』を手札に。そして、ブリザードをブラストにチューニング!」

「早速来るか!」

「漆黒の力! 大いなる翼に宿りて神風を巻き起こせ! シンクロ召喚!」

 

 ブラックフェザーたちが舞い踊る幻想的な景色。その中現れる、漆黒の翼。

 

「吹きすさべ、『BF−アームズ・ウィング』!!」

 

 攻撃2300の新たなシンクロモンスター。レッドアイズと睨み合う。その攻撃力はレッドアイズには及ばないが、特殊能力がある。

 

「アームズ・ウィングは守備モンスターを攻撃するとき攻撃力が500アップする。そして攻撃力が守備力を超えてれば、その分のダメージをお前に与える!」

「うまい! 1000以上のダメージを与えれば遊黒のスピードカウンターは減らせるから、次のターンのスピードワールドのダメージを回避できる!」

「遊黒くんがABCを復活させたのがあだになったか!」

「行くぜバトル! アームズ・ウィングでアサルトに攻撃、ブラックチャージ!!」

 

 漆黒の猛威がはしる。しかし、悪夢は終わらない。

 

「クク、だが俺にはまだ奥の手が残されている! 墓地から、『仁王立ち』の効果発動!」

「ま、また墓地からトラップだと!?」

「最初のターンでアンチリバースに破壊されたカードだ。その効果によりこのターン、お前はレッドアイズにしか攻撃できない!」

 

 レッドアイズが咆哮し、アームズ・ウィングを退ける。クロウは舌打ちし。

 

「ち、攻撃は止める。カードを3枚伏せてターンエンド」

「万策尽きたな。俺のターン、スピードワールドの効果発動!」

「く、クロウー!」

「これで終わりだぁっ!」

 

 大爆発。煙が上がり、ボクらの視界は遮られる。でも、それでも分かる。遊黒くんもすぐに気づいただろう。いまだ鳴り響くエンジン音、焦げくさい匂い。そうだ。クロウくんのデッキには、スピードワールドの効果ダメージを無効にできるカードがあった。

 

「舞い戻れ、ブラックフェザー・ドラゴン!!」

 

 雄々しく吠える、クロウくんの魂のカード。ブラックフェザー・ドラゴンは効果ダメージを無効にして自身に黒羽カウンターを置くという効果がある。

 

「永続罠『闇次元の解放』を発動させてもらったぜ。こいつは除外された闇属性モンスターを特殊召喚できる。攻撃表示で呼び戻したぜ」

「最高のモンスターは最高の場面にこそやってくる、ということか。だがそいつは自身の黒羽カウンター1つにつき攻撃力が700下がる。ならば、レッドアイズで攻撃!」

「トラップカード、『BF−アンカー』!」

 

 アームズ・ウィングがブラックフェザー・ドラゴンに優しく触れる。それは思いを託したバトンのよう。アームズ・ウィングは消滅し、その力が受け継がれていく。

 

「BF−アンカーはBFをリリースすることで、その攻撃力分シンクロモンスターの攻撃力をターン終了時まで上げる。ブラックフェザー・ドラゴン、攻撃力4300だ!」

「ちぃ! ならば攻撃は止め、魔法カード『命削りの宝札』を発動! カードを3枚ドローする」

 

 あれは手札が3枚になるようにドローする魔法カード。ただしターン終了時に自分は手札を全て捨てなければならず、また、あのカードの発動後は相手にダメージを与えられなくなる。だからレッドアイズの攻撃の後に使ったのだ。

 ドローカードを一瞥し、遊黒は笑う。

 

「最高のモンスターを引き寄せられたのはお前だけではないようだ。俺はレッドアイズとアサルトで、進化の道を切り開く! レボリューション・ロード!!」

「な、なんだぁ!?」

「時は奏でて、想いはあふれる! 終わらない未来より架かる虹よ、この世界へ降り注げ!」

 

 雪解けの時。閉じた心は花開き、春を迎えし魂は脈動する。これこそが、終遊黒の切り札。

 

「ユニバース召喚! 『ナイトメア・ブラック・ドラゴン』!!」

 

 悪夢の龍が咆哮する。攻撃力は2500。龍亞くんはじめ、会場のみんなはひっくり返っていた。

 

「ちょ、ちょっと、なんなんだよこのデュエル! すごいことばっかり起こるじゃん! あんなの全然見たことないよ!」

「君たちの進化の結晶がシンクロなら、ユニバースがボクらの進化の結晶だ。なんちゃって」

「ま、まさか斬せんせーもできるの!? ウニダース召喚!」

「ふふふ、な・い・しょ♡あ、あとユニバースね。そんな高そうな名前じゃない」

 

 クロウくんも相当ビックリしていた。それでも不敵に笑ってるんだから、根っからの勝負人なんだなぁって思う。

 

「おいおい、お前のデッキはビックリ箱かよ! 俺の知らねぇ召喚まで使いやがって!」

「お互い様だよ。俺もシンクロ召喚を知ったのは最近だからな。俺はまだシンクロが使えない、だからこそ、俺のデュエルはまだまだ進化する!」

「それこそお互い様ってもんだ。ユニバースの力、じっくりと見せてもらうぜ!」

「いいだろう。ユニバース召喚は素材モンスターを魔法罠ゾーンにレガシーとして置き、それにレガシーフォースを与えることで、自身を手札から場に出すというもの」

 

 ちなみに、ユニバース召喚は特殊召喚ではなく通常召喚として扱われる。だけど通常召喚の権利は消費しない。クロウくんは説明をウンウンと理解し、問いを投げかける。

 

「レガシーフォース?」

「レガシーに与えられる効果だ。魔法の効果の発動として扱う。ナイトメアの素材は通常モンスターと効果モンスター。通常モンスターに与えられるレガシーと効果モンスターに与えられるレガシーは異なる。楽しみにしておくことだ」

 

 一度ユニバース召喚が行われれば、その後ユニバースモンスターを除去したり効果を無効にしたとしても、レガシーに与えられたレガシーフォースは消えない。ユニバースモンスターが場を離れればレガシーは消えるけど、ナイトメアブラックの効果でレガシー1つを残すことが可能。その真の恐ろしさに、クロウくんがどこまで対応できるか。

 

「……未知のモンスター。へ、上等じゃねぇか!」

「カードを2枚伏せてターン終了。さぁ、この悪夢から抜け出せるかな?」

「見せてやるぜ、ブラックフェザー・ドラゴンの真の力を! 俺のターン、『闇の誘惑』を発動。2枚ドローしてフェーンを除外。さらにエンジェル・バトンでドローし、手札1枚を墓地へ」

「ふん、慌てて手札交換とは。いよいよネタが尽きて来たか?」

「逆だぜ。今ネタを仕込んだところよ! 今墓地へ送った、『BF−精鋭のゼピュロス』の効果。黒い旋風を手札に戻して自身を特殊召喚し、俺に400ダメージ与える。攻撃表示で特殊召喚!」

 

 ゼピュロスの攻撃力は1600。通常ならばこの400ダメージは自滅になるが、ブラックフェザー・ドラゴンがそのダメージを無効化する。そして黒羽カウンターが増え、今、その能力が解き放たれる。

 

「ブラックフェザー・ドラゴンの効果発動! 黒羽カウンターを全て取り除くことで、その数×700相手モンスターの攻撃力を下げ、下がった数値分のダメージを与える!」

「カウンターは2つ。これでナイトメアの攻撃力は1100になり1400のダメージ。ブラックフェザー・ドラゴンの攻撃が通ればさらに1700ダメージ。そしてスピードワールドの800ダメージで、クロウの勝ちだ!」

「そう都合良くいかないのが悪夢だ。リバースオープン、『ダメージ・ダイエット』!」

 

 あれは発動ターンに自分が受けるダメージを全て半分にするというカード。遊黒くんのライフは2800になる。ダメージ・ダイエットの発動により、遊黒くんをこのターンで仕留めることは難しくなった。しかしナイトメアブラックとブラックフェザー・ドラゴンの攻撃力の差は歴然。遊黒くんは顔をしかめながらも説明を始める。

 

「レッドアイズに与えられたレガシーフォースは、ナイトメアの攻守を1ターンの間2倍にする。アサルトに与えられたレガシーフォースは、ナイトメアとバトルする相手モンスターの攻守を1ターン半減させる。だがレガシーフォースは1ターンに1種類までしか使えない。俺が使えるのは片方の効果だけ」

「なら答えはひとつだ! ブラックフェザー・ドラゴン、ナイトメアを攻撃!」

「アサルトのレガシーフォースにより、お前の攻守は半減!」

「だが、攻撃力が下がってるのはお互い様だぜ」

「ちぃ!」

 

 ブラックフェザー・ドラゴンの攻撃力も下がるが、ナイトメアの攻撃力も先ほど下がっている。ブラックフェザー・ドラゴンの攻撃力は1400。ナイトメアは1100。であれば、勝敗は明確。

 

「行け、ノーブル・ストリーム!」

 

 黒い嵐により悪夢は消し飛び、遊黒くんのライフは2650まで削られる。しかし彼の瞳の光は消えない、それどころか強くなる。彼の場には、ナイトメアが残したレガシー、レッドアイズが残っている。

 

「よっしゃあ、どうだ!」

「ふ、ナイトメアブラックがたった1ターンで倒されるとはな。これがブラックフェザーの力、そしてお前の力ということか。だがユニバース召喚の真価はここから始まる」

「負け惜しみ言いやがって。カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン。この瞬間、黄金櫃に封印されしカードが蘇る」

 

 ダースメタトロンが手札に加わる。あのカードもまた最強クラスのカードだが、その分召喚条件は厳しい。

 

「このカードのアドバンス召喚には3体のリリースが必要となる」

「見積もりがあまかったみたいだな。お前のモンスターはバスターとクラッシュの2体。1体足りないぜ」

「アドバンス召喚にはモンスターのリリースが不可欠。だが我が主より賜り俺が鍛えた『真竜』カードは、その垣根すらも超越する! このカードは、永続魔法および永続罠もリリースに使うことができる!」

「な、なんだとぉ!?」

「場に伏せられていた永続罠『真竜の黙示録』とバスターとクラッシュ。これら3本の柱に導かれ、この次元に降臨する! 出でよ『真竜機兵 ダースメタトロン』!!」

 

 眩い黄金の光。金色の翼、聖なる剣、重厚な鎧。攻守3000の最強の戦士が、ここに君臨する。戦士族じゃないけど。

 

「くそ、また意味わかんねーカード出しやがって! いくつ常識はずれのことすりゃ気が済むんだこの野郎!」

「お前が参ったと言うまでさ。黙示録の効果発動。このカードが墓地へ送られた時、モンスター1体を破壊する!」

「なに!?」

「もう一度消え去れ、ブラックフェザー・ドラゴン!」

 

 大きな煙が上がる。しかし誰もが感じていた。クロウ・ホーガンとは、ここで終わるデュエリストではないと。その想いに答えるように、クロウくんは微笑みながら悪夢の嵐を突破する。新たなモンスターを従えて。

 

「なかなか悪夢チックな光景だ。なんだそのモンスターは?」

「トラップカード『バスター・モード』を発動した。こいつはシンクロモンスターを進化させる。とくと見やがれ。これが俺のエースの進化した姿!」

 

 BFが持っていたような銃器を装着し、よりたくましくなった漆黒の体。紅い光が夜の闇に染み渡っていく。そう、これこそが。

 

「誕生、『ブラックフェザー・ドラゴン/バスター』!!」

 

 ブラックフェザーの進化の可能性、そのうちのひとつ。攻撃力は3300。どうやら、互いの最強モンスターがこれで並んだようだ。

 

「これがお前の切り札か。だがダースメタトロンは自身の召喚のためにリリースされたカードと同じ種類のカードの効果は受けない。つまり、モンスターとトラップの効果は受けない」

「惜しかったな。魔法もリリースできれてば完璧だったのによ」

「あえてそうしたのさ。レッドアイズのレガシーフォース発動。ダースメタトロン、攻撃力6000!」

「!?」

 

 クロウくんの眼が見開かれる。そう、これがユニバースの真の恐ろしさ。

 

「……なるほど、ナイトメアが消えても悪夢は消えないってわけか」

「そうだ。ナイトメアが消えて効果対象を失ったレッドアイズは、新たに召喚されたモンスターにレガシーフォースを与えることができる。そしてダースメタトロンが場から消えた時も同じことが起こる」

「つまり、お前の場には常にレガシーで強化されたモンスターが居座るってことか!」

「その通り。ユニバースとは1体の最強モンスターを呼び出す召喚ではない。レガシーを引き継ぐことで、デッキの全モンスターを最強にする召喚だ!」

 

 黄金の闘士が絶叫し、絶叫という表現で正しければだが、猛々しく突進していく。

 

「このデュエル、俺の勝ちだ! ダースメタトロン、/バスターへ攻撃! 遊黒パーンチ!!」

「トラップ発動、『立ちはだかる強敵』! お前の攻撃対象はゼピュロスになる」

「無駄だ。ダースメタトロンにトラップは通用しない」

「このカードの効果は相手モンスターにおよぶ効果じゃない。ダースメタトロンでも無視できないぜ!」

「ちっ。だがミスったな、ゼピュロスが攻撃表示だぞ!」

「わざとだぜ。/バスターは自分が効果ダメージ、またはBFの戦闘によるダメージを受ける時、それを無効にする! さらに場のBFは、ターンに1回までずつ破壊されない!」」

 

 ドラゴンに、黒羽カウンターが置かれる。

 

「なるほど。ダメージを無効にする度に黒羽カウンターが置かれるわけか。ならば当然、黒羽を取り除く効果もパワーアップしてるのだろうな」

「あぁ。カウンターを全て取り除くことで、1つにつき700ポイント、自身の攻撃力を上げる。そして変化した数値分、相手にダメージを与えて相手モンスター1体の攻撃力を下げる。次のターン、こいつをぶちかましてやるぜ」

 

 強力な効果だ。カウンター1つにつき2100ダメージが発生するようなもの。しかしこの場合はそうはならない。

 

「たしかにそいつの攻撃力は上がるが、ダースメタトロンは効果を受けないので攻撃力が下がることもない。加えて、俺の墓地のダメージ・ダイエットは墓地から除外することで、そのターン受ける効果ダメージを全て半減させる」

「ちっ。ダースメタトロンとの攻撃力の差は2700。それを埋めるため、黒羽カウンターが4つ要るか」

「たしかに4つあればダースメタトロンを倒すことは可能。だがこいつには更なる効果がある。相手に破壊された時、俺は地・水・炎・風のいずれかの融合・シンクロモンスターを特殊召喚できる」

「……どうやら、ダースメタトロンごとお前を倒すしかねーようだな」

「それには黒羽があまりにも足りないがな。俺はターンエンド」

 

 急にやってきた計算タイム。龍亞くんは指折り数えながら眼をグルグルさせる。余談だがこの時の龍亞くんは超可愛かった。

 

「え、えっと、つまり?」

「クロウくんが次のターンで勝つには黒羽カウンターが6個必要ということになる。つまりあと5個」

「え、えぇー!?」

「遊黒くんにはあらゆる魔法罠を無効にする融合モンスターがある。しかもそれはレガシーフォースを受けて攻守2倍。今の手札が尽きたクロウくんでは到底耐えきれない」

「……クロウ」

 

 元のブラックフェザー・ドラゴン同様、効果ダメージでも黒羽カウンターは増やせる。戦闘ダメージでも増やせるから、ダースメタトロンより攻撃力が低いBFで攻撃することでも増やせる。条件は軽くはなっているけど、5個はあまりにも遠い。

 

「関係ねーぜ。/バスターが、お前をぶっ倒す!」

「バカな。お前は手札0。ブラックフェザーを呼ぶことすらできまい」

「たしかにな。全ては、このドローで決まる」

 

 さすがのクロウくんも、ドローの手が微かに震えているように見えた。このドローはあまりにも重い。

 会場も静まり返る。数秒が、永遠の如く長く感じられた。

 その時だった。

 

「クロウ兄ちゃーん!!」

 

 会場のどこかから響いた、何人もの子どもたちの声。会場は満席で騒がしい。どこからの声だったのかは把握できない。

 だけど、クロウくんの顔が、変わった。

 

「……こんなとこまで来やがって。お前らに頼らずにやってこうって思ってる時によ」

「……そうか。ようやく分かったよクロウ。俺の攻撃に決して屈しなかった、お前の強さ。その源が」

「まったくよぉ。これじゃあ、絶対に負けられねーじゃねぇか!」

 

 さっきの沈黙が嘘のように、デッキに優しく、しかし強く手がかけられる。感じる、クロウくんとデッキの魂のクロス。

 

「行くぜ、ドロー!」

 

 彼はカードを見る。そして。

 

「黒い旋風を再び発動。そして『BF−月影のカルート』を召喚!」

 

 引き当てたのは、攻撃力1400のBF。黒い旋風の効果で、攻撃力1400未満のBFを手に入れることが可能。選ぶのは。

 

「『BF−突風のオロシ』を加える。そしてオロシは場に他のBFがいれば特殊召喚できる! こいつはチューナーだ」

「だがシンクロすれば攻撃できる総数は減る。チューナーであることを活かせはしない!」

「まだだ! 墓地の『BF−大旆のヴァーユ』の効果発動。墓地のこのカードを、墓地のBF1体にチューニングする!レベル1のヴァーユをレベル6のアームズ・ウィングにチューニングし、この2体を除外!」

「なんだと!?」

「黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ!」

 

 調和の輪に吸い込まれるブラックフェザー。光は満ち。

 

「来い、『BF−アーマード・ウィング』!!」

 

 現れる、武装をまといし新たなブラックフェザー。攻撃力は2500。ヴァーユで呼ばれたモンスターは効果が無効になるけど、/バスターの効果で破壊は防げる。これでBF4体を含む、5体のモンスターが揃った。

 

「行くぜ。ゼピュロス、カルート、オロシの攻撃!」

「これで黒羽は4。だが!」

「アーマード・ウィングの攻撃! ブラックハリケーン!!」

 

 強烈な竜巻の一撃が決まるが、黄金の戦士はビクともしない。これで黒羽は5。あと1つだけど。

 

「惜しかったな。もうお前には、攻撃できるBFがいない!」

「それはどうかな?」

「……まさか、最後のリバースカード……!」

「そう。これが、俺の最後の切り札だ! トラップ発動、『緊急同調』!」

 

 あれはバトル中のシンクロ召喚を可能にする。レベル1のオロシが、レベル3のカルートとレベル4のゼピュロスを包み込む。

 

「吹きすさべ嵐よ! 鋼鉄の意志と光の速さを得て、その姿を昇華せよ!」

「……くっ!」

「シンクロ召喚! 『BF−孤高のシルバー・ウィンド』!!」

 

 刀を持ったBFの降臨。攻撃力は2800を誇る。黄金の光へと叩き込まれる、純白の嵐。

 

「パーフェクト・ストーム!!」

 

 ダースメタトロンには届かない。だけど、想いは繋がった。これで黒羽は6。

 

「待たせたな、遊黒!」

「……クロウ……!」

「ブラックフェザー/バスターの効果発動!」

 

 ドラゴンの咆哮。みなぎる最強のパワー。

 

「バカな……攻撃力7500だとぉ!?」

「これで終わりだ!」

 

 迎える、最後の時。

 

「ブラックフェザー・ストーム!!」

 

 それは黒く、気高い、魂の一撃だった。

 

 

 

 

 決着の後、2人はスタート地点に戻る。遊黒くんはアングリ口を開け、ボケーっとした顔で。

 

「……負けた。この俺が」

「どうやら、悪夢を見たのはお前の方だったみたいだな」

「……いや」

 

 止まない歓声。止まらない拍手。

 

「すげーデュエルだったぞー!!」

「よくやったクロウー!!」

「おやぶーん!!

 

 やさしい声が街に降りて。今宵限りの、時を忘れる。

 

「この景色は、悪夢と呼ぶにはまぶし過ぎる」

「……だな」

 

 気ままに揺らめいて。想いは、焦がれる。

 

 

 と、いうわけで、めちゃくちゃ良いムードでコトは終わったのであ、あれれ〜?そういえば何か忘れてるような気がするぞ?

 

「ゆ、遊黒のおやぶーん!!」

「あぁ、お前たちか。応援は聞こえていたよ。負けてしまったがな」

「いえいえ! 見事な闘いでした親分!」

「そうか。さて、デュエルの前の約束を果たすことにしよう。客もたくさん集まったからな」

「あ、そういえばお前らの計画がどうとかそういうデュエルだったなこれ」

「そう。会場の皆、これを見ろぉ!!」

 

 遊黒くんが絶叫しスイッチを押すと、スタジアムのモニターに映像が映し出される。若い女の子たちが楽しそうにゴミ拾いをしている映像だ。

 

「これこそが我らナイトメア団の計画! 週末、ネオドミノの観光スポットを巡りながらのゴミ拾いツアーを行う! 外からの観光客はもちろん、故郷の素晴らしさを知りたい皆にもオススメ! スタッフ募集中ーっ!!」

「な、なんじゃそりゃあ〜!?」

「イェーガー市長より許可は取ってある。そう、この街はゴミ拾いシティとなるのだ!」

「ゴミ拾いシティ!」

 

 よし、帰ろう。ボクと龍亞くんが席を立った時、なんか画面が急に切り替わった。

 

「な、なんだ!? スタッフを増やすこの大チャンスに……」

『エーブリバディーリッスーン! ネオドミノの諸君に、スーパーエキシビジョン・デュエルをお届けするぞぉ! 新設された天空ライディングデュエルコースで闘うのは、このふたりだぁーっ!!』

 

 スポットライトに照らされたのは、ふたりの男。ふたりとも赤いDホイールに乗っている。そのうちのひとりは、ボクらにとって馴染みがある人物。

 

『私が実況させていただいた、あの天空での激戦は、皆さんの心に刻み込まれていると思います。そう、彼が帰ってきた!WRGPを制したチーム5D’sのひとりであり、この街を救った英雄! 』

「く、クロウ、あれって!」

「な、なんであいつがあんなところで!?」

『不動遊星だー!!』

 

 そうか、あれが不動遊星。伝説のライディングデュエリスト。

 

『対するは! 皆さんはあの会社を知っているでしょうか。この街に突然現れ、デュエル開発分野に殴り込んできた大企業! どこから来たのか、その業績、その過去は一切不明! 謎に包まれたヴェールが、今解き放たれる! リバースコーポレーション社長、天新海ー!!』

 

 

 

 新海は遊星に話しかける。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はオリジン世界という別世界から来た。俺はその世界において最強だったが、神になるには至らなかった。ここには神に近づくために来た」

「……」

「頂点に立つ者は多くの眼に晒される。ごまかしは通用しない。真の強さが求められるのだ。俺がこの場を設けたのは、俺の力をこの世界の人間に見せつけるため。君は俺の相手として最も相応しかった」

「……」

 

 新海は続ける。

 

「君が勝つ可能性もわずかだがある。30%にも満たないがな。見せてもらおう、無限界帝を倒したその力」

「おい」

「うん?」

「デュエルしろよ」

 

 今、最強と最強がぶつかり合う。

 

 




クロウがカルート引いたところでGoing my wayが読者の皆の頭の中で流れ出し……たらいいなぁと思いながら書きました。
最初は原作キャラでデュエルするのは遊星ジャック龍可だけで、クロウのデュエルは無い予定でした。こうして書いてみると、クロウのデュエルを入れてみるのも無しではなかったかなと思います。
ちなみに現在はシグナー全員がデュエルする予定になってます。
OCGはゼアルの最後の方の辺りからあまりやってなくて、最近またやりだしました。オルターガイスト安くてつえー。
なのでBFの新規は最近見ました。今回のデュエルを作った後です。シムーンのテキストは目ん玉飛び出るかと思いました。クロウのデュエルはまだある予定なので、その辺も使っていきたいなぁと思います。逆に、漫画版のカードとかABFとかは出ないかなーと思います。
余談ですがアゲインスト・ウィンドがBF竜とコンボできないのは今回知りました。嘘やん。クロウのカード同士でシナジーありそうやん。

また文字数が1万を大幅にオーバーということで。もっと短くまとめたいなと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。頑張ります。


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第8話 最強の激突! 不動遊星vs天新海!!

あけましておめでとうございます!(激遅)
今年もよろしくお願いします!


「デュエルしろよ、か。この天新海に向かって。ふ、君は面白いな」

「俺の仲間の龍可という少女が行方不明だ。そして俺たちの痣に現れた異変……。何か知っているのか?」

「俺の持つ情報は全て渡すよ。加えて、君や君の仲間たちにも今後一切危害を加えないことを約束する。君がデュエルに勝てばの話だけどね」

「お前が勝ったら?」

「君には俺が主催するデュエル大会に出場してもらうよ。その名も『ビッグバン・フォーチュン』! ついでにスターダストのカードもいただこう」

「ふっ。無茶を言ってくれるな」

 

 ウキウキな新海と厳しい顔の遊星。対照的な様子の二人の間には、静かだが激しい火花が散っていた。

 ふたりはDホイールにまたがり。

 

「お前も決闘者。信用してやるよ。このライディングデュエル、必ず制してみせる!」

「そう簡単にはいかないよ。この天新海のスゴさ、思い知れぇっ!」

 

──ブンブンブォーン──

 

 

『皆さんお待たせしました! どうやら両者、デュエルの準備が整ったようだぁ!』

「はははヤッホー。始まるようだね」

 

 クロウくんたちをはじめ、会場の誰もが席に留まって夢中でモニターを見上げていた。当然だ。サテライトの英雄にして最強の決闘者、不動遊星のデュエル。見逃す手はない。

 

「斬せんせー、あの人もユニバース使うの!?」

「うん。遊黒くんのとは少し違うけどね」

「おぉー! 強いの!?」

「そうだね。ボクの知るユニバース使いの中じゃ3番目くらいに強いかな」

「すげー! で、1番強いのは誰なの!?」

「もちろんボクさ! 見てよこのウイングドエンペラーの輝」

 

 龍亞くんはもう完全にモニターに夢中になっていた。自慢話とは大抵の場合どうでもいいものであるということを、ボクは改めて感じたのであったー。めでたしめでたしー。完!

 ボクがほげーな気分になってるのをよそに、遊黒くんはどっかに行こうとしていた。ボクは彼のふざけた色の髪を掴んで引き止める。

 

「あれ、どこ行くの?」

「痛たたたたた! もうちょっと違う止め方プリーズ!!」

「一緒にデュエル見ようよ」

「ちょ、ちょっと急用を思い出して!」

「ふーん。ふーん。ふーん」

「め、めっちゃ怪しんでるー!」

「ま、君がどこで何しようが関係ないけどね。約束さえ守ってもらえれば」

 

 ここで彼はすごい嫌そうな顔になったけど、すぐに普通の顔に戻り。

 

「……約束通り、その時が来たらお前と闘う。ま、その時は俺が勝つことになると思うがな」

「いやいや、ボクが勝つのでござるよ。ニンニン!」

「……いや。俺が勝つさ」

 

 そう言って、遊黒くんは夜の闇に消えていったのであったー。次回へ続く!とはまだならないわけで。だって、遊星くんと新海くんのデュエルが始まるのだもの。ざんを。

 さて、デュエルが始まるわけだけど、新海くんのデュエルの始まりはちょっとスペシャルなのだ。彼は絶叫し、同時に彼のカードから真紅の不死鳥が、花火みたいに舞い上がる。

 

「ユニバースフィールド魔法カード、『エターナル・フェニックスハート』! 発動っ!!」

 

 あたたかな炎がネオドミノの空をはしる。新海のデュエルを祝福するように、空を真っ赤に染め上げる。これこそが天新海の闘いの始まりを告げる、ユニバースカードの発動である。新たにフィールド魔法を発動する場合、あのカードの上に重ねて置けば、両方の効果を適用することが可能である。まぁ、とどのつまり、戦術の邪魔にはあまりならないというわけだ。当然スピードワールドとの共存も可能。

 

「フェニックスハートの効果。このカードがフィールド魔法状態で俺の場にある限り、君が受けるダメージは全て半分になり、俺が受けるダメージは全て倍になる」

「俺が有利になる効果だと?」

「今のところはな。だがこのカードはレガシーの力によって覚醒する。楽しみにしておけ」

 

 未知の能力。未知のカード。だけど遊星くんの闘志は全く衰えない。むしろその目の輝きは増しておく。あれ、ていうか笑ってない?

 

「ふっ。面白くなってきたな。行くぞ新海!」

「アハハハハ! さぁ、リバースデュエルの始まりだ!」

「デュエル!!」

 

 真っ赤な鳥をモチーフとした新海ボーイのDホイール、『フレイム・フェニックス』が、意味不明なスタートダッシュで遊星くんの『ボルカニック遊星号』を引き離す。え、なにあれ。クロウくんもボクと同じように思ったようだ。

 

「おいおい、なんだよあのパワー!? 違法改造じゃねぇのか!?」

「この天新海がそんなことするかぁ!」

「なんで聞こえてるの!?」

「それには私が答えましょう!」

「あ、君は新海くんの秘書のシルバーちゃん!」

「リバースコーポレーションの最新技術が、インチキじゃない最強パワーを生み出したのです! パワーだけならあのホイール・オブ・フォーチュンすらも凌牙、もとい、凌駕するのです。もはや新海様が史上最強と言っても過言ではないですね!」

「……それはどうかな」

 

 遊星くんはつぶやき、その目がコーナーを見据える。パワーで劣っているならば、コーナリングで勝つしかない。ちゃんと減速してからコーナーへ入った新海くんに続いて、遊星くんはなんと!ほぼ減速せずにコーナーへ突っ込んでいく!

 

「デュエルに入るまでもなくクラッシュでアウトか。不動遊星ともあろうものがぁっ!!」

「そう思うか?」

「なにぃ!?」

「クリア・マインドォーッ!!」

 

 絡み付く時間振り切って、限界までぶっ飛ばして。

 クロウくんと龍亞くんが歓喜の声を上げる。

 

「あれは遊星の必殺技、揺るがない境地! あれなら行けるぜ!」

「これで大逆転だ! いっけー遊星!!」

 

 たしかにすごい。無駄のないコーナリングだ。ありえないようなスピードなのに、鮮やかにコーナーを抜けていく。

 

「ぬ、ぬぅぅ! バカな……そんなバカなぁぁぁっ!!」

 

 絶叫する新海くん。ピンチだ。だけど。

 

「し、新海くん……頑張れ……頑張れぇーっ!!」

「っ!?」

 

 遊星くんを励ます者がいるならば、新海くんを励ます者もいる。シルバーちゃんの健気な声は、遠く離れてはいるけど、きっと届いた。

 

「……俺は……俺はっ!!」

 

 パワーで勝っているという利点を活かした、安全なドライブ。それが新海くんの戦略だったのだろう。だけどもうそれは捨てた。モニター越しでも、彼がアクセル全開になったのが分かった。であれば。

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!!」

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 勝敗の行方は、神のみぞ知る。誰もが息を呑んだ、次の瞬間、MCの声が静寂に響く。

 

『第1コーナーを制したのは……うわぁぁぁぁっ!!』

「……ククク……アハハハハハァッ!!」

『天新海だぁーっ!!』

 

 街中から響くブーイング。だけど新海くんにはひとりだけ味方がいた。彼の勝利を祈る白銀の天使がね。シルバーちゃんに駆け寄ると、彼女は恥ずかしげにうつむいてしまった。

 

「が、ガラにもなくあんな大声で……お、お恥ずかしいところを」

「恥ずかしくなんかないよ」

「えっ?」

「かっこよかった。とってもね。あー、なんかボクも新海くんを応援したくなってきちゃったなー」

「……斬さん……!」

 

 龍亞くんとクロウくんもこっちに来た。仲間が先攻を取られたというのに、なぜかふたりとも楽しそうだ。

 

「あの新海って人すげーじゃん! 遊星から先攻をとっちゃうなんて!」

「パワーが互角なら遊星が勝ってたがな。けど、面白いデュエルになりそうじゃねぇか!」

「お、お二方……新海様を認めて下さるのですか!?」

 

 シルバーちゃんの問いかけに、龍亞くんとクロウくんは「何言ってるんだホー?」顔で顔を見合わせる。そして。

 

「あったり前じゃん! 俺、強い決闘者はみんな好きだぜ!」

「あいつは遊星の前を走っている。俺たちライディングデュエリストにとっちゃそれが全てだぜ」

「あ、あ、ありがとうございます! 新海様、嫌われやすいから……ぐすっ」

「そ、それはなんとなく分かる」

 

 半泣きのシルバーちゃんに対応するのは正直めんどくせー案件だったと思うのだが、クロウくんは頑張ってこなしていた。なるほど、小さい子ども達の面倒を見てきた故の習性ということか。

 シルバーvsクロウも凄まじい激闘だった。だがしかし、まるで全然! ボクは遊星vs新海の方に注目したいんだよねぇ! というわけで、そちらに描写を戻すこととするのであった。

 新海くんの第1ターン。スピードカウンターが互いに1溜まる。

 

「『閃光の騎士』を召喚。そして永続魔法『補給部隊』を発動」

『あれはモンスターが破壊された時にドローできるようになるカード! これでは遊星はうかつに攻撃できないぞぉーっ! あれ、ところであのモンスターは見たことがありませんが』

「ペンデュラムモンスター。貴様らにとっては未来の力だ。カードを2枚伏せてターン終了。さぁ、どう来る?」

「未知のカードか。ならば俺は、カードの絆で立ち向かう!」

「なに?」

「『成金ゴブリン』。お前のライフを1000回復し、1枚ドローする。そして!」

 

 遊星号がうなりを上がる。それは燃え上がる闘志の表れ。鋭くカードを引き。

 

「来い、『スピード・ウォリアー』!」

 

 現れる、小さな機械の戦士。攻撃力は900。自身の能力でこのターンのバトルフェイズ中のみ攻撃力を倍にできるが、それでも1800。閃光の騎士も1800なので互角。

 

「相打ち狙いか。浅ましい、浅ましいぜ!」

「装備魔法『進化する人類』! このカードは俺のライフが相手より少ない時、装備モンスターの元々の攻撃力を2400にする」

「上手いぜ遊星! スピード・ウォリアーの攻撃力を倍にする効果は元の攻撃力が高くなれば威力を増す。このコンボが決まれば遊星の勝ちだ!」

「えぇ〜!? 新海様ピンチじゃないですか! なのになんで嬉しそうなんですかクロウさん!」

「え。そ、そりゃ遊星は仲間だし」

「この裏切り者ぉぉっ!!」

「な、なんで!? うわやめろなにをぎゃぁぁぁっ!!」

 

 スピード・ウォリアーの攻撃力はこれで4800。フェニックスハートの効果で戦闘ダメージは倍だから、この攻撃が通れば6000のダメージ。遊星くんの勝ちだが。

 

「行くぜ新海! スピード・ウォリアーの攻撃!」

「トラップ発動、『神の恵み』」

「ソニック・エッジ!!」

 

 華麗なアクロバティックキックが決まり、閃光の騎士が破壊される。これでデュエルの勝敗は決した……と言いたいところだけど。

 

『あ、あれ、天新海……ライフ6000!? な、なんでライフが増えてるんだー!?』

「トラップカード『ガード・ブロック』を発動したからさ。ダメージを無効にし1枚ドロー。さらに補給部隊の効果でドロー。そして攻撃時に発動した神の恵みは、俺がドローする度に500のライフを回復する。2回引いたから1000回復だ」

「やはり防いだか。やるな」

「この程度は雑作もないよ。俺は全ての次元の最強決闘者たちのデータをマルッとインプットしている。君のカードも知り尽くしているということだよ。分かるか?もはや君に勝ち目はない!」

「データで勝敗が決まるならデュエルする意味はない。答えは、このデュエルの中だけにある!」

「良い意気だな。だがついてこれるか?ここからは、君にとっては完全なる未知の世界だ!ペンデュラムモンスターである閃光の騎士は、場から墓地に置かれる場合、墓地に置くかわりにエクストラデッキに表側で加えられる!」

「……なるほど。たしかにこれまでにはない能力だ」

 

 ここで龍亞くんが疑問をぶつけてきた。

 

「でもさ、エクストラデッキに加えてどうするの?墓地に置いといた方が便利だと思うけど」

「あぁ、それは」

「斬さんストーップ!」

「ん、んんっ!?」

 

 急に口を抑えられてしまった。無論シルバーちゃんにである。ボクが抗議の視線を送ると、麗しのレディーは茶目っ気に微笑んで。

 

「もぉ、斬さんってば、ダメなお侍さんですね。そういうのは焦らすものなんですよ?」

「そ、そうなんだホー!」

「そうなのです。龍亞様、あなたの問いの答え、それはデュエルの中にしかないのです!」

「は、はぁ。ところで侍って?」

「さて、デュエルがどう動くのか、注目ですね〜! ワクワク!」

 

 カードを2枚伏せ、遊星くんのターンは終了した。新海くんのターン、これでスピードカウンターは互いに3。ここで、戦況が大きく動く!

 

「く、くく、アハハハハハハハハァッ!!」

「なぜ笑う!?」

「揃ったからさ。お前の攻撃のおかげでなぁ! 今こそ、俺のペンデュラムが揺れる時! スケール2の『マンドラゴン』を、Pゾーンに設置!!」

 

 魔法罠ゾーンの両端に設けられたPゾーン。そこにペンデュラムカードが揃う時、生と死の理は逆転する!

 

「さらにスケール7、『銅鑼ドラゴン』をセット! 行くぞ、リバースデュエルの始まりだ!!」

「な、何が起こっている!?」

「ターンに1度、2枚のPカードのスケールの間のレベルのモンスターを、エクストラデッキに表側で加えられているカード及び手札から一度に何体でも特殊召喚できる。それがペンデュラム召喚だ」

『そ、そんな召喚は見たことも聞いたこともないぞぉぉっ!!』

「ならば俺が見せてやるぜ聞かせてやるぜぇぇっ! ペンデュラム召喚! さぁ来い、閃光の騎士、そして2体の『聖鳥クレイン』!!」

 

 一瞬にして現れる3体のモンスター。クレインはレベル4で、攻撃力は1600。特殊召喚された時に1枚ドローできる効果も持っている。それが2体出たから新海くんは2枚引き、ライフは7500まで回復する。

 

「さらに永続罠、『連成する振動』を発動。Pゾーンのカードを破壊し、カードを1枚ドローする。マンドラゴンを破壊してドロー。神の恵みの効果で、ライフを回復!」

「ライフ……8000!?」

「やるぜあいつ。フェニックスハートのデメリットもこれで帳消しだ!」

「フィールド上で破壊されたマンドラゴンも通常ならばエクストラデッキに加えられるが、ここでエターナルフェニックスハートの効果。ターンに1度、ペンデュラムカードが場を離れる時、そのカードをこのカードの上にレガシーとして置く!」

 

 不死鳥がその輝きを増す。オリジン世界に存在する、古よりの言い伝え。不死鳥に5つの生け贄捧げられし時、闘いは終焉する。伝説の真偽がこのデュエルで明らかになるか?

 

「魔法カード『マジック・プランター』発動。神の恵みを墓地に送り、2枚ドローする」

 

 新海くんの口角がこう、グワッと上がる。恐るべきモンスターの出現の気配がたちこめる。

 

「閃光の騎士とクレイン2体をリリースし、アドバンス召喚」

「3体ものモンスターをリリースするアドバンス召喚だと?」

「そうすることによってこのモンスターは真の力を解き放つのさ。さぁ来い『神獣王バルバロス』!!」

 

 ついに現れた、天新海の主力モンスターの1体。攻撃力3000を誇る最強クラスのモンスターだ。しかも3体リリースによって召喚されると、ヤバい能力が発動する!ニンニン!

 

「こいつが3体リリースで出た時、相手の場のカードを全部破壊する!」

「なんだと!?」

「そ、そんなことされたら遊星ヤバいじゃん!」

『ま、まままさか! あの不動遊星が、世界を救った英雄が、負けてしまうのかぁー!?』

「何が英雄だ! 過去には何の価値もない。俺は過去を踏みにじり未来へ向かう! その礎として砕け散れ! 不動遊星ぇぇっっ!! 」

 

 巻き起こる破滅の嵐。史上最強の破壊がクールガイを襲う。しかしそのクールガイはどこまでもクールだったのである。この超絶望的な状況にあっても、なんと優しい微笑みを浮かべている。

 

「アハハハハ! 踊れ、死のダンスを!!」

「……ダンスは苦手だな」

「あん?」

「『エフェクト・ヴェーラー』の効果発動!」

 

 嵐を消し去る、新たな力。あれは相手のメインフェイズ中に手札から効果を使えるモンスター。

 

「その効果により、バルバロスの効果を無効にする!」

「ちぃぃ! だがこの攻撃は防げるか!? バルバロスでスピード・ウォリアーに攻撃!!」

『うわぁぁ! スピード・ウォリアーは遊星の主力モンスター! 失えば遊星に勝ち目はない! 今度こそ勝負あったかー!?』

「ゆ、遊星—!!」

 

 激しい砂煙が上がる。街中からの応援の声も虚しく、スピード・ウォリアーは破壊され、うん?あ、ちょっと待って。

 

「トラップ発動、『くず鉄のかかし』!!」

 

 煙から、健在のスピード・ウォリアーと遊星が勢いよく飛び出し、街中から歓声が上がる。くず鉄は相手の攻撃を無効にした上に、発動後も場にセットされるトラップ。つまり毎ターンに使えるというわけで。これでバルバロスの攻撃は永遠に封じられた。龍亞くんは歓声を上げる。

 

「すごいぜ遊星! モンスター効果と攻撃を両方止めるなんて!」

「……ふん、尊敬してやるぜ。だがまだ攻撃力3000のバルバロスを攻略できてはいない。俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

 彼の言う通り、バルバロスを倒さない限り遊星くんに勝ち目はない。バルバロスを倒すのは容易なことじゃあないはずだ。だけど。

 

「あ、あの人なんか笑ってないですか斬さん!?」

「めっちゃ笑顔だね。カードを信じているんだ。さすがだね」

「で、でも、笑うだけじゃバルバロスは倒せないです! あのモンスターはリバースコーポレーションの守護神! マジで最強なんですから!」

「倒せないモンスターはない。デュエルとは1%の奇跡を信じて闘うものさ。ま、見てるでござるよ」

「わ、わかったでござる!」

 

 そう、確かにあるんだ。デッキとの絆を感じる瞬間。それこそが決闘者の最大の喜びであり。

 

「俺のターン! 俺は『Sp—エンジェル・バトン』を発動。カードを2枚引いて、1枚捨てる」

 

 その瞬間をつかみ取れる決闘者とは、どんな時でもデッキを信じることをやめない。ドローの瞬間を楽しむ。そう、今の遊星くんみたいにね。

 

「行くぞ新海! このドローに、俺の魂をこめる!」

「笑わせるな! 引けるわけがねぇっ!!」

「どうかな?」

「っ!?」

「ドロー!!」

 

 熱き叫びと共に、遊星の元へ導かれし、運命のカード。それは。

 

「……来たか」

 

 遊星に笑みをもたらす。あれは最高のカードをドローできた決闘者の顔。

──ギャンギャンギャーン!!──

 彼のDホイール、ボルカニック遊星号が吠える。自らの愛機に共鳴するかのように、遊星くんはコースの壁を使って。

 

「な、なに!?」

「遊星が……」

『飛んだぁーっ!!?』

「チューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン』を召喚!!」

 

 天高く舞い上がる。そして彼の元に現れるレベル3のチューナー。その能力によりエンジェル・バトンで墓地に送っていた『ボルト・ヘッジホッグ』を墓地から特殊召喚! おっと、これは。

 

「わぁー! あのネズミのモンスター可愛いですね斬さんっ!」

「そうだね。でも、シルバーちゃんも負けてないよ」

「え、えっ? や、やだ、斬さんってば……!」

「ジャンクはレベル3。そしてボルトはレベル2! さて、ここでシルバーちゃんと龍亞くんに問題です! この2体の、レベルの合計は〜?」

「5—!!」

「正解! そしてチューナーとチューナーじゃないモンスターの組み合わせ! さぁ、この状態で行える召喚はなにかな〜?」

「シンクロ召喚—!!」

 

 ふたりの可愛らしい絶叫、絶叫という表現が正しければだが、それが正解であると告げるように、遊星くんの元に光の輪が現れる!

 

「レベル3のジャンク・シンクロンを、レベル2のボルト・ヘッジホッグにチューニング!!」

「な、なんだ!?」

「集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!」

 

──ピカーン!!──

 

「シンクロ召喚!!」

 

 大いなる調和の渦より。

 

「出でよ、『ジャンク・ウォリアー』!!」

 

 最強の戦士が現れる。マフラーがはためき、機械のボデーがピカリと光る。

 

『き、ききき、来たー!! 不動遊星の最強の切り札のひとつ!! 攻撃力2300を誇るシンクロモンスターだー! あ、でもバルバロスには勝てないぞー!!』

「心配無用だ。ジャンク・ウォリアーの効果! 俺の場のレベル2以下のモンスターの攻撃力を自らの攻撃力に加える!」

「なんだと!?」

「パワー・オブ・フェローズ!!」

 

 スピード・ウォリアーの攻撃力は900。ジャンク・ウォリアーは2300。とどのつまり。

 

「バカな、攻撃力3200だとぉ!?」

「すげー! すげーぜ遊星!」

「低レベルモンスターから召喚され、低レベルモンスターから力を得る。昔から変わらねぇ、遊星らしいやり方だぜ!」

「な、なるほど。勉強になりました! ニンニン!」

 

 なぜシルバーちゃんがボクのモノマネをしたのかは謎だが、まぁそれはさておき。

 

「行くぞ! ジャンク・ウォリアーの攻撃!」

「……くっ!」

 

 巨大な鋼の拳と共に、バルバロスへと突っ込んでいく遊星くん。これこそ魂の一撃。

 

「スクラップ・フィストー!!」

 

 叩き込まれる、究極のパワー。バルバロスはあえなく砕け散る。攻撃力の差は200だがエターナルフェニックスハートの効果でダメージは倍になるので、新海くんは400ダメージを受ける。しかしまだ終わらない。

 

「まだだ! スピード・ウォリアーでダイレクトアタック!」

「ぬ、ぬぅぅぅっ!!」

「ソニック・エッジ!!」

 

 今度こそ決まる、高速の機械キック。新海くんは絶叫しながらスピンし、壁に激突。煙が上がり、なかなか彼は出てこない。これは……。

 

「勝った……遊星が勝った!」

「し、新海様〜!」

「……いや、よく見るのでござる!」

 

 次の瞬間。

 

「ギャハハハハハァァァッッ!!!」

 

 邪悪な爆笑を伴ってリターンザ天新海。目を血走らせながら笑うその様は軽くヤバい人だったが。

 

「新海様……元気そう。よかったぁ」

 

 シルバーちゃんは感激の涙を浮かべながら微笑んでいた。うーん、守りたいこの笑顔。

 

「アハハハハ!! この俺様をここまで追いつめるとは、褒めてやるぜ遊星!!」

「……賑やかになってきたな。俺はターンエンド」

「俺のターン! 振動の効果で銅鑼を破壊しドロー。銅鑼はフェニックスのレガシーになる。さらに永続罠『最終突撃命令』発動!!」

 

 あれは場のモンスターを全部攻撃表示にするカード。でも遊星くんの場のモンスターは元から攻撃表示、意味はない。

 

「さらにリバース発動、『揺れる振動』!」

「……また永続罠……まさか!?」

「勘が良いね。では褒美に見せてやるよ。このカードは自分の場の表側のトラップ3枚を墓地に送ることで、この次元へと降臨する!」

 

 その時だった。

 

『……ん?え、えぇっ、なんじゃありゃああああっ!!?』

 

 MCが絶叫するのも無理はなかった。空から逆さまの火山がズズズズと出てきたからだ。逆さまなので山の天頂、つまり火山口は新海くんたちの方に向いている。しかし新海くんはゲラゲラ笑い、遊星くんも落ち着いている。クロウくんや龍亞くんも特に慌てた様子はない。ボクがそのことを指摘すると。

 

「え、いや、ちょっと前に空から城?みたいなのが落ちてきたことあったし……」

「絵面的には大体同じだしなぁ」

 

 感覚イカレすぎだろと思わざるをえなかったが、まぁそこは人それぞれだと思い直すこととし、胸にしまっておいたのである。ボクって大人だなぁ。そう思わないかい?え、別に思わない?そんなー。

──ドカーン──

 火山が噴火し、マグマがボドボドと溢れ出す。そのマグマの中で爆発が起こり、蛇みたいなのが出てくる。いや、あれは蛇ではない。あれは、そう!

 

「『神炎皇ウリア』召喚!!」

 

 灼熱の炎より生まれし、三幻魔の1体。その名も神炎皇ウリア!

──バババババァ!!──

 けたたましい唸り声。天地は揺らぎ、全ての者の魂を戦慄の色に染める。あれはこの世界のカードではないから皆に予備知識はないはずだ。だけどあの叫び声と威厳に満ちた姿でみんな大体分かったのだろう。あのカードがデュエルの歴史に刻まれた、神に最も近き、史上最強モンスターの1体であるという事実を。

 新海くんはドヤ顔で告げる。

 

「さっき言ったな。君の勝つ可能性は30%くらいだと。だが訂正しよう。今この瞬間をもって、お前が勝つ可能性は0になった!!」

「……たしかに幻魔の力は強大だろう。だが、俺にもそれに負けない力がある!」

「なんだそれは?」

「絆の力だ!」

「え?」

「絆の力だ!」

「はっ、笑わせんな! そんなもんは何の意味もねぇよ。神炎皇ウリアは際限なく攻撃力を上げる。見ろ、この無限の超パワーを!!」

「俺たちの絆パワーも無限大だ! 新海、お前にそれを見せてやる!!」

 

 ウリアは三幻魔の1体。三幻魔ということはあれと似たようなのが更に2体いるわけで。そして新海くんの手札からそのオーラがムンムン滲み出す。

 バチバチぶつかりあう火花。それを見守る最強の不死鳥。あ、そういえば、現状フェニックスハートって何の役にも立ってな、あ、睨まれた! ご、ごめんなさーい! そんなことを思いつつ、次回へ続くのであったー。

 




今回からオリジナルカードの効果を後書きに書いていこうと思います。あらかじめ書いておいた方が読者の皆さんも展開を予想できて良いんじゃないかな、と思ったからです。今回紹介するオリカはこの1枚!

『エターナル・フェニックスハート』
<ユニバースフィールド魔法カード>
①このカードはゲーム開始時に発動する。自分がフィールドゾーンにカードを置く場合、このカードの上に重ねて置く。このカードとこのカードに重ねられたカード全ては、効果を全て適用する。
②このカードはあらゆる効果を受けず場を離れない。このカードの効果の発動に対してカードの効果は発動できない。
③自分が受けるダメージは全て倍になり、相手が受けるダメージは全て半分になる。
④自分のライフが0になるダメージを受ける時に発動できる。このターンの間、自分が受けるダメージは全て無効になる。この効果は1デュエルに1度しか使用できない。
⑤1ターンに1度、Pモンスターが自分のフィールドから離れる時、そのカードをこのカードの上にレガシーとして置くことができる。
⑥レベル9以上の『皇』モンスターが自分のフィールドから離れる時、そのカードをこのカードの上にレガシーとして置くことができる。
⑦このカードの上にレガシーが5枚以上置かれている場合に発動できる。レガシーの中からPモンスターを2枚までPゾーンに置く。それらのスケールは無限になる。この効果は相手ターンでも発動できる。
⑧このカードを裏返して『ビッグバン・ペンデュラム・ドラゴンナイト』にし、ユニバースペンデュラム召喚を行うことができる。その時、このカードに置かれていたレガシーを任意の数、魔法罠ゾーンにレガシーとして置く。

『ビッグバン・ペンデュラム・ドラゴンナイト』
<ユニバースペンデュラムモンスター>
レベル8攻撃力3000守備力2500 炎属性 戦士族
Pスケール:無限
①このカードがユニバースペンデュラム召喚された時に発動できる。相手の場の表側表示カードを全てユニバースアウトする。その後、自分の場のレガシー全てに、そのカードの種類に応じた以下の効果を与える。
●Pモンスター:このカードはPゾーンに置かれている間、無限スケールを持つPスケールとして扱われる。効果対象モンスターが場を離れることによってこのカードが破壊される場合、破壊する代わりに場に残すことができる。
●効果モンスター:効果対象モンスターが場を離れる時、このカードを破壊することでそれは場に残る。このカードがレベル9以上なら、相手は効果対象モンスターをリリースできず、召喚の素材にできない。
●通常モンスター:効果対象モンスターは相手の効果を受けない。
②このカードがPゾーンに存在し、自分が『オッドアイズ』モンスターまたは『ズァーク』モンスターを召喚・特殊召喚した時に発動できる。このカードを特殊召喚する。
③1ターンに1度、このカードの攻撃宣言時、自分のレベル9以上の『皇』レガシーを1つ選択して発動できる。ターン終了時まで、そのカードの攻撃力をこのカードの攻撃力に加える。
④このカードが場を離れる時に発動できる。自分のPゾーンのカードを全て破壊し、このカードをPゾーンに置く。


……と、こんな感じ……ですかね。
「いや、なげーよ! つーかユニバースアウトってなんだよ!」
っていうのは書いてて思いました(汗)
ユニバースアウトはデュエマの封印みたいなものです。基本的に無視され、戦力にならなくなります。場にいないも同然のものとして扱うわけですね。ただ遊戯王はデュエマ場に置けるカードの数に制限があるので、多くのカードがアウトされると場が圧迫されて不利になります。
ただアウトされたカードは場にあるカードとして扱うので、『フィールドのカード全てを破壊する』というような効果を使えば場から退かすことが可能です。ここはデュエマの封印とは違います。

と、初回から長くなってしまいました。オリカって大変ですね(汗)
今回のドラゴンナイト以上に面倒くさい効果のカードは無い……と思います。
読者の皆さんはわけわからんカードが続々出てきて「?」となっているかと思います。その点については申し訳なく思います。なのでオリカが出てくる理由を説明させていただきます。まず、単純に遊戯王ワールドに自分の考えたカードを出したいというのと、本編の後の話なんだから原作キャラたちも新しい切り札を手に入れる展開をやりたいなと思ったからです。特にGX編は本編から年単位で時間が経っているという設定になっているので。あと超融合神とかゾークみたいな、公式がカード化しなさそうなのも出したかったからですね。

この通り未熟者ですが、あたたかくお見守りいただければ幸いです。

では、また次回の更新でお会いしましょう。更新……頑張ります(震え声)



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